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第11章 不確実性と情報

事前と事後

意思決定の時点と状況が判明する時点に差があるケース

情報の非対称性

一部の人々は知っているが他の人々は知らないというケース

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期待効用理論

s (< ∞)個の状態が生起しうるくじ=確率のリスト

L=(π1,π2,… ,πs)状態1が確率π1,状態2が確率π2,…,状態sが確率πsで生じることを表す

くじの上での選好≿

L≿L’⇔ LはL’より厳密に望ましいか,無差別

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くじ上の選好反射性,完全性,推移性,独立性,連続性を満たすとする

期待効用定理任意のL=(π1,π2,… ,πs), L’=(π1’,π2’,… ,πs’)に対して

となる実数 が存在する.

→ujは状態jの効用,期待効用は効用の確率平均

期待効用

U(x)=π1u(x1)+π2u(x2)+・・・+πsu(xs )

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危険回避の測度

金銭くじ結果が金銭表示(状態に金額が対応)

効用関数 u(x) < ∞危険回避度

2状態:確率π1,π2で生起,結果はx1,x2くじL=(π1,π2)の期待効用

x*⇔Uを確実に得るために必要な金額金額の期待値

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危険回避的

u’’(x) < 0, 危険中立的

u’’(x) = 0, 危険愛好的

u’’(x) > 0,

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危険回避的

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危険中立的

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危険愛好的

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リスク・プレミアム

定義:

この金額を支払っても確実に所得が得られ

る方を好む

別の観点から見る

無差別曲線

全微分

限界代替率

MRS=限界代替率逓減の法則が成立

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(確実線)

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点B:確実線と,点Aを通り傾きが−π1/π2 である直線との交点

MRSB= π1/π2無差別曲線は点Bにおいて,直線ABと接する確実線上では限界代替率は確率の比に等しい

直線ABの方程式

点Bの座標リスク・プレミアム

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中古車市場の分析

仮定:レモン(低品質)とプラム(高品質)

情報の非対称性売り手は自分の車の品質を知っている

買い手は車の品質を知らない

レモンが100台,プラムが100台売り手:レモンは50万円,プラムは100万円買い手:レモンは60万円,プラムは120万円レモンの原理

逆選択

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需要曲線と供給曲線供給曲線

売り手:レモンは50万円,プラムは100万円階段状の供給曲線

需要曲線

買い手:レモンは60万円,プラムは120万円レモンに対する需要曲線:

60万円で水平のDL曲線

レモンに対する需要曲線:

120万円で水平のDP曲線

確率:πP =1/2, πL =1/2 と予想する平均的な中古車に対する需要曲線:

平均的に支払っていい価格

90万円で水平のD0曲線

12

60 12

120 90× + × =

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供給曲線 需要曲線

100

50

100 200

120

90

60

DP

D0

DL

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市場均衡

情報の非対称性買い手と売り手の間の情報格差

市場均衡は E0か? → No!E0では,レモンのみが売られている

買い手は90万円払おうとはしない.需要曲線はD1になる

市場均衡は E1レモンのみ:(60万円,100台)

余剰が最大化されている(社会的に望ましい)のは,レモン:(60万円,100台),プラム:(120万円,100台)

市場の失敗

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100

50

100 200

120

90

60

DP

D0

DL

E0

E1

E2

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保険市場の分析

仮定:事故発生時に保険金1円支払われる証書:p円事故に備えて何単位(枚)の証書を購入すべきか

購入枚数:z状態1=事故が起きない状態, 確率π1,所得ω

状態2=事故が起きる状態, 確率π2 ,所得ωーl

u'>0,u''<0

個人の意思決定

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期待効用最大化の条件を満たすz=z*では

そのときの(x1,x2)は点E

個人は保険z*を価格pで購入状態1における所得: x1=ω−pz*状態2における所得: x2=ω−l−pz*+z*事故が発生したとき,pz*の支払いに対して ( 1-p)z*を獲得両者の比率(1-p)/pが予算制約線の傾き

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個人の意思決定(再論)

保険料pのときz単位購入する効用最大化問題

max U(x1,x2) =π1u(x1)+π2(x2)s.t. x1=ω-pz

x2=ω-l-(pz-z)予算制約式は

この制約下の最適点では MRS=(1-p)/p最適点の座標

E=( x1*, x2*)=(ω-pz*, ω-l+(1-p) z*)

x pp

xp

l2 11 1

= −−

+ −ω

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公正な保険保険会社にとって期待利潤がゼロになる保険

保険会社が特定個人にのみ保険を販売保険料pのときその個人がz単位購入する保険会社の期待利潤は, π1pz+π2( pz-z)公正な保険の価格は,

(π1+π2)pz=π2z ∴ p=π2予算制約式は

x2=-(π1/π2 ) x1+(ω/π2)-l∴π1x1+π2x2=ω-π2l

この制約下の最適点では MRS=π1/π2→ この点は45゜線(確実線)上に位置確実線と予算制約線との交点=最適点の座標

E=(ω-π2 l, ω-π2 l)

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ω

ω-l

ω-pz

ω-l-pz+z

π2 −1π2

p −1p

45°

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保険市場の均衡

2種類の経済主体(事故に遭う確率に差)高リスク者,低リスク者

事故確率:π2H, π2

L, π2H > π2

Lと仮定

無事故確率:π1H =1-π2

H, π1L =1-π2

L

初期状況:(x1 , x2) = (ω, ω-l )効用関数:u(x),仮定:u’> 0,u’’ < 0(危険回避者)保険会社は1社のみ両者に同一の価格pで保険を販売

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期待効用最大化の1階の条件高リスク者

低リスク者

最適保険購入量:zH, zL (図のEH, EL点)π2

H > π2Lよりπ1

H/π2H<π1

L/π2Lだから

u’’ < 0を考慮すると, zH > zL

保険会社は低リスク者から正の期待利潤を得て,それで高リスク者による期待損失を埋める

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隠された情報(情報の非対称性)リスクが完全にカバーされる公正な保険高リスク者にはp=π2

Hで,低リスク者にはp=π2Lで保険を

販売する → 図のFH, FL点

実現不可能:隠された情報→両者を区別できない

隠された情報の作用高リスク者の割合:α(0<α<1)公正な保険では p=απ2

H + (1-α) π2L

高リスク者は過大保険,低リスク者は過小保険

保険会社は負の期待利潤→保険料の引き上げ

→低リスク者は保険購入量減→さらに赤字が拡大

高リスク者のみが保険を購入する均衡 p=π2H

高リスク者は保険購入,完全にリスクをカバー

低リスク者は保険を全く購入しない

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保険市場の均衡(II)

一括均衡と分離均衡

平均期待利潤

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一括均衡の非存在

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分離均衡の存在可能性

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分離均衡の非存在

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分離均衡の存在

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隠された情報(情報の非対称性1)

公正な保険リスクが完全にカバーされる

実現不可能:隠された情報→タイプを区別できない

隠された情報の作用高リスク者は過大保険,低リスク者は過小保険

保険会社は負の期待利潤→保険料の引き上げ

→低リスク者は保険購入量減→さらに赤字が拡大

高リスク者のみが保険を購入する

高リスク者は保険購入,完全にリスクをカバー

低リスク者は保険を全く購入しない

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↓↓

逆選択情報の非対称性が被保険者と保険会社の間に存在 →隠された情報

被保険者に十分な保険を提供することが困難→不確実性下の市場の失敗

低リスク者は保険購入せず,高リスク者のみが残る

保険会社は赤字,保険が販売できない

グレシャムの法則,レモンの原理

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隠された行動(情報の非対称性2)

保険購入そのものが事故確率を変化させる

保険会社が認識できない→隠された行動

注意を払って費用を減少させるインセンティブなし

↓↓

モラル・ハザード(道徳的危険)

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シグナリング

情報を持つ側が観察可能な他の特質をシグナルとして相手に送信→情報の非対称性を緩和

疾病・生命保険:自己申告(既往歴,食生活,喫煙)

中古車:走行距離・事故歴・修理歴

労働者:学歴・職歴・資格

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スクリーニング

一定の品質を保証するための方法

疾病・生命保険:被保険者の健康診断

中古車:車検

労働者:入社試験・資格試験

自己選択:情報を持たない側が相手に複数の契約を提示し,その中から相手に選択させる(保険会社による保険の提示)

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不確実性 計算問題 (1)

40%の確率で400万円、60%の確率で900万円が当たるくじがあるとする。

消費者の効用関数が であるとして、

以下の問いに答えよ。

(1) この消費者は危険回避的か、危険中立的か、危険愛好的か。

(2) 期待収入、期待効用を求めよ。(3) リスク・プレミアムはいくらか。

u = x

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(1)u x '=

−12

12 u x ' '= − <

−14

032

よって、危険回避的

(2) 期待収入=0.4×4,000,000+0.6×9,000,000

=1,600,000+5,400,000=7,000,000

期待効用=0.4× +0.6×

=2600

これより、

よって、危険回避的である。

4 000 000, , 9 000 000, ,

7 000 000 2600, , >

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(3) =2600 より、x=6,760,000.

7,000,000ー6,760,000=240,000

よって、リスク・プレミアムは24万円。

x

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計算問題 (2)

ある消費者が8000万円の資産を持っているとする。火事に遭うと7000万円の損害を被るとし、火事に遭う確率を20%とする。消費者の効用関数が であるとして、以下の問いに答えよ。

(1) この消費者は危険回避的か、危険中立的か、危険愛好的か。

(2) 期待資産額、期待効用を求めよ。(3) リスク・プレミアムはいくらか。(4) 公正保険を仮定し、保険購入額を計算せよ。

u x=13

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(1)u x '=

−13

23 u x ' '= − <

−29

053

よって、危険回避的

(2) 期待収入=0.2×1000+0.8×8000

=200+6400=6600 (万円)

期待効用=0.2× +0.8×

=180×

これより、

であるから、ここからも危険回避的であることがわかる。

1000000013 80000000

13

66000000 180 10 66000000 5832000013

13> × ⇔ >

1013

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(3) =18× より、x=58320000.

6600-5832=768

よって、リスク・プレミアムは768万円。

(4) 公正保険の価格は火事に遭う確率に等しくなるから、1/5 である。均衡においては、

ω-0.2z=ω-l+0.8z

が成り立つので、z=7000、pz=1400.

1400万円の保険料で、7000万円の保険金が入る証書を購入する。

x13 10

13