20133ii Emerging Trends in Real Estate® 2013 エグゼクティブサマリー 2...

31
www.uli.org www.pwc.com Emerging Trends in Real Estate ® アジア太平洋2013年版 今回で7版を重ねるPwCULI による共同報告 書、 Emerging Trends in Real Estate® アジア太平 洋版では、不動産業界で最も影響力のある400 名を超えるリーダーを対象に、アジア太平洋地 域における2013年の不動産投資および不動産 開発の見通しについてインタビューおよびアン ケート調査を実施。その結果をもとに専門家の 見解や分析をまとめ、注目すべき投資先、有望 な不動産部門および市場、不動産に影響する資 本市場の動向に関する情報を提供し、信頼でき る予測や専門的な見解を示している。 ハイライト 投資/開発の見通し、ならびに最良の機会 エクイティとデットの調達先および流れなどの資 本市場の動向 有望な不動産部門と回避すべき不動産部門 経済および信用不安が不動産に及ぼす影響 社会経済動向が不動産に及ぼす影響 立地選好の変化 13 Emerging Trends in Real Estate ® [アジア太平洋版] Asia Pacific

Transcript of 20133ii Emerging Trends in Real Estate® 2013 エグゼクティブサマリー 2...

Page 1: 20133ii Emerging Trends in Real Estate® 2013 エグゼクティブサマリー 2 012年の年末に向け、アジアの多くの市場では投資家心理が不確実さ を増しており、世界経済の見通しが悪化していることへの警戒感が見

www.uli.orgwww.pwc.com

Emerging Trends in Real Estate®

アジア太平洋2013年版

今回で7版を重ねるPwCとULIによる共同報告書、Emerging Trends in Real Estate®アジア太平洋版では、不動産業界で最も影響力のある400名を超えるリーダーを対象に、アジア太平洋地域における2013年の不動産投資および不動産開発の見通しについてインタビューおよびアンケート調査を実施。その結果をもとに専門家の見解や分析をまとめ、注目すべき投資先、有望な不動産部門および市場、不動産に影響する資本市場の動向に関する情報を提供し、信頼できる予測や専門的な見解を示している。

ハイライト

■投資/開発の見通し、ならびに最良の機会

■ エクイティとデットの調達先および流れなどの資本市場の動向

■有望な不動産部門と回避すべき不動産部門

■経済および信用不安が不動産に及ぼす影響

■社会経済動向が不動産に及ぼす影響

■立地選好の変化

2200000000133Emerging Trends

in Real Estate®[アジア太平洋版]

Asia Pacific

Page 2: 20133ii Emerging Trends in Real Estate® 2013 エグゼクティブサマリー 2 012年の年末に向け、アジアの多くの市場では投資家心理が不確実さ を増しており、世界経済の見通しが悪化していることへの警戒感が見

2013

EmergingTrends in Real Estate®

アジア太平洋版

目次 1 エグゼクティブサマリー/序

3 Chapter 1 価値の価格 5 価格が上昇に向かう? 7 コアこそ王様 8 オポチュニスティック投資の行方 10 限られた代替投資 11 買い手を惹きつけるセカンドティア 11 不良化資産が(いくらか)登場 15 フロンティア市場:新参者たち 16 住宅セクターに対する規制 17 区分所有に注力する投機筋 17 外国規制の影響 17 長期投資に注力する投資家 19 リスキーな時代 20 住宅バブルか?

23 Chapter 2 不動産キャピタルフロー 24 ローカルマネーが引き継ぐ 25 ホットマネーが流入する? 26 ソブリン・ファンドが大挙して登場 27 資本調達は依然困難 28 通貨リスクのヘッジ 29 銀行融資:安くて活発 30 代替資金調達:中国の信託融資機関 31 デットの拡大 31 資本市場:饗宴と飢餓 32 CMBSのデフォルト:依然として入手困難 33 REITの回復

37 Chapter 3 注目すべき市場と部門 38 上位ランクの投資対象都市 49 不動産タイプの見通し

52 インタビュー回答者一覧

Page 3: 20133ii Emerging Trends in Real Estate® 2013 エグゼクティブサマリー 2 012年の年末に向け、アジアの多くの市場では投資家心理が不確実さ を増しており、世界経済の見通しが悪化していることへの警戒感が見

ii Emerging Trends in Real Estate® 2013

エグゼクティブサマリー

2012年の年末に向け、アジアの多くの市場では投資家心理が不確実さを増しており、世界経済の見通しが悪化していることへの警戒感が見られる一方、資産価格が強含みで利回りの圧縮が続いていることがそ

れを弱めている。外国人投資家とアジアの投資家とでは不動産の価格に対する姿勢が異なっていることも、確信が持てない状況に拍車をかけている。外国人では手が出ないと感じられるような価格でもアジアの買い手は積極的に受け入れることが多い。

こうした相反するムードの中で、大規模で流動性が高く、コア資産が豊富にあり価格の長期的な安定性にも信頼の置ける市場へと投資家の嗜好が向かっているのは驚くに当たらない。そのため東京とオーストラリアが特に人気を集めた。東京は超低金利に加え、価格が底を打ちつつあるとの見方が広まっていることが有利に働いており、オーストラリアでは高い利回りと国内資金の不足が続き、また国内の機関投資家は不動産資産に対する投資を拡大すると見られる。

一方、オポチュニスティック投資家は欧米の投資委員会が期待するような投資リターンを提供する資産を見つけるのに苦労している。だが可能性は幾分ある。多くの外国人投資家が日本の不良化資産の登場、特に商業不動産担保証券(CMBS)のサービサーからの放出に目を向けている。オーストラリアでは既に不良化資産のポートフォリオが(特に欧州の銀行から)いくらか市場に投入されおり、中国でも資金不足に苦しむデベロッパーがプロジェクトを完了するために資金を必要としていることから、不良化資産への投資の機会が考えられる。

良好なリターンを獲得するのが困難なため、投資家は利回りを求めて大胆さを強めており、物流施設や老人ホーム施設といったニッチ部門や、インドネシア、マレーシア、タイ、および中国のセカンダリー都市などセカンダリー市場の資産に特に注力している。実際、これらの新興市場はいずれも、投資と開発の対象市場に関するEmerging Trendsの調査でトップまたは上位にランクされた。

資金源の面では、欧米を出所とする資金は引き続き金融危機以前の水準にとどまっており、現在はアジア内部の資金源からの資本調達にますます重点が置かれている。そのため、アジアの資金はアジアの不動産投資を牛耳っているだけでなく、欧米で投資するグローバルな不動産ファンドの資本調達でもアジアの資金の占める割合が拡大しつつある。

事実、ソブリン・ウェルス・ファンドを含む機関投資家を資金源とする新たなアジア資金の規模が明確さを強めており、アジアのあらゆる主要経済国のファンドが自国以外の市場に資金を積極的に投じているか、または投じることを計画している。アジア以外のソブリン・ウェルス・ファンドもアジアで活発に活動しており、直接投資を行うために自前のオフィスを開設したものもある。

アジアの不動産向け資金の主たる供給源としては、従来同様、銀行がその役目を担っている。大体において、50%~60%の範囲のレバレッジは広く入手可能で、しかも(昨年よりわずかに高いとしても)かなり安価だ。とはいえ顕著な例外がいくつかあり、特に中国では政府がデベロッパー向けの銀

行融資に対する厳しい抑制を維持して国内の住宅価格を抑えようと引き続き取り組んでいる。

一方、資本市場では様相が大きく分かれた。大半のデベロッパーは、アジア全域にわたって株価が大幅に低下しているため、エクイティを調達するメリットがないのが実情だ。だがデットサイドでは状況がまったく異なり、2012年にアジア市場で調達された不動産向けデットは過去最高額となった。投資適格級プレーヤーのデットのコストは30年物で5%を下回るのが一般的である。下半期には高利回りサイドに焦点が移り、中国のデベロッパーが市場で目立った。また、アジアの不動産投資信託(REIT)についても年半ば前後に大きな需要が見られた。株価が大幅に上昇し、現在、アジア全域にわたって多くのREITは純資産価値に対するプレミアム付きで取引している。利回りは圧縮されているとはいえ、大半の市場の個別物件のキャップレートに比べれば総じて競争力を保っている。REITが以前より容易に資産取得を拡大できるようになったため、2013年には積極的に取得を行うと多くのインタビュー回答者が予想している。

「Emerging Trends」アジア太平洋版による投資見通しの調査では、回答者は上述したようにいくつかのセカンドティア市場を上位に選んだ。このほか、上海、シンガポールとシドニーも投資対象として評価が高かった。先進国市場の方が人気があるのは驚くに当たらないが、ジャカルタが1位に選ばれたのはおそらく予想外だっただろう。確かに、インドネシア経済は過去数年間で力強いパフォーマンスを達成し、特にオフィス賃料は2012年に急上昇した。とはいえジャカルタは先進市場に見られる企業、規模、インフラが欠けており、さらに重要と思われることに、巨額の不動産投資を吸収できる力がない。「Emerging Trends」アジア太平洋版による部門別の見通しでは、産業施設/物流施設が昨年に続き最も高い評価を受け、商業施設、ホテルとオフィスが僅差でこれを追っている。

アーバンランド・インスティテュート(ULI)とプライスウォーターハウスクーパース(PwC)による共同報告書であるEmerging Trends in Real Estate® アジア太平洋版は、不動産業界の動向や将来予測をまとめた報告書として不動産業界で高く評価されている。今回が第7版となる本報告書はアジア太平洋地域全体の不動産投資や開発動向、不動産金融市場と資本市場、不動産部門、大都市圏、その他不動産に関連した案件についての見通しを提示するものである。

2013年版は調査プロセスの一環としてアンケートおよび/またはインタビューに回答した400名を超える人々の見解を反映している。本報告書に示された見解は、引用箇所を含めすべてアンケート調査およびインタビュー調査を通して独自に入手したものであり、いずれもULIまたはPwCの見解を示すものではない。投資家、ファンドマネジャー、デベロッパー、不動産会社、金融機関、仲介業者、コンサルタントなど幅広い業界専門家の回答を得た。ULI とPwCの調査員は130 名超と個別インタビューを行い、またアンケートへの

回答者は275 名を超えた。回答者の所属する組織は以下のとおりである。

非上場不動産会社/デベロッパー 25.2%

不動産サービス会社 24.8%

機関投資家/エクイティ投資家/投資運用会社 21.1%

その他 16.3%

エクイティREIT/上場不動産会社 8.9%

銀行、金融機関、証券化関連融資機関 2.2%

住宅建築業者/宅地造成会社 1.5%

本報告書全体を通じて、インタビュー回答者およびアンケート回答者の見解を個人名を特定することなく、直接引用する形で示している。今年のインタビュー回答者一覧は、本報告書の末尾に掲載している。本報告書の完成には回答者の協力が不可欠であり、ULI とPwCは、貴重な時間と専門知識を共有し、本書の作成にご協力いただいた全ての人に対して感謝の意を表したい。

出所:Emerging Trends in Real Estateアジア太平洋 2013 アンケート

その他 5.2%

アジア太平洋全域をカバーする戦略を持つアジア太平洋企業 31.4%

グローバル戦略を持つグローバル企業 31.4%

主に1国で事業を展開するアジア太平洋企業 32.1%

アンケート調査回答者(企業の地理的範囲別)

エディトリアル・リーダーシップ・チームPwC

アドバイザー/調査員 オーストラリア Andrew Cloke Brian Lawrence James Dunning Kirsten Arblaster Liam Collins Manuel Makas Marco Feltrin Mark Haberlin Tim Peel 中国/香港 Allan Zhang Andrew Li Kathleen Chen K.K. So Paul Walters Sally Sun Sam Crispin インド Anish Sangvhi Divya Kumar Gautam Mehra 日本 Hideo Ohta Julien Ghata Misako Himeno Raymond Kahn Shinichi Okamoto Shunichiro Wakabayashi Takahiro Kono Takehisa Hidai Takeshi Sudo Takashi Yabutani Tomokazu Makida Tomomi Kawa Yoshihiko Toda Yuji Sato Wataru Wada 韓国 Jin-Young Lee Taejin Park ルクセンブルグ Anna-Charlotta Thiele Kees Hage Kenneth Iek Robert Castelein マレーシア Jennifer Chang フィリピン Malou P. Lim シンガポール Boon Chok Tan David Sandison Eng Beng Choo Gautam Banerjee Jim Chua Jiunn Siong Yong Oon Jin Yeoh Magdelene Chua Pei Jun Tok Soon Bee Koh Sooh Teng Ng Wee Hwee Teo 台湾 Richard Watanabe Shuo-Yen Lin タイ Paul Stitt ベトナム David Fitzgerald

Emerging Trends in Real Estate® Asia Pacific 2013 チェアーK.K. So, PwCPatrick Phillips, Urban Land Institute主要執筆者Colin Galloway, Urban Land Institute Consultantシニアアドバイザー/調査アシスタントStephen Blank, Urban Land InstituteCharles J. DiRocco, Jr., PwCAnita Kramer, Urban Land InstituteシニアアドバイザーJohn Fitzgerald, Urban Land InstituteDean Schwanke, Urban Land Institute調査アシスタントBrandon Sedloff, Urban Land Institute Michael Owen, Urban Land Institute

PwCは世界158カ国 におよぶグローバルネットワークに約169,000人のスタッフを擁し、高品質な監査、税務、アドバイザリーサービスの提供を通じて、企業・団体や個人の価値創造を支援しています。

PwCの事業活動に関する情報およびサービス内容はウェブサイト(www.pwc.com)のほか、YouTube、LinkedIn、Facebook、Google+などのソーシャル・メディアでもご覧いただけます。

@2012 PricewaterhouseCoopers LLP, a Delaware limited liability partnership. 無断複写・転載を禁じます。 PwC とは米国のメンバーファーム、または PwC のネットワークを指しています。各メンバーファームは別組織となっています。詳しくはwww.pwc.com/structure をご覧ください。

©November 2012 by PwC and the Urban Land Institute.

印刷:日本

本書の内容の全部または一部を複写、記録、情報システムへの保存を含め電子的または機械的ないかなる形式によっても発行者に無断で転載あるいは複製することは禁じられています。

推奨文献一覧

PwC and the Urban Land Institute. Emerging Trends in Real Estate® Asia Pacific 2013. Washington, D.C.: PwC and the Urban Land Institute, 2012.ISBN: 978-0-87420-253-3

ULI編集/制作スタッフ

James A. Mulligan, Managing Editor/Manuscript EditorBetsy VanBuskirk, Creative DirectorAnne Morgan, Cover DesignDeanna Pineda, Muse Advertising Design, DesignerBasil Hallberg, Senior Research Associate

Emerging Trends in Real Estate® はPwC(プライスウォーターハウスクーパース)の米国およびその他の国における登録商標です。

「Emerging Trends in Real Estate ® アジア太平洋 2013年版」は英語版の原文を翻訳したものです。万が一誤訳や間違った解釈があった場合は英語版が優先するものとします。

1Emerging Trends in Real Estate® Asia Pacific 2013

Page 4: 20133ii Emerging Trends in Real Estate® 2013 エグゼクティブサマリー 2 012年の年末に向け、アジアの多くの市場では投資家心理が不確実さ を増しており、世界経済の見通しが悪化していることへの警戒感が見

32 Emerging Trends in Real Estate® Asia Pacific 2013Emerging Trends in Real Estate® Asia Pacific 2013

世界中の市場が経済的苦境に陥ってから6年目に入り、アジアの不動産投資家が「危機疲れ」を感じているとしても無理はない。欧米に降り注ぐ災禍はあたか

も留まるところを知らず、アジア諸国は依然としてその影に脅かされているものの、経済は成長を保っており、所得は拡大を続け、不動産価格の崩壊は起きておらず(むしろ上昇したケースもある)、そして大半の地域において太陽はいまなお輝いている。そのため、いかにして投資決定を行うかという問題に対し、イン

タビュー回答者が等しく躊躇とフラストレーションを示しているのも驚くにはあたらない。

一方、アジアのムードはかなり楽観的で、Emerging Trends in Real

Estate ®Asia Pacific調査でも利益の見通しは強気に振れている(図表1-2、1-3参照)。とはいえ、良好と考えられるリスク調整後リターンを反映した価格で買える資産が見つかるかどうかは別の問題だ。あるインタビュー回答者は「何が正しい選択なのか、どこに本当の機会があるかという問いについて、不確実な要素があまりにも多い」と述べ、現在のムードを2006年の市場の絶頂期にたとえた。当時は「優良資産やバリューを求めて出国する国内投資家と、同じものを求めて入国する外国人投資家とで空港は溢れかえっていた」。別の回答者も「不動産の購入には気が進まないが、売却については話が別だ。いずれにせよ、不動産売買市場に物件を提供しなければならないからね」と語っている。

このように全般的に確信が持てないという状況は不動産取引のデータとも一致するようで、今年の上半期には取引高が減少している。リアル・キャピタル・アナリティックス(RCA)の統計によると、2012

年上半期の商業用不動産の売買高は、中国で地方政府による土地の売却が大幅に減少した後、前年同期比11.8%減の653億米ドルとなった。金融危機前後の売買高は2007年上半期が781億米ドル、2009年上半期が313億米ドルであった。投資家が確信を持てない主な理由は、おそらくオーバープライシング(価値を上回る価格設定)に対する懸念が続いていることであろう。アジアのキャップレートは第3四半期に若干上昇したとはいえ、伝統的に安全度が高いとされている

C H A P T E R 1

価値の価格

「欧州と北米の危機が過ぎ去った後に直ちに成長を示す地域はどこか。その恩恵を真っ先に、そして最も強く受けるのはアジアだ。その恩恵はかなりの長期にわたって続く可能性がある」

図表 1-1

調査回答の割合 (国・地域別)

出所:Emerging Trends in Real Estateアジア太平洋2013 アンケート

その他 8.1%

フィリピン 3.7%

マレーシア 3.7%

オーストラリア 5.7%

日本 14.2%

中国 14.6%

香港 22.4% シンガポール 27.6%

Page 5: 20133ii Emerging Trends in Real Estate® 2013 エグゼクティブサマリー 2 012年の年末に向け、アジアの多くの市場では投資家心理が不確実さ を増しており、世界経済の見通しが悪化していることへの警戒感が見

54 Emerging Trends in Real Estate® Asia Pacific 2013Emerging Trends in Real Estate® Asia Pacific 2013

Chapter 1: 価値の価格

■ アジアのプレーヤーは他地域に比べ低コストで資金調達できる場合が多いこと。

■ アジアでは資本の蓄積が進み続け、その投資先を求めていること。

■ おそらく最も重要な点として、今後もアジアの高い経済成長率がすべてのものを押し上げ、賃料の、そして究極的には資本価値の長期的な上昇傾向を支えていくという確信を、アジアの投資家が本源的に抱いていること。

価格が上昇に向かう? このようにアジアの投資家と他地域の投資家とで視点に相違がみられ、それがどのような評価に値するにせよ、「アジアの大市場の一部で価格が上昇に向かおうとしている」とのコンセンサスができつつあり、それによって両者の隔たりが埋まるかもしれない。

日本日本では3年以上にわたってオフィスと住宅の賃料が下落してきたが、今回はインタビュー回答者から前向きなコメントが多く寄せられた。ただ、そうした楽観論の正確な理由は捉えにくい。日本を拠点とするファンドマネジャーの一人は「東京は既に底を打った。誰もがそう考えており、この見方を支えるデータも出始めている。日本の安定性は他の[いくつかの]市場ではまったく見られないほどの水準にある」と述べた。ここ数年で多くの外国ファンドが日本での事業から撤退したが、現在、新たに参入を試みているものもある。RCAによると、全セクターにおいて完了した

取引の平均キャップレートは2012年半ばに約6%に上昇したが、これは5年来の最高水準である。現在、投資家は銀行融資を低コストで直ちに受けられることから、500ベーシスポイントものイールドスプレッドを享受している。これは世界の主要市場の中でもトップクラスの高さであり、言い換えれば、オフショアのキャッシュ・オン・キャッシュ・リターンがネットで二桁になるということだ。

とはいえ、インタビュー回答者が押しなべて日本について楽観的というわけではない。取引高は依然として低迷しており、その主因は邦銀

図表 1-4

グローバル取引高

出所:リアル・キャピタル・アナリティックス(www.rcanalytics.com)百万米ドル以上の物件およびポートフォリオに基づく *中国の土地売買を除く

10億米ドル

0

30

60

90

120

150

201220112010200920082007

米州

欧州・中東・アフリカ

アジア太平洋*

図表 1-5

商業用不動産の四半期キャップレート(地域別取引)

出所:リアル・キャピタル・アナリティックス(www.rcanalytics.com)10百万米ドル以上の物件およびポートフォリオに基づく

5%

6%

7%

8%

9% 欧州・中東・アフリカ

アジア太平洋

米州

2012Q1

2011Q1

2010Q1

2009Q1

2008Q1

2007Q1

欧米市場に比べ低く抑えられている。資金コストが総じて低いため、平均キャップレートは6.6%と適度なものに映るが、アジア主要市場(ただしオーストラリアは明らかな例外)の大半ではこれをはるかに下回っており、また特にプライム資産においてそうした低水準が何年も続いている。RREEF(リーフ)によると、例えば東京のコアオフィスのリターンは2012年半ばで4%程度だったが、北京や香港、シンガポールの同様の資産では2%にまで下がる場合もあるという。

この低さは、自国市場でマクロシナリオが崩れファンダメンタルズがぐらつくのを目の当たりにしている欧米の投資家にとっては考えられないものである。香港を拠点とするファンドマネジャーの

一人は「個人消費やオフィスニーズの点で需要を喚起する要素がなくなりつつある。賃料は過去最高水準にある一方、利回りは過去最低水準だ。だから今は不動産の購入に適した時期ではないと思われる」と述べている。

そのため、マスコミの記事(多くは後ろ向きな内容)以外にはアジアへのエクスポージャーがほとんどなく、自国のマクロ状況から防御

的な姿勢に傾いている欧米のリミテッド・パートナーシップ(投資事業有限責任組合、LP)や投資委員会に対し、取引を認めさせるのは困難となっている。中国に拠点を置くファンドマネジャーの一人は

「中国で物件を買おうとしても、利回りは借入金利をはるかに下回っており、価格も既に極めて高い水準に達している。これでは投資委員会の承認を得るのは難しい」と述べている。「なぜなら、いくら現地の担当者が中国の不動産は良いと頭から信じ込んで熱くなっていても、欧州にいる連中が眺めているのは価格のグラフとキャップレートで、価格は極めて高くキャップレートは極めて低いため「正直のところ、本当に良いのか確信が持てない」ということになるからだ」。

その結果、アジアの多くの市場において売り手と買い手、特に外国の買い手との間の乖離が続いているのである。

認知されたリスクが増えているのに、キャップレートが低く抑えられたままなのはなぜか。借入コストが低いことが一因なのは確かだが、より重要なのは、アジアの投資家が欧米とは異なるプリズムを通して市場を眺める傾向があるということだろう。彼らは外国人投資家が張り合う気を失くすような価格でも喜んで支払うことが多く、ディールフローがすでにタイトになっている時には国際投資家を押し出してしまうことがある。これには以下のような多くの理由が挙げられる。

■ 不動産(特にコア資産)の利回りが低くても、多くのローリスク代替投資よりましであること。とりわけソブリン債は競争力が低く、またそれにもかかわらず利率が上昇すれば(最終的にはそうならなければならないが)債券保有者は損失を被ることになる。その結果、今では不動産の価格はソブリン債に対して割り引かれたものとなっている。

■ 繰り返し行われる世界的な金融緩和によりインフレ懸念が生じ、低利回りであっても実物資産である不動産に資金が向かっていること。

■ 外国人投資家よりもアジアの投資家の方が、アジア市場のリスクが低いと見ていること。

■ 文化的に、不動産は好ましいアセットクラスの地位を常に保っており、資産防衛のための究極的手段と見なされていること。

図表 1-3

2013年の企業の収益性予測

出所:Emerging Trends in Real Estateアジア太平洋 2013 アンケート

2013年の収益性予測(回答者に占める割合)

3.1%最高に良い

11.1%非常によい

30.7%良い

23.0%比較的良い

26.4%普通

3.1%比較的悪い

2.7%悪い

図表 1-2

不動産会社の収益性の推移

出所:Emerging Trends in Real Estateアジア太平洋アンケート(2006–2013)

20132012201120102009200820072006

普通

最高

良い

Page 6: 20133ii Emerging Trends in Real Estate® 2013 エグゼクティブサマリー 2 012年の年末に向け、アジアの多くの市場では投資家心理が不確実さ を増しており、世界経済の見通しが悪化していることへの警戒感が見

76 Emerging Trends in Real Estate® Asia Pacific 2013Emerging Trends in Real Estate® Asia Pacific 2013

Chapter 1: 価値の価格

■ これまでのところオーストラリアのローカル資金が取引を巡って積極的に競っていないこと。あるインタビュー回答者が指摘したように「私には[オーストラリアの]投資家はまだ極めて悲観的なように見える。資源に依存しない経済部門では苦戦が続いているが、景気サイクルの観点から言えば、これをある種、末期的衰退だと考えない限り驚くには当たらない。だから今がサイクル的に「買い」の機会であることは確かだ。

■ オーストラリアの銀行は保守的なことで知られているが、とにかく、国内の不動産取引に対する融資に積極的でなく、「借入が難しくコストも高い」状況になっていること。これは国内の貯蓄ベースの不足による資金の締め付けも一因だが、オーストラリアの銀行が大きなエクスポージャーを持ち続けている商業用不動産市場で過去に損失が生じたため、資産クラスとしての不動産に対する用心深さにも起因している。オーストラリア準備銀行の数字によると、オーストラリアの銀行による商業用不動産への貸付残高は2009年以降で15%減少した。

■ オーストラリアの退職年金(スーパーアニュエーション)ファンドが再び市場で不動産を購入していること。彼らは2008年後半以降に得た新たな資金を運用し、世界金融危機の間に被ったバランスシート上の損失をようやく取り戻した。これは「不動産に関してネットの売り手になること」という彼らのリバランス・ルールがもはや適用されないことを意味している。退職年金ファンドは2012年央時点で約9,370億米ドルの資産(うち約5%がキャッシュ)を保有しており、もし大量に購入し始めれば(既にそうすることを公言しているが)価格を左右する力を持っていることは確かだ。ある大手オポチュニティファンドの幹部は「そこが狙い目だ。退職年金ファンドは国際不動産投資に対して非常に憶病で、2005年から2007

年まで行ったが失敗に終わってしまった。われわれは彼らが[国内で]再び不動産に投資を割り当て始めると見込んでおり、キャップレートも回復すると予想している」と語った。

■ オーストラリアの不動産投資信託(A-REIT)の投資口価格が最近になって回復し、A-REITが再び資産の取得を拡大していけるようになったこと。これは価格に対して上方圧力を加えることにもなるはずだ。

シンガポールシンガポールも「底値買い」の可能性がある。オフィス市場は需要の不足(金融会社の人件費削減)と供給過剰(大手テナントの新規ビルへの移転)に見舞われており、2016年にはさらに新規供給が予定されているため、オフィス部門の先行きの見通しも暗い。だが、あるインタビュー回答者の推定によると、2012年には賃料が15%~20%低下し、資本価値もある程度までそれに追随したが、キャップレートは低位に留まった。問題は、現在この状況が「価値」を表しているかどうかということだ。見方は異なる。シンガポールを拠点とするアナリ

ストの一人は「[価格がさらに]大きく下がることはないと思う。既に『もう十分だ』と感じるような水準にまで低下したからだ。そのため投資家は「買い」に向かっている」と述べたが、やはりシンガポールを拠点とする別のインタビュー回答者は「バイヤーの一部は売りに出ている資産やまもなく売りに出る資産に急いで目を通すだけで、傾向としては富裕層のプレーヤー、インドネシアのマネー、マレーシアのプレーヤーが多い。いくらか香港の状況と似ている。香港では、マカオからやって来てキャッシュで支払っていくような得体の知れぬ人間がいつもいるからね。でも外国のファンドはそれほど多くないし、他に積極的に買おうとしている人がいるとは思えない」という。そのため短期的に最も見込みが高いのは、豊富な資金を持つシンガポールのREITが投資を開始するという可能性である。

コアこそ王様東京市場とオーストラリア市場の揺るぎない人気は、イールドスプレッドが非常に大きいことのほかに、両者とも基本的にコア市場のすべての特徴、すなわち裾野の広さ、流動性、資産の質、および透明性を満たしていることも一因である。昨年のEmerging

Trendsレポートでは投資家が安全なコア資産に(逃避ではないにしても)移行していると指摘したが、この流れが2012年も続いているということだ。

これは依然としてリスクに満ちている状況では驚くには当たらないだろう。投資家は世界的なマクロ危機と(それと同じくらいに)中国のハードランディングをともに恐れている。また多くの人が近年生じた損失についても条件反射的に恐怖を抱いている。あるインタビュー回答者は「大手投資家の多くは、前回のサイクルで『レバレッジを利かせたオポチュニティファンド』というシナリオに乗って手痛い目にあったため、今は低リスクに向かい安全なサイドに賭けている」と述べた。

コア資産に対する需要の高まりのもう一つの要因は、大手機関投資家が投資ファンドを使わず直接投資を行う傾向が強まっていることだ。こうした投資家の多くは、いずれにせよコア資金を運用しているのだろうが、「ある程度の利回りを確保できる資産に、他の投資家より若干長いタイムスパンで投資するという傾向がおのずと見られる。安心要因を求めているのであり、例えば2%のキャップレートで物件を買い、テナントを追い出して改修を行うようなことはしない」。

だが、限定的な資産を追い求める投資家が増え、コア市場は混雑した場所となった。大半の市場で最優良資産のキャップレートは極度に低く抑えられており、買い手は賃料の伸び(または拡大解釈して資本価値の増大)に関する想定を強気に設定するか、または利回りに対する期待を下げることで購入を正当化している。あるアナリストが指摘するように「コア市場のコア商品にはプレミアムが付きつつあり、躊躇するような価格となっている市場が大半だ。他の

が不良債権を抱えたくないという姿勢を保っていることにある。そうした姿勢は売り手に提示価格を下げさせる圧力をほとんど与えないからだ。加えて、あるファンドマネジャーによると「オフィス市場は底を打ったとして多くがそこに注力しているが、オフショア投資家の目には単に大勢に従っているだけの者が多いように映る。われわれの立場からいうと、成長と需要がどこから生まれるのか必ずしも分からないため、同意しづらい」。

オーストラリアオーストラリアも引き続き国際投資家を惹きつけている市場である。ある汎アジアのアナリストは「過去12カ月におけるクロスボーダーの資金の行先としては、中国本土に流れる香港マネーや日本の[最近行われた大型の]物流施設取引を除けばオーストラリアが圧倒的に多い」と指摘する。事実、コンサルティング会社のCBREによると、2012年にファンドがアジアに投入した不動産投資資金の約半分がオーストラリア向けで、年央までに行われた全取引の約40%がクロスボーダー資金だった。オーストラリアの人気がこれほど高いのにはいくつか理由がある。

■ 日本と同じく、オーストラリアのキャップレートが高く(7%超)

イールドスプレッドも大きいこと。2012年にベースレートが3回引き下げられたのを受け、プライムレートは3.25%という3年来の低水準となった。その結果、資金調達コストも低下したが、まだ金利の下げ幅には達していない。現在の金利スワップ価格は、さらなる利下げが行われる可能性を示唆している。

図表 1-7

オーストラリアの退職年金基金(スーパーアニュエーションファンド)の資産総額

出所:オーストラリア諮問規制局データは毎年6月時点のもの

0

250

500

750

1,000

1,250

1,500

2012201120102009200820072006200520042003200220012000199919981997

10億豪ドル

出所:リアル・キャピタル・アナリティックス(www.rcanalystics.com)イールドは過去12カ月間のオフィスビルに対するもの。10年物国債のイールドは2012年6月期のもの

図表 1-6

国債に対するイールドスプレッド(利回り格差)

0% 2% 4% 6% 8% 10%

0 100 200 300 400 500 600

イールド

国債

オーストラリア

米国

ドイツ

日本

英国

カナダ

スウェーデン

フランス

シンガポール

香港

アイルランド

スペイン

イタリア

スプレッド

スプレッド(ベーシスポイント)

イールド

Page 7: 20133ii Emerging Trends in Real Estate® 2013 エグゼクティブサマリー 2 012年の年末に向け、アジアの多くの市場では投資家心理が不確実さ を増しており、世界経済の見通しが悪化していることへの警戒感が見

98 Emerging Trends in Real Estate® Asia Pacific 2013Emerging Trends in Real Estate® Asia Pacific 2013

Chapter 1: 価値の価格

指摘している。さらに「リターンが20%を超えるという話に出くわしたら、何か譲歩しなければならないものがあるのが普通だ。それはパートナーを100%信じることができないとか、取引に何らかの問題があるといったようなことだ」と語る投資家もいる。

そのためアジア市場の一部では、不良化(ディストレス)資産を除けば、実行可能なオポチュニスティック投資の余地がほとんどないようだ。また不良化資産であってもオポチュニスティック投資で得られるはずの利回りは見込めないだろう。例えば日本では、開発リスクを引き受けて得られるリターンは「せいぜい1桁台の後半から2

桁台前半」である。加えて、邦銀と商業不動産担保証券(CMBS)のサービサーは最近になって不良化資産を市場に放出し始めたものの、その価格はコア資産かコアプラス資産の範囲に留まっている。日本を拠点とする投資家の一人は「不良化資産がオポチュニティファンドに見合うディスカウントで取引されることはないと思う。[つまり]20%のリターンを生むようなものではないということだ。だから、近いうちにオポチュニスティック投資が可能になるとは思えないため、日本で投資するには適切な資金と適切なリターン目標を持つことが非常に重要だ」と述べている。

入手可能なレバレッジの減少、リスクを厭うLP、キャップレートの圧縮の継続、および穏やかな賃料上昇の見込みが組み合わさった結果、供給と需要の両面でオポチュニスティック投資の可能性が減少した。また、どこで機会を見つけられるかという想定が見直されることにもなった。あるインタビュー回答者は、例えば中国では「市場がどの方向に動くかについて大きな賭けをしない限り、外国ファンドが魅力的な価格で既存の資産を買うのは難しいだろう」と語った。その結果、CBREによると、中国の商業用資産に対する外国投資は2011年通年で27.3億米ドル(中国の商業用不動産売買高の44%)となったのに対し、2012年上半期には4.47億米ドル(同22%)に低下した。

とはいえ、見かけに騙されることもある。中国などの新興市場では価格が予期せず大幅に変動することが多い。最近、中国本土の主要都市のオフィス価格が急騰したのはその一例である。これは、ある投資家が述べたように「上海と北京では市況が大幅に上昇したため、2年前に購入した者は今や2倍のリターンを楽々と手にしている」ことを意味する。

こうした動きの後では投資家が市場での購入をためらうのは明らかだが、一方でこれは、中国のオフィスセクターの見通しについてはひとえにキャップレートによるのではなく現地の状況に即して考えねばならないことを示唆している。例えば上海におけるAクラス・B

クラスのオフィスのストックは現時点で5,000万平方フィートだが、それに対しニューヨーク市は4億5,000万平方フィート、東京は8億平方フィートである。これは今後も長期的な成長が続いていくことを示唆するものだ。ある投資家が指摘するように「オフィススペースとGDPを対比して見ると、突如として次のことに気付くだろう。つまり『上海は構造的に、その事業活動の水準に比べオフィスがいか

に少ないことか』という点に」。

中国のCBDが依然として、極度の高空室率に周期的に見舞われるのは事実である。だがこれはたいていの場合、新規供給の波が押し寄せる結果であり、それは市場を直撃した後に(少なくともティアワン都市において)吸収されるものだ。例えば、コンサルタント会社のナイト・フランクによると、2010年の年頭には北京のオフィススペースの35%が空室だったが、2012年半ばには同市のAクラススペースの空室率は3.3%にすぎなかった。欧米の投資家が中国の不動産市場の統計を見る場合には時として十分な注意が必要だが、だからこそそうした数字が示すものは、他の国々でならばそこから想定されるような事柄とは必ずしも同じではないのである。

同時に、中国市場の力学は、欧米では曖昧に見えるような問題によって影響を受ける場合がある。一例を挙げると、中国の住宅価格が相対的に非常に高額である理由の一つは、伝統的に住宅がベアーシェル(構造体のみ)で供給される、つまり内装抜きということにある。元来そうした物件は、特に市場のハイエンド側で投機的投資と見

出所:Emerging Trends in Real Estateアジア太平洋 2013 アンケート

図表 1-9

世界金融危機の影響の度合い

台湾

オーストラリア

日本

ベトナム

インド

韓国

香港

中国

シンガポール2012

2013

2012

2013

2012

2013

2012

2013

2012

2013

2012

2013

2012

2013

2012

2013

2012

2013

1軽微

5限定的

9深刻

5.83

5.80

5.80

5.76

5.72

5.72

5.70

5.66

5.57

5.76

5.64

5.84

5.61

5.68

5.78

5.75

5.44

5.48

市場では大して魅力的な価格ではないが、それでもその基準となっている国債に比べればましかもしれない」。

コア市場ではディールフローも極めてタイトだ。ただし国際ファンドが投資のエグジットや資金の還流を行うため、若干の取引は定期的に実施される。例えばある投資家は「中国で大規模な資産が数件売りに出されようとしており、そのグロス利回りはコアのリターンである4%から5%の間が適当だろうが、とはいえコアプラスのリスクは見ておかねばならないだろう」と述べている。だがローカル投資家の大半が「バイ・アンド・ホールド」の態度を取っているということは、真のプライム資産が市場に現れることはめったにないことを意味している。とりわけ、香港やシンガポールなどCBD(中心業務地区)が地理的に限定され大手国内プレーヤーが資産をがっちり握っているような地域についてそう言える。

そのため、例えば東京のように書類上ではプライムオフィスの膨大なストックを抱えている場所であっても、投資活動の大半は周辺地域で行われている。この問題は、アジアのREIT(現在、その多くは純資産価値(NAV)と同等以上の価格で取引されている)が市場で物件の購入に向かうにつれてさらに悪化しそうだ。

オポチュニスティック投資の行方投資家がコアに流れる反面で、それに応じてオポチュニスティック投資を正当化することが難しくなっている。その理由は第一に原理的にそうであり、第二にレバレッジが不足しキャップレートが大幅に圧縮されているということは、もはやオポチュニスティック投資ではかつてのような実績を挙げることができないことを意味するからだ。にもかかわらず、欧米のLPは依然として高リターンを期待している場合が多い。ある大手オポチュニティファンドの幹部は「米国の大手年金基金に出向いて『中国の田舎で商業施設開発に取り組むつもりです。12年間で内部収益率(IRR)16%、キャッシュフロー倍率2.4倍を見込んでいます。これは絶好の提案ですよ』と告げたとしよう。すると彼らは『ちょっと待った。米国と欧州では18%~20%のIRRを達成できると言われている。ならば20%~22%とか21%~24%の数値が可能なはずだ』と答えるだろう。依然としてこういう発想をしているのだ」と述べた。

また別の投資家も、購入に対してそれほど高いIRRを期待することの問題として「それを可能にする魅力的なエクイティを得ることが難しい。『20%強のリターンを得られる機会があるから投資すべきだ』という話があっても、アジアと欧米では次元が違う。アジアにおける20%~25%のリターンは米国での20%~25%とは別物だ。アジアでは自分が承知していないリスクすら引き受けねばならないのだから」と

図表 1-8

商業用不動産価値のグローバルな増加への貢献

不動産価値 (10億米ドル、2011年)

2011年‐2012年の増加 (10億米ドル)

不動産価値のグローバルな 増加への貢献

1 中国 1,863.9 7,877.4 35.5%2 米国 6,752.7 3,537.0 16.0%3 インド 350.4 1,279.6 5.8%4 ロシア 619.6 1,078.7 4.9%5 ブラジル 883.7 1,054.3 4.8%6 英国 1,370.3 582.2 2.6%7 インドネシア 189.1 563.0 2.5%8 韓国 467.4 465.9 2.1%9 カナダ 784.4 431.6 1.9%

10 日本 2,678.0 394.7 1.8%11 ドイツ 1,614.6 362.7 1.6%12 トルコ 239.8 339.2 1.5%13 シンガポール 241.1 304.6 1.4%14 フランス 1,247.9 280.4 1.3%15 メキシコ 369.6 258.4 1.2%16 オーストラリア 656.1 235.8 1.1%17 ポーランド 186.3 198.4 0.9%18 その他 6,044.0 2,920.7 13.2%

合計 26,559.0 22,164.0 100.0%

出所: エコノミスト・インテリジェンス・ユニット、IMF、プラメリカ・リアルエステート・インベスターズ調査

Page 8: 20133ii Emerging Trends in Real Estate® 2013 エグゼクティブサマリー 2 012年の年末に向け、アジアの多くの市場では投資家心理が不確実さ を増しており、世界経済の見通しが悪化していることへの警戒感が見

1110 Emerging Trends in Real Estate® Asia Pacific 2013Emerging Trends in Real Estate® Asia Pacific 2013

Chapter 1: 価値の価格

よ専門家でない限り極めて難しいだろう」。

買い手を惹きつける セカンドティア投資家が利回りを求めて大胆さを強めており、セカンダリーの資産や立地が新たな関心を呼んでいる。一例として、東京以外の場所で資産を買おうとする動きが目立っていると数名のインタビュー回答者が指摘している。距離とともに利回りが高まるからだ。そのうちの一人は「主要5区の中心部に立地するBクラスオフィスビルの場合、取引キャップレートは6%というところだろうが、東京都心でも中心から外れていれば7.5%、大阪であれば9%、他の地方都市であれば二桁になってもおかしくない」と述べた。

中国では何年も前からセカンドティア(二番手)・サードティア

(三番手)の立地に向かう傾向が定着している。だが現在、そうした地域での投資活動に伴う複雑さを投資家が把握するにつれて不安感が高まっているようだ。とりわけ、セカンドティア地域のオフィス資産は今ではオフリミットとなっている。これはあるファンドマネジャーによると「ティア2またはティア3の都市の[オフィス]供給が非常に増えつつあり、それに見合う需要があるのか判断しづらい」ためだ。しかし商業施設と住宅の開発は引き続き人気が高い。中国で活動しているコンサルタントの一人は「収益性の観点から重要なことは、セカンドティア・サードティアの都市では[住宅]価格の大幅な調整がまだ行われていないという点だ。懸念があるとしたら、それは在庫の積み上げとキャッシュフローの厳しさだが、値下げをして在庫を減らそうという動きはまだ見られない」とコメントしている。最新のデータによると、これらの中心部から離れた地域の住宅価格が若干の軟化を示しているが、トップティアの都市に見られる高騰もないため、価格が大幅に下落するリスクは小さそうだ。

一方香港では、九龍で商業用不動産の取引が着実に行われている。九龍はセカンダリー市場であり、香港の中区における伝統的なビジネスエリアでスペースがなくなったことから注目が高まっている場所だ。ある投資家は「九龍では良質で延床面積の大きいAクラスのビル群の建設が進んでいるが、これらは中区では得られず、しかも賃料は中区よりはるかに安い」と述べた。この結果、流行面で遅れている九龍サイドでの物件取得にも拍車がかかり、金額的には小さい(80百万米ドルから1億米ドルの範囲)ものの、本来なら取引がほとんどなかった環境に投資する機会を投資家に提供するのは確かだ。

香港とシンガポールの双方で活動しているファンドマネジャーは、九龍の取引を活発化させている別の要因として「香港の人間は取引が好きなため、世界で少しでも悪いニュースがあればたちまち売り始める」ことを挙げている。「それに対してシンガポールの人間は何もしないことが多く、基本的に、不良化資産の放出や売却を行うのはエグジットを必要としている外国ファンドだけだ」。このファンドマネ

ジャーによると香港の投資家による売却が増えており、特に「個人富裕層や、香港中で大規模商業施設を買ったものの大陸からの観光客数が減っていることにいささか神経を尖らせている小売業者」によるものが多いという。

不良化資産が(いくらか)登場アジアの投資家は2008年以来、金融危機前に行われて失敗に終わった投資の残余が市場に放出されるのを待っていたが、最近になってようやくいくらか現れ始めた。これこそ、アジア全域にわたって不動産の回転がいかにスローペースであるかを示す好例である。入手可能な不良化資産は、そのタイプと量の両面において市場により大きく異なる。ある汎アジアのオポチュニティファンドマネジャーによると「成熟した先進市場では、不良化資産を買うのは価値を生み出すことであり、リターンを得られると確信できるような大幅なディスカウントで買うことを意味する。われわれは日本とオーストラリアで不良債権の取引、既存資産の取得、リポジショニングなどを目指しているが、中国では開発大手と組んだ新規巻き直しの開発や再開発の取引を行う傾向にある」。

日本現在、日本で得られる機会の大半は「フロー取引」と呼ばれるレバレッジ解消タイプで、銀行融資やCMBSの解消を図るための売却である。邦銀はバランスシート上で大量の不良資産を抱えていると考えられているが、これまでその償却を求めるような政治的圧力はほとんどなく、また銀行の財務状況が比較的健全さを保っているため、行動を余儀なくさせる事業上の動機もほとんどなかった。しかし限界を超えた案件もあり、そのため市場では限られた量ではあるものの不良化資産の流れが常に見られる。不良化資産取引に関与している投資家の一人はそれを「コーヒーフィルターから落ちてくるようだ」と表現している。全般的に価格はピーク時に比べ30%~40%ディスカウントされているが、時価に比べれば割引率ははるかに小さい。イールドスプレッドが約500ベーシスポイントのため、投資家はまずまずのレバレッジ後リターンを期待することができる。不良化資産のもう

一つのタイプはデフォルトした大量のCMBS資産で、世界金融危機以前からのものである。ムーディーズインベスターサービスによると、デフォルトしたCMBSの総額は2011年末時点で約120億米ドルにのぼったと見られており、2012年にはさらに60億米ドルが満期を迎えるという。これらの一部も既にディスカウント価格で市場に出現している。

だがこうした取引にはいくつか問題がある。第一に、上述したように、日本の国債とのスプレッドが大きいため利回りは魅力的なものの、通常であればオポチュニスティックと見なされる取引水準ではない。第二に、こうした資産の大半は欧米および日本の有力なファンドに買い占められており、またその購入にまつわる交渉が複雑

なされがちで、何年もそのまま据え置かれることが多いため、住宅価格の上昇に繋がっているのだ。現在、ベアーシェルでの提供という考え方から離れる動きが進んでいるが、少なくともその一因は、中国政府の施策により投機買いが減少に向かったことである。これによってベアーシェルでの供給に変化が起こり、賃貸市場に供給される物件が増え、住宅価格に下方圧力が加わる可能性がある。

限られた代替投資アジア市場全体にわたって投資対象が不足していることから、

一部のオポチュニスティック投資家はニッチ部門、特に国内プレーヤーに欠けている専門的知識が求められるような部門に注力した戦略へと軸足を移した。こうした代替資産クラスは、低コストのローカルマネーに対する防衛手段というだけでなく、経済変動の影響も比較的受けにくい。ある投資家が述べているように「こうした資産は本来、必要性によって需要が喚起される度合いが高いためシクリカル(循環的な景気変動)の側面が少ない。例えば高齢者用住宅は必要性に基づいているが、オフィスは需要によって左右されるためはるかにシクリカルだ」。

好ましいものとして物流施設を挙げるインタビュー回答者もあり、特に昨年の震災を受けて物流インフラの再構築が行われた日本と、国内消費者の要求(特にeコマース分野)が国内の物流ネットワークの能力を超え続けている中国でそうした声が聞かれる。中国国内の物流ネットワークは伝統的に輸出業者の需要を満たすことに主眼が置かれてきたからだ。

高齢者向け住宅も関心が高まっているセクターの一つだ。他の国々ではこのニッチ部門における開発への取り組みは大した成功を収めていないが、アジアの人口動態を考えると当然の投資であり、日本のような先進国と中国などの新興国にも等しく適用できる戦略である。関連分野であるヘルスケアも大きな可能性を持っている。あるファンドマネジャーは、日本でヘルスケア運営会社の統合も含んだ病院・老人ホームの取引が近く行われることに触れた。「これは明らかに運営上の側面と不動産の側面を備えており、オポチュニスティック投資資金が参入してくるかもしれない」。そうした資産がヘルスケアREITのような事業体に組み込まれるためだ。

とはいえ、これらの新興資産クラスにも利回りや入手可能性などの点でそれぞれ固有の問題がある。例えば物流セクターは、今や主流の部門として受け入れられており、オポチュニスティック投資家よりも機関投資家向けと考える者が増えている。その結果リターンが縮小しつつある。中国では、物流施設の開発利回りは現在約9%である。これはオフィスよりも高いが、賃料の伸びがほとんど期待できないため、真のオポチュニスティック投資と位置づけることは難しい。加えて、ある投資家が指摘するように「大手プレーヤーが何を言おうと、物流施設はロケット工学(のような先端的なもの)ではない。参入するのも難しくないため、価格面では土地の値段が吊り上げられる傾向にある」。それによってリターンも損なわれるのである。

またニッチ市場は総じて、利回りと絶対的規模の両面で、他のセクターに比べはるかに小さなスケールでしか機能していないという点も問題だ。これは「オフィス、商業施設、住宅市場に比べて活動のボリュームが小さいことを意味する。だからニッチ市場について考えるのはとても良いことだが、実際に投資するのは、どんな規模で行うにせ

図表 1-10

2013年における不動産の各種問題点の重要性

出所:Emerging Trends in Real Estateアジア太平洋 2013 アンケート* 自己所有不動産物件や生活環境に影響を及ぼすおそれのある変化への抵抗

1 2 3 4 5

エネルギー価格地域予算問題

国家財政赤字/不均衡新しい国家金融規制

欧州金融不安インフレ租税政策

所得および賃金の変化世界経済成長雇用拡大

金利

グリーンビルディング地域住民エゴ*CMBS 市場回復輸送資金調達

労働者向け低価格住宅インフラ資金調達レバレッジの圧縮

建設コスト将来の住宅価格

空室率リファイナンス

地価

経済敗政問題

社会/政治問題

不動産・開発問題

1重要でない

3どちらかといえば重要

5非常に重要

4.10

4.01

3.89

3.87

3.72

3.65

3.55

3.53

3.24

3.10

3.09

3.973.843.813.773.553.473.402.942.932.912.892.80

3.28

3.23

3.09

2.48

2.47気候変動・地球温暖化日本の自然災害

社会的公正・不平等移住

テロの脅威/戦争問題

Page 9: 20133ii Emerging Trends in Real Estate® 2013 エグゼクティブサマリー 2 012年の年末に向け、アジアの多くの市場では投資家心理が不確実さ を増しており、世界経済の見通しが悪化していることへの警戒感が見

1312 Emerging Trends in Real Estate® Asia Pacific 2013Emerging Trends in Real Estate® Asia Pacific 2013

Chapter 1: 価値の価格

得ない状況が続いている。影響の度合いは、銀行に真っ先に切り捨てられる小規模プレーヤーの方が深刻だ。その結果、デベロッパーは2012年の初頭以来、代替資金源を積極的に(場合によっては必死に)探している。

インタビュー回答者はこうした取引に参画するための様々な方法を示した。ある者はオークションで土地を購入し、現地パートナーと組んで開発することを検討している。住宅は自己流動性があることから、投資対象として全般的に好まれている。「土地を巡る競争はそれほど激しくない」ため、「住宅にはオポチュニスティックな要素がある。こうしたタイプの住宅取引のIRRは10%台半ばを予定することが多い」。一方、特定プロジェクトでキャッシュ不足に陥ったデベロッパーが関係する取引では、外国人投資家が優先出資ベースで参画するケースがしばしば見られる。「われわれはリターンを得て資金を回収せねばならないが、彼らのコストベースはわれわれのとは異なるため、彼らの資金を劣後してもらう必要がある」。

外国人にとって大きな問題は、中国当局が銀行融資に対する締めつけを維持して(および需要サイドにおいて他の規制を課して)住宅価格を引き下げようと断固たる姿勢で取り組んでいるものの、不動産市場の崩壊が経済全体に及ぼす脅威を敏感に悟っていることだ。これは反面、デベロッパーにとっては中国のマクロ経済の悪化が歓迎すべき事態であることを意味している。それによって現在の規制が緩和されると考えられるからだ。

実際、それは2012年半ばにまさに起きたことで、中国政府が大規模・中規模デベロッパーに対する信用供与停止措置を緩め、キャッシュフローの問題を軽減することになった。その結果10月には建設活動が持ち直し、「バランスシートの強い圧力にさらされていたデベロッパーの足元がしっかりしてきたため、彼らのプロジェクトの資本再

構成であれ採算の合う金額での無条件の土地の売却であれ、われわれが求めている機会が得られなくなっている」。何人かのインタビュー回答者は、中国当局が今後も必要に応じてデベロッパーに対する信用供与を小出しに継続すると見られ、そのため不良化のレベルがさらに悪化することはなさそうだと推測している。

中国において留意すべきもう一つの点は、不動産投資に対する税率が非常に高いことだ。近年、この税率がじわじわと上昇し続けているため、IRRが半分にまで落ち込みかねない。ある投資家が指摘するように「あらゆるレベルで実に多くの税が課せられる。所得税があり、事業税があり、土地増価税があるため、たとえ高い成長を見込んでいるとしても、税引き後にオフショアで受け取るネットの

図表 1-12

中国における四半期ごとの土地取引高

出所:リアル・キャピタル・アナリティックス(www.rcanalytics.com)10百万米ドル以上の物件およびポートフォリオに基づく

土地価格(

10億米ドル)

0

20

40

60

80

100

201220112010200920082007

出所:Emerging Trends in Real Estateアジア太平洋 2013 アンケート

図表 1-13

アジア太平洋の投資家の地域配分比率

0% 20% 40% 60% 80% 100%

今後5年間2013

その他

中南米

欧州

米国/カナダ

アジア太平洋

なため、どんな投資家でも参加可能な取引となる見込みはかなり低い。第三に、これがおそらく最も重要な点だが、不良債権もデフォルトしたCMBSもともに不良化資産投資としては「非常に実りのある」機会であり、外国ファンドの中には「高いキャッシュ・オン・キャッシュ[利回り]と山ほどの不良債権にとにかく巨額を注ぎ込んでいる」ところもあるが、市場に出回っている実際の資産価格はこれまでのところ比較的小さい。さらに、多くのインタビュー回答者が、近いうちに不良化資産の徹底的な放出が起こる見込みはほとんどないとしている。ある大手オポチュニティファンドの幹部は「邦銀の帳簿には不良債権が大量に居座っているが、融資コストが極めて低いため、対応を先延ばしにしがちだ。これは日本のDNAの一部と言える。だから機会はあるものの、思ったほど実りは少なく、しかも非常に骨が折れる」と述べた。

日本に拠点を置く別のファンドマネジャーの一人はもう少し前向きで、「多分来年には市場に出回り始め、『もはや十分』というところまで行って取引が行われると思う。おそらくオポチュニティファンドは、CMBS取引のディールフローで彼らが求めるリターンに近いものが得られると見て、これをものにしようとするだろう。だが競争が激烈なため、いくらかディスカウントはあっても時価を大幅に割り込むディスカウントにはならないだろう」と指摘する。

オーストラリア一方、オーストラリアの機会も、世界金融危機以来遅々として進まなかった不良化資産の購入という点で日本の機会と似ている。2012年における取引は欧州の金融グループの貸出債権が主体

で、彼らは2007年以前のピーク時にオーストラリア市場に参入したものの現在は出口を探しており、大幅な損失を抱えていることが多い。その結果、公式数字によると、オーストラリアにおける欧州銀の商業用不動産に対するエクスポージャーは現在、2009年の最高値から約65%も低下している。ほとんどの場合、彼らの帳簿には国内レンダーに人気のない資産タイプに対するシニアローンが満載であり、特に住宅(あるインタビュー回答者が「恐ろしい取り組み」と呼んだセクター)とセカンドティア市場のセカンドティア資産に対するものが多い。

インタビューではこうしたセカンダリー物件に対する言及が一度ならずあったが、これは現在最も注目されているプライム資産に比較してスプレッドが拡大しており、不良化資産であれそれ以外であれ、オポチュニスティック投資の対象として見られつつあるためだ。シドニーに拠点をおくアナリストの一人は「セカンダリー市場の改善と呼ぶにはまだ早いが、リスクの度合いが上がっても厭わず世界的なリスク意識の高まりに乗じて投資しようと考えている投資家は、こうしたセカンダリー市場やセカンダリー資産に目を向けるだろう。強い需要がないためスプレッドが拡大したが、セカンダリー資産は意識が変化するときに動くため、そうした変化を示す重要な指標となる」と述べた。

最後に、オーストラリアのファンド業界の中でも不良化資産の投資の可能性がある。A-REIT部門はその大半が2009年に資本再構成を成功裏に終えたが、中小の非上場ローカルファンドにはさらに資金を調達する力がなく2010年下半期以降に資産売却を行ってきた。この分野で活動しているファンドマネジャーの一人は「上場と非上場の両方でまだいくらか機会が見られる。大口顧客向けファンドは混然としており、戦略を変更して資産を売るものもあれば、買おうとしているものもある」と語る。だが、大量の資金がこれらの資産を追いかけているため、掘り出し物はなかなか見つからないだろう。

中国中国では安定した資産のキャップレートの極端な圧縮が続いているため、不良化資産の投資の可能性は開発案件が主体となる。だが中国市場には独自の特性があり、取引が失敗に向かう原因が数多くある。あるファンドマネジャーは「私は『信頼することができる真に優れたパートナーを見つけよ。真に優れた不動産を見つけよ。そして魅力的な参入価格やストラクチャーが可能になる状況を見つけよ』と唱えている」と述べた。別の投資家の言葉を借りると「適切な資産を持つことよりも適切なパートナーを持つことの方が重要」なのである。

中国の開発スペースは不良化資産の機会を提供している。というのも、デベロッパーが建設と特に土地の購入のために銀行融資を受けるのを制限する規制を政府が引き続き実施しているためだ。中国のデベロッパーは資金が不足しているものが多いため、キャッシュフローを手にするには商品の価格を下げて在庫を売却せざるを出所:Emerging Trends in Real Estateアジア太平洋 2013 アンケート

図表 1-11

2013年における投資カテゴリー/投資戦略別見通し

ディストレスト債権

ディストレスト物件

開発

オポチュニスティック投資

コア投資

バリューアッド投資

コアプラス投資

1最低

5普通

9最高

5.90

5.88

5.75

5.72

5.56

5.38

5.23

Page 10: 20133ii Emerging Trends in Real Estate® 2013 エグゼクティブサマリー 2 012年の年末に向け、アジアの多くの市場では投資家心理が不確実さ を増しており、世界経済の見通しが悪化していることへの警戒感が見

1514 Emerging Trends in Real Estate® Asia Pacific 2013Emerging Trends in Real Estate® Asia Pacific 2013

Chapter 1: 価値の価格

フロンティア市場:新参者たち投資家がリターンの限界に挑む別の方法として、インドネシア、ベトナム、フィリピンといったフロンティア市場に目を向けることが挙げられる。直近では、若干の勇猛果敢な投資家がカンボジアやモンゴル、さらには2012年になるまで国際制裁が解除されなかったミャンマーなど遠方の地域にまで参入し始めている。

これらの地域はほとんどではないにしろ多くの場合、憶病な投資家や経験の少ない投資家向きではない。リスクは高く、規模は(通常)小さく、官僚主義がはびこり、腐敗が(しばしば)蔓延し、法制度は不透明で、ホールドの期間が長く、エグジットは(おそらく)困難で、資金調達は困難もしくは不可能だ。ほぼすべての投資において開発戦略を採る必要があり、また国内法令により国際的資本参加に対し何らかの制限が加えられる可能性が高い。

だが、このように短所がずらりと並ぶものの、一等地へのアクセス、IRRの高さ、現地の優れたコンタクト先、そしてエントリーレベルの機会のみが提供可能な手の届く果実が約束されていることなど、ポテンシャルがあることも明らかだ。これらの市場は今後の高い経済成長が見込まれているが、それは長期的な投資にも見合うことを意味する。外国人がやってきて資産をやりとりすることに現地の人々は懐疑的な眼差しを向けるのみならず、売却の機会も簡単には手に入らないかもしれない。カンボジアで活動しているデベロッ

パーが指摘するように「投資先としての注目度は高くないため、開発を行ってそれを売却するといった取引を行う必要がある場合は、いろいろ苦労するだろう」。

これらの市場はそれぞれ長所と短所がある。

フィリピンは力強い成長(インフラ支出の加速も一因)と、透明性の高さという新たに勝ち得た評価の恩恵を受けている。特に、外国の多国籍企業の委託を受けてサービス(主にコールセンター業務)を提供するビジネスプロセス・アウトソーシング(BPO)において良好な機会が見られる。現在、BPOは新規のオフィス入居の70%~80%

を占めている。しかし外国人投資家がフィリピンに資金を投じるのは困難な場合がある。フィリピン法に基づき現地パートナーが求められるが、現状では国内プレーヤーが外資と手を組むメリットがほとんど存在しないからだ。同国のある投資家は「ここでは資金需要がないから、オポチュニスティック投資家を探そうとしても相当時間がかかる。資金がすぐに手に入るため、国際パートナーと手を組んでもスピードが落ちるだけというのがこれまでの経験だ」とコメントしている。とはいえ現在、法律を改正してフィリピン(法)人の過半数所有要件を撤廃しようという動きがあり、これが成功するか、もしくは最近議論されている税法改正によって国内のREIT部門が根付けば、状況が変わるかもしれない。だがこうした変化を推進するには何年もかかり、2016年以降の次期政権になるまで延期される可能性があるとインタビュー回答者は示唆している。

図表 1-15

香港の住宅価格インデックス、全クラス、1993-2012

出所:Hong Kong Rating and Valuation Department2012年6月~8月のデータは暫定値

50

100

150

200

250

20122011201020092008200720062005200420032002200120001999199819971996199519941993

指数

利益は極めて薄いものとなりかねない」。

インド理論上は、インドはオポチュニスティック投資家にとって主たる投資対象候補のはずである。上場市場は「いくらか低迷」しており、銀行が引き続きデベロッパー向け融資に消極的なため借入コストも高い。その結果、ある投資家によると「不動産事業を上場しようとしてやり損なうといささか問題が生じ、資金を回収するには資産を売らねばならなくなる。インドには不良化資産が多いが、価格が劇的に下がっているため人々は困っている」。

だがインドに対する見解は両極端に分かれた。ある大手オポチュニティファンドのインタビュー回答者はインドを好ましい投資先と位置づけ、「規制の点で厳しく、透明性の問題があり、インフレも問題で金利が高いが、Aグレードの収益資産を15%のキャップレートで買っている。とても信じられない」と述べた。別のインタビュー回答者は、健全なデベロッパーの現在の調達金利は3年物で18%~22%

にのぼっていると指摘する。

それほど強気の見方をしない者もいる。2005年から2008年の間に取引を行い、現在は出口を探している多くのプライベートエクイティ投資家は、市場の流動性不足によりプロジェクトの買い手を見つけるのに苦労している。一方、もっと後に投資したファンドは手痛い目に会い、それに懲りてひどく用心深くなっている。撤退した投資家も若干見られる。ある外国デベロッパーは「インドはいくらか『遠すぎた橋』のようなもので、制度は極めて分かりにくく、地理的にも

扱いが非常に難しい場所だと思う」と述べた。

インドの問題は、可能性のある取引がないというより、投資の迷路を進んでいくことの難しさに起因している。特に懸念が集中しているのは、既存の規制が外国人投資家に不利になる形で過去に遡って変更されるという事例がいくつもあることだ。具体的には、地元のデベロッパーと組みIPO前のプットオプションを活用(外国人投資家は発起人による株式の買戻しを通してエグジットが可能になる)して仕組んだ取引が規制当局に歓迎されておらず、その結果大きな懸念が生じている。より最近のケースでは、外国直接投資に関する規則について政府が様々な改正を行ったが、それらは外国の不動産ファンドに有利なものに映る。とりわけ、政府は9月にマルチブランドの商業施設案件に対する外国直接投資の比率を最大51%まで認めるという決定を下した。これはインドのショッピングセンター投資において国際的小売業者とパートナーシップを組む可能性を開くものだが、この提案が大きな政治論争を巻き起こしており実際に施行されるのか不透明だ。そのため状況は流動的で、現実的な解決がどのように図られるか現時点では不明である。だがこうした問題にもかかわらず、インドは「手の届く果実」(容易に得られる成果)があり、特に中国との比較において、投資家として無視し難い市場と認識されている。中国では既に資金が簡単に手に入る時期が過ぎ、「もはや外国人投資家を本当に必要とは考えなくなっている」ために、外資に対する姿勢が以前より厳しくなったと見る不動産投資家が多い。

図表 1-14

不動産の透明性の評価(アジア太平洋地域)

透明性レベル 国・地域名 2012 年調査 での世界順位

2012年調査 での点数

2010年調査 での点数

2008年調査 での点数

2006年調査 での点数

透明性が高い オーストラリア 3 1.36 1.22 1.15 1.19

ニュージーランド 5 1.48 1.25 1.25 1.19

透明 香港 11 1.76 1.76 1.46 1.50

シンガポール 13 1.85 1.73 1.46 1.55

マレーシア 23 2.32 2.30 2.21 2.30

日本 25 2.39 2.30 2.40 3.08

いくらか透明 台湾 29 2.60 2.71 3.12 3.10

中国(ファーストティア都市) 32 2.83 3.14 3.34 3.71

フィリピン 35 2.86 3.15 3.32 3.43

インドネシア 38 2.92 3.46 3.59 4.11

タイ 39 2.94 3.02 3.21 3.40

韓国 41 2.96 3.11 3.16 3.36

中国(セカンドティア都市) 46 3.04 3.38 3.68 ーインド(ファーストティア都市) 48 3.07 3.11 3.44 3.90

透明性が低い ベトナム 68 3.76 4.25 4.36 4.60

出所:ジョーンズ ラング ラサール「グローバル不動産透明度インデックス」

Page 11: 20133ii Emerging Trends in Real Estate® 2013 エグゼクティブサマリー 2 012年の年末に向け、アジアの多くの市場では投資家心理が不確実さ を増しており、世界経済の見通しが悪化していることへの警戒感が見

1716 Emerging Trends in Real Estate® Asia Pacific 2013Emerging Trends in Real Estate® Asia Pacific 2013

Chapter 1: 価値の価格

入を行った。シンガポール市場もほぼ同様の状況で、第3四半期に住宅価格と取引高が過去最高を記録している。果たして施策が奏功し、市場(特に投機が最も激しいハイエンド側)の過熱ムードを抑えることはできるだろうか。

区分所有に注力する投機筋住宅に対する規制がもたらした結果の一つは、住宅セクターの一部の資金が循環していることである。香港に拠点を置くファンドマネジャーの一人は「ここ数年、シンガポールと香港の区分所有権市場は非常に活発だが、これは[住宅市場において]課税が強化されたことと購入後の即時売却に対し制約が加わったことが原因だ。複数の投資家が一棟の建物のかなりの部分をまとめて購入し、それを細切れにして売却しているのだ」と説明する。この分野では個人富裕層の資金も活発だが、それに見合うリターンが得られるか疑問視する者もいる。これは中国でも見られる現象である。

外国の規制の影響このほか、アジアの市場に大きな影響を与えている規制として、多国間の基準であるバーゼルIII規則と米国のドッド・フランク法が挙げられる。いずれも銀行に適用されるものだ。インタビュー回答者からは、銀行がバーゼルIII要件に適合するために資金をため込んでいることも一因となって、一部の市場(特にオーストラリア)でデットへのアクセスが難しくなったとの声が聞かれた。バーゼルIIIは銀行に対し、2013年末までに自己資本規制比率の目標を達成することを求めている。あるインタビュー回答者によると、邦銀はバーゼルIIIのためにバランスシート上に損失を計上することに気が進まず、そのため来年かその先にさら

に多くの不良化資産が放出される可能性が減るかもしれないという。一方、ドッド・フランク法により国際投資銀行はクライアントとの共同投資を禁止されており、これがアジアでの事業に与える影響はわずかだ。ただしそれはディール・ブレーカー(取引を断念せざるを得ないような問題)というより不自由の一つと受け取られている。

長期投資に注力する投資家世界金融危機以前は、アジアで循環する外国資金が全体の中で占

図表 1-18

2012年世界経済成長予測に占める中国の割合

出所:ドイツ銀行、ブラックロック2012年の世界経済の成長率を3.2%と想定

他の先進国市場 2%

米国17%米国17%

その他の新興市場17%

アジアの他の地域24%

中国40%

図表 1-17

日本の増大する公的債務

出所: S.M.アリ・アバス他 “Strategies for Fiscal Consolidation in the Post-Crisis World” (2010年)、トムソン・ロイター・データストリーム、ヘイバー・アナリティクス IMFスタッフ計算「世界経済見通し:多額の公的債務と緩慢な成長に対処する」(2012年10月)

-250%

-200%

-150%

-100%

-50%

0%

50%

100%

150%

200%

250%債務残高(対GDP比)

-12%-10%-8%-6%-4%-2%0%

2%4%6%8%

10%12%

財政収支(対GDP比)

実質GDP成長率(%)

2012201120102009200820072006200520042003200220012000199919981997199619951994199319921991

実質

GDP成長率/財政収支

債務残高

インドネシアも複数のインタビュー回答者から好意的に推奨され、またEmerging Trendsのアンケートではアジアの投資先としてジャカルタが1位にランクされた。インフレが沈静化し、GDPに占める投資の割合も1998年のアジア金融危機以前の水準に戻りつつあるため、インドネシアの成長見通しは良好だ。あるインタビュー回答者は他のフロンティア市場、特にベトナムと比べ、インドネシアは「物事を実行する」のが比較的容易であることも挙げている。しかし肯定的な意見ばかりではない。ある大手地域デベロッパーの幹部によると、インドネシアは土地の所有権の確立をめぐる根深い問題や法の支配に関する問題を抱えており、検討するにはあまりにも「開発リスクが大きすぎる」という。安定資産を買う方が、リスクが小さいだろうが、これまでのところ機関投資家適格物件で購入可能なものはほとんどない。

ベトナムは、政治・経済の両面で一連の失策が続いた結果、この一年で投資家の投資対象から滑り落ちた。ある国内デベロッパーは「不動産市場や不良債権に関して非常に深刻な問題がある」と指摘し、「いたるところで不良化資産が見られる」と述べたが、外国人がそうした不良化資産にアクセスが可能か、また倒産企業の資産を管理する枠組みができていないため、不良化資産をどのように市場に還流させるかについては明らかではない。こうした事態により「外国人投資家ばかりか国内の買い手もたじろぎ、今は様子見を決め込んでいる」。運営面では、ベトナムは息苦しいほどの官僚主義で知られるが、法の支配の問題はインドネシアほど深刻ではない。今は投資に否定的な姿勢が強いため、逆にカウンターシクリカルな購入にはよい機会かもしれないと考える者もいる。ただし「ベトナムではサイクルの転換に時間がかかるため、こうしたサイクルの期間が非常に長くなる可能性がある」。

住宅セクターに対する規制欧米諸国の政府は長きにわたり、直接的な規制を課して不動産価格を操作することに対しイデオロギー的に反対し、代わりに自由市場原理に則って価格の自己調節作用に任せてきた。現在、こうした考え方に変化が起きつつあるようだが、アジア諸国の政府は公式であれ非公式であれ、過熱する市場を抑えるために臆せずマクロ安定化政策を実施しており、特に近年、価格のボラティリティが増大したことからその取り組みを強めている。アジアのいくつかの市場において住宅価格が上昇しており、それを抑えることを主目的に、2012年も政府による介入が続いた。

その最も顕著な例が中国である。2011年前半以降、政府による締め付けが実施され、供給サイド(デベロッパーに対する銀行融資の抑制)と需要サイド(個人による一軒以上の住宅購入の禁止)の両面で圧力を加えてきた。過去においては同様の規制が厳格に実施された結果、価格が乱高下することになったが、今回は当局がより着実に進め、開発セクターの崩壊と経済の破綻を回避する一方、主要都市で約15%という緩やかな価格下落を実現した。インタビュー回答者は、予見可能な将来において中国当局が引き続き価格統制に取り組むという見解で一致している。ある投資家が述べたように「政府は物事が行き過ぎないように時々落ち着かせる必要があることをはっきり認識しているが、それは対策を中止することを意味するのではなく、長期間にわたる実施を避けるということだ」。

他の国・地域も住宅価格の上昇の抑制に動いているが、中国ほど強制的ではない。例えば香港政府は2011年に需要サイドに一連の課税を開始した。今年10月に導入した最新の施策に続いて、政府は購入後3年以内に転売される不動産に最大20%の課税を行うこととし、LTV比率の制限、新築住宅向けの土地の供給拡大、非居住者による住宅購入に対する15%の課税上乗せ(主として大陸の中国人を対象とした施策)を実施している。そうした非居住者によるプライマリー市場での購入は2011年のある時点で全体の40%に達している。シンガポール、インドネシア、マレーシア、台湾でも同様の規則が導入された。

意外なことに、香港とシンガポールでは価格に歯止めをかけるうえでこうした規則がほとんど効果を発揮していないようだ。これはいずれも金利が米国のベースレートにリンクされており、そのため異常に低く、当局にはインフレ対策として金融政策面で打つ手がないことが主因である。そのため、米国が2012年9月に第三次量的緩和(QEIII)を決定したのを受け、第3四半期に住宅価格がさらに上昇した。

インタビュー回答者の中には、欧米の緩和政策によってアジア資産に大量のホットマネーが流れてくるのか疑問視する者もいたが、香港ではその影響が大きく、また直接的である。住宅価格はQEIII

の導入後6週間で4%上昇した(2009年以降でほぼ倍増している)。香港政府は10月、ドルペッグ制を守るため為替市場に3年ぶりの介

図表 1-16

アジアの住宅価格の推移(名目)

前年比 四半期比

2011 Q2 2012 Q2 2012 Q2

インド(デリー) 33.64% 17.01% 2.38%

香港 26.86 7.35 7.70

インドネシア 4.53 3.68 1.17

ニュージーランド 1.08 3.38 2.43

シンガポール 10.21 1.87 0.39

台湾(グレーター台北) 13.70 0.90 0.28

中国(上海) 0.74 -0.68 -0.15

タイ 2.97 -1.15 -1.81

日本(東京) -0.25 -1.98 -2.24

オーストラリア(8都市) -2.67 -2.06 0.49

出所:グローバルプロパティ・ガイド (2012年8月29日)

Page 12: 20133ii Emerging Trends in Real Estate® 2013 エグゼクティブサマリー 2 012年の年末に向け、アジアの多くの市場では投資家心理が不確実さ を増しており、世界経済の見通しが悪化していることへの警戒感が見

1918 Emerging Trends in Real Estate® Asia Pacific 2013Emerging Trends in Real Estate® Asia Pacific 2013

Chapter 1: 価値の価格

いつかの日か、おそらく5年から10年後、あるいは少なくとも10年から15年後には、よい買い物をしたと思えるようになるだろう。それだけ長期間かかったとしても伸び幅は大きい」と語った。この言葉は長期的な成長が達成されることを暗に前提としているが、そうした前提ゆえにアジアの投資家は市場の下降期にもホールドしようという思いを強くしている。市場がまもなく回復し、以前よりもさらに良くなるだろうと考えるからだ。この発想は特にコア資産に当てはまる。

投資の考え方がいろいろ異なり対立していることから、外国人投資家は長期的投資へと徐々に移行しつつある。一般的なオポチュニティファンドの投資期間は5年から7年だが、特にアジア経済が時として大きく変動することを考慮すると、これではエグジットの前提を計算するに当たって誤りが許される余地がほとんどない。例えばシンガポールでは、投資期間の終了が近づいているいくつかの外国ファンドが大規模オフィス資産で損失を被っており、悪化しつつある市場でほどなく売却することを余儀なくされている。これらの建物は数年前にピーク価格で購入したものだが、金融系テナントが縮小する一方オフィスセクターは大量の新規供給に直面する環境にあって苦戦を強いられているのだ。

ファンドは彼らのエグジットの窓口を広げることでこうしたシナリオを避け、また将来の賃料の上昇によって利益を拡大できる案件に資金を投入することができる。香港に拠点を置くファンドマネジャーの一人は「中国での商業施設やオフィスの開発利回りはおそらく3%

から4%ほどだろう。キャップレートも同様だ。これは世界の他地域と比べてかなり低いため、良好なリスク調整後リターンを得られるとはなかなか感じられない」と指摘する。彼によると、真の利益は安定した開発利回り、特に運営状況のよい商業施設への投資から得られるが、そうなるには賃貸が何回転かした後であり、一般的に3年が一回

転である。9年経つと「鼻歌を歌っているだろう。コストに対し利回りは二桁になり、4%のキャップレートで資産を売却することができる。だから『ビルド・アンド・ホールド』の15年ファンドで、長期的なキャッシュフロー倍率を提供し、10%台前半から半ばのリターンを生み出してくれれば、もはや頭を使う必要はない」。

また、韓国に拠点を置く投資家の一人が述べたように、長期的投資は外国人が「国の富みを奪う」という受け取め方のあるセンシティブな市場にとっても好ましい。「韓国でビジネスを行うに当たっては、投資家はオポチュニスティックな取引を行ってすぐに売却するというのではなく、文化的・政治的な意味合いに注意を払う必要がある」。

リスキーな時代世界的にも同様の傾向にあるが、アジアの不動産投資家にとってリスクの認識と管理はますます大きな懸念材料となっている。

しかし、アジアのリスクの分析の方が難しいようだ。というのも、遠くからは朧に映る欧米の事象に関係したリスクが多いからだ。そのため大半のインタビュー回答者にとって、米国の「財政の崖」の危険性や欧州の債務破綻の可能性といった問題は身近な問題の二の次となっている。

つまりアジアのリスクとは受け取る人によって異なる。それは、東シナ海における中国と日本の領土論争が経済分野に及ぼしかねない影響であり、あるいは日本の財政赤字の急増と政府債務危機がもたらす危険性であるかもしれない。日本の財政・債務問題に関する論評は、増減はあっても欧米の同様の問題に比べ少なくとも2倍の量に達している。また「人口問題という時限爆弾」(アジアの多くの国、特に中国、日本、韓国など人口の多い国における高齢化に関連

図表 1-21

セールス・マネージャーによる中国における住宅購入者の内訳

出所:CLSAアジアパシフィック・マーケッツ「中国への誤解:欧米の共同幻想を覆す」(2012年5月)

0%

20%

40%

60%

80%

100%投資家 二次取得者(買い替え)一次取得者

3月2月2012年

1月12月11月9月8月7月6月5月4月3月2月2011年

1月12月11月10月3Q2Q2010年

1Q4Q3Q2009年

2Q2008年

3月2007年

9月

22 15 19 21 22 22 16 18 15 16 15 16 13 11 10 10 10 11 11 9 12 9 8 9 7

25 28 35 35 37 40 37 39 42 41 42 39 41 39 41 44 42 42 44 45 39 38 33 33 34

53 57 46 44 41 39 47 43 43 43 42 45 45 50 49 46 48 48 45 46 49 53 59 59 58

める比率は現在よりもはるかに高かった。今ではアジアの資金が市場を牛耳っており、外国ファンドは取引を巡ってローカルマネーと競争するケースが増えている。そうしたローカルマネーは、外国ファンドとは異なる方法で価値を計算しリスクをディスカウントするため、同じ資産に対してより高額を支払う用意がある。

そのため一部の外国ファンドマネジャーは、自分たちの標準的分析モデルをアジアに適用しているのか疑問に思い始めている。ある

者は「アジアには米国にない需要があってそれに支えられているから必ずしも大きなリスクプレミアムはないはずだと言ったら、アジアの資金にはこれがジョークであることが分かると思う」と述べ、別の者は「ある物件から現在得られる初期利回りがどのくらいか気にするのは正しい考え方ではない。というのも、リテールの売上高は天井知らずで、インダストリアルの業績はますます向上し、立地も劇的に変化していくからだ。だから今何を買うにせよ、その大半は

図表 1-19

実質GDP成長率予測(%)

国・地域名 2010 2011 2012* 2013* 2014* 2015* 2016*

中国 10.45% 9.24% 7.83% 8.23% 8.51% 8.54% 8.54%

インドネシア 6.20 6.46 6.04 6.34 6.54 6.64 6.74

タイ 7.78 0.05 5.57 5.99 4.50 4.60 4.80

インド 10.09 6.84 4.86 5.97 6.39 6.74 6.89

ベトナム 6.78 5.89 5.11 5.88 6.42 6.76 7.20

フィリピン 7.63 3.91 4.84 4.78 5.00 5.00 5.00

マレーシア 7.15 5.08 4.40 4.70 5.00 5.00 5.00

台湾 10.72 4.03 1.31 3.87 4.47 4.70 4.79

韓国 6.32 3.63 2.69 3.63 3.95 3.95 3.95

香港 7.09 5.03 1.84 3.48 4.28 4.31 4.36

ニュージーランド 1.82 1.35 2.23 3.07 2.67 2.59 2.27

オーストラリア 2.51 2.14 3.31 3.00 3.25 3.32 3.20

シンガポール 14.76 4.89 2.08 2.90 3.59 3.72 3.78

日本 4.53 -0.76 2.22 1.23 1.08 1.15 1.07

出所:国際通貨基金「世界経済の見通しデータベース」(2012年10月)*予想

図表 1-20

信用の伸び率とGDP成長率

出所:各国中央銀行、OECD経済見通し、各国データ、国際決済銀行の計算3年間の複利成長率、2012年6月現在の最新の数値、信用は金融業を除く民間部門に対する信用の合計

-5%

0%

5%

10%

15%

20%

3年間の実質信用伸び率(%)(年率換算)

3年間の実質GDP成長率(%)(年率換算)

英国

スペイン米

国日本

イタリア

オーストラリア

フランスドイ

アイルランド

カナダ

ロシア

韓国

スイス

マレーシアタイイン

ブラジル

インドネシア中

Page 13: 20133ii Emerging Trends in Real Estate® 2013 エグゼクティブサマリー 2 012年の年末に向け、アジアの多くの市場では投資家心理が不確実さ を増しており、世界経済の見通しが悪化していることへの警戒感が見

2120 Emerging Trends in Real Estate® Asia Pacific 2013Emerging Trends in Real Estate® Asia Pacific 2013

Chapter 1: 価値の価格

した長期の構造的断絶)に触れる者もある。給付金の支出の増加とともに、出生率が減っているため保険料収入が減少しているのだ。

しかし過去数年と同様、飛び抜けて大きい懸念は中国で生じる可能性のある経済問題である。こうした懸念は、最も基本的なレベルでは中国のGDP成長率の動向に集中している。2010年には10.4%だった成長率が今では7%~8%の範囲に低下しており、これがさらに悪化するようなことがあれば中国国内のみならず世界の需要にマイナスの影響を与えるだろう。ドイツ銀行の試算によると、中国本土は現在、世界の経済成長の約40%を支えているためだ。アジアだけを見ても、中国経済が減速すれば、中国本土と密接に一体化している近隣諸国からの一次産品その他の輸入需要が減ることになり、アジアの不動産市場にも連鎖反応を引き起こすだろう。

だが統計データによると、中国政府が2012年第1四半期に導入した、慎重に計算された刺激策がある程度の成功を収めているようだ。過度の刺激は国内の不動産価格に再び火をつけ、あるいは中国国外からのホットマネーを引き寄せることになりかねないため、これまでは効果的な政策を策定するのは難しかった。だが、独立系調査会社のキャピタル・エコノミクスによると都市部の住宅不動産投資は中国のGDPの8.5%以上を占めており、不動産政策における若干の緩和が求められているのも事実なのだ。

その一方で、今年になって中国で行われた緩和は2009年から2010

に行われた緩和の水準には遠く及ばないものの、緩やかな回復をもたらすには十分なものだった。第3四半期のGDP成長率は前年同期比7.4%で、第2四半期の前年同期比7.6%増には及ばなかったものの、第3四半期は第2四半期比で9.1%増とこれを上回っている。とりわけ個人消費(中国ではインフラ投資の停滞から持ち直すために個人消費への依存を強めている)が引き続き高い成長を示し、小売業の売上高は前年同期比14.2%増となった。この結果、中国がハードランディングするというリスクは後退したように思われ、景況感は(不動産デベロッパーを含め)プラスの度を高め、第4四半期にはGDP成長率が回復するとのコンセンサスが生まれている。国際通貨基金(IMF)による最新の予測では、中国の年間成長率を2012

年に7.83%、2013年に8.23%としている。

より長期的には、中国経済に対する懸念は公的債務と民間債務が(ほとんど定量化されていないものの)増大していることが中心となっている。IMFによると、中国では過去3年間に信用が実質ベースで年間約20%増加した。ただし政府が銀行に対する統制を強化したことから、最近では伸び率が減速している。中国の債務残高の真の規模は誰にも、おそらく中国政府にも分からないだろうが、社会通念から言えば、まだ持続不能な水準には達していないものの、おそらく持続不能なペースで増大していると思われる。この問題に対する懸念は今後さらに拡大しそうだ。

住宅バブルか?中国リスクに対する投資家の懸念は、中国であれアジア全体であれ、経済成長の減速が不動産市場に与える影響に限られない。

具体的には、特に住宅価格のバブルによる中国不動産市場の崩壊のリスクも懸念されている。これはほとんどの場合、アジアの投資家よりも、LPであれ投資委員会であれ欧米の投資家の方が深く懸念しているものだ。香港に拠点を置くファンドマネジャーの

一人は「だからこそ世界の大半は依然として中国に大幅なリスクプレミアムが必要と考えている。『これはかつて欧米で起きたことだ。中国人は否定しているが、中国はバブルの中にいる。だからそれが見えないのだ』というのが欧米の見方だ」と述べた。

中国の住宅市場にバブルが存在するという意見は何年も前から示されており、様々な統計分析に基づいているが、その中には目を見張るものの必ずしも適切でないものもあれば、先進国市場の過去の事象から検証された信頼できるとされるものもある。

前者の例は枚挙にいとまがない。例えば以下のものが挙げられる。

■ 2011年における中国の住宅建設はGDPの10%に達したこと。

ちなみに、米国では住宅ブームのピークである2005年において6%だった。

■ ピーターソン・インスティテュートの研究によると、2010年における中国の都市部世帯の資産の40%が不動産資産だったこと。これは1997年の倍に当たる。

■ 「投資」目的で購入された中国の賃貸集合住宅の相当数が、価格の上昇を見越して未使用状態になっていること。

最後の例については、中国の空室住宅ストックが実際にどの程度の規模か検証することは不可能なものの大量に存在することはほぼ間違いなく、経済的に非効率であるばかりか、住宅を購入することができない中国人が非常に多いことから、政治的・社会的問題にもなっている。そこに投機的傾向があるのは確かだが、中国では従来から投資オプションが不足していること、銀行預金の利子が実質的にマイナスという環境、そして不動産を購入することに対する文化的嗜好を反映したものでもある。あるファンドマネジャーが指摘するように「中国人はそれを投機ではなく長期的な預金口座だと考えている」。だが、政府の施策によってそうした購入が大幅に減少したという事実は別として、空室の住宅がそれ自体でバブルを意味しているのか、そしてそれによって必然的に減少しているのか見分けるのは困難だ。実際には、欧米の最近の出来事が示すように、住宅価格の崩壊の直接的原因は常に「値ごろ感」に戻ってくる。

これは、バブルが存在するという主張を裏付けるために用いられるモデルのさらに興味深い点を示している。欧米では大まかに言って、世帯収入に対する住宅価格の比率が約1対4になると「手が届く」値段と見なされる。国内の調査グループである上海Eハウスによ

ると、中国全体の世帯に対する同様の統計では、ピークである2009

年の1対8.1から2011年には1対7.4に低下した。住宅価格が下落する

一方で収入が増加しているため、この比率は今年も低下するはずだ。だが主要都市では、上海で1対12.4、北京で1対11.6、深圳で1対15.6

と非常に高い値になっている。

こうした統計上では中国の住宅は驚くほど「手が届かない」値段になっているものの、実際には全体状況の中で判断する必要がある。第一に、こうした統計はほぼ確実に間違っている。例えば拡大家族の場合、一人っ子が負担するローン費用を喜んで補助することが多い。また中国では地下の現金経済が蔓延しており、クレディスイスが行った2010年の調査によると、公的統計は家計の実際の所得を50%ほど低く見積もっている可能性がある。さらに、こうした「グレー所得」の約63%が都市部世帯の10%を占める最富裕層の手中にあるが、彼らこそ最も活発に不動産を取得している層なのである。

これは別の関連した問題、すなわち中国において「持てる者と持たざる者」の格差が増大していることを指し示すものだ。結局のところ、平均所得の中央値が「手が届く」かどうか判断する際の基準とはならない。なぜなら中国であれどこの国であれ、所得が少ない方から50番目の人が、都市部の住宅に対する需要の中間値を表すわけではないからだ。実のところ、中国で商業的に最も開発された住宅を購入しているのは高額所得者であり、所得格差が激しいため、所得が多い人ほどその金額もますます大きくなる。これは明らかに社会問題であるが、そうであるからといって住宅バブルを示すわけではない。

もう一つの要素はレバレッジである。中国の銀行は住宅ローンの供与に当たって少なくとも30%の頭金を要求する(セカンドハウスの購入者には60%)。加えて、購入者は一般的にそれほど多額の借入を行っておらず、ホームエクイティローンも稀のため、自宅をATM

として使う(住宅を担保に金を借りる)中国人は少ない。また中国では住宅ローンの証券化が認められていない。これら3つの要因により、不動産バブルとともに上昇する傾向があるデットの比率が上がらないのである。

この事実に加えて、住宅に対する需要も根強いものがある。ある投資家が述べたように「デベロッパーが『流動性が本当に不足しているため、価格を15%ディスカウントする』と言ったら、週末に400

戸が売れるだろう。しかし地方政府が『所有権に対する制限を撤廃する』と言えば、市場は狂乱するだろう」。

最後に、そしておそらく最も重要な点として、中国の住宅価格にとって救いとなっているのは、都市部世帯の所得が継続的に急上昇してきたことだ。公式数字によると、2006年から2011年の間に都市部の所得は平均して年率13%増加したが、これに対して住宅価格の平均年間上昇率は9.7%だった。そのため、住宅価格が手の届かない水準になったように見えても、時の経過とともに常に所得がそれに追いついてきた。もしこうした数字が正確であるならば(中国の公式不動産統計は疑わしいことで知られているが)、これまでのところ効果的なコ

ントロール機能を発揮している政府の引き締め政策の結果、都市部の住宅価格がピーク時から15%以上下落していることもあり、中国の住宅価格は現在の水準で持続可能なように見える。ある投資家の言葉を借りると「住宅市場は空気弁付きのゴム風船といった方が近いと思う。破裂する危険性はそれほど高くない」。

Page 14: 20133ii Emerging Trends in Real Estate® 2013 エグゼクティブサマリー 2 012年の年末に向け、アジアの多くの市場では投資家心理が不確実さ を増しており、世界経済の見通しが悪化していることへの警戒感が見

23Emerging Trends in Real Estate® Asia Pacific 2013

欧米で起きている危機とアジアで見られる成長との組み合わせは落ち着かないもので、それがアジア不動産のリスクを評価する上で投資家の目を曇らせているが、

同時に、資金がアジアに流入し、アジアを迂回し、またアジアから流出するという流れも生み出している。

おそらく、相反する資金の流れによる混沌状態に秩序を見出す上で大きな障害となるのは、追跡が難しいように構築されているものが多いということだろう。従来、ファンドは確認可能な国・地域から資金を得て、それを直接投資することが多かったが、今では「資金の流れが水面下で起きているものが多く、そのためわれわれが獲得するものよりも強力だ」。そうした資金は従来のファンドビークルをまったく経由しないか、多くの異なる資金源から資金をプールする大型ファンドの一部としてアジアに間接的に入ってくるものだ。あるアナリストは、アジアに流入する資金がローカルファンドを経由して投資される前に通過する中心的なチャネルとしてシンガポールを挙げた。

「この12カ月間、シンガポールは資金源として圧倒的な地位を保ち、[そして]資金がアジア地域を巡回する前の最後の行先となった。だがその資金の[元々の]出所がどこなのかは知る由もない」。

アジアを流れる資金の源泉を探す上でもう一つの問題は、それが回転ドアを通して出入りしていることだ。実際、アジアから出ていく資金の金額と出所は、アジアに入ってくる資金よりもさらに不透明だろう。あるインタビュー回答者は「アジア周辺で生み出される資金のうち、プライベートバンキングやヘッジファンドを通じて流入し、

やがて上場・非上場ファンドに流れていくのはどのくらいあるだろうか。欧州へ還流し、または北米に流入していく資金は、アジアにやってくる資金の流れに比べはるかに小さいと思う」と述べた。

だが、欧米の資産をターゲットとするアジアマネーの額がこの

1年ほどで劇的に増加したことは明らかだ。あるファンドマネジャーは「アジアでは機関投資家による投資分野が急拡大している。グローバルファンドマネジャーが資金を調達する場合、前回調達した資金の5%がアジアの投資家からだったとしたら、今回は多分20%を狙うだろう」と述べた。こうした資金の大半は欧米の不良化資産を

不動産キャピタルフロー「正しい市場にはエクイティや資金が不足していることは絶対にないという点に疑う余地はない」

図表 2-1

主要地域の集中によって調達された総資本の内訳(2005年-2012年第2四半期)

出所:プレキン・リアルエステート・オンライン

0%

20%

40%

60%

80%

100%

北米

欧州

アジアその他の地域

2012Q2

2012Q1

2011201020092008200720062005

48%

23%

29%

53%

21%

26%

47%

24%

29%

51%

22%

27%

53%

32%

15%

58%

13%

29%

65%

19%

16%

67%

20%

13%

63%

24%

13%

C H A P T E R 2

Page 15: 20133ii Emerging Trends in Real Estate® 2013 エグゼクティブサマリー 2 012年の年末に向け、アジアの多くの市場では投資家心理が不確実さ を増しており、世界経済の見通しが悪化していることへの警戒感が見

2524 Emerging Trends in Real Estate® Asia Pacific 2013Emerging Trends in Real Estate® Asia Pacific 2013

Chapter 2: 不動産キャピタルフロー

求めていく。2012年に特に目立ったのはマレーシアから英国へのチャネルと、中国から米国へのチャネルだった。過去18カ月に起きた(特に欧州での)出来事により、おそらく「一世代に一度」と見なされるような機会が生まれつつあり、「東」から「西」へと大量の資金が移行している。これは、新たな資金を惹きつける成長力とダイナミズムがあるのはアジア市場だけだという主張を繰り返し聞かされる

状況にあって、皮肉な現象である。

事実、この主張にもかかわらず、最近アジアに流入した資金による不動産投資額は世界金融危機以前の水準を大きく下回っている。こうした資金の出所を分析するのが困難なため、投資家の事例的なコメントが(科学的とは言えないものの)興味深い。あるグローバルオポチュニティファンドの幹部は「全般的に、デットサイドでは欧州のレンダーが縮小しているようだ。エクイティサイドについては、欧州では成長の機会がないためアジアに目を向け、資金を展開しようとしている」と語り、日本に拠点を置くファンドマネジャーの一人は「米国のプレーヤーは、新たな関心を持った者であれ新たな資金を持った者であれ、あまり目にすることがない。欧州やアジアをベースにしている投資家の方がはるかに多い」と述べた。またシンガポールを拠点とするREITマネジャーの一人は「米国人は、ある程度出資はしているものの、大挙して押しかけているようには見えない。大半はアジアからの需要だ」と話す。他のインタビュー回答者もこうしたコメントに同調しており、米国のプレーヤーは多くの場合、外国に資金を投じるより自国で投資する方を選んでいると指摘する者もいた。

ローカルマネーが引き継ぐ外国人によるアジア不動産投資の絶頂期に世界金融危機が起きた。資金の国際的フローが後退し、その間隙を縫って活発に動いたのが

「国際的エクスポージャーが高い者に比べアグレッシブで強気」なローカルマネーだった。ここでも定量化は困難だが、アジアの資金は豊富である。これは一つには、アジア全域にわたって新たな富が蓄積されたことの反映に過ぎないが、成功したものも失敗したものも含め、現在の環境下で多くのファンドが資金を展開したことにもよると言えるだろう。そのため、リスクの限界値が低いローカルファンドですら、アジア全域でキャップレートの圧縮幅が大きいことに不満を述べ、

図表 2-3

2013年における不動産に向けられる エクイティキャピタルの推移(調達地域別)

出所:Emerging Trends in Real Estateアジア太平洋 2013 アンケート

1大幅に減少

5変わらず

9大幅に増加

欧州

中東

米国/カナダ

アジア太平洋 6.09

5.27

5.08

4.18

資金の投入先を見つけるのに苦労している。いずれにせよ「正しい市場にはエクイティや資金が不足していることは絶対にないという点に疑う余地はない」のである。アジアの通貨にも圧力がかかった。

アジアにおける外国プライベートエクイティの流れが最近弱まっているが、これは海外直接投資と同様、金融危機の後にそれが回復すると見込んでいた者には驚きとなっている。あるインタビュー回答者が指摘するように「欧米企業にはアジアにおけるエクスポージャーが

そのグローバル事業に占める割合が非常に高いものが多い。だが欧米の大手投資家やLP(投資事業有限責任組合)はアジアの投資比率が比較的低いのが実情だ」。

これはなぜだろうか。欧米の資金マネジャーは欧米企業に比べて保守的だというのが、簡単な答えに見える。Chapter 1で述べたように、彼らの懸念の中心は市場が提供を拒んでいるリスクプレミアムに対する要求である。その結果、「欧米のLPはアジアで投資したいという強い欲求があるものの、エクイティサイドからは、資金を展開することが以前より難しくなっている」。同時に、考え方も変わりつつある。「世界が小さくなる一方、投資家は洗練されてきている。投資家は総じて、自ら地域を選び、資産タイプを選び、そして時には取引すら選びたいという姿勢をとってきたが、最終的には彼らの目的は取引と資金のポートフォリオをグローバルに構築することにある。だから『今後10年間は米国[市場]に注力し、他には目を向けない』などとは言わない」。理論的には、投資家はやがてはアジア市場の比率を高めるはずだ。

ホットマネーが流入する?これまでリスク・リワード・アセスメントが不良なことが原因で外国の資金がアジアから離れているとしたら、本年9月に米国政府が導入したQEIII(第三次量的緩和策)によりこの力学に変化が生じたかもしれない。インタビュー回答者の中にはQEIIIがアジアの資産価格に大きな影響を与えることに懐疑的な者もおり、ある回答者は緩和が行われるたびに効果が逓減すると述べたが、これまでのところ相当量の「ホット」マネーがアジアに流入している兆候が見られる。影響が最

図表 2-4

2013年における不動産資本市場の需給バランス予測

出所:Emerging Trends in Real Estateアジア太平洋 2013 アンケート

+�++�++�++�++�+�++�++�++�++�

6.1%非常に 供給不足

39.7%比較的 供給不足

31.2%バランスが 取れている

21.1%比較的 供給過多

2.0%非常に 供給過多

10.1%非常に 供給不足

35.2%比較的 供給不足

27.1%バランスが 取れている

25.1%比較的 供給過多

2.4%非常に 供給過多

デットキャピタル

エクイティキャピタル

図表 2-5

機関投資家適格不動産の推定規模(国/地域別 2011年)

出所:エコノミスト・インテリジェンス・ユニット、IMF、プラメリカ・リアルエステート・インベスターズ調査

$0

500

1,000

1,500

2,000

2,500

3,000

ベトナムフィリピンニュージーランド

マレーシアタイインドネシア台湾香港シンガポールインド韓国オーストラリア 中国日本

10億米ドル

非上場直接不動産投資

投資適格債券

上場住宅建築業者

上場不動産会社/REIT

上場エクイティ

CMBS

図表 2-2

2012年における資産クラス別投資の見通し

非常に良い

良い

普通

悪い

非常に悪い

出所:Emerging Trends in Real Estateアジア太平洋 2013 アンケート

Page 16: 20133ii Emerging Trends in Real Estate® 2013 エグゼクティブサマリー 2 012年の年末に向け、アジアの多くの市場では投資家心理が不確実さ を増しており、世界経済の見通しが悪化していることへの警戒感が見

2726 Emerging Trends in Real Estate® Asia Pacific 2013Emerging Trends in Real Estate® Asia Pacific 2013

Chapter 2: 不動産キャピタルフロー

も早く現れているのが、金利を米国金利に連動させている香港とシンガポールだ。緩和策が導入された翌月には、いずれの市場でも住宅価格と株価が大幅に上昇した。

2010年11月に行われた前回の緩和よりもQEIIIの方がアジアにインフレ圧力を与えている理由はいろいろあり、緩和の総額を明示していないこと、欧州債務危機に対する懸念が後退したこと(ただしこの後退は明らかに一時的なものだろう)、米ドル安の傾向があること、欧州と日本で同時に緩和策が実施されていることなどが挙げられる。これらが相まって投資家が確信を強め、特に新興市場において、従来リスクが大きすぎると考えていた資産に資金を投入し始めたようだ。

とりわけ、大量の資金が中国を目指して流れているようだ。これは株式市場が先進国で回復したものの、中国では2012年を通して低迷していたことが一因となっている。こうした資金のどの程度が不動産資産に向かうかは不明だが、とにかくホットマネーがやってきつつあるという事実は、資産価格が全般的に上昇し、特に流動性の高い資産の価格が上がっていくことを示すものだ。ある投資家は「確かに

[資金の流れは]非上場商品よりも上場商品寄りになっていると思う。社債を買うのと不動産を買うのとは、流動性が異なるので比較することはできない」と述べている。

ソブリン・ファンドが大挙して登場アジアおよび世界の大手インスティテューショナル・ファンドも、アジアにおける新たな流動性の源泉となっており、その多くがソブリン・ウェルス・ファンド(SWF)である。アジアのインスティテューショナル・ファンドの中では、世界市場で活発に活動するのは最近までシンガポールのSWFとオーストラリアの退職年金(スーパーアニュエーション)ファンドに限られており、後者は世界金融危機の際に海外不

図表 2-7

上位のソブリン・ファンド(資産規模順)

国/地域 ファンド名資産

(単位:10億米ドル)* 創立(年)

ノルウェー 政府年金基金 656.2 1990アラブ首長国連邦/アブダビ アブダビ投資庁 627.0 1976中国 国家外為管理局(SAFE)投資会社 567.9** 1997サウジアラビア サウジアラビア通貨庁(SAMA)フォーリン・ホールディングス 532.8 不明中国 中国投資有限責任公司 482.0 2007クウェート クウェート投資庁 296.0 1953香港 香港通貨管理局投資ポートフォリオ 293.3 1993シンガポール シンガポール政府投資公社(GIC) 247.5 1981シンガポール テマセク・ホールディングス 157.5 1974ロシア 国民福祉基金 149.7*** 2008

出所:Sovereign Wealth Fund Institute*2012年9月時点のデータ **最良推定値 ***ロシアの石油安定化基金を含む

図表 2-6

ソブリン・ウェルス・ファンド(地域別)

出所:Sovereign Wealth Fund Instituteのウェブサイト

2009

2010

2012

0 10 20 30 40 50

その他

北中南米

アフリカ

欧州

中東

アジア

動産で大きな損失を被った後は投資を中止していた。だがこの状況は大きく変わりつつある。

運用資産が増加し、リターンの拡大を求める声が高まるなか、アジアのほぼすべての主要経済国のインスティテューショナル・ファンドが、国内のソブリン債という伝統的な枠組みからはみ出して積極的に資金を展開し始めており、あるいは展開しようと計画している。そのターゲットは国内、アジア地域および国際市場における代替投資(不動産を含む)だ。これに加え、アジア以外のSWFもアジアで不動産資産を購入している。直接投資(他のSWFとのシンジケーションまたはクラブディールと見られる)を始めたものもあれば、現地オフィスを設置したものも若干ある。オーストラリアの退職年金ファンドですら、不動産資産の増加によるポートフォリオのリバランスと、これまで未参入のアジアを含む海外への再展開について計画を発表した。現在、シンガポール、中国、韓国、台湾、マレーシア、タイ、ノルウェー、オランダ、アブダビ、カタール、カナダなどのソブリン・ファンドがアジアの不動産資産を購入するよう指図を受けている。

アジアのインスティテューショナル・ファンドは既にアジアでいくらか取得を行っているが、現状では欧米市場での投資に主力を置いている。あるインタビュー回答者によると「[アジアの]SWFは

『既にアジアで長く活動しているため、世界の他の地域で投資を行いたい』と言っている」。とはいえ、欧州と米国で取得を行った後は「一つの地域に長く留まるのではなく、ある程度足並みをそろえて取引を増やしたいため、中国に目を向け始めている。これまで自国やアジアでの投資を検討してきたが、今や実際に投資する段階に大きく近づいている」。

アジア以外のソブリン・ファンドも既にいくつか目立った取得を行っており、時とともにさらに大胆さを強めていきそうだ。そうした

ファンドの幹部の一人は「おそらくわれわれはもっと戦術的になり、単に地図上に国旗を立てるということではなく、機会があるところでより具体的なリターンを求めていくことになるだろう」と語った。中東のあるソブリン・ファンドは既に日本でデフォルトしたCMBSの購入を進めていると噂されている。

1.4兆米ドルの運用資産残高(AUM)を有する世界最大のソブリン・ファンドである日本の年金積立金管理運用独立行政法人は現在、代替投資への転換を進める方法を検討しており、おそらく2014年には買い手となるだろう。日本の他の年金基金もこれに追随しそうだ。しかしインタビュー回答者は、日本の機関マネーが直ちに国外に向かうとは見ていない。ある回答者は「日本の投資家が海外に目を向けているという話が聞こえ始めたが、円の状況や日本経済の成長見込みを考えるとこれは一理あるだろう。だが正直のところ、純粋にパッシブ投資家型の資金について言えば、海外を狙っている日本の資金はあまり多くない」と述べた。

一方、上海に拠点を置くコンサルタント会社のZベン・アドバイザーズが最近発表したレポートによると、約4,820億米ドルのAUMを抱える中国投資有限責任公司(CIC )はプライベートエクイティと代替投

資への配分を長期的に60%から70%の間に引き上げると見られている。CICは2011年末までに資産の約60%を米国に投資した。中国の

ソブリン・ファンドのAUMは、様々な国家機関からの追加指図を受け、今後数年間に拡大すると予想される。そうした国家機関には大手国営企業や、規模の大きい地方政府による年金プランが含まれている。ここでも、新たな資金の大半がおそらく中国国外でプライベートエクイティ投資に充当されるだろう。

資本調達は依然困難新たな資本(出資)の調達を行うには相当厳しい状況が続いている。ある投資家は「若干の例外を除いて、簡単に資本調達できる者は誰もいない」と述べ、他にも「まだ厳しい」とか「以前よりはるかに難しい」といったコメントが聞かれた。LPは「慎重さを大幅に高め」ており、特に「共同出資者が誰か懸念」している。旧来のファンドには既存の投資資金で運営されているものも多いが、新たな出資を獲得する方法には変化が見られる。最近新規のファンドを完了させた、香港を拠点とするファンドマネジャーは「今では投資家を回って数十億ドル規模のブラインド・プール型裁量資金を調達するのではなく、ジョイントベンチャーによるパートナーシップやクラブディール、あるいは特定の資金提供者との協働という形の方が多い」と指摘する。

出資を求めるファンドに対しては、機関投資家が旧式のビークルへの参加をしぶるようになったため、LPは金融危機以前に比べ要求度を高めている。ある投資家は「今は国際的な実績がない限り、ブラインド・プールで出資を得ることができる者は少ないと思う」と

図表 2-8

2013年に調達した資本のターゲット (単一国ファンド/多国籍ファンド)

出所:DTZリサーチ「グレートウォール・オブ・マネー」(2012年10月9日)

0%

20%

40%

60%

80%

100%

米国

中国

日本

英国

その他のEMEA諸国

その他のアジア太平洋諸国その他の米州諸国

2012年半ば 2011年末

43%

25%

6%

8%

8%

8%

8%

49%

11%

9%

7%

12%

11%2%

Page 17: 20133ii Emerging Trends in Real Estate® 2013 エグゼクティブサマリー 2 012年の年末に向け、アジアの多くの市場では投資家心理が不確実さ を増しており、世界経済の見通しが悪化していることへの警戒感が見

2928 Emerging Trends in Real Estate® Asia Pacific 2013Emerging Trends in Real Estate® Asia Pacific 2013

Chapter 2: 不動産キャピタルフロー

述べた。また、最近ロードショー(投資家への説明会)から戻った別の回答者は「レバレッジに対しては非常に厳しい姿勢が見られた。過去に損失を出した機関投資家は、高レバレッジ戦略を採る者に対して資金を提供しようとしなかった」と語った。LPは資産の取得やディスインベストメント、レバレッジの活用方法などの重要決定事項について口をはさもうとするだろう。また資本調達が困難な結果、例えば個別勘定の設定や前もって選定された投資対象をターゲットとする投資クラブなどを志向する創造的なファンド構造がいくつか生まれることになった。

このほか、資本調達環境では二極化が進み、最大手か最小の専門的プレーヤーにとって有利な状況になっている。そのため過去2年間で様々なグローバルファンドが巨額の資金コミットメントを得ており、その多くは大手機関投資家からのもので、しかもアジアの機関投資家である。同様に、特定の専門性を持ったブティック・ファンドに対する需要も強い。あるファンドマネジャーが述べているように「状況が厳しいのは中間ブロックだ。つまり数十億ドル前後の規模で、注力する地域やセクターを特定していないファンドは難しい」。

もう一つのトレンドは、単一国を対象とするファンド、あるいは少なくとも対象国を絞り込んだファンドに対する嗜好が高まっていることだ。これも投資の決定に対する統制をある程度強める力が働く。

また投資のストーリーが明確であるため、パッケージとして売り込みやすい。コンサルタント会社のDTZによると、2012年の年央時点で、日本を対象として調達された資金が増加している。これはおそらくChapter 1に挙げた理由によるものだろう。一方、中国を対象とするものは大きく減少したが、これは現在資金を展開しつつあるいくつかの中国特化型ファンドが成功裏にクロージングした結果と思われる。また、中国の安定資産はキャップレートが圧縮されており、購入の魅力が減ったという認識を反映しているかもしれない。

市場で活動するファンドが減っているにもかかわらず、資本調達が以前より困難になった一つの理由は、上記のように、直接投資を希望する外国の大手機関投資家が増えていることだ。中間を排除すれば、大規模なファンドでも市場に素早くアクセスでき、資金をより柔軟に展開することができる。中間があると「大きな遅れが生じることが多い。資金を調達したものの市場が変化すると、なぜか[指図が]うまく機能しない」が、にもかかわらず、ファンドはその指図書に従って資金を展開し続ける。というのは「ハンマーを手にするとすべてが釘のように見えるからだ。だから大手年金基金は個別勘定を設定して『われわれがやるべき投資はこうした種類のものだが、もし環境が変わったらそれについて協議しよう』というのが賢いやり方だと思う」。

通貨リスクのヘッジ現在、アジアの通貨が強く、またアジアと欧米の各国政府が様々な緩和政策を導入した結果、為替レートが変動しやすくなる恐れがあるため、新たな国・地域に資金を投入しようとする投資家にとって大

きな為替リスクが生じている。一部の大手ファンドはもはや為替の動きをヘッジしようとせず、この問題をLPの裁量に委ねている。ヘッジしているファンドもあるが、現在の見通しが不透明なことからヘッジはコスト高となっている。

オーストラリアでは最近ベースレートの切り下げを行ったにもかかわらず、豪ドルはほとんど下落しなかった。そして「国際資金がオーストラリアで資産を買っていたにもかかわらず、その額は豪ドルによって減ってしまった。これは間違いない」。

日本円も同様の状況で、現在は歴史的な円高水準にあるが、政府が巨額の債務を抱え貿易赤字の拡大が続いていることを考えると、そうなる理由はほとんどない。実際、アナリストの中には、政府が赤字国債を発行して債務を補填することがまもなくできなくなるため、今後数年間で円が下落すると予想する者もいる。政府は利上げができず、紙幣を発行するほかになく、それがインフレを呼ぶ結果となり、為替レートにも影響を与えるというわけだ。あるインタビュー

図表 2-9

2013年における不動産に向けられるキャピタルの推移(調達先別)

出所:Emerging Trends in Real Estateアジア太平洋 2013 アンケート

エクイティキャピタル

デットキャピタル

1大幅に減少

5変わらず

9大幅に増加

証券化貸手/CMBS

モーゲージREIT

ノンバンク金融機関

保険会社

商業銀行

政府系企業

メザニンレンダー

非上場 REIT

非上場エクイティ/オポチュニティファンド

/ヘッジファンド

現地個人投資家

上場エクイティ REIT

機関投資家/年金基金

外国人投資家 5.72

5.68

5.54

5.50

5.29

5.07

5.34

5.24

5.24

5.24

5.22

4.97

4.58

回答者は「正直に言おう。日本が良く見えるのは、他の国々があまりにも多くの問題を抱えているからに過ぎない。誇らしいことは何もない」と述べた。

銀行融資:安くて活発アジアの不動産取引の資金供給は、アジアの銀行が引き続きその大半を引き受けている。彼らは欧米の銀行に比べ市場の混乱から隔離されており、生み出す利益も大きい。ホールセール・ファンディング(他の金融機関からの資金調達)をほとんど行っていないため、

世界の資金調達市場のボラティリティに影響されることもまずない。加えて、今や不良債権比率は歴史的な低水準にまで下がっている。

ユーロ圏の金融セクターにおけるレバレッジ解消の結果、国際銀行によるアジアへの融資額は2012年に減少した。世界銀行によると、途上国に対する銀行のシンジケート・ローンも総じて2011年の水準を25%以上下回った。ただしこの措置が緩和されたため、8月と9月にはこの流れが回復している。欧州の銀行が不在となったため、自国の銀行が融資需要を満たすために外国からのデットに長らく頼ってきた一部の市場(特にオーストラリア)ではデットの不足が生じたが、アジアの銀行、特に台湾と日本の銀行が迅速に対応してギャップを埋めたため、流動性が豊富に保たれた。

香港では、2012年上半期には銀行が取引の融資に消極的だったが、これはバーゼルIIIによる流動性の不足に加えて、欧州のマクロ問題がもたらした慎重な姿勢によるところが大きい。しかし香港のあるファンドマネジャーによると、この状況は2012年の中ほどには解消し、市場では通常の取引が行われている。中国では政府が2011

年初頭以降、特に土地の購入者が銀行融資にアクセスすることを厳しく制限してきた。だがインタビュー回答者からは、2012年の半ばごろから融資の停止が若干緩まり、大手や中規模のデベロッパーが少

し息をつけるようになったと報告されている。

中国とインドを除き、アジアの大半では引き続き容易に銀行融資を受けることができる。借入コストは極端に低い国(日本)から法外に高い国(ベトナム)まで多岐にわたっているが、過去の水準から見て低く抑えられているところが大半であり、総じて昨年と同様のレベルにある。あるインタビュー回答者は「銀行融資は息を吹き返したが、それは銀行と場所による。現状では銀行とのリレーションシップが極めて大切だと思う」と述べた。様々な市場における銀行融資の状況に関するインタビュー回答者のコメントを以下にいくつか(ただしかなり非科学的に)取り上げる。

■ 日本:「まったく簡単だ。実のところさらに簡単になっている」。 「最近3億[米]ドルという巨額のリファイナンスを行ったが、[最初は]4.6%だった金利を1.45%に下げることができ、コベナンツも事前支払要件もない。銀行は以前よりはるかにアグレッシブだ」。 「金利の合計は2%で依然として65%~70%の[LTV]をキープでき、非常に満足している」。

■ 中国:「オンショアの資金調達は大変難しい。そこで銀行はまずオフショアのビークルに融資し、そこから資金を国内に持ち込む許可を得て、返済もオフショアに行うという方法を採るが、高くつく。金利は6%プラスなのに、6%超[のキャップレート]では[資産を]買うことができず、利益が得られない」。

■ オーストラリア:「経済が減速し始め、銀行が金利を150ベーシスポイント下げたため、今は3.5%[のベースレート]プラス2.25%で借りられる。全部合わせても資金コストは6%というところだ」。

■ 韓国:「おそらく金利はだいたい5.5%から6.5%の間だろう」。

■ 台湾:「資金が豊富なため[LTVは]80%~85%が可能で、加えて運転資金は全部合わせて2.5%~2.75%で借りられる。借入条件は非常に緩く、繰り上げ返済違約金もない」。

■ 香港:「最低金利はおそらくHIBOR+250[ベーシスポイント]で最高は+350ぐらいではないか」。

■ シンガポール:「われわれは海外ファンドのため、銀行の中には別扱いするところもあるが、それでも競争力があり、全部合わせて4%前後の金利で借りられると思う」。

■ ベトナム:「ほとんど不可能だ。借りることができたとしても、それは[メザニン]型のプライベートエクイティで金利は13%~14%にのぼる」。

■ インド:「銀行はインドの不動産の支援に乗り気ではないが、とはいえ基本的にシニアのセキュアードローンを18%~22%の金利で借りることができる」。

■ フィリピン:「しっかりした企業顧客で銀行との良好な取引実績があれば、資金調達は非常に簡単で、6%~8%の金利で7年~10年物の借入が可能だ」。

広範囲にわたり、レバレッジは引き続き昨年と同様の(だがおそらく若干低い)水準で維持でき、50%~60%の間が一般的となっている。予見できる将来において金利が上昇する可能性については、

図表 2-10

満期を迎える融資:2013年半ばまで貸手が選択する戦略

出所:Emerging Trends in Real Estateアジア太平洋 2013 アンケート

モーゲージを修正せずに延長5.7%

差し押さえおよび売却6.5%

第三者に売却28.2%

モーゲージを修正して延長59.6%

Page 18: 20133ii Emerging Trends in Real Estate® 2013 エグゼクティブサマリー 2 012年の年末に向け、アジアの多くの市場では投資家心理が不確実さ を増しており、世界経済の見通しが悪化していることへの警戒感が見

31Emerging Trends in Real Estate® Asia Pacific 2013

Chapter 2: 不動産キャピタルフロー

30 Emerging Trends in Real Estate® Asia Pacific 2013

目下のところほとんど懸念されていないようだ。

代替資金調達:中国の 信託融資機関銀行が融資に積極的で金利も歴史的低水準にあることから、大半の投資家は資金需要を銀行からの借入で賄うことに満足している。だが何らかの理由で銀行融資が受けられないところでは、デベロッパーおよび/または投資家は革新的な解決を見出そうと急いで別の調達源を探してきた。

最も顕著な例は中国である。2010年以降、地方で信託融資セクターが発達してきたが、当局がデベロッパーの銀行借入を禁止して国内住宅価格を抑えようとしたことでこの動きに火がついた。たちまち急拡大し、事実上、個人富裕層や企業からの資金による自生的なプライベートエクイティファイナンシング・チャネルとして発展していった。中国市場で活動しているあるコンサルタントは「公式的な側面は少ないと言えるだろう。これは裕福な個人が集まった私的クラブだ。私が知っているケースでは、電話を何本かかけて、5,000万元、1億元[8百万米ドル~16百万米ドル]が振り込まれ、取引が行われ、それで終わりというものだった」と述べている。一般的な借入コストは年率10%~20%だ。信託融資額は急増し、2012年半ばまでに運用資産残高が1,080億米ドルに達したが、新たな規制により新規の信託数が減ったことからその後は横這いが続いている。

当然ながら問題が発生した。こうした信託は2~3年という比較的短期のため、2012年には少なくとも350億米ドルの信託融資が満期を迎え、2013年に440億米ドルが加わる。同時に、不動産セクターが現在も下降局面にあり、債務の返済資金がなく倒産した、あるいはまもなく倒産しそうなデベロッパーの数が増えている。さらに

悪いことに、こうした信託は返済期限の延期については銀行よりもはるかに消極的である。実際、政府が最近導入した規制により延期が認められなくなった。

人為的な過剰流動性を吸収するために、新たに一群の国内不動産投資ファンドが組成された。こうしたファンドは、10年以上前に中国の国営銀行の不良債権を処理する目的で設立された既存の資産運用

出所:Emerging Trends in Real Estateアジア太平洋 2013 アンケート

図表 2-11

エクイティアンダーライティング基準の見通し2013年

+�++�++�47.8%

厳格化される42.5%

同程度で推移9.7%

緩和される

出所:Emerging Trends in Real Estateアジア太平洋 2013 アンケート

図表 2-12

デットアンダーライティング基準の見通し 2013年

+�++�++�47.2%

厳格化される41.5%

同程度で推移11.4%

緩和される

図表 2-13

中国の不動産信託商品(運用資産)

出所:中国信託業協会

20

40

60

80

100

120

Q2 2012年 Q1Q4Q3Q2 2011年 Q1Q4Q3Q2 2010年 Q1

百万米ドル

37.6

50.4

60.3

69.1

77.8

96.8

108.7 110.0 109.8 108.0

会社とともに、2012年に多額の信託企業ローンのリファイナンスを行っている。これらの新規ファンドは30%~60%の割引率で信託資産を購入していると伝えられるが、興味深いことに、まさに外国人投資家が中国で設立を望んでいるような不良化デットのビークルなのだ。だがこのニッチ分野にはまだ外国人は参入していない模様だ。

デットの拡大取引の方法におけるもう一つの変化は、エクイティではなくデット

(ただしメザニンではない)の活用が増えていること、あるいは少なくとも資本を上回る規模のストラクチャーの活用である。「プライベートエクイティのプレーヤーの大きな流れは、デットのストラクチャードファイナンスに取り組んでいることだ。一般的に、彼らは純粋なエクイティ投資を行ってきたが、今は『このワラント債は非上場のストラクチャード商品だが、一種の保証リターンのクーポン付きだ』といった話をしている」。この変化を促しているのは、今日の市場では従来のオポチュニスティック投資のリターンは獲得できないという認識が高まっていることだ。「多くのプライベートエクイティプレーヤーは20%

のIRRを確保したいと考えているが、現状では10%台後半というところだ。そのためクーポンか保証リターンで10%台前半を得た上で、もう少しアップサイドを狙いたいと思っている」。

このほか、より現実的な理由からエクイティのストラクチャーを避けるケースもあるだろう。ニューデリーに拠点を置くコンサルタントの一人は「現在、投資家はインドをエクイティ投資の市場とは見ていないと思う。というのも、適切な担保と保証で融資を受ければ、インド・ルピー建てで18%~20%のリターンが得られるからだ」。インド

でデットが好まれる別の理由は「インドのデベロッパー業界は何であれエクイティを重視しないことだ。あるデベロッパーが私に言ったように、本質的に、資金がエクイティの形でやってくると『エクイティというのは払い戻しが不要な資金だ』と受け取られる」。一方、デットは優先順位が高いものとして扱われる傾向にあり、期限前に返済されるローンが多い。その結果「得られる教訓は、インド市場はプライベートエクイティの不動産投資にはまだ早いということだ。デットの方が慣れており、デットのコンセプトを理解している。それにデットは制度内にストレスを生じさせるものの、インド市場が成長しない限り、外国人投資家は引き続きデットによる不動産投資を続けると思う」。

アジアを拠点とするコンサルタントの一人は「多くの市場では

デットで投資する方が魅力的なように見えるのは事実だ。歴史的にデットはスプレッドが良く、負債と同期間据え置き可能な資金を確保すれば、デットポジションのまま実質的にエクイティのようなリターンを得ることができる」と述べた。確かに、この種のデットは市場でまだごく一部を占めるに過ぎないが、特に主要国・地域で拡大しつつある。オーストラリアでは「この市場セグメントに投資する者がいるが、多くのファンドが市場のローエンドで投資しており、物件の金額としては2,000万[米]ドルから3,000万ドルというところで、まだ大した金額ではない」。

日本ではノンバンクからのデットも入手できる。ある投資家は

「非常に前向きの動きだと思うが、生命保険会社がバランスシートの一般勘定を利用して不動産向け融資を開始しつつある。7年~10

年の固定金利で貸し付け、最大65%のLTVまで許容する用意がある。証券化やCMBSの類ではなく、純然たる不動産向けの融資だ。だから新規の取引や開発取引である程度のデットファイナンシングが始まり、投機的な開発よりもビルド・トウ・スーツ型の投資で、少なくともアンカーテナントが決まっているプロジェクトの方が融資を得られるだろう」と語った。

資本市場:饗宴と飢餓世界的に見通しが悪化しつつあり、また世界の債券市場では時にスプレッドが混沌とした動きを見せるにもかかわらず、アジアの資本市場の心理は引き続き明るく、それはクレジット・デフォルト・スワップ(CDS)の価格にも現れている。

アジアのエクイティ資本市場・デット資本市場からの資金による不動産取引の割合は、銀行融資による取引と比べるとまだ小さい。だが不動産投資の機会の窓口は急に開いたり閉じたりするため、市場の規模は小さくてもボラティリティは大きい。

エクイティサイドでは、2012年の心理は冷えていた。香港に拠点を置く投資銀行家の一人は「最近まで、アジアの不動産向けエクイティのランレートは年率ベースで2011年以降最も低かった」と述べたが、これは不動産エクイティの推進役と見なされていた二つ、すなわち香港上場の中国デベロッパーによるオファリングとアジア各市場(特にシンガポール)のREITが低調だったことによる。この投資銀行家は

図表 2-14

現在公表されているデットファンドのエクイティ調達

出所:DIZリサーチ「グレートウォール・オブ・マネー」(2012年10月9日)

0

2

4

6

8

10

12

アジア太平洋北米欧州・中東アフリカ

全世界

10億米ドル

12.0

4.1

0.60.3

Page 19: 20133ii Emerging Trends in Real Estate® 2013 エグゼクティブサマリー 2 012年の年末に向け、アジアの多くの市場では投資家心理が不確実さ を増しており、世界経済の見通しが悪化していることへの警戒感が見

3332 Emerging Trends in Real Estate® Asia Pacific 2013Emerging Trends in Real Estate® Asia Pacific 2013

Chapter 2: 不動産キャピタルフロー

「前者は市場に[中国の]規制措置に関する不透明感が続いているため、まったくといって言いほど行われなかった。住宅の購入に対する規制が緩和されるか、誰もがじっと見守っている」と付け加えた。中国のデベロッパーは、香港上場のものであれ上海上場のものであれ株価が純資産価値(NAV)に対し大幅にディスカウントされているため、現在の水準では新株を発行して資金を調達するメリットがほとんどないのだ。「多くのデベロッパーにエクイティファイナンスについて話しても『今キャッシュで10億ドルか20億ドルあるが、その使い道がない』という答えが返ってくる。彼らは表面的にはレバレッジが比較的高くても、キャッシュフローが豊富であれば、安すぎるエクイティで何かしようという気にならない」。

とはいえ、この種の株については心理がすぐ変化するもので、中国の住宅取引高が持ち直すか政府の政策が緩和されれば、急速に回復する可能性がある。「振り子が反対に振れれば、現在の株価が極端に低く、巨額の資金が再投資に向けてじっと待機していることが明らかになると思う」。実際、香港市場とシンガポール市場に上場しているデベロッパーの心理は年央前後で急速に好転し、米国の追加緩和政策の導入を受けて9月には加速している。

デットサイドでは状況はまったく異なっている。アジアの資本市場で2012年に調達された不動産デットは、国際標準から見れば少額ではあるものの、過去最高を記録した。上半期の市場をリードしたのは香港とシンガポールの投資適格デベロッパーで、その多くが5億米ドル~10億米ドルを調達したが、需要が極めて強く1週間かそ

こらで二度目の発行を行うほどだった。デットのコストは30年物で5%を切っている。社債の発行がこれほど増えている理由は、第一に利回りに対する需要が強いことであり、第二に銀行がデベロッパーの借入コストを吊り上げたため価格差が大きくなり、一部のデベロッパーが初の社債発行に踏み切ったためである。2012年の下半期には、やはり市場の需要を反映して、高利回りの社債が中心となった。

中国本土のデベロッパーは引き続き非常に強くデットを求めており、香港に上場していない者は市場から調達する新たな方法を探している。可能なルートの一つは実質的に裏口上場というべきものだ。中国のあるデベロッパーは2012年に「持株比率はごくわずかなものの、親会社としてその財務や運営を握っている香港子会社を通じて社債の発行に成功した」。中国本土の他のデベロッパーも香港の小規模デベロッパーとアライアンスを組むことに関心を持つようになったが、おそらくこうした方法を考えているのだろう。「これは[香港に上場していないことで]優良上場企業に比べ競争力の面で大きな不利を蒙っている一部のA株上場企業には大きなリリーフバルブとなる」。

CMBSのデフォルト:依然として入手困難外国人投資家は何年にもわたり、世界金融危機によって破綻した日本の大量のCMBSをめぐる取引の機会を窺ってきた。こうしたCMBSの

図表 2-15

東アジア諸国におけるクレジット・デフォルト・スワップ:5年物シニア

出所:アジア開発銀行

9月7月5月3月2012年

1月11月9月7月5月3月2011年

1月11月9月7月5月3月2010年

1月11月9月7月5月3月2009年

1月11月9月7月5月3月2008年

1月

0

200

400

600

800

1,000

1,200

タイ

シンガポール

フィリピンマレーシア

韓国日本

インドネシア

香港

中国ベーシスポイント

大半は深く埋もれており、絶望的なほど安くなっている。だが、デフォルトしたと考えられるCMBSは180億米ドルに及ぶものの、これまでのところ市場に放出されたのはそのごく一部に過ぎない。

理論上は、デフォルトしたCMBSは柔軟性を失う。ひとたびデフォルトすれば、債券に対する責任はスペシャルサービサーに移り、スペシャルサービサーの責任は資産を清算してその代金を分配することにあるからだ。銀行融資とは異なり、裁量によって満期を延期することはできない。しかし日本では様々な要因が重なって清算が阻害されている。第一に、日本に拠点を置くファンドマネジャーの一人によると、制度内に存在する既得権のために清算プロセスが最初から機能しない。特に「サービサーは資産を売却してしまうと運用手数料が入らなくなるため、売りたがらない。彼らはサービサー[というより]競合的な資産運用会社のように見える」。

第二に、日本の大型CMBS取引のシニアトランシェは常に邦銀が握っているが、邦銀はデォルトさせたがらない場合が多い。一方、低位で高LTVのトランシェは国際銀行から投機性の高い各種資金にまで多岐にわたるプレーヤーが保有しているが、日本の不動産価格の下落によりそうしたプレーヤーのポジションは全般的に取るに足らなくなっている。CMBSローンが破綻しスペシャルサービサーが指名されると、ローンは一連の「調整期間」に入る。この期間に、最も劣後するものから始まる各トランシェに対し、通常は数カ月の間に可能な対応を指図する権利が与えられるが、日本では各トランシェの保有者は調整期間が満了するまで待つことが多い。つまり、利益(もし出れば)を得られる時点まで処理していくのに1年かそれ以上かかるのだ。

この時点に達したときに、邦銀は不良化の度合いがかなり低くなるよう資産の調整を行うことが多い。この市場で活動しているある

投資家は「特に大規模なケースにおいて銀行がやってきたのは、エクイティを少し取り入れて時間を稼ぐことだ。基本的に、これは資本価値の回復に対するオプションを購入するようなもので、そうやって問題を先送りにするのだ」と指摘する。オポチュニスティック投資家もこのシナリオを考えており、これと同じ「テコの支点」のポジションで購入を図る場合がある。現在、彼らは10%~15%の利回りを求めていると噂されるが、こうした試みは、もっと低い利回りでも喜んで受け入れる銀行との競争入札に負けてしまう。

その結果邦銀は、デフォルトしたCMBSから市場に放出される資産はわずかではあるが常に存在するとはいえ、すべての資産がほぼ同時に市場に投入されるというシナリオを避けることができている。そのため、デフォルトしたCMBSの資産を手にする目的で一部の外国ファンドが巨額の資金を調達したものの、そうした資産が近いうちに現れるのか、それともそもそも現れるのかについては何の保証もない。資本価値が持ち直せばなおさらである。

REITの回復アジアのREITは世界金融危機の間に大きな損失を被り、また2009

年には資本再構成という不面目を味わったが、2012年に大きく回復した。資金の安全な投入先と良好な利回りを求める投資家にとって、REITはあらゆる要件を満たすものとなっている。その結果、大半の市場でREITの株価が上昇し利回りが圧縮された。何年にもわたりNAVに対し大幅なディスカウントで取引されてきた多くのREITが、今ではNAVと同等かプレミアムが付くようになっている。つまり、取得の拡大が以前より容易になったということだ。そのため多くのインタビュー回答者が、REITの購入が順次増加していくと予想している。

ただし日本はこの例外かもしれない。「J-REITは資本を調達する

図表 2-16

上海証券取引所不動産サブインデックス(中国のデベロパー)

2,550

2,750

2,950

3,150

3,350

3,550

3,750

3,950

10/239/38/17/26/15/14/23/12/1

2012

/1/3

12/111/

110

/39/18/17/16/15/14/13/12/1

2011/

1/3

2010

/12/1

サブインデックス

出所:Bloomberg.com

Page 20: 20133ii Emerging Trends in Real Estate® 2013 エグゼクティブサマリー 2 012年の年末に向け、アジアの多くの市場では投資家心理が不確実さ を増しており、世界経済の見通しが悪化していることへの警戒感が見

3534 Emerging Trends in Real Estate® Asia Pacific 2013Emerging Trends in Real Estate® Asia Pacific 2013

Chapter 2: 不動産キャピタルフロー

力がないためそれほど活発ではない」。これにはいくつかの理由がある。日本の投資適格級の不動産資産は、その多くが国内デベロッパーの手中にあるため、J-REITの時価総額は3.9兆円(488億米ドル)と比較的小さい。そのAUMは日本の収益不動産の約4.5%に相当するが、これはA-REITなどの数字を下回っている。また、J-REITはスポンサー(デベロッパーが一般的)と緊密に繋がっているため「利益相反が非常に多い。運用会社はREITの投資主ではなくスポンサーを喜ばせることだけを考えている」。それによりデットサイドもエクイティサイドも投資しようとする気にならない。なぜなら「運用にそれほど満足できない」からだ。そのためJ-REITには依然として、大手機関投資家を惹きつけるに足る規模と流動性が備わっていないのである。

こうした問題にもかかわらずJ-REITの見通しは2012年に改善した。投資口価格は第1四半期から第3四半期の間に27.6%という大幅な上昇を見せたが、これを牽引したのは外国の機関投資家と日本政府の刺激策だ。日本銀行は2012年の金融緩和政策の一環として、15.4

億米ドルのJ-REIT投資口の買い入れを実施した。投資口価格の上昇により、資産取得を拡大できるJ-REIT銘柄が増えた。加えて非上場REITがいくつか登場し、2012年になってから二つのREITが新規上場(5年ぶり)を果たした。また既存REITによる公募増資も10月頭までに2,460億円(32億米ドル)に達している。

とはいえ、通年の投資口発行総額はこれをわずかに上回るにとどまると予想され、またJ-REITによる資産取得は昨年の7,140億円(89億米ドル)と同程度になると見られる。これは2007年の取得総額の約半分である。あるファンドマネジャーが述べたように「私はまだJ-REIT市場に大きな期待を寄せているが、市場が回復して資金サ

イドに信頼感をもたらし[投資家が]戻って投資したいと感じるようになるには2、3年かかりそうだ。もっと統合が必要だと思う。変えなければならない点がいくつかある。現状では資金が少なすぎる」。

大半のREIT市場における大きな問題は、適切および/または入手可能な物件が不足していることだ。シンガポールのあるREITマネジャーは「REITの数が多すぎる。現在、23銘柄ほどだが、産業用不動産部門だけで7銘柄もあり、同じ商品の中で競争が激しい」と指摘する。現在、上場の準備を進めているREITが増えており、銘柄数が多すぎるという問題はさらに深刻化しそうだ。「目下のところ、リスクを避けたバリュー投資に対する関心が極めて高く、これにはREIT

がうってつけだ。そのため新たにREITのスポンサーになろうとする者がかなり多い」。

こうしたことから、一部のシンガポールREITは新規取得資産を求めて海外に目を向けているが、大半はまだそうした権限を受けていない。香港のREITも他市場の新規資産を探しているようだ。日本のREITは2008年に規制が変更されてオフショア資産の取得が可能になったが、まだ実際に足を踏み出してはいない。「J-REITは海外資産の取得が認められているが、依然としてFSA(金融庁)がその意気を挫いている。FSAはそうした海外取引を自分たちが規制できなくなることを恐れているのだ」。とはいえ現在、いくつかのJ-REITが海外での投資機会に取り組んでいることが明らかになっている。

今後誕生するREITの多くは、これまでREIT市場が創設されていない国の資産を運用するものとなりそうだ。そのためインドとインドネシアの資産に基づきシンガポールで上場するものが増えることが予想される。ただし「信託受益権であれリースバックであれ、その基盤

図表 2-17

ハンセン不動産サブインデックス(香港デベロパー)

出所:Bloomberg

15,000

20,000

25,000

30,000

35,000

10/247/2

44/2

5

2012

/1/26

10/257/2

54/2

6

2011/

1/25

2010

/10/25

サブインデックス

図表 2-18

FTSEシンガポール不動産デベロパー・ サブインデックス

出所:Bloomberg

サブインデックス

400

500

600

700

800

10/237/2

54/2

5

2012

/1/25

10/257/2

54/2

5

2011/

1/25

2010

/10/25

となっている不動産や当該市場のファンダメンタルズ、そして多分もっと重要な要素として、資産運用会社とその能力について誰もがすこし警戒を持ち始めるだろう」。新興市場の資産で上場するREITが持つ別の問題は、そうした市場の物的資産に投資して得られるリターンの方が、同様の資産に基づくREITの利回りを大きく上回りそうなことだ。あるインドの投資家が指摘したように「本当にインドの不動産に投資したいのであれば、なぜREITのような利回りで我慢するのか。新興市場の投資はそういうものではない」。

さらに、アジア全域にわたり新たなREIT市場が急速に発展しつつある。マレーシアのREIT業界は2010年まで小規模で流動性を欠いていたが、その後REIT5銘柄が次々に上場を果たした。これらは国内の投資家からも国際投資家からも幅広く人気を得て、NAVに対して40%~50%のプレミアムという「途方もない価格」で取引されている。その結果、マレーシアのREITは全アジア市場のうち、リスクフリーレート(預金等の無リスク資産から得られる利回り)とのスプレッドが圧倒的に小さいものとなっている。タイでは、最近までほとんど活動がなく当面は旧来のREITインフラを使っているが、ここでも商業資産に基づくREIT数銘柄が成功裏に上場を果たし、現在はNAVに対する大きなプレミアム付きで取引されている。一方、フィリピンもREITの枠組みの導入に向かって進んでおり、スポンサーとして機能できそうな大手デベロッパーもいくつか見られる。しかし免税措置を求めて政府と行われている交渉は頓挫したようだ。あるインタビュー回答者は、この件は新たな政権となるまで解決しないかもしれないとコメントしている。

図表 2-19

東京証券取引所REITインデックス

出所:Bloomberg

10/267/2

74/2

7

2012

/1/27

10/287/2

94/2

9

2011/

1/28

2010

/10/29

800

900

1,000

1,100

1,200

インデックス

図表 2-20

S&P/ASXオーストラリアREITインデックス

出所:Bloomberg

10/237/2

54/2

4

2012

/1/25

10/257/2

54/2

7

2011/

1/25

2010

/10/25

700

750

800

850

900

950

1,000

インデックス

図表 2-21

FTSE ストレーツタイムズ シンガポール REITインデックス

出所:Bloomberg

10/23

550

600

650

700

750

800

7/25

4/25

2012

/1/25

10/257/2

54/2

5

2011/

1/25

2010

/10/25

インデックス

Page 21: 20133ii Emerging Trends in Real Estate® 2013 エグゼクティブサマリー 2 012年の年末に向け、アジアの多くの市場では投資家心理が不確実さ を増しており、世界経済の見通しが悪化していることへの警戒感が見

37Emerging Trends in Real Estate® Asia Pacific 2013

今回のEmerging Trends in Real Estate ®Asia Pacificインタビュー調査における全体的なトーンは、2013年の不動産投資の見通しに関する一定の懸念を反映したも

のとなったが、アンケート結果からもわかるように、調査対象都市の多くで過去1~2年より高い評価となり、投資家心理は強気に転じている。このことは、地域的にも世界的にもマクロ経済の逆風が強まっているにもかかわらず、不動産価格が継続的な上昇を見せ、キャップレートが圧縮されていることを示しているだろう。

このことを考慮したうえで、調査で注目されるトレンドとして以下の点が挙げられる。

■ クアラルンプール、バンコク、中国のセカンダリー都市を筆頭に、開発・投資対象として見直され始めているセカンドティアの都市が出てきている。開発が進んだ大都市で利回りがどんどん縮小していることもその一因だろう。しかし、これらのセカンドティアの都市はオポチュニスティックな利回りの可能性を提示する一方で、一般的に参入が難しく、機会が限られている。また、通常大きなリスクを内在しているため、これらの都市で機会を手にするのは難しいと考える投資家も多い。

■ 前回人気の高かった上海やシンガポールは今回も投資家の関心を集めている。

■ 産業施設/物流施設部門は投資見通し、開発見通しの双方で最も高い評価を獲得し、商業施設部門も高い評価を得た。

■ 各部門の「バイ(買い)」「セル(売り)」推奨の1位は次のとおり。

■ 商業施設:バイ-ジャカルタ、セル-大阪

■ オフィス:バイ-ジャカルタ、セル-大阪

C H A P T E R 3

注目すべき市場と部門「グローバルなリスクセンチメントが改善するなか、勝機を狙う投資家は

セカンダリーの地域や資産に目を向けるだろう」

図表 3-1

都市の投資見通し

出所:Emerging Trends in Real Estateアジア太平洋 2013 アンケート

1 ジャカルタ 6.01

2 上海 5.83

3 シンガポール 5.78

4 シドニー 5.69

5 クアラルンプール 5.68

6 バンコク 5.67

7 北京 5.65

8 中国セカンダリー都市 5.60

9 台北 5.58

10 メルボルン 5.56

11 香港 5.56

12 マニラ 5.52

13 東京 5.42

14 ソウル 5.39

15 広州 5.30

16 深圳 5.24

17 オークランド 5.07

18 ホーチンミンシティ 5.02

19 バンガロール 5.01

20 ムンバイ 4.94

21 ニューデリー 4.86

22 大阪 4.82

全体的によい 普通 全体的に悪い

Page 22: 20133ii Emerging Trends in Real Estate® 2013 エグゼクティブサマリー 2 012年の年末に向け、アジアの多くの市場では投資家心理が不確実さ を増しており、世界経済の見通しが悪化していることへの警戒感が見

3938 Emerging Trends in Real Estate® Asia Pacific 2013Emerging Trends in Real Estate® Asia Pacific 2013

Chapter 3: 注目すべき市場と部門

■ ホテル:バイ-シドニー、セル-深圳

■ 集合住宅:バイ-ジャカルタ、セル-香港

■ 産業施設:バイ-中国、セル-大阪

上位ランクの投資 対象都市ジャカルタ(投資見通し1位、開発見通し

1位):これまであまり評価されず投資適格物件も少なかったジャカルタが、投資や開発のランキングで最も高い評価を獲得したことは意外であった。経済は急成長しているものの、先進都市につきものの事業、規模、インフラが欠けているからである。2011

年、ジャカルタの商業用不動産への投資総額は6億6,050万ドルであった。

それでも、インドネシア経済はこの1、2年で目覚ましい成長を遂げている。金利とインフレは抑制され、GDP成長率は年間6.5%

に達している。外国直接投資はそれを上回る伸びを見せ、今年前半に39%に達した。DTZ

によると、国内外の需要の増加に支えられてオフィス賃料は第3四半期に前年比29%

と急上昇した。

天然資源に恵まれたインドネシアはこれまで輸出依存度が低かったが、物価が高騰を続ける中国本土から工場が移転する可能性があり、製造業に期待が高まっている。インドネシアをお気に入りの新興国というある大手デベロッパーの幹部は「インドネシアはいままさに急成長の真っただ中にある。誰もが熱い視線を送っている。人口動態も良好で、人口は米国と同程度。汚職問題もだいぶ抑えられてきた」と語った。

しかし、新興経済国のインドネシアは成長の見通しが良好である一方、経済環境が未整備で、事業運営は容易ではない。割高のため銀行融資を容易に受けることができない。海外投資ファンドが提供する資金タイプや資本コストに対するニーズが低いため、外国人投資家との提携に乗り気な信頼できる現地パートナーを探すことも難しい。また法の支配の曖昧さも大きな懸念材料となっており、それが原因で市場から完全に撤退した投資家もいる。

図表 3-3

都市の開発見通し

出所:Emerging Trends in Real Estateアジア太平洋 2013 アンケート

1 ジャカルタ 6.10 2 中国セカンダリー都市 5.79 3 シンガポール 5.66 4 上海 5.65 5 クアラルンプール 5.60 6 バンコク 5.59 7 北京 5.58 8 台北 5.49 9 マニラ 5.47 10 香港 5.47 11 深圳 5.36 12 広州 5.32 13 シドニー 5.31 14 メルボルン 5.17 15 ホーチンミンシティ 5.14 16 バンガロール 5.06 17 ソウル 5.05 18 東京 5.02 19 オークランド 4.95 20 ムンバイ 4.91 21 ニューデリー 4.87 22 大阪 4.53

全体的に良い 普通 全体的に悪い

0

1

2

3

4

5

6

7

8

’13’12’11’10’09’08’07

ジャカルタ

開発見通し

投資見通し

6.10

6.01

図表 3-2

投資見通し順位の変遷

出所:Emerging Trends in Real Estateアジア太平洋アンケート(2007-2013)中国セカンダリー都市および深圳は2013年に初登場

都市 2013 2012 2011 2010 2009 2008 2007

ジャカルタ 1 11 14 17 20 20 19上海 2 2 2 1 5 1 2シンガポール 3 1 1 5 2 2 4シドニー 4 3 6 6 14 15 16クアラルンプール 5 17 15 15 10 11 15バンコク 6 14 17 19 18 18 8北京 7 5 7 3 12 6 9中国セカンダリー都市 8 ̶ ̶ ̶ ̶ ̶ ̶台北 9 8 13 11 8 16 5メルボルン 10 7 9 9 11 17 6香港 11 13 4 2 3 5 11マニラ 12 18 20 20 19 19 18東京 13 16 12 7 1 3 3ソウル 14 19 16 4 6 7 13広州 15 6 8 12 16 9 7深圳 16 ̶ ̶ ̶ ̶ ̶ ̶オークランド 17 20 18 16 17 14 ̶ホーチンミンシティ 18 10 11 13 13 8 12バンガロール 19 9 10 14 4 12 10ムンバイ 20 15 3 8 7 10 17ニューデリー 21 12 5 10 9 13 14大阪 22 21 19 18 15 4 1

地権を巡る紛争を何度も経験して、最終的にインドネシアから完全に手を引いたあるデベロッパーは「クリーンな土地を手に入れるのは不可能」と指摘する。安定した物件を購入するファンドであれば、透明性の欠如はそれほど大きな問題とならないかもしれない。しかし、商業用不動産の利回りは10%

前後で推移しており、こうした立地の不動産に投資した場合、収益はさほど見込めない。インドネシアは確かに有望株であるが、依然としてリスクが伴う。いわゆる買い主の危険負担である。

上海(投資見通し2位、開発見通し4位):

長年中国で事業を行ってきた海外ファンドにとって、上海、特にオフィス市場は、主要な投資先となっている。つい最近になって投資家の関心は商業施設へと向かっている。両不

動産部門とも依然として人気が高い。というのも、上海は比較的ユーザーフレンドリーな環境で、機関投資家適格不動産も多く、着実に実績を積み上げてきた投資家も存在するからだ。そうした投資家の中には十分な利益を手にして、取引を終了させた者もいる。しかし、その魅力にも翳りが出ている。市場が飽和状態であることに加え、政府当局が以前ほど外資を歓迎していないのだ。あるコンサルタントは「いまや国内デベロッパーも国際的に評価される商品を開発できるし、そのための資金も国内で調達できると当局は考えている」と指摘する。また物件価格が割高なことから、海外投資家の投資意欲も以前ほど活発なものとなっていない。

別の理由によるが、停滞気味なのは地元投資家も同じである。一つには資金が商業

施設から居住物件へと流れていることが挙げられる。住宅は資本回収が早いため、資金力のあるデベロッパーを惹きつけている。しかし、より注意すべきは、現在上海には投資適格商業施設がほとんどないという点である。市場に出てくるわずかな物件は当然高値となり、土地販売の需要も依然高い。これは逆に、供給が増えれば取引も増加するということを示している。

2012年最初の3四半期で上海の商業不動産部門は大きく落ち込んだが、中国不動産投資を担当する国内外の多くのファンドは引き続き虎視眈 と々この市場を見守っている。

シンガポール(投資見通し3位、開発見通し3位):シンガポールは投資市場として長年人気が高い。2007年の調査開始以来、一度の例外を除き、常に上位3位にランク入りしている。ある投資家は「大きなリターンはなくとも、非常に安全な市場だ」と指摘する。金融集積地として高いオフィス需要を継続的に創出しており、さらに政府の用地売却や新規プロジェクトの話が尽きない。「これはデベロッパーにはよい話かもしれないが、短期的にはオポチュニスティック投資家にはそれほど魅力ではない。というのも、企業にオフィススペースが十分にいき渡るよう政府が国有不動産を手放すため、ストックが尽きないからだ」。

ここにきて商業市場は停滞を見せている。これはAグレードのオィススペースが新たに建設され、既存のビルからテナントを吸い

0

1

2

3

4

5

6

7

8

’13’12’11’10’09’08’07

上海

投資見通し

開発見通し

5.65

5.83

出所:Emerging Trends in Real Estateアジア太平洋 2013 アンケート

図表 3-4

都市別商業施設のバイ/ホールド/セルの推奨

バイ ホールド セル

0% 20% 40% 60% 80% 100%

オークランド大阪

メルボルンニューデリーバンガロール

東京シドニームンバイ台北深圳ソウル

バンコクシンガポール

香港広州

クアラルンプール北京マニラ

ホーチミンシティ中国セカンダリー市場

上海ジャカルタ 53.54 39.39 7.07

46.56 37.40 16.03

45.53 34.15 20.33

40.59 46.53 12.87

40.00 51.00 9.00

39.06 44.53 16.41

38.05 57.52 4.42

36.97 43.70 19.33

36.76 44.85 18.38

36.51 53.17 10.32

34.95 55.34 9.71

33.66 59.41 6.93

33.05 49.15 17.80

31.31 61.62 7.07

29.47 49.47 21.05

28.23 54.84 16.94

28.13 53.91 17.97

27.37 53.68 18.95

26.32 53.68 20.00

21.67 60.83 17.50

20.83 53.33 25.83

16.85 69.66 13.48

Page 23: 20133ii Emerging Trends in Real Estate® 2013 エグゼクティブサマリー 2 012年の年末に向け、アジアの多くの市場では投資家心理が不確実さ を増しており、世界経済の見通しが悪化していることへの警戒感が見

4140 Emerging Trends in Real Estate® Asia Pacific 2013Emerging Trends in Real Estate® Asia Pacific 2013

Chapter 3: 注目すべき市場と部門

上げたためだが、この問題は国内金融セクターの人口減によりさらに悪化している。空室率は上昇し、賃料は低下している。資産売却を考える向きには弱り目に祟り目といったと

ころだ。そのため、買い手がつかず市場から撤退できない国際的ファンドも数社ある。

資本価格は下がったものの、キャップレートは上がったままだ。物件価格には「利幅がなく」、売りと買いが膠着状態にある。投資機会を積極的に窺っている国内REITがこれらの物件に関心を示すだろうという予想もあるが、その兆しは見えない。そうした物件はREITの主流商品ではないからだ。

そのため、投資の照準が他にシフトしている。住宅不動産の過熱を抑える新税(いまのところ効果薄)が区分所有権付き物件への関心を煽り、超富裕層の個人や企業を住宅市場から立ち去らせた。区分所有権付き物件は、デベロッパーが販売するオフプランユニットとして特に需要が高い。

シドニー(投資見通し4位、開発見通し13

位):アジア太平洋地域の投資ファンドが揃ってトップ市場に掲げるオーストラリアは、今年、海外からの不動産投資が地域内で最も多かった。オーストラリアは中国の経済成長に間接的に関与している。オーストラリアは農作物や資源などコモディティ主導型経済であり、中国本土の企業が鉄鋼や石炭など天然資源を吸い上げているからである。機関投資家向けの不動産ストックも豊富で、経済成長率は若干トレンドを下回るものの、好調だ。

しかし、一番の魅力はやはり大きなイールドスプレッドだろう。不動産機関投資家の垂涎の的だが、求めて得られるものではない。オーストラリアの国内機関投資家や国際的な売り手は投資の引き上げを続け、現地投資家は国内銀行の融資を受けにくい。その結果、海外ファンドがオーストラリア資産で大儲けしている構図がすぐに見えてくる。

特に、シドニーではこれまで新規物件が少なかった。西海岸の大規模複合プロジェクトのバランガルが完成する2015年には、あり余るオフィスや商業施設のストックが市場に出てくるが、現状では機関投資家適格不動産が足りず、販売量も依然として低い。この不足は同時に価格上昇をもたらし、クレディスイスによると、2011年にオフィス物件の総利回りは20%も上昇した。

海外ファンドにとってオフィス物件は依然人気の的だ。ある現地アナリストは「2012年

出所:Emerging Trends in Real Estateアジア太平洋 2013 アンケート

図表 3-5

都市別オフィス物件のバイ/ホールド/セルの推奨

0% 20% 40% 60% 80% 100%

大阪オークランド

広州メルボルン

台北ニューデリームンバイ深圳

バンガロールシンガポール

香港北京

クアラルンプールソウル

バンコクホーチンミンシティ

マニラ上海

シドニー中国セカンダリー市場

東京ジャカルタ 52.29 37.61 10.09

42.14 42.86 15.00

40.60 36.84 22.56

36.03 56.62 7.35

35.71 43.57 20.71

35.45 50.00 14.55

33.33 45.05 21.62

30.63 56.76 12.61

30.36 54.46 15.18

30.08 55.28 14.63

29.63 48.15 22.22

29.37 45.45 25.17

28.57 54.89 16.54

24.76 52.38 22.86

22.83 55.12 22.05

22.43 57.94 19.63

21.50 57.01 21.5

21.50 66.36 12.15

21.05 69.92 9.02

20.47 55.91 23.62

16.00 70.00 14.00

15.27 58.02 26.72

バイ ホールド セル

0

1

2

3

4

5

6

7

8

’13’12’11’10’09’08’07

シドニー

投資見通し

開発見通し

5.31

5.69

0

1

2

3

4

5

6

7

8

5.66

5.78

’13’12’11’10’09’08’07

シンガポール

開発見通し

投資見通し

のオフィス取引の約30%が海外からの投資」だと指摘する。それでも不安定な為替変動や中国経済の低迷などリスクも高い。実際のところ、中国が咳をすれば、オーストラリアが風邪をひく状態だ。2012年前半の国内鉄鋼販売の急落は、中国政府の経済刺激策に支えられ現在再び上向いているが、中国経済の動向次第で同じことが起こりかねない。

クアラルンプール(投資見通し5位、開発見通し5位):クアラルンプールは一時期精彩を欠いていたが、比較的安定して機会的収益性に恵まれた市場として現在注目を集めている。ある投資家は「開発が進み、不動産も売れている」と話す。「減速している中国経済に比べ、ここに景気低迷はない」。

クアラルンプールも他のアジア地域と同様、2012年第3四半期には販売が大幅に落

ちこんだが、市場には動きがある。これは二つの旗艦物件を保有する大規模REITが上場したことによるものだ。マレーシアREITは純資産価値に対して相当なプレイアムで取引されているため、上場の動きは今後も活発化するだろう。

既存REITは新規物件の購入に目を向けている。これはあるデベロッパーが「ぞっとする」という開発の足かせとなるオフィス在庫の消化に役立つだろう。にもかかわらず、新規スペースに対してテナントの需要が集まるとはいえないため、おそらく賃料が下がることになるだろう。

シンガポールや香港に比べて、クアラランプ―ルでは市場に浸透したグローバルブランドをあまり見かけない。そこで世界的な小売業者が参入するようになれば商業部門が

急速に伸びることが予想される。そのため商業施設は「都市部でも郊外でも、運営次第で成功もすれば失敗もする」。政府の経済改革プログラムによって外資が集まるため、長期的に見て商業施設部門の見通しは明るい。

バンコク(投資見通し6位、開発見通し6位):

クアラルンプール同様、バンコクは今年から表舞台に躍り出てきた。その理由の一つはREIT新市場の活況と経済成長がもたらすオポチュニスティックな利回りである。同時に、海外投資家にとってこれほど儲けやすい市場もない。最近まで、彼らは不安定な政治情勢や自然災害、法規制の枠組みの不透明さに悩まされていた。「増税の噂やタイ国王の健康状態など不安材料は依然として多く存在する」という声も聞かれた。

「もし国王が変わるようなことになれば、近代以降初めてのことだ」。昨年、バンコクの分譲マンション部門では物件供給量が減った。これまでの在庫が消化され、デベロッパーがリゾート開発を沿岸部に展開しているからである。

当然ながら、バンコクそしてタイで高い潜在性を有しているのは観光産業とホテル産業である。オフィス市場は新規供給不足のメリットを享受している。2014年に大型商業施設が建設される予定だが、それまではなにもない。しかし、需要そのものも問題である。

「バンコクは金融センターとしての地位を確立できているわけでもなく、国際的な企業にアピールする都市でもない」という声も聞か

出所:Emerging Trends in Real Estateアジア太平洋 2013 アンケート

図表 3-6

都市別ホテル物件のバイ/ホールド/セルの推奨

0% 20% 40% 60% 80% 100%

オークランド広州大阪深圳

バンガロールニューデリー

東京北京

中国セカンダリー市場ソウル香港

シンガポール上海

ムンバイマニラ

クアラルンプール台北

メルボルンジャカルタバンコク

ホーチンミンシティシドニー 38.68 48.11 13.21

37.89 48.42 13.68

36.46 51.04 12.50

36.26 52.75 10.99

34.65 52.48 12.87

34.07 61.54 4.40

33.96 54.72 11.32

32.63 55.79 11.58

30.68 59.09 10.23

30.25 46.22 23.53

29.66 56.78 13.56

29.60 52.00 18.40

28.89 58.89 12.22

28.07 43.86 28.07

27.35 47.01 25.64

26.96 53.91 19.13

26.44 62.07 11.49

24.42 55.81 19.77

23.64 46.36 30.00

21.50 56.07 22.43

19.82 52.25 27.93

19.05 66.67 14.29

バイ ホールド セル

0

1

2

3

4

5

6

7

8

’13’12’11’10’09’08’07

クアラルンプール

投資見通し

開発見通し

5.60

5.68

Page 24: 20133ii Emerging Trends in Real Estate® 2013 エグゼクティブサマリー 2 012年の年末に向け、アジアの多くの市場では投資家心理が不確実さ を増しており、世界経済の見通しが悪化していることへの警戒感が見

4342 Emerging Trends in Real Estate® Asia Pacific 2013Emerging Trends in Real Estate® Asia Pacific 2013

Chapter 3: 注目すべき市場と部門

れた。しかし一方で、医療観光は好調で、割安で質の高い医療施設に世界からとりわけ中東から患者が惹きつけられている。クアラ

ルンプール同様、消費需要の高まりは、近い将来、多数の国際小売チェーンを惹きつけ、商業施設の賃料は上がると予想される。

北京(投資見通し7位、開発見通し7位):この3年あまり、北京のオフィス賃料と販売価格は驚くほど上がっている。市場には新規物件が溢れており、アナリストたちはこの過剰在庫が市場を溺れさせると考えていたが、実際は、需要が在庫を呑み込んでいる格好だ。サヴィルスのコンサルタントによると、CBD

の価格はこの2年で少なくとも45%上がり、賃料は10四半期平均で6.6%上昇した。

これはある程度、国内外のあらゆる企業の需要の高さを示しているが、市場の動きを牽引しているのは国営企業である。 「建物の大部分、あるいは全体を丸ごと押さえて

いるのは、都市や地方の公共企業だ。彼らは政府に金を見せて『買います』という。政府は過剰供給を懸念しているため、そうしなければならないのかもしれない」。

しかし、需要の創出は市場主導とは限らないため、それがいつなくなってもおかしくない。オフィス物件の投資家は、テナントが突然出て行くことを気にしている。「テナントには常に気を配っている。国営企業の場合には特にそうだ」。

現在のフィススペースは空室率が非常に低く、新規物件も少ない。今後数年で市場は持ち直すだろう。「2年、いやたぶん1年半で調整される」という声もあった。

中国―セカンドティア都市(投資見通し8位、開発見通し2位):中国の大都市では収益性の高い案件が姿を消したため、セカンドティア都市への関心が急速に高まっている。一般的に投資家は安定したコアリターンを好むが、セカンドティア都市が2位となっていることからも、オポチュニスティック投資への関心の高さが分かる。

20%強の内部収益率が土地開発の人気を高めているが、これは全体として優良な機関投資家適格物件が不足しているためである。また、セカンドティア都市では新規オフィス物件は供給過剰となっており、住宅や商業施設の方が好まれる傾向がある。重慶、瀋陽、天津などの都市が特に人気が高い。これらの都市ではコア資産として長期的な価値を持つ中心街の物件を、簡単に入手する

0

1

2

3

4

5

6

7

8

’13’12’11’10’09’08’07

バンコク投資見通し

開発見通し

5.59

5.67

出所:Emerging Trends in Real Estateアジア太平洋 2013 アンケート

図表 3-7

都市別賃貸集合住宅のバイ/ホールド/セルの推奨

0% 20% 40% 60% 80% 100%

大阪オークランド

深圳香港

メルボルン広州

ニューデリー台北北京

ムンバイバンガロール

ソウルシンガポール

上海東京

バンコクシドニー

ホーチンミンシティクアラルンプール

中国セカンダリー市場マニラ

ジャカルタ 43.62 47.87 8.51

36.46 55.21 8.33

35.59 41.53 22.88

35.19 46.30 18.52

33.33 49.49 17.17

33.04 49.57 17.39

32.00 58.00 10.00

30.65 58.87 10.48

30.40 44.00 25.60

30.00 45.83 24.17

28.72 60.64 10.64

28.09 51.69 20.22

27.78 51.11 21.11

26.02 47.15 26.83

23.16 68.42 8.42

22.47 58.43 19.10

21.05 47.37 31.58

20.35 59.29 20.35

20.16 43.41 36.43

19.82 54.05 26.13

19.54 71.26 9.20

19.30 64.91 15.79

バイ ホールド セル

0

1

2

3

4

5

6

7

8

’13’12’11’10’09’08’07

北京

開発見通し

投資見通し

5.58

5.65図表 3-8

アジア太平洋地域の主要都市

全体的に良い

普通

全体的に悪い

投資見通し

北京

香港

ニューデリー

ソウル 東京大阪

ホーチンミンシティ

広州

クアラルンプール

台北

深圳

マニラ

シドニー メルボルン

上海

シンガポール

ジャカルタ

バンガロール

オークランド

バンコク

ムンバイ

Page 25: 20133ii Emerging Trends in Real Estate® 2013 エグゼクティブサマリー 2 012年の年末に向け、アジアの多くの市場では投資家心理が不確実さ を増しており、世界経済の見通しが悪化していることへの警戒感が見

4544 Emerging Trends in Real Estate® Asia Pacific 2013Emerging Trends in Real Estate® Asia Pacific 2013

Chapter 3: 注目すべき市場と部門

ことができる。

中国政府による住宅用不動産の引き締めに関する報道が絶えず、それを知悉する海外投資家は、住宅物件にはあまり手を出さない。住宅が人気を集めている理由の一つはここにある。「住宅部門には無限の可能性がある。うまくいかないとすれば、それは自分のせいだ」という声も聞かれた。ただ、中国の住宅プロジェクトには失敗例も多いため、これは言い過ぎだろう。失敗の理由は経験の不足だ。プロジェクトのポジショニングや開発、管理運営が未熟なためにうまくいかないのである。

いずれにせよ、こうした周辺都市への投資はタフでなければできない。仕事環境は劣悪で、地方官僚の協力が得られるかどうかは読めない。そのため、信頼できる現地パートナーが不可欠である。さらにこういった投資は長期に及ぶことが多い。ある商業施設のデベロッパーは「収益を狙ってセカンドティアやサードティアの都市に投資するのはよい考えだが、5年、10年は覚悟しなければならない。その間にショッピングセンターのリポジショニングを行わなければならないかもしれない」と指摘する。

台北(投資見通し9位、開発見通し8位):

中国政府が不動産部門の過熱を抑える施策を講じたことで、中国本土の投資家はオフショアの運用先を求めるようになり、台北にその流れが来ている。米国の量的緩和もそれを後押しする形だ。低いベースレートで良好

なイールドスプレッドが生まれ、地元の生命保険会社が市場になだれ込む。この過剰な流動性によって台北の取引量が鰻上りに増加している。サヴィルスによると、2012年前半、商業施設部門では売上が前年比78%増となった。一方、中国本土からの観光客の伸びに押され小売業の売上も急上昇している。

結果としてすべての部門で物件価格が上昇し、台湾政府は投機を抑えるため8月に銀行の貸出し規制やより高いLTV水準の設定を義務化するなどの措置を講じた。これにより取引はペースダウンしたが、物件価格は高止まりしている。流動性はいまだ高く、依然として低金利が続くため、価格がすぐに大きく下がるとは考えにくい。

メルボルン(投資見通し10位、開発見通し14

位):シドニー同様、メルボルンのオフィス市場は、主に海外ファンドの買いによって引き続き好調である。しかし今後2年間で新規物件が大量に市場に流れ込むため、投資動向が変化する可能性がある。「新規物件が大量供給されると需要の流れが現在と明らかに違ってくるため、それを注視する必要がある」。しかし、長期的に見ればそれを過剰供給というのは言い過ぎだろう。ある投資家は「当局に承認された供給量はたしかに大きいが、資金調達は話が別だ。行政は簡単に物事を決めるが、銀行は違う」と指摘する。

一方、住宅市場と商業施設市場は低迷している。商業施設は警戒を強める消費者やオンラインショッピングの台頭に悩まされ

出所:Emerging Trends in Real Estateアジア太平洋 2013 アンケート

図表 3-9

都市別産業施設/物流施設のバイ/ホールド/セルの推奨

0% 20% 40% 60% 80% 100%

オークランド台北

メルボルン大阪

ニューデリーシドニーソウル

バンガロールムンバイ広州深圳香港

バンコクマニラ東京

シンガポール北京

ホーチンミンシティクアラルンプール

上海ジャカルタ

中国セカンダリー市場 49.57 33.91 16.52

42.42 46.46 11.11

38.66 47.06 14.29

35.19 57.41 7.41

35.05 48.45 16.49

34.75 49.15 16.10

34.48 51.72 13.79

33.87 50.81 15.32

33.68 54.74 11.58

33.66 50.50 15.84

33.06 51.61 15.32

32.73 50.91 16.36

32.14 49.11 18.75

31.91 52.13 15.96

31.18 54.84 13.98

30.77 58.24 10.99

30.09 55.75 14.16

28.72 58.51 12.77

27.43 53.98 18.58

22.32 63.39 14.29

21.11 63.33 15.56

13.64 71.59 14.77

バイ ホールド セル

0

1

2

3

4

5

6

7

8

5.795.60

’13’12’11’10’09’08’07

中国セカンダリー都市

開発見通し

投資見通し

中国セカンダリー都市は2013年に初登場

ている。同時に住宅部門も苦境のなかで「ひどい不景気」だ。「住宅価格は20年間上がり続けており、手軽には買えない。仕組みの中に多くのレバレッジがある。消費者数や一家庭あたりの平均負債額を見れば、最高値の米国市場とかなり似通っていて、少々怖くなる」。したがって投資家の大半は引き続き住宅よりもコアなオフィス資産を重視している

香港(投資見通し11位、開発見通し10位):最近行われた米国の量的緩和の影響で香港の不動産市場に大量の資本が流れ込んでいる。その大半が住宅部門に向かっており、住宅価格は今年11月までに20%も上昇した。香港の住宅は現在世界一高い。投機的な動きを抑えるために、政府は新たな増税措置を講じた。そのため投資マネーはセカンドティアの(特に九竜などでの)区分所有権付き

の商業物件に向かう可能性がある。

こうした流れは進行中の市場シフトに拍車をかけるだろう。企業はすでに飽和状態に達した従来のCBDから出て行き始めている。

「銀行や金融業界は長期的な見地に立ち、数1,000人規模の社員をセカンドティア都市に移そうと考えている。そうすれば賃料が2年ごとに跳ね上がることはないだろう」。

金融市場の落ち込みで賃料が下がり、資本価格の軟調で精彩を欠いているとはいえ、香港でAクラスの商業施設の賃料は世界的に見ても高い。しかし、香港で優良な機関投資家適格不動産を購入することは難しい。そういう物件は誰も手放さず、市場に出回ることもほとんどない。たとえ出てきたとしても法外な値段がつくからだ。

中国本土からの観光客のおかげで香港の商業施設市場はここ数年好調を維持している。現地の賃料は毎年35%上がり「テナントは法外な家賃を払っている」。香港の主要な商業地区は、世界有数の高級地であるニューヨークの5番街に迫る勢いだ。一方で、観光客の足は今年やや落ちており、不動産価格はピークを過ぎたとの懸念も聞かれる。

マニラ(投資見通し12位、開発見通し9位):

ここ数年、マニラは活況を呈している。経済が伸びていることや、政府がビジネス志向で透明性が高いことなどがその理由だが、それに加えビジネスプロセス・アウトソーシング(BPA)施設への海外企業誘致にも成功した。これは驚きだ。ここにきて官僚主義も影をひそめ行政の透明性が高まった。マニラは「これまで見たなかで最高の市場」と評価する投資家の声もある。昨年ほぼ最下位だったにもかかわらず今回順位を上げたのは、こう

0

1

2

3

4

5

6

7

8

’13’12’11’10’09’08’07

メルボルン

投資見通し

開発見通し

5.17

5.56

0

1

2

3

4

5

6

7

8

’13’12’11’10’09’08’07

台北

投資見通し

開発見通し

5.49

5.58

出所:Emerging Trends in Real Estateアジア太平洋 2013 アンケート

1非常に悪い

5普通

9非常によい

分譲住宅

賃貸集合住宅

オフィスビル

ホテル

商業施設

産業施設/物流施設

オフィスビル

ホテル

商業施設

賃貸集合住宅

分譲住宅

産業施設/物流施設

投資見通し

開発見通し

5.79

5.71

5.70

5.69

5.28

5.14

6.05

5.97

5.70

5.70

5.61

5.53

図表 3-10

主要商業用不動産タイプ別 2013年の見通し

Page 26: 20133ii Emerging Trends in Real Estate® 2013 エグゼクティブサマリー 2 012年の年末に向け、アジアの多くの市場では投資家心理が不確実さ を増しており、世界経済の見通しが悪化していることへの警戒感が見

4746 Emerging Trends in Real Estate® Asia Pacific 2013Emerging Trends in Real Estate® Asia Pacific 2013

Chapter 3: 注目すべき市場と部門

した理由による。

大規模なカジノ開発プロジェクトも進行中で、土地開発が加速している。カジノ建設は数年に渡って段階的に行われるため、これに合わせて観光客の増加も見込まれる。このようにフィリピンでは全部門で投資見通しは明るい。しかし、外国人の土地所有規制(50%以下)に関する政府施策が、国際的な投資を阻んでいる。さらに国内の潤沢な流動性を利用できる現地デベロッパーも、海外パートナーをそれほど必要としていない。したがって、外国投資の機会は引き続きカジノやBPOのプロジェクトなどに限定される可能がある。確かに、いずれも大きな市場機会であり、特にBPOはマニラの新規オフィス物件の70%を占めている。

東京(投資見通し13位、開発見通し18位):東京は今年の調査で精彩を欠いた。現在もコア資産投資やオポチュニスティック投資の両面で海外投資家を惹きつけている都市にしては予想外の結果である。「その一方で、東京の景気はいよいよ底を打ち、今が市場に参入する好機である」との事実によって、強気の気配もうかがえる。

「以前より数が減っているのは確か」だが、依然として東京に事務所を開設し、人を配置するファンドも存在する。特定の人気案件はないが、コアな投資家はオフィス資産に関心を寄せている。これは「2013年にはオフィス賃料の高まりが予想される」からだが、一方でオポチュニスティックマネーは

住宅その他の分野に流れている。物流施設や高齢者住宅などのニッチな市場を狙う動きもある。潤沢な流動性と安価なローン、そしてキャッシュベースでの高いリターンなどが投資を後押ししている。

もう1つのオポチュニスティック投資はCMBSのデフォルトから生まれる。不動産デリバティブについての日本の実験は失敗し、その結末が市場にやってき始めるからだ。ここに投資ポテンシャルは存在するが、国内銀行が引き続き不良債権処理に消極的なため、取引は限定的と考えられる。買値と売値のスプレッドが大きいことも取引量の低迷につながっている。さらに、オポチュニスティック投資の儲けも期待ほどではない。「価格は下落しているが、リターンは依然として、コアかコアプラス程度だ」。

ソウル(投資見通し14位、開発見通し17位):

韓国は日本、中国、オーストラリアを除けばアジア最大の不動産市場であるが、外国人投資家は長年、足掛かりをつかめずにいた。これは主要物件の大半が国内プレイヤー同士で取引される傾向があったことによる。

「韓国は日本以上に島国文化が強く、他の市場で見られる透明性はほとんど期待できない」とあるファンドマネージャーは語る。その結果、世界金融危機以前にソウルに拠点を構えていた海外ファンドのほとんどが市場から撤退してしまった。

もう1つの問題は「買える物件が少なく、

一気呵成に大量投資するのが難しい」ということだ。「主要オフィス物件の取引は年平均10数件ほどだ」とある投資家は言う。さらに、市場は国内の年金基金に押さえ込まれている。年金基金は市場が消化しきれないほどの大量の資金を抱え「この3年間、韓国の取引のほぼすべて占めている」。そのため、韓国資本の多くが海外に追いやられた。キャップレートは平均約6%であるが、「今後さらに若干下がると予想される」。資金調達コストは100~150ベーシスポイントのイールドスプレッドを生み出す。

広州(投資見通し15位、開発見通し12位):

中国本土と香港の経済貿易緊密化協定によって、近年、広州の不動産市場に海外投資の波が訪れている。供給量が多いためオフィス賃料は2007年以来下降傾向にある。もう1つの問題は、珠江デルタ地域の地場製造業が賃料の安い内陸部や揚子江デルタ地域へ流出していることだ。

当調査で広州の評価が低いのも、おそらくこのことが原因だろう。とは言うものの、広州のCBDは供給過剰となっているが、他の都市で見られるように、大半のオフィスビルで賃料が大きく上昇している。ある投資家が指摘するように「これまで広州では、特に珠江新城では、オフィスビルの過剰供給が懸念されていたが、4、5年前に投資していたら、大儲けできただろう」。

商業施設部門に関しては、過去数年間に国内外の小売業が殺到して市場の拡大につ

0

1

2

3

4

5

6

7

8

’13’12’11’10’09’08’07

東京

投資見通し

開発見通し

5.02

5.42

0

1

2

3

4

5

6

7

8

’13’12’11’10’09’08’07

香港

投資見通し

開発見通し

5.47

5.56

0

1

2

3

4

5

6

7

8

’13’12’11’10’09’08’07

マニラ

投資見通し

開発見通し

5.47

5.52

ながっている。だが2010年と2011年には過剰供給の消化が続き、また今後新規物件が登場するため、空室率の上昇に伴い、賃料は引き続き下方圧力を受けるだろう。

こうした問題を抱えながらも、中国の主要都市の中で成長率が最も低い広州は、他の主要地域に比べて賃料は依然として低く、長期的な見通しは明るい。

深圳(投資見通し16位、開発見通し11位):珠江デルタ地域から地場製造業が流出した影響を受けて、深圳の見通しにも陰りが見え始めたが、ハイテクハブとしてなんとか持ちこたえている。中国の産業が繊維などの軽工業からハイテクへゆっくり軸足を移していくなかで、引き続き投資を呼び込んでいる。

深圳の住宅物件は価格が大きく変動することで知られる。というのも、この都市は昔から隣接する香港資本の投機対象となっているからだ。中国政府による外国人住宅購入規制も価格に大きな影響を及ぼしている。2011年には価格が13%下落したが、2012

年半ばには価格、取引量とも若干の回復を見せた。

近年、オフィス市場も活況を呈しており、今年に入って頭打ちとなったものの、2009

年以降、価格は50%を超える上昇を見せている。プライムオフィススペースが追加供給されたことでオフィスストックは約40%増加した。クレディスイスによると、空室率はすでに15%を上回っており、理論上、賃料と価格は下がることになる。しかし、北京では

過去数年において同じような供給過剰状態にあったが、国有企業が空きスペースを埋めたため、賃料や価格は下がらなかった。深圳の場合はどうなるのか、注視が必要だ。

オークランド(投資見通し17位、開発見通し19位):地理的に遠く離れ、経済規模も比較的小さいニュージーランドは、アジア投資のなかで取り残された存在だ。とはいえ、市場にはいくつかの興味深い資産がある。これは一般的に投資サイクルの底にあると考えられ、金利も低く銀行が適度なレバレッジを効かせることに同意していることによる。

ニュージーランドの都市の中で、投資対象として最も人気が高いのがオークランドである。

第一にニュージーランドの主要な商業センターであり、第二にウェリントンやクライストチャーチのように震災リスクに晒されていないからだ。ある意味、遠隔地にあるということが最大の強みで、不安定な投資環境の中で安全な避難所となっている。「流動性がないため、やや高い価格となっており、競合が少なく、安定した手段を提供している。

購入の大半は国内ファンドと個人投資家によるものであり、オーストラリア近隣都市に投資を行う海外ファンドの姿はほとんど見られない。これまでと変わらず、新規供給が不足していることから、CBDのプライム資産は依然として最も人気のある投資対象となっている。

ホーチミンシティ(投資見通し18位、開発見通し15位):今回、ベトナムは順位を大きく落としたが、国内経済の悪化が原因である。2010年までベトナム経済は年率7%台後半で成長し、中国の経済改革モデルを踏襲するものと予想されていた。しかし昨年、経済が失速し、GDPは2012年に5%に落ち込んだ。インフレ率は過去最高の23%(現在は7%)に急上昇し、中央銀行が見境なく資金をばら撒いたため数10億ドル規模の不良債権が生まれた。その多くが不動産関連となっている。

これには経験豊かな投資家も窮してしまっている。「マクロ経済以外はすべて良好」という投資家もいれば、「一体ベトナムはどうなってしまったのか。途方に暮れている」という投資家もいる。現在、日本の巨大プロジェクト数件を除き、「シンガポール資本も香港資本もすべての資本が市場から撤退してしまった」。

しかし、インタビュー回答者の間で、すべての条件が同じであれば、住宅、ホテル、製造業が有望な投資対象として上がった。とりわけ「工業団地が乱立しているが、適切なところを選べば問題ない」。オフィス部門は過剰供給や投資適格オフィスビルの賃貸に前向きな金融系テナントが不足しているため、ハイエンド施設を除き低迷している。

一方、小売業は官僚主義がはびこっているため身動きが取れなくなっている。

0

1

2

3

4

5

6

7

8

’13’12’11’10’09’08’07

広州

投資見通し

開発見通し

5.325.30

ソウル

0

1

2

3

4

5

6

7

8

’13’12’11’10’09’08’07

投資見通し

開発見通し

5.05

5.39

0

1

2

3

4

5

6

7

8

投資見通し

開発見通し

’13’12’11’10’09’08’07

深圳

深圳は2013年に初登場

5.365.24

Page 27: 20133ii Emerging Trends in Real Estate® 2013 エグゼクティブサマリー 2 012年の年末に向け、アジアの多くの市場では投資家心理が不確実さ を増しており、世界経済の見通しが悪化していることへの警戒感が見

4948 Emerging Trends in Real Estate® Asia Pacific 2013Emerging Trends in Real Estate® Asia Pacific 2013

Chapter 3: 注目すべき市場と部門

バンガロール(投資見通し19位、開発見通し16位):最盛期は2006年と2007年で、当時は年間1,500万平方フィートを超えるAクラスの賃貸商業用不動産やスペースが主にIT企業のオフィスや事業用として吸収されていた。しかし、市場の伸びは鈍化し、安定して成熟したと考えられているが、グローバルなIT産業の動向を頼みとする状況となっており、かつての「華々しい隆盛は期待できない」。

現地のある投資家は、バンガロールが抱えている問題はIT業界を除き、需要の牽引役が不在であることだと指摘する。「今後3

~5年において引き続きインド第3の市場となり、Aクラスオフィスの吸収率は最も大きいだろう」。しかし、爆発的な成長につながる活気が生まれる可能性は低い。インドに業務をアウトソースするトレンドがピークを過ぎたこともあるが、インド南部は保守的な文化が根強く、北部のように投機的な投資はあまり見られない。

ムンバイ(投資見通し20位、開発見通し20

位):ムンバイはこれまで全不動産部門で物件不足に悩まされていたが、最近になって状況は一変した。しかし、ここにきて州政府の不祥事があり、新規開発は12カ月止まっている。ある投資家が指摘するように

「過剰供給を是正する機会という意味では、これはムンバイにとってプラスといえる」。

それでも、過剰供給量は依然として膨大であり、この問題が完全に解消されるまで、ムンバイの評価は上がらないだろう。一方、現地デベロッパーは「以前より積極的で、それゆえ余計にストレスを感じている」。現地デベロッパーは割高な資金でも借り入れる用意があるため、高いレバレッジを狙うオポチュニスティック資本にとってムンバイはよい市場といえるかもしれない。

デリー(投資見通し21位、開発見通し21位):

最下位に近い順位となったものの、デリー首都圏地域は回復に向かい始めている。

「ムンバイを拠点とする多数の金融投資家たちが投資対象としてデリーに目を向けている」ことからも、見通しは明るい。従来、

デリーはビジネス向きの場所でないとして、海外の主要な不動産資本はインド西部とインド北部を中心に投資を行っていた。しかしここにきて新規大型開発プロジェクトが次々に登場し、市場が活発化している。

デリーとその周辺都市(グルガオンやノイダ)の新規開発マスタープランが承認されたことを受け、様々な住宅や商業施設が建設され、やがて市場に流れ込んでくるだろう。「資金力のある投資家、投機筋、そしてエンドユーザーが市場を牽引するようになる」。デリーのマスタープランだけでも約32,000

エーカーの宅地開発が含まれ、同規模の商業その他の開発も候補に挙がっている。あるインタビュー回答者は「これは単一の不動産開発プロジェクトとしてはアジア最大のものになるだろう」と語る。そして開発用地の大半は中心街に近い立地であることか

ら「元を取るならムンバイよりもデリー首都圏地域に投資するのがよい」。なぜなら、ムンバイでは最も戦略的な立地にある土地はすでに開発が行われているからだ。

大阪(投資見通し22位、開発見通し22位):

2008年まで投資先として評価が高かった大阪も、ここ最近、人気が凋落した。現在は

「投資見通し」「開発見通し」「オフィス物件のバイ/ホールド/セルの推奨」に至るまで、ほとんどの調査項目で最下位に甘んじている。この理由についてある投資家は「過去4

年間、Aクラスのオフィススペースが大量に供給され、その状況は今なお続いている」という点を挙げる。大阪のもう一つの問題は、これは東京以外のすべての都市に共通して言えることだが、「小さな地方都市では、需要が不透明なため、どこまで行けば底値なのかわからない」とことだ。

しかし最近になって、投資家は大阪をはじめ日本の地方都市を見直し始めている。大阪では過剰供給がほぼ収まったということもあるが、より高い収益を求めて投資家たちが日本のセカンドティア市場に流れているためだ。ある投資家によると、東京都心部のBクラスオフィスのキャップレートが6%であるのに対し、大阪の同等の物件はおそらく9%になる。賃料が下げ止まったいま「LTV

を65%~70%に維持しながら2.5%の金利で借り入れを行い、キャップレート9%の物件を購入するのは良い考えだ。収益は二桁台となりこれは検討に値する」。

0

1

2

3

4

5

6

7

8

’13’12’11’10’09’08’07

ホーチンミンシティ

投資見通し

開発見通し

5.14

5.02

0

1

2

3

4

5

6

7

8

’13’12’11’10’09’08’07

バンガロール

投資見通し

開発見通し

5.06

5.01

0

1

2

3

4

5

6

7

8

’13’12’11’10’09’08

オークランド

投資見通し

開発見通し

4.95

5.07

不動産タイプの見通し産業施設/物流施設部門投資家が低収益物件から高収益物件に流れる一方、産業施設/物流施設が見直されて人気が高まっている。「これは、良質な物流が構造的に不足していることや、震災後に日本では物流ネットワークの再検討が行われていることによる。また現在中国の物流にも注目が集まっている」。

DTZによると、2012年第3四半期にアジア市場で販売が伸びた不動産部門は産業施設/

物流施設のみであった。取引高は四半期比15%増となり、オーストラリア、中国、香港、韓国は四半期比50%増となった。

最善の策:アジアの産業施設/物流施設部門のバイ/ホールド/セルの推奨では、中国のセカンダリー都市がトップに躍り出た。回答者のほぼ半数が、中国のセカンダリー都市での取得を推奨している。このことは、既存の製造所からの工場移転が続く中国では、西部地域における良質な物流施設への高いニーズを反映していることは間違いない。そのほかジャカルタ、上海、クアラルンプール、ホーチミンシティが上位を占めた。上海は別として、いずれも産業発展の初期段階にある新興経済都市である。対照的に大阪は最下位となった。

大阪湾に物流施設を新設する計画が進行中であり、最近国内で成約に至った主要な物

流施設の取引のいくつかは大阪の物件であることを考えると、意外といえる。

住宅部門分譲住宅は昨年の2位から最下位に大きく順位を下げた。これはアジア各市場でくすぶる問題の影響によるものだ。中国では政府は住宅価格の高騰を抑えるために、住宅購入規制を継続するとともに、金融部門では不良債権の大量発生のリスクを抑える取り組みが行われている。

香港、シンガポール、台湾、インドネシア、マレーシアといった他の市場でも、インフレ圧力による資本流入により住宅価格が上昇するのを抑えるため政府が新たな規制を導入している。

しかし、長期的には、全市場で住宅需要は依然として強い。加えて、インタビュー回答者の声は必ずしも暗いものではなかった。むしろ、住宅部門を引き続き好ましい投資対象と見ている者が多かった。あるファンドのマネージャーは「自己流動性が高い資産であるのが気に入っている」と述べたが、通常は問題となる市場からの撤退が簡単に行える。撤退は資金不足のデベロッパーの悩みの種であり、中国では住宅物件は人気が高い選択肢となっている。オポチュニスティック投資がすでにいくつか行われており、今後12カ月間で行われる政府施策の効果次第で他にももっと出てくるだろう。

最善の策:景気の底にある市場(東京)または発展途上の市場(ジャカルタ、マニラ、クアラルンプール)に照準を合わせるとよい。オポチュニスティック投資家の場合は不良化資産(中国)も期待できる。

オフィス部門昨年の4位に対し今年は3位となった。今年もオフィス資産への関心は薄かった。関心がないわけではない。ただ適切な投資機会がないのだ。上海を拠点とするある投資家の意見がその典型だろう。「上海でオフィスビルを買おうとしても、手頃なビルがあまり見当たらず、そのうち買い手が多数現れて、買いたい値段よりも値が吊り上がってしまう」。

最善の策:在庫が品薄のため非常にニッチな市場となっているが、ジャカルタは再びバイ/ホールド/セルの推奨において高い評価を獲得した。他には、東京が引き続き強い関心を惹きつけている。これは、コア資産を重視する投資家が急増し、日本市場は底値に近いと考えられているためだ。「底を打ったと考えてオフィス市場に参入する投資家が多い」。

シドニーは引き続き機関投資家の目に魅力的なものと映っている。良好なリスク調整後リターンが見込めるのであれば、大都市でオフィス物件を購入するとよいが、現状ではそれはかなり難しい。

0

1

2

3

4

5

6

7

8

’13’12’11’10’09’08’07

大阪

投資見通し

開発見通し

4.53

4.82

0

1

2

3

4

5

6

7

8

’13’12’11’10’09’08’07

ニューデリー投資見通し

開発見通し

4.87

4.86

0

1

2

3

4

5

6

7

8

’13’12’11’10’09’08’07

ムンバイ

投資見通し

開発見通し

4.91

4.94

Page 28: 20133ii Emerging Trends in Real Estate® 2013 エグゼクティブサマリー 2 012年の年末に向け、アジアの多くの市場では投資家心理が不確実さ を増しており、世界経済の見通しが悪化していることへの警戒感が見

5150 Emerging Trends in Real Estate® Asia Pacific 2013Emerging Trends in Real Estate® Asia Pacific 2013

Chapter 3: 注目すべき市場と部門

商業施設部門アジアの堅調な経済成長は地域全体の消費力を伸ばしており、それが最も顕著なのは中国だ。中産階級の台頭とともに、政府はインフラ主導の成長から所得の均衡化へと政策を転換している。CBREが最近実施したグローバル調査によると、現在世界各地で建設中のショッピングモールの70%がアジア地域であり、中国だけで実に50%に上るというが、これは別に驚くにはあたらない。

しかし、同時にアジアでは商業施設部門への性急な投資も多く、市場には投資家がひしめき合っている。ある投資家は「消費力の高まりからショッピングセンターがそのまま儲かると考えて投資するわけにはいかない」と語る。物件独自の要因、デベロッパーや投資家独自の要因といったものが多く存在する。したがって、経済が好調だとしても、運営管理、デザイン、開発、プロデュースがうまくいかなければ結局は失敗に終わってしまう。

最善の策:ジャカルタが再びトップに輝いた。市場は旺盛な消費力に支えられているが、平均的な投資家には厳しい市場である。上海と中国のセカンダリー都市もまた伸びている。繰り返しになるが、これは、中国本土の国内消費者の台頭と、中国政府が従来のインフラ主導の成長モデルではなく、消費者主導の経済成長モデルへと転換したことによるものだ。

ホテル部門アジア域内のそして世界からの観光産業が伸び、ホテル需要も高まっている。最大の観光人口を抱えているのは中国で、中国本土のツアーグループは香港、マカオ、タイといった従来の観光地から、さらに遠方へと足を延ばしている。

実際、ベトナムのような市場では、経済状況が悪く不動産部門が落ち込んでいるが、ホテル産業と観光産業は大きな収益を挙げている。また、フィリピン、インドネシア、タイなどの他の新興市場に参入する際、ホスピタリティ資産は、従来のオフィスや住宅よりも参入が容易であることが多い。

最善の策:今年のホテル部門ではシドニーとメルボルンの評価が高かった。商用と観光の両方でホテルの利用率と宿泊費が高まり、それに魅力を感じたアジア資本がオーストラリアのホテルを購入し、オーストラリアのホテル売買取引総額は過去最高となった。そのほか、熱帯気候と素晴らしいビーチに恵まれたベトナム、タイ、インドネシアなどが上位に食い込

Page 29: 20133ii Emerging Trends in Real Estate® 2013 エグゼクティブサマリー 2 012年の年末に向け、アジアの多くの市場では投資家心理が不確実さ を増しており、世界経済の見通しが悪化していることへの警戒感が見

5352 Emerging Trends in Real Estate® Asia Pacific 2013Emerging Trends in Real Estate® Asia Pacific 2013

Abacus Property GroupRod de AboitizGavin Lechem

AD Investment ManagementKenji Kousaka

AEW AsiaDavid H. Schaefer

AIG Global Real Estate Trey Freeman

AIP Japan Co., Ltd.Barry Hirschfeld

Altis Property PartnersAlastair Wright

Angelo, Gordon InternationalJon Tanaka

Aoyama Realty AdvisorsHaruyuki Shinya

Ascendas Pte. Ltd.Jonathan Yap

Asian Development BankAlessandro Pio

AVIVAMatthew Woodman

AXA Real Estate Investment Managers JapanTetsuya KarasawaTakahiro Tokunaga

BEI CapitalCollin Lau

The Blackstone Group JapanAkira Kosugi

Brook�eld MultiplexKurt Wilkinson

Cache Logistics TrustDan Cerf

Capitaland LimitedBoaz BoonLim Ming Yan

CBRENick AxfordChris BrookeStephen McNabb

CBRE Global InvestorsRichard T.G. Price

CBRE Global Investors JapanTetsuya Fujita

Century Bridge CapitalThomas R. Delatour

CFS Global Asset ManagementCharles MooreMichael Gorman

Challenger Financial Services GroupTrent Alston

Charter HallDavid Harrison

Chongbang GroupHenry Cheng

CLSAWayne Spice

Colliers InternationalAlan Liu

Deutsche BankHugh McDonald

DexusRoss DuVernet

Diamond Realty ManagementTakashi Tsuji

Eureka Funds ManagementBob Kelly

Far East OrganisationPhilip Ng Chee Tat

Folkestone GroupAdrian Harrington

Forum PartnersAndrew Faulk

Franklin TempletonGlenn Uren

Fukuoka RealtyEtsuo Matsuyuki

GE Capital Real EstateSimon MacDonaldFrancois Trausch

GenReal Property AdvisersAnckur Srivasttava

GIC Real Estate Pte. Ltd.David Dickinson

Goldman Sachs & Partners Australia Pty. Ltd.Alexi Antolovich

Goodman GroupAnthony Rozic

The GPT GroupMark Fookes

GrosvenorYu Yang

Grosvenor JapanKoshiro Hiroi

Halifax Asset ManagementAlec Menikoff

Henderson Global Investors (Singapore) LimitedChris Reilly

HinesMichael Purefoy

Hong Kong LandRaymond ChowCosimo Jencks

HSBCJason Kern

Huhan AdvisoryKen Rhee

Industry Superannuation Property TrustRob Pepicelli

Invesco Global Real Estate Asia Paci�cRyukichi Nakata

Investa Property GroupScott MacDonald

Ivanhoe CambridgeRichard Vogel

Jones Lang LaSalleGraham CouttsChristopher Fossick

J.P. MorganCraig Smith

J.P. Morgan Investment ManagementTyler E. Goodwin

J.P. Morgan Securities (Asia Paci�c) Bryan Southergill

K&L Gates LLPAmy Sommers

Kenedix Realty Inc.Taisuke Miyajima

Knight FrankColin Fitzgerald

LaSalle Investment ManagementYasuo NakashimaMark N. Gabbay

Lend LeaseMark Menhinnitt

LUCRF SuperDuncan Graham

M3 Capital PartnersDaniel Krefman

Macquarie BankAntony Green

MercerPadraig Brown

Merrill Lynch Japan SecuritiesJames J. Haines

MGPAChristopher AndrewsConnie Peng

MGPA JapanShigeaki Shigemasa

Mirvac GroupStephen Gould

インタビュー回答者一覧Mitsubishi Corp.–UBS RealtyTakuya Kuga

Mitsubishi Jisho Investment AdvisorsTetsuji Arimori

Mitsui Fudosan Investment AdvisorsAkira Ikeda

Moelis & Co.Julian BigginsBen Wong

Morgan StanleyPaul Snushall

Morgan Stanley Real Estate Hoke Slaughter

Mori Building Co., Ltd.Hiroo Mori

The Net Group Charlie Rufino

Nippon ResCap InvestorsKen Fridley

Oaktree JapanToshi J. Kuroda

Orion PartnersSteve Bass

Pam�eetDougie ChrichtonAndrew Moore

Payce ConsolidatedBrian Bailison

Pramerica Real Estate InvestorsHenry Chin

Professional Property Services GroupNicholas Brooke

PrologisHamid R. Moghadam

Property Council of AustraliaPeter Verwer

Prudential Property Investment Management Private LimitedErle Spratt

RREEF Real EstateLeslie ChuaKoichiro ObuKurt W. Roeloffs

Sabana Shari’ah Compliant Real Estate Investment TrustKevin Xayaraj Tay

Savills JapanChristian Mancini

Secured Capital Investment ManagementNaoya Nakata

SilkRoad Property PartnersPeter Wittendorp

SIMCONeil Matthews

SM Prime HoldingsHans Sy

Standard Chartered BankBrian ChinappiMark Ebbinghaus

Starr InternationalAlison Cooke

Stockland GroupJohn Schroder

Sumitomo CorporationYukimune Hanamura

Sumitomo Mitsui Trust Real Estate Investment ManagementMitsuo KimuraTakeshi Fujita

Telstra SuperGreg Lee

Tokio Marine Property Investment ManagementMasashi Hirano

Tokyu Land Capital ManagementHitoshi Maehara

Tokyu Real Estate Investment ManagementMasahiro Horie

Touchstone Capital ManagementFred Uruma

UBSGrant McCasker

Valad Property GroupJennifer LambertNic Lyons

VFMCPete King

Westmont Japan InvestmentsNaritoshi Minami

Wyndham HotelsRegina Wu

Page 30: 20133ii Emerging Trends in Real Estate® 2013 エグゼクティブサマリー 2 012年の年末に向け、アジアの多くの市場では投資家心理が不確実さ を増しており、世界経済の見通しが悪化していることへの警戒感が見

54 Emerging Trends in Real Estate® Asia Pacific 2013

支援団体

PwCのリアルエステートプラクティスは、不動産投資顧問業者、不動産投資信託、上場・非上場の不動産投資家、法人、不動産運用ファンドによる不動産戦略の策定、不動産の取得や売却の評価、不動産の鑑定や価値算定を支援しており、専任の不動産専門家からなるグローバルなネットワークを活かし、資本市場、システム分析、実施、研究、会計、税務の各分野の専門家で構成された最も適切なチームを編成し、クライアントにサービスを提供している。

Global Real Estate Leadership Team

Kees HageGlobal Real Estate LeaderLuxembourg, Luxembourg

Uwe StoschekGlobal Real Estate Tax LeaderEuropean, Middle East & Africa Real Estate LeaderBerlin, Germany

R. Byron Carlock Jr.National Real Estate Practice LeaderDallas, Texas, U.S.A.

Mitchell M. RoschelleNational Real Estate Advisory Practice LeaderNew York, New York, U.S.A.

Timothy ConlonNational Real Estate Assurance LeaderNew York, New York, U.S.A.

Paul RyanNational Real Estate Tax LeaderNew York, New York, U.S.A.

K.K. SoAsia Pacific Real Estate Tax LeaderHong Kong, China

www.pwc.com

会員によって支えられている非営利の教育・研究機関であるULIは、責任ある土地利用および世界中で繁栄するコミュニティを創出・維持するうえでリーダーシップを発揮することを使命としている。

■ 不動産各分野や土地利用政策のリーダーの招集、意見交換によるベストプラクティスの共有、コミュニティニーズへの対応

■ 指導、対話、問題解決を通じて、ULIの会員同士または外部との協力を推進

■ 都市化、環境保全、都市再生、土地利用、資本形成、サスティナブル開発に関する課題を探求

■ 建築環境および自然環境の独自性を尊重する土地利用政策や設計方針を推進

■ 教育、応用研究、出版物、電子媒体を通じた知識を共有 ■ 現地慣行の広範なグローバルネットワークと、現在および将来の課題に向き合うアドバイザリー活動の維持

1936年に創設され全世界で30,000人を超える会員を擁するULIは、土地活用や土地開発のあらゆる部分に関わっている。ULIは会員の積極的な参加および経験や情報の共有を通じて不動産開発の実践における優れた基準を定めており、都市の計画、発展、開発に関する客観的な情報源として世界中から高い評価を受けている。

Patrick L. PhillipsChief Executive Officer, Urban Land Institute

ULI Center for Capital Markets and Real Estate

Dean SchwankeSenior Vice President and Executive Directorwww.uli.org/capitalmarketscenter

ULI Asia Pacific

John FitzgeraldSenior Vice President and Executive Directorwww.uli.org/asia

Urban Land Institute 1025 Thomas Jefferson Street, NWSuite 500 WestWashington, DC 20007202-624-7000www.uli.org

Page 31: 20133ii Emerging Trends in Real Estate® 2013 エグゼクティブサマリー 2 012年の年末に向け、アジアの多くの市場では投資家心理が不確実さ を増しており、世界経済の見通しが悪化していることへの警戒感が見

Emerging Trends in Real Estate® Asia Paci�c 2013 

共同報告書

「Emerging Trends in Real Estate ® アジア太平洋 2013年版」は英語版の原文を翻訳したものです。万が一誤訳や間違った解釈があった場合は英語版が優先します。

タッチストーン・キャピタル証券株式会社、青山リアルティー・アドバイザーズ株式会社の協賛の下、日本語版を発行しています。

制作協賛

ARAAoyama Realty Advisors Inc.