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バリア・ブンタウ省 環境に配慮した産業発展戦略実行が本格化 民間投資を強力に促進 1 JICA は、2015 年以降、国の経済発展・産業振興支援の 新しいアプローチとして「地方起点経済開発」を進めて います。経済振興を強く推進している地方省には、党書 記や人民委員長等強力なリーダーが存在し、明確な開発 方針の下、外資系企業等を積極的に誘致し、事業の迅速 化を促進しています。JICA はこの点に着目し、強力なリ ーダーシップを持つ地方省政府をカウンターパートと し、外資及び製造業・農業などの産業集積による経済成 長の達成を目指すというアプローチで、地方省にて「成 功モデル」を創出し、それを全国展開して、国全体の経 済発展・産業振興を盛り立てていこうと考えまし た。 そのモデル省の一つとして、JICA は、バリア・ ブンタウ省を選定し、同省の産業発展戦略策定を支 援してきました。同省は、道路・港湾等のインフラ 整備、電力や上水の安定供給、原油・天然ガスの生 産により、早期から重化学工業・素材産業を集積さ せてきましたが、2008 年以降、水質汚濁等の環境 問題が深刻化したため、省政府は環境汚染リスクの ある事業の投資誘致及び許可を制限する政策を実施 バリア・ブンタウ省による講演 目次 【巻頭】 ・バリア・ブンタウ省環境に配慮した産業発展戦略実行が本格 化 民間投資を強力に促進 【成長と競争力強化】 タイビン火力発電所の完成 日本企業の技術・製品が大きく 貢献・ベトナム建設労働安全技術基準セミナー開催 ・第6回ジャパン・ベトナムフェスティバル(JVF)農業セミナー 「ベトナム農業の持続可能な発展に向けて」の開催 クアンニン省における「グラウンドアンカー工法」実証サイト視察 会の開催 1 2 3 3 【脆弱への対応】 ・温室効果ガス削減の対策にかかわるワークショップの開催 ・在来豚の凍結精子バンクがスタートしました ・日本の森林管理や地域資源活用について学ぶ本邦研修の実施 【その他】 ・ハノイ日本人学校と生徒が入賞、2018 年度 JICA エッセイコ ンテスト ・Voice of Expert 専門家便り ・Voice of Alumnae 卒業生便リ ・ベトナム文化紹介 「マム鍋-ベトナム南西部の郷土料理」 ・2018 年度エッセイコンテスト「佳作」森雄大さんの作品 4 5 5 6 7 8 8 9 第 126 号(2019 年 2・3 月号) 2019 年 4 月 4 日発行 News FROM ベトナム事務所

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バリア・ブンタウ省

環境に配慮した産業発展戦略実行が本格化

民間投資を強力に促進

1

JICA は、2015 年以降、国の経済発展・産業振興支援の

新しいアプローチとして「地方起点経済開発」を進めて

います。経済振興を強く推進している地方省には、党書

記や人民委員長等強力なリーダーが存在し、明確な開発

方針の下、外資系企業等を積極的に誘致し、事業の迅速

化を促進しています。JICA はこの点に着目し、強力なリ

ーダーシップを持つ地方省政府をカウンターパートと

し、外資及び製造業・農業などの産業集積による経済成

長の達成を目指すというアプローチで、地方省にて「成

功モデル」を創出し、それを全国展開して、国全体の経

済発展・産業振興を盛り立てていこうと考えまし

た。

そのモデル省の一つとして、JICA は、バリア・

ブンタウ省を選定し、同省の産業発展戦略策定を支

援してきました。同省は、道路・港湾等のインフラ

整備、電力や上水の安定供給、原油・天然ガスの生

産により、早期から重化学工業・素材産業を集積さ

せてきましたが、2008 年以降、水質汚濁等の環境

問題が深刻化したため、省政府は環境汚染リスクの

ある事業の投資誘致及び許可を制限する政策を実施

バリア・ブンタウ省による講演

目次

【巻頭】

・バリア・ブンタウ省環境に配慮した産業発展戦略実行が本格

化 民間投資を強力に促進

【成長と競争力強化】

・タイビン火力発電所の完成 日本企業の技術・製品が大きく

貢献・ベトナム建設労働安全技術基準セミナー開催

・第6回ジャパン・ベトナムフェスティバル(JVF)農業セミナー

「ベトナム農業の持続可能な発展に向けて」の開催

・クアンニン省における「グラウンドアンカー工法」実証サイト視察

会の開催

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【脆弱への対応】

・温室効果ガス削減の対策にかかわるワークショップの開催

・在来豚の凍結精子バンクがスタートしました

・日本の森林管理や地域資源活用について学ぶ本邦研修の実施

【その他】

・ハノイ日本人学校と生徒が入賞、2018年度 JICAエッセイコ

ンテスト

・Voice of Expert 専門家便り

・Voice of Alumnae 卒業生便リ

・ベトナム文化紹介 「マム鍋-ベトナム南西部の郷土料理」

・2018年度エッセイコンテスト「佳作」森雄大さんの作品

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第 126 号(2019年 2・3月号) 2019 年 4月 4日発行

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ベトナム事務所

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しました。その結果、省への新規投資が鈍化し経済

発展が停滞してしまいました。JICA は、2016 年9月

から基礎調査を通じ、同省が目指すべき環境に配慮

した産業発展戦略として、1つのゴール、3つの目

標、9つの戦略を提案しました。現在、これら戦略

は同省人民委員会により承認され、省の正式な政策

として決定されています。

JICA は引き続き同省による戦略実行を支援してい

ます。中でも、「目標1:産業構造強靭化」を強力

に進めていくためには、ターゲット産業に対する民

間投資を呼び込まなければなりません。直近の取組

として、JICA は、本年3月に、ベトナム計画投資省、

国際機関日本アセアンセンターが、在タイ日系企業

向けに共催した「ベトナム投資フォーラム」(於:

バンコク)へバリア・ブンタウ省計画投資局・商工

局の幹部を招聘し、同省の環境に配慮した産業発展

戦略を説明、在タイ日系企業へ「タイプラスワン」

の候補地として、バリア・ブンタウ省への投資を呼

びかける機会を設けました。

バリア・ブンタウ省は、ホーチミン市から車で約

1~2時間の距離に位置し、液化石油ガスのパイプ

ラインが敷設され、省内には天然ガス発電所がある

ほか、円借款にて支援した深水港カイメップ・チー

バイ港があります。また、ホーチミン市とバリア・

ブンタウ省との位置関係が、タイの首都バンコクと

その南東に位置する東部臨海地域との関係に地政学

的にも近似していることから JICA は、同省の戦略策

定にあたって、タイの東部臨海開発計画をモデルに

しました。1980 年代初頭のタイでは、農産物や鉱産

物以外に輸出品がなく、経済は閉塞感に覆われてい

ました。そこで工業化・近代化を目指し、持ち上が

ったのが東部臨海開発計画です。現在、東部臨海地

域は自動車産業等の集積地としてタイの経済を牽引

する一大工業地域になり、経済発展の成功例として

周辺 ASEAN 諸国が視察に来るほどになりました。バ

リア・ブンタウ省が戦略を実行し、「ベトナムの東

部臨海開発」の成功例として、この国の経済をより

一層牽引する存在になれるか、同省の今後の取組に

かかっています。

タイビン火力発電所の完成

日本企業の技術・製品が大きく貢献

2月 14 日、有償資金協力「タイビン火力発電所及

び送電線建設事業」により建設された火力発電所の

完工式典が開催されました。

式典にはグエン・スアン・フック首相、チャン・

クオック・ヴオン党中央監査委員会委員長、グエ

ン・ホン・ズィエン タイビン省党委書記の他、官

房長官、計画投資大臣、商工大臣、交通運輸大臣、

法務大臣、天然資源・環境大臣等の政府及び党幹部

が多数出席しました。フック首相からは、スピーチ

の中で日本政府及び JICA からの資金協力に対して謝

意が表明されました。

成長と競争力強化

オープニングセレモニー。小中 JICA ベトナム事務所長、岡部公使、

タイン EVN 会長、丸紅パワーシステムズ(株)大越会長ほか

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バリア・ブンタウ省環境に配慮した産業発展戦略

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本事業の円借款承諾額は合計 1,219 億 8,400 万円

で、ベトナムにおける電力分野では最大規模です。

発電所の建設には多くの日本企業が関与しており、

その質の高い技術・製品がベトナムの電力供給能力

の増強に貢献することが期待されます。具体的な企

業としては、全体請負企業の丸紅(株)の他、蒸気タ

ービン及び発電機に富士電機(株)、電気集塵機に三

菱日立パワーシステムズ(株)、排煙脱硫システムに

川崎重工(株)、水処理設備にオルガノ(株)、土木・

建築工事に東亜建設工業(株)等が参画しています。

今回、合計発電容量 600MWの発電所が稼働開始し

たことにより、日本の協力で運転開始したベトナム

国内の発電所の数は 11、合計発電容量は 4,595MW に

達し、これは、ベトナム全国の発電容量の約1割を

占めます。これら電力開発事業がますますの経済発

展に寄与することが期待されます。

第6回ジャパン・ベトナムフェスティバル(JVF)農業セミナー

「ベトナム農業の持続可能な発展に向けて」の開催

1月 18 日、ホーチミン市にて、第6回ジャパ

ン・ベトナムフェスティバル(JVF)の連携イベント

として、JICA 主催、ベトナム農業・農村開発省、ベ

トナム農民協会後援の農業セミナー「ベトナム農業

の持続可能な発展に向けて」が開催されました。本

セミナーには、第6回 JVF 実行委員長・日越友好議

員連盟武部勤特別顧問、同連盟福井照事務局長、ベ

トナム共産党中央委員・ベンチェ省共産党委員会

ファン・ヴァン・マイ常任副書記をはじめとする日

越の関係者が出席しました。一般からも、定員 200

名に対し 300 名の参加があり、関心の高さがうかが

われました。

ベトナムの経済社会発展において農業は重要な役

割を果たしており、JICA は民間企業と連携しながら

フードバリューチェーン構築のための協力を進めて

います。本セミナーでは、持続可能な農業及び農村

の構築には、農村の生産性向上と消費者を意識した

付加価値の向上や、市場と生産地のつながりの強化

によるフードバリューチェーンの構築が重要であり、

そのための人材育成が不可欠であることが確認され

ました。

セミナーは二部構成で行われ、第一部講演では、

JICA 木村専門家による「生産性向上および高付加価

値化に向けた日本の農業の取組」と題する講演が行

われたほか、ベトナム政府、JICA、日本企業等の取

組が紹介されました。第二部パネルディスカッショ

ンでは、JICA ベトナム事務所 小中所長の進行の下、

日本政府とベトナム政府の日越農業協力対話を基と

した、官民の取り組みが紹介され、特に当時で活躍

する日系企業(Pizza 4Ps、グッドライフ社)の説明

に注目が集まりました。

クアンニン省における

「グラウンドアンカー工法」実証サイト視察会の開催

1月 18 日、ベトナム道路総局(DRVN)および株式

会社エスイー(東京都)の協力の下、JICA 企業提案

型事業「道路法面災害対策技術(グラウンドアンカ

ー工法)の普及・実証事業」の一環として、実証サ

イトにおける視察会が行われました。実証サイトは、

クアンニン省ハロン市国道 18 号バイチャイ橋近傍連

絡道路沿いに位置しており、視察会にはクアンニン

省交通運輸局や交通運輸科学技術院等関連部署の代

表者総勢 30名が参加しました。

DRVN の統計では、ベトナムの全国道(約2万 654

キロ)の内、山岳地形を通る国道は約3割を占め、

雨期には頻繁に法面の地すべり災害が発生していま

成長と競争力強化

成長と競争力強化

農業セミナーパネルディスカッションのグッドライフ社新村社長

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す。しかし、予算制約や技術力不足等により、その

対策は一時的な応急復旧のみに留まっており、再発

の危険性のほか、交通安全に深刻な影響を与えてい

ます。

本視察会では、新たに適用される「SEEE グラウン

ドアンカー工法」*と、既存の工法との比較優位を検

証するため、実際に導入するグラウンドアンカーの

実物や掘削の現場、アンカーの設置の方法等が披露

されるとともに、導入する技術について質疑応答が

行われました。JICA はこれら優れた技術の導入によ

る災害に強い交通インフラの整備に貢献していきま

す。

道路法面災害対策技術(グラウンドアンカー工法)の普及・実証事業

https://www2.jica.go.jp/ja/priv_sme_partner/document/586/F151039_summa

ry.pdf

*SEEE グラウンドアンカー工法

http://www.se-kankyobosai.jp/product/anchor_u.php

http://seee-association.org/index2.html

温室効果ガス削減の対策にかかわるワークショップの開催

JICA とベトナム天然資源・環境省(MONRE)は

気候変動にかかわる技術協力「国としての適切な

緩和行動(NAMA)策定及び実施支援プロジェクト

(SPI-NAMA プロジェクト)の成果報告のためのワー

クショップをハノイおよびホーチミンで開催しまし

た。

国連の気候変動枠組条約第 24 回締約国会議

(COP24)ではパリ協定のルールブック(実施方針)

が採択され、開発途上国/先進国の二分論によらず

双方が温室効果ガスの削減を実施していくことが決

定し、各国が本格的な対策を作り、実施に移してい

くステージに入りました。これらの対策を推進して

いくため、ベトナム政府は現在、気候変動にかかわ

るロードマップ政令の策定・承認を進めており、こ

れを JICA が本プロジェクトを通じて支援しています。

本ワークショップではその政令にかかわる最新状況

や、ホーチミン市でのビル省エネ対策、ホーチミン

港での低炭素技術の導入実現可能性調査の成果等が

報告されました。

ベトナムでは改革・開放を目指すドイモイ(刷新)

政策による経済成長が著しい 1990 年代以降、温室効

果ガスの排出量が急激に増加している他、温暖化に

伴う洪水等の被害も深刻な問題となっています。本

プロジェクトは 2015 年に開始されましたが、2019

年度はこれまでの取り組みに加え、日本の国立環境

研究所が開発した「アジア太平洋統合評価モデル

(AIM)」*を用いたホーチミン市における 2030 年ま

での温室効果ガス排出量の将来推計を行います。こ

れにより、ベトナム政府の削減目標に即した「気候

変動行動計画」の更新への貢献が期待されています。

「国としての適切な緩和行動(NAMA)」策定及び実施支援プロジェクト

https://www.jica.go.jp/project/vietnam/036/outline/index.html

*AIM

http://www-iam.nies.go.jp/aim/index_j.html

脆弱性への対応

国道沿いの斜面に法枠を設置。“SEEE グラウンドアンカー工法”に

より容易にグラウンドアンカーの設置・維持管理が可能に

講師候補生代表ダオ・クアン・ミン氏

ホーチミン市で行われた温室効果ガス削減対策のワークショップ

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在来豚の凍結精子バンクがスタートしました

ベトナムには多様な品種の在来豚が生息していま

すが、その多くが山岳地帯の少数民族、零細・小規

模養豚農家によって飼育されています。しかし、在

来豚は飼養効率が低いことから、生産性向上のため

に西洋品種の導入と在来品種との交雑が無秩序に進

められました。その結果、在来希少品種の個体数が

激減するという事態を招いています。

ベトナム在来豚は、地球温暖化等による環境変化

に耐えられ、高い抗病性を有する遺伝資源であると

同時に、実験動物や医用動物としての利用も期待さ

れています。SATREPS「ベトナム在来ブタ資源の遺伝

子バンクの設立と多様性維持が可能な持続的生産シ

ステムの構築プロジェクト」では、生物多様性維持

の観点から、貴重な在来豚品種の保全のため、精子

の遺伝子バンクシステムの確立を目指して協力を行

っています。

2015 年のプロジェクト開始から2年間で、全国 22

省、32 品種、2,033 個体の在来豚耳介組織サンプル

を収集、DNA を抽出しました。さらに十分な頭数の

サンプルが得られた在来豚 25 品種については西洋豚

3品種を加え系統解析を行いました。

分析結果に基づいて、交雑の進んでいない地域や

省を優先して雄豚を調達、精子を採取、凍結し、マ

イナス 196 度の液体窒素に保存する作業を開始しま

した。これまでにハザン、ライチャウ省 からの2品

種の在来豚の精子凍結が行われ、今般、畜産研究所

に設置された大型液体窒素タンクに移されました。

ブタの毛色や体の形等の外形的情報は別途データ

ベースとして保存しています。精子に比べて、卵や

受精卵の凍結保存は困難とされており、プロジェク

トでは卵や受精卵の凍結保存の最適化を目指して実

験を重ねています。残り1年の期間に、凍結精子の

保存とデータベースの確立を行いますが、将来的に

は卵や受精卵の凍結も含めて、ベトナム国の遺伝子

バンクシステムとして確立することを目指していま

す。

SATREPS[ベトナム在来ブタ資源の遺伝子バンクの設立と多様性維持が可能な持

続的生産システムの構築プロジェクト]

https://www.jica.go.jp/project/vietnam/033/index.html

日本の森林管理や地域資源活用について学ぶ本邦研修の実施

技術協力「持続的自然資源管理プロジェクト」で

は、2月 25 日から3月2日までの6日間、ベトナム

の中央政府及び地方省の行政官 12 名を日本に招き、

持続的な森林管理及び地域資源活用をテーマとした

本邦研修を実施しました。

脆弱性への対応

擬牝台を使ってライチョウ省の雄豚から

精液を採取

脆弱性への対応

大型液体窒素タンクに保存

徐々に温度を下げ、精子の破壊を防止

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最初に訪れた和歌山県田辺市では、世界農業遺産

に登録されている「みなべ・田辺の梅システム」に

ついて学び、梅の生産農家、備長炭を生産する窯等

を見学しました。また、日本の森林・林業政策の概

要や、和歌山県の「紀の国森づくり税」の活用につ

いて学ぶとともに、世界遺産「紀伊山地の霊場と参

詣道」や、企業の森づくり活動の現場を訪れました。

続いて、大阪府柏原市の地域のぶどう生産の歴史を

受け継いだワイナリーを訪れ、ワインの生産と観光

を結びつける取組を視察しました。

研修生は、各地で地元の方々と積極的に交流し、

今回の研修内容で得た知見をベトナム国内でどのよ

うに活かせるかについて熱心に議論していました。

また、「ベトナムでも梅の生産・加工を積極的に進

めていきたい」「マスコミを活用し世界各地からお

客さんを呼び込む工夫を参考にしたい」等の感想が

ありました。

過疎化・高齢化の進む山村で放置される森林が増

える日本と、人口増加・過剰利用の圧力で森林の質

の低下が進むベトナムは、両国ともこれら課題に対

処するための新しい法律が制定・施行される等、森

林・林業にとって大きな転換期を迎えています。今

後とも両国が課題解決のための良きパートナーとし

て歩んでいけるよう、今回の研修がその一助となる

ことを期待しています。

持続的自然資源管理プロジェクト

https://www.jica.go.jp/project/vietnam/037/index.html

ハノイ日本人学校と生徒が入賞、

2018年度 JICAエッセイコンテスト

JICA 主催「2018 年度国際協力中学生・高校生エッ

セイコンテスト」の中学生の部で、ハノイ日本人学

校中学部 1 年生の森雄大さんが佳作を受賞* しまし

た。また同時に、本コンテストに多数作品の応募が

あった学校として、ハノイ日本人学校が「学校賞」

を受賞しました。

本コンテストは次世代を担う中・高生を対象に、

開発途上国の現状や日本との関係について理解を深

め、自分たち一人ひとりがどう行動すべきかを考え

ることを目的として、これまで中学生の部は 23 回、

高校生の部は 57 回実施しています。今年度は「世界

の幸せのために、私たちができること」をテーマと

し、中学生の部には、全国から 37, 748 点の作品が

寄せられました。

今年度を含む過去の上位入賞作品については、ウ

ェブページから閲覧が可能です。

https://www.jica.go.jp/hiroba/program/apply/essay/past.html *森雄大さんの作品は、本月報の最後に掲載しています。

紀州備長炭発見館にて備長炭の特徴について説明を受ける研修生

中学生の部「佳作」に入賞したハノイ日本人学校森雄大さんと茅根校長 小林次長より「学校賞」を授与

その他

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Voice of Expert 専門家便り 「宝さがし」や「自慢の伝統料理競技会」を通じ

観光開発・地域開発を推進

「私は、公益財団法人国際開発救援財団(FIDR:フ

ァイダー)のベトナム事務所に駐在し、2017 年8月

から JICA 草の根技術協力事業で実施している「ナム

ザン郡少数民族地域における地域活性化のための人

材育成事業」のプロジェクト・マネージャーをして

います。FIDR は 1990 年に発足した民間の国際協力

団体で、1991 年にベトナムへの支援活動を開始し、

1998 年に中部ダナン市に事務所を設立しました。こ

の 20 年間、中部のダナン市をはじめ、クァンナム省、

トゥア・ティエン・フエ省、コントゥム省等で農業

を通した食糧生産支援事業や子どもの栄養改善事業、

観光開発事業等、地域のニーズに沿った幅広い分野

の地域開発事業を実施してきました。

本事業では、「宝さがし」という手法や「自慢の

伝統料理競技会」等を通して観光開発や地域開発を

推進し、その中から「これは!」と思うものを製品

化したり、観光開発で活用したりしています。その

ため、村の人たちに自分の宝を持参し、披露しても

らうことも多いのですが、中には日本人の私にとっ

て(きっと、キン族のスタッフにとっても)、ユニ

ークなものや不思議なもの、想像が及ばないもの等

が多く含まれます。特に「伝統料理協議会」では、

各村対抗なので、なかなかお目にかかれない代物が

出てきます。今までで「とても貴重で賞」「とても

ユニークで賞」(残念ながら観光ツアーでは使えな

いのですが・・・)を受賞したのは、「小型コウモ

リのコラーゲンプルプル煮っころがし」、「風味豊

かな竹育ちの生ホワイト芋虫クリーミー仕立て」、

「数の子風?季節限定アリさんの卵」等等、審査員

の私にとっては、めまいがしそうな、いえいえ、ユ

ニークなものをいただく大変貴重な機会でもありま

す。

さてそんな中、手工芸部門で、少数民族の男性の

ほとんどがいつも持参される自慢の一品があります。

それは「手作りの罠」です。この罠は、今もなお素

晴らしい成果を出してくれるようで、その自慢の罠

の説明になると「こんなにすごいんだ!」と興奮が

収まらず、ほぼ毎回制限時間を超えます。中部の少

数民族で最大勢力のカトゥー族の男性が作る罠は、

なんと 100 種類以上あるそうです。イノシシ・野生

豚用、鳥用、鹿用、小型動物用…その他もろもろの

動物別特製の罠が次々に登場するので、予定時間を

大幅に超えた大議論になります。罠の大半は、一見

先が円く縛られているただのヒモ(失礼!)に見え

るのですが、熱のこもった説明から「深い意味と想

いがこもっているのだ」と、実感します。

それぞれの地域や人々には、それぞれの想いとア

イデンティティ、生活の中で培った道具や文化があ

ります。今後も、少しでも多くの「地域の宝」を皆

さんに紹介するお手伝いができればよいな、と思っ

ています。ぜひ、皆様もベトナム中部にお越しくだ

さい。

大槻修子(おおつき のぶこ)

東京農業大学卒業後、国際

協力機構(JICA)の青年海

外協力隊隊員や造園緑化業、

国際連合開発計画(UNDP)

の農業専門家を経て、2004

年から公益財団法人「国際

開発救援財団(FIDR)」ベ

トナム事務所代表としてダ

ナンに駐在。

草の根「ベトナム国ナムザン郡少数民族地域における住民主体による地域活性

化のための人材育成事業」

https://www.jica.go.jp/partner/kusanone/partner/vie_22.html

FIDR:http://www.fidr.or.jp/about/about.html

カトゥー族ツーリズム:http://cotucbt.jimdo.com/

小動物の罠を仕掛けるカトゥー族男性(左)とカトゥー族の踊り

JICAベトナム事務所では、本月報を通じて皆様との情報共有を目指しています。ご意見、ご要望は、 [email protected]までお送り下さい。

Website https://www.jica.go.jp/vietnam/index.html (日・越・英) Facebook https://www.facebook.com/jicavietnam (越) 発行:JICAベトナム事務所 広報班

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2018年度エッセイコンテスト中学生の部「佳作」に入賞した森雄大さんの作品