熱力学Ⅰ - mech.akita-u.ac.jp

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- 1 - 熱力学Ⅰ Thermodynamics I (改訂第5版) 秋田大学理工学部 システムデザイン工学科 機械工学コース Mechanical Engineering Course Department of Systems Design Engineering Faculty of Engineering Science Akita University 田 子

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熱力学Ⅰ

Thermodynamics I

(改訂第5版)

秋田大学理工学部

システムデザイン工学科

機械工学コース

Mechanical Engineering Course

Department of Systems Design Engineering

Faculty of Engineering Science

Akita University

田 子 真

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目 次

熱力学とは ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 6

熱力学の基本法則 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 7

熱力学で対象とする系 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 9

温度,エネルギーの概念 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 10

エントロピーの概念 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 11

熱力学の第3法則 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 15

カルノーエンジン ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 16

カルノーサイクルの4つのステップ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 16

pV線図の物理的意味 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 20

カルノーサイクルのpV線図 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 21

カルノーサイクルのTS線図 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 23

TS線図の物理的意味 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 25

カルノーサイクルの熱効率 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 25

エンタルピーの定義 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 26

定常流動系(開いた系)におけるエネルギーバランス式 ・・・・・・・・・ 27

絶対仕事と工業仕事 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 28

ベルヌーイの定理 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 29

蒸気の性質と状態変化 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 31

蒸気線図 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 33

pv線図上の等温線 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 34

ガスの液化 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 34

TS線図上の等圧線 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 34

湿り飽和蒸気の乾き度 x ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 34

湿り飽和蒸気の状態量 v, u, h, s ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 34

蒸気の熱量的状態量 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 36

比熱の定義 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 37

蒸気表 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 42

蒸気サイクル ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 43

ランキンサイクル ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 43

ランキンサイクルの各線図 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 43

モリエ線図 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 44

ランキンサイクルにおける各ステップの説明 ・・・・・・・・・・・・・・ 44

ランキンサイクルにおけるエネルギー収支 ・・・・・・・・・・・・・・・ 45

ランキンサイクルの熱効率を向上させる方法 ・・・・・・・・・・・・・・ 46

再熱サイクル ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 47

再熱サイクルのTS線図・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 48

再熱サイクルにおけるエネルギー収支 ・・・・・・・・・・・・・・・・・ 49

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掲載した図・表の説明

図1 「熱力学」に貢献した重要人物

図2 孤立系

図3 閉鎖系

図4 開放系

図5 互いに接している系1(25個の原子から構成)と系2(75個の原子から構成)

図6 10個の ON原子から構成された系1と 90 個の OFF原子から構成された系2

図7 カルノーエンジン

図8 カルノーサイクルの4つのステップ

図9 膨張変化

図10 圧縮変化

図11 カルノーサイクルの pv 線図

図12 ピストン・シリンダ系

図13 pV 線図

図14 カルノーサイクルの pV 線図

図15 高温槽と低温槽よりなる系

図16 等温膨張変化

図17 断熱膨張変化

図18 等温圧縮変化

図19 断熱圧縮変化

図20 TS 線図

図21 カルノーサイクルの TS 線図

図22 定常流動系(開いた系)

図23 閉じた系と絶対仕事

図24 絶対仕事と工業仕事

図25 蒸気の種類と用途

図26 標準大気圧 p0(0.101MPa)における水の状態変化

図27 沸騰過程に対する pv 線図

図28 pv 線図上の等温線(等温変化)

図29 TS 線図上の等圧線(等圧変化)

図30 乾き度 x と湿り度 1-x の関係

図31 湿り飽和蒸気の比体積 v と乾き度 x との相互関係

図32 標準大気圧下における水の状態変化(TS 線図)

図33 (a)(b)間の熱量(液体熱)

図34 (b)~(d)間の熱量(蒸発の潜熱)

図35 (d)(e)間の熱量(過熱の熱)

図36 蒸気表の種類

図37 蒸気原動所の機器の配置(ランキンサイクルの系統図)

図38 ランキンサイクルの pv 線図

図39 ランキンサイクルの TS 線図

図40 ランキンサイクルの hs 線図

図41 ボイラー・過熱器からの受熱量

図42 復水器からの放熱量

図43 有効仕事量

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図44 初圧を上げることによる TS 線図上の変化

図45 初温を上げることによる TS 線図上の変化

図46 排圧を下げることによる TS 線図上の変化

図47 再熱サイクルの系統図

図48 再熱サイクルの TS 線図

表1 系1と系2の温度の時間変化

表2 系1と系2の物理量の変化

表3 新しい温度の定義式 T newによる系1と系2の温度

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熱力学とは(熱力学の目的と対象)

力の作用点がある距離だけ動くと,「力(force)」は「仕事(work)」をなし,これに

よって物体のポテンシャルエネルギーや運動エネルギーが変化する.

自然界は,エネルギー(energy)の変化を伴いながら,時々刻々とその姿を変えている.

その方向を決めるのは,熱力学の第2法則

自然界において最も基本的な現象は

物体の位置,運動状態の変化

「力(force)」によって生じている

エネルギーはジュール(J)の単位で測られる量

( 1(J)は,1(N)の力が距離 1(m)作用するときの仕事量 )

しかし,エネルギーの変化に関連して面倒な問題がある.

一般に,摩擦や抵抗の現象が付随して生じ,エネルギーの一部が消えてしまう.

もちろん

消滅したエネルギー ⇒ 物体内の分子・原子・電子などの保有エネルギーに変化

熱力学の第1法則(エネルギー保存則)

熱力学は,微視的立場(分子など物質の構成微粒子の挙動から現象を説明する)で

はなく,巨視的立場(人間の感覚で識別できる程度の大きさの対象を考える)に立っ

て,厳密に理論を構成するものであり,また,誰もが当然と考える経験的事実を基盤

にしている.

それでいて,驚くほどの広さと深さをもち,実際,熱力学が適用される範囲は非常

に広い.例えば,自動車・航空機・その他のエンジン,エアコン,冷蔵庫,部屋の空

調,火力・原子力発電,などに応用される.

したがって, 熱力学は,エネルギーに関して最も基本的な学問

「工学技術者のための熱力学」 甲藤好郎 養賢堂

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熱力学の基本法則

熱力学の第0法則( the zeroth law of thermodynamics )

(1931年頃,R.H.Fowler によって公式化され命名)

系Aと系Bが熱平衡にあり,系Bと系Cが熱平衡にあれば,系Aと系Cは熱平衡

にある.

という概念を表す

熱力学の第1法則( the first law of thermodynamics )

① 孤立系の保有するエネルギーは一定に保たれる.

② 熱は仕事と同様にエネルギーの移動形態の一つであり,熱と仕事は相互に変換

することが可能である.(James Prescott Joule, 1818~1889, イギリス)

③ 数式的表現 dQ dU pdV= +

dQ : 系に流入したエネルギー

dU : 系の内部エネルギーの変化量

pdV : 系が外部に対してなした仕事

なお,物理学では,dU dQ pdV= + として,系になされた仕事を正(プラス)と考えている.

という概念を表す

熱力学の第2法則( the second law of thermodynamics )

① ケルビンの表現(William Thomson, Lord Kelvin,1824~1907, イギリス)

ある温度の一物体から熱を奪い,そのすべてを仕事に変えるのみで,それ以

外には何の変化も残さないような装置を作ることは不可能である.

② クラウジウスの表現(Rudolf Clausius, 1822~1888, ドイツ)

熱はそれ自身で(すなわち,それ以外に何の変化も残さずに)低温物体から

高温物体へ移ることは不可能である.

③ カルノーの表現(Nicolas Leonard Sadi Carnot, 1796~1832, フランス)

高温熱源から吸収した熱(Q1)で仕事(L)を生じさせるには,その代償とし

てその熱をいくらか(Q2)低温熱源に捨てなければならない.

という概念を表す

その他

④ 1つの熱源から熱を得て,それをすべて仕事に変えるような熱機関は存在しない.

(高等学校 改訂物理ⅠB,第一学習社)

熱力学の第3法則( the third law of thermodynamics )

物質の温度を絶対零度にはできない.

(1906 年,W.H.Nernst によって提唱)

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(a) (b) (c) (d) (e)

熱力学における重要人物

ニコラス・レオナール・サディ・カルノー

Nicolas Leonard Sadi Carnot

1796-1832

ジェームス・プレスコット・ジュール

James Prescott Joule

1818-1889

ルドルフ・クラウジウス

Rudolf Clausius

1822-1888

ウィリアム・トムソン(後のケルビン卿)

William Thomson (Lord Kelvin)

1824-1907

ルードヴィッヒ・ボルツマン

Ludwig Boltzmann

1844-1906

(a) ニコラス・レオナール・サディ・カルノー,フランスの物理学者,

『サディ・カルノーの父は,ナポレオン政府で戦闘省大臣を務めていた人であり,また,サディの

甥は,のちに共和政府の大統領になった人物である.一方,サディ・カルノー自身は,1814 年パリ郊

外で,英国を旗頭とする対仏同盟との戦争に参加していた.その戦争は,フランスの敗北に終わり,

戦後の混乱の中でカルノーは,フランスの敗因は,産業の遅れにあると結論づけた.

英国とフランスとを比較したとき,両国の力の差は,蒸気機関をいかに有効に利用しているか,と

いう点に集約されるのではないかと彼は考えた.もし,英国から蒸気機関をとりあげたら,その軍事

力の核心が崩れてしまうだろうというのが,カルノーの見方だった.

その結論は,こうである.「蒸気機関がなければ,鉱山を採掘できないから,石炭がなくなるだろ

う.一方,木材不足の折から,石炭の供給がたたれれば,製鉄産業に支障をきたすだろう.製鉄が振

るわなければ,武器はつくれまい.」

しかし,カルノーは,さらに深い事の本質を見抜いていた.「効率の高い蒸気動力を手に入れた者

は,産業と軍事力の面で世界を支配できるだけでなく,18 世紀末にフランスで起きたばかりの革命と

は比較にならないような,大規模な社会革命の指導者にだってなれるだろう.」とカルノーは考えた

のだった.その社会革命の大きさは,18世紀末のフランスの革命の比ではないはずである.』

『カルノーは,1796 年に生まれ,1832 年にコレラで死亡した.彼は,熱素の実在を主張したわけだ

が,それは,自らの信念に基づいて発言しているという傾向が強かった.ジュール,ケルビン,クラ

ウジウスの三人は,1818~24 年の間に生まれた.彼らの世代は,熱力学を知的舞台におしだす役割を

果たしたといえる.しかし,この新しい分野を統一し,そのころ生まれつつあったほかの新しい科学

の考え方と結びつけるには,第三の世代まで待たなければならなかった.ルードヴィッヒ・ボルツマ

ンは,1844年に生まれた.』

以上「エントロピーと秩序」熱力学第二法則への招待,ピーター・W・アトキンス著,

米沢富美子/森弘之訳 日経サイエンス より抜粋

図 1 「熱力学」に貢献した重要人物

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孤立系 ( Isolated System )

周囲の環境との間で,エネルギーと物質の授受が

ない系

例えば,魔法瓶内の系は孤立系とみなせる.

閉鎖系( Closed System )

周囲の環境との間で,エネルギーの

授受はあるが,物質の授受はない系

例えば,地球環境やピストン・

シリンダー系などは閉鎖系とみな

せる.

開放系 ( Open System )

周囲の環境との間で,エネルギーと物質の授受がある系

例えば,エンジン内の系は開放系とみなせる.

熱力学全般を通して最も重要な概念 ⇒ 熱平衡 ( Thermal Equilibrium )

熱力学の第0法則

図 2 孤立系

図 3 閉鎖系

図 4 開放系

エンジン内の系

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温度,エネルギーの概念

系1

系2

エネルギーが励起された原子(ON原子)

エネルギーが励起されていない原子(OFF原子)

現象を支配する法則,ルール

エネルギーが励起されたON原子は振動し,隣り合う原子にエネルギーを渡すと,OFF原子になる.

図5 互いに接している系 1(25個の原子から構成)と系 2(75個の原子から構成)

上図において,系 1と系 2の温度はどちらが高いか?

エネルギーが励起された原子,すなわち ON原子の数が多いと温度は?

温度を決定しているのは何か?

温度 T f

=

温度 1

log lne

AT = =

ただし,lnは natural logarithm の略

この温度の定義式に基づいて,系 1と系 2の温度の時間変化を計算してみよう.

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表 1 系 1と系 2の温度の時間変化

系 1 系 2

ON原子数 OFF原子数 T ON原子数 OFF 原子数 T

4 21 0 75 0

3 22 1 74

2 23 2 73

1 24 3 72

時間軸

エネルギーは分散する傾向にある.

エントロピーの概念

物理学

分子レベルでエントロピーSを定義

logS k W= ←ボルツマンの墓(ウィーン中央墓地)

k : ボルツマン定数

W : 乱雑さの度合(ここでは,系の内部において ON,OFF 原子がとり得る配列方法

の数)

Ludwig Boltzmann (1844~1906)

系1

系2

図6 10 個の ON 原子から構成された系 1 と

90個の OFF 原子から構成された系 2

ボルツマンの墓

(オーストリア・ウィーン)

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- 12 -

表 2 系 1と系 2の物理量の変化

系 1 系 2 系全体

ON

OFF

W1

配 列

方 法

の数

S1

(=loge W1)

T1

(=

( )1

OFF

ON

loge

)

ON

OFF

W2

配 列

方 法

の数

S2

(=loge W2)

T2

(=

( )1

OFF

ON

loge

)

S1+ S2

10 0 1 0 ― 0 90 1 0 ― 0

9 1 10 2.303 -0.455 1 89 90 4.500 0.223 6.803

8 2 45*1 3.807 -0.721 2 88

7 3 120*2 3 87

6 4 4 86

5 5 ― 5 85

4 6 6 84

3 7 7 83

2 8 8 82

1 9 9 81

0 10 1 0 10 80

*1 ON原子同士,OFF原子同士では見分けがつかない.

したがって,

10 945

2

=

*2 同様に

10 9 8120

3 2 1

=

「エネルギーが分散する傾向にある」ことは,

「エントロピーが増大する傾向にある」ことと等価

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系1のOFF原子の数(系2のON原子の数)

0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10

T

S

0

1

2

3

-1

-2

-3

0

10

20

30

系1  ○系2  △系全体 □

系1 ○系2 △

上段の温度 T の図と下段のエントロピーS の図は対応している(横軸が同じ)ので,このように

並べて描くこと.プロットした後,自在定規や雲形定規を使用してプロット点を結ぶこと(free

hand で曲線を描かない).

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系 1 の温度分布が不自然である?

そこで,新しい温度の定義式 Tnewを提案する.

( )1 1

1ln ln ln ln ln

ln

ln

new OFFT OFF ON ON OFF

T ONOFF

ON

ON

OFF

= − = − = − = − − = −

=

この新しい温度の定義式 Tnewを用いて,系 1 と系 2 の温度を計算して,表および図を作成してみ

よう.

表3 新しい温度の定義式 Tnewによる系 1と系 2の温度

系 1 系 2

ON 原子の数 OFF原子の数 T1new ON 原子の数 OFF原子の数 T2new

10 0 ― 0 90 ―

9 1 1 89

8 2 2 88

7 3 3 87

6 4 4 86

5 5 5 85

4 6 6 84

3 7 7 83

2 8 8 82

1 9 9 81

0 10 ― 10 80

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熱力学の第3法則( the third law of thermodynamics )

物質の温度を絶対零度にはできない.(1906年,W.H.Nernst*によって提唱)

熱力学の第3法則を証明するために,50個の原子で構成される系を考え,ON原子の増加ととも

に,この系の温度 Tnewがどのように変化するのか計算し,表と図を作成してみよう.

表4 50個の原子から構成される系の温度変化

系の温度 Tnew

ON 原子の数 OFF原子の数 Tnew ON 原子の数 OFF原子の数 Tnew

0 50 ― 26 24

1 49 27 23

2 48 28 22

3 47 29 21

4 46 30 20

5 45 31 19

6 44 32 18

7 43 33 17

8 42 34 16

9 41 35 15

10 40 36 14

11 39 37 13

12 38 38 12

13 37 39 11

14 36 40 10

15 35 41 9

16 34 42 8

17 33 43 7

18 32 44 6

19 31 45 5

20 30 46 4

21 29 47 3

22 28 48 2

23 27 49 1

24 26 50 0 ―

25 25 0

--------------------------------------------------------------------------------------

* ヴァルター・ヘルマン・ネルンスト(Walther Hermann Nernst, 1864 年 6月 25 日~1941年 11月 18

日)

ドイツの化学者 1920 年ノーベル化学賞を熱化学の分野の研究において受賞.彼の熱

理論は,「熱力学第 3 法則」として知られている他,電極電位を表す ネルンストの式

0ln Red

Ox

aRTE E

zF a= − が有名.

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- 16 -

カルノーエンジン

図7 カルノーエンジン

カルノーエンジンは,シリンダーに閉じ込められた気体からなる.シリンダーは,サイクルの

運転過程のいろいろな段階で,高温槽や低温槽と接触したり,あるいは断熱されたりする.サイ

クルの各段階は,準静的に(無限にゆっくりと)進み,仕事を最大限引き出せるようにする.し

たがって,流れの乱れや摩擦などによるエネルギーの損失は発生しない.(エントロピーと秩序,

P.W.Atkins,米沢富美子・森弘之 訳)

カルノーサイクルの4つのステップ

等温膨張 断熱膨張 等温圧縮 断熱圧縮

図8 カルノーサイクルの4つのステップ

等温膨張

気体が膨張 → 全体的な分子運動が弱まる → 温度が低くなる

等温圧縮

気体を圧縮 → 全体的な分子運動が活発になる → 温度が高くなる

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- 17 -

さて,カルノーサイクルの pv線図を描く前に,等温変化と断熱変化について考えてみよう.

ステップA→B:等温膨張

理想気体の状態方程式(ideal-gas equation of state )

pv RT= = 一定 ( ) ・・・(1)

ここで,p:圧力(Pa),v:比体積(m3/kg),R:気体定数(J/(kgK)),T:絶対温度(K)

1pv

(圧力 pは比体積 vに反比例する)

---------- 参考までに -----------------------------------------------------------------

体積 V(m3)の中に質量 M(kg)の気体が入っている場合には

比体積V

vM

= ・・・(2)

となり,(1)式は

Vp RT pV MRTM

= = ・・・(3)

また,密度ρ(kg/m3)を用いて比体積を表すと

比体積 1/v = ・・・(4)

となり,(1)式は

1p RT p RT= = ・・・(5)

さらに,モル数 n(mol)を用いると

wt

wt

Mn M nMM

= = ・・・(6)

ここで,M:気体の質量(kg),Mwt:気体の分子量(kg/mol)

となり,(6)式を(3)式に代入すると

wtpV nM RT= ・・・(7)

ここで

.univ wtR M R= ・・・(8)

ただし,Runiv.:普遍気体定数(universal gas constant:8.3143 J/(mol・K)

とおくと,(8)式は

.univpV nR T= ・・・(9)

となる.

普遍気体定数の計算(大気圧 0.101325(MPa)の下で 1mol 当りについて考える)

3 3101325 22 4 108 31

1 273 15

− = = =

.

( ) . ( ). ( /( ))

( ) . ( )univ

pV Pa mR J mol K

nT mol K

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- 18 -

このように,等温変化(膨張)する場合には,気体の圧力 pは比体積 vに反比例するので,pv線

図は次のようになる.

p

v

p

v

等温膨張

断熱膨張

等温膨張変化 断熱膨張変化

図9 膨張変化

ステップB→C:断熱膨張

気体が膨張すると圧力が低下するが,温度も低下する.

膨張による圧力低下の効果に加えて,温度低下による圧力低下の効果も手伝って,気体の圧力

はさらに低下する.

断熱膨張の方が,等温膨張に比べて圧力の減少が急激である.

ステップC→D:等温圧縮

等温膨張と同様に,等温変化(圧縮)の場合にも,気体の圧力 p は比体積 vに反比例する.し

たがって,比体積 vが減少すると気体の圧力 pは増加するので,pv線図は次のようになる.

p

v

p

v

断熱圧縮

等温圧縮

等温圧縮変化 断熱圧縮変化

図10 圧縮変化

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- 19 -

ステップD→A:断熱圧縮

気体を圧縮すると圧力が増加するが,温度も上昇する.

圧縮による圧力増加の効果に加えて,温度上昇による圧力増加の効果も手伝って,気体の圧力

はさらに増加する.

断熱圧縮の方が,等温圧縮に比べて圧力の増加が急激である.

かくして,カルノーサイクルの pv線図は以下のようになる.

p

v

断熱膨張

等温膨張

A

B

C

D

等温圧縮

断熱圧縮

Q1

Q2

図11 カルノーサイクルの pv線図

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- 20 -

pV線図の物理的意味

力学において

仕事=力×距離

と求められる.

今,シリンダー内の系が,準静的に微小変化し,

ピストンが微小距離 dx だけ移動したとすると,

この過程の間にピストンが周囲になした微小仕事

dL は

dL Fdx pAdx pdV= = = (10)

したがって,(10)式を経路にわたり積分すると,

仕事 Lは

e e

s sL dL pdV= = (11)

膨張過程における pV線図

一方,上述したピストン・シリンダー系の膨張過程

における pV線図は右図のようになる.

このとき,経路 s→e の下の全面積 Aは

e e

s sA dA pdV= = (12)

これより,(11)式と(12)式を比較すると

pV線図の過程曲線の下の面積 A は,仕事 L と

大きさが等しい

ことがわかる.したがって

pV線図から仕事量が明らかになる.

図12 ピストン・シリンダ系

dx

p

断面積 A

図13 pV線図

dV

p

s

ep

p

V

斜線部の微小面積 dAdA=pdV

Vs Ve

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- 21 -

カルノーサイクルの pV線図

カルノーサイクルの pV線図から

膨張仕事 > 圧縮仕事

(A→B→C) (C→D→A)

なぜならば,膨張仕事に比べ,圧縮仕事がより低い圧

力の下で行われたからである.

膨張仕事と圧縮仕事の両者の差が,外部に対してなし

た正味仕事になる.

カルノーサイクルから導かれる法則

高温熱源から吸収した熱(Q1)で仕事(L)を生じさせるには,その代償としてその熱をいくら

か(Q2)低温熱源に捨てなければならない.⇒ 熱力学の第2法則

ただし,このとき

「エネルギー」は,高温槽から低温槽に移り保存される.

⇒ Q1=L+Q2 : 熱力学の第1法則

さて,仕事は熱に 100% 変換できる.(仕事と熱は等価である)

しかし,熱は仕事に 100% 変換できない.(熱と仕事は非対称)

カルノーサイクルが教えるところ

熱と仕事の非対称性

自然の非対称性 非対称性 ⇒ 方向性 ⇒ エントロピーSと言う概念

自然な過程はエントロピーが増大する方向に進む

カルノーサイクルから導き出された熱力学の第2法則が「エントロピー増大の法則」と呼ばれ

る所以(ゆえん).

それではなぜ,自然な過程ではエントロピーが増大するのか? 調べてみよう.

p

v

断熱膨張

等温膨張

A

B

C

D

等温圧縮

断熱圧縮

Q1

Q2

L

図14 カルノーサイクルの pV線図

Page 22: 熱力学Ⅰ - mech.akita-u.ac.jp

- 22 -

自然な過程では,エントロピーSはどのように変化するのか?

図15に示すような高温槽と低温槽から構成されて

いる系について考える.

今,高温槽から低温槽に向かって dQの微小熱量が移動

しているとする.これは,自然であり,自発的な変化

であると考えられる.このとき,系のエントロピーは

どのように変化するのか計算してみる.

先ず,高温槽は dQの微小熱量を失うので,高温槽の

エントロピー変化 dS1を計算すると

1

1

dQdS

T= −

一方,低温槽では dQの微小熱量を得るので,低温槽のエンドロピー変化 dS2を計算すると

2

2

dQdS

T=

となる.

したがって,この系全体のエントロピー変化 dSは

( )1 2 1 2

1 2 2 1

1 10

dQ dQdS dS dS dQ T T

T T T T

= + = − + = −

すなわち,自然で自発的な変化によってエントロピーは増大する.

高温槽 T1

低温槽 T2

↓dQT1 >T2

図15 高温槽と低温槽よりなる系

Page 23: 熱力学Ⅰ - mech.akita-u.ac.jp

- 23 -

カルノーサイクルの TS線図

① ステップA→B : 等温膨張

エントロピー変化 dS の定義式

dQ

dS dQ TdST

= = (13)

熱力学の第1法則の数式的表現

dQ dU pdV= + (14)

これら(13),(14)式から

TdS dU pdV= + (15)

dU pdV

dST

+ = (16)

ここで,絶対温度 T > 0

絶対圧力 p > 0

となる.

さて,ステップA→Bは等温膨張より,絶対温度 Tは一定で,かつ,T > 0 (正)である.

また,(16)式の右辺において

熱量 Q1が入ってくる → dU > 0 (プラス)

膨張する → dV > 0 (プラス)

ピストンを押し出す → p > 0 (プラス)

したがって,(16)式の右辺はプラスになり,dS > 0 (エントロピーは増大する)

別の表現

膨張すれば,気体の分子運動の乱雑さが増大する → エントロピーは増大する

② ステップB→C : 断熱膨張

dQdS

T= において 0dQ =

0dQ

dST

= =

となり,等エントロピー変化する.

また,膨張すると気体の温度は低下する.

なぜならば,熱力学の第1法則

dQ dU pdV= +

において,dQ = 0 より

0 dU pdV dU pdV= + = −

となり,dV > 0であるから内部エネルギー変化 dU は減少,すなわち,温度は減少する.

図16 等温膨張変化

T (K)

S(J/K)

ATh

SA

BQ1

SB

T (K)

S(J/K)

ATh

Tc

SA

B

C

Q1

SB

図17 断熱膨張変化

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- 24 -

③ ステップC→D : 等温圧縮

ステップC→Dは等温圧縮より,絶対温度 Tは一定で,かつ,T > 0 (正)である.

また,(16)式の右辺において

熱量 Q2が放出される → dU < 0 (マイナス)

圧縮される → dV < 0 (マイナス)

ピストンを押し戻す → p > 0 (プラス)

したがって,(16)式の右辺はマイナスになり,dS < 0 (エントロピーは減少する)

別の表現

圧縮すれば,気体の分子運動の乱雑さが

減少する → エントロピーは減少する

④ ステップD→A : 断熱圧縮

dQdS

T= において 0dQ =

0dQ

dST

= =

となり,等エントロピー変化する.

また,圧縮すると気体の温度は上昇する.

なぜならば,熱力学の第1法則

dQ dU pdV= +

において,dQ=0 より

0 dU pdV dU pdV= + = −

となり,dV < 0であるから内部エネルギー

dU は増加,すなわち,温度は上昇する.

T (K)

S(J/K)

ATh

Tc

SA

B

CD

Q1

Q2SB

図18 等温圧縮変化

T (K)

S(J/K)

ATh

Tc

SA

B

CD

Q1

Q2SB

図19 断熱圧縮変化

Page 25: 熱力学Ⅰ - mech.akita-u.ac.jp

- 25 -

TS線図の物理的意味

斜線部の微小面積 dA は

dA TdS= (17)

と求められる.

したがって,経路 s→eにわたる全面積 Aは

e e

s sA dA TdS= = (18)

一方,エントロピー変化 dSの定義式から

dQ

dS dQ TdST

= = (19)

上式を経路 s→e にわたり積分すると,熱量 Qは

e e

s sQ dQ TdS= = (20)

これより,(18)式と(20)式を比較すると

TS線図の過程曲線の下の面積 A は,熱量 Q と大きさが等しい

ことがわかる.したがって

TS線図から熱量が明らかになる.

カルノーサイクルの熱効率 熱効率:thermal efficiency

熱効率ηは,次のように定義できる.

1

L

Q = (21)

ここで,L : 正味仕事, Q1 : 受熱量

また,正味仕事は

1 2L Q Q= − (22)

ここで,Q2 : 放熱量

さて,カルノーサイクルの TS線図は,

右図のように表され,TS線図の過程曲線

の下の面積が熱量 Q に等しいのであるか

ら,受熱量 Q1と放熱量 Q2は,それぞれ以

下のように求められる.

( )1 h B A hQ T S S T dS= − = (23)

( )

( )2 c C D

c B A c

Q T S S

T S S T dS

= −

= − = (24)

dS

s

eT

T

S

斜線部の微小面積 dAdA=TdS

Ss Se

図20 TS線図

T (K)

S(J/K)

ATh

Tc

SA

B

CD

Q1

Q2SB

図21 カルノーサイクルの TS線図

Page 26: 熱力学Ⅰ - mech.akita-u.ac.jp

- 26 -

ここで,Th : 高温熱源温度(高温槽の絶対温度)

Tc : 低温熱源温度(低温槽の絶対温度)

dS : エントロピーの差(=SC-SD=SB-SA)

したがって,(21)式~(24)式より

1 2 2

1 1 1

1 1 1c c

h h

T dS TQ Q QL

Q Q Q T dS T

−= = = − = − = − (25)

となる.

これより

カルノーサイクルの熱効率は,温度(高温熱源温度と低温熱源温度)のみによって決まり,ガ

スや蒸気などの作動物質には関係しない

ことがわかる.

また,カルノーサイクルの熱効率を与える(25)式から,熱効率を向上させるためには

①高温熱源温度をより高く

②低温熱源温度をより低く

すればよいこともわかる.

エンタルピー(enthalpy) h ,Hの定義

組立状態量であるエンタルピーhは,リヒャルト・モリエ(Richard Mollier, 1865~1935, ドイ

ツ人)の発案(彼の弟子,学生にヌッセルトがいた)

h u pv= + (単位質量当り) (26)

ここで,h:比エンタルピー(J/kg),u:比内部エネルギー(J/kg)

p:圧力(Pa=N/m2),v:比体積(m3/kg)

なお,pvの単位は,N/m2×m3/kg → Nm/kg → J/kg

あるいは

H U pV= + (pVの単位は,N/m2×m3 → Nm → J となり,単位は J) (27)

状態量 u,p,v の組み合わせとして,比エンタルピーhは定義されている.

なぜ,エンタルピーを定義したのか?

閉じた系のエネルギー保存則(熱力学の第1法則)は

dQ dU pdV= + (28)

単位質量当りでは

dq du pdv= + (29)

となる.

ところが,開いた系(開放系)では,物質の授受(例えば流体の出入り)があり,そのため,系

内部の

運動エネルギー : 2

2K

mwE = (K : kinematic)

Page 27: 熱力学Ⅰ - mech.akita-u.ac.jp

- 27 -

位置エネルギー : PE mgh= (P : potential,h : 高さ(height))

などを考慮する必要がある.

定常流動系(開いた系)におけるエネルギーバランス式

断面 1 断面 2

z1 z2

m1, p1, u1

v1, w1

m2, p2, u2

v2, w2

Q

Lt

上図において

m : 開いた系に出入りする流体の質量 (kg)

p : 圧力 (Pa)

u : 比内部エネルギー (J/kg)

v : 比体積 (m3/kg)

w : 流体の速度 (m/s)

Q : 開いた系に与えられる熱量 (J)

Lt : 開いた系が外部に対して行った工業仕事 (J)

(工業仕事:technical work )

この開いた系(定常流動系)に対して,エネルギー保存則を適用すると,以下のようなエネルギ

ーバランス式が成立する.

2 2

1 21 1 1 1 2 2 2 2

2 2t

w wQ m u p v gz m u p v gz L

+ + + + = + + + +

(30)

( ) ( ) ( ) ( )2 2

2 2 2 1 1 1 2 1 2 12

t

mQ m u p v m u p v w w mg z z L = + − + + − + − + (31)

ところが,大多数の工学的装置では,流体の運動エネルギーの項(断面1と断面2の運動エネ

ルギーの差)は無視でき(流速 w1と w2との差が小さい,あるいは,運動エネルギーの項が占める

割合が他の項に比べて小さい),また,位置エネルギーの項(断面1と断面2の位置エネルギー

の差)も,他の項と比較すると無視できるほど小さいと考えられるので,これらの項を省略する

図22 定常流動系(開いた系)

Page 28: 熱力学Ⅰ - mech.akita-u.ac.jp

- 28 -

( ) ( )2 2 2 1 1 1 tQ m u p v m u p v L= + − + + (32)

ここで,比エンタルピーh として,先に定義した h =u +pv なる組立状態量を用いると,(32)式

( )2 1 2 1t tQ mh mh L m h h L= − + = − + (33)

これより

( )1 2tL m h h Q= − + (34)

一般に,周囲から工学的装置への流入熱量は少なく, 0Q となり

( )1 2 1 2tL m h h H H= − = − (35)

あるいは

1 2 1 2t

t

Lh h h h

m= − = − (36)

以上のように,工業仕事 Lt, t は,エンタルピー差で計算できることになり,この点が,エンタ

ルピーが重要となる所以(ゆえん)である.

絶対仕事と工業仕事

閉じた系における熱力学の第1法則

dQ dU pdV= + において,右辺の第2項 pdV が微小仕事 dLを表して

いる.これより,絶対仕事(absolute work)Lの定義

式は

2 2

1 21 1

,L dL pdV= = (37)

ところが,開いた系(定常流動系)では,エンタルピー

差で工業仕事が求められるので,熱力学の第1法則にお

ける内部エネルギー変化 dUをエンタルピーHを用いて表

すと,エンタルピーH の定義式 H =U +pV より,U =H -pV となる.したがって,熱力学の第1法

則は

( ) ( )

( )

dQ dU pdV d H pV pdV dH d pV pdV

dH dp V pdV pdV dH Vdp

= + = − + = − +

= − + + = − (38)

これより,工業仕事(technical work)Lt の定義式は次のようになる.

1 2

2 2 1

1 1 2,tL Vdp Vdp Vdp= − = − = (39)

以上より,絶対仕事 Lと工業仕事 Lt の違いは次の図のとおりになる.

dV

p

1 2dQ

図23 閉じた系と絶対仕事

Page 29: 熱力学Ⅰ - mech.akita-u.ac.jp

- 29 -

p

VV1 V2

p1

p2

L1,2

Lt1,2

ベルヌーイの定理

ベルヌーイの定理は流体のエネルギー保存則であり,以下のように表される.

2

2.

p wz Const

g+ + = 一般的には,

2

2.

p vz Const

g+ + =

ただし,p:圧力(Pa),γ:比重量(γ=ρg(N/m3)),w,v:速度(m/s),g:重力加速度(m/s2),z:

鉛直方向座標(m)

ベルヌーイの定理の導出

開いた系(定常流動系)におけるエネルギー保存式(p.21参照のこと)を再録すると

( ) ( ) ( ) ( )2 2

2 2 2 1 1 1 2 1 2 12

t

mQ m u p v m u p v w w mg z z L= + − + + − + − + (40)

単位質量当りに対するエネルギー保存式は

( ) ( ) ( ) ( )2 2

2 2 2 1 1 1 2 1 2 1

1

2

tLQu p v u p v w w g z z

m m= + − + + − + − + (41)

ここで,改めて

Q

qm

= , tt

L

m= と置いて,それぞれ,単位質量当りの熱量,および工業仕事とする.

さらに,比エンタルピーの定義式より,1 1 1 1h u p v= + , 2 2 2 2

h u p v= + であるから,これら

を用いると,(41)式は次のように表される.

( ) ( )2 2

2 1 2 1 2 1

1

2tq h h w w g z z= − + − + − + (42)

上式を微分すると

図24 絶対仕事と工業仕事

Page 30: 熱力学Ⅰ - mech.akita-u.ac.jp

- 30 -

( )2 1 2 1 2 1 t

t

dq dh dh w dw wdw g dz dz d

dh wdw gdz d

= − + − + − +

= + + + (43)

( ( ) ( )2

2 2 2 2 2 2 2 2 22d w d w w dw w w dw w dw= = + = ← 積の微分)

また,エントロピー変化の定義式から(変化が可逆的とすれば)

dq

ds dq TdsT

= = (44)

さらに,工業仕事 t を

0t = (45)

とおくと,(43)式は次のようになる.

Tds dh wdw gdz= + + (46)

一方,熱力学の第1法則

dq du pdv= + (47)

と,エントロピー変化の定義式(熱力学の第2法則) (44)式を組み合わせると

Tds du pdv= + (48)

この式はギブスの式( Gibbs equation )と呼ばれる.また,比エンタルピーの定義式

h u pv= + (49)

の両辺を微分すると

( )dh du d pv du dp v pdv= + = + + (50)

du dh dp v pdv = − − (51)

これより,(48)式と(51)式から

( )Tds dh dp v pdv pdv

dh vdp

= − − +

= − (52)

したがって,(52)式を(46)式の左辺に代入すると

dh vdp dh wdw gdz− = + + (53)

0vdp wdw gdz + + = (54)

ところが

1

v

= ρ:密度(kg/m3) (55)

であるから,(54)式は

0dp

wdw gdz

+ + = (56)

(56)式の両辺を積分すると

.dp

wdw gdz Const

+ + = (57)

2

2.

p wgz Const

+ + = (58)

Page 31: 熱力学Ⅰ - mech.akita-u.ac.jp

- 31 -

両辺を重力加速度 g で割ると

2

2.

p wz Const

g g+ + = (59)

あるいは,γ=ρg であるから

2

2.

p wz Const

g+ + = (60)

となり,ベルヌーイの定理が導かれた.

なお,ベルヌーイの定理は

1) 定常流れ,2) 摩擦なし,3) 工業仕事なし,4) 流体は非圧縮性(密度が一定)

の場合についてのみ成立する.

蒸気の性質と状態変化

工学上,重要な作動流体(作動媒体)として,蒸気が挙げられる.

蒸気(vapour)は,場合によって気体(gas)と液体(liquid)の中間的性質をもち,したがって,理

想気体の状態方程式 pv=RT で表すことができない.← 蒸気線図が必要

蒸気の一般的特性は,上述した各種蒸気において類似となるので,最も代表的な水蒸気を取り

上げ,その性質と状態変化について理解を深めていくことにする.

蒸気

水蒸気 自然冷媒

(アンモニア,二酸化炭素)

人工冷媒

(フロンなど)

発電所

(蒸気原動機)

冷凍機

エアコン

冷凍機

エアコン

図25 蒸気の種類と用途

Page 32: 熱力学Ⅰ - mech.akita-u.ac.jp

- 32 -

水の状態変化

水, 0℃ 水, 100℃ 水, 100℃

水蒸気 水蒸気

100℃

過熱蒸気

150℃p0

p0

p0

p0

p0

Q Q Q Q

(a) (b) (c) (d) (e)

圧力が一定(この例では,p0=0.101 MPa の標準大気圧)であれば,(b)~(d)間の水および水蒸

気の温度は 100℃で一定に保たれる.

この温度は,液体の種類や圧力によって定まり,このように,液体(純物質)が沸騰を始める

温度を

飽和温度 ( saturated temperature ) ,あるいは 沸点 ( boiling temperature )

また,その時の圧力(あるいは,温度が与えられたとき,液体(純物質)が沸騰を始める圧力)

飽和圧力 ( saturation pressure )

と言う.

(a)の状態の,飽和温度以下の液体を

未飽和液 ( subcooled liquid ) ,未飽和水

圧縮液 ( compressed liquid ) ,圧縮水 ← その液体の圧力が,その温度の飽和

圧力より高いので,その分圧縮されて

いる状態にあることにより命名

(b)の状態の,飽和温度の液体を

飽和液 ( saturated liquid ) ,飽和水 ( saturated water )

(c)の状態の,飽和温度の液体と飽和温度の蒸気(水蒸気)が共存している状態の液体を

湿り飽和蒸気 ( wet saturated vapour )

(d)の状態の,すべてが飽和温度の蒸気(水蒸気)である場合を

乾き飽和蒸気 ( dry saturated vapour )

図26 標準大気圧 p0 (0.101MPa)における水の状態変化

Page 33: 熱力学Ⅰ - mech.akita-u.ac.jp

- 33 -

(e)の状態の,飽和温度以上の温度にある蒸気(水蒸気)を

過熱蒸気 ( superheated vapour )

と呼ぶ.

その他として

飽和温度と未飽和温度(圧縮液の温度)との差 ΔTsub を「サブクーリング( degree of

subcooling )」と呼び,例えば,ΔTsub=100℃-0℃=100℃ (標準大気圧における水の状態変化

の図において,(b)の状態の温度と(a)の状態の温度との差)である.

また,過熱蒸気の温度と飽和温度との差 ΔTsat を「過熱度( degree of superheat )」と呼

び,例えば,ΔTsat=150℃-100℃=50℃ (標準大気圧における水の状態変化の図において,(e)の

状態の温度と(d)の状態の温度との差)である.

蒸気線図( Steam diagram )

右の蒸気線図において,K点が

臨界点( critical point ) である.

臨界点 Kにおける

pK : 臨界圧力

( critical pressure )

TK : 臨界温度

( critical temperature )

vK : 臨界比体積(比容積)

( critical specific volume )

と呼ぶ.

臨界点の左側の曲線(飽和液(b)をつなげた曲線)を「飽和液線」と言い,臨界点の右側の曲線

(乾き飽和蒸気(d)をつなげた曲線)を「乾き飽和蒸気線」と言う.

なお,一般の状態量に対する上付き添字は

’ (プライム) : 飽和液(飽和水)

” (ダブルプライム) : 乾き飽和蒸気

を意味する.

図27 沸騰過程に対する pv線図

p

v

p0(a) (b) (c) (d) (e)

p1(a) (b) (c) (d) (e)

KpK

超臨界圧

亜臨界圧

飽和液線

乾き飽和蒸気線

Page 34: 熱力学Ⅰ - mech.akita-u.ac.jp

- 34 -

pv 線図上の等温線

pv線図上の等温線は,右図に

示すとおりである.

ガスの液化

一般に,ガスの温度がこの臨界

温度 TK より高ければ,いかに圧力

を高めても液化しない.すなわち,

ガスを液化する場合には,先ず冷却

を行い,その温度を臨界温度以下に

下げなければならない.

TS 線図上の等圧線

TS線図上の等圧線は,右図に示す

とおりである.圧力が増加するにした

がい,等圧線は上側に移動していく.

臨界圧力の下側および飽和液線が囲

む領域が「圧縮液」であり,飽和液線

と乾き飽和蒸気線が囲む領域が「湿り

飽和蒸気」であり,臨界圧力の下側お

よび乾き飽和蒸気線が囲む領域が「過

熱蒸気」である.

湿り飽和蒸気の乾き度 x

湿り飽和蒸気 1 kg の中に,乾き飽和蒸気が x kg 含まれているとき

「x」をその飽和蒸気の「乾き度( dryness, あるいは quality)」と言う.

また,「1-x」を「湿り度( wetness )」と言う.

湿り飽和蒸気の状態量 v ,u ,h ,s

v :比体積,比容積 ( specific volume )

p

v

KpK

TK

pv=RT=Const.

T3

T2

T1

T1<T2<TK<T3

湿り飽和蒸気

圧縮液

過熱蒸気

図28 pv線図上の等温線(等温変化)

T

S

KTK

pK

p1

p0

p0<p1<pK

S’ S”

過熱蒸気

湿り飽和蒸気

圧縮液

図29 TS線図上の等圧線(等圧変化)

Page 35: 熱力学Ⅰ - mech.akita-u.ac.jp

- 35 -

( )

( )

1 ' "

' " '

v x v xv

v x v v

= − +

= + − (61)

ただし,’(プライム):飽和液(水),”(ダブルプライム):乾き飽和蒸気

これらの関係を図示すると,以下のようになる.

p

v

K

飽和液線 乾き飽和蒸気線

湿り飽和蒸気

x 1-x

v’ v v”

また,湿り飽和蒸気の比体積 vと乾き度 x との相互関係を図示すると,次のようになる.

飽和液

p0

p0

p0 乾き飽和蒸気

湿り飽和蒸気

v

x0             1

v”

v

v’

x 1-x

v”-v’

v’

v”

図30 乾き度 x と湿り度 1-x の関係

図31 湿り飽和蒸気の比体積 vと乾き度 x との相互関係

Page 36: 熱力学Ⅰ - mech.akita-u.ac.jp

- 36 -

同様にして

u :比内部エネルギー ( specific internal energy )

( )

( )

1 ' "

' " '

u x u xu

u x u u

= − +

= + − (62)

h :比エンタルピー ( specific enthalpy )

( )

( )

1 ' "

' " '

'

h x h xh

h x h h

h xr

= − +

= + −

= +

(63)

ただし,r は蒸発熱,蒸発の潜熱 (latent heat of vaporization,あるいは latent heat of

evaporation) である.

s :比エントロピー ( specific entropy )

( )

( )

1 ' "

' " ' '

s x s xs

xrs x s s s

T

= − +

= + − = + (64)

なぜならば,s”-s’ は飽和液が蒸発する場合のエントロピーの増加量 ds であり,このとき,

温度 T は一定である.したがって,蒸発熱を r とすると

dQ r

dsT T

= = (65)

となるからである.

蒸気の熱量的状態量

TS 線図から,dQ=TdS の関係式を用いて熱量を

図式的に求められる.

左図に示すように,圧力一定(標準大気圧)

の下で,(a) (b) (c) (d) (e) と変化(p.26

の標準大気圧 p0における水の状態変化に対応)

するときに要する熱量は,等圧線(a) (b) (c)

(d) (e) が囲む下の面積に等しい.

このときの熱量を3種類,すなわち

① (a) (b) 間の熱量

② (b) (c) (d) 間の熱量

③ (d) (e) 間の熱量

にわけて考えてみる.

T

S

KTK

p0

S’ S”

過熱蒸気

湿り飽和蒸気

圧縮液

(a)(b) (c) (d) (e)

図32 標準大気圧下における水の状態

変化(TS線図)

Page 37: 熱力学Ⅰ - mech.akita-u.ac.jp

- 37 -

(a) (b) 間の熱量(液体熱)

与えられた圧力における 0 ℃の水 1 kg を,その圧力に相当する沸点,すなわち飽和温度 Ts (K)

まで高めるのに要する熱量を

液体熱( heat of liquid )

といい,次の関係式で与えられる.

液体熱 273 15.

sT

pq C dT= (66)

ただし,Cp:定圧比熱(J/(kg・K))

TS 線図上の過程曲線が囲む面積は,熱量を表す

ので,左図の斜線部分が「液体熱」に相当する.

-------------------------------------------------------------------------------------

さて,ここで,定圧比熱 Cpが登場したので,あらためて比熱について説明する.

比熱には2種類ある.定積比熱(定容比熱)Cvと定圧比熱 Cpである.

比熱の定義

1 kg の物体に熱量 dq が与えられ,温度が dT だけ増加した場合,この物体の比熱 C は次のよ

うに定義される.

dqCdT

= (J/(kg・K) (67)

定積比熱 Cv,定容比熱( specific heat at constant volume )

比熱の定義式から,定積比熱 Cvは次のように定義できる.

v

v

dqC

dT

=

(68)

さて,熱力学の第1法則から

dq du pdv= + (69)

ところが,定積変化であるから,dv = 0 となり,熱力学の第1法則は,dq = du ,すなわち,定

積変化(dv = 0)では,与えられた熱量 dq は内部エネルギーの増加 du となる.

したがって

T(K)

S

K

p0

S’

圧縮液

(a)

(b)TS

273.15

ql

図33 (a) (b) 間の熱量(液体熱)

Page 38: 熱力学Ⅰ - mech.akita-u.ac.jp

- 38 -

v

v v

dq duC

dT dT

= =

(70)

vdu C dT = (71)

これより,内部エネルギーの増加 (変化)duは,定積比熱 Cvを用いて求めることができる.

定圧比熱 Cp( specific heat at constant pressure )

比熱の定義式から,定圧比熱 Cpは次のように定義できる.

p p

p

dqC dq C dT

dT

= =

(72)

さて,熱力学の第1法則

dq du pdv= + (73)

と,エンタルピー(比エンタルピー)の定義式

h u pv u h pv= + = − (74)

の2つの式から

( )

( )

( )

dq du pdv

d h pv pdv

dh d pv pdv

dh dp v pdv pdv

dh vdp

= +

= − +

= − +

= − + +

= −

(75)

なる関係式が得られる.定圧変化であるから,dp = 0 となり,(75)式は dq =dh ,すなわち,定

圧変化(dp = 0)では,与えられた熱量 dq はエンタルピーの増加 dh となる.

したがって

p

p p

dq dhC

dT dT

= =

(76)

pdh C dT = (77)

これより,エンタルピーの増加 (変化)dhは,定圧比熱 Cpを用いて求めることができる.

以下,参考までに,定積比熱 Cvと定圧比熱 Cpの関係について説明する.

比エンタルピーの定義式を再録すると

h u pv= + (78)

両辺を微分すると

( )dh du d pv= + (79)

ところで,理想気体の状態方程式は

pv RT= (80)

である.これより,(79)式に,(77)式,(71)式,および(80)式を代入すると

( )

( )p v

v

dh du d pv

C dT C dT d RT

C dT RdT

= +

= +

= +

(81)

Page 39: 熱力学Ⅰ - mech.akita-u.ac.jp

- 39 -

両辺を dT でわると

p v

p v

C C R

C C R

= +

− = (82)

なる関係式が得られる.

なお,定圧比熱 Cpと定積比熱 Cvとの比

p

v

C

C = (83)

を「比熱比( ratio of specific heat )」という.

(82)式と(83)式の関係を用いると

1 1,v p

RC C R

= =

− − (84)

と求められるので,各自確認してみよう.

-------------------------------------------------------------------------------------

任意の圧力の飽和液体の比エンタルピーh’ は

0 0 0273 15.

'sT

ph h dh h C dT h q= + = + = + (85)

ただし,h0 は任意の圧力の 0 ℃の液体の比エンタルピー

任意の圧力の飽和液体の比エントロピーs’ は,同様に

0

0273 15

0273 15

0273 15

.

.

'

ln.

s

s

T

T

p p

sp

s s ds

dq dqs ds

T T

dTs C dq C dT

T

Ts C

= +

= + =

= + =

= +

(86)

ただし,s0 は任意の圧力の 0 ℃の液体の比エントロピー

また,任意の圧力の飽和液体の比内部エネルギーu’ は,次のようにして求められる.

与えられた圧力 p における 0 ℃の液体の比エンタルピーh0 は

0 0 0h u pv= + (87)

圧力 p における飽和液の比エンタルピーh’ は

' ' 'h u pv= + (88)

(88)式から(87)式を辺々引くと

( )0 0 0' ' 'h h u u p v v− = − + − (89)

ところが,(85)式から

Page 40: 熱力学Ⅰ - mech.akita-u.ac.jp

- 40 -

0 0' 'h h q h h q= + − = (90)

であるから,(90)式を(89)式の左辺に代入すると

( )0 0' 'q u u p v v= − + − (91)

( )0 0' 'u q u p v v = + − − (92)

(b)~ (d) 間の熱量(蒸発の潜熱)

沸点(飽和温度)に達した液体のすべてを乾き飽和蒸気にするために要する熱量を

蒸発の潜熱( latent heat of vaporization )

といい,その量は圧力によって定まり,乾き飽和蒸気と飽和液とのエンタルピー差で与えられる.

ただし,その変化の間,温度は変わらない.

なお,蒸発の潜熱 r は,次のように求められる.

( ) ( )

( )

" '

" " ' '

" ' " '

r h h

u pv u pv

u u p v v

= −

= + − +

= − + −

= +ψ

(93)

ただし,ρ=u”-u’ : 蒸発に伴う内部エネルギーの増加(内部潜熱,内部蒸発熱)

ψ=p(v”-v’) : 蒸発に伴う体積増加による外部仕事(外部潜熱,外部蒸発熱)

また,このとき((b)~(d)の間の湿り飽和蒸気)の比エンタルピー h ,比エントロピーs ,およ

び比内部エネルギー u は,それぞれ次のように求められる.

( )' " ' 'h h x h h h xr= + − = + (94)

( )' " ' ' 's

xrs s x s s s xds s

T= + − = + = + (95)

( )' " 'u u x u u= + − (96)

ただし,(95)式において,蒸発中の比エントロピーの増加は

" 's

r dqs s ds ds

T T− = = = (97)

(b)~(d)間の熱量を TS線図上で表すと

Page 41: 熱力学Ⅰ - mech.akita-u.ac.jp

- 41 -

TS線図上の過程曲線が囲む面積は,熱量を

表すので,左図の斜線部分が「蒸発の潜熱」

に相当する.

(d) (e) 間の熱量(過熱の熱)

過熱蒸気の温度を T とすると

ΔT = T - Ts

を,過熱度( degree of superheat )といい,そのとき,単位質量当りに加えた熱量

s

T

s pTq C dT= (98)

を,過熱の熱( heat of superheating )という.

TS線図上の過程曲線が囲む面積は,

熱量を表すので,右図の斜線部分が

「過熱の熱」に相当する.

また,このとき((d) (e)の間の過熱蒸気)

の比エンタルピー h ,比エントロピーs ,および

比内部エネルギー u は,それぞれ次のように求め

られる.

"

"

s

s

T

T

T

pT

h h dh

h C dT

= +

= +

(99)

"

"

"

s

s

s

T

T

T

T

T

p pT

s s ds

dqs

T

dTs C dq C dT

T

= +

= +

= + =

(100)

T(K)

S

K

p0

S’ S”

(b) (c) (d)TS

r

r/Ts

図34 (b)~(d) 間の熱量(蒸発の潜熱)

水の

T(K)

S

K

p0

S”

(d)TS

qs

(e)

図35 (d) (e) 間の熱量(過熱の熱)

水の

Page 42: 熱力学Ⅰ - mech.akita-u.ac.jp

- 42 -

"

"

s

s

T

T

T

v vT

u u du

u C dT du C dT

= +

= + =

(101)

蒸気表( steam table )

これらの蒸気表に記載されている物性値は

v : 比体積(比容積) ; m3/kg

h : 比エンタルピー ; kJ/kg

s : 比エントロピー ; kJ/(kg・K)

r : 蒸発の潜熱 ; kJ/kg

である.

なお,上添字は

’: 飽和液(水)

”: 乾き飽和蒸気

を意味している.

蒸気表

飽和蒸気表 過熱蒸気表

飽和液(水) 圧縮液(水) 過熱蒸気 乾き飽和蒸気

①温度基準

②圧力基準

①温度基準

②圧力基準

図36 蒸気表の種類

Page 43: 熱力学Ⅰ - mech.akita-u.ac.jp

- 43 -

蒸気サイクル

ランキンサイクル( Rankine cycle )

William John Macquorn Rankine ( 1820~1872 )*)

スコットランド人,グラスゴー大学教授

支柱の座屈(ランキン・ゴードンの式)

・蒸気ボイラー,蒸気タービン,復水器や給水ポンプを含めた蒸気原動所の理論サイクル

・カルノーサイクルの2つの等温変化(等温膨張と等温圧縮)は実現が困難であるため,これを

等圧変化に置き換えたサイクル

B : Boiler

ST : Steam Turbine

G : Generator

C : Condenser

P : Pump

ランキンサイクルの各線図

T

S

K

ph

1

1’ 1”2

34

pl

-------------------------------------------------------------------------------------

*) p.44の下段参照のこと

図37 蒸気原動所の機器の配置

(ランキンサイクルの系統図)

B

ST G

C

P

Q1

Q21

2

3

4

Superheater

Cooling water

p

v

pl 4 3

ph

1 1’ 1” 2

K

飽和液線

乾き飽和蒸気線

図38 ランキンサイクルの pv線図 図39 ランキンサイクルの TS線図

Page 44: 熱力学Ⅰ - mech.akita-u.ac.jp

- 44 -

h

s

K

ph

1 1’

1”2

3

4

pl

モリエ線図( Mollier chart )

hs 線図は,ドイツのリヒャルト・モリエ( Richard Mollier , 1863-1935 )が考案した線図

であり,「モリエ線図」とも呼ばれている.

ランキンサイクルにおける各ステップの説明

①ステップ 1→1’→1”→2 : 等圧膨張

ボイラーB と過熱器で熱量 Q1を加えて等圧加熱を行い,過熱蒸気とする.

②ステップ 2→3 : 断熱膨張

ボイラーB で発生した過熱蒸気は,蒸気タービン STに入り断熱膨張を行い,発電機 Gを回転さ

せ,電力(仕事)を発生させる.

③ステップ 3→4 : 等圧圧縮

蒸気タービンの排気が復水器 Cで冷却され,熱量 Q2を放出して復水し,飽和水となる.

④ステップ 4→1 : 断熱圧縮

飽和水を給水ポンプ P で断熱圧縮してボイラーB に送る.(実際には,この間の温度および熱

量の変化は極めて小さい)

--------------------------------------------------------------------------------------

ジェームス・ワット(James Watt, 1736-1819)が亡くなった数ヵ月後,スコットランドにはもう一

人の偉大な技術者が生まれた.彼の名はウィリアム・ジョン・マッコーン・ランキンといい,ワット

と同じように蒸気動力に深い関心を持った.彼が開発した熱サイクルはランキン・サイクルとして知

られており,原子力プラントを含むあらゆる火力発電所で用いられている.ランキンはまた材料力学

の研究でも支柱の座屈で有名であり,この研究はゴードンの名を並べて,ランキン・ゴードンの式と

いわれている.

「工学を創った天才たち」,ジェームス・カービル著,三輪修三訳,工業調査会,p.172 より抜粋

-----------------------------------------------------------------------------------------

図40 ランキンサイクルの hs線図

Page 45: 熱力学Ⅰ - mech.akita-u.ac.jp

- 45 -

T

S

K

ph

1

1’ 1”2

34

pl

56

ランキンサイクルにおけるエネルギー収支

①ステップ 1→1’→1”→2 :等圧膨張

蒸気ボイラーと過熱器で供給される熱量 Q1

Q1=h2-h1=面積(11’1”235641)

h2:タービン入口蒸気の比エンタルピー

h1:ボイラー入口圧縮水の比エンタルピー

②ステップ 2→3 :断熱膨張

蒸気タービンで発生する仕事 LT

LT=h2-h3

h3:復水器入口(タービン出口)蒸気の比エンタルピ

③ステップ 3→4 :等圧圧縮

復水器で冷却水に捨てる熱量 Q2

Q2=h3-h4=面積(43564)

h4:飽和水の比エンタルピー

④ステップ 4→1 :断熱圧縮

給水ポンプ仕事 LP

LP=h1-h4

したがって,ランキンサイクルの有効仕事 Lは

L = LT-LP

=(h2-h3)-(h1-h4)

=面積(11’1”2341)

また,ランキンサイクルの理論熱効率ηは

( ) ( )2 3 1 4

1 2 1

h h h hL

Q h h

− − −= =

− (102)

T

S

K

ph

1

1’ 1”2

34

pl

56

図41 ボイラー・過熱器からの受熱量

図42 復水器からの放熱量

図43 有効仕事量

T

S

K

ph

1

1’ 1”2

34

pl

56

Page 46: 熱力学Ⅰ - mech.akita-u.ac.jp

- 46 -

なお,通常のランキンサイクルでは,給水ポンプ仕事 LP は他の諸量に比べて小さく無視できるの

で,理論熱効率を表す(102)式は,次のように表すこともできる.

( ) ( ) ( ) ( )( ) ( )

2 3 1 4 2 3 1 4 2 3

2 1 2 4 1 4 2 4

h h h h h h h h h h

h h h h h h h h

− − − − − − −= =

− − − − − (103)

ランキンサイクルの熱効率を向上させる方法

ランキンサイクルの熱効率を表す(103)式から,熱効率を向上させるためには,以下のような操

①タービン入口蒸気の比エンタルピーh2を大きくする

蒸気タービン入口の蒸気の圧力(初圧)と温度(初温)を高くする.

②復水器入口蒸気の比エンタルピーh3を小さくする

復水器の圧力(タービンの出口圧力),すなわち,排圧を低くする.

が考えられる.

これらの操作を TS線図上で表すと,次のようになる.

1)初圧を上げる 2)初温を上げる

T

S

K

1

1’ 1”2

34

初温を上げる

この分だけ,受熱量中に占める有効仕事の割合が増加し,高温になるほど熱効率向上の度合いが大きくなる

T

S

K

1

1’ 1”2

34

56

初圧を上げる

この分だけ,復水器への放熱量が減少し,熱効率が向上する

図44 初圧を上げることによる TS 線

図上の変化

図45 初温を上げることによる TS

線図上の変化

Page 47: 熱力学Ⅰ - mech.akita-u.ac.jp

- 47 -

3)排圧を下げる

ランキンサイクルの熱効率を向上させるには,上述したような対策を施せばよいのであるが,

同時に,以下のような問題点が挙げられる.

1)使用材料の強度の点から高温化に限度がある.

2)排圧は,復水器の冷却水温度と水量に制限される.

3)初圧の高圧化と排圧の低減化に伴い,タービン出口蒸気の湿り度が増大し,タービンにおけ

る摩擦,その他の内部損失の増大に加え,腐食,浸食などを促進し,運転上の困難を引き起

こす.

再熱サイクル( Reheat Cycle )

タービン内の膨張の途中で,蒸気が湿り状態になる前に,その圧力のまま全量をタービン外へ

抽き出し,再びボイラー,あるいは再熱器(reheater)で加熱して過熱蒸気とした後,再度タービ

ンへ戻して出口圧力まで膨張させる方式

⇒ 断熱膨張過程の途中に,加熱過程を加えたサイクル

特徴

・タービン出口蒸気5の湿り度が,点5’ に比べて減少している.

・有効仕事量がランキンサイクルの面積(611’1”25’6)に比べ面積(611’1”234

56)に増大している.

T

S

K

1

1’ 1”2

34

排圧を下げる

復水器への放熱量が減少するとともに,有効仕事量が増加し,熱効率が向上する

図46 排圧を下げることによる TS 線

図上の変化

Page 48: 熱力学Ⅰ - mech.akita-u.ac.jp

- 48 -

B : Boiler

HPST: High-Pressure

Steam Turbine

LPST: Low-Pressure

Steam Turbine

G : Generator

C : Condenser

P : Pump

再熱サイクルのTS 線図

図47 再熱サイクルの系統図

図48 再熱サイクルの TS線図

B

LPST G

C

P

Q1

Q21

2

3

4

Superheater

Cooling water

HPST

5

6

RH

T

S

K

ph

1

1’

3

6

pl

1”

2 4

55’

Page 49: 熱力学Ⅰ - mech.akita-u.ac.jp

- 49 -

再熱サイクルにおけるエネルギー収支

①ステップ 1→2 : 蒸気ボイラーと過熱器で供給される熱量 Q1

Q1=h2-h1

②ステップ 2→3 : 高圧タービンで発生する仕事

LHT=h2-h3

③ステップ 3→4 : 再熱器で供給される熱量 Q1’

Q1’=h4-h3

④ステップ 4→5 : 低圧タービンで発生する仕事

LLT=h4-h5

⑤ステップ 5→6 : 復水器で冷却水に捨てる熱量(放熱量)Q2

Q2=h5-h6

⑥ステップ 6→1 : 給水ポンプの仕事

LP=h1-h6

以上より,再熱サイクルの供給総熱量 Qは

Q = Q1+Q1’

=( h2-h1 )+( h4-h3 )

=( h2-h6 )-( h1-h6 )+( h4-h3 )

=( h2-h6 )- LP + RH

ただし,LP=h1-h6

RH = h4-h3 = Q1’

また,再熱サイクルにおける有効仕事量 Lは

L = LHT + LLT - LP

= ( h2-h3 ) + ( h4-h5 ) – LP

= ( h2-h5 ) + ( h4-h3 ) – LP

= ( h2-h5 ) + RH – LP

したがって,理論熱効率ηは

( )( )

2 5

2 6

P

P

h h RH LL

Q h h RH L

− + −= =

− + − (104)

なお,給水ポンプ仕事 LPを省略すると

( )( )

2 5

2 6

h h RH

h h RH

− +

− + (105)

Page 50: 熱力学Ⅰ - mech.akita-u.ac.jp

- 50 -

ランキンサイクル,再熱サイクルの熱効率が低下する主な原因

⇒ 復水器内で冷却水に捨てられる熱量が多い,すなわち,多量な放熱による.

( 排気を凝縮させるとき,その潜熱を放出するためであり,比較的潜熱の大きい水を作動

媒体として用いている場合は避けられない.)

そこで,改善策として,再生サイクル( regenerative cycle ) が考案されているので,興味のある

人は各自勉強して下さい.