Curves and Loops in Mechanical Ventilation...5...

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Curves and Loopsin Mechanical Ventilation

Because you care

-人工呼吸中のグラフィックモニタリング-

Frank RittnerMartin Döring

日本語版

Curves and Loopsin Mechanical Ventilation

Frank RittnerMartin Döring

「人工呼吸中のグラフィックモニタリング」の

日本語版発刊にあたって

山田 芳嗣横浜市立大学医学部麻酔科学講座 教授

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現在の人工呼吸器はグラフィックモニタを搭載している機種が多い。安全かつ適切な人工呼吸を行うためには、グラフィックモニタリングをベッドサイドで常時活用することが要求される。心電図モニタやパルスオキシメトリが主として患者の生理機能だけをモニタしているのに対して、人工呼吸中のグラフィックモニタリングは患者の呼吸機能の変化と人工呼吸器の作動の両方をモニタしている。人工呼吸器は機械にしっかりと設定したのだからモニタしなくても大丈夫と放任するわけにはいかない。またアラームが鳴ったときも原因の診断にグラフィックモニタは力を発揮する。他方、患者の呼吸器系の病態や呼吸機能も時々刻々変化する。この変化を速やかに察知するためにも、グラフィックモニタリングは大変重要である。グラフィックモニタの基本的組み合わせは、気道圧・フロー・吸呼気二酸化

炭素の経時波形(カーブ)とフローボリュームのループであるといえる。圧量曲線は呼吸生理学的にはきわめて重要だが、人工呼吸中の動的圧量曲線は解釈が難しくベッドサイドモニタとしてはやや不向きである。グラフィックモニタを使いこなす上での長年の懸案は、呼吸管理に携わる多くのスタッフが4つのカーブと2つのループについての基本的事項をどうやって習得すればいいのかということであった。現実問題として、読み難くなるのでいたずらに長くはなく、しかも重要な事項は平易な言葉でしっかりと説明してある解説書が少なかった。このたび、ドレーゲル・メディカルジャパン株式会社、日本光電工業株式会社の協力を得て、人工呼吸中のグラフィックモニタリングの日本語版を出版することができた。内容は特定の人工呼吸器との関連は薄く、グラフィックモニタリングの基本的事項をきわめて適切に記述している。翻訳は横浜市大の集中治療部で人工呼吸と呼吸生理に精通した大塚将秀医師に担当していただき、正確で平易な解説にすることができた。グラフィックモニタリングの解説書の決定版であると自負している。通読してこの領域の呼吸生理学的基礎を理解する、あるいはベッドサイドで必要な部分だけを読むなど、いろいろな使い方ができると思う。是非、十二分に活用していただければ幸いである。

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「人工呼吸中のグラフィックモニタリング」の

日本語版発刊にあたって

大塚 将秀横浜市立大学医学部麻酔科学講座

本書に述べられていることは、人工呼吸療法に携わる者には、初歩的なことばかりである。これらは、日常の呼吸管理の基本であるともいえる。それほど重要な事項だが、これから呼吸管理を学ぶ者には、少なからず苦手意識があるのではないか。その原因の一つは、分かりやすく書かれたテキストがほとんどないことにある、と私は思っている。本書の原書である「curves and loops in…」という本、というより小冊子を

見たとき、私は驚いた。グラフィックモニタリングとそこから得られる呼吸生理学の基本が、平易な言葉で、ていねいに解説されていたのである。1つのことを、言葉を換えながら繰り返し説明してある。まるで赤ん坊に言葉を教えるかのように。これならば入門者にも理解してもらえるだろうと思った。本書を出版するにあたって唯一気がかりなのは、まだ評価の定まっていな

い新しい知見も盛り込まれていることである。とくに、圧量曲線の解釈はコンセンサスが広く得られていない。将来異なった解釈がなされるかもしれないと危惧しているが、原文の通り現在における標準的な説明を記述した。末筆ではありますが、本書を出版できましたことを、ドレ-ゲル・メディカルジャパン株式会社、日本光電工業株式会社の関係者各位に感謝いたします。

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目次

経時記録波形 8

■圧波形―一定フロー従量式換気の場合 8

■圧波形―圧制御型換気の場合 11

■フロー波形 12

■換気量波形 14

■波形の解釈 16

ループ波形 23

■静的圧量曲線 23

■換気中の動的圧量曲線 25

■波形の解釈 28

■フローボリュームカーブ 40

トレンド波形 42

二酸化炭素呼出曲線 46

■標準的な二酸化炭素呼出曲線 48

■波形の解釈 50

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経時記録波形

Evitaファミリーのすべての人工呼吸器には、圧波形とフロー波形のグラフィック表示機能がある。Evita4、Evita2 dura、パソコンソフトのVentViewでは、換気量波形も表示できる。いずれの機種も同時に2つ(一部の機種では3つ)の波形を表示できる。圧、フロー、換気量波形を同時に観察することで、人工呼吸器や患者に生じた変化を知ることが容易となる。1呼吸周期は、吸気相と呼気相から成り、さらにそれぞれフロ

ーがあるときとないとき(ポーズ相)に分けられる。吸気相でも、ポーズ相には肺へのガスの流入は無い。

圧波形-一定フロー従量式換気の場合

圧波形は、気道内圧の経時的な変化を表したものである。縦軸の圧はmbar(またはcmH2O)で、横軸の時間は秒で表示される。気道内圧は、コンプライアンス成分によって生じる圧と抵抗成

分によって生じる圧の和となる。コンプライアンス成分、抵抗成分ともに、人工呼吸器由来のものと患者の呼吸器系由来のものがあるが、人工呼吸器に由来する成分は一定なので、気道内圧波形の変化は患者の肺胸郭コンプライアンスと気道抵抗の変化を反映する。

*コンプライアンス:柔らかさを表す指標。1cmH2Oの圧で膨らむ体積を示す。数値が大きいほど柔らかい。単位はmL/cmH2O。

* 抵抗:ガスの通りにくさを表す指標。1L/secの速度でガスを流すために必要な圧を示す。数値が大きいほどガスが流れにくい。単位はcmH2O/L/sec。

8

圧、フロー、換気量波形は、人工呼吸

器側と患者側双方の状態を反映する

抵抗 = 気道抵抗コンプライアンス = 肺、胸郭、回路等のすべてのコンプライアンスの総和

吸気開始時、気道内圧は点Aから点Bに急上昇する。この圧上昇(∆p)は抵抗成分に由来する圧に相当し、抵抗Rと吸気フローVの積となる。

∆p=R×V

ただし、auto-PEEP(内因性PEEP、PEEPi)が存在するときには、この関係は成立しない。点Bの気道内圧は、フローや抵抗が大きくなると上昇し、小さくなると低下する。

経時記録波形

A

B

C

D E

F

気道内圧 ( mbar)

時間(秒)

抵抗成分によって 生じる圧

プラトー圧

ポーズ相

傾き (V/C)

ピーク圧

抵抗成分によって 生じる圧

コンプライアンス成分に よって生じる圧

吸気相

"PEEP" 呼入相

呼気相

(V T /C)

一定

一定フロー従量式換気の場合の圧波

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気道内圧は、点Bからピーク圧となる点Cまで直線的に上昇する。直線の傾き(∆p/∆t)は、吸気フロー(V)をコンプライアンス(C)で割った値となる。

∆p/∆t=V/C

点Cの時点で人工呼吸器は吸入ガスの送気を終了し、吸気フローはゼロとなる。送気の終了とともに、気道内圧は点Dまで速やかに低下する。

この圧の低下分は、吸気の開始時に抵抗成分によって上昇した圧と等しい。図の、点Aと点Dを結ぶ直線は、点Bと点Cを結ぶ直線と平行になる。その後、点Dから点Eまで気道内圧は若干低下する。虚脱し

ていた一部の肺胞の再拡張と回路リークがこの原因と考えられている。プラトー圧(点E)は、コンプライアンスと一回換気量で決まる。プラトー圧(Pplat)と終末呼気圧(点F、PEEP)の差(∆P)は、一回換気量(VT)を、コンプライアンス(C)で割った値となる。

∆P=Pplat-PEEP∆P=VT/C

式を変形すると、

C=VT/∆p

となる。この式によって求められたコンプライアンスを、実効コンプライアンス(effective compliance)という。プラトーの間は、人工呼吸器から送気が行われず、吸気フロ

ーはゼロである。しかし、時定数の異なる肺胞間でガスの再分布が起こり、不均一な肺胞内圧がある程度是正される。

プラトー圧は、コンプライアンスと一回

換気量で決まる

10 経時記録波形

*時定数:この場合、個々の肺胞のコンプライアンスと気道抵抗の積をいう。時定数が大きい肺胞では、同じ大きさの圧を加えても拡張に要する時間が長くなる。

点Eから呼気相となる。吸気と違い呼気は受動的に行われる。吸気時に肺胸郭系に蓄積された弾性エネルギーによって、肺胞内のガスは大気に呼出される。気道内圧は、人工呼吸器の呼気抵抗(R)と呼気フロー(Vexp)の積となる。

∆p=R×Vexp

呼気が終了すると、気道内圧は点F(PEEP)まで低下する。

圧波形-圧制御型換気の場合

pressure control ventilation(PCV)やbiphasic positiveairway pressure(BIPAP)ventilationのような圧制御型換気の圧波形は、従量式の圧波形とは全く異なる。

PCV

PEEP吸気時間

呼気時間

吸気圧

BIPAP

圧制御型換気時の圧波形

経時記録波形 11

気道内圧は、吸気開始時に呼気圧(大気圧またはPEEP)から吸気圧(Pinsp.)まで急上昇し、設定された吸気時間(Tinsp.)の間一定に保たれる。呼気は受動的に行われるため、呼気時の気道内圧波形は、

従量式換気の場合の波形と同じになる。圧制御型換気では、吸気時間の間、気道内圧が一定となるよ

うに制御されるため、気道抵抗やコンプライアンスに変化があっても圧波形は変化しない。一般に、人工呼吸器に表示される圧波形は、人工呼吸器内部で測定した回路内圧である。真の気道内圧(気管内圧)を求めるためには、いくつかの因子を考慮して計算しなければならない。

フロー波形

フロー波形は、吸気フロー(Vinsp)と呼気フロー(Vexp)の経時的変化を表したものである。縦軸のフローは L/minで、横軸の時間は秒で表示される。換気量はフローを時間積分して求めることができ、フロー波形と基線で囲まれる面積と等しくなる。吸気相のフロー波形は、換気モードによって大きく異なる。呼気相は、換気モードでなく肺胸郭と人工呼吸器のコンプライ

アンスと抵抗によって変化する。人工呼吸の吸気フロー波形には、一定フロータイプと漸減フロータイプが通常用いられる。現在のところ、吸気波形の違いは患者の予後に影響を与えないとされている。

呼気相のフロー波形は、肺胸郭と人工

呼吸器のコンプライアンスと抵抗を反

映する

12 経時記録波形

・ ・

一定フロータイプの場合、吸気相のフローが流れている期間は一定の吸気フローとなる。すなわち、吸気開始時に急速に設定フローまで立ち上がり、設定された一回換気量が送られる間その値が維持される。基線と吸気フロー曲線で囲まれた長方形の面積が一回換気量に相当する。プラトー相(ポーズ相)の始めに、吸気フローは急速にゼロとなる。プラトー相の終了とともに呼気フローが流れ始める。呼気フローは、人工呼吸器の呼気抵抗と肺や気道のコンプライアンスと抵抗の影響を受ける。一定フロータイプは、従量式換気の基本的な吸気波形である。

フロー波形

フロー

時間

吸気時間

吸気フロー

プラトー時間 フロー

時間

漸減フロータイプ 一定フロータイプ

13経時記録波形

漸減フロータイプでは、吸気の開始時に高流量に達し、その後徐々に減少する。通常は、吸気相の間にフローはゼロまで減少する。漸減フロータイプは、圧制御型換気モードの基本的な吸気波形である。

回路内圧と肺胞内圧の差が、人工呼吸器から肺胞へ吸気ガスを流す力となる。肺胞内のガス容量が増加すると、それに応じて肺胞内圧も上

昇する。圧制御型換気では回路内圧は一定に保たれているので、吸気の進行とともに肺胞内圧との圧差は減少し、吸気フローは徐々に減少する。肺胞内圧は回路内圧と等しくなるまで上昇し、その後吸気フローはゼロとなる。圧制御型換気では、吸気終了時の吸気フローがゼロで、呼気

相終了時の呼気フローもゼロになっているときは、吸気圧(Pinsp)とPEEPの差(∆P)と一回換気量(VT)からコンプライアンスが計算できる。

∆P=Pinsp-PEEPC=VT/∆P

換気量波形

換気量波形は、肺内に出入りするガス量を経時的に表したものである。通常、縦軸の換気量はmLで、横軸の時間は秒で表現する。吸気相では、換気量は徐々に増加する。プラトー相では、それ

以上肺へのガス流入がないので、換気量は一定の値を保つ。吸気相で肺に入ったガス量が一回換気量で、吸気終了時の肺内の全ガス量から機能的残気量を引いたものである。呼気相では、

吸気終了時には肺胞内圧と回路内圧

は等しくなり、それ以上吸気フローは流

れない

14 経時記録波形

受動的な呼気によって肺内のガスは呼出され、換気量波形は徐々に低下する。圧波形、フロー波形、換気量波形を同時に表示すると、これら

の関係がいっそう明らかとなる。

*機能的残気量:安静呼気位(呼気相で呼気フローがゼロとなったとき)のときに肺内に存在しているガスの量。

15経時記録波形

従量式および圧制御式人工呼吸時の

圧波形、フロー波形、換気量波形の関

時間

フロー

時間

換気量 量制御型

時間

吸気相 呼気相

吸入相 プラトー相 呼出相 休止相

フロー

換気量 圧制御型

吸入相 プラトー相

吸気相 呼気相

呼出相 休止相

時間

時間

時間

16 経時記録波形

コンプライアンスの変化

一定フロー従量式換気の場合、コンプライアンスが変化すると最高気道内圧とプラトー圧が同時に変化する。コンプライアンスの増加 → 最高気道内圧低下、プラトー圧低下コンプライアンスの減少 → 最高気道内圧上昇、プラトー圧上昇

波形の解釈

圧波形 圧

時間

17経時記録波形

吸気気道抵抗の変化

一定フロー従量式換気の場合、吸気気道抵抗が変化すると最高気道内圧だけが変化し、プラトー圧は変化しない。

気道抵抗の増加 → 最高気道内圧上昇気道抵抗の減少 → 最高気道内圧低下

呼気気道抵抗の変化は、気道内圧波形には表現されない。呼気気道抵抗の変化を知るためには、肺胞内圧波形の図が必要となる。(「フロー波形-呼気気道抵抗の増加」の項を参照)

呼気気道抵抗の変化は、気道内圧波

形には現れない。呼気気道抵抗の変

化を知るためには、肺胞内圧波形が必

要となる

ppeak

時間

圧 圧波形

自発呼吸の出現

強制換気の吸気中に患者が自発呼吸を行うと、いわゆる「ファイティング」の状態となる。吸気時間を短くして対処することが多いが、より良いのは強制換気中でも自由に自発呼吸ができる換気モード(BIPAP、AutoFlowRなど)に変更することである。

時間

吸気 呼気

圧波形

18 経時記録波形

吸気フローの自動調節-AutoFlowR

従量式強制換気モードのときにAutoFlowRオプションをonにすると、最も低い気道内圧で設定した一回換気量が得られるように吸気フローパターンが自動調節される。吸気波形は、一定フロー波形から漸減フロー波形に変化する。患者の肺コンプライアンスが変化した場合でも、一回換気量は一定に保たれる。Dragerの人工呼吸器では、“Pmax”のオプションを用いること

で気道内圧の上限を設定するプレッシャーコントロール換気を行うことができる。この場合は、患者の肺コンプライアンスが変化すると一回換気量も変動するため、コンプライアンスが変化したときにはPmaxの設定を見直す必要がある。

19経時記録波形

圧制御型換気(PCV,BIPAP)や AutoflowRを併用した従量式換気時の 吸気フロー波形

フロー波形

時間

フロー

・・

20 経時記録波形

吸気時間が十分でないときのフロー波形

漸減フローモード(圧制御式)の場合、十分な吸気時間があれば、肺胞内圧は設定された吸気圧まで上昇し、患者の肺胸郭コンプライアンスとの積で計算される一回換気量が得られる。しかし、吸気相の間にフロー波形がゼロに戻らないときは、吸気時間が短すぎるため肺胞内圧が設定された吸気圧まで上昇せず、十分な一回換気量が得られていない状況であることを示す。

吸気時間

吸気相の間にフローが ゼロに戻っていない

時間

フロー フロー波形

21経時記録波形

呼気時間が十分でないときのフロー波形

呼気相の間にフロー波形がゼロに戻らないときは、呼気が完全に終了していないことを意味する。この状態のときはauto-PEEP(PEEPi)が生じており、従量式換気の場合には肺胞内圧が上昇する。Evitaシリーズの人工呼吸器では、auto-PEEP値と呼気時に呼出

しきれずに肺胞内に残存するガス量を測定表示することができる。Auto-PEEPは、肺胞でのガス交換と肺循環に大きな影響を与えるので、測定することは重要である。Inversed ratio ventilation(IRV)のように、時定数(P.11参照)の大きな肺胞に局所的にauto-PEEPを発生させて治療効果を期待する換気モードでは、人工呼吸器でPEEPを与えるとauto-PEEPの分布にも変化が生じ、ガス交換に予期しない影響が出る可能性がある。*IRV:吸気時間より呼気時間を短く設定した強制換気モード。通常の強制換気では吸気時間より呼気時間を長く設定する。呼気時間を短くすることで、時定数の大きな肺胞ユニットでは十分な呼出ができず、auto-PEEPが生じやすくなる。IRVは、意図的にauto-PEEPを発生させてガス交換を改善させる換気モードであるともいわれている。

呼気時間

呼気相の間に呼気フローが ゼロに戻っていない

時間

フロー フロー波形

Ev i t aシリーズの人工呼吸器では、

auto-PEEP値と呼気時に呼出しきれず

に肺胞内に残存するガス量を測定表

示することができる

呼気気道抵抗が増加したときのフロー波形

緩やかな呼気フローを描いているほうが、呼気気道抵抗が増加した場合である。ネブライザーによって呼気フィルターが目詰まりを起こした場合などに見られる。呼気時間は延長し、呼気の終末に気道内圧が設定PEEP値まで低下しない可能性がある。

22 経時記録波形

時間

フロー フロー波形

静的(古典的)圧量曲線(pressure-volume curve、P-V curve)

静的圧量曲線は、スーパーシリンジ法で測定する。スーパーシリンジ法は標準的な測定法として広く用いられており[1]、圧量曲線に関する研究の多くはこの方法を用いている。この方法の最も重要なところは、フローがゼロの時点で圧と肺気量の測定を行うことである。スーパーシリンジとは内容量2000mLほどの巨大なシリンジで、これを用いて肺にガスを注入する。ガスを1回分注入して数秒後に圧測定を行い[2]、また次のガスを注入する。これを繰り返し、段階的に肺気量を変化させたときの圧を測定する方法がスーパーシリンジ法である。縦軸に肺気量(注入ガス量)、横軸にその肺気量のときの圧をプロットし、各測定点をつないで得られた曲線が静的圧量曲線である。

23

ループ波形

スーパーシリンジ法で求めた圧量曲線

圧 [mbar]

肺気量

測定点 古典的圧量曲線

測定中の連続軌跡

24 ループ波形

肺気量

従量式換気

プラトー圧

PEEP

時間

A B C

BIPAP

吸気圧

PEEP

時間

上変曲点

下変曲点

肺気量の変化(∆V)を圧の変化(∆P)で割ったものがコンプライアンス(C)である。

C=∆V/∆P

圧量曲線をみると、肺気量の変化に伴うコンプライアンスの推移を読み取ることができる。ある肺気量でのコンプライアンスは、圧量曲線の接線の傾きとして表現される。吸気(肺気量を増加させていくとき)の圧量曲線に注目してみると、通常2つの変曲点をもったS字カーブを描いていることが多い。低い圧の変曲点を下変曲点(lower inflection point、LIP)、高いほうを上変曲点(upperinflection point、UIP)という。スーパーシリンジ法で圧量曲線を求めると、呼気が終了しても肺気量は原点に戻らない。測定誤差と測定中の酸素消費が原因として指摘されている[2]が、その他の因子に関しては十分に明らかにされていない。この2つの変曲点を境として圧量曲線を3つの領域に分割し、低圧のほうからそれぞれA、B、C領域とする。A領域では、肺容量の増加にともなって、圧は急激に上昇する。虚脱していた肺胞が拡張する点といわれている下変曲点を超える(B領域)と、圧の上昇はゆるやかになり、肺容量に比例して上昇を続ける。肺胞の弾性の限界といわれている上変曲点を超える(C領域)と、圧は再度急上昇する。虚脱した肺胞は、再拡張するときに周辺の肺胞との間でずり応

力が発生して傷害を受けるが、これを避けるためにはBの領域内で換気をすることが望ましいといわれている。すなわち、下変曲点以上のPEEPをかけ、IPPV/CMV、SIMVの場合プラトー圧が上変曲点を超えないような一回換気量とする、またはBIPAP、PCVの場合吸気圧が上変曲点を超えないように設定することが推奨されている。(訳者注)圧量曲線は、測定法によって変化し、反復測定による再現性に乏しく、測定直前の換気状態の影響を受ける。また、必ずしも変曲点があるとは限らず、変曲点の意味付けに関して異論も多い。

換気中の動的圧量曲線

換気中に計測される圧量曲線は、「フローがゼロのときに測定を行う」という条件を満たしていない。フローがゼロでないと、気道や気管チューブの抵抗成分によって発生する圧が上乗せされるため、過大評価してしまうことになる。得られた圧量曲線も静的コンプライアンスの変化を表す静的圧量曲線とは異なった形となり、フローが大きいほどその違いも大きくなる。

圧量曲線と上変曲点、下変曲点

25ループ波形

呼気相の始めには、人工呼吸器は呼気弁を開放するので、圧量曲線は大気圧またはPEEP値まで速やかに低下する。一方、静的圧量曲線ではその低下は緩やかである。調節呼吸中に得られた圧量曲線では、吸気フローをゆっくりにす

ればするほどコンプライアンスを反映するようになるといわれている。

26 ループ波形

肺気量 人工呼吸器

静的圧量曲線 回路内圧

気管内圧

気管チューブによる 圧低下

気道抵抗による 圧低下

肺気量 静的圧量曲線

回路内圧による圧量曲線

回路内圧による圧量曲線

L

L

換気中に記録した圧量曲線であっても、一定フローの吸気波形ならば、静的圧量曲線とよく相関することが指摘[3]されている。これは、吸気フローが一定ならば、吸気抵抗によって発生する圧も一定なので、圧量曲線の傾きは肺胸郭のエラスタンスの影響のみを受けるからである。換気中に記録した圧量曲線は静的圧量曲線に比べて水平方向に平行移動したものとなるが、傾きはコンプライアンスのみを反映した静的圧量曲線と等しくなる。

*エラスタンス:コンプライアンスの逆数。単位体積のガスを注入したときの圧上昇を表す。数値が大きいほど堅い。

漸減吸気波形をもつ換気モード(BIPAP、PCVなど)の場合、フローの変化に伴って抵抗成分で生じる圧も変化するため、換気中の圧量曲線は肺のコンプライアンスを反映しない。

27ループ波形

漸減フロー波形の換気モード(BIPAP、

PCVなど)の場合、圧量曲線からコンプ

ライアンスを読み取るのは困難である

一定フロー従量式換気の場合

吸気時には、設定されたフローでガスが肺に満たされていくが、それに伴って回路内圧も上昇する。肺胞内圧も同様に上昇し、吸気終末には回路内圧と等しくなる(プラトー圧)。呼気時には、回路内圧がPEEP値と等しくなるように人工呼吸

器の呼気弁が大きく開放する。吸気時と異なり、肺胞内圧は回路内圧(PEEP)よりも高くなるため、肺胞内のガスは呼出され、肺容量は徐々に減少する。圧量曲線では、この1呼吸周期の変化は反時計方向に回転するように描かれる。

28 ループ波形

換気中の圧量曲線の解釈

吸気相

呼気相

圧量曲線

肺気量

29ループ波形

プレッシャーコントロール換気(漸減フロー)の場合

プレッシャーコントロール換気の場合も、圧量曲線は反時計方向に回転して描かれる。しかし、この場合は肺に入るガスフローは一定でない。吸気の開始時は人工呼吸器の供給する圧が肺胞内圧と比べて非常に大きいので、人工呼吸器から肺胞に急速にガスが流入し、肺容量が増加する。

時間

フロー

時間

圧差

回路内圧 肺胞内圧

それに伴って肺胞内圧も増加し、回路内圧との差が小さくなるとフローも小さくなる。その結果、漸減波形のフローが形成される。

30 ループ波形

吸気相

呼気相

圧量曲線

肺気量

A

B

人工呼吸器によって作られる回路内圧は、吸気相の間一定なので、プレッシャーコントロール換気中の圧量曲線は、長方形に近くなる。この圧量曲線からは、肺のコンプライアンスを推定することはできない。ただし、吸気終了時にはフローはほぼゼロとなるので、吸気開始時(点A)と吸気終了時(点B)を結ぶ線の傾きは、動的コンプライアンスを表すことになる(点A、Bではフローがゼロであることを確認する必要がある)。

持続気道内陽圧(CPAP)下の自発呼吸の場合

自発呼吸の場合、圧量曲線は時計方向に回転して描かれる。患者の吸気努力で胸腔内は陰圧になり、回路内圧も低下する。

31ループ波形

呼気相

圧量曲線 肺気量

CPAP 値

(A)

吸気相

人工呼吸器は回路内陽圧が一定となるように吸気ガスを供給するが、わずかな圧低下は生じる。設定されたCPAP値から低下した回路内圧は、人工呼吸器の吸気回路抵抗に対する患者の吸気努力とみなすことができる。

吸気補助(ASB)/プレッシャーサポートが付加された持続気道内

陽圧(CPAP)下の自発呼吸の場合

患者の自発呼吸に同期した吸気補助を行う換気モード(ASB、SIMV など)では、原点のところに小さなねじれ状の波形が見られる。吸気の開始時に患者の胸腔内は陰圧となり、肺胞内圧も陰圧となる。トリガー閾値に達すると人工呼吸器は陽圧を供給する。図は、人工呼吸器をトリガーするだけで、その後は患者の吸気努力をほとんど認めない場合の圧量曲線であるが、圧=CPAPの直線より陰圧方向に描かれた圧量曲線で囲まれた面積(A)は、患者が人工呼吸器をトリガーするために要した呼吸仕事量である。同様に、圧=CPAPの直線と陽圧方向に描かれた圧量曲線で囲まれた面積(B)は、人工呼吸器が患者の吸気をサポートするために行った呼吸仕事量である。

32 ループ波形

吸気相

呼気相

A�

B

圧量曲線 肺気量

拡大

コンプライアンスが変化した場合の圧量曲線

コンプライアンスが減少した場合(肺が硬くなった場合)、人工呼吸器の設定を変えなければ、従量式換気中の圧量曲線は吸気の立ち上がりが水平に寝た形になる。圧量曲線の吸気相の傾きの変化は、コンプライアンスの変化に比例する。

33ループ波形

圧量曲線 肺気量

圧量曲線の吸気相の傾きの変化は、

コンプライアンスの変化に比例する

気道抵抗が変化した場合の圧量曲線

一定フロー換気の場合、気道抵抗が変化しても圧量曲線の吸気相の傾きは変化しないが、位置が左右に変化する。

34 ループ波形

肺が過膨張をしている場合の圧量曲線

肺胞の一部が過膨張になると、圧量曲線の吸気相の最後に水平に寝た部分が現れる(P.23 静的圧量曲線の項参照)。

圧量曲線 肺気量

圧量曲線 肺気量

過膨張が始まる点

吸気補助(ASB)/プレッシャーサポート時の圧量曲線

吸気補助(ASB)/プレッシャーサポートの場合、サポート圧を十分高く設定して患者に呼吸促迫がなければ、人工呼吸器のトリガーをかけるだけで吸気努力をやめても、コンプライアンスとサポート圧の積で計算される換気量の換気が行われる。しかし、患者が吸気努力を吸気相の間持続すれば、人工呼吸器の設定を変えなくてもより多くのガスを吸入することができる。その場合、圧量曲線は縦軸の方向に引き伸ばされた形となり、圧量曲線の高さは患者の吸気努力と比例する。

35ループ波形

設定されたサポート圧で得られる換気量では不足の場合、患者に吸気努力が生じる。気管チューブなどの抵抗によって生じる圧を代償するために

は、最低限のサポートをかける必要がある(P.26 気管チューブ前後の圧量曲線の項参照)。

PV-Loop

患者の吸気努力がある時

患者の吸気努力がない時

肺気量 圧量曲線

36 ループ波形

気管チューブの前後の圧量曲線

人工呼吸器が測定して描出する圧量曲線は、患者の気道内の状態の一部しか表していない。実際には、人工呼吸器が圧測定しているYピース部よりも先の気管チューブや患者の気道で、さらに吸気時の圧低下が起きている。

CPAP時の気管チューブ前後の圧量曲線

吸気補助(ASB)/プレッシャーサポートがなければ、圧量曲線はCPAPレベルを中心とした細長い波形となる。圧量曲線のループのうち、CPAP値で垂直に引いた直線から左側の面積が小さいほど人工呼吸器の吸気回路抵抗に対して行う患者の呼吸仕事量が小さいことを意味する。同様に、右側の面積は人工呼吸器の呼気回路抵抗に対する呼吸仕事量を意味する。従って、ループ全体の面積は、人工呼吸器の性能を表していることになる。もし、人工呼吸器の性能比較を行う場合には、同じ測定器具を用い、同じ測定方法で、条件を揃えて行う必要がある。しかし、人工呼吸器によっては、吸気補助をゼロに設定しても3mbar程度のわずかな吸気補助がかかってしまうものがある。この場合には人工呼吸器同士の単純な比較は困難である。

CPAP値で垂直に引いた直線から左

側の圧量曲線の面積が小さいほど吸

気回路抵抗に対して行う患者の呼吸

仕事量は小さい

37ループ波形

このように、圧量曲線の面積は患者が人工呼吸器の回路抵抗に対して行った呼吸仕事量を表すが、その面積が小さくても患者の真の呼吸仕事量が常に小さいとは限らない。例えば、気管チューブの患者側で圧量曲線を記録すると、囲まれる面積は大きくなる。

PV-Loop

人工呼吸器の 呼気抵抗によって生じる 仕事量

人工呼吸器が 接続されているために 生じる呼吸仕事量

肺気量

CPAP値

38 ループ波形

気管チューブ径が小さくなるほどチューブの抵抗に対する呼吸仕事量は大きくなり[4]、患者に大きな呼吸仕事量が付加される。また、病的に気道抵抗が増加した部位がある場合は、病変部よりも末梢で圧量曲線を記録すればその面積はさらに大きくなる。

肺気量

人工呼吸器

回路内圧

気管内圧

病的に気道抵抗が 増した部位より 末梢で測定した圧

肺気量

内径8mmの気管チューブ 使用時の気管内圧ー換気量曲線

内径6,5mmの気管チューブ 使用時の気管内圧ー換気量曲線

回路内圧を用いた圧量曲線

CPAP値

気管内圧を用いた圧量曲線

39ループ波形

プレッシャーサポートによる吸気補助(ASB)

気道抵抗が増加した場合、それが病的な原因であっても挿管によるものであっても、患者の呼吸仕事量を増加させる要因となる。この呼吸仕事量の増加は、プレッシャーサポート(ASB)による補助で代償できる。補助のないCPAPの圧量曲線と比べてみると、気管チューブの患者側でも呼吸仕事量が軽減されていることがわかる。もし、圧量曲線の吸気相がCPAP値で垂直に引いた直線と重なっていれば、チューブの抵抗がちょうど代償されている状態である。

もし右に寄っている場合には、チューブの抵抗を代償するだけでなく、下気道にあるかもしれない病的に上昇した気道抵抗による呼吸仕事量の増加分を代償することも可能である。サポート圧が足りず、患者に吸気努力を強いている場合には、チューブの先で記録した圧量曲線の吸気相はCPAP値よりも低い圧となる。

肺気量

CPAP値 サポート圧

人工呼吸器

40 ループ波形

通常は、気管チューブの先で圧量曲線を記録することは不可能だが、Evita4とEvita2 duraにオプションで付属しているAutomatic Tube Compensation(ATCR)では、チューブの先の圧量曲線を描くことが可能である。抵抗成分によって生じる圧はフローと抵抗の積となるので、ATCRではフローをリアルタイムに測定してチューブの先の圧すなわち気管内圧(trachealpressure,Ptrach)を計算している。気管内圧を用いた圧量曲線を見れば、人工呼吸器の真の吸気補助や患者自身の真の呼吸仕事量を知ることが容易となる。

他のループ波形

ループ波形は、圧と量以外のパラメータを用いても描くことができる。呼吸生理学では既に利用されているが、集中治療医学領域ではあまり一般的ではない。診断に有用な波形を得るためには、患者の協力を必要とするものもある。

フローボリュームカーブ

フローボリュームカーブは、誤嚥した可能性があるときや気管支拡張療法の効果判定のときなどのように、気道抵抗の情報を得るために用いることがある。痰の貯留などで気道抵抗が上昇したときには、フローボリュームカーブが鋸歯状波形を呈することがある。気管吸引後に再度記録した波形がスムーズになっていれば、吸引のために気道抵抗が低下した証拠である。[5]

41ループ波形

慢性閉塞性肺疾患の患者では、人工呼吸器で設定したPEEP値を変化させても、auto-PEEP(PEEPi)より小さいうちは呼気相の波形に変化は生じないが、auto-PEEPよりも大きくなると変化が生じる。[1]

フローボリュームカーブ

換気量

換気量

フロー

42

トレンド波形

持続的に測定したデータを経時的にグラフ表示することで、換気状態の推移をわかりやすく表現することができる。表示する項目や表示時間は、目的に応じて適宜設定する。例えば、ウィーニングの経過を見る場合には、数日から数週間にわたるデータを表示するが、突発的な事態の解析には可能な限り細かい表示が必要となる。いろいろなパラメータの組み合わせがあるので、トレンドグラフ

は多岐にわたる応用の可能性がある。ここでは、トレンドグラフを活用するための例を示す。

43トレンド波形

ウィーニング経過

このトレンドは、SIMV回数を減少させたときの分時換気量の推移を示したものである。SIMV回数を減少させると、一時的に総分時換気量が減少したが、すぐに患者の自発換気量が代償性に増加して総分時換気量は一定に保たれている。

[1/min] 20

0 14.06. 1996 06:40 (8 h) 14.06. 1996 10:40 14.06. 1996 14:40

IMV回数

[L/min] 15

0 14.06. 1996 06:40 (8 h) 14.06. 1996 10:40 14.06. 1996 14:40

総分時換気量

[L/min] 15

0 14.06. 1996 06:40 (8 h) 14.06. 1996 10:40 14.06. 1996 14:40

自発分時換気量

44 トレンド波形

このトレンドは、その後のウィーニング経過を示したものである。ここではSIMV回数は一定に保ち、プレッシャーサポートのサポート圧を変化させている。はじめにサポート圧を下げたときは、患者の吸気努力で代償して自発分時換気量、総分時換気量ともに一定に保たれている。しかし、二度目に下げたときは十分に代償できず、分時換気量が減少したままだったので、再度サポート圧を上昇させた。

[mbar] 25

0 14.06. 1996 14:40 (8 h) 14.06. 1996 18:40 14.06. 1996 22:40

サポート圧

[L/min] 15

0 14.06. 1996 14:40 (8 h) 14.06. 1996 18:40 14.06. 1996 22:40

[L/min] 15

0 14.06. 1996 14:40 (8 h) 14.06. 1996 18:40 14.06. 1996 22:40

総分時換気量

自発分時換気量

45トレンド波形

ピーク圧とプラトー圧のトレンドから肺メカニクスの変化を知る

圧波形の項で述べたように、ピーク圧とプラトー圧の変化から、気道抵抗とコンプライアンスの変化を知ることができる(P.16参照)。プレッシャーコントロール(圧制限)を併用していない従量式換気の場合、プラトー圧(Pplat)の上昇を伴わないピーク圧(Ppeak)の上昇は気道抵抗の上昇を意味する。気道抵抗の上昇は、不十分な気管吸引や誤嚥による気道内分泌物貯留などでおこりうる。プラトー圧とピーク圧両方の上昇は、コンプライアンスの低下を意味する。

[mbar] 50

0 14.06. 1996 05:20 (2 days) 15.06. 1996 05:20 16.06. 1996 05:20

[mbar] 50

0 14.06. 1996 05:20 (2 days) 15.06. 1996 05:20 16.06. 1996 05:20

プラトー圧

[mbar] 50

0 14.06. 1996 05:20 (2 days) 15.06. 1996 05:20 16.06. 1996 05:20

PEEP

ピーク圧

気道抵抗の増大 コンプライアンスが低下しはじめた点

46

二酸化炭素呼出曲線

酸素の取り込みとともに、二酸化炭素の呼出も「呼吸」の重要な要素である。呼気中の二酸化炭素濃度は生体の生理学的状態を鋭敏に反映している。Yピースを流れる呼吸ガスの二酸化炭素濃度を経時的に測定することは、患者の状態の把握と治療効果判定の上で非常に有用である。呼吸ガス中の二酸化炭素濃度を連続測定して経時的に描いたグラフを二酸化炭素呼出曲線(カプノグラム)という。通常、縦軸は二酸化炭素の分圧または容量%で表示する。長期人工呼吸で用いる回路は非再呼吸回路なので、吸気相

の間は、二酸化炭素分圧はほとんどゼロである。呼気相のはじめは、ガス交換に関与しない死腔のガスが呼出されるので二酸化炭素分圧は低いが、その後徐々に上昇する。上昇はやがて緩やかになり、プラトー相となる。次の吸気が開始されると、二酸化炭素分圧は急速に低下して吸入気二酸化炭素分圧(通常はゼロ)に等しくなる。二酸化炭素呼出曲線は、その波形だけでなく、波形を計測し

て得られる数値も重要である。終末呼気二酸化炭素濃度は、呼気相にみられるプラトー相の高さを終末呼気時に測定したものである。呼出される二酸化炭素量を単位時間の間積分したものが二酸化炭素排泄量である。ガス交換に関与しない死腔量を計算して求めることも可能で、一回換気量に対する比として表現される。

47二酸化炭素呼出曲線

二酸化炭素呼出曲線の波形の変化や、計測されたパラメータの変化は、患者の呼吸状態の変化や人工呼吸器の設定を反映している。食道挿管の早期発見に非常に有用であることなどから、麻酔科領域では二酸化炭素呼出曲線は標準的なモニタリングになっている。それ以外にも、代謝と循環、ガス交換と換気、人工呼吸器の設定の評価など多くの情報を得ることができる。とくに、人工呼吸器の設定については、血液ガス分析値が変化する以前に、二酸化炭素排泄量の変化として評価することが可能である。Evita4とEvita2 duraでは、メインストリーム型のセンサを用いて、二酸化炭素呼出曲線や各種の計測値をリアルタイムに表示することが可能である。以下に、標準的な二酸化炭素呼出曲線の例と、臨床的に意

義のある二酸化炭素呼出曲線とトレンドの例をあげ、簡単に解説した。

48 二酸化炭素呼出曲線

標準的な二酸化炭素呼出曲線

A - B:上気道の死腔からの呼出吸気のはじめには、上気道の死腔からのガスが呼出される。死腔はガス交換に関与しないため、この相の二酸化炭素濃度はほぼゼロである。

B - C:下気道の死腔と肺胞からの呼出下気道の死腔から呼出されるガスに二酸化炭素を豊富に含む肺胞からの呼出ガスが徐々に混合するため、二酸化炭素濃度は次第に増加する。

C - D:肺胞からのガスの呼出この相は、肺胞平坦部(alveolar plateau)とよばれる。二酸化炭素濃度はわずかに上昇を続ける。主に肺胞からガスが呼出される。

D:終末呼気二酸化炭素分圧呼気の終りに二酸化炭素濃度は最も高値となる。この点の二酸化炭素分圧を終末呼気二酸化炭素分圧(endtidalCO2、etCO2)といい、ガス交換を行った肺胞内の二酸化炭素分圧に相当する。いくつかの条件を満たせば、この値は動脈血二酸化炭素分圧のよい指標となる。終末呼気二酸化炭素濃度の正常値は、およそ5.0 - 5.3%、分圧は5.1 - 5.3 kPa、38 - 40mmHgである。

D - E:吸気相吸気開始時に、二酸化炭素を含まない吸気ガスが流入するため、二酸化炭素濃度は急激に低下する。

49二酸化炭素呼出曲線

気道内圧

t

t

フロー

t

二酸化炭素分圧

C D

B A E

50 二酸化炭素呼出曲線

20

6,0

8,0

10,0

40

60

80

4 8 12 s

(mmHg) (kPa) PCO 2

二酸化炭素呼出曲線

0

4,0

2,0

20 2,0

4,0

6,0

8,0

10,0

40

60

80

10 20 30 min

(mmHg) (kPa) PETCO 2

終末呼気二酸化炭素分圧の トレンド

0

終末呼気二酸化炭素分圧の指数関数的減少

考えられる原因:人工心肺装置の運転開始心停止肺塞栓大量出血急激な血圧低下

二酸化炭素呼出曲線の解釈

51二酸化炭素呼出曲線

終末呼気二酸化炭素分圧の持続的な低値

考えられる原因:大きな分時換気量設定による過換気低体温ショック後

20 2,0

4,0

6,0

8,0

10,0

40

60

80

4 8 12 s

(mmHg) (kPa) 二酸化炭素呼出曲線

0

20 2,0

4,0

6,0

8,0

10,0

40

60

80

10 20 30 min

(mmHg) (kPa) 終末呼気二酸化炭素分圧の トレンド

0

PCO 2

PETCO 2

52 二酸化炭素呼出曲線

20 2,0

4,0

6,0

8,0

10,0

40

60

80

4 8 12 s

(mmHg) (kPa) 二酸化炭素呼出曲線

0

20 2,0

4,0

6,0

8,0

10,0

40

60

80

10 20 30 min

(mmHg) (kPa) 終末呼気二酸化炭素分圧の トレンド

0

PETCO 2

PCO 2

終末呼気二酸化炭素分圧の持続的な低値(肺胞平坦部を形成

しない場合)

考えられる原因:不十分な肺胞換気(低一回換気量、短い吸気時間など)慢性閉塞性肺疾患(COPD)上気道閉塞気管チューブ内腔の狭窄

53二酸化炭素呼出曲線

二酸化炭素分圧の急激な低下(PCO2≒0)考えられる原因:事故抜管完全気道閉塞呼吸回路の接続はずれ食道挿管(1,2呼吸後に低下する)

20 2,0

4,0

6,0

8,0

10,0

40

60

80

4 8 12 s

(mmHg) (kPa) 二酸化炭素呼出曲線

0

20 2,0

4,0

6,0

8,0

10,0

40

60

80

10 20 30 min

(mmHg) (kPa) 終末呼気二酸化炭素分圧の トレンド

0

PCO 2

PETCO 2

54 二酸化炭素呼出曲線

20 4,0

6,0

8,0

10,0

40

60

80

4 8 12 s

(mmHg) (kPa) 二酸化炭素呼出曲線

0

2,0

20 2,0

4,0

6,0

8,0

10,0

40

60

80

10 20 30 min

(mmHg) (kPa) 終末呼気二酸化炭素分圧の トレンド

0

PETCO 2

PCO 2

終末呼気二酸化炭素分圧の漸増

考えられる原因:代謝の亢進、体温の上昇(分時換気量が一定の場合)分時換気量設定を減少させた直後有効な肺胞換気量の減少

55二酸化炭素呼出曲線

二酸化炭素分圧の急激な低下(PCO2>0)考えられる原因:回路リーク気道狭窄事故抜管(チューブが咽頭内にとどまる場合)

20 2,0

4,0

6,0

8,0

10,0

40

60

80

4 8 12 s

(mmHg) (kPa) 二酸化炭素呼出曲線

0

20 2,0

4,0

6,0

8,0

10,0

40

60

80

10 20 30 min

(mmHg) (kPa) 終末呼気二酸化炭素分圧の トレンド

0

PCO 2

PETCO 2

56 二酸化炭素呼出曲線

20 4,0

6,0

8,0

10,0

40

60

80

4 8 12 s

(mmHg) (kPa) 二酸化炭素呼出曲線

0

2,0

PCO 2

肺胞平坦部が右上がり

考えられる原因:喘息発作不均等換気

57二酸化炭素呼出曲線

20 2,0

4,0

6,0

8,0

10,0

40

60

80

4 8 12 s

(mmHg) (kPa) 二酸化炭素呼出曲線

0

20 2,0

4,0

6,0

8,0

10,0

40

60

80

10 20 30 min

(mmHg) (kPa) 終末呼気二酸化炭素分圧の トレンド

0

PCO 2

PETCO 2

終末呼気二酸化炭素分圧の持続的な高値

考えられる原因:薬剤による呼吸抑制代謝性アルカローシスの呼吸性代償少なすぎる分時換気量設定

58

文献

[1]A.Nahum,Use of Pressure and Flow waveforms to MonitorMechanically Ventilated Patients,Yearbook of IntensiveCare and Emergency Medicine 1995,89-114

[2]Sydow M.,Burchardi H.,Zinserling J.,Ische H.,CroizerTh.A.,Weyland W.Improved determination of staticcompliance...; Intensive Cara Med(1991)17:108-114

[3]Marco Ranieri,Rocco Giuliani,Tommaso Fiore,MicheleDambrosio,Joseph Milic-Emili. Volume-Pressure Curve ofthe Respiratory System Predicts Effects of peep inARDS:<<Occlusion>>versus<<ConstantFlow>>Technique.Am J Respir Crit Care Med.;Vol 149.pp19-27,1994

[4]Michael Shapiro,MD;Kim Bloom,MD;RobertB.Teague,MD.Work of breathing through different sizedendotracheal tubes.Critical Care Medicine,Vol.14,NO.12

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59

60

61

MEMO

MEMO

MEMO

MEMO

2003年8月 初版発行

編 著 者:Dräger Medizintechnik GmbH監 修:山田 芳嗣発 行 所:ドレーゲル・メディカルジャパン株式会社

東京都江東区富岡2 -4 - 10(〒135 - 0047)

TEL 03 - 5245 - 4405(代表)

非売品

Printed in JapanC2003ドレーゲル・メディカルジャパン株式会社

Curves and Loopsin Mechanical Ventilation

日本語版

本書の内容の一部あるいは全部を無断で複写複製(コピー)することは、法律で定められた場合を除き、著作者、および出版社の権利の侵害となります。複写複製する場合にはあらかじめ小社あて許諾を求めてください。

監修者:山田 芳嗣(やまだ よしつぐ)昭和55年東京大学医学部卒業。同年、東京大学医学部麻酔科に入局。

平成13年4月から横浜市立大学医学部麻酔科講座教授。

主な研究領域は、呼吸生理学、人工呼吸、急性肺傷害。

訳者:大塚 将秀(おおつか まさひで)昭和60年3月、横浜市立大学医学部卒業。昭和62年、横浜市立大学医学部麻酔

科学教室入局。現在、横浜市立大学医学部附属病院集中治療部勤務。呼吸生

理学、集中治療医学を中心に研究を行い、人工呼吸療法、多臓器不全の病態お

よび治療を専門とする。

人工呼吸中のグラフィックモニタリング

eMartin Döri

Dräger Medical AG&Co.KGaAMoislinger Allee 53 - 55D-23542 LübeckGermanyphone : + 49 - 18 05 - 3 72 34 37fax : + 49 - 4 51 - 8 82 - 37 79 ドレーゲル・メディカル ジャパン株式会社 東京都江東区富岡 2-4-10 〒135-0047phone : 03 - 5245 - 4405(代表) fax : 03 - 5245 - 2035 www.draeger-medical.com 20

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資料No. SP52-004  3590’03.9. DR.B.