Title 遠隔授業の可能性と限界 沖縄大学マルチメディア教育研究...
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Title 遠隔授業の可能性と限界
Author(s) 緒方, 修; 新美, 喬之
Citation沖縄大学マルチメディア教育研究センター紀要 = TheBulletin of Multimedia Education and Research Center,University of Okinawa(10): 25-31
Issue Date 2010-03-31
URL http://hdl.handle.net/20.500.12001/6420
Rights 沖縄大学マルチメディア教育研究センター
遠隔授業の可能性と限界
緒方 修 1) 新美喬之2) ・
1)沖縄大学人文学部国際コミュニケーション学科教授
2)教育コーチ (沖縄大学大学院院生)
目次
1-ITで人は育つか
2-ITをどう活用するか
3-受講者分析
履修登録者の傾向
出席状況
フォーラムにおける考察
期末試験における考察
アンケー トに対する考察
今後の課題
4-沖縄大学の遠隔授業
(執筆担当 1、2、4-緒方修 3-新美喬之)
要約 ヴィデオオンデマンド方式による遠隔授業を沖縄大学で開始 して4年が経過した。これからのサービスは学
内ばか りではなく学外へ展開したい。 しかし遠隔授業の普及は足踏み状態だ。その理由は教材の作成にかなりの手間
がかかること、受講者が履修登録した学生に限られていることにある0
キーワー ド:ヴィデオオンデマンド 遠隔授業 IT教育
PossibilityandLimitationofRemoteTeaching
OsamuOgata(Prefesser)TakayukiNiimi(Graduatestudent)
Abstract ltbecomesfouryearssinceOkinawaUniversityhasofferedtheremoteteachngusinga
methodofon-demandvideolectures.Theselecturesarealsoexpectedcarryingoutsideofcampusinthe
future.However,thedevelopmentorexpansionoftheremoteteachinghasbeenstagnatedbecausethe
followingreasonsarebehind Requiringgreatcareformakingtheteachingmaterials,andthelectures
beingofferedonlyforthestudentswhoregisteritastheacademiccreditintheuniversity.
Keywords:on-demandvideolecture,remoteteaching,ITeducation
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1-1Tで人は育つか
沖縄大学でのヴィデオオンデマンド方式による遠隔授業(以下「遠隔授業」)を開始して4年が経過した。
教材制作から授業実施、振り返りについては本紀要や人文学部紀要に毎回報告を載せている。09年度も教
育コーチによる「受講者分析」を3章で紹介する。
ここでは手元にある雑誌や本を引用しながら、IT教育について若干の感想を述べる。
パソコンを通じた授業については、最初から批判がある。私も無邪気に「遠隔授業」を進めてきたわけで
はない。人が育つには、家庭でのしつけ、友人との付き合いがもっとも大事。自分のやるべき仕事を全うし、
世間様への義理を果たさなければ、生きる意味はない..いささか先走り過ぎたがITなど道具でしかない、
真の教育は自ら社会の現場で人と接し学ぶことにあり、と考えている。大学での授業は、教室での教師との
直接交流が第一であることは間違いない。
「IT革命」がもたらす未来像、という雑誌の特集の中で、桜井直文明治大学助教授(当時)は次のように
述べている。「(前略)アメリカの社会は、自己責任というのは、昔から「アット・ユア・オウン・リスク
(atyourownrisk)」でやれという、そういう伝統があって、それに耐えうる人間も、それなりにつくら
れている。(中略)このIT革命というものが教育のレベルに導入されたときに、一方でIT革命が要求して
いるのが、そういう自己責任の社会であるとするならば、そういうものが教育の中で、IT革命によって育
てられるだろうかというのは非常に疑問です。」-別冊「環」①IT革命一光か闇か(2000年11月発行)
この問題意識は私も同じ。遠隔授業は教室に行く必要もなく、時間に制約されることもない。だからこそ
自分で自分の時間を管理し、ちゃんと受講する時間を作らなければなければ続かない。この4年間のIT教
育の実践は、桜井氏の懸念に反して、逆に自己責任力を養成することに少しは貢献しているかもしれない。
「自己責任」に関連するが、ネット社会での発言者の記名・匿名については英語圏・日本語圏で違いが出
てきている。「2ちゃんねる」では言いっぱなしで、誰かを攻撃しても決して自分の本名を出すことはない。
卑怯ではないか、と怒っても匿名の習慣は文化的背景に根差している。渡会俊輔氏は、「現実社会とオンラ
イン・コミュニティの変容」という小論文の中で、2001年に起きた動物病院対2ちゃんねるの事件につい
てふれている。これは動物病院の経営者が名誉殼損で掲示板管理者を訴えたものだ。最高裁は、明らかに危
害を加えようとした書き込み、として動物病院の経営者側の訴えを認めている。「・・電子掲示板のような
メディアは、それが適切に利用される限り、言論を闘わせるには極めて有用な手段であるが・・匿名という
隠れみのに隠れ、自分の発言については何ら責任を負わないことを前提に発言しているのであるから・・言
論を持って対抗せよということはできない。」(「デジタル・ツナガリ拡大するコミュニティの光と影」-
NTT出版2004年10月発行」
梅田望夫氏は「匿名」性というカルチャーが、曰本語圏ネット空間の革新や成熟性を阻んでいる側面が多々
あるのではないか、と危機感を覚えるようになってき」た、と語る。これが「ネットの持つ豊饒な可能性を
限定し、さまざまな「良きもの」が英語圏ネット空間では開花しても日本語圏では開花しないのではないか
と、最近はそんな危倶を、強く抱いています。」(ウェブ時代5つの定理一文芸春秋2008年3月発行)
梅田氏の指摘した現象は、最近のメディアの劣化とも通底する所がありそうだ。テレビ局による一極集中
的・一過的・表面的な「取材」は、他の大事な問題の存在を隠蔽してしまう。「報道機関」が、右へならえ、
で同じ取材をすることが得策であるとは考えられないが、これも「寄らば大樹」の文化的背景を考えれば分
からないでもない。メディアという公共空間が自由關達な雰囲気を失っている。そこで働く人達も洪水のよ
うな一方的な流れに、自ら身を委ねているように見える。
2-1Tをどう活用するか
IT教育に話を戻せば、順調に普及している、とは言い難い。端末機器の進化が著しく、激増している割
には教材の作成は遅れている。早稲田大学で続けていたオンデマンド授業は評判は高いものの、10年度は
一部中止となった。財源が確保できないのが原因のようだ。加えて遠隔授業の戦略的強化策が取られていな
いことも原因の一つだ。学内の正規授業としてカリキュラムの中にどう位置づけ、どう活用するかを十分展
開出来なかったのではないか。学生への教育効果ばかりでなく市民対象の社会貢献活動にも活用可能であっ
た。むしろ学内ではなく、学外への展開の方が可能性が高かったのではないか。しかし従来の大学内の科目
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群の補充という役割に甘んじ、授業料を払った学生に対するサービスに留まった感がある。つまり囲い込ん
だ顧客だけしか頭になかった。これには無理もないところがある。「正規の授業」を未登録の学生・市民に
無料開放し、単位取得を認めたのでは大学の存立が危うくなる。あえて言えばこれからは大学内の縛りを解
き放ち、外の世界へと可能性を求めるべきであろう。
遠隔授業の可能性は様々だが、一つには完成度の高い教材が準備出来ることだ。もっともこの高いハード
ルが普及を妨げている面があるのも事実だ。しかしながら準備にかなりの手間暇をかけ完成させれば立派な
アーカイブとして通用する。東京大学大学院教授の吉見俊哉氏は「メディアの公共性とアーカイブの未来」
の中で次のように指摘している。「公共的な基盤をもった新たなデジタルアーカイブが生まれてくると、そ
れをベースにした新しい知識の可能性が問われ始めます。大学や博物館は、放送局や出版社にも通じる新た
な教養・文化の発信者、新たな文化主体になりえるのです。」(月刊「マスコミ市民」2010年2月号)
3-受講者分析
履修登録者の傾向
本年度の履修登録者数は32名であり、昨年の23名に比べ大幅に増えている。なお、履修登録者の内6割
以上を占める20名が前期に開講した「東西文化交流論」を受講しており、その内訳はI部(受講者35名)
から10名、Ⅱ部(受講者24名)から同じく10名である。「東西文化交流論」の受講者59名の内、約3分の
1に当たる20名が本講義を履修登録していることから、学生からは関連科目として認識されていることが
うかがえる。また、登録上の時間が同一であるI部より夜間開講であるⅡ部の方が履修登録者の割合が多い
ことから、昼間の時間的拘束を伴わない講義であることが認識されていることも推測される。
オリエンテーションにおける聞き取りやBBSへの書き込みから、過去に担当教員(緒方修)の講義を受
講したことのある者・緒方ゼミに所属している者が多くを占めていることがわかっている。
出席状況
本講義は「講義の視聴」「小テストの受験」「フォーラム(掲示板)への参加」の三行程をもって出席とし
ている。このことは事前の説明会で周知徹底を図っており、かつMoodle上でもトップページに表示されて
いる。しかしながら12月18日に行った出欠確認で皆勤と認められたのはわずか1名であり、この時点で評
価外となる三分の一以上の欠席者が13名確認された。ただし、この内10名は前回.もしくは前々回の講義
を受講しており、欠席扱いとした事由も小テストの受験かフォーラムへの参加のいずれかが欠落していたこ
とによるケースが多いことから、救済措置として冬季休暇中の補習を行い、それによる出席扱いを認めた。
各個に対する事情聴取は行っていないが、上記の様な欠落が発生した原因には以下のものが考えられる。
1.小テスト受験に関する技術的な問題
①受験後に結果を送信することを失念した注’
②制限時間制であることが理解出来ておらず、タイムアップとなった注’
③講義の切り替えに当たる時間に受講していた瀧2
2.フォーラムに関する技術的な問題
①書き込みの方法がわからない
②書き込みが反映されなかった注3
3.フォーラムに対する認識の問題
①フォーラムに参加する義務を怠った注2
②他の受講者の書き込みを読むことがフォーラムへの参加であると思った注2
注1これらについてはMoodle上で確認可能である
注2受講生からの質問による
注3昨年度において受講生から1例のみ報告ありただし運営側で再現は出来ず、他の受講生から同様の問い合わせが無いこ
とから偶発的なトラブルであったと考えられる
救済措置を施した上で、全講義を終えた時点での評価対象者は32名中26名(履修登録者の8割以上)で
ある。昨年度の評価対象者が23名中15名(約3分の2)であったことを考慮すると、学習意欲を失い受講
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を放棄した者が昨年より例が少ないことがわかる。
なお、Moodle上でチェック出来る各自のアクセス状況分析によると、多くの受講生が週に1回、同じ曜
日のまとまった時間にログインしており、通常の講義と同じ感覚で受講していることがうかがえる。木曜日
(講義内容の更新曰)を主な受講曰とする受講生が特に多い。一回のログイン時間は80分前後が最も多く、
講義ビデオが1時間弱であることから、小テストとフォーラムに20分前後の時間をかけていることがわかる。
フォーラムにおける考察
昨年度のフォーラム参加人数が11~15名であったのに対し、本年度は15~26名(概ね20名以上)が参加
している。第8週のみ20名を下回る参加者数となっているが、この週は小テスト受験者も少なかった(12
名一前後週の半数)ことから、冬季休暇に差し掛かる週で受講を失念してしまったことが原因ではないかと思われる。
フォーラムの内容に関しては、昨年と同様に講義の要約を内容としたもの、及び「○○はすごいなと思っ
た」「××に行ってみたいと思った」といった安直な感想が圧倒的多数を占めている。しかし繰り返し「独
自研究や鋭い指摘に対しては加点を行う」とアナウンスをしているせいか、後半、特に琉球・沖縄編に入ると以下の様な書き込みが見られる様になった。
『現在、東アジア共同体という構想がある中で、地理的に中心にある沖縄はこれからより注目されるのでは
ないでしょうか。米軍からすると、沖縄はキーストーンであり、重要な戦略拠点であるとのことでした。し
かし、軍事的目線ではなく、大交易時代のように沖縄がハブの役割を果たすようになれば、人や物、金の交
流がますます増え、沖縄の活性化につながるのではないかと思います。」(Y,○抜粋第7週)
「東方諸国記でレキオ人のことが大変良く記載されていることに驚いた。そのことについて少し調べたのだ
が、良い評価がほとんどで、レキオ人だけでなく琉球についても良いように記載されていた。いったいレキ
オ人が具体的に何をして、そこまで評価されたのかを今から掘り下げたいと思う。私達先代が大貿易時代に
行ったことが誇らしく思うし、私も先代のように後世に良い影響を与えられるような人になりたい。』
(KK第8週)
感想や意見を毎回求めているものの、わずか数行の短い文ばかりでは受講生の関心がどこにあるのか、講
義内容を理解してくれたのかがわかり辛い。書き込みに対して文字数制限を施すなどの措置も考えられるが、
多く書くこと自体が目的化してしまうのは本意ではない。意見の交換や受講生同士・教育コーチとの交流の
場であるというそもそもの意義を考慮すれば、上記の様な書き込みが自然に出る様な誘導こそが現状において最も必要なことであろう。
以下は早稲田大学における同講義の感想である。
『このゼミを受けてどうしても沖縄の空気に触れたくて、先日行ってきました。地政学的に、北海道が明治
以降、樺太や千島を含めて極東の防衛ラインとして開拓され、まちがつくられたように、日米のアジアに対
する防衛ラインがこの沖縄なんだろうな-と感じました。(この認識なしに基地問題議論してもはじまらな
いですよね)今回の講義で、沖縄の独立論が語られていました。北海道も、一部の人間が、食料やエネルギー
等の豊富な資源を楯に、独立論を論じることがあります。ですが、多くの道民は恥その必要性を感じておら
ず、あくまで中央に依存することが自然だと考えています。先日、沖縄を訪れたときに感じたのは、まさに、
沖縄は琉球王国であったことという歴史的事実でした。大事なのは、住民一人一人が想う“独立心,’です。
こればっかりは、100年や200年で培われるものではない気がします。うちな-んちゆの心に、独立王国で
あったという歴史的な事実が刻み込まれていて、それが自信になっている感じでしょうか。同じ島国でも、
日本に植民地として開拓されたという120年ほどの歴史の北海道民とは意識が違う感じがしました。北海道
民の「なんとかなるさ」と琉球人の「なんくるないさ~」には、語彙は同じでも深みが違うように思います。
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まち全体がオープンカフェのような感じで、お店も人も開放されていました。沖縄と北海道を比較すること
で、多くのものが見えてきて興味深いです。」(S・H第12週)
早稲田大学は沖縄大学と異なり、フォーラムへの参加を義務としていない。毎回の書き込み件数は2~4
件程度に止まっているが、自発的な発言だけあってその多くが内容に対する質問や指摘を含んだものとなっ
ている。中には上記SHさんの様な実際に来沖する学生もおり、関心や学習意欲の高さがうかがえる。琉
球・沖縄編の講義では多くの写真資料を用い、受講者の意欲次第では講義で取り扱った場所へ行くこともで
きる。本年度集中講義として行った『沖縄・世界遺産巡り』は遠隔講義・教室講義の他にフィールドワーク
を必須条件として伴うものであった。ここでのフィールドワークの感想が『理解がより深まった』『こうし
た機会が無ければ地元といえど足を運ばなかった』といったものであった。本講義の学生にも積極的な姿勢
を求めたい。
期末試験における考察
本年度の期末試験問題は以下のとおりであった。
問題:沖縄が現在直面している政治・経済またはその他の問題に関し、歴史的背景に起因していると思われ
るものについて自らの意見を述べよ。政治・経済・文化いずれの側面から論じても構わない。(800字)
これに対し、I部の学生12名中11名が基地問題について解答した。これは寸前の講義(第12回)で実際
に基地問題を取り扱っていること、学生の興味関心が基地問題に対し強いことが原因として考えられるが、
文化論について取り扱う本講義の試験としては必ずしも望ましい解答内容ではない。なお、Ⅱ部の試験にお
いてこのことをアナウンスしたところ、食文化についての解答、中国との歴史的関わりについての解答など
が見られたが、それでも半数以上は基地問題に関する解答であった。この設問はこれまでの講義全体から興
味関心のあるテーマを選んで論述できる様にするために考えたものであるが、結果的に極端な偏りを生じさ
せた。次回以降は問題の内容をより具体的にし選択式にする、『歴史的背景』の視野を近現代史以前にも向
けさせるなどの対策が必要であろう。
アンケートに対する考察
本年度も期末試験において独自のアンケートを行った。質問は以下の4点である。
1.本講義について、良かった点
2.悪かった点・改善すべき点
3.遠隔授業で扱って欲しいテーマ
4.意見・感想
これを集計した結果、以下の様な意見が見られた。
質問1に対して:
●いつでも好きな時に受講できる(K、T他多数)
●何度も観ることができる(Y、T他多数)
●タバコを吸いながらなど、くつろぎながら受講できる(S、S)
●単なるビデオ講義ではなく、スライドも一緒なのでわかりやすい(M、Y)
●自分の好きな場所でできる(S、K他3名)
遠隔授業のメリットとして、「いつでも」「どこでも」「何度でも」を掲げているが、そのうち「どこでも」
に該当するメリットを挙げる受講生は3名に止まった。これは多くの学生が学内のパソコンで受講している
からであると推測できる。一方、S・Sさんの様に自宅で受講する場合は各々のリラックスしたスタイルで
受講出来る。来年以降はこのメリットに関する提唱も考えたい。
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質問2に対して
●連絡事項の伝達が上手くいかないことがある(RH)
●淡々としたイメージで、交流や温かみが感じられない(Y・○)
●質問したいときに不便(匿名)
●パソコンの状態によっては見づらかった(T、U他5名)
●受講が習`慣にならないと見忘れてしまいがち(s、s)
●テストが難しかった(S、S他2名)
講義週間中に追記などがあった場合、更新早々に受講した者は追記を見られない。これについては各個へ
メールを送る方法を試みたが、この講義を受講する以外にログインしない受講生の場合は確実な伝達手段が
現状においては無い。必要に応じ携帯電話のアドレスを聞いておくなどの対策が必要である。Y・○さんの
意見は先述の通りフォーラムが交流の場として機能しなかったことに対する不満であろう。また、フォーラ
ムに質問を投稿してもすぐに教育コーチの返答がある訳ではない。通常の講義に比べ発生しがちなタイムラ
グにどう対処すべきかは取り組み方次第であろう。昨年にも多くの指摘があったが、PC環境によっては動
画にラグが発生し見づらくなってしまう。特に大学で受講している受講生においてこの傾向は顕著であり、
時間をずらすなど各々で対応してもらう方法をアナウンスしている。
質問3に対して
●沖縄戦や基地問題など、沖縄の近現代史に関する講義(S、T他多数)
●各市町村や離島の文化・歴史など(Y,T)
●沖縄の生物(M、F他2名)
・沖縄の未来(匿名)
●マスメディア論(S、S)
この項目に対する回答の多くは沖縄に関するものであった。そもそもの興味関心が沖縄県内のことに対し
て強い点がうかがえ、また、県外の大学・教育機関に向けて発信する際にも沖縄という括りがあった方がわ
かりやすい。伊波普猷の提唱した「沖縄学」という言葉があるが、まさにこうした内容が求められている。
質問4に対して
●目新しく、楽しかった(H、H他多数)
●遠隔授業をもっと増やしてほしい(T、T他多数)
●慣れるまでは難しかった(T、U他2名)
遠隔授業は概ね好評であり、他の講義も遠隔で行ってほしいという声が特に目立った。
今後の課題
1.講義の事前アナウンスは充分か?
この講義の特徴はシラバスに示した通りである。しかし受講者の多くが担当教員の他の講義を履修したこ
とがあることから、必ずしも遠隔講義のメリットを目的として受講している受講生が多いわけではないこと
が推測される。
2.各個の学習意欲・事前知識の差を埋める方法は?
遠隔授業に限る問題ではないが、特に学生と対面する機会が少ない本講義において問題は顕著である。補
講などを通して知識のボトムアップを図りたいが、そもそもの関心が薄ければその機会はフォーラムにおけ
る返信に限られる。フォーラムにおいてもどこまで内容を理解したのか知ることは難しい。小テストでの低
い点数に対しペナルティを課すなど、何らかの対策を講じる必要がある。
3.フォーラムは交流の場として適切か?
昨年も同様の指摘をしたが、フォーラムに書き込んだ内容が一覧表示されるシステムが望ましい。現状で
は一つ一つの書き込みごとにページを開く必要があり、他者の書き込みを閲覧しているかどうか疑問である。
また、受講生によるレスは0件であった。受講生にとって出欠確認の場と認識されてしまっている可能性は
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否定できない。システム面の改善か外部BBSの活用を検討したい。
4.講義内容において、時事問題を取り扱う部分は適切か?
歴史が基盤となる講義ではあるが、華僑編・沖縄編においては時事問題を扱う部分が少なからずある。こ
れらを適宜更新することが可能か。現状においては毎週のアナウンスやフォーラムでフォローしていく形に
頼らざるを得ない。
4-沖縄大学の遠隔授業
沖縄大学における遠隔授業は「東アジア文化論」(①)を2006年10月に開始、以後毎年4年間にわたっ
て実施。2009年には夏季集中講義「沖縄・世界遺産巡り」(②)の一部を遠隔授業で行った。2009年の前
期には早稲田大学提供の「バイオエシックス」(③)を受講。2010年にはさらに法学関連の講座(④))を
10月から加える予定。①、②、④の3作品はいずれも沖縄大学が独自に作成した遠隔授業教材である。①
と④は約50分×12コマ、②は約50分×2コマの教材を用意した。(①はさらに約15分の導入編もある。)
今回は経費について付け加える。①の「東アジア文化論」は早稲田大学オンデマンド授業流通フォーラム
より300万円の支援を得た。このうち3分の1は東京での企画打合せ・撮影のための旅費に使用。スタジオ
撮影、編集、スライド教材作成、最終仕上げまでの実質的な制作費は約200万円。②の「沖縄・世界遺産巡
り」は(社)対米請求権事業協会より200万円(NPO文化経済フォーラム協力)、沖縄大学特別教育助成費
より50万円の援助を得た。世界遺産各地での撮影に約二十回出向き、撮影・編集費だけで100万円を投じた。
④の「法学関連の講座」は沖縄大学特別教育助成費より50万円、ほかに遠隔授業特別予算を数十万円投じ
て完成予定。出費は最低限に抑えることが出来た。これは教室での撮影、専任教員中心の講師陣、などの条
件がそろったためである。
遠隔授業の教材作成については合わせて500万円の外部資金(上記の下線を付した数字)に助けられた。
授業の運営については教育コーチの人件費として約50万円を計上しているが、実際には例年約30万円に留
まっている.
教材は-度作ってしまえば数年は使える。遠隔授業の利点は、教師も学生もその時、その場所にいなけれ
ば授業が出来ない、という制約から自由になることだ。このシステムは市民に多くの機会を与えることにな
る。沖縄大学ではこれまで幸いにして教材作成段階で外部資金を獲得できた。今後は沖縄地域研究関連の教
材作成に力を注ぐなどの戦略的展開が必要となるだろう。
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