PushTalkサービスの システム開発 FOMAにおいて1対1またはグ … · 2011. 1....

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6 1. まえがき FOMA において音声電話,テレビ電話に続く新たなコミ ュニケーションツールとして期待される「PushTalk」サー ビスを開始した. これまで FOMA における音声コミュニケーションとして は,回線交換に代表される 1 対 1 通信が中心であった.ま た,パケット通信においては,データ通信サービスが提供 されてきた. これに対して,PushTalk サービスでは半二重型 1 対多通 信を実現した.本サービスは,通話用ボタンを押している ユーザのみが,複数の相手に対して音声を同時に届けるこ とができる特徴を持つ.PushTalk サービスは回線交換では なく,パケット交換のベストエフォート型音声サービスに よって提供している.また,データと音声を同一パケット 回線内で多重することにより,会話をしながらユーザの発 言権取得状態に代表されるプレゼンス情報を確認すること を可能としている. 本稿では PushTalk サービスを提供するためのアーキテク チャ,機能概要および制御方式に関して解説する. 2. 提供条件 PushTalk サービスは,ターゲットユーザに応じて 2 つの サービスメニューを提供している. これらのサービスは,以下のコンセプトで定義されている. ①個人向けサービスコンセプト PushTalk サービスを気軽に利用できる,新たなコミ ュニケーションツールとして提供する. ②法人向けサービスコンセプト 個人向けサービスに加えて,ネットワークでのユー ザグループ管理,プレゼンス登録,閲覧など PushTalk サービスを最大限活かしたソリューションを提供する. 吉田 よしだ 直政 なおまさ 中川 将治 なかがわ まさはる 中山 なかやま まこと 猪飼 いかい 洋平 ようへい 松田 まつだ 美弥 山際 正信 やまぎわ まさのぶ FOMA において 1 対 1 またはグループでの新しいコミュニ ケーション手段として,移動端末を用いてトランシーバのよ うな半二重型通信を可能とする PushTalk サービス提供のた めのシステム開発を行った. PushTalk サービスの システム開発

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1. まえがきFOMAにおいて音声電話,テレビ電話に続く新たなコミ

ュニケーションツールとして期待される「PushTalk」サー

ビスを開始した.

これまでFOMAにおける音声コミュニケーションとして

は,回線交換に代表される1対1通信が中心であった.ま

た,パケット通信においては,データ通信サービスが提供

されてきた.

これに対して,PushTalkサービスでは半二重型1対多通

信を実現した.本サービスは,通話用ボタンを押している

ユーザのみが,複数の相手に対して音声を同時に届けるこ

とができる特徴を持つ.PushTalkサービスは回線交換では

なく,パケット交換のベストエフォート型音声サービスに

よって提供している.また,データと音声を同一パケット

回線内で多重することにより,会話をしながらユーザの発

言権取得状態に代表されるプレゼンス情報を確認すること

を可能としている.

本稿ではPushTalkサービスを提供するためのアーキテク

チャ,機能概要および制御方式に関して解説する.

2. 提供条件PushTalkサービスは,ターゲットユーザに応じて2つの

サービスメニューを提供している.

これらのサービスは,以下のコンセプトで定義されている.

①個人向けサービスコンセプト

PushTalkサービスを気軽に利用できる,新たなコミ

ュニケーションツールとして提供する.

②法人向けサービスコンセプト

個人向けサービスに加えて,ネットワークでのユー

ザグループ管理,プレゼンス登録,閲覧などPushTalk

サービスを最大限活かしたソリューションを提供する.

吉田よ し だ

直政なおまさ

中川将治なかがわ まさはる

中山なかやま

誠まこと

猪飼い か い

洋平ようへい

松田ま つ だ

美弥み や

山際正信やまぎわ まさのぶ

FOMAにおいて1対1またはグループでの新しいコミュニ

ケーション手段として,移動端末を用いてトランシーバのよ

うな半二重型通信を可能とするPushTalkサービス提供のた

めのシステム開発を行った.

PushTalkサービスのシステム開発

ノート
FOMAにおいて1対1またはグループでの新しいコミュニケーション手段として,移動端末を用いてトランシーバのような半二重型通信を可能とするPushTalkサービス提供のためのシステム開発を行った.
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NTT DoCoMoテクニカル・ジャーナル Vol. 13 No.4

サービス開始時点での詳細提供条件を表1に示す.

3. PushTalk実現方式

PushTalk実現にあたっては IMS( IP Multimedia

Subsystem)に即した機能配備を行った.IMSとは,3GPP

(3rd Generation Partnership Project)で標準化されている,

パケット交換で音声を含むIP(Internet Protocol)マルチメ

ディアサービスを提供するための基盤である.また,今後

はアクセスベアラに依存しないIP制御基盤としてさらなる

拡張が期待されている.PushTalkサービスのネットワーク

構成および主要機能を図1に示す.SIP(Session Initiation

Protocol)呼制御および伝達制御はxGSN(serving/gateway

General packet radio service Support Node),加入者情報管理

はIPSCP(IP Service Control Point)およびNMSCP(New

Mobile Service Control Point),アプリケーション機能はPoC

(Push-to-talk over the Cellular)サーバおよびxGSNへ機能

配備を行った.PoCサーバはPushTalkを実現するアプリケ

ーション機能としてメンバ,グループリスト管理およびネ

ットワーク電話帳を提供し,MRFC(Media Resource

Function Controller)/MRFP(Media Resource Function

Processor)はPoC呼制御,パケット複製制御および発言権

PoCサーバ�

xGSN

IPSCP NMSCP

機能ブロック��

主な機能�

・SIP登録�・SIP転送(PoC呼制御)�・SIPアプリケーション振分け�・PoC着信要求(SMS Push)��

CSCF

MRFC

MRFP

・SIP終端,PoC呼制御� (B2BUA制御)�・MRFP制御�・発言権課金制御�

・発言権管理制御�・パケット複製制御�

・加入者情報管理�HSS�HLR

・グループID管理�・ネットワーク電話帳�・プレゼンス問合せ,通知�

AS�(PoC)�

・WebカスタマコントロールI/F

・メンバ,グループリスト管理�

Web

GLMS

PoC�サーバ�

GLMS

Web

CSCF

WPCG

GGSN/SGSN MMS

Push Talk用APN

RNC

W-CDMA

AS(PoC)�

HSS

MRFP

MRFC

HLR

ALADIN CCCI

PoC端末�

ALADIN:�APN:�CCCI:�GGSN:�MMS:�RNC:�SGSN:�SGW:�WPCG:�

ALI Around DoCoMo INformation systems�Access Point Name�Customer CDR Collector for IMT2000�Gateway General packet radio service Support Node�Mobile Multimedia switching System�Radio Network Controller�Serving General packet radio service Support Node�Signaling GateWay�Wireless Protocol Conversion Gateway�

SGW

図1 ネットワーク構成および主要機能

個人向けサービス.

基本サービス

提供形態

1対1通信

対象移動端末

902i

通話中プレゼンス

ユーザ登録プレゼンスプレゼンス

○(5人)

1対N通信(同時通話可能最大人数:発信者含)

移動端末グループリスト管理

法人向けサービス

付加契約サービス

902i

○(20人)

移動端末ネットワーク(ネットワーク電話帳)

○最大200グループ

最大1,000人登録/契約最大20人/グループ

ネットワーク電話帳PC/移動端末からのネットワーク上グループリスト登録編集,閲覧

表1 サービス提供条件

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管理制御を行う.MRFC/MRFPは,ユーザエージェント・

サーバ(UAS)として発移動端末からCSCF(Call Session

Control Function)経由で転送されたSIPリクエストを受け

取り,着移動端末に対してはユーザエージェント・クライ

アント(UAC)としてSIPリクエストを送出する.本動作

はUASとUACを連結した機能を持つB2BUA(Back-to-

Back User Agent)処理と呼ばれる.

IMSでは呼制御プロトコルとしてSIPを利用する.CSCF

におけるSIP制御概要を図2に示す.ネットワークにおいて

SIP呼制御を担うCSCFでは,移動端末から送出されたSIPメ

ッセージを受信すると,加入者情報を管理するHSS(Home

Subscriber Server)からダウンロードした情報を基に,各ア

プリケーションサーバ(AS:Application Server)への振分け

処理を実施する.このように,サービスに依存する処理を

ASへ局所化することにより,サービス拡張が容易となる.

PushTalkでは,TCP(Transmission Control Protocol)また

はUDP(User Datagram Protocol)/IP上に,IMSなどの標準

で既定されている各アプリケーションプロトコルを実装し

ている.呼制御およびユーザのPushTalk参加状態などを示

す通信中プレゼンス提供プロトコルにSIP,音声伝送プロト

コルにRTP(Real-time Transport Protocol),半二重通信に

おいて必要となる発言権制御プロトコルにRTCP(RTP

Control Protocol)を採用している.また,法人向けサービ

スとしてWebによるネットワーク電話帳機能を提供してい

るが,本機能提供にあたってはi-mode通信にて利用されて

いるHTTP(Hyper Text Transfer Protocol)を採用している.

PushTalk機能を搭載した移動端末のシステム構成を図3

に示す.

PushTalkアプリケーション処理の中核を担うのが,今回

開発したPoC Engineと呼ばれるモジュールである.PoC

Library部で呼制御,プレゼンス情報制御,発言権制御,音

声エンコードおよびデコードなどの処理を行っている.ま

た,移動端末からネットワークへのデータ送信およびネッ

トワークから移動端末へのデータ受信が必要となる際は,

PoC Library部がSIP,RTP,RTCPといったプロトコルスタ

ック部を制御することで実現している.そしてPoC Library

部で提供されるサービスを抽象化して,GUI(Graphical

User Interface)により容易にアクセス可能とする役割を

Tool Kit部が果たしている.

また,PushTalk機能を搭載した移動端末にはPushTalkボ

タンと呼ばれる専用ハードボタンを配備することで,手軽

なサービスの提供を可能としている.このボタンは,

PushTalk電話帳やPushTalk専用ブラウザの起動,PushTalk

呼の発信およびPushTalk通話中における発言権制御に用い

られる.

発言権取得時には,PoC Library部がDSP(Digital Signal

Processor)を起動し,マイクからの入力音をAMR(Advanced

Multi Rate CODEC)データへ変換しながら,RTPパケット

形式で,順次ネットワークへ送出を行う.反対に着移動端

末では,ネットワークからAMRデータを含むRTPパケッ

トが到着した場合,そのデータをDSPへ引き渡し,AMRデ

ータのデコード(スピーカからの音声再生)を行う.

さらに,PushTalk機能を搭載した移動端末は,PushTalk専用

ブラウザを搭載しており,このブラウザを使用することによ

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アプリケーション制御�

共通的基本呼制御�

移動端末�

転送�

CSCF MRFC/PoCサーバ�アプリケーションサーバ(AS)�

共通的基本呼制御のSIPと�アプリケーション制御のSIPを識別�

・最初のSIP messageメソッド(e.g. INVITE, REGISTER)�・ヘッダのあるなし�・ヘッダの中身�・リクエストの方向(Mobile Originating or Mobile Terminating)�・セッション情報(Session Description Information)�

ASの選択�HSS

SIPサーバ�

識別ロジック�

AS2 AS3AS1

CSCF

識別ロジック�

処理�

処理�SIPメッセージ�

生成�

該当するASへ振分け�

SIP登録(Registration)時に�HSSよりダウンロード�

図2 SIP制御概要

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って,ドコモネットワーク内に構築されているサーバにアク

セスし,ネットワーク電話帳を参照することが可能である.

4. 実現機能

PushTalkでは簡単な操作で発着信を可能としている.処

理概要を図4に示す.音声やテレビ電話通信と同様に電話

番号の直接入力,または移動端末電話帳(ネイティブ電話

帳およびPushTalk電話帳),ネットワーク電話帳,発信履

歴,着信履歴から通信相手を選択後,PushTalkボタンを押

下することで発信処理が行われる.この時,移動端末内部

において電話番号はPushTalkにおけるユーザアドレスSIP

URI(Uniform Resource Identifier)へ変換される.これによ

りユーザは新たなPushTalk専用のIDを意識する必要がな

い.ボタン押下後,まず移動端末はパケットベアラのセッ

ションを確立し,CSCFに対してSIPのREGISTERメソッド

を用いて認証,ネットワーク登録を行う.この段階で発移

動端末はPushTalk発信が可能となり,SIPのINVITEメソッ

ドをネットワークに対して送信する.INVITEメソッドは

CSCFからAS(PoCサーバ)へ転送され,グループメンバ

数超過確認や認証処理後にMRFCへ転送される.INVITE

を受信したMRFCはMRFPの

リソースを確保し,着移動端

末に対するINVITEメソッドを

CSCFに転送する.

1対多通信においてはMRFC

が複数INVITEメソッドを生成

し各ユーザに転送することで,

複数移動端末への同時着信を

可能とする.CSCFは着移動端

末のネットワーク登録有無を

HSSに対して着側ユーザ状態

問合せで行い,着移動端末が

ネットワーク未登録であれば

SMS(Short Message Service)

Pushによる呼出しを行い,着

移動端末のネットワーク登録

を促す.PushTalkにおいては,

他サービスとの同時通信競合

およびドコモ全ユーザ収容を

前提にしたネットワークリソ

ース保護の観点から,着側ユ

ーザがアイドル状態(パケッ

トセッション未確立)からで

も着信を可能とした.着移動端末はネットワーク登録後,

INVITEメソッドを受信応答することでPushTalkセッション

が開設される.

a移動端末電話帳発信

PushTalkの発信は移動端末が持つ既存電話帳(ネイテ

ィブ電話帳)から行うことも可能であるが,ネイティブ

電話帳からの発信では,複数の相手を選択して発信する

ことができない.このためPushTalk対応移動端末では,

ネイティブ電話帳に加えてPushTalk電話帳と呼ばれる

PushTalk専用の電話帳を実装している.

PushTalk電話帳には,メンバリストとグループリスト

の2つの表示画面がある(図5).メンバリストは発信時

に個別に発信対象メンバを選択する用途に用いられ,こ

のリストには,PushTalk電話帳に登録された全メンバが

リスト表示される.この画面では,各メンバの横に選択

のためのチェックボックスが配置されており,複数メン

バを同時にチェックすることで,それらのメンバに同時

発信を行うことが可能である(図5①).また,グループ

リストは事前に登録されたグループに対して発信する用

途に用いられ,グループを指定して発信することでメン

バを個別に設定することなく,グループに登録されたメ

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NTT DoCoMoテクニカル・ジャーナル Vol. 13 No.4

ディスプレイ�

PushTalk�ボタン�

マイク�

スピーカ�

DSP

C-Plane�制御�

ネイティブ�電話帳�

PushTalk�電話帳�

PushTalk�アプリケーション�

Tool Kit

PoC Library

SIP RTP RTCP

PushTalk専用�ブラウザ�

発信履歴�着信履歴�

SMS-Push

HTTP

TCPUDP

IP

ハードウェア群�

その他のアプリケーション群�

PoC�Engine

呼処理・プレゼンス� 音声� 発言権制御�

OS

ネットワーク�

PushTalkアプリケーション群�

図3 PushTalk機能搭載移動端末システム構成

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ンバに発信することが可能である(図5②).

sネットワーク電話帳発信

法人ユーザには,より大規模グループ通信かつユーザ

間でのグループ共有機能が求められる.そこで法人向け

サービスではPushTalk電話帳に加え,ネットワークで一

元的に情報管理するネットワーク電話帳機能を提供した.

ネットワーク電話帳からの発信では発信者を含む最大20

人までのグループ通信を可能とし,個人向けサービスに比

べ,より多数でのコミュニケーションを可能としている.

ネットワーク電話帳発信時の画面表示では,移動端末

電話帳に登録されたメンバ名称にかかわらず,ネットワ

ーク電話帳に登録された名称が表示されるため,事前に

移動端末電話帳に名称を登録することなく,通信相手の

名称を画面に表示して通話することを可能とした.ネッ

トワーク電話帳機能詳細は4.4節にて記述する.

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SGSN/GGSN1 CSCF1 HSS MRFC/MRFP CSCF2 SGSN/GGSN2 移動端末(着)�移動端末(発)�

アイドル�

アイドル�

SMS-Push

パケットベアラ発信�(IPアドレス割当て)�

パケットベアラ接続�(IPアドレス割当て)�

SIP Registration

INVITE(UE2, 3あて)� INVITE(UE2, 3あて)�

SIP Registration

着側Registration完了通知�

INVITE(UE2あて)�

発言権空き通知�

AMRパケット�

発言権空き通知�

発言権要求�

INVITE(UE2あて)�

着側ユーザプロファイル/SIP登録(Registration)有無確認�

SMS転送要求(NWMP)�着側ユーザ�未Registration時�

AMRパケット�

AMRパケット� UE3

UE2

移動端末(着)�

パケット複製処理�NWMP:NetWork Management Protocol

発言権制御�

図4 PushTalk発着信処理概要

グループリスト画面�

メンバリスト画面�

②�

①�

PushTalk�ボタン押下�

PushTalk�ボタン押下�

※上記端末画面内の氏名は,参考例のための架空の名称です.�

図5 PushTalk電話帳画面

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ユーザが移動端末のPushTalkボタンを操作することによ

って,RTCPによる発言権制御が行われる.PushTalkボタ

ンを押下しているユーザにのみ発言権が与えられ,移動端

末からRTPによってMRFPへ音声データを送信する.

MRFPは受信した音声データをIPレイヤにて複製し,他メ

ンバに配信することで1対多通信を可能とする.特定ユー

ザが発言権を取得している状態で他ユーザが発言権を要求

した場合は,MRFPから要求拒否信号が当該ユーザへ通知

されることにより発言権取得を1ユーザのみに限定してい

る.また,同一ユーザが一定期間発言権を取得していると

きは,ユーザへ開放予告音を通知する.その後,発言権を

強制開放することで1ユーザの発言権占有を防いでいる.

着信履歴から発信する際,AS(PoCサーバ)にて該当の

PushTalkセッションを確認し,継続中であった場合,該当

セッションに接続させることを再入室という.

移動通信では,弱電界などにより通信が切断され,参加

している着信者が意図に反してPushTalkセッションから退

出してしまうことがある.このような着信者が,継続して

いるPushTalkセッションに再度加わる機能として再入室制

御機能が必要である.

音声通話やテレビ電話における発着信履歴の場合は,相

手電話番号,通話日時,番号通知の有無のみが記録される

ことになるが,PushTalkサービスの場合,移動端末には前

述に加えPoCサーバから送信されるユニークなIDも記録さ

れる.このIDにより,該当PushTalkセッションを一意に

特定し,再入室を可能とする.移動端末の発着信履歴から

発信した際には,移動端末はこのIDおよびこのIDと括り

付けて記録されていた参加メンバ一覧を送信する.

移動端末からのIDを受信したPoCサーバでは,まずその

IDが現在も通信中のPushTalkセッションのIDであるか,

次に,PushTalkセッションに参加しているメンバに差分が

ないかについて判定し,通信中かつメンバに差分がない場

合には,認証結果良好としてCSCFに応答する.それを受

信したCSCFが,移動端末を該当通信に接続させることで

再入室完了となる.さらに,仮に該当PushTalkセッション

が終了している場合にも接続不可とせず新規発呼として扱

い,該当PushTalkセッションに参加していたメンバへ新た

な呼として着信する.これは,再入室を希望したユーザが

「通信をしていたユーザとの会話を希望している」というユ

ーザニーズを尊重したためである.

aWeb管理機能

ネットワーク電話帳はWebサーバにHTML形式で作成

されており,法人ユーザの管理者が表示名の設定,グル

ープの作成,グループメンバの追加/削除,プレゼンス

種別などをインターネット経由で事前に行う(図6①).

この操作は,ユーザの利便性を考慮しPCからの操作

のみならず,移動端末からの操作も可能としている.ま

た必要に応じて,この操作を行う管理者を追加設定する

ことが可能である.

法人ユーザの管理者はこのようなネットワーク電話帳

設定作業以外にも,グループ別,またはプレゼンス別ユ

ーザ一覧にて,全グループメンバのプレゼンス状態を確

認することが可能である.これにより,外出している社

員の状態を管理者が一元的に管理するなど,法人ユーザ

の業務効率向上を可能としている.

sネットワーク電話帳閲覧機能

ネットワーク電話帳は,移動端末のPushTalkメニュー

よりネットワーク接続を選択し,PushTalk専用ブラウザ

から閲覧する.この際,サーバ側ではユーザ認証を行い,

ユーザが所属しているグループのみを一覧表示させる

(図6②).ユーザは自分の所属しているグループ一覧よ

り,発信したいグループを選択し,サーバからグループ

情報を取得する.取得したグループメンバのプレゼンス

状態などを確認し,発信先グループメンバの選択を行う

(図6③).

発信操作を行うと,発信対象者として選択したメンバ

の情報,および番号通知の有無がHTTPのPOSTメソッ

ドによって Webサーバ経由で GLMS(Group List

Management Server)に通知される.すると,サーバ側

から移動端末が発信するのに必要となるメタファイルが

発移動端末に返信される(図6④).このメタファイルは

テキスト形式となっており,この中には「グループID」,

「グループ名称」,「タイムスタンプ」,「発信対象者アドレ

ス」,「発信対象者名称」,「番号通知有無」などの発信処

理に必要な情報が含まれている.メタファイルを受信し

た移動端末は,メタファイル中の情報を用いてSIP

INVITEメソッドを生成し発信を行う.

dユーザ登録プレゼンス機能

ネットワーク電話帳に接続し,ユーザがプレゼンス登

録を選択すると,サーバ側ではユーザ認証を行い,すで

に設定しているプレゼンス状態を表示する(図6⑤).プ

レゼンス登録は,あらかじめユーザの管理者が設定した

プレゼンス種別から選択する方式と,各ユーザが任意の

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NTT DoCoMoテクニカル・ジャーナル Vol. 13 No.4

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文字を設定するフリー入力の2方式を用意した.

本機能により,企業またはユーザごとにプレゼンス種

別をカスタマイズし,掲示板や伝言板のようなサービス

利用も可能とした.

a発番号通知

PushTalkでは,通信メンバに対して発信者やグループ

メンバの番号通知および非通知の選択を可能とすること

で,ユーザのプライバシーを保護する機能を提供する.

発番号通知の設定は移動端末,ネットワーク電話帳設定

Web画面の両者で可能とすることで,移動端末電話帳発

信,ネットワーク電話帳発信に対応させた.移動端末電

話帳発信の場合は,移動端末設定および発信時のユーザ

選択に従い,ネットワーク電話帳発信の場合はWeb画面

で行った設定を優先する.

sドライブモード

既存サービス同様,PushTalk着信処理の際にドライブ

モードが設定されているときは,SIPのINVITEメソッド

受信時に着信鳴動音の抑止制御を行う.さらに,PushTalk

ではSIP応答にてドライブモード専用に割り当てられたエ

ラーコードを送信することによって,発移動端末および

グループ通信時は参加メンバに対して,運転中であるこ

とをプレゼンス情報として通知する.

d FOMA回線交換付加サービスとの連携処理

PushTalkでは一部のFOMA回線交換付加サービスとの

連携を可能とした.

発側ユーザサービスとして,音声通信での付加番号発着

12

GLMS

①�

HTTP GET

HTTP

ページ取得�

②�

HTTP GET

③�

HTTP POSTメンバ選択・発信�

INVITE生成�(自動)�

④�

SIP INVITE

Web管理機能�

ネットワーク電話帳閲覧機能�

ユーザ登録プレゼンス機能�

法人ユーザ管理者�

法人ユーザ�

②ネットワーク電話帳�(グループ選択)�

メタファイル�

HTTP Request

⑤�HTTP Response

HTTP Request

①ネットワーク� 電話帳設定�

③ネットワーク電話帳閲覧⇒発信�

⑤プレゼンス登録�

ユーザ�認証�

グループ�情報�

ユーザ�認証�

登録�

法人ユーザ�

※上記端末画面内の氏名は,参考例のための架空の名称です.�

Web

xGSN

発信�

図6 ネットワーク電話帳機能概要

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信機能を提供するマルチナンバー設定中は規制処理を実

施している.また,着側ユーザサービスとして迷惑電話

ストップサービスの着信拒否リスト,および番号通知お

願いサービス設定を共有化することでユーザニーズを反

映したサービスを提供している.本機能は着信処理時に,

IMS加入者情報を管理するHSSから回線交換付加サービ

スプロファイルを管理するHLR(Home Location Register)

に対して問合せ処理を実施することで実現している.

f i-mode通信中制御

移動端末にてi-mode通信中におけるPushTalk着信の

可否を設定可能としている.この設定が「iモード優先」

となっている場合,PushTalk着信動作を行うことなく

i-mode通信を継続する.

設定が「プッシュトーク着信優先」となっている場合,

PushTalk着信用SMS Pushを受信した時点で,i-mode通

信を終了(i-mode通信用パケットベアラを開放)し,

PushTalk着信動作までの手順を自動的に実行する.

5. あとがきPushTalkサービスに関する概要,制御方式概要について

説明した.これらの制御により,1対1またはグループ間で

の新たなコミュニケーションの可能性が広がると期待して

いる.

今後は通信中の話者追加などのサービス拡張,画像・映像

を組み合わせたマルチメディア化,およびPushTalk中のテ

キスト送受信などのながら通信といった,さらなるコミュニ

ケーション領域の開拓・展開を目指した検討を行っていく.

13

NTT DoCoMoテクニカル・ジャーナル Vol. 13 No.4

3GPP:3rd Generation Partnership ProjectAMR:Advanced Multi Rate CODECAS:Application ServerB2BUA:Back-to-Back User AgentCSCF:Call Session Control FunctionDSP:Digital Signal ProcessorGLMS:Group List Management ServerGUI:Graphical User InterfaceHLR:Home Location RegisterHSS:Home Subscriber ServerHTTP:Hyper Text Transfer ProtocolIMS:IP Multimedia SubsystemIP:Internet Protocol

IPSCP:IP Service Control PointMRFC:Media Resource Function ControllerMRFP:Media Resource Function ProcessorNMSCP:New Mobile Service Control PointPoC:Push-to-talk over the CellularRTCP:RTP Control ProtocolRTP:Real-time Transport ProtocolSIP:Session Initiation ProtocolURI:Uniform Resource IdentifierSMS:Short Message ServiceTCP:Transmission Control ProtocolUDP:User Datagram ProtocolxGSN:serving/gateway General packet radio service Support Node

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