日本経済見通し · 2017. 12. 28. · 日本経済見通し JRIレビュー 2018 Vol.1, No.52...

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16 J R I レビュー 2018 Vol.1, No.52 目   次 1.現 状 2.見通しのポイント (1)輸出増加の持続性 (2)設備投資の回復力は高まるか (3)消費増税を乗り越えられるか 3.展望と課題 (1)底堅い内外需を背景に景気回復が持続 (2)実感を伴った戦後最長回復の実現に向けて 日本経済見通し 調査部 副主任研究員 村瀬 拓人

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Page 1: 日本経済見通し · 2017. 12. 28. · 日本経済見通し JRIレビュー 2018 Vol.1, No.52 17 1.わが国景気は回復基調が続いている。輸出の増加がけん引する一方、内需も設備投資を中心に底堅

16 JR Iレビュー 2018 Vol.1, No.52

目   次

1.現 状

2.見通しのポイント

(1)輸出増加の持続性

(2)設備投資の回復力は高まるか

(3)消費増税を乗り越えられるか

3.展望と課題

(1)底堅い内外需を背景に景気回復が持続

(2)実感を伴った戦後最長回復の実現に向けて

日本経済見通し

調査部 副主任研究員 村瀬 拓人

Page 2: 日本経済見通し · 2017. 12. 28. · 日本経済見通し JRIレビュー 2018 Vol.1, No.52 17 1.わが国景気は回復基調が続いている。輸出の増加がけん引する一方、内需も設備投資を中心に底堅

日本経済見通し

JR Iレビュー 2018 Vol.1, No.52 17

1.わが国景気は回復基調が続いている。輸出の増加がけん引する一方、内需も設備投資を中心に底堅

く推移している。消費者マインドが改善するなか、個人消費にも持ち直しの動きがみられる。こうし

た現状を踏まえ、今回の見通しでは、①輸出増加の持続性、②設備投資の回復力は高まるか、③消費

増税を乗り越えられるか、という3点に関する分析を通じ、2019年度にかけての景気動向を展望する。

2.輸出については、「スロー・トレード」が解消する兆しがあることや、海外への生産シフトが一服

していることが、プラスに作用する。IT需要の多様化や世界的な設備投資需要も、わが国が競争力を

有する電子部品や資本財の輸出をけん引する見込みである。このため、当面、輸出は増加基調が続く

見通しである。

3.設備投資は、良好な収益環境が続くなか、建設投資や研究開発投資を中心に、増勢が持続する見込

みである。もっとも、製造業の機械投資については、力強い回復を期待し難い状況にある。成長期待

の低下が生産能力の拡大を抑制するため、設備投資は緩やかなペースの回復が続く見通しである。

4.2019年の消費増税を乗り越えられるかどうかは、家計所得の動向がカギになる。2014年の増税時は、

物価上昇による購買力の低下に加え、所得税や社会保障関連でも家計負担が増加したことが、個人消

費の落ち込みに拍車をかけ、その後の回復力も脆弱にとどまった主因である。2019年の消費増税時は、

2014年に比べ税率の引き上げ幅が小さいほか、所得税や社会保障関連でも大きな負担増が予定されて

いないため、家計負担は2014年の半分程度とみられる。このため、名目所得の増加ペースが維持され

れば、可処分所得は増勢を維持し、消費の大幅な落ち込みは避けられる見込みである。

5.そこで、所得環境を展望すると、労働市場がほぼ完全雇用の状態にあるなか、雇用者数の増勢は先

行き鈍化する見通しである。一方、賃金は、人手不足を背景に正社員の雇用を拡大する動きが、押し

上げに作用する。企業収益の回復に伴い、賞与の増加も期待できる。雇用の伸びが低下する一方、賃

金の上昇ペースが高まることで、2%の消費増税があっても可処分所得が減少に転じない程度の所得

増加は展望可能である。

6.以上のように、内外需ともに底堅く推移するため、2017、2018年度は、それぞれ+1.8%、+1.2%と

潜在成長率を上回る見込みである。この結果、2019年1月には戦後最長の景気回復を更新する見通し

である。2019年度は、10月の消費増税実施に伴う個人消費の下振れで成長率は鈍化するものの、消費

の大幅な落ち込みは避けられるため、年度の着地は1%近い成長率となる見込みである。

7.もっとも、成長ペースが緩やかで、景気回復を実感しにくいのも事実である。成長力を高めるため

には、①家計所得の一段の拡大、②企業の生産性向上、③財政に関する将来不安の払しょく、などに

取り組むことが必要である。

要  約

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1.現 状

 わが国景気は回復基調が続いている。マクロの景気動向を示す実質GDPは、2017年7~9月期に前

期比年率+2.5%と、1%程度とみられる潜在成長率を上回った(図表1)。これで、2016年1~3月期

以降、7四半期連続でプラス成長となった。需要項目別にみると、輸出が景気をけん引する姿が鮮明で

あり、外需は、プラス成長が続いた直近7四半期のうち、6四半期で成長率の押し上げに寄与している。

 輸出を地域別にみると、先進国向け、新興国向けともに堅調である。先進国向けでは、現地景気の回

復を背景にアメリカ向けが好調なほか、低迷が続いた欧州向けも、足許で持ち直しの動きがみられる

(図表2)。新興国向けでは、中国などアジア向けが好調であり、世界的なIT需要の回復を受け、電子

部品などの輸出が増加している。輸出の好調さは、企業の生産活動にも波及しており、鉱工業生産指数

は、2016年半ば以降、緩やかに上昇している。

 一方、国内需要にも底堅さがみられる。製造業の国内向け出荷は、輸出ほどの力強さはないものの、

資本財や生産財、建設財を中心に緩やかに増加している(図表3)。とりわけ、企業部門が堅調である。

輸出や生産の増加などを受け、企業収益は過去最高水準にあり、設備投資も増加基調が持続している

(図表4)。

 家計部門についてみると、個人消費は、2016年7~9月期以降、4四半期連続で増加したものの、

2017年7~9月期は、前期比年率▲1.9%と減少した。これは、前期の高成長(同+3.7%)の反動に加

え、夏場にかけて東日本を中心に記録的な長雨となったことで、レジャー関連などのサービス消費が落

ち込んだ影響である。人手不足を背景に家計の所得環境は着実に改善しているほか、株価の上昇などを

受け消費者マインドも持ち直していることから(図表5)、7~9月期の個人消費の減少は、一時的な

動きにとどまる公算が大きい。

 公共投資は、足許で減少に転じており、2016年末に成立した経済対策の効果は一巡しつつある(図表

6)。先行指標である公共工事請負金額は、経済対策執行前の水準まで減少しており、当面は、公共投

外 需官公需在庫投資設備投資住宅投資個人消費

▲5

▲4

▲3

▲2

▲1

0

1

2

3

4

5

(図表1)実質GDP成長率(前期比年率)

(資料)内閣府「国民経済計算」(注)官公需=政府最終消費支出+公的固定資本形成+公的在庫変

動。

(%)

(年/期)

実質GDP

201720162015

全地域〈100〉

(図表2)地域別実質輸出(季調値)

(資料)財務省、日本銀行を基に日本総合研究所作成(注)〈 〉は2016年の名目輸出シェア。

(2007年=100)

(年/期)

50

75

100

125

150

対その他地域〈16〉対アジア〈30〉対中国・香港〈22〉対EU〈11〉対アメリカ〈21〉

20172016201520142013201220112010200920082007

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日本経済見通し

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資の減少が景気下押し要因となる。

 こうした現状を踏まえると、今後のわが国景気を見通すうえでは、足許でけん引役となっている「輸

出増加の持続性」と、「設備投資の回復力が高まるか」が焦点になる。また、2019年度には、消費税率

の引き上げが予定されている。前回(2014年)の消費増税は、景気失速を招いただけに、「消費増税を

乗り越えられるか」も重要なポイントといえる。以下では、これら3点に関する分析を通じて、2019年

度にかけての景気動向を展望するとともに、わが国経済が抱える課題と採るべき方策について考察する。

2.見通しのポイント

(1)輸出増加の持続性

 まず、輸出を取り巻く環境についてみると、世界的に貿易活動の改善が明確化している。リーマン・

ショック以降、世界の貿易量の伸びは、経済成長率を下回る状況が続き(図表7)、こうした世界的な

貿易活動の停滞は、「スロー・トレード」と呼ばれてきた。もっとも、足許では、企業の設備投資意欲

8

10

12

14

16

18

20

22 経常利益(全産業除く金融・保険業、2期先行、左目盛)

95

100

105

110

115

120

125

130

135

(図表4)経常利益と設備投資(季調値)

(資料)内閣府「国民経済計算」、財務省「法人企業統計」

(兆円) (2010年=100)

(年/期)

実質設備投資(右目盛)

201820172016201520142013201220112010

1,000

1,100

1,200

1,300

1,400

1,500

1,600

1,700

1,800

TOPIX(左目盛)

39

40

41

42

43

44

45

46

47

消費者態度指数(右目盛)

201720162015

(図表5)株価と消費者マインド

(資料)内閣府「消費動向調査」、日本経済新聞社

(ポイント) (ポイント)

(年/月)

公共工事請負金額(1期先行、右目盛)

名目公共投資(左目盛)

(図表6)公共工事請負金額と公共投資(年率、季調値)

(資料)内閣府、建設業保証を基に日本総合研究所作成(注)公共工事請負金額の直近は、10月の計数。

(兆円) (兆円)

(年/期)

10

11

12

13

14

15

16

20182017201620152014201320122011201022

23

24

25

26

27

28

29

(図表3)鉱工業生産と出荷内訳(季調値)

(資料)経済産業省を基に日本総合研究所作成(注)国内向け出荷、輸出向け出荷は後方3カ月移動平均。

(2012年=100)

(年/月)

96

98

100

102

104

106

108

110

112国内向け出荷輸出向け出荷鉱工業生産指数

2017201620152014

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20 JR Iレビュー 2018 Vol.1, No.52

の改善などを背景に、製造業の生産活動は世界的

に活発化しており、各国で部品や素材製品などの

生産財や製造用機械などの輸入が増加している。

こうした動きを受け、「スロー・トレード」にも

変化の兆しがでてきており、足許では、世界の貿

易量は、世界経済の成長をやや上回るペースで増

加している。こうした世界的な貿易活動の拡大は、

わが国の輸出にもプラスに作用している。

 さらに、これまで世界の貿易量の増加ペースに

比べ回復が遅れていたわが国の輸出が、足許で明

確に持ち直している背景として(図表8)、以下

の2点を指摘できる。第1に、海外への生産移管

の一巡である。輸出が伸び悩んだ2012~2014年に

かけては、リーマン・ショック後の大幅な円高を受けて、輸出企業が海外へ生産工場を移管した。実際、

同時期に製造業の海外現地法人の企業数は顕著に増加し、海外生産比率は上昇した(図表9)。もっと

も、アベノミクスの始動後、円相場が大幅に下落したことなどを受け、国内工場を海外へと移す動きは

一服しており、これに伴い、わが国からの輸出も、再び世界の貿易活動との連動性が高まる形となった。

 第2に、わが国が競争力を有する資本財や電子部品への需要が、世界的に拡大していることも、輸出

の押し上げに作用している。足許の実質輸出を品目別にみると、電子部品や資本財の輸出が、全体をけ

ん引している(図表10)。もっとも、これら製品に対する需要は循環性(ITサイクル、設備投資循環)

を持つだけに、好調の持続性は不透明との見方もある。

▲20

▲15

▲10

▲5

0

5

10

15

20 世界貿易量世界実質GDP

201720152013201120092007200520032001

(図表7)世界貿易量と実質GDP成長率(前年比)

(資料)オランダ経済政策分析局(CPB)“World Trade Monitor”、IMF “World Economic Outlook Oct. 2017”

(注1)世界実質GDPは、暦年の計数を4~6月期に図示。(注2)世界貿易量は、世界実質輸入。

(%)

(年/期)

60

70

80

90

100

110

120

日本の実質輸出世界貿易量

20172016201520142013201220112010200920082007

(図表8)世界貿易量と日本の輸出

(資料)オランダ経済政策分析局(CPB)“World Trade Monitor”、日本銀行「実質輸出入の動向」

(注)世界貿易量は、世界実質輸入。

(2007年=100)

(年/期)

4,000

6,000

8,000

10,000

12,000

14,000

(図表9)海外生産比率と現地法人企業数(製造業)

(資料)経済産業省「海外事業活動基本調査」、内閣府「企業行動に関するアンケート調査」

(注)海外生産比率の2016年度は実績見込み。

(社) (%)

(年度)

0

5

10

15

20

25

201620142012201020082006200420022000

海外現地法人企業数(左目盛)海外生産比率(右目盛)

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日本経済見通し

JR Iレビュー 2018 Vol.1, No.52 21

 そこで、電子部品と資本財の世界的な需要

動向をみると、まず、足許の電子部品の需要

増加は、循環的な回復のみならず、持続性を

持つ需要に支えられている側面がある。例え

ば、コンピュータや産業用機器向けでは、ク

ラウド化やビッグデータの活用に伴うサーバ

ー需要や、IoTへの適用など、新たな技術の

普及が需要をけん引している(図表11)。さ

らに、半導体の最大の需要先である通信機器

向けでは、新興国の所得拡大に伴い、現地で

販売されるスマートフォンが高性能化してお

り、搭載部品点数の増加や高品質化などを通

じ、わが国の電子部品輸出にもプラスに作用

している。半導体関連の国際的な業界団体

(世界半導体市場統計、WSTS)も、こうし

た息の長い需要拡大要因を踏まえ、2018年に

は市場が一段と拡大すると予想している。

 一方、世界の設備投資需要についてみると、

2014年から2016年にかけて企業の設備投資姿

勢が慎重化していたことから、足許の需要増

は循環的な回復局面の初期段階にあると判断

できる(図表12)。先行きについては、米ト

ランプ政権の政策運営や欧州の政治動向、中

(図表11)半導体市場の用途別けん引要素

用 途2016~2021年平均成長率

けん引要素

通信機器 4.2%スマートフォンのメモリ搭載量の増大、高性能化、次世代高速通信

PC/コンピューター

2.0%クラウド化、ビッグデータ・AI解析等のためのサーバー・データセンター需要の増加

産業用機器/政府

4.6%IoT、FA(ファクトリーオートメーション)、スマートグリッド、スマートシティ

民生用電機 2.8%4K・8Kテレビ、ウェアラブル・ヘルス機器、スマート家電、スマートホーム

自動車 5.4%自動運転、V2V、V2I通信、電気自動車、Infotainment

(資料)WSTS、SIAなどを基に日本総合研究所作成(注)2016~2021年平均成長率は、IC Insights“IC Market Drivers

2018”。

80

85

90

95

100

105

110

115

120

その他〈31〉輸送機械〈31〉電子部品〈16〉資本財〈21〉

20172016201520142013201220112010

(図表10)品目別実質輸出(季調値)

(資料)財務省、日本銀行を基に日本総合研究所作成(注)〈 〉は2016年の名目輸出シェア。

(2010年=100)

(年/期)

▲15

▲10

▲5

0

5

10

15

IMF世界投資額(左目盛)

▲50

▲40

▲30

▲20

▲10

0

10

20

30

40

50資本財実質輸出(右目盛)

2018201520122009200620032000971994

(図表12)世界投資額とわが国資本財実質輸出(前年比)

(資料)財務省、日本銀行、IMFを基に日本総合研究所作成(注1)2017年の資本財実質輸出は、1~9月値。(注2)IMF世界投資額は、購買力平価ベース。

(%) (%)

(年)

IMF見通し

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22 JR Iレビュー 2018 Vol.1, No.52

東・東アジアの地政学リスクなど不透明感も強く、世界的な設備投資の力強い拡大は期待しにくいもの

の、堅調な経済成長に支えられ、投資需要は底堅く推移する見込みである。さらに、新興国での製造業

の高度化や、世界的な自動化・省力化の流れも、わが国が強みを有する高機能産業機械や産業用ロボッ

トなどに対する需要を押し上げることで、輸出にプラスに作用する。

 以上を踏まえれば、当面、電子部品、資本財の輸出は増加基調が続く見通しである。

(2)設備投資の回復力は高まるか

 次に、設備投資についても、増勢が続くと予想される。足許の設備投資は、過去の景気拡大期とほぼ

遜色ないペースで拡大しており(図表13)、全体としてみれば、企業の投資姿勢が極端に慎重化してい

るわけではない。もっとも、形態別にみると、投資姿勢にはばらつきがみられる。建設投資と研究開発

投資は堅調な一方、製造業の機械投資は、過去の

景気拡大期に比べけん引力が大幅に低下している

(図表14)。

 こうした現状を踏まえつつ、設備投資の先行き

を展望すると、まず、設備投資の原資となる企業

収益は、輸出の増加や国内需要の持ち直しに伴う

売上高の増加を背景に、増益基調が続く見込みで

ある(図表15)。アメリカの金融政策正常化に伴

う日米金利差の拡大などを背景に、緩やかな円安

が進むことも、企業収益にプラスに作用する。

 良好な収益環境の下、建設投資と研究開発投資

は先行きも底堅い展開が期待できる。建設投資に

(図表13)景気回復期における設備投資(季調値)

(資料)内閣府「国民経済計算」

(景気の谷=100)

(四半期、景気の谷=0)

90

95

100

105

110

115

120

125

24201612840

2012年Q4~2009年Q1~2012年Q12002年Q1~2008年Q11999年Q1~2000年Q4

その他研究開発投資建設投資情報通信機器・ソフトウェア機械投資(除く情報通信機器)

(図表14)実質設備投資の寄与度分解

(資料)内閣府を基に日本総合研究所作成

(2002、2012年対比、%)

(年)

▲4

0

4

8

12

16

20

実質設備投資

2014201220102008200620042002

営業外損益 減価償却費 利払費人件費 変動費 売上高

(図表15)経常利益の要因分解(前年度比)

(資料)財務省「法人企業統計」を基に日本総合研究所作成(注1)経常利益=売上高-固定費-変動費+営業外損益(利払費

除く)、固定費=人件費+減価償却費+利払費、変動費=売上原価+販管費-人件費-減価償却費。

(注2)寄与度分解の営業外損益は利払費を除く。

(%)

(年度)

▲15

▲10

▲5

0

5

10

15

20

経常利益

201920182017201620152014

予測

5.9% 4.9%

10.0%7.9%

3.9% 2.5%

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日本経済見通し

JR Iレビュー 2018 Vol.1, No.52 23

ついては、五輪後のプロジェクトも含めた都心部の再開発に加え、外国人観光客の増加やネット通販の

拡大に伴う宿泊施設、物流施設の新設など、中期的に需要が見込まれる分野が引き続きけん引役になる。

研究開発投資についても、AI、IoT、自動運転技術など先進技術への対応が求められるなか、多くの企

業が中長期的に研究開発投資を拡大する姿勢を示している。実際、民間企業へのアンケート調査(注

1)をみると、「5年後の研究開発費を増加させる」と答えた企業の割合は、全体の6割に上る。

 以上を踏まえると、設備投資の回復力が一段と

高まるか否かは、製造業の機械投資の動向がカギ

を握るといえる。そこで、機械投資が中心である

製造業の設備投資についてみると、足許では、輸

出が増加する一部業種で、能力増強投資に前向き

な動きがでてきている。具体的には、電子部品・

デバイスや生産用機械産業が生産能力を拡大した

ほか、電気機械産業でも重電機器やリチウムイオ

ン電池などの分野で生産能力を積み増す動きがみ

られる(図表16)。

 もっとも、製造業全体でみると、リーマン・シ

ョック前と比べ設備稼働率は大幅に低下しており

(図表17)、多くの企業が、需要の増加に対し稼働

率を引き上げることで対応可能な状況にある。さ

らに、海外需要に対しては現地生産を中心に対応

するという「地産地消」のスタンスも持続している。前述したように、国内工場を海外に移管する動き

は足許で一服しているものの、海外に移した生産拠点を国内に戻す動きは限定的である。実際、海外で

生産していた製品・部材を国内に戻した企業の割合は1割強と、横ばいで推移している(図表18)。良

70

75

80

85

90

95

100

105

110

115

120

生産能力指数稼働率

201620142012201020082006200420022000

(図表17)製造業の設備稼働率と生産能力(季調値)

(資料)経済産業省「鉱工業指数」

(2010年=100)

(年/期)

0

10

20

30

40

50

60

70

80

90

100

2016年末2015年末2014年末

国内生産回帰あり国内生産回帰なし

(図表18)生産を海外から国内に戻した企業の割合(製造業)

(%)

13.3 12.0 11.8

86.7 88.0 88.2

(資料)経済産業省「2017年版ものづくり白書」(注)2014年末調査は2012年末以降の過去2年間、2015、2016年末

は、過去1年間で海外生産から国内生産に戻したケースの有無を調査。

(図表16)業種別の生産能力(2017年7~9月)

(資料)経済産業省「鉱工業指数」を基に日本総合研究所作成

(リーマン・ショック後のボトム=100)

90

95

100

105

110

115

電子部品・

デバイス

生産用機械

電気機械

輸送機械

化 学

鉄 鋼

製造業

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24 JR Iレビュー 2018 Vol.1, No.52

好な収益環境を背景に更新投資などは堅調に推移するとみられるものの、人口減少下で国内の成長見通

しが高まりにくいなか、国内の生産能力を拡大する動きは限定的にとどまる見込みである。このため、

製造業の機械投資は力強い回復を期待しにくく、設備投資の増加ペースが一段と高まる可能性は小さい

といえる。

(3)消費増税を乗り越えられるか

 最後に、2019年10月に予定されている消

費増税が、景気を腰折れさせる可能性につ

いて検討する。前回(2014年4月)の消費

増税時を振り返ると、物価上昇による購買

力の低下に加え、所得税や社会保障関連で

も家計負担が増加したことが(図表19)、

個人消費の落ち込みに拍車をかけ、その後

の回復力も脆弱にとどまった主因といえる。

 まず、2014年度には、消費増税による5

兆円のほかに、所得税の増税や年金、健康

保険の保険料率引き上げ、年金受給額の引

き下げにより、合計1.4兆円の負担増が発

生した(図表20)。家計負担の増加が名目所得の増加を大きく上回ったことで、実質ベースでみた可処

分所得が2.8兆円減少し、個人消費は過去のトレンドから大きく下方にシフトした(図表21)。さらに、

2015年度も、所得税、社会保障関連で引き続き1.3兆円の家計負担が発生した。この結果、実質可処分

所得の回復は1.1兆円にとどまり、個人消費の持ち直しも緩慢となった。

96

97

98

99

100

101

102

103

104

105

2019年消費増税時の見通し線形トレンド(1994~2012年)実績値

20172016201520142013201220112010

(図表21)実質個人消費とトレンド

(資料)内閣府などを基に日本総合研究所作成

(消費増税の2年前=100)

(年/期)

2019年10~12月期

(図表20)消費増税後の家計の実質所得の変化

(兆円)

2014年の消費増税時 2019年

2014年度(前年差)

2015年度(前年差)

2019年10月から1年間(前年差)

名目所得 +3.3 +2.7 +4.1

消費税 ▲5.1 ±0 ▲2.8

所得税・社会保障関連の負担増

▲1.4 ▲1.3 ▲0.5

消費税対策の給付金 +0.4 ▲0.2

合 計 ▲2.8 +1.1 +0.8

(資料)内閣府などを基に日本総合研究所作成(注1)名目所得は賃金・俸給。消費税は、消費税率の引き上げ

が個人消費デフレーターに与えた影響を推計することで、消費増税の家計負担分を推計。所得税・社会保障関連の負担増は、図表19の施策が家計の可処分所得に与えた影響を試算。消費税対策の給付金は、簡素な給付措置と子育て世帯臨時給付金の合計(事業費ベース)。

(注2)2019年の消費増税時の名目所得は、日本総合研究所の見通し。所得税・社会保障関連の負担増は、組合健保の保険料率上昇とマクロ経済スライドによる年金給付の抑制を想定。

(図表19)消費増税前後に実施された主な家計負担の増加措置

項 目 実施時期等

給与所得控除に上限を設定2013年1月

(住民税は2014年度から)

上場株式等に係る配当等の軽減税率廃止 2014年1月

所得税の最高税率の引き上げ 2015年1月

相続税の基礎控除の縮小・高額相続の税率引き上げ

2015年1月

厚生年金・公務員共済の保険料率の引き上げ

2013、2014、2015年度ともに0.354%引き上げ

国民年金の保険料の引き上げ2013、2014、2015年度

ともに引き上げ

組合健保の保険料率の引き上げ2013、2014、2015年度にそれぞれ、40%、27%、

22%の組合が実施

特例水準の解消を目的とした年金受給額の引き下げ

2013年10月、2014年4月、2015年4月

マクロ経済スライドによる年金受給額の抑制 2015年度

(資料)日本総合研究所作成

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日本経済見通し

JR Iレビュー 2018 Vol.1, No.52 25

 一方、2019年10月の消費増税時は、2014年に比べ税率の引き上げ幅が小さく(注2)、軽減税率の導

入も予定されている。さらに、所得税や社会保障関連でも大きな負担増が見込まれていないことから、

家計負担の増加は3.3兆円と、2014年(6.5兆円)の半分程度にとどまる見込みである。さらに、エコポ

イント制度などにより2009年から2011年にかけて販売が上振れしたテレビなどの家電製品が、買い替え

時期を迎えることも、個人消費の下支えに作用する見込みである。消費増税に伴う駆け込み需要の反動

減は避けられないものの、名目所得の増加ペースが維持されれば、実質ベースの可処分所得も増勢を維

持し、個人消費の大幅な落ち込みは避けられ、その後もスムーズにトレンド並みの成長率に復帰してい

く見通しである(前掲図表21)。

 そこで、家計所得の先行きを、雇用と賃金に分

けて展望する。まず、雇用については、生産活動

の拡大を背景に増加基調が続く見込みである。も

っとも、足許の失業率は、労働市場の均衡水準を

表す構造失業率を下回るなど(図表22)、労働市

場はほぼ完全雇用の状態にある。このため、失業

率の一段の低下余地は小さいといえる。企業にと

っては、労働市場のなかから自社に必要な人材を

見つけることが一段と困難になるため、雇用者数

の増勢は先行き鈍化する見込みである。

 一方、賃金についてみると、足許では人手不足

を背景に上昇圧力が強まる兆しがある。人手不足

が深刻な業種、企業では、非正規雇用を正社員に

転換するなど、正社員の雇用を拡大する前向きな

動きがでてきており、マクロでみた非正規雇用比

率やパート比率の上昇傾向に歯止めがかかってい

る。こうした動きは、賃金に対してもプラスに作

用している(図表23)。今後、人手不足に直面す

る企業が一段と拡大するにつれて、賃金上昇圧力

は徐々に強まると予想される。さらに、企業収益

の回復も、賞与の増加を通じ、家計所得の拡大に

寄与する見通しである。

 以上を踏まえると、雇用の伸びは低下するもの

の、賃金の上昇ペースが高まることで、2%の消

費増税があっても可処分所得が減少に転じない程

度の所得増加は展望可能である(図表24)。この

ため、個人消費の大幅な落ち込みは回避される見通しである。

 もっとも、家計所得の伸びが一段と高まってくることは期待しにくい。人口減少による国内市場の縮

パートタイム比率要因パート労働者賃金要因一般労働者賃金要因

▲1.4▲1.2▲1.0▲0.8▲0.6▲0.4▲0.20.00.20.40.60.8

所定内給与(前年比、左目盛)

(図表23)名目賃金とパートタイム比率

(資料)厚生労働省を基に日本総合研究所作成(注)パートタイム比率は後方4期移動平均。

(%) (%)

(年/期)

27

28

29

30

31パートタイム比率(右目盛)

2017201620152014201320122011

2

3

4

5

6

7構造失業率雇用失業率

201520122009200620032000979491881985

(図表22)失業率と構造失業率

(資料)総務省、厚生労働省を基に日本総合研究所作成(注)雇用失業率=完全失業者数/(完全失業者数+雇用者数)。

(%)

(年/期)

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26 JR Iレビュー 2018 Vol.1, No.52

小観測などを背景に、多くの企業は将来の売上拡大に自信を持てないことから、固定費抑制姿勢は根強

く残る見込みである。このため、賃金の上昇ペースは緩やかにとどまり、マクロでみた企業の労働分配

率は緩やかな低下が続く見通しである(図表25)。

(注1)一般社団法人 研究産業・産業技術振興協会「平成28年度 民間企業の研究開発動向に関する実態調査」。

(注2)2014年4月は5%から8%への引き上げだったのに対し、2019年10月は8%から10%への引き上げ。

3.展望と課題

(1)底堅い内外需を背景に景気回復が持続

 以上の分析を踏まえてわが国経済を展望すると、当面は、経済対策効果の一巡に伴う公共投資の減少

が景気を下押しするものの、国内民需は底堅く推移する見込みである。設備投資は、都心部の再開発や、

宿泊施設、物流施設の新設といった建設投資に加え、製造業を中心とした研究開発投資の増加を背景に

プラス基調が続くとみられるほか、個人消費も、株価の上昇に伴う消費者マインドの改善などが下支え

に作用する。輸出も、世界的な設備投資意欲の改善などを背景に、増加基調が続く見込みである。

 2018年度も、アメリカを中心とした海外経済の堅調な成長が輸出の下支えに作用する。一方、内需も、

高水準の企業収益などを背景とした設備投資の増加や、人手不足を受けた雇用所得環境の改善などを背

景に底堅く推移するとみられることから、拡大基調が続く見込みである。

 結果として、2017年度および2018年度は、内外需ともに底堅く推移することで、1%程度とみられる

潜在成長率を上回る成長が続く見通しである(図表26)。

 2019年度は、10月に予定される消費増税に伴う購買力の低下が個人消費を下押しすることで、成長率

は鈍化するとみられる。もっとも、今回の消費増税は、2014年と比べて税率の引き上げ幅が小さく、所

得税・社会保障関連の負担増も小さいことから、個人消費の大幅な落ち込みは回避される見通しである。

結果として、1%近い成長は維持できる見込みである。

一人当たり現金給与総額要因雇用者数要因

(図表24)雇用者所得の見通し(前年度比)

(資料)内閣府、総務省を基に日本総合研究所作成

(%)

(年度)

▲1.5

▲1.0

▲0.5

0.0

0.5

1.0

1.5

2.0

2.5 雇用者所得

201920182017201620152014201320122011

見通し

7,000

7,250

7,500

7,750

8,000

8,250

8,500

8,750

9,000

9,250

生産年齢人口(右目盛)

(図表25)労働分配率の見通し

(資料)財務省、総務省を基に日本総合研究所作成

(%) (万人)

(年度)

54

56

58

60

62

64

66

68

70

72

労働分配率(左目盛)

20172014201120082005200299969390871984

見通し

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日本経済見通し

JR Iレビュー 2018 Vol.1, No.52 27

 消費者物価については、賃金上昇ペースが緩やかにとどまるなか、インフレ期待も高まりにくいこと

から、0%台後半~1%程度と、日銀の物価目標を下回る状況が続く見込みである。もっとも、底堅い

景気回復が続くもとで、消費者物価やGDPデフレーターはプラス基調が続くため、デフレ脱却が明確

化していくだろう。日銀は2%の目標自体は堅持する公算が大きいものの、デフレに逆戻りするリスク

が小さいと判断すれば、大規模緩和の修正に着手する可能性がある。

 このような景気および物価見通しにおける下振れリスクとしては、地政学要因によるマーケットの混

乱や米トランプ政権の通商政策を指摘できる。北朝鮮情勢の緊迫化など地政学要因を背景に、市場でリ

スク回避の動きが強まれば、円の急騰・株価の急落がわが国景気を下押しする事態になる。また、トラ

ンプ政権が通商協定の見直しなどで自国の利益を強く主張し続ければ、他国にも保護主義的な動きが広

がり、世界的に貿易活動が停滞する懸念もある。その場合、輸出や企業収益の減少を通じ、わが国経済

にも大きなマイナス影響が及ぶのは不可避である。

(2)実感を伴った戦後最長回復の実現に向けて

 これまでの分析でみてきたように、わが国経済は、先行きも底堅い内外需を背景に景気回復基調が続

く見通しである。この結果、2019年1月には、戦後最長の景気回復期間を更新する見込みである。もっ

とも、景気の一段の加速は見込みにくく、所得環境の改善ペースも現状程度にとどまるため、景気回復

(図表26)わが国経済および物価などの見通し(前期比年率、%、%ポイント)

2018年 2019年 2020年2016年度 2017年度 2018年度 2019年度

7~9 10~12 1~3 4~6 7~9 10~12 1~3 4~6 7~9 10~12 1~3

(実績)(予測) (実績)(予測)

実質GDP

2.5 0.9 0.7 1.0 1.2 1.3 1.4 1.4 2.5 ▲3.7 1.3 1.2 1.8 1.2 0.9

個人消費 ▲1.9 0.7 1.0 1.0 0.9 0.9 1.1 1.6 5.2 ▲9.1 1.3 0.3 1.1 0.8 0.6

住宅投資 ▲4.0 ▲2.6 ▲0.4 ▲0.2 0.8 3.2 6.4 1.9 ▲3.1 ▲9.8 ▲7.2 6.2 1.7 0.3 ▲0.3

設備投資 4.3 3.1 2.6 3.1 3.1 2.9 2.8 2.6 2.6 2.4 2.4 1.2 3.5 3.0 2.7

在庫投資(寄与度)( 1.5)( 0.0)(▲0.2)(▲0.1)( 0.0)( 0.0)( 0.0)(▲0.1)(▲0.5)( 0.3)( 0.3) (▲0.3)( 0.0)( 0.0)(▲0.1)

政府消費 0.2 1.0 0.9 0.9 0.7 0.7 0.7 0.8 0.8 0.8 0.8 0.5 0.6 0.8 0.8

公共投資 ▲9.2 ▲4.3 ▲4.1 ▲1.8 0.0 0.5 ▲1.2 ▲0.6 0.2 0.5 0.3 0.9 1.0 ▲2.2 ▲0.2

公的在庫(寄与度)(▲0.0)( 0.0)( 0.0)( 0.0)( 0.0)( 0.0)( 0.0)( 0.0)( 0.0)( 0.0)( 0.0) (▲0.0)( 0.0)(▲0.0)( 0.0)

輸 出 6.0 3.3 2.4 2.7 2.9 3.0 3.0 2.8 2.8 2.6 2.6 3.4 5.0 3.0 2.8

輸 入 ▲6.2 2.6 2.4 2.4 2.4 2.5 2.5 2.7 5.3 ▲3.2 2.8 ▲1.1 2.4 1.9 2.3

国内民需(寄与度) ( 1.0)( 0.8)( 0.8)( 0.9)( 1.0)( 1.1)( 1.3)( 1.3)( 2.7)(▲4.6)( 1.2) ( 0.3)( 1.2)( 0.9)( 0.7)

官 公 需(寄与度) (▲0.5)(▲0.0)(▲0.0)( 0.1)( 0.1)( 0.2)( 0.1)( 0.1)( 0.2)( 0.2)( 0.2) ( 0.1)( 0.2)( 0.1)( 0.1)

純 輸 出(寄与度) ( 2.0)( 0.2)( 0.0)( 0.1)( 0.1)( 0.1)( 0.1)( 0.0)(▲0.4)( 1.1)(▲0.0) ( 0.8)( 0.5)( 0.2)( 0.1)

(前年同期比、%)

名目GDP 2.2 2.0 2.4 1.9 1.6 1.6 1.9 1.9 2.4 1.6 1.7 1.0 1.9 1.8 1.9

GDPデフレーター 0.1 0.1 0.7 0.6 0.6 0.6 0.6 0.6 0.7 1.3 1.3 ▲0.2 0.1 0.6 1.0

消費者物価指数(除く生鮮) 0.6 0.8 0.7 0.8 0.9 0.8 0.7 0.8 0.9 2.0 2.1 ▲0.2 0.7 0.8 1.5

(除く生鮮、消費税) 0.6 0.8 0.7 0.8 0.9 0.8 0.7 0.8 0.9 1.1 1.1 ▲0.2 0.7 0.8 1.0

完全失業率(%) 2.8 2.8 2.7 2.7 2.7 2.6 2.6 2.6 2.6 2.6 2.6 3.0 2.8 2.7 2.6

円ドル相場(円/ドル) 111 113 113 114 114 115 115 116 116 115 115 108 112 115 116

原油輸入価格(ドル/バレル) 50 59 61 61 61 62 62 63 63 63 63 47 56 61 63

(資料)内閣府、総務省などを基に日本総合研究所作成

2017年

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28 JR Iレビュー 2018 Vol.1, No.52

を実感しにくい状況が続くとみられる。実感を伴った景気回復を実現するためには、以下3点に取り組

むことが必要である。

 第1に、家計所得の一段の拡大である。具体的には、まず、労働供給の拡大余力の低下が雇用の伸び

の制約になるとみられるなか、女性や高齢者の労働参加の一段の促進などを通じ、雇用増による所得拡

大を持続させることが必要である。女性の労働参加の促進においては、保育所の量的拡充だけでなく、

保育の質を確保し、子供を安全に預けることができる環境整備も課題である。高齢者の労働参加につい

ては、在職老齢年金の支給停止制度など、就労インセンティブを阻害しかねない制度を見直す必要があ

る。さらに、労働供給の拡大という観点からは、事業転換が必要な部門に企業が抱えている人材をいか

に有効活用するかも重要といえる。政府が労働市場改革を着実に進めることで、雇用の流動性を高める

とともに、リカレント教育を充実させれば、こうした人材の適所への移動と活用が円滑に進むことと期

待される。

 家計所得の拡大を阻害している要因として、パ

ート主婦の就労調整も大きな問題である。実際、

労働時間の減少を背景に、パートタイム労働者の

所得は小幅な増加にとどまっており、時給の上昇

が必ずしも所得の増加に寄与していない(図表

27)。主婦の労働時間調整は、政府が目指す女性

の活躍推進にも逆行した動きであり、第3号被保

険者制度を見直すなど、就業調整を行わないで済

むような税・社会保障制度を構築する必要がある。

 企業の労働分配率の低下が続くなか、いかに企

業から家計への分配を拡大するかも重要な課題で

ある。政府は、政労使会議を通じ賃上げを呼びか

けるとともに、「子ども・子育て拠出金」のよう

に特定の支出に充当することを目的とした拠出を企業に求めることも一案である。人材育成の重要性が

高まっていることから、教育関連の支出を目的とした拠出金の創設であれば抵抗感少なく、家計への分

配を高めることができる可能性がある。一方で、政府としても、国内市場の縮小に歯止めをかけ、企業

が人件費の拡大に前向きになれるように、少子化対策などに本格的に取り組むべきである。

 第2に、企業の生産性向上である。人手不足を通じた賃金上昇は、生産性上昇による収益改善が伴わ

なければ持続性を期待できない。このため、政府は、生産性向上に向け企業の取り組みを後押しし、

「生産性の上昇→賃金増」というメカニズムを確立する必要がある。生産性向上に向けた企業の取り組

みとしては、例えば、人手不足が深刻な小売業では、セルフレジや非現金決済システムの導入が進んで

いる。今後は、こうした取り組みを中小の小売店にも広げていくことが必要である。また、介護分野で

は、介護ロボットの開発が進んでおり、介護施設への導入にインセンティブを与え、普及を後押しする

ことを検討すべきである。

 他の先進国と比べ投資額が少ないとされるICT投資については、投資の量的な促進だけでなく、高度

時給要因労働時間要因

(図表27)パートタイム労働者の給与総額の寄与度分解

(資料)厚労省「毎月勤労統計調査」を基に日本総合研究所作成

(%)

(年/期)

▲6

▲4

▲2

0

2

4

6

8

10

現金給与総額(2011年対比)

2017201620152014201320122011

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日本経済見通し

JR Iレビュー 2018 Vol.1, No.52 29

なICTの利活用やAI、IoTなど先端分野に精通する人材の育成・供給が、生産性向上のカギになる。経

済産業省の推計(注3)によると、IT企業やユーザ企業情報システム部門に所属するIT人材は、2015

年時点で約17万人不足しており、2020年には30万人程度まで不足幅が拡大すると予想されている。こう

した現状を踏まえれば、大学院などにおけるデータサイエンティスト育成コースの拡充や、社会人向け

のリカレント教育のカリキュラムを充実させるなど、産官が連携してIT人材の育成に取り組むことが

急務といえる。

 第3に、財政に関する将来不安の払しょくである。政府は、全世代型の社会保障を打ち出し、現役世

帯や若年層への支出を拡大しようと企図している。もっとも、こうした取り組みが野放図な歳出拡大に

終われば、将来の増税懸念を高めかねない。この結果、若年層を中心に将来不安が強まれば、個人消費

の下押しに作用する可能性もある。政府は、全世代型社会保障の全体像を早急に示したうえで、給付や

負担のあり方について議論を進める必要がある。財政を過度に悪化させることなく、現役世帯や若年層

向けの支出を拡大するためには、所得や資産に応じた課税方式を確立し、高齢者を含め応能負担を強め

るとともに、費用対効果の分析を通じた医療サービス価格や医療保険の給付範囲の見直しを進めるなど、

社会保障給付の抑制・効率化に一段と踏み込むことが不可欠である。

(注3)経済産業省「IT人材の最新動向と将来推計に関する調査結果(2016年6月)」。

(2017. 12. 8)