「ガラス系の物理」 - Osaka UniversityLecture 1 : 序論 過冷却液体・ガラスと熱力学 過冷却液体のダイナミックス スピングラスからのヒント
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力学 II演習 Practice.07 解答例篇 last revised 11. 25. 2010. (Thu)
abbbbbbbbbbbbbbbbbbbbbbbbbbbbbbbbbbbbbbbbbbbcdddddddddd
Theme : 剛体の運動の基礎 ITheme : 剛体の運動の基礎 ITheme : 剛体の運動の基礎 ITheme : 剛体の運動の基礎 ITheme : 剛体の運動の基礎 ITheme : 剛体の運動の基礎 ITheme : 剛体の運動の基礎 ITheme : 剛体の運動の基礎 ITheme : 剛体の運動の基礎 ITheme : 剛体の運動の基礎 I
本日は,剛体の力学の基礎事項を確認していきましょう.
並進の運動方程式 :dPCM
dt= F total, 回転の運動方程式 :
dL
dt= N total.
まずは基本的な用語や式の意味を確認しましょう. つぎに, 剛体の力学で苦手な方が多い慣性モーメントテンソルについてひとつ取り組みましょう.
eeeeeeeeeefgggggggggggggggggggggggggggggggggggggggggggh確認テスト
1. 剛体の力学において登場する術語の定義を述べ,さらにその術語について論じなさい.
(1)自由度 (運動の次元について説明しなさい. 特に空間の次元との関わりについてもふれなさい.)
(2)剛体 (特に,多質点系との違いを明らかにするように補足説明をしなさい)
(3)モーメント (能率)(モーメントと称される物理量の例をいくつか出しなさい.)
2. 剛体の運動では,剛体の重心運動 (並進運動)と重心周りの運動 (回転運動)について調べる.
(1)剛体の自由度について説明しなさい (一般に剛体の自由度が 6となることを理由とともに説明しなさい).
(2)剛体の重心運動 (並進運動)と重心周りの運動 (回転運動)の方程式を書き,質点の運動方程式のアナロジーから式を解釈しなさい. ここで, 式を解釈しやすくするために慣性モーメントテンソル I は時間によらないものと考えなさい.(I と講義で用いた記号 I にˆをつけたのは単位行列と区別するためである.)
出題の狙い 講義ノート 2.1運動の自由度および 2.3剛体の運動方程式のところから,基本的な術語の意味を確認する問題です.
レポートの「演習問題」や演習の時間の「確認テスト」の採点をしていてよく感じることですが,受講生の方々は定義や条件に寛容すぎる!ような気がします. 大学は正しい理解を追求する気組みが大切なので,少なくとも新しい専門用語が登場したらその都度・定・義・は・最・低・限・理・解しておきましょう.
解答例
1.(1)Definition: 自由度 (講義で扱ったように, Newton 力学では) 系の配置を指定するのに必要な独立変数の数を自由度 (degree
of freedom)という. 解析力学でも用いられる定義は, N 体質点系の運動空間 R3N の中の配位空間 N の次元 n = dimN を系の自由度 (degree of freedom)という.*1
自由度 nの運動の次元は nである. したがって,系の運動の状態を完全に決定するためには n本の独立な方程式を解く必要がある. また,運動の次元と空間の次元直接は関係ないことは注意しなければならない.
すなわち, 3次元空間において,ある曲線 Cの上でしか運動できない質点の自由度は 1であるから,運動は1次元の運動である. また,一般に剛体の自由度は 6であるので運動は 6次元の運動である.
(2)Definition: 剛体 構成要素の任意の 2 点間の距離が時間的に変化しない理想化された数理モデル (物体) を剛体 (rigid
body)という. すなわち,物体Mにおいて, ∀ri, rj ∈ M,d
dt|rj − ri| = 0を剛体という. 要するに,大きさ
*1 系の状態を指定する基本変数の組の数を自由度という本もある. すなわち, Newton 力学では系の状態とは位置 r = (x1, x2, x3) と速度v = (v1, v2, v3)の組 (r, v)のことであるから, (x1, v1), (x2, v2), (x3, v3)という 3つの基本変数の組からなるとき自由度 3という.
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をもち,どんなに力を加えても変形しない理想的な物体のことである.*2
一方,剛体を連続体の立場で考えることがある. しかし,定義は連続体で考えても変更する必要はない.
剛体は質点系Mと称されるものの中で ∀ri, rj ∈ M,d
dt|rj − ri| = 0という条件をみたすものである.
すなわち,単に質点系といえば変形するものも含まれるのである.
(3)Definition: モーメント (能率)
点 P にあるベクトル量を G, 点 P の位置ベクトルを r とする. G に対して r をベクトル積として左乗した
M := r × G, (7.2)
を Gのモーメント (能率)(moment) M という.
• Gが力 F のとき, M := r× F を原点 Oのまわりの力のモーメント (力の能率)(moment of force)といい,このとき, M を N と書くことが多い.
N の次元は [length]× [force] =[length]2 · [mass]
[time]2= [length]2 · [mass] · [time]−2 である.
• Gが運動量 pのとき, M := r × pを原点 Oのまわりの運動量のモーメント,または慣習として角運動量 (angular momentum)*3といい,このとき, M を Lと書くことが多い.
Lの次元は [length]× [momentum] =[length]2 · [mass]
[time]= [length]2 · [mass] · [time]−1 である.
2.(1) 剛体の運動は、重心の移動と重心まわりの回転によって表すことができる. 重心は 3つの座標 (3自由度)
によって記述され,回転は回転軸の方向 (2自由度)とその回転軸まわりの回転角 (1自由度)の計 6つのパラメータによって,剛体の運動は記述されることになる. したがって,剛体の自由度は 6である.
(2) 剛体の重心の運動量, 外部からの作用をそれぞれ PCM, F total, また, ある固定点に関する角運動量およびその固定点まわりの力のモーメントをそれぞれ L, N total とすると剛体の重心運動 (並進運動)の方程式と重心周りの運動 (回転運動)の方程式は
並進の運動方程式 :dPCM
dt= F total, 回転の運動方程式 :
dL
dt= N total, (7.3)
と書くことができる. ここで,剛体の全質量をM ,重心の速度を VCM とすると
PCM = MVCM (7.4)
と書ける. さらに,慣性モーメントテンソル I と角速度ベクトル ω を用いて
L = Iω (7.5)
である. したがって,重心運動 (並進運動)の方程式と重心周りの運動 (回転運動)の方程式を
並進の運動方程式 : MdVCM
dt= F total, 回転の運動方程式 : I
dω
dt= N total, (7.6)
と書き直すことができる.
さて,この方程式の意味を解釈しよう. まず,質量mの質点の運動方程式は
mdv
dt= F total,
である. これは,質点mに外力 F total が作用し加速度 dv
dtを生じたという,因果関係を表す式である. ここ
で, mは慣性質量 (inertial mass)といい,その質点のもつ慣性の大きさ,つまり,質点の運動の状態の変化の
*2 「どんなに力を加えても変形しない物体など現実には存在しないから剛体などは実在しない」,「現実的でないから剛体は正しくなく,物理で扱うのは不適切だ」,「剛体は近似である」などと主張する人がいるが,これは・大・き・な・誤・解である.このように思う人のために『解説』で少しだけ注意をしておく.
*3 古い本では角運動量をモーメントの定義通り運動量のモーメント,または運動量能率と書いてあるものもある.さらに,運動量のモーメントを作り出す普通の運動量 pを角運動量に対して線運動量と書いてあることも多い.
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生じにくさを表す物量である. したがって,慣性質量の大きい質点ほど同じ大きさの力を受けても運動の変化 (加速度の増減)が起こりにくい. この並進の運動方程式は, 1質点の運動方程式を全く同じ形で次元も同じなのでどうようの解釈をすればよい.
一方,回転の運動方程式を質点の運動方程式の解釈のアナロジーを用いて解釈しよう. まず,慣性質量m
に対応するものは式の形からして慣性モーメントテンソル I である. 慣性質量が運動の変化の起こりにくさを表すので,慣性モーメントテンソル I は剛体の回転運動の起こりにくさを表す物理量と類推する. また,
力 (force)が外部からの質点の運動の状態を変える作用であったから,力のモーメント (moment of force) N
は外部からの剛体の回転運動の状態を変化 (起こ)させる作用であると考えられる. 加速度 (acceleration)は質点が力を受けて運動の状態が変化した結果であるから,角加速度 (angular acceleration)
dω
dtは剛体が外力
のモーメントを受けて回転運動の状態が変化した結果を表すと考えられる. したがって,回転運動の方程式を解釈しようとすると, 慣性モーメントテンソル I の剛体に外部から力のモーメント N を受け角加速度dω
dtを生じたと解釈できる.
それぞれの次元も考えて表にまとめると以下のようになる.
名称 inertial mass Moment tensor of inertia
記号 m I
次元 [mass] [mass]・[length]2
意味 運動状態の変化の生じにくさを表す 回転運動の変化の生じにくさを表す
名称 force moment of force
記号 F N
次元 [mass]・[length]・[times]−2 [mass]・[length]2・[times]−2
意味 運動の状態を変化させるもの 回転運動を変化させるもの
名称 acceleration angular acceleration
記号 ¨r¨θ
次元 [length]・[times]−2 [times]−2
意味 質点に F が加わった結果の速度時間変化 剛体に N が加わった結果の回転運動の時間変化
解説
考察
1. 1.-(3)において,力のモーメント N の次元は角運動量 Lの次元を時間でわったものであることに気づく. 角運動量 Lと力のモーメント N の間の関係式
dL
dt= N , (7.7)
が成立つことからもこの次元解析の結果は一致している. さらに,角速度ベクトル ω の次元は [time]−1 であるから,慣性モーメントテンソル I を用いて
L = Iω, (7.8)
と角運動量 Lを表したとき,慣性モーメントテンソル I の次元が [length]2 · [mass]であることは次元解析からもわかる.
発展
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演習 7-1 (慣性モーメントテンソルの簡単な例)
m1
m2
z
x
y
ω1
O
π
(a, a, -2a)
(-a, -a, 2a)
簡単なひとつの二原子分子の toy modelを使って剛体の運動を記述するための訓練をしましょう. 強い相互作用で結びついており互いの距離が不変な理想的な分子を剛体とみなして考える. 剛体の力学においても回転の激しさを表す角速度ベクトル ω は必要不可欠な道具である.
1. 時間によらない次の角速度ベクトル ω1 の向きと大きさを答えなさい.
ω1 =
Ñωx
ωy
ωz
é=
Ñωωω
é.
さらに, 角速度ベクトル ω1 が表す回転軸 l の方程式とこの軸 lに垂直な面 π の方程式を書きなさい.
2. 二つの原子の質量をそれぞれm1,m2 とし, m1,m2 はそれぞれ (−a,−a, 2a), (a, a,−2a)の位置にある. 原点 Oのまわりの慣性モーメントテンソル I を求めなさい.
3. 主慣性モーメント I1, I2, I3 と慣性主軸 (ξ, η, ζ)を求めなさい. さらに,慣性主軸に対して二原子分子はどの軸のまわりで最も回転しやすく,逆にどの軸のまわりで最も回転しにくいのか論じなさい.
4. 二原子分子を原点 Oを中心に角速度ベクトル ω1 で回転させる. このときの角運動量ベクトル Lと力のモーメント N を求めなさい.
出題の狙い 剛体の力学では,慣性モーメントテンソルを求めることができないと困ることがいっぱいです. しかし,苦手な人が多いところでもあります. 簡単な例で慣性モーメントテンソルを学びましょうというのは狙いです.
解答例
1. 角速度ベクトルは
ω1 = ω
Ñ111
é, (7.9)
であるから,向きは(
111
)であり,大きさは
√ω2 + ω2 + ω2 =
√3ω である.
さらに,角速度ベクトル ω1 が表す回転軸は点 (1, 1, 1)と原点を通る直線 lである. したがって,方向ベクトルが(
111
)である直線 lの方程式は
x = y = z = t (7.10)
とパラメータ tを用いて表すことができる. これは rl = t(
111
)と直線のベクトル表示で表すこともできる.
次に,面 π の方程式を考える. 面の単位法線ベクトルは n =1√3
(111
)である. したがって,面 π は原点 Oを
通るので,その面上の任意のベクトルを rπ とすれば
rπ · n = 0
が平面 π のベクトル表示である. これは,x+ y + z = 0 (7.11)
と書くこともできる.
2. 慣性モーメントテンソル I は行列の形に書き下すと,
I =
ÑIxx Ixy IxzIyx Iyy IyzIzx Izy Izz
é=
Ñ ∑mi(y
2i + z 2
i ) −∑
mixiyi −∑
mixizi−∑
miyixi∑
mi(z2i + x 2
i ) −∑
miyizi−∑
mizixi −∑
miziyi∑
mi(x2i + y 2
i )
é(7.12)
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である. この式に値を入れていけば
I =
Ñ5Ma2 −Ma2 2Ma2
−Ma2 5Ma2 2Ma2
2Ma2 2Ma2 2Ma2
é(7.13)
となる. ここで, M := m1 +m2 である.
3. 前問 2. で求めた慣性モーメントテンソル I の固有値とそれに対応する固有ベクトルを求めれば,固有値が主慣性モーメントであり,主慣性モーメントに対応する主軸は固有ベクトルとして得られる. 固有方程式を解けば固有値 λ1 = 0, λ2 = 6Ma2(重根)を得る (代数的重複度 2). そして,対応する固有ベクトルは
u1 =1√6
Ñ11−2
é, u2 =
1√2
Ñ1−10
é, u3 =
1√3
Ñ111
é, (7.14)
とすればよい*4. したがって, U = [u1 u2 u3]と固有ベクトルを 3つ並べた直交行列を用いて I を対角化することができる.
UIU−1 =
Ñ0
6Ma2
6Ma2
é. (7.15)
今求めた固有ベクトル (慣性主軸)が, u3 は回転軸 l (角速度ベクトル ω)の向きの単位ベクトルであり, u1 および u2 は軸 lに垂直な回転面 π を張る正規直交基底となっている. さらに,この二原子分子は平面 π の上にあることにも注意しておく. 慣性モーメント (主慣性モーメント)はその軸のまわりでの回転の変化の起こりにくさを表す物理量であるから, その値 (絶対値) が小さいほど回転しやすく, 逆に値が大きいほど回転が生じにくい. したがって,もっとも回転を生じやすい軸は主慣性モーメント I1 = 0である ξ(u1)軸である (FIG.1左). ξ
軸は二つの原子を結ぶ直線であり, その軸のまわりでの回転は講義のマッチ棒の説明にあったように明らかに生じやすいことは感覚的にも明らかである.
一方,残り二つの主軸のまわりの主慣性モーメントは I2, I3 = 6Ma2 と同じ値である. これは面 π 上の ξ 軸と直交する η(u2)軸のまわりの回転 (FIG.1中央)と面 π の法線 ζ(u3)軸のまわりの回転 (FIG.1右)が同じ程度の回転のしにくさであるということである.
m1
m2
z
x
y
O
π
(a, a, –2a)
(–a, –a, 2a)
ξ
m1
m2
z
x
y
O
π
(a, a, -2a)
(-a, -a, 2a)
η
m1
m2
z
x
y
O
π
(a, a, –2a)
(–a, –a, 2a)
ζ
FIG.1
4. ω1 の回転は慣性主軸 ζ 軸のまわりの回転である. したがって, このときの主慣性モーメント I3 もすでにわかっているので
L = I3ω1 = 6Ma2ω
Ñ111
é(7.16)
*4 重根 λ2 = 6Ma2 に対応する固有ベクトルは x+ y− 2z = 0なる平面 (実はこれは ξ 軸と平面 πに直交し原点を含む平面である)に対する線型独立なベクトルを勝手に二つ選んである.この幾何学的意味は図から明らかであるが,もう少し丁寧に解説と考察で考える.
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となる. したがって,回転の運動方程式から力のモーメント N は
dL
dt= 0 (7.17)
から N = 0であることがわかる. つまり, ζ 軸まわりに角速度ベクトル ω1 で定常的に回転させるために外力のモーメントは必要ない. さらに,この式は ξ 軸まわりの定常回転では角運動量 Lは時間的に変化しない,つまり角運動量が保存するということを主張している.
解説固有値と固有ベクトルを求めるところを解説予定考察
発展線型代数の観点から固有値と固有ベクトル,対角化,くらいについてちょっと記述予定
問題 7-2 (剛体の基本的な運動に関する定理)
1. 次の剛体の一般の変位に関する定理を示しなさい.theorem 剛体の一般の変位は任意に定めた点のまわりの回転とひとつの並進とで表され,そのときの回転は・一・意・的・に定まる.
2. 剛体の運動は並進 (translation)と回転 (rotation)で表されることは高校でも学んだ. 次の Charlesの定理を示しなさい.
Charles’s theorem 剛体の任意の変位は“並進”と“その並進方向のまわりの回転”であらわすことができる.
3. 剛体の任意の運動に関して次の定理を示しなさい.theorem 重心 (質量中心)は質量と外力の作用点がそこに集中したとみた場合の質点と同一の運動をする.
4. 剛体の任意の運動に関して次の定理を示しなさい.theorem 重心 (質量中心)のまわりの回転は重心 (質量中心)が静止している場合と同一である.
ただし,剛体を質点の集まりであるとみなすとき,質点間の相互作用は中心力であることを仮定する.
出題の狙い 剛体の基本的な運動に関して成立つ性質です. 当たり前のことだ! と思う性質ばかりですが,当たり前だと思うならば示してみようというのが出題の狙いです. もう少し正確にいうならば, 当たり前だと思うこともちょっと立ち止まって考えてみようということが出題の狙いです.
解答例
1. 剛体の始位置と終位置とが与えられたとき, 始位置で任意に定めた点のまわりに回転して終位置での剛体の方向と平行な方向になるようにし,次に平行移動をして終位置に移すことができる. 今,位置ベクトル r1 の点を中心にし,行列 Aで表される回転と,ベクトル aで表される並進を行ったとし,その変位が r2 点を中心にした
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回転 B と並進 bとでも達成されるとする. その変位で一般に点 rが点 r ′ に移されると,
r ′ − r1 = A(r − r1) + a, (7.18)
r ′ − r2 = B(r − r2) + b, (7.19)
両式で, r = r1 および r ′ = r′1 とした場合には
r ′ − r1 = a, (7.20)
r ′1 − r2 = B(r − r2) + b, (7.21)
が成立つ. これより,0 = (A−B)(r − r1) (7.22)
が導かれるが,任意の rに対してこれが成立つためには A = B であることが必要かつ十分. すなわち,回転を行う中心点は任意であるが,回転は一意的に定まる.
2. 与えられた変位 r 7→ r ′ は回転 Aと適当な並進 aとで表され
r ′ = Ar + a (7.23)
とし, Aは単位ベクトル eの方向の軸のまわりの角度 φの回転であるとする. 与えられた変位 r ′ は r0 と bを適当に選ぶと点 r0 のまわりの回転 Aと回転軸方向の変位 bとで表されることを示そう. このとき,
r ′ − r0 = A(r + r0) + b (7.24)
Ab = b (7.25)
となるはずである. したがって,b = a+ (A− 1)r0 (7.26)
が成立つ.
いま,任意定数 α, β を用いてr0 = α(1−A−1)a+ βe (7.27)
とおく. すると, Ae = eであるから
Aa+ α(A− 1)(1−A−1)a = a+ α(A− 1)(1−A−1)a
となる. 整理して(A− 1)a = α(1−A)(A− 1)A−1(A− 1)a. (7.28)
そこで, α(1−A)(A− 1)A−1 = 1となるように αを選べばよい. Aは角 φの回転, A−1 を角 −φの回転であるから,複素表示をとって
α(1− eiφ)(eiφ − 1)e−iφ = 1
となる. これより,
α = − 1
4 sin2(φ/2)(7.29)
とすればよい. αをこのように選んだとき, b, eを用いると並進 bは回転軸の方向に一致する. このとき β は不定で, βeにより r0 は回転軸方向に不定性をもつから, 与えられた変位に対してひとつの軸が定まり,その軸のまわりの回転とその軸にそった並進とでその変位が表されることになる.
3. 剛体を質点の集合と考える. 質点 mµ (位置ベクトル rµ) にはたらく外力を Fµ, mµ に mν がおよぼす力をfµν とする. mµ の運動方程式は
mµd2rµdt2
= Fµ +∑µ=ν
fµν
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である. これをすべての質点について加え合わせれば,重心運動 (並進運動)の方程式
Md2RCM
dt2= Fµ (7.30)
が得られる. ここで, M :=∑µmµ は剛体の全質量, RCM =
∑mµrµ∑mµ
=
∑mµrµM
は剛体の重心である. さらに,
右辺を導くさいに作用反作用の法則を適用した. すなわち,重心の運動は全質量と外力が重心に集中したときの質点の運動と同一になる.
4. 慣性系の原点のまわりの角運動量 L =∑
mµrµ × vµ の方程式
dL
dt=∑µ
rµ ×
ÑFµ +
∑µ=ν
fµν
é=∑µ
rµ × Fµ +∑µ<ν
(rµ − rν)× fµν (7.31)
を考える. 質点間の力に対して中心力であることを仮定してしいるので, fµν ∝ (rµ − rν)で右辺第2項は消え,
角運動量は外力のモーメントだけで変化することわかる. ここで,各質点の重心からみた位置ベクトルと速度ベクトル r ′
µ = rµ − RCM, v ′µ := ˙r ′
µ = vµ − VCM を導入する. 明らかに∑
mµr′µ
ご意見・ご要望・ご指摘などがございましたら余白に書いていただくか
TA林 (M1)研究室: B227 号室, mail:[email protected]までお願いいたします.
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力学 II演習 Practice.08 解答例篇 last revised 12. 2. 2010. (Thu)
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Theme : 剛体の運動の基礎 II :慣性モーメントテンソルを求めよう!Theme : 剛体の運動の基礎 II :慣性モーメントテンソルを求めよう!Theme : 剛体の運動の基礎 II :慣性モーメントテンソルを求めよう!Theme : 剛体の運動の基礎 II :慣性モーメントテンソルを求めよう!Theme : 剛体の運動の基礎 II :慣性モーメントテンソルを求めよう!Theme : 剛体の運動の基礎 II :慣性モーメントテンソルを求めよう!Theme : 剛体の運動の基礎 II :慣性モーメントテンソルを求めよう!Theme : 剛体の運動の基礎 II :慣性モーメントテンソルを求めよう!Theme : 剛体の運動の基礎 II :慣性モーメントテンソルを求めよう!Theme : 剛体の運動の基礎 II :慣性モーメントテンソルを求めよう!
本日は,いろいろな剛体Mの慣性モーメントテンソル I を求めましょう.
Iij =
∫M
ρ(r )(r2δij − xixj)d3x
eeeeeeefgggggggggggggggggggggggggggggggggggggggggggh確認テスト 講義で求めた円柱の慣性モーメントテンソルを求めましょう.
1. 半径 R, 高さ hの質量密度 ρが一様な円柱がある. 円柱の全質量をM とする. 重心 (質量中心)を原点Oにとり, 原点 Oを通る対称軸に関する慣性モーメントテンソル I1 を求めなさい. 講義にあわせて対称軸を z 軸にとることにする. さらに,求めた慣性モーメントテンソル I1 からこの円柱の対称軸まわりの回転運動についてわかることを論じなさい.
2. 半径 R, 高さ hの質量密度 ρが一様な円柱がある. 円柱の全質量をM とする. 重心 (質量中心)を原点Oにとり,原点 Oを通る対称軸 (z 軸)から a = (ax, ay, 0)
T だけ平行移動させた直線 ℓa のまわりの慣性モーメント Ia を求めなさい. このとき,問 1. の z 軸まわりの慣性モーメント Izz を用いて
Ia = Izz +M∥a∥2
と書けることを確認しなさい Steiner の平行軸定理 (Steiner’s theorem) . さらに, この円柱の直線 ℓa のまわりの回転運動を問 1. の z 軸まわりの回転と比較して論じなさい.
RR
y
x
z
Oh
RR
y
x
z
Oh
a
a
O’
ay
ax
FIG.1
出題の狙い 講義ノート 2.3.5からの出題です. 剛体の力学において円柱や円盤の慣性モーメントテンソルを求めることは定番の問題としてよく出題されます. 円盤は演習問題 8 で出題されているので, ここでは講義で学んだことをしっかり復習しましょう. 問 2. は慣性モーメントテンソルに関する Steiner の平行軸定理 (Steiner’s moment of inertia parallel axis
theorem)を実際に確かめることが狙いです. Steinerの平行軸定理の証明は演習問題 8-1 (1)で行う.
SAMPLE
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解答例
1. 体積密度 ρは一様なので ρ =M
πR2hである. z 軸まわりの慣性モーメント Izz は
Izz =
∫x2+y2≤R2
−h2 ≤z≤h
2
ρ(x2 + y2) dxdydz,
である. 円柱座標系に移ると,
Izz =
∫0≤r≤R0≤θ≤2π−h
2 ≤z≤h2
ρr2 rdrdθdz = ρ
∫ R
0
r3dr
∫ 2π
0
dθ
∫ h2
−h2
dz
=π
2ρR4h =
1
2MR2.
である. 次に, Ixx,および Iyy を求める. 対称性から Ixx = Iyy である. したがって,
Ixx =
∫x2+y2≤R2
−h2 ≤z≤h
2
ρ(y2 + z2) dxdydz,
Iyy =
∫x2+y2≤R2
−h2 ≤z≤h
2
ρ(x2 + z2) dxdydz
から,
Ixx =1
2(Ixx + Iyy)
=1
2
∫x2+y2≤R2
−h2 ≤z≤h
2
ρ(x2 + y2 + 2z2) dxdydz
=1
2Izz + ρ
∫x2+y2≤R2
−h2 ≤z≤h
2
z2 dxdydz
=1
4MR2 +
π
12ρR2h3 =
1
2MR2 +
1
12Mh2
= Iyy.
さらに,慣性乗積は剛体の回転対称性からすべて Iij (i =j) = 0となる. ゆえに,求める慣性モーメントテンソルI1 は
I1 =
à1
4MR2 +
1
12Mh2
1
4MR2 +
1
12Mh2
1
2MR2
í(8.2)
となる.
• h ≤√3Rの場合
このとき,(主)慣性モーメントの大小関係は
Ixx = Iyy ≤ Izz, (8.3)
となる. したがって,回転軸 (z 軸)に垂直な軸 ℓ1 のまわりで回転しやすいということである. さらに, ℓ1 軸は慣性主軸であるから定常的な回転が実現する. すなわち, ℓ1 軸にそった定角速度ベクトル ω で ℓ1 軸のまわりにこの円柱剛体を回転させるとき角運動量は
Lxx = Ixxω (8.4)
であり, ℓ1 軸のまわりの回転の方程式はdLxx
dt= 0 (8.5)
となる. つまり, ℓ1 軸のまわりの角運動量が保存(定常的な回転が実現)することがわかる.
- 51 -
SAMPLE
Exercise Solutions
•√3R < hの場合 このとき,(主)慣性モーメントの大小関係は
Izz < Ixx = Iyy, (8.6)
となる. したがって,回転軸 (z 軸)のまわりで回転しやすいということである. さらに, z 軸は慣性主軸であるから定常的な回転が実現することはさきほどと同じあり, z 軸のまわりの角運動量が保存することがわかる.
2. 問 1. の結果を使えるように工夫する. 重心 Oからの円柱剛体内部の任意の点 P の位置ベクトルを r とする.
原点を aだけ平行移動した点 Aにおける点 P の位置ベクトルを r ′ とすると,
r = r ′ + a ⇐⇒ r ′ = r − a (8.7)
と書くことができる.
ℓa 軸のまわりの慣性モーメント Ia は
Ia =
∫x2+y2≤R2
−h2 ≤z≤h
2
ρ¶(x− ax)
2+ (y − ay)
2©dxdydz (8.8)
である. ここで,括弧 内は
(x− ax)2+ (y − ay)
2= (x2 + y2) + (a2x + a2y)− 2(axx+ ayy)
であるから,
Ia =
∫x2+y2≤R2
−h2 ≤z≤h
2
ρ(x2 + y2) dxdydz + (a2x + a2y)
∫x2+y2≤R2
−h2 ≤z≤h
2
ρ dxdydz
− 2
∫x2+y2≤R2
−h2 ≤z≤h
2
ρ(axx+ ayy) dxdydz
= Izz +M∥a∥2
(8.10)
となる. ここで,積分の第一項は Izz そのもの,第二項が剛体の質量∫x2+y2≤R2
−h2 ≤z≤h
2
ρ dxdydz = M ,第三項が重心の
定義と重心を原点に選んであることから∫x2+y2≤R2
−h2 ≤z≤h
2
ρx dxdydz = 0,
∫x2+y2≤R2
−h2 ≤z≤h
2
ρy dxdydz = 0であることを
用いた.
重心を通る軸から a だけ平行移動した軸のまわりの慣性モーメントは M∥a∥ だけ大きくなる. すなわち,
Steinerの平行軸の定理から重心を通る軸のまわりの慣性モーメントが最も小さくなることがわかる. また, この Steinerの平行軸の定理から重心を通る軸のまわりの慣性モーメントを求めておけば,その軸に平行な軸のまわりの慣性モーメントは簡単にもとめることができることがわかる.
解説問 1.で慣性乗積が 0になることを計算で確かめる予定. ただ,重積分して 0になることをみるだけですが,対称という言葉も一度は計算で確かめないと不安になるでしょうから.
考察連続体としての剛体の慣性モーメントテンソルについてちょこっと考える予定さらに, 演習問題8-1の平行軸の定理の証明は剛体が質点系の場合なので,連続体の場合もついでに考えようかな?数理連続体としての剛体と二次形式と二次曲面および慣性楕円体について数理的なことを少し触れる予定
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SAMPLE
Exercise Solutions
演習 8-1 (いろいろな剛体のある軸に関する慣性モーメントテンソルの例) 次の質量分布が一様な剛体の慣性モーメントテンソルを求めなさい.
1. 質量m,半径 aの十分細い円環の中心を通る対称軸に関する慣性モーメントテンソル I1.
2. 質量m,一辺の長さが a立方体の重心(質量中心)を通り,面に垂直な軸に関する慣性モーメントテンソル I2. さらに,この立方体の重心(質量中心)を通り,辺の中点を通る軸に関する慣性モーメントテンソル I3. この立方体の重心(質量中心)を通り,頂点を通る軸に関する慣性モーメントテンソル I4.
3. 質量m,半径 a,高さ hの円錐の中心軸(底面の中心と頂点を通る直線)のまわりの慣性モーメント I5.
z
x
yO a
z
x
yO a
h
FIG.2
出題の狙い 確認テストに引き続きいろいろな剛体のある軸に関する慣性モーメントテンソルを求められるようになることが狙いです. 大抵の問題集に必ず収録されているような基本的なものをピックアップしました. さらに多くの剛体で慣性モーメントテンソルを求める練習をしたいというかたには,図書館で問題集を探してみてはいかがでしょうか?
解答例
1. 円環を含む平面を xy 平面として座標原点を円環の中心にとれば円環の方程式は x2 + y2 = a2 となる. 質量線密度は ρ =
m
2πaである. 対称性から直径を含む軸として x軸, y 軸をどのように選んでも慣性主軸であり,な
おかつ Ixx = Iyy である. したがって,対称軸まわりの慣性モーメントは
Ixx =
∫x2+y2=a2
ρy2 dxdy,
Iyy =
∫x2+y2=a2
ρx2 dxdy
から,
Ixx =1
2(Ixx + Iyy)
=1
2
∫x2+y2=a2
ρ(x2 + y2) dxdy
=1
2a2ρ
∫x2+y2=a2
dxdy
= πa3ρ =1
2ma2
= Iyy.
- 53 -
SAMPLE
Exercise Solutions
次に, z 軸のまわりの慣性モーメント Izz を求める.
Izz =
∫x2+y2=a2
ρ(x2 + y2) dxdy = Ixx + Iyy
= ma2.
この x, y, z 軸は慣性主軸であるから今求めた各慣性モーメントは主慣性モーメントである. さらに,慣性乗積は 0であるので求める慣性モーメントテンソル I1 は
I1 =
Ü1
2ma2
1
2ma2
ma2
ê(8.11)
である.
2. 立方体の中心を原点とし, x, y, z 軸が立方体の面の中心を通るように座標系を設定する. このとき,立方体の方程式は |x|, |y|, |z| ≤ a
2である. 体積密度は ρ =
m
a3である. まず,次の量を計算しておく.
A =
∫|x|,|y|,|z|≤ a
2
x2 dxdydz =
∫|x|,|y|,|z|≤ a
2
y2 dxdydz =
∫|x|,|y|,|z|≤ a
2
z2 dxdydz
=1
12a3.
また,
B =
∫|x|,|y|,|z|≤ a
2
xy dxdydz =
∫|x|,|y|,|z|≤ a
2
yz dxdydz =
∫|x|,|y|,|z|≤ a
2
zx dxdydz
= 0.
対称性から x, y, z 軸はすべて慣性主軸であり,なおかつ Ixx = Iyy = Izz である. したがって, z 軸まわりの慣性モーメントを計算すれば
Izz =
∫|x|,|y|,|z|≤ a
2
ρ(x2 + y2) dxdydz
= 2ρA =1
6ma2
= Ixx = Iyy.
したがって,求める慣性モーメントテンソル I2 は
I2 =
à1
6ma2
1
6ma2
1
6ma2
í(8.12)
である.
次に,辺の中点を通る軸のひとつに直線 ℓ : y = x, z = 0を選ぶ. この直線 ℓと立方体の剛体内部の点 (x, y, z)
との距離は…
(x− y)2
2+ z2 である. この直線と直交するように残りふたつの直線を選んでも対称性からどの
軸のまわりの慣性モーメントも等しい. したがって,直線 ℓのまわりの慣性モーメントは
Iℓ =
∫|x|,|y|,|z|≤ a
2
ρ
ï(x− y)2
2+ z2òdxdydz
= ρ
∫|x|,|y|,|z|≤ a
2
ï1
2(x2 + y2)− xy + z2
òdxdydz
= ρ
ïA+A
2−B +A
ò= 2ρA
=1
6ma2.
- 54 -
SAMPLE
Exercise Solutions
したがって,求める慣性モーメントテンソル I3 は
I3 =
à1
6ma2
1
6ma2
1
6ma2
í(8.13)
である.
次に,辺の頂点を通る軸のひとつに直線 η : x = y = z を選ぶ. この直線 η の単位方向ベクトルを nとし,立方体の剛体内部の点 r = (x, y, z)T との距離を d(η; r )とすると
d(η; r )2 = ∥r − (r · n ) n ∥ = r 2 − (r · n)
=2(x2 + y2 + z2)
3− 2(xy + yz + zx)
3
である. この直線と直交するように残りふたつの直線を選んでも対称性からどの軸のまわりの慣性モーメントも等しい. したがって,直線 η のまわりの慣性モーメントは
Iη =
∫|x|,|y|,|z|≤ a
2
ρd(η; r )2 dxdydz
=2
3ρ (3A− 3B) = 2ρA
=1
6ma2.
したがって,求める慣性モーメントテンソル I4 は
I4 =
à1
6ma2
1
6ma2
1
6ma2
í(8.14)
である.
3. 円錐の底面を円盤 x2 + y2 ≤ a2,頂点が点 (0, 0, h)となるように xyz 座標系を設定する. このとき,円錐剛体の領域は
V =
ß(x, y, z)
∣∣∣∣x2 + y2 ≤ a2(1− z
h
)2, 0 ≤ z ≤ h
™と表される. これを円柱座標系 (r, θ, z),ただし, x = r cos θ, y = r sin θ で表せば,
U =
ß(r, θ, z)
∣∣∣∣0 ≤ r ≤ a(1− z
h
), 0 ≤ θ ≤ 2π, 0 ≤ z ≤ h
™と表される.
さらに,この円錐の体積密度 ρは
m =
∫∫∫V
ρ dxdydz =
∫∫∫U
ρ rdrdθdz
=
∫ h
0
dz
∫ 2π
0
dθ
∫ a(1−z/h)
0
dr ρr
= 2πρ
∫ h
0
dza2
2
(1− z
h
)2=
1
3πa2hρ.
- 55 -
SAMPLE
Exercise Solutions
となるから, ρ =3m
πa2hである. したがって,求める中心軸のまわりの慣性モーメントは
I5 =
∫∫∫V
ρ(x2 + y2) dxdydz =
∫∫∫U
r2ρ rdrdθdz
=
∫ h
0
dz
∫ 2π
0
dθ
∫ a(1−z/h)
0
dr r3ρ
= 2πρ
∫ h
0
dza4
4
(1− z
h
)4=
πa4hρ
10=
3
10ma2.
解説
考察
数理
問題 8-2 (剛体の運動に関する表示)
Practice.07で Charles theorem「剛体 (rigid body)の運動は並進と回転で表すことができる」ことを示した. ここでは剛体を多質点系だとみなし, 剛体の運動をひとつの慣性系 Σ = O;X,Y, Z(空間固定系 (space fixation
system))を用いて考える. 剛体の α番目の質点 mα に外力 Fα と β 番目の質点 mβ から及ぼされる内力 fαβ がはたらくとする. 内力は作用・反作用の法則にしたがい,なおかつ中心力であるとする.
1. 剛体の重心(質量中心)を RCM とするとき,重心の運動(並進運動)の方程式を導きなさい. さらに,その式の意味を解釈しなさい.
一方, 剛体の重心のまわりの回転を重心に原点をもち重心とともに動く座標系 Σ′ = o;x, y, z(剛体固定系(rigid fixation system))をもちいて議論する. 重心 RCM(o)から質点 mα までの位置ベクトルを rα とする. このとき重心が加速度 Aをもつならばこの剛体固定系は非慣性系であるから,各質点には慣性力 −mαAがはたらくとしなければならない.
2. 剛体の重心のまわりの角運動量の方程式(回転運動の方程式)を導きなさい. さらに,その式の意味を解釈しなさい.
3. mα の速度 vα := ˙rα はあるベクトル Ωα を用いて vα = Ωα × rα と書けることを導きなさい.
4. Σ′ 系において剛体の任意の質点の速度が同じ Ωを用いて表されることを示しなさい. すなわち,質点 mβ
に対しても Ωα = Ωβ であることを導きなさい.
5. 以上のことから Σ′ 系において剛体の回転には瞬間回転軸があることを示し, Ωが剛体の角速度ベクトル ω
であることを示しなさい.(時刻 tにおける Σ′ 系での速度 v と角速度ベクトル ω の組 (v, ω) で特徴づけられるベクトル場を瞬
間運動という. ω = 0かつ v = 0なる点 Pが存在するとき,この瞬間運動を瞬間回転といい,この点 Pの軌跡は直線になり,この直
線を瞬間回転の回転軸という.)
6. 慣性モーメントテンソル I と角速度ベクトル ω を用いて剛体の点 oのまわりの回転運動のエネルギーがT =
1
2ωT Iω と書けることを示しなさい. (ωT は ω の転置.)
出題の狙い 講義ノート 2.3.1および 2.3.6からの出題です. 角速度ベクトルの代数的な定義は以前演習問題 2でも出題されました. 今度は剛体においても同様の議論から角速度ベクトルが定義でき,それが幾何学的に定義した場合のものと一致することを確認する問題です. この問題は演習問題 8-4を解くための準備です.
解答例
- 56 -
SAMPLE
Exercise Solutions
1. mα の運動方程式は
mαd2Rα
dt2= Fα +
∑α=β
fαβ
である. これをすべての質点について加え合わせれば,重心運動 (並進運動)の方程式
Md2RCM
dt2=∑α
Fα (8.15)
が得られる. ここで, M :=∑αmα は剛体の全質量, RCM =
∑mαrα∑mα
=
∑mαrαM
は剛体の重心である. さら
に,右辺を導くさいに作用反作用の法則を適用した.
この式の意味は, 「重心の運動はすべての質点の質量と外力の作用点が重心に集中したときの質点の運動と同一であり,重心のまわりの剛体の回転と独立に決定される」ということを表している.
2. 剛体の重心のまわりの角運動量 L =∑
mαrα × vα の方程式
dL
dt=∑α
rα ×
ÑFα −mαA+
∑α=β
fαβ
é=∑α
rα × (Fα −mαA) +∑α<β
(rα − rβ)× fαβ (8.16)
を考える. 質点間の力に対して中心力であることを仮定してしいるので, fαβ ∝ (rα − rβ)で右辺第2項は消え,
さらに,重心の定義と今考えている固定系から∑
mαrα = 0が成立つので慣性力のモーメントも消える. したがって,
dL
dt=∑α
rα × Fα (8.17)
が成立つ.
この式に意味は,「剛体の回転は重心のまわり外力のモーメントだけで決定され,任意に運動している場合でも重心に対してはあたかも固定点であるかのように扱っていよい」ということを表している.
3. 剛体の定義からd
dt(rα · rα) = 2(rα · vα) = 0 i.e. rα · vα = 0
である. すなわち, rα⊥vα であるから,あるベクトル Ωα を用いて
vα = Ωα × rα (8.18)
と書ける.
4. 剛体の定義からd
dt∥rα − rβ∥ = −2
d
dt(rα · rβ) = 0 i.e. rα · rβ = const
である. つまり,剛体の重心から剛体内部に任意の二点間の角度も一定ということである. この式を時間で微分すれば,
rα · vβ + vα · rβ = rα · (Ωβ × rβ) + (Ωα × rα) · rβ= (Ωα − Ωβ) · (rα × rβ) = 0
したがって, mα,mβ は任意なのでΩα = Ωβ = Ω (8.19)
と,任意の質点の速度もすべての質点に共通な Ωを用いて
vα = Ω× rα (8.20)
と書くことができる.
- 57 -
SAMPLE
Exercise Solutions
5. Ω = 0であるとして, r = κΩなる点(κは定数)を考えると,その点に関しては v = Ω× r = 0が成立つ. したがって,このような点 r の集合は直線であり,この直線 r = κΩが剛体の瞬間回転軸を与える. ゆえに, Ωの方向は回転軸の方向と一致する.
さらに, r と Ω のなす角が α = 0 である任意の点に対して ∥v∥ = ∥Ω × r∥ = ∥Ω∥∥r∥ sinα であるから,
∥Ω∥ =∥v∥
r sinαとなる. これは, Ω の大きさ ∥Ω∥ が回転角速度の大きさに等しいことを示している. つまり, Ω
が剛体の回転角速度ベクトル ω に他ならない.
6. 角速度ベクトル ω を用いて剛体の回転の運動エネルギー T は
T =1
2
∑α
mαvα2 =
1
2
∑α
mαvα · (ωα × rα)
=1
2ω ·Ç∑
α
mαrα × vα
å=
1
2(ω · L) = 1
2ωT Iω
と書くことができる.
解説
考察
数理線型代数の立場から角速度ベクトルを考える. 単純に角速度ベクトルを基底の変換行列から定義しようという予定です.
ご意見・ご要望・ご指摘などがございましたら余白に書いていただくか
TA林 (M1)研究室: B227 号室, mail:[email protected]までお願いいたします.
- 58 -
SAMPLE
力学 II演習 Practice.09 解答例篇 last revised 12. 9. 2010. (Thu)
abbbbbbbbbbbbbbbbbbbbbbbbbbbbbbbbbbbbbbbbbbbcddddddddd
Theme : 剛体の運動の基礎 III 剛体の運動方程式を解こう!Theme : 剛体の運動の基礎 III 剛体の運動方程式を解こう!Theme : 剛体の運動の基礎 III 剛体の運動方程式を解こう!Theme : 剛体の運動の基礎 III 剛体の運動方程式を解こう!Theme : 剛体の運動の基礎 III 剛体の運動方程式を解こう!Theme : 剛体の運動の基礎 III 剛体の運動方程式を解こう!Theme : 剛体の運動の基礎 III 剛体の運動方程式を解こう!Theme : 剛体の運動の基礎 III 剛体の運動方程式を解こう!Theme : 剛体の運動の基礎 III 剛体の運動方程式を解こう!Theme : 剛体の運動の基礎 III 剛体の運動方程式を解こう!
本日は, 剛体の平面運動について学習しましょう. 今まで学んだ剛体の並進および回転の方程式をつくり連立させて解くだけです.
並進の運動方程式 : Md2RCM
dt2= F total, 回転の運動方程式 : I
d2θ
dt2= N total.
eeeeeeeeefgggggggggggggggggggggggggggggggggggggggggggh確認テスト 質量M ,半径 Rの密度および厚さが一様な円盤が粗い水平面の上の運動を考える. FIG.1のように水平方向にx軸,鉛直方向に y 軸を導入する. 円盤の淵に P点を時刻 t = 0のときに頂上 (0, 2R)になるようにとっておく.
時刻 t = 0のときに重心の初速および重心まわりの角速度を v0 > 0, ω0 > 0として運動させる. 角度は FIG.1のように頂上から時計まわりに増加するように選ぶ. ただし,重力加速度の大きさは g,静止摩擦係数および動摩擦係数をそれぞれ µ, µ′ とする.
1. 円盤が 2πRだけ進んだときの点 Pの速さ vP を求めなさい.
2. 円盤が水平面上を滑らずに運動するときの点 Pの運動を決定し,点 Pの描く軌跡を調べなさい.
y
x
P
θ
O
ω0
v0
FIG.1
考え方 講義ノート 2.5 のように解けばよい. 円盤の回転軸まわりの慣性モーメントは I =1
2MR2. 点 Pの速度は重心の並進
速度と回転速度の合成である. したがって,まずは並進と回転の方程式をたて,重心の速度と回転速度を知る必要がある. このとき,
円盤が平面を滑る場合と滑らない場合で区別しなければならない.
出題の狙い 講義ノート 2.5からの出題です. 円盤の慣性モーメントテンソルは演習問題 8で出題され,すでに中心軸まわりの慣性モーメントは知っています. さらに,講義や前回の演習の時間においても円柱の慣性モーメントテンソルを求めているので,同様の計算をすれば軸まわりの慣性モーメントを得ることはできます. 本問ではその慣性モーメントを用いて,
講義で学んだ斜面を転落する円柱の特別な場合として平面を移動する円盤を考えましょう. 剛体の運動を解析することに慣れることが狙いです.
解答例
SAMPLE
Exercise Solutions
1. 面密度 σ は一様なので σ =M
πR2である. 重心まわりの慣性モーメント I は
I =
∫x2+y2≤R2
σ(x2 + y2) dxdy,
である. 極座標系に移ると,
I =
∫0≤r≤R0≤θ≤2π
σr2 rdrdθ = σ
∫ R
0
r3dr
∫ 2π
0
dθ =π
2σR4 =
1
2MR2.
である.
点 Pの速さは剛体の並進速度と回転速度を合成した速度の大きさであるので,まずは剛体の並進運動と回転運動を調べる. 剛体円盤にはたらく力は重心における重力Mg,水平面との接触点 Qにおける垂直抗力 N ,および摩擦力 F である. 重心の座標を (xCM, yCM)とし,初期位置を (0, R)となるように座標を選ぶ. 時刻 tでの円盤と水平面との接触点 Qt において滑る速さを uslip := xCM − Rθ と定義すると, uslip の正負により運動方程式が変わる. しかし,どんな場合でも円盤が水平面上に束縛されているので,
yCM = R ⇐⇒ yCM = 0
であるから, N = Mg である.
• 円盤が水平面上を滑らない (uslip = 0)場合
y
x
P
θ
O
Q
Mg N
F=µN
xCM
Rθ
FIG.1 水平面上を滑らずに運動する円盤にはたらく力と速度
円盤が水平面に対して滑らないための条件は
uslip = 0, i.e. xCM = Rθ ⇐⇒ xCM = Rθ, (9.2)
である. 剛体の運動は重心の並進運動と重心まわりの回転運動で決定できるのでそれぞれの方程式をたてると
並進運動の方程式:MxCM = −F, (9.3)
回転運動の方程式: Iθ = RF, (9.4)
となる. 滑らない条件を並進の方程式に代入すればMRθ = −F を得る. この式と回転の方程式から摩擦力 F を消去すれば Iθ = −MR2θ となり, I =
1
2MR2 から
3
2MR2θ = 0 i.e. θ = ω0, θ = ω0t
となる. つまり,円盤が水平面を滑らない場合の運動は角速度一定である. ゆえに,重心の水平方向の速さは一定で xCM = Rω0 = v0 と与えられる.
剛体が 2πR だけ進んだとき点 P は元の頂上の位置にいる. したがって, 求める速さは並進の速さv0 = Rω0 と回転による速さ Rω0 の和であるから
vP = 2v0 = 2Rω0 (9.5)
- 60 -
SAMPLE
Exercise Solutions
である.
• 円盤が水平面上を正の向きに滑る (uslip > 0)場合
y
xO
P
θ
Q
Mg N
xCM
Rθ
F=µ’N
P
θ
Q
Mg N
xCM
Rθ
uF=µ’N
FIG.2 水平面上を正の向きに滑りながら運動する円盤にはたらく力と速度
滑っている間の摩擦力 F は動摩擦係数 µ′ を用いて F = µ′N = µ′Mg である. さらに,滑り速度の向きが正なので摩擦力は負の向きにはたらく. 並進と回転の方程式は
並進運動の方程式:MxCM = −F, (9.6)
回転運動の方程式: Iθ = RF, (9.7)
となる. ゆえに,
xCM = −µ′g, θ =2
Rµ′g,
を得る. つまり,重心の速度は次第に減衰し,回転の角速度はどんどん速くなる. すなわち,
xCM = v0 − µ′gt, θ = ω0 +2µ′g
Rt. (9.8)
xCM = v0t−1
2µ′gt2, θ = ω0t+
µ′g
Rt2. (9.9)
したがって,接触点 Qt における滑り速度は
uslip = v0 −Rω0 − 3µ′gt = u0 − 3µ′gt (9.10)
となる. ここで, u0 := v0 −Rω0 は時刻 t = 0での滑り速度である.
xCM
Rθ
O
Rω0
v0
t1
time
velcity
timeO
xCM
t1
FIG.3 (左)重心の並進速度と回転速度. (右)水平面上の重心の変位
したがって,t1 =
u0
3µ′g(9.11)
- 61 -
SAMPLE
Exercise Solutions
なる時刻に滑りがなくなり,接触点 Qt1 は動かなくなるので動摩擦力に代わって静止摩擦力がはたらくこととなる. t1 以後は円盤が水平面上を滑らない場合と同じで, t1 における重心の速度と角速度をもつので
xCM = v0 − µ′gt1 =2v0 +Rω0
3, (9.12)
θ = ω0 +2µ′g
Rt1 =
2v0 +Rω0
3R=
xCM
R. (9.13)
となる. ここで,円盤が水平面上を滑りながら 2πRだけ進むのに要する時間 τ は
2πR = v0τ − 1
2µ′gτ2 ⇐⇒ τ =
v0 −√v02 − 4πRµ′g
µ′g
となる*5. ゆえに, τ < t1 または τ ≥ t1 であるかで場合分けが必要となる.
(1)τ < t1 の場合 滑らなくなる前に円盤が 2πR進んだときの円盤の重心の並進速度と回転角速度は
xCM(τ) = v0 − µ′gτ =√
v02 − 4πRµ′g,
θ(τ) = ω0 +2µ′g
Rτ = ω0 +
2
R(v0 −
√v02 − 4πRµ′g).
さらに,時刻 τ のときの回転角 θ(τ)は
θ(τ) = ω0τ +µ′g
Rτ2 =
(ω0R+ v0 −√v02 − 4πRµ′g)(v0 −
√v02 − 4πRµ′g)
µ′gR,
である. したがって,このときの点 Pの速さ vP は重心の並進速度 xCM(τ)と回転速度 Rθ(τ)の合成なので次のようになる. ここで,式を簡単にするために α := 2v0 + ω0R, β :=
√v02 − 4πRµ′g とする.
vP =
…ÄxCM(τ) +Rθ(τ) cos θ(τ)
ä2+ÄRθ(τ) sin θ
ä2=»xCM
2 +R2θ2 + 2xCMRθ cos θ
=
…(α− β)2 − 4β(α− 2β) sin2
θ
2
(9.15)
これは,これ以上整理できないのでこのままにしておく.
(2)t1 ≤ τ の場合 滑らなくなった後に円盤が 2πR進んだときの円盤の重心の並進速度と回転角速度は t1 のときと同じなので
xCM =2v0 +Rω0
3,
θ =2v0 +Rω0
3R=
xCM
R.
したがって,このときの点 Pの速さ vP は重心の並進速度 xCM(τ)と回転速度 Rθ(τ)の合成なので次のようになる.
vP =
…ÄxCM(τ) +Rθ(τ) cos θ(τ)
ä2+ÄRθ(τ) sin θ
ä2=»xCM
2 +R2θ2 + 2xCMRθ cos θ
=»2(1 + cos θ)xCM
2
=2 (2v0 +Rω0)
3cos
θ
2
(9.17)
- 62 -
SAMPLE
Exercise Solutions
y
xO
P
θ
Q
Mg N
xCM
Rθ
uF=µ’N
FIG.4 水平面上を負の向きに滑りながら運動する円盤にはたらく力と速度
• 円盤が水平面上を負の向きに滑る (uslip < 0)場合 滑っている間の摩擦力 F は動摩擦係数 µ′ を用いて F = µ′N = µ′Mg である. さらに,滑り速度の向きが負なので摩擦力は正の向きにはたらく. 並進と回転の方程式は
並進運動の方程式:MxCM = F, (9.18)
回転運動の方程式: Iθ = −RF, (9.19)
となる. ゆえに,
xCM = µ′g, θ = − 2
Rµ′g,
を得る. つまり,重心の速度は次第に増加し,回転の角速度はどんどん遅くなる. すなわち,
xCM = v0 + µ′gt, θ = ω0 −2µ′g
Rt. (9.20)
xCM = v0t+1
2µ′gt2, θ = ω0t−
µ′g
Rt2. (9.21)
したがって,接触点 Qt における滑り速度は
u = v0 −Rω0 + 3µ′gt = u0 + 3µ′gt (9.22)
となる.
xCM
Rθ
O
v0
Rω0
t2
time
velcity
timeO
xCM
t2
FIG.5 (左)重心の並進速度と回転速度. (右)水平面上の重心の変位
したがって,t2 = − u0
3µ′g(9.23)
*5 2 次方程式を解くと τ =v0 ±
√v02 − 4πRµ′g
µ′gと + も解として得られるが, これは 2πR 離れた点を一度通過したあとに再びその点に
戻ってくるときの時間であるから題意にそぐわない.
- 63 -
SAMPLE
Exercise Solutions
なる時刻に滑りがなくなり,接触点 Qt2 は動かなくなるので動摩擦力に代わって静止摩擦力がはたらくこととなる. t2 以後は円盤が水平面上を滑らない場合と同じで, t2 における重心の速度と角速度をもつので
xCM = v0 + µ′gt2 =2v0 +Rω0
3, (9.24)
θ = ω0 −2µ′g
Rt2 =
2v0 +Rω0
3R=
xCM
R. (9.25)
となる. ここで,円盤が水平面上を滑りながら 2πRだけ進むのに要する時間 τ ′ は
2πR = v0τ′ +
1
2µ′gτ2 ⇐⇒ τ ′ =
−v0 +√v02 + 4πRµ′g
µ′g
となる*6. ゆえに, τ ′ < t2 または τ ′ ≥ t2 であるかで場合分けが必要となる.
(1)τ ′ < t2 の場合 滑らなくなる前に円盤が 2πR進んだときの円盤の重心の並進速度と回転角速度は
xCM(τ ′) = v0 + µ′gτ ′ =√v02 + 4πRµ′g,
θ(τ ′) = ω0 −2µ′g
Rτ ′ = ω0 +
2
R(v0 −
√v02 + 4πRµ′g).
また,これに滑り速度
uslip(τ′) = u0 + 3µ′gτ ′ = −2v0 −Rω0 + 3
√v02 + 4πRµ′g,
を考慮する必要がある. さらに,時刻 τ ′ のときの回転角 θ(τ ′)は
θ(τ ′) = ω0τ′ − µ′g
Rτ ′
2= − (ω0R+ v0 −
√v02 − 4πRµ′g)(v0 −
√v02 − 4πRµ′g)
µ′gR
である. したがって, このときの点 Pの速さ vP は重心の並進速度 xCM(τ)と回転速度 Rθ(τ)の合成なので点 Pの位置により次のようになる. α′ := 2v0 +Rω0, β
′ :=√v02 + 4πRµ′g とすると,
vP =
…ÄxCM(τ ′) +Rθ(τ ′) cos θ(τ ′)
ä2+ÄRθ(τ ′) sin θ
ä2=»xCM
2 +R2θ2 + 2xCMRθ cos θ
=
…(α′ − β′)2 − 4β′(α′ − 2β′) sin2
θ
2
(9.27)
(2)t2 ≤ τ ′ の場合 滑らなくなった後に円盤が 2πR進んだときの円盤の重心の並進速度と回転角速度は t2 のときと同じなので
xCM = Rθ.
したがって,このときの点 Pの速さ vP は重心の並進速度 xCM(τ ′)と回転速度 Rθ(τ ′)の合成なので
vP =
…ÄxCM(τ ′) +Rθ(τ ′) cos θ(τ ′)
ä2+ÄRθ(τ ′) sin θ
ä2=»xCM
2 +R2θ2 + 2xCMRθ cos θ
= 2xCM cosθ
2
=2(2v0 +Rω0)
3cos
θ
2
(9.29)
*6 2次方程式を解くと τ ′ =−v0 ±
√v02 + 4πRµ′g
µ′gと−も解として得られるが,これは 2πRだけ進行方向とは逆向きに離れた点を一度通
過していたら要したであろう時間であるから題意にそぐわない.
- 64 -
SAMPLE
Exercise Solutions
2. 点 Pの位置ベクトルを rP =
(xP
yP
)とする. 重心の位置ベクトル RCM =
(xCM
yCM
)=
(Rθ
R
)からみた点 P
の相対位置ベクトル rはr = rP − RCM ⇐⇒
ÅR sin θR cos θ
ã=
ÅxP −RθyP −R
ãすなわち,
xP = R(θ + sin θ) = R(ω0t+ sinω0t),
yP = R(1 + cos θ) = R(1 + cosω0t).(9.31)
これはサイクロイド曲線(cycloid curve)の媒介変数表示であり, 初期条件 t = 0 ⇒ xP = 0, yP = 2R をみたす.
解説
1. 問 1. の水平面上を滑らない場合は解答例とは違うアプローチができる.
• エネルギー保存則を用いるアプローチ 円盤が水平面に対して滑らない場合は θ = 0なので xCM = Rθ = 0である. これから,並進運動の x方向の方程式から摩擦力 F = 0が得られる. つまり,仕事をする力はないのでエネルギーが保存する. 滑らない条件は xCM = Rθ なので xCM = Rω が成立つ. ここで, ω := θ である. このときのエネルギーの保存は
1
2Mv0
2 +1
2Iω0
2 =1
2M(Rω)
2+
1
2Iω2 (9.32)
である. ゆえに, I =1
2MR2,および v0 = Rω0 を用いると
R2ω2 = v02 i.e. ω =
v0R
= ω0 (9.33)
を得る.
• 運動量保存則および角運動量保存則を用いるアプローチ摩擦力 F = 0なので x軸方向の運動量や重心まわりの角運動量もそれぞれ保存する. したがって,この二つの保存則を用いて角速度 ω を決定することができる.
Mv0 = M(Rω) ⇐⇒ ω =v0R
= ω0, (9.34)
Iω0 = Iω ⇐⇒ ω = ω0, (9.35)
以上のことは水平面上の運動では当たり前だが, 斜面の上を運動するを考えるときにはエネルギーに注目する方法は有効であるときがある. さらに,水平面上をすべるときには摩擦力がする仕事も考えれば角速度 ωをエネルギーと仕事の関係から得ることができる.
この問題での自由度と拘束条件について考える予定考察摩擦について考える予定問 1. で初期条件が u0 > 0, ω0 < 0の場合, u0 < 0の場合にどうなるか考える予定. また,サイクロイド曲線を出したついでに物理でのサイクロイドの例として, Huygensのサイクロイド振り子の等時性などを考えたいなと.
応用
数理
- 65 -
SAMPLE
Exercise Solutions
演習 9-1 (斜面を運動する円柱剛体) 質量M ,半径 a,高さ hの密度が一様で, FIG.2 (左)のように底面に半径 b < aの円輪を取り付けてある円柱剛体が水平面に対して仰角 αをなす粗い斜面上を滑らずに運動する場合を考える. 水平方向に x軸, 鉛直方向に y 軸,二つの軸に直交し右手系をなすように z 軸をとり,円柱の回転角 θ を円柱が斜面を下るとき増加する向きに設定する. 円輪の部分に質量 mの質点の取り付けられた糸をぐるぐる巻きにし,この円柱を FIG.2 (右)のように円柱が斜面を下るときに糸が巻き上がるように軸を水平にして斜面に静かに置く. 円輪と糸の質量は無視でき,質点は斜面に触れることはなく,運動しているときは常に一定の傾きを保つ. また,円柱の運動は常に軸を水平に保つものとする. 重力加速度の大きさを g として以下の問に答えなさい.
1. この系の自由度について論じなさい.
2. 円柱剛体の重心(質量中心)と質点の運動をそれぞれ決定しなさい.
3. 初角速度 ω0 = 0で円柱が斜面にそって ℓだけ転がり落ちたときの回転角速度 ω を求めなさい.
4. 円柱が斜面を上るための条件を求めなさい.
ab
m
h
M
α
FIG.2
考え方 円柱の回転軸まわりの慣性モーメントは I =1
2MR2. 円柱は斜面に束縛され,質点の運動は完全に剛体の運動によっ
てきまる. したがって,まずは拘束条件をすべて書き下し,剛体と質点の運動方程式を連立させれば両物体の運動を決定することが
できる. 剛体が斜面を上るために角速度が今の設定では負になっていなければならない.
出題の狙い 講義ノート 2.5および演習問題 9-2・3をつなぐ問題です. 剛体が斜面を運動する問題に慣れることを目標にしています.
解答例
1. 一般に剛体の自由度は 6,質点の自由度は 3である. 円柱の重心の座標を (X,Y, Z),質点の座標を (x, y, z)とする. この系では z 軸方向には円柱剛体も質点も運動しないので
拘束条件 1 Z = 0,
拘束条件 2 z = 0
円柱が斜面から離れないための拘束条件は垂直抗力 N に対して
拘束条件 3 Nx ≥ 0,
拘束条件 4 Ny ≥ 0.
円柱が斜面に対して滑らないための拘束条件は
拘束条件 5 X = aθ cosα+ const,
拘束条件 6 Y = −aθ sinα+ const.
また,質点の運動は円柱の運動によって完全に束縛されており
拘束条件 7 x = X − b,
拘束条件 8 y = Y + bθ + const.
- 66 -
SAMPLE
Exercise Solutions
以上より, 8つの拘束条件に運動は支配されているのでこの系の自由度 nは
n = 9− 8 = 1 (9.36)
である. つまり,剛体の回転角 θ の 1つの独立変数を用いて系の運動を完全に表すことができる.
2. 体積密度 ρは一様なので ρ =M
πR2hである. 回転軸まわりの慣性モーメント I は
I =
∫x2+y2≤a2
−h2 ≤z≤h
2
ρ(x2 + y2) dxdydz,
である. 円柱座標系に移ると,
I =
∫0≤r≤a0≤θ≤2π−h
2 ≤z≤h2
ρr2 rdrdθdz = ρ
∫ a
0
r3dr
∫ 2π
0
dθ
∫ h2
−h2
dz =π
2ρa4h =
1
2Ma2.
を得る.
円柱にはたらく力は重心における重力Mg,斜面との接触点 Pにおける垂直抗力 N および,静止摩擦係数をµとして Nµ,さらに重心から距離 bだけ離れた点 Qにおける糸の張力 T である. 円柱の重心に関する並進運動の方程式は
MX = −Nµ cosα+N sinα− Tx, MY = Nµ sinα+N cosα−Mg − Ty. (9.37)
となる. 一方,重心まわりの回転運動の方程式は
Iθ = aNµ− bTy, (9.38)
である. ここで, Tx, Ty は張力 T の x, y 成分をそれぞれ表す. また,質点の運動方程式は
mx = Tx, my = Ty −mg (9.39)
と与えられる. 拘束条件 5~8を用いて書き直すと
MX = Ma cosαθ = −Nµ cosα+N sinα− Tx,
MY = −Ma sinαθ = Nµ sinα+N cosα−Mg − Ty,
mx = ma cosαθ = Tx,
my = −ma sinαθ +mbθ = Ty −mg,
したがって,この 5つの式を整理すると θ に関する運動方程式は
M ′a2θ = cg (9.40)
となる. ここで, M ′ :=3
2M +m
Å1 +
b2
a2− 2b
asinα
ãおよび c := (M +m)a sinα −mbとおいた. この方程
式は簡単に解くことができて
θ =cg
M ′a2t+ ω0,
θ =cg
2M ′a2t2 + ω0t+ θ0,
である. ω0, θ0 は t = 0における初期条件で定まる定数である.
円柱の重心の座標と質点の座標はそれぞれ
X =cg
2M ′acosαt2 + aω0 cosαt+ const, (9.41)
Y = − cg
2M ′asinαt2 − aω0 sinαt+ const, (9.42)
x =cg
2M ′acosαt2 + aω0 cosαt+ (−b+ const), (9.43)
y =cg
2M ′a2(b− a sinα)t2 + ω0(b− a sinα)t+ const, (9.44)
となる.
- 67 -
SAMPLE
Exercise Solutions
3. 初角速度 ω0 = 0で円柱が斜面に沿って ℓだけ転がり落ちたときの x軸方向の移動距離は ℓ cosαである. したがって,このときの要した時間は
ℓ cosα =cg
2M ′acosαt2, i.e. t =
2M ′aℓ
cg
である. ゆえに角速度 θ の式に代入すれば
θ =
…2cgℓ
M ′a3(9.45)
を得る.
4. 円柱が斜面を上るためには角加速度が負であればよい. すなわち,
M ′a2θ = cg < 0 s.t. c < 0.
であることが必要かつ十分. つまり,(M +m)a sinα < mb,
であればよい.
解説
考察
数理
- 68 -
SAMPLE
Exercise Solutions
問題 9-2 (Atwood’s machineと質量の無視できない糸) 質量M ,半径 aの密度が一様な円盤形滑車に,長さが ℓ,質量mの糸がかけてある. はじめ糸が滑車の両側に垂れている部分の長さの差が 2pの状態で静止していた. その後の両端の糸の長さの差 xを時間の関数で表しなさい. ただし,重力加速度の大きさを g とし,糸は滑車の上を滑らないものとする.
aO
FIG.3
考え方 鉛直下向きに x軸をとり,糸の両端の位置をそれぞれ x1, x2 とすると拘束条件 x1 + x2 + πa = ℓ, x1 − x2 = 2pおよ
び滑車を滑らないことから x1 = −x2 = aθ を得る. また,糸が滑車に触れている部分の軸まわりの慣性モーメントが πa3σ と線密
度 σ を用いて書けるので,あとは方程式を立てるだけである. まず張力を消去し回転角を決定する方針でいくとうまくいく.
出題の狙い
解答例
1. 滑車の中心を原点 Oをとし,鉛直下向きに x軸をとり,糸の両端の位置をそれぞれ x1, x2 とする. このときの拘束条件は x1 + x2 + πa = ℓ, x1 − x2 = 2pとなる. このときの
解説
考察
数理
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SAMPLE
力学 II演習 Appendix A last revised 11. 11. 2010. (Thu)
abbbbbbbbbbbbbbbbbbbbbbbbbbbbbbbbbbbbbbbbbbbcddddddddddddd
Theme : Introduction to Tensor AlgebraTheme : Introduction to Tensor AlgebraTheme : Introduction to Tensor AlgebraTheme : Introduction to Tensor AlgebraTheme : Introduction to Tensor AlgebraTheme : Introduction to Tensor AlgebraTheme : Introduction to Tensor AlgebraTheme : Introduction to Tensor AlgebraTheme : Introduction to Tensor AlgebraTheme : Introduction to Tensor Algebra
本日は, 力学 II で必要なテンソル代数 (ベクトル代数) の初歩として簡単な計算をできるようになりましょう. 目標はテンソルそのものを理解するというより,成分計算に慣れ,簡単な計算ができるようになることを目指します. 力学 IIに登場する Levi-Civitaの完全反対称 ε記号の計算や慣性モーメントテンソルを導出するテンソル積が計算できればいいでしょう. この Appendix A は計算になれることを目標にするので, 解説と問題を平行に行います. また, 厳密さを追求することはしませんので, 厳密な抽象テンソル空間などは各自の自習に期待します. 実際,線型代数学の教科書「線型代数」長谷川浩司 (著)日本評論社にはかなり詳しい説明がわかりやすく書かれています.
eeeeeeeeeeeeefgggggggggggggggggggggggggggggggggggggggggggh
App A 成分計算 テンソルについて少しだけ学習しましょう! 慣性モーメントテンソルが力学 IIの講義でついに登場してしまいましたね. 難しそうですよね? 物理の人はやたらテンソル, テンソルっていいますよね? よくわからないからテンソルって何ですか? って勇気を出して訊いてみると,ベクトルをちょっと難しく一般化したようなモノだよって答えがくるんですよ. ベクトルを一般化したものってのが全然わかんないんですよね...
さて,そんなことを思っていても何も始まらないので,まずはベクトルの一般化がテンソルだっていうんだからベクトルの復習から始めましょう! これからの議論はすべて・3・次・元・E・u・c・l・i・d・ベ・ク・ト・ル・空・間・の・直・線・直・交・座・標・系のもとで議論します. 何で強調したかって? ん~,時間があれば説明します.
A.1 ベクトルの成分表示
ベクトル Aが与えられたとき,その数ベクトル表示
A =
ÑA1
A2
A3
éを Aの行列表示といい, A1, A2, A3 を Aの成分というのでした. これは,基底 e1, e2, e3 をつかって
A = A1e1 +A2e2 +A3e3 (App A.1)
と書くこともできました. このように基底 e1, e2, e3 をつかって Aを書くことを Aの基底による展開といいます. ここで,成分を一切書かないベクトルの書き方 Aを抽象ベクトル表示ということにしましょう.
実は,物理で相対性理論を学ぶときに「共変ベクトル」「反変ベクトル」というものを区別します. 数学でも双対空間という面白い世界の始まりとして重要なのですが,この共変と反変ということを考えると,上のベクトルは
共変ベクトル:A =
ÑA1
A2
A3
é= A1e
1 +A2e2 +A3e
3
反変ベクトル:A =
ÑA1
A2
A3
é= A1e1 +A2e2 +A3e3
と添字の上下で二つを区別しなければならないのです. しかし,最初にもいいましたが,今は 3次元 Euclidベクトル空間の・直・線・直・交・座・標・系を考えています. 実は 3次元 Euclidベクトル空間の直線直交座標系では共変と反変の区別ができ
SAMPLE
A.2 ベクトル代数 Exercise Solutions APP A 成分計算
なくなるのです. そこで,相対性理論のことを考えると共変,反変の区別をしたいところですが,力学 IIの講義ノートに記法を合わせるためにも共変・反変の区別をせずにすべて (1.1)式のように添字は下につけることにします.
例題 1
1. ベクトル B の行列表示と基底による展開を求めなさい.
2. C1e1 + C2e2 + C3e3 と基底で展開されているベクトルの行列表示と抽象ベクトル表示を求めなさい.
ベクトル Aの基底による展開の式 (1.1)をみると成分の添字と基底の添字が同じであることに気づきます. これを巧く利用すれば, (1.1)式は次のように和の記号で書くことができるのです.
A =3∑
i=1
Aiei = A1e1 +A2e2 +A3e3 (App A.2)
例題 2
1. ベクトル B を和の記号を使って書きなさい.
2.3∑
i=1Ciei と和の記号で書かれているベクトルの行列表示と抽象ベクトル表示を求めなさい.
この辺りで記号の簡略化をしましょう.
A =
ÑA1
A2
A3
é⇐⇒ Ai, i = 1, 2, 3. (App A.3)
このように, Aの i番目の成分に注目しているということを Ai と書くことで, Aを表すことにしましょう. この AをAi と書くことを成分表示といいましょう. ここで, Aの成分表示に対して注意があります.
• Aの成分は実数なので, Aの成分表示 Ai も・実・数である.
この注意があとになって効いてくる.
例題 3
1. ベクトル B の成分表示を求めなさい.
2. Ci と成分表示されているとき,抽象ベクトル表示を求めなさい.
A.2 ベクトル代数
さて, 成分表示を導入しただけでは何のありがたみもなく, そもそもの慣性モーメントテンソルや Levi-Civita εijk
の計算には何か役に立つの? 状態です. せっかく厳密な議論にはどっか行ってもらっているので,もう少しゆっくり今まで知っているベクトルの計算が成分表示でどうなるのか確認していきましょう.
まず,ベクトルには和とスカラー倍と呼ばれる演算が定義されています. 物理では力の合成はベクトル和をつかって表します. また,スカラー倍は運動量がその例ですね!
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SAMPLE
A.2 ベクトル代数 Exercise Solutions APP A 成分計算
例題 4
1. Aと B の和が C となった. このことを抽象ベクトル表示と行列表示で書き表しなさい.
2. 実数 αによる Aのスカラー倍を抽象ベクトル表示と行列表示で書き表しなさい.
さて,このベクトルの和とスカラー倍が成分表示をつかうとどうなるのか次の例題で確認しましょう.
例題 5
1. Aと B の和が C となった. このことを成分表示で書き表しなさい.
2. 実数 αによる Aスカラー倍を成分表示で書き表しなさい.
例題 6
αAi + βBi − Ci と書かれている成分表示がある. これを行列表示と抽象ベクトル表示で書き表しなさい.
ここまで議論についてこれましたか? ちょっと慣れない記法だったかも知れませんが,次からちょっと難しくなります. 気合いを入れてください!!
ベクトルには内積(スカラー積)と外積(ベクトル積)と呼ばれるかけ算のような演算がありました! 物理では仕事は力と変位ベクトルの内積で書き表せ,角運動量を求めるときには外積のお世話になってますよね? あれです. まずは内積の復習から始めましょう.
例題 7
Aと B の内積 (A, B)を行列表示で書き表しなさい.
ここで,重大なことに気づいたでしょうか? なんと,内積 (A, B) = A1B1 +A2B2 +A3B3 の各項の添字をみると,
(1.1)式のように同じ添字の組み合わせになっているのです! ということで, (1.2)式のように和の記号をつかって書きなすことができるのです.
(A, B) =3∑
i=1
AiBi = A1B1 +A2B2 +A3B3. (App A.4)
ここで,とっても注意してください! さらっと,和の記号の Aと B の積の部分を AiBi を同じ添字 iで書きましたが,これは実際に行列表示したものをうまく表せていることに注目してください. これは,ベクトルの内積は互いに同じ成分同士 Ai, Bi の積 AiBi の和をとっているということです. これは,当たり前じゃない? と思った人もいるかと思いますが,これから添字をどうするのかということで悩む日がきっと来ます (来ないかもしれませんが...),そのときに思い起こしてください.
ここで,もうひとつ重要な記号の簡略化として, Einsteinの既約と呼ばれる記法の・簡・略・版を導入しましょう.
同じ添字のペアが現れたときには,その添字に関して和をとり (縮約),和記号を省略する.
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SAMPLE
A.2 ベクトル代数 Exercise Solutions APP A 成分計算
つまり,上で考えた内積は
(A, B) =3∑
i=1
AiBi ⇐⇒ AiBi (App A.5)
と書くことになります.
これはかなりすっきりしちゃいましたね! 最初はすっごい変というか, なんというか, えっ! いいの? って思いますよね? でも,慣れちゃってください. どんどん,つかっていくうちに慣れるので,どしどしつかってください. 慣れると
∑を書かなくていい分時間の短縮になったり,第一,物性理論で超伝導や相対論でテンソル計算をするときは
∑を書いていたら気持ちわるいくらい
∑だらけになってしまいます. いや,ほんと気持ち悪くなるんです.
L =∑a
∑b
∑µ
∑ν
1
2κ2eaµebνFabµν |θ|d4x ⇐⇒ L =
1
2κ2eaµebνFabµν |θ|d4x (App A.6)
ほら, 気分が悪くなってきたでしょう? 左側はこれでも簡略して書いているらしいですが,∑ってこんなに必要な
の? って思うでしょ? さらに,この既約の一番の本領発揮は共変と反変を区別しているときに現れます. しかし,今は共変と反変を区別していない上に,変換の不変性というこれまた楽しいことも気にしていないので,ただ式が奇麗になったというご利益があるくらいですか? ただし,このことは知っておいてください.
• 縮約したベクトルはスカラーになる
このことは,変換性とも少し関わりがあるのですが,内積をとると二つのベクトルからひとつのスカラーが作れるということです.
さて, Einsteinの既約も導入してしまいましたから,内積の成分表示についていくつか練習しましょう.
例題 8
1. Aと αB の内積 (A, αB)を成分表示で書き表しなさい.
2. ((A+ B), C)を成分表示で書き表しなさい.
3. AiBi +BjCj を抽象ベクトル表示で書き表しなさい.
最後の式で, B の添字は片方が i,もう片方が j です. 何か変な気がしますが,実はヘんではありません. これは,縮約をとる文字はどんな文字でもよいので j を iに変えてもよいのです. このように,縮約をとるのでどんな文字に変えてもよく,このような文字をダミーといいます. 成分計算ができれば,次の内積の重要な性質を簡単に証明できます.
例題 9
内積の対称性を示しなさい.(A, B) = (B, A) (App A.7)
解答例Proof.
.(A, B) = AiBi = BiAi = (B, A). ♠
この証明では,成分計算をすれば簡単に証明が終わりました. また,以前注意した,成分は実数であるということも重要なはたらきをしています.
- 73 -
SAMPLE
A.3 行列の成分計算 Exercise Solutions APP A 成分計算
A.3 行列の成分計算
内積を扱ったついでに行列の計算も成分計算で扱ってみましょう. 数字を横 (行)と縦 (列)に並べたものを行列というのでした.
A =
Ña11 a12 a13a21 a22 a23a31 a32 a33
é(App A.8)
などです. 行列は横 (行)と縦 (列)を指定するために二つの添字が必要です. 行列は横にm個の成分,縦に n個の成分が並んでいるものをm× n行列といい, i行目 j 列目の成分を行列 Aの ij 成分 aij という. また,行列の成分をすべて並べた (1.8)式の右辺の表示を行列表示といい,成分を書き表さない左辺の表示を抽象行列表示ということにする. さらに,ベクトルと同じように, ij 成分に注目して成分 aij で行列 Aを表す表示を行列の成分表示という.
A =
Ña11 a12 a13a21 a22 a23a31 a32 a33
é⇐⇒ aij , i, j = 1, 2, 3. (App A.9)
行列の立場ではベクトルも行列の表現で表すことがきるものと考えられる. 実際,ベクトルの・行・列・表・示などは名前そのままである. この Appendixでは特に指定がないときは,行列は 3× 3行列を表すことにする.
例題 10
1. 縦ベクトル A =
ÜA1
A2
A3
êは何行何列の行列とみなせるのか答えなさい. さらに,行列であるとみなして成
分表示するとどうなるか答えなさい.
2. 横ベクトル B =ÄB1 B2 B3
äは何行何列の行列とみなせるのか答えなさい. さらに,行列であるとみな
して成分表示するとどうなるか答えなさい.
行列の和と転置が成分表示ではどのように表されるのか確認しましょう.
例題 11
1. 行列 A,B の和 A+ B は行列表示するとどうなるか答えなさい. さらに,行列表示を参考に成分表示するとどうなるか書きなさい.
2. 行列の成分表示 αaij − bij を抽象行列表示するとどうなるか答えなさい.
3. 行列 Aの転置行列 AT を行列表示するとどうなるか答えなさい. さらに,行列表示を参考に成分表示するとどうなるか書きなさい.
解答例
1. まず,行列 A,B の行列表示は
A =
Ña11 a12 a13a21 a22 a23a31 a32 a33
é, B =
Ñb11 b12 b13b21 b22 b23b31 b32 b33
é.
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SAMPLE
A.3 行列の成分計算 Exercise Solutions APP A 成分計算
和 A+ B は行列表示は
A+ B =
Ña11 a12 a13a21 a22 a23a31 a32 a33
é+
Ñb11 b12 b13b21 b22 b23b31 b32 b33
é=
Ña11 + b11 a12 + b12 a13 + b13a21 + b21 a22 + b22 a23 + b23a31 + b31 a32 + b32 a33 + b33
é.
一方,この行列表示を参考に成分表示を考えると,各対応は A ⇐⇒ aij , B ⇐⇒ bij であるから,
A+ B ⇐⇒ aij + bij , (App A.10)
である.
2. 行列の成分表示 αaij − bij を抽象行列表示するとどうなるか答えなさい.
3. 行列 Aの転置行列 AT を行列表示するとどうなるか答えなさい. さらに,行列表示を参考に成分表示するとどうなるか書きなさい.
つぎに,大事な行列の積を成分表示してみましょう. 行列の積とはm× n Aとm′ × n′ B が n = m′ のときのみ計算できるのでした. 成分計算では,添字に注意してください.
例題 12
1. 行列 A,B の積 AB は行列表示するとどうなるか答えなさい. さらに,行列表示を参考に成分表示するとどうなるか書きなさい.
2. m× n行列の成分表示 aij , bij の積は成分表示するとどうなるか書きなさい. また,この積を抽象行列表示するとどうなるか答えなさい.
どうでした? できましたか? この辺りは必ず手を動かして確認してください. 一度は必ず苦労してください. でないと,普通は理解できません.
さらに便利な記号として Kronecker δij を導入しましょう.
δij =
®1 i = j
0 i = j(App A.11)
これがホント便利! Kronecker δ がでてきたら、ありがとう! とお礼が言いたくなります. この気持ちを理解してもらうためにまずは準備として次の例題を解いてください.
例題 13
1. 単位行列 I の成分表示は δij となることを確認しなさい.
2. 単位行列 I と行列 Aの積を行列表示で書きなさい.さらに,成分表示で積を表し,その計算結果が行列表示を同じことを確認しなさい.
3. 単位行列 I とベクトル Aの積を行列表示で書きなさい.さらに,成分表示で積を表し,その計算結果が行列表示を同じことを確認しなさい.
4. 成分表示 aijδjkbkl を計算しなさい.さらに,抽象行列表示に書き直して結果が同じであることを確認しなさい.
ね? すっごい便利そうだと思いませんか? ん~これだけじゃ大して感じませんか? 実際,いっぱい問題を解いていくとご利益がわかります. ホントに便利なんです. Kronecker δij の便利な点を強調するために枠で囲っておきましょう
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SAMPLE
A.3 行列の成分計算 Exercise Solutions APP A 成分計算
Kronecker δij に別の成分 ajk が積としてかけられていると,同じ添字は消えて (縮約), δij の・ペ・ア・に・な・っ・て・い・な
・か・っ・た・ほ・う・の・添・字が残る.δijajk = aik
Kronecker δ に慣れるために線型代数学から問題をとってきます.
例題 14
1. 正規直交基底 ei の内積を用いると, δij = ei · ej が成立つことを確認しなさい.
2. Kronecker δ が対称であることを示しなさい. つまり, δij = δjk.
3. δii = 3を示しなさい. また,これは Tr (δij) = 3と等しいことを確認しなさい.
例題 15
1. E =
Ü0 1 0
0 0 1
0 0 0
êの成分表示を求めなさい. また Aとの積をとり行列表示でも, 成分表示でも同じ結論
を与えることを確認しなさい.
2. 行列単位 I23 =
Ü0 0 0
0 0 1
0 0 0
êの成分表示を求めなさい. また Aとの積をとり行列表示でも, 成分表示で
も同じ結論を与えることを確認しなさい.
また,物理においても重要な次の問題を解いてください.
問題
1. 直交行列とは OOT = I となる行列である. これを成分表示するとどうなるか答えなさい.
2. ベクトル riの変換を r′i = Aijrj とする. このとき,ベクトルのノルムを不変にするためには, AijAkj = δik
が成立つことが必要かつ十分であることを示しなさい.
3. 上の問を抽象表示で確認しなさい.
この問題から,次の重要な定理が証明されました.
Theorem
ベクトルのノルムを不変に保つ等長変換*7は直交変換である.∗1 長さを変えない変換のことを等長変換 (isometry)とここでは呼ぶことにします.
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SAMPLE
A.4 ベクトル積と Levi-Civitaの記号~A× B 7→ εijkAjBk~Exercise Solutions APP A 成分計算
A.4 ベクトル積と Levi-Civita の記号~A× B 7→ εijkAjBk~
ベクトル積の成分表示を考えてみましょう. ついにこの Appendixの一つの山場にやってきました. では,気を引き締めて早速とりかかりましょう.
まずは, Levi-Civita *8の完全反対称 εテンソル*9を導入しましょう.
εijk =
1 (i, j, k) = (1, 2, 3)の偶置換−1 (i, j, k) = (1, 2, 3)の奇置換0 otherwise
(App A.12)
行列式の定義でも偶置換や奇置換などの言葉が出てきたと思いますが, あれです. たとえば, 3 次行列 A の行列式detAは
detA =∑σ∈S3
sign(σ)aσ(1)1aσ(2)2aσ(3)3
でしたね? いま, sign(σ) = εijk となるのです. このことをまずは確認しておきましょう!
例題 16
次の値を求めなさい.
ε123 ε231 ε312
ε132 ε213 ε321
ε113 ε222 ε313
この例題で εijk が sign(σ)を完全にカバーしていることを理解できましたね. したがって,
detA = εijkai1aj2ak3 (App A.13)
となるのです.
次に, εijk についてもう少し考えてみましょう!
例題 17
1. εijk = (ei, (ej × ek)) = ei · (ej × ek)となることを確認しなさい.
2. εijk は添字 (i, j, k)の任意の二つの文字の入れ換えに対して反対称になっていることを示しなさい (完全反対称性).すなわち, εijk = −εjik.
3. ei × ej = εijkek となることを確認しなさい.
さらに, Levi-Civitaの記号に関する次の定理 ( 問題 -2.)は非常に大切.
問題 次の定理を示しなさい.
*8 tullio Levi-Civitaは伊国の数学者. テンソル解析,解析力学や微分方程式論の分野で業績がある. 解析力学では Levi-Civita接続としても名前が登場する.
*9 Levi-Civitaの ε記号を Eddingtonの εということもある. Eddingtonは英国の天文学者で,相対性理論に関する業績が有名. Eddington medalは英国王立天文学会が理論天文学の分野で業績のあった研究者に贈る賞.
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SAMPLE
A.4 ベクトル積と Levi-Civitaの記号~A× B 7→ εijkAjBk~Exercise Solutions APP A 成分計算
1. εijkεlmn =
∣∣∣∣∣∣∣∣δil δim δin
δjl δjm δjn
δkl δkm δkn
∣∣∣∣∣∣∣∣. 2. εijkεlmk = δilδjm − δimδil. 3. εijkεljk = 2δil. 4. εijkεijk = 6.
解答例Proof.
1.
例題 17 -1. より εijk は正規直交基底のスカラー 3 重積で表すことができ, これはさらに行列式で書くことができる.
εijk = ei · (ej × ek) =
∣∣∣∣∣∣(ei)1 (ei)2 (ei)3(ej)1 (ej)2 (ej)3(ek)1 (ek)2 (ek)3
∣∣∣∣∣∣ .したがって,
εijkεlmn =
∣∣∣∣∣∣(ei)1 (ei)2 (ei)3(ej)1 (ej)2 (ej)3(ek)1 (ek)2 (ek)3
∣∣∣∣∣∣∣∣∣∣∣∣(el)1 (el)2 (el)3(em)1 (em)2 (em)3(en)1 (en)2 (en)3
∣∣∣∣∣∣=
∣∣∣∣∣∣(ei)1 (ei)2 (ei)3(ej)1 (ej)2 (ej)3(ek)1 (ek)2 (ek)3
∣∣∣∣∣∣∣∣∣∣∣∣(el)1 (em)1 (en)1(el)2 (em)2 (en)2(el)3 (em)3 (en)3
∣∣∣∣∣∣=
∣∣∣∣∣∣ei · el ei · em ei · enej · el ej · em ej · enek · el ek · em ek · en
∣∣∣∣∣∣=
∣∣∣∣∣∣δil δim δinδjl δjm δjnδkl δkm δkn
∣∣∣∣∣∣ .ここで, 1行目から 2行目への変形は,転置行列と元の行列の行列式は同じ |A| = |AT |が成立つことを 2番目の行列式に適用した. 2行目から 3行目は,二つの行列の積は二つの行列式の積 |AB| = |A||B|であることを用いた. 3行目から 4行目へは, 例題 14 -1. を用いた. ♠Proof.
2.
1. の式において n = k として,第 3列に関して余因子展開すれば
εijkεlmk =
∣∣∣∣∣∣δil δim δikδjl δjm δjkδkl δkm δkk
∣∣∣∣∣∣= δik
∣∣∣∣δjl δjmδkl δkm
∣∣∣∣− δjk
∣∣∣∣δil δimδkl δkm
∣∣∣∣+ δkk
∣∣∣∣δil δimδjl δjm
∣∣∣∣=
∣∣∣∣δjl δjmδil δim
∣∣∣∣− ∣∣∣∣δil δimδjl δjm
∣∣∣∣+ 3
∣∣∣∣δil δimδjl δjm
∣∣∣∣= −
∣∣∣∣δil δimδjl δjm
∣∣∣∣− ∣∣∣∣δil δimδjl δjm
∣∣∣∣+ 3
∣∣∣∣δil δimδjl δjm
∣∣∣∣=
∣∣∣∣δil δimδjl δjm
∣∣∣∣ = δilδjm − δimδil.
2行目から 3行目への変形は, Kronecker δ のところで強調しておいた,ペアになっていない添字が残るという性質をつかっている. さらに, 例題 14 -3. も用いた. 3行目から 4行目へは,第 1項の行列式の第 1行と第 2行を入れ替えたことで,行列式の交代性から −1が生じた. ♠Proof.
3.
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SAMPLE
A.4 ベクトル積と Levi-Civitaの記号~A× B 7→ εijkAjBk~Exercise Solutions APP A 成分計算
2. の式においてm = j とすれば,
εijkεljk = δilδjj − δijδil = 3δil − δil = 2δil,
が直ちに得られる. ♠Proof.
4.
3. の式において l = iとすれば,
εijkεijk = 2δii = 6,
が直ちに得られる. ♠ 2. の幾何学的な証明が [7]に与えられています. 正規直交基底の性質をうまくつかった直観的な証明なので,是非一度みてもらいたいです. 上の証明が冗長であると物理の方は感じると思うので,そういう意味では [7]の証明は物理の人には取っ付きやすいかもしれません.
それでは,次の重要な例題に取り組んでください.
例題 18
1. A× B = C を行列表示しなさい.
2. εijkAjBk = Ci が A× B = C の成分表示であることを確認しなさい.
解答例
1. A× B = C ⇐⇒
ÜA1
A2
A3
ê×
ÜB1
B2
B3
ê=
ÜA2B3 −A3B2
A3B1 −A1B3
A1B2 −A2B1
ê=
ÜC1
C2
C3
ê2. たとえば, 1行目 i = 1を求めると,
C1 = ε1jkAjBk
= ε111A1B1 + ε121A2B1 + ε131A3B1 + ε112A1B2 + ε113A1B3
+ ε122A2B2 + ε132A3B2 + ε123A2B3 + ε133A3B3
= ε123A2B3 + ε132A3B2
= A2B3 −A3B2.
(App A.15)
etc. i = 2, 3の場合を・自・分・で・必・ず・確・か・め・て・く・だ・さ・い!!
この例題でベクトル積の成分表示が εijkAjBk であることが示されました. つまり, A × B = C の i行目の成分がεijkAjBk = Ci で与えられるということです. ここまできたら後は練習あるのみです.
問題次のベクトル代数の公式を成分計算で示しなさい(ベクトル解析の本にはさらに公式が載っているが,基本的に成分計算で導くこ
とができる). ・自・分・で・必・ず・確・認・し・て・く・だ・さ・い.
1. A · (B × C) = B · (C × A)
2. A× (B × C) = B (A · C)− C (A · B)
3. (A× B) · (C × D) = (A · C)(B · D)- (A · D)(B · C)
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MII
SAMPLE
Exercise Solutions Reference
4. C · [D × (A× B)] = (A× B) · (C × D)
App B テンソル代数~ベクトルからテンソルをつくる! ~ 「テンソルとは何か?」と訊かれたら · · · う~ん, 何なんでしょうね? テンソルが何者であるかという問には簡単には答えられませんが,テンソルという量を作り出すことは案外簡単にできます. さらに,ラッキーなことに皆さんは力学 II の講義を受講しています. 林先生の力学 II の講義では「弾性体の力学」や「流体力学」を学ぶことができます. そもそも「テンソル (tensor)」の語源は,「緊張」を意味する tension (ラテン語で tensio )です. 物理用語としてのtensionは英語では「張力」,仏語では「応力」を表す. つまり,「テンソル」は元来「応力テンソル」のために作られた概念です. したがって,テンソルの直観的なイメージは力学 IIの弾性体の力学を学べば皆さんは理解できるのです. そのために,何者かはわからないけど,テンソルの計算だけはできるようになりましょう
B.1 テンソルの階数添字の数
B.2 テンソル積と Kronecker 積
B.3 dyadic と慣性モーメントテンソル
B.4 スカラー・ベクトル・テンソル
Reference
[1] 佐武一郎.『数学選書 1線型代数学』裳華房. 2005.
[2] 岩堀長慶.『数学選書 2ベクトル解析』裳華房. 1996.
[3] 伊里正夫.『岩波講座応用数学 1線形代数 I・II』岩波書店. 1997.
[4] 安達忠次.『ベクトル解析改訂版』培風館. 1961.
[5] 山本義隆,中村孔一.『朝倉物理学大系解析力学 I』朝倉書店. 2004.
[6] 新井朝雄.『現代ベクトル解析の原理と応用』共立出版.2006.
[7] 北野正雄.“Levi-Civitaの記号の縮約公式の幾何学的解釈” 2006.
ご意見・ご要望・ご指摘などがございましたら余白に書いていただくか
TA林 (M1)研究室: B227 号室, mail:[email protected]までお願いいたします.
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