イオン選択電極i イオン選択電極 Ion Selective Electrode (ISE) を理解する ・...

75
i イオン選択電極 Ion Selective Electrode (ISE) を理解する pH を測定する Na や K などのイオン濃度を測定する 神戸大学医学部保健学科 非常勤講師 中 恵一 2003.6.16 2015.5.25 J 版)

Transcript of イオン選択電極i イオン選択電極 Ion Selective Electrode (ISE) を理解する ・...

Page 1: イオン選択電極i イオン選択電極 Ion Selective Electrode (ISE) を理解する ・ pHを測定する ・ NaやKなどのイオン濃度を測定する 神戸大学医学部保健学科

i

イオン選択電極

Ion Selective Electrode (ISE)

を理解する

pH を測定する

Na や K などのイオン濃度を測定する

神戸大学医学部保健学科

非常勤講師

中 恵一

2003616

(2015525 J 版)

ii

はじめに

近代の臨床検査室では血液を主とする体液の電解質濃度を測定するときイオン選択電極法に

よることが多い一般に普及している pH メーターは溶液中の水素イオン濃度を測定するための装置

であるが水素イオンに特異的であるという点からいえばイオン選択電極法の装置の一つには違い

がないまた応用されている基本理論は全く同じである

これまで臨床検査を志すものに対してpH メーターの初歩的な講義がなされるときネルンスト

Nernst の式によればといきなり水素イオン濃度から電極電圧を導き出す数式が出てくることが

多くそのことの意味や水素イオン濃度とそれによる起電力の関係が分かりやすく説明されることが

少なかった

逆に【電気化学】と題する講義では数式が黒板やテキストのページに氾濫しなぜそのような数

式がイオン濃度を測定することの理解に必要なのか説明に納得できないものが多かった

今日電解質濃度の測定に炎光光度法や原子吸光光度法などの機器分析に代わってイオン選

択電極法が好まれるのはひとえにそれが静かで安全だからというのではなく装置に複雑な構造も

なく保守もブロックになった消耗品を交換するだけで日常の装置管理が楽だからであろう

しかし日常の作業がそのように手も汚れず簡単で高度な技術は必要ではないといってもそこにど

のような基本原理が応用されているかを学ばないでは担当する検査技師が毎回正しく測定されて

いるとする保証を与えることは難しいどのようなときに妨害を受けやすいかを理解しないで日常作業

をするのは生命に関わる医療の場で働く専門家として楽天的すぎる

そこで少し基本の知識から金属イオンの濃度と測定する電力との間に架かっている橋を学べるよ

うにテキストを作成した金属イオンが電池と関わっていることpH メーターを測定するための試料容

器は pH 電極がそれに浸けられたとき全体が電池を構成すること測定されるのはイオン濃度ではな

く起電力であることなどについて順を追って説明した

電解質測定のためのイオン選択電極法について一人でも多くの初心者がこのテキストを自習用

として使い学ばれることを願っているまたテキストの記述に関して多くの批評をお待ちしたい

iii

目次

電気エネルギー 1

金属のイオン化 1

電池 4

水素の反応 9

燃料電池 10

化学反応と電気エネルギー 14

エネルギーと熱力学 20

エネルギー保存則 20

エンタルピー 24

エントロピー 26

ギブス自由エネルギー 28

電池における化学反応のギブス自由エネルギー 30

理想気体の状態方程式 33

理想溶液のギブス自由エネルギー 37

膜電位 38

水素イオン濃度測定 40

化学反応の一般的な式 41

pH の定義とその目盛り 44

pH 標準液 44

銀塩化銀参照電極 47

実用的な pH 測定 50

ガラス電極 53

電極の校正 56

金属イオンに対応するイオン選択電極 56

補遺 60

状態関数 60

エンタルピー 63

エントロピー 64

ギブス自由エネルギー 70

1

電気エネルギー

金属のイオン化 原子や分子から一個の電子を引き離すとその原子や分子はプラスに帯電し

陽(プラス)イオンになる金属は最外殻の電子軌道に活発な電子を持つ一

連の元素のことをいいその電子を失いやすい

金属固体を塩溶液につけると電子を失ってプラスイオンになろうとする性質

があるこれを金属のイオン化傾向という

金属の種類によってイオン化傾向に大小が見られるイオン化傾向を比較して

その強さの順に並べたものを「イオン化列」とよぶ

イオン化列 K-Ca-Na-Mg-Al-Zn-Fe-Ni-Sn-Pb- (H2) -Cu-Hg-Ag-Pt-Au イオン化傾向はイオン化列の左にある金属の方が高い

イオン化傾向の大きな金属は電子を失いやすいことを意味する

参考基底状態にある原子や分子から

一個の電子を無限遠に引き離すのに要

するエネルギーをイオン化エネルギー

(Ionization energy IE)もしくはイ

オ ン 化 ポ テ ン シ ャ ル ( Ionization

potential IP)というこれは元素の物

理学上の基本的な見方で「イオン化

列」の順に第一イオン化エネルギーが

大きくなるとは限らないたとえばイオ

ン化列で一番左にありもっともイオン

化傾向の大きな金属はカリウムである

カリウムの第一イオン化エネルギーは

434 eV(4188KJmol)であるこれは

ナトリウムの第一イオン化エネルギー

2

が514 eV であるのに対して数値が小さいのでカリウムの方がナトリウムよりプラスイ

オンにされやすいことを示しているまた水素のイオン化エネルギーは 13595eV であって

数値ではこれらの元素よりはるかにプラスイオン化されにくいことを示しているところ

がイオン化列で水素より右にあるつまりイオン化傾向がより低い銀の第一イオン化エネ

ルギーは 758eV でそれはイオン化列でナトリウムのすぐ隣にあるマグネシウムの値に極

めて近いマグネシウムの第一イオン化エネルギーは765eV である

金属電極がイオン化する際の議論では電極反応の主体が電極溶液界面での電荷移動で

あってさらに静電場を考慮する必要がある電荷を持つものが金属表面から 10minus 4cm 程度

の距離にあるとき鏡像にあたる誘起引力が生じるこれは鏡像力の効果(image force)

とよばれ無視できないGuggenheim EA は「電気化学ポテンシャル」を提唱したこれ

によれば金属内部から鏡像力の効果がおよぶ点までは金属の化学結合に関わる電子の持

つ化学ポテンシャルμeM と金属表面の電荷分布に由来する表面電位χM の引力が関わり

電子を引き離すのに要する仕事量は[μeMminus FχM]が必要となるさらに鏡像力の効果が

無視できない点からその力がおよばない溶液中の無限遠に引き離すのに要する仕事量は

金属の外部電位をΨM として[minus FΨM]で表されるしたがって電極として溶液につけ

ら れ た 金 属 原 子 の 電 子 に 関 す る 電 気 化 学 ポ テ ン シ ャ ル ˜ μ eM

˜ μ eM = μe

M minus F ψ M + χ M( )= μ eM minus Fφ M

で表されるφMは電極金属の内部電位という

イオン化傾向は溶液との関係において電極反応の電位として理解できる

金属が塩溶液につけられたときにとけ出そうとする現象は化学反応の1つと

してとらえることができる金属が電子を放出してプラスイオンとなる過程

は化学反応式を使って次のように表すことができる

亜鉛を例として取り上げればその化学記号には Zn が使われるので金属固

体を表す添え記号を(s)とすることにして

Zn(s) rarr Zn2+ + 2e- (1)

反応式(1)は金属の亜鉛片が溶液につけられると亜鉛は溶液にとけだし

て2価のプラスイオンになることを意味するこのとき電子が2つ遊離す

化学反応ではこのように電子を放出する反応を「酸化反応」という

したがって(1)の反応が進めば亜鉛は酸化される自身が酸化されるも

3

のに対してその反応で発生した電子を受け取る相手は還元されると言う

すなわちこの反応が起きるとき上の例での亜鉛は「還元剤」としての能力

を持つことになる

このように考えるとイオン化傾向の大きな金属は還元剤としての能力が高い

と言うことができるしたがってKや Caは強い還元剤である

逆に言えばイオン化傾向の上位にある金属は酸化力が弱い

金属の酸化力の強さは水溶液にあってイオンの状態から金属単体になりやす

い傾向を言うこれはイオン化列の右にあるものの方が高い性質を持っている

金属に対して「酸化還元反応」を考えるとき金属と金属イオンの組み合わせ

で考えることができる

ある金属の塩を水に溶解して金属イオンとして存在する水溶液を準備しそ

の金属よりイオン化列の上位にある金属片をその水溶液に浸ける

するとイオン化列の上位にある金属片が溶液に溶けだし最初水溶液をつく

ったイオン化列の下位にある金属が析出してくる

例で示そう硫酸銅 CuSO4の水溶液を作りこれに亜鉛板を浸ければ亜鉛

板の水溶液に使っている部分はやがて茶褐色に変化する

ここで起きる反応は次の反応式で書き表すことができる

Zn(s) rarr Zn2+ + 2e- (2)

Cu2+ + 2e - rarr Cu(s) (3)

2つの反応式を合わして全体の酸化還元反応を反応式として表すことができ

Zn(s) + Cu2+ rarr Zn2+ + Cu(s) (4)

このようにイオン化傾向が水素よりも小さなものがあればまずその金属

が析出するイオン化傾向が水素よりも小さなものがなければ酸性なら水素

イオンが中性やアルカリ性なら水が反応する

水溶液において水素よりもイオン化傾向が大きい金属は電極に析出はし

てこないこのとき水の反応を示すと

4

H2O + 2e- rarr H2 + 2OH-

このように水酸イオン OH- が出来るので中性の水溶液を用いると水が反

応してその周りはアルカリ性になる

電池 酸化還元反応に伴う化学エネルギーを用いて電子の流れを発生させればその

化学エネルギーを電気エネルギーに変換することができる

化学エネルギーから電気エネルギーに転換させる過程を見てみよう

硫酸銅 CuSO4の水溶液に亜鉛板をつけたときの反応は上で反応式(2)

と(3)およびその全体を(4)で示した

それぞれの金属だけについて化学反応を(2)や(3)のように単独で示す

ときこれを「半反応」という

亜鉛に対する半反応(2)では亜鉛分子が亜鉛板に電子を残してプラスイオ

ンになって水溶液にとけ出すことを表している一方半反応(3)では銅

イオンが発生した電子を亜鉛板表面で受け取り金属銅となって析出すること

を表しているこのとき亜鉛は酸化を受け銅は還元される

ここで電子を亜鉛板から取り出すことを考えよう

反応に用いたのは硫酸銅の水溶液であったがこのような塩溶液を電解質溶液

と呼ぶ電子を取り出すために電解質溶液に工夫をしよう

2つの水槽を準備し一つには硫酸亜鉛 ZnSO4の水溶液を入れて亜鉛板をこ

れに浸けるもう一方には硫酸銅 CuSO4の水溶液を入れそれには銅板を浸け

それぞれの水槽内で起きることを期待するのは反応式(2)と(3)で示し

た各半反応である

ここでそれぞれの水槽の金属板に導線をつなぎ両方をそれで接続すると電

子が導線を伝わって移動するならその電子の流れを電流としてこれを利用す

ることができるそうすれば化学反応のエネルギーを電気エネルギーに変換

できたことになるつないだ電線の途中に豆球ランプを入れるならこれが点る

だろう下図ではこの導線の中間に電圧計を入れたものを示している

5

図1亜鉛と銅を電解質溶液に入れる

再度それぞれの水槽で起きると予想する反応を書いておこう

左の水槽 Zn(s) rarr Zn2+ + 2e- 酸化反応

右の水槽 Cu2+ + 2e - rarr Cu(s) 還元反応

左の亜鉛が入れられた側では亜鉛板に電子がたまり亜鉛の酸化反応が起きる

一方右の銅が入れられた側では電子が水溶液に移動し銅の還元反応が起き

亜鉛は電子を電極に残しプラスイオンとなって水溶液中に出て行き亜鉛板

の電極中に電子が余分にたまるこのとき水溶液にある硫酸イオンは変化を

受けない

一方の銅板では水溶液中の銅イオンが銅板から放出される電子を受け取って

銅単体となり析出するこちらの水槽でも水溶液にある硫酸イオンは変化を受

けない

電極に余分にたまっている電子の量を電極電位という

6

上の図では導線の中間に電圧計がつなげてあって両極の電極電位の差を測定

することができる電極電位の差すなわち「電位差」は電極間をつないで回

路をつくればその回路に電流が流れるので「起電力」ともいうこの電位差

や起電力の数値については後で考えることにしよう

電圧計は電流を流さず両極間の電位差を計ることができるこの状態では電

子の移動がない電子の移動がないので各イオンの濃度にも変化はない電圧

計はこのときに電池の起電力に対して最大値を与えるもしも電流が流れると

各イオン濃度の変化が起きるので起電力にもわずかながら変化が生じる

両方の極を導線でつないでその中間に電圧計を入れ亜鉛板から銅板へ導線を

介して電流が流れないときの状態をさらに考えてみよう

左の亜鉛板に残った電子は溶液中に続いて出てゆこうとする亜鉛イオンを逆

に引っ張り戻そうと働くこの結果亜鉛板に残った電子の量がある程度以上

になるともはや亜鉛は溶け出さない

この状態を平衡状態という

一方の銅板では電子の流れがないので同様に銅イオンの還元反応は進まない

そこで電子の流れが起きるように導線の中間に豆電球を入れて回路を作るこ

とにしようこのように電池の両極間に電球などを入れることを「負荷をかけ

る」という

回路ができそれに負荷をかけることによって電子の流れが起き豆電球が点

るこの結果陰極では亜鉛がどんどん水溶液に溶けだし陽極では銅が析出

する

ところがこうしてうまく電子の流れが始まってもそれは持続しない

どちらの水槽においても硫酸イオンは変化を受けないことをすでに述べてい

たこれでは亜鉛側のプラスイオンがまた銅側のマイナスイオンがたちま

ち過剰になってしまうこの結果一瞬電流が流れるだけですぐ電子の流れは

停止し豆電球は点り続けないだろう

うまく豆電球を点り続けさせるにはそれぞれの水槽のプラスイオンとマイナ

スイオンの均衡が保てるようにしなければならない

この解決にはそれぞれの水槽で過剰になるプラスイオンとマイナスイオンが

移動できるようにすればよい

それには2つの方法がある

一つは塩橋とよばれるイオンの通路を両水槽に掛け渡す方法である塩橋は

7

チューブ内に飽和塩化カリウム(KCl)溶液などをゼラチンで固めて詰めそれ

がこぼれ出ないようにそれぞれの口を濾紙などで封じたものである

図2亜鉛と銅を電解質溶液に入れ塩橋を渡す

この塩橋の代わりに素焼きの陶板やセラミックなどのイオンを通す性質があ

る固体で両水槽を仕切る方法でもよい図に示したように塩橋もしくはしき

りを介してイオンが移動できる

8

図3亜鉛と銅を電解質溶液に入れしきり板にセラミックを使う

このように電子の流れを発生させて利用しようとする装置を「電池」とよぶ

電池には2つの極がある陽極(+)と陰極(-)である

陽極(+)は正極ともよばれ電極に伝ってきた電子が水溶液に移動し還

元反応が起きる側をいう

これに対して陰極(-)は負極ともよばれ電極金属がイオン化し酸化反応が

起きて電子が電極から取り出される側をいう

今の例では亜鉛板が陰極(-)銅板が陽極(+)とよばれる

有名な「ダニエル電池」はこのように考案された

電池を電球などにつなぎ電気回路を形成すれば亜鉛電極内の電子が導線へ流

れ出て電球を明るくし亜鉛はつぎつぎ溶液に溶け出す

回路を切れば再び電極に電子がたまり平衡状態に達して亜鉛イオンの溶

出は止まる

ここで電池の表記についての取り決めを記しておこう

9

電池は2つの極からなる陽極と陰極である陽極すなわち還元反応が起き

導線を介して電子を受け取る極を右に書くダニエル電池の場合には陽極は銅

板であり銅イオンを供給する硫酸銅の水溶液が電解質溶液として用いられる

陽極金属と電解質溶液の間は縦棒で区切るそこで陽極は次のように表記され

CuSO4(aq) | Cu(s) (+) 記号(aq)は水溶液のこと

同様に陰極は酸化反応が行われる極でこれを左に書く

(-) Zn(s) | ZnSO4(aq) この両方の極は別々の水槽にあってイオンの交換が塩橋あるいはセラミッ

クのようなしきりを介して行われるのでこの隔壁をタテ二重線で表記し両極

を並べて記す

ダニエル電池は次のような記号で表記されるこれを電池式と呼ぶ

(-) Zn(s) | ZnSO4(aq) || CuSO4(aq) | Cu(s) (+)

両端の極を導線で接続し回路を形成すれば電子の流れが左の陰極から右の陽

極に起こり電流は右から左へと流れる

水素の反応 イオン化傾向の大きさが異なる金属を組み合わせて酸化還元反応が起きると

電子の流れが生じそれを取り出して豆電球を点灯する仕事として利用するこ

とができる

イオン化列の鉛と銅の間には水素があるこの水素の酸化還元反応を見るこ

とにしよう

水素の酸化反応は次のように表される

H2 rarr 2H+ + 2e- (5)

これを半反応として電子の流れを作り出せば電池として機能するから取り

出された電子を利用する還元反応を考えよう

水素と反応する相手に酸素を選べば水が生成物として得られることを期待で

きる

10

酸素が電子を受け取る還元反応の半反応は次のように表される

12 O2 + 2e- rarr O2- (6)

半反応(5)と(6)を組み合わすことができれば次の全反応によって水

が生じる

H2 +12 O2rarr H2O (7)

このとき得られる電子を導線に誘導すれば電気エネルギーとして利用が可能

になる

問題はダニエル電池で見たようにそれぞれの半反応で生じるイオンの処理で

ある半反応(5)と(6)はそれぞれ隔離された容器で行わなければ水素と

酸素が直接反応して水を生じてしまうしかし容器の隔壁がイオンを通さな

いと電池として機能しない

燃料電池 固体は一般に分子やイオンを通過させないが中には特定のイオンを通過させ

るものがありこれを固体電解質とよんでいる

半反応(5)で発生する水素イオンを効率よく通過させるためにはナフィオ

ン(Nafion Du Pont 社米国デラウェア州ウィルミントン)とよばれる固体高

分子膜が有力である

ナフィオンはフッ素を含む高分子パーフルオロスルホン酸系といわれるイオ

ン交換膜で全体はテフロン様構造からできており側鎖にスルホン酸基を持

つその厚さは 20~50ミクロン程度である膜の内部で負に荷電するスルホン

基(SO3-)が水素イオン(H+)を引きつけこれを通過させるこの水素イオ

ンの通り道は電子顕微鏡で見るとトンネルのようにできている

11

図4ナフィオンを使った燃料電池

陰極では水素の酸化反応が起きる

H2 rarr 2H+ + 2e- (5)

一方陽極では次の還元反応が起きる

12 O2 + 2e- rarr O2- (6)

O2- + 2H+ rarr H2O (8)

全体の反応は反応式(7)で表される

12

H2 +12 O2rarr H2O (7)

こうして開発された電池は「燃料電池」とよばれている燃料に水素ガスが

利用される

反応式と図に示した気体酸素は通常の空気が利用され反応で生じた水と酸

素以外の利用されない気体元素は排気される

この燃料電池は水素と酸素を遮断し水素イオンだけを通過させる固体電解

質を使ったこれは上の半反応(5)で生じた水素イオンの処理を考えたわ

けである

これに対して半反応(6)で生じる酸素イオンを移動させる工夫もある

図4安定化ジルコニアを使った燃料電池

安定化ジルコニア(Stabilized Zirconia ZrO2CaO)は高温下で酸素イオン通過

性のある固体電解質として開発されたジルコニウムに10モル程度の酸化

カルシウムを加え結晶を作ると+4価のジルコニウムイオンの位置の一部を+

13

2価のカルシウムイオンが占めるできあがった安定化ジルコニアはこのカ

ルシウムの数だけ酸素イオンの不足が起き固体全体を電気的中性に保つた

めに酸素イオンの透過性ができるジルコニアの両面に白金粉末を焼き付け

それに白金のリード線を取り付ける焼き付けられた白金には多くの孔があり

その孔を通して気体とジルコニアが接触する

酸素イオン導電性の固体電解質としてジルコニアを用いた燃料電池は次

のように動作する

1)空気極(右側)に入った酸素 O2は電極で電子を受け取り酸素イオン O2-

になる

12 O2 + 2e- rarr O2- (6)

2)O2-は固体電解質ジルコニア中を移動していき燃料極(左側)で H2 と

反応し水 H2Oを生じるこの過程に伴って電子が放出される

H2 + O2- rarr H2O+ 2e- (9)

3)これら結果として外部回路に電流を取り出すことができる

燃料電池の起電力は酸素イオンが電解質中を移動することにより生じる

酸素イオンが移動する駆動力は固体電解質の両端すなわち燃料極と空気極

の酸素濃度差である

14

化学反応と電気エネルギー ダニエル電池の陰極は亜鉛板が硫酸亜鉛の水溶液につけられていたこのと

きの現象は次のように説明された亜鉛は電子を亜鉛板電極に残し陽イオン

となって出て行くその結果亜鉛板電極中に電子が余分にたまる

ダニエル電池の陰極の「電極電位」はこの電極に余分にたまっている電子の

量をさしているそれではこの半反応による電極電位を測定することができ

るのだろうか半反応は次のように示される

Zn(s) rarr Zn2+ + 2e- (1)

亜鉛が1モル反応すると2モルの電子が持つ総電荷量が流れる

1電子の持つ電荷量は16022x10-19 C (Ccoulombクーロン)であ

るから

1モルの電子の総電荷量はアボガロド数をかけて 96485 = 96485 x 104 Cmol

であるこれを1F1ファラデーと表す

1F = 96485 x 104 Cmol 亜鉛が1モル反応すれば2モルの電子が持つ総電荷量が流れるのでこれを

記号 q として表すと次の電気量が得られる

q = 2F (10)

化学反応によって取り出せる電気量はこのように計算される

それでは電気エネルギーとしてその電力はどのようになるだろう

電力は

電力=電圧times電流times時間 (12)

電流times時間=電気量であるから式(12)を書き直せば

15

電力=電圧times電気量 (13)

ここで電気量 q は式(10)で表しているので

電力=電圧timesq=電圧times2F (14)

と書くことができる

電圧を記号Vで表すことにし電力をWにすれば式(14)は

W = 2FV (15)

として表しておくことができる

電圧の単位系は仕事量が電力Wであるので(13)から

V= W q (16)

仕事量をジュールJ(ジュール)で表せば電圧はJ C (ジュールクー

ロン)でその単位を表現することができる

式(15)の表すところは亜鉛を化学反応の材料として得られる電力という

仕事量がその電力すなわち電極電位で決定されることを意味している

一般に化学反応で1分子の材料を消費しn個の電子が流れることをその

半反応で知ることができるとき式(15)を一般化して次のように得られ

る電気エネルギーを表すことができる

W = n FV (17)

化学反応によって生じる電子を取り出し回路に導けばここに電流が生じる

その起電力(V)は陽極陰極のそれぞれの電位をE+E- と記号で表し

て次式で書くことができる

V= E+-E- (18)

16

ここで問題になるのは陽極陰極のそれぞれの電位E+とE-で上に議論し

たように回路を形成しなければそれぞれの電位は決定できない

ここでいま片方の電位をゼロとすれば式(18)はたとえばE- = 0 で

V= E+

として陽極の電位が決まる

そこで申し合わせにより水素の半反応による電位をゼロとすることになっ

その半反応の式は水素の還元反応として次のように表せた

2H+ + 2e- rarr H2

標準にはMax Julius Louis Le Blanc (1865-1943) が発明した水素電極を用

いるこれを標準水素電極(Standard Hydrogen Electrode SHE)とよびこの

電極電位をいつも 0 volt(ゼロボルト)と取り決めている

図6に示した水素電極は1atm の水素ガスとそれに平衡状態にある水素イオ

ンが存在し次の半反応が平衡状態にある

H2 (g 1 atm)rarr 2H+ (aq 1 M)+ 2e- (5) g は気体を示す

この反応において平衡状態にある電極電位を 0 volt と定義する

電極に白金を用いるのは電極材料自体が溶解しないものであることすなわ

ちイオン化傾向の低いものであることまた水素イオンの還元に対してな

るべく活性の高いものであることが条件として求められるが白金はこの2つ

の性質を兼ね備えていて陽極の電極材料に適している

気体の標準状態は1atm を標準としているこの分圧を維持し溶液中の水

素イオン活量を1にする水蒸気の分圧が変化すると平衡電位は変化する

17

図6標準水素電極(0ボルトの基準)

標準水素電極は1モル塩酸溶液につけた白金電極に1atmの水素ガスを吹き込んで使う

白金電極は分極を防ぐために白金板に白金メッキを施し(白金黒とよばれる)上半分

を水で飽和させた(1atmの水蒸気分圧が必要)1atm(101325 kPa)の水素ガスを流し

下半分を1moll の塩酸溶液につける水素ガスが電極として働き白金板に電子が集めら

れる

ダニエル電池の亜鉛電極をこの標準水素電極につなげば亜鉛電極電位が測

定できる

亜鉛電極側では酸化反応の半反応が起きる

Zn(s) rarr Zn2+ + 2e- (1)

18

標準水素電極側では還元反応の半反応が起きる

2H+ + 2e- rarr H2

図7亜鉛電極と水素電極をつないで電池とする

25の基準状態における亜鉛電極の半反応(1)に対する平衡電位はすでに

知られている

E゜= -0763 volt

また銅板側の電極電位も同じようにして測定することができる

起きる半反応はすでに上述したが再度記しておこう

Cu2+ + 2e - rarr Cu(s) (3)

25の基準状態におけるこの電極電位はE゜=+0337 volt と知られて

19

いる

ここで亜鉛電極と銅電極の組み合わせでできる電池の最大電圧をこれらの

平衡状態における観測値から計算することができる式(18)を使って

V= E+-E- (18)

V= +0337-(-0763) = +110 volt

つまりダニエル電池で得られる最大電圧は11volt と計算できる実際に

はイオンの濃度が変化すれば反応の平衡が変化するので得られる電圧も変

化する

ここでダニエル電池で亜鉛1モルが反応するとき式(17)を使って得

られる仕事量としての電力を計算できる

W = n FV (17)

すなわちダニエル電池における電極反応は

Zn(s) rarr Zn2+ + 2e- (2)

Cu2+ + 2e - rarr Cu(s) (3)

であったから反応が進んで移動する電子はn = 2 である

1F = 96485 x 104 Cmol を適応すると

W = 2 x 96485 x 11 x 104 = 21227 x 105 Jmol = 2123 KJmol

(K = 103キロ)

すなわち亜鉛1モルの化学反応によって2123 KJmol の電気エネルギーが得

られる

水素ガスを使う燃料電池の起電力は電極の半反応から

O2 + 4H+ + 4e- rarr 2H2O (19)

25の基準状態におけるこの電極電位はE゜=+1229 volt が得られている

20

したがって燃料電池で1モルの水素が反応すれば

W = 2 x 96485 x 1229 x 104 = 2372 KJmol

すなわち2372 KJmol の電気エネルギーが基準状態で取り出せる最大電力

と計算される現在作られている燃料電池の電力は実際上08 volt ほどで

あるしたがって現実的に取り出せる電気エネルギーは 1544 KJmol の仕

事量と計算される「仕事量」という言葉については電気でモーターを回し

なにがしかの「仕事」をするなど思い浮かべれば実感できるだろう

エネルギーと熱力学 これまで述べてきたように電池は化学反応から直接電気エネルギーを取り出

す仕掛けであるダニエル電池では亜鉛と銅が酸化還元反応を起こす過程で

電子を放出するのを利用するまた水素ガスによる燃料電池は気体水素と酸

素を原料とし水が生成されるこの過程が1atm の気体原料を25(29815

K)で1モル反応させて生成物も1atm の液体の水を得るなら次の全反応に

よってすでに計算したとおり2374 KJmol の電気エネルギーが取り出せる

H2 + 12 O2 rarr H2O

圧力と温度がともに反応の過程を通じて一定の場合にその過程から取り出せ

る仕事量は熱力学的に考えることもできる

それはギブス自由エネルギーとして議論される電池で取り出した電気エネ

ルギーすなわち電力はこのギブス自由エネルギーに相当する

次に化学反応をこの熱力学の面から考えてみよう

エネルギー保存則

水素ガスを使う燃料電池のように独立した一つの仕掛けを考えこれを「系」

と呼ぶことにする系を考えるとき電池のように具体的なものを持って考え

るのが容易いのでそうすることが多い熱力学では自然界全体をあつかうので

しばしば概念的になり非現実的な記述が行われるが系の大きさや系を構成

する分子の大きさについて特定する必要はない

系におけるエネルギーを内部エネルギー熱エネルギー力学的エネルギー

の3つの要素からなると考えるこれらのエネルギーを考えるとき系の熱力

21

学的なパラメーター(変数)が必要となる熱力学的な状態はこれらのパラ

メーターのうちのいくつかを指定すれば決定される

熱力学的なパラメーターは2つに分類される

示量パラメーター(示量性変数)

系の大きさや構成する物質の量を示す体積や質量

示強パラメーター(示強性変数)

系の大きさに依存しない系における1つの点で決まった値で与え

られる圧力や温度密度など

いくつかのパラメーターで完全に決定できる状態を関数で表現することがで

きる場合があるそのような関数を熱力学的な状態関数(rarr補遺 p60)と呼ぶ

関数で状態の変化を表すことができれば数学的に取り扱うことができいろ

いろの面で便利である

一つの系についてその状態を知ろうとするとき系が熱力学的な平衡状態に

あると議論する上で都合がよい

熱力学的な平衡状態とは系を外部と独立させ長時間放置した後に達成され

る状態をいうこのとき系の状態をその外部のパラメーターで表現できる

たとえば電池を独立した系と考えるとき平衡状態に達した電極電圧を外部

においた電圧計で測定することができる

ある系を考えるとき前提としてその系はエネルギーを保有していると考える

系が独立してそこに存在するということで持っているエネルギーであるこれ

を内部エネルギーと呼ぶ系がある過程を経て状態を変えるとき系から系の

外部へ力学的な仕事をする場合には力学的エネルギーの出入りがあると考え

るまた系に熱が出入りする場合が考えられそれを熱エネルギーの出入り

と考えることにしよう

まず力学的エネルギーについて考えることにする

いま系が状態を変えその体積が増えれば系のlsquo壁rsquoがその系に接している

「外部」へ力学的な仕事をすることになる

このように系が膨張し壁が外部に向かって押し出されると考えたとき膨張

する過程における圧力を一定でpとし系が膨張した体積をΔV(膨張した分だ

けの体積増加量)とするなら系の仕事量ΔWは両者の積で表されるΔは変

化量を表すときにつける記号と決めておこう

22

ΔW = pΔV (20)

系の体積が凝縮する場合があるので仕事を記号で表す場合には注意するも

し系に接した「外部」から系に力が加わって体積を小さくしたならΔVは

マイナスとなるのでΔWもマイナスで表される

-ΔW = -pΔV (20prime)

今考えている系を「系 A」と呼びその内部エネルギーを UA外部の系を「系

B」と呼んでその内部エネルギーを UBと表すなら二つ合わせた全体の内部

エネルギーは両者の和で表すことができる

U = UA+UB (21)

この体積変化に必要なエネルギー変化量はどこから得られたかを考えれば

その変化があった「系 A」と外部の「系 B」のいずれかあるいは双方の内部エネ

ルギー変化分でまかなわれたと考えざるを得ない(図8参照)

そこでこのエネルギーの収支関係は変化分を表す記号に先と同様Δを用い

ることにすると次式のようになる

-ΔU =ΔW (22)

すなわち観察している「系 A」のエネルギーと外部の「系 B」のエネルギー

を合わせた総エネルギーを見てその微少な減少量minus ΔU が仕事をなすために

必要であったエネルギー量と考えてみることにする

ついでこの体積の変化が「系 A」に接する外部のlsquo熱rsquoによって起きたも

のと考えてみようすなわち外部の「系 B」が系 Aより高温で「系 B」によ

って系 Aが暖められたことになる

このとき移動したエネルギーを「熱量」と定義する

23

図8熱量の移動と系が外部にする仕事

「熱量」を記号Qで表すと外部の「系 B」が失ったエネルギーminus ΔUB で

ありこれが熱量であるから式で表せば次式のように書くことができる

-ΔUB = Q (23)

ここで「系 A」とそれに接する「外部 B」両方のエネルギーを合わせた総エ

ネルギーの変化量ΔUは式(22)で与えられていた

-ΔU =ΔW (22)

-ΔU =-(ΔUA+ΔUB) であるから

minus ΔUAminus ΔUB=ΔW (24)

これに式(23)を当てはめてΔUAで整理すれば

24

ΔUA= Q-ΔW (25)

この式(25)は「エネルギー保存則」あるいは「熱力学の第一法則」を数

学的に表現したものである

すなわち

独立した系を考えその状態が変化するとき系の内部エネルギーの変化量はその系に入る熱量と系が外部にした仕事との差である

式(25)にはまた重要な主張があるつまりエネルギー保存則にしたが

うとき熱量は力学的エネルギーにまた力学的エネルギーは熱量に変換しう

ることを意味している

熱量を表す単位はカロリー(cal)を用いる1cal は

1 cal = 4184 J

と換算されるジュールは 1J = 1Nm (ニュートンメートル)で仕事量を

表現する単位系で表される

エンタルピー

式(25)から定圧過程で式(20prime)を利用して次の式(26)が誘導さ

れる

Q =ΔUA+pΔV (26)

ここでQは熱量を表していたのでこの関係式(26)から熱関数として

新しい関数を定義する

新しい関数はエンタルピー(enthalpy)(rarr補遺 p63)と呼ばれ次の関数

式Hで表される

H = U+PV (27)

エンタルピーの微少変化量を記号Δを使って表現してみよう

25

ΔH = ΔU +Δ(PV) =ΔU +ΔPV+ PΔV (28)

独立した系で圧力が一定の下に起きる過程を考えるならΔP = 0 (圧力の

変化はゼロ)であるから式(28)は次のようになる

ΔH =ΔU + PΔV (29)

化学反応の過程を考えるとき系に容積の変化がなく過程の前後で一定であ

るならさらにΔV = 0 であるのでエンタルピーの変化量は

ΔH =ΔU (30)

また系の仕事を体積の変化としてみる式(20)から

ΔW = pΔV= 0

であるのでこれを式(25)へ適応すると

ΔU= Q minus ΔW = Q ΔW= 0 だから

結果的に系の圧力と体積が変化の過程で一定である場合にはその系のエンタ

ルピーの変化を表す式(29)(30)は次のように簡単な式になって熱関

数と呼ばれる意味が理解しやすいだろう

ΔH = Q (31)

独立した系に等圧等積で起きる過程を見る場合にはエンタルピーは系が外

部と交換する熱量の直接的な尺度となる

H>0 なら反応に熱を使うので吸熱反応

H<0 なら発熱反応

電池のように系に起きる化学反応で生じる電子の流れを取り出す装置を考え

る場合エンタルピーの変化を電気エネルギーとして取りだしている点に留意

26

しなければならない式(31)のようにエンタルピー変化が交換される熱

量に直接表現できるといっても必ずしも熱として取り出すとは限らないこと

を注意しよう

ところでエンタルピーは内部エネルギーと同じ次元にある状態量で定圧

変化の熱量がエンタルピー変化であるからある一点を標準として定めれば

すべての物質について任意の点のエンタルピーを変化量として定めることがで

きるすなわち化学反応の過程で発熱あるいは吸熱する熱量は反応材料と

生成物の間の状態変化に対応するエンタルピーに対応する

そこで一つの元素に対してもっとも安定な状態にある物質を標準物質とし

て定め29815K(25)1atm を標準状態としてその標準物質からある化

合物を合成するときの反応熱(発熱あるいは吸熱)をその化合物の「標準生成

エンタルピー」として定義できる多くの元素に対して標準生成エンタルピー

は現在表としてまとめられている

水素や酸素はその気体状態が標準物質でありそれらの標準生成エンタルピー

がゼロと定義される

エントロピー

もう一つ新しい状態関数としてエントロピー(entropy)(rarr補遺 p64)を

定義するエントロピーを表す記号は通常S を用いその定義は次の式(32)

による

S Q

T (32)

エントロピーは系の2つの状態が決まると状態量として決まる

このときQ は2つの状態の間を可逆的に変化したとき系が受け取る熱量

T は系が熱量 Q を受け取ったときの温度(degK)である

「熱力学の第二法則」はエントロピーに関するものである

図9では2つの系が接しておりそれぞれの温度を Thigh Tlowとする

Thigh>Tlow (33)

27

今温度の高い系から温度の低い系に直接熱量 Q が移動したとすれば温度

の高い系のエントロピーの変化量ΔS は熱量が失われるので負の値になる

図9熱の移動

そこで温度の高い系のエントロピーの変化量ΔS を式で表すことにすると

次式のようになる

Shigh Q

Thigh

(34)

一方低い系のエントロピー変化量ΔS は熱量が与えられるため

Slow Q

Tlow

(35)

両方の系を合わせたエントロピーの変化量ΔS は

S Shigh Slow Q

Thigh

Q

Tlow

lowhigh

lowhigh

lowhigh TT

TTQ

TTQ

11 (36)

式(36)の最終項で(33)を前提すなわち最初に温度の高い系は高い

と決めたのだとするならエントロピーの変化量ΔS は必ず次のようになる

28

ΔS >0 (37)

すなわち独立した系がありそれより温度の低い別の系あるいは温度の低

い外界が接した場合熱量は高い方から低い方へ移動するという自然の成り行

きを説明するものである

自然界に置いてエントロピーは

ΔS≧0

の値を取りΔS=0のときは可逆的過程である

今の例でいうなら熱は温度の高い系から低い系へ移動しその逆は起きない

常にΔS >0の方向に過程が進行するまた2つの系が同じ温度であるとき

両者は平衡状態にあって熱量の移動は見かけ上なくΔS=0と表現される

「熱力学の第二法則」はエントロピーによって表現されるもので系の変化が

可逆的であるかどうかを判定する指標であり現実の世界で起きる不可逆過程

が正の値を取る方向へ進むことを示す

あるいは系の変化が起きるとき外界を含めて考えれば総エントロピーが

増大する方向に変化が起きることを意味するというようにも表現される

ギブス自由エネルギー

熱力学の第一法則によってエネルギーの取りうる形である「仕事」と「熱」

は互いに変換されうることを理解したこのことの数量的な意味は1cal=418J

で示されるさらに仕事は100熱に変換可能であるが一方の熱はうま

くやっても100を仕事に換えることができないことを熱力学の第二法則で

説明しようとしたそのためにエントロピーという概念が導入された

ここで電池のような独立した一つの系を見るとき系の内部エネルギーの減

少を仕事として取り出しうるならそれは化学反応を一つの例としてどれほど

の仕事量が取り出せるのかはどうしたら与えられるだろうか

化学反応を電気エネルギーに換える電池では先に正負それぞれの電極におけ

る半反応の平衡電位の値を利用してその起電力に対する最大値を計算した

この化学反応から取り出しうる最大仕事量を与えるものとして新しくギブス

自由エネルギー(rarr補遺 p70)と名付け記号 G を使ってそれを次のように

定義する

29

G = H-TS (38)

H はエンタルピーである第2項にある S はエントロピーを表す

ギブス自由エネルギーは化学反応のような独立した系の定温定圧過程に適

応されるので変化量ΔG を式(38)から得ておこう

ΔG =ΔH-Δ(TS)

=ΔH-(SΔT+TΔS)

温度を一定と考えているのでΔT=0 であるから

ΔG =ΔH-TΔS (39)

この式(39)を書き換える

ΔH=ΔG + TΔS (39rsquo)

ここで定圧過程ではエンタルピーを次のように式(29)で定義できた

ΔH =ΔU + PΔV (29)

式(29)の意味するところを復習すれば

系のエンタルピー変化ΔH は内部エネルギーの変化量と系が外部に

した仕事量の和として表される

これは

定圧過程で系が得るエネルギー量から仕事量を除いたもの

と言い換えることができるエンタルピー変化量は化学反応などの過程で

始めと終わりの2つの状態の差であるからそれが正の値を示す(>0)なら

系のエンタルピーは増加することを意味しその過程が進行するためには系

の外部からエネルギーが供給されなければならない

一方式(39rsquo)の右辺第2項TΔS はエントロピーの定義(32)より

TΔS = Q (40)

であるのでこれは可逆過程で系に供給される熱量を意味する

30

もしエンタルピー変化量が負の値を示す(<0)ならば系のエンタルピー

は減少しその過程が進行することによってエネルギーが取り出せるすなわ

ち式(39)(40)から次のようにこれら3つの状態量を改めて説明する

ことができる

ある化学反応が定圧で可逆的に進行するときそれから取り出せる

エネルギーのうちΔG を仕事として放出し熱量 Q を放出する

標準状態29815K(25)1atm で標準物質からある化合物を合成すると

きの反応熱(発熱あるいは吸熱)をその化合物の「標準生成エンタルピー」

として定義した同様にある物質に対する「標準生成ギブス自由エネルギー」

はこの標準状態で標準物質からその化合物を化学反応で生成するとき式(3

9)によって与えられる変化量をいう

電池における化学反応のギブス自由エネルギー

先にダニエル電池の亜鉛板側に対する電極反応を検討したとき電極反応が

仕事として放出するエネルギーを表現する重要な式があった次の式(17)

である

W = n FV (17)

ギブス自由エネルギーを用いて今これは次のように書くことができるように

なった

W = n FV=-ΔG (41)

この式が表していることを実際に水素の燃料とする燃料電池の反応過程で見

てみよう燃料電池の図を再掲する

図中右にある陰極では水素の酸化反応が起きる

H2 rarr 2H+ + 2e- (5)

一方図では左にある陽極において次の還元反応が起きる

12 O2 + 2e- rarr O2- (6)

O2- + 2H+ rarr H2O (8)

全体の反応はすでに示したように次の反応式(7)で示される

H2 +12 O2rarr H2O (7)

31

標準状態における可逆的仕事は式(41)であらわせ

n FV=-ΔG (41rsquo)

このΔG は式(39)であらわせた

ΔG =ΔH-TΔS (39)

すなわち標準状態29815K(25)1atmにおいてある化合物を標準物

質から合成するときの標準生成ギブス自由エネルギー変化ΔG゜は標準生成エ

ンタルピー変化ΔH゜とその温度におけるエントロピー変化TΔSの差で求ま

るこれらは燃料電池の全反応を表す式(7)で与えられる

標準生成エンタルピーΔH゜変化とエントロピー変化はすでに一般的な元

素やその化合物に対して表が作成されている

液体の水に対する標準生成エンタルピーΔH゜(H2O)は

ΔH゜(H2O)=minus 28583 KJmol

また水素ガスと酸素ガスはそれぞれの元素の標準物質であるので生成エ

ンタルピー変化はゼロである

32

そこで式(7)での水を1モル化学合成するときの標準生成エンタルピーΔ

H゜は水素(ガス1モル)と酸素(ガス12 モル)の2つの材料と水(液

体251atm)の両状態における状態量の差として表される

ΔH゜=ΔH゜(H2O)-ΔH゜(H2) -12ΔH゜(O2) (42)

式(42)の右辺第2項と第3項がゼロであるので

ΔH゜=ΔH゜(H2O) =-28583 KJmol (43)

標準状態29815K(25)1atm における水素(ガス)と酸素(ガス)お

よび水(液体)のエントロピーはそれぞれ

ΔS(H2O)=6991 JKmol

ΔS(H2) =13068 JKmol

ΔS(O2) =20514 JKmol

単位で分母のKはケルビン温度の意味

と計算されているので

ΔS=ΔS(H2O)-ΔS (H2) -12ΔS(O2) (44)

=6991-13068-12times20514

=-16334 JKmol

したがって

TΔS=29815times(-16334)=-486998=-4870 KJmol

(45)

そこで標準生成ギブス自由エネルギーΔG゜は式(39)から

-ΔG゜=-(ΔH゜-TΔS) (39)

=-{-28583-(-4870)}

=+23713 KJmol

33

すなわちこのエネルギーを電気エネルギーとして取り出すことができるそ

の起電力は式(41rsquo)から

n FV=-ΔG (41rsquo)

V= -ΔG(n F)

各数値を当てはめれば

V=237130(2times96485)

=1229 volt

先に【化学反応と電気エネルギー】のところで記したとおり25の基準

状態におけるこの電極電位はE゜=+1229 volt が得られているすなわち

こうして標準生成ギブス自由エネルギーから計算することでも同じ値を得る

ことができた

水素を単純に酸素と化合させる燃焼では式(43)で示されるエンタルピ

ーが発生する熱量を示している水素1モルあたり28583 KJである電池

にすれば水素1モルあたり23713 KJの仕事量が電気エネルギーとして取り

出すことができるその差は電池の場合熱が発生して利用できない

化学反応の過程を利用して化学エネルギーから直接電気エネルギーに変換す

るのが電池という装置であるが化学エネルギーは100電気エネルギ

ーに換えることはできないこのようにエネルギーの一部は電池の熱として

発散してしまう

理想気体の状態方程式

ギブス自由エネルギーΔG を定義した式(39)とエンタルピーΔH の定義

式(28)から

ΔG =ΔH-TΔS (39)

ΔH =ΔU +VΔP+ PΔV (28)

そこで次式が得られる

34

ΔG =ΔU+VΔP+ PΔV-TΔS (46)

またエネルギー保存則から得られた式(26)を応用すればギブス自由エ

ネルギーが変形できる

Q =ΔU+PΔV (26)

から

ΔU=Q-PΔV (47)

したがって式(46)は

ΔG = Q-PΔV+VΔP+ PΔV-TΔS

ΔG = Q-TΔS+VΔP (48)

エントロピーの定義からQ=TΔSであるから結局式(48)は

ΔG = VΔP (49)

と表すことができる

成分が混合された気体分子の分子間に働く力をゼロと仮定した「理想気体」を

考えるとき状態方程式としてボイルシャルル(Boyle-Charles)の法則が

利用できる

PV=nRT (50)

ここでnは気体のモル数PVT はそれぞれこれまでと同じ圧力体積温度(ケルビン温度)でありR は気体定数と呼ばれるもので次の値を持

R= 831441 JmolK (51) 単位で分母のKはケルビン温度の意味

35

状態方程式から式(49)の右辺を導くことを考えてみよう式(50)は

1モルの気体について V に対し次のように変形することができる

V 1

PRT (50rsquo)

両辺に圧力の微小変化量⊿P をかけると

PP

RTP V (52)

これを微分方程式として圧力p0 からp1 まで(p0≦p1)積分するなら

1

0

1

0

1

0

1p

p

p

p

p

pdP

PRTdP

P

RTdPV (53)

関数 f(x)=1x を積分したときの関数はF(x)=ln(x)であるので(ln は e を底

とする自然対数loge)

右辺=0

1ln)0ln()1ln(p

pRTpRTpRT (54)

ギブス自由エネルギーを表す式(49)は次のようであったから

ΔG = VΔP (49)

式(52)から得た式(54)を当てはめると状態G0(p0T)からG1(p1T)

へ変化する過程で圧力が p0 から p1 まで変化するものとして

dGG0

G1

G( p1T ) G(p0T ) RT lnp1

p0 (55)

あるいはこれを書き直して

V

36

G(p1 T) = G( p0T ) + RT lnp1p0

(56)

特別にG0(p0T)を標準状態T=29815K(25)p0=1atmに指定する

なら標準生成ギブス自由エネルギーを記号G゜として (56rsquo)

と表すことができる

式(56rsquo)の意味するところは標準状態から圧力の変化を伴う過程で理

G(p1 T) = Go + RT ln p1

想気体のギブス自由エネルギーは圧力の対数に比例して上昇することである

このことはさらに新しい着想を生む

すなわち水素を燃料とする上の燃料電池で1atm 標準状態の水素ガスの圧力

を2atm に上げれば式(56rsquo)からRTln2 余分にギブス自由エネルギー

が取り出せることになる

燃料電池において起電力を生むエネルギーは隔壁を水素イオンもしくは酸

素イオンが浸透しようとする力であるので1atm の水素ガスと2atm のそれで

は浸透しようとする圧力が異なりここに起電力が生じる

式(56)の第二項が圧力の差による仕事であるからこれをΔG とすれば

W=-ΔG の仕事量が電気エネルギーとして取り出せるはずである

W = minusΔG = minusRT lnp1p0

(57)

起電力に換算するために式(41)を使うと

W = n FV=minus ΔG (41)

から

01ln

pp

nFRTV ⎟

⎠⎞

⎜⎝⎛minus= (58)

この式(58)は一般にネルンスト(Nernst)の式と呼ばれる

37

理想溶液のギブス自由エネルギー

理想気体を想定したように無限に希釈された混合溶液に対して理想溶液を仮

定する「系」の圧力温度を一定に保つならば体積内部エネルギーエンタ

ルピーギブス自由エネルギーなどの示量数は混合溶液を構成する物質のモ

ル数mに比例するたとえば標準状態にある物質の1モルの体積をVとすれば

mモルの体積はそのm倍mVであるそうすると溶液中のi番目の成分がmi

モル「系」から「外界」に仕事をするときその成分iの持つ自由エネルギーの

mi倍の仕事が「外界」になされると考えればよい

この溶液成分のモル数と化学的仕事を結びつける示強因子がギブスによって

化学ポテンシャルと名付けられ一般に記号μが用いられる

化学ポテンシャルはこれまで見たようにギブス自由エネルギーで表される

また電位がψ(プサイ)にある系から-Δeの電荷が放出されるときには

-ψΔeの電気的仕事が得られるそこで記号μに両者を合わせた意味を持

たせて「電気化学ポテンシャル」と呼ぶ

概念の上で物質は電気化学ポテンシャルの高い方から低い方へ勾配にした

がって移動する

理想気体の標準状態が気体分圧を T=29815K(25)で 1atm としたのに対

し溶液成分の標準状態はその分圧に相当するモル数 m を用いるすなわち

標準状態にある成分 i の電気化学ポテンシャルμ0iは成分の持つ電荷(H+なら

1)を n として

μ0i = G i゜+nFψ i (59)

ギブス自由エネルギーは式(56rsquo)を借り理想溶液中の成分に対しては気

体圧力をその成分のモル濃度Cに書き換えればよいそこで

G(CT ) G RT lnC (60)

と表すことができる

したがって一般的な成分 i の電気化学ポテンシャルμiを表す式は標準状態

からの自由エネルギーの変化を考え式(59)と合わせて次のようになる

38

ψnFGii 0

式(60)から

ii CRTGTCGG ln)( 0

よって

(61) ψnFCRT iii ln0

実際的なことを考えると成分濃度はその有効イオン濃度とする必要があり

「活量係数」γを導入して次式で表されるイオン活量aを用いる

ai = γCi (62)

一般的にはγ=1と近似してモル濃度Cを使っているこのテキストでも

必要ではない限りイオン活量を用いることを省略して簡単に記述したい

膜電位

燃料電池に使われたナフィオンのような一つのイオンを通す膜を介して膜

の両側にC0 とC1 のイオン濃度差がある溶液が接するときの電気化学ポテン

シャルを考えよう

ある容器の底にナフィオン膜を取り付け容器の中と外のイオン濃度をC0

とC1としそれぞれの電気化学ポテンシャルをそれぞれμinとμoutとする

式(61)を使って

容器の中の電気化学ポテンシャル

(63) innFCRTin ψ 00 ln

容器の外の電気化学ポテンシャル

(64) outout nFCRT ψ 10 ln

イオン浸透性の膜を介して濃度変化が無視できるほどの移動があると考え

その電気化学ポテンシャルの差を式(63)(64)から求めれば

39

)(ln0

1 inoutinout nFC

CRT ψψ (65)

この系において今注目しているイオンが膜を介した両側で平衡状態にある

とき式(65)はΔμ=0と考えることができるすなわち

0)(ln0

1 inoutnFC

CRT ψψ

膜内外の電位差をΔψ=ψoutminus ψinとすれば

1

0

0

1 lnlnC

C

nF

RT

C

C

nF

RTψ (66)

式(66)は理想気体に対するネルンストの式(58)と同様溶液中のイ

オンに対するネルンスト(Nernst)の式として与えられる

細胞の膜においてもその生体膜の内外でたとえばカリウムイオンのように

非対称に分布して平衡に達している場合には式(66)で与えられる膜内外

で電位差が生じるこれは一般に膜電位と呼ばれる膜電位は平衡電位とも

呼ばれる

たとえば膜内外に1価のカリウムイオンに10倍の濃度差があるとすると

通常カリウムイオンは細胞内の濃度が高いので

C0 = 10timesC1

であるから

これを式(66)に当てはめてln(10)=2303 を用いlog への変換をすれば

Δψ=2303times(RTF)timeslog(10)

であるこれに R=831441 JmolKF=96485 CmolT=29815 K(25)

の各数値を当てはめると

Δψ=2303times831441times29815times196485 JC

=+005917 volt

すなわち膜の内外で約+60ミリボルトの膜電位が生じることになるこの

分だけ細胞の外側の電気化学ポテンシャルが高く膜の内側の膜電位が負であ

るそして膜にあるカリウムチャネルがこの電位を示すとき受動的なカリ

40

ウムの膜内外の移動は平衡に達することになる

水素イオン濃度測定

「標準水素電極」は1モル塩酸溶液につけた白金電極に1atm の水素ガスを

吹き込んで平衡状態に達したときの電位を基準としてゼロボルトと規定した

そこである溶液についてその水素イオン濃度を知ろうとするとき同じ水

素電極を用いることを考えれば標準状態にする目的で用いた1モル塩酸溶液

を濃度未知で X モルの塩酸溶液と想定すればその水素イオン濃度を知るこ

とができるだろうか

標準状態ではない X モルの塩酸溶液に浸けた白金電極が半電池として働くこ

とは間違いなさそうであるしかしその白金電極が持つ電極電位を測定する

にはいずれにしても標準電極と組み合わせて「電池」を構成しその電池

の起電力として計る必要がある電池を作れば起電力を知ることができ相

手の半電池の電極電位が知られていれば濃度が未知でXモルの溶液について

その水素イオン濃度を知ることができるだろう

こうした目的のためにいちいちゼロボルトと規定した標準水素電極を用いる

のは煩雑なのでしばしば後出の「銀塩化銀電極」が参照電極として用いら

れる

まず予め「銀塩化銀電極」を標準水素電極と組み合わせて電池とし一度

その起電力を測定しておけば後はいつもそれを標準電極として利用できる

「銀塩化銀電極」の半電池は

H+ (1 moll) Cl- | AgCl | Ag(s)

これに「標準水素電極」を組み合わせ電池を構成すると次のような電池

になる

Pt(s) | H2(g) | H+ (1 moll) Cl- | AgCl | Ag(s)

この電池の起電力を知れば「銀塩化銀電極」の半電池としての電極電位

を知ることができ参照電極として未知の半電池と組み合わせて起電力を測

定して相手の電極電位を計算できる

41

濃度 X モルの塩酸溶液を未知の溶液と想定すればその電極電位を知るために

組み立てる電池は次のようになる図10にその電池の図を示した

Pt(s) | H2(g) | H+ (x moll) Cl- | AgCl | Ag(s)

この電池の全反応は次の反応式で表される

AgCl(s) 1

2H2 (g) H Cl Ag(s) (67)

図10未知溶液の水素イオン濃度を測定しようとするための電池

化学反応の一般的な式

ここで電池に利用される化学反応から得られるエネルギーをギブス自由エ

ネルギーに換算し起電力を具体的に知る手だてとすることは上ですでに学

42

んだがより一般的な式を再度ここに書きだしておこう

化学反応が紙面で左から右に進む反応として次のような一般式で与えられ

るとき

aA + bB rarr cC + dD (68)

ギブス自由エネルギー変化量は標準状態ΔG゜からの変化量を加える形で式

(60)と同様次の式によって表される

G G RT(ln aCc aD

d ln aAa aB

b )

G RT ln

aCc aD

d

aAa aB

b (69)

aAは成分 A のイオン活量であるその他の成分も同じ

得られたエネルギーを電気エネルギーに換えるなら式(41)に習って

次式で表せば

ΔG=-n FV

there4V=-ΔG(nF) (70)

このときの起電力は標準状態における電位 E゜からの変化量として次式で与

えられる

E E

RT

nFln

aCc aD

d

aAa aB

b (71)

標準状態における起電力 E゜は反応が平衡状態にあるときで反応平衡定数

を K とするなら

K aC

c aDd

aAa aB

b (72)

で表されるそこでE゜は次のように書き改めることができる

43

E

RT

nFln K (73)

そこで式(67)で表される図10の電池「水素minus 銀塩化銀電池」に

対する起電力をギブス自由エネルギーから求めてみよう

反応から式(71)に当てはめれば

E E RT

Fln

aH

1 aCl

1 aAg1

aAgCl1 aH2

1

2

(74)

力学の慣例にしたがって固体の純物質の活量は1として扱い水素ガスを

想気体として見なして活量を1atm とするなら式(74)は次のよう

に簡略化される

E E

RT

Flna

H aCl (75)

ころで理想溶液として近似的に取り扱うときの希薄溶液でたとえば水素

入して詳細に検討するなら式( れる起電

オン濃度はイオン活量として aH+の記号を使うときすでに【理想溶液のギ

ブス自由エネルギー】の章で述べたようにこれを有効イオン濃度とする必要

がありイオン活量 a は「活量係数」γを導入して次式で表した

a H+= γH+CH+ (62)

この活量係数を導 75)で誘導さ

を計ることによって経験的に試料溶液中の水素イオン濃度を求めることは

困難である式(75)にあるイオン活量の項はモル濃度 C と活量係数γを

用いて次式で書き改められる

lnaH aCl

lnCH CCl

lnH Cl

(76)

まり式(76)右辺の第二項において互いに相手が知られなければ自分

決めることができず結果的に起電力を知っても(75)の値から水素イオ

ン濃度を導けないここに工夫が必要になる

44

の定義とその目盛り

液中の水素イオン濃度を直接意味するものではなく

を定義するとき測定されるのは1リットルの溶媒に存在す

pH = -log a H+ = -log(γH+CH+) (77)

際に試料溶液の pH を決定する際はpH 標準液を用いる

に溶液を入れ試料溶液 X と pH 標準液 S を

参 極を接続し電池を作成しその起

pH

現在pH の定義は溶

で述べたようにそれが簡便に測定できるものではないため次のように定

義されている

水素イオン濃度

水素イオン活量であるため定義式としては活量係数をγH+として次式で与

えられる

その要領は次のようである

上に図示した水素電極の容器内

れぞれ半電池(I)と(II)に入れる

半電池(I) Pt | H2 (1 atm) | 試料溶液

半電池(II) Pt | H2 (1 atm) | 試料溶液S

照電極として上図のごとく銀塩化銀電

電力を測定する半電池(I)のときの起電力を E(X)半電池(II)のそれを E(S)

とするこのとき試料溶液Xの pH は次式で計算される

pH (X) pH(S) E(S) E(X)

RT ln(10) (78)

ln(10)は自然対数を常用対数に戻すための定数で2303 を用いる

標準液

pH 標準液 S はpH 第一次標準液第二次標準液と呼ばれるべき

る測定

25で pH 4005 を示す

pH

上述した

のであり絶対的測定法である起電力の測定によって値をつける

標準液は安定で純粋な結晶が得られる試薬を調整してこれを測定す

上と同様に水素電極を用いこれに緩衝液を入れる参照電極として銀

塩化銀電極を接続して電池の起電力を測定する

たとえば005 moll フタル酸水素カリウム溶液は

一次標準(Primary Standard PS)の一つである半電池(III)として水素

45

電極を次のように準備する

半電池(III) Pt | H2 (1 atm) | PS 溶液

て電池を形成したとき得られる起電

参照電極として銀塩化銀電極を接続し

は式(75)から

E E

Ag AgCl RT

Flna

H aCl (79)

オン活量を濃度と活量係数の積(a H+= γH+CH+)にし自然対数を常用対数

すれば

E E

Ag AgCl RT ln(10)

F log(

H + CH+ Cl- CCl - ) (80)

E゜は水素標準電極(水素ガス分圧を1atm電極を浸ける溶液に001 moll

H

Cl を用いる)で得た起電力である

式(80)から

RT ln(10)

Flog(

H CH Cl

) (E EAg AgCl )

RT ln(10)

Flog C

Cl

(81)

らに

log(

H CH Cl

) F

RT ln(10)(E E

Ag AgCl ) logCCl

(82)

ころで式(77)から

(γH+CH+) (77)

-log a H+ =-loga H+-log(γCl-) +log(γCl-) =-log(a H+γCl-) +log(γCl-)

(83)の一番右の式で第一項は

pH = -log a H+ = -log

であるが右の式をさらに変形すると

(83)

46

-log(a H+γCl-)=-log(γH+ CH+γCl-) (84)

たがって式(82)の右辺で示されるように電池の起電力を測定すれば

よ 実際には溶液の塩素イオン濃

液で起電力を求め外挿する

起電

これによってpH を意味する式(83)は次式(85)で与えられる

p(aHγCl)はRG Bates によって Acidity Function と呼ばれている

らに式(85)最終項の log(γCl-) を補正しなければならないこの項は

本工業規格)によっても

であってこれは式(82)の左辺である

いただし塩素イオン濃度の項があって

をゼロにしたときの値が必要である

実測する際には塩素イオン濃度をゼロにできないので塩化ナトリウム NaCl

等を濃度を変えて添加しその時々の緩衝

勧告ではNaCl で 000500100015moll の3つの濃度を例示している

すなわち塩素イオン濃度ゼロのときの値は各塩素イオン濃度に対して

の値をそれぞれプロットしグラフから塩素イオンがゼロのときの起電力の

値を3点に対する回帰直線の延長で外挿して求めるこの点を次のように書

log( C H H Cl CCl

0

pa log( C log( (85) H H H Cl C

Cl0 Cl

)

素イオンの活動係数で与えられる補正項である

無限希釈溶液中のイオンの活動係数は理論的に Dubye-Huckel の式を用い

近似的に求めることが可能であるこれはJIS(日

用されていて Bates-Guggenheim の規約と呼ばれる (Bates RG

Guggenheim Pure Appl Chem 1 163-168 1960)

Dubye-Huckel の式は次のように与えられる

log A I

i 1 iB I (86)

47

I iについてそのモル濃度

計算される

はイオン強度でイオン mi と電荷 zi から次式で

I 1

2mizi (87)

また iは(86)式のBは温度と溶媒の性質による定数であり イオンの大

きさに関するパラメータで水和イオンの大きさとほぼ一致した値をとる標

準法の勧告では塩素イオンに対しイオンの大きさを46Åと決めてiBを

1

5 にしているそこで式(84)は次のようになる

ClA I

log 1 15 I

イオン強度 I は塩素イオン濃度を含まない計算となる

以上の方法によって実用的な pH 測定に用いられる第一次第二次標準液の

pH の値が得られる

絶対値としての

はpH の絶対測定法(第一次標準測定法)とされている

銀塩化銀参照電極は分極現象を防ぐために棒状の銀を塩酸で処理し表

に塩化銀を生成させたものを飽和塩化カリウム溶液につけてある

(88)

参考現在は実験的に求めた値と理論値の組み合わせで

素イオン濃度を求める方法を規定しているこの起電力から水素イオン濃度

を知るための測定方法

Buck RP Rondinini S Covington AK Baucke FGK Brett CMA Camoes MF

Milton MJT Mussini T Naumann R Pratt Kw Spitzer P Wilson GS

Measurement of pH definition standards and procedures Pure Appl Chem

74(11)2169-2200 2002Kristensen HB Salomon A Kokholm GInternational

pH scales and certification of pH Anal Chem 63(18) 885A-891A 1991)

銀塩化銀参照電極

電極の構成は

Cl-(aq) | AgCl(s) | Ag(s)

48

この半反応は次のようになる

AgCl(s) + e- rarr Ag(s) + Cl- (89)

の反応は次の2つの反応に分けて考えることができる

Ag+ + e- rarr Ag(s) (91)

AgCl(s)rarr Ag+ + Cl- (90)

図11銀塩化銀参照電極

(90)における銀 る塩素イオンによって左

されることが推測される

そこでカッコ [ ] をそれによって囲まれるイオンの濃度を表すことにし

式 イオン Ag+の溶解性は共存す

塩化銀の乖離定数Kを考えると

49

K = [Ag+][Cl-] (92)

これから

[Ag+]= K[Cl-] (93)

化カリウム溶液に漬けた銀塩化銀電極の電位 E は水素標準電極に対する

電 で与えられる

位を E゜として次式

E E

RT

nF

[ Ag ]

[Ag(s)]ln( )

Ag(s)のイオン活量は常に1とする

ここで半反応の電極電位を求めるために式(75)を利用することにすれば

(94)

熱力学の慣例にしたがって純物質個体

E E

RT

Flna

H Cl a (75)

式 の半反応をみると

応で電子1つが移動するので n=1 とするR=831441 JmolK1F = 96485

C はめれば

これに銀イオンの濃度として式(93)を当てはめる

この反応で移動する電子は (89) 銀イオン1つの反

molT=29815K(25)ln(10)=2303などの定数を当て

2303RTF = 005917

であるから(94)式は次のように表現できる

log[Cl]) E E 005917(logK (95)

たがって標準水素電極に対する銀塩化銀参照電極の標準状態における電

位 は半反応(89)に対して ゜=+0799で

化銀の乖離定数 K は182times10-10 であるのでその対数を取れば-973993

0799-005917times973993-005917log[Cl-]

E゜ E ある

ある

そこで式(95)は

E =

50

= 0799-0576-005917log[Cl-]

= 0223-005917log[Cl-] (96)

電極電位の関係について実測値

こうして求めた塩化カリウム溶液の濃度と

計算上の値は次のようである

KCl moll vs SHE volt25 計算値 volt25 01 02881 02822 35 0205 01908 飽和 0199 minus

実用 測定

実際の現場で水素イオン濃度を測定する目的の測定法で上のような2つの

極が同じ溶液に浸かっていたのでは試料溶液を交換するにも便利ではない

の容器に入れる未知試料溶液と銀塩化銀電極を隔離する

的な pH

そこで水素電極側

的で二つの電極容器をつなぐ液絡部をグラスフィルターやセラミック板

飽和塩化カリウムで作成したゼラチンなどの塩橋によって隔離遮断するこ

れを液絡部とよぶ

電池として機能するために必要な溶液イオンの交換はこの液絡部で行う

組み立てる電池は電池式で次のように表される

Pt(s) | H2 | 試料 (H+ x moll) || 飽和 KCl | AgCl | Ag(s)

の標準電極と銀塩化銀電極とは区切られていて溶液の直接の接触がない

とを意味するために電池式ではタテ二重線を用いる銀塩化銀参照電極

の容器には飽和塩化カリウム溶液が入れられる

51

図12液絡部のある pH 測定のための電池

この液絡部のある電池では塩橋を記号lsquo | | rsquoで表して次のように記す

試料 (H+ x moll) | | 飽和 KCl

ここでは試料溶液と飽和塩化カリウム溶液の異なる2液が接している

このような界面では膜電力が生じるのと同様「液間電位差」が生じることが

知られているしたがって上の電池で測定される起電力 E は

E = E[銀塩化銀電極電位]+E[液間電位]+E[水素電極電位]

で与えられることになってE[液間電位]のために図12の電池の起電力

は銀塩化銀参照電極の値を知っていても水素電極容器内に入れた未知溶

液の水素イオン濃度を正しく知ることができない

52

そこで実用的な測定法としてこの E[液間電位]を膜電位として積極的に利

用する方法が工夫されたすなわち水素イオンに感応するガラス薄膜を用い

るガラス電極法である

53

ガラス電極

ガラスはケイ素原子と酸素原子からなる SiO4 の結晶構造を持ち酸素で囲

まれた空隙があって水素イオンがそれを埋めることができる

この性質によってガラス膜表面は水溶液中の水素イオンに応じて膜電位を

変化させるのでこれを水素イオン濃度測定用の電極として利用することが考

えられるこれが通常用いられるガラス電極である

ガラス電極は標準電極と組み合わせれば電池を構成することができこの電

池の起電力を知ってガラス薄膜の内外にできたイオン濃度勾配を知ろうとす

るものである

薄いガラス膜(01mm程度)をはさんで接する2つの溶液のH+イオン濃

度が異なるとその差に応じてガラス膜の両側に電位差(Eg)が現れる

ネルンストの式でガラス電極の内部に入れた既知の濃度のH+([H+]in)に対

し試料中の水素イオン濃度が[H+]sampleのとき次の電位を生じる

)][

][log(059170)

][

][ln(

sample

in

sample

ing

H

H

H

H

F

RTE

(97)

図13ガラス電極

電極を構成するのは銀塩化銀電極と同じ電極で用いる塩溶液は一般的

54

に 01モル塩酸溶液である

この半電池の電池式は次のように書くことができる

Ag(s) | AgCl(s) | HCl (01 M) | ガラス薄膜 || 試料溶液 H+ (x moll)

Eg

この半電池の電極電圧を測定するために銀塩化銀標準電極と組み合わせ

電池を作って起電力を計る

構成される電池は下図のようになる

ガラス電極 銀塩化銀標準電極

図14ガラス電極を用いた pH 測定用の電池

この電池の起電力は次の各半電池の平衡電位を合わせたものになる

55

E1ガラス電極の内側電位

Ag(s) | AgCl(s) | HCl (01 M)

Egガラス薄膜の内外に生じる膜電位

HCl (01 M) | ガラス薄膜 || 試料溶液 H+ (x moll)

E2液間電位(膜電位)銀塩化銀標準電極のセラミックを介した試料溶液

と銀塩化銀標準電極の内部液(飽和 KCl 溶液)の間に発生する電位

試料溶液 H+ (x moll)|| セラミック | KCl(飽和)

E3銀塩化銀標準電極

KCl(飽和)| AgCl(s) | Ag(s)

pH メーター用のガラス電極に使われるガラス薄膜は水素イオンに感応して

膜電位(Eg)を生じるこれは【膜電位】の章で記したように薄膜がある

一つのイオンのみを通過させる特性を持っている場合にイオンが膜を介した

両側で平衡状態に達したとして電気化学ポテンシャルを膜の両側で等しいと

考えてそのイオンが濃厚な側から希薄な側にその差によって圧力を生じると

するものである

一方同じ試料溶液が銀塩化銀標準電極のセラミック液絡部を介して生じ

るだろう液間電位(膜電位E2)はいま関心がある水素イオンに対して特異

的に感応するのではないので試料溶液の水素イオン濃度に関係なく一定と見

なすことができる

すなわちpH メーターを構成する電池の起電力 E は

E = E1+Eg+E2+E3 (98)

このうちEg以外は一定と見なせるので

E1+E2+E3 = E

として式(98)を書き直すと

)][

][log(059170

sample

ing H

HEEEE

(99)

Eは標準液によって校正されるべき標準電極電位である

56

電極の校正

実際のイオン濃度を測定する場合低濃度標準液と高濃度標準液で得られ

る起電力を測定し計測のイオン濃度に対する係数(傾き)を求めておき未

知の試料に対して起電力を測定してそのイオン濃度を算出する方法が採られる

低濃度標準液と高濃度標準液のそれぞれの濃度をCLとCHとすればそれぞ

れの起電力ELとEHは次式で表される EH = E +β logCH (100)

EL = E +β log CL (101)

ただしβは式(99)の係数を簡略にしたものである

式(100)と(101)から検量線の傾きが次式で表せる

ΔE = EH minus EL = β(logCH minus logCL) = β logCH

CL

(102)

したがって係数βは

β =ΔE

log CH

CL

(103)

であらわされる

このときに使われる標準はすでに前出の pH 第一次標準第二次標準溶液で

ある

金属イオンに対応するイオン選択電極

現在臨床検査で日常的に使われている電解質測定のための電極はナトリウ

ムカリウムカルシウムクロールなどおよそ臨床的に必要な金属イオン

に対して入手可能である

カリウムイオン測定用のバリノマイシンの発見によってクラウンエーテルと

57

呼ばれる一連の化合物が知られたクラウンエーテルはその分子の中心に立

体的な空間を持ち特定のイオン径に対し合致するのでそのイオンに対して

選択的に感応するこれらの化合物はイオノフォアと呼ばれる

図 15クラウンエーテル

1つの金属イオンが環状化合物

15-crown-5 の中央にある空間を充填

している模式図

15-crown-5 の構造を作る10個の黒

い丸は炭素炭素2個のつながりごと

にある中心の白い丸は酸素酸素と

金属イオンの間の距離はおよそ 22~

23Åであるカリウムのファンデン

ワールス半径は 135Åイオン半径は

15~16Åである

測定したいイオンに対しポリ塩化ビニル(PVC)を支持体としてイオノフ

ォアを添加した液膜の電極膜を作成しこれをガラス電極におけるガラス薄膜

と同様試料に接する電極膜として用いるこの構造から一般的に液膜型電極

と呼ばれる電極膜には特異性を高めるため妨害イオン排除剤などが添加

される

pH メーターと同様銀塩化銀標準電極と組み合わせ電池を形成しその

起電力を計る測定したいイオンが液膜に対して内外で平衡に達したときの

膜電位を測定するのはガラス電極と同じである

カ リ ウ ム イ オ ン に は Bis[(benzo-15-crown-5) ( 正 式 名 は

Bis[(benzo-15-crown-5)-4-methyl]pimelate)ナトリウムには Bis[(12-crown-4)

やDibenzyl-bis[(12-crown-4)などがイオノフォアとして用いられる

58

図16カリウムイオン測定用に使われるクラウンエーテル

図17ナトリウムイオン測定用に使われるクラウンエーテル

59

参考イオン選択電極に関する文献Xia Z Badr IHA Plummer SL Cullen L

Bachas LG Synthesis and evaluation of a bis(crown ether) ionophore with a

conformationally constained bridge in ione- selective electrodes Anal Sci 14(2)

169-173 1998 Oh K-C Kang EC Cho YL Jeong K-S Y oo E-A Paeng K-J

Potassium-selective PVC membrane electrodes based on newly synthesized

cis- and trans-bis(crown ether)s ibid 14(10)1009-1012 1998 Dojindo WEB

site httpwwwdojindocojpwwwrootproductsjinfo2protocolp31pdf

<補遺> 60

補遺 状態関数 (本文 p21 10 行目参照)

一つの平衡状態にある系 A とこれに接する系 A にとって外部である系 B について系 B

から系 A に熱を与えこれによって系 A が他の平衡状態に移ったとき系 A はその結果とし

て膨張し系 B に対し仕事をする

このときの微少な熱量の移動を記号drsquoQ またなされた微少な仕事をdrsquoW とすると

系Aの内部エネルギーに関する微少な変化drsquoUA は両者の和として表される

WdQdUd A primeminusprime=prime (a-1)

この式 a-1 と本文中の式25との関係について

WQU A Δminus=Δ 本文(25)

<補遺> 61

式 a-1 と式25の記号の違いは変化の起きる前の平衡状態 S1 から変化後の平衡状態 S2

に状態変化があったとするなら式 a-1 を積分することで式25が得られるものと考えて区

別している

A

S

S A UUd Δ=primeint2

1 (a-2)

このことは重要であるすなわち内部エネルギーU は変化の起きる前後の状態を指定する

ことによって値が定まることを意味するこのように積分によって値を定めることが出来る

のでdrsquoU は完全微分であるという

内部エネルギーのように系の状態だけで値の定まる量を状態関数として扱う

一方式 a-1 のdrsquoQ drsquoW についても同様に微少の変化量を表しているが平衡状態 S1

から S2 への経路を指定しなければ積分の値は定まらない

本文中の記号にしたがって仕事量ΔW を次のように表すことにする

VpW Δ=Δ 本文(20) V

<補遺> 62

体積と圧力の関係を表す図を使ってこの仕事量が意味することを考える圧力 prsquo の下で

体積が V1 であるときを状態 S1 として圧力一定の下で体積を V2 まで膨張させるような変

化を行った後体積を等しく保って圧力を p にまで上げたときの状態を S2 とするこのとき

の仕事量は膨張に伴うものであるから図の体積‐圧力線の下の面積で示すことができる

平衡状態 S1 から S2 への変化の道筋を別にたどってみよう

新しい経路では圧力を先に p まで上げた後に膨張変化させている

図から直感的に明らかであるので数式での扱いを省略するが2 つの経路による仕事量には

差がある

すなわちdrsquoW は drsquoU と異なり変化の初め S1 と終わり S2 の状態が与えられても積分値

は定まらず変化の経路によって違ってくる

このように変化の経路を指定しなければ積分値が定まらないものを不完全微分と呼び扱

いを区別する

本文 p21 へ戻る

<補遺> 63

VpW

WQU

VpQU

VpUQ

1122 SSSS pVUpVUQ

pVU

VpUHHHQ SS 12

エンタルピー (本文 p24 20 行目参照)

本文中の式 20 および 25 から一定の圧力の元で起きる状態変化において内部エネルギー

の変化量に対する式 a-3 を得る

本文(20)

本文(25)

(a-3)

式 a-3 を Q について書き直す

(a-4)

状態の変化が平衡状態S1から平衡状態S2に移ったものとして式 a-4を丁寧に書き直すと

(a-5)

並び替えて

(a-6)

式 a-6 を見ると定圧過程における熱量の流入は

(a-7)

の形を持つ関数の差であることが分かる

一般に化学反応のような変化の過程では大気圧の下で行われるようなものに興味がある

そこで式 a-7 で与えられる項を一つの関数として定義するこれをエンタルピーと呼び記

号 H を与える式 a-4 はエンタルピーの変化量で次のように書き改められる

(a-8)

圧力が一定の下で起こる状態変化について流入する熱量は式 a-8 で示されるようにエンタ

ルピーの変化量に等しい

V

V

V

V V

V

V

1212 SSSS VVpUUQ VV

<補遺> 64

1Q

We

また式 a-8 からオートクレーブ内で起こるような体積変化のない過程ではこの値が内

部エネルギーの変化量で与えられることが明らかである

本文 p24 へ戻る

エントロピー (本文 p26 17 行目参照)

エントロピーは次のような思考実験から発想された仮想的な状態関数である

理想気体よりなる系 A が温度 T2で熱平衡状態にあり温度 T1の外部の熱源と接しているこ

とを想定する系 A の外部を系 B と呼ぶことにするT1は T2に対して無限小だけ高い温度と

する

系 A が系 B に対して温度圧力について平衡を保ちながら緩慢に系 B より熱量 Q1を受け取

る過程を考える(このような過程を準静的過程と呼ぶ)これによって系 A が熱量 Q1を得て膨

張するとき系 B に対して仕事をする続いて系 A から熱量 Q2が系 B に戻ることを考える

想定されるこの変化が可逆的であれば系 A と系 B を併せた全体は元の状態に戻る蒸気機

関に関するこのような研究が Nicolas Carnot によってなされたのは1824 年のことであった

ここに想定されたサイクルに対する Carnot の効率 e は移動した熱量となされた仕事によ

って定義され次の式で表される

(b-1)

<補遺> 65

理想気体では内部エネルギーU の変化ΔU はゼロと考えるしたがって熱力学の第一法

則を表す式(本文中の式25)から次の関係が示される

0=Δminus=Δ WQU

WQ Δ= (b-2)

これによってCarnot Cycleの効率eはQ2lt0 として次のように書き改めることが出来る

1

21

QQQe +

= (b-3)

ところで気体の状態方程式から1 モルの気体について次のような関係が示される

RTV

P

P1=

V = RTV (b-4)

V 式 b-4 の両辺に体積の微少変化量ΔV をかけて

(b-5)

これを体積Vについてその変化をV1からV2までとして積分するならば次式が得られる

VV

RTVP Δ=Δ 1V V

V

intint = 2

1

2

1

1V

V

V

VdV

VRTPdV

1V2V

11 lnRTW =

(b-6)

Q1の熱量によって起こる膨張がV1よりV2までとし圧力P温度T1の下でなされるその仕事

量をW1とするならそれは式b-6 の右辺によって示されるすなわち

(b-7)

VV

1

2lnVVRT=

V V

VV

V

V2int V2 intV1 V1

<補遺> 66

またQ2の熱量の移動が圧力P温度T2の下で起きこれによって系Aが可逆的に圧縮され

るなら体積変化はV2よりV1まで起こりその仕事量をW2で示すと次式のように表される

(b-8)

1

22

2

122 lnln

VVRT

VVRTW minus==VV

VV

Q1=W1Q2=W2の関係から式b-7 およびb-8 を用いてCarnot Cycleの効率eを表す式b-3

を書き改めると温度のみの関係式として次のように表される

1

21

TTTe minus

= (b-9)

ここでサイクルが可逆的過程であると想定するならば式 b-3 と式 b-9 から

1

21

1

21

TTT

QQQe minus

=+

= (b-10)

これから

12112111 QTQTQTQT minus=+ (b-11)

整理すると

02

2

1

1 =+TQ

TQ (b-12)

この考えをさらに発展させ系A

と系Bの間に数多くの系を挿入すること

にしてそれらの系を同様に熱源として

T1T2Tnと考えるこれによっ

て熱の受け渡しが系Aから系Bに至り

再び系Aにもどるサイクル過程に数多

くの寄り道の過程を加えることになる

熱量の移動に関して上の場合と同じく

準静的過程で行われると考えるこの

サイクル全過程について初めと終わ

<補遺> 67

n

i i

i

T

Q

1

0

0T

dQ

T

QS

T

dQASAS )()( 12

りが同じ状態になる可逆的な過程であるなら式 b-12 を拡大的に考えることになってそれ

は次式で表される

(b-13)

式 b-13 には重要な関数が現れるすなわち熱量と温度の比QT である

もし一つの系が無限小だけ温度の高い(dT )外界から温度圧力など平衡を保ちなが

ら極めて緩慢な過程(準静的過程)で無限小の熱量(dQ )を受け取るならばその変化は可

逆的でありdT について連続的な温度分布をする過程を考えるとき式 b-13 をさらに発展

させて次のように積分式で示すことが出来る

(b-14)

式 b-14 で積分記号にが付されているのはCarnot Cycle のような経路を一巡することを

意味している

Carnot の熱機関の効率という着想から生まれた熱量とそれを持つ系の温度との比 QT に

重要な意味を見出したのは Rudolph Clausius で彼はこの比にエントロピーという名前を与

えたエントロピーには記号ΔS を一般に用いる

(b-15)

エントロピーは初めと終わりの状態がわかれば過程に関わらず定まるので状態関数であ

系 A と外界のエントロピー変化を考えるときそれが可逆的過程であるならばすべてを併

せた全体のエントロピー変化は初めと終わりに変化がないという意味でゼロであるすなわ

ち初めの状態を S(A1)とし次の状態を S(A2)とするならそれぞれのエントロピーを

ΔS(A1)ΔS(A2)としてこの間におけるエントロピーの変化量は次のように示される

(b-16)

<補遺> 68

T

dQdS

0T

dQ

ある一つの変化については次のように示される

(b-17)

ここで式 b-17 の S に付けられたdは微分量すなわちごく微小の変化量を意味し式 b-15

で定義されたエントロピーに用いられる一般的な記号Δと区別する

ところで式 b-10 の関係においてもし移動した熱量のすべてが仕事に変わらなければ

効率 e を表す熱量を用いた関係式と温度で表される関係式は等号で結ぶことができないそれ

はエネルギーのロスを意味し初めと終わりの状態が異なってしまうことを意味するすなわ

ち全過程が構成する一つのサイクルは可逆的でなくなる

不可逆過程での熱効率 ersquo は 大値を示す可逆的過程の熱効率 e より小さな値をとる

ee

したがって 大効率を与える式 b-8 と式 b-3 から

01221

2112

1

21

1

21

QTQT

QTQT

Q

QQ

T

TT

両辺を T1T2で割ると

02

2

1

1 T

Q

T

Q

これを式 b12 と同様に発展させれば式 b-14 についてサイクルの変化が可逆的過程の

場合と不可逆的過程の場合の両方を併せClausius の不等式と呼ばれる次の関係が成立する

(b-18)

式 b-18 の等号が成立するのはサイクルが可逆的な理想の場合に限られる

ある孤立系で状態 A1 から状態 A2 へは不可逆変化で進められ状態 A2 から再び状態 A1

に戻るとき可逆変化であるような閉じた状態変化を考える可逆系のエントロピー変化には

記号 Q を使い不可逆変化には Q を用いるとするとそれぞれ積分式を用いて状態 A1 から

状態 A2 へは

<補遺> 69

d prime

状態 A2 から状態 A1 に戻るときは

全体では

=d prime

+d

(b-19)

Clausius の不等式から

0

式(b-19)の第二項で反応を逆に進めるときには次のように書き改めることができる

=d

よって式(b-19)は次のように書き直すことができClausius の不等式とあわせると

d prime d

0

すなわち

d prime d

上式の右辺は式(b-16)を用いて表せば

d prime

∆S ∆

この状態変化を微小変化とするならば断熱変化の場合 dQ = 0 であるから

∆S ∆ dS 0

すなわち不可逆変化を含む断熱変化ではエントロピーは必ず増大する

<補遺> 70

T

QS

BA SSS

(b-20)

(次の<補遺>ギブス自由エネルギーも参照せよ)

本文 p26 へ戻る

ギブス自由エネルギー (本文 p28 27 行目参照)

エントロピーの考えを導入することによって不可逆的に状態変化が起きるときにはエン

トロピーの増大を引き起こすことを知ったこれによって目前で起きる現象について温度の

変化があるものであれないものであれまた圧力の変化があるものであってもエントロピー

の定義式によって可逆的な変化におけるエントロピーの変化量を計算することが可能である

(b-15)

しかしながらこれから起こる変化について我々がすでにあらかじめ知っている物理量を

用いて予測的にその状態変化が起きるかどうか知ることは必ずしも容易ではないその理由

は式 b-15 に示されたエントロピーΔS が系とその外界をあわせた全体のエントロピーを示

しているからであるすなわち関心のある系を系 A としその外界を系 B とすると全体

のエントロピーは次のように表せる

(c-1)

関心のある系 A のエントロピー変化を知るためには系 B のそれを知ればよいがそれは

いつも容易とは限らない系 A の性質だけで状態変化の方向を知るには別の観点が必要にな

るようだ

そこでもう一度状態変化が熱量 Q の移動によって起きることについて考えてみようエン

トロピーの補遺で議論したように熱量の移動が準静的過程により行われるときには変化は可

逆的に起こると考えたこのとき外界すなわち系 B から移動する熱量を Q1とし系 A から

0S

<補遺> 71

21 QQ

T

Q

T

QSB

21

T

QSS A

2

QH

T

HSS AA

AA STHST

のそれを Q2 と記号を当てたのでこれをそのまま使うことにすれば可逆的な過程では系 B

の熱量 Q1 はすなわち系 A から戻る Q2 に他ならないので両者には次の関係が成立するも

のとしてよい

(c-2)

したがって

(c-3)

と考えてよくこれによって式 c-1 を次のように書きなおすことが出来る

(c-4)

独立した系で圧力とその体積に変化がなく一定の条件の下で状態変化が起きるときエン

タルピーの考えを使ってすでにひとつの関係があることを導いている

本文(31)

そこで式 c-4 を系のエンタルピーΔHAによって書き改めれば

(c-5)

この両辺に-T をかけて式を書き直せば次の関係式が得られる

(c-6)

式 c-6 を見るときその右辺がマイナスの値ならば左辺のΔS はプラスの値をとることが

分かるすなわちエントロピーが増大すると見ることが出来るこれまでの過程で自然の現

象はエントロピーが増大する方向に進むとしてきたので関心のある状態変化について式 c-6

の右辺で計算される値がマイナスの値ならばその変化は起きるものと考えてよいことになる

だろうしかも右辺はすべて独立した系の状態量で示されていて我々が知りうる値で計算

<補遺> 72

TSHG

STSTHG

STHG

可能である

そこでこれを熱力学ポテンシャルを表すものとしてギブス自由エネルギーと呼ぶことに

するギブス自由エネルギーは記号 G が用いられ次のように定義される

(c-7)

ここで関心があるのは自由エネルギーの絶対値ではなく式 c-6 に示されたようにその変化量

に興味があるので式 c-7 から

(c-8)

温度が一定の条件の下で状態変化が起きることを考えるなら式 c-8 は次のように書くこと

ができる

(c-9)

ギブス自由エネルギーは式 c-9 の右辺がすべて状態量であるからこれも状態量の一つで

ある定圧定温の条件下で起きる変化ではすでに議論したようにΔGlt0 であれば状態

変化は自発的に起きるものと予測できる

つまり式 c-5 の第一項は系のエントロピーΔSAそのものであり第二項で示されるエンタ

ルピーは系 A の温度が一定に保たれているのであるから発熱する熱量として外界に吸収さ

れるものであってこれは外界のエントロピーの増大につながるものとして解釈されるした

がって化学反応のように一定の圧力と一定の温度の下で起きる変化について自由エネルギ

ー変化量はその状態変化が自発的に起きる傾向を示しているといってよい

本文 p28 へ戻る

  • はじめに
  • 目次
  • 電気エネルギー
    • 金属のイオン化
    • 電池
    • 水素の反応
    • 燃料電池
    • 化学反応と電気エネルギー
      • エネルギーと熱力学
        • エネルギー保存則
        • エンタルピー
        • エントロピー13
        • ギブス自由エネルギー
        • 電池における化学反応のギブス自由エネルギー13
        • 理想気体の状態方程式
        • 理想溶液のギブス自由エネルギー
        • 膜電位
          • 水素イオン濃度測定
            • 化学反応の一般的な式
            • pHの定義とその目盛り
            • pH標準液
            • 銀塩化銀参照電極
            • 実用的なpH測定
            • ガラス電極
            • 電極の校正
            • 金属イオンに対応するイオン選択電極
              • 文献
              • 補遺
                • 状態関数
                • エンタルピー
                • エントロピー
                • ギブス自由エネルギー
Page 2: イオン選択電極i イオン選択電極 Ion Selective Electrode (ISE) を理解する ・ pHを測定する ・ NaやKなどのイオン濃度を測定する 神戸大学医学部保健学科

ii

はじめに

近代の臨床検査室では血液を主とする体液の電解質濃度を測定するときイオン選択電極法に

よることが多い一般に普及している pH メーターは溶液中の水素イオン濃度を測定するための装置

であるが水素イオンに特異的であるという点からいえばイオン選択電極法の装置の一つには違い

がないまた応用されている基本理論は全く同じである

これまで臨床検査を志すものに対してpH メーターの初歩的な講義がなされるときネルンスト

Nernst の式によればといきなり水素イオン濃度から電極電圧を導き出す数式が出てくることが

多くそのことの意味や水素イオン濃度とそれによる起電力の関係が分かりやすく説明されることが

少なかった

逆に【電気化学】と題する講義では数式が黒板やテキストのページに氾濫しなぜそのような数

式がイオン濃度を測定することの理解に必要なのか説明に納得できないものが多かった

今日電解質濃度の測定に炎光光度法や原子吸光光度法などの機器分析に代わってイオン選

択電極法が好まれるのはひとえにそれが静かで安全だからというのではなく装置に複雑な構造も

なく保守もブロックになった消耗品を交換するだけで日常の装置管理が楽だからであろう

しかし日常の作業がそのように手も汚れず簡単で高度な技術は必要ではないといってもそこにど

のような基本原理が応用されているかを学ばないでは担当する検査技師が毎回正しく測定されて

いるとする保証を与えることは難しいどのようなときに妨害を受けやすいかを理解しないで日常作業

をするのは生命に関わる医療の場で働く専門家として楽天的すぎる

そこで少し基本の知識から金属イオンの濃度と測定する電力との間に架かっている橋を学べるよ

うにテキストを作成した金属イオンが電池と関わっていることpH メーターを測定するための試料容

器は pH 電極がそれに浸けられたとき全体が電池を構成すること測定されるのはイオン濃度ではな

く起電力であることなどについて順を追って説明した

電解質測定のためのイオン選択電極法について一人でも多くの初心者がこのテキストを自習用

として使い学ばれることを願っているまたテキストの記述に関して多くの批評をお待ちしたい

iii

目次

電気エネルギー 1

金属のイオン化 1

電池 4

水素の反応 9

燃料電池 10

化学反応と電気エネルギー 14

エネルギーと熱力学 20

エネルギー保存則 20

エンタルピー 24

エントロピー 26

ギブス自由エネルギー 28

電池における化学反応のギブス自由エネルギー 30

理想気体の状態方程式 33

理想溶液のギブス自由エネルギー 37

膜電位 38

水素イオン濃度測定 40

化学反応の一般的な式 41

pH の定義とその目盛り 44

pH 標準液 44

銀塩化銀参照電極 47

実用的な pH 測定 50

ガラス電極 53

電極の校正 56

金属イオンに対応するイオン選択電極 56

補遺 60

状態関数 60

エンタルピー 63

エントロピー 64

ギブス自由エネルギー 70

1

電気エネルギー

金属のイオン化 原子や分子から一個の電子を引き離すとその原子や分子はプラスに帯電し

陽(プラス)イオンになる金属は最外殻の電子軌道に活発な電子を持つ一

連の元素のことをいいその電子を失いやすい

金属固体を塩溶液につけると電子を失ってプラスイオンになろうとする性質

があるこれを金属のイオン化傾向という

金属の種類によってイオン化傾向に大小が見られるイオン化傾向を比較して

その強さの順に並べたものを「イオン化列」とよぶ

イオン化列 K-Ca-Na-Mg-Al-Zn-Fe-Ni-Sn-Pb- (H2) -Cu-Hg-Ag-Pt-Au イオン化傾向はイオン化列の左にある金属の方が高い

イオン化傾向の大きな金属は電子を失いやすいことを意味する

参考基底状態にある原子や分子から

一個の電子を無限遠に引き離すのに要

するエネルギーをイオン化エネルギー

(Ionization energy IE)もしくはイ

オ ン 化 ポ テ ン シ ャ ル ( Ionization

potential IP)というこれは元素の物

理学上の基本的な見方で「イオン化

列」の順に第一イオン化エネルギーが

大きくなるとは限らないたとえばイオ

ン化列で一番左にありもっともイオン

化傾向の大きな金属はカリウムである

カリウムの第一イオン化エネルギーは

434 eV(4188KJmol)であるこれは

ナトリウムの第一イオン化エネルギー

2

が514 eV であるのに対して数値が小さいのでカリウムの方がナトリウムよりプラスイ

オンにされやすいことを示しているまた水素のイオン化エネルギーは 13595eV であって

数値ではこれらの元素よりはるかにプラスイオン化されにくいことを示しているところ

がイオン化列で水素より右にあるつまりイオン化傾向がより低い銀の第一イオン化エネ

ルギーは 758eV でそれはイオン化列でナトリウムのすぐ隣にあるマグネシウムの値に極

めて近いマグネシウムの第一イオン化エネルギーは765eV である

金属電極がイオン化する際の議論では電極反応の主体が電極溶液界面での電荷移動で

あってさらに静電場を考慮する必要がある電荷を持つものが金属表面から 10minus 4cm 程度

の距離にあるとき鏡像にあたる誘起引力が生じるこれは鏡像力の効果(image force)

とよばれ無視できないGuggenheim EA は「電気化学ポテンシャル」を提唱したこれ

によれば金属内部から鏡像力の効果がおよぶ点までは金属の化学結合に関わる電子の持

つ化学ポテンシャルμeM と金属表面の電荷分布に由来する表面電位χM の引力が関わり

電子を引き離すのに要する仕事量は[μeMminus FχM]が必要となるさらに鏡像力の効果が

無視できない点からその力がおよばない溶液中の無限遠に引き離すのに要する仕事量は

金属の外部電位をΨM として[minus FΨM]で表されるしたがって電極として溶液につけ

ら れ た 金 属 原 子 の 電 子 に 関 す る 電 気 化 学 ポ テ ン シ ャ ル ˜ μ eM

˜ μ eM = μe

M minus F ψ M + χ M( )= μ eM minus Fφ M

で表されるφMは電極金属の内部電位という

イオン化傾向は溶液との関係において電極反応の電位として理解できる

金属が塩溶液につけられたときにとけ出そうとする現象は化学反応の1つと

してとらえることができる金属が電子を放出してプラスイオンとなる過程

は化学反応式を使って次のように表すことができる

亜鉛を例として取り上げればその化学記号には Zn が使われるので金属固

体を表す添え記号を(s)とすることにして

Zn(s) rarr Zn2+ + 2e- (1)

反応式(1)は金属の亜鉛片が溶液につけられると亜鉛は溶液にとけだし

て2価のプラスイオンになることを意味するこのとき電子が2つ遊離す

化学反応ではこのように電子を放出する反応を「酸化反応」という

したがって(1)の反応が進めば亜鉛は酸化される自身が酸化されるも

3

のに対してその反応で発生した電子を受け取る相手は還元されると言う

すなわちこの反応が起きるとき上の例での亜鉛は「還元剤」としての能力

を持つことになる

このように考えるとイオン化傾向の大きな金属は還元剤としての能力が高い

と言うことができるしたがってKや Caは強い還元剤である

逆に言えばイオン化傾向の上位にある金属は酸化力が弱い

金属の酸化力の強さは水溶液にあってイオンの状態から金属単体になりやす

い傾向を言うこれはイオン化列の右にあるものの方が高い性質を持っている

金属に対して「酸化還元反応」を考えるとき金属と金属イオンの組み合わせ

で考えることができる

ある金属の塩を水に溶解して金属イオンとして存在する水溶液を準備しそ

の金属よりイオン化列の上位にある金属片をその水溶液に浸ける

するとイオン化列の上位にある金属片が溶液に溶けだし最初水溶液をつく

ったイオン化列の下位にある金属が析出してくる

例で示そう硫酸銅 CuSO4の水溶液を作りこれに亜鉛板を浸ければ亜鉛

板の水溶液に使っている部分はやがて茶褐色に変化する

ここで起きる反応は次の反応式で書き表すことができる

Zn(s) rarr Zn2+ + 2e- (2)

Cu2+ + 2e - rarr Cu(s) (3)

2つの反応式を合わして全体の酸化還元反応を反応式として表すことができ

Zn(s) + Cu2+ rarr Zn2+ + Cu(s) (4)

このようにイオン化傾向が水素よりも小さなものがあればまずその金属

が析出するイオン化傾向が水素よりも小さなものがなければ酸性なら水素

イオンが中性やアルカリ性なら水が反応する

水溶液において水素よりもイオン化傾向が大きい金属は電極に析出はし

てこないこのとき水の反応を示すと

4

H2O + 2e- rarr H2 + 2OH-

このように水酸イオン OH- が出来るので中性の水溶液を用いると水が反

応してその周りはアルカリ性になる

電池 酸化還元反応に伴う化学エネルギーを用いて電子の流れを発生させればその

化学エネルギーを電気エネルギーに変換することができる

化学エネルギーから電気エネルギーに転換させる過程を見てみよう

硫酸銅 CuSO4の水溶液に亜鉛板をつけたときの反応は上で反応式(2)

と(3)およびその全体を(4)で示した

それぞれの金属だけについて化学反応を(2)や(3)のように単独で示す

ときこれを「半反応」という

亜鉛に対する半反応(2)では亜鉛分子が亜鉛板に電子を残してプラスイオ

ンになって水溶液にとけ出すことを表している一方半反応(3)では銅

イオンが発生した電子を亜鉛板表面で受け取り金属銅となって析出すること

を表しているこのとき亜鉛は酸化を受け銅は還元される

ここで電子を亜鉛板から取り出すことを考えよう

反応に用いたのは硫酸銅の水溶液であったがこのような塩溶液を電解質溶液

と呼ぶ電子を取り出すために電解質溶液に工夫をしよう

2つの水槽を準備し一つには硫酸亜鉛 ZnSO4の水溶液を入れて亜鉛板をこ

れに浸けるもう一方には硫酸銅 CuSO4の水溶液を入れそれには銅板を浸け

それぞれの水槽内で起きることを期待するのは反応式(2)と(3)で示し

た各半反応である

ここでそれぞれの水槽の金属板に導線をつなぎ両方をそれで接続すると電

子が導線を伝わって移動するならその電子の流れを電流としてこれを利用す

ることができるそうすれば化学反応のエネルギーを電気エネルギーに変換

できたことになるつないだ電線の途中に豆球ランプを入れるならこれが点る

だろう下図ではこの導線の中間に電圧計を入れたものを示している

5

図1亜鉛と銅を電解質溶液に入れる

再度それぞれの水槽で起きると予想する反応を書いておこう

左の水槽 Zn(s) rarr Zn2+ + 2e- 酸化反応

右の水槽 Cu2+ + 2e - rarr Cu(s) 還元反応

左の亜鉛が入れられた側では亜鉛板に電子がたまり亜鉛の酸化反応が起きる

一方右の銅が入れられた側では電子が水溶液に移動し銅の還元反応が起き

亜鉛は電子を電極に残しプラスイオンとなって水溶液中に出て行き亜鉛板

の電極中に電子が余分にたまるこのとき水溶液にある硫酸イオンは変化を

受けない

一方の銅板では水溶液中の銅イオンが銅板から放出される電子を受け取って

銅単体となり析出するこちらの水槽でも水溶液にある硫酸イオンは変化を受

けない

電極に余分にたまっている電子の量を電極電位という

6

上の図では導線の中間に電圧計がつなげてあって両極の電極電位の差を測定

することができる電極電位の差すなわち「電位差」は電極間をつないで回

路をつくればその回路に電流が流れるので「起電力」ともいうこの電位差

や起電力の数値については後で考えることにしよう

電圧計は電流を流さず両極間の電位差を計ることができるこの状態では電

子の移動がない電子の移動がないので各イオンの濃度にも変化はない電圧

計はこのときに電池の起電力に対して最大値を与えるもしも電流が流れると

各イオン濃度の変化が起きるので起電力にもわずかながら変化が生じる

両方の極を導線でつないでその中間に電圧計を入れ亜鉛板から銅板へ導線を

介して電流が流れないときの状態をさらに考えてみよう

左の亜鉛板に残った電子は溶液中に続いて出てゆこうとする亜鉛イオンを逆

に引っ張り戻そうと働くこの結果亜鉛板に残った電子の量がある程度以上

になるともはや亜鉛は溶け出さない

この状態を平衡状態という

一方の銅板では電子の流れがないので同様に銅イオンの還元反応は進まない

そこで電子の流れが起きるように導線の中間に豆電球を入れて回路を作るこ

とにしようこのように電池の両極間に電球などを入れることを「負荷をかけ

る」という

回路ができそれに負荷をかけることによって電子の流れが起き豆電球が点

るこの結果陰極では亜鉛がどんどん水溶液に溶けだし陽極では銅が析出

する

ところがこうしてうまく電子の流れが始まってもそれは持続しない

どちらの水槽においても硫酸イオンは変化を受けないことをすでに述べてい

たこれでは亜鉛側のプラスイオンがまた銅側のマイナスイオンがたちま

ち過剰になってしまうこの結果一瞬電流が流れるだけですぐ電子の流れは

停止し豆電球は点り続けないだろう

うまく豆電球を点り続けさせるにはそれぞれの水槽のプラスイオンとマイナ

スイオンの均衡が保てるようにしなければならない

この解決にはそれぞれの水槽で過剰になるプラスイオンとマイナスイオンが

移動できるようにすればよい

それには2つの方法がある

一つは塩橋とよばれるイオンの通路を両水槽に掛け渡す方法である塩橋は

7

チューブ内に飽和塩化カリウム(KCl)溶液などをゼラチンで固めて詰めそれ

がこぼれ出ないようにそれぞれの口を濾紙などで封じたものである

図2亜鉛と銅を電解質溶液に入れ塩橋を渡す

この塩橋の代わりに素焼きの陶板やセラミックなどのイオンを通す性質があ

る固体で両水槽を仕切る方法でもよい図に示したように塩橋もしくはしき

りを介してイオンが移動できる

8

図3亜鉛と銅を電解質溶液に入れしきり板にセラミックを使う

このように電子の流れを発生させて利用しようとする装置を「電池」とよぶ

電池には2つの極がある陽極(+)と陰極(-)である

陽極(+)は正極ともよばれ電極に伝ってきた電子が水溶液に移動し還

元反応が起きる側をいう

これに対して陰極(-)は負極ともよばれ電極金属がイオン化し酸化反応が

起きて電子が電極から取り出される側をいう

今の例では亜鉛板が陰極(-)銅板が陽極(+)とよばれる

有名な「ダニエル電池」はこのように考案された

電池を電球などにつなぎ電気回路を形成すれば亜鉛電極内の電子が導線へ流

れ出て電球を明るくし亜鉛はつぎつぎ溶液に溶け出す

回路を切れば再び電極に電子がたまり平衡状態に達して亜鉛イオンの溶

出は止まる

ここで電池の表記についての取り決めを記しておこう

9

電池は2つの極からなる陽極と陰極である陽極すなわち還元反応が起き

導線を介して電子を受け取る極を右に書くダニエル電池の場合には陽極は銅

板であり銅イオンを供給する硫酸銅の水溶液が電解質溶液として用いられる

陽極金属と電解質溶液の間は縦棒で区切るそこで陽極は次のように表記され

CuSO4(aq) | Cu(s) (+) 記号(aq)は水溶液のこと

同様に陰極は酸化反応が行われる極でこれを左に書く

(-) Zn(s) | ZnSO4(aq) この両方の極は別々の水槽にあってイオンの交換が塩橋あるいはセラミッ

クのようなしきりを介して行われるのでこの隔壁をタテ二重線で表記し両極

を並べて記す

ダニエル電池は次のような記号で表記されるこれを電池式と呼ぶ

(-) Zn(s) | ZnSO4(aq) || CuSO4(aq) | Cu(s) (+)

両端の極を導線で接続し回路を形成すれば電子の流れが左の陰極から右の陽

極に起こり電流は右から左へと流れる

水素の反応 イオン化傾向の大きさが異なる金属を組み合わせて酸化還元反応が起きると

電子の流れが生じそれを取り出して豆電球を点灯する仕事として利用するこ

とができる

イオン化列の鉛と銅の間には水素があるこの水素の酸化還元反応を見るこ

とにしよう

水素の酸化反応は次のように表される

H2 rarr 2H+ + 2e- (5)

これを半反応として電子の流れを作り出せば電池として機能するから取り

出された電子を利用する還元反応を考えよう

水素と反応する相手に酸素を選べば水が生成物として得られることを期待で

きる

10

酸素が電子を受け取る還元反応の半反応は次のように表される

12 O2 + 2e- rarr O2- (6)

半反応(5)と(6)を組み合わすことができれば次の全反応によって水

が生じる

H2 +12 O2rarr H2O (7)

このとき得られる電子を導線に誘導すれば電気エネルギーとして利用が可能

になる

問題はダニエル電池で見たようにそれぞれの半反応で生じるイオンの処理で

ある半反応(5)と(6)はそれぞれ隔離された容器で行わなければ水素と

酸素が直接反応して水を生じてしまうしかし容器の隔壁がイオンを通さな

いと電池として機能しない

燃料電池 固体は一般に分子やイオンを通過させないが中には特定のイオンを通過させ

るものがありこれを固体電解質とよんでいる

半反応(5)で発生する水素イオンを効率よく通過させるためにはナフィオ

ン(Nafion Du Pont 社米国デラウェア州ウィルミントン)とよばれる固体高

分子膜が有力である

ナフィオンはフッ素を含む高分子パーフルオロスルホン酸系といわれるイオ

ン交換膜で全体はテフロン様構造からできており側鎖にスルホン酸基を持

つその厚さは 20~50ミクロン程度である膜の内部で負に荷電するスルホン

基(SO3-)が水素イオン(H+)を引きつけこれを通過させるこの水素イオ

ンの通り道は電子顕微鏡で見るとトンネルのようにできている

11

図4ナフィオンを使った燃料電池

陰極では水素の酸化反応が起きる

H2 rarr 2H+ + 2e- (5)

一方陽極では次の還元反応が起きる

12 O2 + 2e- rarr O2- (6)

O2- + 2H+ rarr H2O (8)

全体の反応は反応式(7)で表される

12

H2 +12 O2rarr H2O (7)

こうして開発された電池は「燃料電池」とよばれている燃料に水素ガスが

利用される

反応式と図に示した気体酸素は通常の空気が利用され反応で生じた水と酸

素以外の利用されない気体元素は排気される

この燃料電池は水素と酸素を遮断し水素イオンだけを通過させる固体電解

質を使ったこれは上の半反応(5)で生じた水素イオンの処理を考えたわ

けである

これに対して半反応(6)で生じる酸素イオンを移動させる工夫もある

図4安定化ジルコニアを使った燃料電池

安定化ジルコニア(Stabilized Zirconia ZrO2CaO)は高温下で酸素イオン通過

性のある固体電解質として開発されたジルコニウムに10モル程度の酸化

カルシウムを加え結晶を作ると+4価のジルコニウムイオンの位置の一部を+

13

2価のカルシウムイオンが占めるできあがった安定化ジルコニアはこのカ

ルシウムの数だけ酸素イオンの不足が起き固体全体を電気的中性に保つた

めに酸素イオンの透過性ができるジルコニアの両面に白金粉末を焼き付け

それに白金のリード線を取り付ける焼き付けられた白金には多くの孔があり

その孔を通して気体とジルコニアが接触する

酸素イオン導電性の固体電解質としてジルコニアを用いた燃料電池は次

のように動作する

1)空気極(右側)に入った酸素 O2は電極で電子を受け取り酸素イオン O2-

になる

12 O2 + 2e- rarr O2- (6)

2)O2-は固体電解質ジルコニア中を移動していき燃料極(左側)で H2 と

反応し水 H2Oを生じるこの過程に伴って電子が放出される

H2 + O2- rarr H2O+ 2e- (9)

3)これら結果として外部回路に電流を取り出すことができる

燃料電池の起電力は酸素イオンが電解質中を移動することにより生じる

酸素イオンが移動する駆動力は固体電解質の両端すなわち燃料極と空気極

の酸素濃度差である

14

化学反応と電気エネルギー ダニエル電池の陰極は亜鉛板が硫酸亜鉛の水溶液につけられていたこのと

きの現象は次のように説明された亜鉛は電子を亜鉛板電極に残し陽イオン

となって出て行くその結果亜鉛板電極中に電子が余分にたまる

ダニエル電池の陰極の「電極電位」はこの電極に余分にたまっている電子の

量をさしているそれではこの半反応による電極電位を測定することができ

るのだろうか半反応は次のように示される

Zn(s) rarr Zn2+ + 2e- (1)

亜鉛が1モル反応すると2モルの電子が持つ総電荷量が流れる

1電子の持つ電荷量は16022x10-19 C (Ccoulombクーロン)であ

るから

1モルの電子の総電荷量はアボガロド数をかけて 96485 = 96485 x 104 Cmol

であるこれを1F1ファラデーと表す

1F = 96485 x 104 Cmol 亜鉛が1モル反応すれば2モルの電子が持つ総電荷量が流れるのでこれを

記号 q として表すと次の電気量が得られる

q = 2F (10)

化学反応によって取り出せる電気量はこのように計算される

それでは電気エネルギーとしてその電力はどのようになるだろう

電力は

電力=電圧times電流times時間 (12)

電流times時間=電気量であるから式(12)を書き直せば

15

電力=電圧times電気量 (13)

ここで電気量 q は式(10)で表しているので

電力=電圧timesq=電圧times2F (14)

と書くことができる

電圧を記号Vで表すことにし電力をWにすれば式(14)は

W = 2FV (15)

として表しておくことができる

電圧の単位系は仕事量が電力Wであるので(13)から

V= W q (16)

仕事量をジュールJ(ジュール)で表せば電圧はJ C (ジュールクー

ロン)でその単位を表現することができる

式(15)の表すところは亜鉛を化学反応の材料として得られる電力という

仕事量がその電力すなわち電極電位で決定されることを意味している

一般に化学反応で1分子の材料を消費しn個の電子が流れることをその

半反応で知ることができるとき式(15)を一般化して次のように得られ

る電気エネルギーを表すことができる

W = n FV (17)

化学反応によって生じる電子を取り出し回路に導けばここに電流が生じる

その起電力(V)は陽極陰極のそれぞれの電位をE+E- と記号で表し

て次式で書くことができる

V= E+-E- (18)

16

ここで問題になるのは陽極陰極のそれぞれの電位E+とE-で上に議論し

たように回路を形成しなければそれぞれの電位は決定できない

ここでいま片方の電位をゼロとすれば式(18)はたとえばE- = 0 で

V= E+

として陽極の電位が決まる

そこで申し合わせにより水素の半反応による電位をゼロとすることになっ

その半反応の式は水素の還元反応として次のように表せた

2H+ + 2e- rarr H2

標準にはMax Julius Louis Le Blanc (1865-1943) が発明した水素電極を用

いるこれを標準水素電極(Standard Hydrogen Electrode SHE)とよびこの

電極電位をいつも 0 volt(ゼロボルト)と取り決めている

図6に示した水素電極は1atm の水素ガスとそれに平衡状態にある水素イオ

ンが存在し次の半反応が平衡状態にある

H2 (g 1 atm)rarr 2H+ (aq 1 M)+ 2e- (5) g は気体を示す

この反応において平衡状態にある電極電位を 0 volt と定義する

電極に白金を用いるのは電極材料自体が溶解しないものであることすなわ

ちイオン化傾向の低いものであることまた水素イオンの還元に対してな

るべく活性の高いものであることが条件として求められるが白金はこの2つ

の性質を兼ね備えていて陽極の電極材料に適している

気体の標準状態は1atm を標準としているこの分圧を維持し溶液中の水

素イオン活量を1にする水蒸気の分圧が変化すると平衡電位は変化する

17

図6標準水素電極(0ボルトの基準)

標準水素電極は1モル塩酸溶液につけた白金電極に1atmの水素ガスを吹き込んで使う

白金電極は分極を防ぐために白金板に白金メッキを施し(白金黒とよばれる)上半分

を水で飽和させた(1atmの水蒸気分圧が必要)1atm(101325 kPa)の水素ガスを流し

下半分を1moll の塩酸溶液につける水素ガスが電極として働き白金板に電子が集めら

れる

ダニエル電池の亜鉛電極をこの標準水素電極につなげば亜鉛電極電位が測

定できる

亜鉛電極側では酸化反応の半反応が起きる

Zn(s) rarr Zn2+ + 2e- (1)

18

標準水素電極側では還元反応の半反応が起きる

2H+ + 2e- rarr H2

図7亜鉛電極と水素電極をつないで電池とする

25の基準状態における亜鉛電極の半反応(1)に対する平衡電位はすでに

知られている

E゜= -0763 volt

また銅板側の電極電位も同じようにして測定することができる

起きる半反応はすでに上述したが再度記しておこう

Cu2+ + 2e - rarr Cu(s) (3)

25の基準状態におけるこの電極電位はE゜=+0337 volt と知られて

19

いる

ここで亜鉛電極と銅電極の組み合わせでできる電池の最大電圧をこれらの

平衡状態における観測値から計算することができる式(18)を使って

V= E+-E- (18)

V= +0337-(-0763) = +110 volt

つまりダニエル電池で得られる最大電圧は11volt と計算できる実際に

はイオンの濃度が変化すれば反応の平衡が変化するので得られる電圧も変

化する

ここでダニエル電池で亜鉛1モルが反応するとき式(17)を使って得

られる仕事量としての電力を計算できる

W = n FV (17)

すなわちダニエル電池における電極反応は

Zn(s) rarr Zn2+ + 2e- (2)

Cu2+ + 2e - rarr Cu(s) (3)

であったから反応が進んで移動する電子はn = 2 である

1F = 96485 x 104 Cmol を適応すると

W = 2 x 96485 x 11 x 104 = 21227 x 105 Jmol = 2123 KJmol

(K = 103キロ)

すなわち亜鉛1モルの化学反応によって2123 KJmol の電気エネルギーが得

られる

水素ガスを使う燃料電池の起電力は電極の半反応から

O2 + 4H+ + 4e- rarr 2H2O (19)

25の基準状態におけるこの電極電位はE゜=+1229 volt が得られている

20

したがって燃料電池で1モルの水素が反応すれば

W = 2 x 96485 x 1229 x 104 = 2372 KJmol

すなわち2372 KJmol の電気エネルギーが基準状態で取り出せる最大電力

と計算される現在作られている燃料電池の電力は実際上08 volt ほどで

あるしたがって現実的に取り出せる電気エネルギーは 1544 KJmol の仕

事量と計算される「仕事量」という言葉については電気でモーターを回し

なにがしかの「仕事」をするなど思い浮かべれば実感できるだろう

エネルギーと熱力学 これまで述べてきたように電池は化学反応から直接電気エネルギーを取り出

す仕掛けであるダニエル電池では亜鉛と銅が酸化還元反応を起こす過程で

電子を放出するのを利用するまた水素ガスによる燃料電池は気体水素と酸

素を原料とし水が生成されるこの過程が1atm の気体原料を25(29815

K)で1モル反応させて生成物も1atm の液体の水を得るなら次の全反応に

よってすでに計算したとおり2374 KJmol の電気エネルギーが取り出せる

H2 + 12 O2 rarr H2O

圧力と温度がともに反応の過程を通じて一定の場合にその過程から取り出せ

る仕事量は熱力学的に考えることもできる

それはギブス自由エネルギーとして議論される電池で取り出した電気エネ

ルギーすなわち電力はこのギブス自由エネルギーに相当する

次に化学反応をこの熱力学の面から考えてみよう

エネルギー保存則

水素ガスを使う燃料電池のように独立した一つの仕掛けを考えこれを「系」

と呼ぶことにする系を考えるとき電池のように具体的なものを持って考え

るのが容易いのでそうすることが多い熱力学では自然界全体をあつかうので

しばしば概念的になり非現実的な記述が行われるが系の大きさや系を構成

する分子の大きさについて特定する必要はない

系におけるエネルギーを内部エネルギー熱エネルギー力学的エネルギー

の3つの要素からなると考えるこれらのエネルギーを考えるとき系の熱力

21

学的なパラメーター(変数)が必要となる熱力学的な状態はこれらのパラ

メーターのうちのいくつかを指定すれば決定される

熱力学的なパラメーターは2つに分類される

示量パラメーター(示量性変数)

系の大きさや構成する物質の量を示す体積や質量

示強パラメーター(示強性変数)

系の大きさに依存しない系における1つの点で決まった値で与え

られる圧力や温度密度など

いくつかのパラメーターで完全に決定できる状態を関数で表現することがで

きる場合があるそのような関数を熱力学的な状態関数(rarr補遺 p60)と呼ぶ

関数で状態の変化を表すことができれば数学的に取り扱うことができいろ

いろの面で便利である

一つの系についてその状態を知ろうとするとき系が熱力学的な平衡状態に

あると議論する上で都合がよい

熱力学的な平衡状態とは系を外部と独立させ長時間放置した後に達成され

る状態をいうこのとき系の状態をその外部のパラメーターで表現できる

たとえば電池を独立した系と考えるとき平衡状態に達した電極電圧を外部

においた電圧計で測定することができる

ある系を考えるとき前提としてその系はエネルギーを保有していると考える

系が独立してそこに存在するということで持っているエネルギーであるこれ

を内部エネルギーと呼ぶ系がある過程を経て状態を変えるとき系から系の

外部へ力学的な仕事をする場合には力学的エネルギーの出入りがあると考え

るまた系に熱が出入りする場合が考えられそれを熱エネルギーの出入り

と考えることにしよう

まず力学的エネルギーについて考えることにする

いま系が状態を変えその体積が増えれば系のlsquo壁rsquoがその系に接している

「外部」へ力学的な仕事をすることになる

このように系が膨張し壁が外部に向かって押し出されると考えたとき膨張

する過程における圧力を一定でpとし系が膨張した体積をΔV(膨張した分だ

けの体積増加量)とするなら系の仕事量ΔWは両者の積で表されるΔは変

化量を表すときにつける記号と決めておこう

22

ΔW = pΔV (20)

系の体積が凝縮する場合があるので仕事を記号で表す場合には注意するも

し系に接した「外部」から系に力が加わって体積を小さくしたならΔVは

マイナスとなるのでΔWもマイナスで表される

-ΔW = -pΔV (20prime)

今考えている系を「系 A」と呼びその内部エネルギーを UA外部の系を「系

B」と呼んでその内部エネルギーを UBと表すなら二つ合わせた全体の内部

エネルギーは両者の和で表すことができる

U = UA+UB (21)

この体積変化に必要なエネルギー変化量はどこから得られたかを考えれば

その変化があった「系 A」と外部の「系 B」のいずれかあるいは双方の内部エネ

ルギー変化分でまかなわれたと考えざるを得ない(図8参照)

そこでこのエネルギーの収支関係は変化分を表す記号に先と同様Δを用い

ることにすると次式のようになる

-ΔU =ΔW (22)

すなわち観察している「系 A」のエネルギーと外部の「系 B」のエネルギー

を合わせた総エネルギーを見てその微少な減少量minus ΔU が仕事をなすために

必要であったエネルギー量と考えてみることにする

ついでこの体積の変化が「系 A」に接する外部のlsquo熱rsquoによって起きたも

のと考えてみようすなわち外部の「系 B」が系 Aより高温で「系 B」によ

って系 Aが暖められたことになる

このとき移動したエネルギーを「熱量」と定義する

23

図8熱量の移動と系が外部にする仕事

「熱量」を記号Qで表すと外部の「系 B」が失ったエネルギーminus ΔUB で

ありこれが熱量であるから式で表せば次式のように書くことができる

-ΔUB = Q (23)

ここで「系 A」とそれに接する「外部 B」両方のエネルギーを合わせた総エ

ネルギーの変化量ΔUは式(22)で与えられていた

-ΔU =ΔW (22)

-ΔU =-(ΔUA+ΔUB) であるから

minus ΔUAminus ΔUB=ΔW (24)

これに式(23)を当てはめてΔUAで整理すれば

24

ΔUA= Q-ΔW (25)

この式(25)は「エネルギー保存則」あるいは「熱力学の第一法則」を数

学的に表現したものである

すなわち

独立した系を考えその状態が変化するとき系の内部エネルギーの変化量はその系に入る熱量と系が外部にした仕事との差である

式(25)にはまた重要な主張があるつまりエネルギー保存則にしたが

うとき熱量は力学的エネルギーにまた力学的エネルギーは熱量に変換しう

ることを意味している

熱量を表す単位はカロリー(cal)を用いる1cal は

1 cal = 4184 J

と換算されるジュールは 1J = 1Nm (ニュートンメートル)で仕事量を

表現する単位系で表される

エンタルピー

式(25)から定圧過程で式(20prime)を利用して次の式(26)が誘導さ

れる

Q =ΔUA+pΔV (26)

ここでQは熱量を表していたのでこの関係式(26)から熱関数として

新しい関数を定義する

新しい関数はエンタルピー(enthalpy)(rarr補遺 p63)と呼ばれ次の関数

式Hで表される

H = U+PV (27)

エンタルピーの微少変化量を記号Δを使って表現してみよう

25

ΔH = ΔU +Δ(PV) =ΔU +ΔPV+ PΔV (28)

独立した系で圧力が一定の下に起きる過程を考えるならΔP = 0 (圧力の

変化はゼロ)であるから式(28)は次のようになる

ΔH =ΔU + PΔV (29)

化学反応の過程を考えるとき系に容積の変化がなく過程の前後で一定であ

るならさらにΔV = 0 であるのでエンタルピーの変化量は

ΔH =ΔU (30)

また系の仕事を体積の変化としてみる式(20)から

ΔW = pΔV= 0

であるのでこれを式(25)へ適応すると

ΔU= Q minus ΔW = Q ΔW= 0 だから

結果的に系の圧力と体積が変化の過程で一定である場合にはその系のエンタ

ルピーの変化を表す式(29)(30)は次のように簡単な式になって熱関

数と呼ばれる意味が理解しやすいだろう

ΔH = Q (31)

独立した系に等圧等積で起きる過程を見る場合にはエンタルピーは系が外

部と交換する熱量の直接的な尺度となる

H>0 なら反応に熱を使うので吸熱反応

H<0 なら発熱反応

電池のように系に起きる化学反応で生じる電子の流れを取り出す装置を考え

る場合エンタルピーの変化を電気エネルギーとして取りだしている点に留意

26

しなければならない式(31)のようにエンタルピー変化が交換される熱

量に直接表現できるといっても必ずしも熱として取り出すとは限らないこと

を注意しよう

ところでエンタルピーは内部エネルギーと同じ次元にある状態量で定圧

変化の熱量がエンタルピー変化であるからある一点を標準として定めれば

すべての物質について任意の点のエンタルピーを変化量として定めることがで

きるすなわち化学反応の過程で発熱あるいは吸熱する熱量は反応材料と

生成物の間の状態変化に対応するエンタルピーに対応する

そこで一つの元素に対してもっとも安定な状態にある物質を標準物質とし

て定め29815K(25)1atm を標準状態としてその標準物質からある化

合物を合成するときの反応熱(発熱あるいは吸熱)をその化合物の「標準生成

エンタルピー」として定義できる多くの元素に対して標準生成エンタルピー

は現在表としてまとめられている

水素や酸素はその気体状態が標準物質でありそれらの標準生成エンタルピー

がゼロと定義される

エントロピー

もう一つ新しい状態関数としてエントロピー(entropy)(rarr補遺 p64)を

定義するエントロピーを表す記号は通常S を用いその定義は次の式(32)

による

S Q

T (32)

エントロピーは系の2つの状態が決まると状態量として決まる

このときQ は2つの状態の間を可逆的に変化したとき系が受け取る熱量

T は系が熱量 Q を受け取ったときの温度(degK)である

「熱力学の第二法則」はエントロピーに関するものである

図9では2つの系が接しておりそれぞれの温度を Thigh Tlowとする

Thigh>Tlow (33)

27

今温度の高い系から温度の低い系に直接熱量 Q が移動したとすれば温度

の高い系のエントロピーの変化量ΔS は熱量が失われるので負の値になる

図9熱の移動

そこで温度の高い系のエントロピーの変化量ΔS を式で表すことにすると

次式のようになる

Shigh Q

Thigh

(34)

一方低い系のエントロピー変化量ΔS は熱量が与えられるため

Slow Q

Tlow

(35)

両方の系を合わせたエントロピーの変化量ΔS は

S Shigh Slow Q

Thigh

Q

Tlow

lowhigh

lowhigh

lowhigh TT

TTQ

TTQ

11 (36)

式(36)の最終項で(33)を前提すなわち最初に温度の高い系は高い

と決めたのだとするならエントロピーの変化量ΔS は必ず次のようになる

28

ΔS >0 (37)

すなわち独立した系がありそれより温度の低い別の系あるいは温度の低

い外界が接した場合熱量は高い方から低い方へ移動するという自然の成り行

きを説明するものである

自然界に置いてエントロピーは

ΔS≧0

の値を取りΔS=0のときは可逆的過程である

今の例でいうなら熱は温度の高い系から低い系へ移動しその逆は起きない

常にΔS >0の方向に過程が進行するまた2つの系が同じ温度であるとき

両者は平衡状態にあって熱量の移動は見かけ上なくΔS=0と表現される

「熱力学の第二法則」はエントロピーによって表現されるもので系の変化が

可逆的であるかどうかを判定する指標であり現実の世界で起きる不可逆過程

が正の値を取る方向へ進むことを示す

あるいは系の変化が起きるとき外界を含めて考えれば総エントロピーが

増大する方向に変化が起きることを意味するというようにも表現される

ギブス自由エネルギー

熱力学の第一法則によってエネルギーの取りうる形である「仕事」と「熱」

は互いに変換されうることを理解したこのことの数量的な意味は1cal=418J

で示されるさらに仕事は100熱に変換可能であるが一方の熱はうま

くやっても100を仕事に換えることができないことを熱力学の第二法則で

説明しようとしたそのためにエントロピーという概念が導入された

ここで電池のような独立した一つの系を見るとき系の内部エネルギーの減

少を仕事として取り出しうるならそれは化学反応を一つの例としてどれほど

の仕事量が取り出せるのかはどうしたら与えられるだろうか

化学反応を電気エネルギーに換える電池では先に正負それぞれの電極におけ

る半反応の平衡電位の値を利用してその起電力に対する最大値を計算した

この化学反応から取り出しうる最大仕事量を与えるものとして新しくギブス

自由エネルギー(rarr補遺 p70)と名付け記号 G を使ってそれを次のように

定義する

29

G = H-TS (38)

H はエンタルピーである第2項にある S はエントロピーを表す

ギブス自由エネルギーは化学反応のような独立した系の定温定圧過程に適

応されるので変化量ΔG を式(38)から得ておこう

ΔG =ΔH-Δ(TS)

=ΔH-(SΔT+TΔS)

温度を一定と考えているのでΔT=0 であるから

ΔG =ΔH-TΔS (39)

この式(39)を書き換える

ΔH=ΔG + TΔS (39rsquo)

ここで定圧過程ではエンタルピーを次のように式(29)で定義できた

ΔH =ΔU + PΔV (29)

式(29)の意味するところを復習すれば

系のエンタルピー変化ΔH は内部エネルギーの変化量と系が外部に

した仕事量の和として表される

これは

定圧過程で系が得るエネルギー量から仕事量を除いたもの

と言い換えることができるエンタルピー変化量は化学反応などの過程で

始めと終わりの2つの状態の差であるからそれが正の値を示す(>0)なら

系のエンタルピーは増加することを意味しその過程が進行するためには系

の外部からエネルギーが供給されなければならない

一方式(39rsquo)の右辺第2項TΔS はエントロピーの定義(32)より

TΔS = Q (40)

であるのでこれは可逆過程で系に供給される熱量を意味する

30

もしエンタルピー変化量が負の値を示す(<0)ならば系のエンタルピー

は減少しその過程が進行することによってエネルギーが取り出せるすなわ

ち式(39)(40)から次のようにこれら3つの状態量を改めて説明する

ことができる

ある化学反応が定圧で可逆的に進行するときそれから取り出せる

エネルギーのうちΔG を仕事として放出し熱量 Q を放出する

標準状態29815K(25)1atm で標準物質からある化合物を合成すると

きの反応熱(発熱あるいは吸熱)をその化合物の「標準生成エンタルピー」

として定義した同様にある物質に対する「標準生成ギブス自由エネルギー」

はこの標準状態で標準物質からその化合物を化学反応で生成するとき式(3

9)によって与えられる変化量をいう

電池における化学反応のギブス自由エネルギー

先にダニエル電池の亜鉛板側に対する電極反応を検討したとき電極反応が

仕事として放出するエネルギーを表現する重要な式があった次の式(17)

である

W = n FV (17)

ギブス自由エネルギーを用いて今これは次のように書くことができるように

なった

W = n FV=-ΔG (41)

この式が表していることを実際に水素の燃料とする燃料電池の反応過程で見

てみよう燃料電池の図を再掲する

図中右にある陰極では水素の酸化反応が起きる

H2 rarr 2H+ + 2e- (5)

一方図では左にある陽極において次の還元反応が起きる

12 O2 + 2e- rarr O2- (6)

O2- + 2H+ rarr H2O (8)

全体の反応はすでに示したように次の反応式(7)で示される

H2 +12 O2rarr H2O (7)

31

標準状態における可逆的仕事は式(41)であらわせ

n FV=-ΔG (41rsquo)

このΔG は式(39)であらわせた

ΔG =ΔH-TΔS (39)

すなわち標準状態29815K(25)1atmにおいてある化合物を標準物

質から合成するときの標準生成ギブス自由エネルギー変化ΔG゜は標準生成エ

ンタルピー変化ΔH゜とその温度におけるエントロピー変化TΔSの差で求ま

るこれらは燃料電池の全反応を表す式(7)で与えられる

標準生成エンタルピーΔH゜変化とエントロピー変化はすでに一般的な元

素やその化合物に対して表が作成されている

液体の水に対する標準生成エンタルピーΔH゜(H2O)は

ΔH゜(H2O)=minus 28583 KJmol

また水素ガスと酸素ガスはそれぞれの元素の標準物質であるので生成エ

ンタルピー変化はゼロである

32

そこで式(7)での水を1モル化学合成するときの標準生成エンタルピーΔ

H゜は水素(ガス1モル)と酸素(ガス12 モル)の2つの材料と水(液

体251atm)の両状態における状態量の差として表される

ΔH゜=ΔH゜(H2O)-ΔH゜(H2) -12ΔH゜(O2) (42)

式(42)の右辺第2項と第3項がゼロであるので

ΔH゜=ΔH゜(H2O) =-28583 KJmol (43)

標準状態29815K(25)1atm における水素(ガス)と酸素(ガス)お

よび水(液体)のエントロピーはそれぞれ

ΔS(H2O)=6991 JKmol

ΔS(H2) =13068 JKmol

ΔS(O2) =20514 JKmol

単位で分母のKはケルビン温度の意味

と計算されているので

ΔS=ΔS(H2O)-ΔS (H2) -12ΔS(O2) (44)

=6991-13068-12times20514

=-16334 JKmol

したがって

TΔS=29815times(-16334)=-486998=-4870 KJmol

(45)

そこで標準生成ギブス自由エネルギーΔG゜は式(39)から

-ΔG゜=-(ΔH゜-TΔS) (39)

=-{-28583-(-4870)}

=+23713 KJmol

33

すなわちこのエネルギーを電気エネルギーとして取り出すことができるそ

の起電力は式(41rsquo)から

n FV=-ΔG (41rsquo)

V= -ΔG(n F)

各数値を当てはめれば

V=237130(2times96485)

=1229 volt

先に【化学反応と電気エネルギー】のところで記したとおり25の基準

状態におけるこの電極電位はE゜=+1229 volt が得られているすなわち

こうして標準生成ギブス自由エネルギーから計算することでも同じ値を得る

ことができた

水素を単純に酸素と化合させる燃焼では式(43)で示されるエンタルピ

ーが発生する熱量を示している水素1モルあたり28583 KJである電池

にすれば水素1モルあたり23713 KJの仕事量が電気エネルギーとして取り

出すことができるその差は電池の場合熱が発生して利用できない

化学反応の過程を利用して化学エネルギーから直接電気エネルギーに変換す

るのが電池という装置であるが化学エネルギーは100電気エネルギ

ーに換えることはできないこのようにエネルギーの一部は電池の熱として

発散してしまう

理想気体の状態方程式

ギブス自由エネルギーΔG を定義した式(39)とエンタルピーΔH の定義

式(28)から

ΔG =ΔH-TΔS (39)

ΔH =ΔU +VΔP+ PΔV (28)

そこで次式が得られる

34

ΔG =ΔU+VΔP+ PΔV-TΔS (46)

またエネルギー保存則から得られた式(26)を応用すればギブス自由エ

ネルギーが変形できる

Q =ΔU+PΔV (26)

から

ΔU=Q-PΔV (47)

したがって式(46)は

ΔG = Q-PΔV+VΔP+ PΔV-TΔS

ΔG = Q-TΔS+VΔP (48)

エントロピーの定義からQ=TΔSであるから結局式(48)は

ΔG = VΔP (49)

と表すことができる

成分が混合された気体分子の分子間に働く力をゼロと仮定した「理想気体」を

考えるとき状態方程式としてボイルシャルル(Boyle-Charles)の法則が

利用できる

PV=nRT (50)

ここでnは気体のモル数PVT はそれぞれこれまでと同じ圧力体積温度(ケルビン温度)でありR は気体定数と呼ばれるもので次の値を持

R= 831441 JmolK (51) 単位で分母のKはケルビン温度の意味

35

状態方程式から式(49)の右辺を導くことを考えてみよう式(50)は

1モルの気体について V に対し次のように変形することができる

V 1

PRT (50rsquo)

両辺に圧力の微小変化量⊿P をかけると

PP

RTP V (52)

これを微分方程式として圧力p0 からp1 まで(p0≦p1)積分するなら

1

0

1

0

1

0

1p

p

p

p

p

pdP

PRTdP

P

RTdPV (53)

関数 f(x)=1x を積分したときの関数はF(x)=ln(x)であるので(ln は e を底

とする自然対数loge)

右辺=0

1ln)0ln()1ln(p

pRTpRTpRT (54)

ギブス自由エネルギーを表す式(49)は次のようであったから

ΔG = VΔP (49)

式(52)から得た式(54)を当てはめると状態G0(p0T)からG1(p1T)

へ変化する過程で圧力が p0 から p1 まで変化するものとして

dGG0

G1

G( p1T ) G(p0T ) RT lnp1

p0 (55)

あるいはこれを書き直して

V

36

G(p1 T) = G( p0T ) + RT lnp1p0

(56)

特別にG0(p0T)を標準状態T=29815K(25)p0=1atmに指定する

なら標準生成ギブス自由エネルギーを記号G゜として (56rsquo)

と表すことができる

式(56rsquo)の意味するところは標準状態から圧力の変化を伴う過程で理

G(p1 T) = Go + RT ln p1

想気体のギブス自由エネルギーは圧力の対数に比例して上昇することである

このことはさらに新しい着想を生む

すなわち水素を燃料とする上の燃料電池で1atm 標準状態の水素ガスの圧力

を2atm に上げれば式(56rsquo)からRTln2 余分にギブス自由エネルギー

が取り出せることになる

燃料電池において起電力を生むエネルギーは隔壁を水素イオンもしくは酸

素イオンが浸透しようとする力であるので1atm の水素ガスと2atm のそれで

は浸透しようとする圧力が異なりここに起電力が生じる

式(56)の第二項が圧力の差による仕事であるからこれをΔG とすれば

W=-ΔG の仕事量が電気エネルギーとして取り出せるはずである

W = minusΔG = minusRT lnp1p0

(57)

起電力に換算するために式(41)を使うと

W = n FV=minus ΔG (41)

から

01ln

pp

nFRTV ⎟

⎠⎞

⎜⎝⎛minus= (58)

この式(58)は一般にネルンスト(Nernst)の式と呼ばれる

37

理想溶液のギブス自由エネルギー

理想気体を想定したように無限に希釈された混合溶液に対して理想溶液を仮

定する「系」の圧力温度を一定に保つならば体積内部エネルギーエンタ

ルピーギブス自由エネルギーなどの示量数は混合溶液を構成する物質のモ

ル数mに比例するたとえば標準状態にある物質の1モルの体積をVとすれば

mモルの体積はそのm倍mVであるそうすると溶液中のi番目の成分がmi

モル「系」から「外界」に仕事をするときその成分iの持つ自由エネルギーの

mi倍の仕事が「外界」になされると考えればよい

この溶液成分のモル数と化学的仕事を結びつける示強因子がギブスによって

化学ポテンシャルと名付けられ一般に記号μが用いられる

化学ポテンシャルはこれまで見たようにギブス自由エネルギーで表される

また電位がψ(プサイ)にある系から-Δeの電荷が放出されるときには

-ψΔeの電気的仕事が得られるそこで記号μに両者を合わせた意味を持

たせて「電気化学ポテンシャル」と呼ぶ

概念の上で物質は電気化学ポテンシャルの高い方から低い方へ勾配にした

がって移動する

理想気体の標準状態が気体分圧を T=29815K(25)で 1atm としたのに対

し溶液成分の標準状態はその分圧に相当するモル数 m を用いるすなわち

標準状態にある成分 i の電気化学ポテンシャルμ0iは成分の持つ電荷(H+なら

1)を n として

μ0i = G i゜+nFψ i (59)

ギブス自由エネルギーは式(56rsquo)を借り理想溶液中の成分に対しては気

体圧力をその成分のモル濃度Cに書き換えればよいそこで

G(CT ) G RT lnC (60)

と表すことができる

したがって一般的な成分 i の電気化学ポテンシャルμiを表す式は標準状態

からの自由エネルギーの変化を考え式(59)と合わせて次のようになる

38

ψnFGii 0

式(60)から

ii CRTGTCGG ln)( 0

よって

(61) ψnFCRT iii ln0

実際的なことを考えると成分濃度はその有効イオン濃度とする必要があり

「活量係数」γを導入して次式で表されるイオン活量aを用いる

ai = γCi (62)

一般的にはγ=1と近似してモル濃度Cを使っているこのテキストでも

必要ではない限りイオン活量を用いることを省略して簡単に記述したい

膜電位

燃料電池に使われたナフィオンのような一つのイオンを通す膜を介して膜

の両側にC0 とC1 のイオン濃度差がある溶液が接するときの電気化学ポテン

シャルを考えよう

ある容器の底にナフィオン膜を取り付け容器の中と外のイオン濃度をC0

とC1としそれぞれの電気化学ポテンシャルをそれぞれμinとμoutとする

式(61)を使って

容器の中の電気化学ポテンシャル

(63) innFCRTin ψ 00 ln

容器の外の電気化学ポテンシャル

(64) outout nFCRT ψ 10 ln

イオン浸透性の膜を介して濃度変化が無視できるほどの移動があると考え

その電気化学ポテンシャルの差を式(63)(64)から求めれば

39

)(ln0

1 inoutinout nFC

CRT ψψ (65)

この系において今注目しているイオンが膜を介した両側で平衡状態にある

とき式(65)はΔμ=0と考えることができるすなわち

0)(ln0

1 inoutnFC

CRT ψψ

膜内外の電位差をΔψ=ψoutminus ψinとすれば

1

0

0

1 lnlnC

C

nF

RT

C

C

nF

RTψ (66)

式(66)は理想気体に対するネルンストの式(58)と同様溶液中のイ

オンに対するネルンスト(Nernst)の式として与えられる

細胞の膜においてもその生体膜の内外でたとえばカリウムイオンのように

非対称に分布して平衡に達している場合には式(66)で与えられる膜内外

で電位差が生じるこれは一般に膜電位と呼ばれる膜電位は平衡電位とも

呼ばれる

たとえば膜内外に1価のカリウムイオンに10倍の濃度差があるとすると

通常カリウムイオンは細胞内の濃度が高いので

C0 = 10timesC1

であるから

これを式(66)に当てはめてln(10)=2303 を用いlog への変換をすれば

Δψ=2303times(RTF)timeslog(10)

であるこれに R=831441 JmolKF=96485 CmolT=29815 K(25)

の各数値を当てはめると

Δψ=2303times831441times29815times196485 JC

=+005917 volt

すなわち膜の内外で約+60ミリボルトの膜電位が生じることになるこの

分だけ細胞の外側の電気化学ポテンシャルが高く膜の内側の膜電位が負であ

るそして膜にあるカリウムチャネルがこの電位を示すとき受動的なカリ

40

ウムの膜内外の移動は平衡に達することになる

水素イオン濃度測定

「標準水素電極」は1モル塩酸溶液につけた白金電極に1atm の水素ガスを

吹き込んで平衡状態に達したときの電位を基準としてゼロボルトと規定した

そこである溶液についてその水素イオン濃度を知ろうとするとき同じ水

素電極を用いることを考えれば標準状態にする目的で用いた1モル塩酸溶液

を濃度未知で X モルの塩酸溶液と想定すればその水素イオン濃度を知るこ

とができるだろうか

標準状態ではない X モルの塩酸溶液に浸けた白金電極が半電池として働くこ

とは間違いなさそうであるしかしその白金電極が持つ電極電位を測定する

にはいずれにしても標準電極と組み合わせて「電池」を構成しその電池

の起電力として計る必要がある電池を作れば起電力を知ることができ相

手の半電池の電極電位が知られていれば濃度が未知でXモルの溶液について

その水素イオン濃度を知ることができるだろう

こうした目的のためにいちいちゼロボルトと規定した標準水素電極を用いる

のは煩雑なのでしばしば後出の「銀塩化銀電極」が参照電極として用いら

れる

まず予め「銀塩化銀電極」を標準水素電極と組み合わせて電池とし一度

その起電力を測定しておけば後はいつもそれを標準電極として利用できる

「銀塩化銀電極」の半電池は

H+ (1 moll) Cl- | AgCl | Ag(s)

これに「標準水素電極」を組み合わせ電池を構成すると次のような電池

になる

Pt(s) | H2(g) | H+ (1 moll) Cl- | AgCl | Ag(s)

この電池の起電力を知れば「銀塩化銀電極」の半電池としての電極電位

を知ることができ参照電極として未知の半電池と組み合わせて起電力を測

定して相手の電極電位を計算できる

41

濃度 X モルの塩酸溶液を未知の溶液と想定すればその電極電位を知るために

組み立てる電池は次のようになる図10にその電池の図を示した

Pt(s) | H2(g) | H+ (x moll) Cl- | AgCl | Ag(s)

この電池の全反応は次の反応式で表される

AgCl(s) 1

2H2 (g) H Cl Ag(s) (67)

図10未知溶液の水素イオン濃度を測定しようとするための電池

化学反応の一般的な式

ここで電池に利用される化学反応から得られるエネルギーをギブス自由エ

ネルギーに換算し起電力を具体的に知る手だてとすることは上ですでに学

42

んだがより一般的な式を再度ここに書きだしておこう

化学反応が紙面で左から右に進む反応として次のような一般式で与えられ

るとき

aA + bB rarr cC + dD (68)

ギブス自由エネルギー変化量は標準状態ΔG゜からの変化量を加える形で式

(60)と同様次の式によって表される

G G RT(ln aCc aD

d ln aAa aB

b )

G RT ln

aCc aD

d

aAa aB

b (69)

aAは成分 A のイオン活量であるその他の成分も同じ

得られたエネルギーを電気エネルギーに換えるなら式(41)に習って

次式で表せば

ΔG=-n FV

there4V=-ΔG(nF) (70)

このときの起電力は標準状態における電位 E゜からの変化量として次式で与

えられる

E E

RT

nFln

aCc aD

d

aAa aB

b (71)

標準状態における起電力 E゜は反応が平衡状態にあるときで反応平衡定数

を K とするなら

K aC

c aDd

aAa aB

b (72)

で表されるそこでE゜は次のように書き改めることができる

43

E

RT

nFln K (73)

そこで式(67)で表される図10の電池「水素minus 銀塩化銀電池」に

対する起電力をギブス自由エネルギーから求めてみよう

反応から式(71)に当てはめれば

E E RT

Fln

aH

1 aCl

1 aAg1

aAgCl1 aH2

1

2

(74)

力学の慣例にしたがって固体の純物質の活量は1として扱い水素ガスを

想気体として見なして活量を1atm とするなら式(74)は次のよう

に簡略化される

E E

RT

Flna

H aCl (75)

ころで理想溶液として近似的に取り扱うときの希薄溶液でたとえば水素

入して詳細に検討するなら式( れる起電

オン濃度はイオン活量として aH+の記号を使うときすでに【理想溶液のギ

ブス自由エネルギー】の章で述べたようにこれを有効イオン濃度とする必要

がありイオン活量 a は「活量係数」γを導入して次式で表した

a H+= γH+CH+ (62)

この活量係数を導 75)で誘導さ

を計ることによって経験的に試料溶液中の水素イオン濃度を求めることは

困難である式(75)にあるイオン活量の項はモル濃度 C と活量係数γを

用いて次式で書き改められる

lnaH aCl

lnCH CCl

lnH Cl

(76)

まり式(76)右辺の第二項において互いに相手が知られなければ自分

決めることができず結果的に起電力を知っても(75)の値から水素イオ

ン濃度を導けないここに工夫が必要になる

44

の定義とその目盛り

液中の水素イオン濃度を直接意味するものではなく

を定義するとき測定されるのは1リットルの溶媒に存在す

pH = -log a H+ = -log(γH+CH+) (77)

際に試料溶液の pH を決定する際はpH 標準液を用いる

に溶液を入れ試料溶液 X と pH 標準液 S を

参 極を接続し電池を作成しその起

pH

現在pH の定義は溶

で述べたようにそれが簡便に測定できるものではないため次のように定

義されている

水素イオン濃度

水素イオン活量であるため定義式としては活量係数をγH+として次式で与

えられる

その要領は次のようである

上に図示した水素電極の容器内

れぞれ半電池(I)と(II)に入れる

半電池(I) Pt | H2 (1 atm) | 試料溶液

半電池(II) Pt | H2 (1 atm) | 試料溶液S

照電極として上図のごとく銀塩化銀電

電力を測定する半電池(I)のときの起電力を E(X)半電池(II)のそれを E(S)

とするこのとき試料溶液Xの pH は次式で計算される

pH (X) pH(S) E(S) E(X)

RT ln(10) (78)

ln(10)は自然対数を常用対数に戻すための定数で2303 を用いる

標準液

pH 標準液 S はpH 第一次標準液第二次標準液と呼ばれるべき

る測定

25で pH 4005 を示す

pH

上述した

のであり絶対的測定法である起電力の測定によって値をつける

標準液は安定で純粋な結晶が得られる試薬を調整してこれを測定す

上と同様に水素電極を用いこれに緩衝液を入れる参照電極として銀

塩化銀電極を接続して電池の起電力を測定する

たとえば005 moll フタル酸水素カリウム溶液は

一次標準(Primary Standard PS)の一つである半電池(III)として水素

45

電極を次のように準備する

半電池(III) Pt | H2 (1 atm) | PS 溶液

て電池を形成したとき得られる起電

参照電極として銀塩化銀電極を接続し

は式(75)から

E E

Ag AgCl RT

Flna

H aCl (79)

オン活量を濃度と活量係数の積(a H+= γH+CH+)にし自然対数を常用対数

すれば

E E

Ag AgCl RT ln(10)

F log(

H + CH+ Cl- CCl - ) (80)

E゜は水素標準電極(水素ガス分圧を1atm電極を浸ける溶液に001 moll

H

Cl を用いる)で得た起電力である

式(80)から

RT ln(10)

Flog(

H CH Cl

) (E EAg AgCl )

RT ln(10)

Flog C

Cl

(81)

らに

log(

H CH Cl

) F

RT ln(10)(E E

Ag AgCl ) logCCl

(82)

ころで式(77)から

(γH+CH+) (77)

-log a H+ =-loga H+-log(γCl-) +log(γCl-) =-log(a H+γCl-) +log(γCl-)

(83)の一番右の式で第一項は

pH = -log a H+ = -log

であるが右の式をさらに変形すると

(83)

46

-log(a H+γCl-)=-log(γH+ CH+γCl-) (84)

たがって式(82)の右辺で示されるように電池の起電力を測定すれば

よ 実際には溶液の塩素イオン濃

液で起電力を求め外挿する

起電

これによってpH を意味する式(83)は次式(85)で与えられる

p(aHγCl)はRG Bates によって Acidity Function と呼ばれている

らに式(85)最終項の log(γCl-) を補正しなければならないこの項は

本工業規格)によっても

であってこれは式(82)の左辺である

いただし塩素イオン濃度の項があって

をゼロにしたときの値が必要である

実測する際には塩素イオン濃度をゼロにできないので塩化ナトリウム NaCl

等を濃度を変えて添加しその時々の緩衝

勧告ではNaCl で 000500100015moll の3つの濃度を例示している

すなわち塩素イオン濃度ゼロのときの値は各塩素イオン濃度に対して

の値をそれぞれプロットしグラフから塩素イオンがゼロのときの起電力の

値を3点に対する回帰直線の延長で外挿して求めるこの点を次のように書

log( C H H Cl CCl

0

pa log( C log( (85) H H H Cl C

Cl0 Cl

)

素イオンの活動係数で与えられる補正項である

無限希釈溶液中のイオンの活動係数は理論的に Dubye-Huckel の式を用い

近似的に求めることが可能であるこれはJIS(日

用されていて Bates-Guggenheim の規約と呼ばれる (Bates RG

Guggenheim Pure Appl Chem 1 163-168 1960)

Dubye-Huckel の式は次のように与えられる

log A I

i 1 iB I (86)

47

I iについてそのモル濃度

計算される

はイオン強度でイオン mi と電荷 zi から次式で

I 1

2mizi (87)

また iは(86)式のBは温度と溶媒の性質による定数であり イオンの大

きさに関するパラメータで水和イオンの大きさとほぼ一致した値をとる標

準法の勧告では塩素イオンに対しイオンの大きさを46Åと決めてiBを

1

5 にしているそこで式(84)は次のようになる

ClA I

log 1 15 I

イオン強度 I は塩素イオン濃度を含まない計算となる

以上の方法によって実用的な pH 測定に用いられる第一次第二次標準液の

pH の値が得られる

絶対値としての

はpH の絶対測定法(第一次標準測定法)とされている

銀塩化銀参照電極は分極現象を防ぐために棒状の銀を塩酸で処理し表

に塩化銀を生成させたものを飽和塩化カリウム溶液につけてある

(88)

参考現在は実験的に求めた値と理論値の組み合わせで

素イオン濃度を求める方法を規定しているこの起電力から水素イオン濃度

を知るための測定方法

Buck RP Rondinini S Covington AK Baucke FGK Brett CMA Camoes MF

Milton MJT Mussini T Naumann R Pratt Kw Spitzer P Wilson GS

Measurement of pH definition standards and procedures Pure Appl Chem

74(11)2169-2200 2002Kristensen HB Salomon A Kokholm GInternational

pH scales and certification of pH Anal Chem 63(18) 885A-891A 1991)

銀塩化銀参照電極

電極の構成は

Cl-(aq) | AgCl(s) | Ag(s)

48

この半反応は次のようになる

AgCl(s) + e- rarr Ag(s) + Cl- (89)

の反応は次の2つの反応に分けて考えることができる

Ag+ + e- rarr Ag(s) (91)

AgCl(s)rarr Ag+ + Cl- (90)

図11銀塩化銀参照電極

(90)における銀 る塩素イオンによって左

されることが推測される

そこでカッコ [ ] をそれによって囲まれるイオンの濃度を表すことにし

式 イオン Ag+の溶解性は共存す

塩化銀の乖離定数Kを考えると

49

K = [Ag+][Cl-] (92)

これから

[Ag+]= K[Cl-] (93)

化カリウム溶液に漬けた銀塩化銀電極の電位 E は水素標準電極に対する

電 で与えられる

位を E゜として次式

E E

RT

nF

[ Ag ]

[Ag(s)]ln( )

Ag(s)のイオン活量は常に1とする

ここで半反応の電極電位を求めるために式(75)を利用することにすれば

(94)

熱力学の慣例にしたがって純物質個体

E E

RT

Flna

H Cl a (75)

式 の半反応をみると

応で電子1つが移動するので n=1 とするR=831441 JmolK1F = 96485

C はめれば

これに銀イオンの濃度として式(93)を当てはめる

この反応で移動する電子は (89) 銀イオン1つの反

molT=29815K(25)ln(10)=2303などの定数を当て

2303RTF = 005917

であるから(94)式は次のように表現できる

log[Cl]) E E 005917(logK (95)

たがって標準水素電極に対する銀塩化銀参照電極の標準状態における電

位 は半反応(89)に対して ゜=+0799で

化銀の乖離定数 K は182times10-10 であるのでその対数を取れば-973993

0799-005917times973993-005917log[Cl-]

E゜ E ある

ある

そこで式(95)は

E =

50

= 0799-0576-005917log[Cl-]

= 0223-005917log[Cl-] (96)

電極電位の関係について実測値

こうして求めた塩化カリウム溶液の濃度と

計算上の値は次のようである

KCl moll vs SHE volt25 計算値 volt25 01 02881 02822 35 0205 01908 飽和 0199 minus

実用 測定

実際の現場で水素イオン濃度を測定する目的の測定法で上のような2つの

極が同じ溶液に浸かっていたのでは試料溶液を交換するにも便利ではない

の容器に入れる未知試料溶液と銀塩化銀電極を隔離する

的な pH

そこで水素電極側

的で二つの電極容器をつなぐ液絡部をグラスフィルターやセラミック板

飽和塩化カリウムで作成したゼラチンなどの塩橋によって隔離遮断するこ

れを液絡部とよぶ

電池として機能するために必要な溶液イオンの交換はこの液絡部で行う

組み立てる電池は電池式で次のように表される

Pt(s) | H2 | 試料 (H+ x moll) || 飽和 KCl | AgCl | Ag(s)

の標準電極と銀塩化銀電極とは区切られていて溶液の直接の接触がない

とを意味するために電池式ではタテ二重線を用いる銀塩化銀参照電極

の容器には飽和塩化カリウム溶液が入れられる

51

図12液絡部のある pH 測定のための電池

この液絡部のある電池では塩橋を記号lsquo | | rsquoで表して次のように記す

試料 (H+ x moll) | | 飽和 KCl

ここでは試料溶液と飽和塩化カリウム溶液の異なる2液が接している

このような界面では膜電力が生じるのと同様「液間電位差」が生じることが

知られているしたがって上の電池で測定される起電力 E は

E = E[銀塩化銀電極電位]+E[液間電位]+E[水素電極電位]

で与えられることになってE[液間電位]のために図12の電池の起電力

は銀塩化銀参照電極の値を知っていても水素電極容器内に入れた未知溶

液の水素イオン濃度を正しく知ることができない

52

そこで実用的な測定法としてこの E[液間電位]を膜電位として積極的に利

用する方法が工夫されたすなわち水素イオンに感応するガラス薄膜を用い

るガラス電極法である

53

ガラス電極

ガラスはケイ素原子と酸素原子からなる SiO4 の結晶構造を持ち酸素で囲

まれた空隙があって水素イオンがそれを埋めることができる

この性質によってガラス膜表面は水溶液中の水素イオンに応じて膜電位を

変化させるのでこれを水素イオン濃度測定用の電極として利用することが考

えられるこれが通常用いられるガラス電極である

ガラス電極は標準電極と組み合わせれば電池を構成することができこの電

池の起電力を知ってガラス薄膜の内外にできたイオン濃度勾配を知ろうとす

るものである

薄いガラス膜(01mm程度)をはさんで接する2つの溶液のH+イオン濃

度が異なるとその差に応じてガラス膜の両側に電位差(Eg)が現れる

ネルンストの式でガラス電極の内部に入れた既知の濃度のH+([H+]in)に対

し試料中の水素イオン濃度が[H+]sampleのとき次の電位を生じる

)][

][log(059170)

][

][ln(

sample

in

sample

ing

H

H

H

H

F

RTE

(97)

図13ガラス電極

電極を構成するのは銀塩化銀電極と同じ電極で用いる塩溶液は一般的

54

に 01モル塩酸溶液である

この半電池の電池式は次のように書くことができる

Ag(s) | AgCl(s) | HCl (01 M) | ガラス薄膜 || 試料溶液 H+ (x moll)

Eg

この半電池の電極電圧を測定するために銀塩化銀標準電極と組み合わせ

電池を作って起電力を計る

構成される電池は下図のようになる

ガラス電極 銀塩化銀標準電極

図14ガラス電極を用いた pH 測定用の電池

この電池の起電力は次の各半電池の平衡電位を合わせたものになる

55

E1ガラス電極の内側電位

Ag(s) | AgCl(s) | HCl (01 M)

Egガラス薄膜の内外に生じる膜電位

HCl (01 M) | ガラス薄膜 || 試料溶液 H+ (x moll)

E2液間電位(膜電位)銀塩化銀標準電極のセラミックを介した試料溶液

と銀塩化銀標準電極の内部液(飽和 KCl 溶液)の間に発生する電位

試料溶液 H+ (x moll)|| セラミック | KCl(飽和)

E3銀塩化銀標準電極

KCl(飽和)| AgCl(s) | Ag(s)

pH メーター用のガラス電極に使われるガラス薄膜は水素イオンに感応して

膜電位(Eg)を生じるこれは【膜電位】の章で記したように薄膜がある

一つのイオンのみを通過させる特性を持っている場合にイオンが膜を介した

両側で平衡状態に達したとして電気化学ポテンシャルを膜の両側で等しいと

考えてそのイオンが濃厚な側から希薄な側にその差によって圧力を生じると

するものである

一方同じ試料溶液が銀塩化銀標準電極のセラミック液絡部を介して生じ

るだろう液間電位(膜電位E2)はいま関心がある水素イオンに対して特異

的に感応するのではないので試料溶液の水素イオン濃度に関係なく一定と見

なすことができる

すなわちpH メーターを構成する電池の起電力 E は

E = E1+Eg+E2+E3 (98)

このうちEg以外は一定と見なせるので

E1+E2+E3 = E

として式(98)を書き直すと

)][

][log(059170

sample

ing H

HEEEE

(99)

Eは標準液によって校正されるべき標準電極電位である

56

電極の校正

実際のイオン濃度を測定する場合低濃度標準液と高濃度標準液で得られ

る起電力を測定し計測のイオン濃度に対する係数(傾き)を求めておき未

知の試料に対して起電力を測定してそのイオン濃度を算出する方法が採られる

低濃度標準液と高濃度標準液のそれぞれの濃度をCLとCHとすればそれぞ

れの起電力ELとEHは次式で表される EH = E +β logCH (100)

EL = E +β log CL (101)

ただしβは式(99)の係数を簡略にしたものである

式(100)と(101)から検量線の傾きが次式で表せる

ΔE = EH minus EL = β(logCH minus logCL) = β logCH

CL

(102)

したがって係数βは

β =ΔE

log CH

CL

(103)

であらわされる

このときに使われる標準はすでに前出の pH 第一次標準第二次標準溶液で

ある

金属イオンに対応するイオン選択電極

現在臨床検査で日常的に使われている電解質測定のための電極はナトリウ

ムカリウムカルシウムクロールなどおよそ臨床的に必要な金属イオン

に対して入手可能である

カリウムイオン測定用のバリノマイシンの発見によってクラウンエーテルと

57

呼ばれる一連の化合物が知られたクラウンエーテルはその分子の中心に立

体的な空間を持ち特定のイオン径に対し合致するのでそのイオンに対して

選択的に感応するこれらの化合物はイオノフォアと呼ばれる

図 15クラウンエーテル

1つの金属イオンが環状化合物

15-crown-5 の中央にある空間を充填

している模式図

15-crown-5 の構造を作る10個の黒

い丸は炭素炭素2個のつながりごと

にある中心の白い丸は酸素酸素と

金属イオンの間の距離はおよそ 22~

23Åであるカリウムのファンデン

ワールス半径は 135Åイオン半径は

15~16Åである

測定したいイオンに対しポリ塩化ビニル(PVC)を支持体としてイオノフ

ォアを添加した液膜の電極膜を作成しこれをガラス電極におけるガラス薄膜

と同様試料に接する電極膜として用いるこの構造から一般的に液膜型電極

と呼ばれる電極膜には特異性を高めるため妨害イオン排除剤などが添加

される

pH メーターと同様銀塩化銀標準電極と組み合わせ電池を形成しその

起電力を計る測定したいイオンが液膜に対して内外で平衡に達したときの

膜電位を測定するのはガラス電極と同じである

カ リ ウ ム イ オ ン に は Bis[(benzo-15-crown-5) ( 正 式 名 は

Bis[(benzo-15-crown-5)-4-methyl]pimelate)ナトリウムには Bis[(12-crown-4)

やDibenzyl-bis[(12-crown-4)などがイオノフォアとして用いられる

58

図16カリウムイオン測定用に使われるクラウンエーテル

図17ナトリウムイオン測定用に使われるクラウンエーテル

59

参考イオン選択電極に関する文献Xia Z Badr IHA Plummer SL Cullen L

Bachas LG Synthesis and evaluation of a bis(crown ether) ionophore with a

conformationally constained bridge in ione- selective electrodes Anal Sci 14(2)

169-173 1998 Oh K-C Kang EC Cho YL Jeong K-S Y oo E-A Paeng K-J

Potassium-selective PVC membrane electrodes based on newly synthesized

cis- and trans-bis(crown ether)s ibid 14(10)1009-1012 1998 Dojindo WEB

site httpwwwdojindocojpwwwrootproductsjinfo2protocolp31pdf

<補遺> 60

補遺 状態関数 (本文 p21 10 行目参照)

一つの平衡状態にある系 A とこれに接する系 A にとって外部である系 B について系 B

から系 A に熱を与えこれによって系 A が他の平衡状態に移ったとき系 A はその結果とし

て膨張し系 B に対し仕事をする

このときの微少な熱量の移動を記号drsquoQ またなされた微少な仕事をdrsquoW とすると

系Aの内部エネルギーに関する微少な変化drsquoUA は両者の和として表される

WdQdUd A primeminusprime=prime (a-1)

この式 a-1 と本文中の式25との関係について

WQU A Δminus=Δ 本文(25)

<補遺> 61

式 a-1 と式25の記号の違いは変化の起きる前の平衡状態 S1 から変化後の平衡状態 S2

に状態変化があったとするなら式 a-1 を積分することで式25が得られるものと考えて区

別している

A

S

S A UUd Δ=primeint2

1 (a-2)

このことは重要であるすなわち内部エネルギーU は変化の起きる前後の状態を指定する

ことによって値が定まることを意味するこのように積分によって値を定めることが出来る

のでdrsquoU は完全微分であるという

内部エネルギーのように系の状態だけで値の定まる量を状態関数として扱う

一方式 a-1 のdrsquoQ drsquoW についても同様に微少の変化量を表しているが平衡状態 S1

から S2 への経路を指定しなければ積分の値は定まらない

本文中の記号にしたがって仕事量ΔW を次のように表すことにする

VpW Δ=Δ 本文(20) V

<補遺> 62

体積と圧力の関係を表す図を使ってこの仕事量が意味することを考える圧力 prsquo の下で

体積が V1 であるときを状態 S1 として圧力一定の下で体積を V2 まで膨張させるような変

化を行った後体積を等しく保って圧力を p にまで上げたときの状態を S2 とするこのとき

の仕事量は膨張に伴うものであるから図の体積‐圧力線の下の面積で示すことができる

平衡状態 S1 から S2 への変化の道筋を別にたどってみよう

新しい経路では圧力を先に p まで上げた後に膨張変化させている

図から直感的に明らかであるので数式での扱いを省略するが2 つの経路による仕事量には

差がある

すなわちdrsquoW は drsquoU と異なり変化の初め S1 と終わり S2 の状態が与えられても積分値

は定まらず変化の経路によって違ってくる

このように変化の経路を指定しなければ積分値が定まらないものを不完全微分と呼び扱

いを区別する

本文 p21 へ戻る

<補遺> 63

VpW

WQU

VpQU

VpUQ

1122 SSSS pVUpVUQ

pVU

VpUHHHQ SS 12

エンタルピー (本文 p24 20 行目参照)

本文中の式 20 および 25 から一定の圧力の元で起きる状態変化において内部エネルギー

の変化量に対する式 a-3 を得る

本文(20)

本文(25)

(a-3)

式 a-3 を Q について書き直す

(a-4)

状態の変化が平衡状態S1から平衡状態S2に移ったものとして式 a-4を丁寧に書き直すと

(a-5)

並び替えて

(a-6)

式 a-6 を見ると定圧過程における熱量の流入は

(a-7)

の形を持つ関数の差であることが分かる

一般に化学反応のような変化の過程では大気圧の下で行われるようなものに興味がある

そこで式 a-7 で与えられる項を一つの関数として定義するこれをエンタルピーと呼び記

号 H を与える式 a-4 はエンタルピーの変化量で次のように書き改められる

(a-8)

圧力が一定の下で起こる状態変化について流入する熱量は式 a-8 で示されるようにエンタ

ルピーの変化量に等しい

V

V

V

V V

V

V

1212 SSSS VVpUUQ VV

<補遺> 64

1Q

We

また式 a-8 からオートクレーブ内で起こるような体積変化のない過程ではこの値が内

部エネルギーの変化量で与えられることが明らかである

本文 p24 へ戻る

エントロピー (本文 p26 17 行目参照)

エントロピーは次のような思考実験から発想された仮想的な状態関数である

理想気体よりなる系 A が温度 T2で熱平衡状態にあり温度 T1の外部の熱源と接しているこ

とを想定する系 A の外部を系 B と呼ぶことにするT1は T2に対して無限小だけ高い温度と

する

系 A が系 B に対して温度圧力について平衡を保ちながら緩慢に系 B より熱量 Q1を受け取

る過程を考える(このような過程を準静的過程と呼ぶ)これによって系 A が熱量 Q1を得て膨

張するとき系 B に対して仕事をする続いて系 A から熱量 Q2が系 B に戻ることを考える

想定されるこの変化が可逆的であれば系 A と系 B を併せた全体は元の状態に戻る蒸気機

関に関するこのような研究が Nicolas Carnot によってなされたのは1824 年のことであった

ここに想定されたサイクルに対する Carnot の効率 e は移動した熱量となされた仕事によ

って定義され次の式で表される

(b-1)

<補遺> 65

理想気体では内部エネルギーU の変化ΔU はゼロと考えるしたがって熱力学の第一法

則を表す式(本文中の式25)から次の関係が示される

0=Δminus=Δ WQU

WQ Δ= (b-2)

これによってCarnot Cycleの効率eはQ2lt0 として次のように書き改めることが出来る

1

21

QQQe +

= (b-3)

ところで気体の状態方程式から1 モルの気体について次のような関係が示される

RTV

P

P1=

V = RTV (b-4)

V 式 b-4 の両辺に体積の微少変化量ΔV をかけて

(b-5)

これを体積Vについてその変化をV1からV2までとして積分するならば次式が得られる

VV

RTVP Δ=Δ 1V V

V

intint = 2

1

2

1

1V

V

V

VdV

VRTPdV

1V2V

11 lnRTW =

(b-6)

Q1の熱量によって起こる膨張がV1よりV2までとし圧力P温度T1の下でなされるその仕事

量をW1とするならそれは式b-6 の右辺によって示されるすなわち

(b-7)

VV

1

2lnVVRT=

V V

VV

V

V2int V2 intV1 V1

<補遺> 66

またQ2の熱量の移動が圧力P温度T2の下で起きこれによって系Aが可逆的に圧縮され

るなら体積変化はV2よりV1まで起こりその仕事量をW2で示すと次式のように表される

(b-8)

1

22

2

122 lnln

VVRT

VVRTW minus==VV

VV

Q1=W1Q2=W2の関係から式b-7 およびb-8 を用いてCarnot Cycleの効率eを表す式b-3

を書き改めると温度のみの関係式として次のように表される

1

21

TTTe minus

= (b-9)

ここでサイクルが可逆的過程であると想定するならば式 b-3 と式 b-9 から

1

21

1

21

TTT

QQQe minus

=+

= (b-10)

これから

12112111 QTQTQTQT minus=+ (b-11)

整理すると

02

2

1

1 =+TQ

TQ (b-12)

この考えをさらに発展させ系A

と系Bの間に数多くの系を挿入すること

にしてそれらの系を同様に熱源として

T1T2Tnと考えるこれによっ

て熱の受け渡しが系Aから系Bに至り

再び系Aにもどるサイクル過程に数多

くの寄り道の過程を加えることになる

熱量の移動に関して上の場合と同じく

準静的過程で行われると考えるこの

サイクル全過程について初めと終わ

<補遺> 67

n

i i

i

T

Q

1

0

0T

dQ

T

QS

T

dQASAS )()( 12

りが同じ状態になる可逆的な過程であるなら式 b-12 を拡大的に考えることになってそれ

は次式で表される

(b-13)

式 b-13 には重要な関数が現れるすなわち熱量と温度の比QT である

もし一つの系が無限小だけ温度の高い(dT )外界から温度圧力など平衡を保ちなが

ら極めて緩慢な過程(準静的過程)で無限小の熱量(dQ )を受け取るならばその変化は可

逆的でありdT について連続的な温度分布をする過程を考えるとき式 b-13 をさらに発展

させて次のように積分式で示すことが出来る

(b-14)

式 b-14 で積分記号にが付されているのはCarnot Cycle のような経路を一巡することを

意味している

Carnot の熱機関の効率という着想から生まれた熱量とそれを持つ系の温度との比 QT に

重要な意味を見出したのは Rudolph Clausius で彼はこの比にエントロピーという名前を与

えたエントロピーには記号ΔS を一般に用いる

(b-15)

エントロピーは初めと終わりの状態がわかれば過程に関わらず定まるので状態関数であ

系 A と外界のエントロピー変化を考えるときそれが可逆的過程であるならばすべてを併

せた全体のエントロピー変化は初めと終わりに変化がないという意味でゼロであるすなわ

ち初めの状態を S(A1)とし次の状態を S(A2)とするならそれぞれのエントロピーを

ΔS(A1)ΔS(A2)としてこの間におけるエントロピーの変化量は次のように示される

(b-16)

<補遺> 68

T

dQdS

0T

dQ

ある一つの変化については次のように示される

(b-17)

ここで式 b-17 の S に付けられたdは微分量すなわちごく微小の変化量を意味し式 b-15

で定義されたエントロピーに用いられる一般的な記号Δと区別する

ところで式 b-10 の関係においてもし移動した熱量のすべてが仕事に変わらなければ

効率 e を表す熱量を用いた関係式と温度で表される関係式は等号で結ぶことができないそれ

はエネルギーのロスを意味し初めと終わりの状態が異なってしまうことを意味するすなわ

ち全過程が構成する一つのサイクルは可逆的でなくなる

不可逆過程での熱効率 ersquo は 大値を示す可逆的過程の熱効率 e より小さな値をとる

ee

したがって 大効率を与える式 b-8 と式 b-3 から

01221

2112

1

21

1

21

QTQT

QTQT

Q

QQ

T

TT

両辺を T1T2で割ると

02

2

1

1 T

Q

T

Q

これを式 b12 と同様に発展させれば式 b-14 についてサイクルの変化が可逆的過程の

場合と不可逆的過程の場合の両方を併せClausius の不等式と呼ばれる次の関係が成立する

(b-18)

式 b-18 の等号が成立するのはサイクルが可逆的な理想の場合に限られる

ある孤立系で状態 A1 から状態 A2 へは不可逆変化で進められ状態 A2 から再び状態 A1

に戻るとき可逆変化であるような閉じた状態変化を考える可逆系のエントロピー変化には

記号 Q を使い不可逆変化には Q を用いるとするとそれぞれ積分式を用いて状態 A1 から

状態 A2 へは

<補遺> 69

d prime

状態 A2 から状態 A1 に戻るときは

全体では

=d prime

+d

(b-19)

Clausius の不等式から

0

式(b-19)の第二項で反応を逆に進めるときには次のように書き改めることができる

=d

よって式(b-19)は次のように書き直すことができClausius の不等式とあわせると

d prime d

0

すなわち

d prime d

上式の右辺は式(b-16)を用いて表せば

d prime

∆S ∆

この状態変化を微小変化とするならば断熱変化の場合 dQ = 0 であるから

∆S ∆ dS 0

すなわち不可逆変化を含む断熱変化ではエントロピーは必ず増大する

<補遺> 70

T

QS

BA SSS

(b-20)

(次の<補遺>ギブス自由エネルギーも参照せよ)

本文 p26 へ戻る

ギブス自由エネルギー (本文 p28 27 行目参照)

エントロピーの考えを導入することによって不可逆的に状態変化が起きるときにはエン

トロピーの増大を引き起こすことを知ったこれによって目前で起きる現象について温度の

変化があるものであれないものであれまた圧力の変化があるものであってもエントロピー

の定義式によって可逆的な変化におけるエントロピーの変化量を計算することが可能である

(b-15)

しかしながらこれから起こる変化について我々がすでにあらかじめ知っている物理量を

用いて予測的にその状態変化が起きるかどうか知ることは必ずしも容易ではないその理由

は式 b-15 に示されたエントロピーΔS が系とその外界をあわせた全体のエントロピーを示

しているからであるすなわち関心のある系を系 A としその外界を系 B とすると全体

のエントロピーは次のように表せる

(c-1)

関心のある系 A のエントロピー変化を知るためには系 B のそれを知ればよいがそれは

いつも容易とは限らない系 A の性質だけで状態変化の方向を知るには別の観点が必要にな

るようだ

そこでもう一度状態変化が熱量 Q の移動によって起きることについて考えてみようエン

トロピーの補遺で議論したように熱量の移動が準静的過程により行われるときには変化は可

逆的に起こると考えたこのとき外界すなわち系 B から移動する熱量を Q1とし系 A から

0S

<補遺> 71

21 QQ

T

Q

T

QSB

21

T

QSS A

2

QH

T

HSS AA

AA STHST

のそれを Q2 と記号を当てたのでこれをそのまま使うことにすれば可逆的な過程では系 B

の熱量 Q1 はすなわち系 A から戻る Q2 に他ならないので両者には次の関係が成立するも

のとしてよい

(c-2)

したがって

(c-3)

と考えてよくこれによって式 c-1 を次のように書きなおすことが出来る

(c-4)

独立した系で圧力とその体積に変化がなく一定の条件の下で状態変化が起きるときエン

タルピーの考えを使ってすでにひとつの関係があることを導いている

本文(31)

そこで式 c-4 を系のエンタルピーΔHAによって書き改めれば

(c-5)

この両辺に-T をかけて式を書き直せば次の関係式が得られる

(c-6)

式 c-6 を見るときその右辺がマイナスの値ならば左辺のΔS はプラスの値をとることが

分かるすなわちエントロピーが増大すると見ることが出来るこれまでの過程で自然の現

象はエントロピーが増大する方向に進むとしてきたので関心のある状態変化について式 c-6

の右辺で計算される値がマイナスの値ならばその変化は起きるものと考えてよいことになる

だろうしかも右辺はすべて独立した系の状態量で示されていて我々が知りうる値で計算

<補遺> 72

TSHG

STSTHG

STHG

可能である

そこでこれを熱力学ポテンシャルを表すものとしてギブス自由エネルギーと呼ぶことに

するギブス自由エネルギーは記号 G が用いられ次のように定義される

(c-7)

ここで関心があるのは自由エネルギーの絶対値ではなく式 c-6 に示されたようにその変化量

に興味があるので式 c-7 から

(c-8)

温度が一定の条件の下で状態変化が起きることを考えるなら式 c-8 は次のように書くこと

ができる

(c-9)

ギブス自由エネルギーは式 c-9 の右辺がすべて状態量であるからこれも状態量の一つで

ある定圧定温の条件下で起きる変化ではすでに議論したようにΔGlt0 であれば状態

変化は自発的に起きるものと予測できる

つまり式 c-5 の第一項は系のエントロピーΔSAそのものであり第二項で示されるエンタ

ルピーは系 A の温度が一定に保たれているのであるから発熱する熱量として外界に吸収さ

れるものであってこれは外界のエントロピーの増大につながるものとして解釈されるした

がって化学反応のように一定の圧力と一定の温度の下で起きる変化について自由エネルギ

ー変化量はその状態変化が自発的に起きる傾向を示しているといってよい

本文 p28 へ戻る

  • はじめに
  • 目次
  • 電気エネルギー
    • 金属のイオン化
    • 電池
    • 水素の反応
    • 燃料電池
    • 化学反応と電気エネルギー
      • エネルギーと熱力学
        • エネルギー保存則
        • エンタルピー
        • エントロピー13
        • ギブス自由エネルギー
        • 電池における化学反応のギブス自由エネルギー13
        • 理想気体の状態方程式
        • 理想溶液のギブス自由エネルギー
        • 膜電位
          • 水素イオン濃度測定
            • 化学反応の一般的な式
            • pHの定義とその目盛り
            • pH標準液
            • 銀塩化銀参照電極
            • 実用的なpH測定
            • ガラス電極
            • 電極の校正
            • 金属イオンに対応するイオン選択電極
              • 文献
              • 補遺
                • 状態関数
                • エンタルピー
                • エントロピー
                • ギブス自由エネルギー
Page 3: イオン選択電極i イオン選択電極 Ion Selective Electrode (ISE) を理解する ・ pHを測定する ・ NaやKなどのイオン濃度を測定する 神戸大学医学部保健学科

iii

目次

電気エネルギー 1

金属のイオン化 1

電池 4

水素の反応 9

燃料電池 10

化学反応と電気エネルギー 14

エネルギーと熱力学 20

エネルギー保存則 20

エンタルピー 24

エントロピー 26

ギブス自由エネルギー 28

電池における化学反応のギブス自由エネルギー 30

理想気体の状態方程式 33

理想溶液のギブス自由エネルギー 37

膜電位 38

水素イオン濃度測定 40

化学反応の一般的な式 41

pH の定義とその目盛り 44

pH 標準液 44

銀塩化銀参照電極 47

実用的な pH 測定 50

ガラス電極 53

電極の校正 56

金属イオンに対応するイオン選択電極 56

補遺 60

状態関数 60

エンタルピー 63

エントロピー 64

ギブス自由エネルギー 70

1

電気エネルギー

金属のイオン化 原子や分子から一個の電子を引き離すとその原子や分子はプラスに帯電し

陽(プラス)イオンになる金属は最外殻の電子軌道に活発な電子を持つ一

連の元素のことをいいその電子を失いやすい

金属固体を塩溶液につけると電子を失ってプラスイオンになろうとする性質

があるこれを金属のイオン化傾向という

金属の種類によってイオン化傾向に大小が見られるイオン化傾向を比較して

その強さの順に並べたものを「イオン化列」とよぶ

イオン化列 K-Ca-Na-Mg-Al-Zn-Fe-Ni-Sn-Pb- (H2) -Cu-Hg-Ag-Pt-Au イオン化傾向はイオン化列の左にある金属の方が高い

イオン化傾向の大きな金属は電子を失いやすいことを意味する

参考基底状態にある原子や分子から

一個の電子を無限遠に引き離すのに要

するエネルギーをイオン化エネルギー

(Ionization energy IE)もしくはイ

オ ン 化 ポ テ ン シ ャ ル ( Ionization

potential IP)というこれは元素の物

理学上の基本的な見方で「イオン化

列」の順に第一イオン化エネルギーが

大きくなるとは限らないたとえばイオ

ン化列で一番左にありもっともイオン

化傾向の大きな金属はカリウムである

カリウムの第一イオン化エネルギーは

434 eV(4188KJmol)であるこれは

ナトリウムの第一イオン化エネルギー

2

が514 eV であるのに対して数値が小さいのでカリウムの方がナトリウムよりプラスイ

オンにされやすいことを示しているまた水素のイオン化エネルギーは 13595eV であって

数値ではこれらの元素よりはるかにプラスイオン化されにくいことを示しているところ

がイオン化列で水素より右にあるつまりイオン化傾向がより低い銀の第一イオン化エネ

ルギーは 758eV でそれはイオン化列でナトリウムのすぐ隣にあるマグネシウムの値に極

めて近いマグネシウムの第一イオン化エネルギーは765eV である

金属電極がイオン化する際の議論では電極反応の主体が電極溶液界面での電荷移動で

あってさらに静電場を考慮する必要がある電荷を持つものが金属表面から 10minus 4cm 程度

の距離にあるとき鏡像にあたる誘起引力が生じるこれは鏡像力の効果(image force)

とよばれ無視できないGuggenheim EA は「電気化学ポテンシャル」を提唱したこれ

によれば金属内部から鏡像力の効果がおよぶ点までは金属の化学結合に関わる電子の持

つ化学ポテンシャルμeM と金属表面の電荷分布に由来する表面電位χM の引力が関わり

電子を引き離すのに要する仕事量は[μeMminus FχM]が必要となるさらに鏡像力の効果が

無視できない点からその力がおよばない溶液中の無限遠に引き離すのに要する仕事量は

金属の外部電位をΨM として[minus FΨM]で表されるしたがって電極として溶液につけ

ら れ た 金 属 原 子 の 電 子 に 関 す る 電 気 化 学 ポ テ ン シ ャ ル ˜ μ eM

˜ μ eM = μe

M minus F ψ M + χ M( )= μ eM minus Fφ M

で表されるφMは電極金属の内部電位という

イオン化傾向は溶液との関係において電極反応の電位として理解できる

金属が塩溶液につけられたときにとけ出そうとする現象は化学反応の1つと

してとらえることができる金属が電子を放出してプラスイオンとなる過程

は化学反応式を使って次のように表すことができる

亜鉛を例として取り上げればその化学記号には Zn が使われるので金属固

体を表す添え記号を(s)とすることにして

Zn(s) rarr Zn2+ + 2e- (1)

反応式(1)は金属の亜鉛片が溶液につけられると亜鉛は溶液にとけだし

て2価のプラスイオンになることを意味するこのとき電子が2つ遊離す

化学反応ではこのように電子を放出する反応を「酸化反応」という

したがって(1)の反応が進めば亜鉛は酸化される自身が酸化されるも

3

のに対してその反応で発生した電子を受け取る相手は還元されると言う

すなわちこの反応が起きるとき上の例での亜鉛は「還元剤」としての能力

を持つことになる

このように考えるとイオン化傾向の大きな金属は還元剤としての能力が高い

と言うことができるしたがってKや Caは強い還元剤である

逆に言えばイオン化傾向の上位にある金属は酸化力が弱い

金属の酸化力の強さは水溶液にあってイオンの状態から金属単体になりやす

い傾向を言うこれはイオン化列の右にあるものの方が高い性質を持っている

金属に対して「酸化還元反応」を考えるとき金属と金属イオンの組み合わせ

で考えることができる

ある金属の塩を水に溶解して金属イオンとして存在する水溶液を準備しそ

の金属よりイオン化列の上位にある金属片をその水溶液に浸ける

するとイオン化列の上位にある金属片が溶液に溶けだし最初水溶液をつく

ったイオン化列の下位にある金属が析出してくる

例で示そう硫酸銅 CuSO4の水溶液を作りこれに亜鉛板を浸ければ亜鉛

板の水溶液に使っている部分はやがて茶褐色に変化する

ここで起きる反応は次の反応式で書き表すことができる

Zn(s) rarr Zn2+ + 2e- (2)

Cu2+ + 2e - rarr Cu(s) (3)

2つの反応式を合わして全体の酸化還元反応を反応式として表すことができ

Zn(s) + Cu2+ rarr Zn2+ + Cu(s) (4)

このようにイオン化傾向が水素よりも小さなものがあればまずその金属

が析出するイオン化傾向が水素よりも小さなものがなければ酸性なら水素

イオンが中性やアルカリ性なら水が反応する

水溶液において水素よりもイオン化傾向が大きい金属は電極に析出はし

てこないこのとき水の反応を示すと

4

H2O + 2e- rarr H2 + 2OH-

このように水酸イオン OH- が出来るので中性の水溶液を用いると水が反

応してその周りはアルカリ性になる

電池 酸化還元反応に伴う化学エネルギーを用いて電子の流れを発生させればその

化学エネルギーを電気エネルギーに変換することができる

化学エネルギーから電気エネルギーに転換させる過程を見てみよう

硫酸銅 CuSO4の水溶液に亜鉛板をつけたときの反応は上で反応式(2)

と(3)およびその全体を(4)で示した

それぞれの金属だけについて化学反応を(2)や(3)のように単独で示す

ときこれを「半反応」という

亜鉛に対する半反応(2)では亜鉛分子が亜鉛板に電子を残してプラスイオ

ンになって水溶液にとけ出すことを表している一方半反応(3)では銅

イオンが発生した電子を亜鉛板表面で受け取り金属銅となって析出すること

を表しているこのとき亜鉛は酸化を受け銅は還元される

ここで電子を亜鉛板から取り出すことを考えよう

反応に用いたのは硫酸銅の水溶液であったがこのような塩溶液を電解質溶液

と呼ぶ電子を取り出すために電解質溶液に工夫をしよう

2つの水槽を準備し一つには硫酸亜鉛 ZnSO4の水溶液を入れて亜鉛板をこ

れに浸けるもう一方には硫酸銅 CuSO4の水溶液を入れそれには銅板を浸け

それぞれの水槽内で起きることを期待するのは反応式(2)と(3)で示し

た各半反応である

ここでそれぞれの水槽の金属板に導線をつなぎ両方をそれで接続すると電

子が導線を伝わって移動するならその電子の流れを電流としてこれを利用す

ることができるそうすれば化学反応のエネルギーを電気エネルギーに変換

できたことになるつないだ電線の途中に豆球ランプを入れるならこれが点る

だろう下図ではこの導線の中間に電圧計を入れたものを示している

5

図1亜鉛と銅を電解質溶液に入れる

再度それぞれの水槽で起きると予想する反応を書いておこう

左の水槽 Zn(s) rarr Zn2+ + 2e- 酸化反応

右の水槽 Cu2+ + 2e - rarr Cu(s) 還元反応

左の亜鉛が入れられた側では亜鉛板に電子がたまり亜鉛の酸化反応が起きる

一方右の銅が入れられた側では電子が水溶液に移動し銅の還元反応が起き

亜鉛は電子を電極に残しプラスイオンとなって水溶液中に出て行き亜鉛板

の電極中に電子が余分にたまるこのとき水溶液にある硫酸イオンは変化を

受けない

一方の銅板では水溶液中の銅イオンが銅板から放出される電子を受け取って

銅単体となり析出するこちらの水槽でも水溶液にある硫酸イオンは変化を受

けない

電極に余分にたまっている電子の量を電極電位という

6

上の図では導線の中間に電圧計がつなげてあって両極の電極電位の差を測定

することができる電極電位の差すなわち「電位差」は電極間をつないで回

路をつくればその回路に電流が流れるので「起電力」ともいうこの電位差

や起電力の数値については後で考えることにしよう

電圧計は電流を流さず両極間の電位差を計ることができるこの状態では電

子の移動がない電子の移動がないので各イオンの濃度にも変化はない電圧

計はこのときに電池の起電力に対して最大値を与えるもしも電流が流れると

各イオン濃度の変化が起きるので起電力にもわずかながら変化が生じる

両方の極を導線でつないでその中間に電圧計を入れ亜鉛板から銅板へ導線を

介して電流が流れないときの状態をさらに考えてみよう

左の亜鉛板に残った電子は溶液中に続いて出てゆこうとする亜鉛イオンを逆

に引っ張り戻そうと働くこの結果亜鉛板に残った電子の量がある程度以上

になるともはや亜鉛は溶け出さない

この状態を平衡状態という

一方の銅板では電子の流れがないので同様に銅イオンの還元反応は進まない

そこで電子の流れが起きるように導線の中間に豆電球を入れて回路を作るこ

とにしようこのように電池の両極間に電球などを入れることを「負荷をかけ

る」という

回路ができそれに負荷をかけることによって電子の流れが起き豆電球が点

るこの結果陰極では亜鉛がどんどん水溶液に溶けだし陽極では銅が析出

する

ところがこうしてうまく電子の流れが始まってもそれは持続しない

どちらの水槽においても硫酸イオンは変化を受けないことをすでに述べてい

たこれでは亜鉛側のプラスイオンがまた銅側のマイナスイオンがたちま

ち過剰になってしまうこの結果一瞬電流が流れるだけですぐ電子の流れは

停止し豆電球は点り続けないだろう

うまく豆電球を点り続けさせるにはそれぞれの水槽のプラスイオンとマイナ

スイオンの均衡が保てるようにしなければならない

この解決にはそれぞれの水槽で過剰になるプラスイオンとマイナスイオンが

移動できるようにすればよい

それには2つの方法がある

一つは塩橋とよばれるイオンの通路を両水槽に掛け渡す方法である塩橋は

7

チューブ内に飽和塩化カリウム(KCl)溶液などをゼラチンで固めて詰めそれ

がこぼれ出ないようにそれぞれの口を濾紙などで封じたものである

図2亜鉛と銅を電解質溶液に入れ塩橋を渡す

この塩橋の代わりに素焼きの陶板やセラミックなどのイオンを通す性質があ

る固体で両水槽を仕切る方法でもよい図に示したように塩橋もしくはしき

りを介してイオンが移動できる

8

図3亜鉛と銅を電解質溶液に入れしきり板にセラミックを使う

このように電子の流れを発生させて利用しようとする装置を「電池」とよぶ

電池には2つの極がある陽極(+)と陰極(-)である

陽極(+)は正極ともよばれ電極に伝ってきた電子が水溶液に移動し還

元反応が起きる側をいう

これに対して陰極(-)は負極ともよばれ電極金属がイオン化し酸化反応が

起きて電子が電極から取り出される側をいう

今の例では亜鉛板が陰極(-)銅板が陽極(+)とよばれる

有名な「ダニエル電池」はこのように考案された

電池を電球などにつなぎ電気回路を形成すれば亜鉛電極内の電子が導線へ流

れ出て電球を明るくし亜鉛はつぎつぎ溶液に溶け出す

回路を切れば再び電極に電子がたまり平衡状態に達して亜鉛イオンの溶

出は止まる

ここで電池の表記についての取り決めを記しておこう

9

電池は2つの極からなる陽極と陰極である陽極すなわち還元反応が起き

導線を介して電子を受け取る極を右に書くダニエル電池の場合には陽極は銅

板であり銅イオンを供給する硫酸銅の水溶液が電解質溶液として用いられる

陽極金属と電解質溶液の間は縦棒で区切るそこで陽極は次のように表記され

CuSO4(aq) | Cu(s) (+) 記号(aq)は水溶液のこと

同様に陰極は酸化反応が行われる極でこれを左に書く

(-) Zn(s) | ZnSO4(aq) この両方の極は別々の水槽にあってイオンの交換が塩橋あるいはセラミッ

クのようなしきりを介して行われるのでこの隔壁をタテ二重線で表記し両極

を並べて記す

ダニエル電池は次のような記号で表記されるこれを電池式と呼ぶ

(-) Zn(s) | ZnSO4(aq) || CuSO4(aq) | Cu(s) (+)

両端の極を導線で接続し回路を形成すれば電子の流れが左の陰極から右の陽

極に起こり電流は右から左へと流れる

水素の反応 イオン化傾向の大きさが異なる金属を組み合わせて酸化還元反応が起きると

電子の流れが生じそれを取り出して豆電球を点灯する仕事として利用するこ

とができる

イオン化列の鉛と銅の間には水素があるこの水素の酸化還元反応を見るこ

とにしよう

水素の酸化反応は次のように表される

H2 rarr 2H+ + 2e- (5)

これを半反応として電子の流れを作り出せば電池として機能するから取り

出された電子を利用する還元反応を考えよう

水素と反応する相手に酸素を選べば水が生成物として得られることを期待で

きる

10

酸素が電子を受け取る還元反応の半反応は次のように表される

12 O2 + 2e- rarr O2- (6)

半反応(5)と(6)を組み合わすことができれば次の全反応によって水

が生じる

H2 +12 O2rarr H2O (7)

このとき得られる電子を導線に誘導すれば電気エネルギーとして利用が可能

になる

問題はダニエル電池で見たようにそれぞれの半反応で生じるイオンの処理で

ある半反応(5)と(6)はそれぞれ隔離された容器で行わなければ水素と

酸素が直接反応して水を生じてしまうしかし容器の隔壁がイオンを通さな

いと電池として機能しない

燃料電池 固体は一般に分子やイオンを通過させないが中には特定のイオンを通過させ

るものがありこれを固体電解質とよんでいる

半反応(5)で発生する水素イオンを効率よく通過させるためにはナフィオ

ン(Nafion Du Pont 社米国デラウェア州ウィルミントン)とよばれる固体高

分子膜が有力である

ナフィオンはフッ素を含む高分子パーフルオロスルホン酸系といわれるイオ

ン交換膜で全体はテフロン様構造からできており側鎖にスルホン酸基を持

つその厚さは 20~50ミクロン程度である膜の内部で負に荷電するスルホン

基(SO3-)が水素イオン(H+)を引きつけこれを通過させるこの水素イオ

ンの通り道は電子顕微鏡で見るとトンネルのようにできている

11

図4ナフィオンを使った燃料電池

陰極では水素の酸化反応が起きる

H2 rarr 2H+ + 2e- (5)

一方陽極では次の還元反応が起きる

12 O2 + 2e- rarr O2- (6)

O2- + 2H+ rarr H2O (8)

全体の反応は反応式(7)で表される

12

H2 +12 O2rarr H2O (7)

こうして開発された電池は「燃料電池」とよばれている燃料に水素ガスが

利用される

反応式と図に示した気体酸素は通常の空気が利用され反応で生じた水と酸

素以外の利用されない気体元素は排気される

この燃料電池は水素と酸素を遮断し水素イオンだけを通過させる固体電解

質を使ったこれは上の半反応(5)で生じた水素イオンの処理を考えたわ

けである

これに対して半反応(6)で生じる酸素イオンを移動させる工夫もある

図4安定化ジルコニアを使った燃料電池

安定化ジルコニア(Stabilized Zirconia ZrO2CaO)は高温下で酸素イオン通過

性のある固体電解質として開発されたジルコニウムに10モル程度の酸化

カルシウムを加え結晶を作ると+4価のジルコニウムイオンの位置の一部を+

13

2価のカルシウムイオンが占めるできあがった安定化ジルコニアはこのカ

ルシウムの数だけ酸素イオンの不足が起き固体全体を電気的中性に保つた

めに酸素イオンの透過性ができるジルコニアの両面に白金粉末を焼き付け

それに白金のリード線を取り付ける焼き付けられた白金には多くの孔があり

その孔を通して気体とジルコニアが接触する

酸素イオン導電性の固体電解質としてジルコニアを用いた燃料電池は次

のように動作する

1)空気極(右側)に入った酸素 O2は電極で電子を受け取り酸素イオン O2-

になる

12 O2 + 2e- rarr O2- (6)

2)O2-は固体電解質ジルコニア中を移動していき燃料極(左側)で H2 と

反応し水 H2Oを生じるこの過程に伴って電子が放出される

H2 + O2- rarr H2O+ 2e- (9)

3)これら結果として外部回路に電流を取り出すことができる

燃料電池の起電力は酸素イオンが電解質中を移動することにより生じる

酸素イオンが移動する駆動力は固体電解質の両端すなわち燃料極と空気極

の酸素濃度差である

14

化学反応と電気エネルギー ダニエル電池の陰極は亜鉛板が硫酸亜鉛の水溶液につけられていたこのと

きの現象は次のように説明された亜鉛は電子を亜鉛板電極に残し陽イオン

となって出て行くその結果亜鉛板電極中に電子が余分にたまる

ダニエル電池の陰極の「電極電位」はこの電極に余分にたまっている電子の

量をさしているそれではこの半反応による電極電位を測定することができ

るのだろうか半反応は次のように示される

Zn(s) rarr Zn2+ + 2e- (1)

亜鉛が1モル反応すると2モルの電子が持つ総電荷量が流れる

1電子の持つ電荷量は16022x10-19 C (Ccoulombクーロン)であ

るから

1モルの電子の総電荷量はアボガロド数をかけて 96485 = 96485 x 104 Cmol

であるこれを1F1ファラデーと表す

1F = 96485 x 104 Cmol 亜鉛が1モル反応すれば2モルの電子が持つ総電荷量が流れるのでこれを

記号 q として表すと次の電気量が得られる

q = 2F (10)

化学反応によって取り出せる電気量はこのように計算される

それでは電気エネルギーとしてその電力はどのようになるだろう

電力は

電力=電圧times電流times時間 (12)

電流times時間=電気量であるから式(12)を書き直せば

15

電力=電圧times電気量 (13)

ここで電気量 q は式(10)で表しているので

電力=電圧timesq=電圧times2F (14)

と書くことができる

電圧を記号Vで表すことにし電力をWにすれば式(14)は

W = 2FV (15)

として表しておくことができる

電圧の単位系は仕事量が電力Wであるので(13)から

V= W q (16)

仕事量をジュールJ(ジュール)で表せば電圧はJ C (ジュールクー

ロン)でその単位を表現することができる

式(15)の表すところは亜鉛を化学反応の材料として得られる電力という

仕事量がその電力すなわち電極電位で決定されることを意味している

一般に化学反応で1分子の材料を消費しn個の電子が流れることをその

半反応で知ることができるとき式(15)を一般化して次のように得られ

る電気エネルギーを表すことができる

W = n FV (17)

化学反応によって生じる電子を取り出し回路に導けばここに電流が生じる

その起電力(V)は陽極陰極のそれぞれの電位をE+E- と記号で表し

て次式で書くことができる

V= E+-E- (18)

16

ここで問題になるのは陽極陰極のそれぞれの電位E+とE-で上に議論し

たように回路を形成しなければそれぞれの電位は決定できない

ここでいま片方の電位をゼロとすれば式(18)はたとえばE- = 0 で

V= E+

として陽極の電位が決まる

そこで申し合わせにより水素の半反応による電位をゼロとすることになっ

その半反応の式は水素の還元反応として次のように表せた

2H+ + 2e- rarr H2

標準にはMax Julius Louis Le Blanc (1865-1943) が発明した水素電極を用

いるこれを標準水素電極(Standard Hydrogen Electrode SHE)とよびこの

電極電位をいつも 0 volt(ゼロボルト)と取り決めている

図6に示した水素電極は1atm の水素ガスとそれに平衡状態にある水素イオ

ンが存在し次の半反応が平衡状態にある

H2 (g 1 atm)rarr 2H+ (aq 1 M)+ 2e- (5) g は気体を示す

この反応において平衡状態にある電極電位を 0 volt と定義する

電極に白金を用いるのは電極材料自体が溶解しないものであることすなわ

ちイオン化傾向の低いものであることまた水素イオンの還元に対してな

るべく活性の高いものであることが条件として求められるが白金はこの2つ

の性質を兼ね備えていて陽極の電極材料に適している

気体の標準状態は1atm を標準としているこの分圧を維持し溶液中の水

素イオン活量を1にする水蒸気の分圧が変化すると平衡電位は変化する

17

図6標準水素電極(0ボルトの基準)

標準水素電極は1モル塩酸溶液につけた白金電極に1atmの水素ガスを吹き込んで使う

白金電極は分極を防ぐために白金板に白金メッキを施し(白金黒とよばれる)上半分

を水で飽和させた(1atmの水蒸気分圧が必要)1atm(101325 kPa)の水素ガスを流し

下半分を1moll の塩酸溶液につける水素ガスが電極として働き白金板に電子が集めら

れる

ダニエル電池の亜鉛電極をこの標準水素電極につなげば亜鉛電極電位が測

定できる

亜鉛電極側では酸化反応の半反応が起きる

Zn(s) rarr Zn2+ + 2e- (1)

18

標準水素電極側では還元反応の半反応が起きる

2H+ + 2e- rarr H2

図7亜鉛電極と水素電極をつないで電池とする

25の基準状態における亜鉛電極の半反応(1)に対する平衡電位はすでに

知られている

E゜= -0763 volt

また銅板側の電極電位も同じようにして測定することができる

起きる半反応はすでに上述したが再度記しておこう

Cu2+ + 2e - rarr Cu(s) (3)

25の基準状態におけるこの電極電位はE゜=+0337 volt と知られて

19

いる

ここで亜鉛電極と銅電極の組み合わせでできる電池の最大電圧をこれらの

平衡状態における観測値から計算することができる式(18)を使って

V= E+-E- (18)

V= +0337-(-0763) = +110 volt

つまりダニエル電池で得られる最大電圧は11volt と計算できる実際に

はイオンの濃度が変化すれば反応の平衡が変化するので得られる電圧も変

化する

ここでダニエル電池で亜鉛1モルが反応するとき式(17)を使って得

られる仕事量としての電力を計算できる

W = n FV (17)

すなわちダニエル電池における電極反応は

Zn(s) rarr Zn2+ + 2e- (2)

Cu2+ + 2e - rarr Cu(s) (3)

であったから反応が進んで移動する電子はn = 2 である

1F = 96485 x 104 Cmol を適応すると

W = 2 x 96485 x 11 x 104 = 21227 x 105 Jmol = 2123 KJmol

(K = 103キロ)

すなわち亜鉛1モルの化学反応によって2123 KJmol の電気エネルギーが得

られる

水素ガスを使う燃料電池の起電力は電極の半反応から

O2 + 4H+ + 4e- rarr 2H2O (19)

25の基準状態におけるこの電極電位はE゜=+1229 volt が得られている

20

したがって燃料電池で1モルの水素が反応すれば

W = 2 x 96485 x 1229 x 104 = 2372 KJmol

すなわち2372 KJmol の電気エネルギーが基準状態で取り出せる最大電力

と計算される現在作られている燃料電池の電力は実際上08 volt ほどで

あるしたがって現実的に取り出せる電気エネルギーは 1544 KJmol の仕

事量と計算される「仕事量」という言葉については電気でモーターを回し

なにがしかの「仕事」をするなど思い浮かべれば実感できるだろう

エネルギーと熱力学 これまで述べてきたように電池は化学反応から直接電気エネルギーを取り出

す仕掛けであるダニエル電池では亜鉛と銅が酸化還元反応を起こす過程で

電子を放出するのを利用するまた水素ガスによる燃料電池は気体水素と酸

素を原料とし水が生成されるこの過程が1atm の気体原料を25(29815

K)で1モル反応させて生成物も1atm の液体の水を得るなら次の全反応に

よってすでに計算したとおり2374 KJmol の電気エネルギーが取り出せる

H2 + 12 O2 rarr H2O

圧力と温度がともに反応の過程を通じて一定の場合にその過程から取り出せ

る仕事量は熱力学的に考えることもできる

それはギブス自由エネルギーとして議論される電池で取り出した電気エネ

ルギーすなわち電力はこのギブス自由エネルギーに相当する

次に化学反応をこの熱力学の面から考えてみよう

エネルギー保存則

水素ガスを使う燃料電池のように独立した一つの仕掛けを考えこれを「系」

と呼ぶことにする系を考えるとき電池のように具体的なものを持って考え

るのが容易いのでそうすることが多い熱力学では自然界全体をあつかうので

しばしば概念的になり非現実的な記述が行われるが系の大きさや系を構成

する分子の大きさについて特定する必要はない

系におけるエネルギーを内部エネルギー熱エネルギー力学的エネルギー

の3つの要素からなると考えるこれらのエネルギーを考えるとき系の熱力

21

学的なパラメーター(変数)が必要となる熱力学的な状態はこれらのパラ

メーターのうちのいくつかを指定すれば決定される

熱力学的なパラメーターは2つに分類される

示量パラメーター(示量性変数)

系の大きさや構成する物質の量を示す体積や質量

示強パラメーター(示強性変数)

系の大きさに依存しない系における1つの点で決まった値で与え

られる圧力や温度密度など

いくつかのパラメーターで完全に決定できる状態を関数で表現することがで

きる場合があるそのような関数を熱力学的な状態関数(rarr補遺 p60)と呼ぶ

関数で状態の変化を表すことができれば数学的に取り扱うことができいろ

いろの面で便利である

一つの系についてその状態を知ろうとするとき系が熱力学的な平衡状態に

あると議論する上で都合がよい

熱力学的な平衡状態とは系を外部と独立させ長時間放置した後に達成され

る状態をいうこのとき系の状態をその外部のパラメーターで表現できる

たとえば電池を独立した系と考えるとき平衡状態に達した電極電圧を外部

においた電圧計で測定することができる

ある系を考えるとき前提としてその系はエネルギーを保有していると考える

系が独立してそこに存在するということで持っているエネルギーであるこれ

を内部エネルギーと呼ぶ系がある過程を経て状態を変えるとき系から系の

外部へ力学的な仕事をする場合には力学的エネルギーの出入りがあると考え

るまた系に熱が出入りする場合が考えられそれを熱エネルギーの出入り

と考えることにしよう

まず力学的エネルギーについて考えることにする

いま系が状態を変えその体積が増えれば系のlsquo壁rsquoがその系に接している

「外部」へ力学的な仕事をすることになる

このように系が膨張し壁が外部に向かって押し出されると考えたとき膨張

する過程における圧力を一定でpとし系が膨張した体積をΔV(膨張した分だ

けの体積増加量)とするなら系の仕事量ΔWは両者の積で表されるΔは変

化量を表すときにつける記号と決めておこう

22

ΔW = pΔV (20)

系の体積が凝縮する場合があるので仕事を記号で表す場合には注意するも

し系に接した「外部」から系に力が加わって体積を小さくしたならΔVは

マイナスとなるのでΔWもマイナスで表される

-ΔW = -pΔV (20prime)

今考えている系を「系 A」と呼びその内部エネルギーを UA外部の系を「系

B」と呼んでその内部エネルギーを UBと表すなら二つ合わせた全体の内部

エネルギーは両者の和で表すことができる

U = UA+UB (21)

この体積変化に必要なエネルギー変化量はどこから得られたかを考えれば

その変化があった「系 A」と外部の「系 B」のいずれかあるいは双方の内部エネ

ルギー変化分でまかなわれたと考えざるを得ない(図8参照)

そこでこのエネルギーの収支関係は変化分を表す記号に先と同様Δを用い

ることにすると次式のようになる

-ΔU =ΔW (22)

すなわち観察している「系 A」のエネルギーと外部の「系 B」のエネルギー

を合わせた総エネルギーを見てその微少な減少量minus ΔU が仕事をなすために

必要であったエネルギー量と考えてみることにする

ついでこの体積の変化が「系 A」に接する外部のlsquo熱rsquoによって起きたも

のと考えてみようすなわち外部の「系 B」が系 Aより高温で「系 B」によ

って系 Aが暖められたことになる

このとき移動したエネルギーを「熱量」と定義する

23

図8熱量の移動と系が外部にする仕事

「熱量」を記号Qで表すと外部の「系 B」が失ったエネルギーminus ΔUB で

ありこれが熱量であるから式で表せば次式のように書くことができる

-ΔUB = Q (23)

ここで「系 A」とそれに接する「外部 B」両方のエネルギーを合わせた総エ

ネルギーの変化量ΔUは式(22)で与えられていた

-ΔU =ΔW (22)

-ΔU =-(ΔUA+ΔUB) であるから

minus ΔUAminus ΔUB=ΔW (24)

これに式(23)を当てはめてΔUAで整理すれば

24

ΔUA= Q-ΔW (25)

この式(25)は「エネルギー保存則」あるいは「熱力学の第一法則」を数

学的に表現したものである

すなわち

独立した系を考えその状態が変化するとき系の内部エネルギーの変化量はその系に入る熱量と系が外部にした仕事との差である

式(25)にはまた重要な主張があるつまりエネルギー保存則にしたが

うとき熱量は力学的エネルギーにまた力学的エネルギーは熱量に変換しう

ることを意味している

熱量を表す単位はカロリー(cal)を用いる1cal は

1 cal = 4184 J

と換算されるジュールは 1J = 1Nm (ニュートンメートル)で仕事量を

表現する単位系で表される

エンタルピー

式(25)から定圧過程で式(20prime)を利用して次の式(26)が誘導さ

れる

Q =ΔUA+pΔV (26)

ここでQは熱量を表していたのでこの関係式(26)から熱関数として

新しい関数を定義する

新しい関数はエンタルピー(enthalpy)(rarr補遺 p63)と呼ばれ次の関数

式Hで表される

H = U+PV (27)

エンタルピーの微少変化量を記号Δを使って表現してみよう

25

ΔH = ΔU +Δ(PV) =ΔU +ΔPV+ PΔV (28)

独立した系で圧力が一定の下に起きる過程を考えるならΔP = 0 (圧力の

変化はゼロ)であるから式(28)は次のようになる

ΔH =ΔU + PΔV (29)

化学反応の過程を考えるとき系に容積の変化がなく過程の前後で一定であ

るならさらにΔV = 0 であるのでエンタルピーの変化量は

ΔH =ΔU (30)

また系の仕事を体積の変化としてみる式(20)から

ΔW = pΔV= 0

であるのでこれを式(25)へ適応すると

ΔU= Q minus ΔW = Q ΔW= 0 だから

結果的に系の圧力と体積が変化の過程で一定である場合にはその系のエンタ

ルピーの変化を表す式(29)(30)は次のように簡単な式になって熱関

数と呼ばれる意味が理解しやすいだろう

ΔH = Q (31)

独立した系に等圧等積で起きる過程を見る場合にはエンタルピーは系が外

部と交換する熱量の直接的な尺度となる

H>0 なら反応に熱を使うので吸熱反応

H<0 なら発熱反応

電池のように系に起きる化学反応で生じる電子の流れを取り出す装置を考え

る場合エンタルピーの変化を電気エネルギーとして取りだしている点に留意

26

しなければならない式(31)のようにエンタルピー変化が交換される熱

量に直接表現できるといっても必ずしも熱として取り出すとは限らないこと

を注意しよう

ところでエンタルピーは内部エネルギーと同じ次元にある状態量で定圧

変化の熱量がエンタルピー変化であるからある一点を標準として定めれば

すべての物質について任意の点のエンタルピーを変化量として定めることがで

きるすなわち化学反応の過程で発熱あるいは吸熱する熱量は反応材料と

生成物の間の状態変化に対応するエンタルピーに対応する

そこで一つの元素に対してもっとも安定な状態にある物質を標準物質とし

て定め29815K(25)1atm を標準状態としてその標準物質からある化

合物を合成するときの反応熱(発熱あるいは吸熱)をその化合物の「標準生成

エンタルピー」として定義できる多くの元素に対して標準生成エンタルピー

は現在表としてまとめられている

水素や酸素はその気体状態が標準物質でありそれらの標準生成エンタルピー

がゼロと定義される

エントロピー

もう一つ新しい状態関数としてエントロピー(entropy)(rarr補遺 p64)を

定義するエントロピーを表す記号は通常S を用いその定義は次の式(32)

による

S Q

T (32)

エントロピーは系の2つの状態が決まると状態量として決まる

このときQ は2つの状態の間を可逆的に変化したとき系が受け取る熱量

T は系が熱量 Q を受け取ったときの温度(degK)である

「熱力学の第二法則」はエントロピーに関するものである

図9では2つの系が接しておりそれぞれの温度を Thigh Tlowとする

Thigh>Tlow (33)

27

今温度の高い系から温度の低い系に直接熱量 Q が移動したとすれば温度

の高い系のエントロピーの変化量ΔS は熱量が失われるので負の値になる

図9熱の移動

そこで温度の高い系のエントロピーの変化量ΔS を式で表すことにすると

次式のようになる

Shigh Q

Thigh

(34)

一方低い系のエントロピー変化量ΔS は熱量が与えられるため

Slow Q

Tlow

(35)

両方の系を合わせたエントロピーの変化量ΔS は

S Shigh Slow Q

Thigh

Q

Tlow

lowhigh

lowhigh

lowhigh TT

TTQ

TTQ

11 (36)

式(36)の最終項で(33)を前提すなわち最初に温度の高い系は高い

と決めたのだとするならエントロピーの変化量ΔS は必ず次のようになる

28

ΔS >0 (37)

すなわち独立した系がありそれより温度の低い別の系あるいは温度の低

い外界が接した場合熱量は高い方から低い方へ移動するという自然の成り行

きを説明するものである

自然界に置いてエントロピーは

ΔS≧0

の値を取りΔS=0のときは可逆的過程である

今の例でいうなら熱は温度の高い系から低い系へ移動しその逆は起きない

常にΔS >0の方向に過程が進行するまた2つの系が同じ温度であるとき

両者は平衡状態にあって熱量の移動は見かけ上なくΔS=0と表現される

「熱力学の第二法則」はエントロピーによって表現されるもので系の変化が

可逆的であるかどうかを判定する指標であり現実の世界で起きる不可逆過程

が正の値を取る方向へ進むことを示す

あるいは系の変化が起きるとき外界を含めて考えれば総エントロピーが

増大する方向に変化が起きることを意味するというようにも表現される

ギブス自由エネルギー

熱力学の第一法則によってエネルギーの取りうる形である「仕事」と「熱」

は互いに変換されうることを理解したこのことの数量的な意味は1cal=418J

で示されるさらに仕事は100熱に変換可能であるが一方の熱はうま

くやっても100を仕事に換えることができないことを熱力学の第二法則で

説明しようとしたそのためにエントロピーという概念が導入された

ここで電池のような独立した一つの系を見るとき系の内部エネルギーの減

少を仕事として取り出しうるならそれは化学反応を一つの例としてどれほど

の仕事量が取り出せるのかはどうしたら与えられるだろうか

化学反応を電気エネルギーに換える電池では先に正負それぞれの電極におけ

る半反応の平衡電位の値を利用してその起電力に対する最大値を計算した

この化学反応から取り出しうる最大仕事量を与えるものとして新しくギブス

自由エネルギー(rarr補遺 p70)と名付け記号 G を使ってそれを次のように

定義する

29

G = H-TS (38)

H はエンタルピーである第2項にある S はエントロピーを表す

ギブス自由エネルギーは化学反応のような独立した系の定温定圧過程に適

応されるので変化量ΔG を式(38)から得ておこう

ΔG =ΔH-Δ(TS)

=ΔH-(SΔT+TΔS)

温度を一定と考えているのでΔT=0 であるから

ΔG =ΔH-TΔS (39)

この式(39)を書き換える

ΔH=ΔG + TΔS (39rsquo)

ここで定圧過程ではエンタルピーを次のように式(29)で定義できた

ΔH =ΔU + PΔV (29)

式(29)の意味するところを復習すれば

系のエンタルピー変化ΔH は内部エネルギーの変化量と系が外部に

した仕事量の和として表される

これは

定圧過程で系が得るエネルギー量から仕事量を除いたもの

と言い換えることができるエンタルピー変化量は化学反応などの過程で

始めと終わりの2つの状態の差であるからそれが正の値を示す(>0)なら

系のエンタルピーは増加することを意味しその過程が進行するためには系

の外部からエネルギーが供給されなければならない

一方式(39rsquo)の右辺第2項TΔS はエントロピーの定義(32)より

TΔS = Q (40)

であるのでこれは可逆過程で系に供給される熱量を意味する

30

もしエンタルピー変化量が負の値を示す(<0)ならば系のエンタルピー

は減少しその過程が進行することによってエネルギーが取り出せるすなわ

ち式(39)(40)から次のようにこれら3つの状態量を改めて説明する

ことができる

ある化学反応が定圧で可逆的に進行するときそれから取り出せる

エネルギーのうちΔG を仕事として放出し熱量 Q を放出する

標準状態29815K(25)1atm で標準物質からある化合物を合成すると

きの反応熱(発熱あるいは吸熱)をその化合物の「標準生成エンタルピー」

として定義した同様にある物質に対する「標準生成ギブス自由エネルギー」

はこの標準状態で標準物質からその化合物を化学反応で生成するとき式(3

9)によって与えられる変化量をいう

電池における化学反応のギブス自由エネルギー

先にダニエル電池の亜鉛板側に対する電極反応を検討したとき電極反応が

仕事として放出するエネルギーを表現する重要な式があった次の式(17)

である

W = n FV (17)

ギブス自由エネルギーを用いて今これは次のように書くことができるように

なった

W = n FV=-ΔG (41)

この式が表していることを実際に水素の燃料とする燃料電池の反応過程で見

てみよう燃料電池の図を再掲する

図中右にある陰極では水素の酸化反応が起きる

H2 rarr 2H+ + 2e- (5)

一方図では左にある陽極において次の還元反応が起きる

12 O2 + 2e- rarr O2- (6)

O2- + 2H+ rarr H2O (8)

全体の反応はすでに示したように次の反応式(7)で示される

H2 +12 O2rarr H2O (7)

31

標準状態における可逆的仕事は式(41)であらわせ

n FV=-ΔG (41rsquo)

このΔG は式(39)であらわせた

ΔG =ΔH-TΔS (39)

すなわち標準状態29815K(25)1atmにおいてある化合物を標準物

質から合成するときの標準生成ギブス自由エネルギー変化ΔG゜は標準生成エ

ンタルピー変化ΔH゜とその温度におけるエントロピー変化TΔSの差で求ま

るこれらは燃料電池の全反応を表す式(7)で与えられる

標準生成エンタルピーΔH゜変化とエントロピー変化はすでに一般的な元

素やその化合物に対して表が作成されている

液体の水に対する標準生成エンタルピーΔH゜(H2O)は

ΔH゜(H2O)=minus 28583 KJmol

また水素ガスと酸素ガスはそれぞれの元素の標準物質であるので生成エ

ンタルピー変化はゼロである

32

そこで式(7)での水を1モル化学合成するときの標準生成エンタルピーΔ

H゜は水素(ガス1モル)と酸素(ガス12 モル)の2つの材料と水(液

体251atm)の両状態における状態量の差として表される

ΔH゜=ΔH゜(H2O)-ΔH゜(H2) -12ΔH゜(O2) (42)

式(42)の右辺第2項と第3項がゼロであるので

ΔH゜=ΔH゜(H2O) =-28583 KJmol (43)

標準状態29815K(25)1atm における水素(ガス)と酸素(ガス)お

よび水(液体)のエントロピーはそれぞれ

ΔS(H2O)=6991 JKmol

ΔS(H2) =13068 JKmol

ΔS(O2) =20514 JKmol

単位で分母のKはケルビン温度の意味

と計算されているので

ΔS=ΔS(H2O)-ΔS (H2) -12ΔS(O2) (44)

=6991-13068-12times20514

=-16334 JKmol

したがって

TΔS=29815times(-16334)=-486998=-4870 KJmol

(45)

そこで標準生成ギブス自由エネルギーΔG゜は式(39)から

-ΔG゜=-(ΔH゜-TΔS) (39)

=-{-28583-(-4870)}

=+23713 KJmol

33

すなわちこのエネルギーを電気エネルギーとして取り出すことができるそ

の起電力は式(41rsquo)から

n FV=-ΔG (41rsquo)

V= -ΔG(n F)

各数値を当てはめれば

V=237130(2times96485)

=1229 volt

先に【化学反応と電気エネルギー】のところで記したとおり25の基準

状態におけるこの電極電位はE゜=+1229 volt が得られているすなわち

こうして標準生成ギブス自由エネルギーから計算することでも同じ値を得る

ことができた

水素を単純に酸素と化合させる燃焼では式(43)で示されるエンタルピ

ーが発生する熱量を示している水素1モルあたり28583 KJである電池

にすれば水素1モルあたり23713 KJの仕事量が電気エネルギーとして取り

出すことができるその差は電池の場合熱が発生して利用できない

化学反応の過程を利用して化学エネルギーから直接電気エネルギーに変換す

るのが電池という装置であるが化学エネルギーは100電気エネルギ

ーに換えることはできないこのようにエネルギーの一部は電池の熱として

発散してしまう

理想気体の状態方程式

ギブス自由エネルギーΔG を定義した式(39)とエンタルピーΔH の定義

式(28)から

ΔG =ΔH-TΔS (39)

ΔH =ΔU +VΔP+ PΔV (28)

そこで次式が得られる

34

ΔG =ΔU+VΔP+ PΔV-TΔS (46)

またエネルギー保存則から得られた式(26)を応用すればギブス自由エ

ネルギーが変形できる

Q =ΔU+PΔV (26)

から

ΔU=Q-PΔV (47)

したがって式(46)は

ΔG = Q-PΔV+VΔP+ PΔV-TΔS

ΔG = Q-TΔS+VΔP (48)

エントロピーの定義からQ=TΔSであるから結局式(48)は

ΔG = VΔP (49)

と表すことができる

成分が混合された気体分子の分子間に働く力をゼロと仮定した「理想気体」を

考えるとき状態方程式としてボイルシャルル(Boyle-Charles)の法則が

利用できる

PV=nRT (50)

ここでnは気体のモル数PVT はそれぞれこれまでと同じ圧力体積温度(ケルビン温度)でありR は気体定数と呼ばれるもので次の値を持

R= 831441 JmolK (51) 単位で分母のKはケルビン温度の意味

35

状態方程式から式(49)の右辺を導くことを考えてみよう式(50)は

1モルの気体について V に対し次のように変形することができる

V 1

PRT (50rsquo)

両辺に圧力の微小変化量⊿P をかけると

PP

RTP V (52)

これを微分方程式として圧力p0 からp1 まで(p0≦p1)積分するなら

1

0

1

0

1

0

1p

p

p

p

p

pdP

PRTdP

P

RTdPV (53)

関数 f(x)=1x を積分したときの関数はF(x)=ln(x)であるので(ln は e を底

とする自然対数loge)

右辺=0

1ln)0ln()1ln(p

pRTpRTpRT (54)

ギブス自由エネルギーを表す式(49)は次のようであったから

ΔG = VΔP (49)

式(52)から得た式(54)を当てはめると状態G0(p0T)からG1(p1T)

へ変化する過程で圧力が p0 から p1 まで変化するものとして

dGG0

G1

G( p1T ) G(p0T ) RT lnp1

p0 (55)

あるいはこれを書き直して

V

36

G(p1 T) = G( p0T ) + RT lnp1p0

(56)

特別にG0(p0T)を標準状態T=29815K(25)p0=1atmに指定する

なら標準生成ギブス自由エネルギーを記号G゜として (56rsquo)

と表すことができる

式(56rsquo)の意味するところは標準状態から圧力の変化を伴う過程で理

G(p1 T) = Go + RT ln p1

想気体のギブス自由エネルギーは圧力の対数に比例して上昇することである

このことはさらに新しい着想を生む

すなわち水素を燃料とする上の燃料電池で1atm 標準状態の水素ガスの圧力

を2atm に上げれば式(56rsquo)からRTln2 余分にギブス自由エネルギー

が取り出せることになる

燃料電池において起電力を生むエネルギーは隔壁を水素イオンもしくは酸

素イオンが浸透しようとする力であるので1atm の水素ガスと2atm のそれで

は浸透しようとする圧力が異なりここに起電力が生じる

式(56)の第二項が圧力の差による仕事であるからこれをΔG とすれば

W=-ΔG の仕事量が電気エネルギーとして取り出せるはずである

W = minusΔG = minusRT lnp1p0

(57)

起電力に換算するために式(41)を使うと

W = n FV=minus ΔG (41)

から

01ln

pp

nFRTV ⎟

⎠⎞

⎜⎝⎛minus= (58)

この式(58)は一般にネルンスト(Nernst)の式と呼ばれる

37

理想溶液のギブス自由エネルギー

理想気体を想定したように無限に希釈された混合溶液に対して理想溶液を仮

定する「系」の圧力温度を一定に保つならば体積内部エネルギーエンタ

ルピーギブス自由エネルギーなどの示量数は混合溶液を構成する物質のモ

ル数mに比例するたとえば標準状態にある物質の1モルの体積をVとすれば

mモルの体積はそのm倍mVであるそうすると溶液中のi番目の成分がmi

モル「系」から「外界」に仕事をするときその成分iの持つ自由エネルギーの

mi倍の仕事が「外界」になされると考えればよい

この溶液成分のモル数と化学的仕事を結びつける示強因子がギブスによって

化学ポテンシャルと名付けられ一般に記号μが用いられる

化学ポテンシャルはこれまで見たようにギブス自由エネルギーで表される

また電位がψ(プサイ)にある系から-Δeの電荷が放出されるときには

-ψΔeの電気的仕事が得られるそこで記号μに両者を合わせた意味を持

たせて「電気化学ポテンシャル」と呼ぶ

概念の上で物質は電気化学ポテンシャルの高い方から低い方へ勾配にした

がって移動する

理想気体の標準状態が気体分圧を T=29815K(25)で 1atm としたのに対

し溶液成分の標準状態はその分圧に相当するモル数 m を用いるすなわち

標準状態にある成分 i の電気化学ポテンシャルμ0iは成分の持つ電荷(H+なら

1)を n として

μ0i = G i゜+nFψ i (59)

ギブス自由エネルギーは式(56rsquo)を借り理想溶液中の成分に対しては気

体圧力をその成分のモル濃度Cに書き換えればよいそこで

G(CT ) G RT lnC (60)

と表すことができる

したがって一般的な成分 i の電気化学ポテンシャルμiを表す式は標準状態

からの自由エネルギーの変化を考え式(59)と合わせて次のようになる

38

ψnFGii 0

式(60)から

ii CRTGTCGG ln)( 0

よって

(61) ψnFCRT iii ln0

実際的なことを考えると成分濃度はその有効イオン濃度とする必要があり

「活量係数」γを導入して次式で表されるイオン活量aを用いる

ai = γCi (62)

一般的にはγ=1と近似してモル濃度Cを使っているこのテキストでも

必要ではない限りイオン活量を用いることを省略して簡単に記述したい

膜電位

燃料電池に使われたナフィオンのような一つのイオンを通す膜を介して膜

の両側にC0 とC1 のイオン濃度差がある溶液が接するときの電気化学ポテン

シャルを考えよう

ある容器の底にナフィオン膜を取り付け容器の中と外のイオン濃度をC0

とC1としそれぞれの電気化学ポテンシャルをそれぞれμinとμoutとする

式(61)を使って

容器の中の電気化学ポテンシャル

(63) innFCRTin ψ 00 ln

容器の外の電気化学ポテンシャル

(64) outout nFCRT ψ 10 ln

イオン浸透性の膜を介して濃度変化が無視できるほどの移動があると考え

その電気化学ポテンシャルの差を式(63)(64)から求めれば

39

)(ln0

1 inoutinout nFC

CRT ψψ (65)

この系において今注目しているイオンが膜を介した両側で平衡状態にある

とき式(65)はΔμ=0と考えることができるすなわち

0)(ln0

1 inoutnFC

CRT ψψ

膜内外の電位差をΔψ=ψoutminus ψinとすれば

1

0

0

1 lnlnC

C

nF

RT

C

C

nF

RTψ (66)

式(66)は理想気体に対するネルンストの式(58)と同様溶液中のイ

オンに対するネルンスト(Nernst)の式として与えられる

細胞の膜においてもその生体膜の内外でたとえばカリウムイオンのように

非対称に分布して平衡に達している場合には式(66)で与えられる膜内外

で電位差が生じるこれは一般に膜電位と呼ばれる膜電位は平衡電位とも

呼ばれる

たとえば膜内外に1価のカリウムイオンに10倍の濃度差があるとすると

通常カリウムイオンは細胞内の濃度が高いので

C0 = 10timesC1

であるから

これを式(66)に当てはめてln(10)=2303 を用いlog への変換をすれば

Δψ=2303times(RTF)timeslog(10)

であるこれに R=831441 JmolKF=96485 CmolT=29815 K(25)

の各数値を当てはめると

Δψ=2303times831441times29815times196485 JC

=+005917 volt

すなわち膜の内外で約+60ミリボルトの膜電位が生じることになるこの

分だけ細胞の外側の電気化学ポテンシャルが高く膜の内側の膜電位が負であ

るそして膜にあるカリウムチャネルがこの電位を示すとき受動的なカリ

40

ウムの膜内外の移動は平衡に達することになる

水素イオン濃度測定

「標準水素電極」は1モル塩酸溶液につけた白金電極に1atm の水素ガスを

吹き込んで平衡状態に達したときの電位を基準としてゼロボルトと規定した

そこである溶液についてその水素イオン濃度を知ろうとするとき同じ水

素電極を用いることを考えれば標準状態にする目的で用いた1モル塩酸溶液

を濃度未知で X モルの塩酸溶液と想定すればその水素イオン濃度を知るこ

とができるだろうか

標準状態ではない X モルの塩酸溶液に浸けた白金電極が半電池として働くこ

とは間違いなさそうであるしかしその白金電極が持つ電極電位を測定する

にはいずれにしても標準電極と組み合わせて「電池」を構成しその電池

の起電力として計る必要がある電池を作れば起電力を知ることができ相

手の半電池の電極電位が知られていれば濃度が未知でXモルの溶液について

その水素イオン濃度を知ることができるだろう

こうした目的のためにいちいちゼロボルトと規定した標準水素電極を用いる

のは煩雑なのでしばしば後出の「銀塩化銀電極」が参照電極として用いら

れる

まず予め「銀塩化銀電極」を標準水素電極と組み合わせて電池とし一度

その起電力を測定しておけば後はいつもそれを標準電極として利用できる

「銀塩化銀電極」の半電池は

H+ (1 moll) Cl- | AgCl | Ag(s)

これに「標準水素電極」を組み合わせ電池を構成すると次のような電池

になる

Pt(s) | H2(g) | H+ (1 moll) Cl- | AgCl | Ag(s)

この電池の起電力を知れば「銀塩化銀電極」の半電池としての電極電位

を知ることができ参照電極として未知の半電池と組み合わせて起電力を測

定して相手の電極電位を計算できる

41

濃度 X モルの塩酸溶液を未知の溶液と想定すればその電極電位を知るために

組み立てる電池は次のようになる図10にその電池の図を示した

Pt(s) | H2(g) | H+ (x moll) Cl- | AgCl | Ag(s)

この電池の全反応は次の反応式で表される

AgCl(s) 1

2H2 (g) H Cl Ag(s) (67)

図10未知溶液の水素イオン濃度を測定しようとするための電池

化学反応の一般的な式

ここで電池に利用される化学反応から得られるエネルギーをギブス自由エ

ネルギーに換算し起電力を具体的に知る手だてとすることは上ですでに学

42

んだがより一般的な式を再度ここに書きだしておこう

化学反応が紙面で左から右に進む反応として次のような一般式で与えられ

るとき

aA + bB rarr cC + dD (68)

ギブス自由エネルギー変化量は標準状態ΔG゜からの変化量を加える形で式

(60)と同様次の式によって表される

G G RT(ln aCc aD

d ln aAa aB

b )

G RT ln

aCc aD

d

aAa aB

b (69)

aAは成分 A のイオン活量であるその他の成分も同じ

得られたエネルギーを電気エネルギーに換えるなら式(41)に習って

次式で表せば

ΔG=-n FV

there4V=-ΔG(nF) (70)

このときの起電力は標準状態における電位 E゜からの変化量として次式で与

えられる

E E

RT

nFln

aCc aD

d

aAa aB

b (71)

標準状態における起電力 E゜は反応が平衡状態にあるときで反応平衡定数

を K とするなら

K aC

c aDd

aAa aB

b (72)

で表されるそこでE゜は次のように書き改めることができる

43

E

RT

nFln K (73)

そこで式(67)で表される図10の電池「水素minus 銀塩化銀電池」に

対する起電力をギブス自由エネルギーから求めてみよう

反応から式(71)に当てはめれば

E E RT

Fln

aH

1 aCl

1 aAg1

aAgCl1 aH2

1

2

(74)

力学の慣例にしたがって固体の純物質の活量は1として扱い水素ガスを

想気体として見なして活量を1atm とするなら式(74)は次のよう

に簡略化される

E E

RT

Flna

H aCl (75)

ころで理想溶液として近似的に取り扱うときの希薄溶液でたとえば水素

入して詳細に検討するなら式( れる起電

オン濃度はイオン活量として aH+の記号を使うときすでに【理想溶液のギ

ブス自由エネルギー】の章で述べたようにこれを有効イオン濃度とする必要

がありイオン活量 a は「活量係数」γを導入して次式で表した

a H+= γH+CH+ (62)

この活量係数を導 75)で誘導さ

を計ることによって経験的に試料溶液中の水素イオン濃度を求めることは

困難である式(75)にあるイオン活量の項はモル濃度 C と活量係数γを

用いて次式で書き改められる

lnaH aCl

lnCH CCl

lnH Cl

(76)

まり式(76)右辺の第二項において互いに相手が知られなければ自分

決めることができず結果的に起電力を知っても(75)の値から水素イオ

ン濃度を導けないここに工夫が必要になる

44

の定義とその目盛り

液中の水素イオン濃度を直接意味するものではなく

を定義するとき測定されるのは1リットルの溶媒に存在す

pH = -log a H+ = -log(γH+CH+) (77)

際に試料溶液の pH を決定する際はpH 標準液を用いる

に溶液を入れ試料溶液 X と pH 標準液 S を

参 極を接続し電池を作成しその起

pH

現在pH の定義は溶

で述べたようにそれが簡便に測定できるものではないため次のように定

義されている

水素イオン濃度

水素イオン活量であるため定義式としては活量係数をγH+として次式で与

えられる

その要領は次のようである

上に図示した水素電極の容器内

れぞれ半電池(I)と(II)に入れる

半電池(I) Pt | H2 (1 atm) | 試料溶液

半電池(II) Pt | H2 (1 atm) | 試料溶液S

照電極として上図のごとく銀塩化銀電

電力を測定する半電池(I)のときの起電力を E(X)半電池(II)のそれを E(S)

とするこのとき試料溶液Xの pH は次式で計算される

pH (X) pH(S) E(S) E(X)

RT ln(10) (78)

ln(10)は自然対数を常用対数に戻すための定数で2303 を用いる

標準液

pH 標準液 S はpH 第一次標準液第二次標準液と呼ばれるべき

る測定

25で pH 4005 を示す

pH

上述した

のであり絶対的測定法である起電力の測定によって値をつける

標準液は安定で純粋な結晶が得られる試薬を調整してこれを測定す

上と同様に水素電極を用いこれに緩衝液を入れる参照電極として銀

塩化銀電極を接続して電池の起電力を測定する

たとえば005 moll フタル酸水素カリウム溶液は

一次標準(Primary Standard PS)の一つである半電池(III)として水素

45

電極を次のように準備する

半電池(III) Pt | H2 (1 atm) | PS 溶液

て電池を形成したとき得られる起電

参照電極として銀塩化銀電極を接続し

は式(75)から

E E

Ag AgCl RT

Flna

H aCl (79)

オン活量を濃度と活量係数の積(a H+= γH+CH+)にし自然対数を常用対数

すれば

E E

Ag AgCl RT ln(10)

F log(

H + CH+ Cl- CCl - ) (80)

E゜は水素標準電極(水素ガス分圧を1atm電極を浸ける溶液に001 moll

H

Cl を用いる)で得た起電力である

式(80)から

RT ln(10)

Flog(

H CH Cl

) (E EAg AgCl )

RT ln(10)

Flog C

Cl

(81)

らに

log(

H CH Cl

) F

RT ln(10)(E E

Ag AgCl ) logCCl

(82)

ころで式(77)から

(γH+CH+) (77)

-log a H+ =-loga H+-log(γCl-) +log(γCl-) =-log(a H+γCl-) +log(γCl-)

(83)の一番右の式で第一項は

pH = -log a H+ = -log

であるが右の式をさらに変形すると

(83)

46

-log(a H+γCl-)=-log(γH+ CH+γCl-) (84)

たがって式(82)の右辺で示されるように電池の起電力を測定すれば

よ 実際には溶液の塩素イオン濃

液で起電力を求め外挿する

起電

これによってpH を意味する式(83)は次式(85)で与えられる

p(aHγCl)はRG Bates によって Acidity Function と呼ばれている

らに式(85)最終項の log(γCl-) を補正しなければならないこの項は

本工業規格)によっても

であってこれは式(82)の左辺である

いただし塩素イオン濃度の項があって

をゼロにしたときの値が必要である

実測する際には塩素イオン濃度をゼロにできないので塩化ナトリウム NaCl

等を濃度を変えて添加しその時々の緩衝

勧告ではNaCl で 000500100015moll の3つの濃度を例示している

すなわち塩素イオン濃度ゼロのときの値は各塩素イオン濃度に対して

の値をそれぞれプロットしグラフから塩素イオンがゼロのときの起電力の

値を3点に対する回帰直線の延長で外挿して求めるこの点を次のように書

log( C H H Cl CCl

0

pa log( C log( (85) H H H Cl C

Cl0 Cl

)

素イオンの活動係数で与えられる補正項である

無限希釈溶液中のイオンの活動係数は理論的に Dubye-Huckel の式を用い

近似的に求めることが可能であるこれはJIS(日

用されていて Bates-Guggenheim の規約と呼ばれる (Bates RG

Guggenheim Pure Appl Chem 1 163-168 1960)

Dubye-Huckel の式は次のように与えられる

log A I

i 1 iB I (86)

47

I iについてそのモル濃度

計算される

はイオン強度でイオン mi と電荷 zi から次式で

I 1

2mizi (87)

また iは(86)式のBは温度と溶媒の性質による定数であり イオンの大

きさに関するパラメータで水和イオンの大きさとほぼ一致した値をとる標

準法の勧告では塩素イオンに対しイオンの大きさを46Åと決めてiBを

1

5 にしているそこで式(84)は次のようになる

ClA I

log 1 15 I

イオン強度 I は塩素イオン濃度を含まない計算となる

以上の方法によって実用的な pH 測定に用いられる第一次第二次標準液の

pH の値が得られる

絶対値としての

はpH の絶対測定法(第一次標準測定法)とされている

銀塩化銀参照電極は分極現象を防ぐために棒状の銀を塩酸で処理し表

に塩化銀を生成させたものを飽和塩化カリウム溶液につけてある

(88)

参考現在は実験的に求めた値と理論値の組み合わせで

素イオン濃度を求める方法を規定しているこの起電力から水素イオン濃度

を知るための測定方法

Buck RP Rondinini S Covington AK Baucke FGK Brett CMA Camoes MF

Milton MJT Mussini T Naumann R Pratt Kw Spitzer P Wilson GS

Measurement of pH definition standards and procedures Pure Appl Chem

74(11)2169-2200 2002Kristensen HB Salomon A Kokholm GInternational

pH scales and certification of pH Anal Chem 63(18) 885A-891A 1991)

銀塩化銀参照電極

電極の構成は

Cl-(aq) | AgCl(s) | Ag(s)

48

この半反応は次のようになる

AgCl(s) + e- rarr Ag(s) + Cl- (89)

の反応は次の2つの反応に分けて考えることができる

Ag+ + e- rarr Ag(s) (91)

AgCl(s)rarr Ag+ + Cl- (90)

図11銀塩化銀参照電極

(90)における銀 る塩素イオンによって左

されることが推測される

そこでカッコ [ ] をそれによって囲まれるイオンの濃度を表すことにし

式 イオン Ag+の溶解性は共存す

塩化銀の乖離定数Kを考えると

49

K = [Ag+][Cl-] (92)

これから

[Ag+]= K[Cl-] (93)

化カリウム溶液に漬けた銀塩化銀電極の電位 E は水素標準電極に対する

電 で与えられる

位を E゜として次式

E E

RT

nF

[ Ag ]

[Ag(s)]ln( )

Ag(s)のイオン活量は常に1とする

ここで半反応の電極電位を求めるために式(75)を利用することにすれば

(94)

熱力学の慣例にしたがって純物質個体

E E

RT

Flna

H Cl a (75)

式 の半反応をみると

応で電子1つが移動するので n=1 とするR=831441 JmolK1F = 96485

C はめれば

これに銀イオンの濃度として式(93)を当てはめる

この反応で移動する電子は (89) 銀イオン1つの反

molT=29815K(25)ln(10)=2303などの定数を当て

2303RTF = 005917

であるから(94)式は次のように表現できる

log[Cl]) E E 005917(logK (95)

たがって標準水素電極に対する銀塩化銀参照電極の標準状態における電

位 は半反応(89)に対して ゜=+0799で

化銀の乖離定数 K は182times10-10 であるのでその対数を取れば-973993

0799-005917times973993-005917log[Cl-]

E゜ E ある

ある

そこで式(95)は

E =

50

= 0799-0576-005917log[Cl-]

= 0223-005917log[Cl-] (96)

電極電位の関係について実測値

こうして求めた塩化カリウム溶液の濃度と

計算上の値は次のようである

KCl moll vs SHE volt25 計算値 volt25 01 02881 02822 35 0205 01908 飽和 0199 minus

実用 測定

実際の現場で水素イオン濃度を測定する目的の測定法で上のような2つの

極が同じ溶液に浸かっていたのでは試料溶液を交換するにも便利ではない

の容器に入れる未知試料溶液と銀塩化銀電極を隔離する

的な pH

そこで水素電極側

的で二つの電極容器をつなぐ液絡部をグラスフィルターやセラミック板

飽和塩化カリウムで作成したゼラチンなどの塩橋によって隔離遮断するこ

れを液絡部とよぶ

電池として機能するために必要な溶液イオンの交換はこの液絡部で行う

組み立てる電池は電池式で次のように表される

Pt(s) | H2 | 試料 (H+ x moll) || 飽和 KCl | AgCl | Ag(s)

の標準電極と銀塩化銀電極とは区切られていて溶液の直接の接触がない

とを意味するために電池式ではタテ二重線を用いる銀塩化銀参照電極

の容器には飽和塩化カリウム溶液が入れられる

51

図12液絡部のある pH 測定のための電池

この液絡部のある電池では塩橋を記号lsquo | | rsquoで表して次のように記す

試料 (H+ x moll) | | 飽和 KCl

ここでは試料溶液と飽和塩化カリウム溶液の異なる2液が接している

このような界面では膜電力が生じるのと同様「液間電位差」が生じることが

知られているしたがって上の電池で測定される起電力 E は

E = E[銀塩化銀電極電位]+E[液間電位]+E[水素電極電位]

で与えられることになってE[液間電位]のために図12の電池の起電力

は銀塩化銀参照電極の値を知っていても水素電極容器内に入れた未知溶

液の水素イオン濃度を正しく知ることができない

52

そこで実用的な測定法としてこの E[液間電位]を膜電位として積極的に利

用する方法が工夫されたすなわち水素イオンに感応するガラス薄膜を用い

るガラス電極法である

53

ガラス電極

ガラスはケイ素原子と酸素原子からなる SiO4 の結晶構造を持ち酸素で囲

まれた空隙があって水素イオンがそれを埋めることができる

この性質によってガラス膜表面は水溶液中の水素イオンに応じて膜電位を

変化させるのでこれを水素イオン濃度測定用の電極として利用することが考

えられるこれが通常用いられるガラス電極である

ガラス電極は標準電極と組み合わせれば電池を構成することができこの電

池の起電力を知ってガラス薄膜の内外にできたイオン濃度勾配を知ろうとす

るものである

薄いガラス膜(01mm程度)をはさんで接する2つの溶液のH+イオン濃

度が異なるとその差に応じてガラス膜の両側に電位差(Eg)が現れる

ネルンストの式でガラス電極の内部に入れた既知の濃度のH+([H+]in)に対

し試料中の水素イオン濃度が[H+]sampleのとき次の電位を生じる

)][

][log(059170)

][

][ln(

sample

in

sample

ing

H

H

H

H

F

RTE

(97)

図13ガラス電極

電極を構成するのは銀塩化銀電極と同じ電極で用いる塩溶液は一般的

54

に 01モル塩酸溶液である

この半電池の電池式は次のように書くことができる

Ag(s) | AgCl(s) | HCl (01 M) | ガラス薄膜 || 試料溶液 H+ (x moll)

Eg

この半電池の電極電圧を測定するために銀塩化銀標準電極と組み合わせ

電池を作って起電力を計る

構成される電池は下図のようになる

ガラス電極 銀塩化銀標準電極

図14ガラス電極を用いた pH 測定用の電池

この電池の起電力は次の各半電池の平衡電位を合わせたものになる

55

E1ガラス電極の内側電位

Ag(s) | AgCl(s) | HCl (01 M)

Egガラス薄膜の内外に生じる膜電位

HCl (01 M) | ガラス薄膜 || 試料溶液 H+ (x moll)

E2液間電位(膜電位)銀塩化銀標準電極のセラミックを介した試料溶液

と銀塩化銀標準電極の内部液(飽和 KCl 溶液)の間に発生する電位

試料溶液 H+ (x moll)|| セラミック | KCl(飽和)

E3銀塩化銀標準電極

KCl(飽和)| AgCl(s) | Ag(s)

pH メーター用のガラス電極に使われるガラス薄膜は水素イオンに感応して

膜電位(Eg)を生じるこれは【膜電位】の章で記したように薄膜がある

一つのイオンのみを通過させる特性を持っている場合にイオンが膜を介した

両側で平衡状態に達したとして電気化学ポテンシャルを膜の両側で等しいと

考えてそのイオンが濃厚な側から希薄な側にその差によって圧力を生じると

するものである

一方同じ試料溶液が銀塩化銀標準電極のセラミック液絡部を介して生じ

るだろう液間電位(膜電位E2)はいま関心がある水素イオンに対して特異

的に感応するのではないので試料溶液の水素イオン濃度に関係なく一定と見

なすことができる

すなわちpH メーターを構成する電池の起電力 E は

E = E1+Eg+E2+E3 (98)

このうちEg以外は一定と見なせるので

E1+E2+E3 = E

として式(98)を書き直すと

)][

][log(059170

sample

ing H

HEEEE

(99)

Eは標準液によって校正されるべき標準電極電位である

56

電極の校正

実際のイオン濃度を測定する場合低濃度標準液と高濃度標準液で得られ

る起電力を測定し計測のイオン濃度に対する係数(傾き)を求めておき未

知の試料に対して起電力を測定してそのイオン濃度を算出する方法が採られる

低濃度標準液と高濃度標準液のそれぞれの濃度をCLとCHとすればそれぞ

れの起電力ELとEHは次式で表される EH = E +β logCH (100)

EL = E +β log CL (101)

ただしβは式(99)の係数を簡略にしたものである

式(100)と(101)から検量線の傾きが次式で表せる

ΔE = EH minus EL = β(logCH minus logCL) = β logCH

CL

(102)

したがって係数βは

β =ΔE

log CH

CL

(103)

であらわされる

このときに使われる標準はすでに前出の pH 第一次標準第二次標準溶液で

ある

金属イオンに対応するイオン選択電極

現在臨床検査で日常的に使われている電解質測定のための電極はナトリウ

ムカリウムカルシウムクロールなどおよそ臨床的に必要な金属イオン

に対して入手可能である

カリウムイオン測定用のバリノマイシンの発見によってクラウンエーテルと

57

呼ばれる一連の化合物が知られたクラウンエーテルはその分子の中心に立

体的な空間を持ち特定のイオン径に対し合致するのでそのイオンに対して

選択的に感応するこれらの化合物はイオノフォアと呼ばれる

図 15クラウンエーテル

1つの金属イオンが環状化合物

15-crown-5 の中央にある空間を充填

している模式図

15-crown-5 の構造を作る10個の黒

い丸は炭素炭素2個のつながりごと

にある中心の白い丸は酸素酸素と

金属イオンの間の距離はおよそ 22~

23Åであるカリウムのファンデン

ワールス半径は 135Åイオン半径は

15~16Åである

測定したいイオンに対しポリ塩化ビニル(PVC)を支持体としてイオノフ

ォアを添加した液膜の電極膜を作成しこれをガラス電極におけるガラス薄膜

と同様試料に接する電極膜として用いるこの構造から一般的に液膜型電極

と呼ばれる電極膜には特異性を高めるため妨害イオン排除剤などが添加

される

pH メーターと同様銀塩化銀標準電極と組み合わせ電池を形成しその

起電力を計る測定したいイオンが液膜に対して内外で平衡に達したときの

膜電位を測定するのはガラス電極と同じである

カ リ ウ ム イ オ ン に は Bis[(benzo-15-crown-5) ( 正 式 名 は

Bis[(benzo-15-crown-5)-4-methyl]pimelate)ナトリウムには Bis[(12-crown-4)

やDibenzyl-bis[(12-crown-4)などがイオノフォアとして用いられる

58

図16カリウムイオン測定用に使われるクラウンエーテル

図17ナトリウムイオン測定用に使われるクラウンエーテル

59

参考イオン選択電極に関する文献Xia Z Badr IHA Plummer SL Cullen L

Bachas LG Synthesis and evaluation of a bis(crown ether) ionophore with a

conformationally constained bridge in ione- selective electrodes Anal Sci 14(2)

169-173 1998 Oh K-C Kang EC Cho YL Jeong K-S Y oo E-A Paeng K-J

Potassium-selective PVC membrane electrodes based on newly synthesized

cis- and trans-bis(crown ether)s ibid 14(10)1009-1012 1998 Dojindo WEB

site httpwwwdojindocojpwwwrootproductsjinfo2protocolp31pdf

<補遺> 60

補遺 状態関数 (本文 p21 10 行目参照)

一つの平衡状態にある系 A とこれに接する系 A にとって外部である系 B について系 B

から系 A に熱を与えこれによって系 A が他の平衡状態に移ったとき系 A はその結果とし

て膨張し系 B に対し仕事をする

このときの微少な熱量の移動を記号drsquoQ またなされた微少な仕事をdrsquoW とすると

系Aの内部エネルギーに関する微少な変化drsquoUA は両者の和として表される

WdQdUd A primeminusprime=prime (a-1)

この式 a-1 と本文中の式25との関係について

WQU A Δminus=Δ 本文(25)

<補遺> 61

式 a-1 と式25の記号の違いは変化の起きる前の平衡状態 S1 から変化後の平衡状態 S2

に状態変化があったとするなら式 a-1 を積分することで式25が得られるものと考えて区

別している

A

S

S A UUd Δ=primeint2

1 (a-2)

このことは重要であるすなわち内部エネルギーU は変化の起きる前後の状態を指定する

ことによって値が定まることを意味するこのように積分によって値を定めることが出来る

のでdrsquoU は完全微分であるという

内部エネルギーのように系の状態だけで値の定まる量を状態関数として扱う

一方式 a-1 のdrsquoQ drsquoW についても同様に微少の変化量を表しているが平衡状態 S1

から S2 への経路を指定しなければ積分の値は定まらない

本文中の記号にしたがって仕事量ΔW を次のように表すことにする

VpW Δ=Δ 本文(20) V

<補遺> 62

体積と圧力の関係を表す図を使ってこの仕事量が意味することを考える圧力 prsquo の下で

体積が V1 であるときを状態 S1 として圧力一定の下で体積を V2 まで膨張させるような変

化を行った後体積を等しく保って圧力を p にまで上げたときの状態を S2 とするこのとき

の仕事量は膨張に伴うものであるから図の体積‐圧力線の下の面積で示すことができる

平衡状態 S1 から S2 への変化の道筋を別にたどってみよう

新しい経路では圧力を先に p まで上げた後に膨張変化させている

図から直感的に明らかであるので数式での扱いを省略するが2 つの経路による仕事量には

差がある

すなわちdrsquoW は drsquoU と異なり変化の初め S1 と終わり S2 の状態が与えられても積分値

は定まらず変化の経路によって違ってくる

このように変化の経路を指定しなければ積分値が定まらないものを不完全微分と呼び扱

いを区別する

本文 p21 へ戻る

<補遺> 63

VpW

WQU

VpQU

VpUQ

1122 SSSS pVUpVUQ

pVU

VpUHHHQ SS 12

エンタルピー (本文 p24 20 行目参照)

本文中の式 20 および 25 から一定の圧力の元で起きる状態変化において内部エネルギー

の変化量に対する式 a-3 を得る

本文(20)

本文(25)

(a-3)

式 a-3 を Q について書き直す

(a-4)

状態の変化が平衡状態S1から平衡状態S2に移ったものとして式 a-4を丁寧に書き直すと

(a-5)

並び替えて

(a-6)

式 a-6 を見ると定圧過程における熱量の流入は

(a-7)

の形を持つ関数の差であることが分かる

一般に化学反応のような変化の過程では大気圧の下で行われるようなものに興味がある

そこで式 a-7 で与えられる項を一つの関数として定義するこれをエンタルピーと呼び記

号 H を与える式 a-4 はエンタルピーの変化量で次のように書き改められる

(a-8)

圧力が一定の下で起こる状態変化について流入する熱量は式 a-8 で示されるようにエンタ

ルピーの変化量に等しい

V

V

V

V V

V

V

1212 SSSS VVpUUQ VV

<補遺> 64

1Q

We

また式 a-8 からオートクレーブ内で起こるような体積変化のない過程ではこの値が内

部エネルギーの変化量で与えられることが明らかである

本文 p24 へ戻る

エントロピー (本文 p26 17 行目参照)

エントロピーは次のような思考実験から発想された仮想的な状態関数である

理想気体よりなる系 A が温度 T2で熱平衡状態にあり温度 T1の外部の熱源と接しているこ

とを想定する系 A の外部を系 B と呼ぶことにするT1は T2に対して無限小だけ高い温度と

する

系 A が系 B に対して温度圧力について平衡を保ちながら緩慢に系 B より熱量 Q1を受け取

る過程を考える(このような過程を準静的過程と呼ぶ)これによって系 A が熱量 Q1を得て膨

張するとき系 B に対して仕事をする続いて系 A から熱量 Q2が系 B に戻ることを考える

想定されるこの変化が可逆的であれば系 A と系 B を併せた全体は元の状態に戻る蒸気機

関に関するこのような研究が Nicolas Carnot によってなされたのは1824 年のことであった

ここに想定されたサイクルに対する Carnot の効率 e は移動した熱量となされた仕事によ

って定義され次の式で表される

(b-1)

<補遺> 65

理想気体では内部エネルギーU の変化ΔU はゼロと考えるしたがって熱力学の第一法

則を表す式(本文中の式25)から次の関係が示される

0=Δminus=Δ WQU

WQ Δ= (b-2)

これによってCarnot Cycleの効率eはQ2lt0 として次のように書き改めることが出来る

1

21

QQQe +

= (b-3)

ところで気体の状態方程式から1 モルの気体について次のような関係が示される

RTV

P

P1=

V = RTV (b-4)

V 式 b-4 の両辺に体積の微少変化量ΔV をかけて

(b-5)

これを体積Vについてその変化をV1からV2までとして積分するならば次式が得られる

VV

RTVP Δ=Δ 1V V

V

intint = 2

1

2

1

1V

V

V

VdV

VRTPdV

1V2V

11 lnRTW =

(b-6)

Q1の熱量によって起こる膨張がV1よりV2までとし圧力P温度T1の下でなされるその仕事

量をW1とするならそれは式b-6 の右辺によって示されるすなわち

(b-7)

VV

1

2lnVVRT=

V V

VV

V

V2int V2 intV1 V1

<補遺> 66

またQ2の熱量の移動が圧力P温度T2の下で起きこれによって系Aが可逆的に圧縮され

るなら体積変化はV2よりV1まで起こりその仕事量をW2で示すと次式のように表される

(b-8)

1

22

2

122 lnln

VVRT

VVRTW minus==VV

VV

Q1=W1Q2=W2の関係から式b-7 およびb-8 を用いてCarnot Cycleの効率eを表す式b-3

を書き改めると温度のみの関係式として次のように表される

1

21

TTTe minus

= (b-9)

ここでサイクルが可逆的過程であると想定するならば式 b-3 と式 b-9 から

1

21

1

21

TTT

QQQe minus

=+

= (b-10)

これから

12112111 QTQTQTQT minus=+ (b-11)

整理すると

02

2

1

1 =+TQ

TQ (b-12)

この考えをさらに発展させ系A

と系Bの間に数多くの系を挿入すること

にしてそれらの系を同様に熱源として

T1T2Tnと考えるこれによっ

て熱の受け渡しが系Aから系Bに至り

再び系Aにもどるサイクル過程に数多

くの寄り道の過程を加えることになる

熱量の移動に関して上の場合と同じく

準静的過程で行われると考えるこの

サイクル全過程について初めと終わ

<補遺> 67

n

i i

i

T

Q

1

0

0T

dQ

T

QS

T

dQASAS )()( 12

りが同じ状態になる可逆的な過程であるなら式 b-12 を拡大的に考えることになってそれ

は次式で表される

(b-13)

式 b-13 には重要な関数が現れるすなわち熱量と温度の比QT である

もし一つの系が無限小だけ温度の高い(dT )外界から温度圧力など平衡を保ちなが

ら極めて緩慢な過程(準静的過程)で無限小の熱量(dQ )を受け取るならばその変化は可

逆的でありdT について連続的な温度分布をする過程を考えるとき式 b-13 をさらに発展

させて次のように積分式で示すことが出来る

(b-14)

式 b-14 で積分記号にが付されているのはCarnot Cycle のような経路を一巡することを

意味している

Carnot の熱機関の効率という着想から生まれた熱量とそれを持つ系の温度との比 QT に

重要な意味を見出したのは Rudolph Clausius で彼はこの比にエントロピーという名前を与

えたエントロピーには記号ΔS を一般に用いる

(b-15)

エントロピーは初めと終わりの状態がわかれば過程に関わらず定まるので状態関数であ

系 A と外界のエントロピー変化を考えるときそれが可逆的過程であるならばすべてを併

せた全体のエントロピー変化は初めと終わりに変化がないという意味でゼロであるすなわ

ち初めの状態を S(A1)とし次の状態を S(A2)とするならそれぞれのエントロピーを

ΔS(A1)ΔS(A2)としてこの間におけるエントロピーの変化量は次のように示される

(b-16)

<補遺> 68

T

dQdS

0T

dQ

ある一つの変化については次のように示される

(b-17)

ここで式 b-17 の S に付けられたdは微分量すなわちごく微小の変化量を意味し式 b-15

で定義されたエントロピーに用いられる一般的な記号Δと区別する

ところで式 b-10 の関係においてもし移動した熱量のすべてが仕事に変わらなければ

効率 e を表す熱量を用いた関係式と温度で表される関係式は等号で結ぶことができないそれ

はエネルギーのロスを意味し初めと終わりの状態が異なってしまうことを意味するすなわ

ち全過程が構成する一つのサイクルは可逆的でなくなる

不可逆過程での熱効率 ersquo は 大値を示す可逆的過程の熱効率 e より小さな値をとる

ee

したがって 大効率を与える式 b-8 と式 b-3 から

01221

2112

1

21

1

21

QTQT

QTQT

Q

QQ

T

TT

両辺を T1T2で割ると

02

2

1

1 T

Q

T

Q

これを式 b12 と同様に発展させれば式 b-14 についてサイクルの変化が可逆的過程の

場合と不可逆的過程の場合の両方を併せClausius の不等式と呼ばれる次の関係が成立する

(b-18)

式 b-18 の等号が成立するのはサイクルが可逆的な理想の場合に限られる

ある孤立系で状態 A1 から状態 A2 へは不可逆変化で進められ状態 A2 から再び状態 A1

に戻るとき可逆変化であるような閉じた状態変化を考える可逆系のエントロピー変化には

記号 Q を使い不可逆変化には Q を用いるとするとそれぞれ積分式を用いて状態 A1 から

状態 A2 へは

<補遺> 69

d prime

状態 A2 から状態 A1 に戻るときは

全体では

=d prime

+d

(b-19)

Clausius の不等式から

0

式(b-19)の第二項で反応を逆に進めるときには次のように書き改めることができる

=d

よって式(b-19)は次のように書き直すことができClausius の不等式とあわせると

d prime d

0

すなわち

d prime d

上式の右辺は式(b-16)を用いて表せば

d prime

∆S ∆

この状態変化を微小変化とするならば断熱変化の場合 dQ = 0 であるから

∆S ∆ dS 0

すなわち不可逆変化を含む断熱変化ではエントロピーは必ず増大する

<補遺> 70

T

QS

BA SSS

(b-20)

(次の<補遺>ギブス自由エネルギーも参照せよ)

本文 p26 へ戻る

ギブス自由エネルギー (本文 p28 27 行目参照)

エントロピーの考えを導入することによって不可逆的に状態変化が起きるときにはエン

トロピーの増大を引き起こすことを知ったこれによって目前で起きる現象について温度の

変化があるものであれないものであれまた圧力の変化があるものであってもエントロピー

の定義式によって可逆的な変化におけるエントロピーの変化量を計算することが可能である

(b-15)

しかしながらこれから起こる変化について我々がすでにあらかじめ知っている物理量を

用いて予測的にその状態変化が起きるかどうか知ることは必ずしも容易ではないその理由

は式 b-15 に示されたエントロピーΔS が系とその外界をあわせた全体のエントロピーを示

しているからであるすなわち関心のある系を系 A としその外界を系 B とすると全体

のエントロピーは次のように表せる

(c-1)

関心のある系 A のエントロピー変化を知るためには系 B のそれを知ればよいがそれは

いつも容易とは限らない系 A の性質だけで状態変化の方向を知るには別の観点が必要にな

るようだ

そこでもう一度状態変化が熱量 Q の移動によって起きることについて考えてみようエン

トロピーの補遺で議論したように熱量の移動が準静的過程により行われるときには変化は可

逆的に起こると考えたこのとき外界すなわち系 B から移動する熱量を Q1とし系 A から

0S

<補遺> 71

21 QQ

T

Q

T

QSB

21

T

QSS A

2

QH

T

HSS AA

AA STHST

のそれを Q2 と記号を当てたのでこれをそのまま使うことにすれば可逆的な過程では系 B

の熱量 Q1 はすなわち系 A から戻る Q2 に他ならないので両者には次の関係が成立するも

のとしてよい

(c-2)

したがって

(c-3)

と考えてよくこれによって式 c-1 を次のように書きなおすことが出来る

(c-4)

独立した系で圧力とその体積に変化がなく一定の条件の下で状態変化が起きるときエン

タルピーの考えを使ってすでにひとつの関係があることを導いている

本文(31)

そこで式 c-4 を系のエンタルピーΔHAによって書き改めれば

(c-5)

この両辺に-T をかけて式を書き直せば次の関係式が得られる

(c-6)

式 c-6 を見るときその右辺がマイナスの値ならば左辺のΔS はプラスの値をとることが

分かるすなわちエントロピーが増大すると見ることが出来るこれまでの過程で自然の現

象はエントロピーが増大する方向に進むとしてきたので関心のある状態変化について式 c-6

の右辺で計算される値がマイナスの値ならばその変化は起きるものと考えてよいことになる

だろうしかも右辺はすべて独立した系の状態量で示されていて我々が知りうる値で計算

<補遺> 72

TSHG

STSTHG

STHG

可能である

そこでこれを熱力学ポテンシャルを表すものとしてギブス自由エネルギーと呼ぶことに

するギブス自由エネルギーは記号 G が用いられ次のように定義される

(c-7)

ここで関心があるのは自由エネルギーの絶対値ではなく式 c-6 に示されたようにその変化量

に興味があるので式 c-7 から

(c-8)

温度が一定の条件の下で状態変化が起きることを考えるなら式 c-8 は次のように書くこと

ができる

(c-9)

ギブス自由エネルギーは式 c-9 の右辺がすべて状態量であるからこれも状態量の一つで

ある定圧定温の条件下で起きる変化ではすでに議論したようにΔGlt0 であれば状態

変化は自発的に起きるものと予測できる

つまり式 c-5 の第一項は系のエントロピーΔSAそのものであり第二項で示されるエンタ

ルピーは系 A の温度が一定に保たれているのであるから発熱する熱量として外界に吸収さ

れるものであってこれは外界のエントロピーの増大につながるものとして解釈されるした

がって化学反応のように一定の圧力と一定の温度の下で起きる変化について自由エネルギ

ー変化量はその状態変化が自発的に起きる傾向を示しているといってよい

本文 p28 へ戻る

  • はじめに
  • 目次
  • 電気エネルギー
    • 金属のイオン化
    • 電池
    • 水素の反応
    • 燃料電池
    • 化学反応と電気エネルギー
      • エネルギーと熱力学
        • エネルギー保存則
        • エンタルピー
        • エントロピー13
        • ギブス自由エネルギー
        • 電池における化学反応のギブス自由エネルギー13
        • 理想気体の状態方程式
        • 理想溶液のギブス自由エネルギー
        • 膜電位
          • 水素イオン濃度測定
            • 化学反応の一般的な式
            • pHの定義とその目盛り
            • pH標準液
            • 銀塩化銀参照電極
            • 実用的なpH測定
            • ガラス電極
            • 電極の校正
            • 金属イオンに対応するイオン選択電極
              • 文献
              • 補遺
                • 状態関数
                • エンタルピー
                • エントロピー
                • ギブス自由エネルギー
Page 4: イオン選択電極i イオン選択電極 Ion Selective Electrode (ISE) を理解する ・ pHを測定する ・ NaやKなどのイオン濃度を測定する 神戸大学医学部保健学科

1

電気エネルギー

金属のイオン化 原子や分子から一個の電子を引き離すとその原子や分子はプラスに帯電し

陽(プラス)イオンになる金属は最外殻の電子軌道に活発な電子を持つ一

連の元素のことをいいその電子を失いやすい

金属固体を塩溶液につけると電子を失ってプラスイオンになろうとする性質

があるこれを金属のイオン化傾向という

金属の種類によってイオン化傾向に大小が見られるイオン化傾向を比較して

その強さの順に並べたものを「イオン化列」とよぶ

イオン化列 K-Ca-Na-Mg-Al-Zn-Fe-Ni-Sn-Pb- (H2) -Cu-Hg-Ag-Pt-Au イオン化傾向はイオン化列の左にある金属の方が高い

イオン化傾向の大きな金属は電子を失いやすいことを意味する

参考基底状態にある原子や分子から

一個の電子を無限遠に引き離すのに要

するエネルギーをイオン化エネルギー

(Ionization energy IE)もしくはイ

オ ン 化 ポ テ ン シ ャ ル ( Ionization

potential IP)というこれは元素の物

理学上の基本的な見方で「イオン化

列」の順に第一イオン化エネルギーが

大きくなるとは限らないたとえばイオ

ン化列で一番左にありもっともイオン

化傾向の大きな金属はカリウムである

カリウムの第一イオン化エネルギーは

434 eV(4188KJmol)であるこれは

ナトリウムの第一イオン化エネルギー

2

が514 eV であるのに対して数値が小さいのでカリウムの方がナトリウムよりプラスイ

オンにされやすいことを示しているまた水素のイオン化エネルギーは 13595eV であって

数値ではこれらの元素よりはるかにプラスイオン化されにくいことを示しているところ

がイオン化列で水素より右にあるつまりイオン化傾向がより低い銀の第一イオン化エネ

ルギーは 758eV でそれはイオン化列でナトリウムのすぐ隣にあるマグネシウムの値に極

めて近いマグネシウムの第一イオン化エネルギーは765eV である

金属電極がイオン化する際の議論では電極反応の主体が電極溶液界面での電荷移動で

あってさらに静電場を考慮する必要がある電荷を持つものが金属表面から 10minus 4cm 程度

の距離にあるとき鏡像にあたる誘起引力が生じるこれは鏡像力の効果(image force)

とよばれ無視できないGuggenheim EA は「電気化学ポテンシャル」を提唱したこれ

によれば金属内部から鏡像力の効果がおよぶ点までは金属の化学結合に関わる電子の持

つ化学ポテンシャルμeM と金属表面の電荷分布に由来する表面電位χM の引力が関わり

電子を引き離すのに要する仕事量は[μeMminus FχM]が必要となるさらに鏡像力の効果が

無視できない点からその力がおよばない溶液中の無限遠に引き離すのに要する仕事量は

金属の外部電位をΨM として[minus FΨM]で表されるしたがって電極として溶液につけ

ら れ た 金 属 原 子 の 電 子 に 関 す る 電 気 化 学 ポ テ ン シ ャ ル ˜ μ eM

˜ μ eM = μe

M minus F ψ M + χ M( )= μ eM minus Fφ M

で表されるφMは電極金属の内部電位という

イオン化傾向は溶液との関係において電極反応の電位として理解できる

金属が塩溶液につけられたときにとけ出そうとする現象は化学反応の1つと

してとらえることができる金属が電子を放出してプラスイオンとなる過程

は化学反応式を使って次のように表すことができる

亜鉛を例として取り上げればその化学記号には Zn が使われるので金属固

体を表す添え記号を(s)とすることにして

Zn(s) rarr Zn2+ + 2e- (1)

反応式(1)は金属の亜鉛片が溶液につけられると亜鉛は溶液にとけだし

て2価のプラスイオンになることを意味するこのとき電子が2つ遊離す

化学反応ではこのように電子を放出する反応を「酸化反応」という

したがって(1)の反応が進めば亜鉛は酸化される自身が酸化されるも

3

のに対してその反応で発生した電子を受け取る相手は還元されると言う

すなわちこの反応が起きるとき上の例での亜鉛は「還元剤」としての能力

を持つことになる

このように考えるとイオン化傾向の大きな金属は還元剤としての能力が高い

と言うことができるしたがってKや Caは強い還元剤である

逆に言えばイオン化傾向の上位にある金属は酸化力が弱い

金属の酸化力の強さは水溶液にあってイオンの状態から金属単体になりやす

い傾向を言うこれはイオン化列の右にあるものの方が高い性質を持っている

金属に対して「酸化還元反応」を考えるとき金属と金属イオンの組み合わせ

で考えることができる

ある金属の塩を水に溶解して金属イオンとして存在する水溶液を準備しそ

の金属よりイオン化列の上位にある金属片をその水溶液に浸ける

するとイオン化列の上位にある金属片が溶液に溶けだし最初水溶液をつく

ったイオン化列の下位にある金属が析出してくる

例で示そう硫酸銅 CuSO4の水溶液を作りこれに亜鉛板を浸ければ亜鉛

板の水溶液に使っている部分はやがて茶褐色に変化する

ここで起きる反応は次の反応式で書き表すことができる

Zn(s) rarr Zn2+ + 2e- (2)

Cu2+ + 2e - rarr Cu(s) (3)

2つの反応式を合わして全体の酸化還元反応を反応式として表すことができ

Zn(s) + Cu2+ rarr Zn2+ + Cu(s) (4)

このようにイオン化傾向が水素よりも小さなものがあればまずその金属

が析出するイオン化傾向が水素よりも小さなものがなければ酸性なら水素

イオンが中性やアルカリ性なら水が反応する

水溶液において水素よりもイオン化傾向が大きい金属は電極に析出はし

てこないこのとき水の反応を示すと

4

H2O + 2e- rarr H2 + 2OH-

このように水酸イオン OH- が出来るので中性の水溶液を用いると水が反

応してその周りはアルカリ性になる

電池 酸化還元反応に伴う化学エネルギーを用いて電子の流れを発生させればその

化学エネルギーを電気エネルギーに変換することができる

化学エネルギーから電気エネルギーに転換させる過程を見てみよう

硫酸銅 CuSO4の水溶液に亜鉛板をつけたときの反応は上で反応式(2)

と(3)およびその全体を(4)で示した

それぞれの金属だけについて化学反応を(2)や(3)のように単独で示す

ときこれを「半反応」という

亜鉛に対する半反応(2)では亜鉛分子が亜鉛板に電子を残してプラスイオ

ンになって水溶液にとけ出すことを表している一方半反応(3)では銅

イオンが発生した電子を亜鉛板表面で受け取り金属銅となって析出すること

を表しているこのとき亜鉛は酸化を受け銅は還元される

ここで電子を亜鉛板から取り出すことを考えよう

反応に用いたのは硫酸銅の水溶液であったがこのような塩溶液を電解質溶液

と呼ぶ電子を取り出すために電解質溶液に工夫をしよう

2つの水槽を準備し一つには硫酸亜鉛 ZnSO4の水溶液を入れて亜鉛板をこ

れに浸けるもう一方には硫酸銅 CuSO4の水溶液を入れそれには銅板を浸け

それぞれの水槽内で起きることを期待するのは反応式(2)と(3)で示し

た各半反応である

ここでそれぞれの水槽の金属板に導線をつなぎ両方をそれで接続すると電

子が導線を伝わって移動するならその電子の流れを電流としてこれを利用す

ることができるそうすれば化学反応のエネルギーを電気エネルギーに変換

できたことになるつないだ電線の途中に豆球ランプを入れるならこれが点る

だろう下図ではこの導線の中間に電圧計を入れたものを示している

5

図1亜鉛と銅を電解質溶液に入れる

再度それぞれの水槽で起きると予想する反応を書いておこう

左の水槽 Zn(s) rarr Zn2+ + 2e- 酸化反応

右の水槽 Cu2+ + 2e - rarr Cu(s) 還元反応

左の亜鉛が入れられた側では亜鉛板に電子がたまり亜鉛の酸化反応が起きる

一方右の銅が入れられた側では電子が水溶液に移動し銅の還元反応が起き

亜鉛は電子を電極に残しプラスイオンとなって水溶液中に出て行き亜鉛板

の電極中に電子が余分にたまるこのとき水溶液にある硫酸イオンは変化を

受けない

一方の銅板では水溶液中の銅イオンが銅板から放出される電子を受け取って

銅単体となり析出するこちらの水槽でも水溶液にある硫酸イオンは変化を受

けない

電極に余分にたまっている電子の量を電極電位という

6

上の図では導線の中間に電圧計がつなげてあって両極の電極電位の差を測定

することができる電極電位の差すなわち「電位差」は電極間をつないで回

路をつくればその回路に電流が流れるので「起電力」ともいうこの電位差

や起電力の数値については後で考えることにしよう

電圧計は電流を流さず両極間の電位差を計ることができるこの状態では電

子の移動がない電子の移動がないので各イオンの濃度にも変化はない電圧

計はこのときに電池の起電力に対して最大値を与えるもしも電流が流れると

各イオン濃度の変化が起きるので起電力にもわずかながら変化が生じる

両方の極を導線でつないでその中間に電圧計を入れ亜鉛板から銅板へ導線を

介して電流が流れないときの状態をさらに考えてみよう

左の亜鉛板に残った電子は溶液中に続いて出てゆこうとする亜鉛イオンを逆

に引っ張り戻そうと働くこの結果亜鉛板に残った電子の量がある程度以上

になるともはや亜鉛は溶け出さない

この状態を平衡状態という

一方の銅板では電子の流れがないので同様に銅イオンの還元反応は進まない

そこで電子の流れが起きるように導線の中間に豆電球を入れて回路を作るこ

とにしようこのように電池の両極間に電球などを入れることを「負荷をかけ

る」という

回路ができそれに負荷をかけることによって電子の流れが起き豆電球が点

るこの結果陰極では亜鉛がどんどん水溶液に溶けだし陽極では銅が析出

する

ところがこうしてうまく電子の流れが始まってもそれは持続しない

どちらの水槽においても硫酸イオンは変化を受けないことをすでに述べてい

たこれでは亜鉛側のプラスイオンがまた銅側のマイナスイオンがたちま

ち過剰になってしまうこの結果一瞬電流が流れるだけですぐ電子の流れは

停止し豆電球は点り続けないだろう

うまく豆電球を点り続けさせるにはそれぞれの水槽のプラスイオンとマイナ

スイオンの均衡が保てるようにしなければならない

この解決にはそれぞれの水槽で過剰になるプラスイオンとマイナスイオンが

移動できるようにすればよい

それには2つの方法がある

一つは塩橋とよばれるイオンの通路を両水槽に掛け渡す方法である塩橋は

7

チューブ内に飽和塩化カリウム(KCl)溶液などをゼラチンで固めて詰めそれ

がこぼれ出ないようにそれぞれの口を濾紙などで封じたものである

図2亜鉛と銅を電解質溶液に入れ塩橋を渡す

この塩橋の代わりに素焼きの陶板やセラミックなどのイオンを通す性質があ

る固体で両水槽を仕切る方法でもよい図に示したように塩橋もしくはしき

りを介してイオンが移動できる

8

図3亜鉛と銅を電解質溶液に入れしきり板にセラミックを使う

このように電子の流れを発生させて利用しようとする装置を「電池」とよぶ

電池には2つの極がある陽極(+)と陰極(-)である

陽極(+)は正極ともよばれ電極に伝ってきた電子が水溶液に移動し還

元反応が起きる側をいう

これに対して陰極(-)は負極ともよばれ電極金属がイオン化し酸化反応が

起きて電子が電極から取り出される側をいう

今の例では亜鉛板が陰極(-)銅板が陽極(+)とよばれる

有名な「ダニエル電池」はこのように考案された

電池を電球などにつなぎ電気回路を形成すれば亜鉛電極内の電子が導線へ流

れ出て電球を明るくし亜鉛はつぎつぎ溶液に溶け出す

回路を切れば再び電極に電子がたまり平衡状態に達して亜鉛イオンの溶

出は止まる

ここで電池の表記についての取り決めを記しておこう

9

電池は2つの極からなる陽極と陰極である陽極すなわち還元反応が起き

導線を介して電子を受け取る極を右に書くダニエル電池の場合には陽極は銅

板であり銅イオンを供給する硫酸銅の水溶液が電解質溶液として用いられる

陽極金属と電解質溶液の間は縦棒で区切るそこで陽極は次のように表記され

CuSO4(aq) | Cu(s) (+) 記号(aq)は水溶液のこと

同様に陰極は酸化反応が行われる極でこれを左に書く

(-) Zn(s) | ZnSO4(aq) この両方の極は別々の水槽にあってイオンの交換が塩橋あるいはセラミッ

クのようなしきりを介して行われるのでこの隔壁をタテ二重線で表記し両極

を並べて記す

ダニエル電池は次のような記号で表記されるこれを電池式と呼ぶ

(-) Zn(s) | ZnSO4(aq) || CuSO4(aq) | Cu(s) (+)

両端の極を導線で接続し回路を形成すれば電子の流れが左の陰極から右の陽

極に起こり電流は右から左へと流れる

水素の反応 イオン化傾向の大きさが異なる金属を組み合わせて酸化還元反応が起きると

電子の流れが生じそれを取り出して豆電球を点灯する仕事として利用するこ

とができる

イオン化列の鉛と銅の間には水素があるこの水素の酸化還元反応を見るこ

とにしよう

水素の酸化反応は次のように表される

H2 rarr 2H+ + 2e- (5)

これを半反応として電子の流れを作り出せば電池として機能するから取り

出された電子を利用する還元反応を考えよう

水素と反応する相手に酸素を選べば水が生成物として得られることを期待で

きる

10

酸素が電子を受け取る還元反応の半反応は次のように表される

12 O2 + 2e- rarr O2- (6)

半反応(5)と(6)を組み合わすことができれば次の全反応によって水

が生じる

H2 +12 O2rarr H2O (7)

このとき得られる電子を導線に誘導すれば電気エネルギーとして利用が可能

になる

問題はダニエル電池で見たようにそれぞれの半反応で生じるイオンの処理で

ある半反応(5)と(6)はそれぞれ隔離された容器で行わなければ水素と

酸素が直接反応して水を生じてしまうしかし容器の隔壁がイオンを通さな

いと電池として機能しない

燃料電池 固体は一般に分子やイオンを通過させないが中には特定のイオンを通過させ

るものがありこれを固体電解質とよんでいる

半反応(5)で発生する水素イオンを効率よく通過させるためにはナフィオ

ン(Nafion Du Pont 社米国デラウェア州ウィルミントン)とよばれる固体高

分子膜が有力である

ナフィオンはフッ素を含む高分子パーフルオロスルホン酸系といわれるイオ

ン交換膜で全体はテフロン様構造からできており側鎖にスルホン酸基を持

つその厚さは 20~50ミクロン程度である膜の内部で負に荷電するスルホン

基(SO3-)が水素イオン(H+)を引きつけこれを通過させるこの水素イオ

ンの通り道は電子顕微鏡で見るとトンネルのようにできている

11

図4ナフィオンを使った燃料電池

陰極では水素の酸化反応が起きる

H2 rarr 2H+ + 2e- (5)

一方陽極では次の還元反応が起きる

12 O2 + 2e- rarr O2- (6)

O2- + 2H+ rarr H2O (8)

全体の反応は反応式(7)で表される

12

H2 +12 O2rarr H2O (7)

こうして開発された電池は「燃料電池」とよばれている燃料に水素ガスが

利用される

反応式と図に示した気体酸素は通常の空気が利用され反応で生じた水と酸

素以外の利用されない気体元素は排気される

この燃料電池は水素と酸素を遮断し水素イオンだけを通過させる固体電解

質を使ったこれは上の半反応(5)で生じた水素イオンの処理を考えたわ

けである

これに対して半反応(6)で生じる酸素イオンを移動させる工夫もある

図4安定化ジルコニアを使った燃料電池

安定化ジルコニア(Stabilized Zirconia ZrO2CaO)は高温下で酸素イオン通過

性のある固体電解質として開発されたジルコニウムに10モル程度の酸化

カルシウムを加え結晶を作ると+4価のジルコニウムイオンの位置の一部を+

13

2価のカルシウムイオンが占めるできあがった安定化ジルコニアはこのカ

ルシウムの数だけ酸素イオンの不足が起き固体全体を電気的中性に保つた

めに酸素イオンの透過性ができるジルコニアの両面に白金粉末を焼き付け

それに白金のリード線を取り付ける焼き付けられた白金には多くの孔があり

その孔を通して気体とジルコニアが接触する

酸素イオン導電性の固体電解質としてジルコニアを用いた燃料電池は次

のように動作する

1)空気極(右側)に入った酸素 O2は電極で電子を受け取り酸素イオン O2-

になる

12 O2 + 2e- rarr O2- (6)

2)O2-は固体電解質ジルコニア中を移動していき燃料極(左側)で H2 と

反応し水 H2Oを生じるこの過程に伴って電子が放出される

H2 + O2- rarr H2O+ 2e- (9)

3)これら結果として外部回路に電流を取り出すことができる

燃料電池の起電力は酸素イオンが電解質中を移動することにより生じる

酸素イオンが移動する駆動力は固体電解質の両端すなわち燃料極と空気極

の酸素濃度差である

14

化学反応と電気エネルギー ダニエル電池の陰極は亜鉛板が硫酸亜鉛の水溶液につけられていたこのと

きの現象は次のように説明された亜鉛は電子を亜鉛板電極に残し陽イオン

となって出て行くその結果亜鉛板電極中に電子が余分にたまる

ダニエル電池の陰極の「電極電位」はこの電極に余分にたまっている電子の

量をさしているそれではこの半反応による電極電位を測定することができ

るのだろうか半反応は次のように示される

Zn(s) rarr Zn2+ + 2e- (1)

亜鉛が1モル反応すると2モルの電子が持つ総電荷量が流れる

1電子の持つ電荷量は16022x10-19 C (Ccoulombクーロン)であ

るから

1モルの電子の総電荷量はアボガロド数をかけて 96485 = 96485 x 104 Cmol

であるこれを1F1ファラデーと表す

1F = 96485 x 104 Cmol 亜鉛が1モル反応すれば2モルの電子が持つ総電荷量が流れるのでこれを

記号 q として表すと次の電気量が得られる

q = 2F (10)

化学反応によって取り出せる電気量はこのように計算される

それでは電気エネルギーとしてその電力はどのようになるだろう

電力は

電力=電圧times電流times時間 (12)

電流times時間=電気量であるから式(12)を書き直せば

15

電力=電圧times電気量 (13)

ここで電気量 q は式(10)で表しているので

電力=電圧timesq=電圧times2F (14)

と書くことができる

電圧を記号Vで表すことにし電力をWにすれば式(14)は

W = 2FV (15)

として表しておくことができる

電圧の単位系は仕事量が電力Wであるので(13)から

V= W q (16)

仕事量をジュールJ(ジュール)で表せば電圧はJ C (ジュールクー

ロン)でその単位を表現することができる

式(15)の表すところは亜鉛を化学反応の材料として得られる電力という

仕事量がその電力すなわち電極電位で決定されることを意味している

一般に化学反応で1分子の材料を消費しn個の電子が流れることをその

半反応で知ることができるとき式(15)を一般化して次のように得られ

る電気エネルギーを表すことができる

W = n FV (17)

化学反応によって生じる電子を取り出し回路に導けばここに電流が生じる

その起電力(V)は陽極陰極のそれぞれの電位をE+E- と記号で表し

て次式で書くことができる

V= E+-E- (18)

16

ここで問題になるのは陽極陰極のそれぞれの電位E+とE-で上に議論し

たように回路を形成しなければそれぞれの電位は決定できない

ここでいま片方の電位をゼロとすれば式(18)はたとえばE- = 0 で

V= E+

として陽極の電位が決まる

そこで申し合わせにより水素の半反応による電位をゼロとすることになっ

その半反応の式は水素の還元反応として次のように表せた

2H+ + 2e- rarr H2

標準にはMax Julius Louis Le Blanc (1865-1943) が発明した水素電極を用

いるこれを標準水素電極(Standard Hydrogen Electrode SHE)とよびこの

電極電位をいつも 0 volt(ゼロボルト)と取り決めている

図6に示した水素電極は1atm の水素ガスとそれに平衡状態にある水素イオ

ンが存在し次の半反応が平衡状態にある

H2 (g 1 atm)rarr 2H+ (aq 1 M)+ 2e- (5) g は気体を示す

この反応において平衡状態にある電極電位を 0 volt と定義する

電極に白金を用いるのは電極材料自体が溶解しないものであることすなわ

ちイオン化傾向の低いものであることまた水素イオンの還元に対してな

るべく活性の高いものであることが条件として求められるが白金はこの2つ

の性質を兼ね備えていて陽極の電極材料に適している

気体の標準状態は1atm を標準としているこの分圧を維持し溶液中の水

素イオン活量を1にする水蒸気の分圧が変化すると平衡電位は変化する

17

図6標準水素電極(0ボルトの基準)

標準水素電極は1モル塩酸溶液につけた白金電極に1atmの水素ガスを吹き込んで使う

白金電極は分極を防ぐために白金板に白金メッキを施し(白金黒とよばれる)上半分

を水で飽和させた(1atmの水蒸気分圧が必要)1atm(101325 kPa)の水素ガスを流し

下半分を1moll の塩酸溶液につける水素ガスが電極として働き白金板に電子が集めら

れる

ダニエル電池の亜鉛電極をこの標準水素電極につなげば亜鉛電極電位が測

定できる

亜鉛電極側では酸化反応の半反応が起きる

Zn(s) rarr Zn2+ + 2e- (1)

18

標準水素電極側では還元反応の半反応が起きる

2H+ + 2e- rarr H2

図7亜鉛電極と水素電極をつないで電池とする

25の基準状態における亜鉛電極の半反応(1)に対する平衡電位はすでに

知られている

E゜= -0763 volt

また銅板側の電極電位も同じようにして測定することができる

起きる半反応はすでに上述したが再度記しておこう

Cu2+ + 2e - rarr Cu(s) (3)

25の基準状態におけるこの電極電位はE゜=+0337 volt と知られて

19

いる

ここで亜鉛電極と銅電極の組み合わせでできる電池の最大電圧をこれらの

平衡状態における観測値から計算することができる式(18)を使って

V= E+-E- (18)

V= +0337-(-0763) = +110 volt

つまりダニエル電池で得られる最大電圧は11volt と計算できる実際に

はイオンの濃度が変化すれば反応の平衡が変化するので得られる電圧も変

化する

ここでダニエル電池で亜鉛1モルが反応するとき式(17)を使って得

られる仕事量としての電力を計算できる

W = n FV (17)

すなわちダニエル電池における電極反応は

Zn(s) rarr Zn2+ + 2e- (2)

Cu2+ + 2e - rarr Cu(s) (3)

であったから反応が進んで移動する電子はn = 2 である

1F = 96485 x 104 Cmol を適応すると

W = 2 x 96485 x 11 x 104 = 21227 x 105 Jmol = 2123 KJmol

(K = 103キロ)

すなわち亜鉛1モルの化学反応によって2123 KJmol の電気エネルギーが得

られる

水素ガスを使う燃料電池の起電力は電極の半反応から

O2 + 4H+ + 4e- rarr 2H2O (19)

25の基準状態におけるこの電極電位はE゜=+1229 volt が得られている

20

したがって燃料電池で1モルの水素が反応すれば

W = 2 x 96485 x 1229 x 104 = 2372 KJmol

すなわち2372 KJmol の電気エネルギーが基準状態で取り出せる最大電力

と計算される現在作られている燃料電池の電力は実際上08 volt ほどで

あるしたがって現実的に取り出せる電気エネルギーは 1544 KJmol の仕

事量と計算される「仕事量」という言葉については電気でモーターを回し

なにがしかの「仕事」をするなど思い浮かべれば実感できるだろう

エネルギーと熱力学 これまで述べてきたように電池は化学反応から直接電気エネルギーを取り出

す仕掛けであるダニエル電池では亜鉛と銅が酸化還元反応を起こす過程で

電子を放出するのを利用するまた水素ガスによる燃料電池は気体水素と酸

素を原料とし水が生成されるこの過程が1atm の気体原料を25(29815

K)で1モル反応させて生成物も1atm の液体の水を得るなら次の全反応に

よってすでに計算したとおり2374 KJmol の電気エネルギーが取り出せる

H2 + 12 O2 rarr H2O

圧力と温度がともに反応の過程を通じて一定の場合にその過程から取り出せ

る仕事量は熱力学的に考えることもできる

それはギブス自由エネルギーとして議論される電池で取り出した電気エネ

ルギーすなわち電力はこのギブス自由エネルギーに相当する

次に化学反応をこの熱力学の面から考えてみよう

エネルギー保存則

水素ガスを使う燃料電池のように独立した一つの仕掛けを考えこれを「系」

と呼ぶことにする系を考えるとき電池のように具体的なものを持って考え

るのが容易いのでそうすることが多い熱力学では自然界全体をあつかうので

しばしば概念的になり非現実的な記述が行われるが系の大きさや系を構成

する分子の大きさについて特定する必要はない

系におけるエネルギーを内部エネルギー熱エネルギー力学的エネルギー

の3つの要素からなると考えるこれらのエネルギーを考えるとき系の熱力

21

学的なパラメーター(変数)が必要となる熱力学的な状態はこれらのパラ

メーターのうちのいくつかを指定すれば決定される

熱力学的なパラメーターは2つに分類される

示量パラメーター(示量性変数)

系の大きさや構成する物質の量を示す体積や質量

示強パラメーター(示強性変数)

系の大きさに依存しない系における1つの点で決まった値で与え

られる圧力や温度密度など

いくつかのパラメーターで完全に決定できる状態を関数で表現することがで

きる場合があるそのような関数を熱力学的な状態関数(rarr補遺 p60)と呼ぶ

関数で状態の変化を表すことができれば数学的に取り扱うことができいろ

いろの面で便利である

一つの系についてその状態を知ろうとするとき系が熱力学的な平衡状態に

あると議論する上で都合がよい

熱力学的な平衡状態とは系を外部と独立させ長時間放置した後に達成され

る状態をいうこのとき系の状態をその外部のパラメーターで表現できる

たとえば電池を独立した系と考えるとき平衡状態に達した電極電圧を外部

においた電圧計で測定することができる

ある系を考えるとき前提としてその系はエネルギーを保有していると考える

系が独立してそこに存在するということで持っているエネルギーであるこれ

を内部エネルギーと呼ぶ系がある過程を経て状態を変えるとき系から系の

外部へ力学的な仕事をする場合には力学的エネルギーの出入りがあると考え

るまた系に熱が出入りする場合が考えられそれを熱エネルギーの出入り

と考えることにしよう

まず力学的エネルギーについて考えることにする

いま系が状態を変えその体積が増えれば系のlsquo壁rsquoがその系に接している

「外部」へ力学的な仕事をすることになる

このように系が膨張し壁が外部に向かって押し出されると考えたとき膨張

する過程における圧力を一定でpとし系が膨張した体積をΔV(膨張した分だ

けの体積増加量)とするなら系の仕事量ΔWは両者の積で表されるΔは変

化量を表すときにつける記号と決めておこう

22

ΔW = pΔV (20)

系の体積が凝縮する場合があるので仕事を記号で表す場合には注意するも

し系に接した「外部」から系に力が加わって体積を小さくしたならΔVは

マイナスとなるのでΔWもマイナスで表される

-ΔW = -pΔV (20prime)

今考えている系を「系 A」と呼びその内部エネルギーを UA外部の系を「系

B」と呼んでその内部エネルギーを UBと表すなら二つ合わせた全体の内部

エネルギーは両者の和で表すことができる

U = UA+UB (21)

この体積変化に必要なエネルギー変化量はどこから得られたかを考えれば

その変化があった「系 A」と外部の「系 B」のいずれかあるいは双方の内部エネ

ルギー変化分でまかなわれたと考えざるを得ない(図8参照)

そこでこのエネルギーの収支関係は変化分を表す記号に先と同様Δを用い

ることにすると次式のようになる

-ΔU =ΔW (22)

すなわち観察している「系 A」のエネルギーと外部の「系 B」のエネルギー

を合わせた総エネルギーを見てその微少な減少量minus ΔU が仕事をなすために

必要であったエネルギー量と考えてみることにする

ついでこの体積の変化が「系 A」に接する外部のlsquo熱rsquoによって起きたも

のと考えてみようすなわち外部の「系 B」が系 Aより高温で「系 B」によ

って系 Aが暖められたことになる

このとき移動したエネルギーを「熱量」と定義する

23

図8熱量の移動と系が外部にする仕事

「熱量」を記号Qで表すと外部の「系 B」が失ったエネルギーminus ΔUB で

ありこれが熱量であるから式で表せば次式のように書くことができる

-ΔUB = Q (23)

ここで「系 A」とそれに接する「外部 B」両方のエネルギーを合わせた総エ

ネルギーの変化量ΔUは式(22)で与えられていた

-ΔU =ΔW (22)

-ΔU =-(ΔUA+ΔUB) であるから

minus ΔUAminus ΔUB=ΔW (24)

これに式(23)を当てはめてΔUAで整理すれば

24

ΔUA= Q-ΔW (25)

この式(25)は「エネルギー保存則」あるいは「熱力学の第一法則」を数

学的に表現したものである

すなわち

独立した系を考えその状態が変化するとき系の内部エネルギーの変化量はその系に入る熱量と系が外部にした仕事との差である

式(25)にはまた重要な主張があるつまりエネルギー保存則にしたが

うとき熱量は力学的エネルギーにまた力学的エネルギーは熱量に変換しう

ることを意味している

熱量を表す単位はカロリー(cal)を用いる1cal は

1 cal = 4184 J

と換算されるジュールは 1J = 1Nm (ニュートンメートル)で仕事量を

表現する単位系で表される

エンタルピー

式(25)から定圧過程で式(20prime)を利用して次の式(26)が誘導さ

れる

Q =ΔUA+pΔV (26)

ここでQは熱量を表していたのでこの関係式(26)から熱関数として

新しい関数を定義する

新しい関数はエンタルピー(enthalpy)(rarr補遺 p63)と呼ばれ次の関数

式Hで表される

H = U+PV (27)

エンタルピーの微少変化量を記号Δを使って表現してみよう

25

ΔH = ΔU +Δ(PV) =ΔU +ΔPV+ PΔV (28)

独立した系で圧力が一定の下に起きる過程を考えるならΔP = 0 (圧力の

変化はゼロ)であるから式(28)は次のようになる

ΔH =ΔU + PΔV (29)

化学反応の過程を考えるとき系に容積の変化がなく過程の前後で一定であ

るならさらにΔV = 0 であるのでエンタルピーの変化量は

ΔH =ΔU (30)

また系の仕事を体積の変化としてみる式(20)から

ΔW = pΔV= 0

であるのでこれを式(25)へ適応すると

ΔU= Q minus ΔW = Q ΔW= 0 だから

結果的に系の圧力と体積が変化の過程で一定である場合にはその系のエンタ

ルピーの変化を表す式(29)(30)は次のように簡単な式になって熱関

数と呼ばれる意味が理解しやすいだろう

ΔH = Q (31)

独立した系に等圧等積で起きる過程を見る場合にはエンタルピーは系が外

部と交換する熱量の直接的な尺度となる

H>0 なら反応に熱を使うので吸熱反応

H<0 なら発熱反応

電池のように系に起きる化学反応で生じる電子の流れを取り出す装置を考え

る場合エンタルピーの変化を電気エネルギーとして取りだしている点に留意

26

しなければならない式(31)のようにエンタルピー変化が交換される熱

量に直接表現できるといっても必ずしも熱として取り出すとは限らないこと

を注意しよう

ところでエンタルピーは内部エネルギーと同じ次元にある状態量で定圧

変化の熱量がエンタルピー変化であるからある一点を標準として定めれば

すべての物質について任意の点のエンタルピーを変化量として定めることがで

きるすなわち化学反応の過程で発熱あるいは吸熱する熱量は反応材料と

生成物の間の状態変化に対応するエンタルピーに対応する

そこで一つの元素に対してもっとも安定な状態にある物質を標準物質とし

て定め29815K(25)1atm を標準状態としてその標準物質からある化

合物を合成するときの反応熱(発熱あるいは吸熱)をその化合物の「標準生成

エンタルピー」として定義できる多くの元素に対して標準生成エンタルピー

は現在表としてまとめられている

水素や酸素はその気体状態が標準物質でありそれらの標準生成エンタルピー

がゼロと定義される

エントロピー

もう一つ新しい状態関数としてエントロピー(entropy)(rarr補遺 p64)を

定義するエントロピーを表す記号は通常S を用いその定義は次の式(32)

による

S Q

T (32)

エントロピーは系の2つの状態が決まると状態量として決まる

このときQ は2つの状態の間を可逆的に変化したとき系が受け取る熱量

T は系が熱量 Q を受け取ったときの温度(degK)である

「熱力学の第二法則」はエントロピーに関するものである

図9では2つの系が接しておりそれぞれの温度を Thigh Tlowとする

Thigh>Tlow (33)

27

今温度の高い系から温度の低い系に直接熱量 Q が移動したとすれば温度

の高い系のエントロピーの変化量ΔS は熱量が失われるので負の値になる

図9熱の移動

そこで温度の高い系のエントロピーの変化量ΔS を式で表すことにすると

次式のようになる

Shigh Q

Thigh

(34)

一方低い系のエントロピー変化量ΔS は熱量が与えられるため

Slow Q

Tlow

(35)

両方の系を合わせたエントロピーの変化量ΔS は

S Shigh Slow Q

Thigh

Q

Tlow

lowhigh

lowhigh

lowhigh TT

TTQ

TTQ

11 (36)

式(36)の最終項で(33)を前提すなわち最初に温度の高い系は高い

と決めたのだとするならエントロピーの変化量ΔS は必ず次のようになる

28

ΔS >0 (37)

すなわち独立した系がありそれより温度の低い別の系あるいは温度の低

い外界が接した場合熱量は高い方から低い方へ移動するという自然の成り行

きを説明するものである

自然界に置いてエントロピーは

ΔS≧0

の値を取りΔS=0のときは可逆的過程である

今の例でいうなら熱は温度の高い系から低い系へ移動しその逆は起きない

常にΔS >0の方向に過程が進行するまた2つの系が同じ温度であるとき

両者は平衡状態にあって熱量の移動は見かけ上なくΔS=0と表現される

「熱力学の第二法則」はエントロピーによって表現されるもので系の変化が

可逆的であるかどうかを判定する指標であり現実の世界で起きる不可逆過程

が正の値を取る方向へ進むことを示す

あるいは系の変化が起きるとき外界を含めて考えれば総エントロピーが

増大する方向に変化が起きることを意味するというようにも表現される

ギブス自由エネルギー

熱力学の第一法則によってエネルギーの取りうる形である「仕事」と「熱」

は互いに変換されうることを理解したこのことの数量的な意味は1cal=418J

で示されるさらに仕事は100熱に変換可能であるが一方の熱はうま

くやっても100を仕事に換えることができないことを熱力学の第二法則で

説明しようとしたそのためにエントロピーという概念が導入された

ここで電池のような独立した一つの系を見るとき系の内部エネルギーの減

少を仕事として取り出しうるならそれは化学反応を一つの例としてどれほど

の仕事量が取り出せるのかはどうしたら与えられるだろうか

化学反応を電気エネルギーに換える電池では先に正負それぞれの電極におけ

る半反応の平衡電位の値を利用してその起電力に対する最大値を計算した

この化学反応から取り出しうる最大仕事量を与えるものとして新しくギブス

自由エネルギー(rarr補遺 p70)と名付け記号 G を使ってそれを次のように

定義する

29

G = H-TS (38)

H はエンタルピーである第2項にある S はエントロピーを表す

ギブス自由エネルギーは化学反応のような独立した系の定温定圧過程に適

応されるので変化量ΔG を式(38)から得ておこう

ΔG =ΔH-Δ(TS)

=ΔH-(SΔT+TΔS)

温度を一定と考えているのでΔT=0 であるから

ΔG =ΔH-TΔS (39)

この式(39)を書き換える

ΔH=ΔG + TΔS (39rsquo)

ここで定圧過程ではエンタルピーを次のように式(29)で定義できた

ΔH =ΔU + PΔV (29)

式(29)の意味するところを復習すれば

系のエンタルピー変化ΔH は内部エネルギーの変化量と系が外部に

した仕事量の和として表される

これは

定圧過程で系が得るエネルギー量から仕事量を除いたもの

と言い換えることができるエンタルピー変化量は化学反応などの過程で

始めと終わりの2つの状態の差であるからそれが正の値を示す(>0)なら

系のエンタルピーは増加することを意味しその過程が進行するためには系

の外部からエネルギーが供給されなければならない

一方式(39rsquo)の右辺第2項TΔS はエントロピーの定義(32)より

TΔS = Q (40)

であるのでこれは可逆過程で系に供給される熱量を意味する

30

もしエンタルピー変化量が負の値を示す(<0)ならば系のエンタルピー

は減少しその過程が進行することによってエネルギーが取り出せるすなわ

ち式(39)(40)から次のようにこれら3つの状態量を改めて説明する

ことができる

ある化学反応が定圧で可逆的に進行するときそれから取り出せる

エネルギーのうちΔG を仕事として放出し熱量 Q を放出する

標準状態29815K(25)1atm で標準物質からある化合物を合成すると

きの反応熱(発熱あるいは吸熱)をその化合物の「標準生成エンタルピー」

として定義した同様にある物質に対する「標準生成ギブス自由エネルギー」

はこの標準状態で標準物質からその化合物を化学反応で生成するとき式(3

9)によって与えられる変化量をいう

電池における化学反応のギブス自由エネルギー

先にダニエル電池の亜鉛板側に対する電極反応を検討したとき電極反応が

仕事として放出するエネルギーを表現する重要な式があった次の式(17)

である

W = n FV (17)

ギブス自由エネルギーを用いて今これは次のように書くことができるように

なった

W = n FV=-ΔG (41)

この式が表していることを実際に水素の燃料とする燃料電池の反応過程で見

てみよう燃料電池の図を再掲する

図中右にある陰極では水素の酸化反応が起きる

H2 rarr 2H+ + 2e- (5)

一方図では左にある陽極において次の還元反応が起きる

12 O2 + 2e- rarr O2- (6)

O2- + 2H+ rarr H2O (8)

全体の反応はすでに示したように次の反応式(7)で示される

H2 +12 O2rarr H2O (7)

31

標準状態における可逆的仕事は式(41)であらわせ

n FV=-ΔG (41rsquo)

このΔG は式(39)であらわせた

ΔG =ΔH-TΔS (39)

すなわち標準状態29815K(25)1atmにおいてある化合物を標準物

質から合成するときの標準生成ギブス自由エネルギー変化ΔG゜は標準生成エ

ンタルピー変化ΔH゜とその温度におけるエントロピー変化TΔSの差で求ま

るこれらは燃料電池の全反応を表す式(7)で与えられる

標準生成エンタルピーΔH゜変化とエントロピー変化はすでに一般的な元

素やその化合物に対して表が作成されている

液体の水に対する標準生成エンタルピーΔH゜(H2O)は

ΔH゜(H2O)=minus 28583 KJmol

また水素ガスと酸素ガスはそれぞれの元素の標準物質であるので生成エ

ンタルピー変化はゼロである

32

そこで式(7)での水を1モル化学合成するときの標準生成エンタルピーΔ

H゜は水素(ガス1モル)と酸素(ガス12 モル)の2つの材料と水(液

体251atm)の両状態における状態量の差として表される

ΔH゜=ΔH゜(H2O)-ΔH゜(H2) -12ΔH゜(O2) (42)

式(42)の右辺第2項と第3項がゼロであるので

ΔH゜=ΔH゜(H2O) =-28583 KJmol (43)

標準状態29815K(25)1atm における水素(ガス)と酸素(ガス)お

よび水(液体)のエントロピーはそれぞれ

ΔS(H2O)=6991 JKmol

ΔS(H2) =13068 JKmol

ΔS(O2) =20514 JKmol

単位で分母のKはケルビン温度の意味

と計算されているので

ΔS=ΔS(H2O)-ΔS (H2) -12ΔS(O2) (44)

=6991-13068-12times20514

=-16334 JKmol

したがって

TΔS=29815times(-16334)=-486998=-4870 KJmol

(45)

そこで標準生成ギブス自由エネルギーΔG゜は式(39)から

-ΔG゜=-(ΔH゜-TΔS) (39)

=-{-28583-(-4870)}

=+23713 KJmol

33

すなわちこのエネルギーを電気エネルギーとして取り出すことができるそ

の起電力は式(41rsquo)から

n FV=-ΔG (41rsquo)

V= -ΔG(n F)

各数値を当てはめれば

V=237130(2times96485)

=1229 volt

先に【化学反応と電気エネルギー】のところで記したとおり25の基準

状態におけるこの電極電位はE゜=+1229 volt が得られているすなわち

こうして標準生成ギブス自由エネルギーから計算することでも同じ値を得る

ことができた

水素を単純に酸素と化合させる燃焼では式(43)で示されるエンタルピ

ーが発生する熱量を示している水素1モルあたり28583 KJである電池

にすれば水素1モルあたり23713 KJの仕事量が電気エネルギーとして取り

出すことができるその差は電池の場合熱が発生して利用できない

化学反応の過程を利用して化学エネルギーから直接電気エネルギーに変換す

るのが電池という装置であるが化学エネルギーは100電気エネルギ

ーに換えることはできないこのようにエネルギーの一部は電池の熱として

発散してしまう

理想気体の状態方程式

ギブス自由エネルギーΔG を定義した式(39)とエンタルピーΔH の定義

式(28)から

ΔG =ΔH-TΔS (39)

ΔH =ΔU +VΔP+ PΔV (28)

そこで次式が得られる

34

ΔG =ΔU+VΔP+ PΔV-TΔS (46)

またエネルギー保存則から得られた式(26)を応用すればギブス自由エ

ネルギーが変形できる

Q =ΔU+PΔV (26)

から

ΔU=Q-PΔV (47)

したがって式(46)は

ΔG = Q-PΔV+VΔP+ PΔV-TΔS

ΔG = Q-TΔS+VΔP (48)

エントロピーの定義からQ=TΔSであるから結局式(48)は

ΔG = VΔP (49)

と表すことができる

成分が混合された気体分子の分子間に働く力をゼロと仮定した「理想気体」を

考えるとき状態方程式としてボイルシャルル(Boyle-Charles)の法則が

利用できる

PV=nRT (50)

ここでnは気体のモル数PVT はそれぞれこれまでと同じ圧力体積温度(ケルビン温度)でありR は気体定数と呼ばれるもので次の値を持

R= 831441 JmolK (51) 単位で分母のKはケルビン温度の意味

35

状態方程式から式(49)の右辺を導くことを考えてみよう式(50)は

1モルの気体について V に対し次のように変形することができる

V 1

PRT (50rsquo)

両辺に圧力の微小変化量⊿P をかけると

PP

RTP V (52)

これを微分方程式として圧力p0 からp1 まで(p0≦p1)積分するなら

1

0

1

0

1

0

1p

p

p

p

p

pdP

PRTdP

P

RTdPV (53)

関数 f(x)=1x を積分したときの関数はF(x)=ln(x)であるので(ln は e を底

とする自然対数loge)

右辺=0

1ln)0ln()1ln(p

pRTpRTpRT (54)

ギブス自由エネルギーを表す式(49)は次のようであったから

ΔG = VΔP (49)

式(52)から得た式(54)を当てはめると状態G0(p0T)からG1(p1T)

へ変化する過程で圧力が p0 から p1 まで変化するものとして

dGG0

G1

G( p1T ) G(p0T ) RT lnp1

p0 (55)

あるいはこれを書き直して

V

36

G(p1 T) = G( p0T ) + RT lnp1p0

(56)

特別にG0(p0T)を標準状態T=29815K(25)p0=1atmに指定する

なら標準生成ギブス自由エネルギーを記号G゜として (56rsquo)

と表すことができる

式(56rsquo)の意味するところは標準状態から圧力の変化を伴う過程で理

G(p1 T) = Go + RT ln p1

想気体のギブス自由エネルギーは圧力の対数に比例して上昇することである

このことはさらに新しい着想を生む

すなわち水素を燃料とする上の燃料電池で1atm 標準状態の水素ガスの圧力

を2atm に上げれば式(56rsquo)からRTln2 余分にギブス自由エネルギー

が取り出せることになる

燃料電池において起電力を生むエネルギーは隔壁を水素イオンもしくは酸

素イオンが浸透しようとする力であるので1atm の水素ガスと2atm のそれで

は浸透しようとする圧力が異なりここに起電力が生じる

式(56)の第二項が圧力の差による仕事であるからこれをΔG とすれば

W=-ΔG の仕事量が電気エネルギーとして取り出せるはずである

W = minusΔG = minusRT lnp1p0

(57)

起電力に換算するために式(41)を使うと

W = n FV=minus ΔG (41)

から

01ln

pp

nFRTV ⎟

⎠⎞

⎜⎝⎛minus= (58)

この式(58)は一般にネルンスト(Nernst)の式と呼ばれる

37

理想溶液のギブス自由エネルギー

理想気体を想定したように無限に希釈された混合溶液に対して理想溶液を仮

定する「系」の圧力温度を一定に保つならば体積内部エネルギーエンタ

ルピーギブス自由エネルギーなどの示量数は混合溶液を構成する物質のモ

ル数mに比例するたとえば標準状態にある物質の1モルの体積をVとすれば

mモルの体積はそのm倍mVであるそうすると溶液中のi番目の成分がmi

モル「系」から「外界」に仕事をするときその成分iの持つ自由エネルギーの

mi倍の仕事が「外界」になされると考えればよい

この溶液成分のモル数と化学的仕事を結びつける示強因子がギブスによって

化学ポテンシャルと名付けられ一般に記号μが用いられる

化学ポテンシャルはこれまで見たようにギブス自由エネルギーで表される

また電位がψ(プサイ)にある系から-Δeの電荷が放出されるときには

-ψΔeの電気的仕事が得られるそこで記号μに両者を合わせた意味を持

たせて「電気化学ポテンシャル」と呼ぶ

概念の上で物質は電気化学ポテンシャルの高い方から低い方へ勾配にした

がって移動する

理想気体の標準状態が気体分圧を T=29815K(25)で 1atm としたのに対

し溶液成分の標準状態はその分圧に相当するモル数 m を用いるすなわち

標準状態にある成分 i の電気化学ポテンシャルμ0iは成分の持つ電荷(H+なら

1)を n として

μ0i = G i゜+nFψ i (59)

ギブス自由エネルギーは式(56rsquo)を借り理想溶液中の成分に対しては気

体圧力をその成分のモル濃度Cに書き換えればよいそこで

G(CT ) G RT lnC (60)

と表すことができる

したがって一般的な成分 i の電気化学ポテンシャルμiを表す式は標準状態

からの自由エネルギーの変化を考え式(59)と合わせて次のようになる

38

ψnFGii 0

式(60)から

ii CRTGTCGG ln)( 0

よって

(61) ψnFCRT iii ln0

実際的なことを考えると成分濃度はその有効イオン濃度とする必要があり

「活量係数」γを導入して次式で表されるイオン活量aを用いる

ai = γCi (62)

一般的にはγ=1と近似してモル濃度Cを使っているこのテキストでも

必要ではない限りイオン活量を用いることを省略して簡単に記述したい

膜電位

燃料電池に使われたナフィオンのような一つのイオンを通す膜を介して膜

の両側にC0 とC1 のイオン濃度差がある溶液が接するときの電気化学ポテン

シャルを考えよう

ある容器の底にナフィオン膜を取り付け容器の中と外のイオン濃度をC0

とC1としそれぞれの電気化学ポテンシャルをそれぞれμinとμoutとする

式(61)を使って

容器の中の電気化学ポテンシャル

(63) innFCRTin ψ 00 ln

容器の外の電気化学ポテンシャル

(64) outout nFCRT ψ 10 ln

イオン浸透性の膜を介して濃度変化が無視できるほどの移動があると考え

その電気化学ポテンシャルの差を式(63)(64)から求めれば

39

)(ln0

1 inoutinout nFC

CRT ψψ (65)

この系において今注目しているイオンが膜を介した両側で平衡状態にある

とき式(65)はΔμ=0と考えることができるすなわち

0)(ln0

1 inoutnFC

CRT ψψ

膜内外の電位差をΔψ=ψoutminus ψinとすれば

1

0

0

1 lnlnC

C

nF

RT

C

C

nF

RTψ (66)

式(66)は理想気体に対するネルンストの式(58)と同様溶液中のイ

オンに対するネルンスト(Nernst)の式として与えられる

細胞の膜においてもその生体膜の内外でたとえばカリウムイオンのように

非対称に分布して平衡に達している場合には式(66)で与えられる膜内外

で電位差が生じるこれは一般に膜電位と呼ばれる膜電位は平衡電位とも

呼ばれる

たとえば膜内外に1価のカリウムイオンに10倍の濃度差があるとすると

通常カリウムイオンは細胞内の濃度が高いので

C0 = 10timesC1

であるから

これを式(66)に当てはめてln(10)=2303 を用いlog への変換をすれば

Δψ=2303times(RTF)timeslog(10)

であるこれに R=831441 JmolKF=96485 CmolT=29815 K(25)

の各数値を当てはめると

Δψ=2303times831441times29815times196485 JC

=+005917 volt

すなわち膜の内外で約+60ミリボルトの膜電位が生じることになるこの

分だけ細胞の外側の電気化学ポテンシャルが高く膜の内側の膜電位が負であ

るそして膜にあるカリウムチャネルがこの電位を示すとき受動的なカリ

40

ウムの膜内外の移動は平衡に達することになる

水素イオン濃度測定

「標準水素電極」は1モル塩酸溶液につけた白金電極に1atm の水素ガスを

吹き込んで平衡状態に達したときの電位を基準としてゼロボルトと規定した

そこである溶液についてその水素イオン濃度を知ろうとするとき同じ水

素電極を用いることを考えれば標準状態にする目的で用いた1モル塩酸溶液

を濃度未知で X モルの塩酸溶液と想定すればその水素イオン濃度を知るこ

とができるだろうか

標準状態ではない X モルの塩酸溶液に浸けた白金電極が半電池として働くこ

とは間違いなさそうであるしかしその白金電極が持つ電極電位を測定する

にはいずれにしても標準電極と組み合わせて「電池」を構成しその電池

の起電力として計る必要がある電池を作れば起電力を知ることができ相

手の半電池の電極電位が知られていれば濃度が未知でXモルの溶液について

その水素イオン濃度を知ることができるだろう

こうした目的のためにいちいちゼロボルトと規定した標準水素電極を用いる

のは煩雑なのでしばしば後出の「銀塩化銀電極」が参照電極として用いら

れる

まず予め「銀塩化銀電極」を標準水素電極と組み合わせて電池とし一度

その起電力を測定しておけば後はいつもそれを標準電極として利用できる

「銀塩化銀電極」の半電池は

H+ (1 moll) Cl- | AgCl | Ag(s)

これに「標準水素電極」を組み合わせ電池を構成すると次のような電池

になる

Pt(s) | H2(g) | H+ (1 moll) Cl- | AgCl | Ag(s)

この電池の起電力を知れば「銀塩化銀電極」の半電池としての電極電位

を知ることができ参照電極として未知の半電池と組み合わせて起電力を測

定して相手の電極電位を計算できる

41

濃度 X モルの塩酸溶液を未知の溶液と想定すればその電極電位を知るために

組み立てる電池は次のようになる図10にその電池の図を示した

Pt(s) | H2(g) | H+ (x moll) Cl- | AgCl | Ag(s)

この電池の全反応は次の反応式で表される

AgCl(s) 1

2H2 (g) H Cl Ag(s) (67)

図10未知溶液の水素イオン濃度を測定しようとするための電池

化学反応の一般的な式

ここで電池に利用される化学反応から得られるエネルギーをギブス自由エ

ネルギーに換算し起電力を具体的に知る手だてとすることは上ですでに学

42

んだがより一般的な式を再度ここに書きだしておこう

化学反応が紙面で左から右に進む反応として次のような一般式で与えられ

るとき

aA + bB rarr cC + dD (68)

ギブス自由エネルギー変化量は標準状態ΔG゜からの変化量を加える形で式

(60)と同様次の式によって表される

G G RT(ln aCc aD

d ln aAa aB

b )

G RT ln

aCc aD

d

aAa aB

b (69)

aAは成分 A のイオン活量であるその他の成分も同じ

得られたエネルギーを電気エネルギーに換えるなら式(41)に習って

次式で表せば

ΔG=-n FV

there4V=-ΔG(nF) (70)

このときの起電力は標準状態における電位 E゜からの変化量として次式で与

えられる

E E

RT

nFln

aCc aD

d

aAa aB

b (71)

標準状態における起電力 E゜は反応が平衡状態にあるときで反応平衡定数

を K とするなら

K aC

c aDd

aAa aB

b (72)

で表されるそこでE゜は次のように書き改めることができる

43

E

RT

nFln K (73)

そこで式(67)で表される図10の電池「水素minus 銀塩化銀電池」に

対する起電力をギブス自由エネルギーから求めてみよう

反応から式(71)に当てはめれば

E E RT

Fln

aH

1 aCl

1 aAg1

aAgCl1 aH2

1

2

(74)

力学の慣例にしたがって固体の純物質の活量は1として扱い水素ガスを

想気体として見なして活量を1atm とするなら式(74)は次のよう

に簡略化される

E E

RT

Flna

H aCl (75)

ころで理想溶液として近似的に取り扱うときの希薄溶液でたとえば水素

入して詳細に検討するなら式( れる起電

オン濃度はイオン活量として aH+の記号を使うときすでに【理想溶液のギ

ブス自由エネルギー】の章で述べたようにこれを有効イオン濃度とする必要

がありイオン活量 a は「活量係数」γを導入して次式で表した

a H+= γH+CH+ (62)

この活量係数を導 75)で誘導さ

を計ることによって経験的に試料溶液中の水素イオン濃度を求めることは

困難である式(75)にあるイオン活量の項はモル濃度 C と活量係数γを

用いて次式で書き改められる

lnaH aCl

lnCH CCl

lnH Cl

(76)

まり式(76)右辺の第二項において互いに相手が知られなければ自分

決めることができず結果的に起電力を知っても(75)の値から水素イオ

ン濃度を導けないここに工夫が必要になる

44

の定義とその目盛り

液中の水素イオン濃度を直接意味するものではなく

を定義するとき測定されるのは1リットルの溶媒に存在す

pH = -log a H+ = -log(γH+CH+) (77)

際に試料溶液の pH を決定する際はpH 標準液を用いる

に溶液を入れ試料溶液 X と pH 標準液 S を

参 極を接続し電池を作成しその起

pH

現在pH の定義は溶

で述べたようにそれが簡便に測定できるものではないため次のように定

義されている

水素イオン濃度

水素イオン活量であるため定義式としては活量係数をγH+として次式で与

えられる

その要領は次のようである

上に図示した水素電極の容器内

れぞれ半電池(I)と(II)に入れる

半電池(I) Pt | H2 (1 atm) | 試料溶液

半電池(II) Pt | H2 (1 atm) | 試料溶液S

照電極として上図のごとく銀塩化銀電

電力を測定する半電池(I)のときの起電力を E(X)半電池(II)のそれを E(S)

とするこのとき試料溶液Xの pH は次式で計算される

pH (X) pH(S) E(S) E(X)

RT ln(10) (78)

ln(10)は自然対数を常用対数に戻すための定数で2303 を用いる

標準液

pH 標準液 S はpH 第一次標準液第二次標準液と呼ばれるべき

る測定

25で pH 4005 を示す

pH

上述した

のであり絶対的測定法である起電力の測定によって値をつける

標準液は安定で純粋な結晶が得られる試薬を調整してこれを測定す

上と同様に水素電極を用いこれに緩衝液を入れる参照電極として銀

塩化銀電極を接続して電池の起電力を測定する

たとえば005 moll フタル酸水素カリウム溶液は

一次標準(Primary Standard PS)の一つである半電池(III)として水素

45

電極を次のように準備する

半電池(III) Pt | H2 (1 atm) | PS 溶液

て電池を形成したとき得られる起電

参照電極として銀塩化銀電極を接続し

は式(75)から

E E

Ag AgCl RT

Flna

H aCl (79)

オン活量を濃度と活量係数の積(a H+= γH+CH+)にし自然対数を常用対数

すれば

E E

Ag AgCl RT ln(10)

F log(

H + CH+ Cl- CCl - ) (80)

E゜は水素標準電極(水素ガス分圧を1atm電極を浸ける溶液に001 moll

H

Cl を用いる)で得た起電力である

式(80)から

RT ln(10)

Flog(

H CH Cl

) (E EAg AgCl )

RT ln(10)

Flog C

Cl

(81)

らに

log(

H CH Cl

) F

RT ln(10)(E E

Ag AgCl ) logCCl

(82)

ころで式(77)から

(γH+CH+) (77)

-log a H+ =-loga H+-log(γCl-) +log(γCl-) =-log(a H+γCl-) +log(γCl-)

(83)の一番右の式で第一項は

pH = -log a H+ = -log

であるが右の式をさらに変形すると

(83)

46

-log(a H+γCl-)=-log(γH+ CH+γCl-) (84)

たがって式(82)の右辺で示されるように電池の起電力を測定すれば

よ 実際には溶液の塩素イオン濃

液で起電力を求め外挿する

起電

これによってpH を意味する式(83)は次式(85)で与えられる

p(aHγCl)はRG Bates によって Acidity Function と呼ばれている

らに式(85)最終項の log(γCl-) を補正しなければならないこの項は

本工業規格)によっても

であってこれは式(82)の左辺である

いただし塩素イオン濃度の項があって

をゼロにしたときの値が必要である

実測する際には塩素イオン濃度をゼロにできないので塩化ナトリウム NaCl

等を濃度を変えて添加しその時々の緩衝

勧告ではNaCl で 000500100015moll の3つの濃度を例示している

すなわち塩素イオン濃度ゼロのときの値は各塩素イオン濃度に対して

の値をそれぞれプロットしグラフから塩素イオンがゼロのときの起電力の

値を3点に対する回帰直線の延長で外挿して求めるこの点を次のように書

log( C H H Cl CCl

0

pa log( C log( (85) H H H Cl C

Cl0 Cl

)

素イオンの活動係数で与えられる補正項である

無限希釈溶液中のイオンの活動係数は理論的に Dubye-Huckel の式を用い

近似的に求めることが可能であるこれはJIS(日

用されていて Bates-Guggenheim の規約と呼ばれる (Bates RG

Guggenheim Pure Appl Chem 1 163-168 1960)

Dubye-Huckel の式は次のように与えられる

log A I

i 1 iB I (86)

47

I iについてそのモル濃度

計算される

はイオン強度でイオン mi と電荷 zi から次式で

I 1

2mizi (87)

また iは(86)式のBは温度と溶媒の性質による定数であり イオンの大

きさに関するパラメータで水和イオンの大きさとほぼ一致した値をとる標

準法の勧告では塩素イオンに対しイオンの大きさを46Åと決めてiBを

1

5 にしているそこで式(84)は次のようになる

ClA I

log 1 15 I

イオン強度 I は塩素イオン濃度を含まない計算となる

以上の方法によって実用的な pH 測定に用いられる第一次第二次標準液の

pH の値が得られる

絶対値としての

はpH の絶対測定法(第一次標準測定法)とされている

銀塩化銀参照電極は分極現象を防ぐために棒状の銀を塩酸で処理し表

に塩化銀を生成させたものを飽和塩化カリウム溶液につけてある

(88)

参考現在は実験的に求めた値と理論値の組み合わせで

素イオン濃度を求める方法を規定しているこの起電力から水素イオン濃度

を知るための測定方法

Buck RP Rondinini S Covington AK Baucke FGK Brett CMA Camoes MF

Milton MJT Mussini T Naumann R Pratt Kw Spitzer P Wilson GS

Measurement of pH definition standards and procedures Pure Appl Chem

74(11)2169-2200 2002Kristensen HB Salomon A Kokholm GInternational

pH scales and certification of pH Anal Chem 63(18) 885A-891A 1991)

銀塩化銀参照電極

電極の構成は

Cl-(aq) | AgCl(s) | Ag(s)

48

この半反応は次のようになる

AgCl(s) + e- rarr Ag(s) + Cl- (89)

の反応は次の2つの反応に分けて考えることができる

Ag+ + e- rarr Ag(s) (91)

AgCl(s)rarr Ag+ + Cl- (90)

図11銀塩化銀参照電極

(90)における銀 る塩素イオンによって左

されることが推測される

そこでカッコ [ ] をそれによって囲まれるイオンの濃度を表すことにし

式 イオン Ag+の溶解性は共存す

塩化銀の乖離定数Kを考えると

49

K = [Ag+][Cl-] (92)

これから

[Ag+]= K[Cl-] (93)

化カリウム溶液に漬けた銀塩化銀電極の電位 E は水素標準電極に対する

電 で与えられる

位を E゜として次式

E E

RT

nF

[ Ag ]

[Ag(s)]ln( )

Ag(s)のイオン活量は常に1とする

ここで半反応の電極電位を求めるために式(75)を利用することにすれば

(94)

熱力学の慣例にしたがって純物質個体

E E

RT

Flna

H Cl a (75)

式 の半反応をみると

応で電子1つが移動するので n=1 とするR=831441 JmolK1F = 96485

C はめれば

これに銀イオンの濃度として式(93)を当てはめる

この反応で移動する電子は (89) 銀イオン1つの反

molT=29815K(25)ln(10)=2303などの定数を当て

2303RTF = 005917

であるから(94)式は次のように表現できる

log[Cl]) E E 005917(logK (95)

たがって標準水素電極に対する銀塩化銀参照電極の標準状態における電

位 は半反応(89)に対して ゜=+0799で

化銀の乖離定数 K は182times10-10 であるのでその対数を取れば-973993

0799-005917times973993-005917log[Cl-]

E゜ E ある

ある

そこで式(95)は

E =

50

= 0799-0576-005917log[Cl-]

= 0223-005917log[Cl-] (96)

電極電位の関係について実測値

こうして求めた塩化カリウム溶液の濃度と

計算上の値は次のようである

KCl moll vs SHE volt25 計算値 volt25 01 02881 02822 35 0205 01908 飽和 0199 minus

実用 測定

実際の現場で水素イオン濃度を測定する目的の測定法で上のような2つの

極が同じ溶液に浸かっていたのでは試料溶液を交換するにも便利ではない

の容器に入れる未知試料溶液と銀塩化銀電極を隔離する

的な pH

そこで水素電極側

的で二つの電極容器をつなぐ液絡部をグラスフィルターやセラミック板

飽和塩化カリウムで作成したゼラチンなどの塩橋によって隔離遮断するこ

れを液絡部とよぶ

電池として機能するために必要な溶液イオンの交換はこの液絡部で行う

組み立てる電池は電池式で次のように表される

Pt(s) | H2 | 試料 (H+ x moll) || 飽和 KCl | AgCl | Ag(s)

の標準電極と銀塩化銀電極とは区切られていて溶液の直接の接触がない

とを意味するために電池式ではタテ二重線を用いる銀塩化銀参照電極

の容器には飽和塩化カリウム溶液が入れられる

51

図12液絡部のある pH 測定のための電池

この液絡部のある電池では塩橋を記号lsquo | | rsquoで表して次のように記す

試料 (H+ x moll) | | 飽和 KCl

ここでは試料溶液と飽和塩化カリウム溶液の異なる2液が接している

このような界面では膜電力が生じるのと同様「液間電位差」が生じることが

知られているしたがって上の電池で測定される起電力 E は

E = E[銀塩化銀電極電位]+E[液間電位]+E[水素電極電位]

で与えられることになってE[液間電位]のために図12の電池の起電力

は銀塩化銀参照電極の値を知っていても水素電極容器内に入れた未知溶

液の水素イオン濃度を正しく知ることができない

52

そこで実用的な測定法としてこの E[液間電位]を膜電位として積極的に利

用する方法が工夫されたすなわち水素イオンに感応するガラス薄膜を用い

るガラス電極法である

53

ガラス電極

ガラスはケイ素原子と酸素原子からなる SiO4 の結晶構造を持ち酸素で囲

まれた空隙があって水素イオンがそれを埋めることができる

この性質によってガラス膜表面は水溶液中の水素イオンに応じて膜電位を

変化させるのでこれを水素イオン濃度測定用の電極として利用することが考

えられるこれが通常用いられるガラス電極である

ガラス電極は標準電極と組み合わせれば電池を構成することができこの電

池の起電力を知ってガラス薄膜の内外にできたイオン濃度勾配を知ろうとす

るものである

薄いガラス膜(01mm程度)をはさんで接する2つの溶液のH+イオン濃

度が異なるとその差に応じてガラス膜の両側に電位差(Eg)が現れる

ネルンストの式でガラス電極の内部に入れた既知の濃度のH+([H+]in)に対

し試料中の水素イオン濃度が[H+]sampleのとき次の電位を生じる

)][

][log(059170)

][

][ln(

sample

in

sample

ing

H

H

H

H

F

RTE

(97)

図13ガラス電極

電極を構成するのは銀塩化銀電極と同じ電極で用いる塩溶液は一般的

54

に 01モル塩酸溶液である

この半電池の電池式は次のように書くことができる

Ag(s) | AgCl(s) | HCl (01 M) | ガラス薄膜 || 試料溶液 H+ (x moll)

Eg

この半電池の電極電圧を測定するために銀塩化銀標準電極と組み合わせ

電池を作って起電力を計る

構成される電池は下図のようになる

ガラス電極 銀塩化銀標準電極

図14ガラス電極を用いた pH 測定用の電池

この電池の起電力は次の各半電池の平衡電位を合わせたものになる

55

E1ガラス電極の内側電位

Ag(s) | AgCl(s) | HCl (01 M)

Egガラス薄膜の内外に生じる膜電位

HCl (01 M) | ガラス薄膜 || 試料溶液 H+ (x moll)

E2液間電位(膜電位)銀塩化銀標準電極のセラミックを介した試料溶液

と銀塩化銀標準電極の内部液(飽和 KCl 溶液)の間に発生する電位

試料溶液 H+ (x moll)|| セラミック | KCl(飽和)

E3銀塩化銀標準電極

KCl(飽和)| AgCl(s) | Ag(s)

pH メーター用のガラス電極に使われるガラス薄膜は水素イオンに感応して

膜電位(Eg)を生じるこれは【膜電位】の章で記したように薄膜がある

一つのイオンのみを通過させる特性を持っている場合にイオンが膜を介した

両側で平衡状態に達したとして電気化学ポテンシャルを膜の両側で等しいと

考えてそのイオンが濃厚な側から希薄な側にその差によって圧力を生じると

するものである

一方同じ試料溶液が銀塩化銀標準電極のセラミック液絡部を介して生じ

るだろう液間電位(膜電位E2)はいま関心がある水素イオンに対して特異

的に感応するのではないので試料溶液の水素イオン濃度に関係なく一定と見

なすことができる

すなわちpH メーターを構成する電池の起電力 E は

E = E1+Eg+E2+E3 (98)

このうちEg以外は一定と見なせるので

E1+E2+E3 = E

として式(98)を書き直すと

)][

][log(059170

sample

ing H

HEEEE

(99)

Eは標準液によって校正されるべき標準電極電位である

56

電極の校正

実際のイオン濃度を測定する場合低濃度標準液と高濃度標準液で得られ

る起電力を測定し計測のイオン濃度に対する係数(傾き)を求めておき未

知の試料に対して起電力を測定してそのイオン濃度を算出する方法が採られる

低濃度標準液と高濃度標準液のそれぞれの濃度をCLとCHとすればそれぞ

れの起電力ELとEHは次式で表される EH = E +β logCH (100)

EL = E +β log CL (101)

ただしβは式(99)の係数を簡略にしたものである

式(100)と(101)から検量線の傾きが次式で表せる

ΔE = EH minus EL = β(logCH minus logCL) = β logCH

CL

(102)

したがって係数βは

β =ΔE

log CH

CL

(103)

であらわされる

このときに使われる標準はすでに前出の pH 第一次標準第二次標準溶液で

ある

金属イオンに対応するイオン選択電極

現在臨床検査で日常的に使われている電解質測定のための電極はナトリウ

ムカリウムカルシウムクロールなどおよそ臨床的に必要な金属イオン

に対して入手可能である

カリウムイオン測定用のバリノマイシンの発見によってクラウンエーテルと

57

呼ばれる一連の化合物が知られたクラウンエーテルはその分子の中心に立

体的な空間を持ち特定のイオン径に対し合致するのでそのイオンに対して

選択的に感応するこれらの化合物はイオノフォアと呼ばれる

図 15クラウンエーテル

1つの金属イオンが環状化合物

15-crown-5 の中央にある空間を充填

している模式図

15-crown-5 の構造を作る10個の黒

い丸は炭素炭素2個のつながりごと

にある中心の白い丸は酸素酸素と

金属イオンの間の距離はおよそ 22~

23Åであるカリウムのファンデン

ワールス半径は 135Åイオン半径は

15~16Åである

測定したいイオンに対しポリ塩化ビニル(PVC)を支持体としてイオノフ

ォアを添加した液膜の電極膜を作成しこれをガラス電極におけるガラス薄膜

と同様試料に接する電極膜として用いるこの構造から一般的に液膜型電極

と呼ばれる電極膜には特異性を高めるため妨害イオン排除剤などが添加

される

pH メーターと同様銀塩化銀標準電極と組み合わせ電池を形成しその

起電力を計る測定したいイオンが液膜に対して内外で平衡に達したときの

膜電位を測定するのはガラス電極と同じである

カ リ ウ ム イ オ ン に は Bis[(benzo-15-crown-5) ( 正 式 名 は

Bis[(benzo-15-crown-5)-4-methyl]pimelate)ナトリウムには Bis[(12-crown-4)

やDibenzyl-bis[(12-crown-4)などがイオノフォアとして用いられる

58

図16カリウムイオン測定用に使われるクラウンエーテル

図17ナトリウムイオン測定用に使われるクラウンエーテル

59

参考イオン選択電極に関する文献Xia Z Badr IHA Plummer SL Cullen L

Bachas LG Synthesis and evaluation of a bis(crown ether) ionophore with a

conformationally constained bridge in ione- selective electrodes Anal Sci 14(2)

169-173 1998 Oh K-C Kang EC Cho YL Jeong K-S Y oo E-A Paeng K-J

Potassium-selective PVC membrane electrodes based on newly synthesized

cis- and trans-bis(crown ether)s ibid 14(10)1009-1012 1998 Dojindo WEB

site httpwwwdojindocojpwwwrootproductsjinfo2protocolp31pdf

<補遺> 60

補遺 状態関数 (本文 p21 10 行目参照)

一つの平衡状態にある系 A とこれに接する系 A にとって外部である系 B について系 B

から系 A に熱を与えこれによって系 A が他の平衡状態に移ったとき系 A はその結果とし

て膨張し系 B に対し仕事をする

このときの微少な熱量の移動を記号drsquoQ またなされた微少な仕事をdrsquoW とすると

系Aの内部エネルギーに関する微少な変化drsquoUA は両者の和として表される

WdQdUd A primeminusprime=prime (a-1)

この式 a-1 と本文中の式25との関係について

WQU A Δminus=Δ 本文(25)

<補遺> 61

式 a-1 と式25の記号の違いは変化の起きる前の平衡状態 S1 から変化後の平衡状態 S2

に状態変化があったとするなら式 a-1 を積分することで式25が得られるものと考えて区

別している

A

S

S A UUd Δ=primeint2

1 (a-2)

このことは重要であるすなわち内部エネルギーU は変化の起きる前後の状態を指定する

ことによって値が定まることを意味するこのように積分によって値を定めることが出来る

のでdrsquoU は完全微分であるという

内部エネルギーのように系の状態だけで値の定まる量を状態関数として扱う

一方式 a-1 のdrsquoQ drsquoW についても同様に微少の変化量を表しているが平衡状態 S1

から S2 への経路を指定しなければ積分の値は定まらない

本文中の記号にしたがって仕事量ΔW を次のように表すことにする

VpW Δ=Δ 本文(20) V

<補遺> 62

体積と圧力の関係を表す図を使ってこの仕事量が意味することを考える圧力 prsquo の下で

体積が V1 であるときを状態 S1 として圧力一定の下で体積を V2 まで膨張させるような変

化を行った後体積を等しく保って圧力を p にまで上げたときの状態を S2 とするこのとき

の仕事量は膨張に伴うものであるから図の体積‐圧力線の下の面積で示すことができる

平衡状態 S1 から S2 への変化の道筋を別にたどってみよう

新しい経路では圧力を先に p まで上げた後に膨張変化させている

図から直感的に明らかであるので数式での扱いを省略するが2 つの経路による仕事量には

差がある

すなわちdrsquoW は drsquoU と異なり変化の初め S1 と終わり S2 の状態が与えられても積分値

は定まらず変化の経路によって違ってくる

このように変化の経路を指定しなければ積分値が定まらないものを不完全微分と呼び扱

いを区別する

本文 p21 へ戻る

<補遺> 63

VpW

WQU

VpQU

VpUQ

1122 SSSS pVUpVUQ

pVU

VpUHHHQ SS 12

エンタルピー (本文 p24 20 行目参照)

本文中の式 20 および 25 から一定の圧力の元で起きる状態変化において内部エネルギー

の変化量に対する式 a-3 を得る

本文(20)

本文(25)

(a-3)

式 a-3 を Q について書き直す

(a-4)

状態の変化が平衡状態S1から平衡状態S2に移ったものとして式 a-4を丁寧に書き直すと

(a-5)

並び替えて

(a-6)

式 a-6 を見ると定圧過程における熱量の流入は

(a-7)

の形を持つ関数の差であることが分かる

一般に化学反応のような変化の過程では大気圧の下で行われるようなものに興味がある

そこで式 a-7 で与えられる項を一つの関数として定義するこれをエンタルピーと呼び記

号 H を与える式 a-4 はエンタルピーの変化量で次のように書き改められる

(a-8)

圧力が一定の下で起こる状態変化について流入する熱量は式 a-8 で示されるようにエンタ

ルピーの変化量に等しい

V

V

V

V V

V

V

1212 SSSS VVpUUQ VV

<補遺> 64

1Q

We

また式 a-8 からオートクレーブ内で起こるような体積変化のない過程ではこの値が内

部エネルギーの変化量で与えられることが明らかである

本文 p24 へ戻る

エントロピー (本文 p26 17 行目参照)

エントロピーは次のような思考実験から発想された仮想的な状態関数である

理想気体よりなる系 A が温度 T2で熱平衡状態にあり温度 T1の外部の熱源と接しているこ

とを想定する系 A の外部を系 B と呼ぶことにするT1は T2に対して無限小だけ高い温度と

する

系 A が系 B に対して温度圧力について平衡を保ちながら緩慢に系 B より熱量 Q1を受け取

る過程を考える(このような過程を準静的過程と呼ぶ)これによって系 A が熱量 Q1を得て膨

張するとき系 B に対して仕事をする続いて系 A から熱量 Q2が系 B に戻ることを考える

想定されるこの変化が可逆的であれば系 A と系 B を併せた全体は元の状態に戻る蒸気機

関に関するこのような研究が Nicolas Carnot によってなされたのは1824 年のことであった

ここに想定されたサイクルに対する Carnot の効率 e は移動した熱量となされた仕事によ

って定義され次の式で表される

(b-1)

<補遺> 65

理想気体では内部エネルギーU の変化ΔU はゼロと考えるしたがって熱力学の第一法

則を表す式(本文中の式25)から次の関係が示される

0=Δminus=Δ WQU

WQ Δ= (b-2)

これによってCarnot Cycleの効率eはQ2lt0 として次のように書き改めることが出来る

1

21

QQQe +

= (b-3)

ところで気体の状態方程式から1 モルの気体について次のような関係が示される

RTV

P

P1=

V = RTV (b-4)

V 式 b-4 の両辺に体積の微少変化量ΔV をかけて

(b-5)

これを体積Vについてその変化をV1からV2までとして積分するならば次式が得られる

VV

RTVP Δ=Δ 1V V

V

intint = 2

1

2

1

1V

V

V

VdV

VRTPdV

1V2V

11 lnRTW =

(b-6)

Q1の熱量によって起こる膨張がV1よりV2までとし圧力P温度T1の下でなされるその仕事

量をW1とするならそれは式b-6 の右辺によって示されるすなわち

(b-7)

VV

1

2lnVVRT=

V V

VV

V

V2int V2 intV1 V1

<補遺> 66

またQ2の熱量の移動が圧力P温度T2の下で起きこれによって系Aが可逆的に圧縮され

るなら体積変化はV2よりV1まで起こりその仕事量をW2で示すと次式のように表される

(b-8)

1

22

2

122 lnln

VVRT

VVRTW minus==VV

VV

Q1=W1Q2=W2の関係から式b-7 およびb-8 を用いてCarnot Cycleの効率eを表す式b-3

を書き改めると温度のみの関係式として次のように表される

1

21

TTTe minus

= (b-9)

ここでサイクルが可逆的過程であると想定するならば式 b-3 と式 b-9 から

1

21

1

21

TTT

QQQe minus

=+

= (b-10)

これから

12112111 QTQTQTQT minus=+ (b-11)

整理すると

02

2

1

1 =+TQ

TQ (b-12)

この考えをさらに発展させ系A

と系Bの間に数多くの系を挿入すること

にしてそれらの系を同様に熱源として

T1T2Tnと考えるこれによっ

て熱の受け渡しが系Aから系Bに至り

再び系Aにもどるサイクル過程に数多

くの寄り道の過程を加えることになる

熱量の移動に関して上の場合と同じく

準静的過程で行われると考えるこの

サイクル全過程について初めと終わ

<補遺> 67

n

i i

i

T

Q

1

0

0T

dQ

T

QS

T

dQASAS )()( 12

りが同じ状態になる可逆的な過程であるなら式 b-12 を拡大的に考えることになってそれ

は次式で表される

(b-13)

式 b-13 には重要な関数が現れるすなわち熱量と温度の比QT である

もし一つの系が無限小だけ温度の高い(dT )外界から温度圧力など平衡を保ちなが

ら極めて緩慢な過程(準静的過程)で無限小の熱量(dQ )を受け取るならばその変化は可

逆的でありdT について連続的な温度分布をする過程を考えるとき式 b-13 をさらに発展

させて次のように積分式で示すことが出来る

(b-14)

式 b-14 で積分記号にが付されているのはCarnot Cycle のような経路を一巡することを

意味している

Carnot の熱機関の効率という着想から生まれた熱量とそれを持つ系の温度との比 QT に

重要な意味を見出したのは Rudolph Clausius で彼はこの比にエントロピーという名前を与

えたエントロピーには記号ΔS を一般に用いる

(b-15)

エントロピーは初めと終わりの状態がわかれば過程に関わらず定まるので状態関数であ

系 A と外界のエントロピー変化を考えるときそれが可逆的過程であるならばすべてを併

せた全体のエントロピー変化は初めと終わりに変化がないという意味でゼロであるすなわ

ち初めの状態を S(A1)とし次の状態を S(A2)とするならそれぞれのエントロピーを

ΔS(A1)ΔS(A2)としてこの間におけるエントロピーの変化量は次のように示される

(b-16)

<補遺> 68

T

dQdS

0T

dQ

ある一つの変化については次のように示される

(b-17)

ここで式 b-17 の S に付けられたdは微分量すなわちごく微小の変化量を意味し式 b-15

で定義されたエントロピーに用いられる一般的な記号Δと区別する

ところで式 b-10 の関係においてもし移動した熱量のすべてが仕事に変わらなければ

効率 e を表す熱量を用いた関係式と温度で表される関係式は等号で結ぶことができないそれ

はエネルギーのロスを意味し初めと終わりの状態が異なってしまうことを意味するすなわ

ち全過程が構成する一つのサイクルは可逆的でなくなる

不可逆過程での熱効率 ersquo は 大値を示す可逆的過程の熱効率 e より小さな値をとる

ee

したがって 大効率を与える式 b-8 と式 b-3 から

01221

2112

1

21

1

21

QTQT

QTQT

Q

QQ

T

TT

両辺を T1T2で割ると

02

2

1

1 T

Q

T

Q

これを式 b12 と同様に発展させれば式 b-14 についてサイクルの変化が可逆的過程の

場合と不可逆的過程の場合の両方を併せClausius の不等式と呼ばれる次の関係が成立する

(b-18)

式 b-18 の等号が成立するのはサイクルが可逆的な理想の場合に限られる

ある孤立系で状態 A1 から状態 A2 へは不可逆変化で進められ状態 A2 から再び状態 A1

に戻るとき可逆変化であるような閉じた状態変化を考える可逆系のエントロピー変化には

記号 Q を使い不可逆変化には Q を用いるとするとそれぞれ積分式を用いて状態 A1 から

状態 A2 へは

<補遺> 69

d prime

状態 A2 から状態 A1 に戻るときは

全体では

=d prime

+d

(b-19)

Clausius の不等式から

0

式(b-19)の第二項で反応を逆に進めるときには次のように書き改めることができる

=d

よって式(b-19)は次のように書き直すことができClausius の不等式とあわせると

d prime d

0

すなわち

d prime d

上式の右辺は式(b-16)を用いて表せば

d prime

∆S ∆

この状態変化を微小変化とするならば断熱変化の場合 dQ = 0 であるから

∆S ∆ dS 0

すなわち不可逆変化を含む断熱変化ではエントロピーは必ず増大する

<補遺> 70

T

QS

BA SSS

(b-20)

(次の<補遺>ギブス自由エネルギーも参照せよ)

本文 p26 へ戻る

ギブス自由エネルギー (本文 p28 27 行目参照)

エントロピーの考えを導入することによって不可逆的に状態変化が起きるときにはエン

トロピーの増大を引き起こすことを知ったこれによって目前で起きる現象について温度の

変化があるものであれないものであれまた圧力の変化があるものであってもエントロピー

の定義式によって可逆的な変化におけるエントロピーの変化量を計算することが可能である

(b-15)

しかしながらこれから起こる変化について我々がすでにあらかじめ知っている物理量を

用いて予測的にその状態変化が起きるかどうか知ることは必ずしも容易ではないその理由

は式 b-15 に示されたエントロピーΔS が系とその外界をあわせた全体のエントロピーを示

しているからであるすなわち関心のある系を系 A としその外界を系 B とすると全体

のエントロピーは次のように表せる

(c-1)

関心のある系 A のエントロピー変化を知るためには系 B のそれを知ればよいがそれは

いつも容易とは限らない系 A の性質だけで状態変化の方向を知るには別の観点が必要にな

るようだ

そこでもう一度状態変化が熱量 Q の移動によって起きることについて考えてみようエン

トロピーの補遺で議論したように熱量の移動が準静的過程により行われるときには変化は可

逆的に起こると考えたこのとき外界すなわち系 B から移動する熱量を Q1とし系 A から

0S

<補遺> 71

21 QQ

T

Q

T

QSB

21

T

QSS A

2

QH

T

HSS AA

AA STHST

のそれを Q2 と記号を当てたのでこれをそのまま使うことにすれば可逆的な過程では系 B

の熱量 Q1 はすなわち系 A から戻る Q2 に他ならないので両者には次の関係が成立するも

のとしてよい

(c-2)

したがって

(c-3)

と考えてよくこれによって式 c-1 を次のように書きなおすことが出来る

(c-4)

独立した系で圧力とその体積に変化がなく一定の条件の下で状態変化が起きるときエン

タルピーの考えを使ってすでにひとつの関係があることを導いている

本文(31)

そこで式 c-4 を系のエンタルピーΔHAによって書き改めれば

(c-5)

この両辺に-T をかけて式を書き直せば次の関係式が得られる

(c-6)

式 c-6 を見るときその右辺がマイナスの値ならば左辺のΔS はプラスの値をとることが

分かるすなわちエントロピーが増大すると見ることが出来るこれまでの過程で自然の現

象はエントロピーが増大する方向に進むとしてきたので関心のある状態変化について式 c-6

の右辺で計算される値がマイナスの値ならばその変化は起きるものと考えてよいことになる

だろうしかも右辺はすべて独立した系の状態量で示されていて我々が知りうる値で計算

<補遺> 72

TSHG

STSTHG

STHG

可能である

そこでこれを熱力学ポテンシャルを表すものとしてギブス自由エネルギーと呼ぶことに

するギブス自由エネルギーは記号 G が用いられ次のように定義される

(c-7)

ここで関心があるのは自由エネルギーの絶対値ではなく式 c-6 に示されたようにその変化量

に興味があるので式 c-7 から

(c-8)

温度が一定の条件の下で状態変化が起きることを考えるなら式 c-8 は次のように書くこと

ができる

(c-9)

ギブス自由エネルギーは式 c-9 の右辺がすべて状態量であるからこれも状態量の一つで

ある定圧定温の条件下で起きる変化ではすでに議論したようにΔGlt0 であれば状態

変化は自発的に起きるものと予測できる

つまり式 c-5 の第一項は系のエントロピーΔSAそのものであり第二項で示されるエンタ

ルピーは系 A の温度が一定に保たれているのであるから発熱する熱量として外界に吸収さ

れるものであってこれは外界のエントロピーの増大につながるものとして解釈されるした

がって化学反応のように一定の圧力と一定の温度の下で起きる変化について自由エネルギ

ー変化量はその状態変化が自発的に起きる傾向を示しているといってよい

本文 p28 へ戻る

  • はじめに
  • 目次
  • 電気エネルギー
    • 金属のイオン化
    • 電池
    • 水素の反応
    • 燃料電池
    • 化学反応と電気エネルギー
      • エネルギーと熱力学
        • エネルギー保存則
        • エンタルピー
        • エントロピー13
        • ギブス自由エネルギー
        • 電池における化学反応のギブス自由エネルギー13
        • 理想気体の状態方程式
        • 理想溶液のギブス自由エネルギー
        • 膜電位
          • 水素イオン濃度測定
            • 化学反応の一般的な式
            • pHの定義とその目盛り
            • pH標準液
            • 銀塩化銀参照電極
            • 実用的なpH測定
            • ガラス電極
            • 電極の校正
            • 金属イオンに対応するイオン選択電極
              • 文献
              • 補遺
                • 状態関数
                • エンタルピー
                • エントロピー
                • ギブス自由エネルギー
Page 5: イオン選択電極i イオン選択電極 Ion Selective Electrode (ISE) を理解する ・ pHを測定する ・ NaやKなどのイオン濃度を測定する 神戸大学医学部保健学科

2

が514 eV であるのに対して数値が小さいのでカリウムの方がナトリウムよりプラスイ

オンにされやすいことを示しているまた水素のイオン化エネルギーは 13595eV であって

数値ではこれらの元素よりはるかにプラスイオン化されにくいことを示しているところ

がイオン化列で水素より右にあるつまりイオン化傾向がより低い銀の第一イオン化エネ

ルギーは 758eV でそれはイオン化列でナトリウムのすぐ隣にあるマグネシウムの値に極

めて近いマグネシウムの第一イオン化エネルギーは765eV である

金属電極がイオン化する際の議論では電極反応の主体が電極溶液界面での電荷移動で

あってさらに静電場を考慮する必要がある電荷を持つものが金属表面から 10minus 4cm 程度

の距離にあるとき鏡像にあたる誘起引力が生じるこれは鏡像力の効果(image force)

とよばれ無視できないGuggenheim EA は「電気化学ポテンシャル」を提唱したこれ

によれば金属内部から鏡像力の効果がおよぶ点までは金属の化学結合に関わる電子の持

つ化学ポテンシャルμeM と金属表面の電荷分布に由来する表面電位χM の引力が関わり

電子を引き離すのに要する仕事量は[μeMminus FχM]が必要となるさらに鏡像力の効果が

無視できない点からその力がおよばない溶液中の無限遠に引き離すのに要する仕事量は

金属の外部電位をΨM として[minus FΨM]で表されるしたがって電極として溶液につけ

ら れ た 金 属 原 子 の 電 子 に 関 す る 電 気 化 学 ポ テ ン シ ャ ル ˜ μ eM

˜ μ eM = μe

M minus F ψ M + χ M( )= μ eM minus Fφ M

で表されるφMは電極金属の内部電位という

イオン化傾向は溶液との関係において電極反応の電位として理解できる

金属が塩溶液につけられたときにとけ出そうとする現象は化学反応の1つと

してとらえることができる金属が電子を放出してプラスイオンとなる過程

は化学反応式を使って次のように表すことができる

亜鉛を例として取り上げればその化学記号には Zn が使われるので金属固

体を表す添え記号を(s)とすることにして

Zn(s) rarr Zn2+ + 2e- (1)

反応式(1)は金属の亜鉛片が溶液につけられると亜鉛は溶液にとけだし

て2価のプラスイオンになることを意味するこのとき電子が2つ遊離す

化学反応ではこのように電子を放出する反応を「酸化反応」という

したがって(1)の反応が進めば亜鉛は酸化される自身が酸化されるも

3

のに対してその反応で発生した電子を受け取る相手は還元されると言う

すなわちこの反応が起きるとき上の例での亜鉛は「還元剤」としての能力

を持つことになる

このように考えるとイオン化傾向の大きな金属は還元剤としての能力が高い

と言うことができるしたがってKや Caは強い還元剤である

逆に言えばイオン化傾向の上位にある金属は酸化力が弱い

金属の酸化力の強さは水溶液にあってイオンの状態から金属単体になりやす

い傾向を言うこれはイオン化列の右にあるものの方が高い性質を持っている

金属に対して「酸化還元反応」を考えるとき金属と金属イオンの組み合わせ

で考えることができる

ある金属の塩を水に溶解して金属イオンとして存在する水溶液を準備しそ

の金属よりイオン化列の上位にある金属片をその水溶液に浸ける

するとイオン化列の上位にある金属片が溶液に溶けだし最初水溶液をつく

ったイオン化列の下位にある金属が析出してくる

例で示そう硫酸銅 CuSO4の水溶液を作りこれに亜鉛板を浸ければ亜鉛

板の水溶液に使っている部分はやがて茶褐色に変化する

ここで起きる反応は次の反応式で書き表すことができる

Zn(s) rarr Zn2+ + 2e- (2)

Cu2+ + 2e - rarr Cu(s) (3)

2つの反応式を合わして全体の酸化還元反応を反応式として表すことができ

Zn(s) + Cu2+ rarr Zn2+ + Cu(s) (4)

このようにイオン化傾向が水素よりも小さなものがあればまずその金属

が析出するイオン化傾向が水素よりも小さなものがなければ酸性なら水素

イオンが中性やアルカリ性なら水が反応する

水溶液において水素よりもイオン化傾向が大きい金属は電極に析出はし

てこないこのとき水の反応を示すと

4

H2O + 2e- rarr H2 + 2OH-

このように水酸イオン OH- が出来るので中性の水溶液を用いると水が反

応してその周りはアルカリ性になる

電池 酸化還元反応に伴う化学エネルギーを用いて電子の流れを発生させればその

化学エネルギーを電気エネルギーに変換することができる

化学エネルギーから電気エネルギーに転換させる過程を見てみよう

硫酸銅 CuSO4の水溶液に亜鉛板をつけたときの反応は上で反応式(2)

と(3)およびその全体を(4)で示した

それぞれの金属だけについて化学反応を(2)や(3)のように単独で示す

ときこれを「半反応」という

亜鉛に対する半反応(2)では亜鉛分子が亜鉛板に電子を残してプラスイオ

ンになって水溶液にとけ出すことを表している一方半反応(3)では銅

イオンが発生した電子を亜鉛板表面で受け取り金属銅となって析出すること

を表しているこのとき亜鉛は酸化を受け銅は還元される

ここで電子を亜鉛板から取り出すことを考えよう

反応に用いたのは硫酸銅の水溶液であったがこのような塩溶液を電解質溶液

と呼ぶ電子を取り出すために電解質溶液に工夫をしよう

2つの水槽を準備し一つには硫酸亜鉛 ZnSO4の水溶液を入れて亜鉛板をこ

れに浸けるもう一方には硫酸銅 CuSO4の水溶液を入れそれには銅板を浸け

それぞれの水槽内で起きることを期待するのは反応式(2)と(3)で示し

た各半反応である

ここでそれぞれの水槽の金属板に導線をつなぎ両方をそれで接続すると電

子が導線を伝わって移動するならその電子の流れを電流としてこれを利用す

ることができるそうすれば化学反応のエネルギーを電気エネルギーに変換

できたことになるつないだ電線の途中に豆球ランプを入れるならこれが点る

だろう下図ではこの導線の中間に電圧計を入れたものを示している

5

図1亜鉛と銅を電解質溶液に入れる

再度それぞれの水槽で起きると予想する反応を書いておこう

左の水槽 Zn(s) rarr Zn2+ + 2e- 酸化反応

右の水槽 Cu2+ + 2e - rarr Cu(s) 還元反応

左の亜鉛が入れられた側では亜鉛板に電子がたまり亜鉛の酸化反応が起きる

一方右の銅が入れられた側では電子が水溶液に移動し銅の還元反応が起き

亜鉛は電子を電極に残しプラスイオンとなって水溶液中に出て行き亜鉛板

の電極中に電子が余分にたまるこのとき水溶液にある硫酸イオンは変化を

受けない

一方の銅板では水溶液中の銅イオンが銅板から放出される電子を受け取って

銅単体となり析出するこちらの水槽でも水溶液にある硫酸イオンは変化を受

けない

電極に余分にたまっている電子の量を電極電位という

6

上の図では導線の中間に電圧計がつなげてあって両極の電極電位の差を測定

することができる電極電位の差すなわち「電位差」は電極間をつないで回

路をつくればその回路に電流が流れるので「起電力」ともいうこの電位差

や起電力の数値については後で考えることにしよう

電圧計は電流を流さず両極間の電位差を計ることができるこの状態では電

子の移動がない電子の移動がないので各イオンの濃度にも変化はない電圧

計はこのときに電池の起電力に対して最大値を与えるもしも電流が流れると

各イオン濃度の変化が起きるので起電力にもわずかながら変化が生じる

両方の極を導線でつないでその中間に電圧計を入れ亜鉛板から銅板へ導線を

介して電流が流れないときの状態をさらに考えてみよう

左の亜鉛板に残った電子は溶液中に続いて出てゆこうとする亜鉛イオンを逆

に引っ張り戻そうと働くこの結果亜鉛板に残った電子の量がある程度以上

になるともはや亜鉛は溶け出さない

この状態を平衡状態という

一方の銅板では電子の流れがないので同様に銅イオンの還元反応は進まない

そこで電子の流れが起きるように導線の中間に豆電球を入れて回路を作るこ

とにしようこのように電池の両極間に電球などを入れることを「負荷をかけ

る」という

回路ができそれに負荷をかけることによって電子の流れが起き豆電球が点

るこの結果陰極では亜鉛がどんどん水溶液に溶けだし陽極では銅が析出

する

ところがこうしてうまく電子の流れが始まってもそれは持続しない

どちらの水槽においても硫酸イオンは変化を受けないことをすでに述べてい

たこれでは亜鉛側のプラスイオンがまた銅側のマイナスイオンがたちま

ち過剰になってしまうこの結果一瞬電流が流れるだけですぐ電子の流れは

停止し豆電球は点り続けないだろう

うまく豆電球を点り続けさせるにはそれぞれの水槽のプラスイオンとマイナ

スイオンの均衡が保てるようにしなければならない

この解決にはそれぞれの水槽で過剰になるプラスイオンとマイナスイオンが

移動できるようにすればよい

それには2つの方法がある

一つは塩橋とよばれるイオンの通路を両水槽に掛け渡す方法である塩橋は

7

チューブ内に飽和塩化カリウム(KCl)溶液などをゼラチンで固めて詰めそれ

がこぼれ出ないようにそれぞれの口を濾紙などで封じたものである

図2亜鉛と銅を電解質溶液に入れ塩橋を渡す

この塩橋の代わりに素焼きの陶板やセラミックなどのイオンを通す性質があ

る固体で両水槽を仕切る方法でもよい図に示したように塩橋もしくはしき

りを介してイオンが移動できる

8

図3亜鉛と銅を電解質溶液に入れしきり板にセラミックを使う

このように電子の流れを発生させて利用しようとする装置を「電池」とよぶ

電池には2つの極がある陽極(+)と陰極(-)である

陽極(+)は正極ともよばれ電極に伝ってきた電子が水溶液に移動し還

元反応が起きる側をいう

これに対して陰極(-)は負極ともよばれ電極金属がイオン化し酸化反応が

起きて電子が電極から取り出される側をいう

今の例では亜鉛板が陰極(-)銅板が陽極(+)とよばれる

有名な「ダニエル電池」はこのように考案された

電池を電球などにつなぎ電気回路を形成すれば亜鉛電極内の電子が導線へ流

れ出て電球を明るくし亜鉛はつぎつぎ溶液に溶け出す

回路を切れば再び電極に電子がたまり平衡状態に達して亜鉛イオンの溶

出は止まる

ここで電池の表記についての取り決めを記しておこう

9

電池は2つの極からなる陽極と陰極である陽極すなわち還元反応が起き

導線を介して電子を受け取る極を右に書くダニエル電池の場合には陽極は銅

板であり銅イオンを供給する硫酸銅の水溶液が電解質溶液として用いられる

陽極金属と電解質溶液の間は縦棒で区切るそこで陽極は次のように表記され

CuSO4(aq) | Cu(s) (+) 記号(aq)は水溶液のこと

同様に陰極は酸化反応が行われる極でこれを左に書く

(-) Zn(s) | ZnSO4(aq) この両方の極は別々の水槽にあってイオンの交換が塩橋あるいはセラミッ

クのようなしきりを介して行われるのでこの隔壁をタテ二重線で表記し両極

を並べて記す

ダニエル電池は次のような記号で表記されるこれを電池式と呼ぶ

(-) Zn(s) | ZnSO4(aq) || CuSO4(aq) | Cu(s) (+)

両端の極を導線で接続し回路を形成すれば電子の流れが左の陰極から右の陽

極に起こり電流は右から左へと流れる

水素の反応 イオン化傾向の大きさが異なる金属を組み合わせて酸化還元反応が起きると

電子の流れが生じそれを取り出して豆電球を点灯する仕事として利用するこ

とができる

イオン化列の鉛と銅の間には水素があるこの水素の酸化還元反応を見るこ

とにしよう

水素の酸化反応は次のように表される

H2 rarr 2H+ + 2e- (5)

これを半反応として電子の流れを作り出せば電池として機能するから取り

出された電子を利用する還元反応を考えよう

水素と反応する相手に酸素を選べば水が生成物として得られることを期待で

きる

10

酸素が電子を受け取る還元反応の半反応は次のように表される

12 O2 + 2e- rarr O2- (6)

半反応(5)と(6)を組み合わすことができれば次の全反応によって水

が生じる

H2 +12 O2rarr H2O (7)

このとき得られる電子を導線に誘導すれば電気エネルギーとして利用が可能

になる

問題はダニエル電池で見たようにそれぞれの半反応で生じるイオンの処理で

ある半反応(5)と(6)はそれぞれ隔離された容器で行わなければ水素と

酸素が直接反応して水を生じてしまうしかし容器の隔壁がイオンを通さな

いと電池として機能しない

燃料電池 固体は一般に分子やイオンを通過させないが中には特定のイオンを通過させ

るものがありこれを固体電解質とよんでいる

半反応(5)で発生する水素イオンを効率よく通過させるためにはナフィオ

ン(Nafion Du Pont 社米国デラウェア州ウィルミントン)とよばれる固体高

分子膜が有力である

ナフィオンはフッ素を含む高分子パーフルオロスルホン酸系といわれるイオ

ン交換膜で全体はテフロン様構造からできており側鎖にスルホン酸基を持

つその厚さは 20~50ミクロン程度である膜の内部で負に荷電するスルホン

基(SO3-)が水素イオン(H+)を引きつけこれを通過させるこの水素イオ

ンの通り道は電子顕微鏡で見るとトンネルのようにできている

11

図4ナフィオンを使った燃料電池

陰極では水素の酸化反応が起きる

H2 rarr 2H+ + 2e- (5)

一方陽極では次の還元反応が起きる

12 O2 + 2e- rarr O2- (6)

O2- + 2H+ rarr H2O (8)

全体の反応は反応式(7)で表される

12

H2 +12 O2rarr H2O (7)

こうして開発された電池は「燃料電池」とよばれている燃料に水素ガスが

利用される

反応式と図に示した気体酸素は通常の空気が利用され反応で生じた水と酸

素以外の利用されない気体元素は排気される

この燃料電池は水素と酸素を遮断し水素イオンだけを通過させる固体電解

質を使ったこれは上の半反応(5)で生じた水素イオンの処理を考えたわ

けである

これに対して半反応(6)で生じる酸素イオンを移動させる工夫もある

図4安定化ジルコニアを使った燃料電池

安定化ジルコニア(Stabilized Zirconia ZrO2CaO)は高温下で酸素イオン通過

性のある固体電解質として開発されたジルコニウムに10モル程度の酸化

カルシウムを加え結晶を作ると+4価のジルコニウムイオンの位置の一部を+

13

2価のカルシウムイオンが占めるできあがった安定化ジルコニアはこのカ

ルシウムの数だけ酸素イオンの不足が起き固体全体を電気的中性に保つた

めに酸素イオンの透過性ができるジルコニアの両面に白金粉末を焼き付け

それに白金のリード線を取り付ける焼き付けられた白金には多くの孔があり

その孔を通して気体とジルコニアが接触する

酸素イオン導電性の固体電解質としてジルコニアを用いた燃料電池は次

のように動作する

1)空気極(右側)に入った酸素 O2は電極で電子を受け取り酸素イオン O2-

になる

12 O2 + 2e- rarr O2- (6)

2)O2-は固体電解質ジルコニア中を移動していき燃料極(左側)で H2 と

反応し水 H2Oを生じるこの過程に伴って電子が放出される

H2 + O2- rarr H2O+ 2e- (9)

3)これら結果として外部回路に電流を取り出すことができる

燃料電池の起電力は酸素イオンが電解質中を移動することにより生じる

酸素イオンが移動する駆動力は固体電解質の両端すなわち燃料極と空気極

の酸素濃度差である

14

化学反応と電気エネルギー ダニエル電池の陰極は亜鉛板が硫酸亜鉛の水溶液につけられていたこのと

きの現象は次のように説明された亜鉛は電子を亜鉛板電極に残し陽イオン

となって出て行くその結果亜鉛板電極中に電子が余分にたまる

ダニエル電池の陰極の「電極電位」はこの電極に余分にたまっている電子の

量をさしているそれではこの半反応による電極電位を測定することができ

るのだろうか半反応は次のように示される

Zn(s) rarr Zn2+ + 2e- (1)

亜鉛が1モル反応すると2モルの電子が持つ総電荷量が流れる

1電子の持つ電荷量は16022x10-19 C (Ccoulombクーロン)であ

るから

1モルの電子の総電荷量はアボガロド数をかけて 96485 = 96485 x 104 Cmol

であるこれを1F1ファラデーと表す

1F = 96485 x 104 Cmol 亜鉛が1モル反応すれば2モルの電子が持つ総電荷量が流れるのでこれを

記号 q として表すと次の電気量が得られる

q = 2F (10)

化学反応によって取り出せる電気量はこのように計算される

それでは電気エネルギーとしてその電力はどのようになるだろう

電力は

電力=電圧times電流times時間 (12)

電流times時間=電気量であるから式(12)を書き直せば

15

電力=電圧times電気量 (13)

ここで電気量 q は式(10)で表しているので

電力=電圧timesq=電圧times2F (14)

と書くことができる

電圧を記号Vで表すことにし電力をWにすれば式(14)は

W = 2FV (15)

として表しておくことができる

電圧の単位系は仕事量が電力Wであるので(13)から

V= W q (16)

仕事量をジュールJ(ジュール)で表せば電圧はJ C (ジュールクー

ロン)でその単位を表現することができる

式(15)の表すところは亜鉛を化学反応の材料として得られる電力という

仕事量がその電力すなわち電極電位で決定されることを意味している

一般に化学反応で1分子の材料を消費しn個の電子が流れることをその

半反応で知ることができるとき式(15)を一般化して次のように得られ

る電気エネルギーを表すことができる

W = n FV (17)

化学反応によって生じる電子を取り出し回路に導けばここに電流が生じる

その起電力(V)は陽極陰極のそれぞれの電位をE+E- と記号で表し

て次式で書くことができる

V= E+-E- (18)

16

ここで問題になるのは陽極陰極のそれぞれの電位E+とE-で上に議論し

たように回路を形成しなければそれぞれの電位は決定できない

ここでいま片方の電位をゼロとすれば式(18)はたとえばE- = 0 で

V= E+

として陽極の電位が決まる

そこで申し合わせにより水素の半反応による電位をゼロとすることになっ

その半反応の式は水素の還元反応として次のように表せた

2H+ + 2e- rarr H2

標準にはMax Julius Louis Le Blanc (1865-1943) が発明した水素電極を用

いるこれを標準水素電極(Standard Hydrogen Electrode SHE)とよびこの

電極電位をいつも 0 volt(ゼロボルト)と取り決めている

図6に示した水素電極は1atm の水素ガスとそれに平衡状態にある水素イオ

ンが存在し次の半反応が平衡状態にある

H2 (g 1 atm)rarr 2H+ (aq 1 M)+ 2e- (5) g は気体を示す

この反応において平衡状態にある電極電位を 0 volt と定義する

電極に白金を用いるのは電極材料自体が溶解しないものであることすなわ

ちイオン化傾向の低いものであることまた水素イオンの還元に対してな

るべく活性の高いものであることが条件として求められるが白金はこの2つ

の性質を兼ね備えていて陽極の電極材料に適している

気体の標準状態は1atm を標準としているこの分圧を維持し溶液中の水

素イオン活量を1にする水蒸気の分圧が変化すると平衡電位は変化する

17

図6標準水素電極(0ボルトの基準)

標準水素電極は1モル塩酸溶液につけた白金電極に1atmの水素ガスを吹き込んで使う

白金電極は分極を防ぐために白金板に白金メッキを施し(白金黒とよばれる)上半分

を水で飽和させた(1atmの水蒸気分圧が必要)1atm(101325 kPa)の水素ガスを流し

下半分を1moll の塩酸溶液につける水素ガスが電極として働き白金板に電子が集めら

れる

ダニエル電池の亜鉛電極をこの標準水素電極につなげば亜鉛電極電位が測

定できる

亜鉛電極側では酸化反応の半反応が起きる

Zn(s) rarr Zn2+ + 2e- (1)

18

標準水素電極側では還元反応の半反応が起きる

2H+ + 2e- rarr H2

図7亜鉛電極と水素電極をつないで電池とする

25の基準状態における亜鉛電極の半反応(1)に対する平衡電位はすでに

知られている

E゜= -0763 volt

また銅板側の電極電位も同じようにして測定することができる

起きる半反応はすでに上述したが再度記しておこう

Cu2+ + 2e - rarr Cu(s) (3)

25の基準状態におけるこの電極電位はE゜=+0337 volt と知られて

19

いる

ここで亜鉛電極と銅電極の組み合わせでできる電池の最大電圧をこれらの

平衡状態における観測値から計算することができる式(18)を使って

V= E+-E- (18)

V= +0337-(-0763) = +110 volt

つまりダニエル電池で得られる最大電圧は11volt と計算できる実際に

はイオンの濃度が変化すれば反応の平衡が変化するので得られる電圧も変

化する

ここでダニエル電池で亜鉛1モルが反応するとき式(17)を使って得

られる仕事量としての電力を計算できる

W = n FV (17)

すなわちダニエル電池における電極反応は

Zn(s) rarr Zn2+ + 2e- (2)

Cu2+ + 2e - rarr Cu(s) (3)

であったから反応が進んで移動する電子はn = 2 である

1F = 96485 x 104 Cmol を適応すると

W = 2 x 96485 x 11 x 104 = 21227 x 105 Jmol = 2123 KJmol

(K = 103キロ)

すなわち亜鉛1モルの化学反応によって2123 KJmol の電気エネルギーが得

られる

水素ガスを使う燃料電池の起電力は電極の半反応から

O2 + 4H+ + 4e- rarr 2H2O (19)

25の基準状態におけるこの電極電位はE゜=+1229 volt が得られている

20

したがって燃料電池で1モルの水素が反応すれば

W = 2 x 96485 x 1229 x 104 = 2372 KJmol

すなわち2372 KJmol の電気エネルギーが基準状態で取り出せる最大電力

と計算される現在作られている燃料電池の電力は実際上08 volt ほどで

あるしたがって現実的に取り出せる電気エネルギーは 1544 KJmol の仕

事量と計算される「仕事量」という言葉については電気でモーターを回し

なにがしかの「仕事」をするなど思い浮かべれば実感できるだろう

エネルギーと熱力学 これまで述べてきたように電池は化学反応から直接電気エネルギーを取り出

す仕掛けであるダニエル電池では亜鉛と銅が酸化還元反応を起こす過程で

電子を放出するのを利用するまた水素ガスによる燃料電池は気体水素と酸

素を原料とし水が生成されるこの過程が1atm の気体原料を25(29815

K)で1モル反応させて生成物も1atm の液体の水を得るなら次の全反応に

よってすでに計算したとおり2374 KJmol の電気エネルギーが取り出せる

H2 + 12 O2 rarr H2O

圧力と温度がともに反応の過程を通じて一定の場合にその過程から取り出せ

る仕事量は熱力学的に考えることもできる

それはギブス自由エネルギーとして議論される電池で取り出した電気エネ

ルギーすなわち電力はこのギブス自由エネルギーに相当する

次に化学反応をこの熱力学の面から考えてみよう

エネルギー保存則

水素ガスを使う燃料電池のように独立した一つの仕掛けを考えこれを「系」

と呼ぶことにする系を考えるとき電池のように具体的なものを持って考え

るのが容易いのでそうすることが多い熱力学では自然界全体をあつかうので

しばしば概念的になり非現実的な記述が行われるが系の大きさや系を構成

する分子の大きさについて特定する必要はない

系におけるエネルギーを内部エネルギー熱エネルギー力学的エネルギー

の3つの要素からなると考えるこれらのエネルギーを考えるとき系の熱力

21

学的なパラメーター(変数)が必要となる熱力学的な状態はこれらのパラ

メーターのうちのいくつかを指定すれば決定される

熱力学的なパラメーターは2つに分類される

示量パラメーター(示量性変数)

系の大きさや構成する物質の量を示す体積や質量

示強パラメーター(示強性変数)

系の大きさに依存しない系における1つの点で決まった値で与え

られる圧力や温度密度など

いくつかのパラメーターで完全に決定できる状態を関数で表現することがで

きる場合があるそのような関数を熱力学的な状態関数(rarr補遺 p60)と呼ぶ

関数で状態の変化を表すことができれば数学的に取り扱うことができいろ

いろの面で便利である

一つの系についてその状態を知ろうとするとき系が熱力学的な平衡状態に

あると議論する上で都合がよい

熱力学的な平衡状態とは系を外部と独立させ長時間放置した後に達成され

る状態をいうこのとき系の状態をその外部のパラメーターで表現できる

たとえば電池を独立した系と考えるとき平衡状態に達した電極電圧を外部

においた電圧計で測定することができる

ある系を考えるとき前提としてその系はエネルギーを保有していると考える

系が独立してそこに存在するということで持っているエネルギーであるこれ

を内部エネルギーと呼ぶ系がある過程を経て状態を変えるとき系から系の

外部へ力学的な仕事をする場合には力学的エネルギーの出入りがあると考え

るまた系に熱が出入りする場合が考えられそれを熱エネルギーの出入り

と考えることにしよう

まず力学的エネルギーについて考えることにする

いま系が状態を変えその体積が増えれば系のlsquo壁rsquoがその系に接している

「外部」へ力学的な仕事をすることになる

このように系が膨張し壁が外部に向かって押し出されると考えたとき膨張

する過程における圧力を一定でpとし系が膨張した体積をΔV(膨張した分だ

けの体積増加量)とするなら系の仕事量ΔWは両者の積で表されるΔは変

化量を表すときにつける記号と決めておこう

22

ΔW = pΔV (20)

系の体積が凝縮する場合があるので仕事を記号で表す場合には注意するも

し系に接した「外部」から系に力が加わって体積を小さくしたならΔVは

マイナスとなるのでΔWもマイナスで表される

-ΔW = -pΔV (20prime)

今考えている系を「系 A」と呼びその内部エネルギーを UA外部の系を「系

B」と呼んでその内部エネルギーを UBと表すなら二つ合わせた全体の内部

エネルギーは両者の和で表すことができる

U = UA+UB (21)

この体積変化に必要なエネルギー変化量はどこから得られたかを考えれば

その変化があった「系 A」と外部の「系 B」のいずれかあるいは双方の内部エネ

ルギー変化分でまかなわれたと考えざるを得ない(図8参照)

そこでこのエネルギーの収支関係は変化分を表す記号に先と同様Δを用い

ることにすると次式のようになる

-ΔU =ΔW (22)

すなわち観察している「系 A」のエネルギーと外部の「系 B」のエネルギー

を合わせた総エネルギーを見てその微少な減少量minus ΔU が仕事をなすために

必要であったエネルギー量と考えてみることにする

ついでこの体積の変化が「系 A」に接する外部のlsquo熱rsquoによって起きたも

のと考えてみようすなわち外部の「系 B」が系 Aより高温で「系 B」によ

って系 Aが暖められたことになる

このとき移動したエネルギーを「熱量」と定義する

23

図8熱量の移動と系が外部にする仕事

「熱量」を記号Qで表すと外部の「系 B」が失ったエネルギーminus ΔUB で

ありこれが熱量であるから式で表せば次式のように書くことができる

-ΔUB = Q (23)

ここで「系 A」とそれに接する「外部 B」両方のエネルギーを合わせた総エ

ネルギーの変化量ΔUは式(22)で与えられていた

-ΔU =ΔW (22)

-ΔU =-(ΔUA+ΔUB) であるから

minus ΔUAminus ΔUB=ΔW (24)

これに式(23)を当てはめてΔUAで整理すれば

24

ΔUA= Q-ΔW (25)

この式(25)は「エネルギー保存則」あるいは「熱力学の第一法則」を数

学的に表現したものである

すなわち

独立した系を考えその状態が変化するとき系の内部エネルギーの変化量はその系に入る熱量と系が外部にした仕事との差である

式(25)にはまた重要な主張があるつまりエネルギー保存則にしたが

うとき熱量は力学的エネルギーにまた力学的エネルギーは熱量に変換しう

ることを意味している

熱量を表す単位はカロリー(cal)を用いる1cal は

1 cal = 4184 J

と換算されるジュールは 1J = 1Nm (ニュートンメートル)で仕事量を

表現する単位系で表される

エンタルピー

式(25)から定圧過程で式(20prime)を利用して次の式(26)が誘導さ

れる

Q =ΔUA+pΔV (26)

ここでQは熱量を表していたのでこの関係式(26)から熱関数として

新しい関数を定義する

新しい関数はエンタルピー(enthalpy)(rarr補遺 p63)と呼ばれ次の関数

式Hで表される

H = U+PV (27)

エンタルピーの微少変化量を記号Δを使って表現してみよう

25

ΔH = ΔU +Δ(PV) =ΔU +ΔPV+ PΔV (28)

独立した系で圧力が一定の下に起きる過程を考えるならΔP = 0 (圧力の

変化はゼロ)であるから式(28)は次のようになる

ΔH =ΔU + PΔV (29)

化学反応の過程を考えるとき系に容積の変化がなく過程の前後で一定であ

るならさらにΔV = 0 であるのでエンタルピーの変化量は

ΔH =ΔU (30)

また系の仕事を体積の変化としてみる式(20)から

ΔW = pΔV= 0

であるのでこれを式(25)へ適応すると

ΔU= Q minus ΔW = Q ΔW= 0 だから

結果的に系の圧力と体積が変化の過程で一定である場合にはその系のエンタ

ルピーの変化を表す式(29)(30)は次のように簡単な式になって熱関

数と呼ばれる意味が理解しやすいだろう

ΔH = Q (31)

独立した系に等圧等積で起きる過程を見る場合にはエンタルピーは系が外

部と交換する熱量の直接的な尺度となる

H>0 なら反応に熱を使うので吸熱反応

H<0 なら発熱反応

電池のように系に起きる化学反応で生じる電子の流れを取り出す装置を考え

る場合エンタルピーの変化を電気エネルギーとして取りだしている点に留意

26

しなければならない式(31)のようにエンタルピー変化が交換される熱

量に直接表現できるといっても必ずしも熱として取り出すとは限らないこと

を注意しよう

ところでエンタルピーは内部エネルギーと同じ次元にある状態量で定圧

変化の熱量がエンタルピー変化であるからある一点を標準として定めれば

すべての物質について任意の点のエンタルピーを変化量として定めることがで

きるすなわち化学反応の過程で発熱あるいは吸熱する熱量は反応材料と

生成物の間の状態変化に対応するエンタルピーに対応する

そこで一つの元素に対してもっとも安定な状態にある物質を標準物質とし

て定め29815K(25)1atm を標準状態としてその標準物質からある化

合物を合成するときの反応熱(発熱あるいは吸熱)をその化合物の「標準生成

エンタルピー」として定義できる多くの元素に対して標準生成エンタルピー

は現在表としてまとめられている

水素や酸素はその気体状態が標準物質でありそれらの標準生成エンタルピー

がゼロと定義される

エントロピー

もう一つ新しい状態関数としてエントロピー(entropy)(rarr補遺 p64)を

定義するエントロピーを表す記号は通常S を用いその定義は次の式(32)

による

S Q

T (32)

エントロピーは系の2つの状態が決まると状態量として決まる

このときQ は2つの状態の間を可逆的に変化したとき系が受け取る熱量

T は系が熱量 Q を受け取ったときの温度(degK)である

「熱力学の第二法則」はエントロピーに関するものである

図9では2つの系が接しておりそれぞれの温度を Thigh Tlowとする

Thigh>Tlow (33)

27

今温度の高い系から温度の低い系に直接熱量 Q が移動したとすれば温度

の高い系のエントロピーの変化量ΔS は熱量が失われるので負の値になる

図9熱の移動

そこで温度の高い系のエントロピーの変化量ΔS を式で表すことにすると

次式のようになる

Shigh Q

Thigh

(34)

一方低い系のエントロピー変化量ΔS は熱量が与えられるため

Slow Q

Tlow

(35)

両方の系を合わせたエントロピーの変化量ΔS は

S Shigh Slow Q

Thigh

Q

Tlow

lowhigh

lowhigh

lowhigh TT

TTQ

TTQ

11 (36)

式(36)の最終項で(33)を前提すなわち最初に温度の高い系は高い

と決めたのだとするならエントロピーの変化量ΔS は必ず次のようになる

28

ΔS >0 (37)

すなわち独立した系がありそれより温度の低い別の系あるいは温度の低

い外界が接した場合熱量は高い方から低い方へ移動するという自然の成り行

きを説明するものである

自然界に置いてエントロピーは

ΔS≧0

の値を取りΔS=0のときは可逆的過程である

今の例でいうなら熱は温度の高い系から低い系へ移動しその逆は起きない

常にΔS >0の方向に過程が進行するまた2つの系が同じ温度であるとき

両者は平衡状態にあって熱量の移動は見かけ上なくΔS=0と表現される

「熱力学の第二法則」はエントロピーによって表現されるもので系の変化が

可逆的であるかどうかを判定する指標であり現実の世界で起きる不可逆過程

が正の値を取る方向へ進むことを示す

あるいは系の変化が起きるとき外界を含めて考えれば総エントロピーが

増大する方向に変化が起きることを意味するというようにも表現される

ギブス自由エネルギー

熱力学の第一法則によってエネルギーの取りうる形である「仕事」と「熱」

は互いに変換されうることを理解したこのことの数量的な意味は1cal=418J

で示されるさらに仕事は100熱に変換可能であるが一方の熱はうま

くやっても100を仕事に換えることができないことを熱力学の第二法則で

説明しようとしたそのためにエントロピーという概念が導入された

ここで電池のような独立した一つの系を見るとき系の内部エネルギーの減

少を仕事として取り出しうるならそれは化学反応を一つの例としてどれほど

の仕事量が取り出せるのかはどうしたら与えられるだろうか

化学反応を電気エネルギーに換える電池では先に正負それぞれの電極におけ

る半反応の平衡電位の値を利用してその起電力に対する最大値を計算した

この化学反応から取り出しうる最大仕事量を与えるものとして新しくギブス

自由エネルギー(rarr補遺 p70)と名付け記号 G を使ってそれを次のように

定義する

29

G = H-TS (38)

H はエンタルピーである第2項にある S はエントロピーを表す

ギブス自由エネルギーは化学反応のような独立した系の定温定圧過程に適

応されるので変化量ΔG を式(38)から得ておこう

ΔG =ΔH-Δ(TS)

=ΔH-(SΔT+TΔS)

温度を一定と考えているのでΔT=0 であるから

ΔG =ΔH-TΔS (39)

この式(39)を書き換える

ΔH=ΔG + TΔS (39rsquo)

ここで定圧過程ではエンタルピーを次のように式(29)で定義できた

ΔH =ΔU + PΔV (29)

式(29)の意味するところを復習すれば

系のエンタルピー変化ΔH は内部エネルギーの変化量と系が外部に

した仕事量の和として表される

これは

定圧過程で系が得るエネルギー量から仕事量を除いたもの

と言い換えることができるエンタルピー変化量は化学反応などの過程で

始めと終わりの2つの状態の差であるからそれが正の値を示す(>0)なら

系のエンタルピーは増加することを意味しその過程が進行するためには系

の外部からエネルギーが供給されなければならない

一方式(39rsquo)の右辺第2項TΔS はエントロピーの定義(32)より

TΔS = Q (40)

であるのでこれは可逆過程で系に供給される熱量を意味する

30

もしエンタルピー変化量が負の値を示す(<0)ならば系のエンタルピー

は減少しその過程が進行することによってエネルギーが取り出せるすなわ

ち式(39)(40)から次のようにこれら3つの状態量を改めて説明する

ことができる

ある化学反応が定圧で可逆的に進行するときそれから取り出せる

エネルギーのうちΔG を仕事として放出し熱量 Q を放出する

標準状態29815K(25)1atm で標準物質からある化合物を合成すると

きの反応熱(発熱あるいは吸熱)をその化合物の「標準生成エンタルピー」

として定義した同様にある物質に対する「標準生成ギブス自由エネルギー」

はこの標準状態で標準物質からその化合物を化学反応で生成するとき式(3

9)によって与えられる変化量をいう

電池における化学反応のギブス自由エネルギー

先にダニエル電池の亜鉛板側に対する電極反応を検討したとき電極反応が

仕事として放出するエネルギーを表現する重要な式があった次の式(17)

である

W = n FV (17)

ギブス自由エネルギーを用いて今これは次のように書くことができるように

なった

W = n FV=-ΔG (41)

この式が表していることを実際に水素の燃料とする燃料電池の反応過程で見

てみよう燃料電池の図を再掲する

図中右にある陰極では水素の酸化反応が起きる

H2 rarr 2H+ + 2e- (5)

一方図では左にある陽極において次の還元反応が起きる

12 O2 + 2e- rarr O2- (6)

O2- + 2H+ rarr H2O (8)

全体の反応はすでに示したように次の反応式(7)で示される

H2 +12 O2rarr H2O (7)

31

標準状態における可逆的仕事は式(41)であらわせ

n FV=-ΔG (41rsquo)

このΔG は式(39)であらわせた

ΔG =ΔH-TΔS (39)

すなわち標準状態29815K(25)1atmにおいてある化合物を標準物

質から合成するときの標準生成ギブス自由エネルギー変化ΔG゜は標準生成エ

ンタルピー変化ΔH゜とその温度におけるエントロピー変化TΔSの差で求ま

るこれらは燃料電池の全反応を表す式(7)で与えられる

標準生成エンタルピーΔH゜変化とエントロピー変化はすでに一般的な元

素やその化合物に対して表が作成されている

液体の水に対する標準生成エンタルピーΔH゜(H2O)は

ΔH゜(H2O)=minus 28583 KJmol

また水素ガスと酸素ガスはそれぞれの元素の標準物質であるので生成エ

ンタルピー変化はゼロである

32

そこで式(7)での水を1モル化学合成するときの標準生成エンタルピーΔ

H゜は水素(ガス1モル)と酸素(ガス12 モル)の2つの材料と水(液

体251atm)の両状態における状態量の差として表される

ΔH゜=ΔH゜(H2O)-ΔH゜(H2) -12ΔH゜(O2) (42)

式(42)の右辺第2項と第3項がゼロであるので

ΔH゜=ΔH゜(H2O) =-28583 KJmol (43)

標準状態29815K(25)1atm における水素(ガス)と酸素(ガス)お

よび水(液体)のエントロピーはそれぞれ

ΔS(H2O)=6991 JKmol

ΔS(H2) =13068 JKmol

ΔS(O2) =20514 JKmol

単位で分母のKはケルビン温度の意味

と計算されているので

ΔS=ΔS(H2O)-ΔS (H2) -12ΔS(O2) (44)

=6991-13068-12times20514

=-16334 JKmol

したがって

TΔS=29815times(-16334)=-486998=-4870 KJmol

(45)

そこで標準生成ギブス自由エネルギーΔG゜は式(39)から

-ΔG゜=-(ΔH゜-TΔS) (39)

=-{-28583-(-4870)}

=+23713 KJmol

33

すなわちこのエネルギーを電気エネルギーとして取り出すことができるそ

の起電力は式(41rsquo)から

n FV=-ΔG (41rsquo)

V= -ΔG(n F)

各数値を当てはめれば

V=237130(2times96485)

=1229 volt

先に【化学反応と電気エネルギー】のところで記したとおり25の基準

状態におけるこの電極電位はE゜=+1229 volt が得られているすなわち

こうして標準生成ギブス自由エネルギーから計算することでも同じ値を得る

ことができた

水素を単純に酸素と化合させる燃焼では式(43)で示されるエンタルピ

ーが発生する熱量を示している水素1モルあたり28583 KJである電池

にすれば水素1モルあたり23713 KJの仕事量が電気エネルギーとして取り

出すことができるその差は電池の場合熱が発生して利用できない

化学反応の過程を利用して化学エネルギーから直接電気エネルギーに変換す

るのが電池という装置であるが化学エネルギーは100電気エネルギ

ーに換えることはできないこのようにエネルギーの一部は電池の熱として

発散してしまう

理想気体の状態方程式

ギブス自由エネルギーΔG を定義した式(39)とエンタルピーΔH の定義

式(28)から

ΔG =ΔH-TΔS (39)

ΔH =ΔU +VΔP+ PΔV (28)

そこで次式が得られる

34

ΔG =ΔU+VΔP+ PΔV-TΔS (46)

またエネルギー保存則から得られた式(26)を応用すればギブス自由エ

ネルギーが変形できる

Q =ΔU+PΔV (26)

から

ΔU=Q-PΔV (47)

したがって式(46)は

ΔG = Q-PΔV+VΔP+ PΔV-TΔS

ΔG = Q-TΔS+VΔP (48)

エントロピーの定義からQ=TΔSであるから結局式(48)は

ΔG = VΔP (49)

と表すことができる

成分が混合された気体分子の分子間に働く力をゼロと仮定した「理想気体」を

考えるとき状態方程式としてボイルシャルル(Boyle-Charles)の法則が

利用できる

PV=nRT (50)

ここでnは気体のモル数PVT はそれぞれこれまでと同じ圧力体積温度(ケルビン温度)でありR は気体定数と呼ばれるもので次の値を持

R= 831441 JmolK (51) 単位で分母のKはケルビン温度の意味

35

状態方程式から式(49)の右辺を導くことを考えてみよう式(50)は

1モルの気体について V に対し次のように変形することができる

V 1

PRT (50rsquo)

両辺に圧力の微小変化量⊿P をかけると

PP

RTP V (52)

これを微分方程式として圧力p0 からp1 まで(p0≦p1)積分するなら

1

0

1

0

1

0

1p

p

p

p

p

pdP

PRTdP

P

RTdPV (53)

関数 f(x)=1x を積分したときの関数はF(x)=ln(x)であるので(ln は e を底

とする自然対数loge)

右辺=0

1ln)0ln()1ln(p

pRTpRTpRT (54)

ギブス自由エネルギーを表す式(49)は次のようであったから

ΔG = VΔP (49)

式(52)から得た式(54)を当てはめると状態G0(p0T)からG1(p1T)

へ変化する過程で圧力が p0 から p1 まで変化するものとして

dGG0

G1

G( p1T ) G(p0T ) RT lnp1

p0 (55)

あるいはこれを書き直して

V

36

G(p1 T) = G( p0T ) + RT lnp1p0

(56)

特別にG0(p0T)を標準状態T=29815K(25)p0=1atmに指定する

なら標準生成ギブス自由エネルギーを記号G゜として (56rsquo)

と表すことができる

式(56rsquo)の意味するところは標準状態から圧力の変化を伴う過程で理

G(p1 T) = Go + RT ln p1

想気体のギブス自由エネルギーは圧力の対数に比例して上昇することである

このことはさらに新しい着想を生む

すなわち水素を燃料とする上の燃料電池で1atm 標準状態の水素ガスの圧力

を2atm に上げれば式(56rsquo)からRTln2 余分にギブス自由エネルギー

が取り出せることになる

燃料電池において起電力を生むエネルギーは隔壁を水素イオンもしくは酸

素イオンが浸透しようとする力であるので1atm の水素ガスと2atm のそれで

は浸透しようとする圧力が異なりここに起電力が生じる

式(56)の第二項が圧力の差による仕事であるからこれをΔG とすれば

W=-ΔG の仕事量が電気エネルギーとして取り出せるはずである

W = minusΔG = minusRT lnp1p0

(57)

起電力に換算するために式(41)を使うと

W = n FV=minus ΔG (41)

から

01ln

pp

nFRTV ⎟

⎠⎞

⎜⎝⎛minus= (58)

この式(58)は一般にネルンスト(Nernst)の式と呼ばれる

37

理想溶液のギブス自由エネルギー

理想気体を想定したように無限に希釈された混合溶液に対して理想溶液を仮

定する「系」の圧力温度を一定に保つならば体積内部エネルギーエンタ

ルピーギブス自由エネルギーなどの示量数は混合溶液を構成する物質のモ

ル数mに比例するたとえば標準状態にある物質の1モルの体積をVとすれば

mモルの体積はそのm倍mVであるそうすると溶液中のi番目の成分がmi

モル「系」から「外界」に仕事をするときその成分iの持つ自由エネルギーの

mi倍の仕事が「外界」になされると考えればよい

この溶液成分のモル数と化学的仕事を結びつける示強因子がギブスによって

化学ポテンシャルと名付けられ一般に記号μが用いられる

化学ポテンシャルはこれまで見たようにギブス自由エネルギーで表される

また電位がψ(プサイ)にある系から-Δeの電荷が放出されるときには

-ψΔeの電気的仕事が得られるそこで記号μに両者を合わせた意味を持

たせて「電気化学ポテンシャル」と呼ぶ

概念の上で物質は電気化学ポテンシャルの高い方から低い方へ勾配にした

がって移動する

理想気体の標準状態が気体分圧を T=29815K(25)で 1atm としたのに対

し溶液成分の標準状態はその分圧に相当するモル数 m を用いるすなわち

標準状態にある成分 i の電気化学ポテンシャルμ0iは成分の持つ電荷(H+なら

1)を n として

μ0i = G i゜+nFψ i (59)

ギブス自由エネルギーは式(56rsquo)を借り理想溶液中の成分に対しては気

体圧力をその成分のモル濃度Cに書き換えればよいそこで

G(CT ) G RT lnC (60)

と表すことができる

したがって一般的な成分 i の電気化学ポテンシャルμiを表す式は標準状態

からの自由エネルギーの変化を考え式(59)と合わせて次のようになる

38

ψnFGii 0

式(60)から

ii CRTGTCGG ln)( 0

よって

(61) ψnFCRT iii ln0

実際的なことを考えると成分濃度はその有効イオン濃度とする必要があり

「活量係数」γを導入して次式で表されるイオン活量aを用いる

ai = γCi (62)

一般的にはγ=1と近似してモル濃度Cを使っているこのテキストでも

必要ではない限りイオン活量を用いることを省略して簡単に記述したい

膜電位

燃料電池に使われたナフィオンのような一つのイオンを通す膜を介して膜

の両側にC0 とC1 のイオン濃度差がある溶液が接するときの電気化学ポテン

シャルを考えよう

ある容器の底にナフィオン膜を取り付け容器の中と外のイオン濃度をC0

とC1としそれぞれの電気化学ポテンシャルをそれぞれμinとμoutとする

式(61)を使って

容器の中の電気化学ポテンシャル

(63) innFCRTin ψ 00 ln

容器の外の電気化学ポテンシャル

(64) outout nFCRT ψ 10 ln

イオン浸透性の膜を介して濃度変化が無視できるほどの移動があると考え

その電気化学ポテンシャルの差を式(63)(64)から求めれば

39

)(ln0

1 inoutinout nFC

CRT ψψ (65)

この系において今注目しているイオンが膜を介した両側で平衡状態にある

とき式(65)はΔμ=0と考えることができるすなわち

0)(ln0

1 inoutnFC

CRT ψψ

膜内外の電位差をΔψ=ψoutminus ψinとすれば

1

0

0

1 lnlnC

C

nF

RT

C

C

nF

RTψ (66)

式(66)は理想気体に対するネルンストの式(58)と同様溶液中のイ

オンに対するネルンスト(Nernst)の式として与えられる

細胞の膜においてもその生体膜の内外でたとえばカリウムイオンのように

非対称に分布して平衡に達している場合には式(66)で与えられる膜内外

で電位差が生じるこれは一般に膜電位と呼ばれる膜電位は平衡電位とも

呼ばれる

たとえば膜内外に1価のカリウムイオンに10倍の濃度差があるとすると

通常カリウムイオンは細胞内の濃度が高いので

C0 = 10timesC1

であるから

これを式(66)に当てはめてln(10)=2303 を用いlog への変換をすれば

Δψ=2303times(RTF)timeslog(10)

であるこれに R=831441 JmolKF=96485 CmolT=29815 K(25)

の各数値を当てはめると

Δψ=2303times831441times29815times196485 JC

=+005917 volt

すなわち膜の内外で約+60ミリボルトの膜電位が生じることになるこの

分だけ細胞の外側の電気化学ポテンシャルが高く膜の内側の膜電位が負であ

るそして膜にあるカリウムチャネルがこの電位を示すとき受動的なカリ

40

ウムの膜内外の移動は平衡に達することになる

水素イオン濃度測定

「標準水素電極」は1モル塩酸溶液につけた白金電極に1atm の水素ガスを

吹き込んで平衡状態に達したときの電位を基準としてゼロボルトと規定した

そこである溶液についてその水素イオン濃度を知ろうとするとき同じ水

素電極を用いることを考えれば標準状態にする目的で用いた1モル塩酸溶液

を濃度未知で X モルの塩酸溶液と想定すればその水素イオン濃度を知るこ

とができるだろうか

標準状態ではない X モルの塩酸溶液に浸けた白金電極が半電池として働くこ

とは間違いなさそうであるしかしその白金電極が持つ電極電位を測定する

にはいずれにしても標準電極と組み合わせて「電池」を構成しその電池

の起電力として計る必要がある電池を作れば起電力を知ることができ相

手の半電池の電極電位が知られていれば濃度が未知でXモルの溶液について

その水素イオン濃度を知ることができるだろう

こうした目的のためにいちいちゼロボルトと規定した標準水素電極を用いる

のは煩雑なのでしばしば後出の「銀塩化銀電極」が参照電極として用いら

れる

まず予め「銀塩化銀電極」を標準水素電極と組み合わせて電池とし一度

その起電力を測定しておけば後はいつもそれを標準電極として利用できる

「銀塩化銀電極」の半電池は

H+ (1 moll) Cl- | AgCl | Ag(s)

これに「標準水素電極」を組み合わせ電池を構成すると次のような電池

になる

Pt(s) | H2(g) | H+ (1 moll) Cl- | AgCl | Ag(s)

この電池の起電力を知れば「銀塩化銀電極」の半電池としての電極電位

を知ることができ参照電極として未知の半電池と組み合わせて起電力を測

定して相手の電極電位を計算できる

41

濃度 X モルの塩酸溶液を未知の溶液と想定すればその電極電位を知るために

組み立てる電池は次のようになる図10にその電池の図を示した

Pt(s) | H2(g) | H+ (x moll) Cl- | AgCl | Ag(s)

この電池の全反応は次の反応式で表される

AgCl(s) 1

2H2 (g) H Cl Ag(s) (67)

図10未知溶液の水素イオン濃度を測定しようとするための電池

化学反応の一般的な式

ここで電池に利用される化学反応から得られるエネルギーをギブス自由エ

ネルギーに換算し起電力を具体的に知る手だてとすることは上ですでに学

42

んだがより一般的な式を再度ここに書きだしておこう

化学反応が紙面で左から右に進む反応として次のような一般式で与えられ

るとき

aA + bB rarr cC + dD (68)

ギブス自由エネルギー変化量は標準状態ΔG゜からの変化量を加える形で式

(60)と同様次の式によって表される

G G RT(ln aCc aD

d ln aAa aB

b )

G RT ln

aCc aD

d

aAa aB

b (69)

aAは成分 A のイオン活量であるその他の成分も同じ

得られたエネルギーを電気エネルギーに換えるなら式(41)に習って

次式で表せば

ΔG=-n FV

there4V=-ΔG(nF) (70)

このときの起電力は標準状態における電位 E゜からの変化量として次式で与

えられる

E E

RT

nFln

aCc aD

d

aAa aB

b (71)

標準状態における起電力 E゜は反応が平衡状態にあるときで反応平衡定数

を K とするなら

K aC

c aDd

aAa aB

b (72)

で表されるそこでE゜は次のように書き改めることができる

43

E

RT

nFln K (73)

そこで式(67)で表される図10の電池「水素minus 銀塩化銀電池」に

対する起電力をギブス自由エネルギーから求めてみよう

反応から式(71)に当てはめれば

E E RT

Fln

aH

1 aCl

1 aAg1

aAgCl1 aH2

1

2

(74)

力学の慣例にしたがって固体の純物質の活量は1として扱い水素ガスを

想気体として見なして活量を1atm とするなら式(74)は次のよう

に簡略化される

E E

RT

Flna

H aCl (75)

ころで理想溶液として近似的に取り扱うときの希薄溶液でたとえば水素

入して詳細に検討するなら式( れる起電

オン濃度はイオン活量として aH+の記号を使うときすでに【理想溶液のギ

ブス自由エネルギー】の章で述べたようにこれを有効イオン濃度とする必要

がありイオン活量 a は「活量係数」γを導入して次式で表した

a H+= γH+CH+ (62)

この活量係数を導 75)で誘導さ

を計ることによって経験的に試料溶液中の水素イオン濃度を求めることは

困難である式(75)にあるイオン活量の項はモル濃度 C と活量係数γを

用いて次式で書き改められる

lnaH aCl

lnCH CCl

lnH Cl

(76)

まり式(76)右辺の第二項において互いに相手が知られなければ自分

決めることができず結果的に起電力を知っても(75)の値から水素イオ

ン濃度を導けないここに工夫が必要になる

44

の定義とその目盛り

液中の水素イオン濃度を直接意味するものではなく

を定義するとき測定されるのは1リットルの溶媒に存在す

pH = -log a H+ = -log(γH+CH+) (77)

際に試料溶液の pH を決定する際はpH 標準液を用いる

に溶液を入れ試料溶液 X と pH 標準液 S を

参 極を接続し電池を作成しその起

pH

現在pH の定義は溶

で述べたようにそれが簡便に測定できるものではないため次のように定

義されている

水素イオン濃度

水素イオン活量であるため定義式としては活量係数をγH+として次式で与

えられる

その要領は次のようである

上に図示した水素電極の容器内

れぞれ半電池(I)と(II)に入れる

半電池(I) Pt | H2 (1 atm) | 試料溶液

半電池(II) Pt | H2 (1 atm) | 試料溶液S

照電極として上図のごとく銀塩化銀電

電力を測定する半電池(I)のときの起電力を E(X)半電池(II)のそれを E(S)

とするこのとき試料溶液Xの pH は次式で計算される

pH (X) pH(S) E(S) E(X)

RT ln(10) (78)

ln(10)は自然対数を常用対数に戻すための定数で2303 を用いる

標準液

pH 標準液 S はpH 第一次標準液第二次標準液と呼ばれるべき

る測定

25で pH 4005 を示す

pH

上述した

のであり絶対的測定法である起電力の測定によって値をつける

標準液は安定で純粋な結晶が得られる試薬を調整してこれを測定す

上と同様に水素電極を用いこれに緩衝液を入れる参照電極として銀

塩化銀電極を接続して電池の起電力を測定する

たとえば005 moll フタル酸水素カリウム溶液は

一次標準(Primary Standard PS)の一つである半電池(III)として水素

45

電極を次のように準備する

半電池(III) Pt | H2 (1 atm) | PS 溶液

て電池を形成したとき得られる起電

参照電極として銀塩化銀電極を接続し

は式(75)から

E E

Ag AgCl RT

Flna

H aCl (79)

オン活量を濃度と活量係数の積(a H+= γH+CH+)にし自然対数を常用対数

すれば

E E

Ag AgCl RT ln(10)

F log(

H + CH+ Cl- CCl - ) (80)

E゜は水素標準電極(水素ガス分圧を1atm電極を浸ける溶液に001 moll

H

Cl を用いる)で得た起電力である

式(80)から

RT ln(10)

Flog(

H CH Cl

) (E EAg AgCl )

RT ln(10)

Flog C

Cl

(81)

らに

log(

H CH Cl

) F

RT ln(10)(E E

Ag AgCl ) logCCl

(82)

ころで式(77)から

(γH+CH+) (77)

-log a H+ =-loga H+-log(γCl-) +log(γCl-) =-log(a H+γCl-) +log(γCl-)

(83)の一番右の式で第一項は

pH = -log a H+ = -log

であるが右の式をさらに変形すると

(83)

46

-log(a H+γCl-)=-log(γH+ CH+γCl-) (84)

たがって式(82)の右辺で示されるように電池の起電力を測定すれば

よ 実際には溶液の塩素イオン濃

液で起電力を求め外挿する

起電

これによってpH を意味する式(83)は次式(85)で与えられる

p(aHγCl)はRG Bates によって Acidity Function と呼ばれている

らに式(85)最終項の log(γCl-) を補正しなければならないこの項は

本工業規格)によっても

であってこれは式(82)の左辺である

いただし塩素イオン濃度の項があって

をゼロにしたときの値が必要である

実測する際には塩素イオン濃度をゼロにできないので塩化ナトリウム NaCl

等を濃度を変えて添加しその時々の緩衝

勧告ではNaCl で 000500100015moll の3つの濃度を例示している

すなわち塩素イオン濃度ゼロのときの値は各塩素イオン濃度に対して

の値をそれぞれプロットしグラフから塩素イオンがゼロのときの起電力の

値を3点に対する回帰直線の延長で外挿して求めるこの点を次のように書

log( C H H Cl CCl

0

pa log( C log( (85) H H H Cl C

Cl0 Cl

)

素イオンの活動係数で与えられる補正項である

無限希釈溶液中のイオンの活動係数は理論的に Dubye-Huckel の式を用い

近似的に求めることが可能であるこれはJIS(日

用されていて Bates-Guggenheim の規約と呼ばれる (Bates RG

Guggenheim Pure Appl Chem 1 163-168 1960)

Dubye-Huckel の式は次のように与えられる

log A I

i 1 iB I (86)

47

I iについてそのモル濃度

計算される

はイオン強度でイオン mi と電荷 zi から次式で

I 1

2mizi (87)

また iは(86)式のBは温度と溶媒の性質による定数であり イオンの大

きさに関するパラメータで水和イオンの大きさとほぼ一致した値をとる標

準法の勧告では塩素イオンに対しイオンの大きさを46Åと決めてiBを

1

5 にしているそこで式(84)は次のようになる

ClA I

log 1 15 I

イオン強度 I は塩素イオン濃度を含まない計算となる

以上の方法によって実用的な pH 測定に用いられる第一次第二次標準液の

pH の値が得られる

絶対値としての

はpH の絶対測定法(第一次標準測定法)とされている

銀塩化銀参照電極は分極現象を防ぐために棒状の銀を塩酸で処理し表

に塩化銀を生成させたものを飽和塩化カリウム溶液につけてある

(88)

参考現在は実験的に求めた値と理論値の組み合わせで

素イオン濃度を求める方法を規定しているこの起電力から水素イオン濃度

を知るための測定方法

Buck RP Rondinini S Covington AK Baucke FGK Brett CMA Camoes MF

Milton MJT Mussini T Naumann R Pratt Kw Spitzer P Wilson GS

Measurement of pH definition standards and procedures Pure Appl Chem

74(11)2169-2200 2002Kristensen HB Salomon A Kokholm GInternational

pH scales and certification of pH Anal Chem 63(18) 885A-891A 1991)

銀塩化銀参照電極

電極の構成は

Cl-(aq) | AgCl(s) | Ag(s)

48

この半反応は次のようになる

AgCl(s) + e- rarr Ag(s) + Cl- (89)

の反応は次の2つの反応に分けて考えることができる

Ag+ + e- rarr Ag(s) (91)

AgCl(s)rarr Ag+ + Cl- (90)

図11銀塩化銀参照電極

(90)における銀 る塩素イオンによって左

されることが推測される

そこでカッコ [ ] をそれによって囲まれるイオンの濃度を表すことにし

式 イオン Ag+の溶解性は共存す

塩化銀の乖離定数Kを考えると

49

K = [Ag+][Cl-] (92)

これから

[Ag+]= K[Cl-] (93)

化カリウム溶液に漬けた銀塩化銀電極の電位 E は水素標準電極に対する

電 で与えられる

位を E゜として次式

E E

RT

nF

[ Ag ]

[Ag(s)]ln( )

Ag(s)のイオン活量は常に1とする

ここで半反応の電極電位を求めるために式(75)を利用することにすれば

(94)

熱力学の慣例にしたがって純物質個体

E E

RT

Flna

H Cl a (75)

式 の半反応をみると

応で電子1つが移動するので n=1 とするR=831441 JmolK1F = 96485

C はめれば

これに銀イオンの濃度として式(93)を当てはめる

この反応で移動する電子は (89) 銀イオン1つの反

molT=29815K(25)ln(10)=2303などの定数を当て

2303RTF = 005917

であるから(94)式は次のように表現できる

log[Cl]) E E 005917(logK (95)

たがって標準水素電極に対する銀塩化銀参照電極の標準状態における電

位 は半反応(89)に対して ゜=+0799で

化銀の乖離定数 K は182times10-10 であるのでその対数を取れば-973993

0799-005917times973993-005917log[Cl-]

E゜ E ある

ある

そこで式(95)は

E =

50

= 0799-0576-005917log[Cl-]

= 0223-005917log[Cl-] (96)

電極電位の関係について実測値

こうして求めた塩化カリウム溶液の濃度と

計算上の値は次のようである

KCl moll vs SHE volt25 計算値 volt25 01 02881 02822 35 0205 01908 飽和 0199 minus

実用 測定

実際の現場で水素イオン濃度を測定する目的の測定法で上のような2つの

極が同じ溶液に浸かっていたのでは試料溶液を交換するにも便利ではない

の容器に入れる未知試料溶液と銀塩化銀電極を隔離する

的な pH

そこで水素電極側

的で二つの電極容器をつなぐ液絡部をグラスフィルターやセラミック板

飽和塩化カリウムで作成したゼラチンなどの塩橋によって隔離遮断するこ

れを液絡部とよぶ

電池として機能するために必要な溶液イオンの交換はこの液絡部で行う

組み立てる電池は電池式で次のように表される

Pt(s) | H2 | 試料 (H+ x moll) || 飽和 KCl | AgCl | Ag(s)

の標準電極と銀塩化銀電極とは区切られていて溶液の直接の接触がない

とを意味するために電池式ではタテ二重線を用いる銀塩化銀参照電極

の容器には飽和塩化カリウム溶液が入れられる

51

図12液絡部のある pH 測定のための電池

この液絡部のある電池では塩橋を記号lsquo | | rsquoで表して次のように記す

試料 (H+ x moll) | | 飽和 KCl

ここでは試料溶液と飽和塩化カリウム溶液の異なる2液が接している

このような界面では膜電力が生じるのと同様「液間電位差」が生じることが

知られているしたがって上の電池で測定される起電力 E は

E = E[銀塩化銀電極電位]+E[液間電位]+E[水素電極電位]

で与えられることになってE[液間電位]のために図12の電池の起電力

は銀塩化銀参照電極の値を知っていても水素電極容器内に入れた未知溶

液の水素イオン濃度を正しく知ることができない

52

そこで実用的な測定法としてこの E[液間電位]を膜電位として積極的に利

用する方法が工夫されたすなわち水素イオンに感応するガラス薄膜を用い

るガラス電極法である

53

ガラス電極

ガラスはケイ素原子と酸素原子からなる SiO4 の結晶構造を持ち酸素で囲

まれた空隙があって水素イオンがそれを埋めることができる

この性質によってガラス膜表面は水溶液中の水素イオンに応じて膜電位を

変化させるのでこれを水素イオン濃度測定用の電極として利用することが考

えられるこれが通常用いられるガラス電極である

ガラス電極は標準電極と組み合わせれば電池を構成することができこの電

池の起電力を知ってガラス薄膜の内外にできたイオン濃度勾配を知ろうとす

るものである

薄いガラス膜(01mm程度)をはさんで接する2つの溶液のH+イオン濃

度が異なるとその差に応じてガラス膜の両側に電位差(Eg)が現れる

ネルンストの式でガラス電極の内部に入れた既知の濃度のH+([H+]in)に対

し試料中の水素イオン濃度が[H+]sampleのとき次の電位を生じる

)][

][log(059170)

][

][ln(

sample

in

sample

ing

H

H

H

H

F

RTE

(97)

図13ガラス電極

電極を構成するのは銀塩化銀電極と同じ電極で用いる塩溶液は一般的

54

に 01モル塩酸溶液である

この半電池の電池式は次のように書くことができる

Ag(s) | AgCl(s) | HCl (01 M) | ガラス薄膜 || 試料溶液 H+ (x moll)

Eg

この半電池の電極電圧を測定するために銀塩化銀標準電極と組み合わせ

電池を作って起電力を計る

構成される電池は下図のようになる

ガラス電極 銀塩化銀標準電極

図14ガラス電極を用いた pH 測定用の電池

この電池の起電力は次の各半電池の平衡電位を合わせたものになる

55

E1ガラス電極の内側電位

Ag(s) | AgCl(s) | HCl (01 M)

Egガラス薄膜の内外に生じる膜電位

HCl (01 M) | ガラス薄膜 || 試料溶液 H+ (x moll)

E2液間電位(膜電位)銀塩化銀標準電極のセラミックを介した試料溶液

と銀塩化銀標準電極の内部液(飽和 KCl 溶液)の間に発生する電位

試料溶液 H+ (x moll)|| セラミック | KCl(飽和)

E3銀塩化銀標準電極

KCl(飽和)| AgCl(s) | Ag(s)

pH メーター用のガラス電極に使われるガラス薄膜は水素イオンに感応して

膜電位(Eg)を生じるこれは【膜電位】の章で記したように薄膜がある

一つのイオンのみを通過させる特性を持っている場合にイオンが膜を介した

両側で平衡状態に達したとして電気化学ポテンシャルを膜の両側で等しいと

考えてそのイオンが濃厚な側から希薄な側にその差によって圧力を生じると

するものである

一方同じ試料溶液が銀塩化銀標準電極のセラミック液絡部を介して生じ

るだろう液間電位(膜電位E2)はいま関心がある水素イオンに対して特異

的に感応するのではないので試料溶液の水素イオン濃度に関係なく一定と見

なすことができる

すなわちpH メーターを構成する電池の起電力 E は

E = E1+Eg+E2+E3 (98)

このうちEg以外は一定と見なせるので

E1+E2+E3 = E

として式(98)を書き直すと

)][

][log(059170

sample

ing H

HEEEE

(99)

Eは標準液によって校正されるべき標準電極電位である

56

電極の校正

実際のイオン濃度を測定する場合低濃度標準液と高濃度標準液で得られ

る起電力を測定し計測のイオン濃度に対する係数(傾き)を求めておき未

知の試料に対して起電力を測定してそのイオン濃度を算出する方法が採られる

低濃度標準液と高濃度標準液のそれぞれの濃度をCLとCHとすればそれぞ

れの起電力ELとEHは次式で表される EH = E +β logCH (100)

EL = E +β log CL (101)

ただしβは式(99)の係数を簡略にしたものである

式(100)と(101)から検量線の傾きが次式で表せる

ΔE = EH minus EL = β(logCH minus logCL) = β logCH

CL

(102)

したがって係数βは

β =ΔE

log CH

CL

(103)

であらわされる

このときに使われる標準はすでに前出の pH 第一次標準第二次標準溶液で

ある

金属イオンに対応するイオン選択電極

現在臨床検査で日常的に使われている電解質測定のための電極はナトリウ

ムカリウムカルシウムクロールなどおよそ臨床的に必要な金属イオン

に対して入手可能である

カリウムイオン測定用のバリノマイシンの発見によってクラウンエーテルと

57

呼ばれる一連の化合物が知られたクラウンエーテルはその分子の中心に立

体的な空間を持ち特定のイオン径に対し合致するのでそのイオンに対して

選択的に感応するこれらの化合物はイオノフォアと呼ばれる

図 15クラウンエーテル

1つの金属イオンが環状化合物

15-crown-5 の中央にある空間を充填

している模式図

15-crown-5 の構造を作る10個の黒

い丸は炭素炭素2個のつながりごと

にある中心の白い丸は酸素酸素と

金属イオンの間の距離はおよそ 22~

23Åであるカリウムのファンデン

ワールス半径は 135Åイオン半径は

15~16Åである

測定したいイオンに対しポリ塩化ビニル(PVC)を支持体としてイオノフ

ォアを添加した液膜の電極膜を作成しこれをガラス電極におけるガラス薄膜

と同様試料に接する電極膜として用いるこの構造から一般的に液膜型電極

と呼ばれる電極膜には特異性を高めるため妨害イオン排除剤などが添加

される

pH メーターと同様銀塩化銀標準電極と組み合わせ電池を形成しその

起電力を計る測定したいイオンが液膜に対して内外で平衡に達したときの

膜電位を測定するのはガラス電極と同じである

カ リ ウ ム イ オ ン に は Bis[(benzo-15-crown-5) ( 正 式 名 は

Bis[(benzo-15-crown-5)-4-methyl]pimelate)ナトリウムには Bis[(12-crown-4)

やDibenzyl-bis[(12-crown-4)などがイオノフォアとして用いられる

58

図16カリウムイオン測定用に使われるクラウンエーテル

図17ナトリウムイオン測定用に使われるクラウンエーテル

59

参考イオン選択電極に関する文献Xia Z Badr IHA Plummer SL Cullen L

Bachas LG Synthesis and evaluation of a bis(crown ether) ionophore with a

conformationally constained bridge in ione- selective electrodes Anal Sci 14(2)

169-173 1998 Oh K-C Kang EC Cho YL Jeong K-S Y oo E-A Paeng K-J

Potassium-selective PVC membrane electrodes based on newly synthesized

cis- and trans-bis(crown ether)s ibid 14(10)1009-1012 1998 Dojindo WEB

site httpwwwdojindocojpwwwrootproductsjinfo2protocolp31pdf

<補遺> 60

補遺 状態関数 (本文 p21 10 行目参照)

一つの平衡状態にある系 A とこれに接する系 A にとって外部である系 B について系 B

から系 A に熱を与えこれによって系 A が他の平衡状態に移ったとき系 A はその結果とし

て膨張し系 B に対し仕事をする

このときの微少な熱量の移動を記号drsquoQ またなされた微少な仕事をdrsquoW とすると

系Aの内部エネルギーに関する微少な変化drsquoUA は両者の和として表される

WdQdUd A primeminusprime=prime (a-1)

この式 a-1 と本文中の式25との関係について

WQU A Δminus=Δ 本文(25)

<補遺> 61

式 a-1 と式25の記号の違いは変化の起きる前の平衡状態 S1 から変化後の平衡状態 S2

に状態変化があったとするなら式 a-1 を積分することで式25が得られるものと考えて区

別している

A

S

S A UUd Δ=primeint2

1 (a-2)

このことは重要であるすなわち内部エネルギーU は変化の起きる前後の状態を指定する

ことによって値が定まることを意味するこのように積分によって値を定めることが出来る

のでdrsquoU は完全微分であるという

内部エネルギーのように系の状態だけで値の定まる量を状態関数として扱う

一方式 a-1 のdrsquoQ drsquoW についても同様に微少の変化量を表しているが平衡状態 S1

から S2 への経路を指定しなければ積分の値は定まらない

本文中の記号にしたがって仕事量ΔW を次のように表すことにする

VpW Δ=Δ 本文(20) V

<補遺> 62

体積と圧力の関係を表す図を使ってこの仕事量が意味することを考える圧力 prsquo の下で

体積が V1 であるときを状態 S1 として圧力一定の下で体積を V2 まで膨張させるような変

化を行った後体積を等しく保って圧力を p にまで上げたときの状態を S2 とするこのとき

の仕事量は膨張に伴うものであるから図の体積‐圧力線の下の面積で示すことができる

平衡状態 S1 から S2 への変化の道筋を別にたどってみよう

新しい経路では圧力を先に p まで上げた後に膨張変化させている

図から直感的に明らかであるので数式での扱いを省略するが2 つの経路による仕事量には

差がある

すなわちdrsquoW は drsquoU と異なり変化の初め S1 と終わり S2 の状態が与えられても積分値

は定まらず変化の経路によって違ってくる

このように変化の経路を指定しなければ積分値が定まらないものを不完全微分と呼び扱

いを区別する

本文 p21 へ戻る

<補遺> 63

VpW

WQU

VpQU

VpUQ

1122 SSSS pVUpVUQ

pVU

VpUHHHQ SS 12

エンタルピー (本文 p24 20 行目参照)

本文中の式 20 および 25 から一定の圧力の元で起きる状態変化において内部エネルギー

の変化量に対する式 a-3 を得る

本文(20)

本文(25)

(a-3)

式 a-3 を Q について書き直す

(a-4)

状態の変化が平衡状態S1から平衡状態S2に移ったものとして式 a-4を丁寧に書き直すと

(a-5)

並び替えて

(a-6)

式 a-6 を見ると定圧過程における熱量の流入は

(a-7)

の形を持つ関数の差であることが分かる

一般に化学反応のような変化の過程では大気圧の下で行われるようなものに興味がある

そこで式 a-7 で与えられる項を一つの関数として定義するこれをエンタルピーと呼び記

号 H を与える式 a-4 はエンタルピーの変化量で次のように書き改められる

(a-8)

圧力が一定の下で起こる状態変化について流入する熱量は式 a-8 で示されるようにエンタ

ルピーの変化量に等しい

V

V

V

V V

V

V

1212 SSSS VVpUUQ VV

<補遺> 64

1Q

We

また式 a-8 からオートクレーブ内で起こるような体積変化のない過程ではこの値が内

部エネルギーの変化量で与えられることが明らかである

本文 p24 へ戻る

エントロピー (本文 p26 17 行目参照)

エントロピーは次のような思考実験から発想された仮想的な状態関数である

理想気体よりなる系 A が温度 T2で熱平衡状態にあり温度 T1の外部の熱源と接しているこ

とを想定する系 A の外部を系 B と呼ぶことにするT1は T2に対して無限小だけ高い温度と

する

系 A が系 B に対して温度圧力について平衡を保ちながら緩慢に系 B より熱量 Q1を受け取

る過程を考える(このような過程を準静的過程と呼ぶ)これによって系 A が熱量 Q1を得て膨

張するとき系 B に対して仕事をする続いて系 A から熱量 Q2が系 B に戻ることを考える

想定されるこの変化が可逆的であれば系 A と系 B を併せた全体は元の状態に戻る蒸気機

関に関するこのような研究が Nicolas Carnot によってなされたのは1824 年のことであった

ここに想定されたサイクルに対する Carnot の効率 e は移動した熱量となされた仕事によ

って定義され次の式で表される

(b-1)

<補遺> 65

理想気体では内部エネルギーU の変化ΔU はゼロと考えるしたがって熱力学の第一法

則を表す式(本文中の式25)から次の関係が示される

0=Δminus=Δ WQU

WQ Δ= (b-2)

これによってCarnot Cycleの効率eはQ2lt0 として次のように書き改めることが出来る

1

21

QQQe +

= (b-3)

ところで気体の状態方程式から1 モルの気体について次のような関係が示される

RTV

P

P1=

V = RTV (b-4)

V 式 b-4 の両辺に体積の微少変化量ΔV をかけて

(b-5)

これを体積Vについてその変化をV1からV2までとして積分するならば次式が得られる

VV

RTVP Δ=Δ 1V V

V

intint = 2

1

2

1

1V

V

V

VdV

VRTPdV

1V2V

11 lnRTW =

(b-6)

Q1の熱量によって起こる膨張がV1よりV2までとし圧力P温度T1の下でなされるその仕事

量をW1とするならそれは式b-6 の右辺によって示されるすなわち

(b-7)

VV

1

2lnVVRT=

V V

VV

V

V2int V2 intV1 V1

<補遺> 66

またQ2の熱量の移動が圧力P温度T2の下で起きこれによって系Aが可逆的に圧縮され

るなら体積変化はV2よりV1まで起こりその仕事量をW2で示すと次式のように表される

(b-8)

1

22

2

122 lnln

VVRT

VVRTW minus==VV

VV

Q1=W1Q2=W2の関係から式b-7 およびb-8 を用いてCarnot Cycleの効率eを表す式b-3

を書き改めると温度のみの関係式として次のように表される

1

21

TTTe minus

= (b-9)

ここでサイクルが可逆的過程であると想定するならば式 b-3 と式 b-9 から

1

21

1

21

TTT

QQQe minus

=+

= (b-10)

これから

12112111 QTQTQTQT minus=+ (b-11)

整理すると

02

2

1

1 =+TQ

TQ (b-12)

この考えをさらに発展させ系A

と系Bの間に数多くの系を挿入すること

にしてそれらの系を同様に熱源として

T1T2Tnと考えるこれによっ

て熱の受け渡しが系Aから系Bに至り

再び系Aにもどるサイクル過程に数多

くの寄り道の過程を加えることになる

熱量の移動に関して上の場合と同じく

準静的過程で行われると考えるこの

サイクル全過程について初めと終わ

<補遺> 67

n

i i

i

T

Q

1

0

0T

dQ

T

QS

T

dQASAS )()( 12

りが同じ状態になる可逆的な過程であるなら式 b-12 を拡大的に考えることになってそれ

は次式で表される

(b-13)

式 b-13 には重要な関数が現れるすなわち熱量と温度の比QT である

もし一つの系が無限小だけ温度の高い(dT )外界から温度圧力など平衡を保ちなが

ら極めて緩慢な過程(準静的過程)で無限小の熱量(dQ )を受け取るならばその変化は可

逆的でありdT について連続的な温度分布をする過程を考えるとき式 b-13 をさらに発展

させて次のように積分式で示すことが出来る

(b-14)

式 b-14 で積分記号にが付されているのはCarnot Cycle のような経路を一巡することを

意味している

Carnot の熱機関の効率という着想から生まれた熱量とそれを持つ系の温度との比 QT に

重要な意味を見出したのは Rudolph Clausius で彼はこの比にエントロピーという名前を与

えたエントロピーには記号ΔS を一般に用いる

(b-15)

エントロピーは初めと終わりの状態がわかれば過程に関わらず定まるので状態関数であ

系 A と外界のエントロピー変化を考えるときそれが可逆的過程であるならばすべてを併

せた全体のエントロピー変化は初めと終わりに変化がないという意味でゼロであるすなわ

ち初めの状態を S(A1)とし次の状態を S(A2)とするならそれぞれのエントロピーを

ΔS(A1)ΔS(A2)としてこの間におけるエントロピーの変化量は次のように示される

(b-16)

<補遺> 68

T

dQdS

0T

dQ

ある一つの変化については次のように示される

(b-17)

ここで式 b-17 の S に付けられたdは微分量すなわちごく微小の変化量を意味し式 b-15

で定義されたエントロピーに用いられる一般的な記号Δと区別する

ところで式 b-10 の関係においてもし移動した熱量のすべてが仕事に変わらなければ

効率 e を表す熱量を用いた関係式と温度で表される関係式は等号で結ぶことができないそれ

はエネルギーのロスを意味し初めと終わりの状態が異なってしまうことを意味するすなわ

ち全過程が構成する一つのサイクルは可逆的でなくなる

不可逆過程での熱効率 ersquo は 大値を示す可逆的過程の熱効率 e より小さな値をとる

ee

したがって 大効率を与える式 b-8 と式 b-3 から

01221

2112

1

21

1

21

QTQT

QTQT

Q

QQ

T

TT

両辺を T1T2で割ると

02

2

1

1 T

Q

T

Q

これを式 b12 と同様に発展させれば式 b-14 についてサイクルの変化が可逆的過程の

場合と不可逆的過程の場合の両方を併せClausius の不等式と呼ばれる次の関係が成立する

(b-18)

式 b-18 の等号が成立するのはサイクルが可逆的な理想の場合に限られる

ある孤立系で状態 A1 から状態 A2 へは不可逆変化で進められ状態 A2 から再び状態 A1

に戻るとき可逆変化であるような閉じた状態変化を考える可逆系のエントロピー変化には

記号 Q を使い不可逆変化には Q を用いるとするとそれぞれ積分式を用いて状態 A1 から

状態 A2 へは

<補遺> 69

d prime

状態 A2 から状態 A1 に戻るときは

全体では

=d prime

+d

(b-19)

Clausius の不等式から

0

式(b-19)の第二項で反応を逆に進めるときには次のように書き改めることができる

=d

よって式(b-19)は次のように書き直すことができClausius の不等式とあわせると

d prime d

0

すなわち

d prime d

上式の右辺は式(b-16)を用いて表せば

d prime

∆S ∆

この状態変化を微小変化とするならば断熱変化の場合 dQ = 0 であるから

∆S ∆ dS 0

すなわち不可逆変化を含む断熱変化ではエントロピーは必ず増大する

<補遺> 70

T

QS

BA SSS

(b-20)

(次の<補遺>ギブス自由エネルギーも参照せよ)

本文 p26 へ戻る

ギブス自由エネルギー (本文 p28 27 行目参照)

エントロピーの考えを導入することによって不可逆的に状態変化が起きるときにはエン

トロピーの増大を引き起こすことを知ったこれによって目前で起きる現象について温度の

変化があるものであれないものであれまた圧力の変化があるものであってもエントロピー

の定義式によって可逆的な変化におけるエントロピーの変化量を計算することが可能である

(b-15)

しかしながらこれから起こる変化について我々がすでにあらかじめ知っている物理量を

用いて予測的にその状態変化が起きるかどうか知ることは必ずしも容易ではないその理由

は式 b-15 に示されたエントロピーΔS が系とその外界をあわせた全体のエントロピーを示

しているからであるすなわち関心のある系を系 A としその外界を系 B とすると全体

のエントロピーは次のように表せる

(c-1)

関心のある系 A のエントロピー変化を知るためには系 B のそれを知ればよいがそれは

いつも容易とは限らない系 A の性質だけで状態変化の方向を知るには別の観点が必要にな

るようだ

そこでもう一度状態変化が熱量 Q の移動によって起きることについて考えてみようエン

トロピーの補遺で議論したように熱量の移動が準静的過程により行われるときには変化は可

逆的に起こると考えたこのとき外界すなわち系 B から移動する熱量を Q1とし系 A から

0S

<補遺> 71

21 QQ

T

Q

T

QSB

21

T

QSS A

2

QH

T

HSS AA

AA STHST

のそれを Q2 と記号を当てたのでこれをそのまま使うことにすれば可逆的な過程では系 B

の熱量 Q1 はすなわち系 A から戻る Q2 に他ならないので両者には次の関係が成立するも

のとしてよい

(c-2)

したがって

(c-3)

と考えてよくこれによって式 c-1 を次のように書きなおすことが出来る

(c-4)

独立した系で圧力とその体積に変化がなく一定の条件の下で状態変化が起きるときエン

タルピーの考えを使ってすでにひとつの関係があることを導いている

本文(31)

そこで式 c-4 を系のエンタルピーΔHAによって書き改めれば

(c-5)

この両辺に-T をかけて式を書き直せば次の関係式が得られる

(c-6)

式 c-6 を見るときその右辺がマイナスの値ならば左辺のΔS はプラスの値をとることが

分かるすなわちエントロピーが増大すると見ることが出来るこれまでの過程で自然の現

象はエントロピーが増大する方向に進むとしてきたので関心のある状態変化について式 c-6

の右辺で計算される値がマイナスの値ならばその変化は起きるものと考えてよいことになる

だろうしかも右辺はすべて独立した系の状態量で示されていて我々が知りうる値で計算

<補遺> 72

TSHG

STSTHG

STHG

可能である

そこでこれを熱力学ポテンシャルを表すものとしてギブス自由エネルギーと呼ぶことに

するギブス自由エネルギーは記号 G が用いられ次のように定義される

(c-7)

ここで関心があるのは自由エネルギーの絶対値ではなく式 c-6 に示されたようにその変化量

に興味があるので式 c-7 から

(c-8)

温度が一定の条件の下で状態変化が起きることを考えるなら式 c-8 は次のように書くこと

ができる

(c-9)

ギブス自由エネルギーは式 c-9 の右辺がすべて状態量であるからこれも状態量の一つで

ある定圧定温の条件下で起きる変化ではすでに議論したようにΔGlt0 であれば状態

変化は自発的に起きるものと予測できる

つまり式 c-5 の第一項は系のエントロピーΔSAそのものであり第二項で示されるエンタ

ルピーは系 A の温度が一定に保たれているのであるから発熱する熱量として外界に吸収さ

れるものであってこれは外界のエントロピーの増大につながるものとして解釈されるした

がって化学反応のように一定の圧力と一定の温度の下で起きる変化について自由エネルギ

ー変化量はその状態変化が自発的に起きる傾向を示しているといってよい

本文 p28 へ戻る

  • はじめに
  • 目次
  • 電気エネルギー
    • 金属のイオン化
    • 電池
    • 水素の反応
    • 燃料電池
    • 化学反応と電気エネルギー
      • エネルギーと熱力学
        • エネルギー保存則
        • エンタルピー
        • エントロピー13
        • ギブス自由エネルギー
        • 電池における化学反応のギブス自由エネルギー13
        • 理想気体の状態方程式
        • 理想溶液のギブス自由エネルギー
        • 膜電位
          • 水素イオン濃度測定
            • 化学反応の一般的な式
            • pHの定義とその目盛り
            • pH標準液
            • 銀塩化銀参照電極
            • 実用的なpH測定
            • ガラス電極
            • 電極の校正
            • 金属イオンに対応するイオン選択電極
              • 文献
              • 補遺
                • 状態関数
                • エンタルピー
                • エントロピー
                • ギブス自由エネルギー
Page 6: イオン選択電極i イオン選択電極 Ion Selective Electrode (ISE) を理解する ・ pHを測定する ・ NaやKなどのイオン濃度を測定する 神戸大学医学部保健学科

3

のに対してその反応で発生した電子を受け取る相手は還元されると言う

すなわちこの反応が起きるとき上の例での亜鉛は「還元剤」としての能力

を持つことになる

このように考えるとイオン化傾向の大きな金属は還元剤としての能力が高い

と言うことができるしたがってKや Caは強い還元剤である

逆に言えばイオン化傾向の上位にある金属は酸化力が弱い

金属の酸化力の強さは水溶液にあってイオンの状態から金属単体になりやす

い傾向を言うこれはイオン化列の右にあるものの方が高い性質を持っている

金属に対して「酸化還元反応」を考えるとき金属と金属イオンの組み合わせ

で考えることができる

ある金属の塩を水に溶解して金属イオンとして存在する水溶液を準備しそ

の金属よりイオン化列の上位にある金属片をその水溶液に浸ける

するとイオン化列の上位にある金属片が溶液に溶けだし最初水溶液をつく

ったイオン化列の下位にある金属が析出してくる

例で示そう硫酸銅 CuSO4の水溶液を作りこれに亜鉛板を浸ければ亜鉛

板の水溶液に使っている部分はやがて茶褐色に変化する

ここで起きる反応は次の反応式で書き表すことができる

Zn(s) rarr Zn2+ + 2e- (2)

Cu2+ + 2e - rarr Cu(s) (3)

2つの反応式を合わして全体の酸化還元反応を反応式として表すことができ

Zn(s) + Cu2+ rarr Zn2+ + Cu(s) (4)

このようにイオン化傾向が水素よりも小さなものがあればまずその金属

が析出するイオン化傾向が水素よりも小さなものがなければ酸性なら水素

イオンが中性やアルカリ性なら水が反応する

水溶液において水素よりもイオン化傾向が大きい金属は電極に析出はし

てこないこのとき水の反応を示すと

4

H2O + 2e- rarr H2 + 2OH-

このように水酸イオン OH- が出来るので中性の水溶液を用いると水が反

応してその周りはアルカリ性になる

電池 酸化還元反応に伴う化学エネルギーを用いて電子の流れを発生させればその

化学エネルギーを電気エネルギーに変換することができる

化学エネルギーから電気エネルギーに転換させる過程を見てみよう

硫酸銅 CuSO4の水溶液に亜鉛板をつけたときの反応は上で反応式(2)

と(3)およびその全体を(4)で示した

それぞれの金属だけについて化学反応を(2)や(3)のように単独で示す

ときこれを「半反応」という

亜鉛に対する半反応(2)では亜鉛分子が亜鉛板に電子を残してプラスイオ

ンになって水溶液にとけ出すことを表している一方半反応(3)では銅

イオンが発生した電子を亜鉛板表面で受け取り金属銅となって析出すること

を表しているこのとき亜鉛は酸化を受け銅は還元される

ここで電子を亜鉛板から取り出すことを考えよう

反応に用いたのは硫酸銅の水溶液であったがこのような塩溶液を電解質溶液

と呼ぶ電子を取り出すために電解質溶液に工夫をしよう

2つの水槽を準備し一つには硫酸亜鉛 ZnSO4の水溶液を入れて亜鉛板をこ

れに浸けるもう一方には硫酸銅 CuSO4の水溶液を入れそれには銅板を浸け

それぞれの水槽内で起きることを期待するのは反応式(2)と(3)で示し

た各半反応である

ここでそれぞれの水槽の金属板に導線をつなぎ両方をそれで接続すると電

子が導線を伝わって移動するならその電子の流れを電流としてこれを利用す

ることができるそうすれば化学反応のエネルギーを電気エネルギーに変換

できたことになるつないだ電線の途中に豆球ランプを入れるならこれが点る

だろう下図ではこの導線の中間に電圧計を入れたものを示している

5

図1亜鉛と銅を電解質溶液に入れる

再度それぞれの水槽で起きると予想する反応を書いておこう

左の水槽 Zn(s) rarr Zn2+ + 2e- 酸化反応

右の水槽 Cu2+ + 2e - rarr Cu(s) 還元反応

左の亜鉛が入れられた側では亜鉛板に電子がたまり亜鉛の酸化反応が起きる

一方右の銅が入れられた側では電子が水溶液に移動し銅の還元反応が起き

亜鉛は電子を電極に残しプラスイオンとなって水溶液中に出て行き亜鉛板

の電極中に電子が余分にたまるこのとき水溶液にある硫酸イオンは変化を

受けない

一方の銅板では水溶液中の銅イオンが銅板から放出される電子を受け取って

銅単体となり析出するこちらの水槽でも水溶液にある硫酸イオンは変化を受

けない

電極に余分にたまっている電子の量を電極電位という

6

上の図では導線の中間に電圧計がつなげてあって両極の電極電位の差を測定

することができる電極電位の差すなわち「電位差」は電極間をつないで回

路をつくればその回路に電流が流れるので「起電力」ともいうこの電位差

や起電力の数値については後で考えることにしよう

電圧計は電流を流さず両極間の電位差を計ることができるこの状態では電

子の移動がない電子の移動がないので各イオンの濃度にも変化はない電圧

計はこのときに電池の起電力に対して最大値を与えるもしも電流が流れると

各イオン濃度の変化が起きるので起電力にもわずかながら変化が生じる

両方の極を導線でつないでその中間に電圧計を入れ亜鉛板から銅板へ導線を

介して電流が流れないときの状態をさらに考えてみよう

左の亜鉛板に残った電子は溶液中に続いて出てゆこうとする亜鉛イオンを逆

に引っ張り戻そうと働くこの結果亜鉛板に残った電子の量がある程度以上

になるともはや亜鉛は溶け出さない

この状態を平衡状態という

一方の銅板では電子の流れがないので同様に銅イオンの還元反応は進まない

そこで電子の流れが起きるように導線の中間に豆電球を入れて回路を作るこ

とにしようこのように電池の両極間に電球などを入れることを「負荷をかけ

る」という

回路ができそれに負荷をかけることによって電子の流れが起き豆電球が点

るこの結果陰極では亜鉛がどんどん水溶液に溶けだし陽極では銅が析出

する

ところがこうしてうまく電子の流れが始まってもそれは持続しない

どちらの水槽においても硫酸イオンは変化を受けないことをすでに述べてい

たこれでは亜鉛側のプラスイオンがまた銅側のマイナスイオンがたちま

ち過剰になってしまうこの結果一瞬電流が流れるだけですぐ電子の流れは

停止し豆電球は点り続けないだろう

うまく豆電球を点り続けさせるにはそれぞれの水槽のプラスイオンとマイナ

スイオンの均衡が保てるようにしなければならない

この解決にはそれぞれの水槽で過剰になるプラスイオンとマイナスイオンが

移動できるようにすればよい

それには2つの方法がある

一つは塩橋とよばれるイオンの通路を両水槽に掛け渡す方法である塩橋は

7

チューブ内に飽和塩化カリウム(KCl)溶液などをゼラチンで固めて詰めそれ

がこぼれ出ないようにそれぞれの口を濾紙などで封じたものである

図2亜鉛と銅を電解質溶液に入れ塩橋を渡す

この塩橋の代わりに素焼きの陶板やセラミックなどのイオンを通す性質があ

る固体で両水槽を仕切る方法でもよい図に示したように塩橋もしくはしき

りを介してイオンが移動できる

8

図3亜鉛と銅を電解質溶液に入れしきり板にセラミックを使う

このように電子の流れを発生させて利用しようとする装置を「電池」とよぶ

電池には2つの極がある陽極(+)と陰極(-)である

陽極(+)は正極ともよばれ電極に伝ってきた電子が水溶液に移動し還

元反応が起きる側をいう

これに対して陰極(-)は負極ともよばれ電極金属がイオン化し酸化反応が

起きて電子が電極から取り出される側をいう

今の例では亜鉛板が陰極(-)銅板が陽極(+)とよばれる

有名な「ダニエル電池」はこのように考案された

電池を電球などにつなぎ電気回路を形成すれば亜鉛電極内の電子が導線へ流

れ出て電球を明るくし亜鉛はつぎつぎ溶液に溶け出す

回路を切れば再び電極に電子がたまり平衡状態に達して亜鉛イオンの溶

出は止まる

ここで電池の表記についての取り決めを記しておこう

9

電池は2つの極からなる陽極と陰極である陽極すなわち還元反応が起き

導線を介して電子を受け取る極を右に書くダニエル電池の場合には陽極は銅

板であり銅イオンを供給する硫酸銅の水溶液が電解質溶液として用いられる

陽極金属と電解質溶液の間は縦棒で区切るそこで陽極は次のように表記され

CuSO4(aq) | Cu(s) (+) 記号(aq)は水溶液のこと

同様に陰極は酸化反応が行われる極でこれを左に書く

(-) Zn(s) | ZnSO4(aq) この両方の極は別々の水槽にあってイオンの交換が塩橋あるいはセラミッ

クのようなしきりを介して行われるのでこの隔壁をタテ二重線で表記し両極

を並べて記す

ダニエル電池は次のような記号で表記されるこれを電池式と呼ぶ

(-) Zn(s) | ZnSO4(aq) || CuSO4(aq) | Cu(s) (+)

両端の極を導線で接続し回路を形成すれば電子の流れが左の陰極から右の陽

極に起こり電流は右から左へと流れる

水素の反応 イオン化傾向の大きさが異なる金属を組み合わせて酸化還元反応が起きると

電子の流れが生じそれを取り出して豆電球を点灯する仕事として利用するこ

とができる

イオン化列の鉛と銅の間には水素があるこの水素の酸化還元反応を見るこ

とにしよう

水素の酸化反応は次のように表される

H2 rarr 2H+ + 2e- (5)

これを半反応として電子の流れを作り出せば電池として機能するから取り

出された電子を利用する還元反応を考えよう

水素と反応する相手に酸素を選べば水が生成物として得られることを期待で

きる

10

酸素が電子を受け取る還元反応の半反応は次のように表される

12 O2 + 2e- rarr O2- (6)

半反応(5)と(6)を組み合わすことができれば次の全反応によって水

が生じる

H2 +12 O2rarr H2O (7)

このとき得られる電子を導線に誘導すれば電気エネルギーとして利用が可能

になる

問題はダニエル電池で見たようにそれぞれの半反応で生じるイオンの処理で

ある半反応(5)と(6)はそれぞれ隔離された容器で行わなければ水素と

酸素が直接反応して水を生じてしまうしかし容器の隔壁がイオンを通さな

いと電池として機能しない

燃料電池 固体は一般に分子やイオンを通過させないが中には特定のイオンを通過させ

るものがありこれを固体電解質とよんでいる

半反応(5)で発生する水素イオンを効率よく通過させるためにはナフィオ

ン(Nafion Du Pont 社米国デラウェア州ウィルミントン)とよばれる固体高

分子膜が有力である

ナフィオンはフッ素を含む高分子パーフルオロスルホン酸系といわれるイオ

ン交換膜で全体はテフロン様構造からできており側鎖にスルホン酸基を持

つその厚さは 20~50ミクロン程度である膜の内部で負に荷電するスルホン

基(SO3-)が水素イオン(H+)を引きつけこれを通過させるこの水素イオ

ンの通り道は電子顕微鏡で見るとトンネルのようにできている

11

図4ナフィオンを使った燃料電池

陰極では水素の酸化反応が起きる

H2 rarr 2H+ + 2e- (5)

一方陽極では次の還元反応が起きる

12 O2 + 2e- rarr O2- (6)

O2- + 2H+ rarr H2O (8)

全体の反応は反応式(7)で表される

12

H2 +12 O2rarr H2O (7)

こうして開発された電池は「燃料電池」とよばれている燃料に水素ガスが

利用される

反応式と図に示した気体酸素は通常の空気が利用され反応で生じた水と酸

素以外の利用されない気体元素は排気される

この燃料電池は水素と酸素を遮断し水素イオンだけを通過させる固体電解

質を使ったこれは上の半反応(5)で生じた水素イオンの処理を考えたわ

けである

これに対して半反応(6)で生じる酸素イオンを移動させる工夫もある

図4安定化ジルコニアを使った燃料電池

安定化ジルコニア(Stabilized Zirconia ZrO2CaO)は高温下で酸素イオン通過

性のある固体電解質として開発されたジルコニウムに10モル程度の酸化

カルシウムを加え結晶を作ると+4価のジルコニウムイオンの位置の一部を+

13

2価のカルシウムイオンが占めるできあがった安定化ジルコニアはこのカ

ルシウムの数だけ酸素イオンの不足が起き固体全体を電気的中性に保つた

めに酸素イオンの透過性ができるジルコニアの両面に白金粉末を焼き付け

それに白金のリード線を取り付ける焼き付けられた白金には多くの孔があり

その孔を通して気体とジルコニアが接触する

酸素イオン導電性の固体電解質としてジルコニアを用いた燃料電池は次

のように動作する

1)空気極(右側)に入った酸素 O2は電極で電子を受け取り酸素イオン O2-

になる

12 O2 + 2e- rarr O2- (6)

2)O2-は固体電解質ジルコニア中を移動していき燃料極(左側)で H2 と

反応し水 H2Oを生じるこの過程に伴って電子が放出される

H2 + O2- rarr H2O+ 2e- (9)

3)これら結果として外部回路に電流を取り出すことができる

燃料電池の起電力は酸素イオンが電解質中を移動することにより生じる

酸素イオンが移動する駆動力は固体電解質の両端すなわち燃料極と空気極

の酸素濃度差である

14

化学反応と電気エネルギー ダニエル電池の陰極は亜鉛板が硫酸亜鉛の水溶液につけられていたこのと

きの現象は次のように説明された亜鉛は電子を亜鉛板電極に残し陽イオン

となって出て行くその結果亜鉛板電極中に電子が余分にたまる

ダニエル電池の陰極の「電極電位」はこの電極に余分にたまっている電子の

量をさしているそれではこの半反応による電極電位を測定することができ

るのだろうか半反応は次のように示される

Zn(s) rarr Zn2+ + 2e- (1)

亜鉛が1モル反応すると2モルの電子が持つ総電荷量が流れる

1電子の持つ電荷量は16022x10-19 C (Ccoulombクーロン)であ

るから

1モルの電子の総電荷量はアボガロド数をかけて 96485 = 96485 x 104 Cmol

であるこれを1F1ファラデーと表す

1F = 96485 x 104 Cmol 亜鉛が1モル反応すれば2モルの電子が持つ総電荷量が流れるのでこれを

記号 q として表すと次の電気量が得られる

q = 2F (10)

化学反応によって取り出せる電気量はこのように計算される

それでは電気エネルギーとしてその電力はどのようになるだろう

電力は

電力=電圧times電流times時間 (12)

電流times時間=電気量であるから式(12)を書き直せば

15

電力=電圧times電気量 (13)

ここで電気量 q は式(10)で表しているので

電力=電圧timesq=電圧times2F (14)

と書くことができる

電圧を記号Vで表すことにし電力をWにすれば式(14)は

W = 2FV (15)

として表しておくことができる

電圧の単位系は仕事量が電力Wであるので(13)から

V= W q (16)

仕事量をジュールJ(ジュール)で表せば電圧はJ C (ジュールクー

ロン)でその単位を表現することができる

式(15)の表すところは亜鉛を化学反応の材料として得られる電力という

仕事量がその電力すなわち電極電位で決定されることを意味している

一般に化学反応で1分子の材料を消費しn個の電子が流れることをその

半反応で知ることができるとき式(15)を一般化して次のように得られ

る電気エネルギーを表すことができる

W = n FV (17)

化学反応によって生じる電子を取り出し回路に導けばここに電流が生じる

その起電力(V)は陽極陰極のそれぞれの電位をE+E- と記号で表し

て次式で書くことができる

V= E+-E- (18)

16

ここで問題になるのは陽極陰極のそれぞれの電位E+とE-で上に議論し

たように回路を形成しなければそれぞれの電位は決定できない

ここでいま片方の電位をゼロとすれば式(18)はたとえばE- = 0 で

V= E+

として陽極の電位が決まる

そこで申し合わせにより水素の半反応による電位をゼロとすることになっ

その半反応の式は水素の還元反応として次のように表せた

2H+ + 2e- rarr H2

標準にはMax Julius Louis Le Blanc (1865-1943) が発明した水素電極を用

いるこれを標準水素電極(Standard Hydrogen Electrode SHE)とよびこの

電極電位をいつも 0 volt(ゼロボルト)と取り決めている

図6に示した水素電極は1atm の水素ガスとそれに平衡状態にある水素イオ

ンが存在し次の半反応が平衡状態にある

H2 (g 1 atm)rarr 2H+ (aq 1 M)+ 2e- (5) g は気体を示す

この反応において平衡状態にある電極電位を 0 volt と定義する

電極に白金を用いるのは電極材料自体が溶解しないものであることすなわ

ちイオン化傾向の低いものであることまた水素イオンの還元に対してな

るべく活性の高いものであることが条件として求められるが白金はこの2つ

の性質を兼ね備えていて陽極の電極材料に適している

気体の標準状態は1atm を標準としているこの分圧を維持し溶液中の水

素イオン活量を1にする水蒸気の分圧が変化すると平衡電位は変化する

17

図6標準水素電極(0ボルトの基準)

標準水素電極は1モル塩酸溶液につけた白金電極に1atmの水素ガスを吹き込んで使う

白金電極は分極を防ぐために白金板に白金メッキを施し(白金黒とよばれる)上半分

を水で飽和させた(1atmの水蒸気分圧が必要)1atm(101325 kPa)の水素ガスを流し

下半分を1moll の塩酸溶液につける水素ガスが電極として働き白金板に電子が集めら

れる

ダニエル電池の亜鉛電極をこの標準水素電極につなげば亜鉛電極電位が測

定できる

亜鉛電極側では酸化反応の半反応が起きる

Zn(s) rarr Zn2+ + 2e- (1)

18

標準水素電極側では還元反応の半反応が起きる

2H+ + 2e- rarr H2

図7亜鉛電極と水素電極をつないで電池とする

25の基準状態における亜鉛電極の半反応(1)に対する平衡電位はすでに

知られている

E゜= -0763 volt

また銅板側の電極電位も同じようにして測定することができる

起きる半反応はすでに上述したが再度記しておこう

Cu2+ + 2e - rarr Cu(s) (3)

25の基準状態におけるこの電極電位はE゜=+0337 volt と知られて

19

いる

ここで亜鉛電極と銅電極の組み合わせでできる電池の最大電圧をこれらの

平衡状態における観測値から計算することができる式(18)を使って

V= E+-E- (18)

V= +0337-(-0763) = +110 volt

つまりダニエル電池で得られる最大電圧は11volt と計算できる実際に

はイオンの濃度が変化すれば反応の平衡が変化するので得られる電圧も変

化する

ここでダニエル電池で亜鉛1モルが反応するとき式(17)を使って得

られる仕事量としての電力を計算できる

W = n FV (17)

すなわちダニエル電池における電極反応は

Zn(s) rarr Zn2+ + 2e- (2)

Cu2+ + 2e - rarr Cu(s) (3)

であったから反応が進んで移動する電子はn = 2 である

1F = 96485 x 104 Cmol を適応すると

W = 2 x 96485 x 11 x 104 = 21227 x 105 Jmol = 2123 KJmol

(K = 103キロ)

すなわち亜鉛1モルの化学反応によって2123 KJmol の電気エネルギーが得

られる

水素ガスを使う燃料電池の起電力は電極の半反応から

O2 + 4H+ + 4e- rarr 2H2O (19)

25の基準状態におけるこの電極電位はE゜=+1229 volt が得られている

20

したがって燃料電池で1モルの水素が反応すれば

W = 2 x 96485 x 1229 x 104 = 2372 KJmol

すなわち2372 KJmol の電気エネルギーが基準状態で取り出せる最大電力

と計算される現在作られている燃料電池の電力は実際上08 volt ほどで

あるしたがって現実的に取り出せる電気エネルギーは 1544 KJmol の仕

事量と計算される「仕事量」という言葉については電気でモーターを回し

なにがしかの「仕事」をするなど思い浮かべれば実感できるだろう

エネルギーと熱力学 これまで述べてきたように電池は化学反応から直接電気エネルギーを取り出

す仕掛けであるダニエル電池では亜鉛と銅が酸化還元反応を起こす過程で

電子を放出するのを利用するまた水素ガスによる燃料電池は気体水素と酸

素を原料とし水が生成されるこの過程が1atm の気体原料を25(29815

K)で1モル反応させて生成物も1atm の液体の水を得るなら次の全反応に

よってすでに計算したとおり2374 KJmol の電気エネルギーが取り出せる

H2 + 12 O2 rarr H2O

圧力と温度がともに反応の過程を通じて一定の場合にその過程から取り出せ

る仕事量は熱力学的に考えることもできる

それはギブス自由エネルギーとして議論される電池で取り出した電気エネ

ルギーすなわち電力はこのギブス自由エネルギーに相当する

次に化学反応をこの熱力学の面から考えてみよう

エネルギー保存則

水素ガスを使う燃料電池のように独立した一つの仕掛けを考えこれを「系」

と呼ぶことにする系を考えるとき電池のように具体的なものを持って考え

るのが容易いのでそうすることが多い熱力学では自然界全体をあつかうので

しばしば概念的になり非現実的な記述が行われるが系の大きさや系を構成

する分子の大きさについて特定する必要はない

系におけるエネルギーを内部エネルギー熱エネルギー力学的エネルギー

の3つの要素からなると考えるこれらのエネルギーを考えるとき系の熱力

21

学的なパラメーター(変数)が必要となる熱力学的な状態はこれらのパラ

メーターのうちのいくつかを指定すれば決定される

熱力学的なパラメーターは2つに分類される

示量パラメーター(示量性変数)

系の大きさや構成する物質の量を示す体積や質量

示強パラメーター(示強性変数)

系の大きさに依存しない系における1つの点で決まった値で与え

られる圧力や温度密度など

いくつかのパラメーターで完全に決定できる状態を関数で表現することがで

きる場合があるそのような関数を熱力学的な状態関数(rarr補遺 p60)と呼ぶ

関数で状態の変化を表すことができれば数学的に取り扱うことができいろ

いろの面で便利である

一つの系についてその状態を知ろうとするとき系が熱力学的な平衡状態に

あると議論する上で都合がよい

熱力学的な平衡状態とは系を外部と独立させ長時間放置した後に達成され

る状態をいうこのとき系の状態をその外部のパラメーターで表現できる

たとえば電池を独立した系と考えるとき平衡状態に達した電極電圧を外部

においた電圧計で測定することができる

ある系を考えるとき前提としてその系はエネルギーを保有していると考える

系が独立してそこに存在するということで持っているエネルギーであるこれ

を内部エネルギーと呼ぶ系がある過程を経て状態を変えるとき系から系の

外部へ力学的な仕事をする場合には力学的エネルギーの出入りがあると考え

るまた系に熱が出入りする場合が考えられそれを熱エネルギーの出入り

と考えることにしよう

まず力学的エネルギーについて考えることにする

いま系が状態を変えその体積が増えれば系のlsquo壁rsquoがその系に接している

「外部」へ力学的な仕事をすることになる

このように系が膨張し壁が外部に向かって押し出されると考えたとき膨張

する過程における圧力を一定でpとし系が膨張した体積をΔV(膨張した分だ

けの体積増加量)とするなら系の仕事量ΔWは両者の積で表されるΔは変

化量を表すときにつける記号と決めておこう

22

ΔW = pΔV (20)

系の体積が凝縮する場合があるので仕事を記号で表す場合には注意するも

し系に接した「外部」から系に力が加わって体積を小さくしたならΔVは

マイナスとなるのでΔWもマイナスで表される

-ΔW = -pΔV (20prime)

今考えている系を「系 A」と呼びその内部エネルギーを UA外部の系を「系

B」と呼んでその内部エネルギーを UBと表すなら二つ合わせた全体の内部

エネルギーは両者の和で表すことができる

U = UA+UB (21)

この体積変化に必要なエネルギー変化量はどこから得られたかを考えれば

その変化があった「系 A」と外部の「系 B」のいずれかあるいは双方の内部エネ

ルギー変化分でまかなわれたと考えざるを得ない(図8参照)

そこでこのエネルギーの収支関係は変化分を表す記号に先と同様Δを用い

ることにすると次式のようになる

-ΔU =ΔW (22)

すなわち観察している「系 A」のエネルギーと外部の「系 B」のエネルギー

を合わせた総エネルギーを見てその微少な減少量minus ΔU が仕事をなすために

必要であったエネルギー量と考えてみることにする

ついでこの体積の変化が「系 A」に接する外部のlsquo熱rsquoによって起きたも

のと考えてみようすなわち外部の「系 B」が系 Aより高温で「系 B」によ

って系 Aが暖められたことになる

このとき移動したエネルギーを「熱量」と定義する

23

図8熱量の移動と系が外部にする仕事

「熱量」を記号Qで表すと外部の「系 B」が失ったエネルギーminus ΔUB で

ありこれが熱量であるから式で表せば次式のように書くことができる

-ΔUB = Q (23)

ここで「系 A」とそれに接する「外部 B」両方のエネルギーを合わせた総エ

ネルギーの変化量ΔUは式(22)で与えられていた

-ΔU =ΔW (22)

-ΔU =-(ΔUA+ΔUB) であるから

minus ΔUAminus ΔUB=ΔW (24)

これに式(23)を当てはめてΔUAで整理すれば

24

ΔUA= Q-ΔW (25)

この式(25)は「エネルギー保存則」あるいは「熱力学の第一法則」を数

学的に表現したものである

すなわち

独立した系を考えその状態が変化するとき系の内部エネルギーの変化量はその系に入る熱量と系が外部にした仕事との差である

式(25)にはまた重要な主張があるつまりエネルギー保存則にしたが

うとき熱量は力学的エネルギーにまた力学的エネルギーは熱量に変換しう

ることを意味している

熱量を表す単位はカロリー(cal)を用いる1cal は

1 cal = 4184 J

と換算されるジュールは 1J = 1Nm (ニュートンメートル)で仕事量を

表現する単位系で表される

エンタルピー

式(25)から定圧過程で式(20prime)を利用して次の式(26)が誘導さ

れる

Q =ΔUA+pΔV (26)

ここでQは熱量を表していたのでこの関係式(26)から熱関数として

新しい関数を定義する

新しい関数はエンタルピー(enthalpy)(rarr補遺 p63)と呼ばれ次の関数

式Hで表される

H = U+PV (27)

エンタルピーの微少変化量を記号Δを使って表現してみよう

25

ΔH = ΔU +Δ(PV) =ΔU +ΔPV+ PΔV (28)

独立した系で圧力が一定の下に起きる過程を考えるならΔP = 0 (圧力の

変化はゼロ)であるから式(28)は次のようになる

ΔH =ΔU + PΔV (29)

化学反応の過程を考えるとき系に容積の変化がなく過程の前後で一定であ

るならさらにΔV = 0 であるのでエンタルピーの変化量は

ΔH =ΔU (30)

また系の仕事を体積の変化としてみる式(20)から

ΔW = pΔV= 0

であるのでこれを式(25)へ適応すると

ΔU= Q minus ΔW = Q ΔW= 0 だから

結果的に系の圧力と体積が変化の過程で一定である場合にはその系のエンタ

ルピーの変化を表す式(29)(30)は次のように簡単な式になって熱関

数と呼ばれる意味が理解しやすいだろう

ΔH = Q (31)

独立した系に等圧等積で起きる過程を見る場合にはエンタルピーは系が外

部と交換する熱量の直接的な尺度となる

H>0 なら反応に熱を使うので吸熱反応

H<0 なら発熱反応

電池のように系に起きる化学反応で生じる電子の流れを取り出す装置を考え

る場合エンタルピーの変化を電気エネルギーとして取りだしている点に留意

26

しなければならない式(31)のようにエンタルピー変化が交換される熱

量に直接表現できるといっても必ずしも熱として取り出すとは限らないこと

を注意しよう

ところでエンタルピーは内部エネルギーと同じ次元にある状態量で定圧

変化の熱量がエンタルピー変化であるからある一点を標準として定めれば

すべての物質について任意の点のエンタルピーを変化量として定めることがで

きるすなわち化学反応の過程で発熱あるいは吸熱する熱量は反応材料と

生成物の間の状態変化に対応するエンタルピーに対応する

そこで一つの元素に対してもっとも安定な状態にある物質を標準物質とし

て定め29815K(25)1atm を標準状態としてその標準物質からある化

合物を合成するときの反応熱(発熱あるいは吸熱)をその化合物の「標準生成

エンタルピー」として定義できる多くの元素に対して標準生成エンタルピー

は現在表としてまとめられている

水素や酸素はその気体状態が標準物質でありそれらの標準生成エンタルピー

がゼロと定義される

エントロピー

もう一つ新しい状態関数としてエントロピー(entropy)(rarr補遺 p64)を

定義するエントロピーを表す記号は通常S を用いその定義は次の式(32)

による

S Q

T (32)

エントロピーは系の2つの状態が決まると状態量として決まる

このときQ は2つの状態の間を可逆的に変化したとき系が受け取る熱量

T は系が熱量 Q を受け取ったときの温度(degK)である

「熱力学の第二法則」はエントロピーに関するものである

図9では2つの系が接しておりそれぞれの温度を Thigh Tlowとする

Thigh>Tlow (33)

27

今温度の高い系から温度の低い系に直接熱量 Q が移動したとすれば温度

の高い系のエントロピーの変化量ΔS は熱量が失われるので負の値になる

図9熱の移動

そこで温度の高い系のエントロピーの変化量ΔS を式で表すことにすると

次式のようになる

Shigh Q

Thigh

(34)

一方低い系のエントロピー変化量ΔS は熱量が与えられるため

Slow Q

Tlow

(35)

両方の系を合わせたエントロピーの変化量ΔS は

S Shigh Slow Q

Thigh

Q

Tlow

lowhigh

lowhigh

lowhigh TT

TTQ

TTQ

11 (36)

式(36)の最終項で(33)を前提すなわち最初に温度の高い系は高い

と決めたのだとするならエントロピーの変化量ΔS は必ず次のようになる

28

ΔS >0 (37)

すなわち独立した系がありそれより温度の低い別の系あるいは温度の低

い外界が接した場合熱量は高い方から低い方へ移動するという自然の成り行

きを説明するものである

自然界に置いてエントロピーは

ΔS≧0

の値を取りΔS=0のときは可逆的過程である

今の例でいうなら熱は温度の高い系から低い系へ移動しその逆は起きない

常にΔS >0の方向に過程が進行するまた2つの系が同じ温度であるとき

両者は平衡状態にあって熱量の移動は見かけ上なくΔS=0と表現される

「熱力学の第二法則」はエントロピーによって表現されるもので系の変化が

可逆的であるかどうかを判定する指標であり現実の世界で起きる不可逆過程

が正の値を取る方向へ進むことを示す

あるいは系の変化が起きるとき外界を含めて考えれば総エントロピーが

増大する方向に変化が起きることを意味するというようにも表現される

ギブス自由エネルギー

熱力学の第一法則によってエネルギーの取りうる形である「仕事」と「熱」

は互いに変換されうることを理解したこのことの数量的な意味は1cal=418J

で示されるさらに仕事は100熱に変換可能であるが一方の熱はうま

くやっても100を仕事に換えることができないことを熱力学の第二法則で

説明しようとしたそのためにエントロピーという概念が導入された

ここで電池のような独立した一つの系を見るとき系の内部エネルギーの減

少を仕事として取り出しうるならそれは化学反応を一つの例としてどれほど

の仕事量が取り出せるのかはどうしたら与えられるだろうか

化学反応を電気エネルギーに換える電池では先に正負それぞれの電極におけ

る半反応の平衡電位の値を利用してその起電力に対する最大値を計算した

この化学反応から取り出しうる最大仕事量を与えるものとして新しくギブス

自由エネルギー(rarr補遺 p70)と名付け記号 G を使ってそれを次のように

定義する

29

G = H-TS (38)

H はエンタルピーである第2項にある S はエントロピーを表す

ギブス自由エネルギーは化学反応のような独立した系の定温定圧過程に適

応されるので変化量ΔG を式(38)から得ておこう

ΔG =ΔH-Δ(TS)

=ΔH-(SΔT+TΔS)

温度を一定と考えているのでΔT=0 であるから

ΔG =ΔH-TΔS (39)

この式(39)を書き換える

ΔH=ΔG + TΔS (39rsquo)

ここで定圧過程ではエンタルピーを次のように式(29)で定義できた

ΔH =ΔU + PΔV (29)

式(29)の意味するところを復習すれば

系のエンタルピー変化ΔH は内部エネルギーの変化量と系が外部に

した仕事量の和として表される

これは

定圧過程で系が得るエネルギー量から仕事量を除いたもの

と言い換えることができるエンタルピー変化量は化学反応などの過程で

始めと終わりの2つの状態の差であるからそれが正の値を示す(>0)なら

系のエンタルピーは増加することを意味しその過程が進行するためには系

の外部からエネルギーが供給されなければならない

一方式(39rsquo)の右辺第2項TΔS はエントロピーの定義(32)より

TΔS = Q (40)

であるのでこれは可逆過程で系に供給される熱量を意味する

30

もしエンタルピー変化量が負の値を示す(<0)ならば系のエンタルピー

は減少しその過程が進行することによってエネルギーが取り出せるすなわ

ち式(39)(40)から次のようにこれら3つの状態量を改めて説明する

ことができる

ある化学反応が定圧で可逆的に進行するときそれから取り出せる

エネルギーのうちΔG を仕事として放出し熱量 Q を放出する

標準状態29815K(25)1atm で標準物質からある化合物を合成すると

きの反応熱(発熱あるいは吸熱)をその化合物の「標準生成エンタルピー」

として定義した同様にある物質に対する「標準生成ギブス自由エネルギー」

はこの標準状態で標準物質からその化合物を化学反応で生成するとき式(3

9)によって与えられる変化量をいう

電池における化学反応のギブス自由エネルギー

先にダニエル電池の亜鉛板側に対する電極反応を検討したとき電極反応が

仕事として放出するエネルギーを表現する重要な式があった次の式(17)

である

W = n FV (17)

ギブス自由エネルギーを用いて今これは次のように書くことができるように

なった

W = n FV=-ΔG (41)

この式が表していることを実際に水素の燃料とする燃料電池の反応過程で見

てみよう燃料電池の図を再掲する

図中右にある陰極では水素の酸化反応が起きる

H2 rarr 2H+ + 2e- (5)

一方図では左にある陽極において次の還元反応が起きる

12 O2 + 2e- rarr O2- (6)

O2- + 2H+ rarr H2O (8)

全体の反応はすでに示したように次の反応式(7)で示される

H2 +12 O2rarr H2O (7)

31

標準状態における可逆的仕事は式(41)であらわせ

n FV=-ΔG (41rsquo)

このΔG は式(39)であらわせた

ΔG =ΔH-TΔS (39)

すなわち標準状態29815K(25)1atmにおいてある化合物を標準物

質から合成するときの標準生成ギブス自由エネルギー変化ΔG゜は標準生成エ

ンタルピー変化ΔH゜とその温度におけるエントロピー変化TΔSの差で求ま

るこれらは燃料電池の全反応を表す式(7)で与えられる

標準生成エンタルピーΔH゜変化とエントロピー変化はすでに一般的な元

素やその化合物に対して表が作成されている

液体の水に対する標準生成エンタルピーΔH゜(H2O)は

ΔH゜(H2O)=minus 28583 KJmol

また水素ガスと酸素ガスはそれぞれの元素の標準物質であるので生成エ

ンタルピー変化はゼロである

32

そこで式(7)での水を1モル化学合成するときの標準生成エンタルピーΔ

H゜は水素(ガス1モル)と酸素(ガス12 モル)の2つの材料と水(液

体251atm)の両状態における状態量の差として表される

ΔH゜=ΔH゜(H2O)-ΔH゜(H2) -12ΔH゜(O2) (42)

式(42)の右辺第2項と第3項がゼロであるので

ΔH゜=ΔH゜(H2O) =-28583 KJmol (43)

標準状態29815K(25)1atm における水素(ガス)と酸素(ガス)お

よび水(液体)のエントロピーはそれぞれ

ΔS(H2O)=6991 JKmol

ΔS(H2) =13068 JKmol

ΔS(O2) =20514 JKmol

単位で分母のKはケルビン温度の意味

と計算されているので

ΔS=ΔS(H2O)-ΔS (H2) -12ΔS(O2) (44)

=6991-13068-12times20514

=-16334 JKmol

したがって

TΔS=29815times(-16334)=-486998=-4870 KJmol

(45)

そこで標準生成ギブス自由エネルギーΔG゜は式(39)から

-ΔG゜=-(ΔH゜-TΔS) (39)

=-{-28583-(-4870)}

=+23713 KJmol

33

すなわちこのエネルギーを電気エネルギーとして取り出すことができるそ

の起電力は式(41rsquo)から

n FV=-ΔG (41rsquo)

V= -ΔG(n F)

各数値を当てはめれば

V=237130(2times96485)

=1229 volt

先に【化学反応と電気エネルギー】のところで記したとおり25の基準

状態におけるこの電極電位はE゜=+1229 volt が得られているすなわち

こうして標準生成ギブス自由エネルギーから計算することでも同じ値を得る

ことができた

水素を単純に酸素と化合させる燃焼では式(43)で示されるエンタルピ

ーが発生する熱量を示している水素1モルあたり28583 KJである電池

にすれば水素1モルあたり23713 KJの仕事量が電気エネルギーとして取り

出すことができるその差は電池の場合熱が発生して利用できない

化学反応の過程を利用して化学エネルギーから直接電気エネルギーに変換す

るのが電池という装置であるが化学エネルギーは100電気エネルギ

ーに換えることはできないこのようにエネルギーの一部は電池の熱として

発散してしまう

理想気体の状態方程式

ギブス自由エネルギーΔG を定義した式(39)とエンタルピーΔH の定義

式(28)から

ΔG =ΔH-TΔS (39)

ΔH =ΔU +VΔP+ PΔV (28)

そこで次式が得られる

34

ΔG =ΔU+VΔP+ PΔV-TΔS (46)

またエネルギー保存則から得られた式(26)を応用すればギブス自由エ

ネルギーが変形できる

Q =ΔU+PΔV (26)

から

ΔU=Q-PΔV (47)

したがって式(46)は

ΔG = Q-PΔV+VΔP+ PΔV-TΔS

ΔG = Q-TΔS+VΔP (48)

エントロピーの定義からQ=TΔSであるから結局式(48)は

ΔG = VΔP (49)

と表すことができる

成分が混合された気体分子の分子間に働く力をゼロと仮定した「理想気体」を

考えるとき状態方程式としてボイルシャルル(Boyle-Charles)の法則が

利用できる

PV=nRT (50)

ここでnは気体のモル数PVT はそれぞれこれまでと同じ圧力体積温度(ケルビン温度)でありR は気体定数と呼ばれるもので次の値を持

R= 831441 JmolK (51) 単位で分母のKはケルビン温度の意味

35

状態方程式から式(49)の右辺を導くことを考えてみよう式(50)は

1モルの気体について V に対し次のように変形することができる

V 1

PRT (50rsquo)

両辺に圧力の微小変化量⊿P をかけると

PP

RTP V (52)

これを微分方程式として圧力p0 からp1 まで(p0≦p1)積分するなら

1

0

1

0

1

0

1p

p

p

p

p

pdP

PRTdP

P

RTdPV (53)

関数 f(x)=1x を積分したときの関数はF(x)=ln(x)であるので(ln は e を底

とする自然対数loge)

右辺=0

1ln)0ln()1ln(p

pRTpRTpRT (54)

ギブス自由エネルギーを表す式(49)は次のようであったから

ΔG = VΔP (49)

式(52)から得た式(54)を当てはめると状態G0(p0T)からG1(p1T)

へ変化する過程で圧力が p0 から p1 まで変化するものとして

dGG0

G1

G( p1T ) G(p0T ) RT lnp1

p0 (55)

あるいはこれを書き直して

V

36

G(p1 T) = G( p0T ) + RT lnp1p0

(56)

特別にG0(p0T)を標準状態T=29815K(25)p0=1atmに指定する

なら標準生成ギブス自由エネルギーを記号G゜として (56rsquo)

と表すことができる

式(56rsquo)の意味するところは標準状態から圧力の変化を伴う過程で理

G(p1 T) = Go + RT ln p1

想気体のギブス自由エネルギーは圧力の対数に比例して上昇することである

このことはさらに新しい着想を生む

すなわち水素を燃料とする上の燃料電池で1atm 標準状態の水素ガスの圧力

を2atm に上げれば式(56rsquo)からRTln2 余分にギブス自由エネルギー

が取り出せることになる

燃料電池において起電力を生むエネルギーは隔壁を水素イオンもしくは酸

素イオンが浸透しようとする力であるので1atm の水素ガスと2atm のそれで

は浸透しようとする圧力が異なりここに起電力が生じる

式(56)の第二項が圧力の差による仕事であるからこれをΔG とすれば

W=-ΔG の仕事量が電気エネルギーとして取り出せるはずである

W = minusΔG = minusRT lnp1p0

(57)

起電力に換算するために式(41)を使うと

W = n FV=minus ΔG (41)

から

01ln

pp

nFRTV ⎟

⎠⎞

⎜⎝⎛minus= (58)

この式(58)は一般にネルンスト(Nernst)の式と呼ばれる

37

理想溶液のギブス自由エネルギー

理想気体を想定したように無限に希釈された混合溶液に対して理想溶液を仮

定する「系」の圧力温度を一定に保つならば体積内部エネルギーエンタ

ルピーギブス自由エネルギーなどの示量数は混合溶液を構成する物質のモ

ル数mに比例するたとえば標準状態にある物質の1モルの体積をVとすれば

mモルの体積はそのm倍mVであるそうすると溶液中のi番目の成分がmi

モル「系」から「外界」に仕事をするときその成分iの持つ自由エネルギーの

mi倍の仕事が「外界」になされると考えればよい

この溶液成分のモル数と化学的仕事を結びつける示強因子がギブスによって

化学ポテンシャルと名付けられ一般に記号μが用いられる

化学ポテンシャルはこれまで見たようにギブス自由エネルギーで表される

また電位がψ(プサイ)にある系から-Δeの電荷が放出されるときには

-ψΔeの電気的仕事が得られるそこで記号μに両者を合わせた意味を持

たせて「電気化学ポテンシャル」と呼ぶ

概念の上で物質は電気化学ポテンシャルの高い方から低い方へ勾配にした

がって移動する

理想気体の標準状態が気体分圧を T=29815K(25)で 1atm としたのに対

し溶液成分の標準状態はその分圧に相当するモル数 m を用いるすなわち

標準状態にある成分 i の電気化学ポテンシャルμ0iは成分の持つ電荷(H+なら

1)を n として

μ0i = G i゜+nFψ i (59)

ギブス自由エネルギーは式(56rsquo)を借り理想溶液中の成分に対しては気

体圧力をその成分のモル濃度Cに書き換えればよいそこで

G(CT ) G RT lnC (60)

と表すことができる

したがって一般的な成分 i の電気化学ポテンシャルμiを表す式は標準状態

からの自由エネルギーの変化を考え式(59)と合わせて次のようになる

38

ψnFGii 0

式(60)から

ii CRTGTCGG ln)( 0

よって

(61) ψnFCRT iii ln0

実際的なことを考えると成分濃度はその有効イオン濃度とする必要があり

「活量係数」γを導入して次式で表されるイオン活量aを用いる

ai = γCi (62)

一般的にはγ=1と近似してモル濃度Cを使っているこのテキストでも

必要ではない限りイオン活量を用いることを省略して簡単に記述したい

膜電位

燃料電池に使われたナフィオンのような一つのイオンを通す膜を介して膜

の両側にC0 とC1 のイオン濃度差がある溶液が接するときの電気化学ポテン

シャルを考えよう

ある容器の底にナフィオン膜を取り付け容器の中と外のイオン濃度をC0

とC1としそれぞれの電気化学ポテンシャルをそれぞれμinとμoutとする

式(61)を使って

容器の中の電気化学ポテンシャル

(63) innFCRTin ψ 00 ln

容器の外の電気化学ポテンシャル

(64) outout nFCRT ψ 10 ln

イオン浸透性の膜を介して濃度変化が無視できるほどの移動があると考え

その電気化学ポテンシャルの差を式(63)(64)から求めれば

39

)(ln0

1 inoutinout nFC

CRT ψψ (65)

この系において今注目しているイオンが膜を介した両側で平衡状態にある

とき式(65)はΔμ=0と考えることができるすなわち

0)(ln0

1 inoutnFC

CRT ψψ

膜内外の電位差をΔψ=ψoutminus ψinとすれば

1

0

0

1 lnlnC

C

nF

RT

C

C

nF

RTψ (66)

式(66)は理想気体に対するネルンストの式(58)と同様溶液中のイ

オンに対するネルンスト(Nernst)の式として与えられる

細胞の膜においてもその生体膜の内外でたとえばカリウムイオンのように

非対称に分布して平衡に達している場合には式(66)で与えられる膜内外

で電位差が生じるこれは一般に膜電位と呼ばれる膜電位は平衡電位とも

呼ばれる

たとえば膜内外に1価のカリウムイオンに10倍の濃度差があるとすると

通常カリウムイオンは細胞内の濃度が高いので

C0 = 10timesC1

であるから

これを式(66)に当てはめてln(10)=2303 を用いlog への変換をすれば

Δψ=2303times(RTF)timeslog(10)

であるこれに R=831441 JmolKF=96485 CmolT=29815 K(25)

の各数値を当てはめると

Δψ=2303times831441times29815times196485 JC

=+005917 volt

すなわち膜の内外で約+60ミリボルトの膜電位が生じることになるこの

分だけ細胞の外側の電気化学ポテンシャルが高く膜の内側の膜電位が負であ

るそして膜にあるカリウムチャネルがこの電位を示すとき受動的なカリ

40

ウムの膜内外の移動は平衡に達することになる

水素イオン濃度測定

「標準水素電極」は1モル塩酸溶液につけた白金電極に1atm の水素ガスを

吹き込んで平衡状態に達したときの電位を基準としてゼロボルトと規定した

そこである溶液についてその水素イオン濃度を知ろうとするとき同じ水

素電極を用いることを考えれば標準状態にする目的で用いた1モル塩酸溶液

を濃度未知で X モルの塩酸溶液と想定すればその水素イオン濃度を知るこ

とができるだろうか

標準状態ではない X モルの塩酸溶液に浸けた白金電極が半電池として働くこ

とは間違いなさそうであるしかしその白金電極が持つ電極電位を測定する

にはいずれにしても標準電極と組み合わせて「電池」を構成しその電池

の起電力として計る必要がある電池を作れば起電力を知ることができ相

手の半電池の電極電位が知られていれば濃度が未知でXモルの溶液について

その水素イオン濃度を知ることができるだろう

こうした目的のためにいちいちゼロボルトと規定した標準水素電極を用いる

のは煩雑なのでしばしば後出の「銀塩化銀電極」が参照電極として用いら

れる

まず予め「銀塩化銀電極」を標準水素電極と組み合わせて電池とし一度

その起電力を測定しておけば後はいつもそれを標準電極として利用できる

「銀塩化銀電極」の半電池は

H+ (1 moll) Cl- | AgCl | Ag(s)

これに「標準水素電極」を組み合わせ電池を構成すると次のような電池

になる

Pt(s) | H2(g) | H+ (1 moll) Cl- | AgCl | Ag(s)

この電池の起電力を知れば「銀塩化銀電極」の半電池としての電極電位

を知ることができ参照電極として未知の半電池と組み合わせて起電力を測

定して相手の電極電位を計算できる

41

濃度 X モルの塩酸溶液を未知の溶液と想定すればその電極電位を知るために

組み立てる電池は次のようになる図10にその電池の図を示した

Pt(s) | H2(g) | H+ (x moll) Cl- | AgCl | Ag(s)

この電池の全反応は次の反応式で表される

AgCl(s) 1

2H2 (g) H Cl Ag(s) (67)

図10未知溶液の水素イオン濃度を測定しようとするための電池

化学反応の一般的な式

ここで電池に利用される化学反応から得られるエネルギーをギブス自由エ

ネルギーに換算し起電力を具体的に知る手だてとすることは上ですでに学

42

んだがより一般的な式を再度ここに書きだしておこう

化学反応が紙面で左から右に進む反応として次のような一般式で与えられ

るとき

aA + bB rarr cC + dD (68)

ギブス自由エネルギー変化量は標準状態ΔG゜からの変化量を加える形で式

(60)と同様次の式によって表される

G G RT(ln aCc aD

d ln aAa aB

b )

G RT ln

aCc aD

d

aAa aB

b (69)

aAは成分 A のイオン活量であるその他の成分も同じ

得られたエネルギーを電気エネルギーに換えるなら式(41)に習って

次式で表せば

ΔG=-n FV

there4V=-ΔG(nF) (70)

このときの起電力は標準状態における電位 E゜からの変化量として次式で与

えられる

E E

RT

nFln

aCc aD

d

aAa aB

b (71)

標準状態における起電力 E゜は反応が平衡状態にあるときで反応平衡定数

を K とするなら

K aC

c aDd

aAa aB

b (72)

で表されるそこでE゜は次のように書き改めることができる

43

E

RT

nFln K (73)

そこで式(67)で表される図10の電池「水素minus 銀塩化銀電池」に

対する起電力をギブス自由エネルギーから求めてみよう

反応から式(71)に当てはめれば

E E RT

Fln

aH

1 aCl

1 aAg1

aAgCl1 aH2

1

2

(74)

力学の慣例にしたがって固体の純物質の活量は1として扱い水素ガスを

想気体として見なして活量を1atm とするなら式(74)は次のよう

に簡略化される

E E

RT

Flna

H aCl (75)

ころで理想溶液として近似的に取り扱うときの希薄溶液でたとえば水素

入して詳細に検討するなら式( れる起電

オン濃度はイオン活量として aH+の記号を使うときすでに【理想溶液のギ

ブス自由エネルギー】の章で述べたようにこれを有効イオン濃度とする必要

がありイオン活量 a は「活量係数」γを導入して次式で表した

a H+= γH+CH+ (62)

この活量係数を導 75)で誘導さ

を計ることによって経験的に試料溶液中の水素イオン濃度を求めることは

困難である式(75)にあるイオン活量の項はモル濃度 C と活量係数γを

用いて次式で書き改められる

lnaH aCl

lnCH CCl

lnH Cl

(76)

まり式(76)右辺の第二項において互いに相手が知られなければ自分

決めることができず結果的に起電力を知っても(75)の値から水素イオ

ン濃度を導けないここに工夫が必要になる

44

の定義とその目盛り

液中の水素イオン濃度を直接意味するものではなく

を定義するとき測定されるのは1リットルの溶媒に存在す

pH = -log a H+ = -log(γH+CH+) (77)

際に試料溶液の pH を決定する際はpH 標準液を用いる

に溶液を入れ試料溶液 X と pH 標準液 S を

参 極を接続し電池を作成しその起

pH

現在pH の定義は溶

で述べたようにそれが簡便に測定できるものではないため次のように定

義されている

水素イオン濃度

水素イオン活量であるため定義式としては活量係数をγH+として次式で与

えられる

その要領は次のようである

上に図示した水素電極の容器内

れぞれ半電池(I)と(II)に入れる

半電池(I) Pt | H2 (1 atm) | 試料溶液

半電池(II) Pt | H2 (1 atm) | 試料溶液S

照電極として上図のごとく銀塩化銀電

電力を測定する半電池(I)のときの起電力を E(X)半電池(II)のそれを E(S)

とするこのとき試料溶液Xの pH は次式で計算される

pH (X) pH(S) E(S) E(X)

RT ln(10) (78)

ln(10)は自然対数を常用対数に戻すための定数で2303 を用いる

標準液

pH 標準液 S はpH 第一次標準液第二次標準液と呼ばれるべき

る測定

25で pH 4005 を示す

pH

上述した

のであり絶対的測定法である起電力の測定によって値をつける

標準液は安定で純粋な結晶が得られる試薬を調整してこれを測定す

上と同様に水素電極を用いこれに緩衝液を入れる参照電極として銀

塩化銀電極を接続して電池の起電力を測定する

たとえば005 moll フタル酸水素カリウム溶液は

一次標準(Primary Standard PS)の一つである半電池(III)として水素

45

電極を次のように準備する

半電池(III) Pt | H2 (1 atm) | PS 溶液

て電池を形成したとき得られる起電

参照電極として銀塩化銀電極を接続し

は式(75)から

E E

Ag AgCl RT

Flna

H aCl (79)

オン活量を濃度と活量係数の積(a H+= γH+CH+)にし自然対数を常用対数

すれば

E E

Ag AgCl RT ln(10)

F log(

H + CH+ Cl- CCl - ) (80)

E゜は水素標準電極(水素ガス分圧を1atm電極を浸ける溶液に001 moll

H

Cl を用いる)で得た起電力である

式(80)から

RT ln(10)

Flog(

H CH Cl

) (E EAg AgCl )

RT ln(10)

Flog C

Cl

(81)

らに

log(

H CH Cl

) F

RT ln(10)(E E

Ag AgCl ) logCCl

(82)

ころで式(77)から

(γH+CH+) (77)

-log a H+ =-loga H+-log(γCl-) +log(γCl-) =-log(a H+γCl-) +log(γCl-)

(83)の一番右の式で第一項は

pH = -log a H+ = -log

であるが右の式をさらに変形すると

(83)

46

-log(a H+γCl-)=-log(γH+ CH+γCl-) (84)

たがって式(82)の右辺で示されるように電池の起電力を測定すれば

よ 実際には溶液の塩素イオン濃

液で起電力を求め外挿する

起電

これによってpH を意味する式(83)は次式(85)で与えられる

p(aHγCl)はRG Bates によって Acidity Function と呼ばれている

らに式(85)最終項の log(γCl-) を補正しなければならないこの項は

本工業規格)によっても

であってこれは式(82)の左辺である

いただし塩素イオン濃度の項があって

をゼロにしたときの値が必要である

実測する際には塩素イオン濃度をゼロにできないので塩化ナトリウム NaCl

等を濃度を変えて添加しその時々の緩衝

勧告ではNaCl で 000500100015moll の3つの濃度を例示している

すなわち塩素イオン濃度ゼロのときの値は各塩素イオン濃度に対して

の値をそれぞれプロットしグラフから塩素イオンがゼロのときの起電力の

値を3点に対する回帰直線の延長で外挿して求めるこの点を次のように書

log( C H H Cl CCl

0

pa log( C log( (85) H H H Cl C

Cl0 Cl

)

素イオンの活動係数で与えられる補正項である

無限希釈溶液中のイオンの活動係数は理論的に Dubye-Huckel の式を用い

近似的に求めることが可能であるこれはJIS(日

用されていて Bates-Guggenheim の規約と呼ばれる (Bates RG

Guggenheim Pure Appl Chem 1 163-168 1960)

Dubye-Huckel の式は次のように与えられる

log A I

i 1 iB I (86)

47

I iについてそのモル濃度

計算される

はイオン強度でイオン mi と電荷 zi から次式で

I 1

2mizi (87)

また iは(86)式のBは温度と溶媒の性質による定数であり イオンの大

きさに関するパラメータで水和イオンの大きさとほぼ一致した値をとる標

準法の勧告では塩素イオンに対しイオンの大きさを46Åと決めてiBを

1

5 にしているそこで式(84)は次のようになる

ClA I

log 1 15 I

イオン強度 I は塩素イオン濃度を含まない計算となる

以上の方法によって実用的な pH 測定に用いられる第一次第二次標準液の

pH の値が得られる

絶対値としての

はpH の絶対測定法(第一次標準測定法)とされている

銀塩化銀参照電極は分極現象を防ぐために棒状の銀を塩酸で処理し表

に塩化銀を生成させたものを飽和塩化カリウム溶液につけてある

(88)

参考現在は実験的に求めた値と理論値の組み合わせで

素イオン濃度を求める方法を規定しているこの起電力から水素イオン濃度

を知るための測定方法

Buck RP Rondinini S Covington AK Baucke FGK Brett CMA Camoes MF

Milton MJT Mussini T Naumann R Pratt Kw Spitzer P Wilson GS

Measurement of pH definition standards and procedures Pure Appl Chem

74(11)2169-2200 2002Kristensen HB Salomon A Kokholm GInternational

pH scales and certification of pH Anal Chem 63(18) 885A-891A 1991)

銀塩化銀参照電極

電極の構成は

Cl-(aq) | AgCl(s) | Ag(s)

48

この半反応は次のようになる

AgCl(s) + e- rarr Ag(s) + Cl- (89)

の反応は次の2つの反応に分けて考えることができる

Ag+ + e- rarr Ag(s) (91)

AgCl(s)rarr Ag+ + Cl- (90)

図11銀塩化銀参照電極

(90)における銀 る塩素イオンによって左

されることが推測される

そこでカッコ [ ] をそれによって囲まれるイオンの濃度を表すことにし

式 イオン Ag+の溶解性は共存す

塩化銀の乖離定数Kを考えると

49

K = [Ag+][Cl-] (92)

これから

[Ag+]= K[Cl-] (93)

化カリウム溶液に漬けた銀塩化銀電極の電位 E は水素標準電極に対する

電 で与えられる

位を E゜として次式

E E

RT

nF

[ Ag ]

[Ag(s)]ln( )

Ag(s)のイオン活量は常に1とする

ここで半反応の電極電位を求めるために式(75)を利用することにすれば

(94)

熱力学の慣例にしたがって純物質個体

E E

RT

Flna

H Cl a (75)

式 の半反応をみると

応で電子1つが移動するので n=1 とするR=831441 JmolK1F = 96485

C はめれば

これに銀イオンの濃度として式(93)を当てはめる

この反応で移動する電子は (89) 銀イオン1つの反

molT=29815K(25)ln(10)=2303などの定数を当て

2303RTF = 005917

であるから(94)式は次のように表現できる

log[Cl]) E E 005917(logK (95)

たがって標準水素電極に対する銀塩化銀参照電極の標準状態における電

位 は半反応(89)に対して ゜=+0799で

化銀の乖離定数 K は182times10-10 であるのでその対数を取れば-973993

0799-005917times973993-005917log[Cl-]

E゜ E ある

ある

そこで式(95)は

E =

50

= 0799-0576-005917log[Cl-]

= 0223-005917log[Cl-] (96)

電極電位の関係について実測値

こうして求めた塩化カリウム溶液の濃度と

計算上の値は次のようである

KCl moll vs SHE volt25 計算値 volt25 01 02881 02822 35 0205 01908 飽和 0199 minus

実用 測定

実際の現場で水素イオン濃度を測定する目的の測定法で上のような2つの

極が同じ溶液に浸かっていたのでは試料溶液を交換するにも便利ではない

の容器に入れる未知試料溶液と銀塩化銀電極を隔離する

的な pH

そこで水素電極側

的で二つの電極容器をつなぐ液絡部をグラスフィルターやセラミック板

飽和塩化カリウムで作成したゼラチンなどの塩橋によって隔離遮断するこ

れを液絡部とよぶ

電池として機能するために必要な溶液イオンの交換はこの液絡部で行う

組み立てる電池は電池式で次のように表される

Pt(s) | H2 | 試料 (H+ x moll) || 飽和 KCl | AgCl | Ag(s)

の標準電極と銀塩化銀電極とは区切られていて溶液の直接の接触がない

とを意味するために電池式ではタテ二重線を用いる銀塩化銀参照電極

の容器には飽和塩化カリウム溶液が入れられる

51

図12液絡部のある pH 測定のための電池

この液絡部のある電池では塩橋を記号lsquo | | rsquoで表して次のように記す

試料 (H+ x moll) | | 飽和 KCl

ここでは試料溶液と飽和塩化カリウム溶液の異なる2液が接している

このような界面では膜電力が生じるのと同様「液間電位差」が生じることが

知られているしたがって上の電池で測定される起電力 E は

E = E[銀塩化銀電極電位]+E[液間電位]+E[水素電極電位]

で与えられることになってE[液間電位]のために図12の電池の起電力

は銀塩化銀参照電極の値を知っていても水素電極容器内に入れた未知溶

液の水素イオン濃度を正しく知ることができない

52

そこで実用的な測定法としてこの E[液間電位]を膜電位として積極的に利

用する方法が工夫されたすなわち水素イオンに感応するガラス薄膜を用い

るガラス電極法である

53

ガラス電極

ガラスはケイ素原子と酸素原子からなる SiO4 の結晶構造を持ち酸素で囲

まれた空隙があって水素イオンがそれを埋めることができる

この性質によってガラス膜表面は水溶液中の水素イオンに応じて膜電位を

変化させるのでこれを水素イオン濃度測定用の電極として利用することが考

えられるこれが通常用いられるガラス電極である

ガラス電極は標準電極と組み合わせれば電池を構成することができこの電

池の起電力を知ってガラス薄膜の内外にできたイオン濃度勾配を知ろうとす

るものである

薄いガラス膜(01mm程度)をはさんで接する2つの溶液のH+イオン濃

度が異なるとその差に応じてガラス膜の両側に電位差(Eg)が現れる

ネルンストの式でガラス電極の内部に入れた既知の濃度のH+([H+]in)に対

し試料中の水素イオン濃度が[H+]sampleのとき次の電位を生じる

)][

][log(059170)

][

][ln(

sample

in

sample

ing

H

H

H

H

F

RTE

(97)

図13ガラス電極

電極を構成するのは銀塩化銀電極と同じ電極で用いる塩溶液は一般的

54

に 01モル塩酸溶液である

この半電池の電池式は次のように書くことができる

Ag(s) | AgCl(s) | HCl (01 M) | ガラス薄膜 || 試料溶液 H+ (x moll)

Eg

この半電池の電極電圧を測定するために銀塩化銀標準電極と組み合わせ

電池を作って起電力を計る

構成される電池は下図のようになる

ガラス電極 銀塩化銀標準電極

図14ガラス電極を用いた pH 測定用の電池

この電池の起電力は次の各半電池の平衡電位を合わせたものになる

55

E1ガラス電極の内側電位

Ag(s) | AgCl(s) | HCl (01 M)

Egガラス薄膜の内外に生じる膜電位

HCl (01 M) | ガラス薄膜 || 試料溶液 H+ (x moll)

E2液間電位(膜電位)銀塩化銀標準電極のセラミックを介した試料溶液

と銀塩化銀標準電極の内部液(飽和 KCl 溶液)の間に発生する電位

試料溶液 H+ (x moll)|| セラミック | KCl(飽和)

E3銀塩化銀標準電極

KCl(飽和)| AgCl(s) | Ag(s)

pH メーター用のガラス電極に使われるガラス薄膜は水素イオンに感応して

膜電位(Eg)を生じるこれは【膜電位】の章で記したように薄膜がある

一つのイオンのみを通過させる特性を持っている場合にイオンが膜を介した

両側で平衡状態に達したとして電気化学ポテンシャルを膜の両側で等しいと

考えてそのイオンが濃厚な側から希薄な側にその差によって圧力を生じると

するものである

一方同じ試料溶液が銀塩化銀標準電極のセラミック液絡部を介して生じ

るだろう液間電位(膜電位E2)はいま関心がある水素イオンに対して特異

的に感応するのではないので試料溶液の水素イオン濃度に関係なく一定と見

なすことができる

すなわちpH メーターを構成する電池の起電力 E は

E = E1+Eg+E2+E3 (98)

このうちEg以外は一定と見なせるので

E1+E2+E3 = E

として式(98)を書き直すと

)][

][log(059170

sample

ing H

HEEEE

(99)

Eは標準液によって校正されるべき標準電極電位である

56

電極の校正

実際のイオン濃度を測定する場合低濃度標準液と高濃度標準液で得られ

る起電力を測定し計測のイオン濃度に対する係数(傾き)を求めておき未

知の試料に対して起電力を測定してそのイオン濃度を算出する方法が採られる

低濃度標準液と高濃度標準液のそれぞれの濃度をCLとCHとすればそれぞ

れの起電力ELとEHは次式で表される EH = E +β logCH (100)

EL = E +β log CL (101)

ただしβは式(99)の係数を簡略にしたものである

式(100)と(101)から検量線の傾きが次式で表せる

ΔE = EH minus EL = β(logCH minus logCL) = β logCH

CL

(102)

したがって係数βは

β =ΔE

log CH

CL

(103)

であらわされる

このときに使われる標準はすでに前出の pH 第一次標準第二次標準溶液で

ある

金属イオンに対応するイオン選択電極

現在臨床検査で日常的に使われている電解質測定のための電極はナトリウ

ムカリウムカルシウムクロールなどおよそ臨床的に必要な金属イオン

に対して入手可能である

カリウムイオン測定用のバリノマイシンの発見によってクラウンエーテルと

57

呼ばれる一連の化合物が知られたクラウンエーテルはその分子の中心に立

体的な空間を持ち特定のイオン径に対し合致するのでそのイオンに対して

選択的に感応するこれらの化合物はイオノフォアと呼ばれる

図 15クラウンエーテル

1つの金属イオンが環状化合物

15-crown-5 の中央にある空間を充填

している模式図

15-crown-5 の構造を作る10個の黒

い丸は炭素炭素2個のつながりごと

にある中心の白い丸は酸素酸素と

金属イオンの間の距離はおよそ 22~

23Åであるカリウムのファンデン

ワールス半径は 135Åイオン半径は

15~16Åである

測定したいイオンに対しポリ塩化ビニル(PVC)を支持体としてイオノフ

ォアを添加した液膜の電極膜を作成しこれをガラス電極におけるガラス薄膜

と同様試料に接する電極膜として用いるこの構造から一般的に液膜型電極

と呼ばれる電極膜には特異性を高めるため妨害イオン排除剤などが添加

される

pH メーターと同様銀塩化銀標準電極と組み合わせ電池を形成しその

起電力を計る測定したいイオンが液膜に対して内外で平衡に達したときの

膜電位を測定するのはガラス電極と同じである

カ リ ウ ム イ オ ン に は Bis[(benzo-15-crown-5) ( 正 式 名 は

Bis[(benzo-15-crown-5)-4-methyl]pimelate)ナトリウムには Bis[(12-crown-4)

やDibenzyl-bis[(12-crown-4)などがイオノフォアとして用いられる

58

図16カリウムイオン測定用に使われるクラウンエーテル

図17ナトリウムイオン測定用に使われるクラウンエーテル

59

参考イオン選択電極に関する文献Xia Z Badr IHA Plummer SL Cullen L

Bachas LG Synthesis and evaluation of a bis(crown ether) ionophore with a

conformationally constained bridge in ione- selective electrodes Anal Sci 14(2)

169-173 1998 Oh K-C Kang EC Cho YL Jeong K-S Y oo E-A Paeng K-J

Potassium-selective PVC membrane electrodes based on newly synthesized

cis- and trans-bis(crown ether)s ibid 14(10)1009-1012 1998 Dojindo WEB

site httpwwwdojindocojpwwwrootproductsjinfo2protocolp31pdf

<補遺> 60

補遺 状態関数 (本文 p21 10 行目参照)

一つの平衡状態にある系 A とこれに接する系 A にとって外部である系 B について系 B

から系 A に熱を与えこれによって系 A が他の平衡状態に移ったとき系 A はその結果とし

て膨張し系 B に対し仕事をする

このときの微少な熱量の移動を記号drsquoQ またなされた微少な仕事をdrsquoW とすると

系Aの内部エネルギーに関する微少な変化drsquoUA は両者の和として表される

WdQdUd A primeminusprime=prime (a-1)

この式 a-1 と本文中の式25との関係について

WQU A Δminus=Δ 本文(25)

<補遺> 61

式 a-1 と式25の記号の違いは変化の起きる前の平衡状態 S1 から変化後の平衡状態 S2

に状態変化があったとするなら式 a-1 を積分することで式25が得られるものと考えて区

別している

A

S

S A UUd Δ=primeint2

1 (a-2)

このことは重要であるすなわち内部エネルギーU は変化の起きる前後の状態を指定する

ことによって値が定まることを意味するこのように積分によって値を定めることが出来る

のでdrsquoU は完全微分であるという

内部エネルギーのように系の状態だけで値の定まる量を状態関数として扱う

一方式 a-1 のdrsquoQ drsquoW についても同様に微少の変化量を表しているが平衡状態 S1

から S2 への経路を指定しなければ積分の値は定まらない

本文中の記号にしたがって仕事量ΔW を次のように表すことにする

VpW Δ=Δ 本文(20) V

<補遺> 62

体積と圧力の関係を表す図を使ってこの仕事量が意味することを考える圧力 prsquo の下で

体積が V1 であるときを状態 S1 として圧力一定の下で体積を V2 まで膨張させるような変

化を行った後体積を等しく保って圧力を p にまで上げたときの状態を S2 とするこのとき

の仕事量は膨張に伴うものであるから図の体積‐圧力線の下の面積で示すことができる

平衡状態 S1 から S2 への変化の道筋を別にたどってみよう

新しい経路では圧力を先に p まで上げた後に膨張変化させている

図から直感的に明らかであるので数式での扱いを省略するが2 つの経路による仕事量には

差がある

すなわちdrsquoW は drsquoU と異なり変化の初め S1 と終わり S2 の状態が与えられても積分値

は定まらず変化の経路によって違ってくる

このように変化の経路を指定しなければ積分値が定まらないものを不完全微分と呼び扱

いを区別する

本文 p21 へ戻る

<補遺> 63

VpW

WQU

VpQU

VpUQ

1122 SSSS pVUpVUQ

pVU

VpUHHHQ SS 12

エンタルピー (本文 p24 20 行目参照)

本文中の式 20 および 25 から一定の圧力の元で起きる状態変化において内部エネルギー

の変化量に対する式 a-3 を得る

本文(20)

本文(25)

(a-3)

式 a-3 を Q について書き直す

(a-4)

状態の変化が平衡状態S1から平衡状態S2に移ったものとして式 a-4を丁寧に書き直すと

(a-5)

並び替えて

(a-6)

式 a-6 を見ると定圧過程における熱量の流入は

(a-7)

の形を持つ関数の差であることが分かる

一般に化学反応のような変化の過程では大気圧の下で行われるようなものに興味がある

そこで式 a-7 で与えられる項を一つの関数として定義するこれをエンタルピーと呼び記

号 H を与える式 a-4 はエンタルピーの変化量で次のように書き改められる

(a-8)

圧力が一定の下で起こる状態変化について流入する熱量は式 a-8 で示されるようにエンタ

ルピーの変化量に等しい

V

V

V

V V

V

V

1212 SSSS VVpUUQ VV

<補遺> 64

1Q

We

また式 a-8 からオートクレーブ内で起こるような体積変化のない過程ではこの値が内

部エネルギーの変化量で与えられることが明らかである

本文 p24 へ戻る

エントロピー (本文 p26 17 行目参照)

エントロピーは次のような思考実験から発想された仮想的な状態関数である

理想気体よりなる系 A が温度 T2で熱平衡状態にあり温度 T1の外部の熱源と接しているこ

とを想定する系 A の外部を系 B と呼ぶことにするT1は T2に対して無限小だけ高い温度と

する

系 A が系 B に対して温度圧力について平衡を保ちながら緩慢に系 B より熱量 Q1を受け取

る過程を考える(このような過程を準静的過程と呼ぶ)これによって系 A が熱量 Q1を得て膨

張するとき系 B に対して仕事をする続いて系 A から熱量 Q2が系 B に戻ることを考える

想定されるこの変化が可逆的であれば系 A と系 B を併せた全体は元の状態に戻る蒸気機

関に関するこのような研究が Nicolas Carnot によってなされたのは1824 年のことであった

ここに想定されたサイクルに対する Carnot の効率 e は移動した熱量となされた仕事によ

って定義され次の式で表される

(b-1)

<補遺> 65

理想気体では内部エネルギーU の変化ΔU はゼロと考えるしたがって熱力学の第一法

則を表す式(本文中の式25)から次の関係が示される

0=Δminus=Δ WQU

WQ Δ= (b-2)

これによってCarnot Cycleの効率eはQ2lt0 として次のように書き改めることが出来る

1

21

QQQe +

= (b-3)

ところで気体の状態方程式から1 モルの気体について次のような関係が示される

RTV

P

P1=

V = RTV (b-4)

V 式 b-4 の両辺に体積の微少変化量ΔV をかけて

(b-5)

これを体積Vについてその変化をV1からV2までとして積分するならば次式が得られる

VV

RTVP Δ=Δ 1V V

V

intint = 2

1

2

1

1V

V

V

VdV

VRTPdV

1V2V

11 lnRTW =

(b-6)

Q1の熱量によって起こる膨張がV1よりV2までとし圧力P温度T1の下でなされるその仕事

量をW1とするならそれは式b-6 の右辺によって示されるすなわち

(b-7)

VV

1

2lnVVRT=

V V

VV

V

V2int V2 intV1 V1

<補遺> 66

またQ2の熱量の移動が圧力P温度T2の下で起きこれによって系Aが可逆的に圧縮され

るなら体積変化はV2よりV1まで起こりその仕事量をW2で示すと次式のように表される

(b-8)

1

22

2

122 lnln

VVRT

VVRTW minus==VV

VV

Q1=W1Q2=W2の関係から式b-7 およびb-8 を用いてCarnot Cycleの効率eを表す式b-3

を書き改めると温度のみの関係式として次のように表される

1

21

TTTe minus

= (b-9)

ここでサイクルが可逆的過程であると想定するならば式 b-3 と式 b-9 から

1

21

1

21

TTT

QQQe minus

=+

= (b-10)

これから

12112111 QTQTQTQT minus=+ (b-11)

整理すると

02

2

1

1 =+TQ

TQ (b-12)

この考えをさらに発展させ系A

と系Bの間に数多くの系を挿入すること

にしてそれらの系を同様に熱源として

T1T2Tnと考えるこれによっ

て熱の受け渡しが系Aから系Bに至り

再び系Aにもどるサイクル過程に数多

くの寄り道の過程を加えることになる

熱量の移動に関して上の場合と同じく

準静的過程で行われると考えるこの

サイクル全過程について初めと終わ

<補遺> 67

n

i i

i

T

Q

1

0

0T

dQ

T

QS

T

dQASAS )()( 12

りが同じ状態になる可逆的な過程であるなら式 b-12 を拡大的に考えることになってそれ

は次式で表される

(b-13)

式 b-13 には重要な関数が現れるすなわち熱量と温度の比QT である

もし一つの系が無限小だけ温度の高い(dT )外界から温度圧力など平衡を保ちなが

ら極めて緩慢な過程(準静的過程)で無限小の熱量(dQ )を受け取るならばその変化は可

逆的でありdT について連続的な温度分布をする過程を考えるとき式 b-13 をさらに発展

させて次のように積分式で示すことが出来る

(b-14)

式 b-14 で積分記号にが付されているのはCarnot Cycle のような経路を一巡することを

意味している

Carnot の熱機関の効率という着想から生まれた熱量とそれを持つ系の温度との比 QT に

重要な意味を見出したのは Rudolph Clausius で彼はこの比にエントロピーという名前を与

えたエントロピーには記号ΔS を一般に用いる

(b-15)

エントロピーは初めと終わりの状態がわかれば過程に関わらず定まるので状態関数であ

系 A と外界のエントロピー変化を考えるときそれが可逆的過程であるならばすべてを併

せた全体のエントロピー変化は初めと終わりに変化がないという意味でゼロであるすなわ

ち初めの状態を S(A1)とし次の状態を S(A2)とするならそれぞれのエントロピーを

ΔS(A1)ΔS(A2)としてこの間におけるエントロピーの変化量は次のように示される

(b-16)

<補遺> 68

T

dQdS

0T

dQ

ある一つの変化については次のように示される

(b-17)

ここで式 b-17 の S に付けられたdは微分量すなわちごく微小の変化量を意味し式 b-15

で定義されたエントロピーに用いられる一般的な記号Δと区別する

ところで式 b-10 の関係においてもし移動した熱量のすべてが仕事に変わらなければ

効率 e を表す熱量を用いた関係式と温度で表される関係式は等号で結ぶことができないそれ

はエネルギーのロスを意味し初めと終わりの状態が異なってしまうことを意味するすなわ

ち全過程が構成する一つのサイクルは可逆的でなくなる

不可逆過程での熱効率 ersquo は 大値を示す可逆的過程の熱効率 e より小さな値をとる

ee

したがって 大効率を与える式 b-8 と式 b-3 から

01221

2112

1

21

1

21

QTQT

QTQT

Q

QQ

T

TT

両辺を T1T2で割ると

02

2

1

1 T

Q

T

Q

これを式 b12 と同様に発展させれば式 b-14 についてサイクルの変化が可逆的過程の

場合と不可逆的過程の場合の両方を併せClausius の不等式と呼ばれる次の関係が成立する

(b-18)

式 b-18 の等号が成立するのはサイクルが可逆的な理想の場合に限られる

ある孤立系で状態 A1 から状態 A2 へは不可逆変化で進められ状態 A2 から再び状態 A1

に戻るとき可逆変化であるような閉じた状態変化を考える可逆系のエントロピー変化には

記号 Q を使い不可逆変化には Q を用いるとするとそれぞれ積分式を用いて状態 A1 から

状態 A2 へは

<補遺> 69

d prime

状態 A2 から状態 A1 に戻るときは

全体では

=d prime

+d

(b-19)

Clausius の不等式から

0

式(b-19)の第二項で反応を逆に進めるときには次のように書き改めることができる

=d

よって式(b-19)は次のように書き直すことができClausius の不等式とあわせると

d prime d

0

すなわち

d prime d

上式の右辺は式(b-16)を用いて表せば

d prime

∆S ∆

この状態変化を微小変化とするならば断熱変化の場合 dQ = 0 であるから

∆S ∆ dS 0

すなわち不可逆変化を含む断熱変化ではエントロピーは必ず増大する

<補遺> 70

T

QS

BA SSS

(b-20)

(次の<補遺>ギブス自由エネルギーも参照せよ)

本文 p26 へ戻る

ギブス自由エネルギー (本文 p28 27 行目参照)

エントロピーの考えを導入することによって不可逆的に状態変化が起きるときにはエン

トロピーの増大を引き起こすことを知ったこれによって目前で起きる現象について温度の

変化があるものであれないものであれまた圧力の変化があるものであってもエントロピー

の定義式によって可逆的な変化におけるエントロピーの変化量を計算することが可能である

(b-15)

しかしながらこれから起こる変化について我々がすでにあらかじめ知っている物理量を

用いて予測的にその状態変化が起きるかどうか知ることは必ずしも容易ではないその理由

は式 b-15 に示されたエントロピーΔS が系とその外界をあわせた全体のエントロピーを示

しているからであるすなわち関心のある系を系 A としその外界を系 B とすると全体

のエントロピーは次のように表せる

(c-1)

関心のある系 A のエントロピー変化を知るためには系 B のそれを知ればよいがそれは

いつも容易とは限らない系 A の性質だけで状態変化の方向を知るには別の観点が必要にな

るようだ

そこでもう一度状態変化が熱量 Q の移動によって起きることについて考えてみようエン

トロピーの補遺で議論したように熱量の移動が準静的過程により行われるときには変化は可

逆的に起こると考えたこのとき外界すなわち系 B から移動する熱量を Q1とし系 A から

0S

<補遺> 71

21 QQ

T

Q

T

QSB

21

T

QSS A

2

QH

T

HSS AA

AA STHST

のそれを Q2 と記号を当てたのでこれをそのまま使うことにすれば可逆的な過程では系 B

の熱量 Q1 はすなわち系 A から戻る Q2 に他ならないので両者には次の関係が成立するも

のとしてよい

(c-2)

したがって

(c-3)

と考えてよくこれによって式 c-1 を次のように書きなおすことが出来る

(c-4)

独立した系で圧力とその体積に変化がなく一定の条件の下で状態変化が起きるときエン

タルピーの考えを使ってすでにひとつの関係があることを導いている

本文(31)

そこで式 c-4 を系のエンタルピーΔHAによって書き改めれば

(c-5)

この両辺に-T をかけて式を書き直せば次の関係式が得られる

(c-6)

式 c-6 を見るときその右辺がマイナスの値ならば左辺のΔS はプラスの値をとることが

分かるすなわちエントロピーが増大すると見ることが出来るこれまでの過程で自然の現

象はエントロピーが増大する方向に進むとしてきたので関心のある状態変化について式 c-6

の右辺で計算される値がマイナスの値ならばその変化は起きるものと考えてよいことになる

だろうしかも右辺はすべて独立した系の状態量で示されていて我々が知りうる値で計算

<補遺> 72

TSHG

STSTHG

STHG

可能である

そこでこれを熱力学ポテンシャルを表すものとしてギブス自由エネルギーと呼ぶことに

するギブス自由エネルギーは記号 G が用いられ次のように定義される

(c-7)

ここで関心があるのは自由エネルギーの絶対値ではなく式 c-6 に示されたようにその変化量

に興味があるので式 c-7 から

(c-8)

温度が一定の条件の下で状態変化が起きることを考えるなら式 c-8 は次のように書くこと

ができる

(c-9)

ギブス自由エネルギーは式 c-9 の右辺がすべて状態量であるからこれも状態量の一つで

ある定圧定温の条件下で起きる変化ではすでに議論したようにΔGlt0 であれば状態

変化は自発的に起きるものと予測できる

つまり式 c-5 の第一項は系のエントロピーΔSAそのものであり第二項で示されるエンタ

ルピーは系 A の温度が一定に保たれているのであるから発熱する熱量として外界に吸収さ

れるものであってこれは外界のエントロピーの増大につながるものとして解釈されるした

がって化学反応のように一定の圧力と一定の温度の下で起きる変化について自由エネルギ

ー変化量はその状態変化が自発的に起きる傾向を示しているといってよい

本文 p28 へ戻る

  • はじめに
  • 目次
  • 電気エネルギー
    • 金属のイオン化
    • 電池
    • 水素の反応
    • 燃料電池
    • 化学反応と電気エネルギー
      • エネルギーと熱力学
        • エネルギー保存則
        • エンタルピー
        • エントロピー13
        • ギブス自由エネルギー
        • 電池における化学反応のギブス自由エネルギー13
        • 理想気体の状態方程式
        • 理想溶液のギブス自由エネルギー
        • 膜電位
          • 水素イオン濃度測定
            • 化学反応の一般的な式
            • pHの定義とその目盛り
            • pH標準液
            • 銀塩化銀参照電極
            • 実用的なpH測定
            • ガラス電極
            • 電極の校正
            • 金属イオンに対応するイオン選択電極
              • 文献
              • 補遺
                • 状態関数
                • エンタルピー
                • エントロピー
                • ギブス自由エネルギー
Page 7: イオン選択電極i イオン選択電極 Ion Selective Electrode (ISE) を理解する ・ pHを測定する ・ NaやKなどのイオン濃度を測定する 神戸大学医学部保健学科

4

H2O + 2e- rarr H2 + 2OH-

このように水酸イオン OH- が出来るので中性の水溶液を用いると水が反

応してその周りはアルカリ性になる

電池 酸化還元反応に伴う化学エネルギーを用いて電子の流れを発生させればその

化学エネルギーを電気エネルギーに変換することができる

化学エネルギーから電気エネルギーに転換させる過程を見てみよう

硫酸銅 CuSO4の水溶液に亜鉛板をつけたときの反応は上で反応式(2)

と(3)およびその全体を(4)で示した

それぞれの金属だけについて化学反応を(2)や(3)のように単独で示す

ときこれを「半反応」という

亜鉛に対する半反応(2)では亜鉛分子が亜鉛板に電子を残してプラスイオ

ンになって水溶液にとけ出すことを表している一方半反応(3)では銅

イオンが発生した電子を亜鉛板表面で受け取り金属銅となって析出すること

を表しているこのとき亜鉛は酸化を受け銅は還元される

ここで電子を亜鉛板から取り出すことを考えよう

反応に用いたのは硫酸銅の水溶液であったがこのような塩溶液を電解質溶液

と呼ぶ電子を取り出すために電解質溶液に工夫をしよう

2つの水槽を準備し一つには硫酸亜鉛 ZnSO4の水溶液を入れて亜鉛板をこ

れに浸けるもう一方には硫酸銅 CuSO4の水溶液を入れそれには銅板を浸け

それぞれの水槽内で起きることを期待するのは反応式(2)と(3)で示し

た各半反応である

ここでそれぞれの水槽の金属板に導線をつなぎ両方をそれで接続すると電

子が導線を伝わって移動するならその電子の流れを電流としてこれを利用す

ることができるそうすれば化学反応のエネルギーを電気エネルギーに変換

できたことになるつないだ電線の途中に豆球ランプを入れるならこれが点る

だろう下図ではこの導線の中間に電圧計を入れたものを示している

5

図1亜鉛と銅を電解質溶液に入れる

再度それぞれの水槽で起きると予想する反応を書いておこう

左の水槽 Zn(s) rarr Zn2+ + 2e- 酸化反応

右の水槽 Cu2+ + 2e - rarr Cu(s) 還元反応

左の亜鉛が入れられた側では亜鉛板に電子がたまり亜鉛の酸化反応が起きる

一方右の銅が入れられた側では電子が水溶液に移動し銅の還元反応が起き

亜鉛は電子を電極に残しプラスイオンとなって水溶液中に出て行き亜鉛板

の電極中に電子が余分にたまるこのとき水溶液にある硫酸イオンは変化を

受けない

一方の銅板では水溶液中の銅イオンが銅板から放出される電子を受け取って

銅単体となり析出するこちらの水槽でも水溶液にある硫酸イオンは変化を受

けない

電極に余分にたまっている電子の量を電極電位という

6

上の図では導線の中間に電圧計がつなげてあって両極の電極電位の差を測定

することができる電極電位の差すなわち「電位差」は電極間をつないで回

路をつくればその回路に電流が流れるので「起電力」ともいうこの電位差

や起電力の数値については後で考えることにしよう

電圧計は電流を流さず両極間の電位差を計ることができるこの状態では電

子の移動がない電子の移動がないので各イオンの濃度にも変化はない電圧

計はこのときに電池の起電力に対して最大値を与えるもしも電流が流れると

各イオン濃度の変化が起きるので起電力にもわずかながら変化が生じる

両方の極を導線でつないでその中間に電圧計を入れ亜鉛板から銅板へ導線を

介して電流が流れないときの状態をさらに考えてみよう

左の亜鉛板に残った電子は溶液中に続いて出てゆこうとする亜鉛イオンを逆

に引っ張り戻そうと働くこの結果亜鉛板に残った電子の量がある程度以上

になるともはや亜鉛は溶け出さない

この状態を平衡状態という

一方の銅板では電子の流れがないので同様に銅イオンの還元反応は進まない

そこで電子の流れが起きるように導線の中間に豆電球を入れて回路を作るこ

とにしようこのように電池の両極間に電球などを入れることを「負荷をかけ

る」という

回路ができそれに負荷をかけることによって電子の流れが起き豆電球が点

るこの結果陰極では亜鉛がどんどん水溶液に溶けだし陽極では銅が析出

する

ところがこうしてうまく電子の流れが始まってもそれは持続しない

どちらの水槽においても硫酸イオンは変化を受けないことをすでに述べてい

たこれでは亜鉛側のプラスイオンがまた銅側のマイナスイオンがたちま

ち過剰になってしまうこの結果一瞬電流が流れるだけですぐ電子の流れは

停止し豆電球は点り続けないだろう

うまく豆電球を点り続けさせるにはそれぞれの水槽のプラスイオンとマイナ

スイオンの均衡が保てるようにしなければならない

この解決にはそれぞれの水槽で過剰になるプラスイオンとマイナスイオンが

移動できるようにすればよい

それには2つの方法がある

一つは塩橋とよばれるイオンの通路を両水槽に掛け渡す方法である塩橋は

7

チューブ内に飽和塩化カリウム(KCl)溶液などをゼラチンで固めて詰めそれ

がこぼれ出ないようにそれぞれの口を濾紙などで封じたものである

図2亜鉛と銅を電解質溶液に入れ塩橋を渡す

この塩橋の代わりに素焼きの陶板やセラミックなどのイオンを通す性質があ

る固体で両水槽を仕切る方法でもよい図に示したように塩橋もしくはしき

りを介してイオンが移動できる

8

図3亜鉛と銅を電解質溶液に入れしきり板にセラミックを使う

このように電子の流れを発生させて利用しようとする装置を「電池」とよぶ

電池には2つの極がある陽極(+)と陰極(-)である

陽極(+)は正極ともよばれ電極に伝ってきた電子が水溶液に移動し還

元反応が起きる側をいう

これに対して陰極(-)は負極ともよばれ電極金属がイオン化し酸化反応が

起きて電子が電極から取り出される側をいう

今の例では亜鉛板が陰極(-)銅板が陽極(+)とよばれる

有名な「ダニエル電池」はこのように考案された

電池を電球などにつなぎ電気回路を形成すれば亜鉛電極内の電子が導線へ流

れ出て電球を明るくし亜鉛はつぎつぎ溶液に溶け出す

回路を切れば再び電極に電子がたまり平衡状態に達して亜鉛イオンの溶

出は止まる

ここで電池の表記についての取り決めを記しておこう

9

電池は2つの極からなる陽極と陰極である陽極すなわち還元反応が起き

導線を介して電子を受け取る極を右に書くダニエル電池の場合には陽極は銅

板であり銅イオンを供給する硫酸銅の水溶液が電解質溶液として用いられる

陽極金属と電解質溶液の間は縦棒で区切るそこで陽極は次のように表記され

CuSO4(aq) | Cu(s) (+) 記号(aq)は水溶液のこと

同様に陰極は酸化反応が行われる極でこれを左に書く

(-) Zn(s) | ZnSO4(aq) この両方の極は別々の水槽にあってイオンの交換が塩橋あるいはセラミッ

クのようなしきりを介して行われるのでこの隔壁をタテ二重線で表記し両極

を並べて記す

ダニエル電池は次のような記号で表記されるこれを電池式と呼ぶ

(-) Zn(s) | ZnSO4(aq) || CuSO4(aq) | Cu(s) (+)

両端の極を導線で接続し回路を形成すれば電子の流れが左の陰極から右の陽

極に起こり電流は右から左へと流れる

水素の反応 イオン化傾向の大きさが異なる金属を組み合わせて酸化還元反応が起きると

電子の流れが生じそれを取り出して豆電球を点灯する仕事として利用するこ

とができる

イオン化列の鉛と銅の間には水素があるこの水素の酸化還元反応を見るこ

とにしよう

水素の酸化反応は次のように表される

H2 rarr 2H+ + 2e- (5)

これを半反応として電子の流れを作り出せば電池として機能するから取り

出された電子を利用する還元反応を考えよう

水素と反応する相手に酸素を選べば水が生成物として得られることを期待で

きる

10

酸素が電子を受け取る還元反応の半反応は次のように表される

12 O2 + 2e- rarr O2- (6)

半反応(5)と(6)を組み合わすことができれば次の全反応によって水

が生じる

H2 +12 O2rarr H2O (7)

このとき得られる電子を導線に誘導すれば電気エネルギーとして利用が可能

になる

問題はダニエル電池で見たようにそれぞれの半反応で生じるイオンの処理で

ある半反応(5)と(6)はそれぞれ隔離された容器で行わなければ水素と

酸素が直接反応して水を生じてしまうしかし容器の隔壁がイオンを通さな

いと電池として機能しない

燃料電池 固体は一般に分子やイオンを通過させないが中には特定のイオンを通過させ

るものがありこれを固体電解質とよんでいる

半反応(5)で発生する水素イオンを効率よく通過させるためにはナフィオ

ン(Nafion Du Pont 社米国デラウェア州ウィルミントン)とよばれる固体高

分子膜が有力である

ナフィオンはフッ素を含む高分子パーフルオロスルホン酸系といわれるイオ

ン交換膜で全体はテフロン様構造からできており側鎖にスルホン酸基を持

つその厚さは 20~50ミクロン程度である膜の内部で負に荷電するスルホン

基(SO3-)が水素イオン(H+)を引きつけこれを通過させるこの水素イオ

ンの通り道は電子顕微鏡で見るとトンネルのようにできている

11

図4ナフィオンを使った燃料電池

陰極では水素の酸化反応が起きる

H2 rarr 2H+ + 2e- (5)

一方陽極では次の還元反応が起きる

12 O2 + 2e- rarr O2- (6)

O2- + 2H+ rarr H2O (8)

全体の反応は反応式(7)で表される

12

H2 +12 O2rarr H2O (7)

こうして開発された電池は「燃料電池」とよばれている燃料に水素ガスが

利用される

反応式と図に示した気体酸素は通常の空気が利用され反応で生じた水と酸

素以外の利用されない気体元素は排気される

この燃料電池は水素と酸素を遮断し水素イオンだけを通過させる固体電解

質を使ったこれは上の半反応(5)で生じた水素イオンの処理を考えたわ

けである

これに対して半反応(6)で生じる酸素イオンを移動させる工夫もある

図4安定化ジルコニアを使った燃料電池

安定化ジルコニア(Stabilized Zirconia ZrO2CaO)は高温下で酸素イオン通過

性のある固体電解質として開発されたジルコニウムに10モル程度の酸化

カルシウムを加え結晶を作ると+4価のジルコニウムイオンの位置の一部を+

13

2価のカルシウムイオンが占めるできあがった安定化ジルコニアはこのカ

ルシウムの数だけ酸素イオンの不足が起き固体全体を電気的中性に保つた

めに酸素イオンの透過性ができるジルコニアの両面に白金粉末を焼き付け

それに白金のリード線を取り付ける焼き付けられた白金には多くの孔があり

その孔を通して気体とジルコニアが接触する

酸素イオン導電性の固体電解質としてジルコニアを用いた燃料電池は次

のように動作する

1)空気極(右側)に入った酸素 O2は電極で電子を受け取り酸素イオン O2-

になる

12 O2 + 2e- rarr O2- (6)

2)O2-は固体電解質ジルコニア中を移動していき燃料極(左側)で H2 と

反応し水 H2Oを生じるこの過程に伴って電子が放出される

H2 + O2- rarr H2O+ 2e- (9)

3)これら結果として外部回路に電流を取り出すことができる

燃料電池の起電力は酸素イオンが電解質中を移動することにより生じる

酸素イオンが移動する駆動力は固体電解質の両端すなわち燃料極と空気極

の酸素濃度差である

14

化学反応と電気エネルギー ダニエル電池の陰極は亜鉛板が硫酸亜鉛の水溶液につけられていたこのと

きの現象は次のように説明された亜鉛は電子を亜鉛板電極に残し陽イオン

となって出て行くその結果亜鉛板電極中に電子が余分にたまる

ダニエル電池の陰極の「電極電位」はこの電極に余分にたまっている電子の

量をさしているそれではこの半反応による電極電位を測定することができ

るのだろうか半反応は次のように示される

Zn(s) rarr Zn2+ + 2e- (1)

亜鉛が1モル反応すると2モルの電子が持つ総電荷量が流れる

1電子の持つ電荷量は16022x10-19 C (Ccoulombクーロン)であ

るから

1モルの電子の総電荷量はアボガロド数をかけて 96485 = 96485 x 104 Cmol

であるこれを1F1ファラデーと表す

1F = 96485 x 104 Cmol 亜鉛が1モル反応すれば2モルの電子が持つ総電荷量が流れるのでこれを

記号 q として表すと次の電気量が得られる

q = 2F (10)

化学反応によって取り出せる電気量はこのように計算される

それでは電気エネルギーとしてその電力はどのようになるだろう

電力は

電力=電圧times電流times時間 (12)

電流times時間=電気量であるから式(12)を書き直せば

15

電力=電圧times電気量 (13)

ここで電気量 q は式(10)で表しているので

電力=電圧timesq=電圧times2F (14)

と書くことができる

電圧を記号Vで表すことにし電力をWにすれば式(14)は

W = 2FV (15)

として表しておくことができる

電圧の単位系は仕事量が電力Wであるので(13)から

V= W q (16)

仕事量をジュールJ(ジュール)で表せば電圧はJ C (ジュールクー

ロン)でその単位を表現することができる

式(15)の表すところは亜鉛を化学反応の材料として得られる電力という

仕事量がその電力すなわち電極電位で決定されることを意味している

一般に化学反応で1分子の材料を消費しn個の電子が流れることをその

半反応で知ることができるとき式(15)を一般化して次のように得られ

る電気エネルギーを表すことができる

W = n FV (17)

化学反応によって生じる電子を取り出し回路に導けばここに電流が生じる

その起電力(V)は陽極陰極のそれぞれの電位をE+E- と記号で表し

て次式で書くことができる

V= E+-E- (18)

16

ここで問題になるのは陽極陰極のそれぞれの電位E+とE-で上に議論し

たように回路を形成しなければそれぞれの電位は決定できない

ここでいま片方の電位をゼロとすれば式(18)はたとえばE- = 0 で

V= E+

として陽極の電位が決まる

そこで申し合わせにより水素の半反応による電位をゼロとすることになっ

その半反応の式は水素の還元反応として次のように表せた

2H+ + 2e- rarr H2

標準にはMax Julius Louis Le Blanc (1865-1943) が発明した水素電極を用

いるこれを標準水素電極(Standard Hydrogen Electrode SHE)とよびこの

電極電位をいつも 0 volt(ゼロボルト)と取り決めている

図6に示した水素電極は1atm の水素ガスとそれに平衡状態にある水素イオ

ンが存在し次の半反応が平衡状態にある

H2 (g 1 atm)rarr 2H+ (aq 1 M)+ 2e- (5) g は気体を示す

この反応において平衡状態にある電極電位を 0 volt と定義する

電極に白金を用いるのは電極材料自体が溶解しないものであることすなわ

ちイオン化傾向の低いものであることまた水素イオンの還元に対してな

るべく活性の高いものであることが条件として求められるが白金はこの2つ

の性質を兼ね備えていて陽極の電極材料に適している

気体の標準状態は1atm を標準としているこの分圧を維持し溶液中の水

素イオン活量を1にする水蒸気の分圧が変化すると平衡電位は変化する

17

図6標準水素電極(0ボルトの基準)

標準水素電極は1モル塩酸溶液につけた白金電極に1atmの水素ガスを吹き込んで使う

白金電極は分極を防ぐために白金板に白金メッキを施し(白金黒とよばれる)上半分

を水で飽和させた(1atmの水蒸気分圧が必要)1atm(101325 kPa)の水素ガスを流し

下半分を1moll の塩酸溶液につける水素ガスが電極として働き白金板に電子が集めら

れる

ダニエル電池の亜鉛電極をこの標準水素電極につなげば亜鉛電極電位が測

定できる

亜鉛電極側では酸化反応の半反応が起きる

Zn(s) rarr Zn2+ + 2e- (1)

18

標準水素電極側では還元反応の半反応が起きる

2H+ + 2e- rarr H2

図7亜鉛電極と水素電極をつないで電池とする

25の基準状態における亜鉛電極の半反応(1)に対する平衡電位はすでに

知られている

E゜= -0763 volt

また銅板側の電極電位も同じようにして測定することができる

起きる半反応はすでに上述したが再度記しておこう

Cu2+ + 2e - rarr Cu(s) (3)

25の基準状態におけるこの電極電位はE゜=+0337 volt と知られて

19

いる

ここで亜鉛電極と銅電極の組み合わせでできる電池の最大電圧をこれらの

平衡状態における観測値から計算することができる式(18)を使って

V= E+-E- (18)

V= +0337-(-0763) = +110 volt

つまりダニエル電池で得られる最大電圧は11volt と計算できる実際に

はイオンの濃度が変化すれば反応の平衡が変化するので得られる電圧も変

化する

ここでダニエル電池で亜鉛1モルが反応するとき式(17)を使って得

られる仕事量としての電力を計算できる

W = n FV (17)

すなわちダニエル電池における電極反応は

Zn(s) rarr Zn2+ + 2e- (2)

Cu2+ + 2e - rarr Cu(s) (3)

であったから反応が進んで移動する電子はn = 2 である

1F = 96485 x 104 Cmol を適応すると

W = 2 x 96485 x 11 x 104 = 21227 x 105 Jmol = 2123 KJmol

(K = 103キロ)

すなわち亜鉛1モルの化学反応によって2123 KJmol の電気エネルギーが得

られる

水素ガスを使う燃料電池の起電力は電極の半反応から

O2 + 4H+ + 4e- rarr 2H2O (19)

25の基準状態におけるこの電極電位はE゜=+1229 volt が得られている

20

したがって燃料電池で1モルの水素が反応すれば

W = 2 x 96485 x 1229 x 104 = 2372 KJmol

すなわち2372 KJmol の電気エネルギーが基準状態で取り出せる最大電力

と計算される現在作られている燃料電池の電力は実際上08 volt ほどで

あるしたがって現実的に取り出せる電気エネルギーは 1544 KJmol の仕

事量と計算される「仕事量」という言葉については電気でモーターを回し

なにがしかの「仕事」をするなど思い浮かべれば実感できるだろう

エネルギーと熱力学 これまで述べてきたように電池は化学反応から直接電気エネルギーを取り出

す仕掛けであるダニエル電池では亜鉛と銅が酸化還元反応を起こす過程で

電子を放出するのを利用するまた水素ガスによる燃料電池は気体水素と酸

素を原料とし水が生成されるこの過程が1atm の気体原料を25(29815

K)で1モル反応させて生成物も1atm の液体の水を得るなら次の全反応に

よってすでに計算したとおり2374 KJmol の電気エネルギーが取り出せる

H2 + 12 O2 rarr H2O

圧力と温度がともに反応の過程を通じて一定の場合にその過程から取り出せ

る仕事量は熱力学的に考えることもできる

それはギブス自由エネルギーとして議論される電池で取り出した電気エネ

ルギーすなわち電力はこのギブス自由エネルギーに相当する

次に化学反応をこの熱力学の面から考えてみよう

エネルギー保存則

水素ガスを使う燃料電池のように独立した一つの仕掛けを考えこれを「系」

と呼ぶことにする系を考えるとき電池のように具体的なものを持って考え

るのが容易いのでそうすることが多い熱力学では自然界全体をあつかうので

しばしば概念的になり非現実的な記述が行われるが系の大きさや系を構成

する分子の大きさについて特定する必要はない

系におけるエネルギーを内部エネルギー熱エネルギー力学的エネルギー

の3つの要素からなると考えるこれらのエネルギーを考えるとき系の熱力

21

学的なパラメーター(変数)が必要となる熱力学的な状態はこれらのパラ

メーターのうちのいくつかを指定すれば決定される

熱力学的なパラメーターは2つに分類される

示量パラメーター(示量性変数)

系の大きさや構成する物質の量を示す体積や質量

示強パラメーター(示強性変数)

系の大きさに依存しない系における1つの点で決まった値で与え

られる圧力や温度密度など

いくつかのパラメーターで完全に決定できる状態を関数で表現することがで

きる場合があるそのような関数を熱力学的な状態関数(rarr補遺 p60)と呼ぶ

関数で状態の変化を表すことができれば数学的に取り扱うことができいろ

いろの面で便利である

一つの系についてその状態を知ろうとするとき系が熱力学的な平衡状態に

あると議論する上で都合がよい

熱力学的な平衡状態とは系を外部と独立させ長時間放置した後に達成され

る状態をいうこのとき系の状態をその外部のパラメーターで表現できる

たとえば電池を独立した系と考えるとき平衡状態に達した電極電圧を外部

においた電圧計で測定することができる

ある系を考えるとき前提としてその系はエネルギーを保有していると考える

系が独立してそこに存在するということで持っているエネルギーであるこれ

を内部エネルギーと呼ぶ系がある過程を経て状態を変えるとき系から系の

外部へ力学的な仕事をする場合には力学的エネルギーの出入りがあると考え

るまた系に熱が出入りする場合が考えられそれを熱エネルギーの出入り

と考えることにしよう

まず力学的エネルギーについて考えることにする

いま系が状態を変えその体積が増えれば系のlsquo壁rsquoがその系に接している

「外部」へ力学的な仕事をすることになる

このように系が膨張し壁が外部に向かって押し出されると考えたとき膨張

する過程における圧力を一定でpとし系が膨張した体積をΔV(膨張した分だ

けの体積増加量)とするなら系の仕事量ΔWは両者の積で表されるΔは変

化量を表すときにつける記号と決めておこう

22

ΔW = pΔV (20)

系の体積が凝縮する場合があるので仕事を記号で表す場合には注意するも

し系に接した「外部」から系に力が加わって体積を小さくしたならΔVは

マイナスとなるのでΔWもマイナスで表される

-ΔW = -pΔV (20prime)

今考えている系を「系 A」と呼びその内部エネルギーを UA外部の系を「系

B」と呼んでその内部エネルギーを UBと表すなら二つ合わせた全体の内部

エネルギーは両者の和で表すことができる

U = UA+UB (21)

この体積変化に必要なエネルギー変化量はどこから得られたかを考えれば

その変化があった「系 A」と外部の「系 B」のいずれかあるいは双方の内部エネ

ルギー変化分でまかなわれたと考えざるを得ない(図8参照)

そこでこのエネルギーの収支関係は変化分を表す記号に先と同様Δを用い

ることにすると次式のようになる

-ΔU =ΔW (22)

すなわち観察している「系 A」のエネルギーと外部の「系 B」のエネルギー

を合わせた総エネルギーを見てその微少な減少量minus ΔU が仕事をなすために

必要であったエネルギー量と考えてみることにする

ついでこの体積の変化が「系 A」に接する外部のlsquo熱rsquoによって起きたも

のと考えてみようすなわち外部の「系 B」が系 Aより高温で「系 B」によ

って系 Aが暖められたことになる

このとき移動したエネルギーを「熱量」と定義する

23

図8熱量の移動と系が外部にする仕事

「熱量」を記号Qで表すと外部の「系 B」が失ったエネルギーminus ΔUB で

ありこれが熱量であるから式で表せば次式のように書くことができる

-ΔUB = Q (23)

ここで「系 A」とそれに接する「外部 B」両方のエネルギーを合わせた総エ

ネルギーの変化量ΔUは式(22)で与えられていた

-ΔU =ΔW (22)

-ΔU =-(ΔUA+ΔUB) であるから

minus ΔUAminus ΔUB=ΔW (24)

これに式(23)を当てはめてΔUAで整理すれば

24

ΔUA= Q-ΔW (25)

この式(25)は「エネルギー保存則」あるいは「熱力学の第一法則」を数

学的に表現したものである

すなわち

独立した系を考えその状態が変化するとき系の内部エネルギーの変化量はその系に入る熱量と系が外部にした仕事との差である

式(25)にはまた重要な主張があるつまりエネルギー保存則にしたが

うとき熱量は力学的エネルギーにまた力学的エネルギーは熱量に変換しう

ることを意味している

熱量を表す単位はカロリー(cal)を用いる1cal は

1 cal = 4184 J

と換算されるジュールは 1J = 1Nm (ニュートンメートル)で仕事量を

表現する単位系で表される

エンタルピー

式(25)から定圧過程で式(20prime)を利用して次の式(26)が誘導さ

れる

Q =ΔUA+pΔV (26)

ここでQは熱量を表していたのでこの関係式(26)から熱関数として

新しい関数を定義する

新しい関数はエンタルピー(enthalpy)(rarr補遺 p63)と呼ばれ次の関数

式Hで表される

H = U+PV (27)

エンタルピーの微少変化量を記号Δを使って表現してみよう

25

ΔH = ΔU +Δ(PV) =ΔU +ΔPV+ PΔV (28)

独立した系で圧力が一定の下に起きる過程を考えるならΔP = 0 (圧力の

変化はゼロ)であるから式(28)は次のようになる

ΔH =ΔU + PΔV (29)

化学反応の過程を考えるとき系に容積の変化がなく過程の前後で一定であ

るならさらにΔV = 0 であるのでエンタルピーの変化量は

ΔH =ΔU (30)

また系の仕事を体積の変化としてみる式(20)から

ΔW = pΔV= 0

であるのでこれを式(25)へ適応すると

ΔU= Q minus ΔW = Q ΔW= 0 だから

結果的に系の圧力と体積が変化の過程で一定である場合にはその系のエンタ

ルピーの変化を表す式(29)(30)は次のように簡単な式になって熱関

数と呼ばれる意味が理解しやすいだろう

ΔH = Q (31)

独立した系に等圧等積で起きる過程を見る場合にはエンタルピーは系が外

部と交換する熱量の直接的な尺度となる

H>0 なら反応に熱を使うので吸熱反応

H<0 なら発熱反応

電池のように系に起きる化学反応で生じる電子の流れを取り出す装置を考え

る場合エンタルピーの変化を電気エネルギーとして取りだしている点に留意

26

しなければならない式(31)のようにエンタルピー変化が交換される熱

量に直接表現できるといっても必ずしも熱として取り出すとは限らないこと

を注意しよう

ところでエンタルピーは内部エネルギーと同じ次元にある状態量で定圧

変化の熱量がエンタルピー変化であるからある一点を標準として定めれば

すべての物質について任意の点のエンタルピーを変化量として定めることがで

きるすなわち化学反応の過程で発熱あるいは吸熱する熱量は反応材料と

生成物の間の状態変化に対応するエンタルピーに対応する

そこで一つの元素に対してもっとも安定な状態にある物質を標準物質とし

て定め29815K(25)1atm を標準状態としてその標準物質からある化

合物を合成するときの反応熱(発熱あるいは吸熱)をその化合物の「標準生成

エンタルピー」として定義できる多くの元素に対して標準生成エンタルピー

は現在表としてまとめられている

水素や酸素はその気体状態が標準物質でありそれらの標準生成エンタルピー

がゼロと定義される

エントロピー

もう一つ新しい状態関数としてエントロピー(entropy)(rarr補遺 p64)を

定義するエントロピーを表す記号は通常S を用いその定義は次の式(32)

による

S Q

T (32)

エントロピーは系の2つの状態が決まると状態量として決まる

このときQ は2つの状態の間を可逆的に変化したとき系が受け取る熱量

T は系が熱量 Q を受け取ったときの温度(degK)である

「熱力学の第二法則」はエントロピーに関するものである

図9では2つの系が接しておりそれぞれの温度を Thigh Tlowとする

Thigh>Tlow (33)

27

今温度の高い系から温度の低い系に直接熱量 Q が移動したとすれば温度

の高い系のエントロピーの変化量ΔS は熱量が失われるので負の値になる

図9熱の移動

そこで温度の高い系のエントロピーの変化量ΔS を式で表すことにすると

次式のようになる

Shigh Q

Thigh

(34)

一方低い系のエントロピー変化量ΔS は熱量が与えられるため

Slow Q

Tlow

(35)

両方の系を合わせたエントロピーの変化量ΔS は

S Shigh Slow Q

Thigh

Q

Tlow

lowhigh

lowhigh

lowhigh TT

TTQ

TTQ

11 (36)

式(36)の最終項で(33)を前提すなわち最初に温度の高い系は高い

と決めたのだとするならエントロピーの変化量ΔS は必ず次のようになる

28

ΔS >0 (37)

すなわち独立した系がありそれより温度の低い別の系あるいは温度の低

い外界が接した場合熱量は高い方から低い方へ移動するという自然の成り行

きを説明するものである

自然界に置いてエントロピーは

ΔS≧0

の値を取りΔS=0のときは可逆的過程である

今の例でいうなら熱は温度の高い系から低い系へ移動しその逆は起きない

常にΔS >0の方向に過程が進行するまた2つの系が同じ温度であるとき

両者は平衡状態にあって熱量の移動は見かけ上なくΔS=0と表現される

「熱力学の第二法則」はエントロピーによって表現されるもので系の変化が

可逆的であるかどうかを判定する指標であり現実の世界で起きる不可逆過程

が正の値を取る方向へ進むことを示す

あるいは系の変化が起きるとき外界を含めて考えれば総エントロピーが

増大する方向に変化が起きることを意味するというようにも表現される

ギブス自由エネルギー

熱力学の第一法則によってエネルギーの取りうる形である「仕事」と「熱」

は互いに変換されうることを理解したこのことの数量的な意味は1cal=418J

で示されるさらに仕事は100熱に変換可能であるが一方の熱はうま

くやっても100を仕事に換えることができないことを熱力学の第二法則で

説明しようとしたそのためにエントロピーという概念が導入された

ここで電池のような独立した一つの系を見るとき系の内部エネルギーの減

少を仕事として取り出しうるならそれは化学反応を一つの例としてどれほど

の仕事量が取り出せるのかはどうしたら与えられるだろうか

化学反応を電気エネルギーに換える電池では先に正負それぞれの電極におけ

る半反応の平衡電位の値を利用してその起電力に対する最大値を計算した

この化学反応から取り出しうる最大仕事量を与えるものとして新しくギブス

自由エネルギー(rarr補遺 p70)と名付け記号 G を使ってそれを次のように

定義する

29

G = H-TS (38)

H はエンタルピーである第2項にある S はエントロピーを表す

ギブス自由エネルギーは化学反応のような独立した系の定温定圧過程に適

応されるので変化量ΔG を式(38)から得ておこう

ΔG =ΔH-Δ(TS)

=ΔH-(SΔT+TΔS)

温度を一定と考えているのでΔT=0 であるから

ΔG =ΔH-TΔS (39)

この式(39)を書き換える

ΔH=ΔG + TΔS (39rsquo)

ここで定圧過程ではエンタルピーを次のように式(29)で定義できた

ΔH =ΔU + PΔV (29)

式(29)の意味するところを復習すれば

系のエンタルピー変化ΔH は内部エネルギーの変化量と系が外部に

した仕事量の和として表される

これは

定圧過程で系が得るエネルギー量から仕事量を除いたもの

と言い換えることができるエンタルピー変化量は化学反応などの過程で

始めと終わりの2つの状態の差であるからそれが正の値を示す(>0)なら

系のエンタルピーは増加することを意味しその過程が進行するためには系

の外部からエネルギーが供給されなければならない

一方式(39rsquo)の右辺第2項TΔS はエントロピーの定義(32)より

TΔS = Q (40)

であるのでこれは可逆過程で系に供給される熱量を意味する

30

もしエンタルピー変化量が負の値を示す(<0)ならば系のエンタルピー

は減少しその過程が進行することによってエネルギーが取り出せるすなわ

ち式(39)(40)から次のようにこれら3つの状態量を改めて説明する

ことができる

ある化学反応が定圧で可逆的に進行するときそれから取り出せる

エネルギーのうちΔG を仕事として放出し熱量 Q を放出する

標準状態29815K(25)1atm で標準物質からある化合物を合成すると

きの反応熱(発熱あるいは吸熱)をその化合物の「標準生成エンタルピー」

として定義した同様にある物質に対する「標準生成ギブス自由エネルギー」

はこの標準状態で標準物質からその化合物を化学反応で生成するとき式(3

9)によって与えられる変化量をいう

電池における化学反応のギブス自由エネルギー

先にダニエル電池の亜鉛板側に対する電極反応を検討したとき電極反応が

仕事として放出するエネルギーを表現する重要な式があった次の式(17)

である

W = n FV (17)

ギブス自由エネルギーを用いて今これは次のように書くことができるように

なった

W = n FV=-ΔG (41)

この式が表していることを実際に水素の燃料とする燃料電池の反応過程で見

てみよう燃料電池の図を再掲する

図中右にある陰極では水素の酸化反応が起きる

H2 rarr 2H+ + 2e- (5)

一方図では左にある陽極において次の還元反応が起きる

12 O2 + 2e- rarr O2- (6)

O2- + 2H+ rarr H2O (8)

全体の反応はすでに示したように次の反応式(7)で示される

H2 +12 O2rarr H2O (7)

31

標準状態における可逆的仕事は式(41)であらわせ

n FV=-ΔG (41rsquo)

このΔG は式(39)であらわせた

ΔG =ΔH-TΔS (39)

すなわち標準状態29815K(25)1atmにおいてある化合物を標準物

質から合成するときの標準生成ギブス自由エネルギー変化ΔG゜は標準生成エ

ンタルピー変化ΔH゜とその温度におけるエントロピー変化TΔSの差で求ま

るこれらは燃料電池の全反応を表す式(7)で与えられる

標準生成エンタルピーΔH゜変化とエントロピー変化はすでに一般的な元

素やその化合物に対して表が作成されている

液体の水に対する標準生成エンタルピーΔH゜(H2O)は

ΔH゜(H2O)=minus 28583 KJmol

また水素ガスと酸素ガスはそれぞれの元素の標準物質であるので生成エ

ンタルピー変化はゼロである

32

そこで式(7)での水を1モル化学合成するときの標準生成エンタルピーΔ

H゜は水素(ガス1モル)と酸素(ガス12 モル)の2つの材料と水(液

体251atm)の両状態における状態量の差として表される

ΔH゜=ΔH゜(H2O)-ΔH゜(H2) -12ΔH゜(O2) (42)

式(42)の右辺第2項と第3項がゼロであるので

ΔH゜=ΔH゜(H2O) =-28583 KJmol (43)

標準状態29815K(25)1atm における水素(ガス)と酸素(ガス)お

よび水(液体)のエントロピーはそれぞれ

ΔS(H2O)=6991 JKmol

ΔS(H2) =13068 JKmol

ΔS(O2) =20514 JKmol

単位で分母のKはケルビン温度の意味

と計算されているので

ΔS=ΔS(H2O)-ΔS (H2) -12ΔS(O2) (44)

=6991-13068-12times20514

=-16334 JKmol

したがって

TΔS=29815times(-16334)=-486998=-4870 KJmol

(45)

そこで標準生成ギブス自由エネルギーΔG゜は式(39)から

-ΔG゜=-(ΔH゜-TΔS) (39)

=-{-28583-(-4870)}

=+23713 KJmol

33

すなわちこのエネルギーを電気エネルギーとして取り出すことができるそ

の起電力は式(41rsquo)から

n FV=-ΔG (41rsquo)

V= -ΔG(n F)

各数値を当てはめれば

V=237130(2times96485)

=1229 volt

先に【化学反応と電気エネルギー】のところで記したとおり25の基準

状態におけるこの電極電位はE゜=+1229 volt が得られているすなわち

こうして標準生成ギブス自由エネルギーから計算することでも同じ値を得る

ことができた

水素を単純に酸素と化合させる燃焼では式(43)で示されるエンタルピ

ーが発生する熱量を示している水素1モルあたり28583 KJである電池

にすれば水素1モルあたり23713 KJの仕事量が電気エネルギーとして取り

出すことができるその差は電池の場合熱が発生して利用できない

化学反応の過程を利用して化学エネルギーから直接電気エネルギーに変換す

るのが電池という装置であるが化学エネルギーは100電気エネルギ

ーに換えることはできないこのようにエネルギーの一部は電池の熱として

発散してしまう

理想気体の状態方程式

ギブス自由エネルギーΔG を定義した式(39)とエンタルピーΔH の定義

式(28)から

ΔG =ΔH-TΔS (39)

ΔH =ΔU +VΔP+ PΔV (28)

そこで次式が得られる

34

ΔG =ΔU+VΔP+ PΔV-TΔS (46)

またエネルギー保存則から得られた式(26)を応用すればギブス自由エ

ネルギーが変形できる

Q =ΔU+PΔV (26)

から

ΔU=Q-PΔV (47)

したがって式(46)は

ΔG = Q-PΔV+VΔP+ PΔV-TΔS

ΔG = Q-TΔS+VΔP (48)

エントロピーの定義からQ=TΔSであるから結局式(48)は

ΔG = VΔP (49)

と表すことができる

成分が混合された気体分子の分子間に働く力をゼロと仮定した「理想気体」を

考えるとき状態方程式としてボイルシャルル(Boyle-Charles)の法則が

利用できる

PV=nRT (50)

ここでnは気体のモル数PVT はそれぞれこれまでと同じ圧力体積温度(ケルビン温度)でありR は気体定数と呼ばれるもので次の値を持

R= 831441 JmolK (51) 単位で分母のKはケルビン温度の意味

35

状態方程式から式(49)の右辺を導くことを考えてみよう式(50)は

1モルの気体について V に対し次のように変形することができる

V 1

PRT (50rsquo)

両辺に圧力の微小変化量⊿P をかけると

PP

RTP V (52)

これを微分方程式として圧力p0 からp1 まで(p0≦p1)積分するなら

1

0

1

0

1

0

1p

p

p

p

p

pdP

PRTdP

P

RTdPV (53)

関数 f(x)=1x を積分したときの関数はF(x)=ln(x)であるので(ln は e を底

とする自然対数loge)

右辺=0

1ln)0ln()1ln(p

pRTpRTpRT (54)

ギブス自由エネルギーを表す式(49)は次のようであったから

ΔG = VΔP (49)

式(52)から得た式(54)を当てはめると状態G0(p0T)からG1(p1T)

へ変化する過程で圧力が p0 から p1 まで変化するものとして

dGG0

G1

G( p1T ) G(p0T ) RT lnp1

p0 (55)

あるいはこれを書き直して

V

36

G(p1 T) = G( p0T ) + RT lnp1p0

(56)

特別にG0(p0T)を標準状態T=29815K(25)p0=1atmに指定する

なら標準生成ギブス自由エネルギーを記号G゜として (56rsquo)

と表すことができる

式(56rsquo)の意味するところは標準状態から圧力の変化を伴う過程で理

G(p1 T) = Go + RT ln p1

想気体のギブス自由エネルギーは圧力の対数に比例して上昇することである

このことはさらに新しい着想を生む

すなわち水素を燃料とする上の燃料電池で1atm 標準状態の水素ガスの圧力

を2atm に上げれば式(56rsquo)からRTln2 余分にギブス自由エネルギー

が取り出せることになる

燃料電池において起電力を生むエネルギーは隔壁を水素イオンもしくは酸

素イオンが浸透しようとする力であるので1atm の水素ガスと2atm のそれで

は浸透しようとする圧力が異なりここに起電力が生じる

式(56)の第二項が圧力の差による仕事であるからこれをΔG とすれば

W=-ΔG の仕事量が電気エネルギーとして取り出せるはずである

W = minusΔG = minusRT lnp1p0

(57)

起電力に換算するために式(41)を使うと

W = n FV=minus ΔG (41)

から

01ln

pp

nFRTV ⎟

⎠⎞

⎜⎝⎛minus= (58)

この式(58)は一般にネルンスト(Nernst)の式と呼ばれる

37

理想溶液のギブス自由エネルギー

理想気体を想定したように無限に希釈された混合溶液に対して理想溶液を仮

定する「系」の圧力温度を一定に保つならば体積内部エネルギーエンタ

ルピーギブス自由エネルギーなどの示量数は混合溶液を構成する物質のモ

ル数mに比例するたとえば標準状態にある物質の1モルの体積をVとすれば

mモルの体積はそのm倍mVであるそうすると溶液中のi番目の成分がmi

モル「系」から「外界」に仕事をするときその成分iの持つ自由エネルギーの

mi倍の仕事が「外界」になされると考えればよい

この溶液成分のモル数と化学的仕事を結びつける示強因子がギブスによって

化学ポテンシャルと名付けられ一般に記号μが用いられる

化学ポテンシャルはこれまで見たようにギブス自由エネルギーで表される

また電位がψ(プサイ)にある系から-Δeの電荷が放出されるときには

-ψΔeの電気的仕事が得られるそこで記号μに両者を合わせた意味を持

たせて「電気化学ポテンシャル」と呼ぶ

概念の上で物質は電気化学ポテンシャルの高い方から低い方へ勾配にした

がって移動する

理想気体の標準状態が気体分圧を T=29815K(25)で 1atm としたのに対

し溶液成分の標準状態はその分圧に相当するモル数 m を用いるすなわち

標準状態にある成分 i の電気化学ポテンシャルμ0iは成分の持つ電荷(H+なら

1)を n として

μ0i = G i゜+nFψ i (59)

ギブス自由エネルギーは式(56rsquo)を借り理想溶液中の成分に対しては気

体圧力をその成分のモル濃度Cに書き換えればよいそこで

G(CT ) G RT lnC (60)

と表すことができる

したがって一般的な成分 i の電気化学ポテンシャルμiを表す式は標準状態

からの自由エネルギーの変化を考え式(59)と合わせて次のようになる

38

ψnFGii 0

式(60)から

ii CRTGTCGG ln)( 0

よって

(61) ψnFCRT iii ln0

実際的なことを考えると成分濃度はその有効イオン濃度とする必要があり

「活量係数」γを導入して次式で表されるイオン活量aを用いる

ai = γCi (62)

一般的にはγ=1と近似してモル濃度Cを使っているこのテキストでも

必要ではない限りイオン活量を用いることを省略して簡単に記述したい

膜電位

燃料電池に使われたナフィオンのような一つのイオンを通す膜を介して膜

の両側にC0 とC1 のイオン濃度差がある溶液が接するときの電気化学ポテン

シャルを考えよう

ある容器の底にナフィオン膜を取り付け容器の中と外のイオン濃度をC0

とC1としそれぞれの電気化学ポテンシャルをそれぞれμinとμoutとする

式(61)を使って

容器の中の電気化学ポテンシャル

(63) innFCRTin ψ 00 ln

容器の外の電気化学ポテンシャル

(64) outout nFCRT ψ 10 ln

イオン浸透性の膜を介して濃度変化が無視できるほどの移動があると考え

その電気化学ポテンシャルの差を式(63)(64)から求めれば

39

)(ln0

1 inoutinout nFC

CRT ψψ (65)

この系において今注目しているイオンが膜を介した両側で平衡状態にある

とき式(65)はΔμ=0と考えることができるすなわち

0)(ln0

1 inoutnFC

CRT ψψ

膜内外の電位差をΔψ=ψoutminus ψinとすれば

1

0

0

1 lnlnC

C

nF

RT

C

C

nF

RTψ (66)

式(66)は理想気体に対するネルンストの式(58)と同様溶液中のイ

オンに対するネルンスト(Nernst)の式として与えられる

細胞の膜においてもその生体膜の内外でたとえばカリウムイオンのように

非対称に分布して平衡に達している場合には式(66)で与えられる膜内外

で電位差が生じるこれは一般に膜電位と呼ばれる膜電位は平衡電位とも

呼ばれる

たとえば膜内外に1価のカリウムイオンに10倍の濃度差があるとすると

通常カリウムイオンは細胞内の濃度が高いので

C0 = 10timesC1

であるから

これを式(66)に当てはめてln(10)=2303 を用いlog への変換をすれば

Δψ=2303times(RTF)timeslog(10)

であるこれに R=831441 JmolKF=96485 CmolT=29815 K(25)

の各数値を当てはめると

Δψ=2303times831441times29815times196485 JC

=+005917 volt

すなわち膜の内外で約+60ミリボルトの膜電位が生じることになるこの

分だけ細胞の外側の電気化学ポテンシャルが高く膜の内側の膜電位が負であ

るそして膜にあるカリウムチャネルがこの電位を示すとき受動的なカリ

40

ウムの膜内外の移動は平衡に達することになる

水素イオン濃度測定

「標準水素電極」は1モル塩酸溶液につけた白金電極に1atm の水素ガスを

吹き込んで平衡状態に達したときの電位を基準としてゼロボルトと規定した

そこである溶液についてその水素イオン濃度を知ろうとするとき同じ水

素電極を用いることを考えれば標準状態にする目的で用いた1モル塩酸溶液

を濃度未知で X モルの塩酸溶液と想定すればその水素イオン濃度を知るこ

とができるだろうか

標準状態ではない X モルの塩酸溶液に浸けた白金電極が半電池として働くこ

とは間違いなさそうであるしかしその白金電極が持つ電極電位を測定する

にはいずれにしても標準電極と組み合わせて「電池」を構成しその電池

の起電力として計る必要がある電池を作れば起電力を知ることができ相

手の半電池の電極電位が知られていれば濃度が未知でXモルの溶液について

その水素イオン濃度を知ることができるだろう

こうした目的のためにいちいちゼロボルトと規定した標準水素電極を用いる

のは煩雑なのでしばしば後出の「銀塩化銀電極」が参照電極として用いら

れる

まず予め「銀塩化銀電極」を標準水素電極と組み合わせて電池とし一度

その起電力を測定しておけば後はいつもそれを標準電極として利用できる

「銀塩化銀電極」の半電池は

H+ (1 moll) Cl- | AgCl | Ag(s)

これに「標準水素電極」を組み合わせ電池を構成すると次のような電池

になる

Pt(s) | H2(g) | H+ (1 moll) Cl- | AgCl | Ag(s)

この電池の起電力を知れば「銀塩化銀電極」の半電池としての電極電位

を知ることができ参照電極として未知の半電池と組み合わせて起電力を測

定して相手の電極電位を計算できる

41

濃度 X モルの塩酸溶液を未知の溶液と想定すればその電極電位を知るために

組み立てる電池は次のようになる図10にその電池の図を示した

Pt(s) | H2(g) | H+ (x moll) Cl- | AgCl | Ag(s)

この電池の全反応は次の反応式で表される

AgCl(s) 1

2H2 (g) H Cl Ag(s) (67)

図10未知溶液の水素イオン濃度を測定しようとするための電池

化学反応の一般的な式

ここで電池に利用される化学反応から得られるエネルギーをギブス自由エ

ネルギーに換算し起電力を具体的に知る手だてとすることは上ですでに学

42

んだがより一般的な式を再度ここに書きだしておこう

化学反応が紙面で左から右に進む反応として次のような一般式で与えられ

るとき

aA + bB rarr cC + dD (68)

ギブス自由エネルギー変化量は標準状態ΔG゜からの変化量を加える形で式

(60)と同様次の式によって表される

G G RT(ln aCc aD

d ln aAa aB

b )

G RT ln

aCc aD

d

aAa aB

b (69)

aAは成分 A のイオン活量であるその他の成分も同じ

得られたエネルギーを電気エネルギーに換えるなら式(41)に習って

次式で表せば

ΔG=-n FV

there4V=-ΔG(nF) (70)

このときの起電力は標準状態における電位 E゜からの変化量として次式で与

えられる

E E

RT

nFln

aCc aD

d

aAa aB

b (71)

標準状態における起電力 E゜は反応が平衡状態にあるときで反応平衡定数

を K とするなら

K aC

c aDd

aAa aB

b (72)

で表されるそこでE゜は次のように書き改めることができる

43

E

RT

nFln K (73)

そこで式(67)で表される図10の電池「水素minus 銀塩化銀電池」に

対する起電力をギブス自由エネルギーから求めてみよう

反応から式(71)に当てはめれば

E E RT

Fln

aH

1 aCl

1 aAg1

aAgCl1 aH2

1

2

(74)

力学の慣例にしたがって固体の純物質の活量は1として扱い水素ガスを

想気体として見なして活量を1atm とするなら式(74)は次のよう

に簡略化される

E E

RT

Flna

H aCl (75)

ころで理想溶液として近似的に取り扱うときの希薄溶液でたとえば水素

入して詳細に検討するなら式( れる起電

オン濃度はイオン活量として aH+の記号を使うときすでに【理想溶液のギ

ブス自由エネルギー】の章で述べたようにこれを有効イオン濃度とする必要

がありイオン活量 a は「活量係数」γを導入して次式で表した

a H+= γH+CH+ (62)

この活量係数を導 75)で誘導さ

を計ることによって経験的に試料溶液中の水素イオン濃度を求めることは

困難である式(75)にあるイオン活量の項はモル濃度 C と活量係数γを

用いて次式で書き改められる

lnaH aCl

lnCH CCl

lnH Cl

(76)

まり式(76)右辺の第二項において互いに相手が知られなければ自分

決めることができず結果的に起電力を知っても(75)の値から水素イオ

ン濃度を導けないここに工夫が必要になる

44

の定義とその目盛り

液中の水素イオン濃度を直接意味するものではなく

を定義するとき測定されるのは1リットルの溶媒に存在す

pH = -log a H+ = -log(γH+CH+) (77)

際に試料溶液の pH を決定する際はpH 標準液を用いる

に溶液を入れ試料溶液 X と pH 標準液 S を

参 極を接続し電池を作成しその起

pH

現在pH の定義は溶

で述べたようにそれが簡便に測定できるものではないため次のように定

義されている

水素イオン濃度

水素イオン活量であるため定義式としては活量係数をγH+として次式で与

えられる

その要領は次のようである

上に図示した水素電極の容器内

れぞれ半電池(I)と(II)に入れる

半電池(I) Pt | H2 (1 atm) | 試料溶液

半電池(II) Pt | H2 (1 atm) | 試料溶液S

照電極として上図のごとく銀塩化銀電

電力を測定する半電池(I)のときの起電力を E(X)半電池(II)のそれを E(S)

とするこのとき試料溶液Xの pH は次式で計算される

pH (X) pH(S) E(S) E(X)

RT ln(10) (78)

ln(10)は自然対数を常用対数に戻すための定数で2303 を用いる

標準液

pH 標準液 S はpH 第一次標準液第二次標準液と呼ばれるべき

る測定

25で pH 4005 を示す

pH

上述した

のであり絶対的測定法である起電力の測定によって値をつける

標準液は安定で純粋な結晶が得られる試薬を調整してこれを測定す

上と同様に水素電極を用いこれに緩衝液を入れる参照電極として銀

塩化銀電極を接続して電池の起電力を測定する

たとえば005 moll フタル酸水素カリウム溶液は

一次標準(Primary Standard PS)の一つである半電池(III)として水素

45

電極を次のように準備する

半電池(III) Pt | H2 (1 atm) | PS 溶液

て電池を形成したとき得られる起電

参照電極として銀塩化銀電極を接続し

は式(75)から

E E

Ag AgCl RT

Flna

H aCl (79)

オン活量を濃度と活量係数の積(a H+= γH+CH+)にし自然対数を常用対数

すれば

E E

Ag AgCl RT ln(10)

F log(

H + CH+ Cl- CCl - ) (80)

E゜は水素標準電極(水素ガス分圧を1atm電極を浸ける溶液に001 moll

H

Cl を用いる)で得た起電力である

式(80)から

RT ln(10)

Flog(

H CH Cl

) (E EAg AgCl )

RT ln(10)

Flog C

Cl

(81)

らに

log(

H CH Cl

) F

RT ln(10)(E E

Ag AgCl ) logCCl

(82)

ころで式(77)から

(γH+CH+) (77)

-log a H+ =-loga H+-log(γCl-) +log(γCl-) =-log(a H+γCl-) +log(γCl-)

(83)の一番右の式で第一項は

pH = -log a H+ = -log

であるが右の式をさらに変形すると

(83)

46

-log(a H+γCl-)=-log(γH+ CH+γCl-) (84)

たがって式(82)の右辺で示されるように電池の起電力を測定すれば

よ 実際には溶液の塩素イオン濃

液で起電力を求め外挿する

起電

これによってpH を意味する式(83)は次式(85)で与えられる

p(aHγCl)はRG Bates によって Acidity Function と呼ばれている

らに式(85)最終項の log(γCl-) を補正しなければならないこの項は

本工業規格)によっても

であってこれは式(82)の左辺である

いただし塩素イオン濃度の項があって

をゼロにしたときの値が必要である

実測する際には塩素イオン濃度をゼロにできないので塩化ナトリウム NaCl

等を濃度を変えて添加しその時々の緩衝

勧告ではNaCl で 000500100015moll の3つの濃度を例示している

すなわち塩素イオン濃度ゼロのときの値は各塩素イオン濃度に対して

の値をそれぞれプロットしグラフから塩素イオンがゼロのときの起電力の

値を3点に対する回帰直線の延長で外挿して求めるこの点を次のように書

log( C H H Cl CCl

0

pa log( C log( (85) H H H Cl C

Cl0 Cl

)

素イオンの活動係数で与えられる補正項である

無限希釈溶液中のイオンの活動係数は理論的に Dubye-Huckel の式を用い

近似的に求めることが可能であるこれはJIS(日

用されていて Bates-Guggenheim の規約と呼ばれる (Bates RG

Guggenheim Pure Appl Chem 1 163-168 1960)

Dubye-Huckel の式は次のように与えられる

log A I

i 1 iB I (86)

47

I iについてそのモル濃度

計算される

はイオン強度でイオン mi と電荷 zi から次式で

I 1

2mizi (87)

また iは(86)式のBは温度と溶媒の性質による定数であり イオンの大

きさに関するパラメータで水和イオンの大きさとほぼ一致した値をとる標

準法の勧告では塩素イオンに対しイオンの大きさを46Åと決めてiBを

1

5 にしているそこで式(84)は次のようになる

ClA I

log 1 15 I

イオン強度 I は塩素イオン濃度を含まない計算となる

以上の方法によって実用的な pH 測定に用いられる第一次第二次標準液の

pH の値が得られる

絶対値としての

はpH の絶対測定法(第一次標準測定法)とされている

銀塩化銀参照電極は分極現象を防ぐために棒状の銀を塩酸で処理し表

に塩化銀を生成させたものを飽和塩化カリウム溶液につけてある

(88)

参考現在は実験的に求めた値と理論値の組み合わせで

素イオン濃度を求める方法を規定しているこの起電力から水素イオン濃度

を知るための測定方法

Buck RP Rondinini S Covington AK Baucke FGK Brett CMA Camoes MF

Milton MJT Mussini T Naumann R Pratt Kw Spitzer P Wilson GS

Measurement of pH definition standards and procedures Pure Appl Chem

74(11)2169-2200 2002Kristensen HB Salomon A Kokholm GInternational

pH scales and certification of pH Anal Chem 63(18) 885A-891A 1991)

銀塩化銀参照電極

電極の構成は

Cl-(aq) | AgCl(s) | Ag(s)

48

この半反応は次のようになる

AgCl(s) + e- rarr Ag(s) + Cl- (89)

の反応は次の2つの反応に分けて考えることができる

Ag+ + e- rarr Ag(s) (91)

AgCl(s)rarr Ag+ + Cl- (90)

図11銀塩化銀参照電極

(90)における銀 る塩素イオンによって左

されることが推測される

そこでカッコ [ ] をそれによって囲まれるイオンの濃度を表すことにし

式 イオン Ag+の溶解性は共存す

塩化銀の乖離定数Kを考えると

49

K = [Ag+][Cl-] (92)

これから

[Ag+]= K[Cl-] (93)

化カリウム溶液に漬けた銀塩化銀電極の電位 E は水素標準電極に対する

電 で与えられる

位を E゜として次式

E E

RT

nF

[ Ag ]

[Ag(s)]ln( )

Ag(s)のイオン活量は常に1とする

ここで半反応の電極電位を求めるために式(75)を利用することにすれば

(94)

熱力学の慣例にしたがって純物質個体

E E

RT

Flna

H Cl a (75)

式 の半反応をみると

応で電子1つが移動するので n=1 とするR=831441 JmolK1F = 96485

C はめれば

これに銀イオンの濃度として式(93)を当てはめる

この反応で移動する電子は (89) 銀イオン1つの反

molT=29815K(25)ln(10)=2303などの定数を当て

2303RTF = 005917

であるから(94)式は次のように表現できる

log[Cl]) E E 005917(logK (95)

たがって標準水素電極に対する銀塩化銀参照電極の標準状態における電

位 は半反応(89)に対して ゜=+0799で

化銀の乖離定数 K は182times10-10 であるのでその対数を取れば-973993

0799-005917times973993-005917log[Cl-]

E゜ E ある

ある

そこで式(95)は

E =

50

= 0799-0576-005917log[Cl-]

= 0223-005917log[Cl-] (96)

電極電位の関係について実測値

こうして求めた塩化カリウム溶液の濃度と

計算上の値は次のようである

KCl moll vs SHE volt25 計算値 volt25 01 02881 02822 35 0205 01908 飽和 0199 minus

実用 測定

実際の現場で水素イオン濃度を測定する目的の測定法で上のような2つの

極が同じ溶液に浸かっていたのでは試料溶液を交換するにも便利ではない

の容器に入れる未知試料溶液と銀塩化銀電極を隔離する

的な pH

そこで水素電極側

的で二つの電極容器をつなぐ液絡部をグラスフィルターやセラミック板

飽和塩化カリウムで作成したゼラチンなどの塩橋によって隔離遮断するこ

れを液絡部とよぶ

電池として機能するために必要な溶液イオンの交換はこの液絡部で行う

組み立てる電池は電池式で次のように表される

Pt(s) | H2 | 試料 (H+ x moll) || 飽和 KCl | AgCl | Ag(s)

の標準電極と銀塩化銀電極とは区切られていて溶液の直接の接触がない

とを意味するために電池式ではタテ二重線を用いる銀塩化銀参照電極

の容器には飽和塩化カリウム溶液が入れられる

51

図12液絡部のある pH 測定のための電池

この液絡部のある電池では塩橋を記号lsquo | | rsquoで表して次のように記す

試料 (H+ x moll) | | 飽和 KCl

ここでは試料溶液と飽和塩化カリウム溶液の異なる2液が接している

このような界面では膜電力が生じるのと同様「液間電位差」が生じることが

知られているしたがって上の電池で測定される起電力 E は

E = E[銀塩化銀電極電位]+E[液間電位]+E[水素電極電位]

で与えられることになってE[液間電位]のために図12の電池の起電力

は銀塩化銀参照電極の値を知っていても水素電極容器内に入れた未知溶

液の水素イオン濃度を正しく知ることができない

52

そこで実用的な測定法としてこの E[液間電位]を膜電位として積極的に利

用する方法が工夫されたすなわち水素イオンに感応するガラス薄膜を用い

るガラス電極法である

53

ガラス電極

ガラスはケイ素原子と酸素原子からなる SiO4 の結晶構造を持ち酸素で囲

まれた空隙があって水素イオンがそれを埋めることができる

この性質によってガラス膜表面は水溶液中の水素イオンに応じて膜電位を

変化させるのでこれを水素イオン濃度測定用の電極として利用することが考

えられるこれが通常用いられるガラス電極である

ガラス電極は標準電極と組み合わせれば電池を構成することができこの電

池の起電力を知ってガラス薄膜の内外にできたイオン濃度勾配を知ろうとす

るものである

薄いガラス膜(01mm程度)をはさんで接する2つの溶液のH+イオン濃

度が異なるとその差に応じてガラス膜の両側に電位差(Eg)が現れる

ネルンストの式でガラス電極の内部に入れた既知の濃度のH+([H+]in)に対

し試料中の水素イオン濃度が[H+]sampleのとき次の電位を生じる

)][

][log(059170)

][

][ln(

sample

in

sample

ing

H

H

H

H

F

RTE

(97)

図13ガラス電極

電極を構成するのは銀塩化銀電極と同じ電極で用いる塩溶液は一般的

54

に 01モル塩酸溶液である

この半電池の電池式は次のように書くことができる

Ag(s) | AgCl(s) | HCl (01 M) | ガラス薄膜 || 試料溶液 H+ (x moll)

Eg

この半電池の電極電圧を測定するために銀塩化銀標準電極と組み合わせ

電池を作って起電力を計る

構成される電池は下図のようになる

ガラス電極 銀塩化銀標準電極

図14ガラス電極を用いた pH 測定用の電池

この電池の起電力は次の各半電池の平衡電位を合わせたものになる

55

E1ガラス電極の内側電位

Ag(s) | AgCl(s) | HCl (01 M)

Egガラス薄膜の内外に生じる膜電位

HCl (01 M) | ガラス薄膜 || 試料溶液 H+ (x moll)

E2液間電位(膜電位)銀塩化銀標準電極のセラミックを介した試料溶液

と銀塩化銀標準電極の内部液(飽和 KCl 溶液)の間に発生する電位

試料溶液 H+ (x moll)|| セラミック | KCl(飽和)

E3銀塩化銀標準電極

KCl(飽和)| AgCl(s) | Ag(s)

pH メーター用のガラス電極に使われるガラス薄膜は水素イオンに感応して

膜電位(Eg)を生じるこれは【膜電位】の章で記したように薄膜がある

一つのイオンのみを通過させる特性を持っている場合にイオンが膜を介した

両側で平衡状態に達したとして電気化学ポテンシャルを膜の両側で等しいと

考えてそのイオンが濃厚な側から希薄な側にその差によって圧力を生じると

するものである

一方同じ試料溶液が銀塩化銀標準電極のセラミック液絡部を介して生じ

るだろう液間電位(膜電位E2)はいま関心がある水素イオンに対して特異

的に感応するのではないので試料溶液の水素イオン濃度に関係なく一定と見

なすことができる

すなわちpH メーターを構成する電池の起電力 E は

E = E1+Eg+E2+E3 (98)

このうちEg以外は一定と見なせるので

E1+E2+E3 = E

として式(98)を書き直すと

)][

][log(059170

sample

ing H

HEEEE

(99)

Eは標準液によって校正されるべき標準電極電位である

56

電極の校正

実際のイオン濃度を測定する場合低濃度標準液と高濃度標準液で得られ

る起電力を測定し計測のイオン濃度に対する係数(傾き)を求めておき未

知の試料に対して起電力を測定してそのイオン濃度を算出する方法が採られる

低濃度標準液と高濃度標準液のそれぞれの濃度をCLとCHとすればそれぞ

れの起電力ELとEHは次式で表される EH = E +β logCH (100)

EL = E +β log CL (101)

ただしβは式(99)の係数を簡略にしたものである

式(100)と(101)から検量線の傾きが次式で表せる

ΔE = EH minus EL = β(logCH minus logCL) = β logCH

CL

(102)

したがって係数βは

β =ΔE

log CH

CL

(103)

であらわされる

このときに使われる標準はすでに前出の pH 第一次標準第二次標準溶液で

ある

金属イオンに対応するイオン選択電極

現在臨床検査で日常的に使われている電解質測定のための電極はナトリウ

ムカリウムカルシウムクロールなどおよそ臨床的に必要な金属イオン

に対して入手可能である

カリウムイオン測定用のバリノマイシンの発見によってクラウンエーテルと

57

呼ばれる一連の化合物が知られたクラウンエーテルはその分子の中心に立

体的な空間を持ち特定のイオン径に対し合致するのでそのイオンに対して

選択的に感応するこれらの化合物はイオノフォアと呼ばれる

図 15クラウンエーテル

1つの金属イオンが環状化合物

15-crown-5 の中央にある空間を充填

している模式図

15-crown-5 の構造を作る10個の黒

い丸は炭素炭素2個のつながりごと

にある中心の白い丸は酸素酸素と

金属イオンの間の距離はおよそ 22~

23Åであるカリウムのファンデン

ワールス半径は 135Åイオン半径は

15~16Åである

測定したいイオンに対しポリ塩化ビニル(PVC)を支持体としてイオノフ

ォアを添加した液膜の電極膜を作成しこれをガラス電極におけるガラス薄膜

と同様試料に接する電極膜として用いるこの構造から一般的に液膜型電極

と呼ばれる電極膜には特異性を高めるため妨害イオン排除剤などが添加

される

pH メーターと同様銀塩化銀標準電極と組み合わせ電池を形成しその

起電力を計る測定したいイオンが液膜に対して内外で平衡に達したときの

膜電位を測定するのはガラス電極と同じである

カ リ ウ ム イ オ ン に は Bis[(benzo-15-crown-5) ( 正 式 名 は

Bis[(benzo-15-crown-5)-4-methyl]pimelate)ナトリウムには Bis[(12-crown-4)

やDibenzyl-bis[(12-crown-4)などがイオノフォアとして用いられる

58

図16カリウムイオン測定用に使われるクラウンエーテル

図17ナトリウムイオン測定用に使われるクラウンエーテル

59

参考イオン選択電極に関する文献Xia Z Badr IHA Plummer SL Cullen L

Bachas LG Synthesis and evaluation of a bis(crown ether) ionophore with a

conformationally constained bridge in ione- selective electrodes Anal Sci 14(2)

169-173 1998 Oh K-C Kang EC Cho YL Jeong K-S Y oo E-A Paeng K-J

Potassium-selective PVC membrane electrodes based on newly synthesized

cis- and trans-bis(crown ether)s ibid 14(10)1009-1012 1998 Dojindo WEB

site httpwwwdojindocojpwwwrootproductsjinfo2protocolp31pdf

<補遺> 60

補遺 状態関数 (本文 p21 10 行目参照)

一つの平衡状態にある系 A とこれに接する系 A にとって外部である系 B について系 B

から系 A に熱を与えこれによって系 A が他の平衡状態に移ったとき系 A はその結果とし

て膨張し系 B に対し仕事をする

このときの微少な熱量の移動を記号drsquoQ またなされた微少な仕事をdrsquoW とすると

系Aの内部エネルギーに関する微少な変化drsquoUA は両者の和として表される

WdQdUd A primeminusprime=prime (a-1)

この式 a-1 と本文中の式25との関係について

WQU A Δminus=Δ 本文(25)

<補遺> 61

式 a-1 と式25の記号の違いは変化の起きる前の平衡状態 S1 から変化後の平衡状態 S2

に状態変化があったとするなら式 a-1 を積分することで式25が得られるものと考えて区

別している

A

S

S A UUd Δ=primeint2

1 (a-2)

このことは重要であるすなわち内部エネルギーU は変化の起きる前後の状態を指定する

ことによって値が定まることを意味するこのように積分によって値を定めることが出来る

のでdrsquoU は完全微分であるという

内部エネルギーのように系の状態だけで値の定まる量を状態関数として扱う

一方式 a-1 のdrsquoQ drsquoW についても同様に微少の変化量を表しているが平衡状態 S1

から S2 への経路を指定しなければ積分の値は定まらない

本文中の記号にしたがって仕事量ΔW を次のように表すことにする

VpW Δ=Δ 本文(20) V

<補遺> 62

体積と圧力の関係を表す図を使ってこの仕事量が意味することを考える圧力 prsquo の下で

体積が V1 であるときを状態 S1 として圧力一定の下で体積を V2 まで膨張させるような変

化を行った後体積を等しく保って圧力を p にまで上げたときの状態を S2 とするこのとき

の仕事量は膨張に伴うものであるから図の体積‐圧力線の下の面積で示すことができる

平衡状態 S1 から S2 への変化の道筋を別にたどってみよう

新しい経路では圧力を先に p まで上げた後に膨張変化させている

図から直感的に明らかであるので数式での扱いを省略するが2 つの経路による仕事量には

差がある

すなわちdrsquoW は drsquoU と異なり変化の初め S1 と終わり S2 の状態が与えられても積分値

は定まらず変化の経路によって違ってくる

このように変化の経路を指定しなければ積分値が定まらないものを不完全微分と呼び扱

いを区別する

本文 p21 へ戻る

<補遺> 63

VpW

WQU

VpQU

VpUQ

1122 SSSS pVUpVUQ

pVU

VpUHHHQ SS 12

エンタルピー (本文 p24 20 行目参照)

本文中の式 20 および 25 から一定の圧力の元で起きる状態変化において内部エネルギー

の変化量に対する式 a-3 を得る

本文(20)

本文(25)

(a-3)

式 a-3 を Q について書き直す

(a-4)

状態の変化が平衡状態S1から平衡状態S2に移ったものとして式 a-4を丁寧に書き直すと

(a-5)

並び替えて

(a-6)

式 a-6 を見ると定圧過程における熱量の流入は

(a-7)

の形を持つ関数の差であることが分かる

一般に化学反応のような変化の過程では大気圧の下で行われるようなものに興味がある

そこで式 a-7 で与えられる項を一つの関数として定義するこれをエンタルピーと呼び記

号 H を与える式 a-4 はエンタルピーの変化量で次のように書き改められる

(a-8)

圧力が一定の下で起こる状態変化について流入する熱量は式 a-8 で示されるようにエンタ

ルピーの変化量に等しい

V

V

V

V V

V

V

1212 SSSS VVpUUQ VV

<補遺> 64

1Q

We

また式 a-8 からオートクレーブ内で起こるような体積変化のない過程ではこの値が内

部エネルギーの変化量で与えられることが明らかである

本文 p24 へ戻る

エントロピー (本文 p26 17 行目参照)

エントロピーは次のような思考実験から発想された仮想的な状態関数である

理想気体よりなる系 A が温度 T2で熱平衡状態にあり温度 T1の外部の熱源と接しているこ

とを想定する系 A の外部を系 B と呼ぶことにするT1は T2に対して無限小だけ高い温度と

する

系 A が系 B に対して温度圧力について平衡を保ちながら緩慢に系 B より熱量 Q1を受け取

る過程を考える(このような過程を準静的過程と呼ぶ)これによって系 A が熱量 Q1を得て膨

張するとき系 B に対して仕事をする続いて系 A から熱量 Q2が系 B に戻ることを考える

想定されるこの変化が可逆的であれば系 A と系 B を併せた全体は元の状態に戻る蒸気機

関に関するこのような研究が Nicolas Carnot によってなされたのは1824 年のことであった

ここに想定されたサイクルに対する Carnot の効率 e は移動した熱量となされた仕事によ

って定義され次の式で表される

(b-1)

<補遺> 65

理想気体では内部エネルギーU の変化ΔU はゼロと考えるしたがって熱力学の第一法

則を表す式(本文中の式25)から次の関係が示される

0=Δminus=Δ WQU

WQ Δ= (b-2)

これによってCarnot Cycleの効率eはQ2lt0 として次のように書き改めることが出来る

1

21

QQQe +

= (b-3)

ところで気体の状態方程式から1 モルの気体について次のような関係が示される

RTV

P

P1=

V = RTV (b-4)

V 式 b-4 の両辺に体積の微少変化量ΔV をかけて

(b-5)

これを体積Vについてその変化をV1からV2までとして積分するならば次式が得られる

VV

RTVP Δ=Δ 1V V

V

intint = 2

1

2

1

1V

V

V

VdV

VRTPdV

1V2V

11 lnRTW =

(b-6)

Q1の熱量によって起こる膨張がV1よりV2までとし圧力P温度T1の下でなされるその仕事

量をW1とするならそれは式b-6 の右辺によって示されるすなわち

(b-7)

VV

1

2lnVVRT=

V V

VV

V

V2int V2 intV1 V1

<補遺> 66

またQ2の熱量の移動が圧力P温度T2の下で起きこれによって系Aが可逆的に圧縮され

るなら体積変化はV2よりV1まで起こりその仕事量をW2で示すと次式のように表される

(b-8)

1

22

2

122 lnln

VVRT

VVRTW minus==VV

VV

Q1=W1Q2=W2の関係から式b-7 およびb-8 を用いてCarnot Cycleの効率eを表す式b-3

を書き改めると温度のみの関係式として次のように表される

1

21

TTTe minus

= (b-9)

ここでサイクルが可逆的過程であると想定するならば式 b-3 と式 b-9 から

1

21

1

21

TTT

QQQe minus

=+

= (b-10)

これから

12112111 QTQTQTQT minus=+ (b-11)

整理すると

02

2

1

1 =+TQ

TQ (b-12)

この考えをさらに発展させ系A

と系Bの間に数多くの系を挿入すること

にしてそれらの系を同様に熱源として

T1T2Tnと考えるこれによっ

て熱の受け渡しが系Aから系Bに至り

再び系Aにもどるサイクル過程に数多

くの寄り道の過程を加えることになる

熱量の移動に関して上の場合と同じく

準静的過程で行われると考えるこの

サイクル全過程について初めと終わ

<補遺> 67

n

i i

i

T

Q

1

0

0T

dQ

T

QS

T

dQASAS )()( 12

りが同じ状態になる可逆的な過程であるなら式 b-12 を拡大的に考えることになってそれ

は次式で表される

(b-13)

式 b-13 には重要な関数が現れるすなわち熱量と温度の比QT である

もし一つの系が無限小だけ温度の高い(dT )外界から温度圧力など平衡を保ちなが

ら極めて緩慢な過程(準静的過程)で無限小の熱量(dQ )を受け取るならばその変化は可

逆的でありdT について連続的な温度分布をする過程を考えるとき式 b-13 をさらに発展

させて次のように積分式で示すことが出来る

(b-14)

式 b-14 で積分記号にが付されているのはCarnot Cycle のような経路を一巡することを

意味している

Carnot の熱機関の効率という着想から生まれた熱量とそれを持つ系の温度との比 QT に

重要な意味を見出したのは Rudolph Clausius で彼はこの比にエントロピーという名前を与

えたエントロピーには記号ΔS を一般に用いる

(b-15)

エントロピーは初めと終わりの状態がわかれば過程に関わらず定まるので状態関数であ

系 A と外界のエントロピー変化を考えるときそれが可逆的過程であるならばすべてを併

せた全体のエントロピー変化は初めと終わりに変化がないという意味でゼロであるすなわ

ち初めの状態を S(A1)とし次の状態を S(A2)とするならそれぞれのエントロピーを

ΔS(A1)ΔS(A2)としてこの間におけるエントロピーの変化量は次のように示される

(b-16)

<補遺> 68

T

dQdS

0T

dQ

ある一つの変化については次のように示される

(b-17)

ここで式 b-17 の S に付けられたdは微分量すなわちごく微小の変化量を意味し式 b-15

で定義されたエントロピーに用いられる一般的な記号Δと区別する

ところで式 b-10 の関係においてもし移動した熱量のすべてが仕事に変わらなければ

効率 e を表す熱量を用いた関係式と温度で表される関係式は等号で結ぶことができないそれ

はエネルギーのロスを意味し初めと終わりの状態が異なってしまうことを意味するすなわ

ち全過程が構成する一つのサイクルは可逆的でなくなる

不可逆過程での熱効率 ersquo は 大値を示す可逆的過程の熱効率 e より小さな値をとる

ee

したがって 大効率を与える式 b-8 と式 b-3 から

01221

2112

1

21

1

21

QTQT

QTQT

Q

QQ

T

TT

両辺を T1T2で割ると

02

2

1

1 T

Q

T

Q

これを式 b12 と同様に発展させれば式 b-14 についてサイクルの変化が可逆的過程の

場合と不可逆的過程の場合の両方を併せClausius の不等式と呼ばれる次の関係が成立する

(b-18)

式 b-18 の等号が成立するのはサイクルが可逆的な理想の場合に限られる

ある孤立系で状態 A1 から状態 A2 へは不可逆変化で進められ状態 A2 から再び状態 A1

に戻るとき可逆変化であるような閉じた状態変化を考える可逆系のエントロピー変化には

記号 Q を使い不可逆変化には Q を用いるとするとそれぞれ積分式を用いて状態 A1 から

状態 A2 へは

<補遺> 69

d prime

状態 A2 から状態 A1 に戻るときは

全体では

=d prime

+d

(b-19)

Clausius の不等式から

0

式(b-19)の第二項で反応を逆に進めるときには次のように書き改めることができる

=d

よって式(b-19)は次のように書き直すことができClausius の不等式とあわせると

d prime d

0

すなわち

d prime d

上式の右辺は式(b-16)を用いて表せば

d prime

∆S ∆

この状態変化を微小変化とするならば断熱変化の場合 dQ = 0 であるから

∆S ∆ dS 0

すなわち不可逆変化を含む断熱変化ではエントロピーは必ず増大する

<補遺> 70

T

QS

BA SSS

(b-20)

(次の<補遺>ギブス自由エネルギーも参照せよ)

本文 p26 へ戻る

ギブス自由エネルギー (本文 p28 27 行目参照)

エントロピーの考えを導入することによって不可逆的に状態変化が起きるときにはエン

トロピーの増大を引き起こすことを知ったこれによって目前で起きる現象について温度の

変化があるものであれないものであれまた圧力の変化があるものであってもエントロピー

の定義式によって可逆的な変化におけるエントロピーの変化量を計算することが可能である

(b-15)

しかしながらこれから起こる変化について我々がすでにあらかじめ知っている物理量を

用いて予測的にその状態変化が起きるかどうか知ることは必ずしも容易ではないその理由

は式 b-15 に示されたエントロピーΔS が系とその外界をあわせた全体のエントロピーを示

しているからであるすなわち関心のある系を系 A としその外界を系 B とすると全体

のエントロピーは次のように表せる

(c-1)

関心のある系 A のエントロピー変化を知るためには系 B のそれを知ればよいがそれは

いつも容易とは限らない系 A の性質だけで状態変化の方向を知るには別の観点が必要にな

るようだ

そこでもう一度状態変化が熱量 Q の移動によって起きることについて考えてみようエン

トロピーの補遺で議論したように熱量の移動が準静的過程により行われるときには変化は可

逆的に起こると考えたこのとき外界すなわち系 B から移動する熱量を Q1とし系 A から

0S

<補遺> 71

21 QQ

T

Q

T

QSB

21

T

QSS A

2

QH

T

HSS AA

AA STHST

のそれを Q2 と記号を当てたのでこれをそのまま使うことにすれば可逆的な過程では系 B

の熱量 Q1 はすなわち系 A から戻る Q2 に他ならないので両者には次の関係が成立するも

のとしてよい

(c-2)

したがって

(c-3)

と考えてよくこれによって式 c-1 を次のように書きなおすことが出来る

(c-4)

独立した系で圧力とその体積に変化がなく一定の条件の下で状態変化が起きるときエン

タルピーの考えを使ってすでにひとつの関係があることを導いている

本文(31)

そこで式 c-4 を系のエンタルピーΔHAによって書き改めれば

(c-5)

この両辺に-T をかけて式を書き直せば次の関係式が得られる

(c-6)

式 c-6 を見るときその右辺がマイナスの値ならば左辺のΔS はプラスの値をとることが

分かるすなわちエントロピーが増大すると見ることが出来るこれまでの過程で自然の現

象はエントロピーが増大する方向に進むとしてきたので関心のある状態変化について式 c-6

の右辺で計算される値がマイナスの値ならばその変化は起きるものと考えてよいことになる

だろうしかも右辺はすべて独立した系の状態量で示されていて我々が知りうる値で計算

<補遺> 72

TSHG

STSTHG

STHG

可能である

そこでこれを熱力学ポテンシャルを表すものとしてギブス自由エネルギーと呼ぶことに

するギブス自由エネルギーは記号 G が用いられ次のように定義される

(c-7)

ここで関心があるのは自由エネルギーの絶対値ではなく式 c-6 に示されたようにその変化量

に興味があるので式 c-7 から

(c-8)

温度が一定の条件の下で状態変化が起きることを考えるなら式 c-8 は次のように書くこと

ができる

(c-9)

ギブス自由エネルギーは式 c-9 の右辺がすべて状態量であるからこれも状態量の一つで

ある定圧定温の条件下で起きる変化ではすでに議論したようにΔGlt0 であれば状態

変化は自発的に起きるものと予測できる

つまり式 c-5 の第一項は系のエントロピーΔSAそのものであり第二項で示されるエンタ

ルピーは系 A の温度が一定に保たれているのであるから発熱する熱量として外界に吸収さ

れるものであってこれは外界のエントロピーの増大につながるものとして解釈されるした

がって化学反応のように一定の圧力と一定の温度の下で起きる変化について自由エネルギ

ー変化量はその状態変化が自発的に起きる傾向を示しているといってよい

本文 p28 へ戻る

  • はじめに
  • 目次
  • 電気エネルギー
    • 金属のイオン化
    • 電池
    • 水素の反応
    • 燃料電池
    • 化学反応と電気エネルギー
      • エネルギーと熱力学
        • エネルギー保存則
        • エンタルピー
        • エントロピー13
        • ギブス自由エネルギー
        • 電池における化学反応のギブス自由エネルギー13
        • 理想気体の状態方程式
        • 理想溶液のギブス自由エネルギー
        • 膜電位
          • 水素イオン濃度測定
            • 化学反応の一般的な式
            • pHの定義とその目盛り
            • pH標準液
            • 銀塩化銀参照電極
            • 実用的なpH測定
            • ガラス電極
            • 電極の校正
            • 金属イオンに対応するイオン選択電極
              • 文献
              • 補遺
                • 状態関数
                • エンタルピー
                • エントロピー
                • ギブス自由エネルギー
Page 8: イオン選択電極i イオン選択電極 Ion Selective Electrode (ISE) を理解する ・ pHを測定する ・ NaやKなどのイオン濃度を測定する 神戸大学医学部保健学科

5

図1亜鉛と銅を電解質溶液に入れる

再度それぞれの水槽で起きると予想する反応を書いておこう

左の水槽 Zn(s) rarr Zn2+ + 2e- 酸化反応

右の水槽 Cu2+ + 2e - rarr Cu(s) 還元反応

左の亜鉛が入れられた側では亜鉛板に電子がたまり亜鉛の酸化反応が起きる

一方右の銅が入れられた側では電子が水溶液に移動し銅の還元反応が起き

亜鉛は電子を電極に残しプラスイオンとなって水溶液中に出て行き亜鉛板

の電極中に電子が余分にたまるこのとき水溶液にある硫酸イオンは変化を

受けない

一方の銅板では水溶液中の銅イオンが銅板から放出される電子を受け取って

銅単体となり析出するこちらの水槽でも水溶液にある硫酸イオンは変化を受

けない

電極に余分にたまっている電子の量を電極電位という

6

上の図では導線の中間に電圧計がつなげてあって両極の電極電位の差を測定

することができる電極電位の差すなわち「電位差」は電極間をつないで回

路をつくればその回路に電流が流れるので「起電力」ともいうこの電位差

や起電力の数値については後で考えることにしよう

電圧計は電流を流さず両極間の電位差を計ることができるこの状態では電

子の移動がない電子の移動がないので各イオンの濃度にも変化はない電圧

計はこのときに電池の起電力に対して最大値を与えるもしも電流が流れると

各イオン濃度の変化が起きるので起電力にもわずかながら変化が生じる

両方の極を導線でつないでその中間に電圧計を入れ亜鉛板から銅板へ導線を

介して電流が流れないときの状態をさらに考えてみよう

左の亜鉛板に残った電子は溶液中に続いて出てゆこうとする亜鉛イオンを逆

に引っ張り戻そうと働くこの結果亜鉛板に残った電子の量がある程度以上

になるともはや亜鉛は溶け出さない

この状態を平衡状態という

一方の銅板では電子の流れがないので同様に銅イオンの還元反応は進まない

そこで電子の流れが起きるように導線の中間に豆電球を入れて回路を作るこ

とにしようこのように電池の両極間に電球などを入れることを「負荷をかけ

る」という

回路ができそれに負荷をかけることによって電子の流れが起き豆電球が点

るこの結果陰極では亜鉛がどんどん水溶液に溶けだし陽極では銅が析出

する

ところがこうしてうまく電子の流れが始まってもそれは持続しない

どちらの水槽においても硫酸イオンは変化を受けないことをすでに述べてい

たこれでは亜鉛側のプラスイオンがまた銅側のマイナスイオンがたちま

ち過剰になってしまうこの結果一瞬電流が流れるだけですぐ電子の流れは

停止し豆電球は点り続けないだろう

うまく豆電球を点り続けさせるにはそれぞれの水槽のプラスイオンとマイナ

スイオンの均衡が保てるようにしなければならない

この解決にはそれぞれの水槽で過剰になるプラスイオンとマイナスイオンが

移動できるようにすればよい

それには2つの方法がある

一つは塩橋とよばれるイオンの通路を両水槽に掛け渡す方法である塩橋は

7

チューブ内に飽和塩化カリウム(KCl)溶液などをゼラチンで固めて詰めそれ

がこぼれ出ないようにそれぞれの口を濾紙などで封じたものである

図2亜鉛と銅を電解質溶液に入れ塩橋を渡す

この塩橋の代わりに素焼きの陶板やセラミックなどのイオンを通す性質があ

る固体で両水槽を仕切る方法でもよい図に示したように塩橋もしくはしき

りを介してイオンが移動できる

8

図3亜鉛と銅を電解質溶液に入れしきり板にセラミックを使う

このように電子の流れを発生させて利用しようとする装置を「電池」とよぶ

電池には2つの極がある陽極(+)と陰極(-)である

陽極(+)は正極ともよばれ電極に伝ってきた電子が水溶液に移動し還

元反応が起きる側をいう

これに対して陰極(-)は負極ともよばれ電極金属がイオン化し酸化反応が

起きて電子が電極から取り出される側をいう

今の例では亜鉛板が陰極(-)銅板が陽極(+)とよばれる

有名な「ダニエル電池」はこのように考案された

電池を電球などにつなぎ電気回路を形成すれば亜鉛電極内の電子が導線へ流

れ出て電球を明るくし亜鉛はつぎつぎ溶液に溶け出す

回路を切れば再び電極に電子がたまり平衡状態に達して亜鉛イオンの溶

出は止まる

ここで電池の表記についての取り決めを記しておこう

9

電池は2つの極からなる陽極と陰極である陽極すなわち還元反応が起き

導線を介して電子を受け取る極を右に書くダニエル電池の場合には陽極は銅

板であり銅イオンを供給する硫酸銅の水溶液が電解質溶液として用いられる

陽極金属と電解質溶液の間は縦棒で区切るそこで陽極は次のように表記され

CuSO4(aq) | Cu(s) (+) 記号(aq)は水溶液のこと

同様に陰極は酸化反応が行われる極でこれを左に書く

(-) Zn(s) | ZnSO4(aq) この両方の極は別々の水槽にあってイオンの交換が塩橋あるいはセラミッ

クのようなしきりを介して行われるのでこの隔壁をタテ二重線で表記し両極

を並べて記す

ダニエル電池は次のような記号で表記されるこれを電池式と呼ぶ

(-) Zn(s) | ZnSO4(aq) || CuSO4(aq) | Cu(s) (+)

両端の極を導線で接続し回路を形成すれば電子の流れが左の陰極から右の陽

極に起こり電流は右から左へと流れる

水素の反応 イオン化傾向の大きさが異なる金属を組み合わせて酸化還元反応が起きると

電子の流れが生じそれを取り出して豆電球を点灯する仕事として利用するこ

とができる

イオン化列の鉛と銅の間には水素があるこの水素の酸化還元反応を見るこ

とにしよう

水素の酸化反応は次のように表される

H2 rarr 2H+ + 2e- (5)

これを半反応として電子の流れを作り出せば電池として機能するから取り

出された電子を利用する還元反応を考えよう

水素と反応する相手に酸素を選べば水が生成物として得られることを期待で

きる

10

酸素が電子を受け取る還元反応の半反応は次のように表される

12 O2 + 2e- rarr O2- (6)

半反応(5)と(6)を組み合わすことができれば次の全反応によって水

が生じる

H2 +12 O2rarr H2O (7)

このとき得られる電子を導線に誘導すれば電気エネルギーとして利用が可能

になる

問題はダニエル電池で見たようにそれぞれの半反応で生じるイオンの処理で

ある半反応(5)と(6)はそれぞれ隔離された容器で行わなければ水素と

酸素が直接反応して水を生じてしまうしかし容器の隔壁がイオンを通さな

いと電池として機能しない

燃料電池 固体は一般に分子やイオンを通過させないが中には特定のイオンを通過させ

るものがありこれを固体電解質とよんでいる

半反応(5)で発生する水素イオンを効率よく通過させるためにはナフィオ

ン(Nafion Du Pont 社米国デラウェア州ウィルミントン)とよばれる固体高

分子膜が有力である

ナフィオンはフッ素を含む高分子パーフルオロスルホン酸系といわれるイオ

ン交換膜で全体はテフロン様構造からできており側鎖にスルホン酸基を持

つその厚さは 20~50ミクロン程度である膜の内部で負に荷電するスルホン

基(SO3-)が水素イオン(H+)を引きつけこれを通過させるこの水素イオ

ンの通り道は電子顕微鏡で見るとトンネルのようにできている

11

図4ナフィオンを使った燃料電池

陰極では水素の酸化反応が起きる

H2 rarr 2H+ + 2e- (5)

一方陽極では次の還元反応が起きる

12 O2 + 2e- rarr O2- (6)

O2- + 2H+ rarr H2O (8)

全体の反応は反応式(7)で表される

12

H2 +12 O2rarr H2O (7)

こうして開発された電池は「燃料電池」とよばれている燃料に水素ガスが

利用される

反応式と図に示した気体酸素は通常の空気が利用され反応で生じた水と酸

素以外の利用されない気体元素は排気される

この燃料電池は水素と酸素を遮断し水素イオンだけを通過させる固体電解

質を使ったこれは上の半反応(5)で生じた水素イオンの処理を考えたわ

けである

これに対して半反応(6)で生じる酸素イオンを移動させる工夫もある

図4安定化ジルコニアを使った燃料電池

安定化ジルコニア(Stabilized Zirconia ZrO2CaO)は高温下で酸素イオン通過

性のある固体電解質として開発されたジルコニウムに10モル程度の酸化

カルシウムを加え結晶を作ると+4価のジルコニウムイオンの位置の一部を+

13

2価のカルシウムイオンが占めるできあがった安定化ジルコニアはこのカ

ルシウムの数だけ酸素イオンの不足が起き固体全体を電気的中性に保つた

めに酸素イオンの透過性ができるジルコニアの両面に白金粉末を焼き付け

それに白金のリード線を取り付ける焼き付けられた白金には多くの孔があり

その孔を通して気体とジルコニアが接触する

酸素イオン導電性の固体電解質としてジルコニアを用いた燃料電池は次

のように動作する

1)空気極(右側)に入った酸素 O2は電極で電子を受け取り酸素イオン O2-

になる

12 O2 + 2e- rarr O2- (6)

2)O2-は固体電解質ジルコニア中を移動していき燃料極(左側)で H2 と

反応し水 H2Oを生じるこの過程に伴って電子が放出される

H2 + O2- rarr H2O+ 2e- (9)

3)これら結果として外部回路に電流を取り出すことができる

燃料電池の起電力は酸素イオンが電解質中を移動することにより生じる

酸素イオンが移動する駆動力は固体電解質の両端すなわち燃料極と空気極

の酸素濃度差である

14

化学反応と電気エネルギー ダニエル電池の陰極は亜鉛板が硫酸亜鉛の水溶液につけられていたこのと

きの現象は次のように説明された亜鉛は電子を亜鉛板電極に残し陽イオン

となって出て行くその結果亜鉛板電極中に電子が余分にたまる

ダニエル電池の陰極の「電極電位」はこの電極に余分にたまっている電子の

量をさしているそれではこの半反応による電極電位を測定することができ

るのだろうか半反応は次のように示される

Zn(s) rarr Zn2+ + 2e- (1)

亜鉛が1モル反応すると2モルの電子が持つ総電荷量が流れる

1電子の持つ電荷量は16022x10-19 C (Ccoulombクーロン)であ

るから

1モルの電子の総電荷量はアボガロド数をかけて 96485 = 96485 x 104 Cmol

であるこれを1F1ファラデーと表す

1F = 96485 x 104 Cmol 亜鉛が1モル反応すれば2モルの電子が持つ総電荷量が流れるのでこれを

記号 q として表すと次の電気量が得られる

q = 2F (10)

化学反応によって取り出せる電気量はこのように計算される

それでは電気エネルギーとしてその電力はどのようになるだろう

電力は

電力=電圧times電流times時間 (12)

電流times時間=電気量であるから式(12)を書き直せば

15

電力=電圧times電気量 (13)

ここで電気量 q は式(10)で表しているので

電力=電圧timesq=電圧times2F (14)

と書くことができる

電圧を記号Vで表すことにし電力をWにすれば式(14)は

W = 2FV (15)

として表しておくことができる

電圧の単位系は仕事量が電力Wであるので(13)から

V= W q (16)

仕事量をジュールJ(ジュール)で表せば電圧はJ C (ジュールクー

ロン)でその単位を表現することができる

式(15)の表すところは亜鉛を化学反応の材料として得られる電力という

仕事量がその電力すなわち電極電位で決定されることを意味している

一般に化学反応で1分子の材料を消費しn個の電子が流れることをその

半反応で知ることができるとき式(15)を一般化して次のように得られ

る電気エネルギーを表すことができる

W = n FV (17)

化学反応によって生じる電子を取り出し回路に導けばここに電流が生じる

その起電力(V)は陽極陰極のそれぞれの電位をE+E- と記号で表し

て次式で書くことができる

V= E+-E- (18)

16

ここで問題になるのは陽極陰極のそれぞれの電位E+とE-で上に議論し

たように回路を形成しなければそれぞれの電位は決定できない

ここでいま片方の電位をゼロとすれば式(18)はたとえばE- = 0 で

V= E+

として陽極の電位が決まる

そこで申し合わせにより水素の半反応による電位をゼロとすることになっ

その半反応の式は水素の還元反応として次のように表せた

2H+ + 2e- rarr H2

標準にはMax Julius Louis Le Blanc (1865-1943) が発明した水素電極を用

いるこれを標準水素電極(Standard Hydrogen Electrode SHE)とよびこの

電極電位をいつも 0 volt(ゼロボルト)と取り決めている

図6に示した水素電極は1atm の水素ガスとそれに平衡状態にある水素イオ

ンが存在し次の半反応が平衡状態にある

H2 (g 1 atm)rarr 2H+ (aq 1 M)+ 2e- (5) g は気体を示す

この反応において平衡状態にある電極電位を 0 volt と定義する

電極に白金を用いるのは電極材料自体が溶解しないものであることすなわ

ちイオン化傾向の低いものであることまた水素イオンの還元に対してな

るべく活性の高いものであることが条件として求められるが白金はこの2つ

の性質を兼ね備えていて陽極の電極材料に適している

気体の標準状態は1atm を標準としているこの分圧を維持し溶液中の水

素イオン活量を1にする水蒸気の分圧が変化すると平衡電位は変化する

17

図6標準水素電極(0ボルトの基準)

標準水素電極は1モル塩酸溶液につけた白金電極に1atmの水素ガスを吹き込んで使う

白金電極は分極を防ぐために白金板に白金メッキを施し(白金黒とよばれる)上半分

を水で飽和させた(1atmの水蒸気分圧が必要)1atm(101325 kPa)の水素ガスを流し

下半分を1moll の塩酸溶液につける水素ガスが電極として働き白金板に電子が集めら

れる

ダニエル電池の亜鉛電極をこの標準水素電極につなげば亜鉛電極電位が測

定できる

亜鉛電極側では酸化反応の半反応が起きる

Zn(s) rarr Zn2+ + 2e- (1)

18

標準水素電極側では還元反応の半反応が起きる

2H+ + 2e- rarr H2

図7亜鉛電極と水素電極をつないで電池とする

25の基準状態における亜鉛電極の半反応(1)に対する平衡電位はすでに

知られている

E゜= -0763 volt

また銅板側の電極電位も同じようにして測定することができる

起きる半反応はすでに上述したが再度記しておこう

Cu2+ + 2e - rarr Cu(s) (3)

25の基準状態におけるこの電極電位はE゜=+0337 volt と知られて

19

いる

ここで亜鉛電極と銅電極の組み合わせでできる電池の最大電圧をこれらの

平衡状態における観測値から計算することができる式(18)を使って

V= E+-E- (18)

V= +0337-(-0763) = +110 volt

つまりダニエル電池で得られる最大電圧は11volt と計算できる実際に

はイオンの濃度が変化すれば反応の平衡が変化するので得られる電圧も変

化する

ここでダニエル電池で亜鉛1モルが反応するとき式(17)を使って得

られる仕事量としての電力を計算できる

W = n FV (17)

すなわちダニエル電池における電極反応は

Zn(s) rarr Zn2+ + 2e- (2)

Cu2+ + 2e - rarr Cu(s) (3)

であったから反応が進んで移動する電子はn = 2 である

1F = 96485 x 104 Cmol を適応すると

W = 2 x 96485 x 11 x 104 = 21227 x 105 Jmol = 2123 KJmol

(K = 103キロ)

すなわち亜鉛1モルの化学反応によって2123 KJmol の電気エネルギーが得

られる

水素ガスを使う燃料電池の起電力は電極の半反応から

O2 + 4H+ + 4e- rarr 2H2O (19)

25の基準状態におけるこの電極電位はE゜=+1229 volt が得られている

20

したがって燃料電池で1モルの水素が反応すれば

W = 2 x 96485 x 1229 x 104 = 2372 KJmol

すなわち2372 KJmol の電気エネルギーが基準状態で取り出せる最大電力

と計算される現在作られている燃料電池の電力は実際上08 volt ほどで

あるしたがって現実的に取り出せる電気エネルギーは 1544 KJmol の仕

事量と計算される「仕事量」という言葉については電気でモーターを回し

なにがしかの「仕事」をするなど思い浮かべれば実感できるだろう

エネルギーと熱力学 これまで述べてきたように電池は化学反応から直接電気エネルギーを取り出

す仕掛けであるダニエル電池では亜鉛と銅が酸化還元反応を起こす過程で

電子を放出するのを利用するまた水素ガスによる燃料電池は気体水素と酸

素を原料とし水が生成されるこの過程が1atm の気体原料を25(29815

K)で1モル反応させて生成物も1atm の液体の水を得るなら次の全反応に

よってすでに計算したとおり2374 KJmol の電気エネルギーが取り出せる

H2 + 12 O2 rarr H2O

圧力と温度がともに反応の過程を通じて一定の場合にその過程から取り出せ

る仕事量は熱力学的に考えることもできる

それはギブス自由エネルギーとして議論される電池で取り出した電気エネ

ルギーすなわち電力はこのギブス自由エネルギーに相当する

次に化学反応をこの熱力学の面から考えてみよう

エネルギー保存則

水素ガスを使う燃料電池のように独立した一つの仕掛けを考えこれを「系」

と呼ぶことにする系を考えるとき電池のように具体的なものを持って考え

るのが容易いのでそうすることが多い熱力学では自然界全体をあつかうので

しばしば概念的になり非現実的な記述が行われるが系の大きさや系を構成

する分子の大きさについて特定する必要はない

系におけるエネルギーを内部エネルギー熱エネルギー力学的エネルギー

の3つの要素からなると考えるこれらのエネルギーを考えるとき系の熱力

21

学的なパラメーター(変数)が必要となる熱力学的な状態はこれらのパラ

メーターのうちのいくつかを指定すれば決定される

熱力学的なパラメーターは2つに分類される

示量パラメーター(示量性変数)

系の大きさや構成する物質の量を示す体積や質量

示強パラメーター(示強性変数)

系の大きさに依存しない系における1つの点で決まった値で与え

られる圧力や温度密度など

いくつかのパラメーターで完全に決定できる状態を関数で表現することがで

きる場合があるそのような関数を熱力学的な状態関数(rarr補遺 p60)と呼ぶ

関数で状態の変化を表すことができれば数学的に取り扱うことができいろ

いろの面で便利である

一つの系についてその状態を知ろうとするとき系が熱力学的な平衡状態に

あると議論する上で都合がよい

熱力学的な平衡状態とは系を外部と独立させ長時間放置した後に達成され

る状態をいうこのとき系の状態をその外部のパラメーターで表現できる

たとえば電池を独立した系と考えるとき平衡状態に達した電極電圧を外部

においた電圧計で測定することができる

ある系を考えるとき前提としてその系はエネルギーを保有していると考える

系が独立してそこに存在するということで持っているエネルギーであるこれ

を内部エネルギーと呼ぶ系がある過程を経て状態を変えるとき系から系の

外部へ力学的な仕事をする場合には力学的エネルギーの出入りがあると考え

るまた系に熱が出入りする場合が考えられそれを熱エネルギーの出入り

と考えることにしよう

まず力学的エネルギーについて考えることにする

いま系が状態を変えその体積が増えれば系のlsquo壁rsquoがその系に接している

「外部」へ力学的な仕事をすることになる

このように系が膨張し壁が外部に向かって押し出されると考えたとき膨張

する過程における圧力を一定でpとし系が膨張した体積をΔV(膨張した分だ

けの体積増加量)とするなら系の仕事量ΔWは両者の積で表されるΔは変

化量を表すときにつける記号と決めておこう

22

ΔW = pΔV (20)

系の体積が凝縮する場合があるので仕事を記号で表す場合には注意するも

し系に接した「外部」から系に力が加わって体積を小さくしたならΔVは

マイナスとなるのでΔWもマイナスで表される

-ΔW = -pΔV (20prime)

今考えている系を「系 A」と呼びその内部エネルギーを UA外部の系を「系

B」と呼んでその内部エネルギーを UBと表すなら二つ合わせた全体の内部

エネルギーは両者の和で表すことができる

U = UA+UB (21)

この体積変化に必要なエネルギー変化量はどこから得られたかを考えれば

その変化があった「系 A」と外部の「系 B」のいずれかあるいは双方の内部エネ

ルギー変化分でまかなわれたと考えざるを得ない(図8参照)

そこでこのエネルギーの収支関係は変化分を表す記号に先と同様Δを用い

ることにすると次式のようになる

-ΔU =ΔW (22)

すなわち観察している「系 A」のエネルギーと外部の「系 B」のエネルギー

を合わせた総エネルギーを見てその微少な減少量minus ΔU が仕事をなすために

必要であったエネルギー量と考えてみることにする

ついでこの体積の変化が「系 A」に接する外部のlsquo熱rsquoによって起きたも

のと考えてみようすなわち外部の「系 B」が系 Aより高温で「系 B」によ

って系 Aが暖められたことになる

このとき移動したエネルギーを「熱量」と定義する

23

図8熱量の移動と系が外部にする仕事

「熱量」を記号Qで表すと外部の「系 B」が失ったエネルギーminus ΔUB で

ありこれが熱量であるから式で表せば次式のように書くことができる

-ΔUB = Q (23)

ここで「系 A」とそれに接する「外部 B」両方のエネルギーを合わせた総エ

ネルギーの変化量ΔUは式(22)で与えられていた

-ΔU =ΔW (22)

-ΔU =-(ΔUA+ΔUB) であるから

minus ΔUAminus ΔUB=ΔW (24)

これに式(23)を当てはめてΔUAで整理すれば

24

ΔUA= Q-ΔW (25)

この式(25)は「エネルギー保存則」あるいは「熱力学の第一法則」を数

学的に表現したものである

すなわち

独立した系を考えその状態が変化するとき系の内部エネルギーの変化量はその系に入る熱量と系が外部にした仕事との差である

式(25)にはまた重要な主張があるつまりエネルギー保存則にしたが

うとき熱量は力学的エネルギーにまた力学的エネルギーは熱量に変換しう

ることを意味している

熱量を表す単位はカロリー(cal)を用いる1cal は

1 cal = 4184 J

と換算されるジュールは 1J = 1Nm (ニュートンメートル)で仕事量を

表現する単位系で表される

エンタルピー

式(25)から定圧過程で式(20prime)を利用して次の式(26)が誘導さ

れる

Q =ΔUA+pΔV (26)

ここでQは熱量を表していたのでこの関係式(26)から熱関数として

新しい関数を定義する

新しい関数はエンタルピー(enthalpy)(rarr補遺 p63)と呼ばれ次の関数

式Hで表される

H = U+PV (27)

エンタルピーの微少変化量を記号Δを使って表現してみよう

25

ΔH = ΔU +Δ(PV) =ΔU +ΔPV+ PΔV (28)

独立した系で圧力が一定の下に起きる過程を考えるならΔP = 0 (圧力の

変化はゼロ)であるから式(28)は次のようになる

ΔH =ΔU + PΔV (29)

化学反応の過程を考えるとき系に容積の変化がなく過程の前後で一定であ

るならさらにΔV = 0 であるのでエンタルピーの変化量は

ΔH =ΔU (30)

また系の仕事を体積の変化としてみる式(20)から

ΔW = pΔV= 0

であるのでこれを式(25)へ適応すると

ΔU= Q minus ΔW = Q ΔW= 0 だから

結果的に系の圧力と体積が変化の過程で一定である場合にはその系のエンタ

ルピーの変化を表す式(29)(30)は次のように簡単な式になって熱関

数と呼ばれる意味が理解しやすいだろう

ΔH = Q (31)

独立した系に等圧等積で起きる過程を見る場合にはエンタルピーは系が外

部と交換する熱量の直接的な尺度となる

H>0 なら反応に熱を使うので吸熱反応

H<0 なら発熱反応

電池のように系に起きる化学反応で生じる電子の流れを取り出す装置を考え

る場合エンタルピーの変化を電気エネルギーとして取りだしている点に留意

26

しなければならない式(31)のようにエンタルピー変化が交換される熱

量に直接表現できるといっても必ずしも熱として取り出すとは限らないこと

を注意しよう

ところでエンタルピーは内部エネルギーと同じ次元にある状態量で定圧

変化の熱量がエンタルピー変化であるからある一点を標準として定めれば

すべての物質について任意の点のエンタルピーを変化量として定めることがで

きるすなわち化学反応の過程で発熱あるいは吸熱する熱量は反応材料と

生成物の間の状態変化に対応するエンタルピーに対応する

そこで一つの元素に対してもっとも安定な状態にある物質を標準物質とし

て定め29815K(25)1atm を標準状態としてその標準物質からある化

合物を合成するときの反応熱(発熱あるいは吸熱)をその化合物の「標準生成

エンタルピー」として定義できる多くの元素に対して標準生成エンタルピー

は現在表としてまとめられている

水素や酸素はその気体状態が標準物質でありそれらの標準生成エンタルピー

がゼロと定義される

エントロピー

もう一つ新しい状態関数としてエントロピー(entropy)(rarr補遺 p64)を

定義するエントロピーを表す記号は通常S を用いその定義は次の式(32)

による

S Q

T (32)

エントロピーは系の2つの状態が決まると状態量として決まる

このときQ は2つの状態の間を可逆的に変化したとき系が受け取る熱量

T は系が熱量 Q を受け取ったときの温度(degK)である

「熱力学の第二法則」はエントロピーに関するものである

図9では2つの系が接しておりそれぞれの温度を Thigh Tlowとする

Thigh>Tlow (33)

27

今温度の高い系から温度の低い系に直接熱量 Q が移動したとすれば温度

の高い系のエントロピーの変化量ΔS は熱量が失われるので負の値になる

図9熱の移動

そこで温度の高い系のエントロピーの変化量ΔS を式で表すことにすると

次式のようになる

Shigh Q

Thigh

(34)

一方低い系のエントロピー変化量ΔS は熱量が与えられるため

Slow Q

Tlow

(35)

両方の系を合わせたエントロピーの変化量ΔS は

S Shigh Slow Q

Thigh

Q

Tlow

lowhigh

lowhigh

lowhigh TT

TTQ

TTQ

11 (36)

式(36)の最終項で(33)を前提すなわち最初に温度の高い系は高い

と決めたのだとするならエントロピーの変化量ΔS は必ず次のようになる

28

ΔS >0 (37)

すなわち独立した系がありそれより温度の低い別の系あるいは温度の低

い外界が接した場合熱量は高い方から低い方へ移動するという自然の成り行

きを説明するものである

自然界に置いてエントロピーは

ΔS≧0

の値を取りΔS=0のときは可逆的過程である

今の例でいうなら熱は温度の高い系から低い系へ移動しその逆は起きない

常にΔS >0の方向に過程が進行するまた2つの系が同じ温度であるとき

両者は平衡状態にあって熱量の移動は見かけ上なくΔS=0と表現される

「熱力学の第二法則」はエントロピーによって表現されるもので系の変化が

可逆的であるかどうかを判定する指標であり現実の世界で起きる不可逆過程

が正の値を取る方向へ進むことを示す

あるいは系の変化が起きるとき外界を含めて考えれば総エントロピーが

増大する方向に変化が起きることを意味するというようにも表現される

ギブス自由エネルギー

熱力学の第一法則によってエネルギーの取りうる形である「仕事」と「熱」

は互いに変換されうることを理解したこのことの数量的な意味は1cal=418J

で示されるさらに仕事は100熱に変換可能であるが一方の熱はうま

くやっても100を仕事に換えることができないことを熱力学の第二法則で

説明しようとしたそのためにエントロピーという概念が導入された

ここで電池のような独立した一つの系を見るとき系の内部エネルギーの減

少を仕事として取り出しうるならそれは化学反応を一つの例としてどれほど

の仕事量が取り出せるのかはどうしたら与えられるだろうか

化学反応を電気エネルギーに換える電池では先に正負それぞれの電極におけ

る半反応の平衡電位の値を利用してその起電力に対する最大値を計算した

この化学反応から取り出しうる最大仕事量を与えるものとして新しくギブス

自由エネルギー(rarr補遺 p70)と名付け記号 G を使ってそれを次のように

定義する

29

G = H-TS (38)

H はエンタルピーである第2項にある S はエントロピーを表す

ギブス自由エネルギーは化学反応のような独立した系の定温定圧過程に適

応されるので変化量ΔG を式(38)から得ておこう

ΔG =ΔH-Δ(TS)

=ΔH-(SΔT+TΔS)

温度を一定と考えているのでΔT=0 であるから

ΔG =ΔH-TΔS (39)

この式(39)を書き換える

ΔH=ΔG + TΔS (39rsquo)

ここで定圧過程ではエンタルピーを次のように式(29)で定義できた

ΔH =ΔU + PΔV (29)

式(29)の意味するところを復習すれば

系のエンタルピー変化ΔH は内部エネルギーの変化量と系が外部に

した仕事量の和として表される

これは

定圧過程で系が得るエネルギー量から仕事量を除いたもの

と言い換えることができるエンタルピー変化量は化学反応などの過程で

始めと終わりの2つの状態の差であるからそれが正の値を示す(>0)なら

系のエンタルピーは増加することを意味しその過程が進行するためには系

の外部からエネルギーが供給されなければならない

一方式(39rsquo)の右辺第2項TΔS はエントロピーの定義(32)より

TΔS = Q (40)

であるのでこれは可逆過程で系に供給される熱量を意味する

30

もしエンタルピー変化量が負の値を示す(<0)ならば系のエンタルピー

は減少しその過程が進行することによってエネルギーが取り出せるすなわ

ち式(39)(40)から次のようにこれら3つの状態量を改めて説明する

ことができる

ある化学反応が定圧で可逆的に進行するときそれから取り出せる

エネルギーのうちΔG を仕事として放出し熱量 Q を放出する

標準状態29815K(25)1atm で標準物質からある化合物を合成すると

きの反応熱(発熱あるいは吸熱)をその化合物の「標準生成エンタルピー」

として定義した同様にある物質に対する「標準生成ギブス自由エネルギー」

はこの標準状態で標準物質からその化合物を化学反応で生成するとき式(3

9)によって与えられる変化量をいう

電池における化学反応のギブス自由エネルギー

先にダニエル電池の亜鉛板側に対する電極反応を検討したとき電極反応が

仕事として放出するエネルギーを表現する重要な式があった次の式(17)

である

W = n FV (17)

ギブス自由エネルギーを用いて今これは次のように書くことができるように

なった

W = n FV=-ΔG (41)

この式が表していることを実際に水素の燃料とする燃料電池の反応過程で見

てみよう燃料電池の図を再掲する

図中右にある陰極では水素の酸化反応が起きる

H2 rarr 2H+ + 2e- (5)

一方図では左にある陽極において次の還元反応が起きる

12 O2 + 2e- rarr O2- (6)

O2- + 2H+ rarr H2O (8)

全体の反応はすでに示したように次の反応式(7)で示される

H2 +12 O2rarr H2O (7)

31

標準状態における可逆的仕事は式(41)であらわせ

n FV=-ΔG (41rsquo)

このΔG は式(39)であらわせた

ΔG =ΔH-TΔS (39)

すなわち標準状態29815K(25)1atmにおいてある化合物を標準物

質から合成するときの標準生成ギブス自由エネルギー変化ΔG゜は標準生成エ

ンタルピー変化ΔH゜とその温度におけるエントロピー変化TΔSの差で求ま

るこれらは燃料電池の全反応を表す式(7)で与えられる

標準生成エンタルピーΔH゜変化とエントロピー変化はすでに一般的な元

素やその化合物に対して表が作成されている

液体の水に対する標準生成エンタルピーΔH゜(H2O)は

ΔH゜(H2O)=minus 28583 KJmol

また水素ガスと酸素ガスはそれぞれの元素の標準物質であるので生成エ

ンタルピー変化はゼロである

32

そこで式(7)での水を1モル化学合成するときの標準生成エンタルピーΔ

H゜は水素(ガス1モル)と酸素(ガス12 モル)の2つの材料と水(液

体251atm)の両状態における状態量の差として表される

ΔH゜=ΔH゜(H2O)-ΔH゜(H2) -12ΔH゜(O2) (42)

式(42)の右辺第2項と第3項がゼロであるので

ΔH゜=ΔH゜(H2O) =-28583 KJmol (43)

標準状態29815K(25)1atm における水素(ガス)と酸素(ガス)お

よび水(液体)のエントロピーはそれぞれ

ΔS(H2O)=6991 JKmol

ΔS(H2) =13068 JKmol

ΔS(O2) =20514 JKmol

単位で分母のKはケルビン温度の意味

と計算されているので

ΔS=ΔS(H2O)-ΔS (H2) -12ΔS(O2) (44)

=6991-13068-12times20514

=-16334 JKmol

したがって

TΔS=29815times(-16334)=-486998=-4870 KJmol

(45)

そこで標準生成ギブス自由エネルギーΔG゜は式(39)から

-ΔG゜=-(ΔH゜-TΔS) (39)

=-{-28583-(-4870)}

=+23713 KJmol

33

すなわちこのエネルギーを電気エネルギーとして取り出すことができるそ

の起電力は式(41rsquo)から

n FV=-ΔG (41rsquo)

V= -ΔG(n F)

各数値を当てはめれば

V=237130(2times96485)

=1229 volt

先に【化学反応と電気エネルギー】のところで記したとおり25の基準

状態におけるこの電極電位はE゜=+1229 volt が得られているすなわち

こうして標準生成ギブス自由エネルギーから計算することでも同じ値を得る

ことができた

水素を単純に酸素と化合させる燃焼では式(43)で示されるエンタルピ

ーが発生する熱量を示している水素1モルあたり28583 KJである電池

にすれば水素1モルあたり23713 KJの仕事量が電気エネルギーとして取り

出すことができるその差は電池の場合熱が発生して利用できない

化学反応の過程を利用して化学エネルギーから直接電気エネルギーに変換す

るのが電池という装置であるが化学エネルギーは100電気エネルギ

ーに換えることはできないこのようにエネルギーの一部は電池の熱として

発散してしまう

理想気体の状態方程式

ギブス自由エネルギーΔG を定義した式(39)とエンタルピーΔH の定義

式(28)から

ΔG =ΔH-TΔS (39)

ΔH =ΔU +VΔP+ PΔV (28)

そこで次式が得られる

34

ΔG =ΔU+VΔP+ PΔV-TΔS (46)

またエネルギー保存則から得られた式(26)を応用すればギブス自由エ

ネルギーが変形できる

Q =ΔU+PΔV (26)

から

ΔU=Q-PΔV (47)

したがって式(46)は

ΔG = Q-PΔV+VΔP+ PΔV-TΔS

ΔG = Q-TΔS+VΔP (48)

エントロピーの定義からQ=TΔSであるから結局式(48)は

ΔG = VΔP (49)

と表すことができる

成分が混合された気体分子の分子間に働く力をゼロと仮定した「理想気体」を

考えるとき状態方程式としてボイルシャルル(Boyle-Charles)の法則が

利用できる

PV=nRT (50)

ここでnは気体のモル数PVT はそれぞれこれまでと同じ圧力体積温度(ケルビン温度)でありR は気体定数と呼ばれるもので次の値を持

R= 831441 JmolK (51) 単位で分母のKはケルビン温度の意味

35

状態方程式から式(49)の右辺を導くことを考えてみよう式(50)は

1モルの気体について V に対し次のように変形することができる

V 1

PRT (50rsquo)

両辺に圧力の微小変化量⊿P をかけると

PP

RTP V (52)

これを微分方程式として圧力p0 からp1 まで(p0≦p1)積分するなら

1

0

1

0

1

0

1p

p

p

p

p

pdP

PRTdP

P

RTdPV (53)

関数 f(x)=1x を積分したときの関数はF(x)=ln(x)であるので(ln は e を底

とする自然対数loge)

右辺=0

1ln)0ln()1ln(p

pRTpRTpRT (54)

ギブス自由エネルギーを表す式(49)は次のようであったから

ΔG = VΔP (49)

式(52)から得た式(54)を当てはめると状態G0(p0T)からG1(p1T)

へ変化する過程で圧力が p0 から p1 まで変化するものとして

dGG0

G1

G( p1T ) G(p0T ) RT lnp1

p0 (55)

あるいはこれを書き直して

V

36

G(p1 T) = G( p0T ) + RT lnp1p0

(56)

特別にG0(p0T)を標準状態T=29815K(25)p0=1atmに指定する

なら標準生成ギブス自由エネルギーを記号G゜として (56rsquo)

と表すことができる

式(56rsquo)の意味するところは標準状態から圧力の変化を伴う過程で理

G(p1 T) = Go + RT ln p1

想気体のギブス自由エネルギーは圧力の対数に比例して上昇することである

このことはさらに新しい着想を生む

すなわち水素を燃料とする上の燃料電池で1atm 標準状態の水素ガスの圧力

を2atm に上げれば式(56rsquo)からRTln2 余分にギブス自由エネルギー

が取り出せることになる

燃料電池において起電力を生むエネルギーは隔壁を水素イオンもしくは酸

素イオンが浸透しようとする力であるので1atm の水素ガスと2atm のそれで

は浸透しようとする圧力が異なりここに起電力が生じる

式(56)の第二項が圧力の差による仕事であるからこれをΔG とすれば

W=-ΔG の仕事量が電気エネルギーとして取り出せるはずである

W = minusΔG = minusRT lnp1p0

(57)

起電力に換算するために式(41)を使うと

W = n FV=minus ΔG (41)

から

01ln

pp

nFRTV ⎟

⎠⎞

⎜⎝⎛minus= (58)

この式(58)は一般にネルンスト(Nernst)の式と呼ばれる

37

理想溶液のギブス自由エネルギー

理想気体を想定したように無限に希釈された混合溶液に対して理想溶液を仮

定する「系」の圧力温度を一定に保つならば体積内部エネルギーエンタ

ルピーギブス自由エネルギーなどの示量数は混合溶液を構成する物質のモ

ル数mに比例するたとえば標準状態にある物質の1モルの体積をVとすれば

mモルの体積はそのm倍mVであるそうすると溶液中のi番目の成分がmi

モル「系」から「外界」に仕事をするときその成分iの持つ自由エネルギーの

mi倍の仕事が「外界」になされると考えればよい

この溶液成分のモル数と化学的仕事を結びつける示強因子がギブスによって

化学ポテンシャルと名付けられ一般に記号μが用いられる

化学ポテンシャルはこれまで見たようにギブス自由エネルギーで表される

また電位がψ(プサイ)にある系から-Δeの電荷が放出されるときには

-ψΔeの電気的仕事が得られるそこで記号μに両者を合わせた意味を持

たせて「電気化学ポテンシャル」と呼ぶ

概念の上で物質は電気化学ポテンシャルの高い方から低い方へ勾配にした

がって移動する

理想気体の標準状態が気体分圧を T=29815K(25)で 1atm としたのに対

し溶液成分の標準状態はその分圧に相当するモル数 m を用いるすなわち

標準状態にある成分 i の電気化学ポテンシャルμ0iは成分の持つ電荷(H+なら

1)を n として

μ0i = G i゜+nFψ i (59)

ギブス自由エネルギーは式(56rsquo)を借り理想溶液中の成分に対しては気

体圧力をその成分のモル濃度Cに書き換えればよいそこで

G(CT ) G RT lnC (60)

と表すことができる

したがって一般的な成分 i の電気化学ポテンシャルμiを表す式は標準状態

からの自由エネルギーの変化を考え式(59)と合わせて次のようになる

38

ψnFGii 0

式(60)から

ii CRTGTCGG ln)( 0

よって

(61) ψnFCRT iii ln0

実際的なことを考えると成分濃度はその有効イオン濃度とする必要があり

「活量係数」γを導入して次式で表されるイオン活量aを用いる

ai = γCi (62)

一般的にはγ=1と近似してモル濃度Cを使っているこのテキストでも

必要ではない限りイオン活量を用いることを省略して簡単に記述したい

膜電位

燃料電池に使われたナフィオンのような一つのイオンを通す膜を介して膜

の両側にC0 とC1 のイオン濃度差がある溶液が接するときの電気化学ポテン

シャルを考えよう

ある容器の底にナフィオン膜を取り付け容器の中と外のイオン濃度をC0

とC1としそれぞれの電気化学ポテンシャルをそれぞれμinとμoutとする

式(61)を使って

容器の中の電気化学ポテンシャル

(63) innFCRTin ψ 00 ln

容器の外の電気化学ポテンシャル

(64) outout nFCRT ψ 10 ln

イオン浸透性の膜を介して濃度変化が無視できるほどの移動があると考え

その電気化学ポテンシャルの差を式(63)(64)から求めれば

39

)(ln0

1 inoutinout nFC

CRT ψψ (65)

この系において今注目しているイオンが膜を介した両側で平衡状態にある

とき式(65)はΔμ=0と考えることができるすなわち

0)(ln0

1 inoutnFC

CRT ψψ

膜内外の電位差をΔψ=ψoutminus ψinとすれば

1

0

0

1 lnlnC

C

nF

RT

C

C

nF

RTψ (66)

式(66)は理想気体に対するネルンストの式(58)と同様溶液中のイ

オンに対するネルンスト(Nernst)の式として与えられる

細胞の膜においてもその生体膜の内外でたとえばカリウムイオンのように

非対称に分布して平衡に達している場合には式(66)で与えられる膜内外

で電位差が生じるこれは一般に膜電位と呼ばれる膜電位は平衡電位とも

呼ばれる

たとえば膜内外に1価のカリウムイオンに10倍の濃度差があるとすると

通常カリウムイオンは細胞内の濃度が高いので

C0 = 10timesC1

であるから

これを式(66)に当てはめてln(10)=2303 を用いlog への変換をすれば

Δψ=2303times(RTF)timeslog(10)

であるこれに R=831441 JmolKF=96485 CmolT=29815 K(25)

の各数値を当てはめると

Δψ=2303times831441times29815times196485 JC

=+005917 volt

すなわち膜の内外で約+60ミリボルトの膜電位が生じることになるこの

分だけ細胞の外側の電気化学ポテンシャルが高く膜の内側の膜電位が負であ

るそして膜にあるカリウムチャネルがこの電位を示すとき受動的なカリ

40

ウムの膜内外の移動は平衡に達することになる

水素イオン濃度測定

「標準水素電極」は1モル塩酸溶液につけた白金電極に1atm の水素ガスを

吹き込んで平衡状態に達したときの電位を基準としてゼロボルトと規定した

そこである溶液についてその水素イオン濃度を知ろうとするとき同じ水

素電極を用いることを考えれば標準状態にする目的で用いた1モル塩酸溶液

を濃度未知で X モルの塩酸溶液と想定すればその水素イオン濃度を知るこ

とができるだろうか

標準状態ではない X モルの塩酸溶液に浸けた白金電極が半電池として働くこ

とは間違いなさそうであるしかしその白金電極が持つ電極電位を測定する

にはいずれにしても標準電極と組み合わせて「電池」を構成しその電池

の起電力として計る必要がある電池を作れば起電力を知ることができ相

手の半電池の電極電位が知られていれば濃度が未知でXモルの溶液について

その水素イオン濃度を知ることができるだろう

こうした目的のためにいちいちゼロボルトと規定した標準水素電極を用いる

のは煩雑なのでしばしば後出の「銀塩化銀電極」が参照電極として用いら

れる

まず予め「銀塩化銀電極」を標準水素電極と組み合わせて電池とし一度

その起電力を測定しておけば後はいつもそれを標準電極として利用できる

「銀塩化銀電極」の半電池は

H+ (1 moll) Cl- | AgCl | Ag(s)

これに「標準水素電極」を組み合わせ電池を構成すると次のような電池

になる

Pt(s) | H2(g) | H+ (1 moll) Cl- | AgCl | Ag(s)

この電池の起電力を知れば「銀塩化銀電極」の半電池としての電極電位

を知ることができ参照電極として未知の半電池と組み合わせて起電力を測

定して相手の電極電位を計算できる

41

濃度 X モルの塩酸溶液を未知の溶液と想定すればその電極電位を知るために

組み立てる電池は次のようになる図10にその電池の図を示した

Pt(s) | H2(g) | H+ (x moll) Cl- | AgCl | Ag(s)

この電池の全反応は次の反応式で表される

AgCl(s) 1

2H2 (g) H Cl Ag(s) (67)

図10未知溶液の水素イオン濃度を測定しようとするための電池

化学反応の一般的な式

ここで電池に利用される化学反応から得られるエネルギーをギブス自由エ

ネルギーに換算し起電力を具体的に知る手だてとすることは上ですでに学

42

んだがより一般的な式を再度ここに書きだしておこう

化学反応が紙面で左から右に進む反応として次のような一般式で与えられ

るとき

aA + bB rarr cC + dD (68)

ギブス自由エネルギー変化量は標準状態ΔG゜からの変化量を加える形で式

(60)と同様次の式によって表される

G G RT(ln aCc aD

d ln aAa aB

b )

G RT ln

aCc aD

d

aAa aB

b (69)

aAは成分 A のイオン活量であるその他の成分も同じ

得られたエネルギーを電気エネルギーに換えるなら式(41)に習って

次式で表せば

ΔG=-n FV

there4V=-ΔG(nF) (70)

このときの起電力は標準状態における電位 E゜からの変化量として次式で与

えられる

E E

RT

nFln

aCc aD

d

aAa aB

b (71)

標準状態における起電力 E゜は反応が平衡状態にあるときで反応平衡定数

を K とするなら

K aC

c aDd

aAa aB

b (72)

で表されるそこでE゜は次のように書き改めることができる

43

E

RT

nFln K (73)

そこで式(67)で表される図10の電池「水素minus 銀塩化銀電池」に

対する起電力をギブス自由エネルギーから求めてみよう

反応から式(71)に当てはめれば

E E RT

Fln

aH

1 aCl

1 aAg1

aAgCl1 aH2

1

2

(74)

力学の慣例にしたがって固体の純物質の活量は1として扱い水素ガスを

想気体として見なして活量を1atm とするなら式(74)は次のよう

に簡略化される

E E

RT

Flna

H aCl (75)

ころで理想溶液として近似的に取り扱うときの希薄溶液でたとえば水素

入して詳細に検討するなら式( れる起電

オン濃度はイオン活量として aH+の記号を使うときすでに【理想溶液のギ

ブス自由エネルギー】の章で述べたようにこれを有効イオン濃度とする必要

がありイオン活量 a は「活量係数」γを導入して次式で表した

a H+= γH+CH+ (62)

この活量係数を導 75)で誘導さ

を計ることによって経験的に試料溶液中の水素イオン濃度を求めることは

困難である式(75)にあるイオン活量の項はモル濃度 C と活量係数γを

用いて次式で書き改められる

lnaH aCl

lnCH CCl

lnH Cl

(76)

まり式(76)右辺の第二項において互いに相手が知られなければ自分

決めることができず結果的に起電力を知っても(75)の値から水素イオ

ン濃度を導けないここに工夫が必要になる

44

の定義とその目盛り

液中の水素イオン濃度を直接意味するものではなく

を定義するとき測定されるのは1リットルの溶媒に存在す

pH = -log a H+ = -log(γH+CH+) (77)

際に試料溶液の pH を決定する際はpH 標準液を用いる

に溶液を入れ試料溶液 X と pH 標準液 S を

参 極を接続し電池を作成しその起

pH

現在pH の定義は溶

で述べたようにそれが簡便に測定できるものではないため次のように定

義されている

水素イオン濃度

水素イオン活量であるため定義式としては活量係数をγH+として次式で与

えられる

その要領は次のようである

上に図示した水素電極の容器内

れぞれ半電池(I)と(II)に入れる

半電池(I) Pt | H2 (1 atm) | 試料溶液

半電池(II) Pt | H2 (1 atm) | 試料溶液S

照電極として上図のごとく銀塩化銀電

電力を測定する半電池(I)のときの起電力を E(X)半電池(II)のそれを E(S)

とするこのとき試料溶液Xの pH は次式で計算される

pH (X) pH(S) E(S) E(X)

RT ln(10) (78)

ln(10)は自然対数を常用対数に戻すための定数で2303 を用いる

標準液

pH 標準液 S はpH 第一次標準液第二次標準液と呼ばれるべき

る測定

25で pH 4005 を示す

pH

上述した

のであり絶対的測定法である起電力の測定によって値をつける

標準液は安定で純粋な結晶が得られる試薬を調整してこれを測定す

上と同様に水素電極を用いこれに緩衝液を入れる参照電極として銀

塩化銀電極を接続して電池の起電力を測定する

たとえば005 moll フタル酸水素カリウム溶液は

一次標準(Primary Standard PS)の一つである半電池(III)として水素

45

電極を次のように準備する

半電池(III) Pt | H2 (1 atm) | PS 溶液

て電池を形成したとき得られる起電

参照電極として銀塩化銀電極を接続し

は式(75)から

E E

Ag AgCl RT

Flna

H aCl (79)

オン活量を濃度と活量係数の積(a H+= γH+CH+)にし自然対数を常用対数

すれば

E E

Ag AgCl RT ln(10)

F log(

H + CH+ Cl- CCl - ) (80)

E゜は水素標準電極(水素ガス分圧を1atm電極を浸ける溶液に001 moll

H

Cl を用いる)で得た起電力である

式(80)から

RT ln(10)

Flog(

H CH Cl

) (E EAg AgCl )

RT ln(10)

Flog C

Cl

(81)

らに

log(

H CH Cl

) F

RT ln(10)(E E

Ag AgCl ) logCCl

(82)

ころで式(77)から

(γH+CH+) (77)

-log a H+ =-loga H+-log(γCl-) +log(γCl-) =-log(a H+γCl-) +log(γCl-)

(83)の一番右の式で第一項は

pH = -log a H+ = -log

であるが右の式をさらに変形すると

(83)

46

-log(a H+γCl-)=-log(γH+ CH+γCl-) (84)

たがって式(82)の右辺で示されるように電池の起電力を測定すれば

よ 実際には溶液の塩素イオン濃

液で起電力を求め外挿する

起電

これによってpH を意味する式(83)は次式(85)で与えられる

p(aHγCl)はRG Bates によって Acidity Function と呼ばれている

らに式(85)最終項の log(γCl-) を補正しなければならないこの項は

本工業規格)によっても

であってこれは式(82)の左辺である

いただし塩素イオン濃度の項があって

をゼロにしたときの値が必要である

実測する際には塩素イオン濃度をゼロにできないので塩化ナトリウム NaCl

等を濃度を変えて添加しその時々の緩衝

勧告ではNaCl で 000500100015moll の3つの濃度を例示している

すなわち塩素イオン濃度ゼロのときの値は各塩素イオン濃度に対して

の値をそれぞれプロットしグラフから塩素イオンがゼロのときの起電力の

値を3点に対する回帰直線の延長で外挿して求めるこの点を次のように書

log( C H H Cl CCl

0

pa log( C log( (85) H H H Cl C

Cl0 Cl

)

素イオンの活動係数で与えられる補正項である

無限希釈溶液中のイオンの活動係数は理論的に Dubye-Huckel の式を用い

近似的に求めることが可能であるこれはJIS(日

用されていて Bates-Guggenheim の規約と呼ばれる (Bates RG

Guggenheim Pure Appl Chem 1 163-168 1960)

Dubye-Huckel の式は次のように与えられる

log A I

i 1 iB I (86)

47

I iについてそのモル濃度

計算される

はイオン強度でイオン mi と電荷 zi から次式で

I 1

2mizi (87)

また iは(86)式のBは温度と溶媒の性質による定数であり イオンの大

きさに関するパラメータで水和イオンの大きさとほぼ一致した値をとる標

準法の勧告では塩素イオンに対しイオンの大きさを46Åと決めてiBを

1

5 にしているそこで式(84)は次のようになる

ClA I

log 1 15 I

イオン強度 I は塩素イオン濃度を含まない計算となる

以上の方法によって実用的な pH 測定に用いられる第一次第二次標準液の

pH の値が得られる

絶対値としての

はpH の絶対測定法(第一次標準測定法)とされている

銀塩化銀参照電極は分極現象を防ぐために棒状の銀を塩酸で処理し表

に塩化銀を生成させたものを飽和塩化カリウム溶液につけてある

(88)

参考現在は実験的に求めた値と理論値の組み合わせで

素イオン濃度を求める方法を規定しているこの起電力から水素イオン濃度

を知るための測定方法

Buck RP Rondinini S Covington AK Baucke FGK Brett CMA Camoes MF

Milton MJT Mussini T Naumann R Pratt Kw Spitzer P Wilson GS

Measurement of pH definition standards and procedures Pure Appl Chem

74(11)2169-2200 2002Kristensen HB Salomon A Kokholm GInternational

pH scales and certification of pH Anal Chem 63(18) 885A-891A 1991)

銀塩化銀参照電極

電極の構成は

Cl-(aq) | AgCl(s) | Ag(s)

48

この半反応は次のようになる

AgCl(s) + e- rarr Ag(s) + Cl- (89)

の反応は次の2つの反応に分けて考えることができる

Ag+ + e- rarr Ag(s) (91)

AgCl(s)rarr Ag+ + Cl- (90)

図11銀塩化銀参照電極

(90)における銀 る塩素イオンによって左

されることが推測される

そこでカッコ [ ] をそれによって囲まれるイオンの濃度を表すことにし

式 イオン Ag+の溶解性は共存す

塩化銀の乖離定数Kを考えると

49

K = [Ag+][Cl-] (92)

これから

[Ag+]= K[Cl-] (93)

化カリウム溶液に漬けた銀塩化銀電極の電位 E は水素標準電極に対する

電 で与えられる

位を E゜として次式

E E

RT

nF

[ Ag ]

[Ag(s)]ln( )

Ag(s)のイオン活量は常に1とする

ここで半反応の電極電位を求めるために式(75)を利用することにすれば

(94)

熱力学の慣例にしたがって純物質個体

E E

RT

Flna

H Cl a (75)

式 の半反応をみると

応で電子1つが移動するので n=1 とするR=831441 JmolK1F = 96485

C はめれば

これに銀イオンの濃度として式(93)を当てはめる

この反応で移動する電子は (89) 銀イオン1つの反

molT=29815K(25)ln(10)=2303などの定数を当て

2303RTF = 005917

であるから(94)式は次のように表現できる

log[Cl]) E E 005917(logK (95)

たがって標準水素電極に対する銀塩化銀参照電極の標準状態における電

位 は半反応(89)に対して ゜=+0799で

化銀の乖離定数 K は182times10-10 であるのでその対数を取れば-973993

0799-005917times973993-005917log[Cl-]

E゜ E ある

ある

そこで式(95)は

E =

50

= 0799-0576-005917log[Cl-]

= 0223-005917log[Cl-] (96)

電極電位の関係について実測値

こうして求めた塩化カリウム溶液の濃度と

計算上の値は次のようである

KCl moll vs SHE volt25 計算値 volt25 01 02881 02822 35 0205 01908 飽和 0199 minus

実用 測定

実際の現場で水素イオン濃度を測定する目的の測定法で上のような2つの

極が同じ溶液に浸かっていたのでは試料溶液を交換するにも便利ではない

の容器に入れる未知試料溶液と銀塩化銀電極を隔離する

的な pH

そこで水素電極側

的で二つの電極容器をつなぐ液絡部をグラスフィルターやセラミック板

飽和塩化カリウムで作成したゼラチンなどの塩橋によって隔離遮断するこ

れを液絡部とよぶ

電池として機能するために必要な溶液イオンの交換はこの液絡部で行う

組み立てる電池は電池式で次のように表される

Pt(s) | H2 | 試料 (H+ x moll) || 飽和 KCl | AgCl | Ag(s)

の標準電極と銀塩化銀電極とは区切られていて溶液の直接の接触がない

とを意味するために電池式ではタテ二重線を用いる銀塩化銀参照電極

の容器には飽和塩化カリウム溶液が入れられる

51

図12液絡部のある pH 測定のための電池

この液絡部のある電池では塩橋を記号lsquo | | rsquoで表して次のように記す

試料 (H+ x moll) | | 飽和 KCl

ここでは試料溶液と飽和塩化カリウム溶液の異なる2液が接している

このような界面では膜電力が生じるのと同様「液間電位差」が生じることが

知られているしたがって上の電池で測定される起電力 E は

E = E[銀塩化銀電極電位]+E[液間電位]+E[水素電極電位]

で与えられることになってE[液間電位]のために図12の電池の起電力

は銀塩化銀参照電極の値を知っていても水素電極容器内に入れた未知溶

液の水素イオン濃度を正しく知ることができない

52

そこで実用的な測定法としてこの E[液間電位]を膜電位として積極的に利

用する方法が工夫されたすなわち水素イオンに感応するガラス薄膜を用い

るガラス電極法である

53

ガラス電極

ガラスはケイ素原子と酸素原子からなる SiO4 の結晶構造を持ち酸素で囲

まれた空隙があって水素イオンがそれを埋めることができる

この性質によってガラス膜表面は水溶液中の水素イオンに応じて膜電位を

変化させるのでこれを水素イオン濃度測定用の電極として利用することが考

えられるこれが通常用いられるガラス電極である

ガラス電極は標準電極と組み合わせれば電池を構成することができこの電

池の起電力を知ってガラス薄膜の内外にできたイオン濃度勾配を知ろうとす

るものである

薄いガラス膜(01mm程度)をはさんで接する2つの溶液のH+イオン濃

度が異なるとその差に応じてガラス膜の両側に電位差(Eg)が現れる

ネルンストの式でガラス電極の内部に入れた既知の濃度のH+([H+]in)に対

し試料中の水素イオン濃度が[H+]sampleのとき次の電位を生じる

)][

][log(059170)

][

][ln(

sample

in

sample

ing

H

H

H

H

F

RTE

(97)

図13ガラス電極

電極を構成するのは銀塩化銀電極と同じ電極で用いる塩溶液は一般的

54

に 01モル塩酸溶液である

この半電池の電池式は次のように書くことができる

Ag(s) | AgCl(s) | HCl (01 M) | ガラス薄膜 || 試料溶液 H+ (x moll)

Eg

この半電池の電極電圧を測定するために銀塩化銀標準電極と組み合わせ

電池を作って起電力を計る

構成される電池は下図のようになる

ガラス電極 銀塩化銀標準電極

図14ガラス電極を用いた pH 測定用の電池

この電池の起電力は次の各半電池の平衡電位を合わせたものになる

55

E1ガラス電極の内側電位

Ag(s) | AgCl(s) | HCl (01 M)

Egガラス薄膜の内外に生じる膜電位

HCl (01 M) | ガラス薄膜 || 試料溶液 H+ (x moll)

E2液間電位(膜電位)銀塩化銀標準電極のセラミックを介した試料溶液

と銀塩化銀標準電極の内部液(飽和 KCl 溶液)の間に発生する電位

試料溶液 H+ (x moll)|| セラミック | KCl(飽和)

E3銀塩化銀標準電極

KCl(飽和)| AgCl(s) | Ag(s)

pH メーター用のガラス電極に使われるガラス薄膜は水素イオンに感応して

膜電位(Eg)を生じるこれは【膜電位】の章で記したように薄膜がある

一つのイオンのみを通過させる特性を持っている場合にイオンが膜を介した

両側で平衡状態に達したとして電気化学ポテンシャルを膜の両側で等しいと

考えてそのイオンが濃厚な側から希薄な側にその差によって圧力を生じると

するものである

一方同じ試料溶液が銀塩化銀標準電極のセラミック液絡部を介して生じ

るだろう液間電位(膜電位E2)はいま関心がある水素イオンに対して特異

的に感応するのではないので試料溶液の水素イオン濃度に関係なく一定と見

なすことができる

すなわちpH メーターを構成する電池の起電力 E は

E = E1+Eg+E2+E3 (98)

このうちEg以外は一定と見なせるので

E1+E2+E3 = E

として式(98)を書き直すと

)][

][log(059170

sample

ing H

HEEEE

(99)

Eは標準液によって校正されるべき標準電極電位である

56

電極の校正

実際のイオン濃度を測定する場合低濃度標準液と高濃度標準液で得られ

る起電力を測定し計測のイオン濃度に対する係数(傾き)を求めておき未

知の試料に対して起電力を測定してそのイオン濃度を算出する方法が採られる

低濃度標準液と高濃度標準液のそれぞれの濃度をCLとCHとすればそれぞ

れの起電力ELとEHは次式で表される EH = E +β logCH (100)

EL = E +β log CL (101)

ただしβは式(99)の係数を簡略にしたものである

式(100)と(101)から検量線の傾きが次式で表せる

ΔE = EH minus EL = β(logCH minus logCL) = β logCH

CL

(102)

したがって係数βは

β =ΔE

log CH

CL

(103)

であらわされる

このときに使われる標準はすでに前出の pH 第一次標準第二次標準溶液で

ある

金属イオンに対応するイオン選択電極

現在臨床検査で日常的に使われている電解質測定のための電極はナトリウ

ムカリウムカルシウムクロールなどおよそ臨床的に必要な金属イオン

に対して入手可能である

カリウムイオン測定用のバリノマイシンの発見によってクラウンエーテルと

57

呼ばれる一連の化合物が知られたクラウンエーテルはその分子の中心に立

体的な空間を持ち特定のイオン径に対し合致するのでそのイオンに対して

選択的に感応するこれらの化合物はイオノフォアと呼ばれる

図 15クラウンエーテル

1つの金属イオンが環状化合物

15-crown-5 の中央にある空間を充填

している模式図

15-crown-5 の構造を作る10個の黒

い丸は炭素炭素2個のつながりごと

にある中心の白い丸は酸素酸素と

金属イオンの間の距離はおよそ 22~

23Åであるカリウムのファンデン

ワールス半径は 135Åイオン半径は

15~16Åである

測定したいイオンに対しポリ塩化ビニル(PVC)を支持体としてイオノフ

ォアを添加した液膜の電極膜を作成しこれをガラス電極におけるガラス薄膜

と同様試料に接する電極膜として用いるこの構造から一般的に液膜型電極

と呼ばれる電極膜には特異性を高めるため妨害イオン排除剤などが添加

される

pH メーターと同様銀塩化銀標準電極と組み合わせ電池を形成しその

起電力を計る測定したいイオンが液膜に対して内外で平衡に達したときの

膜電位を測定するのはガラス電極と同じである

カ リ ウ ム イ オ ン に は Bis[(benzo-15-crown-5) ( 正 式 名 は

Bis[(benzo-15-crown-5)-4-methyl]pimelate)ナトリウムには Bis[(12-crown-4)

やDibenzyl-bis[(12-crown-4)などがイオノフォアとして用いられる

58

図16カリウムイオン測定用に使われるクラウンエーテル

図17ナトリウムイオン測定用に使われるクラウンエーテル

59

参考イオン選択電極に関する文献Xia Z Badr IHA Plummer SL Cullen L

Bachas LG Synthesis and evaluation of a bis(crown ether) ionophore with a

conformationally constained bridge in ione- selective electrodes Anal Sci 14(2)

169-173 1998 Oh K-C Kang EC Cho YL Jeong K-S Y oo E-A Paeng K-J

Potassium-selective PVC membrane electrodes based on newly synthesized

cis- and trans-bis(crown ether)s ibid 14(10)1009-1012 1998 Dojindo WEB

site httpwwwdojindocojpwwwrootproductsjinfo2protocolp31pdf

<補遺> 60

補遺 状態関数 (本文 p21 10 行目参照)

一つの平衡状態にある系 A とこれに接する系 A にとって外部である系 B について系 B

から系 A に熱を与えこれによって系 A が他の平衡状態に移ったとき系 A はその結果とし

て膨張し系 B に対し仕事をする

このときの微少な熱量の移動を記号drsquoQ またなされた微少な仕事をdrsquoW とすると

系Aの内部エネルギーに関する微少な変化drsquoUA は両者の和として表される

WdQdUd A primeminusprime=prime (a-1)

この式 a-1 と本文中の式25との関係について

WQU A Δminus=Δ 本文(25)

<補遺> 61

式 a-1 と式25の記号の違いは変化の起きる前の平衡状態 S1 から変化後の平衡状態 S2

に状態変化があったとするなら式 a-1 を積分することで式25が得られるものと考えて区

別している

A

S

S A UUd Δ=primeint2

1 (a-2)

このことは重要であるすなわち内部エネルギーU は変化の起きる前後の状態を指定する

ことによって値が定まることを意味するこのように積分によって値を定めることが出来る

のでdrsquoU は完全微分であるという

内部エネルギーのように系の状態だけで値の定まる量を状態関数として扱う

一方式 a-1 のdrsquoQ drsquoW についても同様に微少の変化量を表しているが平衡状態 S1

から S2 への経路を指定しなければ積分の値は定まらない

本文中の記号にしたがって仕事量ΔW を次のように表すことにする

VpW Δ=Δ 本文(20) V

<補遺> 62

体積と圧力の関係を表す図を使ってこの仕事量が意味することを考える圧力 prsquo の下で

体積が V1 であるときを状態 S1 として圧力一定の下で体積を V2 まで膨張させるような変

化を行った後体積を等しく保って圧力を p にまで上げたときの状態を S2 とするこのとき

の仕事量は膨張に伴うものであるから図の体積‐圧力線の下の面積で示すことができる

平衡状態 S1 から S2 への変化の道筋を別にたどってみよう

新しい経路では圧力を先に p まで上げた後に膨張変化させている

図から直感的に明らかであるので数式での扱いを省略するが2 つの経路による仕事量には

差がある

すなわちdrsquoW は drsquoU と異なり変化の初め S1 と終わり S2 の状態が与えられても積分値

は定まらず変化の経路によって違ってくる

このように変化の経路を指定しなければ積分値が定まらないものを不完全微分と呼び扱

いを区別する

本文 p21 へ戻る

<補遺> 63

VpW

WQU

VpQU

VpUQ

1122 SSSS pVUpVUQ

pVU

VpUHHHQ SS 12

エンタルピー (本文 p24 20 行目参照)

本文中の式 20 および 25 から一定の圧力の元で起きる状態変化において内部エネルギー

の変化量に対する式 a-3 を得る

本文(20)

本文(25)

(a-3)

式 a-3 を Q について書き直す

(a-4)

状態の変化が平衡状態S1から平衡状態S2に移ったものとして式 a-4を丁寧に書き直すと

(a-5)

並び替えて

(a-6)

式 a-6 を見ると定圧過程における熱量の流入は

(a-7)

の形を持つ関数の差であることが分かる

一般に化学反応のような変化の過程では大気圧の下で行われるようなものに興味がある

そこで式 a-7 で与えられる項を一つの関数として定義するこれをエンタルピーと呼び記

号 H を与える式 a-4 はエンタルピーの変化量で次のように書き改められる

(a-8)

圧力が一定の下で起こる状態変化について流入する熱量は式 a-8 で示されるようにエンタ

ルピーの変化量に等しい

V

V

V

V V

V

V

1212 SSSS VVpUUQ VV

<補遺> 64

1Q

We

また式 a-8 からオートクレーブ内で起こるような体積変化のない過程ではこの値が内

部エネルギーの変化量で与えられることが明らかである

本文 p24 へ戻る

エントロピー (本文 p26 17 行目参照)

エントロピーは次のような思考実験から発想された仮想的な状態関数である

理想気体よりなる系 A が温度 T2で熱平衡状態にあり温度 T1の外部の熱源と接しているこ

とを想定する系 A の外部を系 B と呼ぶことにするT1は T2に対して無限小だけ高い温度と

する

系 A が系 B に対して温度圧力について平衡を保ちながら緩慢に系 B より熱量 Q1を受け取

る過程を考える(このような過程を準静的過程と呼ぶ)これによって系 A が熱量 Q1を得て膨

張するとき系 B に対して仕事をする続いて系 A から熱量 Q2が系 B に戻ることを考える

想定されるこの変化が可逆的であれば系 A と系 B を併せた全体は元の状態に戻る蒸気機

関に関するこのような研究が Nicolas Carnot によってなされたのは1824 年のことであった

ここに想定されたサイクルに対する Carnot の効率 e は移動した熱量となされた仕事によ

って定義され次の式で表される

(b-1)

<補遺> 65

理想気体では内部エネルギーU の変化ΔU はゼロと考えるしたがって熱力学の第一法

則を表す式(本文中の式25)から次の関係が示される

0=Δminus=Δ WQU

WQ Δ= (b-2)

これによってCarnot Cycleの効率eはQ2lt0 として次のように書き改めることが出来る

1

21

QQQe +

= (b-3)

ところで気体の状態方程式から1 モルの気体について次のような関係が示される

RTV

P

P1=

V = RTV (b-4)

V 式 b-4 の両辺に体積の微少変化量ΔV をかけて

(b-5)

これを体積Vについてその変化をV1からV2までとして積分するならば次式が得られる

VV

RTVP Δ=Δ 1V V

V

intint = 2

1

2

1

1V

V

V

VdV

VRTPdV

1V2V

11 lnRTW =

(b-6)

Q1の熱量によって起こる膨張がV1よりV2までとし圧力P温度T1の下でなされるその仕事

量をW1とするならそれは式b-6 の右辺によって示されるすなわち

(b-7)

VV

1

2lnVVRT=

V V

VV

V

V2int V2 intV1 V1

<補遺> 66

またQ2の熱量の移動が圧力P温度T2の下で起きこれによって系Aが可逆的に圧縮され

るなら体積変化はV2よりV1まで起こりその仕事量をW2で示すと次式のように表される

(b-8)

1

22

2

122 lnln

VVRT

VVRTW minus==VV

VV

Q1=W1Q2=W2の関係から式b-7 およびb-8 を用いてCarnot Cycleの効率eを表す式b-3

を書き改めると温度のみの関係式として次のように表される

1

21

TTTe minus

= (b-9)

ここでサイクルが可逆的過程であると想定するならば式 b-3 と式 b-9 から

1

21

1

21

TTT

QQQe minus

=+

= (b-10)

これから

12112111 QTQTQTQT minus=+ (b-11)

整理すると

02

2

1

1 =+TQ

TQ (b-12)

この考えをさらに発展させ系A

と系Bの間に数多くの系を挿入すること

にしてそれらの系を同様に熱源として

T1T2Tnと考えるこれによっ

て熱の受け渡しが系Aから系Bに至り

再び系Aにもどるサイクル過程に数多

くの寄り道の過程を加えることになる

熱量の移動に関して上の場合と同じく

準静的過程で行われると考えるこの

サイクル全過程について初めと終わ

<補遺> 67

n

i i

i

T

Q

1

0

0T

dQ

T

QS

T

dQASAS )()( 12

りが同じ状態になる可逆的な過程であるなら式 b-12 を拡大的に考えることになってそれ

は次式で表される

(b-13)

式 b-13 には重要な関数が現れるすなわち熱量と温度の比QT である

もし一つの系が無限小だけ温度の高い(dT )外界から温度圧力など平衡を保ちなが

ら極めて緩慢な過程(準静的過程)で無限小の熱量(dQ )を受け取るならばその変化は可

逆的でありdT について連続的な温度分布をする過程を考えるとき式 b-13 をさらに発展

させて次のように積分式で示すことが出来る

(b-14)

式 b-14 で積分記号にが付されているのはCarnot Cycle のような経路を一巡することを

意味している

Carnot の熱機関の効率という着想から生まれた熱量とそれを持つ系の温度との比 QT に

重要な意味を見出したのは Rudolph Clausius で彼はこの比にエントロピーという名前を与

えたエントロピーには記号ΔS を一般に用いる

(b-15)

エントロピーは初めと終わりの状態がわかれば過程に関わらず定まるので状態関数であ

系 A と外界のエントロピー変化を考えるときそれが可逆的過程であるならばすべてを併

せた全体のエントロピー変化は初めと終わりに変化がないという意味でゼロであるすなわ

ち初めの状態を S(A1)とし次の状態を S(A2)とするならそれぞれのエントロピーを

ΔS(A1)ΔS(A2)としてこの間におけるエントロピーの変化量は次のように示される

(b-16)

<補遺> 68

T

dQdS

0T

dQ

ある一つの変化については次のように示される

(b-17)

ここで式 b-17 の S に付けられたdは微分量すなわちごく微小の変化量を意味し式 b-15

で定義されたエントロピーに用いられる一般的な記号Δと区別する

ところで式 b-10 の関係においてもし移動した熱量のすべてが仕事に変わらなければ

効率 e を表す熱量を用いた関係式と温度で表される関係式は等号で結ぶことができないそれ

はエネルギーのロスを意味し初めと終わりの状態が異なってしまうことを意味するすなわ

ち全過程が構成する一つのサイクルは可逆的でなくなる

不可逆過程での熱効率 ersquo は 大値を示す可逆的過程の熱効率 e より小さな値をとる

ee

したがって 大効率を与える式 b-8 と式 b-3 から

01221

2112

1

21

1

21

QTQT

QTQT

Q

QQ

T

TT

両辺を T1T2で割ると

02

2

1

1 T

Q

T

Q

これを式 b12 と同様に発展させれば式 b-14 についてサイクルの変化が可逆的過程の

場合と不可逆的過程の場合の両方を併せClausius の不等式と呼ばれる次の関係が成立する

(b-18)

式 b-18 の等号が成立するのはサイクルが可逆的な理想の場合に限られる

ある孤立系で状態 A1 から状態 A2 へは不可逆変化で進められ状態 A2 から再び状態 A1

に戻るとき可逆変化であるような閉じた状態変化を考える可逆系のエントロピー変化には

記号 Q を使い不可逆変化には Q を用いるとするとそれぞれ積分式を用いて状態 A1 から

状態 A2 へは

<補遺> 69

d prime

状態 A2 から状態 A1 に戻るときは

全体では

=d prime

+d

(b-19)

Clausius の不等式から

0

式(b-19)の第二項で反応を逆に進めるときには次のように書き改めることができる

=d

よって式(b-19)は次のように書き直すことができClausius の不等式とあわせると

d prime d

0

すなわち

d prime d

上式の右辺は式(b-16)を用いて表せば

d prime

∆S ∆

この状態変化を微小変化とするならば断熱変化の場合 dQ = 0 であるから

∆S ∆ dS 0

すなわち不可逆変化を含む断熱変化ではエントロピーは必ず増大する

<補遺> 70

T

QS

BA SSS

(b-20)

(次の<補遺>ギブス自由エネルギーも参照せよ)

本文 p26 へ戻る

ギブス自由エネルギー (本文 p28 27 行目参照)

エントロピーの考えを導入することによって不可逆的に状態変化が起きるときにはエン

トロピーの増大を引き起こすことを知ったこれによって目前で起きる現象について温度の

変化があるものであれないものであれまた圧力の変化があるものであってもエントロピー

の定義式によって可逆的な変化におけるエントロピーの変化量を計算することが可能である

(b-15)

しかしながらこれから起こる変化について我々がすでにあらかじめ知っている物理量を

用いて予測的にその状態変化が起きるかどうか知ることは必ずしも容易ではないその理由

は式 b-15 に示されたエントロピーΔS が系とその外界をあわせた全体のエントロピーを示

しているからであるすなわち関心のある系を系 A としその外界を系 B とすると全体

のエントロピーは次のように表せる

(c-1)

関心のある系 A のエントロピー変化を知るためには系 B のそれを知ればよいがそれは

いつも容易とは限らない系 A の性質だけで状態変化の方向を知るには別の観点が必要にな

るようだ

そこでもう一度状態変化が熱量 Q の移動によって起きることについて考えてみようエン

トロピーの補遺で議論したように熱量の移動が準静的過程により行われるときには変化は可

逆的に起こると考えたこのとき外界すなわち系 B から移動する熱量を Q1とし系 A から

0S

<補遺> 71

21 QQ

T

Q

T

QSB

21

T

QSS A

2

QH

T

HSS AA

AA STHST

のそれを Q2 と記号を当てたのでこれをそのまま使うことにすれば可逆的な過程では系 B

の熱量 Q1 はすなわち系 A から戻る Q2 に他ならないので両者には次の関係が成立するも

のとしてよい

(c-2)

したがって

(c-3)

と考えてよくこれによって式 c-1 を次のように書きなおすことが出来る

(c-4)

独立した系で圧力とその体積に変化がなく一定の条件の下で状態変化が起きるときエン

タルピーの考えを使ってすでにひとつの関係があることを導いている

本文(31)

そこで式 c-4 を系のエンタルピーΔHAによって書き改めれば

(c-5)

この両辺に-T をかけて式を書き直せば次の関係式が得られる

(c-6)

式 c-6 を見るときその右辺がマイナスの値ならば左辺のΔS はプラスの値をとることが

分かるすなわちエントロピーが増大すると見ることが出来るこれまでの過程で自然の現

象はエントロピーが増大する方向に進むとしてきたので関心のある状態変化について式 c-6

の右辺で計算される値がマイナスの値ならばその変化は起きるものと考えてよいことになる

だろうしかも右辺はすべて独立した系の状態量で示されていて我々が知りうる値で計算

<補遺> 72

TSHG

STSTHG

STHG

可能である

そこでこれを熱力学ポテンシャルを表すものとしてギブス自由エネルギーと呼ぶことに

するギブス自由エネルギーは記号 G が用いられ次のように定義される

(c-7)

ここで関心があるのは自由エネルギーの絶対値ではなく式 c-6 に示されたようにその変化量

に興味があるので式 c-7 から

(c-8)

温度が一定の条件の下で状態変化が起きることを考えるなら式 c-8 は次のように書くこと

ができる

(c-9)

ギブス自由エネルギーは式 c-9 の右辺がすべて状態量であるからこれも状態量の一つで

ある定圧定温の条件下で起きる変化ではすでに議論したようにΔGlt0 であれば状態

変化は自発的に起きるものと予測できる

つまり式 c-5 の第一項は系のエントロピーΔSAそのものであり第二項で示されるエンタ

ルピーは系 A の温度が一定に保たれているのであるから発熱する熱量として外界に吸収さ

れるものであってこれは外界のエントロピーの増大につながるものとして解釈されるした

がって化学反応のように一定の圧力と一定の温度の下で起きる変化について自由エネルギ

ー変化量はその状態変化が自発的に起きる傾向を示しているといってよい

本文 p28 へ戻る

  • はじめに
  • 目次
  • 電気エネルギー
    • 金属のイオン化
    • 電池
    • 水素の反応
    • 燃料電池
    • 化学反応と電気エネルギー
      • エネルギーと熱力学
        • エネルギー保存則
        • エンタルピー
        • エントロピー13
        • ギブス自由エネルギー
        • 電池における化学反応のギブス自由エネルギー13
        • 理想気体の状態方程式
        • 理想溶液のギブス自由エネルギー
        • 膜電位
          • 水素イオン濃度測定
            • 化学反応の一般的な式
            • pHの定義とその目盛り
            • pH標準液
            • 銀塩化銀参照電極
            • 実用的なpH測定
            • ガラス電極
            • 電極の校正
            • 金属イオンに対応するイオン選択電極
              • 文献
              • 補遺
                • 状態関数
                • エンタルピー
                • エントロピー
                • ギブス自由エネルギー
Page 9: イオン選択電極i イオン選択電極 Ion Selective Electrode (ISE) を理解する ・ pHを測定する ・ NaやKなどのイオン濃度を測定する 神戸大学医学部保健学科

6

上の図では導線の中間に電圧計がつなげてあって両極の電極電位の差を測定

することができる電極電位の差すなわち「電位差」は電極間をつないで回

路をつくればその回路に電流が流れるので「起電力」ともいうこの電位差

や起電力の数値については後で考えることにしよう

電圧計は電流を流さず両極間の電位差を計ることができるこの状態では電

子の移動がない電子の移動がないので各イオンの濃度にも変化はない電圧

計はこのときに電池の起電力に対して最大値を与えるもしも電流が流れると

各イオン濃度の変化が起きるので起電力にもわずかながら変化が生じる

両方の極を導線でつないでその中間に電圧計を入れ亜鉛板から銅板へ導線を

介して電流が流れないときの状態をさらに考えてみよう

左の亜鉛板に残った電子は溶液中に続いて出てゆこうとする亜鉛イオンを逆

に引っ張り戻そうと働くこの結果亜鉛板に残った電子の量がある程度以上

になるともはや亜鉛は溶け出さない

この状態を平衡状態という

一方の銅板では電子の流れがないので同様に銅イオンの還元反応は進まない

そこで電子の流れが起きるように導線の中間に豆電球を入れて回路を作るこ

とにしようこのように電池の両極間に電球などを入れることを「負荷をかけ

る」という

回路ができそれに負荷をかけることによって電子の流れが起き豆電球が点

るこの結果陰極では亜鉛がどんどん水溶液に溶けだし陽極では銅が析出

する

ところがこうしてうまく電子の流れが始まってもそれは持続しない

どちらの水槽においても硫酸イオンは変化を受けないことをすでに述べてい

たこれでは亜鉛側のプラスイオンがまた銅側のマイナスイオンがたちま

ち過剰になってしまうこの結果一瞬電流が流れるだけですぐ電子の流れは

停止し豆電球は点り続けないだろう

うまく豆電球を点り続けさせるにはそれぞれの水槽のプラスイオンとマイナ

スイオンの均衡が保てるようにしなければならない

この解決にはそれぞれの水槽で過剰になるプラスイオンとマイナスイオンが

移動できるようにすればよい

それには2つの方法がある

一つは塩橋とよばれるイオンの通路を両水槽に掛け渡す方法である塩橋は

7

チューブ内に飽和塩化カリウム(KCl)溶液などをゼラチンで固めて詰めそれ

がこぼれ出ないようにそれぞれの口を濾紙などで封じたものである

図2亜鉛と銅を電解質溶液に入れ塩橋を渡す

この塩橋の代わりに素焼きの陶板やセラミックなどのイオンを通す性質があ

る固体で両水槽を仕切る方法でもよい図に示したように塩橋もしくはしき

りを介してイオンが移動できる

8

図3亜鉛と銅を電解質溶液に入れしきり板にセラミックを使う

このように電子の流れを発生させて利用しようとする装置を「電池」とよぶ

電池には2つの極がある陽極(+)と陰極(-)である

陽極(+)は正極ともよばれ電極に伝ってきた電子が水溶液に移動し還

元反応が起きる側をいう

これに対して陰極(-)は負極ともよばれ電極金属がイオン化し酸化反応が

起きて電子が電極から取り出される側をいう

今の例では亜鉛板が陰極(-)銅板が陽極(+)とよばれる

有名な「ダニエル電池」はこのように考案された

電池を電球などにつなぎ電気回路を形成すれば亜鉛電極内の電子が導線へ流

れ出て電球を明るくし亜鉛はつぎつぎ溶液に溶け出す

回路を切れば再び電極に電子がたまり平衡状態に達して亜鉛イオンの溶

出は止まる

ここで電池の表記についての取り決めを記しておこう

9

電池は2つの極からなる陽極と陰極である陽極すなわち還元反応が起き

導線を介して電子を受け取る極を右に書くダニエル電池の場合には陽極は銅

板であり銅イオンを供給する硫酸銅の水溶液が電解質溶液として用いられる

陽極金属と電解質溶液の間は縦棒で区切るそこで陽極は次のように表記され

CuSO4(aq) | Cu(s) (+) 記号(aq)は水溶液のこと

同様に陰極は酸化反応が行われる極でこれを左に書く

(-) Zn(s) | ZnSO4(aq) この両方の極は別々の水槽にあってイオンの交換が塩橋あるいはセラミッ

クのようなしきりを介して行われるのでこの隔壁をタテ二重線で表記し両極

を並べて記す

ダニエル電池は次のような記号で表記されるこれを電池式と呼ぶ

(-) Zn(s) | ZnSO4(aq) || CuSO4(aq) | Cu(s) (+)

両端の極を導線で接続し回路を形成すれば電子の流れが左の陰極から右の陽

極に起こり電流は右から左へと流れる

水素の反応 イオン化傾向の大きさが異なる金属を組み合わせて酸化還元反応が起きると

電子の流れが生じそれを取り出して豆電球を点灯する仕事として利用するこ

とができる

イオン化列の鉛と銅の間には水素があるこの水素の酸化還元反応を見るこ

とにしよう

水素の酸化反応は次のように表される

H2 rarr 2H+ + 2e- (5)

これを半反応として電子の流れを作り出せば電池として機能するから取り

出された電子を利用する還元反応を考えよう

水素と反応する相手に酸素を選べば水が生成物として得られることを期待で

きる

10

酸素が電子を受け取る還元反応の半反応は次のように表される

12 O2 + 2e- rarr O2- (6)

半反応(5)と(6)を組み合わすことができれば次の全反応によって水

が生じる

H2 +12 O2rarr H2O (7)

このとき得られる電子を導線に誘導すれば電気エネルギーとして利用が可能

になる

問題はダニエル電池で見たようにそれぞれの半反応で生じるイオンの処理で

ある半反応(5)と(6)はそれぞれ隔離された容器で行わなければ水素と

酸素が直接反応して水を生じてしまうしかし容器の隔壁がイオンを通さな

いと電池として機能しない

燃料電池 固体は一般に分子やイオンを通過させないが中には特定のイオンを通過させ

るものがありこれを固体電解質とよんでいる

半反応(5)で発生する水素イオンを効率よく通過させるためにはナフィオ

ン(Nafion Du Pont 社米国デラウェア州ウィルミントン)とよばれる固体高

分子膜が有力である

ナフィオンはフッ素を含む高分子パーフルオロスルホン酸系といわれるイオ

ン交換膜で全体はテフロン様構造からできており側鎖にスルホン酸基を持

つその厚さは 20~50ミクロン程度である膜の内部で負に荷電するスルホン

基(SO3-)が水素イオン(H+)を引きつけこれを通過させるこの水素イオ

ンの通り道は電子顕微鏡で見るとトンネルのようにできている

11

図4ナフィオンを使った燃料電池

陰極では水素の酸化反応が起きる

H2 rarr 2H+ + 2e- (5)

一方陽極では次の還元反応が起きる

12 O2 + 2e- rarr O2- (6)

O2- + 2H+ rarr H2O (8)

全体の反応は反応式(7)で表される

12

H2 +12 O2rarr H2O (7)

こうして開発された電池は「燃料電池」とよばれている燃料に水素ガスが

利用される

反応式と図に示した気体酸素は通常の空気が利用され反応で生じた水と酸

素以外の利用されない気体元素は排気される

この燃料電池は水素と酸素を遮断し水素イオンだけを通過させる固体電解

質を使ったこれは上の半反応(5)で生じた水素イオンの処理を考えたわ

けである

これに対して半反応(6)で生じる酸素イオンを移動させる工夫もある

図4安定化ジルコニアを使った燃料電池

安定化ジルコニア(Stabilized Zirconia ZrO2CaO)は高温下で酸素イオン通過

性のある固体電解質として開発されたジルコニウムに10モル程度の酸化

カルシウムを加え結晶を作ると+4価のジルコニウムイオンの位置の一部を+

13

2価のカルシウムイオンが占めるできあがった安定化ジルコニアはこのカ

ルシウムの数だけ酸素イオンの不足が起き固体全体を電気的中性に保つた

めに酸素イオンの透過性ができるジルコニアの両面に白金粉末を焼き付け

それに白金のリード線を取り付ける焼き付けられた白金には多くの孔があり

その孔を通して気体とジルコニアが接触する

酸素イオン導電性の固体電解質としてジルコニアを用いた燃料電池は次

のように動作する

1)空気極(右側)に入った酸素 O2は電極で電子を受け取り酸素イオン O2-

になる

12 O2 + 2e- rarr O2- (6)

2)O2-は固体電解質ジルコニア中を移動していき燃料極(左側)で H2 と

反応し水 H2Oを生じるこの過程に伴って電子が放出される

H2 + O2- rarr H2O+ 2e- (9)

3)これら結果として外部回路に電流を取り出すことができる

燃料電池の起電力は酸素イオンが電解質中を移動することにより生じる

酸素イオンが移動する駆動力は固体電解質の両端すなわち燃料極と空気極

の酸素濃度差である

14

化学反応と電気エネルギー ダニエル電池の陰極は亜鉛板が硫酸亜鉛の水溶液につけられていたこのと

きの現象は次のように説明された亜鉛は電子を亜鉛板電極に残し陽イオン

となって出て行くその結果亜鉛板電極中に電子が余分にたまる

ダニエル電池の陰極の「電極電位」はこの電極に余分にたまっている電子の

量をさしているそれではこの半反応による電極電位を測定することができ

るのだろうか半反応は次のように示される

Zn(s) rarr Zn2+ + 2e- (1)

亜鉛が1モル反応すると2モルの電子が持つ総電荷量が流れる

1電子の持つ電荷量は16022x10-19 C (Ccoulombクーロン)であ

るから

1モルの電子の総電荷量はアボガロド数をかけて 96485 = 96485 x 104 Cmol

であるこれを1F1ファラデーと表す

1F = 96485 x 104 Cmol 亜鉛が1モル反応すれば2モルの電子が持つ総電荷量が流れるのでこれを

記号 q として表すと次の電気量が得られる

q = 2F (10)

化学反応によって取り出せる電気量はこのように計算される

それでは電気エネルギーとしてその電力はどのようになるだろう

電力は

電力=電圧times電流times時間 (12)

電流times時間=電気量であるから式(12)を書き直せば

15

電力=電圧times電気量 (13)

ここで電気量 q は式(10)で表しているので

電力=電圧timesq=電圧times2F (14)

と書くことができる

電圧を記号Vで表すことにし電力をWにすれば式(14)は

W = 2FV (15)

として表しておくことができる

電圧の単位系は仕事量が電力Wであるので(13)から

V= W q (16)

仕事量をジュールJ(ジュール)で表せば電圧はJ C (ジュールクー

ロン)でその単位を表現することができる

式(15)の表すところは亜鉛を化学反応の材料として得られる電力という

仕事量がその電力すなわち電極電位で決定されることを意味している

一般に化学反応で1分子の材料を消費しn個の電子が流れることをその

半反応で知ることができるとき式(15)を一般化して次のように得られ

る電気エネルギーを表すことができる

W = n FV (17)

化学反応によって生じる電子を取り出し回路に導けばここに電流が生じる

その起電力(V)は陽極陰極のそれぞれの電位をE+E- と記号で表し

て次式で書くことができる

V= E+-E- (18)

16

ここで問題になるのは陽極陰極のそれぞれの電位E+とE-で上に議論し

たように回路を形成しなければそれぞれの電位は決定できない

ここでいま片方の電位をゼロとすれば式(18)はたとえばE- = 0 で

V= E+

として陽極の電位が決まる

そこで申し合わせにより水素の半反応による電位をゼロとすることになっ

その半反応の式は水素の還元反応として次のように表せた

2H+ + 2e- rarr H2

標準にはMax Julius Louis Le Blanc (1865-1943) が発明した水素電極を用

いるこれを標準水素電極(Standard Hydrogen Electrode SHE)とよびこの

電極電位をいつも 0 volt(ゼロボルト)と取り決めている

図6に示した水素電極は1atm の水素ガスとそれに平衡状態にある水素イオ

ンが存在し次の半反応が平衡状態にある

H2 (g 1 atm)rarr 2H+ (aq 1 M)+ 2e- (5) g は気体を示す

この反応において平衡状態にある電極電位を 0 volt と定義する

電極に白金を用いるのは電極材料自体が溶解しないものであることすなわ

ちイオン化傾向の低いものであることまた水素イオンの還元に対してな

るべく活性の高いものであることが条件として求められるが白金はこの2つ

の性質を兼ね備えていて陽極の電極材料に適している

気体の標準状態は1atm を標準としているこの分圧を維持し溶液中の水

素イオン活量を1にする水蒸気の分圧が変化すると平衡電位は変化する

17

図6標準水素電極(0ボルトの基準)

標準水素電極は1モル塩酸溶液につけた白金電極に1atmの水素ガスを吹き込んで使う

白金電極は分極を防ぐために白金板に白金メッキを施し(白金黒とよばれる)上半分

を水で飽和させた(1atmの水蒸気分圧が必要)1atm(101325 kPa)の水素ガスを流し

下半分を1moll の塩酸溶液につける水素ガスが電極として働き白金板に電子が集めら

れる

ダニエル電池の亜鉛電極をこの標準水素電極につなげば亜鉛電極電位が測

定できる

亜鉛電極側では酸化反応の半反応が起きる

Zn(s) rarr Zn2+ + 2e- (1)

18

標準水素電極側では還元反応の半反応が起きる

2H+ + 2e- rarr H2

図7亜鉛電極と水素電極をつないで電池とする

25の基準状態における亜鉛電極の半反応(1)に対する平衡電位はすでに

知られている

E゜= -0763 volt

また銅板側の電極電位も同じようにして測定することができる

起きる半反応はすでに上述したが再度記しておこう

Cu2+ + 2e - rarr Cu(s) (3)

25の基準状態におけるこの電極電位はE゜=+0337 volt と知られて

19

いる

ここで亜鉛電極と銅電極の組み合わせでできる電池の最大電圧をこれらの

平衡状態における観測値から計算することができる式(18)を使って

V= E+-E- (18)

V= +0337-(-0763) = +110 volt

つまりダニエル電池で得られる最大電圧は11volt と計算できる実際に

はイオンの濃度が変化すれば反応の平衡が変化するので得られる電圧も変

化する

ここでダニエル電池で亜鉛1モルが反応するとき式(17)を使って得

られる仕事量としての電力を計算できる

W = n FV (17)

すなわちダニエル電池における電極反応は

Zn(s) rarr Zn2+ + 2e- (2)

Cu2+ + 2e - rarr Cu(s) (3)

であったから反応が進んで移動する電子はn = 2 である

1F = 96485 x 104 Cmol を適応すると

W = 2 x 96485 x 11 x 104 = 21227 x 105 Jmol = 2123 KJmol

(K = 103キロ)

すなわち亜鉛1モルの化学反応によって2123 KJmol の電気エネルギーが得

られる

水素ガスを使う燃料電池の起電力は電極の半反応から

O2 + 4H+ + 4e- rarr 2H2O (19)

25の基準状態におけるこの電極電位はE゜=+1229 volt が得られている

20

したがって燃料電池で1モルの水素が反応すれば

W = 2 x 96485 x 1229 x 104 = 2372 KJmol

すなわち2372 KJmol の電気エネルギーが基準状態で取り出せる最大電力

と計算される現在作られている燃料電池の電力は実際上08 volt ほどで

あるしたがって現実的に取り出せる電気エネルギーは 1544 KJmol の仕

事量と計算される「仕事量」という言葉については電気でモーターを回し

なにがしかの「仕事」をするなど思い浮かべれば実感できるだろう

エネルギーと熱力学 これまで述べてきたように電池は化学反応から直接電気エネルギーを取り出

す仕掛けであるダニエル電池では亜鉛と銅が酸化還元反応を起こす過程で

電子を放出するのを利用するまた水素ガスによる燃料電池は気体水素と酸

素を原料とし水が生成されるこの過程が1atm の気体原料を25(29815

K)で1モル反応させて生成物も1atm の液体の水を得るなら次の全反応に

よってすでに計算したとおり2374 KJmol の電気エネルギーが取り出せる

H2 + 12 O2 rarr H2O

圧力と温度がともに反応の過程を通じて一定の場合にその過程から取り出せ

る仕事量は熱力学的に考えることもできる

それはギブス自由エネルギーとして議論される電池で取り出した電気エネ

ルギーすなわち電力はこのギブス自由エネルギーに相当する

次に化学反応をこの熱力学の面から考えてみよう

エネルギー保存則

水素ガスを使う燃料電池のように独立した一つの仕掛けを考えこれを「系」

と呼ぶことにする系を考えるとき電池のように具体的なものを持って考え

るのが容易いのでそうすることが多い熱力学では自然界全体をあつかうので

しばしば概念的になり非現実的な記述が行われるが系の大きさや系を構成

する分子の大きさについて特定する必要はない

系におけるエネルギーを内部エネルギー熱エネルギー力学的エネルギー

の3つの要素からなると考えるこれらのエネルギーを考えるとき系の熱力

21

学的なパラメーター(変数)が必要となる熱力学的な状態はこれらのパラ

メーターのうちのいくつかを指定すれば決定される

熱力学的なパラメーターは2つに分類される

示量パラメーター(示量性変数)

系の大きさや構成する物質の量を示す体積や質量

示強パラメーター(示強性変数)

系の大きさに依存しない系における1つの点で決まった値で与え

られる圧力や温度密度など

いくつかのパラメーターで完全に決定できる状態を関数で表現することがで

きる場合があるそのような関数を熱力学的な状態関数(rarr補遺 p60)と呼ぶ

関数で状態の変化を表すことができれば数学的に取り扱うことができいろ

いろの面で便利である

一つの系についてその状態を知ろうとするとき系が熱力学的な平衡状態に

あると議論する上で都合がよい

熱力学的な平衡状態とは系を外部と独立させ長時間放置した後に達成され

る状態をいうこのとき系の状態をその外部のパラメーターで表現できる

たとえば電池を独立した系と考えるとき平衡状態に達した電極電圧を外部

においた電圧計で測定することができる

ある系を考えるとき前提としてその系はエネルギーを保有していると考える

系が独立してそこに存在するということで持っているエネルギーであるこれ

を内部エネルギーと呼ぶ系がある過程を経て状態を変えるとき系から系の

外部へ力学的な仕事をする場合には力学的エネルギーの出入りがあると考え

るまた系に熱が出入りする場合が考えられそれを熱エネルギーの出入り

と考えることにしよう

まず力学的エネルギーについて考えることにする

いま系が状態を変えその体積が増えれば系のlsquo壁rsquoがその系に接している

「外部」へ力学的な仕事をすることになる

このように系が膨張し壁が外部に向かって押し出されると考えたとき膨張

する過程における圧力を一定でpとし系が膨張した体積をΔV(膨張した分だ

けの体積増加量)とするなら系の仕事量ΔWは両者の積で表されるΔは変

化量を表すときにつける記号と決めておこう

22

ΔW = pΔV (20)

系の体積が凝縮する場合があるので仕事を記号で表す場合には注意するも

し系に接した「外部」から系に力が加わって体積を小さくしたならΔVは

マイナスとなるのでΔWもマイナスで表される

-ΔW = -pΔV (20prime)

今考えている系を「系 A」と呼びその内部エネルギーを UA外部の系を「系

B」と呼んでその内部エネルギーを UBと表すなら二つ合わせた全体の内部

エネルギーは両者の和で表すことができる

U = UA+UB (21)

この体積変化に必要なエネルギー変化量はどこから得られたかを考えれば

その変化があった「系 A」と外部の「系 B」のいずれかあるいは双方の内部エネ

ルギー変化分でまかなわれたと考えざるを得ない(図8参照)

そこでこのエネルギーの収支関係は変化分を表す記号に先と同様Δを用い

ることにすると次式のようになる

-ΔU =ΔW (22)

すなわち観察している「系 A」のエネルギーと外部の「系 B」のエネルギー

を合わせた総エネルギーを見てその微少な減少量minus ΔU が仕事をなすために

必要であったエネルギー量と考えてみることにする

ついでこの体積の変化が「系 A」に接する外部のlsquo熱rsquoによって起きたも

のと考えてみようすなわち外部の「系 B」が系 Aより高温で「系 B」によ

って系 Aが暖められたことになる

このとき移動したエネルギーを「熱量」と定義する

23

図8熱量の移動と系が外部にする仕事

「熱量」を記号Qで表すと外部の「系 B」が失ったエネルギーminus ΔUB で

ありこれが熱量であるから式で表せば次式のように書くことができる

-ΔUB = Q (23)

ここで「系 A」とそれに接する「外部 B」両方のエネルギーを合わせた総エ

ネルギーの変化量ΔUは式(22)で与えられていた

-ΔU =ΔW (22)

-ΔU =-(ΔUA+ΔUB) であるから

minus ΔUAminus ΔUB=ΔW (24)

これに式(23)を当てはめてΔUAで整理すれば

24

ΔUA= Q-ΔW (25)

この式(25)は「エネルギー保存則」あるいは「熱力学の第一法則」を数

学的に表現したものである

すなわち

独立した系を考えその状態が変化するとき系の内部エネルギーの変化量はその系に入る熱量と系が外部にした仕事との差である

式(25)にはまた重要な主張があるつまりエネルギー保存則にしたが

うとき熱量は力学的エネルギーにまた力学的エネルギーは熱量に変換しう

ることを意味している

熱量を表す単位はカロリー(cal)を用いる1cal は

1 cal = 4184 J

と換算されるジュールは 1J = 1Nm (ニュートンメートル)で仕事量を

表現する単位系で表される

エンタルピー

式(25)から定圧過程で式(20prime)を利用して次の式(26)が誘導さ

れる

Q =ΔUA+pΔV (26)

ここでQは熱量を表していたのでこの関係式(26)から熱関数として

新しい関数を定義する

新しい関数はエンタルピー(enthalpy)(rarr補遺 p63)と呼ばれ次の関数

式Hで表される

H = U+PV (27)

エンタルピーの微少変化量を記号Δを使って表現してみよう

25

ΔH = ΔU +Δ(PV) =ΔU +ΔPV+ PΔV (28)

独立した系で圧力が一定の下に起きる過程を考えるならΔP = 0 (圧力の

変化はゼロ)であるから式(28)は次のようになる

ΔH =ΔU + PΔV (29)

化学反応の過程を考えるとき系に容積の変化がなく過程の前後で一定であ

るならさらにΔV = 0 であるのでエンタルピーの変化量は

ΔH =ΔU (30)

また系の仕事を体積の変化としてみる式(20)から

ΔW = pΔV= 0

であるのでこれを式(25)へ適応すると

ΔU= Q minus ΔW = Q ΔW= 0 だから

結果的に系の圧力と体積が変化の過程で一定である場合にはその系のエンタ

ルピーの変化を表す式(29)(30)は次のように簡単な式になって熱関

数と呼ばれる意味が理解しやすいだろう

ΔH = Q (31)

独立した系に等圧等積で起きる過程を見る場合にはエンタルピーは系が外

部と交換する熱量の直接的な尺度となる

H>0 なら反応に熱を使うので吸熱反応

H<0 なら発熱反応

電池のように系に起きる化学反応で生じる電子の流れを取り出す装置を考え

る場合エンタルピーの変化を電気エネルギーとして取りだしている点に留意

26

しなければならない式(31)のようにエンタルピー変化が交換される熱

量に直接表現できるといっても必ずしも熱として取り出すとは限らないこと

を注意しよう

ところでエンタルピーは内部エネルギーと同じ次元にある状態量で定圧

変化の熱量がエンタルピー変化であるからある一点を標準として定めれば

すべての物質について任意の点のエンタルピーを変化量として定めることがで

きるすなわち化学反応の過程で発熱あるいは吸熱する熱量は反応材料と

生成物の間の状態変化に対応するエンタルピーに対応する

そこで一つの元素に対してもっとも安定な状態にある物質を標準物質とし

て定め29815K(25)1atm を標準状態としてその標準物質からある化

合物を合成するときの反応熱(発熱あるいは吸熱)をその化合物の「標準生成

エンタルピー」として定義できる多くの元素に対して標準生成エンタルピー

は現在表としてまとめられている

水素や酸素はその気体状態が標準物質でありそれらの標準生成エンタルピー

がゼロと定義される

エントロピー

もう一つ新しい状態関数としてエントロピー(entropy)(rarr補遺 p64)を

定義するエントロピーを表す記号は通常S を用いその定義は次の式(32)

による

S Q

T (32)

エントロピーは系の2つの状態が決まると状態量として決まる

このときQ は2つの状態の間を可逆的に変化したとき系が受け取る熱量

T は系が熱量 Q を受け取ったときの温度(degK)である

「熱力学の第二法則」はエントロピーに関するものである

図9では2つの系が接しておりそれぞれの温度を Thigh Tlowとする

Thigh>Tlow (33)

27

今温度の高い系から温度の低い系に直接熱量 Q が移動したとすれば温度

の高い系のエントロピーの変化量ΔS は熱量が失われるので負の値になる

図9熱の移動

そこで温度の高い系のエントロピーの変化量ΔS を式で表すことにすると

次式のようになる

Shigh Q

Thigh

(34)

一方低い系のエントロピー変化量ΔS は熱量が与えられるため

Slow Q

Tlow

(35)

両方の系を合わせたエントロピーの変化量ΔS は

S Shigh Slow Q

Thigh

Q

Tlow

lowhigh

lowhigh

lowhigh TT

TTQ

TTQ

11 (36)

式(36)の最終項で(33)を前提すなわち最初に温度の高い系は高い

と決めたのだとするならエントロピーの変化量ΔS は必ず次のようになる

28

ΔS >0 (37)

すなわち独立した系がありそれより温度の低い別の系あるいは温度の低

い外界が接した場合熱量は高い方から低い方へ移動するという自然の成り行

きを説明するものである

自然界に置いてエントロピーは

ΔS≧0

の値を取りΔS=0のときは可逆的過程である

今の例でいうなら熱は温度の高い系から低い系へ移動しその逆は起きない

常にΔS >0の方向に過程が進行するまた2つの系が同じ温度であるとき

両者は平衡状態にあって熱量の移動は見かけ上なくΔS=0と表現される

「熱力学の第二法則」はエントロピーによって表現されるもので系の変化が

可逆的であるかどうかを判定する指標であり現実の世界で起きる不可逆過程

が正の値を取る方向へ進むことを示す

あるいは系の変化が起きるとき外界を含めて考えれば総エントロピーが

増大する方向に変化が起きることを意味するというようにも表現される

ギブス自由エネルギー

熱力学の第一法則によってエネルギーの取りうる形である「仕事」と「熱」

は互いに変換されうることを理解したこのことの数量的な意味は1cal=418J

で示されるさらに仕事は100熱に変換可能であるが一方の熱はうま

くやっても100を仕事に換えることができないことを熱力学の第二法則で

説明しようとしたそのためにエントロピーという概念が導入された

ここで電池のような独立した一つの系を見るとき系の内部エネルギーの減

少を仕事として取り出しうるならそれは化学反応を一つの例としてどれほど

の仕事量が取り出せるのかはどうしたら与えられるだろうか

化学反応を電気エネルギーに換える電池では先に正負それぞれの電極におけ

る半反応の平衡電位の値を利用してその起電力に対する最大値を計算した

この化学反応から取り出しうる最大仕事量を与えるものとして新しくギブス

自由エネルギー(rarr補遺 p70)と名付け記号 G を使ってそれを次のように

定義する

29

G = H-TS (38)

H はエンタルピーである第2項にある S はエントロピーを表す

ギブス自由エネルギーは化学反応のような独立した系の定温定圧過程に適

応されるので変化量ΔG を式(38)から得ておこう

ΔG =ΔH-Δ(TS)

=ΔH-(SΔT+TΔS)

温度を一定と考えているのでΔT=0 であるから

ΔG =ΔH-TΔS (39)

この式(39)を書き換える

ΔH=ΔG + TΔS (39rsquo)

ここで定圧過程ではエンタルピーを次のように式(29)で定義できた

ΔH =ΔU + PΔV (29)

式(29)の意味するところを復習すれば

系のエンタルピー変化ΔH は内部エネルギーの変化量と系が外部に

した仕事量の和として表される

これは

定圧過程で系が得るエネルギー量から仕事量を除いたもの

と言い換えることができるエンタルピー変化量は化学反応などの過程で

始めと終わりの2つの状態の差であるからそれが正の値を示す(>0)なら

系のエンタルピーは増加することを意味しその過程が進行するためには系

の外部からエネルギーが供給されなければならない

一方式(39rsquo)の右辺第2項TΔS はエントロピーの定義(32)より

TΔS = Q (40)

であるのでこれは可逆過程で系に供給される熱量を意味する

30

もしエンタルピー変化量が負の値を示す(<0)ならば系のエンタルピー

は減少しその過程が進行することによってエネルギーが取り出せるすなわ

ち式(39)(40)から次のようにこれら3つの状態量を改めて説明する

ことができる

ある化学反応が定圧で可逆的に進行するときそれから取り出せる

エネルギーのうちΔG を仕事として放出し熱量 Q を放出する

標準状態29815K(25)1atm で標準物質からある化合物を合成すると

きの反応熱(発熱あるいは吸熱)をその化合物の「標準生成エンタルピー」

として定義した同様にある物質に対する「標準生成ギブス自由エネルギー」

はこの標準状態で標準物質からその化合物を化学反応で生成するとき式(3

9)によって与えられる変化量をいう

電池における化学反応のギブス自由エネルギー

先にダニエル電池の亜鉛板側に対する電極反応を検討したとき電極反応が

仕事として放出するエネルギーを表現する重要な式があった次の式(17)

である

W = n FV (17)

ギブス自由エネルギーを用いて今これは次のように書くことができるように

なった

W = n FV=-ΔG (41)

この式が表していることを実際に水素の燃料とする燃料電池の反応過程で見

てみよう燃料電池の図を再掲する

図中右にある陰極では水素の酸化反応が起きる

H2 rarr 2H+ + 2e- (5)

一方図では左にある陽極において次の還元反応が起きる

12 O2 + 2e- rarr O2- (6)

O2- + 2H+ rarr H2O (8)

全体の反応はすでに示したように次の反応式(7)で示される

H2 +12 O2rarr H2O (7)

31

標準状態における可逆的仕事は式(41)であらわせ

n FV=-ΔG (41rsquo)

このΔG は式(39)であらわせた

ΔG =ΔH-TΔS (39)

すなわち標準状態29815K(25)1atmにおいてある化合物を標準物

質から合成するときの標準生成ギブス自由エネルギー変化ΔG゜は標準生成エ

ンタルピー変化ΔH゜とその温度におけるエントロピー変化TΔSの差で求ま

るこれらは燃料電池の全反応を表す式(7)で与えられる

標準生成エンタルピーΔH゜変化とエントロピー変化はすでに一般的な元

素やその化合物に対して表が作成されている

液体の水に対する標準生成エンタルピーΔH゜(H2O)は

ΔH゜(H2O)=minus 28583 KJmol

また水素ガスと酸素ガスはそれぞれの元素の標準物質であるので生成エ

ンタルピー変化はゼロである

32

そこで式(7)での水を1モル化学合成するときの標準生成エンタルピーΔ

H゜は水素(ガス1モル)と酸素(ガス12 モル)の2つの材料と水(液

体251atm)の両状態における状態量の差として表される

ΔH゜=ΔH゜(H2O)-ΔH゜(H2) -12ΔH゜(O2) (42)

式(42)の右辺第2項と第3項がゼロであるので

ΔH゜=ΔH゜(H2O) =-28583 KJmol (43)

標準状態29815K(25)1atm における水素(ガス)と酸素(ガス)お

よび水(液体)のエントロピーはそれぞれ

ΔS(H2O)=6991 JKmol

ΔS(H2) =13068 JKmol

ΔS(O2) =20514 JKmol

単位で分母のKはケルビン温度の意味

と計算されているので

ΔS=ΔS(H2O)-ΔS (H2) -12ΔS(O2) (44)

=6991-13068-12times20514

=-16334 JKmol

したがって

TΔS=29815times(-16334)=-486998=-4870 KJmol

(45)

そこで標準生成ギブス自由エネルギーΔG゜は式(39)から

-ΔG゜=-(ΔH゜-TΔS) (39)

=-{-28583-(-4870)}

=+23713 KJmol

33

すなわちこのエネルギーを電気エネルギーとして取り出すことができるそ

の起電力は式(41rsquo)から

n FV=-ΔG (41rsquo)

V= -ΔG(n F)

各数値を当てはめれば

V=237130(2times96485)

=1229 volt

先に【化学反応と電気エネルギー】のところで記したとおり25の基準

状態におけるこの電極電位はE゜=+1229 volt が得られているすなわち

こうして標準生成ギブス自由エネルギーから計算することでも同じ値を得る

ことができた

水素を単純に酸素と化合させる燃焼では式(43)で示されるエンタルピ

ーが発生する熱量を示している水素1モルあたり28583 KJである電池

にすれば水素1モルあたり23713 KJの仕事量が電気エネルギーとして取り

出すことができるその差は電池の場合熱が発生して利用できない

化学反応の過程を利用して化学エネルギーから直接電気エネルギーに変換す

るのが電池という装置であるが化学エネルギーは100電気エネルギ

ーに換えることはできないこのようにエネルギーの一部は電池の熱として

発散してしまう

理想気体の状態方程式

ギブス自由エネルギーΔG を定義した式(39)とエンタルピーΔH の定義

式(28)から

ΔG =ΔH-TΔS (39)

ΔH =ΔU +VΔP+ PΔV (28)

そこで次式が得られる

34

ΔG =ΔU+VΔP+ PΔV-TΔS (46)

またエネルギー保存則から得られた式(26)を応用すればギブス自由エ

ネルギーが変形できる

Q =ΔU+PΔV (26)

から

ΔU=Q-PΔV (47)

したがって式(46)は

ΔG = Q-PΔV+VΔP+ PΔV-TΔS

ΔG = Q-TΔS+VΔP (48)

エントロピーの定義からQ=TΔSであるから結局式(48)は

ΔG = VΔP (49)

と表すことができる

成分が混合された気体分子の分子間に働く力をゼロと仮定した「理想気体」を

考えるとき状態方程式としてボイルシャルル(Boyle-Charles)の法則が

利用できる

PV=nRT (50)

ここでnは気体のモル数PVT はそれぞれこれまでと同じ圧力体積温度(ケルビン温度)でありR は気体定数と呼ばれるもので次の値を持

R= 831441 JmolK (51) 単位で分母のKはケルビン温度の意味

35

状態方程式から式(49)の右辺を導くことを考えてみよう式(50)は

1モルの気体について V に対し次のように変形することができる

V 1

PRT (50rsquo)

両辺に圧力の微小変化量⊿P をかけると

PP

RTP V (52)

これを微分方程式として圧力p0 からp1 まで(p0≦p1)積分するなら

1

0

1

0

1

0

1p

p

p

p

p

pdP

PRTdP

P

RTdPV (53)

関数 f(x)=1x を積分したときの関数はF(x)=ln(x)であるので(ln は e を底

とする自然対数loge)

右辺=0

1ln)0ln()1ln(p

pRTpRTpRT (54)

ギブス自由エネルギーを表す式(49)は次のようであったから

ΔG = VΔP (49)

式(52)から得た式(54)を当てはめると状態G0(p0T)からG1(p1T)

へ変化する過程で圧力が p0 から p1 まで変化するものとして

dGG0

G1

G( p1T ) G(p0T ) RT lnp1

p0 (55)

あるいはこれを書き直して

V

36

G(p1 T) = G( p0T ) + RT lnp1p0

(56)

特別にG0(p0T)を標準状態T=29815K(25)p0=1atmに指定する

なら標準生成ギブス自由エネルギーを記号G゜として (56rsquo)

と表すことができる

式(56rsquo)の意味するところは標準状態から圧力の変化を伴う過程で理

G(p1 T) = Go + RT ln p1

想気体のギブス自由エネルギーは圧力の対数に比例して上昇することである

このことはさらに新しい着想を生む

すなわち水素を燃料とする上の燃料電池で1atm 標準状態の水素ガスの圧力

を2atm に上げれば式(56rsquo)からRTln2 余分にギブス自由エネルギー

が取り出せることになる

燃料電池において起電力を生むエネルギーは隔壁を水素イオンもしくは酸

素イオンが浸透しようとする力であるので1atm の水素ガスと2atm のそれで

は浸透しようとする圧力が異なりここに起電力が生じる

式(56)の第二項が圧力の差による仕事であるからこれをΔG とすれば

W=-ΔG の仕事量が電気エネルギーとして取り出せるはずである

W = minusΔG = minusRT lnp1p0

(57)

起電力に換算するために式(41)を使うと

W = n FV=minus ΔG (41)

から

01ln

pp

nFRTV ⎟

⎠⎞

⎜⎝⎛minus= (58)

この式(58)は一般にネルンスト(Nernst)の式と呼ばれる

37

理想溶液のギブス自由エネルギー

理想気体を想定したように無限に希釈された混合溶液に対して理想溶液を仮

定する「系」の圧力温度を一定に保つならば体積内部エネルギーエンタ

ルピーギブス自由エネルギーなどの示量数は混合溶液を構成する物質のモ

ル数mに比例するたとえば標準状態にある物質の1モルの体積をVとすれば

mモルの体積はそのm倍mVであるそうすると溶液中のi番目の成分がmi

モル「系」から「外界」に仕事をするときその成分iの持つ自由エネルギーの

mi倍の仕事が「外界」になされると考えればよい

この溶液成分のモル数と化学的仕事を結びつける示強因子がギブスによって

化学ポテンシャルと名付けられ一般に記号μが用いられる

化学ポテンシャルはこれまで見たようにギブス自由エネルギーで表される

また電位がψ(プサイ)にある系から-Δeの電荷が放出されるときには

-ψΔeの電気的仕事が得られるそこで記号μに両者を合わせた意味を持

たせて「電気化学ポテンシャル」と呼ぶ

概念の上で物質は電気化学ポテンシャルの高い方から低い方へ勾配にした

がって移動する

理想気体の標準状態が気体分圧を T=29815K(25)で 1atm としたのに対

し溶液成分の標準状態はその分圧に相当するモル数 m を用いるすなわち

標準状態にある成分 i の電気化学ポテンシャルμ0iは成分の持つ電荷(H+なら

1)を n として

μ0i = G i゜+nFψ i (59)

ギブス自由エネルギーは式(56rsquo)を借り理想溶液中の成分に対しては気

体圧力をその成分のモル濃度Cに書き換えればよいそこで

G(CT ) G RT lnC (60)

と表すことができる

したがって一般的な成分 i の電気化学ポテンシャルμiを表す式は標準状態

からの自由エネルギーの変化を考え式(59)と合わせて次のようになる

38

ψnFGii 0

式(60)から

ii CRTGTCGG ln)( 0

よって

(61) ψnFCRT iii ln0

実際的なことを考えると成分濃度はその有効イオン濃度とする必要があり

「活量係数」γを導入して次式で表されるイオン活量aを用いる

ai = γCi (62)

一般的にはγ=1と近似してモル濃度Cを使っているこのテキストでも

必要ではない限りイオン活量を用いることを省略して簡単に記述したい

膜電位

燃料電池に使われたナフィオンのような一つのイオンを通す膜を介して膜

の両側にC0 とC1 のイオン濃度差がある溶液が接するときの電気化学ポテン

シャルを考えよう

ある容器の底にナフィオン膜を取り付け容器の中と外のイオン濃度をC0

とC1としそれぞれの電気化学ポテンシャルをそれぞれμinとμoutとする

式(61)を使って

容器の中の電気化学ポテンシャル

(63) innFCRTin ψ 00 ln

容器の外の電気化学ポテンシャル

(64) outout nFCRT ψ 10 ln

イオン浸透性の膜を介して濃度変化が無視できるほどの移動があると考え

その電気化学ポテンシャルの差を式(63)(64)から求めれば

39

)(ln0

1 inoutinout nFC

CRT ψψ (65)

この系において今注目しているイオンが膜を介した両側で平衡状態にある

とき式(65)はΔμ=0と考えることができるすなわち

0)(ln0

1 inoutnFC

CRT ψψ

膜内外の電位差をΔψ=ψoutminus ψinとすれば

1

0

0

1 lnlnC

C

nF

RT

C

C

nF

RTψ (66)

式(66)は理想気体に対するネルンストの式(58)と同様溶液中のイ

オンに対するネルンスト(Nernst)の式として与えられる

細胞の膜においてもその生体膜の内外でたとえばカリウムイオンのように

非対称に分布して平衡に達している場合には式(66)で与えられる膜内外

で電位差が生じるこれは一般に膜電位と呼ばれる膜電位は平衡電位とも

呼ばれる

たとえば膜内外に1価のカリウムイオンに10倍の濃度差があるとすると

通常カリウムイオンは細胞内の濃度が高いので

C0 = 10timesC1

であるから

これを式(66)に当てはめてln(10)=2303 を用いlog への変換をすれば

Δψ=2303times(RTF)timeslog(10)

であるこれに R=831441 JmolKF=96485 CmolT=29815 K(25)

の各数値を当てはめると

Δψ=2303times831441times29815times196485 JC

=+005917 volt

すなわち膜の内外で約+60ミリボルトの膜電位が生じることになるこの

分だけ細胞の外側の電気化学ポテンシャルが高く膜の内側の膜電位が負であ

るそして膜にあるカリウムチャネルがこの電位を示すとき受動的なカリ

40

ウムの膜内外の移動は平衡に達することになる

水素イオン濃度測定

「標準水素電極」は1モル塩酸溶液につけた白金電極に1atm の水素ガスを

吹き込んで平衡状態に達したときの電位を基準としてゼロボルトと規定した

そこである溶液についてその水素イオン濃度を知ろうとするとき同じ水

素電極を用いることを考えれば標準状態にする目的で用いた1モル塩酸溶液

を濃度未知で X モルの塩酸溶液と想定すればその水素イオン濃度を知るこ

とができるだろうか

標準状態ではない X モルの塩酸溶液に浸けた白金電極が半電池として働くこ

とは間違いなさそうであるしかしその白金電極が持つ電極電位を測定する

にはいずれにしても標準電極と組み合わせて「電池」を構成しその電池

の起電力として計る必要がある電池を作れば起電力を知ることができ相

手の半電池の電極電位が知られていれば濃度が未知でXモルの溶液について

その水素イオン濃度を知ることができるだろう

こうした目的のためにいちいちゼロボルトと規定した標準水素電極を用いる

のは煩雑なのでしばしば後出の「銀塩化銀電極」が参照電極として用いら

れる

まず予め「銀塩化銀電極」を標準水素電極と組み合わせて電池とし一度

その起電力を測定しておけば後はいつもそれを標準電極として利用できる

「銀塩化銀電極」の半電池は

H+ (1 moll) Cl- | AgCl | Ag(s)

これに「標準水素電極」を組み合わせ電池を構成すると次のような電池

になる

Pt(s) | H2(g) | H+ (1 moll) Cl- | AgCl | Ag(s)

この電池の起電力を知れば「銀塩化銀電極」の半電池としての電極電位

を知ることができ参照電極として未知の半電池と組み合わせて起電力を測

定して相手の電極電位を計算できる

41

濃度 X モルの塩酸溶液を未知の溶液と想定すればその電極電位を知るために

組み立てる電池は次のようになる図10にその電池の図を示した

Pt(s) | H2(g) | H+ (x moll) Cl- | AgCl | Ag(s)

この電池の全反応は次の反応式で表される

AgCl(s) 1

2H2 (g) H Cl Ag(s) (67)

図10未知溶液の水素イオン濃度を測定しようとするための電池

化学反応の一般的な式

ここで電池に利用される化学反応から得られるエネルギーをギブス自由エ

ネルギーに換算し起電力を具体的に知る手だてとすることは上ですでに学

42

んだがより一般的な式を再度ここに書きだしておこう

化学反応が紙面で左から右に進む反応として次のような一般式で与えられ

るとき

aA + bB rarr cC + dD (68)

ギブス自由エネルギー変化量は標準状態ΔG゜からの変化量を加える形で式

(60)と同様次の式によって表される

G G RT(ln aCc aD

d ln aAa aB

b )

G RT ln

aCc aD

d

aAa aB

b (69)

aAは成分 A のイオン活量であるその他の成分も同じ

得られたエネルギーを電気エネルギーに換えるなら式(41)に習って

次式で表せば

ΔG=-n FV

there4V=-ΔG(nF) (70)

このときの起電力は標準状態における電位 E゜からの変化量として次式で与

えられる

E E

RT

nFln

aCc aD

d

aAa aB

b (71)

標準状態における起電力 E゜は反応が平衡状態にあるときで反応平衡定数

を K とするなら

K aC

c aDd

aAa aB

b (72)

で表されるそこでE゜は次のように書き改めることができる

43

E

RT

nFln K (73)

そこで式(67)で表される図10の電池「水素minus 銀塩化銀電池」に

対する起電力をギブス自由エネルギーから求めてみよう

反応から式(71)に当てはめれば

E E RT

Fln

aH

1 aCl

1 aAg1

aAgCl1 aH2

1

2

(74)

力学の慣例にしたがって固体の純物質の活量は1として扱い水素ガスを

想気体として見なして活量を1atm とするなら式(74)は次のよう

に簡略化される

E E

RT

Flna

H aCl (75)

ころで理想溶液として近似的に取り扱うときの希薄溶液でたとえば水素

入して詳細に検討するなら式( れる起電

オン濃度はイオン活量として aH+の記号を使うときすでに【理想溶液のギ

ブス自由エネルギー】の章で述べたようにこれを有効イオン濃度とする必要

がありイオン活量 a は「活量係数」γを導入して次式で表した

a H+= γH+CH+ (62)

この活量係数を導 75)で誘導さ

を計ることによって経験的に試料溶液中の水素イオン濃度を求めることは

困難である式(75)にあるイオン活量の項はモル濃度 C と活量係数γを

用いて次式で書き改められる

lnaH aCl

lnCH CCl

lnH Cl

(76)

まり式(76)右辺の第二項において互いに相手が知られなければ自分

決めることができず結果的に起電力を知っても(75)の値から水素イオ

ン濃度を導けないここに工夫が必要になる

44

の定義とその目盛り

液中の水素イオン濃度を直接意味するものではなく

を定義するとき測定されるのは1リットルの溶媒に存在す

pH = -log a H+ = -log(γH+CH+) (77)

際に試料溶液の pH を決定する際はpH 標準液を用いる

に溶液を入れ試料溶液 X と pH 標準液 S を

参 極を接続し電池を作成しその起

pH

現在pH の定義は溶

で述べたようにそれが簡便に測定できるものではないため次のように定

義されている

水素イオン濃度

水素イオン活量であるため定義式としては活量係数をγH+として次式で与

えられる

その要領は次のようである

上に図示した水素電極の容器内

れぞれ半電池(I)と(II)に入れる

半電池(I) Pt | H2 (1 atm) | 試料溶液

半電池(II) Pt | H2 (1 atm) | 試料溶液S

照電極として上図のごとく銀塩化銀電

電力を測定する半電池(I)のときの起電力を E(X)半電池(II)のそれを E(S)

とするこのとき試料溶液Xの pH は次式で計算される

pH (X) pH(S) E(S) E(X)

RT ln(10) (78)

ln(10)は自然対数を常用対数に戻すための定数で2303 を用いる

標準液

pH 標準液 S はpH 第一次標準液第二次標準液と呼ばれるべき

る測定

25で pH 4005 を示す

pH

上述した

のであり絶対的測定法である起電力の測定によって値をつける

標準液は安定で純粋な結晶が得られる試薬を調整してこれを測定す

上と同様に水素電極を用いこれに緩衝液を入れる参照電極として銀

塩化銀電極を接続して電池の起電力を測定する

たとえば005 moll フタル酸水素カリウム溶液は

一次標準(Primary Standard PS)の一つである半電池(III)として水素

45

電極を次のように準備する

半電池(III) Pt | H2 (1 atm) | PS 溶液

て電池を形成したとき得られる起電

参照電極として銀塩化銀電極を接続し

は式(75)から

E E

Ag AgCl RT

Flna

H aCl (79)

オン活量を濃度と活量係数の積(a H+= γH+CH+)にし自然対数を常用対数

すれば

E E

Ag AgCl RT ln(10)

F log(

H + CH+ Cl- CCl - ) (80)

E゜は水素標準電極(水素ガス分圧を1atm電極を浸ける溶液に001 moll

H

Cl を用いる)で得た起電力である

式(80)から

RT ln(10)

Flog(

H CH Cl

) (E EAg AgCl )

RT ln(10)

Flog C

Cl

(81)

らに

log(

H CH Cl

) F

RT ln(10)(E E

Ag AgCl ) logCCl

(82)

ころで式(77)から

(γH+CH+) (77)

-log a H+ =-loga H+-log(γCl-) +log(γCl-) =-log(a H+γCl-) +log(γCl-)

(83)の一番右の式で第一項は

pH = -log a H+ = -log

であるが右の式をさらに変形すると

(83)

46

-log(a H+γCl-)=-log(γH+ CH+γCl-) (84)

たがって式(82)の右辺で示されるように電池の起電力を測定すれば

よ 実際には溶液の塩素イオン濃

液で起電力を求め外挿する

起電

これによってpH を意味する式(83)は次式(85)で与えられる

p(aHγCl)はRG Bates によって Acidity Function と呼ばれている

らに式(85)最終項の log(γCl-) を補正しなければならないこの項は

本工業規格)によっても

であってこれは式(82)の左辺である

いただし塩素イオン濃度の項があって

をゼロにしたときの値が必要である

実測する際には塩素イオン濃度をゼロにできないので塩化ナトリウム NaCl

等を濃度を変えて添加しその時々の緩衝

勧告ではNaCl で 000500100015moll の3つの濃度を例示している

すなわち塩素イオン濃度ゼロのときの値は各塩素イオン濃度に対して

の値をそれぞれプロットしグラフから塩素イオンがゼロのときの起電力の

値を3点に対する回帰直線の延長で外挿して求めるこの点を次のように書

log( C H H Cl CCl

0

pa log( C log( (85) H H H Cl C

Cl0 Cl

)

素イオンの活動係数で与えられる補正項である

無限希釈溶液中のイオンの活動係数は理論的に Dubye-Huckel の式を用い

近似的に求めることが可能であるこれはJIS(日

用されていて Bates-Guggenheim の規約と呼ばれる (Bates RG

Guggenheim Pure Appl Chem 1 163-168 1960)

Dubye-Huckel の式は次のように与えられる

log A I

i 1 iB I (86)

47

I iについてそのモル濃度

計算される

はイオン強度でイオン mi と電荷 zi から次式で

I 1

2mizi (87)

また iは(86)式のBは温度と溶媒の性質による定数であり イオンの大

きさに関するパラメータで水和イオンの大きさとほぼ一致した値をとる標

準法の勧告では塩素イオンに対しイオンの大きさを46Åと決めてiBを

1

5 にしているそこで式(84)は次のようになる

ClA I

log 1 15 I

イオン強度 I は塩素イオン濃度を含まない計算となる

以上の方法によって実用的な pH 測定に用いられる第一次第二次標準液の

pH の値が得られる

絶対値としての

はpH の絶対測定法(第一次標準測定法)とされている

銀塩化銀参照電極は分極現象を防ぐために棒状の銀を塩酸で処理し表

に塩化銀を生成させたものを飽和塩化カリウム溶液につけてある

(88)

参考現在は実験的に求めた値と理論値の組み合わせで

素イオン濃度を求める方法を規定しているこの起電力から水素イオン濃度

を知るための測定方法

Buck RP Rondinini S Covington AK Baucke FGK Brett CMA Camoes MF

Milton MJT Mussini T Naumann R Pratt Kw Spitzer P Wilson GS

Measurement of pH definition standards and procedures Pure Appl Chem

74(11)2169-2200 2002Kristensen HB Salomon A Kokholm GInternational

pH scales and certification of pH Anal Chem 63(18) 885A-891A 1991)

銀塩化銀参照電極

電極の構成は

Cl-(aq) | AgCl(s) | Ag(s)

48

この半反応は次のようになる

AgCl(s) + e- rarr Ag(s) + Cl- (89)

の反応は次の2つの反応に分けて考えることができる

Ag+ + e- rarr Ag(s) (91)

AgCl(s)rarr Ag+ + Cl- (90)

図11銀塩化銀参照電極

(90)における銀 る塩素イオンによって左

されることが推測される

そこでカッコ [ ] をそれによって囲まれるイオンの濃度を表すことにし

式 イオン Ag+の溶解性は共存す

塩化銀の乖離定数Kを考えると

49

K = [Ag+][Cl-] (92)

これから

[Ag+]= K[Cl-] (93)

化カリウム溶液に漬けた銀塩化銀電極の電位 E は水素標準電極に対する

電 で与えられる

位を E゜として次式

E E

RT

nF

[ Ag ]

[Ag(s)]ln( )

Ag(s)のイオン活量は常に1とする

ここで半反応の電極電位を求めるために式(75)を利用することにすれば

(94)

熱力学の慣例にしたがって純物質個体

E E

RT

Flna

H Cl a (75)

式 の半反応をみると

応で電子1つが移動するので n=1 とするR=831441 JmolK1F = 96485

C はめれば

これに銀イオンの濃度として式(93)を当てはめる

この反応で移動する電子は (89) 銀イオン1つの反

molT=29815K(25)ln(10)=2303などの定数を当て

2303RTF = 005917

であるから(94)式は次のように表現できる

log[Cl]) E E 005917(logK (95)

たがって標準水素電極に対する銀塩化銀参照電極の標準状態における電

位 は半反応(89)に対して ゜=+0799で

化銀の乖離定数 K は182times10-10 であるのでその対数を取れば-973993

0799-005917times973993-005917log[Cl-]

E゜ E ある

ある

そこで式(95)は

E =

50

= 0799-0576-005917log[Cl-]

= 0223-005917log[Cl-] (96)

電極電位の関係について実測値

こうして求めた塩化カリウム溶液の濃度と

計算上の値は次のようである

KCl moll vs SHE volt25 計算値 volt25 01 02881 02822 35 0205 01908 飽和 0199 minus

実用 測定

実際の現場で水素イオン濃度を測定する目的の測定法で上のような2つの

極が同じ溶液に浸かっていたのでは試料溶液を交換するにも便利ではない

の容器に入れる未知試料溶液と銀塩化銀電極を隔離する

的な pH

そこで水素電極側

的で二つの電極容器をつなぐ液絡部をグラスフィルターやセラミック板

飽和塩化カリウムで作成したゼラチンなどの塩橋によって隔離遮断するこ

れを液絡部とよぶ

電池として機能するために必要な溶液イオンの交換はこの液絡部で行う

組み立てる電池は電池式で次のように表される

Pt(s) | H2 | 試料 (H+ x moll) || 飽和 KCl | AgCl | Ag(s)

の標準電極と銀塩化銀電極とは区切られていて溶液の直接の接触がない

とを意味するために電池式ではタテ二重線を用いる銀塩化銀参照電極

の容器には飽和塩化カリウム溶液が入れられる

51

図12液絡部のある pH 測定のための電池

この液絡部のある電池では塩橋を記号lsquo | | rsquoで表して次のように記す

試料 (H+ x moll) | | 飽和 KCl

ここでは試料溶液と飽和塩化カリウム溶液の異なる2液が接している

このような界面では膜電力が生じるのと同様「液間電位差」が生じることが

知られているしたがって上の電池で測定される起電力 E は

E = E[銀塩化銀電極電位]+E[液間電位]+E[水素電極電位]

で与えられることになってE[液間電位]のために図12の電池の起電力

は銀塩化銀参照電極の値を知っていても水素電極容器内に入れた未知溶

液の水素イオン濃度を正しく知ることができない

52

そこで実用的な測定法としてこの E[液間電位]を膜電位として積極的に利

用する方法が工夫されたすなわち水素イオンに感応するガラス薄膜を用い

るガラス電極法である

53

ガラス電極

ガラスはケイ素原子と酸素原子からなる SiO4 の結晶構造を持ち酸素で囲

まれた空隙があって水素イオンがそれを埋めることができる

この性質によってガラス膜表面は水溶液中の水素イオンに応じて膜電位を

変化させるのでこれを水素イオン濃度測定用の電極として利用することが考

えられるこれが通常用いられるガラス電極である

ガラス電極は標準電極と組み合わせれば電池を構成することができこの電

池の起電力を知ってガラス薄膜の内外にできたイオン濃度勾配を知ろうとす

るものである

薄いガラス膜(01mm程度)をはさんで接する2つの溶液のH+イオン濃

度が異なるとその差に応じてガラス膜の両側に電位差(Eg)が現れる

ネルンストの式でガラス電極の内部に入れた既知の濃度のH+([H+]in)に対

し試料中の水素イオン濃度が[H+]sampleのとき次の電位を生じる

)][

][log(059170)

][

][ln(

sample

in

sample

ing

H

H

H

H

F

RTE

(97)

図13ガラス電極

電極を構成するのは銀塩化銀電極と同じ電極で用いる塩溶液は一般的

54

に 01モル塩酸溶液である

この半電池の電池式は次のように書くことができる

Ag(s) | AgCl(s) | HCl (01 M) | ガラス薄膜 || 試料溶液 H+ (x moll)

Eg

この半電池の電極電圧を測定するために銀塩化銀標準電極と組み合わせ

電池を作って起電力を計る

構成される電池は下図のようになる

ガラス電極 銀塩化銀標準電極

図14ガラス電極を用いた pH 測定用の電池

この電池の起電力は次の各半電池の平衡電位を合わせたものになる

55

E1ガラス電極の内側電位

Ag(s) | AgCl(s) | HCl (01 M)

Egガラス薄膜の内外に生じる膜電位

HCl (01 M) | ガラス薄膜 || 試料溶液 H+ (x moll)

E2液間電位(膜電位)銀塩化銀標準電極のセラミックを介した試料溶液

と銀塩化銀標準電極の内部液(飽和 KCl 溶液)の間に発生する電位

試料溶液 H+ (x moll)|| セラミック | KCl(飽和)

E3銀塩化銀標準電極

KCl(飽和)| AgCl(s) | Ag(s)

pH メーター用のガラス電極に使われるガラス薄膜は水素イオンに感応して

膜電位(Eg)を生じるこれは【膜電位】の章で記したように薄膜がある

一つのイオンのみを通過させる特性を持っている場合にイオンが膜を介した

両側で平衡状態に達したとして電気化学ポテンシャルを膜の両側で等しいと

考えてそのイオンが濃厚な側から希薄な側にその差によって圧力を生じると

するものである

一方同じ試料溶液が銀塩化銀標準電極のセラミック液絡部を介して生じ

るだろう液間電位(膜電位E2)はいま関心がある水素イオンに対して特異

的に感応するのではないので試料溶液の水素イオン濃度に関係なく一定と見

なすことができる

すなわちpH メーターを構成する電池の起電力 E は

E = E1+Eg+E2+E3 (98)

このうちEg以外は一定と見なせるので

E1+E2+E3 = E

として式(98)を書き直すと

)][

][log(059170

sample

ing H

HEEEE

(99)

Eは標準液によって校正されるべき標準電極電位である

56

電極の校正

実際のイオン濃度を測定する場合低濃度標準液と高濃度標準液で得られ

る起電力を測定し計測のイオン濃度に対する係数(傾き)を求めておき未

知の試料に対して起電力を測定してそのイオン濃度を算出する方法が採られる

低濃度標準液と高濃度標準液のそれぞれの濃度をCLとCHとすればそれぞ

れの起電力ELとEHは次式で表される EH = E +β logCH (100)

EL = E +β log CL (101)

ただしβは式(99)の係数を簡略にしたものである

式(100)と(101)から検量線の傾きが次式で表せる

ΔE = EH minus EL = β(logCH minus logCL) = β logCH

CL

(102)

したがって係数βは

β =ΔE

log CH

CL

(103)

であらわされる

このときに使われる標準はすでに前出の pH 第一次標準第二次標準溶液で

ある

金属イオンに対応するイオン選択電極

現在臨床検査で日常的に使われている電解質測定のための電極はナトリウ

ムカリウムカルシウムクロールなどおよそ臨床的に必要な金属イオン

に対して入手可能である

カリウムイオン測定用のバリノマイシンの発見によってクラウンエーテルと

57

呼ばれる一連の化合物が知られたクラウンエーテルはその分子の中心に立

体的な空間を持ち特定のイオン径に対し合致するのでそのイオンに対して

選択的に感応するこれらの化合物はイオノフォアと呼ばれる

図 15クラウンエーテル

1つの金属イオンが環状化合物

15-crown-5 の中央にある空間を充填

している模式図

15-crown-5 の構造を作る10個の黒

い丸は炭素炭素2個のつながりごと

にある中心の白い丸は酸素酸素と

金属イオンの間の距離はおよそ 22~

23Åであるカリウムのファンデン

ワールス半径は 135Åイオン半径は

15~16Åである

測定したいイオンに対しポリ塩化ビニル(PVC)を支持体としてイオノフ

ォアを添加した液膜の電極膜を作成しこれをガラス電極におけるガラス薄膜

と同様試料に接する電極膜として用いるこの構造から一般的に液膜型電極

と呼ばれる電極膜には特異性を高めるため妨害イオン排除剤などが添加

される

pH メーターと同様銀塩化銀標準電極と組み合わせ電池を形成しその

起電力を計る測定したいイオンが液膜に対して内外で平衡に達したときの

膜電位を測定するのはガラス電極と同じである

カ リ ウ ム イ オ ン に は Bis[(benzo-15-crown-5) ( 正 式 名 は

Bis[(benzo-15-crown-5)-4-methyl]pimelate)ナトリウムには Bis[(12-crown-4)

やDibenzyl-bis[(12-crown-4)などがイオノフォアとして用いられる

58

図16カリウムイオン測定用に使われるクラウンエーテル

図17ナトリウムイオン測定用に使われるクラウンエーテル

59

参考イオン選択電極に関する文献Xia Z Badr IHA Plummer SL Cullen L

Bachas LG Synthesis and evaluation of a bis(crown ether) ionophore with a

conformationally constained bridge in ione- selective electrodes Anal Sci 14(2)

169-173 1998 Oh K-C Kang EC Cho YL Jeong K-S Y oo E-A Paeng K-J

Potassium-selective PVC membrane electrodes based on newly synthesized

cis- and trans-bis(crown ether)s ibid 14(10)1009-1012 1998 Dojindo WEB

site httpwwwdojindocojpwwwrootproductsjinfo2protocolp31pdf

<補遺> 60

補遺 状態関数 (本文 p21 10 行目参照)

一つの平衡状態にある系 A とこれに接する系 A にとって外部である系 B について系 B

から系 A に熱を与えこれによって系 A が他の平衡状態に移ったとき系 A はその結果とし

て膨張し系 B に対し仕事をする

このときの微少な熱量の移動を記号drsquoQ またなされた微少な仕事をdrsquoW とすると

系Aの内部エネルギーに関する微少な変化drsquoUA は両者の和として表される

WdQdUd A primeminusprime=prime (a-1)

この式 a-1 と本文中の式25との関係について

WQU A Δminus=Δ 本文(25)

<補遺> 61

式 a-1 と式25の記号の違いは変化の起きる前の平衡状態 S1 から変化後の平衡状態 S2

に状態変化があったとするなら式 a-1 を積分することで式25が得られるものと考えて区

別している

A

S

S A UUd Δ=primeint2

1 (a-2)

このことは重要であるすなわち内部エネルギーU は変化の起きる前後の状態を指定する

ことによって値が定まることを意味するこのように積分によって値を定めることが出来る

のでdrsquoU は完全微分であるという

内部エネルギーのように系の状態だけで値の定まる量を状態関数として扱う

一方式 a-1 のdrsquoQ drsquoW についても同様に微少の変化量を表しているが平衡状態 S1

から S2 への経路を指定しなければ積分の値は定まらない

本文中の記号にしたがって仕事量ΔW を次のように表すことにする

VpW Δ=Δ 本文(20) V

<補遺> 62

体積と圧力の関係を表す図を使ってこの仕事量が意味することを考える圧力 prsquo の下で

体積が V1 であるときを状態 S1 として圧力一定の下で体積を V2 まで膨張させるような変

化を行った後体積を等しく保って圧力を p にまで上げたときの状態を S2 とするこのとき

の仕事量は膨張に伴うものであるから図の体積‐圧力線の下の面積で示すことができる

平衡状態 S1 から S2 への変化の道筋を別にたどってみよう

新しい経路では圧力を先に p まで上げた後に膨張変化させている

図から直感的に明らかであるので数式での扱いを省略するが2 つの経路による仕事量には

差がある

すなわちdrsquoW は drsquoU と異なり変化の初め S1 と終わり S2 の状態が与えられても積分値

は定まらず変化の経路によって違ってくる

このように変化の経路を指定しなければ積分値が定まらないものを不完全微分と呼び扱

いを区別する

本文 p21 へ戻る

<補遺> 63

VpW

WQU

VpQU

VpUQ

1122 SSSS pVUpVUQ

pVU

VpUHHHQ SS 12

エンタルピー (本文 p24 20 行目参照)

本文中の式 20 および 25 から一定の圧力の元で起きる状態変化において内部エネルギー

の変化量に対する式 a-3 を得る

本文(20)

本文(25)

(a-3)

式 a-3 を Q について書き直す

(a-4)

状態の変化が平衡状態S1から平衡状態S2に移ったものとして式 a-4を丁寧に書き直すと

(a-5)

並び替えて

(a-6)

式 a-6 を見ると定圧過程における熱量の流入は

(a-7)

の形を持つ関数の差であることが分かる

一般に化学反応のような変化の過程では大気圧の下で行われるようなものに興味がある

そこで式 a-7 で与えられる項を一つの関数として定義するこれをエンタルピーと呼び記

号 H を与える式 a-4 はエンタルピーの変化量で次のように書き改められる

(a-8)

圧力が一定の下で起こる状態変化について流入する熱量は式 a-8 で示されるようにエンタ

ルピーの変化量に等しい

V

V

V

V V

V

V

1212 SSSS VVpUUQ VV

<補遺> 64

1Q

We

また式 a-8 からオートクレーブ内で起こるような体積変化のない過程ではこの値が内

部エネルギーの変化量で与えられることが明らかである

本文 p24 へ戻る

エントロピー (本文 p26 17 行目参照)

エントロピーは次のような思考実験から発想された仮想的な状態関数である

理想気体よりなる系 A が温度 T2で熱平衡状態にあり温度 T1の外部の熱源と接しているこ

とを想定する系 A の外部を系 B と呼ぶことにするT1は T2に対して無限小だけ高い温度と

する

系 A が系 B に対して温度圧力について平衡を保ちながら緩慢に系 B より熱量 Q1を受け取

る過程を考える(このような過程を準静的過程と呼ぶ)これによって系 A が熱量 Q1を得て膨

張するとき系 B に対して仕事をする続いて系 A から熱量 Q2が系 B に戻ることを考える

想定されるこの変化が可逆的であれば系 A と系 B を併せた全体は元の状態に戻る蒸気機

関に関するこのような研究が Nicolas Carnot によってなされたのは1824 年のことであった

ここに想定されたサイクルに対する Carnot の効率 e は移動した熱量となされた仕事によ

って定義され次の式で表される

(b-1)

<補遺> 65

理想気体では内部エネルギーU の変化ΔU はゼロと考えるしたがって熱力学の第一法

則を表す式(本文中の式25)から次の関係が示される

0=Δminus=Δ WQU

WQ Δ= (b-2)

これによってCarnot Cycleの効率eはQ2lt0 として次のように書き改めることが出来る

1

21

QQQe +

= (b-3)

ところで気体の状態方程式から1 モルの気体について次のような関係が示される

RTV

P

P1=

V = RTV (b-4)

V 式 b-4 の両辺に体積の微少変化量ΔV をかけて

(b-5)

これを体積Vについてその変化をV1からV2までとして積分するならば次式が得られる

VV

RTVP Δ=Δ 1V V

V

intint = 2

1

2

1

1V

V

V

VdV

VRTPdV

1V2V

11 lnRTW =

(b-6)

Q1の熱量によって起こる膨張がV1よりV2までとし圧力P温度T1の下でなされるその仕事

量をW1とするならそれは式b-6 の右辺によって示されるすなわち

(b-7)

VV

1

2lnVVRT=

V V

VV

V

V2int V2 intV1 V1

<補遺> 66

またQ2の熱量の移動が圧力P温度T2の下で起きこれによって系Aが可逆的に圧縮され

るなら体積変化はV2よりV1まで起こりその仕事量をW2で示すと次式のように表される

(b-8)

1

22

2

122 lnln

VVRT

VVRTW minus==VV

VV

Q1=W1Q2=W2の関係から式b-7 およびb-8 を用いてCarnot Cycleの効率eを表す式b-3

を書き改めると温度のみの関係式として次のように表される

1

21

TTTe minus

= (b-9)

ここでサイクルが可逆的過程であると想定するならば式 b-3 と式 b-9 から

1

21

1

21

TTT

QQQe minus

=+

= (b-10)

これから

12112111 QTQTQTQT minus=+ (b-11)

整理すると

02

2

1

1 =+TQ

TQ (b-12)

この考えをさらに発展させ系A

と系Bの間に数多くの系を挿入すること

にしてそれらの系を同様に熱源として

T1T2Tnと考えるこれによっ

て熱の受け渡しが系Aから系Bに至り

再び系Aにもどるサイクル過程に数多

くの寄り道の過程を加えることになる

熱量の移動に関して上の場合と同じく

準静的過程で行われると考えるこの

サイクル全過程について初めと終わ

<補遺> 67

n

i i

i

T

Q

1

0

0T

dQ

T

QS

T

dQASAS )()( 12

りが同じ状態になる可逆的な過程であるなら式 b-12 を拡大的に考えることになってそれ

は次式で表される

(b-13)

式 b-13 には重要な関数が現れるすなわち熱量と温度の比QT である

もし一つの系が無限小だけ温度の高い(dT )外界から温度圧力など平衡を保ちなが

ら極めて緩慢な過程(準静的過程)で無限小の熱量(dQ )を受け取るならばその変化は可

逆的でありdT について連続的な温度分布をする過程を考えるとき式 b-13 をさらに発展

させて次のように積分式で示すことが出来る

(b-14)

式 b-14 で積分記号にが付されているのはCarnot Cycle のような経路を一巡することを

意味している

Carnot の熱機関の効率という着想から生まれた熱量とそれを持つ系の温度との比 QT に

重要な意味を見出したのは Rudolph Clausius で彼はこの比にエントロピーという名前を与

えたエントロピーには記号ΔS を一般に用いる

(b-15)

エントロピーは初めと終わりの状態がわかれば過程に関わらず定まるので状態関数であ

系 A と外界のエントロピー変化を考えるときそれが可逆的過程であるならばすべてを併

せた全体のエントロピー変化は初めと終わりに変化がないという意味でゼロであるすなわ

ち初めの状態を S(A1)とし次の状態を S(A2)とするならそれぞれのエントロピーを

ΔS(A1)ΔS(A2)としてこの間におけるエントロピーの変化量は次のように示される

(b-16)

<補遺> 68

T

dQdS

0T

dQ

ある一つの変化については次のように示される

(b-17)

ここで式 b-17 の S に付けられたdは微分量すなわちごく微小の変化量を意味し式 b-15

で定義されたエントロピーに用いられる一般的な記号Δと区別する

ところで式 b-10 の関係においてもし移動した熱量のすべてが仕事に変わらなければ

効率 e を表す熱量を用いた関係式と温度で表される関係式は等号で結ぶことができないそれ

はエネルギーのロスを意味し初めと終わりの状態が異なってしまうことを意味するすなわ

ち全過程が構成する一つのサイクルは可逆的でなくなる

不可逆過程での熱効率 ersquo は 大値を示す可逆的過程の熱効率 e より小さな値をとる

ee

したがって 大効率を与える式 b-8 と式 b-3 から

01221

2112

1

21

1

21

QTQT

QTQT

Q

QQ

T

TT

両辺を T1T2で割ると

02

2

1

1 T

Q

T

Q

これを式 b12 と同様に発展させれば式 b-14 についてサイクルの変化が可逆的過程の

場合と不可逆的過程の場合の両方を併せClausius の不等式と呼ばれる次の関係が成立する

(b-18)

式 b-18 の等号が成立するのはサイクルが可逆的な理想の場合に限られる

ある孤立系で状態 A1 から状態 A2 へは不可逆変化で進められ状態 A2 から再び状態 A1

に戻るとき可逆変化であるような閉じた状態変化を考える可逆系のエントロピー変化には

記号 Q を使い不可逆変化には Q を用いるとするとそれぞれ積分式を用いて状態 A1 から

状態 A2 へは

<補遺> 69

d prime

状態 A2 から状態 A1 に戻るときは

全体では

=d prime

+d

(b-19)

Clausius の不等式から

0

式(b-19)の第二項で反応を逆に進めるときには次のように書き改めることができる

=d

よって式(b-19)は次のように書き直すことができClausius の不等式とあわせると

d prime d

0

すなわち

d prime d

上式の右辺は式(b-16)を用いて表せば

d prime

∆S ∆

この状態変化を微小変化とするならば断熱変化の場合 dQ = 0 であるから

∆S ∆ dS 0

すなわち不可逆変化を含む断熱変化ではエントロピーは必ず増大する

<補遺> 70

T

QS

BA SSS

(b-20)

(次の<補遺>ギブス自由エネルギーも参照せよ)

本文 p26 へ戻る

ギブス自由エネルギー (本文 p28 27 行目参照)

エントロピーの考えを導入することによって不可逆的に状態変化が起きるときにはエン

トロピーの増大を引き起こすことを知ったこれによって目前で起きる現象について温度の

変化があるものであれないものであれまた圧力の変化があるものであってもエントロピー

の定義式によって可逆的な変化におけるエントロピーの変化量を計算することが可能である

(b-15)

しかしながらこれから起こる変化について我々がすでにあらかじめ知っている物理量を

用いて予測的にその状態変化が起きるかどうか知ることは必ずしも容易ではないその理由

は式 b-15 に示されたエントロピーΔS が系とその外界をあわせた全体のエントロピーを示

しているからであるすなわち関心のある系を系 A としその外界を系 B とすると全体

のエントロピーは次のように表せる

(c-1)

関心のある系 A のエントロピー変化を知るためには系 B のそれを知ればよいがそれは

いつも容易とは限らない系 A の性質だけで状態変化の方向を知るには別の観点が必要にな

るようだ

そこでもう一度状態変化が熱量 Q の移動によって起きることについて考えてみようエン

トロピーの補遺で議論したように熱量の移動が準静的過程により行われるときには変化は可

逆的に起こると考えたこのとき外界すなわち系 B から移動する熱量を Q1とし系 A から

0S

<補遺> 71

21 QQ

T

Q

T

QSB

21

T

QSS A

2

QH

T

HSS AA

AA STHST

のそれを Q2 と記号を当てたのでこれをそのまま使うことにすれば可逆的な過程では系 B

の熱量 Q1 はすなわち系 A から戻る Q2 に他ならないので両者には次の関係が成立するも

のとしてよい

(c-2)

したがって

(c-3)

と考えてよくこれによって式 c-1 を次のように書きなおすことが出来る

(c-4)

独立した系で圧力とその体積に変化がなく一定の条件の下で状態変化が起きるときエン

タルピーの考えを使ってすでにひとつの関係があることを導いている

本文(31)

そこで式 c-4 を系のエンタルピーΔHAによって書き改めれば

(c-5)

この両辺に-T をかけて式を書き直せば次の関係式が得られる

(c-6)

式 c-6 を見るときその右辺がマイナスの値ならば左辺のΔS はプラスの値をとることが

分かるすなわちエントロピーが増大すると見ることが出来るこれまでの過程で自然の現

象はエントロピーが増大する方向に進むとしてきたので関心のある状態変化について式 c-6

の右辺で計算される値がマイナスの値ならばその変化は起きるものと考えてよいことになる

だろうしかも右辺はすべて独立した系の状態量で示されていて我々が知りうる値で計算

<補遺> 72

TSHG

STSTHG

STHG

可能である

そこでこれを熱力学ポテンシャルを表すものとしてギブス自由エネルギーと呼ぶことに

するギブス自由エネルギーは記号 G が用いられ次のように定義される

(c-7)

ここで関心があるのは自由エネルギーの絶対値ではなく式 c-6 に示されたようにその変化量

に興味があるので式 c-7 から

(c-8)

温度が一定の条件の下で状態変化が起きることを考えるなら式 c-8 は次のように書くこと

ができる

(c-9)

ギブス自由エネルギーは式 c-9 の右辺がすべて状態量であるからこれも状態量の一つで

ある定圧定温の条件下で起きる変化ではすでに議論したようにΔGlt0 であれば状態

変化は自発的に起きるものと予測できる

つまり式 c-5 の第一項は系のエントロピーΔSAそのものであり第二項で示されるエンタ

ルピーは系 A の温度が一定に保たれているのであるから発熱する熱量として外界に吸収さ

れるものであってこれは外界のエントロピーの増大につながるものとして解釈されるした

がって化学反応のように一定の圧力と一定の温度の下で起きる変化について自由エネルギ

ー変化量はその状態変化が自発的に起きる傾向を示しているといってよい

本文 p28 へ戻る

  • はじめに
  • 目次
  • 電気エネルギー
    • 金属のイオン化
    • 電池
    • 水素の反応
    • 燃料電池
    • 化学反応と電気エネルギー
      • エネルギーと熱力学
        • エネルギー保存則
        • エンタルピー
        • エントロピー13
        • ギブス自由エネルギー
        • 電池における化学反応のギブス自由エネルギー13
        • 理想気体の状態方程式
        • 理想溶液のギブス自由エネルギー
        • 膜電位
          • 水素イオン濃度測定
            • 化学反応の一般的な式
            • pHの定義とその目盛り
            • pH標準液
            • 銀塩化銀参照電極
            • 実用的なpH測定
            • ガラス電極
            • 電極の校正
            • 金属イオンに対応するイオン選択電極
              • 文献
              • 補遺
                • 状態関数
                • エンタルピー
                • エントロピー
                • ギブス自由エネルギー
Page 10: イオン選択電極i イオン選択電極 Ion Selective Electrode (ISE) を理解する ・ pHを測定する ・ NaやKなどのイオン濃度を測定する 神戸大学医学部保健学科

7

チューブ内に飽和塩化カリウム(KCl)溶液などをゼラチンで固めて詰めそれ

がこぼれ出ないようにそれぞれの口を濾紙などで封じたものである

図2亜鉛と銅を電解質溶液に入れ塩橋を渡す

この塩橋の代わりに素焼きの陶板やセラミックなどのイオンを通す性質があ

る固体で両水槽を仕切る方法でもよい図に示したように塩橋もしくはしき

りを介してイオンが移動できる

8

図3亜鉛と銅を電解質溶液に入れしきり板にセラミックを使う

このように電子の流れを発生させて利用しようとする装置を「電池」とよぶ

電池には2つの極がある陽極(+)と陰極(-)である

陽極(+)は正極ともよばれ電極に伝ってきた電子が水溶液に移動し還

元反応が起きる側をいう

これに対して陰極(-)は負極ともよばれ電極金属がイオン化し酸化反応が

起きて電子が電極から取り出される側をいう

今の例では亜鉛板が陰極(-)銅板が陽極(+)とよばれる

有名な「ダニエル電池」はこのように考案された

電池を電球などにつなぎ電気回路を形成すれば亜鉛電極内の電子が導線へ流

れ出て電球を明るくし亜鉛はつぎつぎ溶液に溶け出す

回路を切れば再び電極に電子がたまり平衡状態に達して亜鉛イオンの溶

出は止まる

ここで電池の表記についての取り決めを記しておこう

9

電池は2つの極からなる陽極と陰極である陽極すなわち還元反応が起き

導線を介して電子を受け取る極を右に書くダニエル電池の場合には陽極は銅

板であり銅イオンを供給する硫酸銅の水溶液が電解質溶液として用いられる

陽極金属と電解質溶液の間は縦棒で区切るそこで陽極は次のように表記され

CuSO4(aq) | Cu(s) (+) 記号(aq)は水溶液のこと

同様に陰極は酸化反応が行われる極でこれを左に書く

(-) Zn(s) | ZnSO4(aq) この両方の極は別々の水槽にあってイオンの交換が塩橋あるいはセラミッ

クのようなしきりを介して行われるのでこの隔壁をタテ二重線で表記し両極

を並べて記す

ダニエル電池は次のような記号で表記されるこれを電池式と呼ぶ

(-) Zn(s) | ZnSO4(aq) || CuSO4(aq) | Cu(s) (+)

両端の極を導線で接続し回路を形成すれば電子の流れが左の陰極から右の陽

極に起こり電流は右から左へと流れる

水素の反応 イオン化傾向の大きさが異なる金属を組み合わせて酸化還元反応が起きると

電子の流れが生じそれを取り出して豆電球を点灯する仕事として利用するこ

とができる

イオン化列の鉛と銅の間には水素があるこの水素の酸化還元反応を見るこ

とにしよう

水素の酸化反応は次のように表される

H2 rarr 2H+ + 2e- (5)

これを半反応として電子の流れを作り出せば電池として機能するから取り

出された電子を利用する還元反応を考えよう

水素と反応する相手に酸素を選べば水が生成物として得られることを期待で

きる

10

酸素が電子を受け取る還元反応の半反応は次のように表される

12 O2 + 2e- rarr O2- (6)

半反応(5)と(6)を組み合わすことができれば次の全反応によって水

が生じる

H2 +12 O2rarr H2O (7)

このとき得られる電子を導線に誘導すれば電気エネルギーとして利用が可能

になる

問題はダニエル電池で見たようにそれぞれの半反応で生じるイオンの処理で

ある半反応(5)と(6)はそれぞれ隔離された容器で行わなければ水素と

酸素が直接反応して水を生じてしまうしかし容器の隔壁がイオンを通さな

いと電池として機能しない

燃料電池 固体は一般に分子やイオンを通過させないが中には特定のイオンを通過させ

るものがありこれを固体電解質とよんでいる

半反応(5)で発生する水素イオンを効率よく通過させるためにはナフィオ

ン(Nafion Du Pont 社米国デラウェア州ウィルミントン)とよばれる固体高

分子膜が有力である

ナフィオンはフッ素を含む高分子パーフルオロスルホン酸系といわれるイオ

ン交換膜で全体はテフロン様構造からできており側鎖にスルホン酸基を持

つその厚さは 20~50ミクロン程度である膜の内部で負に荷電するスルホン

基(SO3-)が水素イオン(H+)を引きつけこれを通過させるこの水素イオ

ンの通り道は電子顕微鏡で見るとトンネルのようにできている

11

図4ナフィオンを使った燃料電池

陰極では水素の酸化反応が起きる

H2 rarr 2H+ + 2e- (5)

一方陽極では次の還元反応が起きる

12 O2 + 2e- rarr O2- (6)

O2- + 2H+ rarr H2O (8)

全体の反応は反応式(7)で表される

12

H2 +12 O2rarr H2O (7)

こうして開発された電池は「燃料電池」とよばれている燃料に水素ガスが

利用される

反応式と図に示した気体酸素は通常の空気が利用され反応で生じた水と酸

素以外の利用されない気体元素は排気される

この燃料電池は水素と酸素を遮断し水素イオンだけを通過させる固体電解

質を使ったこれは上の半反応(5)で生じた水素イオンの処理を考えたわ

けである

これに対して半反応(6)で生じる酸素イオンを移動させる工夫もある

図4安定化ジルコニアを使った燃料電池

安定化ジルコニア(Stabilized Zirconia ZrO2CaO)は高温下で酸素イオン通過

性のある固体電解質として開発されたジルコニウムに10モル程度の酸化

カルシウムを加え結晶を作ると+4価のジルコニウムイオンの位置の一部を+

13

2価のカルシウムイオンが占めるできあがった安定化ジルコニアはこのカ

ルシウムの数だけ酸素イオンの不足が起き固体全体を電気的中性に保つた

めに酸素イオンの透過性ができるジルコニアの両面に白金粉末を焼き付け

それに白金のリード線を取り付ける焼き付けられた白金には多くの孔があり

その孔を通して気体とジルコニアが接触する

酸素イオン導電性の固体電解質としてジルコニアを用いた燃料電池は次

のように動作する

1)空気極(右側)に入った酸素 O2は電極で電子を受け取り酸素イオン O2-

になる

12 O2 + 2e- rarr O2- (6)

2)O2-は固体電解質ジルコニア中を移動していき燃料極(左側)で H2 と

反応し水 H2Oを生じるこの過程に伴って電子が放出される

H2 + O2- rarr H2O+ 2e- (9)

3)これら結果として外部回路に電流を取り出すことができる

燃料電池の起電力は酸素イオンが電解質中を移動することにより生じる

酸素イオンが移動する駆動力は固体電解質の両端すなわち燃料極と空気極

の酸素濃度差である

14

化学反応と電気エネルギー ダニエル電池の陰極は亜鉛板が硫酸亜鉛の水溶液につけられていたこのと

きの現象は次のように説明された亜鉛は電子を亜鉛板電極に残し陽イオン

となって出て行くその結果亜鉛板電極中に電子が余分にたまる

ダニエル電池の陰極の「電極電位」はこの電極に余分にたまっている電子の

量をさしているそれではこの半反応による電極電位を測定することができ

るのだろうか半反応は次のように示される

Zn(s) rarr Zn2+ + 2e- (1)

亜鉛が1モル反応すると2モルの電子が持つ総電荷量が流れる

1電子の持つ電荷量は16022x10-19 C (Ccoulombクーロン)であ

るから

1モルの電子の総電荷量はアボガロド数をかけて 96485 = 96485 x 104 Cmol

であるこれを1F1ファラデーと表す

1F = 96485 x 104 Cmol 亜鉛が1モル反応すれば2モルの電子が持つ総電荷量が流れるのでこれを

記号 q として表すと次の電気量が得られる

q = 2F (10)

化学反応によって取り出せる電気量はこのように計算される

それでは電気エネルギーとしてその電力はどのようになるだろう

電力は

電力=電圧times電流times時間 (12)

電流times時間=電気量であるから式(12)を書き直せば

15

電力=電圧times電気量 (13)

ここで電気量 q は式(10)で表しているので

電力=電圧timesq=電圧times2F (14)

と書くことができる

電圧を記号Vで表すことにし電力をWにすれば式(14)は

W = 2FV (15)

として表しておくことができる

電圧の単位系は仕事量が電力Wであるので(13)から

V= W q (16)

仕事量をジュールJ(ジュール)で表せば電圧はJ C (ジュールクー

ロン)でその単位を表現することができる

式(15)の表すところは亜鉛を化学反応の材料として得られる電力という

仕事量がその電力すなわち電極電位で決定されることを意味している

一般に化学反応で1分子の材料を消費しn個の電子が流れることをその

半反応で知ることができるとき式(15)を一般化して次のように得られ

る電気エネルギーを表すことができる

W = n FV (17)

化学反応によって生じる電子を取り出し回路に導けばここに電流が生じる

その起電力(V)は陽極陰極のそれぞれの電位をE+E- と記号で表し

て次式で書くことができる

V= E+-E- (18)

16

ここで問題になるのは陽極陰極のそれぞれの電位E+とE-で上に議論し

たように回路を形成しなければそれぞれの電位は決定できない

ここでいま片方の電位をゼロとすれば式(18)はたとえばE- = 0 で

V= E+

として陽極の電位が決まる

そこで申し合わせにより水素の半反応による電位をゼロとすることになっ

その半反応の式は水素の還元反応として次のように表せた

2H+ + 2e- rarr H2

標準にはMax Julius Louis Le Blanc (1865-1943) が発明した水素電極を用

いるこれを標準水素電極(Standard Hydrogen Electrode SHE)とよびこの

電極電位をいつも 0 volt(ゼロボルト)と取り決めている

図6に示した水素電極は1atm の水素ガスとそれに平衡状態にある水素イオ

ンが存在し次の半反応が平衡状態にある

H2 (g 1 atm)rarr 2H+ (aq 1 M)+ 2e- (5) g は気体を示す

この反応において平衡状態にある電極電位を 0 volt と定義する

電極に白金を用いるのは電極材料自体が溶解しないものであることすなわ

ちイオン化傾向の低いものであることまた水素イオンの還元に対してな

るべく活性の高いものであることが条件として求められるが白金はこの2つ

の性質を兼ね備えていて陽極の電極材料に適している

気体の標準状態は1atm を標準としているこの分圧を維持し溶液中の水

素イオン活量を1にする水蒸気の分圧が変化すると平衡電位は変化する

17

図6標準水素電極(0ボルトの基準)

標準水素電極は1モル塩酸溶液につけた白金電極に1atmの水素ガスを吹き込んで使う

白金電極は分極を防ぐために白金板に白金メッキを施し(白金黒とよばれる)上半分

を水で飽和させた(1atmの水蒸気分圧が必要)1atm(101325 kPa)の水素ガスを流し

下半分を1moll の塩酸溶液につける水素ガスが電極として働き白金板に電子が集めら

れる

ダニエル電池の亜鉛電極をこの標準水素電極につなげば亜鉛電極電位が測

定できる

亜鉛電極側では酸化反応の半反応が起きる

Zn(s) rarr Zn2+ + 2e- (1)

18

標準水素電極側では還元反応の半反応が起きる

2H+ + 2e- rarr H2

図7亜鉛電極と水素電極をつないで電池とする

25の基準状態における亜鉛電極の半反応(1)に対する平衡電位はすでに

知られている

E゜= -0763 volt

また銅板側の電極電位も同じようにして測定することができる

起きる半反応はすでに上述したが再度記しておこう

Cu2+ + 2e - rarr Cu(s) (3)

25の基準状態におけるこの電極電位はE゜=+0337 volt と知られて

19

いる

ここで亜鉛電極と銅電極の組み合わせでできる電池の最大電圧をこれらの

平衡状態における観測値から計算することができる式(18)を使って

V= E+-E- (18)

V= +0337-(-0763) = +110 volt

つまりダニエル電池で得られる最大電圧は11volt と計算できる実際に

はイオンの濃度が変化すれば反応の平衡が変化するので得られる電圧も変

化する

ここでダニエル電池で亜鉛1モルが反応するとき式(17)を使って得

られる仕事量としての電力を計算できる

W = n FV (17)

すなわちダニエル電池における電極反応は

Zn(s) rarr Zn2+ + 2e- (2)

Cu2+ + 2e - rarr Cu(s) (3)

であったから反応が進んで移動する電子はn = 2 である

1F = 96485 x 104 Cmol を適応すると

W = 2 x 96485 x 11 x 104 = 21227 x 105 Jmol = 2123 KJmol

(K = 103キロ)

すなわち亜鉛1モルの化学反応によって2123 KJmol の電気エネルギーが得

られる

水素ガスを使う燃料電池の起電力は電極の半反応から

O2 + 4H+ + 4e- rarr 2H2O (19)

25の基準状態におけるこの電極電位はE゜=+1229 volt が得られている

20

したがって燃料電池で1モルの水素が反応すれば

W = 2 x 96485 x 1229 x 104 = 2372 KJmol

すなわち2372 KJmol の電気エネルギーが基準状態で取り出せる最大電力

と計算される現在作られている燃料電池の電力は実際上08 volt ほどで

あるしたがって現実的に取り出せる電気エネルギーは 1544 KJmol の仕

事量と計算される「仕事量」という言葉については電気でモーターを回し

なにがしかの「仕事」をするなど思い浮かべれば実感できるだろう

エネルギーと熱力学 これまで述べてきたように電池は化学反応から直接電気エネルギーを取り出

す仕掛けであるダニエル電池では亜鉛と銅が酸化還元反応を起こす過程で

電子を放出するのを利用するまた水素ガスによる燃料電池は気体水素と酸

素を原料とし水が生成されるこの過程が1atm の気体原料を25(29815

K)で1モル反応させて生成物も1atm の液体の水を得るなら次の全反応に

よってすでに計算したとおり2374 KJmol の電気エネルギーが取り出せる

H2 + 12 O2 rarr H2O

圧力と温度がともに反応の過程を通じて一定の場合にその過程から取り出せ

る仕事量は熱力学的に考えることもできる

それはギブス自由エネルギーとして議論される電池で取り出した電気エネ

ルギーすなわち電力はこのギブス自由エネルギーに相当する

次に化学反応をこの熱力学の面から考えてみよう

エネルギー保存則

水素ガスを使う燃料電池のように独立した一つの仕掛けを考えこれを「系」

と呼ぶことにする系を考えるとき電池のように具体的なものを持って考え

るのが容易いのでそうすることが多い熱力学では自然界全体をあつかうので

しばしば概念的になり非現実的な記述が行われるが系の大きさや系を構成

する分子の大きさについて特定する必要はない

系におけるエネルギーを内部エネルギー熱エネルギー力学的エネルギー

の3つの要素からなると考えるこれらのエネルギーを考えるとき系の熱力

21

学的なパラメーター(変数)が必要となる熱力学的な状態はこれらのパラ

メーターのうちのいくつかを指定すれば決定される

熱力学的なパラメーターは2つに分類される

示量パラメーター(示量性変数)

系の大きさや構成する物質の量を示す体積や質量

示強パラメーター(示強性変数)

系の大きさに依存しない系における1つの点で決まった値で与え

られる圧力や温度密度など

いくつかのパラメーターで完全に決定できる状態を関数で表現することがで

きる場合があるそのような関数を熱力学的な状態関数(rarr補遺 p60)と呼ぶ

関数で状態の変化を表すことができれば数学的に取り扱うことができいろ

いろの面で便利である

一つの系についてその状態を知ろうとするとき系が熱力学的な平衡状態に

あると議論する上で都合がよい

熱力学的な平衡状態とは系を外部と独立させ長時間放置した後に達成され

る状態をいうこのとき系の状態をその外部のパラメーターで表現できる

たとえば電池を独立した系と考えるとき平衡状態に達した電極電圧を外部

においた電圧計で測定することができる

ある系を考えるとき前提としてその系はエネルギーを保有していると考える

系が独立してそこに存在するということで持っているエネルギーであるこれ

を内部エネルギーと呼ぶ系がある過程を経て状態を変えるとき系から系の

外部へ力学的な仕事をする場合には力学的エネルギーの出入りがあると考え

るまた系に熱が出入りする場合が考えられそれを熱エネルギーの出入り

と考えることにしよう

まず力学的エネルギーについて考えることにする

いま系が状態を変えその体積が増えれば系のlsquo壁rsquoがその系に接している

「外部」へ力学的な仕事をすることになる

このように系が膨張し壁が外部に向かって押し出されると考えたとき膨張

する過程における圧力を一定でpとし系が膨張した体積をΔV(膨張した分だ

けの体積増加量)とするなら系の仕事量ΔWは両者の積で表されるΔは変

化量を表すときにつける記号と決めておこう

22

ΔW = pΔV (20)

系の体積が凝縮する場合があるので仕事を記号で表す場合には注意するも

し系に接した「外部」から系に力が加わって体積を小さくしたならΔVは

マイナスとなるのでΔWもマイナスで表される

-ΔW = -pΔV (20prime)

今考えている系を「系 A」と呼びその内部エネルギーを UA外部の系を「系

B」と呼んでその内部エネルギーを UBと表すなら二つ合わせた全体の内部

エネルギーは両者の和で表すことができる

U = UA+UB (21)

この体積変化に必要なエネルギー変化量はどこから得られたかを考えれば

その変化があった「系 A」と外部の「系 B」のいずれかあるいは双方の内部エネ

ルギー変化分でまかなわれたと考えざるを得ない(図8参照)

そこでこのエネルギーの収支関係は変化分を表す記号に先と同様Δを用い

ることにすると次式のようになる

-ΔU =ΔW (22)

すなわち観察している「系 A」のエネルギーと外部の「系 B」のエネルギー

を合わせた総エネルギーを見てその微少な減少量minus ΔU が仕事をなすために

必要であったエネルギー量と考えてみることにする

ついでこの体積の変化が「系 A」に接する外部のlsquo熱rsquoによって起きたも

のと考えてみようすなわち外部の「系 B」が系 Aより高温で「系 B」によ

って系 Aが暖められたことになる

このとき移動したエネルギーを「熱量」と定義する

23

図8熱量の移動と系が外部にする仕事

「熱量」を記号Qで表すと外部の「系 B」が失ったエネルギーminus ΔUB で

ありこれが熱量であるから式で表せば次式のように書くことができる

-ΔUB = Q (23)

ここで「系 A」とそれに接する「外部 B」両方のエネルギーを合わせた総エ

ネルギーの変化量ΔUは式(22)で与えられていた

-ΔU =ΔW (22)

-ΔU =-(ΔUA+ΔUB) であるから

minus ΔUAminus ΔUB=ΔW (24)

これに式(23)を当てはめてΔUAで整理すれば

24

ΔUA= Q-ΔW (25)

この式(25)は「エネルギー保存則」あるいは「熱力学の第一法則」を数

学的に表現したものである

すなわち

独立した系を考えその状態が変化するとき系の内部エネルギーの変化量はその系に入る熱量と系が外部にした仕事との差である

式(25)にはまた重要な主張があるつまりエネルギー保存則にしたが

うとき熱量は力学的エネルギーにまた力学的エネルギーは熱量に変換しう

ることを意味している

熱量を表す単位はカロリー(cal)を用いる1cal は

1 cal = 4184 J

と換算されるジュールは 1J = 1Nm (ニュートンメートル)で仕事量を

表現する単位系で表される

エンタルピー

式(25)から定圧過程で式(20prime)を利用して次の式(26)が誘導さ

れる

Q =ΔUA+pΔV (26)

ここでQは熱量を表していたのでこの関係式(26)から熱関数として

新しい関数を定義する

新しい関数はエンタルピー(enthalpy)(rarr補遺 p63)と呼ばれ次の関数

式Hで表される

H = U+PV (27)

エンタルピーの微少変化量を記号Δを使って表現してみよう

25

ΔH = ΔU +Δ(PV) =ΔU +ΔPV+ PΔV (28)

独立した系で圧力が一定の下に起きる過程を考えるならΔP = 0 (圧力の

変化はゼロ)であるから式(28)は次のようになる

ΔH =ΔU + PΔV (29)

化学反応の過程を考えるとき系に容積の変化がなく過程の前後で一定であ

るならさらにΔV = 0 であるのでエンタルピーの変化量は

ΔH =ΔU (30)

また系の仕事を体積の変化としてみる式(20)から

ΔW = pΔV= 0

であるのでこれを式(25)へ適応すると

ΔU= Q minus ΔW = Q ΔW= 0 だから

結果的に系の圧力と体積が変化の過程で一定である場合にはその系のエンタ

ルピーの変化を表す式(29)(30)は次のように簡単な式になって熱関

数と呼ばれる意味が理解しやすいだろう

ΔH = Q (31)

独立した系に等圧等積で起きる過程を見る場合にはエンタルピーは系が外

部と交換する熱量の直接的な尺度となる

H>0 なら反応に熱を使うので吸熱反応

H<0 なら発熱反応

電池のように系に起きる化学反応で生じる電子の流れを取り出す装置を考え

る場合エンタルピーの変化を電気エネルギーとして取りだしている点に留意

26

しなければならない式(31)のようにエンタルピー変化が交換される熱

量に直接表現できるといっても必ずしも熱として取り出すとは限らないこと

を注意しよう

ところでエンタルピーは内部エネルギーと同じ次元にある状態量で定圧

変化の熱量がエンタルピー変化であるからある一点を標準として定めれば

すべての物質について任意の点のエンタルピーを変化量として定めることがで

きるすなわち化学反応の過程で発熱あるいは吸熱する熱量は反応材料と

生成物の間の状態変化に対応するエンタルピーに対応する

そこで一つの元素に対してもっとも安定な状態にある物質を標準物質とし

て定め29815K(25)1atm を標準状態としてその標準物質からある化

合物を合成するときの反応熱(発熱あるいは吸熱)をその化合物の「標準生成

エンタルピー」として定義できる多くの元素に対して標準生成エンタルピー

は現在表としてまとめられている

水素や酸素はその気体状態が標準物質でありそれらの標準生成エンタルピー

がゼロと定義される

エントロピー

もう一つ新しい状態関数としてエントロピー(entropy)(rarr補遺 p64)を

定義するエントロピーを表す記号は通常S を用いその定義は次の式(32)

による

S Q

T (32)

エントロピーは系の2つの状態が決まると状態量として決まる

このときQ は2つの状態の間を可逆的に変化したとき系が受け取る熱量

T は系が熱量 Q を受け取ったときの温度(degK)である

「熱力学の第二法則」はエントロピーに関するものである

図9では2つの系が接しておりそれぞれの温度を Thigh Tlowとする

Thigh>Tlow (33)

27

今温度の高い系から温度の低い系に直接熱量 Q が移動したとすれば温度

の高い系のエントロピーの変化量ΔS は熱量が失われるので負の値になる

図9熱の移動

そこで温度の高い系のエントロピーの変化量ΔS を式で表すことにすると

次式のようになる

Shigh Q

Thigh

(34)

一方低い系のエントロピー変化量ΔS は熱量が与えられるため

Slow Q

Tlow

(35)

両方の系を合わせたエントロピーの変化量ΔS は

S Shigh Slow Q

Thigh

Q

Tlow

lowhigh

lowhigh

lowhigh TT

TTQ

TTQ

11 (36)

式(36)の最終項で(33)を前提すなわち最初に温度の高い系は高い

と決めたのだとするならエントロピーの変化量ΔS は必ず次のようになる

28

ΔS >0 (37)

すなわち独立した系がありそれより温度の低い別の系あるいは温度の低

い外界が接した場合熱量は高い方から低い方へ移動するという自然の成り行

きを説明するものである

自然界に置いてエントロピーは

ΔS≧0

の値を取りΔS=0のときは可逆的過程である

今の例でいうなら熱は温度の高い系から低い系へ移動しその逆は起きない

常にΔS >0の方向に過程が進行するまた2つの系が同じ温度であるとき

両者は平衡状態にあって熱量の移動は見かけ上なくΔS=0と表現される

「熱力学の第二法則」はエントロピーによって表現されるもので系の変化が

可逆的であるかどうかを判定する指標であり現実の世界で起きる不可逆過程

が正の値を取る方向へ進むことを示す

あるいは系の変化が起きるとき外界を含めて考えれば総エントロピーが

増大する方向に変化が起きることを意味するというようにも表現される

ギブス自由エネルギー

熱力学の第一法則によってエネルギーの取りうる形である「仕事」と「熱」

は互いに変換されうることを理解したこのことの数量的な意味は1cal=418J

で示されるさらに仕事は100熱に変換可能であるが一方の熱はうま

くやっても100を仕事に換えることができないことを熱力学の第二法則で

説明しようとしたそのためにエントロピーという概念が導入された

ここで電池のような独立した一つの系を見るとき系の内部エネルギーの減

少を仕事として取り出しうるならそれは化学反応を一つの例としてどれほど

の仕事量が取り出せるのかはどうしたら与えられるだろうか

化学反応を電気エネルギーに換える電池では先に正負それぞれの電極におけ

る半反応の平衡電位の値を利用してその起電力に対する最大値を計算した

この化学反応から取り出しうる最大仕事量を与えるものとして新しくギブス

自由エネルギー(rarr補遺 p70)と名付け記号 G を使ってそれを次のように

定義する

29

G = H-TS (38)

H はエンタルピーである第2項にある S はエントロピーを表す

ギブス自由エネルギーは化学反応のような独立した系の定温定圧過程に適

応されるので変化量ΔG を式(38)から得ておこう

ΔG =ΔH-Δ(TS)

=ΔH-(SΔT+TΔS)

温度を一定と考えているのでΔT=0 であるから

ΔG =ΔH-TΔS (39)

この式(39)を書き換える

ΔH=ΔG + TΔS (39rsquo)

ここで定圧過程ではエンタルピーを次のように式(29)で定義できた

ΔH =ΔU + PΔV (29)

式(29)の意味するところを復習すれば

系のエンタルピー変化ΔH は内部エネルギーの変化量と系が外部に

した仕事量の和として表される

これは

定圧過程で系が得るエネルギー量から仕事量を除いたもの

と言い換えることができるエンタルピー変化量は化学反応などの過程で

始めと終わりの2つの状態の差であるからそれが正の値を示す(>0)なら

系のエンタルピーは増加することを意味しその過程が進行するためには系

の外部からエネルギーが供給されなければならない

一方式(39rsquo)の右辺第2項TΔS はエントロピーの定義(32)より

TΔS = Q (40)

であるのでこれは可逆過程で系に供給される熱量を意味する

30

もしエンタルピー変化量が負の値を示す(<0)ならば系のエンタルピー

は減少しその過程が進行することによってエネルギーが取り出せるすなわ

ち式(39)(40)から次のようにこれら3つの状態量を改めて説明する

ことができる

ある化学反応が定圧で可逆的に進行するときそれから取り出せる

エネルギーのうちΔG を仕事として放出し熱量 Q を放出する

標準状態29815K(25)1atm で標準物質からある化合物を合成すると

きの反応熱(発熱あるいは吸熱)をその化合物の「標準生成エンタルピー」

として定義した同様にある物質に対する「標準生成ギブス自由エネルギー」

はこの標準状態で標準物質からその化合物を化学反応で生成するとき式(3

9)によって与えられる変化量をいう

電池における化学反応のギブス自由エネルギー

先にダニエル電池の亜鉛板側に対する電極反応を検討したとき電極反応が

仕事として放出するエネルギーを表現する重要な式があった次の式(17)

である

W = n FV (17)

ギブス自由エネルギーを用いて今これは次のように書くことができるように

なった

W = n FV=-ΔG (41)

この式が表していることを実際に水素の燃料とする燃料電池の反応過程で見

てみよう燃料電池の図を再掲する

図中右にある陰極では水素の酸化反応が起きる

H2 rarr 2H+ + 2e- (5)

一方図では左にある陽極において次の還元反応が起きる

12 O2 + 2e- rarr O2- (6)

O2- + 2H+ rarr H2O (8)

全体の反応はすでに示したように次の反応式(7)で示される

H2 +12 O2rarr H2O (7)

31

標準状態における可逆的仕事は式(41)であらわせ

n FV=-ΔG (41rsquo)

このΔG は式(39)であらわせた

ΔG =ΔH-TΔS (39)

すなわち標準状態29815K(25)1atmにおいてある化合物を標準物

質から合成するときの標準生成ギブス自由エネルギー変化ΔG゜は標準生成エ

ンタルピー変化ΔH゜とその温度におけるエントロピー変化TΔSの差で求ま

るこれらは燃料電池の全反応を表す式(7)で与えられる

標準生成エンタルピーΔH゜変化とエントロピー変化はすでに一般的な元

素やその化合物に対して表が作成されている

液体の水に対する標準生成エンタルピーΔH゜(H2O)は

ΔH゜(H2O)=minus 28583 KJmol

また水素ガスと酸素ガスはそれぞれの元素の標準物質であるので生成エ

ンタルピー変化はゼロである

32

そこで式(7)での水を1モル化学合成するときの標準生成エンタルピーΔ

H゜は水素(ガス1モル)と酸素(ガス12 モル)の2つの材料と水(液

体251atm)の両状態における状態量の差として表される

ΔH゜=ΔH゜(H2O)-ΔH゜(H2) -12ΔH゜(O2) (42)

式(42)の右辺第2項と第3項がゼロであるので

ΔH゜=ΔH゜(H2O) =-28583 KJmol (43)

標準状態29815K(25)1atm における水素(ガス)と酸素(ガス)お

よび水(液体)のエントロピーはそれぞれ

ΔS(H2O)=6991 JKmol

ΔS(H2) =13068 JKmol

ΔS(O2) =20514 JKmol

単位で分母のKはケルビン温度の意味

と計算されているので

ΔS=ΔS(H2O)-ΔS (H2) -12ΔS(O2) (44)

=6991-13068-12times20514

=-16334 JKmol

したがって

TΔS=29815times(-16334)=-486998=-4870 KJmol

(45)

そこで標準生成ギブス自由エネルギーΔG゜は式(39)から

-ΔG゜=-(ΔH゜-TΔS) (39)

=-{-28583-(-4870)}

=+23713 KJmol

33

すなわちこのエネルギーを電気エネルギーとして取り出すことができるそ

の起電力は式(41rsquo)から

n FV=-ΔG (41rsquo)

V= -ΔG(n F)

各数値を当てはめれば

V=237130(2times96485)

=1229 volt

先に【化学反応と電気エネルギー】のところで記したとおり25の基準

状態におけるこの電極電位はE゜=+1229 volt が得られているすなわち

こうして標準生成ギブス自由エネルギーから計算することでも同じ値を得る

ことができた

水素を単純に酸素と化合させる燃焼では式(43)で示されるエンタルピ

ーが発生する熱量を示している水素1モルあたり28583 KJである電池

にすれば水素1モルあたり23713 KJの仕事量が電気エネルギーとして取り

出すことができるその差は電池の場合熱が発生して利用できない

化学反応の過程を利用して化学エネルギーから直接電気エネルギーに変換す

るのが電池という装置であるが化学エネルギーは100電気エネルギ

ーに換えることはできないこのようにエネルギーの一部は電池の熱として

発散してしまう

理想気体の状態方程式

ギブス自由エネルギーΔG を定義した式(39)とエンタルピーΔH の定義

式(28)から

ΔG =ΔH-TΔS (39)

ΔH =ΔU +VΔP+ PΔV (28)

そこで次式が得られる

34

ΔG =ΔU+VΔP+ PΔV-TΔS (46)

またエネルギー保存則から得られた式(26)を応用すればギブス自由エ

ネルギーが変形できる

Q =ΔU+PΔV (26)

から

ΔU=Q-PΔV (47)

したがって式(46)は

ΔG = Q-PΔV+VΔP+ PΔV-TΔS

ΔG = Q-TΔS+VΔP (48)

エントロピーの定義からQ=TΔSであるから結局式(48)は

ΔG = VΔP (49)

と表すことができる

成分が混合された気体分子の分子間に働く力をゼロと仮定した「理想気体」を

考えるとき状態方程式としてボイルシャルル(Boyle-Charles)の法則が

利用できる

PV=nRT (50)

ここでnは気体のモル数PVT はそれぞれこれまでと同じ圧力体積温度(ケルビン温度)でありR は気体定数と呼ばれるもので次の値を持

R= 831441 JmolK (51) 単位で分母のKはケルビン温度の意味

35

状態方程式から式(49)の右辺を導くことを考えてみよう式(50)は

1モルの気体について V に対し次のように変形することができる

V 1

PRT (50rsquo)

両辺に圧力の微小変化量⊿P をかけると

PP

RTP V (52)

これを微分方程式として圧力p0 からp1 まで(p0≦p1)積分するなら

1

0

1

0

1

0

1p

p

p

p

p

pdP

PRTdP

P

RTdPV (53)

関数 f(x)=1x を積分したときの関数はF(x)=ln(x)であるので(ln は e を底

とする自然対数loge)

右辺=0

1ln)0ln()1ln(p

pRTpRTpRT (54)

ギブス自由エネルギーを表す式(49)は次のようであったから

ΔG = VΔP (49)

式(52)から得た式(54)を当てはめると状態G0(p0T)からG1(p1T)

へ変化する過程で圧力が p0 から p1 まで変化するものとして

dGG0

G1

G( p1T ) G(p0T ) RT lnp1

p0 (55)

あるいはこれを書き直して

V

36

G(p1 T) = G( p0T ) + RT lnp1p0

(56)

特別にG0(p0T)を標準状態T=29815K(25)p0=1atmに指定する

なら標準生成ギブス自由エネルギーを記号G゜として (56rsquo)

と表すことができる

式(56rsquo)の意味するところは標準状態から圧力の変化を伴う過程で理

G(p1 T) = Go + RT ln p1

想気体のギブス自由エネルギーは圧力の対数に比例して上昇することである

このことはさらに新しい着想を生む

すなわち水素を燃料とする上の燃料電池で1atm 標準状態の水素ガスの圧力

を2atm に上げれば式(56rsquo)からRTln2 余分にギブス自由エネルギー

が取り出せることになる

燃料電池において起電力を生むエネルギーは隔壁を水素イオンもしくは酸

素イオンが浸透しようとする力であるので1atm の水素ガスと2atm のそれで

は浸透しようとする圧力が異なりここに起電力が生じる

式(56)の第二項が圧力の差による仕事であるからこれをΔG とすれば

W=-ΔG の仕事量が電気エネルギーとして取り出せるはずである

W = minusΔG = minusRT lnp1p0

(57)

起電力に換算するために式(41)を使うと

W = n FV=minus ΔG (41)

から

01ln

pp

nFRTV ⎟

⎠⎞

⎜⎝⎛minus= (58)

この式(58)は一般にネルンスト(Nernst)の式と呼ばれる

37

理想溶液のギブス自由エネルギー

理想気体を想定したように無限に希釈された混合溶液に対して理想溶液を仮

定する「系」の圧力温度を一定に保つならば体積内部エネルギーエンタ

ルピーギブス自由エネルギーなどの示量数は混合溶液を構成する物質のモ

ル数mに比例するたとえば標準状態にある物質の1モルの体積をVとすれば

mモルの体積はそのm倍mVであるそうすると溶液中のi番目の成分がmi

モル「系」から「外界」に仕事をするときその成分iの持つ自由エネルギーの

mi倍の仕事が「外界」になされると考えればよい

この溶液成分のモル数と化学的仕事を結びつける示強因子がギブスによって

化学ポテンシャルと名付けられ一般に記号μが用いられる

化学ポテンシャルはこれまで見たようにギブス自由エネルギーで表される

また電位がψ(プサイ)にある系から-Δeの電荷が放出されるときには

-ψΔeの電気的仕事が得られるそこで記号μに両者を合わせた意味を持

たせて「電気化学ポテンシャル」と呼ぶ

概念の上で物質は電気化学ポテンシャルの高い方から低い方へ勾配にした

がって移動する

理想気体の標準状態が気体分圧を T=29815K(25)で 1atm としたのに対

し溶液成分の標準状態はその分圧に相当するモル数 m を用いるすなわち

標準状態にある成分 i の電気化学ポテンシャルμ0iは成分の持つ電荷(H+なら

1)を n として

μ0i = G i゜+nFψ i (59)

ギブス自由エネルギーは式(56rsquo)を借り理想溶液中の成分に対しては気

体圧力をその成分のモル濃度Cに書き換えればよいそこで

G(CT ) G RT lnC (60)

と表すことができる

したがって一般的な成分 i の電気化学ポテンシャルμiを表す式は標準状態

からの自由エネルギーの変化を考え式(59)と合わせて次のようになる

38

ψnFGii 0

式(60)から

ii CRTGTCGG ln)( 0

よって

(61) ψnFCRT iii ln0

実際的なことを考えると成分濃度はその有効イオン濃度とする必要があり

「活量係数」γを導入して次式で表されるイオン活量aを用いる

ai = γCi (62)

一般的にはγ=1と近似してモル濃度Cを使っているこのテキストでも

必要ではない限りイオン活量を用いることを省略して簡単に記述したい

膜電位

燃料電池に使われたナフィオンのような一つのイオンを通す膜を介して膜

の両側にC0 とC1 のイオン濃度差がある溶液が接するときの電気化学ポテン

シャルを考えよう

ある容器の底にナフィオン膜を取り付け容器の中と外のイオン濃度をC0

とC1としそれぞれの電気化学ポテンシャルをそれぞれμinとμoutとする

式(61)を使って

容器の中の電気化学ポテンシャル

(63) innFCRTin ψ 00 ln

容器の外の電気化学ポテンシャル

(64) outout nFCRT ψ 10 ln

イオン浸透性の膜を介して濃度変化が無視できるほどの移動があると考え

その電気化学ポテンシャルの差を式(63)(64)から求めれば

39

)(ln0

1 inoutinout nFC

CRT ψψ (65)

この系において今注目しているイオンが膜を介した両側で平衡状態にある

とき式(65)はΔμ=0と考えることができるすなわち

0)(ln0

1 inoutnFC

CRT ψψ

膜内外の電位差をΔψ=ψoutminus ψinとすれば

1

0

0

1 lnlnC

C

nF

RT

C

C

nF

RTψ (66)

式(66)は理想気体に対するネルンストの式(58)と同様溶液中のイ

オンに対するネルンスト(Nernst)の式として与えられる

細胞の膜においてもその生体膜の内外でたとえばカリウムイオンのように

非対称に分布して平衡に達している場合には式(66)で与えられる膜内外

で電位差が生じるこれは一般に膜電位と呼ばれる膜電位は平衡電位とも

呼ばれる

たとえば膜内外に1価のカリウムイオンに10倍の濃度差があるとすると

通常カリウムイオンは細胞内の濃度が高いので

C0 = 10timesC1

であるから

これを式(66)に当てはめてln(10)=2303 を用いlog への変換をすれば

Δψ=2303times(RTF)timeslog(10)

であるこれに R=831441 JmolKF=96485 CmolT=29815 K(25)

の各数値を当てはめると

Δψ=2303times831441times29815times196485 JC

=+005917 volt

すなわち膜の内外で約+60ミリボルトの膜電位が生じることになるこの

分だけ細胞の外側の電気化学ポテンシャルが高く膜の内側の膜電位が負であ

るそして膜にあるカリウムチャネルがこの電位を示すとき受動的なカリ

40

ウムの膜内外の移動は平衡に達することになる

水素イオン濃度測定

「標準水素電極」は1モル塩酸溶液につけた白金電極に1atm の水素ガスを

吹き込んで平衡状態に達したときの電位を基準としてゼロボルトと規定した

そこである溶液についてその水素イオン濃度を知ろうとするとき同じ水

素電極を用いることを考えれば標準状態にする目的で用いた1モル塩酸溶液

を濃度未知で X モルの塩酸溶液と想定すればその水素イオン濃度を知るこ

とができるだろうか

標準状態ではない X モルの塩酸溶液に浸けた白金電極が半電池として働くこ

とは間違いなさそうであるしかしその白金電極が持つ電極電位を測定する

にはいずれにしても標準電極と組み合わせて「電池」を構成しその電池

の起電力として計る必要がある電池を作れば起電力を知ることができ相

手の半電池の電極電位が知られていれば濃度が未知でXモルの溶液について

その水素イオン濃度を知ることができるだろう

こうした目的のためにいちいちゼロボルトと規定した標準水素電極を用いる

のは煩雑なのでしばしば後出の「銀塩化銀電極」が参照電極として用いら

れる

まず予め「銀塩化銀電極」を標準水素電極と組み合わせて電池とし一度

その起電力を測定しておけば後はいつもそれを標準電極として利用できる

「銀塩化銀電極」の半電池は

H+ (1 moll) Cl- | AgCl | Ag(s)

これに「標準水素電極」を組み合わせ電池を構成すると次のような電池

になる

Pt(s) | H2(g) | H+ (1 moll) Cl- | AgCl | Ag(s)

この電池の起電力を知れば「銀塩化銀電極」の半電池としての電極電位

を知ることができ参照電極として未知の半電池と組み合わせて起電力を測

定して相手の電極電位を計算できる

41

濃度 X モルの塩酸溶液を未知の溶液と想定すればその電極電位を知るために

組み立てる電池は次のようになる図10にその電池の図を示した

Pt(s) | H2(g) | H+ (x moll) Cl- | AgCl | Ag(s)

この電池の全反応は次の反応式で表される

AgCl(s) 1

2H2 (g) H Cl Ag(s) (67)

図10未知溶液の水素イオン濃度を測定しようとするための電池

化学反応の一般的な式

ここで電池に利用される化学反応から得られるエネルギーをギブス自由エ

ネルギーに換算し起電力を具体的に知る手だてとすることは上ですでに学

42

んだがより一般的な式を再度ここに書きだしておこう

化学反応が紙面で左から右に進む反応として次のような一般式で与えられ

るとき

aA + bB rarr cC + dD (68)

ギブス自由エネルギー変化量は標準状態ΔG゜からの変化量を加える形で式

(60)と同様次の式によって表される

G G RT(ln aCc aD

d ln aAa aB

b )

G RT ln

aCc aD

d

aAa aB

b (69)

aAは成分 A のイオン活量であるその他の成分も同じ

得られたエネルギーを電気エネルギーに換えるなら式(41)に習って

次式で表せば

ΔG=-n FV

there4V=-ΔG(nF) (70)

このときの起電力は標準状態における電位 E゜からの変化量として次式で与

えられる

E E

RT

nFln

aCc aD

d

aAa aB

b (71)

標準状態における起電力 E゜は反応が平衡状態にあるときで反応平衡定数

を K とするなら

K aC

c aDd

aAa aB

b (72)

で表されるそこでE゜は次のように書き改めることができる

43

E

RT

nFln K (73)

そこで式(67)で表される図10の電池「水素minus 銀塩化銀電池」に

対する起電力をギブス自由エネルギーから求めてみよう

反応から式(71)に当てはめれば

E E RT

Fln

aH

1 aCl

1 aAg1

aAgCl1 aH2

1

2

(74)

力学の慣例にしたがって固体の純物質の活量は1として扱い水素ガスを

想気体として見なして活量を1atm とするなら式(74)は次のよう

に簡略化される

E E

RT

Flna

H aCl (75)

ころで理想溶液として近似的に取り扱うときの希薄溶液でたとえば水素

入して詳細に検討するなら式( れる起電

オン濃度はイオン活量として aH+の記号を使うときすでに【理想溶液のギ

ブス自由エネルギー】の章で述べたようにこれを有効イオン濃度とする必要

がありイオン活量 a は「活量係数」γを導入して次式で表した

a H+= γH+CH+ (62)

この活量係数を導 75)で誘導さ

を計ることによって経験的に試料溶液中の水素イオン濃度を求めることは

困難である式(75)にあるイオン活量の項はモル濃度 C と活量係数γを

用いて次式で書き改められる

lnaH aCl

lnCH CCl

lnH Cl

(76)

まり式(76)右辺の第二項において互いに相手が知られなければ自分

決めることができず結果的に起電力を知っても(75)の値から水素イオ

ン濃度を導けないここに工夫が必要になる

44

の定義とその目盛り

液中の水素イオン濃度を直接意味するものではなく

を定義するとき測定されるのは1リットルの溶媒に存在す

pH = -log a H+ = -log(γH+CH+) (77)

際に試料溶液の pH を決定する際はpH 標準液を用いる

に溶液を入れ試料溶液 X と pH 標準液 S を

参 極を接続し電池を作成しその起

pH

現在pH の定義は溶

で述べたようにそれが簡便に測定できるものではないため次のように定

義されている

水素イオン濃度

水素イオン活量であるため定義式としては活量係数をγH+として次式で与

えられる

その要領は次のようである

上に図示した水素電極の容器内

れぞれ半電池(I)と(II)に入れる

半電池(I) Pt | H2 (1 atm) | 試料溶液

半電池(II) Pt | H2 (1 atm) | 試料溶液S

照電極として上図のごとく銀塩化銀電

電力を測定する半電池(I)のときの起電力を E(X)半電池(II)のそれを E(S)

とするこのとき試料溶液Xの pH は次式で計算される

pH (X) pH(S) E(S) E(X)

RT ln(10) (78)

ln(10)は自然対数を常用対数に戻すための定数で2303 を用いる

標準液

pH 標準液 S はpH 第一次標準液第二次標準液と呼ばれるべき

る測定

25で pH 4005 を示す

pH

上述した

のであり絶対的測定法である起電力の測定によって値をつける

標準液は安定で純粋な結晶が得られる試薬を調整してこれを測定す

上と同様に水素電極を用いこれに緩衝液を入れる参照電極として銀

塩化銀電極を接続して電池の起電力を測定する

たとえば005 moll フタル酸水素カリウム溶液は

一次標準(Primary Standard PS)の一つである半電池(III)として水素

45

電極を次のように準備する

半電池(III) Pt | H2 (1 atm) | PS 溶液

て電池を形成したとき得られる起電

参照電極として銀塩化銀電極を接続し

は式(75)から

E E

Ag AgCl RT

Flna

H aCl (79)

オン活量を濃度と活量係数の積(a H+= γH+CH+)にし自然対数を常用対数

すれば

E E

Ag AgCl RT ln(10)

F log(

H + CH+ Cl- CCl - ) (80)

E゜は水素標準電極(水素ガス分圧を1atm電極を浸ける溶液に001 moll

H

Cl を用いる)で得た起電力である

式(80)から

RT ln(10)

Flog(

H CH Cl

) (E EAg AgCl )

RT ln(10)

Flog C

Cl

(81)

らに

log(

H CH Cl

) F

RT ln(10)(E E

Ag AgCl ) logCCl

(82)

ころで式(77)から

(γH+CH+) (77)

-log a H+ =-loga H+-log(γCl-) +log(γCl-) =-log(a H+γCl-) +log(γCl-)

(83)の一番右の式で第一項は

pH = -log a H+ = -log

であるが右の式をさらに変形すると

(83)

46

-log(a H+γCl-)=-log(γH+ CH+γCl-) (84)

たがって式(82)の右辺で示されるように電池の起電力を測定すれば

よ 実際には溶液の塩素イオン濃

液で起電力を求め外挿する

起電

これによってpH を意味する式(83)は次式(85)で与えられる

p(aHγCl)はRG Bates によって Acidity Function と呼ばれている

らに式(85)最終項の log(γCl-) を補正しなければならないこの項は

本工業規格)によっても

であってこれは式(82)の左辺である

いただし塩素イオン濃度の項があって

をゼロにしたときの値が必要である

実測する際には塩素イオン濃度をゼロにできないので塩化ナトリウム NaCl

等を濃度を変えて添加しその時々の緩衝

勧告ではNaCl で 000500100015moll の3つの濃度を例示している

すなわち塩素イオン濃度ゼロのときの値は各塩素イオン濃度に対して

の値をそれぞれプロットしグラフから塩素イオンがゼロのときの起電力の

値を3点に対する回帰直線の延長で外挿して求めるこの点を次のように書

log( C H H Cl CCl

0

pa log( C log( (85) H H H Cl C

Cl0 Cl

)

素イオンの活動係数で与えられる補正項である

無限希釈溶液中のイオンの活動係数は理論的に Dubye-Huckel の式を用い

近似的に求めることが可能であるこれはJIS(日

用されていて Bates-Guggenheim の規約と呼ばれる (Bates RG

Guggenheim Pure Appl Chem 1 163-168 1960)

Dubye-Huckel の式は次のように与えられる

log A I

i 1 iB I (86)

47

I iについてそのモル濃度

計算される

はイオン強度でイオン mi と電荷 zi から次式で

I 1

2mizi (87)

また iは(86)式のBは温度と溶媒の性質による定数であり イオンの大

きさに関するパラメータで水和イオンの大きさとほぼ一致した値をとる標

準法の勧告では塩素イオンに対しイオンの大きさを46Åと決めてiBを

1

5 にしているそこで式(84)は次のようになる

ClA I

log 1 15 I

イオン強度 I は塩素イオン濃度を含まない計算となる

以上の方法によって実用的な pH 測定に用いられる第一次第二次標準液の

pH の値が得られる

絶対値としての

はpH の絶対測定法(第一次標準測定法)とされている

銀塩化銀参照電極は分極現象を防ぐために棒状の銀を塩酸で処理し表

に塩化銀を生成させたものを飽和塩化カリウム溶液につけてある

(88)

参考現在は実験的に求めた値と理論値の組み合わせで

素イオン濃度を求める方法を規定しているこの起電力から水素イオン濃度

を知るための測定方法

Buck RP Rondinini S Covington AK Baucke FGK Brett CMA Camoes MF

Milton MJT Mussini T Naumann R Pratt Kw Spitzer P Wilson GS

Measurement of pH definition standards and procedures Pure Appl Chem

74(11)2169-2200 2002Kristensen HB Salomon A Kokholm GInternational

pH scales and certification of pH Anal Chem 63(18) 885A-891A 1991)

銀塩化銀参照電極

電極の構成は

Cl-(aq) | AgCl(s) | Ag(s)

48

この半反応は次のようになる

AgCl(s) + e- rarr Ag(s) + Cl- (89)

の反応は次の2つの反応に分けて考えることができる

Ag+ + e- rarr Ag(s) (91)

AgCl(s)rarr Ag+ + Cl- (90)

図11銀塩化銀参照電極

(90)における銀 る塩素イオンによって左

されることが推測される

そこでカッコ [ ] をそれによって囲まれるイオンの濃度を表すことにし

式 イオン Ag+の溶解性は共存す

塩化銀の乖離定数Kを考えると

49

K = [Ag+][Cl-] (92)

これから

[Ag+]= K[Cl-] (93)

化カリウム溶液に漬けた銀塩化銀電極の電位 E は水素標準電極に対する

電 で与えられる

位を E゜として次式

E E

RT

nF

[ Ag ]

[Ag(s)]ln( )

Ag(s)のイオン活量は常に1とする

ここで半反応の電極電位を求めるために式(75)を利用することにすれば

(94)

熱力学の慣例にしたがって純物質個体

E E

RT

Flna

H Cl a (75)

式 の半反応をみると

応で電子1つが移動するので n=1 とするR=831441 JmolK1F = 96485

C はめれば

これに銀イオンの濃度として式(93)を当てはめる

この反応で移動する電子は (89) 銀イオン1つの反

molT=29815K(25)ln(10)=2303などの定数を当て

2303RTF = 005917

であるから(94)式は次のように表現できる

log[Cl]) E E 005917(logK (95)

たがって標準水素電極に対する銀塩化銀参照電極の標準状態における電

位 は半反応(89)に対して ゜=+0799で

化銀の乖離定数 K は182times10-10 であるのでその対数を取れば-973993

0799-005917times973993-005917log[Cl-]

E゜ E ある

ある

そこで式(95)は

E =

50

= 0799-0576-005917log[Cl-]

= 0223-005917log[Cl-] (96)

電極電位の関係について実測値

こうして求めた塩化カリウム溶液の濃度と

計算上の値は次のようである

KCl moll vs SHE volt25 計算値 volt25 01 02881 02822 35 0205 01908 飽和 0199 minus

実用 測定

実際の現場で水素イオン濃度を測定する目的の測定法で上のような2つの

極が同じ溶液に浸かっていたのでは試料溶液を交換するにも便利ではない

の容器に入れる未知試料溶液と銀塩化銀電極を隔離する

的な pH

そこで水素電極側

的で二つの電極容器をつなぐ液絡部をグラスフィルターやセラミック板

飽和塩化カリウムで作成したゼラチンなどの塩橋によって隔離遮断するこ

れを液絡部とよぶ

電池として機能するために必要な溶液イオンの交換はこの液絡部で行う

組み立てる電池は電池式で次のように表される

Pt(s) | H2 | 試料 (H+ x moll) || 飽和 KCl | AgCl | Ag(s)

の標準電極と銀塩化銀電極とは区切られていて溶液の直接の接触がない

とを意味するために電池式ではタテ二重線を用いる銀塩化銀参照電極

の容器には飽和塩化カリウム溶液が入れられる

51

図12液絡部のある pH 測定のための電池

この液絡部のある電池では塩橋を記号lsquo | | rsquoで表して次のように記す

試料 (H+ x moll) | | 飽和 KCl

ここでは試料溶液と飽和塩化カリウム溶液の異なる2液が接している

このような界面では膜電力が生じるのと同様「液間電位差」が生じることが

知られているしたがって上の電池で測定される起電力 E は

E = E[銀塩化銀電極電位]+E[液間電位]+E[水素電極電位]

で与えられることになってE[液間電位]のために図12の電池の起電力

は銀塩化銀参照電極の値を知っていても水素電極容器内に入れた未知溶

液の水素イオン濃度を正しく知ることができない

52

そこで実用的な測定法としてこの E[液間電位]を膜電位として積極的に利

用する方法が工夫されたすなわち水素イオンに感応するガラス薄膜を用い

るガラス電極法である

53

ガラス電極

ガラスはケイ素原子と酸素原子からなる SiO4 の結晶構造を持ち酸素で囲

まれた空隙があって水素イオンがそれを埋めることができる

この性質によってガラス膜表面は水溶液中の水素イオンに応じて膜電位を

変化させるのでこれを水素イオン濃度測定用の電極として利用することが考

えられるこれが通常用いられるガラス電極である

ガラス電極は標準電極と組み合わせれば電池を構成することができこの電

池の起電力を知ってガラス薄膜の内外にできたイオン濃度勾配を知ろうとす

るものである

薄いガラス膜(01mm程度)をはさんで接する2つの溶液のH+イオン濃

度が異なるとその差に応じてガラス膜の両側に電位差(Eg)が現れる

ネルンストの式でガラス電極の内部に入れた既知の濃度のH+([H+]in)に対

し試料中の水素イオン濃度が[H+]sampleのとき次の電位を生じる

)][

][log(059170)

][

][ln(

sample

in

sample

ing

H

H

H

H

F

RTE

(97)

図13ガラス電極

電極を構成するのは銀塩化銀電極と同じ電極で用いる塩溶液は一般的

54

に 01モル塩酸溶液である

この半電池の電池式は次のように書くことができる

Ag(s) | AgCl(s) | HCl (01 M) | ガラス薄膜 || 試料溶液 H+ (x moll)

Eg

この半電池の電極電圧を測定するために銀塩化銀標準電極と組み合わせ

電池を作って起電力を計る

構成される電池は下図のようになる

ガラス電極 銀塩化銀標準電極

図14ガラス電極を用いた pH 測定用の電池

この電池の起電力は次の各半電池の平衡電位を合わせたものになる

55

E1ガラス電極の内側電位

Ag(s) | AgCl(s) | HCl (01 M)

Egガラス薄膜の内外に生じる膜電位

HCl (01 M) | ガラス薄膜 || 試料溶液 H+ (x moll)

E2液間電位(膜電位)銀塩化銀標準電極のセラミックを介した試料溶液

と銀塩化銀標準電極の内部液(飽和 KCl 溶液)の間に発生する電位

試料溶液 H+ (x moll)|| セラミック | KCl(飽和)

E3銀塩化銀標準電極

KCl(飽和)| AgCl(s) | Ag(s)

pH メーター用のガラス電極に使われるガラス薄膜は水素イオンに感応して

膜電位(Eg)を生じるこれは【膜電位】の章で記したように薄膜がある

一つのイオンのみを通過させる特性を持っている場合にイオンが膜を介した

両側で平衡状態に達したとして電気化学ポテンシャルを膜の両側で等しいと

考えてそのイオンが濃厚な側から希薄な側にその差によって圧力を生じると

するものである

一方同じ試料溶液が銀塩化銀標準電極のセラミック液絡部を介して生じ

るだろう液間電位(膜電位E2)はいま関心がある水素イオンに対して特異

的に感応するのではないので試料溶液の水素イオン濃度に関係なく一定と見

なすことができる

すなわちpH メーターを構成する電池の起電力 E は

E = E1+Eg+E2+E3 (98)

このうちEg以外は一定と見なせるので

E1+E2+E3 = E

として式(98)を書き直すと

)][

][log(059170

sample

ing H

HEEEE

(99)

Eは標準液によって校正されるべき標準電極電位である

56

電極の校正

実際のイオン濃度を測定する場合低濃度標準液と高濃度標準液で得られ

る起電力を測定し計測のイオン濃度に対する係数(傾き)を求めておき未

知の試料に対して起電力を測定してそのイオン濃度を算出する方法が採られる

低濃度標準液と高濃度標準液のそれぞれの濃度をCLとCHとすればそれぞ

れの起電力ELとEHは次式で表される EH = E +β logCH (100)

EL = E +β log CL (101)

ただしβは式(99)の係数を簡略にしたものである

式(100)と(101)から検量線の傾きが次式で表せる

ΔE = EH minus EL = β(logCH minus logCL) = β logCH

CL

(102)

したがって係数βは

β =ΔE

log CH

CL

(103)

であらわされる

このときに使われる標準はすでに前出の pH 第一次標準第二次標準溶液で

ある

金属イオンに対応するイオン選択電極

現在臨床検査で日常的に使われている電解質測定のための電極はナトリウ

ムカリウムカルシウムクロールなどおよそ臨床的に必要な金属イオン

に対して入手可能である

カリウムイオン測定用のバリノマイシンの発見によってクラウンエーテルと

57

呼ばれる一連の化合物が知られたクラウンエーテルはその分子の中心に立

体的な空間を持ち特定のイオン径に対し合致するのでそのイオンに対して

選択的に感応するこれらの化合物はイオノフォアと呼ばれる

図 15クラウンエーテル

1つの金属イオンが環状化合物

15-crown-5 の中央にある空間を充填

している模式図

15-crown-5 の構造を作る10個の黒

い丸は炭素炭素2個のつながりごと

にある中心の白い丸は酸素酸素と

金属イオンの間の距離はおよそ 22~

23Åであるカリウムのファンデン

ワールス半径は 135Åイオン半径は

15~16Åである

測定したいイオンに対しポリ塩化ビニル(PVC)を支持体としてイオノフ

ォアを添加した液膜の電極膜を作成しこれをガラス電極におけるガラス薄膜

と同様試料に接する電極膜として用いるこの構造から一般的に液膜型電極

と呼ばれる電極膜には特異性を高めるため妨害イオン排除剤などが添加

される

pH メーターと同様銀塩化銀標準電極と組み合わせ電池を形成しその

起電力を計る測定したいイオンが液膜に対して内外で平衡に達したときの

膜電位を測定するのはガラス電極と同じである

カ リ ウ ム イ オ ン に は Bis[(benzo-15-crown-5) ( 正 式 名 は

Bis[(benzo-15-crown-5)-4-methyl]pimelate)ナトリウムには Bis[(12-crown-4)

やDibenzyl-bis[(12-crown-4)などがイオノフォアとして用いられる

58

図16カリウムイオン測定用に使われるクラウンエーテル

図17ナトリウムイオン測定用に使われるクラウンエーテル

59

参考イオン選択電極に関する文献Xia Z Badr IHA Plummer SL Cullen L

Bachas LG Synthesis and evaluation of a bis(crown ether) ionophore with a

conformationally constained bridge in ione- selective electrodes Anal Sci 14(2)

169-173 1998 Oh K-C Kang EC Cho YL Jeong K-S Y oo E-A Paeng K-J

Potassium-selective PVC membrane electrodes based on newly synthesized

cis- and trans-bis(crown ether)s ibid 14(10)1009-1012 1998 Dojindo WEB

site httpwwwdojindocojpwwwrootproductsjinfo2protocolp31pdf

<補遺> 60

補遺 状態関数 (本文 p21 10 行目参照)

一つの平衡状態にある系 A とこれに接する系 A にとって外部である系 B について系 B

から系 A に熱を与えこれによって系 A が他の平衡状態に移ったとき系 A はその結果とし

て膨張し系 B に対し仕事をする

このときの微少な熱量の移動を記号drsquoQ またなされた微少な仕事をdrsquoW とすると

系Aの内部エネルギーに関する微少な変化drsquoUA は両者の和として表される

WdQdUd A primeminusprime=prime (a-1)

この式 a-1 と本文中の式25との関係について

WQU A Δminus=Δ 本文(25)

<補遺> 61

式 a-1 と式25の記号の違いは変化の起きる前の平衡状態 S1 から変化後の平衡状態 S2

に状態変化があったとするなら式 a-1 を積分することで式25が得られるものと考えて区

別している

A

S

S A UUd Δ=primeint2

1 (a-2)

このことは重要であるすなわち内部エネルギーU は変化の起きる前後の状態を指定する

ことによって値が定まることを意味するこのように積分によって値を定めることが出来る

のでdrsquoU は完全微分であるという

内部エネルギーのように系の状態だけで値の定まる量を状態関数として扱う

一方式 a-1 のdrsquoQ drsquoW についても同様に微少の変化量を表しているが平衡状態 S1

から S2 への経路を指定しなければ積分の値は定まらない

本文中の記号にしたがって仕事量ΔW を次のように表すことにする

VpW Δ=Δ 本文(20) V

<補遺> 62

体積と圧力の関係を表す図を使ってこの仕事量が意味することを考える圧力 prsquo の下で

体積が V1 であるときを状態 S1 として圧力一定の下で体積を V2 まで膨張させるような変

化を行った後体積を等しく保って圧力を p にまで上げたときの状態を S2 とするこのとき

の仕事量は膨張に伴うものであるから図の体積‐圧力線の下の面積で示すことができる

平衡状態 S1 から S2 への変化の道筋を別にたどってみよう

新しい経路では圧力を先に p まで上げた後に膨張変化させている

図から直感的に明らかであるので数式での扱いを省略するが2 つの経路による仕事量には

差がある

すなわちdrsquoW は drsquoU と異なり変化の初め S1 と終わり S2 の状態が与えられても積分値

は定まらず変化の経路によって違ってくる

このように変化の経路を指定しなければ積分値が定まらないものを不完全微分と呼び扱

いを区別する

本文 p21 へ戻る

<補遺> 63

VpW

WQU

VpQU

VpUQ

1122 SSSS pVUpVUQ

pVU

VpUHHHQ SS 12

エンタルピー (本文 p24 20 行目参照)

本文中の式 20 および 25 から一定の圧力の元で起きる状態変化において内部エネルギー

の変化量に対する式 a-3 を得る

本文(20)

本文(25)

(a-3)

式 a-3 を Q について書き直す

(a-4)

状態の変化が平衡状態S1から平衡状態S2に移ったものとして式 a-4を丁寧に書き直すと

(a-5)

並び替えて

(a-6)

式 a-6 を見ると定圧過程における熱量の流入は

(a-7)

の形を持つ関数の差であることが分かる

一般に化学反応のような変化の過程では大気圧の下で行われるようなものに興味がある

そこで式 a-7 で与えられる項を一つの関数として定義するこれをエンタルピーと呼び記

号 H を与える式 a-4 はエンタルピーの変化量で次のように書き改められる

(a-8)

圧力が一定の下で起こる状態変化について流入する熱量は式 a-8 で示されるようにエンタ

ルピーの変化量に等しい

V

V

V

V V

V

V

1212 SSSS VVpUUQ VV

<補遺> 64

1Q

We

また式 a-8 からオートクレーブ内で起こるような体積変化のない過程ではこの値が内

部エネルギーの変化量で与えられることが明らかである

本文 p24 へ戻る

エントロピー (本文 p26 17 行目参照)

エントロピーは次のような思考実験から発想された仮想的な状態関数である

理想気体よりなる系 A が温度 T2で熱平衡状態にあり温度 T1の外部の熱源と接しているこ

とを想定する系 A の外部を系 B と呼ぶことにするT1は T2に対して無限小だけ高い温度と

する

系 A が系 B に対して温度圧力について平衡を保ちながら緩慢に系 B より熱量 Q1を受け取

る過程を考える(このような過程を準静的過程と呼ぶ)これによって系 A が熱量 Q1を得て膨

張するとき系 B に対して仕事をする続いて系 A から熱量 Q2が系 B に戻ることを考える

想定されるこの変化が可逆的であれば系 A と系 B を併せた全体は元の状態に戻る蒸気機

関に関するこのような研究が Nicolas Carnot によってなされたのは1824 年のことであった

ここに想定されたサイクルに対する Carnot の効率 e は移動した熱量となされた仕事によ

って定義され次の式で表される

(b-1)

<補遺> 65

理想気体では内部エネルギーU の変化ΔU はゼロと考えるしたがって熱力学の第一法

則を表す式(本文中の式25)から次の関係が示される

0=Δminus=Δ WQU

WQ Δ= (b-2)

これによってCarnot Cycleの効率eはQ2lt0 として次のように書き改めることが出来る

1

21

QQQe +

= (b-3)

ところで気体の状態方程式から1 モルの気体について次のような関係が示される

RTV

P

P1=

V = RTV (b-4)

V 式 b-4 の両辺に体積の微少変化量ΔV をかけて

(b-5)

これを体積Vについてその変化をV1からV2までとして積分するならば次式が得られる

VV

RTVP Δ=Δ 1V V

V

intint = 2

1

2

1

1V

V

V

VdV

VRTPdV

1V2V

11 lnRTW =

(b-6)

Q1の熱量によって起こる膨張がV1よりV2までとし圧力P温度T1の下でなされるその仕事

量をW1とするならそれは式b-6 の右辺によって示されるすなわち

(b-7)

VV

1

2lnVVRT=

V V

VV

V

V2int V2 intV1 V1

<補遺> 66

またQ2の熱量の移動が圧力P温度T2の下で起きこれによって系Aが可逆的に圧縮され

るなら体積変化はV2よりV1まで起こりその仕事量をW2で示すと次式のように表される

(b-8)

1

22

2

122 lnln

VVRT

VVRTW minus==VV

VV

Q1=W1Q2=W2の関係から式b-7 およびb-8 を用いてCarnot Cycleの効率eを表す式b-3

を書き改めると温度のみの関係式として次のように表される

1

21

TTTe minus

= (b-9)

ここでサイクルが可逆的過程であると想定するならば式 b-3 と式 b-9 から

1

21

1

21

TTT

QQQe minus

=+

= (b-10)

これから

12112111 QTQTQTQT minus=+ (b-11)

整理すると

02

2

1

1 =+TQ

TQ (b-12)

この考えをさらに発展させ系A

と系Bの間に数多くの系を挿入すること

にしてそれらの系を同様に熱源として

T1T2Tnと考えるこれによっ

て熱の受け渡しが系Aから系Bに至り

再び系Aにもどるサイクル過程に数多

くの寄り道の過程を加えることになる

熱量の移動に関して上の場合と同じく

準静的過程で行われると考えるこの

サイクル全過程について初めと終わ

<補遺> 67

n

i i

i

T

Q

1

0

0T

dQ

T

QS

T

dQASAS )()( 12

りが同じ状態になる可逆的な過程であるなら式 b-12 を拡大的に考えることになってそれ

は次式で表される

(b-13)

式 b-13 には重要な関数が現れるすなわち熱量と温度の比QT である

もし一つの系が無限小だけ温度の高い(dT )外界から温度圧力など平衡を保ちなが

ら極めて緩慢な過程(準静的過程)で無限小の熱量(dQ )を受け取るならばその変化は可

逆的でありdT について連続的な温度分布をする過程を考えるとき式 b-13 をさらに発展

させて次のように積分式で示すことが出来る

(b-14)

式 b-14 で積分記号にが付されているのはCarnot Cycle のような経路を一巡することを

意味している

Carnot の熱機関の効率という着想から生まれた熱量とそれを持つ系の温度との比 QT に

重要な意味を見出したのは Rudolph Clausius で彼はこの比にエントロピーという名前を与

えたエントロピーには記号ΔS を一般に用いる

(b-15)

エントロピーは初めと終わりの状態がわかれば過程に関わらず定まるので状態関数であ

系 A と外界のエントロピー変化を考えるときそれが可逆的過程であるならばすべてを併

せた全体のエントロピー変化は初めと終わりに変化がないという意味でゼロであるすなわ

ち初めの状態を S(A1)とし次の状態を S(A2)とするならそれぞれのエントロピーを

ΔS(A1)ΔS(A2)としてこの間におけるエントロピーの変化量は次のように示される

(b-16)

<補遺> 68

T

dQdS

0T

dQ

ある一つの変化については次のように示される

(b-17)

ここで式 b-17 の S に付けられたdは微分量すなわちごく微小の変化量を意味し式 b-15

で定義されたエントロピーに用いられる一般的な記号Δと区別する

ところで式 b-10 の関係においてもし移動した熱量のすべてが仕事に変わらなければ

効率 e を表す熱量を用いた関係式と温度で表される関係式は等号で結ぶことができないそれ

はエネルギーのロスを意味し初めと終わりの状態が異なってしまうことを意味するすなわ

ち全過程が構成する一つのサイクルは可逆的でなくなる

不可逆過程での熱効率 ersquo は 大値を示す可逆的過程の熱効率 e より小さな値をとる

ee

したがって 大効率を与える式 b-8 と式 b-3 から

01221

2112

1

21

1

21

QTQT

QTQT

Q

QQ

T

TT

両辺を T1T2で割ると

02

2

1

1 T

Q

T

Q

これを式 b12 と同様に発展させれば式 b-14 についてサイクルの変化が可逆的過程の

場合と不可逆的過程の場合の両方を併せClausius の不等式と呼ばれる次の関係が成立する

(b-18)

式 b-18 の等号が成立するのはサイクルが可逆的な理想の場合に限られる

ある孤立系で状態 A1 から状態 A2 へは不可逆変化で進められ状態 A2 から再び状態 A1

に戻るとき可逆変化であるような閉じた状態変化を考える可逆系のエントロピー変化には

記号 Q を使い不可逆変化には Q を用いるとするとそれぞれ積分式を用いて状態 A1 から

状態 A2 へは

<補遺> 69

d prime

状態 A2 から状態 A1 に戻るときは

全体では

=d prime

+d

(b-19)

Clausius の不等式から

0

式(b-19)の第二項で反応を逆に進めるときには次のように書き改めることができる

=d

よって式(b-19)は次のように書き直すことができClausius の不等式とあわせると

d prime d

0

すなわち

d prime d

上式の右辺は式(b-16)を用いて表せば

d prime

∆S ∆

この状態変化を微小変化とするならば断熱変化の場合 dQ = 0 であるから

∆S ∆ dS 0

すなわち不可逆変化を含む断熱変化ではエントロピーは必ず増大する

<補遺> 70

T

QS

BA SSS

(b-20)

(次の<補遺>ギブス自由エネルギーも参照せよ)

本文 p26 へ戻る

ギブス自由エネルギー (本文 p28 27 行目参照)

エントロピーの考えを導入することによって不可逆的に状態変化が起きるときにはエン

トロピーの増大を引き起こすことを知ったこれによって目前で起きる現象について温度の

変化があるものであれないものであれまた圧力の変化があるものであってもエントロピー

の定義式によって可逆的な変化におけるエントロピーの変化量を計算することが可能である

(b-15)

しかしながらこれから起こる変化について我々がすでにあらかじめ知っている物理量を

用いて予測的にその状態変化が起きるかどうか知ることは必ずしも容易ではないその理由

は式 b-15 に示されたエントロピーΔS が系とその外界をあわせた全体のエントロピーを示

しているからであるすなわち関心のある系を系 A としその外界を系 B とすると全体

のエントロピーは次のように表せる

(c-1)

関心のある系 A のエントロピー変化を知るためには系 B のそれを知ればよいがそれは

いつも容易とは限らない系 A の性質だけで状態変化の方向を知るには別の観点が必要にな

るようだ

そこでもう一度状態変化が熱量 Q の移動によって起きることについて考えてみようエン

トロピーの補遺で議論したように熱量の移動が準静的過程により行われるときには変化は可

逆的に起こると考えたこのとき外界すなわち系 B から移動する熱量を Q1とし系 A から

0S

<補遺> 71

21 QQ

T

Q

T

QSB

21

T

QSS A

2

QH

T

HSS AA

AA STHST

のそれを Q2 と記号を当てたのでこれをそのまま使うことにすれば可逆的な過程では系 B

の熱量 Q1 はすなわち系 A から戻る Q2 に他ならないので両者には次の関係が成立するも

のとしてよい

(c-2)

したがって

(c-3)

と考えてよくこれによって式 c-1 を次のように書きなおすことが出来る

(c-4)

独立した系で圧力とその体積に変化がなく一定の条件の下で状態変化が起きるときエン

タルピーの考えを使ってすでにひとつの関係があることを導いている

本文(31)

そこで式 c-4 を系のエンタルピーΔHAによって書き改めれば

(c-5)

この両辺に-T をかけて式を書き直せば次の関係式が得られる

(c-6)

式 c-6 を見るときその右辺がマイナスの値ならば左辺のΔS はプラスの値をとることが

分かるすなわちエントロピーが増大すると見ることが出来るこれまでの過程で自然の現

象はエントロピーが増大する方向に進むとしてきたので関心のある状態変化について式 c-6

の右辺で計算される値がマイナスの値ならばその変化は起きるものと考えてよいことになる

だろうしかも右辺はすべて独立した系の状態量で示されていて我々が知りうる値で計算

<補遺> 72

TSHG

STSTHG

STHG

可能である

そこでこれを熱力学ポテンシャルを表すものとしてギブス自由エネルギーと呼ぶことに

するギブス自由エネルギーは記号 G が用いられ次のように定義される

(c-7)

ここで関心があるのは自由エネルギーの絶対値ではなく式 c-6 に示されたようにその変化量

に興味があるので式 c-7 から

(c-8)

温度が一定の条件の下で状態変化が起きることを考えるなら式 c-8 は次のように書くこと

ができる

(c-9)

ギブス自由エネルギーは式 c-9 の右辺がすべて状態量であるからこれも状態量の一つで

ある定圧定温の条件下で起きる変化ではすでに議論したようにΔGlt0 であれば状態

変化は自発的に起きるものと予測できる

つまり式 c-5 の第一項は系のエントロピーΔSAそのものであり第二項で示されるエンタ

ルピーは系 A の温度が一定に保たれているのであるから発熱する熱量として外界に吸収さ

れるものであってこれは外界のエントロピーの増大につながるものとして解釈されるした

がって化学反応のように一定の圧力と一定の温度の下で起きる変化について自由エネルギ

ー変化量はその状態変化が自発的に起きる傾向を示しているといってよい

本文 p28 へ戻る

  • はじめに
  • 目次
  • 電気エネルギー
    • 金属のイオン化
    • 電池
    • 水素の反応
    • 燃料電池
    • 化学反応と電気エネルギー
      • エネルギーと熱力学
        • エネルギー保存則
        • エンタルピー
        • エントロピー13
        • ギブス自由エネルギー
        • 電池における化学反応のギブス自由エネルギー13
        • 理想気体の状態方程式
        • 理想溶液のギブス自由エネルギー
        • 膜電位
          • 水素イオン濃度測定
            • 化学反応の一般的な式
            • pHの定義とその目盛り
            • pH標準液
            • 銀塩化銀参照電極
            • 実用的なpH測定
            • ガラス電極
            • 電極の校正
            • 金属イオンに対応するイオン選択電極
              • 文献
              • 補遺
                • 状態関数
                • エンタルピー
                • エントロピー
                • ギブス自由エネルギー
Page 11: イオン選択電極i イオン選択電極 Ion Selective Electrode (ISE) を理解する ・ pHを測定する ・ NaやKなどのイオン濃度を測定する 神戸大学医学部保健学科

8

図3亜鉛と銅を電解質溶液に入れしきり板にセラミックを使う

このように電子の流れを発生させて利用しようとする装置を「電池」とよぶ

電池には2つの極がある陽極(+)と陰極(-)である

陽極(+)は正極ともよばれ電極に伝ってきた電子が水溶液に移動し還

元反応が起きる側をいう

これに対して陰極(-)は負極ともよばれ電極金属がイオン化し酸化反応が

起きて電子が電極から取り出される側をいう

今の例では亜鉛板が陰極(-)銅板が陽極(+)とよばれる

有名な「ダニエル電池」はこのように考案された

電池を電球などにつなぎ電気回路を形成すれば亜鉛電極内の電子が導線へ流

れ出て電球を明るくし亜鉛はつぎつぎ溶液に溶け出す

回路を切れば再び電極に電子がたまり平衡状態に達して亜鉛イオンの溶

出は止まる

ここで電池の表記についての取り決めを記しておこう

9

電池は2つの極からなる陽極と陰極である陽極すなわち還元反応が起き

導線を介して電子を受け取る極を右に書くダニエル電池の場合には陽極は銅

板であり銅イオンを供給する硫酸銅の水溶液が電解質溶液として用いられる

陽極金属と電解質溶液の間は縦棒で区切るそこで陽極は次のように表記され

CuSO4(aq) | Cu(s) (+) 記号(aq)は水溶液のこと

同様に陰極は酸化反応が行われる極でこれを左に書く

(-) Zn(s) | ZnSO4(aq) この両方の極は別々の水槽にあってイオンの交換が塩橋あるいはセラミッ

クのようなしきりを介して行われるのでこの隔壁をタテ二重線で表記し両極

を並べて記す

ダニエル電池は次のような記号で表記されるこれを電池式と呼ぶ

(-) Zn(s) | ZnSO4(aq) || CuSO4(aq) | Cu(s) (+)

両端の極を導線で接続し回路を形成すれば電子の流れが左の陰極から右の陽

極に起こり電流は右から左へと流れる

水素の反応 イオン化傾向の大きさが異なる金属を組み合わせて酸化還元反応が起きると

電子の流れが生じそれを取り出して豆電球を点灯する仕事として利用するこ

とができる

イオン化列の鉛と銅の間には水素があるこの水素の酸化還元反応を見るこ

とにしよう

水素の酸化反応は次のように表される

H2 rarr 2H+ + 2e- (5)

これを半反応として電子の流れを作り出せば電池として機能するから取り

出された電子を利用する還元反応を考えよう

水素と反応する相手に酸素を選べば水が生成物として得られることを期待で

きる

10

酸素が電子を受け取る還元反応の半反応は次のように表される

12 O2 + 2e- rarr O2- (6)

半反応(5)と(6)を組み合わすことができれば次の全反応によって水

が生じる

H2 +12 O2rarr H2O (7)

このとき得られる電子を導線に誘導すれば電気エネルギーとして利用が可能

になる

問題はダニエル電池で見たようにそれぞれの半反応で生じるイオンの処理で

ある半反応(5)と(6)はそれぞれ隔離された容器で行わなければ水素と

酸素が直接反応して水を生じてしまうしかし容器の隔壁がイオンを通さな

いと電池として機能しない

燃料電池 固体は一般に分子やイオンを通過させないが中には特定のイオンを通過させ

るものがありこれを固体電解質とよんでいる

半反応(5)で発生する水素イオンを効率よく通過させるためにはナフィオ

ン(Nafion Du Pont 社米国デラウェア州ウィルミントン)とよばれる固体高

分子膜が有力である

ナフィオンはフッ素を含む高分子パーフルオロスルホン酸系といわれるイオ

ン交換膜で全体はテフロン様構造からできており側鎖にスルホン酸基を持

つその厚さは 20~50ミクロン程度である膜の内部で負に荷電するスルホン

基(SO3-)が水素イオン(H+)を引きつけこれを通過させるこの水素イオ

ンの通り道は電子顕微鏡で見るとトンネルのようにできている

11

図4ナフィオンを使った燃料電池

陰極では水素の酸化反応が起きる

H2 rarr 2H+ + 2e- (5)

一方陽極では次の還元反応が起きる

12 O2 + 2e- rarr O2- (6)

O2- + 2H+ rarr H2O (8)

全体の反応は反応式(7)で表される

12

H2 +12 O2rarr H2O (7)

こうして開発された電池は「燃料電池」とよばれている燃料に水素ガスが

利用される

反応式と図に示した気体酸素は通常の空気が利用され反応で生じた水と酸

素以外の利用されない気体元素は排気される

この燃料電池は水素と酸素を遮断し水素イオンだけを通過させる固体電解

質を使ったこれは上の半反応(5)で生じた水素イオンの処理を考えたわ

けである

これに対して半反応(6)で生じる酸素イオンを移動させる工夫もある

図4安定化ジルコニアを使った燃料電池

安定化ジルコニア(Stabilized Zirconia ZrO2CaO)は高温下で酸素イオン通過

性のある固体電解質として開発されたジルコニウムに10モル程度の酸化

カルシウムを加え結晶を作ると+4価のジルコニウムイオンの位置の一部を+

13

2価のカルシウムイオンが占めるできあがった安定化ジルコニアはこのカ

ルシウムの数だけ酸素イオンの不足が起き固体全体を電気的中性に保つた

めに酸素イオンの透過性ができるジルコニアの両面に白金粉末を焼き付け

それに白金のリード線を取り付ける焼き付けられた白金には多くの孔があり

その孔を通して気体とジルコニアが接触する

酸素イオン導電性の固体電解質としてジルコニアを用いた燃料電池は次

のように動作する

1)空気極(右側)に入った酸素 O2は電極で電子を受け取り酸素イオン O2-

になる

12 O2 + 2e- rarr O2- (6)

2)O2-は固体電解質ジルコニア中を移動していき燃料極(左側)で H2 と

反応し水 H2Oを生じるこの過程に伴って電子が放出される

H2 + O2- rarr H2O+ 2e- (9)

3)これら結果として外部回路に電流を取り出すことができる

燃料電池の起電力は酸素イオンが電解質中を移動することにより生じる

酸素イオンが移動する駆動力は固体電解質の両端すなわち燃料極と空気極

の酸素濃度差である

14

化学反応と電気エネルギー ダニエル電池の陰極は亜鉛板が硫酸亜鉛の水溶液につけられていたこのと

きの現象は次のように説明された亜鉛は電子を亜鉛板電極に残し陽イオン

となって出て行くその結果亜鉛板電極中に電子が余分にたまる

ダニエル電池の陰極の「電極電位」はこの電極に余分にたまっている電子の

量をさしているそれではこの半反応による電極電位を測定することができ

るのだろうか半反応は次のように示される

Zn(s) rarr Zn2+ + 2e- (1)

亜鉛が1モル反応すると2モルの電子が持つ総電荷量が流れる

1電子の持つ電荷量は16022x10-19 C (Ccoulombクーロン)であ

るから

1モルの電子の総電荷量はアボガロド数をかけて 96485 = 96485 x 104 Cmol

であるこれを1F1ファラデーと表す

1F = 96485 x 104 Cmol 亜鉛が1モル反応すれば2モルの電子が持つ総電荷量が流れるのでこれを

記号 q として表すと次の電気量が得られる

q = 2F (10)

化学反応によって取り出せる電気量はこのように計算される

それでは電気エネルギーとしてその電力はどのようになるだろう

電力は

電力=電圧times電流times時間 (12)

電流times時間=電気量であるから式(12)を書き直せば

15

電力=電圧times電気量 (13)

ここで電気量 q は式(10)で表しているので

電力=電圧timesq=電圧times2F (14)

と書くことができる

電圧を記号Vで表すことにし電力をWにすれば式(14)は

W = 2FV (15)

として表しておくことができる

電圧の単位系は仕事量が電力Wであるので(13)から

V= W q (16)

仕事量をジュールJ(ジュール)で表せば電圧はJ C (ジュールクー

ロン)でその単位を表現することができる

式(15)の表すところは亜鉛を化学反応の材料として得られる電力という

仕事量がその電力すなわち電極電位で決定されることを意味している

一般に化学反応で1分子の材料を消費しn個の電子が流れることをその

半反応で知ることができるとき式(15)を一般化して次のように得られ

る電気エネルギーを表すことができる

W = n FV (17)

化学反応によって生じる電子を取り出し回路に導けばここに電流が生じる

その起電力(V)は陽極陰極のそれぞれの電位をE+E- と記号で表し

て次式で書くことができる

V= E+-E- (18)

16

ここで問題になるのは陽極陰極のそれぞれの電位E+とE-で上に議論し

たように回路を形成しなければそれぞれの電位は決定できない

ここでいま片方の電位をゼロとすれば式(18)はたとえばE- = 0 で

V= E+

として陽極の電位が決まる

そこで申し合わせにより水素の半反応による電位をゼロとすることになっ

その半反応の式は水素の還元反応として次のように表せた

2H+ + 2e- rarr H2

標準にはMax Julius Louis Le Blanc (1865-1943) が発明した水素電極を用

いるこれを標準水素電極(Standard Hydrogen Electrode SHE)とよびこの

電極電位をいつも 0 volt(ゼロボルト)と取り決めている

図6に示した水素電極は1atm の水素ガスとそれに平衡状態にある水素イオ

ンが存在し次の半反応が平衡状態にある

H2 (g 1 atm)rarr 2H+ (aq 1 M)+ 2e- (5) g は気体を示す

この反応において平衡状態にある電極電位を 0 volt と定義する

電極に白金を用いるのは電極材料自体が溶解しないものであることすなわ

ちイオン化傾向の低いものであることまた水素イオンの還元に対してな

るべく活性の高いものであることが条件として求められるが白金はこの2つ

の性質を兼ね備えていて陽極の電極材料に適している

気体の標準状態は1atm を標準としているこの分圧を維持し溶液中の水

素イオン活量を1にする水蒸気の分圧が変化すると平衡電位は変化する

17

図6標準水素電極(0ボルトの基準)

標準水素電極は1モル塩酸溶液につけた白金電極に1atmの水素ガスを吹き込んで使う

白金電極は分極を防ぐために白金板に白金メッキを施し(白金黒とよばれる)上半分

を水で飽和させた(1atmの水蒸気分圧が必要)1atm(101325 kPa)の水素ガスを流し

下半分を1moll の塩酸溶液につける水素ガスが電極として働き白金板に電子が集めら

れる

ダニエル電池の亜鉛電極をこの標準水素電極につなげば亜鉛電極電位が測

定できる

亜鉛電極側では酸化反応の半反応が起きる

Zn(s) rarr Zn2+ + 2e- (1)

18

標準水素電極側では還元反応の半反応が起きる

2H+ + 2e- rarr H2

図7亜鉛電極と水素電極をつないで電池とする

25の基準状態における亜鉛電極の半反応(1)に対する平衡電位はすでに

知られている

E゜= -0763 volt

また銅板側の電極電位も同じようにして測定することができる

起きる半反応はすでに上述したが再度記しておこう

Cu2+ + 2e - rarr Cu(s) (3)

25の基準状態におけるこの電極電位はE゜=+0337 volt と知られて

19

いる

ここで亜鉛電極と銅電極の組み合わせでできる電池の最大電圧をこれらの

平衡状態における観測値から計算することができる式(18)を使って

V= E+-E- (18)

V= +0337-(-0763) = +110 volt

つまりダニエル電池で得られる最大電圧は11volt と計算できる実際に

はイオンの濃度が変化すれば反応の平衡が変化するので得られる電圧も変

化する

ここでダニエル電池で亜鉛1モルが反応するとき式(17)を使って得

られる仕事量としての電力を計算できる

W = n FV (17)

すなわちダニエル電池における電極反応は

Zn(s) rarr Zn2+ + 2e- (2)

Cu2+ + 2e - rarr Cu(s) (3)

であったから反応が進んで移動する電子はn = 2 である

1F = 96485 x 104 Cmol を適応すると

W = 2 x 96485 x 11 x 104 = 21227 x 105 Jmol = 2123 KJmol

(K = 103キロ)

すなわち亜鉛1モルの化学反応によって2123 KJmol の電気エネルギーが得

られる

水素ガスを使う燃料電池の起電力は電極の半反応から

O2 + 4H+ + 4e- rarr 2H2O (19)

25の基準状態におけるこの電極電位はE゜=+1229 volt が得られている

20

したがって燃料電池で1モルの水素が反応すれば

W = 2 x 96485 x 1229 x 104 = 2372 KJmol

すなわち2372 KJmol の電気エネルギーが基準状態で取り出せる最大電力

と計算される現在作られている燃料電池の電力は実際上08 volt ほどで

あるしたがって現実的に取り出せる電気エネルギーは 1544 KJmol の仕

事量と計算される「仕事量」という言葉については電気でモーターを回し

なにがしかの「仕事」をするなど思い浮かべれば実感できるだろう

エネルギーと熱力学 これまで述べてきたように電池は化学反応から直接電気エネルギーを取り出

す仕掛けであるダニエル電池では亜鉛と銅が酸化還元反応を起こす過程で

電子を放出するのを利用するまた水素ガスによる燃料電池は気体水素と酸

素を原料とし水が生成されるこの過程が1atm の気体原料を25(29815

K)で1モル反応させて生成物も1atm の液体の水を得るなら次の全反応に

よってすでに計算したとおり2374 KJmol の電気エネルギーが取り出せる

H2 + 12 O2 rarr H2O

圧力と温度がともに反応の過程を通じて一定の場合にその過程から取り出せ

る仕事量は熱力学的に考えることもできる

それはギブス自由エネルギーとして議論される電池で取り出した電気エネ

ルギーすなわち電力はこのギブス自由エネルギーに相当する

次に化学反応をこの熱力学の面から考えてみよう

エネルギー保存則

水素ガスを使う燃料電池のように独立した一つの仕掛けを考えこれを「系」

と呼ぶことにする系を考えるとき電池のように具体的なものを持って考え

るのが容易いのでそうすることが多い熱力学では自然界全体をあつかうので

しばしば概念的になり非現実的な記述が行われるが系の大きさや系を構成

する分子の大きさについて特定する必要はない

系におけるエネルギーを内部エネルギー熱エネルギー力学的エネルギー

の3つの要素からなると考えるこれらのエネルギーを考えるとき系の熱力

21

学的なパラメーター(変数)が必要となる熱力学的な状態はこれらのパラ

メーターのうちのいくつかを指定すれば決定される

熱力学的なパラメーターは2つに分類される

示量パラメーター(示量性変数)

系の大きさや構成する物質の量を示す体積や質量

示強パラメーター(示強性変数)

系の大きさに依存しない系における1つの点で決まった値で与え

られる圧力や温度密度など

いくつかのパラメーターで完全に決定できる状態を関数で表現することがで

きる場合があるそのような関数を熱力学的な状態関数(rarr補遺 p60)と呼ぶ

関数で状態の変化を表すことができれば数学的に取り扱うことができいろ

いろの面で便利である

一つの系についてその状態を知ろうとするとき系が熱力学的な平衡状態に

あると議論する上で都合がよい

熱力学的な平衡状態とは系を外部と独立させ長時間放置した後に達成され

る状態をいうこのとき系の状態をその外部のパラメーターで表現できる

たとえば電池を独立した系と考えるとき平衡状態に達した電極電圧を外部

においた電圧計で測定することができる

ある系を考えるとき前提としてその系はエネルギーを保有していると考える

系が独立してそこに存在するということで持っているエネルギーであるこれ

を内部エネルギーと呼ぶ系がある過程を経て状態を変えるとき系から系の

外部へ力学的な仕事をする場合には力学的エネルギーの出入りがあると考え

るまた系に熱が出入りする場合が考えられそれを熱エネルギーの出入り

と考えることにしよう

まず力学的エネルギーについて考えることにする

いま系が状態を変えその体積が増えれば系のlsquo壁rsquoがその系に接している

「外部」へ力学的な仕事をすることになる

このように系が膨張し壁が外部に向かって押し出されると考えたとき膨張

する過程における圧力を一定でpとし系が膨張した体積をΔV(膨張した分だ

けの体積増加量)とするなら系の仕事量ΔWは両者の積で表されるΔは変

化量を表すときにつける記号と決めておこう

22

ΔW = pΔV (20)

系の体積が凝縮する場合があるので仕事を記号で表す場合には注意するも

し系に接した「外部」から系に力が加わって体積を小さくしたならΔVは

マイナスとなるのでΔWもマイナスで表される

-ΔW = -pΔV (20prime)

今考えている系を「系 A」と呼びその内部エネルギーを UA外部の系を「系

B」と呼んでその内部エネルギーを UBと表すなら二つ合わせた全体の内部

エネルギーは両者の和で表すことができる

U = UA+UB (21)

この体積変化に必要なエネルギー変化量はどこから得られたかを考えれば

その変化があった「系 A」と外部の「系 B」のいずれかあるいは双方の内部エネ

ルギー変化分でまかなわれたと考えざるを得ない(図8参照)

そこでこのエネルギーの収支関係は変化分を表す記号に先と同様Δを用い

ることにすると次式のようになる

-ΔU =ΔW (22)

すなわち観察している「系 A」のエネルギーと外部の「系 B」のエネルギー

を合わせた総エネルギーを見てその微少な減少量minus ΔU が仕事をなすために

必要であったエネルギー量と考えてみることにする

ついでこの体積の変化が「系 A」に接する外部のlsquo熱rsquoによって起きたも

のと考えてみようすなわち外部の「系 B」が系 Aより高温で「系 B」によ

って系 Aが暖められたことになる

このとき移動したエネルギーを「熱量」と定義する

23

図8熱量の移動と系が外部にする仕事

「熱量」を記号Qで表すと外部の「系 B」が失ったエネルギーminus ΔUB で

ありこれが熱量であるから式で表せば次式のように書くことができる

-ΔUB = Q (23)

ここで「系 A」とそれに接する「外部 B」両方のエネルギーを合わせた総エ

ネルギーの変化量ΔUは式(22)で与えられていた

-ΔU =ΔW (22)

-ΔU =-(ΔUA+ΔUB) であるから

minus ΔUAminus ΔUB=ΔW (24)

これに式(23)を当てはめてΔUAで整理すれば

24

ΔUA= Q-ΔW (25)

この式(25)は「エネルギー保存則」あるいは「熱力学の第一法則」を数

学的に表現したものである

すなわち

独立した系を考えその状態が変化するとき系の内部エネルギーの変化量はその系に入る熱量と系が外部にした仕事との差である

式(25)にはまた重要な主張があるつまりエネルギー保存則にしたが

うとき熱量は力学的エネルギーにまた力学的エネルギーは熱量に変換しう

ることを意味している

熱量を表す単位はカロリー(cal)を用いる1cal は

1 cal = 4184 J

と換算されるジュールは 1J = 1Nm (ニュートンメートル)で仕事量を

表現する単位系で表される

エンタルピー

式(25)から定圧過程で式(20prime)を利用して次の式(26)が誘導さ

れる

Q =ΔUA+pΔV (26)

ここでQは熱量を表していたのでこの関係式(26)から熱関数として

新しい関数を定義する

新しい関数はエンタルピー(enthalpy)(rarr補遺 p63)と呼ばれ次の関数

式Hで表される

H = U+PV (27)

エンタルピーの微少変化量を記号Δを使って表現してみよう

25

ΔH = ΔU +Δ(PV) =ΔU +ΔPV+ PΔV (28)

独立した系で圧力が一定の下に起きる過程を考えるならΔP = 0 (圧力の

変化はゼロ)であるから式(28)は次のようになる

ΔH =ΔU + PΔV (29)

化学反応の過程を考えるとき系に容積の変化がなく過程の前後で一定であ

るならさらにΔV = 0 であるのでエンタルピーの変化量は

ΔH =ΔU (30)

また系の仕事を体積の変化としてみる式(20)から

ΔW = pΔV= 0

であるのでこれを式(25)へ適応すると

ΔU= Q minus ΔW = Q ΔW= 0 だから

結果的に系の圧力と体積が変化の過程で一定である場合にはその系のエンタ

ルピーの変化を表す式(29)(30)は次のように簡単な式になって熱関

数と呼ばれる意味が理解しやすいだろう

ΔH = Q (31)

独立した系に等圧等積で起きる過程を見る場合にはエンタルピーは系が外

部と交換する熱量の直接的な尺度となる

H>0 なら反応に熱を使うので吸熱反応

H<0 なら発熱反応

電池のように系に起きる化学反応で生じる電子の流れを取り出す装置を考え

る場合エンタルピーの変化を電気エネルギーとして取りだしている点に留意

26

しなければならない式(31)のようにエンタルピー変化が交換される熱

量に直接表現できるといっても必ずしも熱として取り出すとは限らないこと

を注意しよう

ところでエンタルピーは内部エネルギーと同じ次元にある状態量で定圧

変化の熱量がエンタルピー変化であるからある一点を標準として定めれば

すべての物質について任意の点のエンタルピーを変化量として定めることがで

きるすなわち化学反応の過程で発熱あるいは吸熱する熱量は反応材料と

生成物の間の状態変化に対応するエンタルピーに対応する

そこで一つの元素に対してもっとも安定な状態にある物質を標準物質とし

て定め29815K(25)1atm を標準状態としてその標準物質からある化

合物を合成するときの反応熱(発熱あるいは吸熱)をその化合物の「標準生成

エンタルピー」として定義できる多くの元素に対して標準生成エンタルピー

は現在表としてまとめられている

水素や酸素はその気体状態が標準物質でありそれらの標準生成エンタルピー

がゼロと定義される

エントロピー

もう一つ新しい状態関数としてエントロピー(entropy)(rarr補遺 p64)を

定義するエントロピーを表す記号は通常S を用いその定義は次の式(32)

による

S Q

T (32)

エントロピーは系の2つの状態が決まると状態量として決まる

このときQ は2つの状態の間を可逆的に変化したとき系が受け取る熱量

T は系が熱量 Q を受け取ったときの温度(degK)である

「熱力学の第二法則」はエントロピーに関するものである

図9では2つの系が接しておりそれぞれの温度を Thigh Tlowとする

Thigh>Tlow (33)

27

今温度の高い系から温度の低い系に直接熱量 Q が移動したとすれば温度

の高い系のエントロピーの変化量ΔS は熱量が失われるので負の値になる

図9熱の移動

そこで温度の高い系のエントロピーの変化量ΔS を式で表すことにすると

次式のようになる

Shigh Q

Thigh

(34)

一方低い系のエントロピー変化量ΔS は熱量が与えられるため

Slow Q

Tlow

(35)

両方の系を合わせたエントロピーの変化量ΔS は

S Shigh Slow Q

Thigh

Q

Tlow

lowhigh

lowhigh

lowhigh TT

TTQ

TTQ

11 (36)

式(36)の最終項で(33)を前提すなわち最初に温度の高い系は高い

と決めたのだとするならエントロピーの変化量ΔS は必ず次のようになる

28

ΔS >0 (37)

すなわち独立した系がありそれより温度の低い別の系あるいは温度の低

い外界が接した場合熱量は高い方から低い方へ移動するという自然の成り行

きを説明するものである

自然界に置いてエントロピーは

ΔS≧0

の値を取りΔS=0のときは可逆的過程である

今の例でいうなら熱は温度の高い系から低い系へ移動しその逆は起きない

常にΔS >0の方向に過程が進行するまた2つの系が同じ温度であるとき

両者は平衡状態にあって熱量の移動は見かけ上なくΔS=0と表現される

「熱力学の第二法則」はエントロピーによって表現されるもので系の変化が

可逆的であるかどうかを判定する指標であり現実の世界で起きる不可逆過程

が正の値を取る方向へ進むことを示す

あるいは系の変化が起きるとき外界を含めて考えれば総エントロピーが

増大する方向に変化が起きることを意味するというようにも表現される

ギブス自由エネルギー

熱力学の第一法則によってエネルギーの取りうる形である「仕事」と「熱」

は互いに変換されうることを理解したこのことの数量的な意味は1cal=418J

で示されるさらに仕事は100熱に変換可能であるが一方の熱はうま

くやっても100を仕事に換えることができないことを熱力学の第二法則で

説明しようとしたそのためにエントロピーという概念が導入された

ここで電池のような独立した一つの系を見るとき系の内部エネルギーの減

少を仕事として取り出しうるならそれは化学反応を一つの例としてどれほど

の仕事量が取り出せるのかはどうしたら与えられるだろうか

化学反応を電気エネルギーに換える電池では先に正負それぞれの電極におけ

る半反応の平衡電位の値を利用してその起電力に対する最大値を計算した

この化学反応から取り出しうる最大仕事量を与えるものとして新しくギブス

自由エネルギー(rarr補遺 p70)と名付け記号 G を使ってそれを次のように

定義する

29

G = H-TS (38)

H はエンタルピーである第2項にある S はエントロピーを表す

ギブス自由エネルギーは化学反応のような独立した系の定温定圧過程に適

応されるので変化量ΔG を式(38)から得ておこう

ΔG =ΔH-Δ(TS)

=ΔH-(SΔT+TΔS)

温度を一定と考えているのでΔT=0 であるから

ΔG =ΔH-TΔS (39)

この式(39)を書き換える

ΔH=ΔG + TΔS (39rsquo)

ここで定圧過程ではエンタルピーを次のように式(29)で定義できた

ΔH =ΔU + PΔV (29)

式(29)の意味するところを復習すれば

系のエンタルピー変化ΔH は内部エネルギーの変化量と系が外部に

した仕事量の和として表される

これは

定圧過程で系が得るエネルギー量から仕事量を除いたもの

と言い換えることができるエンタルピー変化量は化学反応などの過程で

始めと終わりの2つの状態の差であるからそれが正の値を示す(>0)なら

系のエンタルピーは増加することを意味しその過程が進行するためには系

の外部からエネルギーが供給されなければならない

一方式(39rsquo)の右辺第2項TΔS はエントロピーの定義(32)より

TΔS = Q (40)

であるのでこれは可逆過程で系に供給される熱量を意味する

30

もしエンタルピー変化量が負の値を示す(<0)ならば系のエンタルピー

は減少しその過程が進行することによってエネルギーが取り出せるすなわ

ち式(39)(40)から次のようにこれら3つの状態量を改めて説明する

ことができる

ある化学反応が定圧で可逆的に進行するときそれから取り出せる

エネルギーのうちΔG を仕事として放出し熱量 Q を放出する

標準状態29815K(25)1atm で標準物質からある化合物を合成すると

きの反応熱(発熱あるいは吸熱)をその化合物の「標準生成エンタルピー」

として定義した同様にある物質に対する「標準生成ギブス自由エネルギー」

はこの標準状態で標準物質からその化合物を化学反応で生成するとき式(3

9)によって与えられる変化量をいう

電池における化学反応のギブス自由エネルギー

先にダニエル電池の亜鉛板側に対する電極反応を検討したとき電極反応が

仕事として放出するエネルギーを表現する重要な式があった次の式(17)

である

W = n FV (17)

ギブス自由エネルギーを用いて今これは次のように書くことができるように

なった

W = n FV=-ΔG (41)

この式が表していることを実際に水素の燃料とする燃料電池の反応過程で見

てみよう燃料電池の図を再掲する

図中右にある陰極では水素の酸化反応が起きる

H2 rarr 2H+ + 2e- (5)

一方図では左にある陽極において次の還元反応が起きる

12 O2 + 2e- rarr O2- (6)

O2- + 2H+ rarr H2O (8)

全体の反応はすでに示したように次の反応式(7)で示される

H2 +12 O2rarr H2O (7)

31

標準状態における可逆的仕事は式(41)であらわせ

n FV=-ΔG (41rsquo)

このΔG は式(39)であらわせた

ΔG =ΔH-TΔS (39)

すなわち標準状態29815K(25)1atmにおいてある化合物を標準物

質から合成するときの標準生成ギブス自由エネルギー変化ΔG゜は標準生成エ

ンタルピー変化ΔH゜とその温度におけるエントロピー変化TΔSの差で求ま

るこれらは燃料電池の全反応を表す式(7)で与えられる

標準生成エンタルピーΔH゜変化とエントロピー変化はすでに一般的な元

素やその化合物に対して表が作成されている

液体の水に対する標準生成エンタルピーΔH゜(H2O)は

ΔH゜(H2O)=minus 28583 KJmol

また水素ガスと酸素ガスはそれぞれの元素の標準物質であるので生成エ

ンタルピー変化はゼロである

32

そこで式(7)での水を1モル化学合成するときの標準生成エンタルピーΔ

H゜は水素(ガス1モル)と酸素(ガス12 モル)の2つの材料と水(液

体251atm)の両状態における状態量の差として表される

ΔH゜=ΔH゜(H2O)-ΔH゜(H2) -12ΔH゜(O2) (42)

式(42)の右辺第2項と第3項がゼロであるので

ΔH゜=ΔH゜(H2O) =-28583 KJmol (43)

標準状態29815K(25)1atm における水素(ガス)と酸素(ガス)お

よび水(液体)のエントロピーはそれぞれ

ΔS(H2O)=6991 JKmol

ΔS(H2) =13068 JKmol

ΔS(O2) =20514 JKmol

単位で分母のKはケルビン温度の意味

と計算されているので

ΔS=ΔS(H2O)-ΔS (H2) -12ΔS(O2) (44)

=6991-13068-12times20514

=-16334 JKmol

したがって

TΔS=29815times(-16334)=-486998=-4870 KJmol

(45)

そこで標準生成ギブス自由エネルギーΔG゜は式(39)から

-ΔG゜=-(ΔH゜-TΔS) (39)

=-{-28583-(-4870)}

=+23713 KJmol

33

すなわちこのエネルギーを電気エネルギーとして取り出すことができるそ

の起電力は式(41rsquo)から

n FV=-ΔG (41rsquo)

V= -ΔG(n F)

各数値を当てはめれば

V=237130(2times96485)

=1229 volt

先に【化学反応と電気エネルギー】のところで記したとおり25の基準

状態におけるこの電極電位はE゜=+1229 volt が得られているすなわち

こうして標準生成ギブス自由エネルギーから計算することでも同じ値を得る

ことができた

水素を単純に酸素と化合させる燃焼では式(43)で示されるエンタルピ

ーが発生する熱量を示している水素1モルあたり28583 KJである電池

にすれば水素1モルあたり23713 KJの仕事量が電気エネルギーとして取り

出すことができるその差は電池の場合熱が発生して利用できない

化学反応の過程を利用して化学エネルギーから直接電気エネルギーに変換す

るのが電池という装置であるが化学エネルギーは100電気エネルギ

ーに換えることはできないこのようにエネルギーの一部は電池の熱として

発散してしまう

理想気体の状態方程式

ギブス自由エネルギーΔG を定義した式(39)とエンタルピーΔH の定義

式(28)から

ΔG =ΔH-TΔS (39)

ΔH =ΔU +VΔP+ PΔV (28)

そこで次式が得られる

34

ΔG =ΔU+VΔP+ PΔV-TΔS (46)

またエネルギー保存則から得られた式(26)を応用すればギブス自由エ

ネルギーが変形できる

Q =ΔU+PΔV (26)

から

ΔU=Q-PΔV (47)

したがって式(46)は

ΔG = Q-PΔV+VΔP+ PΔV-TΔS

ΔG = Q-TΔS+VΔP (48)

エントロピーの定義からQ=TΔSであるから結局式(48)は

ΔG = VΔP (49)

と表すことができる

成分が混合された気体分子の分子間に働く力をゼロと仮定した「理想気体」を

考えるとき状態方程式としてボイルシャルル(Boyle-Charles)の法則が

利用できる

PV=nRT (50)

ここでnは気体のモル数PVT はそれぞれこれまでと同じ圧力体積温度(ケルビン温度)でありR は気体定数と呼ばれるもので次の値を持

R= 831441 JmolK (51) 単位で分母のKはケルビン温度の意味

35

状態方程式から式(49)の右辺を導くことを考えてみよう式(50)は

1モルの気体について V に対し次のように変形することができる

V 1

PRT (50rsquo)

両辺に圧力の微小変化量⊿P をかけると

PP

RTP V (52)

これを微分方程式として圧力p0 からp1 まで(p0≦p1)積分するなら

1

0

1

0

1

0

1p

p

p

p

p

pdP

PRTdP

P

RTdPV (53)

関数 f(x)=1x を積分したときの関数はF(x)=ln(x)であるので(ln は e を底

とする自然対数loge)

右辺=0

1ln)0ln()1ln(p

pRTpRTpRT (54)

ギブス自由エネルギーを表す式(49)は次のようであったから

ΔG = VΔP (49)

式(52)から得た式(54)を当てはめると状態G0(p0T)からG1(p1T)

へ変化する過程で圧力が p0 から p1 まで変化するものとして

dGG0

G1

G( p1T ) G(p0T ) RT lnp1

p0 (55)

あるいはこれを書き直して

V

36

G(p1 T) = G( p0T ) + RT lnp1p0

(56)

特別にG0(p0T)を標準状態T=29815K(25)p0=1atmに指定する

なら標準生成ギブス自由エネルギーを記号G゜として (56rsquo)

と表すことができる

式(56rsquo)の意味するところは標準状態から圧力の変化を伴う過程で理

G(p1 T) = Go + RT ln p1

想気体のギブス自由エネルギーは圧力の対数に比例して上昇することである

このことはさらに新しい着想を生む

すなわち水素を燃料とする上の燃料電池で1atm 標準状態の水素ガスの圧力

を2atm に上げれば式(56rsquo)からRTln2 余分にギブス自由エネルギー

が取り出せることになる

燃料電池において起電力を生むエネルギーは隔壁を水素イオンもしくは酸

素イオンが浸透しようとする力であるので1atm の水素ガスと2atm のそれで

は浸透しようとする圧力が異なりここに起電力が生じる

式(56)の第二項が圧力の差による仕事であるからこれをΔG とすれば

W=-ΔG の仕事量が電気エネルギーとして取り出せるはずである

W = minusΔG = minusRT lnp1p0

(57)

起電力に換算するために式(41)を使うと

W = n FV=minus ΔG (41)

から

01ln

pp

nFRTV ⎟

⎠⎞

⎜⎝⎛minus= (58)

この式(58)は一般にネルンスト(Nernst)の式と呼ばれる

37

理想溶液のギブス自由エネルギー

理想気体を想定したように無限に希釈された混合溶液に対して理想溶液を仮

定する「系」の圧力温度を一定に保つならば体積内部エネルギーエンタ

ルピーギブス自由エネルギーなどの示量数は混合溶液を構成する物質のモ

ル数mに比例するたとえば標準状態にある物質の1モルの体積をVとすれば

mモルの体積はそのm倍mVであるそうすると溶液中のi番目の成分がmi

モル「系」から「外界」に仕事をするときその成分iの持つ自由エネルギーの

mi倍の仕事が「外界」になされると考えればよい

この溶液成分のモル数と化学的仕事を結びつける示強因子がギブスによって

化学ポテンシャルと名付けられ一般に記号μが用いられる

化学ポテンシャルはこれまで見たようにギブス自由エネルギーで表される

また電位がψ(プサイ)にある系から-Δeの電荷が放出されるときには

-ψΔeの電気的仕事が得られるそこで記号μに両者を合わせた意味を持

たせて「電気化学ポテンシャル」と呼ぶ

概念の上で物質は電気化学ポテンシャルの高い方から低い方へ勾配にした

がって移動する

理想気体の標準状態が気体分圧を T=29815K(25)で 1atm としたのに対

し溶液成分の標準状態はその分圧に相当するモル数 m を用いるすなわち

標準状態にある成分 i の電気化学ポテンシャルμ0iは成分の持つ電荷(H+なら

1)を n として

μ0i = G i゜+nFψ i (59)

ギブス自由エネルギーは式(56rsquo)を借り理想溶液中の成分に対しては気

体圧力をその成分のモル濃度Cに書き換えればよいそこで

G(CT ) G RT lnC (60)

と表すことができる

したがって一般的な成分 i の電気化学ポテンシャルμiを表す式は標準状態

からの自由エネルギーの変化を考え式(59)と合わせて次のようになる

38

ψnFGii 0

式(60)から

ii CRTGTCGG ln)( 0

よって

(61) ψnFCRT iii ln0

実際的なことを考えると成分濃度はその有効イオン濃度とする必要があり

「活量係数」γを導入して次式で表されるイオン活量aを用いる

ai = γCi (62)

一般的にはγ=1と近似してモル濃度Cを使っているこのテキストでも

必要ではない限りイオン活量を用いることを省略して簡単に記述したい

膜電位

燃料電池に使われたナフィオンのような一つのイオンを通す膜を介して膜

の両側にC0 とC1 のイオン濃度差がある溶液が接するときの電気化学ポテン

シャルを考えよう

ある容器の底にナフィオン膜を取り付け容器の中と外のイオン濃度をC0

とC1としそれぞれの電気化学ポテンシャルをそれぞれμinとμoutとする

式(61)を使って

容器の中の電気化学ポテンシャル

(63) innFCRTin ψ 00 ln

容器の外の電気化学ポテンシャル

(64) outout nFCRT ψ 10 ln

イオン浸透性の膜を介して濃度変化が無視できるほどの移動があると考え

その電気化学ポテンシャルの差を式(63)(64)から求めれば

39

)(ln0

1 inoutinout nFC

CRT ψψ (65)

この系において今注目しているイオンが膜を介した両側で平衡状態にある

とき式(65)はΔμ=0と考えることができるすなわち

0)(ln0

1 inoutnFC

CRT ψψ

膜内外の電位差をΔψ=ψoutminus ψinとすれば

1

0

0

1 lnlnC

C

nF

RT

C

C

nF

RTψ (66)

式(66)は理想気体に対するネルンストの式(58)と同様溶液中のイ

オンに対するネルンスト(Nernst)の式として与えられる

細胞の膜においてもその生体膜の内外でたとえばカリウムイオンのように

非対称に分布して平衡に達している場合には式(66)で与えられる膜内外

で電位差が生じるこれは一般に膜電位と呼ばれる膜電位は平衡電位とも

呼ばれる

たとえば膜内外に1価のカリウムイオンに10倍の濃度差があるとすると

通常カリウムイオンは細胞内の濃度が高いので

C0 = 10timesC1

であるから

これを式(66)に当てはめてln(10)=2303 を用いlog への変換をすれば

Δψ=2303times(RTF)timeslog(10)

であるこれに R=831441 JmolKF=96485 CmolT=29815 K(25)

の各数値を当てはめると

Δψ=2303times831441times29815times196485 JC

=+005917 volt

すなわち膜の内外で約+60ミリボルトの膜電位が生じることになるこの

分だけ細胞の外側の電気化学ポテンシャルが高く膜の内側の膜電位が負であ

るそして膜にあるカリウムチャネルがこの電位を示すとき受動的なカリ

40

ウムの膜内外の移動は平衡に達することになる

水素イオン濃度測定

「標準水素電極」は1モル塩酸溶液につけた白金電極に1atm の水素ガスを

吹き込んで平衡状態に達したときの電位を基準としてゼロボルトと規定した

そこである溶液についてその水素イオン濃度を知ろうとするとき同じ水

素電極を用いることを考えれば標準状態にする目的で用いた1モル塩酸溶液

を濃度未知で X モルの塩酸溶液と想定すればその水素イオン濃度を知るこ

とができるだろうか

標準状態ではない X モルの塩酸溶液に浸けた白金電極が半電池として働くこ

とは間違いなさそうであるしかしその白金電極が持つ電極電位を測定する

にはいずれにしても標準電極と組み合わせて「電池」を構成しその電池

の起電力として計る必要がある電池を作れば起電力を知ることができ相

手の半電池の電極電位が知られていれば濃度が未知でXモルの溶液について

その水素イオン濃度を知ることができるだろう

こうした目的のためにいちいちゼロボルトと規定した標準水素電極を用いる

のは煩雑なのでしばしば後出の「銀塩化銀電極」が参照電極として用いら

れる

まず予め「銀塩化銀電極」を標準水素電極と組み合わせて電池とし一度

その起電力を測定しておけば後はいつもそれを標準電極として利用できる

「銀塩化銀電極」の半電池は

H+ (1 moll) Cl- | AgCl | Ag(s)

これに「標準水素電極」を組み合わせ電池を構成すると次のような電池

になる

Pt(s) | H2(g) | H+ (1 moll) Cl- | AgCl | Ag(s)

この電池の起電力を知れば「銀塩化銀電極」の半電池としての電極電位

を知ることができ参照電極として未知の半電池と組み合わせて起電力を測

定して相手の電極電位を計算できる

41

濃度 X モルの塩酸溶液を未知の溶液と想定すればその電極電位を知るために

組み立てる電池は次のようになる図10にその電池の図を示した

Pt(s) | H2(g) | H+ (x moll) Cl- | AgCl | Ag(s)

この電池の全反応は次の反応式で表される

AgCl(s) 1

2H2 (g) H Cl Ag(s) (67)

図10未知溶液の水素イオン濃度を測定しようとするための電池

化学反応の一般的な式

ここで電池に利用される化学反応から得られるエネルギーをギブス自由エ

ネルギーに換算し起電力を具体的に知る手だてとすることは上ですでに学

42

んだがより一般的な式を再度ここに書きだしておこう

化学反応が紙面で左から右に進む反応として次のような一般式で与えられ

るとき

aA + bB rarr cC + dD (68)

ギブス自由エネルギー変化量は標準状態ΔG゜からの変化量を加える形で式

(60)と同様次の式によって表される

G G RT(ln aCc aD

d ln aAa aB

b )

G RT ln

aCc aD

d

aAa aB

b (69)

aAは成分 A のイオン活量であるその他の成分も同じ

得られたエネルギーを電気エネルギーに換えるなら式(41)に習って

次式で表せば

ΔG=-n FV

there4V=-ΔG(nF) (70)

このときの起電力は標準状態における電位 E゜からの変化量として次式で与

えられる

E E

RT

nFln

aCc aD

d

aAa aB

b (71)

標準状態における起電力 E゜は反応が平衡状態にあるときで反応平衡定数

を K とするなら

K aC

c aDd

aAa aB

b (72)

で表されるそこでE゜は次のように書き改めることができる

43

E

RT

nFln K (73)

そこで式(67)で表される図10の電池「水素minus 銀塩化銀電池」に

対する起電力をギブス自由エネルギーから求めてみよう

反応から式(71)に当てはめれば

E E RT

Fln

aH

1 aCl

1 aAg1

aAgCl1 aH2

1

2

(74)

力学の慣例にしたがって固体の純物質の活量は1として扱い水素ガスを

想気体として見なして活量を1atm とするなら式(74)は次のよう

に簡略化される

E E

RT

Flna

H aCl (75)

ころで理想溶液として近似的に取り扱うときの希薄溶液でたとえば水素

入して詳細に検討するなら式( れる起電

オン濃度はイオン活量として aH+の記号を使うときすでに【理想溶液のギ

ブス自由エネルギー】の章で述べたようにこれを有効イオン濃度とする必要

がありイオン活量 a は「活量係数」γを導入して次式で表した

a H+= γH+CH+ (62)

この活量係数を導 75)で誘導さ

を計ることによって経験的に試料溶液中の水素イオン濃度を求めることは

困難である式(75)にあるイオン活量の項はモル濃度 C と活量係数γを

用いて次式で書き改められる

lnaH aCl

lnCH CCl

lnH Cl

(76)

まり式(76)右辺の第二項において互いに相手が知られなければ自分

決めることができず結果的に起電力を知っても(75)の値から水素イオ

ン濃度を導けないここに工夫が必要になる

44

の定義とその目盛り

液中の水素イオン濃度を直接意味するものではなく

を定義するとき測定されるのは1リットルの溶媒に存在す

pH = -log a H+ = -log(γH+CH+) (77)

際に試料溶液の pH を決定する際はpH 標準液を用いる

に溶液を入れ試料溶液 X と pH 標準液 S を

参 極を接続し電池を作成しその起

pH

現在pH の定義は溶

で述べたようにそれが簡便に測定できるものではないため次のように定

義されている

水素イオン濃度

水素イオン活量であるため定義式としては活量係数をγH+として次式で与

えられる

その要領は次のようである

上に図示した水素電極の容器内

れぞれ半電池(I)と(II)に入れる

半電池(I) Pt | H2 (1 atm) | 試料溶液

半電池(II) Pt | H2 (1 atm) | 試料溶液S

照電極として上図のごとく銀塩化銀電

電力を測定する半電池(I)のときの起電力を E(X)半電池(II)のそれを E(S)

とするこのとき試料溶液Xの pH は次式で計算される

pH (X) pH(S) E(S) E(X)

RT ln(10) (78)

ln(10)は自然対数を常用対数に戻すための定数で2303 を用いる

標準液

pH 標準液 S はpH 第一次標準液第二次標準液と呼ばれるべき

る測定

25で pH 4005 を示す

pH

上述した

のであり絶対的測定法である起電力の測定によって値をつける

標準液は安定で純粋な結晶が得られる試薬を調整してこれを測定す

上と同様に水素電極を用いこれに緩衝液を入れる参照電極として銀

塩化銀電極を接続して電池の起電力を測定する

たとえば005 moll フタル酸水素カリウム溶液は

一次標準(Primary Standard PS)の一つである半電池(III)として水素

45

電極を次のように準備する

半電池(III) Pt | H2 (1 atm) | PS 溶液

て電池を形成したとき得られる起電

参照電極として銀塩化銀電極を接続し

は式(75)から

E E

Ag AgCl RT

Flna

H aCl (79)

オン活量を濃度と活量係数の積(a H+= γH+CH+)にし自然対数を常用対数

すれば

E E

Ag AgCl RT ln(10)

F log(

H + CH+ Cl- CCl - ) (80)

E゜は水素標準電極(水素ガス分圧を1atm電極を浸ける溶液に001 moll

H

Cl を用いる)で得た起電力である

式(80)から

RT ln(10)

Flog(

H CH Cl

) (E EAg AgCl )

RT ln(10)

Flog C

Cl

(81)

らに

log(

H CH Cl

) F

RT ln(10)(E E

Ag AgCl ) logCCl

(82)

ころで式(77)から

(γH+CH+) (77)

-log a H+ =-loga H+-log(γCl-) +log(γCl-) =-log(a H+γCl-) +log(γCl-)

(83)の一番右の式で第一項は

pH = -log a H+ = -log

であるが右の式をさらに変形すると

(83)

46

-log(a H+γCl-)=-log(γH+ CH+γCl-) (84)

たがって式(82)の右辺で示されるように電池の起電力を測定すれば

よ 実際には溶液の塩素イオン濃

液で起電力を求め外挿する

起電

これによってpH を意味する式(83)は次式(85)で与えられる

p(aHγCl)はRG Bates によって Acidity Function と呼ばれている

らに式(85)最終項の log(γCl-) を補正しなければならないこの項は

本工業規格)によっても

であってこれは式(82)の左辺である

いただし塩素イオン濃度の項があって

をゼロにしたときの値が必要である

実測する際には塩素イオン濃度をゼロにできないので塩化ナトリウム NaCl

等を濃度を変えて添加しその時々の緩衝

勧告ではNaCl で 000500100015moll の3つの濃度を例示している

すなわち塩素イオン濃度ゼロのときの値は各塩素イオン濃度に対して

の値をそれぞれプロットしグラフから塩素イオンがゼロのときの起電力の

値を3点に対する回帰直線の延長で外挿して求めるこの点を次のように書

log( C H H Cl CCl

0

pa log( C log( (85) H H H Cl C

Cl0 Cl

)

素イオンの活動係数で与えられる補正項である

無限希釈溶液中のイオンの活動係数は理論的に Dubye-Huckel の式を用い

近似的に求めることが可能であるこれはJIS(日

用されていて Bates-Guggenheim の規約と呼ばれる (Bates RG

Guggenheim Pure Appl Chem 1 163-168 1960)

Dubye-Huckel の式は次のように与えられる

log A I

i 1 iB I (86)

47

I iについてそのモル濃度

計算される

はイオン強度でイオン mi と電荷 zi から次式で

I 1

2mizi (87)

また iは(86)式のBは温度と溶媒の性質による定数であり イオンの大

きさに関するパラメータで水和イオンの大きさとほぼ一致した値をとる標

準法の勧告では塩素イオンに対しイオンの大きさを46Åと決めてiBを

1

5 にしているそこで式(84)は次のようになる

ClA I

log 1 15 I

イオン強度 I は塩素イオン濃度を含まない計算となる

以上の方法によって実用的な pH 測定に用いられる第一次第二次標準液の

pH の値が得られる

絶対値としての

はpH の絶対測定法(第一次標準測定法)とされている

銀塩化銀参照電極は分極現象を防ぐために棒状の銀を塩酸で処理し表

に塩化銀を生成させたものを飽和塩化カリウム溶液につけてある

(88)

参考現在は実験的に求めた値と理論値の組み合わせで

素イオン濃度を求める方法を規定しているこの起電力から水素イオン濃度

を知るための測定方法

Buck RP Rondinini S Covington AK Baucke FGK Brett CMA Camoes MF

Milton MJT Mussini T Naumann R Pratt Kw Spitzer P Wilson GS

Measurement of pH definition standards and procedures Pure Appl Chem

74(11)2169-2200 2002Kristensen HB Salomon A Kokholm GInternational

pH scales and certification of pH Anal Chem 63(18) 885A-891A 1991)

銀塩化銀参照電極

電極の構成は

Cl-(aq) | AgCl(s) | Ag(s)

48

この半反応は次のようになる

AgCl(s) + e- rarr Ag(s) + Cl- (89)

の反応は次の2つの反応に分けて考えることができる

Ag+ + e- rarr Ag(s) (91)

AgCl(s)rarr Ag+ + Cl- (90)

図11銀塩化銀参照電極

(90)における銀 る塩素イオンによって左

されることが推測される

そこでカッコ [ ] をそれによって囲まれるイオンの濃度を表すことにし

式 イオン Ag+の溶解性は共存す

塩化銀の乖離定数Kを考えると

49

K = [Ag+][Cl-] (92)

これから

[Ag+]= K[Cl-] (93)

化カリウム溶液に漬けた銀塩化銀電極の電位 E は水素標準電極に対する

電 で与えられる

位を E゜として次式

E E

RT

nF

[ Ag ]

[Ag(s)]ln( )

Ag(s)のイオン活量は常に1とする

ここで半反応の電極電位を求めるために式(75)を利用することにすれば

(94)

熱力学の慣例にしたがって純物質個体

E E

RT

Flna

H Cl a (75)

式 の半反応をみると

応で電子1つが移動するので n=1 とするR=831441 JmolK1F = 96485

C はめれば

これに銀イオンの濃度として式(93)を当てはめる

この反応で移動する電子は (89) 銀イオン1つの反

molT=29815K(25)ln(10)=2303などの定数を当て

2303RTF = 005917

であるから(94)式は次のように表現できる

log[Cl]) E E 005917(logK (95)

たがって標準水素電極に対する銀塩化銀参照電極の標準状態における電

位 は半反応(89)に対して ゜=+0799で

化銀の乖離定数 K は182times10-10 であるのでその対数を取れば-973993

0799-005917times973993-005917log[Cl-]

E゜ E ある

ある

そこで式(95)は

E =

50

= 0799-0576-005917log[Cl-]

= 0223-005917log[Cl-] (96)

電極電位の関係について実測値

こうして求めた塩化カリウム溶液の濃度と

計算上の値は次のようである

KCl moll vs SHE volt25 計算値 volt25 01 02881 02822 35 0205 01908 飽和 0199 minus

実用 測定

実際の現場で水素イオン濃度を測定する目的の測定法で上のような2つの

極が同じ溶液に浸かっていたのでは試料溶液を交換するにも便利ではない

の容器に入れる未知試料溶液と銀塩化銀電極を隔離する

的な pH

そこで水素電極側

的で二つの電極容器をつなぐ液絡部をグラスフィルターやセラミック板

飽和塩化カリウムで作成したゼラチンなどの塩橋によって隔離遮断するこ

れを液絡部とよぶ

電池として機能するために必要な溶液イオンの交換はこの液絡部で行う

組み立てる電池は電池式で次のように表される

Pt(s) | H2 | 試料 (H+ x moll) || 飽和 KCl | AgCl | Ag(s)

の標準電極と銀塩化銀電極とは区切られていて溶液の直接の接触がない

とを意味するために電池式ではタテ二重線を用いる銀塩化銀参照電極

の容器には飽和塩化カリウム溶液が入れられる

51

図12液絡部のある pH 測定のための電池

この液絡部のある電池では塩橋を記号lsquo | | rsquoで表して次のように記す

試料 (H+ x moll) | | 飽和 KCl

ここでは試料溶液と飽和塩化カリウム溶液の異なる2液が接している

このような界面では膜電力が生じるのと同様「液間電位差」が生じることが

知られているしたがって上の電池で測定される起電力 E は

E = E[銀塩化銀電極電位]+E[液間電位]+E[水素電極電位]

で与えられることになってE[液間電位]のために図12の電池の起電力

は銀塩化銀参照電極の値を知っていても水素電極容器内に入れた未知溶

液の水素イオン濃度を正しく知ることができない

52

そこで実用的な測定法としてこの E[液間電位]を膜電位として積極的に利

用する方法が工夫されたすなわち水素イオンに感応するガラス薄膜を用い

るガラス電極法である

53

ガラス電極

ガラスはケイ素原子と酸素原子からなる SiO4 の結晶構造を持ち酸素で囲

まれた空隙があって水素イオンがそれを埋めることができる

この性質によってガラス膜表面は水溶液中の水素イオンに応じて膜電位を

変化させるのでこれを水素イオン濃度測定用の電極として利用することが考

えられるこれが通常用いられるガラス電極である

ガラス電極は標準電極と組み合わせれば電池を構成することができこの電

池の起電力を知ってガラス薄膜の内外にできたイオン濃度勾配を知ろうとす

るものである

薄いガラス膜(01mm程度)をはさんで接する2つの溶液のH+イオン濃

度が異なるとその差に応じてガラス膜の両側に電位差(Eg)が現れる

ネルンストの式でガラス電極の内部に入れた既知の濃度のH+([H+]in)に対

し試料中の水素イオン濃度が[H+]sampleのとき次の電位を生じる

)][

][log(059170)

][

][ln(

sample

in

sample

ing

H

H

H

H

F

RTE

(97)

図13ガラス電極

電極を構成するのは銀塩化銀電極と同じ電極で用いる塩溶液は一般的

54

に 01モル塩酸溶液である

この半電池の電池式は次のように書くことができる

Ag(s) | AgCl(s) | HCl (01 M) | ガラス薄膜 || 試料溶液 H+ (x moll)

Eg

この半電池の電極電圧を測定するために銀塩化銀標準電極と組み合わせ

電池を作って起電力を計る

構成される電池は下図のようになる

ガラス電極 銀塩化銀標準電極

図14ガラス電極を用いた pH 測定用の電池

この電池の起電力は次の各半電池の平衡電位を合わせたものになる

55

E1ガラス電極の内側電位

Ag(s) | AgCl(s) | HCl (01 M)

Egガラス薄膜の内外に生じる膜電位

HCl (01 M) | ガラス薄膜 || 試料溶液 H+ (x moll)

E2液間電位(膜電位)銀塩化銀標準電極のセラミックを介した試料溶液

と銀塩化銀標準電極の内部液(飽和 KCl 溶液)の間に発生する電位

試料溶液 H+ (x moll)|| セラミック | KCl(飽和)

E3銀塩化銀標準電極

KCl(飽和)| AgCl(s) | Ag(s)

pH メーター用のガラス電極に使われるガラス薄膜は水素イオンに感応して

膜電位(Eg)を生じるこれは【膜電位】の章で記したように薄膜がある

一つのイオンのみを通過させる特性を持っている場合にイオンが膜を介した

両側で平衡状態に達したとして電気化学ポテンシャルを膜の両側で等しいと

考えてそのイオンが濃厚な側から希薄な側にその差によって圧力を生じると

するものである

一方同じ試料溶液が銀塩化銀標準電極のセラミック液絡部を介して生じ

るだろう液間電位(膜電位E2)はいま関心がある水素イオンに対して特異

的に感応するのではないので試料溶液の水素イオン濃度に関係なく一定と見

なすことができる

すなわちpH メーターを構成する電池の起電力 E は

E = E1+Eg+E2+E3 (98)

このうちEg以外は一定と見なせるので

E1+E2+E3 = E

として式(98)を書き直すと

)][

][log(059170

sample

ing H

HEEEE

(99)

Eは標準液によって校正されるべき標準電極電位である

56

電極の校正

実際のイオン濃度を測定する場合低濃度標準液と高濃度標準液で得られ

る起電力を測定し計測のイオン濃度に対する係数(傾き)を求めておき未

知の試料に対して起電力を測定してそのイオン濃度を算出する方法が採られる

低濃度標準液と高濃度標準液のそれぞれの濃度をCLとCHとすればそれぞ

れの起電力ELとEHは次式で表される EH = E +β logCH (100)

EL = E +β log CL (101)

ただしβは式(99)の係数を簡略にしたものである

式(100)と(101)から検量線の傾きが次式で表せる

ΔE = EH minus EL = β(logCH minus logCL) = β logCH

CL

(102)

したがって係数βは

β =ΔE

log CH

CL

(103)

であらわされる

このときに使われる標準はすでに前出の pH 第一次標準第二次標準溶液で

ある

金属イオンに対応するイオン選択電極

現在臨床検査で日常的に使われている電解質測定のための電極はナトリウ

ムカリウムカルシウムクロールなどおよそ臨床的に必要な金属イオン

に対して入手可能である

カリウムイオン測定用のバリノマイシンの発見によってクラウンエーテルと

57

呼ばれる一連の化合物が知られたクラウンエーテルはその分子の中心に立

体的な空間を持ち特定のイオン径に対し合致するのでそのイオンに対して

選択的に感応するこれらの化合物はイオノフォアと呼ばれる

図 15クラウンエーテル

1つの金属イオンが環状化合物

15-crown-5 の中央にある空間を充填

している模式図

15-crown-5 の構造を作る10個の黒

い丸は炭素炭素2個のつながりごと

にある中心の白い丸は酸素酸素と

金属イオンの間の距離はおよそ 22~

23Åであるカリウムのファンデン

ワールス半径は 135Åイオン半径は

15~16Åである

測定したいイオンに対しポリ塩化ビニル(PVC)を支持体としてイオノフ

ォアを添加した液膜の電極膜を作成しこれをガラス電極におけるガラス薄膜

と同様試料に接する電極膜として用いるこの構造から一般的に液膜型電極

と呼ばれる電極膜には特異性を高めるため妨害イオン排除剤などが添加

される

pH メーターと同様銀塩化銀標準電極と組み合わせ電池を形成しその

起電力を計る測定したいイオンが液膜に対して内外で平衡に達したときの

膜電位を測定するのはガラス電極と同じである

カ リ ウ ム イ オ ン に は Bis[(benzo-15-crown-5) ( 正 式 名 は

Bis[(benzo-15-crown-5)-4-methyl]pimelate)ナトリウムには Bis[(12-crown-4)

やDibenzyl-bis[(12-crown-4)などがイオノフォアとして用いられる

58

図16カリウムイオン測定用に使われるクラウンエーテル

図17ナトリウムイオン測定用に使われるクラウンエーテル

59

参考イオン選択電極に関する文献Xia Z Badr IHA Plummer SL Cullen L

Bachas LG Synthesis and evaluation of a bis(crown ether) ionophore with a

conformationally constained bridge in ione- selective electrodes Anal Sci 14(2)

169-173 1998 Oh K-C Kang EC Cho YL Jeong K-S Y oo E-A Paeng K-J

Potassium-selective PVC membrane electrodes based on newly synthesized

cis- and trans-bis(crown ether)s ibid 14(10)1009-1012 1998 Dojindo WEB

site httpwwwdojindocojpwwwrootproductsjinfo2protocolp31pdf

<補遺> 60

補遺 状態関数 (本文 p21 10 行目参照)

一つの平衡状態にある系 A とこれに接する系 A にとって外部である系 B について系 B

から系 A に熱を与えこれによって系 A が他の平衡状態に移ったとき系 A はその結果とし

て膨張し系 B に対し仕事をする

このときの微少な熱量の移動を記号drsquoQ またなされた微少な仕事をdrsquoW とすると

系Aの内部エネルギーに関する微少な変化drsquoUA は両者の和として表される

WdQdUd A primeminusprime=prime (a-1)

この式 a-1 と本文中の式25との関係について

WQU A Δminus=Δ 本文(25)

<補遺> 61

式 a-1 と式25の記号の違いは変化の起きる前の平衡状態 S1 から変化後の平衡状態 S2

に状態変化があったとするなら式 a-1 を積分することで式25が得られるものと考えて区

別している

A

S

S A UUd Δ=primeint2

1 (a-2)

このことは重要であるすなわち内部エネルギーU は変化の起きる前後の状態を指定する

ことによって値が定まることを意味するこのように積分によって値を定めることが出来る

のでdrsquoU は完全微分であるという

内部エネルギーのように系の状態だけで値の定まる量を状態関数として扱う

一方式 a-1 のdrsquoQ drsquoW についても同様に微少の変化量を表しているが平衡状態 S1

から S2 への経路を指定しなければ積分の値は定まらない

本文中の記号にしたがって仕事量ΔW を次のように表すことにする

VpW Δ=Δ 本文(20) V

<補遺> 62

体積と圧力の関係を表す図を使ってこの仕事量が意味することを考える圧力 prsquo の下で

体積が V1 であるときを状態 S1 として圧力一定の下で体積を V2 まで膨張させるような変

化を行った後体積を等しく保って圧力を p にまで上げたときの状態を S2 とするこのとき

の仕事量は膨張に伴うものであるから図の体積‐圧力線の下の面積で示すことができる

平衡状態 S1 から S2 への変化の道筋を別にたどってみよう

新しい経路では圧力を先に p まで上げた後に膨張変化させている

図から直感的に明らかであるので数式での扱いを省略するが2 つの経路による仕事量には

差がある

すなわちdrsquoW は drsquoU と異なり変化の初め S1 と終わり S2 の状態が与えられても積分値

は定まらず変化の経路によって違ってくる

このように変化の経路を指定しなければ積分値が定まらないものを不完全微分と呼び扱

いを区別する

本文 p21 へ戻る

<補遺> 63

VpW

WQU

VpQU

VpUQ

1122 SSSS pVUpVUQ

pVU

VpUHHHQ SS 12

エンタルピー (本文 p24 20 行目参照)

本文中の式 20 および 25 から一定の圧力の元で起きる状態変化において内部エネルギー

の変化量に対する式 a-3 を得る

本文(20)

本文(25)

(a-3)

式 a-3 を Q について書き直す

(a-4)

状態の変化が平衡状態S1から平衡状態S2に移ったものとして式 a-4を丁寧に書き直すと

(a-5)

並び替えて

(a-6)

式 a-6 を見ると定圧過程における熱量の流入は

(a-7)

の形を持つ関数の差であることが分かる

一般に化学反応のような変化の過程では大気圧の下で行われるようなものに興味がある

そこで式 a-7 で与えられる項を一つの関数として定義するこれをエンタルピーと呼び記

号 H を与える式 a-4 はエンタルピーの変化量で次のように書き改められる

(a-8)

圧力が一定の下で起こる状態変化について流入する熱量は式 a-8 で示されるようにエンタ

ルピーの変化量に等しい

V

V

V

V V

V

V

1212 SSSS VVpUUQ VV

<補遺> 64

1Q

We

また式 a-8 からオートクレーブ内で起こるような体積変化のない過程ではこの値が内

部エネルギーの変化量で与えられることが明らかである

本文 p24 へ戻る

エントロピー (本文 p26 17 行目参照)

エントロピーは次のような思考実験から発想された仮想的な状態関数である

理想気体よりなる系 A が温度 T2で熱平衡状態にあり温度 T1の外部の熱源と接しているこ

とを想定する系 A の外部を系 B と呼ぶことにするT1は T2に対して無限小だけ高い温度と

する

系 A が系 B に対して温度圧力について平衡を保ちながら緩慢に系 B より熱量 Q1を受け取

る過程を考える(このような過程を準静的過程と呼ぶ)これによって系 A が熱量 Q1を得て膨

張するとき系 B に対して仕事をする続いて系 A から熱量 Q2が系 B に戻ることを考える

想定されるこの変化が可逆的であれば系 A と系 B を併せた全体は元の状態に戻る蒸気機

関に関するこのような研究が Nicolas Carnot によってなされたのは1824 年のことであった

ここに想定されたサイクルに対する Carnot の効率 e は移動した熱量となされた仕事によ

って定義され次の式で表される

(b-1)

<補遺> 65

理想気体では内部エネルギーU の変化ΔU はゼロと考えるしたがって熱力学の第一法

則を表す式(本文中の式25)から次の関係が示される

0=Δminus=Δ WQU

WQ Δ= (b-2)

これによってCarnot Cycleの効率eはQ2lt0 として次のように書き改めることが出来る

1

21

QQQe +

= (b-3)

ところで気体の状態方程式から1 モルの気体について次のような関係が示される

RTV

P

P1=

V = RTV (b-4)

V 式 b-4 の両辺に体積の微少変化量ΔV をかけて

(b-5)

これを体積Vについてその変化をV1からV2までとして積分するならば次式が得られる

VV

RTVP Δ=Δ 1V V

V

intint = 2

1

2

1

1V

V

V

VdV

VRTPdV

1V2V

11 lnRTW =

(b-6)

Q1の熱量によって起こる膨張がV1よりV2までとし圧力P温度T1の下でなされるその仕事

量をW1とするならそれは式b-6 の右辺によって示されるすなわち

(b-7)

VV

1

2lnVVRT=

V V

VV

V

V2int V2 intV1 V1

<補遺> 66

またQ2の熱量の移動が圧力P温度T2の下で起きこれによって系Aが可逆的に圧縮され

るなら体積変化はV2よりV1まで起こりその仕事量をW2で示すと次式のように表される

(b-8)

1

22

2

122 lnln

VVRT

VVRTW minus==VV

VV

Q1=W1Q2=W2の関係から式b-7 およびb-8 を用いてCarnot Cycleの効率eを表す式b-3

を書き改めると温度のみの関係式として次のように表される

1

21

TTTe minus

= (b-9)

ここでサイクルが可逆的過程であると想定するならば式 b-3 と式 b-9 から

1

21

1

21

TTT

QQQe minus

=+

= (b-10)

これから

12112111 QTQTQTQT minus=+ (b-11)

整理すると

02

2

1

1 =+TQ

TQ (b-12)

この考えをさらに発展させ系A

と系Bの間に数多くの系を挿入すること

にしてそれらの系を同様に熱源として

T1T2Tnと考えるこれによっ

て熱の受け渡しが系Aから系Bに至り

再び系Aにもどるサイクル過程に数多

くの寄り道の過程を加えることになる

熱量の移動に関して上の場合と同じく

準静的過程で行われると考えるこの

サイクル全過程について初めと終わ

<補遺> 67

n

i i

i

T

Q

1

0

0T

dQ

T

QS

T

dQASAS )()( 12

りが同じ状態になる可逆的な過程であるなら式 b-12 を拡大的に考えることになってそれ

は次式で表される

(b-13)

式 b-13 には重要な関数が現れるすなわち熱量と温度の比QT である

もし一つの系が無限小だけ温度の高い(dT )外界から温度圧力など平衡を保ちなが

ら極めて緩慢な過程(準静的過程)で無限小の熱量(dQ )を受け取るならばその変化は可

逆的でありdT について連続的な温度分布をする過程を考えるとき式 b-13 をさらに発展

させて次のように積分式で示すことが出来る

(b-14)

式 b-14 で積分記号にが付されているのはCarnot Cycle のような経路を一巡することを

意味している

Carnot の熱機関の効率という着想から生まれた熱量とそれを持つ系の温度との比 QT に

重要な意味を見出したのは Rudolph Clausius で彼はこの比にエントロピーという名前を与

えたエントロピーには記号ΔS を一般に用いる

(b-15)

エントロピーは初めと終わりの状態がわかれば過程に関わらず定まるので状態関数であ

系 A と外界のエントロピー変化を考えるときそれが可逆的過程であるならばすべてを併

せた全体のエントロピー変化は初めと終わりに変化がないという意味でゼロであるすなわ

ち初めの状態を S(A1)とし次の状態を S(A2)とするならそれぞれのエントロピーを

ΔS(A1)ΔS(A2)としてこの間におけるエントロピーの変化量は次のように示される

(b-16)

<補遺> 68

T

dQdS

0T

dQ

ある一つの変化については次のように示される

(b-17)

ここで式 b-17 の S に付けられたdは微分量すなわちごく微小の変化量を意味し式 b-15

で定義されたエントロピーに用いられる一般的な記号Δと区別する

ところで式 b-10 の関係においてもし移動した熱量のすべてが仕事に変わらなければ

効率 e を表す熱量を用いた関係式と温度で表される関係式は等号で結ぶことができないそれ

はエネルギーのロスを意味し初めと終わりの状態が異なってしまうことを意味するすなわ

ち全過程が構成する一つのサイクルは可逆的でなくなる

不可逆過程での熱効率 ersquo は 大値を示す可逆的過程の熱効率 e より小さな値をとる

ee

したがって 大効率を与える式 b-8 と式 b-3 から

01221

2112

1

21

1

21

QTQT

QTQT

Q

QQ

T

TT

両辺を T1T2で割ると

02

2

1

1 T

Q

T

Q

これを式 b12 と同様に発展させれば式 b-14 についてサイクルの変化が可逆的過程の

場合と不可逆的過程の場合の両方を併せClausius の不等式と呼ばれる次の関係が成立する

(b-18)

式 b-18 の等号が成立するのはサイクルが可逆的な理想の場合に限られる

ある孤立系で状態 A1 から状態 A2 へは不可逆変化で進められ状態 A2 から再び状態 A1

に戻るとき可逆変化であるような閉じた状態変化を考える可逆系のエントロピー変化には

記号 Q を使い不可逆変化には Q を用いるとするとそれぞれ積分式を用いて状態 A1 から

状態 A2 へは

<補遺> 69

d prime

状態 A2 から状態 A1 に戻るときは

全体では

=d prime

+d

(b-19)

Clausius の不等式から

0

式(b-19)の第二項で反応を逆に進めるときには次のように書き改めることができる

=d

よって式(b-19)は次のように書き直すことができClausius の不等式とあわせると

d prime d

0

すなわち

d prime d

上式の右辺は式(b-16)を用いて表せば

d prime

∆S ∆

この状態変化を微小変化とするならば断熱変化の場合 dQ = 0 であるから

∆S ∆ dS 0

すなわち不可逆変化を含む断熱変化ではエントロピーは必ず増大する

<補遺> 70

T

QS

BA SSS

(b-20)

(次の<補遺>ギブス自由エネルギーも参照せよ)

本文 p26 へ戻る

ギブス自由エネルギー (本文 p28 27 行目参照)

エントロピーの考えを導入することによって不可逆的に状態変化が起きるときにはエン

トロピーの増大を引き起こすことを知ったこれによって目前で起きる現象について温度の

変化があるものであれないものであれまた圧力の変化があるものであってもエントロピー

の定義式によって可逆的な変化におけるエントロピーの変化量を計算することが可能である

(b-15)

しかしながらこれから起こる変化について我々がすでにあらかじめ知っている物理量を

用いて予測的にその状態変化が起きるかどうか知ることは必ずしも容易ではないその理由

は式 b-15 に示されたエントロピーΔS が系とその外界をあわせた全体のエントロピーを示

しているからであるすなわち関心のある系を系 A としその外界を系 B とすると全体

のエントロピーは次のように表せる

(c-1)

関心のある系 A のエントロピー変化を知るためには系 B のそれを知ればよいがそれは

いつも容易とは限らない系 A の性質だけで状態変化の方向を知るには別の観点が必要にな

るようだ

そこでもう一度状態変化が熱量 Q の移動によって起きることについて考えてみようエン

トロピーの補遺で議論したように熱量の移動が準静的過程により行われるときには変化は可

逆的に起こると考えたこのとき外界すなわち系 B から移動する熱量を Q1とし系 A から

0S

<補遺> 71

21 QQ

T

Q

T

QSB

21

T

QSS A

2

QH

T

HSS AA

AA STHST

のそれを Q2 と記号を当てたのでこれをそのまま使うことにすれば可逆的な過程では系 B

の熱量 Q1 はすなわち系 A から戻る Q2 に他ならないので両者には次の関係が成立するも

のとしてよい

(c-2)

したがって

(c-3)

と考えてよくこれによって式 c-1 を次のように書きなおすことが出来る

(c-4)

独立した系で圧力とその体積に変化がなく一定の条件の下で状態変化が起きるときエン

タルピーの考えを使ってすでにひとつの関係があることを導いている

本文(31)

そこで式 c-4 を系のエンタルピーΔHAによって書き改めれば

(c-5)

この両辺に-T をかけて式を書き直せば次の関係式が得られる

(c-6)

式 c-6 を見るときその右辺がマイナスの値ならば左辺のΔS はプラスの値をとることが

分かるすなわちエントロピーが増大すると見ることが出来るこれまでの過程で自然の現

象はエントロピーが増大する方向に進むとしてきたので関心のある状態変化について式 c-6

の右辺で計算される値がマイナスの値ならばその変化は起きるものと考えてよいことになる

だろうしかも右辺はすべて独立した系の状態量で示されていて我々が知りうる値で計算

<補遺> 72

TSHG

STSTHG

STHG

可能である

そこでこれを熱力学ポテンシャルを表すものとしてギブス自由エネルギーと呼ぶことに

するギブス自由エネルギーは記号 G が用いられ次のように定義される

(c-7)

ここで関心があるのは自由エネルギーの絶対値ではなく式 c-6 に示されたようにその変化量

に興味があるので式 c-7 から

(c-8)

温度が一定の条件の下で状態変化が起きることを考えるなら式 c-8 は次のように書くこと

ができる

(c-9)

ギブス自由エネルギーは式 c-9 の右辺がすべて状態量であるからこれも状態量の一つで

ある定圧定温の条件下で起きる変化ではすでに議論したようにΔGlt0 であれば状態

変化は自発的に起きるものと予測できる

つまり式 c-5 の第一項は系のエントロピーΔSAそのものであり第二項で示されるエンタ

ルピーは系 A の温度が一定に保たれているのであるから発熱する熱量として外界に吸収さ

れるものであってこれは外界のエントロピーの増大につながるものとして解釈されるした

がって化学反応のように一定の圧力と一定の温度の下で起きる変化について自由エネルギ

ー変化量はその状態変化が自発的に起きる傾向を示しているといってよい

本文 p28 へ戻る

  • はじめに
  • 目次
  • 電気エネルギー
    • 金属のイオン化
    • 電池
    • 水素の反応
    • 燃料電池
    • 化学反応と電気エネルギー
      • エネルギーと熱力学
        • エネルギー保存則
        • エンタルピー
        • エントロピー13
        • ギブス自由エネルギー
        • 電池における化学反応のギブス自由エネルギー13
        • 理想気体の状態方程式
        • 理想溶液のギブス自由エネルギー
        • 膜電位
          • 水素イオン濃度測定
            • 化学反応の一般的な式
            • pHの定義とその目盛り
            • pH標準液
            • 銀塩化銀参照電極
            • 実用的なpH測定
            • ガラス電極
            • 電極の校正
            • 金属イオンに対応するイオン選択電極
              • 文献
              • 補遺
                • 状態関数
                • エンタルピー
                • エントロピー
                • ギブス自由エネルギー
Page 12: イオン選択電極i イオン選択電極 Ion Selective Electrode (ISE) を理解する ・ pHを測定する ・ NaやKなどのイオン濃度を測定する 神戸大学医学部保健学科

9

電池は2つの極からなる陽極と陰極である陽極すなわち還元反応が起き

導線を介して電子を受け取る極を右に書くダニエル電池の場合には陽極は銅

板であり銅イオンを供給する硫酸銅の水溶液が電解質溶液として用いられる

陽極金属と電解質溶液の間は縦棒で区切るそこで陽極は次のように表記され

CuSO4(aq) | Cu(s) (+) 記号(aq)は水溶液のこと

同様に陰極は酸化反応が行われる極でこれを左に書く

(-) Zn(s) | ZnSO4(aq) この両方の極は別々の水槽にあってイオンの交換が塩橋あるいはセラミッ

クのようなしきりを介して行われるのでこの隔壁をタテ二重線で表記し両極

を並べて記す

ダニエル電池は次のような記号で表記されるこれを電池式と呼ぶ

(-) Zn(s) | ZnSO4(aq) || CuSO4(aq) | Cu(s) (+)

両端の極を導線で接続し回路を形成すれば電子の流れが左の陰極から右の陽

極に起こり電流は右から左へと流れる

水素の反応 イオン化傾向の大きさが異なる金属を組み合わせて酸化還元反応が起きると

電子の流れが生じそれを取り出して豆電球を点灯する仕事として利用するこ

とができる

イオン化列の鉛と銅の間には水素があるこの水素の酸化還元反応を見るこ

とにしよう

水素の酸化反応は次のように表される

H2 rarr 2H+ + 2e- (5)

これを半反応として電子の流れを作り出せば電池として機能するから取り

出された電子を利用する還元反応を考えよう

水素と反応する相手に酸素を選べば水が生成物として得られることを期待で

きる

10

酸素が電子を受け取る還元反応の半反応は次のように表される

12 O2 + 2e- rarr O2- (6)

半反応(5)と(6)を組み合わすことができれば次の全反応によって水

が生じる

H2 +12 O2rarr H2O (7)

このとき得られる電子を導線に誘導すれば電気エネルギーとして利用が可能

になる

問題はダニエル電池で見たようにそれぞれの半反応で生じるイオンの処理で

ある半反応(5)と(6)はそれぞれ隔離された容器で行わなければ水素と

酸素が直接反応して水を生じてしまうしかし容器の隔壁がイオンを通さな

いと電池として機能しない

燃料電池 固体は一般に分子やイオンを通過させないが中には特定のイオンを通過させ

るものがありこれを固体電解質とよんでいる

半反応(5)で発生する水素イオンを効率よく通過させるためにはナフィオ

ン(Nafion Du Pont 社米国デラウェア州ウィルミントン)とよばれる固体高

分子膜が有力である

ナフィオンはフッ素を含む高分子パーフルオロスルホン酸系といわれるイオ

ン交換膜で全体はテフロン様構造からできており側鎖にスルホン酸基を持

つその厚さは 20~50ミクロン程度である膜の内部で負に荷電するスルホン

基(SO3-)が水素イオン(H+)を引きつけこれを通過させるこの水素イオ

ンの通り道は電子顕微鏡で見るとトンネルのようにできている

11

図4ナフィオンを使った燃料電池

陰極では水素の酸化反応が起きる

H2 rarr 2H+ + 2e- (5)

一方陽極では次の還元反応が起きる

12 O2 + 2e- rarr O2- (6)

O2- + 2H+ rarr H2O (8)

全体の反応は反応式(7)で表される

12

H2 +12 O2rarr H2O (7)

こうして開発された電池は「燃料電池」とよばれている燃料に水素ガスが

利用される

反応式と図に示した気体酸素は通常の空気が利用され反応で生じた水と酸

素以外の利用されない気体元素は排気される

この燃料電池は水素と酸素を遮断し水素イオンだけを通過させる固体電解

質を使ったこれは上の半反応(5)で生じた水素イオンの処理を考えたわ

けである

これに対して半反応(6)で生じる酸素イオンを移動させる工夫もある

図4安定化ジルコニアを使った燃料電池

安定化ジルコニア(Stabilized Zirconia ZrO2CaO)は高温下で酸素イオン通過

性のある固体電解質として開発されたジルコニウムに10モル程度の酸化

カルシウムを加え結晶を作ると+4価のジルコニウムイオンの位置の一部を+

13

2価のカルシウムイオンが占めるできあがった安定化ジルコニアはこのカ

ルシウムの数だけ酸素イオンの不足が起き固体全体を電気的中性に保つた

めに酸素イオンの透過性ができるジルコニアの両面に白金粉末を焼き付け

それに白金のリード線を取り付ける焼き付けられた白金には多くの孔があり

その孔を通して気体とジルコニアが接触する

酸素イオン導電性の固体電解質としてジルコニアを用いた燃料電池は次

のように動作する

1)空気極(右側)に入った酸素 O2は電極で電子を受け取り酸素イオン O2-

になる

12 O2 + 2e- rarr O2- (6)

2)O2-は固体電解質ジルコニア中を移動していき燃料極(左側)で H2 と

反応し水 H2Oを生じるこの過程に伴って電子が放出される

H2 + O2- rarr H2O+ 2e- (9)

3)これら結果として外部回路に電流を取り出すことができる

燃料電池の起電力は酸素イオンが電解質中を移動することにより生じる

酸素イオンが移動する駆動力は固体電解質の両端すなわち燃料極と空気極

の酸素濃度差である

14

化学反応と電気エネルギー ダニエル電池の陰極は亜鉛板が硫酸亜鉛の水溶液につけられていたこのと

きの現象は次のように説明された亜鉛は電子を亜鉛板電極に残し陽イオン

となって出て行くその結果亜鉛板電極中に電子が余分にたまる

ダニエル電池の陰極の「電極電位」はこの電極に余分にたまっている電子の

量をさしているそれではこの半反応による電極電位を測定することができ

るのだろうか半反応は次のように示される

Zn(s) rarr Zn2+ + 2e- (1)

亜鉛が1モル反応すると2モルの電子が持つ総電荷量が流れる

1電子の持つ電荷量は16022x10-19 C (Ccoulombクーロン)であ

るから

1モルの電子の総電荷量はアボガロド数をかけて 96485 = 96485 x 104 Cmol

であるこれを1F1ファラデーと表す

1F = 96485 x 104 Cmol 亜鉛が1モル反応すれば2モルの電子が持つ総電荷量が流れるのでこれを

記号 q として表すと次の電気量が得られる

q = 2F (10)

化学反応によって取り出せる電気量はこのように計算される

それでは電気エネルギーとしてその電力はどのようになるだろう

電力は

電力=電圧times電流times時間 (12)

電流times時間=電気量であるから式(12)を書き直せば

15

電力=電圧times電気量 (13)

ここで電気量 q は式(10)で表しているので

電力=電圧timesq=電圧times2F (14)

と書くことができる

電圧を記号Vで表すことにし電力をWにすれば式(14)は

W = 2FV (15)

として表しておくことができる

電圧の単位系は仕事量が電力Wであるので(13)から

V= W q (16)

仕事量をジュールJ(ジュール)で表せば電圧はJ C (ジュールクー

ロン)でその単位を表現することができる

式(15)の表すところは亜鉛を化学反応の材料として得られる電力という

仕事量がその電力すなわち電極電位で決定されることを意味している

一般に化学反応で1分子の材料を消費しn個の電子が流れることをその

半反応で知ることができるとき式(15)を一般化して次のように得られ

る電気エネルギーを表すことができる

W = n FV (17)

化学反応によって生じる電子を取り出し回路に導けばここに電流が生じる

その起電力(V)は陽極陰極のそれぞれの電位をE+E- と記号で表し

て次式で書くことができる

V= E+-E- (18)

16

ここで問題になるのは陽極陰極のそれぞれの電位E+とE-で上に議論し

たように回路を形成しなければそれぞれの電位は決定できない

ここでいま片方の電位をゼロとすれば式(18)はたとえばE- = 0 で

V= E+

として陽極の電位が決まる

そこで申し合わせにより水素の半反応による電位をゼロとすることになっ

その半反応の式は水素の還元反応として次のように表せた

2H+ + 2e- rarr H2

標準にはMax Julius Louis Le Blanc (1865-1943) が発明した水素電極を用

いるこれを標準水素電極(Standard Hydrogen Electrode SHE)とよびこの

電極電位をいつも 0 volt(ゼロボルト)と取り決めている

図6に示した水素電極は1atm の水素ガスとそれに平衡状態にある水素イオ

ンが存在し次の半反応が平衡状態にある

H2 (g 1 atm)rarr 2H+ (aq 1 M)+ 2e- (5) g は気体を示す

この反応において平衡状態にある電極電位を 0 volt と定義する

電極に白金を用いるのは電極材料自体が溶解しないものであることすなわ

ちイオン化傾向の低いものであることまた水素イオンの還元に対してな

るべく活性の高いものであることが条件として求められるが白金はこの2つ

の性質を兼ね備えていて陽極の電極材料に適している

気体の標準状態は1atm を標準としているこの分圧を維持し溶液中の水

素イオン活量を1にする水蒸気の分圧が変化すると平衡電位は変化する

17

図6標準水素電極(0ボルトの基準)

標準水素電極は1モル塩酸溶液につけた白金電極に1atmの水素ガスを吹き込んで使う

白金電極は分極を防ぐために白金板に白金メッキを施し(白金黒とよばれる)上半分

を水で飽和させた(1atmの水蒸気分圧が必要)1atm(101325 kPa)の水素ガスを流し

下半分を1moll の塩酸溶液につける水素ガスが電極として働き白金板に電子が集めら

れる

ダニエル電池の亜鉛電極をこの標準水素電極につなげば亜鉛電極電位が測

定できる

亜鉛電極側では酸化反応の半反応が起きる

Zn(s) rarr Zn2+ + 2e- (1)

18

標準水素電極側では還元反応の半反応が起きる

2H+ + 2e- rarr H2

図7亜鉛電極と水素電極をつないで電池とする

25の基準状態における亜鉛電極の半反応(1)に対する平衡電位はすでに

知られている

E゜= -0763 volt

また銅板側の電極電位も同じようにして測定することができる

起きる半反応はすでに上述したが再度記しておこう

Cu2+ + 2e - rarr Cu(s) (3)

25の基準状態におけるこの電極電位はE゜=+0337 volt と知られて

19

いる

ここで亜鉛電極と銅電極の組み合わせでできる電池の最大電圧をこれらの

平衡状態における観測値から計算することができる式(18)を使って

V= E+-E- (18)

V= +0337-(-0763) = +110 volt

つまりダニエル電池で得られる最大電圧は11volt と計算できる実際に

はイオンの濃度が変化すれば反応の平衡が変化するので得られる電圧も変

化する

ここでダニエル電池で亜鉛1モルが反応するとき式(17)を使って得

られる仕事量としての電力を計算できる

W = n FV (17)

すなわちダニエル電池における電極反応は

Zn(s) rarr Zn2+ + 2e- (2)

Cu2+ + 2e - rarr Cu(s) (3)

であったから反応が進んで移動する電子はn = 2 である

1F = 96485 x 104 Cmol を適応すると

W = 2 x 96485 x 11 x 104 = 21227 x 105 Jmol = 2123 KJmol

(K = 103キロ)

すなわち亜鉛1モルの化学反応によって2123 KJmol の電気エネルギーが得

られる

水素ガスを使う燃料電池の起電力は電極の半反応から

O2 + 4H+ + 4e- rarr 2H2O (19)

25の基準状態におけるこの電極電位はE゜=+1229 volt が得られている

20

したがって燃料電池で1モルの水素が反応すれば

W = 2 x 96485 x 1229 x 104 = 2372 KJmol

すなわち2372 KJmol の電気エネルギーが基準状態で取り出せる最大電力

と計算される現在作られている燃料電池の電力は実際上08 volt ほどで

あるしたがって現実的に取り出せる電気エネルギーは 1544 KJmol の仕

事量と計算される「仕事量」という言葉については電気でモーターを回し

なにがしかの「仕事」をするなど思い浮かべれば実感できるだろう

エネルギーと熱力学 これまで述べてきたように電池は化学反応から直接電気エネルギーを取り出

す仕掛けであるダニエル電池では亜鉛と銅が酸化還元反応を起こす過程で

電子を放出するのを利用するまた水素ガスによる燃料電池は気体水素と酸

素を原料とし水が生成されるこの過程が1atm の気体原料を25(29815

K)で1モル反応させて生成物も1atm の液体の水を得るなら次の全反応に

よってすでに計算したとおり2374 KJmol の電気エネルギーが取り出せる

H2 + 12 O2 rarr H2O

圧力と温度がともに反応の過程を通じて一定の場合にその過程から取り出せ

る仕事量は熱力学的に考えることもできる

それはギブス自由エネルギーとして議論される電池で取り出した電気エネ

ルギーすなわち電力はこのギブス自由エネルギーに相当する

次に化学反応をこの熱力学の面から考えてみよう

エネルギー保存則

水素ガスを使う燃料電池のように独立した一つの仕掛けを考えこれを「系」

と呼ぶことにする系を考えるとき電池のように具体的なものを持って考え

るのが容易いのでそうすることが多い熱力学では自然界全体をあつかうので

しばしば概念的になり非現実的な記述が行われるが系の大きさや系を構成

する分子の大きさについて特定する必要はない

系におけるエネルギーを内部エネルギー熱エネルギー力学的エネルギー

の3つの要素からなると考えるこれらのエネルギーを考えるとき系の熱力

21

学的なパラメーター(変数)が必要となる熱力学的な状態はこれらのパラ

メーターのうちのいくつかを指定すれば決定される

熱力学的なパラメーターは2つに分類される

示量パラメーター(示量性変数)

系の大きさや構成する物質の量を示す体積や質量

示強パラメーター(示強性変数)

系の大きさに依存しない系における1つの点で決まった値で与え

られる圧力や温度密度など

いくつかのパラメーターで完全に決定できる状態を関数で表現することがで

きる場合があるそのような関数を熱力学的な状態関数(rarr補遺 p60)と呼ぶ

関数で状態の変化を表すことができれば数学的に取り扱うことができいろ

いろの面で便利である

一つの系についてその状態を知ろうとするとき系が熱力学的な平衡状態に

あると議論する上で都合がよい

熱力学的な平衡状態とは系を外部と独立させ長時間放置した後に達成され

る状態をいうこのとき系の状態をその外部のパラメーターで表現できる

たとえば電池を独立した系と考えるとき平衡状態に達した電極電圧を外部

においた電圧計で測定することができる

ある系を考えるとき前提としてその系はエネルギーを保有していると考える

系が独立してそこに存在するということで持っているエネルギーであるこれ

を内部エネルギーと呼ぶ系がある過程を経て状態を変えるとき系から系の

外部へ力学的な仕事をする場合には力学的エネルギーの出入りがあると考え

るまた系に熱が出入りする場合が考えられそれを熱エネルギーの出入り

と考えることにしよう

まず力学的エネルギーについて考えることにする

いま系が状態を変えその体積が増えれば系のlsquo壁rsquoがその系に接している

「外部」へ力学的な仕事をすることになる

このように系が膨張し壁が外部に向かって押し出されると考えたとき膨張

する過程における圧力を一定でpとし系が膨張した体積をΔV(膨張した分だ

けの体積増加量)とするなら系の仕事量ΔWは両者の積で表されるΔは変

化量を表すときにつける記号と決めておこう

22

ΔW = pΔV (20)

系の体積が凝縮する場合があるので仕事を記号で表す場合には注意するも

し系に接した「外部」から系に力が加わって体積を小さくしたならΔVは

マイナスとなるのでΔWもマイナスで表される

-ΔW = -pΔV (20prime)

今考えている系を「系 A」と呼びその内部エネルギーを UA外部の系を「系

B」と呼んでその内部エネルギーを UBと表すなら二つ合わせた全体の内部

エネルギーは両者の和で表すことができる

U = UA+UB (21)

この体積変化に必要なエネルギー変化量はどこから得られたかを考えれば

その変化があった「系 A」と外部の「系 B」のいずれかあるいは双方の内部エネ

ルギー変化分でまかなわれたと考えざるを得ない(図8参照)

そこでこのエネルギーの収支関係は変化分を表す記号に先と同様Δを用い

ることにすると次式のようになる

-ΔU =ΔW (22)

すなわち観察している「系 A」のエネルギーと外部の「系 B」のエネルギー

を合わせた総エネルギーを見てその微少な減少量minus ΔU が仕事をなすために

必要であったエネルギー量と考えてみることにする

ついでこの体積の変化が「系 A」に接する外部のlsquo熱rsquoによって起きたも

のと考えてみようすなわち外部の「系 B」が系 Aより高温で「系 B」によ

って系 Aが暖められたことになる

このとき移動したエネルギーを「熱量」と定義する

23

図8熱量の移動と系が外部にする仕事

「熱量」を記号Qで表すと外部の「系 B」が失ったエネルギーminus ΔUB で

ありこれが熱量であるから式で表せば次式のように書くことができる

-ΔUB = Q (23)

ここで「系 A」とそれに接する「外部 B」両方のエネルギーを合わせた総エ

ネルギーの変化量ΔUは式(22)で与えられていた

-ΔU =ΔW (22)

-ΔU =-(ΔUA+ΔUB) であるから

minus ΔUAminus ΔUB=ΔW (24)

これに式(23)を当てはめてΔUAで整理すれば

24

ΔUA= Q-ΔW (25)

この式(25)は「エネルギー保存則」あるいは「熱力学の第一法則」を数

学的に表現したものである

すなわち

独立した系を考えその状態が変化するとき系の内部エネルギーの変化量はその系に入る熱量と系が外部にした仕事との差である

式(25)にはまた重要な主張があるつまりエネルギー保存則にしたが

うとき熱量は力学的エネルギーにまた力学的エネルギーは熱量に変換しう

ることを意味している

熱量を表す単位はカロリー(cal)を用いる1cal は

1 cal = 4184 J

と換算されるジュールは 1J = 1Nm (ニュートンメートル)で仕事量を

表現する単位系で表される

エンタルピー

式(25)から定圧過程で式(20prime)を利用して次の式(26)が誘導さ

れる

Q =ΔUA+pΔV (26)

ここでQは熱量を表していたのでこの関係式(26)から熱関数として

新しい関数を定義する

新しい関数はエンタルピー(enthalpy)(rarr補遺 p63)と呼ばれ次の関数

式Hで表される

H = U+PV (27)

エンタルピーの微少変化量を記号Δを使って表現してみよう

25

ΔH = ΔU +Δ(PV) =ΔU +ΔPV+ PΔV (28)

独立した系で圧力が一定の下に起きる過程を考えるならΔP = 0 (圧力の

変化はゼロ)であるから式(28)は次のようになる

ΔH =ΔU + PΔV (29)

化学反応の過程を考えるとき系に容積の変化がなく過程の前後で一定であ

るならさらにΔV = 0 であるのでエンタルピーの変化量は

ΔH =ΔU (30)

また系の仕事を体積の変化としてみる式(20)から

ΔW = pΔV= 0

であるのでこれを式(25)へ適応すると

ΔU= Q minus ΔW = Q ΔW= 0 だから

結果的に系の圧力と体積が変化の過程で一定である場合にはその系のエンタ

ルピーの変化を表す式(29)(30)は次のように簡単な式になって熱関

数と呼ばれる意味が理解しやすいだろう

ΔH = Q (31)

独立した系に等圧等積で起きる過程を見る場合にはエンタルピーは系が外

部と交換する熱量の直接的な尺度となる

H>0 なら反応に熱を使うので吸熱反応

H<0 なら発熱反応

電池のように系に起きる化学反応で生じる電子の流れを取り出す装置を考え

る場合エンタルピーの変化を電気エネルギーとして取りだしている点に留意

26

しなければならない式(31)のようにエンタルピー変化が交換される熱

量に直接表現できるといっても必ずしも熱として取り出すとは限らないこと

を注意しよう

ところでエンタルピーは内部エネルギーと同じ次元にある状態量で定圧

変化の熱量がエンタルピー変化であるからある一点を標準として定めれば

すべての物質について任意の点のエンタルピーを変化量として定めることがで

きるすなわち化学反応の過程で発熱あるいは吸熱する熱量は反応材料と

生成物の間の状態変化に対応するエンタルピーに対応する

そこで一つの元素に対してもっとも安定な状態にある物質を標準物質とし

て定め29815K(25)1atm を標準状態としてその標準物質からある化

合物を合成するときの反応熱(発熱あるいは吸熱)をその化合物の「標準生成

エンタルピー」として定義できる多くの元素に対して標準生成エンタルピー

は現在表としてまとめられている

水素や酸素はその気体状態が標準物質でありそれらの標準生成エンタルピー

がゼロと定義される

エントロピー

もう一つ新しい状態関数としてエントロピー(entropy)(rarr補遺 p64)を

定義するエントロピーを表す記号は通常S を用いその定義は次の式(32)

による

S Q

T (32)

エントロピーは系の2つの状態が決まると状態量として決まる

このときQ は2つの状態の間を可逆的に変化したとき系が受け取る熱量

T は系が熱量 Q を受け取ったときの温度(degK)である

「熱力学の第二法則」はエントロピーに関するものである

図9では2つの系が接しておりそれぞれの温度を Thigh Tlowとする

Thigh>Tlow (33)

27

今温度の高い系から温度の低い系に直接熱量 Q が移動したとすれば温度

の高い系のエントロピーの変化量ΔS は熱量が失われるので負の値になる

図9熱の移動

そこで温度の高い系のエントロピーの変化量ΔS を式で表すことにすると

次式のようになる

Shigh Q

Thigh

(34)

一方低い系のエントロピー変化量ΔS は熱量が与えられるため

Slow Q

Tlow

(35)

両方の系を合わせたエントロピーの変化量ΔS は

S Shigh Slow Q

Thigh

Q

Tlow

lowhigh

lowhigh

lowhigh TT

TTQ

TTQ

11 (36)

式(36)の最終項で(33)を前提すなわち最初に温度の高い系は高い

と決めたのだとするならエントロピーの変化量ΔS は必ず次のようになる

28

ΔS >0 (37)

すなわち独立した系がありそれより温度の低い別の系あるいは温度の低

い外界が接した場合熱量は高い方から低い方へ移動するという自然の成り行

きを説明するものである

自然界に置いてエントロピーは

ΔS≧0

の値を取りΔS=0のときは可逆的過程である

今の例でいうなら熱は温度の高い系から低い系へ移動しその逆は起きない

常にΔS >0の方向に過程が進行するまた2つの系が同じ温度であるとき

両者は平衡状態にあって熱量の移動は見かけ上なくΔS=0と表現される

「熱力学の第二法則」はエントロピーによって表現されるもので系の変化が

可逆的であるかどうかを判定する指標であり現実の世界で起きる不可逆過程

が正の値を取る方向へ進むことを示す

あるいは系の変化が起きるとき外界を含めて考えれば総エントロピーが

増大する方向に変化が起きることを意味するというようにも表現される

ギブス自由エネルギー

熱力学の第一法則によってエネルギーの取りうる形である「仕事」と「熱」

は互いに変換されうることを理解したこのことの数量的な意味は1cal=418J

で示されるさらに仕事は100熱に変換可能であるが一方の熱はうま

くやっても100を仕事に換えることができないことを熱力学の第二法則で

説明しようとしたそのためにエントロピーという概念が導入された

ここで電池のような独立した一つの系を見るとき系の内部エネルギーの減

少を仕事として取り出しうるならそれは化学反応を一つの例としてどれほど

の仕事量が取り出せるのかはどうしたら与えられるだろうか

化学反応を電気エネルギーに換える電池では先に正負それぞれの電極におけ

る半反応の平衡電位の値を利用してその起電力に対する最大値を計算した

この化学反応から取り出しうる最大仕事量を与えるものとして新しくギブス

自由エネルギー(rarr補遺 p70)と名付け記号 G を使ってそれを次のように

定義する

29

G = H-TS (38)

H はエンタルピーである第2項にある S はエントロピーを表す

ギブス自由エネルギーは化学反応のような独立した系の定温定圧過程に適

応されるので変化量ΔG を式(38)から得ておこう

ΔG =ΔH-Δ(TS)

=ΔH-(SΔT+TΔS)

温度を一定と考えているのでΔT=0 であるから

ΔG =ΔH-TΔS (39)

この式(39)を書き換える

ΔH=ΔG + TΔS (39rsquo)

ここで定圧過程ではエンタルピーを次のように式(29)で定義できた

ΔH =ΔU + PΔV (29)

式(29)の意味するところを復習すれば

系のエンタルピー変化ΔH は内部エネルギーの変化量と系が外部に

した仕事量の和として表される

これは

定圧過程で系が得るエネルギー量から仕事量を除いたもの

と言い換えることができるエンタルピー変化量は化学反応などの過程で

始めと終わりの2つの状態の差であるからそれが正の値を示す(>0)なら

系のエンタルピーは増加することを意味しその過程が進行するためには系

の外部からエネルギーが供給されなければならない

一方式(39rsquo)の右辺第2項TΔS はエントロピーの定義(32)より

TΔS = Q (40)

であるのでこれは可逆過程で系に供給される熱量を意味する

30

もしエンタルピー変化量が負の値を示す(<0)ならば系のエンタルピー

は減少しその過程が進行することによってエネルギーが取り出せるすなわ

ち式(39)(40)から次のようにこれら3つの状態量を改めて説明する

ことができる

ある化学反応が定圧で可逆的に進行するときそれから取り出せる

エネルギーのうちΔG を仕事として放出し熱量 Q を放出する

標準状態29815K(25)1atm で標準物質からある化合物を合成すると

きの反応熱(発熱あるいは吸熱)をその化合物の「標準生成エンタルピー」

として定義した同様にある物質に対する「標準生成ギブス自由エネルギー」

はこの標準状態で標準物質からその化合物を化学反応で生成するとき式(3

9)によって与えられる変化量をいう

電池における化学反応のギブス自由エネルギー

先にダニエル電池の亜鉛板側に対する電極反応を検討したとき電極反応が

仕事として放出するエネルギーを表現する重要な式があった次の式(17)

である

W = n FV (17)

ギブス自由エネルギーを用いて今これは次のように書くことができるように

なった

W = n FV=-ΔG (41)

この式が表していることを実際に水素の燃料とする燃料電池の反応過程で見

てみよう燃料電池の図を再掲する

図中右にある陰極では水素の酸化反応が起きる

H2 rarr 2H+ + 2e- (5)

一方図では左にある陽極において次の還元反応が起きる

12 O2 + 2e- rarr O2- (6)

O2- + 2H+ rarr H2O (8)

全体の反応はすでに示したように次の反応式(7)で示される

H2 +12 O2rarr H2O (7)

31

標準状態における可逆的仕事は式(41)であらわせ

n FV=-ΔG (41rsquo)

このΔG は式(39)であらわせた

ΔG =ΔH-TΔS (39)

すなわち標準状態29815K(25)1atmにおいてある化合物を標準物

質から合成するときの標準生成ギブス自由エネルギー変化ΔG゜は標準生成エ

ンタルピー変化ΔH゜とその温度におけるエントロピー変化TΔSの差で求ま

るこれらは燃料電池の全反応を表す式(7)で与えられる

標準生成エンタルピーΔH゜変化とエントロピー変化はすでに一般的な元

素やその化合物に対して表が作成されている

液体の水に対する標準生成エンタルピーΔH゜(H2O)は

ΔH゜(H2O)=minus 28583 KJmol

また水素ガスと酸素ガスはそれぞれの元素の標準物質であるので生成エ

ンタルピー変化はゼロである

32

そこで式(7)での水を1モル化学合成するときの標準生成エンタルピーΔ

H゜は水素(ガス1モル)と酸素(ガス12 モル)の2つの材料と水(液

体251atm)の両状態における状態量の差として表される

ΔH゜=ΔH゜(H2O)-ΔH゜(H2) -12ΔH゜(O2) (42)

式(42)の右辺第2項と第3項がゼロであるので

ΔH゜=ΔH゜(H2O) =-28583 KJmol (43)

標準状態29815K(25)1atm における水素(ガス)と酸素(ガス)お

よび水(液体)のエントロピーはそれぞれ

ΔS(H2O)=6991 JKmol

ΔS(H2) =13068 JKmol

ΔS(O2) =20514 JKmol

単位で分母のKはケルビン温度の意味

と計算されているので

ΔS=ΔS(H2O)-ΔS (H2) -12ΔS(O2) (44)

=6991-13068-12times20514

=-16334 JKmol

したがって

TΔS=29815times(-16334)=-486998=-4870 KJmol

(45)

そこで標準生成ギブス自由エネルギーΔG゜は式(39)から

-ΔG゜=-(ΔH゜-TΔS) (39)

=-{-28583-(-4870)}

=+23713 KJmol

33

すなわちこのエネルギーを電気エネルギーとして取り出すことができるそ

の起電力は式(41rsquo)から

n FV=-ΔG (41rsquo)

V= -ΔG(n F)

各数値を当てはめれば

V=237130(2times96485)

=1229 volt

先に【化学反応と電気エネルギー】のところで記したとおり25の基準

状態におけるこの電極電位はE゜=+1229 volt が得られているすなわち

こうして標準生成ギブス自由エネルギーから計算することでも同じ値を得る

ことができた

水素を単純に酸素と化合させる燃焼では式(43)で示されるエンタルピ

ーが発生する熱量を示している水素1モルあたり28583 KJである電池

にすれば水素1モルあたり23713 KJの仕事量が電気エネルギーとして取り

出すことができるその差は電池の場合熱が発生して利用できない

化学反応の過程を利用して化学エネルギーから直接電気エネルギーに変換す

るのが電池という装置であるが化学エネルギーは100電気エネルギ

ーに換えることはできないこのようにエネルギーの一部は電池の熱として

発散してしまう

理想気体の状態方程式

ギブス自由エネルギーΔG を定義した式(39)とエンタルピーΔH の定義

式(28)から

ΔG =ΔH-TΔS (39)

ΔH =ΔU +VΔP+ PΔV (28)

そこで次式が得られる

34

ΔG =ΔU+VΔP+ PΔV-TΔS (46)

またエネルギー保存則から得られた式(26)を応用すればギブス自由エ

ネルギーが変形できる

Q =ΔU+PΔV (26)

から

ΔU=Q-PΔV (47)

したがって式(46)は

ΔG = Q-PΔV+VΔP+ PΔV-TΔS

ΔG = Q-TΔS+VΔP (48)

エントロピーの定義からQ=TΔSであるから結局式(48)は

ΔG = VΔP (49)

と表すことができる

成分が混合された気体分子の分子間に働く力をゼロと仮定した「理想気体」を

考えるとき状態方程式としてボイルシャルル(Boyle-Charles)の法則が

利用できる

PV=nRT (50)

ここでnは気体のモル数PVT はそれぞれこれまでと同じ圧力体積温度(ケルビン温度)でありR は気体定数と呼ばれるもので次の値を持

R= 831441 JmolK (51) 単位で分母のKはケルビン温度の意味

35

状態方程式から式(49)の右辺を導くことを考えてみよう式(50)は

1モルの気体について V に対し次のように変形することができる

V 1

PRT (50rsquo)

両辺に圧力の微小変化量⊿P をかけると

PP

RTP V (52)

これを微分方程式として圧力p0 からp1 まで(p0≦p1)積分するなら

1

0

1

0

1

0

1p

p

p

p

p

pdP

PRTdP

P

RTdPV (53)

関数 f(x)=1x を積分したときの関数はF(x)=ln(x)であるので(ln は e を底

とする自然対数loge)

右辺=0

1ln)0ln()1ln(p

pRTpRTpRT (54)

ギブス自由エネルギーを表す式(49)は次のようであったから

ΔG = VΔP (49)

式(52)から得た式(54)を当てはめると状態G0(p0T)からG1(p1T)

へ変化する過程で圧力が p0 から p1 まで変化するものとして

dGG0

G1

G( p1T ) G(p0T ) RT lnp1

p0 (55)

あるいはこれを書き直して

V

36

G(p1 T) = G( p0T ) + RT lnp1p0

(56)

特別にG0(p0T)を標準状態T=29815K(25)p0=1atmに指定する

なら標準生成ギブス自由エネルギーを記号G゜として (56rsquo)

と表すことができる

式(56rsquo)の意味するところは標準状態から圧力の変化を伴う過程で理

G(p1 T) = Go + RT ln p1

想気体のギブス自由エネルギーは圧力の対数に比例して上昇することである

このことはさらに新しい着想を生む

すなわち水素を燃料とする上の燃料電池で1atm 標準状態の水素ガスの圧力

を2atm に上げれば式(56rsquo)からRTln2 余分にギブス自由エネルギー

が取り出せることになる

燃料電池において起電力を生むエネルギーは隔壁を水素イオンもしくは酸

素イオンが浸透しようとする力であるので1atm の水素ガスと2atm のそれで

は浸透しようとする圧力が異なりここに起電力が生じる

式(56)の第二項が圧力の差による仕事であるからこれをΔG とすれば

W=-ΔG の仕事量が電気エネルギーとして取り出せるはずである

W = minusΔG = minusRT lnp1p0

(57)

起電力に換算するために式(41)を使うと

W = n FV=minus ΔG (41)

から

01ln

pp

nFRTV ⎟

⎠⎞

⎜⎝⎛minus= (58)

この式(58)は一般にネルンスト(Nernst)の式と呼ばれる

37

理想溶液のギブス自由エネルギー

理想気体を想定したように無限に希釈された混合溶液に対して理想溶液を仮

定する「系」の圧力温度を一定に保つならば体積内部エネルギーエンタ

ルピーギブス自由エネルギーなどの示量数は混合溶液を構成する物質のモ

ル数mに比例するたとえば標準状態にある物質の1モルの体積をVとすれば

mモルの体積はそのm倍mVであるそうすると溶液中のi番目の成分がmi

モル「系」から「外界」に仕事をするときその成分iの持つ自由エネルギーの

mi倍の仕事が「外界」になされると考えればよい

この溶液成分のモル数と化学的仕事を結びつける示強因子がギブスによって

化学ポテンシャルと名付けられ一般に記号μが用いられる

化学ポテンシャルはこれまで見たようにギブス自由エネルギーで表される

また電位がψ(プサイ)にある系から-Δeの電荷が放出されるときには

-ψΔeの電気的仕事が得られるそこで記号μに両者を合わせた意味を持

たせて「電気化学ポテンシャル」と呼ぶ

概念の上で物質は電気化学ポテンシャルの高い方から低い方へ勾配にした

がって移動する

理想気体の標準状態が気体分圧を T=29815K(25)で 1atm としたのに対

し溶液成分の標準状態はその分圧に相当するモル数 m を用いるすなわち

標準状態にある成分 i の電気化学ポテンシャルμ0iは成分の持つ電荷(H+なら

1)を n として

μ0i = G i゜+nFψ i (59)

ギブス自由エネルギーは式(56rsquo)を借り理想溶液中の成分に対しては気

体圧力をその成分のモル濃度Cに書き換えればよいそこで

G(CT ) G RT lnC (60)

と表すことができる

したがって一般的な成分 i の電気化学ポテンシャルμiを表す式は標準状態

からの自由エネルギーの変化を考え式(59)と合わせて次のようになる

38

ψnFGii 0

式(60)から

ii CRTGTCGG ln)( 0

よって

(61) ψnFCRT iii ln0

実際的なことを考えると成分濃度はその有効イオン濃度とする必要があり

「活量係数」γを導入して次式で表されるイオン活量aを用いる

ai = γCi (62)

一般的にはγ=1と近似してモル濃度Cを使っているこのテキストでも

必要ではない限りイオン活量を用いることを省略して簡単に記述したい

膜電位

燃料電池に使われたナフィオンのような一つのイオンを通す膜を介して膜

の両側にC0 とC1 のイオン濃度差がある溶液が接するときの電気化学ポテン

シャルを考えよう

ある容器の底にナフィオン膜を取り付け容器の中と外のイオン濃度をC0

とC1としそれぞれの電気化学ポテンシャルをそれぞれμinとμoutとする

式(61)を使って

容器の中の電気化学ポテンシャル

(63) innFCRTin ψ 00 ln

容器の外の電気化学ポテンシャル

(64) outout nFCRT ψ 10 ln

イオン浸透性の膜を介して濃度変化が無視できるほどの移動があると考え

その電気化学ポテンシャルの差を式(63)(64)から求めれば

39

)(ln0

1 inoutinout nFC

CRT ψψ (65)

この系において今注目しているイオンが膜を介した両側で平衡状態にある

とき式(65)はΔμ=0と考えることができるすなわち

0)(ln0

1 inoutnFC

CRT ψψ

膜内外の電位差をΔψ=ψoutminus ψinとすれば

1

0

0

1 lnlnC

C

nF

RT

C

C

nF

RTψ (66)

式(66)は理想気体に対するネルンストの式(58)と同様溶液中のイ

オンに対するネルンスト(Nernst)の式として与えられる

細胞の膜においてもその生体膜の内外でたとえばカリウムイオンのように

非対称に分布して平衡に達している場合には式(66)で与えられる膜内外

で電位差が生じるこれは一般に膜電位と呼ばれる膜電位は平衡電位とも

呼ばれる

たとえば膜内外に1価のカリウムイオンに10倍の濃度差があるとすると

通常カリウムイオンは細胞内の濃度が高いので

C0 = 10timesC1

であるから

これを式(66)に当てはめてln(10)=2303 を用いlog への変換をすれば

Δψ=2303times(RTF)timeslog(10)

であるこれに R=831441 JmolKF=96485 CmolT=29815 K(25)

の各数値を当てはめると

Δψ=2303times831441times29815times196485 JC

=+005917 volt

すなわち膜の内外で約+60ミリボルトの膜電位が生じることになるこの

分だけ細胞の外側の電気化学ポテンシャルが高く膜の内側の膜電位が負であ

るそして膜にあるカリウムチャネルがこの電位を示すとき受動的なカリ

40

ウムの膜内外の移動は平衡に達することになる

水素イオン濃度測定

「標準水素電極」は1モル塩酸溶液につけた白金電極に1atm の水素ガスを

吹き込んで平衡状態に達したときの電位を基準としてゼロボルトと規定した

そこである溶液についてその水素イオン濃度を知ろうとするとき同じ水

素電極を用いることを考えれば標準状態にする目的で用いた1モル塩酸溶液

を濃度未知で X モルの塩酸溶液と想定すればその水素イオン濃度を知るこ

とができるだろうか

標準状態ではない X モルの塩酸溶液に浸けた白金電極が半電池として働くこ

とは間違いなさそうであるしかしその白金電極が持つ電極電位を測定する

にはいずれにしても標準電極と組み合わせて「電池」を構成しその電池

の起電力として計る必要がある電池を作れば起電力を知ることができ相

手の半電池の電極電位が知られていれば濃度が未知でXモルの溶液について

その水素イオン濃度を知ることができるだろう

こうした目的のためにいちいちゼロボルトと規定した標準水素電極を用いる

のは煩雑なのでしばしば後出の「銀塩化銀電極」が参照電極として用いら

れる

まず予め「銀塩化銀電極」を標準水素電極と組み合わせて電池とし一度

その起電力を測定しておけば後はいつもそれを標準電極として利用できる

「銀塩化銀電極」の半電池は

H+ (1 moll) Cl- | AgCl | Ag(s)

これに「標準水素電極」を組み合わせ電池を構成すると次のような電池

になる

Pt(s) | H2(g) | H+ (1 moll) Cl- | AgCl | Ag(s)

この電池の起電力を知れば「銀塩化銀電極」の半電池としての電極電位

を知ることができ参照電極として未知の半電池と組み合わせて起電力を測

定して相手の電極電位を計算できる

41

濃度 X モルの塩酸溶液を未知の溶液と想定すればその電極電位を知るために

組み立てる電池は次のようになる図10にその電池の図を示した

Pt(s) | H2(g) | H+ (x moll) Cl- | AgCl | Ag(s)

この電池の全反応は次の反応式で表される

AgCl(s) 1

2H2 (g) H Cl Ag(s) (67)

図10未知溶液の水素イオン濃度を測定しようとするための電池

化学反応の一般的な式

ここで電池に利用される化学反応から得られるエネルギーをギブス自由エ

ネルギーに換算し起電力を具体的に知る手だてとすることは上ですでに学

42

んだがより一般的な式を再度ここに書きだしておこう

化学反応が紙面で左から右に進む反応として次のような一般式で与えられ

るとき

aA + bB rarr cC + dD (68)

ギブス自由エネルギー変化量は標準状態ΔG゜からの変化量を加える形で式

(60)と同様次の式によって表される

G G RT(ln aCc aD

d ln aAa aB

b )

G RT ln

aCc aD

d

aAa aB

b (69)

aAは成分 A のイオン活量であるその他の成分も同じ

得られたエネルギーを電気エネルギーに換えるなら式(41)に習って

次式で表せば

ΔG=-n FV

there4V=-ΔG(nF) (70)

このときの起電力は標準状態における電位 E゜からの変化量として次式で与

えられる

E E

RT

nFln

aCc aD

d

aAa aB

b (71)

標準状態における起電力 E゜は反応が平衡状態にあるときで反応平衡定数

を K とするなら

K aC

c aDd

aAa aB

b (72)

で表されるそこでE゜は次のように書き改めることができる

43

E

RT

nFln K (73)

そこで式(67)で表される図10の電池「水素minus 銀塩化銀電池」に

対する起電力をギブス自由エネルギーから求めてみよう

反応から式(71)に当てはめれば

E E RT

Fln

aH

1 aCl

1 aAg1

aAgCl1 aH2

1

2

(74)

力学の慣例にしたがって固体の純物質の活量は1として扱い水素ガスを

想気体として見なして活量を1atm とするなら式(74)は次のよう

に簡略化される

E E

RT

Flna

H aCl (75)

ころで理想溶液として近似的に取り扱うときの希薄溶液でたとえば水素

入して詳細に検討するなら式( れる起電

オン濃度はイオン活量として aH+の記号を使うときすでに【理想溶液のギ

ブス自由エネルギー】の章で述べたようにこれを有効イオン濃度とする必要

がありイオン活量 a は「活量係数」γを導入して次式で表した

a H+= γH+CH+ (62)

この活量係数を導 75)で誘導さ

を計ることによって経験的に試料溶液中の水素イオン濃度を求めることは

困難である式(75)にあるイオン活量の項はモル濃度 C と活量係数γを

用いて次式で書き改められる

lnaH aCl

lnCH CCl

lnH Cl

(76)

まり式(76)右辺の第二項において互いに相手が知られなければ自分

決めることができず結果的に起電力を知っても(75)の値から水素イオ

ン濃度を導けないここに工夫が必要になる

44

の定義とその目盛り

液中の水素イオン濃度を直接意味するものではなく

を定義するとき測定されるのは1リットルの溶媒に存在す

pH = -log a H+ = -log(γH+CH+) (77)

際に試料溶液の pH を決定する際はpH 標準液を用いる

に溶液を入れ試料溶液 X と pH 標準液 S を

参 極を接続し電池を作成しその起

pH

現在pH の定義は溶

で述べたようにそれが簡便に測定できるものではないため次のように定

義されている

水素イオン濃度

水素イオン活量であるため定義式としては活量係数をγH+として次式で与

えられる

その要領は次のようである

上に図示した水素電極の容器内

れぞれ半電池(I)と(II)に入れる

半電池(I) Pt | H2 (1 atm) | 試料溶液

半電池(II) Pt | H2 (1 atm) | 試料溶液S

照電極として上図のごとく銀塩化銀電

電力を測定する半電池(I)のときの起電力を E(X)半電池(II)のそれを E(S)

とするこのとき試料溶液Xの pH は次式で計算される

pH (X) pH(S) E(S) E(X)

RT ln(10) (78)

ln(10)は自然対数を常用対数に戻すための定数で2303 を用いる

標準液

pH 標準液 S はpH 第一次標準液第二次標準液と呼ばれるべき

る測定

25で pH 4005 を示す

pH

上述した

のであり絶対的測定法である起電力の測定によって値をつける

標準液は安定で純粋な結晶が得られる試薬を調整してこれを測定す

上と同様に水素電極を用いこれに緩衝液を入れる参照電極として銀

塩化銀電極を接続して電池の起電力を測定する

たとえば005 moll フタル酸水素カリウム溶液は

一次標準(Primary Standard PS)の一つである半電池(III)として水素

45

電極を次のように準備する

半電池(III) Pt | H2 (1 atm) | PS 溶液

て電池を形成したとき得られる起電

参照電極として銀塩化銀電極を接続し

は式(75)から

E E

Ag AgCl RT

Flna

H aCl (79)

オン活量を濃度と活量係数の積(a H+= γH+CH+)にし自然対数を常用対数

すれば

E E

Ag AgCl RT ln(10)

F log(

H + CH+ Cl- CCl - ) (80)

E゜は水素標準電極(水素ガス分圧を1atm電極を浸ける溶液に001 moll

H

Cl を用いる)で得た起電力である

式(80)から

RT ln(10)

Flog(

H CH Cl

) (E EAg AgCl )

RT ln(10)

Flog C

Cl

(81)

らに

log(

H CH Cl

) F

RT ln(10)(E E

Ag AgCl ) logCCl

(82)

ころで式(77)から

(γH+CH+) (77)

-log a H+ =-loga H+-log(γCl-) +log(γCl-) =-log(a H+γCl-) +log(γCl-)

(83)の一番右の式で第一項は

pH = -log a H+ = -log

であるが右の式をさらに変形すると

(83)

46

-log(a H+γCl-)=-log(γH+ CH+γCl-) (84)

たがって式(82)の右辺で示されるように電池の起電力を測定すれば

よ 実際には溶液の塩素イオン濃

液で起電力を求め外挿する

起電

これによってpH を意味する式(83)は次式(85)で与えられる

p(aHγCl)はRG Bates によって Acidity Function と呼ばれている

らに式(85)最終項の log(γCl-) を補正しなければならないこの項は

本工業規格)によっても

であってこれは式(82)の左辺である

いただし塩素イオン濃度の項があって

をゼロにしたときの値が必要である

実測する際には塩素イオン濃度をゼロにできないので塩化ナトリウム NaCl

等を濃度を変えて添加しその時々の緩衝

勧告ではNaCl で 000500100015moll の3つの濃度を例示している

すなわち塩素イオン濃度ゼロのときの値は各塩素イオン濃度に対して

の値をそれぞれプロットしグラフから塩素イオンがゼロのときの起電力の

値を3点に対する回帰直線の延長で外挿して求めるこの点を次のように書

log( C H H Cl CCl

0

pa log( C log( (85) H H H Cl C

Cl0 Cl

)

素イオンの活動係数で与えられる補正項である

無限希釈溶液中のイオンの活動係数は理論的に Dubye-Huckel の式を用い

近似的に求めることが可能であるこれはJIS(日

用されていて Bates-Guggenheim の規約と呼ばれる (Bates RG

Guggenheim Pure Appl Chem 1 163-168 1960)

Dubye-Huckel の式は次のように与えられる

log A I

i 1 iB I (86)

47

I iについてそのモル濃度

計算される

はイオン強度でイオン mi と電荷 zi から次式で

I 1

2mizi (87)

また iは(86)式のBは温度と溶媒の性質による定数であり イオンの大

きさに関するパラメータで水和イオンの大きさとほぼ一致した値をとる標

準法の勧告では塩素イオンに対しイオンの大きさを46Åと決めてiBを

1

5 にしているそこで式(84)は次のようになる

ClA I

log 1 15 I

イオン強度 I は塩素イオン濃度を含まない計算となる

以上の方法によって実用的な pH 測定に用いられる第一次第二次標準液の

pH の値が得られる

絶対値としての

はpH の絶対測定法(第一次標準測定法)とされている

銀塩化銀参照電極は分極現象を防ぐために棒状の銀を塩酸で処理し表

に塩化銀を生成させたものを飽和塩化カリウム溶液につけてある

(88)

参考現在は実験的に求めた値と理論値の組み合わせで

素イオン濃度を求める方法を規定しているこの起電力から水素イオン濃度

を知るための測定方法

Buck RP Rondinini S Covington AK Baucke FGK Brett CMA Camoes MF

Milton MJT Mussini T Naumann R Pratt Kw Spitzer P Wilson GS

Measurement of pH definition standards and procedures Pure Appl Chem

74(11)2169-2200 2002Kristensen HB Salomon A Kokholm GInternational

pH scales and certification of pH Anal Chem 63(18) 885A-891A 1991)

銀塩化銀参照電極

電極の構成は

Cl-(aq) | AgCl(s) | Ag(s)

48

この半反応は次のようになる

AgCl(s) + e- rarr Ag(s) + Cl- (89)

の反応は次の2つの反応に分けて考えることができる

Ag+ + e- rarr Ag(s) (91)

AgCl(s)rarr Ag+ + Cl- (90)

図11銀塩化銀参照電極

(90)における銀 る塩素イオンによって左

されることが推測される

そこでカッコ [ ] をそれによって囲まれるイオンの濃度を表すことにし

式 イオン Ag+の溶解性は共存す

塩化銀の乖離定数Kを考えると

49

K = [Ag+][Cl-] (92)

これから

[Ag+]= K[Cl-] (93)

化カリウム溶液に漬けた銀塩化銀電極の電位 E は水素標準電極に対する

電 で与えられる

位を E゜として次式

E E

RT

nF

[ Ag ]

[Ag(s)]ln( )

Ag(s)のイオン活量は常に1とする

ここで半反応の電極電位を求めるために式(75)を利用することにすれば

(94)

熱力学の慣例にしたがって純物質個体

E E

RT

Flna

H Cl a (75)

式 の半反応をみると

応で電子1つが移動するので n=1 とするR=831441 JmolK1F = 96485

C はめれば

これに銀イオンの濃度として式(93)を当てはめる

この反応で移動する電子は (89) 銀イオン1つの反

molT=29815K(25)ln(10)=2303などの定数を当て

2303RTF = 005917

であるから(94)式は次のように表現できる

log[Cl]) E E 005917(logK (95)

たがって標準水素電極に対する銀塩化銀参照電極の標準状態における電

位 は半反応(89)に対して ゜=+0799で

化銀の乖離定数 K は182times10-10 であるのでその対数を取れば-973993

0799-005917times973993-005917log[Cl-]

E゜ E ある

ある

そこで式(95)は

E =

50

= 0799-0576-005917log[Cl-]

= 0223-005917log[Cl-] (96)

電極電位の関係について実測値

こうして求めた塩化カリウム溶液の濃度と

計算上の値は次のようである

KCl moll vs SHE volt25 計算値 volt25 01 02881 02822 35 0205 01908 飽和 0199 minus

実用 測定

実際の現場で水素イオン濃度を測定する目的の測定法で上のような2つの

極が同じ溶液に浸かっていたのでは試料溶液を交換するにも便利ではない

の容器に入れる未知試料溶液と銀塩化銀電極を隔離する

的な pH

そこで水素電極側

的で二つの電極容器をつなぐ液絡部をグラスフィルターやセラミック板

飽和塩化カリウムで作成したゼラチンなどの塩橋によって隔離遮断するこ

れを液絡部とよぶ

電池として機能するために必要な溶液イオンの交換はこの液絡部で行う

組み立てる電池は電池式で次のように表される

Pt(s) | H2 | 試料 (H+ x moll) || 飽和 KCl | AgCl | Ag(s)

の標準電極と銀塩化銀電極とは区切られていて溶液の直接の接触がない

とを意味するために電池式ではタテ二重線を用いる銀塩化銀参照電極

の容器には飽和塩化カリウム溶液が入れられる

51

図12液絡部のある pH 測定のための電池

この液絡部のある電池では塩橋を記号lsquo | | rsquoで表して次のように記す

試料 (H+ x moll) | | 飽和 KCl

ここでは試料溶液と飽和塩化カリウム溶液の異なる2液が接している

このような界面では膜電力が生じるのと同様「液間電位差」が生じることが

知られているしたがって上の電池で測定される起電力 E は

E = E[銀塩化銀電極電位]+E[液間電位]+E[水素電極電位]

で与えられることになってE[液間電位]のために図12の電池の起電力

は銀塩化銀参照電極の値を知っていても水素電極容器内に入れた未知溶

液の水素イオン濃度を正しく知ることができない

52

そこで実用的な測定法としてこの E[液間電位]を膜電位として積極的に利

用する方法が工夫されたすなわち水素イオンに感応するガラス薄膜を用い

るガラス電極法である

53

ガラス電極

ガラスはケイ素原子と酸素原子からなる SiO4 の結晶構造を持ち酸素で囲

まれた空隙があって水素イオンがそれを埋めることができる

この性質によってガラス膜表面は水溶液中の水素イオンに応じて膜電位を

変化させるのでこれを水素イオン濃度測定用の電極として利用することが考

えられるこれが通常用いられるガラス電極である

ガラス電極は標準電極と組み合わせれば電池を構成することができこの電

池の起電力を知ってガラス薄膜の内外にできたイオン濃度勾配を知ろうとす

るものである

薄いガラス膜(01mm程度)をはさんで接する2つの溶液のH+イオン濃

度が異なるとその差に応じてガラス膜の両側に電位差(Eg)が現れる

ネルンストの式でガラス電極の内部に入れた既知の濃度のH+([H+]in)に対

し試料中の水素イオン濃度が[H+]sampleのとき次の電位を生じる

)][

][log(059170)

][

][ln(

sample

in

sample

ing

H

H

H

H

F

RTE

(97)

図13ガラス電極

電極を構成するのは銀塩化銀電極と同じ電極で用いる塩溶液は一般的

54

に 01モル塩酸溶液である

この半電池の電池式は次のように書くことができる

Ag(s) | AgCl(s) | HCl (01 M) | ガラス薄膜 || 試料溶液 H+ (x moll)

Eg

この半電池の電極電圧を測定するために銀塩化銀標準電極と組み合わせ

電池を作って起電力を計る

構成される電池は下図のようになる

ガラス電極 銀塩化銀標準電極

図14ガラス電極を用いた pH 測定用の電池

この電池の起電力は次の各半電池の平衡電位を合わせたものになる

55

E1ガラス電極の内側電位

Ag(s) | AgCl(s) | HCl (01 M)

Egガラス薄膜の内外に生じる膜電位

HCl (01 M) | ガラス薄膜 || 試料溶液 H+ (x moll)

E2液間電位(膜電位)銀塩化銀標準電極のセラミックを介した試料溶液

と銀塩化銀標準電極の内部液(飽和 KCl 溶液)の間に発生する電位

試料溶液 H+ (x moll)|| セラミック | KCl(飽和)

E3銀塩化銀標準電極

KCl(飽和)| AgCl(s) | Ag(s)

pH メーター用のガラス電極に使われるガラス薄膜は水素イオンに感応して

膜電位(Eg)を生じるこれは【膜電位】の章で記したように薄膜がある

一つのイオンのみを通過させる特性を持っている場合にイオンが膜を介した

両側で平衡状態に達したとして電気化学ポテンシャルを膜の両側で等しいと

考えてそのイオンが濃厚な側から希薄な側にその差によって圧力を生じると

するものである

一方同じ試料溶液が銀塩化銀標準電極のセラミック液絡部を介して生じ

るだろう液間電位(膜電位E2)はいま関心がある水素イオンに対して特異

的に感応するのではないので試料溶液の水素イオン濃度に関係なく一定と見

なすことができる

すなわちpH メーターを構成する電池の起電力 E は

E = E1+Eg+E2+E3 (98)

このうちEg以外は一定と見なせるので

E1+E2+E3 = E

として式(98)を書き直すと

)][

][log(059170

sample

ing H

HEEEE

(99)

Eは標準液によって校正されるべき標準電極電位である

56

電極の校正

実際のイオン濃度を測定する場合低濃度標準液と高濃度標準液で得られ

る起電力を測定し計測のイオン濃度に対する係数(傾き)を求めておき未

知の試料に対して起電力を測定してそのイオン濃度を算出する方法が採られる

低濃度標準液と高濃度標準液のそれぞれの濃度をCLとCHとすればそれぞ

れの起電力ELとEHは次式で表される EH = E +β logCH (100)

EL = E +β log CL (101)

ただしβは式(99)の係数を簡略にしたものである

式(100)と(101)から検量線の傾きが次式で表せる

ΔE = EH minus EL = β(logCH minus logCL) = β logCH

CL

(102)

したがって係数βは

β =ΔE

log CH

CL

(103)

であらわされる

このときに使われる標準はすでに前出の pH 第一次標準第二次標準溶液で

ある

金属イオンに対応するイオン選択電極

現在臨床検査で日常的に使われている電解質測定のための電極はナトリウ

ムカリウムカルシウムクロールなどおよそ臨床的に必要な金属イオン

に対して入手可能である

カリウムイオン測定用のバリノマイシンの発見によってクラウンエーテルと

57

呼ばれる一連の化合物が知られたクラウンエーテルはその分子の中心に立

体的な空間を持ち特定のイオン径に対し合致するのでそのイオンに対して

選択的に感応するこれらの化合物はイオノフォアと呼ばれる

図 15クラウンエーテル

1つの金属イオンが環状化合物

15-crown-5 の中央にある空間を充填

している模式図

15-crown-5 の構造を作る10個の黒

い丸は炭素炭素2個のつながりごと

にある中心の白い丸は酸素酸素と

金属イオンの間の距離はおよそ 22~

23Åであるカリウムのファンデン

ワールス半径は 135Åイオン半径は

15~16Åである

測定したいイオンに対しポリ塩化ビニル(PVC)を支持体としてイオノフ

ォアを添加した液膜の電極膜を作成しこれをガラス電極におけるガラス薄膜

と同様試料に接する電極膜として用いるこの構造から一般的に液膜型電極

と呼ばれる電極膜には特異性を高めるため妨害イオン排除剤などが添加

される

pH メーターと同様銀塩化銀標準電極と組み合わせ電池を形成しその

起電力を計る測定したいイオンが液膜に対して内外で平衡に達したときの

膜電位を測定するのはガラス電極と同じである

カ リ ウ ム イ オ ン に は Bis[(benzo-15-crown-5) ( 正 式 名 は

Bis[(benzo-15-crown-5)-4-methyl]pimelate)ナトリウムには Bis[(12-crown-4)

やDibenzyl-bis[(12-crown-4)などがイオノフォアとして用いられる

58

図16カリウムイオン測定用に使われるクラウンエーテル

図17ナトリウムイオン測定用に使われるクラウンエーテル

59

参考イオン選択電極に関する文献Xia Z Badr IHA Plummer SL Cullen L

Bachas LG Synthesis and evaluation of a bis(crown ether) ionophore with a

conformationally constained bridge in ione- selective electrodes Anal Sci 14(2)

169-173 1998 Oh K-C Kang EC Cho YL Jeong K-S Y oo E-A Paeng K-J

Potassium-selective PVC membrane electrodes based on newly synthesized

cis- and trans-bis(crown ether)s ibid 14(10)1009-1012 1998 Dojindo WEB

site httpwwwdojindocojpwwwrootproductsjinfo2protocolp31pdf

<補遺> 60

補遺 状態関数 (本文 p21 10 行目参照)

一つの平衡状態にある系 A とこれに接する系 A にとって外部である系 B について系 B

から系 A に熱を与えこれによって系 A が他の平衡状態に移ったとき系 A はその結果とし

て膨張し系 B に対し仕事をする

このときの微少な熱量の移動を記号drsquoQ またなされた微少な仕事をdrsquoW とすると

系Aの内部エネルギーに関する微少な変化drsquoUA は両者の和として表される

WdQdUd A primeminusprime=prime (a-1)

この式 a-1 と本文中の式25との関係について

WQU A Δminus=Δ 本文(25)

<補遺> 61

式 a-1 と式25の記号の違いは変化の起きる前の平衡状態 S1 から変化後の平衡状態 S2

に状態変化があったとするなら式 a-1 を積分することで式25が得られるものと考えて区

別している

A

S

S A UUd Δ=primeint2

1 (a-2)

このことは重要であるすなわち内部エネルギーU は変化の起きる前後の状態を指定する

ことによって値が定まることを意味するこのように積分によって値を定めることが出来る

のでdrsquoU は完全微分であるという

内部エネルギーのように系の状態だけで値の定まる量を状態関数として扱う

一方式 a-1 のdrsquoQ drsquoW についても同様に微少の変化量を表しているが平衡状態 S1

から S2 への経路を指定しなければ積分の値は定まらない

本文中の記号にしたがって仕事量ΔW を次のように表すことにする

VpW Δ=Δ 本文(20) V

<補遺> 62

体積と圧力の関係を表す図を使ってこの仕事量が意味することを考える圧力 prsquo の下で

体積が V1 であるときを状態 S1 として圧力一定の下で体積を V2 まで膨張させるような変

化を行った後体積を等しく保って圧力を p にまで上げたときの状態を S2 とするこのとき

の仕事量は膨張に伴うものであるから図の体積‐圧力線の下の面積で示すことができる

平衡状態 S1 から S2 への変化の道筋を別にたどってみよう

新しい経路では圧力を先に p まで上げた後に膨張変化させている

図から直感的に明らかであるので数式での扱いを省略するが2 つの経路による仕事量には

差がある

すなわちdrsquoW は drsquoU と異なり変化の初め S1 と終わり S2 の状態が与えられても積分値

は定まらず変化の経路によって違ってくる

このように変化の経路を指定しなければ積分値が定まらないものを不完全微分と呼び扱

いを区別する

本文 p21 へ戻る

<補遺> 63

VpW

WQU

VpQU

VpUQ

1122 SSSS pVUpVUQ

pVU

VpUHHHQ SS 12

エンタルピー (本文 p24 20 行目参照)

本文中の式 20 および 25 から一定の圧力の元で起きる状態変化において内部エネルギー

の変化量に対する式 a-3 を得る

本文(20)

本文(25)

(a-3)

式 a-3 を Q について書き直す

(a-4)

状態の変化が平衡状態S1から平衡状態S2に移ったものとして式 a-4を丁寧に書き直すと

(a-5)

並び替えて

(a-6)

式 a-6 を見ると定圧過程における熱量の流入は

(a-7)

の形を持つ関数の差であることが分かる

一般に化学反応のような変化の過程では大気圧の下で行われるようなものに興味がある

そこで式 a-7 で与えられる項を一つの関数として定義するこれをエンタルピーと呼び記

号 H を与える式 a-4 はエンタルピーの変化量で次のように書き改められる

(a-8)

圧力が一定の下で起こる状態変化について流入する熱量は式 a-8 で示されるようにエンタ

ルピーの変化量に等しい

V

V

V

V V

V

V

1212 SSSS VVpUUQ VV

<補遺> 64

1Q

We

また式 a-8 からオートクレーブ内で起こるような体積変化のない過程ではこの値が内

部エネルギーの変化量で与えられることが明らかである

本文 p24 へ戻る

エントロピー (本文 p26 17 行目参照)

エントロピーは次のような思考実験から発想された仮想的な状態関数である

理想気体よりなる系 A が温度 T2で熱平衡状態にあり温度 T1の外部の熱源と接しているこ

とを想定する系 A の外部を系 B と呼ぶことにするT1は T2に対して無限小だけ高い温度と

する

系 A が系 B に対して温度圧力について平衡を保ちながら緩慢に系 B より熱量 Q1を受け取

る過程を考える(このような過程を準静的過程と呼ぶ)これによって系 A が熱量 Q1を得て膨

張するとき系 B に対して仕事をする続いて系 A から熱量 Q2が系 B に戻ることを考える

想定されるこの変化が可逆的であれば系 A と系 B を併せた全体は元の状態に戻る蒸気機

関に関するこのような研究が Nicolas Carnot によってなされたのは1824 年のことであった

ここに想定されたサイクルに対する Carnot の効率 e は移動した熱量となされた仕事によ

って定義され次の式で表される

(b-1)

<補遺> 65

理想気体では内部エネルギーU の変化ΔU はゼロと考えるしたがって熱力学の第一法

則を表す式(本文中の式25)から次の関係が示される

0=Δminus=Δ WQU

WQ Δ= (b-2)

これによってCarnot Cycleの効率eはQ2lt0 として次のように書き改めることが出来る

1

21

QQQe +

= (b-3)

ところで気体の状態方程式から1 モルの気体について次のような関係が示される

RTV

P

P1=

V = RTV (b-4)

V 式 b-4 の両辺に体積の微少変化量ΔV をかけて

(b-5)

これを体積Vについてその変化をV1からV2までとして積分するならば次式が得られる

VV

RTVP Δ=Δ 1V V

V

intint = 2

1

2

1

1V

V

V

VdV

VRTPdV

1V2V

11 lnRTW =

(b-6)

Q1の熱量によって起こる膨張がV1よりV2までとし圧力P温度T1の下でなされるその仕事

量をW1とするならそれは式b-6 の右辺によって示されるすなわち

(b-7)

VV

1

2lnVVRT=

V V

VV

V

V2int V2 intV1 V1

<補遺> 66

またQ2の熱量の移動が圧力P温度T2の下で起きこれによって系Aが可逆的に圧縮され

るなら体積変化はV2よりV1まで起こりその仕事量をW2で示すと次式のように表される

(b-8)

1

22

2

122 lnln

VVRT

VVRTW minus==VV

VV

Q1=W1Q2=W2の関係から式b-7 およびb-8 を用いてCarnot Cycleの効率eを表す式b-3

を書き改めると温度のみの関係式として次のように表される

1

21

TTTe minus

= (b-9)

ここでサイクルが可逆的過程であると想定するならば式 b-3 と式 b-9 から

1

21

1

21

TTT

QQQe minus

=+

= (b-10)

これから

12112111 QTQTQTQT minus=+ (b-11)

整理すると

02

2

1

1 =+TQ

TQ (b-12)

この考えをさらに発展させ系A

と系Bの間に数多くの系を挿入すること

にしてそれらの系を同様に熱源として

T1T2Tnと考えるこれによっ

て熱の受け渡しが系Aから系Bに至り

再び系Aにもどるサイクル過程に数多

くの寄り道の過程を加えることになる

熱量の移動に関して上の場合と同じく

準静的過程で行われると考えるこの

サイクル全過程について初めと終わ

<補遺> 67

n

i i

i

T

Q

1

0

0T

dQ

T

QS

T

dQASAS )()( 12

りが同じ状態になる可逆的な過程であるなら式 b-12 を拡大的に考えることになってそれ

は次式で表される

(b-13)

式 b-13 には重要な関数が現れるすなわち熱量と温度の比QT である

もし一つの系が無限小だけ温度の高い(dT )外界から温度圧力など平衡を保ちなが

ら極めて緩慢な過程(準静的過程)で無限小の熱量(dQ )を受け取るならばその変化は可

逆的でありdT について連続的な温度分布をする過程を考えるとき式 b-13 をさらに発展

させて次のように積分式で示すことが出来る

(b-14)

式 b-14 で積分記号にが付されているのはCarnot Cycle のような経路を一巡することを

意味している

Carnot の熱機関の効率という着想から生まれた熱量とそれを持つ系の温度との比 QT に

重要な意味を見出したのは Rudolph Clausius で彼はこの比にエントロピーという名前を与

えたエントロピーには記号ΔS を一般に用いる

(b-15)

エントロピーは初めと終わりの状態がわかれば過程に関わらず定まるので状態関数であ

系 A と外界のエントロピー変化を考えるときそれが可逆的過程であるならばすべてを併

せた全体のエントロピー変化は初めと終わりに変化がないという意味でゼロであるすなわ

ち初めの状態を S(A1)とし次の状態を S(A2)とするならそれぞれのエントロピーを

ΔS(A1)ΔS(A2)としてこの間におけるエントロピーの変化量は次のように示される

(b-16)

<補遺> 68

T

dQdS

0T

dQ

ある一つの変化については次のように示される

(b-17)

ここで式 b-17 の S に付けられたdは微分量すなわちごく微小の変化量を意味し式 b-15

で定義されたエントロピーに用いられる一般的な記号Δと区別する

ところで式 b-10 の関係においてもし移動した熱量のすべてが仕事に変わらなければ

効率 e を表す熱量を用いた関係式と温度で表される関係式は等号で結ぶことができないそれ

はエネルギーのロスを意味し初めと終わりの状態が異なってしまうことを意味するすなわ

ち全過程が構成する一つのサイクルは可逆的でなくなる

不可逆過程での熱効率 ersquo は 大値を示す可逆的過程の熱効率 e より小さな値をとる

ee

したがって 大効率を与える式 b-8 と式 b-3 から

01221

2112

1

21

1

21

QTQT

QTQT

Q

QQ

T

TT

両辺を T1T2で割ると

02

2

1

1 T

Q

T

Q

これを式 b12 と同様に発展させれば式 b-14 についてサイクルの変化が可逆的過程の

場合と不可逆的過程の場合の両方を併せClausius の不等式と呼ばれる次の関係が成立する

(b-18)

式 b-18 の等号が成立するのはサイクルが可逆的な理想の場合に限られる

ある孤立系で状態 A1 から状態 A2 へは不可逆変化で進められ状態 A2 から再び状態 A1

に戻るとき可逆変化であるような閉じた状態変化を考える可逆系のエントロピー変化には

記号 Q を使い不可逆変化には Q を用いるとするとそれぞれ積分式を用いて状態 A1 から

状態 A2 へは

<補遺> 69

d prime

状態 A2 から状態 A1 に戻るときは

全体では

=d prime

+d

(b-19)

Clausius の不等式から

0

式(b-19)の第二項で反応を逆に進めるときには次のように書き改めることができる

=d

よって式(b-19)は次のように書き直すことができClausius の不等式とあわせると

d prime d

0

すなわち

d prime d

上式の右辺は式(b-16)を用いて表せば

d prime

∆S ∆

この状態変化を微小変化とするならば断熱変化の場合 dQ = 0 であるから

∆S ∆ dS 0

すなわち不可逆変化を含む断熱変化ではエントロピーは必ず増大する

<補遺> 70

T

QS

BA SSS

(b-20)

(次の<補遺>ギブス自由エネルギーも参照せよ)

本文 p26 へ戻る

ギブス自由エネルギー (本文 p28 27 行目参照)

エントロピーの考えを導入することによって不可逆的に状態変化が起きるときにはエン

トロピーの増大を引き起こすことを知ったこれによって目前で起きる現象について温度の

変化があるものであれないものであれまた圧力の変化があるものであってもエントロピー

の定義式によって可逆的な変化におけるエントロピーの変化量を計算することが可能である

(b-15)

しかしながらこれから起こる変化について我々がすでにあらかじめ知っている物理量を

用いて予測的にその状態変化が起きるかどうか知ることは必ずしも容易ではないその理由

は式 b-15 に示されたエントロピーΔS が系とその外界をあわせた全体のエントロピーを示

しているからであるすなわち関心のある系を系 A としその外界を系 B とすると全体

のエントロピーは次のように表せる

(c-1)

関心のある系 A のエントロピー変化を知るためには系 B のそれを知ればよいがそれは

いつも容易とは限らない系 A の性質だけで状態変化の方向を知るには別の観点が必要にな

るようだ

そこでもう一度状態変化が熱量 Q の移動によって起きることについて考えてみようエン

トロピーの補遺で議論したように熱量の移動が準静的過程により行われるときには変化は可

逆的に起こると考えたこのとき外界すなわち系 B から移動する熱量を Q1とし系 A から

0S

<補遺> 71

21 QQ

T

Q

T

QSB

21

T

QSS A

2

QH

T

HSS AA

AA STHST

のそれを Q2 と記号を当てたのでこれをそのまま使うことにすれば可逆的な過程では系 B

の熱量 Q1 はすなわち系 A から戻る Q2 に他ならないので両者には次の関係が成立するも

のとしてよい

(c-2)

したがって

(c-3)

と考えてよくこれによって式 c-1 を次のように書きなおすことが出来る

(c-4)

独立した系で圧力とその体積に変化がなく一定の条件の下で状態変化が起きるときエン

タルピーの考えを使ってすでにひとつの関係があることを導いている

本文(31)

そこで式 c-4 を系のエンタルピーΔHAによって書き改めれば

(c-5)

この両辺に-T をかけて式を書き直せば次の関係式が得られる

(c-6)

式 c-6 を見るときその右辺がマイナスの値ならば左辺のΔS はプラスの値をとることが

分かるすなわちエントロピーが増大すると見ることが出来るこれまでの過程で自然の現

象はエントロピーが増大する方向に進むとしてきたので関心のある状態変化について式 c-6

の右辺で計算される値がマイナスの値ならばその変化は起きるものと考えてよいことになる

だろうしかも右辺はすべて独立した系の状態量で示されていて我々が知りうる値で計算

<補遺> 72

TSHG

STSTHG

STHG

可能である

そこでこれを熱力学ポテンシャルを表すものとしてギブス自由エネルギーと呼ぶことに

するギブス自由エネルギーは記号 G が用いられ次のように定義される

(c-7)

ここで関心があるのは自由エネルギーの絶対値ではなく式 c-6 に示されたようにその変化量

に興味があるので式 c-7 から

(c-8)

温度が一定の条件の下で状態変化が起きることを考えるなら式 c-8 は次のように書くこと

ができる

(c-9)

ギブス自由エネルギーは式 c-9 の右辺がすべて状態量であるからこれも状態量の一つで

ある定圧定温の条件下で起きる変化ではすでに議論したようにΔGlt0 であれば状態

変化は自発的に起きるものと予測できる

つまり式 c-5 の第一項は系のエントロピーΔSAそのものであり第二項で示されるエンタ

ルピーは系 A の温度が一定に保たれているのであるから発熱する熱量として外界に吸収さ

れるものであってこれは外界のエントロピーの増大につながるものとして解釈されるした

がって化学反応のように一定の圧力と一定の温度の下で起きる変化について自由エネルギ

ー変化量はその状態変化が自発的に起きる傾向を示しているといってよい

本文 p28 へ戻る

  • はじめに
  • 目次
  • 電気エネルギー
    • 金属のイオン化
    • 電池
    • 水素の反応
    • 燃料電池
    • 化学反応と電気エネルギー
      • エネルギーと熱力学
        • エネルギー保存則
        • エンタルピー
        • エントロピー13
        • ギブス自由エネルギー
        • 電池における化学反応のギブス自由エネルギー13
        • 理想気体の状態方程式
        • 理想溶液のギブス自由エネルギー
        • 膜電位
          • 水素イオン濃度測定
            • 化学反応の一般的な式
            • pHの定義とその目盛り
            • pH標準液
            • 銀塩化銀参照電極
            • 実用的なpH測定
            • ガラス電極
            • 電極の校正
            • 金属イオンに対応するイオン選択電極
              • 文献
              • 補遺
                • 状態関数
                • エンタルピー
                • エントロピー
                • ギブス自由エネルギー
Page 13: イオン選択電極i イオン選択電極 Ion Selective Electrode (ISE) を理解する ・ pHを測定する ・ NaやKなどのイオン濃度を測定する 神戸大学医学部保健学科

10

酸素が電子を受け取る還元反応の半反応は次のように表される

12 O2 + 2e- rarr O2- (6)

半反応(5)と(6)を組み合わすことができれば次の全反応によって水

が生じる

H2 +12 O2rarr H2O (7)

このとき得られる電子を導線に誘導すれば電気エネルギーとして利用が可能

になる

問題はダニエル電池で見たようにそれぞれの半反応で生じるイオンの処理で

ある半反応(5)と(6)はそれぞれ隔離された容器で行わなければ水素と

酸素が直接反応して水を生じてしまうしかし容器の隔壁がイオンを通さな

いと電池として機能しない

燃料電池 固体は一般に分子やイオンを通過させないが中には特定のイオンを通過させ

るものがありこれを固体電解質とよんでいる

半反応(5)で発生する水素イオンを効率よく通過させるためにはナフィオ

ン(Nafion Du Pont 社米国デラウェア州ウィルミントン)とよばれる固体高

分子膜が有力である

ナフィオンはフッ素を含む高分子パーフルオロスルホン酸系といわれるイオ

ン交換膜で全体はテフロン様構造からできており側鎖にスルホン酸基を持

つその厚さは 20~50ミクロン程度である膜の内部で負に荷電するスルホン

基(SO3-)が水素イオン(H+)を引きつけこれを通過させるこの水素イオ

ンの通り道は電子顕微鏡で見るとトンネルのようにできている

11

図4ナフィオンを使った燃料電池

陰極では水素の酸化反応が起きる

H2 rarr 2H+ + 2e- (5)

一方陽極では次の還元反応が起きる

12 O2 + 2e- rarr O2- (6)

O2- + 2H+ rarr H2O (8)

全体の反応は反応式(7)で表される

12

H2 +12 O2rarr H2O (7)

こうして開発された電池は「燃料電池」とよばれている燃料に水素ガスが

利用される

反応式と図に示した気体酸素は通常の空気が利用され反応で生じた水と酸

素以外の利用されない気体元素は排気される

この燃料電池は水素と酸素を遮断し水素イオンだけを通過させる固体電解

質を使ったこれは上の半反応(5)で生じた水素イオンの処理を考えたわ

けである

これに対して半反応(6)で生じる酸素イオンを移動させる工夫もある

図4安定化ジルコニアを使った燃料電池

安定化ジルコニア(Stabilized Zirconia ZrO2CaO)は高温下で酸素イオン通過

性のある固体電解質として開発されたジルコニウムに10モル程度の酸化

カルシウムを加え結晶を作ると+4価のジルコニウムイオンの位置の一部を+

13

2価のカルシウムイオンが占めるできあがった安定化ジルコニアはこのカ

ルシウムの数だけ酸素イオンの不足が起き固体全体を電気的中性に保つた

めに酸素イオンの透過性ができるジルコニアの両面に白金粉末を焼き付け

それに白金のリード線を取り付ける焼き付けられた白金には多くの孔があり

その孔を通して気体とジルコニアが接触する

酸素イオン導電性の固体電解質としてジルコニアを用いた燃料電池は次

のように動作する

1)空気極(右側)に入った酸素 O2は電極で電子を受け取り酸素イオン O2-

になる

12 O2 + 2e- rarr O2- (6)

2)O2-は固体電解質ジルコニア中を移動していき燃料極(左側)で H2 と

反応し水 H2Oを生じるこの過程に伴って電子が放出される

H2 + O2- rarr H2O+ 2e- (9)

3)これら結果として外部回路に電流を取り出すことができる

燃料電池の起電力は酸素イオンが電解質中を移動することにより生じる

酸素イオンが移動する駆動力は固体電解質の両端すなわち燃料極と空気極

の酸素濃度差である

14

化学反応と電気エネルギー ダニエル電池の陰極は亜鉛板が硫酸亜鉛の水溶液につけられていたこのと

きの現象は次のように説明された亜鉛は電子を亜鉛板電極に残し陽イオン

となって出て行くその結果亜鉛板電極中に電子が余分にたまる

ダニエル電池の陰極の「電極電位」はこの電極に余分にたまっている電子の

量をさしているそれではこの半反応による電極電位を測定することができ

るのだろうか半反応は次のように示される

Zn(s) rarr Zn2+ + 2e- (1)

亜鉛が1モル反応すると2モルの電子が持つ総電荷量が流れる

1電子の持つ電荷量は16022x10-19 C (Ccoulombクーロン)であ

るから

1モルの電子の総電荷量はアボガロド数をかけて 96485 = 96485 x 104 Cmol

であるこれを1F1ファラデーと表す

1F = 96485 x 104 Cmol 亜鉛が1モル反応すれば2モルの電子が持つ総電荷量が流れるのでこれを

記号 q として表すと次の電気量が得られる

q = 2F (10)

化学反応によって取り出せる電気量はこのように計算される

それでは電気エネルギーとしてその電力はどのようになるだろう

電力は

電力=電圧times電流times時間 (12)

電流times時間=電気量であるから式(12)を書き直せば

15

電力=電圧times電気量 (13)

ここで電気量 q は式(10)で表しているので

電力=電圧timesq=電圧times2F (14)

と書くことができる

電圧を記号Vで表すことにし電力をWにすれば式(14)は

W = 2FV (15)

として表しておくことができる

電圧の単位系は仕事量が電力Wであるので(13)から

V= W q (16)

仕事量をジュールJ(ジュール)で表せば電圧はJ C (ジュールクー

ロン)でその単位を表現することができる

式(15)の表すところは亜鉛を化学反応の材料として得られる電力という

仕事量がその電力すなわち電極電位で決定されることを意味している

一般に化学反応で1分子の材料を消費しn個の電子が流れることをその

半反応で知ることができるとき式(15)を一般化して次のように得られ

る電気エネルギーを表すことができる

W = n FV (17)

化学反応によって生じる電子を取り出し回路に導けばここに電流が生じる

その起電力(V)は陽極陰極のそれぞれの電位をE+E- と記号で表し

て次式で書くことができる

V= E+-E- (18)

16

ここで問題になるのは陽極陰極のそれぞれの電位E+とE-で上に議論し

たように回路を形成しなければそれぞれの電位は決定できない

ここでいま片方の電位をゼロとすれば式(18)はたとえばE- = 0 で

V= E+

として陽極の電位が決まる

そこで申し合わせにより水素の半反応による電位をゼロとすることになっ

その半反応の式は水素の還元反応として次のように表せた

2H+ + 2e- rarr H2

標準にはMax Julius Louis Le Blanc (1865-1943) が発明した水素電極を用

いるこれを標準水素電極(Standard Hydrogen Electrode SHE)とよびこの

電極電位をいつも 0 volt(ゼロボルト)と取り決めている

図6に示した水素電極は1atm の水素ガスとそれに平衡状態にある水素イオ

ンが存在し次の半反応が平衡状態にある

H2 (g 1 atm)rarr 2H+ (aq 1 M)+ 2e- (5) g は気体を示す

この反応において平衡状態にある電極電位を 0 volt と定義する

電極に白金を用いるのは電極材料自体が溶解しないものであることすなわ

ちイオン化傾向の低いものであることまた水素イオンの還元に対してな

るべく活性の高いものであることが条件として求められるが白金はこの2つ

の性質を兼ね備えていて陽極の電極材料に適している

気体の標準状態は1atm を標準としているこの分圧を維持し溶液中の水

素イオン活量を1にする水蒸気の分圧が変化すると平衡電位は変化する

17

図6標準水素電極(0ボルトの基準)

標準水素電極は1モル塩酸溶液につけた白金電極に1atmの水素ガスを吹き込んで使う

白金電極は分極を防ぐために白金板に白金メッキを施し(白金黒とよばれる)上半分

を水で飽和させた(1atmの水蒸気分圧が必要)1atm(101325 kPa)の水素ガスを流し

下半分を1moll の塩酸溶液につける水素ガスが電極として働き白金板に電子が集めら

れる

ダニエル電池の亜鉛電極をこの標準水素電極につなげば亜鉛電極電位が測

定できる

亜鉛電極側では酸化反応の半反応が起きる

Zn(s) rarr Zn2+ + 2e- (1)

18

標準水素電極側では還元反応の半反応が起きる

2H+ + 2e- rarr H2

図7亜鉛電極と水素電極をつないで電池とする

25の基準状態における亜鉛電極の半反応(1)に対する平衡電位はすでに

知られている

E゜= -0763 volt

また銅板側の電極電位も同じようにして測定することができる

起きる半反応はすでに上述したが再度記しておこう

Cu2+ + 2e - rarr Cu(s) (3)

25の基準状態におけるこの電極電位はE゜=+0337 volt と知られて

19

いる

ここで亜鉛電極と銅電極の組み合わせでできる電池の最大電圧をこれらの

平衡状態における観測値から計算することができる式(18)を使って

V= E+-E- (18)

V= +0337-(-0763) = +110 volt

つまりダニエル電池で得られる最大電圧は11volt と計算できる実際に

はイオンの濃度が変化すれば反応の平衡が変化するので得られる電圧も変

化する

ここでダニエル電池で亜鉛1モルが反応するとき式(17)を使って得

られる仕事量としての電力を計算できる

W = n FV (17)

すなわちダニエル電池における電極反応は

Zn(s) rarr Zn2+ + 2e- (2)

Cu2+ + 2e - rarr Cu(s) (3)

であったから反応が進んで移動する電子はn = 2 である

1F = 96485 x 104 Cmol を適応すると

W = 2 x 96485 x 11 x 104 = 21227 x 105 Jmol = 2123 KJmol

(K = 103キロ)

すなわち亜鉛1モルの化学反応によって2123 KJmol の電気エネルギーが得

られる

水素ガスを使う燃料電池の起電力は電極の半反応から

O2 + 4H+ + 4e- rarr 2H2O (19)

25の基準状態におけるこの電極電位はE゜=+1229 volt が得られている

20

したがって燃料電池で1モルの水素が反応すれば

W = 2 x 96485 x 1229 x 104 = 2372 KJmol

すなわち2372 KJmol の電気エネルギーが基準状態で取り出せる最大電力

と計算される現在作られている燃料電池の電力は実際上08 volt ほどで

あるしたがって現実的に取り出せる電気エネルギーは 1544 KJmol の仕

事量と計算される「仕事量」という言葉については電気でモーターを回し

なにがしかの「仕事」をするなど思い浮かべれば実感できるだろう

エネルギーと熱力学 これまで述べてきたように電池は化学反応から直接電気エネルギーを取り出

す仕掛けであるダニエル電池では亜鉛と銅が酸化還元反応を起こす過程で

電子を放出するのを利用するまた水素ガスによる燃料電池は気体水素と酸

素を原料とし水が生成されるこの過程が1atm の気体原料を25(29815

K)で1モル反応させて生成物も1atm の液体の水を得るなら次の全反応に

よってすでに計算したとおり2374 KJmol の電気エネルギーが取り出せる

H2 + 12 O2 rarr H2O

圧力と温度がともに反応の過程を通じて一定の場合にその過程から取り出せ

る仕事量は熱力学的に考えることもできる

それはギブス自由エネルギーとして議論される電池で取り出した電気エネ

ルギーすなわち電力はこのギブス自由エネルギーに相当する

次に化学反応をこの熱力学の面から考えてみよう

エネルギー保存則

水素ガスを使う燃料電池のように独立した一つの仕掛けを考えこれを「系」

と呼ぶことにする系を考えるとき電池のように具体的なものを持って考え

るのが容易いのでそうすることが多い熱力学では自然界全体をあつかうので

しばしば概念的になり非現実的な記述が行われるが系の大きさや系を構成

する分子の大きさについて特定する必要はない

系におけるエネルギーを内部エネルギー熱エネルギー力学的エネルギー

の3つの要素からなると考えるこれらのエネルギーを考えるとき系の熱力

21

学的なパラメーター(変数)が必要となる熱力学的な状態はこれらのパラ

メーターのうちのいくつかを指定すれば決定される

熱力学的なパラメーターは2つに分類される

示量パラメーター(示量性変数)

系の大きさや構成する物質の量を示す体積や質量

示強パラメーター(示強性変数)

系の大きさに依存しない系における1つの点で決まった値で与え

られる圧力や温度密度など

いくつかのパラメーターで完全に決定できる状態を関数で表現することがで

きる場合があるそのような関数を熱力学的な状態関数(rarr補遺 p60)と呼ぶ

関数で状態の変化を表すことができれば数学的に取り扱うことができいろ

いろの面で便利である

一つの系についてその状態を知ろうとするとき系が熱力学的な平衡状態に

あると議論する上で都合がよい

熱力学的な平衡状態とは系を外部と独立させ長時間放置した後に達成され

る状態をいうこのとき系の状態をその外部のパラメーターで表現できる

たとえば電池を独立した系と考えるとき平衡状態に達した電極電圧を外部

においた電圧計で測定することができる

ある系を考えるとき前提としてその系はエネルギーを保有していると考える

系が独立してそこに存在するということで持っているエネルギーであるこれ

を内部エネルギーと呼ぶ系がある過程を経て状態を変えるとき系から系の

外部へ力学的な仕事をする場合には力学的エネルギーの出入りがあると考え

るまた系に熱が出入りする場合が考えられそれを熱エネルギーの出入り

と考えることにしよう

まず力学的エネルギーについて考えることにする

いま系が状態を変えその体積が増えれば系のlsquo壁rsquoがその系に接している

「外部」へ力学的な仕事をすることになる

このように系が膨張し壁が外部に向かって押し出されると考えたとき膨張

する過程における圧力を一定でpとし系が膨張した体積をΔV(膨張した分だ

けの体積増加量)とするなら系の仕事量ΔWは両者の積で表されるΔは変

化量を表すときにつける記号と決めておこう

22

ΔW = pΔV (20)

系の体積が凝縮する場合があるので仕事を記号で表す場合には注意するも

し系に接した「外部」から系に力が加わって体積を小さくしたならΔVは

マイナスとなるのでΔWもマイナスで表される

-ΔW = -pΔV (20prime)

今考えている系を「系 A」と呼びその内部エネルギーを UA外部の系を「系

B」と呼んでその内部エネルギーを UBと表すなら二つ合わせた全体の内部

エネルギーは両者の和で表すことができる

U = UA+UB (21)

この体積変化に必要なエネルギー変化量はどこから得られたかを考えれば

その変化があった「系 A」と外部の「系 B」のいずれかあるいは双方の内部エネ

ルギー変化分でまかなわれたと考えざるを得ない(図8参照)

そこでこのエネルギーの収支関係は変化分を表す記号に先と同様Δを用い

ることにすると次式のようになる

-ΔU =ΔW (22)

すなわち観察している「系 A」のエネルギーと外部の「系 B」のエネルギー

を合わせた総エネルギーを見てその微少な減少量minus ΔU が仕事をなすために

必要であったエネルギー量と考えてみることにする

ついでこの体積の変化が「系 A」に接する外部のlsquo熱rsquoによって起きたも

のと考えてみようすなわち外部の「系 B」が系 Aより高温で「系 B」によ

って系 Aが暖められたことになる

このとき移動したエネルギーを「熱量」と定義する

23

図8熱量の移動と系が外部にする仕事

「熱量」を記号Qで表すと外部の「系 B」が失ったエネルギーminus ΔUB で

ありこれが熱量であるから式で表せば次式のように書くことができる

-ΔUB = Q (23)

ここで「系 A」とそれに接する「外部 B」両方のエネルギーを合わせた総エ

ネルギーの変化量ΔUは式(22)で与えられていた

-ΔU =ΔW (22)

-ΔU =-(ΔUA+ΔUB) であるから

minus ΔUAminus ΔUB=ΔW (24)

これに式(23)を当てはめてΔUAで整理すれば

24

ΔUA= Q-ΔW (25)

この式(25)は「エネルギー保存則」あるいは「熱力学の第一法則」を数

学的に表現したものである

すなわち

独立した系を考えその状態が変化するとき系の内部エネルギーの変化量はその系に入る熱量と系が外部にした仕事との差である

式(25)にはまた重要な主張があるつまりエネルギー保存則にしたが

うとき熱量は力学的エネルギーにまた力学的エネルギーは熱量に変換しう

ることを意味している

熱量を表す単位はカロリー(cal)を用いる1cal は

1 cal = 4184 J

と換算されるジュールは 1J = 1Nm (ニュートンメートル)で仕事量を

表現する単位系で表される

エンタルピー

式(25)から定圧過程で式(20prime)を利用して次の式(26)が誘導さ

れる

Q =ΔUA+pΔV (26)

ここでQは熱量を表していたのでこの関係式(26)から熱関数として

新しい関数を定義する

新しい関数はエンタルピー(enthalpy)(rarr補遺 p63)と呼ばれ次の関数

式Hで表される

H = U+PV (27)

エンタルピーの微少変化量を記号Δを使って表現してみよう

25

ΔH = ΔU +Δ(PV) =ΔU +ΔPV+ PΔV (28)

独立した系で圧力が一定の下に起きる過程を考えるならΔP = 0 (圧力の

変化はゼロ)であるから式(28)は次のようになる

ΔH =ΔU + PΔV (29)

化学反応の過程を考えるとき系に容積の変化がなく過程の前後で一定であ

るならさらにΔV = 0 であるのでエンタルピーの変化量は

ΔH =ΔU (30)

また系の仕事を体積の変化としてみる式(20)から

ΔW = pΔV= 0

であるのでこれを式(25)へ適応すると

ΔU= Q minus ΔW = Q ΔW= 0 だから

結果的に系の圧力と体積が変化の過程で一定である場合にはその系のエンタ

ルピーの変化を表す式(29)(30)は次のように簡単な式になって熱関

数と呼ばれる意味が理解しやすいだろう

ΔH = Q (31)

独立した系に等圧等積で起きる過程を見る場合にはエンタルピーは系が外

部と交換する熱量の直接的な尺度となる

H>0 なら反応に熱を使うので吸熱反応

H<0 なら発熱反応

電池のように系に起きる化学反応で生じる電子の流れを取り出す装置を考え

る場合エンタルピーの変化を電気エネルギーとして取りだしている点に留意

26

しなければならない式(31)のようにエンタルピー変化が交換される熱

量に直接表現できるといっても必ずしも熱として取り出すとは限らないこと

を注意しよう

ところでエンタルピーは内部エネルギーと同じ次元にある状態量で定圧

変化の熱量がエンタルピー変化であるからある一点を標準として定めれば

すべての物質について任意の点のエンタルピーを変化量として定めることがで

きるすなわち化学反応の過程で発熱あるいは吸熱する熱量は反応材料と

生成物の間の状態変化に対応するエンタルピーに対応する

そこで一つの元素に対してもっとも安定な状態にある物質を標準物質とし

て定め29815K(25)1atm を標準状態としてその標準物質からある化

合物を合成するときの反応熱(発熱あるいは吸熱)をその化合物の「標準生成

エンタルピー」として定義できる多くの元素に対して標準生成エンタルピー

は現在表としてまとめられている

水素や酸素はその気体状態が標準物質でありそれらの標準生成エンタルピー

がゼロと定義される

エントロピー

もう一つ新しい状態関数としてエントロピー(entropy)(rarr補遺 p64)を

定義するエントロピーを表す記号は通常S を用いその定義は次の式(32)

による

S Q

T (32)

エントロピーは系の2つの状態が決まると状態量として決まる

このときQ は2つの状態の間を可逆的に変化したとき系が受け取る熱量

T は系が熱量 Q を受け取ったときの温度(degK)である

「熱力学の第二法則」はエントロピーに関するものである

図9では2つの系が接しておりそれぞれの温度を Thigh Tlowとする

Thigh>Tlow (33)

27

今温度の高い系から温度の低い系に直接熱量 Q が移動したとすれば温度

の高い系のエントロピーの変化量ΔS は熱量が失われるので負の値になる

図9熱の移動

そこで温度の高い系のエントロピーの変化量ΔS を式で表すことにすると

次式のようになる

Shigh Q

Thigh

(34)

一方低い系のエントロピー変化量ΔS は熱量が与えられるため

Slow Q

Tlow

(35)

両方の系を合わせたエントロピーの変化量ΔS は

S Shigh Slow Q

Thigh

Q

Tlow

lowhigh

lowhigh

lowhigh TT

TTQ

TTQ

11 (36)

式(36)の最終項で(33)を前提すなわち最初に温度の高い系は高い

と決めたのだとするならエントロピーの変化量ΔS は必ず次のようになる

28

ΔS >0 (37)

すなわち独立した系がありそれより温度の低い別の系あるいは温度の低

い外界が接した場合熱量は高い方から低い方へ移動するという自然の成り行

きを説明するものである

自然界に置いてエントロピーは

ΔS≧0

の値を取りΔS=0のときは可逆的過程である

今の例でいうなら熱は温度の高い系から低い系へ移動しその逆は起きない

常にΔS >0の方向に過程が進行するまた2つの系が同じ温度であるとき

両者は平衡状態にあって熱量の移動は見かけ上なくΔS=0と表現される

「熱力学の第二法則」はエントロピーによって表現されるもので系の変化が

可逆的であるかどうかを判定する指標であり現実の世界で起きる不可逆過程

が正の値を取る方向へ進むことを示す

あるいは系の変化が起きるとき外界を含めて考えれば総エントロピーが

増大する方向に変化が起きることを意味するというようにも表現される

ギブス自由エネルギー

熱力学の第一法則によってエネルギーの取りうる形である「仕事」と「熱」

は互いに変換されうることを理解したこのことの数量的な意味は1cal=418J

で示されるさらに仕事は100熱に変換可能であるが一方の熱はうま

くやっても100を仕事に換えることができないことを熱力学の第二法則で

説明しようとしたそのためにエントロピーという概念が導入された

ここで電池のような独立した一つの系を見るとき系の内部エネルギーの減

少を仕事として取り出しうるならそれは化学反応を一つの例としてどれほど

の仕事量が取り出せるのかはどうしたら与えられるだろうか

化学反応を電気エネルギーに換える電池では先に正負それぞれの電極におけ

る半反応の平衡電位の値を利用してその起電力に対する最大値を計算した

この化学反応から取り出しうる最大仕事量を与えるものとして新しくギブス

自由エネルギー(rarr補遺 p70)と名付け記号 G を使ってそれを次のように

定義する

29

G = H-TS (38)

H はエンタルピーである第2項にある S はエントロピーを表す

ギブス自由エネルギーは化学反応のような独立した系の定温定圧過程に適

応されるので変化量ΔG を式(38)から得ておこう

ΔG =ΔH-Δ(TS)

=ΔH-(SΔT+TΔS)

温度を一定と考えているのでΔT=0 であるから

ΔG =ΔH-TΔS (39)

この式(39)を書き換える

ΔH=ΔG + TΔS (39rsquo)

ここで定圧過程ではエンタルピーを次のように式(29)で定義できた

ΔH =ΔU + PΔV (29)

式(29)の意味するところを復習すれば

系のエンタルピー変化ΔH は内部エネルギーの変化量と系が外部に

した仕事量の和として表される

これは

定圧過程で系が得るエネルギー量から仕事量を除いたもの

と言い換えることができるエンタルピー変化量は化学反応などの過程で

始めと終わりの2つの状態の差であるからそれが正の値を示す(>0)なら

系のエンタルピーは増加することを意味しその過程が進行するためには系

の外部からエネルギーが供給されなければならない

一方式(39rsquo)の右辺第2項TΔS はエントロピーの定義(32)より

TΔS = Q (40)

であるのでこれは可逆過程で系に供給される熱量を意味する

30

もしエンタルピー変化量が負の値を示す(<0)ならば系のエンタルピー

は減少しその過程が進行することによってエネルギーが取り出せるすなわ

ち式(39)(40)から次のようにこれら3つの状態量を改めて説明する

ことができる

ある化学反応が定圧で可逆的に進行するときそれから取り出せる

エネルギーのうちΔG を仕事として放出し熱量 Q を放出する

標準状態29815K(25)1atm で標準物質からある化合物を合成すると

きの反応熱(発熱あるいは吸熱)をその化合物の「標準生成エンタルピー」

として定義した同様にある物質に対する「標準生成ギブス自由エネルギー」

はこの標準状態で標準物質からその化合物を化学反応で生成するとき式(3

9)によって与えられる変化量をいう

電池における化学反応のギブス自由エネルギー

先にダニエル電池の亜鉛板側に対する電極反応を検討したとき電極反応が

仕事として放出するエネルギーを表現する重要な式があった次の式(17)

である

W = n FV (17)

ギブス自由エネルギーを用いて今これは次のように書くことができるように

なった

W = n FV=-ΔG (41)

この式が表していることを実際に水素の燃料とする燃料電池の反応過程で見

てみよう燃料電池の図を再掲する

図中右にある陰極では水素の酸化反応が起きる

H2 rarr 2H+ + 2e- (5)

一方図では左にある陽極において次の還元反応が起きる

12 O2 + 2e- rarr O2- (6)

O2- + 2H+ rarr H2O (8)

全体の反応はすでに示したように次の反応式(7)で示される

H2 +12 O2rarr H2O (7)

31

標準状態における可逆的仕事は式(41)であらわせ

n FV=-ΔG (41rsquo)

このΔG は式(39)であらわせた

ΔG =ΔH-TΔS (39)

すなわち標準状態29815K(25)1atmにおいてある化合物を標準物

質から合成するときの標準生成ギブス自由エネルギー変化ΔG゜は標準生成エ

ンタルピー変化ΔH゜とその温度におけるエントロピー変化TΔSの差で求ま

るこれらは燃料電池の全反応を表す式(7)で与えられる

標準生成エンタルピーΔH゜変化とエントロピー変化はすでに一般的な元

素やその化合物に対して表が作成されている

液体の水に対する標準生成エンタルピーΔH゜(H2O)は

ΔH゜(H2O)=minus 28583 KJmol

また水素ガスと酸素ガスはそれぞれの元素の標準物質であるので生成エ

ンタルピー変化はゼロである

32

そこで式(7)での水を1モル化学合成するときの標準生成エンタルピーΔ

H゜は水素(ガス1モル)と酸素(ガス12 モル)の2つの材料と水(液

体251atm)の両状態における状態量の差として表される

ΔH゜=ΔH゜(H2O)-ΔH゜(H2) -12ΔH゜(O2) (42)

式(42)の右辺第2項と第3項がゼロであるので

ΔH゜=ΔH゜(H2O) =-28583 KJmol (43)

標準状態29815K(25)1atm における水素(ガス)と酸素(ガス)お

よび水(液体)のエントロピーはそれぞれ

ΔS(H2O)=6991 JKmol

ΔS(H2) =13068 JKmol

ΔS(O2) =20514 JKmol

単位で分母のKはケルビン温度の意味

と計算されているので

ΔS=ΔS(H2O)-ΔS (H2) -12ΔS(O2) (44)

=6991-13068-12times20514

=-16334 JKmol

したがって

TΔS=29815times(-16334)=-486998=-4870 KJmol

(45)

そこで標準生成ギブス自由エネルギーΔG゜は式(39)から

-ΔG゜=-(ΔH゜-TΔS) (39)

=-{-28583-(-4870)}

=+23713 KJmol

33

すなわちこのエネルギーを電気エネルギーとして取り出すことができるそ

の起電力は式(41rsquo)から

n FV=-ΔG (41rsquo)

V= -ΔG(n F)

各数値を当てはめれば

V=237130(2times96485)

=1229 volt

先に【化学反応と電気エネルギー】のところで記したとおり25の基準

状態におけるこの電極電位はE゜=+1229 volt が得られているすなわち

こうして標準生成ギブス自由エネルギーから計算することでも同じ値を得る

ことができた

水素を単純に酸素と化合させる燃焼では式(43)で示されるエンタルピ

ーが発生する熱量を示している水素1モルあたり28583 KJである電池

にすれば水素1モルあたり23713 KJの仕事量が電気エネルギーとして取り

出すことができるその差は電池の場合熱が発生して利用できない

化学反応の過程を利用して化学エネルギーから直接電気エネルギーに変換す

るのが電池という装置であるが化学エネルギーは100電気エネルギ

ーに換えることはできないこのようにエネルギーの一部は電池の熱として

発散してしまう

理想気体の状態方程式

ギブス自由エネルギーΔG を定義した式(39)とエンタルピーΔH の定義

式(28)から

ΔG =ΔH-TΔS (39)

ΔH =ΔU +VΔP+ PΔV (28)

そこで次式が得られる

34

ΔG =ΔU+VΔP+ PΔV-TΔS (46)

またエネルギー保存則から得られた式(26)を応用すればギブス自由エ

ネルギーが変形できる

Q =ΔU+PΔV (26)

から

ΔU=Q-PΔV (47)

したがって式(46)は

ΔG = Q-PΔV+VΔP+ PΔV-TΔS

ΔG = Q-TΔS+VΔP (48)

エントロピーの定義からQ=TΔSであるから結局式(48)は

ΔG = VΔP (49)

と表すことができる

成分が混合された気体分子の分子間に働く力をゼロと仮定した「理想気体」を

考えるとき状態方程式としてボイルシャルル(Boyle-Charles)の法則が

利用できる

PV=nRT (50)

ここでnは気体のモル数PVT はそれぞれこれまでと同じ圧力体積温度(ケルビン温度)でありR は気体定数と呼ばれるもので次の値を持

R= 831441 JmolK (51) 単位で分母のKはケルビン温度の意味

35

状態方程式から式(49)の右辺を導くことを考えてみよう式(50)は

1モルの気体について V に対し次のように変形することができる

V 1

PRT (50rsquo)

両辺に圧力の微小変化量⊿P をかけると

PP

RTP V (52)

これを微分方程式として圧力p0 からp1 まで(p0≦p1)積分するなら

1

0

1

0

1

0

1p

p

p

p

p

pdP

PRTdP

P

RTdPV (53)

関数 f(x)=1x を積分したときの関数はF(x)=ln(x)であるので(ln は e を底

とする自然対数loge)

右辺=0

1ln)0ln()1ln(p

pRTpRTpRT (54)

ギブス自由エネルギーを表す式(49)は次のようであったから

ΔG = VΔP (49)

式(52)から得た式(54)を当てはめると状態G0(p0T)からG1(p1T)

へ変化する過程で圧力が p0 から p1 まで変化するものとして

dGG0

G1

G( p1T ) G(p0T ) RT lnp1

p0 (55)

あるいはこれを書き直して

V

36

G(p1 T) = G( p0T ) + RT lnp1p0

(56)

特別にG0(p0T)を標準状態T=29815K(25)p0=1atmに指定する

なら標準生成ギブス自由エネルギーを記号G゜として (56rsquo)

と表すことができる

式(56rsquo)の意味するところは標準状態から圧力の変化を伴う過程で理

G(p1 T) = Go + RT ln p1

想気体のギブス自由エネルギーは圧力の対数に比例して上昇することである

このことはさらに新しい着想を生む

すなわち水素を燃料とする上の燃料電池で1atm 標準状態の水素ガスの圧力

を2atm に上げれば式(56rsquo)からRTln2 余分にギブス自由エネルギー

が取り出せることになる

燃料電池において起電力を生むエネルギーは隔壁を水素イオンもしくは酸

素イオンが浸透しようとする力であるので1atm の水素ガスと2atm のそれで

は浸透しようとする圧力が異なりここに起電力が生じる

式(56)の第二項が圧力の差による仕事であるからこれをΔG とすれば

W=-ΔG の仕事量が電気エネルギーとして取り出せるはずである

W = minusΔG = minusRT lnp1p0

(57)

起電力に換算するために式(41)を使うと

W = n FV=minus ΔG (41)

から

01ln

pp

nFRTV ⎟

⎠⎞

⎜⎝⎛minus= (58)

この式(58)は一般にネルンスト(Nernst)の式と呼ばれる

37

理想溶液のギブス自由エネルギー

理想気体を想定したように無限に希釈された混合溶液に対して理想溶液を仮

定する「系」の圧力温度を一定に保つならば体積内部エネルギーエンタ

ルピーギブス自由エネルギーなどの示量数は混合溶液を構成する物質のモ

ル数mに比例するたとえば標準状態にある物質の1モルの体積をVとすれば

mモルの体積はそのm倍mVであるそうすると溶液中のi番目の成分がmi

モル「系」から「外界」に仕事をするときその成分iの持つ自由エネルギーの

mi倍の仕事が「外界」になされると考えればよい

この溶液成分のモル数と化学的仕事を結びつける示強因子がギブスによって

化学ポテンシャルと名付けられ一般に記号μが用いられる

化学ポテンシャルはこれまで見たようにギブス自由エネルギーで表される

また電位がψ(プサイ)にある系から-Δeの電荷が放出されるときには

-ψΔeの電気的仕事が得られるそこで記号μに両者を合わせた意味を持

たせて「電気化学ポテンシャル」と呼ぶ

概念の上で物質は電気化学ポテンシャルの高い方から低い方へ勾配にした

がって移動する

理想気体の標準状態が気体分圧を T=29815K(25)で 1atm としたのに対

し溶液成分の標準状態はその分圧に相当するモル数 m を用いるすなわち

標準状態にある成分 i の電気化学ポテンシャルμ0iは成分の持つ電荷(H+なら

1)を n として

μ0i = G i゜+nFψ i (59)

ギブス自由エネルギーは式(56rsquo)を借り理想溶液中の成分に対しては気

体圧力をその成分のモル濃度Cに書き換えればよいそこで

G(CT ) G RT lnC (60)

と表すことができる

したがって一般的な成分 i の電気化学ポテンシャルμiを表す式は標準状態

からの自由エネルギーの変化を考え式(59)と合わせて次のようになる

38

ψnFGii 0

式(60)から

ii CRTGTCGG ln)( 0

よって

(61) ψnFCRT iii ln0

実際的なことを考えると成分濃度はその有効イオン濃度とする必要があり

「活量係数」γを導入して次式で表されるイオン活量aを用いる

ai = γCi (62)

一般的にはγ=1と近似してモル濃度Cを使っているこのテキストでも

必要ではない限りイオン活量を用いることを省略して簡単に記述したい

膜電位

燃料電池に使われたナフィオンのような一つのイオンを通す膜を介して膜

の両側にC0 とC1 のイオン濃度差がある溶液が接するときの電気化学ポテン

シャルを考えよう

ある容器の底にナフィオン膜を取り付け容器の中と外のイオン濃度をC0

とC1としそれぞれの電気化学ポテンシャルをそれぞれμinとμoutとする

式(61)を使って

容器の中の電気化学ポテンシャル

(63) innFCRTin ψ 00 ln

容器の外の電気化学ポテンシャル

(64) outout nFCRT ψ 10 ln

イオン浸透性の膜を介して濃度変化が無視できるほどの移動があると考え

その電気化学ポテンシャルの差を式(63)(64)から求めれば

39

)(ln0

1 inoutinout nFC

CRT ψψ (65)

この系において今注目しているイオンが膜を介した両側で平衡状態にある

とき式(65)はΔμ=0と考えることができるすなわち

0)(ln0

1 inoutnFC

CRT ψψ

膜内外の電位差をΔψ=ψoutminus ψinとすれば

1

0

0

1 lnlnC

C

nF

RT

C

C

nF

RTψ (66)

式(66)は理想気体に対するネルンストの式(58)と同様溶液中のイ

オンに対するネルンスト(Nernst)の式として与えられる

細胞の膜においてもその生体膜の内外でたとえばカリウムイオンのように

非対称に分布して平衡に達している場合には式(66)で与えられる膜内外

で電位差が生じるこれは一般に膜電位と呼ばれる膜電位は平衡電位とも

呼ばれる

たとえば膜内外に1価のカリウムイオンに10倍の濃度差があるとすると

通常カリウムイオンは細胞内の濃度が高いので

C0 = 10timesC1

であるから

これを式(66)に当てはめてln(10)=2303 を用いlog への変換をすれば

Δψ=2303times(RTF)timeslog(10)

であるこれに R=831441 JmolKF=96485 CmolT=29815 K(25)

の各数値を当てはめると

Δψ=2303times831441times29815times196485 JC

=+005917 volt

すなわち膜の内外で約+60ミリボルトの膜電位が生じることになるこの

分だけ細胞の外側の電気化学ポテンシャルが高く膜の内側の膜電位が負であ

るそして膜にあるカリウムチャネルがこの電位を示すとき受動的なカリ

40

ウムの膜内外の移動は平衡に達することになる

水素イオン濃度測定

「標準水素電極」は1モル塩酸溶液につけた白金電極に1atm の水素ガスを

吹き込んで平衡状態に達したときの電位を基準としてゼロボルトと規定した

そこである溶液についてその水素イオン濃度を知ろうとするとき同じ水

素電極を用いることを考えれば標準状態にする目的で用いた1モル塩酸溶液

を濃度未知で X モルの塩酸溶液と想定すればその水素イオン濃度を知るこ

とができるだろうか

標準状態ではない X モルの塩酸溶液に浸けた白金電極が半電池として働くこ

とは間違いなさそうであるしかしその白金電極が持つ電極電位を測定する

にはいずれにしても標準電極と組み合わせて「電池」を構成しその電池

の起電力として計る必要がある電池を作れば起電力を知ることができ相

手の半電池の電極電位が知られていれば濃度が未知でXモルの溶液について

その水素イオン濃度を知ることができるだろう

こうした目的のためにいちいちゼロボルトと規定した標準水素電極を用いる

のは煩雑なのでしばしば後出の「銀塩化銀電極」が参照電極として用いら

れる

まず予め「銀塩化銀電極」を標準水素電極と組み合わせて電池とし一度

その起電力を測定しておけば後はいつもそれを標準電極として利用できる

「銀塩化銀電極」の半電池は

H+ (1 moll) Cl- | AgCl | Ag(s)

これに「標準水素電極」を組み合わせ電池を構成すると次のような電池

になる

Pt(s) | H2(g) | H+ (1 moll) Cl- | AgCl | Ag(s)

この電池の起電力を知れば「銀塩化銀電極」の半電池としての電極電位

を知ることができ参照電極として未知の半電池と組み合わせて起電力を測

定して相手の電極電位を計算できる

41

濃度 X モルの塩酸溶液を未知の溶液と想定すればその電極電位を知るために

組み立てる電池は次のようになる図10にその電池の図を示した

Pt(s) | H2(g) | H+ (x moll) Cl- | AgCl | Ag(s)

この電池の全反応は次の反応式で表される

AgCl(s) 1

2H2 (g) H Cl Ag(s) (67)

図10未知溶液の水素イオン濃度を測定しようとするための電池

化学反応の一般的な式

ここで電池に利用される化学反応から得られるエネルギーをギブス自由エ

ネルギーに換算し起電力を具体的に知る手だてとすることは上ですでに学

42

んだがより一般的な式を再度ここに書きだしておこう

化学反応が紙面で左から右に進む反応として次のような一般式で与えられ

るとき

aA + bB rarr cC + dD (68)

ギブス自由エネルギー変化量は標準状態ΔG゜からの変化量を加える形で式

(60)と同様次の式によって表される

G G RT(ln aCc aD

d ln aAa aB

b )

G RT ln

aCc aD

d

aAa aB

b (69)

aAは成分 A のイオン活量であるその他の成分も同じ

得られたエネルギーを電気エネルギーに換えるなら式(41)に習って

次式で表せば

ΔG=-n FV

there4V=-ΔG(nF) (70)

このときの起電力は標準状態における電位 E゜からの変化量として次式で与

えられる

E E

RT

nFln

aCc aD

d

aAa aB

b (71)

標準状態における起電力 E゜は反応が平衡状態にあるときで反応平衡定数

を K とするなら

K aC

c aDd

aAa aB

b (72)

で表されるそこでE゜は次のように書き改めることができる

43

E

RT

nFln K (73)

そこで式(67)で表される図10の電池「水素minus 銀塩化銀電池」に

対する起電力をギブス自由エネルギーから求めてみよう

反応から式(71)に当てはめれば

E E RT

Fln

aH

1 aCl

1 aAg1

aAgCl1 aH2

1

2

(74)

力学の慣例にしたがって固体の純物質の活量は1として扱い水素ガスを

想気体として見なして活量を1atm とするなら式(74)は次のよう

に簡略化される

E E

RT

Flna

H aCl (75)

ころで理想溶液として近似的に取り扱うときの希薄溶液でたとえば水素

入して詳細に検討するなら式( れる起電

オン濃度はイオン活量として aH+の記号を使うときすでに【理想溶液のギ

ブス自由エネルギー】の章で述べたようにこれを有効イオン濃度とする必要

がありイオン活量 a は「活量係数」γを導入して次式で表した

a H+= γH+CH+ (62)

この活量係数を導 75)で誘導さ

を計ることによって経験的に試料溶液中の水素イオン濃度を求めることは

困難である式(75)にあるイオン活量の項はモル濃度 C と活量係数γを

用いて次式で書き改められる

lnaH aCl

lnCH CCl

lnH Cl

(76)

まり式(76)右辺の第二項において互いに相手が知られなければ自分

決めることができず結果的に起電力を知っても(75)の値から水素イオ

ン濃度を導けないここに工夫が必要になる

44

の定義とその目盛り

液中の水素イオン濃度を直接意味するものではなく

を定義するとき測定されるのは1リットルの溶媒に存在す

pH = -log a H+ = -log(γH+CH+) (77)

際に試料溶液の pH を決定する際はpH 標準液を用いる

に溶液を入れ試料溶液 X と pH 標準液 S を

参 極を接続し電池を作成しその起

pH

現在pH の定義は溶

で述べたようにそれが簡便に測定できるものではないため次のように定

義されている

水素イオン濃度

水素イオン活量であるため定義式としては活量係数をγH+として次式で与

えられる

その要領は次のようである

上に図示した水素電極の容器内

れぞれ半電池(I)と(II)に入れる

半電池(I) Pt | H2 (1 atm) | 試料溶液

半電池(II) Pt | H2 (1 atm) | 試料溶液S

照電極として上図のごとく銀塩化銀電

電力を測定する半電池(I)のときの起電力を E(X)半電池(II)のそれを E(S)

とするこのとき試料溶液Xの pH は次式で計算される

pH (X) pH(S) E(S) E(X)

RT ln(10) (78)

ln(10)は自然対数を常用対数に戻すための定数で2303 を用いる

標準液

pH 標準液 S はpH 第一次標準液第二次標準液と呼ばれるべき

る測定

25で pH 4005 を示す

pH

上述した

のであり絶対的測定法である起電力の測定によって値をつける

標準液は安定で純粋な結晶が得られる試薬を調整してこれを測定す

上と同様に水素電極を用いこれに緩衝液を入れる参照電極として銀

塩化銀電極を接続して電池の起電力を測定する

たとえば005 moll フタル酸水素カリウム溶液は

一次標準(Primary Standard PS)の一つである半電池(III)として水素

45

電極を次のように準備する

半電池(III) Pt | H2 (1 atm) | PS 溶液

て電池を形成したとき得られる起電

参照電極として銀塩化銀電極を接続し

は式(75)から

E E

Ag AgCl RT

Flna

H aCl (79)

オン活量を濃度と活量係数の積(a H+= γH+CH+)にし自然対数を常用対数

すれば

E E

Ag AgCl RT ln(10)

F log(

H + CH+ Cl- CCl - ) (80)

E゜は水素標準電極(水素ガス分圧を1atm電極を浸ける溶液に001 moll

H

Cl を用いる)で得た起電力である

式(80)から

RT ln(10)

Flog(

H CH Cl

) (E EAg AgCl )

RT ln(10)

Flog C

Cl

(81)

らに

log(

H CH Cl

) F

RT ln(10)(E E

Ag AgCl ) logCCl

(82)

ころで式(77)から

(γH+CH+) (77)

-log a H+ =-loga H+-log(γCl-) +log(γCl-) =-log(a H+γCl-) +log(γCl-)

(83)の一番右の式で第一項は

pH = -log a H+ = -log

であるが右の式をさらに変形すると

(83)

46

-log(a H+γCl-)=-log(γH+ CH+γCl-) (84)

たがって式(82)の右辺で示されるように電池の起電力を測定すれば

よ 実際には溶液の塩素イオン濃

液で起電力を求め外挿する

起電

これによってpH を意味する式(83)は次式(85)で与えられる

p(aHγCl)はRG Bates によって Acidity Function と呼ばれている

らに式(85)最終項の log(γCl-) を補正しなければならないこの項は

本工業規格)によっても

であってこれは式(82)の左辺である

いただし塩素イオン濃度の項があって

をゼロにしたときの値が必要である

実測する際には塩素イオン濃度をゼロにできないので塩化ナトリウム NaCl

等を濃度を変えて添加しその時々の緩衝

勧告ではNaCl で 000500100015moll の3つの濃度を例示している

すなわち塩素イオン濃度ゼロのときの値は各塩素イオン濃度に対して

の値をそれぞれプロットしグラフから塩素イオンがゼロのときの起電力の

値を3点に対する回帰直線の延長で外挿して求めるこの点を次のように書

log( C H H Cl CCl

0

pa log( C log( (85) H H H Cl C

Cl0 Cl

)

素イオンの活動係数で与えられる補正項である

無限希釈溶液中のイオンの活動係数は理論的に Dubye-Huckel の式を用い

近似的に求めることが可能であるこれはJIS(日

用されていて Bates-Guggenheim の規約と呼ばれる (Bates RG

Guggenheim Pure Appl Chem 1 163-168 1960)

Dubye-Huckel の式は次のように与えられる

log A I

i 1 iB I (86)

47

I iについてそのモル濃度

計算される

はイオン強度でイオン mi と電荷 zi から次式で

I 1

2mizi (87)

また iは(86)式のBは温度と溶媒の性質による定数であり イオンの大

きさに関するパラメータで水和イオンの大きさとほぼ一致した値をとる標

準法の勧告では塩素イオンに対しイオンの大きさを46Åと決めてiBを

1

5 にしているそこで式(84)は次のようになる

ClA I

log 1 15 I

イオン強度 I は塩素イオン濃度を含まない計算となる

以上の方法によって実用的な pH 測定に用いられる第一次第二次標準液の

pH の値が得られる

絶対値としての

はpH の絶対測定法(第一次標準測定法)とされている

銀塩化銀参照電極は分極現象を防ぐために棒状の銀を塩酸で処理し表

に塩化銀を生成させたものを飽和塩化カリウム溶液につけてある

(88)

参考現在は実験的に求めた値と理論値の組み合わせで

素イオン濃度を求める方法を規定しているこの起電力から水素イオン濃度

を知るための測定方法

Buck RP Rondinini S Covington AK Baucke FGK Brett CMA Camoes MF

Milton MJT Mussini T Naumann R Pratt Kw Spitzer P Wilson GS

Measurement of pH definition standards and procedures Pure Appl Chem

74(11)2169-2200 2002Kristensen HB Salomon A Kokholm GInternational

pH scales and certification of pH Anal Chem 63(18) 885A-891A 1991)

銀塩化銀参照電極

電極の構成は

Cl-(aq) | AgCl(s) | Ag(s)

48

この半反応は次のようになる

AgCl(s) + e- rarr Ag(s) + Cl- (89)

の反応は次の2つの反応に分けて考えることができる

Ag+ + e- rarr Ag(s) (91)

AgCl(s)rarr Ag+ + Cl- (90)

図11銀塩化銀参照電極

(90)における銀 る塩素イオンによって左

されることが推測される

そこでカッコ [ ] をそれによって囲まれるイオンの濃度を表すことにし

式 イオン Ag+の溶解性は共存す

塩化銀の乖離定数Kを考えると

49

K = [Ag+][Cl-] (92)

これから

[Ag+]= K[Cl-] (93)

化カリウム溶液に漬けた銀塩化銀電極の電位 E は水素標準電極に対する

電 で与えられる

位を E゜として次式

E E

RT

nF

[ Ag ]

[Ag(s)]ln( )

Ag(s)のイオン活量は常に1とする

ここで半反応の電極電位を求めるために式(75)を利用することにすれば

(94)

熱力学の慣例にしたがって純物質個体

E E

RT

Flna

H Cl a (75)

式 の半反応をみると

応で電子1つが移動するので n=1 とするR=831441 JmolK1F = 96485

C はめれば

これに銀イオンの濃度として式(93)を当てはめる

この反応で移動する電子は (89) 銀イオン1つの反

molT=29815K(25)ln(10)=2303などの定数を当て

2303RTF = 005917

であるから(94)式は次のように表現できる

log[Cl]) E E 005917(logK (95)

たがって標準水素電極に対する銀塩化銀参照電極の標準状態における電

位 は半反応(89)に対して ゜=+0799で

化銀の乖離定数 K は182times10-10 であるのでその対数を取れば-973993

0799-005917times973993-005917log[Cl-]

E゜ E ある

ある

そこで式(95)は

E =

50

= 0799-0576-005917log[Cl-]

= 0223-005917log[Cl-] (96)

電極電位の関係について実測値

こうして求めた塩化カリウム溶液の濃度と

計算上の値は次のようである

KCl moll vs SHE volt25 計算値 volt25 01 02881 02822 35 0205 01908 飽和 0199 minus

実用 測定

実際の現場で水素イオン濃度を測定する目的の測定法で上のような2つの

極が同じ溶液に浸かっていたのでは試料溶液を交換するにも便利ではない

の容器に入れる未知試料溶液と銀塩化銀電極を隔離する

的な pH

そこで水素電極側

的で二つの電極容器をつなぐ液絡部をグラスフィルターやセラミック板

飽和塩化カリウムで作成したゼラチンなどの塩橋によって隔離遮断するこ

れを液絡部とよぶ

電池として機能するために必要な溶液イオンの交換はこの液絡部で行う

組み立てる電池は電池式で次のように表される

Pt(s) | H2 | 試料 (H+ x moll) || 飽和 KCl | AgCl | Ag(s)

の標準電極と銀塩化銀電極とは区切られていて溶液の直接の接触がない

とを意味するために電池式ではタテ二重線を用いる銀塩化銀参照電極

の容器には飽和塩化カリウム溶液が入れられる

51

図12液絡部のある pH 測定のための電池

この液絡部のある電池では塩橋を記号lsquo | | rsquoで表して次のように記す

試料 (H+ x moll) | | 飽和 KCl

ここでは試料溶液と飽和塩化カリウム溶液の異なる2液が接している

このような界面では膜電力が生じるのと同様「液間電位差」が生じることが

知られているしたがって上の電池で測定される起電力 E は

E = E[銀塩化銀電極電位]+E[液間電位]+E[水素電極電位]

で与えられることになってE[液間電位]のために図12の電池の起電力

は銀塩化銀参照電極の値を知っていても水素電極容器内に入れた未知溶

液の水素イオン濃度を正しく知ることができない

52

そこで実用的な測定法としてこの E[液間電位]を膜電位として積極的に利

用する方法が工夫されたすなわち水素イオンに感応するガラス薄膜を用い

るガラス電極法である

53

ガラス電極

ガラスはケイ素原子と酸素原子からなる SiO4 の結晶構造を持ち酸素で囲

まれた空隙があって水素イオンがそれを埋めることができる

この性質によってガラス膜表面は水溶液中の水素イオンに応じて膜電位を

変化させるのでこれを水素イオン濃度測定用の電極として利用することが考

えられるこれが通常用いられるガラス電極である

ガラス電極は標準電極と組み合わせれば電池を構成することができこの電

池の起電力を知ってガラス薄膜の内外にできたイオン濃度勾配を知ろうとす

るものである

薄いガラス膜(01mm程度)をはさんで接する2つの溶液のH+イオン濃

度が異なるとその差に応じてガラス膜の両側に電位差(Eg)が現れる

ネルンストの式でガラス電極の内部に入れた既知の濃度のH+([H+]in)に対

し試料中の水素イオン濃度が[H+]sampleのとき次の電位を生じる

)][

][log(059170)

][

][ln(

sample

in

sample

ing

H

H

H

H

F

RTE

(97)

図13ガラス電極

電極を構成するのは銀塩化銀電極と同じ電極で用いる塩溶液は一般的

54

に 01モル塩酸溶液である

この半電池の電池式は次のように書くことができる

Ag(s) | AgCl(s) | HCl (01 M) | ガラス薄膜 || 試料溶液 H+ (x moll)

Eg

この半電池の電極電圧を測定するために銀塩化銀標準電極と組み合わせ

電池を作って起電力を計る

構成される電池は下図のようになる

ガラス電極 銀塩化銀標準電極

図14ガラス電極を用いた pH 測定用の電池

この電池の起電力は次の各半電池の平衡電位を合わせたものになる

55

E1ガラス電極の内側電位

Ag(s) | AgCl(s) | HCl (01 M)

Egガラス薄膜の内外に生じる膜電位

HCl (01 M) | ガラス薄膜 || 試料溶液 H+ (x moll)

E2液間電位(膜電位)銀塩化銀標準電極のセラミックを介した試料溶液

と銀塩化銀標準電極の内部液(飽和 KCl 溶液)の間に発生する電位

試料溶液 H+ (x moll)|| セラミック | KCl(飽和)

E3銀塩化銀標準電極

KCl(飽和)| AgCl(s) | Ag(s)

pH メーター用のガラス電極に使われるガラス薄膜は水素イオンに感応して

膜電位(Eg)を生じるこれは【膜電位】の章で記したように薄膜がある

一つのイオンのみを通過させる特性を持っている場合にイオンが膜を介した

両側で平衡状態に達したとして電気化学ポテンシャルを膜の両側で等しいと

考えてそのイオンが濃厚な側から希薄な側にその差によって圧力を生じると

するものである

一方同じ試料溶液が銀塩化銀標準電極のセラミック液絡部を介して生じ

るだろう液間電位(膜電位E2)はいま関心がある水素イオンに対して特異

的に感応するのではないので試料溶液の水素イオン濃度に関係なく一定と見

なすことができる

すなわちpH メーターを構成する電池の起電力 E は

E = E1+Eg+E2+E3 (98)

このうちEg以外は一定と見なせるので

E1+E2+E3 = E

として式(98)を書き直すと

)][

][log(059170

sample

ing H

HEEEE

(99)

Eは標準液によって校正されるべき標準電極電位である

56

電極の校正

実際のイオン濃度を測定する場合低濃度標準液と高濃度標準液で得られ

る起電力を測定し計測のイオン濃度に対する係数(傾き)を求めておき未

知の試料に対して起電力を測定してそのイオン濃度を算出する方法が採られる

低濃度標準液と高濃度標準液のそれぞれの濃度をCLとCHとすればそれぞ

れの起電力ELとEHは次式で表される EH = E +β logCH (100)

EL = E +β log CL (101)

ただしβは式(99)の係数を簡略にしたものである

式(100)と(101)から検量線の傾きが次式で表せる

ΔE = EH minus EL = β(logCH minus logCL) = β logCH

CL

(102)

したがって係数βは

β =ΔE

log CH

CL

(103)

であらわされる

このときに使われる標準はすでに前出の pH 第一次標準第二次標準溶液で

ある

金属イオンに対応するイオン選択電極

現在臨床検査で日常的に使われている電解質測定のための電極はナトリウ

ムカリウムカルシウムクロールなどおよそ臨床的に必要な金属イオン

に対して入手可能である

カリウムイオン測定用のバリノマイシンの発見によってクラウンエーテルと

57

呼ばれる一連の化合物が知られたクラウンエーテルはその分子の中心に立

体的な空間を持ち特定のイオン径に対し合致するのでそのイオンに対して

選択的に感応するこれらの化合物はイオノフォアと呼ばれる

図 15クラウンエーテル

1つの金属イオンが環状化合物

15-crown-5 の中央にある空間を充填

している模式図

15-crown-5 の構造を作る10個の黒

い丸は炭素炭素2個のつながりごと

にある中心の白い丸は酸素酸素と

金属イオンの間の距離はおよそ 22~

23Åであるカリウムのファンデン

ワールス半径は 135Åイオン半径は

15~16Åである

測定したいイオンに対しポリ塩化ビニル(PVC)を支持体としてイオノフ

ォアを添加した液膜の電極膜を作成しこれをガラス電極におけるガラス薄膜

と同様試料に接する電極膜として用いるこの構造から一般的に液膜型電極

と呼ばれる電極膜には特異性を高めるため妨害イオン排除剤などが添加

される

pH メーターと同様銀塩化銀標準電極と組み合わせ電池を形成しその

起電力を計る測定したいイオンが液膜に対して内外で平衡に達したときの

膜電位を測定するのはガラス電極と同じである

カ リ ウ ム イ オ ン に は Bis[(benzo-15-crown-5) ( 正 式 名 は

Bis[(benzo-15-crown-5)-4-methyl]pimelate)ナトリウムには Bis[(12-crown-4)

やDibenzyl-bis[(12-crown-4)などがイオノフォアとして用いられる

58

図16カリウムイオン測定用に使われるクラウンエーテル

図17ナトリウムイオン測定用に使われるクラウンエーテル

59

参考イオン選択電極に関する文献Xia Z Badr IHA Plummer SL Cullen L

Bachas LG Synthesis and evaluation of a bis(crown ether) ionophore with a

conformationally constained bridge in ione- selective electrodes Anal Sci 14(2)

169-173 1998 Oh K-C Kang EC Cho YL Jeong K-S Y oo E-A Paeng K-J

Potassium-selective PVC membrane electrodes based on newly synthesized

cis- and trans-bis(crown ether)s ibid 14(10)1009-1012 1998 Dojindo WEB

site httpwwwdojindocojpwwwrootproductsjinfo2protocolp31pdf

<補遺> 60

補遺 状態関数 (本文 p21 10 行目参照)

一つの平衡状態にある系 A とこれに接する系 A にとって外部である系 B について系 B

から系 A に熱を与えこれによって系 A が他の平衡状態に移ったとき系 A はその結果とし

て膨張し系 B に対し仕事をする

このときの微少な熱量の移動を記号drsquoQ またなされた微少な仕事をdrsquoW とすると

系Aの内部エネルギーに関する微少な変化drsquoUA は両者の和として表される

WdQdUd A primeminusprime=prime (a-1)

この式 a-1 と本文中の式25との関係について

WQU A Δminus=Δ 本文(25)

<補遺> 61

式 a-1 と式25の記号の違いは変化の起きる前の平衡状態 S1 から変化後の平衡状態 S2

に状態変化があったとするなら式 a-1 を積分することで式25が得られるものと考えて区

別している

A

S

S A UUd Δ=primeint2

1 (a-2)

このことは重要であるすなわち内部エネルギーU は変化の起きる前後の状態を指定する

ことによって値が定まることを意味するこのように積分によって値を定めることが出来る

のでdrsquoU は完全微分であるという

内部エネルギーのように系の状態だけで値の定まる量を状態関数として扱う

一方式 a-1 のdrsquoQ drsquoW についても同様に微少の変化量を表しているが平衡状態 S1

から S2 への経路を指定しなければ積分の値は定まらない

本文中の記号にしたがって仕事量ΔW を次のように表すことにする

VpW Δ=Δ 本文(20) V

<補遺> 62

体積と圧力の関係を表す図を使ってこの仕事量が意味することを考える圧力 prsquo の下で

体積が V1 であるときを状態 S1 として圧力一定の下で体積を V2 まで膨張させるような変

化を行った後体積を等しく保って圧力を p にまで上げたときの状態を S2 とするこのとき

の仕事量は膨張に伴うものであるから図の体積‐圧力線の下の面積で示すことができる

平衡状態 S1 から S2 への変化の道筋を別にたどってみよう

新しい経路では圧力を先に p まで上げた後に膨張変化させている

図から直感的に明らかであるので数式での扱いを省略するが2 つの経路による仕事量には

差がある

すなわちdrsquoW は drsquoU と異なり変化の初め S1 と終わり S2 の状態が与えられても積分値

は定まらず変化の経路によって違ってくる

このように変化の経路を指定しなければ積分値が定まらないものを不完全微分と呼び扱

いを区別する

本文 p21 へ戻る

<補遺> 63

VpW

WQU

VpQU

VpUQ

1122 SSSS pVUpVUQ

pVU

VpUHHHQ SS 12

エンタルピー (本文 p24 20 行目参照)

本文中の式 20 および 25 から一定の圧力の元で起きる状態変化において内部エネルギー

の変化量に対する式 a-3 を得る

本文(20)

本文(25)

(a-3)

式 a-3 を Q について書き直す

(a-4)

状態の変化が平衡状態S1から平衡状態S2に移ったものとして式 a-4を丁寧に書き直すと

(a-5)

並び替えて

(a-6)

式 a-6 を見ると定圧過程における熱量の流入は

(a-7)

の形を持つ関数の差であることが分かる

一般に化学反応のような変化の過程では大気圧の下で行われるようなものに興味がある

そこで式 a-7 で与えられる項を一つの関数として定義するこれをエンタルピーと呼び記

号 H を与える式 a-4 はエンタルピーの変化量で次のように書き改められる

(a-8)

圧力が一定の下で起こる状態変化について流入する熱量は式 a-8 で示されるようにエンタ

ルピーの変化量に等しい

V

V

V

V V

V

V

1212 SSSS VVpUUQ VV

<補遺> 64

1Q

We

また式 a-8 からオートクレーブ内で起こるような体積変化のない過程ではこの値が内

部エネルギーの変化量で与えられることが明らかである

本文 p24 へ戻る

エントロピー (本文 p26 17 行目参照)

エントロピーは次のような思考実験から発想された仮想的な状態関数である

理想気体よりなる系 A が温度 T2で熱平衡状態にあり温度 T1の外部の熱源と接しているこ

とを想定する系 A の外部を系 B と呼ぶことにするT1は T2に対して無限小だけ高い温度と

する

系 A が系 B に対して温度圧力について平衡を保ちながら緩慢に系 B より熱量 Q1を受け取

る過程を考える(このような過程を準静的過程と呼ぶ)これによって系 A が熱量 Q1を得て膨

張するとき系 B に対して仕事をする続いて系 A から熱量 Q2が系 B に戻ることを考える

想定されるこの変化が可逆的であれば系 A と系 B を併せた全体は元の状態に戻る蒸気機

関に関するこのような研究が Nicolas Carnot によってなされたのは1824 年のことであった

ここに想定されたサイクルに対する Carnot の効率 e は移動した熱量となされた仕事によ

って定義され次の式で表される

(b-1)

<補遺> 65

理想気体では内部エネルギーU の変化ΔU はゼロと考えるしたがって熱力学の第一法

則を表す式(本文中の式25)から次の関係が示される

0=Δminus=Δ WQU

WQ Δ= (b-2)

これによってCarnot Cycleの効率eはQ2lt0 として次のように書き改めることが出来る

1

21

QQQe +

= (b-3)

ところで気体の状態方程式から1 モルの気体について次のような関係が示される

RTV

P

P1=

V = RTV (b-4)

V 式 b-4 の両辺に体積の微少変化量ΔV をかけて

(b-5)

これを体積Vについてその変化をV1からV2までとして積分するならば次式が得られる

VV

RTVP Δ=Δ 1V V

V

intint = 2

1

2

1

1V

V

V

VdV

VRTPdV

1V2V

11 lnRTW =

(b-6)

Q1の熱量によって起こる膨張がV1よりV2までとし圧力P温度T1の下でなされるその仕事

量をW1とするならそれは式b-6 の右辺によって示されるすなわち

(b-7)

VV

1

2lnVVRT=

V V

VV

V

V2int V2 intV1 V1

<補遺> 66

またQ2の熱量の移動が圧力P温度T2の下で起きこれによって系Aが可逆的に圧縮され

るなら体積変化はV2よりV1まで起こりその仕事量をW2で示すと次式のように表される

(b-8)

1

22

2

122 lnln

VVRT

VVRTW minus==VV

VV

Q1=W1Q2=W2の関係から式b-7 およびb-8 を用いてCarnot Cycleの効率eを表す式b-3

を書き改めると温度のみの関係式として次のように表される

1

21

TTTe minus

= (b-9)

ここでサイクルが可逆的過程であると想定するならば式 b-3 と式 b-9 から

1

21

1

21

TTT

QQQe minus

=+

= (b-10)

これから

12112111 QTQTQTQT minus=+ (b-11)

整理すると

02

2

1

1 =+TQ

TQ (b-12)

この考えをさらに発展させ系A

と系Bの間に数多くの系を挿入すること

にしてそれらの系を同様に熱源として

T1T2Tnと考えるこれによっ

て熱の受け渡しが系Aから系Bに至り

再び系Aにもどるサイクル過程に数多

くの寄り道の過程を加えることになる

熱量の移動に関して上の場合と同じく

準静的過程で行われると考えるこの

サイクル全過程について初めと終わ

<補遺> 67

n

i i

i

T

Q

1

0

0T

dQ

T

QS

T

dQASAS )()( 12

りが同じ状態になる可逆的な過程であるなら式 b-12 を拡大的に考えることになってそれ

は次式で表される

(b-13)

式 b-13 には重要な関数が現れるすなわち熱量と温度の比QT である

もし一つの系が無限小だけ温度の高い(dT )外界から温度圧力など平衡を保ちなが

ら極めて緩慢な過程(準静的過程)で無限小の熱量(dQ )を受け取るならばその変化は可

逆的でありdT について連続的な温度分布をする過程を考えるとき式 b-13 をさらに発展

させて次のように積分式で示すことが出来る

(b-14)

式 b-14 で積分記号にが付されているのはCarnot Cycle のような経路を一巡することを

意味している

Carnot の熱機関の効率という着想から生まれた熱量とそれを持つ系の温度との比 QT に

重要な意味を見出したのは Rudolph Clausius で彼はこの比にエントロピーという名前を与

えたエントロピーには記号ΔS を一般に用いる

(b-15)

エントロピーは初めと終わりの状態がわかれば過程に関わらず定まるので状態関数であ

系 A と外界のエントロピー変化を考えるときそれが可逆的過程であるならばすべてを併

せた全体のエントロピー変化は初めと終わりに変化がないという意味でゼロであるすなわ

ち初めの状態を S(A1)とし次の状態を S(A2)とするならそれぞれのエントロピーを

ΔS(A1)ΔS(A2)としてこの間におけるエントロピーの変化量は次のように示される

(b-16)

<補遺> 68

T

dQdS

0T

dQ

ある一つの変化については次のように示される

(b-17)

ここで式 b-17 の S に付けられたdは微分量すなわちごく微小の変化量を意味し式 b-15

で定義されたエントロピーに用いられる一般的な記号Δと区別する

ところで式 b-10 の関係においてもし移動した熱量のすべてが仕事に変わらなければ

効率 e を表す熱量を用いた関係式と温度で表される関係式は等号で結ぶことができないそれ

はエネルギーのロスを意味し初めと終わりの状態が異なってしまうことを意味するすなわ

ち全過程が構成する一つのサイクルは可逆的でなくなる

不可逆過程での熱効率 ersquo は 大値を示す可逆的過程の熱効率 e より小さな値をとる

ee

したがって 大効率を与える式 b-8 と式 b-3 から

01221

2112

1

21

1

21

QTQT

QTQT

Q

QQ

T

TT

両辺を T1T2で割ると

02

2

1

1 T

Q

T

Q

これを式 b12 と同様に発展させれば式 b-14 についてサイクルの変化が可逆的過程の

場合と不可逆的過程の場合の両方を併せClausius の不等式と呼ばれる次の関係が成立する

(b-18)

式 b-18 の等号が成立するのはサイクルが可逆的な理想の場合に限られる

ある孤立系で状態 A1 から状態 A2 へは不可逆変化で進められ状態 A2 から再び状態 A1

に戻るとき可逆変化であるような閉じた状態変化を考える可逆系のエントロピー変化には

記号 Q を使い不可逆変化には Q を用いるとするとそれぞれ積分式を用いて状態 A1 から

状態 A2 へは

<補遺> 69

d prime

状態 A2 から状態 A1 に戻るときは

全体では

=d prime

+d

(b-19)

Clausius の不等式から

0

式(b-19)の第二項で反応を逆に進めるときには次のように書き改めることができる

=d

よって式(b-19)は次のように書き直すことができClausius の不等式とあわせると

d prime d

0

すなわち

d prime d

上式の右辺は式(b-16)を用いて表せば

d prime

∆S ∆

この状態変化を微小変化とするならば断熱変化の場合 dQ = 0 であるから

∆S ∆ dS 0

すなわち不可逆変化を含む断熱変化ではエントロピーは必ず増大する

<補遺> 70

T

QS

BA SSS

(b-20)

(次の<補遺>ギブス自由エネルギーも参照せよ)

本文 p26 へ戻る

ギブス自由エネルギー (本文 p28 27 行目参照)

エントロピーの考えを導入することによって不可逆的に状態変化が起きるときにはエン

トロピーの増大を引き起こすことを知ったこれによって目前で起きる現象について温度の

変化があるものであれないものであれまた圧力の変化があるものであってもエントロピー

の定義式によって可逆的な変化におけるエントロピーの変化量を計算することが可能である

(b-15)

しかしながらこれから起こる変化について我々がすでにあらかじめ知っている物理量を

用いて予測的にその状態変化が起きるかどうか知ることは必ずしも容易ではないその理由

は式 b-15 に示されたエントロピーΔS が系とその外界をあわせた全体のエントロピーを示

しているからであるすなわち関心のある系を系 A としその外界を系 B とすると全体

のエントロピーは次のように表せる

(c-1)

関心のある系 A のエントロピー変化を知るためには系 B のそれを知ればよいがそれは

いつも容易とは限らない系 A の性質だけで状態変化の方向を知るには別の観点が必要にな

るようだ

そこでもう一度状態変化が熱量 Q の移動によって起きることについて考えてみようエン

トロピーの補遺で議論したように熱量の移動が準静的過程により行われるときには変化は可

逆的に起こると考えたこのとき外界すなわち系 B から移動する熱量を Q1とし系 A から

0S

<補遺> 71

21 QQ

T

Q

T

QSB

21

T

QSS A

2

QH

T

HSS AA

AA STHST

のそれを Q2 と記号を当てたのでこれをそのまま使うことにすれば可逆的な過程では系 B

の熱量 Q1 はすなわち系 A から戻る Q2 に他ならないので両者には次の関係が成立するも

のとしてよい

(c-2)

したがって

(c-3)

と考えてよくこれによって式 c-1 を次のように書きなおすことが出来る

(c-4)

独立した系で圧力とその体積に変化がなく一定の条件の下で状態変化が起きるときエン

タルピーの考えを使ってすでにひとつの関係があることを導いている

本文(31)

そこで式 c-4 を系のエンタルピーΔHAによって書き改めれば

(c-5)

この両辺に-T をかけて式を書き直せば次の関係式が得られる

(c-6)

式 c-6 を見るときその右辺がマイナスの値ならば左辺のΔS はプラスの値をとることが

分かるすなわちエントロピーが増大すると見ることが出来るこれまでの過程で自然の現

象はエントロピーが増大する方向に進むとしてきたので関心のある状態変化について式 c-6

の右辺で計算される値がマイナスの値ならばその変化は起きるものと考えてよいことになる

だろうしかも右辺はすべて独立した系の状態量で示されていて我々が知りうる値で計算

<補遺> 72

TSHG

STSTHG

STHG

可能である

そこでこれを熱力学ポテンシャルを表すものとしてギブス自由エネルギーと呼ぶことに

するギブス自由エネルギーは記号 G が用いられ次のように定義される

(c-7)

ここで関心があるのは自由エネルギーの絶対値ではなく式 c-6 に示されたようにその変化量

に興味があるので式 c-7 から

(c-8)

温度が一定の条件の下で状態変化が起きることを考えるなら式 c-8 は次のように書くこと

ができる

(c-9)

ギブス自由エネルギーは式 c-9 の右辺がすべて状態量であるからこれも状態量の一つで

ある定圧定温の条件下で起きる変化ではすでに議論したようにΔGlt0 であれば状態

変化は自発的に起きるものと予測できる

つまり式 c-5 の第一項は系のエントロピーΔSAそのものであり第二項で示されるエンタ

ルピーは系 A の温度が一定に保たれているのであるから発熱する熱量として外界に吸収さ

れるものであってこれは外界のエントロピーの増大につながるものとして解釈されるした

がって化学反応のように一定の圧力と一定の温度の下で起きる変化について自由エネルギ

ー変化量はその状態変化が自発的に起きる傾向を示しているといってよい

本文 p28 へ戻る

  • はじめに
  • 目次
  • 電気エネルギー
    • 金属のイオン化
    • 電池
    • 水素の反応
    • 燃料電池
    • 化学反応と電気エネルギー
      • エネルギーと熱力学
        • エネルギー保存則
        • エンタルピー
        • エントロピー13
        • ギブス自由エネルギー
        • 電池における化学反応のギブス自由エネルギー13
        • 理想気体の状態方程式
        • 理想溶液のギブス自由エネルギー
        • 膜電位
          • 水素イオン濃度測定
            • 化学反応の一般的な式
            • pHの定義とその目盛り
            • pH標準液
            • 銀塩化銀参照電極
            • 実用的なpH測定
            • ガラス電極
            • 電極の校正
            • 金属イオンに対応するイオン選択電極
              • 文献
              • 補遺
                • 状態関数
                • エンタルピー
                • エントロピー
                • ギブス自由エネルギー
Page 14: イオン選択電極i イオン選択電極 Ion Selective Electrode (ISE) を理解する ・ pHを測定する ・ NaやKなどのイオン濃度を測定する 神戸大学医学部保健学科

11

図4ナフィオンを使った燃料電池

陰極では水素の酸化反応が起きる

H2 rarr 2H+ + 2e- (5)

一方陽極では次の還元反応が起きる

12 O2 + 2e- rarr O2- (6)

O2- + 2H+ rarr H2O (8)

全体の反応は反応式(7)で表される

12

H2 +12 O2rarr H2O (7)

こうして開発された電池は「燃料電池」とよばれている燃料に水素ガスが

利用される

反応式と図に示した気体酸素は通常の空気が利用され反応で生じた水と酸

素以外の利用されない気体元素は排気される

この燃料電池は水素と酸素を遮断し水素イオンだけを通過させる固体電解

質を使ったこれは上の半反応(5)で生じた水素イオンの処理を考えたわ

けである

これに対して半反応(6)で生じる酸素イオンを移動させる工夫もある

図4安定化ジルコニアを使った燃料電池

安定化ジルコニア(Stabilized Zirconia ZrO2CaO)は高温下で酸素イオン通過

性のある固体電解質として開発されたジルコニウムに10モル程度の酸化

カルシウムを加え結晶を作ると+4価のジルコニウムイオンの位置の一部を+

13

2価のカルシウムイオンが占めるできあがった安定化ジルコニアはこのカ

ルシウムの数だけ酸素イオンの不足が起き固体全体を電気的中性に保つた

めに酸素イオンの透過性ができるジルコニアの両面に白金粉末を焼き付け

それに白金のリード線を取り付ける焼き付けられた白金には多くの孔があり

その孔を通して気体とジルコニアが接触する

酸素イオン導電性の固体電解質としてジルコニアを用いた燃料電池は次

のように動作する

1)空気極(右側)に入った酸素 O2は電極で電子を受け取り酸素イオン O2-

になる

12 O2 + 2e- rarr O2- (6)

2)O2-は固体電解質ジルコニア中を移動していき燃料極(左側)で H2 と

反応し水 H2Oを生じるこの過程に伴って電子が放出される

H2 + O2- rarr H2O+ 2e- (9)

3)これら結果として外部回路に電流を取り出すことができる

燃料電池の起電力は酸素イオンが電解質中を移動することにより生じる

酸素イオンが移動する駆動力は固体電解質の両端すなわち燃料極と空気極

の酸素濃度差である

14

化学反応と電気エネルギー ダニエル電池の陰極は亜鉛板が硫酸亜鉛の水溶液につけられていたこのと

きの現象は次のように説明された亜鉛は電子を亜鉛板電極に残し陽イオン

となって出て行くその結果亜鉛板電極中に電子が余分にたまる

ダニエル電池の陰極の「電極電位」はこの電極に余分にたまっている電子の

量をさしているそれではこの半反応による電極電位を測定することができ

るのだろうか半反応は次のように示される

Zn(s) rarr Zn2+ + 2e- (1)

亜鉛が1モル反応すると2モルの電子が持つ総電荷量が流れる

1電子の持つ電荷量は16022x10-19 C (Ccoulombクーロン)であ

るから

1モルの電子の総電荷量はアボガロド数をかけて 96485 = 96485 x 104 Cmol

であるこれを1F1ファラデーと表す

1F = 96485 x 104 Cmol 亜鉛が1モル反応すれば2モルの電子が持つ総電荷量が流れるのでこれを

記号 q として表すと次の電気量が得られる

q = 2F (10)

化学反応によって取り出せる電気量はこのように計算される

それでは電気エネルギーとしてその電力はどのようになるだろう

電力は

電力=電圧times電流times時間 (12)

電流times時間=電気量であるから式(12)を書き直せば

15

電力=電圧times電気量 (13)

ここで電気量 q は式(10)で表しているので

電力=電圧timesq=電圧times2F (14)

と書くことができる

電圧を記号Vで表すことにし電力をWにすれば式(14)は

W = 2FV (15)

として表しておくことができる

電圧の単位系は仕事量が電力Wであるので(13)から

V= W q (16)

仕事量をジュールJ(ジュール)で表せば電圧はJ C (ジュールクー

ロン)でその単位を表現することができる

式(15)の表すところは亜鉛を化学反応の材料として得られる電力という

仕事量がその電力すなわち電極電位で決定されることを意味している

一般に化学反応で1分子の材料を消費しn個の電子が流れることをその

半反応で知ることができるとき式(15)を一般化して次のように得られ

る電気エネルギーを表すことができる

W = n FV (17)

化学反応によって生じる電子を取り出し回路に導けばここに電流が生じる

その起電力(V)は陽極陰極のそれぞれの電位をE+E- と記号で表し

て次式で書くことができる

V= E+-E- (18)

16

ここで問題になるのは陽極陰極のそれぞれの電位E+とE-で上に議論し

たように回路を形成しなければそれぞれの電位は決定できない

ここでいま片方の電位をゼロとすれば式(18)はたとえばE- = 0 で

V= E+

として陽極の電位が決まる

そこで申し合わせにより水素の半反応による電位をゼロとすることになっ

その半反応の式は水素の還元反応として次のように表せた

2H+ + 2e- rarr H2

標準にはMax Julius Louis Le Blanc (1865-1943) が発明した水素電極を用

いるこれを標準水素電極(Standard Hydrogen Electrode SHE)とよびこの

電極電位をいつも 0 volt(ゼロボルト)と取り決めている

図6に示した水素電極は1atm の水素ガスとそれに平衡状態にある水素イオ

ンが存在し次の半反応が平衡状態にある

H2 (g 1 atm)rarr 2H+ (aq 1 M)+ 2e- (5) g は気体を示す

この反応において平衡状態にある電極電位を 0 volt と定義する

電極に白金を用いるのは電極材料自体が溶解しないものであることすなわ

ちイオン化傾向の低いものであることまた水素イオンの還元に対してな

るべく活性の高いものであることが条件として求められるが白金はこの2つ

の性質を兼ね備えていて陽極の電極材料に適している

気体の標準状態は1atm を標準としているこの分圧を維持し溶液中の水

素イオン活量を1にする水蒸気の分圧が変化すると平衡電位は変化する

17

図6標準水素電極(0ボルトの基準)

標準水素電極は1モル塩酸溶液につけた白金電極に1atmの水素ガスを吹き込んで使う

白金電極は分極を防ぐために白金板に白金メッキを施し(白金黒とよばれる)上半分

を水で飽和させた(1atmの水蒸気分圧が必要)1atm(101325 kPa)の水素ガスを流し

下半分を1moll の塩酸溶液につける水素ガスが電極として働き白金板に電子が集めら

れる

ダニエル電池の亜鉛電極をこの標準水素電極につなげば亜鉛電極電位が測

定できる

亜鉛電極側では酸化反応の半反応が起きる

Zn(s) rarr Zn2+ + 2e- (1)

18

標準水素電極側では還元反応の半反応が起きる

2H+ + 2e- rarr H2

図7亜鉛電極と水素電極をつないで電池とする

25の基準状態における亜鉛電極の半反応(1)に対する平衡電位はすでに

知られている

E゜= -0763 volt

また銅板側の電極電位も同じようにして測定することができる

起きる半反応はすでに上述したが再度記しておこう

Cu2+ + 2e - rarr Cu(s) (3)

25の基準状態におけるこの電極電位はE゜=+0337 volt と知られて

19

いる

ここで亜鉛電極と銅電極の組み合わせでできる電池の最大電圧をこれらの

平衡状態における観測値から計算することができる式(18)を使って

V= E+-E- (18)

V= +0337-(-0763) = +110 volt

つまりダニエル電池で得られる最大電圧は11volt と計算できる実際に

はイオンの濃度が変化すれば反応の平衡が変化するので得られる電圧も変

化する

ここでダニエル電池で亜鉛1モルが反応するとき式(17)を使って得

られる仕事量としての電力を計算できる

W = n FV (17)

すなわちダニエル電池における電極反応は

Zn(s) rarr Zn2+ + 2e- (2)

Cu2+ + 2e - rarr Cu(s) (3)

であったから反応が進んで移動する電子はn = 2 である

1F = 96485 x 104 Cmol を適応すると

W = 2 x 96485 x 11 x 104 = 21227 x 105 Jmol = 2123 KJmol

(K = 103キロ)

すなわち亜鉛1モルの化学反応によって2123 KJmol の電気エネルギーが得

られる

水素ガスを使う燃料電池の起電力は電極の半反応から

O2 + 4H+ + 4e- rarr 2H2O (19)

25の基準状態におけるこの電極電位はE゜=+1229 volt が得られている

20

したがって燃料電池で1モルの水素が反応すれば

W = 2 x 96485 x 1229 x 104 = 2372 KJmol

すなわち2372 KJmol の電気エネルギーが基準状態で取り出せる最大電力

と計算される現在作られている燃料電池の電力は実際上08 volt ほどで

あるしたがって現実的に取り出せる電気エネルギーは 1544 KJmol の仕

事量と計算される「仕事量」という言葉については電気でモーターを回し

なにがしかの「仕事」をするなど思い浮かべれば実感できるだろう

エネルギーと熱力学 これまで述べてきたように電池は化学反応から直接電気エネルギーを取り出

す仕掛けであるダニエル電池では亜鉛と銅が酸化還元反応を起こす過程で

電子を放出するのを利用するまた水素ガスによる燃料電池は気体水素と酸

素を原料とし水が生成されるこの過程が1atm の気体原料を25(29815

K)で1モル反応させて生成物も1atm の液体の水を得るなら次の全反応に

よってすでに計算したとおり2374 KJmol の電気エネルギーが取り出せる

H2 + 12 O2 rarr H2O

圧力と温度がともに反応の過程を通じて一定の場合にその過程から取り出せ

る仕事量は熱力学的に考えることもできる

それはギブス自由エネルギーとして議論される電池で取り出した電気エネ

ルギーすなわち電力はこのギブス自由エネルギーに相当する

次に化学反応をこの熱力学の面から考えてみよう

エネルギー保存則

水素ガスを使う燃料電池のように独立した一つの仕掛けを考えこれを「系」

と呼ぶことにする系を考えるとき電池のように具体的なものを持って考え

るのが容易いのでそうすることが多い熱力学では自然界全体をあつかうので

しばしば概念的になり非現実的な記述が行われるが系の大きさや系を構成

する分子の大きさについて特定する必要はない

系におけるエネルギーを内部エネルギー熱エネルギー力学的エネルギー

の3つの要素からなると考えるこれらのエネルギーを考えるとき系の熱力

21

学的なパラメーター(変数)が必要となる熱力学的な状態はこれらのパラ

メーターのうちのいくつかを指定すれば決定される

熱力学的なパラメーターは2つに分類される

示量パラメーター(示量性変数)

系の大きさや構成する物質の量を示す体積や質量

示強パラメーター(示強性変数)

系の大きさに依存しない系における1つの点で決まった値で与え

られる圧力や温度密度など

いくつかのパラメーターで完全に決定できる状態を関数で表現することがで

きる場合があるそのような関数を熱力学的な状態関数(rarr補遺 p60)と呼ぶ

関数で状態の変化を表すことができれば数学的に取り扱うことができいろ

いろの面で便利である

一つの系についてその状態を知ろうとするとき系が熱力学的な平衡状態に

あると議論する上で都合がよい

熱力学的な平衡状態とは系を外部と独立させ長時間放置した後に達成され

る状態をいうこのとき系の状態をその外部のパラメーターで表現できる

たとえば電池を独立した系と考えるとき平衡状態に達した電極電圧を外部

においた電圧計で測定することができる

ある系を考えるとき前提としてその系はエネルギーを保有していると考える

系が独立してそこに存在するということで持っているエネルギーであるこれ

を内部エネルギーと呼ぶ系がある過程を経て状態を変えるとき系から系の

外部へ力学的な仕事をする場合には力学的エネルギーの出入りがあると考え

るまた系に熱が出入りする場合が考えられそれを熱エネルギーの出入り

と考えることにしよう

まず力学的エネルギーについて考えることにする

いま系が状態を変えその体積が増えれば系のlsquo壁rsquoがその系に接している

「外部」へ力学的な仕事をすることになる

このように系が膨張し壁が外部に向かって押し出されると考えたとき膨張

する過程における圧力を一定でpとし系が膨張した体積をΔV(膨張した分だ

けの体積増加量)とするなら系の仕事量ΔWは両者の積で表されるΔは変

化量を表すときにつける記号と決めておこう

22

ΔW = pΔV (20)

系の体積が凝縮する場合があるので仕事を記号で表す場合には注意するも

し系に接した「外部」から系に力が加わって体積を小さくしたならΔVは

マイナスとなるのでΔWもマイナスで表される

-ΔW = -pΔV (20prime)

今考えている系を「系 A」と呼びその内部エネルギーを UA外部の系を「系

B」と呼んでその内部エネルギーを UBと表すなら二つ合わせた全体の内部

エネルギーは両者の和で表すことができる

U = UA+UB (21)

この体積変化に必要なエネルギー変化量はどこから得られたかを考えれば

その変化があった「系 A」と外部の「系 B」のいずれかあるいは双方の内部エネ

ルギー変化分でまかなわれたと考えざるを得ない(図8参照)

そこでこのエネルギーの収支関係は変化分を表す記号に先と同様Δを用い

ることにすると次式のようになる

-ΔU =ΔW (22)

すなわち観察している「系 A」のエネルギーと外部の「系 B」のエネルギー

を合わせた総エネルギーを見てその微少な減少量minus ΔU が仕事をなすために

必要であったエネルギー量と考えてみることにする

ついでこの体積の変化が「系 A」に接する外部のlsquo熱rsquoによって起きたも

のと考えてみようすなわち外部の「系 B」が系 Aより高温で「系 B」によ

って系 Aが暖められたことになる

このとき移動したエネルギーを「熱量」と定義する

23

図8熱量の移動と系が外部にする仕事

「熱量」を記号Qで表すと外部の「系 B」が失ったエネルギーminus ΔUB で

ありこれが熱量であるから式で表せば次式のように書くことができる

-ΔUB = Q (23)

ここで「系 A」とそれに接する「外部 B」両方のエネルギーを合わせた総エ

ネルギーの変化量ΔUは式(22)で与えられていた

-ΔU =ΔW (22)

-ΔU =-(ΔUA+ΔUB) であるから

minus ΔUAminus ΔUB=ΔW (24)

これに式(23)を当てはめてΔUAで整理すれば

24

ΔUA= Q-ΔW (25)

この式(25)は「エネルギー保存則」あるいは「熱力学の第一法則」を数

学的に表現したものである

すなわち

独立した系を考えその状態が変化するとき系の内部エネルギーの変化量はその系に入る熱量と系が外部にした仕事との差である

式(25)にはまた重要な主張があるつまりエネルギー保存則にしたが

うとき熱量は力学的エネルギーにまた力学的エネルギーは熱量に変換しう

ることを意味している

熱量を表す単位はカロリー(cal)を用いる1cal は

1 cal = 4184 J

と換算されるジュールは 1J = 1Nm (ニュートンメートル)で仕事量を

表現する単位系で表される

エンタルピー

式(25)から定圧過程で式(20prime)を利用して次の式(26)が誘導さ

れる

Q =ΔUA+pΔV (26)

ここでQは熱量を表していたのでこの関係式(26)から熱関数として

新しい関数を定義する

新しい関数はエンタルピー(enthalpy)(rarr補遺 p63)と呼ばれ次の関数

式Hで表される

H = U+PV (27)

エンタルピーの微少変化量を記号Δを使って表現してみよう

25

ΔH = ΔU +Δ(PV) =ΔU +ΔPV+ PΔV (28)

独立した系で圧力が一定の下に起きる過程を考えるならΔP = 0 (圧力の

変化はゼロ)であるから式(28)は次のようになる

ΔH =ΔU + PΔV (29)

化学反応の過程を考えるとき系に容積の変化がなく過程の前後で一定であ

るならさらにΔV = 0 であるのでエンタルピーの変化量は

ΔH =ΔU (30)

また系の仕事を体積の変化としてみる式(20)から

ΔW = pΔV= 0

であるのでこれを式(25)へ適応すると

ΔU= Q minus ΔW = Q ΔW= 0 だから

結果的に系の圧力と体積が変化の過程で一定である場合にはその系のエンタ

ルピーの変化を表す式(29)(30)は次のように簡単な式になって熱関

数と呼ばれる意味が理解しやすいだろう

ΔH = Q (31)

独立した系に等圧等積で起きる過程を見る場合にはエンタルピーは系が外

部と交換する熱量の直接的な尺度となる

H>0 なら反応に熱を使うので吸熱反応

H<0 なら発熱反応

電池のように系に起きる化学反応で生じる電子の流れを取り出す装置を考え

る場合エンタルピーの変化を電気エネルギーとして取りだしている点に留意

26

しなければならない式(31)のようにエンタルピー変化が交換される熱

量に直接表現できるといっても必ずしも熱として取り出すとは限らないこと

を注意しよう

ところでエンタルピーは内部エネルギーと同じ次元にある状態量で定圧

変化の熱量がエンタルピー変化であるからある一点を標準として定めれば

すべての物質について任意の点のエンタルピーを変化量として定めることがで

きるすなわち化学反応の過程で発熱あるいは吸熱する熱量は反応材料と

生成物の間の状態変化に対応するエンタルピーに対応する

そこで一つの元素に対してもっとも安定な状態にある物質を標準物質とし

て定め29815K(25)1atm を標準状態としてその標準物質からある化

合物を合成するときの反応熱(発熱あるいは吸熱)をその化合物の「標準生成

エンタルピー」として定義できる多くの元素に対して標準生成エンタルピー

は現在表としてまとめられている

水素や酸素はその気体状態が標準物質でありそれらの標準生成エンタルピー

がゼロと定義される

エントロピー

もう一つ新しい状態関数としてエントロピー(entropy)(rarr補遺 p64)を

定義するエントロピーを表す記号は通常S を用いその定義は次の式(32)

による

S Q

T (32)

エントロピーは系の2つの状態が決まると状態量として決まる

このときQ は2つの状態の間を可逆的に変化したとき系が受け取る熱量

T は系が熱量 Q を受け取ったときの温度(degK)である

「熱力学の第二法則」はエントロピーに関するものである

図9では2つの系が接しておりそれぞれの温度を Thigh Tlowとする

Thigh>Tlow (33)

27

今温度の高い系から温度の低い系に直接熱量 Q が移動したとすれば温度

の高い系のエントロピーの変化量ΔS は熱量が失われるので負の値になる

図9熱の移動

そこで温度の高い系のエントロピーの変化量ΔS を式で表すことにすると

次式のようになる

Shigh Q

Thigh

(34)

一方低い系のエントロピー変化量ΔS は熱量が与えられるため

Slow Q

Tlow

(35)

両方の系を合わせたエントロピーの変化量ΔS は

S Shigh Slow Q

Thigh

Q

Tlow

lowhigh

lowhigh

lowhigh TT

TTQ

TTQ

11 (36)

式(36)の最終項で(33)を前提すなわち最初に温度の高い系は高い

と決めたのだとするならエントロピーの変化量ΔS は必ず次のようになる

28

ΔS >0 (37)

すなわち独立した系がありそれより温度の低い別の系あるいは温度の低

い外界が接した場合熱量は高い方から低い方へ移動するという自然の成り行

きを説明するものである

自然界に置いてエントロピーは

ΔS≧0

の値を取りΔS=0のときは可逆的過程である

今の例でいうなら熱は温度の高い系から低い系へ移動しその逆は起きない

常にΔS >0の方向に過程が進行するまた2つの系が同じ温度であるとき

両者は平衡状態にあって熱量の移動は見かけ上なくΔS=0と表現される

「熱力学の第二法則」はエントロピーによって表現されるもので系の変化が

可逆的であるかどうかを判定する指標であり現実の世界で起きる不可逆過程

が正の値を取る方向へ進むことを示す

あるいは系の変化が起きるとき外界を含めて考えれば総エントロピーが

増大する方向に変化が起きることを意味するというようにも表現される

ギブス自由エネルギー

熱力学の第一法則によってエネルギーの取りうる形である「仕事」と「熱」

は互いに変換されうることを理解したこのことの数量的な意味は1cal=418J

で示されるさらに仕事は100熱に変換可能であるが一方の熱はうま

くやっても100を仕事に換えることができないことを熱力学の第二法則で

説明しようとしたそのためにエントロピーという概念が導入された

ここで電池のような独立した一つの系を見るとき系の内部エネルギーの減

少を仕事として取り出しうるならそれは化学反応を一つの例としてどれほど

の仕事量が取り出せるのかはどうしたら与えられるだろうか

化学反応を電気エネルギーに換える電池では先に正負それぞれの電極におけ

る半反応の平衡電位の値を利用してその起電力に対する最大値を計算した

この化学反応から取り出しうる最大仕事量を与えるものとして新しくギブス

自由エネルギー(rarr補遺 p70)と名付け記号 G を使ってそれを次のように

定義する

29

G = H-TS (38)

H はエンタルピーである第2項にある S はエントロピーを表す

ギブス自由エネルギーは化学反応のような独立した系の定温定圧過程に適

応されるので変化量ΔG を式(38)から得ておこう

ΔG =ΔH-Δ(TS)

=ΔH-(SΔT+TΔS)

温度を一定と考えているのでΔT=0 であるから

ΔG =ΔH-TΔS (39)

この式(39)を書き換える

ΔH=ΔG + TΔS (39rsquo)

ここで定圧過程ではエンタルピーを次のように式(29)で定義できた

ΔH =ΔU + PΔV (29)

式(29)の意味するところを復習すれば

系のエンタルピー変化ΔH は内部エネルギーの変化量と系が外部に

した仕事量の和として表される

これは

定圧過程で系が得るエネルギー量から仕事量を除いたもの

と言い換えることができるエンタルピー変化量は化学反応などの過程で

始めと終わりの2つの状態の差であるからそれが正の値を示す(>0)なら

系のエンタルピーは増加することを意味しその過程が進行するためには系

の外部からエネルギーが供給されなければならない

一方式(39rsquo)の右辺第2項TΔS はエントロピーの定義(32)より

TΔS = Q (40)

であるのでこれは可逆過程で系に供給される熱量を意味する

30

もしエンタルピー変化量が負の値を示す(<0)ならば系のエンタルピー

は減少しその過程が進行することによってエネルギーが取り出せるすなわ

ち式(39)(40)から次のようにこれら3つの状態量を改めて説明する

ことができる

ある化学反応が定圧で可逆的に進行するときそれから取り出せる

エネルギーのうちΔG を仕事として放出し熱量 Q を放出する

標準状態29815K(25)1atm で標準物質からある化合物を合成すると

きの反応熱(発熱あるいは吸熱)をその化合物の「標準生成エンタルピー」

として定義した同様にある物質に対する「標準生成ギブス自由エネルギー」

はこの標準状態で標準物質からその化合物を化学反応で生成するとき式(3

9)によって与えられる変化量をいう

電池における化学反応のギブス自由エネルギー

先にダニエル電池の亜鉛板側に対する電極反応を検討したとき電極反応が

仕事として放出するエネルギーを表現する重要な式があった次の式(17)

である

W = n FV (17)

ギブス自由エネルギーを用いて今これは次のように書くことができるように

なった

W = n FV=-ΔG (41)

この式が表していることを実際に水素の燃料とする燃料電池の反応過程で見

てみよう燃料電池の図を再掲する

図中右にある陰極では水素の酸化反応が起きる

H2 rarr 2H+ + 2e- (5)

一方図では左にある陽極において次の還元反応が起きる

12 O2 + 2e- rarr O2- (6)

O2- + 2H+ rarr H2O (8)

全体の反応はすでに示したように次の反応式(7)で示される

H2 +12 O2rarr H2O (7)

31

標準状態における可逆的仕事は式(41)であらわせ

n FV=-ΔG (41rsquo)

このΔG は式(39)であらわせた

ΔG =ΔH-TΔS (39)

すなわち標準状態29815K(25)1atmにおいてある化合物を標準物

質から合成するときの標準生成ギブス自由エネルギー変化ΔG゜は標準生成エ

ンタルピー変化ΔH゜とその温度におけるエントロピー変化TΔSの差で求ま

るこれらは燃料電池の全反応を表す式(7)で与えられる

標準生成エンタルピーΔH゜変化とエントロピー変化はすでに一般的な元

素やその化合物に対して表が作成されている

液体の水に対する標準生成エンタルピーΔH゜(H2O)は

ΔH゜(H2O)=minus 28583 KJmol

また水素ガスと酸素ガスはそれぞれの元素の標準物質であるので生成エ

ンタルピー変化はゼロである

32

そこで式(7)での水を1モル化学合成するときの標準生成エンタルピーΔ

H゜は水素(ガス1モル)と酸素(ガス12 モル)の2つの材料と水(液

体251atm)の両状態における状態量の差として表される

ΔH゜=ΔH゜(H2O)-ΔH゜(H2) -12ΔH゜(O2) (42)

式(42)の右辺第2項と第3項がゼロであるので

ΔH゜=ΔH゜(H2O) =-28583 KJmol (43)

標準状態29815K(25)1atm における水素(ガス)と酸素(ガス)お

よび水(液体)のエントロピーはそれぞれ

ΔS(H2O)=6991 JKmol

ΔS(H2) =13068 JKmol

ΔS(O2) =20514 JKmol

単位で分母のKはケルビン温度の意味

と計算されているので

ΔS=ΔS(H2O)-ΔS (H2) -12ΔS(O2) (44)

=6991-13068-12times20514

=-16334 JKmol

したがって

TΔS=29815times(-16334)=-486998=-4870 KJmol

(45)

そこで標準生成ギブス自由エネルギーΔG゜は式(39)から

-ΔG゜=-(ΔH゜-TΔS) (39)

=-{-28583-(-4870)}

=+23713 KJmol

33

すなわちこのエネルギーを電気エネルギーとして取り出すことができるそ

の起電力は式(41rsquo)から

n FV=-ΔG (41rsquo)

V= -ΔG(n F)

各数値を当てはめれば

V=237130(2times96485)

=1229 volt

先に【化学反応と電気エネルギー】のところで記したとおり25の基準

状態におけるこの電極電位はE゜=+1229 volt が得られているすなわち

こうして標準生成ギブス自由エネルギーから計算することでも同じ値を得る

ことができた

水素を単純に酸素と化合させる燃焼では式(43)で示されるエンタルピ

ーが発生する熱量を示している水素1モルあたり28583 KJである電池

にすれば水素1モルあたり23713 KJの仕事量が電気エネルギーとして取り

出すことができるその差は電池の場合熱が発生して利用できない

化学反応の過程を利用して化学エネルギーから直接電気エネルギーに変換す

るのが電池という装置であるが化学エネルギーは100電気エネルギ

ーに換えることはできないこのようにエネルギーの一部は電池の熱として

発散してしまう

理想気体の状態方程式

ギブス自由エネルギーΔG を定義した式(39)とエンタルピーΔH の定義

式(28)から

ΔG =ΔH-TΔS (39)

ΔH =ΔU +VΔP+ PΔV (28)

そこで次式が得られる

34

ΔG =ΔU+VΔP+ PΔV-TΔS (46)

またエネルギー保存則から得られた式(26)を応用すればギブス自由エ

ネルギーが変形できる

Q =ΔU+PΔV (26)

から

ΔU=Q-PΔV (47)

したがって式(46)は

ΔG = Q-PΔV+VΔP+ PΔV-TΔS

ΔG = Q-TΔS+VΔP (48)

エントロピーの定義からQ=TΔSであるから結局式(48)は

ΔG = VΔP (49)

と表すことができる

成分が混合された気体分子の分子間に働く力をゼロと仮定した「理想気体」を

考えるとき状態方程式としてボイルシャルル(Boyle-Charles)の法則が

利用できる

PV=nRT (50)

ここでnは気体のモル数PVT はそれぞれこれまでと同じ圧力体積温度(ケルビン温度)でありR は気体定数と呼ばれるもので次の値を持

R= 831441 JmolK (51) 単位で分母のKはケルビン温度の意味

35

状態方程式から式(49)の右辺を導くことを考えてみよう式(50)は

1モルの気体について V に対し次のように変形することができる

V 1

PRT (50rsquo)

両辺に圧力の微小変化量⊿P をかけると

PP

RTP V (52)

これを微分方程式として圧力p0 からp1 まで(p0≦p1)積分するなら

1

0

1

0

1

0

1p

p

p

p

p

pdP

PRTdP

P

RTdPV (53)

関数 f(x)=1x を積分したときの関数はF(x)=ln(x)であるので(ln は e を底

とする自然対数loge)

右辺=0

1ln)0ln()1ln(p

pRTpRTpRT (54)

ギブス自由エネルギーを表す式(49)は次のようであったから

ΔG = VΔP (49)

式(52)から得た式(54)を当てはめると状態G0(p0T)からG1(p1T)

へ変化する過程で圧力が p0 から p1 まで変化するものとして

dGG0

G1

G( p1T ) G(p0T ) RT lnp1

p0 (55)

あるいはこれを書き直して

V

36

G(p1 T) = G( p0T ) + RT lnp1p0

(56)

特別にG0(p0T)を標準状態T=29815K(25)p0=1atmに指定する

なら標準生成ギブス自由エネルギーを記号G゜として (56rsquo)

と表すことができる

式(56rsquo)の意味するところは標準状態から圧力の変化を伴う過程で理

G(p1 T) = Go + RT ln p1

想気体のギブス自由エネルギーは圧力の対数に比例して上昇することである

このことはさらに新しい着想を生む

すなわち水素を燃料とする上の燃料電池で1atm 標準状態の水素ガスの圧力

を2atm に上げれば式(56rsquo)からRTln2 余分にギブス自由エネルギー

が取り出せることになる

燃料電池において起電力を生むエネルギーは隔壁を水素イオンもしくは酸

素イオンが浸透しようとする力であるので1atm の水素ガスと2atm のそれで

は浸透しようとする圧力が異なりここに起電力が生じる

式(56)の第二項が圧力の差による仕事であるからこれをΔG とすれば

W=-ΔG の仕事量が電気エネルギーとして取り出せるはずである

W = minusΔG = minusRT lnp1p0

(57)

起電力に換算するために式(41)を使うと

W = n FV=minus ΔG (41)

から

01ln

pp

nFRTV ⎟

⎠⎞

⎜⎝⎛minus= (58)

この式(58)は一般にネルンスト(Nernst)の式と呼ばれる

37

理想溶液のギブス自由エネルギー

理想気体を想定したように無限に希釈された混合溶液に対して理想溶液を仮

定する「系」の圧力温度を一定に保つならば体積内部エネルギーエンタ

ルピーギブス自由エネルギーなどの示量数は混合溶液を構成する物質のモ

ル数mに比例するたとえば標準状態にある物質の1モルの体積をVとすれば

mモルの体積はそのm倍mVであるそうすると溶液中のi番目の成分がmi

モル「系」から「外界」に仕事をするときその成分iの持つ自由エネルギーの

mi倍の仕事が「外界」になされると考えればよい

この溶液成分のモル数と化学的仕事を結びつける示強因子がギブスによって

化学ポテンシャルと名付けられ一般に記号μが用いられる

化学ポテンシャルはこれまで見たようにギブス自由エネルギーで表される

また電位がψ(プサイ)にある系から-Δeの電荷が放出されるときには

-ψΔeの電気的仕事が得られるそこで記号μに両者を合わせた意味を持

たせて「電気化学ポテンシャル」と呼ぶ

概念の上で物質は電気化学ポテンシャルの高い方から低い方へ勾配にした

がって移動する

理想気体の標準状態が気体分圧を T=29815K(25)で 1atm としたのに対

し溶液成分の標準状態はその分圧に相当するモル数 m を用いるすなわち

標準状態にある成分 i の電気化学ポテンシャルμ0iは成分の持つ電荷(H+なら

1)を n として

μ0i = G i゜+nFψ i (59)

ギブス自由エネルギーは式(56rsquo)を借り理想溶液中の成分に対しては気

体圧力をその成分のモル濃度Cに書き換えればよいそこで

G(CT ) G RT lnC (60)

と表すことができる

したがって一般的な成分 i の電気化学ポテンシャルμiを表す式は標準状態

からの自由エネルギーの変化を考え式(59)と合わせて次のようになる

38

ψnFGii 0

式(60)から

ii CRTGTCGG ln)( 0

よって

(61) ψnFCRT iii ln0

実際的なことを考えると成分濃度はその有効イオン濃度とする必要があり

「活量係数」γを導入して次式で表されるイオン活量aを用いる

ai = γCi (62)

一般的にはγ=1と近似してモル濃度Cを使っているこのテキストでも

必要ではない限りイオン活量を用いることを省略して簡単に記述したい

膜電位

燃料電池に使われたナフィオンのような一つのイオンを通す膜を介して膜

の両側にC0 とC1 のイオン濃度差がある溶液が接するときの電気化学ポテン

シャルを考えよう

ある容器の底にナフィオン膜を取り付け容器の中と外のイオン濃度をC0

とC1としそれぞれの電気化学ポテンシャルをそれぞれμinとμoutとする

式(61)を使って

容器の中の電気化学ポテンシャル

(63) innFCRTin ψ 00 ln

容器の外の電気化学ポテンシャル

(64) outout nFCRT ψ 10 ln

イオン浸透性の膜を介して濃度変化が無視できるほどの移動があると考え

その電気化学ポテンシャルの差を式(63)(64)から求めれば

39

)(ln0

1 inoutinout nFC

CRT ψψ (65)

この系において今注目しているイオンが膜を介した両側で平衡状態にある

とき式(65)はΔμ=0と考えることができるすなわち

0)(ln0

1 inoutnFC

CRT ψψ

膜内外の電位差をΔψ=ψoutminus ψinとすれば

1

0

0

1 lnlnC

C

nF

RT

C

C

nF

RTψ (66)

式(66)は理想気体に対するネルンストの式(58)と同様溶液中のイ

オンに対するネルンスト(Nernst)の式として与えられる

細胞の膜においてもその生体膜の内外でたとえばカリウムイオンのように

非対称に分布して平衡に達している場合には式(66)で与えられる膜内外

で電位差が生じるこれは一般に膜電位と呼ばれる膜電位は平衡電位とも

呼ばれる

たとえば膜内外に1価のカリウムイオンに10倍の濃度差があるとすると

通常カリウムイオンは細胞内の濃度が高いので

C0 = 10timesC1

であるから

これを式(66)に当てはめてln(10)=2303 を用いlog への変換をすれば

Δψ=2303times(RTF)timeslog(10)

であるこれに R=831441 JmolKF=96485 CmolT=29815 K(25)

の各数値を当てはめると

Δψ=2303times831441times29815times196485 JC

=+005917 volt

すなわち膜の内外で約+60ミリボルトの膜電位が生じることになるこの

分だけ細胞の外側の電気化学ポテンシャルが高く膜の内側の膜電位が負であ

るそして膜にあるカリウムチャネルがこの電位を示すとき受動的なカリ

40

ウムの膜内外の移動は平衡に達することになる

水素イオン濃度測定

「標準水素電極」は1モル塩酸溶液につけた白金電極に1atm の水素ガスを

吹き込んで平衡状態に達したときの電位を基準としてゼロボルトと規定した

そこである溶液についてその水素イオン濃度を知ろうとするとき同じ水

素電極を用いることを考えれば標準状態にする目的で用いた1モル塩酸溶液

を濃度未知で X モルの塩酸溶液と想定すればその水素イオン濃度を知るこ

とができるだろうか

標準状態ではない X モルの塩酸溶液に浸けた白金電極が半電池として働くこ

とは間違いなさそうであるしかしその白金電極が持つ電極電位を測定する

にはいずれにしても標準電極と組み合わせて「電池」を構成しその電池

の起電力として計る必要がある電池を作れば起電力を知ることができ相

手の半電池の電極電位が知られていれば濃度が未知でXモルの溶液について

その水素イオン濃度を知ることができるだろう

こうした目的のためにいちいちゼロボルトと規定した標準水素電極を用いる

のは煩雑なのでしばしば後出の「銀塩化銀電極」が参照電極として用いら

れる

まず予め「銀塩化銀電極」を標準水素電極と組み合わせて電池とし一度

その起電力を測定しておけば後はいつもそれを標準電極として利用できる

「銀塩化銀電極」の半電池は

H+ (1 moll) Cl- | AgCl | Ag(s)

これに「標準水素電極」を組み合わせ電池を構成すると次のような電池

になる

Pt(s) | H2(g) | H+ (1 moll) Cl- | AgCl | Ag(s)

この電池の起電力を知れば「銀塩化銀電極」の半電池としての電極電位

を知ることができ参照電極として未知の半電池と組み合わせて起電力を測

定して相手の電極電位を計算できる

41

濃度 X モルの塩酸溶液を未知の溶液と想定すればその電極電位を知るために

組み立てる電池は次のようになる図10にその電池の図を示した

Pt(s) | H2(g) | H+ (x moll) Cl- | AgCl | Ag(s)

この電池の全反応は次の反応式で表される

AgCl(s) 1

2H2 (g) H Cl Ag(s) (67)

図10未知溶液の水素イオン濃度を測定しようとするための電池

化学反応の一般的な式

ここで電池に利用される化学反応から得られるエネルギーをギブス自由エ

ネルギーに換算し起電力を具体的に知る手だてとすることは上ですでに学

42

んだがより一般的な式を再度ここに書きだしておこう

化学反応が紙面で左から右に進む反応として次のような一般式で与えられ

るとき

aA + bB rarr cC + dD (68)

ギブス自由エネルギー変化量は標準状態ΔG゜からの変化量を加える形で式

(60)と同様次の式によって表される

G G RT(ln aCc aD

d ln aAa aB

b )

G RT ln

aCc aD

d

aAa aB

b (69)

aAは成分 A のイオン活量であるその他の成分も同じ

得られたエネルギーを電気エネルギーに換えるなら式(41)に習って

次式で表せば

ΔG=-n FV

there4V=-ΔG(nF) (70)

このときの起電力は標準状態における電位 E゜からの変化量として次式で与

えられる

E E

RT

nFln

aCc aD

d

aAa aB

b (71)

標準状態における起電力 E゜は反応が平衡状態にあるときで反応平衡定数

を K とするなら

K aC

c aDd

aAa aB

b (72)

で表されるそこでE゜は次のように書き改めることができる

43

E

RT

nFln K (73)

そこで式(67)で表される図10の電池「水素minus 銀塩化銀電池」に

対する起電力をギブス自由エネルギーから求めてみよう

反応から式(71)に当てはめれば

E E RT

Fln

aH

1 aCl

1 aAg1

aAgCl1 aH2

1

2

(74)

力学の慣例にしたがって固体の純物質の活量は1として扱い水素ガスを

想気体として見なして活量を1atm とするなら式(74)は次のよう

に簡略化される

E E

RT

Flna

H aCl (75)

ころで理想溶液として近似的に取り扱うときの希薄溶液でたとえば水素

入して詳細に検討するなら式( れる起電

オン濃度はイオン活量として aH+の記号を使うときすでに【理想溶液のギ

ブス自由エネルギー】の章で述べたようにこれを有効イオン濃度とする必要

がありイオン活量 a は「活量係数」γを導入して次式で表した

a H+= γH+CH+ (62)

この活量係数を導 75)で誘導さ

を計ることによって経験的に試料溶液中の水素イオン濃度を求めることは

困難である式(75)にあるイオン活量の項はモル濃度 C と活量係数γを

用いて次式で書き改められる

lnaH aCl

lnCH CCl

lnH Cl

(76)

まり式(76)右辺の第二項において互いに相手が知られなければ自分

決めることができず結果的に起電力を知っても(75)の値から水素イオ

ン濃度を導けないここに工夫が必要になる

44

の定義とその目盛り

液中の水素イオン濃度を直接意味するものではなく

を定義するとき測定されるのは1リットルの溶媒に存在す

pH = -log a H+ = -log(γH+CH+) (77)

際に試料溶液の pH を決定する際はpH 標準液を用いる

に溶液を入れ試料溶液 X と pH 標準液 S を

参 極を接続し電池を作成しその起

pH

現在pH の定義は溶

で述べたようにそれが簡便に測定できるものではないため次のように定

義されている

水素イオン濃度

水素イオン活量であるため定義式としては活量係数をγH+として次式で与

えられる

その要領は次のようである

上に図示した水素電極の容器内

れぞれ半電池(I)と(II)に入れる

半電池(I) Pt | H2 (1 atm) | 試料溶液

半電池(II) Pt | H2 (1 atm) | 試料溶液S

照電極として上図のごとく銀塩化銀電

電力を測定する半電池(I)のときの起電力を E(X)半電池(II)のそれを E(S)

とするこのとき試料溶液Xの pH は次式で計算される

pH (X) pH(S) E(S) E(X)

RT ln(10) (78)

ln(10)は自然対数を常用対数に戻すための定数で2303 を用いる

標準液

pH 標準液 S はpH 第一次標準液第二次標準液と呼ばれるべき

る測定

25で pH 4005 を示す

pH

上述した

のであり絶対的測定法である起電力の測定によって値をつける

標準液は安定で純粋な結晶が得られる試薬を調整してこれを測定す

上と同様に水素電極を用いこれに緩衝液を入れる参照電極として銀

塩化銀電極を接続して電池の起電力を測定する

たとえば005 moll フタル酸水素カリウム溶液は

一次標準(Primary Standard PS)の一つである半電池(III)として水素

45

電極を次のように準備する

半電池(III) Pt | H2 (1 atm) | PS 溶液

て電池を形成したとき得られる起電

参照電極として銀塩化銀電極を接続し

は式(75)から

E E

Ag AgCl RT

Flna

H aCl (79)

オン活量を濃度と活量係数の積(a H+= γH+CH+)にし自然対数を常用対数

すれば

E E

Ag AgCl RT ln(10)

F log(

H + CH+ Cl- CCl - ) (80)

E゜は水素標準電極(水素ガス分圧を1atm電極を浸ける溶液に001 moll

H

Cl を用いる)で得た起電力である

式(80)から

RT ln(10)

Flog(

H CH Cl

) (E EAg AgCl )

RT ln(10)

Flog C

Cl

(81)

らに

log(

H CH Cl

) F

RT ln(10)(E E

Ag AgCl ) logCCl

(82)

ころで式(77)から

(γH+CH+) (77)

-log a H+ =-loga H+-log(γCl-) +log(γCl-) =-log(a H+γCl-) +log(γCl-)

(83)の一番右の式で第一項は

pH = -log a H+ = -log

であるが右の式をさらに変形すると

(83)

46

-log(a H+γCl-)=-log(γH+ CH+γCl-) (84)

たがって式(82)の右辺で示されるように電池の起電力を測定すれば

よ 実際には溶液の塩素イオン濃

液で起電力を求め外挿する

起電

これによってpH を意味する式(83)は次式(85)で与えられる

p(aHγCl)はRG Bates によって Acidity Function と呼ばれている

らに式(85)最終項の log(γCl-) を補正しなければならないこの項は

本工業規格)によっても

であってこれは式(82)の左辺である

いただし塩素イオン濃度の項があって

をゼロにしたときの値が必要である

実測する際には塩素イオン濃度をゼロにできないので塩化ナトリウム NaCl

等を濃度を変えて添加しその時々の緩衝

勧告ではNaCl で 000500100015moll の3つの濃度を例示している

すなわち塩素イオン濃度ゼロのときの値は各塩素イオン濃度に対して

の値をそれぞれプロットしグラフから塩素イオンがゼロのときの起電力の

値を3点に対する回帰直線の延長で外挿して求めるこの点を次のように書

log( C H H Cl CCl

0

pa log( C log( (85) H H H Cl C

Cl0 Cl

)

素イオンの活動係数で与えられる補正項である

無限希釈溶液中のイオンの活動係数は理論的に Dubye-Huckel の式を用い

近似的に求めることが可能であるこれはJIS(日

用されていて Bates-Guggenheim の規約と呼ばれる (Bates RG

Guggenheim Pure Appl Chem 1 163-168 1960)

Dubye-Huckel の式は次のように与えられる

log A I

i 1 iB I (86)

47

I iについてそのモル濃度

計算される

はイオン強度でイオン mi と電荷 zi から次式で

I 1

2mizi (87)

また iは(86)式のBは温度と溶媒の性質による定数であり イオンの大

きさに関するパラメータで水和イオンの大きさとほぼ一致した値をとる標

準法の勧告では塩素イオンに対しイオンの大きさを46Åと決めてiBを

1

5 にしているそこで式(84)は次のようになる

ClA I

log 1 15 I

イオン強度 I は塩素イオン濃度を含まない計算となる

以上の方法によって実用的な pH 測定に用いられる第一次第二次標準液の

pH の値が得られる

絶対値としての

はpH の絶対測定法(第一次標準測定法)とされている

銀塩化銀参照電極は分極現象を防ぐために棒状の銀を塩酸で処理し表

に塩化銀を生成させたものを飽和塩化カリウム溶液につけてある

(88)

参考現在は実験的に求めた値と理論値の組み合わせで

素イオン濃度を求める方法を規定しているこの起電力から水素イオン濃度

を知るための測定方法

Buck RP Rondinini S Covington AK Baucke FGK Brett CMA Camoes MF

Milton MJT Mussini T Naumann R Pratt Kw Spitzer P Wilson GS

Measurement of pH definition standards and procedures Pure Appl Chem

74(11)2169-2200 2002Kristensen HB Salomon A Kokholm GInternational

pH scales and certification of pH Anal Chem 63(18) 885A-891A 1991)

銀塩化銀参照電極

電極の構成は

Cl-(aq) | AgCl(s) | Ag(s)

48

この半反応は次のようになる

AgCl(s) + e- rarr Ag(s) + Cl- (89)

の反応は次の2つの反応に分けて考えることができる

Ag+ + e- rarr Ag(s) (91)

AgCl(s)rarr Ag+ + Cl- (90)

図11銀塩化銀参照電極

(90)における銀 る塩素イオンによって左

されることが推測される

そこでカッコ [ ] をそれによって囲まれるイオンの濃度を表すことにし

式 イオン Ag+の溶解性は共存す

塩化銀の乖離定数Kを考えると

49

K = [Ag+][Cl-] (92)

これから

[Ag+]= K[Cl-] (93)

化カリウム溶液に漬けた銀塩化銀電極の電位 E は水素標準電極に対する

電 で与えられる

位を E゜として次式

E E

RT

nF

[ Ag ]

[Ag(s)]ln( )

Ag(s)のイオン活量は常に1とする

ここで半反応の電極電位を求めるために式(75)を利用することにすれば

(94)

熱力学の慣例にしたがって純物質個体

E E

RT

Flna

H Cl a (75)

式 の半反応をみると

応で電子1つが移動するので n=1 とするR=831441 JmolK1F = 96485

C はめれば

これに銀イオンの濃度として式(93)を当てはめる

この反応で移動する電子は (89) 銀イオン1つの反

molT=29815K(25)ln(10)=2303などの定数を当て

2303RTF = 005917

であるから(94)式は次のように表現できる

log[Cl]) E E 005917(logK (95)

たがって標準水素電極に対する銀塩化銀参照電極の標準状態における電

位 は半反応(89)に対して ゜=+0799で

化銀の乖離定数 K は182times10-10 であるのでその対数を取れば-973993

0799-005917times973993-005917log[Cl-]

E゜ E ある

ある

そこで式(95)は

E =

50

= 0799-0576-005917log[Cl-]

= 0223-005917log[Cl-] (96)

電極電位の関係について実測値

こうして求めた塩化カリウム溶液の濃度と

計算上の値は次のようである

KCl moll vs SHE volt25 計算値 volt25 01 02881 02822 35 0205 01908 飽和 0199 minus

実用 測定

実際の現場で水素イオン濃度を測定する目的の測定法で上のような2つの

極が同じ溶液に浸かっていたのでは試料溶液を交換するにも便利ではない

の容器に入れる未知試料溶液と銀塩化銀電極を隔離する

的な pH

そこで水素電極側

的で二つの電極容器をつなぐ液絡部をグラスフィルターやセラミック板

飽和塩化カリウムで作成したゼラチンなどの塩橋によって隔離遮断するこ

れを液絡部とよぶ

電池として機能するために必要な溶液イオンの交換はこの液絡部で行う

組み立てる電池は電池式で次のように表される

Pt(s) | H2 | 試料 (H+ x moll) || 飽和 KCl | AgCl | Ag(s)

の標準電極と銀塩化銀電極とは区切られていて溶液の直接の接触がない

とを意味するために電池式ではタテ二重線を用いる銀塩化銀参照電極

の容器には飽和塩化カリウム溶液が入れられる

51

図12液絡部のある pH 測定のための電池

この液絡部のある電池では塩橋を記号lsquo | | rsquoで表して次のように記す

試料 (H+ x moll) | | 飽和 KCl

ここでは試料溶液と飽和塩化カリウム溶液の異なる2液が接している

このような界面では膜電力が生じるのと同様「液間電位差」が生じることが

知られているしたがって上の電池で測定される起電力 E は

E = E[銀塩化銀電極電位]+E[液間電位]+E[水素電極電位]

で与えられることになってE[液間電位]のために図12の電池の起電力

は銀塩化銀参照電極の値を知っていても水素電極容器内に入れた未知溶

液の水素イオン濃度を正しく知ることができない

52

そこで実用的な測定法としてこの E[液間電位]を膜電位として積極的に利

用する方法が工夫されたすなわち水素イオンに感応するガラス薄膜を用い

るガラス電極法である

53

ガラス電極

ガラスはケイ素原子と酸素原子からなる SiO4 の結晶構造を持ち酸素で囲

まれた空隙があって水素イオンがそれを埋めることができる

この性質によってガラス膜表面は水溶液中の水素イオンに応じて膜電位を

変化させるのでこれを水素イオン濃度測定用の電極として利用することが考

えられるこれが通常用いられるガラス電極である

ガラス電極は標準電極と組み合わせれば電池を構成することができこの電

池の起電力を知ってガラス薄膜の内外にできたイオン濃度勾配を知ろうとす

るものである

薄いガラス膜(01mm程度)をはさんで接する2つの溶液のH+イオン濃

度が異なるとその差に応じてガラス膜の両側に電位差(Eg)が現れる

ネルンストの式でガラス電極の内部に入れた既知の濃度のH+([H+]in)に対

し試料中の水素イオン濃度が[H+]sampleのとき次の電位を生じる

)][

][log(059170)

][

][ln(

sample

in

sample

ing

H

H

H

H

F

RTE

(97)

図13ガラス電極

電極を構成するのは銀塩化銀電極と同じ電極で用いる塩溶液は一般的

54

に 01モル塩酸溶液である

この半電池の電池式は次のように書くことができる

Ag(s) | AgCl(s) | HCl (01 M) | ガラス薄膜 || 試料溶液 H+ (x moll)

Eg

この半電池の電極電圧を測定するために銀塩化銀標準電極と組み合わせ

電池を作って起電力を計る

構成される電池は下図のようになる

ガラス電極 銀塩化銀標準電極

図14ガラス電極を用いた pH 測定用の電池

この電池の起電力は次の各半電池の平衡電位を合わせたものになる

55

E1ガラス電極の内側電位

Ag(s) | AgCl(s) | HCl (01 M)

Egガラス薄膜の内外に生じる膜電位

HCl (01 M) | ガラス薄膜 || 試料溶液 H+ (x moll)

E2液間電位(膜電位)銀塩化銀標準電極のセラミックを介した試料溶液

と銀塩化銀標準電極の内部液(飽和 KCl 溶液)の間に発生する電位

試料溶液 H+ (x moll)|| セラミック | KCl(飽和)

E3銀塩化銀標準電極

KCl(飽和)| AgCl(s) | Ag(s)

pH メーター用のガラス電極に使われるガラス薄膜は水素イオンに感応して

膜電位(Eg)を生じるこれは【膜電位】の章で記したように薄膜がある

一つのイオンのみを通過させる特性を持っている場合にイオンが膜を介した

両側で平衡状態に達したとして電気化学ポテンシャルを膜の両側で等しいと

考えてそのイオンが濃厚な側から希薄な側にその差によって圧力を生じると

するものである

一方同じ試料溶液が銀塩化銀標準電極のセラミック液絡部を介して生じ

るだろう液間電位(膜電位E2)はいま関心がある水素イオンに対して特異

的に感応するのではないので試料溶液の水素イオン濃度に関係なく一定と見

なすことができる

すなわちpH メーターを構成する電池の起電力 E は

E = E1+Eg+E2+E3 (98)

このうちEg以外は一定と見なせるので

E1+E2+E3 = E

として式(98)を書き直すと

)][

][log(059170

sample

ing H

HEEEE

(99)

Eは標準液によって校正されるべき標準電極電位である

56

電極の校正

実際のイオン濃度を測定する場合低濃度標準液と高濃度標準液で得られ

る起電力を測定し計測のイオン濃度に対する係数(傾き)を求めておき未

知の試料に対して起電力を測定してそのイオン濃度を算出する方法が採られる

低濃度標準液と高濃度標準液のそれぞれの濃度をCLとCHとすればそれぞ

れの起電力ELとEHは次式で表される EH = E +β logCH (100)

EL = E +β log CL (101)

ただしβは式(99)の係数を簡略にしたものである

式(100)と(101)から検量線の傾きが次式で表せる

ΔE = EH minus EL = β(logCH minus logCL) = β logCH

CL

(102)

したがって係数βは

β =ΔE

log CH

CL

(103)

であらわされる

このときに使われる標準はすでに前出の pH 第一次標準第二次標準溶液で

ある

金属イオンに対応するイオン選択電極

現在臨床検査で日常的に使われている電解質測定のための電極はナトリウ

ムカリウムカルシウムクロールなどおよそ臨床的に必要な金属イオン

に対して入手可能である

カリウムイオン測定用のバリノマイシンの発見によってクラウンエーテルと

57

呼ばれる一連の化合物が知られたクラウンエーテルはその分子の中心に立

体的な空間を持ち特定のイオン径に対し合致するのでそのイオンに対して

選択的に感応するこれらの化合物はイオノフォアと呼ばれる

図 15クラウンエーテル

1つの金属イオンが環状化合物

15-crown-5 の中央にある空間を充填

している模式図

15-crown-5 の構造を作る10個の黒

い丸は炭素炭素2個のつながりごと

にある中心の白い丸は酸素酸素と

金属イオンの間の距離はおよそ 22~

23Åであるカリウムのファンデン

ワールス半径は 135Åイオン半径は

15~16Åである

測定したいイオンに対しポリ塩化ビニル(PVC)を支持体としてイオノフ

ォアを添加した液膜の電極膜を作成しこれをガラス電極におけるガラス薄膜

と同様試料に接する電極膜として用いるこの構造から一般的に液膜型電極

と呼ばれる電極膜には特異性を高めるため妨害イオン排除剤などが添加

される

pH メーターと同様銀塩化銀標準電極と組み合わせ電池を形成しその

起電力を計る測定したいイオンが液膜に対して内外で平衡に達したときの

膜電位を測定するのはガラス電極と同じである

カ リ ウ ム イ オ ン に は Bis[(benzo-15-crown-5) ( 正 式 名 は

Bis[(benzo-15-crown-5)-4-methyl]pimelate)ナトリウムには Bis[(12-crown-4)

やDibenzyl-bis[(12-crown-4)などがイオノフォアとして用いられる

58

図16カリウムイオン測定用に使われるクラウンエーテル

図17ナトリウムイオン測定用に使われるクラウンエーテル

59

参考イオン選択電極に関する文献Xia Z Badr IHA Plummer SL Cullen L

Bachas LG Synthesis and evaluation of a bis(crown ether) ionophore with a

conformationally constained bridge in ione- selective electrodes Anal Sci 14(2)

169-173 1998 Oh K-C Kang EC Cho YL Jeong K-S Y oo E-A Paeng K-J

Potassium-selective PVC membrane electrodes based on newly synthesized

cis- and trans-bis(crown ether)s ibid 14(10)1009-1012 1998 Dojindo WEB

site httpwwwdojindocojpwwwrootproductsjinfo2protocolp31pdf

<補遺> 60

補遺 状態関数 (本文 p21 10 行目参照)

一つの平衡状態にある系 A とこれに接する系 A にとって外部である系 B について系 B

から系 A に熱を与えこれによって系 A が他の平衡状態に移ったとき系 A はその結果とし

て膨張し系 B に対し仕事をする

このときの微少な熱量の移動を記号drsquoQ またなされた微少な仕事をdrsquoW とすると

系Aの内部エネルギーに関する微少な変化drsquoUA は両者の和として表される

WdQdUd A primeminusprime=prime (a-1)

この式 a-1 と本文中の式25との関係について

WQU A Δminus=Δ 本文(25)

<補遺> 61

式 a-1 と式25の記号の違いは変化の起きる前の平衡状態 S1 から変化後の平衡状態 S2

に状態変化があったとするなら式 a-1 を積分することで式25が得られるものと考えて区

別している

A

S

S A UUd Δ=primeint2

1 (a-2)

このことは重要であるすなわち内部エネルギーU は変化の起きる前後の状態を指定する

ことによって値が定まることを意味するこのように積分によって値を定めることが出来る

のでdrsquoU は完全微分であるという

内部エネルギーのように系の状態だけで値の定まる量を状態関数として扱う

一方式 a-1 のdrsquoQ drsquoW についても同様に微少の変化量を表しているが平衡状態 S1

から S2 への経路を指定しなければ積分の値は定まらない

本文中の記号にしたがって仕事量ΔW を次のように表すことにする

VpW Δ=Δ 本文(20) V

<補遺> 62

体積と圧力の関係を表す図を使ってこの仕事量が意味することを考える圧力 prsquo の下で

体積が V1 であるときを状態 S1 として圧力一定の下で体積を V2 まで膨張させるような変

化を行った後体積を等しく保って圧力を p にまで上げたときの状態を S2 とするこのとき

の仕事量は膨張に伴うものであるから図の体積‐圧力線の下の面積で示すことができる

平衡状態 S1 から S2 への変化の道筋を別にたどってみよう

新しい経路では圧力を先に p まで上げた後に膨張変化させている

図から直感的に明らかであるので数式での扱いを省略するが2 つの経路による仕事量には

差がある

すなわちdrsquoW は drsquoU と異なり変化の初め S1 と終わり S2 の状態が与えられても積分値

は定まらず変化の経路によって違ってくる

このように変化の経路を指定しなければ積分値が定まらないものを不完全微分と呼び扱

いを区別する

本文 p21 へ戻る

<補遺> 63

VpW

WQU

VpQU

VpUQ

1122 SSSS pVUpVUQ

pVU

VpUHHHQ SS 12

エンタルピー (本文 p24 20 行目参照)

本文中の式 20 および 25 から一定の圧力の元で起きる状態変化において内部エネルギー

の変化量に対する式 a-3 を得る

本文(20)

本文(25)

(a-3)

式 a-3 を Q について書き直す

(a-4)

状態の変化が平衡状態S1から平衡状態S2に移ったものとして式 a-4を丁寧に書き直すと

(a-5)

並び替えて

(a-6)

式 a-6 を見ると定圧過程における熱量の流入は

(a-7)

の形を持つ関数の差であることが分かる

一般に化学反応のような変化の過程では大気圧の下で行われるようなものに興味がある

そこで式 a-7 で与えられる項を一つの関数として定義するこれをエンタルピーと呼び記

号 H を与える式 a-4 はエンタルピーの変化量で次のように書き改められる

(a-8)

圧力が一定の下で起こる状態変化について流入する熱量は式 a-8 で示されるようにエンタ

ルピーの変化量に等しい

V

V

V

V V

V

V

1212 SSSS VVpUUQ VV

<補遺> 64

1Q

We

また式 a-8 からオートクレーブ内で起こるような体積変化のない過程ではこの値が内

部エネルギーの変化量で与えられることが明らかである

本文 p24 へ戻る

エントロピー (本文 p26 17 行目参照)

エントロピーは次のような思考実験から発想された仮想的な状態関数である

理想気体よりなる系 A が温度 T2で熱平衡状態にあり温度 T1の外部の熱源と接しているこ

とを想定する系 A の外部を系 B と呼ぶことにするT1は T2に対して無限小だけ高い温度と

する

系 A が系 B に対して温度圧力について平衡を保ちながら緩慢に系 B より熱量 Q1を受け取

る過程を考える(このような過程を準静的過程と呼ぶ)これによって系 A が熱量 Q1を得て膨

張するとき系 B に対して仕事をする続いて系 A から熱量 Q2が系 B に戻ることを考える

想定されるこの変化が可逆的であれば系 A と系 B を併せた全体は元の状態に戻る蒸気機

関に関するこのような研究が Nicolas Carnot によってなされたのは1824 年のことであった

ここに想定されたサイクルに対する Carnot の効率 e は移動した熱量となされた仕事によ

って定義され次の式で表される

(b-1)

<補遺> 65

理想気体では内部エネルギーU の変化ΔU はゼロと考えるしたがって熱力学の第一法

則を表す式(本文中の式25)から次の関係が示される

0=Δminus=Δ WQU

WQ Δ= (b-2)

これによってCarnot Cycleの効率eはQ2lt0 として次のように書き改めることが出来る

1

21

QQQe +

= (b-3)

ところで気体の状態方程式から1 モルの気体について次のような関係が示される

RTV

P

P1=

V = RTV (b-4)

V 式 b-4 の両辺に体積の微少変化量ΔV をかけて

(b-5)

これを体積Vについてその変化をV1からV2までとして積分するならば次式が得られる

VV

RTVP Δ=Δ 1V V

V

intint = 2

1

2

1

1V

V

V

VdV

VRTPdV

1V2V

11 lnRTW =

(b-6)

Q1の熱量によって起こる膨張がV1よりV2までとし圧力P温度T1の下でなされるその仕事

量をW1とするならそれは式b-6 の右辺によって示されるすなわち

(b-7)

VV

1

2lnVVRT=

V V

VV

V

V2int V2 intV1 V1

<補遺> 66

またQ2の熱量の移動が圧力P温度T2の下で起きこれによって系Aが可逆的に圧縮され

るなら体積変化はV2よりV1まで起こりその仕事量をW2で示すと次式のように表される

(b-8)

1

22

2

122 lnln

VVRT

VVRTW minus==VV

VV

Q1=W1Q2=W2の関係から式b-7 およびb-8 を用いてCarnot Cycleの効率eを表す式b-3

を書き改めると温度のみの関係式として次のように表される

1

21

TTTe minus

= (b-9)

ここでサイクルが可逆的過程であると想定するならば式 b-3 と式 b-9 から

1

21

1

21

TTT

QQQe minus

=+

= (b-10)

これから

12112111 QTQTQTQT minus=+ (b-11)

整理すると

02

2

1

1 =+TQ

TQ (b-12)

この考えをさらに発展させ系A

と系Bの間に数多くの系を挿入すること

にしてそれらの系を同様に熱源として

T1T2Tnと考えるこれによっ

て熱の受け渡しが系Aから系Bに至り

再び系Aにもどるサイクル過程に数多

くの寄り道の過程を加えることになる

熱量の移動に関して上の場合と同じく

準静的過程で行われると考えるこの

サイクル全過程について初めと終わ

<補遺> 67

n

i i

i

T

Q

1

0

0T

dQ

T

QS

T

dQASAS )()( 12

りが同じ状態になる可逆的な過程であるなら式 b-12 を拡大的に考えることになってそれ

は次式で表される

(b-13)

式 b-13 には重要な関数が現れるすなわち熱量と温度の比QT である

もし一つの系が無限小だけ温度の高い(dT )外界から温度圧力など平衡を保ちなが

ら極めて緩慢な過程(準静的過程)で無限小の熱量(dQ )を受け取るならばその変化は可

逆的でありdT について連続的な温度分布をする過程を考えるとき式 b-13 をさらに発展

させて次のように積分式で示すことが出来る

(b-14)

式 b-14 で積分記号にが付されているのはCarnot Cycle のような経路を一巡することを

意味している

Carnot の熱機関の効率という着想から生まれた熱量とそれを持つ系の温度との比 QT に

重要な意味を見出したのは Rudolph Clausius で彼はこの比にエントロピーという名前を与

えたエントロピーには記号ΔS を一般に用いる

(b-15)

エントロピーは初めと終わりの状態がわかれば過程に関わらず定まるので状態関数であ

系 A と外界のエントロピー変化を考えるときそれが可逆的過程であるならばすべてを併

せた全体のエントロピー変化は初めと終わりに変化がないという意味でゼロであるすなわ

ち初めの状態を S(A1)とし次の状態を S(A2)とするならそれぞれのエントロピーを

ΔS(A1)ΔS(A2)としてこの間におけるエントロピーの変化量は次のように示される

(b-16)

<補遺> 68

T

dQdS

0T

dQ

ある一つの変化については次のように示される

(b-17)

ここで式 b-17 の S に付けられたdは微分量すなわちごく微小の変化量を意味し式 b-15

で定義されたエントロピーに用いられる一般的な記号Δと区別する

ところで式 b-10 の関係においてもし移動した熱量のすべてが仕事に変わらなければ

効率 e を表す熱量を用いた関係式と温度で表される関係式は等号で結ぶことができないそれ

はエネルギーのロスを意味し初めと終わりの状態が異なってしまうことを意味するすなわ

ち全過程が構成する一つのサイクルは可逆的でなくなる

不可逆過程での熱効率 ersquo は 大値を示す可逆的過程の熱効率 e より小さな値をとる

ee

したがって 大効率を与える式 b-8 と式 b-3 から

01221

2112

1

21

1

21

QTQT

QTQT

Q

QQ

T

TT

両辺を T1T2で割ると

02

2

1

1 T

Q

T

Q

これを式 b12 と同様に発展させれば式 b-14 についてサイクルの変化が可逆的過程の

場合と不可逆的過程の場合の両方を併せClausius の不等式と呼ばれる次の関係が成立する

(b-18)

式 b-18 の等号が成立するのはサイクルが可逆的な理想の場合に限られる

ある孤立系で状態 A1 から状態 A2 へは不可逆変化で進められ状態 A2 から再び状態 A1

に戻るとき可逆変化であるような閉じた状態変化を考える可逆系のエントロピー変化には

記号 Q を使い不可逆変化には Q を用いるとするとそれぞれ積分式を用いて状態 A1 から

状態 A2 へは

<補遺> 69

d prime

状態 A2 から状態 A1 に戻るときは

全体では

=d prime

+d

(b-19)

Clausius の不等式から

0

式(b-19)の第二項で反応を逆に進めるときには次のように書き改めることができる

=d

よって式(b-19)は次のように書き直すことができClausius の不等式とあわせると

d prime d

0

すなわち

d prime d

上式の右辺は式(b-16)を用いて表せば

d prime

∆S ∆

この状態変化を微小変化とするならば断熱変化の場合 dQ = 0 であるから

∆S ∆ dS 0

すなわち不可逆変化を含む断熱変化ではエントロピーは必ず増大する

<補遺> 70

T

QS

BA SSS

(b-20)

(次の<補遺>ギブス自由エネルギーも参照せよ)

本文 p26 へ戻る

ギブス自由エネルギー (本文 p28 27 行目参照)

エントロピーの考えを導入することによって不可逆的に状態変化が起きるときにはエン

トロピーの増大を引き起こすことを知ったこれによって目前で起きる現象について温度の

変化があるものであれないものであれまた圧力の変化があるものであってもエントロピー

の定義式によって可逆的な変化におけるエントロピーの変化量を計算することが可能である

(b-15)

しかしながらこれから起こる変化について我々がすでにあらかじめ知っている物理量を

用いて予測的にその状態変化が起きるかどうか知ることは必ずしも容易ではないその理由

は式 b-15 に示されたエントロピーΔS が系とその外界をあわせた全体のエントロピーを示

しているからであるすなわち関心のある系を系 A としその外界を系 B とすると全体

のエントロピーは次のように表せる

(c-1)

関心のある系 A のエントロピー変化を知るためには系 B のそれを知ればよいがそれは

いつも容易とは限らない系 A の性質だけで状態変化の方向を知るには別の観点が必要にな

るようだ

そこでもう一度状態変化が熱量 Q の移動によって起きることについて考えてみようエン

トロピーの補遺で議論したように熱量の移動が準静的過程により行われるときには変化は可

逆的に起こると考えたこのとき外界すなわち系 B から移動する熱量を Q1とし系 A から

0S

<補遺> 71

21 QQ

T

Q

T

QSB

21

T

QSS A

2

QH

T

HSS AA

AA STHST

のそれを Q2 と記号を当てたのでこれをそのまま使うことにすれば可逆的な過程では系 B

の熱量 Q1 はすなわち系 A から戻る Q2 に他ならないので両者には次の関係が成立するも

のとしてよい

(c-2)

したがって

(c-3)

と考えてよくこれによって式 c-1 を次のように書きなおすことが出来る

(c-4)

独立した系で圧力とその体積に変化がなく一定の条件の下で状態変化が起きるときエン

タルピーの考えを使ってすでにひとつの関係があることを導いている

本文(31)

そこで式 c-4 を系のエンタルピーΔHAによって書き改めれば

(c-5)

この両辺に-T をかけて式を書き直せば次の関係式が得られる

(c-6)

式 c-6 を見るときその右辺がマイナスの値ならば左辺のΔS はプラスの値をとることが

分かるすなわちエントロピーが増大すると見ることが出来るこれまでの過程で自然の現

象はエントロピーが増大する方向に進むとしてきたので関心のある状態変化について式 c-6

の右辺で計算される値がマイナスの値ならばその変化は起きるものと考えてよいことになる

だろうしかも右辺はすべて独立した系の状態量で示されていて我々が知りうる値で計算

<補遺> 72

TSHG

STSTHG

STHG

可能である

そこでこれを熱力学ポテンシャルを表すものとしてギブス自由エネルギーと呼ぶことに

するギブス自由エネルギーは記号 G が用いられ次のように定義される

(c-7)

ここで関心があるのは自由エネルギーの絶対値ではなく式 c-6 に示されたようにその変化量

に興味があるので式 c-7 から

(c-8)

温度が一定の条件の下で状態変化が起きることを考えるなら式 c-8 は次のように書くこと

ができる

(c-9)

ギブス自由エネルギーは式 c-9 の右辺がすべて状態量であるからこれも状態量の一つで

ある定圧定温の条件下で起きる変化ではすでに議論したようにΔGlt0 であれば状態

変化は自発的に起きるものと予測できる

つまり式 c-5 の第一項は系のエントロピーΔSAそのものであり第二項で示されるエンタ

ルピーは系 A の温度が一定に保たれているのであるから発熱する熱量として外界に吸収さ

れるものであってこれは外界のエントロピーの増大につながるものとして解釈されるした

がって化学反応のように一定の圧力と一定の温度の下で起きる変化について自由エネルギ

ー変化量はその状態変化が自発的に起きる傾向を示しているといってよい

本文 p28 へ戻る

  • はじめに
  • 目次
  • 電気エネルギー
    • 金属のイオン化
    • 電池
    • 水素の反応
    • 燃料電池
    • 化学反応と電気エネルギー
      • エネルギーと熱力学
        • エネルギー保存則
        • エンタルピー
        • エントロピー13
        • ギブス自由エネルギー
        • 電池における化学反応のギブス自由エネルギー13
        • 理想気体の状態方程式
        • 理想溶液のギブス自由エネルギー
        • 膜電位
          • 水素イオン濃度測定
            • 化学反応の一般的な式
            • pHの定義とその目盛り
            • pH標準液
            • 銀塩化銀参照電極
            • 実用的なpH測定
            • ガラス電極
            • 電極の校正
            • 金属イオンに対応するイオン選択電極
              • 文献
              • 補遺
                • 状態関数
                • エンタルピー
                • エントロピー
                • ギブス自由エネルギー
Page 15: イオン選択電極i イオン選択電極 Ion Selective Electrode (ISE) を理解する ・ pHを測定する ・ NaやKなどのイオン濃度を測定する 神戸大学医学部保健学科

12

H2 +12 O2rarr H2O (7)

こうして開発された電池は「燃料電池」とよばれている燃料に水素ガスが

利用される

反応式と図に示した気体酸素は通常の空気が利用され反応で生じた水と酸

素以外の利用されない気体元素は排気される

この燃料電池は水素と酸素を遮断し水素イオンだけを通過させる固体電解

質を使ったこれは上の半反応(5)で生じた水素イオンの処理を考えたわ

けである

これに対して半反応(6)で生じる酸素イオンを移動させる工夫もある

図4安定化ジルコニアを使った燃料電池

安定化ジルコニア(Stabilized Zirconia ZrO2CaO)は高温下で酸素イオン通過

性のある固体電解質として開発されたジルコニウムに10モル程度の酸化

カルシウムを加え結晶を作ると+4価のジルコニウムイオンの位置の一部を+

13

2価のカルシウムイオンが占めるできあがった安定化ジルコニアはこのカ

ルシウムの数だけ酸素イオンの不足が起き固体全体を電気的中性に保つた

めに酸素イオンの透過性ができるジルコニアの両面に白金粉末を焼き付け

それに白金のリード線を取り付ける焼き付けられた白金には多くの孔があり

その孔を通して気体とジルコニアが接触する

酸素イオン導電性の固体電解質としてジルコニアを用いた燃料電池は次

のように動作する

1)空気極(右側)に入った酸素 O2は電極で電子を受け取り酸素イオン O2-

になる

12 O2 + 2e- rarr O2- (6)

2)O2-は固体電解質ジルコニア中を移動していき燃料極(左側)で H2 と

反応し水 H2Oを生じるこの過程に伴って電子が放出される

H2 + O2- rarr H2O+ 2e- (9)

3)これら結果として外部回路に電流を取り出すことができる

燃料電池の起電力は酸素イオンが電解質中を移動することにより生じる

酸素イオンが移動する駆動力は固体電解質の両端すなわち燃料極と空気極

の酸素濃度差である

14

化学反応と電気エネルギー ダニエル電池の陰極は亜鉛板が硫酸亜鉛の水溶液につけられていたこのと

きの現象は次のように説明された亜鉛は電子を亜鉛板電極に残し陽イオン

となって出て行くその結果亜鉛板電極中に電子が余分にたまる

ダニエル電池の陰極の「電極電位」はこの電極に余分にたまっている電子の

量をさしているそれではこの半反応による電極電位を測定することができ

るのだろうか半反応は次のように示される

Zn(s) rarr Zn2+ + 2e- (1)

亜鉛が1モル反応すると2モルの電子が持つ総電荷量が流れる

1電子の持つ電荷量は16022x10-19 C (Ccoulombクーロン)であ

るから

1モルの電子の総電荷量はアボガロド数をかけて 96485 = 96485 x 104 Cmol

であるこれを1F1ファラデーと表す

1F = 96485 x 104 Cmol 亜鉛が1モル反応すれば2モルの電子が持つ総電荷量が流れるのでこれを

記号 q として表すと次の電気量が得られる

q = 2F (10)

化学反応によって取り出せる電気量はこのように計算される

それでは電気エネルギーとしてその電力はどのようになるだろう

電力は

電力=電圧times電流times時間 (12)

電流times時間=電気量であるから式(12)を書き直せば

15

電力=電圧times電気量 (13)

ここで電気量 q は式(10)で表しているので

電力=電圧timesq=電圧times2F (14)

と書くことができる

電圧を記号Vで表すことにし電力をWにすれば式(14)は

W = 2FV (15)

として表しておくことができる

電圧の単位系は仕事量が電力Wであるので(13)から

V= W q (16)

仕事量をジュールJ(ジュール)で表せば電圧はJ C (ジュールクー

ロン)でその単位を表現することができる

式(15)の表すところは亜鉛を化学反応の材料として得られる電力という

仕事量がその電力すなわち電極電位で決定されることを意味している

一般に化学反応で1分子の材料を消費しn個の電子が流れることをその

半反応で知ることができるとき式(15)を一般化して次のように得られ

る電気エネルギーを表すことができる

W = n FV (17)

化学反応によって生じる電子を取り出し回路に導けばここに電流が生じる

その起電力(V)は陽極陰極のそれぞれの電位をE+E- と記号で表し

て次式で書くことができる

V= E+-E- (18)

16

ここで問題になるのは陽極陰極のそれぞれの電位E+とE-で上に議論し

たように回路を形成しなければそれぞれの電位は決定できない

ここでいま片方の電位をゼロとすれば式(18)はたとえばE- = 0 で

V= E+

として陽極の電位が決まる

そこで申し合わせにより水素の半反応による電位をゼロとすることになっ

その半反応の式は水素の還元反応として次のように表せた

2H+ + 2e- rarr H2

標準にはMax Julius Louis Le Blanc (1865-1943) が発明した水素電極を用

いるこれを標準水素電極(Standard Hydrogen Electrode SHE)とよびこの

電極電位をいつも 0 volt(ゼロボルト)と取り決めている

図6に示した水素電極は1atm の水素ガスとそれに平衡状態にある水素イオ

ンが存在し次の半反応が平衡状態にある

H2 (g 1 atm)rarr 2H+ (aq 1 M)+ 2e- (5) g は気体を示す

この反応において平衡状態にある電極電位を 0 volt と定義する

電極に白金を用いるのは電極材料自体が溶解しないものであることすなわ

ちイオン化傾向の低いものであることまた水素イオンの還元に対してな

るべく活性の高いものであることが条件として求められるが白金はこの2つ

の性質を兼ね備えていて陽極の電極材料に適している

気体の標準状態は1atm を標準としているこの分圧を維持し溶液中の水

素イオン活量を1にする水蒸気の分圧が変化すると平衡電位は変化する

17

図6標準水素電極(0ボルトの基準)

標準水素電極は1モル塩酸溶液につけた白金電極に1atmの水素ガスを吹き込んで使う

白金電極は分極を防ぐために白金板に白金メッキを施し(白金黒とよばれる)上半分

を水で飽和させた(1atmの水蒸気分圧が必要)1atm(101325 kPa)の水素ガスを流し

下半分を1moll の塩酸溶液につける水素ガスが電極として働き白金板に電子が集めら

れる

ダニエル電池の亜鉛電極をこの標準水素電極につなげば亜鉛電極電位が測

定できる

亜鉛電極側では酸化反応の半反応が起きる

Zn(s) rarr Zn2+ + 2e- (1)

18

標準水素電極側では還元反応の半反応が起きる

2H+ + 2e- rarr H2

図7亜鉛電極と水素電極をつないで電池とする

25の基準状態における亜鉛電極の半反応(1)に対する平衡電位はすでに

知られている

E゜= -0763 volt

また銅板側の電極電位も同じようにして測定することができる

起きる半反応はすでに上述したが再度記しておこう

Cu2+ + 2e - rarr Cu(s) (3)

25の基準状態におけるこの電極電位はE゜=+0337 volt と知られて

19

いる

ここで亜鉛電極と銅電極の組み合わせでできる電池の最大電圧をこれらの

平衡状態における観測値から計算することができる式(18)を使って

V= E+-E- (18)

V= +0337-(-0763) = +110 volt

つまりダニエル電池で得られる最大電圧は11volt と計算できる実際に

はイオンの濃度が変化すれば反応の平衡が変化するので得られる電圧も変

化する

ここでダニエル電池で亜鉛1モルが反応するとき式(17)を使って得

られる仕事量としての電力を計算できる

W = n FV (17)

すなわちダニエル電池における電極反応は

Zn(s) rarr Zn2+ + 2e- (2)

Cu2+ + 2e - rarr Cu(s) (3)

であったから反応が進んで移動する電子はn = 2 である

1F = 96485 x 104 Cmol を適応すると

W = 2 x 96485 x 11 x 104 = 21227 x 105 Jmol = 2123 KJmol

(K = 103キロ)

すなわち亜鉛1モルの化学反応によって2123 KJmol の電気エネルギーが得

られる

水素ガスを使う燃料電池の起電力は電極の半反応から

O2 + 4H+ + 4e- rarr 2H2O (19)

25の基準状態におけるこの電極電位はE゜=+1229 volt が得られている

20

したがって燃料電池で1モルの水素が反応すれば

W = 2 x 96485 x 1229 x 104 = 2372 KJmol

すなわち2372 KJmol の電気エネルギーが基準状態で取り出せる最大電力

と計算される現在作られている燃料電池の電力は実際上08 volt ほどで

あるしたがって現実的に取り出せる電気エネルギーは 1544 KJmol の仕

事量と計算される「仕事量」という言葉については電気でモーターを回し

なにがしかの「仕事」をするなど思い浮かべれば実感できるだろう

エネルギーと熱力学 これまで述べてきたように電池は化学反応から直接電気エネルギーを取り出

す仕掛けであるダニエル電池では亜鉛と銅が酸化還元反応を起こす過程で

電子を放出するのを利用するまた水素ガスによる燃料電池は気体水素と酸

素を原料とし水が生成されるこの過程が1atm の気体原料を25(29815

K)で1モル反応させて生成物も1atm の液体の水を得るなら次の全反応に

よってすでに計算したとおり2374 KJmol の電気エネルギーが取り出せる

H2 + 12 O2 rarr H2O

圧力と温度がともに反応の過程を通じて一定の場合にその過程から取り出せ

る仕事量は熱力学的に考えることもできる

それはギブス自由エネルギーとして議論される電池で取り出した電気エネ

ルギーすなわち電力はこのギブス自由エネルギーに相当する

次に化学反応をこの熱力学の面から考えてみよう

エネルギー保存則

水素ガスを使う燃料電池のように独立した一つの仕掛けを考えこれを「系」

と呼ぶことにする系を考えるとき電池のように具体的なものを持って考え

るのが容易いのでそうすることが多い熱力学では自然界全体をあつかうので

しばしば概念的になり非現実的な記述が行われるが系の大きさや系を構成

する分子の大きさについて特定する必要はない

系におけるエネルギーを内部エネルギー熱エネルギー力学的エネルギー

の3つの要素からなると考えるこれらのエネルギーを考えるとき系の熱力

21

学的なパラメーター(変数)が必要となる熱力学的な状態はこれらのパラ

メーターのうちのいくつかを指定すれば決定される

熱力学的なパラメーターは2つに分類される

示量パラメーター(示量性変数)

系の大きさや構成する物質の量を示す体積や質量

示強パラメーター(示強性変数)

系の大きさに依存しない系における1つの点で決まった値で与え

られる圧力や温度密度など

いくつかのパラメーターで完全に決定できる状態を関数で表現することがで

きる場合があるそのような関数を熱力学的な状態関数(rarr補遺 p60)と呼ぶ

関数で状態の変化を表すことができれば数学的に取り扱うことができいろ

いろの面で便利である

一つの系についてその状態を知ろうとするとき系が熱力学的な平衡状態に

あると議論する上で都合がよい

熱力学的な平衡状態とは系を外部と独立させ長時間放置した後に達成され

る状態をいうこのとき系の状態をその外部のパラメーターで表現できる

たとえば電池を独立した系と考えるとき平衡状態に達した電極電圧を外部

においた電圧計で測定することができる

ある系を考えるとき前提としてその系はエネルギーを保有していると考える

系が独立してそこに存在するということで持っているエネルギーであるこれ

を内部エネルギーと呼ぶ系がある過程を経て状態を変えるとき系から系の

外部へ力学的な仕事をする場合には力学的エネルギーの出入りがあると考え

るまた系に熱が出入りする場合が考えられそれを熱エネルギーの出入り

と考えることにしよう

まず力学的エネルギーについて考えることにする

いま系が状態を変えその体積が増えれば系のlsquo壁rsquoがその系に接している

「外部」へ力学的な仕事をすることになる

このように系が膨張し壁が外部に向かって押し出されると考えたとき膨張

する過程における圧力を一定でpとし系が膨張した体積をΔV(膨張した分だ

けの体積増加量)とするなら系の仕事量ΔWは両者の積で表されるΔは変

化量を表すときにつける記号と決めておこう

22

ΔW = pΔV (20)

系の体積が凝縮する場合があるので仕事を記号で表す場合には注意するも

し系に接した「外部」から系に力が加わって体積を小さくしたならΔVは

マイナスとなるのでΔWもマイナスで表される

-ΔW = -pΔV (20prime)

今考えている系を「系 A」と呼びその内部エネルギーを UA外部の系を「系

B」と呼んでその内部エネルギーを UBと表すなら二つ合わせた全体の内部

エネルギーは両者の和で表すことができる

U = UA+UB (21)

この体積変化に必要なエネルギー変化量はどこから得られたかを考えれば

その変化があった「系 A」と外部の「系 B」のいずれかあるいは双方の内部エネ

ルギー変化分でまかなわれたと考えざるを得ない(図8参照)

そこでこのエネルギーの収支関係は変化分を表す記号に先と同様Δを用い

ることにすると次式のようになる

-ΔU =ΔW (22)

すなわち観察している「系 A」のエネルギーと外部の「系 B」のエネルギー

を合わせた総エネルギーを見てその微少な減少量minus ΔU が仕事をなすために

必要であったエネルギー量と考えてみることにする

ついでこの体積の変化が「系 A」に接する外部のlsquo熱rsquoによって起きたも

のと考えてみようすなわち外部の「系 B」が系 Aより高温で「系 B」によ

って系 Aが暖められたことになる

このとき移動したエネルギーを「熱量」と定義する

23

図8熱量の移動と系が外部にする仕事

「熱量」を記号Qで表すと外部の「系 B」が失ったエネルギーminus ΔUB で

ありこれが熱量であるから式で表せば次式のように書くことができる

-ΔUB = Q (23)

ここで「系 A」とそれに接する「外部 B」両方のエネルギーを合わせた総エ

ネルギーの変化量ΔUは式(22)で与えられていた

-ΔU =ΔW (22)

-ΔU =-(ΔUA+ΔUB) であるから

minus ΔUAminus ΔUB=ΔW (24)

これに式(23)を当てはめてΔUAで整理すれば

24

ΔUA= Q-ΔW (25)

この式(25)は「エネルギー保存則」あるいは「熱力学の第一法則」を数

学的に表現したものである

すなわち

独立した系を考えその状態が変化するとき系の内部エネルギーの変化量はその系に入る熱量と系が外部にした仕事との差である

式(25)にはまた重要な主張があるつまりエネルギー保存則にしたが

うとき熱量は力学的エネルギーにまた力学的エネルギーは熱量に変換しう

ることを意味している

熱量を表す単位はカロリー(cal)を用いる1cal は

1 cal = 4184 J

と換算されるジュールは 1J = 1Nm (ニュートンメートル)で仕事量を

表現する単位系で表される

エンタルピー

式(25)から定圧過程で式(20prime)を利用して次の式(26)が誘導さ

れる

Q =ΔUA+pΔV (26)

ここでQは熱量を表していたのでこの関係式(26)から熱関数として

新しい関数を定義する

新しい関数はエンタルピー(enthalpy)(rarr補遺 p63)と呼ばれ次の関数

式Hで表される

H = U+PV (27)

エンタルピーの微少変化量を記号Δを使って表現してみよう

25

ΔH = ΔU +Δ(PV) =ΔU +ΔPV+ PΔV (28)

独立した系で圧力が一定の下に起きる過程を考えるならΔP = 0 (圧力の

変化はゼロ)であるから式(28)は次のようになる

ΔH =ΔU + PΔV (29)

化学反応の過程を考えるとき系に容積の変化がなく過程の前後で一定であ

るならさらにΔV = 0 であるのでエンタルピーの変化量は

ΔH =ΔU (30)

また系の仕事を体積の変化としてみる式(20)から

ΔW = pΔV= 0

であるのでこれを式(25)へ適応すると

ΔU= Q minus ΔW = Q ΔW= 0 だから

結果的に系の圧力と体積が変化の過程で一定である場合にはその系のエンタ

ルピーの変化を表す式(29)(30)は次のように簡単な式になって熱関

数と呼ばれる意味が理解しやすいだろう

ΔH = Q (31)

独立した系に等圧等積で起きる過程を見る場合にはエンタルピーは系が外

部と交換する熱量の直接的な尺度となる

H>0 なら反応に熱を使うので吸熱反応

H<0 なら発熱反応

電池のように系に起きる化学反応で生じる電子の流れを取り出す装置を考え

る場合エンタルピーの変化を電気エネルギーとして取りだしている点に留意

26

しなければならない式(31)のようにエンタルピー変化が交換される熱

量に直接表現できるといっても必ずしも熱として取り出すとは限らないこと

を注意しよう

ところでエンタルピーは内部エネルギーと同じ次元にある状態量で定圧

変化の熱量がエンタルピー変化であるからある一点を標準として定めれば

すべての物質について任意の点のエンタルピーを変化量として定めることがで

きるすなわち化学反応の過程で発熱あるいは吸熱する熱量は反応材料と

生成物の間の状態変化に対応するエンタルピーに対応する

そこで一つの元素に対してもっとも安定な状態にある物質を標準物質とし

て定め29815K(25)1atm を標準状態としてその標準物質からある化

合物を合成するときの反応熱(発熱あるいは吸熱)をその化合物の「標準生成

エンタルピー」として定義できる多くの元素に対して標準生成エンタルピー

は現在表としてまとめられている

水素や酸素はその気体状態が標準物質でありそれらの標準生成エンタルピー

がゼロと定義される

エントロピー

もう一つ新しい状態関数としてエントロピー(entropy)(rarr補遺 p64)を

定義するエントロピーを表す記号は通常S を用いその定義は次の式(32)

による

S Q

T (32)

エントロピーは系の2つの状態が決まると状態量として決まる

このときQ は2つの状態の間を可逆的に変化したとき系が受け取る熱量

T は系が熱量 Q を受け取ったときの温度(degK)である

「熱力学の第二法則」はエントロピーに関するものである

図9では2つの系が接しておりそれぞれの温度を Thigh Tlowとする

Thigh>Tlow (33)

27

今温度の高い系から温度の低い系に直接熱量 Q が移動したとすれば温度

の高い系のエントロピーの変化量ΔS は熱量が失われるので負の値になる

図9熱の移動

そこで温度の高い系のエントロピーの変化量ΔS を式で表すことにすると

次式のようになる

Shigh Q

Thigh

(34)

一方低い系のエントロピー変化量ΔS は熱量が与えられるため

Slow Q

Tlow

(35)

両方の系を合わせたエントロピーの変化量ΔS は

S Shigh Slow Q

Thigh

Q

Tlow

lowhigh

lowhigh

lowhigh TT

TTQ

TTQ

11 (36)

式(36)の最終項で(33)を前提すなわち最初に温度の高い系は高い

と決めたのだとするならエントロピーの変化量ΔS は必ず次のようになる

28

ΔS >0 (37)

すなわち独立した系がありそれより温度の低い別の系あるいは温度の低

い外界が接した場合熱量は高い方から低い方へ移動するという自然の成り行

きを説明するものである

自然界に置いてエントロピーは

ΔS≧0

の値を取りΔS=0のときは可逆的過程である

今の例でいうなら熱は温度の高い系から低い系へ移動しその逆は起きない

常にΔS >0の方向に過程が進行するまた2つの系が同じ温度であるとき

両者は平衡状態にあって熱量の移動は見かけ上なくΔS=0と表現される

「熱力学の第二法則」はエントロピーによって表現されるもので系の変化が

可逆的であるかどうかを判定する指標であり現実の世界で起きる不可逆過程

が正の値を取る方向へ進むことを示す

あるいは系の変化が起きるとき外界を含めて考えれば総エントロピーが

増大する方向に変化が起きることを意味するというようにも表現される

ギブス自由エネルギー

熱力学の第一法則によってエネルギーの取りうる形である「仕事」と「熱」

は互いに変換されうることを理解したこのことの数量的な意味は1cal=418J

で示されるさらに仕事は100熱に変換可能であるが一方の熱はうま

くやっても100を仕事に換えることができないことを熱力学の第二法則で

説明しようとしたそのためにエントロピーという概念が導入された

ここで電池のような独立した一つの系を見るとき系の内部エネルギーの減

少を仕事として取り出しうるならそれは化学反応を一つの例としてどれほど

の仕事量が取り出せるのかはどうしたら与えられるだろうか

化学反応を電気エネルギーに換える電池では先に正負それぞれの電極におけ

る半反応の平衡電位の値を利用してその起電力に対する最大値を計算した

この化学反応から取り出しうる最大仕事量を与えるものとして新しくギブス

自由エネルギー(rarr補遺 p70)と名付け記号 G を使ってそれを次のように

定義する

29

G = H-TS (38)

H はエンタルピーである第2項にある S はエントロピーを表す

ギブス自由エネルギーは化学反応のような独立した系の定温定圧過程に適

応されるので変化量ΔG を式(38)から得ておこう

ΔG =ΔH-Δ(TS)

=ΔH-(SΔT+TΔS)

温度を一定と考えているのでΔT=0 であるから

ΔG =ΔH-TΔS (39)

この式(39)を書き換える

ΔH=ΔG + TΔS (39rsquo)

ここで定圧過程ではエンタルピーを次のように式(29)で定義できた

ΔH =ΔU + PΔV (29)

式(29)の意味するところを復習すれば

系のエンタルピー変化ΔH は内部エネルギーの変化量と系が外部に

した仕事量の和として表される

これは

定圧過程で系が得るエネルギー量から仕事量を除いたもの

と言い換えることができるエンタルピー変化量は化学反応などの過程で

始めと終わりの2つの状態の差であるからそれが正の値を示す(>0)なら

系のエンタルピーは増加することを意味しその過程が進行するためには系

の外部からエネルギーが供給されなければならない

一方式(39rsquo)の右辺第2項TΔS はエントロピーの定義(32)より

TΔS = Q (40)

であるのでこれは可逆過程で系に供給される熱量を意味する

30

もしエンタルピー変化量が負の値を示す(<0)ならば系のエンタルピー

は減少しその過程が進行することによってエネルギーが取り出せるすなわ

ち式(39)(40)から次のようにこれら3つの状態量を改めて説明する

ことができる

ある化学反応が定圧で可逆的に進行するときそれから取り出せる

エネルギーのうちΔG を仕事として放出し熱量 Q を放出する

標準状態29815K(25)1atm で標準物質からある化合物を合成すると

きの反応熱(発熱あるいは吸熱)をその化合物の「標準生成エンタルピー」

として定義した同様にある物質に対する「標準生成ギブス自由エネルギー」

はこの標準状態で標準物質からその化合物を化学反応で生成するとき式(3

9)によって与えられる変化量をいう

電池における化学反応のギブス自由エネルギー

先にダニエル電池の亜鉛板側に対する電極反応を検討したとき電極反応が

仕事として放出するエネルギーを表現する重要な式があった次の式(17)

である

W = n FV (17)

ギブス自由エネルギーを用いて今これは次のように書くことができるように

なった

W = n FV=-ΔG (41)

この式が表していることを実際に水素の燃料とする燃料電池の反応過程で見

てみよう燃料電池の図を再掲する

図中右にある陰極では水素の酸化反応が起きる

H2 rarr 2H+ + 2e- (5)

一方図では左にある陽極において次の還元反応が起きる

12 O2 + 2e- rarr O2- (6)

O2- + 2H+ rarr H2O (8)

全体の反応はすでに示したように次の反応式(7)で示される

H2 +12 O2rarr H2O (7)

31

標準状態における可逆的仕事は式(41)であらわせ

n FV=-ΔG (41rsquo)

このΔG は式(39)であらわせた

ΔG =ΔH-TΔS (39)

すなわち標準状態29815K(25)1atmにおいてある化合物を標準物

質から合成するときの標準生成ギブス自由エネルギー変化ΔG゜は標準生成エ

ンタルピー変化ΔH゜とその温度におけるエントロピー変化TΔSの差で求ま

るこれらは燃料電池の全反応を表す式(7)で与えられる

標準生成エンタルピーΔH゜変化とエントロピー変化はすでに一般的な元

素やその化合物に対して表が作成されている

液体の水に対する標準生成エンタルピーΔH゜(H2O)は

ΔH゜(H2O)=minus 28583 KJmol

また水素ガスと酸素ガスはそれぞれの元素の標準物質であるので生成エ

ンタルピー変化はゼロである

32

そこで式(7)での水を1モル化学合成するときの標準生成エンタルピーΔ

H゜は水素(ガス1モル)と酸素(ガス12 モル)の2つの材料と水(液

体251atm)の両状態における状態量の差として表される

ΔH゜=ΔH゜(H2O)-ΔH゜(H2) -12ΔH゜(O2) (42)

式(42)の右辺第2項と第3項がゼロであるので

ΔH゜=ΔH゜(H2O) =-28583 KJmol (43)

標準状態29815K(25)1atm における水素(ガス)と酸素(ガス)お

よび水(液体)のエントロピーはそれぞれ

ΔS(H2O)=6991 JKmol

ΔS(H2) =13068 JKmol

ΔS(O2) =20514 JKmol

単位で分母のKはケルビン温度の意味

と計算されているので

ΔS=ΔS(H2O)-ΔS (H2) -12ΔS(O2) (44)

=6991-13068-12times20514

=-16334 JKmol

したがって

TΔS=29815times(-16334)=-486998=-4870 KJmol

(45)

そこで標準生成ギブス自由エネルギーΔG゜は式(39)から

-ΔG゜=-(ΔH゜-TΔS) (39)

=-{-28583-(-4870)}

=+23713 KJmol

33

すなわちこのエネルギーを電気エネルギーとして取り出すことができるそ

の起電力は式(41rsquo)から

n FV=-ΔG (41rsquo)

V= -ΔG(n F)

各数値を当てはめれば

V=237130(2times96485)

=1229 volt

先に【化学反応と電気エネルギー】のところで記したとおり25の基準

状態におけるこの電極電位はE゜=+1229 volt が得られているすなわち

こうして標準生成ギブス自由エネルギーから計算することでも同じ値を得る

ことができた

水素を単純に酸素と化合させる燃焼では式(43)で示されるエンタルピ

ーが発生する熱量を示している水素1モルあたり28583 KJである電池

にすれば水素1モルあたり23713 KJの仕事量が電気エネルギーとして取り

出すことができるその差は電池の場合熱が発生して利用できない

化学反応の過程を利用して化学エネルギーから直接電気エネルギーに変換す

るのが電池という装置であるが化学エネルギーは100電気エネルギ

ーに換えることはできないこのようにエネルギーの一部は電池の熱として

発散してしまう

理想気体の状態方程式

ギブス自由エネルギーΔG を定義した式(39)とエンタルピーΔH の定義

式(28)から

ΔG =ΔH-TΔS (39)

ΔH =ΔU +VΔP+ PΔV (28)

そこで次式が得られる

34

ΔG =ΔU+VΔP+ PΔV-TΔS (46)

またエネルギー保存則から得られた式(26)を応用すればギブス自由エ

ネルギーが変形できる

Q =ΔU+PΔV (26)

から

ΔU=Q-PΔV (47)

したがって式(46)は

ΔG = Q-PΔV+VΔP+ PΔV-TΔS

ΔG = Q-TΔS+VΔP (48)

エントロピーの定義からQ=TΔSであるから結局式(48)は

ΔG = VΔP (49)

と表すことができる

成分が混合された気体分子の分子間に働く力をゼロと仮定した「理想気体」を

考えるとき状態方程式としてボイルシャルル(Boyle-Charles)の法則が

利用できる

PV=nRT (50)

ここでnは気体のモル数PVT はそれぞれこれまでと同じ圧力体積温度(ケルビン温度)でありR は気体定数と呼ばれるもので次の値を持

R= 831441 JmolK (51) 単位で分母のKはケルビン温度の意味

35

状態方程式から式(49)の右辺を導くことを考えてみよう式(50)は

1モルの気体について V に対し次のように変形することができる

V 1

PRT (50rsquo)

両辺に圧力の微小変化量⊿P をかけると

PP

RTP V (52)

これを微分方程式として圧力p0 からp1 まで(p0≦p1)積分するなら

1

0

1

0

1

0

1p

p

p

p

p

pdP

PRTdP

P

RTdPV (53)

関数 f(x)=1x を積分したときの関数はF(x)=ln(x)であるので(ln は e を底

とする自然対数loge)

右辺=0

1ln)0ln()1ln(p

pRTpRTpRT (54)

ギブス自由エネルギーを表す式(49)は次のようであったから

ΔG = VΔP (49)

式(52)から得た式(54)を当てはめると状態G0(p0T)からG1(p1T)

へ変化する過程で圧力が p0 から p1 まで変化するものとして

dGG0

G1

G( p1T ) G(p0T ) RT lnp1

p0 (55)

あるいはこれを書き直して

V

36

G(p1 T) = G( p0T ) + RT lnp1p0

(56)

特別にG0(p0T)を標準状態T=29815K(25)p0=1atmに指定する

なら標準生成ギブス自由エネルギーを記号G゜として (56rsquo)

と表すことができる

式(56rsquo)の意味するところは標準状態から圧力の変化を伴う過程で理

G(p1 T) = Go + RT ln p1

想気体のギブス自由エネルギーは圧力の対数に比例して上昇することである

このことはさらに新しい着想を生む

すなわち水素を燃料とする上の燃料電池で1atm 標準状態の水素ガスの圧力

を2atm に上げれば式(56rsquo)からRTln2 余分にギブス自由エネルギー

が取り出せることになる

燃料電池において起電力を生むエネルギーは隔壁を水素イオンもしくは酸

素イオンが浸透しようとする力であるので1atm の水素ガスと2atm のそれで

は浸透しようとする圧力が異なりここに起電力が生じる

式(56)の第二項が圧力の差による仕事であるからこれをΔG とすれば

W=-ΔG の仕事量が電気エネルギーとして取り出せるはずである

W = minusΔG = minusRT lnp1p0

(57)

起電力に換算するために式(41)を使うと

W = n FV=minus ΔG (41)

から

01ln

pp

nFRTV ⎟

⎠⎞

⎜⎝⎛minus= (58)

この式(58)は一般にネルンスト(Nernst)の式と呼ばれる

37

理想溶液のギブス自由エネルギー

理想気体を想定したように無限に希釈された混合溶液に対して理想溶液を仮

定する「系」の圧力温度を一定に保つならば体積内部エネルギーエンタ

ルピーギブス自由エネルギーなどの示量数は混合溶液を構成する物質のモ

ル数mに比例するたとえば標準状態にある物質の1モルの体積をVとすれば

mモルの体積はそのm倍mVであるそうすると溶液中のi番目の成分がmi

モル「系」から「外界」に仕事をするときその成分iの持つ自由エネルギーの

mi倍の仕事が「外界」になされると考えればよい

この溶液成分のモル数と化学的仕事を結びつける示強因子がギブスによって

化学ポテンシャルと名付けられ一般に記号μが用いられる

化学ポテンシャルはこれまで見たようにギブス自由エネルギーで表される

また電位がψ(プサイ)にある系から-Δeの電荷が放出されるときには

-ψΔeの電気的仕事が得られるそこで記号μに両者を合わせた意味を持

たせて「電気化学ポテンシャル」と呼ぶ

概念の上で物質は電気化学ポテンシャルの高い方から低い方へ勾配にした

がって移動する

理想気体の標準状態が気体分圧を T=29815K(25)で 1atm としたのに対

し溶液成分の標準状態はその分圧に相当するモル数 m を用いるすなわち

標準状態にある成分 i の電気化学ポテンシャルμ0iは成分の持つ電荷(H+なら

1)を n として

μ0i = G i゜+nFψ i (59)

ギブス自由エネルギーは式(56rsquo)を借り理想溶液中の成分に対しては気

体圧力をその成分のモル濃度Cに書き換えればよいそこで

G(CT ) G RT lnC (60)

と表すことができる

したがって一般的な成分 i の電気化学ポテンシャルμiを表す式は標準状態

からの自由エネルギーの変化を考え式(59)と合わせて次のようになる

38

ψnFGii 0

式(60)から

ii CRTGTCGG ln)( 0

よって

(61) ψnFCRT iii ln0

実際的なことを考えると成分濃度はその有効イオン濃度とする必要があり

「活量係数」γを導入して次式で表されるイオン活量aを用いる

ai = γCi (62)

一般的にはγ=1と近似してモル濃度Cを使っているこのテキストでも

必要ではない限りイオン活量を用いることを省略して簡単に記述したい

膜電位

燃料電池に使われたナフィオンのような一つのイオンを通す膜を介して膜

の両側にC0 とC1 のイオン濃度差がある溶液が接するときの電気化学ポテン

シャルを考えよう

ある容器の底にナフィオン膜を取り付け容器の中と外のイオン濃度をC0

とC1としそれぞれの電気化学ポテンシャルをそれぞれμinとμoutとする

式(61)を使って

容器の中の電気化学ポテンシャル

(63) innFCRTin ψ 00 ln

容器の外の電気化学ポテンシャル

(64) outout nFCRT ψ 10 ln

イオン浸透性の膜を介して濃度変化が無視できるほどの移動があると考え

その電気化学ポテンシャルの差を式(63)(64)から求めれば

39

)(ln0

1 inoutinout nFC

CRT ψψ (65)

この系において今注目しているイオンが膜を介した両側で平衡状態にある

とき式(65)はΔμ=0と考えることができるすなわち

0)(ln0

1 inoutnFC

CRT ψψ

膜内外の電位差をΔψ=ψoutminus ψinとすれば

1

0

0

1 lnlnC

C

nF

RT

C

C

nF

RTψ (66)

式(66)は理想気体に対するネルンストの式(58)と同様溶液中のイ

オンに対するネルンスト(Nernst)の式として与えられる

細胞の膜においてもその生体膜の内外でたとえばカリウムイオンのように

非対称に分布して平衡に達している場合には式(66)で与えられる膜内外

で電位差が生じるこれは一般に膜電位と呼ばれる膜電位は平衡電位とも

呼ばれる

たとえば膜内外に1価のカリウムイオンに10倍の濃度差があるとすると

通常カリウムイオンは細胞内の濃度が高いので

C0 = 10timesC1

であるから

これを式(66)に当てはめてln(10)=2303 を用いlog への変換をすれば

Δψ=2303times(RTF)timeslog(10)

であるこれに R=831441 JmolKF=96485 CmolT=29815 K(25)

の各数値を当てはめると

Δψ=2303times831441times29815times196485 JC

=+005917 volt

すなわち膜の内外で約+60ミリボルトの膜電位が生じることになるこの

分だけ細胞の外側の電気化学ポテンシャルが高く膜の内側の膜電位が負であ

るそして膜にあるカリウムチャネルがこの電位を示すとき受動的なカリ

40

ウムの膜内外の移動は平衡に達することになる

水素イオン濃度測定

「標準水素電極」は1モル塩酸溶液につけた白金電極に1atm の水素ガスを

吹き込んで平衡状態に達したときの電位を基準としてゼロボルトと規定した

そこである溶液についてその水素イオン濃度を知ろうとするとき同じ水

素電極を用いることを考えれば標準状態にする目的で用いた1モル塩酸溶液

を濃度未知で X モルの塩酸溶液と想定すればその水素イオン濃度を知るこ

とができるだろうか

標準状態ではない X モルの塩酸溶液に浸けた白金電極が半電池として働くこ

とは間違いなさそうであるしかしその白金電極が持つ電極電位を測定する

にはいずれにしても標準電極と組み合わせて「電池」を構成しその電池

の起電力として計る必要がある電池を作れば起電力を知ることができ相

手の半電池の電極電位が知られていれば濃度が未知でXモルの溶液について

その水素イオン濃度を知ることができるだろう

こうした目的のためにいちいちゼロボルトと規定した標準水素電極を用いる

のは煩雑なのでしばしば後出の「銀塩化銀電極」が参照電極として用いら

れる

まず予め「銀塩化銀電極」を標準水素電極と組み合わせて電池とし一度

その起電力を測定しておけば後はいつもそれを標準電極として利用できる

「銀塩化銀電極」の半電池は

H+ (1 moll) Cl- | AgCl | Ag(s)

これに「標準水素電極」を組み合わせ電池を構成すると次のような電池

になる

Pt(s) | H2(g) | H+ (1 moll) Cl- | AgCl | Ag(s)

この電池の起電力を知れば「銀塩化銀電極」の半電池としての電極電位

を知ることができ参照電極として未知の半電池と組み合わせて起電力を測

定して相手の電極電位を計算できる

41

濃度 X モルの塩酸溶液を未知の溶液と想定すればその電極電位を知るために

組み立てる電池は次のようになる図10にその電池の図を示した

Pt(s) | H2(g) | H+ (x moll) Cl- | AgCl | Ag(s)

この電池の全反応は次の反応式で表される

AgCl(s) 1

2H2 (g) H Cl Ag(s) (67)

図10未知溶液の水素イオン濃度を測定しようとするための電池

化学反応の一般的な式

ここで電池に利用される化学反応から得られるエネルギーをギブス自由エ

ネルギーに換算し起電力を具体的に知る手だてとすることは上ですでに学

42

んだがより一般的な式を再度ここに書きだしておこう

化学反応が紙面で左から右に進む反応として次のような一般式で与えられ

るとき

aA + bB rarr cC + dD (68)

ギブス自由エネルギー変化量は標準状態ΔG゜からの変化量を加える形で式

(60)と同様次の式によって表される

G G RT(ln aCc aD

d ln aAa aB

b )

G RT ln

aCc aD

d

aAa aB

b (69)

aAは成分 A のイオン活量であるその他の成分も同じ

得られたエネルギーを電気エネルギーに換えるなら式(41)に習って

次式で表せば

ΔG=-n FV

there4V=-ΔG(nF) (70)

このときの起電力は標準状態における電位 E゜からの変化量として次式で与

えられる

E E

RT

nFln

aCc aD

d

aAa aB

b (71)

標準状態における起電力 E゜は反応が平衡状態にあるときで反応平衡定数

を K とするなら

K aC

c aDd

aAa aB

b (72)

で表されるそこでE゜は次のように書き改めることができる

43

E

RT

nFln K (73)

そこで式(67)で表される図10の電池「水素minus 銀塩化銀電池」に

対する起電力をギブス自由エネルギーから求めてみよう

反応から式(71)に当てはめれば

E E RT

Fln

aH

1 aCl

1 aAg1

aAgCl1 aH2

1

2

(74)

力学の慣例にしたがって固体の純物質の活量は1として扱い水素ガスを

想気体として見なして活量を1atm とするなら式(74)は次のよう

に簡略化される

E E

RT

Flna

H aCl (75)

ころで理想溶液として近似的に取り扱うときの希薄溶液でたとえば水素

入して詳細に検討するなら式( れる起電

オン濃度はイオン活量として aH+の記号を使うときすでに【理想溶液のギ

ブス自由エネルギー】の章で述べたようにこれを有効イオン濃度とする必要

がありイオン活量 a は「活量係数」γを導入して次式で表した

a H+= γH+CH+ (62)

この活量係数を導 75)で誘導さ

を計ることによって経験的に試料溶液中の水素イオン濃度を求めることは

困難である式(75)にあるイオン活量の項はモル濃度 C と活量係数γを

用いて次式で書き改められる

lnaH aCl

lnCH CCl

lnH Cl

(76)

まり式(76)右辺の第二項において互いに相手が知られなければ自分

決めることができず結果的に起電力を知っても(75)の値から水素イオ

ン濃度を導けないここに工夫が必要になる

44

の定義とその目盛り

液中の水素イオン濃度を直接意味するものではなく

を定義するとき測定されるのは1リットルの溶媒に存在す

pH = -log a H+ = -log(γH+CH+) (77)

際に試料溶液の pH を決定する際はpH 標準液を用いる

に溶液を入れ試料溶液 X と pH 標準液 S を

参 極を接続し電池を作成しその起

pH

現在pH の定義は溶

で述べたようにそれが簡便に測定できるものではないため次のように定

義されている

水素イオン濃度

水素イオン活量であるため定義式としては活量係数をγH+として次式で与

えられる

その要領は次のようである

上に図示した水素電極の容器内

れぞれ半電池(I)と(II)に入れる

半電池(I) Pt | H2 (1 atm) | 試料溶液

半電池(II) Pt | H2 (1 atm) | 試料溶液S

照電極として上図のごとく銀塩化銀電

電力を測定する半電池(I)のときの起電力を E(X)半電池(II)のそれを E(S)

とするこのとき試料溶液Xの pH は次式で計算される

pH (X) pH(S) E(S) E(X)

RT ln(10) (78)

ln(10)は自然対数を常用対数に戻すための定数で2303 を用いる

標準液

pH 標準液 S はpH 第一次標準液第二次標準液と呼ばれるべき

る測定

25で pH 4005 を示す

pH

上述した

のであり絶対的測定法である起電力の測定によって値をつける

標準液は安定で純粋な結晶が得られる試薬を調整してこれを測定す

上と同様に水素電極を用いこれに緩衝液を入れる参照電極として銀

塩化銀電極を接続して電池の起電力を測定する

たとえば005 moll フタル酸水素カリウム溶液は

一次標準(Primary Standard PS)の一つである半電池(III)として水素

45

電極を次のように準備する

半電池(III) Pt | H2 (1 atm) | PS 溶液

て電池を形成したとき得られる起電

参照電極として銀塩化銀電極を接続し

は式(75)から

E E

Ag AgCl RT

Flna

H aCl (79)

オン活量を濃度と活量係数の積(a H+= γH+CH+)にし自然対数を常用対数

すれば

E E

Ag AgCl RT ln(10)

F log(

H + CH+ Cl- CCl - ) (80)

E゜は水素標準電極(水素ガス分圧を1atm電極を浸ける溶液に001 moll

H

Cl を用いる)で得た起電力である

式(80)から

RT ln(10)

Flog(

H CH Cl

) (E EAg AgCl )

RT ln(10)

Flog C

Cl

(81)

らに

log(

H CH Cl

) F

RT ln(10)(E E

Ag AgCl ) logCCl

(82)

ころで式(77)から

(γH+CH+) (77)

-log a H+ =-loga H+-log(γCl-) +log(γCl-) =-log(a H+γCl-) +log(γCl-)

(83)の一番右の式で第一項は

pH = -log a H+ = -log

であるが右の式をさらに変形すると

(83)

46

-log(a H+γCl-)=-log(γH+ CH+γCl-) (84)

たがって式(82)の右辺で示されるように電池の起電力を測定すれば

よ 実際には溶液の塩素イオン濃

液で起電力を求め外挿する

起電

これによってpH を意味する式(83)は次式(85)で与えられる

p(aHγCl)はRG Bates によって Acidity Function と呼ばれている

らに式(85)最終項の log(γCl-) を補正しなければならないこの項は

本工業規格)によっても

であってこれは式(82)の左辺である

いただし塩素イオン濃度の項があって

をゼロにしたときの値が必要である

実測する際には塩素イオン濃度をゼロにできないので塩化ナトリウム NaCl

等を濃度を変えて添加しその時々の緩衝

勧告ではNaCl で 000500100015moll の3つの濃度を例示している

すなわち塩素イオン濃度ゼロのときの値は各塩素イオン濃度に対して

の値をそれぞれプロットしグラフから塩素イオンがゼロのときの起電力の

値を3点に対する回帰直線の延長で外挿して求めるこの点を次のように書

log( C H H Cl CCl

0

pa log( C log( (85) H H H Cl C

Cl0 Cl

)

素イオンの活動係数で与えられる補正項である

無限希釈溶液中のイオンの活動係数は理論的に Dubye-Huckel の式を用い

近似的に求めることが可能であるこれはJIS(日

用されていて Bates-Guggenheim の規約と呼ばれる (Bates RG

Guggenheim Pure Appl Chem 1 163-168 1960)

Dubye-Huckel の式は次のように与えられる

log A I

i 1 iB I (86)

47

I iについてそのモル濃度

計算される

はイオン強度でイオン mi と電荷 zi から次式で

I 1

2mizi (87)

また iは(86)式のBは温度と溶媒の性質による定数であり イオンの大

きさに関するパラメータで水和イオンの大きさとほぼ一致した値をとる標

準法の勧告では塩素イオンに対しイオンの大きさを46Åと決めてiBを

1

5 にしているそこで式(84)は次のようになる

ClA I

log 1 15 I

イオン強度 I は塩素イオン濃度を含まない計算となる

以上の方法によって実用的な pH 測定に用いられる第一次第二次標準液の

pH の値が得られる

絶対値としての

はpH の絶対測定法(第一次標準測定法)とされている

銀塩化銀参照電極は分極現象を防ぐために棒状の銀を塩酸で処理し表

に塩化銀を生成させたものを飽和塩化カリウム溶液につけてある

(88)

参考現在は実験的に求めた値と理論値の組み合わせで

素イオン濃度を求める方法を規定しているこの起電力から水素イオン濃度

を知るための測定方法

Buck RP Rondinini S Covington AK Baucke FGK Brett CMA Camoes MF

Milton MJT Mussini T Naumann R Pratt Kw Spitzer P Wilson GS

Measurement of pH definition standards and procedures Pure Appl Chem

74(11)2169-2200 2002Kristensen HB Salomon A Kokholm GInternational

pH scales and certification of pH Anal Chem 63(18) 885A-891A 1991)

銀塩化銀参照電極

電極の構成は

Cl-(aq) | AgCl(s) | Ag(s)

48

この半反応は次のようになる

AgCl(s) + e- rarr Ag(s) + Cl- (89)

の反応は次の2つの反応に分けて考えることができる

Ag+ + e- rarr Ag(s) (91)

AgCl(s)rarr Ag+ + Cl- (90)

図11銀塩化銀参照電極

(90)における銀 る塩素イオンによって左

されることが推測される

そこでカッコ [ ] をそれによって囲まれるイオンの濃度を表すことにし

式 イオン Ag+の溶解性は共存す

塩化銀の乖離定数Kを考えると

49

K = [Ag+][Cl-] (92)

これから

[Ag+]= K[Cl-] (93)

化カリウム溶液に漬けた銀塩化銀電極の電位 E は水素標準電極に対する

電 で与えられる

位を E゜として次式

E E

RT

nF

[ Ag ]

[Ag(s)]ln( )

Ag(s)のイオン活量は常に1とする

ここで半反応の電極電位を求めるために式(75)を利用することにすれば

(94)

熱力学の慣例にしたがって純物質個体

E E

RT

Flna

H Cl a (75)

式 の半反応をみると

応で電子1つが移動するので n=1 とするR=831441 JmolK1F = 96485

C はめれば

これに銀イオンの濃度として式(93)を当てはめる

この反応で移動する電子は (89) 銀イオン1つの反

molT=29815K(25)ln(10)=2303などの定数を当て

2303RTF = 005917

であるから(94)式は次のように表現できる

log[Cl]) E E 005917(logK (95)

たがって標準水素電極に対する銀塩化銀参照電極の標準状態における電

位 は半反応(89)に対して ゜=+0799で

化銀の乖離定数 K は182times10-10 であるのでその対数を取れば-973993

0799-005917times973993-005917log[Cl-]

E゜ E ある

ある

そこで式(95)は

E =

50

= 0799-0576-005917log[Cl-]

= 0223-005917log[Cl-] (96)

電極電位の関係について実測値

こうして求めた塩化カリウム溶液の濃度と

計算上の値は次のようである

KCl moll vs SHE volt25 計算値 volt25 01 02881 02822 35 0205 01908 飽和 0199 minus

実用 測定

実際の現場で水素イオン濃度を測定する目的の測定法で上のような2つの

極が同じ溶液に浸かっていたのでは試料溶液を交換するにも便利ではない

の容器に入れる未知試料溶液と銀塩化銀電極を隔離する

的な pH

そこで水素電極側

的で二つの電極容器をつなぐ液絡部をグラスフィルターやセラミック板

飽和塩化カリウムで作成したゼラチンなどの塩橋によって隔離遮断するこ

れを液絡部とよぶ

電池として機能するために必要な溶液イオンの交換はこの液絡部で行う

組み立てる電池は電池式で次のように表される

Pt(s) | H2 | 試料 (H+ x moll) || 飽和 KCl | AgCl | Ag(s)

の標準電極と銀塩化銀電極とは区切られていて溶液の直接の接触がない

とを意味するために電池式ではタテ二重線を用いる銀塩化銀参照電極

の容器には飽和塩化カリウム溶液が入れられる

51

図12液絡部のある pH 測定のための電池

この液絡部のある電池では塩橋を記号lsquo | | rsquoで表して次のように記す

試料 (H+ x moll) | | 飽和 KCl

ここでは試料溶液と飽和塩化カリウム溶液の異なる2液が接している

このような界面では膜電力が生じるのと同様「液間電位差」が生じることが

知られているしたがって上の電池で測定される起電力 E は

E = E[銀塩化銀電極電位]+E[液間電位]+E[水素電極電位]

で与えられることになってE[液間電位]のために図12の電池の起電力

は銀塩化銀参照電極の値を知っていても水素電極容器内に入れた未知溶

液の水素イオン濃度を正しく知ることができない

52

そこで実用的な測定法としてこの E[液間電位]を膜電位として積極的に利

用する方法が工夫されたすなわち水素イオンに感応するガラス薄膜を用い

るガラス電極法である

53

ガラス電極

ガラスはケイ素原子と酸素原子からなる SiO4 の結晶構造を持ち酸素で囲

まれた空隙があって水素イオンがそれを埋めることができる

この性質によってガラス膜表面は水溶液中の水素イオンに応じて膜電位を

変化させるのでこれを水素イオン濃度測定用の電極として利用することが考

えられるこれが通常用いられるガラス電極である

ガラス電極は標準電極と組み合わせれば電池を構成することができこの電

池の起電力を知ってガラス薄膜の内外にできたイオン濃度勾配を知ろうとす

るものである

薄いガラス膜(01mm程度)をはさんで接する2つの溶液のH+イオン濃

度が異なるとその差に応じてガラス膜の両側に電位差(Eg)が現れる

ネルンストの式でガラス電極の内部に入れた既知の濃度のH+([H+]in)に対

し試料中の水素イオン濃度が[H+]sampleのとき次の電位を生じる

)][

][log(059170)

][

][ln(

sample

in

sample

ing

H

H

H

H

F

RTE

(97)

図13ガラス電極

電極を構成するのは銀塩化銀電極と同じ電極で用いる塩溶液は一般的

54

に 01モル塩酸溶液である

この半電池の電池式は次のように書くことができる

Ag(s) | AgCl(s) | HCl (01 M) | ガラス薄膜 || 試料溶液 H+ (x moll)

Eg

この半電池の電極電圧を測定するために銀塩化銀標準電極と組み合わせ

電池を作って起電力を計る

構成される電池は下図のようになる

ガラス電極 銀塩化銀標準電極

図14ガラス電極を用いた pH 測定用の電池

この電池の起電力は次の各半電池の平衡電位を合わせたものになる

55

E1ガラス電極の内側電位

Ag(s) | AgCl(s) | HCl (01 M)

Egガラス薄膜の内外に生じる膜電位

HCl (01 M) | ガラス薄膜 || 試料溶液 H+ (x moll)

E2液間電位(膜電位)銀塩化銀標準電極のセラミックを介した試料溶液

と銀塩化銀標準電極の内部液(飽和 KCl 溶液)の間に発生する電位

試料溶液 H+ (x moll)|| セラミック | KCl(飽和)

E3銀塩化銀標準電極

KCl(飽和)| AgCl(s) | Ag(s)

pH メーター用のガラス電極に使われるガラス薄膜は水素イオンに感応して

膜電位(Eg)を生じるこれは【膜電位】の章で記したように薄膜がある

一つのイオンのみを通過させる特性を持っている場合にイオンが膜を介した

両側で平衡状態に達したとして電気化学ポテンシャルを膜の両側で等しいと

考えてそのイオンが濃厚な側から希薄な側にその差によって圧力を生じると

するものである

一方同じ試料溶液が銀塩化銀標準電極のセラミック液絡部を介して生じ

るだろう液間電位(膜電位E2)はいま関心がある水素イオンに対して特異

的に感応するのではないので試料溶液の水素イオン濃度に関係なく一定と見

なすことができる

すなわちpH メーターを構成する電池の起電力 E は

E = E1+Eg+E2+E3 (98)

このうちEg以外は一定と見なせるので

E1+E2+E3 = E

として式(98)を書き直すと

)][

][log(059170

sample

ing H

HEEEE

(99)

Eは標準液によって校正されるべき標準電極電位である

56

電極の校正

実際のイオン濃度を測定する場合低濃度標準液と高濃度標準液で得られ

る起電力を測定し計測のイオン濃度に対する係数(傾き)を求めておき未

知の試料に対して起電力を測定してそのイオン濃度を算出する方法が採られる

低濃度標準液と高濃度標準液のそれぞれの濃度をCLとCHとすればそれぞ

れの起電力ELとEHは次式で表される EH = E +β logCH (100)

EL = E +β log CL (101)

ただしβは式(99)の係数を簡略にしたものである

式(100)と(101)から検量線の傾きが次式で表せる

ΔE = EH minus EL = β(logCH minus logCL) = β logCH

CL

(102)

したがって係数βは

β =ΔE

log CH

CL

(103)

であらわされる

このときに使われる標準はすでに前出の pH 第一次標準第二次標準溶液で

ある

金属イオンに対応するイオン選択電極

現在臨床検査で日常的に使われている電解質測定のための電極はナトリウ

ムカリウムカルシウムクロールなどおよそ臨床的に必要な金属イオン

に対して入手可能である

カリウムイオン測定用のバリノマイシンの発見によってクラウンエーテルと

57

呼ばれる一連の化合物が知られたクラウンエーテルはその分子の中心に立

体的な空間を持ち特定のイオン径に対し合致するのでそのイオンに対して

選択的に感応するこれらの化合物はイオノフォアと呼ばれる

図 15クラウンエーテル

1つの金属イオンが環状化合物

15-crown-5 の中央にある空間を充填

している模式図

15-crown-5 の構造を作る10個の黒

い丸は炭素炭素2個のつながりごと

にある中心の白い丸は酸素酸素と

金属イオンの間の距離はおよそ 22~

23Åであるカリウムのファンデン

ワールス半径は 135Åイオン半径は

15~16Åである

測定したいイオンに対しポリ塩化ビニル(PVC)を支持体としてイオノフ

ォアを添加した液膜の電極膜を作成しこれをガラス電極におけるガラス薄膜

と同様試料に接する電極膜として用いるこの構造から一般的に液膜型電極

と呼ばれる電極膜には特異性を高めるため妨害イオン排除剤などが添加

される

pH メーターと同様銀塩化銀標準電極と組み合わせ電池を形成しその

起電力を計る測定したいイオンが液膜に対して内外で平衡に達したときの

膜電位を測定するのはガラス電極と同じである

カ リ ウ ム イ オ ン に は Bis[(benzo-15-crown-5) ( 正 式 名 は

Bis[(benzo-15-crown-5)-4-methyl]pimelate)ナトリウムには Bis[(12-crown-4)

やDibenzyl-bis[(12-crown-4)などがイオノフォアとして用いられる

58

図16カリウムイオン測定用に使われるクラウンエーテル

図17ナトリウムイオン測定用に使われるクラウンエーテル

59

参考イオン選択電極に関する文献Xia Z Badr IHA Plummer SL Cullen L

Bachas LG Synthesis and evaluation of a bis(crown ether) ionophore with a

conformationally constained bridge in ione- selective electrodes Anal Sci 14(2)

169-173 1998 Oh K-C Kang EC Cho YL Jeong K-S Y oo E-A Paeng K-J

Potassium-selective PVC membrane electrodes based on newly synthesized

cis- and trans-bis(crown ether)s ibid 14(10)1009-1012 1998 Dojindo WEB

site httpwwwdojindocojpwwwrootproductsjinfo2protocolp31pdf

<補遺> 60

補遺 状態関数 (本文 p21 10 行目参照)

一つの平衡状態にある系 A とこれに接する系 A にとって外部である系 B について系 B

から系 A に熱を与えこれによって系 A が他の平衡状態に移ったとき系 A はその結果とし

て膨張し系 B に対し仕事をする

このときの微少な熱量の移動を記号drsquoQ またなされた微少な仕事をdrsquoW とすると

系Aの内部エネルギーに関する微少な変化drsquoUA は両者の和として表される

WdQdUd A primeminusprime=prime (a-1)

この式 a-1 と本文中の式25との関係について

WQU A Δminus=Δ 本文(25)

<補遺> 61

式 a-1 と式25の記号の違いは変化の起きる前の平衡状態 S1 から変化後の平衡状態 S2

に状態変化があったとするなら式 a-1 を積分することで式25が得られるものと考えて区

別している

A

S

S A UUd Δ=primeint2

1 (a-2)

このことは重要であるすなわち内部エネルギーU は変化の起きる前後の状態を指定する

ことによって値が定まることを意味するこのように積分によって値を定めることが出来る

のでdrsquoU は完全微分であるという

内部エネルギーのように系の状態だけで値の定まる量を状態関数として扱う

一方式 a-1 のdrsquoQ drsquoW についても同様に微少の変化量を表しているが平衡状態 S1

から S2 への経路を指定しなければ積分の値は定まらない

本文中の記号にしたがって仕事量ΔW を次のように表すことにする

VpW Δ=Δ 本文(20) V

<補遺> 62

体積と圧力の関係を表す図を使ってこの仕事量が意味することを考える圧力 prsquo の下で

体積が V1 であるときを状態 S1 として圧力一定の下で体積を V2 まで膨張させるような変

化を行った後体積を等しく保って圧力を p にまで上げたときの状態を S2 とするこのとき

の仕事量は膨張に伴うものであるから図の体積‐圧力線の下の面積で示すことができる

平衡状態 S1 から S2 への変化の道筋を別にたどってみよう

新しい経路では圧力を先に p まで上げた後に膨張変化させている

図から直感的に明らかであるので数式での扱いを省略するが2 つの経路による仕事量には

差がある

すなわちdrsquoW は drsquoU と異なり変化の初め S1 と終わり S2 の状態が与えられても積分値

は定まらず変化の経路によって違ってくる

このように変化の経路を指定しなければ積分値が定まらないものを不完全微分と呼び扱

いを区別する

本文 p21 へ戻る

<補遺> 63

VpW

WQU

VpQU

VpUQ

1122 SSSS pVUpVUQ

pVU

VpUHHHQ SS 12

エンタルピー (本文 p24 20 行目参照)

本文中の式 20 および 25 から一定の圧力の元で起きる状態変化において内部エネルギー

の変化量に対する式 a-3 を得る

本文(20)

本文(25)

(a-3)

式 a-3 を Q について書き直す

(a-4)

状態の変化が平衡状態S1から平衡状態S2に移ったものとして式 a-4を丁寧に書き直すと

(a-5)

並び替えて

(a-6)

式 a-6 を見ると定圧過程における熱量の流入は

(a-7)

の形を持つ関数の差であることが分かる

一般に化学反応のような変化の過程では大気圧の下で行われるようなものに興味がある

そこで式 a-7 で与えられる項を一つの関数として定義するこれをエンタルピーと呼び記

号 H を与える式 a-4 はエンタルピーの変化量で次のように書き改められる

(a-8)

圧力が一定の下で起こる状態変化について流入する熱量は式 a-8 で示されるようにエンタ

ルピーの変化量に等しい

V

V

V

V V

V

V

1212 SSSS VVpUUQ VV

<補遺> 64

1Q

We

また式 a-8 からオートクレーブ内で起こるような体積変化のない過程ではこの値が内

部エネルギーの変化量で与えられることが明らかである

本文 p24 へ戻る

エントロピー (本文 p26 17 行目参照)

エントロピーは次のような思考実験から発想された仮想的な状態関数である

理想気体よりなる系 A が温度 T2で熱平衡状態にあり温度 T1の外部の熱源と接しているこ

とを想定する系 A の外部を系 B と呼ぶことにするT1は T2に対して無限小だけ高い温度と

する

系 A が系 B に対して温度圧力について平衡を保ちながら緩慢に系 B より熱量 Q1を受け取

る過程を考える(このような過程を準静的過程と呼ぶ)これによって系 A が熱量 Q1を得て膨

張するとき系 B に対して仕事をする続いて系 A から熱量 Q2が系 B に戻ることを考える

想定されるこの変化が可逆的であれば系 A と系 B を併せた全体は元の状態に戻る蒸気機

関に関するこのような研究が Nicolas Carnot によってなされたのは1824 年のことであった

ここに想定されたサイクルに対する Carnot の効率 e は移動した熱量となされた仕事によ

って定義され次の式で表される

(b-1)

<補遺> 65

理想気体では内部エネルギーU の変化ΔU はゼロと考えるしたがって熱力学の第一法

則を表す式(本文中の式25)から次の関係が示される

0=Δminus=Δ WQU

WQ Δ= (b-2)

これによってCarnot Cycleの効率eはQ2lt0 として次のように書き改めることが出来る

1

21

QQQe +

= (b-3)

ところで気体の状態方程式から1 モルの気体について次のような関係が示される

RTV

P

P1=

V = RTV (b-4)

V 式 b-4 の両辺に体積の微少変化量ΔV をかけて

(b-5)

これを体積Vについてその変化をV1からV2までとして積分するならば次式が得られる

VV

RTVP Δ=Δ 1V V

V

intint = 2

1

2

1

1V

V

V

VdV

VRTPdV

1V2V

11 lnRTW =

(b-6)

Q1の熱量によって起こる膨張がV1よりV2までとし圧力P温度T1の下でなされるその仕事

量をW1とするならそれは式b-6 の右辺によって示されるすなわち

(b-7)

VV

1

2lnVVRT=

V V

VV

V

V2int V2 intV1 V1

<補遺> 66

またQ2の熱量の移動が圧力P温度T2の下で起きこれによって系Aが可逆的に圧縮され

るなら体積変化はV2よりV1まで起こりその仕事量をW2で示すと次式のように表される

(b-8)

1

22

2

122 lnln

VVRT

VVRTW minus==VV

VV

Q1=W1Q2=W2の関係から式b-7 およびb-8 を用いてCarnot Cycleの効率eを表す式b-3

を書き改めると温度のみの関係式として次のように表される

1

21

TTTe minus

= (b-9)

ここでサイクルが可逆的過程であると想定するならば式 b-3 と式 b-9 から

1

21

1

21

TTT

QQQe minus

=+

= (b-10)

これから

12112111 QTQTQTQT minus=+ (b-11)

整理すると

02

2

1

1 =+TQ

TQ (b-12)

この考えをさらに発展させ系A

と系Bの間に数多くの系を挿入すること

にしてそれらの系を同様に熱源として

T1T2Tnと考えるこれによっ

て熱の受け渡しが系Aから系Bに至り

再び系Aにもどるサイクル過程に数多

くの寄り道の過程を加えることになる

熱量の移動に関して上の場合と同じく

準静的過程で行われると考えるこの

サイクル全過程について初めと終わ

<補遺> 67

n

i i

i

T

Q

1

0

0T

dQ

T

QS

T

dQASAS )()( 12

りが同じ状態になる可逆的な過程であるなら式 b-12 を拡大的に考えることになってそれ

は次式で表される

(b-13)

式 b-13 には重要な関数が現れるすなわち熱量と温度の比QT である

もし一つの系が無限小だけ温度の高い(dT )外界から温度圧力など平衡を保ちなが

ら極めて緩慢な過程(準静的過程)で無限小の熱量(dQ )を受け取るならばその変化は可

逆的でありdT について連続的な温度分布をする過程を考えるとき式 b-13 をさらに発展

させて次のように積分式で示すことが出来る

(b-14)

式 b-14 で積分記号にが付されているのはCarnot Cycle のような経路を一巡することを

意味している

Carnot の熱機関の効率という着想から生まれた熱量とそれを持つ系の温度との比 QT に

重要な意味を見出したのは Rudolph Clausius で彼はこの比にエントロピーという名前を与

えたエントロピーには記号ΔS を一般に用いる

(b-15)

エントロピーは初めと終わりの状態がわかれば過程に関わらず定まるので状態関数であ

系 A と外界のエントロピー変化を考えるときそれが可逆的過程であるならばすべてを併

せた全体のエントロピー変化は初めと終わりに変化がないという意味でゼロであるすなわ

ち初めの状態を S(A1)とし次の状態を S(A2)とするならそれぞれのエントロピーを

ΔS(A1)ΔS(A2)としてこの間におけるエントロピーの変化量は次のように示される

(b-16)

<補遺> 68

T

dQdS

0T

dQ

ある一つの変化については次のように示される

(b-17)

ここで式 b-17 の S に付けられたdは微分量すなわちごく微小の変化量を意味し式 b-15

で定義されたエントロピーに用いられる一般的な記号Δと区別する

ところで式 b-10 の関係においてもし移動した熱量のすべてが仕事に変わらなければ

効率 e を表す熱量を用いた関係式と温度で表される関係式は等号で結ぶことができないそれ

はエネルギーのロスを意味し初めと終わりの状態が異なってしまうことを意味するすなわ

ち全過程が構成する一つのサイクルは可逆的でなくなる

不可逆過程での熱効率 ersquo は 大値を示す可逆的過程の熱効率 e より小さな値をとる

ee

したがって 大効率を与える式 b-8 と式 b-3 から

01221

2112

1

21

1

21

QTQT

QTQT

Q

QQ

T

TT

両辺を T1T2で割ると

02

2

1

1 T

Q

T

Q

これを式 b12 と同様に発展させれば式 b-14 についてサイクルの変化が可逆的過程の

場合と不可逆的過程の場合の両方を併せClausius の不等式と呼ばれる次の関係が成立する

(b-18)

式 b-18 の等号が成立するのはサイクルが可逆的な理想の場合に限られる

ある孤立系で状態 A1 から状態 A2 へは不可逆変化で進められ状態 A2 から再び状態 A1

に戻るとき可逆変化であるような閉じた状態変化を考える可逆系のエントロピー変化には

記号 Q を使い不可逆変化には Q を用いるとするとそれぞれ積分式を用いて状態 A1 から

状態 A2 へは

<補遺> 69

d prime

状態 A2 から状態 A1 に戻るときは

全体では

=d prime

+d

(b-19)

Clausius の不等式から

0

式(b-19)の第二項で反応を逆に進めるときには次のように書き改めることができる

=d

よって式(b-19)は次のように書き直すことができClausius の不等式とあわせると

d prime d

0

すなわち

d prime d

上式の右辺は式(b-16)を用いて表せば

d prime

∆S ∆

この状態変化を微小変化とするならば断熱変化の場合 dQ = 0 であるから

∆S ∆ dS 0

すなわち不可逆変化を含む断熱変化ではエントロピーは必ず増大する

<補遺> 70

T

QS

BA SSS

(b-20)

(次の<補遺>ギブス自由エネルギーも参照せよ)

本文 p26 へ戻る

ギブス自由エネルギー (本文 p28 27 行目参照)

エントロピーの考えを導入することによって不可逆的に状態変化が起きるときにはエン

トロピーの増大を引き起こすことを知ったこれによって目前で起きる現象について温度の

変化があるものであれないものであれまた圧力の変化があるものであってもエントロピー

の定義式によって可逆的な変化におけるエントロピーの変化量を計算することが可能である

(b-15)

しかしながらこれから起こる変化について我々がすでにあらかじめ知っている物理量を

用いて予測的にその状態変化が起きるかどうか知ることは必ずしも容易ではないその理由

は式 b-15 に示されたエントロピーΔS が系とその外界をあわせた全体のエントロピーを示

しているからであるすなわち関心のある系を系 A としその外界を系 B とすると全体

のエントロピーは次のように表せる

(c-1)

関心のある系 A のエントロピー変化を知るためには系 B のそれを知ればよいがそれは

いつも容易とは限らない系 A の性質だけで状態変化の方向を知るには別の観点が必要にな

るようだ

そこでもう一度状態変化が熱量 Q の移動によって起きることについて考えてみようエン

トロピーの補遺で議論したように熱量の移動が準静的過程により行われるときには変化は可

逆的に起こると考えたこのとき外界すなわち系 B から移動する熱量を Q1とし系 A から

0S

<補遺> 71

21 QQ

T

Q

T

QSB

21

T

QSS A

2

QH

T

HSS AA

AA STHST

のそれを Q2 と記号を当てたのでこれをそのまま使うことにすれば可逆的な過程では系 B

の熱量 Q1 はすなわち系 A から戻る Q2 に他ならないので両者には次の関係が成立するも

のとしてよい

(c-2)

したがって

(c-3)

と考えてよくこれによって式 c-1 を次のように書きなおすことが出来る

(c-4)

独立した系で圧力とその体積に変化がなく一定の条件の下で状態変化が起きるときエン

タルピーの考えを使ってすでにひとつの関係があることを導いている

本文(31)

そこで式 c-4 を系のエンタルピーΔHAによって書き改めれば

(c-5)

この両辺に-T をかけて式を書き直せば次の関係式が得られる

(c-6)

式 c-6 を見るときその右辺がマイナスの値ならば左辺のΔS はプラスの値をとることが

分かるすなわちエントロピーが増大すると見ることが出来るこれまでの過程で自然の現

象はエントロピーが増大する方向に進むとしてきたので関心のある状態変化について式 c-6

の右辺で計算される値がマイナスの値ならばその変化は起きるものと考えてよいことになる

だろうしかも右辺はすべて独立した系の状態量で示されていて我々が知りうる値で計算

<補遺> 72

TSHG

STSTHG

STHG

可能である

そこでこれを熱力学ポテンシャルを表すものとしてギブス自由エネルギーと呼ぶことに

するギブス自由エネルギーは記号 G が用いられ次のように定義される

(c-7)

ここで関心があるのは自由エネルギーの絶対値ではなく式 c-6 に示されたようにその変化量

に興味があるので式 c-7 から

(c-8)

温度が一定の条件の下で状態変化が起きることを考えるなら式 c-8 は次のように書くこと

ができる

(c-9)

ギブス自由エネルギーは式 c-9 の右辺がすべて状態量であるからこれも状態量の一つで

ある定圧定温の条件下で起きる変化ではすでに議論したようにΔGlt0 であれば状態

変化は自発的に起きるものと予測できる

つまり式 c-5 の第一項は系のエントロピーΔSAそのものであり第二項で示されるエンタ

ルピーは系 A の温度が一定に保たれているのであるから発熱する熱量として外界に吸収さ

れるものであってこれは外界のエントロピーの増大につながるものとして解釈されるした

がって化学反応のように一定の圧力と一定の温度の下で起きる変化について自由エネルギ

ー変化量はその状態変化が自発的に起きる傾向を示しているといってよい

本文 p28 へ戻る

  • はじめに
  • 目次
  • 電気エネルギー
    • 金属のイオン化
    • 電池
    • 水素の反応
    • 燃料電池
    • 化学反応と電気エネルギー
      • エネルギーと熱力学
        • エネルギー保存則
        • エンタルピー
        • エントロピー13
        • ギブス自由エネルギー
        • 電池における化学反応のギブス自由エネルギー13
        • 理想気体の状態方程式
        • 理想溶液のギブス自由エネルギー
        • 膜電位
          • 水素イオン濃度測定
            • 化学反応の一般的な式
            • pHの定義とその目盛り
            • pH標準液
            • 銀塩化銀参照電極
            • 実用的なpH測定
            • ガラス電極
            • 電極の校正
            • 金属イオンに対応するイオン選択電極
              • 文献
              • 補遺
                • 状態関数
                • エンタルピー
                • エントロピー
                • ギブス自由エネルギー
Page 16: イオン選択電極i イオン選択電極 Ion Selective Electrode (ISE) を理解する ・ pHを測定する ・ NaやKなどのイオン濃度を測定する 神戸大学医学部保健学科

13

2価のカルシウムイオンが占めるできあがった安定化ジルコニアはこのカ

ルシウムの数だけ酸素イオンの不足が起き固体全体を電気的中性に保つた

めに酸素イオンの透過性ができるジルコニアの両面に白金粉末を焼き付け

それに白金のリード線を取り付ける焼き付けられた白金には多くの孔があり

その孔を通して気体とジルコニアが接触する

酸素イオン導電性の固体電解質としてジルコニアを用いた燃料電池は次

のように動作する

1)空気極(右側)に入った酸素 O2は電極で電子を受け取り酸素イオン O2-

になる

12 O2 + 2e- rarr O2- (6)

2)O2-は固体電解質ジルコニア中を移動していき燃料極(左側)で H2 と

反応し水 H2Oを生じるこの過程に伴って電子が放出される

H2 + O2- rarr H2O+ 2e- (9)

3)これら結果として外部回路に電流を取り出すことができる

燃料電池の起電力は酸素イオンが電解質中を移動することにより生じる

酸素イオンが移動する駆動力は固体電解質の両端すなわち燃料極と空気極

の酸素濃度差である

14

化学反応と電気エネルギー ダニエル電池の陰極は亜鉛板が硫酸亜鉛の水溶液につけられていたこのと

きの現象は次のように説明された亜鉛は電子を亜鉛板電極に残し陽イオン

となって出て行くその結果亜鉛板電極中に電子が余分にたまる

ダニエル電池の陰極の「電極電位」はこの電極に余分にたまっている電子の

量をさしているそれではこの半反応による電極電位を測定することができ

るのだろうか半反応は次のように示される

Zn(s) rarr Zn2+ + 2e- (1)

亜鉛が1モル反応すると2モルの電子が持つ総電荷量が流れる

1電子の持つ電荷量は16022x10-19 C (Ccoulombクーロン)であ

るから

1モルの電子の総電荷量はアボガロド数をかけて 96485 = 96485 x 104 Cmol

であるこれを1F1ファラデーと表す

1F = 96485 x 104 Cmol 亜鉛が1モル反応すれば2モルの電子が持つ総電荷量が流れるのでこれを

記号 q として表すと次の電気量が得られる

q = 2F (10)

化学反応によって取り出せる電気量はこのように計算される

それでは電気エネルギーとしてその電力はどのようになるだろう

電力は

電力=電圧times電流times時間 (12)

電流times時間=電気量であるから式(12)を書き直せば

15

電力=電圧times電気量 (13)

ここで電気量 q は式(10)で表しているので

電力=電圧timesq=電圧times2F (14)

と書くことができる

電圧を記号Vで表すことにし電力をWにすれば式(14)は

W = 2FV (15)

として表しておくことができる

電圧の単位系は仕事量が電力Wであるので(13)から

V= W q (16)

仕事量をジュールJ(ジュール)で表せば電圧はJ C (ジュールクー

ロン)でその単位を表現することができる

式(15)の表すところは亜鉛を化学反応の材料として得られる電力という

仕事量がその電力すなわち電極電位で決定されることを意味している

一般に化学反応で1分子の材料を消費しn個の電子が流れることをその

半反応で知ることができるとき式(15)を一般化して次のように得られ

る電気エネルギーを表すことができる

W = n FV (17)

化学反応によって生じる電子を取り出し回路に導けばここに電流が生じる

その起電力(V)は陽極陰極のそれぞれの電位をE+E- と記号で表し

て次式で書くことができる

V= E+-E- (18)

16

ここで問題になるのは陽極陰極のそれぞれの電位E+とE-で上に議論し

たように回路を形成しなければそれぞれの電位は決定できない

ここでいま片方の電位をゼロとすれば式(18)はたとえばE- = 0 で

V= E+

として陽極の電位が決まる

そこで申し合わせにより水素の半反応による電位をゼロとすることになっ

その半反応の式は水素の還元反応として次のように表せた

2H+ + 2e- rarr H2

標準にはMax Julius Louis Le Blanc (1865-1943) が発明した水素電極を用

いるこれを標準水素電極(Standard Hydrogen Electrode SHE)とよびこの

電極電位をいつも 0 volt(ゼロボルト)と取り決めている

図6に示した水素電極は1atm の水素ガスとそれに平衡状態にある水素イオ

ンが存在し次の半反応が平衡状態にある

H2 (g 1 atm)rarr 2H+ (aq 1 M)+ 2e- (5) g は気体を示す

この反応において平衡状態にある電極電位を 0 volt と定義する

電極に白金を用いるのは電極材料自体が溶解しないものであることすなわ

ちイオン化傾向の低いものであることまた水素イオンの還元に対してな

るべく活性の高いものであることが条件として求められるが白金はこの2つ

の性質を兼ね備えていて陽極の電極材料に適している

気体の標準状態は1atm を標準としているこの分圧を維持し溶液中の水

素イオン活量を1にする水蒸気の分圧が変化すると平衡電位は変化する

17

図6標準水素電極(0ボルトの基準)

標準水素電極は1モル塩酸溶液につけた白金電極に1atmの水素ガスを吹き込んで使う

白金電極は分極を防ぐために白金板に白金メッキを施し(白金黒とよばれる)上半分

を水で飽和させた(1atmの水蒸気分圧が必要)1atm(101325 kPa)の水素ガスを流し

下半分を1moll の塩酸溶液につける水素ガスが電極として働き白金板に電子が集めら

れる

ダニエル電池の亜鉛電極をこの標準水素電極につなげば亜鉛電極電位が測

定できる

亜鉛電極側では酸化反応の半反応が起きる

Zn(s) rarr Zn2+ + 2e- (1)

18

標準水素電極側では還元反応の半反応が起きる

2H+ + 2e- rarr H2

図7亜鉛電極と水素電極をつないで電池とする

25の基準状態における亜鉛電極の半反応(1)に対する平衡電位はすでに

知られている

E゜= -0763 volt

また銅板側の電極電位も同じようにして測定することができる

起きる半反応はすでに上述したが再度記しておこう

Cu2+ + 2e - rarr Cu(s) (3)

25の基準状態におけるこの電極電位はE゜=+0337 volt と知られて

19

いる

ここで亜鉛電極と銅電極の組み合わせでできる電池の最大電圧をこれらの

平衡状態における観測値から計算することができる式(18)を使って

V= E+-E- (18)

V= +0337-(-0763) = +110 volt

つまりダニエル電池で得られる最大電圧は11volt と計算できる実際に

はイオンの濃度が変化すれば反応の平衡が変化するので得られる電圧も変

化する

ここでダニエル電池で亜鉛1モルが反応するとき式(17)を使って得

られる仕事量としての電力を計算できる

W = n FV (17)

すなわちダニエル電池における電極反応は

Zn(s) rarr Zn2+ + 2e- (2)

Cu2+ + 2e - rarr Cu(s) (3)

であったから反応が進んで移動する電子はn = 2 である

1F = 96485 x 104 Cmol を適応すると

W = 2 x 96485 x 11 x 104 = 21227 x 105 Jmol = 2123 KJmol

(K = 103キロ)

すなわち亜鉛1モルの化学反応によって2123 KJmol の電気エネルギーが得

られる

水素ガスを使う燃料電池の起電力は電極の半反応から

O2 + 4H+ + 4e- rarr 2H2O (19)

25の基準状態におけるこの電極電位はE゜=+1229 volt が得られている

20

したがって燃料電池で1モルの水素が反応すれば

W = 2 x 96485 x 1229 x 104 = 2372 KJmol

すなわち2372 KJmol の電気エネルギーが基準状態で取り出せる最大電力

と計算される現在作られている燃料電池の電力は実際上08 volt ほどで

あるしたがって現実的に取り出せる電気エネルギーは 1544 KJmol の仕

事量と計算される「仕事量」という言葉については電気でモーターを回し

なにがしかの「仕事」をするなど思い浮かべれば実感できるだろう

エネルギーと熱力学 これまで述べてきたように電池は化学反応から直接電気エネルギーを取り出

す仕掛けであるダニエル電池では亜鉛と銅が酸化還元反応を起こす過程で

電子を放出するのを利用するまた水素ガスによる燃料電池は気体水素と酸

素を原料とし水が生成されるこの過程が1atm の気体原料を25(29815

K)で1モル反応させて生成物も1atm の液体の水を得るなら次の全反応に

よってすでに計算したとおり2374 KJmol の電気エネルギーが取り出せる

H2 + 12 O2 rarr H2O

圧力と温度がともに反応の過程を通じて一定の場合にその過程から取り出せ

る仕事量は熱力学的に考えることもできる

それはギブス自由エネルギーとして議論される電池で取り出した電気エネ

ルギーすなわち電力はこのギブス自由エネルギーに相当する

次に化学反応をこの熱力学の面から考えてみよう

エネルギー保存則

水素ガスを使う燃料電池のように独立した一つの仕掛けを考えこれを「系」

と呼ぶことにする系を考えるとき電池のように具体的なものを持って考え

るのが容易いのでそうすることが多い熱力学では自然界全体をあつかうので

しばしば概念的になり非現実的な記述が行われるが系の大きさや系を構成

する分子の大きさについて特定する必要はない

系におけるエネルギーを内部エネルギー熱エネルギー力学的エネルギー

の3つの要素からなると考えるこれらのエネルギーを考えるとき系の熱力

21

学的なパラメーター(変数)が必要となる熱力学的な状態はこれらのパラ

メーターのうちのいくつかを指定すれば決定される

熱力学的なパラメーターは2つに分類される

示量パラメーター(示量性変数)

系の大きさや構成する物質の量を示す体積や質量

示強パラメーター(示強性変数)

系の大きさに依存しない系における1つの点で決まった値で与え

られる圧力や温度密度など

いくつかのパラメーターで完全に決定できる状態を関数で表現することがで

きる場合があるそのような関数を熱力学的な状態関数(rarr補遺 p60)と呼ぶ

関数で状態の変化を表すことができれば数学的に取り扱うことができいろ

いろの面で便利である

一つの系についてその状態を知ろうとするとき系が熱力学的な平衡状態に

あると議論する上で都合がよい

熱力学的な平衡状態とは系を外部と独立させ長時間放置した後に達成され

る状態をいうこのとき系の状態をその外部のパラメーターで表現できる

たとえば電池を独立した系と考えるとき平衡状態に達した電極電圧を外部

においた電圧計で測定することができる

ある系を考えるとき前提としてその系はエネルギーを保有していると考える

系が独立してそこに存在するということで持っているエネルギーであるこれ

を内部エネルギーと呼ぶ系がある過程を経て状態を変えるとき系から系の

外部へ力学的な仕事をする場合には力学的エネルギーの出入りがあると考え

るまた系に熱が出入りする場合が考えられそれを熱エネルギーの出入り

と考えることにしよう

まず力学的エネルギーについて考えることにする

いま系が状態を変えその体積が増えれば系のlsquo壁rsquoがその系に接している

「外部」へ力学的な仕事をすることになる

このように系が膨張し壁が外部に向かって押し出されると考えたとき膨張

する過程における圧力を一定でpとし系が膨張した体積をΔV(膨張した分だ

けの体積増加量)とするなら系の仕事量ΔWは両者の積で表されるΔは変

化量を表すときにつける記号と決めておこう

22

ΔW = pΔV (20)

系の体積が凝縮する場合があるので仕事を記号で表す場合には注意するも

し系に接した「外部」から系に力が加わって体積を小さくしたならΔVは

マイナスとなるのでΔWもマイナスで表される

-ΔW = -pΔV (20prime)

今考えている系を「系 A」と呼びその内部エネルギーを UA外部の系を「系

B」と呼んでその内部エネルギーを UBと表すなら二つ合わせた全体の内部

エネルギーは両者の和で表すことができる

U = UA+UB (21)

この体積変化に必要なエネルギー変化量はどこから得られたかを考えれば

その変化があった「系 A」と外部の「系 B」のいずれかあるいは双方の内部エネ

ルギー変化分でまかなわれたと考えざるを得ない(図8参照)

そこでこのエネルギーの収支関係は変化分を表す記号に先と同様Δを用い

ることにすると次式のようになる

-ΔU =ΔW (22)

すなわち観察している「系 A」のエネルギーと外部の「系 B」のエネルギー

を合わせた総エネルギーを見てその微少な減少量minus ΔU が仕事をなすために

必要であったエネルギー量と考えてみることにする

ついでこの体積の変化が「系 A」に接する外部のlsquo熱rsquoによって起きたも

のと考えてみようすなわち外部の「系 B」が系 Aより高温で「系 B」によ

って系 Aが暖められたことになる

このとき移動したエネルギーを「熱量」と定義する

23

図8熱量の移動と系が外部にする仕事

「熱量」を記号Qで表すと外部の「系 B」が失ったエネルギーminus ΔUB で

ありこれが熱量であるから式で表せば次式のように書くことができる

-ΔUB = Q (23)

ここで「系 A」とそれに接する「外部 B」両方のエネルギーを合わせた総エ

ネルギーの変化量ΔUは式(22)で与えられていた

-ΔU =ΔW (22)

-ΔU =-(ΔUA+ΔUB) であるから

minus ΔUAminus ΔUB=ΔW (24)

これに式(23)を当てはめてΔUAで整理すれば

24

ΔUA= Q-ΔW (25)

この式(25)は「エネルギー保存則」あるいは「熱力学の第一法則」を数

学的に表現したものである

すなわち

独立した系を考えその状態が変化するとき系の内部エネルギーの変化量はその系に入る熱量と系が外部にした仕事との差である

式(25)にはまた重要な主張があるつまりエネルギー保存則にしたが

うとき熱量は力学的エネルギーにまた力学的エネルギーは熱量に変換しう

ることを意味している

熱量を表す単位はカロリー(cal)を用いる1cal は

1 cal = 4184 J

と換算されるジュールは 1J = 1Nm (ニュートンメートル)で仕事量を

表現する単位系で表される

エンタルピー

式(25)から定圧過程で式(20prime)を利用して次の式(26)が誘導さ

れる

Q =ΔUA+pΔV (26)

ここでQは熱量を表していたのでこの関係式(26)から熱関数として

新しい関数を定義する

新しい関数はエンタルピー(enthalpy)(rarr補遺 p63)と呼ばれ次の関数

式Hで表される

H = U+PV (27)

エンタルピーの微少変化量を記号Δを使って表現してみよう

25

ΔH = ΔU +Δ(PV) =ΔU +ΔPV+ PΔV (28)

独立した系で圧力が一定の下に起きる過程を考えるならΔP = 0 (圧力の

変化はゼロ)であるから式(28)は次のようになる

ΔH =ΔU + PΔV (29)

化学反応の過程を考えるとき系に容積の変化がなく過程の前後で一定であ

るならさらにΔV = 0 であるのでエンタルピーの変化量は

ΔH =ΔU (30)

また系の仕事を体積の変化としてみる式(20)から

ΔW = pΔV= 0

であるのでこれを式(25)へ適応すると

ΔU= Q minus ΔW = Q ΔW= 0 だから

結果的に系の圧力と体積が変化の過程で一定である場合にはその系のエンタ

ルピーの変化を表す式(29)(30)は次のように簡単な式になって熱関

数と呼ばれる意味が理解しやすいだろう

ΔH = Q (31)

独立した系に等圧等積で起きる過程を見る場合にはエンタルピーは系が外

部と交換する熱量の直接的な尺度となる

H>0 なら反応に熱を使うので吸熱反応

H<0 なら発熱反応

電池のように系に起きる化学反応で生じる電子の流れを取り出す装置を考え

る場合エンタルピーの変化を電気エネルギーとして取りだしている点に留意

26

しなければならない式(31)のようにエンタルピー変化が交換される熱

量に直接表現できるといっても必ずしも熱として取り出すとは限らないこと

を注意しよう

ところでエンタルピーは内部エネルギーと同じ次元にある状態量で定圧

変化の熱量がエンタルピー変化であるからある一点を標準として定めれば

すべての物質について任意の点のエンタルピーを変化量として定めることがで

きるすなわち化学反応の過程で発熱あるいは吸熱する熱量は反応材料と

生成物の間の状態変化に対応するエンタルピーに対応する

そこで一つの元素に対してもっとも安定な状態にある物質を標準物質とし

て定め29815K(25)1atm を標準状態としてその標準物質からある化

合物を合成するときの反応熱(発熱あるいは吸熱)をその化合物の「標準生成

エンタルピー」として定義できる多くの元素に対して標準生成エンタルピー

は現在表としてまとめられている

水素や酸素はその気体状態が標準物質でありそれらの標準生成エンタルピー

がゼロと定義される

エントロピー

もう一つ新しい状態関数としてエントロピー(entropy)(rarr補遺 p64)を

定義するエントロピーを表す記号は通常S を用いその定義は次の式(32)

による

S Q

T (32)

エントロピーは系の2つの状態が決まると状態量として決まる

このときQ は2つの状態の間を可逆的に変化したとき系が受け取る熱量

T は系が熱量 Q を受け取ったときの温度(degK)である

「熱力学の第二法則」はエントロピーに関するものである

図9では2つの系が接しておりそれぞれの温度を Thigh Tlowとする

Thigh>Tlow (33)

27

今温度の高い系から温度の低い系に直接熱量 Q が移動したとすれば温度

の高い系のエントロピーの変化量ΔS は熱量が失われるので負の値になる

図9熱の移動

そこで温度の高い系のエントロピーの変化量ΔS を式で表すことにすると

次式のようになる

Shigh Q

Thigh

(34)

一方低い系のエントロピー変化量ΔS は熱量が与えられるため

Slow Q

Tlow

(35)

両方の系を合わせたエントロピーの変化量ΔS は

S Shigh Slow Q

Thigh

Q

Tlow

lowhigh

lowhigh

lowhigh TT

TTQ

TTQ

11 (36)

式(36)の最終項で(33)を前提すなわち最初に温度の高い系は高い

と決めたのだとするならエントロピーの変化量ΔS は必ず次のようになる

28

ΔS >0 (37)

すなわち独立した系がありそれより温度の低い別の系あるいは温度の低

い外界が接した場合熱量は高い方から低い方へ移動するという自然の成り行

きを説明するものである

自然界に置いてエントロピーは

ΔS≧0

の値を取りΔS=0のときは可逆的過程である

今の例でいうなら熱は温度の高い系から低い系へ移動しその逆は起きない

常にΔS >0の方向に過程が進行するまた2つの系が同じ温度であるとき

両者は平衡状態にあって熱量の移動は見かけ上なくΔS=0と表現される

「熱力学の第二法則」はエントロピーによって表現されるもので系の変化が

可逆的であるかどうかを判定する指標であり現実の世界で起きる不可逆過程

が正の値を取る方向へ進むことを示す

あるいは系の変化が起きるとき外界を含めて考えれば総エントロピーが

増大する方向に変化が起きることを意味するというようにも表現される

ギブス自由エネルギー

熱力学の第一法則によってエネルギーの取りうる形である「仕事」と「熱」

は互いに変換されうることを理解したこのことの数量的な意味は1cal=418J

で示されるさらに仕事は100熱に変換可能であるが一方の熱はうま

くやっても100を仕事に換えることができないことを熱力学の第二法則で

説明しようとしたそのためにエントロピーという概念が導入された

ここで電池のような独立した一つの系を見るとき系の内部エネルギーの減

少を仕事として取り出しうるならそれは化学反応を一つの例としてどれほど

の仕事量が取り出せるのかはどうしたら与えられるだろうか

化学反応を電気エネルギーに換える電池では先に正負それぞれの電極におけ

る半反応の平衡電位の値を利用してその起電力に対する最大値を計算した

この化学反応から取り出しうる最大仕事量を与えるものとして新しくギブス

自由エネルギー(rarr補遺 p70)と名付け記号 G を使ってそれを次のように

定義する

29

G = H-TS (38)

H はエンタルピーである第2項にある S はエントロピーを表す

ギブス自由エネルギーは化学反応のような独立した系の定温定圧過程に適

応されるので変化量ΔG を式(38)から得ておこう

ΔG =ΔH-Δ(TS)

=ΔH-(SΔT+TΔS)

温度を一定と考えているのでΔT=0 であるから

ΔG =ΔH-TΔS (39)

この式(39)を書き換える

ΔH=ΔG + TΔS (39rsquo)

ここで定圧過程ではエンタルピーを次のように式(29)で定義できた

ΔH =ΔU + PΔV (29)

式(29)の意味するところを復習すれば

系のエンタルピー変化ΔH は内部エネルギーの変化量と系が外部に

した仕事量の和として表される

これは

定圧過程で系が得るエネルギー量から仕事量を除いたもの

と言い換えることができるエンタルピー変化量は化学反応などの過程で

始めと終わりの2つの状態の差であるからそれが正の値を示す(>0)なら

系のエンタルピーは増加することを意味しその過程が進行するためには系

の外部からエネルギーが供給されなければならない

一方式(39rsquo)の右辺第2項TΔS はエントロピーの定義(32)より

TΔS = Q (40)

であるのでこれは可逆過程で系に供給される熱量を意味する

30

もしエンタルピー変化量が負の値を示す(<0)ならば系のエンタルピー

は減少しその過程が進行することによってエネルギーが取り出せるすなわ

ち式(39)(40)から次のようにこれら3つの状態量を改めて説明する

ことができる

ある化学反応が定圧で可逆的に進行するときそれから取り出せる

エネルギーのうちΔG を仕事として放出し熱量 Q を放出する

標準状態29815K(25)1atm で標準物質からある化合物を合成すると

きの反応熱(発熱あるいは吸熱)をその化合物の「標準生成エンタルピー」

として定義した同様にある物質に対する「標準生成ギブス自由エネルギー」

はこの標準状態で標準物質からその化合物を化学反応で生成するとき式(3

9)によって与えられる変化量をいう

電池における化学反応のギブス自由エネルギー

先にダニエル電池の亜鉛板側に対する電極反応を検討したとき電極反応が

仕事として放出するエネルギーを表現する重要な式があった次の式(17)

である

W = n FV (17)

ギブス自由エネルギーを用いて今これは次のように書くことができるように

なった

W = n FV=-ΔG (41)

この式が表していることを実際に水素の燃料とする燃料電池の反応過程で見

てみよう燃料電池の図を再掲する

図中右にある陰極では水素の酸化反応が起きる

H2 rarr 2H+ + 2e- (5)

一方図では左にある陽極において次の還元反応が起きる

12 O2 + 2e- rarr O2- (6)

O2- + 2H+ rarr H2O (8)

全体の反応はすでに示したように次の反応式(7)で示される

H2 +12 O2rarr H2O (7)

31

標準状態における可逆的仕事は式(41)であらわせ

n FV=-ΔG (41rsquo)

このΔG は式(39)であらわせた

ΔG =ΔH-TΔS (39)

すなわち標準状態29815K(25)1atmにおいてある化合物を標準物

質から合成するときの標準生成ギブス自由エネルギー変化ΔG゜は標準生成エ

ンタルピー変化ΔH゜とその温度におけるエントロピー変化TΔSの差で求ま

るこれらは燃料電池の全反応を表す式(7)で与えられる

標準生成エンタルピーΔH゜変化とエントロピー変化はすでに一般的な元

素やその化合物に対して表が作成されている

液体の水に対する標準生成エンタルピーΔH゜(H2O)は

ΔH゜(H2O)=minus 28583 KJmol

また水素ガスと酸素ガスはそれぞれの元素の標準物質であるので生成エ

ンタルピー変化はゼロである

32

そこで式(7)での水を1モル化学合成するときの標準生成エンタルピーΔ

H゜は水素(ガス1モル)と酸素(ガス12 モル)の2つの材料と水(液

体251atm)の両状態における状態量の差として表される

ΔH゜=ΔH゜(H2O)-ΔH゜(H2) -12ΔH゜(O2) (42)

式(42)の右辺第2項と第3項がゼロであるので

ΔH゜=ΔH゜(H2O) =-28583 KJmol (43)

標準状態29815K(25)1atm における水素(ガス)と酸素(ガス)お

よび水(液体)のエントロピーはそれぞれ

ΔS(H2O)=6991 JKmol

ΔS(H2) =13068 JKmol

ΔS(O2) =20514 JKmol

単位で分母のKはケルビン温度の意味

と計算されているので

ΔS=ΔS(H2O)-ΔS (H2) -12ΔS(O2) (44)

=6991-13068-12times20514

=-16334 JKmol

したがって

TΔS=29815times(-16334)=-486998=-4870 KJmol

(45)

そこで標準生成ギブス自由エネルギーΔG゜は式(39)から

-ΔG゜=-(ΔH゜-TΔS) (39)

=-{-28583-(-4870)}

=+23713 KJmol

33

すなわちこのエネルギーを電気エネルギーとして取り出すことができるそ

の起電力は式(41rsquo)から

n FV=-ΔG (41rsquo)

V= -ΔG(n F)

各数値を当てはめれば

V=237130(2times96485)

=1229 volt

先に【化学反応と電気エネルギー】のところで記したとおり25の基準

状態におけるこの電極電位はE゜=+1229 volt が得られているすなわち

こうして標準生成ギブス自由エネルギーから計算することでも同じ値を得る

ことができた

水素を単純に酸素と化合させる燃焼では式(43)で示されるエンタルピ

ーが発生する熱量を示している水素1モルあたり28583 KJである電池

にすれば水素1モルあたり23713 KJの仕事量が電気エネルギーとして取り

出すことができるその差は電池の場合熱が発生して利用できない

化学反応の過程を利用して化学エネルギーから直接電気エネルギーに変換す

るのが電池という装置であるが化学エネルギーは100電気エネルギ

ーに換えることはできないこのようにエネルギーの一部は電池の熱として

発散してしまう

理想気体の状態方程式

ギブス自由エネルギーΔG を定義した式(39)とエンタルピーΔH の定義

式(28)から

ΔG =ΔH-TΔS (39)

ΔH =ΔU +VΔP+ PΔV (28)

そこで次式が得られる

34

ΔG =ΔU+VΔP+ PΔV-TΔS (46)

またエネルギー保存則から得られた式(26)を応用すればギブス自由エ

ネルギーが変形できる

Q =ΔU+PΔV (26)

から

ΔU=Q-PΔV (47)

したがって式(46)は

ΔG = Q-PΔV+VΔP+ PΔV-TΔS

ΔG = Q-TΔS+VΔP (48)

エントロピーの定義からQ=TΔSであるから結局式(48)は

ΔG = VΔP (49)

と表すことができる

成分が混合された気体分子の分子間に働く力をゼロと仮定した「理想気体」を

考えるとき状態方程式としてボイルシャルル(Boyle-Charles)の法則が

利用できる

PV=nRT (50)

ここでnは気体のモル数PVT はそれぞれこれまでと同じ圧力体積温度(ケルビン温度)でありR は気体定数と呼ばれるもので次の値を持

R= 831441 JmolK (51) 単位で分母のKはケルビン温度の意味

35

状態方程式から式(49)の右辺を導くことを考えてみよう式(50)は

1モルの気体について V に対し次のように変形することができる

V 1

PRT (50rsquo)

両辺に圧力の微小変化量⊿P をかけると

PP

RTP V (52)

これを微分方程式として圧力p0 からp1 まで(p0≦p1)積分するなら

1

0

1

0

1

0

1p

p

p

p

p

pdP

PRTdP

P

RTdPV (53)

関数 f(x)=1x を積分したときの関数はF(x)=ln(x)であるので(ln は e を底

とする自然対数loge)

右辺=0

1ln)0ln()1ln(p

pRTpRTpRT (54)

ギブス自由エネルギーを表す式(49)は次のようであったから

ΔG = VΔP (49)

式(52)から得た式(54)を当てはめると状態G0(p0T)からG1(p1T)

へ変化する過程で圧力が p0 から p1 まで変化するものとして

dGG0

G1

G( p1T ) G(p0T ) RT lnp1

p0 (55)

あるいはこれを書き直して

V

36

G(p1 T) = G( p0T ) + RT lnp1p0

(56)

特別にG0(p0T)を標準状態T=29815K(25)p0=1atmに指定する

なら標準生成ギブス自由エネルギーを記号G゜として (56rsquo)

と表すことができる

式(56rsquo)の意味するところは標準状態から圧力の変化を伴う過程で理

G(p1 T) = Go + RT ln p1

想気体のギブス自由エネルギーは圧力の対数に比例して上昇することである

このことはさらに新しい着想を生む

すなわち水素を燃料とする上の燃料電池で1atm 標準状態の水素ガスの圧力

を2atm に上げれば式(56rsquo)からRTln2 余分にギブス自由エネルギー

が取り出せることになる

燃料電池において起電力を生むエネルギーは隔壁を水素イオンもしくは酸

素イオンが浸透しようとする力であるので1atm の水素ガスと2atm のそれで

は浸透しようとする圧力が異なりここに起電力が生じる

式(56)の第二項が圧力の差による仕事であるからこれをΔG とすれば

W=-ΔG の仕事量が電気エネルギーとして取り出せるはずである

W = minusΔG = minusRT lnp1p0

(57)

起電力に換算するために式(41)を使うと

W = n FV=minus ΔG (41)

から

01ln

pp

nFRTV ⎟

⎠⎞

⎜⎝⎛minus= (58)

この式(58)は一般にネルンスト(Nernst)の式と呼ばれる

37

理想溶液のギブス自由エネルギー

理想気体を想定したように無限に希釈された混合溶液に対して理想溶液を仮

定する「系」の圧力温度を一定に保つならば体積内部エネルギーエンタ

ルピーギブス自由エネルギーなどの示量数は混合溶液を構成する物質のモ

ル数mに比例するたとえば標準状態にある物質の1モルの体積をVとすれば

mモルの体積はそのm倍mVであるそうすると溶液中のi番目の成分がmi

モル「系」から「外界」に仕事をするときその成分iの持つ自由エネルギーの

mi倍の仕事が「外界」になされると考えればよい

この溶液成分のモル数と化学的仕事を結びつける示強因子がギブスによって

化学ポテンシャルと名付けられ一般に記号μが用いられる

化学ポテンシャルはこれまで見たようにギブス自由エネルギーで表される

また電位がψ(プサイ)にある系から-Δeの電荷が放出されるときには

-ψΔeの電気的仕事が得られるそこで記号μに両者を合わせた意味を持

たせて「電気化学ポテンシャル」と呼ぶ

概念の上で物質は電気化学ポテンシャルの高い方から低い方へ勾配にした

がって移動する

理想気体の標準状態が気体分圧を T=29815K(25)で 1atm としたのに対

し溶液成分の標準状態はその分圧に相当するモル数 m を用いるすなわち

標準状態にある成分 i の電気化学ポテンシャルμ0iは成分の持つ電荷(H+なら

1)を n として

μ0i = G i゜+nFψ i (59)

ギブス自由エネルギーは式(56rsquo)を借り理想溶液中の成分に対しては気

体圧力をその成分のモル濃度Cに書き換えればよいそこで

G(CT ) G RT lnC (60)

と表すことができる

したがって一般的な成分 i の電気化学ポテンシャルμiを表す式は標準状態

からの自由エネルギーの変化を考え式(59)と合わせて次のようになる

38

ψnFGii 0

式(60)から

ii CRTGTCGG ln)( 0

よって

(61) ψnFCRT iii ln0

実際的なことを考えると成分濃度はその有効イオン濃度とする必要があり

「活量係数」γを導入して次式で表されるイオン活量aを用いる

ai = γCi (62)

一般的にはγ=1と近似してモル濃度Cを使っているこのテキストでも

必要ではない限りイオン活量を用いることを省略して簡単に記述したい

膜電位

燃料電池に使われたナフィオンのような一つのイオンを通す膜を介して膜

の両側にC0 とC1 のイオン濃度差がある溶液が接するときの電気化学ポテン

シャルを考えよう

ある容器の底にナフィオン膜を取り付け容器の中と外のイオン濃度をC0

とC1としそれぞれの電気化学ポテンシャルをそれぞれμinとμoutとする

式(61)を使って

容器の中の電気化学ポテンシャル

(63) innFCRTin ψ 00 ln

容器の外の電気化学ポテンシャル

(64) outout nFCRT ψ 10 ln

イオン浸透性の膜を介して濃度変化が無視できるほどの移動があると考え

その電気化学ポテンシャルの差を式(63)(64)から求めれば

39

)(ln0

1 inoutinout nFC

CRT ψψ (65)

この系において今注目しているイオンが膜を介した両側で平衡状態にある

とき式(65)はΔμ=0と考えることができるすなわち

0)(ln0

1 inoutnFC

CRT ψψ

膜内外の電位差をΔψ=ψoutminus ψinとすれば

1

0

0

1 lnlnC

C

nF

RT

C

C

nF

RTψ (66)

式(66)は理想気体に対するネルンストの式(58)と同様溶液中のイ

オンに対するネルンスト(Nernst)の式として与えられる

細胞の膜においてもその生体膜の内外でたとえばカリウムイオンのように

非対称に分布して平衡に達している場合には式(66)で与えられる膜内外

で電位差が生じるこれは一般に膜電位と呼ばれる膜電位は平衡電位とも

呼ばれる

たとえば膜内外に1価のカリウムイオンに10倍の濃度差があるとすると

通常カリウムイオンは細胞内の濃度が高いので

C0 = 10timesC1

であるから

これを式(66)に当てはめてln(10)=2303 を用いlog への変換をすれば

Δψ=2303times(RTF)timeslog(10)

であるこれに R=831441 JmolKF=96485 CmolT=29815 K(25)

の各数値を当てはめると

Δψ=2303times831441times29815times196485 JC

=+005917 volt

すなわち膜の内外で約+60ミリボルトの膜電位が生じることになるこの

分だけ細胞の外側の電気化学ポテンシャルが高く膜の内側の膜電位が負であ

るそして膜にあるカリウムチャネルがこの電位を示すとき受動的なカリ

40

ウムの膜内外の移動は平衡に達することになる

水素イオン濃度測定

「標準水素電極」は1モル塩酸溶液につけた白金電極に1atm の水素ガスを

吹き込んで平衡状態に達したときの電位を基準としてゼロボルトと規定した

そこである溶液についてその水素イオン濃度を知ろうとするとき同じ水

素電極を用いることを考えれば標準状態にする目的で用いた1モル塩酸溶液

を濃度未知で X モルの塩酸溶液と想定すればその水素イオン濃度を知るこ

とができるだろうか

標準状態ではない X モルの塩酸溶液に浸けた白金電極が半電池として働くこ

とは間違いなさそうであるしかしその白金電極が持つ電極電位を測定する

にはいずれにしても標準電極と組み合わせて「電池」を構成しその電池

の起電力として計る必要がある電池を作れば起電力を知ることができ相

手の半電池の電極電位が知られていれば濃度が未知でXモルの溶液について

その水素イオン濃度を知ることができるだろう

こうした目的のためにいちいちゼロボルトと規定した標準水素電極を用いる

のは煩雑なのでしばしば後出の「銀塩化銀電極」が参照電極として用いら

れる

まず予め「銀塩化銀電極」を標準水素電極と組み合わせて電池とし一度

その起電力を測定しておけば後はいつもそれを標準電極として利用できる

「銀塩化銀電極」の半電池は

H+ (1 moll) Cl- | AgCl | Ag(s)

これに「標準水素電極」を組み合わせ電池を構成すると次のような電池

になる

Pt(s) | H2(g) | H+ (1 moll) Cl- | AgCl | Ag(s)

この電池の起電力を知れば「銀塩化銀電極」の半電池としての電極電位

を知ることができ参照電極として未知の半電池と組み合わせて起電力を測

定して相手の電極電位を計算できる

41

濃度 X モルの塩酸溶液を未知の溶液と想定すればその電極電位を知るために

組み立てる電池は次のようになる図10にその電池の図を示した

Pt(s) | H2(g) | H+ (x moll) Cl- | AgCl | Ag(s)

この電池の全反応は次の反応式で表される

AgCl(s) 1

2H2 (g) H Cl Ag(s) (67)

図10未知溶液の水素イオン濃度を測定しようとするための電池

化学反応の一般的な式

ここで電池に利用される化学反応から得られるエネルギーをギブス自由エ

ネルギーに換算し起電力を具体的に知る手だてとすることは上ですでに学

42

んだがより一般的な式を再度ここに書きだしておこう

化学反応が紙面で左から右に進む反応として次のような一般式で与えられ

るとき

aA + bB rarr cC + dD (68)

ギブス自由エネルギー変化量は標準状態ΔG゜からの変化量を加える形で式

(60)と同様次の式によって表される

G G RT(ln aCc aD

d ln aAa aB

b )

G RT ln

aCc aD

d

aAa aB

b (69)

aAは成分 A のイオン活量であるその他の成分も同じ

得られたエネルギーを電気エネルギーに換えるなら式(41)に習って

次式で表せば

ΔG=-n FV

there4V=-ΔG(nF) (70)

このときの起電力は標準状態における電位 E゜からの変化量として次式で与

えられる

E E

RT

nFln

aCc aD

d

aAa aB

b (71)

標準状態における起電力 E゜は反応が平衡状態にあるときで反応平衡定数

を K とするなら

K aC

c aDd

aAa aB

b (72)

で表されるそこでE゜は次のように書き改めることができる

43

E

RT

nFln K (73)

そこで式(67)で表される図10の電池「水素minus 銀塩化銀電池」に

対する起電力をギブス自由エネルギーから求めてみよう

反応から式(71)に当てはめれば

E E RT

Fln

aH

1 aCl

1 aAg1

aAgCl1 aH2

1

2

(74)

力学の慣例にしたがって固体の純物質の活量は1として扱い水素ガスを

想気体として見なして活量を1atm とするなら式(74)は次のよう

に簡略化される

E E

RT

Flna

H aCl (75)

ころで理想溶液として近似的に取り扱うときの希薄溶液でたとえば水素

入して詳細に検討するなら式( れる起電

オン濃度はイオン活量として aH+の記号を使うときすでに【理想溶液のギ

ブス自由エネルギー】の章で述べたようにこれを有効イオン濃度とする必要

がありイオン活量 a は「活量係数」γを導入して次式で表した

a H+= γH+CH+ (62)

この活量係数を導 75)で誘導さ

を計ることによって経験的に試料溶液中の水素イオン濃度を求めることは

困難である式(75)にあるイオン活量の項はモル濃度 C と活量係数γを

用いて次式で書き改められる

lnaH aCl

lnCH CCl

lnH Cl

(76)

まり式(76)右辺の第二項において互いに相手が知られなければ自分

決めることができず結果的に起電力を知っても(75)の値から水素イオ

ン濃度を導けないここに工夫が必要になる

44

の定義とその目盛り

液中の水素イオン濃度を直接意味するものではなく

を定義するとき測定されるのは1リットルの溶媒に存在す

pH = -log a H+ = -log(γH+CH+) (77)

際に試料溶液の pH を決定する際はpH 標準液を用いる

に溶液を入れ試料溶液 X と pH 標準液 S を

参 極を接続し電池を作成しその起

pH

現在pH の定義は溶

で述べたようにそれが簡便に測定できるものではないため次のように定

義されている

水素イオン濃度

水素イオン活量であるため定義式としては活量係数をγH+として次式で与

えられる

その要領は次のようである

上に図示した水素電極の容器内

れぞれ半電池(I)と(II)に入れる

半電池(I) Pt | H2 (1 atm) | 試料溶液

半電池(II) Pt | H2 (1 atm) | 試料溶液S

照電極として上図のごとく銀塩化銀電

電力を測定する半電池(I)のときの起電力を E(X)半電池(II)のそれを E(S)

とするこのとき試料溶液Xの pH は次式で計算される

pH (X) pH(S) E(S) E(X)

RT ln(10) (78)

ln(10)は自然対数を常用対数に戻すための定数で2303 を用いる

標準液

pH 標準液 S はpH 第一次標準液第二次標準液と呼ばれるべき

る測定

25で pH 4005 を示す

pH

上述した

のであり絶対的測定法である起電力の測定によって値をつける

標準液は安定で純粋な結晶が得られる試薬を調整してこれを測定す

上と同様に水素電極を用いこれに緩衝液を入れる参照電極として銀

塩化銀電極を接続して電池の起電力を測定する

たとえば005 moll フタル酸水素カリウム溶液は

一次標準(Primary Standard PS)の一つである半電池(III)として水素

45

電極を次のように準備する

半電池(III) Pt | H2 (1 atm) | PS 溶液

て電池を形成したとき得られる起電

参照電極として銀塩化銀電極を接続し

は式(75)から

E E

Ag AgCl RT

Flna

H aCl (79)

オン活量を濃度と活量係数の積(a H+= γH+CH+)にし自然対数を常用対数

すれば

E E

Ag AgCl RT ln(10)

F log(

H + CH+ Cl- CCl - ) (80)

E゜は水素標準電極(水素ガス分圧を1atm電極を浸ける溶液に001 moll

H

Cl を用いる)で得た起電力である

式(80)から

RT ln(10)

Flog(

H CH Cl

) (E EAg AgCl )

RT ln(10)

Flog C

Cl

(81)

らに

log(

H CH Cl

) F

RT ln(10)(E E

Ag AgCl ) logCCl

(82)

ころで式(77)から

(γH+CH+) (77)

-log a H+ =-loga H+-log(γCl-) +log(γCl-) =-log(a H+γCl-) +log(γCl-)

(83)の一番右の式で第一項は

pH = -log a H+ = -log

であるが右の式をさらに変形すると

(83)

46

-log(a H+γCl-)=-log(γH+ CH+γCl-) (84)

たがって式(82)の右辺で示されるように電池の起電力を測定すれば

よ 実際には溶液の塩素イオン濃

液で起電力を求め外挿する

起電

これによってpH を意味する式(83)は次式(85)で与えられる

p(aHγCl)はRG Bates によって Acidity Function と呼ばれている

らに式(85)最終項の log(γCl-) を補正しなければならないこの項は

本工業規格)によっても

であってこれは式(82)の左辺である

いただし塩素イオン濃度の項があって

をゼロにしたときの値が必要である

実測する際には塩素イオン濃度をゼロにできないので塩化ナトリウム NaCl

等を濃度を変えて添加しその時々の緩衝

勧告ではNaCl で 000500100015moll の3つの濃度を例示している

すなわち塩素イオン濃度ゼロのときの値は各塩素イオン濃度に対して

の値をそれぞれプロットしグラフから塩素イオンがゼロのときの起電力の

値を3点に対する回帰直線の延長で外挿して求めるこの点を次のように書

log( C H H Cl CCl

0

pa log( C log( (85) H H H Cl C

Cl0 Cl

)

素イオンの活動係数で与えられる補正項である

無限希釈溶液中のイオンの活動係数は理論的に Dubye-Huckel の式を用い

近似的に求めることが可能であるこれはJIS(日

用されていて Bates-Guggenheim の規約と呼ばれる (Bates RG

Guggenheim Pure Appl Chem 1 163-168 1960)

Dubye-Huckel の式は次のように与えられる

log A I

i 1 iB I (86)

47

I iについてそのモル濃度

計算される

はイオン強度でイオン mi と電荷 zi から次式で

I 1

2mizi (87)

また iは(86)式のBは温度と溶媒の性質による定数であり イオンの大

きさに関するパラメータで水和イオンの大きさとほぼ一致した値をとる標

準法の勧告では塩素イオンに対しイオンの大きさを46Åと決めてiBを

1

5 にしているそこで式(84)は次のようになる

ClA I

log 1 15 I

イオン強度 I は塩素イオン濃度を含まない計算となる

以上の方法によって実用的な pH 測定に用いられる第一次第二次標準液の

pH の値が得られる

絶対値としての

はpH の絶対測定法(第一次標準測定法)とされている

銀塩化銀参照電極は分極現象を防ぐために棒状の銀を塩酸で処理し表

に塩化銀を生成させたものを飽和塩化カリウム溶液につけてある

(88)

参考現在は実験的に求めた値と理論値の組み合わせで

素イオン濃度を求める方法を規定しているこの起電力から水素イオン濃度

を知るための測定方法

Buck RP Rondinini S Covington AK Baucke FGK Brett CMA Camoes MF

Milton MJT Mussini T Naumann R Pratt Kw Spitzer P Wilson GS

Measurement of pH definition standards and procedures Pure Appl Chem

74(11)2169-2200 2002Kristensen HB Salomon A Kokholm GInternational

pH scales and certification of pH Anal Chem 63(18) 885A-891A 1991)

銀塩化銀参照電極

電極の構成は

Cl-(aq) | AgCl(s) | Ag(s)

48

この半反応は次のようになる

AgCl(s) + e- rarr Ag(s) + Cl- (89)

の反応は次の2つの反応に分けて考えることができる

Ag+ + e- rarr Ag(s) (91)

AgCl(s)rarr Ag+ + Cl- (90)

図11銀塩化銀参照電極

(90)における銀 る塩素イオンによって左

されることが推測される

そこでカッコ [ ] をそれによって囲まれるイオンの濃度を表すことにし

式 イオン Ag+の溶解性は共存す

塩化銀の乖離定数Kを考えると

49

K = [Ag+][Cl-] (92)

これから

[Ag+]= K[Cl-] (93)

化カリウム溶液に漬けた銀塩化銀電極の電位 E は水素標準電極に対する

電 で与えられる

位を E゜として次式

E E

RT

nF

[ Ag ]

[Ag(s)]ln( )

Ag(s)のイオン活量は常に1とする

ここで半反応の電極電位を求めるために式(75)を利用することにすれば

(94)

熱力学の慣例にしたがって純物質個体

E E

RT

Flna

H Cl a (75)

式 の半反応をみると

応で電子1つが移動するので n=1 とするR=831441 JmolK1F = 96485

C はめれば

これに銀イオンの濃度として式(93)を当てはめる

この反応で移動する電子は (89) 銀イオン1つの反

molT=29815K(25)ln(10)=2303などの定数を当て

2303RTF = 005917

であるから(94)式は次のように表現できる

log[Cl]) E E 005917(logK (95)

たがって標準水素電極に対する銀塩化銀参照電極の標準状態における電

位 は半反応(89)に対して ゜=+0799で

化銀の乖離定数 K は182times10-10 であるのでその対数を取れば-973993

0799-005917times973993-005917log[Cl-]

E゜ E ある

ある

そこで式(95)は

E =

50

= 0799-0576-005917log[Cl-]

= 0223-005917log[Cl-] (96)

電極電位の関係について実測値

こうして求めた塩化カリウム溶液の濃度と

計算上の値は次のようである

KCl moll vs SHE volt25 計算値 volt25 01 02881 02822 35 0205 01908 飽和 0199 minus

実用 測定

実際の現場で水素イオン濃度を測定する目的の測定法で上のような2つの

極が同じ溶液に浸かっていたのでは試料溶液を交換するにも便利ではない

の容器に入れる未知試料溶液と銀塩化銀電極を隔離する

的な pH

そこで水素電極側

的で二つの電極容器をつなぐ液絡部をグラスフィルターやセラミック板

飽和塩化カリウムで作成したゼラチンなどの塩橋によって隔離遮断するこ

れを液絡部とよぶ

電池として機能するために必要な溶液イオンの交換はこの液絡部で行う

組み立てる電池は電池式で次のように表される

Pt(s) | H2 | 試料 (H+ x moll) || 飽和 KCl | AgCl | Ag(s)

の標準電極と銀塩化銀電極とは区切られていて溶液の直接の接触がない

とを意味するために電池式ではタテ二重線を用いる銀塩化銀参照電極

の容器には飽和塩化カリウム溶液が入れられる

51

図12液絡部のある pH 測定のための電池

この液絡部のある電池では塩橋を記号lsquo | | rsquoで表して次のように記す

試料 (H+ x moll) | | 飽和 KCl

ここでは試料溶液と飽和塩化カリウム溶液の異なる2液が接している

このような界面では膜電力が生じるのと同様「液間電位差」が生じることが

知られているしたがって上の電池で測定される起電力 E は

E = E[銀塩化銀電極電位]+E[液間電位]+E[水素電極電位]

で与えられることになってE[液間電位]のために図12の電池の起電力

は銀塩化銀参照電極の値を知っていても水素電極容器内に入れた未知溶

液の水素イオン濃度を正しく知ることができない

52

そこで実用的な測定法としてこの E[液間電位]を膜電位として積極的に利

用する方法が工夫されたすなわち水素イオンに感応するガラス薄膜を用い

るガラス電極法である

53

ガラス電極

ガラスはケイ素原子と酸素原子からなる SiO4 の結晶構造を持ち酸素で囲

まれた空隙があって水素イオンがそれを埋めることができる

この性質によってガラス膜表面は水溶液中の水素イオンに応じて膜電位を

変化させるのでこれを水素イオン濃度測定用の電極として利用することが考

えられるこれが通常用いられるガラス電極である

ガラス電極は標準電極と組み合わせれば電池を構成することができこの電

池の起電力を知ってガラス薄膜の内外にできたイオン濃度勾配を知ろうとす

るものである

薄いガラス膜(01mm程度)をはさんで接する2つの溶液のH+イオン濃

度が異なるとその差に応じてガラス膜の両側に電位差(Eg)が現れる

ネルンストの式でガラス電極の内部に入れた既知の濃度のH+([H+]in)に対

し試料中の水素イオン濃度が[H+]sampleのとき次の電位を生じる

)][

][log(059170)

][

][ln(

sample

in

sample

ing

H

H

H

H

F

RTE

(97)

図13ガラス電極

電極を構成するのは銀塩化銀電極と同じ電極で用いる塩溶液は一般的

54

に 01モル塩酸溶液である

この半電池の電池式は次のように書くことができる

Ag(s) | AgCl(s) | HCl (01 M) | ガラス薄膜 || 試料溶液 H+ (x moll)

Eg

この半電池の電極電圧を測定するために銀塩化銀標準電極と組み合わせ

電池を作って起電力を計る

構成される電池は下図のようになる

ガラス電極 銀塩化銀標準電極

図14ガラス電極を用いた pH 測定用の電池

この電池の起電力は次の各半電池の平衡電位を合わせたものになる

55

E1ガラス電極の内側電位

Ag(s) | AgCl(s) | HCl (01 M)

Egガラス薄膜の内外に生じる膜電位

HCl (01 M) | ガラス薄膜 || 試料溶液 H+ (x moll)

E2液間電位(膜電位)銀塩化銀標準電極のセラミックを介した試料溶液

と銀塩化銀標準電極の内部液(飽和 KCl 溶液)の間に発生する電位

試料溶液 H+ (x moll)|| セラミック | KCl(飽和)

E3銀塩化銀標準電極

KCl(飽和)| AgCl(s) | Ag(s)

pH メーター用のガラス電極に使われるガラス薄膜は水素イオンに感応して

膜電位(Eg)を生じるこれは【膜電位】の章で記したように薄膜がある

一つのイオンのみを通過させる特性を持っている場合にイオンが膜を介した

両側で平衡状態に達したとして電気化学ポテンシャルを膜の両側で等しいと

考えてそのイオンが濃厚な側から希薄な側にその差によって圧力を生じると

するものである

一方同じ試料溶液が銀塩化銀標準電極のセラミック液絡部を介して生じ

るだろう液間電位(膜電位E2)はいま関心がある水素イオンに対して特異

的に感応するのではないので試料溶液の水素イオン濃度に関係なく一定と見

なすことができる

すなわちpH メーターを構成する電池の起電力 E は

E = E1+Eg+E2+E3 (98)

このうちEg以外は一定と見なせるので

E1+E2+E3 = E

として式(98)を書き直すと

)][

][log(059170

sample

ing H

HEEEE

(99)

Eは標準液によって校正されるべき標準電極電位である

56

電極の校正

実際のイオン濃度を測定する場合低濃度標準液と高濃度標準液で得られ

る起電力を測定し計測のイオン濃度に対する係数(傾き)を求めておき未

知の試料に対して起電力を測定してそのイオン濃度を算出する方法が採られる

低濃度標準液と高濃度標準液のそれぞれの濃度をCLとCHとすればそれぞ

れの起電力ELとEHは次式で表される EH = E +β logCH (100)

EL = E +β log CL (101)

ただしβは式(99)の係数を簡略にしたものである

式(100)と(101)から検量線の傾きが次式で表せる

ΔE = EH minus EL = β(logCH minus logCL) = β logCH

CL

(102)

したがって係数βは

β =ΔE

log CH

CL

(103)

であらわされる

このときに使われる標準はすでに前出の pH 第一次標準第二次標準溶液で

ある

金属イオンに対応するイオン選択電極

現在臨床検査で日常的に使われている電解質測定のための電極はナトリウ

ムカリウムカルシウムクロールなどおよそ臨床的に必要な金属イオン

に対して入手可能である

カリウムイオン測定用のバリノマイシンの発見によってクラウンエーテルと

57

呼ばれる一連の化合物が知られたクラウンエーテルはその分子の中心に立

体的な空間を持ち特定のイオン径に対し合致するのでそのイオンに対して

選択的に感応するこれらの化合物はイオノフォアと呼ばれる

図 15クラウンエーテル

1つの金属イオンが環状化合物

15-crown-5 の中央にある空間を充填

している模式図

15-crown-5 の構造を作る10個の黒

い丸は炭素炭素2個のつながりごと

にある中心の白い丸は酸素酸素と

金属イオンの間の距離はおよそ 22~

23Åであるカリウムのファンデン

ワールス半径は 135Åイオン半径は

15~16Åである

測定したいイオンに対しポリ塩化ビニル(PVC)を支持体としてイオノフ

ォアを添加した液膜の電極膜を作成しこれをガラス電極におけるガラス薄膜

と同様試料に接する電極膜として用いるこの構造から一般的に液膜型電極

と呼ばれる電極膜には特異性を高めるため妨害イオン排除剤などが添加

される

pH メーターと同様銀塩化銀標準電極と組み合わせ電池を形成しその

起電力を計る測定したいイオンが液膜に対して内外で平衡に達したときの

膜電位を測定するのはガラス電極と同じである

カ リ ウ ム イ オ ン に は Bis[(benzo-15-crown-5) ( 正 式 名 は

Bis[(benzo-15-crown-5)-4-methyl]pimelate)ナトリウムには Bis[(12-crown-4)

やDibenzyl-bis[(12-crown-4)などがイオノフォアとして用いられる

58

図16カリウムイオン測定用に使われるクラウンエーテル

図17ナトリウムイオン測定用に使われるクラウンエーテル

59

参考イオン選択電極に関する文献Xia Z Badr IHA Plummer SL Cullen L

Bachas LG Synthesis and evaluation of a bis(crown ether) ionophore with a

conformationally constained bridge in ione- selective electrodes Anal Sci 14(2)

169-173 1998 Oh K-C Kang EC Cho YL Jeong K-S Y oo E-A Paeng K-J

Potassium-selective PVC membrane electrodes based on newly synthesized

cis- and trans-bis(crown ether)s ibid 14(10)1009-1012 1998 Dojindo WEB

site httpwwwdojindocojpwwwrootproductsjinfo2protocolp31pdf

<補遺> 60

補遺 状態関数 (本文 p21 10 行目参照)

一つの平衡状態にある系 A とこれに接する系 A にとって外部である系 B について系 B

から系 A に熱を与えこれによって系 A が他の平衡状態に移ったとき系 A はその結果とし

て膨張し系 B に対し仕事をする

このときの微少な熱量の移動を記号drsquoQ またなされた微少な仕事をdrsquoW とすると

系Aの内部エネルギーに関する微少な変化drsquoUA は両者の和として表される

WdQdUd A primeminusprime=prime (a-1)

この式 a-1 と本文中の式25との関係について

WQU A Δminus=Δ 本文(25)

<補遺> 61

式 a-1 と式25の記号の違いは変化の起きる前の平衡状態 S1 から変化後の平衡状態 S2

に状態変化があったとするなら式 a-1 を積分することで式25が得られるものと考えて区

別している

A

S

S A UUd Δ=primeint2

1 (a-2)

このことは重要であるすなわち内部エネルギーU は変化の起きる前後の状態を指定する

ことによって値が定まることを意味するこのように積分によって値を定めることが出来る

のでdrsquoU は完全微分であるという

内部エネルギーのように系の状態だけで値の定まる量を状態関数として扱う

一方式 a-1 のdrsquoQ drsquoW についても同様に微少の変化量を表しているが平衡状態 S1

から S2 への経路を指定しなければ積分の値は定まらない

本文中の記号にしたがって仕事量ΔW を次のように表すことにする

VpW Δ=Δ 本文(20) V

<補遺> 62

体積と圧力の関係を表す図を使ってこの仕事量が意味することを考える圧力 prsquo の下で

体積が V1 であるときを状態 S1 として圧力一定の下で体積を V2 まで膨張させるような変

化を行った後体積を等しく保って圧力を p にまで上げたときの状態を S2 とするこのとき

の仕事量は膨張に伴うものであるから図の体積‐圧力線の下の面積で示すことができる

平衡状態 S1 から S2 への変化の道筋を別にたどってみよう

新しい経路では圧力を先に p まで上げた後に膨張変化させている

図から直感的に明らかであるので数式での扱いを省略するが2 つの経路による仕事量には

差がある

すなわちdrsquoW は drsquoU と異なり変化の初め S1 と終わり S2 の状態が与えられても積分値

は定まらず変化の経路によって違ってくる

このように変化の経路を指定しなければ積分値が定まらないものを不完全微分と呼び扱

いを区別する

本文 p21 へ戻る

<補遺> 63

VpW

WQU

VpQU

VpUQ

1122 SSSS pVUpVUQ

pVU

VpUHHHQ SS 12

エンタルピー (本文 p24 20 行目参照)

本文中の式 20 および 25 から一定の圧力の元で起きる状態変化において内部エネルギー

の変化量に対する式 a-3 を得る

本文(20)

本文(25)

(a-3)

式 a-3 を Q について書き直す

(a-4)

状態の変化が平衡状態S1から平衡状態S2に移ったものとして式 a-4を丁寧に書き直すと

(a-5)

並び替えて

(a-6)

式 a-6 を見ると定圧過程における熱量の流入は

(a-7)

の形を持つ関数の差であることが分かる

一般に化学反応のような変化の過程では大気圧の下で行われるようなものに興味がある

そこで式 a-7 で与えられる項を一つの関数として定義するこれをエンタルピーと呼び記

号 H を与える式 a-4 はエンタルピーの変化量で次のように書き改められる

(a-8)

圧力が一定の下で起こる状態変化について流入する熱量は式 a-8 で示されるようにエンタ

ルピーの変化量に等しい

V

V

V

V V

V

V

1212 SSSS VVpUUQ VV

<補遺> 64

1Q

We

また式 a-8 からオートクレーブ内で起こるような体積変化のない過程ではこの値が内

部エネルギーの変化量で与えられることが明らかである

本文 p24 へ戻る

エントロピー (本文 p26 17 行目参照)

エントロピーは次のような思考実験から発想された仮想的な状態関数である

理想気体よりなる系 A が温度 T2で熱平衡状態にあり温度 T1の外部の熱源と接しているこ

とを想定する系 A の外部を系 B と呼ぶことにするT1は T2に対して無限小だけ高い温度と

する

系 A が系 B に対して温度圧力について平衡を保ちながら緩慢に系 B より熱量 Q1を受け取

る過程を考える(このような過程を準静的過程と呼ぶ)これによって系 A が熱量 Q1を得て膨

張するとき系 B に対して仕事をする続いて系 A から熱量 Q2が系 B に戻ることを考える

想定されるこの変化が可逆的であれば系 A と系 B を併せた全体は元の状態に戻る蒸気機

関に関するこのような研究が Nicolas Carnot によってなされたのは1824 年のことであった

ここに想定されたサイクルに対する Carnot の効率 e は移動した熱量となされた仕事によ

って定義され次の式で表される

(b-1)

<補遺> 65

理想気体では内部エネルギーU の変化ΔU はゼロと考えるしたがって熱力学の第一法

則を表す式(本文中の式25)から次の関係が示される

0=Δminus=Δ WQU

WQ Δ= (b-2)

これによってCarnot Cycleの効率eはQ2lt0 として次のように書き改めることが出来る

1

21

QQQe +

= (b-3)

ところで気体の状態方程式から1 モルの気体について次のような関係が示される

RTV

P

P1=

V = RTV (b-4)

V 式 b-4 の両辺に体積の微少変化量ΔV をかけて

(b-5)

これを体積Vについてその変化をV1からV2までとして積分するならば次式が得られる

VV

RTVP Δ=Δ 1V V

V

intint = 2

1

2

1

1V

V

V

VdV

VRTPdV

1V2V

11 lnRTW =

(b-6)

Q1の熱量によって起こる膨張がV1よりV2までとし圧力P温度T1の下でなされるその仕事

量をW1とするならそれは式b-6 の右辺によって示されるすなわち

(b-7)

VV

1

2lnVVRT=

V V

VV

V

V2int V2 intV1 V1

<補遺> 66

またQ2の熱量の移動が圧力P温度T2の下で起きこれによって系Aが可逆的に圧縮され

るなら体積変化はV2よりV1まで起こりその仕事量をW2で示すと次式のように表される

(b-8)

1

22

2

122 lnln

VVRT

VVRTW minus==VV

VV

Q1=W1Q2=W2の関係から式b-7 およびb-8 を用いてCarnot Cycleの効率eを表す式b-3

を書き改めると温度のみの関係式として次のように表される

1

21

TTTe minus

= (b-9)

ここでサイクルが可逆的過程であると想定するならば式 b-3 と式 b-9 から

1

21

1

21

TTT

QQQe minus

=+

= (b-10)

これから

12112111 QTQTQTQT minus=+ (b-11)

整理すると

02

2

1

1 =+TQ

TQ (b-12)

この考えをさらに発展させ系A

と系Bの間に数多くの系を挿入すること

にしてそれらの系を同様に熱源として

T1T2Tnと考えるこれによっ

て熱の受け渡しが系Aから系Bに至り

再び系Aにもどるサイクル過程に数多

くの寄り道の過程を加えることになる

熱量の移動に関して上の場合と同じく

準静的過程で行われると考えるこの

サイクル全過程について初めと終わ

<補遺> 67

n

i i

i

T

Q

1

0

0T

dQ

T

QS

T

dQASAS )()( 12

りが同じ状態になる可逆的な過程であるなら式 b-12 を拡大的に考えることになってそれ

は次式で表される

(b-13)

式 b-13 には重要な関数が現れるすなわち熱量と温度の比QT である

もし一つの系が無限小だけ温度の高い(dT )外界から温度圧力など平衡を保ちなが

ら極めて緩慢な過程(準静的過程)で無限小の熱量(dQ )を受け取るならばその変化は可

逆的でありdT について連続的な温度分布をする過程を考えるとき式 b-13 をさらに発展

させて次のように積分式で示すことが出来る

(b-14)

式 b-14 で積分記号にが付されているのはCarnot Cycle のような経路を一巡することを

意味している

Carnot の熱機関の効率という着想から生まれた熱量とそれを持つ系の温度との比 QT に

重要な意味を見出したのは Rudolph Clausius で彼はこの比にエントロピーという名前を与

えたエントロピーには記号ΔS を一般に用いる

(b-15)

エントロピーは初めと終わりの状態がわかれば過程に関わらず定まるので状態関数であ

系 A と外界のエントロピー変化を考えるときそれが可逆的過程であるならばすべてを併

せた全体のエントロピー変化は初めと終わりに変化がないという意味でゼロであるすなわ

ち初めの状態を S(A1)とし次の状態を S(A2)とするならそれぞれのエントロピーを

ΔS(A1)ΔS(A2)としてこの間におけるエントロピーの変化量は次のように示される

(b-16)

<補遺> 68

T

dQdS

0T

dQ

ある一つの変化については次のように示される

(b-17)

ここで式 b-17 の S に付けられたdは微分量すなわちごく微小の変化量を意味し式 b-15

で定義されたエントロピーに用いられる一般的な記号Δと区別する

ところで式 b-10 の関係においてもし移動した熱量のすべてが仕事に変わらなければ

効率 e を表す熱量を用いた関係式と温度で表される関係式は等号で結ぶことができないそれ

はエネルギーのロスを意味し初めと終わりの状態が異なってしまうことを意味するすなわ

ち全過程が構成する一つのサイクルは可逆的でなくなる

不可逆過程での熱効率 ersquo は 大値を示す可逆的過程の熱効率 e より小さな値をとる

ee

したがって 大効率を与える式 b-8 と式 b-3 から

01221

2112

1

21

1

21

QTQT

QTQT

Q

QQ

T

TT

両辺を T1T2で割ると

02

2

1

1 T

Q

T

Q

これを式 b12 と同様に発展させれば式 b-14 についてサイクルの変化が可逆的過程の

場合と不可逆的過程の場合の両方を併せClausius の不等式と呼ばれる次の関係が成立する

(b-18)

式 b-18 の等号が成立するのはサイクルが可逆的な理想の場合に限られる

ある孤立系で状態 A1 から状態 A2 へは不可逆変化で進められ状態 A2 から再び状態 A1

に戻るとき可逆変化であるような閉じた状態変化を考える可逆系のエントロピー変化には

記号 Q を使い不可逆変化には Q を用いるとするとそれぞれ積分式を用いて状態 A1 から

状態 A2 へは

<補遺> 69

d prime

状態 A2 から状態 A1 に戻るときは

全体では

=d prime

+d

(b-19)

Clausius の不等式から

0

式(b-19)の第二項で反応を逆に進めるときには次のように書き改めることができる

=d

よって式(b-19)は次のように書き直すことができClausius の不等式とあわせると

d prime d

0

すなわち

d prime d

上式の右辺は式(b-16)を用いて表せば

d prime

∆S ∆

この状態変化を微小変化とするならば断熱変化の場合 dQ = 0 であるから

∆S ∆ dS 0

すなわち不可逆変化を含む断熱変化ではエントロピーは必ず増大する

<補遺> 70

T

QS

BA SSS

(b-20)

(次の<補遺>ギブス自由エネルギーも参照せよ)

本文 p26 へ戻る

ギブス自由エネルギー (本文 p28 27 行目参照)

エントロピーの考えを導入することによって不可逆的に状態変化が起きるときにはエン

トロピーの増大を引き起こすことを知ったこれによって目前で起きる現象について温度の

変化があるものであれないものであれまた圧力の変化があるものであってもエントロピー

の定義式によって可逆的な変化におけるエントロピーの変化量を計算することが可能である

(b-15)

しかしながらこれから起こる変化について我々がすでにあらかじめ知っている物理量を

用いて予測的にその状態変化が起きるかどうか知ることは必ずしも容易ではないその理由

は式 b-15 に示されたエントロピーΔS が系とその外界をあわせた全体のエントロピーを示

しているからであるすなわち関心のある系を系 A としその外界を系 B とすると全体

のエントロピーは次のように表せる

(c-1)

関心のある系 A のエントロピー変化を知るためには系 B のそれを知ればよいがそれは

いつも容易とは限らない系 A の性質だけで状態変化の方向を知るには別の観点が必要にな

るようだ

そこでもう一度状態変化が熱量 Q の移動によって起きることについて考えてみようエン

トロピーの補遺で議論したように熱量の移動が準静的過程により行われるときには変化は可

逆的に起こると考えたこのとき外界すなわち系 B から移動する熱量を Q1とし系 A から

0S

<補遺> 71

21 QQ

T

Q

T

QSB

21

T

QSS A

2

QH

T

HSS AA

AA STHST

のそれを Q2 と記号を当てたのでこれをそのまま使うことにすれば可逆的な過程では系 B

の熱量 Q1 はすなわち系 A から戻る Q2 に他ならないので両者には次の関係が成立するも

のとしてよい

(c-2)

したがって

(c-3)

と考えてよくこれによって式 c-1 を次のように書きなおすことが出来る

(c-4)

独立した系で圧力とその体積に変化がなく一定の条件の下で状態変化が起きるときエン

タルピーの考えを使ってすでにひとつの関係があることを導いている

本文(31)

そこで式 c-4 を系のエンタルピーΔHAによって書き改めれば

(c-5)

この両辺に-T をかけて式を書き直せば次の関係式が得られる

(c-6)

式 c-6 を見るときその右辺がマイナスの値ならば左辺のΔS はプラスの値をとることが

分かるすなわちエントロピーが増大すると見ることが出来るこれまでの過程で自然の現

象はエントロピーが増大する方向に進むとしてきたので関心のある状態変化について式 c-6

の右辺で計算される値がマイナスの値ならばその変化は起きるものと考えてよいことになる

だろうしかも右辺はすべて独立した系の状態量で示されていて我々が知りうる値で計算

<補遺> 72

TSHG

STSTHG

STHG

可能である

そこでこれを熱力学ポテンシャルを表すものとしてギブス自由エネルギーと呼ぶことに

するギブス自由エネルギーは記号 G が用いられ次のように定義される

(c-7)

ここで関心があるのは自由エネルギーの絶対値ではなく式 c-6 に示されたようにその変化量

に興味があるので式 c-7 から

(c-8)

温度が一定の条件の下で状態変化が起きることを考えるなら式 c-8 は次のように書くこと

ができる

(c-9)

ギブス自由エネルギーは式 c-9 の右辺がすべて状態量であるからこれも状態量の一つで

ある定圧定温の条件下で起きる変化ではすでに議論したようにΔGlt0 であれば状態

変化は自発的に起きるものと予測できる

つまり式 c-5 の第一項は系のエントロピーΔSAそのものであり第二項で示されるエンタ

ルピーは系 A の温度が一定に保たれているのであるから発熱する熱量として外界に吸収さ

れるものであってこれは外界のエントロピーの増大につながるものとして解釈されるした

がって化学反応のように一定の圧力と一定の温度の下で起きる変化について自由エネルギ

ー変化量はその状態変化が自発的に起きる傾向を示しているといってよい

本文 p28 へ戻る

  • はじめに
  • 目次
  • 電気エネルギー
    • 金属のイオン化
    • 電池
    • 水素の反応
    • 燃料電池
    • 化学反応と電気エネルギー
      • エネルギーと熱力学
        • エネルギー保存則
        • エンタルピー
        • エントロピー13
        • ギブス自由エネルギー
        • 電池における化学反応のギブス自由エネルギー13
        • 理想気体の状態方程式
        • 理想溶液のギブス自由エネルギー
        • 膜電位
          • 水素イオン濃度測定
            • 化学反応の一般的な式
            • pHの定義とその目盛り
            • pH標準液
            • 銀塩化銀参照電極
            • 実用的なpH測定
            • ガラス電極
            • 電極の校正
            • 金属イオンに対応するイオン選択電極
              • 文献
              • 補遺
                • 状態関数
                • エンタルピー
                • エントロピー
                • ギブス自由エネルギー
Page 17: イオン選択電極i イオン選択電極 Ion Selective Electrode (ISE) を理解する ・ pHを測定する ・ NaやKなどのイオン濃度を測定する 神戸大学医学部保健学科

14

化学反応と電気エネルギー ダニエル電池の陰極は亜鉛板が硫酸亜鉛の水溶液につけられていたこのと

きの現象は次のように説明された亜鉛は電子を亜鉛板電極に残し陽イオン

となって出て行くその結果亜鉛板電極中に電子が余分にたまる

ダニエル電池の陰極の「電極電位」はこの電極に余分にたまっている電子の

量をさしているそれではこの半反応による電極電位を測定することができ

るのだろうか半反応は次のように示される

Zn(s) rarr Zn2+ + 2e- (1)

亜鉛が1モル反応すると2モルの電子が持つ総電荷量が流れる

1電子の持つ電荷量は16022x10-19 C (Ccoulombクーロン)であ

るから

1モルの電子の総電荷量はアボガロド数をかけて 96485 = 96485 x 104 Cmol

であるこれを1F1ファラデーと表す

1F = 96485 x 104 Cmol 亜鉛が1モル反応すれば2モルの電子が持つ総電荷量が流れるのでこれを

記号 q として表すと次の電気量が得られる

q = 2F (10)

化学反応によって取り出せる電気量はこのように計算される

それでは電気エネルギーとしてその電力はどのようになるだろう

電力は

電力=電圧times電流times時間 (12)

電流times時間=電気量であるから式(12)を書き直せば

15

電力=電圧times電気量 (13)

ここで電気量 q は式(10)で表しているので

電力=電圧timesq=電圧times2F (14)

と書くことができる

電圧を記号Vで表すことにし電力をWにすれば式(14)は

W = 2FV (15)

として表しておくことができる

電圧の単位系は仕事量が電力Wであるので(13)から

V= W q (16)

仕事量をジュールJ(ジュール)で表せば電圧はJ C (ジュールクー

ロン)でその単位を表現することができる

式(15)の表すところは亜鉛を化学反応の材料として得られる電力という

仕事量がその電力すなわち電極電位で決定されることを意味している

一般に化学反応で1分子の材料を消費しn個の電子が流れることをその

半反応で知ることができるとき式(15)を一般化して次のように得られ

る電気エネルギーを表すことができる

W = n FV (17)

化学反応によって生じる電子を取り出し回路に導けばここに電流が生じる

その起電力(V)は陽極陰極のそれぞれの電位をE+E- と記号で表し

て次式で書くことができる

V= E+-E- (18)

16

ここで問題になるのは陽極陰極のそれぞれの電位E+とE-で上に議論し

たように回路を形成しなければそれぞれの電位は決定できない

ここでいま片方の電位をゼロとすれば式(18)はたとえばE- = 0 で

V= E+

として陽極の電位が決まる

そこで申し合わせにより水素の半反応による電位をゼロとすることになっ

その半反応の式は水素の還元反応として次のように表せた

2H+ + 2e- rarr H2

標準にはMax Julius Louis Le Blanc (1865-1943) が発明した水素電極を用

いるこれを標準水素電極(Standard Hydrogen Electrode SHE)とよびこの

電極電位をいつも 0 volt(ゼロボルト)と取り決めている

図6に示した水素電極は1atm の水素ガスとそれに平衡状態にある水素イオ

ンが存在し次の半反応が平衡状態にある

H2 (g 1 atm)rarr 2H+ (aq 1 M)+ 2e- (5) g は気体を示す

この反応において平衡状態にある電極電位を 0 volt と定義する

電極に白金を用いるのは電極材料自体が溶解しないものであることすなわ

ちイオン化傾向の低いものであることまた水素イオンの還元に対してな

るべく活性の高いものであることが条件として求められるが白金はこの2つ

の性質を兼ね備えていて陽極の電極材料に適している

気体の標準状態は1atm を標準としているこの分圧を維持し溶液中の水

素イオン活量を1にする水蒸気の分圧が変化すると平衡電位は変化する

17

図6標準水素電極(0ボルトの基準)

標準水素電極は1モル塩酸溶液につけた白金電極に1atmの水素ガスを吹き込んで使う

白金電極は分極を防ぐために白金板に白金メッキを施し(白金黒とよばれる)上半分

を水で飽和させた(1atmの水蒸気分圧が必要)1atm(101325 kPa)の水素ガスを流し

下半分を1moll の塩酸溶液につける水素ガスが電極として働き白金板に電子が集めら

れる

ダニエル電池の亜鉛電極をこの標準水素電極につなげば亜鉛電極電位が測

定できる

亜鉛電極側では酸化反応の半反応が起きる

Zn(s) rarr Zn2+ + 2e- (1)

18

標準水素電極側では還元反応の半反応が起きる

2H+ + 2e- rarr H2

図7亜鉛電極と水素電極をつないで電池とする

25の基準状態における亜鉛電極の半反応(1)に対する平衡電位はすでに

知られている

E゜= -0763 volt

また銅板側の電極電位も同じようにして測定することができる

起きる半反応はすでに上述したが再度記しておこう

Cu2+ + 2e - rarr Cu(s) (3)

25の基準状態におけるこの電極電位はE゜=+0337 volt と知られて

19

いる

ここで亜鉛電極と銅電極の組み合わせでできる電池の最大電圧をこれらの

平衡状態における観測値から計算することができる式(18)を使って

V= E+-E- (18)

V= +0337-(-0763) = +110 volt

つまりダニエル電池で得られる最大電圧は11volt と計算できる実際に

はイオンの濃度が変化すれば反応の平衡が変化するので得られる電圧も変

化する

ここでダニエル電池で亜鉛1モルが反応するとき式(17)を使って得

られる仕事量としての電力を計算できる

W = n FV (17)

すなわちダニエル電池における電極反応は

Zn(s) rarr Zn2+ + 2e- (2)

Cu2+ + 2e - rarr Cu(s) (3)

であったから反応が進んで移動する電子はn = 2 である

1F = 96485 x 104 Cmol を適応すると

W = 2 x 96485 x 11 x 104 = 21227 x 105 Jmol = 2123 KJmol

(K = 103キロ)

すなわち亜鉛1モルの化学反応によって2123 KJmol の電気エネルギーが得

られる

水素ガスを使う燃料電池の起電力は電極の半反応から

O2 + 4H+ + 4e- rarr 2H2O (19)

25の基準状態におけるこの電極電位はE゜=+1229 volt が得られている

20

したがって燃料電池で1モルの水素が反応すれば

W = 2 x 96485 x 1229 x 104 = 2372 KJmol

すなわち2372 KJmol の電気エネルギーが基準状態で取り出せる最大電力

と計算される現在作られている燃料電池の電力は実際上08 volt ほどで

あるしたがって現実的に取り出せる電気エネルギーは 1544 KJmol の仕

事量と計算される「仕事量」という言葉については電気でモーターを回し

なにがしかの「仕事」をするなど思い浮かべれば実感できるだろう

エネルギーと熱力学 これまで述べてきたように電池は化学反応から直接電気エネルギーを取り出

す仕掛けであるダニエル電池では亜鉛と銅が酸化還元反応を起こす過程で

電子を放出するのを利用するまた水素ガスによる燃料電池は気体水素と酸

素を原料とし水が生成されるこの過程が1atm の気体原料を25(29815

K)で1モル反応させて生成物も1atm の液体の水を得るなら次の全反応に

よってすでに計算したとおり2374 KJmol の電気エネルギーが取り出せる

H2 + 12 O2 rarr H2O

圧力と温度がともに反応の過程を通じて一定の場合にその過程から取り出せ

る仕事量は熱力学的に考えることもできる

それはギブス自由エネルギーとして議論される電池で取り出した電気エネ

ルギーすなわち電力はこのギブス自由エネルギーに相当する

次に化学反応をこの熱力学の面から考えてみよう

エネルギー保存則

水素ガスを使う燃料電池のように独立した一つの仕掛けを考えこれを「系」

と呼ぶことにする系を考えるとき電池のように具体的なものを持って考え

るのが容易いのでそうすることが多い熱力学では自然界全体をあつかうので

しばしば概念的になり非現実的な記述が行われるが系の大きさや系を構成

する分子の大きさについて特定する必要はない

系におけるエネルギーを内部エネルギー熱エネルギー力学的エネルギー

の3つの要素からなると考えるこれらのエネルギーを考えるとき系の熱力

21

学的なパラメーター(変数)が必要となる熱力学的な状態はこれらのパラ

メーターのうちのいくつかを指定すれば決定される

熱力学的なパラメーターは2つに分類される

示量パラメーター(示量性変数)

系の大きさや構成する物質の量を示す体積や質量

示強パラメーター(示強性変数)

系の大きさに依存しない系における1つの点で決まった値で与え

られる圧力や温度密度など

いくつかのパラメーターで完全に決定できる状態を関数で表現することがで

きる場合があるそのような関数を熱力学的な状態関数(rarr補遺 p60)と呼ぶ

関数で状態の変化を表すことができれば数学的に取り扱うことができいろ

いろの面で便利である

一つの系についてその状態を知ろうとするとき系が熱力学的な平衡状態に

あると議論する上で都合がよい

熱力学的な平衡状態とは系を外部と独立させ長時間放置した後に達成され

る状態をいうこのとき系の状態をその外部のパラメーターで表現できる

たとえば電池を独立した系と考えるとき平衡状態に達した電極電圧を外部

においた電圧計で測定することができる

ある系を考えるとき前提としてその系はエネルギーを保有していると考える

系が独立してそこに存在するということで持っているエネルギーであるこれ

を内部エネルギーと呼ぶ系がある過程を経て状態を変えるとき系から系の

外部へ力学的な仕事をする場合には力学的エネルギーの出入りがあると考え

るまた系に熱が出入りする場合が考えられそれを熱エネルギーの出入り

と考えることにしよう

まず力学的エネルギーについて考えることにする

いま系が状態を変えその体積が増えれば系のlsquo壁rsquoがその系に接している

「外部」へ力学的な仕事をすることになる

このように系が膨張し壁が外部に向かって押し出されると考えたとき膨張

する過程における圧力を一定でpとし系が膨張した体積をΔV(膨張した分だ

けの体積増加量)とするなら系の仕事量ΔWは両者の積で表されるΔは変

化量を表すときにつける記号と決めておこう

22

ΔW = pΔV (20)

系の体積が凝縮する場合があるので仕事を記号で表す場合には注意するも

し系に接した「外部」から系に力が加わって体積を小さくしたならΔVは

マイナスとなるのでΔWもマイナスで表される

-ΔW = -pΔV (20prime)

今考えている系を「系 A」と呼びその内部エネルギーを UA外部の系を「系

B」と呼んでその内部エネルギーを UBと表すなら二つ合わせた全体の内部

エネルギーは両者の和で表すことができる

U = UA+UB (21)

この体積変化に必要なエネルギー変化量はどこから得られたかを考えれば

その変化があった「系 A」と外部の「系 B」のいずれかあるいは双方の内部エネ

ルギー変化分でまかなわれたと考えざるを得ない(図8参照)

そこでこのエネルギーの収支関係は変化分を表す記号に先と同様Δを用い

ることにすると次式のようになる

-ΔU =ΔW (22)

すなわち観察している「系 A」のエネルギーと外部の「系 B」のエネルギー

を合わせた総エネルギーを見てその微少な減少量minus ΔU が仕事をなすために

必要であったエネルギー量と考えてみることにする

ついでこの体積の変化が「系 A」に接する外部のlsquo熱rsquoによって起きたも

のと考えてみようすなわち外部の「系 B」が系 Aより高温で「系 B」によ

って系 Aが暖められたことになる

このとき移動したエネルギーを「熱量」と定義する

23

図8熱量の移動と系が外部にする仕事

「熱量」を記号Qで表すと外部の「系 B」が失ったエネルギーminus ΔUB で

ありこれが熱量であるから式で表せば次式のように書くことができる

-ΔUB = Q (23)

ここで「系 A」とそれに接する「外部 B」両方のエネルギーを合わせた総エ

ネルギーの変化量ΔUは式(22)で与えられていた

-ΔU =ΔW (22)

-ΔU =-(ΔUA+ΔUB) であるから

minus ΔUAminus ΔUB=ΔW (24)

これに式(23)を当てはめてΔUAで整理すれば

24

ΔUA= Q-ΔW (25)

この式(25)は「エネルギー保存則」あるいは「熱力学の第一法則」を数

学的に表現したものである

すなわち

独立した系を考えその状態が変化するとき系の内部エネルギーの変化量はその系に入る熱量と系が外部にした仕事との差である

式(25)にはまた重要な主張があるつまりエネルギー保存則にしたが

うとき熱量は力学的エネルギーにまた力学的エネルギーは熱量に変換しう

ることを意味している

熱量を表す単位はカロリー(cal)を用いる1cal は

1 cal = 4184 J

と換算されるジュールは 1J = 1Nm (ニュートンメートル)で仕事量を

表現する単位系で表される

エンタルピー

式(25)から定圧過程で式(20prime)を利用して次の式(26)が誘導さ

れる

Q =ΔUA+pΔV (26)

ここでQは熱量を表していたのでこの関係式(26)から熱関数として

新しい関数を定義する

新しい関数はエンタルピー(enthalpy)(rarr補遺 p63)と呼ばれ次の関数

式Hで表される

H = U+PV (27)

エンタルピーの微少変化量を記号Δを使って表現してみよう

25

ΔH = ΔU +Δ(PV) =ΔU +ΔPV+ PΔV (28)

独立した系で圧力が一定の下に起きる過程を考えるならΔP = 0 (圧力の

変化はゼロ)であるから式(28)は次のようになる

ΔH =ΔU + PΔV (29)

化学反応の過程を考えるとき系に容積の変化がなく過程の前後で一定であ

るならさらにΔV = 0 であるのでエンタルピーの変化量は

ΔH =ΔU (30)

また系の仕事を体積の変化としてみる式(20)から

ΔW = pΔV= 0

であるのでこれを式(25)へ適応すると

ΔU= Q minus ΔW = Q ΔW= 0 だから

結果的に系の圧力と体積が変化の過程で一定である場合にはその系のエンタ

ルピーの変化を表す式(29)(30)は次のように簡単な式になって熱関

数と呼ばれる意味が理解しやすいだろう

ΔH = Q (31)

独立した系に等圧等積で起きる過程を見る場合にはエンタルピーは系が外

部と交換する熱量の直接的な尺度となる

H>0 なら反応に熱を使うので吸熱反応

H<0 なら発熱反応

電池のように系に起きる化学反応で生じる電子の流れを取り出す装置を考え

る場合エンタルピーの変化を電気エネルギーとして取りだしている点に留意

26

しなければならない式(31)のようにエンタルピー変化が交換される熱

量に直接表現できるといっても必ずしも熱として取り出すとは限らないこと

を注意しよう

ところでエンタルピーは内部エネルギーと同じ次元にある状態量で定圧

変化の熱量がエンタルピー変化であるからある一点を標準として定めれば

すべての物質について任意の点のエンタルピーを変化量として定めることがで

きるすなわち化学反応の過程で発熱あるいは吸熱する熱量は反応材料と

生成物の間の状態変化に対応するエンタルピーに対応する

そこで一つの元素に対してもっとも安定な状態にある物質を標準物質とし

て定め29815K(25)1atm を標準状態としてその標準物質からある化

合物を合成するときの反応熱(発熱あるいは吸熱)をその化合物の「標準生成

エンタルピー」として定義できる多くの元素に対して標準生成エンタルピー

は現在表としてまとめられている

水素や酸素はその気体状態が標準物質でありそれらの標準生成エンタルピー

がゼロと定義される

エントロピー

もう一つ新しい状態関数としてエントロピー(entropy)(rarr補遺 p64)を

定義するエントロピーを表す記号は通常S を用いその定義は次の式(32)

による

S Q

T (32)

エントロピーは系の2つの状態が決まると状態量として決まる

このときQ は2つの状態の間を可逆的に変化したとき系が受け取る熱量

T は系が熱量 Q を受け取ったときの温度(degK)である

「熱力学の第二法則」はエントロピーに関するものである

図9では2つの系が接しておりそれぞれの温度を Thigh Tlowとする

Thigh>Tlow (33)

27

今温度の高い系から温度の低い系に直接熱量 Q が移動したとすれば温度

の高い系のエントロピーの変化量ΔS は熱量が失われるので負の値になる

図9熱の移動

そこで温度の高い系のエントロピーの変化量ΔS を式で表すことにすると

次式のようになる

Shigh Q

Thigh

(34)

一方低い系のエントロピー変化量ΔS は熱量が与えられるため

Slow Q

Tlow

(35)

両方の系を合わせたエントロピーの変化量ΔS は

S Shigh Slow Q

Thigh

Q

Tlow

lowhigh

lowhigh

lowhigh TT

TTQ

TTQ

11 (36)

式(36)の最終項で(33)を前提すなわち最初に温度の高い系は高い

と決めたのだとするならエントロピーの変化量ΔS は必ず次のようになる

28

ΔS >0 (37)

すなわち独立した系がありそれより温度の低い別の系あるいは温度の低

い外界が接した場合熱量は高い方から低い方へ移動するという自然の成り行

きを説明するものである

自然界に置いてエントロピーは

ΔS≧0

の値を取りΔS=0のときは可逆的過程である

今の例でいうなら熱は温度の高い系から低い系へ移動しその逆は起きない

常にΔS >0の方向に過程が進行するまた2つの系が同じ温度であるとき

両者は平衡状態にあって熱量の移動は見かけ上なくΔS=0と表現される

「熱力学の第二法則」はエントロピーによって表現されるもので系の変化が

可逆的であるかどうかを判定する指標であり現実の世界で起きる不可逆過程

が正の値を取る方向へ進むことを示す

あるいは系の変化が起きるとき外界を含めて考えれば総エントロピーが

増大する方向に変化が起きることを意味するというようにも表現される

ギブス自由エネルギー

熱力学の第一法則によってエネルギーの取りうる形である「仕事」と「熱」

は互いに変換されうることを理解したこのことの数量的な意味は1cal=418J

で示されるさらに仕事は100熱に変換可能であるが一方の熱はうま

くやっても100を仕事に換えることができないことを熱力学の第二法則で

説明しようとしたそのためにエントロピーという概念が導入された

ここで電池のような独立した一つの系を見るとき系の内部エネルギーの減

少を仕事として取り出しうるならそれは化学反応を一つの例としてどれほど

の仕事量が取り出せるのかはどうしたら与えられるだろうか

化学反応を電気エネルギーに換える電池では先に正負それぞれの電極におけ

る半反応の平衡電位の値を利用してその起電力に対する最大値を計算した

この化学反応から取り出しうる最大仕事量を与えるものとして新しくギブス

自由エネルギー(rarr補遺 p70)と名付け記号 G を使ってそれを次のように

定義する

29

G = H-TS (38)

H はエンタルピーである第2項にある S はエントロピーを表す

ギブス自由エネルギーは化学反応のような独立した系の定温定圧過程に適

応されるので変化量ΔG を式(38)から得ておこう

ΔG =ΔH-Δ(TS)

=ΔH-(SΔT+TΔS)

温度を一定と考えているのでΔT=0 であるから

ΔG =ΔH-TΔS (39)

この式(39)を書き換える

ΔH=ΔG + TΔS (39rsquo)

ここで定圧過程ではエンタルピーを次のように式(29)で定義できた

ΔH =ΔU + PΔV (29)

式(29)の意味するところを復習すれば

系のエンタルピー変化ΔH は内部エネルギーの変化量と系が外部に

した仕事量の和として表される

これは

定圧過程で系が得るエネルギー量から仕事量を除いたもの

と言い換えることができるエンタルピー変化量は化学反応などの過程で

始めと終わりの2つの状態の差であるからそれが正の値を示す(>0)なら

系のエンタルピーは増加することを意味しその過程が進行するためには系

の外部からエネルギーが供給されなければならない

一方式(39rsquo)の右辺第2項TΔS はエントロピーの定義(32)より

TΔS = Q (40)

であるのでこれは可逆過程で系に供給される熱量を意味する

30

もしエンタルピー変化量が負の値を示す(<0)ならば系のエンタルピー

は減少しその過程が進行することによってエネルギーが取り出せるすなわ

ち式(39)(40)から次のようにこれら3つの状態量を改めて説明する

ことができる

ある化学反応が定圧で可逆的に進行するときそれから取り出せる

エネルギーのうちΔG を仕事として放出し熱量 Q を放出する

標準状態29815K(25)1atm で標準物質からある化合物を合成すると

きの反応熱(発熱あるいは吸熱)をその化合物の「標準生成エンタルピー」

として定義した同様にある物質に対する「標準生成ギブス自由エネルギー」

はこの標準状態で標準物質からその化合物を化学反応で生成するとき式(3

9)によって与えられる変化量をいう

電池における化学反応のギブス自由エネルギー

先にダニエル電池の亜鉛板側に対する電極反応を検討したとき電極反応が

仕事として放出するエネルギーを表現する重要な式があった次の式(17)

である

W = n FV (17)

ギブス自由エネルギーを用いて今これは次のように書くことができるように

なった

W = n FV=-ΔG (41)

この式が表していることを実際に水素の燃料とする燃料電池の反応過程で見

てみよう燃料電池の図を再掲する

図中右にある陰極では水素の酸化反応が起きる

H2 rarr 2H+ + 2e- (5)

一方図では左にある陽極において次の還元反応が起きる

12 O2 + 2e- rarr O2- (6)

O2- + 2H+ rarr H2O (8)

全体の反応はすでに示したように次の反応式(7)で示される

H2 +12 O2rarr H2O (7)

31

標準状態における可逆的仕事は式(41)であらわせ

n FV=-ΔG (41rsquo)

このΔG は式(39)であらわせた

ΔG =ΔH-TΔS (39)

すなわち標準状態29815K(25)1atmにおいてある化合物を標準物

質から合成するときの標準生成ギブス自由エネルギー変化ΔG゜は標準生成エ

ンタルピー変化ΔH゜とその温度におけるエントロピー変化TΔSの差で求ま

るこれらは燃料電池の全反応を表す式(7)で与えられる

標準生成エンタルピーΔH゜変化とエントロピー変化はすでに一般的な元

素やその化合物に対して表が作成されている

液体の水に対する標準生成エンタルピーΔH゜(H2O)は

ΔH゜(H2O)=minus 28583 KJmol

また水素ガスと酸素ガスはそれぞれの元素の標準物質であるので生成エ

ンタルピー変化はゼロである

32

そこで式(7)での水を1モル化学合成するときの標準生成エンタルピーΔ

H゜は水素(ガス1モル)と酸素(ガス12 モル)の2つの材料と水(液

体251atm)の両状態における状態量の差として表される

ΔH゜=ΔH゜(H2O)-ΔH゜(H2) -12ΔH゜(O2) (42)

式(42)の右辺第2項と第3項がゼロであるので

ΔH゜=ΔH゜(H2O) =-28583 KJmol (43)

標準状態29815K(25)1atm における水素(ガス)と酸素(ガス)お

よび水(液体)のエントロピーはそれぞれ

ΔS(H2O)=6991 JKmol

ΔS(H2) =13068 JKmol

ΔS(O2) =20514 JKmol

単位で分母のKはケルビン温度の意味

と計算されているので

ΔS=ΔS(H2O)-ΔS (H2) -12ΔS(O2) (44)

=6991-13068-12times20514

=-16334 JKmol

したがって

TΔS=29815times(-16334)=-486998=-4870 KJmol

(45)

そこで標準生成ギブス自由エネルギーΔG゜は式(39)から

-ΔG゜=-(ΔH゜-TΔS) (39)

=-{-28583-(-4870)}

=+23713 KJmol

33

すなわちこのエネルギーを電気エネルギーとして取り出すことができるそ

の起電力は式(41rsquo)から

n FV=-ΔG (41rsquo)

V= -ΔG(n F)

各数値を当てはめれば

V=237130(2times96485)

=1229 volt

先に【化学反応と電気エネルギー】のところで記したとおり25の基準

状態におけるこの電極電位はE゜=+1229 volt が得られているすなわち

こうして標準生成ギブス自由エネルギーから計算することでも同じ値を得る

ことができた

水素を単純に酸素と化合させる燃焼では式(43)で示されるエンタルピ

ーが発生する熱量を示している水素1モルあたり28583 KJである電池

にすれば水素1モルあたり23713 KJの仕事量が電気エネルギーとして取り

出すことができるその差は電池の場合熱が発生して利用できない

化学反応の過程を利用して化学エネルギーから直接電気エネルギーに変換す

るのが電池という装置であるが化学エネルギーは100電気エネルギ

ーに換えることはできないこのようにエネルギーの一部は電池の熱として

発散してしまう

理想気体の状態方程式

ギブス自由エネルギーΔG を定義した式(39)とエンタルピーΔH の定義

式(28)から

ΔG =ΔH-TΔS (39)

ΔH =ΔU +VΔP+ PΔV (28)

そこで次式が得られる

34

ΔG =ΔU+VΔP+ PΔV-TΔS (46)

またエネルギー保存則から得られた式(26)を応用すればギブス自由エ

ネルギーが変形できる

Q =ΔU+PΔV (26)

から

ΔU=Q-PΔV (47)

したがって式(46)は

ΔG = Q-PΔV+VΔP+ PΔV-TΔS

ΔG = Q-TΔS+VΔP (48)

エントロピーの定義からQ=TΔSであるから結局式(48)は

ΔG = VΔP (49)

と表すことができる

成分が混合された気体分子の分子間に働く力をゼロと仮定した「理想気体」を

考えるとき状態方程式としてボイルシャルル(Boyle-Charles)の法則が

利用できる

PV=nRT (50)

ここでnは気体のモル数PVT はそれぞれこれまでと同じ圧力体積温度(ケルビン温度)でありR は気体定数と呼ばれるもので次の値を持

R= 831441 JmolK (51) 単位で分母のKはケルビン温度の意味

35

状態方程式から式(49)の右辺を導くことを考えてみよう式(50)は

1モルの気体について V に対し次のように変形することができる

V 1

PRT (50rsquo)

両辺に圧力の微小変化量⊿P をかけると

PP

RTP V (52)

これを微分方程式として圧力p0 からp1 まで(p0≦p1)積分するなら

1

0

1

0

1

0

1p

p

p

p

p

pdP

PRTdP

P

RTdPV (53)

関数 f(x)=1x を積分したときの関数はF(x)=ln(x)であるので(ln は e を底

とする自然対数loge)

右辺=0

1ln)0ln()1ln(p

pRTpRTpRT (54)

ギブス自由エネルギーを表す式(49)は次のようであったから

ΔG = VΔP (49)

式(52)から得た式(54)を当てはめると状態G0(p0T)からG1(p1T)

へ変化する過程で圧力が p0 から p1 まで変化するものとして

dGG0

G1

G( p1T ) G(p0T ) RT lnp1

p0 (55)

あるいはこれを書き直して

V

36

G(p1 T) = G( p0T ) + RT lnp1p0

(56)

特別にG0(p0T)を標準状態T=29815K(25)p0=1atmに指定する

なら標準生成ギブス自由エネルギーを記号G゜として (56rsquo)

と表すことができる

式(56rsquo)の意味するところは標準状態から圧力の変化を伴う過程で理

G(p1 T) = Go + RT ln p1

想気体のギブス自由エネルギーは圧力の対数に比例して上昇することである

このことはさらに新しい着想を生む

すなわち水素を燃料とする上の燃料電池で1atm 標準状態の水素ガスの圧力

を2atm に上げれば式(56rsquo)からRTln2 余分にギブス自由エネルギー

が取り出せることになる

燃料電池において起電力を生むエネルギーは隔壁を水素イオンもしくは酸

素イオンが浸透しようとする力であるので1atm の水素ガスと2atm のそれで

は浸透しようとする圧力が異なりここに起電力が生じる

式(56)の第二項が圧力の差による仕事であるからこれをΔG とすれば

W=-ΔG の仕事量が電気エネルギーとして取り出せるはずである

W = minusΔG = minusRT lnp1p0

(57)

起電力に換算するために式(41)を使うと

W = n FV=minus ΔG (41)

から

01ln

pp

nFRTV ⎟

⎠⎞

⎜⎝⎛minus= (58)

この式(58)は一般にネルンスト(Nernst)の式と呼ばれる

37

理想溶液のギブス自由エネルギー

理想気体を想定したように無限に希釈された混合溶液に対して理想溶液を仮

定する「系」の圧力温度を一定に保つならば体積内部エネルギーエンタ

ルピーギブス自由エネルギーなどの示量数は混合溶液を構成する物質のモ

ル数mに比例するたとえば標準状態にある物質の1モルの体積をVとすれば

mモルの体積はそのm倍mVであるそうすると溶液中のi番目の成分がmi

モル「系」から「外界」に仕事をするときその成分iの持つ自由エネルギーの

mi倍の仕事が「外界」になされると考えればよい

この溶液成分のモル数と化学的仕事を結びつける示強因子がギブスによって

化学ポテンシャルと名付けられ一般に記号μが用いられる

化学ポテンシャルはこれまで見たようにギブス自由エネルギーで表される

また電位がψ(プサイ)にある系から-Δeの電荷が放出されるときには

-ψΔeの電気的仕事が得られるそこで記号μに両者を合わせた意味を持

たせて「電気化学ポテンシャル」と呼ぶ

概念の上で物質は電気化学ポテンシャルの高い方から低い方へ勾配にした

がって移動する

理想気体の標準状態が気体分圧を T=29815K(25)で 1atm としたのに対

し溶液成分の標準状態はその分圧に相当するモル数 m を用いるすなわち

標準状態にある成分 i の電気化学ポテンシャルμ0iは成分の持つ電荷(H+なら

1)を n として

μ0i = G i゜+nFψ i (59)

ギブス自由エネルギーは式(56rsquo)を借り理想溶液中の成分に対しては気

体圧力をその成分のモル濃度Cに書き換えればよいそこで

G(CT ) G RT lnC (60)

と表すことができる

したがって一般的な成分 i の電気化学ポテンシャルμiを表す式は標準状態

からの自由エネルギーの変化を考え式(59)と合わせて次のようになる

38

ψnFGii 0

式(60)から

ii CRTGTCGG ln)( 0

よって

(61) ψnFCRT iii ln0

実際的なことを考えると成分濃度はその有効イオン濃度とする必要があり

「活量係数」γを導入して次式で表されるイオン活量aを用いる

ai = γCi (62)

一般的にはγ=1と近似してモル濃度Cを使っているこのテキストでも

必要ではない限りイオン活量を用いることを省略して簡単に記述したい

膜電位

燃料電池に使われたナフィオンのような一つのイオンを通す膜を介して膜

の両側にC0 とC1 のイオン濃度差がある溶液が接するときの電気化学ポテン

シャルを考えよう

ある容器の底にナフィオン膜を取り付け容器の中と外のイオン濃度をC0

とC1としそれぞれの電気化学ポテンシャルをそれぞれμinとμoutとする

式(61)を使って

容器の中の電気化学ポテンシャル

(63) innFCRTin ψ 00 ln

容器の外の電気化学ポテンシャル

(64) outout nFCRT ψ 10 ln

イオン浸透性の膜を介して濃度変化が無視できるほどの移動があると考え

その電気化学ポテンシャルの差を式(63)(64)から求めれば

39

)(ln0

1 inoutinout nFC

CRT ψψ (65)

この系において今注目しているイオンが膜を介した両側で平衡状態にある

とき式(65)はΔμ=0と考えることができるすなわち

0)(ln0

1 inoutnFC

CRT ψψ

膜内外の電位差をΔψ=ψoutminus ψinとすれば

1

0

0

1 lnlnC

C

nF

RT

C

C

nF

RTψ (66)

式(66)は理想気体に対するネルンストの式(58)と同様溶液中のイ

オンに対するネルンスト(Nernst)の式として与えられる

細胞の膜においてもその生体膜の内外でたとえばカリウムイオンのように

非対称に分布して平衡に達している場合には式(66)で与えられる膜内外

で電位差が生じるこれは一般に膜電位と呼ばれる膜電位は平衡電位とも

呼ばれる

たとえば膜内外に1価のカリウムイオンに10倍の濃度差があるとすると

通常カリウムイオンは細胞内の濃度が高いので

C0 = 10timesC1

であるから

これを式(66)に当てはめてln(10)=2303 を用いlog への変換をすれば

Δψ=2303times(RTF)timeslog(10)

であるこれに R=831441 JmolKF=96485 CmolT=29815 K(25)

の各数値を当てはめると

Δψ=2303times831441times29815times196485 JC

=+005917 volt

すなわち膜の内外で約+60ミリボルトの膜電位が生じることになるこの

分だけ細胞の外側の電気化学ポテンシャルが高く膜の内側の膜電位が負であ

るそして膜にあるカリウムチャネルがこの電位を示すとき受動的なカリ

40

ウムの膜内外の移動は平衡に達することになる

水素イオン濃度測定

「標準水素電極」は1モル塩酸溶液につけた白金電極に1atm の水素ガスを

吹き込んで平衡状態に達したときの電位を基準としてゼロボルトと規定した

そこである溶液についてその水素イオン濃度を知ろうとするとき同じ水

素電極を用いることを考えれば標準状態にする目的で用いた1モル塩酸溶液

を濃度未知で X モルの塩酸溶液と想定すればその水素イオン濃度を知るこ

とができるだろうか

標準状態ではない X モルの塩酸溶液に浸けた白金電極が半電池として働くこ

とは間違いなさそうであるしかしその白金電極が持つ電極電位を測定する

にはいずれにしても標準電極と組み合わせて「電池」を構成しその電池

の起電力として計る必要がある電池を作れば起電力を知ることができ相

手の半電池の電極電位が知られていれば濃度が未知でXモルの溶液について

その水素イオン濃度を知ることができるだろう

こうした目的のためにいちいちゼロボルトと規定した標準水素電極を用いる

のは煩雑なのでしばしば後出の「銀塩化銀電極」が参照電極として用いら

れる

まず予め「銀塩化銀電極」を標準水素電極と組み合わせて電池とし一度

その起電力を測定しておけば後はいつもそれを標準電極として利用できる

「銀塩化銀電極」の半電池は

H+ (1 moll) Cl- | AgCl | Ag(s)

これに「標準水素電極」を組み合わせ電池を構成すると次のような電池

になる

Pt(s) | H2(g) | H+ (1 moll) Cl- | AgCl | Ag(s)

この電池の起電力を知れば「銀塩化銀電極」の半電池としての電極電位

を知ることができ参照電極として未知の半電池と組み合わせて起電力を測

定して相手の電極電位を計算できる

41

濃度 X モルの塩酸溶液を未知の溶液と想定すればその電極電位を知るために

組み立てる電池は次のようになる図10にその電池の図を示した

Pt(s) | H2(g) | H+ (x moll) Cl- | AgCl | Ag(s)

この電池の全反応は次の反応式で表される

AgCl(s) 1

2H2 (g) H Cl Ag(s) (67)

図10未知溶液の水素イオン濃度を測定しようとするための電池

化学反応の一般的な式

ここで電池に利用される化学反応から得られるエネルギーをギブス自由エ

ネルギーに換算し起電力を具体的に知る手だてとすることは上ですでに学

42

んだがより一般的な式を再度ここに書きだしておこう

化学反応が紙面で左から右に進む反応として次のような一般式で与えられ

るとき

aA + bB rarr cC + dD (68)

ギブス自由エネルギー変化量は標準状態ΔG゜からの変化量を加える形で式

(60)と同様次の式によって表される

G G RT(ln aCc aD

d ln aAa aB

b )

G RT ln

aCc aD

d

aAa aB

b (69)

aAは成分 A のイオン活量であるその他の成分も同じ

得られたエネルギーを電気エネルギーに換えるなら式(41)に習って

次式で表せば

ΔG=-n FV

there4V=-ΔG(nF) (70)

このときの起電力は標準状態における電位 E゜からの変化量として次式で与

えられる

E E

RT

nFln

aCc aD

d

aAa aB

b (71)

標準状態における起電力 E゜は反応が平衡状態にあるときで反応平衡定数

を K とするなら

K aC

c aDd

aAa aB

b (72)

で表されるそこでE゜は次のように書き改めることができる

43

E

RT

nFln K (73)

そこで式(67)で表される図10の電池「水素minus 銀塩化銀電池」に

対する起電力をギブス自由エネルギーから求めてみよう

反応から式(71)に当てはめれば

E E RT

Fln

aH

1 aCl

1 aAg1

aAgCl1 aH2

1

2

(74)

力学の慣例にしたがって固体の純物質の活量は1として扱い水素ガスを

想気体として見なして活量を1atm とするなら式(74)は次のよう

に簡略化される

E E

RT

Flna

H aCl (75)

ころで理想溶液として近似的に取り扱うときの希薄溶液でたとえば水素

入して詳細に検討するなら式( れる起電

オン濃度はイオン活量として aH+の記号を使うときすでに【理想溶液のギ

ブス自由エネルギー】の章で述べたようにこれを有効イオン濃度とする必要

がありイオン活量 a は「活量係数」γを導入して次式で表した

a H+= γH+CH+ (62)

この活量係数を導 75)で誘導さ

を計ることによって経験的に試料溶液中の水素イオン濃度を求めることは

困難である式(75)にあるイオン活量の項はモル濃度 C と活量係数γを

用いて次式で書き改められる

lnaH aCl

lnCH CCl

lnH Cl

(76)

まり式(76)右辺の第二項において互いに相手が知られなければ自分

決めることができず結果的に起電力を知っても(75)の値から水素イオ

ン濃度を導けないここに工夫が必要になる

44

の定義とその目盛り

液中の水素イオン濃度を直接意味するものではなく

を定義するとき測定されるのは1リットルの溶媒に存在す

pH = -log a H+ = -log(γH+CH+) (77)

際に試料溶液の pH を決定する際はpH 標準液を用いる

に溶液を入れ試料溶液 X と pH 標準液 S を

参 極を接続し電池を作成しその起

pH

現在pH の定義は溶

で述べたようにそれが簡便に測定できるものではないため次のように定

義されている

水素イオン濃度

水素イオン活量であるため定義式としては活量係数をγH+として次式で与

えられる

その要領は次のようである

上に図示した水素電極の容器内

れぞれ半電池(I)と(II)に入れる

半電池(I) Pt | H2 (1 atm) | 試料溶液

半電池(II) Pt | H2 (1 atm) | 試料溶液S

照電極として上図のごとく銀塩化銀電

電力を測定する半電池(I)のときの起電力を E(X)半電池(II)のそれを E(S)

とするこのとき試料溶液Xの pH は次式で計算される

pH (X) pH(S) E(S) E(X)

RT ln(10) (78)

ln(10)は自然対数を常用対数に戻すための定数で2303 を用いる

標準液

pH 標準液 S はpH 第一次標準液第二次標準液と呼ばれるべき

る測定

25で pH 4005 を示す

pH

上述した

のであり絶対的測定法である起電力の測定によって値をつける

標準液は安定で純粋な結晶が得られる試薬を調整してこれを測定す

上と同様に水素電極を用いこれに緩衝液を入れる参照電極として銀

塩化銀電極を接続して電池の起電力を測定する

たとえば005 moll フタル酸水素カリウム溶液は

一次標準(Primary Standard PS)の一つである半電池(III)として水素

45

電極を次のように準備する

半電池(III) Pt | H2 (1 atm) | PS 溶液

て電池を形成したとき得られる起電

参照電極として銀塩化銀電極を接続し

は式(75)から

E E

Ag AgCl RT

Flna

H aCl (79)

オン活量を濃度と活量係数の積(a H+= γH+CH+)にし自然対数を常用対数

すれば

E E

Ag AgCl RT ln(10)

F log(

H + CH+ Cl- CCl - ) (80)

E゜は水素標準電極(水素ガス分圧を1atm電極を浸ける溶液に001 moll

H

Cl を用いる)で得た起電力である

式(80)から

RT ln(10)

Flog(

H CH Cl

) (E EAg AgCl )

RT ln(10)

Flog C

Cl

(81)

らに

log(

H CH Cl

) F

RT ln(10)(E E

Ag AgCl ) logCCl

(82)

ころで式(77)から

(γH+CH+) (77)

-log a H+ =-loga H+-log(γCl-) +log(γCl-) =-log(a H+γCl-) +log(γCl-)

(83)の一番右の式で第一項は

pH = -log a H+ = -log

であるが右の式をさらに変形すると

(83)

46

-log(a H+γCl-)=-log(γH+ CH+γCl-) (84)

たがって式(82)の右辺で示されるように電池の起電力を測定すれば

よ 実際には溶液の塩素イオン濃

液で起電力を求め外挿する

起電

これによってpH を意味する式(83)は次式(85)で与えられる

p(aHγCl)はRG Bates によって Acidity Function と呼ばれている

らに式(85)最終項の log(γCl-) を補正しなければならないこの項は

本工業規格)によっても

であってこれは式(82)の左辺である

いただし塩素イオン濃度の項があって

をゼロにしたときの値が必要である

実測する際には塩素イオン濃度をゼロにできないので塩化ナトリウム NaCl

等を濃度を変えて添加しその時々の緩衝

勧告ではNaCl で 000500100015moll の3つの濃度を例示している

すなわち塩素イオン濃度ゼロのときの値は各塩素イオン濃度に対して

の値をそれぞれプロットしグラフから塩素イオンがゼロのときの起電力の

値を3点に対する回帰直線の延長で外挿して求めるこの点を次のように書

log( C H H Cl CCl

0

pa log( C log( (85) H H H Cl C

Cl0 Cl

)

素イオンの活動係数で与えられる補正項である

無限希釈溶液中のイオンの活動係数は理論的に Dubye-Huckel の式を用い

近似的に求めることが可能であるこれはJIS(日

用されていて Bates-Guggenheim の規約と呼ばれる (Bates RG

Guggenheim Pure Appl Chem 1 163-168 1960)

Dubye-Huckel の式は次のように与えられる

log A I

i 1 iB I (86)

47

I iについてそのモル濃度

計算される

はイオン強度でイオン mi と電荷 zi から次式で

I 1

2mizi (87)

また iは(86)式のBは温度と溶媒の性質による定数であり イオンの大

きさに関するパラメータで水和イオンの大きさとほぼ一致した値をとる標

準法の勧告では塩素イオンに対しイオンの大きさを46Åと決めてiBを

1

5 にしているそこで式(84)は次のようになる

ClA I

log 1 15 I

イオン強度 I は塩素イオン濃度を含まない計算となる

以上の方法によって実用的な pH 測定に用いられる第一次第二次標準液の

pH の値が得られる

絶対値としての

はpH の絶対測定法(第一次標準測定法)とされている

銀塩化銀参照電極は分極現象を防ぐために棒状の銀を塩酸で処理し表

に塩化銀を生成させたものを飽和塩化カリウム溶液につけてある

(88)

参考現在は実験的に求めた値と理論値の組み合わせで

素イオン濃度を求める方法を規定しているこの起電力から水素イオン濃度

を知るための測定方法

Buck RP Rondinini S Covington AK Baucke FGK Brett CMA Camoes MF

Milton MJT Mussini T Naumann R Pratt Kw Spitzer P Wilson GS

Measurement of pH definition standards and procedures Pure Appl Chem

74(11)2169-2200 2002Kristensen HB Salomon A Kokholm GInternational

pH scales and certification of pH Anal Chem 63(18) 885A-891A 1991)

銀塩化銀参照電極

電極の構成は

Cl-(aq) | AgCl(s) | Ag(s)

48

この半反応は次のようになる

AgCl(s) + e- rarr Ag(s) + Cl- (89)

の反応は次の2つの反応に分けて考えることができる

Ag+ + e- rarr Ag(s) (91)

AgCl(s)rarr Ag+ + Cl- (90)

図11銀塩化銀参照電極

(90)における銀 る塩素イオンによって左

されることが推測される

そこでカッコ [ ] をそれによって囲まれるイオンの濃度を表すことにし

式 イオン Ag+の溶解性は共存す

塩化銀の乖離定数Kを考えると

49

K = [Ag+][Cl-] (92)

これから

[Ag+]= K[Cl-] (93)

化カリウム溶液に漬けた銀塩化銀電極の電位 E は水素標準電極に対する

電 で与えられる

位を E゜として次式

E E

RT

nF

[ Ag ]

[Ag(s)]ln( )

Ag(s)のイオン活量は常に1とする

ここで半反応の電極電位を求めるために式(75)を利用することにすれば

(94)

熱力学の慣例にしたがって純物質個体

E E

RT

Flna

H Cl a (75)

式 の半反応をみると

応で電子1つが移動するので n=1 とするR=831441 JmolK1F = 96485

C はめれば

これに銀イオンの濃度として式(93)を当てはめる

この反応で移動する電子は (89) 銀イオン1つの反

molT=29815K(25)ln(10)=2303などの定数を当て

2303RTF = 005917

であるから(94)式は次のように表現できる

log[Cl]) E E 005917(logK (95)

たがって標準水素電極に対する銀塩化銀参照電極の標準状態における電

位 は半反応(89)に対して ゜=+0799で

化銀の乖離定数 K は182times10-10 であるのでその対数を取れば-973993

0799-005917times973993-005917log[Cl-]

E゜ E ある

ある

そこで式(95)は

E =

50

= 0799-0576-005917log[Cl-]

= 0223-005917log[Cl-] (96)

電極電位の関係について実測値

こうして求めた塩化カリウム溶液の濃度と

計算上の値は次のようである

KCl moll vs SHE volt25 計算値 volt25 01 02881 02822 35 0205 01908 飽和 0199 minus

実用 測定

実際の現場で水素イオン濃度を測定する目的の測定法で上のような2つの

極が同じ溶液に浸かっていたのでは試料溶液を交換するにも便利ではない

の容器に入れる未知試料溶液と銀塩化銀電極を隔離する

的な pH

そこで水素電極側

的で二つの電極容器をつなぐ液絡部をグラスフィルターやセラミック板

飽和塩化カリウムで作成したゼラチンなどの塩橋によって隔離遮断するこ

れを液絡部とよぶ

電池として機能するために必要な溶液イオンの交換はこの液絡部で行う

組み立てる電池は電池式で次のように表される

Pt(s) | H2 | 試料 (H+ x moll) || 飽和 KCl | AgCl | Ag(s)

の標準電極と銀塩化銀電極とは区切られていて溶液の直接の接触がない

とを意味するために電池式ではタテ二重線を用いる銀塩化銀参照電極

の容器には飽和塩化カリウム溶液が入れられる

51

図12液絡部のある pH 測定のための電池

この液絡部のある電池では塩橋を記号lsquo | | rsquoで表して次のように記す

試料 (H+ x moll) | | 飽和 KCl

ここでは試料溶液と飽和塩化カリウム溶液の異なる2液が接している

このような界面では膜電力が生じるのと同様「液間電位差」が生じることが

知られているしたがって上の電池で測定される起電力 E は

E = E[銀塩化銀電極電位]+E[液間電位]+E[水素電極電位]

で与えられることになってE[液間電位]のために図12の電池の起電力

は銀塩化銀参照電極の値を知っていても水素電極容器内に入れた未知溶

液の水素イオン濃度を正しく知ることができない

52

そこで実用的な測定法としてこの E[液間電位]を膜電位として積極的に利

用する方法が工夫されたすなわち水素イオンに感応するガラス薄膜を用い

るガラス電極法である

53

ガラス電極

ガラスはケイ素原子と酸素原子からなる SiO4 の結晶構造を持ち酸素で囲

まれた空隙があって水素イオンがそれを埋めることができる

この性質によってガラス膜表面は水溶液中の水素イオンに応じて膜電位を

変化させるのでこれを水素イオン濃度測定用の電極として利用することが考

えられるこれが通常用いられるガラス電極である

ガラス電極は標準電極と組み合わせれば電池を構成することができこの電

池の起電力を知ってガラス薄膜の内外にできたイオン濃度勾配を知ろうとす

るものである

薄いガラス膜(01mm程度)をはさんで接する2つの溶液のH+イオン濃

度が異なるとその差に応じてガラス膜の両側に電位差(Eg)が現れる

ネルンストの式でガラス電極の内部に入れた既知の濃度のH+([H+]in)に対

し試料中の水素イオン濃度が[H+]sampleのとき次の電位を生じる

)][

][log(059170)

][

][ln(

sample

in

sample

ing

H

H

H

H

F

RTE

(97)

図13ガラス電極

電極を構成するのは銀塩化銀電極と同じ電極で用いる塩溶液は一般的

54

に 01モル塩酸溶液である

この半電池の電池式は次のように書くことができる

Ag(s) | AgCl(s) | HCl (01 M) | ガラス薄膜 || 試料溶液 H+ (x moll)

Eg

この半電池の電極電圧を測定するために銀塩化銀標準電極と組み合わせ

電池を作って起電力を計る

構成される電池は下図のようになる

ガラス電極 銀塩化銀標準電極

図14ガラス電極を用いた pH 測定用の電池

この電池の起電力は次の各半電池の平衡電位を合わせたものになる

55

E1ガラス電極の内側電位

Ag(s) | AgCl(s) | HCl (01 M)

Egガラス薄膜の内外に生じる膜電位

HCl (01 M) | ガラス薄膜 || 試料溶液 H+ (x moll)

E2液間電位(膜電位)銀塩化銀標準電極のセラミックを介した試料溶液

と銀塩化銀標準電極の内部液(飽和 KCl 溶液)の間に発生する電位

試料溶液 H+ (x moll)|| セラミック | KCl(飽和)

E3銀塩化銀標準電極

KCl(飽和)| AgCl(s) | Ag(s)

pH メーター用のガラス電極に使われるガラス薄膜は水素イオンに感応して

膜電位(Eg)を生じるこれは【膜電位】の章で記したように薄膜がある

一つのイオンのみを通過させる特性を持っている場合にイオンが膜を介した

両側で平衡状態に達したとして電気化学ポテンシャルを膜の両側で等しいと

考えてそのイオンが濃厚な側から希薄な側にその差によって圧力を生じると

するものである

一方同じ試料溶液が銀塩化銀標準電極のセラミック液絡部を介して生じ

るだろう液間電位(膜電位E2)はいま関心がある水素イオンに対して特異

的に感応するのではないので試料溶液の水素イオン濃度に関係なく一定と見

なすことができる

すなわちpH メーターを構成する電池の起電力 E は

E = E1+Eg+E2+E3 (98)

このうちEg以外は一定と見なせるので

E1+E2+E3 = E

として式(98)を書き直すと

)][

][log(059170

sample

ing H

HEEEE

(99)

Eは標準液によって校正されるべき標準電極電位である

56

電極の校正

実際のイオン濃度を測定する場合低濃度標準液と高濃度標準液で得られ

る起電力を測定し計測のイオン濃度に対する係数(傾き)を求めておき未

知の試料に対して起電力を測定してそのイオン濃度を算出する方法が採られる

低濃度標準液と高濃度標準液のそれぞれの濃度をCLとCHとすればそれぞ

れの起電力ELとEHは次式で表される EH = E +β logCH (100)

EL = E +β log CL (101)

ただしβは式(99)の係数を簡略にしたものである

式(100)と(101)から検量線の傾きが次式で表せる

ΔE = EH minus EL = β(logCH minus logCL) = β logCH

CL

(102)

したがって係数βは

β =ΔE

log CH

CL

(103)

であらわされる

このときに使われる標準はすでに前出の pH 第一次標準第二次標準溶液で

ある

金属イオンに対応するイオン選択電極

現在臨床検査で日常的に使われている電解質測定のための電極はナトリウ

ムカリウムカルシウムクロールなどおよそ臨床的に必要な金属イオン

に対して入手可能である

カリウムイオン測定用のバリノマイシンの発見によってクラウンエーテルと

57

呼ばれる一連の化合物が知られたクラウンエーテルはその分子の中心に立

体的な空間を持ち特定のイオン径に対し合致するのでそのイオンに対して

選択的に感応するこれらの化合物はイオノフォアと呼ばれる

図 15クラウンエーテル

1つの金属イオンが環状化合物

15-crown-5 の中央にある空間を充填

している模式図

15-crown-5 の構造を作る10個の黒

い丸は炭素炭素2個のつながりごと

にある中心の白い丸は酸素酸素と

金属イオンの間の距離はおよそ 22~

23Åであるカリウムのファンデン

ワールス半径は 135Åイオン半径は

15~16Åである

測定したいイオンに対しポリ塩化ビニル(PVC)を支持体としてイオノフ

ォアを添加した液膜の電極膜を作成しこれをガラス電極におけるガラス薄膜

と同様試料に接する電極膜として用いるこの構造から一般的に液膜型電極

と呼ばれる電極膜には特異性を高めるため妨害イオン排除剤などが添加

される

pH メーターと同様銀塩化銀標準電極と組み合わせ電池を形成しその

起電力を計る測定したいイオンが液膜に対して内外で平衡に達したときの

膜電位を測定するのはガラス電極と同じである

カ リ ウ ム イ オ ン に は Bis[(benzo-15-crown-5) ( 正 式 名 は

Bis[(benzo-15-crown-5)-4-methyl]pimelate)ナトリウムには Bis[(12-crown-4)

やDibenzyl-bis[(12-crown-4)などがイオノフォアとして用いられる

58

図16カリウムイオン測定用に使われるクラウンエーテル

図17ナトリウムイオン測定用に使われるクラウンエーテル

59

参考イオン選択電極に関する文献Xia Z Badr IHA Plummer SL Cullen L

Bachas LG Synthesis and evaluation of a bis(crown ether) ionophore with a

conformationally constained bridge in ione- selective electrodes Anal Sci 14(2)

169-173 1998 Oh K-C Kang EC Cho YL Jeong K-S Y oo E-A Paeng K-J

Potassium-selective PVC membrane electrodes based on newly synthesized

cis- and trans-bis(crown ether)s ibid 14(10)1009-1012 1998 Dojindo WEB

site httpwwwdojindocojpwwwrootproductsjinfo2protocolp31pdf

<補遺> 60

補遺 状態関数 (本文 p21 10 行目参照)

一つの平衡状態にある系 A とこれに接する系 A にとって外部である系 B について系 B

から系 A に熱を与えこれによって系 A が他の平衡状態に移ったとき系 A はその結果とし

て膨張し系 B に対し仕事をする

このときの微少な熱量の移動を記号drsquoQ またなされた微少な仕事をdrsquoW とすると

系Aの内部エネルギーに関する微少な変化drsquoUA は両者の和として表される

WdQdUd A primeminusprime=prime (a-1)

この式 a-1 と本文中の式25との関係について

WQU A Δminus=Δ 本文(25)

<補遺> 61

式 a-1 と式25の記号の違いは変化の起きる前の平衡状態 S1 から変化後の平衡状態 S2

に状態変化があったとするなら式 a-1 を積分することで式25が得られるものと考えて区

別している

A

S

S A UUd Δ=primeint2

1 (a-2)

このことは重要であるすなわち内部エネルギーU は変化の起きる前後の状態を指定する

ことによって値が定まることを意味するこのように積分によって値を定めることが出来る

のでdrsquoU は完全微分であるという

内部エネルギーのように系の状態だけで値の定まる量を状態関数として扱う

一方式 a-1 のdrsquoQ drsquoW についても同様に微少の変化量を表しているが平衡状態 S1

から S2 への経路を指定しなければ積分の値は定まらない

本文中の記号にしたがって仕事量ΔW を次のように表すことにする

VpW Δ=Δ 本文(20) V

<補遺> 62

体積と圧力の関係を表す図を使ってこの仕事量が意味することを考える圧力 prsquo の下で

体積が V1 であるときを状態 S1 として圧力一定の下で体積を V2 まで膨張させるような変

化を行った後体積を等しく保って圧力を p にまで上げたときの状態を S2 とするこのとき

の仕事量は膨張に伴うものであるから図の体積‐圧力線の下の面積で示すことができる

平衡状態 S1 から S2 への変化の道筋を別にたどってみよう

新しい経路では圧力を先に p まで上げた後に膨張変化させている

図から直感的に明らかであるので数式での扱いを省略するが2 つの経路による仕事量には

差がある

すなわちdrsquoW は drsquoU と異なり変化の初め S1 と終わり S2 の状態が与えられても積分値

は定まらず変化の経路によって違ってくる

このように変化の経路を指定しなければ積分値が定まらないものを不完全微分と呼び扱

いを区別する

本文 p21 へ戻る

<補遺> 63

VpW

WQU

VpQU

VpUQ

1122 SSSS pVUpVUQ

pVU

VpUHHHQ SS 12

エンタルピー (本文 p24 20 行目参照)

本文中の式 20 および 25 から一定の圧力の元で起きる状態変化において内部エネルギー

の変化量に対する式 a-3 を得る

本文(20)

本文(25)

(a-3)

式 a-3 を Q について書き直す

(a-4)

状態の変化が平衡状態S1から平衡状態S2に移ったものとして式 a-4を丁寧に書き直すと

(a-5)

並び替えて

(a-6)

式 a-6 を見ると定圧過程における熱量の流入は

(a-7)

の形を持つ関数の差であることが分かる

一般に化学反応のような変化の過程では大気圧の下で行われるようなものに興味がある

そこで式 a-7 で与えられる項を一つの関数として定義するこれをエンタルピーと呼び記

号 H を与える式 a-4 はエンタルピーの変化量で次のように書き改められる

(a-8)

圧力が一定の下で起こる状態変化について流入する熱量は式 a-8 で示されるようにエンタ

ルピーの変化量に等しい

V

V

V

V V

V

V

1212 SSSS VVpUUQ VV

<補遺> 64

1Q

We

また式 a-8 からオートクレーブ内で起こるような体積変化のない過程ではこの値が内

部エネルギーの変化量で与えられることが明らかである

本文 p24 へ戻る

エントロピー (本文 p26 17 行目参照)

エントロピーは次のような思考実験から発想された仮想的な状態関数である

理想気体よりなる系 A が温度 T2で熱平衡状態にあり温度 T1の外部の熱源と接しているこ

とを想定する系 A の外部を系 B と呼ぶことにするT1は T2に対して無限小だけ高い温度と

する

系 A が系 B に対して温度圧力について平衡を保ちながら緩慢に系 B より熱量 Q1を受け取

る過程を考える(このような過程を準静的過程と呼ぶ)これによって系 A が熱量 Q1を得て膨

張するとき系 B に対して仕事をする続いて系 A から熱量 Q2が系 B に戻ることを考える

想定されるこの変化が可逆的であれば系 A と系 B を併せた全体は元の状態に戻る蒸気機

関に関するこのような研究が Nicolas Carnot によってなされたのは1824 年のことであった

ここに想定されたサイクルに対する Carnot の効率 e は移動した熱量となされた仕事によ

って定義され次の式で表される

(b-1)

<補遺> 65

理想気体では内部エネルギーU の変化ΔU はゼロと考えるしたがって熱力学の第一法

則を表す式(本文中の式25)から次の関係が示される

0=Δminus=Δ WQU

WQ Δ= (b-2)

これによってCarnot Cycleの効率eはQ2lt0 として次のように書き改めることが出来る

1

21

QQQe +

= (b-3)

ところで気体の状態方程式から1 モルの気体について次のような関係が示される

RTV

P

P1=

V = RTV (b-4)

V 式 b-4 の両辺に体積の微少変化量ΔV をかけて

(b-5)

これを体積Vについてその変化をV1からV2までとして積分するならば次式が得られる

VV

RTVP Δ=Δ 1V V

V

intint = 2

1

2

1

1V

V

V

VdV

VRTPdV

1V2V

11 lnRTW =

(b-6)

Q1の熱量によって起こる膨張がV1よりV2までとし圧力P温度T1の下でなされるその仕事

量をW1とするならそれは式b-6 の右辺によって示されるすなわち

(b-7)

VV

1

2lnVVRT=

V V

VV

V

V2int V2 intV1 V1

<補遺> 66

またQ2の熱量の移動が圧力P温度T2の下で起きこれによって系Aが可逆的に圧縮され

るなら体積変化はV2よりV1まで起こりその仕事量をW2で示すと次式のように表される

(b-8)

1

22

2

122 lnln

VVRT

VVRTW minus==VV

VV

Q1=W1Q2=W2の関係から式b-7 およびb-8 を用いてCarnot Cycleの効率eを表す式b-3

を書き改めると温度のみの関係式として次のように表される

1

21

TTTe minus

= (b-9)

ここでサイクルが可逆的過程であると想定するならば式 b-3 と式 b-9 から

1

21

1

21

TTT

QQQe minus

=+

= (b-10)

これから

12112111 QTQTQTQT minus=+ (b-11)

整理すると

02

2

1

1 =+TQ

TQ (b-12)

この考えをさらに発展させ系A

と系Bの間に数多くの系を挿入すること

にしてそれらの系を同様に熱源として

T1T2Tnと考えるこれによっ

て熱の受け渡しが系Aから系Bに至り

再び系Aにもどるサイクル過程に数多

くの寄り道の過程を加えることになる

熱量の移動に関して上の場合と同じく

準静的過程で行われると考えるこの

サイクル全過程について初めと終わ

<補遺> 67

n

i i

i

T

Q

1

0

0T

dQ

T

QS

T

dQASAS )()( 12

りが同じ状態になる可逆的な過程であるなら式 b-12 を拡大的に考えることになってそれ

は次式で表される

(b-13)

式 b-13 には重要な関数が現れるすなわち熱量と温度の比QT である

もし一つの系が無限小だけ温度の高い(dT )外界から温度圧力など平衡を保ちなが

ら極めて緩慢な過程(準静的過程)で無限小の熱量(dQ )を受け取るならばその変化は可

逆的でありdT について連続的な温度分布をする過程を考えるとき式 b-13 をさらに発展

させて次のように積分式で示すことが出来る

(b-14)

式 b-14 で積分記号にが付されているのはCarnot Cycle のような経路を一巡することを

意味している

Carnot の熱機関の効率という着想から生まれた熱量とそれを持つ系の温度との比 QT に

重要な意味を見出したのは Rudolph Clausius で彼はこの比にエントロピーという名前を与

えたエントロピーには記号ΔS を一般に用いる

(b-15)

エントロピーは初めと終わりの状態がわかれば過程に関わらず定まるので状態関数であ

系 A と外界のエントロピー変化を考えるときそれが可逆的過程であるならばすべてを併

せた全体のエントロピー変化は初めと終わりに変化がないという意味でゼロであるすなわ

ち初めの状態を S(A1)とし次の状態を S(A2)とするならそれぞれのエントロピーを

ΔS(A1)ΔS(A2)としてこの間におけるエントロピーの変化量は次のように示される

(b-16)

<補遺> 68

T

dQdS

0T

dQ

ある一つの変化については次のように示される

(b-17)

ここで式 b-17 の S に付けられたdは微分量すなわちごく微小の変化量を意味し式 b-15

で定義されたエントロピーに用いられる一般的な記号Δと区別する

ところで式 b-10 の関係においてもし移動した熱量のすべてが仕事に変わらなければ

効率 e を表す熱量を用いた関係式と温度で表される関係式は等号で結ぶことができないそれ

はエネルギーのロスを意味し初めと終わりの状態が異なってしまうことを意味するすなわ

ち全過程が構成する一つのサイクルは可逆的でなくなる

不可逆過程での熱効率 ersquo は 大値を示す可逆的過程の熱効率 e より小さな値をとる

ee

したがって 大効率を与える式 b-8 と式 b-3 から

01221

2112

1

21

1

21

QTQT

QTQT

Q

QQ

T

TT

両辺を T1T2で割ると

02

2

1

1 T

Q

T

Q

これを式 b12 と同様に発展させれば式 b-14 についてサイクルの変化が可逆的過程の

場合と不可逆的過程の場合の両方を併せClausius の不等式と呼ばれる次の関係が成立する

(b-18)

式 b-18 の等号が成立するのはサイクルが可逆的な理想の場合に限られる

ある孤立系で状態 A1 から状態 A2 へは不可逆変化で進められ状態 A2 から再び状態 A1

に戻るとき可逆変化であるような閉じた状態変化を考える可逆系のエントロピー変化には

記号 Q を使い不可逆変化には Q を用いるとするとそれぞれ積分式を用いて状態 A1 から

状態 A2 へは

<補遺> 69

d prime

状態 A2 から状態 A1 に戻るときは

全体では

=d prime

+d

(b-19)

Clausius の不等式から

0

式(b-19)の第二項で反応を逆に進めるときには次のように書き改めることができる

=d

よって式(b-19)は次のように書き直すことができClausius の不等式とあわせると

d prime d

0

すなわち

d prime d

上式の右辺は式(b-16)を用いて表せば

d prime

∆S ∆

この状態変化を微小変化とするならば断熱変化の場合 dQ = 0 であるから

∆S ∆ dS 0

すなわち不可逆変化を含む断熱変化ではエントロピーは必ず増大する

<補遺> 70

T

QS

BA SSS

(b-20)

(次の<補遺>ギブス自由エネルギーも参照せよ)

本文 p26 へ戻る

ギブス自由エネルギー (本文 p28 27 行目参照)

エントロピーの考えを導入することによって不可逆的に状態変化が起きるときにはエン

トロピーの増大を引き起こすことを知ったこれによって目前で起きる現象について温度の

変化があるものであれないものであれまた圧力の変化があるものであってもエントロピー

の定義式によって可逆的な変化におけるエントロピーの変化量を計算することが可能である

(b-15)

しかしながらこれから起こる変化について我々がすでにあらかじめ知っている物理量を

用いて予測的にその状態変化が起きるかどうか知ることは必ずしも容易ではないその理由

は式 b-15 に示されたエントロピーΔS が系とその外界をあわせた全体のエントロピーを示

しているからであるすなわち関心のある系を系 A としその外界を系 B とすると全体

のエントロピーは次のように表せる

(c-1)

関心のある系 A のエントロピー変化を知るためには系 B のそれを知ればよいがそれは

いつも容易とは限らない系 A の性質だけで状態変化の方向を知るには別の観点が必要にな

るようだ

そこでもう一度状態変化が熱量 Q の移動によって起きることについて考えてみようエン

トロピーの補遺で議論したように熱量の移動が準静的過程により行われるときには変化は可

逆的に起こると考えたこのとき外界すなわち系 B から移動する熱量を Q1とし系 A から

0S

<補遺> 71

21 QQ

T

Q

T

QSB

21

T

QSS A

2

QH

T

HSS AA

AA STHST

のそれを Q2 と記号を当てたのでこれをそのまま使うことにすれば可逆的な過程では系 B

の熱量 Q1 はすなわち系 A から戻る Q2 に他ならないので両者には次の関係が成立するも

のとしてよい

(c-2)

したがって

(c-3)

と考えてよくこれによって式 c-1 を次のように書きなおすことが出来る

(c-4)

独立した系で圧力とその体積に変化がなく一定の条件の下で状態変化が起きるときエン

タルピーの考えを使ってすでにひとつの関係があることを導いている

本文(31)

そこで式 c-4 を系のエンタルピーΔHAによって書き改めれば

(c-5)

この両辺に-T をかけて式を書き直せば次の関係式が得られる

(c-6)

式 c-6 を見るときその右辺がマイナスの値ならば左辺のΔS はプラスの値をとることが

分かるすなわちエントロピーが増大すると見ることが出来るこれまでの過程で自然の現

象はエントロピーが増大する方向に進むとしてきたので関心のある状態変化について式 c-6

の右辺で計算される値がマイナスの値ならばその変化は起きるものと考えてよいことになる

だろうしかも右辺はすべて独立した系の状態量で示されていて我々が知りうる値で計算

<補遺> 72

TSHG

STSTHG

STHG

可能である

そこでこれを熱力学ポテンシャルを表すものとしてギブス自由エネルギーと呼ぶことに

するギブス自由エネルギーは記号 G が用いられ次のように定義される

(c-7)

ここで関心があるのは自由エネルギーの絶対値ではなく式 c-6 に示されたようにその変化量

に興味があるので式 c-7 から

(c-8)

温度が一定の条件の下で状態変化が起きることを考えるなら式 c-8 は次のように書くこと

ができる

(c-9)

ギブス自由エネルギーは式 c-9 の右辺がすべて状態量であるからこれも状態量の一つで

ある定圧定温の条件下で起きる変化ではすでに議論したようにΔGlt0 であれば状態

変化は自発的に起きるものと予測できる

つまり式 c-5 の第一項は系のエントロピーΔSAそのものであり第二項で示されるエンタ

ルピーは系 A の温度が一定に保たれているのであるから発熱する熱量として外界に吸収さ

れるものであってこれは外界のエントロピーの増大につながるものとして解釈されるした

がって化学反応のように一定の圧力と一定の温度の下で起きる変化について自由エネルギ

ー変化量はその状態変化が自発的に起きる傾向を示しているといってよい

本文 p28 へ戻る

  • はじめに
  • 目次
  • 電気エネルギー
    • 金属のイオン化
    • 電池
    • 水素の反応
    • 燃料電池
    • 化学反応と電気エネルギー
      • エネルギーと熱力学
        • エネルギー保存則
        • エンタルピー
        • エントロピー13
        • ギブス自由エネルギー
        • 電池における化学反応のギブス自由エネルギー13
        • 理想気体の状態方程式
        • 理想溶液のギブス自由エネルギー
        • 膜電位
          • 水素イオン濃度測定
            • 化学反応の一般的な式
            • pHの定義とその目盛り
            • pH標準液
            • 銀塩化銀参照電極
            • 実用的なpH測定
            • ガラス電極
            • 電極の校正
            • 金属イオンに対応するイオン選択電極
              • 文献
              • 補遺
                • 状態関数
                • エンタルピー
                • エントロピー
                • ギブス自由エネルギー
Page 18: イオン選択電極i イオン選択電極 Ion Selective Electrode (ISE) を理解する ・ pHを測定する ・ NaやKなどのイオン濃度を測定する 神戸大学医学部保健学科

15

電力=電圧times電気量 (13)

ここで電気量 q は式(10)で表しているので

電力=電圧timesq=電圧times2F (14)

と書くことができる

電圧を記号Vで表すことにし電力をWにすれば式(14)は

W = 2FV (15)

として表しておくことができる

電圧の単位系は仕事量が電力Wであるので(13)から

V= W q (16)

仕事量をジュールJ(ジュール)で表せば電圧はJ C (ジュールクー

ロン)でその単位を表現することができる

式(15)の表すところは亜鉛を化学反応の材料として得られる電力という

仕事量がその電力すなわち電極電位で決定されることを意味している

一般に化学反応で1分子の材料を消費しn個の電子が流れることをその

半反応で知ることができるとき式(15)を一般化して次のように得られ

る電気エネルギーを表すことができる

W = n FV (17)

化学反応によって生じる電子を取り出し回路に導けばここに電流が生じる

その起電力(V)は陽極陰極のそれぞれの電位をE+E- と記号で表し

て次式で書くことができる

V= E+-E- (18)

16

ここで問題になるのは陽極陰極のそれぞれの電位E+とE-で上に議論し

たように回路を形成しなければそれぞれの電位は決定できない

ここでいま片方の電位をゼロとすれば式(18)はたとえばE- = 0 で

V= E+

として陽極の電位が決まる

そこで申し合わせにより水素の半反応による電位をゼロとすることになっ

その半反応の式は水素の還元反応として次のように表せた

2H+ + 2e- rarr H2

標準にはMax Julius Louis Le Blanc (1865-1943) が発明した水素電極を用

いるこれを標準水素電極(Standard Hydrogen Electrode SHE)とよびこの

電極電位をいつも 0 volt(ゼロボルト)と取り決めている

図6に示した水素電極は1atm の水素ガスとそれに平衡状態にある水素イオ

ンが存在し次の半反応が平衡状態にある

H2 (g 1 atm)rarr 2H+ (aq 1 M)+ 2e- (5) g は気体を示す

この反応において平衡状態にある電極電位を 0 volt と定義する

電極に白金を用いるのは電極材料自体が溶解しないものであることすなわ

ちイオン化傾向の低いものであることまた水素イオンの還元に対してな

るべく活性の高いものであることが条件として求められるが白金はこの2つ

の性質を兼ね備えていて陽極の電極材料に適している

気体の標準状態は1atm を標準としているこの分圧を維持し溶液中の水

素イオン活量を1にする水蒸気の分圧が変化すると平衡電位は変化する

17

図6標準水素電極(0ボルトの基準)

標準水素電極は1モル塩酸溶液につけた白金電極に1atmの水素ガスを吹き込んで使う

白金電極は分極を防ぐために白金板に白金メッキを施し(白金黒とよばれる)上半分

を水で飽和させた(1atmの水蒸気分圧が必要)1atm(101325 kPa)の水素ガスを流し

下半分を1moll の塩酸溶液につける水素ガスが電極として働き白金板に電子が集めら

れる

ダニエル電池の亜鉛電極をこの標準水素電極につなげば亜鉛電極電位が測

定できる

亜鉛電極側では酸化反応の半反応が起きる

Zn(s) rarr Zn2+ + 2e- (1)

18

標準水素電極側では還元反応の半反応が起きる

2H+ + 2e- rarr H2

図7亜鉛電極と水素電極をつないで電池とする

25の基準状態における亜鉛電極の半反応(1)に対する平衡電位はすでに

知られている

E゜= -0763 volt

また銅板側の電極電位も同じようにして測定することができる

起きる半反応はすでに上述したが再度記しておこう

Cu2+ + 2e - rarr Cu(s) (3)

25の基準状態におけるこの電極電位はE゜=+0337 volt と知られて

19

いる

ここで亜鉛電極と銅電極の組み合わせでできる電池の最大電圧をこれらの

平衡状態における観測値から計算することができる式(18)を使って

V= E+-E- (18)

V= +0337-(-0763) = +110 volt

つまりダニエル電池で得られる最大電圧は11volt と計算できる実際に

はイオンの濃度が変化すれば反応の平衡が変化するので得られる電圧も変

化する

ここでダニエル電池で亜鉛1モルが反応するとき式(17)を使って得

られる仕事量としての電力を計算できる

W = n FV (17)

すなわちダニエル電池における電極反応は

Zn(s) rarr Zn2+ + 2e- (2)

Cu2+ + 2e - rarr Cu(s) (3)

であったから反応が進んで移動する電子はn = 2 である

1F = 96485 x 104 Cmol を適応すると

W = 2 x 96485 x 11 x 104 = 21227 x 105 Jmol = 2123 KJmol

(K = 103キロ)

すなわち亜鉛1モルの化学反応によって2123 KJmol の電気エネルギーが得

られる

水素ガスを使う燃料電池の起電力は電極の半反応から

O2 + 4H+ + 4e- rarr 2H2O (19)

25の基準状態におけるこの電極電位はE゜=+1229 volt が得られている

20

したがって燃料電池で1モルの水素が反応すれば

W = 2 x 96485 x 1229 x 104 = 2372 KJmol

すなわち2372 KJmol の電気エネルギーが基準状態で取り出せる最大電力

と計算される現在作られている燃料電池の電力は実際上08 volt ほどで

あるしたがって現実的に取り出せる電気エネルギーは 1544 KJmol の仕

事量と計算される「仕事量」という言葉については電気でモーターを回し

なにがしかの「仕事」をするなど思い浮かべれば実感できるだろう

エネルギーと熱力学 これまで述べてきたように電池は化学反応から直接電気エネルギーを取り出

す仕掛けであるダニエル電池では亜鉛と銅が酸化還元反応を起こす過程で

電子を放出するのを利用するまた水素ガスによる燃料電池は気体水素と酸

素を原料とし水が生成されるこの過程が1atm の気体原料を25(29815

K)で1モル反応させて生成物も1atm の液体の水を得るなら次の全反応に

よってすでに計算したとおり2374 KJmol の電気エネルギーが取り出せる

H2 + 12 O2 rarr H2O

圧力と温度がともに反応の過程を通じて一定の場合にその過程から取り出せ

る仕事量は熱力学的に考えることもできる

それはギブス自由エネルギーとして議論される電池で取り出した電気エネ

ルギーすなわち電力はこのギブス自由エネルギーに相当する

次に化学反応をこの熱力学の面から考えてみよう

エネルギー保存則

水素ガスを使う燃料電池のように独立した一つの仕掛けを考えこれを「系」

と呼ぶことにする系を考えるとき電池のように具体的なものを持って考え

るのが容易いのでそうすることが多い熱力学では自然界全体をあつかうので

しばしば概念的になり非現実的な記述が行われるが系の大きさや系を構成

する分子の大きさについて特定する必要はない

系におけるエネルギーを内部エネルギー熱エネルギー力学的エネルギー

の3つの要素からなると考えるこれらのエネルギーを考えるとき系の熱力

21

学的なパラメーター(変数)が必要となる熱力学的な状態はこれらのパラ

メーターのうちのいくつかを指定すれば決定される

熱力学的なパラメーターは2つに分類される

示量パラメーター(示量性変数)

系の大きさや構成する物質の量を示す体積や質量

示強パラメーター(示強性変数)

系の大きさに依存しない系における1つの点で決まった値で与え

られる圧力や温度密度など

いくつかのパラメーターで完全に決定できる状態を関数で表現することがで

きる場合があるそのような関数を熱力学的な状態関数(rarr補遺 p60)と呼ぶ

関数で状態の変化を表すことができれば数学的に取り扱うことができいろ

いろの面で便利である

一つの系についてその状態を知ろうとするとき系が熱力学的な平衡状態に

あると議論する上で都合がよい

熱力学的な平衡状態とは系を外部と独立させ長時間放置した後に達成され

る状態をいうこのとき系の状態をその外部のパラメーターで表現できる

たとえば電池を独立した系と考えるとき平衡状態に達した電極電圧を外部

においた電圧計で測定することができる

ある系を考えるとき前提としてその系はエネルギーを保有していると考える

系が独立してそこに存在するということで持っているエネルギーであるこれ

を内部エネルギーと呼ぶ系がある過程を経て状態を変えるとき系から系の

外部へ力学的な仕事をする場合には力学的エネルギーの出入りがあると考え

るまた系に熱が出入りする場合が考えられそれを熱エネルギーの出入り

と考えることにしよう

まず力学的エネルギーについて考えることにする

いま系が状態を変えその体積が増えれば系のlsquo壁rsquoがその系に接している

「外部」へ力学的な仕事をすることになる

このように系が膨張し壁が外部に向かって押し出されると考えたとき膨張

する過程における圧力を一定でpとし系が膨張した体積をΔV(膨張した分だ

けの体積増加量)とするなら系の仕事量ΔWは両者の積で表されるΔは変

化量を表すときにつける記号と決めておこう

22

ΔW = pΔV (20)

系の体積が凝縮する場合があるので仕事を記号で表す場合には注意するも

し系に接した「外部」から系に力が加わって体積を小さくしたならΔVは

マイナスとなるのでΔWもマイナスで表される

-ΔW = -pΔV (20prime)

今考えている系を「系 A」と呼びその内部エネルギーを UA外部の系を「系

B」と呼んでその内部エネルギーを UBと表すなら二つ合わせた全体の内部

エネルギーは両者の和で表すことができる

U = UA+UB (21)

この体積変化に必要なエネルギー変化量はどこから得られたかを考えれば

その変化があった「系 A」と外部の「系 B」のいずれかあるいは双方の内部エネ

ルギー変化分でまかなわれたと考えざるを得ない(図8参照)

そこでこのエネルギーの収支関係は変化分を表す記号に先と同様Δを用い

ることにすると次式のようになる

-ΔU =ΔW (22)

すなわち観察している「系 A」のエネルギーと外部の「系 B」のエネルギー

を合わせた総エネルギーを見てその微少な減少量minus ΔU が仕事をなすために

必要であったエネルギー量と考えてみることにする

ついでこの体積の変化が「系 A」に接する外部のlsquo熱rsquoによって起きたも

のと考えてみようすなわち外部の「系 B」が系 Aより高温で「系 B」によ

って系 Aが暖められたことになる

このとき移動したエネルギーを「熱量」と定義する

23

図8熱量の移動と系が外部にする仕事

「熱量」を記号Qで表すと外部の「系 B」が失ったエネルギーminus ΔUB で

ありこれが熱量であるから式で表せば次式のように書くことができる

-ΔUB = Q (23)

ここで「系 A」とそれに接する「外部 B」両方のエネルギーを合わせた総エ

ネルギーの変化量ΔUは式(22)で与えられていた

-ΔU =ΔW (22)

-ΔU =-(ΔUA+ΔUB) であるから

minus ΔUAminus ΔUB=ΔW (24)

これに式(23)を当てはめてΔUAで整理すれば

24

ΔUA= Q-ΔW (25)

この式(25)は「エネルギー保存則」あるいは「熱力学の第一法則」を数

学的に表現したものである

すなわち

独立した系を考えその状態が変化するとき系の内部エネルギーの変化量はその系に入る熱量と系が外部にした仕事との差である

式(25)にはまた重要な主張があるつまりエネルギー保存則にしたが

うとき熱量は力学的エネルギーにまた力学的エネルギーは熱量に変換しう

ることを意味している

熱量を表す単位はカロリー(cal)を用いる1cal は

1 cal = 4184 J

と換算されるジュールは 1J = 1Nm (ニュートンメートル)で仕事量を

表現する単位系で表される

エンタルピー

式(25)から定圧過程で式(20prime)を利用して次の式(26)が誘導さ

れる

Q =ΔUA+pΔV (26)

ここでQは熱量を表していたのでこの関係式(26)から熱関数として

新しい関数を定義する

新しい関数はエンタルピー(enthalpy)(rarr補遺 p63)と呼ばれ次の関数

式Hで表される

H = U+PV (27)

エンタルピーの微少変化量を記号Δを使って表現してみよう

25

ΔH = ΔU +Δ(PV) =ΔU +ΔPV+ PΔV (28)

独立した系で圧力が一定の下に起きる過程を考えるならΔP = 0 (圧力の

変化はゼロ)であるから式(28)は次のようになる

ΔH =ΔU + PΔV (29)

化学反応の過程を考えるとき系に容積の変化がなく過程の前後で一定であ

るならさらにΔV = 0 であるのでエンタルピーの変化量は

ΔH =ΔU (30)

また系の仕事を体積の変化としてみる式(20)から

ΔW = pΔV= 0

であるのでこれを式(25)へ適応すると

ΔU= Q minus ΔW = Q ΔW= 0 だから

結果的に系の圧力と体積が変化の過程で一定である場合にはその系のエンタ

ルピーの変化を表す式(29)(30)は次のように簡単な式になって熱関

数と呼ばれる意味が理解しやすいだろう

ΔH = Q (31)

独立した系に等圧等積で起きる過程を見る場合にはエンタルピーは系が外

部と交換する熱量の直接的な尺度となる

H>0 なら反応に熱を使うので吸熱反応

H<0 なら発熱反応

電池のように系に起きる化学反応で生じる電子の流れを取り出す装置を考え

る場合エンタルピーの変化を電気エネルギーとして取りだしている点に留意

26

しなければならない式(31)のようにエンタルピー変化が交換される熱

量に直接表現できるといっても必ずしも熱として取り出すとは限らないこと

を注意しよう

ところでエンタルピーは内部エネルギーと同じ次元にある状態量で定圧

変化の熱量がエンタルピー変化であるからある一点を標準として定めれば

すべての物質について任意の点のエンタルピーを変化量として定めることがで

きるすなわち化学反応の過程で発熱あるいは吸熱する熱量は反応材料と

生成物の間の状態変化に対応するエンタルピーに対応する

そこで一つの元素に対してもっとも安定な状態にある物質を標準物質とし

て定め29815K(25)1atm を標準状態としてその標準物質からある化

合物を合成するときの反応熱(発熱あるいは吸熱)をその化合物の「標準生成

エンタルピー」として定義できる多くの元素に対して標準生成エンタルピー

は現在表としてまとめられている

水素や酸素はその気体状態が標準物質でありそれらの標準生成エンタルピー

がゼロと定義される

エントロピー

もう一つ新しい状態関数としてエントロピー(entropy)(rarr補遺 p64)を

定義するエントロピーを表す記号は通常S を用いその定義は次の式(32)

による

S Q

T (32)

エントロピーは系の2つの状態が決まると状態量として決まる

このときQ は2つの状態の間を可逆的に変化したとき系が受け取る熱量

T は系が熱量 Q を受け取ったときの温度(degK)である

「熱力学の第二法則」はエントロピーに関するものである

図9では2つの系が接しておりそれぞれの温度を Thigh Tlowとする

Thigh>Tlow (33)

27

今温度の高い系から温度の低い系に直接熱量 Q が移動したとすれば温度

の高い系のエントロピーの変化量ΔS は熱量が失われるので負の値になる

図9熱の移動

そこで温度の高い系のエントロピーの変化量ΔS を式で表すことにすると

次式のようになる

Shigh Q

Thigh

(34)

一方低い系のエントロピー変化量ΔS は熱量が与えられるため

Slow Q

Tlow

(35)

両方の系を合わせたエントロピーの変化量ΔS は

S Shigh Slow Q

Thigh

Q

Tlow

lowhigh

lowhigh

lowhigh TT

TTQ

TTQ

11 (36)

式(36)の最終項で(33)を前提すなわち最初に温度の高い系は高い

と決めたのだとするならエントロピーの変化量ΔS は必ず次のようになる

28

ΔS >0 (37)

すなわち独立した系がありそれより温度の低い別の系あるいは温度の低

い外界が接した場合熱量は高い方から低い方へ移動するという自然の成り行

きを説明するものである

自然界に置いてエントロピーは

ΔS≧0

の値を取りΔS=0のときは可逆的過程である

今の例でいうなら熱は温度の高い系から低い系へ移動しその逆は起きない

常にΔS >0の方向に過程が進行するまた2つの系が同じ温度であるとき

両者は平衡状態にあって熱量の移動は見かけ上なくΔS=0と表現される

「熱力学の第二法則」はエントロピーによって表現されるもので系の変化が

可逆的であるかどうかを判定する指標であり現実の世界で起きる不可逆過程

が正の値を取る方向へ進むことを示す

あるいは系の変化が起きるとき外界を含めて考えれば総エントロピーが

増大する方向に変化が起きることを意味するというようにも表現される

ギブス自由エネルギー

熱力学の第一法則によってエネルギーの取りうる形である「仕事」と「熱」

は互いに変換されうることを理解したこのことの数量的な意味は1cal=418J

で示されるさらに仕事は100熱に変換可能であるが一方の熱はうま

くやっても100を仕事に換えることができないことを熱力学の第二法則で

説明しようとしたそのためにエントロピーという概念が導入された

ここで電池のような独立した一つの系を見るとき系の内部エネルギーの減

少を仕事として取り出しうるならそれは化学反応を一つの例としてどれほど

の仕事量が取り出せるのかはどうしたら与えられるだろうか

化学反応を電気エネルギーに換える電池では先に正負それぞれの電極におけ

る半反応の平衡電位の値を利用してその起電力に対する最大値を計算した

この化学反応から取り出しうる最大仕事量を与えるものとして新しくギブス

自由エネルギー(rarr補遺 p70)と名付け記号 G を使ってそれを次のように

定義する

29

G = H-TS (38)

H はエンタルピーである第2項にある S はエントロピーを表す

ギブス自由エネルギーは化学反応のような独立した系の定温定圧過程に適

応されるので変化量ΔG を式(38)から得ておこう

ΔG =ΔH-Δ(TS)

=ΔH-(SΔT+TΔS)

温度を一定と考えているのでΔT=0 であるから

ΔG =ΔH-TΔS (39)

この式(39)を書き換える

ΔH=ΔG + TΔS (39rsquo)

ここで定圧過程ではエンタルピーを次のように式(29)で定義できた

ΔH =ΔU + PΔV (29)

式(29)の意味するところを復習すれば

系のエンタルピー変化ΔH は内部エネルギーの変化量と系が外部に

した仕事量の和として表される

これは

定圧過程で系が得るエネルギー量から仕事量を除いたもの

と言い換えることができるエンタルピー変化量は化学反応などの過程で

始めと終わりの2つの状態の差であるからそれが正の値を示す(>0)なら

系のエンタルピーは増加することを意味しその過程が進行するためには系

の外部からエネルギーが供給されなければならない

一方式(39rsquo)の右辺第2項TΔS はエントロピーの定義(32)より

TΔS = Q (40)

であるのでこれは可逆過程で系に供給される熱量を意味する

30

もしエンタルピー変化量が負の値を示す(<0)ならば系のエンタルピー

は減少しその過程が進行することによってエネルギーが取り出せるすなわ

ち式(39)(40)から次のようにこれら3つの状態量を改めて説明する

ことができる

ある化学反応が定圧で可逆的に進行するときそれから取り出せる

エネルギーのうちΔG を仕事として放出し熱量 Q を放出する

標準状態29815K(25)1atm で標準物質からある化合物を合成すると

きの反応熱(発熱あるいは吸熱)をその化合物の「標準生成エンタルピー」

として定義した同様にある物質に対する「標準生成ギブス自由エネルギー」

はこの標準状態で標準物質からその化合物を化学反応で生成するとき式(3

9)によって与えられる変化量をいう

電池における化学反応のギブス自由エネルギー

先にダニエル電池の亜鉛板側に対する電極反応を検討したとき電極反応が

仕事として放出するエネルギーを表現する重要な式があった次の式(17)

である

W = n FV (17)

ギブス自由エネルギーを用いて今これは次のように書くことができるように

なった

W = n FV=-ΔG (41)

この式が表していることを実際に水素の燃料とする燃料電池の反応過程で見

てみよう燃料電池の図を再掲する

図中右にある陰極では水素の酸化反応が起きる

H2 rarr 2H+ + 2e- (5)

一方図では左にある陽極において次の還元反応が起きる

12 O2 + 2e- rarr O2- (6)

O2- + 2H+ rarr H2O (8)

全体の反応はすでに示したように次の反応式(7)で示される

H2 +12 O2rarr H2O (7)

31

標準状態における可逆的仕事は式(41)であらわせ

n FV=-ΔG (41rsquo)

このΔG は式(39)であらわせた

ΔG =ΔH-TΔS (39)

すなわち標準状態29815K(25)1atmにおいてある化合物を標準物

質から合成するときの標準生成ギブス自由エネルギー変化ΔG゜は標準生成エ

ンタルピー変化ΔH゜とその温度におけるエントロピー変化TΔSの差で求ま

るこれらは燃料電池の全反応を表す式(7)で与えられる

標準生成エンタルピーΔH゜変化とエントロピー変化はすでに一般的な元

素やその化合物に対して表が作成されている

液体の水に対する標準生成エンタルピーΔH゜(H2O)は

ΔH゜(H2O)=minus 28583 KJmol

また水素ガスと酸素ガスはそれぞれの元素の標準物質であるので生成エ

ンタルピー変化はゼロである

32

そこで式(7)での水を1モル化学合成するときの標準生成エンタルピーΔ

H゜は水素(ガス1モル)と酸素(ガス12 モル)の2つの材料と水(液

体251atm)の両状態における状態量の差として表される

ΔH゜=ΔH゜(H2O)-ΔH゜(H2) -12ΔH゜(O2) (42)

式(42)の右辺第2項と第3項がゼロであるので

ΔH゜=ΔH゜(H2O) =-28583 KJmol (43)

標準状態29815K(25)1atm における水素(ガス)と酸素(ガス)お

よび水(液体)のエントロピーはそれぞれ

ΔS(H2O)=6991 JKmol

ΔS(H2) =13068 JKmol

ΔS(O2) =20514 JKmol

単位で分母のKはケルビン温度の意味

と計算されているので

ΔS=ΔS(H2O)-ΔS (H2) -12ΔS(O2) (44)

=6991-13068-12times20514

=-16334 JKmol

したがって

TΔS=29815times(-16334)=-486998=-4870 KJmol

(45)

そこで標準生成ギブス自由エネルギーΔG゜は式(39)から

-ΔG゜=-(ΔH゜-TΔS) (39)

=-{-28583-(-4870)}

=+23713 KJmol

33

すなわちこのエネルギーを電気エネルギーとして取り出すことができるそ

の起電力は式(41rsquo)から

n FV=-ΔG (41rsquo)

V= -ΔG(n F)

各数値を当てはめれば

V=237130(2times96485)

=1229 volt

先に【化学反応と電気エネルギー】のところで記したとおり25の基準

状態におけるこの電極電位はE゜=+1229 volt が得られているすなわち

こうして標準生成ギブス自由エネルギーから計算することでも同じ値を得る

ことができた

水素を単純に酸素と化合させる燃焼では式(43)で示されるエンタルピ

ーが発生する熱量を示している水素1モルあたり28583 KJである電池

にすれば水素1モルあたり23713 KJの仕事量が電気エネルギーとして取り

出すことができるその差は電池の場合熱が発生して利用できない

化学反応の過程を利用して化学エネルギーから直接電気エネルギーに変換す

るのが電池という装置であるが化学エネルギーは100電気エネルギ

ーに換えることはできないこのようにエネルギーの一部は電池の熱として

発散してしまう

理想気体の状態方程式

ギブス自由エネルギーΔG を定義した式(39)とエンタルピーΔH の定義

式(28)から

ΔG =ΔH-TΔS (39)

ΔH =ΔU +VΔP+ PΔV (28)

そこで次式が得られる

34

ΔG =ΔU+VΔP+ PΔV-TΔS (46)

またエネルギー保存則から得られた式(26)を応用すればギブス自由エ

ネルギーが変形できる

Q =ΔU+PΔV (26)

から

ΔU=Q-PΔV (47)

したがって式(46)は

ΔG = Q-PΔV+VΔP+ PΔV-TΔS

ΔG = Q-TΔS+VΔP (48)

エントロピーの定義からQ=TΔSであるから結局式(48)は

ΔG = VΔP (49)

と表すことができる

成分が混合された気体分子の分子間に働く力をゼロと仮定した「理想気体」を

考えるとき状態方程式としてボイルシャルル(Boyle-Charles)の法則が

利用できる

PV=nRT (50)

ここでnは気体のモル数PVT はそれぞれこれまでと同じ圧力体積温度(ケルビン温度)でありR は気体定数と呼ばれるもので次の値を持

R= 831441 JmolK (51) 単位で分母のKはケルビン温度の意味

35

状態方程式から式(49)の右辺を導くことを考えてみよう式(50)は

1モルの気体について V に対し次のように変形することができる

V 1

PRT (50rsquo)

両辺に圧力の微小変化量⊿P をかけると

PP

RTP V (52)

これを微分方程式として圧力p0 からp1 まで(p0≦p1)積分するなら

1

0

1

0

1

0

1p

p

p

p

p

pdP

PRTdP

P

RTdPV (53)

関数 f(x)=1x を積分したときの関数はF(x)=ln(x)であるので(ln は e を底

とする自然対数loge)

右辺=0

1ln)0ln()1ln(p

pRTpRTpRT (54)

ギブス自由エネルギーを表す式(49)は次のようであったから

ΔG = VΔP (49)

式(52)から得た式(54)を当てはめると状態G0(p0T)からG1(p1T)

へ変化する過程で圧力が p0 から p1 まで変化するものとして

dGG0

G1

G( p1T ) G(p0T ) RT lnp1

p0 (55)

あるいはこれを書き直して

V

36

G(p1 T) = G( p0T ) + RT lnp1p0

(56)

特別にG0(p0T)を標準状態T=29815K(25)p0=1atmに指定する

なら標準生成ギブス自由エネルギーを記号G゜として (56rsquo)

と表すことができる

式(56rsquo)の意味するところは標準状態から圧力の変化を伴う過程で理

G(p1 T) = Go + RT ln p1

想気体のギブス自由エネルギーは圧力の対数に比例して上昇することである

このことはさらに新しい着想を生む

すなわち水素を燃料とする上の燃料電池で1atm 標準状態の水素ガスの圧力

を2atm に上げれば式(56rsquo)からRTln2 余分にギブス自由エネルギー

が取り出せることになる

燃料電池において起電力を生むエネルギーは隔壁を水素イオンもしくは酸

素イオンが浸透しようとする力であるので1atm の水素ガスと2atm のそれで

は浸透しようとする圧力が異なりここに起電力が生じる

式(56)の第二項が圧力の差による仕事であるからこれをΔG とすれば

W=-ΔG の仕事量が電気エネルギーとして取り出せるはずである

W = minusΔG = minusRT lnp1p0

(57)

起電力に換算するために式(41)を使うと

W = n FV=minus ΔG (41)

から

01ln

pp

nFRTV ⎟

⎠⎞

⎜⎝⎛minus= (58)

この式(58)は一般にネルンスト(Nernst)の式と呼ばれる

37

理想溶液のギブス自由エネルギー

理想気体を想定したように無限に希釈された混合溶液に対して理想溶液を仮

定する「系」の圧力温度を一定に保つならば体積内部エネルギーエンタ

ルピーギブス自由エネルギーなどの示量数は混合溶液を構成する物質のモ

ル数mに比例するたとえば標準状態にある物質の1モルの体積をVとすれば

mモルの体積はそのm倍mVであるそうすると溶液中のi番目の成分がmi

モル「系」から「外界」に仕事をするときその成分iの持つ自由エネルギーの

mi倍の仕事が「外界」になされると考えればよい

この溶液成分のモル数と化学的仕事を結びつける示強因子がギブスによって

化学ポテンシャルと名付けられ一般に記号μが用いられる

化学ポテンシャルはこれまで見たようにギブス自由エネルギーで表される

また電位がψ(プサイ)にある系から-Δeの電荷が放出されるときには

-ψΔeの電気的仕事が得られるそこで記号μに両者を合わせた意味を持

たせて「電気化学ポテンシャル」と呼ぶ

概念の上で物質は電気化学ポテンシャルの高い方から低い方へ勾配にした

がって移動する

理想気体の標準状態が気体分圧を T=29815K(25)で 1atm としたのに対

し溶液成分の標準状態はその分圧に相当するモル数 m を用いるすなわち

標準状態にある成分 i の電気化学ポテンシャルμ0iは成分の持つ電荷(H+なら

1)を n として

μ0i = G i゜+nFψ i (59)

ギブス自由エネルギーは式(56rsquo)を借り理想溶液中の成分に対しては気

体圧力をその成分のモル濃度Cに書き換えればよいそこで

G(CT ) G RT lnC (60)

と表すことができる

したがって一般的な成分 i の電気化学ポテンシャルμiを表す式は標準状態

からの自由エネルギーの変化を考え式(59)と合わせて次のようになる

38

ψnFGii 0

式(60)から

ii CRTGTCGG ln)( 0

よって

(61) ψnFCRT iii ln0

実際的なことを考えると成分濃度はその有効イオン濃度とする必要があり

「活量係数」γを導入して次式で表されるイオン活量aを用いる

ai = γCi (62)

一般的にはγ=1と近似してモル濃度Cを使っているこのテキストでも

必要ではない限りイオン活量を用いることを省略して簡単に記述したい

膜電位

燃料電池に使われたナフィオンのような一つのイオンを通す膜を介して膜

の両側にC0 とC1 のイオン濃度差がある溶液が接するときの電気化学ポテン

シャルを考えよう

ある容器の底にナフィオン膜を取り付け容器の中と外のイオン濃度をC0

とC1としそれぞれの電気化学ポテンシャルをそれぞれμinとμoutとする

式(61)を使って

容器の中の電気化学ポテンシャル

(63) innFCRTin ψ 00 ln

容器の外の電気化学ポテンシャル

(64) outout nFCRT ψ 10 ln

イオン浸透性の膜を介して濃度変化が無視できるほどの移動があると考え

その電気化学ポテンシャルの差を式(63)(64)から求めれば

39

)(ln0

1 inoutinout nFC

CRT ψψ (65)

この系において今注目しているイオンが膜を介した両側で平衡状態にある

とき式(65)はΔμ=0と考えることができるすなわち

0)(ln0

1 inoutnFC

CRT ψψ

膜内外の電位差をΔψ=ψoutminus ψinとすれば

1

0

0

1 lnlnC

C

nF

RT

C

C

nF

RTψ (66)

式(66)は理想気体に対するネルンストの式(58)と同様溶液中のイ

オンに対するネルンスト(Nernst)の式として与えられる

細胞の膜においてもその生体膜の内外でたとえばカリウムイオンのように

非対称に分布して平衡に達している場合には式(66)で与えられる膜内外

で電位差が生じるこれは一般に膜電位と呼ばれる膜電位は平衡電位とも

呼ばれる

たとえば膜内外に1価のカリウムイオンに10倍の濃度差があるとすると

通常カリウムイオンは細胞内の濃度が高いので

C0 = 10timesC1

であるから

これを式(66)に当てはめてln(10)=2303 を用いlog への変換をすれば

Δψ=2303times(RTF)timeslog(10)

であるこれに R=831441 JmolKF=96485 CmolT=29815 K(25)

の各数値を当てはめると

Δψ=2303times831441times29815times196485 JC

=+005917 volt

すなわち膜の内外で約+60ミリボルトの膜電位が生じることになるこの

分だけ細胞の外側の電気化学ポテンシャルが高く膜の内側の膜電位が負であ

るそして膜にあるカリウムチャネルがこの電位を示すとき受動的なカリ

40

ウムの膜内外の移動は平衡に達することになる

水素イオン濃度測定

「標準水素電極」は1モル塩酸溶液につけた白金電極に1atm の水素ガスを

吹き込んで平衡状態に達したときの電位を基準としてゼロボルトと規定した

そこである溶液についてその水素イオン濃度を知ろうとするとき同じ水

素電極を用いることを考えれば標準状態にする目的で用いた1モル塩酸溶液

を濃度未知で X モルの塩酸溶液と想定すればその水素イオン濃度を知るこ

とができるだろうか

標準状態ではない X モルの塩酸溶液に浸けた白金電極が半電池として働くこ

とは間違いなさそうであるしかしその白金電極が持つ電極電位を測定する

にはいずれにしても標準電極と組み合わせて「電池」を構成しその電池

の起電力として計る必要がある電池を作れば起電力を知ることができ相

手の半電池の電極電位が知られていれば濃度が未知でXモルの溶液について

その水素イオン濃度を知ることができるだろう

こうした目的のためにいちいちゼロボルトと規定した標準水素電極を用いる

のは煩雑なのでしばしば後出の「銀塩化銀電極」が参照電極として用いら

れる

まず予め「銀塩化銀電極」を標準水素電極と組み合わせて電池とし一度

その起電力を測定しておけば後はいつもそれを標準電極として利用できる

「銀塩化銀電極」の半電池は

H+ (1 moll) Cl- | AgCl | Ag(s)

これに「標準水素電極」を組み合わせ電池を構成すると次のような電池

になる

Pt(s) | H2(g) | H+ (1 moll) Cl- | AgCl | Ag(s)

この電池の起電力を知れば「銀塩化銀電極」の半電池としての電極電位

を知ることができ参照電極として未知の半電池と組み合わせて起電力を測

定して相手の電極電位を計算できる

41

濃度 X モルの塩酸溶液を未知の溶液と想定すればその電極電位を知るために

組み立てる電池は次のようになる図10にその電池の図を示した

Pt(s) | H2(g) | H+ (x moll) Cl- | AgCl | Ag(s)

この電池の全反応は次の反応式で表される

AgCl(s) 1

2H2 (g) H Cl Ag(s) (67)

図10未知溶液の水素イオン濃度を測定しようとするための電池

化学反応の一般的な式

ここで電池に利用される化学反応から得られるエネルギーをギブス自由エ

ネルギーに換算し起電力を具体的に知る手だてとすることは上ですでに学

42

んだがより一般的な式を再度ここに書きだしておこう

化学反応が紙面で左から右に進む反応として次のような一般式で与えられ

るとき

aA + bB rarr cC + dD (68)

ギブス自由エネルギー変化量は標準状態ΔG゜からの変化量を加える形で式

(60)と同様次の式によって表される

G G RT(ln aCc aD

d ln aAa aB

b )

G RT ln

aCc aD

d

aAa aB

b (69)

aAは成分 A のイオン活量であるその他の成分も同じ

得られたエネルギーを電気エネルギーに換えるなら式(41)に習って

次式で表せば

ΔG=-n FV

there4V=-ΔG(nF) (70)

このときの起電力は標準状態における電位 E゜からの変化量として次式で与

えられる

E E

RT

nFln

aCc aD

d

aAa aB

b (71)

標準状態における起電力 E゜は反応が平衡状態にあるときで反応平衡定数

を K とするなら

K aC

c aDd

aAa aB

b (72)

で表されるそこでE゜は次のように書き改めることができる

43

E

RT

nFln K (73)

そこで式(67)で表される図10の電池「水素minus 銀塩化銀電池」に

対する起電力をギブス自由エネルギーから求めてみよう

反応から式(71)に当てはめれば

E E RT

Fln

aH

1 aCl

1 aAg1

aAgCl1 aH2

1

2

(74)

力学の慣例にしたがって固体の純物質の活量は1として扱い水素ガスを

想気体として見なして活量を1atm とするなら式(74)は次のよう

に簡略化される

E E

RT

Flna

H aCl (75)

ころで理想溶液として近似的に取り扱うときの希薄溶液でたとえば水素

入して詳細に検討するなら式( れる起電

オン濃度はイオン活量として aH+の記号を使うときすでに【理想溶液のギ

ブス自由エネルギー】の章で述べたようにこれを有効イオン濃度とする必要

がありイオン活量 a は「活量係数」γを導入して次式で表した

a H+= γH+CH+ (62)

この活量係数を導 75)で誘導さ

を計ることによって経験的に試料溶液中の水素イオン濃度を求めることは

困難である式(75)にあるイオン活量の項はモル濃度 C と活量係数γを

用いて次式で書き改められる

lnaH aCl

lnCH CCl

lnH Cl

(76)

まり式(76)右辺の第二項において互いに相手が知られなければ自分

決めることができず結果的に起電力を知っても(75)の値から水素イオ

ン濃度を導けないここに工夫が必要になる

44

の定義とその目盛り

液中の水素イオン濃度を直接意味するものではなく

を定義するとき測定されるのは1リットルの溶媒に存在す

pH = -log a H+ = -log(γH+CH+) (77)

際に試料溶液の pH を決定する際はpH 標準液を用いる

に溶液を入れ試料溶液 X と pH 標準液 S を

参 極を接続し電池を作成しその起

pH

現在pH の定義は溶

で述べたようにそれが簡便に測定できるものではないため次のように定

義されている

水素イオン濃度

水素イオン活量であるため定義式としては活量係数をγH+として次式で与

えられる

その要領は次のようである

上に図示した水素電極の容器内

れぞれ半電池(I)と(II)に入れる

半電池(I) Pt | H2 (1 atm) | 試料溶液

半電池(II) Pt | H2 (1 atm) | 試料溶液S

照電極として上図のごとく銀塩化銀電

電力を測定する半電池(I)のときの起電力を E(X)半電池(II)のそれを E(S)

とするこのとき試料溶液Xの pH は次式で計算される

pH (X) pH(S) E(S) E(X)

RT ln(10) (78)

ln(10)は自然対数を常用対数に戻すための定数で2303 を用いる

標準液

pH 標準液 S はpH 第一次標準液第二次標準液と呼ばれるべき

る測定

25で pH 4005 を示す

pH

上述した

のであり絶対的測定法である起電力の測定によって値をつける

標準液は安定で純粋な結晶が得られる試薬を調整してこれを測定す

上と同様に水素電極を用いこれに緩衝液を入れる参照電極として銀

塩化銀電極を接続して電池の起電力を測定する

たとえば005 moll フタル酸水素カリウム溶液は

一次標準(Primary Standard PS)の一つである半電池(III)として水素

45

電極を次のように準備する

半電池(III) Pt | H2 (1 atm) | PS 溶液

て電池を形成したとき得られる起電

参照電極として銀塩化銀電極を接続し

は式(75)から

E E

Ag AgCl RT

Flna

H aCl (79)

オン活量を濃度と活量係数の積(a H+= γH+CH+)にし自然対数を常用対数

すれば

E E

Ag AgCl RT ln(10)

F log(

H + CH+ Cl- CCl - ) (80)

E゜は水素標準電極(水素ガス分圧を1atm電極を浸ける溶液に001 moll

H

Cl を用いる)で得た起電力である

式(80)から

RT ln(10)

Flog(

H CH Cl

) (E EAg AgCl )

RT ln(10)

Flog C

Cl

(81)

らに

log(

H CH Cl

) F

RT ln(10)(E E

Ag AgCl ) logCCl

(82)

ころで式(77)から

(γH+CH+) (77)

-log a H+ =-loga H+-log(γCl-) +log(γCl-) =-log(a H+γCl-) +log(γCl-)

(83)の一番右の式で第一項は

pH = -log a H+ = -log

であるが右の式をさらに変形すると

(83)

46

-log(a H+γCl-)=-log(γH+ CH+γCl-) (84)

たがって式(82)の右辺で示されるように電池の起電力を測定すれば

よ 実際には溶液の塩素イオン濃

液で起電力を求め外挿する

起電

これによってpH を意味する式(83)は次式(85)で与えられる

p(aHγCl)はRG Bates によって Acidity Function と呼ばれている

らに式(85)最終項の log(γCl-) を補正しなければならないこの項は

本工業規格)によっても

であってこれは式(82)の左辺である

いただし塩素イオン濃度の項があって

をゼロにしたときの値が必要である

実測する際には塩素イオン濃度をゼロにできないので塩化ナトリウム NaCl

等を濃度を変えて添加しその時々の緩衝

勧告ではNaCl で 000500100015moll の3つの濃度を例示している

すなわち塩素イオン濃度ゼロのときの値は各塩素イオン濃度に対して

の値をそれぞれプロットしグラフから塩素イオンがゼロのときの起電力の

値を3点に対する回帰直線の延長で外挿して求めるこの点を次のように書

log( C H H Cl CCl

0

pa log( C log( (85) H H H Cl C

Cl0 Cl

)

素イオンの活動係数で与えられる補正項である

無限希釈溶液中のイオンの活動係数は理論的に Dubye-Huckel の式を用い

近似的に求めることが可能であるこれはJIS(日

用されていて Bates-Guggenheim の規約と呼ばれる (Bates RG

Guggenheim Pure Appl Chem 1 163-168 1960)

Dubye-Huckel の式は次のように与えられる

log A I

i 1 iB I (86)

47

I iについてそのモル濃度

計算される

はイオン強度でイオン mi と電荷 zi から次式で

I 1

2mizi (87)

また iは(86)式のBは温度と溶媒の性質による定数であり イオンの大

きさに関するパラメータで水和イオンの大きさとほぼ一致した値をとる標

準法の勧告では塩素イオンに対しイオンの大きさを46Åと決めてiBを

1

5 にしているそこで式(84)は次のようになる

ClA I

log 1 15 I

イオン強度 I は塩素イオン濃度を含まない計算となる

以上の方法によって実用的な pH 測定に用いられる第一次第二次標準液の

pH の値が得られる

絶対値としての

はpH の絶対測定法(第一次標準測定法)とされている

銀塩化銀参照電極は分極現象を防ぐために棒状の銀を塩酸で処理し表

に塩化銀を生成させたものを飽和塩化カリウム溶液につけてある

(88)

参考現在は実験的に求めた値と理論値の組み合わせで

素イオン濃度を求める方法を規定しているこの起電力から水素イオン濃度

を知るための測定方法

Buck RP Rondinini S Covington AK Baucke FGK Brett CMA Camoes MF

Milton MJT Mussini T Naumann R Pratt Kw Spitzer P Wilson GS

Measurement of pH definition standards and procedures Pure Appl Chem

74(11)2169-2200 2002Kristensen HB Salomon A Kokholm GInternational

pH scales and certification of pH Anal Chem 63(18) 885A-891A 1991)

銀塩化銀参照電極

電極の構成は

Cl-(aq) | AgCl(s) | Ag(s)

48

この半反応は次のようになる

AgCl(s) + e- rarr Ag(s) + Cl- (89)

の反応は次の2つの反応に分けて考えることができる

Ag+ + e- rarr Ag(s) (91)

AgCl(s)rarr Ag+ + Cl- (90)

図11銀塩化銀参照電極

(90)における銀 る塩素イオンによって左

されることが推測される

そこでカッコ [ ] をそれによって囲まれるイオンの濃度を表すことにし

式 イオン Ag+の溶解性は共存す

塩化銀の乖離定数Kを考えると

49

K = [Ag+][Cl-] (92)

これから

[Ag+]= K[Cl-] (93)

化カリウム溶液に漬けた銀塩化銀電極の電位 E は水素標準電極に対する

電 で与えられる

位を E゜として次式

E E

RT

nF

[ Ag ]

[Ag(s)]ln( )

Ag(s)のイオン活量は常に1とする

ここで半反応の電極電位を求めるために式(75)を利用することにすれば

(94)

熱力学の慣例にしたがって純物質個体

E E

RT

Flna

H Cl a (75)

式 の半反応をみると

応で電子1つが移動するので n=1 とするR=831441 JmolK1F = 96485

C はめれば

これに銀イオンの濃度として式(93)を当てはめる

この反応で移動する電子は (89) 銀イオン1つの反

molT=29815K(25)ln(10)=2303などの定数を当て

2303RTF = 005917

であるから(94)式は次のように表現できる

log[Cl]) E E 005917(logK (95)

たがって標準水素電極に対する銀塩化銀参照電極の標準状態における電

位 は半反応(89)に対して ゜=+0799で

化銀の乖離定数 K は182times10-10 であるのでその対数を取れば-973993

0799-005917times973993-005917log[Cl-]

E゜ E ある

ある

そこで式(95)は

E =

50

= 0799-0576-005917log[Cl-]

= 0223-005917log[Cl-] (96)

電極電位の関係について実測値

こうして求めた塩化カリウム溶液の濃度と

計算上の値は次のようである

KCl moll vs SHE volt25 計算値 volt25 01 02881 02822 35 0205 01908 飽和 0199 minus

実用 測定

実際の現場で水素イオン濃度を測定する目的の測定法で上のような2つの

極が同じ溶液に浸かっていたのでは試料溶液を交換するにも便利ではない

の容器に入れる未知試料溶液と銀塩化銀電極を隔離する

的な pH

そこで水素電極側

的で二つの電極容器をつなぐ液絡部をグラスフィルターやセラミック板

飽和塩化カリウムで作成したゼラチンなどの塩橋によって隔離遮断するこ

れを液絡部とよぶ

電池として機能するために必要な溶液イオンの交換はこの液絡部で行う

組み立てる電池は電池式で次のように表される

Pt(s) | H2 | 試料 (H+ x moll) || 飽和 KCl | AgCl | Ag(s)

の標準電極と銀塩化銀電極とは区切られていて溶液の直接の接触がない

とを意味するために電池式ではタテ二重線を用いる銀塩化銀参照電極

の容器には飽和塩化カリウム溶液が入れられる

51

図12液絡部のある pH 測定のための電池

この液絡部のある電池では塩橋を記号lsquo | | rsquoで表して次のように記す

試料 (H+ x moll) | | 飽和 KCl

ここでは試料溶液と飽和塩化カリウム溶液の異なる2液が接している

このような界面では膜電力が生じるのと同様「液間電位差」が生じることが

知られているしたがって上の電池で測定される起電力 E は

E = E[銀塩化銀電極電位]+E[液間電位]+E[水素電極電位]

で与えられることになってE[液間電位]のために図12の電池の起電力

は銀塩化銀参照電極の値を知っていても水素電極容器内に入れた未知溶

液の水素イオン濃度を正しく知ることができない

52

そこで実用的な測定法としてこの E[液間電位]を膜電位として積極的に利

用する方法が工夫されたすなわち水素イオンに感応するガラス薄膜を用い

るガラス電極法である

53

ガラス電極

ガラスはケイ素原子と酸素原子からなる SiO4 の結晶構造を持ち酸素で囲

まれた空隙があって水素イオンがそれを埋めることができる

この性質によってガラス膜表面は水溶液中の水素イオンに応じて膜電位を

変化させるのでこれを水素イオン濃度測定用の電極として利用することが考

えられるこれが通常用いられるガラス電極である

ガラス電極は標準電極と組み合わせれば電池を構成することができこの電

池の起電力を知ってガラス薄膜の内外にできたイオン濃度勾配を知ろうとす

るものである

薄いガラス膜(01mm程度)をはさんで接する2つの溶液のH+イオン濃

度が異なるとその差に応じてガラス膜の両側に電位差(Eg)が現れる

ネルンストの式でガラス電極の内部に入れた既知の濃度のH+([H+]in)に対

し試料中の水素イオン濃度が[H+]sampleのとき次の電位を生じる

)][

][log(059170)

][

][ln(

sample

in

sample

ing

H

H

H

H

F

RTE

(97)

図13ガラス電極

電極を構成するのは銀塩化銀電極と同じ電極で用いる塩溶液は一般的

54

に 01モル塩酸溶液である

この半電池の電池式は次のように書くことができる

Ag(s) | AgCl(s) | HCl (01 M) | ガラス薄膜 || 試料溶液 H+ (x moll)

Eg

この半電池の電極電圧を測定するために銀塩化銀標準電極と組み合わせ

電池を作って起電力を計る

構成される電池は下図のようになる

ガラス電極 銀塩化銀標準電極

図14ガラス電極を用いた pH 測定用の電池

この電池の起電力は次の各半電池の平衡電位を合わせたものになる

55

E1ガラス電極の内側電位

Ag(s) | AgCl(s) | HCl (01 M)

Egガラス薄膜の内外に生じる膜電位

HCl (01 M) | ガラス薄膜 || 試料溶液 H+ (x moll)

E2液間電位(膜電位)銀塩化銀標準電極のセラミックを介した試料溶液

と銀塩化銀標準電極の内部液(飽和 KCl 溶液)の間に発生する電位

試料溶液 H+ (x moll)|| セラミック | KCl(飽和)

E3銀塩化銀標準電極

KCl(飽和)| AgCl(s) | Ag(s)

pH メーター用のガラス電極に使われるガラス薄膜は水素イオンに感応して

膜電位(Eg)を生じるこれは【膜電位】の章で記したように薄膜がある

一つのイオンのみを通過させる特性を持っている場合にイオンが膜を介した

両側で平衡状態に達したとして電気化学ポテンシャルを膜の両側で等しいと

考えてそのイオンが濃厚な側から希薄な側にその差によって圧力を生じると

するものである

一方同じ試料溶液が銀塩化銀標準電極のセラミック液絡部を介して生じ

るだろう液間電位(膜電位E2)はいま関心がある水素イオンに対して特異

的に感応するのではないので試料溶液の水素イオン濃度に関係なく一定と見

なすことができる

すなわちpH メーターを構成する電池の起電力 E は

E = E1+Eg+E2+E3 (98)

このうちEg以外は一定と見なせるので

E1+E2+E3 = E

として式(98)を書き直すと

)][

][log(059170

sample

ing H

HEEEE

(99)

Eは標準液によって校正されるべき標準電極電位である

56

電極の校正

実際のイオン濃度を測定する場合低濃度標準液と高濃度標準液で得られ

る起電力を測定し計測のイオン濃度に対する係数(傾き)を求めておき未

知の試料に対して起電力を測定してそのイオン濃度を算出する方法が採られる

低濃度標準液と高濃度標準液のそれぞれの濃度をCLとCHとすればそれぞ

れの起電力ELとEHは次式で表される EH = E +β logCH (100)

EL = E +β log CL (101)

ただしβは式(99)の係数を簡略にしたものである

式(100)と(101)から検量線の傾きが次式で表せる

ΔE = EH minus EL = β(logCH minus logCL) = β logCH

CL

(102)

したがって係数βは

β =ΔE

log CH

CL

(103)

であらわされる

このときに使われる標準はすでに前出の pH 第一次標準第二次標準溶液で

ある

金属イオンに対応するイオン選択電極

現在臨床検査で日常的に使われている電解質測定のための電極はナトリウ

ムカリウムカルシウムクロールなどおよそ臨床的に必要な金属イオン

に対して入手可能である

カリウムイオン測定用のバリノマイシンの発見によってクラウンエーテルと

57

呼ばれる一連の化合物が知られたクラウンエーテルはその分子の中心に立

体的な空間を持ち特定のイオン径に対し合致するのでそのイオンに対して

選択的に感応するこれらの化合物はイオノフォアと呼ばれる

図 15クラウンエーテル

1つの金属イオンが環状化合物

15-crown-5 の中央にある空間を充填

している模式図

15-crown-5 の構造を作る10個の黒

い丸は炭素炭素2個のつながりごと

にある中心の白い丸は酸素酸素と

金属イオンの間の距離はおよそ 22~

23Åであるカリウムのファンデン

ワールス半径は 135Åイオン半径は

15~16Åである

測定したいイオンに対しポリ塩化ビニル(PVC)を支持体としてイオノフ

ォアを添加した液膜の電極膜を作成しこれをガラス電極におけるガラス薄膜

と同様試料に接する電極膜として用いるこの構造から一般的に液膜型電極

と呼ばれる電極膜には特異性を高めるため妨害イオン排除剤などが添加

される

pH メーターと同様銀塩化銀標準電極と組み合わせ電池を形成しその

起電力を計る測定したいイオンが液膜に対して内外で平衡に達したときの

膜電位を測定するのはガラス電極と同じである

カ リ ウ ム イ オ ン に は Bis[(benzo-15-crown-5) ( 正 式 名 は

Bis[(benzo-15-crown-5)-4-methyl]pimelate)ナトリウムには Bis[(12-crown-4)

やDibenzyl-bis[(12-crown-4)などがイオノフォアとして用いられる

58

図16カリウムイオン測定用に使われるクラウンエーテル

図17ナトリウムイオン測定用に使われるクラウンエーテル

59

参考イオン選択電極に関する文献Xia Z Badr IHA Plummer SL Cullen L

Bachas LG Synthesis and evaluation of a bis(crown ether) ionophore with a

conformationally constained bridge in ione- selective electrodes Anal Sci 14(2)

169-173 1998 Oh K-C Kang EC Cho YL Jeong K-S Y oo E-A Paeng K-J

Potassium-selective PVC membrane electrodes based on newly synthesized

cis- and trans-bis(crown ether)s ibid 14(10)1009-1012 1998 Dojindo WEB

site httpwwwdojindocojpwwwrootproductsjinfo2protocolp31pdf

<補遺> 60

補遺 状態関数 (本文 p21 10 行目参照)

一つの平衡状態にある系 A とこれに接する系 A にとって外部である系 B について系 B

から系 A に熱を与えこれによって系 A が他の平衡状態に移ったとき系 A はその結果とし

て膨張し系 B に対し仕事をする

このときの微少な熱量の移動を記号drsquoQ またなされた微少な仕事をdrsquoW とすると

系Aの内部エネルギーに関する微少な変化drsquoUA は両者の和として表される

WdQdUd A primeminusprime=prime (a-1)

この式 a-1 と本文中の式25との関係について

WQU A Δminus=Δ 本文(25)

<補遺> 61

式 a-1 と式25の記号の違いは変化の起きる前の平衡状態 S1 から変化後の平衡状態 S2

に状態変化があったとするなら式 a-1 を積分することで式25が得られるものと考えて区

別している

A

S

S A UUd Δ=primeint2

1 (a-2)

このことは重要であるすなわち内部エネルギーU は変化の起きる前後の状態を指定する

ことによって値が定まることを意味するこのように積分によって値を定めることが出来る

のでdrsquoU は完全微分であるという

内部エネルギーのように系の状態だけで値の定まる量を状態関数として扱う

一方式 a-1 のdrsquoQ drsquoW についても同様に微少の変化量を表しているが平衡状態 S1

から S2 への経路を指定しなければ積分の値は定まらない

本文中の記号にしたがって仕事量ΔW を次のように表すことにする

VpW Δ=Δ 本文(20) V

<補遺> 62

体積と圧力の関係を表す図を使ってこの仕事量が意味することを考える圧力 prsquo の下で

体積が V1 であるときを状態 S1 として圧力一定の下で体積を V2 まで膨張させるような変

化を行った後体積を等しく保って圧力を p にまで上げたときの状態を S2 とするこのとき

の仕事量は膨張に伴うものであるから図の体積‐圧力線の下の面積で示すことができる

平衡状態 S1 から S2 への変化の道筋を別にたどってみよう

新しい経路では圧力を先に p まで上げた後に膨張変化させている

図から直感的に明らかであるので数式での扱いを省略するが2 つの経路による仕事量には

差がある

すなわちdrsquoW は drsquoU と異なり変化の初め S1 と終わり S2 の状態が与えられても積分値

は定まらず変化の経路によって違ってくる

このように変化の経路を指定しなければ積分値が定まらないものを不完全微分と呼び扱

いを区別する

本文 p21 へ戻る

<補遺> 63

VpW

WQU

VpQU

VpUQ

1122 SSSS pVUpVUQ

pVU

VpUHHHQ SS 12

エンタルピー (本文 p24 20 行目参照)

本文中の式 20 および 25 から一定の圧力の元で起きる状態変化において内部エネルギー

の変化量に対する式 a-3 を得る

本文(20)

本文(25)

(a-3)

式 a-3 を Q について書き直す

(a-4)

状態の変化が平衡状態S1から平衡状態S2に移ったものとして式 a-4を丁寧に書き直すと

(a-5)

並び替えて

(a-6)

式 a-6 を見ると定圧過程における熱量の流入は

(a-7)

の形を持つ関数の差であることが分かる

一般に化学反応のような変化の過程では大気圧の下で行われるようなものに興味がある

そこで式 a-7 で与えられる項を一つの関数として定義するこれをエンタルピーと呼び記

号 H を与える式 a-4 はエンタルピーの変化量で次のように書き改められる

(a-8)

圧力が一定の下で起こる状態変化について流入する熱量は式 a-8 で示されるようにエンタ

ルピーの変化量に等しい

V

V

V

V V

V

V

1212 SSSS VVpUUQ VV

<補遺> 64

1Q

We

また式 a-8 からオートクレーブ内で起こるような体積変化のない過程ではこの値が内

部エネルギーの変化量で与えられることが明らかである

本文 p24 へ戻る

エントロピー (本文 p26 17 行目参照)

エントロピーは次のような思考実験から発想された仮想的な状態関数である

理想気体よりなる系 A が温度 T2で熱平衡状態にあり温度 T1の外部の熱源と接しているこ

とを想定する系 A の外部を系 B と呼ぶことにするT1は T2に対して無限小だけ高い温度と

する

系 A が系 B に対して温度圧力について平衡を保ちながら緩慢に系 B より熱量 Q1を受け取

る過程を考える(このような過程を準静的過程と呼ぶ)これによって系 A が熱量 Q1を得て膨

張するとき系 B に対して仕事をする続いて系 A から熱量 Q2が系 B に戻ることを考える

想定されるこの変化が可逆的であれば系 A と系 B を併せた全体は元の状態に戻る蒸気機

関に関するこのような研究が Nicolas Carnot によってなされたのは1824 年のことであった

ここに想定されたサイクルに対する Carnot の効率 e は移動した熱量となされた仕事によ

って定義され次の式で表される

(b-1)

<補遺> 65

理想気体では内部エネルギーU の変化ΔU はゼロと考えるしたがって熱力学の第一法

則を表す式(本文中の式25)から次の関係が示される

0=Δminus=Δ WQU

WQ Δ= (b-2)

これによってCarnot Cycleの効率eはQ2lt0 として次のように書き改めることが出来る

1

21

QQQe +

= (b-3)

ところで気体の状態方程式から1 モルの気体について次のような関係が示される

RTV

P

P1=

V = RTV (b-4)

V 式 b-4 の両辺に体積の微少変化量ΔV をかけて

(b-5)

これを体積Vについてその変化をV1からV2までとして積分するならば次式が得られる

VV

RTVP Δ=Δ 1V V

V

intint = 2

1

2

1

1V

V

V

VdV

VRTPdV

1V2V

11 lnRTW =

(b-6)

Q1の熱量によって起こる膨張がV1よりV2までとし圧力P温度T1の下でなされるその仕事

量をW1とするならそれは式b-6 の右辺によって示されるすなわち

(b-7)

VV

1

2lnVVRT=

V V

VV

V

V2int V2 intV1 V1

<補遺> 66

またQ2の熱量の移動が圧力P温度T2の下で起きこれによって系Aが可逆的に圧縮され

るなら体積変化はV2よりV1まで起こりその仕事量をW2で示すと次式のように表される

(b-8)

1

22

2

122 lnln

VVRT

VVRTW minus==VV

VV

Q1=W1Q2=W2の関係から式b-7 およびb-8 を用いてCarnot Cycleの効率eを表す式b-3

を書き改めると温度のみの関係式として次のように表される

1

21

TTTe minus

= (b-9)

ここでサイクルが可逆的過程であると想定するならば式 b-3 と式 b-9 から

1

21

1

21

TTT

QQQe minus

=+

= (b-10)

これから

12112111 QTQTQTQT minus=+ (b-11)

整理すると

02

2

1

1 =+TQ

TQ (b-12)

この考えをさらに発展させ系A

と系Bの間に数多くの系を挿入すること

にしてそれらの系を同様に熱源として

T1T2Tnと考えるこれによっ

て熱の受け渡しが系Aから系Bに至り

再び系Aにもどるサイクル過程に数多

くの寄り道の過程を加えることになる

熱量の移動に関して上の場合と同じく

準静的過程で行われると考えるこの

サイクル全過程について初めと終わ

<補遺> 67

n

i i

i

T

Q

1

0

0T

dQ

T

QS

T

dQASAS )()( 12

りが同じ状態になる可逆的な過程であるなら式 b-12 を拡大的に考えることになってそれ

は次式で表される

(b-13)

式 b-13 には重要な関数が現れるすなわち熱量と温度の比QT である

もし一つの系が無限小だけ温度の高い(dT )外界から温度圧力など平衡を保ちなが

ら極めて緩慢な過程(準静的過程)で無限小の熱量(dQ )を受け取るならばその変化は可

逆的でありdT について連続的な温度分布をする過程を考えるとき式 b-13 をさらに発展

させて次のように積分式で示すことが出来る

(b-14)

式 b-14 で積分記号にが付されているのはCarnot Cycle のような経路を一巡することを

意味している

Carnot の熱機関の効率という着想から生まれた熱量とそれを持つ系の温度との比 QT に

重要な意味を見出したのは Rudolph Clausius で彼はこの比にエントロピーという名前を与

えたエントロピーには記号ΔS を一般に用いる

(b-15)

エントロピーは初めと終わりの状態がわかれば過程に関わらず定まるので状態関数であ

系 A と外界のエントロピー変化を考えるときそれが可逆的過程であるならばすべてを併

せた全体のエントロピー変化は初めと終わりに変化がないという意味でゼロであるすなわ

ち初めの状態を S(A1)とし次の状態を S(A2)とするならそれぞれのエントロピーを

ΔS(A1)ΔS(A2)としてこの間におけるエントロピーの変化量は次のように示される

(b-16)

<補遺> 68

T

dQdS

0T

dQ

ある一つの変化については次のように示される

(b-17)

ここで式 b-17 の S に付けられたdは微分量すなわちごく微小の変化量を意味し式 b-15

で定義されたエントロピーに用いられる一般的な記号Δと区別する

ところで式 b-10 の関係においてもし移動した熱量のすべてが仕事に変わらなければ

効率 e を表す熱量を用いた関係式と温度で表される関係式は等号で結ぶことができないそれ

はエネルギーのロスを意味し初めと終わりの状態が異なってしまうことを意味するすなわ

ち全過程が構成する一つのサイクルは可逆的でなくなる

不可逆過程での熱効率 ersquo は 大値を示す可逆的過程の熱効率 e より小さな値をとる

ee

したがって 大効率を与える式 b-8 と式 b-3 から

01221

2112

1

21

1

21

QTQT

QTQT

Q

QQ

T

TT

両辺を T1T2で割ると

02

2

1

1 T

Q

T

Q

これを式 b12 と同様に発展させれば式 b-14 についてサイクルの変化が可逆的過程の

場合と不可逆的過程の場合の両方を併せClausius の不等式と呼ばれる次の関係が成立する

(b-18)

式 b-18 の等号が成立するのはサイクルが可逆的な理想の場合に限られる

ある孤立系で状態 A1 から状態 A2 へは不可逆変化で進められ状態 A2 から再び状態 A1

に戻るとき可逆変化であるような閉じた状態変化を考える可逆系のエントロピー変化には

記号 Q を使い不可逆変化には Q を用いるとするとそれぞれ積分式を用いて状態 A1 から

状態 A2 へは

<補遺> 69

d prime

状態 A2 から状態 A1 に戻るときは

全体では

=d prime

+d

(b-19)

Clausius の不等式から

0

式(b-19)の第二項で反応を逆に進めるときには次のように書き改めることができる

=d

よって式(b-19)は次のように書き直すことができClausius の不等式とあわせると

d prime d

0

すなわち

d prime d

上式の右辺は式(b-16)を用いて表せば

d prime

∆S ∆

この状態変化を微小変化とするならば断熱変化の場合 dQ = 0 であるから

∆S ∆ dS 0

すなわち不可逆変化を含む断熱変化ではエントロピーは必ず増大する

<補遺> 70

T

QS

BA SSS

(b-20)

(次の<補遺>ギブス自由エネルギーも参照せよ)

本文 p26 へ戻る

ギブス自由エネルギー (本文 p28 27 行目参照)

エントロピーの考えを導入することによって不可逆的に状態変化が起きるときにはエン

トロピーの増大を引き起こすことを知ったこれによって目前で起きる現象について温度の

変化があるものであれないものであれまた圧力の変化があるものであってもエントロピー

の定義式によって可逆的な変化におけるエントロピーの変化量を計算することが可能である

(b-15)

しかしながらこれから起こる変化について我々がすでにあらかじめ知っている物理量を

用いて予測的にその状態変化が起きるかどうか知ることは必ずしも容易ではないその理由

は式 b-15 に示されたエントロピーΔS が系とその外界をあわせた全体のエントロピーを示

しているからであるすなわち関心のある系を系 A としその外界を系 B とすると全体

のエントロピーは次のように表せる

(c-1)

関心のある系 A のエントロピー変化を知るためには系 B のそれを知ればよいがそれは

いつも容易とは限らない系 A の性質だけで状態変化の方向を知るには別の観点が必要にな

るようだ

そこでもう一度状態変化が熱量 Q の移動によって起きることについて考えてみようエン

トロピーの補遺で議論したように熱量の移動が準静的過程により行われるときには変化は可

逆的に起こると考えたこのとき外界すなわち系 B から移動する熱量を Q1とし系 A から

0S

<補遺> 71

21 QQ

T

Q

T

QSB

21

T

QSS A

2

QH

T

HSS AA

AA STHST

のそれを Q2 と記号を当てたのでこれをそのまま使うことにすれば可逆的な過程では系 B

の熱量 Q1 はすなわち系 A から戻る Q2 に他ならないので両者には次の関係が成立するも

のとしてよい

(c-2)

したがって

(c-3)

と考えてよくこれによって式 c-1 を次のように書きなおすことが出来る

(c-4)

独立した系で圧力とその体積に変化がなく一定の条件の下で状態変化が起きるときエン

タルピーの考えを使ってすでにひとつの関係があることを導いている

本文(31)

そこで式 c-4 を系のエンタルピーΔHAによって書き改めれば

(c-5)

この両辺に-T をかけて式を書き直せば次の関係式が得られる

(c-6)

式 c-6 を見るときその右辺がマイナスの値ならば左辺のΔS はプラスの値をとることが

分かるすなわちエントロピーが増大すると見ることが出来るこれまでの過程で自然の現

象はエントロピーが増大する方向に進むとしてきたので関心のある状態変化について式 c-6

の右辺で計算される値がマイナスの値ならばその変化は起きるものと考えてよいことになる

だろうしかも右辺はすべて独立した系の状態量で示されていて我々が知りうる値で計算

<補遺> 72

TSHG

STSTHG

STHG

可能である

そこでこれを熱力学ポテンシャルを表すものとしてギブス自由エネルギーと呼ぶことに

するギブス自由エネルギーは記号 G が用いられ次のように定義される

(c-7)

ここで関心があるのは自由エネルギーの絶対値ではなく式 c-6 に示されたようにその変化量

に興味があるので式 c-7 から

(c-8)

温度が一定の条件の下で状態変化が起きることを考えるなら式 c-8 は次のように書くこと

ができる

(c-9)

ギブス自由エネルギーは式 c-9 の右辺がすべて状態量であるからこれも状態量の一つで

ある定圧定温の条件下で起きる変化ではすでに議論したようにΔGlt0 であれば状態

変化は自発的に起きるものと予測できる

つまり式 c-5 の第一項は系のエントロピーΔSAそのものであり第二項で示されるエンタ

ルピーは系 A の温度が一定に保たれているのであるから発熱する熱量として外界に吸収さ

れるものであってこれは外界のエントロピーの増大につながるものとして解釈されるした

がって化学反応のように一定の圧力と一定の温度の下で起きる変化について自由エネルギ

ー変化量はその状態変化が自発的に起きる傾向を示しているといってよい

本文 p28 へ戻る

  • はじめに
  • 目次
  • 電気エネルギー
    • 金属のイオン化
    • 電池
    • 水素の反応
    • 燃料電池
    • 化学反応と電気エネルギー
      • エネルギーと熱力学
        • エネルギー保存則
        • エンタルピー
        • エントロピー13
        • ギブス自由エネルギー
        • 電池における化学反応のギブス自由エネルギー13
        • 理想気体の状態方程式
        • 理想溶液のギブス自由エネルギー
        • 膜電位
          • 水素イオン濃度測定
            • 化学反応の一般的な式
            • pHの定義とその目盛り
            • pH標準液
            • 銀塩化銀参照電極
            • 実用的なpH測定
            • ガラス電極
            • 電極の校正
            • 金属イオンに対応するイオン選択電極
              • 文献
              • 補遺
                • 状態関数
                • エンタルピー
                • エントロピー
                • ギブス自由エネルギー
Page 19: イオン選択電極i イオン選択電極 Ion Selective Electrode (ISE) を理解する ・ pHを測定する ・ NaやKなどのイオン濃度を測定する 神戸大学医学部保健学科

16

ここで問題になるのは陽極陰極のそれぞれの電位E+とE-で上に議論し

たように回路を形成しなければそれぞれの電位は決定できない

ここでいま片方の電位をゼロとすれば式(18)はたとえばE- = 0 で

V= E+

として陽極の電位が決まる

そこで申し合わせにより水素の半反応による電位をゼロとすることになっ

その半反応の式は水素の還元反応として次のように表せた

2H+ + 2e- rarr H2

標準にはMax Julius Louis Le Blanc (1865-1943) が発明した水素電極を用

いるこれを標準水素電極(Standard Hydrogen Electrode SHE)とよびこの

電極電位をいつも 0 volt(ゼロボルト)と取り決めている

図6に示した水素電極は1atm の水素ガスとそれに平衡状態にある水素イオ

ンが存在し次の半反応が平衡状態にある

H2 (g 1 atm)rarr 2H+ (aq 1 M)+ 2e- (5) g は気体を示す

この反応において平衡状態にある電極電位を 0 volt と定義する

電極に白金を用いるのは電極材料自体が溶解しないものであることすなわ

ちイオン化傾向の低いものであることまた水素イオンの還元に対してな

るべく活性の高いものであることが条件として求められるが白金はこの2つ

の性質を兼ね備えていて陽極の電極材料に適している

気体の標準状態は1atm を標準としているこの分圧を維持し溶液中の水

素イオン活量を1にする水蒸気の分圧が変化すると平衡電位は変化する

17

図6標準水素電極(0ボルトの基準)

標準水素電極は1モル塩酸溶液につけた白金電極に1atmの水素ガスを吹き込んで使う

白金電極は分極を防ぐために白金板に白金メッキを施し(白金黒とよばれる)上半分

を水で飽和させた(1atmの水蒸気分圧が必要)1atm(101325 kPa)の水素ガスを流し

下半分を1moll の塩酸溶液につける水素ガスが電極として働き白金板に電子が集めら

れる

ダニエル電池の亜鉛電極をこの標準水素電極につなげば亜鉛電極電位が測

定できる

亜鉛電極側では酸化反応の半反応が起きる

Zn(s) rarr Zn2+ + 2e- (1)

18

標準水素電極側では還元反応の半反応が起きる

2H+ + 2e- rarr H2

図7亜鉛電極と水素電極をつないで電池とする

25の基準状態における亜鉛電極の半反応(1)に対する平衡電位はすでに

知られている

E゜= -0763 volt

また銅板側の電極電位も同じようにして測定することができる

起きる半反応はすでに上述したが再度記しておこう

Cu2+ + 2e - rarr Cu(s) (3)

25の基準状態におけるこの電極電位はE゜=+0337 volt と知られて

19

いる

ここで亜鉛電極と銅電極の組み合わせでできる電池の最大電圧をこれらの

平衡状態における観測値から計算することができる式(18)を使って

V= E+-E- (18)

V= +0337-(-0763) = +110 volt

つまりダニエル電池で得られる最大電圧は11volt と計算できる実際に

はイオンの濃度が変化すれば反応の平衡が変化するので得られる電圧も変

化する

ここでダニエル電池で亜鉛1モルが反応するとき式(17)を使って得

られる仕事量としての電力を計算できる

W = n FV (17)

すなわちダニエル電池における電極反応は

Zn(s) rarr Zn2+ + 2e- (2)

Cu2+ + 2e - rarr Cu(s) (3)

であったから反応が進んで移動する電子はn = 2 である

1F = 96485 x 104 Cmol を適応すると

W = 2 x 96485 x 11 x 104 = 21227 x 105 Jmol = 2123 KJmol

(K = 103キロ)

すなわち亜鉛1モルの化学反応によって2123 KJmol の電気エネルギーが得

られる

水素ガスを使う燃料電池の起電力は電極の半反応から

O2 + 4H+ + 4e- rarr 2H2O (19)

25の基準状態におけるこの電極電位はE゜=+1229 volt が得られている

20

したがって燃料電池で1モルの水素が反応すれば

W = 2 x 96485 x 1229 x 104 = 2372 KJmol

すなわち2372 KJmol の電気エネルギーが基準状態で取り出せる最大電力

と計算される現在作られている燃料電池の電力は実際上08 volt ほどで

あるしたがって現実的に取り出せる電気エネルギーは 1544 KJmol の仕

事量と計算される「仕事量」という言葉については電気でモーターを回し

なにがしかの「仕事」をするなど思い浮かべれば実感できるだろう

エネルギーと熱力学 これまで述べてきたように電池は化学反応から直接電気エネルギーを取り出

す仕掛けであるダニエル電池では亜鉛と銅が酸化還元反応を起こす過程で

電子を放出するのを利用するまた水素ガスによる燃料電池は気体水素と酸

素を原料とし水が生成されるこの過程が1atm の気体原料を25(29815

K)で1モル反応させて生成物も1atm の液体の水を得るなら次の全反応に

よってすでに計算したとおり2374 KJmol の電気エネルギーが取り出せる

H2 + 12 O2 rarr H2O

圧力と温度がともに反応の過程を通じて一定の場合にその過程から取り出せ

る仕事量は熱力学的に考えることもできる

それはギブス自由エネルギーとして議論される電池で取り出した電気エネ

ルギーすなわち電力はこのギブス自由エネルギーに相当する

次に化学反応をこの熱力学の面から考えてみよう

エネルギー保存則

水素ガスを使う燃料電池のように独立した一つの仕掛けを考えこれを「系」

と呼ぶことにする系を考えるとき電池のように具体的なものを持って考え

るのが容易いのでそうすることが多い熱力学では自然界全体をあつかうので

しばしば概念的になり非現実的な記述が行われるが系の大きさや系を構成

する分子の大きさについて特定する必要はない

系におけるエネルギーを内部エネルギー熱エネルギー力学的エネルギー

の3つの要素からなると考えるこれらのエネルギーを考えるとき系の熱力

21

学的なパラメーター(変数)が必要となる熱力学的な状態はこれらのパラ

メーターのうちのいくつかを指定すれば決定される

熱力学的なパラメーターは2つに分類される

示量パラメーター(示量性変数)

系の大きさや構成する物質の量を示す体積や質量

示強パラメーター(示強性変数)

系の大きさに依存しない系における1つの点で決まった値で与え

られる圧力や温度密度など

いくつかのパラメーターで完全に決定できる状態を関数で表現することがで

きる場合があるそのような関数を熱力学的な状態関数(rarr補遺 p60)と呼ぶ

関数で状態の変化を表すことができれば数学的に取り扱うことができいろ

いろの面で便利である

一つの系についてその状態を知ろうとするとき系が熱力学的な平衡状態に

あると議論する上で都合がよい

熱力学的な平衡状態とは系を外部と独立させ長時間放置した後に達成され

る状態をいうこのとき系の状態をその外部のパラメーターで表現できる

たとえば電池を独立した系と考えるとき平衡状態に達した電極電圧を外部

においた電圧計で測定することができる

ある系を考えるとき前提としてその系はエネルギーを保有していると考える

系が独立してそこに存在するということで持っているエネルギーであるこれ

を内部エネルギーと呼ぶ系がある過程を経て状態を変えるとき系から系の

外部へ力学的な仕事をする場合には力学的エネルギーの出入りがあると考え

るまた系に熱が出入りする場合が考えられそれを熱エネルギーの出入り

と考えることにしよう

まず力学的エネルギーについて考えることにする

いま系が状態を変えその体積が増えれば系のlsquo壁rsquoがその系に接している

「外部」へ力学的な仕事をすることになる

このように系が膨張し壁が外部に向かって押し出されると考えたとき膨張

する過程における圧力を一定でpとし系が膨張した体積をΔV(膨張した分だ

けの体積増加量)とするなら系の仕事量ΔWは両者の積で表されるΔは変

化量を表すときにつける記号と決めておこう

22

ΔW = pΔV (20)

系の体積が凝縮する場合があるので仕事を記号で表す場合には注意するも

し系に接した「外部」から系に力が加わって体積を小さくしたならΔVは

マイナスとなるのでΔWもマイナスで表される

-ΔW = -pΔV (20prime)

今考えている系を「系 A」と呼びその内部エネルギーを UA外部の系を「系

B」と呼んでその内部エネルギーを UBと表すなら二つ合わせた全体の内部

エネルギーは両者の和で表すことができる

U = UA+UB (21)

この体積変化に必要なエネルギー変化量はどこから得られたかを考えれば

その変化があった「系 A」と外部の「系 B」のいずれかあるいは双方の内部エネ

ルギー変化分でまかなわれたと考えざるを得ない(図8参照)

そこでこのエネルギーの収支関係は変化分を表す記号に先と同様Δを用い

ることにすると次式のようになる

-ΔU =ΔW (22)

すなわち観察している「系 A」のエネルギーと外部の「系 B」のエネルギー

を合わせた総エネルギーを見てその微少な減少量minus ΔU が仕事をなすために

必要であったエネルギー量と考えてみることにする

ついでこの体積の変化が「系 A」に接する外部のlsquo熱rsquoによって起きたも

のと考えてみようすなわち外部の「系 B」が系 Aより高温で「系 B」によ

って系 Aが暖められたことになる

このとき移動したエネルギーを「熱量」と定義する

23

図8熱量の移動と系が外部にする仕事

「熱量」を記号Qで表すと外部の「系 B」が失ったエネルギーminus ΔUB で

ありこれが熱量であるから式で表せば次式のように書くことができる

-ΔUB = Q (23)

ここで「系 A」とそれに接する「外部 B」両方のエネルギーを合わせた総エ

ネルギーの変化量ΔUは式(22)で与えられていた

-ΔU =ΔW (22)

-ΔU =-(ΔUA+ΔUB) であるから

minus ΔUAminus ΔUB=ΔW (24)

これに式(23)を当てはめてΔUAで整理すれば

24

ΔUA= Q-ΔW (25)

この式(25)は「エネルギー保存則」あるいは「熱力学の第一法則」を数

学的に表現したものである

すなわち

独立した系を考えその状態が変化するとき系の内部エネルギーの変化量はその系に入る熱量と系が外部にした仕事との差である

式(25)にはまた重要な主張があるつまりエネルギー保存則にしたが

うとき熱量は力学的エネルギーにまた力学的エネルギーは熱量に変換しう

ることを意味している

熱量を表す単位はカロリー(cal)を用いる1cal は

1 cal = 4184 J

と換算されるジュールは 1J = 1Nm (ニュートンメートル)で仕事量を

表現する単位系で表される

エンタルピー

式(25)から定圧過程で式(20prime)を利用して次の式(26)が誘導さ

れる

Q =ΔUA+pΔV (26)

ここでQは熱量を表していたのでこの関係式(26)から熱関数として

新しい関数を定義する

新しい関数はエンタルピー(enthalpy)(rarr補遺 p63)と呼ばれ次の関数

式Hで表される

H = U+PV (27)

エンタルピーの微少変化量を記号Δを使って表現してみよう

25

ΔH = ΔU +Δ(PV) =ΔU +ΔPV+ PΔV (28)

独立した系で圧力が一定の下に起きる過程を考えるならΔP = 0 (圧力の

変化はゼロ)であるから式(28)は次のようになる

ΔH =ΔU + PΔV (29)

化学反応の過程を考えるとき系に容積の変化がなく過程の前後で一定であ

るならさらにΔV = 0 であるのでエンタルピーの変化量は

ΔH =ΔU (30)

また系の仕事を体積の変化としてみる式(20)から

ΔW = pΔV= 0

であるのでこれを式(25)へ適応すると

ΔU= Q minus ΔW = Q ΔW= 0 だから

結果的に系の圧力と体積が変化の過程で一定である場合にはその系のエンタ

ルピーの変化を表す式(29)(30)は次のように簡単な式になって熱関

数と呼ばれる意味が理解しやすいだろう

ΔH = Q (31)

独立した系に等圧等積で起きる過程を見る場合にはエンタルピーは系が外

部と交換する熱量の直接的な尺度となる

H>0 なら反応に熱を使うので吸熱反応

H<0 なら発熱反応

電池のように系に起きる化学反応で生じる電子の流れを取り出す装置を考え

る場合エンタルピーの変化を電気エネルギーとして取りだしている点に留意

26

しなければならない式(31)のようにエンタルピー変化が交換される熱

量に直接表現できるといっても必ずしも熱として取り出すとは限らないこと

を注意しよう

ところでエンタルピーは内部エネルギーと同じ次元にある状態量で定圧

変化の熱量がエンタルピー変化であるからある一点を標準として定めれば

すべての物質について任意の点のエンタルピーを変化量として定めることがで

きるすなわち化学反応の過程で発熱あるいは吸熱する熱量は反応材料と

生成物の間の状態変化に対応するエンタルピーに対応する

そこで一つの元素に対してもっとも安定な状態にある物質を標準物質とし

て定め29815K(25)1atm を標準状態としてその標準物質からある化

合物を合成するときの反応熱(発熱あるいは吸熱)をその化合物の「標準生成

エンタルピー」として定義できる多くの元素に対して標準生成エンタルピー

は現在表としてまとめられている

水素や酸素はその気体状態が標準物質でありそれらの標準生成エンタルピー

がゼロと定義される

エントロピー

もう一つ新しい状態関数としてエントロピー(entropy)(rarr補遺 p64)を

定義するエントロピーを表す記号は通常S を用いその定義は次の式(32)

による

S Q

T (32)

エントロピーは系の2つの状態が決まると状態量として決まる

このときQ は2つの状態の間を可逆的に変化したとき系が受け取る熱量

T は系が熱量 Q を受け取ったときの温度(degK)である

「熱力学の第二法則」はエントロピーに関するものである

図9では2つの系が接しておりそれぞれの温度を Thigh Tlowとする

Thigh>Tlow (33)

27

今温度の高い系から温度の低い系に直接熱量 Q が移動したとすれば温度

の高い系のエントロピーの変化量ΔS は熱量が失われるので負の値になる

図9熱の移動

そこで温度の高い系のエントロピーの変化量ΔS を式で表すことにすると

次式のようになる

Shigh Q

Thigh

(34)

一方低い系のエントロピー変化量ΔS は熱量が与えられるため

Slow Q

Tlow

(35)

両方の系を合わせたエントロピーの変化量ΔS は

S Shigh Slow Q

Thigh

Q

Tlow

lowhigh

lowhigh

lowhigh TT

TTQ

TTQ

11 (36)

式(36)の最終項で(33)を前提すなわち最初に温度の高い系は高い

と決めたのだとするならエントロピーの変化量ΔS は必ず次のようになる

28

ΔS >0 (37)

すなわち独立した系がありそれより温度の低い別の系あるいは温度の低

い外界が接した場合熱量は高い方から低い方へ移動するという自然の成り行

きを説明するものである

自然界に置いてエントロピーは

ΔS≧0

の値を取りΔS=0のときは可逆的過程である

今の例でいうなら熱は温度の高い系から低い系へ移動しその逆は起きない

常にΔS >0の方向に過程が進行するまた2つの系が同じ温度であるとき

両者は平衡状態にあって熱量の移動は見かけ上なくΔS=0と表現される

「熱力学の第二法則」はエントロピーによって表現されるもので系の変化が

可逆的であるかどうかを判定する指標であり現実の世界で起きる不可逆過程

が正の値を取る方向へ進むことを示す

あるいは系の変化が起きるとき外界を含めて考えれば総エントロピーが

増大する方向に変化が起きることを意味するというようにも表現される

ギブス自由エネルギー

熱力学の第一法則によってエネルギーの取りうる形である「仕事」と「熱」

は互いに変換されうることを理解したこのことの数量的な意味は1cal=418J

で示されるさらに仕事は100熱に変換可能であるが一方の熱はうま

くやっても100を仕事に換えることができないことを熱力学の第二法則で

説明しようとしたそのためにエントロピーという概念が導入された

ここで電池のような独立した一つの系を見るとき系の内部エネルギーの減

少を仕事として取り出しうるならそれは化学反応を一つの例としてどれほど

の仕事量が取り出せるのかはどうしたら与えられるだろうか

化学反応を電気エネルギーに換える電池では先に正負それぞれの電極におけ

る半反応の平衡電位の値を利用してその起電力に対する最大値を計算した

この化学反応から取り出しうる最大仕事量を与えるものとして新しくギブス

自由エネルギー(rarr補遺 p70)と名付け記号 G を使ってそれを次のように

定義する

29

G = H-TS (38)

H はエンタルピーである第2項にある S はエントロピーを表す

ギブス自由エネルギーは化学反応のような独立した系の定温定圧過程に適

応されるので変化量ΔG を式(38)から得ておこう

ΔG =ΔH-Δ(TS)

=ΔH-(SΔT+TΔS)

温度を一定と考えているのでΔT=0 であるから

ΔG =ΔH-TΔS (39)

この式(39)を書き換える

ΔH=ΔG + TΔS (39rsquo)

ここで定圧過程ではエンタルピーを次のように式(29)で定義できた

ΔH =ΔU + PΔV (29)

式(29)の意味するところを復習すれば

系のエンタルピー変化ΔH は内部エネルギーの変化量と系が外部に

した仕事量の和として表される

これは

定圧過程で系が得るエネルギー量から仕事量を除いたもの

と言い換えることができるエンタルピー変化量は化学反応などの過程で

始めと終わりの2つの状態の差であるからそれが正の値を示す(>0)なら

系のエンタルピーは増加することを意味しその過程が進行するためには系

の外部からエネルギーが供給されなければならない

一方式(39rsquo)の右辺第2項TΔS はエントロピーの定義(32)より

TΔS = Q (40)

であるのでこれは可逆過程で系に供給される熱量を意味する

30

もしエンタルピー変化量が負の値を示す(<0)ならば系のエンタルピー

は減少しその過程が進行することによってエネルギーが取り出せるすなわ

ち式(39)(40)から次のようにこれら3つの状態量を改めて説明する

ことができる

ある化学反応が定圧で可逆的に進行するときそれから取り出せる

エネルギーのうちΔG を仕事として放出し熱量 Q を放出する

標準状態29815K(25)1atm で標準物質からある化合物を合成すると

きの反応熱(発熱あるいは吸熱)をその化合物の「標準生成エンタルピー」

として定義した同様にある物質に対する「標準生成ギブス自由エネルギー」

はこの標準状態で標準物質からその化合物を化学反応で生成するとき式(3

9)によって与えられる変化量をいう

電池における化学反応のギブス自由エネルギー

先にダニエル電池の亜鉛板側に対する電極反応を検討したとき電極反応が

仕事として放出するエネルギーを表現する重要な式があった次の式(17)

である

W = n FV (17)

ギブス自由エネルギーを用いて今これは次のように書くことができるように

なった

W = n FV=-ΔG (41)

この式が表していることを実際に水素の燃料とする燃料電池の反応過程で見

てみよう燃料電池の図を再掲する

図中右にある陰極では水素の酸化反応が起きる

H2 rarr 2H+ + 2e- (5)

一方図では左にある陽極において次の還元反応が起きる

12 O2 + 2e- rarr O2- (6)

O2- + 2H+ rarr H2O (8)

全体の反応はすでに示したように次の反応式(7)で示される

H2 +12 O2rarr H2O (7)

31

標準状態における可逆的仕事は式(41)であらわせ

n FV=-ΔG (41rsquo)

このΔG は式(39)であらわせた

ΔG =ΔH-TΔS (39)

すなわち標準状態29815K(25)1atmにおいてある化合物を標準物

質から合成するときの標準生成ギブス自由エネルギー変化ΔG゜は標準生成エ

ンタルピー変化ΔH゜とその温度におけるエントロピー変化TΔSの差で求ま

るこれらは燃料電池の全反応を表す式(7)で与えられる

標準生成エンタルピーΔH゜変化とエントロピー変化はすでに一般的な元

素やその化合物に対して表が作成されている

液体の水に対する標準生成エンタルピーΔH゜(H2O)は

ΔH゜(H2O)=minus 28583 KJmol

また水素ガスと酸素ガスはそれぞれの元素の標準物質であるので生成エ

ンタルピー変化はゼロである

32

そこで式(7)での水を1モル化学合成するときの標準生成エンタルピーΔ

H゜は水素(ガス1モル)と酸素(ガス12 モル)の2つの材料と水(液

体251atm)の両状態における状態量の差として表される

ΔH゜=ΔH゜(H2O)-ΔH゜(H2) -12ΔH゜(O2) (42)

式(42)の右辺第2項と第3項がゼロであるので

ΔH゜=ΔH゜(H2O) =-28583 KJmol (43)

標準状態29815K(25)1atm における水素(ガス)と酸素(ガス)お

よび水(液体)のエントロピーはそれぞれ

ΔS(H2O)=6991 JKmol

ΔS(H2) =13068 JKmol

ΔS(O2) =20514 JKmol

単位で分母のKはケルビン温度の意味

と計算されているので

ΔS=ΔS(H2O)-ΔS (H2) -12ΔS(O2) (44)

=6991-13068-12times20514

=-16334 JKmol

したがって

TΔS=29815times(-16334)=-486998=-4870 KJmol

(45)

そこで標準生成ギブス自由エネルギーΔG゜は式(39)から

-ΔG゜=-(ΔH゜-TΔS) (39)

=-{-28583-(-4870)}

=+23713 KJmol

33

すなわちこのエネルギーを電気エネルギーとして取り出すことができるそ

の起電力は式(41rsquo)から

n FV=-ΔG (41rsquo)

V= -ΔG(n F)

各数値を当てはめれば

V=237130(2times96485)

=1229 volt

先に【化学反応と電気エネルギー】のところで記したとおり25の基準

状態におけるこの電極電位はE゜=+1229 volt が得られているすなわち

こうして標準生成ギブス自由エネルギーから計算することでも同じ値を得る

ことができた

水素を単純に酸素と化合させる燃焼では式(43)で示されるエンタルピ

ーが発生する熱量を示している水素1モルあたり28583 KJである電池

にすれば水素1モルあたり23713 KJの仕事量が電気エネルギーとして取り

出すことができるその差は電池の場合熱が発生して利用できない

化学反応の過程を利用して化学エネルギーから直接電気エネルギーに変換す

るのが電池という装置であるが化学エネルギーは100電気エネルギ

ーに換えることはできないこのようにエネルギーの一部は電池の熱として

発散してしまう

理想気体の状態方程式

ギブス自由エネルギーΔG を定義した式(39)とエンタルピーΔH の定義

式(28)から

ΔG =ΔH-TΔS (39)

ΔH =ΔU +VΔP+ PΔV (28)

そこで次式が得られる

34

ΔG =ΔU+VΔP+ PΔV-TΔS (46)

またエネルギー保存則から得られた式(26)を応用すればギブス自由エ

ネルギーが変形できる

Q =ΔU+PΔV (26)

から

ΔU=Q-PΔV (47)

したがって式(46)は

ΔG = Q-PΔV+VΔP+ PΔV-TΔS

ΔG = Q-TΔS+VΔP (48)

エントロピーの定義からQ=TΔSであるから結局式(48)は

ΔG = VΔP (49)

と表すことができる

成分が混合された気体分子の分子間に働く力をゼロと仮定した「理想気体」を

考えるとき状態方程式としてボイルシャルル(Boyle-Charles)の法則が

利用できる

PV=nRT (50)

ここでnは気体のモル数PVT はそれぞれこれまでと同じ圧力体積温度(ケルビン温度)でありR は気体定数と呼ばれるもので次の値を持

R= 831441 JmolK (51) 単位で分母のKはケルビン温度の意味

35

状態方程式から式(49)の右辺を導くことを考えてみよう式(50)は

1モルの気体について V に対し次のように変形することができる

V 1

PRT (50rsquo)

両辺に圧力の微小変化量⊿P をかけると

PP

RTP V (52)

これを微分方程式として圧力p0 からp1 まで(p0≦p1)積分するなら

1

0

1

0

1

0

1p

p

p

p

p

pdP

PRTdP

P

RTdPV (53)

関数 f(x)=1x を積分したときの関数はF(x)=ln(x)であるので(ln は e を底

とする自然対数loge)

右辺=0

1ln)0ln()1ln(p

pRTpRTpRT (54)

ギブス自由エネルギーを表す式(49)は次のようであったから

ΔG = VΔP (49)

式(52)から得た式(54)を当てはめると状態G0(p0T)からG1(p1T)

へ変化する過程で圧力が p0 から p1 まで変化するものとして

dGG0

G1

G( p1T ) G(p0T ) RT lnp1

p0 (55)

あるいはこれを書き直して

V

36

G(p1 T) = G( p0T ) + RT lnp1p0

(56)

特別にG0(p0T)を標準状態T=29815K(25)p0=1atmに指定する

なら標準生成ギブス自由エネルギーを記号G゜として (56rsquo)

と表すことができる

式(56rsquo)の意味するところは標準状態から圧力の変化を伴う過程で理

G(p1 T) = Go + RT ln p1

想気体のギブス自由エネルギーは圧力の対数に比例して上昇することである

このことはさらに新しい着想を生む

すなわち水素を燃料とする上の燃料電池で1atm 標準状態の水素ガスの圧力

を2atm に上げれば式(56rsquo)からRTln2 余分にギブス自由エネルギー

が取り出せることになる

燃料電池において起電力を生むエネルギーは隔壁を水素イオンもしくは酸

素イオンが浸透しようとする力であるので1atm の水素ガスと2atm のそれで

は浸透しようとする圧力が異なりここに起電力が生じる

式(56)の第二項が圧力の差による仕事であるからこれをΔG とすれば

W=-ΔG の仕事量が電気エネルギーとして取り出せるはずである

W = minusΔG = minusRT lnp1p0

(57)

起電力に換算するために式(41)を使うと

W = n FV=minus ΔG (41)

から

01ln

pp

nFRTV ⎟

⎠⎞

⎜⎝⎛minus= (58)

この式(58)は一般にネルンスト(Nernst)の式と呼ばれる

37

理想溶液のギブス自由エネルギー

理想気体を想定したように無限に希釈された混合溶液に対して理想溶液を仮

定する「系」の圧力温度を一定に保つならば体積内部エネルギーエンタ

ルピーギブス自由エネルギーなどの示量数は混合溶液を構成する物質のモ

ル数mに比例するたとえば標準状態にある物質の1モルの体積をVとすれば

mモルの体積はそのm倍mVであるそうすると溶液中のi番目の成分がmi

モル「系」から「外界」に仕事をするときその成分iの持つ自由エネルギーの

mi倍の仕事が「外界」になされると考えればよい

この溶液成分のモル数と化学的仕事を結びつける示強因子がギブスによって

化学ポテンシャルと名付けられ一般に記号μが用いられる

化学ポテンシャルはこれまで見たようにギブス自由エネルギーで表される

また電位がψ(プサイ)にある系から-Δeの電荷が放出されるときには

-ψΔeの電気的仕事が得られるそこで記号μに両者を合わせた意味を持

たせて「電気化学ポテンシャル」と呼ぶ

概念の上で物質は電気化学ポテンシャルの高い方から低い方へ勾配にした

がって移動する

理想気体の標準状態が気体分圧を T=29815K(25)で 1atm としたのに対

し溶液成分の標準状態はその分圧に相当するモル数 m を用いるすなわち

標準状態にある成分 i の電気化学ポテンシャルμ0iは成分の持つ電荷(H+なら

1)を n として

μ0i = G i゜+nFψ i (59)

ギブス自由エネルギーは式(56rsquo)を借り理想溶液中の成分に対しては気

体圧力をその成分のモル濃度Cに書き換えればよいそこで

G(CT ) G RT lnC (60)

と表すことができる

したがって一般的な成分 i の電気化学ポテンシャルμiを表す式は標準状態

からの自由エネルギーの変化を考え式(59)と合わせて次のようになる

38

ψnFGii 0

式(60)から

ii CRTGTCGG ln)( 0

よって

(61) ψnFCRT iii ln0

実際的なことを考えると成分濃度はその有効イオン濃度とする必要があり

「活量係数」γを導入して次式で表されるイオン活量aを用いる

ai = γCi (62)

一般的にはγ=1と近似してモル濃度Cを使っているこのテキストでも

必要ではない限りイオン活量を用いることを省略して簡単に記述したい

膜電位

燃料電池に使われたナフィオンのような一つのイオンを通す膜を介して膜

の両側にC0 とC1 のイオン濃度差がある溶液が接するときの電気化学ポテン

シャルを考えよう

ある容器の底にナフィオン膜を取り付け容器の中と外のイオン濃度をC0

とC1としそれぞれの電気化学ポテンシャルをそれぞれμinとμoutとする

式(61)を使って

容器の中の電気化学ポテンシャル

(63) innFCRTin ψ 00 ln

容器の外の電気化学ポテンシャル

(64) outout nFCRT ψ 10 ln

イオン浸透性の膜を介して濃度変化が無視できるほどの移動があると考え

その電気化学ポテンシャルの差を式(63)(64)から求めれば

39

)(ln0

1 inoutinout nFC

CRT ψψ (65)

この系において今注目しているイオンが膜を介した両側で平衡状態にある

とき式(65)はΔμ=0と考えることができるすなわち

0)(ln0

1 inoutnFC

CRT ψψ

膜内外の電位差をΔψ=ψoutminus ψinとすれば

1

0

0

1 lnlnC

C

nF

RT

C

C

nF

RTψ (66)

式(66)は理想気体に対するネルンストの式(58)と同様溶液中のイ

オンに対するネルンスト(Nernst)の式として与えられる

細胞の膜においてもその生体膜の内外でたとえばカリウムイオンのように

非対称に分布して平衡に達している場合には式(66)で与えられる膜内外

で電位差が生じるこれは一般に膜電位と呼ばれる膜電位は平衡電位とも

呼ばれる

たとえば膜内外に1価のカリウムイオンに10倍の濃度差があるとすると

通常カリウムイオンは細胞内の濃度が高いので

C0 = 10timesC1

であるから

これを式(66)に当てはめてln(10)=2303 を用いlog への変換をすれば

Δψ=2303times(RTF)timeslog(10)

であるこれに R=831441 JmolKF=96485 CmolT=29815 K(25)

の各数値を当てはめると

Δψ=2303times831441times29815times196485 JC

=+005917 volt

すなわち膜の内外で約+60ミリボルトの膜電位が生じることになるこの

分だけ細胞の外側の電気化学ポテンシャルが高く膜の内側の膜電位が負であ

るそして膜にあるカリウムチャネルがこの電位を示すとき受動的なカリ

40

ウムの膜内外の移動は平衡に達することになる

水素イオン濃度測定

「標準水素電極」は1モル塩酸溶液につけた白金電極に1atm の水素ガスを

吹き込んで平衡状態に達したときの電位を基準としてゼロボルトと規定した

そこである溶液についてその水素イオン濃度を知ろうとするとき同じ水

素電極を用いることを考えれば標準状態にする目的で用いた1モル塩酸溶液

を濃度未知で X モルの塩酸溶液と想定すればその水素イオン濃度を知るこ

とができるだろうか

標準状態ではない X モルの塩酸溶液に浸けた白金電極が半電池として働くこ

とは間違いなさそうであるしかしその白金電極が持つ電極電位を測定する

にはいずれにしても標準電極と組み合わせて「電池」を構成しその電池

の起電力として計る必要がある電池を作れば起電力を知ることができ相

手の半電池の電極電位が知られていれば濃度が未知でXモルの溶液について

その水素イオン濃度を知ることができるだろう

こうした目的のためにいちいちゼロボルトと規定した標準水素電極を用いる

のは煩雑なのでしばしば後出の「銀塩化銀電極」が参照電極として用いら

れる

まず予め「銀塩化銀電極」を標準水素電極と組み合わせて電池とし一度

その起電力を測定しておけば後はいつもそれを標準電極として利用できる

「銀塩化銀電極」の半電池は

H+ (1 moll) Cl- | AgCl | Ag(s)

これに「標準水素電極」を組み合わせ電池を構成すると次のような電池

になる

Pt(s) | H2(g) | H+ (1 moll) Cl- | AgCl | Ag(s)

この電池の起電力を知れば「銀塩化銀電極」の半電池としての電極電位

を知ることができ参照電極として未知の半電池と組み合わせて起電力を測

定して相手の電極電位を計算できる

41

濃度 X モルの塩酸溶液を未知の溶液と想定すればその電極電位を知るために

組み立てる電池は次のようになる図10にその電池の図を示した

Pt(s) | H2(g) | H+ (x moll) Cl- | AgCl | Ag(s)

この電池の全反応は次の反応式で表される

AgCl(s) 1

2H2 (g) H Cl Ag(s) (67)

図10未知溶液の水素イオン濃度を測定しようとするための電池

化学反応の一般的な式

ここで電池に利用される化学反応から得られるエネルギーをギブス自由エ

ネルギーに換算し起電力を具体的に知る手だてとすることは上ですでに学

42

んだがより一般的な式を再度ここに書きだしておこう

化学反応が紙面で左から右に進む反応として次のような一般式で与えられ

るとき

aA + bB rarr cC + dD (68)

ギブス自由エネルギー変化量は標準状態ΔG゜からの変化量を加える形で式

(60)と同様次の式によって表される

G G RT(ln aCc aD

d ln aAa aB

b )

G RT ln

aCc aD

d

aAa aB

b (69)

aAは成分 A のイオン活量であるその他の成分も同じ

得られたエネルギーを電気エネルギーに換えるなら式(41)に習って

次式で表せば

ΔG=-n FV

there4V=-ΔG(nF) (70)

このときの起電力は標準状態における電位 E゜からの変化量として次式で与

えられる

E E

RT

nFln

aCc aD

d

aAa aB

b (71)

標準状態における起電力 E゜は反応が平衡状態にあるときで反応平衡定数

を K とするなら

K aC

c aDd

aAa aB

b (72)

で表されるそこでE゜は次のように書き改めることができる

43

E

RT

nFln K (73)

そこで式(67)で表される図10の電池「水素minus 銀塩化銀電池」に

対する起電力をギブス自由エネルギーから求めてみよう

反応から式(71)に当てはめれば

E E RT

Fln

aH

1 aCl

1 aAg1

aAgCl1 aH2

1

2

(74)

力学の慣例にしたがって固体の純物質の活量は1として扱い水素ガスを

想気体として見なして活量を1atm とするなら式(74)は次のよう

に簡略化される

E E

RT

Flna

H aCl (75)

ころで理想溶液として近似的に取り扱うときの希薄溶液でたとえば水素

入して詳細に検討するなら式( れる起電

オン濃度はイオン活量として aH+の記号を使うときすでに【理想溶液のギ

ブス自由エネルギー】の章で述べたようにこれを有効イオン濃度とする必要

がありイオン活量 a は「活量係数」γを導入して次式で表した

a H+= γH+CH+ (62)

この活量係数を導 75)で誘導さ

を計ることによって経験的に試料溶液中の水素イオン濃度を求めることは

困難である式(75)にあるイオン活量の項はモル濃度 C と活量係数γを

用いて次式で書き改められる

lnaH aCl

lnCH CCl

lnH Cl

(76)

まり式(76)右辺の第二項において互いに相手が知られなければ自分

決めることができず結果的に起電力を知っても(75)の値から水素イオ

ン濃度を導けないここに工夫が必要になる

44

の定義とその目盛り

液中の水素イオン濃度を直接意味するものではなく

を定義するとき測定されるのは1リットルの溶媒に存在す

pH = -log a H+ = -log(γH+CH+) (77)

際に試料溶液の pH を決定する際はpH 標準液を用いる

に溶液を入れ試料溶液 X と pH 標準液 S を

参 極を接続し電池を作成しその起

pH

現在pH の定義は溶

で述べたようにそれが簡便に測定できるものではないため次のように定

義されている

水素イオン濃度

水素イオン活量であるため定義式としては活量係数をγH+として次式で与

えられる

その要領は次のようである

上に図示した水素電極の容器内

れぞれ半電池(I)と(II)に入れる

半電池(I) Pt | H2 (1 atm) | 試料溶液

半電池(II) Pt | H2 (1 atm) | 試料溶液S

照電極として上図のごとく銀塩化銀電

電力を測定する半電池(I)のときの起電力を E(X)半電池(II)のそれを E(S)

とするこのとき試料溶液Xの pH は次式で計算される

pH (X) pH(S) E(S) E(X)

RT ln(10) (78)

ln(10)は自然対数を常用対数に戻すための定数で2303 を用いる

標準液

pH 標準液 S はpH 第一次標準液第二次標準液と呼ばれるべき

る測定

25で pH 4005 を示す

pH

上述した

のであり絶対的測定法である起電力の測定によって値をつける

標準液は安定で純粋な結晶が得られる試薬を調整してこれを測定す

上と同様に水素電極を用いこれに緩衝液を入れる参照電極として銀

塩化銀電極を接続して電池の起電力を測定する

たとえば005 moll フタル酸水素カリウム溶液は

一次標準(Primary Standard PS)の一つである半電池(III)として水素

45

電極を次のように準備する

半電池(III) Pt | H2 (1 atm) | PS 溶液

て電池を形成したとき得られる起電

参照電極として銀塩化銀電極を接続し

は式(75)から

E E

Ag AgCl RT

Flna

H aCl (79)

オン活量を濃度と活量係数の積(a H+= γH+CH+)にし自然対数を常用対数

すれば

E E

Ag AgCl RT ln(10)

F log(

H + CH+ Cl- CCl - ) (80)

E゜は水素標準電極(水素ガス分圧を1atm電極を浸ける溶液に001 moll

H

Cl を用いる)で得た起電力である

式(80)から

RT ln(10)

Flog(

H CH Cl

) (E EAg AgCl )

RT ln(10)

Flog C

Cl

(81)

らに

log(

H CH Cl

) F

RT ln(10)(E E

Ag AgCl ) logCCl

(82)

ころで式(77)から

(γH+CH+) (77)

-log a H+ =-loga H+-log(γCl-) +log(γCl-) =-log(a H+γCl-) +log(γCl-)

(83)の一番右の式で第一項は

pH = -log a H+ = -log

であるが右の式をさらに変形すると

(83)

46

-log(a H+γCl-)=-log(γH+ CH+γCl-) (84)

たがって式(82)の右辺で示されるように電池の起電力を測定すれば

よ 実際には溶液の塩素イオン濃

液で起電力を求め外挿する

起電

これによってpH を意味する式(83)は次式(85)で与えられる

p(aHγCl)はRG Bates によって Acidity Function と呼ばれている

らに式(85)最終項の log(γCl-) を補正しなければならないこの項は

本工業規格)によっても

であってこれは式(82)の左辺である

いただし塩素イオン濃度の項があって

をゼロにしたときの値が必要である

実測する際には塩素イオン濃度をゼロにできないので塩化ナトリウム NaCl

等を濃度を変えて添加しその時々の緩衝

勧告ではNaCl で 000500100015moll の3つの濃度を例示している

すなわち塩素イオン濃度ゼロのときの値は各塩素イオン濃度に対して

の値をそれぞれプロットしグラフから塩素イオンがゼロのときの起電力の

値を3点に対する回帰直線の延長で外挿して求めるこの点を次のように書

log( C H H Cl CCl

0

pa log( C log( (85) H H H Cl C

Cl0 Cl

)

素イオンの活動係数で与えられる補正項である

無限希釈溶液中のイオンの活動係数は理論的に Dubye-Huckel の式を用い

近似的に求めることが可能であるこれはJIS(日

用されていて Bates-Guggenheim の規約と呼ばれる (Bates RG

Guggenheim Pure Appl Chem 1 163-168 1960)

Dubye-Huckel の式は次のように与えられる

log A I

i 1 iB I (86)

47

I iについてそのモル濃度

計算される

はイオン強度でイオン mi と電荷 zi から次式で

I 1

2mizi (87)

また iは(86)式のBは温度と溶媒の性質による定数であり イオンの大

きさに関するパラメータで水和イオンの大きさとほぼ一致した値をとる標

準法の勧告では塩素イオンに対しイオンの大きさを46Åと決めてiBを

1

5 にしているそこで式(84)は次のようになる

ClA I

log 1 15 I

イオン強度 I は塩素イオン濃度を含まない計算となる

以上の方法によって実用的な pH 測定に用いられる第一次第二次標準液の

pH の値が得られる

絶対値としての

はpH の絶対測定法(第一次標準測定法)とされている

銀塩化銀参照電極は分極現象を防ぐために棒状の銀を塩酸で処理し表

に塩化銀を生成させたものを飽和塩化カリウム溶液につけてある

(88)

参考現在は実験的に求めた値と理論値の組み合わせで

素イオン濃度を求める方法を規定しているこの起電力から水素イオン濃度

を知るための測定方法

Buck RP Rondinini S Covington AK Baucke FGK Brett CMA Camoes MF

Milton MJT Mussini T Naumann R Pratt Kw Spitzer P Wilson GS

Measurement of pH definition standards and procedures Pure Appl Chem

74(11)2169-2200 2002Kristensen HB Salomon A Kokholm GInternational

pH scales and certification of pH Anal Chem 63(18) 885A-891A 1991)

銀塩化銀参照電極

電極の構成は

Cl-(aq) | AgCl(s) | Ag(s)

48

この半反応は次のようになる

AgCl(s) + e- rarr Ag(s) + Cl- (89)

の反応は次の2つの反応に分けて考えることができる

Ag+ + e- rarr Ag(s) (91)

AgCl(s)rarr Ag+ + Cl- (90)

図11銀塩化銀参照電極

(90)における銀 る塩素イオンによって左

されることが推測される

そこでカッコ [ ] をそれによって囲まれるイオンの濃度を表すことにし

式 イオン Ag+の溶解性は共存す

塩化銀の乖離定数Kを考えると

49

K = [Ag+][Cl-] (92)

これから

[Ag+]= K[Cl-] (93)

化カリウム溶液に漬けた銀塩化銀電極の電位 E は水素標準電極に対する

電 で与えられる

位を E゜として次式

E E

RT

nF

[ Ag ]

[Ag(s)]ln( )

Ag(s)のイオン活量は常に1とする

ここで半反応の電極電位を求めるために式(75)を利用することにすれば

(94)

熱力学の慣例にしたがって純物質個体

E E

RT

Flna

H Cl a (75)

式 の半反応をみると

応で電子1つが移動するので n=1 とするR=831441 JmolK1F = 96485

C はめれば

これに銀イオンの濃度として式(93)を当てはめる

この反応で移動する電子は (89) 銀イオン1つの反

molT=29815K(25)ln(10)=2303などの定数を当て

2303RTF = 005917

であるから(94)式は次のように表現できる

log[Cl]) E E 005917(logK (95)

たがって標準水素電極に対する銀塩化銀参照電極の標準状態における電

位 は半反応(89)に対して ゜=+0799で

化銀の乖離定数 K は182times10-10 であるのでその対数を取れば-973993

0799-005917times973993-005917log[Cl-]

E゜ E ある

ある

そこで式(95)は

E =

50

= 0799-0576-005917log[Cl-]

= 0223-005917log[Cl-] (96)

電極電位の関係について実測値

こうして求めた塩化カリウム溶液の濃度と

計算上の値は次のようである

KCl moll vs SHE volt25 計算値 volt25 01 02881 02822 35 0205 01908 飽和 0199 minus

実用 測定

実際の現場で水素イオン濃度を測定する目的の測定法で上のような2つの

極が同じ溶液に浸かっていたのでは試料溶液を交換するにも便利ではない

の容器に入れる未知試料溶液と銀塩化銀電極を隔離する

的な pH

そこで水素電極側

的で二つの電極容器をつなぐ液絡部をグラスフィルターやセラミック板

飽和塩化カリウムで作成したゼラチンなどの塩橋によって隔離遮断するこ

れを液絡部とよぶ

電池として機能するために必要な溶液イオンの交換はこの液絡部で行う

組み立てる電池は電池式で次のように表される

Pt(s) | H2 | 試料 (H+ x moll) || 飽和 KCl | AgCl | Ag(s)

の標準電極と銀塩化銀電極とは区切られていて溶液の直接の接触がない

とを意味するために電池式ではタテ二重線を用いる銀塩化銀参照電極

の容器には飽和塩化カリウム溶液が入れられる

51

図12液絡部のある pH 測定のための電池

この液絡部のある電池では塩橋を記号lsquo | | rsquoで表して次のように記す

試料 (H+ x moll) | | 飽和 KCl

ここでは試料溶液と飽和塩化カリウム溶液の異なる2液が接している

このような界面では膜電力が生じるのと同様「液間電位差」が生じることが

知られているしたがって上の電池で測定される起電力 E は

E = E[銀塩化銀電極電位]+E[液間電位]+E[水素電極電位]

で与えられることになってE[液間電位]のために図12の電池の起電力

は銀塩化銀参照電極の値を知っていても水素電極容器内に入れた未知溶

液の水素イオン濃度を正しく知ることができない

52

そこで実用的な測定法としてこの E[液間電位]を膜電位として積極的に利

用する方法が工夫されたすなわち水素イオンに感応するガラス薄膜を用い

るガラス電極法である

53

ガラス電極

ガラスはケイ素原子と酸素原子からなる SiO4 の結晶構造を持ち酸素で囲

まれた空隙があって水素イオンがそれを埋めることができる

この性質によってガラス膜表面は水溶液中の水素イオンに応じて膜電位を

変化させるのでこれを水素イオン濃度測定用の電極として利用することが考

えられるこれが通常用いられるガラス電極である

ガラス電極は標準電極と組み合わせれば電池を構成することができこの電

池の起電力を知ってガラス薄膜の内外にできたイオン濃度勾配を知ろうとす

るものである

薄いガラス膜(01mm程度)をはさんで接する2つの溶液のH+イオン濃

度が異なるとその差に応じてガラス膜の両側に電位差(Eg)が現れる

ネルンストの式でガラス電極の内部に入れた既知の濃度のH+([H+]in)に対

し試料中の水素イオン濃度が[H+]sampleのとき次の電位を生じる

)][

][log(059170)

][

][ln(

sample

in

sample

ing

H

H

H

H

F

RTE

(97)

図13ガラス電極

電極を構成するのは銀塩化銀電極と同じ電極で用いる塩溶液は一般的

54

に 01モル塩酸溶液である

この半電池の電池式は次のように書くことができる

Ag(s) | AgCl(s) | HCl (01 M) | ガラス薄膜 || 試料溶液 H+ (x moll)

Eg

この半電池の電極電圧を測定するために銀塩化銀標準電極と組み合わせ

電池を作って起電力を計る

構成される電池は下図のようになる

ガラス電極 銀塩化銀標準電極

図14ガラス電極を用いた pH 測定用の電池

この電池の起電力は次の各半電池の平衡電位を合わせたものになる

55

E1ガラス電極の内側電位

Ag(s) | AgCl(s) | HCl (01 M)

Egガラス薄膜の内外に生じる膜電位

HCl (01 M) | ガラス薄膜 || 試料溶液 H+ (x moll)

E2液間電位(膜電位)銀塩化銀標準電極のセラミックを介した試料溶液

と銀塩化銀標準電極の内部液(飽和 KCl 溶液)の間に発生する電位

試料溶液 H+ (x moll)|| セラミック | KCl(飽和)

E3銀塩化銀標準電極

KCl(飽和)| AgCl(s) | Ag(s)

pH メーター用のガラス電極に使われるガラス薄膜は水素イオンに感応して

膜電位(Eg)を生じるこれは【膜電位】の章で記したように薄膜がある

一つのイオンのみを通過させる特性を持っている場合にイオンが膜を介した

両側で平衡状態に達したとして電気化学ポテンシャルを膜の両側で等しいと

考えてそのイオンが濃厚な側から希薄な側にその差によって圧力を生じると

するものである

一方同じ試料溶液が銀塩化銀標準電極のセラミック液絡部を介して生じ

るだろう液間電位(膜電位E2)はいま関心がある水素イオンに対して特異

的に感応するのではないので試料溶液の水素イオン濃度に関係なく一定と見

なすことができる

すなわちpH メーターを構成する電池の起電力 E は

E = E1+Eg+E2+E3 (98)

このうちEg以外は一定と見なせるので

E1+E2+E3 = E

として式(98)を書き直すと

)][

][log(059170

sample

ing H

HEEEE

(99)

Eは標準液によって校正されるべき標準電極電位である

56

電極の校正

実際のイオン濃度を測定する場合低濃度標準液と高濃度標準液で得られ

る起電力を測定し計測のイオン濃度に対する係数(傾き)を求めておき未

知の試料に対して起電力を測定してそのイオン濃度を算出する方法が採られる

低濃度標準液と高濃度標準液のそれぞれの濃度をCLとCHとすればそれぞ

れの起電力ELとEHは次式で表される EH = E +β logCH (100)

EL = E +β log CL (101)

ただしβは式(99)の係数を簡略にしたものである

式(100)と(101)から検量線の傾きが次式で表せる

ΔE = EH minus EL = β(logCH minus logCL) = β logCH

CL

(102)

したがって係数βは

β =ΔE

log CH

CL

(103)

であらわされる

このときに使われる標準はすでに前出の pH 第一次標準第二次標準溶液で

ある

金属イオンに対応するイオン選択電極

現在臨床検査で日常的に使われている電解質測定のための電極はナトリウ

ムカリウムカルシウムクロールなどおよそ臨床的に必要な金属イオン

に対して入手可能である

カリウムイオン測定用のバリノマイシンの発見によってクラウンエーテルと

57

呼ばれる一連の化合物が知られたクラウンエーテルはその分子の中心に立

体的な空間を持ち特定のイオン径に対し合致するのでそのイオンに対して

選択的に感応するこれらの化合物はイオノフォアと呼ばれる

図 15クラウンエーテル

1つの金属イオンが環状化合物

15-crown-5 の中央にある空間を充填

している模式図

15-crown-5 の構造を作る10個の黒

い丸は炭素炭素2個のつながりごと

にある中心の白い丸は酸素酸素と

金属イオンの間の距離はおよそ 22~

23Åであるカリウムのファンデン

ワールス半径は 135Åイオン半径は

15~16Åである

測定したいイオンに対しポリ塩化ビニル(PVC)を支持体としてイオノフ

ォアを添加した液膜の電極膜を作成しこれをガラス電極におけるガラス薄膜

と同様試料に接する電極膜として用いるこの構造から一般的に液膜型電極

と呼ばれる電極膜には特異性を高めるため妨害イオン排除剤などが添加

される

pH メーターと同様銀塩化銀標準電極と組み合わせ電池を形成しその

起電力を計る測定したいイオンが液膜に対して内外で平衡に達したときの

膜電位を測定するのはガラス電極と同じである

カ リ ウ ム イ オ ン に は Bis[(benzo-15-crown-5) ( 正 式 名 は

Bis[(benzo-15-crown-5)-4-methyl]pimelate)ナトリウムには Bis[(12-crown-4)

やDibenzyl-bis[(12-crown-4)などがイオノフォアとして用いられる

58

図16カリウムイオン測定用に使われるクラウンエーテル

図17ナトリウムイオン測定用に使われるクラウンエーテル

59

参考イオン選択電極に関する文献Xia Z Badr IHA Plummer SL Cullen L

Bachas LG Synthesis and evaluation of a bis(crown ether) ionophore with a

conformationally constained bridge in ione- selective electrodes Anal Sci 14(2)

169-173 1998 Oh K-C Kang EC Cho YL Jeong K-S Y oo E-A Paeng K-J

Potassium-selective PVC membrane electrodes based on newly synthesized

cis- and trans-bis(crown ether)s ibid 14(10)1009-1012 1998 Dojindo WEB

site httpwwwdojindocojpwwwrootproductsjinfo2protocolp31pdf

<補遺> 60

補遺 状態関数 (本文 p21 10 行目参照)

一つの平衡状態にある系 A とこれに接する系 A にとって外部である系 B について系 B

から系 A に熱を与えこれによって系 A が他の平衡状態に移ったとき系 A はその結果とし

て膨張し系 B に対し仕事をする

このときの微少な熱量の移動を記号drsquoQ またなされた微少な仕事をdrsquoW とすると

系Aの内部エネルギーに関する微少な変化drsquoUA は両者の和として表される

WdQdUd A primeminusprime=prime (a-1)

この式 a-1 と本文中の式25との関係について

WQU A Δminus=Δ 本文(25)

<補遺> 61

式 a-1 と式25の記号の違いは変化の起きる前の平衡状態 S1 から変化後の平衡状態 S2

に状態変化があったとするなら式 a-1 を積分することで式25が得られるものと考えて区

別している

A

S

S A UUd Δ=primeint2

1 (a-2)

このことは重要であるすなわち内部エネルギーU は変化の起きる前後の状態を指定する

ことによって値が定まることを意味するこのように積分によって値を定めることが出来る

のでdrsquoU は完全微分であるという

内部エネルギーのように系の状態だけで値の定まる量を状態関数として扱う

一方式 a-1 のdrsquoQ drsquoW についても同様に微少の変化量を表しているが平衡状態 S1

から S2 への経路を指定しなければ積分の値は定まらない

本文中の記号にしたがって仕事量ΔW を次のように表すことにする

VpW Δ=Δ 本文(20) V

<補遺> 62

体積と圧力の関係を表す図を使ってこの仕事量が意味することを考える圧力 prsquo の下で

体積が V1 であるときを状態 S1 として圧力一定の下で体積を V2 まで膨張させるような変

化を行った後体積を等しく保って圧力を p にまで上げたときの状態を S2 とするこのとき

の仕事量は膨張に伴うものであるから図の体積‐圧力線の下の面積で示すことができる

平衡状態 S1 から S2 への変化の道筋を別にたどってみよう

新しい経路では圧力を先に p まで上げた後に膨張変化させている

図から直感的に明らかであるので数式での扱いを省略するが2 つの経路による仕事量には

差がある

すなわちdrsquoW は drsquoU と異なり変化の初め S1 と終わり S2 の状態が与えられても積分値

は定まらず変化の経路によって違ってくる

このように変化の経路を指定しなければ積分値が定まらないものを不完全微分と呼び扱

いを区別する

本文 p21 へ戻る

<補遺> 63

VpW

WQU

VpQU

VpUQ

1122 SSSS pVUpVUQ

pVU

VpUHHHQ SS 12

エンタルピー (本文 p24 20 行目参照)

本文中の式 20 および 25 から一定の圧力の元で起きる状態変化において内部エネルギー

の変化量に対する式 a-3 を得る

本文(20)

本文(25)

(a-3)

式 a-3 を Q について書き直す

(a-4)

状態の変化が平衡状態S1から平衡状態S2に移ったものとして式 a-4を丁寧に書き直すと

(a-5)

並び替えて

(a-6)

式 a-6 を見ると定圧過程における熱量の流入は

(a-7)

の形を持つ関数の差であることが分かる

一般に化学反応のような変化の過程では大気圧の下で行われるようなものに興味がある

そこで式 a-7 で与えられる項を一つの関数として定義するこれをエンタルピーと呼び記

号 H を与える式 a-4 はエンタルピーの変化量で次のように書き改められる

(a-8)

圧力が一定の下で起こる状態変化について流入する熱量は式 a-8 で示されるようにエンタ

ルピーの変化量に等しい

V

V

V

V V

V

V

1212 SSSS VVpUUQ VV

<補遺> 64

1Q

We

また式 a-8 からオートクレーブ内で起こるような体積変化のない過程ではこの値が内

部エネルギーの変化量で与えられることが明らかである

本文 p24 へ戻る

エントロピー (本文 p26 17 行目参照)

エントロピーは次のような思考実験から発想された仮想的な状態関数である

理想気体よりなる系 A が温度 T2で熱平衡状態にあり温度 T1の外部の熱源と接しているこ

とを想定する系 A の外部を系 B と呼ぶことにするT1は T2に対して無限小だけ高い温度と

する

系 A が系 B に対して温度圧力について平衡を保ちながら緩慢に系 B より熱量 Q1を受け取

る過程を考える(このような過程を準静的過程と呼ぶ)これによって系 A が熱量 Q1を得て膨

張するとき系 B に対して仕事をする続いて系 A から熱量 Q2が系 B に戻ることを考える

想定されるこの変化が可逆的であれば系 A と系 B を併せた全体は元の状態に戻る蒸気機

関に関するこのような研究が Nicolas Carnot によってなされたのは1824 年のことであった

ここに想定されたサイクルに対する Carnot の効率 e は移動した熱量となされた仕事によ

って定義され次の式で表される

(b-1)

<補遺> 65

理想気体では内部エネルギーU の変化ΔU はゼロと考えるしたがって熱力学の第一法

則を表す式(本文中の式25)から次の関係が示される

0=Δminus=Δ WQU

WQ Δ= (b-2)

これによってCarnot Cycleの効率eはQ2lt0 として次のように書き改めることが出来る

1

21

QQQe +

= (b-3)

ところで気体の状態方程式から1 モルの気体について次のような関係が示される

RTV

P

P1=

V = RTV (b-4)

V 式 b-4 の両辺に体積の微少変化量ΔV をかけて

(b-5)

これを体積Vについてその変化をV1からV2までとして積分するならば次式が得られる

VV

RTVP Δ=Δ 1V V

V

intint = 2

1

2

1

1V

V

V

VdV

VRTPdV

1V2V

11 lnRTW =

(b-6)

Q1の熱量によって起こる膨張がV1よりV2までとし圧力P温度T1の下でなされるその仕事

量をW1とするならそれは式b-6 の右辺によって示されるすなわち

(b-7)

VV

1

2lnVVRT=

V V

VV

V

V2int V2 intV1 V1

<補遺> 66

またQ2の熱量の移動が圧力P温度T2の下で起きこれによって系Aが可逆的に圧縮され

るなら体積変化はV2よりV1まで起こりその仕事量をW2で示すと次式のように表される

(b-8)

1

22

2

122 lnln

VVRT

VVRTW minus==VV

VV

Q1=W1Q2=W2の関係から式b-7 およびb-8 を用いてCarnot Cycleの効率eを表す式b-3

を書き改めると温度のみの関係式として次のように表される

1

21

TTTe minus

= (b-9)

ここでサイクルが可逆的過程であると想定するならば式 b-3 と式 b-9 から

1

21

1

21

TTT

QQQe minus

=+

= (b-10)

これから

12112111 QTQTQTQT minus=+ (b-11)

整理すると

02

2

1

1 =+TQ

TQ (b-12)

この考えをさらに発展させ系A

と系Bの間に数多くの系を挿入すること

にしてそれらの系を同様に熱源として

T1T2Tnと考えるこれによっ

て熱の受け渡しが系Aから系Bに至り

再び系Aにもどるサイクル過程に数多

くの寄り道の過程を加えることになる

熱量の移動に関して上の場合と同じく

準静的過程で行われると考えるこの

サイクル全過程について初めと終わ

<補遺> 67

n

i i

i

T

Q

1

0

0T

dQ

T

QS

T

dQASAS )()( 12

りが同じ状態になる可逆的な過程であるなら式 b-12 を拡大的に考えることになってそれ

は次式で表される

(b-13)

式 b-13 には重要な関数が現れるすなわち熱量と温度の比QT である

もし一つの系が無限小だけ温度の高い(dT )外界から温度圧力など平衡を保ちなが

ら極めて緩慢な過程(準静的過程)で無限小の熱量(dQ )を受け取るならばその変化は可

逆的でありdT について連続的な温度分布をする過程を考えるとき式 b-13 をさらに発展

させて次のように積分式で示すことが出来る

(b-14)

式 b-14 で積分記号にが付されているのはCarnot Cycle のような経路を一巡することを

意味している

Carnot の熱機関の効率という着想から生まれた熱量とそれを持つ系の温度との比 QT に

重要な意味を見出したのは Rudolph Clausius で彼はこの比にエントロピーという名前を与

えたエントロピーには記号ΔS を一般に用いる

(b-15)

エントロピーは初めと終わりの状態がわかれば過程に関わらず定まるので状態関数であ

系 A と外界のエントロピー変化を考えるときそれが可逆的過程であるならばすべてを併

せた全体のエントロピー変化は初めと終わりに変化がないという意味でゼロであるすなわ

ち初めの状態を S(A1)とし次の状態を S(A2)とするならそれぞれのエントロピーを

ΔS(A1)ΔS(A2)としてこの間におけるエントロピーの変化量は次のように示される

(b-16)

<補遺> 68

T

dQdS

0T

dQ

ある一つの変化については次のように示される

(b-17)

ここで式 b-17 の S に付けられたdは微分量すなわちごく微小の変化量を意味し式 b-15

で定義されたエントロピーに用いられる一般的な記号Δと区別する

ところで式 b-10 の関係においてもし移動した熱量のすべてが仕事に変わらなければ

効率 e を表す熱量を用いた関係式と温度で表される関係式は等号で結ぶことができないそれ

はエネルギーのロスを意味し初めと終わりの状態が異なってしまうことを意味するすなわ

ち全過程が構成する一つのサイクルは可逆的でなくなる

不可逆過程での熱効率 ersquo は 大値を示す可逆的過程の熱効率 e より小さな値をとる

ee

したがって 大効率を与える式 b-8 と式 b-3 から

01221

2112

1

21

1

21

QTQT

QTQT

Q

QQ

T

TT

両辺を T1T2で割ると

02

2

1

1 T

Q

T

Q

これを式 b12 と同様に発展させれば式 b-14 についてサイクルの変化が可逆的過程の

場合と不可逆的過程の場合の両方を併せClausius の不等式と呼ばれる次の関係が成立する

(b-18)

式 b-18 の等号が成立するのはサイクルが可逆的な理想の場合に限られる

ある孤立系で状態 A1 から状態 A2 へは不可逆変化で進められ状態 A2 から再び状態 A1

に戻るとき可逆変化であるような閉じた状態変化を考える可逆系のエントロピー変化には

記号 Q を使い不可逆変化には Q を用いるとするとそれぞれ積分式を用いて状態 A1 から

状態 A2 へは

<補遺> 69

d prime

状態 A2 から状態 A1 に戻るときは

全体では

=d prime

+d

(b-19)

Clausius の不等式から

0

式(b-19)の第二項で反応を逆に進めるときには次のように書き改めることができる

=d

よって式(b-19)は次のように書き直すことができClausius の不等式とあわせると

d prime d

0

すなわち

d prime d

上式の右辺は式(b-16)を用いて表せば

d prime

∆S ∆

この状態変化を微小変化とするならば断熱変化の場合 dQ = 0 であるから

∆S ∆ dS 0

すなわち不可逆変化を含む断熱変化ではエントロピーは必ず増大する

<補遺> 70

T

QS

BA SSS

(b-20)

(次の<補遺>ギブス自由エネルギーも参照せよ)

本文 p26 へ戻る

ギブス自由エネルギー (本文 p28 27 行目参照)

エントロピーの考えを導入することによって不可逆的に状態変化が起きるときにはエン

トロピーの増大を引き起こすことを知ったこれによって目前で起きる現象について温度の

変化があるものであれないものであれまた圧力の変化があるものであってもエントロピー

の定義式によって可逆的な変化におけるエントロピーの変化量を計算することが可能である

(b-15)

しかしながらこれから起こる変化について我々がすでにあらかじめ知っている物理量を

用いて予測的にその状態変化が起きるかどうか知ることは必ずしも容易ではないその理由

は式 b-15 に示されたエントロピーΔS が系とその外界をあわせた全体のエントロピーを示

しているからであるすなわち関心のある系を系 A としその外界を系 B とすると全体

のエントロピーは次のように表せる

(c-1)

関心のある系 A のエントロピー変化を知るためには系 B のそれを知ればよいがそれは

いつも容易とは限らない系 A の性質だけで状態変化の方向を知るには別の観点が必要にな

るようだ

そこでもう一度状態変化が熱量 Q の移動によって起きることについて考えてみようエン

トロピーの補遺で議論したように熱量の移動が準静的過程により行われるときには変化は可

逆的に起こると考えたこのとき外界すなわち系 B から移動する熱量を Q1とし系 A から

0S

<補遺> 71

21 QQ

T

Q

T

QSB

21

T

QSS A

2

QH

T

HSS AA

AA STHST

のそれを Q2 と記号を当てたのでこれをそのまま使うことにすれば可逆的な過程では系 B

の熱量 Q1 はすなわち系 A から戻る Q2 に他ならないので両者には次の関係が成立するも

のとしてよい

(c-2)

したがって

(c-3)

と考えてよくこれによって式 c-1 を次のように書きなおすことが出来る

(c-4)

独立した系で圧力とその体積に変化がなく一定の条件の下で状態変化が起きるときエン

タルピーの考えを使ってすでにひとつの関係があることを導いている

本文(31)

そこで式 c-4 を系のエンタルピーΔHAによって書き改めれば

(c-5)

この両辺に-T をかけて式を書き直せば次の関係式が得られる

(c-6)

式 c-6 を見るときその右辺がマイナスの値ならば左辺のΔS はプラスの値をとることが

分かるすなわちエントロピーが増大すると見ることが出来るこれまでの過程で自然の現

象はエントロピーが増大する方向に進むとしてきたので関心のある状態変化について式 c-6

の右辺で計算される値がマイナスの値ならばその変化は起きるものと考えてよいことになる

だろうしかも右辺はすべて独立した系の状態量で示されていて我々が知りうる値で計算

<補遺> 72

TSHG

STSTHG

STHG

可能である

そこでこれを熱力学ポテンシャルを表すものとしてギブス自由エネルギーと呼ぶことに

するギブス自由エネルギーは記号 G が用いられ次のように定義される

(c-7)

ここで関心があるのは自由エネルギーの絶対値ではなく式 c-6 に示されたようにその変化量

に興味があるので式 c-7 から

(c-8)

温度が一定の条件の下で状態変化が起きることを考えるなら式 c-8 は次のように書くこと

ができる

(c-9)

ギブス自由エネルギーは式 c-9 の右辺がすべて状態量であるからこれも状態量の一つで

ある定圧定温の条件下で起きる変化ではすでに議論したようにΔGlt0 であれば状態

変化は自発的に起きるものと予測できる

つまり式 c-5 の第一項は系のエントロピーΔSAそのものであり第二項で示されるエンタ

ルピーは系 A の温度が一定に保たれているのであるから発熱する熱量として外界に吸収さ

れるものであってこれは外界のエントロピーの増大につながるものとして解釈されるした

がって化学反応のように一定の圧力と一定の温度の下で起きる変化について自由エネルギ

ー変化量はその状態変化が自発的に起きる傾向を示しているといってよい

本文 p28 へ戻る

  • はじめに
  • 目次
  • 電気エネルギー
    • 金属のイオン化
    • 電池
    • 水素の反応
    • 燃料電池
    • 化学反応と電気エネルギー
      • エネルギーと熱力学
        • エネルギー保存則
        • エンタルピー
        • エントロピー13
        • ギブス自由エネルギー
        • 電池における化学反応のギブス自由エネルギー13
        • 理想気体の状態方程式
        • 理想溶液のギブス自由エネルギー
        • 膜電位
          • 水素イオン濃度測定
            • 化学反応の一般的な式
            • pHの定義とその目盛り
            • pH標準液
            • 銀塩化銀参照電極
            • 実用的なpH測定
            • ガラス電極
            • 電極の校正
            • 金属イオンに対応するイオン選択電極
              • 文献
              • 補遺
                • 状態関数
                • エンタルピー
                • エントロピー
                • ギブス自由エネルギー
Page 20: イオン選択電極i イオン選択電極 Ion Selective Electrode (ISE) を理解する ・ pHを測定する ・ NaやKなどのイオン濃度を測定する 神戸大学医学部保健学科

17

図6標準水素電極(0ボルトの基準)

標準水素電極は1モル塩酸溶液につけた白金電極に1atmの水素ガスを吹き込んで使う

白金電極は分極を防ぐために白金板に白金メッキを施し(白金黒とよばれる)上半分

を水で飽和させた(1atmの水蒸気分圧が必要)1atm(101325 kPa)の水素ガスを流し

下半分を1moll の塩酸溶液につける水素ガスが電極として働き白金板に電子が集めら

れる

ダニエル電池の亜鉛電極をこの標準水素電極につなげば亜鉛電極電位が測

定できる

亜鉛電極側では酸化反応の半反応が起きる

Zn(s) rarr Zn2+ + 2e- (1)

18

標準水素電極側では還元反応の半反応が起きる

2H+ + 2e- rarr H2

図7亜鉛電極と水素電極をつないで電池とする

25の基準状態における亜鉛電極の半反応(1)に対する平衡電位はすでに

知られている

E゜= -0763 volt

また銅板側の電極電位も同じようにして測定することができる

起きる半反応はすでに上述したが再度記しておこう

Cu2+ + 2e - rarr Cu(s) (3)

25の基準状態におけるこの電極電位はE゜=+0337 volt と知られて

19

いる

ここで亜鉛電極と銅電極の組み合わせでできる電池の最大電圧をこれらの

平衡状態における観測値から計算することができる式(18)を使って

V= E+-E- (18)

V= +0337-(-0763) = +110 volt

つまりダニエル電池で得られる最大電圧は11volt と計算できる実際に

はイオンの濃度が変化すれば反応の平衡が変化するので得られる電圧も変

化する

ここでダニエル電池で亜鉛1モルが反応するとき式(17)を使って得

られる仕事量としての電力を計算できる

W = n FV (17)

すなわちダニエル電池における電極反応は

Zn(s) rarr Zn2+ + 2e- (2)

Cu2+ + 2e - rarr Cu(s) (3)

であったから反応が進んで移動する電子はn = 2 である

1F = 96485 x 104 Cmol を適応すると

W = 2 x 96485 x 11 x 104 = 21227 x 105 Jmol = 2123 KJmol

(K = 103キロ)

すなわち亜鉛1モルの化学反応によって2123 KJmol の電気エネルギーが得

られる

水素ガスを使う燃料電池の起電力は電極の半反応から

O2 + 4H+ + 4e- rarr 2H2O (19)

25の基準状態におけるこの電極電位はE゜=+1229 volt が得られている

20

したがって燃料電池で1モルの水素が反応すれば

W = 2 x 96485 x 1229 x 104 = 2372 KJmol

すなわち2372 KJmol の電気エネルギーが基準状態で取り出せる最大電力

と計算される現在作られている燃料電池の電力は実際上08 volt ほどで

あるしたがって現実的に取り出せる電気エネルギーは 1544 KJmol の仕

事量と計算される「仕事量」という言葉については電気でモーターを回し

なにがしかの「仕事」をするなど思い浮かべれば実感できるだろう

エネルギーと熱力学 これまで述べてきたように電池は化学反応から直接電気エネルギーを取り出

す仕掛けであるダニエル電池では亜鉛と銅が酸化還元反応を起こす過程で

電子を放出するのを利用するまた水素ガスによる燃料電池は気体水素と酸

素を原料とし水が生成されるこの過程が1atm の気体原料を25(29815

K)で1モル反応させて生成物も1atm の液体の水を得るなら次の全反応に

よってすでに計算したとおり2374 KJmol の電気エネルギーが取り出せる

H2 + 12 O2 rarr H2O

圧力と温度がともに反応の過程を通じて一定の場合にその過程から取り出せ

る仕事量は熱力学的に考えることもできる

それはギブス自由エネルギーとして議論される電池で取り出した電気エネ

ルギーすなわち電力はこのギブス自由エネルギーに相当する

次に化学反応をこの熱力学の面から考えてみよう

エネルギー保存則

水素ガスを使う燃料電池のように独立した一つの仕掛けを考えこれを「系」

と呼ぶことにする系を考えるとき電池のように具体的なものを持って考え

るのが容易いのでそうすることが多い熱力学では自然界全体をあつかうので

しばしば概念的になり非現実的な記述が行われるが系の大きさや系を構成

する分子の大きさについて特定する必要はない

系におけるエネルギーを内部エネルギー熱エネルギー力学的エネルギー

の3つの要素からなると考えるこれらのエネルギーを考えるとき系の熱力

21

学的なパラメーター(変数)が必要となる熱力学的な状態はこれらのパラ

メーターのうちのいくつかを指定すれば決定される

熱力学的なパラメーターは2つに分類される

示量パラメーター(示量性変数)

系の大きさや構成する物質の量を示す体積や質量

示強パラメーター(示強性変数)

系の大きさに依存しない系における1つの点で決まった値で与え

られる圧力や温度密度など

いくつかのパラメーターで完全に決定できる状態を関数で表現することがで

きる場合があるそのような関数を熱力学的な状態関数(rarr補遺 p60)と呼ぶ

関数で状態の変化を表すことができれば数学的に取り扱うことができいろ

いろの面で便利である

一つの系についてその状態を知ろうとするとき系が熱力学的な平衡状態に

あると議論する上で都合がよい

熱力学的な平衡状態とは系を外部と独立させ長時間放置した後に達成され

る状態をいうこのとき系の状態をその外部のパラメーターで表現できる

たとえば電池を独立した系と考えるとき平衡状態に達した電極電圧を外部

においた電圧計で測定することができる

ある系を考えるとき前提としてその系はエネルギーを保有していると考える

系が独立してそこに存在するということで持っているエネルギーであるこれ

を内部エネルギーと呼ぶ系がある過程を経て状態を変えるとき系から系の

外部へ力学的な仕事をする場合には力学的エネルギーの出入りがあると考え

るまた系に熱が出入りする場合が考えられそれを熱エネルギーの出入り

と考えることにしよう

まず力学的エネルギーについて考えることにする

いま系が状態を変えその体積が増えれば系のlsquo壁rsquoがその系に接している

「外部」へ力学的な仕事をすることになる

このように系が膨張し壁が外部に向かって押し出されると考えたとき膨張

する過程における圧力を一定でpとし系が膨張した体積をΔV(膨張した分だ

けの体積増加量)とするなら系の仕事量ΔWは両者の積で表されるΔは変

化量を表すときにつける記号と決めておこう

22

ΔW = pΔV (20)

系の体積が凝縮する場合があるので仕事を記号で表す場合には注意するも

し系に接した「外部」から系に力が加わって体積を小さくしたならΔVは

マイナスとなるのでΔWもマイナスで表される

-ΔW = -pΔV (20prime)

今考えている系を「系 A」と呼びその内部エネルギーを UA外部の系を「系

B」と呼んでその内部エネルギーを UBと表すなら二つ合わせた全体の内部

エネルギーは両者の和で表すことができる

U = UA+UB (21)

この体積変化に必要なエネルギー変化量はどこから得られたかを考えれば

その変化があった「系 A」と外部の「系 B」のいずれかあるいは双方の内部エネ

ルギー変化分でまかなわれたと考えざるを得ない(図8参照)

そこでこのエネルギーの収支関係は変化分を表す記号に先と同様Δを用い

ることにすると次式のようになる

-ΔU =ΔW (22)

すなわち観察している「系 A」のエネルギーと外部の「系 B」のエネルギー

を合わせた総エネルギーを見てその微少な減少量minus ΔU が仕事をなすために

必要であったエネルギー量と考えてみることにする

ついでこの体積の変化が「系 A」に接する外部のlsquo熱rsquoによって起きたも

のと考えてみようすなわち外部の「系 B」が系 Aより高温で「系 B」によ

って系 Aが暖められたことになる

このとき移動したエネルギーを「熱量」と定義する

23

図8熱量の移動と系が外部にする仕事

「熱量」を記号Qで表すと外部の「系 B」が失ったエネルギーminus ΔUB で

ありこれが熱量であるから式で表せば次式のように書くことができる

-ΔUB = Q (23)

ここで「系 A」とそれに接する「外部 B」両方のエネルギーを合わせた総エ

ネルギーの変化量ΔUは式(22)で与えられていた

-ΔU =ΔW (22)

-ΔU =-(ΔUA+ΔUB) であるから

minus ΔUAminus ΔUB=ΔW (24)

これに式(23)を当てはめてΔUAで整理すれば

24

ΔUA= Q-ΔW (25)

この式(25)は「エネルギー保存則」あるいは「熱力学の第一法則」を数

学的に表現したものである

すなわち

独立した系を考えその状態が変化するとき系の内部エネルギーの変化量はその系に入る熱量と系が外部にした仕事との差である

式(25)にはまた重要な主張があるつまりエネルギー保存則にしたが

うとき熱量は力学的エネルギーにまた力学的エネルギーは熱量に変換しう

ることを意味している

熱量を表す単位はカロリー(cal)を用いる1cal は

1 cal = 4184 J

と換算されるジュールは 1J = 1Nm (ニュートンメートル)で仕事量を

表現する単位系で表される

エンタルピー

式(25)から定圧過程で式(20prime)を利用して次の式(26)が誘導さ

れる

Q =ΔUA+pΔV (26)

ここでQは熱量を表していたのでこの関係式(26)から熱関数として

新しい関数を定義する

新しい関数はエンタルピー(enthalpy)(rarr補遺 p63)と呼ばれ次の関数

式Hで表される

H = U+PV (27)

エンタルピーの微少変化量を記号Δを使って表現してみよう

25

ΔH = ΔU +Δ(PV) =ΔU +ΔPV+ PΔV (28)

独立した系で圧力が一定の下に起きる過程を考えるならΔP = 0 (圧力の

変化はゼロ)であるから式(28)は次のようになる

ΔH =ΔU + PΔV (29)

化学反応の過程を考えるとき系に容積の変化がなく過程の前後で一定であ

るならさらにΔV = 0 であるのでエンタルピーの変化量は

ΔH =ΔU (30)

また系の仕事を体積の変化としてみる式(20)から

ΔW = pΔV= 0

であるのでこれを式(25)へ適応すると

ΔU= Q minus ΔW = Q ΔW= 0 だから

結果的に系の圧力と体積が変化の過程で一定である場合にはその系のエンタ

ルピーの変化を表す式(29)(30)は次のように簡単な式になって熱関

数と呼ばれる意味が理解しやすいだろう

ΔH = Q (31)

独立した系に等圧等積で起きる過程を見る場合にはエンタルピーは系が外

部と交換する熱量の直接的な尺度となる

H>0 なら反応に熱を使うので吸熱反応

H<0 なら発熱反応

電池のように系に起きる化学反応で生じる電子の流れを取り出す装置を考え

る場合エンタルピーの変化を電気エネルギーとして取りだしている点に留意

26

しなければならない式(31)のようにエンタルピー変化が交換される熱

量に直接表現できるといっても必ずしも熱として取り出すとは限らないこと

を注意しよう

ところでエンタルピーは内部エネルギーと同じ次元にある状態量で定圧

変化の熱量がエンタルピー変化であるからある一点を標準として定めれば

すべての物質について任意の点のエンタルピーを変化量として定めることがで

きるすなわち化学反応の過程で発熱あるいは吸熱する熱量は反応材料と

生成物の間の状態変化に対応するエンタルピーに対応する

そこで一つの元素に対してもっとも安定な状態にある物質を標準物質とし

て定め29815K(25)1atm を標準状態としてその標準物質からある化

合物を合成するときの反応熱(発熱あるいは吸熱)をその化合物の「標準生成

エンタルピー」として定義できる多くの元素に対して標準生成エンタルピー

は現在表としてまとめられている

水素や酸素はその気体状態が標準物質でありそれらの標準生成エンタルピー

がゼロと定義される

エントロピー

もう一つ新しい状態関数としてエントロピー(entropy)(rarr補遺 p64)を

定義するエントロピーを表す記号は通常S を用いその定義は次の式(32)

による

S Q

T (32)

エントロピーは系の2つの状態が決まると状態量として決まる

このときQ は2つの状態の間を可逆的に変化したとき系が受け取る熱量

T は系が熱量 Q を受け取ったときの温度(degK)である

「熱力学の第二法則」はエントロピーに関するものである

図9では2つの系が接しておりそれぞれの温度を Thigh Tlowとする

Thigh>Tlow (33)

27

今温度の高い系から温度の低い系に直接熱量 Q が移動したとすれば温度

の高い系のエントロピーの変化量ΔS は熱量が失われるので負の値になる

図9熱の移動

そこで温度の高い系のエントロピーの変化量ΔS を式で表すことにすると

次式のようになる

Shigh Q

Thigh

(34)

一方低い系のエントロピー変化量ΔS は熱量が与えられるため

Slow Q

Tlow

(35)

両方の系を合わせたエントロピーの変化量ΔS は

S Shigh Slow Q

Thigh

Q

Tlow

lowhigh

lowhigh

lowhigh TT

TTQ

TTQ

11 (36)

式(36)の最終項で(33)を前提すなわち最初に温度の高い系は高い

と決めたのだとするならエントロピーの変化量ΔS は必ず次のようになる

28

ΔS >0 (37)

すなわち独立した系がありそれより温度の低い別の系あるいは温度の低

い外界が接した場合熱量は高い方から低い方へ移動するという自然の成り行

きを説明するものである

自然界に置いてエントロピーは

ΔS≧0

の値を取りΔS=0のときは可逆的過程である

今の例でいうなら熱は温度の高い系から低い系へ移動しその逆は起きない

常にΔS >0の方向に過程が進行するまた2つの系が同じ温度であるとき

両者は平衡状態にあって熱量の移動は見かけ上なくΔS=0と表現される

「熱力学の第二法則」はエントロピーによって表現されるもので系の変化が

可逆的であるかどうかを判定する指標であり現実の世界で起きる不可逆過程

が正の値を取る方向へ進むことを示す

あるいは系の変化が起きるとき外界を含めて考えれば総エントロピーが

増大する方向に変化が起きることを意味するというようにも表現される

ギブス自由エネルギー

熱力学の第一法則によってエネルギーの取りうる形である「仕事」と「熱」

は互いに変換されうることを理解したこのことの数量的な意味は1cal=418J

で示されるさらに仕事は100熱に変換可能であるが一方の熱はうま

くやっても100を仕事に換えることができないことを熱力学の第二法則で

説明しようとしたそのためにエントロピーという概念が導入された

ここで電池のような独立した一つの系を見るとき系の内部エネルギーの減

少を仕事として取り出しうるならそれは化学反応を一つの例としてどれほど

の仕事量が取り出せるのかはどうしたら与えられるだろうか

化学反応を電気エネルギーに換える電池では先に正負それぞれの電極におけ

る半反応の平衡電位の値を利用してその起電力に対する最大値を計算した

この化学反応から取り出しうる最大仕事量を与えるものとして新しくギブス

自由エネルギー(rarr補遺 p70)と名付け記号 G を使ってそれを次のように

定義する

29

G = H-TS (38)

H はエンタルピーである第2項にある S はエントロピーを表す

ギブス自由エネルギーは化学反応のような独立した系の定温定圧過程に適

応されるので変化量ΔG を式(38)から得ておこう

ΔG =ΔH-Δ(TS)

=ΔH-(SΔT+TΔS)

温度を一定と考えているのでΔT=0 であるから

ΔG =ΔH-TΔS (39)

この式(39)を書き換える

ΔH=ΔG + TΔS (39rsquo)

ここで定圧過程ではエンタルピーを次のように式(29)で定義できた

ΔH =ΔU + PΔV (29)

式(29)の意味するところを復習すれば

系のエンタルピー変化ΔH は内部エネルギーの変化量と系が外部に

した仕事量の和として表される

これは

定圧過程で系が得るエネルギー量から仕事量を除いたもの

と言い換えることができるエンタルピー変化量は化学反応などの過程で

始めと終わりの2つの状態の差であるからそれが正の値を示す(>0)なら

系のエンタルピーは増加することを意味しその過程が進行するためには系

の外部からエネルギーが供給されなければならない

一方式(39rsquo)の右辺第2項TΔS はエントロピーの定義(32)より

TΔS = Q (40)

であるのでこれは可逆過程で系に供給される熱量を意味する

30

もしエンタルピー変化量が負の値を示す(<0)ならば系のエンタルピー

は減少しその過程が進行することによってエネルギーが取り出せるすなわ

ち式(39)(40)から次のようにこれら3つの状態量を改めて説明する

ことができる

ある化学反応が定圧で可逆的に進行するときそれから取り出せる

エネルギーのうちΔG を仕事として放出し熱量 Q を放出する

標準状態29815K(25)1atm で標準物質からある化合物を合成すると

きの反応熱(発熱あるいは吸熱)をその化合物の「標準生成エンタルピー」

として定義した同様にある物質に対する「標準生成ギブス自由エネルギー」

はこの標準状態で標準物質からその化合物を化学反応で生成するとき式(3

9)によって与えられる変化量をいう

電池における化学反応のギブス自由エネルギー

先にダニエル電池の亜鉛板側に対する電極反応を検討したとき電極反応が

仕事として放出するエネルギーを表現する重要な式があった次の式(17)

である

W = n FV (17)

ギブス自由エネルギーを用いて今これは次のように書くことができるように

なった

W = n FV=-ΔG (41)

この式が表していることを実際に水素の燃料とする燃料電池の反応過程で見

てみよう燃料電池の図を再掲する

図中右にある陰極では水素の酸化反応が起きる

H2 rarr 2H+ + 2e- (5)

一方図では左にある陽極において次の還元反応が起きる

12 O2 + 2e- rarr O2- (6)

O2- + 2H+ rarr H2O (8)

全体の反応はすでに示したように次の反応式(7)で示される

H2 +12 O2rarr H2O (7)

31

標準状態における可逆的仕事は式(41)であらわせ

n FV=-ΔG (41rsquo)

このΔG は式(39)であらわせた

ΔG =ΔH-TΔS (39)

すなわち標準状態29815K(25)1atmにおいてある化合物を標準物

質から合成するときの標準生成ギブス自由エネルギー変化ΔG゜は標準生成エ

ンタルピー変化ΔH゜とその温度におけるエントロピー変化TΔSの差で求ま

るこれらは燃料電池の全反応を表す式(7)で与えられる

標準生成エンタルピーΔH゜変化とエントロピー変化はすでに一般的な元

素やその化合物に対して表が作成されている

液体の水に対する標準生成エンタルピーΔH゜(H2O)は

ΔH゜(H2O)=minus 28583 KJmol

また水素ガスと酸素ガスはそれぞれの元素の標準物質であるので生成エ

ンタルピー変化はゼロである

32

そこで式(7)での水を1モル化学合成するときの標準生成エンタルピーΔ

H゜は水素(ガス1モル)と酸素(ガス12 モル)の2つの材料と水(液

体251atm)の両状態における状態量の差として表される

ΔH゜=ΔH゜(H2O)-ΔH゜(H2) -12ΔH゜(O2) (42)

式(42)の右辺第2項と第3項がゼロであるので

ΔH゜=ΔH゜(H2O) =-28583 KJmol (43)

標準状態29815K(25)1atm における水素(ガス)と酸素(ガス)お

よび水(液体)のエントロピーはそれぞれ

ΔS(H2O)=6991 JKmol

ΔS(H2) =13068 JKmol

ΔS(O2) =20514 JKmol

単位で分母のKはケルビン温度の意味

と計算されているので

ΔS=ΔS(H2O)-ΔS (H2) -12ΔS(O2) (44)

=6991-13068-12times20514

=-16334 JKmol

したがって

TΔS=29815times(-16334)=-486998=-4870 KJmol

(45)

そこで標準生成ギブス自由エネルギーΔG゜は式(39)から

-ΔG゜=-(ΔH゜-TΔS) (39)

=-{-28583-(-4870)}

=+23713 KJmol

33

すなわちこのエネルギーを電気エネルギーとして取り出すことができるそ

の起電力は式(41rsquo)から

n FV=-ΔG (41rsquo)

V= -ΔG(n F)

各数値を当てはめれば

V=237130(2times96485)

=1229 volt

先に【化学反応と電気エネルギー】のところで記したとおり25の基準

状態におけるこの電極電位はE゜=+1229 volt が得られているすなわち

こうして標準生成ギブス自由エネルギーから計算することでも同じ値を得る

ことができた

水素を単純に酸素と化合させる燃焼では式(43)で示されるエンタルピ

ーが発生する熱量を示している水素1モルあたり28583 KJである電池

にすれば水素1モルあたり23713 KJの仕事量が電気エネルギーとして取り

出すことができるその差は電池の場合熱が発生して利用できない

化学反応の過程を利用して化学エネルギーから直接電気エネルギーに変換す

るのが電池という装置であるが化学エネルギーは100電気エネルギ

ーに換えることはできないこのようにエネルギーの一部は電池の熱として

発散してしまう

理想気体の状態方程式

ギブス自由エネルギーΔG を定義した式(39)とエンタルピーΔH の定義

式(28)から

ΔG =ΔH-TΔS (39)

ΔH =ΔU +VΔP+ PΔV (28)

そこで次式が得られる

34

ΔG =ΔU+VΔP+ PΔV-TΔS (46)

またエネルギー保存則から得られた式(26)を応用すればギブス自由エ

ネルギーが変形できる

Q =ΔU+PΔV (26)

から

ΔU=Q-PΔV (47)

したがって式(46)は

ΔG = Q-PΔV+VΔP+ PΔV-TΔS

ΔG = Q-TΔS+VΔP (48)

エントロピーの定義からQ=TΔSであるから結局式(48)は

ΔG = VΔP (49)

と表すことができる

成分が混合された気体分子の分子間に働く力をゼロと仮定した「理想気体」を

考えるとき状態方程式としてボイルシャルル(Boyle-Charles)の法則が

利用できる

PV=nRT (50)

ここでnは気体のモル数PVT はそれぞれこれまでと同じ圧力体積温度(ケルビン温度)でありR は気体定数と呼ばれるもので次の値を持

R= 831441 JmolK (51) 単位で分母のKはケルビン温度の意味

35

状態方程式から式(49)の右辺を導くことを考えてみよう式(50)は

1モルの気体について V に対し次のように変形することができる

V 1

PRT (50rsquo)

両辺に圧力の微小変化量⊿P をかけると

PP

RTP V (52)

これを微分方程式として圧力p0 からp1 まで(p0≦p1)積分するなら

1

0

1

0

1

0

1p

p

p

p

p

pdP

PRTdP

P

RTdPV (53)

関数 f(x)=1x を積分したときの関数はF(x)=ln(x)であるので(ln は e を底

とする自然対数loge)

右辺=0

1ln)0ln()1ln(p

pRTpRTpRT (54)

ギブス自由エネルギーを表す式(49)は次のようであったから

ΔG = VΔP (49)

式(52)から得た式(54)を当てはめると状態G0(p0T)からG1(p1T)

へ変化する過程で圧力が p0 から p1 まで変化するものとして

dGG0

G1

G( p1T ) G(p0T ) RT lnp1

p0 (55)

あるいはこれを書き直して

V

36

G(p1 T) = G( p0T ) + RT lnp1p0

(56)

特別にG0(p0T)を標準状態T=29815K(25)p0=1atmに指定する

なら標準生成ギブス自由エネルギーを記号G゜として (56rsquo)

と表すことができる

式(56rsquo)の意味するところは標準状態から圧力の変化を伴う過程で理

G(p1 T) = Go + RT ln p1

想気体のギブス自由エネルギーは圧力の対数に比例して上昇することである

このことはさらに新しい着想を生む

すなわち水素を燃料とする上の燃料電池で1atm 標準状態の水素ガスの圧力

を2atm に上げれば式(56rsquo)からRTln2 余分にギブス自由エネルギー

が取り出せることになる

燃料電池において起電力を生むエネルギーは隔壁を水素イオンもしくは酸

素イオンが浸透しようとする力であるので1atm の水素ガスと2atm のそれで

は浸透しようとする圧力が異なりここに起電力が生じる

式(56)の第二項が圧力の差による仕事であるからこれをΔG とすれば

W=-ΔG の仕事量が電気エネルギーとして取り出せるはずである

W = minusΔG = minusRT lnp1p0

(57)

起電力に換算するために式(41)を使うと

W = n FV=minus ΔG (41)

から

01ln

pp

nFRTV ⎟

⎠⎞

⎜⎝⎛minus= (58)

この式(58)は一般にネルンスト(Nernst)の式と呼ばれる

37

理想溶液のギブス自由エネルギー

理想気体を想定したように無限に希釈された混合溶液に対して理想溶液を仮

定する「系」の圧力温度を一定に保つならば体積内部エネルギーエンタ

ルピーギブス自由エネルギーなどの示量数は混合溶液を構成する物質のモ

ル数mに比例するたとえば標準状態にある物質の1モルの体積をVとすれば

mモルの体積はそのm倍mVであるそうすると溶液中のi番目の成分がmi

モル「系」から「外界」に仕事をするときその成分iの持つ自由エネルギーの

mi倍の仕事が「外界」になされると考えればよい

この溶液成分のモル数と化学的仕事を結びつける示強因子がギブスによって

化学ポテンシャルと名付けられ一般に記号μが用いられる

化学ポテンシャルはこれまで見たようにギブス自由エネルギーで表される

また電位がψ(プサイ)にある系から-Δeの電荷が放出されるときには

-ψΔeの電気的仕事が得られるそこで記号μに両者を合わせた意味を持

たせて「電気化学ポテンシャル」と呼ぶ

概念の上で物質は電気化学ポテンシャルの高い方から低い方へ勾配にした

がって移動する

理想気体の標準状態が気体分圧を T=29815K(25)で 1atm としたのに対

し溶液成分の標準状態はその分圧に相当するモル数 m を用いるすなわち

標準状態にある成分 i の電気化学ポテンシャルμ0iは成分の持つ電荷(H+なら

1)を n として

μ0i = G i゜+nFψ i (59)

ギブス自由エネルギーは式(56rsquo)を借り理想溶液中の成分に対しては気

体圧力をその成分のモル濃度Cに書き換えればよいそこで

G(CT ) G RT lnC (60)

と表すことができる

したがって一般的な成分 i の電気化学ポテンシャルμiを表す式は標準状態

からの自由エネルギーの変化を考え式(59)と合わせて次のようになる

38

ψnFGii 0

式(60)から

ii CRTGTCGG ln)( 0

よって

(61) ψnFCRT iii ln0

実際的なことを考えると成分濃度はその有効イオン濃度とする必要があり

「活量係数」γを導入して次式で表されるイオン活量aを用いる

ai = γCi (62)

一般的にはγ=1と近似してモル濃度Cを使っているこのテキストでも

必要ではない限りイオン活量を用いることを省略して簡単に記述したい

膜電位

燃料電池に使われたナフィオンのような一つのイオンを通す膜を介して膜

の両側にC0 とC1 のイオン濃度差がある溶液が接するときの電気化学ポテン

シャルを考えよう

ある容器の底にナフィオン膜を取り付け容器の中と外のイオン濃度をC0

とC1としそれぞれの電気化学ポテンシャルをそれぞれμinとμoutとする

式(61)を使って

容器の中の電気化学ポテンシャル

(63) innFCRTin ψ 00 ln

容器の外の電気化学ポテンシャル

(64) outout nFCRT ψ 10 ln

イオン浸透性の膜を介して濃度変化が無視できるほどの移動があると考え

その電気化学ポテンシャルの差を式(63)(64)から求めれば

39

)(ln0

1 inoutinout nFC

CRT ψψ (65)

この系において今注目しているイオンが膜を介した両側で平衡状態にある

とき式(65)はΔμ=0と考えることができるすなわち

0)(ln0

1 inoutnFC

CRT ψψ

膜内外の電位差をΔψ=ψoutminus ψinとすれば

1

0

0

1 lnlnC

C

nF

RT

C

C

nF

RTψ (66)

式(66)は理想気体に対するネルンストの式(58)と同様溶液中のイ

オンに対するネルンスト(Nernst)の式として与えられる

細胞の膜においてもその生体膜の内外でたとえばカリウムイオンのように

非対称に分布して平衡に達している場合には式(66)で与えられる膜内外

で電位差が生じるこれは一般に膜電位と呼ばれる膜電位は平衡電位とも

呼ばれる

たとえば膜内外に1価のカリウムイオンに10倍の濃度差があるとすると

通常カリウムイオンは細胞内の濃度が高いので

C0 = 10timesC1

であるから

これを式(66)に当てはめてln(10)=2303 を用いlog への変換をすれば

Δψ=2303times(RTF)timeslog(10)

であるこれに R=831441 JmolKF=96485 CmolT=29815 K(25)

の各数値を当てはめると

Δψ=2303times831441times29815times196485 JC

=+005917 volt

すなわち膜の内外で約+60ミリボルトの膜電位が生じることになるこの

分だけ細胞の外側の電気化学ポテンシャルが高く膜の内側の膜電位が負であ

るそして膜にあるカリウムチャネルがこの電位を示すとき受動的なカリ

40

ウムの膜内外の移動は平衡に達することになる

水素イオン濃度測定

「標準水素電極」は1モル塩酸溶液につけた白金電極に1atm の水素ガスを

吹き込んで平衡状態に達したときの電位を基準としてゼロボルトと規定した

そこである溶液についてその水素イオン濃度を知ろうとするとき同じ水

素電極を用いることを考えれば標準状態にする目的で用いた1モル塩酸溶液

を濃度未知で X モルの塩酸溶液と想定すればその水素イオン濃度を知るこ

とができるだろうか

標準状態ではない X モルの塩酸溶液に浸けた白金電極が半電池として働くこ

とは間違いなさそうであるしかしその白金電極が持つ電極電位を測定する

にはいずれにしても標準電極と組み合わせて「電池」を構成しその電池

の起電力として計る必要がある電池を作れば起電力を知ることができ相

手の半電池の電極電位が知られていれば濃度が未知でXモルの溶液について

その水素イオン濃度を知ることができるだろう

こうした目的のためにいちいちゼロボルトと規定した標準水素電極を用いる

のは煩雑なのでしばしば後出の「銀塩化銀電極」が参照電極として用いら

れる

まず予め「銀塩化銀電極」を標準水素電極と組み合わせて電池とし一度

その起電力を測定しておけば後はいつもそれを標準電極として利用できる

「銀塩化銀電極」の半電池は

H+ (1 moll) Cl- | AgCl | Ag(s)

これに「標準水素電極」を組み合わせ電池を構成すると次のような電池

になる

Pt(s) | H2(g) | H+ (1 moll) Cl- | AgCl | Ag(s)

この電池の起電力を知れば「銀塩化銀電極」の半電池としての電極電位

を知ることができ参照電極として未知の半電池と組み合わせて起電力を測

定して相手の電極電位を計算できる

41

濃度 X モルの塩酸溶液を未知の溶液と想定すればその電極電位を知るために

組み立てる電池は次のようになる図10にその電池の図を示した

Pt(s) | H2(g) | H+ (x moll) Cl- | AgCl | Ag(s)

この電池の全反応は次の反応式で表される

AgCl(s) 1

2H2 (g) H Cl Ag(s) (67)

図10未知溶液の水素イオン濃度を測定しようとするための電池

化学反応の一般的な式

ここで電池に利用される化学反応から得られるエネルギーをギブス自由エ

ネルギーに換算し起電力を具体的に知る手だてとすることは上ですでに学

42

んだがより一般的な式を再度ここに書きだしておこう

化学反応が紙面で左から右に進む反応として次のような一般式で与えられ

るとき

aA + bB rarr cC + dD (68)

ギブス自由エネルギー変化量は標準状態ΔG゜からの変化量を加える形で式

(60)と同様次の式によって表される

G G RT(ln aCc aD

d ln aAa aB

b )

G RT ln

aCc aD

d

aAa aB

b (69)

aAは成分 A のイオン活量であるその他の成分も同じ

得られたエネルギーを電気エネルギーに換えるなら式(41)に習って

次式で表せば

ΔG=-n FV

there4V=-ΔG(nF) (70)

このときの起電力は標準状態における電位 E゜からの変化量として次式で与

えられる

E E

RT

nFln

aCc aD

d

aAa aB

b (71)

標準状態における起電力 E゜は反応が平衡状態にあるときで反応平衡定数

を K とするなら

K aC

c aDd

aAa aB

b (72)

で表されるそこでE゜は次のように書き改めることができる

43

E

RT

nFln K (73)

そこで式(67)で表される図10の電池「水素minus 銀塩化銀電池」に

対する起電力をギブス自由エネルギーから求めてみよう

反応から式(71)に当てはめれば

E E RT

Fln

aH

1 aCl

1 aAg1

aAgCl1 aH2

1

2

(74)

力学の慣例にしたがって固体の純物質の活量は1として扱い水素ガスを

想気体として見なして活量を1atm とするなら式(74)は次のよう

に簡略化される

E E

RT

Flna

H aCl (75)

ころで理想溶液として近似的に取り扱うときの希薄溶液でたとえば水素

入して詳細に検討するなら式( れる起電

オン濃度はイオン活量として aH+の記号を使うときすでに【理想溶液のギ

ブス自由エネルギー】の章で述べたようにこれを有効イオン濃度とする必要

がありイオン活量 a は「活量係数」γを導入して次式で表した

a H+= γH+CH+ (62)

この活量係数を導 75)で誘導さ

を計ることによって経験的に試料溶液中の水素イオン濃度を求めることは

困難である式(75)にあるイオン活量の項はモル濃度 C と活量係数γを

用いて次式で書き改められる

lnaH aCl

lnCH CCl

lnH Cl

(76)

まり式(76)右辺の第二項において互いに相手が知られなければ自分

決めることができず結果的に起電力を知っても(75)の値から水素イオ

ン濃度を導けないここに工夫が必要になる

44

の定義とその目盛り

液中の水素イオン濃度を直接意味するものではなく

を定義するとき測定されるのは1リットルの溶媒に存在す

pH = -log a H+ = -log(γH+CH+) (77)

際に試料溶液の pH を決定する際はpH 標準液を用いる

に溶液を入れ試料溶液 X と pH 標準液 S を

参 極を接続し電池を作成しその起

pH

現在pH の定義は溶

で述べたようにそれが簡便に測定できるものではないため次のように定

義されている

水素イオン濃度

水素イオン活量であるため定義式としては活量係数をγH+として次式で与

えられる

その要領は次のようである

上に図示した水素電極の容器内

れぞれ半電池(I)と(II)に入れる

半電池(I) Pt | H2 (1 atm) | 試料溶液

半電池(II) Pt | H2 (1 atm) | 試料溶液S

照電極として上図のごとく銀塩化銀電

電力を測定する半電池(I)のときの起電力を E(X)半電池(II)のそれを E(S)

とするこのとき試料溶液Xの pH は次式で計算される

pH (X) pH(S) E(S) E(X)

RT ln(10) (78)

ln(10)は自然対数を常用対数に戻すための定数で2303 を用いる

標準液

pH 標準液 S はpH 第一次標準液第二次標準液と呼ばれるべき

る測定

25で pH 4005 を示す

pH

上述した

のであり絶対的測定法である起電力の測定によって値をつける

標準液は安定で純粋な結晶が得られる試薬を調整してこれを測定す

上と同様に水素電極を用いこれに緩衝液を入れる参照電極として銀

塩化銀電極を接続して電池の起電力を測定する

たとえば005 moll フタル酸水素カリウム溶液は

一次標準(Primary Standard PS)の一つである半電池(III)として水素

45

電極を次のように準備する

半電池(III) Pt | H2 (1 atm) | PS 溶液

て電池を形成したとき得られる起電

参照電極として銀塩化銀電極を接続し

は式(75)から

E E

Ag AgCl RT

Flna

H aCl (79)

オン活量を濃度と活量係数の積(a H+= γH+CH+)にし自然対数を常用対数

すれば

E E

Ag AgCl RT ln(10)

F log(

H + CH+ Cl- CCl - ) (80)

E゜は水素標準電極(水素ガス分圧を1atm電極を浸ける溶液に001 moll

H

Cl を用いる)で得た起電力である

式(80)から

RT ln(10)

Flog(

H CH Cl

) (E EAg AgCl )

RT ln(10)

Flog C

Cl

(81)

らに

log(

H CH Cl

) F

RT ln(10)(E E

Ag AgCl ) logCCl

(82)

ころで式(77)から

(γH+CH+) (77)

-log a H+ =-loga H+-log(γCl-) +log(γCl-) =-log(a H+γCl-) +log(γCl-)

(83)の一番右の式で第一項は

pH = -log a H+ = -log

であるが右の式をさらに変形すると

(83)

46

-log(a H+γCl-)=-log(γH+ CH+γCl-) (84)

たがって式(82)の右辺で示されるように電池の起電力を測定すれば

よ 実際には溶液の塩素イオン濃

液で起電力を求め外挿する

起電

これによってpH を意味する式(83)は次式(85)で与えられる

p(aHγCl)はRG Bates によって Acidity Function と呼ばれている

らに式(85)最終項の log(γCl-) を補正しなければならないこの項は

本工業規格)によっても

であってこれは式(82)の左辺である

いただし塩素イオン濃度の項があって

をゼロにしたときの値が必要である

実測する際には塩素イオン濃度をゼロにできないので塩化ナトリウム NaCl

等を濃度を変えて添加しその時々の緩衝

勧告ではNaCl で 000500100015moll の3つの濃度を例示している

すなわち塩素イオン濃度ゼロのときの値は各塩素イオン濃度に対して

の値をそれぞれプロットしグラフから塩素イオンがゼロのときの起電力の

値を3点に対する回帰直線の延長で外挿して求めるこの点を次のように書

log( C H H Cl CCl

0

pa log( C log( (85) H H H Cl C

Cl0 Cl

)

素イオンの活動係数で与えられる補正項である

無限希釈溶液中のイオンの活動係数は理論的に Dubye-Huckel の式を用い

近似的に求めることが可能であるこれはJIS(日

用されていて Bates-Guggenheim の規約と呼ばれる (Bates RG

Guggenheim Pure Appl Chem 1 163-168 1960)

Dubye-Huckel の式は次のように与えられる

log A I

i 1 iB I (86)

47

I iについてそのモル濃度

計算される

はイオン強度でイオン mi と電荷 zi から次式で

I 1

2mizi (87)

また iは(86)式のBは温度と溶媒の性質による定数であり イオンの大

きさに関するパラメータで水和イオンの大きさとほぼ一致した値をとる標

準法の勧告では塩素イオンに対しイオンの大きさを46Åと決めてiBを

1

5 にしているそこで式(84)は次のようになる

ClA I

log 1 15 I

イオン強度 I は塩素イオン濃度を含まない計算となる

以上の方法によって実用的な pH 測定に用いられる第一次第二次標準液の

pH の値が得られる

絶対値としての

はpH の絶対測定法(第一次標準測定法)とされている

銀塩化銀参照電極は分極現象を防ぐために棒状の銀を塩酸で処理し表

に塩化銀を生成させたものを飽和塩化カリウム溶液につけてある

(88)

参考現在は実験的に求めた値と理論値の組み合わせで

素イオン濃度を求める方法を規定しているこの起電力から水素イオン濃度

を知るための測定方法

Buck RP Rondinini S Covington AK Baucke FGK Brett CMA Camoes MF

Milton MJT Mussini T Naumann R Pratt Kw Spitzer P Wilson GS

Measurement of pH definition standards and procedures Pure Appl Chem

74(11)2169-2200 2002Kristensen HB Salomon A Kokholm GInternational

pH scales and certification of pH Anal Chem 63(18) 885A-891A 1991)

銀塩化銀参照電極

電極の構成は

Cl-(aq) | AgCl(s) | Ag(s)

48

この半反応は次のようになる

AgCl(s) + e- rarr Ag(s) + Cl- (89)

の反応は次の2つの反応に分けて考えることができる

Ag+ + e- rarr Ag(s) (91)

AgCl(s)rarr Ag+ + Cl- (90)

図11銀塩化銀参照電極

(90)における銀 る塩素イオンによって左

されることが推測される

そこでカッコ [ ] をそれによって囲まれるイオンの濃度を表すことにし

式 イオン Ag+の溶解性は共存す

塩化銀の乖離定数Kを考えると

49

K = [Ag+][Cl-] (92)

これから

[Ag+]= K[Cl-] (93)

化カリウム溶液に漬けた銀塩化銀電極の電位 E は水素標準電極に対する

電 で与えられる

位を E゜として次式

E E

RT

nF

[ Ag ]

[Ag(s)]ln( )

Ag(s)のイオン活量は常に1とする

ここで半反応の電極電位を求めるために式(75)を利用することにすれば

(94)

熱力学の慣例にしたがって純物質個体

E E

RT

Flna

H Cl a (75)

式 の半反応をみると

応で電子1つが移動するので n=1 とするR=831441 JmolK1F = 96485

C はめれば

これに銀イオンの濃度として式(93)を当てはめる

この反応で移動する電子は (89) 銀イオン1つの反

molT=29815K(25)ln(10)=2303などの定数を当て

2303RTF = 005917

であるから(94)式は次のように表現できる

log[Cl]) E E 005917(logK (95)

たがって標準水素電極に対する銀塩化銀参照電極の標準状態における電

位 は半反応(89)に対して ゜=+0799で

化銀の乖離定数 K は182times10-10 であるのでその対数を取れば-973993

0799-005917times973993-005917log[Cl-]

E゜ E ある

ある

そこで式(95)は

E =

50

= 0799-0576-005917log[Cl-]

= 0223-005917log[Cl-] (96)

電極電位の関係について実測値

こうして求めた塩化カリウム溶液の濃度と

計算上の値は次のようである

KCl moll vs SHE volt25 計算値 volt25 01 02881 02822 35 0205 01908 飽和 0199 minus

実用 測定

実際の現場で水素イオン濃度を測定する目的の測定法で上のような2つの

極が同じ溶液に浸かっていたのでは試料溶液を交換するにも便利ではない

の容器に入れる未知試料溶液と銀塩化銀電極を隔離する

的な pH

そこで水素電極側

的で二つの電極容器をつなぐ液絡部をグラスフィルターやセラミック板

飽和塩化カリウムで作成したゼラチンなどの塩橋によって隔離遮断するこ

れを液絡部とよぶ

電池として機能するために必要な溶液イオンの交換はこの液絡部で行う

組み立てる電池は電池式で次のように表される

Pt(s) | H2 | 試料 (H+ x moll) || 飽和 KCl | AgCl | Ag(s)

の標準電極と銀塩化銀電極とは区切られていて溶液の直接の接触がない

とを意味するために電池式ではタテ二重線を用いる銀塩化銀参照電極

の容器には飽和塩化カリウム溶液が入れられる

51

図12液絡部のある pH 測定のための電池

この液絡部のある電池では塩橋を記号lsquo | | rsquoで表して次のように記す

試料 (H+ x moll) | | 飽和 KCl

ここでは試料溶液と飽和塩化カリウム溶液の異なる2液が接している

このような界面では膜電力が生じるのと同様「液間電位差」が生じることが

知られているしたがって上の電池で測定される起電力 E は

E = E[銀塩化銀電極電位]+E[液間電位]+E[水素電極電位]

で与えられることになってE[液間電位]のために図12の電池の起電力

は銀塩化銀参照電極の値を知っていても水素電極容器内に入れた未知溶

液の水素イオン濃度を正しく知ることができない

52

そこで実用的な測定法としてこの E[液間電位]を膜電位として積極的に利

用する方法が工夫されたすなわち水素イオンに感応するガラス薄膜を用い

るガラス電極法である

53

ガラス電極

ガラスはケイ素原子と酸素原子からなる SiO4 の結晶構造を持ち酸素で囲

まれた空隙があって水素イオンがそれを埋めることができる

この性質によってガラス膜表面は水溶液中の水素イオンに応じて膜電位を

変化させるのでこれを水素イオン濃度測定用の電極として利用することが考

えられるこれが通常用いられるガラス電極である

ガラス電極は標準電極と組み合わせれば電池を構成することができこの電

池の起電力を知ってガラス薄膜の内外にできたイオン濃度勾配を知ろうとす

るものである

薄いガラス膜(01mm程度)をはさんで接する2つの溶液のH+イオン濃

度が異なるとその差に応じてガラス膜の両側に電位差(Eg)が現れる

ネルンストの式でガラス電極の内部に入れた既知の濃度のH+([H+]in)に対

し試料中の水素イオン濃度が[H+]sampleのとき次の電位を生じる

)][

][log(059170)

][

][ln(

sample

in

sample

ing

H

H

H

H

F

RTE

(97)

図13ガラス電極

電極を構成するのは銀塩化銀電極と同じ電極で用いる塩溶液は一般的

54

に 01モル塩酸溶液である

この半電池の電池式は次のように書くことができる

Ag(s) | AgCl(s) | HCl (01 M) | ガラス薄膜 || 試料溶液 H+ (x moll)

Eg

この半電池の電極電圧を測定するために銀塩化銀標準電極と組み合わせ

電池を作って起電力を計る

構成される電池は下図のようになる

ガラス電極 銀塩化銀標準電極

図14ガラス電極を用いた pH 測定用の電池

この電池の起電力は次の各半電池の平衡電位を合わせたものになる

55

E1ガラス電極の内側電位

Ag(s) | AgCl(s) | HCl (01 M)

Egガラス薄膜の内外に生じる膜電位

HCl (01 M) | ガラス薄膜 || 試料溶液 H+ (x moll)

E2液間電位(膜電位)銀塩化銀標準電極のセラミックを介した試料溶液

と銀塩化銀標準電極の内部液(飽和 KCl 溶液)の間に発生する電位

試料溶液 H+ (x moll)|| セラミック | KCl(飽和)

E3銀塩化銀標準電極

KCl(飽和)| AgCl(s) | Ag(s)

pH メーター用のガラス電極に使われるガラス薄膜は水素イオンに感応して

膜電位(Eg)を生じるこれは【膜電位】の章で記したように薄膜がある

一つのイオンのみを通過させる特性を持っている場合にイオンが膜を介した

両側で平衡状態に達したとして電気化学ポテンシャルを膜の両側で等しいと

考えてそのイオンが濃厚な側から希薄な側にその差によって圧力を生じると

するものである

一方同じ試料溶液が銀塩化銀標準電極のセラミック液絡部を介して生じ

るだろう液間電位(膜電位E2)はいま関心がある水素イオンに対して特異

的に感応するのではないので試料溶液の水素イオン濃度に関係なく一定と見

なすことができる

すなわちpH メーターを構成する電池の起電力 E は

E = E1+Eg+E2+E3 (98)

このうちEg以外は一定と見なせるので

E1+E2+E3 = E

として式(98)を書き直すと

)][

][log(059170

sample

ing H

HEEEE

(99)

Eは標準液によって校正されるべき標準電極電位である

56

電極の校正

実際のイオン濃度を測定する場合低濃度標準液と高濃度標準液で得られ

る起電力を測定し計測のイオン濃度に対する係数(傾き)を求めておき未

知の試料に対して起電力を測定してそのイオン濃度を算出する方法が採られる

低濃度標準液と高濃度標準液のそれぞれの濃度をCLとCHとすればそれぞ

れの起電力ELとEHは次式で表される EH = E +β logCH (100)

EL = E +β log CL (101)

ただしβは式(99)の係数を簡略にしたものである

式(100)と(101)から検量線の傾きが次式で表せる

ΔE = EH minus EL = β(logCH minus logCL) = β logCH

CL

(102)

したがって係数βは

β =ΔE

log CH

CL

(103)

であらわされる

このときに使われる標準はすでに前出の pH 第一次標準第二次標準溶液で

ある

金属イオンに対応するイオン選択電極

現在臨床検査で日常的に使われている電解質測定のための電極はナトリウ

ムカリウムカルシウムクロールなどおよそ臨床的に必要な金属イオン

に対して入手可能である

カリウムイオン測定用のバリノマイシンの発見によってクラウンエーテルと

57

呼ばれる一連の化合物が知られたクラウンエーテルはその分子の中心に立

体的な空間を持ち特定のイオン径に対し合致するのでそのイオンに対して

選択的に感応するこれらの化合物はイオノフォアと呼ばれる

図 15クラウンエーテル

1つの金属イオンが環状化合物

15-crown-5 の中央にある空間を充填

している模式図

15-crown-5 の構造を作る10個の黒

い丸は炭素炭素2個のつながりごと

にある中心の白い丸は酸素酸素と

金属イオンの間の距離はおよそ 22~

23Åであるカリウムのファンデン

ワールス半径は 135Åイオン半径は

15~16Åである

測定したいイオンに対しポリ塩化ビニル(PVC)を支持体としてイオノフ

ォアを添加した液膜の電極膜を作成しこれをガラス電極におけるガラス薄膜

と同様試料に接する電極膜として用いるこの構造から一般的に液膜型電極

と呼ばれる電極膜には特異性を高めるため妨害イオン排除剤などが添加

される

pH メーターと同様銀塩化銀標準電極と組み合わせ電池を形成しその

起電力を計る測定したいイオンが液膜に対して内外で平衡に達したときの

膜電位を測定するのはガラス電極と同じである

カ リ ウ ム イ オ ン に は Bis[(benzo-15-crown-5) ( 正 式 名 は

Bis[(benzo-15-crown-5)-4-methyl]pimelate)ナトリウムには Bis[(12-crown-4)

やDibenzyl-bis[(12-crown-4)などがイオノフォアとして用いられる

58

図16カリウムイオン測定用に使われるクラウンエーテル

図17ナトリウムイオン測定用に使われるクラウンエーテル

59

参考イオン選択電極に関する文献Xia Z Badr IHA Plummer SL Cullen L

Bachas LG Synthesis and evaluation of a bis(crown ether) ionophore with a

conformationally constained bridge in ione- selective electrodes Anal Sci 14(2)

169-173 1998 Oh K-C Kang EC Cho YL Jeong K-S Y oo E-A Paeng K-J

Potassium-selective PVC membrane electrodes based on newly synthesized

cis- and trans-bis(crown ether)s ibid 14(10)1009-1012 1998 Dojindo WEB

site httpwwwdojindocojpwwwrootproductsjinfo2protocolp31pdf

<補遺> 60

補遺 状態関数 (本文 p21 10 行目参照)

一つの平衡状態にある系 A とこれに接する系 A にとって外部である系 B について系 B

から系 A に熱を与えこれによって系 A が他の平衡状態に移ったとき系 A はその結果とし

て膨張し系 B に対し仕事をする

このときの微少な熱量の移動を記号drsquoQ またなされた微少な仕事をdrsquoW とすると

系Aの内部エネルギーに関する微少な変化drsquoUA は両者の和として表される

WdQdUd A primeminusprime=prime (a-1)

この式 a-1 と本文中の式25との関係について

WQU A Δminus=Δ 本文(25)

<補遺> 61

式 a-1 と式25の記号の違いは変化の起きる前の平衡状態 S1 から変化後の平衡状態 S2

に状態変化があったとするなら式 a-1 を積分することで式25が得られるものと考えて区

別している

A

S

S A UUd Δ=primeint2

1 (a-2)

このことは重要であるすなわち内部エネルギーU は変化の起きる前後の状態を指定する

ことによって値が定まることを意味するこのように積分によって値を定めることが出来る

のでdrsquoU は完全微分であるという

内部エネルギーのように系の状態だけで値の定まる量を状態関数として扱う

一方式 a-1 のdrsquoQ drsquoW についても同様に微少の変化量を表しているが平衡状態 S1

から S2 への経路を指定しなければ積分の値は定まらない

本文中の記号にしたがって仕事量ΔW を次のように表すことにする

VpW Δ=Δ 本文(20) V

<補遺> 62

体積と圧力の関係を表す図を使ってこの仕事量が意味することを考える圧力 prsquo の下で

体積が V1 であるときを状態 S1 として圧力一定の下で体積を V2 まで膨張させるような変

化を行った後体積を等しく保って圧力を p にまで上げたときの状態を S2 とするこのとき

の仕事量は膨張に伴うものであるから図の体積‐圧力線の下の面積で示すことができる

平衡状態 S1 から S2 への変化の道筋を別にたどってみよう

新しい経路では圧力を先に p まで上げた後に膨張変化させている

図から直感的に明らかであるので数式での扱いを省略するが2 つの経路による仕事量には

差がある

すなわちdrsquoW は drsquoU と異なり変化の初め S1 と終わり S2 の状態が与えられても積分値

は定まらず変化の経路によって違ってくる

このように変化の経路を指定しなければ積分値が定まらないものを不完全微分と呼び扱

いを区別する

本文 p21 へ戻る

<補遺> 63

VpW

WQU

VpQU

VpUQ

1122 SSSS pVUpVUQ

pVU

VpUHHHQ SS 12

エンタルピー (本文 p24 20 行目参照)

本文中の式 20 および 25 から一定の圧力の元で起きる状態変化において内部エネルギー

の変化量に対する式 a-3 を得る

本文(20)

本文(25)

(a-3)

式 a-3 を Q について書き直す

(a-4)

状態の変化が平衡状態S1から平衡状態S2に移ったものとして式 a-4を丁寧に書き直すと

(a-5)

並び替えて

(a-6)

式 a-6 を見ると定圧過程における熱量の流入は

(a-7)

の形を持つ関数の差であることが分かる

一般に化学反応のような変化の過程では大気圧の下で行われるようなものに興味がある

そこで式 a-7 で与えられる項を一つの関数として定義するこれをエンタルピーと呼び記

号 H を与える式 a-4 はエンタルピーの変化量で次のように書き改められる

(a-8)

圧力が一定の下で起こる状態変化について流入する熱量は式 a-8 で示されるようにエンタ

ルピーの変化量に等しい

V

V

V

V V

V

V

1212 SSSS VVpUUQ VV

<補遺> 64

1Q

We

また式 a-8 からオートクレーブ内で起こるような体積変化のない過程ではこの値が内

部エネルギーの変化量で与えられることが明らかである

本文 p24 へ戻る

エントロピー (本文 p26 17 行目参照)

エントロピーは次のような思考実験から発想された仮想的な状態関数である

理想気体よりなる系 A が温度 T2で熱平衡状態にあり温度 T1の外部の熱源と接しているこ

とを想定する系 A の外部を系 B と呼ぶことにするT1は T2に対して無限小だけ高い温度と

する

系 A が系 B に対して温度圧力について平衡を保ちながら緩慢に系 B より熱量 Q1を受け取

る過程を考える(このような過程を準静的過程と呼ぶ)これによって系 A が熱量 Q1を得て膨

張するとき系 B に対して仕事をする続いて系 A から熱量 Q2が系 B に戻ることを考える

想定されるこの変化が可逆的であれば系 A と系 B を併せた全体は元の状態に戻る蒸気機

関に関するこのような研究が Nicolas Carnot によってなされたのは1824 年のことであった

ここに想定されたサイクルに対する Carnot の効率 e は移動した熱量となされた仕事によ

って定義され次の式で表される

(b-1)

<補遺> 65

理想気体では内部エネルギーU の変化ΔU はゼロと考えるしたがって熱力学の第一法

則を表す式(本文中の式25)から次の関係が示される

0=Δminus=Δ WQU

WQ Δ= (b-2)

これによってCarnot Cycleの効率eはQ2lt0 として次のように書き改めることが出来る

1

21

QQQe +

= (b-3)

ところで気体の状態方程式から1 モルの気体について次のような関係が示される

RTV

P

P1=

V = RTV (b-4)

V 式 b-4 の両辺に体積の微少変化量ΔV をかけて

(b-5)

これを体積Vについてその変化をV1からV2までとして積分するならば次式が得られる

VV

RTVP Δ=Δ 1V V

V

intint = 2

1

2

1

1V

V

V

VdV

VRTPdV

1V2V

11 lnRTW =

(b-6)

Q1の熱量によって起こる膨張がV1よりV2までとし圧力P温度T1の下でなされるその仕事

量をW1とするならそれは式b-6 の右辺によって示されるすなわち

(b-7)

VV

1

2lnVVRT=

V V

VV

V

V2int V2 intV1 V1

<補遺> 66

またQ2の熱量の移動が圧力P温度T2の下で起きこれによって系Aが可逆的に圧縮され

るなら体積変化はV2よりV1まで起こりその仕事量をW2で示すと次式のように表される

(b-8)

1

22

2

122 lnln

VVRT

VVRTW minus==VV

VV

Q1=W1Q2=W2の関係から式b-7 およびb-8 を用いてCarnot Cycleの効率eを表す式b-3

を書き改めると温度のみの関係式として次のように表される

1

21

TTTe minus

= (b-9)

ここでサイクルが可逆的過程であると想定するならば式 b-3 と式 b-9 から

1

21

1

21

TTT

QQQe minus

=+

= (b-10)

これから

12112111 QTQTQTQT minus=+ (b-11)

整理すると

02

2

1

1 =+TQ

TQ (b-12)

この考えをさらに発展させ系A

と系Bの間に数多くの系を挿入すること

にしてそれらの系を同様に熱源として

T1T2Tnと考えるこれによっ

て熱の受け渡しが系Aから系Bに至り

再び系Aにもどるサイクル過程に数多

くの寄り道の過程を加えることになる

熱量の移動に関して上の場合と同じく

準静的過程で行われると考えるこの

サイクル全過程について初めと終わ

<補遺> 67

n

i i

i

T

Q

1

0

0T

dQ

T

QS

T

dQASAS )()( 12

りが同じ状態になる可逆的な過程であるなら式 b-12 を拡大的に考えることになってそれ

は次式で表される

(b-13)

式 b-13 には重要な関数が現れるすなわち熱量と温度の比QT である

もし一つの系が無限小だけ温度の高い(dT )外界から温度圧力など平衡を保ちなが

ら極めて緩慢な過程(準静的過程)で無限小の熱量(dQ )を受け取るならばその変化は可

逆的でありdT について連続的な温度分布をする過程を考えるとき式 b-13 をさらに発展

させて次のように積分式で示すことが出来る

(b-14)

式 b-14 で積分記号にが付されているのはCarnot Cycle のような経路を一巡することを

意味している

Carnot の熱機関の効率という着想から生まれた熱量とそれを持つ系の温度との比 QT に

重要な意味を見出したのは Rudolph Clausius で彼はこの比にエントロピーという名前を与

えたエントロピーには記号ΔS を一般に用いる

(b-15)

エントロピーは初めと終わりの状態がわかれば過程に関わらず定まるので状態関数であ

系 A と外界のエントロピー変化を考えるときそれが可逆的過程であるならばすべてを併

せた全体のエントロピー変化は初めと終わりに変化がないという意味でゼロであるすなわ

ち初めの状態を S(A1)とし次の状態を S(A2)とするならそれぞれのエントロピーを

ΔS(A1)ΔS(A2)としてこの間におけるエントロピーの変化量は次のように示される

(b-16)

<補遺> 68

T

dQdS

0T

dQ

ある一つの変化については次のように示される

(b-17)

ここで式 b-17 の S に付けられたdは微分量すなわちごく微小の変化量を意味し式 b-15

で定義されたエントロピーに用いられる一般的な記号Δと区別する

ところで式 b-10 の関係においてもし移動した熱量のすべてが仕事に変わらなければ

効率 e を表す熱量を用いた関係式と温度で表される関係式は等号で結ぶことができないそれ

はエネルギーのロスを意味し初めと終わりの状態が異なってしまうことを意味するすなわ

ち全過程が構成する一つのサイクルは可逆的でなくなる

不可逆過程での熱効率 ersquo は 大値を示す可逆的過程の熱効率 e より小さな値をとる

ee

したがって 大効率を与える式 b-8 と式 b-3 から

01221

2112

1

21

1

21

QTQT

QTQT

Q

QQ

T

TT

両辺を T1T2で割ると

02

2

1

1 T

Q

T

Q

これを式 b12 と同様に発展させれば式 b-14 についてサイクルの変化が可逆的過程の

場合と不可逆的過程の場合の両方を併せClausius の不等式と呼ばれる次の関係が成立する

(b-18)

式 b-18 の等号が成立するのはサイクルが可逆的な理想の場合に限られる

ある孤立系で状態 A1 から状態 A2 へは不可逆変化で進められ状態 A2 から再び状態 A1

に戻るとき可逆変化であるような閉じた状態変化を考える可逆系のエントロピー変化には

記号 Q を使い不可逆変化には Q を用いるとするとそれぞれ積分式を用いて状態 A1 から

状態 A2 へは

<補遺> 69

d prime

状態 A2 から状態 A1 に戻るときは

全体では

=d prime

+d

(b-19)

Clausius の不等式から

0

式(b-19)の第二項で反応を逆に進めるときには次のように書き改めることができる

=d

よって式(b-19)は次のように書き直すことができClausius の不等式とあわせると

d prime d

0

すなわち

d prime d

上式の右辺は式(b-16)を用いて表せば

d prime

∆S ∆

この状態変化を微小変化とするならば断熱変化の場合 dQ = 0 であるから

∆S ∆ dS 0

すなわち不可逆変化を含む断熱変化ではエントロピーは必ず増大する

<補遺> 70

T

QS

BA SSS

(b-20)

(次の<補遺>ギブス自由エネルギーも参照せよ)

本文 p26 へ戻る

ギブス自由エネルギー (本文 p28 27 行目参照)

エントロピーの考えを導入することによって不可逆的に状態変化が起きるときにはエン

トロピーの増大を引き起こすことを知ったこれによって目前で起きる現象について温度の

変化があるものであれないものであれまた圧力の変化があるものであってもエントロピー

の定義式によって可逆的な変化におけるエントロピーの変化量を計算することが可能である

(b-15)

しかしながらこれから起こる変化について我々がすでにあらかじめ知っている物理量を

用いて予測的にその状態変化が起きるかどうか知ることは必ずしも容易ではないその理由

は式 b-15 に示されたエントロピーΔS が系とその外界をあわせた全体のエントロピーを示

しているからであるすなわち関心のある系を系 A としその外界を系 B とすると全体

のエントロピーは次のように表せる

(c-1)

関心のある系 A のエントロピー変化を知るためには系 B のそれを知ればよいがそれは

いつも容易とは限らない系 A の性質だけで状態変化の方向を知るには別の観点が必要にな

るようだ

そこでもう一度状態変化が熱量 Q の移動によって起きることについて考えてみようエン

トロピーの補遺で議論したように熱量の移動が準静的過程により行われるときには変化は可

逆的に起こると考えたこのとき外界すなわち系 B から移動する熱量を Q1とし系 A から

0S

<補遺> 71

21 QQ

T

Q

T

QSB

21

T

QSS A

2

QH

T

HSS AA

AA STHST

のそれを Q2 と記号を当てたのでこれをそのまま使うことにすれば可逆的な過程では系 B

の熱量 Q1 はすなわち系 A から戻る Q2 に他ならないので両者には次の関係が成立するも

のとしてよい

(c-2)

したがって

(c-3)

と考えてよくこれによって式 c-1 を次のように書きなおすことが出来る

(c-4)

独立した系で圧力とその体積に変化がなく一定の条件の下で状態変化が起きるときエン

タルピーの考えを使ってすでにひとつの関係があることを導いている

本文(31)

そこで式 c-4 を系のエンタルピーΔHAによって書き改めれば

(c-5)

この両辺に-T をかけて式を書き直せば次の関係式が得られる

(c-6)

式 c-6 を見るときその右辺がマイナスの値ならば左辺のΔS はプラスの値をとることが

分かるすなわちエントロピーが増大すると見ることが出来るこれまでの過程で自然の現

象はエントロピーが増大する方向に進むとしてきたので関心のある状態変化について式 c-6

の右辺で計算される値がマイナスの値ならばその変化は起きるものと考えてよいことになる

だろうしかも右辺はすべて独立した系の状態量で示されていて我々が知りうる値で計算

<補遺> 72

TSHG

STSTHG

STHG

可能である

そこでこれを熱力学ポテンシャルを表すものとしてギブス自由エネルギーと呼ぶことに

するギブス自由エネルギーは記号 G が用いられ次のように定義される

(c-7)

ここで関心があるのは自由エネルギーの絶対値ではなく式 c-6 に示されたようにその変化量

に興味があるので式 c-7 から

(c-8)

温度が一定の条件の下で状態変化が起きることを考えるなら式 c-8 は次のように書くこと

ができる

(c-9)

ギブス自由エネルギーは式 c-9 の右辺がすべて状態量であるからこれも状態量の一つで

ある定圧定温の条件下で起きる変化ではすでに議論したようにΔGlt0 であれば状態

変化は自発的に起きるものと予測できる

つまり式 c-5 の第一項は系のエントロピーΔSAそのものであり第二項で示されるエンタ

ルピーは系 A の温度が一定に保たれているのであるから発熱する熱量として外界に吸収さ

れるものであってこれは外界のエントロピーの増大につながるものとして解釈されるした

がって化学反応のように一定の圧力と一定の温度の下で起きる変化について自由エネルギ

ー変化量はその状態変化が自発的に起きる傾向を示しているといってよい

本文 p28 へ戻る

  • はじめに
  • 目次
  • 電気エネルギー
    • 金属のイオン化
    • 電池
    • 水素の反応
    • 燃料電池
    • 化学反応と電気エネルギー
      • エネルギーと熱力学
        • エネルギー保存則
        • エンタルピー
        • エントロピー13
        • ギブス自由エネルギー
        • 電池における化学反応のギブス自由エネルギー13
        • 理想気体の状態方程式
        • 理想溶液のギブス自由エネルギー
        • 膜電位
          • 水素イオン濃度測定
            • 化学反応の一般的な式
            • pHの定義とその目盛り
            • pH標準液
            • 銀塩化銀参照電極
            • 実用的なpH測定
            • ガラス電極
            • 電極の校正
            • 金属イオンに対応するイオン選択電極
              • 文献
              • 補遺
                • 状態関数
                • エンタルピー
                • エントロピー
                • ギブス自由エネルギー
Page 21: イオン選択電極i イオン選択電極 Ion Selective Electrode (ISE) を理解する ・ pHを測定する ・ NaやKなどのイオン濃度を測定する 神戸大学医学部保健学科

18

標準水素電極側では還元反応の半反応が起きる

2H+ + 2e- rarr H2

図7亜鉛電極と水素電極をつないで電池とする

25の基準状態における亜鉛電極の半反応(1)に対する平衡電位はすでに

知られている

E゜= -0763 volt

また銅板側の電極電位も同じようにして測定することができる

起きる半反応はすでに上述したが再度記しておこう

Cu2+ + 2e - rarr Cu(s) (3)

25の基準状態におけるこの電極電位はE゜=+0337 volt と知られて

19

いる

ここで亜鉛電極と銅電極の組み合わせでできる電池の最大電圧をこれらの

平衡状態における観測値から計算することができる式(18)を使って

V= E+-E- (18)

V= +0337-(-0763) = +110 volt

つまりダニエル電池で得られる最大電圧は11volt と計算できる実際に

はイオンの濃度が変化すれば反応の平衡が変化するので得られる電圧も変

化する

ここでダニエル電池で亜鉛1モルが反応するとき式(17)を使って得

られる仕事量としての電力を計算できる

W = n FV (17)

すなわちダニエル電池における電極反応は

Zn(s) rarr Zn2+ + 2e- (2)

Cu2+ + 2e - rarr Cu(s) (3)

であったから反応が進んで移動する電子はn = 2 である

1F = 96485 x 104 Cmol を適応すると

W = 2 x 96485 x 11 x 104 = 21227 x 105 Jmol = 2123 KJmol

(K = 103キロ)

すなわち亜鉛1モルの化学反応によって2123 KJmol の電気エネルギーが得

られる

水素ガスを使う燃料電池の起電力は電極の半反応から

O2 + 4H+ + 4e- rarr 2H2O (19)

25の基準状態におけるこの電極電位はE゜=+1229 volt が得られている

20

したがって燃料電池で1モルの水素が反応すれば

W = 2 x 96485 x 1229 x 104 = 2372 KJmol

すなわち2372 KJmol の電気エネルギーが基準状態で取り出せる最大電力

と計算される現在作られている燃料電池の電力は実際上08 volt ほどで

あるしたがって現実的に取り出せる電気エネルギーは 1544 KJmol の仕

事量と計算される「仕事量」という言葉については電気でモーターを回し

なにがしかの「仕事」をするなど思い浮かべれば実感できるだろう

エネルギーと熱力学 これまで述べてきたように電池は化学反応から直接電気エネルギーを取り出

す仕掛けであるダニエル電池では亜鉛と銅が酸化還元反応を起こす過程で

電子を放出するのを利用するまた水素ガスによる燃料電池は気体水素と酸

素を原料とし水が生成されるこの過程が1atm の気体原料を25(29815

K)で1モル反応させて生成物も1atm の液体の水を得るなら次の全反応に

よってすでに計算したとおり2374 KJmol の電気エネルギーが取り出せる

H2 + 12 O2 rarr H2O

圧力と温度がともに反応の過程を通じて一定の場合にその過程から取り出せ

る仕事量は熱力学的に考えることもできる

それはギブス自由エネルギーとして議論される電池で取り出した電気エネ

ルギーすなわち電力はこのギブス自由エネルギーに相当する

次に化学反応をこの熱力学の面から考えてみよう

エネルギー保存則

水素ガスを使う燃料電池のように独立した一つの仕掛けを考えこれを「系」

と呼ぶことにする系を考えるとき電池のように具体的なものを持って考え

るのが容易いのでそうすることが多い熱力学では自然界全体をあつかうので

しばしば概念的になり非現実的な記述が行われるが系の大きさや系を構成

する分子の大きさについて特定する必要はない

系におけるエネルギーを内部エネルギー熱エネルギー力学的エネルギー

の3つの要素からなると考えるこれらのエネルギーを考えるとき系の熱力

21

学的なパラメーター(変数)が必要となる熱力学的な状態はこれらのパラ

メーターのうちのいくつかを指定すれば決定される

熱力学的なパラメーターは2つに分類される

示量パラメーター(示量性変数)

系の大きさや構成する物質の量を示す体積や質量

示強パラメーター(示強性変数)

系の大きさに依存しない系における1つの点で決まった値で与え

られる圧力や温度密度など

いくつかのパラメーターで完全に決定できる状態を関数で表現することがで

きる場合があるそのような関数を熱力学的な状態関数(rarr補遺 p60)と呼ぶ

関数で状態の変化を表すことができれば数学的に取り扱うことができいろ

いろの面で便利である

一つの系についてその状態を知ろうとするとき系が熱力学的な平衡状態に

あると議論する上で都合がよい

熱力学的な平衡状態とは系を外部と独立させ長時間放置した後に達成され

る状態をいうこのとき系の状態をその外部のパラメーターで表現できる

たとえば電池を独立した系と考えるとき平衡状態に達した電極電圧を外部

においた電圧計で測定することができる

ある系を考えるとき前提としてその系はエネルギーを保有していると考える

系が独立してそこに存在するということで持っているエネルギーであるこれ

を内部エネルギーと呼ぶ系がある過程を経て状態を変えるとき系から系の

外部へ力学的な仕事をする場合には力学的エネルギーの出入りがあると考え

るまた系に熱が出入りする場合が考えられそれを熱エネルギーの出入り

と考えることにしよう

まず力学的エネルギーについて考えることにする

いま系が状態を変えその体積が増えれば系のlsquo壁rsquoがその系に接している

「外部」へ力学的な仕事をすることになる

このように系が膨張し壁が外部に向かって押し出されると考えたとき膨張

する過程における圧力を一定でpとし系が膨張した体積をΔV(膨張した分だ

けの体積増加量)とするなら系の仕事量ΔWは両者の積で表されるΔは変

化量を表すときにつける記号と決めておこう

22

ΔW = pΔV (20)

系の体積が凝縮する場合があるので仕事を記号で表す場合には注意するも

し系に接した「外部」から系に力が加わって体積を小さくしたならΔVは

マイナスとなるのでΔWもマイナスで表される

-ΔW = -pΔV (20prime)

今考えている系を「系 A」と呼びその内部エネルギーを UA外部の系を「系

B」と呼んでその内部エネルギーを UBと表すなら二つ合わせた全体の内部

エネルギーは両者の和で表すことができる

U = UA+UB (21)

この体積変化に必要なエネルギー変化量はどこから得られたかを考えれば

その変化があった「系 A」と外部の「系 B」のいずれかあるいは双方の内部エネ

ルギー変化分でまかなわれたと考えざるを得ない(図8参照)

そこでこのエネルギーの収支関係は変化分を表す記号に先と同様Δを用い

ることにすると次式のようになる

-ΔU =ΔW (22)

すなわち観察している「系 A」のエネルギーと外部の「系 B」のエネルギー

を合わせた総エネルギーを見てその微少な減少量minus ΔU が仕事をなすために

必要であったエネルギー量と考えてみることにする

ついでこの体積の変化が「系 A」に接する外部のlsquo熱rsquoによって起きたも

のと考えてみようすなわち外部の「系 B」が系 Aより高温で「系 B」によ

って系 Aが暖められたことになる

このとき移動したエネルギーを「熱量」と定義する

23

図8熱量の移動と系が外部にする仕事

「熱量」を記号Qで表すと外部の「系 B」が失ったエネルギーminus ΔUB で

ありこれが熱量であるから式で表せば次式のように書くことができる

-ΔUB = Q (23)

ここで「系 A」とそれに接する「外部 B」両方のエネルギーを合わせた総エ

ネルギーの変化量ΔUは式(22)で与えられていた

-ΔU =ΔW (22)

-ΔU =-(ΔUA+ΔUB) であるから

minus ΔUAminus ΔUB=ΔW (24)

これに式(23)を当てはめてΔUAで整理すれば

24

ΔUA= Q-ΔW (25)

この式(25)は「エネルギー保存則」あるいは「熱力学の第一法則」を数

学的に表現したものである

すなわち

独立した系を考えその状態が変化するとき系の内部エネルギーの変化量はその系に入る熱量と系が外部にした仕事との差である

式(25)にはまた重要な主張があるつまりエネルギー保存則にしたが

うとき熱量は力学的エネルギーにまた力学的エネルギーは熱量に変換しう

ることを意味している

熱量を表す単位はカロリー(cal)を用いる1cal は

1 cal = 4184 J

と換算されるジュールは 1J = 1Nm (ニュートンメートル)で仕事量を

表現する単位系で表される

エンタルピー

式(25)から定圧過程で式(20prime)を利用して次の式(26)が誘導さ

れる

Q =ΔUA+pΔV (26)

ここでQは熱量を表していたのでこの関係式(26)から熱関数として

新しい関数を定義する

新しい関数はエンタルピー(enthalpy)(rarr補遺 p63)と呼ばれ次の関数

式Hで表される

H = U+PV (27)

エンタルピーの微少変化量を記号Δを使って表現してみよう

25

ΔH = ΔU +Δ(PV) =ΔU +ΔPV+ PΔV (28)

独立した系で圧力が一定の下に起きる過程を考えるならΔP = 0 (圧力の

変化はゼロ)であるから式(28)は次のようになる

ΔH =ΔU + PΔV (29)

化学反応の過程を考えるとき系に容積の変化がなく過程の前後で一定であ

るならさらにΔV = 0 であるのでエンタルピーの変化量は

ΔH =ΔU (30)

また系の仕事を体積の変化としてみる式(20)から

ΔW = pΔV= 0

であるのでこれを式(25)へ適応すると

ΔU= Q minus ΔW = Q ΔW= 0 だから

結果的に系の圧力と体積が変化の過程で一定である場合にはその系のエンタ

ルピーの変化を表す式(29)(30)は次のように簡単な式になって熱関

数と呼ばれる意味が理解しやすいだろう

ΔH = Q (31)

独立した系に等圧等積で起きる過程を見る場合にはエンタルピーは系が外

部と交換する熱量の直接的な尺度となる

H>0 なら反応に熱を使うので吸熱反応

H<0 なら発熱反応

電池のように系に起きる化学反応で生じる電子の流れを取り出す装置を考え

る場合エンタルピーの変化を電気エネルギーとして取りだしている点に留意

26

しなければならない式(31)のようにエンタルピー変化が交換される熱

量に直接表現できるといっても必ずしも熱として取り出すとは限らないこと

を注意しよう

ところでエンタルピーは内部エネルギーと同じ次元にある状態量で定圧

変化の熱量がエンタルピー変化であるからある一点を標準として定めれば

すべての物質について任意の点のエンタルピーを変化量として定めることがで

きるすなわち化学反応の過程で発熱あるいは吸熱する熱量は反応材料と

生成物の間の状態変化に対応するエンタルピーに対応する

そこで一つの元素に対してもっとも安定な状態にある物質を標準物質とし

て定め29815K(25)1atm を標準状態としてその標準物質からある化

合物を合成するときの反応熱(発熱あるいは吸熱)をその化合物の「標準生成

エンタルピー」として定義できる多くの元素に対して標準生成エンタルピー

は現在表としてまとめられている

水素や酸素はその気体状態が標準物質でありそれらの標準生成エンタルピー

がゼロと定義される

エントロピー

もう一つ新しい状態関数としてエントロピー(entropy)(rarr補遺 p64)を

定義するエントロピーを表す記号は通常S を用いその定義は次の式(32)

による

S Q

T (32)

エントロピーは系の2つの状態が決まると状態量として決まる

このときQ は2つの状態の間を可逆的に変化したとき系が受け取る熱量

T は系が熱量 Q を受け取ったときの温度(degK)である

「熱力学の第二法則」はエントロピーに関するものである

図9では2つの系が接しておりそれぞれの温度を Thigh Tlowとする

Thigh>Tlow (33)

27

今温度の高い系から温度の低い系に直接熱量 Q が移動したとすれば温度

の高い系のエントロピーの変化量ΔS は熱量が失われるので負の値になる

図9熱の移動

そこで温度の高い系のエントロピーの変化量ΔS を式で表すことにすると

次式のようになる

Shigh Q

Thigh

(34)

一方低い系のエントロピー変化量ΔS は熱量が与えられるため

Slow Q

Tlow

(35)

両方の系を合わせたエントロピーの変化量ΔS は

S Shigh Slow Q

Thigh

Q

Tlow

lowhigh

lowhigh

lowhigh TT

TTQ

TTQ

11 (36)

式(36)の最終項で(33)を前提すなわち最初に温度の高い系は高い

と決めたのだとするならエントロピーの変化量ΔS は必ず次のようになる

28

ΔS >0 (37)

すなわち独立した系がありそれより温度の低い別の系あるいは温度の低

い外界が接した場合熱量は高い方から低い方へ移動するという自然の成り行

きを説明するものである

自然界に置いてエントロピーは

ΔS≧0

の値を取りΔS=0のときは可逆的過程である

今の例でいうなら熱は温度の高い系から低い系へ移動しその逆は起きない

常にΔS >0の方向に過程が進行するまた2つの系が同じ温度であるとき

両者は平衡状態にあって熱量の移動は見かけ上なくΔS=0と表現される

「熱力学の第二法則」はエントロピーによって表現されるもので系の変化が

可逆的であるかどうかを判定する指標であり現実の世界で起きる不可逆過程

が正の値を取る方向へ進むことを示す

あるいは系の変化が起きるとき外界を含めて考えれば総エントロピーが

増大する方向に変化が起きることを意味するというようにも表現される

ギブス自由エネルギー

熱力学の第一法則によってエネルギーの取りうる形である「仕事」と「熱」

は互いに変換されうることを理解したこのことの数量的な意味は1cal=418J

で示されるさらに仕事は100熱に変換可能であるが一方の熱はうま

くやっても100を仕事に換えることができないことを熱力学の第二法則で

説明しようとしたそのためにエントロピーという概念が導入された

ここで電池のような独立した一つの系を見るとき系の内部エネルギーの減

少を仕事として取り出しうるならそれは化学反応を一つの例としてどれほど

の仕事量が取り出せるのかはどうしたら与えられるだろうか

化学反応を電気エネルギーに換える電池では先に正負それぞれの電極におけ

る半反応の平衡電位の値を利用してその起電力に対する最大値を計算した

この化学反応から取り出しうる最大仕事量を与えるものとして新しくギブス

自由エネルギー(rarr補遺 p70)と名付け記号 G を使ってそれを次のように

定義する

29

G = H-TS (38)

H はエンタルピーである第2項にある S はエントロピーを表す

ギブス自由エネルギーは化学反応のような独立した系の定温定圧過程に適

応されるので変化量ΔG を式(38)から得ておこう

ΔG =ΔH-Δ(TS)

=ΔH-(SΔT+TΔS)

温度を一定と考えているのでΔT=0 であるから

ΔG =ΔH-TΔS (39)

この式(39)を書き換える

ΔH=ΔG + TΔS (39rsquo)

ここで定圧過程ではエンタルピーを次のように式(29)で定義できた

ΔH =ΔU + PΔV (29)

式(29)の意味するところを復習すれば

系のエンタルピー変化ΔH は内部エネルギーの変化量と系が外部に

した仕事量の和として表される

これは

定圧過程で系が得るエネルギー量から仕事量を除いたもの

と言い換えることができるエンタルピー変化量は化学反応などの過程で

始めと終わりの2つの状態の差であるからそれが正の値を示す(>0)なら

系のエンタルピーは増加することを意味しその過程が進行するためには系

の外部からエネルギーが供給されなければならない

一方式(39rsquo)の右辺第2項TΔS はエントロピーの定義(32)より

TΔS = Q (40)

であるのでこれは可逆過程で系に供給される熱量を意味する

30

もしエンタルピー変化量が負の値を示す(<0)ならば系のエンタルピー

は減少しその過程が進行することによってエネルギーが取り出せるすなわ

ち式(39)(40)から次のようにこれら3つの状態量を改めて説明する

ことができる

ある化学反応が定圧で可逆的に進行するときそれから取り出せる

エネルギーのうちΔG を仕事として放出し熱量 Q を放出する

標準状態29815K(25)1atm で標準物質からある化合物を合成すると

きの反応熱(発熱あるいは吸熱)をその化合物の「標準生成エンタルピー」

として定義した同様にある物質に対する「標準生成ギブス自由エネルギー」

はこの標準状態で標準物質からその化合物を化学反応で生成するとき式(3

9)によって与えられる変化量をいう

電池における化学反応のギブス自由エネルギー

先にダニエル電池の亜鉛板側に対する電極反応を検討したとき電極反応が

仕事として放出するエネルギーを表現する重要な式があった次の式(17)

である

W = n FV (17)

ギブス自由エネルギーを用いて今これは次のように書くことができるように

なった

W = n FV=-ΔG (41)

この式が表していることを実際に水素の燃料とする燃料電池の反応過程で見

てみよう燃料電池の図を再掲する

図中右にある陰極では水素の酸化反応が起きる

H2 rarr 2H+ + 2e- (5)

一方図では左にある陽極において次の還元反応が起きる

12 O2 + 2e- rarr O2- (6)

O2- + 2H+ rarr H2O (8)

全体の反応はすでに示したように次の反応式(7)で示される

H2 +12 O2rarr H2O (7)

31

標準状態における可逆的仕事は式(41)であらわせ

n FV=-ΔG (41rsquo)

このΔG は式(39)であらわせた

ΔG =ΔH-TΔS (39)

すなわち標準状態29815K(25)1atmにおいてある化合物を標準物

質から合成するときの標準生成ギブス自由エネルギー変化ΔG゜は標準生成エ

ンタルピー変化ΔH゜とその温度におけるエントロピー変化TΔSの差で求ま

るこれらは燃料電池の全反応を表す式(7)で与えられる

標準生成エンタルピーΔH゜変化とエントロピー変化はすでに一般的な元

素やその化合物に対して表が作成されている

液体の水に対する標準生成エンタルピーΔH゜(H2O)は

ΔH゜(H2O)=minus 28583 KJmol

また水素ガスと酸素ガスはそれぞれの元素の標準物質であるので生成エ

ンタルピー変化はゼロである

32

そこで式(7)での水を1モル化学合成するときの標準生成エンタルピーΔ

H゜は水素(ガス1モル)と酸素(ガス12 モル)の2つの材料と水(液

体251atm)の両状態における状態量の差として表される

ΔH゜=ΔH゜(H2O)-ΔH゜(H2) -12ΔH゜(O2) (42)

式(42)の右辺第2項と第3項がゼロであるので

ΔH゜=ΔH゜(H2O) =-28583 KJmol (43)

標準状態29815K(25)1atm における水素(ガス)と酸素(ガス)お

よび水(液体)のエントロピーはそれぞれ

ΔS(H2O)=6991 JKmol

ΔS(H2) =13068 JKmol

ΔS(O2) =20514 JKmol

単位で分母のKはケルビン温度の意味

と計算されているので

ΔS=ΔS(H2O)-ΔS (H2) -12ΔS(O2) (44)

=6991-13068-12times20514

=-16334 JKmol

したがって

TΔS=29815times(-16334)=-486998=-4870 KJmol

(45)

そこで標準生成ギブス自由エネルギーΔG゜は式(39)から

-ΔG゜=-(ΔH゜-TΔS) (39)

=-{-28583-(-4870)}

=+23713 KJmol

33

すなわちこのエネルギーを電気エネルギーとして取り出すことができるそ

の起電力は式(41rsquo)から

n FV=-ΔG (41rsquo)

V= -ΔG(n F)

各数値を当てはめれば

V=237130(2times96485)

=1229 volt

先に【化学反応と電気エネルギー】のところで記したとおり25の基準

状態におけるこの電極電位はE゜=+1229 volt が得られているすなわち

こうして標準生成ギブス自由エネルギーから計算することでも同じ値を得る

ことができた

水素を単純に酸素と化合させる燃焼では式(43)で示されるエンタルピ

ーが発生する熱量を示している水素1モルあたり28583 KJである電池

にすれば水素1モルあたり23713 KJの仕事量が電気エネルギーとして取り

出すことができるその差は電池の場合熱が発生して利用できない

化学反応の過程を利用して化学エネルギーから直接電気エネルギーに変換す

るのが電池という装置であるが化学エネルギーは100電気エネルギ

ーに換えることはできないこのようにエネルギーの一部は電池の熱として

発散してしまう

理想気体の状態方程式

ギブス自由エネルギーΔG を定義した式(39)とエンタルピーΔH の定義

式(28)から

ΔG =ΔH-TΔS (39)

ΔH =ΔU +VΔP+ PΔV (28)

そこで次式が得られる

34

ΔG =ΔU+VΔP+ PΔV-TΔS (46)

またエネルギー保存則から得られた式(26)を応用すればギブス自由エ

ネルギーが変形できる

Q =ΔU+PΔV (26)

から

ΔU=Q-PΔV (47)

したがって式(46)は

ΔG = Q-PΔV+VΔP+ PΔV-TΔS

ΔG = Q-TΔS+VΔP (48)

エントロピーの定義からQ=TΔSであるから結局式(48)は

ΔG = VΔP (49)

と表すことができる

成分が混合された気体分子の分子間に働く力をゼロと仮定した「理想気体」を

考えるとき状態方程式としてボイルシャルル(Boyle-Charles)の法則が

利用できる

PV=nRT (50)

ここでnは気体のモル数PVT はそれぞれこれまでと同じ圧力体積温度(ケルビン温度)でありR は気体定数と呼ばれるもので次の値を持

R= 831441 JmolK (51) 単位で分母のKはケルビン温度の意味

35

状態方程式から式(49)の右辺を導くことを考えてみよう式(50)は

1モルの気体について V に対し次のように変形することができる

V 1

PRT (50rsquo)

両辺に圧力の微小変化量⊿P をかけると

PP

RTP V (52)

これを微分方程式として圧力p0 からp1 まで(p0≦p1)積分するなら

1

0

1

0

1

0

1p

p

p

p

p

pdP

PRTdP

P

RTdPV (53)

関数 f(x)=1x を積分したときの関数はF(x)=ln(x)であるので(ln は e を底

とする自然対数loge)

右辺=0

1ln)0ln()1ln(p

pRTpRTpRT (54)

ギブス自由エネルギーを表す式(49)は次のようであったから

ΔG = VΔP (49)

式(52)から得た式(54)を当てはめると状態G0(p0T)からG1(p1T)

へ変化する過程で圧力が p0 から p1 まで変化するものとして

dGG0

G1

G( p1T ) G(p0T ) RT lnp1

p0 (55)

あるいはこれを書き直して

V

36

G(p1 T) = G( p0T ) + RT lnp1p0

(56)

特別にG0(p0T)を標準状態T=29815K(25)p0=1atmに指定する

なら標準生成ギブス自由エネルギーを記号G゜として (56rsquo)

と表すことができる

式(56rsquo)の意味するところは標準状態から圧力の変化を伴う過程で理

G(p1 T) = Go + RT ln p1

想気体のギブス自由エネルギーは圧力の対数に比例して上昇することである

このことはさらに新しい着想を生む

すなわち水素を燃料とする上の燃料電池で1atm 標準状態の水素ガスの圧力

を2atm に上げれば式(56rsquo)からRTln2 余分にギブス自由エネルギー

が取り出せることになる

燃料電池において起電力を生むエネルギーは隔壁を水素イオンもしくは酸

素イオンが浸透しようとする力であるので1atm の水素ガスと2atm のそれで

は浸透しようとする圧力が異なりここに起電力が生じる

式(56)の第二項が圧力の差による仕事であるからこれをΔG とすれば

W=-ΔG の仕事量が電気エネルギーとして取り出せるはずである

W = minusΔG = minusRT lnp1p0

(57)

起電力に換算するために式(41)を使うと

W = n FV=minus ΔG (41)

から

01ln

pp

nFRTV ⎟

⎠⎞

⎜⎝⎛minus= (58)

この式(58)は一般にネルンスト(Nernst)の式と呼ばれる

37

理想溶液のギブス自由エネルギー

理想気体を想定したように無限に希釈された混合溶液に対して理想溶液を仮

定する「系」の圧力温度を一定に保つならば体積内部エネルギーエンタ

ルピーギブス自由エネルギーなどの示量数は混合溶液を構成する物質のモ

ル数mに比例するたとえば標準状態にある物質の1モルの体積をVとすれば

mモルの体積はそのm倍mVであるそうすると溶液中のi番目の成分がmi

モル「系」から「外界」に仕事をするときその成分iの持つ自由エネルギーの

mi倍の仕事が「外界」になされると考えればよい

この溶液成分のモル数と化学的仕事を結びつける示強因子がギブスによって

化学ポテンシャルと名付けられ一般に記号μが用いられる

化学ポテンシャルはこれまで見たようにギブス自由エネルギーで表される

また電位がψ(プサイ)にある系から-Δeの電荷が放出されるときには

-ψΔeの電気的仕事が得られるそこで記号μに両者を合わせた意味を持

たせて「電気化学ポテンシャル」と呼ぶ

概念の上で物質は電気化学ポテンシャルの高い方から低い方へ勾配にした

がって移動する

理想気体の標準状態が気体分圧を T=29815K(25)で 1atm としたのに対

し溶液成分の標準状態はその分圧に相当するモル数 m を用いるすなわち

標準状態にある成分 i の電気化学ポテンシャルμ0iは成分の持つ電荷(H+なら

1)を n として

μ0i = G i゜+nFψ i (59)

ギブス自由エネルギーは式(56rsquo)を借り理想溶液中の成分に対しては気

体圧力をその成分のモル濃度Cに書き換えればよいそこで

G(CT ) G RT lnC (60)

と表すことができる

したがって一般的な成分 i の電気化学ポテンシャルμiを表す式は標準状態

からの自由エネルギーの変化を考え式(59)と合わせて次のようになる

38

ψnFGii 0

式(60)から

ii CRTGTCGG ln)( 0

よって

(61) ψnFCRT iii ln0

実際的なことを考えると成分濃度はその有効イオン濃度とする必要があり

「活量係数」γを導入して次式で表されるイオン活量aを用いる

ai = γCi (62)

一般的にはγ=1と近似してモル濃度Cを使っているこのテキストでも

必要ではない限りイオン活量を用いることを省略して簡単に記述したい

膜電位

燃料電池に使われたナフィオンのような一つのイオンを通す膜を介して膜

の両側にC0 とC1 のイオン濃度差がある溶液が接するときの電気化学ポテン

シャルを考えよう

ある容器の底にナフィオン膜を取り付け容器の中と外のイオン濃度をC0

とC1としそれぞれの電気化学ポテンシャルをそれぞれμinとμoutとする

式(61)を使って

容器の中の電気化学ポテンシャル

(63) innFCRTin ψ 00 ln

容器の外の電気化学ポテンシャル

(64) outout nFCRT ψ 10 ln

イオン浸透性の膜を介して濃度変化が無視できるほどの移動があると考え

その電気化学ポテンシャルの差を式(63)(64)から求めれば

39

)(ln0

1 inoutinout nFC

CRT ψψ (65)

この系において今注目しているイオンが膜を介した両側で平衡状態にある

とき式(65)はΔμ=0と考えることができるすなわち

0)(ln0

1 inoutnFC

CRT ψψ

膜内外の電位差をΔψ=ψoutminus ψinとすれば

1

0

0

1 lnlnC

C

nF

RT

C

C

nF

RTψ (66)

式(66)は理想気体に対するネルンストの式(58)と同様溶液中のイ

オンに対するネルンスト(Nernst)の式として与えられる

細胞の膜においてもその生体膜の内外でたとえばカリウムイオンのように

非対称に分布して平衡に達している場合には式(66)で与えられる膜内外

で電位差が生じるこれは一般に膜電位と呼ばれる膜電位は平衡電位とも

呼ばれる

たとえば膜内外に1価のカリウムイオンに10倍の濃度差があるとすると

通常カリウムイオンは細胞内の濃度が高いので

C0 = 10timesC1

であるから

これを式(66)に当てはめてln(10)=2303 を用いlog への変換をすれば

Δψ=2303times(RTF)timeslog(10)

であるこれに R=831441 JmolKF=96485 CmolT=29815 K(25)

の各数値を当てはめると

Δψ=2303times831441times29815times196485 JC

=+005917 volt

すなわち膜の内外で約+60ミリボルトの膜電位が生じることになるこの

分だけ細胞の外側の電気化学ポテンシャルが高く膜の内側の膜電位が負であ

るそして膜にあるカリウムチャネルがこの電位を示すとき受動的なカリ

40

ウムの膜内外の移動は平衡に達することになる

水素イオン濃度測定

「標準水素電極」は1モル塩酸溶液につけた白金電極に1atm の水素ガスを

吹き込んで平衡状態に達したときの電位を基準としてゼロボルトと規定した

そこである溶液についてその水素イオン濃度を知ろうとするとき同じ水

素電極を用いることを考えれば標準状態にする目的で用いた1モル塩酸溶液

を濃度未知で X モルの塩酸溶液と想定すればその水素イオン濃度を知るこ

とができるだろうか

標準状態ではない X モルの塩酸溶液に浸けた白金電極が半電池として働くこ

とは間違いなさそうであるしかしその白金電極が持つ電極電位を測定する

にはいずれにしても標準電極と組み合わせて「電池」を構成しその電池

の起電力として計る必要がある電池を作れば起電力を知ることができ相

手の半電池の電極電位が知られていれば濃度が未知でXモルの溶液について

その水素イオン濃度を知ることができるだろう

こうした目的のためにいちいちゼロボルトと規定した標準水素電極を用いる

のは煩雑なのでしばしば後出の「銀塩化銀電極」が参照電極として用いら

れる

まず予め「銀塩化銀電極」を標準水素電極と組み合わせて電池とし一度

その起電力を測定しておけば後はいつもそれを標準電極として利用できる

「銀塩化銀電極」の半電池は

H+ (1 moll) Cl- | AgCl | Ag(s)

これに「標準水素電極」を組み合わせ電池を構成すると次のような電池

になる

Pt(s) | H2(g) | H+ (1 moll) Cl- | AgCl | Ag(s)

この電池の起電力を知れば「銀塩化銀電極」の半電池としての電極電位

を知ることができ参照電極として未知の半電池と組み合わせて起電力を測

定して相手の電極電位を計算できる

41

濃度 X モルの塩酸溶液を未知の溶液と想定すればその電極電位を知るために

組み立てる電池は次のようになる図10にその電池の図を示した

Pt(s) | H2(g) | H+ (x moll) Cl- | AgCl | Ag(s)

この電池の全反応は次の反応式で表される

AgCl(s) 1

2H2 (g) H Cl Ag(s) (67)

図10未知溶液の水素イオン濃度を測定しようとするための電池

化学反応の一般的な式

ここで電池に利用される化学反応から得られるエネルギーをギブス自由エ

ネルギーに換算し起電力を具体的に知る手だてとすることは上ですでに学

42

んだがより一般的な式を再度ここに書きだしておこう

化学反応が紙面で左から右に進む反応として次のような一般式で与えられ

るとき

aA + bB rarr cC + dD (68)

ギブス自由エネルギー変化量は標準状態ΔG゜からの変化量を加える形で式

(60)と同様次の式によって表される

G G RT(ln aCc aD

d ln aAa aB

b )

G RT ln

aCc aD

d

aAa aB

b (69)

aAは成分 A のイオン活量であるその他の成分も同じ

得られたエネルギーを電気エネルギーに換えるなら式(41)に習って

次式で表せば

ΔG=-n FV

there4V=-ΔG(nF) (70)

このときの起電力は標準状態における電位 E゜からの変化量として次式で与

えられる

E E

RT

nFln

aCc aD

d

aAa aB

b (71)

標準状態における起電力 E゜は反応が平衡状態にあるときで反応平衡定数

を K とするなら

K aC

c aDd

aAa aB

b (72)

で表されるそこでE゜は次のように書き改めることができる

43

E

RT

nFln K (73)

そこで式(67)で表される図10の電池「水素minus 銀塩化銀電池」に

対する起電力をギブス自由エネルギーから求めてみよう

反応から式(71)に当てはめれば

E E RT

Fln

aH

1 aCl

1 aAg1

aAgCl1 aH2

1

2

(74)

力学の慣例にしたがって固体の純物質の活量は1として扱い水素ガスを

想気体として見なして活量を1atm とするなら式(74)は次のよう

に簡略化される

E E

RT

Flna

H aCl (75)

ころで理想溶液として近似的に取り扱うときの希薄溶液でたとえば水素

入して詳細に検討するなら式( れる起電

オン濃度はイオン活量として aH+の記号を使うときすでに【理想溶液のギ

ブス自由エネルギー】の章で述べたようにこれを有効イオン濃度とする必要

がありイオン活量 a は「活量係数」γを導入して次式で表した

a H+= γH+CH+ (62)

この活量係数を導 75)で誘導さ

を計ることによって経験的に試料溶液中の水素イオン濃度を求めることは

困難である式(75)にあるイオン活量の項はモル濃度 C と活量係数γを

用いて次式で書き改められる

lnaH aCl

lnCH CCl

lnH Cl

(76)

まり式(76)右辺の第二項において互いに相手が知られなければ自分

決めることができず結果的に起電力を知っても(75)の値から水素イオ

ン濃度を導けないここに工夫が必要になる

44

の定義とその目盛り

液中の水素イオン濃度を直接意味するものではなく

を定義するとき測定されるのは1リットルの溶媒に存在す

pH = -log a H+ = -log(γH+CH+) (77)

際に試料溶液の pH を決定する際はpH 標準液を用いる

に溶液を入れ試料溶液 X と pH 標準液 S を

参 極を接続し電池を作成しその起

pH

現在pH の定義は溶

で述べたようにそれが簡便に測定できるものではないため次のように定

義されている

水素イオン濃度

水素イオン活量であるため定義式としては活量係数をγH+として次式で与

えられる

その要領は次のようである

上に図示した水素電極の容器内

れぞれ半電池(I)と(II)に入れる

半電池(I) Pt | H2 (1 atm) | 試料溶液

半電池(II) Pt | H2 (1 atm) | 試料溶液S

照電極として上図のごとく銀塩化銀電

電力を測定する半電池(I)のときの起電力を E(X)半電池(II)のそれを E(S)

とするこのとき試料溶液Xの pH は次式で計算される

pH (X) pH(S) E(S) E(X)

RT ln(10) (78)

ln(10)は自然対数を常用対数に戻すための定数で2303 を用いる

標準液

pH 標準液 S はpH 第一次標準液第二次標準液と呼ばれるべき

る測定

25で pH 4005 を示す

pH

上述した

のであり絶対的測定法である起電力の測定によって値をつける

標準液は安定で純粋な結晶が得られる試薬を調整してこれを測定す

上と同様に水素電極を用いこれに緩衝液を入れる参照電極として銀

塩化銀電極を接続して電池の起電力を測定する

たとえば005 moll フタル酸水素カリウム溶液は

一次標準(Primary Standard PS)の一つである半電池(III)として水素

45

電極を次のように準備する

半電池(III) Pt | H2 (1 atm) | PS 溶液

て電池を形成したとき得られる起電

参照電極として銀塩化銀電極を接続し

は式(75)から

E E

Ag AgCl RT

Flna

H aCl (79)

オン活量を濃度と活量係数の積(a H+= γH+CH+)にし自然対数を常用対数

すれば

E E

Ag AgCl RT ln(10)

F log(

H + CH+ Cl- CCl - ) (80)

E゜は水素標準電極(水素ガス分圧を1atm電極を浸ける溶液に001 moll

H

Cl を用いる)で得た起電力である

式(80)から

RT ln(10)

Flog(

H CH Cl

) (E EAg AgCl )

RT ln(10)

Flog C

Cl

(81)

らに

log(

H CH Cl

) F

RT ln(10)(E E

Ag AgCl ) logCCl

(82)

ころで式(77)から

(γH+CH+) (77)

-log a H+ =-loga H+-log(γCl-) +log(γCl-) =-log(a H+γCl-) +log(γCl-)

(83)の一番右の式で第一項は

pH = -log a H+ = -log

であるが右の式をさらに変形すると

(83)

46

-log(a H+γCl-)=-log(γH+ CH+γCl-) (84)

たがって式(82)の右辺で示されるように電池の起電力を測定すれば

よ 実際には溶液の塩素イオン濃

液で起電力を求め外挿する

起電

これによってpH を意味する式(83)は次式(85)で与えられる

p(aHγCl)はRG Bates によって Acidity Function と呼ばれている

らに式(85)最終項の log(γCl-) を補正しなければならないこの項は

本工業規格)によっても

であってこれは式(82)の左辺である

いただし塩素イオン濃度の項があって

をゼロにしたときの値が必要である

実測する際には塩素イオン濃度をゼロにできないので塩化ナトリウム NaCl

等を濃度を変えて添加しその時々の緩衝

勧告ではNaCl で 000500100015moll の3つの濃度を例示している

すなわち塩素イオン濃度ゼロのときの値は各塩素イオン濃度に対して

の値をそれぞれプロットしグラフから塩素イオンがゼロのときの起電力の

値を3点に対する回帰直線の延長で外挿して求めるこの点を次のように書

log( C H H Cl CCl

0

pa log( C log( (85) H H H Cl C

Cl0 Cl

)

素イオンの活動係数で与えられる補正項である

無限希釈溶液中のイオンの活動係数は理論的に Dubye-Huckel の式を用い

近似的に求めることが可能であるこれはJIS(日

用されていて Bates-Guggenheim の規約と呼ばれる (Bates RG

Guggenheim Pure Appl Chem 1 163-168 1960)

Dubye-Huckel の式は次のように与えられる

log A I

i 1 iB I (86)

47

I iについてそのモル濃度

計算される

はイオン強度でイオン mi と電荷 zi から次式で

I 1

2mizi (87)

また iは(86)式のBは温度と溶媒の性質による定数であり イオンの大

きさに関するパラメータで水和イオンの大きさとほぼ一致した値をとる標

準法の勧告では塩素イオンに対しイオンの大きさを46Åと決めてiBを

1

5 にしているそこで式(84)は次のようになる

ClA I

log 1 15 I

イオン強度 I は塩素イオン濃度を含まない計算となる

以上の方法によって実用的な pH 測定に用いられる第一次第二次標準液の

pH の値が得られる

絶対値としての

はpH の絶対測定法(第一次標準測定法)とされている

銀塩化銀参照電極は分極現象を防ぐために棒状の銀を塩酸で処理し表

に塩化銀を生成させたものを飽和塩化カリウム溶液につけてある

(88)

参考現在は実験的に求めた値と理論値の組み合わせで

素イオン濃度を求める方法を規定しているこの起電力から水素イオン濃度

を知るための測定方法

Buck RP Rondinini S Covington AK Baucke FGK Brett CMA Camoes MF

Milton MJT Mussini T Naumann R Pratt Kw Spitzer P Wilson GS

Measurement of pH definition standards and procedures Pure Appl Chem

74(11)2169-2200 2002Kristensen HB Salomon A Kokholm GInternational

pH scales and certification of pH Anal Chem 63(18) 885A-891A 1991)

銀塩化銀参照電極

電極の構成は

Cl-(aq) | AgCl(s) | Ag(s)

48

この半反応は次のようになる

AgCl(s) + e- rarr Ag(s) + Cl- (89)

の反応は次の2つの反応に分けて考えることができる

Ag+ + e- rarr Ag(s) (91)

AgCl(s)rarr Ag+ + Cl- (90)

図11銀塩化銀参照電極

(90)における銀 る塩素イオンによって左

されることが推測される

そこでカッコ [ ] をそれによって囲まれるイオンの濃度を表すことにし

式 イオン Ag+の溶解性は共存す

塩化銀の乖離定数Kを考えると

49

K = [Ag+][Cl-] (92)

これから

[Ag+]= K[Cl-] (93)

化カリウム溶液に漬けた銀塩化銀電極の電位 E は水素標準電極に対する

電 で与えられる

位を E゜として次式

E E

RT

nF

[ Ag ]

[Ag(s)]ln( )

Ag(s)のイオン活量は常に1とする

ここで半反応の電極電位を求めるために式(75)を利用することにすれば

(94)

熱力学の慣例にしたがって純物質個体

E E

RT

Flna

H Cl a (75)

式 の半反応をみると

応で電子1つが移動するので n=1 とするR=831441 JmolK1F = 96485

C はめれば

これに銀イオンの濃度として式(93)を当てはめる

この反応で移動する電子は (89) 銀イオン1つの反

molT=29815K(25)ln(10)=2303などの定数を当て

2303RTF = 005917

であるから(94)式は次のように表現できる

log[Cl]) E E 005917(logK (95)

たがって標準水素電極に対する銀塩化銀参照電極の標準状態における電

位 は半反応(89)に対して ゜=+0799で

化銀の乖離定数 K は182times10-10 であるのでその対数を取れば-973993

0799-005917times973993-005917log[Cl-]

E゜ E ある

ある

そこで式(95)は

E =

50

= 0799-0576-005917log[Cl-]

= 0223-005917log[Cl-] (96)

電極電位の関係について実測値

こうして求めた塩化カリウム溶液の濃度と

計算上の値は次のようである

KCl moll vs SHE volt25 計算値 volt25 01 02881 02822 35 0205 01908 飽和 0199 minus

実用 測定

実際の現場で水素イオン濃度を測定する目的の測定法で上のような2つの

極が同じ溶液に浸かっていたのでは試料溶液を交換するにも便利ではない

の容器に入れる未知試料溶液と銀塩化銀電極を隔離する

的な pH

そこで水素電極側

的で二つの電極容器をつなぐ液絡部をグラスフィルターやセラミック板

飽和塩化カリウムで作成したゼラチンなどの塩橋によって隔離遮断するこ

れを液絡部とよぶ

電池として機能するために必要な溶液イオンの交換はこの液絡部で行う

組み立てる電池は電池式で次のように表される

Pt(s) | H2 | 試料 (H+ x moll) || 飽和 KCl | AgCl | Ag(s)

の標準電極と銀塩化銀電極とは区切られていて溶液の直接の接触がない

とを意味するために電池式ではタテ二重線を用いる銀塩化銀参照電極

の容器には飽和塩化カリウム溶液が入れられる

51

図12液絡部のある pH 測定のための電池

この液絡部のある電池では塩橋を記号lsquo | | rsquoで表して次のように記す

試料 (H+ x moll) | | 飽和 KCl

ここでは試料溶液と飽和塩化カリウム溶液の異なる2液が接している

このような界面では膜電力が生じるのと同様「液間電位差」が生じることが

知られているしたがって上の電池で測定される起電力 E は

E = E[銀塩化銀電極電位]+E[液間電位]+E[水素電極電位]

で与えられることになってE[液間電位]のために図12の電池の起電力

は銀塩化銀参照電極の値を知っていても水素電極容器内に入れた未知溶

液の水素イオン濃度を正しく知ることができない

52

そこで実用的な測定法としてこの E[液間電位]を膜電位として積極的に利

用する方法が工夫されたすなわち水素イオンに感応するガラス薄膜を用い

るガラス電極法である

53

ガラス電極

ガラスはケイ素原子と酸素原子からなる SiO4 の結晶構造を持ち酸素で囲

まれた空隙があって水素イオンがそれを埋めることができる

この性質によってガラス膜表面は水溶液中の水素イオンに応じて膜電位を

変化させるのでこれを水素イオン濃度測定用の電極として利用することが考

えられるこれが通常用いられるガラス電極である

ガラス電極は標準電極と組み合わせれば電池を構成することができこの電

池の起電力を知ってガラス薄膜の内外にできたイオン濃度勾配を知ろうとす

るものである

薄いガラス膜(01mm程度)をはさんで接する2つの溶液のH+イオン濃

度が異なるとその差に応じてガラス膜の両側に電位差(Eg)が現れる

ネルンストの式でガラス電極の内部に入れた既知の濃度のH+([H+]in)に対

し試料中の水素イオン濃度が[H+]sampleのとき次の電位を生じる

)][

][log(059170)

][

][ln(

sample

in

sample

ing

H

H

H

H

F

RTE

(97)

図13ガラス電極

電極を構成するのは銀塩化銀電極と同じ電極で用いる塩溶液は一般的

54

に 01モル塩酸溶液である

この半電池の電池式は次のように書くことができる

Ag(s) | AgCl(s) | HCl (01 M) | ガラス薄膜 || 試料溶液 H+ (x moll)

Eg

この半電池の電極電圧を測定するために銀塩化銀標準電極と組み合わせ

電池を作って起電力を計る

構成される電池は下図のようになる

ガラス電極 銀塩化銀標準電極

図14ガラス電極を用いた pH 測定用の電池

この電池の起電力は次の各半電池の平衡電位を合わせたものになる

55

E1ガラス電極の内側電位

Ag(s) | AgCl(s) | HCl (01 M)

Egガラス薄膜の内外に生じる膜電位

HCl (01 M) | ガラス薄膜 || 試料溶液 H+ (x moll)

E2液間電位(膜電位)銀塩化銀標準電極のセラミックを介した試料溶液

と銀塩化銀標準電極の内部液(飽和 KCl 溶液)の間に発生する電位

試料溶液 H+ (x moll)|| セラミック | KCl(飽和)

E3銀塩化銀標準電極

KCl(飽和)| AgCl(s) | Ag(s)

pH メーター用のガラス電極に使われるガラス薄膜は水素イオンに感応して

膜電位(Eg)を生じるこれは【膜電位】の章で記したように薄膜がある

一つのイオンのみを通過させる特性を持っている場合にイオンが膜を介した

両側で平衡状態に達したとして電気化学ポテンシャルを膜の両側で等しいと

考えてそのイオンが濃厚な側から希薄な側にその差によって圧力を生じると

するものである

一方同じ試料溶液が銀塩化銀標準電極のセラミック液絡部を介して生じ

るだろう液間電位(膜電位E2)はいま関心がある水素イオンに対して特異

的に感応するのではないので試料溶液の水素イオン濃度に関係なく一定と見

なすことができる

すなわちpH メーターを構成する電池の起電力 E は

E = E1+Eg+E2+E3 (98)

このうちEg以外は一定と見なせるので

E1+E2+E3 = E

として式(98)を書き直すと

)][

][log(059170

sample

ing H

HEEEE

(99)

Eは標準液によって校正されるべき標準電極電位である

56

電極の校正

実際のイオン濃度を測定する場合低濃度標準液と高濃度標準液で得られ

る起電力を測定し計測のイオン濃度に対する係数(傾き)を求めておき未

知の試料に対して起電力を測定してそのイオン濃度を算出する方法が採られる

低濃度標準液と高濃度標準液のそれぞれの濃度をCLとCHとすればそれぞ

れの起電力ELとEHは次式で表される EH = E +β logCH (100)

EL = E +β log CL (101)

ただしβは式(99)の係数を簡略にしたものである

式(100)と(101)から検量線の傾きが次式で表せる

ΔE = EH minus EL = β(logCH minus logCL) = β logCH

CL

(102)

したがって係数βは

β =ΔE

log CH

CL

(103)

であらわされる

このときに使われる標準はすでに前出の pH 第一次標準第二次標準溶液で

ある

金属イオンに対応するイオン選択電極

現在臨床検査で日常的に使われている電解質測定のための電極はナトリウ

ムカリウムカルシウムクロールなどおよそ臨床的に必要な金属イオン

に対して入手可能である

カリウムイオン測定用のバリノマイシンの発見によってクラウンエーテルと

57

呼ばれる一連の化合物が知られたクラウンエーテルはその分子の中心に立

体的な空間を持ち特定のイオン径に対し合致するのでそのイオンに対して

選択的に感応するこれらの化合物はイオノフォアと呼ばれる

図 15クラウンエーテル

1つの金属イオンが環状化合物

15-crown-5 の中央にある空間を充填

している模式図

15-crown-5 の構造を作る10個の黒

い丸は炭素炭素2個のつながりごと

にある中心の白い丸は酸素酸素と

金属イオンの間の距離はおよそ 22~

23Åであるカリウムのファンデン

ワールス半径は 135Åイオン半径は

15~16Åである

測定したいイオンに対しポリ塩化ビニル(PVC)を支持体としてイオノフ

ォアを添加した液膜の電極膜を作成しこれをガラス電極におけるガラス薄膜

と同様試料に接する電極膜として用いるこの構造から一般的に液膜型電極

と呼ばれる電極膜には特異性を高めるため妨害イオン排除剤などが添加

される

pH メーターと同様銀塩化銀標準電極と組み合わせ電池を形成しその

起電力を計る測定したいイオンが液膜に対して内外で平衡に達したときの

膜電位を測定するのはガラス電極と同じである

カ リ ウ ム イ オ ン に は Bis[(benzo-15-crown-5) ( 正 式 名 は

Bis[(benzo-15-crown-5)-4-methyl]pimelate)ナトリウムには Bis[(12-crown-4)

やDibenzyl-bis[(12-crown-4)などがイオノフォアとして用いられる

58

図16カリウムイオン測定用に使われるクラウンエーテル

図17ナトリウムイオン測定用に使われるクラウンエーテル

59

参考イオン選択電極に関する文献Xia Z Badr IHA Plummer SL Cullen L

Bachas LG Synthesis and evaluation of a bis(crown ether) ionophore with a

conformationally constained bridge in ione- selective electrodes Anal Sci 14(2)

169-173 1998 Oh K-C Kang EC Cho YL Jeong K-S Y oo E-A Paeng K-J

Potassium-selective PVC membrane electrodes based on newly synthesized

cis- and trans-bis(crown ether)s ibid 14(10)1009-1012 1998 Dojindo WEB

site httpwwwdojindocojpwwwrootproductsjinfo2protocolp31pdf

<補遺> 60

補遺 状態関数 (本文 p21 10 行目参照)

一つの平衡状態にある系 A とこれに接する系 A にとって外部である系 B について系 B

から系 A に熱を与えこれによって系 A が他の平衡状態に移ったとき系 A はその結果とし

て膨張し系 B に対し仕事をする

このときの微少な熱量の移動を記号drsquoQ またなされた微少な仕事をdrsquoW とすると

系Aの内部エネルギーに関する微少な変化drsquoUA は両者の和として表される

WdQdUd A primeminusprime=prime (a-1)

この式 a-1 と本文中の式25との関係について

WQU A Δminus=Δ 本文(25)

<補遺> 61

式 a-1 と式25の記号の違いは変化の起きる前の平衡状態 S1 から変化後の平衡状態 S2

に状態変化があったとするなら式 a-1 を積分することで式25が得られるものと考えて区

別している

A

S

S A UUd Δ=primeint2

1 (a-2)

このことは重要であるすなわち内部エネルギーU は変化の起きる前後の状態を指定する

ことによって値が定まることを意味するこのように積分によって値を定めることが出来る

のでdrsquoU は完全微分であるという

内部エネルギーのように系の状態だけで値の定まる量を状態関数として扱う

一方式 a-1 のdrsquoQ drsquoW についても同様に微少の変化量を表しているが平衡状態 S1

から S2 への経路を指定しなければ積分の値は定まらない

本文中の記号にしたがって仕事量ΔW を次のように表すことにする

VpW Δ=Δ 本文(20) V

<補遺> 62

体積と圧力の関係を表す図を使ってこの仕事量が意味することを考える圧力 prsquo の下で

体積が V1 であるときを状態 S1 として圧力一定の下で体積を V2 まで膨張させるような変

化を行った後体積を等しく保って圧力を p にまで上げたときの状態を S2 とするこのとき

の仕事量は膨張に伴うものであるから図の体積‐圧力線の下の面積で示すことができる

平衡状態 S1 から S2 への変化の道筋を別にたどってみよう

新しい経路では圧力を先に p まで上げた後に膨張変化させている

図から直感的に明らかであるので数式での扱いを省略するが2 つの経路による仕事量には

差がある

すなわちdrsquoW は drsquoU と異なり変化の初め S1 と終わり S2 の状態が与えられても積分値

は定まらず変化の経路によって違ってくる

このように変化の経路を指定しなければ積分値が定まらないものを不完全微分と呼び扱

いを区別する

本文 p21 へ戻る

<補遺> 63

VpW

WQU

VpQU

VpUQ

1122 SSSS pVUpVUQ

pVU

VpUHHHQ SS 12

エンタルピー (本文 p24 20 行目参照)

本文中の式 20 および 25 から一定の圧力の元で起きる状態変化において内部エネルギー

の変化量に対する式 a-3 を得る

本文(20)

本文(25)

(a-3)

式 a-3 を Q について書き直す

(a-4)

状態の変化が平衡状態S1から平衡状態S2に移ったものとして式 a-4を丁寧に書き直すと

(a-5)

並び替えて

(a-6)

式 a-6 を見ると定圧過程における熱量の流入は

(a-7)

の形を持つ関数の差であることが分かる

一般に化学反応のような変化の過程では大気圧の下で行われるようなものに興味がある

そこで式 a-7 で与えられる項を一つの関数として定義するこれをエンタルピーと呼び記

号 H を与える式 a-4 はエンタルピーの変化量で次のように書き改められる

(a-8)

圧力が一定の下で起こる状態変化について流入する熱量は式 a-8 で示されるようにエンタ

ルピーの変化量に等しい

V

V

V

V V

V

V

1212 SSSS VVpUUQ VV

<補遺> 64

1Q

We

また式 a-8 からオートクレーブ内で起こるような体積変化のない過程ではこの値が内

部エネルギーの変化量で与えられることが明らかである

本文 p24 へ戻る

エントロピー (本文 p26 17 行目参照)

エントロピーは次のような思考実験から発想された仮想的な状態関数である

理想気体よりなる系 A が温度 T2で熱平衡状態にあり温度 T1の外部の熱源と接しているこ

とを想定する系 A の外部を系 B と呼ぶことにするT1は T2に対して無限小だけ高い温度と

する

系 A が系 B に対して温度圧力について平衡を保ちながら緩慢に系 B より熱量 Q1を受け取

る過程を考える(このような過程を準静的過程と呼ぶ)これによって系 A が熱量 Q1を得て膨

張するとき系 B に対して仕事をする続いて系 A から熱量 Q2が系 B に戻ることを考える

想定されるこの変化が可逆的であれば系 A と系 B を併せた全体は元の状態に戻る蒸気機

関に関するこのような研究が Nicolas Carnot によってなされたのは1824 年のことであった

ここに想定されたサイクルに対する Carnot の効率 e は移動した熱量となされた仕事によ

って定義され次の式で表される

(b-1)

<補遺> 65

理想気体では内部エネルギーU の変化ΔU はゼロと考えるしたがって熱力学の第一法

則を表す式(本文中の式25)から次の関係が示される

0=Δminus=Δ WQU

WQ Δ= (b-2)

これによってCarnot Cycleの効率eはQ2lt0 として次のように書き改めることが出来る

1

21

QQQe +

= (b-3)

ところで気体の状態方程式から1 モルの気体について次のような関係が示される

RTV

P

P1=

V = RTV (b-4)

V 式 b-4 の両辺に体積の微少変化量ΔV をかけて

(b-5)

これを体積Vについてその変化をV1からV2までとして積分するならば次式が得られる

VV

RTVP Δ=Δ 1V V

V

intint = 2

1

2

1

1V

V

V

VdV

VRTPdV

1V2V

11 lnRTW =

(b-6)

Q1の熱量によって起こる膨張がV1よりV2までとし圧力P温度T1の下でなされるその仕事

量をW1とするならそれは式b-6 の右辺によって示されるすなわち

(b-7)

VV

1

2lnVVRT=

V V

VV

V

V2int V2 intV1 V1

<補遺> 66

またQ2の熱量の移動が圧力P温度T2の下で起きこれによって系Aが可逆的に圧縮され

るなら体積変化はV2よりV1まで起こりその仕事量をW2で示すと次式のように表される

(b-8)

1

22

2

122 lnln

VVRT

VVRTW minus==VV

VV

Q1=W1Q2=W2の関係から式b-7 およびb-8 を用いてCarnot Cycleの効率eを表す式b-3

を書き改めると温度のみの関係式として次のように表される

1

21

TTTe minus

= (b-9)

ここでサイクルが可逆的過程であると想定するならば式 b-3 と式 b-9 から

1

21

1

21

TTT

QQQe minus

=+

= (b-10)

これから

12112111 QTQTQTQT minus=+ (b-11)

整理すると

02

2

1

1 =+TQ

TQ (b-12)

この考えをさらに発展させ系A

と系Bの間に数多くの系を挿入すること

にしてそれらの系を同様に熱源として

T1T2Tnと考えるこれによっ

て熱の受け渡しが系Aから系Bに至り

再び系Aにもどるサイクル過程に数多

くの寄り道の過程を加えることになる

熱量の移動に関して上の場合と同じく

準静的過程で行われると考えるこの

サイクル全過程について初めと終わ

<補遺> 67

n

i i

i

T

Q

1

0

0T

dQ

T

QS

T

dQASAS )()( 12

りが同じ状態になる可逆的な過程であるなら式 b-12 を拡大的に考えることになってそれ

は次式で表される

(b-13)

式 b-13 には重要な関数が現れるすなわち熱量と温度の比QT である

もし一つの系が無限小だけ温度の高い(dT )外界から温度圧力など平衡を保ちなが

ら極めて緩慢な過程(準静的過程)で無限小の熱量(dQ )を受け取るならばその変化は可

逆的でありdT について連続的な温度分布をする過程を考えるとき式 b-13 をさらに発展

させて次のように積分式で示すことが出来る

(b-14)

式 b-14 で積分記号にが付されているのはCarnot Cycle のような経路を一巡することを

意味している

Carnot の熱機関の効率という着想から生まれた熱量とそれを持つ系の温度との比 QT に

重要な意味を見出したのは Rudolph Clausius で彼はこの比にエントロピーという名前を与

えたエントロピーには記号ΔS を一般に用いる

(b-15)

エントロピーは初めと終わりの状態がわかれば過程に関わらず定まるので状態関数であ

系 A と外界のエントロピー変化を考えるときそれが可逆的過程であるならばすべてを併

せた全体のエントロピー変化は初めと終わりに変化がないという意味でゼロであるすなわ

ち初めの状態を S(A1)とし次の状態を S(A2)とするならそれぞれのエントロピーを

ΔS(A1)ΔS(A2)としてこの間におけるエントロピーの変化量は次のように示される

(b-16)

<補遺> 68

T

dQdS

0T

dQ

ある一つの変化については次のように示される

(b-17)

ここで式 b-17 の S に付けられたdは微分量すなわちごく微小の変化量を意味し式 b-15

で定義されたエントロピーに用いられる一般的な記号Δと区別する

ところで式 b-10 の関係においてもし移動した熱量のすべてが仕事に変わらなければ

効率 e を表す熱量を用いた関係式と温度で表される関係式は等号で結ぶことができないそれ

はエネルギーのロスを意味し初めと終わりの状態が異なってしまうことを意味するすなわ

ち全過程が構成する一つのサイクルは可逆的でなくなる

不可逆過程での熱効率 ersquo は 大値を示す可逆的過程の熱効率 e より小さな値をとる

ee

したがって 大効率を与える式 b-8 と式 b-3 から

01221

2112

1

21

1

21

QTQT

QTQT

Q

QQ

T

TT

両辺を T1T2で割ると

02

2

1

1 T

Q

T

Q

これを式 b12 と同様に発展させれば式 b-14 についてサイクルの変化が可逆的過程の

場合と不可逆的過程の場合の両方を併せClausius の不等式と呼ばれる次の関係が成立する

(b-18)

式 b-18 の等号が成立するのはサイクルが可逆的な理想の場合に限られる

ある孤立系で状態 A1 から状態 A2 へは不可逆変化で進められ状態 A2 から再び状態 A1

に戻るとき可逆変化であるような閉じた状態変化を考える可逆系のエントロピー変化には

記号 Q を使い不可逆変化には Q を用いるとするとそれぞれ積分式を用いて状態 A1 から

状態 A2 へは

<補遺> 69

d prime

状態 A2 から状態 A1 に戻るときは

全体では

=d prime

+d

(b-19)

Clausius の不等式から

0

式(b-19)の第二項で反応を逆に進めるときには次のように書き改めることができる

=d

よって式(b-19)は次のように書き直すことができClausius の不等式とあわせると

d prime d

0

すなわち

d prime d

上式の右辺は式(b-16)を用いて表せば

d prime

∆S ∆

この状態変化を微小変化とするならば断熱変化の場合 dQ = 0 であるから

∆S ∆ dS 0

すなわち不可逆変化を含む断熱変化ではエントロピーは必ず増大する

<補遺> 70

T

QS

BA SSS

(b-20)

(次の<補遺>ギブス自由エネルギーも参照せよ)

本文 p26 へ戻る

ギブス自由エネルギー (本文 p28 27 行目参照)

エントロピーの考えを導入することによって不可逆的に状態変化が起きるときにはエン

トロピーの増大を引き起こすことを知ったこれによって目前で起きる現象について温度の

変化があるものであれないものであれまた圧力の変化があるものであってもエントロピー

の定義式によって可逆的な変化におけるエントロピーの変化量を計算することが可能である

(b-15)

しかしながらこれから起こる変化について我々がすでにあらかじめ知っている物理量を

用いて予測的にその状態変化が起きるかどうか知ることは必ずしも容易ではないその理由

は式 b-15 に示されたエントロピーΔS が系とその外界をあわせた全体のエントロピーを示

しているからであるすなわち関心のある系を系 A としその外界を系 B とすると全体

のエントロピーは次のように表せる

(c-1)

関心のある系 A のエントロピー変化を知るためには系 B のそれを知ればよいがそれは

いつも容易とは限らない系 A の性質だけで状態変化の方向を知るには別の観点が必要にな

るようだ

そこでもう一度状態変化が熱量 Q の移動によって起きることについて考えてみようエン

トロピーの補遺で議論したように熱量の移動が準静的過程により行われるときには変化は可

逆的に起こると考えたこのとき外界すなわち系 B から移動する熱量を Q1とし系 A から

0S

<補遺> 71

21 QQ

T

Q

T

QSB

21

T

QSS A

2

QH

T

HSS AA

AA STHST

のそれを Q2 と記号を当てたのでこれをそのまま使うことにすれば可逆的な過程では系 B

の熱量 Q1 はすなわち系 A から戻る Q2 に他ならないので両者には次の関係が成立するも

のとしてよい

(c-2)

したがって

(c-3)

と考えてよくこれによって式 c-1 を次のように書きなおすことが出来る

(c-4)

独立した系で圧力とその体積に変化がなく一定の条件の下で状態変化が起きるときエン

タルピーの考えを使ってすでにひとつの関係があることを導いている

本文(31)

そこで式 c-4 を系のエンタルピーΔHAによって書き改めれば

(c-5)

この両辺に-T をかけて式を書き直せば次の関係式が得られる

(c-6)

式 c-6 を見るときその右辺がマイナスの値ならば左辺のΔS はプラスの値をとることが

分かるすなわちエントロピーが増大すると見ることが出来るこれまでの過程で自然の現

象はエントロピーが増大する方向に進むとしてきたので関心のある状態変化について式 c-6

の右辺で計算される値がマイナスの値ならばその変化は起きるものと考えてよいことになる

だろうしかも右辺はすべて独立した系の状態量で示されていて我々が知りうる値で計算

<補遺> 72

TSHG

STSTHG

STHG

可能である

そこでこれを熱力学ポテンシャルを表すものとしてギブス自由エネルギーと呼ぶことに

するギブス自由エネルギーは記号 G が用いられ次のように定義される

(c-7)

ここで関心があるのは自由エネルギーの絶対値ではなく式 c-6 に示されたようにその変化量

に興味があるので式 c-7 から

(c-8)

温度が一定の条件の下で状態変化が起きることを考えるなら式 c-8 は次のように書くこと

ができる

(c-9)

ギブス自由エネルギーは式 c-9 の右辺がすべて状態量であるからこれも状態量の一つで

ある定圧定温の条件下で起きる変化ではすでに議論したようにΔGlt0 であれば状態

変化は自発的に起きるものと予測できる

つまり式 c-5 の第一項は系のエントロピーΔSAそのものであり第二項で示されるエンタ

ルピーは系 A の温度が一定に保たれているのであるから発熱する熱量として外界に吸収さ

れるものであってこれは外界のエントロピーの増大につながるものとして解釈されるした

がって化学反応のように一定の圧力と一定の温度の下で起きる変化について自由エネルギ

ー変化量はその状態変化が自発的に起きる傾向を示しているといってよい

本文 p28 へ戻る

  • はじめに
  • 目次
  • 電気エネルギー
    • 金属のイオン化
    • 電池
    • 水素の反応
    • 燃料電池
    • 化学反応と電気エネルギー
      • エネルギーと熱力学
        • エネルギー保存則
        • エンタルピー
        • エントロピー13
        • ギブス自由エネルギー
        • 電池における化学反応のギブス自由エネルギー13
        • 理想気体の状態方程式
        • 理想溶液のギブス自由エネルギー
        • 膜電位
          • 水素イオン濃度測定
            • 化学反応の一般的な式
            • pHの定義とその目盛り
            • pH標準液
            • 銀塩化銀参照電極
            • 実用的なpH測定
            • ガラス電極
            • 電極の校正
            • 金属イオンに対応するイオン選択電極
              • 文献
              • 補遺
                • 状態関数
                • エンタルピー
                • エントロピー
                • ギブス自由エネルギー
Page 22: イオン選択電極i イオン選択電極 Ion Selective Electrode (ISE) を理解する ・ pHを測定する ・ NaやKなどのイオン濃度を測定する 神戸大学医学部保健学科

19

いる

ここで亜鉛電極と銅電極の組み合わせでできる電池の最大電圧をこれらの

平衡状態における観測値から計算することができる式(18)を使って

V= E+-E- (18)

V= +0337-(-0763) = +110 volt

つまりダニエル電池で得られる最大電圧は11volt と計算できる実際に

はイオンの濃度が変化すれば反応の平衡が変化するので得られる電圧も変

化する

ここでダニエル電池で亜鉛1モルが反応するとき式(17)を使って得

られる仕事量としての電力を計算できる

W = n FV (17)

すなわちダニエル電池における電極反応は

Zn(s) rarr Zn2+ + 2e- (2)

Cu2+ + 2e - rarr Cu(s) (3)

であったから反応が進んで移動する電子はn = 2 である

1F = 96485 x 104 Cmol を適応すると

W = 2 x 96485 x 11 x 104 = 21227 x 105 Jmol = 2123 KJmol

(K = 103キロ)

すなわち亜鉛1モルの化学反応によって2123 KJmol の電気エネルギーが得

られる

水素ガスを使う燃料電池の起電力は電極の半反応から

O2 + 4H+ + 4e- rarr 2H2O (19)

25の基準状態におけるこの電極電位はE゜=+1229 volt が得られている

20

したがって燃料電池で1モルの水素が反応すれば

W = 2 x 96485 x 1229 x 104 = 2372 KJmol

すなわち2372 KJmol の電気エネルギーが基準状態で取り出せる最大電力

と計算される現在作られている燃料電池の電力は実際上08 volt ほどで

あるしたがって現実的に取り出せる電気エネルギーは 1544 KJmol の仕

事量と計算される「仕事量」という言葉については電気でモーターを回し

なにがしかの「仕事」をするなど思い浮かべれば実感できるだろう

エネルギーと熱力学 これまで述べてきたように電池は化学反応から直接電気エネルギーを取り出

す仕掛けであるダニエル電池では亜鉛と銅が酸化還元反応を起こす過程で

電子を放出するのを利用するまた水素ガスによる燃料電池は気体水素と酸

素を原料とし水が生成されるこの過程が1atm の気体原料を25(29815

K)で1モル反応させて生成物も1atm の液体の水を得るなら次の全反応に

よってすでに計算したとおり2374 KJmol の電気エネルギーが取り出せる

H2 + 12 O2 rarr H2O

圧力と温度がともに反応の過程を通じて一定の場合にその過程から取り出せ

る仕事量は熱力学的に考えることもできる

それはギブス自由エネルギーとして議論される電池で取り出した電気エネ

ルギーすなわち電力はこのギブス自由エネルギーに相当する

次に化学反応をこの熱力学の面から考えてみよう

エネルギー保存則

水素ガスを使う燃料電池のように独立した一つの仕掛けを考えこれを「系」

と呼ぶことにする系を考えるとき電池のように具体的なものを持って考え

るのが容易いのでそうすることが多い熱力学では自然界全体をあつかうので

しばしば概念的になり非現実的な記述が行われるが系の大きさや系を構成

する分子の大きさについて特定する必要はない

系におけるエネルギーを内部エネルギー熱エネルギー力学的エネルギー

の3つの要素からなると考えるこれらのエネルギーを考えるとき系の熱力

21

学的なパラメーター(変数)が必要となる熱力学的な状態はこれらのパラ

メーターのうちのいくつかを指定すれば決定される

熱力学的なパラメーターは2つに分類される

示量パラメーター(示量性変数)

系の大きさや構成する物質の量を示す体積や質量

示強パラメーター(示強性変数)

系の大きさに依存しない系における1つの点で決まった値で与え

られる圧力や温度密度など

いくつかのパラメーターで完全に決定できる状態を関数で表現することがで

きる場合があるそのような関数を熱力学的な状態関数(rarr補遺 p60)と呼ぶ

関数で状態の変化を表すことができれば数学的に取り扱うことができいろ

いろの面で便利である

一つの系についてその状態を知ろうとするとき系が熱力学的な平衡状態に

あると議論する上で都合がよい

熱力学的な平衡状態とは系を外部と独立させ長時間放置した後に達成され

る状態をいうこのとき系の状態をその外部のパラメーターで表現できる

たとえば電池を独立した系と考えるとき平衡状態に達した電極電圧を外部

においた電圧計で測定することができる

ある系を考えるとき前提としてその系はエネルギーを保有していると考える

系が独立してそこに存在するということで持っているエネルギーであるこれ

を内部エネルギーと呼ぶ系がある過程を経て状態を変えるとき系から系の

外部へ力学的な仕事をする場合には力学的エネルギーの出入りがあると考え

るまた系に熱が出入りする場合が考えられそれを熱エネルギーの出入り

と考えることにしよう

まず力学的エネルギーについて考えることにする

いま系が状態を変えその体積が増えれば系のlsquo壁rsquoがその系に接している

「外部」へ力学的な仕事をすることになる

このように系が膨張し壁が外部に向かって押し出されると考えたとき膨張

する過程における圧力を一定でpとし系が膨張した体積をΔV(膨張した分だ

けの体積増加量)とするなら系の仕事量ΔWは両者の積で表されるΔは変

化量を表すときにつける記号と決めておこう

22

ΔW = pΔV (20)

系の体積が凝縮する場合があるので仕事を記号で表す場合には注意するも

し系に接した「外部」から系に力が加わって体積を小さくしたならΔVは

マイナスとなるのでΔWもマイナスで表される

-ΔW = -pΔV (20prime)

今考えている系を「系 A」と呼びその内部エネルギーを UA外部の系を「系

B」と呼んでその内部エネルギーを UBと表すなら二つ合わせた全体の内部

エネルギーは両者の和で表すことができる

U = UA+UB (21)

この体積変化に必要なエネルギー変化量はどこから得られたかを考えれば

その変化があった「系 A」と外部の「系 B」のいずれかあるいは双方の内部エネ

ルギー変化分でまかなわれたと考えざるを得ない(図8参照)

そこでこのエネルギーの収支関係は変化分を表す記号に先と同様Δを用い

ることにすると次式のようになる

-ΔU =ΔW (22)

すなわち観察している「系 A」のエネルギーと外部の「系 B」のエネルギー

を合わせた総エネルギーを見てその微少な減少量minus ΔU が仕事をなすために

必要であったエネルギー量と考えてみることにする

ついでこの体積の変化が「系 A」に接する外部のlsquo熱rsquoによって起きたも

のと考えてみようすなわち外部の「系 B」が系 Aより高温で「系 B」によ

って系 Aが暖められたことになる

このとき移動したエネルギーを「熱量」と定義する

23

図8熱量の移動と系が外部にする仕事

「熱量」を記号Qで表すと外部の「系 B」が失ったエネルギーminus ΔUB で

ありこれが熱量であるから式で表せば次式のように書くことができる

-ΔUB = Q (23)

ここで「系 A」とそれに接する「外部 B」両方のエネルギーを合わせた総エ

ネルギーの変化量ΔUは式(22)で与えられていた

-ΔU =ΔW (22)

-ΔU =-(ΔUA+ΔUB) であるから

minus ΔUAminus ΔUB=ΔW (24)

これに式(23)を当てはめてΔUAで整理すれば

24

ΔUA= Q-ΔW (25)

この式(25)は「エネルギー保存則」あるいは「熱力学の第一法則」を数

学的に表現したものである

すなわち

独立した系を考えその状態が変化するとき系の内部エネルギーの変化量はその系に入る熱量と系が外部にした仕事との差である

式(25)にはまた重要な主張があるつまりエネルギー保存則にしたが

うとき熱量は力学的エネルギーにまた力学的エネルギーは熱量に変換しう

ることを意味している

熱量を表す単位はカロリー(cal)を用いる1cal は

1 cal = 4184 J

と換算されるジュールは 1J = 1Nm (ニュートンメートル)で仕事量を

表現する単位系で表される

エンタルピー

式(25)から定圧過程で式(20prime)を利用して次の式(26)が誘導さ

れる

Q =ΔUA+pΔV (26)

ここでQは熱量を表していたのでこの関係式(26)から熱関数として

新しい関数を定義する

新しい関数はエンタルピー(enthalpy)(rarr補遺 p63)と呼ばれ次の関数

式Hで表される

H = U+PV (27)

エンタルピーの微少変化量を記号Δを使って表現してみよう

25

ΔH = ΔU +Δ(PV) =ΔU +ΔPV+ PΔV (28)

独立した系で圧力が一定の下に起きる過程を考えるならΔP = 0 (圧力の

変化はゼロ)であるから式(28)は次のようになる

ΔH =ΔU + PΔV (29)

化学反応の過程を考えるとき系に容積の変化がなく過程の前後で一定であ

るならさらにΔV = 0 であるのでエンタルピーの変化量は

ΔH =ΔU (30)

また系の仕事を体積の変化としてみる式(20)から

ΔW = pΔV= 0

であるのでこれを式(25)へ適応すると

ΔU= Q minus ΔW = Q ΔW= 0 だから

結果的に系の圧力と体積が変化の過程で一定である場合にはその系のエンタ

ルピーの変化を表す式(29)(30)は次のように簡単な式になって熱関

数と呼ばれる意味が理解しやすいだろう

ΔH = Q (31)

独立した系に等圧等積で起きる過程を見る場合にはエンタルピーは系が外

部と交換する熱量の直接的な尺度となる

H>0 なら反応に熱を使うので吸熱反応

H<0 なら発熱反応

電池のように系に起きる化学反応で生じる電子の流れを取り出す装置を考え

る場合エンタルピーの変化を電気エネルギーとして取りだしている点に留意

26

しなければならない式(31)のようにエンタルピー変化が交換される熱

量に直接表現できるといっても必ずしも熱として取り出すとは限らないこと

を注意しよう

ところでエンタルピーは内部エネルギーと同じ次元にある状態量で定圧

変化の熱量がエンタルピー変化であるからある一点を標準として定めれば

すべての物質について任意の点のエンタルピーを変化量として定めることがで

きるすなわち化学反応の過程で発熱あるいは吸熱する熱量は反応材料と

生成物の間の状態変化に対応するエンタルピーに対応する

そこで一つの元素に対してもっとも安定な状態にある物質を標準物質とし

て定め29815K(25)1atm を標準状態としてその標準物質からある化

合物を合成するときの反応熱(発熱あるいは吸熱)をその化合物の「標準生成

エンタルピー」として定義できる多くの元素に対して標準生成エンタルピー

は現在表としてまとめられている

水素や酸素はその気体状態が標準物質でありそれらの標準生成エンタルピー

がゼロと定義される

エントロピー

もう一つ新しい状態関数としてエントロピー(entropy)(rarr補遺 p64)を

定義するエントロピーを表す記号は通常S を用いその定義は次の式(32)

による

S Q

T (32)

エントロピーは系の2つの状態が決まると状態量として決まる

このときQ は2つの状態の間を可逆的に変化したとき系が受け取る熱量

T は系が熱量 Q を受け取ったときの温度(degK)である

「熱力学の第二法則」はエントロピーに関するものである

図9では2つの系が接しておりそれぞれの温度を Thigh Tlowとする

Thigh>Tlow (33)

27

今温度の高い系から温度の低い系に直接熱量 Q が移動したとすれば温度

の高い系のエントロピーの変化量ΔS は熱量が失われるので負の値になる

図9熱の移動

そこで温度の高い系のエントロピーの変化量ΔS を式で表すことにすると

次式のようになる

Shigh Q

Thigh

(34)

一方低い系のエントロピー変化量ΔS は熱量が与えられるため

Slow Q

Tlow

(35)

両方の系を合わせたエントロピーの変化量ΔS は

S Shigh Slow Q

Thigh

Q

Tlow

lowhigh

lowhigh

lowhigh TT

TTQ

TTQ

11 (36)

式(36)の最終項で(33)を前提すなわち最初に温度の高い系は高い

と決めたのだとするならエントロピーの変化量ΔS は必ず次のようになる

28

ΔS >0 (37)

すなわち独立した系がありそれより温度の低い別の系あるいは温度の低

い外界が接した場合熱量は高い方から低い方へ移動するという自然の成り行

きを説明するものである

自然界に置いてエントロピーは

ΔS≧0

の値を取りΔS=0のときは可逆的過程である

今の例でいうなら熱は温度の高い系から低い系へ移動しその逆は起きない

常にΔS >0の方向に過程が進行するまた2つの系が同じ温度であるとき

両者は平衡状態にあって熱量の移動は見かけ上なくΔS=0と表現される

「熱力学の第二法則」はエントロピーによって表現されるもので系の変化が

可逆的であるかどうかを判定する指標であり現実の世界で起きる不可逆過程

が正の値を取る方向へ進むことを示す

あるいは系の変化が起きるとき外界を含めて考えれば総エントロピーが

増大する方向に変化が起きることを意味するというようにも表現される

ギブス自由エネルギー

熱力学の第一法則によってエネルギーの取りうる形である「仕事」と「熱」

は互いに変換されうることを理解したこのことの数量的な意味は1cal=418J

で示されるさらに仕事は100熱に変換可能であるが一方の熱はうま

くやっても100を仕事に換えることができないことを熱力学の第二法則で

説明しようとしたそのためにエントロピーという概念が導入された

ここで電池のような独立した一つの系を見るとき系の内部エネルギーの減

少を仕事として取り出しうるならそれは化学反応を一つの例としてどれほど

の仕事量が取り出せるのかはどうしたら与えられるだろうか

化学反応を電気エネルギーに換える電池では先に正負それぞれの電極におけ

る半反応の平衡電位の値を利用してその起電力に対する最大値を計算した

この化学反応から取り出しうる最大仕事量を与えるものとして新しくギブス

自由エネルギー(rarr補遺 p70)と名付け記号 G を使ってそれを次のように

定義する

29

G = H-TS (38)

H はエンタルピーである第2項にある S はエントロピーを表す

ギブス自由エネルギーは化学反応のような独立した系の定温定圧過程に適

応されるので変化量ΔG を式(38)から得ておこう

ΔG =ΔH-Δ(TS)

=ΔH-(SΔT+TΔS)

温度を一定と考えているのでΔT=0 であるから

ΔG =ΔH-TΔS (39)

この式(39)を書き換える

ΔH=ΔG + TΔS (39rsquo)

ここで定圧過程ではエンタルピーを次のように式(29)で定義できた

ΔH =ΔU + PΔV (29)

式(29)の意味するところを復習すれば

系のエンタルピー変化ΔH は内部エネルギーの変化量と系が外部に

した仕事量の和として表される

これは

定圧過程で系が得るエネルギー量から仕事量を除いたもの

と言い換えることができるエンタルピー変化量は化学反応などの過程で

始めと終わりの2つの状態の差であるからそれが正の値を示す(>0)なら

系のエンタルピーは増加することを意味しその過程が進行するためには系

の外部からエネルギーが供給されなければならない

一方式(39rsquo)の右辺第2項TΔS はエントロピーの定義(32)より

TΔS = Q (40)

であるのでこれは可逆過程で系に供給される熱量を意味する

30

もしエンタルピー変化量が負の値を示す(<0)ならば系のエンタルピー

は減少しその過程が進行することによってエネルギーが取り出せるすなわ

ち式(39)(40)から次のようにこれら3つの状態量を改めて説明する

ことができる

ある化学反応が定圧で可逆的に進行するときそれから取り出せる

エネルギーのうちΔG を仕事として放出し熱量 Q を放出する

標準状態29815K(25)1atm で標準物質からある化合物を合成すると

きの反応熱(発熱あるいは吸熱)をその化合物の「標準生成エンタルピー」

として定義した同様にある物質に対する「標準生成ギブス自由エネルギー」

はこの標準状態で標準物質からその化合物を化学反応で生成するとき式(3

9)によって与えられる変化量をいう

電池における化学反応のギブス自由エネルギー

先にダニエル電池の亜鉛板側に対する電極反応を検討したとき電極反応が

仕事として放出するエネルギーを表現する重要な式があった次の式(17)

である

W = n FV (17)

ギブス自由エネルギーを用いて今これは次のように書くことができるように

なった

W = n FV=-ΔG (41)

この式が表していることを実際に水素の燃料とする燃料電池の反応過程で見

てみよう燃料電池の図を再掲する

図中右にある陰極では水素の酸化反応が起きる

H2 rarr 2H+ + 2e- (5)

一方図では左にある陽極において次の還元反応が起きる

12 O2 + 2e- rarr O2- (6)

O2- + 2H+ rarr H2O (8)

全体の反応はすでに示したように次の反応式(7)で示される

H2 +12 O2rarr H2O (7)

31

標準状態における可逆的仕事は式(41)であらわせ

n FV=-ΔG (41rsquo)

このΔG は式(39)であらわせた

ΔG =ΔH-TΔS (39)

すなわち標準状態29815K(25)1atmにおいてある化合物を標準物

質から合成するときの標準生成ギブス自由エネルギー変化ΔG゜は標準生成エ

ンタルピー変化ΔH゜とその温度におけるエントロピー変化TΔSの差で求ま

るこれらは燃料電池の全反応を表す式(7)で与えられる

標準生成エンタルピーΔH゜変化とエントロピー変化はすでに一般的な元

素やその化合物に対して表が作成されている

液体の水に対する標準生成エンタルピーΔH゜(H2O)は

ΔH゜(H2O)=minus 28583 KJmol

また水素ガスと酸素ガスはそれぞれの元素の標準物質であるので生成エ

ンタルピー変化はゼロである

32

そこで式(7)での水を1モル化学合成するときの標準生成エンタルピーΔ

H゜は水素(ガス1モル)と酸素(ガス12 モル)の2つの材料と水(液

体251atm)の両状態における状態量の差として表される

ΔH゜=ΔH゜(H2O)-ΔH゜(H2) -12ΔH゜(O2) (42)

式(42)の右辺第2項と第3項がゼロであるので

ΔH゜=ΔH゜(H2O) =-28583 KJmol (43)

標準状態29815K(25)1atm における水素(ガス)と酸素(ガス)お

よび水(液体)のエントロピーはそれぞれ

ΔS(H2O)=6991 JKmol

ΔS(H2) =13068 JKmol

ΔS(O2) =20514 JKmol

単位で分母のKはケルビン温度の意味

と計算されているので

ΔS=ΔS(H2O)-ΔS (H2) -12ΔS(O2) (44)

=6991-13068-12times20514

=-16334 JKmol

したがって

TΔS=29815times(-16334)=-486998=-4870 KJmol

(45)

そこで標準生成ギブス自由エネルギーΔG゜は式(39)から

-ΔG゜=-(ΔH゜-TΔS) (39)

=-{-28583-(-4870)}

=+23713 KJmol

33

すなわちこのエネルギーを電気エネルギーとして取り出すことができるそ

の起電力は式(41rsquo)から

n FV=-ΔG (41rsquo)

V= -ΔG(n F)

各数値を当てはめれば

V=237130(2times96485)

=1229 volt

先に【化学反応と電気エネルギー】のところで記したとおり25の基準

状態におけるこの電極電位はE゜=+1229 volt が得られているすなわち

こうして標準生成ギブス自由エネルギーから計算することでも同じ値を得る

ことができた

水素を単純に酸素と化合させる燃焼では式(43)で示されるエンタルピ

ーが発生する熱量を示している水素1モルあたり28583 KJである電池

にすれば水素1モルあたり23713 KJの仕事量が電気エネルギーとして取り

出すことができるその差は電池の場合熱が発生して利用できない

化学反応の過程を利用して化学エネルギーから直接電気エネルギーに変換す

るのが電池という装置であるが化学エネルギーは100電気エネルギ

ーに換えることはできないこのようにエネルギーの一部は電池の熱として

発散してしまう

理想気体の状態方程式

ギブス自由エネルギーΔG を定義した式(39)とエンタルピーΔH の定義

式(28)から

ΔG =ΔH-TΔS (39)

ΔH =ΔU +VΔP+ PΔV (28)

そこで次式が得られる

34

ΔG =ΔU+VΔP+ PΔV-TΔS (46)

またエネルギー保存則から得られた式(26)を応用すればギブス自由エ

ネルギーが変形できる

Q =ΔU+PΔV (26)

から

ΔU=Q-PΔV (47)

したがって式(46)は

ΔG = Q-PΔV+VΔP+ PΔV-TΔS

ΔG = Q-TΔS+VΔP (48)

エントロピーの定義からQ=TΔSであるから結局式(48)は

ΔG = VΔP (49)

と表すことができる

成分が混合された気体分子の分子間に働く力をゼロと仮定した「理想気体」を

考えるとき状態方程式としてボイルシャルル(Boyle-Charles)の法則が

利用できる

PV=nRT (50)

ここでnは気体のモル数PVT はそれぞれこれまでと同じ圧力体積温度(ケルビン温度)でありR は気体定数と呼ばれるもので次の値を持

R= 831441 JmolK (51) 単位で分母のKはケルビン温度の意味

35

状態方程式から式(49)の右辺を導くことを考えてみよう式(50)は

1モルの気体について V に対し次のように変形することができる

V 1

PRT (50rsquo)

両辺に圧力の微小変化量⊿P をかけると

PP

RTP V (52)

これを微分方程式として圧力p0 からp1 まで(p0≦p1)積分するなら

1

0

1

0

1

0

1p

p

p

p

p

pdP

PRTdP

P

RTdPV (53)

関数 f(x)=1x を積分したときの関数はF(x)=ln(x)であるので(ln は e を底

とする自然対数loge)

右辺=0

1ln)0ln()1ln(p

pRTpRTpRT (54)

ギブス自由エネルギーを表す式(49)は次のようであったから

ΔG = VΔP (49)

式(52)から得た式(54)を当てはめると状態G0(p0T)からG1(p1T)

へ変化する過程で圧力が p0 から p1 まで変化するものとして

dGG0

G1

G( p1T ) G(p0T ) RT lnp1

p0 (55)

あるいはこれを書き直して

V

36

G(p1 T) = G( p0T ) + RT lnp1p0

(56)

特別にG0(p0T)を標準状態T=29815K(25)p0=1atmに指定する

なら標準生成ギブス自由エネルギーを記号G゜として (56rsquo)

と表すことができる

式(56rsquo)の意味するところは標準状態から圧力の変化を伴う過程で理

G(p1 T) = Go + RT ln p1

想気体のギブス自由エネルギーは圧力の対数に比例して上昇することである

このことはさらに新しい着想を生む

すなわち水素を燃料とする上の燃料電池で1atm 標準状態の水素ガスの圧力

を2atm に上げれば式(56rsquo)からRTln2 余分にギブス自由エネルギー

が取り出せることになる

燃料電池において起電力を生むエネルギーは隔壁を水素イオンもしくは酸

素イオンが浸透しようとする力であるので1atm の水素ガスと2atm のそれで

は浸透しようとする圧力が異なりここに起電力が生じる

式(56)の第二項が圧力の差による仕事であるからこれをΔG とすれば

W=-ΔG の仕事量が電気エネルギーとして取り出せるはずである

W = minusΔG = minusRT lnp1p0

(57)

起電力に換算するために式(41)を使うと

W = n FV=minus ΔG (41)

から

01ln

pp

nFRTV ⎟

⎠⎞

⎜⎝⎛minus= (58)

この式(58)は一般にネルンスト(Nernst)の式と呼ばれる

37

理想溶液のギブス自由エネルギー

理想気体を想定したように無限に希釈された混合溶液に対して理想溶液を仮

定する「系」の圧力温度を一定に保つならば体積内部エネルギーエンタ

ルピーギブス自由エネルギーなどの示量数は混合溶液を構成する物質のモ

ル数mに比例するたとえば標準状態にある物質の1モルの体積をVとすれば

mモルの体積はそのm倍mVであるそうすると溶液中のi番目の成分がmi

モル「系」から「外界」に仕事をするときその成分iの持つ自由エネルギーの

mi倍の仕事が「外界」になされると考えればよい

この溶液成分のモル数と化学的仕事を結びつける示強因子がギブスによって

化学ポテンシャルと名付けられ一般に記号μが用いられる

化学ポテンシャルはこれまで見たようにギブス自由エネルギーで表される

また電位がψ(プサイ)にある系から-Δeの電荷が放出されるときには

-ψΔeの電気的仕事が得られるそこで記号μに両者を合わせた意味を持

たせて「電気化学ポテンシャル」と呼ぶ

概念の上で物質は電気化学ポテンシャルの高い方から低い方へ勾配にした

がって移動する

理想気体の標準状態が気体分圧を T=29815K(25)で 1atm としたのに対

し溶液成分の標準状態はその分圧に相当するモル数 m を用いるすなわち

標準状態にある成分 i の電気化学ポテンシャルμ0iは成分の持つ電荷(H+なら

1)を n として

μ0i = G i゜+nFψ i (59)

ギブス自由エネルギーは式(56rsquo)を借り理想溶液中の成分に対しては気

体圧力をその成分のモル濃度Cに書き換えればよいそこで

G(CT ) G RT lnC (60)

と表すことができる

したがって一般的な成分 i の電気化学ポテンシャルμiを表す式は標準状態

からの自由エネルギーの変化を考え式(59)と合わせて次のようになる

38

ψnFGii 0

式(60)から

ii CRTGTCGG ln)( 0

よって

(61) ψnFCRT iii ln0

実際的なことを考えると成分濃度はその有効イオン濃度とする必要があり

「活量係数」γを導入して次式で表されるイオン活量aを用いる

ai = γCi (62)

一般的にはγ=1と近似してモル濃度Cを使っているこのテキストでも

必要ではない限りイオン活量を用いることを省略して簡単に記述したい

膜電位

燃料電池に使われたナフィオンのような一つのイオンを通す膜を介して膜

の両側にC0 とC1 のイオン濃度差がある溶液が接するときの電気化学ポテン

シャルを考えよう

ある容器の底にナフィオン膜を取り付け容器の中と外のイオン濃度をC0

とC1としそれぞれの電気化学ポテンシャルをそれぞれμinとμoutとする

式(61)を使って

容器の中の電気化学ポテンシャル

(63) innFCRTin ψ 00 ln

容器の外の電気化学ポテンシャル

(64) outout nFCRT ψ 10 ln

イオン浸透性の膜を介して濃度変化が無視できるほどの移動があると考え

その電気化学ポテンシャルの差を式(63)(64)から求めれば

39

)(ln0

1 inoutinout nFC

CRT ψψ (65)

この系において今注目しているイオンが膜を介した両側で平衡状態にある

とき式(65)はΔμ=0と考えることができるすなわち

0)(ln0

1 inoutnFC

CRT ψψ

膜内外の電位差をΔψ=ψoutminus ψinとすれば

1

0

0

1 lnlnC

C

nF

RT

C

C

nF

RTψ (66)

式(66)は理想気体に対するネルンストの式(58)と同様溶液中のイ

オンに対するネルンスト(Nernst)の式として与えられる

細胞の膜においてもその生体膜の内外でたとえばカリウムイオンのように

非対称に分布して平衡に達している場合には式(66)で与えられる膜内外

で電位差が生じるこれは一般に膜電位と呼ばれる膜電位は平衡電位とも

呼ばれる

たとえば膜内外に1価のカリウムイオンに10倍の濃度差があるとすると

通常カリウムイオンは細胞内の濃度が高いので

C0 = 10timesC1

であるから

これを式(66)に当てはめてln(10)=2303 を用いlog への変換をすれば

Δψ=2303times(RTF)timeslog(10)

であるこれに R=831441 JmolKF=96485 CmolT=29815 K(25)

の各数値を当てはめると

Δψ=2303times831441times29815times196485 JC

=+005917 volt

すなわち膜の内外で約+60ミリボルトの膜電位が生じることになるこの

分だけ細胞の外側の電気化学ポテンシャルが高く膜の内側の膜電位が負であ

るそして膜にあるカリウムチャネルがこの電位を示すとき受動的なカリ

40

ウムの膜内外の移動は平衡に達することになる

水素イオン濃度測定

「標準水素電極」は1モル塩酸溶液につけた白金電極に1atm の水素ガスを

吹き込んで平衡状態に達したときの電位を基準としてゼロボルトと規定した

そこである溶液についてその水素イオン濃度を知ろうとするとき同じ水

素電極を用いることを考えれば標準状態にする目的で用いた1モル塩酸溶液

を濃度未知で X モルの塩酸溶液と想定すればその水素イオン濃度を知るこ

とができるだろうか

標準状態ではない X モルの塩酸溶液に浸けた白金電極が半電池として働くこ

とは間違いなさそうであるしかしその白金電極が持つ電極電位を測定する

にはいずれにしても標準電極と組み合わせて「電池」を構成しその電池

の起電力として計る必要がある電池を作れば起電力を知ることができ相

手の半電池の電極電位が知られていれば濃度が未知でXモルの溶液について

その水素イオン濃度を知ることができるだろう

こうした目的のためにいちいちゼロボルトと規定した標準水素電極を用いる

のは煩雑なのでしばしば後出の「銀塩化銀電極」が参照電極として用いら

れる

まず予め「銀塩化銀電極」を標準水素電極と組み合わせて電池とし一度

その起電力を測定しておけば後はいつもそれを標準電極として利用できる

「銀塩化銀電極」の半電池は

H+ (1 moll) Cl- | AgCl | Ag(s)

これに「標準水素電極」を組み合わせ電池を構成すると次のような電池

になる

Pt(s) | H2(g) | H+ (1 moll) Cl- | AgCl | Ag(s)

この電池の起電力を知れば「銀塩化銀電極」の半電池としての電極電位

を知ることができ参照電極として未知の半電池と組み合わせて起電力を測

定して相手の電極電位を計算できる

41

濃度 X モルの塩酸溶液を未知の溶液と想定すればその電極電位を知るために

組み立てる電池は次のようになる図10にその電池の図を示した

Pt(s) | H2(g) | H+ (x moll) Cl- | AgCl | Ag(s)

この電池の全反応は次の反応式で表される

AgCl(s) 1

2H2 (g) H Cl Ag(s) (67)

図10未知溶液の水素イオン濃度を測定しようとするための電池

化学反応の一般的な式

ここで電池に利用される化学反応から得られるエネルギーをギブス自由エ

ネルギーに換算し起電力を具体的に知る手だてとすることは上ですでに学

42

んだがより一般的な式を再度ここに書きだしておこう

化学反応が紙面で左から右に進む反応として次のような一般式で与えられ

るとき

aA + bB rarr cC + dD (68)

ギブス自由エネルギー変化量は標準状態ΔG゜からの変化量を加える形で式

(60)と同様次の式によって表される

G G RT(ln aCc aD

d ln aAa aB

b )

G RT ln

aCc aD

d

aAa aB

b (69)

aAは成分 A のイオン活量であるその他の成分も同じ

得られたエネルギーを電気エネルギーに換えるなら式(41)に習って

次式で表せば

ΔG=-n FV

there4V=-ΔG(nF) (70)

このときの起電力は標準状態における電位 E゜からの変化量として次式で与

えられる

E E

RT

nFln

aCc aD

d

aAa aB

b (71)

標準状態における起電力 E゜は反応が平衡状態にあるときで反応平衡定数

を K とするなら

K aC

c aDd

aAa aB

b (72)

で表されるそこでE゜は次のように書き改めることができる

43

E

RT

nFln K (73)

そこで式(67)で表される図10の電池「水素minus 銀塩化銀電池」に

対する起電力をギブス自由エネルギーから求めてみよう

反応から式(71)に当てはめれば

E E RT

Fln

aH

1 aCl

1 aAg1

aAgCl1 aH2

1

2

(74)

力学の慣例にしたがって固体の純物質の活量は1として扱い水素ガスを

想気体として見なして活量を1atm とするなら式(74)は次のよう

に簡略化される

E E

RT

Flna

H aCl (75)

ころで理想溶液として近似的に取り扱うときの希薄溶液でたとえば水素

入して詳細に検討するなら式( れる起電

オン濃度はイオン活量として aH+の記号を使うときすでに【理想溶液のギ

ブス自由エネルギー】の章で述べたようにこれを有効イオン濃度とする必要

がありイオン活量 a は「活量係数」γを導入して次式で表した

a H+= γH+CH+ (62)

この活量係数を導 75)で誘導さ

を計ることによって経験的に試料溶液中の水素イオン濃度を求めることは

困難である式(75)にあるイオン活量の項はモル濃度 C と活量係数γを

用いて次式で書き改められる

lnaH aCl

lnCH CCl

lnH Cl

(76)

まり式(76)右辺の第二項において互いに相手が知られなければ自分

決めることができず結果的に起電力を知っても(75)の値から水素イオ

ン濃度を導けないここに工夫が必要になる

44

の定義とその目盛り

液中の水素イオン濃度を直接意味するものではなく

を定義するとき測定されるのは1リットルの溶媒に存在す

pH = -log a H+ = -log(γH+CH+) (77)

際に試料溶液の pH を決定する際はpH 標準液を用いる

に溶液を入れ試料溶液 X と pH 標準液 S を

参 極を接続し電池を作成しその起

pH

現在pH の定義は溶

で述べたようにそれが簡便に測定できるものではないため次のように定

義されている

水素イオン濃度

水素イオン活量であるため定義式としては活量係数をγH+として次式で与

えられる

その要領は次のようである

上に図示した水素電極の容器内

れぞれ半電池(I)と(II)に入れる

半電池(I) Pt | H2 (1 atm) | 試料溶液

半電池(II) Pt | H2 (1 atm) | 試料溶液S

照電極として上図のごとく銀塩化銀電

電力を測定する半電池(I)のときの起電力を E(X)半電池(II)のそれを E(S)

とするこのとき試料溶液Xの pH は次式で計算される

pH (X) pH(S) E(S) E(X)

RT ln(10) (78)

ln(10)は自然対数を常用対数に戻すための定数で2303 を用いる

標準液

pH 標準液 S はpH 第一次標準液第二次標準液と呼ばれるべき

る測定

25で pH 4005 を示す

pH

上述した

のであり絶対的測定法である起電力の測定によって値をつける

標準液は安定で純粋な結晶が得られる試薬を調整してこれを測定す

上と同様に水素電極を用いこれに緩衝液を入れる参照電極として銀

塩化銀電極を接続して電池の起電力を測定する

たとえば005 moll フタル酸水素カリウム溶液は

一次標準(Primary Standard PS)の一つである半電池(III)として水素

45

電極を次のように準備する

半電池(III) Pt | H2 (1 atm) | PS 溶液

て電池を形成したとき得られる起電

参照電極として銀塩化銀電極を接続し

は式(75)から

E E

Ag AgCl RT

Flna

H aCl (79)

オン活量を濃度と活量係数の積(a H+= γH+CH+)にし自然対数を常用対数

すれば

E E

Ag AgCl RT ln(10)

F log(

H + CH+ Cl- CCl - ) (80)

E゜は水素標準電極(水素ガス分圧を1atm電極を浸ける溶液に001 moll

H

Cl を用いる)で得た起電力である

式(80)から

RT ln(10)

Flog(

H CH Cl

) (E EAg AgCl )

RT ln(10)

Flog C

Cl

(81)

らに

log(

H CH Cl

) F

RT ln(10)(E E

Ag AgCl ) logCCl

(82)

ころで式(77)から

(γH+CH+) (77)

-log a H+ =-loga H+-log(γCl-) +log(γCl-) =-log(a H+γCl-) +log(γCl-)

(83)の一番右の式で第一項は

pH = -log a H+ = -log

であるが右の式をさらに変形すると

(83)

46

-log(a H+γCl-)=-log(γH+ CH+γCl-) (84)

たがって式(82)の右辺で示されるように電池の起電力を測定すれば

よ 実際には溶液の塩素イオン濃

液で起電力を求め外挿する

起電

これによってpH を意味する式(83)は次式(85)で与えられる

p(aHγCl)はRG Bates によって Acidity Function と呼ばれている

らに式(85)最終項の log(γCl-) を補正しなければならないこの項は

本工業規格)によっても

であってこれは式(82)の左辺である

いただし塩素イオン濃度の項があって

をゼロにしたときの値が必要である

実測する際には塩素イオン濃度をゼロにできないので塩化ナトリウム NaCl

等を濃度を変えて添加しその時々の緩衝

勧告ではNaCl で 000500100015moll の3つの濃度を例示している

すなわち塩素イオン濃度ゼロのときの値は各塩素イオン濃度に対して

の値をそれぞれプロットしグラフから塩素イオンがゼロのときの起電力の

値を3点に対する回帰直線の延長で外挿して求めるこの点を次のように書

log( C H H Cl CCl

0

pa log( C log( (85) H H H Cl C

Cl0 Cl

)

素イオンの活動係数で与えられる補正項である

無限希釈溶液中のイオンの活動係数は理論的に Dubye-Huckel の式を用い

近似的に求めることが可能であるこれはJIS(日

用されていて Bates-Guggenheim の規約と呼ばれる (Bates RG

Guggenheim Pure Appl Chem 1 163-168 1960)

Dubye-Huckel の式は次のように与えられる

log A I

i 1 iB I (86)

47

I iについてそのモル濃度

計算される

はイオン強度でイオン mi と電荷 zi から次式で

I 1

2mizi (87)

また iは(86)式のBは温度と溶媒の性質による定数であり イオンの大

きさに関するパラメータで水和イオンの大きさとほぼ一致した値をとる標

準法の勧告では塩素イオンに対しイオンの大きさを46Åと決めてiBを

1

5 にしているそこで式(84)は次のようになる

ClA I

log 1 15 I

イオン強度 I は塩素イオン濃度を含まない計算となる

以上の方法によって実用的な pH 測定に用いられる第一次第二次標準液の

pH の値が得られる

絶対値としての

はpH の絶対測定法(第一次標準測定法)とされている

銀塩化銀参照電極は分極現象を防ぐために棒状の銀を塩酸で処理し表

に塩化銀を生成させたものを飽和塩化カリウム溶液につけてある

(88)

参考現在は実験的に求めた値と理論値の組み合わせで

素イオン濃度を求める方法を規定しているこの起電力から水素イオン濃度

を知るための測定方法

Buck RP Rondinini S Covington AK Baucke FGK Brett CMA Camoes MF

Milton MJT Mussini T Naumann R Pratt Kw Spitzer P Wilson GS

Measurement of pH definition standards and procedures Pure Appl Chem

74(11)2169-2200 2002Kristensen HB Salomon A Kokholm GInternational

pH scales and certification of pH Anal Chem 63(18) 885A-891A 1991)

銀塩化銀参照電極

電極の構成は

Cl-(aq) | AgCl(s) | Ag(s)

48

この半反応は次のようになる

AgCl(s) + e- rarr Ag(s) + Cl- (89)

の反応は次の2つの反応に分けて考えることができる

Ag+ + e- rarr Ag(s) (91)

AgCl(s)rarr Ag+ + Cl- (90)

図11銀塩化銀参照電極

(90)における銀 る塩素イオンによって左

されることが推測される

そこでカッコ [ ] をそれによって囲まれるイオンの濃度を表すことにし

式 イオン Ag+の溶解性は共存す

塩化銀の乖離定数Kを考えると

49

K = [Ag+][Cl-] (92)

これから

[Ag+]= K[Cl-] (93)

化カリウム溶液に漬けた銀塩化銀電極の電位 E は水素標準電極に対する

電 で与えられる

位を E゜として次式

E E

RT

nF

[ Ag ]

[Ag(s)]ln( )

Ag(s)のイオン活量は常に1とする

ここで半反応の電極電位を求めるために式(75)を利用することにすれば

(94)

熱力学の慣例にしたがって純物質個体

E E

RT

Flna

H Cl a (75)

式 の半反応をみると

応で電子1つが移動するので n=1 とするR=831441 JmolK1F = 96485

C はめれば

これに銀イオンの濃度として式(93)を当てはめる

この反応で移動する電子は (89) 銀イオン1つの反

molT=29815K(25)ln(10)=2303などの定数を当て

2303RTF = 005917

であるから(94)式は次のように表現できる

log[Cl]) E E 005917(logK (95)

たがって標準水素電極に対する銀塩化銀参照電極の標準状態における電

位 は半反応(89)に対して ゜=+0799で

化銀の乖離定数 K は182times10-10 であるのでその対数を取れば-973993

0799-005917times973993-005917log[Cl-]

E゜ E ある

ある

そこで式(95)は

E =

50

= 0799-0576-005917log[Cl-]

= 0223-005917log[Cl-] (96)

電極電位の関係について実測値

こうして求めた塩化カリウム溶液の濃度と

計算上の値は次のようである

KCl moll vs SHE volt25 計算値 volt25 01 02881 02822 35 0205 01908 飽和 0199 minus

実用 測定

実際の現場で水素イオン濃度を測定する目的の測定法で上のような2つの

極が同じ溶液に浸かっていたのでは試料溶液を交換するにも便利ではない

の容器に入れる未知試料溶液と銀塩化銀電極を隔離する

的な pH

そこで水素電極側

的で二つの電極容器をつなぐ液絡部をグラスフィルターやセラミック板

飽和塩化カリウムで作成したゼラチンなどの塩橋によって隔離遮断するこ

れを液絡部とよぶ

電池として機能するために必要な溶液イオンの交換はこの液絡部で行う

組み立てる電池は電池式で次のように表される

Pt(s) | H2 | 試料 (H+ x moll) || 飽和 KCl | AgCl | Ag(s)

の標準電極と銀塩化銀電極とは区切られていて溶液の直接の接触がない

とを意味するために電池式ではタテ二重線を用いる銀塩化銀参照電極

の容器には飽和塩化カリウム溶液が入れられる

51

図12液絡部のある pH 測定のための電池

この液絡部のある電池では塩橋を記号lsquo | | rsquoで表して次のように記す

試料 (H+ x moll) | | 飽和 KCl

ここでは試料溶液と飽和塩化カリウム溶液の異なる2液が接している

このような界面では膜電力が生じるのと同様「液間電位差」が生じることが

知られているしたがって上の電池で測定される起電力 E は

E = E[銀塩化銀電極電位]+E[液間電位]+E[水素電極電位]

で与えられることになってE[液間電位]のために図12の電池の起電力

は銀塩化銀参照電極の値を知っていても水素電極容器内に入れた未知溶

液の水素イオン濃度を正しく知ることができない

52

そこで実用的な測定法としてこの E[液間電位]を膜電位として積極的に利

用する方法が工夫されたすなわち水素イオンに感応するガラス薄膜を用い

るガラス電極法である

53

ガラス電極

ガラスはケイ素原子と酸素原子からなる SiO4 の結晶構造を持ち酸素で囲

まれた空隙があって水素イオンがそれを埋めることができる

この性質によってガラス膜表面は水溶液中の水素イオンに応じて膜電位を

変化させるのでこれを水素イオン濃度測定用の電極として利用することが考

えられるこれが通常用いられるガラス電極である

ガラス電極は標準電極と組み合わせれば電池を構成することができこの電

池の起電力を知ってガラス薄膜の内外にできたイオン濃度勾配を知ろうとす

るものである

薄いガラス膜(01mm程度)をはさんで接する2つの溶液のH+イオン濃

度が異なるとその差に応じてガラス膜の両側に電位差(Eg)が現れる

ネルンストの式でガラス電極の内部に入れた既知の濃度のH+([H+]in)に対

し試料中の水素イオン濃度が[H+]sampleのとき次の電位を生じる

)][

][log(059170)

][

][ln(

sample

in

sample

ing

H

H

H

H

F

RTE

(97)

図13ガラス電極

電極を構成するのは銀塩化銀電極と同じ電極で用いる塩溶液は一般的

54

に 01モル塩酸溶液である

この半電池の電池式は次のように書くことができる

Ag(s) | AgCl(s) | HCl (01 M) | ガラス薄膜 || 試料溶液 H+ (x moll)

Eg

この半電池の電極電圧を測定するために銀塩化銀標準電極と組み合わせ

電池を作って起電力を計る

構成される電池は下図のようになる

ガラス電極 銀塩化銀標準電極

図14ガラス電極を用いた pH 測定用の電池

この電池の起電力は次の各半電池の平衡電位を合わせたものになる

55

E1ガラス電極の内側電位

Ag(s) | AgCl(s) | HCl (01 M)

Egガラス薄膜の内外に生じる膜電位

HCl (01 M) | ガラス薄膜 || 試料溶液 H+ (x moll)

E2液間電位(膜電位)銀塩化銀標準電極のセラミックを介した試料溶液

と銀塩化銀標準電極の内部液(飽和 KCl 溶液)の間に発生する電位

試料溶液 H+ (x moll)|| セラミック | KCl(飽和)

E3銀塩化銀標準電極

KCl(飽和)| AgCl(s) | Ag(s)

pH メーター用のガラス電極に使われるガラス薄膜は水素イオンに感応して

膜電位(Eg)を生じるこれは【膜電位】の章で記したように薄膜がある

一つのイオンのみを通過させる特性を持っている場合にイオンが膜を介した

両側で平衡状態に達したとして電気化学ポテンシャルを膜の両側で等しいと

考えてそのイオンが濃厚な側から希薄な側にその差によって圧力を生じると

するものである

一方同じ試料溶液が銀塩化銀標準電極のセラミック液絡部を介して生じ

るだろう液間電位(膜電位E2)はいま関心がある水素イオンに対して特異

的に感応するのではないので試料溶液の水素イオン濃度に関係なく一定と見

なすことができる

すなわちpH メーターを構成する電池の起電力 E は

E = E1+Eg+E2+E3 (98)

このうちEg以外は一定と見なせるので

E1+E2+E3 = E

として式(98)を書き直すと

)][

][log(059170

sample

ing H

HEEEE

(99)

Eは標準液によって校正されるべき標準電極電位である

56

電極の校正

実際のイオン濃度を測定する場合低濃度標準液と高濃度標準液で得られ

る起電力を測定し計測のイオン濃度に対する係数(傾き)を求めておき未

知の試料に対して起電力を測定してそのイオン濃度を算出する方法が採られる

低濃度標準液と高濃度標準液のそれぞれの濃度をCLとCHとすればそれぞ

れの起電力ELとEHは次式で表される EH = E +β logCH (100)

EL = E +β log CL (101)

ただしβは式(99)の係数を簡略にしたものである

式(100)と(101)から検量線の傾きが次式で表せる

ΔE = EH minus EL = β(logCH minus logCL) = β logCH

CL

(102)

したがって係数βは

β =ΔE

log CH

CL

(103)

であらわされる

このときに使われる標準はすでに前出の pH 第一次標準第二次標準溶液で

ある

金属イオンに対応するイオン選択電極

現在臨床検査で日常的に使われている電解質測定のための電極はナトリウ

ムカリウムカルシウムクロールなどおよそ臨床的に必要な金属イオン

に対して入手可能である

カリウムイオン測定用のバリノマイシンの発見によってクラウンエーテルと

57

呼ばれる一連の化合物が知られたクラウンエーテルはその分子の中心に立

体的な空間を持ち特定のイオン径に対し合致するのでそのイオンに対して

選択的に感応するこれらの化合物はイオノフォアと呼ばれる

図 15クラウンエーテル

1つの金属イオンが環状化合物

15-crown-5 の中央にある空間を充填

している模式図

15-crown-5 の構造を作る10個の黒

い丸は炭素炭素2個のつながりごと

にある中心の白い丸は酸素酸素と

金属イオンの間の距離はおよそ 22~

23Åであるカリウムのファンデン

ワールス半径は 135Åイオン半径は

15~16Åである

測定したいイオンに対しポリ塩化ビニル(PVC)を支持体としてイオノフ

ォアを添加した液膜の電極膜を作成しこれをガラス電極におけるガラス薄膜

と同様試料に接する電極膜として用いるこの構造から一般的に液膜型電極

と呼ばれる電極膜には特異性を高めるため妨害イオン排除剤などが添加

される

pH メーターと同様銀塩化銀標準電極と組み合わせ電池を形成しその

起電力を計る測定したいイオンが液膜に対して内外で平衡に達したときの

膜電位を測定するのはガラス電極と同じである

カ リ ウ ム イ オ ン に は Bis[(benzo-15-crown-5) ( 正 式 名 は

Bis[(benzo-15-crown-5)-4-methyl]pimelate)ナトリウムには Bis[(12-crown-4)

やDibenzyl-bis[(12-crown-4)などがイオノフォアとして用いられる

58

図16カリウムイオン測定用に使われるクラウンエーテル

図17ナトリウムイオン測定用に使われるクラウンエーテル

59

参考イオン選択電極に関する文献Xia Z Badr IHA Plummer SL Cullen L

Bachas LG Synthesis and evaluation of a bis(crown ether) ionophore with a

conformationally constained bridge in ione- selective electrodes Anal Sci 14(2)

169-173 1998 Oh K-C Kang EC Cho YL Jeong K-S Y oo E-A Paeng K-J

Potassium-selective PVC membrane electrodes based on newly synthesized

cis- and trans-bis(crown ether)s ibid 14(10)1009-1012 1998 Dojindo WEB

site httpwwwdojindocojpwwwrootproductsjinfo2protocolp31pdf

<補遺> 60

補遺 状態関数 (本文 p21 10 行目参照)

一つの平衡状態にある系 A とこれに接する系 A にとって外部である系 B について系 B

から系 A に熱を与えこれによって系 A が他の平衡状態に移ったとき系 A はその結果とし

て膨張し系 B に対し仕事をする

このときの微少な熱量の移動を記号drsquoQ またなされた微少な仕事をdrsquoW とすると

系Aの内部エネルギーに関する微少な変化drsquoUA は両者の和として表される

WdQdUd A primeminusprime=prime (a-1)

この式 a-1 と本文中の式25との関係について

WQU A Δminus=Δ 本文(25)

<補遺> 61

式 a-1 と式25の記号の違いは変化の起きる前の平衡状態 S1 から変化後の平衡状態 S2

に状態変化があったとするなら式 a-1 を積分することで式25が得られるものと考えて区

別している

A

S

S A UUd Δ=primeint2

1 (a-2)

このことは重要であるすなわち内部エネルギーU は変化の起きる前後の状態を指定する

ことによって値が定まることを意味するこのように積分によって値を定めることが出来る

のでdrsquoU は完全微分であるという

内部エネルギーのように系の状態だけで値の定まる量を状態関数として扱う

一方式 a-1 のdrsquoQ drsquoW についても同様に微少の変化量を表しているが平衡状態 S1

から S2 への経路を指定しなければ積分の値は定まらない

本文中の記号にしたがって仕事量ΔW を次のように表すことにする

VpW Δ=Δ 本文(20) V

<補遺> 62

体積と圧力の関係を表す図を使ってこの仕事量が意味することを考える圧力 prsquo の下で

体積が V1 であるときを状態 S1 として圧力一定の下で体積を V2 まで膨張させるような変

化を行った後体積を等しく保って圧力を p にまで上げたときの状態を S2 とするこのとき

の仕事量は膨張に伴うものであるから図の体積‐圧力線の下の面積で示すことができる

平衡状態 S1 から S2 への変化の道筋を別にたどってみよう

新しい経路では圧力を先に p まで上げた後に膨張変化させている

図から直感的に明らかであるので数式での扱いを省略するが2 つの経路による仕事量には

差がある

すなわちdrsquoW は drsquoU と異なり変化の初め S1 と終わり S2 の状態が与えられても積分値

は定まらず変化の経路によって違ってくる

このように変化の経路を指定しなければ積分値が定まらないものを不完全微分と呼び扱

いを区別する

本文 p21 へ戻る

<補遺> 63

VpW

WQU

VpQU

VpUQ

1122 SSSS pVUpVUQ

pVU

VpUHHHQ SS 12

エンタルピー (本文 p24 20 行目参照)

本文中の式 20 および 25 から一定の圧力の元で起きる状態変化において内部エネルギー

の変化量に対する式 a-3 を得る

本文(20)

本文(25)

(a-3)

式 a-3 を Q について書き直す

(a-4)

状態の変化が平衡状態S1から平衡状態S2に移ったものとして式 a-4を丁寧に書き直すと

(a-5)

並び替えて

(a-6)

式 a-6 を見ると定圧過程における熱量の流入は

(a-7)

の形を持つ関数の差であることが分かる

一般に化学反応のような変化の過程では大気圧の下で行われるようなものに興味がある

そこで式 a-7 で与えられる項を一つの関数として定義するこれをエンタルピーと呼び記

号 H を与える式 a-4 はエンタルピーの変化量で次のように書き改められる

(a-8)

圧力が一定の下で起こる状態変化について流入する熱量は式 a-8 で示されるようにエンタ

ルピーの変化量に等しい

V

V

V

V V

V

V

1212 SSSS VVpUUQ VV

<補遺> 64

1Q

We

また式 a-8 からオートクレーブ内で起こるような体積変化のない過程ではこの値が内

部エネルギーの変化量で与えられることが明らかである

本文 p24 へ戻る

エントロピー (本文 p26 17 行目参照)

エントロピーは次のような思考実験から発想された仮想的な状態関数である

理想気体よりなる系 A が温度 T2で熱平衡状態にあり温度 T1の外部の熱源と接しているこ

とを想定する系 A の外部を系 B と呼ぶことにするT1は T2に対して無限小だけ高い温度と

する

系 A が系 B に対して温度圧力について平衡を保ちながら緩慢に系 B より熱量 Q1を受け取

る過程を考える(このような過程を準静的過程と呼ぶ)これによって系 A が熱量 Q1を得て膨

張するとき系 B に対して仕事をする続いて系 A から熱量 Q2が系 B に戻ることを考える

想定されるこの変化が可逆的であれば系 A と系 B を併せた全体は元の状態に戻る蒸気機

関に関するこのような研究が Nicolas Carnot によってなされたのは1824 年のことであった

ここに想定されたサイクルに対する Carnot の効率 e は移動した熱量となされた仕事によ

って定義され次の式で表される

(b-1)

<補遺> 65

理想気体では内部エネルギーU の変化ΔU はゼロと考えるしたがって熱力学の第一法

則を表す式(本文中の式25)から次の関係が示される

0=Δminus=Δ WQU

WQ Δ= (b-2)

これによってCarnot Cycleの効率eはQ2lt0 として次のように書き改めることが出来る

1

21

QQQe +

= (b-3)

ところで気体の状態方程式から1 モルの気体について次のような関係が示される

RTV

P

P1=

V = RTV (b-4)

V 式 b-4 の両辺に体積の微少変化量ΔV をかけて

(b-5)

これを体積Vについてその変化をV1からV2までとして積分するならば次式が得られる

VV

RTVP Δ=Δ 1V V

V

intint = 2

1

2

1

1V

V

V

VdV

VRTPdV

1V2V

11 lnRTW =

(b-6)

Q1の熱量によって起こる膨張がV1よりV2までとし圧力P温度T1の下でなされるその仕事

量をW1とするならそれは式b-6 の右辺によって示されるすなわち

(b-7)

VV

1

2lnVVRT=

V V

VV

V

V2int V2 intV1 V1

<補遺> 66

またQ2の熱量の移動が圧力P温度T2の下で起きこれによって系Aが可逆的に圧縮され

るなら体積変化はV2よりV1まで起こりその仕事量をW2で示すと次式のように表される

(b-8)

1

22

2

122 lnln

VVRT

VVRTW minus==VV

VV

Q1=W1Q2=W2の関係から式b-7 およびb-8 を用いてCarnot Cycleの効率eを表す式b-3

を書き改めると温度のみの関係式として次のように表される

1

21

TTTe minus

= (b-9)

ここでサイクルが可逆的過程であると想定するならば式 b-3 と式 b-9 から

1

21

1

21

TTT

QQQe minus

=+

= (b-10)

これから

12112111 QTQTQTQT minus=+ (b-11)

整理すると

02

2

1

1 =+TQ

TQ (b-12)

この考えをさらに発展させ系A

と系Bの間に数多くの系を挿入すること

にしてそれらの系を同様に熱源として

T1T2Tnと考えるこれによっ

て熱の受け渡しが系Aから系Bに至り

再び系Aにもどるサイクル過程に数多

くの寄り道の過程を加えることになる

熱量の移動に関して上の場合と同じく

準静的過程で行われると考えるこの

サイクル全過程について初めと終わ

<補遺> 67

n

i i

i

T

Q

1

0

0T

dQ

T

QS

T

dQASAS )()( 12

りが同じ状態になる可逆的な過程であるなら式 b-12 を拡大的に考えることになってそれ

は次式で表される

(b-13)

式 b-13 には重要な関数が現れるすなわち熱量と温度の比QT である

もし一つの系が無限小だけ温度の高い(dT )外界から温度圧力など平衡を保ちなが

ら極めて緩慢な過程(準静的過程)で無限小の熱量(dQ )を受け取るならばその変化は可

逆的でありdT について連続的な温度分布をする過程を考えるとき式 b-13 をさらに発展

させて次のように積分式で示すことが出来る

(b-14)

式 b-14 で積分記号にが付されているのはCarnot Cycle のような経路を一巡することを

意味している

Carnot の熱機関の効率という着想から生まれた熱量とそれを持つ系の温度との比 QT に

重要な意味を見出したのは Rudolph Clausius で彼はこの比にエントロピーという名前を与

えたエントロピーには記号ΔS を一般に用いる

(b-15)

エントロピーは初めと終わりの状態がわかれば過程に関わらず定まるので状態関数であ

系 A と外界のエントロピー変化を考えるときそれが可逆的過程であるならばすべてを併

せた全体のエントロピー変化は初めと終わりに変化がないという意味でゼロであるすなわ

ち初めの状態を S(A1)とし次の状態を S(A2)とするならそれぞれのエントロピーを

ΔS(A1)ΔS(A2)としてこの間におけるエントロピーの変化量は次のように示される

(b-16)

<補遺> 68

T

dQdS

0T

dQ

ある一つの変化については次のように示される

(b-17)

ここで式 b-17 の S に付けられたdは微分量すなわちごく微小の変化量を意味し式 b-15

で定義されたエントロピーに用いられる一般的な記号Δと区別する

ところで式 b-10 の関係においてもし移動した熱量のすべてが仕事に変わらなければ

効率 e を表す熱量を用いた関係式と温度で表される関係式は等号で結ぶことができないそれ

はエネルギーのロスを意味し初めと終わりの状態が異なってしまうことを意味するすなわ

ち全過程が構成する一つのサイクルは可逆的でなくなる

不可逆過程での熱効率 ersquo は 大値を示す可逆的過程の熱効率 e より小さな値をとる

ee

したがって 大効率を与える式 b-8 と式 b-3 から

01221

2112

1

21

1

21

QTQT

QTQT

Q

QQ

T

TT

両辺を T1T2で割ると

02

2

1

1 T

Q

T

Q

これを式 b12 と同様に発展させれば式 b-14 についてサイクルの変化が可逆的過程の

場合と不可逆的過程の場合の両方を併せClausius の不等式と呼ばれる次の関係が成立する

(b-18)

式 b-18 の等号が成立するのはサイクルが可逆的な理想の場合に限られる

ある孤立系で状態 A1 から状態 A2 へは不可逆変化で進められ状態 A2 から再び状態 A1

に戻るとき可逆変化であるような閉じた状態変化を考える可逆系のエントロピー変化には

記号 Q を使い不可逆変化には Q を用いるとするとそれぞれ積分式を用いて状態 A1 から

状態 A2 へは

<補遺> 69

d prime

状態 A2 から状態 A1 に戻るときは

全体では

=d prime

+d

(b-19)

Clausius の不等式から

0

式(b-19)の第二項で反応を逆に進めるときには次のように書き改めることができる

=d

よって式(b-19)は次のように書き直すことができClausius の不等式とあわせると

d prime d

0

すなわち

d prime d

上式の右辺は式(b-16)を用いて表せば

d prime

∆S ∆

この状態変化を微小変化とするならば断熱変化の場合 dQ = 0 であるから

∆S ∆ dS 0

すなわち不可逆変化を含む断熱変化ではエントロピーは必ず増大する

<補遺> 70

T

QS

BA SSS

(b-20)

(次の<補遺>ギブス自由エネルギーも参照せよ)

本文 p26 へ戻る

ギブス自由エネルギー (本文 p28 27 行目参照)

エントロピーの考えを導入することによって不可逆的に状態変化が起きるときにはエン

トロピーの増大を引き起こすことを知ったこれによって目前で起きる現象について温度の

変化があるものであれないものであれまた圧力の変化があるものであってもエントロピー

の定義式によって可逆的な変化におけるエントロピーの変化量を計算することが可能である

(b-15)

しかしながらこれから起こる変化について我々がすでにあらかじめ知っている物理量を

用いて予測的にその状態変化が起きるかどうか知ることは必ずしも容易ではないその理由

は式 b-15 に示されたエントロピーΔS が系とその外界をあわせた全体のエントロピーを示

しているからであるすなわち関心のある系を系 A としその外界を系 B とすると全体

のエントロピーは次のように表せる

(c-1)

関心のある系 A のエントロピー変化を知るためには系 B のそれを知ればよいがそれは

いつも容易とは限らない系 A の性質だけで状態変化の方向を知るには別の観点が必要にな

るようだ

そこでもう一度状態変化が熱量 Q の移動によって起きることについて考えてみようエン

トロピーの補遺で議論したように熱量の移動が準静的過程により行われるときには変化は可

逆的に起こると考えたこのとき外界すなわち系 B から移動する熱量を Q1とし系 A から

0S

<補遺> 71

21 QQ

T

Q

T

QSB

21

T

QSS A

2

QH

T

HSS AA

AA STHST

のそれを Q2 と記号を当てたのでこれをそのまま使うことにすれば可逆的な過程では系 B

の熱量 Q1 はすなわち系 A から戻る Q2 に他ならないので両者には次の関係が成立するも

のとしてよい

(c-2)

したがって

(c-3)

と考えてよくこれによって式 c-1 を次のように書きなおすことが出来る

(c-4)

独立した系で圧力とその体積に変化がなく一定の条件の下で状態変化が起きるときエン

タルピーの考えを使ってすでにひとつの関係があることを導いている

本文(31)

そこで式 c-4 を系のエンタルピーΔHAによって書き改めれば

(c-5)

この両辺に-T をかけて式を書き直せば次の関係式が得られる

(c-6)

式 c-6 を見るときその右辺がマイナスの値ならば左辺のΔS はプラスの値をとることが

分かるすなわちエントロピーが増大すると見ることが出来るこれまでの過程で自然の現

象はエントロピーが増大する方向に進むとしてきたので関心のある状態変化について式 c-6

の右辺で計算される値がマイナスの値ならばその変化は起きるものと考えてよいことになる

だろうしかも右辺はすべて独立した系の状態量で示されていて我々が知りうる値で計算

<補遺> 72

TSHG

STSTHG

STHG

可能である

そこでこれを熱力学ポテンシャルを表すものとしてギブス自由エネルギーと呼ぶことに

するギブス自由エネルギーは記号 G が用いられ次のように定義される

(c-7)

ここで関心があるのは自由エネルギーの絶対値ではなく式 c-6 に示されたようにその変化量

に興味があるので式 c-7 から

(c-8)

温度が一定の条件の下で状態変化が起きることを考えるなら式 c-8 は次のように書くこと

ができる

(c-9)

ギブス自由エネルギーは式 c-9 の右辺がすべて状態量であるからこれも状態量の一つで

ある定圧定温の条件下で起きる変化ではすでに議論したようにΔGlt0 であれば状態

変化は自発的に起きるものと予測できる

つまり式 c-5 の第一項は系のエントロピーΔSAそのものであり第二項で示されるエンタ

ルピーは系 A の温度が一定に保たれているのであるから発熱する熱量として外界に吸収さ

れるものであってこれは外界のエントロピーの増大につながるものとして解釈されるした

がって化学反応のように一定の圧力と一定の温度の下で起きる変化について自由エネルギ

ー変化量はその状態変化が自発的に起きる傾向を示しているといってよい

本文 p28 へ戻る

  • はじめに
  • 目次
  • 電気エネルギー
    • 金属のイオン化
    • 電池
    • 水素の反応
    • 燃料電池
    • 化学反応と電気エネルギー
      • エネルギーと熱力学
        • エネルギー保存則
        • エンタルピー
        • エントロピー13
        • ギブス自由エネルギー
        • 電池における化学反応のギブス自由エネルギー13
        • 理想気体の状態方程式
        • 理想溶液のギブス自由エネルギー
        • 膜電位
          • 水素イオン濃度測定
            • 化学反応の一般的な式
            • pHの定義とその目盛り
            • pH標準液
            • 銀塩化銀参照電極
            • 実用的なpH測定
            • ガラス電極
            • 電極の校正
            • 金属イオンに対応するイオン選択電極
              • 文献
              • 補遺
                • 状態関数
                • エンタルピー
                • エントロピー
                • ギブス自由エネルギー
Page 23: イオン選択電極i イオン選択電極 Ion Selective Electrode (ISE) を理解する ・ pHを測定する ・ NaやKなどのイオン濃度を測定する 神戸大学医学部保健学科

20

したがって燃料電池で1モルの水素が反応すれば

W = 2 x 96485 x 1229 x 104 = 2372 KJmol

すなわち2372 KJmol の電気エネルギーが基準状態で取り出せる最大電力

と計算される現在作られている燃料電池の電力は実際上08 volt ほどで

あるしたがって現実的に取り出せる電気エネルギーは 1544 KJmol の仕

事量と計算される「仕事量」という言葉については電気でモーターを回し

なにがしかの「仕事」をするなど思い浮かべれば実感できるだろう

エネルギーと熱力学 これまで述べてきたように電池は化学反応から直接電気エネルギーを取り出

す仕掛けであるダニエル電池では亜鉛と銅が酸化還元反応を起こす過程で

電子を放出するのを利用するまた水素ガスによる燃料電池は気体水素と酸

素を原料とし水が生成されるこの過程が1atm の気体原料を25(29815

K)で1モル反応させて生成物も1atm の液体の水を得るなら次の全反応に

よってすでに計算したとおり2374 KJmol の電気エネルギーが取り出せる

H2 + 12 O2 rarr H2O

圧力と温度がともに反応の過程を通じて一定の場合にその過程から取り出せ

る仕事量は熱力学的に考えることもできる

それはギブス自由エネルギーとして議論される電池で取り出した電気エネ

ルギーすなわち電力はこのギブス自由エネルギーに相当する

次に化学反応をこの熱力学の面から考えてみよう

エネルギー保存則

水素ガスを使う燃料電池のように独立した一つの仕掛けを考えこれを「系」

と呼ぶことにする系を考えるとき電池のように具体的なものを持って考え

るのが容易いのでそうすることが多い熱力学では自然界全体をあつかうので

しばしば概念的になり非現実的な記述が行われるが系の大きさや系を構成

する分子の大きさについて特定する必要はない

系におけるエネルギーを内部エネルギー熱エネルギー力学的エネルギー

の3つの要素からなると考えるこれらのエネルギーを考えるとき系の熱力

21

学的なパラメーター(変数)が必要となる熱力学的な状態はこれらのパラ

メーターのうちのいくつかを指定すれば決定される

熱力学的なパラメーターは2つに分類される

示量パラメーター(示量性変数)

系の大きさや構成する物質の量を示す体積や質量

示強パラメーター(示強性変数)

系の大きさに依存しない系における1つの点で決まった値で与え

られる圧力や温度密度など

いくつかのパラメーターで完全に決定できる状態を関数で表現することがで

きる場合があるそのような関数を熱力学的な状態関数(rarr補遺 p60)と呼ぶ

関数で状態の変化を表すことができれば数学的に取り扱うことができいろ

いろの面で便利である

一つの系についてその状態を知ろうとするとき系が熱力学的な平衡状態に

あると議論する上で都合がよい

熱力学的な平衡状態とは系を外部と独立させ長時間放置した後に達成され

る状態をいうこのとき系の状態をその外部のパラメーターで表現できる

たとえば電池を独立した系と考えるとき平衡状態に達した電極電圧を外部

においた電圧計で測定することができる

ある系を考えるとき前提としてその系はエネルギーを保有していると考える

系が独立してそこに存在するということで持っているエネルギーであるこれ

を内部エネルギーと呼ぶ系がある過程を経て状態を変えるとき系から系の

外部へ力学的な仕事をする場合には力学的エネルギーの出入りがあると考え

るまた系に熱が出入りする場合が考えられそれを熱エネルギーの出入り

と考えることにしよう

まず力学的エネルギーについて考えることにする

いま系が状態を変えその体積が増えれば系のlsquo壁rsquoがその系に接している

「外部」へ力学的な仕事をすることになる

このように系が膨張し壁が外部に向かって押し出されると考えたとき膨張

する過程における圧力を一定でpとし系が膨張した体積をΔV(膨張した分だ

けの体積増加量)とするなら系の仕事量ΔWは両者の積で表されるΔは変

化量を表すときにつける記号と決めておこう

22

ΔW = pΔV (20)

系の体積が凝縮する場合があるので仕事を記号で表す場合には注意するも

し系に接した「外部」から系に力が加わって体積を小さくしたならΔVは

マイナスとなるのでΔWもマイナスで表される

-ΔW = -pΔV (20prime)

今考えている系を「系 A」と呼びその内部エネルギーを UA外部の系を「系

B」と呼んでその内部エネルギーを UBと表すなら二つ合わせた全体の内部

エネルギーは両者の和で表すことができる

U = UA+UB (21)

この体積変化に必要なエネルギー変化量はどこから得られたかを考えれば

その変化があった「系 A」と外部の「系 B」のいずれかあるいは双方の内部エネ

ルギー変化分でまかなわれたと考えざるを得ない(図8参照)

そこでこのエネルギーの収支関係は変化分を表す記号に先と同様Δを用い

ることにすると次式のようになる

-ΔU =ΔW (22)

すなわち観察している「系 A」のエネルギーと外部の「系 B」のエネルギー

を合わせた総エネルギーを見てその微少な減少量minus ΔU が仕事をなすために

必要であったエネルギー量と考えてみることにする

ついでこの体積の変化が「系 A」に接する外部のlsquo熱rsquoによって起きたも

のと考えてみようすなわち外部の「系 B」が系 Aより高温で「系 B」によ

って系 Aが暖められたことになる

このとき移動したエネルギーを「熱量」と定義する

23

図8熱量の移動と系が外部にする仕事

「熱量」を記号Qで表すと外部の「系 B」が失ったエネルギーminus ΔUB で

ありこれが熱量であるから式で表せば次式のように書くことができる

-ΔUB = Q (23)

ここで「系 A」とそれに接する「外部 B」両方のエネルギーを合わせた総エ

ネルギーの変化量ΔUは式(22)で与えられていた

-ΔU =ΔW (22)

-ΔU =-(ΔUA+ΔUB) であるから

minus ΔUAminus ΔUB=ΔW (24)

これに式(23)を当てはめてΔUAで整理すれば

24

ΔUA= Q-ΔW (25)

この式(25)は「エネルギー保存則」あるいは「熱力学の第一法則」を数

学的に表現したものである

すなわち

独立した系を考えその状態が変化するとき系の内部エネルギーの変化量はその系に入る熱量と系が外部にした仕事との差である

式(25)にはまた重要な主張があるつまりエネルギー保存則にしたが

うとき熱量は力学的エネルギーにまた力学的エネルギーは熱量に変換しう

ることを意味している

熱量を表す単位はカロリー(cal)を用いる1cal は

1 cal = 4184 J

と換算されるジュールは 1J = 1Nm (ニュートンメートル)で仕事量を

表現する単位系で表される

エンタルピー

式(25)から定圧過程で式(20prime)を利用して次の式(26)が誘導さ

れる

Q =ΔUA+pΔV (26)

ここでQは熱量を表していたのでこの関係式(26)から熱関数として

新しい関数を定義する

新しい関数はエンタルピー(enthalpy)(rarr補遺 p63)と呼ばれ次の関数

式Hで表される

H = U+PV (27)

エンタルピーの微少変化量を記号Δを使って表現してみよう

25

ΔH = ΔU +Δ(PV) =ΔU +ΔPV+ PΔV (28)

独立した系で圧力が一定の下に起きる過程を考えるならΔP = 0 (圧力の

変化はゼロ)であるから式(28)は次のようになる

ΔH =ΔU + PΔV (29)

化学反応の過程を考えるとき系に容積の変化がなく過程の前後で一定であ

るならさらにΔV = 0 であるのでエンタルピーの変化量は

ΔH =ΔU (30)

また系の仕事を体積の変化としてみる式(20)から

ΔW = pΔV= 0

であるのでこれを式(25)へ適応すると

ΔU= Q minus ΔW = Q ΔW= 0 だから

結果的に系の圧力と体積が変化の過程で一定である場合にはその系のエンタ

ルピーの変化を表す式(29)(30)は次のように簡単な式になって熱関

数と呼ばれる意味が理解しやすいだろう

ΔH = Q (31)

独立した系に等圧等積で起きる過程を見る場合にはエンタルピーは系が外

部と交換する熱量の直接的な尺度となる

H>0 なら反応に熱を使うので吸熱反応

H<0 なら発熱反応

電池のように系に起きる化学反応で生じる電子の流れを取り出す装置を考え

る場合エンタルピーの変化を電気エネルギーとして取りだしている点に留意

26

しなければならない式(31)のようにエンタルピー変化が交換される熱

量に直接表現できるといっても必ずしも熱として取り出すとは限らないこと

を注意しよう

ところでエンタルピーは内部エネルギーと同じ次元にある状態量で定圧

変化の熱量がエンタルピー変化であるからある一点を標準として定めれば

すべての物質について任意の点のエンタルピーを変化量として定めることがで

きるすなわち化学反応の過程で発熱あるいは吸熱する熱量は反応材料と

生成物の間の状態変化に対応するエンタルピーに対応する

そこで一つの元素に対してもっとも安定な状態にある物質を標準物質とし

て定め29815K(25)1atm を標準状態としてその標準物質からある化

合物を合成するときの反応熱(発熱あるいは吸熱)をその化合物の「標準生成

エンタルピー」として定義できる多くの元素に対して標準生成エンタルピー

は現在表としてまとめられている

水素や酸素はその気体状態が標準物質でありそれらの標準生成エンタルピー

がゼロと定義される

エントロピー

もう一つ新しい状態関数としてエントロピー(entropy)(rarr補遺 p64)を

定義するエントロピーを表す記号は通常S を用いその定義は次の式(32)

による

S Q

T (32)

エントロピーは系の2つの状態が決まると状態量として決まる

このときQ は2つの状態の間を可逆的に変化したとき系が受け取る熱量

T は系が熱量 Q を受け取ったときの温度(degK)である

「熱力学の第二法則」はエントロピーに関するものである

図9では2つの系が接しておりそれぞれの温度を Thigh Tlowとする

Thigh>Tlow (33)

27

今温度の高い系から温度の低い系に直接熱量 Q が移動したとすれば温度

の高い系のエントロピーの変化量ΔS は熱量が失われるので負の値になる

図9熱の移動

そこで温度の高い系のエントロピーの変化量ΔS を式で表すことにすると

次式のようになる

Shigh Q

Thigh

(34)

一方低い系のエントロピー変化量ΔS は熱量が与えられるため

Slow Q

Tlow

(35)

両方の系を合わせたエントロピーの変化量ΔS は

S Shigh Slow Q

Thigh

Q

Tlow

lowhigh

lowhigh

lowhigh TT

TTQ

TTQ

11 (36)

式(36)の最終項で(33)を前提すなわち最初に温度の高い系は高い

と決めたのだとするならエントロピーの変化量ΔS は必ず次のようになる

28

ΔS >0 (37)

すなわち独立した系がありそれより温度の低い別の系あるいは温度の低

い外界が接した場合熱量は高い方から低い方へ移動するという自然の成り行

きを説明するものである

自然界に置いてエントロピーは

ΔS≧0

の値を取りΔS=0のときは可逆的過程である

今の例でいうなら熱は温度の高い系から低い系へ移動しその逆は起きない

常にΔS >0の方向に過程が進行するまた2つの系が同じ温度であるとき

両者は平衡状態にあって熱量の移動は見かけ上なくΔS=0と表現される

「熱力学の第二法則」はエントロピーによって表現されるもので系の変化が

可逆的であるかどうかを判定する指標であり現実の世界で起きる不可逆過程

が正の値を取る方向へ進むことを示す

あるいは系の変化が起きるとき外界を含めて考えれば総エントロピーが

増大する方向に変化が起きることを意味するというようにも表現される

ギブス自由エネルギー

熱力学の第一法則によってエネルギーの取りうる形である「仕事」と「熱」

は互いに変換されうることを理解したこのことの数量的な意味は1cal=418J

で示されるさらに仕事は100熱に変換可能であるが一方の熱はうま

くやっても100を仕事に換えることができないことを熱力学の第二法則で

説明しようとしたそのためにエントロピーという概念が導入された

ここで電池のような独立した一つの系を見るとき系の内部エネルギーの減

少を仕事として取り出しうるならそれは化学反応を一つの例としてどれほど

の仕事量が取り出せるのかはどうしたら与えられるだろうか

化学反応を電気エネルギーに換える電池では先に正負それぞれの電極におけ

る半反応の平衡電位の値を利用してその起電力に対する最大値を計算した

この化学反応から取り出しうる最大仕事量を与えるものとして新しくギブス

自由エネルギー(rarr補遺 p70)と名付け記号 G を使ってそれを次のように

定義する

29

G = H-TS (38)

H はエンタルピーである第2項にある S はエントロピーを表す

ギブス自由エネルギーは化学反応のような独立した系の定温定圧過程に適

応されるので変化量ΔG を式(38)から得ておこう

ΔG =ΔH-Δ(TS)

=ΔH-(SΔT+TΔS)

温度を一定と考えているのでΔT=0 であるから

ΔG =ΔH-TΔS (39)

この式(39)を書き換える

ΔH=ΔG + TΔS (39rsquo)

ここで定圧過程ではエンタルピーを次のように式(29)で定義できた

ΔH =ΔU + PΔV (29)

式(29)の意味するところを復習すれば

系のエンタルピー変化ΔH は内部エネルギーの変化量と系が外部に

した仕事量の和として表される

これは

定圧過程で系が得るエネルギー量から仕事量を除いたもの

と言い換えることができるエンタルピー変化量は化学反応などの過程で

始めと終わりの2つの状態の差であるからそれが正の値を示す(>0)なら

系のエンタルピーは増加することを意味しその過程が進行するためには系

の外部からエネルギーが供給されなければならない

一方式(39rsquo)の右辺第2項TΔS はエントロピーの定義(32)より

TΔS = Q (40)

であるのでこれは可逆過程で系に供給される熱量を意味する

30

もしエンタルピー変化量が負の値を示す(<0)ならば系のエンタルピー

は減少しその過程が進行することによってエネルギーが取り出せるすなわ

ち式(39)(40)から次のようにこれら3つの状態量を改めて説明する

ことができる

ある化学反応が定圧で可逆的に進行するときそれから取り出せる

エネルギーのうちΔG を仕事として放出し熱量 Q を放出する

標準状態29815K(25)1atm で標準物質からある化合物を合成すると

きの反応熱(発熱あるいは吸熱)をその化合物の「標準生成エンタルピー」

として定義した同様にある物質に対する「標準生成ギブス自由エネルギー」

はこの標準状態で標準物質からその化合物を化学反応で生成するとき式(3

9)によって与えられる変化量をいう

電池における化学反応のギブス自由エネルギー

先にダニエル電池の亜鉛板側に対する電極反応を検討したとき電極反応が

仕事として放出するエネルギーを表現する重要な式があった次の式(17)

である

W = n FV (17)

ギブス自由エネルギーを用いて今これは次のように書くことができるように

なった

W = n FV=-ΔG (41)

この式が表していることを実際に水素の燃料とする燃料電池の反応過程で見

てみよう燃料電池の図を再掲する

図中右にある陰極では水素の酸化反応が起きる

H2 rarr 2H+ + 2e- (5)

一方図では左にある陽極において次の還元反応が起きる

12 O2 + 2e- rarr O2- (6)

O2- + 2H+ rarr H2O (8)

全体の反応はすでに示したように次の反応式(7)で示される

H2 +12 O2rarr H2O (7)

31

標準状態における可逆的仕事は式(41)であらわせ

n FV=-ΔG (41rsquo)

このΔG は式(39)であらわせた

ΔG =ΔH-TΔS (39)

すなわち標準状態29815K(25)1atmにおいてある化合物を標準物

質から合成するときの標準生成ギブス自由エネルギー変化ΔG゜は標準生成エ

ンタルピー変化ΔH゜とその温度におけるエントロピー変化TΔSの差で求ま

るこれらは燃料電池の全反応を表す式(7)で与えられる

標準生成エンタルピーΔH゜変化とエントロピー変化はすでに一般的な元

素やその化合物に対して表が作成されている

液体の水に対する標準生成エンタルピーΔH゜(H2O)は

ΔH゜(H2O)=minus 28583 KJmol

また水素ガスと酸素ガスはそれぞれの元素の標準物質であるので生成エ

ンタルピー変化はゼロである

32

そこで式(7)での水を1モル化学合成するときの標準生成エンタルピーΔ

H゜は水素(ガス1モル)と酸素(ガス12 モル)の2つの材料と水(液

体251atm)の両状態における状態量の差として表される

ΔH゜=ΔH゜(H2O)-ΔH゜(H2) -12ΔH゜(O2) (42)

式(42)の右辺第2項と第3項がゼロであるので

ΔH゜=ΔH゜(H2O) =-28583 KJmol (43)

標準状態29815K(25)1atm における水素(ガス)と酸素(ガス)お

よび水(液体)のエントロピーはそれぞれ

ΔS(H2O)=6991 JKmol

ΔS(H2) =13068 JKmol

ΔS(O2) =20514 JKmol

単位で分母のKはケルビン温度の意味

と計算されているので

ΔS=ΔS(H2O)-ΔS (H2) -12ΔS(O2) (44)

=6991-13068-12times20514

=-16334 JKmol

したがって

TΔS=29815times(-16334)=-486998=-4870 KJmol

(45)

そこで標準生成ギブス自由エネルギーΔG゜は式(39)から

-ΔG゜=-(ΔH゜-TΔS) (39)

=-{-28583-(-4870)}

=+23713 KJmol

33

すなわちこのエネルギーを電気エネルギーとして取り出すことができるそ

の起電力は式(41rsquo)から

n FV=-ΔG (41rsquo)

V= -ΔG(n F)

各数値を当てはめれば

V=237130(2times96485)

=1229 volt

先に【化学反応と電気エネルギー】のところで記したとおり25の基準

状態におけるこの電極電位はE゜=+1229 volt が得られているすなわち

こうして標準生成ギブス自由エネルギーから計算することでも同じ値を得る

ことができた

水素を単純に酸素と化合させる燃焼では式(43)で示されるエンタルピ

ーが発生する熱量を示している水素1モルあたり28583 KJである電池

にすれば水素1モルあたり23713 KJの仕事量が電気エネルギーとして取り

出すことができるその差は電池の場合熱が発生して利用できない

化学反応の過程を利用して化学エネルギーから直接電気エネルギーに変換す

るのが電池という装置であるが化学エネルギーは100電気エネルギ

ーに換えることはできないこのようにエネルギーの一部は電池の熱として

発散してしまう

理想気体の状態方程式

ギブス自由エネルギーΔG を定義した式(39)とエンタルピーΔH の定義

式(28)から

ΔG =ΔH-TΔS (39)

ΔH =ΔU +VΔP+ PΔV (28)

そこで次式が得られる

34

ΔG =ΔU+VΔP+ PΔV-TΔS (46)

またエネルギー保存則から得られた式(26)を応用すればギブス自由エ

ネルギーが変形できる

Q =ΔU+PΔV (26)

から

ΔU=Q-PΔV (47)

したがって式(46)は

ΔG = Q-PΔV+VΔP+ PΔV-TΔS

ΔG = Q-TΔS+VΔP (48)

エントロピーの定義からQ=TΔSであるから結局式(48)は

ΔG = VΔP (49)

と表すことができる

成分が混合された気体分子の分子間に働く力をゼロと仮定した「理想気体」を

考えるとき状態方程式としてボイルシャルル(Boyle-Charles)の法則が

利用できる

PV=nRT (50)

ここでnは気体のモル数PVT はそれぞれこれまでと同じ圧力体積温度(ケルビン温度)でありR は気体定数と呼ばれるもので次の値を持

R= 831441 JmolK (51) 単位で分母のKはケルビン温度の意味

35

状態方程式から式(49)の右辺を導くことを考えてみよう式(50)は

1モルの気体について V に対し次のように変形することができる

V 1

PRT (50rsquo)

両辺に圧力の微小変化量⊿P をかけると

PP

RTP V (52)

これを微分方程式として圧力p0 からp1 まで(p0≦p1)積分するなら

1

0

1

0

1

0

1p

p

p

p

p

pdP

PRTdP

P

RTdPV (53)

関数 f(x)=1x を積分したときの関数はF(x)=ln(x)であるので(ln は e を底

とする自然対数loge)

右辺=0

1ln)0ln()1ln(p

pRTpRTpRT (54)

ギブス自由エネルギーを表す式(49)は次のようであったから

ΔG = VΔP (49)

式(52)から得た式(54)を当てはめると状態G0(p0T)からG1(p1T)

へ変化する過程で圧力が p0 から p1 まで変化するものとして

dGG0

G1

G( p1T ) G(p0T ) RT lnp1

p0 (55)

あるいはこれを書き直して

V

36

G(p1 T) = G( p0T ) + RT lnp1p0

(56)

特別にG0(p0T)を標準状態T=29815K(25)p0=1atmに指定する

なら標準生成ギブス自由エネルギーを記号G゜として (56rsquo)

と表すことができる

式(56rsquo)の意味するところは標準状態から圧力の変化を伴う過程で理

G(p1 T) = Go + RT ln p1

想気体のギブス自由エネルギーは圧力の対数に比例して上昇することである

このことはさらに新しい着想を生む

すなわち水素を燃料とする上の燃料電池で1atm 標準状態の水素ガスの圧力

を2atm に上げれば式(56rsquo)からRTln2 余分にギブス自由エネルギー

が取り出せることになる

燃料電池において起電力を生むエネルギーは隔壁を水素イオンもしくは酸

素イオンが浸透しようとする力であるので1atm の水素ガスと2atm のそれで

は浸透しようとする圧力が異なりここに起電力が生じる

式(56)の第二項が圧力の差による仕事であるからこれをΔG とすれば

W=-ΔG の仕事量が電気エネルギーとして取り出せるはずである

W = minusΔG = minusRT lnp1p0

(57)

起電力に換算するために式(41)を使うと

W = n FV=minus ΔG (41)

から

01ln

pp

nFRTV ⎟

⎠⎞

⎜⎝⎛minus= (58)

この式(58)は一般にネルンスト(Nernst)の式と呼ばれる

37

理想溶液のギブス自由エネルギー

理想気体を想定したように無限に希釈された混合溶液に対して理想溶液を仮

定する「系」の圧力温度を一定に保つならば体積内部エネルギーエンタ

ルピーギブス自由エネルギーなどの示量数は混合溶液を構成する物質のモ

ル数mに比例するたとえば標準状態にある物質の1モルの体積をVとすれば

mモルの体積はそのm倍mVであるそうすると溶液中のi番目の成分がmi

モル「系」から「外界」に仕事をするときその成分iの持つ自由エネルギーの

mi倍の仕事が「外界」になされると考えればよい

この溶液成分のモル数と化学的仕事を結びつける示強因子がギブスによって

化学ポテンシャルと名付けられ一般に記号μが用いられる

化学ポテンシャルはこれまで見たようにギブス自由エネルギーで表される

また電位がψ(プサイ)にある系から-Δeの電荷が放出されるときには

-ψΔeの電気的仕事が得られるそこで記号μに両者を合わせた意味を持

たせて「電気化学ポテンシャル」と呼ぶ

概念の上で物質は電気化学ポテンシャルの高い方から低い方へ勾配にした

がって移動する

理想気体の標準状態が気体分圧を T=29815K(25)で 1atm としたのに対

し溶液成分の標準状態はその分圧に相当するモル数 m を用いるすなわち

標準状態にある成分 i の電気化学ポテンシャルμ0iは成分の持つ電荷(H+なら

1)を n として

μ0i = G i゜+nFψ i (59)

ギブス自由エネルギーは式(56rsquo)を借り理想溶液中の成分に対しては気

体圧力をその成分のモル濃度Cに書き換えればよいそこで

G(CT ) G RT lnC (60)

と表すことができる

したがって一般的な成分 i の電気化学ポテンシャルμiを表す式は標準状態

からの自由エネルギーの変化を考え式(59)と合わせて次のようになる

38

ψnFGii 0

式(60)から

ii CRTGTCGG ln)( 0

よって

(61) ψnFCRT iii ln0

実際的なことを考えると成分濃度はその有効イオン濃度とする必要があり

「活量係数」γを導入して次式で表されるイオン活量aを用いる

ai = γCi (62)

一般的にはγ=1と近似してモル濃度Cを使っているこのテキストでも

必要ではない限りイオン活量を用いることを省略して簡単に記述したい

膜電位

燃料電池に使われたナフィオンのような一つのイオンを通す膜を介して膜

の両側にC0 とC1 のイオン濃度差がある溶液が接するときの電気化学ポテン

シャルを考えよう

ある容器の底にナフィオン膜を取り付け容器の中と外のイオン濃度をC0

とC1としそれぞれの電気化学ポテンシャルをそれぞれμinとμoutとする

式(61)を使って

容器の中の電気化学ポテンシャル

(63) innFCRTin ψ 00 ln

容器の外の電気化学ポテンシャル

(64) outout nFCRT ψ 10 ln

イオン浸透性の膜を介して濃度変化が無視できるほどの移動があると考え

その電気化学ポテンシャルの差を式(63)(64)から求めれば

39

)(ln0

1 inoutinout nFC

CRT ψψ (65)

この系において今注目しているイオンが膜を介した両側で平衡状態にある

とき式(65)はΔμ=0と考えることができるすなわち

0)(ln0

1 inoutnFC

CRT ψψ

膜内外の電位差をΔψ=ψoutminus ψinとすれば

1

0

0

1 lnlnC

C

nF

RT

C

C

nF

RTψ (66)

式(66)は理想気体に対するネルンストの式(58)と同様溶液中のイ

オンに対するネルンスト(Nernst)の式として与えられる

細胞の膜においてもその生体膜の内外でたとえばカリウムイオンのように

非対称に分布して平衡に達している場合には式(66)で与えられる膜内外

で電位差が生じるこれは一般に膜電位と呼ばれる膜電位は平衡電位とも

呼ばれる

たとえば膜内外に1価のカリウムイオンに10倍の濃度差があるとすると

通常カリウムイオンは細胞内の濃度が高いので

C0 = 10timesC1

であるから

これを式(66)に当てはめてln(10)=2303 を用いlog への変換をすれば

Δψ=2303times(RTF)timeslog(10)

であるこれに R=831441 JmolKF=96485 CmolT=29815 K(25)

の各数値を当てはめると

Δψ=2303times831441times29815times196485 JC

=+005917 volt

すなわち膜の内外で約+60ミリボルトの膜電位が生じることになるこの

分だけ細胞の外側の電気化学ポテンシャルが高く膜の内側の膜電位が負であ

るそして膜にあるカリウムチャネルがこの電位を示すとき受動的なカリ

40

ウムの膜内外の移動は平衡に達することになる

水素イオン濃度測定

「標準水素電極」は1モル塩酸溶液につけた白金電極に1atm の水素ガスを

吹き込んで平衡状態に達したときの電位を基準としてゼロボルトと規定した

そこである溶液についてその水素イオン濃度を知ろうとするとき同じ水

素電極を用いることを考えれば標準状態にする目的で用いた1モル塩酸溶液

を濃度未知で X モルの塩酸溶液と想定すればその水素イオン濃度を知るこ

とができるだろうか

標準状態ではない X モルの塩酸溶液に浸けた白金電極が半電池として働くこ

とは間違いなさそうであるしかしその白金電極が持つ電極電位を測定する

にはいずれにしても標準電極と組み合わせて「電池」を構成しその電池

の起電力として計る必要がある電池を作れば起電力を知ることができ相

手の半電池の電極電位が知られていれば濃度が未知でXモルの溶液について

その水素イオン濃度を知ることができるだろう

こうした目的のためにいちいちゼロボルトと規定した標準水素電極を用いる

のは煩雑なのでしばしば後出の「銀塩化銀電極」が参照電極として用いら

れる

まず予め「銀塩化銀電極」を標準水素電極と組み合わせて電池とし一度

その起電力を測定しておけば後はいつもそれを標準電極として利用できる

「銀塩化銀電極」の半電池は

H+ (1 moll) Cl- | AgCl | Ag(s)

これに「標準水素電極」を組み合わせ電池を構成すると次のような電池

になる

Pt(s) | H2(g) | H+ (1 moll) Cl- | AgCl | Ag(s)

この電池の起電力を知れば「銀塩化銀電極」の半電池としての電極電位

を知ることができ参照電極として未知の半電池と組み合わせて起電力を測

定して相手の電極電位を計算できる

41

濃度 X モルの塩酸溶液を未知の溶液と想定すればその電極電位を知るために

組み立てる電池は次のようになる図10にその電池の図を示した

Pt(s) | H2(g) | H+ (x moll) Cl- | AgCl | Ag(s)

この電池の全反応は次の反応式で表される

AgCl(s) 1

2H2 (g) H Cl Ag(s) (67)

図10未知溶液の水素イオン濃度を測定しようとするための電池

化学反応の一般的な式

ここで電池に利用される化学反応から得られるエネルギーをギブス自由エ

ネルギーに換算し起電力を具体的に知る手だてとすることは上ですでに学

42

んだがより一般的な式を再度ここに書きだしておこう

化学反応が紙面で左から右に進む反応として次のような一般式で与えられ

るとき

aA + bB rarr cC + dD (68)

ギブス自由エネルギー変化量は標準状態ΔG゜からの変化量を加える形で式

(60)と同様次の式によって表される

G G RT(ln aCc aD

d ln aAa aB

b )

G RT ln

aCc aD

d

aAa aB

b (69)

aAは成分 A のイオン活量であるその他の成分も同じ

得られたエネルギーを電気エネルギーに換えるなら式(41)に習って

次式で表せば

ΔG=-n FV

there4V=-ΔG(nF) (70)

このときの起電力は標準状態における電位 E゜からの変化量として次式で与

えられる

E E

RT

nFln

aCc aD

d

aAa aB

b (71)

標準状態における起電力 E゜は反応が平衡状態にあるときで反応平衡定数

を K とするなら

K aC

c aDd

aAa aB

b (72)

で表されるそこでE゜は次のように書き改めることができる

43

E

RT

nFln K (73)

そこで式(67)で表される図10の電池「水素minus 銀塩化銀電池」に

対する起電力をギブス自由エネルギーから求めてみよう

反応から式(71)に当てはめれば

E E RT

Fln

aH

1 aCl

1 aAg1

aAgCl1 aH2

1

2

(74)

力学の慣例にしたがって固体の純物質の活量は1として扱い水素ガスを

想気体として見なして活量を1atm とするなら式(74)は次のよう

に簡略化される

E E

RT

Flna

H aCl (75)

ころで理想溶液として近似的に取り扱うときの希薄溶液でたとえば水素

入して詳細に検討するなら式( れる起電

オン濃度はイオン活量として aH+の記号を使うときすでに【理想溶液のギ

ブス自由エネルギー】の章で述べたようにこれを有効イオン濃度とする必要

がありイオン活量 a は「活量係数」γを導入して次式で表した

a H+= γH+CH+ (62)

この活量係数を導 75)で誘導さ

を計ることによって経験的に試料溶液中の水素イオン濃度を求めることは

困難である式(75)にあるイオン活量の項はモル濃度 C と活量係数γを

用いて次式で書き改められる

lnaH aCl

lnCH CCl

lnH Cl

(76)

まり式(76)右辺の第二項において互いに相手が知られなければ自分

決めることができず結果的に起電力を知っても(75)の値から水素イオ

ン濃度を導けないここに工夫が必要になる

44

の定義とその目盛り

液中の水素イオン濃度を直接意味するものではなく

を定義するとき測定されるのは1リットルの溶媒に存在す

pH = -log a H+ = -log(γH+CH+) (77)

際に試料溶液の pH を決定する際はpH 標準液を用いる

に溶液を入れ試料溶液 X と pH 標準液 S を

参 極を接続し電池を作成しその起

pH

現在pH の定義は溶

で述べたようにそれが簡便に測定できるものではないため次のように定

義されている

水素イオン濃度

水素イオン活量であるため定義式としては活量係数をγH+として次式で与

えられる

その要領は次のようである

上に図示した水素電極の容器内

れぞれ半電池(I)と(II)に入れる

半電池(I) Pt | H2 (1 atm) | 試料溶液

半電池(II) Pt | H2 (1 atm) | 試料溶液S

照電極として上図のごとく銀塩化銀電

電力を測定する半電池(I)のときの起電力を E(X)半電池(II)のそれを E(S)

とするこのとき試料溶液Xの pH は次式で計算される

pH (X) pH(S) E(S) E(X)

RT ln(10) (78)

ln(10)は自然対数を常用対数に戻すための定数で2303 を用いる

標準液

pH 標準液 S はpH 第一次標準液第二次標準液と呼ばれるべき

る測定

25で pH 4005 を示す

pH

上述した

のであり絶対的測定法である起電力の測定によって値をつける

標準液は安定で純粋な結晶が得られる試薬を調整してこれを測定す

上と同様に水素電極を用いこれに緩衝液を入れる参照電極として銀

塩化銀電極を接続して電池の起電力を測定する

たとえば005 moll フタル酸水素カリウム溶液は

一次標準(Primary Standard PS)の一つである半電池(III)として水素

45

電極を次のように準備する

半電池(III) Pt | H2 (1 atm) | PS 溶液

て電池を形成したとき得られる起電

参照電極として銀塩化銀電極を接続し

は式(75)から

E E

Ag AgCl RT

Flna

H aCl (79)

オン活量を濃度と活量係数の積(a H+= γH+CH+)にし自然対数を常用対数

すれば

E E

Ag AgCl RT ln(10)

F log(

H + CH+ Cl- CCl - ) (80)

E゜は水素標準電極(水素ガス分圧を1atm電極を浸ける溶液に001 moll

H

Cl を用いる)で得た起電力である

式(80)から

RT ln(10)

Flog(

H CH Cl

) (E EAg AgCl )

RT ln(10)

Flog C

Cl

(81)

らに

log(

H CH Cl

) F

RT ln(10)(E E

Ag AgCl ) logCCl

(82)

ころで式(77)から

(γH+CH+) (77)

-log a H+ =-loga H+-log(γCl-) +log(γCl-) =-log(a H+γCl-) +log(γCl-)

(83)の一番右の式で第一項は

pH = -log a H+ = -log

であるが右の式をさらに変形すると

(83)

46

-log(a H+γCl-)=-log(γH+ CH+γCl-) (84)

たがって式(82)の右辺で示されるように電池の起電力を測定すれば

よ 実際には溶液の塩素イオン濃

液で起電力を求め外挿する

起電

これによってpH を意味する式(83)は次式(85)で与えられる

p(aHγCl)はRG Bates によって Acidity Function と呼ばれている

らに式(85)最終項の log(γCl-) を補正しなければならないこの項は

本工業規格)によっても

であってこれは式(82)の左辺である

いただし塩素イオン濃度の項があって

をゼロにしたときの値が必要である

実測する際には塩素イオン濃度をゼロにできないので塩化ナトリウム NaCl

等を濃度を変えて添加しその時々の緩衝

勧告ではNaCl で 000500100015moll の3つの濃度を例示している

すなわち塩素イオン濃度ゼロのときの値は各塩素イオン濃度に対して

の値をそれぞれプロットしグラフから塩素イオンがゼロのときの起電力の

値を3点に対する回帰直線の延長で外挿して求めるこの点を次のように書

log( C H H Cl CCl

0

pa log( C log( (85) H H H Cl C

Cl0 Cl

)

素イオンの活動係数で与えられる補正項である

無限希釈溶液中のイオンの活動係数は理論的に Dubye-Huckel の式を用い

近似的に求めることが可能であるこれはJIS(日

用されていて Bates-Guggenheim の規約と呼ばれる (Bates RG

Guggenheim Pure Appl Chem 1 163-168 1960)

Dubye-Huckel の式は次のように与えられる

log A I

i 1 iB I (86)

47

I iについてそのモル濃度

計算される

はイオン強度でイオン mi と電荷 zi から次式で

I 1

2mizi (87)

また iは(86)式のBは温度と溶媒の性質による定数であり イオンの大

きさに関するパラメータで水和イオンの大きさとほぼ一致した値をとる標

準法の勧告では塩素イオンに対しイオンの大きさを46Åと決めてiBを

1

5 にしているそこで式(84)は次のようになる

ClA I

log 1 15 I

イオン強度 I は塩素イオン濃度を含まない計算となる

以上の方法によって実用的な pH 測定に用いられる第一次第二次標準液の

pH の値が得られる

絶対値としての

はpH の絶対測定法(第一次標準測定法)とされている

銀塩化銀参照電極は分極現象を防ぐために棒状の銀を塩酸で処理し表

に塩化銀を生成させたものを飽和塩化カリウム溶液につけてある

(88)

参考現在は実験的に求めた値と理論値の組み合わせで

素イオン濃度を求める方法を規定しているこの起電力から水素イオン濃度

を知るための測定方法

Buck RP Rondinini S Covington AK Baucke FGK Brett CMA Camoes MF

Milton MJT Mussini T Naumann R Pratt Kw Spitzer P Wilson GS

Measurement of pH definition standards and procedures Pure Appl Chem

74(11)2169-2200 2002Kristensen HB Salomon A Kokholm GInternational

pH scales and certification of pH Anal Chem 63(18) 885A-891A 1991)

銀塩化銀参照電極

電極の構成は

Cl-(aq) | AgCl(s) | Ag(s)

48

この半反応は次のようになる

AgCl(s) + e- rarr Ag(s) + Cl- (89)

の反応は次の2つの反応に分けて考えることができる

Ag+ + e- rarr Ag(s) (91)

AgCl(s)rarr Ag+ + Cl- (90)

図11銀塩化銀参照電極

(90)における銀 る塩素イオンによって左

されることが推測される

そこでカッコ [ ] をそれによって囲まれるイオンの濃度を表すことにし

式 イオン Ag+の溶解性は共存す

塩化銀の乖離定数Kを考えると

49

K = [Ag+][Cl-] (92)

これから

[Ag+]= K[Cl-] (93)

化カリウム溶液に漬けた銀塩化銀電極の電位 E は水素標準電極に対する

電 で与えられる

位を E゜として次式

E E

RT

nF

[ Ag ]

[Ag(s)]ln( )

Ag(s)のイオン活量は常に1とする

ここで半反応の電極電位を求めるために式(75)を利用することにすれば

(94)

熱力学の慣例にしたがって純物質個体

E E

RT

Flna

H Cl a (75)

式 の半反応をみると

応で電子1つが移動するので n=1 とするR=831441 JmolK1F = 96485

C はめれば

これに銀イオンの濃度として式(93)を当てはめる

この反応で移動する電子は (89) 銀イオン1つの反

molT=29815K(25)ln(10)=2303などの定数を当て

2303RTF = 005917

であるから(94)式は次のように表現できる

log[Cl]) E E 005917(logK (95)

たがって標準水素電極に対する銀塩化銀参照電極の標準状態における電

位 は半反応(89)に対して ゜=+0799で

化銀の乖離定数 K は182times10-10 であるのでその対数を取れば-973993

0799-005917times973993-005917log[Cl-]

E゜ E ある

ある

そこで式(95)は

E =

50

= 0799-0576-005917log[Cl-]

= 0223-005917log[Cl-] (96)

電極電位の関係について実測値

こうして求めた塩化カリウム溶液の濃度と

計算上の値は次のようである

KCl moll vs SHE volt25 計算値 volt25 01 02881 02822 35 0205 01908 飽和 0199 minus

実用 測定

実際の現場で水素イオン濃度を測定する目的の測定法で上のような2つの

極が同じ溶液に浸かっていたのでは試料溶液を交換するにも便利ではない

の容器に入れる未知試料溶液と銀塩化銀電極を隔離する

的な pH

そこで水素電極側

的で二つの電極容器をつなぐ液絡部をグラスフィルターやセラミック板

飽和塩化カリウムで作成したゼラチンなどの塩橋によって隔離遮断するこ

れを液絡部とよぶ

電池として機能するために必要な溶液イオンの交換はこの液絡部で行う

組み立てる電池は電池式で次のように表される

Pt(s) | H2 | 試料 (H+ x moll) || 飽和 KCl | AgCl | Ag(s)

の標準電極と銀塩化銀電極とは区切られていて溶液の直接の接触がない

とを意味するために電池式ではタテ二重線を用いる銀塩化銀参照電極

の容器には飽和塩化カリウム溶液が入れられる

51

図12液絡部のある pH 測定のための電池

この液絡部のある電池では塩橋を記号lsquo | | rsquoで表して次のように記す

試料 (H+ x moll) | | 飽和 KCl

ここでは試料溶液と飽和塩化カリウム溶液の異なる2液が接している

このような界面では膜電力が生じるのと同様「液間電位差」が生じることが

知られているしたがって上の電池で測定される起電力 E は

E = E[銀塩化銀電極電位]+E[液間電位]+E[水素電極電位]

で与えられることになってE[液間電位]のために図12の電池の起電力

は銀塩化銀参照電極の値を知っていても水素電極容器内に入れた未知溶

液の水素イオン濃度を正しく知ることができない

52

そこで実用的な測定法としてこの E[液間電位]を膜電位として積極的に利

用する方法が工夫されたすなわち水素イオンに感応するガラス薄膜を用い

るガラス電極法である

53

ガラス電極

ガラスはケイ素原子と酸素原子からなる SiO4 の結晶構造を持ち酸素で囲

まれた空隙があって水素イオンがそれを埋めることができる

この性質によってガラス膜表面は水溶液中の水素イオンに応じて膜電位を

変化させるのでこれを水素イオン濃度測定用の電極として利用することが考

えられるこれが通常用いられるガラス電極である

ガラス電極は標準電極と組み合わせれば電池を構成することができこの電

池の起電力を知ってガラス薄膜の内外にできたイオン濃度勾配を知ろうとす

るものである

薄いガラス膜(01mm程度)をはさんで接する2つの溶液のH+イオン濃

度が異なるとその差に応じてガラス膜の両側に電位差(Eg)が現れる

ネルンストの式でガラス電極の内部に入れた既知の濃度のH+([H+]in)に対

し試料中の水素イオン濃度が[H+]sampleのとき次の電位を生じる

)][

][log(059170)

][

][ln(

sample

in

sample

ing

H

H

H

H

F

RTE

(97)

図13ガラス電極

電極を構成するのは銀塩化銀電極と同じ電極で用いる塩溶液は一般的

54

に 01モル塩酸溶液である

この半電池の電池式は次のように書くことができる

Ag(s) | AgCl(s) | HCl (01 M) | ガラス薄膜 || 試料溶液 H+ (x moll)

Eg

この半電池の電極電圧を測定するために銀塩化銀標準電極と組み合わせ

電池を作って起電力を計る

構成される電池は下図のようになる

ガラス電極 銀塩化銀標準電極

図14ガラス電極を用いた pH 測定用の電池

この電池の起電力は次の各半電池の平衡電位を合わせたものになる

55

E1ガラス電極の内側電位

Ag(s) | AgCl(s) | HCl (01 M)

Egガラス薄膜の内外に生じる膜電位

HCl (01 M) | ガラス薄膜 || 試料溶液 H+ (x moll)

E2液間電位(膜電位)銀塩化銀標準電極のセラミックを介した試料溶液

と銀塩化銀標準電極の内部液(飽和 KCl 溶液)の間に発生する電位

試料溶液 H+ (x moll)|| セラミック | KCl(飽和)

E3銀塩化銀標準電極

KCl(飽和)| AgCl(s) | Ag(s)

pH メーター用のガラス電極に使われるガラス薄膜は水素イオンに感応して

膜電位(Eg)を生じるこれは【膜電位】の章で記したように薄膜がある

一つのイオンのみを通過させる特性を持っている場合にイオンが膜を介した

両側で平衡状態に達したとして電気化学ポテンシャルを膜の両側で等しいと

考えてそのイオンが濃厚な側から希薄な側にその差によって圧力を生じると

するものである

一方同じ試料溶液が銀塩化銀標準電極のセラミック液絡部を介して生じ

るだろう液間電位(膜電位E2)はいま関心がある水素イオンに対して特異

的に感応するのではないので試料溶液の水素イオン濃度に関係なく一定と見

なすことができる

すなわちpH メーターを構成する電池の起電力 E は

E = E1+Eg+E2+E3 (98)

このうちEg以外は一定と見なせるので

E1+E2+E3 = E

として式(98)を書き直すと

)][

][log(059170

sample

ing H

HEEEE

(99)

Eは標準液によって校正されるべき標準電極電位である

56

電極の校正

実際のイオン濃度を測定する場合低濃度標準液と高濃度標準液で得られ

る起電力を測定し計測のイオン濃度に対する係数(傾き)を求めておき未

知の試料に対して起電力を測定してそのイオン濃度を算出する方法が採られる

低濃度標準液と高濃度標準液のそれぞれの濃度をCLとCHとすればそれぞ

れの起電力ELとEHは次式で表される EH = E +β logCH (100)

EL = E +β log CL (101)

ただしβは式(99)の係数を簡略にしたものである

式(100)と(101)から検量線の傾きが次式で表せる

ΔE = EH minus EL = β(logCH minus logCL) = β logCH

CL

(102)

したがって係数βは

β =ΔE

log CH

CL

(103)

であらわされる

このときに使われる標準はすでに前出の pH 第一次標準第二次標準溶液で

ある

金属イオンに対応するイオン選択電極

現在臨床検査で日常的に使われている電解質測定のための電極はナトリウ

ムカリウムカルシウムクロールなどおよそ臨床的に必要な金属イオン

に対して入手可能である

カリウムイオン測定用のバリノマイシンの発見によってクラウンエーテルと

57

呼ばれる一連の化合物が知られたクラウンエーテルはその分子の中心に立

体的な空間を持ち特定のイオン径に対し合致するのでそのイオンに対して

選択的に感応するこれらの化合物はイオノフォアと呼ばれる

図 15クラウンエーテル

1つの金属イオンが環状化合物

15-crown-5 の中央にある空間を充填

している模式図

15-crown-5 の構造を作る10個の黒

い丸は炭素炭素2個のつながりごと

にある中心の白い丸は酸素酸素と

金属イオンの間の距離はおよそ 22~

23Åであるカリウムのファンデン

ワールス半径は 135Åイオン半径は

15~16Åである

測定したいイオンに対しポリ塩化ビニル(PVC)を支持体としてイオノフ

ォアを添加した液膜の電極膜を作成しこれをガラス電極におけるガラス薄膜

と同様試料に接する電極膜として用いるこの構造から一般的に液膜型電極

と呼ばれる電極膜には特異性を高めるため妨害イオン排除剤などが添加

される

pH メーターと同様銀塩化銀標準電極と組み合わせ電池を形成しその

起電力を計る測定したいイオンが液膜に対して内外で平衡に達したときの

膜電位を測定するのはガラス電極と同じである

カ リ ウ ム イ オ ン に は Bis[(benzo-15-crown-5) ( 正 式 名 は

Bis[(benzo-15-crown-5)-4-methyl]pimelate)ナトリウムには Bis[(12-crown-4)

やDibenzyl-bis[(12-crown-4)などがイオノフォアとして用いられる

58

図16カリウムイオン測定用に使われるクラウンエーテル

図17ナトリウムイオン測定用に使われるクラウンエーテル

59

参考イオン選択電極に関する文献Xia Z Badr IHA Plummer SL Cullen L

Bachas LG Synthesis and evaluation of a bis(crown ether) ionophore with a

conformationally constained bridge in ione- selective electrodes Anal Sci 14(2)

169-173 1998 Oh K-C Kang EC Cho YL Jeong K-S Y oo E-A Paeng K-J

Potassium-selective PVC membrane electrodes based on newly synthesized

cis- and trans-bis(crown ether)s ibid 14(10)1009-1012 1998 Dojindo WEB

site httpwwwdojindocojpwwwrootproductsjinfo2protocolp31pdf

<補遺> 60

補遺 状態関数 (本文 p21 10 行目参照)

一つの平衡状態にある系 A とこれに接する系 A にとって外部である系 B について系 B

から系 A に熱を与えこれによって系 A が他の平衡状態に移ったとき系 A はその結果とし

て膨張し系 B に対し仕事をする

このときの微少な熱量の移動を記号drsquoQ またなされた微少な仕事をdrsquoW とすると

系Aの内部エネルギーに関する微少な変化drsquoUA は両者の和として表される

WdQdUd A primeminusprime=prime (a-1)

この式 a-1 と本文中の式25との関係について

WQU A Δminus=Δ 本文(25)

<補遺> 61

式 a-1 と式25の記号の違いは変化の起きる前の平衡状態 S1 から変化後の平衡状態 S2

に状態変化があったとするなら式 a-1 を積分することで式25が得られるものと考えて区

別している

A

S

S A UUd Δ=primeint2

1 (a-2)

このことは重要であるすなわち内部エネルギーU は変化の起きる前後の状態を指定する

ことによって値が定まることを意味するこのように積分によって値を定めることが出来る

のでdrsquoU は完全微分であるという

内部エネルギーのように系の状態だけで値の定まる量を状態関数として扱う

一方式 a-1 のdrsquoQ drsquoW についても同様に微少の変化量を表しているが平衡状態 S1

から S2 への経路を指定しなければ積分の値は定まらない

本文中の記号にしたがって仕事量ΔW を次のように表すことにする

VpW Δ=Δ 本文(20) V

<補遺> 62

体積と圧力の関係を表す図を使ってこの仕事量が意味することを考える圧力 prsquo の下で

体積が V1 であるときを状態 S1 として圧力一定の下で体積を V2 まで膨張させるような変

化を行った後体積を等しく保って圧力を p にまで上げたときの状態を S2 とするこのとき

の仕事量は膨張に伴うものであるから図の体積‐圧力線の下の面積で示すことができる

平衡状態 S1 から S2 への変化の道筋を別にたどってみよう

新しい経路では圧力を先に p まで上げた後に膨張変化させている

図から直感的に明らかであるので数式での扱いを省略するが2 つの経路による仕事量には

差がある

すなわちdrsquoW は drsquoU と異なり変化の初め S1 と終わり S2 の状態が与えられても積分値

は定まらず変化の経路によって違ってくる

このように変化の経路を指定しなければ積分値が定まらないものを不完全微分と呼び扱

いを区別する

本文 p21 へ戻る

<補遺> 63

VpW

WQU

VpQU

VpUQ

1122 SSSS pVUpVUQ

pVU

VpUHHHQ SS 12

エンタルピー (本文 p24 20 行目参照)

本文中の式 20 および 25 から一定の圧力の元で起きる状態変化において内部エネルギー

の変化量に対する式 a-3 を得る

本文(20)

本文(25)

(a-3)

式 a-3 を Q について書き直す

(a-4)

状態の変化が平衡状態S1から平衡状態S2に移ったものとして式 a-4を丁寧に書き直すと

(a-5)

並び替えて

(a-6)

式 a-6 を見ると定圧過程における熱量の流入は

(a-7)

の形を持つ関数の差であることが分かる

一般に化学反応のような変化の過程では大気圧の下で行われるようなものに興味がある

そこで式 a-7 で与えられる項を一つの関数として定義するこれをエンタルピーと呼び記

号 H を与える式 a-4 はエンタルピーの変化量で次のように書き改められる

(a-8)

圧力が一定の下で起こる状態変化について流入する熱量は式 a-8 で示されるようにエンタ

ルピーの変化量に等しい

V

V

V

V V

V

V

1212 SSSS VVpUUQ VV

<補遺> 64

1Q

We

また式 a-8 からオートクレーブ内で起こるような体積変化のない過程ではこの値が内

部エネルギーの変化量で与えられることが明らかである

本文 p24 へ戻る

エントロピー (本文 p26 17 行目参照)

エントロピーは次のような思考実験から発想された仮想的な状態関数である

理想気体よりなる系 A が温度 T2で熱平衡状態にあり温度 T1の外部の熱源と接しているこ

とを想定する系 A の外部を系 B と呼ぶことにするT1は T2に対して無限小だけ高い温度と

する

系 A が系 B に対して温度圧力について平衡を保ちながら緩慢に系 B より熱量 Q1を受け取

る過程を考える(このような過程を準静的過程と呼ぶ)これによって系 A が熱量 Q1を得て膨

張するとき系 B に対して仕事をする続いて系 A から熱量 Q2が系 B に戻ることを考える

想定されるこの変化が可逆的であれば系 A と系 B を併せた全体は元の状態に戻る蒸気機

関に関するこのような研究が Nicolas Carnot によってなされたのは1824 年のことであった

ここに想定されたサイクルに対する Carnot の効率 e は移動した熱量となされた仕事によ

って定義され次の式で表される

(b-1)

<補遺> 65

理想気体では内部エネルギーU の変化ΔU はゼロと考えるしたがって熱力学の第一法

則を表す式(本文中の式25)から次の関係が示される

0=Δminus=Δ WQU

WQ Δ= (b-2)

これによってCarnot Cycleの効率eはQ2lt0 として次のように書き改めることが出来る

1

21

QQQe +

= (b-3)

ところで気体の状態方程式から1 モルの気体について次のような関係が示される

RTV

P

P1=

V = RTV (b-4)

V 式 b-4 の両辺に体積の微少変化量ΔV をかけて

(b-5)

これを体積Vについてその変化をV1からV2までとして積分するならば次式が得られる

VV

RTVP Δ=Δ 1V V

V

intint = 2

1

2

1

1V

V

V

VdV

VRTPdV

1V2V

11 lnRTW =

(b-6)

Q1の熱量によって起こる膨張がV1よりV2までとし圧力P温度T1の下でなされるその仕事

量をW1とするならそれは式b-6 の右辺によって示されるすなわち

(b-7)

VV

1

2lnVVRT=

V V

VV

V

V2int V2 intV1 V1

<補遺> 66

またQ2の熱量の移動が圧力P温度T2の下で起きこれによって系Aが可逆的に圧縮され

るなら体積変化はV2よりV1まで起こりその仕事量をW2で示すと次式のように表される

(b-8)

1

22

2

122 lnln

VVRT

VVRTW minus==VV

VV

Q1=W1Q2=W2の関係から式b-7 およびb-8 を用いてCarnot Cycleの効率eを表す式b-3

を書き改めると温度のみの関係式として次のように表される

1

21

TTTe minus

= (b-9)

ここでサイクルが可逆的過程であると想定するならば式 b-3 と式 b-9 から

1

21

1

21

TTT

QQQe minus

=+

= (b-10)

これから

12112111 QTQTQTQT minus=+ (b-11)

整理すると

02

2

1

1 =+TQ

TQ (b-12)

この考えをさらに発展させ系A

と系Bの間に数多くの系を挿入すること

にしてそれらの系を同様に熱源として

T1T2Tnと考えるこれによっ

て熱の受け渡しが系Aから系Bに至り

再び系Aにもどるサイクル過程に数多

くの寄り道の過程を加えることになる

熱量の移動に関して上の場合と同じく

準静的過程で行われると考えるこの

サイクル全過程について初めと終わ

<補遺> 67

n

i i

i

T

Q

1

0

0T

dQ

T

QS

T

dQASAS )()( 12

りが同じ状態になる可逆的な過程であるなら式 b-12 を拡大的に考えることになってそれ

は次式で表される

(b-13)

式 b-13 には重要な関数が現れるすなわち熱量と温度の比QT である

もし一つの系が無限小だけ温度の高い(dT )外界から温度圧力など平衡を保ちなが

ら極めて緩慢な過程(準静的過程)で無限小の熱量(dQ )を受け取るならばその変化は可

逆的でありdT について連続的な温度分布をする過程を考えるとき式 b-13 をさらに発展

させて次のように積分式で示すことが出来る

(b-14)

式 b-14 で積分記号にが付されているのはCarnot Cycle のような経路を一巡することを

意味している

Carnot の熱機関の効率という着想から生まれた熱量とそれを持つ系の温度との比 QT に

重要な意味を見出したのは Rudolph Clausius で彼はこの比にエントロピーという名前を与

えたエントロピーには記号ΔS を一般に用いる

(b-15)

エントロピーは初めと終わりの状態がわかれば過程に関わらず定まるので状態関数であ

系 A と外界のエントロピー変化を考えるときそれが可逆的過程であるならばすべてを併

せた全体のエントロピー変化は初めと終わりに変化がないという意味でゼロであるすなわ

ち初めの状態を S(A1)とし次の状態を S(A2)とするならそれぞれのエントロピーを

ΔS(A1)ΔS(A2)としてこの間におけるエントロピーの変化量は次のように示される

(b-16)

<補遺> 68

T

dQdS

0T

dQ

ある一つの変化については次のように示される

(b-17)

ここで式 b-17 の S に付けられたdは微分量すなわちごく微小の変化量を意味し式 b-15

で定義されたエントロピーに用いられる一般的な記号Δと区別する

ところで式 b-10 の関係においてもし移動した熱量のすべてが仕事に変わらなければ

効率 e を表す熱量を用いた関係式と温度で表される関係式は等号で結ぶことができないそれ

はエネルギーのロスを意味し初めと終わりの状態が異なってしまうことを意味するすなわ

ち全過程が構成する一つのサイクルは可逆的でなくなる

不可逆過程での熱効率 ersquo は 大値を示す可逆的過程の熱効率 e より小さな値をとる

ee

したがって 大効率を与える式 b-8 と式 b-3 から

01221

2112

1

21

1

21

QTQT

QTQT

Q

QQ

T

TT

両辺を T1T2で割ると

02

2

1

1 T

Q

T

Q

これを式 b12 と同様に発展させれば式 b-14 についてサイクルの変化が可逆的過程の

場合と不可逆的過程の場合の両方を併せClausius の不等式と呼ばれる次の関係が成立する

(b-18)

式 b-18 の等号が成立するのはサイクルが可逆的な理想の場合に限られる

ある孤立系で状態 A1 から状態 A2 へは不可逆変化で進められ状態 A2 から再び状態 A1

に戻るとき可逆変化であるような閉じた状態変化を考える可逆系のエントロピー変化には

記号 Q を使い不可逆変化には Q を用いるとするとそれぞれ積分式を用いて状態 A1 から

状態 A2 へは

<補遺> 69

d prime

状態 A2 から状態 A1 に戻るときは

全体では

=d prime

+d

(b-19)

Clausius の不等式から

0

式(b-19)の第二項で反応を逆に進めるときには次のように書き改めることができる

=d

よって式(b-19)は次のように書き直すことができClausius の不等式とあわせると

d prime d

0

すなわち

d prime d

上式の右辺は式(b-16)を用いて表せば

d prime

∆S ∆

この状態変化を微小変化とするならば断熱変化の場合 dQ = 0 であるから

∆S ∆ dS 0

すなわち不可逆変化を含む断熱変化ではエントロピーは必ず増大する

<補遺> 70

T

QS

BA SSS

(b-20)

(次の<補遺>ギブス自由エネルギーも参照せよ)

本文 p26 へ戻る

ギブス自由エネルギー (本文 p28 27 行目参照)

エントロピーの考えを導入することによって不可逆的に状態変化が起きるときにはエン

トロピーの増大を引き起こすことを知ったこれによって目前で起きる現象について温度の

変化があるものであれないものであれまた圧力の変化があるものであってもエントロピー

の定義式によって可逆的な変化におけるエントロピーの変化量を計算することが可能である

(b-15)

しかしながらこれから起こる変化について我々がすでにあらかじめ知っている物理量を

用いて予測的にその状態変化が起きるかどうか知ることは必ずしも容易ではないその理由

は式 b-15 に示されたエントロピーΔS が系とその外界をあわせた全体のエントロピーを示

しているからであるすなわち関心のある系を系 A としその外界を系 B とすると全体

のエントロピーは次のように表せる

(c-1)

関心のある系 A のエントロピー変化を知るためには系 B のそれを知ればよいがそれは

いつも容易とは限らない系 A の性質だけで状態変化の方向を知るには別の観点が必要にな

るようだ

そこでもう一度状態変化が熱量 Q の移動によって起きることについて考えてみようエン

トロピーの補遺で議論したように熱量の移動が準静的過程により行われるときには変化は可

逆的に起こると考えたこのとき外界すなわち系 B から移動する熱量を Q1とし系 A から

0S

<補遺> 71

21 QQ

T

Q

T

QSB

21

T

QSS A

2

QH

T

HSS AA

AA STHST

のそれを Q2 と記号を当てたのでこれをそのまま使うことにすれば可逆的な過程では系 B

の熱量 Q1 はすなわち系 A から戻る Q2 に他ならないので両者には次の関係が成立するも

のとしてよい

(c-2)

したがって

(c-3)

と考えてよくこれによって式 c-1 を次のように書きなおすことが出来る

(c-4)

独立した系で圧力とその体積に変化がなく一定の条件の下で状態変化が起きるときエン

タルピーの考えを使ってすでにひとつの関係があることを導いている

本文(31)

そこで式 c-4 を系のエンタルピーΔHAによって書き改めれば

(c-5)

この両辺に-T をかけて式を書き直せば次の関係式が得られる

(c-6)

式 c-6 を見るときその右辺がマイナスの値ならば左辺のΔS はプラスの値をとることが

分かるすなわちエントロピーが増大すると見ることが出来るこれまでの過程で自然の現

象はエントロピーが増大する方向に進むとしてきたので関心のある状態変化について式 c-6

の右辺で計算される値がマイナスの値ならばその変化は起きるものと考えてよいことになる

だろうしかも右辺はすべて独立した系の状態量で示されていて我々が知りうる値で計算

<補遺> 72

TSHG

STSTHG

STHG

可能である

そこでこれを熱力学ポテンシャルを表すものとしてギブス自由エネルギーと呼ぶことに

するギブス自由エネルギーは記号 G が用いられ次のように定義される

(c-7)

ここで関心があるのは自由エネルギーの絶対値ではなく式 c-6 に示されたようにその変化量

に興味があるので式 c-7 から

(c-8)

温度が一定の条件の下で状態変化が起きることを考えるなら式 c-8 は次のように書くこと

ができる

(c-9)

ギブス自由エネルギーは式 c-9 の右辺がすべて状態量であるからこれも状態量の一つで

ある定圧定温の条件下で起きる変化ではすでに議論したようにΔGlt0 であれば状態

変化は自発的に起きるものと予測できる

つまり式 c-5 の第一項は系のエントロピーΔSAそのものであり第二項で示されるエンタ

ルピーは系 A の温度が一定に保たれているのであるから発熱する熱量として外界に吸収さ

れるものであってこれは外界のエントロピーの増大につながるものとして解釈されるした

がって化学反応のように一定の圧力と一定の温度の下で起きる変化について自由エネルギ

ー変化量はその状態変化が自発的に起きる傾向を示しているといってよい

本文 p28 へ戻る

  • はじめに
  • 目次
  • 電気エネルギー
    • 金属のイオン化
    • 電池
    • 水素の反応
    • 燃料電池
    • 化学反応と電気エネルギー
      • エネルギーと熱力学
        • エネルギー保存則
        • エンタルピー
        • エントロピー13
        • ギブス自由エネルギー
        • 電池における化学反応のギブス自由エネルギー13
        • 理想気体の状態方程式
        • 理想溶液のギブス自由エネルギー
        • 膜電位
          • 水素イオン濃度測定
            • 化学反応の一般的な式
            • pHの定義とその目盛り
            • pH標準液
            • 銀塩化銀参照電極
            • 実用的なpH測定
            • ガラス電極
            • 電極の校正
            • 金属イオンに対応するイオン選択電極
              • 文献
              • 補遺
                • 状態関数
                • エンタルピー
                • エントロピー
                • ギブス自由エネルギー
Page 24: イオン選択電極i イオン選択電極 Ion Selective Electrode (ISE) を理解する ・ pHを測定する ・ NaやKなどのイオン濃度を測定する 神戸大学医学部保健学科

21

学的なパラメーター(変数)が必要となる熱力学的な状態はこれらのパラ

メーターのうちのいくつかを指定すれば決定される

熱力学的なパラメーターは2つに分類される

示量パラメーター(示量性変数)

系の大きさや構成する物質の量を示す体積や質量

示強パラメーター(示強性変数)

系の大きさに依存しない系における1つの点で決まった値で与え

られる圧力や温度密度など

いくつかのパラメーターで完全に決定できる状態を関数で表現することがで

きる場合があるそのような関数を熱力学的な状態関数(rarr補遺 p60)と呼ぶ

関数で状態の変化を表すことができれば数学的に取り扱うことができいろ

いろの面で便利である

一つの系についてその状態を知ろうとするとき系が熱力学的な平衡状態に

あると議論する上で都合がよい

熱力学的な平衡状態とは系を外部と独立させ長時間放置した後に達成され

る状態をいうこのとき系の状態をその外部のパラメーターで表現できる

たとえば電池を独立した系と考えるとき平衡状態に達した電極電圧を外部

においた電圧計で測定することができる

ある系を考えるとき前提としてその系はエネルギーを保有していると考える

系が独立してそこに存在するということで持っているエネルギーであるこれ

を内部エネルギーと呼ぶ系がある過程を経て状態を変えるとき系から系の

外部へ力学的な仕事をする場合には力学的エネルギーの出入りがあると考え

るまた系に熱が出入りする場合が考えられそれを熱エネルギーの出入り

と考えることにしよう

まず力学的エネルギーについて考えることにする

いま系が状態を変えその体積が増えれば系のlsquo壁rsquoがその系に接している

「外部」へ力学的な仕事をすることになる

このように系が膨張し壁が外部に向かって押し出されると考えたとき膨張

する過程における圧力を一定でpとし系が膨張した体積をΔV(膨張した分だ

けの体積増加量)とするなら系の仕事量ΔWは両者の積で表されるΔは変

化量を表すときにつける記号と決めておこう

22

ΔW = pΔV (20)

系の体積が凝縮する場合があるので仕事を記号で表す場合には注意するも

し系に接した「外部」から系に力が加わって体積を小さくしたならΔVは

マイナスとなるのでΔWもマイナスで表される

-ΔW = -pΔV (20prime)

今考えている系を「系 A」と呼びその内部エネルギーを UA外部の系を「系

B」と呼んでその内部エネルギーを UBと表すなら二つ合わせた全体の内部

エネルギーは両者の和で表すことができる

U = UA+UB (21)

この体積変化に必要なエネルギー変化量はどこから得られたかを考えれば

その変化があった「系 A」と外部の「系 B」のいずれかあるいは双方の内部エネ

ルギー変化分でまかなわれたと考えざるを得ない(図8参照)

そこでこのエネルギーの収支関係は変化分を表す記号に先と同様Δを用い

ることにすると次式のようになる

-ΔU =ΔW (22)

すなわち観察している「系 A」のエネルギーと外部の「系 B」のエネルギー

を合わせた総エネルギーを見てその微少な減少量minus ΔU が仕事をなすために

必要であったエネルギー量と考えてみることにする

ついでこの体積の変化が「系 A」に接する外部のlsquo熱rsquoによって起きたも

のと考えてみようすなわち外部の「系 B」が系 Aより高温で「系 B」によ

って系 Aが暖められたことになる

このとき移動したエネルギーを「熱量」と定義する

23

図8熱量の移動と系が外部にする仕事

「熱量」を記号Qで表すと外部の「系 B」が失ったエネルギーminus ΔUB で

ありこれが熱量であるから式で表せば次式のように書くことができる

-ΔUB = Q (23)

ここで「系 A」とそれに接する「外部 B」両方のエネルギーを合わせた総エ

ネルギーの変化量ΔUは式(22)で与えられていた

-ΔU =ΔW (22)

-ΔU =-(ΔUA+ΔUB) であるから

minus ΔUAminus ΔUB=ΔW (24)

これに式(23)を当てはめてΔUAで整理すれば

24

ΔUA= Q-ΔW (25)

この式(25)は「エネルギー保存則」あるいは「熱力学の第一法則」を数

学的に表現したものである

すなわち

独立した系を考えその状態が変化するとき系の内部エネルギーの変化量はその系に入る熱量と系が外部にした仕事との差である

式(25)にはまた重要な主張があるつまりエネルギー保存則にしたが

うとき熱量は力学的エネルギーにまた力学的エネルギーは熱量に変換しう

ることを意味している

熱量を表す単位はカロリー(cal)を用いる1cal は

1 cal = 4184 J

と換算されるジュールは 1J = 1Nm (ニュートンメートル)で仕事量を

表現する単位系で表される

エンタルピー

式(25)から定圧過程で式(20prime)を利用して次の式(26)が誘導さ

れる

Q =ΔUA+pΔV (26)

ここでQは熱量を表していたのでこの関係式(26)から熱関数として

新しい関数を定義する

新しい関数はエンタルピー(enthalpy)(rarr補遺 p63)と呼ばれ次の関数

式Hで表される

H = U+PV (27)

エンタルピーの微少変化量を記号Δを使って表現してみよう

25

ΔH = ΔU +Δ(PV) =ΔU +ΔPV+ PΔV (28)

独立した系で圧力が一定の下に起きる過程を考えるならΔP = 0 (圧力の

変化はゼロ)であるから式(28)は次のようになる

ΔH =ΔU + PΔV (29)

化学反応の過程を考えるとき系に容積の変化がなく過程の前後で一定であ

るならさらにΔV = 0 であるのでエンタルピーの変化量は

ΔH =ΔU (30)

また系の仕事を体積の変化としてみる式(20)から

ΔW = pΔV= 0

であるのでこれを式(25)へ適応すると

ΔU= Q minus ΔW = Q ΔW= 0 だから

結果的に系の圧力と体積が変化の過程で一定である場合にはその系のエンタ

ルピーの変化を表す式(29)(30)は次のように簡単な式になって熱関

数と呼ばれる意味が理解しやすいだろう

ΔH = Q (31)

独立した系に等圧等積で起きる過程を見る場合にはエンタルピーは系が外

部と交換する熱量の直接的な尺度となる

H>0 なら反応に熱を使うので吸熱反応

H<0 なら発熱反応

電池のように系に起きる化学反応で生じる電子の流れを取り出す装置を考え

る場合エンタルピーの変化を電気エネルギーとして取りだしている点に留意

26

しなければならない式(31)のようにエンタルピー変化が交換される熱

量に直接表現できるといっても必ずしも熱として取り出すとは限らないこと

を注意しよう

ところでエンタルピーは内部エネルギーと同じ次元にある状態量で定圧

変化の熱量がエンタルピー変化であるからある一点を標準として定めれば

すべての物質について任意の点のエンタルピーを変化量として定めることがで

きるすなわち化学反応の過程で発熱あるいは吸熱する熱量は反応材料と

生成物の間の状態変化に対応するエンタルピーに対応する

そこで一つの元素に対してもっとも安定な状態にある物質を標準物質とし

て定め29815K(25)1atm を標準状態としてその標準物質からある化

合物を合成するときの反応熱(発熱あるいは吸熱)をその化合物の「標準生成

エンタルピー」として定義できる多くの元素に対して標準生成エンタルピー

は現在表としてまとめられている

水素や酸素はその気体状態が標準物質でありそれらの標準生成エンタルピー

がゼロと定義される

エントロピー

もう一つ新しい状態関数としてエントロピー(entropy)(rarr補遺 p64)を

定義するエントロピーを表す記号は通常S を用いその定義は次の式(32)

による

S Q

T (32)

エントロピーは系の2つの状態が決まると状態量として決まる

このときQ は2つの状態の間を可逆的に変化したとき系が受け取る熱量

T は系が熱量 Q を受け取ったときの温度(degK)である

「熱力学の第二法則」はエントロピーに関するものである

図9では2つの系が接しておりそれぞれの温度を Thigh Tlowとする

Thigh>Tlow (33)

27

今温度の高い系から温度の低い系に直接熱量 Q が移動したとすれば温度

の高い系のエントロピーの変化量ΔS は熱量が失われるので負の値になる

図9熱の移動

そこで温度の高い系のエントロピーの変化量ΔS を式で表すことにすると

次式のようになる

Shigh Q

Thigh

(34)

一方低い系のエントロピー変化量ΔS は熱量が与えられるため

Slow Q

Tlow

(35)

両方の系を合わせたエントロピーの変化量ΔS は

S Shigh Slow Q

Thigh

Q

Tlow

lowhigh

lowhigh

lowhigh TT

TTQ

TTQ

11 (36)

式(36)の最終項で(33)を前提すなわち最初に温度の高い系は高い

と決めたのだとするならエントロピーの変化量ΔS は必ず次のようになる

28

ΔS >0 (37)

すなわち独立した系がありそれより温度の低い別の系あるいは温度の低

い外界が接した場合熱量は高い方から低い方へ移動するという自然の成り行

きを説明するものである

自然界に置いてエントロピーは

ΔS≧0

の値を取りΔS=0のときは可逆的過程である

今の例でいうなら熱は温度の高い系から低い系へ移動しその逆は起きない

常にΔS >0の方向に過程が進行するまた2つの系が同じ温度であるとき

両者は平衡状態にあって熱量の移動は見かけ上なくΔS=0と表現される

「熱力学の第二法則」はエントロピーによって表現されるもので系の変化が

可逆的であるかどうかを判定する指標であり現実の世界で起きる不可逆過程

が正の値を取る方向へ進むことを示す

あるいは系の変化が起きるとき外界を含めて考えれば総エントロピーが

増大する方向に変化が起きることを意味するというようにも表現される

ギブス自由エネルギー

熱力学の第一法則によってエネルギーの取りうる形である「仕事」と「熱」

は互いに変換されうることを理解したこのことの数量的な意味は1cal=418J

で示されるさらに仕事は100熱に変換可能であるが一方の熱はうま

くやっても100を仕事に換えることができないことを熱力学の第二法則で

説明しようとしたそのためにエントロピーという概念が導入された

ここで電池のような独立した一つの系を見るとき系の内部エネルギーの減

少を仕事として取り出しうるならそれは化学反応を一つの例としてどれほど

の仕事量が取り出せるのかはどうしたら与えられるだろうか

化学反応を電気エネルギーに換える電池では先に正負それぞれの電極におけ

る半反応の平衡電位の値を利用してその起電力に対する最大値を計算した

この化学反応から取り出しうる最大仕事量を与えるものとして新しくギブス

自由エネルギー(rarr補遺 p70)と名付け記号 G を使ってそれを次のように

定義する

29

G = H-TS (38)

H はエンタルピーである第2項にある S はエントロピーを表す

ギブス自由エネルギーは化学反応のような独立した系の定温定圧過程に適

応されるので変化量ΔG を式(38)から得ておこう

ΔG =ΔH-Δ(TS)

=ΔH-(SΔT+TΔS)

温度を一定と考えているのでΔT=0 であるから

ΔG =ΔH-TΔS (39)

この式(39)を書き換える

ΔH=ΔG + TΔS (39rsquo)

ここで定圧過程ではエンタルピーを次のように式(29)で定義できた

ΔH =ΔU + PΔV (29)

式(29)の意味するところを復習すれば

系のエンタルピー変化ΔH は内部エネルギーの変化量と系が外部に

した仕事量の和として表される

これは

定圧過程で系が得るエネルギー量から仕事量を除いたもの

と言い換えることができるエンタルピー変化量は化学反応などの過程で

始めと終わりの2つの状態の差であるからそれが正の値を示す(>0)なら

系のエンタルピーは増加することを意味しその過程が進行するためには系

の外部からエネルギーが供給されなければならない

一方式(39rsquo)の右辺第2項TΔS はエントロピーの定義(32)より

TΔS = Q (40)

であるのでこれは可逆過程で系に供給される熱量を意味する

30

もしエンタルピー変化量が負の値を示す(<0)ならば系のエンタルピー

は減少しその過程が進行することによってエネルギーが取り出せるすなわ

ち式(39)(40)から次のようにこれら3つの状態量を改めて説明する

ことができる

ある化学反応が定圧で可逆的に進行するときそれから取り出せる

エネルギーのうちΔG を仕事として放出し熱量 Q を放出する

標準状態29815K(25)1atm で標準物質からある化合物を合成すると

きの反応熱(発熱あるいは吸熱)をその化合物の「標準生成エンタルピー」

として定義した同様にある物質に対する「標準生成ギブス自由エネルギー」

はこの標準状態で標準物質からその化合物を化学反応で生成するとき式(3

9)によって与えられる変化量をいう

電池における化学反応のギブス自由エネルギー

先にダニエル電池の亜鉛板側に対する電極反応を検討したとき電極反応が

仕事として放出するエネルギーを表現する重要な式があった次の式(17)

である

W = n FV (17)

ギブス自由エネルギーを用いて今これは次のように書くことができるように

なった

W = n FV=-ΔG (41)

この式が表していることを実際に水素の燃料とする燃料電池の反応過程で見

てみよう燃料電池の図を再掲する

図中右にある陰極では水素の酸化反応が起きる

H2 rarr 2H+ + 2e- (5)

一方図では左にある陽極において次の還元反応が起きる

12 O2 + 2e- rarr O2- (6)

O2- + 2H+ rarr H2O (8)

全体の反応はすでに示したように次の反応式(7)で示される

H2 +12 O2rarr H2O (7)

31

標準状態における可逆的仕事は式(41)であらわせ

n FV=-ΔG (41rsquo)

このΔG は式(39)であらわせた

ΔG =ΔH-TΔS (39)

すなわち標準状態29815K(25)1atmにおいてある化合物を標準物

質から合成するときの標準生成ギブス自由エネルギー変化ΔG゜は標準生成エ

ンタルピー変化ΔH゜とその温度におけるエントロピー変化TΔSの差で求ま

るこれらは燃料電池の全反応を表す式(7)で与えられる

標準生成エンタルピーΔH゜変化とエントロピー変化はすでに一般的な元

素やその化合物に対して表が作成されている

液体の水に対する標準生成エンタルピーΔH゜(H2O)は

ΔH゜(H2O)=minus 28583 KJmol

また水素ガスと酸素ガスはそれぞれの元素の標準物質であるので生成エ

ンタルピー変化はゼロである

32

そこで式(7)での水を1モル化学合成するときの標準生成エンタルピーΔ

H゜は水素(ガス1モル)と酸素(ガス12 モル)の2つの材料と水(液

体251atm)の両状態における状態量の差として表される

ΔH゜=ΔH゜(H2O)-ΔH゜(H2) -12ΔH゜(O2) (42)

式(42)の右辺第2項と第3項がゼロであるので

ΔH゜=ΔH゜(H2O) =-28583 KJmol (43)

標準状態29815K(25)1atm における水素(ガス)と酸素(ガス)お

よび水(液体)のエントロピーはそれぞれ

ΔS(H2O)=6991 JKmol

ΔS(H2) =13068 JKmol

ΔS(O2) =20514 JKmol

単位で分母のKはケルビン温度の意味

と計算されているので

ΔS=ΔS(H2O)-ΔS (H2) -12ΔS(O2) (44)

=6991-13068-12times20514

=-16334 JKmol

したがって

TΔS=29815times(-16334)=-486998=-4870 KJmol

(45)

そこで標準生成ギブス自由エネルギーΔG゜は式(39)から

-ΔG゜=-(ΔH゜-TΔS) (39)

=-{-28583-(-4870)}

=+23713 KJmol

33

すなわちこのエネルギーを電気エネルギーとして取り出すことができるそ

の起電力は式(41rsquo)から

n FV=-ΔG (41rsquo)

V= -ΔG(n F)

各数値を当てはめれば

V=237130(2times96485)

=1229 volt

先に【化学反応と電気エネルギー】のところで記したとおり25の基準

状態におけるこの電極電位はE゜=+1229 volt が得られているすなわち

こうして標準生成ギブス自由エネルギーから計算することでも同じ値を得る

ことができた

水素を単純に酸素と化合させる燃焼では式(43)で示されるエンタルピ

ーが発生する熱量を示している水素1モルあたり28583 KJである電池

にすれば水素1モルあたり23713 KJの仕事量が電気エネルギーとして取り

出すことができるその差は電池の場合熱が発生して利用できない

化学反応の過程を利用して化学エネルギーから直接電気エネルギーに変換す

るのが電池という装置であるが化学エネルギーは100電気エネルギ

ーに換えることはできないこのようにエネルギーの一部は電池の熱として

発散してしまう

理想気体の状態方程式

ギブス自由エネルギーΔG を定義した式(39)とエンタルピーΔH の定義

式(28)から

ΔG =ΔH-TΔS (39)

ΔH =ΔU +VΔP+ PΔV (28)

そこで次式が得られる

34

ΔG =ΔU+VΔP+ PΔV-TΔS (46)

またエネルギー保存則から得られた式(26)を応用すればギブス自由エ

ネルギーが変形できる

Q =ΔU+PΔV (26)

から

ΔU=Q-PΔV (47)

したがって式(46)は

ΔG = Q-PΔV+VΔP+ PΔV-TΔS

ΔG = Q-TΔS+VΔP (48)

エントロピーの定義からQ=TΔSであるから結局式(48)は

ΔG = VΔP (49)

と表すことができる

成分が混合された気体分子の分子間に働く力をゼロと仮定した「理想気体」を

考えるとき状態方程式としてボイルシャルル(Boyle-Charles)の法則が

利用できる

PV=nRT (50)

ここでnは気体のモル数PVT はそれぞれこれまでと同じ圧力体積温度(ケルビン温度)でありR は気体定数と呼ばれるもので次の値を持

R= 831441 JmolK (51) 単位で分母のKはケルビン温度の意味

35

状態方程式から式(49)の右辺を導くことを考えてみよう式(50)は

1モルの気体について V に対し次のように変形することができる

V 1

PRT (50rsquo)

両辺に圧力の微小変化量⊿P をかけると

PP

RTP V (52)

これを微分方程式として圧力p0 からp1 まで(p0≦p1)積分するなら

1

0

1

0

1

0

1p

p

p

p

p

pdP

PRTdP

P

RTdPV (53)

関数 f(x)=1x を積分したときの関数はF(x)=ln(x)であるので(ln は e を底

とする自然対数loge)

右辺=0

1ln)0ln()1ln(p

pRTpRTpRT (54)

ギブス自由エネルギーを表す式(49)は次のようであったから

ΔG = VΔP (49)

式(52)から得た式(54)を当てはめると状態G0(p0T)からG1(p1T)

へ変化する過程で圧力が p0 から p1 まで変化するものとして

dGG0

G1

G( p1T ) G(p0T ) RT lnp1

p0 (55)

あるいはこれを書き直して

V

36

G(p1 T) = G( p0T ) + RT lnp1p0

(56)

特別にG0(p0T)を標準状態T=29815K(25)p0=1atmに指定する

なら標準生成ギブス自由エネルギーを記号G゜として (56rsquo)

と表すことができる

式(56rsquo)の意味するところは標準状態から圧力の変化を伴う過程で理

G(p1 T) = Go + RT ln p1

想気体のギブス自由エネルギーは圧力の対数に比例して上昇することである

このことはさらに新しい着想を生む

すなわち水素を燃料とする上の燃料電池で1atm 標準状態の水素ガスの圧力

を2atm に上げれば式(56rsquo)からRTln2 余分にギブス自由エネルギー

が取り出せることになる

燃料電池において起電力を生むエネルギーは隔壁を水素イオンもしくは酸

素イオンが浸透しようとする力であるので1atm の水素ガスと2atm のそれで

は浸透しようとする圧力が異なりここに起電力が生じる

式(56)の第二項が圧力の差による仕事であるからこれをΔG とすれば

W=-ΔG の仕事量が電気エネルギーとして取り出せるはずである

W = minusΔG = minusRT lnp1p0

(57)

起電力に換算するために式(41)を使うと

W = n FV=minus ΔG (41)

から

01ln

pp

nFRTV ⎟

⎠⎞

⎜⎝⎛minus= (58)

この式(58)は一般にネルンスト(Nernst)の式と呼ばれる

37

理想溶液のギブス自由エネルギー

理想気体を想定したように無限に希釈された混合溶液に対して理想溶液を仮

定する「系」の圧力温度を一定に保つならば体積内部エネルギーエンタ

ルピーギブス自由エネルギーなどの示量数は混合溶液を構成する物質のモ

ル数mに比例するたとえば標準状態にある物質の1モルの体積をVとすれば

mモルの体積はそのm倍mVであるそうすると溶液中のi番目の成分がmi

モル「系」から「外界」に仕事をするときその成分iの持つ自由エネルギーの

mi倍の仕事が「外界」になされると考えればよい

この溶液成分のモル数と化学的仕事を結びつける示強因子がギブスによって

化学ポテンシャルと名付けられ一般に記号μが用いられる

化学ポテンシャルはこれまで見たようにギブス自由エネルギーで表される

また電位がψ(プサイ)にある系から-Δeの電荷が放出されるときには

-ψΔeの電気的仕事が得られるそこで記号μに両者を合わせた意味を持

たせて「電気化学ポテンシャル」と呼ぶ

概念の上で物質は電気化学ポテンシャルの高い方から低い方へ勾配にした

がって移動する

理想気体の標準状態が気体分圧を T=29815K(25)で 1atm としたのに対

し溶液成分の標準状態はその分圧に相当するモル数 m を用いるすなわち

標準状態にある成分 i の電気化学ポテンシャルμ0iは成分の持つ電荷(H+なら

1)を n として

μ0i = G i゜+nFψ i (59)

ギブス自由エネルギーは式(56rsquo)を借り理想溶液中の成分に対しては気

体圧力をその成分のモル濃度Cに書き換えればよいそこで

G(CT ) G RT lnC (60)

と表すことができる

したがって一般的な成分 i の電気化学ポテンシャルμiを表す式は標準状態

からの自由エネルギーの変化を考え式(59)と合わせて次のようになる

38

ψnFGii 0

式(60)から

ii CRTGTCGG ln)( 0

よって

(61) ψnFCRT iii ln0

実際的なことを考えると成分濃度はその有効イオン濃度とする必要があり

「活量係数」γを導入して次式で表されるイオン活量aを用いる

ai = γCi (62)

一般的にはγ=1と近似してモル濃度Cを使っているこのテキストでも

必要ではない限りイオン活量を用いることを省略して簡単に記述したい

膜電位

燃料電池に使われたナフィオンのような一つのイオンを通す膜を介して膜

の両側にC0 とC1 のイオン濃度差がある溶液が接するときの電気化学ポテン

シャルを考えよう

ある容器の底にナフィオン膜を取り付け容器の中と外のイオン濃度をC0

とC1としそれぞれの電気化学ポテンシャルをそれぞれμinとμoutとする

式(61)を使って

容器の中の電気化学ポテンシャル

(63) innFCRTin ψ 00 ln

容器の外の電気化学ポテンシャル

(64) outout nFCRT ψ 10 ln

イオン浸透性の膜を介して濃度変化が無視できるほどの移動があると考え

その電気化学ポテンシャルの差を式(63)(64)から求めれば

39

)(ln0

1 inoutinout nFC

CRT ψψ (65)

この系において今注目しているイオンが膜を介した両側で平衡状態にある

とき式(65)はΔμ=0と考えることができるすなわち

0)(ln0

1 inoutnFC

CRT ψψ

膜内外の電位差をΔψ=ψoutminus ψinとすれば

1

0

0

1 lnlnC

C

nF

RT

C

C

nF

RTψ (66)

式(66)は理想気体に対するネルンストの式(58)と同様溶液中のイ

オンに対するネルンスト(Nernst)の式として与えられる

細胞の膜においてもその生体膜の内外でたとえばカリウムイオンのように

非対称に分布して平衡に達している場合には式(66)で与えられる膜内外

で電位差が生じるこれは一般に膜電位と呼ばれる膜電位は平衡電位とも

呼ばれる

たとえば膜内外に1価のカリウムイオンに10倍の濃度差があるとすると

通常カリウムイオンは細胞内の濃度が高いので

C0 = 10timesC1

であるから

これを式(66)に当てはめてln(10)=2303 を用いlog への変換をすれば

Δψ=2303times(RTF)timeslog(10)

であるこれに R=831441 JmolKF=96485 CmolT=29815 K(25)

の各数値を当てはめると

Δψ=2303times831441times29815times196485 JC

=+005917 volt

すなわち膜の内外で約+60ミリボルトの膜電位が生じることになるこの

分だけ細胞の外側の電気化学ポテンシャルが高く膜の内側の膜電位が負であ

るそして膜にあるカリウムチャネルがこの電位を示すとき受動的なカリ

40

ウムの膜内外の移動は平衡に達することになる

水素イオン濃度測定

「標準水素電極」は1モル塩酸溶液につけた白金電極に1atm の水素ガスを

吹き込んで平衡状態に達したときの電位を基準としてゼロボルトと規定した

そこである溶液についてその水素イオン濃度を知ろうとするとき同じ水

素電極を用いることを考えれば標準状態にする目的で用いた1モル塩酸溶液

を濃度未知で X モルの塩酸溶液と想定すればその水素イオン濃度を知るこ

とができるだろうか

標準状態ではない X モルの塩酸溶液に浸けた白金電極が半電池として働くこ

とは間違いなさそうであるしかしその白金電極が持つ電極電位を測定する

にはいずれにしても標準電極と組み合わせて「電池」を構成しその電池

の起電力として計る必要がある電池を作れば起電力を知ることができ相

手の半電池の電極電位が知られていれば濃度が未知でXモルの溶液について

その水素イオン濃度を知ることができるだろう

こうした目的のためにいちいちゼロボルトと規定した標準水素電極を用いる

のは煩雑なのでしばしば後出の「銀塩化銀電極」が参照電極として用いら

れる

まず予め「銀塩化銀電極」を標準水素電極と組み合わせて電池とし一度

その起電力を測定しておけば後はいつもそれを標準電極として利用できる

「銀塩化銀電極」の半電池は

H+ (1 moll) Cl- | AgCl | Ag(s)

これに「標準水素電極」を組み合わせ電池を構成すると次のような電池

になる

Pt(s) | H2(g) | H+ (1 moll) Cl- | AgCl | Ag(s)

この電池の起電力を知れば「銀塩化銀電極」の半電池としての電極電位

を知ることができ参照電極として未知の半電池と組み合わせて起電力を測

定して相手の電極電位を計算できる

41

濃度 X モルの塩酸溶液を未知の溶液と想定すればその電極電位を知るために

組み立てる電池は次のようになる図10にその電池の図を示した

Pt(s) | H2(g) | H+ (x moll) Cl- | AgCl | Ag(s)

この電池の全反応は次の反応式で表される

AgCl(s) 1

2H2 (g) H Cl Ag(s) (67)

図10未知溶液の水素イオン濃度を測定しようとするための電池

化学反応の一般的な式

ここで電池に利用される化学反応から得られるエネルギーをギブス自由エ

ネルギーに換算し起電力を具体的に知る手だてとすることは上ですでに学

42

んだがより一般的な式を再度ここに書きだしておこう

化学反応が紙面で左から右に進む反応として次のような一般式で与えられ

るとき

aA + bB rarr cC + dD (68)

ギブス自由エネルギー変化量は標準状態ΔG゜からの変化量を加える形で式

(60)と同様次の式によって表される

G G RT(ln aCc aD

d ln aAa aB

b )

G RT ln

aCc aD

d

aAa aB

b (69)

aAは成分 A のイオン活量であるその他の成分も同じ

得られたエネルギーを電気エネルギーに換えるなら式(41)に習って

次式で表せば

ΔG=-n FV

there4V=-ΔG(nF) (70)

このときの起電力は標準状態における電位 E゜からの変化量として次式で与

えられる

E E

RT

nFln

aCc aD

d

aAa aB

b (71)

標準状態における起電力 E゜は反応が平衡状態にあるときで反応平衡定数

を K とするなら

K aC

c aDd

aAa aB

b (72)

で表されるそこでE゜は次のように書き改めることができる

43

E

RT

nFln K (73)

そこで式(67)で表される図10の電池「水素minus 銀塩化銀電池」に

対する起電力をギブス自由エネルギーから求めてみよう

反応から式(71)に当てはめれば

E E RT

Fln

aH

1 aCl

1 aAg1

aAgCl1 aH2

1

2

(74)

力学の慣例にしたがって固体の純物質の活量は1として扱い水素ガスを

想気体として見なして活量を1atm とするなら式(74)は次のよう

に簡略化される

E E

RT

Flna

H aCl (75)

ころで理想溶液として近似的に取り扱うときの希薄溶液でたとえば水素

入して詳細に検討するなら式( れる起電

オン濃度はイオン活量として aH+の記号を使うときすでに【理想溶液のギ

ブス自由エネルギー】の章で述べたようにこれを有効イオン濃度とする必要

がありイオン活量 a は「活量係数」γを導入して次式で表した

a H+= γH+CH+ (62)

この活量係数を導 75)で誘導さ

を計ることによって経験的に試料溶液中の水素イオン濃度を求めることは

困難である式(75)にあるイオン活量の項はモル濃度 C と活量係数γを

用いて次式で書き改められる

lnaH aCl

lnCH CCl

lnH Cl

(76)

まり式(76)右辺の第二項において互いに相手が知られなければ自分

決めることができず結果的に起電力を知っても(75)の値から水素イオ

ン濃度を導けないここに工夫が必要になる

44

の定義とその目盛り

液中の水素イオン濃度を直接意味するものではなく

を定義するとき測定されるのは1リットルの溶媒に存在す

pH = -log a H+ = -log(γH+CH+) (77)

際に試料溶液の pH を決定する際はpH 標準液を用いる

に溶液を入れ試料溶液 X と pH 標準液 S を

参 極を接続し電池を作成しその起

pH

現在pH の定義は溶

で述べたようにそれが簡便に測定できるものではないため次のように定

義されている

水素イオン濃度

水素イオン活量であるため定義式としては活量係数をγH+として次式で与

えられる

その要領は次のようである

上に図示した水素電極の容器内

れぞれ半電池(I)と(II)に入れる

半電池(I) Pt | H2 (1 atm) | 試料溶液

半電池(II) Pt | H2 (1 atm) | 試料溶液S

照電極として上図のごとく銀塩化銀電

電力を測定する半電池(I)のときの起電力を E(X)半電池(II)のそれを E(S)

とするこのとき試料溶液Xの pH は次式で計算される

pH (X) pH(S) E(S) E(X)

RT ln(10) (78)

ln(10)は自然対数を常用対数に戻すための定数で2303 を用いる

標準液

pH 標準液 S はpH 第一次標準液第二次標準液と呼ばれるべき

る測定

25で pH 4005 を示す

pH

上述した

のであり絶対的測定法である起電力の測定によって値をつける

標準液は安定で純粋な結晶が得られる試薬を調整してこれを測定す

上と同様に水素電極を用いこれに緩衝液を入れる参照電極として銀

塩化銀電極を接続して電池の起電力を測定する

たとえば005 moll フタル酸水素カリウム溶液は

一次標準(Primary Standard PS)の一つである半電池(III)として水素

45

電極を次のように準備する

半電池(III) Pt | H2 (1 atm) | PS 溶液

て電池を形成したとき得られる起電

参照電極として銀塩化銀電極を接続し

は式(75)から

E E

Ag AgCl RT

Flna

H aCl (79)

オン活量を濃度と活量係数の積(a H+= γH+CH+)にし自然対数を常用対数

すれば

E E

Ag AgCl RT ln(10)

F log(

H + CH+ Cl- CCl - ) (80)

E゜は水素標準電極(水素ガス分圧を1atm電極を浸ける溶液に001 moll

H

Cl を用いる)で得た起電力である

式(80)から

RT ln(10)

Flog(

H CH Cl

) (E EAg AgCl )

RT ln(10)

Flog C

Cl

(81)

らに

log(

H CH Cl

) F

RT ln(10)(E E

Ag AgCl ) logCCl

(82)

ころで式(77)から

(γH+CH+) (77)

-log a H+ =-loga H+-log(γCl-) +log(γCl-) =-log(a H+γCl-) +log(γCl-)

(83)の一番右の式で第一項は

pH = -log a H+ = -log

であるが右の式をさらに変形すると

(83)

46

-log(a H+γCl-)=-log(γH+ CH+γCl-) (84)

たがって式(82)の右辺で示されるように電池の起電力を測定すれば

よ 実際には溶液の塩素イオン濃

液で起電力を求め外挿する

起電

これによってpH を意味する式(83)は次式(85)で与えられる

p(aHγCl)はRG Bates によって Acidity Function と呼ばれている

らに式(85)最終項の log(γCl-) を補正しなければならないこの項は

本工業規格)によっても

であってこれは式(82)の左辺である

いただし塩素イオン濃度の項があって

をゼロにしたときの値が必要である

実測する際には塩素イオン濃度をゼロにできないので塩化ナトリウム NaCl

等を濃度を変えて添加しその時々の緩衝

勧告ではNaCl で 000500100015moll の3つの濃度を例示している

すなわち塩素イオン濃度ゼロのときの値は各塩素イオン濃度に対して

の値をそれぞれプロットしグラフから塩素イオンがゼロのときの起電力の

値を3点に対する回帰直線の延長で外挿して求めるこの点を次のように書

log( C H H Cl CCl

0

pa log( C log( (85) H H H Cl C

Cl0 Cl

)

素イオンの活動係数で与えられる補正項である

無限希釈溶液中のイオンの活動係数は理論的に Dubye-Huckel の式を用い

近似的に求めることが可能であるこれはJIS(日

用されていて Bates-Guggenheim の規約と呼ばれる (Bates RG

Guggenheim Pure Appl Chem 1 163-168 1960)

Dubye-Huckel の式は次のように与えられる

log A I

i 1 iB I (86)

47

I iについてそのモル濃度

計算される

はイオン強度でイオン mi と電荷 zi から次式で

I 1

2mizi (87)

また iは(86)式のBは温度と溶媒の性質による定数であり イオンの大

きさに関するパラメータで水和イオンの大きさとほぼ一致した値をとる標

準法の勧告では塩素イオンに対しイオンの大きさを46Åと決めてiBを

1

5 にしているそこで式(84)は次のようになる

ClA I

log 1 15 I

イオン強度 I は塩素イオン濃度を含まない計算となる

以上の方法によって実用的な pH 測定に用いられる第一次第二次標準液の

pH の値が得られる

絶対値としての

はpH の絶対測定法(第一次標準測定法)とされている

銀塩化銀参照電極は分極現象を防ぐために棒状の銀を塩酸で処理し表

に塩化銀を生成させたものを飽和塩化カリウム溶液につけてある

(88)

参考現在は実験的に求めた値と理論値の組み合わせで

素イオン濃度を求める方法を規定しているこの起電力から水素イオン濃度

を知るための測定方法

Buck RP Rondinini S Covington AK Baucke FGK Brett CMA Camoes MF

Milton MJT Mussini T Naumann R Pratt Kw Spitzer P Wilson GS

Measurement of pH definition standards and procedures Pure Appl Chem

74(11)2169-2200 2002Kristensen HB Salomon A Kokholm GInternational

pH scales and certification of pH Anal Chem 63(18) 885A-891A 1991)

銀塩化銀参照電極

電極の構成は

Cl-(aq) | AgCl(s) | Ag(s)

48

この半反応は次のようになる

AgCl(s) + e- rarr Ag(s) + Cl- (89)

の反応は次の2つの反応に分けて考えることができる

Ag+ + e- rarr Ag(s) (91)

AgCl(s)rarr Ag+ + Cl- (90)

図11銀塩化銀参照電極

(90)における銀 る塩素イオンによって左

されることが推測される

そこでカッコ [ ] をそれによって囲まれるイオンの濃度を表すことにし

式 イオン Ag+の溶解性は共存す

塩化銀の乖離定数Kを考えると

49

K = [Ag+][Cl-] (92)

これから

[Ag+]= K[Cl-] (93)

化カリウム溶液に漬けた銀塩化銀電極の電位 E は水素標準電極に対する

電 で与えられる

位を E゜として次式

E E

RT

nF

[ Ag ]

[Ag(s)]ln( )

Ag(s)のイオン活量は常に1とする

ここで半反応の電極電位を求めるために式(75)を利用することにすれば

(94)

熱力学の慣例にしたがって純物質個体

E E

RT

Flna

H Cl a (75)

式 の半反応をみると

応で電子1つが移動するので n=1 とするR=831441 JmolK1F = 96485

C はめれば

これに銀イオンの濃度として式(93)を当てはめる

この反応で移動する電子は (89) 銀イオン1つの反

molT=29815K(25)ln(10)=2303などの定数を当て

2303RTF = 005917

であるから(94)式は次のように表現できる

log[Cl]) E E 005917(logK (95)

たがって標準水素電極に対する銀塩化銀参照電極の標準状態における電

位 は半反応(89)に対して ゜=+0799で

化銀の乖離定数 K は182times10-10 であるのでその対数を取れば-973993

0799-005917times973993-005917log[Cl-]

E゜ E ある

ある

そこで式(95)は

E =

50

= 0799-0576-005917log[Cl-]

= 0223-005917log[Cl-] (96)

電極電位の関係について実測値

こうして求めた塩化カリウム溶液の濃度と

計算上の値は次のようである

KCl moll vs SHE volt25 計算値 volt25 01 02881 02822 35 0205 01908 飽和 0199 minus

実用 測定

実際の現場で水素イオン濃度を測定する目的の測定法で上のような2つの

極が同じ溶液に浸かっていたのでは試料溶液を交換するにも便利ではない

の容器に入れる未知試料溶液と銀塩化銀電極を隔離する

的な pH

そこで水素電極側

的で二つの電極容器をつなぐ液絡部をグラスフィルターやセラミック板

飽和塩化カリウムで作成したゼラチンなどの塩橋によって隔離遮断するこ

れを液絡部とよぶ

電池として機能するために必要な溶液イオンの交換はこの液絡部で行う

組み立てる電池は電池式で次のように表される

Pt(s) | H2 | 試料 (H+ x moll) || 飽和 KCl | AgCl | Ag(s)

の標準電極と銀塩化銀電極とは区切られていて溶液の直接の接触がない

とを意味するために電池式ではタテ二重線を用いる銀塩化銀参照電極

の容器には飽和塩化カリウム溶液が入れられる

51

図12液絡部のある pH 測定のための電池

この液絡部のある電池では塩橋を記号lsquo | | rsquoで表して次のように記す

試料 (H+ x moll) | | 飽和 KCl

ここでは試料溶液と飽和塩化カリウム溶液の異なる2液が接している

このような界面では膜電力が生じるのと同様「液間電位差」が生じることが

知られているしたがって上の電池で測定される起電力 E は

E = E[銀塩化銀電極電位]+E[液間電位]+E[水素電極電位]

で与えられることになってE[液間電位]のために図12の電池の起電力

は銀塩化銀参照電極の値を知っていても水素電極容器内に入れた未知溶

液の水素イオン濃度を正しく知ることができない

52

そこで実用的な測定法としてこの E[液間電位]を膜電位として積極的に利

用する方法が工夫されたすなわち水素イオンに感応するガラス薄膜を用い

るガラス電極法である

53

ガラス電極

ガラスはケイ素原子と酸素原子からなる SiO4 の結晶構造を持ち酸素で囲

まれた空隙があって水素イオンがそれを埋めることができる

この性質によってガラス膜表面は水溶液中の水素イオンに応じて膜電位を

変化させるのでこれを水素イオン濃度測定用の電極として利用することが考

えられるこれが通常用いられるガラス電極である

ガラス電極は標準電極と組み合わせれば電池を構成することができこの電

池の起電力を知ってガラス薄膜の内外にできたイオン濃度勾配を知ろうとす

るものである

薄いガラス膜(01mm程度)をはさんで接する2つの溶液のH+イオン濃

度が異なるとその差に応じてガラス膜の両側に電位差(Eg)が現れる

ネルンストの式でガラス電極の内部に入れた既知の濃度のH+([H+]in)に対

し試料中の水素イオン濃度が[H+]sampleのとき次の電位を生じる

)][

][log(059170)

][

][ln(

sample

in

sample

ing

H

H

H

H

F

RTE

(97)

図13ガラス電極

電極を構成するのは銀塩化銀電極と同じ電極で用いる塩溶液は一般的

54

に 01モル塩酸溶液である

この半電池の電池式は次のように書くことができる

Ag(s) | AgCl(s) | HCl (01 M) | ガラス薄膜 || 試料溶液 H+ (x moll)

Eg

この半電池の電極電圧を測定するために銀塩化銀標準電極と組み合わせ

電池を作って起電力を計る

構成される電池は下図のようになる

ガラス電極 銀塩化銀標準電極

図14ガラス電極を用いた pH 測定用の電池

この電池の起電力は次の各半電池の平衡電位を合わせたものになる

55

E1ガラス電極の内側電位

Ag(s) | AgCl(s) | HCl (01 M)

Egガラス薄膜の内外に生じる膜電位

HCl (01 M) | ガラス薄膜 || 試料溶液 H+ (x moll)

E2液間電位(膜電位)銀塩化銀標準電極のセラミックを介した試料溶液

と銀塩化銀標準電極の内部液(飽和 KCl 溶液)の間に発生する電位

試料溶液 H+ (x moll)|| セラミック | KCl(飽和)

E3銀塩化銀標準電極

KCl(飽和)| AgCl(s) | Ag(s)

pH メーター用のガラス電極に使われるガラス薄膜は水素イオンに感応して

膜電位(Eg)を生じるこれは【膜電位】の章で記したように薄膜がある

一つのイオンのみを通過させる特性を持っている場合にイオンが膜を介した

両側で平衡状態に達したとして電気化学ポテンシャルを膜の両側で等しいと

考えてそのイオンが濃厚な側から希薄な側にその差によって圧力を生じると

するものである

一方同じ試料溶液が銀塩化銀標準電極のセラミック液絡部を介して生じ

るだろう液間電位(膜電位E2)はいま関心がある水素イオンに対して特異

的に感応するのではないので試料溶液の水素イオン濃度に関係なく一定と見

なすことができる

すなわちpH メーターを構成する電池の起電力 E は

E = E1+Eg+E2+E3 (98)

このうちEg以外は一定と見なせるので

E1+E2+E3 = E

として式(98)を書き直すと

)][

][log(059170

sample

ing H

HEEEE

(99)

Eは標準液によって校正されるべき標準電極電位である

56

電極の校正

実際のイオン濃度を測定する場合低濃度標準液と高濃度標準液で得られ

る起電力を測定し計測のイオン濃度に対する係数(傾き)を求めておき未

知の試料に対して起電力を測定してそのイオン濃度を算出する方法が採られる

低濃度標準液と高濃度標準液のそれぞれの濃度をCLとCHとすればそれぞ

れの起電力ELとEHは次式で表される EH = E +β logCH (100)

EL = E +β log CL (101)

ただしβは式(99)の係数を簡略にしたものである

式(100)と(101)から検量線の傾きが次式で表せる

ΔE = EH minus EL = β(logCH minus logCL) = β logCH

CL

(102)

したがって係数βは

β =ΔE

log CH

CL

(103)

であらわされる

このときに使われる標準はすでに前出の pH 第一次標準第二次標準溶液で

ある

金属イオンに対応するイオン選択電極

現在臨床検査で日常的に使われている電解質測定のための電極はナトリウ

ムカリウムカルシウムクロールなどおよそ臨床的に必要な金属イオン

に対して入手可能である

カリウムイオン測定用のバリノマイシンの発見によってクラウンエーテルと

57

呼ばれる一連の化合物が知られたクラウンエーテルはその分子の中心に立

体的な空間を持ち特定のイオン径に対し合致するのでそのイオンに対して

選択的に感応するこれらの化合物はイオノフォアと呼ばれる

図 15クラウンエーテル

1つの金属イオンが環状化合物

15-crown-5 の中央にある空間を充填

している模式図

15-crown-5 の構造を作る10個の黒

い丸は炭素炭素2個のつながりごと

にある中心の白い丸は酸素酸素と

金属イオンの間の距離はおよそ 22~

23Åであるカリウムのファンデン

ワールス半径は 135Åイオン半径は

15~16Åである

測定したいイオンに対しポリ塩化ビニル(PVC)を支持体としてイオノフ

ォアを添加した液膜の電極膜を作成しこれをガラス電極におけるガラス薄膜

と同様試料に接する電極膜として用いるこの構造から一般的に液膜型電極

と呼ばれる電極膜には特異性を高めるため妨害イオン排除剤などが添加

される

pH メーターと同様銀塩化銀標準電極と組み合わせ電池を形成しその

起電力を計る測定したいイオンが液膜に対して内外で平衡に達したときの

膜電位を測定するのはガラス電極と同じである

カ リ ウ ム イ オ ン に は Bis[(benzo-15-crown-5) ( 正 式 名 は

Bis[(benzo-15-crown-5)-4-methyl]pimelate)ナトリウムには Bis[(12-crown-4)

やDibenzyl-bis[(12-crown-4)などがイオノフォアとして用いられる

58

図16カリウムイオン測定用に使われるクラウンエーテル

図17ナトリウムイオン測定用に使われるクラウンエーテル

59

参考イオン選択電極に関する文献Xia Z Badr IHA Plummer SL Cullen L

Bachas LG Synthesis and evaluation of a bis(crown ether) ionophore with a

conformationally constained bridge in ione- selective electrodes Anal Sci 14(2)

169-173 1998 Oh K-C Kang EC Cho YL Jeong K-S Y oo E-A Paeng K-J

Potassium-selective PVC membrane electrodes based on newly synthesized

cis- and trans-bis(crown ether)s ibid 14(10)1009-1012 1998 Dojindo WEB

site httpwwwdojindocojpwwwrootproductsjinfo2protocolp31pdf

<補遺> 60

補遺 状態関数 (本文 p21 10 行目参照)

一つの平衡状態にある系 A とこれに接する系 A にとって外部である系 B について系 B

から系 A に熱を与えこれによって系 A が他の平衡状態に移ったとき系 A はその結果とし

て膨張し系 B に対し仕事をする

このときの微少な熱量の移動を記号drsquoQ またなされた微少な仕事をdrsquoW とすると

系Aの内部エネルギーに関する微少な変化drsquoUA は両者の和として表される

WdQdUd A primeminusprime=prime (a-1)

この式 a-1 と本文中の式25との関係について

WQU A Δminus=Δ 本文(25)

<補遺> 61

式 a-1 と式25の記号の違いは変化の起きる前の平衡状態 S1 から変化後の平衡状態 S2

に状態変化があったとするなら式 a-1 を積分することで式25が得られるものと考えて区

別している

A

S

S A UUd Δ=primeint2

1 (a-2)

このことは重要であるすなわち内部エネルギーU は変化の起きる前後の状態を指定する

ことによって値が定まることを意味するこのように積分によって値を定めることが出来る

のでdrsquoU は完全微分であるという

内部エネルギーのように系の状態だけで値の定まる量を状態関数として扱う

一方式 a-1 のdrsquoQ drsquoW についても同様に微少の変化量を表しているが平衡状態 S1

から S2 への経路を指定しなければ積分の値は定まらない

本文中の記号にしたがって仕事量ΔW を次のように表すことにする

VpW Δ=Δ 本文(20) V

<補遺> 62

体積と圧力の関係を表す図を使ってこの仕事量が意味することを考える圧力 prsquo の下で

体積が V1 であるときを状態 S1 として圧力一定の下で体積を V2 まで膨張させるような変

化を行った後体積を等しく保って圧力を p にまで上げたときの状態を S2 とするこのとき

の仕事量は膨張に伴うものであるから図の体積‐圧力線の下の面積で示すことができる

平衡状態 S1 から S2 への変化の道筋を別にたどってみよう

新しい経路では圧力を先に p まで上げた後に膨張変化させている

図から直感的に明らかであるので数式での扱いを省略するが2 つの経路による仕事量には

差がある

すなわちdrsquoW は drsquoU と異なり変化の初め S1 と終わり S2 の状態が与えられても積分値

は定まらず変化の経路によって違ってくる

このように変化の経路を指定しなければ積分値が定まらないものを不完全微分と呼び扱

いを区別する

本文 p21 へ戻る

<補遺> 63

VpW

WQU

VpQU

VpUQ

1122 SSSS pVUpVUQ

pVU

VpUHHHQ SS 12

エンタルピー (本文 p24 20 行目参照)

本文中の式 20 および 25 から一定の圧力の元で起きる状態変化において内部エネルギー

の変化量に対する式 a-3 を得る

本文(20)

本文(25)

(a-3)

式 a-3 を Q について書き直す

(a-4)

状態の変化が平衡状態S1から平衡状態S2に移ったものとして式 a-4を丁寧に書き直すと

(a-5)

並び替えて

(a-6)

式 a-6 を見ると定圧過程における熱量の流入は

(a-7)

の形を持つ関数の差であることが分かる

一般に化学反応のような変化の過程では大気圧の下で行われるようなものに興味がある

そこで式 a-7 で与えられる項を一つの関数として定義するこれをエンタルピーと呼び記

号 H を与える式 a-4 はエンタルピーの変化量で次のように書き改められる

(a-8)

圧力が一定の下で起こる状態変化について流入する熱量は式 a-8 で示されるようにエンタ

ルピーの変化量に等しい

V

V

V

V V

V

V

1212 SSSS VVpUUQ VV

<補遺> 64

1Q

We

また式 a-8 からオートクレーブ内で起こるような体積変化のない過程ではこの値が内

部エネルギーの変化量で与えられることが明らかである

本文 p24 へ戻る

エントロピー (本文 p26 17 行目参照)

エントロピーは次のような思考実験から発想された仮想的な状態関数である

理想気体よりなる系 A が温度 T2で熱平衡状態にあり温度 T1の外部の熱源と接しているこ

とを想定する系 A の外部を系 B と呼ぶことにするT1は T2に対して無限小だけ高い温度と

する

系 A が系 B に対して温度圧力について平衡を保ちながら緩慢に系 B より熱量 Q1を受け取

る過程を考える(このような過程を準静的過程と呼ぶ)これによって系 A が熱量 Q1を得て膨

張するとき系 B に対して仕事をする続いて系 A から熱量 Q2が系 B に戻ることを考える

想定されるこの変化が可逆的であれば系 A と系 B を併せた全体は元の状態に戻る蒸気機

関に関するこのような研究が Nicolas Carnot によってなされたのは1824 年のことであった

ここに想定されたサイクルに対する Carnot の効率 e は移動した熱量となされた仕事によ

って定義され次の式で表される

(b-1)

<補遺> 65

理想気体では内部エネルギーU の変化ΔU はゼロと考えるしたがって熱力学の第一法

則を表す式(本文中の式25)から次の関係が示される

0=Δminus=Δ WQU

WQ Δ= (b-2)

これによってCarnot Cycleの効率eはQ2lt0 として次のように書き改めることが出来る

1

21

QQQe +

= (b-3)

ところで気体の状態方程式から1 モルの気体について次のような関係が示される

RTV

P

P1=

V = RTV (b-4)

V 式 b-4 の両辺に体積の微少変化量ΔV をかけて

(b-5)

これを体積Vについてその変化をV1からV2までとして積分するならば次式が得られる

VV

RTVP Δ=Δ 1V V

V

intint = 2

1

2

1

1V

V

V

VdV

VRTPdV

1V2V

11 lnRTW =

(b-6)

Q1の熱量によって起こる膨張がV1よりV2までとし圧力P温度T1の下でなされるその仕事

量をW1とするならそれは式b-6 の右辺によって示されるすなわち

(b-7)

VV

1

2lnVVRT=

V V

VV

V

V2int V2 intV1 V1

<補遺> 66

またQ2の熱量の移動が圧力P温度T2の下で起きこれによって系Aが可逆的に圧縮され

るなら体積変化はV2よりV1まで起こりその仕事量をW2で示すと次式のように表される

(b-8)

1

22

2

122 lnln

VVRT

VVRTW minus==VV

VV

Q1=W1Q2=W2の関係から式b-7 およびb-8 を用いてCarnot Cycleの効率eを表す式b-3

を書き改めると温度のみの関係式として次のように表される

1

21

TTTe minus

= (b-9)

ここでサイクルが可逆的過程であると想定するならば式 b-3 と式 b-9 から

1

21

1

21

TTT

QQQe minus

=+

= (b-10)

これから

12112111 QTQTQTQT minus=+ (b-11)

整理すると

02

2

1

1 =+TQ

TQ (b-12)

この考えをさらに発展させ系A

と系Bの間に数多くの系を挿入すること

にしてそれらの系を同様に熱源として

T1T2Tnと考えるこれによっ

て熱の受け渡しが系Aから系Bに至り

再び系Aにもどるサイクル過程に数多

くの寄り道の過程を加えることになる

熱量の移動に関して上の場合と同じく

準静的過程で行われると考えるこの

サイクル全過程について初めと終わ

<補遺> 67

n

i i

i

T

Q

1

0

0T

dQ

T

QS

T

dQASAS )()( 12

りが同じ状態になる可逆的な過程であるなら式 b-12 を拡大的に考えることになってそれ

は次式で表される

(b-13)

式 b-13 には重要な関数が現れるすなわち熱量と温度の比QT である

もし一つの系が無限小だけ温度の高い(dT )外界から温度圧力など平衡を保ちなが

ら極めて緩慢な過程(準静的過程)で無限小の熱量(dQ )を受け取るならばその変化は可

逆的でありdT について連続的な温度分布をする過程を考えるとき式 b-13 をさらに発展

させて次のように積分式で示すことが出来る

(b-14)

式 b-14 で積分記号にが付されているのはCarnot Cycle のような経路を一巡することを

意味している

Carnot の熱機関の効率という着想から生まれた熱量とそれを持つ系の温度との比 QT に

重要な意味を見出したのは Rudolph Clausius で彼はこの比にエントロピーという名前を与

えたエントロピーには記号ΔS を一般に用いる

(b-15)

エントロピーは初めと終わりの状態がわかれば過程に関わらず定まるので状態関数であ

系 A と外界のエントロピー変化を考えるときそれが可逆的過程であるならばすべてを併

せた全体のエントロピー変化は初めと終わりに変化がないという意味でゼロであるすなわ

ち初めの状態を S(A1)とし次の状態を S(A2)とするならそれぞれのエントロピーを

ΔS(A1)ΔS(A2)としてこの間におけるエントロピーの変化量は次のように示される

(b-16)

<補遺> 68

T

dQdS

0T

dQ

ある一つの変化については次のように示される

(b-17)

ここで式 b-17 の S に付けられたdは微分量すなわちごく微小の変化量を意味し式 b-15

で定義されたエントロピーに用いられる一般的な記号Δと区別する

ところで式 b-10 の関係においてもし移動した熱量のすべてが仕事に変わらなければ

効率 e を表す熱量を用いた関係式と温度で表される関係式は等号で結ぶことができないそれ

はエネルギーのロスを意味し初めと終わりの状態が異なってしまうことを意味するすなわ

ち全過程が構成する一つのサイクルは可逆的でなくなる

不可逆過程での熱効率 ersquo は 大値を示す可逆的過程の熱効率 e より小さな値をとる

ee

したがって 大効率を与える式 b-8 と式 b-3 から

01221

2112

1

21

1

21

QTQT

QTQT

Q

QQ

T

TT

両辺を T1T2で割ると

02

2

1

1 T

Q

T

Q

これを式 b12 と同様に発展させれば式 b-14 についてサイクルの変化が可逆的過程の

場合と不可逆的過程の場合の両方を併せClausius の不等式と呼ばれる次の関係が成立する

(b-18)

式 b-18 の等号が成立するのはサイクルが可逆的な理想の場合に限られる

ある孤立系で状態 A1 から状態 A2 へは不可逆変化で進められ状態 A2 から再び状態 A1

に戻るとき可逆変化であるような閉じた状態変化を考える可逆系のエントロピー変化には

記号 Q を使い不可逆変化には Q を用いるとするとそれぞれ積分式を用いて状態 A1 から

状態 A2 へは

<補遺> 69

d prime

状態 A2 から状態 A1 に戻るときは

全体では

=d prime

+d

(b-19)

Clausius の不等式から

0

式(b-19)の第二項で反応を逆に進めるときには次のように書き改めることができる

=d

よって式(b-19)は次のように書き直すことができClausius の不等式とあわせると

d prime d

0

すなわち

d prime d

上式の右辺は式(b-16)を用いて表せば

d prime

∆S ∆

この状態変化を微小変化とするならば断熱変化の場合 dQ = 0 であるから

∆S ∆ dS 0

すなわち不可逆変化を含む断熱変化ではエントロピーは必ず増大する

<補遺> 70

T

QS

BA SSS

(b-20)

(次の<補遺>ギブス自由エネルギーも参照せよ)

本文 p26 へ戻る

ギブス自由エネルギー (本文 p28 27 行目参照)

エントロピーの考えを導入することによって不可逆的に状態変化が起きるときにはエン

トロピーの増大を引き起こすことを知ったこれによって目前で起きる現象について温度の

変化があるものであれないものであれまた圧力の変化があるものであってもエントロピー

の定義式によって可逆的な変化におけるエントロピーの変化量を計算することが可能である

(b-15)

しかしながらこれから起こる変化について我々がすでにあらかじめ知っている物理量を

用いて予測的にその状態変化が起きるかどうか知ることは必ずしも容易ではないその理由

は式 b-15 に示されたエントロピーΔS が系とその外界をあわせた全体のエントロピーを示

しているからであるすなわち関心のある系を系 A としその外界を系 B とすると全体

のエントロピーは次のように表せる

(c-1)

関心のある系 A のエントロピー変化を知るためには系 B のそれを知ればよいがそれは

いつも容易とは限らない系 A の性質だけで状態変化の方向を知るには別の観点が必要にな

るようだ

そこでもう一度状態変化が熱量 Q の移動によって起きることについて考えてみようエン

トロピーの補遺で議論したように熱量の移動が準静的過程により行われるときには変化は可

逆的に起こると考えたこのとき外界すなわち系 B から移動する熱量を Q1とし系 A から

0S

<補遺> 71

21 QQ

T

Q

T

QSB

21

T

QSS A

2

QH

T

HSS AA

AA STHST

のそれを Q2 と記号を当てたのでこれをそのまま使うことにすれば可逆的な過程では系 B

の熱量 Q1 はすなわち系 A から戻る Q2 に他ならないので両者には次の関係が成立するも

のとしてよい

(c-2)

したがって

(c-3)

と考えてよくこれによって式 c-1 を次のように書きなおすことが出来る

(c-4)

独立した系で圧力とその体積に変化がなく一定の条件の下で状態変化が起きるときエン

タルピーの考えを使ってすでにひとつの関係があることを導いている

本文(31)

そこで式 c-4 を系のエンタルピーΔHAによって書き改めれば

(c-5)

この両辺に-T をかけて式を書き直せば次の関係式が得られる

(c-6)

式 c-6 を見るときその右辺がマイナスの値ならば左辺のΔS はプラスの値をとることが

分かるすなわちエントロピーが増大すると見ることが出来るこれまでの過程で自然の現

象はエントロピーが増大する方向に進むとしてきたので関心のある状態変化について式 c-6

の右辺で計算される値がマイナスの値ならばその変化は起きるものと考えてよいことになる

だろうしかも右辺はすべて独立した系の状態量で示されていて我々が知りうる値で計算

<補遺> 72

TSHG

STSTHG

STHG

可能である

そこでこれを熱力学ポテンシャルを表すものとしてギブス自由エネルギーと呼ぶことに

するギブス自由エネルギーは記号 G が用いられ次のように定義される

(c-7)

ここで関心があるのは自由エネルギーの絶対値ではなく式 c-6 に示されたようにその変化量

に興味があるので式 c-7 から

(c-8)

温度が一定の条件の下で状態変化が起きることを考えるなら式 c-8 は次のように書くこと

ができる

(c-9)

ギブス自由エネルギーは式 c-9 の右辺がすべて状態量であるからこれも状態量の一つで

ある定圧定温の条件下で起きる変化ではすでに議論したようにΔGlt0 であれば状態

変化は自発的に起きるものと予測できる

つまり式 c-5 の第一項は系のエントロピーΔSAそのものであり第二項で示されるエンタ

ルピーは系 A の温度が一定に保たれているのであるから発熱する熱量として外界に吸収さ

れるものであってこれは外界のエントロピーの増大につながるものとして解釈されるした

がって化学反応のように一定の圧力と一定の温度の下で起きる変化について自由エネルギ

ー変化量はその状態変化が自発的に起きる傾向を示しているといってよい

本文 p28 へ戻る

  • はじめに
  • 目次
  • 電気エネルギー
    • 金属のイオン化
    • 電池
    • 水素の反応
    • 燃料電池
    • 化学反応と電気エネルギー
      • エネルギーと熱力学
        • エネルギー保存則
        • エンタルピー
        • エントロピー13
        • ギブス自由エネルギー
        • 電池における化学反応のギブス自由エネルギー13
        • 理想気体の状態方程式
        • 理想溶液のギブス自由エネルギー
        • 膜電位
          • 水素イオン濃度測定
            • 化学反応の一般的な式
            • pHの定義とその目盛り
            • pH標準液
            • 銀塩化銀参照電極
            • 実用的なpH測定
            • ガラス電極
            • 電極の校正
            • 金属イオンに対応するイオン選択電極
              • 文献
              • 補遺
                • 状態関数
                • エンタルピー
                • エントロピー
                • ギブス自由エネルギー
Page 25: イオン選択電極i イオン選択電極 Ion Selective Electrode (ISE) を理解する ・ pHを測定する ・ NaやKなどのイオン濃度を測定する 神戸大学医学部保健学科

22

ΔW = pΔV (20)

系の体積が凝縮する場合があるので仕事を記号で表す場合には注意するも

し系に接した「外部」から系に力が加わって体積を小さくしたならΔVは

マイナスとなるのでΔWもマイナスで表される

-ΔW = -pΔV (20prime)

今考えている系を「系 A」と呼びその内部エネルギーを UA外部の系を「系

B」と呼んでその内部エネルギーを UBと表すなら二つ合わせた全体の内部

エネルギーは両者の和で表すことができる

U = UA+UB (21)

この体積変化に必要なエネルギー変化量はどこから得られたかを考えれば

その変化があった「系 A」と外部の「系 B」のいずれかあるいは双方の内部エネ

ルギー変化分でまかなわれたと考えざるを得ない(図8参照)

そこでこのエネルギーの収支関係は変化分を表す記号に先と同様Δを用い

ることにすると次式のようになる

-ΔU =ΔW (22)

すなわち観察している「系 A」のエネルギーと外部の「系 B」のエネルギー

を合わせた総エネルギーを見てその微少な減少量minus ΔU が仕事をなすために

必要であったエネルギー量と考えてみることにする

ついでこの体積の変化が「系 A」に接する外部のlsquo熱rsquoによって起きたも

のと考えてみようすなわち外部の「系 B」が系 Aより高温で「系 B」によ

って系 Aが暖められたことになる

このとき移動したエネルギーを「熱量」と定義する

23

図8熱量の移動と系が外部にする仕事

「熱量」を記号Qで表すと外部の「系 B」が失ったエネルギーminus ΔUB で

ありこれが熱量であるから式で表せば次式のように書くことができる

-ΔUB = Q (23)

ここで「系 A」とそれに接する「外部 B」両方のエネルギーを合わせた総エ

ネルギーの変化量ΔUは式(22)で与えられていた

-ΔU =ΔW (22)

-ΔU =-(ΔUA+ΔUB) であるから

minus ΔUAminus ΔUB=ΔW (24)

これに式(23)を当てはめてΔUAで整理すれば

24

ΔUA= Q-ΔW (25)

この式(25)は「エネルギー保存則」あるいは「熱力学の第一法則」を数

学的に表現したものである

すなわち

独立した系を考えその状態が変化するとき系の内部エネルギーの変化量はその系に入る熱量と系が外部にした仕事との差である

式(25)にはまた重要な主張があるつまりエネルギー保存則にしたが

うとき熱量は力学的エネルギーにまた力学的エネルギーは熱量に変換しう

ることを意味している

熱量を表す単位はカロリー(cal)を用いる1cal は

1 cal = 4184 J

と換算されるジュールは 1J = 1Nm (ニュートンメートル)で仕事量を

表現する単位系で表される

エンタルピー

式(25)から定圧過程で式(20prime)を利用して次の式(26)が誘導さ

れる

Q =ΔUA+pΔV (26)

ここでQは熱量を表していたのでこの関係式(26)から熱関数として

新しい関数を定義する

新しい関数はエンタルピー(enthalpy)(rarr補遺 p63)と呼ばれ次の関数

式Hで表される

H = U+PV (27)

エンタルピーの微少変化量を記号Δを使って表現してみよう

25

ΔH = ΔU +Δ(PV) =ΔU +ΔPV+ PΔV (28)

独立した系で圧力が一定の下に起きる過程を考えるならΔP = 0 (圧力の

変化はゼロ)であるから式(28)は次のようになる

ΔH =ΔU + PΔV (29)

化学反応の過程を考えるとき系に容積の変化がなく過程の前後で一定であ

るならさらにΔV = 0 であるのでエンタルピーの変化量は

ΔH =ΔU (30)

また系の仕事を体積の変化としてみる式(20)から

ΔW = pΔV= 0

であるのでこれを式(25)へ適応すると

ΔU= Q minus ΔW = Q ΔW= 0 だから

結果的に系の圧力と体積が変化の過程で一定である場合にはその系のエンタ

ルピーの変化を表す式(29)(30)は次のように簡単な式になって熱関

数と呼ばれる意味が理解しやすいだろう

ΔH = Q (31)

独立した系に等圧等積で起きる過程を見る場合にはエンタルピーは系が外

部と交換する熱量の直接的な尺度となる

H>0 なら反応に熱を使うので吸熱反応

H<0 なら発熱反応

電池のように系に起きる化学反応で生じる電子の流れを取り出す装置を考え

る場合エンタルピーの変化を電気エネルギーとして取りだしている点に留意

26

しなければならない式(31)のようにエンタルピー変化が交換される熱

量に直接表現できるといっても必ずしも熱として取り出すとは限らないこと

を注意しよう

ところでエンタルピーは内部エネルギーと同じ次元にある状態量で定圧

変化の熱量がエンタルピー変化であるからある一点を標準として定めれば

すべての物質について任意の点のエンタルピーを変化量として定めることがで

きるすなわち化学反応の過程で発熱あるいは吸熱する熱量は反応材料と

生成物の間の状態変化に対応するエンタルピーに対応する

そこで一つの元素に対してもっとも安定な状態にある物質を標準物質とし

て定め29815K(25)1atm を標準状態としてその標準物質からある化

合物を合成するときの反応熱(発熱あるいは吸熱)をその化合物の「標準生成

エンタルピー」として定義できる多くの元素に対して標準生成エンタルピー

は現在表としてまとめられている

水素や酸素はその気体状態が標準物質でありそれらの標準生成エンタルピー

がゼロと定義される

エントロピー

もう一つ新しい状態関数としてエントロピー(entropy)(rarr補遺 p64)を

定義するエントロピーを表す記号は通常S を用いその定義は次の式(32)

による

S Q

T (32)

エントロピーは系の2つの状態が決まると状態量として決まる

このときQ は2つの状態の間を可逆的に変化したとき系が受け取る熱量

T は系が熱量 Q を受け取ったときの温度(degK)である

「熱力学の第二法則」はエントロピーに関するものである

図9では2つの系が接しておりそれぞれの温度を Thigh Tlowとする

Thigh>Tlow (33)

27

今温度の高い系から温度の低い系に直接熱量 Q が移動したとすれば温度

の高い系のエントロピーの変化量ΔS は熱量が失われるので負の値になる

図9熱の移動

そこで温度の高い系のエントロピーの変化量ΔS を式で表すことにすると

次式のようになる

Shigh Q

Thigh

(34)

一方低い系のエントロピー変化量ΔS は熱量が与えられるため

Slow Q

Tlow

(35)

両方の系を合わせたエントロピーの変化量ΔS は

S Shigh Slow Q

Thigh

Q

Tlow

lowhigh

lowhigh

lowhigh TT

TTQ

TTQ

11 (36)

式(36)の最終項で(33)を前提すなわち最初に温度の高い系は高い

と決めたのだとするならエントロピーの変化量ΔS は必ず次のようになる

28

ΔS >0 (37)

すなわち独立した系がありそれより温度の低い別の系あるいは温度の低

い外界が接した場合熱量は高い方から低い方へ移動するという自然の成り行

きを説明するものである

自然界に置いてエントロピーは

ΔS≧0

の値を取りΔS=0のときは可逆的過程である

今の例でいうなら熱は温度の高い系から低い系へ移動しその逆は起きない

常にΔS >0の方向に過程が進行するまた2つの系が同じ温度であるとき

両者は平衡状態にあって熱量の移動は見かけ上なくΔS=0と表現される

「熱力学の第二法則」はエントロピーによって表現されるもので系の変化が

可逆的であるかどうかを判定する指標であり現実の世界で起きる不可逆過程

が正の値を取る方向へ進むことを示す

あるいは系の変化が起きるとき外界を含めて考えれば総エントロピーが

増大する方向に変化が起きることを意味するというようにも表現される

ギブス自由エネルギー

熱力学の第一法則によってエネルギーの取りうる形である「仕事」と「熱」

は互いに変換されうることを理解したこのことの数量的な意味は1cal=418J

で示されるさらに仕事は100熱に変換可能であるが一方の熱はうま

くやっても100を仕事に換えることができないことを熱力学の第二法則で

説明しようとしたそのためにエントロピーという概念が導入された

ここで電池のような独立した一つの系を見るとき系の内部エネルギーの減

少を仕事として取り出しうるならそれは化学反応を一つの例としてどれほど

の仕事量が取り出せるのかはどうしたら与えられるだろうか

化学反応を電気エネルギーに換える電池では先に正負それぞれの電極におけ

る半反応の平衡電位の値を利用してその起電力に対する最大値を計算した

この化学反応から取り出しうる最大仕事量を与えるものとして新しくギブス

自由エネルギー(rarr補遺 p70)と名付け記号 G を使ってそれを次のように

定義する

29

G = H-TS (38)

H はエンタルピーである第2項にある S はエントロピーを表す

ギブス自由エネルギーは化学反応のような独立した系の定温定圧過程に適

応されるので変化量ΔG を式(38)から得ておこう

ΔG =ΔH-Δ(TS)

=ΔH-(SΔT+TΔS)

温度を一定と考えているのでΔT=0 であるから

ΔG =ΔH-TΔS (39)

この式(39)を書き換える

ΔH=ΔG + TΔS (39rsquo)

ここで定圧過程ではエンタルピーを次のように式(29)で定義できた

ΔH =ΔU + PΔV (29)

式(29)の意味するところを復習すれば

系のエンタルピー変化ΔH は内部エネルギーの変化量と系が外部に

した仕事量の和として表される

これは

定圧過程で系が得るエネルギー量から仕事量を除いたもの

と言い換えることができるエンタルピー変化量は化学反応などの過程で

始めと終わりの2つの状態の差であるからそれが正の値を示す(>0)なら

系のエンタルピーは増加することを意味しその過程が進行するためには系

の外部からエネルギーが供給されなければならない

一方式(39rsquo)の右辺第2項TΔS はエントロピーの定義(32)より

TΔS = Q (40)

であるのでこれは可逆過程で系に供給される熱量を意味する

30

もしエンタルピー変化量が負の値を示す(<0)ならば系のエンタルピー

は減少しその過程が進行することによってエネルギーが取り出せるすなわ

ち式(39)(40)から次のようにこれら3つの状態量を改めて説明する

ことができる

ある化学反応が定圧で可逆的に進行するときそれから取り出せる

エネルギーのうちΔG を仕事として放出し熱量 Q を放出する

標準状態29815K(25)1atm で標準物質からある化合物を合成すると

きの反応熱(発熱あるいは吸熱)をその化合物の「標準生成エンタルピー」

として定義した同様にある物質に対する「標準生成ギブス自由エネルギー」

はこの標準状態で標準物質からその化合物を化学反応で生成するとき式(3

9)によって与えられる変化量をいう

電池における化学反応のギブス自由エネルギー

先にダニエル電池の亜鉛板側に対する電極反応を検討したとき電極反応が

仕事として放出するエネルギーを表現する重要な式があった次の式(17)

である

W = n FV (17)

ギブス自由エネルギーを用いて今これは次のように書くことができるように

なった

W = n FV=-ΔG (41)

この式が表していることを実際に水素の燃料とする燃料電池の反応過程で見

てみよう燃料電池の図を再掲する

図中右にある陰極では水素の酸化反応が起きる

H2 rarr 2H+ + 2e- (5)

一方図では左にある陽極において次の還元反応が起きる

12 O2 + 2e- rarr O2- (6)

O2- + 2H+ rarr H2O (8)

全体の反応はすでに示したように次の反応式(7)で示される

H2 +12 O2rarr H2O (7)

31

標準状態における可逆的仕事は式(41)であらわせ

n FV=-ΔG (41rsquo)

このΔG は式(39)であらわせた

ΔG =ΔH-TΔS (39)

すなわち標準状態29815K(25)1atmにおいてある化合物を標準物

質から合成するときの標準生成ギブス自由エネルギー変化ΔG゜は標準生成エ

ンタルピー変化ΔH゜とその温度におけるエントロピー変化TΔSの差で求ま

るこれらは燃料電池の全反応を表す式(7)で与えられる

標準生成エンタルピーΔH゜変化とエントロピー変化はすでに一般的な元

素やその化合物に対して表が作成されている

液体の水に対する標準生成エンタルピーΔH゜(H2O)は

ΔH゜(H2O)=minus 28583 KJmol

また水素ガスと酸素ガスはそれぞれの元素の標準物質であるので生成エ

ンタルピー変化はゼロである

32

そこで式(7)での水を1モル化学合成するときの標準生成エンタルピーΔ

H゜は水素(ガス1モル)と酸素(ガス12 モル)の2つの材料と水(液

体251atm)の両状態における状態量の差として表される

ΔH゜=ΔH゜(H2O)-ΔH゜(H2) -12ΔH゜(O2) (42)

式(42)の右辺第2項と第3項がゼロであるので

ΔH゜=ΔH゜(H2O) =-28583 KJmol (43)

標準状態29815K(25)1atm における水素(ガス)と酸素(ガス)お

よび水(液体)のエントロピーはそれぞれ

ΔS(H2O)=6991 JKmol

ΔS(H2) =13068 JKmol

ΔS(O2) =20514 JKmol

単位で分母のKはケルビン温度の意味

と計算されているので

ΔS=ΔS(H2O)-ΔS (H2) -12ΔS(O2) (44)

=6991-13068-12times20514

=-16334 JKmol

したがって

TΔS=29815times(-16334)=-486998=-4870 KJmol

(45)

そこで標準生成ギブス自由エネルギーΔG゜は式(39)から

-ΔG゜=-(ΔH゜-TΔS) (39)

=-{-28583-(-4870)}

=+23713 KJmol

33

すなわちこのエネルギーを電気エネルギーとして取り出すことができるそ

の起電力は式(41rsquo)から

n FV=-ΔG (41rsquo)

V= -ΔG(n F)

各数値を当てはめれば

V=237130(2times96485)

=1229 volt

先に【化学反応と電気エネルギー】のところで記したとおり25の基準

状態におけるこの電極電位はE゜=+1229 volt が得られているすなわち

こうして標準生成ギブス自由エネルギーから計算することでも同じ値を得る

ことができた

水素を単純に酸素と化合させる燃焼では式(43)で示されるエンタルピ

ーが発生する熱量を示している水素1モルあたり28583 KJである電池

にすれば水素1モルあたり23713 KJの仕事量が電気エネルギーとして取り

出すことができるその差は電池の場合熱が発生して利用できない

化学反応の過程を利用して化学エネルギーから直接電気エネルギーに変換す

るのが電池という装置であるが化学エネルギーは100電気エネルギ

ーに換えることはできないこのようにエネルギーの一部は電池の熱として

発散してしまう

理想気体の状態方程式

ギブス自由エネルギーΔG を定義した式(39)とエンタルピーΔH の定義

式(28)から

ΔG =ΔH-TΔS (39)

ΔH =ΔU +VΔP+ PΔV (28)

そこで次式が得られる

34

ΔG =ΔU+VΔP+ PΔV-TΔS (46)

またエネルギー保存則から得られた式(26)を応用すればギブス自由エ

ネルギーが変形できる

Q =ΔU+PΔV (26)

から

ΔU=Q-PΔV (47)

したがって式(46)は

ΔG = Q-PΔV+VΔP+ PΔV-TΔS

ΔG = Q-TΔS+VΔP (48)

エントロピーの定義からQ=TΔSであるから結局式(48)は

ΔG = VΔP (49)

と表すことができる

成分が混合された気体分子の分子間に働く力をゼロと仮定した「理想気体」を

考えるとき状態方程式としてボイルシャルル(Boyle-Charles)の法則が

利用できる

PV=nRT (50)

ここでnは気体のモル数PVT はそれぞれこれまでと同じ圧力体積温度(ケルビン温度)でありR は気体定数と呼ばれるもので次の値を持

R= 831441 JmolK (51) 単位で分母のKはケルビン温度の意味

35

状態方程式から式(49)の右辺を導くことを考えてみよう式(50)は

1モルの気体について V に対し次のように変形することができる

V 1

PRT (50rsquo)

両辺に圧力の微小変化量⊿P をかけると

PP

RTP V (52)

これを微分方程式として圧力p0 からp1 まで(p0≦p1)積分するなら

1

0

1

0

1

0

1p

p

p

p

p

pdP

PRTdP

P

RTdPV (53)

関数 f(x)=1x を積分したときの関数はF(x)=ln(x)であるので(ln は e を底

とする自然対数loge)

右辺=0

1ln)0ln()1ln(p

pRTpRTpRT (54)

ギブス自由エネルギーを表す式(49)は次のようであったから

ΔG = VΔP (49)

式(52)から得た式(54)を当てはめると状態G0(p0T)からG1(p1T)

へ変化する過程で圧力が p0 から p1 まで変化するものとして

dGG0

G1

G( p1T ) G(p0T ) RT lnp1

p0 (55)

あるいはこれを書き直して

V

36

G(p1 T) = G( p0T ) + RT lnp1p0

(56)

特別にG0(p0T)を標準状態T=29815K(25)p0=1atmに指定する

なら標準生成ギブス自由エネルギーを記号G゜として (56rsquo)

と表すことができる

式(56rsquo)の意味するところは標準状態から圧力の変化を伴う過程で理

G(p1 T) = Go + RT ln p1

想気体のギブス自由エネルギーは圧力の対数に比例して上昇することである

このことはさらに新しい着想を生む

すなわち水素を燃料とする上の燃料電池で1atm 標準状態の水素ガスの圧力

を2atm に上げれば式(56rsquo)からRTln2 余分にギブス自由エネルギー

が取り出せることになる

燃料電池において起電力を生むエネルギーは隔壁を水素イオンもしくは酸

素イオンが浸透しようとする力であるので1atm の水素ガスと2atm のそれで

は浸透しようとする圧力が異なりここに起電力が生じる

式(56)の第二項が圧力の差による仕事であるからこれをΔG とすれば

W=-ΔG の仕事量が電気エネルギーとして取り出せるはずである

W = minusΔG = minusRT lnp1p0

(57)

起電力に換算するために式(41)を使うと

W = n FV=minus ΔG (41)

から

01ln

pp

nFRTV ⎟

⎠⎞

⎜⎝⎛minus= (58)

この式(58)は一般にネルンスト(Nernst)の式と呼ばれる

37

理想溶液のギブス自由エネルギー

理想気体を想定したように無限に希釈された混合溶液に対して理想溶液を仮

定する「系」の圧力温度を一定に保つならば体積内部エネルギーエンタ

ルピーギブス自由エネルギーなどの示量数は混合溶液を構成する物質のモ

ル数mに比例するたとえば標準状態にある物質の1モルの体積をVとすれば

mモルの体積はそのm倍mVであるそうすると溶液中のi番目の成分がmi

モル「系」から「外界」に仕事をするときその成分iの持つ自由エネルギーの

mi倍の仕事が「外界」になされると考えればよい

この溶液成分のモル数と化学的仕事を結びつける示強因子がギブスによって

化学ポテンシャルと名付けられ一般に記号μが用いられる

化学ポテンシャルはこれまで見たようにギブス自由エネルギーで表される

また電位がψ(プサイ)にある系から-Δeの電荷が放出されるときには

-ψΔeの電気的仕事が得られるそこで記号μに両者を合わせた意味を持

たせて「電気化学ポテンシャル」と呼ぶ

概念の上で物質は電気化学ポテンシャルの高い方から低い方へ勾配にした

がって移動する

理想気体の標準状態が気体分圧を T=29815K(25)で 1atm としたのに対

し溶液成分の標準状態はその分圧に相当するモル数 m を用いるすなわち

標準状態にある成分 i の電気化学ポテンシャルμ0iは成分の持つ電荷(H+なら

1)を n として

μ0i = G i゜+nFψ i (59)

ギブス自由エネルギーは式(56rsquo)を借り理想溶液中の成分に対しては気

体圧力をその成分のモル濃度Cに書き換えればよいそこで

G(CT ) G RT lnC (60)

と表すことができる

したがって一般的な成分 i の電気化学ポテンシャルμiを表す式は標準状態

からの自由エネルギーの変化を考え式(59)と合わせて次のようになる

38

ψnFGii 0

式(60)から

ii CRTGTCGG ln)( 0

よって

(61) ψnFCRT iii ln0

実際的なことを考えると成分濃度はその有効イオン濃度とする必要があり

「活量係数」γを導入して次式で表されるイオン活量aを用いる

ai = γCi (62)

一般的にはγ=1と近似してモル濃度Cを使っているこのテキストでも

必要ではない限りイオン活量を用いることを省略して簡単に記述したい

膜電位

燃料電池に使われたナフィオンのような一つのイオンを通す膜を介して膜

の両側にC0 とC1 のイオン濃度差がある溶液が接するときの電気化学ポテン

シャルを考えよう

ある容器の底にナフィオン膜を取り付け容器の中と外のイオン濃度をC0

とC1としそれぞれの電気化学ポテンシャルをそれぞれμinとμoutとする

式(61)を使って

容器の中の電気化学ポテンシャル

(63) innFCRTin ψ 00 ln

容器の外の電気化学ポテンシャル

(64) outout nFCRT ψ 10 ln

イオン浸透性の膜を介して濃度変化が無視できるほどの移動があると考え

その電気化学ポテンシャルの差を式(63)(64)から求めれば

39

)(ln0

1 inoutinout nFC

CRT ψψ (65)

この系において今注目しているイオンが膜を介した両側で平衡状態にある

とき式(65)はΔμ=0と考えることができるすなわち

0)(ln0

1 inoutnFC

CRT ψψ

膜内外の電位差をΔψ=ψoutminus ψinとすれば

1

0

0

1 lnlnC

C

nF

RT

C

C

nF

RTψ (66)

式(66)は理想気体に対するネルンストの式(58)と同様溶液中のイ

オンに対するネルンスト(Nernst)の式として与えられる

細胞の膜においてもその生体膜の内外でたとえばカリウムイオンのように

非対称に分布して平衡に達している場合には式(66)で与えられる膜内外

で電位差が生じるこれは一般に膜電位と呼ばれる膜電位は平衡電位とも

呼ばれる

たとえば膜内外に1価のカリウムイオンに10倍の濃度差があるとすると

通常カリウムイオンは細胞内の濃度が高いので

C0 = 10timesC1

であるから

これを式(66)に当てはめてln(10)=2303 を用いlog への変換をすれば

Δψ=2303times(RTF)timeslog(10)

であるこれに R=831441 JmolKF=96485 CmolT=29815 K(25)

の各数値を当てはめると

Δψ=2303times831441times29815times196485 JC

=+005917 volt

すなわち膜の内外で約+60ミリボルトの膜電位が生じることになるこの

分だけ細胞の外側の電気化学ポテンシャルが高く膜の内側の膜電位が負であ

るそして膜にあるカリウムチャネルがこの電位を示すとき受動的なカリ

40

ウムの膜内外の移動は平衡に達することになる

水素イオン濃度測定

「標準水素電極」は1モル塩酸溶液につけた白金電極に1atm の水素ガスを

吹き込んで平衡状態に達したときの電位を基準としてゼロボルトと規定した

そこである溶液についてその水素イオン濃度を知ろうとするとき同じ水

素電極を用いることを考えれば標準状態にする目的で用いた1モル塩酸溶液

を濃度未知で X モルの塩酸溶液と想定すればその水素イオン濃度を知るこ

とができるだろうか

標準状態ではない X モルの塩酸溶液に浸けた白金電極が半電池として働くこ

とは間違いなさそうであるしかしその白金電極が持つ電極電位を測定する

にはいずれにしても標準電極と組み合わせて「電池」を構成しその電池

の起電力として計る必要がある電池を作れば起電力を知ることができ相

手の半電池の電極電位が知られていれば濃度が未知でXモルの溶液について

その水素イオン濃度を知ることができるだろう

こうした目的のためにいちいちゼロボルトと規定した標準水素電極を用いる

のは煩雑なのでしばしば後出の「銀塩化銀電極」が参照電極として用いら

れる

まず予め「銀塩化銀電極」を標準水素電極と組み合わせて電池とし一度

その起電力を測定しておけば後はいつもそれを標準電極として利用できる

「銀塩化銀電極」の半電池は

H+ (1 moll) Cl- | AgCl | Ag(s)

これに「標準水素電極」を組み合わせ電池を構成すると次のような電池

になる

Pt(s) | H2(g) | H+ (1 moll) Cl- | AgCl | Ag(s)

この電池の起電力を知れば「銀塩化銀電極」の半電池としての電極電位

を知ることができ参照電極として未知の半電池と組み合わせて起電力を測

定して相手の電極電位を計算できる

41

濃度 X モルの塩酸溶液を未知の溶液と想定すればその電極電位を知るために

組み立てる電池は次のようになる図10にその電池の図を示した

Pt(s) | H2(g) | H+ (x moll) Cl- | AgCl | Ag(s)

この電池の全反応は次の反応式で表される

AgCl(s) 1

2H2 (g) H Cl Ag(s) (67)

図10未知溶液の水素イオン濃度を測定しようとするための電池

化学反応の一般的な式

ここで電池に利用される化学反応から得られるエネルギーをギブス自由エ

ネルギーに換算し起電力を具体的に知る手だてとすることは上ですでに学

42

んだがより一般的な式を再度ここに書きだしておこう

化学反応が紙面で左から右に進む反応として次のような一般式で与えられ

るとき

aA + bB rarr cC + dD (68)

ギブス自由エネルギー変化量は標準状態ΔG゜からの変化量を加える形で式

(60)と同様次の式によって表される

G G RT(ln aCc aD

d ln aAa aB

b )

G RT ln

aCc aD

d

aAa aB

b (69)

aAは成分 A のイオン活量であるその他の成分も同じ

得られたエネルギーを電気エネルギーに換えるなら式(41)に習って

次式で表せば

ΔG=-n FV

there4V=-ΔG(nF) (70)

このときの起電力は標準状態における電位 E゜からの変化量として次式で与

えられる

E E

RT

nFln

aCc aD

d

aAa aB

b (71)

標準状態における起電力 E゜は反応が平衡状態にあるときで反応平衡定数

を K とするなら

K aC

c aDd

aAa aB

b (72)

で表されるそこでE゜は次のように書き改めることができる

43

E

RT

nFln K (73)

そこで式(67)で表される図10の電池「水素minus 銀塩化銀電池」に

対する起電力をギブス自由エネルギーから求めてみよう

反応から式(71)に当てはめれば

E E RT

Fln

aH

1 aCl

1 aAg1

aAgCl1 aH2

1

2

(74)

力学の慣例にしたがって固体の純物質の活量は1として扱い水素ガスを

想気体として見なして活量を1atm とするなら式(74)は次のよう

に簡略化される

E E

RT

Flna

H aCl (75)

ころで理想溶液として近似的に取り扱うときの希薄溶液でたとえば水素

入して詳細に検討するなら式( れる起電

オン濃度はイオン活量として aH+の記号を使うときすでに【理想溶液のギ

ブス自由エネルギー】の章で述べたようにこれを有効イオン濃度とする必要

がありイオン活量 a は「活量係数」γを導入して次式で表した

a H+= γH+CH+ (62)

この活量係数を導 75)で誘導さ

を計ることによって経験的に試料溶液中の水素イオン濃度を求めることは

困難である式(75)にあるイオン活量の項はモル濃度 C と活量係数γを

用いて次式で書き改められる

lnaH aCl

lnCH CCl

lnH Cl

(76)

まり式(76)右辺の第二項において互いに相手が知られなければ自分

決めることができず結果的に起電力を知っても(75)の値から水素イオ

ン濃度を導けないここに工夫が必要になる

44

の定義とその目盛り

液中の水素イオン濃度を直接意味するものではなく

を定義するとき測定されるのは1リットルの溶媒に存在す

pH = -log a H+ = -log(γH+CH+) (77)

際に試料溶液の pH を決定する際はpH 標準液を用いる

に溶液を入れ試料溶液 X と pH 標準液 S を

参 極を接続し電池を作成しその起

pH

現在pH の定義は溶

で述べたようにそれが簡便に測定できるものではないため次のように定

義されている

水素イオン濃度

水素イオン活量であるため定義式としては活量係数をγH+として次式で与

えられる

その要領は次のようである

上に図示した水素電極の容器内

れぞれ半電池(I)と(II)に入れる

半電池(I) Pt | H2 (1 atm) | 試料溶液

半電池(II) Pt | H2 (1 atm) | 試料溶液S

照電極として上図のごとく銀塩化銀電

電力を測定する半電池(I)のときの起電力を E(X)半電池(II)のそれを E(S)

とするこのとき試料溶液Xの pH は次式で計算される

pH (X) pH(S) E(S) E(X)

RT ln(10) (78)

ln(10)は自然対数を常用対数に戻すための定数で2303 を用いる

標準液

pH 標準液 S はpH 第一次標準液第二次標準液と呼ばれるべき

る測定

25で pH 4005 を示す

pH

上述した

のであり絶対的測定法である起電力の測定によって値をつける

標準液は安定で純粋な結晶が得られる試薬を調整してこれを測定す

上と同様に水素電極を用いこれに緩衝液を入れる参照電極として銀

塩化銀電極を接続して電池の起電力を測定する

たとえば005 moll フタル酸水素カリウム溶液は

一次標準(Primary Standard PS)の一つである半電池(III)として水素

45

電極を次のように準備する

半電池(III) Pt | H2 (1 atm) | PS 溶液

て電池を形成したとき得られる起電

参照電極として銀塩化銀電極を接続し

は式(75)から

E E

Ag AgCl RT

Flna

H aCl (79)

オン活量を濃度と活量係数の積(a H+= γH+CH+)にし自然対数を常用対数

すれば

E E

Ag AgCl RT ln(10)

F log(

H + CH+ Cl- CCl - ) (80)

E゜は水素標準電極(水素ガス分圧を1atm電極を浸ける溶液に001 moll

H

Cl を用いる)で得た起電力である

式(80)から

RT ln(10)

Flog(

H CH Cl

) (E EAg AgCl )

RT ln(10)

Flog C

Cl

(81)

らに

log(

H CH Cl

) F

RT ln(10)(E E

Ag AgCl ) logCCl

(82)

ころで式(77)から

(γH+CH+) (77)

-log a H+ =-loga H+-log(γCl-) +log(γCl-) =-log(a H+γCl-) +log(γCl-)

(83)の一番右の式で第一項は

pH = -log a H+ = -log

であるが右の式をさらに変形すると

(83)

46

-log(a H+γCl-)=-log(γH+ CH+γCl-) (84)

たがって式(82)の右辺で示されるように電池の起電力を測定すれば

よ 実際には溶液の塩素イオン濃

液で起電力を求め外挿する

起電

これによってpH を意味する式(83)は次式(85)で与えられる

p(aHγCl)はRG Bates によって Acidity Function と呼ばれている

らに式(85)最終項の log(γCl-) を補正しなければならないこの項は

本工業規格)によっても

であってこれは式(82)の左辺である

いただし塩素イオン濃度の項があって

をゼロにしたときの値が必要である

実測する際には塩素イオン濃度をゼロにできないので塩化ナトリウム NaCl

等を濃度を変えて添加しその時々の緩衝

勧告ではNaCl で 000500100015moll の3つの濃度を例示している

すなわち塩素イオン濃度ゼロのときの値は各塩素イオン濃度に対して

の値をそれぞれプロットしグラフから塩素イオンがゼロのときの起電力の

値を3点に対する回帰直線の延長で外挿して求めるこの点を次のように書

log( C H H Cl CCl

0

pa log( C log( (85) H H H Cl C

Cl0 Cl

)

素イオンの活動係数で与えられる補正項である

無限希釈溶液中のイオンの活動係数は理論的に Dubye-Huckel の式を用い

近似的に求めることが可能であるこれはJIS(日

用されていて Bates-Guggenheim の規約と呼ばれる (Bates RG

Guggenheim Pure Appl Chem 1 163-168 1960)

Dubye-Huckel の式は次のように与えられる

log A I

i 1 iB I (86)

47

I iについてそのモル濃度

計算される

はイオン強度でイオン mi と電荷 zi から次式で

I 1

2mizi (87)

また iは(86)式のBは温度と溶媒の性質による定数であり イオンの大

きさに関するパラメータで水和イオンの大きさとほぼ一致した値をとる標

準法の勧告では塩素イオンに対しイオンの大きさを46Åと決めてiBを

1

5 にしているそこで式(84)は次のようになる

ClA I

log 1 15 I

イオン強度 I は塩素イオン濃度を含まない計算となる

以上の方法によって実用的な pH 測定に用いられる第一次第二次標準液の

pH の値が得られる

絶対値としての

はpH の絶対測定法(第一次標準測定法)とされている

銀塩化銀参照電極は分極現象を防ぐために棒状の銀を塩酸で処理し表

に塩化銀を生成させたものを飽和塩化カリウム溶液につけてある

(88)

参考現在は実験的に求めた値と理論値の組み合わせで

素イオン濃度を求める方法を規定しているこの起電力から水素イオン濃度

を知るための測定方法

Buck RP Rondinini S Covington AK Baucke FGK Brett CMA Camoes MF

Milton MJT Mussini T Naumann R Pratt Kw Spitzer P Wilson GS

Measurement of pH definition standards and procedures Pure Appl Chem

74(11)2169-2200 2002Kristensen HB Salomon A Kokholm GInternational

pH scales and certification of pH Anal Chem 63(18) 885A-891A 1991)

銀塩化銀参照電極

電極の構成は

Cl-(aq) | AgCl(s) | Ag(s)

48

この半反応は次のようになる

AgCl(s) + e- rarr Ag(s) + Cl- (89)

の反応は次の2つの反応に分けて考えることができる

Ag+ + e- rarr Ag(s) (91)

AgCl(s)rarr Ag+ + Cl- (90)

図11銀塩化銀参照電極

(90)における銀 る塩素イオンによって左

されることが推測される

そこでカッコ [ ] をそれによって囲まれるイオンの濃度を表すことにし

式 イオン Ag+の溶解性は共存す

塩化銀の乖離定数Kを考えると

49

K = [Ag+][Cl-] (92)

これから

[Ag+]= K[Cl-] (93)

化カリウム溶液に漬けた銀塩化銀電極の電位 E は水素標準電極に対する

電 で与えられる

位を E゜として次式

E E

RT

nF

[ Ag ]

[Ag(s)]ln( )

Ag(s)のイオン活量は常に1とする

ここで半反応の電極電位を求めるために式(75)を利用することにすれば

(94)

熱力学の慣例にしたがって純物質個体

E E

RT

Flna

H Cl a (75)

式 の半反応をみると

応で電子1つが移動するので n=1 とするR=831441 JmolK1F = 96485

C はめれば

これに銀イオンの濃度として式(93)を当てはめる

この反応で移動する電子は (89) 銀イオン1つの反

molT=29815K(25)ln(10)=2303などの定数を当て

2303RTF = 005917

であるから(94)式は次のように表現できる

log[Cl]) E E 005917(logK (95)

たがって標準水素電極に対する銀塩化銀参照電極の標準状態における電

位 は半反応(89)に対して ゜=+0799で

化銀の乖離定数 K は182times10-10 であるのでその対数を取れば-973993

0799-005917times973993-005917log[Cl-]

E゜ E ある

ある

そこで式(95)は

E =

50

= 0799-0576-005917log[Cl-]

= 0223-005917log[Cl-] (96)

電極電位の関係について実測値

こうして求めた塩化カリウム溶液の濃度と

計算上の値は次のようである

KCl moll vs SHE volt25 計算値 volt25 01 02881 02822 35 0205 01908 飽和 0199 minus

実用 測定

実際の現場で水素イオン濃度を測定する目的の測定法で上のような2つの

極が同じ溶液に浸かっていたのでは試料溶液を交換するにも便利ではない

の容器に入れる未知試料溶液と銀塩化銀電極を隔離する

的な pH

そこで水素電極側

的で二つの電極容器をつなぐ液絡部をグラスフィルターやセラミック板

飽和塩化カリウムで作成したゼラチンなどの塩橋によって隔離遮断するこ

れを液絡部とよぶ

電池として機能するために必要な溶液イオンの交換はこの液絡部で行う

組み立てる電池は電池式で次のように表される

Pt(s) | H2 | 試料 (H+ x moll) || 飽和 KCl | AgCl | Ag(s)

の標準電極と銀塩化銀電極とは区切られていて溶液の直接の接触がない

とを意味するために電池式ではタテ二重線を用いる銀塩化銀参照電極

の容器には飽和塩化カリウム溶液が入れられる

51

図12液絡部のある pH 測定のための電池

この液絡部のある電池では塩橋を記号lsquo | | rsquoで表して次のように記す

試料 (H+ x moll) | | 飽和 KCl

ここでは試料溶液と飽和塩化カリウム溶液の異なる2液が接している

このような界面では膜電力が生じるのと同様「液間電位差」が生じることが

知られているしたがって上の電池で測定される起電力 E は

E = E[銀塩化銀電極電位]+E[液間電位]+E[水素電極電位]

で与えられることになってE[液間電位]のために図12の電池の起電力

は銀塩化銀参照電極の値を知っていても水素電極容器内に入れた未知溶

液の水素イオン濃度を正しく知ることができない

52

そこで実用的な測定法としてこの E[液間電位]を膜電位として積極的に利

用する方法が工夫されたすなわち水素イオンに感応するガラス薄膜を用い

るガラス電極法である

53

ガラス電極

ガラスはケイ素原子と酸素原子からなる SiO4 の結晶構造を持ち酸素で囲

まれた空隙があって水素イオンがそれを埋めることができる

この性質によってガラス膜表面は水溶液中の水素イオンに応じて膜電位を

変化させるのでこれを水素イオン濃度測定用の電極として利用することが考

えられるこれが通常用いられるガラス電極である

ガラス電極は標準電極と組み合わせれば電池を構成することができこの電

池の起電力を知ってガラス薄膜の内外にできたイオン濃度勾配を知ろうとす

るものである

薄いガラス膜(01mm程度)をはさんで接する2つの溶液のH+イオン濃

度が異なるとその差に応じてガラス膜の両側に電位差(Eg)が現れる

ネルンストの式でガラス電極の内部に入れた既知の濃度のH+([H+]in)に対

し試料中の水素イオン濃度が[H+]sampleのとき次の電位を生じる

)][

][log(059170)

][

][ln(

sample

in

sample

ing

H

H

H

H

F

RTE

(97)

図13ガラス電極

電極を構成するのは銀塩化銀電極と同じ電極で用いる塩溶液は一般的

54

に 01モル塩酸溶液である

この半電池の電池式は次のように書くことができる

Ag(s) | AgCl(s) | HCl (01 M) | ガラス薄膜 || 試料溶液 H+ (x moll)

Eg

この半電池の電極電圧を測定するために銀塩化銀標準電極と組み合わせ

電池を作って起電力を計る

構成される電池は下図のようになる

ガラス電極 銀塩化銀標準電極

図14ガラス電極を用いた pH 測定用の電池

この電池の起電力は次の各半電池の平衡電位を合わせたものになる

55

E1ガラス電極の内側電位

Ag(s) | AgCl(s) | HCl (01 M)

Egガラス薄膜の内外に生じる膜電位

HCl (01 M) | ガラス薄膜 || 試料溶液 H+ (x moll)

E2液間電位(膜電位)銀塩化銀標準電極のセラミックを介した試料溶液

と銀塩化銀標準電極の内部液(飽和 KCl 溶液)の間に発生する電位

試料溶液 H+ (x moll)|| セラミック | KCl(飽和)

E3銀塩化銀標準電極

KCl(飽和)| AgCl(s) | Ag(s)

pH メーター用のガラス電極に使われるガラス薄膜は水素イオンに感応して

膜電位(Eg)を生じるこれは【膜電位】の章で記したように薄膜がある

一つのイオンのみを通過させる特性を持っている場合にイオンが膜を介した

両側で平衡状態に達したとして電気化学ポテンシャルを膜の両側で等しいと

考えてそのイオンが濃厚な側から希薄な側にその差によって圧力を生じると

するものである

一方同じ試料溶液が銀塩化銀標準電極のセラミック液絡部を介して生じ

るだろう液間電位(膜電位E2)はいま関心がある水素イオンに対して特異

的に感応するのではないので試料溶液の水素イオン濃度に関係なく一定と見

なすことができる

すなわちpH メーターを構成する電池の起電力 E は

E = E1+Eg+E2+E3 (98)

このうちEg以外は一定と見なせるので

E1+E2+E3 = E

として式(98)を書き直すと

)][

][log(059170

sample

ing H

HEEEE

(99)

Eは標準液によって校正されるべき標準電極電位である

56

電極の校正

実際のイオン濃度を測定する場合低濃度標準液と高濃度標準液で得られ

る起電力を測定し計測のイオン濃度に対する係数(傾き)を求めておき未

知の試料に対して起電力を測定してそのイオン濃度を算出する方法が採られる

低濃度標準液と高濃度標準液のそれぞれの濃度をCLとCHとすればそれぞ

れの起電力ELとEHは次式で表される EH = E +β logCH (100)

EL = E +β log CL (101)

ただしβは式(99)の係数を簡略にしたものである

式(100)と(101)から検量線の傾きが次式で表せる

ΔE = EH minus EL = β(logCH minus logCL) = β logCH

CL

(102)

したがって係数βは

β =ΔE

log CH

CL

(103)

であらわされる

このときに使われる標準はすでに前出の pH 第一次標準第二次標準溶液で

ある

金属イオンに対応するイオン選択電極

現在臨床検査で日常的に使われている電解質測定のための電極はナトリウ

ムカリウムカルシウムクロールなどおよそ臨床的に必要な金属イオン

に対して入手可能である

カリウムイオン測定用のバリノマイシンの発見によってクラウンエーテルと

57

呼ばれる一連の化合物が知られたクラウンエーテルはその分子の中心に立

体的な空間を持ち特定のイオン径に対し合致するのでそのイオンに対して

選択的に感応するこれらの化合物はイオノフォアと呼ばれる

図 15クラウンエーテル

1つの金属イオンが環状化合物

15-crown-5 の中央にある空間を充填

している模式図

15-crown-5 の構造を作る10個の黒

い丸は炭素炭素2個のつながりごと

にある中心の白い丸は酸素酸素と

金属イオンの間の距離はおよそ 22~

23Åであるカリウムのファンデン

ワールス半径は 135Åイオン半径は

15~16Åである

測定したいイオンに対しポリ塩化ビニル(PVC)を支持体としてイオノフ

ォアを添加した液膜の電極膜を作成しこれをガラス電極におけるガラス薄膜

と同様試料に接する電極膜として用いるこの構造から一般的に液膜型電極

と呼ばれる電極膜には特異性を高めるため妨害イオン排除剤などが添加

される

pH メーターと同様銀塩化銀標準電極と組み合わせ電池を形成しその

起電力を計る測定したいイオンが液膜に対して内外で平衡に達したときの

膜電位を測定するのはガラス電極と同じである

カ リ ウ ム イ オ ン に は Bis[(benzo-15-crown-5) ( 正 式 名 は

Bis[(benzo-15-crown-5)-4-methyl]pimelate)ナトリウムには Bis[(12-crown-4)

やDibenzyl-bis[(12-crown-4)などがイオノフォアとして用いられる

58

図16カリウムイオン測定用に使われるクラウンエーテル

図17ナトリウムイオン測定用に使われるクラウンエーテル

59

参考イオン選択電極に関する文献Xia Z Badr IHA Plummer SL Cullen L

Bachas LG Synthesis and evaluation of a bis(crown ether) ionophore with a

conformationally constained bridge in ione- selective electrodes Anal Sci 14(2)

169-173 1998 Oh K-C Kang EC Cho YL Jeong K-S Y oo E-A Paeng K-J

Potassium-selective PVC membrane electrodes based on newly synthesized

cis- and trans-bis(crown ether)s ibid 14(10)1009-1012 1998 Dojindo WEB

site httpwwwdojindocojpwwwrootproductsjinfo2protocolp31pdf

<補遺> 60

補遺 状態関数 (本文 p21 10 行目参照)

一つの平衡状態にある系 A とこれに接する系 A にとって外部である系 B について系 B

から系 A に熱を与えこれによって系 A が他の平衡状態に移ったとき系 A はその結果とし

て膨張し系 B に対し仕事をする

このときの微少な熱量の移動を記号drsquoQ またなされた微少な仕事をdrsquoW とすると

系Aの内部エネルギーに関する微少な変化drsquoUA は両者の和として表される

WdQdUd A primeminusprime=prime (a-1)

この式 a-1 と本文中の式25との関係について

WQU A Δminus=Δ 本文(25)

<補遺> 61

式 a-1 と式25の記号の違いは変化の起きる前の平衡状態 S1 から変化後の平衡状態 S2

に状態変化があったとするなら式 a-1 を積分することで式25が得られるものと考えて区

別している

A

S

S A UUd Δ=primeint2

1 (a-2)

このことは重要であるすなわち内部エネルギーU は変化の起きる前後の状態を指定する

ことによって値が定まることを意味するこのように積分によって値を定めることが出来る

のでdrsquoU は完全微分であるという

内部エネルギーのように系の状態だけで値の定まる量を状態関数として扱う

一方式 a-1 のdrsquoQ drsquoW についても同様に微少の変化量を表しているが平衡状態 S1

から S2 への経路を指定しなければ積分の値は定まらない

本文中の記号にしたがって仕事量ΔW を次のように表すことにする

VpW Δ=Δ 本文(20) V

<補遺> 62

体積と圧力の関係を表す図を使ってこの仕事量が意味することを考える圧力 prsquo の下で

体積が V1 であるときを状態 S1 として圧力一定の下で体積を V2 まで膨張させるような変

化を行った後体積を等しく保って圧力を p にまで上げたときの状態を S2 とするこのとき

の仕事量は膨張に伴うものであるから図の体積‐圧力線の下の面積で示すことができる

平衡状態 S1 から S2 への変化の道筋を別にたどってみよう

新しい経路では圧力を先に p まで上げた後に膨張変化させている

図から直感的に明らかであるので数式での扱いを省略するが2 つの経路による仕事量には

差がある

すなわちdrsquoW は drsquoU と異なり変化の初め S1 と終わり S2 の状態が与えられても積分値

は定まらず変化の経路によって違ってくる

このように変化の経路を指定しなければ積分値が定まらないものを不完全微分と呼び扱

いを区別する

本文 p21 へ戻る

<補遺> 63

VpW

WQU

VpQU

VpUQ

1122 SSSS pVUpVUQ

pVU

VpUHHHQ SS 12

エンタルピー (本文 p24 20 行目参照)

本文中の式 20 および 25 から一定の圧力の元で起きる状態変化において内部エネルギー

の変化量に対する式 a-3 を得る

本文(20)

本文(25)

(a-3)

式 a-3 を Q について書き直す

(a-4)

状態の変化が平衡状態S1から平衡状態S2に移ったものとして式 a-4を丁寧に書き直すと

(a-5)

並び替えて

(a-6)

式 a-6 を見ると定圧過程における熱量の流入は

(a-7)

の形を持つ関数の差であることが分かる

一般に化学反応のような変化の過程では大気圧の下で行われるようなものに興味がある

そこで式 a-7 で与えられる項を一つの関数として定義するこれをエンタルピーと呼び記

号 H を与える式 a-4 はエンタルピーの変化量で次のように書き改められる

(a-8)

圧力が一定の下で起こる状態変化について流入する熱量は式 a-8 で示されるようにエンタ

ルピーの変化量に等しい

V

V

V

V V

V

V

1212 SSSS VVpUUQ VV

<補遺> 64

1Q

We

また式 a-8 からオートクレーブ内で起こるような体積変化のない過程ではこの値が内

部エネルギーの変化量で与えられることが明らかである

本文 p24 へ戻る

エントロピー (本文 p26 17 行目参照)

エントロピーは次のような思考実験から発想された仮想的な状態関数である

理想気体よりなる系 A が温度 T2で熱平衡状態にあり温度 T1の外部の熱源と接しているこ

とを想定する系 A の外部を系 B と呼ぶことにするT1は T2に対して無限小だけ高い温度と

する

系 A が系 B に対して温度圧力について平衡を保ちながら緩慢に系 B より熱量 Q1を受け取

る過程を考える(このような過程を準静的過程と呼ぶ)これによって系 A が熱量 Q1を得て膨

張するとき系 B に対して仕事をする続いて系 A から熱量 Q2が系 B に戻ることを考える

想定されるこの変化が可逆的であれば系 A と系 B を併せた全体は元の状態に戻る蒸気機

関に関するこのような研究が Nicolas Carnot によってなされたのは1824 年のことであった

ここに想定されたサイクルに対する Carnot の効率 e は移動した熱量となされた仕事によ

って定義され次の式で表される

(b-1)

<補遺> 65

理想気体では内部エネルギーU の変化ΔU はゼロと考えるしたがって熱力学の第一法

則を表す式(本文中の式25)から次の関係が示される

0=Δminus=Δ WQU

WQ Δ= (b-2)

これによってCarnot Cycleの効率eはQ2lt0 として次のように書き改めることが出来る

1

21

QQQe +

= (b-3)

ところで気体の状態方程式から1 モルの気体について次のような関係が示される

RTV

P

P1=

V = RTV (b-4)

V 式 b-4 の両辺に体積の微少変化量ΔV をかけて

(b-5)

これを体積Vについてその変化をV1からV2までとして積分するならば次式が得られる

VV

RTVP Δ=Δ 1V V

V

intint = 2

1

2

1

1V

V

V

VdV

VRTPdV

1V2V

11 lnRTW =

(b-6)

Q1の熱量によって起こる膨張がV1よりV2までとし圧力P温度T1の下でなされるその仕事

量をW1とするならそれは式b-6 の右辺によって示されるすなわち

(b-7)

VV

1

2lnVVRT=

V V

VV

V

V2int V2 intV1 V1

<補遺> 66

またQ2の熱量の移動が圧力P温度T2の下で起きこれによって系Aが可逆的に圧縮され

るなら体積変化はV2よりV1まで起こりその仕事量をW2で示すと次式のように表される

(b-8)

1

22

2

122 lnln

VVRT

VVRTW minus==VV

VV

Q1=W1Q2=W2の関係から式b-7 およびb-8 を用いてCarnot Cycleの効率eを表す式b-3

を書き改めると温度のみの関係式として次のように表される

1

21

TTTe minus

= (b-9)

ここでサイクルが可逆的過程であると想定するならば式 b-3 と式 b-9 から

1

21

1

21

TTT

QQQe minus

=+

= (b-10)

これから

12112111 QTQTQTQT minus=+ (b-11)

整理すると

02

2

1

1 =+TQ

TQ (b-12)

この考えをさらに発展させ系A

と系Bの間に数多くの系を挿入すること

にしてそれらの系を同様に熱源として

T1T2Tnと考えるこれによっ

て熱の受け渡しが系Aから系Bに至り

再び系Aにもどるサイクル過程に数多

くの寄り道の過程を加えることになる

熱量の移動に関して上の場合と同じく

準静的過程で行われると考えるこの

サイクル全過程について初めと終わ

<補遺> 67

n

i i

i

T

Q

1

0

0T

dQ

T

QS

T

dQASAS )()( 12

りが同じ状態になる可逆的な過程であるなら式 b-12 を拡大的に考えることになってそれ

は次式で表される

(b-13)

式 b-13 には重要な関数が現れるすなわち熱量と温度の比QT である

もし一つの系が無限小だけ温度の高い(dT )外界から温度圧力など平衡を保ちなが

ら極めて緩慢な過程(準静的過程)で無限小の熱量(dQ )を受け取るならばその変化は可

逆的でありdT について連続的な温度分布をする過程を考えるとき式 b-13 をさらに発展

させて次のように積分式で示すことが出来る

(b-14)

式 b-14 で積分記号にが付されているのはCarnot Cycle のような経路を一巡することを

意味している

Carnot の熱機関の効率という着想から生まれた熱量とそれを持つ系の温度との比 QT に

重要な意味を見出したのは Rudolph Clausius で彼はこの比にエントロピーという名前を与

えたエントロピーには記号ΔS を一般に用いる

(b-15)

エントロピーは初めと終わりの状態がわかれば過程に関わらず定まるので状態関数であ

系 A と外界のエントロピー変化を考えるときそれが可逆的過程であるならばすべてを併

せた全体のエントロピー変化は初めと終わりに変化がないという意味でゼロであるすなわ

ち初めの状態を S(A1)とし次の状態を S(A2)とするならそれぞれのエントロピーを

ΔS(A1)ΔS(A2)としてこの間におけるエントロピーの変化量は次のように示される

(b-16)

<補遺> 68

T

dQdS

0T

dQ

ある一つの変化については次のように示される

(b-17)

ここで式 b-17 の S に付けられたdは微分量すなわちごく微小の変化量を意味し式 b-15

で定義されたエントロピーに用いられる一般的な記号Δと区別する

ところで式 b-10 の関係においてもし移動した熱量のすべてが仕事に変わらなければ

効率 e を表す熱量を用いた関係式と温度で表される関係式は等号で結ぶことができないそれ

はエネルギーのロスを意味し初めと終わりの状態が異なってしまうことを意味するすなわ

ち全過程が構成する一つのサイクルは可逆的でなくなる

不可逆過程での熱効率 ersquo は 大値を示す可逆的過程の熱効率 e より小さな値をとる

ee

したがって 大効率を与える式 b-8 と式 b-3 から

01221

2112

1

21

1

21

QTQT

QTQT

Q

QQ

T

TT

両辺を T1T2で割ると

02

2

1

1 T

Q

T

Q

これを式 b12 と同様に発展させれば式 b-14 についてサイクルの変化が可逆的過程の

場合と不可逆的過程の場合の両方を併せClausius の不等式と呼ばれる次の関係が成立する

(b-18)

式 b-18 の等号が成立するのはサイクルが可逆的な理想の場合に限られる

ある孤立系で状態 A1 から状態 A2 へは不可逆変化で進められ状態 A2 から再び状態 A1

に戻るとき可逆変化であるような閉じた状態変化を考える可逆系のエントロピー変化には

記号 Q を使い不可逆変化には Q を用いるとするとそれぞれ積分式を用いて状態 A1 から

状態 A2 へは

<補遺> 69

d prime

状態 A2 から状態 A1 に戻るときは

全体では

=d prime

+d

(b-19)

Clausius の不等式から

0

式(b-19)の第二項で反応を逆に進めるときには次のように書き改めることができる

=d

よって式(b-19)は次のように書き直すことができClausius の不等式とあわせると

d prime d

0

すなわち

d prime d

上式の右辺は式(b-16)を用いて表せば

d prime

∆S ∆

この状態変化を微小変化とするならば断熱変化の場合 dQ = 0 であるから

∆S ∆ dS 0

すなわち不可逆変化を含む断熱変化ではエントロピーは必ず増大する

<補遺> 70

T

QS

BA SSS

(b-20)

(次の<補遺>ギブス自由エネルギーも参照せよ)

本文 p26 へ戻る

ギブス自由エネルギー (本文 p28 27 行目参照)

エントロピーの考えを導入することによって不可逆的に状態変化が起きるときにはエン

トロピーの増大を引き起こすことを知ったこれによって目前で起きる現象について温度の

変化があるものであれないものであれまた圧力の変化があるものであってもエントロピー

の定義式によって可逆的な変化におけるエントロピーの変化量を計算することが可能である

(b-15)

しかしながらこれから起こる変化について我々がすでにあらかじめ知っている物理量を

用いて予測的にその状態変化が起きるかどうか知ることは必ずしも容易ではないその理由

は式 b-15 に示されたエントロピーΔS が系とその外界をあわせた全体のエントロピーを示

しているからであるすなわち関心のある系を系 A としその外界を系 B とすると全体

のエントロピーは次のように表せる

(c-1)

関心のある系 A のエントロピー変化を知るためには系 B のそれを知ればよいがそれは

いつも容易とは限らない系 A の性質だけで状態変化の方向を知るには別の観点が必要にな

るようだ

そこでもう一度状態変化が熱量 Q の移動によって起きることについて考えてみようエン

トロピーの補遺で議論したように熱量の移動が準静的過程により行われるときには変化は可

逆的に起こると考えたこのとき外界すなわち系 B から移動する熱量を Q1とし系 A から

0S

<補遺> 71

21 QQ

T

Q

T

QSB

21

T

QSS A

2

QH

T

HSS AA

AA STHST

のそれを Q2 と記号を当てたのでこれをそのまま使うことにすれば可逆的な過程では系 B

の熱量 Q1 はすなわち系 A から戻る Q2 に他ならないので両者には次の関係が成立するも

のとしてよい

(c-2)

したがって

(c-3)

と考えてよくこれによって式 c-1 を次のように書きなおすことが出来る

(c-4)

独立した系で圧力とその体積に変化がなく一定の条件の下で状態変化が起きるときエン

タルピーの考えを使ってすでにひとつの関係があることを導いている

本文(31)

そこで式 c-4 を系のエンタルピーΔHAによって書き改めれば

(c-5)

この両辺に-T をかけて式を書き直せば次の関係式が得られる

(c-6)

式 c-6 を見るときその右辺がマイナスの値ならば左辺のΔS はプラスの値をとることが

分かるすなわちエントロピーが増大すると見ることが出来るこれまでの過程で自然の現

象はエントロピーが増大する方向に進むとしてきたので関心のある状態変化について式 c-6

の右辺で計算される値がマイナスの値ならばその変化は起きるものと考えてよいことになる

だろうしかも右辺はすべて独立した系の状態量で示されていて我々が知りうる値で計算

<補遺> 72

TSHG

STSTHG

STHG

可能である

そこでこれを熱力学ポテンシャルを表すものとしてギブス自由エネルギーと呼ぶことに

するギブス自由エネルギーは記号 G が用いられ次のように定義される

(c-7)

ここで関心があるのは自由エネルギーの絶対値ではなく式 c-6 に示されたようにその変化量

に興味があるので式 c-7 から

(c-8)

温度が一定の条件の下で状態変化が起きることを考えるなら式 c-8 は次のように書くこと

ができる

(c-9)

ギブス自由エネルギーは式 c-9 の右辺がすべて状態量であるからこれも状態量の一つで

ある定圧定温の条件下で起きる変化ではすでに議論したようにΔGlt0 であれば状態

変化は自発的に起きるものと予測できる

つまり式 c-5 の第一項は系のエントロピーΔSAそのものであり第二項で示されるエンタ

ルピーは系 A の温度が一定に保たれているのであるから発熱する熱量として外界に吸収さ

れるものであってこれは外界のエントロピーの増大につながるものとして解釈されるした

がって化学反応のように一定の圧力と一定の温度の下で起きる変化について自由エネルギ

ー変化量はその状態変化が自発的に起きる傾向を示しているといってよい

本文 p28 へ戻る

  • はじめに
  • 目次
  • 電気エネルギー
    • 金属のイオン化
    • 電池
    • 水素の反応
    • 燃料電池
    • 化学反応と電気エネルギー
      • エネルギーと熱力学
        • エネルギー保存則
        • エンタルピー
        • エントロピー13
        • ギブス自由エネルギー
        • 電池における化学反応のギブス自由エネルギー13
        • 理想気体の状態方程式
        • 理想溶液のギブス自由エネルギー
        • 膜電位
          • 水素イオン濃度測定
            • 化学反応の一般的な式
            • pHの定義とその目盛り
            • pH標準液
            • 銀塩化銀参照電極
            • 実用的なpH測定
            • ガラス電極
            • 電極の校正
            • 金属イオンに対応するイオン選択電極
              • 文献
              • 補遺
                • 状態関数
                • エンタルピー
                • エントロピー
                • ギブス自由エネルギー
Page 26: イオン選択電極i イオン選択電極 Ion Selective Electrode (ISE) を理解する ・ pHを測定する ・ NaやKなどのイオン濃度を測定する 神戸大学医学部保健学科

23

図8熱量の移動と系が外部にする仕事

「熱量」を記号Qで表すと外部の「系 B」が失ったエネルギーminus ΔUB で

ありこれが熱量であるから式で表せば次式のように書くことができる

-ΔUB = Q (23)

ここで「系 A」とそれに接する「外部 B」両方のエネルギーを合わせた総エ

ネルギーの変化量ΔUは式(22)で与えられていた

-ΔU =ΔW (22)

-ΔU =-(ΔUA+ΔUB) であるから

minus ΔUAminus ΔUB=ΔW (24)

これに式(23)を当てはめてΔUAで整理すれば

24

ΔUA= Q-ΔW (25)

この式(25)は「エネルギー保存則」あるいは「熱力学の第一法則」を数

学的に表現したものである

すなわち

独立した系を考えその状態が変化するとき系の内部エネルギーの変化量はその系に入る熱量と系が外部にした仕事との差である

式(25)にはまた重要な主張があるつまりエネルギー保存則にしたが

うとき熱量は力学的エネルギーにまた力学的エネルギーは熱量に変換しう

ることを意味している

熱量を表す単位はカロリー(cal)を用いる1cal は

1 cal = 4184 J

と換算されるジュールは 1J = 1Nm (ニュートンメートル)で仕事量を

表現する単位系で表される

エンタルピー

式(25)から定圧過程で式(20prime)を利用して次の式(26)が誘導さ

れる

Q =ΔUA+pΔV (26)

ここでQは熱量を表していたのでこの関係式(26)から熱関数として

新しい関数を定義する

新しい関数はエンタルピー(enthalpy)(rarr補遺 p63)と呼ばれ次の関数

式Hで表される

H = U+PV (27)

エンタルピーの微少変化量を記号Δを使って表現してみよう

25

ΔH = ΔU +Δ(PV) =ΔU +ΔPV+ PΔV (28)

独立した系で圧力が一定の下に起きる過程を考えるならΔP = 0 (圧力の

変化はゼロ)であるから式(28)は次のようになる

ΔH =ΔU + PΔV (29)

化学反応の過程を考えるとき系に容積の変化がなく過程の前後で一定であ

るならさらにΔV = 0 であるのでエンタルピーの変化量は

ΔH =ΔU (30)

また系の仕事を体積の変化としてみる式(20)から

ΔW = pΔV= 0

であるのでこれを式(25)へ適応すると

ΔU= Q minus ΔW = Q ΔW= 0 だから

結果的に系の圧力と体積が変化の過程で一定である場合にはその系のエンタ

ルピーの変化を表す式(29)(30)は次のように簡単な式になって熱関

数と呼ばれる意味が理解しやすいだろう

ΔH = Q (31)

独立した系に等圧等積で起きる過程を見る場合にはエンタルピーは系が外

部と交換する熱量の直接的な尺度となる

H>0 なら反応に熱を使うので吸熱反応

H<0 なら発熱反応

電池のように系に起きる化学反応で生じる電子の流れを取り出す装置を考え

る場合エンタルピーの変化を電気エネルギーとして取りだしている点に留意

26

しなければならない式(31)のようにエンタルピー変化が交換される熱

量に直接表現できるといっても必ずしも熱として取り出すとは限らないこと

を注意しよう

ところでエンタルピーは内部エネルギーと同じ次元にある状態量で定圧

変化の熱量がエンタルピー変化であるからある一点を標準として定めれば

すべての物質について任意の点のエンタルピーを変化量として定めることがで

きるすなわち化学反応の過程で発熱あるいは吸熱する熱量は反応材料と

生成物の間の状態変化に対応するエンタルピーに対応する

そこで一つの元素に対してもっとも安定な状態にある物質を標準物質とし

て定め29815K(25)1atm を標準状態としてその標準物質からある化

合物を合成するときの反応熱(発熱あるいは吸熱)をその化合物の「標準生成

エンタルピー」として定義できる多くの元素に対して標準生成エンタルピー

は現在表としてまとめられている

水素や酸素はその気体状態が標準物質でありそれらの標準生成エンタルピー

がゼロと定義される

エントロピー

もう一つ新しい状態関数としてエントロピー(entropy)(rarr補遺 p64)を

定義するエントロピーを表す記号は通常S を用いその定義は次の式(32)

による

S Q

T (32)

エントロピーは系の2つの状態が決まると状態量として決まる

このときQ は2つの状態の間を可逆的に変化したとき系が受け取る熱量

T は系が熱量 Q を受け取ったときの温度(degK)である

「熱力学の第二法則」はエントロピーに関するものである

図9では2つの系が接しておりそれぞれの温度を Thigh Tlowとする

Thigh>Tlow (33)

27

今温度の高い系から温度の低い系に直接熱量 Q が移動したとすれば温度

の高い系のエントロピーの変化量ΔS は熱量が失われるので負の値になる

図9熱の移動

そこで温度の高い系のエントロピーの変化量ΔS を式で表すことにすると

次式のようになる

Shigh Q

Thigh

(34)

一方低い系のエントロピー変化量ΔS は熱量が与えられるため

Slow Q

Tlow

(35)

両方の系を合わせたエントロピーの変化量ΔS は

S Shigh Slow Q

Thigh

Q

Tlow

lowhigh

lowhigh

lowhigh TT

TTQ

TTQ

11 (36)

式(36)の最終項で(33)を前提すなわち最初に温度の高い系は高い

と決めたのだとするならエントロピーの変化量ΔS は必ず次のようになる

28

ΔS >0 (37)

すなわち独立した系がありそれより温度の低い別の系あるいは温度の低

い外界が接した場合熱量は高い方から低い方へ移動するという自然の成り行

きを説明するものである

自然界に置いてエントロピーは

ΔS≧0

の値を取りΔS=0のときは可逆的過程である

今の例でいうなら熱は温度の高い系から低い系へ移動しその逆は起きない

常にΔS >0の方向に過程が進行するまた2つの系が同じ温度であるとき

両者は平衡状態にあって熱量の移動は見かけ上なくΔS=0と表現される

「熱力学の第二法則」はエントロピーによって表現されるもので系の変化が

可逆的であるかどうかを判定する指標であり現実の世界で起きる不可逆過程

が正の値を取る方向へ進むことを示す

あるいは系の変化が起きるとき外界を含めて考えれば総エントロピーが

増大する方向に変化が起きることを意味するというようにも表現される

ギブス自由エネルギー

熱力学の第一法則によってエネルギーの取りうる形である「仕事」と「熱」

は互いに変換されうることを理解したこのことの数量的な意味は1cal=418J

で示されるさらに仕事は100熱に変換可能であるが一方の熱はうま

くやっても100を仕事に換えることができないことを熱力学の第二法則で

説明しようとしたそのためにエントロピーという概念が導入された

ここで電池のような独立した一つの系を見るとき系の内部エネルギーの減

少を仕事として取り出しうるならそれは化学反応を一つの例としてどれほど

の仕事量が取り出せるのかはどうしたら与えられるだろうか

化学反応を電気エネルギーに換える電池では先に正負それぞれの電極におけ

る半反応の平衡電位の値を利用してその起電力に対する最大値を計算した

この化学反応から取り出しうる最大仕事量を与えるものとして新しくギブス

自由エネルギー(rarr補遺 p70)と名付け記号 G を使ってそれを次のように

定義する

29

G = H-TS (38)

H はエンタルピーである第2項にある S はエントロピーを表す

ギブス自由エネルギーは化学反応のような独立した系の定温定圧過程に適

応されるので変化量ΔG を式(38)から得ておこう

ΔG =ΔH-Δ(TS)

=ΔH-(SΔT+TΔS)

温度を一定と考えているのでΔT=0 であるから

ΔG =ΔH-TΔS (39)

この式(39)を書き換える

ΔH=ΔG + TΔS (39rsquo)

ここで定圧過程ではエンタルピーを次のように式(29)で定義できた

ΔH =ΔU + PΔV (29)

式(29)の意味するところを復習すれば

系のエンタルピー変化ΔH は内部エネルギーの変化量と系が外部に

した仕事量の和として表される

これは

定圧過程で系が得るエネルギー量から仕事量を除いたもの

と言い換えることができるエンタルピー変化量は化学反応などの過程で

始めと終わりの2つの状態の差であるからそれが正の値を示す(>0)なら

系のエンタルピーは増加することを意味しその過程が進行するためには系

の外部からエネルギーが供給されなければならない

一方式(39rsquo)の右辺第2項TΔS はエントロピーの定義(32)より

TΔS = Q (40)

であるのでこれは可逆過程で系に供給される熱量を意味する

30

もしエンタルピー変化量が負の値を示す(<0)ならば系のエンタルピー

は減少しその過程が進行することによってエネルギーが取り出せるすなわ

ち式(39)(40)から次のようにこれら3つの状態量を改めて説明する

ことができる

ある化学反応が定圧で可逆的に進行するときそれから取り出せる

エネルギーのうちΔG を仕事として放出し熱量 Q を放出する

標準状態29815K(25)1atm で標準物質からある化合物を合成すると

きの反応熱(発熱あるいは吸熱)をその化合物の「標準生成エンタルピー」

として定義した同様にある物質に対する「標準生成ギブス自由エネルギー」

はこの標準状態で標準物質からその化合物を化学反応で生成するとき式(3

9)によって与えられる変化量をいう

電池における化学反応のギブス自由エネルギー

先にダニエル電池の亜鉛板側に対する電極反応を検討したとき電極反応が

仕事として放出するエネルギーを表現する重要な式があった次の式(17)

である

W = n FV (17)

ギブス自由エネルギーを用いて今これは次のように書くことができるように

なった

W = n FV=-ΔG (41)

この式が表していることを実際に水素の燃料とする燃料電池の反応過程で見

てみよう燃料電池の図を再掲する

図中右にある陰極では水素の酸化反応が起きる

H2 rarr 2H+ + 2e- (5)

一方図では左にある陽極において次の還元反応が起きる

12 O2 + 2e- rarr O2- (6)

O2- + 2H+ rarr H2O (8)

全体の反応はすでに示したように次の反応式(7)で示される

H2 +12 O2rarr H2O (7)

31

標準状態における可逆的仕事は式(41)であらわせ

n FV=-ΔG (41rsquo)

このΔG は式(39)であらわせた

ΔG =ΔH-TΔS (39)

すなわち標準状態29815K(25)1atmにおいてある化合物を標準物

質から合成するときの標準生成ギブス自由エネルギー変化ΔG゜は標準生成エ

ンタルピー変化ΔH゜とその温度におけるエントロピー変化TΔSの差で求ま

るこれらは燃料電池の全反応を表す式(7)で与えられる

標準生成エンタルピーΔH゜変化とエントロピー変化はすでに一般的な元

素やその化合物に対して表が作成されている

液体の水に対する標準生成エンタルピーΔH゜(H2O)は

ΔH゜(H2O)=minus 28583 KJmol

また水素ガスと酸素ガスはそれぞれの元素の標準物質であるので生成エ

ンタルピー変化はゼロである

32

そこで式(7)での水を1モル化学合成するときの標準生成エンタルピーΔ

H゜は水素(ガス1モル)と酸素(ガス12 モル)の2つの材料と水(液

体251atm)の両状態における状態量の差として表される

ΔH゜=ΔH゜(H2O)-ΔH゜(H2) -12ΔH゜(O2) (42)

式(42)の右辺第2項と第3項がゼロであるので

ΔH゜=ΔH゜(H2O) =-28583 KJmol (43)

標準状態29815K(25)1atm における水素(ガス)と酸素(ガス)お

よび水(液体)のエントロピーはそれぞれ

ΔS(H2O)=6991 JKmol

ΔS(H2) =13068 JKmol

ΔS(O2) =20514 JKmol

単位で分母のKはケルビン温度の意味

と計算されているので

ΔS=ΔS(H2O)-ΔS (H2) -12ΔS(O2) (44)

=6991-13068-12times20514

=-16334 JKmol

したがって

TΔS=29815times(-16334)=-486998=-4870 KJmol

(45)

そこで標準生成ギブス自由エネルギーΔG゜は式(39)から

-ΔG゜=-(ΔH゜-TΔS) (39)

=-{-28583-(-4870)}

=+23713 KJmol

33

すなわちこのエネルギーを電気エネルギーとして取り出すことができるそ

の起電力は式(41rsquo)から

n FV=-ΔG (41rsquo)

V= -ΔG(n F)

各数値を当てはめれば

V=237130(2times96485)

=1229 volt

先に【化学反応と電気エネルギー】のところで記したとおり25の基準

状態におけるこの電極電位はE゜=+1229 volt が得られているすなわち

こうして標準生成ギブス自由エネルギーから計算することでも同じ値を得る

ことができた

水素を単純に酸素と化合させる燃焼では式(43)で示されるエンタルピ

ーが発生する熱量を示している水素1モルあたり28583 KJである電池

にすれば水素1モルあたり23713 KJの仕事量が電気エネルギーとして取り

出すことができるその差は電池の場合熱が発生して利用できない

化学反応の過程を利用して化学エネルギーから直接電気エネルギーに変換す

るのが電池という装置であるが化学エネルギーは100電気エネルギ

ーに換えることはできないこのようにエネルギーの一部は電池の熱として

発散してしまう

理想気体の状態方程式

ギブス自由エネルギーΔG を定義した式(39)とエンタルピーΔH の定義

式(28)から

ΔG =ΔH-TΔS (39)

ΔH =ΔU +VΔP+ PΔV (28)

そこで次式が得られる

34

ΔG =ΔU+VΔP+ PΔV-TΔS (46)

またエネルギー保存則から得られた式(26)を応用すればギブス自由エ

ネルギーが変形できる

Q =ΔU+PΔV (26)

から

ΔU=Q-PΔV (47)

したがって式(46)は

ΔG = Q-PΔV+VΔP+ PΔV-TΔS

ΔG = Q-TΔS+VΔP (48)

エントロピーの定義からQ=TΔSであるから結局式(48)は

ΔG = VΔP (49)

と表すことができる

成分が混合された気体分子の分子間に働く力をゼロと仮定した「理想気体」を

考えるとき状態方程式としてボイルシャルル(Boyle-Charles)の法則が

利用できる

PV=nRT (50)

ここでnは気体のモル数PVT はそれぞれこれまでと同じ圧力体積温度(ケルビン温度)でありR は気体定数と呼ばれるもので次の値を持

R= 831441 JmolK (51) 単位で分母のKはケルビン温度の意味

35

状態方程式から式(49)の右辺を導くことを考えてみよう式(50)は

1モルの気体について V に対し次のように変形することができる

V 1

PRT (50rsquo)

両辺に圧力の微小変化量⊿P をかけると

PP

RTP V (52)

これを微分方程式として圧力p0 からp1 まで(p0≦p1)積分するなら

1

0

1

0

1

0

1p

p

p

p

p

pdP

PRTdP

P

RTdPV (53)

関数 f(x)=1x を積分したときの関数はF(x)=ln(x)であるので(ln は e を底

とする自然対数loge)

右辺=0

1ln)0ln()1ln(p

pRTpRTpRT (54)

ギブス自由エネルギーを表す式(49)は次のようであったから

ΔG = VΔP (49)

式(52)から得た式(54)を当てはめると状態G0(p0T)からG1(p1T)

へ変化する過程で圧力が p0 から p1 まで変化するものとして

dGG0

G1

G( p1T ) G(p0T ) RT lnp1

p0 (55)

あるいはこれを書き直して

V

36

G(p1 T) = G( p0T ) + RT lnp1p0

(56)

特別にG0(p0T)を標準状態T=29815K(25)p0=1atmに指定する

なら標準生成ギブス自由エネルギーを記号G゜として (56rsquo)

と表すことができる

式(56rsquo)の意味するところは標準状態から圧力の変化を伴う過程で理

G(p1 T) = Go + RT ln p1

想気体のギブス自由エネルギーは圧力の対数に比例して上昇することである

このことはさらに新しい着想を生む

すなわち水素を燃料とする上の燃料電池で1atm 標準状態の水素ガスの圧力

を2atm に上げれば式(56rsquo)からRTln2 余分にギブス自由エネルギー

が取り出せることになる

燃料電池において起電力を生むエネルギーは隔壁を水素イオンもしくは酸

素イオンが浸透しようとする力であるので1atm の水素ガスと2atm のそれで

は浸透しようとする圧力が異なりここに起電力が生じる

式(56)の第二項が圧力の差による仕事であるからこれをΔG とすれば

W=-ΔG の仕事量が電気エネルギーとして取り出せるはずである

W = minusΔG = minusRT lnp1p0

(57)

起電力に換算するために式(41)を使うと

W = n FV=minus ΔG (41)

から

01ln

pp

nFRTV ⎟

⎠⎞

⎜⎝⎛minus= (58)

この式(58)は一般にネルンスト(Nernst)の式と呼ばれる

37

理想溶液のギブス自由エネルギー

理想気体を想定したように無限に希釈された混合溶液に対して理想溶液を仮

定する「系」の圧力温度を一定に保つならば体積内部エネルギーエンタ

ルピーギブス自由エネルギーなどの示量数は混合溶液を構成する物質のモ

ル数mに比例するたとえば標準状態にある物質の1モルの体積をVとすれば

mモルの体積はそのm倍mVであるそうすると溶液中のi番目の成分がmi

モル「系」から「外界」に仕事をするときその成分iの持つ自由エネルギーの

mi倍の仕事が「外界」になされると考えればよい

この溶液成分のモル数と化学的仕事を結びつける示強因子がギブスによって

化学ポテンシャルと名付けられ一般に記号μが用いられる

化学ポテンシャルはこれまで見たようにギブス自由エネルギーで表される

また電位がψ(プサイ)にある系から-Δeの電荷が放出されるときには

-ψΔeの電気的仕事が得られるそこで記号μに両者を合わせた意味を持

たせて「電気化学ポテンシャル」と呼ぶ

概念の上で物質は電気化学ポテンシャルの高い方から低い方へ勾配にした

がって移動する

理想気体の標準状態が気体分圧を T=29815K(25)で 1atm としたのに対

し溶液成分の標準状態はその分圧に相当するモル数 m を用いるすなわち

標準状態にある成分 i の電気化学ポテンシャルμ0iは成分の持つ電荷(H+なら

1)を n として

μ0i = G i゜+nFψ i (59)

ギブス自由エネルギーは式(56rsquo)を借り理想溶液中の成分に対しては気

体圧力をその成分のモル濃度Cに書き換えればよいそこで

G(CT ) G RT lnC (60)

と表すことができる

したがって一般的な成分 i の電気化学ポテンシャルμiを表す式は標準状態

からの自由エネルギーの変化を考え式(59)と合わせて次のようになる

38

ψnFGii 0

式(60)から

ii CRTGTCGG ln)( 0

よって

(61) ψnFCRT iii ln0

実際的なことを考えると成分濃度はその有効イオン濃度とする必要があり

「活量係数」γを導入して次式で表されるイオン活量aを用いる

ai = γCi (62)

一般的にはγ=1と近似してモル濃度Cを使っているこのテキストでも

必要ではない限りイオン活量を用いることを省略して簡単に記述したい

膜電位

燃料電池に使われたナフィオンのような一つのイオンを通す膜を介して膜

の両側にC0 とC1 のイオン濃度差がある溶液が接するときの電気化学ポテン

シャルを考えよう

ある容器の底にナフィオン膜を取り付け容器の中と外のイオン濃度をC0

とC1としそれぞれの電気化学ポテンシャルをそれぞれμinとμoutとする

式(61)を使って

容器の中の電気化学ポテンシャル

(63) innFCRTin ψ 00 ln

容器の外の電気化学ポテンシャル

(64) outout nFCRT ψ 10 ln

イオン浸透性の膜を介して濃度変化が無視できるほどの移動があると考え

その電気化学ポテンシャルの差を式(63)(64)から求めれば

39

)(ln0

1 inoutinout nFC

CRT ψψ (65)

この系において今注目しているイオンが膜を介した両側で平衡状態にある

とき式(65)はΔμ=0と考えることができるすなわち

0)(ln0

1 inoutnFC

CRT ψψ

膜内外の電位差をΔψ=ψoutminus ψinとすれば

1

0

0

1 lnlnC

C

nF

RT

C

C

nF

RTψ (66)

式(66)は理想気体に対するネルンストの式(58)と同様溶液中のイ

オンに対するネルンスト(Nernst)の式として与えられる

細胞の膜においてもその生体膜の内外でたとえばカリウムイオンのように

非対称に分布して平衡に達している場合には式(66)で与えられる膜内外

で電位差が生じるこれは一般に膜電位と呼ばれる膜電位は平衡電位とも

呼ばれる

たとえば膜内外に1価のカリウムイオンに10倍の濃度差があるとすると

通常カリウムイオンは細胞内の濃度が高いので

C0 = 10timesC1

であるから

これを式(66)に当てはめてln(10)=2303 を用いlog への変換をすれば

Δψ=2303times(RTF)timeslog(10)

であるこれに R=831441 JmolKF=96485 CmolT=29815 K(25)

の各数値を当てはめると

Δψ=2303times831441times29815times196485 JC

=+005917 volt

すなわち膜の内外で約+60ミリボルトの膜電位が生じることになるこの

分だけ細胞の外側の電気化学ポテンシャルが高く膜の内側の膜電位が負であ

るそして膜にあるカリウムチャネルがこの電位を示すとき受動的なカリ

40

ウムの膜内外の移動は平衡に達することになる

水素イオン濃度測定

「標準水素電極」は1モル塩酸溶液につけた白金電極に1atm の水素ガスを

吹き込んで平衡状態に達したときの電位を基準としてゼロボルトと規定した

そこである溶液についてその水素イオン濃度を知ろうとするとき同じ水

素電極を用いることを考えれば標準状態にする目的で用いた1モル塩酸溶液

を濃度未知で X モルの塩酸溶液と想定すればその水素イオン濃度を知るこ

とができるだろうか

標準状態ではない X モルの塩酸溶液に浸けた白金電極が半電池として働くこ

とは間違いなさそうであるしかしその白金電極が持つ電極電位を測定する

にはいずれにしても標準電極と組み合わせて「電池」を構成しその電池

の起電力として計る必要がある電池を作れば起電力を知ることができ相

手の半電池の電極電位が知られていれば濃度が未知でXモルの溶液について

その水素イオン濃度を知ることができるだろう

こうした目的のためにいちいちゼロボルトと規定した標準水素電極を用いる

のは煩雑なのでしばしば後出の「銀塩化銀電極」が参照電極として用いら

れる

まず予め「銀塩化銀電極」を標準水素電極と組み合わせて電池とし一度

その起電力を測定しておけば後はいつもそれを標準電極として利用できる

「銀塩化銀電極」の半電池は

H+ (1 moll) Cl- | AgCl | Ag(s)

これに「標準水素電極」を組み合わせ電池を構成すると次のような電池

になる

Pt(s) | H2(g) | H+ (1 moll) Cl- | AgCl | Ag(s)

この電池の起電力を知れば「銀塩化銀電極」の半電池としての電極電位

を知ることができ参照電極として未知の半電池と組み合わせて起電力を測

定して相手の電極電位を計算できる

41

濃度 X モルの塩酸溶液を未知の溶液と想定すればその電極電位を知るために

組み立てる電池は次のようになる図10にその電池の図を示した

Pt(s) | H2(g) | H+ (x moll) Cl- | AgCl | Ag(s)

この電池の全反応は次の反応式で表される

AgCl(s) 1

2H2 (g) H Cl Ag(s) (67)

図10未知溶液の水素イオン濃度を測定しようとするための電池

化学反応の一般的な式

ここで電池に利用される化学反応から得られるエネルギーをギブス自由エ

ネルギーに換算し起電力を具体的に知る手だてとすることは上ですでに学

42

んだがより一般的な式を再度ここに書きだしておこう

化学反応が紙面で左から右に進む反応として次のような一般式で与えられ

るとき

aA + bB rarr cC + dD (68)

ギブス自由エネルギー変化量は標準状態ΔG゜からの変化量を加える形で式

(60)と同様次の式によって表される

G G RT(ln aCc aD

d ln aAa aB

b )

G RT ln

aCc aD

d

aAa aB

b (69)

aAは成分 A のイオン活量であるその他の成分も同じ

得られたエネルギーを電気エネルギーに換えるなら式(41)に習って

次式で表せば

ΔG=-n FV

there4V=-ΔG(nF) (70)

このときの起電力は標準状態における電位 E゜からの変化量として次式で与

えられる

E E

RT

nFln

aCc aD

d

aAa aB

b (71)

標準状態における起電力 E゜は反応が平衡状態にあるときで反応平衡定数

を K とするなら

K aC

c aDd

aAa aB

b (72)

で表されるそこでE゜は次のように書き改めることができる

43

E

RT

nFln K (73)

そこで式(67)で表される図10の電池「水素minus 銀塩化銀電池」に

対する起電力をギブス自由エネルギーから求めてみよう

反応から式(71)に当てはめれば

E E RT

Fln

aH

1 aCl

1 aAg1

aAgCl1 aH2

1

2

(74)

力学の慣例にしたがって固体の純物質の活量は1として扱い水素ガスを

想気体として見なして活量を1atm とするなら式(74)は次のよう

に簡略化される

E E

RT

Flna

H aCl (75)

ころで理想溶液として近似的に取り扱うときの希薄溶液でたとえば水素

入して詳細に検討するなら式( れる起電

オン濃度はイオン活量として aH+の記号を使うときすでに【理想溶液のギ

ブス自由エネルギー】の章で述べたようにこれを有効イオン濃度とする必要

がありイオン活量 a は「活量係数」γを導入して次式で表した

a H+= γH+CH+ (62)

この活量係数を導 75)で誘導さ

を計ることによって経験的に試料溶液中の水素イオン濃度を求めることは

困難である式(75)にあるイオン活量の項はモル濃度 C と活量係数γを

用いて次式で書き改められる

lnaH aCl

lnCH CCl

lnH Cl

(76)

まり式(76)右辺の第二項において互いに相手が知られなければ自分

決めることができず結果的に起電力を知っても(75)の値から水素イオ

ン濃度を導けないここに工夫が必要になる

44

の定義とその目盛り

液中の水素イオン濃度を直接意味するものではなく

を定義するとき測定されるのは1リットルの溶媒に存在す

pH = -log a H+ = -log(γH+CH+) (77)

際に試料溶液の pH を決定する際はpH 標準液を用いる

に溶液を入れ試料溶液 X と pH 標準液 S を

参 極を接続し電池を作成しその起

pH

現在pH の定義は溶

で述べたようにそれが簡便に測定できるものではないため次のように定

義されている

水素イオン濃度

水素イオン活量であるため定義式としては活量係数をγH+として次式で与

えられる

その要領は次のようである

上に図示した水素電極の容器内

れぞれ半電池(I)と(II)に入れる

半電池(I) Pt | H2 (1 atm) | 試料溶液

半電池(II) Pt | H2 (1 atm) | 試料溶液S

照電極として上図のごとく銀塩化銀電

電力を測定する半電池(I)のときの起電力を E(X)半電池(II)のそれを E(S)

とするこのとき試料溶液Xの pH は次式で計算される

pH (X) pH(S) E(S) E(X)

RT ln(10) (78)

ln(10)は自然対数を常用対数に戻すための定数で2303 を用いる

標準液

pH 標準液 S はpH 第一次標準液第二次標準液と呼ばれるべき

る測定

25で pH 4005 を示す

pH

上述した

のであり絶対的測定法である起電力の測定によって値をつける

標準液は安定で純粋な結晶が得られる試薬を調整してこれを測定す

上と同様に水素電極を用いこれに緩衝液を入れる参照電極として銀

塩化銀電極を接続して電池の起電力を測定する

たとえば005 moll フタル酸水素カリウム溶液は

一次標準(Primary Standard PS)の一つである半電池(III)として水素

45

電極を次のように準備する

半電池(III) Pt | H2 (1 atm) | PS 溶液

て電池を形成したとき得られる起電

参照電極として銀塩化銀電極を接続し

は式(75)から

E E

Ag AgCl RT

Flna

H aCl (79)

オン活量を濃度と活量係数の積(a H+= γH+CH+)にし自然対数を常用対数

すれば

E E

Ag AgCl RT ln(10)

F log(

H + CH+ Cl- CCl - ) (80)

E゜は水素標準電極(水素ガス分圧を1atm電極を浸ける溶液に001 moll

H

Cl を用いる)で得た起電力である

式(80)から

RT ln(10)

Flog(

H CH Cl

) (E EAg AgCl )

RT ln(10)

Flog C

Cl

(81)

らに

log(

H CH Cl

) F

RT ln(10)(E E

Ag AgCl ) logCCl

(82)

ころで式(77)から

(γH+CH+) (77)

-log a H+ =-loga H+-log(γCl-) +log(γCl-) =-log(a H+γCl-) +log(γCl-)

(83)の一番右の式で第一項は

pH = -log a H+ = -log

であるが右の式をさらに変形すると

(83)

46

-log(a H+γCl-)=-log(γH+ CH+γCl-) (84)

たがって式(82)の右辺で示されるように電池の起電力を測定すれば

よ 実際には溶液の塩素イオン濃

液で起電力を求め外挿する

起電

これによってpH を意味する式(83)は次式(85)で与えられる

p(aHγCl)はRG Bates によって Acidity Function と呼ばれている

らに式(85)最終項の log(γCl-) を補正しなければならないこの項は

本工業規格)によっても

であってこれは式(82)の左辺である

いただし塩素イオン濃度の項があって

をゼロにしたときの値が必要である

実測する際には塩素イオン濃度をゼロにできないので塩化ナトリウム NaCl

等を濃度を変えて添加しその時々の緩衝

勧告ではNaCl で 000500100015moll の3つの濃度を例示している

すなわち塩素イオン濃度ゼロのときの値は各塩素イオン濃度に対して

の値をそれぞれプロットしグラフから塩素イオンがゼロのときの起電力の

値を3点に対する回帰直線の延長で外挿して求めるこの点を次のように書

log( C H H Cl CCl

0

pa log( C log( (85) H H H Cl C

Cl0 Cl

)

素イオンの活動係数で与えられる補正項である

無限希釈溶液中のイオンの活動係数は理論的に Dubye-Huckel の式を用い

近似的に求めることが可能であるこれはJIS(日

用されていて Bates-Guggenheim の規約と呼ばれる (Bates RG

Guggenheim Pure Appl Chem 1 163-168 1960)

Dubye-Huckel の式は次のように与えられる

log A I

i 1 iB I (86)

47

I iについてそのモル濃度

計算される

はイオン強度でイオン mi と電荷 zi から次式で

I 1

2mizi (87)

また iは(86)式のBは温度と溶媒の性質による定数であり イオンの大

きさに関するパラメータで水和イオンの大きさとほぼ一致した値をとる標

準法の勧告では塩素イオンに対しイオンの大きさを46Åと決めてiBを

1

5 にしているそこで式(84)は次のようになる

ClA I

log 1 15 I

イオン強度 I は塩素イオン濃度を含まない計算となる

以上の方法によって実用的な pH 測定に用いられる第一次第二次標準液の

pH の値が得られる

絶対値としての

はpH の絶対測定法(第一次標準測定法)とされている

銀塩化銀参照電極は分極現象を防ぐために棒状の銀を塩酸で処理し表

に塩化銀を生成させたものを飽和塩化カリウム溶液につけてある

(88)

参考現在は実験的に求めた値と理論値の組み合わせで

素イオン濃度を求める方法を規定しているこの起電力から水素イオン濃度

を知るための測定方法

Buck RP Rondinini S Covington AK Baucke FGK Brett CMA Camoes MF

Milton MJT Mussini T Naumann R Pratt Kw Spitzer P Wilson GS

Measurement of pH definition standards and procedures Pure Appl Chem

74(11)2169-2200 2002Kristensen HB Salomon A Kokholm GInternational

pH scales and certification of pH Anal Chem 63(18) 885A-891A 1991)

銀塩化銀参照電極

電極の構成は

Cl-(aq) | AgCl(s) | Ag(s)

48

この半反応は次のようになる

AgCl(s) + e- rarr Ag(s) + Cl- (89)

の反応は次の2つの反応に分けて考えることができる

Ag+ + e- rarr Ag(s) (91)

AgCl(s)rarr Ag+ + Cl- (90)

図11銀塩化銀参照電極

(90)における銀 る塩素イオンによって左

されることが推測される

そこでカッコ [ ] をそれによって囲まれるイオンの濃度を表すことにし

式 イオン Ag+の溶解性は共存す

塩化銀の乖離定数Kを考えると

49

K = [Ag+][Cl-] (92)

これから

[Ag+]= K[Cl-] (93)

化カリウム溶液に漬けた銀塩化銀電極の電位 E は水素標準電極に対する

電 で与えられる

位を E゜として次式

E E

RT

nF

[ Ag ]

[Ag(s)]ln( )

Ag(s)のイオン活量は常に1とする

ここで半反応の電極電位を求めるために式(75)を利用することにすれば

(94)

熱力学の慣例にしたがって純物質個体

E E

RT

Flna

H Cl a (75)

式 の半反応をみると

応で電子1つが移動するので n=1 とするR=831441 JmolK1F = 96485

C はめれば

これに銀イオンの濃度として式(93)を当てはめる

この反応で移動する電子は (89) 銀イオン1つの反

molT=29815K(25)ln(10)=2303などの定数を当て

2303RTF = 005917

であるから(94)式は次のように表現できる

log[Cl]) E E 005917(logK (95)

たがって標準水素電極に対する銀塩化銀参照電極の標準状態における電

位 は半反応(89)に対して ゜=+0799で

化銀の乖離定数 K は182times10-10 であるのでその対数を取れば-973993

0799-005917times973993-005917log[Cl-]

E゜ E ある

ある

そこで式(95)は

E =

50

= 0799-0576-005917log[Cl-]

= 0223-005917log[Cl-] (96)

電極電位の関係について実測値

こうして求めた塩化カリウム溶液の濃度と

計算上の値は次のようである

KCl moll vs SHE volt25 計算値 volt25 01 02881 02822 35 0205 01908 飽和 0199 minus

実用 測定

実際の現場で水素イオン濃度を測定する目的の測定法で上のような2つの

極が同じ溶液に浸かっていたのでは試料溶液を交換するにも便利ではない

の容器に入れる未知試料溶液と銀塩化銀電極を隔離する

的な pH

そこで水素電極側

的で二つの電極容器をつなぐ液絡部をグラスフィルターやセラミック板

飽和塩化カリウムで作成したゼラチンなどの塩橋によって隔離遮断するこ

れを液絡部とよぶ

電池として機能するために必要な溶液イオンの交換はこの液絡部で行う

組み立てる電池は電池式で次のように表される

Pt(s) | H2 | 試料 (H+ x moll) || 飽和 KCl | AgCl | Ag(s)

の標準電極と銀塩化銀電極とは区切られていて溶液の直接の接触がない

とを意味するために電池式ではタテ二重線を用いる銀塩化銀参照電極

の容器には飽和塩化カリウム溶液が入れられる

51

図12液絡部のある pH 測定のための電池

この液絡部のある電池では塩橋を記号lsquo | | rsquoで表して次のように記す

試料 (H+ x moll) | | 飽和 KCl

ここでは試料溶液と飽和塩化カリウム溶液の異なる2液が接している

このような界面では膜電力が生じるのと同様「液間電位差」が生じることが

知られているしたがって上の電池で測定される起電力 E は

E = E[銀塩化銀電極電位]+E[液間電位]+E[水素電極電位]

で与えられることになってE[液間電位]のために図12の電池の起電力

は銀塩化銀参照電極の値を知っていても水素電極容器内に入れた未知溶

液の水素イオン濃度を正しく知ることができない

52

そこで実用的な測定法としてこの E[液間電位]を膜電位として積極的に利

用する方法が工夫されたすなわち水素イオンに感応するガラス薄膜を用い

るガラス電極法である

53

ガラス電極

ガラスはケイ素原子と酸素原子からなる SiO4 の結晶構造を持ち酸素で囲

まれた空隙があって水素イオンがそれを埋めることができる

この性質によってガラス膜表面は水溶液中の水素イオンに応じて膜電位を

変化させるのでこれを水素イオン濃度測定用の電極として利用することが考

えられるこれが通常用いられるガラス電極である

ガラス電極は標準電極と組み合わせれば電池を構成することができこの電

池の起電力を知ってガラス薄膜の内外にできたイオン濃度勾配を知ろうとす

るものである

薄いガラス膜(01mm程度)をはさんで接する2つの溶液のH+イオン濃

度が異なるとその差に応じてガラス膜の両側に電位差(Eg)が現れる

ネルンストの式でガラス電極の内部に入れた既知の濃度のH+([H+]in)に対

し試料中の水素イオン濃度が[H+]sampleのとき次の電位を生じる

)][

][log(059170)

][

][ln(

sample

in

sample

ing

H

H

H

H

F

RTE

(97)

図13ガラス電極

電極を構成するのは銀塩化銀電極と同じ電極で用いる塩溶液は一般的

54

に 01モル塩酸溶液である

この半電池の電池式は次のように書くことができる

Ag(s) | AgCl(s) | HCl (01 M) | ガラス薄膜 || 試料溶液 H+ (x moll)

Eg

この半電池の電極電圧を測定するために銀塩化銀標準電極と組み合わせ

電池を作って起電力を計る

構成される電池は下図のようになる

ガラス電極 銀塩化銀標準電極

図14ガラス電極を用いた pH 測定用の電池

この電池の起電力は次の各半電池の平衡電位を合わせたものになる

55

E1ガラス電極の内側電位

Ag(s) | AgCl(s) | HCl (01 M)

Egガラス薄膜の内外に生じる膜電位

HCl (01 M) | ガラス薄膜 || 試料溶液 H+ (x moll)

E2液間電位(膜電位)銀塩化銀標準電極のセラミックを介した試料溶液

と銀塩化銀標準電極の内部液(飽和 KCl 溶液)の間に発生する電位

試料溶液 H+ (x moll)|| セラミック | KCl(飽和)

E3銀塩化銀標準電極

KCl(飽和)| AgCl(s) | Ag(s)

pH メーター用のガラス電極に使われるガラス薄膜は水素イオンに感応して

膜電位(Eg)を生じるこれは【膜電位】の章で記したように薄膜がある

一つのイオンのみを通過させる特性を持っている場合にイオンが膜を介した

両側で平衡状態に達したとして電気化学ポテンシャルを膜の両側で等しいと

考えてそのイオンが濃厚な側から希薄な側にその差によって圧力を生じると

するものである

一方同じ試料溶液が銀塩化銀標準電極のセラミック液絡部を介して生じ

るだろう液間電位(膜電位E2)はいま関心がある水素イオンに対して特異

的に感応するのではないので試料溶液の水素イオン濃度に関係なく一定と見

なすことができる

すなわちpH メーターを構成する電池の起電力 E は

E = E1+Eg+E2+E3 (98)

このうちEg以外は一定と見なせるので

E1+E2+E3 = E

として式(98)を書き直すと

)][

][log(059170

sample

ing H

HEEEE

(99)

Eは標準液によって校正されるべき標準電極電位である

56

電極の校正

実際のイオン濃度を測定する場合低濃度標準液と高濃度標準液で得られ

る起電力を測定し計測のイオン濃度に対する係数(傾き)を求めておき未

知の試料に対して起電力を測定してそのイオン濃度を算出する方法が採られる

低濃度標準液と高濃度標準液のそれぞれの濃度をCLとCHとすればそれぞ

れの起電力ELとEHは次式で表される EH = E +β logCH (100)

EL = E +β log CL (101)

ただしβは式(99)の係数を簡略にしたものである

式(100)と(101)から検量線の傾きが次式で表せる

ΔE = EH minus EL = β(logCH minus logCL) = β logCH

CL

(102)

したがって係数βは

β =ΔE

log CH

CL

(103)

であらわされる

このときに使われる標準はすでに前出の pH 第一次標準第二次標準溶液で

ある

金属イオンに対応するイオン選択電極

現在臨床検査で日常的に使われている電解質測定のための電極はナトリウ

ムカリウムカルシウムクロールなどおよそ臨床的に必要な金属イオン

に対して入手可能である

カリウムイオン測定用のバリノマイシンの発見によってクラウンエーテルと

57

呼ばれる一連の化合物が知られたクラウンエーテルはその分子の中心に立

体的な空間を持ち特定のイオン径に対し合致するのでそのイオンに対して

選択的に感応するこれらの化合物はイオノフォアと呼ばれる

図 15クラウンエーテル

1つの金属イオンが環状化合物

15-crown-5 の中央にある空間を充填

している模式図

15-crown-5 の構造を作る10個の黒

い丸は炭素炭素2個のつながりごと

にある中心の白い丸は酸素酸素と

金属イオンの間の距離はおよそ 22~

23Åであるカリウムのファンデン

ワールス半径は 135Åイオン半径は

15~16Åである

測定したいイオンに対しポリ塩化ビニル(PVC)を支持体としてイオノフ

ォアを添加した液膜の電極膜を作成しこれをガラス電極におけるガラス薄膜

と同様試料に接する電極膜として用いるこの構造から一般的に液膜型電極

と呼ばれる電極膜には特異性を高めるため妨害イオン排除剤などが添加

される

pH メーターと同様銀塩化銀標準電極と組み合わせ電池を形成しその

起電力を計る測定したいイオンが液膜に対して内外で平衡に達したときの

膜電位を測定するのはガラス電極と同じである

カ リ ウ ム イ オ ン に は Bis[(benzo-15-crown-5) ( 正 式 名 は

Bis[(benzo-15-crown-5)-4-methyl]pimelate)ナトリウムには Bis[(12-crown-4)

やDibenzyl-bis[(12-crown-4)などがイオノフォアとして用いられる

58

図16カリウムイオン測定用に使われるクラウンエーテル

図17ナトリウムイオン測定用に使われるクラウンエーテル

59

参考イオン選択電極に関する文献Xia Z Badr IHA Plummer SL Cullen L

Bachas LG Synthesis and evaluation of a bis(crown ether) ionophore with a

conformationally constained bridge in ione- selective electrodes Anal Sci 14(2)

169-173 1998 Oh K-C Kang EC Cho YL Jeong K-S Y oo E-A Paeng K-J

Potassium-selective PVC membrane electrodes based on newly synthesized

cis- and trans-bis(crown ether)s ibid 14(10)1009-1012 1998 Dojindo WEB

site httpwwwdojindocojpwwwrootproductsjinfo2protocolp31pdf

<補遺> 60

補遺 状態関数 (本文 p21 10 行目参照)

一つの平衡状態にある系 A とこれに接する系 A にとって外部である系 B について系 B

から系 A に熱を与えこれによって系 A が他の平衡状態に移ったとき系 A はその結果とし

て膨張し系 B に対し仕事をする

このときの微少な熱量の移動を記号drsquoQ またなされた微少な仕事をdrsquoW とすると

系Aの内部エネルギーに関する微少な変化drsquoUA は両者の和として表される

WdQdUd A primeminusprime=prime (a-1)

この式 a-1 と本文中の式25との関係について

WQU A Δminus=Δ 本文(25)

<補遺> 61

式 a-1 と式25の記号の違いは変化の起きる前の平衡状態 S1 から変化後の平衡状態 S2

に状態変化があったとするなら式 a-1 を積分することで式25が得られるものと考えて区

別している

A

S

S A UUd Δ=primeint2

1 (a-2)

このことは重要であるすなわち内部エネルギーU は変化の起きる前後の状態を指定する

ことによって値が定まることを意味するこのように積分によって値を定めることが出来る

のでdrsquoU は完全微分であるという

内部エネルギーのように系の状態だけで値の定まる量を状態関数として扱う

一方式 a-1 のdrsquoQ drsquoW についても同様に微少の変化量を表しているが平衡状態 S1

から S2 への経路を指定しなければ積分の値は定まらない

本文中の記号にしたがって仕事量ΔW を次のように表すことにする

VpW Δ=Δ 本文(20) V

<補遺> 62

体積と圧力の関係を表す図を使ってこの仕事量が意味することを考える圧力 prsquo の下で

体積が V1 であるときを状態 S1 として圧力一定の下で体積を V2 まで膨張させるような変

化を行った後体積を等しく保って圧力を p にまで上げたときの状態を S2 とするこのとき

の仕事量は膨張に伴うものであるから図の体積‐圧力線の下の面積で示すことができる

平衡状態 S1 から S2 への変化の道筋を別にたどってみよう

新しい経路では圧力を先に p まで上げた後に膨張変化させている

図から直感的に明らかであるので数式での扱いを省略するが2 つの経路による仕事量には

差がある

すなわちdrsquoW は drsquoU と異なり変化の初め S1 と終わり S2 の状態が与えられても積分値

は定まらず変化の経路によって違ってくる

このように変化の経路を指定しなければ積分値が定まらないものを不完全微分と呼び扱

いを区別する

本文 p21 へ戻る

<補遺> 63

VpW

WQU

VpQU

VpUQ

1122 SSSS pVUpVUQ

pVU

VpUHHHQ SS 12

エンタルピー (本文 p24 20 行目参照)

本文中の式 20 および 25 から一定の圧力の元で起きる状態変化において内部エネルギー

の変化量に対する式 a-3 を得る

本文(20)

本文(25)

(a-3)

式 a-3 を Q について書き直す

(a-4)

状態の変化が平衡状態S1から平衡状態S2に移ったものとして式 a-4を丁寧に書き直すと

(a-5)

並び替えて

(a-6)

式 a-6 を見ると定圧過程における熱量の流入は

(a-7)

の形を持つ関数の差であることが分かる

一般に化学反応のような変化の過程では大気圧の下で行われるようなものに興味がある

そこで式 a-7 で与えられる項を一つの関数として定義するこれをエンタルピーと呼び記

号 H を与える式 a-4 はエンタルピーの変化量で次のように書き改められる

(a-8)

圧力が一定の下で起こる状態変化について流入する熱量は式 a-8 で示されるようにエンタ

ルピーの変化量に等しい

V

V

V

V V

V

V

1212 SSSS VVpUUQ VV

<補遺> 64

1Q

We

また式 a-8 からオートクレーブ内で起こるような体積変化のない過程ではこの値が内

部エネルギーの変化量で与えられることが明らかである

本文 p24 へ戻る

エントロピー (本文 p26 17 行目参照)

エントロピーは次のような思考実験から発想された仮想的な状態関数である

理想気体よりなる系 A が温度 T2で熱平衡状態にあり温度 T1の外部の熱源と接しているこ

とを想定する系 A の外部を系 B と呼ぶことにするT1は T2に対して無限小だけ高い温度と

する

系 A が系 B に対して温度圧力について平衡を保ちながら緩慢に系 B より熱量 Q1を受け取

る過程を考える(このような過程を準静的過程と呼ぶ)これによって系 A が熱量 Q1を得て膨

張するとき系 B に対して仕事をする続いて系 A から熱量 Q2が系 B に戻ることを考える

想定されるこの変化が可逆的であれば系 A と系 B を併せた全体は元の状態に戻る蒸気機

関に関するこのような研究が Nicolas Carnot によってなされたのは1824 年のことであった

ここに想定されたサイクルに対する Carnot の効率 e は移動した熱量となされた仕事によ

って定義され次の式で表される

(b-1)

<補遺> 65

理想気体では内部エネルギーU の変化ΔU はゼロと考えるしたがって熱力学の第一法

則を表す式(本文中の式25)から次の関係が示される

0=Δminus=Δ WQU

WQ Δ= (b-2)

これによってCarnot Cycleの効率eはQ2lt0 として次のように書き改めることが出来る

1

21

QQQe +

= (b-3)

ところで気体の状態方程式から1 モルの気体について次のような関係が示される

RTV

P

P1=

V = RTV (b-4)

V 式 b-4 の両辺に体積の微少変化量ΔV をかけて

(b-5)

これを体積Vについてその変化をV1からV2までとして積分するならば次式が得られる

VV

RTVP Δ=Δ 1V V

V

intint = 2

1

2

1

1V

V

V

VdV

VRTPdV

1V2V

11 lnRTW =

(b-6)

Q1の熱量によって起こる膨張がV1よりV2までとし圧力P温度T1の下でなされるその仕事

量をW1とするならそれは式b-6 の右辺によって示されるすなわち

(b-7)

VV

1

2lnVVRT=

V V

VV

V

V2int V2 intV1 V1

<補遺> 66

またQ2の熱量の移動が圧力P温度T2の下で起きこれによって系Aが可逆的に圧縮され

るなら体積変化はV2よりV1まで起こりその仕事量をW2で示すと次式のように表される

(b-8)

1

22

2

122 lnln

VVRT

VVRTW minus==VV

VV

Q1=W1Q2=W2の関係から式b-7 およびb-8 を用いてCarnot Cycleの効率eを表す式b-3

を書き改めると温度のみの関係式として次のように表される

1

21

TTTe minus

= (b-9)

ここでサイクルが可逆的過程であると想定するならば式 b-3 と式 b-9 から

1

21

1

21

TTT

QQQe minus

=+

= (b-10)

これから

12112111 QTQTQTQT minus=+ (b-11)

整理すると

02

2

1

1 =+TQ

TQ (b-12)

この考えをさらに発展させ系A

と系Bの間に数多くの系を挿入すること

にしてそれらの系を同様に熱源として

T1T2Tnと考えるこれによっ

て熱の受け渡しが系Aから系Bに至り

再び系Aにもどるサイクル過程に数多

くの寄り道の過程を加えることになる

熱量の移動に関して上の場合と同じく

準静的過程で行われると考えるこの

サイクル全過程について初めと終わ

<補遺> 67

n

i i

i

T

Q

1

0

0T

dQ

T

QS

T

dQASAS )()( 12

りが同じ状態になる可逆的な過程であるなら式 b-12 を拡大的に考えることになってそれ

は次式で表される

(b-13)

式 b-13 には重要な関数が現れるすなわち熱量と温度の比QT である

もし一つの系が無限小だけ温度の高い(dT )外界から温度圧力など平衡を保ちなが

ら極めて緩慢な過程(準静的過程)で無限小の熱量(dQ )を受け取るならばその変化は可

逆的でありdT について連続的な温度分布をする過程を考えるとき式 b-13 をさらに発展

させて次のように積分式で示すことが出来る

(b-14)

式 b-14 で積分記号にが付されているのはCarnot Cycle のような経路を一巡することを

意味している

Carnot の熱機関の効率という着想から生まれた熱量とそれを持つ系の温度との比 QT に

重要な意味を見出したのは Rudolph Clausius で彼はこの比にエントロピーという名前を与

えたエントロピーには記号ΔS を一般に用いる

(b-15)

エントロピーは初めと終わりの状態がわかれば過程に関わらず定まるので状態関数であ

系 A と外界のエントロピー変化を考えるときそれが可逆的過程であるならばすべてを併

せた全体のエントロピー変化は初めと終わりに変化がないという意味でゼロであるすなわ

ち初めの状態を S(A1)とし次の状態を S(A2)とするならそれぞれのエントロピーを

ΔS(A1)ΔS(A2)としてこの間におけるエントロピーの変化量は次のように示される

(b-16)

<補遺> 68

T

dQdS

0T

dQ

ある一つの変化については次のように示される

(b-17)

ここで式 b-17 の S に付けられたdは微分量すなわちごく微小の変化量を意味し式 b-15

で定義されたエントロピーに用いられる一般的な記号Δと区別する

ところで式 b-10 の関係においてもし移動した熱量のすべてが仕事に変わらなければ

効率 e を表す熱量を用いた関係式と温度で表される関係式は等号で結ぶことができないそれ

はエネルギーのロスを意味し初めと終わりの状態が異なってしまうことを意味するすなわ

ち全過程が構成する一つのサイクルは可逆的でなくなる

不可逆過程での熱効率 ersquo は 大値を示す可逆的過程の熱効率 e より小さな値をとる

ee

したがって 大効率を与える式 b-8 と式 b-3 から

01221

2112

1

21

1

21

QTQT

QTQT

Q

QQ

T

TT

両辺を T1T2で割ると

02

2

1

1 T

Q

T

Q

これを式 b12 と同様に発展させれば式 b-14 についてサイクルの変化が可逆的過程の

場合と不可逆的過程の場合の両方を併せClausius の不等式と呼ばれる次の関係が成立する

(b-18)

式 b-18 の等号が成立するのはサイクルが可逆的な理想の場合に限られる

ある孤立系で状態 A1 から状態 A2 へは不可逆変化で進められ状態 A2 から再び状態 A1

に戻るとき可逆変化であるような閉じた状態変化を考える可逆系のエントロピー変化には

記号 Q を使い不可逆変化には Q を用いるとするとそれぞれ積分式を用いて状態 A1 から

状態 A2 へは

<補遺> 69

d prime

状態 A2 から状態 A1 に戻るときは

全体では

=d prime

+d

(b-19)

Clausius の不等式から

0

式(b-19)の第二項で反応を逆に進めるときには次のように書き改めることができる

=d

よって式(b-19)は次のように書き直すことができClausius の不等式とあわせると

d prime d

0

すなわち

d prime d

上式の右辺は式(b-16)を用いて表せば

d prime

∆S ∆

この状態変化を微小変化とするならば断熱変化の場合 dQ = 0 であるから

∆S ∆ dS 0

すなわち不可逆変化を含む断熱変化ではエントロピーは必ず増大する

<補遺> 70

T

QS

BA SSS

(b-20)

(次の<補遺>ギブス自由エネルギーも参照せよ)

本文 p26 へ戻る

ギブス自由エネルギー (本文 p28 27 行目参照)

エントロピーの考えを導入することによって不可逆的に状態変化が起きるときにはエン

トロピーの増大を引き起こすことを知ったこれによって目前で起きる現象について温度の

変化があるものであれないものであれまた圧力の変化があるものであってもエントロピー

の定義式によって可逆的な変化におけるエントロピーの変化量を計算することが可能である

(b-15)

しかしながらこれから起こる変化について我々がすでにあらかじめ知っている物理量を

用いて予測的にその状態変化が起きるかどうか知ることは必ずしも容易ではないその理由

は式 b-15 に示されたエントロピーΔS が系とその外界をあわせた全体のエントロピーを示

しているからであるすなわち関心のある系を系 A としその外界を系 B とすると全体

のエントロピーは次のように表せる

(c-1)

関心のある系 A のエントロピー変化を知るためには系 B のそれを知ればよいがそれは

いつも容易とは限らない系 A の性質だけで状態変化の方向を知るには別の観点が必要にな

るようだ

そこでもう一度状態変化が熱量 Q の移動によって起きることについて考えてみようエン

トロピーの補遺で議論したように熱量の移動が準静的過程により行われるときには変化は可

逆的に起こると考えたこのとき外界すなわち系 B から移動する熱量を Q1とし系 A から

0S

<補遺> 71

21 QQ

T

Q

T

QSB

21

T

QSS A

2

QH

T

HSS AA

AA STHST

のそれを Q2 と記号を当てたのでこれをそのまま使うことにすれば可逆的な過程では系 B

の熱量 Q1 はすなわち系 A から戻る Q2 に他ならないので両者には次の関係が成立するも

のとしてよい

(c-2)

したがって

(c-3)

と考えてよくこれによって式 c-1 を次のように書きなおすことが出来る

(c-4)

独立した系で圧力とその体積に変化がなく一定の条件の下で状態変化が起きるときエン

タルピーの考えを使ってすでにひとつの関係があることを導いている

本文(31)

そこで式 c-4 を系のエンタルピーΔHAによって書き改めれば

(c-5)

この両辺に-T をかけて式を書き直せば次の関係式が得られる

(c-6)

式 c-6 を見るときその右辺がマイナスの値ならば左辺のΔS はプラスの値をとることが

分かるすなわちエントロピーが増大すると見ることが出来るこれまでの過程で自然の現

象はエントロピーが増大する方向に進むとしてきたので関心のある状態変化について式 c-6

の右辺で計算される値がマイナスの値ならばその変化は起きるものと考えてよいことになる

だろうしかも右辺はすべて独立した系の状態量で示されていて我々が知りうる値で計算

<補遺> 72

TSHG

STSTHG

STHG

可能である

そこでこれを熱力学ポテンシャルを表すものとしてギブス自由エネルギーと呼ぶことに

するギブス自由エネルギーは記号 G が用いられ次のように定義される

(c-7)

ここで関心があるのは自由エネルギーの絶対値ではなく式 c-6 に示されたようにその変化量

に興味があるので式 c-7 から

(c-8)

温度が一定の条件の下で状態変化が起きることを考えるなら式 c-8 は次のように書くこと

ができる

(c-9)

ギブス自由エネルギーは式 c-9 の右辺がすべて状態量であるからこれも状態量の一つで

ある定圧定温の条件下で起きる変化ではすでに議論したようにΔGlt0 であれば状態

変化は自発的に起きるものと予測できる

つまり式 c-5 の第一項は系のエントロピーΔSAそのものであり第二項で示されるエンタ

ルピーは系 A の温度が一定に保たれているのであるから発熱する熱量として外界に吸収さ

れるものであってこれは外界のエントロピーの増大につながるものとして解釈されるした

がって化学反応のように一定の圧力と一定の温度の下で起きる変化について自由エネルギ

ー変化量はその状態変化が自発的に起きる傾向を示しているといってよい

本文 p28 へ戻る

  • はじめに
  • 目次
  • 電気エネルギー
    • 金属のイオン化
    • 電池
    • 水素の反応
    • 燃料電池
    • 化学反応と電気エネルギー
      • エネルギーと熱力学
        • エネルギー保存則
        • エンタルピー
        • エントロピー13
        • ギブス自由エネルギー
        • 電池における化学反応のギブス自由エネルギー13
        • 理想気体の状態方程式
        • 理想溶液のギブス自由エネルギー
        • 膜電位
          • 水素イオン濃度測定
            • 化学反応の一般的な式
            • pHの定義とその目盛り
            • pH標準液
            • 銀塩化銀参照電極
            • 実用的なpH測定
            • ガラス電極
            • 電極の校正
            • 金属イオンに対応するイオン選択電極
              • 文献
              • 補遺
                • 状態関数
                • エンタルピー
                • エントロピー
                • ギブス自由エネルギー
Page 27: イオン選択電極i イオン選択電極 Ion Selective Electrode (ISE) を理解する ・ pHを測定する ・ NaやKなどのイオン濃度を測定する 神戸大学医学部保健学科

24

ΔUA= Q-ΔW (25)

この式(25)は「エネルギー保存則」あるいは「熱力学の第一法則」を数

学的に表現したものである

すなわち

独立した系を考えその状態が変化するとき系の内部エネルギーの変化量はその系に入る熱量と系が外部にした仕事との差である

式(25)にはまた重要な主張があるつまりエネルギー保存則にしたが

うとき熱量は力学的エネルギーにまた力学的エネルギーは熱量に変換しう

ることを意味している

熱量を表す単位はカロリー(cal)を用いる1cal は

1 cal = 4184 J

と換算されるジュールは 1J = 1Nm (ニュートンメートル)で仕事量を

表現する単位系で表される

エンタルピー

式(25)から定圧過程で式(20prime)を利用して次の式(26)が誘導さ

れる

Q =ΔUA+pΔV (26)

ここでQは熱量を表していたのでこの関係式(26)から熱関数として

新しい関数を定義する

新しい関数はエンタルピー(enthalpy)(rarr補遺 p63)と呼ばれ次の関数

式Hで表される

H = U+PV (27)

エンタルピーの微少変化量を記号Δを使って表現してみよう

25

ΔH = ΔU +Δ(PV) =ΔU +ΔPV+ PΔV (28)

独立した系で圧力が一定の下に起きる過程を考えるならΔP = 0 (圧力の

変化はゼロ)であるから式(28)は次のようになる

ΔH =ΔU + PΔV (29)

化学反応の過程を考えるとき系に容積の変化がなく過程の前後で一定であ

るならさらにΔV = 0 であるのでエンタルピーの変化量は

ΔH =ΔU (30)

また系の仕事を体積の変化としてみる式(20)から

ΔW = pΔV= 0

であるのでこれを式(25)へ適応すると

ΔU= Q minus ΔW = Q ΔW= 0 だから

結果的に系の圧力と体積が変化の過程で一定である場合にはその系のエンタ

ルピーの変化を表す式(29)(30)は次のように簡単な式になって熱関

数と呼ばれる意味が理解しやすいだろう

ΔH = Q (31)

独立した系に等圧等積で起きる過程を見る場合にはエンタルピーは系が外

部と交換する熱量の直接的な尺度となる

H>0 なら反応に熱を使うので吸熱反応

H<0 なら発熱反応

電池のように系に起きる化学反応で生じる電子の流れを取り出す装置を考え

る場合エンタルピーの変化を電気エネルギーとして取りだしている点に留意

26

しなければならない式(31)のようにエンタルピー変化が交換される熱

量に直接表現できるといっても必ずしも熱として取り出すとは限らないこと

を注意しよう

ところでエンタルピーは内部エネルギーと同じ次元にある状態量で定圧

変化の熱量がエンタルピー変化であるからある一点を標準として定めれば

すべての物質について任意の点のエンタルピーを変化量として定めることがで

きるすなわち化学反応の過程で発熱あるいは吸熱する熱量は反応材料と

生成物の間の状態変化に対応するエンタルピーに対応する

そこで一つの元素に対してもっとも安定な状態にある物質を標準物質とし

て定め29815K(25)1atm を標準状態としてその標準物質からある化

合物を合成するときの反応熱(発熱あるいは吸熱)をその化合物の「標準生成

エンタルピー」として定義できる多くの元素に対して標準生成エンタルピー

は現在表としてまとめられている

水素や酸素はその気体状態が標準物質でありそれらの標準生成エンタルピー

がゼロと定義される

エントロピー

もう一つ新しい状態関数としてエントロピー(entropy)(rarr補遺 p64)を

定義するエントロピーを表す記号は通常S を用いその定義は次の式(32)

による

S Q

T (32)

エントロピーは系の2つの状態が決まると状態量として決まる

このときQ は2つの状態の間を可逆的に変化したとき系が受け取る熱量

T は系が熱量 Q を受け取ったときの温度(degK)である

「熱力学の第二法則」はエントロピーに関するものである

図9では2つの系が接しておりそれぞれの温度を Thigh Tlowとする

Thigh>Tlow (33)

27

今温度の高い系から温度の低い系に直接熱量 Q が移動したとすれば温度

の高い系のエントロピーの変化量ΔS は熱量が失われるので負の値になる

図9熱の移動

そこで温度の高い系のエントロピーの変化量ΔS を式で表すことにすると

次式のようになる

Shigh Q

Thigh

(34)

一方低い系のエントロピー変化量ΔS は熱量が与えられるため

Slow Q

Tlow

(35)

両方の系を合わせたエントロピーの変化量ΔS は

S Shigh Slow Q

Thigh

Q

Tlow

lowhigh

lowhigh

lowhigh TT

TTQ

TTQ

11 (36)

式(36)の最終項で(33)を前提すなわち最初に温度の高い系は高い

と決めたのだとするならエントロピーの変化量ΔS は必ず次のようになる

28

ΔS >0 (37)

すなわち独立した系がありそれより温度の低い別の系あるいは温度の低

い外界が接した場合熱量は高い方から低い方へ移動するという自然の成り行

きを説明するものである

自然界に置いてエントロピーは

ΔS≧0

の値を取りΔS=0のときは可逆的過程である

今の例でいうなら熱は温度の高い系から低い系へ移動しその逆は起きない

常にΔS >0の方向に過程が進行するまた2つの系が同じ温度であるとき

両者は平衡状態にあって熱量の移動は見かけ上なくΔS=0と表現される

「熱力学の第二法則」はエントロピーによって表現されるもので系の変化が

可逆的であるかどうかを判定する指標であり現実の世界で起きる不可逆過程

が正の値を取る方向へ進むことを示す

あるいは系の変化が起きるとき外界を含めて考えれば総エントロピーが

増大する方向に変化が起きることを意味するというようにも表現される

ギブス自由エネルギー

熱力学の第一法則によってエネルギーの取りうる形である「仕事」と「熱」

は互いに変換されうることを理解したこのことの数量的な意味は1cal=418J

で示されるさらに仕事は100熱に変換可能であるが一方の熱はうま

くやっても100を仕事に換えることができないことを熱力学の第二法則で

説明しようとしたそのためにエントロピーという概念が導入された

ここで電池のような独立した一つの系を見るとき系の内部エネルギーの減

少を仕事として取り出しうるならそれは化学反応を一つの例としてどれほど

の仕事量が取り出せるのかはどうしたら与えられるだろうか

化学反応を電気エネルギーに換える電池では先に正負それぞれの電極におけ

る半反応の平衡電位の値を利用してその起電力に対する最大値を計算した

この化学反応から取り出しうる最大仕事量を与えるものとして新しくギブス

自由エネルギー(rarr補遺 p70)と名付け記号 G を使ってそれを次のように

定義する

29

G = H-TS (38)

H はエンタルピーである第2項にある S はエントロピーを表す

ギブス自由エネルギーは化学反応のような独立した系の定温定圧過程に適

応されるので変化量ΔG を式(38)から得ておこう

ΔG =ΔH-Δ(TS)

=ΔH-(SΔT+TΔS)

温度を一定と考えているのでΔT=0 であるから

ΔG =ΔH-TΔS (39)

この式(39)を書き換える

ΔH=ΔG + TΔS (39rsquo)

ここで定圧過程ではエンタルピーを次のように式(29)で定義できた

ΔH =ΔU + PΔV (29)

式(29)の意味するところを復習すれば

系のエンタルピー変化ΔH は内部エネルギーの変化量と系が外部に

した仕事量の和として表される

これは

定圧過程で系が得るエネルギー量から仕事量を除いたもの

と言い換えることができるエンタルピー変化量は化学反応などの過程で

始めと終わりの2つの状態の差であるからそれが正の値を示す(>0)なら

系のエンタルピーは増加することを意味しその過程が進行するためには系

の外部からエネルギーが供給されなければならない

一方式(39rsquo)の右辺第2項TΔS はエントロピーの定義(32)より

TΔS = Q (40)

であるのでこれは可逆過程で系に供給される熱量を意味する

30

もしエンタルピー変化量が負の値を示す(<0)ならば系のエンタルピー

は減少しその過程が進行することによってエネルギーが取り出せるすなわ

ち式(39)(40)から次のようにこれら3つの状態量を改めて説明する

ことができる

ある化学反応が定圧で可逆的に進行するときそれから取り出せる

エネルギーのうちΔG を仕事として放出し熱量 Q を放出する

標準状態29815K(25)1atm で標準物質からある化合物を合成すると

きの反応熱(発熱あるいは吸熱)をその化合物の「標準生成エンタルピー」

として定義した同様にある物質に対する「標準生成ギブス自由エネルギー」

はこの標準状態で標準物質からその化合物を化学反応で生成するとき式(3

9)によって与えられる変化量をいう

電池における化学反応のギブス自由エネルギー

先にダニエル電池の亜鉛板側に対する電極反応を検討したとき電極反応が

仕事として放出するエネルギーを表現する重要な式があった次の式(17)

である

W = n FV (17)

ギブス自由エネルギーを用いて今これは次のように書くことができるように

なった

W = n FV=-ΔG (41)

この式が表していることを実際に水素の燃料とする燃料電池の反応過程で見

てみよう燃料電池の図を再掲する

図中右にある陰極では水素の酸化反応が起きる

H2 rarr 2H+ + 2e- (5)

一方図では左にある陽極において次の還元反応が起きる

12 O2 + 2e- rarr O2- (6)

O2- + 2H+ rarr H2O (8)

全体の反応はすでに示したように次の反応式(7)で示される

H2 +12 O2rarr H2O (7)

31

標準状態における可逆的仕事は式(41)であらわせ

n FV=-ΔG (41rsquo)

このΔG は式(39)であらわせた

ΔG =ΔH-TΔS (39)

すなわち標準状態29815K(25)1atmにおいてある化合物を標準物

質から合成するときの標準生成ギブス自由エネルギー変化ΔG゜は標準生成エ

ンタルピー変化ΔH゜とその温度におけるエントロピー変化TΔSの差で求ま

るこれらは燃料電池の全反応を表す式(7)で与えられる

標準生成エンタルピーΔH゜変化とエントロピー変化はすでに一般的な元

素やその化合物に対して表が作成されている

液体の水に対する標準生成エンタルピーΔH゜(H2O)は

ΔH゜(H2O)=minus 28583 KJmol

また水素ガスと酸素ガスはそれぞれの元素の標準物質であるので生成エ

ンタルピー変化はゼロである

32

そこで式(7)での水を1モル化学合成するときの標準生成エンタルピーΔ

H゜は水素(ガス1モル)と酸素(ガス12 モル)の2つの材料と水(液

体251atm)の両状態における状態量の差として表される

ΔH゜=ΔH゜(H2O)-ΔH゜(H2) -12ΔH゜(O2) (42)

式(42)の右辺第2項と第3項がゼロであるので

ΔH゜=ΔH゜(H2O) =-28583 KJmol (43)

標準状態29815K(25)1atm における水素(ガス)と酸素(ガス)お

よび水(液体)のエントロピーはそれぞれ

ΔS(H2O)=6991 JKmol

ΔS(H2) =13068 JKmol

ΔS(O2) =20514 JKmol

単位で分母のKはケルビン温度の意味

と計算されているので

ΔS=ΔS(H2O)-ΔS (H2) -12ΔS(O2) (44)

=6991-13068-12times20514

=-16334 JKmol

したがって

TΔS=29815times(-16334)=-486998=-4870 KJmol

(45)

そこで標準生成ギブス自由エネルギーΔG゜は式(39)から

-ΔG゜=-(ΔH゜-TΔS) (39)

=-{-28583-(-4870)}

=+23713 KJmol

33

すなわちこのエネルギーを電気エネルギーとして取り出すことができるそ

の起電力は式(41rsquo)から

n FV=-ΔG (41rsquo)

V= -ΔG(n F)

各数値を当てはめれば

V=237130(2times96485)

=1229 volt

先に【化学反応と電気エネルギー】のところで記したとおり25の基準

状態におけるこの電極電位はE゜=+1229 volt が得られているすなわち

こうして標準生成ギブス自由エネルギーから計算することでも同じ値を得る

ことができた

水素を単純に酸素と化合させる燃焼では式(43)で示されるエンタルピ

ーが発生する熱量を示している水素1モルあたり28583 KJである電池

にすれば水素1モルあたり23713 KJの仕事量が電気エネルギーとして取り

出すことができるその差は電池の場合熱が発生して利用できない

化学反応の過程を利用して化学エネルギーから直接電気エネルギーに変換す

るのが電池という装置であるが化学エネルギーは100電気エネルギ

ーに換えることはできないこのようにエネルギーの一部は電池の熱として

発散してしまう

理想気体の状態方程式

ギブス自由エネルギーΔG を定義した式(39)とエンタルピーΔH の定義

式(28)から

ΔG =ΔH-TΔS (39)

ΔH =ΔU +VΔP+ PΔV (28)

そこで次式が得られる

34

ΔG =ΔU+VΔP+ PΔV-TΔS (46)

またエネルギー保存則から得られた式(26)を応用すればギブス自由エ

ネルギーが変形できる

Q =ΔU+PΔV (26)

から

ΔU=Q-PΔV (47)

したがって式(46)は

ΔG = Q-PΔV+VΔP+ PΔV-TΔS

ΔG = Q-TΔS+VΔP (48)

エントロピーの定義からQ=TΔSであるから結局式(48)は

ΔG = VΔP (49)

と表すことができる

成分が混合された気体分子の分子間に働く力をゼロと仮定した「理想気体」を

考えるとき状態方程式としてボイルシャルル(Boyle-Charles)の法則が

利用できる

PV=nRT (50)

ここでnは気体のモル数PVT はそれぞれこれまでと同じ圧力体積温度(ケルビン温度)でありR は気体定数と呼ばれるもので次の値を持

R= 831441 JmolK (51) 単位で分母のKはケルビン温度の意味

35

状態方程式から式(49)の右辺を導くことを考えてみよう式(50)は

1モルの気体について V に対し次のように変形することができる

V 1

PRT (50rsquo)

両辺に圧力の微小変化量⊿P をかけると

PP

RTP V (52)

これを微分方程式として圧力p0 からp1 まで(p0≦p1)積分するなら

1

0

1

0

1

0

1p

p

p

p

p

pdP

PRTdP

P

RTdPV (53)

関数 f(x)=1x を積分したときの関数はF(x)=ln(x)であるので(ln は e を底

とする自然対数loge)

右辺=0

1ln)0ln()1ln(p

pRTpRTpRT (54)

ギブス自由エネルギーを表す式(49)は次のようであったから

ΔG = VΔP (49)

式(52)から得た式(54)を当てはめると状態G0(p0T)からG1(p1T)

へ変化する過程で圧力が p0 から p1 まで変化するものとして

dGG0

G1

G( p1T ) G(p0T ) RT lnp1

p0 (55)

あるいはこれを書き直して

V

36

G(p1 T) = G( p0T ) + RT lnp1p0

(56)

特別にG0(p0T)を標準状態T=29815K(25)p0=1atmに指定する

なら標準生成ギブス自由エネルギーを記号G゜として (56rsquo)

と表すことができる

式(56rsquo)の意味するところは標準状態から圧力の変化を伴う過程で理

G(p1 T) = Go + RT ln p1

想気体のギブス自由エネルギーは圧力の対数に比例して上昇することである

このことはさらに新しい着想を生む

すなわち水素を燃料とする上の燃料電池で1atm 標準状態の水素ガスの圧力

を2atm に上げれば式(56rsquo)からRTln2 余分にギブス自由エネルギー

が取り出せることになる

燃料電池において起電力を生むエネルギーは隔壁を水素イオンもしくは酸

素イオンが浸透しようとする力であるので1atm の水素ガスと2atm のそれで

は浸透しようとする圧力が異なりここに起電力が生じる

式(56)の第二項が圧力の差による仕事であるからこれをΔG とすれば

W=-ΔG の仕事量が電気エネルギーとして取り出せるはずである

W = minusΔG = minusRT lnp1p0

(57)

起電力に換算するために式(41)を使うと

W = n FV=minus ΔG (41)

から

01ln

pp

nFRTV ⎟

⎠⎞

⎜⎝⎛minus= (58)

この式(58)は一般にネルンスト(Nernst)の式と呼ばれる

37

理想溶液のギブス自由エネルギー

理想気体を想定したように無限に希釈された混合溶液に対して理想溶液を仮

定する「系」の圧力温度を一定に保つならば体積内部エネルギーエンタ

ルピーギブス自由エネルギーなどの示量数は混合溶液を構成する物質のモ

ル数mに比例するたとえば標準状態にある物質の1モルの体積をVとすれば

mモルの体積はそのm倍mVであるそうすると溶液中のi番目の成分がmi

モル「系」から「外界」に仕事をするときその成分iの持つ自由エネルギーの

mi倍の仕事が「外界」になされると考えればよい

この溶液成分のモル数と化学的仕事を結びつける示強因子がギブスによって

化学ポテンシャルと名付けられ一般に記号μが用いられる

化学ポテンシャルはこれまで見たようにギブス自由エネルギーで表される

また電位がψ(プサイ)にある系から-Δeの電荷が放出されるときには

-ψΔeの電気的仕事が得られるそこで記号μに両者を合わせた意味を持

たせて「電気化学ポテンシャル」と呼ぶ

概念の上で物質は電気化学ポテンシャルの高い方から低い方へ勾配にした

がって移動する

理想気体の標準状態が気体分圧を T=29815K(25)で 1atm としたのに対

し溶液成分の標準状態はその分圧に相当するモル数 m を用いるすなわち

標準状態にある成分 i の電気化学ポテンシャルμ0iは成分の持つ電荷(H+なら

1)を n として

μ0i = G i゜+nFψ i (59)

ギブス自由エネルギーは式(56rsquo)を借り理想溶液中の成分に対しては気

体圧力をその成分のモル濃度Cに書き換えればよいそこで

G(CT ) G RT lnC (60)

と表すことができる

したがって一般的な成分 i の電気化学ポテンシャルμiを表す式は標準状態

からの自由エネルギーの変化を考え式(59)と合わせて次のようになる

38

ψnFGii 0

式(60)から

ii CRTGTCGG ln)( 0

よって

(61) ψnFCRT iii ln0

実際的なことを考えると成分濃度はその有効イオン濃度とする必要があり

「活量係数」γを導入して次式で表されるイオン活量aを用いる

ai = γCi (62)

一般的にはγ=1と近似してモル濃度Cを使っているこのテキストでも

必要ではない限りイオン活量を用いることを省略して簡単に記述したい

膜電位

燃料電池に使われたナフィオンのような一つのイオンを通す膜を介して膜

の両側にC0 とC1 のイオン濃度差がある溶液が接するときの電気化学ポテン

シャルを考えよう

ある容器の底にナフィオン膜を取り付け容器の中と外のイオン濃度をC0

とC1としそれぞれの電気化学ポテンシャルをそれぞれμinとμoutとする

式(61)を使って

容器の中の電気化学ポテンシャル

(63) innFCRTin ψ 00 ln

容器の外の電気化学ポテンシャル

(64) outout nFCRT ψ 10 ln

イオン浸透性の膜を介して濃度変化が無視できるほどの移動があると考え

その電気化学ポテンシャルの差を式(63)(64)から求めれば

39

)(ln0

1 inoutinout nFC

CRT ψψ (65)

この系において今注目しているイオンが膜を介した両側で平衡状態にある

とき式(65)はΔμ=0と考えることができるすなわち

0)(ln0

1 inoutnFC

CRT ψψ

膜内外の電位差をΔψ=ψoutminus ψinとすれば

1

0

0

1 lnlnC

C

nF

RT

C

C

nF

RTψ (66)

式(66)は理想気体に対するネルンストの式(58)と同様溶液中のイ

オンに対するネルンスト(Nernst)の式として与えられる

細胞の膜においてもその生体膜の内外でたとえばカリウムイオンのように

非対称に分布して平衡に達している場合には式(66)で与えられる膜内外

で電位差が生じるこれは一般に膜電位と呼ばれる膜電位は平衡電位とも

呼ばれる

たとえば膜内外に1価のカリウムイオンに10倍の濃度差があるとすると

通常カリウムイオンは細胞内の濃度が高いので

C0 = 10timesC1

であるから

これを式(66)に当てはめてln(10)=2303 を用いlog への変換をすれば

Δψ=2303times(RTF)timeslog(10)

であるこれに R=831441 JmolKF=96485 CmolT=29815 K(25)

の各数値を当てはめると

Δψ=2303times831441times29815times196485 JC

=+005917 volt

すなわち膜の内外で約+60ミリボルトの膜電位が生じることになるこの

分だけ細胞の外側の電気化学ポテンシャルが高く膜の内側の膜電位が負であ

るそして膜にあるカリウムチャネルがこの電位を示すとき受動的なカリ

40

ウムの膜内外の移動は平衡に達することになる

水素イオン濃度測定

「標準水素電極」は1モル塩酸溶液につけた白金電極に1atm の水素ガスを

吹き込んで平衡状態に達したときの電位を基準としてゼロボルトと規定した

そこである溶液についてその水素イオン濃度を知ろうとするとき同じ水

素電極を用いることを考えれば標準状態にする目的で用いた1モル塩酸溶液

を濃度未知で X モルの塩酸溶液と想定すればその水素イオン濃度を知るこ

とができるだろうか

標準状態ではない X モルの塩酸溶液に浸けた白金電極が半電池として働くこ

とは間違いなさそうであるしかしその白金電極が持つ電極電位を測定する

にはいずれにしても標準電極と組み合わせて「電池」を構成しその電池

の起電力として計る必要がある電池を作れば起電力を知ることができ相

手の半電池の電極電位が知られていれば濃度が未知でXモルの溶液について

その水素イオン濃度を知ることができるだろう

こうした目的のためにいちいちゼロボルトと規定した標準水素電極を用いる

のは煩雑なのでしばしば後出の「銀塩化銀電極」が参照電極として用いら

れる

まず予め「銀塩化銀電極」を標準水素電極と組み合わせて電池とし一度

その起電力を測定しておけば後はいつもそれを標準電極として利用できる

「銀塩化銀電極」の半電池は

H+ (1 moll) Cl- | AgCl | Ag(s)

これに「標準水素電極」を組み合わせ電池を構成すると次のような電池

になる

Pt(s) | H2(g) | H+ (1 moll) Cl- | AgCl | Ag(s)

この電池の起電力を知れば「銀塩化銀電極」の半電池としての電極電位

を知ることができ参照電極として未知の半電池と組み合わせて起電力を測

定して相手の電極電位を計算できる

41

濃度 X モルの塩酸溶液を未知の溶液と想定すればその電極電位を知るために

組み立てる電池は次のようになる図10にその電池の図を示した

Pt(s) | H2(g) | H+ (x moll) Cl- | AgCl | Ag(s)

この電池の全反応は次の反応式で表される

AgCl(s) 1

2H2 (g) H Cl Ag(s) (67)

図10未知溶液の水素イオン濃度を測定しようとするための電池

化学反応の一般的な式

ここで電池に利用される化学反応から得られるエネルギーをギブス自由エ

ネルギーに換算し起電力を具体的に知る手だてとすることは上ですでに学

42

んだがより一般的な式を再度ここに書きだしておこう

化学反応が紙面で左から右に進む反応として次のような一般式で与えられ

るとき

aA + bB rarr cC + dD (68)

ギブス自由エネルギー変化量は標準状態ΔG゜からの変化量を加える形で式

(60)と同様次の式によって表される

G G RT(ln aCc aD

d ln aAa aB

b )

G RT ln

aCc aD

d

aAa aB

b (69)

aAは成分 A のイオン活量であるその他の成分も同じ

得られたエネルギーを電気エネルギーに換えるなら式(41)に習って

次式で表せば

ΔG=-n FV

there4V=-ΔG(nF) (70)

このときの起電力は標準状態における電位 E゜からの変化量として次式で与

えられる

E E

RT

nFln

aCc aD

d

aAa aB

b (71)

標準状態における起電力 E゜は反応が平衡状態にあるときで反応平衡定数

を K とするなら

K aC

c aDd

aAa aB

b (72)

で表されるそこでE゜は次のように書き改めることができる

43

E

RT

nFln K (73)

そこで式(67)で表される図10の電池「水素minus 銀塩化銀電池」に

対する起電力をギブス自由エネルギーから求めてみよう

反応から式(71)に当てはめれば

E E RT

Fln

aH

1 aCl

1 aAg1

aAgCl1 aH2

1

2

(74)

力学の慣例にしたがって固体の純物質の活量は1として扱い水素ガスを

想気体として見なして活量を1atm とするなら式(74)は次のよう

に簡略化される

E E

RT

Flna

H aCl (75)

ころで理想溶液として近似的に取り扱うときの希薄溶液でたとえば水素

入して詳細に検討するなら式( れる起電

オン濃度はイオン活量として aH+の記号を使うときすでに【理想溶液のギ

ブス自由エネルギー】の章で述べたようにこれを有効イオン濃度とする必要

がありイオン活量 a は「活量係数」γを導入して次式で表した

a H+= γH+CH+ (62)

この活量係数を導 75)で誘導さ

を計ることによって経験的に試料溶液中の水素イオン濃度を求めることは

困難である式(75)にあるイオン活量の項はモル濃度 C と活量係数γを

用いて次式で書き改められる

lnaH aCl

lnCH CCl

lnH Cl

(76)

まり式(76)右辺の第二項において互いに相手が知られなければ自分

決めることができず結果的に起電力を知っても(75)の値から水素イオ

ン濃度を導けないここに工夫が必要になる

44

の定義とその目盛り

液中の水素イオン濃度を直接意味するものではなく

を定義するとき測定されるのは1リットルの溶媒に存在す

pH = -log a H+ = -log(γH+CH+) (77)

際に試料溶液の pH を決定する際はpH 標準液を用いる

に溶液を入れ試料溶液 X と pH 標準液 S を

参 極を接続し電池を作成しその起

pH

現在pH の定義は溶

で述べたようにそれが簡便に測定できるものではないため次のように定

義されている

水素イオン濃度

水素イオン活量であるため定義式としては活量係数をγH+として次式で与

えられる

その要領は次のようである

上に図示した水素電極の容器内

れぞれ半電池(I)と(II)に入れる

半電池(I) Pt | H2 (1 atm) | 試料溶液

半電池(II) Pt | H2 (1 atm) | 試料溶液S

照電極として上図のごとく銀塩化銀電

電力を測定する半電池(I)のときの起電力を E(X)半電池(II)のそれを E(S)

とするこのとき試料溶液Xの pH は次式で計算される

pH (X) pH(S) E(S) E(X)

RT ln(10) (78)

ln(10)は自然対数を常用対数に戻すための定数で2303 を用いる

標準液

pH 標準液 S はpH 第一次標準液第二次標準液と呼ばれるべき

る測定

25で pH 4005 を示す

pH

上述した

のであり絶対的測定法である起電力の測定によって値をつける

標準液は安定で純粋な結晶が得られる試薬を調整してこれを測定す

上と同様に水素電極を用いこれに緩衝液を入れる参照電極として銀

塩化銀電極を接続して電池の起電力を測定する

たとえば005 moll フタル酸水素カリウム溶液は

一次標準(Primary Standard PS)の一つである半電池(III)として水素

45

電極を次のように準備する

半電池(III) Pt | H2 (1 atm) | PS 溶液

て電池を形成したとき得られる起電

参照電極として銀塩化銀電極を接続し

は式(75)から

E E

Ag AgCl RT

Flna

H aCl (79)

オン活量を濃度と活量係数の積(a H+= γH+CH+)にし自然対数を常用対数

すれば

E E

Ag AgCl RT ln(10)

F log(

H + CH+ Cl- CCl - ) (80)

E゜は水素標準電極(水素ガス分圧を1atm電極を浸ける溶液に001 moll

H

Cl を用いる)で得た起電力である

式(80)から

RT ln(10)

Flog(

H CH Cl

) (E EAg AgCl )

RT ln(10)

Flog C

Cl

(81)

らに

log(

H CH Cl

) F

RT ln(10)(E E

Ag AgCl ) logCCl

(82)

ころで式(77)から

(γH+CH+) (77)

-log a H+ =-loga H+-log(γCl-) +log(γCl-) =-log(a H+γCl-) +log(γCl-)

(83)の一番右の式で第一項は

pH = -log a H+ = -log

であるが右の式をさらに変形すると

(83)

46

-log(a H+γCl-)=-log(γH+ CH+γCl-) (84)

たがって式(82)の右辺で示されるように電池の起電力を測定すれば

よ 実際には溶液の塩素イオン濃

液で起電力を求め外挿する

起電

これによってpH を意味する式(83)は次式(85)で与えられる

p(aHγCl)はRG Bates によって Acidity Function と呼ばれている

らに式(85)最終項の log(γCl-) を補正しなければならないこの項は

本工業規格)によっても

であってこれは式(82)の左辺である

いただし塩素イオン濃度の項があって

をゼロにしたときの値が必要である

実測する際には塩素イオン濃度をゼロにできないので塩化ナトリウム NaCl

等を濃度を変えて添加しその時々の緩衝

勧告ではNaCl で 000500100015moll の3つの濃度を例示している

すなわち塩素イオン濃度ゼロのときの値は各塩素イオン濃度に対して

の値をそれぞれプロットしグラフから塩素イオンがゼロのときの起電力の

値を3点に対する回帰直線の延長で外挿して求めるこの点を次のように書

log( C H H Cl CCl

0

pa log( C log( (85) H H H Cl C

Cl0 Cl

)

素イオンの活動係数で与えられる補正項である

無限希釈溶液中のイオンの活動係数は理論的に Dubye-Huckel の式を用い

近似的に求めることが可能であるこれはJIS(日

用されていて Bates-Guggenheim の規約と呼ばれる (Bates RG

Guggenheim Pure Appl Chem 1 163-168 1960)

Dubye-Huckel の式は次のように与えられる

log A I

i 1 iB I (86)

47

I iについてそのモル濃度

計算される

はイオン強度でイオン mi と電荷 zi から次式で

I 1

2mizi (87)

また iは(86)式のBは温度と溶媒の性質による定数であり イオンの大

きさに関するパラメータで水和イオンの大きさとほぼ一致した値をとる標

準法の勧告では塩素イオンに対しイオンの大きさを46Åと決めてiBを

1

5 にしているそこで式(84)は次のようになる

ClA I

log 1 15 I

イオン強度 I は塩素イオン濃度を含まない計算となる

以上の方法によって実用的な pH 測定に用いられる第一次第二次標準液の

pH の値が得られる

絶対値としての

はpH の絶対測定法(第一次標準測定法)とされている

銀塩化銀参照電極は分極現象を防ぐために棒状の銀を塩酸で処理し表

に塩化銀を生成させたものを飽和塩化カリウム溶液につけてある

(88)

参考現在は実験的に求めた値と理論値の組み合わせで

素イオン濃度を求める方法を規定しているこの起電力から水素イオン濃度

を知るための測定方法

Buck RP Rondinini S Covington AK Baucke FGK Brett CMA Camoes MF

Milton MJT Mussini T Naumann R Pratt Kw Spitzer P Wilson GS

Measurement of pH definition standards and procedures Pure Appl Chem

74(11)2169-2200 2002Kristensen HB Salomon A Kokholm GInternational

pH scales and certification of pH Anal Chem 63(18) 885A-891A 1991)

銀塩化銀参照電極

電極の構成は

Cl-(aq) | AgCl(s) | Ag(s)

48

この半反応は次のようになる

AgCl(s) + e- rarr Ag(s) + Cl- (89)

の反応は次の2つの反応に分けて考えることができる

Ag+ + e- rarr Ag(s) (91)

AgCl(s)rarr Ag+ + Cl- (90)

図11銀塩化銀参照電極

(90)における銀 る塩素イオンによって左

されることが推測される

そこでカッコ [ ] をそれによって囲まれるイオンの濃度を表すことにし

式 イオン Ag+の溶解性は共存す

塩化銀の乖離定数Kを考えると

49

K = [Ag+][Cl-] (92)

これから

[Ag+]= K[Cl-] (93)

化カリウム溶液に漬けた銀塩化銀電極の電位 E は水素標準電極に対する

電 で与えられる

位を E゜として次式

E E

RT

nF

[ Ag ]

[Ag(s)]ln( )

Ag(s)のイオン活量は常に1とする

ここで半反応の電極電位を求めるために式(75)を利用することにすれば

(94)

熱力学の慣例にしたがって純物質個体

E E

RT

Flna

H Cl a (75)

式 の半反応をみると

応で電子1つが移動するので n=1 とするR=831441 JmolK1F = 96485

C はめれば

これに銀イオンの濃度として式(93)を当てはめる

この反応で移動する電子は (89) 銀イオン1つの反

molT=29815K(25)ln(10)=2303などの定数を当て

2303RTF = 005917

であるから(94)式は次のように表現できる

log[Cl]) E E 005917(logK (95)

たがって標準水素電極に対する銀塩化銀参照電極の標準状態における電

位 は半反応(89)に対して ゜=+0799で

化銀の乖離定数 K は182times10-10 であるのでその対数を取れば-973993

0799-005917times973993-005917log[Cl-]

E゜ E ある

ある

そこで式(95)は

E =

50

= 0799-0576-005917log[Cl-]

= 0223-005917log[Cl-] (96)

電極電位の関係について実測値

こうして求めた塩化カリウム溶液の濃度と

計算上の値は次のようである

KCl moll vs SHE volt25 計算値 volt25 01 02881 02822 35 0205 01908 飽和 0199 minus

実用 測定

実際の現場で水素イオン濃度を測定する目的の測定法で上のような2つの

極が同じ溶液に浸かっていたのでは試料溶液を交換するにも便利ではない

の容器に入れる未知試料溶液と銀塩化銀電極を隔離する

的な pH

そこで水素電極側

的で二つの電極容器をつなぐ液絡部をグラスフィルターやセラミック板

飽和塩化カリウムで作成したゼラチンなどの塩橋によって隔離遮断するこ

れを液絡部とよぶ

電池として機能するために必要な溶液イオンの交換はこの液絡部で行う

組み立てる電池は電池式で次のように表される

Pt(s) | H2 | 試料 (H+ x moll) || 飽和 KCl | AgCl | Ag(s)

の標準電極と銀塩化銀電極とは区切られていて溶液の直接の接触がない

とを意味するために電池式ではタテ二重線を用いる銀塩化銀参照電極

の容器には飽和塩化カリウム溶液が入れられる

51

図12液絡部のある pH 測定のための電池

この液絡部のある電池では塩橋を記号lsquo | | rsquoで表して次のように記す

試料 (H+ x moll) | | 飽和 KCl

ここでは試料溶液と飽和塩化カリウム溶液の異なる2液が接している

このような界面では膜電力が生じるのと同様「液間電位差」が生じることが

知られているしたがって上の電池で測定される起電力 E は

E = E[銀塩化銀電極電位]+E[液間電位]+E[水素電極電位]

で与えられることになってE[液間電位]のために図12の電池の起電力

は銀塩化銀参照電極の値を知っていても水素電極容器内に入れた未知溶

液の水素イオン濃度を正しく知ることができない

52

そこで実用的な測定法としてこの E[液間電位]を膜電位として積極的に利

用する方法が工夫されたすなわち水素イオンに感応するガラス薄膜を用い

るガラス電極法である

53

ガラス電極

ガラスはケイ素原子と酸素原子からなる SiO4 の結晶構造を持ち酸素で囲

まれた空隙があって水素イオンがそれを埋めることができる

この性質によってガラス膜表面は水溶液中の水素イオンに応じて膜電位を

変化させるのでこれを水素イオン濃度測定用の電極として利用することが考

えられるこれが通常用いられるガラス電極である

ガラス電極は標準電極と組み合わせれば電池を構成することができこの電

池の起電力を知ってガラス薄膜の内外にできたイオン濃度勾配を知ろうとす

るものである

薄いガラス膜(01mm程度)をはさんで接する2つの溶液のH+イオン濃

度が異なるとその差に応じてガラス膜の両側に電位差(Eg)が現れる

ネルンストの式でガラス電極の内部に入れた既知の濃度のH+([H+]in)に対

し試料中の水素イオン濃度が[H+]sampleのとき次の電位を生じる

)][

][log(059170)

][

][ln(

sample

in

sample

ing

H

H

H

H

F

RTE

(97)

図13ガラス電極

電極を構成するのは銀塩化銀電極と同じ電極で用いる塩溶液は一般的

54

に 01モル塩酸溶液である

この半電池の電池式は次のように書くことができる

Ag(s) | AgCl(s) | HCl (01 M) | ガラス薄膜 || 試料溶液 H+ (x moll)

Eg

この半電池の電極電圧を測定するために銀塩化銀標準電極と組み合わせ

電池を作って起電力を計る

構成される電池は下図のようになる

ガラス電極 銀塩化銀標準電極

図14ガラス電極を用いた pH 測定用の電池

この電池の起電力は次の各半電池の平衡電位を合わせたものになる

55

E1ガラス電極の内側電位

Ag(s) | AgCl(s) | HCl (01 M)

Egガラス薄膜の内外に生じる膜電位

HCl (01 M) | ガラス薄膜 || 試料溶液 H+ (x moll)

E2液間電位(膜電位)銀塩化銀標準電極のセラミックを介した試料溶液

と銀塩化銀標準電極の内部液(飽和 KCl 溶液)の間に発生する電位

試料溶液 H+ (x moll)|| セラミック | KCl(飽和)

E3銀塩化銀標準電極

KCl(飽和)| AgCl(s) | Ag(s)

pH メーター用のガラス電極に使われるガラス薄膜は水素イオンに感応して

膜電位(Eg)を生じるこれは【膜電位】の章で記したように薄膜がある

一つのイオンのみを通過させる特性を持っている場合にイオンが膜を介した

両側で平衡状態に達したとして電気化学ポテンシャルを膜の両側で等しいと

考えてそのイオンが濃厚な側から希薄な側にその差によって圧力を生じると

するものである

一方同じ試料溶液が銀塩化銀標準電極のセラミック液絡部を介して生じ

るだろう液間電位(膜電位E2)はいま関心がある水素イオンに対して特異

的に感応するのではないので試料溶液の水素イオン濃度に関係なく一定と見

なすことができる

すなわちpH メーターを構成する電池の起電力 E は

E = E1+Eg+E2+E3 (98)

このうちEg以外は一定と見なせるので

E1+E2+E3 = E

として式(98)を書き直すと

)][

][log(059170

sample

ing H

HEEEE

(99)

Eは標準液によって校正されるべき標準電極電位である

56

電極の校正

実際のイオン濃度を測定する場合低濃度標準液と高濃度標準液で得られ

る起電力を測定し計測のイオン濃度に対する係数(傾き)を求めておき未

知の試料に対して起電力を測定してそのイオン濃度を算出する方法が採られる

低濃度標準液と高濃度標準液のそれぞれの濃度をCLとCHとすればそれぞ

れの起電力ELとEHは次式で表される EH = E +β logCH (100)

EL = E +β log CL (101)

ただしβは式(99)の係数を簡略にしたものである

式(100)と(101)から検量線の傾きが次式で表せる

ΔE = EH minus EL = β(logCH minus logCL) = β logCH

CL

(102)

したがって係数βは

β =ΔE

log CH

CL

(103)

であらわされる

このときに使われる標準はすでに前出の pH 第一次標準第二次標準溶液で

ある

金属イオンに対応するイオン選択電極

現在臨床検査で日常的に使われている電解質測定のための電極はナトリウ

ムカリウムカルシウムクロールなどおよそ臨床的に必要な金属イオン

に対して入手可能である

カリウムイオン測定用のバリノマイシンの発見によってクラウンエーテルと

57

呼ばれる一連の化合物が知られたクラウンエーテルはその分子の中心に立

体的な空間を持ち特定のイオン径に対し合致するのでそのイオンに対して

選択的に感応するこれらの化合物はイオノフォアと呼ばれる

図 15クラウンエーテル

1つの金属イオンが環状化合物

15-crown-5 の中央にある空間を充填

している模式図

15-crown-5 の構造を作る10個の黒

い丸は炭素炭素2個のつながりごと

にある中心の白い丸は酸素酸素と

金属イオンの間の距離はおよそ 22~

23Åであるカリウムのファンデン

ワールス半径は 135Åイオン半径は

15~16Åである

測定したいイオンに対しポリ塩化ビニル(PVC)を支持体としてイオノフ

ォアを添加した液膜の電極膜を作成しこれをガラス電極におけるガラス薄膜

と同様試料に接する電極膜として用いるこの構造から一般的に液膜型電極

と呼ばれる電極膜には特異性を高めるため妨害イオン排除剤などが添加

される

pH メーターと同様銀塩化銀標準電極と組み合わせ電池を形成しその

起電力を計る測定したいイオンが液膜に対して内外で平衡に達したときの

膜電位を測定するのはガラス電極と同じである

カ リ ウ ム イ オ ン に は Bis[(benzo-15-crown-5) ( 正 式 名 は

Bis[(benzo-15-crown-5)-4-methyl]pimelate)ナトリウムには Bis[(12-crown-4)

やDibenzyl-bis[(12-crown-4)などがイオノフォアとして用いられる

58

図16カリウムイオン測定用に使われるクラウンエーテル

図17ナトリウムイオン測定用に使われるクラウンエーテル

59

参考イオン選択電極に関する文献Xia Z Badr IHA Plummer SL Cullen L

Bachas LG Synthesis and evaluation of a bis(crown ether) ionophore with a

conformationally constained bridge in ione- selective electrodes Anal Sci 14(2)

169-173 1998 Oh K-C Kang EC Cho YL Jeong K-S Y oo E-A Paeng K-J

Potassium-selective PVC membrane electrodes based on newly synthesized

cis- and trans-bis(crown ether)s ibid 14(10)1009-1012 1998 Dojindo WEB

site httpwwwdojindocojpwwwrootproductsjinfo2protocolp31pdf

<補遺> 60

補遺 状態関数 (本文 p21 10 行目参照)

一つの平衡状態にある系 A とこれに接する系 A にとって外部である系 B について系 B

から系 A に熱を与えこれによって系 A が他の平衡状態に移ったとき系 A はその結果とし

て膨張し系 B に対し仕事をする

このときの微少な熱量の移動を記号drsquoQ またなされた微少な仕事をdrsquoW とすると

系Aの内部エネルギーに関する微少な変化drsquoUA は両者の和として表される

WdQdUd A primeminusprime=prime (a-1)

この式 a-1 と本文中の式25との関係について

WQU A Δminus=Δ 本文(25)

<補遺> 61

式 a-1 と式25の記号の違いは変化の起きる前の平衡状態 S1 から変化後の平衡状態 S2

に状態変化があったとするなら式 a-1 を積分することで式25が得られるものと考えて区

別している

A

S

S A UUd Δ=primeint2

1 (a-2)

このことは重要であるすなわち内部エネルギーU は変化の起きる前後の状態を指定する

ことによって値が定まることを意味するこのように積分によって値を定めることが出来る

のでdrsquoU は完全微分であるという

内部エネルギーのように系の状態だけで値の定まる量を状態関数として扱う

一方式 a-1 のdrsquoQ drsquoW についても同様に微少の変化量を表しているが平衡状態 S1

から S2 への経路を指定しなければ積分の値は定まらない

本文中の記号にしたがって仕事量ΔW を次のように表すことにする

VpW Δ=Δ 本文(20) V

<補遺> 62

体積と圧力の関係を表す図を使ってこの仕事量が意味することを考える圧力 prsquo の下で

体積が V1 であるときを状態 S1 として圧力一定の下で体積を V2 まで膨張させるような変

化を行った後体積を等しく保って圧力を p にまで上げたときの状態を S2 とするこのとき

の仕事量は膨張に伴うものであるから図の体積‐圧力線の下の面積で示すことができる

平衡状態 S1 から S2 への変化の道筋を別にたどってみよう

新しい経路では圧力を先に p まで上げた後に膨張変化させている

図から直感的に明らかであるので数式での扱いを省略するが2 つの経路による仕事量には

差がある

すなわちdrsquoW は drsquoU と異なり変化の初め S1 と終わり S2 の状態が与えられても積分値

は定まらず変化の経路によって違ってくる

このように変化の経路を指定しなければ積分値が定まらないものを不完全微分と呼び扱

いを区別する

本文 p21 へ戻る

<補遺> 63

VpW

WQU

VpQU

VpUQ

1122 SSSS pVUpVUQ

pVU

VpUHHHQ SS 12

エンタルピー (本文 p24 20 行目参照)

本文中の式 20 および 25 から一定の圧力の元で起きる状態変化において内部エネルギー

の変化量に対する式 a-3 を得る

本文(20)

本文(25)

(a-3)

式 a-3 を Q について書き直す

(a-4)

状態の変化が平衡状態S1から平衡状態S2に移ったものとして式 a-4を丁寧に書き直すと

(a-5)

並び替えて

(a-6)

式 a-6 を見ると定圧過程における熱量の流入は

(a-7)

の形を持つ関数の差であることが分かる

一般に化学反応のような変化の過程では大気圧の下で行われるようなものに興味がある

そこで式 a-7 で与えられる項を一つの関数として定義するこれをエンタルピーと呼び記

号 H を与える式 a-4 はエンタルピーの変化量で次のように書き改められる

(a-8)

圧力が一定の下で起こる状態変化について流入する熱量は式 a-8 で示されるようにエンタ

ルピーの変化量に等しい

V

V

V

V V

V

V

1212 SSSS VVpUUQ VV

<補遺> 64

1Q

We

また式 a-8 からオートクレーブ内で起こるような体積変化のない過程ではこの値が内

部エネルギーの変化量で与えられることが明らかである

本文 p24 へ戻る

エントロピー (本文 p26 17 行目参照)

エントロピーは次のような思考実験から発想された仮想的な状態関数である

理想気体よりなる系 A が温度 T2で熱平衡状態にあり温度 T1の外部の熱源と接しているこ

とを想定する系 A の外部を系 B と呼ぶことにするT1は T2に対して無限小だけ高い温度と

する

系 A が系 B に対して温度圧力について平衡を保ちながら緩慢に系 B より熱量 Q1を受け取

る過程を考える(このような過程を準静的過程と呼ぶ)これによって系 A が熱量 Q1を得て膨

張するとき系 B に対して仕事をする続いて系 A から熱量 Q2が系 B に戻ることを考える

想定されるこの変化が可逆的であれば系 A と系 B を併せた全体は元の状態に戻る蒸気機

関に関するこのような研究が Nicolas Carnot によってなされたのは1824 年のことであった

ここに想定されたサイクルに対する Carnot の効率 e は移動した熱量となされた仕事によ

って定義され次の式で表される

(b-1)

<補遺> 65

理想気体では内部エネルギーU の変化ΔU はゼロと考えるしたがって熱力学の第一法

則を表す式(本文中の式25)から次の関係が示される

0=Δminus=Δ WQU

WQ Δ= (b-2)

これによってCarnot Cycleの効率eはQ2lt0 として次のように書き改めることが出来る

1

21

QQQe +

= (b-3)

ところで気体の状態方程式から1 モルの気体について次のような関係が示される

RTV

P

P1=

V = RTV (b-4)

V 式 b-4 の両辺に体積の微少変化量ΔV をかけて

(b-5)

これを体積Vについてその変化をV1からV2までとして積分するならば次式が得られる

VV

RTVP Δ=Δ 1V V

V

intint = 2

1

2

1

1V

V

V

VdV

VRTPdV

1V2V

11 lnRTW =

(b-6)

Q1の熱量によって起こる膨張がV1よりV2までとし圧力P温度T1の下でなされるその仕事

量をW1とするならそれは式b-6 の右辺によって示されるすなわち

(b-7)

VV

1

2lnVVRT=

V V

VV

V

V2int V2 intV1 V1

<補遺> 66

またQ2の熱量の移動が圧力P温度T2の下で起きこれによって系Aが可逆的に圧縮され

るなら体積変化はV2よりV1まで起こりその仕事量をW2で示すと次式のように表される

(b-8)

1

22

2

122 lnln

VVRT

VVRTW minus==VV

VV

Q1=W1Q2=W2の関係から式b-7 およびb-8 を用いてCarnot Cycleの効率eを表す式b-3

を書き改めると温度のみの関係式として次のように表される

1

21

TTTe minus

= (b-9)

ここでサイクルが可逆的過程であると想定するならば式 b-3 と式 b-9 から

1

21

1

21

TTT

QQQe minus

=+

= (b-10)

これから

12112111 QTQTQTQT minus=+ (b-11)

整理すると

02

2

1

1 =+TQ

TQ (b-12)

この考えをさらに発展させ系A

と系Bの間に数多くの系を挿入すること

にしてそれらの系を同様に熱源として

T1T2Tnと考えるこれによっ

て熱の受け渡しが系Aから系Bに至り

再び系Aにもどるサイクル過程に数多

くの寄り道の過程を加えることになる

熱量の移動に関して上の場合と同じく

準静的過程で行われると考えるこの

サイクル全過程について初めと終わ

<補遺> 67

n

i i

i

T

Q

1

0

0T

dQ

T

QS

T

dQASAS )()( 12

りが同じ状態になる可逆的な過程であるなら式 b-12 を拡大的に考えることになってそれ

は次式で表される

(b-13)

式 b-13 には重要な関数が現れるすなわち熱量と温度の比QT である

もし一つの系が無限小だけ温度の高い(dT )外界から温度圧力など平衡を保ちなが

ら極めて緩慢な過程(準静的過程)で無限小の熱量(dQ )を受け取るならばその変化は可

逆的でありdT について連続的な温度分布をする過程を考えるとき式 b-13 をさらに発展

させて次のように積分式で示すことが出来る

(b-14)

式 b-14 で積分記号にが付されているのはCarnot Cycle のような経路を一巡することを

意味している

Carnot の熱機関の効率という着想から生まれた熱量とそれを持つ系の温度との比 QT に

重要な意味を見出したのは Rudolph Clausius で彼はこの比にエントロピーという名前を与

えたエントロピーには記号ΔS を一般に用いる

(b-15)

エントロピーは初めと終わりの状態がわかれば過程に関わらず定まるので状態関数であ

系 A と外界のエントロピー変化を考えるときそれが可逆的過程であるならばすべてを併

せた全体のエントロピー変化は初めと終わりに変化がないという意味でゼロであるすなわ

ち初めの状態を S(A1)とし次の状態を S(A2)とするならそれぞれのエントロピーを

ΔS(A1)ΔS(A2)としてこの間におけるエントロピーの変化量は次のように示される

(b-16)

<補遺> 68

T

dQdS

0T

dQ

ある一つの変化については次のように示される

(b-17)

ここで式 b-17 の S に付けられたdは微分量すなわちごく微小の変化量を意味し式 b-15

で定義されたエントロピーに用いられる一般的な記号Δと区別する

ところで式 b-10 の関係においてもし移動した熱量のすべてが仕事に変わらなければ

効率 e を表す熱量を用いた関係式と温度で表される関係式は等号で結ぶことができないそれ

はエネルギーのロスを意味し初めと終わりの状態が異なってしまうことを意味するすなわ

ち全過程が構成する一つのサイクルは可逆的でなくなる

不可逆過程での熱効率 ersquo は 大値を示す可逆的過程の熱効率 e より小さな値をとる

ee

したがって 大効率を与える式 b-8 と式 b-3 から

01221

2112

1

21

1

21

QTQT

QTQT

Q

QQ

T

TT

両辺を T1T2で割ると

02

2

1

1 T

Q

T

Q

これを式 b12 と同様に発展させれば式 b-14 についてサイクルの変化が可逆的過程の

場合と不可逆的過程の場合の両方を併せClausius の不等式と呼ばれる次の関係が成立する

(b-18)

式 b-18 の等号が成立するのはサイクルが可逆的な理想の場合に限られる

ある孤立系で状態 A1 から状態 A2 へは不可逆変化で進められ状態 A2 から再び状態 A1

に戻るとき可逆変化であるような閉じた状態変化を考える可逆系のエントロピー変化には

記号 Q を使い不可逆変化には Q を用いるとするとそれぞれ積分式を用いて状態 A1 から

状態 A2 へは

<補遺> 69

d prime

状態 A2 から状態 A1 に戻るときは

全体では

=d prime

+d

(b-19)

Clausius の不等式から

0

式(b-19)の第二項で反応を逆に進めるときには次のように書き改めることができる

=d

よって式(b-19)は次のように書き直すことができClausius の不等式とあわせると

d prime d

0

すなわち

d prime d

上式の右辺は式(b-16)を用いて表せば

d prime

∆S ∆

この状態変化を微小変化とするならば断熱変化の場合 dQ = 0 であるから

∆S ∆ dS 0

すなわち不可逆変化を含む断熱変化ではエントロピーは必ず増大する

<補遺> 70

T

QS

BA SSS

(b-20)

(次の<補遺>ギブス自由エネルギーも参照せよ)

本文 p26 へ戻る

ギブス自由エネルギー (本文 p28 27 行目参照)

エントロピーの考えを導入することによって不可逆的に状態変化が起きるときにはエン

トロピーの増大を引き起こすことを知ったこれによって目前で起きる現象について温度の

変化があるものであれないものであれまた圧力の変化があるものであってもエントロピー

の定義式によって可逆的な変化におけるエントロピーの変化量を計算することが可能である

(b-15)

しかしながらこれから起こる変化について我々がすでにあらかじめ知っている物理量を

用いて予測的にその状態変化が起きるかどうか知ることは必ずしも容易ではないその理由

は式 b-15 に示されたエントロピーΔS が系とその外界をあわせた全体のエントロピーを示

しているからであるすなわち関心のある系を系 A としその外界を系 B とすると全体

のエントロピーは次のように表せる

(c-1)

関心のある系 A のエントロピー変化を知るためには系 B のそれを知ればよいがそれは

いつも容易とは限らない系 A の性質だけで状態変化の方向を知るには別の観点が必要にな

るようだ

そこでもう一度状態変化が熱量 Q の移動によって起きることについて考えてみようエン

トロピーの補遺で議論したように熱量の移動が準静的過程により行われるときには変化は可

逆的に起こると考えたこのとき外界すなわち系 B から移動する熱量を Q1とし系 A から

0S

<補遺> 71

21 QQ

T

Q

T

QSB

21

T

QSS A

2

QH

T

HSS AA

AA STHST

のそれを Q2 と記号を当てたのでこれをそのまま使うことにすれば可逆的な過程では系 B

の熱量 Q1 はすなわち系 A から戻る Q2 に他ならないので両者には次の関係が成立するも

のとしてよい

(c-2)

したがって

(c-3)

と考えてよくこれによって式 c-1 を次のように書きなおすことが出来る

(c-4)

独立した系で圧力とその体積に変化がなく一定の条件の下で状態変化が起きるときエン

タルピーの考えを使ってすでにひとつの関係があることを導いている

本文(31)

そこで式 c-4 を系のエンタルピーΔHAによって書き改めれば

(c-5)

この両辺に-T をかけて式を書き直せば次の関係式が得られる

(c-6)

式 c-6 を見るときその右辺がマイナスの値ならば左辺のΔS はプラスの値をとることが

分かるすなわちエントロピーが増大すると見ることが出来るこれまでの過程で自然の現

象はエントロピーが増大する方向に進むとしてきたので関心のある状態変化について式 c-6

の右辺で計算される値がマイナスの値ならばその変化は起きるものと考えてよいことになる

だろうしかも右辺はすべて独立した系の状態量で示されていて我々が知りうる値で計算

<補遺> 72

TSHG

STSTHG

STHG

可能である

そこでこれを熱力学ポテンシャルを表すものとしてギブス自由エネルギーと呼ぶことに

するギブス自由エネルギーは記号 G が用いられ次のように定義される

(c-7)

ここで関心があるのは自由エネルギーの絶対値ではなく式 c-6 に示されたようにその変化量

に興味があるので式 c-7 から

(c-8)

温度が一定の条件の下で状態変化が起きることを考えるなら式 c-8 は次のように書くこと

ができる

(c-9)

ギブス自由エネルギーは式 c-9 の右辺がすべて状態量であるからこれも状態量の一つで

ある定圧定温の条件下で起きる変化ではすでに議論したようにΔGlt0 であれば状態

変化は自発的に起きるものと予測できる

つまり式 c-5 の第一項は系のエントロピーΔSAそのものであり第二項で示されるエンタ

ルピーは系 A の温度が一定に保たれているのであるから発熱する熱量として外界に吸収さ

れるものであってこれは外界のエントロピーの増大につながるものとして解釈されるした

がって化学反応のように一定の圧力と一定の温度の下で起きる変化について自由エネルギ

ー変化量はその状態変化が自発的に起きる傾向を示しているといってよい

本文 p28 へ戻る

  • はじめに
  • 目次
  • 電気エネルギー
    • 金属のイオン化
    • 電池
    • 水素の反応
    • 燃料電池
    • 化学反応と電気エネルギー
      • エネルギーと熱力学
        • エネルギー保存則
        • エンタルピー
        • エントロピー13
        • ギブス自由エネルギー
        • 電池における化学反応のギブス自由エネルギー13
        • 理想気体の状態方程式
        • 理想溶液のギブス自由エネルギー
        • 膜電位
          • 水素イオン濃度測定
            • 化学反応の一般的な式
            • pHの定義とその目盛り
            • pH標準液
            • 銀塩化銀参照電極
            • 実用的なpH測定
            • ガラス電極
            • 電極の校正
            • 金属イオンに対応するイオン選択電極
              • 文献
              • 補遺
                • 状態関数
                • エンタルピー
                • エントロピー
                • ギブス自由エネルギー
Page 28: イオン選択電極i イオン選択電極 Ion Selective Electrode (ISE) を理解する ・ pHを測定する ・ NaやKなどのイオン濃度を測定する 神戸大学医学部保健学科

25

ΔH = ΔU +Δ(PV) =ΔU +ΔPV+ PΔV (28)

独立した系で圧力が一定の下に起きる過程を考えるならΔP = 0 (圧力の

変化はゼロ)であるから式(28)は次のようになる

ΔH =ΔU + PΔV (29)

化学反応の過程を考えるとき系に容積の変化がなく過程の前後で一定であ

るならさらにΔV = 0 であるのでエンタルピーの変化量は

ΔH =ΔU (30)

また系の仕事を体積の変化としてみる式(20)から

ΔW = pΔV= 0

であるのでこれを式(25)へ適応すると

ΔU= Q minus ΔW = Q ΔW= 0 だから

結果的に系の圧力と体積が変化の過程で一定である場合にはその系のエンタ

ルピーの変化を表す式(29)(30)は次のように簡単な式になって熱関

数と呼ばれる意味が理解しやすいだろう

ΔH = Q (31)

独立した系に等圧等積で起きる過程を見る場合にはエンタルピーは系が外

部と交換する熱量の直接的な尺度となる

H>0 なら反応に熱を使うので吸熱反応

H<0 なら発熱反応

電池のように系に起きる化学反応で生じる電子の流れを取り出す装置を考え

る場合エンタルピーの変化を電気エネルギーとして取りだしている点に留意

26

しなければならない式(31)のようにエンタルピー変化が交換される熱

量に直接表現できるといっても必ずしも熱として取り出すとは限らないこと

を注意しよう

ところでエンタルピーは内部エネルギーと同じ次元にある状態量で定圧

変化の熱量がエンタルピー変化であるからある一点を標準として定めれば

すべての物質について任意の点のエンタルピーを変化量として定めることがで

きるすなわち化学反応の過程で発熱あるいは吸熱する熱量は反応材料と

生成物の間の状態変化に対応するエンタルピーに対応する

そこで一つの元素に対してもっとも安定な状態にある物質を標準物質とし

て定め29815K(25)1atm を標準状態としてその標準物質からある化

合物を合成するときの反応熱(発熱あるいは吸熱)をその化合物の「標準生成

エンタルピー」として定義できる多くの元素に対して標準生成エンタルピー

は現在表としてまとめられている

水素や酸素はその気体状態が標準物質でありそれらの標準生成エンタルピー

がゼロと定義される

エントロピー

もう一つ新しい状態関数としてエントロピー(entropy)(rarr補遺 p64)を

定義するエントロピーを表す記号は通常S を用いその定義は次の式(32)

による

S Q

T (32)

エントロピーは系の2つの状態が決まると状態量として決まる

このときQ は2つの状態の間を可逆的に変化したとき系が受け取る熱量

T は系が熱量 Q を受け取ったときの温度(degK)である

「熱力学の第二法則」はエントロピーに関するものである

図9では2つの系が接しておりそれぞれの温度を Thigh Tlowとする

Thigh>Tlow (33)

27

今温度の高い系から温度の低い系に直接熱量 Q が移動したとすれば温度

の高い系のエントロピーの変化量ΔS は熱量が失われるので負の値になる

図9熱の移動

そこで温度の高い系のエントロピーの変化量ΔS を式で表すことにすると

次式のようになる

Shigh Q

Thigh

(34)

一方低い系のエントロピー変化量ΔS は熱量が与えられるため

Slow Q

Tlow

(35)

両方の系を合わせたエントロピーの変化量ΔS は

S Shigh Slow Q

Thigh

Q

Tlow

lowhigh

lowhigh

lowhigh TT

TTQ

TTQ

11 (36)

式(36)の最終項で(33)を前提すなわち最初に温度の高い系は高い

と決めたのだとするならエントロピーの変化量ΔS は必ず次のようになる

28

ΔS >0 (37)

すなわち独立した系がありそれより温度の低い別の系あるいは温度の低

い外界が接した場合熱量は高い方から低い方へ移動するという自然の成り行

きを説明するものである

自然界に置いてエントロピーは

ΔS≧0

の値を取りΔS=0のときは可逆的過程である

今の例でいうなら熱は温度の高い系から低い系へ移動しその逆は起きない

常にΔS >0の方向に過程が進行するまた2つの系が同じ温度であるとき

両者は平衡状態にあって熱量の移動は見かけ上なくΔS=0と表現される

「熱力学の第二法則」はエントロピーによって表現されるもので系の変化が

可逆的であるかどうかを判定する指標であり現実の世界で起きる不可逆過程

が正の値を取る方向へ進むことを示す

あるいは系の変化が起きるとき外界を含めて考えれば総エントロピーが

増大する方向に変化が起きることを意味するというようにも表現される

ギブス自由エネルギー

熱力学の第一法則によってエネルギーの取りうる形である「仕事」と「熱」

は互いに変換されうることを理解したこのことの数量的な意味は1cal=418J

で示されるさらに仕事は100熱に変換可能であるが一方の熱はうま

くやっても100を仕事に換えることができないことを熱力学の第二法則で

説明しようとしたそのためにエントロピーという概念が導入された

ここで電池のような独立した一つの系を見るとき系の内部エネルギーの減

少を仕事として取り出しうるならそれは化学反応を一つの例としてどれほど

の仕事量が取り出せるのかはどうしたら与えられるだろうか

化学反応を電気エネルギーに換える電池では先に正負それぞれの電極におけ

る半反応の平衡電位の値を利用してその起電力に対する最大値を計算した

この化学反応から取り出しうる最大仕事量を与えるものとして新しくギブス

自由エネルギー(rarr補遺 p70)と名付け記号 G を使ってそれを次のように

定義する

29

G = H-TS (38)

H はエンタルピーである第2項にある S はエントロピーを表す

ギブス自由エネルギーは化学反応のような独立した系の定温定圧過程に適

応されるので変化量ΔG を式(38)から得ておこう

ΔG =ΔH-Δ(TS)

=ΔH-(SΔT+TΔS)

温度を一定と考えているのでΔT=0 であるから

ΔG =ΔH-TΔS (39)

この式(39)を書き換える

ΔH=ΔG + TΔS (39rsquo)

ここで定圧過程ではエンタルピーを次のように式(29)で定義できた

ΔH =ΔU + PΔV (29)

式(29)の意味するところを復習すれば

系のエンタルピー変化ΔH は内部エネルギーの変化量と系が外部に

した仕事量の和として表される

これは

定圧過程で系が得るエネルギー量から仕事量を除いたもの

と言い換えることができるエンタルピー変化量は化学反応などの過程で

始めと終わりの2つの状態の差であるからそれが正の値を示す(>0)なら

系のエンタルピーは増加することを意味しその過程が進行するためには系

の外部からエネルギーが供給されなければならない

一方式(39rsquo)の右辺第2項TΔS はエントロピーの定義(32)より

TΔS = Q (40)

であるのでこれは可逆過程で系に供給される熱量を意味する

30

もしエンタルピー変化量が負の値を示す(<0)ならば系のエンタルピー

は減少しその過程が進行することによってエネルギーが取り出せるすなわ

ち式(39)(40)から次のようにこれら3つの状態量を改めて説明する

ことができる

ある化学反応が定圧で可逆的に進行するときそれから取り出せる

エネルギーのうちΔG を仕事として放出し熱量 Q を放出する

標準状態29815K(25)1atm で標準物質からある化合物を合成すると

きの反応熱(発熱あるいは吸熱)をその化合物の「標準生成エンタルピー」

として定義した同様にある物質に対する「標準生成ギブス自由エネルギー」

はこの標準状態で標準物質からその化合物を化学反応で生成するとき式(3

9)によって与えられる変化量をいう

電池における化学反応のギブス自由エネルギー

先にダニエル電池の亜鉛板側に対する電極反応を検討したとき電極反応が

仕事として放出するエネルギーを表現する重要な式があった次の式(17)

である

W = n FV (17)

ギブス自由エネルギーを用いて今これは次のように書くことができるように

なった

W = n FV=-ΔG (41)

この式が表していることを実際に水素の燃料とする燃料電池の反応過程で見

てみよう燃料電池の図を再掲する

図中右にある陰極では水素の酸化反応が起きる

H2 rarr 2H+ + 2e- (5)

一方図では左にある陽極において次の還元反応が起きる

12 O2 + 2e- rarr O2- (6)

O2- + 2H+ rarr H2O (8)

全体の反応はすでに示したように次の反応式(7)で示される

H2 +12 O2rarr H2O (7)

31

標準状態における可逆的仕事は式(41)であらわせ

n FV=-ΔG (41rsquo)

このΔG は式(39)であらわせた

ΔG =ΔH-TΔS (39)

すなわち標準状態29815K(25)1atmにおいてある化合物を標準物

質から合成するときの標準生成ギブス自由エネルギー変化ΔG゜は標準生成エ

ンタルピー変化ΔH゜とその温度におけるエントロピー変化TΔSの差で求ま

るこれらは燃料電池の全反応を表す式(7)で与えられる

標準生成エンタルピーΔH゜変化とエントロピー変化はすでに一般的な元

素やその化合物に対して表が作成されている

液体の水に対する標準生成エンタルピーΔH゜(H2O)は

ΔH゜(H2O)=minus 28583 KJmol

また水素ガスと酸素ガスはそれぞれの元素の標準物質であるので生成エ

ンタルピー変化はゼロである

32

そこで式(7)での水を1モル化学合成するときの標準生成エンタルピーΔ

H゜は水素(ガス1モル)と酸素(ガス12 モル)の2つの材料と水(液

体251atm)の両状態における状態量の差として表される

ΔH゜=ΔH゜(H2O)-ΔH゜(H2) -12ΔH゜(O2) (42)

式(42)の右辺第2項と第3項がゼロであるので

ΔH゜=ΔH゜(H2O) =-28583 KJmol (43)

標準状態29815K(25)1atm における水素(ガス)と酸素(ガス)お

よび水(液体)のエントロピーはそれぞれ

ΔS(H2O)=6991 JKmol

ΔS(H2) =13068 JKmol

ΔS(O2) =20514 JKmol

単位で分母のKはケルビン温度の意味

と計算されているので

ΔS=ΔS(H2O)-ΔS (H2) -12ΔS(O2) (44)

=6991-13068-12times20514

=-16334 JKmol

したがって

TΔS=29815times(-16334)=-486998=-4870 KJmol

(45)

そこで標準生成ギブス自由エネルギーΔG゜は式(39)から

-ΔG゜=-(ΔH゜-TΔS) (39)

=-{-28583-(-4870)}

=+23713 KJmol

33

すなわちこのエネルギーを電気エネルギーとして取り出すことができるそ

の起電力は式(41rsquo)から

n FV=-ΔG (41rsquo)

V= -ΔG(n F)

各数値を当てはめれば

V=237130(2times96485)

=1229 volt

先に【化学反応と電気エネルギー】のところで記したとおり25の基準

状態におけるこの電極電位はE゜=+1229 volt が得られているすなわち

こうして標準生成ギブス自由エネルギーから計算することでも同じ値を得る

ことができた

水素を単純に酸素と化合させる燃焼では式(43)で示されるエンタルピ

ーが発生する熱量を示している水素1モルあたり28583 KJである電池

にすれば水素1モルあたり23713 KJの仕事量が電気エネルギーとして取り

出すことができるその差は電池の場合熱が発生して利用できない

化学反応の過程を利用して化学エネルギーから直接電気エネルギーに変換す

るのが電池という装置であるが化学エネルギーは100電気エネルギ

ーに換えることはできないこのようにエネルギーの一部は電池の熱として

発散してしまう

理想気体の状態方程式

ギブス自由エネルギーΔG を定義した式(39)とエンタルピーΔH の定義

式(28)から

ΔG =ΔH-TΔS (39)

ΔH =ΔU +VΔP+ PΔV (28)

そこで次式が得られる

34

ΔG =ΔU+VΔP+ PΔV-TΔS (46)

またエネルギー保存則から得られた式(26)を応用すればギブス自由エ

ネルギーが変形できる

Q =ΔU+PΔV (26)

から

ΔU=Q-PΔV (47)

したがって式(46)は

ΔG = Q-PΔV+VΔP+ PΔV-TΔS

ΔG = Q-TΔS+VΔP (48)

エントロピーの定義からQ=TΔSであるから結局式(48)は

ΔG = VΔP (49)

と表すことができる

成分が混合された気体分子の分子間に働く力をゼロと仮定した「理想気体」を

考えるとき状態方程式としてボイルシャルル(Boyle-Charles)の法則が

利用できる

PV=nRT (50)

ここでnは気体のモル数PVT はそれぞれこれまでと同じ圧力体積温度(ケルビン温度)でありR は気体定数と呼ばれるもので次の値を持

R= 831441 JmolK (51) 単位で分母のKはケルビン温度の意味

35

状態方程式から式(49)の右辺を導くことを考えてみよう式(50)は

1モルの気体について V に対し次のように変形することができる

V 1

PRT (50rsquo)

両辺に圧力の微小変化量⊿P をかけると

PP

RTP V (52)

これを微分方程式として圧力p0 からp1 まで(p0≦p1)積分するなら

1

0

1

0

1

0

1p

p

p

p

p

pdP

PRTdP

P

RTdPV (53)

関数 f(x)=1x を積分したときの関数はF(x)=ln(x)であるので(ln は e を底

とする自然対数loge)

右辺=0

1ln)0ln()1ln(p

pRTpRTpRT (54)

ギブス自由エネルギーを表す式(49)は次のようであったから

ΔG = VΔP (49)

式(52)から得た式(54)を当てはめると状態G0(p0T)からG1(p1T)

へ変化する過程で圧力が p0 から p1 まで変化するものとして

dGG0

G1

G( p1T ) G(p0T ) RT lnp1

p0 (55)

あるいはこれを書き直して

V

36

G(p1 T) = G( p0T ) + RT lnp1p0

(56)

特別にG0(p0T)を標準状態T=29815K(25)p0=1atmに指定する

なら標準生成ギブス自由エネルギーを記号G゜として (56rsquo)

と表すことができる

式(56rsquo)の意味するところは標準状態から圧力の変化を伴う過程で理

G(p1 T) = Go + RT ln p1

想気体のギブス自由エネルギーは圧力の対数に比例して上昇することである

このことはさらに新しい着想を生む

すなわち水素を燃料とする上の燃料電池で1atm 標準状態の水素ガスの圧力

を2atm に上げれば式(56rsquo)からRTln2 余分にギブス自由エネルギー

が取り出せることになる

燃料電池において起電力を生むエネルギーは隔壁を水素イオンもしくは酸

素イオンが浸透しようとする力であるので1atm の水素ガスと2atm のそれで

は浸透しようとする圧力が異なりここに起電力が生じる

式(56)の第二項が圧力の差による仕事であるからこれをΔG とすれば

W=-ΔG の仕事量が電気エネルギーとして取り出せるはずである

W = minusΔG = minusRT lnp1p0

(57)

起電力に換算するために式(41)を使うと

W = n FV=minus ΔG (41)

から

01ln

pp

nFRTV ⎟

⎠⎞

⎜⎝⎛minus= (58)

この式(58)は一般にネルンスト(Nernst)の式と呼ばれる

37

理想溶液のギブス自由エネルギー

理想気体を想定したように無限に希釈された混合溶液に対して理想溶液を仮

定する「系」の圧力温度を一定に保つならば体積内部エネルギーエンタ

ルピーギブス自由エネルギーなどの示量数は混合溶液を構成する物質のモ

ル数mに比例するたとえば標準状態にある物質の1モルの体積をVとすれば

mモルの体積はそのm倍mVであるそうすると溶液中のi番目の成分がmi

モル「系」から「外界」に仕事をするときその成分iの持つ自由エネルギーの

mi倍の仕事が「外界」になされると考えればよい

この溶液成分のモル数と化学的仕事を結びつける示強因子がギブスによって

化学ポテンシャルと名付けられ一般に記号μが用いられる

化学ポテンシャルはこれまで見たようにギブス自由エネルギーで表される

また電位がψ(プサイ)にある系から-Δeの電荷が放出されるときには

-ψΔeの電気的仕事が得られるそこで記号μに両者を合わせた意味を持

たせて「電気化学ポテンシャル」と呼ぶ

概念の上で物質は電気化学ポテンシャルの高い方から低い方へ勾配にした

がって移動する

理想気体の標準状態が気体分圧を T=29815K(25)で 1atm としたのに対

し溶液成分の標準状態はその分圧に相当するモル数 m を用いるすなわち

標準状態にある成分 i の電気化学ポテンシャルμ0iは成分の持つ電荷(H+なら

1)を n として

μ0i = G i゜+nFψ i (59)

ギブス自由エネルギーは式(56rsquo)を借り理想溶液中の成分に対しては気

体圧力をその成分のモル濃度Cに書き換えればよいそこで

G(CT ) G RT lnC (60)

と表すことができる

したがって一般的な成分 i の電気化学ポテンシャルμiを表す式は標準状態

からの自由エネルギーの変化を考え式(59)と合わせて次のようになる

38

ψnFGii 0

式(60)から

ii CRTGTCGG ln)( 0

よって

(61) ψnFCRT iii ln0

実際的なことを考えると成分濃度はその有効イオン濃度とする必要があり

「活量係数」γを導入して次式で表されるイオン活量aを用いる

ai = γCi (62)

一般的にはγ=1と近似してモル濃度Cを使っているこのテキストでも

必要ではない限りイオン活量を用いることを省略して簡単に記述したい

膜電位

燃料電池に使われたナフィオンのような一つのイオンを通す膜を介して膜

の両側にC0 とC1 のイオン濃度差がある溶液が接するときの電気化学ポテン

シャルを考えよう

ある容器の底にナフィオン膜を取り付け容器の中と外のイオン濃度をC0

とC1としそれぞれの電気化学ポテンシャルをそれぞれμinとμoutとする

式(61)を使って

容器の中の電気化学ポテンシャル

(63) innFCRTin ψ 00 ln

容器の外の電気化学ポテンシャル

(64) outout nFCRT ψ 10 ln

イオン浸透性の膜を介して濃度変化が無視できるほどの移動があると考え

その電気化学ポテンシャルの差を式(63)(64)から求めれば

39

)(ln0

1 inoutinout nFC

CRT ψψ (65)

この系において今注目しているイオンが膜を介した両側で平衡状態にある

とき式(65)はΔμ=0と考えることができるすなわち

0)(ln0

1 inoutnFC

CRT ψψ

膜内外の電位差をΔψ=ψoutminus ψinとすれば

1

0

0

1 lnlnC

C

nF

RT

C

C

nF

RTψ (66)

式(66)は理想気体に対するネルンストの式(58)と同様溶液中のイ

オンに対するネルンスト(Nernst)の式として与えられる

細胞の膜においてもその生体膜の内外でたとえばカリウムイオンのように

非対称に分布して平衡に達している場合には式(66)で与えられる膜内外

で電位差が生じるこれは一般に膜電位と呼ばれる膜電位は平衡電位とも

呼ばれる

たとえば膜内外に1価のカリウムイオンに10倍の濃度差があるとすると

通常カリウムイオンは細胞内の濃度が高いので

C0 = 10timesC1

であるから

これを式(66)に当てはめてln(10)=2303 を用いlog への変換をすれば

Δψ=2303times(RTF)timeslog(10)

であるこれに R=831441 JmolKF=96485 CmolT=29815 K(25)

の各数値を当てはめると

Δψ=2303times831441times29815times196485 JC

=+005917 volt

すなわち膜の内外で約+60ミリボルトの膜電位が生じることになるこの

分だけ細胞の外側の電気化学ポテンシャルが高く膜の内側の膜電位が負であ

るそして膜にあるカリウムチャネルがこの電位を示すとき受動的なカリ

40

ウムの膜内外の移動は平衡に達することになる

水素イオン濃度測定

「標準水素電極」は1モル塩酸溶液につけた白金電極に1atm の水素ガスを

吹き込んで平衡状態に達したときの電位を基準としてゼロボルトと規定した

そこである溶液についてその水素イオン濃度を知ろうとするとき同じ水

素電極を用いることを考えれば標準状態にする目的で用いた1モル塩酸溶液

を濃度未知で X モルの塩酸溶液と想定すればその水素イオン濃度を知るこ

とができるだろうか

標準状態ではない X モルの塩酸溶液に浸けた白金電極が半電池として働くこ

とは間違いなさそうであるしかしその白金電極が持つ電極電位を測定する

にはいずれにしても標準電極と組み合わせて「電池」を構成しその電池

の起電力として計る必要がある電池を作れば起電力を知ることができ相

手の半電池の電極電位が知られていれば濃度が未知でXモルの溶液について

その水素イオン濃度を知ることができるだろう

こうした目的のためにいちいちゼロボルトと規定した標準水素電極を用いる

のは煩雑なのでしばしば後出の「銀塩化銀電極」が参照電極として用いら

れる

まず予め「銀塩化銀電極」を標準水素電極と組み合わせて電池とし一度

その起電力を測定しておけば後はいつもそれを標準電極として利用できる

「銀塩化銀電極」の半電池は

H+ (1 moll) Cl- | AgCl | Ag(s)

これに「標準水素電極」を組み合わせ電池を構成すると次のような電池

になる

Pt(s) | H2(g) | H+ (1 moll) Cl- | AgCl | Ag(s)

この電池の起電力を知れば「銀塩化銀電極」の半電池としての電極電位

を知ることができ参照電極として未知の半電池と組み合わせて起電力を測

定して相手の電極電位を計算できる

41

濃度 X モルの塩酸溶液を未知の溶液と想定すればその電極電位を知るために

組み立てる電池は次のようになる図10にその電池の図を示した

Pt(s) | H2(g) | H+ (x moll) Cl- | AgCl | Ag(s)

この電池の全反応は次の反応式で表される

AgCl(s) 1

2H2 (g) H Cl Ag(s) (67)

図10未知溶液の水素イオン濃度を測定しようとするための電池

化学反応の一般的な式

ここで電池に利用される化学反応から得られるエネルギーをギブス自由エ

ネルギーに換算し起電力を具体的に知る手だてとすることは上ですでに学

42

んだがより一般的な式を再度ここに書きだしておこう

化学反応が紙面で左から右に進む反応として次のような一般式で与えられ

るとき

aA + bB rarr cC + dD (68)

ギブス自由エネルギー変化量は標準状態ΔG゜からの変化量を加える形で式

(60)と同様次の式によって表される

G G RT(ln aCc aD

d ln aAa aB

b )

G RT ln

aCc aD

d

aAa aB

b (69)

aAは成分 A のイオン活量であるその他の成分も同じ

得られたエネルギーを電気エネルギーに換えるなら式(41)に習って

次式で表せば

ΔG=-n FV

there4V=-ΔG(nF) (70)

このときの起電力は標準状態における電位 E゜からの変化量として次式で与

えられる

E E

RT

nFln

aCc aD

d

aAa aB

b (71)

標準状態における起電力 E゜は反応が平衡状態にあるときで反応平衡定数

を K とするなら

K aC

c aDd

aAa aB

b (72)

で表されるそこでE゜は次のように書き改めることができる

43

E

RT

nFln K (73)

そこで式(67)で表される図10の電池「水素minus 銀塩化銀電池」に

対する起電力をギブス自由エネルギーから求めてみよう

反応から式(71)に当てはめれば

E E RT

Fln

aH

1 aCl

1 aAg1

aAgCl1 aH2

1

2

(74)

力学の慣例にしたがって固体の純物質の活量は1として扱い水素ガスを

想気体として見なして活量を1atm とするなら式(74)は次のよう

に簡略化される

E E

RT

Flna

H aCl (75)

ころで理想溶液として近似的に取り扱うときの希薄溶液でたとえば水素

入して詳細に検討するなら式( れる起電

オン濃度はイオン活量として aH+の記号を使うときすでに【理想溶液のギ

ブス自由エネルギー】の章で述べたようにこれを有効イオン濃度とする必要

がありイオン活量 a は「活量係数」γを導入して次式で表した

a H+= γH+CH+ (62)

この活量係数を導 75)で誘導さ

を計ることによって経験的に試料溶液中の水素イオン濃度を求めることは

困難である式(75)にあるイオン活量の項はモル濃度 C と活量係数γを

用いて次式で書き改められる

lnaH aCl

lnCH CCl

lnH Cl

(76)

まり式(76)右辺の第二項において互いに相手が知られなければ自分

決めることができず結果的に起電力を知っても(75)の値から水素イオ

ン濃度を導けないここに工夫が必要になる

44

の定義とその目盛り

液中の水素イオン濃度を直接意味するものではなく

を定義するとき測定されるのは1リットルの溶媒に存在す

pH = -log a H+ = -log(γH+CH+) (77)

際に試料溶液の pH を決定する際はpH 標準液を用いる

に溶液を入れ試料溶液 X と pH 標準液 S を

参 極を接続し電池を作成しその起

pH

現在pH の定義は溶

で述べたようにそれが簡便に測定できるものではないため次のように定

義されている

水素イオン濃度

水素イオン活量であるため定義式としては活量係数をγH+として次式で与

えられる

その要領は次のようである

上に図示した水素電極の容器内

れぞれ半電池(I)と(II)に入れる

半電池(I) Pt | H2 (1 atm) | 試料溶液

半電池(II) Pt | H2 (1 atm) | 試料溶液S

照電極として上図のごとく銀塩化銀電

電力を測定する半電池(I)のときの起電力を E(X)半電池(II)のそれを E(S)

とするこのとき試料溶液Xの pH は次式で計算される

pH (X) pH(S) E(S) E(X)

RT ln(10) (78)

ln(10)は自然対数を常用対数に戻すための定数で2303 を用いる

標準液

pH 標準液 S はpH 第一次標準液第二次標準液と呼ばれるべき

る測定

25で pH 4005 を示す

pH

上述した

のであり絶対的測定法である起電力の測定によって値をつける

標準液は安定で純粋な結晶が得られる試薬を調整してこれを測定す

上と同様に水素電極を用いこれに緩衝液を入れる参照電極として銀

塩化銀電極を接続して電池の起電力を測定する

たとえば005 moll フタル酸水素カリウム溶液は

一次標準(Primary Standard PS)の一つである半電池(III)として水素

45

電極を次のように準備する

半電池(III) Pt | H2 (1 atm) | PS 溶液

て電池を形成したとき得られる起電

参照電極として銀塩化銀電極を接続し

は式(75)から

E E

Ag AgCl RT

Flna

H aCl (79)

オン活量を濃度と活量係数の積(a H+= γH+CH+)にし自然対数を常用対数

すれば

E E

Ag AgCl RT ln(10)

F log(

H + CH+ Cl- CCl - ) (80)

E゜は水素標準電極(水素ガス分圧を1atm電極を浸ける溶液に001 moll

H

Cl を用いる)で得た起電力である

式(80)から

RT ln(10)

Flog(

H CH Cl

) (E EAg AgCl )

RT ln(10)

Flog C

Cl

(81)

らに

log(

H CH Cl

) F

RT ln(10)(E E

Ag AgCl ) logCCl

(82)

ころで式(77)から

(γH+CH+) (77)

-log a H+ =-loga H+-log(γCl-) +log(γCl-) =-log(a H+γCl-) +log(γCl-)

(83)の一番右の式で第一項は

pH = -log a H+ = -log

であるが右の式をさらに変形すると

(83)

46

-log(a H+γCl-)=-log(γH+ CH+γCl-) (84)

たがって式(82)の右辺で示されるように電池の起電力を測定すれば

よ 実際には溶液の塩素イオン濃

液で起電力を求め外挿する

起電

これによってpH を意味する式(83)は次式(85)で与えられる

p(aHγCl)はRG Bates によって Acidity Function と呼ばれている

らに式(85)最終項の log(γCl-) を補正しなければならないこの項は

本工業規格)によっても

であってこれは式(82)の左辺である

いただし塩素イオン濃度の項があって

をゼロにしたときの値が必要である

実測する際には塩素イオン濃度をゼロにできないので塩化ナトリウム NaCl

等を濃度を変えて添加しその時々の緩衝

勧告ではNaCl で 000500100015moll の3つの濃度を例示している

すなわち塩素イオン濃度ゼロのときの値は各塩素イオン濃度に対して

の値をそれぞれプロットしグラフから塩素イオンがゼロのときの起電力の

値を3点に対する回帰直線の延長で外挿して求めるこの点を次のように書

log( C H H Cl CCl

0

pa log( C log( (85) H H H Cl C

Cl0 Cl

)

素イオンの活動係数で与えられる補正項である

無限希釈溶液中のイオンの活動係数は理論的に Dubye-Huckel の式を用い

近似的に求めることが可能であるこれはJIS(日

用されていて Bates-Guggenheim の規約と呼ばれる (Bates RG

Guggenheim Pure Appl Chem 1 163-168 1960)

Dubye-Huckel の式は次のように与えられる

log A I

i 1 iB I (86)

47

I iについてそのモル濃度

計算される

はイオン強度でイオン mi と電荷 zi から次式で

I 1

2mizi (87)

また iは(86)式のBは温度と溶媒の性質による定数であり イオンの大

きさに関するパラメータで水和イオンの大きさとほぼ一致した値をとる標

準法の勧告では塩素イオンに対しイオンの大きさを46Åと決めてiBを

1

5 にしているそこで式(84)は次のようになる

ClA I

log 1 15 I

イオン強度 I は塩素イオン濃度を含まない計算となる

以上の方法によって実用的な pH 測定に用いられる第一次第二次標準液の

pH の値が得られる

絶対値としての

はpH の絶対測定法(第一次標準測定法)とされている

銀塩化銀参照電極は分極現象を防ぐために棒状の銀を塩酸で処理し表

に塩化銀を生成させたものを飽和塩化カリウム溶液につけてある

(88)

参考現在は実験的に求めた値と理論値の組み合わせで

素イオン濃度を求める方法を規定しているこの起電力から水素イオン濃度

を知るための測定方法

Buck RP Rondinini S Covington AK Baucke FGK Brett CMA Camoes MF

Milton MJT Mussini T Naumann R Pratt Kw Spitzer P Wilson GS

Measurement of pH definition standards and procedures Pure Appl Chem

74(11)2169-2200 2002Kristensen HB Salomon A Kokholm GInternational

pH scales and certification of pH Anal Chem 63(18) 885A-891A 1991)

銀塩化銀参照電極

電極の構成は

Cl-(aq) | AgCl(s) | Ag(s)

48

この半反応は次のようになる

AgCl(s) + e- rarr Ag(s) + Cl- (89)

の反応は次の2つの反応に分けて考えることができる

Ag+ + e- rarr Ag(s) (91)

AgCl(s)rarr Ag+ + Cl- (90)

図11銀塩化銀参照電極

(90)における銀 る塩素イオンによって左

されることが推測される

そこでカッコ [ ] をそれによって囲まれるイオンの濃度を表すことにし

式 イオン Ag+の溶解性は共存す

塩化銀の乖離定数Kを考えると

49

K = [Ag+][Cl-] (92)

これから

[Ag+]= K[Cl-] (93)

化カリウム溶液に漬けた銀塩化銀電極の電位 E は水素標準電極に対する

電 で与えられる

位を E゜として次式

E E

RT

nF

[ Ag ]

[Ag(s)]ln( )

Ag(s)のイオン活量は常に1とする

ここで半反応の電極電位を求めるために式(75)を利用することにすれば

(94)

熱力学の慣例にしたがって純物質個体

E E

RT

Flna

H Cl a (75)

式 の半反応をみると

応で電子1つが移動するので n=1 とするR=831441 JmolK1F = 96485

C はめれば

これに銀イオンの濃度として式(93)を当てはめる

この反応で移動する電子は (89) 銀イオン1つの反

molT=29815K(25)ln(10)=2303などの定数を当て

2303RTF = 005917

であるから(94)式は次のように表現できる

log[Cl]) E E 005917(logK (95)

たがって標準水素電極に対する銀塩化銀参照電極の標準状態における電

位 は半反応(89)に対して ゜=+0799で

化銀の乖離定数 K は182times10-10 であるのでその対数を取れば-973993

0799-005917times973993-005917log[Cl-]

E゜ E ある

ある

そこで式(95)は

E =

50

= 0799-0576-005917log[Cl-]

= 0223-005917log[Cl-] (96)

電極電位の関係について実測値

こうして求めた塩化カリウム溶液の濃度と

計算上の値は次のようである

KCl moll vs SHE volt25 計算値 volt25 01 02881 02822 35 0205 01908 飽和 0199 minus

実用 測定

実際の現場で水素イオン濃度を測定する目的の測定法で上のような2つの

極が同じ溶液に浸かっていたのでは試料溶液を交換するにも便利ではない

の容器に入れる未知試料溶液と銀塩化銀電極を隔離する

的な pH

そこで水素電極側

的で二つの電極容器をつなぐ液絡部をグラスフィルターやセラミック板

飽和塩化カリウムで作成したゼラチンなどの塩橋によって隔離遮断するこ

れを液絡部とよぶ

電池として機能するために必要な溶液イオンの交換はこの液絡部で行う

組み立てる電池は電池式で次のように表される

Pt(s) | H2 | 試料 (H+ x moll) || 飽和 KCl | AgCl | Ag(s)

の標準電極と銀塩化銀電極とは区切られていて溶液の直接の接触がない

とを意味するために電池式ではタテ二重線を用いる銀塩化銀参照電極

の容器には飽和塩化カリウム溶液が入れられる

51

図12液絡部のある pH 測定のための電池

この液絡部のある電池では塩橋を記号lsquo | | rsquoで表して次のように記す

試料 (H+ x moll) | | 飽和 KCl

ここでは試料溶液と飽和塩化カリウム溶液の異なる2液が接している

このような界面では膜電力が生じるのと同様「液間電位差」が生じることが

知られているしたがって上の電池で測定される起電力 E は

E = E[銀塩化銀電極電位]+E[液間電位]+E[水素電極電位]

で与えられることになってE[液間電位]のために図12の電池の起電力

は銀塩化銀参照電極の値を知っていても水素電極容器内に入れた未知溶

液の水素イオン濃度を正しく知ることができない

52

そこで実用的な測定法としてこの E[液間電位]を膜電位として積極的に利

用する方法が工夫されたすなわち水素イオンに感応するガラス薄膜を用い

るガラス電極法である

53

ガラス電極

ガラスはケイ素原子と酸素原子からなる SiO4 の結晶構造を持ち酸素で囲

まれた空隙があって水素イオンがそれを埋めることができる

この性質によってガラス膜表面は水溶液中の水素イオンに応じて膜電位を

変化させるのでこれを水素イオン濃度測定用の電極として利用することが考

えられるこれが通常用いられるガラス電極である

ガラス電極は標準電極と組み合わせれば電池を構成することができこの電

池の起電力を知ってガラス薄膜の内外にできたイオン濃度勾配を知ろうとす

るものである

薄いガラス膜(01mm程度)をはさんで接する2つの溶液のH+イオン濃

度が異なるとその差に応じてガラス膜の両側に電位差(Eg)が現れる

ネルンストの式でガラス電極の内部に入れた既知の濃度のH+([H+]in)に対

し試料中の水素イオン濃度が[H+]sampleのとき次の電位を生じる

)][

][log(059170)

][

][ln(

sample

in

sample

ing

H

H

H

H

F

RTE

(97)

図13ガラス電極

電極を構成するのは銀塩化銀電極と同じ電極で用いる塩溶液は一般的

54

に 01モル塩酸溶液である

この半電池の電池式は次のように書くことができる

Ag(s) | AgCl(s) | HCl (01 M) | ガラス薄膜 || 試料溶液 H+ (x moll)

Eg

この半電池の電極電圧を測定するために銀塩化銀標準電極と組み合わせ

電池を作って起電力を計る

構成される電池は下図のようになる

ガラス電極 銀塩化銀標準電極

図14ガラス電極を用いた pH 測定用の電池

この電池の起電力は次の各半電池の平衡電位を合わせたものになる

55

E1ガラス電極の内側電位

Ag(s) | AgCl(s) | HCl (01 M)

Egガラス薄膜の内外に生じる膜電位

HCl (01 M) | ガラス薄膜 || 試料溶液 H+ (x moll)

E2液間電位(膜電位)銀塩化銀標準電極のセラミックを介した試料溶液

と銀塩化銀標準電極の内部液(飽和 KCl 溶液)の間に発生する電位

試料溶液 H+ (x moll)|| セラミック | KCl(飽和)

E3銀塩化銀標準電極

KCl(飽和)| AgCl(s) | Ag(s)

pH メーター用のガラス電極に使われるガラス薄膜は水素イオンに感応して

膜電位(Eg)を生じるこれは【膜電位】の章で記したように薄膜がある

一つのイオンのみを通過させる特性を持っている場合にイオンが膜を介した

両側で平衡状態に達したとして電気化学ポテンシャルを膜の両側で等しいと

考えてそのイオンが濃厚な側から希薄な側にその差によって圧力を生じると

するものである

一方同じ試料溶液が銀塩化銀標準電極のセラミック液絡部を介して生じ

るだろう液間電位(膜電位E2)はいま関心がある水素イオンに対して特異

的に感応するのではないので試料溶液の水素イオン濃度に関係なく一定と見

なすことができる

すなわちpH メーターを構成する電池の起電力 E は

E = E1+Eg+E2+E3 (98)

このうちEg以外は一定と見なせるので

E1+E2+E3 = E

として式(98)を書き直すと

)][

][log(059170

sample

ing H

HEEEE

(99)

Eは標準液によって校正されるべき標準電極電位である

56

電極の校正

実際のイオン濃度を測定する場合低濃度標準液と高濃度標準液で得られ

る起電力を測定し計測のイオン濃度に対する係数(傾き)を求めておき未

知の試料に対して起電力を測定してそのイオン濃度を算出する方法が採られる

低濃度標準液と高濃度標準液のそれぞれの濃度をCLとCHとすればそれぞ

れの起電力ELとEHは次式で表される EH = E +β logCH (100)

EL = E +β log CL (101)

ただしβは式(99)の係数を簡略にしたものである

式(100)と(101)から検量線の傾きが次式で表せる

ΔE = EH minus EL = β(logCH minus logCL) = β logCH

CL

(102)

したがって係数βは

β =ΔE

log CH

CL

(103)

であらわされる

このときに使われる標準はすでに前出の pH 第一次標準第二次標準溶液で

ある

金属イオンに対応するイオン選択電極

現在臨床検査で日常的に使われている電解質測定のための電極はナトリウ

ムカリウムカルシウムクロールなどおよそ臨床的に必要な金属イオン

に対して入手可能である

カリウムイオン測定用のバリノマイシンの発見によってクラウンエーテルと

57

呼ばれる一連の化合物が知られたクラウンエーテルはその分子の中心に立

体的な空間を持ち特定のイオン径に対し合致するのでそのイオンに対して

選択的に感応するこれらの化合物はイオノフォアと呼ばれる

図 15クラウンエーテル

1つの金属イオンが環状化合物

15-crown-5 の中央にある空間を充填

している模式図

15-crown-5 の構造を作る10個の黒

い丸は炭素炭素2個のつながりごと

にある中心の白い丸は酸素酸素と

金属イオンの間の距離はおよそ 22~

23Åであるカリウムのファンデン

ワールス半径は 135Åイオン半径は

15~16Åである

測定したいイオンに対しポリ塩化ビニル(PVC)を支持体としてイオノフ

ォアを添加した液膜の電極膜を作成しこれをガラス電極におけるガラス薄膜

と同様試料に接する電極膜として用いるこの構造から一般的に液膜型電極

と呼ばれる電極膜には特異性を高めるため妨害イオン排除剤などが添加

される

pH メーターと同様銀塩化銀標準電極と組み合わせ電池を形成しその

起電力を計る測定したいイオンが液膜に対して内外で平衡に達したときの

膜電位を測定するのはガラス電極と同じである

カ リ ウ ム イ オ ン に は Bis[(benzo-15-crown-5) ( 正 式 名 は

Bis[(benzo-15-crown-5)-4-methyl]pimelate)ナトリウムには Bis[(12-crown-4)

やDibenzyl-bis[(12-crown-4)などがイオノフォアとして用いられる

58

図16カリウムイオン測定用に使われるクラウンエーテル

図17ナトリウムイオン測定用に使われるクラウンエーテル

59

参考イオン選択電極に関する文献Xia Z Badr IHA Plummer SL Cullen L

Bachas LG Synthesis and evaluation of a bis(crown ether) ionophore with a

conformationally constained bridge in ione- selective electrodes Anal Sci 14(2)

169-173 1998 Oh K-C Kang EC Cho YL Jeong K-S Y oo E-A Paeng K-J

Potassium-selective PVC membrane electrodes based on newly synthesized

cis- and trans-bis(crown ether)s ibid 14(10)1009-1012 1998 Dojindo WEB

site httpwwwdojindocojpwwwrootproductsjinfo2protocolp31pdf

<補遺> 60

補遺 状態関数 (本文 p21 10 行目参照)

一つの平衡状態にある系 A とこれに接する系 A にとって外部である系 B について系 B

から系 A に熱を与えこれによって系 A が他の平衡状態に移ったとき系 A はその結果とし

て膨張し系 B に対し仕事をする

このときの微少な熱量の移動を記号drsquoQ またなされた微少な仕事をdrsquoW とすると

系Aの内部エネルギーに関する微少な変化drsquoUA は両者の和として表される

WdQdUd A primeminusprime=prime (a-1)

この式 a-1 と本文中の式25との関係について

WQU A Δminus=Δ 本文(25)

<補遺> 61

式 a-1 と式25の記号の違いは変化の起きる前の平衡状態 S1 から変化後の平衡状態 S2

に状態変化があったとするなら式 a-1 を積分することで式25が得られるものと考えて区

別している

A

S

S A UUd Δ=primeint2

1 (a-2)

このことは重要であるすなわち内部エネルギーU は変化の起きる前後の状態を指定する

ことによって値が定まることを意味するこのように積分によって値を定めることが出来る

のでdrsquoU は完全微分であるという

内部エネルギーのように系の状態だけで値の定まる量を状態関数として扱う

一方式 a-1 のdrsquoQ drsquoW についても同様に微少の変化量を表しているが平衡状態 S1

から S2 への経路を指定しなければ積分の値は定まらない

本文中の記号にしたがって仕事量ΔW を次のように表すことにする

VpW Δ=Δ 本文(20) V

<補遺> 62

体積と圧力の関係を表す図を使ってこの仕事量が意味することを考える圧力 prsquo の下で

体積が V1 であるときを状態 S1 として圧力一定の下で体積を V2 まで膨張させるような変

化を行った後体積を等しく保って圧力を p にまで上げたときの状態を S2 とするこのとき

の仕事量は膨張に伴うものであるから図の体積‐圧力線の下の面積で示すことができる

平衡状態 S1 から S2 への変化の道筋を別にたどってみよう

新しい経路では圧力を先に p まで上げた後に膨張変化させている

図から直感的に明らかであるので数式での扱いを省略するが2 つの経路による仕事量には

差がある

すなわちdrsquoW は drsquoU と異なり変化の初め S1 と終わり S2 の状態が与えられても積分値

は定まらず変化の経路によって違ってくる

このように変化の経路を指定しなければ積分値が定まらないものを不完全微分と呼び扱

いを区別する

本文 p21 へ戻る

<補遺> 63

VpW

WQU

VpQU

VpUQ

1122 SSSS pVUpVUQ

pVU

VpUHHHQ SS 12

エンタルピー (本文 p24 20 行目参照)

本文中の式 20 および 25 から一定の圧力の元で起きる状態変化において内部エネルギー

の変化量に対する式 a-3 を得る

本文(20)

本文(25)

(a-3)

式 a-3 を Q について書き直す

(a-4)

状態の変化が平衡状態S1から平衡状態S2に移ったものとして式 a-4を丁寧に書き直すと

(a-5)

並び替えて

(a-6)

式 a-6 を見ると定圧過程における熱量の流入は

(a-7)

の形を持つ関数の差であることが分かる

一般に化学反応のような変化の過程では大気圧の下で行われるようなものに興味がある

そこで式 a-7 で与えられる項を一つの関数として定義するこれをエンタルピーと呼び記

号 H を与える式 a-4 はエンタルピーの変化量で次のように書き改められる

(a-8)

圧力が一定の下で起こる状態変化について流入する熱量は式 a-8 で示されるようにエンタ

ルピーの変化量に等しい

V

V

V

V V

V

V

1212 SSSS VVpUUQ VV

<補遺> 64

1Q

We

また式 a-8 からオートクレーブ内で起こるような体積変化のない過程ではこの値が内

部エネルギーの変化量で与えられることが明らかである

本文 p24 へ戻る

エントロピー (本文 p26 17 行目参照)

エントロピーは次のような思考実験から発想された仮想的な状態関数である

理想気体よりなる系 A が温度 T2で熱平衡状態にあり温度 T1の外部の熱源と接しているこ

とを想定する系 A の外部を系 B と呼ぶことにするT1は T2に対して無限小だけ高い温度と

する

系 A が系 B に対して温度圧力について平衡を保ちながら緩慢に系 B より熱量 Q1を受け取

る過程を考える(このような過程を準静的過程と呼ぶ)これによって系 A が熱量 Q1を得て膨

張するとき系 B に対して仕事をする続いて系 A から熱量 Q2が系 B に戻ることを考える

想定されるこの変化が可逆的であれば系 A と系 B を併せた全体は元の状態に戻る蒸気機

関に関するこのような研究が Nicolas Carnot によってなされたのは1824 年のことであった

ここに想定されたサイクルに対する Carnot の効率 e は移動した熱量となされた仕事によ

って定義され次の式で表される

(b-1)

<補遺> 65

理想気体では内部エネルギーU の変化ΔU はゼロと考えるしたがって熱力学の第一法

則を表す式(本文中の式25)から次の関係が示される

0=Δminus=Δ WQU

WQ Δ= (b-2)

これによってCarnot Cycleの効率eはQ2lt0 として次のように書き改めることが出来る

1

21

QQQe +

= (b-3)

ところで気体の状態方程式から1 モルの気体について次のような関係が示される

RTV

P

P1=

V = RTV (b-4)

V 式 b-4 の両辺に体積の微少変化量ΔV をかけて

(b-5)

これを体積Vについてその変化をV1からV2までとして積分するならば次式が得られる

VV

RTVP Δ=Δ 1V V

V

intint = 2

1

2

1

1V

V

V

VdV

VRTPdV

1V2V

11 lnRTW =

(b-6)

Q1の熱量によって起こる膨張がV1よりV2までとし圧力P温度T1の下でなされるその仕事

量をW1とするならそれは式b-6 の右辺によって示されるすなわち

(b-7)

VV

1

2lnVVRT=

V V

VV

V

V2int V2 intV1 V1

<補遺> 66

またQ2の熱量の移動が圧力P温度T2の下で起きこれによって系Aが可逆的に圧縮され

るなら体積変化はV2よりV1まで起こりその仕事量をW2で示すと次式のように表される

(b-8)

1

22

2

122 lnln

VVRT

VVRTW minus==VV

VV

Q1=W1Q2=W2の関係から式b-7 およびb-8 を用いてCarnot Cycleの効率eを表す式b-3

を書き改めると温度のみの関係式として次のように表される

1

21

TTTe minus

= (b-9)

ここでサイクルが可逆的過程であると想定するならば式 b-3 と式 b-9 から

1

21

1

21

TTT

QQQe minus

=+

= (b-10)

これから

12112111 QTQTQTQT minus=+ (b-11)

整理すると

02

2

1

1 =+TQ

TQ (b-12)

この考えをさらに発展させ系A

と系Bの間に数多くの系を挿入すること

にしてそれらの系を同様に熱源として

T1T2Tnと考えるこれによっ

て熱の受け渡しが系Aから系Bに至り

再び系Aにもどるサイクル過程に数多

くの寄り道の過程を加えることになる

熱量の移動に関して上の場合と同じく

準静的過程で行われると考えるこの

サイクル全過程について初めと終わ

<補遺> 67

n

i i

i

T

Q

1

0

0T

dQ

T

QS

T

dQASAS )()( 12

りが同じ状態になる可逆的な過程であるなら式 b-12 を拡大的に考えることになってそれ

は次式で表される

(b-13)

式 b-13 には重要な関数が現れるすなわち熱量と温度の比QT である

もし一つの系が無限小だけ温度の高い(dT )外界から温度圧力など平衡を保ちなが

ら極めて緩慢な過程(準静的過程)で無限小の熱量(dQ )を受け取るならばその変化は可

逆的でありdT について連続的な温度分布をする過程を考えるとき式 b-13 をさらに発展

させて次のように積分式で示すことが出来る

(b-14)

式 b-14 で積分記号にが付されているのはCarnot Cycle のような経路を一巡することを

意味している

Carnot の熱機関の効率という着想から生まれた熱量とそれを持つ系の温度との比 QT に

重要な意味を見出したのは Rudolph Clausius で彼はこの比にエントロピーという名前を与

えたエントロピーには記号ΔS を一般に用いる

(b-15)

エントロピーは初めと終わりの状態がわかれば過程に関わらず定まるので状態関数であ

系 A と外界のエントロピー変化を考えるときそれが可逆的過程であるならばすべてを併

せた全体のエントロピー変化は初めと終わりに変化がないという意味でゼロであるすなわ

ち初めの状態を S(A1)とし次の状態を S(A2)とするならそれぞれのエントロピーを

ΔS(A1)ΔS(A2)としてこの間におけるエントロピーの変化量は次のように示される

(b-16)

<補遺> 68

T

dQdS

0T

dQ

ある一つの変化については次のように示される

(b-17)

ここで式 b-17 の S に付けられたdは微分量すなわちごく微小の変化量を意味し式 b-15

で定義されたエントロピーに用いられる一般的な記号Δと区別する

ところで式 b-10 の関係においてもし移動した熱量のすべてが仕事に変わらなければ

効率 e を表す熱量を用いた関係式と温度で表される関係式は等号で結ぶことができないそれ

はエネルギーのロスを意味し初めと終わりの状態が異なってしまうことを意味するすなわ

ち全過程が構成する一つのサイクルは可逆的でなくなる

不可逆過程での熱効率 ersquo は 大値を示す可逆的過程の熱効率 e より小さな値をとる

ee

したがって 大効率を与える式 b-8 と式 b-3 から

01221

2112

1

21

1

21

QTQT

QTQT

Q

QQ

T

TT

両辺を T1T2で割ると

02

2

1

1 T

Q

T

Q

これを式 b12 と同様に発展させれば式 b-14 についてサイクルの変化が可逆的過程の

場合と不可逆的過程の場合の両方を併せClausius の不等式と呼ばれる次の関係が成立する

(b-18)

式 b-18 の等号が成立するのはサイクルが可逆的な理想の場合に限られる

ある孤立系で状態 A1 から状態 A2 へは不可逆変化で進められ状態 A2 から再び状態 A1

に戻るとき可逆変化であるような閉じた状態変化を考える可逆系のエントロピー変化には

記号 Q を使い不可逆変化には Q を用いるとするとそれぞれ積分式を用いて状態 A1 から

状態 A2 へは

<補遺> 69

d prime

状態 A2 から状態 A1 に戻るときは

全体では

=d prime

+d

(b-19)

Clausius の不等式から

0

式(b-19)の第二項で反応を逆に進めるときには次のように書き改めることができる

=d

よって式(b-19)は次のように書き直すことができClausius の不等式とあわせると

d prime d

0

すなわち

d prime d

上式の右辺は式(b-16)を用いて表せば

d prime

∆S ∆

この状態変化を微小変化とするならば断熱変化の場合 dQ = 0 であるから

∆S ∆ dS 0

すなわち不可逆変化を含む断熱変化ではエントロピーは必ず増大する

<補遺> 70

T

QS

BA SSS

(b-20)

(次の<補遺>ギブス自由エネルギーも参照せよ)

本文 p26 へ戻る

ギブス自由エネルギー (本文 p28 27 行目参照)

エントロピーの考えを導入することによって不可逆的に状態変化が起きるときにはエン

トロピーの増大を引き起こすことを知ったこれによって目前で起きる現象について温度の

変化があるものであれないものであれまた圧力の変化があるものであってもエントロピー

の定義式によって可逆的な変化におけるエントロピーの変化量を計算することが可能である

(b-15)

しかしながらこれから起こる変化について我々がすでにあらかじめ知っている物理量を

用いて予測的にその状態変化が起きるかどうか知ることは必ずしも容易ではないその理由

は式 b-15 に示されたエントロピーΔS が系とその外界をあわせた全体のエントロピーを示

しているからであるすなわち関心のある系を系 A としその外界を系 B とすると全体

のエントロピーは次のように表せる

(c-1)

関心のある系 A のエントロピー変化を知るためには系 B のそれを知ればよいがそれは

いつも容易とは限らない系 A の性質だけで状態変化の方向を知るには別の観点が必要にな

るようだ

そこでもう一度状態変化が熱量 Q の移動によって起きることについて考えてみようエン

トロピーの補遺で議論したように熱量の移動が準静的過程により行われるときには変化は可

逆的に起こると考えたこのとき外界すなわち系 B から移動する熱量を Q1とし系 A から

0S

<補遺> 71

21 QQ

T

Q

T

QSB

21

T

QSS A

2

QH

T

HSS AA

AA STHST

のそれを Q2 と記号を当てたのでこれをそのまま使うことにすれば可逆的な過程では系 B

の熱量 Q1 はすなわち系 A から戻る Q2 に他ならないので両者には次の関係が成立するも

のとしてよい

(c-2)

したがって

(c-3)

と考えてよくこれによって式 c-1 を次のように書きなおすことが出来る

(c-4)

独立した系で圧力とその体積に変化がなく一定の条件の下で状態変化が起きるときエン

タルピーの考えを使ってすでにひとつの関係があることを導いている

本文(31)

そこで式 c-4 を系のエンタルピーΔHAによって書き改めれば

(c-5)

この両辺に-T をかけて式を書き直せば次の関係式が得られる

(c-6)

式 c-6 を見るときその右辺がマイナスの値ならば左辺のΔS はプラスの値をとることが

分かるすなわちエントロピーが増大すると見ることが出来るこれまでの過程で自然の現

象はエントロピーが増大する方向に進むとしてきたので関心のある状態変化について式 c-6

の右辺で計算される値がマイナスの値ならばその変化は起きるものと考えてよいことになる

だろうしかも右辺はすべて独立した系の状態量で示されていて我々が知りうる値で計算

<補遺> 72

TSHG

STSTHG

STHG

可能である

そこでこれを熱力学ポテンシャルを表すものとしてギブス自由エネルギーと呼ぶことに

するギブス自由エネルギーは記号 G が用いられ次のように定義される

(c-7)

ここで関心があるのは自由エネルギーの絶対値ではなく式 c-6 に示されたようにその変化量

に興味があるので式 c-7 から

(c-8)

温度が一定の条件の下で状態変化が起きることを考えるなら式 c-8 は次のように書くこと

ができる

(c-9)

ギブス自由エネルギーは式 c-9 の右辺がすべて状態量であるからこれも状態量の一つで

ある定圧定温の条件下で起きる変化ではすでに議論したようにΔGlt0 であれば状態

変化は自発的に起きるものと予測できる

つまり式 c-5 の第一項は系のエントロピーΔSAそのものであり第二項で示されるエンタ

ルピーは系 A の温度が一定に保たれているのであるから発熱する熱量として外界に吸収さ

れるものであってこれは外界のエントロピーの増大につながるものとして解釈されるした

がって化学反応のように一定の圧力と一定の温度の下で起きる変化について自由エネルギ

ー変化量はその状態変化が自発的に起きる傾向を示しているといってよい

本文 p28 へ戻る

  • はじめに
  • 目次
  • 電気エネルギー
    • 金属のイオン化
    • 電池
    • 水素の反応
    • 燃料電池
    • 化学反応と電気エネルギー
      • エネルギーと熱力学
        • エネルギー保存則
        • エンタルピー
        • エントロピー13
        • ギブス自由エネルギー
        • 電池における化学反応のギブス自由エネルギー13
        • 理想気体の状態方程式
        • 理想溶液のギブス自由エネルギー
        • 膜電位
          • 水素イオン濃度測定
            • 化学反応の一般的な式
            • pHの定義とその目盛り
            • pH標準液
            • 銀塩化銀参照電極
            • 実用的なpH測定
            • ガラス電極
            • 電極の校正
            • 金属イオンに対応するイオン選択電極
              • 文献
              • 補遺
                • 状態関数
                • エンタルピー
                • エントロピー
                • ギブス自由エネルギー
Page 29: イオン選択電極i イオン選択電極 Ion Selective Electrode (ISE) を理解する ・ pHを測定する ・ NaやKなどのイオン濃度を測定する 神戸大学医学部保健学科

26

しなければならない式(31)のようにエンタルピー変化が交換される熱

量に直接表現できるといっても必ずしも熱として取り出すとは限らないこと

を注意しよう

ところでエンタルピーは内部エネルギーと同じ次元にある状態量で定圧

変化の熱量がエンタルピー変化であるからある一点を標準として定めれば

すべての物質について任意の点のエンタルピーを変化量として定めることがで

きるすなわち化学反応の過程で発熱あるいは吸熱する熱量は反応材料と

生成物の間の状態変化に対応するエンタルピーに対応する

そこで一つの元素に対してもっとも安定な状態にある物質を標準物質とし

て定め29815K(25)1atm を標準状態としてその標準物質からある化

合物を合成するときの反応熱(発熱あるいは吸熱)をその化合物の「標準生成

エンタルピー」として定義できる多くの元素に対して標準生成エンタルピー

は現在表としてまとめられている

水素や酸素はその気体状態が標準物質でありそれらの標準生成エンタルピー

がゼロと定義される

エントロピー

もう一つ新しい状態関数としてエントロピー(entropy)(rarr補遺 p64)を

定義するエントロピーを表す記号は通常S を用いその定義は次の式(32)

による

S Q

T (32)

エントロピーは系の2つの状態が決まると状態量として決まる

このときQ は2つの状態の間を可逆的に変化したとき系が受け取る熱量

T は系が熱量 Q を受け取ったときの温度(degK)である

「熱力学の第二法則」はエントロピーに関するものである

図9では2つの系が接しておりそれぞれの温度を Thigh Tlowとする

Thigh>Tlow (33)

27

今温度の高い系から温度の低い系に直接熱量 Q が移動したとすれば温度

の高い系のエントロピーの変化量ΔS は熱量が失われるので負の値になる

図9熱の移動

そこで温度の高い系のエントロピーの変化量ΔS を式で表すことにすると

次式のようになる

Shigh Q

Thigh

(34)

一方低い系のエントロピー変化量ΔS は熱量が与えられるため

Slow Q

Tlow

(35)

両方の系を合わせたエントロピーの変化量ΔS は

S Shigh Slow Q

Thigh

Q

Tlow

lowhigh

lowhigh

lowhigh TT

TTQ

TTQ

11 (36)

式(36)の最終項で(33)を前提すなわち最初に温度の高い系は高い

と決めたのだとするならエントロピーの変化量ΔS は必ず次のようになる

28

ΔS >0 (37)

すなわち独立した系がありそれより温度の低い別の系あるいは温度の低

い外界が接した場合熱量は高い方から低い方へ移動するという自然の成り行

きを説明するものである

自然界に置いてエントロピーは

ΔS≧0

の値を取りΔS=0のときは可逆的過程である

今の例でいうなら熱は温度の高い系から低い系へ移動しその逆は起きない

常にΔS >0の方向に過程が進行するまた2つの系が同じ温度であるとき

両者は平衡状態にあって熱量の移動は見かけ上なくΔS=0と表現される

「熱力学の第二法則」はエントロピーによって表現されるもので系の変化が

可逆的であるかどうかを判定する指標であり現実の世界で起きる不可逆過程

が正の値を取る方向へ進むことを示す

あるいは系の変化が起きるとき外界を含めて考えれば総エントロピーが

増大する方向に変化が起きることを意味するというようにも表現される

ギブス自由エネルギー

熱力学の第一法則によってエネルギーの取りうる形である「仕事」と「熱」

は互いに変換されうることを理解したこのことの数量的な意味は1cal=418J

で示されるさらに仕事は100熱に変換可能であるが一方の熱はうま

くやっても100を仕事に換えることができないことを熱力学の第二法則で

説明しようとしたそのためにエントロピーという概念が導入された

ここで電池のような独立した一つの系を見るとき系の内部エネルギーの減

少を仕事として取り出しうるならそれは化学反応を一つの例としてどれほど

の仕事量が取り出せるのかはどうしたら与えられるだろうか

化学反応を電気エネルギーに換える電池では先に正負それぞれの電極におけ

る半反応の平衡電位の値を利用してその起電力に対する最大値を計算した

この化学反応から取り出しうる最大仕事量を与えるものとして新しくギブス

自由エネルギー(rarr補遺 p70)と名付け記号 G を使ってそれを次のように

定義する

29

G = H-TS (38)

H はエンタルピーである第2項にある S はエントロピーを表す

ギブス自由エネルギーは化学反応のような独立した系の定温定圧過程に適

応されるので変化量ΔG を式(38)から得ておこう

ΔG =ΔH-Δ(TS)

=ΔH-(SΔT+TΔS)

温度を一定と考えているのでΔT=0 であるから

ΔG =ΔH-TΔS (39)

この式(39)を書き換える

ΔH=ΔG + TΔS (39rsquo)

ここで定圧過程ではエンタルピーを次のように式(29)で定義できた

ΔH =ΔU + PΔV (29)

式(29)の意味するところを復習すれば

系のエンタルピー変化ΔH は内部エネルギーの変化量と系が外部に

した仕事量の和として表される

これは

定圧過程で系が得るエネルギー量から仕事量を除いたもの

と言い換えることができるエンタルピー変化量は化学反応などの過程で

始めと終わりの2つの状態の差であるからそれが正の値を示す(>0)なら

系のエンタルピーは増加することを意味しその過程が進行するためには系

の外部からエネルギーが供給されなければならない

一方式(39rsquo)の右辺第2項TΔS はエントロピーの定義(32)より

TΔS = Q (40)

であるのでこれは可逆過程で系に供給される熱量を意味する

30

もしエンタルピー変化量が負の値を示す(<0)ならば系のエンタルピー

は減少しその過程が進行することによってエネルギーが取り出せるすなわ

ち式(39)(40)から次のようにこれら3つの状態量を改めて説明する

ことができる

ある化学反応が定圧で可逆的に進行するときそれから取り出せる

エネルギーのうちΔG を仕事として放出し熱量 Q を放出する

標準状態29815K(25)1atm で標準物質からある化合物を合成すると

きの反応熱(発熱あるいは吸熱)をその化合物の「標準生成エンタルピー」

として定義した同様にある物質に対する「標準生成ギブス自由エネルギー」

はこの標準状態で標準物質からその化合物を化学反応で生成するとき式(3

9)によって与えられる変化量をいう

電池における化学反応のギブス自由エネルギー

先にダニエル電池の亜鉛板側に対する電極反応を検討したとき電極反応が

仕事として放出するエネルギーを表現する重要な式があった次の式(17)

である

W = n FV (17)

ギブス自由エネルギーを用いて今これは次のように書くことができるように

なった

W = n FV=-ΔG (41)

この式が表していることを実際に水素の燃料とする燃料電池の反応過程で見

てみよう燃料電池の図を再掲する

図中右にある陰極では水素の酸化反応が起きる

H2 rarr 2H+ + 2e- (5)

一方図では左にある陽極において次の還元反応が起きる

12 O2 + 2e- rarr O2- (6)

O2- + 2H+ rarr H2O (8)

全体の反応はすでに示したように次の反応式(7)で示される

H2 +12 O2rarr H2O (7)

31

標準状態における可逆的仕事は式(41)であらわせ

n FV=-ΔG (41rsquo)

このΔG は式(39)であらわせた

ΔG =ΔH-TΔS (39)

すなわち標準状態29815K(25)1atmにおいてある化合物を標準物

質から合成するときの標準生成ギブス自由エネルギー変化ΔG゜は標準生成エ

ンタルピー変化ΔH゜とその温度におけるエントロピー変化TΔSの差で求ま

るこれらは燃料電池の全反応を表す式(7)で与えられる

標準生成エンタルピーΔH゜変化とエントロピー変化はすでに一般的な元

素やその化合物に対して表が作成されている

液体の水に対する標準生成エンタルピーΔH゜(H2O)は

ΔH゜(H2O)=minus 28583 KJmol

また水素ガスと酸素ガスはそれぞれの元素の標準物質であるので生成エ

ンタルピー変化はゼロである

32

そこで式(7)での水を1モル化学合成するときの標準生成エンタルピーΔ

H゜は水素(ガス1モル)と酸素(ガス12 モル)の2つの材料と水(液

体251atm)の両状態における状態量の差として表される

ΔH゜=ΔH゜(H2O)-ΔH゜(H2) -12ΔH゜(O2) (42)

式(42)の右辺第2項と第3項がゼロであるので

ΔH゜=ΔH゜(H2O) =-28583 KJmol (43)

標準状態29815K(25)1atm における水素(ガス)と酸素(ガス)お

よび水(液体)のエントロピーはそれぞれ

ΔS(H2O)=6991 JKmol

ΔS(H2) =13068 JKmol

ΔS(O2) =20514 JKmol

単位で分母のKはケルビン温度の意味

と計算されているので

ΔS=ΔS(H2O)-ΔS (H2) -12ΔS(O2) (44)

=6991-13068-12times20514

=-16334 JKmol

したがって

TΔS=29815times(-16334)=-486998=-4870 KJmol

(45)

そこで標準生成ギブス自由エネルギーΔG゜は式(39)から

-ΔG゜=-(ΔH゜-TΔS) (39)

=-{-28583-(-4870)}

=+23713 KJmol

33

すなわちこのエネルギーを電気エネルギーとして取り出すことができるそ

の起電力は式(41rsquo)から

n FV=-ΔG (41rsquo)

V= -ΔG(n F)

各数値を当てはめれば

V=237130(2times96485)

=1229 volt

先に【化学反応と電気エネルギー】のところで記したとおり25の基準

状態におけるこの電極電位はE゜=+1229 volt が得られているすなわち

こうして標準生成ギブス自由エネルギーから計算することでも同じ値を得る

ことができた

水素を単純に酸素と化合させる燃焼では式(43)で示されるエンタルピ

ーが発生する熱量を示している水素1モルあたり28583 KJである電池

にすれば水素1モルあたり23713 KJの仕事量が電気エネルギーとして取り

出すことができるその差は電池の場合熱が発生して利用できない

化学反応の過程を利用して化学エネルギーから直接電気エネルギーに変換す

るのが電池という装置であるが化学エネルギーは100電気エネルギ

ーに換えることはできないこのようにエネルギーの一部は電池の熱として

発散してしまう

理想気体の状態方程式

ギブス自由エネルギーΔG を定義した式(39)とエンタルピーΔH の定義

式(28)から

ΔG =ΔH-TΔS (39)

ΔH =ΔU +VΔP+ PΔV (28)

そこで次式が得られる

34

ΔG =ΔU+VΔP+ PΔV-TΔS (46)

またエネルギー保存則から得られた式(26)を応用すればギブス自由エ

ネルギーが変形できる

Q =ΔU+PΔV (26)

から

ΔU=Q-PΔV (47)

したがって式(46)は

ΔG = Q-PΔV+VΔP+ PΔV-TΔS

ΔG = Q-TΔS+VΔP (48)

エントロピーの定義からQ=TΔSであるから結局式(48)は

ΔG = VΔP (49)

と表すことができる

成分が混合された気体分子の分子間に働く力をゼロと仮定した「理想気体」を

考えるとき状態方程式としてボイルシャルル(Boyle-Charles)の法則が

利用できる

PV=nRT (50)

ここでnは気体のモル数PVT はそれぞれこれまでと同じ圧力体積温度(ケルビン温度)でありR は気体定数と呼ばれるもので次の値を持

R= 831441 JmolK (51) 単位で分母のKはケルビン温度の意味

35

状態方程式から式(49)の右辺を導くことを考えてみよう式(50)は

1モルの気体について V に対し次のように変形することができる

V 1

PRT (50rsquo)

両辺に圧力の微小変化量⊿P をかけると

PP

RTP V (52)

これを微分方程式として圧力p0 からp1 まで(p0≦p1)積分するなら

1

0

1

0

1

0

1p

p

p

p

p

pdP

PRTdP

P

RTdPV (53)

関数 f(x)=1x を積分したときの関数はF(x)=ln(x)であるので(ln は e を底

とする自然対数loge)

右辺=0

1ln)0ln()1ln(p

pRTpRTpRT (54)

ギブス自由エネルギーを表す式(49)は次のようであったから

ΔG = VΔP (49)

式(52)から得た式(54)を当てはめると状態G0(p0T)からG1(p1T)

へ変化する過程で圧力が p0 から p1 まで変化するものとして

dGG0

G1

G( p1T ) G(p0T ) RT lnp1

p0 (55)

あるいはこれを書き直して

V

36

G(p1 T) = G( p0T ) + RT lnp1p0

(56)

特別にG0(p0T)を標準状態T=29815K(25)p0=1atmに指定する

なら標準生成ギブス自由エネルギーを記号G゜として (56rsquo)

と表すことができる

式(56rsquo)の意味するところは標準状態から圧力の変化を伴う過程で理

G(p1 T) = Go + RT ln p1

想気体のギブス自由エネルギーは圧力の対数に比例して上昇することである

このことはさらに新しい着想を生む

すなわち水素を燃料とする上の燃料電池で1atm 標準状態の水素ガスの圧力

を2atm に上げれば式(56rsquo)からRTln2 余分にギブス自由エネルギー

が取り出せることになる

燃料電池において起電力を生むエネルギーは隔壁を水素イオンもしくは酸

素イオンが浸透しようとする力であるので1atm の水素ガスと2atm のそれで

は浸透しようとする圧力が異なりここに起電力が生じる

式(56)の第二項が圧力の差による仕事であるからこれをΔG とすれば

W=-ΔG の仕事量が電気エネルギーとして取り出せるはずである

W = minusΔG = minusRT lnp1p0

(57)

起電力に換算するために式(41)を使うと

W = n FV=minus ΔG (41)

から

01ln

pp

nFRTV ⎟

⎠⎞

⎜⎝⎛minus= (58)

この式(58)は一般にネルンスト(Nernst)の式と呼ばれる

37

理想溶液のギブス自由エネルギー

理想気体を想定したように無限に希釈された混合溶液に対して理想溶液を仮

定する「系」の圧力温度を一定に保つならば体積内部エネルギーエンタ

ルピーギブス自由エネルギーなどの示量数は混合溶液を構成する物質のモ

ル数mに比例するたとえば標準状態にある物質の1モルの体積をVとすれば

mモルの体積はそのm倍mVであるそうすると溶液中のi番目の成分がmi

モル「系」から「外界」に仕事をするときその成分iの持つ自由エネルギーの

mi倍の仕事が「外界」になされると考えればよい

この溶液成分のモル数と化学的仕事を結びつける示強因子がギブスによって

化学ポテンシャルと名付けられ一般に記号μが用いられる

化学ポテンシャルはこれまで見たようにギブス自由エネルギーで表される

また電位がψ(プサイ)にある系から-Δeの電荷が放出されるときには

-ψΔeの電気的仕事が得られるそこで記号μに両者を合わせた意味を持

たせて「電気化学ポテンシャル」と呼ぶ

概念の上で物質は電気化学ポテンシャルの高い方から低い方へ勾配にした

がって移動する

理想気体の標準状態が気体分圧を T=29815K(25)で 1atm としたのに対

し溶液成分の標準状態はその分圧に相当するモル数 m を用いるすなわち

標準状態にある成分 i の電気化学ポテンシャルμ0iは成分の持つ電荷(H+なら

1)を n として

μ0i = G i゜+nFψ i (59)

ギブス自由エネルギーは式(56rsquo)を借り理想溶液中の成分に対しては気

体圧力をその成分のモル濃度Cに書き換えればよいそこで

G(CT ) G RT lnC (60)

と表すことができる

したがって一般的な成分 i の電気化学ポテンシャルμiを表す式は標準状態

からの自由エネルギーの変化を考え式(59)と合わせて次のようになる

38

ψnFGii 0

式(60)から

ii CRTGTCGG ln)( 0

よって

(61) ψnFCRT iii ln0

実際的なことを考えると成分濃度はその有効イオン濃度とする必要があり

「活量係数」γを導入して次式で表されるイオン活量aを用いる

ai = γCi (62)

一般的にはγ=1と近似してモル濃度Cを使っているこのテキストでも

必要ではない限りイオン活量を用いることを省略して簡単に記述したい

膜電位

燃料電池に使われたナフィオンのような一つのイオンを通す膜を介して膜

の両側にC0 とC1 のイオン濃度差がある溶液が接するときの電気化学ポテン

シャルを考えよう

ある容器の底にナフィオン膜を取り付け容器の中と外のイオン濃度をC0

とC1としそれぞれの電気化学ポテンシャルをそれぞれμinとμoutとする

式(61)を使って

容器の中の電気化学ポテンシャル

(63) innFCRTin ψ 00 ln

容器の外の電気化学ポテンシャル

(64) outout nFCRT ψ 10 ln

イオン浸透性の膜を介して濃度変化が無視できるほどの移動があると考え

その電気化学ポテンシャルの差を式(63)(64)から求めれば

39

)(ln0

1 inoutinout nFC

CRT ψψ (65)

この系において今注目しているイオンが膜を介した両側で平衡状態にある

とき式(65)はΔμ=0と考えることができるすなわち

0)(ln0

1 inoutnFC

CRT ψψ

膜内外の電位差をΔψ=ψoutminus ψinとすれば

1

0

0

1 lnlnC

C

nF

RT

C

C

nF

RTψ (66)

式(66)は理想気体に対するネルンストの式(58)と同様溶液中のイ

オンに対するネルンスト(Nernst)の式として与えられる

細胞の膜においてもその生体膜の内外でたとえばカリウムイオンのように

非対称に分布して平衡に達している場合には式(66)で与えられる膜内外

で電位差が生じるこれは一般に膜電位と呼ばれる膜電位は平衡電位とも

呼ばれる

たとえば膜内外に1価のカリウムイオンに10倍の濃度差があるとすると

通常カリウムイオンは細胞内の濃度が高いので

C0 = 10timesC1

であるから

これを式(66)に当てはめてln(10)=2303 を用いlog への変換をすれば

Δψ=2303times(RTF)timeslog(10)

であるこれに R=831441 JmolKF=96485 CmolT=29815 K(25)

の各数値を当てはめると

Δψ=2303times831441times29815times196485 JC

=+005917 volt

すなわち膜の内外で約+60ミリボルトの膜電位が生じることになるこの

分だけ細胞の外側の電気化学ポテンシャルが高く膜の内側の膜電位が負であ

るそして膜にあるカリウムチャネルがこの電位を示すとき受動的なカリ

40

ウムの膜内外の移動は平衡に達することになる

水素イオン濃度測定

「標準水素電極」は1モル塩酸溶液につけた白金電極に1atm の水素ガスを

吹き込んで平衡状態に達したときの電位を基準としてゼロボルトと規定した

そこである溶液についてその水素イオン濃度を知ろうとするとき同じ水

素電極を用いることを考えれば標準状態にする目的で用いた1モル塩酸溶液

を濃度未知で X モルの塩酸溶液と想定すればその水素イオン濃度を知るこ

とができるだろうか

標準状態ではない X モルの塩酸溶液に浸けた白金電極が半電池として働くこ

とは間違いなさそうであるしかしその白金電極が持つ電極電位を測定する

にはいずれにしても標準電極と組み合わせて「電池」を構成しその電池

の起電力として計る必要がある電池を作れば起電力を知ることができ相

手の半電池の電極電位が知られていれば濃度が未知でXモルの溶液について

その水素イオン濃度を知ることができるだろう

こうした目的のためにいちいちゼロボルトと規定した標準水素電極を用いる

のは煩雑なのでしばしば後出の「銀塩化銀電極」が参照電極として用いら

れる

まず予め「銀塩化銀電極」を標準水素電極と組み合わせて電池とし一度

その起電力を測定しておけば後はいつもそれを標準電極として利用できる

「銀塩化銀電極」の半電池は

H+ (1 moll) Cl- | AgCl | Ag(s)

これに「標準水素電極」を組み合わせ電池を構成すると次のような電池

になる

Pt(s) | H2(g) | H+ (1 moll) Cl- | AgCl | Ag(s)

この電池の起電力を知れば「銀塩化銀電極」の半電池としての電極電位

を知ることができ参照電極として未知の半電池と組み合わせて起電力を測

定して相手の電極電位を計算できる

41

濃度 X モルの塩酸溶液を未知の溶液と想定すればその電極電位を知るために

組み立てる電池は次のようになる図10にその電池の図を示した

Pt(s) | H2(g) | H+ (x moll) Cl- | AgCl | Ag(s)

この電池の全反応は次の反応式で表される

AgCl(s) 1

2H2 (g) H Cl Ag(s) (67)

図10未知溶液の水素イオン濃度を測定しようとするための電池

化学反応の一般的な式

ここで電池に利用される化学反応から得られるエネルギーをギブス自由エ

ネルギーに換算し起電力を具体的に知る手だてとすることは上ですでに学

42

んだがより一般的な式を再度ここに書きだしておこう

化学反応が紙面で左から右に進む反応として次のような一般式で与えられ

るとき

aA + bB rarr cC + dD (68)

ギブス自由エネルギー変化量は標準状態ΔG゜からの変化量を加える形で式

(60)と同様次の式によって表される

G G RT(ln aCc aD

d ln aAa aB

b )

G RT ln

aCc aD

d

aAa aB

b (69)

aAは成分 A のイオン活量であるその他の成分も同じ

得られたエネルギーを電気エネルギーに換えるなら式(41)に習って

次式で表せば

ΔG=-n FV

there4V=-ΔG(nF) (70)

このときの起電力は標準状態における電位 E゜からの変化量として次式で与

えられる

E E

RT

nFln

aCc aD

d

aAa aB

b (71)

標準状態における起電力 E゜は反応が平衡状態にあるときで反応平衡定数

を K とするなら

K aC

c aDd

aAa aB

b (72)

で表されるそこでE゜は次のように書き改めることができる

43

E

RT

nFln K (73)

そこで式(67)で表される図10の電池「水素minus 銀塩化銀電池」に

対する起電力をギブス自由エネルギーから求めてみよう

反応から式(71)に当てはめれば

E E RT

Fln

aH

1 aCl

1 aAg1

aAgCl1 aH2

1

2

(74)

力学の慣例にしたがって固体の純物質の活量は1として扱い水素ガスを

想気体として見なして活量を1atm とするなら式(74)は次のよう

に簡略化される

E E

RT

Flna

H aCl (75)

ころで理想溶液として近似的に取り扱うときの希薄溶液でたとえば水素

入して詳細に検討するなら式( れる起電

オン濃度はイオン活量として aH+の記号を使うときすでに【理想溶液のギ

ブス自由エネルギー】の章で述べたようにこれを有効イオン濃度とする必要

がありイオン活量 a は「活量係数」γを導入して次式で表した

a H+= γH+CH+ (62)

この活量係数を導 75)で誘導さ

を計ることによって経験的に試料溶液中の水素イオン濃度を求めることは

困難である式(75)にあるイオン活量の項はモル濃度 C と活量係数γを

用いて次式で書き改められる

lnaH aCl

lnCH CCl

lnH Cl

(76)

まり式(76)右辺の第二項において互いに相手が知られなければ自分

決めることができず結果的に起電力を知っても(75)の値から水素イオ

ン濃度を導けないここに工夫が必要になる

44

の定義とその目盛り

液中の水素イオン濃度を直接意味するものではなく

を定義するとき測定されるのは1リットルの溶媒に存在す

pH = -log a H+ = -log(γH+CH+) (77)

際に試料溶液の pH を決定する際はpH 標準液を用いる

に溶液を入れ試料溶液 X と pH 標準液 S を

参 極を接続し電池を作成しその起

pH

現在pH の定義は溶

で述べたようにそれが簡便に測定できるものではないため次のように定

義されている

水素イオン濃度

水素イオン活量であるため定義式としては活量係数をγH+として次式で与

えられる

その要領は次のようである

上に図示した水素電極の容器内

れぞれ半電池(I)と(II)に入れる

半電池(I) Pt | H2 (1 atm) | 試料溶液

半電池(II) Pt | H2 (1 atm) | 試料溶液S

照電極として上図のごとく銀塩化銀電

電力を測定する半電池(I)のときの起電力を E(X)半電池(II)のそれを E(S)

とするこのとき試料溶液Xの pH は次式で計算される

pH (X) pH(S) E(S) E(X)

RT ln(10) (78)

ln(10)は自然対数を常用対数に戻すための定数で2303 を用いる

標準液

pH 標準液 S はpH 第一次標準液第二次標準液と呼ばれるべき

る測定

25で pH 4005 を示す

pH

上述した

のであり絶対的測定法である起電力の測定によって値をつける

標準液は安定で純粋な結晶が得られる試薬を調整してこれを測定す

上と同様に水素電極を用いこれに緩衝液を入れる参照電極として銀

塩化銀電極を接続して電池の起電力を測定する

たとえば005 moll フタル酸水素カリウム溶液は

一次標準(Primary Standard PS)の一つである半電池(III)として水素

45

電極を次のように準備する

半電池(III) Pt | H2 (1 atm) | PS 溶液

て電池を形成したとき得られる起電

参照電極として銀塩化銀電極を接続し

は式(75)から

E E

Ag AgCl RT

Flna

H aCl (79)

オン活量を濃度と活量係数の積(a H+= γH+CH+)にし自然対数を常用対数

すれば

E E

Ag AgCl RT ln(10)

F log(

H + CH+ Cl- CCl - ) (80)

E゜は水素標準電極(水素ガス分圧を1atm電極を浸ける溶液に001 moll

H

Cl を用いる)で得た起電力である

式(80)から

RT ln(10)

Flog(

H CH Cl

) (E EAg AgCl )

RT ln(10)

Flog C

Cl

(81)

らに

log(

H CH Cl

) F

RT ln(10)(E E

Ag AgCl ) logCCl

(82)

ころで式(77)から

(γH+CH+) (77)

-log a H+ =-loga H+-log(γCl-) +log(γCl-) =-log(a H+γCl-) +log(γCl-)

(83)の一番右の式で第一項は

pH = -log a H+ = -log

であるが右の式をさらに変形すると

(83)

46

-log(a H+γCl-)=-log(γH+ CH+γCl-) (84)

たがって式(82)の右辺で示されるように電池の起電力を測定すれば

よ 実際には溶液の塩素イオン濃

液で起電力を求め外挿する

起電

これによってpH を意味する式(83)は次式(85)で与えられる

p(aHγCl)はRG Bates によって Acidity Function と呼ばれている

らに式(85)最終項の log(γCl-) を補正しなければならないこの項は

本工業規格)によっても

であってこれは式(82)の左辺である

いただし塩素イオン濃度の項があって

をゼロにしたときの値が必要である

実測する際には塩素イオン濃度をゼロにできないので塩化ナトリウム NaCl

等を濃度を変えて添加しその時々の緩衝

勧告ではNaCl で 000500100015moll の3つの濃度を例示している

すなわち塩素イオン濃度ゼロのときの値は各塩素イオン濃度に対して

の値をそれぞれプロットしグラフから塩素イオンがゼロのときの起電力の

値を3点に対する回帰直線の延長で外挿して求めるこの点を次のように書

log( C H H Cl CCl

0

pa log( C log( (85) H H H Cl C

Cl0 Cl

)

素イオンの活動係数で与えられる補正項である

無限希釈溶液中のイオンの活動係数は理論的に Dubye-Huckel の式を用い

近似的に求めることが可能であるこれはJIS(日

用されていて Bates-Guggenheim の規約と呼ばれる (Bates RG

Guggenheim Pure Appl Chem 1 163-168 1960)

Dubye-Huckel の式は次のように与えられる

log A I

i 1 iB I (86)

47

I iについてそのモル濃度

計算される

はイオン強度でイオン mi と電荷 zi から次式で

I 1

2mizi (87)

また iは(86)式のBは温度と溶媒の性質による定数であり イオンの大

きさに関するパラメータで水和イオンの大きさとほぼ一致した値をとる標

準法の勧告では塩素イオンに対しイオンの大きさを46Åと決めてiBを

1

5 にしているそこで式(84)は次のようになる

ClA I

log 1 15 I

イオン強度 I は塩素イオン濃度を含まない計算となる

以上の方法によって実用的な pH 測定に用いられる第一次第二次標準液の

pH の値が得られる

絶対値としての

はpH の絶対測定法(第一次標準測定法)とされている

銀塩化銀参照電極は分極現象を防ぐために棒状の銀を塩酸で処理し表

に塩化銀を生成させたものを飽和塩化カリウム溶液につけてある

(88)

参考現在は実験的に求めた値と理論値の組み合わせで

素イオン濃度を求める方法を規定しているこの起電力から水素イオン濃度

を知るための測定方法

Buck RP Rondinini S Covington AK Baucke FGK Brett CMA Camoes MF

Milton MJT Mussini T Naumann R Pratt Kw Spitzer P Wilson GS

Measurement of pH definition standards and procedures Pure Appl Chem

74(11)2169-2200 2002Kristensen HB Salomon A Kokholm GInternational

pH scales and certification of pH Anal Chem 63(18) 885A-891A 1991)

銀塩化銀参照電極

電極の構成は

Cl-(aq) | AgCl(s) | Ag(s)

48

この半反応は次のようになる

AgCl(s) + e- rarr Ag(s) + Cl- (89)

の反応は次の2つの反応に分けて考えることができる

Ag+ + e- rarr Ag(s) (91)

AgCl(s)rarr Ag+ + Cl- (90)

図11銀塩化銀参照電極

(90)における銀 る塩素イオンによって左

されることが推測される

そこでカッコ [ ] をそれによって囲まれるイオンの濃度を表すことにし

式 イオン Ag+の溶解性は共存す

塩化銀の乖離定数Kを考えると

49

K = [Ag+][Cl-] (92)

これから

[Ag+]= K[Cl-] (93)

化カリウム溶液に漬けた銀塩化銀電極の電位 E は水素標準電極に対する

電 で与えられる

位を E゜として次式

E E

RT

nF

[ Ag ]

[Ag(s)]ln( )

Ag(s)のイオン活量は常に1とする

ここで半反応の電極電位を求めるために式(75)を利用することにすれば

(94)

熱力学の慣例にしたがって純物質個体

E E

RT

Flna

H Cl a (75)

式 の半反応をみると

応で電子1つが移動するので n=1 とするR=831441 JmolK1F = 96485

C はめれば

これに銀イオンの濃度として式(93)を当てはめる

この反応で移動する電子は (89) 銀イオン1つの反

molT=29815K(25)ln(10)=2303などの定数を当て

2303RTF = 005917

であるから(94)式は次のように表現できる

log[Cl]) E E 005917(logK (95)

たがって標準水素電極に対する銀塩化銀参照電極の標準状態における電

位 は半反応(89)に対して ゜=+0799で

化銀の乖離定数 K は182times10-10 であるのでその対数を取れば-973993

0799-005917times973993-005917log[Cl-]

E゜ E ある

ある

そこで式(95)は

E =

50

= 0799-0576-005917log[Cl-]

= 0223-005917log[Cl-] (96)

電極電位の関係について実測値

こうして求めた塩化カリウム溶液の濃度と

計算上の値は次のようである

KCl moll vs SHE volt25 計算値 volt25 01 02881 02822 35 0205 01908 飽和 0199 minus

実用 測定

実際の現場で水素イオン濃度を測定する目的の測定法で上のような2つの

極が同じ溶液に浸かっていたのでは試料溶液を交換するにも便利ではない

の容器に入れる未知試料溶液と銀塩化銀電極を隔離する

的な pH

そこで水素電極側

的で二つの電極容器をつなぐ液絡部をグラスフィルターやセラミック板

飽和塩化カリウムで作成したゼラチンなどの塩橋によって隔離遮断するこ

れを液絡部とよぶ

電池として機能するために必要な溶液イオンの交換はこの液絡部で行う

組み立てる電池は電池式で次のように表される

Pt(s) | H2 | 試料 (H+ x moll) || 飽和 KCl | AgCl | Ag(s)

の標準電極と銀塩化銀電極とは区切られていて溶液の直接の接触がない

とを意味するために電池式ではタテ二重線を用いる銀塩化銀参照電極

の容器には飽和塩化カリウム溶液が入れられる

51

図12液絡部のある pH 測定のための電池

この液絡部のある電池では塩橋を記号lsquo | | rsquoで表して次のように記す

試料 (H+ x moll) | | 飽和 KCl

ここでは試料溶液と飽和塩化カリウム溶液の異なる2液が接している

このような界面では膜電力が生じるのと同様「液間電位差」が生じることが

知られているしたがって上の電池で測定される起電力 E は

E = E[銀塩化銀電極電位]+E[液間電位]+E[水素電極電位]

で与えられることになってE[液間電位]のために図12の電池の起電力

は銀塩化銀参照電極の値を知っていても水素電極容器内に入れた未知溶

液の水素イオン濃度を正しく知ることができない

52

そこで実用的な測定法としてこの E[液間電位]を膜電位として積極的に利

用する方法が工夫されたすなわち水素イオンに感応するガラス薄膜を用い

るガラス電極法である

53

ガラス電極

ガラスはケイ素原子と酸素原子からなる SiO4 の結晶構造を持ち酸素で囲

まれた空隙があって水素イオンがそれを埋めることができる

この性質によってガラス膜表面は水溶液中の水素イオンに応じて膜電位を

変化させるのでこれを水素イオン濃度測定用の電極として利用することが考

えられるこれが通常用いられるガラス電極である

ガラス電極は標準電極と組み合わせれば電池を構成することができこの電

池の起電力を知ってガラス薄膜の内外にできたイオン濃度勾配を知ろうとす

るものである

薄いガラス膜(01mm程度)をはさんで接する2つの溶液のH+イオン濃

度が異なるとその差に応じてガラス膜の両側に電位差(Eg)が現れる

ネルンストの式でガラス電極の内部に入れた既知の濃度のH+([H+]in)に対

し試料中の水素イオン濃度が[H+]sampleのとき次の電位を生じる

)][

][log(059170)

][

][ln(

sample

in

sample

ing

H

H

H

H

F

RTE

(97)

図13ガラス電極

電極を構成するのは銀塩化銀電極と同じ電極で用いる塩溶液は一般的

54

に 01モル塩酸溶液である

この半電池の電池式は次のように書くことができる

Ag(s) | AgCl(s) | HCl (01 M) | ガラス薄膜 || 試料溶液 H+ (x moll)

Eg

この半電池の電極電圧を測定するために銀塩化銀標準電極と組み合わせ

電池を作って起電力を計る

構成される電池は下図のようになる

ガラス電極 銀塩化銀標準電極

図14ガラス電極を用いた pH 測定用の電池

この電池の起電力は次の各半電池の平衡電位を合わせたものになる

55

E1ガラス電極の内側電位

Ag(s) | AgCl(s) | HCl (01 M)

Egガラス薄膜の内外に生じる膜電位

HCl (01 M) | ガラス薄膜 || 試料溶液 H+ (x moll)

E2液間電位(膜電位)銀塩化銀標準電極のセラミックを介した試料溶液

と銀塩化銀標準電極の内部液(飽和 KCl 溶液)の間に発生する電位

試料溶液 H+ (x moll)|| セラミック | KCl(飽和)

E3銀塩化銀標準電極

KCl(飽和)| AgCl(s) | Ag(s)

pH メーター用のガラス電極に使われるガラス薄膜は水素イオンに感応して

膜電位(Eg)を生じるこれは【膜電位】の章で記したように薄膜がある

一つのイオンのみを通過させる特性を持っている場合にイオンが膜を介した

両側で平衡状態に達したとして電気化学ポテンシャルを膜の両側で等しいと

考えてそのイオンが濃厚な側から希薄な側にその差によって圧力を生じると

するものである

一方同じ試料溶液が銀塩化銀標準電極のセラミック液絡部を介して生じ

るだろう液間電位(膜電位E2)はいま関心がある水素イオンに対して特異

的に感応するのではないので試料溶液の水素イオン濃度に関係なく一定と見

なすことができる

すなわちpH メーターを構成する電池の起電力 E は

E = E1+Eg+E2+E3 (98)

このうちEg以外は一定と見なせるので

E1+E2+E3 = E

として式(98)を書き直すと

)][

][log(059170

sample

ing H

HEEEE

(99)

Eは標準液によって校正されるべき標準電極電位である

56

電極の校正

実際のイオン濃度を測定する場合低濃度標準液と高濃度標準液で得られ

る起電力を測定し計測のイオン濃度に対する係数(傾き)を求めておき未

知の試料に対して起電力を測定してそのイオン濃度を算出する方法が採られる

低濃度標準液と高濃度標準液のそれぞれの濃度をCLとCHとすればそれぞ

れの起電力ELとEHは次式で表される EH = E +β logCH (100)

EL = E +β log CL (101)

ただしβは式(99)の係数を簡略にしたものである

式(100)と(101)から検量線の傾きが次式で表せる

ΔE = EH minus EL = β(logCH minus logCL) = β logCH

CL

(102)

したがって係数βは

β =ΔE

log CH

CL

(103)

であらわされる

このときに使われる標準はすでに前出の pH 第一次標準第二次標準溶液で

ある

金属イオンに対応するイオン選択電極

現在臨床検査で日常的に使われている電解質測定のための電極はナトリウ

ムカリウムカルシウムクロールなどおよそ臨床的に必要な金属イオン

に対して入手可能である

カリウムイオン測定用のバリノマイシンの発見によってクラウンエーテルと

57

呼ばれる一連の化合物が知られたクラウンエーテルはその分子の中心に立

体的な空間を持ち特定のイオン径に対し合致するのでそのイオンに対して

選択的に感応するこれらの化合物はイオノフォアと呼ばれる

図 15クラウンエーテル

1つの金属イオンが環状化合物

15-crown-5 の中央にある空間を充填

している模式図

15-crown-5 の構造を作る10個の黒

い丸は炭素炭素2個のつながりごと

にある中心の白い丸は酸素酸素と

金属イオンの間の距離はおよそ 22~

23Åであるカリウムのファンデン

ワールス半径は 135Åイオン半径は

15~16Åである

測定したいイオンに対しポリ塩化ビニル(PVC)を支持体としてイオノフ

ォアを添加した液膜の電極膜を作成しこれをガラス電極におけるガラス薄膜

と同様試料に接する電極膜として用いるこの構造から一般的に液膜型電極

と呼ばれる電極膜には特異性を高めるため妨害イオン排除剤などが添加

される

pH メーターと同様銀塩化銀標準電極と組み合わせ電池を形成しその

起電力を計る測定したいイオンが液膜に対して内外で平衡に達したときの

膜電位を測定するのはガラス電極と同じである

カ リ ウ ム イ オ ン に は Bis[(benzo-15-crown-5) ( 正 式 名 は

Bis[(benzo-15-crown-5)-4-methyl]pimelate)ナトリウムには Bis[(12-crown-4)

やDibenzyl-bis[(12-crown-4)などがイオノフォアとして用いられる

58

図16カリウムイオン測定用に使われるクラウンエーテル

図17ナトリウムイオン測定用に使われるクラウンエーテル

59

参考イオン選択電極に関する文献Xia Z Badr IHA Plummer SL Cullen L

Bachas LG Synthesis and evaluation of a bis(crown ether) ionophore with a

conformationally constained bridge in ione- selective electrodes Anal Sci 14(2)

169-173 1998 Oh K-C Kang EC Cho YL Jeong K-S Y oo E-A Paeng K-J

Potassium-selective PVC membrane electrodes based on newly synthesized

cis- and trans-bis(crown ether)s ibid 14(10)1009-1012 1998 Dojindo WEB

site httpwwwdojindocojpwwwrootproductsjinfo2protocolp31pdf

<補遺> 60

補遺 状態関数 (本文 p21 10 行目参照)

一つの平衡状態にある系 A とこれに接する系 A にとって外部である系 B について系 B

から系 A に熱を与えこれによって系 A が他の平衡状態に移ったとき系 A はその結果とし

て膨張し系 B に対し仕事をする

このときの微少な熱量の移動を記号drsquoQ またなされた微少な仕事をdrsquoW とすると

系Aの内部エネルギーに関する微少な変化drsquoUA は両者の和として表される

WdQdUd A primeminusprime=prime (a-1)

この式 a-1 と本文中の式25との関係について

WQU A Δminus=Δ 本文(25)

<補遺> 61

式 a-1 と式25の記号の違いは変化の起きる前の平衡状態 S1 から変化後の平衡状態 S2

に状態変化があったとするなら式 a-1 を積分することで式25が得られるものと考えて区

別している

A

S

S A UUd Δ=primeint2

1 (a-2)

このことは重要であるすなわち内部エネルギーU は変化の起きる前後の状態を指定する

ことによって値が定まることを意味するこのように積分によって値を定めることが出来る

のでdrsquoU は完全微分であるという

内部エネルギーのように系の状態だけで値の定まる量を状態関数として扱う

一方式 a-1 のdrsquoQ drsquoW についても同様に微少の変化量を表しているが平衡状態 S1

から S2 への経路を指定しなければ積分の値は定まらない

本文中の記号にしたがって仕事量ΔW を次のように表すことにする

VpW Δ=Δ 本文(20) V

<補遺> 62

体積と圧力の関係を表す図を使ってこの仕事量が意味することを考える圧力 prsquo の下で

体積が V1 であるときを状態 S1 として圧力一定の下で体積を V2 まで膨張させるような変

化を行った後体積を等しく保って圧力を p にまで上げたときの状態を S2 とするこのとき

の仕事量は膨張に伴うものであるから図の体積‐圧力線の下の面積で示すことができる

平衡状態 S1 から S2 への変化の道筋を別にたどってみよう

新しい経路では圧力を先に p まで上げた後に膨張変化させている

図から直感的に明らかであるので数式での扱いを省略するが2 つの経路による仕事量には

差がある

すなわちdrsquoW は drsquoU と異なり変化の初め S1 と終わり S2 の状態が与えられても積分値

は定まらず変化の経路によって違ってくる

このように変化の経路を指定しなければ積分値が定まらないものを不完全微分と呼び扱

いを区別する

本文 p21 へ戻る

<補遺> 63

VpW

WQU

VpQU

VpUQ

1122 SSSS pVUpVUQ

pVU

VpUHHHQ SS 12

エンタルピー (本文 p24 20 行目参照)

本文中の式 20 および 25 から一定の圧力の元で起きる状態変化において内部エネルギー

の変化量に対する式 a-3 を得る

本文(20)

本文(25)

(a-3)

式 a-3 を Q について書き直す

(a-4)

状態の変化が平衡状態S1から平衡状態S2に移ったものとして式 a-4を丁寧に書き直すと

(a-5)

並び替えて

(a-6)

式 a-6 を見ると定圧過程における熱量の流入は

(a-7)

の形を持つ関数の差であることが分かる

一般に化学反応のような変化の過程では大気圧の下で行われるようなものに興味がある

そこで式 a-7 で与えられる項を一つの関数として定義するこれをエンタルピーと呼び記

号 H を与える式 a-4 はエンタルピーの変化量で次のように書き改められる

(a-8)

圧力が一定の下で起こる状態変化について流入する熱量は式 a-8 で示されるようにエンタ

ルピーの変化量に等しい

V

V

V

V V

V

V

1212 SSSS VVpUUQ VV

<補遺> 64

1Q

We

また式 a-8 からオートクレーブ内で起こるような体積変化のない過程ではこの値が内

部エネルギーの変化量で与えられることが明らかである

本文 p24 へ戻る

エントロピー (本文 p26 17 行目参照)

エントロピーは次のような思考実験から発想された仮想的な状態関数である

理想気体よりなる系 A が温度 T2で熱平衡状態にあり温度 T1の外部の熱源と接しているこ

とを想定する系 A の外部を系 B と呼ぶことにするT1は T2に対して無限小だけ高い温度と

する

系 A が系 B に対して温度圧力について平衡を保ちながら緩慢に系 B より熱量 Q1を受け取

る過程を考える(このような過程を準静的過程と呼ぶ)これによって系 A が熱量 Q1を得て膨

張するとき系 B に対して仕事をする続いて系 A から熱量 Q2が系 B に戻ることを考える

想定されるこの変化が可逆的であれば系 A と系 B を併せた全体は元の状態に戻る蒸気機

関に関するこのような研究が Nicolas Carnot によってなされたのは1824 年のことであった

ここに想定されたサイクルに対する Carnot の効率 e は移動した熱量となされた仕事によ

って定義され次の式で表される

(b-1)

<補遺> 65

理想気体では内部エネルギーU の変化ΔU はゼロと考えるしたがって熱力学の第一法

則を表す式(本文中の式25)から次の関係が示される

0=Δminus=Δ WQU

WQ Δ= (b-2)

これによってCarnot Cycleの効率eはQ2lt0 として次のように書き改めることが出来る

1

21

QQQe +

= (b-3)

ところで気体の状態方程式から1 モルの気体について次のような関係が示される

RTV

P

P1=

V = RTV (b-4)

V 式 b-4 の両辺に体積の微少変化量ΔV をかけて

(b-5)

これを体積Vについてその変化をV1からV2までとして積分するならば次式が得られる

VV

RTVP Δ=Δ 1V V

V

intint = 2

1

2

1

1V

V

V

VdV

VRTPdV

1V2V

11 lnRTW =

(b-6)

Q1の熱量によって起こる膨張がV1よりV2までとし圧力P温度T1の下でなされるその仕事

量をW1とするならそれは式b-6 の右辺によって示されるすなわち

(b-7)

VV

1

2lnVVRT=

V V

VV

V

V2int V2 intV1 V1

<補遺> 66

またQ2の熱量の移動が圧力P温度T2の下で起きこれによって系Aが可逆的に圧縮され

るなら体積変化はV2よりV1まで起こりその仕事量をW2で示すと次式のように表される

(b-8)

1

22

2

122 lnln

VVRT

VVRTW minus==VV

VV

Q1=W1Q2=W2の関係から式b-7 およびb-8 を用いてCarnot Cycleの効率eを表す式b-3

を書き改めると温度のみの関係式として次のように表される

1

21

TTTe minus

= (b-9)

ここでサイクルが可逆的過程であると想定するならば式 b-3 と式 b-9 から

1

21

1

21

TTT

QQQe minus

=+

= (b-10)

これから

12112111 QTQTQTQT minus=+ (b-11)

整理すると

02

2

1

1 =+TQ

TQ (b-12)

この考えをさらに発展させ系A

と系Bの間に数多くの系を挿入すること

にしてそれらの系を同様に熱源として

T1T2Tnと考えるこれによっ

て熱の受け渡しが系Aから系Bに至り

再び系Aにもどるサイクル過程に数多

くの寄り道の過程を加えることになる

熱量の移動に関して上の場合と同じく

準静的過程で行われると考えるこの

サイクル全過程について初めと終わ

<補遺> 67

n

i i

i

T

Q

1

0

0T

dQ

T

QS

T

dQASAS )()( 12

りが同じ状態になる可逆的な過程であるなら式 b-12 を拡大的に考えることになってそれ

は次式で表される

(b-13)

式 b-13 には重要な関数が現れるすなわち熱量と温度の比QT である

もし一つの系が無限小だけ温度の高い(dT )外界から温度圧力など平衡を保ちなが

ら極めて緩慢な過程(準静的過程)で無限小の熱量(dQ )を受け取るならばその変化は可

逆的でありdT について連続的な温度分布をする過程を考えるとき式 b-13 をさらに発展

させて次のように積分式で示すことが出来る

(b-14)

式 b-14 で積分記号にが付されているのはCarnot Cycle のような経路を一巡することを

意味している

Carnot の熱機関の効率という着想から生まれた熱量とそれを持つ系の温度との比 QT に

重要な意味を見出したのは Rudolph Clausius で彼はこの比にエントロピーという名前を与

えたエントロピーには記号ΔS を一般に用いる

(b-15)

エントロピーは初めと終わりの状態がわかれば過程に関わらず定まるので状態関数であ

系 A と外界のエントロピー変化を考えるときそれが可逆的過程であるならばすべてを併

せた全体のエントロピー変化は初めと終わりに変化がないという意味でゼロであるすなわ

ち初めの状態を S(A1)とし次の状態を S(A2)とするならそれぞれのエントロピーを

ΔS(A1)ΔS(A2)としてこの間におけるエントロピーの変化量は次のように示される

(b-16)

<補遺> 68

T

dQdS

0T

dQ

ある一つの変化については次のように示される

(b-17)

ここで式 b-17 の S に付けられたdは微分量すなわちごく微小の変化量を意味し式 b-15

で定義されたエントロピーに用いられる一般的な記号Δと区別する

ところで式 b-10 の関係においてもし移動した熱量のすべてが仕事に変わらなければ

効率 e を表す熱量を用いた関係式と温度で表される関係式は等号で結ぶことができないそれ

はエネルギーのロスを意味し初めと終わりの状態が異なってしまうことを意味するすなわ

ち全過程が構成する一つのサイクルは可逆的でなくなる

不可逆過程での熱効率 ersquo は 大値を示す可逆的過程の熱効率 e より小さな値をとる

ee

したがって 大効率を与える式 b-8 と式 b-3 から

01221

2112

1

21

1

21

QTQT

QTQT

Q

QQ

T

TT

両辺を T1T2で割ると

02

2

1

1 T

Q

T

Q

これを式 b12 と同様に発展させれば式 b-14 についてサイクルの変化が可逆的過程の

場合と不可逆的過程の場合の両方を併せClausius の不等式と呼ばれる次の関係が成立する

(b-18)

式 b-18 の等号が成立するのはサイクルが可逆的な理想の場合に限られる

ある孤立系で状態 A1 から状態 A2 へは不可逆変化で進められ状態 A2 から再び状態 A1

に戻るとき可逆変化であるような閉じた状態変化を考える可逆系のエントロピー変化には

記号 Q を使い不可逆変化には Q を用いるとするとそれぞれ積分式を用いて状態 A1 から

状態 A2 へは

<補遺> 69

d prime

状態 A2 から状態 A1 に戻るときは

全体では

=d prime

+d

(b-19)

Clausius の不等式から

0

式(b-19)の第二項で反応を逆に進めるときには次のように書き改めることができる

=d

よって式(b-19)は次のように書き直すことができClausius の不等式とあわせると

d prime d

0

すなわち

d prime d

上式の右辺は式(b-16)を用いて表せば

d prime

∆S ∆

この状態変化を微小変化とするならば断熱変化の場合 dQ = 0 であるから

∆S ∆ dS 0

すなわち不可逆変化を含む断熱変化ではエントロピーは必ず増大する

<補遺> 70

T

QS

BA SSS

(b-20)

(次の<補遺>ギブス自由エネルギーも参照せよ)

本文 p26 へ戻る

ギブス自由エネルギー (本文 p28 27 行目参照)

エントロピーの考えを導入することによって不可逆的に状態変化が起きるときにはエン

トロピーの増大を引き起こすことを知ったこれによって目前で起きる現象について温度の

変化があるものであれないものであれまた圧力の変化があるものであってもエントロピー

の定義式によって可逆的な変化におけるエントロピーの変化量を計算することが可能である

(b-15)

しかしながらこれから起こる変化について我々がすでにあらかじめ知っている物理量を

用いて予測的にその状態変化が起きるかどうか知ることは必ずしも容易ではないその理由

は式 b-15 に示されたエントロピーΔS が系とその外界をあわせた全体のエントロピーを示

しているからであるすなわち関心のある系を系 A としその外界を系 B とすると全体

のエントロピーは次のように表せる

(c-1)

関心のある系 A のエントロピー変化を知るためには系 B のそれを知ればよいがそれは

いつも容易とは限らない系 A の性質だけで状態変化の方向を知るには別の観点が必要にな

るようだ

そこでもう一度状態変化が熱量 Q の移動によって起きることについて考えてみようエン

トロピーの補遺で議論したように熱量の移動が準静的過程により行われるときには変化は可

逆的に起こると考えたこのとき外界すなわち系 B から移動する熱量を Q1とし系 A から

0S

<補遺> 71

21 QQ

T

Q

T

QSB

21

T

QSS A

2

QH

T

HSS AA

AA STHST

のそれを Q2 と記号を当てたのでこれをそのまま使うことにすれば可逆的な過程では系 B

の熱量 Q1 はすなわち系 A から戻る Q2 に他ならないので両者には次の関係が成立するも

のとしてよい

(c-2)

したがって

(c-3)

と考えてよくこれによって式 c-1 を次のように書きなおすことが出来る

(c-4)

独立した系で圧力とその体積に変化がなく一定の条件の下で状態変化が起きるときエン

タルピーの考えを使ってすでにひとつの関係があることを導いている

本文(31)

そこで式 c-4 を系のエンタルピーΔHAによって書き改めれば

(c-5)

この両辺に-T をかけて式を書き直せば次の関係式が得られる

(c-6)

式 c-6 を見るときその右辺がマイナスの値ならば左辺のΔS はプラスの値をとることが

分かるすなわちエントロピーが増大すると見ることが出来るこれまでの過程で自然の現

象はエントロピーが増大する方向に進むとしてきたので関心のある状態変化について式 c-6

の右辺で計算される値がマイナスの値ならばその変化は起きるものと考えてよいことになる

だろうしかも右辺はすべて独立した系の状態量で示されていて我々が知りうる値で計算

<補遺> 72

TSHG

STSTHG

STHG

可能である

そこでこれを熱力学ポテンシャルを表すものとしてギブス自由エネルギーと呼ぶことに

するギブス自由エネルギーは記号 G が用いられ次のように定義される

(c-7)

ここで関心があるのは自由エネルギーの絶対値ではなく式 c-6 に示されたようにその変化量

に興味があるので式 c-7 から

(c-8)

温度が一定の条件の下で状態変化が起きることを考えるなら式 c-8 は次のように書くこと

ができる

(c-9)

ギブス自由エネルギーは式 c-9 の右辺がすべて状態量であるからこれも状態量の一つで

ある定圧定温の条件下で起きる変化ではすでに議論したようにΔGlt0 であれば状態

変化は自発的に起きるものと予測できる

つまり式 c-5 の第一項は系のエントロピーΔSAそのものであり第二項で示されるエンタ

ルピーは系 A の温度が一定に保たれているのであるから発熱する熱量として外界に吸収さ

れるものであってこれは外界のエントロピーの増大につながるものとして解釈されるした

がって化学反応のように一定の圧力と一定の温度の下で起きる変化について自由エネルギ

ー変化量はその状態変化が自発的に起きる傾向を示しているといってよい

本文 p28 へ戻る

  • はじめに
  • 目次
  • 電気エネルギー
    • 金属のイオン化
    • 電池
    • 水素の反応
    • 燃料電池
    • 化学反応と電気エネルギー
      • エネルギーと熱力学
        • エネルギー保存則
        • エンタルピー
        • エントロピー13
        • ギブス自由エネルギー
        • 電池における化学反応のギブス自由エネルギー13
        • 理想気体の状態方程式
        • 理想溶液のギブス自由エネルギー
        • 膜電位
          • 水素イオン濃度測定
            • 化学反応の一般的な式
            • pHの定義とその目盛り
            • pH標準液
            • 銀塩化銀参照電極
            • 実用的なpH測定
            • ガラス電極
            • 電極の校正
            • 金属イオンに対応するイオン選択電極
              • 文献
              • 補遺
                • 状態関数
                • エンタルピー
                • エントロピー
                • ギブス自由エネルギー
Page 30: イオン選択電極i イオン選択電極 Ion Selective Electrode (ISE) を理解する ・ pHを測定する ・ NaやKなどのイオン濃度を測定する 神戸大学医学部保健学科

27

今温度の高い系から温度の低い系に直接熱量 Q が移動したとすれば温度

の高い系のエントロピーの変化量ΔS は熱量が失われるので負の値になる

図9熱の移動

そこで温度の高い系のエントロピーの変化量ΔS を式で表すことにすると

次式のようになる

Shigh Q

Thigh

(34)

一方低い系のエントロピー変化量ΔS は熱量が与えられるため

Slow Q

Tlow

(35)

両方の系を合わせたエントロピーの変化量ΔS は

S Shigh Slow Q

Thigh

Q

Tlow

lowhigh

lowhigh

lowhigh TT

TTQ

TTQ

11 (36)

式(36)の最終項で(33)を前提すなわち最初に温度の高い系は高い

と決めたのだとするならエントロピーの変化量ΔS は必ず次のようになる

28

ΔS >0 (37)

すなわち独立した系がありそれより温度の低い別の系あるいは温度の低

い外界が接した場合熱量は高い方から低い方へ移動するという自然の成り行

きを説明するものである

自然界に置いてエントロピーは

ΔS≧0

の値を取りΔS=0のときは可逆的過程である

今の例でいうなら熱は温度の高い系から低い系へ移動しその逆は起きない

常にΔS >0の方向に過程が進行するまた2つの系が同じ温度であるとき

両者は平衡状態にあって熱量の移動は見かけ上なくΔS=0と表現される

「熱力学の第二法則」はエントロピーによって表現されるもので系の変化が

可逆的であるかどうかを判定する指標であり現実の世界で起きる不可逆過程

が正の値を取る方向へ進むことを示す

あるいは系の変化が起きるとき外界を含めて考えれば総エントロピーが

増大する方向に変化が起きることを意味するというようにも表現される

ギブス自由エネルギー

熱力学の第一法則によってエネルギーの取りうる形である「仕事」と「熱」

は互いに変換されうることを理解したこのことの数量的な意味は1cal=418J

で示されるさらに仕事は100熱に変換可能であるが一方の熱はうま

くやっても100を仕事に換えることができないことを熱力学の第二法則で

説明しようとしたそのためにエントロピーという概念が導入された

ここで電池のような独立した一つの系を見るとき系の内部エネルギーの減

少を仕事として取り出しうるならそれは化学反応を一つの例としてどれほど

の仕事量が取り出せるのかはどうしたら与えられるだろうか

化学反応を電気エネルギーに換える電池では先に正負それぞれの電極におけ

る半反応の平衡電位の値を利用してその起電力に対する最大値を計算した

この化学反応から取り出しうる最大仕事量を与えるものとして新しくギブス

自由エネルギー(rarr補遺 p70)と名付け記号 G を使ってそれを次のように

定義する

29

G = H-TS (38)

H はエンタルピーである第2項にある S はエントロピーを表す

ギブス自由エネルギーは化学反応のような独立した系の定温定圧過程に適

応されるので変化量ΔG を式(38)から得ておこう

ΔG =ΔH-Δ(TS)

=ΔH-(SΔT+TΔS)

温度を一定と考えているのでΔT=0 であるから

ΔG =ΔH-TΔS (39)

この式(39)を書き換える

ΔH=ΔG + TΔS (39rsquo)

ここで定圧過程ではエンタルピーを次のように式(29)で定義できた

ΔH =ΔU + PΔV (29)

式(29)の意味するところを復習すれば

系のエンタルピー変化ΔH は内部エネルギーの変化量と系が外部に

した仕事量の和として表される

これは

定圧過程で系が得るエネルギー量から仕事量を除いたもの

と言い換えることができるエンタルピー変化量は化学反応などの過程で

始めと終わりの2つの状態の差であるからそれが正の値を示す(>0)なら

系のエンタルピーは増加することを意味しその過程が進行するためには系

の外部からエネルギーが供給されなければならない

一方式(39rsquo)の右辺第2項TΔS はエントロピーの定義(32)より

TΔS = Q (40)

であるのでこれは可逆過程で系に供給される熱量を意味する

30

もしエンタルピー変化量が負の値を示す(<0)ならば系のエンタルピー

は減少しその過程が進行することによってエネルギーが取り出せるすなわ

ち式(39)(40)から次のようにこれら3つの状態量を改めて説明する

ことができる

ある化学反応が定圧で可逆的に進行するときそれから取り出せる

エネルギーのうちΔG を仕事として放出し熱量 Q を放出する

標準状態29815K(25)1atm で標準物質からある化合物を合成すると

きの反応熱(発熱あるいは吸熱)をその化合物の「標準生成エンタルピー」

として定義した同様にある物質に対する「標準生成ギブス自由エネルギー」

はこの標準状態で標準物質からその化合物を化学反応で生成するとき式(3

9)によって与えられる変化量をいう

電池における化学反応のギブス自由エネルギー

先にダニエル電池の亜鉛板側に対する電極反応を検討したとき電極反応が

仕事として放出するエネルギーを表現する重要な式があった次の式(17)

である

W = n FV (17)

ギブス自由エネルギーを用いて今これは次のように書くことができるように

なった

W = n FV=-ΔG (41)

この式が表していることを実際に水素の燃料とする燃料電池の反応過程で見

てみよう燃料電池の図を再掲する

図中右にある陰極では水素の酸化反応が起きる

H2 rarr 2H+ + 2e- (5)

一方図では左にある陽極において次の還元反応が起きる

12 O2 + 2e- rarr O2- (6)

O2- + 2H+ rarr H2O (8)

全体の反応はすでに示したように次の反応式(7)で示される

H2 +12 O2rarr H2O (7)

31

標準状態における可逆的仕事は式(41)であらわせ

n FV=-ΔG (41rsquo)

このΔG は式(39)であらわせた

ΔG =ΔH-TΔS (39)

すなわち標準状態29815K(25)1atmにおいてある化合物を標準物

質から合成するときの標準生成ギブス自由エネルギー変化ΔG゜は標準生成エ

ンタルピー変化ΔH゜とその温度におけるエントロピー変化TΔSの差で求ま

るこれらは燃料電池の全反応を表す式(7)で与えられる

標準生成エンタルピーΔH゜変化とエントロピー変化はすでに一般的な元

素やその化合物に対して表が作成されている

液体の水に対する標準生成エンタルピーΔH゜(H2O)は

ΔH゜(H2O)=minus 28583 KJmol

また水素ガスと酸素ガスはそれぞれの元素の標準物質であるので生成エ

ンタルピー変化はゼロである

32

そこで式(7)での水を1モル化学合成するときの標準生成エンタルピーΔ

H゜は水素(ガス1モル)と酸素(ガス12 モル)の2つの材料と水(液

体251atm)の両状態における状態量の差として表される

ΔH゜=ΔH゜(H2O)-ΔH゜(H2) -12ΔH゜(O2) (42)

式(42)の右辺第2項と第3項がゼロであるので

ΔH゜=ΔH゜(H2O) =-28583 KJmol (43)

標準状態29815K(25)1atm における水素(ガス)と酸素(ガス)お

よび水(液体)のエントロピーはそれぞれ

ΔS(H2O)=6991 JKmol

ΔS(H2) =13068 JKmol

ΔS(O2) =20514 JKmol

単位で分母のKはケルビン温度の意味

と計算されているので

ΔS=ΔS(H2O)-ΔS (H2) -12ΔS(O2) (44)

=6991-13068-12times20514

=-16334 JKmol

したがって

TΔS=29815times(-16334)=-486998=-4870 KJmol

(45)

そこで標準生成ギブス自由エネルギーΔG゜は式(39)から

-ΔG゜=-(ΔH゜-TΔS) (39)

=-{-28583-(-4870)}

=+23713 KJmol

33

すなわちこのエネルギーを電気エネルギーとして取り出すことができるそ

の起電力は式(41rsquo)から

n FV=-ΔG (41rsquo)

V= -ΔG(n F)

各数値を当てはめれば

V=237130(2times96485)

=1229 volt

先に【化学反応と電気エネルギー】のところで記したとおり25の基準

状態におけるこの電極電位はE゜=+1229 volt が得られているすなわち

こうして標準生成ギブス自由エネルギーから計算することでも同じ値を得る

ことができた

水素を単純に酸素と化合させる燃焼では式(43)で示されるエンタルピ

ーが発生する熱量を示している水素1モルあたり28583 KJである電池

にすれば水素1モルあたり23713 KJの仕事量が電気エネルギーとして取り

出すことができるその差は電池の場合熱が発生して利用できない

化学反応の過程を利用して化学エネルギーから直接電気エネルギーに変換す

るのが電池という装置であるが化学エネルギーは100電気エネルギ

ーに換えることはできないこのようにエネルギーの一部は電池の熱として

発散してしまう

理想気体の状態方程式

ギブス自由エネルギーΔG を定義した式(39)とエンタルピーΔH の定義

式(28)から

ΔG =ΔH-TΔS (39)

ΔH =ΔU +VΔP+ PΔV (28)

そこで次式が得られる

34

ΔG =ΔU+VΔP+ PΔV-TΔS (46)

またエネルギー保存則から得られた式(26)を応用すればギブス自由エ

ネルギーが変形できる

Q =ΔU+PΔV (26)

から

ΔU=Q-PΔV (47)

したがって式(46)は

ΔG = Q-PΔV+VΔP+ PΔV-TΔS

ΔG = Q-TΔS+VΔP (48)

エントロピーの定義からQ=TΔSであるから結局式(48)は

ΔG = VΔP (49)

と表すことができる

成分が混合された気体分子の分子間に働く力をゼロと仮定した「理想気体」を

考えるとき状態方程式としてボイルシャルル(Boyle-Charles)の法則が

利用できる

PV=nRT (50)

ここでnは気体のモル数PVT はそれぞれこれまでと同じ圧力体積温度(ケルビン温度)でありR は気体定数と呼ばれるもので次の値を持

R= 831441 JmolK (51) 単位で分母のKはケルビン温度の意味

35

状態方程式から式(49)の右辺を導くことを考えてみよう式(50)は

1モルの気体について V に対し次のように変形することができる

V 1

PRT (50rsquo)

両辺に圧力の微小変化量⊿P をかけると

PP

RTP V (52)

これを微分方程式として圧力p0 からp1 まで(p0≦p1)積分するなら

1

0

1

0

1

0

1p

p

p

p

p

pdP

PRTdP

P

RTdPV (53)

関数 f(x)=1x を積分したときの関数はF(x)=ln(x)であるので(ln は e を底

とする自然対数loge)

右辺=0

1ln)0ln()1ln(p

pRTpRTpRT (54)

ギブス自由エネルギーを表す式(49)は次のようであったから

ΔG = VΔP (49)

式(52)から得た式(54)を当てはめると状態G0(p0T)からG1(p1T)

へ変化する過程で圧力が p0 から p1 まで変化するものとして

dGG0

G1

G( p1T ) G(p0T ) RT lnp1

p0 (55)

あるいはこれを書き直して

V

36

G(p1 T) = G( p0T ) + RT lnp1p0

(56)

特別にG0(p0T)を標準状態T=29815K(25)p0=1atmに指定する

なら標準生成ギブス自由エネルギーを記号G゜として (56rsquo)

と表すことができる

式(56rsquo)の意味するところは標準状態から圧力の変化を伴う過程で理

G(p1 T) = Go + RT ln p1

想気体のギブス自由エネルギーは圧力の対数に比例して上昇することである

このことはさらに新しい着想を生む

すなわち水素を燃料とする上の燃料電池で1atm 標準状態の水素ガスの圧力

を2atm に上げれば式(56rsquo)からRTln2 余分にギブス自由エネルギー

が取り出せることになる

燃料電池において起電力を生むエネルギーは隔壁を水素イオンもしくは酸

素イオンが浸透しようとする力であるので1atm の水素ガスと2atm のそれで

は浸透しようとする圧力が異なりここに起電力が生じる

式(56)の第二項が圧力の差による仕事であるからこれをΔG とすれば

W=-ΔG の仕事量が電気エネルギーとして取り出せるはずである

W = minusΔG = minusRT lnp1p0

(57)

起電力に換算するために式(41)を使うと

W = n FV=minus ΔG (41)

から

01ln

pp

nFRTV ⎟

⎠⎞

⎜⎝⎛minus= (58)

この式(58)は一般にネルンスト(Nernst)の式と呼ばれる

37

理想溶液のギブス自由エネルギー

理想気体を想定したように無限に希釈された混合溶液に対して理想溶液を仮

定する「系」の圧力温度を一定に保つならば体積内部エネルギーエンタ

ルピーギブス自由エネルギーなどの示量数は混合溶液を構成する物質のモ

ル数mに比例するたとえば標準状態にある物質の1モルの体積をVとすれば

mモルの体積はそのm倍mVであるそうすると溶液中のi番目の成分がmi

モル「系」から「外界」に仕事をするときその成分iの持つ自由エネルギーの

mi倍の仕事が「外界」になされると考えればよい

この溶液成分のモル数と化学的仕事を結びつける示強因子がギブスによって

化学ポテンシャルと名付けられ一般に記号μが用いられる

化学ポテンシャルはこれまで見たようにギブス自由エネルギーで表される

また電位がψ(プサイ)にある系から-Δeの電荷が放出されるときには

-ψΔeの電気的仕事が得られるそこで記号μに両者を合わせた意味を持

たせて「電気化学ポテンシャル」と呼ぶ

概念の上で物質は電気化学ポテンシャルの高い方から低い方へ勾配にした

がって移動する

理想気体の標準状態が気体分圧を T=29815K(25)で 1atm としたのに対

し溶液成分の標準状態はその分圧に相当するモル数 m を用いるすなわち

標準状態にある成分 i の電気化学ポテンシャルμ0iは成分の持つ電荷(H+なら

1)を n として

μ0i = G i゜+nFψ i (59)

ギブス自由エネルギーは式(56rsquo)を借り理想溶液中の成分に対しては気

体圧力をその成分のモル濃度Cに書き換えればよいそこで

G(CT ) G RT lnC (60)

と表すことができる

したがって一般的な成分 i の電気化学ポテンシャルμiを表す式は標準状態

からの自由エネルギーの変化を考え式(59)と合わせて次のようになる

38

ψnFGii 0

式(60)から

ii CRTGTCGG ln)( 0

よって

(61) ψnFCRT iii ln0

実際的なことを考えると成分濃度はその有効イオン濃度とする必要があり

「活量係数」γを導入して次式で表されるイオン活量aを用いる

ai = γCi (62)

一般的にはγ=1と近似してモル濃度Cを使っているこのテキストでも

必要ではない限りイオン活量を用いることを省略して簡単に記述したい

膜電位

燃料電池に使われたナフィオンのような一つのイオンを通す膜を介して膜

の両側にC0 とC1 のイオン濃度差がある溶液が接するときの電気化学ポテン

シャルを考えよう

ある容器の底にナフィオン膜を取り付け容器の中と外のイオン濃度をC0

とC1としそれぞれの電気化学ポテンシャルをそれぞれμinとμoutとする

式(61)を使って

容器の中の電気化学ポテンシャル

(63) innFCRTin ψ 00 ln

容器の外の電気化学ポテンシャル

(64) outout nFCRT ψ 10 ln

イオン浸透性の膜を介して濃度変化が無視できるほどの移動があると考え

その電気化学ポテンシャルの差を式(63)(64)から求めれば

39

)(ln0

1 inoutinout nFC

CRT ψψ (65)

この系において今注目しているイオンが膜を介した両側で平衡状態にある

とき式(65)はΔμ=0と考えることができるすなわち

0)(ln0

1 inoutnFC

CRT ψψ

膜内外の電位差をΔψ=ψoutminus ψinとすれば

1

0

0

1 lnlnC

C

nF

RT

C

C

nF

RTψ (66)

式(66)は理想気体に対するネルンストの式(58)と同様溶液中のイ

オンに対するネルンスト(Nernst)の式として与えられる

細胞の膜においてもその生体膜の内外でたとえばカリウムイオンのように

非対称に分布して平衡に達している場合には式(66)で与えられる膜内外

で電位差が生じるこれは一般に膜電位と呼ばれる膜電位は平衡電位とも

呼ばれる

たとえば膜内外に1価のカリウムイオンに10倍の濃度差があるとすると

通常カリウムイオンは細胞内の濃度が高いので

C0 = 10timesC1

であるから

これを式(66)に当てはめてln(10)=2303 を用いlog への変換をすれば

Δψ=2303times(RTF)timeslog(10)

であるこれに R=831441 JmolKF=96485 CmolT=29815 K(25)

の各数値を当てはめると

Δψ=2303times831441times29815times196485 JC

=+005917 volt

すなわち膜の内外で約+60ミリボルトの膜電位が生じることになるこの

分だけ細胞の外側の電気化学ポテンシャルが高く膜の内側の膜電位が負であ

るそして膜にあるカリウムチャネルがこの電位を示すとき受動的なカリ

40

ウムの膜内外の移動は平衡に達することになる

水素イオン濃度測定

「標準水素電極」は1モル塩酸溶液につけた白金電極に1atm の水素ガスを

吹き込んで平衡状態に達したときの電位を基準としてゼロボルトと規定した

そこである溶液についてその水素イオン濃度を知ろうとするとき同じ水

素電極を用いることを考えれば標準状態にする目的で用いた1モル塩酸溶液

を濃度未知で X モルの塩酸溶液と想定すればその水素イオン濃度を知るこ

とができるだろうか

標準状態ではない X モルの塩酸溶液に浸けた白金電極が半電池として働くこ

とは間違いなさそうであるしかしその白金電極が持つ電極電位を測定する

にはいずれにしても標準電極と組み合わせて「電池」を構成しその電池

の起電力として計る必要がある電池を作れば起電力を知ることができ相

手の半電池の電極電位が知られていれば濃度が未知でXモルの溶液について

その水素イオン濃度を知ることができるだろう

こうした目的のためにいちいちゼロボルトと規定した標準水素電極を用いる

のは煩雑なのでしばしば後出の「銀塩化銀電極」が参照電極として用いら

れる

まず予め「銀塩化銀電極」を標準水素電極と組み合わせて電池とし一度

その起電力を測定しておけば後はいつもそれを標準電極として利用できる

「銀塩化銀電極」の半電池は

H+ (1 moll) Cl- | AgCl | Ag(s)

これに「標準水素電極」を組み合わせ電池を構成すると次のような電池

になる

Pt(s) | H2(g) | H+ (1 moll) Cl- | AgCl | Ag(s)

この電池の起電力を知れば「銀塩化銀電極」の半電池としての電極電位

を知ることができ参照電極として未知の半電池と組み合わせて起電力を測

定して相手の電極電位を計算できる

41

濃度 X モルの塩酸溶液を未知の溶液と想定すればその電極電位を知るために

組み立てる電池は次のようになる図10にその電池の図を示した

Pt(s) | H2(g) | H+ (x moll) Cl- | AgCl | Ag(s)

この電池の全反応は次の反応式で表される

AgCl(s) 1

2H2 (g) H Cl Ag(s) (67)

図10未知溶液の水素イオン濃度を測定しようとするための電池

化学反応の一般的な式

ここで電池に利用される化学反応から得られるエネルギーをギブス自由エ

ネルギーに換算し起電力を具体的に知る手だてとすることは上ですでに学

42

んだがより一般的な式を再度ここに書きだしておこう

化学反応が紙面で左から右に進む反応として次のような一般式で与えられ

るとき

aA + bB rarr cC + dD (68)

ギブス自由エネルギー変化量は標準状態ΔG゜からの変化量を加える形で式

(60)と同様次の式によって表される

G G RT(ln aCc aD

d ln aAa aB

b )

G RT ln

aCc aD

d

aAa aB

b (69)

aAは成分 A のイオン活量であるその他の成分も同じ

得られたエネルギーを電気エネルギーに換えるなら式(41)に習って

次式で表せば

ΔG=-n FV

there4V=-ΔG(nF) (70)

このときの起電力は標準状態における電位 E゜からの変化量として次式で与

えられる

E E

RT

nFln

aCc aD

d

aAa aB

b (71)

標準状態における起電力 E゜は反応が平衡状態にあるときで反応平衡定数

を K とするなら

K aC

c aDd

aAa aB

b (72)

で表されるそこでE゜は次のように書き改めることができる

43

E

RT

nFln K (73)

そこで式(67)で表される図10の電池「水素minus 銀塩化銀電池」に

対する起電力をギブス自由エネルギーから求めてみよう

反応から式(71)に当てはめれば

E E RT

Fln

aH

1 aCl

1 aAg1

aAgCl1 aH2

1

2

(74)

力学の慣例にしたがって固体の純物質の活量は1として扱い水素ガスを

想気体として見なして活量を1atm とするなら式(74)は次のよう

に簡略化される

E E

RT

Flna

H aCl (75)

ころで理想溶液として近似的に取り扱うときの希薄溶液でたとえば水素

入して詳細に検討するなら式( れる起電

オン濃度はイオン活量として aH+の記号を使うときすでに【理想溶液のギ

ブス自由エネルギー】の章で述べたようにこれを有効イオン濃度とする必要

がありイオン活量 a は「活量係数」γを導入して次式で表した

a H+= γH+CH+ (62)

この活量係数を導 75)で誘導さ

を計ることによって経験的に試料溶液中の水素イオン濃度を求めることは

困難である式(75)にあるイオン活量の項はモル濃度 C と活量係数γを

用いて次式で書き改められる

lnaH aCl

lnCH CCl

lnH Cl

(76)

まり式(76)右辺の第二項において互いに相手が知られなければ自分

決めることができず結果的に起電力を知っても(75)の値から水素イオ

ン濃度を導けないここに工夫が必要になる

44

の定義とその目盛り

液中の水素イオン濃度を直接意味するものではなく

を定義するとき測定されるのは1リットルの溶媒に存在す

pH = -log a H+ = -log(γH+CH+) (77)

際に試料溶液の pH を決定する際はpH 標準液を用いる

に溶液を入れ試料溶液 X と pH 標準液 S を

参 極を接続し電池を作成しその起

pH

現在pH の定義は溶

で述べたようにそれが簡便に測定できるものではないため次のように定

義されている

水素イオン濃度

水素イオン活量であるため定義式としては活量係数をγH+として次式で与

えられる

その要領は次のようである

上に図示した水素電極の容器内

れぞれ半電池(I)と(II)に入れる

半電池(I) Pt | H2 (1 atm) | 試料溶液

半電池(II) Pt | H2 (1 atm) | 試料溶液S

照電極として上図のごとく銀塩化銀電

電力を測定する半電池(I)のときの起電力を E(X)半電池(II)のそれを E(S)

とするこのとき試料溶液Xの pH は次式で計算される

pH (X) pH(S) E(S) E(X)

RT ln(10) (78)

ln(10)は自然対数を常用対数に戻すための定数で2303 を用いる

標準液

pH 標準液 S はpH 第一次標準液第二次標準液と呼ばれるべき

る測定

25で pH 4005 を示す

pH

上述した

のであり絶対的測定法である起電力の測定によって値をつける

標準液は安定で純粋な結晶が得られる試薬を調整してこれを測定す

上と同様に水素電極を用いこれに緩衝液を入れる参照電極として銀

塩化銀電極を接続して電池の起電力を測定する

たとえば005 moll フタル酸水素カリウム溶液は

一次標準(Primary Standard PS)の一つである半電池(III)として水素

45

電極を次のように準備する

半電池(III) Pt | H2 (1 atm) | PS 溶液

て電池を形成したとき得られる起電

参照電極として銀塩化銀電極を接続し

は式(75)から

E E

Ag AgCl RT

Flna

H aCl (79)

オン活量を濃度と活量係数の積(a H+= γH+CH+)にし自然対数を常用対数

すれば

E E

Ag AgCl RT ln(10)

F log(

H + CH+ Cl- CCl - ) (80)

E゜は水素標準電極(水素ガス分圧を1atm電極を浸ける溶液に001 moll

H

Cl を用いる)で得た起電力である

式(80)から

RT ln(10)

Flog(

H CH Cl

) (E EAg AgCl )

RT ln(10)

Flog C

Cl

(81)

らに

log(

H CH Cl

) F

RT ln(10)(E E

Ag AgCl ) logCCl

(82)

ころで式(77)から

(γH+CH+) (77)

-log a H+ =-loga H+-log(γCl-) +log(γCl-) =-log(a H+γCl-) +log(γCl-)

(83)の一番右の式で第一項は

pH = -log a H+ = -log

であるが右の式をさらに変形すると

(83)

46

-log(a H+γCl-)=-log(γH+ CH+γCl-) (84)

たがって式(82)の右辺で示されるように電池の起電力を測定すれば

よ 実際には溶液の塩素イオン濃

液で起電力を求め外挿する

起電

これによってpH を意味する式(83)は次式(85)で与えられる

p(aHγCl)はRG Bates によって Acidity Function と呼ばれている

らに式(85)最終項の log(γCl-) を補正しなければならないこの項は

本工業規格)によっても

であってこれは式(82)の左辺である

いただし塩素イオン濃度の項があって

をゼロにしたときの値が必要である

実測する際には塩素イオン濃度をゼロにできないので塩化ナトリウム NaCl

等を濃度を変えて添加しその時々の緩衝

勧告ではNaCl で 000500100015moll の3つの濃度を例示している

すなわち塩素イオン濃度ゼロのときの値は各塩素イオン濃度に対して

の値をそれぞれプロットしグラフから塩素イオンがゼロのときの起電力の

値を3点に対する回帰直線の延長で外挿して求めるこの点を次のように書

log( C H H Cl CCl

0

pa log( C log( (85) H H H Cl C

Cl0 Cl

)

素イオンの活動係数で与えられる補正項である

無限希釈溶液中のイオンの活動係数は理論的に Dubye-Huckel の式を用い

近似的に求めることが可能であるこれはJIS(日

用されていて Bates-Guggenheim の規約と呼ばれる (Bates RG

Guggenheim Pure Appl Chem 1 163-168 1960)

Dubye-Huckel の式は次のように与えられる

log A I

i 1 iB I (86)

47

I iについてそのモル濃度

計算される

はイオン強度でイオン mi と電荷 zi から次式で

I 1

2mizi (87)

また iは(86)式のBは温度と溶媒の性質による定数であり イオンの大

きさに関するパラメータで水和イオンの大きさとほぼ一致した値をとる標

準法の勧告では塩素イオンに対しイオンの大きさを46Åと決めてiBを

1

5 にしているそこで式(84)は次のようになる

ClA I

log 1 15 I

イオン強度 I は塩素イオン濃度を含まない計算となる

以上の方法によって実用的な pH 測定に用いられる第一次第二次標準液の

pH の値が得られる

絶対値としての

はpH の絶対測定法(第一次標準測定法)とされている

銀塩化銀参照電極は分極現象を防ぐために棒状の銀を塩酸で処理し表

に塩化銀を生成させたものを飽和塩化カリウム溶液につけてある

(88)

参考現在は実験的に求めた値と理論値の組み合わせで

素イオン濃度を求める方法を規定しているこの起電力から水素イオン濃度

を知るための測定方法

Buck RP Rondinini S Covington AK Baucke FGK Brett CMA Camoes MF

Milton MJT Mussini T Naumann R Pratt Kw Spitzer P Wilson GS

Measurement of pH definition standards and procedures Pure Appl Chem

74(11)2169-2200 2002Kristensen HB Salomon A Kokholm GInternational

pH scales and certification of pH Anal Chem 63(18) 885A-891A 1991)

銀塩化銀参照電極

電極の構成は

Cl-(aq) | AgCl(s) | Ag(s)

48

この半反応は次のようになる

AgCl(s) + e- rarr Ag(s) + Cl- (89)

の反応は次の2つの反応に分けて考えることができる

Ag+ + e- rarr Ag(s) (91)

AgCl(s)rarr Ag+ + Cl- (90)

図11銀塩化銀参照電極

(90)における銀 る塩素イオンによって左

されることが推測される

そこでカッコ [ ] をそれによって囲まれるイオンの濃度を表すことにし

式 イオン Ag+の溶解性は共存す

塩化銀の乖離定数Kを考えると

49

K = [Ag+][Cl-] (92)

これから

[Ag+]= K[Cl-] (93)

化カリウム溶液に漬けた銀塩化銀電極の電位 E は水素標準電極に対する

電 で与えられる

位を E゜として次式

E E

RT

nF

[ Ag ]

[Ag(s)]ln( )

Ag(s)のイオン活量は常に1とする

ここで半反応の電極電位を求めるために式(75)を利用することにすれば

(94)

熱力学の慣例にしたがって純物質個体

E E

RT

Flna

H Cl a (75)

式 の半反応をみると

応で電子1つが移動するので n=1 とするR=831441 JmolK1F = 96485

C はめれば

これに銀イオンの濃度として式(93)を当てはめる

この反応で移動する電子は (89) 銀イオン1つの反

molT=29815K(25)ln(10)=2303などの定数を当て

2303RTF = 005917

であるから(94)式は次のように表現できる

log[Cl]) E E 005917(logK (95)

たがって標準水素電極に対する銀塩化銀参照電極の標準状態における電

位 は半反応(89)に対して ゜=+0799で

化銀の乖離定数 K は182times10-10 であるのでその対数を取れば-973993

0799-005917times973993-005917log[Cl-]

E゜ E ある

ある

そこで式(95)は

E =

50

= 0799-0576-005917log[Cl-]

= 0223-005917log[Cl-] (96)

電極電位の関係について実測値

こうして求めた塩化カリウム溶液の濃度と

計算上の値は次のようである

KCl moll vs SHE volt25 計算値 volt25 01 02881 02822 35 0205 01908 飽和 0199 minus

実用 測定

実際の現場で水素イオン濃度を測定する目的の測定法で上のような2つの

極が同じ溶液に浸かっていたのでは試料溶液を交換するにも便利ではない

の容器に入れる未知試料溶液と銀塩化銀電極を隔離する

的な pH

そこで水素電極側

的で二つの電極容器をつなぐ液絡部をグラスフィルターやセラミック板

飽和塩化カリウムで作成したゼラチンなどの塩橋によって隔離遮断するこ

れを液絡部とよぶ

電池として機能するために必要な溶液イオンの交換はこの液絡部で行う

組み立てる電池は電池式で次のように表される

Pt(s) | H2 | 試料 (H+ x moll) || 飽和 KCl | AgCl | Ag(s)

の標準電極と銀塩化銀電極とは区切られていて溶液の直接の接触がない

とを意味するために電池式ではタテ二重線を用いる銀塩化銀参照電極

の容器には飽和塩化カリウム溶液が入れられる

51

図12液絡部のある pH 測定のための電池

この液絡部のある電池では塩橋を記号lsquo | | rsquoで表して次のように記す

試料 (H+ x moll) | | 飽和 KCl

ここでは試料溶液と飽和塩化カリウム溶液の異なる2液が接している

このような界面では膜電力が生じるのと同様「液間電位差」が生じることが

知られているしたがって上の電池で測定される起電力 E は

E = E[銀塩化銀電極電位]+E[液間電位]+E[水素電極電位]

で与えられることになってE[液間電位]のために図12の電池の起電力

は銀塩化銀参照電極の値を知っていても水素電極容器内に入れた未知溶

液の水素イオン濃度を正しく知ることができない

52

そこで実用的な測定法としてこの E[液間電位]を膜電位として積極的に利

用する方法が工夫されたすなわち水素イオンに感応するガラス薄膜を用い

るガラス電極法である

53

ガラス電極

ガラスはケイ素原子と酸素原子からなる SiO4 の結晶構造を持ち酸素で囲

まれた空隙があって水素イオンがそれを埋めることができる

この性質によってガラス膜表面は水溶液中の水素イオンに応じて膜電位を

変化させるのでこれを水素イオン濃度測定用の電極として利用することが考

えられるこれが通常用いられるガラス電極である

ガラス電極は標準電極と組み合わせれば電池を構成することができこの電

池の起電力を知ってガラス薄膜の内外にできたイオン濃度勾配を知ろうとす

るものである

薄いガラス膜(01mm程度)をはさんで接する2つの溶液のH+イオン濃

度が異なるとその差に応じてガラス膜の両側に電位差(Eg)が現れる

ネルンストの式でガラス電極の内部に入れた既知の濃度のH+([H+]in)に対

し試料中の水素イオン濃度が[H+]sampleのとき次の電位を生じる

)][

][log(059170)

][

][ln(

sample

in

sample

ing

H

H

H

H

F

RTE

(97)

図13ガラス電極

電極を構成するのは銀塩化銀電極と同じ電極で用いる塩溶液は一般的

54

に 01モル塩酸溶液である

この半電池の電池式は次のように書くことができる

Ag(s) | AgCl(s) | HCl (01 M) | ガラス薄膜 || 試料溶液 H+ (x moll)

Eg

この半電池の電極電圧を測定するために銀塩化銀標準電極と組み合わせ

電池を作って起電力を計る

構成される電池は下図のようになる

ガラス電極 銀塩化銀標準電極

図14ガラス電極を用いた pH 測定用の電池

この電池の起電力は次の各半電池の平衡電位を合わせたものになる

55

E1ガラス電極の内側電位

Ag(s) | AgCl(s) | HCl (01 M)

Egガラス薄膜の内外に生じる膜電位

HCl (01 M) | ガラス薄膜 || 試料溶液 H+ (x moll)

E2液間電位(膜電位)銀塩化銀標準電極のセラミックを介した試料溶液

と銀塩化銀標準電極の内部液(飽和 KCl 溶液)の間に発生する電位

試料溶液 H+ (x moll)|| セラミック | KCl(飽和)

E3銀塩化銀標準電極

KCl(飽和)| AgCl(s) | Ag(s)

pH メーター用のガラス電極に使われるガラス薄膜は水素イオンに感応して

膜電位(Eg)を生じるこれは【膜電位】の章で記したように薄膜がある

一つのイオンのみを通過させる特性を持っている場合にイオンが膜を介した

両側で平衡状態に達したとして電気化学ポテンシャルを膜の両側で等しいと

考えてそのイオンが濃厚な側から希薄な側にその差によって圧力を生じると

するものである

一方同じ試料溶液が銀塩化銀標準電極のセラミック液絡部を介して生じ

るだろう液間電位(膜電位E2)はいま関心がある水素イオンに対して特異

的に感応するのではないので試料溶液の水素イオン濃度に関係なく一定と見

なすことができる

すなわちpH メーターを構成する電池の起電力 E は

E = E1+Eg+E2+E3 (98)

このうちEg以外は一定と見なせるので

E1+E2+E3 = E

として式(98)を書き直すと

)][

][log(059170

sample

ing H

HEEEE

(99)

Eは標準液によって校正されるべき標準電極電位である

56

電極の校正

実際のイオン濃度を測定する場合低濃度標準液と高濃度標準液で得られ

る起電力を測定し計測のイオン濃度に対する係数(傾き)を求めておき未

知の試料に対して起電力を測定してそのイオン濃度を算出する方法が採られる

低濃度標準液と高濃度標準液のそれぞれの濃度をCLとCHとすればそれぞ

れの起電力ELとEHは次式で表される EH = E +β logCH (100)

EL = E +β log CL (101)

ただしβは式(99)の係数を簡略にしたものである

式(100)と(101)から検量線の傾きが次式で表せる

ΔE = EH minus EL = β(logCH minus logCL) = β logCH

CL

(102)

したがって係数βは

β =ΔE

log CH

CL

(103)

であらわされる

このときに使われる標準はすでに前出の pH 第一次標準第二次標準溶液で

ある

金属イオンに対応するイオン選択電極

現在臨床検査で日常的に使われている電解質測定のための電極はナトリウ

ムカリウムカルシウムクロールなどおよそ臨床的に必要な金属イオン

に対して入手可能である

カリウムイオン測定用のバリノマイシンの発見によってクラウンエーテルと

57

呼ばれる一連の化合物が知られたクラウンエーテルはその分子の中心に立

体的な空間を持ち特定のイオン径に対し合致するのでそのイオンに対して

選択的に感応するこれらの化合物はイオノフォアと呼ばれる

図 15クラウンエーテル

1つの金属イオンが環状化合物

15-crown-5 の中央にある空間を充填

している模式図

15-crown-5 の構造を作る10個の黒

い丸は炭素炭素2個のつながりごと

にある中心の白い丸は酸素酸素と

金属イオンの間の距離はおよそ 22~

23Åであるカリウムのファンデン

ワールス半径は 135Åイオン半径は

15~16Åである

測定したいイオンに対しポリ塩化ビニル(PVC)を支持体としてイオノフ

ォアを添加した液膜の電極膜を作成しこれをガラス電極におけるガラス薄膜

と同様試料に接する電極膜として用いるこの構造から一般的に液膜型電極

と呼ばれる電極膜には特異性を高めるため妨害イオン排除剤などが添加

される

pH メーターと同様銀塩化銀標準電極と組み合わせ電池を形成しその

起電力を計る測定したいイオンが液膜に対して内外で平衡に達したときの

膜電位を測定するのはガラス電極と同じである

カ リ ウ ム イ オ ン に は Bis[(benzo-15-crown-5) ( 正 式 名 は

Bis[(benzo-15-crown-5)-4-methyl]pimelate)ナトリウムには Bis[(12-crown-4)

やDibenzyl-bis[(12-crown-4)などがイオノフォアとして用いられる

58

図16カリウムイオン測定用に使われるクラウンエーテル

図17ナトリウムイオン測定用に使われるクラウンエーテル

59

参考イオン選択電極に関する文献Xia Z Badr IHA Plummer SL Cullen L

Bachas LG Synthesis and evaluation of a bis(crown ether) ionophore with a

conformationally constained bridge in ione- selective electrodes Anal Sci 14(2)

169-173 1998 Oh K-C Kang EC Cho YL Jeong K-S Y oo E-A Paeng K-J

Potassium-selective PVC membrane electrodes based on newly synthesized

cis- and trans-bis(crown ether)s ibid 14(10)1009-1012 1998 Dojindo WEB

site httpwwwdojindocojpwwwrootproductsjinfo2protocolp31pdf

<補遺> 60

補遺 状態関数 (本文 p21 10 行目参照)

一つの平衡状態にある系 A とこれに接する系 A にとって外部である系 B について系 B

から系 A に熱を与えこれによって系 A が他の平衡状態に移ったとき系 A はその結果とし

て膨張し系 B に対し仕事をする

このときの微少な熱量の移動を記号drsquoQ またなされた微少な仕事をdrsquoW とすると

系Aの内部エネルギーに関する微少な変化drsquoUA は両者の和として表される

WdQdUd A primeminusprime=prime (a-1)

この式 a-1 と本文中の式25との関係について

WQU A Δminus=Δ 本文(25)

<補遺> 61

式 a-1 と式25の記号の違いは変化の起きる前の平衡状態 S1 から変化後の平衡状態 S2

に状態変化があったとするなら式 a-1 を積分することで式25が得られるものと考えて区

別している

A

S

S A UUd Δ=primeint2

1 (a-2)

このことは重要であるすなわち内部エネルギーU は変化の起きる前後の状態を指定する

ことによって値が定まることを意味するこのように積分によって値を定めることが出来る

のでdrsquoU は完全微分であるという

内部エネルギーのように系の状態だけで値の定まる量を状態関数として扱う

一方式 a-1 のdrsquoQ drsquoW についても同様に微少の変化量を表しているが平衡状態 S1

から S2 への経路を指定しなければ積分の値は定まらない

本文中の記号にしたがって仕事量ΔW を次のように表すことにする

VpW Δ=Δ 本文(20) V

<補遺> 62

体積と圧力の関係を表す図を使ってこの仕事量が意味することを考える圧力 prsquo の下で

体積が V1 であるときを状態 S1 として圧力一定の下で体積を V2 まで膨張させるような変

化を行った後体積を等しく保って圧力を p にまで上げたときの状態を S2 とするこのとき

の仕事量は膨張に伴うものであるから図の体積‐圧力線の下の面積で示すことができる

平衡状態 S1 から S2 への変化の道筋を別にたどってみよう

新しい経路では圧力を先に p まで上げた後に膨張変化させている

図から直感的に明らかであるので数式での扱いを省略するが2 つの経路による仕事量には

差がある

すなわちdrsquoW は drsquoU と異なり変化の初め S1 と終わり S2 の状態が与えられても積分値

は定まらず変化の経路によって違ってくる

このように変化の経路を指定しなければ積分値が定まらないものを不完全微分と呼び扱

いを区別する

本文 p21 へ戻る

<補遺> 63

VpW

WQU

VpQU

VpUQ

1122 SSSS pVUpVUQ

pVU

VpUHHHQ SS 12

エンタルピー (本文 p24 20 行目参照)

本文中の式 20 および 25 から一定の圧力の元で起きる状態変化において内部エネルギー

の変化量に対する式 a-3 を得る

本文(20)

本文(25)

(a-3)

式 a-3 を Q について書き直す

(a-4)

状態の変化が平衡状態S1から平衡状態S2に移ったものとして式 a-4を丁寧に書き直すと

(a-5)

並び替えて

(a-6)

式 a-6 を見ると定圧過程における熱量の流入は

(a-7)

の形を持つ関数の差であることが分かる

一般に化学反応のような変化の過程では大気圧の下で行われるようなものに興味がある

そこで式 a-7 で与えられる項を一つの関数として定義するこれをエンタルピーと呼び記

号 H を与える式 a-4 はエンタルピーの変化量で次のように書き改められる

(a-8)

圧力が一定の下で起こる状態変化について流入する熱量は式 a-8 で示されるようにエンタ

ルピーの変化量に等しい

V

V

V

V V

V

V

1212 SSSS VVpUUQ VV

<補遺> 64

1Q

We

また式 a-8 からオートクレーブ内で起こるような体積変化のない過程ではこの値が内

部エネルギーの変化量で与えられることが明らかである

本文 p24 へ戻る

エントロピー (本文 p26 17 行目参照)

エントロピーは次のような思考実験から発想された仮想的な状態関数である

理想気体よりなる系 A が温度 T2で熱平衡状態にあり温度 T1の外部の熱源と接しているこ

とを想定する系 A の外部を系 B と呼ぶことにするT1は T2に対して無限小だけ高い温度と

する

系 A が系 B に対して温度圧力について平衡を保ちながら緩慢に系 B より熱量 Q1を受け取

る過程を考える(このような過程を準静的過程と呼ぶ)これによって系 A が熱量 Q1を得て膨

張するとき系 B に対して仕事をする続いて系 A から熱量 Q2が系 B に戻ることを考える

想定されるこの変化が可逆的であれば系 A と系 B を併せた全体は元の状態に戻る蒸気機

関に関するこのような研究が Nicolas Carnot によってなされたのは1824 年のことであった

ここに想定されたサイクルに対する Carnot の効率 e は移動した熱量となされた仕事によ

って定義され次の式で表される

(b-1)

<補遺> 65

理想気体では内部エネルギーU の変化ΔU はゼロと考えるしたがって熱力学の第一法

則を表す式(本文中の式25)から次の関係が示される

0=Δminus=Δ WQU

WQ Δ= (b-2)

これによってCarnot Cycleの効率eはQ2lt0 として次のように書き改めることが出来る

1

21

QQQe +

= (b-3)

ところで気体の状態方程式から1 モルの気体について次のような関係が示される

RTV

P

P1=

V = RTV (b-4)

V 式 b-4 の両辺に体積の微少変化量ΔV をかけて

(b-5)

これを体積Vについてその変化をV1からV2までとして積分するならば次式が得られる

VV

RTVP Δ=Δ 1V V

V

intint = 2

1

2

1

1V

V

V

VdV

VRTPdV

1V2V

11 lnRTW =

(b-6)

Q1の熱量によって起こる膨張がV1よりV2までとし圧力P温度T1の下でなされるその仕事

量をW1とするならそれは式b-6 の右辺によって示されるすなわち

(b-7)

VV

1

2lnVVRT=

V V

VV

V

V2int V2 intV1 V1

<補遺> 66

またQ2の熱量の移動が圧力P温度T2の下で起きこれによって系Aが可逆的に圧縮され

るなら体積変化はV2よりV1まで起こりその仕事量をW2で示すと次式のように表される

(b-8)

1

22

2

122 lnln

VVRT

VVRTW minus==VV

VV

Q1=W1Q2=W2の関係から式b-7 およびb-8 を用いてCarnot Cycleの効率eを表す式b-3

を書き改めると温度のみの関係式として次のように表される

1

21

TTTe minus

= (b-9)

ここでサイクルが可逆的過程であると想定するならば式 b-3 と式 b-9 から

1

21

1

21

TTT

QQQe minus

=+

= (b-10)

これから

12112111 QTQTQTQT minus=+ (b-11)

整理すると

02

2

1

1 =+TQ

TQ (b-12)

この考えをさらに発展させ系A

と系Bの間に数多くの系を挿入すること

にしてそれらの系を同様に熱源として

T1T2Tnと考えるこれによっ

て熱の受け渡しが系Aから系Bに至り

再び系Aにもどるサイクル過程に数多

くの寄り道の過程を加えることになる

熱量の移動に関して上の場合と同じく

準静的過程で行われると考えるこの

サイクル全過程について初めと終わ

<補遺> 67

n

i i

i

T

Q

1

0

0T

dQ

T

QS

T

dQASAS )()( 12

りが同じ状態になる可逆的な過程であるなら式 b-12 を拡大的に考えることになってそれ

は次式で表される

(b-13)

式 b-13 には重要な関数が現れるすなわち熱量と温度の比QT である

もし一つの系が無限小だけ温度の高い(dT )外界から温度圧力など平衡を保ちなが

ら極めて緩慢な過程(準静的過程)で無限小の熱量(dQ )を受け取るならばその変化は可

逆的でありdT について連続的な温度分布をする過程を考えるとき式 b-13 をさらに発展

させて次のように積分式で示すことが出来る

(b-14)

式 b-14 で積分記号にが付されているのはCarnot Cycle のような経路を一巡することを

意味している

Carnot の熱機関の効率という着想から生まれた熱量とそれを持つ系の温度との比 QT に

重要な意味を見出したのは Rudolph Clausius で彼はこの比にエントロピーという名前を与

えたエントロピーには記号ΔS を一般に用いる

(b-15)

エントロピーは初めと終わりの状態がわかれば過程に関わらず定まるので状態関数であ

系 A と外界のエントロピー変化を考えるときそれが可逆的過程であるならばすべてを併

せた全体のエントロピー変化は初めと終わりに変化がないという意味でゼロであるすなわ

ち初めの状態を S(A1)とし次の状態を S(A2)とするならそれぞれのエントロピーを

ΔS(A1)ΔS(A2)としてこの間におけるエントロピーの変化量は次のように示される

(b-16)

<補遺> 68

T

dQdS

0T

dQ

ある一つの変化については次のように示される

(b-17)

ここで式 b-17 の S に付けられたdは微分量すなわちごく微小の変化量を意味し式 b-15

で定義されたエントロピーに用いられる一般的な記号Δと区別する

ところで式 b-10 の関係においてもし移動した熱量のすべてが仕事に変わらなければ

効率 e を表す熱量を用いた関係式と温度で表される関係式は等号で結ぶことができないそれ

はエネルギーのロスを意味し初めと終わりの状態が異なってしまうことを意味するすなわ

ち全過程が構成する一つのサイクルは可逆的でなくなる

不可逆過程での熱効率 ersquo は 大値を示す可逆的過程の熱効率 e より小さな値をとる

ee

したがって 大効率を与える式 b-8 と式 b-3 から

01221

2112

1

21

1

21

QTQT

QTQT

Q

QQ

T

TT

両辺を T1T2で割ると

02

2

1

1 T

Q

T

Q

これを式 b12 と同様に発展させれば式 b-14 についてサイクルの変化が可逆的過程の

場合と不可逆的過程の場合の両方を併せClausius の不等式と呼ばれる次の関係が成立する

(b-18)

式 b-18 の等号が成立するのはサイクルが可逆的な理想の場合に限られる

ある孤立系で状態 A1 から状態 A2 へは不可逆変化で進められ状態 A2 から再び状態 A1

に戻るとき可逆変化であるような閉じた状態変化を考える可逆系のエントロピー変化には

記号 Q を使い不可逆変化には Q を用いるとするとそれぞれ積分式を用いて状態 A1 から

状態 A2 へは

<補遺> 69

d prime

状態 A2 から状態 A1 に戻るときは

全体では

=d prime

+d

(b-19)

Clausius の不等式から

0

式(b-19)の第二項で反応を逆に進めるときには次のように書き改めることができる

=d

よって式(b-19)は次のように書き直すことができClausius の不等式とあわせると

d prime d

0

すなわち

d prime d

上式の右辺は式(b-16)を用いて表せば

d prime

∆S ∆

この状態変化を微小変化とするならば断熱変化の場合 dQ = 0 であるから

∆S ∆ dS 0

すなわち不可逆変化を含む断熱変化ではエントロピーは必ず増大する

<補遺> 70

T

QS

BA SSS

(b-20)

(次の<補遺>ギブス自由エネルギーも参照せよ)

本文 p26 へ戻る

ギブス自由エネルギー (本文 p28 27 行目参照)

エントロピーの考えを導入することによって不可逆的に状態変化が起きるときにはエン

トロピーの増大を引き起こすことを知ったこれによって目前で起きる現象について温度の

変化があるものであれないものであれまた圧力の変化があるものであってもエントロピー

の定義式によって可逆的な変化におけるエントロピーの変化量を計算することが可能である

(b-15)

しかしながらこれから起こる変化について我々がすでにあらかじめ知っている物理量を

用いて予測的にその状態変化が起きるかどうか知ることは必ずしも容易ではないその理由

は式 b-15 に示されたエントロピーΔS が系とその外界をあわせた全体のエントロピーを示

しているからであるすなわち関心のある系を系 A としその外界を系 B とすると全体

のエントロピーは次のように表せる

(c-1)

関心のある系 A のエントロピー変化を知るためには系 B のそれを知ればよいがそれは

いつも容易とは限らない系 A の性質だけで状態変化の方向を知るには別の観点が必要にな

るようだ

そこでもう一度状態変化が熱量 Q の移動によって起きることについて考えてみようエン

トロピーの補遺で議論したように熱量の移動が準静的過程により行われるときには変化は可

逆的に起こると考えたこのとき外界すなわち系 B から移動する熱量を Q1とし系 A から

0S

<補遺> 71

21 QQ

T

Q

T

QSB

21

T

QSS A

2

QH

T

HSS AA

AA STHST

のそれを Q2 と記号を当てたのでこれをそのまま使うことにすれば可逆的な過程では系 B

の熱量 Q1 はすなわち系 A から戻る Q2 に他ならないので両者には次の関係が成立するも

のとしてよい

(c-2)

したがって

(c-3)

と考えてよくこれによって式 c-1 を次のように書きなおすことが出来る

(c-4)

独立した系で圧力とその体積に変化がなく一定の条件の下で状態変化が起きるときエン

タルピーの考えを使ってすでにひとつの関係があることを導いている

本文(31)

そこで式 c-4 を系のエンタルピーΔHAによって書き改めれば

(c-5)

この両辺に-T をかけて式を書き直せば次の関係式が得られる

(c-6)

式 c-6 を見るときその右辺がマイナスの値ならば左辺のΔS はプラスの値をとることが

分かるすなわちエントロピーが増大すると見ることが出来るこれまでの過程で自然の現

象はエントロピーが増大する方向に進むとしてきたので関心のある状態変化について式 c-6

の右辺で計算される値がマイナスの値ならばその変化は起きるものと考えてよいことになる

だろうしかも右辺はすべて独立した系の状態量で示されていて我々が知りうる値で計算

<補遺> 72

TSHG

STSTHG

STHG

可能である

そこでこれを熱力学ポテンシャルを表すものとしてギブス自由エネルギーと呼ぶことに

するギブス自由エネルギーは記号 G が用いられ次のように定義される

(c-7)

ここで関心があるのは自由エネルギーの絶対値ではなく式 c-6 に示されたようにその変化量

に興味があるので式 c-7 から

(c-8)

温度が一定の条件の下で状態変化が起きることを考えるなら式 c-8 は次のように書くこと

ができる

(c-9)

ギブス自由エネルギーは式 c-9 の右辺がすべて状態量であるからこれも状態量の一つで

ある定圧定温の条件下で起きる変化ではすでに議論したようにΔGlt0 であれば状態

変化は自発的に起きるものと予測できる

つまり式 c-5 の第一項は系のエントロピーΔSAそのものであり第二項で示されるエンタ

ルピーは系 A の温度が一定に保たれているのであるから発熱する熱量として外界に吸収さ

れるものであってこれは外界のエントロピーの増大につながるものとして解釈されるした

がって化学反応のように一定の圧力と一定の温度の下で起きる変化について自由エネルギ

ー変化量はその状態変化が自発的に起きる傾向を示しているといってよい

本文 p28 へ戻る

  • はじめに
  • 目次
  • 電気エネルギー
    • 金属のイオン化
    • 電池
    • 水素の反応
    • 燃料電池
    • 化学反応と電気エネルギー
      • エネルギーと熱力学
        • エネルギー保存則
        • エンタルピー
        • エントロピー13
        • ギブス自由エネルギー
        • 電池における化学反応のギブス自由エネルギー13
        • 理想気体の状態方程式
        • 理想溶液のギブス自由エネルギー
        • 膜電位
          • 水素イオン濃度測定
            • 化学反応の一般的な式
            • pHの定義とその目盛り
            • pH標準液
            • 銀塩化銀参照電極
            • 実用的なpH測定
            • ガラス電極
            • 電極の校正
            • 金属イオンに対応するイオン選択電極
              • 文献
              • 補遺
                • 状態関数
                • エンタルピー
                • エントロピー
                • ギブス自由エネルギー
Page 31: イオン選択電極i イオン選択電極 Ion Selective Electrode (ISE) を理解する ・ pHを測定する ・ NaやKなどのイオン濃度を測定する 神戸大学医学部保健学科

28

ΔS >0 (37)

すなわち独立した系がありそれより温度の低い別の系あるいは温度の低

い外界が接した場合熱量は高い方から低い方へ移動するという自然の成り行

きを説明するものである

自然界に置いてエントロピーは

ΔS≧0

の値を取りΔS=0のときは可逆的過程である

今の例でいうなら熱は温度の高い系から低い系へ移動しその逆は起きない

常にΔS >0の方向に過程が進行するまた2つの系が同じ温度であるとき

両者は平衡状態にあって熱量の移動は見かけ上なくΔS=0と表現される

「熱力学の第二法則」はエントロピーによって表現されるもので系の変化が

可逆的であるかどうかを判定する指標であり現実の世界で起きる不可逆過程

が正の値を取る方向へ進むことを示す

あるいは系の変化が起きるとき外界を含めて考えれば総エントロピーが

増大する方向に変化が起きることを意味するというようにも表現される

ギブス自由エネルギー

熱力学の第一法則によってエネルギーの取りうる形である「仕事」と「熱」

は互いに変換されうることを理解したこのことの数量的な意味は1cal=418J

で示されるさらに仕事は100熱に変換可能であるが一方の熱はうま

くやっても100を仕事に換えることができないことを熱力学の第二法則で

説明しようとしたそのためにエントロピーという概念が導入された

ここで電池のような独立した一つの系を見るとき系の内部エネルギーの減

少を仕事として取り出しうるならそれは化学反応を一つの例としてどれほど

の仕事量が取り出せるのかはどうしたら与えられるだろうか

化学反応を電気エネルギーに換える電池では先に正負それぞれの電極におけ

る半反応の平衡電位の値を利用してその起電力に対する最大値を計算した

この化学反応から取り出しうる最大仕事量を与えるものとして新しくギブス

自由エネルギー(rarr補遺 p70)と名付け記号 G を使ってそれを次のように

定義する

29

G = H-TS (38)

H はエンタルピーである第2項にある S はエントロピーを表す

ギブス自由エネルギーは化学反応のような独立した系の定温定圧過程に適

応されるので変化量ΔG を式(38)から得ておこう

ΔG =ΔH-Δ(TS)

=ΔH-(SΔT+TΔS)

温度を一定と考えているのでΔT=0 であるから

ΔG =ΔH-TΔS (39)

この式(39)を書き換える

ΔH=ΔG + TΔS (39rsquo)

ここで定圧過程ではエンタルピーを次のように式(29)で定義できた

ΔH =ΔU + PΔV (29)

式(29)の意味するところを復習すれば

系のエンタルピー変化ΔH は内部エネルギーの変化量と系が外部に

した仕事量の和として表される

これは

定圧過程で系が得るエネルギー量から仕事量を除いたもの

と言い換えることができるエンタルピー変化量は化学反応などの過程で

始めと終わりの2つの状態の差であるからそれが正の値を示す(>0)なら

系のエンタルピーは増加することを意味しその過程が進行するためには系

の外部からエネルギーが供給されなければならない

一方式(39rsquo)の右辺第2項TΔS はエントロピーの定義(32)より

TΔS = Q (40)

であるのでこれは可逆過程で系に供給される熱量を意味する

30

もしエンタルピー変化量が負の値を示す(<0)ならば系のエンタルピー

は減少しその過程が進行することによってエネルギーが取り出せるすなわ

ち式(39)(40)から次のようにこれら3つの状態量を改めて説明する

ことができる

ある化学反応が定圧で可逆的に進行するときそれから取り出せる

エネルギーのうちΔG を仕事として放出し熱量 Q を放出する

標準状態29815K(25)1atm で標準物質からある化合物を合成すると

きの反応熱(発熱あるいは吸熱)をその化合物の「標準生成エンタルピー」

として定義した同様にある物質に対する「標準生成ギブス自由エネルギー」

はこの標準状態で標準物質からその化合物を化学反応で生成するとき式(3

9)によって与えられる変化量をいう

電池における化学反応のギブス自由エネルギー

先にダニエル電池の亜鉛板側に対する電極反応を検討したとき電極反応が

仕事として放出するエネルギーを表現する重要な式があった次の式(17)

である

W = n FV (17)

ギブス自由エネルギーを用いて今これは次のように書くことができるように

なった

W = n FV=-ΔG (41)

この式が表していることを実際に水素の燃料とする燃料電池の反応過程で見

てみよう燃料電池の図を再掲する

図中右にある陰極では水素の酸化反応が起きる

H2 rarr 2H+ + 2e- (5)

一方図では左にある陽極において次の還元反応が起きる

12 O2 + 2e- rarr O2- (6)

O2- + 2H+ rarr H2O (8)

全体の反応はすでに示したように次の反応式(7)で示される

H2 +12 O2rarr H2O (7)

31

標準状態における可逆的仕事は式(41)であらわせ

n FV=-ΔG (41rsquo)

このΔG は式(39)であらわせた

ΔG =ΔH-TΔS (39)

すなわち標準状態29815K(25)1atmにおいてある化合物を標準物

質から合成するときの標準生成ギブス自由エネルギー変化ΔG゜は標準生成エ

ンタルピー変化ΔH゜とその温度におけるエントロピー変化TΔSの差で求ま

るこれらは燃料電池の全反応を表す式(7)で与えられる

標準生成エンタルピーΔH゜変化とエントロピー変化はすでに一般的な元

素やその化合物に対して表が作成されている

液体の水に対する標準生成エンタルピーΔH゜(H2O)は

ΔH゜(H2O)=minus 28583 KJmol

また水素ガスと酸素ガスはそれぞれの元素の標準物質であるので生成エ

ンタルピー変化はゼロである

32

そこで式(7)での水を1モル化学合成するときの標準生成エンタルピーΔ

H゜は水素(ガス1モル)と酸素(ガス12 モル)の2つの材料と水(液

体251atm)の両状態における状態量の差として表される

ΔH゜=ΔH゜(H2O)-ΔH゜(H2) -12ΔH゜(O2) (42)

式(42)の右辺第2項と第3項がゼロであるので

ΔH゜=ΔH゜(H2O) =-28583 KJmol (43)

標準状態29815K(25)1atm における水素(ガス)と酸素(ガス)お

よび水(液体)のエントロピーはそれぞれ

ΔS(H2O)=6991 JKmol

ΔS(H2) =13068 JKmol

ΔS(O2) =20514 JKmol

単位で分母のKはケルビン温度の意味

と計算されているので

ΔS=ΔS(H2O)-ΔS (H2) -12ΔS(O2) (44)

=6991-13068-12times20514

=-16334 JKmol

したがって

TΔS=29815times(-16334)=-486998=-4870 KJmol

(45)

そこで標準生成ギブス自由エネルギーΔG゜は式(39)から

-ΔG゜=-(ΔH゜-TΔS) (39)

=-{-28583-(-4870)}

=+23713 KJmol

33

すなわちこのエネルギーを電気エネルギーとして取り出すことができるそ

の起電力は式(41rsquo)から

n FV=-ΔG (41rsquo)

V= -ΔG(n F)

各数値を当てはめれば

V=237130(2times96485)

=1229 volt

先に【化学反応と電気エネルギー】のところで記したとおり25の基準

状態におけるこの電極電位はE゜=+1229 volt が得られているすなわち

こうして標準生成ギブス自由エネルギーから計算することでも同じ値を得る

ことができた

水素を単純に酸素と化合させる燃焼では式(43)で示されるエンタルピ

ーが発生する熱量を示している水素1モルあたり28583 KJである電池

にすれば水素1モルあたり23713 KJの仕事量が電気エネルギーとして取り

出すことができるその差は電池の場合熱が発生して利用できない

化学反応の過程を利用して化学エネルギーから直接電気エネルギーに変換す

るのが電池という装置であるが化学エネルギーは100電気エネルギ

ーに換えることはできないこのようにエネルギーの一部は電池の熱として

発散してしまう

理想気体の状態方程式

ギブス自由エネルギーΔG を定義した式(39)とエンタルピーΔH の定義

式(28)から

ΔG =ΔH-TΔS (39)

ΔH =ΔU +VΔP+ PΔV (28)

そこで次式が得られる

34

ΔG =ΔU+VΔP+ PΔV-TΔS (46)

またエネルギー保存則から得られた式(26)を応用すればギブス自由エ

ネルギーが変形できる

Q =ΔU+PΔV (26)

から

ΔU=Q-PΔV (47)

したがって式(46)は

ΔG = Q-PΔV+VΔP+ PΔV-TΔS

ΔG = Q-TΔS+VΔP (48)

エントロピーの定義からQ=TΔSであるから結局式(48)は

ΔG = VΔP (49)

と表すことができる

成分が混合された気体分子の分子間に働く力をゼロと仮定した「理想気体」を

考えるとき状態方程式としてボイルシャルル(Boyle-Charles)の法則が

利用できる

PV=nRT (50)

ここでnは気体のモル数PVT はそれぞれこれまでと同じ圧力体積温度(ケルビン温度)でありR は気体定数と呼ばれるもので次の値を持

R= 831441 JmolK (51) 単位で分母のKはケルビン温度の意味

35

状態方程式から式(49)の右辺を導くことを考えてみよう式(50)は

1モルの気体について V に対し次のように変形することができる

V 1

PRT (50rsquo)

両辺に圧力の微小変化量⊿P をかけると

PP

RTP V (52)

これを微分方程式として圧力p0 からp1 まで(p0≦p1)積分するなら

1

0

1

0

1

0

1p

p

p

p

p

pdP

PRTdP

P

RTdPV (53)

関数 f(x)=1x を積分したときの関数はF(x)=ln(x)であるので(ln は e を底

とする自然対数loge)

右辺=0

1ln)0ln()1ln(p

pRTpRTpRT (54)

ギブス自由エネルギーを表す式(49)は次のようであったから

ΔG = VΔP (49)

式(52)から得た式(54)を当てはめると状態G0(p0T)からG1(p1T)

へ変化する過程で圧力が p0 から p1 まで変化するものとして

dGG0

G1

G( p1T ) G(p0T ) RT lnp1

p0 (55)

あるいはこれを書き直して

V

36

G(p1 T) = G( p0T ) + RT lnp1p0

(56)

特別にG0(p0T)を標準状態T=29815K(25)p0=1atmに指定する

なら標準生成ギブス自由エネルギーを記号G゜として (56rsquo)

と表すことができる

式(56rsquo)の意味するところは標準状態から圧力の変化を伴う過程で理

G(p1 T) = Go + RT ln p1

想気体のギブス自由エネルギーは圧力の対数に比例して上昇することである

このことはさらに新しい着想を生む

すなわち水素を燃料とする上の燃料電池で1atm 標準状態の水素ガスの圧力

を2atm に上げれば式(56rsquo)からRTln2 余分にギブス自由エネルギー

が取り出せることになる

燃料電池において起電力を生むエネルギーは隔壁を水素イオンもしくは酸

素イオンが浸透しようとする力であるので1atm の水素ガスと2atm のそれで

は浸透しようとする圧力が異なりここに起電力が生じる

式(56)の第二項が圧力の差による仕事であるからこれをΔG とすれば

W=-ΔG の仕事量が電気エネルギーとして取り出せるはずである

W = minusΔG = minusRT lnp1p0

(57)

起電力に換算するために式(41)を使うと

W = n FV=minus ΔG (41)

から

01ln

pp

nFRTV ⎟

⎠⎞

⎜⎝⎛minus= (58)

この式(58)は一般にネルンスト(Nernst)の式と呼ばれる

37

理想溶液のギブス自由エネルギー

理想気体を想定したように無限に希釈された混合溶液に対して理想溶液を仮

定する「系」の圧力温度を一定に保つならば体積内部エネルギーエンタ

ルピーギブス自由エネルギーなどの示量数は混合溶液を構成する物質のモ

ル数mに比例するたとえば標準状態にある物質の1モルの体積をVとすれば

mモルの体積はそのm倍mVであるそうすると溶液中のi番目の成分がmi

モル「系」から「外界」に仕事をするときその成分iの持つ自由エネルギーの

mi倍の仕事が「外界」になされると考えればよい

この溶液成分のモル数と化学的仕事を結びつける示強因子がギブスによって

化学ポテンシャルと名付けられ一般に記号μが用いられる

化学ポテンシャルはこれまで見たようにギブス自由エネルギーで表される

また電位がψ(プサイ)にある系から-Δeの電荷が放出されるときには

-ψΔeの電気的仕事が得られるそこで記号μに両者を合わせた意味を持

たせて「電気化学ポテンシャル」と呼ぶ

概念の上で物質は電気化学ポテンシャルの高い方から低い方へ勾配にした

がって移動する

理想気体の標準状態が気体分圧を T=29815K(25)で 1atm としたのに対

し溶液成分の標準状態はその分圧に相当するモル数 m を用いるすなわち

標準状態にある成分 i の電気化学ポテンシャルμ0iは成分の持つ電荷(H+なら

1)を n として

μ0i = G i゜+nFψ i (59)

ギブス自由エネルギーは式(56rsquo)を借り理想溶液中の成分に対しては気

体圧力をその成分のモル濃度Cに書き換えればよいそこで

G(CT ) G RT lnC (60)

と表すことができる

したがって一般的な成分 i の電気化学ポテンシャルμiを表す式は標準状態

からの自由エネルギーの変化を考え式(59)と合わせて次のようになる

38

ψnFGii 0

式(60)から

ii CRTGTCGG ln)( 0

よって

(61) ψnFCRT iii ln0

実際的なことを考えると成分濃度はその有効イオン濃度とする必要があり

「活量係数」γを導入して次式で表されるイオン活量aを用いる

ai = γCi (62)

一般的にはγ=1と近似してモル濃度Cを使っているこのテキストでも

必要ではない限りイオン活量を用いることを省略して簡単に記述したい

膜電位

燃料電池に使われたナフィオンのような一つのイオンを通す膜を介して膜

の両側にC0 とC1 のイオン濃度差がある溶液が接するときの電気化学ポテン

シャルを考えよう

ある容器の底にナフィオン膜を取り付け容器の中と外のイオン濃度をC0

とC1としそれぞれの電気化学ポテンシャルをそれぞれμinとμoutとする

式(61)を使って

容器の中の電気化学ポテンシャル

(63) innFCRTin ψ 00 ln

容器の外の電気化学ポテンシャル

(64) outout nFCRT ψ 10 ln

イオン浸透性の膜を介して濃度変化が無視できるほどの移動があると考え

その電気化学ポテンシャルの差を式(63)(64)から求めれば

39

)(ln0

1 inoutinout nFC

CRT ψψ (65)

この系において今注目しているイオンが膜を介した両側で平衡状態にある

とき式(65)はΔμ=0と考えることができるすなわち

0)(ln0

1 inoutnFC

CRT ψψ

膜内外の電位差をΔψ=ψoutminus ψinとすれば

1

0

0

1 lnlnC

C

nF

RT

C

C

nF

RTψ (66)

式(66)は理想気体に対するネルンストの式(58)と同様溶液中のイ

オンに対するネルンスト(Nernst)の式として与えられる

細胞の膜においてもその生体膜の内外でたとえばカリウムイオンのように

非対称に分布して平衡に達している場合には式(66)で与えられる膜内外

で電位差が生じるこれは一般に膜電位と呼ばれる膜電位は平衡電位とも

呼ばれる

たとえば膜内外に1価のカリウムイオンに10倍の濃度差があるとすると

通常カリウムイオンは細胞内の濃度が高いので

C0 = 10timesC1

であるから

これを式(66)に当てはめてln(10)=2303 を用いlog への変換をすれば

Δψ=2303times(RTF)timeslog(10)

であるこれに R=831441 JmolKF=96485 CmolT=29815 K(25)

の各数値を当てはめると

Δψ=2303times831441times29815times196485 JC

=+005917 volt

すなわち膜の内外で約+60ミリボルトの膜電位が生じることになるこの

分だけ細胞の外側の電気化学ポテンシャルが高く膜の内側の膜電位が負であ

るそして膜にあるカリウムチャネルがこの電位を示すとき受動的なカリ

40

ウムの膜内外の移動は平衡に達することになる

水素イオン濃度測定

「標準水素電極」は1モル塩酸溶液につけた白金電極に1atm の水素ガスを

吹き込んで平衡状態に達したときの電位を基準としてゼロボルトと規定した

そこである溶液についてその水素イオン濃度を知ろうとするとき同じ水

素電極を用いることを考えれば標準状態にする目的で用いた1モル塩酸溶液

を濃度未知で X モルの塩酸溶液と想定すればその水素イオン濃度を知るこ

とができるだろうか

標準状態ではない X モルの塩酸溶液に浸けた白金電極が半電池として働くこ

とは間違いなさそうであるしかしその白金電極が持つ電極電位を測定する

にはいずれにしても標準電極と組み合わせて「電池」を構成しその電池

の起電力として計る必要がある電池を作れば起電力を知ることができ相

手の半電池の電極電位が知られていれば濃度が未知でXモルの溶液について

その水素イオン濃度を知ることができるだろう

こうした目的のためにいちいちゼロボルトと規定した標準水素電極を用いる

のは煩雑なのでしばしば後出の「銀塩化銀電極」が参照電極として用いら

れる

まず予め「銀塩化銀電極」を標準水素電極と組み合わせて電池とし一度

その起電力を測定しておけば後はいつもそれを標準電極として利用できる

「銀塩化銀電極」の半電池は

H+ (1 moll) Cl- | AgCl | Ag(s)

これに「標準水素電極」を組み合わせ電池を構成すると次のような電池

になる

Pt(s) | H2(g) | H+ (1 moll) Cl- | AgCl | Ag(s)

この電池の起電力を知れば「銀塩化銀電極」の半電池としての電極電位

を知ることができ参照電極として未知の半電池と組み合わせて起電力を測

定して相手の電極電位を計算できる

41

濃度 X モルの塩酸溶液を未知の溶液と想定すればその電極電位を知るために

組み立てる電池は次のようになる図10にその電池の図を示した

Pt(s) | H2(g) | H+ (x moll) Cl- | AgCl | Ag(s)

この電池の全反応は次の反応式で表される

AgCl(s) 1

2H2 (g) H Cl Ag(s) (67)

図10未知溶液の水素イオン濃度を測定しようとするための電池

化学反応の一般的な式

ここで電池に利用される化学反応から得られるエネルギーをギブス自由エ

ネルギーに換算し起電力を具体的に知る手だてとすることは上ですでに学

42

んだがより一般的な式を再度ここに書きだしておこう

化学反応が紙面で左から右に進む反応として次のような一般式で与えられ

るとき

aA + bB rarr cC + dD (68)

ギブス自由エネルギー変化量は標準状態ΔG゜からの変化量を加える形で式

(60)と同様次の式によって表される

G G RT(ln aCc aD

d ln aAa aB

b )

G RT ln

aCc aD

d

aAa aB

b (69)

aAは成分 A のイオン活量であるその他の成分も同じ

得られたエネルギーを電気エネルギーに換えるなら式(41)に習って

次式で表せば

ΔG=-n FV

there4V=-ΔG(nF) (70)

このときの起電力は標準状態における電位 E゜からの変化量として次式で与

えられる

E E

RT

nFln

aCc aD

d

aAa aB

b (71)

標準状態における起電力 E゜は反応が平衡状態にあるときで反応平衡定数

を K とするなら

K aC

c aDd

aAa aB

b (72)

で表されるそこでE゜は次のように書き改めることができる

43

E

RT

nFln K (73)

そこで式(67)で表される図10の電池「水素minus 銀塩化銀電池」に

対する起電力をギブス自由エネルギーから求めてみよう

反応から式(71)に当てはめれば

E E RT

Fln

aH

1 aCl

1 aAg1

aAgCl1 aH2

1

2

(74)

力学の慣例にしたがって固体の純物質の活量は1として扱い水素ガスを

想気体として見なして活量を1atm とするなら式(74)は次のよう

に簡略化される

E E

RT

Flna

H aCl (75)

ころで理想溶液として近似的に取り扱うときの希薄溶液でたとえば水素

入して詳細に検討するなら式( れる起電

オン濃度はイオン活量として aH+の記号を使うときすでに【理想溶液のギ

ブス自由エネルギー】の章で述べたようにこれを有効イオン濃度とする必要

がありイオン活量 a は「活量係数」γを導入して次式で表した

a H+= γH+CH+ (62)

この活量係数を導 75)で誘導さ

を計ることによって経験的に試料溶液中の水素イオン濃度を求めることは

困難である式(75)にあるイオン活量の項はモル濃度 C と活量係数γを

用いて次式で書き改められる

lnaH aCl

lnCH CCl

lnH Cl

(76)

まり式(76)右辺の第二項において互いに相手が知られなければ自分

決めることができず結果的に起電力を知っても(75)の値から水素イオ

ン濃度を導けないここに工夫が必要になる

44

の定義とその目盛り

液中の水素イオン濃度を直接意味するものではなく

を定義するとき測定されるのは1リットルの溶媒に存在す

pH = -log a H+ = -log(γH+CH+) (77)

際に試料溶液の pH を決定する際はpH 標準液を用いる

に溶液を入れ試料溶液 X と pH 標準液 S を

参 極を接続し電池を作成しその起

pH

現在pH の定義は溶

で述べたようにそれが簡便に測定できるものではないため次のように定

義されている

水素イオン濃度

水素イオン活量であるため定義式としては活量係数をγH+として次式で与

えられる

その要領は次のようである

上に図示した水素電極の容器内

れぞれ半電池(I)と(II)に入れる

半電池(I) Pt | H2 (1 atm) | 試料溶液

半電池(II) Pt | H2 (1 atm) | 試料溶液S

照電極として上図のごとく銀塩化銀電

電力を測定する半電池(I)のときの起電力を E(X)半電池(II)のそれを E(S)

とするこのとき試料溶液Xの pH は次式で計算される

pH (X) pH(S) E(S) E(X)

RT ln(10) (78)

ln(10)は自然対数を常用対数に戻すための定数で2303 を用いる

標準液

pH 標準液 S はpH 第一次標準液第二次標準液と呼ばれるべき

る測定

25で pH 4005 を示す

pH

上述した

のであり絶対的測定法である起電力の測定によって値をつける

標準液は安定で純粋な結晶が得られる試薬を調整してこれを測定す

上と同様に水素電極を用いこれに緩衝液を入れる参照電極として銀

塩化銀電極を接続して電池の起電力を測定する

たとえば005 moll フタル酸水素カリウム溶液は

一次標準(Primary Standard PS)の一つである半電池(III)として水素

45

電極を次のように準備する

半電池(III) Pt | H2 (1 atm) | PS 溶液

て電池を形成したとき得られる起電

参照電極として銀塩化銀電極を接続し

は式(75)から

E E

Ag AgCl RT

Flna

H aCl (79)

オン活量を濃度と活量係数の積(a H+= γH+CH+)にし自然対数を常用対数

すれば

E E

Ag AgCl RT ln(10)

F log(

H + CH+ Cl- CCl - ) (80)

E゜は水素標準電極(水素ガス分圧を1atm電極を浸ける溶液に001 moll

H

Cl を用いる)で得た起電力である

式(80)から

RT ln(10)

Flog(

H CH Cl

) (E EAg AgCl )

RT ln(10)

Flog C

Cl

(81)

らに

log(

H CH Cl

) F

RT ln(10)(E E

Ag AgCl ) logCCl

(82)

ころで式(77)から

(γH+CH+) (77)

-log a H+ =-loga H+-log(γCl-) +log(γCl-) =-log(a H+γCl-) +log(γCl-)

(83)の一番右の式で第一項は

pH = -log a H+ = -log

であるが右の式をさらに変形すると

(83)

46

-log(a H+γCl-)=-log(γH+ CH+γCl-) (84)

たがって式(82)の右辺で示されるように電池の起電力を測定すれば

よ 実際には溶液の塩素イオン濃

液で起電力を求め外挿する

起電

これによってpH を意味する式(83)は次式(85)で与えられる

p(aHγCl)はRG Bates によって Acidity Function と呼ばれている

らに式(85)最終項の log(γCl-) を補正しなければならないこの項は

本工業規格)によっても

であってこれは式(82)の左辺である

いただし塩素イオン濃度の項があって

をゼロにしたときの値が必要である

実測する際には塩素イオン濃度をゼロにできないので塩化ナトリウム NaCl

等を濃度を変えて添加しその時々の緩衝

勧告ではNaCl で 000500100015moll の3つの濃度を例示している

すなわち塩素イオン濃度ゼロのときの値は各塩素イオン濃度に対して

の値をそれぞれプロットしグラフから塩素イオンがゼロのときの起電力の

値を3点に対する回帰直線の延長で外挿して求めるこの点を次のように書

log( C H H Cl CCl

0

pa log( C log( (85) H H H Cl C

Cl0 Cl

)

素イオンの活動係数で与えられる補正項である

無限希釈溶液中のイオンの活動係数は理論的に Dubye-Huckel の式を用い

近似的に求めることが可能であるこれはJIS(日

用されていて Bates-Guggenheim の規約と呼ばれる (Bates RG

Guggenheim Pure Appl Chem 1 163-168 1960)

Dubye-Huckel の式は次のように与えられる

log A I

i 1 iB I (86)

47

I iについてそのモル濃度

計算される

はイオン強度でイオン mi と電荷 zi から次式で

I 1

2mizi (87)

また iは(86)式のBは温度と溶媒の性質による定数であり イオンの大

きさに関するパラメータで水和イオンの大きさとほぼ一致した値をとる標

準法の勧告では塩素イオンに対しイオンの大きさを46Åと決めてiBを

1

5 にしているそこで式(84)は次のようになる

ClA I

log 1 15 I

イオン強度 I は塩素イオン濃度を含まない計算となる

以上の方法によって実用的な pH 測定に用いられる第一次第二次標準液の

pH の値が得られる

絶対値としての

はpH の絶対測定法(第一次標準測定法)とされている

銀塩化銀参照電極は分極現象を防ぐために棒状の銀を塩酸で処理し表

に塩化銀を生成させたものを飽和塩化カリウム溶液につけてある

(88)

参考現在は実験的に求めた値と理論値の組み合わせで

素イオン濃度を求める方法を規定しているこの起電力から水素イオン濃度

を知るための測定方法

Buck RP Rondinini S Covington AK Baucke FGK Brett CMA Camoes MF

Milton MJT Mussini T Naumann R Pratt Kw Spitzer P Wilson GS

Measurement of pH definition standards and procedures Pure Appl Chem

74(11)2169-2200 2002Kristensen HB Salomon A Kokholm GInternational

pH scales and certification of pH Anal Chem 63(18) 885A-891A 1991)

銀塩化銀参照電極

電極の構成は

Cl-(aq) | AgCl(s) | Ag(s)

48

この半反応は次のようになる

AgCl(s) + e- rarr Ag(s) + Cl- (89)

の反応は次の2つの反応に分けて考えることができる

Ag+ + e- rarr Ag(s) (91)

AgCl(s)rarr Ag+ + Cl- (90)

図11銀塩化銀参照電極

(90)における銀 る塩素イオンによって左

されることが推測される

そこでカッコ [ ] をそれによって囲まれるイオンの濃度を表すことにし

式 イオン Ag+の溶解性は共存す

塩化銀の乖離定数Kを考えると

49

K = [Ag+][Cl-] (92)

これから

[Ag+]= K[Cl-] (93)

化カリウム溶液に漬けた銀塩化銀電極の電位 E は水素標準電極に対する

電 で与えられる

位を E゜として次式

E E

RT

nF

[ Ag ]

[Ag(s)]ln( )

Ag(s)のイオン活量は常に1とする

ここで半反応の電極電位を求めるために式(75)を利用することにすれば

(94)

熱力学の慣例にしたがって純物質個体

E E

RT

Flna

H Cl a (75)

式 の半反応をみると

応で電子1つが移動するので n=1 とするR=831441 JmolK1F = 96485

C はめれば

これに銀イオンの濃度として式(93)を当てはめる

この反応で移動する電子は (89) 銀イオン1つの反

molT=29815K(25)ln(10)=2303などの定数を当て

2303RTF = 005917

であるから(94)式は次のように表現できる

log[Cl]) E E 005917(logK (95)

たがって標準水素電極に対する銀塩化銀参照電極の標準状態における電

位 は半反応(89)に対して ゜=+0799で

化銀の乖離定数 K は182times10-10 であるのでその対数を取れば-973993

0799-005917times973993-005917log[Cl-]

E゜ E ある

ある

そこで式(95)は

E =

50

= 0799-0576-005917log[Cl-]

= 0223-005917log[Cl-] (96)

電極電位の関係について実測値

こうして求めた塩化カリウム溶液の濃度と

計算上の値は次のようである

KCl moll vs SHE volt25 計算値 volt25 01 02881 02822 35 0205 01908 飽和 0199 minus

実用 測定

実際の現場で水素イオン濃度を測定する目的の測定法で上のような2つの

極が同じ溶液に浸かっていたのでは試料溶液を交換するにも便利ではない

の容器に入れる未知試料溶液と銀塩化銀電極を隔離する

的な pH

そこで水素電極側

的で二つの電極容器をつなぐ液絡部をグラスフィルターやセラミック板

飽和塩化カリウムで作成したゼラチンなどの塩橋によって隔離遮断するこ

れを液絡部とよぶ

電池として機能するために必要な溶液イオンの交換はこの液絡部で行う

組み立てる電池は電池式で次のように表される

Pt(s) | H2 | 試料 (H+ x moll) || 飽和 KCl | AgCl | Ag(s)

の標準電極と銀塩化銀電極とは区切られていて溶液の直接の接触がない

とを意味するために電池式ではタテ二重線を用いる銀塩化銀参照電極

の容器には飽和塩化カリウム溶液が入れられる

51

図12液絡部のある pH 測定のための電池

この液絡部のある電池では塩橋を記号lsquo | | rsquoで表して次のように記す

試料 (H+ x moll) | | 飽和 KCl

ここでは試料溶液と飽和塩化カリウム溶液の異なる2液が接している

このような界面では膜電力が生じるのと同様「液間電位差」が生じることが

知られているしたがって上の電池で測定される起電力 E は

E = E[銀塩化銀電極電位]+E[液間電位]+E[水素電極電位]

で与えられることになってE[液間電位]のために図12の電池の起電力

は銀塩化銀参照電極の値を知っていても水素電極容器内に入れた未知溶

液の水素イオン濃度を正しく知ることができない

52

そこで実用的な測定法としてこの E[液間電位]を膜電位として積極的に利

用する方法が工夫されたすなわち水素イオンに感応するガラス薄膜を用い

るガラス電極法である

53

ガラス電極

ガラスはケイ素原子と酸素原子からなる SiO4 の結晶構造を持ち酸素で囲

まれた空隙があって水素イオンがそれを埋めることができる

この性質によってガラス膜表面は水溶液中の水素イオンに応じて膜電位を

変化させるのでこれを水素イオン濃度測定用の電極として利用することが考

えられるこれが通常用いられるガラス電極である

ガラス電極は標準電極と組み合わせれば電池を構成することができこの電

池の起電力を知ってガラス薄膜の内外にできたイオン濃度勾配を知ろうとす

るものである

薄いガラス膜(01mm程度)をはさんで接する2つの溶液のH+イオン濃

度が異なるとその差に応じてガラス膜の両側に電位差(Eg)が現れる

ネルンストの式でガラス電極の内部に入れた既知の濃度のH+([H+]in)に対

し試料中の水素イオン濃度が[H+]sampleのとき次の電位を生じる

)][

][log(059170)

][

][ln(

sample

in

sample

ing

H

H

H

H

F

RTE

(97)

図13ガラス電極

電極を構成するのは銀塩化銀電極と同じ電極で用いる塩溶液は一般的

54

に 01モル塩酸溶液である

この半電池の電池式は次のように書くことができる

Ag(s) | AgCl(s) | HCl (01 M) | ガラス薄膜 || 試料溶液 H+ (x moll)

Eg

この半電池の電極電圧を測定するために銀塩化銀標準電極と組み合わせ

電池を作って起電力を計る

構成される電池は下図のようになる

ガラス電極 銀塩化銀標準電極

図14ガラス電極を用いた pH 測定用の電池

この電池の起電力は次の各半電池の平衡電位を合わせたものになる

55

E1ガラス電極の内側電位

Ag(s) | AgCl(s) | HCl (01 M)

Egガラス薄膜の内外に生じる膜電位

HCl (01 M) | ガラス薄膜 || 試料溶液 H+ (x moll)

E2液間電位(膜電位)銀塩化銀標準電極のセラミックを介した試料溶液

と銀塩化銀標準電極の内部液(飽和 KCl 溶液)の間に発生する電位

試料溶液 H+ (x moll)|| セラミック | KCl(飽和)

E3銀塩化銀標準電極

KCl(飽和)| AgCl(s) | Ag(s)

pH メーター用のガラス電極に使われるガラス薄膜は水素イオンに感応して

膜電位(Eg)を生じるこれは【膜電位】の章で記したように薄膜がある

一つのイオンのみを通過させる特性を持っている場合にイオンが膜を介した

両側で平衡状態に達したとして電気化学ポテンシャルを膜の両側で等しいと

考えてそのイオンが濃厚な側から希薄な側にその差によって圧力を生じると

するものである

一方同じ試料溶液が銀塩化銀標準電極のセラミック液絡部を介して生じ

るだろう液間電位(膜電位E2)はいま関心がある水素イオンに対して特異

的に感応するのではないので試料溶液の水素イオン濃度に関係なく一定と見

なすことができる

すなわちpH メーターを構成する電池の起電力 E は

E = E1+Eg+E2+E3 (98)

このうちEg以外は一定と見なせるので

E1+E2+E3 = E

として式(98)を書き直すと

)][

][log(059170

sample

ing H

HEEEE

(99)

Eは標準液によって校正されるべき標準電極電位である

56

電極の校正

実際のイオン濃度を測定する場合低濃度標準液と高濃度標準液で得られ

る起電力を測定し計測のイオン濃度に対する係数(傾き)を求めておき未

知の試料に対して起電力を測定してそのイオン濃度を算出する方法が採られる

低濃度標準液と高濃度標準液のそれぞれの濃度をCLとCHとすればそれぞ

れの起電力ELとEHは次式で表される EH = E +β logCH (100)

EL = E +β log CL (101)

ただしβは式(99)の係数を簡略にしたものである

式(100)と(101)から検量線の傾きが次式で表せる

ΔE = EH minus EL = β(logCH minus logCL) = β logCH

CL

(102)

したがって係数βは

β =ΔE

log CH

CL

(103)

であらわされる

このときに使われる標準はすでに前出の pH 第一次標準第二次標準溶液で

ある

金属イオンに対応するイオン選択電極

現在臨床検査で日常的に使われている電解質測定のための電極はナトリウ

ムカリウムカルシウムクロールなどおよそ臨床的に必要な金属イオン

に対して入手可能である

カリウムイオン測定用のバリノマイシンの発見によってクラウンエーテルと

57

呼ばれる一連の化合物が知られたクラウンエーテルはその分子の中心に立

体的な空間を持ち特定のイオン径に対し合致するのでそのイオンに対して

選択的に感応するこれらの化合物はイオノフォアと呼ばれる

図 15クラウンエーテル

1つの金属イオンが環状化合物

15-crown-5 の中央にある空間を充填

している模式図

15-crown-5 の構造を作る10個の黒

い丸は炭素炭素2個のつながりごと

にある中心の白い丸は酸素酸素と

金属イオンの間の距離はおよそ 22~

23Åであるカリウムのファンデン

ワールス半径は 135Åイオン半径は

15~16Åである

測定したいイオンに対しポリ塩化ビニル(PVC)を支持体としてイオノフ

ォアを添加した液膜の電極膜を作成しこれをガラス電極におけるガラス薄膜

と同様試料に接する電極膜として用いるこの構造から一般的に液膜型電極

と呼ばれる電極膜には特異性を高めるため妨害イオン排除剤などが添加

される

pH メーターと同様銀塩化銀標準電極と組み合わせ電池を形成しその

起電力を計る測定したいイオンが液膜に対して内外で平衡に達したときの

膜電位を測定するのはガラス電極と同じである

カ リ ウ ム イ オ ン に は Bis[(benzo-15-crown-5) ( 正 式 名 は

Bis[(benzo-15-crown-5)-4-methyl]pimelate)ナトリウムには Bis[(12-crown-4)

やDibenzyl-bis[(12-crown-4)などがイオノフォアとして用いられる

58

図16カリウムイオン測定用に使われるクラウンエーテル

図17ナトリウムイオン測定用に使われるクラウンエーテル

59

参考イオン選択電極に関する文献Xia Z Badr IHA Plummer SL Cullen L

Bachas LG Synthesis and evaluation of a bis(crown ether) ionophore with a

conformationally constained bridge in ione- selective electrodes Anal Sci 14(2)

169-173 1998 Oh K-C Kang EC Cho YL Jeong K-S Y oo E-A Paeng K-J

Potassium-selective PVC membrane electrodes based on newly synthesized

cis- and trans-bis(crown ether)s ibid 14(10)1009-1012 1998 Dojindo WEB

site httpwwwdojindocojpwwwrootproductsjinfo2protocolp31pdf

<補遺> 60

補遺 状態関数 (本文 p21 10 行目参照)

一つの平衡状態にある系 A とこれに接する系 A にとって外部である系 B について系 B

から系 A に熱を与えこれによって系 A が他の平衡状態に移ったとき系 A はその結果とし

て膨張し系 B に対し仕事をする

このときの微少な熱量の移動を記号drsquoQ またなされた微少な仕事をdrsquoW とすると

系Aの内部エネルギーに関する微少な変化drsquoUA は両者の和として表される

WdQdUd A primeminusprime=prime (a-1)

この式 a-1 と本文中の式25との関係について

WQU A Δminus=Δ 本文(25)

<補遺> 61

式 a-1 と式25の記号の違いは変化の起きる前の平衡状態 S1 から変化後の平衡状態 S2

に状態変化があったとするなら式 a-1 を積分することで式25が得られるものと考えて区

別している

A

S

S A UUd Δ=primeint2

1 (a-2)

このことは重要であるすなわち内部エネルギーU は変化の起きる前後の状態を指定する

ことによって値が定まることを意味するこのように積分によって値を定めることが出来る

のでdrsquoU は完全微分であるという

内部エネルギーのように系の状態だけで値の定まる量を状態関数として扱う

一方式 a-1 のdrsquoQ drsquoW についても同様に微少の変化量を表しているが平衡状態 S1

から S2 への経路を指定しなければ積分の値は定まらない

本文中の記号にしたがって仕事量ΔW を次のように表すことにする

VpW Δ=Δ 本文(20) V

<補遺> 62

体積と圧力の関係を表す図を使ってこの仕事量が意味することを考える圧力 prsquo の下で

体積が V1 であるときを状態 S1 として圧力一定の下で体積を V2 まで膨張させるような変

化を行った後体積を等しく保って圧力を p にまで上げたときの状態を S2 とするこのとき

の仕事量は膨張に伴うものであるから図の体積‐圧力線の下の面積で示すことができる

平衡状態 S1 から S2 への変化の道筋を別にたどってみよう

新しい経路では圧力を先に p まで上げた後に膨張変化させている

図から直感的に明らかであるので数式での扱いを省略するが2 つの経路による仕事量には

差がある

すなわちdrsquoW は drsquoU と異なり変化の初め S1 と終わり S2 の状態が与えられても積分値

は定まらず変化の経路によって違ってくる

このように変化の経路を指定しなければ積分値が定まらないものを不完全微分と呼び扱

いを区別する

本文 p21 へ戻る

<補遺> 63

VpW

WQU

VpQU

VpUQ

1122 SSSS pVUpVUQ

pVU

VpUHHHQ SS 12

エンタルピー (本文 p24 20 行目参照)

本文中の式 20 および 25 から一定の圧力の元で起きる状態変化において内部エネルギー

の変化量に対する式 a-3 を得る

本文(20)

本文(25)

(a-3)

式 a-3 を Q について書き直す

(a-4)

状態の変化が平衡状態S1から平衡状態S2に移ったものとして式 a-4を丁寧に書き直すと

(a-5)

並び替えて

(a-6)

式 a-6 を見ると定圧過程における熱量の流入は

(a-7)

の形を持つ関数の差であることが分かる

一般に化学反応のような変化の過程では大気圧の下で行われるようなものに興味がある

そこで式 a-7 で与えられる項を一つの関数として定義するこれをエンタルピーと呼び記

号 H を与える式 a-4 はエンタルピーの変化量で次のように書き改められる

(a-8)

圧力が一定の下で起こる状態変化について流入する熱量は式 a-8 で示されるようにエンタ

ルピーの変化量に等しい

V

V

V

V V

V

V

1212 SSSS VVpUUQ VV

<補遺> 64

1Q

We

また式 a-8 からオートクレーブ内で起こるような体積変化のない過程ではこの値が内

部エネルギーの変化量で与えられることが明らかである

本文 p24 へ戻る

エントロピー (本文 p26 17 行目参照)

エントロピーは次のような思考実験から発想された仮想的な状態関数である

理想気体よりなる系 A が温度 T2で熱平衡状態にあり温度 T1の外部の熱源と接しているこ

とを想定する系 A の外部を系 B と呼ぶことにするT1は T2に対して無限小だけ高い温度と

する

系 A が系 B に対して温度圧力について平衡を保ちながら緩慢に系 B より熱量 Q1を受け取

る過程を考える(このような過程を準静的過程と呼ぶ)これによって系 A が熱量 Q1を得て膨

張するとき系 B に対して仕事をする続いて系 A から熱量 Q2が系 B に戻ることを考える

想定されるこの変化が可逆的であれば系 A と系 B を併せた全体は元の状態に戻る蒸気機

関に関するこのような研究が Nicolas Carnot によってなされたのは1824 年のことであった

ここに想定されたサイクルに対する Carnot の効率 e は移動した熱量となされた仕事によ

って定義され次の式で表される

(b-1)

<補遺> 65

理想気体では内部エネルギーU の変化ΔU はゼロと考えるしたがって熱力学の第一法

則を表す式(本文中の式25)から次の関係が示される

0=Δminus=Δ WQU

WQ Δ= (b-2)

これによってCarnot Cycleの効率eはQ2lt0 として次のように書き改めることが出来る

1

21

QQQe +

= (b-3)

ところで気体の状態方程式から1 モルの気体について次のような関係が示される

RTV

P

P1=

V = RTV (b-4)

V 式 b-4 の両辺に体積の微少変化量ΔV をかけて

(b-5)

これを体積Vについてその変化をV1からV2までとして積分するならば次式が得られる

VV

RTVP Δ=Δ 1V V

V

intint = 2

1

2

1

1V

V

V

VdV

VRTPdV

1V2V

11 lnRTW =

(b-6)

Q1の熱量によって起こる膨張がV1よりV2までとし圧力P温度T1の下でなされるその仕事

量をW1とするならそれは式b-6 の右辺によって示されるすなわち

(b-7)

VV

1

2lnVVRT=

V V

VV

V

V2int V2 intV1 V1

<補遺> 66

またQ2の熱量の移動が圧力P温度T2の下で起きこれによって系Aが可逆的に圧縮され

るなら体積変化はV2よりV1まで起こりその仕事量をW2で示すと次式のように表される

(b-8)

1

22

2

122 lnln

VVRT

VVRTW minus==VV

VV

Q1=W1Q2=W2の関係から式b-7 およびb-8 を用いてCarnot Cycleの効率eを表す式b-3

を書き改めると温度のみの関係式として次のように表される

1

21

TTTe minus

= (b-9)

ここでサイクルが可逆的過程であると想定するならば式 b-3 と式 b-9 から

1

21

1

21

TTT

QQQe minus

=+

= (b-10)

これから

12112111 QTQTQTQT minus=+ (b-11)

整理すると

02

2

1

1 =+TQ

TQ (b-12)

この考えをさらに発展させ系A

と系Bの間に数多くの系を挿入すること

にしてそれらの系を同様に熱源として

T1T2Tnと考えるこれによっ

て熱の受け渡しが系Aから系Bに至り

再び系Aにもどるサイクル過程に数多

くの寄り道の過程を加えることになる

熱量の移動に関して上の場合と同じく

準静的過程で行われると考えるこの

サイクル全過程について初めと終わ

<補遺> 67

n

i i

i

T

Q

1

0

0T

dQ

T

QS

T

dQASAS )()( 12

りが同じ状態になる可逆的な過程であるなら式 b-12 を拡大的に考えることになってそれ

は次式で表される

(b-13)

式 b-13 には重要な関数が現れるすなわち熱量と温度の比QT である

もし一つの系が無限小だけ温度の高い(dT )外界から温度圧力など平衡を保ちなが

ら極めて緩慢な過程(準静的過程)で無限小の熱量(dQ )を受け取るならばその変化は可

逆的でありdT について連続的な温度分布をする過程を考えるとき式 b-13 をさらに発展

させて次のように積分式で示すことが出来る

(b-14)

式 b-14 で積分記号にが付されているのはCarnot Cycle のような経路を一巡することを

意味している

Carnot の熱機関の効率という着想から生まれた熱量とそれを持つ系の温度との比 QT に

重要な意味を見出したのは Rudolph Clausius で彼はこの比にエントロピーという名前を与

えたエントロピーには記号ΔS を一般に用いる

(b-15)

エントロピーは初めと終わりの状態がわかれば過程に関わらず定まるので状態関数であ

系 A と外界のエントロピー変化を考えるときそれが可逆的過程であるならばすべてを併

せた全体のエントロピー変化は初めと終わりに変化がないという意味でゼロであるすなわ

ち初めの状態を S(A1)とし次の状態を S(A2)とするならそれぞれのエントロピーを

ΔS(A1)ΔS(A2)としてこの間におけるエントロピーの変化量は次のように示される

(b-16)

<補遺> 68

T

dQdS

0T

dQ

ある一つの変化については次のように示される

(b-17)

ここで式 b-17 の S に付けられたdは微分量すなわちごく微小の変化量を意味し式 b-15

で定義されたエントロピーに用いられる一般的な記号Δと区別する

ところで式 b-10 の関係においてもし移動した熱量のすべてが仕事に変わらなければ

効率 e を表す熱量を用いた関係式と温度で表される関係式は等号で結ぶことができないそれ

はエネルギーのロスを意味し初めと終わりの状態が異なってしまうことを意味するすなわ

ち全過程が構成する一つのサイクルは可逆的でなくなる

不可逆過程での熱効率 ersquo は 大値を示す可逆的過程の熱効率 e より小さな値をとる

ee

したがって 大効率を与える式 b-8 と式 b-3 から

01221

2112

1

21

1

21

QTQT

QTQT

Q

QQ

T

TT

両辺を T1T2で割ると

02

2

1

1 T

Q

T

Q

これを式 b12 と同様に発展させれば式 b-14 についてサイクルの変化が可逆的過程の

場合と不可逆的過程の場合の両方を併せClausius の不等式と呼ばれる次の関係が成立する

(b-18)

式 b-18 の等号が成立するのはサイクルが可逆的な理想の場合に限られる

ある孤立系で状態 A1 から状態 A2 へは不可逆変化で進められ状態 A2 から再び状態 A1

に戻るとき可逆変化であるような閉じた状態変化を考える可逆系のエントロピー変化には

記号 Q を使い不可逆変化には Q を用いるとするとそれぞれ積分式を用いて状態 A1 から

状態 A2 へは

<補遺> 69

d prime

状態 A2 から状態 A1 に戻るときは

全体では

=d prime

+d

(b-19)

Clausius の不等式から

0

式(b-19)の第二項で反応を逆に進めるときには次のように書き改めることができる

=d

よって式(b-19)は次のように書き直すことができClausius の不等式とあわせると

d prime d

0

すなわち

d prime d

上式の右辺は式(b-16)を用いて表せば

d prime

∆S ∆

この状態変化を微小変化とするならば断熱変化の場合 dQ = 0 であるから

∆S ∆ dS 0

すなわち不可逆変化を含む断熱変化ではエントロピーは必ず増大する

<補遺> 70

T

QS

BA SSS

(b-20)

(次の<補遺>ギブス自由エネルギーも参照せよ)

本文 p26 へ戻る

ギブス自由エネルギー (本文 p28 27 行目参照)

エントロピーの考えを導入することによって不可逆的に状態変化が起きるときにはエン

トロピーの増大を引き起こすことを知ったこれによって目前で起きる現象について温度の

変化があるものであれないものであれまた圧力の変化があるものであってもエントロピー

の定義式によって可逆的な変化におけるエントロピーの変化量を計算することが可能である

(b-15)

しかしながらこれから起こる変化について我々がすでにあらかじめ知っている物理量を

用いて予測的にその状態変化が起きるかどうか知ることは必ずしも容易ではないその理由

は式 b-15 に示されたエントロピーΔS が系とその外界をあわせた全体のエントロピーを示

しているからであるすなわち関心のある系を系 A としその外界を系 B とすると全体

のエントロピーは次のように表せる

(c-1)

関心のある系 A のエントロピー変化を知るためには系 B のそれを知ればよいがそれは

いつも容易とは限らない系 A の性質だけで状態変化の方向を知るには別の観点が必要にな

るようだ

そこでもう一度状態変化が熱量 Q の移動によって起きることについて考えてみようエン

トロピーの補遺で議論したように熱量の移動が準静的過程により行われるときには変化は可

逆的に起こると考えたこのとき外界すなわち系 B から移動する熱量を Q1とし系 A から

0S

<補遺> 71

21 QQ

T

Q

T

QSB

21

T

QSS A

2

QH

T

HSS AA

AA STHST

のそれを Q2 と記号を当てたのでこれをそのまま使うことにすれば可逆的な過程では系 B

の熱量 Q1 はすなわち系 A から戻る Q2 に他ならないので両者には次の関係が成立するも

のとしてよい

(c-2)

したがって

(c-3)

と考えてよくこれによって式 c-1 を次のように書きなおすことが出来る

(c-4)

独立した系で圧力とその体積に変化がなく一定の条件の下で状態変化が起きるときエン

タルピーの考えを使ってすでにひとつの関係があることを導いている

本文(31)

そこで式 c-4 を系のエンタルピーΔHAによって書き改めれば

(c-5)

この両辺に-T をかけて式を書き直せば次の関係式が得られる

(c-6)

式 c-6 を見るときその右辺がマイナスの値ならば左辺のΔS はプラスの値をとることが

分かるすなわちエントロピーが増大すると見ることが出来るこれまでの過程で自然の現

象はエントロピーが増大する方向に進むとしてきたので関心のある状態変化について式 c-6

の右辺で計算される値がマイナスの値ならばその変化は起きるものと考えてよいことになる

だろうしかも右辺はすべて独立した系の状態量で示されていて我々が知りうる値で計算

<補遺> 72

TSHG

STSTHG

STHG

可能である

そこでこれを熱力学ポテンシャルを表すものとしてギブス自由エネルギーと呼ぶことに

するギブス自由エネルギーは記号 G が用いられ次のように定義される

(c-7)

ここで関心があるのは自由エネルギーの絶対値ではなく式 c-6 に示されたようにその変化量

に興味があるので式 c-7 から

(c-8)

温度が一定の条件の下で状態変化が起きることを考えるなら式 c-8 は次のように書くこと

ができる

(c-9)

ギブス自由エネルギーは式 c-9 の右辺がすべて状態量であるからこれも状態量の一つで

ある定圧定温の条件下で起きる変化ではすでに議論したようにΔGlt0 であれば状態

変化は自発的に起きるものと予測できる

つまり式 c-5 の第一項は系のエントロピーΔSAそのものであり第二項で示されるエンタ

ルピーは系 A の温度が一定に保たれているのであるから発熱する熱量として外界に吸収さ

れるものであってこれは外界のエントロピーの増大につながるものとして解釈されるした

がって化学反応のように一定の圧力と一定の温度の下で起きる変化について自由エネルギ

ー変化量はその状態変化が自発的に起きる傾向を示しているといってよい

本文 p28 へ戻る

  • はじめに
  • 目次
  • 電気エネルギー
    • 金属のイオン化
    • 電池
    • 水素の反応
    • 燃料電池
    • 化学反応と電気エネルギー
      • エネルギーと熱力学
        • エネルギー保存則
        • エンタルピー
        • エントロピー13
        • ギブス自由エネルギー
        • 電池における化学反応のギブス自由エネルギー13
        • 理想気体の状態方程式
        • 理想溶液のギブス自由エネルギー
        • 膜電位
          • 水素イオン濃度測定
            • 化学反応の一般的な式
            • pHの定義とその目盛り
            • pH標準液
            • 銀塩化銀参照電極
            • 実用的なpH測定
            • ガラス電極
            • 電極の校正
            • 金属イオンに対応するイオン選択電極
              • 文献
              • 補遺
                • 状態関数
                • エンタルピー
                • エントロピー
                • ギブス自由エネルギー
Page 32: イオン選択電極i イオン選択電極 Ion Selective Electrode (ISE) を理解する ・ pHを測定する ・ NaやKなどのイオン濃度を測定する 神戸大学医学部保健学科

29

G = H-TS (38)

H はエンタルピーである第2項にある S はエントロピーを表す

ギブス自由エネルギーは化学反応のような独立した系の定温定圧過程に適

応されるので変化量ΔG を式(38)から得ておこう

ΔG =ΔH-Δ(TS)

=ΔH-(SΔT+TΔS)

温度を一定と考えているのでΔT=0 であるから

ΔG =ΔH-TΔS (39)

この式(39)を書き換える

ΔH=ΔG + TΔS (39rsquo)

ここで定圧過程ではエンタルピーを次のように式(29)で定義できた

ΔH =ΔU + PΔV (29)

式(29)の意味するところを復習すれば

系のエンタルピー変化ΔH は内部エネルギーの変化量と系が外部に

した仕事量の和として表される

これは

定圧過程で系が得るエネルギー量から仕事量を除いたもの

と言い換えることができるエンタルピー変化量は化学反応などの過程で

始めと終わりの2つの状態の差であるからそれが正の値を示す(>0)なら

系のエンタルピーは増加することを意味しその過程が進行するためには系

の外部からエネルギーが供給されなければならない

一方式(39rsquo)の右辺第2項TΔS はエントロピーの定義(32)より

TΔS = Q (40)

であるのでこれは可逆過程で系に供給される熱量を意味する

30

もしエンタルピー変化量が負の値を示す(<0)ならば系のエンタルピー

は減少しその過程が進行することによってエネルギーが取り出せるすなわ

ち式(39)(40)から次のようにこれら3つの状態量を改めて説明する

ことができる

ある化学反応が定圧で可逆的に進行するときそれから取り出せる

エネルギーのうちΔG を仕事として放出し熱量 Q を放出する

標準状態29815K(25)1atm で標準物質からある化合物を合成すると

きの反応熱(発熱あるいは吸熱)をその化合物の「標準生成エンタルピー」

として定義した同様にある物質に対する「標準生成ギブス自由エネルギー」

はこの標準状態で標準物質からその化合物を化学反応で生成するとき式(3

9)によって与えられる変化量をいう

電池における化学反応のギブス自由エネルギー

先にダニエル電池の亜鉛板側に対する電極反応を検討したとき電極反応が

仕事として放出するエネルギーを表現する重要な式があった次の式(17)

である

W = n FV (17)

ギブス自由エネルギーを用いて今これは次のように書くことができるように

なった

W = n FV=-ΔG (41)

この式が表していることを実際に水素の燃料とする燃料電池の反応過程で見

てみよう燃料電池の図を再掲する

図中右にある陰極では水素の酸化反応が起きる

H2 rarr 2H+ + 2e- (5)

一方図では左にある陽極において次の還元反応が起きる

12 O2 + 2e- rarr O2- (6)

O2- + 2H+ rarr H2O (8)

全体の反応はすでに示したように次の反応式(7)で示される

H2 +12 O2rarr H2O (7)

31

標準状態における可逆的仕事は式(41)であらわせ

n FV=-ΔG (41rsquo)

このΔG は式(39)であらわせた

ΔG =ΔH-TΔS (39)

すなわち標準状態29815K(25)1atmにおいてある化合物を標準物

質から合成するときの標準生成ギブス自由エネルギー変化ΔG゜は標準生成エ

ンタルピー変化ΔH゜とその温度におけるエントロピー変化TΔSの差で求ま

るこれらは燃料電池の全反応を表す式(7)で与えられる

標準生成エンタルピーΔH゜変化とエントロピー変化はすでに一般的な元

素やその化合物に対して表が作成されている

液体の水に対する標準生成エンタルピーΔH゜(H2O)は

ΔH゜(H2O)=minus 28583 KJmol

また水素ガスと酸素ガスはそれぞれの元素の標準物質であるので生成エ

ンタルピー変化はゼロである

32

そこで式(7)での水を1モル化学合成するときの標準生成エンタルピーΔ

H゜は水素(ガス1モル)と酸素(ガス12 モル)の2つの材料と水(液

体251atm)の両状態における状態量の差として表される

ΔH゜=ΔH゜(H2O)-ΔH゜(H2) -12ΔH゜(O2) (42)

式(42)の右辺第2項と第3項がゼロであるので

ΔH゜=ΔH゜(H2O) =-28583 KJmol (43)

標準状態29815K(25)1atm における水素(ガス)と酸素(ガス)お

よび水(液体)のエントロピーはそれぞれ

ΔS(H2O)=6991 JKmol

ΔS(H2) =13068 JKmol

ΔS(O2) =20514 JKmol

単位で分母のKはケルビン温度の意味

と計算されているので

ΔS=ΔS(H2O)-ΔS (H2) -12ΔS(O2) (44)

=6991-13068-12times20514

=-16334 JKmol

したがって

TΔS=29815times(-16334)=-486998=-4870 KJmol

(45)

そこで標準生成ギブス自由エネルギーΔG゜は式(39)から

-ΔG゜=-(ΔH゜-TΔS) (39)

=-{-28583-(-4870)}

=+23713 KJmol

33

すなわちこのエネルギーを電気エネルギーとして取り出すことができるそ

の起電力は式(41rsquo)から

n FV=-ΔG (41rsquo)

V= -ΔG(n F)

各数値を当てはめれば

V=237130(2times96485)

=1229 volt

先に【化学反応と電気エネルギー】のところで記したとおり25の基準

状態におけるこの電極電位はE゜=+1229 volt が得られているすなわち

こうして標準生成ギブス自由エネルギーから計算することでも同じ値を得る

ことができた

水素を単純に酸素と化合させる燃焼では式(43)で示されるエンタルピ

ーが発生する熱量を示している水素1モルあたり28583 KJである電池

にすれば水素1モルあたり23713 KJの仕事量が電気エネルギーとして取り

出すことができるその差は電池の場合熱が発生して利用できない

化学反応の過程を利用して化学エネルギーから直接電気エネルギーに変換す

るのが電池という装置であるが化学エネルギーは100電気エネルギ

ーに換えることはできないこのようにエネルギーの一部は電池の熱として

発散してしまう

理想気体の状態方程式

ギブス自由エネルギーΔG を定義した式(39)とエンタルピーΔH の定義

式(28)から

ΔG =ΔH-TΔS (39)

ΔH =ΔU +VΔP+ PΔV (28)

そこで次式が得られる

34

ΔG =ΔU+VΔP+ PΔV-TΔS (46)

またエネルギー保存則から得られた式(26)を応用すればギブス自由エ

ネルギーが変形できる

Q =ΔU+PΔV (26)

から

ΔU=Q-PΔV (47)

したがって式(46)は

ΔG = Q-PΔV+VΔP+ PΔV-TΔS

ΔG = Q-TΔS+VΔP (48)

エントロピーの定義からQ=TΔSであるから結局式(48)は

ΔG = VΔP (49)

と表すことができる

成分が混合された気体分子の分子間に働く力をゼロと仮定した「理想気体」を

考えるとき状態方程式としてボイルシャルル(Boyle-Charles)の法則が

利用できる

PV=nRT (50)

ここでnは気体のモル数PVT はそれぞれこれまでと同じ圧力体積温度(ケルビン温度)でありR は気体定数と呼ばれるもので次の値を持

R= 831441 JmolK (51) 単位で分母のKはケルビン温度の意味

35

状態方程式から式(49)の右辺を導くことを考えてみよう式(50)は

1モルの気体について V に対し次のように変形することができる

V 1

PRT (50rsquo)

両辺に圧力の微小変化量⊿P をかけると

PP

RTP V (52)

これを微分方程式として圧力p0 からp1 まで(p0≦p1)積分するなら

1

0

1

0

1

0

1p

p

p

p

p

pdP

PRTdP

P

RTdPV (53)

関数 f(x)=1x を積分したときの関数はF(x)=ln(x)であるので(ln は e を底

とする自然対数loge)

右辺=0

1ln)0ln()1ln(p

pRTpRTpRT (54)

ギブス自由エネルギーを表す式(49)は次のようであったから

ΔG = VΔP (49)

式(52)から得た式(54)を当てはめると状態G0(p0T)からG1(p1T)

へ変化する過程で圧力が p0 から p1 まで変化するものとして

dGG0

G1

G( p1T ) G(p0T ) RT lnp1

p0 (55)

あるいはこれを書き直して

V

36

G(p1 T) = G( p0T ) + RT lnp1p0

(56)

特別にG0(p0T)を標準状態T=29815K(25)p0=1atmに指定する

なら標準生成ギブス自由エネルギーを記号G゜として (56rsquo)

と表すことができる

式(56rsquo)の意味するところは標準状態から圧力の変化を伴う過程で理

G(p1 T) = Go + RT ln p1

想気体のギブス自由エネルギーは圧力の対数に比例して上昇することである

このことはさらに新しい着想を生む

すなわち水素を燃料とする上の燃料電池で1atm 標準状態の水素ガスの圧力

を2atm に上げれば式(56rsquo)からRTln2 余分にギブス自由エネルギー

が取り出せることになる

燃料電池において起電力を生むエネルギーは隔壁を水素イオンもしくは酸

素イオンが浸透しようとする力であるので1atm の水素ガスと2atm のそれで

は浸透しようとする圧力が異なりここに起電力が生じる

式(56)の第二項が圧力の差による仕事であるからこれをΔG とすれば

W=-ΔG の仕事量が電気エネルギーとして取り出せるはずである

W = minusΔG = minusRT lnp1p0

(57)

起電力に換算するために式(41)を使うと

W = n FV=minus ΔG (41)

から

01ln

pp

nFRTV ⎟

⎠⎞

⎜⎝⎛minus= (58)

この式(58)は一般にネルンスト(Nernst)の式と呼ばれる

37

理想溶液のギブス自由エネルギー

理想気体を想定したように無限に希釈された混合溶液に対して理想溶液を仮

定する「系」の圧力温度を一定に保つならば体積内部エネルギーエンタ

ルピーギブス自由エネルギーなどの示量数は混合溶液を構成する物質のモ

ル数mに比例するたとえば標準状態にある物質の1モルの体積をVとすれば

mモルの体積はそのm倍mVであるそうすると溶液中のi番目の成分がmi

モル「系」から「外界」に仕事をするときその成分iの持つ自由エネルギーの

mi倍の仕事が「外界」になされると考えればよい

この溶液成分のモル数と化学的仕事を結びつける示強因子がギブスによって

化学ポテンシャルと名付けられ一般に記号μが用いられる

化学ポテンシャルはこれまで見たようにギブス自由エネルギーで表される

また電位がψ(プサイ)にある系から-Δeの電荷が放出されるときには

-ψΔeの電気的仕事が得られるそこで記号μに両者を合わせた意味を持

たせて「電気化学ポテンシャル」と呼ぶ

概念の上で物質は電気化学ポテンシャルの高い方から低い方へ勾配にした

がって移動する

理想気体の標準状態が気体分圧を T=29815K(25)で 1atm としたのに対

し溶液成分の標準状態はその分圧に相当するモル数 m を用いるすなわち

標準状態にある成分 i の電気化学ポテンシャルμ0iは成分の持つ電荷(H+なら

1)を n として

μ0i = G i゜+nFψ i (59)

ギブス自由エネルギーは式(56rsquo)を借り理想溶液中の成分に対しては気

体圧力をその成分のモル濃度Cに書き換えればよいそこで

G(CT ) G RT lnC (60)

と表すことができる

したがって一般的な成分 i の電気化学ポテンシャルμiを表す式は標準状態

からの自由エネルギーの変化を考え式(59)と合わせて次のようになる

38

ψnFGii 0

式(60)から

ii CRTGTCGG ln)( 0

よって

(61) ψnFCRT iii ln0

実際的なことを考えると成分濃度はその有効イオン濃度とする必要があり

「活量係数」γを導入して次式で表されるイオン活量aを用いる

ai = γCi (62)

一般的にはγ=1と近似してモル濃度Cを使っているこのテキストでも

必要ではない限りイオン活量を用いることを省略して簡単に記述したい

膜電位

燃料電池に使われたナフィオンのような一つのイオンを通す膜を介して膜

の両側にC0 とC1 のイオン濃度差がある溶液が接するときの電気化学ポテン

シャルを考えよう

ある容器の底にナフィオン膜を取り付け容器の中と外のイオン濃度をC0

とC1としそれぞれの電気化学ポテンシャルをそれぞれμinとμoutとする

式(61)を使って

容器の中の電気化学ポテンシャル

(63) innFCRTin ψ 00 ln

容器の外の電気化学ポテンシャル

(64) outout nFCRT ψ 10 ln

イオン浸透性の膜を介して濃度変化が無視できるほどの移動があると考え

その電気化学ポテンシャルの差を式(63)(64)から求めれば

39

)(ln0

1 inoutinout nFC

CRT ψψ (65)

この系において今注目しているイオンが膜を介した両側で平衡状態にある

とき式(65)はΔμ=0と考えることができるすなわち

0)(ln0

1 inoutnFC

CRT ψψ

膜内外の電位差をΔψ=ψoutminus ψinとすれば

1

0

0

1 lnlnC

C

nF

RT

C

C

nF

RTψ (66)

式(66)は理想気体に対するネルンストの式(58)と同様溶液中のイ

オンに対するネルンスト(Nernst)の式として与えられる

細胞の膜においてもその生体膜の内外でたとえばカリウムイオンのように

非対称に分布して平衡に達している場合には式(66)で与えられる膜内外

で電位差が生じるこれは一般に膜電位と呼ばれる膜電位は平衡電位とも

呼ばれる

たとえば膜内外に1価のカリウムイオンに10倍の濃度差があるとすると

通常カリウムイオンは細胞内の濃度が高いので

C0 = 10timesC1

であるから

これを式(66)に当てはめてln(10)=2303 を用いlog への変換をすれば

Δψ=2303times(RTF)timeslog(10)

であるこれに R=831441 JmolKF=96485 CmolT=29815 K(25)

の各数値を当てはめると

Δψ=2303times831441times29815times196485 JC

=+005917 volt

すなわち膜の内外で約+60ミリボルトの膜電位が生じることになるこの

分だけ細胞の外側の電気化学ポテンシャルが高く膜の内側の膜電位が負であ

るそして膜にあるカリウムチャネルがこの電位を示すとき受動的なカリ

40

ウムの膜内外の移動は平衡に達することになる

水素イオン濃度測定

「標準水素電極」は1モル塩酸溶液につけた白金電極に1atm の水素ガスを

吹き込んで平衡状態に達したときの電位を基準としてゼロボルトと規定した

そこである溶液についてその水素イオン濃度を知ろうとするとき同じ水

素電極を用いることを考えれば標準状態にする目的で用いた1モル塩酸溶液

を濃度未知で X モルの塩酸溶液と想定すればその水素イオン濃度を知るこ

とができるだろうか

標準状態ではない X モルの塩酸溶液に浸けた白金電極が半電池として働くこ

とは間違いなさそうであるしかしその白金電極が持つ電極電位を測定する

にはいずれにしても標準電極と組み合わせて「電池」を構成しその電池

の起電力として計る必要がある電池を作れば起電力を知ることができ相

手の半電池の電極電位が知られていれば濃度が未知でXモルの溶液について

その水素イオン濃度を知ることができるだろう

こうした目的のためにいちいちゼロボルトと規定した標準水素電極を用いる

のは煩雑なのでしばしば後出の「銀塩化銀電極」が参照電極として用いら

れる

まず予め「銀塩化銀電極」を標準水素電極と組み合わせて電池とし一度

その起電力を測定しておけば後はいつもそれを標準電極として利用できる

「銀塩化銀電極」の半電池は

H+ (1 moll) Cl- | AgCl | Ag(s)

これに「標準水素電極」を組み合わせ電池を構成すると次のような電池

になる

Pt(s) | H2(g) | H+ (1 moll) Cl- | AgCl | Ag(s)

この電池の起電力を知れば「銀塩化銀電極」の半電池としての電極電位

を知ることができ参照電極として未知の半電池と組み合わせて起電力を測

定して相手の電極電位を計算できる

41

濃度 X モルの塩酸溶液を未知の溶液と想定すればその電極電位を知るために

組み立てる電池は次のようになる図10にその電池の図を示した

Pt(s) | H2(g) | H+ (x moll) Cl- | AgCl | Ag(s)

この電池の全反応は次の反応式で表される

AgCl(s) 1

2H2 (g) H Cl Ag(s) (67)

図10未知溶液の水素イオン濃度を測定しようとするための電池

化学反応の一般的な式

ここで電池に利用される化学反応から得られるエネルギーをギブス自由エ

ネルギーに換算し起電力を具体的に知る手だてとすることは上ですでに学

42

んだがより一般的な式を再度ここに書きだしておこう

化学反応が紙面で左から右に進む反応として次のような一般式で与えられ

るとき

aA + bB rarr cC + dD (68)

ギブス自由エネルギー変化量は標準状態ΔG゜からの変化量を加える形で式

(60)と同様次の式によって表される

G G RT(ln aCc aD

d ln aAa aB

b )

G RT ln

aCc aD

d

aAa aB

b (69)

aAは成分 A のイオン活量であるその他の成分も同じ

得られたエネルギーを電気エネルギーに換えるなら式(41)に習って

次式で表せば

ΔG=-n FV

there4V=-ΔG(nF) (70)

このときの起電力は標準状態における電位 E゜からの変化量として次式で与

えられる

E E

RT

nFln

aCc aD

d

aAa aB

b (71)

標準状態における起電力 E゜は反応が平衡状態にあるときで反応平衡定数

を K とするなら

K aC

c aDd

aAa aB

b (72)

で表されるそこでE゜は次のように書き改めることができる

43

E

RT

nFln K (73)

そこで式(67)で表される図10の電池「水素minus 銀塩化銀電池」に

対する起電力をギブス自由エネルギーから求めてみよう

反応から式(71)に当てはめれば

E E RT

Fln

aH

1 aCl

1 aAg1

aAgCl1 aH2

1

2

(74)

力学の慣例にしたがって固体の純物質の活量は1として扱い水素ガスを

想気体として見なして活量を1atm とするなら式(74)は次のよう

に簡略化される

E E

RT

Flna

H aCl (75)

ころで理想溶液として近似的に取り扱うときの希薄溶液でたとえば水素

入して詳細に検討するなら式( れる起電

オン濃度はイオン活量として aH+の記号を使うときすでに【理想溶液のギ

ブス自由エネルギー】の章で述べたようにこれを有効イオン濃度とする必要

がありイオン活量 a は「活量係数」γを導入して次式で表した

a H+= γH+CH+ (62)

この活量係数を導 75)で誘導さ

を計ることによって経験的に試料溶液中の水素イオン濃度を求めることは

困難である式(75)にあるイオン活量の項はモル濃度 C と活量係数γを

用いて次式で書き改められる

lnaH aCl

lnCH CCl

lnH Cl

(76)

まり式(76)右辺の第二項において互いに相手が知られなければ自分

決めることができず結果的に起電力を知っても(75)の値から水素イオ

ン濃度を導けないここに工夫が必要になる

44

の定義とその目盛り

液中の水素イオン濃度を直接意味するものではなく

を定義するとき測定されるのは1リットルの溶媒に存在す

pH = -log a H+ = -log(γH+CH+) (77)

際に試料溶液の pH を決定する際はpH 標準液を用いる

に溶液を入れ試料溶液 X と pH 標準液 S を

参 極を接続し電池を作成しその起

pH

現在pH の定義は溶

で述べたようにそれが簡便に測定できるものではないため次のように定

義されている

水素イオン濃度

水素イオン活量であるため定義式としては活量係数をγH+として次式で与

えられる

その要領は次のようである

上に図示した水素電極の容器内

れぞれ半電池(I)と(II)に入れる

半電池(I) Pt | H2 (1 atm) | 試料溶液

半電池(II) Pt | H2 (1 atm) | 試料溶液S

照電極として上図のごとく銀塩化銀電

電力を測定する半電池(I)のときの起電力を E(X)半電池(II)のそれを E(S)

とするこのとき試料溶液Xの pH は次式で計算される

pH (X) pH(S) E(S) E(X)

RT ln(10) (78)

ln(10)は自然対数を常用対数に戻すための定数で2303 を用いる

標準液

pH 標準液 S はpH 第一次標準液第二次標準液と呼ばれるべき

る測定

25で pH 4005 を示す

pH

上述した

のであり絶対的測定法である起電力の測定によって値をつける

標準液は安定で純粋な結晶が得られる試薬を調整してこれを測定す

上と同様に水素電極を用いこれに緩衝液を入れる参照電極として銀

塩化銀電極を接続して電池の起電力を測定する

たとえば005 moll フタル酸水素カリウム溶液は

一次標準(Primary Standard PS)の一つである半電池(III)として水素

45

電極を次のように準備する

半電池(III) Pt | H2 (1 atm) | PS 溶液

て電池を形成したとき得られる起電

参照電極として銀塩化銀電極を接続し

は式(75)から

E E

Ag AgCl RT

Flna

H aCl (79)

オン活量を濃度と活量係数の積(a H+= γH+CH+)にし自然対数を常用対数

すれば

E E

Ag AgCl RT ln(10)

F log(

H + CH+ Cl- CCl - ) (80)

E゜は水素標準電極(水素ガス分圧を1atm電極を浸ける溶液に001 moll

H

Cl を用いる)で得た起電力である

式(80)から

RT ln(10)

Flog(

H CH Cl

) (E EAg AgCl )

RT ln(10)

Flog C

Cl

(81)

らに

log(

H CH Cl

) F

RT ln(10)(E E

Ag AgCl ) logCCl

(82)

ころで式(77)から

(γH+CH+) (77)

-log a H+ =-loga H+-log(γCl-) +log(γCl-) =-log(a H+γCl-) +log(γCl-)

(83)の一番右の式で第一項は

pH = -log a H+ = -log

であるが右の式をさらに変形すると

(83)

46

-log(a H+γCl-)=-log(γH+ CH+γCl-) (84)

たがって式(82)の右辺で示されるように電池の起電力を測定すれば

よ 実際には溶液の塩素イオン濃

液で起電力を求め外挿する

起電

これによってpH を意味する式(83)は次式(85)で与えられる

p(aHγCl)はRG Bates によって Acidity Function と呼ばれている

らに式(85)最終項の log(γCl-) を補正しなければならないこの項は

本工業規格)によっても

であってこれは式(82)の左辺である

いただし塩素イオン濃度の項があって

をゼロにしたときの値が必要である

実測する際には塩素イオン濃度をゼロにできないので塩化ナトリウム NaCl

等を濃度を変えて添加しその時々の緩衝

勧告ではNaCl で 000500100015moll の3つの濃度を例示している

すなわち塩素イオン濃度ゼロのときの値は各塩素イオン濃度に対して

の値をそれぞれプロットしグラフから塩素イオンがゼロのときの起電力の

値を3点に対する回帰直線の延長で外挿して求めるこの点を次のように書

log( C H H Cl CCl

0

pa log( C log( (85) H H H Cl C

Cl0 Cl

)

素イオンの活動係数で与えられる補正項である

無限希釈溶液中のイオンの活動係数は理論的に Dubye-Huckel の式を用い

近似的に求めることが可能であるこれはJIS(日

用されていて Bates-Guggenheim の規約と呼ばれる (Bates RG

Guggenheim Pure Appl Chem 1 163-168 1960)

Dubye-Huckel の式は次のように与えられる

log A I

i 1 iB I (86)

47

I iについてそのモル濃度

計算される

はイオン強度でイオン mi と電荷 zi から次式で

I 1

2mizi (87)

また iは(86)式のBは温度と溶媒の性質による定数であり イオンの大

きさに関するパラメータで水和イオンの大きさとほぼ一致した値をとる標

準法の勧告では塩素イオンに対しイオンの大きさを46Åと決めてiBを

1

5 にしているそこで式(84)は次のようになる

ClA I

log 1 15 I

イオン強度 I は塩素イオン濃度を含まない計算となる

以上の方法によって実用的な pH 測定に用いられる第一次第二次標準液の

pH の値が得られる

絶対値としての

はpH の絶対測定法(第一次標準測定法)とされている

銀塩化銀参照電極は分極現象を防ぐために棒状の銀を塩酸で処理し表

に塩化銀を生成させたものを飽和塩化カリウム溶液につけてある

(88)

参考現在は実験的に求めた値と理論値の組み合わせで

素イオン濃度を求める方法を規定しているこの起電力から水素イオン濃度

を知るための測定方法

Buck RP Rondinini S Covington AK Baucke FGK Brett CMA Camoes MF

Milton MJT Mussini T Naumann R Pratt Kw Spitzer P Wilson GS

Measurement of pH definition standards and procedures Pure Appl Chem

74(11)2169-2200 2002Kristensen HB Salomon A Kokholm GInternational

pH scales and certification of pH Anal Chem 63(18) 885A-891A 1991)

銀塩化銀参照電極

電極の構成は

Cl-(aq) | AgCl(s) | Ag(s)

48

この半反応は次のようになる

AgCl(s) + e- rarr Ag(s) + Cl- (89)

の反応は次の2つの反応に分けて考えることができる

Ag+ + e- rarr Ag(s) (91)

AgCl(s)rarr Ag+ + Cl- (90)

図11銀塩化銀参照電極

(90)における銀 る塩素イオンによって左

されることが推測される

そこでカッコ [ ] をそれによって囲まれるイオンの濃度を表すことにし

式 イオン Ag+の溶解性は共存す

塩化銀の乖離定数Kを考えると

49

K = [Ag+][Cl-] (92)

これから

[Ag+]= K[Cl-] (93)

化カリウム溶液に漬けた銀塩化銀電極の電位 E は水素標準電極に対する

電 で与えられる

位を E゜として次式

E E

RT

nF

[ Ag ]

[Ag(s)]ln( )

Ag(s)のイオン活量は常に1とする

ここで半反応の電極電位を求めるために式(75)を利用することにすれば

(94)

熱力学の慣例にしたがって純物質個体

E E

RT

Flna

H Cl a (75)

式 の半反応をみると

応で電子1つが移動するので n=1 とするR=831441 JmolK1F = 96485

C はめれば

これに銀イオンの濃度として式(93)を当てはめる

この反応で移動する電子は (89) 銀イオン1つの反

molT=29815K(25)ln(10)=2303などの定数を当て

2303RTF = 005917

であるから(94)式は次のように表現できる

log[Cl]) E E 005917(logK (95)

たがって標準水素電極に対する銀塩化銀参照電極の標準状態における電

位 は半反応(89)に対して ゜=+0799で

化銀の乖離定数 K は182times10-10 であるのでその対数を取れば-973993

0799-005917times973993-005917log[Cl-]

E゜ E ある

ある

そこで式(95)は

E =

50

= 0799-0576-005917log[Cl-]

= 0223-005917log[Cl-] (96)

電極電位の関係について実測値

こうして求めた塩化カリウム溶液の濃度と

計算上の値は次のようである

KCl moll vs SHE volt25 計算値 volt25 01 02881 02822 35 0205 01908 飽和 0199 minus

実用 測定

実際の現場で水素イオン濃度を測定する目的の測定法で上のような2つの

極が同じ溶液に浸かっていたのでは試料溶液を交換するにも便利ではない

の容器に入れる未知試料溶液と銀塩化銀電極を隔離する

的な pH

そこで水素電極側

的で二つの電極容器をつなぐ液絡部をグラスフィルターやセラミック板

飽和塩化カリウムで作成したゼラチンなどの塩橋によって隔離遮断するこ

れを液絡部とよぶ

電池として機能するために必要な溶液イオンの交換はこの液絡部で行う

組み立てる電池は電池式で次のように表される

Pt(s) | H2 | 試料 (H+ x moll) || 飽和 KCl | AgCl | Ag(s)

の標準電極と銀塩化銀電極とは区切られていて溶液の直接の接触がない

とを意味するために電池式ではタテ二重線を用いる銀塩化銀参照電極

の容器には飽和塩化カリウム溶液が入れられる

51

図12液絡部のある pH 測定のための電池

この液絡部のある電池では塩橋を記号lsquo | | rsquoで表して次のように記す

試料 (H+ x moll) | | 飽和 KCl

ここでは試料溶液と飽和塩化カリウム溶液の異なる2液が接している

このような界面では膜電力が生じるのと同様「液間電位差」が生じることが

知られているしたがって上の電池で測定される起電力 E は

E = E[銀塩化銀電極電位]+E[液間電位]+E[水素電極電位]

で与えられることになってE[液間電位]のために図12の電池の起電力

は銀塩化銀参照電極の値を知っていても水素電極容器内に入れた未知溶

液の水素イオン濃度を正しく知ることができない

52

そこで実用的な測定法としてこの E[液間電位]を膜電位として積極的に利

用する方法が工夫されたすなわち水素イオンに感応するガラス薄膜を用い

るガラス電極法である

53

ガラス電極

ガラスはケイ素原子と酸素原子からなる SiO4 の結晶構造を持ち酸素で囲

まれた空隙があって水素イオンがそれを埋めることができる

この性質によってガラス膜表面は水溶液中の水素イオンに応じて膜電位を

変化させるのでこれを水素イオン濃度測定用の電極として利用することが考

えられるこれが通常用いられるガラス電極である

ガラス電極は標準電極と組み合わせれば電池を構成することができこの電

池の起電力を知ってガラス薄膜の内外にできたイオン濃度勾配を知ろうとす

るものである

薄いガラス膜(01mm程度)をはさんで接する2つの溶液のH+イオン濃

度が異なるとその差に応じてガラス膜の両側に電位差(Eg)が現れる

ネルンストの式でガラス電極の内部に入れた既知の濃度のH+([H+]in)に対

し試料中の水素イオン濃度が[H+]sampleのとき次の電位を生じる

)][

][log(059170)

][

][ln(

sample

in

sample

ing

H

H

H

H

F

RTE

(97)

図13ガラス電極

電極を構成するのは銀塩化銀電極と同じ電極で用いる塩溶液は一般的

54

に 01モル塩酸溶液である

この半電池の電池式は次のように書くことができる

Ag(s) | AgCl(s) | HCl (01 M) | ガラス薄膜 || 試料溶液 H+ (x moll)

Eg

この半電池の電極電圧を測定するために銀塩化銀標準電極と組み合わせ

電池を作って起電力を計る

構成される電池は下図のようになる

ガラス電極 銀塩化銀標準電極

図14ガラス電極を用いた pH 測定用の電池

この電池の起電力は次の各半電池の平衡電位を合わせたものになる

55

E1ガラス電極の内側電位

Ag(s) | AgCl(s) | HCl (01 M)

Egガラス薄膜の内外に生じる膜電位

HCl (01 M) | ガラス薄膜 || 試料溶液 H+ (x moll)

E2液間電位(膜電位)銀塩化銀標準電極のセラミックを介した試料溶液

と銀塩化銀標準電極の内部液(飽和 KCl 溶液)の間に発生する電位

試料溶液 H+ (x moll)|| セラミック | KCl(飽和)

E3銀塩化銀標準電極

KCl(飽和)| AgCl(s) | Ag(s)

pH メーター用のガラス電極に使われるガラス薄膜は水素イオンに感応して

膜電位(Eg)を生じるこれは【膜電位】の章で記したように薄膜がある

一つのイオンのみを通過させる特性を持っている場合にイオンが膜を介した

両側で平衡状態に達したとして電気化学ポテンシャルを膜の両側で等しいと

考えてそのイオンが濃厚な側から希薄な側にその差によって圧力を生じると

するものである

一方同じ試料溶液が銀塩化銀標準電極のセラミック液絡部を介して生じ

るだろう液間電位(膜電位E2)はいま関心がある水素イオンに対して特異

的に感応するのではないので試料溶液の水素イオン濃度に関係なく一定と見

なすことができる

すなわちpH メーターを構成する電池の起電力 E は

E = E1+Eg+E2+E3 (98)

このうちEg以外は一定と見なせるので

E1+E2+E3 = E

として式(98)を書き直すと

)][

][log(059170

sample

ing H

HEEEE

(99)

Eは標準液によって校正されるべき標準電極電位である

56

電極の校正

実際のイオン濃度を測定する場合低濃度標準液と高濃度標準液で得られ

る起電力を測定し計測のイオン濃度に対する係数(傾き)を求めておき未

知の試料に対して起電力を測定してそのイオン濃度を算出する方法が採られる

低濃度標準液と高濃度標準液のそれぞれの濃度をCLとCHとすればそれぞ

れの起電力ELとEHは次式で表される EH = E +β logCH (100)

EL = E +β log CL (101)

ただしβは式(99)の係数を簡略にしたものである

式(100)と(101)から検量線の傾きが次式で表せる

ΔE = EH minus EL = β(logCH minus logCL) = β logCH

CL

(102)

したがって係数βは

β =ΔE

log CH

CL

(103)

であらわされる

このときに使われる標準はすでに前出の pH 第一次標準第二次標準溶液で

ある

金属イオンに対応するイオン選択電極

現在臨床検査で日常的に使われている電解質測定のための電極はナトリウ

ムカリウムカルシウムクロールなどおよそ臨床的に必要な金属イオン

に対して入手可能である

カリウムイオン測定用のバリノマイシンの発見によってクラウンエーテルと

57

呼ばれる一連の化合物が知られたクラウンエーテルはその分子の中心に立

体的な空間を持ち特定のイオン径に対し合致するのでそのイオンに対して

選択的に感応するこれらの化合物はイオノフォアと呼ばれる

図 15クラウンエーテル

1つの金属イオンが環状化合物

15-crown-5 の中央にある空間を充填

している模式図

15-crown-5 の構造を作る10個の黒

い丸は炭素炭素2個のつながりごと

にある中心の白い丸は酸素酸素と

金属イオンの間の距離はおよそ 22~

23Åであるカリウムのファンデン

ワールス半径は 135Åイオン半径は

15~16Åである

測定したいイオンに対しポリ塩化ビニル(PVC)を支持体としてイオノフ

ォアを添加した液膜の電極膜を作成しこれをガラス電極におけるガラス薄膜

と同様試料に接する電極膜として用いるこの構造から一般的に液膜型電極

と呼ばれる電極膜には特異性を高めるため妨害イオン排除剤などが添加

される

pH メーターと同様銀塩化銀標準電極と組み合わせ電池を形成しその

起電力を計る測定したいイオンが液膜に対して内外で平衡に達したときの

膜電位を測定するのはガラス電極と同じである

カ リ ウ ム イ オ ン に は Bis[(benzo-15-crown-5) ( 正 式 名 は

Bis[(benzo-15-crown-5)-4-methyl]pimelate)ナトリウムには Bis[(12-crown-4)

やDibenzyl-bis[(12-crown-4)などがイオノフォアとして用いられる

58

図16カリウムイオン測定用に使われるクラウンエーテル

図17ナトリウムイオン測定用に使われるクラウンエーテル

59

参考イオン選択電極に関する文献Xia Z Badr IHA Plummer SL Cullen L

Bachas LG Synthesis and evaluation of a bis(crown ether) ionophore with a

conformationally constained bridge in ione- selective electrodes Anal Sci 14(2)

169-173 1998 Oh K-C Kang EC Cho YL Jeong K-S Y oo E-A Paeng K-J

Potassium-selective PVC membrane electrodes based on newly synthesized

cis- and trans-bis(crown ether)s ibid 14(10)1009-1012 1998 Dojindo WEB

site httpwwwdojindocojpwwwrootproductsjinfo2protocolp31pdf

<補遺> 60

補遺 状態関数 (本文 p21 10 行目参照)

一つの平衡状態にある系 A とこれに接する系 A にとって外部である系 B について系 B

から系 A に熱を与えこれによって系 A が他の平衡状態に移ったとき系 A はその結果とし

て膨張し系 B に対し仕事をする

このときの微少な熱量の移動を記号drsquoQ またなされた微少な仕事をdrsquoW とすると

系Aの内部エネルギーに関する微少な変化drsquoUA は両者の和として表される

WdQdUd A primeminusprime=prime (a-1)

この式 a-1 と本文中の式25との関係について

WQU A Δminus=Δ 本文(25)

<補遺> 61

式 a-1 と式25の記号の違いは変化の起きる前の平衡状態 S1 から変化後の平衡状態 S2

に状態変化があったとするなら式 a-1 を積分することで式25が得られるものと考えて区

別している

A

S

S A UUd Δ=primeint2

1 (a-2)

このことは重要であるすなわち内部エネルギーU は変化の起きる前後の状態を指定する

ことによって値が定まることを意味するこのように積分によって値を定めることが出来る

のでdrsquoU は完全微分であるという

内部エネルギーのように系の状態だけで値の定まる量を状態関数として扱う

一方式 a-1 のdrsquoQ drsquoW についても同様に微少の変化量を表しているが平衡状態 S1

から S2 への経路を指定しなければ積分の値は定まらない

本文中の記号にしたがって仕事量ΔW を次のように表すことにする

VpW Δ=Δ 本文(20) V

<補遺> 62

体積と圧力の関係を表す図を使ってこの仕事量が意味することを考える圧力 prsquo の下で

体積が V1 であるときを状態 S1 として圧力一定の下で体積を V2 まで膨張させるような変

化を行った後体積を等しく保って圧力を p にまで上げたときの状態を S2 とするこのとき

の仕事量は膨張に伴うものであるから図の体積‐圧力線の下の面積で示すことができる

平衡状態 S1 から S2 への変化の道筋を別にたどってみよう

新しい経路では圧力を先に p まで上げた後に膨張変化させている

図から直感的に明らかであるので数式での扱いを省略するが2 つの経路による仕事量には

差がある

すなわちdrsquoW は drsquoU と異なり変化の初め S1 と終わり S2 の状態が与えられても積分値

は定まらず変化の経路によって違ってくる

このように変化の経路を指定しなければ積分値が定まらないものを不完全微分と呼び扱

いを区別する

本文 p21 へ戻る

<補遺> 63

VpW

WQU

VpQU

VpUQ

1122 SSSS pVUpVUQ

pVU

VpUHHHQ SS 12

エンタルピー (本文 p24 20 行目参照)

本文中の式 20 および 25 から一定の圧力の元で起きる状態変化において内部エネルギー

の変化量に対する式 a-3 を得る

本文(20)

本文(25)

(a-3)

式 a-3 を Q について書き直す

(a-4)

状態の変化が平衡状態S1から平衡状態S2に移ったものとして式 a-4を丁寧に書き直すと

(a-5)

並び替えて

(a-6)

式 a-6 を見ると定圧過程における熱量の流入は

(a-7)

の形を持つ関数の差であることが分かる

一般に化学反応のような変化の過程では大気圧の下で行われるようなものに興味がある

そこで式 a-7 で与えられる項を一つの関数として定義するこれをエンタルピーと呼び記

号 H を与える式 a-4 はエンタルピーの変化量で次のように書き改められる

(a-8)

圧力が一定の下で起こる状態変化について流入する熱量は式 a-8 で示されるようにエンタ

ルピーの変化量に等しい

V

V

V

V V

V

V

1212 SSSS VVpUUQ VV

<補遺> 64

1Q

We

また式 a-8 からオートクレーブ内で起こるような体積変化のない過程ではこの値が内

部エネルギーの変化量で与えられることが明らかである

本文 p24 へ戻る

エントロピー (本文 p26 17 行目参照)

エントロピーは次のような思考実験から発想された仮想的な状態関数である

理想気体よりなる系 A が温度 T2で熱平衡状態にあり温度 T1の外部の熱源と接しているこ

とを想定する系 A の外部を系 B と呼ぶことにするT1は T2に対して無限小だけ高い温度と

する

系 A が系 B に対して温度圧力について平衡を保ちながら緩慢に系 B より熱量 Q1を受け取

る過程を考える(このような過程を準静的過程と呼ぶ)これによって系 A が熱量 Q1を得て膨

張するとき系 B に対して仕事をする続いて系 A から熱量 Q2が系 B に戻ることを考える

想定されるこの変化が可逆的であれば系 A と系 B を併せた全体は元の状態に戻る蒸気機

関に関するこのような研究が Nicolas Carnot によってなされたのは1824 年のことであった

ここに想定されたサイクルに対する Carnot の効率 e は移動した熱量となされた仕事によ

って定義され次の式で表される

(b-1)

<補遺> 65

理想気体では内部エネルギーU の変化ΔU はゼロと考えるしたがって熱力学の第一法

則を表す式(本文中の式25)から次の関係が示される

0=Δminus=Δ WQU

WQ Δ= (b-2)

これによってCarnot Cycleの効率eはQ2lt0 として次のように書き改めることが出来る

1

21

QQQe +

= (b-3)

ところで気体の状態方程式から1 モルの気体について次のような関係が示される

RTV

P

P1=

V = RTV (b-4)

V 式 b-4 の両辺に体積の微少変化量ΔV をかけて

(b-5)

これを体積Vについてその変化をV1からV2までとして積分するならば次式が得られる

VV

RTVP Δ=Δ 1V V

V

intint = 2

1

2

1

1V

V

V

VdV

VRTPdV

1V2V

11 lnRTW =

(b-6)

Q1の熱量によって起こる膨張がV1よりV2までとし圧力P温度T1の下でなされるその仕事

量をW1とするならそれは式b-6 の右辺によって示されるすなわち

(b-7)

VV

1

2lnVVRT=

V V

VV

V

V2int V2 intV1 V1

<補遺> 66

またQ2の熱量の移動が圧力P温度T2の下で起きこれによって系Aが可逆的に圧縮され

るなら体積変化はV2よりV1まで起こりその仕事量をW2で示すと次式のように表される

(b-8)

1

22

2

122 lnln

VVRT

VVRTW minus==VV

VV

Q1=W1Q2=W2の関係から式b-7 およびb-8 を用いてCarnot Cycleの効率eを表す式b-3

を書き改めると温度のみの関係式として次のように表される

1

21

TTTe minus

= (b-9)

ここでサイクルが可逆的過程であると想定するならば式 b-3 と式 b-9 から

1

21

1

21

TTT

QQQe minus

=+

= (b-10)

これから

12112111 QTQTQTQT minus=+ (b-11)

整理すると

02

2

1

1 =+TQ

TQ (b-12)

この考えをさらに発展させ系A

と系Bの間に数多くの系を挿入すること

にしてそれらの系を同様に熱源として

T1T2Tnと考えるこれによっ

て熱の受け渡しが系Aから系Bに至り

再び系Aにもどるサイクル過程に数多

くの寄り道の過程を加えることになる

熱量の移動に関して上の場合と同じく

準静的過程で行われると考えるこの

サイクル全過程について初めと終わ

<補遺> 67

n

i i

i

T

Q

1

0

0T

dQ

T

QS

T

dQASAS )()( 12

りが同じ状態になる可逆的な過程であるなら式 b-12 を拡大的に考えることになってそれ

は次式で表される

(b-13)

式 b-13 には重要な関数が現れるすなわち熱量と温度の比QT である

もし一つの系が無限小だけ温度の高い(dT )外界から温度圧力など平衡を保ちなが

ら極めて緩慢な過程(準静的過程)で無限小の熱量(dQ )を受け取るならばその変化は可

逆的でありdT について連続的な温度分布をする過程を考えるとき式 b-13 をさらに発展

させて次のように積分式で示すことが出来る

(b-14)

式 b-14 で積分記号にが付されているのはCarnot Cycle のような経路を一巡することを

意味している

Carnot の熱機関の効率という着想から生まれた熱量とそれを持つ系の温度との比 QT に

重要な意味を見出したのは Rudolph Clausius で彼はこの比にエントロピーという名前を与

えたエントロピーには記号ΔS を一般に用いる

(b-15)

エントロピーは初めと終わりの状態がわかれば過程に関わらず定まるので状態関数であ

系 A と外界のエントロピー変化を考えるときそれが可逆的過程であるならばすべてを併

せた全体のエントロピー変化は初めと終わりに変化がないという意味でゼロであるすなわ

ち初めの状態を S(A1)とし次の状態を S(A2)とするならそれぞれのエントロピーを

ΔS(A1)ΔS(A2)としてこの間におけるエントロピーの変化量は次のように示される

(b-16)

<補遺> 68

T

dQdS

0T

dQ

ある一つの変化については次のように示される

(b-17)

ここで式 b-17 の S に付けられたdは微分量すなわちごく微小の変化量を意味し式 b-15

で定義されたエントロピーに用いられる一般的な記号Δと区別する

ところで式 b-10 の関係においてもし移動した熱量のすべてが仕事に変わらなければ

効率 e を表す熱量を用いた関係式と温度で表される関係式は等号で結ぶことができないそれ

はエネルギーのロスを意味し初めと終わりの状態が異なってしまうことを意味するすなわ

ち全過程が構成する一つのサイクルは可逆的でなくなる

不可逆過程での熱効率 ersquo は 大値を示す可逆的過程の熱効率 e より小さな値をとる

ee

したがって 大効率を与える式 b-8 と式 b-3 から

01221

2112

1

21

1

21

QTQT

QTQT

Q

QQ

T

TT

両辺を T1T2で割ると

02

2

1

1 T

Q

T

Q

これを式 b12 と同様に発展させれば式 b-14 についてサイクルの変化が可逆的過程の

場合と不可逆的過程の場合の両方を併せClausius の不等式と呼ばれる次の関係が成立する

(b-18)

式 b-18 の等号が成立するのはサイクルが可逆的な理想の場合に限られる

ある孤立系で状態 A1 から状態 A2 へは不可逆変化で進められ状態 A2 から再び状態 A1

に戻るとき可逆変化であるような閉じた状態変化を考える可逆系のエントロピー変化には

記号 Q を使い不可逆変化には Q を用いるとするとそれぞれ積分式を用いて状態 A1 から

状態 A2 へは

<補遺> 69

d prime

状態 A2 から状態 A1 に戻るときは

全体では

=d prime

+d

(b-19)

Clausius の不等式から

0

式(b-19)の第二項で反応を逆に進めるときには次のように書き改めることができる

=d

よって式(b-19)は次のように書き直すことができClausius の不等式とあわせると

d prime d

0

すなわち

d prime d

上式の右辺は式(b-16)を用いて表せば

d prime

∆S ∆

この状態変化を微小変化とするならば断熱変化の場合 dQ = 0 であるから

∆S ∆ dS 0

すなわち不可逆変化を含む断熱変化ではエントロピーは必ず増大する

<補遺> 70

T

QS

BA SSS

(b-20)

(次の<補遺>ギブス自由エネルギーも参照せよ)

本文 p26 へ戻る

ギブス自由エネルギー (本文 p28 27 行目参照)

エントロピーの考えを導入することによって不可逆的に状態変化が起きるときにはエン

トロピーの増大を引き起こすことを知ったこれによって目前で起きる現象について温度の

変化があるものであれないものであれまた圧力の変化があるものであってもエントロピー

の定義式によって可逆的な変化におけるエントロピーの変化量を計算することが可能である

(b-15)

しかしながらこれから起こる変化について我々がすでにあらかじめ知っている物理量を

用いて予測的にその状態変化が起きるかどうか知ることは必ずしも容易ではないその理由

は式 b-15 に示されたエントロピーΔS が系とその外界をあわせた全体のエントロピーを示

しているからであるすなわち関心のある系を系 A としその外界を系 B とすると全体

のエントロピーは次のように表せる

(c-1)

関心のある系 A のエントロピー変化を知るためには系 B のそれを知ればよいがそれは

いつも容易とは限らない系 A の性質だけで状態変化の方向を知るには別の観点が必要にな

るようだ

そこでもう一度状態変化が熱量 Q の移動によって起きることについて考えてみようエン

トロピーの補遺で議論したように熱量の移動が準静的過程により行われるときには変化は可

逆的に起こると考えたこのとき外界すなわち系 B から移動する熱量を Q1とし系 A から

0S

<補遺> 71

21 QQ

T

Q

T

QSB

21

T

QSS A

2

QH

T

HSS AA

AA STHST

のそれを Q2 と記号を当てたのでこれをそのまま使うことにすれば可逆的な過程では系 B

の熱量 Q1 はすなわち系 A から戻る Q2 に他ならないので両者には次の関係が成立するも

のとしてよい

(c-2)

したがって

(c-3)

と考えてよくこれによって式 c-1 を次のように書きなおすことが出来る

(c-4)

独立した系で圧力とその体積に変化がなく一定の条件の下で状態変化が起きるときエン

タルピーの考えを使ってすでにひとつの関係があることを導いている

本文(31)

そこで式 c-4 を系のエンタルピーΔHAによって書き改めれば

(c-5)

この両辺に-T をかけて式を書き直せば次の関係式が得られる

(c-6)

式 c-6 を見るときその右辺がマイナスの値ならば左辺のΔS はプラスの値をとることが

分かるすなわちエントロピーが増大すると見ることが出来るこれまでの過程で自然の現

象はエントロピーが増大する方向に進むとしてきたので関心のある状態変化について式 c-6

の右辺で計算される値がマイナスの値ならばその変化は起きるものと考えてよいことになる

だろうしかも右辺はすべて独立した系の状態量で示されていて我々が知りうる値で計算

<補遺> 72

TSHG

STSTHG

STHG

可能である

そこでこれを熱力学ポテンシャルを表すものとしてギブス自由エネルギーと呼ぶことに

するギブス自由エネルギーは記号 G が用いられ次のように定義される

(c-7)

ここで関心があるのは自由エネルギーの絶対値ではなく式 c-6 に示されたようにその変化量

に興味があるので式 c-7 から

(c-8)

温度が一定の条件の下で状態変化が起きることを考えるなら式 c-8 は次のように書くこと

ができる

(c-9)

ギブス自由エネルギーは式 c-9 の右辺がすべて状態量であるからこれも状態量の一つで

ある定圧定温の条件下で起きる変化ではすでに議論したようにΔGlt0 であれば状態

変化は自発的に起きるものと予測できる

つまり式 c-5 の第一項は系のエントロピーΔSAそのものであり第二項で示されるエンタ

ルピーは系 A の温度が一定に保たれているのであるから発熱する熱量として外界に吸収さ

れるものであってこれは外界のエントロピーの増大につながるものとして解釈されるした

がって化学反応のように一定の圧力と一定の温度の下で起きる変化について自由エネルギ

ー変化量はその状態変化が自発的に起きる傾向を示しているといってよい

本文 p28 へ戻る

  • はじめに
  • 目次
  • 電気エネルギー
    • 金属のイオン化
    • 電池
    • 水素の反応
    • 燃料電池
    • 化学反応と電気エネルギー
      • エネルギーと熱力学
        • エネルギー保存則
        • エンタルピー
        • エントロピー13
        • ギブス自由エネルギー
        • 電池における化学反応のギブス自由エネルギー13
        • 理想気体の状態方程式
        • 理想溶液のギブス自由エネルギー
        • 膜電位
          • 水素イオン濃度測定
            • 化学反応の一般的な式
            • pHの定義とその目盛り
            • pH標準液
            • 銀塩化銀参照電極
            • 実用的なpH測定
            • ガラス電極
            • 電極の校正
            • 金属イオンに対応するイオン選択電極
              • 文献
              • 補遺
                • 状態関数
                • エンタルピー
                • エントロピー
                • ギブス自由エネルギー
Page 33: イオン選択電極i イオン選択電極 Ion Selective Electrode (ISE) を理解する ・ pHを測定する ・ NaやKなどのイオン濃度を測定する 神戸大学医学部保健学科

30

もしエンタルピー変化量が負の値を示す(<0)ならば系のエンタルピー

は減少しその過程が進行することによってエネルギーが取り出せるすなわ

ち式(39)(40)から次のようにこれら3つの状態量を改めて説明する

ことができる

ある化学反応が定圧で可逆的に進行するときそれから取り出せる

エネルギーのうちΔG を仕事として放出し熱量 Q を放出する

標準状態29815K(25)1atm で標準物質からある化合物を合成すると

きの反応熱(発熱あるいは吸熱)をその化合物の「標準生成エンタルピー」

として定義した同様にある物質に対する「標準生成ギブス自由エネルギー」

はこの標準状態で標準物質からその化合物を化学反応で生成するとき式(3

9)によって与えられる変化量をいう

電池における化学反応のギブス自由エネルギー

先にダニエル電池の亜鉛板側に対する電極反応を検討したとき電極反応が

仕事として放出するエネルギーを表現する重要な式があった次の式(17)

である

W = n FV (17)

ギブス自由エネルギーを用いて今これは次のように書くことができるように

なった

W = n FV=-ΔG (41)

この式が表していることを実際に水素の燃料とする燃料電池の反応過程で見

てみよう燃料電池の図を再掲する

図中右にある陰極では水素の酸化反応が起きる

H2 rarr 2H+ + 2e- (5)

一方図では左にある陽極において次の還元反応が起きる

12 O2 + 2e- rarr O2- (6)

O2- + 2H+ rarr H2O (8)

全体の反応はすでに示したように次の反応式(7)で示される

H2 +12 O2rarr H2O (7)

31

標準状態における可逆的仕事は式(41)であらわせ

n FV=-ΔG (41rsquo)

このΔG は式(39)であらわせた

ΔG =ΔH-TΔS (39)

すなわち標準状態29815K(25)1atmにおいてある化合物を標準物

質から合成するときの標準生成ギブス自由エネルギー変化ΔG゜は標準生成エ

ンタルピー変化ΔH゜とその温度におけるエントロピー変化TΔSの差で求ま

るこれらは燃料電池の全反応を表す式(7)で与えられる

標準生成エンタルピーΔH゜変化とエントロピー変化はすでに一般的な元

素やその化合物に対して表が作成されている

液体の水に対する標準生成エンタルピーΔH゜(H2O)は

ΔH゜(H2O)=minus 28583 KJmol

また水素ガスと酸素ガスはそれぞれの元素の標準物質であるので生成エ

ンタルピー変化はゼロである

32

そこで式(7)での水を1モル化学合成するときの標準生成エンタルピーΔ

H゜は水素(ガス1モル)と酸素(ガス12 モル)の2つの材料と水(液

体251atm)の両状態における状態量の差として表される

ΔH゜=ΔH゜(H2O)-ΔH゜(H2) -12ΔH゜(O2) (42)

式(42)の右辺第2項と第3項がゼロであるので

ΔH゜=ΔH゜(H2O) =-28583 KJmol (43)

標準状態29815K(25)1atm における水素(ガス)と酸素(ガス)お

よび水(液体)のエントロピーはそれぞれ

ΔS(H2O)=6991 JKmol

ΔS(H2) =13068 JKmol

ΔS(O2) =20514 JKmol

単位で分母のKはケルビン温度の意味

と計算されているので

ΔS=ΔS(H2O)-ΔS (H2) -12ΔS(O2) (44)

=6991-13068-12times20514

=-16334 JKmol

したがって

TΔS=29815times(-16334)=-486998=-4870 KJmol

(45)

そこで標準生成ギブス自由エネルギーΔG゜は式(39)から

-ΔG゜=-(ΔH゜-TΔS) (39)

=-{-28583-(-4870)}

=+23713 KJmol

33

すなわちこのエネルギーを電気エネルギーとして取り出すことができるそ

の起電力は式(41rsquo)から

n FV=-ΔG (41rsquo)

V= -ΔG(n F)

各数値を当てはめれば

V=237130(2times96485)

=1229 volt

先に【化学反応と電気エネルギー】のところで記したとおり25の基準

状態におけるこの電極電位はE゜=+1229 volt が得られているすなわち

こうして標準生成ギブス自由エネルギーから計算することでも同じ値を得る

ことができた

水素を単純に酸素と化合させる燃焼では式(43)で示されるエンタルピ

ーが発生する熱量を示している水素1モルあたり28583 KJである電池

にすれば水素1モルあたり23713 KJの仕事量が電気エネルギーとして取り

出すことができるその差は電池の場合熱が発生して利用できない

化学反応の過程を利用して化学エネルギーから直接電気エネルギーに変換す

るのが電池という装置であるが化学エネルギーは100電気エネルギ

ーに換えることはできないこのようにエネルギーの一部は電池の熱として

発散してしまう

理想気体の状態方程式

ギブス自由エネルギーΔG を定義した式(39)とエンタルピーΔH の定義

式(28)から

ΔG =ΔH-TΔS (39)

ΔH =ΔU +VΔP+ PΔV (28)

そこで次式が得られる

34

ΔG =ΔU+VΔP+ PΔV-TΔS (46)

またエネルギー保存則から得られた式(26)を応用すればギブス自由エ

ネルギーが変形できる

Q =ΔU+PΔV (26)

から

ΔU=Q-PΔV (47)

したがって式(46)は

ΔG = Q-PΔV+VΔP+ PΔV-TΔS

ΔG = Q-TΔS+VΔP (48)

エントロピーの定義からQ=TΔSであるから結局式(48)は

ΔG = VΔP (49)

と表すことができる

成分が混合された気体分子の分子間に働く力をゼロと仮定した「理想気体」を

考えるとき状態方程式としてボイルシャルル(Boyle-Charles)の法則が

利用できる

PV=nRT (50)

ここでnは気体のモル数PVT はそれぞれこれまでと同じ圧力体積温度(ケルビン温度)でありR は気体定数と呼ばれるもので次の値を持

R= 831441 JmolK (51) 単位で分母のKはケルビン温度の意味

35

状態方程式から式(49)の右辺を導くことを考えてみよう式(50)は

1モルの気体について V に対し次のように変形することができる

V 1

PRT (50rsquo)

両辺に圧力の微小変化量⊿P をかけると

PP

RTP V (52)

これを微分方程式として圧力p0 からp1 まで(p0≦p1)積分するなら

1

0

1

0

1

0

1p

p

p

p

p

pdP

PRTdP

P

RTdPV (53)

関数 f(x)=1x を積分したときの関数はF(x)=ln(x)であるので(ln は e を底

とする自然対数loge)

右辺=0

1ln)0ln()1ln(p

pRTpRTpRT (54)

ギブス自由エネルギーを表す式(49)は次のようであったから

ΔG = VΔP (49)

式(52)から得た式(54)を当てはめると状態G0(p0T)からG1(p1T)

へ変化する過程で圧力が p0 から p1 まで変化するものとして

dGG0

G1

G( p1T ) G(p0T ) RT lnp1

p0 (55)

あるいはこれを書き直して

V

36

G(p1 T) = G( p0T ) + RT lnp1p0

(56)

特別にG0(p0T)を標準状態T=29815K(25)p0=1atmに指定する

なら標準生成ギブス自由エネルギーを記号G゜として (56rsquo)

と表すことができる

式(56rsquo)の意味するところは標準状態から圧力の変化を伴う過程で理

G(p1 T) = Go + RT ln p1

想気体のギブス自由エネルギーは圧力の対数に比例して上昇することである

このことはさらに新しい着想を生む

すなわち水素を燃料とする上の燃料電池で1atm 標準状態の水素ガスの圧力

を2atm に上げれば式(56rsquo)からRTln2 余分にギブス自由エネルギー

が取り出せることになる

燃料電池において起電力を生むエネルギーは隔壁を水素イオンもしくは酸

素イオンが浸透しようとする力であるので1atm の水素ガスと2atm のそれで

は浸透しようとする圧力が異なりここに起電力が生じる

式(56)の第二項が圧力の差による仕事であるからこれをΔG とすれば

W=-ΔG の仕事量が電気エネルギーとして取り出せるはずである

W = minusΔG = minusRT lnp1p0

(57)

起電力に換算するために式(41)を使うと

W = n FV=minus ΔG (41)

から

01ln

pp

nFRTV ⎟

⎠⎞

⎜⎝⎛minus= (58)

この式(58)は一般にネルンスト(Nernst)の式と呼ばれる

37

理想溶液のギブス自由エネルギー

理想気体を想定したように無限に希釈された混合溶液に対して理想溶液を仮

定する「系」の圧力温度を一定に保つならば体積内部エネルギーエンタ

ルピーギブス自由エネルギーなどの示量数は混合溶液を構成する物質のモ

ル数mに比例するたとえば標準状態にある物質の1モルの体積をVとすれば

mモルの体積はそのm倍mVであるそうすると溶液中のi番目の成分がmi

モル「系」から「外界」に仕事をするときその成分iの持つ自由エネルギーの

mi倍の仕事が「外界」になされると考えればよい

この溶液成分のモル数と化学的仕事を結びつける示強因子がギブスによって

化学ポテンシャルと名付けられ一般に記号μが用いられる

化学ポテンシャルはこれまで見たようにギブス自由エネルギーで表される

また電位がψ(プサイ)にある系から-Δeの電荷が放出されるときには

-ψΔeの電気的仕事が得られるそこで記号μに両者を合わせた意味を持

たせて「電気化学ポテンシャル」と呼ぶ

概念の上で物質は電気化学ポテンシャルの高い方から低い方へ勾配にした

がって移動する

理想気体の標準状態が気体分圧を T=29815K(25)で 1atm としたのに対

し溶液成分の標準状態はその分圧に相当するモル数 m を用いるすなわち

標準状態にある成分 i の電気化学ポテンシャルμ0iは成分の持つ電荷(H+なら

1)を n として

μ0i = G i゜+nFψ i (59)

ギブス自由エネルギーは式(56rsquo)を借り理想溶液中の成分に対しては気

体圧力をその成分のモル濃度Cに書き換えればよいそこで

G(CT ) G RT lnC (60)

と表すことができる

したがって一般的な成分 i の電気化学ポテンシャルμiを表す式は標準状態

からの自由エネルギーの変化を考え式(59)と合わせて次のようになる

38

ψnFGii 0

式(60)から

ii CRTGTCGG ln)( 0

よって

(61) ψnFCRT iii ln0

実際的なことを考えると成分濃度はその有効イオン濃度とする必要があり

「活量係数」γを導入して次式で表されるイオン活量aを用いる

ai = γCi (62)

一般的にはγ=1と近似してモル濃度Cを使っているこのテキストでも

必要ではない限りイオン活量を用いることを省略して簡単に記述したい

膜電位

燃料電池に使われたナフィオンのような一つのイオンを通す膜を介して膜

の両側にC0 とC1 のイオン濃度差がある溶液が接するときの電気化学ポテン

シャルを考えよう

ある容器の底にナフィオン膜を取り付け容器の中と外のイオン濃度をC0

とC1としそれぞれの電気化学ポテンシャルをそれぞれμinとμoutとする

式(61)を使って

容器の中の電気化学ポテンシャル

(63) innFCRTin ψ 00 ln

容器の外の電気化学ポテンシャル

(64) outout nFCRT ψ 10 ln

イオン浸透性の膜を介して濃度変化が無視できるほどの移動があると考え

その電気化学ポテンシャルの差を式(63)(64)から求めれば

39

)(ln0

1 inoutinout nFC

CRT ψψ (65)

この系において今注目しているイオンが膜を介した両側で平衡状態にある

とき式(65)はΔμ=0と考えることができるすなわち

0)(ln0

1 inoutnFC

CRT ψψ

膜内外の電位差をΔψ=ψoutminus ψinとすれば

1

0

0

1 lnlnC

C

nF

RT

C

C

nF

RTψ (66)

式(66)は理想気体に対するネルンストの式(58)と同様溶液中のイ

オンに対するネルンスト(Nernst)の式として与えられる

細胞の膜においてもその生体膜の内外でたとえばカリウムイオンのように

非対称に分布して平衡に達している場合には式(66)で与えられる膜内外

で電位差が生じるこれは一般に膜電位と呼ばれる膜電位は平衡電位とも

呼ばれる

たとえば膜内外に1価のカリウムイオンに10倍の濃度差があるとすると

通常カリウムイオンは細胞内の濃度が高いので

C0 = 10timesC1

であるから

これを式(66)に当てはめてln(10)=2303 を用いlog への変換をすれば

Δψ=2303times(RTF)timeslog(10)

であるこれに R=831441 JmolKF=96485 CmolT=29815 K(25)

の各数値を当てはめると

Δψ=2303times831441times29815times196485 JC

=+005917 volt

すなわち膜の内外で約+60ミリボルトの膜電位が生じることになるこの

分だけ細胞の外側の電気化学ポテンシャルが高く膜の内側の膜電位が負であ

るそして膜にあるカリウムチャネルがこの電位を示すとき受動的なカリ

40

ウムの膜内外の移動は平衡に達することになる

水素イオン濃度測定

「標準水素電極」は1モル塩酸溶液につけた白金電極に1atm の水素ガスを

吹き込んで平衡状態に達したときの電位を基準としてゼロボルトと規定した

そこである溶液についてその水素イオン濃度を知ろうとするとき同じ水

素電極を用いることを考えれば標準状態にする目的で用いた1モル塩酸溶液

を濃度未知で X モルの塩酸溶液と想定すればその水素イオン濃度を知るこ

とができるだろうか

標準状態ではない X モルの塩酸溶液に浸けた白金電極が半電池として働くこ

とは間違いなさそうであるしかしその白金電極が持つ電極電位を測定する

にはいずれにしても標準電極と組み合わせて「電池」を構成しその電池

の起電力として計る必要がある電池を作れば起電力を知ることができ相

手の半電池の電極電位が知られていれば濃度が未知でXモルの溶液について

その水素イオン濃度を知ることができるだろう

こうした目的のためにいちいちゼロボルトと規定した標準水素電極を用いる

のは煩雑なのでしばしば後出の「銀塩化銀電極」が参照電極として用いら

れる

まず予め「銀塩化銀電極」を標準水素電極と組み合わせて電池とし一度

その起電力を測定しておけば後はいつもそれを標準電極として利用できる

「銀塩化銀電極」の半電池は

H+ (1 moll) Cl- | AgCl | Ag(s)

これに「標準水素電極」を組み合わせ電池を構成すると次のような電池

になる

Pt(s) | H2(g) | H+ (1 moll) Cl- | AgCl | Ag(s)

この電池の起電力を知れば「銀塩化銀電極」の半電池としての電極電位

を知ることができ参照電極として未知の半電池と組み合わせて起電力を測

定して相手の電極電位を計算できる

41

濃度 X モルの塩酸溶液を未知の溶液と想定すればその電極電位を知るために

組み立てる電池は次のようになる図10にその電池の図を示した

Pt(s) | H2(g) | H+ (x moll) Cl- | AgCl | Ag(s)

この電池の全反応は次の反応式で表される

AgCl(s) 1

2H2 (g) H Cl Ag(s) (67)

図10未知溶液の水素イオン濃度を測定しようとするための電池

化学反応の一般的な式

ここで電池に利用される化学反応から得られるエネルギーをギブス自由エ

ネルギーに換算し起電力を具体的に知る手だてとすることは上ですでに学

42

んだがより一般的な式を再度ここに書きだしておこう

化学反応が紙面で左から右に進む反応として次のような一般式で与えられ

るとき

aA + bB rarr cC + dD (68)

ギブス自由エネルギー変化量は標準状態ΔG゜からの変化量を加える形で式

(60)と同様次の式によって表される

G G RT(ln aCc aD

d ln aAa aB

b )

G RT ln

aCc aD

d

aAa aB

b (69)

aAは成分 A のイオン活量であるその他の成分も同じ

得られたエネルギーを電気エネルギーに換えるなら式(41)に習って

次式で表せば

ΔG=-n FV

there4V=-ΔG(nF) (70)

このときの起電力は標準状態における電位 E゜からの変化量として次式で与

えられる

E E

RT

nFln

aCc aD

d

aAa aB

b (71)

標準状態における起電力 E゜は反応が平衡状態にあるときで反応平衡定数

を K とするなら

K aC

c aDd

aAa aB

b (72)

で表されるそこでE゜は次のように書き改めることができる

43

E

RT

nFln K (73)

そこで式(67)で表される図10の電池「水素minus 銀塩化銀電池」に

対する起電力をギブス自由エネルギーから求めてみよう

反応から式(71)に当てはめれば

E E RT

Fln

aH

1 aCl

1 aAg1

aAgCl1 aH2

1

2

(74)

力学の慣例にしたがって固体の純物質の活量は1として扱い水素ガスを

想気体として見なして活量を1atm とするなら式(74)は次のよう

に簡略化される

E E

RT

Flna

H aCl (75)

ころで理想溶液として近似的に取り扱うときの希薄溶液でたとえば水素

入して詳細に検討するなら式( れる起電

オン濃度はイオン活量として aH+の記号を使うときすでに【理想溶液のギ

ブス自由エネルギー】の章で述べたようにこれを有効イオン濃度とする必要

がありイオン活量 a は「活量係数」γを導入して次式で表した

a H+= γH+CH+ (62)

この活量係数を導 75)で誘導さ

を計ることによって経験的に試料溶液中の水素イオン濃度を求めることは

困難である式(75)にあるイオン活量の項はモル濃度 C と活量係数γを

用いて次式で書き改められる

lnaH aCl

lnCH CCl

lnH Cl

(76)

まり式(76)右辺の第二項において互いに相手が知られなければ自分

決めることができず結果的に起電力を知っても(75)の値から水素イオ

ン濃度を導けないここに工夫が必要になる

44

の定義とその目盛り

液中の水素イオン濃度を直接意味するものではなく

を定義するとき測定されるのは1リットルの溶媒に存在す

pH = -log a H+ = -log(γH+CH+) (77)

際に試料溶液の pH を決定する際はpH 標準液を用いる

に溶液を入れ試料溶液 X と pH 標準液 S を

参 極を接続し電池を作成しその起

pH

現在pH の定義は溶

で述べたようにそれが簡便に測定できるものではないため次のように定

義されている

水素イオン濃度

水素イオン活量であるため定義式としては活量係数をγH+として次式で与

えられる

その要領は次のようである

上に図示した水素電極の容器内

れぞれ半電池(I)と(II)に入れる

半電池(I) Pt | H2 (1 atm) | 試料溶液

半電池(II) Pt | H2 (1 atm) | 試料溶液S

照電極として上図のごとく銀塩化銀電

電力を測定する半電池(I)のときの起電力を E(X)半電池(II)のそれを E(S)

とするこのとき試料溶液Xの pH は次式で計算される

pH (X) pH(S) E(S) E(X)

RT ln(10) (78)

ln(10)は自然対数を常用対数に戻すための定数で2303 を用いる

標準液

pH 標準液 S はpH 第一次標準液第二次標準液と呼ばれるべき

る測定

25で pH 4005 を示す

pH

上述した

のであり絶対的測定法である起電力の測定によって値をつける

標準液は安定で純粋な結晶が得られる試薬を調整してこれを測定す

上と同様に水素電極を用いこれに緩衝液を入れる参照電極として銀

塩化銀電極を接続して電池の起電力を測定する

たとえば005 moll フタル酸水素カリウム溶液は

一次標準(Primary Standard PS)の一つである半電池(III)として水素

45

電極を次のように準備する

半電池(III) Pt | H2 (1 atm) | PS 溶液

て電池を形成したとき得られる起電

参照電極として銀塩化銀電極を接続し

は式(75)から

E E

Ag AgCl RT

Flna

H aCl (79)

オン活量を濃度と活量係数の積(a H+= γH+CH+)にし自然対数を常用対数

すれば

E E

Ag AgCl RT ln(10)

F log(

H + CH+ Cl- CCl - ) (80)

E゜は水素標準電極(水素ガス分圧を1atm電極を浸ける溶液に001 moll

H

Cl を用いる)で得た起電力である

式(80)から

RT ln(10)

Flog(

H CH Cl

) (E EAg AgCl )

RT ln(10)

Flog C

Cl

(81)

らに

log(

H CH Cl

) F

RT ln(10)(E E

Ag AgCl ) logCCl

(82)

ころで式(77)から

(γH+CH+) (77)

-log a H+ =-loga H+-log(γCl-) +log(γCl-) =-log(a H+γCl-) +log(γCl-)

(83)の一番右の式で第一項は

pH = -log a H+ = -log

であるが右の式をさらに変形すると

(83)

46

-log(a H+γCl-)=-log(γH+ CH+γCl-) (84)

たがって式(82)の右辺で示されるように電池の起電力を測定すれば

よ 実際には溶液の塩素イオン濃

液で起電力を求め外挿する

起電

これによってpH を意味する式(83)は次式(85)で与えられる

p(aHγCl)はRG Bates によって Acidity Function と呼ばれている

らに式(85)最終項の log(γCl-) を補正しなければならないこの項は

本工業規格)によっても

であってこれは式(82)の左辺である

いただし塩素イオン濃度の項があって

をゼロにしたときの値が必要である

実測する際には塩素イオン濃度をゼロにできないので塩化ナトリウム NaCl

等を濃度を変えて添加しその時々の緩衝

勧告ではNaCl で 000500100015moll の3つの濃度を例示している

すなわち塩素イオン濃度ゼロのときの値は各塩素イオン濃度に対して

の値をそれぞれプロットしグラフから塩素イオンがゼロのときの起電力の

値を3点に対する回帰直線の延長で外挿して求めるこの点を次のように書

log( C H H Cl CCl

0

pa log( C log( (85) H H H Cl C

Cl0 Cl

)

素イオンの活動係数で与えられる補正項である

無限希釈溶液中のイオンの活動係数は理論的に Dubye-Huckel の式を用い

近似的に求めることが可能であるこれはJIS(日

用されていて Bates-Guggenheim の規約と呼ばれる (Bates RG

Guggenheim Pure Appl Chem 1 163-168 1960)

Dubye-Huckel の式は次のように与えられる

log A I

i 1 iB I (86)

47

I iについてそのモル濃度

計算される

はイオン強度でイオン mi と電荷 zi から次式で

I 1

2mizi (87)

また iは(86)式のBは温度と溶媒の性質による定数であり イオンの大

きさに関するパラメータで水和イオンの大きさとほぼ一致した値をとる標

準法の勧告では塩素イオンに対しイオンの大きさを46Åと決めてiBを

1

5 にしているそこで式(84)は次のようになる

ClA I

log 1 15 I

イオン強度 I は塩素イオン濃度を含まない計算となる

以上の方法によって実用的な pH 測定に用いられる第一次第二次標準液の

pH の値が得られる

絶対値としての

はpH の絶対測定法(第一次標準測定法)とされている

銀塩化銀参照電極は分極現象を防ぐために棒状の銀を塩酸で処理し表

に塩化銀を生成させたものを飽和塩化カリウム溶液につけてある

(88)

参考現在は実験的に求めた値と理論値の組み合わせで

素イオン濃度を求める方法を規定しているこの起電力から水素イオン濃度

を知るための測定方法

Buck RP Rondinini S Covington AK Baucke FGK Brett CMA Camoes MF

Milton MJT Mussini T Naumann R Pratt Kw Spitzer P Wilson GS

Measurement of pH definition standards and procedures Pure Appl Chem

74(11)2169-2200 2002Kristensen HB Salomon A Kokholm GInternational

pH scales and certification of pH Anal Chem 63(18) 885A-891A 1991)

銀塩化銀参照電極

電極の構成は

Cl-(aq) | AgCl(s) | Ag(s)

48

この半反応は次のようになる

AgCl(s) + e- rarr Ag(s) + Cl- (89)

の反応は次の2つの反応に分けて考えることができる

Ag+ + e- rarr Ag(s) (91)

AgCl(s)rarr Ag+ + Cl- (90)

図11銀塩化銀参照電極

(90)における銀 る塩素イオンによって左

されることが推測される

そこでカッコ [ ] をそれによって囲まれるイオンの濃度を表すことにし

式 イオン Ag+の溶解性は共存す

塩化銀の乖離定数Kを考えると

49

K = [Ag+][Cl-] (92)

これから

[Ag+]= K[Cl-] (93)

化カリウム溶液に漬けた銀塩化銀電極の電位 E は水素標準電極に対する

電 で与えられる

位を E゜として次式

E E

RT

nF

[ Ag ]

[Ag(s)]ln( )

Ag(s)のイオン活量は常に1とする

ここで半反応の電極電位を求めるために式(75)を利用することにすれば

(94)

熱力学の慣例にしたがって純物質個体

E E

RT

Flna

H Cl a (75)

式 の半反応をみると

応で電子1つが移動するので n=1 とするR=831441 JmolK1F = 96485

C はめれば

これに銀イオンの濃度として式(93)を当てはめる

この反応で移動する電子は (89) 銀イオン1つの反

molT=29815K(25)ln(10)=2303などの定数を当て

2303RTF = 005917

であるから(94)式は次のように表現できる

log[Cl]) E E 005917(logK (95)

たがって標準水素電極に対する銀塩化銀参照電極の標準状態における電

位 は半反応(89)に対して ゜=+0799で

化銀の乖離定数 K は182times10-10 であるのでその対数を取れば-973993

0799-005917times973993-005917log[Cl-]

E゜ E ある

ある

そこで式(95)は

E =

50

= 0799-0576-005917log[Cl-]

= 0223-005917log[Cl-] (96)

電極電位の関係について実測値

こうして求めた塩化カリウム溶液の濃度と

計算上の値は次のようである

KCl moll vs SHE volt25 計算値 volt25 01 02881 02822 35 0205 01908 飽和 0199 minus

実用 測定

実際の現場で水素イオン濃度を測定する目的の測定法で上のような2つの

極が同じ溶液に浸かっていたのでは試料溶液を交換するにも便利ではない

の容器に入れる未知試料溶液と銀塩化銀電極を隔離する

的な pH

そこで水素電極側

的で二つの電極容器をつなぐ液絡部をグラスフィルターやセラミック板

飽和塩化カリウムで作成したゼラチンなどの塩橋によって隔離遮断するこ

れを液絡部とよぶ

電池として機能するために必要な溶液イオンの交換はこの液絡部で行う

組み立てる電池は電池式で次のように表される

Pt(s) | H2 | 試料 (H+ x moll) || 飽和 KCl | AgCl | Ag(s)

の標準電極と銀塩化銀電極とは区切られていて溶液の直接の接触がない

とを意味するために電池式ではタテ二重線を用いる銀塩化銀参照電極

の容器には飽和塩化カリウム溶液が入れられる

51

図12液絡部のある pH 測定のための電池

この液絡部のある電池では塩橋を記号lsquo | | rsquoで表して次のように記す

試料 (H+ x moll) | | 飽和 KCl

ここでは試料溶液と飽和塩化カリウム溶液の異なる2液が接している

このような界面では膜電力が生じるのと同様「液間電位差」が生じることが

知られているしたがって上の電池で測定される起電力 E は

E = E[銀塩化銀電極電位]+E[液間電位]+E[水素電極電位]

で与えられることになってE[液間電位]のために図12の電池の起電力

は銀塩化銀参照電極の値を知っていても水素電極容器内に入れた未知溶

液の水素イオン濃度を正しく知ることができない

52

そこで実用的な測定法としてこの E[液間電位]を膜電位として積極的に利

用する方法が工夫されたすなわち水素イオンに感応するガラス薄膜を用い

るガラス電極法である

53

ガラス電極

ガラスはケイ素原子と酸素原子からなる SiO4 の結晶構造を持ち酸素で囲

まれた空隙があって水素イオンがそれを埋めることができる

この性質によってガラス膜表面は水溶液中の水素イオンに応じて膜電位を

変化させるのでこれを水素イオン濃度測定用の電極として利用することが考

えられるこれが通常用いられるガラス電極である

ガラス電極は標準電極と組み合わせれば電池を構成することができこの電

池の起電力を知ってガラス薄膜の内外にできたイオン濃度勾配を知ろうとす

るものである

薄いガラス膜(01mm程度)をはさんで接する2つの溶液のH+イオン濃

度が異なるとその差に応じてガラス膜の両側に電位差(Eg)が現れる

ネルンストの式でガラス電極の内部に入れた既知の濃度のH+([H+]in)に対

し試料中の水素イオン濃度が[H+]sampleのとき次の電位を生じる

)][

][log(059170)

][

][ln(

sample

in

sample

ing

H

H

H

H

F

RTE

(97)

図13ガラス電極

電極を構成するのは銀塩化銀電極と同じ電極で用いる塩溶液は一般的

54

に 01モル塩酸溶液である

この半電池の電池式は次のように書くことができる

Ag(s) | AgCl(s) | HCl (01 M) | ガラス薄膜 || 試料溶液 H+ (x moll)

Eg

この半電池の電極電圧を測定するために銀塩化銀標準電極と組み合わせ

電池を作って起電力を計る

構成される電池は下図のようになる

ガラス電極 銀塩化銀標準電極

図14ガラス電極を用いた pH 測定用の電池

この電池の起電力は次の各半電池の平衡電位を合わせたものになる

55

E1ガラス電極の内側電位

Ag(s) | AgCl(s) | HCl (01 M)

Egガラス薄膜の内外に生じる膜電位

HCl (01 M) | ガラス薄膜 || 試料溶液 H+ (x moll)

E2液間電位(膜電位)銀塩化銀標準電極のセラミックを介した試料溶液

と銀塩化銀標準電極の内部液(飽和 KCl 溶液)の間に発生する電位

試料溶液 H+ (x moll)|| セラミック | KCl(飽和)

E3銀塩化銀標準電極

KCl(飽和)| AgCl(s) | Ag(s)

pH メーター用のガラス電極に使われるガラス薄膜は水素イオンに感応して

膜電位(Eg)を生じるこれは【膜電位】の章で記したように薄膜がある

一つのイオンのみを通過させる特性を持っている場合にイオンが膜を介した

両側で平衡状態に達したとして電気化学ポテンシャルを膜の両側で等しいと

考えてそのイオンが濃厚な側から希薄な側にその差によって圧力を生じると

するものである

一方同じ試料溶液が銀塩化銀標準電極のセラミック液絡部を介して生じ

るだろう液間電位(膜電位E2)はいま関心がある水素イオンに対して特異

的に感応するのではないので試料溶液の水素イオン濃度に関係なく一定と見

なすことができる

すなわちpH メーターを構成する電池の起電力 E は

E = E1+Eg+E2+E3 (98)

このうちEg以外は一定と見なせるので

E1+E2+E3 = E

として式(98)を書き直すと

)][

][log(059170

sample

ing H

HEEEE

(99)

Eは標準液によって校正されるべき標準電極電位である

56

電極の校正

実際のイオン濃度を測定する場合低濃度標準液と高濃度標準液で得られ

る起電力を測定し計測のイオン濃度に対する係数(傾き)を求めておき未

知の試料に対して起電力を測定してそのイオン濃度を算出する方法が採られる

低濃度標準液と高濃度標準液のそれぞれの濃度をCLとCHとすればそれぞ

れの起電力ELとEHは次式で表される EH = E +β logCH (100)

EL = E +β log CL (101)

ただしβは式(99)の係数を簡略にしたものである

式(100)と(101)から検量線の傾きが次式で表せる

ΔE = EH minus EL = β(logCH minus logCL) = β logCH

CL

(102)

したがって係数βは

β =ΔE

log CH

CL

(103)

であらわされる

このときに使われる標準はすでに前出の pH 第一次標準第二次標準溶液で

ある

金属イオンに対応するイオン選択電極

現在臨床検査で日常的に使われている電解質測定のための電極はナトリウ

ムカリウムカルシウムクロールなどおよそ臨床的に必要な金属イオン

に対して入手可能である

カリウムイオン測定用のバリノマイシンの発見によってクラウンエーテルと

57

呼ばれる一連の化合物が知られたクラウンエーテルはその分子の中心に立

体的な空間を持ち特定のイオン径に対し合致するのでそのイオンに対して

選択的に感応するこれらの化合物はイオノフォアと呼ばれる

図 15クラウンエーテル

1つの金属イオンが環状化合物

15-crown-5 の中央にある空間を充填

している模式図

15-crown-5 の構造を作る10個の黒

い丸は炭素炭素2個のつながりごと

にある中心の白い丸は酸素酸素と

金属イオンの間の距離はおよそ 22~

23Åであるカリウムのファンデン

ワールス半径は 135Åイオン半径は

15~16Åである

測定したいイオンに対しポリ塩化ビニル(PVC)を支持体としてイオノフ

ォアを添加した液膜の電極膜を作成しこれをガラス電極におけるガラス薄膜

と同様試料に接する電極膜として用いるこの構造から一般的に液膜型電極

と呼ばれる電極膜には特異性を高めるため妨害イオン排除剤などが添加

される

pH メーターと同様銀塩化銀標準電極と組み合わせ電池を形成しその

起電力を計る測定したいイオンが液膜に対して内外で平衡に達したときの

膜電位を測定するのはガラス電極と同じである

カ リ ウ ム イ オ ン に は Bis[(benzo-15-crown-5) ( 正 式 名 は

Bis[(benzo-15-crown-5)-4-methyl]pimelate)ナトリウムには Bis[(12-crown-4)

やDibenzyl-bis[(12-crown-4)などがイオノフォアとして用いられる

58

図16カリウムイオン測定用に使われるクラウンエーテル

図17ナトリウムイオン測定用に使われるクラウンエーテル

59

参考イオン選択電極に関する文献Xia Z Badr IHA Plummer SL Cullen L

Bachas LG Synthesis and evaluation of a bis(crown ether) ionophore with a

conformationally constained bridge in ione- selective electrodes Anal Sci 14(2)

169-173 1998 Oh K-C Kang EC Cho YL Jeong K-S Y oo E-A Paeng K-J

Potassium-selective PVC membrane electrodes based on newly synthesized

cis- and trans-bis(crown ether)s ibid 14(10)1009-1012 1998 Dojindo WEB

site httpwwwdojindocojpwwwrootproductsjinfo2protocolp31pdf

<補遺> 60

補遺 状態関数 (本文 p21 10 行目参照)

一つの平衡状態にある系 A とこれに接する系 A にとって外部である系 B について系 B

から系 A に熱を与えこれによって系 A が他の平衡状態に移ったとき系 A はその結果とし

て膨張し系 B に対し仕事をする

このときの微少な熱量の移動を記号drsquoQ またなされた微少な仕事をdrsquoW とすると

系Aの内部エネルギーに関する微少な変化drsquoUA は両者の和として表される

WdQdUd A primeminusprime=prime (a-1)

この式 a-1 と本文中の式25との関係について

WQU A Δminus=Δ 本文(25)

<補遺> 61

式 a-1 と式25の記号の違いは変化の起きる前の平衡状態 S1 から変化後の平衡状態 S2

に状態変化があったとするなら式 a-1 を積分することで式25が得られるものと考えて区

別している

A

S

S A UUd Δ=primeint2

1 (a-2)

このことは重要であるすなわち内部エネルギーU は変化の起きる前後の状態を指定する

ことによって値が定まることを意味するこのように積分によって値を定めることが出来る

のでdrsquoU は完全微分であるという

内部エネルギーのように系の状態だけで値の定まる量を状態関数として扱う

一方式 a-1 のdrsquoQ drsquoW についても同様に微少の変化量を表しているが平衡状態 S1

から S2 への経路を指定しなければ積分の値は定まらない

本文中の記号にしたがって仕事量ΔW を次のように表すことにする

VpW Δ=Δ 本文(20) V

<補遺> 62

体積と圧力の関係を表す図を使ってこの仕事量が意味することを考える圧力 prsquo の下で

体積が V1 であるときを状態 S1 として圧力一定の下で体積を V2 まで膨張させるような変

化を行った後体積を等しく保って圧力を p にまで上げたときの状態を S2 とするこのとき

の仕事量は膨張に伴うものであるから図の体積‐圧力線の下の面積で示すことができる

平衡状態 S1 から S2 への変化の道筋を別にたどってみよう

新しい経路では圧力を先に p まで上げた後に膨張変化させている

図から直感的に明らかであるので数式での扱いを省略するが2 つの経路による仕事量には

差がある

すなわちdrsquoW は drsquoU と異なり変化の初め S1 と終わり S2 の状態が与えられても積分値

は定まらず変化の経路によって違ってくる

このように変化の経路を指定しなければ積分値が定まらないものを不完全微分と呼び扱

いを区別する

本文 p21 へ戻る

<補遺> 63

VpW

WQU

VpQU

VpUQ

1122 SSSS pVUpVUQ

pVU

VpUHHHQ SS 12

エンタルピー (本文 p24 20 行目参照)

本文中の式 20 および 25 から一定の圧力の元で起きる状態変化において内部エネルギー

の変化量に対する式 a-3 を得る

本文(20)

本文(25)

(a-3)

式 a-3 を Q について書き直す

(a-4)

状態の変化が平衡状態S1から平衡状態S2に移ったものとして式 a-4を丁寧に書き直すと

(a-5)

並び替えて

(a-6)

式 a-6 を見ると定圧過程における熱量の流入は

(a-7)

の形を持つ関数の差であることが分かる

一般に化学反応のような変化の過程では大気圧の下で行われるようなものに興味がある

そこで式 a-7 で与えられる項を一つの関数として定義するこれをエンタルピーと呼び記

号 H を与える式 a-4 はエンタルピーの変化量で次のように書き改められる

(a-8)

圧力が一定の下で起こる状態変化について流入する熱量は式 a-8 で示されるようにエンタ

ルピーの変化量に等しい

V

V

V

V V

V

V

1212 SSSS VVpUUQ VV

<補遺> 64

1Q

We

また式 a-8 からオートクレーブ内で起こるような体積変化のない過程ではこの値が内

部エネルギーの変化量で与えられることが明らかである

本文 p24 へ戻る

エントロピー (本文 p26 17 行目参照)

エントロピーは次のような思考実験から発想された仮想的な状態関数である

理想気体よりなる系 A が温度 T2で熱平衡状態にあり温度 T1の外部の熱源と接しているこ

とを想定する系 A の外部を系 B と呼ぶことにするT1は T2に対して無限小だけ高い温度と

する

系 A が系 B に対して温度圧力について平衡を保ちながら緩慢に系 B より熱量 Q1を受け取

る過程を考える(このような過程を準静的過程と呼ぶ)これによって系 A が熱量 Q1を得て膨

張するとき系 B に対して仕事をする続いて系 A から熱量 Q2が系 B に戻ることを考える

想定されるこの変化が可逆的であれば系 A と系 B を併せた全体は元の状態に戻る蒸気機

関に関するこのような研究が Nicolas Carnot によってなされたのは1824 年のことであった

ここに想定されたサイクルに対する Carnot の効率 e は移動した熱量となされた仕事によ

って定義され次の式で表される

(b-1)

<補遺> 65

理想気体では内部エネルギーU の変化ΔU はゼロと考えるしたがって熱力学の第一法

則を表す式(本文中の式25)から次の関係が示される

0=Δminus=Δ WQU

WQ Δ= (b-2)

これによってCarnot Cycleの効率eはQ2lt0 として次のように書き改めることが出来る

1

21

QQQe +

= (b-3)

ところで気体の状態方程式から1 モルの気体について次のような関係が示される

RTV

P

P1=

V = RTV (b-4)

V 式 b-4 の両辺に体積の微少変化量ΔV をかけて

(b-5)

これを体積Vについてその変化をV1からV2までとして積分するならば次式が得られる

VV

RTVP Δ=Δ 1V V

V

intint = 2

1

2

1

1V

V

V

VdV

VRTPdV

1V2V

11 lnRTW =

(b-6)

Q1の熱量によって起こる膨張がV1よりV2までとし圧力P温度T1の下でなされるその仕事

量をW1とするならそれは式b-6 の右辺によって示されるすなわち

(b-7)

VV

1

2lnVVRT=

V V

VV

V

V2int V2 intV1 V1

<補遺> 66

またQ2の熱量の移動が圧力P温度T2の下で起きこれによって系Aが可逆的に圧縮され

るなら体積変化はV2よりV1まで起こりその仕事量をW2で示すと次式のように表される

(b-8)

1

22

2

122 lnln

VVRT

VVRTW minus==VV

VV

Q1=W1Q2=W2の関係から式b-7 およびb-8 を用いてCarnot Cycleの効率eを表す式b-3

を書き改めると温度のみの関係式として次のように表される

1

21

TTTe minus

= (b-9)

ここでサイクルが可逆的過程であると想定するならば式 b-3 と式 b-9 から

1

21

1

21

TTT

QQQe minus

=+

= (b-10)

これから

12112111 QTQTQTQT minus=+ (b-11)

整理すると

02

2

1

1 =+TQ

TQ (b-12)

この考えをさらに発展させ系A

と系Bの間に数多くの系を挿入すること

にしてそれらの系を同様に熱源として

T1T2Tnと考えるこれによっ

て熱の受け渡しが系Aから系Bに至り

再び系Aにもどるサイクル過程に数多

くの寄り道の過程を加えることになる

熱量の移動に関して上の場合と同じく

準静的過程で行われると考えるこの

サイクル全過程について初めと終わ

<補遺> 67

n

i i

i

T

Q

1

0

0T

dQ

T

QS

T

dQASAS )()( 12

りが同じ状態になる可逆的な過程であるなら式 b-12 を拡大的に考えることになってそれ

は次式で表される

(b-13)

式 b-13 には重要な関数が現れるすなわち熱量と温度の比QT である

もし一つの系が無限小だけ温度の高い(dT )外界から温度圧力など平衡を保ちなが

ら極めて緩慢な過程(準静的過程)で無限小の熱量(dQ )を受け取るならばその変化は可

逆的でありdT について連続的な温度分布をする過程を考えるとき式 b-13 をさらに発展

させて次のように積分式で示すことが出来る

(b-14)

式 b-14 で積分記号にが付されているのはCarnot Cycle のような経路を一巡することを

意味している

Carnot の熱機関の効率という着想から生まれた熱量とそれを持つ系の温度との比 QT に

重要な意味を見出したのは Rudolph Clausius で彼はこの比にエントロピーという名前を与

えたエントロピーには記号ΔS を一般に用いる

(b-15)

エントロピーは初めと終わりの状態がわかれば過程に関わらず定まるので状態関数であ

系 A と外界のエントロピー変化を考えるときそれが可逆的過程であるならばすべてを併

せた全体のエントロピー変化は初めと終わりに変化がないという意味でゼロであるすなわ

ち初めの状態を S(A1)とし次の状態を S(A2)とするならそれぞれのエントロピーを

ΔS(A1)ΔS(A2)としてこの間におけるエントロピーの変化量は次のように示される

(b-16)

<補遺> 68

T

dQdS

0T

dQ

ある一つの変化については次のように示される

(b-17)

ここで式 b-17 の S に付けられたdは微分量すなわちごく微小の変化量を意味し式 b-15

で定義されたエントロピーに用いられる一般的な記号Δと区別する

ところで式 b-10 の関係においてもし移動した熱量のすべてが仕事に変わらなければ

効率 e を表す熱量を用いた関係式と温度で表される関係式は等号で結ぶことができないそれ

はエネルギーのロスを意味し初めと終わりの状態が異なってしまうことを意味するすなわ

ち全過程が構成する一つのサイクルは可逆的でなくなる

不可逆過程での熱効率 ersquo は 大値を示す可逆的過程の熱効率 e より小さな値をとる

ee

したがって 大効率を与える式 b-8 と式 b-3 から

01221

2112

1

21

1

21

QTQT

QTQT

Q

QQ

T

TT

両辺を T1T2で割ると

02

2

1

1 T

Q

T

Q

これを式 b12 と同様に発展させれば式 b-14 についてサイクルの変化が可逆的過程の

場合と不可逆的過程の場合の両方を併せClausius の不等式と呼ばれる次の関係が成立する

(b-18)

式 b-18 の等号が成立するのはサイクルが可逆的な理想の場合に限られる

ある孤立系で状態 A1 から状態 A2 へは不可逆変化で進められ状態 A2 から再び状態 A1

に戻るとき可逆変化であるような閉じた状態変化を考える可逆系のエントロピー変化には

記号 Q を使い不可逆変化には Q を用いるとするとそれぞれ積分式を用いて状態 A1 から

状態 A2 へは

<補遺> 69

d prime

状態 A2 から状態 A1 に戻るときは

全体では

=d prime

+d

(b-19)

Clausius の不等式から

0

式(b-19)の第二項で反応を逆に進めるときには次のように書き改めることができる

=d

よって式(b-19)は次のように書き直すことができClausius の不等式とあわせると

d prime d

0

すなわち

d prime d

上式の右辺は式(b-16)を用いて表せば

d prime

∆S ∆

この状態変化を微小変化とするならば断熱変化の場合 dQ = 0 であるから

∆S ∆ dS 0

すなわち不可逆変化を含む断熱変化ではエントロピーは必ず増大する

<補遺> 70

T

QS

BA SSS

(b-20)

(次の<補遺>ギブス自由エネルギーも参照せよ)

本文 p26 へ戻る

ギブス自由エネルギー (本文 p28 27 行目参照)

エントロピーの考えを導入することによって不可逆的に状態変化が起きるときにはエン

トロピーの増大を引き起こすことを知ったこれによって目前で起きる現象について温度の

変化があるものであれないものであれまた圧力の変化があるものであってもエントロピー

の定義式によって可逆的な変化におけるエントロピーの変化量を計算することが可能である

(b-15)

しかしながらこれから起こる変化について我々がすでにあらかじめ知っている物理量を

用いて予測的にその状態変化が起きるかどうか知ることは必ずしも容易ではないその理由

は式 b-15 に示されたエントロピーΔS が系とその外界をあわせた全体のエントロピーを示

しているからであるすなわち関心のある系を系 A としその外界を系 B とすると全体

のエントロピーは次のように表せる

(c-1)

関心のある系 A のエントロピー変化を知るためには系 B のそれを知ればよいがそれは

いつも容易とは限らない系 A の性質だけで状態変化の方向を知るには別の観点が必要にな

るようだ

そこでもう一度状態変化が熱量 Q の移動によって起きることについて考えてみようエン

トロピーの補遺で議論したように熱量の移動が準静的過程により行われるときには変化は可

逆的に起こると考えたこのとき外界すなわち系 B から移動する熱量を Q1とし系 A から

0S

<補遺> 71

21 QQ

T

Q

T

QSB

21

T

QSS A

2

QH

T

HSS AA

AA STHST

のそれを Q2 と記号を当てたのでこれをそのまま使うことにすれば可逆的な過程では系 B

の熱量 Q1 はすなわち系 A から戻る Q2 に他ならないので両者には次の関係が成立するも

のとしてよい

(c-2)

したがって

(c-3)

と考えてよくこれによって式 c-1 を次のように書きなおすことが出来る

(c-4)

独立した系で圧力とその体積に変化がなく一定の条件の下で状態変化が起きるときエン

タルピーの考えを使ってすでにひとつの関係があることを導いている

本文(31)

そこで式 c-4 を系のエンタルピーΔHAによって書き改めれば

(c-5)

この両辺に-T をかけて式を書き直せば次の関係式が得られる

(c-6)

式 c-6 を見るときその右辺がマイナスの値ならば左辺のΔS はプラスの値をとることが

分かるすなわちエントロピーが増大すると見ることが出来るこれまでの過程で自然の現

象はエントロピーが増大する方向に進むとしてきたので関心のある状態変化について式 c-6

の右辺で計算される値がマイナスの値ならばその変化は起きるものと考えてよいことになる

だろうしかも右辺はすべて独立した系の状態量で示されていて我々が知りうる値で計算

<補遺> 72

TSHG

STSTHG

STHG

可能である

そこでこれを熱力学ポテンシャルを表すものとしてギブス自由エネルギーと呼ぶことに

するギブス自由エネルギーは記号 G が用いられ次のように定義される

(c-7)

ここで関心があるのは自由エネルギーの絶対値ではなく式 c-6 に示されたようにその変化量

に興味があるので式 c-7 から

(c-8)

温度が一定の条件の下で状態変化が起きることを考えるなら式 c-8 は次のように書くこと

ができる

(c-9)

ギブス自由エネルギーは式 c-9 の右辺がすべて状態量であるからこれも状態量の一つで

ある定圧定温の条件下で起きる変化ではすでに議論したようにΔGlt0 であれば状態

変化は自発的に起きるものと予測できる

つまり式 c-5 の第一項は系のエントロピーΔSAそのものであり第二項で示されるエンタ

ルピーは系 A の温度が一定に保たれているのであるから発熱する熱量として外界に吸収さ

れるものであってこれは外界のエントロピーの増大につながるものとして解釈されるした

がって化学反応のように一定の圧力と一定の温度の下で起きる変化について自由エネルギ

ー変化量はその状態変化が自発的に起きる傾向を示しているといってよい

本文 p28 へ戻る

  • はじめに
  • 目次
  • 電気エネルギー
    • 金属のイオン化
    • 電池
    • 水素の反応
    • 燃料電池
    • 化学反応と電気エネルギー
      • エネルギーと熱力学
        • エネルギー保存則
        • エンタルピー
        • エントロピー13
        • ギブス自由エネルギー
        • 電池における化学反応のギブス自由エネルギー13
        • 理想気体の状態方程式
        • 理想溶液のギブス自由エネルギー
        • 膜電位
          • 水素イオン濃度測定
            • 化学反応の一般的な式
            • pHの定義とその目盛り
            • pH標準液
            • 銀塩化銀参照電極
            • 実用的なpH測定
            • ガラス電極
            • 電極の校正
            • 金属イオンに対応するイオン選択電極
              • 文献
              • 補遺
                • 状態関数
                • エンタルピー
                • エントロピー
                • ギブス自由エネルギー
Page 34: イオン選択電極i イオン選択電極 Ion Selective Electrode (ISE) を理解する ・ pHを測定する ・ NaやKなどのイオン濃度を測定する 神戸大学医学部保健学科

31

標準状態における可逆的仕事は式(41)であらわせ

n FV=-ΔG (41rsquo)

このΔG は式(39)であらわせた

ΔG =ΔH-TΔS (39)

すなわち標準状態29815K(25)1atmにおいてある化合物を標準物

質から合成するときの標準生成ギブス自由エネルギー変化ΔG゜は標準生成エ

ンタルピー変化ΔH゜とその温度におけるエントロピー変化TΔSの差で求ま

るこれらは燃料電池の全反応を表す式(7)で与えられる

標準生成エンタルピーΔH゜変化とエントロピー変化はすでに一般的な元

素やその化合物に対して表が作成されている

液体の水に対する標準生成エンタルピーΔH゜(H2O)は

ΔH゜(H2O)=minus 28583 KJmol

また水素ガスと酸素ガスはそれぞれの元素の標準物質であるので生成エ

ンタルピー変化はゼロである

32

そこで式(7)での水を1モル化学合成するときの標準生成エンタルピーΔ

H゜は水素(ガス1モル)と酸素(ガス12 モル)の2つの材料と水(液

体251atm)の両状態における状態量の差として表される

ΔH゜=ΔH゜(H2O)-ΔH゜(H2) -12ΔH゜(O2) (42)

式(42)の右辺第2項と第3項がゼロであるので

ΔH゜=ΔH゜(H2O) =-28583 KJmol (43)

標準状態29815K(25)1atm における水素(ガス)と酸素(ガス)お

よび水(液体)のエントロピーはそれぞれ

ΔS(H2O)=6991 JKmol

ΔS(H2) =13068 JKmol

ΔS(O2) =20514 JKmol

単位で分母のKはケルビン温度の意味

と計算されているので

ΔS=ΔS(H2O)-ΔS (H2) -12ΔS(O2) (44)

=6991-13068-12times20514

=-16334 JKmol

したがって

TΔS=29815times(-16334)=-486998=-4870 KJmol

(45)

そこで標準生成ギブス自由エネルギーΔG゜は式(39)から

-ΔG゜=-(ΔH゜-TΔS) (39)

=-{-28583-(-4870)}

=+23713 KJmol

33

すなわちこのエネルギーを電気エネルギーとして取り出すことができるそ

の起電力は式(41rsquo)から

n FV=-ΔG (41rsquo)

V= -ΔG(n F)

各数値を当てはめれば

V=237130(2times96485)

=1229 volt

先に【化学反応と電気エネルギー】のところで記したとおり25の基準

状態におけるこの電極電位はE゜=+1229 volt が得られているすなわち

こうして標準生成ギブス自由エネルギーから計算することでも同じ値を得る

ことができた

水素を単純に酸素と化合させる燃焼では式(43)で示されるエンタルピ

ーが発生する熱量を示している水素1モルあたり28583 KJである電池

にすれば水素1モルあたり23713 KJの仕事量が電気エネルギーとして取り

出すことができるその差は電池の場合熱が発生して利用できない

化学反応の過程を利用して化学エネルギーから直接電気エネルギーに変換す

るのが電池という装置であるが化学エネルギーは100電気エネルギ

ーに換えることはできないこのようにエネルギーの一部は電池の熱として

発散してしまう

理想気体の状態方程式

ギブス自由エネルギーΔG を定義した式(39)とエンタルピーΔH の定義

式(28)から

ΔG =ΔH-TΔS (39)

ΔH =ΔU +VΔP+ PΔV (28)

そこで次式が得られる

34

ΔG =ΔU+VΔP+ PΔV-TΔS (46)

またエネルギー保存則から得られた式(26)を応用すればギブス自由エ

ネルギーが変形できる

Q =ΔU+PΔV (26)

から

ΔU=Q-PΔV (47)

したがって式(46)は

ΔG = Q-PΔV+VΔP+ PΔV-TΔS

ΔG = Q-TΔS+VΔP (48)

エントロピーの定義からQ=TΔSであるから結局式(48)は

ΔG = VΔP (49)

と表すことができる

成分が混合された気体分子の分子間に働く力をゼロと仮定した「理想気体」を

考えるとき状態方程式としてボイルシャルル(Boyle-Charles)の法則が

利用できる

PV=nRT (50)

ここでnは気体のモル数PVT はそれぞれこれまでと同じ圧力体積温度(ケルビン温度)でありR は気体定数と呼ばれるもので次の値を持

R= 831441 JmolK (51) 単位で分母のKはケルビン温度の意味

35

状態方程式から式(49)の右辺を導くことを考えてみよう式(50)は

1モルの気体について V に対し次のように変形することができる

V 1

PRT (50rsquo)

両辺に圧力の微小変化量⊿P をかけると

PP

RTP V (52)

これを微分方程式として圧力p0 からp1 まで(p0≦p1)積分するなら

1

0

1

0

1

0

1p

p

p

p

p

pdP

PRTdP

P

RTdPV (53)

関数 f(x)=1x を積分したときの関数はF(x)=ln(x)であるので(ln は e を底

とする自然対数loge)

右辺=0

1ln)0ln()1ln(p

pRTpRTpRT (54)

ギブス自由エネルギーを表す式(49)は次のようであったから

ΔG = VΔP (49)

式(52)から得た式(54)を当てはめると状態G0(p0T)からG1(p1T)

へ変化する過程で圧力が p0 から p1 まで変化するものとして

dGG0

G1

G( p1T ) G(p0T ) RT lnp1

p0 (55)

あるいはこれを書き直して

V

36

G(p1 T) = G( p0T ) + RT lnp1p0

(56)

特別にG0(p0T)を標準状態T=29815K(25)p0=1atmに指定する

なら標準生成ギブス自由エネルギーを記号G゜として (56rsquo)

と表すことができる

式(56rsquo)の意味するところは標準状態から圧力の変化を伴う過程で理

G(p1 T) = Go + RT ln p1

想気体のギブス自由エネルギーは圧力の対数に比例して上昇することである

このことはさらに新しい着想を生む

すなわち水素を燃料とする上の燃料電池で1atm 標準状態の水素ガスの圧力

を2atm に上げれば式(56rsquo)からRTln2 余分にギブス自由エネルギー

が取り出せることになる

燃料電池において起電力を生むエネルギーは隔壁を水素イオンもしくは酸

素イオンが浸透しようとする力であるので1atm の水素ガスと2atm のそれで

は浸透しようとする圧力が異なりここに起電力が生じる

式(56)の第二項が圧力の差による仕事であるからこれをΔG とすれば

W=-ΔG の仕事量が電気エネルギーとして取り出せるはずである

W = minusΔG = minusRT lnp1p0

(57)

起電力に換算するために式(41)を使うと

W = n FV=minus ΔG (41)

から

01ln

pp

nFRTV ⎟

⎠⎞

⎜⎝⎛minus= (58)

この式(58)は一般にネルンスト(Nernst)の式と呼ばれる

37

理想溶液のギブス自由エネルギー

理想気体を想定したように無限に希釈された混合溶液に対して理想溶液を仮

定する「系」の圧力温度を一定に保つならば体積内部エネルギーエンタ

ルピーギブス自由エネルギーなどの示量数は混合溶液を構成する物質のモ

ル数mに比例するたとえば標準状態にある物質の1モルの体積をVとすれば

mモルの体積はそのm倍mVであるそうすると溶液中のi番目の成分がmi

モル「系」から「外界」に仕事をするときその成分iの持つ自由エネルギーの

mi倍の仕事が「外界」になされると考えればよい

この溶液成分のモル数と化学的仕事を結びつける示強因子がギブスによって

化学ポテンシャルと名付けられ一般に記号μが用いられる

化学ポテンシャルはこれまで見たようにギブス自由エネルギーで表される

また電位がψ(プサイ)にある系から-Δeの電荷が放出されるときには

-ψΔeの電気的仕事が得られるそこで記号μに両者を合わせた意味を持

たせて「電気化学ポテンシャル」と呼ぶ

概念の上で物質は電気化学ポテンシャルの高い方から低い方へ勾配にした

がって移動する

理想気体の標準状態が気体分圧を T=29815K(25)で 1atm としたのに対

し溶液成分の標準状態はその分圧に相当するモル数 m を用いるすなわち

標準状態にある成分 i の電気化学ポテンシャルμ0iは成分の持つ電荷(H+なら

1)を n として

μ0i = G i゜+nFψ i (59)

ギブス自由エネルギーは式(56rsquo)を借り理想溶液中の成分に対しては気

体圧力をその成分のモル濃度Cに書き換えればよいそこで

G(CT ) G RT lnC (60)

と表すことができる

したがって一般的な成分 i の電気化学ポテンシャルμiを表す式は標準状態

からの自由エネルギーの変化を考え式(59)と合わせて次のようになる

38

ψnFGii 0

式(60)から

ii CRTGTCGG ln)( 0

よって

(61) ψnFCRT iii ln0

実際的なことを考えると成分濃度はその有効イオン濃度とする必要があり

「活量係数」γを導入して次式で表されるイオン活量aを用いる

ai = γCi (62)

一般的にはγ=1と近似してモル濃度Cを使っているこのテキストでも

必要ではない限りイオン活量を用いることを省略して簡単に記述したい

膜電位

燃料電池に使われたナフィオンのような一つのイオンを通す膜を介して膜

の両側にC0 とC1 のイオン濃度差がある溶液が接するときの電気化学ポテン

シャルを考えよう

ある容器の底にナフィオン膜を取り付け容器の中と外のイオン濃度をC0

とC1としそれぞれの電気化学ポテンシャルをそれぞれμinとμoutとする

式(61)を使って

容器の中の電気化学ポテンシャル

(63) innFCRTin ψ 00 ln

容器の外の電気化学ポテンシャル

(64) outout nFCRT ψ 10 ln

イオン浸透性の膜を介して濃度変化が無視できるほどの移動があると考え

その電気化学ポテンシャルの差を式(63)(64)から求めれば

39

)(ln0

1 inoutinout nFC

CRT ψψ (65)

この系において今注目しているイオンが膜を介した両側で平衡状態にある

とき式(65)はΔμ=0と考えることができるすなわち

0)(ln0

1 inoutnFC

CRT ψψ

膜内外の電位差をΔψ=ψoutminus ψinとすれば

1

0

0

1 lnlnC

C

nF

RT

C

C

nF

RTψ (66)

式(66)は理想気体に対するネルンストの式(58)と同様溶液中のイ

オンに対するネルンスト(Nernst)の式として与えられる

細胞の膜においてもその生体膜の内外でたとえばカリウムイオンのように

非対称に分布して平衡に達している場合には式(66)で与えられる膜内外

で電位差が生じるこれは一般に膜電位と呼ばれる膜電位は平衡電位とも

呼ばれる

たとえば膜内外に1価のカリウムイオンに10倍の濃度差があるとすると

通常カリウムイオンは細胞内の濃度が高いので

C0 = 10timesC1

であるから

これを式(66)に当てはめてln(10)=2303 を用いlog への変換をすれば

Δψ=2303times(RTF)timeslog(10)

であるこれに R=831441 JmolKF=96485 CmolT=29815 K(25)

の各数値を当てはめると

Δψ=2303times831441times29815times196485 JC

=+005917 volt

すなわち膜の内外で約+60ミリボルトの膜電位が生じることになるこの

分だけ細胞の外側の電気化学ポテンシャルが高く膜の内側の膜電位が負であ

るそして膜にあるカリウムチャネルがこの電位を示すとき受動的なカリ

40

ウムの膜内外の移動は平衡に達することになる

水素イオン濃度測定

「標準水素電極」は1モル塩酸溶液につけた白金電極に1atm の水素ガスを

吹き込んで平衡状態に達したときの電位を基準としてゼロボルトと規定した

そこである溶液についてその水素イオン濃度を知ろうとするとき同じ水

素電極を用いることを考えれば標準状態にする目的で用いた1モル塩酸溶液

を濃度未知で X モルの塩酸溶液と想定すればその水素イオン濃度を知るこ

とができるだろうか

標準状態ではない X モルの塩酸溶液に浸けた白金電極が半電池として働くこ

とは間違いなさそうであるしかしその白金電極が持つ電極電位を測定する

にはいずれにしても標準電極と組み合わせて「電池」を構成しその電池

の起電力として計る必要がある電池を作れば起電力を知ることができ相

手の半電池の電極電位が知られていれば濃度が未知でXモルの溶液について

その水素イオン濃度を知ることができるだろう

こうした目的のためにいちいちゼロボルトと規定した標準水素電極を用いる

のは煩雑なのでしばしば後出の「銀塩化銀電極」が参照電極として用いら

れる

まず予め「銀塩化銀電極」を標準水素電極と組み合わせて電池とし一度

その起電力を測定しておけば後はいつもそれを標準電極として利用できる

「銀塩化銀電極」の半電池は

H+ (1 moll) Cl- | AgCl | Ag(s)

これに「標準水素電極」を組み合わせ電池を構成すると次のような電池

になる

Pt(s) | H2(g) | H+ (1 moll) Cl- | AgCl | Ag(s)

この電池の起電力を知れば「銀塩化銀電極」の半電池としての電極電位

を知ることができ参照電極として未知の半電池と組み合わせて起電力を測

定して相手の電極電位を計算できる

41

濃度 X モルの塩酸溶液を未知の溶液と想定すればその電極電位を知るために

組み立てる電池は次のようになる図10にその電池の図を示した

Pt(s) | H2(g) | H+ (x moll) Cl- | AgCl | Ag(s)

この電池の全反応は次の反応式で表される

AgCl(s) 1

2H2 (g) H Cl Ag(s) (67)

図10未知溶液の水素イオン濃度を測定しようとするための電池

化学反応の一般的な式

ここで電池に利用される化学反応から得られるエネルギーをギブス自由エ

ネルギーに換算し起電力を具体的に知る手だてとすることは上ですでに学

42

んだがより一般的な式を再度ここに書きだしておこう

化学反応が紙面で左から右に進む反応として次のような一般式で与えられ

るとき

aA + bB rarr cC + dD (68)

ギブス自由エネルギー変化量は標準状態ΔG゜からの変化量を加える形で式

(60)と同様次の式によって表される

G G RT(ln aCc aD

d ln aAa aB

b )

G RT ln

aCc aD

d

aAa aB

b (69)

aAは成分 A のイオン活量であるその他の成分も同じ

得られたエネルギーを電気エネルギーに換えるなら式(41)に習って

次式で表せば

ΔG=-n FV

there4V=-ΔG(nF) (70)

このときの起電力は標準状態における電位 E゜からの変化量として次式で与

えられる

E E

RT

nFln

aCc aD

d

aAa aB

b (71)

標準状態における起電力 E゜は反応が平衡状態にあるときで反応平衡定数

を K とするなら

K aC

c aDd

aAa aB

b (72)

で表されるそこでE゜は次のように書き改めることができる

43

E

RT

nFln K (73)

そこで式(67)で表される図10の電池「水素minus 銀塩化銀電池」に

対する起電力をギブス自由エネルギーから求めてみよう

反応から式(71)に当てはめれば

E E RT

Fln

aH

1 aCl

1 aAg1

aAgCl1 aH2

1

2

(74)

力学の慣例にしたがって固体の純物質の活量は1として扱い水素ガスを

想気体として見なして活量を1atm とするなら式(74)は次のよう

に簡略化される

E E

RT

Flna

H aCl (75)

ころで理想溶液として近似的に取り扱うときの希薄溶液でたとえば水素

入して詳細に検討するなら式( れる起電

オン濃度はイオン活量として aH+の記号を使うときすでに【理想溶液のギ

ブス自由エネルギー】の章で述べたようにこれを有効イオン濃度とする必要

がありイオン活量 a は「活量係数」γを導入して次式で表した

a H+= γH+CH+ (62)

この活量係数を導 75)で誘導さ

を計ることによって経験的に試料溶液中の水素イオン濃度を求めることは

困難である式(75)にあるイオン活量の項はモル濃度 C と活量係数γを

用いて次式で書き改められる

lnaH aCl

lnCH CCl

lnH Cl

(76)

まり式(76)右辺の第二項において互いに相手が知られなければ自分

決めることができず結果的に起電力を知っても(75)の値から水素イオ

ン濃度を導けないここに工夫が必要になる

44

の定義とその目盛り

液中の水素イオン濃度を直接意味するものではなく

を定義するとき測定されるのは1リットルの溶媒に存在す

pH = -log a H+ = -log(γH+CH+) (77)

際に試料溶液の pH を決定する際はpH 標準液を用いる

に溶液を入れ試料溶液 X と pH 標準液 S を

参 極を接続し電池を作成しその起

pH

現在pH の定義は溶

で述べたようにそれが簡便に測定できるものではないため次のように定

義されている

水素イオン濃度

水素イオン活量であるため定義式としては活量係数をγH+として次式で与

えられる

その要領は次のようである

上に図示した水素電極の容器内

れぞれ半電池(I)と(II)に入れる

半電池(I) Pt | H2 (1 atm) | 試料溶液

半電池(II) Pt | H2 (1 atm) | 試料溶液S

照電極として上図のごとく銀塩化銀電

電力を測定する半電池(I)のときの起電力を E(X)半電池(II)のそれを E(S)

とするこのとき試料溶液Xの pH は次式で計算される

pH (X) pH(S) E(S) E(X)

RT ln(10) (78)

ln(10)は自然対数を常用対数に戻すための定数で2303 を用いる

標準液

pH 標準液 S はpH 第一次標準液第二次標準液と呼ばれるべき

る測定

25で pH 4005 を示す

pH

上述した

のであり絶対的測定法である起電力の測定によって値をつける

標準液は安定で純粋な結晶が得られる試薬を調整してこれを測定す

上と同様に水素電極を用いこれに緩衝液を入れる参照電極として銀

塩化銀電極を接続して電池の起電力を測定する

たとえば005 moll フタル酸水素カリウム溶液は

一次標準(Primary Standard PS)の一つである半電池(III)として水素

45

電極を次のように準備する

半電池(III) Pt | H2 (1 atm) | PS 溶液

て電池を形成したとき得られる起電

参照電極として銀塩化銀電極を接続し

は式(75)から

E E

Ag AgCl RT

Flna

H aCl (79)

オン活量を濃度と活量係数の積(a H+= γH+CH+)にし自然対数を常用対数

すれば

E E

Ag AgCl RT ln(10)

F log(

H + CH+ Cl- CCl - ) (80)

E゜は水素標準電極(水素ガス分圧を1atm電極を浸ける溶液に001 moll

H

Cl を用いる)で得た起電力である

式(80)から

RT ln(10)

Flog(

H CH Cl

) (E EAg AgCl )

RT ln(10)

Flog C

Cl

(81)

らに

log(

H CH Cl

) F

RT ln(10)(E E

Ag AgCl ) logCCl

(82)

ころで式(77)から

(γH+CH+) (77)

-log a H+ =-loga H+-log(γCl-) +log(γCl-) =-log(a H+γCl-) +log(γCl-)

(83)の一番右の式で第一項は

pH = -log a H+ = -log

であるが右の式をさらに変形すると

(83)

46

-log(a H+γCl-)=-log(γH+ CH+γCl-) (84)

たがって式(82)の右辺で示されるように電池の起電力を測定すれば

よ 実際には溶液の塩素イオン濃

液で起電力を求め外挿する

起電

これによってpH を意味する式(83)は次式(85)で与えられる

p(aHγCl)はRG Bates によって Acidity Function と呼ばれている

らに式(85)最終項の log(γCl-) を補正しなければならないこの項は

本工業規格)によっても

であってこれは式(82)の左辺である

いただし塩素イオン濃度の項があって

をゼロにしたときの値が必要である

実測する際には塩素イオン濃度をゼロにできないので塩化ナトリウム NaCl

等を濃度を変えて添加しその時々の緩衝

勧告ではNaCl で 000500100015moll の3つの濃度を例示している

すなわち塩素イオン濃度ゼロのときの値は各塩素イオン濃度に対して

の値をそれぞれプロットしグラフから塩素イオンがゼロのときの起電力の

値を3点に対する回帰直線の延長で外挿して求めるこの点を次のように書

log( C H H Cl CCl

0

pa log( C log( (85) H H H Cl C

Cl0 Cl

)

素イオンの活動係数で与えられる補正項である

無限希釈溶液中のイオンの活動係数は理論的に Dubye-Huckel の式を用い

近似的に求めることが可能であるこれはJIS(日

用されていて Bates-Guggenheim の規約と呼ばれる (Bates RG

Guggenheim Pure Appl Chem 1 163-168 1960)

Dubye-Huckel の式は次のように与えられる

log A I

i 1 iB I (86)

47

I iについてそのモル濃度

計算される

はイオン強度でイオン mi と電荷 zi から次式で

I 1

2mizi (87)

また iは(86)式のBは温度と溶媒の性質による定数であり イオンの大

きさに関するパラメータで水和イオンの大きさとほぼ一致した値をとる標

準法の勧告では塩素イオンに対しイオンの大きさを46Åと決めてiBを

1

5 にしているそこで式(84)は次のようになる

ClA I

log 1 15 I

イオン強度 I は塩素イオン濃度を含まない計算となる

以上の方法によって実用的な pH 測定に用いられる第一次第二次標準液の

pH の値が得られる

絶対値としての

はpH の絶対測定法(第一次標準測定法)とされている

銀塩化銀参照電極は分極現象を防ぐために棒状の銀を塩酸で処理し表

に塩化銀を生成させたものを飽和塩化カリウム溶液につけてある

(88)

参考現在は実験的に求めた値と理論値の組み合わせで

素イオン濃度を求める方法を規定しているこの起電力から水素イオン濃度

を知るための測定方法

Buck RP Rondinini S Covington AK Baucke FGK Brett CMA Camoes MF

Milton MJT Mussini T Naumann R Pratt Kw Spitzer P Wilson GS

Measurement of pH definition standards and procedures Pure Appl Chem

74(11)2169-2200 2002Kristensen HB Salomon A Kokholm GInternational

pH scales and certification of pH Anal Chem 63(18) 885A-891A 1991)

銀塩化銀参照電極

電極の構成は

Cl-(aq) | AgCl(s) | Ag(s)

48

この半反応は次のようになる

AgCl(s) + e- rarr Ag(s) + Cl- (89)

の反応は次の2つの反応に分けて考えることができる

Ag+ + e- rarr Ag(s) (91)

AgCl(s)rarr Ag+ + Cl- (90)

図11銀塩化銀参照電極

(90)における銀 る塩素イオンによって左

されることが推測される

そこでカッコ [ ] をそれによって囲まれるイオンの濃度を表すことにし

式 イオン Ag+の溶解性は共存す

塩化銀の乖離定数Kを考えると

49

K = [Ag+][Cl-] (92)

これから

[Ag+]= K[Cl-] (93)

化カリウム溶液に漬けた銀塩化銀電極の電位 E は水素標準電極に対する

電 で与えられる

位を E゜として次式

E E

RT

nF

[ Ag ]

[Ag(s)]ln( )

Ag(s)のイオン活量は常に1とする

ここで半反応の電極電位を求めるために式(75)を利用することにすれば

(94)

熱力学の慣例にしたがって純物質個体

E E

RT

Flna

H Cl a (75)

式 の半反応をみると

応で電子1つが移動するので n=1 とするR=831441 JmolK1F = 96485

C はめれば

これに銀イオンの濃度として式(93)を当てはめる

この反応で移動する電子は (89) 銀イオン1つの反

molT=29815K(25)ln(10)=2303などの定数を当て

2303RTF = 005917

であるから(94)式は次のように表現できる

log[Cl]) E E 005917(logK (95)

たがって標準水素電極に対する銀塩化銀参照電極の標準状態における電

位 は半反応(89)に対して ゜=+0799で

化銀の乖離定数 K は182times10-10 であるのでその対数を取れば-973993

0799-005917times973993-005917log[Cl-]

E゜ E ある

ある

そこで式(95)は

E =

50

= 0799-0576-005917log[Cl-]

= 0223-005917log[Cl-] (96)

電極電位の関係について実測値

こうして求めた塩化カリウム溶液の濃度と

計算上の値は次のようである

KCl moll vs SHE volt25 計算値 volt25 01 02881 02822 35 0205 01908 飽和 0199 minus

実用 測定

実際の現場で水素イオン濃度を測定する目的の測定法で上のような2つの

極が同じ溶液に浸かっていたのでは試料溶液を交換するにも便利ではない

の容器に入れる未知試料溶液と銀塩化銀電極を隔離する

的な pH

そこで水素電極側

的で二つの電極容器をつなぐ液絡部をグラスフィルターやセラミック板

飽和塩化カリウムで作成したゼラチンなどの塩橋によって隔離遮断するこ

れを液絡部とよぶ

電池として機能するために必要な溶液イオンの交換はこの液絡部で行う

組み立てる電池は電池式で次のように表される

Pt(s) | H2 | 試料 (H+ x moll) || 飽和 KCl | AgCl | Ag(s)

の標準電極と銀塩化銀電極とは区切られていて溶液の直接の接触がない

とを意味するために電池式ではタテ二重線を用いる銀塩化銀参照電極

の容器には飽和塩化カリウム溶液が入れられる

51

図12液絡部のある pH 測定のための電池

この液絡部のある電池では塩橋を記号lsquo | | rsquoで表して次のように記す

試料 (H+ x moll) | | 飽和 KCl

ここでは試料溶液と飽和塩化カリウム溶液の異なる2液が接している

このような界面では膜電力が生じるのと同様「液間電位差」が生じることが

知られているしたがって上の電池で測定される起電力 E は

E = E[銀塩化銀電極電位]+E[液間電位]+E[水素電極電位]

で与えられることになってE[液間電位]のために図12の電池の起電力

は銀塩化銀参照電極の値を知っていても水素電極容器内に入れた未知溶

液の水素イオン濃度を正しく知ることができない

52

そこで実用的な測定法としてこの E[液間電位]を膜電位として積極的に利

用する方法が工夫されたすなわち水素イオンに感応するガラス薄膜を用い

るガラス電極法である

53

ガラス電極

ガラスはケイ素原子と酸素原子からなる SiO4 の結晶構造を持ち酸素で囲

まれた空隙があって水素イオンがそれを埋めることができる

この性質によってガラス膜表面は水溶液中の水素イオンに応じて膜電位を

変化させるのでこれを水素イオン濃度測定用の電極として利用することが考

えられるこれが通常用いられるガラス電極である

ガラス電極は標準電極と組み合わせれば電池を構成することができこの電

池の起電力を知ってガラス薄膜の内外にできたイオン濃度勾配を知ろうとす

るものである

薄いガラス膜(01mm程度)をはさんで接する2つの溶液のH+イオン濃

度が異なるとその差に応じてガラス膜の両側に電位差(Eg)が現れる

ネルンストの式でガラス電極の内部に入れた既知の濃度のH+([H+]in)に対

し試料中の水素イオン濃度が[H+]sampleのとき次の電位を生じる

)][

][log(059170)

][

][ln(

sample

in

sample

ing

H

H

H

H

F

RTE

(97)

図13ガラス電極

電極を構成するのは銀塩化銀電極と同じ電極で用いる塩溶液は一般的

54

に 01モル塩酸溶液である

この半電池の電池式は次のように書くことができる

Ag(s) | AgCl(s) | HCl (01 M) | ガラス薄膜 || 試料溶液 H+ (x moll)

Eg

この半電池の電極電圧を測定するために銀塩化銀標準電極と組み合わせ

電池を作って起電力を計る

構成される電池は下図のようになる

ガラス電極 銀塩化銀標準電極

図14ガラス電極を用いた pH 測定用の電池

この電池の起電力は次の各半電池の平衡電位を合わせたものになる

55

E1ガラス電極の内側電位

Ag(s) | AgCl(s) | HCl (01 M)

Egガラス薄膜の内外に生じる膜電位

HCl (01 M) | ガラス薄膜 || 試料溶液 H+ (x moll)

E2液間電位(膜電位)銀塩化銀標準電極のセラミックを介した試料溶液

と銀塩化銀標準電極の内部液(飽和 KCl 溶液)の間に発生する電位

試料溶液 H+ (x moll)|| セラミック | KCl(飽和)

E3銀塩化銀標準電極

KCl(飽和)| AgCl(s) | Ag(s)

pH メーター用のガラス電極に使われるガラス薄膜は水素イオンに感応して

膜電位(Eg)を生じるこれは【膜電位】の章で記したように薄膜がある

一つのイオンのみを通過させる特性を持っている場合にイオンが膜を介した

両側で平衡状態に達したとして電気化学ポテンシャルを膜の両側で等しいと

考えてそのイオンが濃厚な側から希薄な側にその差によって圧力を生じると

するものである

一方同じ試料溶液が銀塩化銀標準電極のセラミック液絡部を介して生じ

るだろう液間電位(膜電位E2)はいま関心がある水素イオンに対して特異

的に感応するのではないので試料溶液の水素イオン濃度に関係なく一定と見

なすことができる

すなわちpH メーターを構成する電池の起電力 E は

E = E1+Eg+E2+E3 (98)

このうちEg以外は一定と見なせるので

E1+E2+E3 = E

として式(98)を書き直すと

)][

][log(059170

sample

ing H

HEEEE

(99)

Eは標準液によって校正されるべき標準電極電位である

56

電極の校正

実際のイオン濃度を測定する場合低濃度標準液と高濃度標準液で得られ

る起電力を測定し計測のイオン濃度に対する係数(傾き)を求めておき未

知の試料に対して起電力を測定してそのイオン濃度を算出する方法が採られる

低濃度標準液と高濃度標準液のそれぞれの濃度をCLとCHとすればそれぞ

れの起電力ELとEHは次式で表される EH = E +β logCH (100)

EL = E +β log CL (101)

ただしβは式(99)の係数を簡略にしたものである

式(100)と(101)から検量線の傾きが次式で表せる

ΔE = EH minus EL = β(logCH minus logCL) = β logCH

CL

(102)

したがって係数βは

β =ΔE

log CH

CL

(103)

であらわされる

このときに使われる標準はすでに前出の pH 第一次標準第二次標準溶液で

ある

金属イオンに対応するイオン選択電極

現在臨床検査で日常的に使われている電解質測定のための電極はナトリウ

ムカリウムカルシウムクロールなどおよそ臨床的に必要な金属イオン

に対して入手可能である

カリウムイオン測定用のバリノマイシンの発見によってクラウンエーテルと

57

呼ばれる一連の化合物が知られたクラウンエーテルはその分子の中心に立

体的な空間を持ち特定のイオン径に対し合致するのでそのイオンに対して

選択的に感応するこれらの化合物はイオノフォアと呼ばれる

図 15クラウンエーテル

1つの金属イオンが環状化合物

15-crown-5 の中央にある空間を充填

している模式図

15-crown-5 の構造を作る10個の黒

い丸は炭素炭素2個のつながりごと

にある中心の白い丸は酸素酸素と

金属イオンの間の距離はおよそ 22~

23Åであるカリウムのファンデン

ワールス半径は 135Åイオン半径は

15~16Åである

測定したいイオンに対しポリ塩化ビニル(PVC)を支持体としてイオノフ

ォアを添加した液膜の電極膜を作成しこれをガラス電極におけるガラス薄膜

と同様試料に接する電極膜として用いるこの構造から一般的に液膜型電極

と呼ばれる電極膜には特異性を高めるため妨害イオン排除剤などが添加

される

pH メーターと同様銀塩化銀標準電極と組み合わせ電池を形成しその

起電力を計る測定したいイオンが液膜に対して内外で平衡に達したときの

膜電位を測定するのはガラス電極と同じである

カ リ ウ ム イ オ ン に は Bis[(benzo-15-crown-5) ( 正 式 名 は

Bis[(benzo-15-crown-5)-4-methyl]pimelate)ナトリウムには Bis[(12-crown-4)

やDibenzyl-bis[(12-crown-4)などがイオノフォアとして用いられる

58

図16カリウムイオン測定用に使われるクラウンエーテル

図17ナトリウムイオン測定用に使われるクラウンエーテル

59

参考イオン選択電極に関する文献Xia Z Badr IHA Plummer SL Cullen L

Bachas LG Synthesis and evaluation of a bis(crown ether) ionophore with a

conformationally constained bridge in ione- selective electrodes Anal Sci 14(2)

169-173 1998 Oh K-C Kang EC Cho YL Jeong K-S Y oo E-A Paeng K-J

Potassium-selective PVC membrane electrodes based on newly synthesized

cis- and trans-bis(crown ether)s ibid 14(10)1009-1012 1998 Dojindo WEB

site httpwwwdojindocojpwwwrootproductsjinfo2protocolp31pdf

<補遺> 60

補遺 状態関数 (本文 p21 10 行目参照)

一つの平衡状態にある系 A とこれに接する系 A にとって外部である系 B について系 B

から系 A に熱を与えこれによって系 A が他の平衡状態に移ったとき系 A はその結果とし

て膨張し系 B に対し仕事をする

このときの微少な熱量の移動を記号drsquoQ またなされた微少な仕事をdrsquoW とすると

系Aの内部エネルギーに関する微少な変化drsquoUA は両者の和として表される

WdQdUd A primeminusprime=prime (a-1)

この式 a-1 と本文中の式25との関係について

WQU A Δminus=Δ 本文(25)

<補遺> 61

式 a-1 と式25の記号の違いは変化の起きる前の平衡状態 S1 から変化後の平衡状態 S2

に状態変化があったとするなら式 a-1 を積分することで式25が得られるものと考えて区

別している

A

S

S A UUd Δ=primeint2

1 (a-2)

このことは重要であるすなわち内部エネルギーU は変化の起きる前後の状態を指定する

ことによって値が定まることを意味するこのように積分によって値を定めることが出来る

のでdrsquoU は完全微分であるという

内部エネルギーのように系の状態だけで値の定まる量を状態関数として扱う

一方式 a-1 のdrsquoQ drsquoW についても同様に微少の変化量を表しているが平衡状態 S1

から S2 への経路を指定しなければ積分の値は定まらない

本文中の記号にしたがって仕事量ΔW を次のように表すことにする

VpW Δ=Δ 本文(20) V

<補遺> 62

体積と圧力の関係を表す図を使ってこの仕事量が意味することを考える圧力 prsquo の下で

体積が V1 であるときを状態 S1 として圧力一定の下で体積を V2 まで膨張させるような変

化を行った後体積を等しく保って圧力を p にまで上げたときの状態を S2 とするこのとき

の仕事量は膨張に伴うものであるから図の体積‐圧力線の下の面積で示すことができる

平衡状態 S1 から S2 への変化の道筋を別にたどってみよう

新しい経路では圧力を先に p まで上げた後に膨張変化させている

図から直感的に明らかであるので数式での扱いを省略するが2 つの経路による仕事量には

差がある

すなわちdrsquoW は drsquoU と異なり変化の初め S1 と終わり S2 の状態が与えられても積分値

は定まらず変化の経路によって違ってくる

このように変化の経路を指定しなければ積分値が定まらないものを不完全微分と呼び扱

いを区別する

本文 p21 へ戻る

<補遺> 63

VpW

WQU

VpQU

VpUQ

1122 SSSS pVUpVUQ

pVU

VpUHHHQ SS 12

エンタルピー (本文 p24 20 行目参照)

本文中の式 20 および 25 から一定の圧力の元で起きる状態変化において内部エネルギー

の変化量に対する式 a-3 を得る

本文(20)

本文(25)

(a-3)

式 a-3 を Q について書き直す

(a-4)

状態の変化が平衡状態S1から平衡状態S2に移ったものとして式 a-4を丁寧に書き直すと

(a-5)

並び替えて

(a-6)

式 a-6 を見ると定圧過程における熱量の流入は

(a-7)

の形を持つ関数の差であることが分かる

一般に化学反応のような変化の過程では大気圧の下で行われるようなものに興味がある

そこで式 a-7 で与えられる項を一つの関数として定義するこれをエンタルピーと呼び記

号 H を与える式 a-4 はエンタルピーの変化量で次のように書き改められる

(a-8)

圧力が一定の下で起こる状態変化について流入する熱量は式 a-8 で示されるようにエンタ

ルピーの変化量に等しい

V

V

V

V V

V

V

1212 SSSS VVpUUQ VV

<補遺> 64

1Q

We

また式 a-8 からオートクレーブ内で起こるような体積変化のない過程ではこの値が内

部エネルギーの変化量で与えられることが明らかである

本文 p24 へ戻る

エントロピー (本文 p26 17 行目参照)

エントロピーは次のような思考実験から発想された仮想的な状態関数である

理想気体よりなる系 A が温度 T2で熱平衡状態にあり温度 T1の外部の熱源と接しているこ

とを想定する系 A の外部を系 B と呼ぶことにするT1は T2に対して無限小だけ高い温度と

する

系 A が系 B に対して温度圧力について平衡を保ちながら緩慢に系 B より熱量 Q1を受け取

る過程を考える(このような過程を準静的過程と呼ぶ)これによって系 A が熱量 Q1を得て膨

張するとき系 B に対して仕事をする続いて系 A から熱量 Q2が系 B に戻ることを考える

想定されるこの変化が可逆的であれば系 A と系 B を併せた全体は元の状態に戻る蒸気機

関に関するこのような研究が Nicolas Carnot によってなされたのは1824 年のことであった

ここに想定されたサイクルに対する Carnot の効率 e は移動した熱量となされた仕事によ

って定義され次の式で表される

(b-1)

<補遺> 65

理想気体では内部エネルギーU の変化ΔU はゼロと考えるしたがって熱力学の第一法

則を表す式(本文中の式25)から次の関係が示される

0=Δminus=Δ WQU

WQ Δ= (b-2)

これによってCarnot Cycleの効率eはQ2lt0 として次のように書き改めることが出来る

1

21

QQQe +

= (b-3)

ところで気体の状態方程式から1 モルの気体について次のような関係が示される

RTV

P

P1=

V = RTV (b-4)

V 式 b-4 の両辺に体積の微少変化量ΔV をかけて

(b-5)

これを体積Vについてその変化をV1からV2までとして積分するならば次式が得られる

VV

RTVP Δ=Δ 1V V

V

intint = 2

1

2

1

1V

V

V

VdV

VRTPdV

1V2V

11 lnRTW =

(b-6)

Q1の熱量によって起こる膨張がV1よりV2までとし圧力P温度T1の下でなされるその仕事

量をW1とするならそれは式b-6 の右辺によって示されるすなわち

(b-7)

VV

1

2lnVVRT=

V V

VV

V

V2int V2 intV1 V1

<補遺> 66

またQ2の熱量の移動が圧力P温度T2の下で起きこれによって系Aが可逆的に圧縮され

るなら体積変化はV2よりV1まで起こりその仕事量をW2で示すと次式のように表される

(b-8)

1

22

2

122 lnln

VVRT

VVRTW minus==VV

VV

Q1=W1Q2=W2の関係から式b-7 およびb-8 を用いてCarnot Cycleの効率eを表す式b-3

を書き改めると温度のみの関係式として次のように表される

1

21

TTTe minus

= (b-9)

ここでサイクルが可逆的過程であると想定するならば式 b-3 と式 b-9 から

1

21

1

21

TTT

QQQe minus

=+

= (b-10)

これから

12112111 QTQTQTQT minus=+ (b-11)

整理すると

02

2

1

1 =+TQ

TQ (b-12)

この考えをさらに発展させ系A

と系Bの間に数多くの系を挿入すること

にしてそれらの系を同様に熱源として

T1T2Tnと考えるこれによっ

て熱の受け渡しが系Aから系Bに至り

再び系Aにもどるサイクル過程に数多

くの寄り道の過程を加えることになる

熱量の移動に関して上の場合と同じく

準静的過程で行われると考えるこの

サイクル全過程について初めと終わ

<補遺> 67

n

i i

i

T

Q

1

0

0T

dQ

T

QS

T

dQASAS )()( 12

りが同じ状態になる可逆的な過程であるなら式 b-12 を拡大的に考えることになってそれ

は次式で表される

(b-13)

式 b-13 には重要な関数が現れるすなわち熱量と温度の比QT である

もし一つの系が無限小だけ温度の高い(dT )外界から温度圧力など平衡を保ちなが

ら極めて緩慢な過程(準静的過程)で無限小の熱量(dQ )を受け取るならばその変化は可

逆的でありdT について連続的な温度分布をする過程を考えるとき式 b-13 をさらに発展

させて次のように積分式で示すことが出来る

(b-14)

式 b-14 で積分記号にが付されているのはCarnot Cycle のような経路を一巡することを

意味している

Carnot の熱機関の効率という着想から生まれた熱量とそれを持つ系の温度との比 QT に

重要な意味を見出したのは Rudolph Clausius で彼はこの比にエントロピーという名前を与

えたエントロピーには記号ΔS を一般に用いる

(b-15)

エントロピーは初めと終わりの状態がわかれば過程に関わらず定まるので状態関数であ

系 A と外界のエントロピー変化を考えるときそれが可逆的過程であるならばすべてを併

せた全体のエントロピー変化は初めと終わりに変化がないという意味でゼロであるすなわ

ち初めの状態を S(A1)とし次の状態を S(A2)とするならそれぞれのエントロピーを

ΔS(A1)ΔS(A2)としてこの間におけるエントロピーの変化量は次のように示される

(b-16)

<補遺> 68

T

dQdS

0T

dQ

ある一つの変化については次のように示される

(b-17)

ここで式 b-17 の S に付けられたdは微分量すなわちごく微小の変化量を意味し式 b-15

で定義されたエントロピーに用いられる一般的な記号Δと区別する

ところで式 b-10 の関係においてもし移動した熱量のすべてが仕事に変わらなければ

効率 e を表す熱量を用いた関係式と温度で表される関係式は等号で結ぶことができないそれ

はエネルギーのロスを意味し初めと終わりの状態が異なってしまうことを意味するすなわ

ち全過程が構成する一つのサイクルは可逆的でなくなる

不可逆過程での熱効率 ersquo は 大値を示す可逆的過程の熱効率 e より小さな値をとる

ee

したがって 大効率を与える式 b-8 と式 b-3 から

01221

2112

1

21

1

21

QTQT

QTQT

Q

QQ

T

TT

両辺を T1T2で割ると

02

2

1

1 T

Q

T

Q

これを式 b12 と同様に発展させれば式 b-14 についてサイクルの変化が可逆的過程の

場合と不可逆的過程の場合の両方を併せClausius の不等式と呼ばれる次の関係が成立する

(b-18)

式 b-18 の等号が成立するのはサイクルが可逆的な理想の場合に限られる

ある孤立系で状態 A1 から状態 A2 へは不可逆変化で進められ状態 A2 から再び状態 A1

に戻るとき可逆変化であるような閉じた状態変化を考える可逆系のエントロピー変化には

記号 Q を使い不可逆変化には Q を用いるとするとそれぞれ積分式を用いて状態 A1 から

状態 A2 へは

<補遺> 69

d prime

状態 A2 から状態 A1 に戻るときは

全体では

=d prime

+d

(b-19)

Clausius の不等式から

0

式(b-19)の第二項で反応を逆に進めるときには次のように書き改めることができる

=d

よって式(b-19)は次のように書き直すことができClausius の不等式とあわせると

d prime d

0

すなわち

d prime d

上式の右辺は式(b-16)を用いて表せば

d prime

∆S ∆

この状態変化を微小変化とするならば断熱変化の場合 dQ = 0 であるから

∆S ∆ dS 0

すなわち不可逆変化を含む断熱変化ではエントロピーは必ず増大する

<補遺> 70

T

QS

BA SSS

(b-20)

(次の<補遺>ギブス自由エネルギーも参照せよ)

本文 p26 へ戻る

ギブス自由エネルギー (本文 p28 27 行目参照)

エントロピーの考えを導入することによって不可逆的に状態変化が起きるときにはエン

トロピーの増大を引き起こすことを知ったこれによって目前で起きる現象について温度の

変化があるものであれないものであれまた圧力の変化があるものであってもエントロピー

の定義式によって可逆的な変化におけるエントロピーの変化量を計算することが可能である

(b-15)

しかしながらこれから起こる変化について我々がすでにあらかじめ知っている物理量を

用いて予測的にその状態変化が起きるかどうか知ることは必ずしも容易ではないその理由

は式 b-15 に示されたエントロピーΔS が系とその外界をあわせた全体のエントロピーを示

しているからであるすなわち関心のある系を系 A としその外界を系 B とすると全体

のエントロピーは次のように表せる

(c-1)

関心のある系 A のエントロピー変化を知るためには系 B のそれを知ればよいがそれは

いつも容易とは限らない系 A の性質だけで状態変化の方向を知るには別の観点が必要にな

るようだ

そこでもう一度状態変化が熱量 Q の移動によって起きることについて考えてみようエン

トロピーの補遺で議論したように熱量の移動が準静的過程により行われるときには変化は可

逆的に起こると考えたこのとき外界すなわち系 B から移動する熱量を Q1とし系 A から

0S

<補遺> 71

21 QQ

T

Q

T

QSB

21

T

QSS A

2

QH

T

HSS AA

AA STHST

のそれを Q2 と記号を当てたのでこれをそのまま使うことにすれば可逆的な過程では系 B

の熱量 Q1 はすなわち系 A から戻る Q2 に他ならないので両者には次の関係が成立するも

のとしてよい

(c-2)

したがって

(c-3)

と考えてよくこれによって式 c-1 を次のように書きなおすことが出来る

(c-4)

独立した系で圧力とその体積に変化がなく一定の条件の下で状態変化が起きるときエン

タルピーの考えを使ってすでにひとつの関係があることを導いている

本文(31)

そこで式 c-4 を系のエンタルピーΔHAによって書き改めれば

(c-5)

この両辺に-T をかけて式を書き直せば次の関係式が得られる

(c-6)

式 c-6 を見るときその右辺がマイナスの値ならば左辺のΔS はプラスの値をとることが

分かるすなわちエントロピーが増大すると見ることが出来るこれまでの過程で自然の現

象はエントロピーが増大する方向に進むとしてきたので関心のある状態変化について式 c-6

の右辺で計算される値がマイナスの値ならばその変化は起きるものと考えてよいことになる

だろうしかも右辺はすべて独立した系の状態量で示されていて我々が知りうる値で計算

<補遺> 72

TSHG

STSTHG

STHG

可能である

そこでこれを熱力学ポテンシャルを表すものとしてギブス自由エネルギーと呼ぶことに

するギブス自由エネルギーは記号 G が用いられ次のように定義される

(c-7)

ここで関心があるのは自由エネルギーの絶対値ではなく式 c-6 に示されたようにその変化量

に興味があるので式 c-7 から

(c-8)

温度が一定の条件の下で状態変化が起きることを考えるなら式 c-8 は次のように書くこと

ができる

(c-9)

ギブス自由エネルギーは式 c-9 の右辺がすべて状態量であるからこれも状態量の一つで

ある定圧定温の条件下で起きる変化ではすでに議論したようにΔGlt0 であれば状態

変化は自発的に起きるものと予測できる

つまり式 c-5 の第一項は系のエントロピーΔSAそのものであり第二項で示されるエンタ

ルピーは系 A の温度が一定に保たれているのであるから発熱する熱量として外界に吸収さ

れるものであってこれは外界のエントロピーの増大につながるものとして解釈されるした

がって化学反応のように一定の圧力と一定の温度の下で起きる変化について自由エネルギ

ー変化量はその状態変化が自発的に起きる傾向を示しているといってよい

本文 p28 へ戻る

  • はじめに
  • 目次
  • 電気エネルギー
    • 金属のイオン化
    • 電池
    • 水素の反応
    • 燃料電池
    • 化学反応と電気エネルギー
      • エネルギーと熱力学
        • エネルギー保存則
        • エンタルピー
        • エントロピー13
        • ギブス自由エネルギー
        • 電池における化学反応のギブス自由エネルギー13
        • 理想気体の状態方程式
        • 理想溶液のギブス自由エネルギー
        • 膜電位
          • 水素イオン濃度測定
            • 化学反応の一般的な式
            • pHの定義とその目盛り
            • pH標準液
            • 銀塩化銀参照電極
            • 実用的なpH測定
            • ガラス電極
            • 電極の校正
            • 金属イオンに対応するイオン選択電極
              • 文献
              • 補遺
                • 状態関数
                • エンタルピー
                • エントロピー
                • ギブス自由エネルギー
Page 35: イオン選択電極i イオン選択電極 Ion Selective Electrode (ISE) を理解する ・ pHを測定する ・ NaやKなどのイオン濃度を測定する 神戸大学医学部保健学科

32

そこで式(7)での水を1モル化学合成するときの標準生成エンタルピーΔ

H゜は水素(ガス1モル)と酸素(ガス12 モル)の2つの材料と水(液

体251atm)の両状態における状態量の差として表される

ΔH゜=ΔH゜(H2O)-ΔH゜(H2) -12ΔH゜(O2) (42)

式(42)の右辺第2項と第3項がゼロであるので

ΔH゜=ΔH゜(H2O) =-28583 KJmol (43)

標準状態29815K(25)1atm における水素(ガス)と酸素(ガス)お

よび水(液体)のエントロピーはそれぞれ

ΔS(H2O)=6991 JKmol

ΔS(H2) =13068 JKmol

ΔS(O2) =20514 JKmol

単位で分母のKはケルビン温度の意味

と計算されているので

ΔS=ΔS(H2O)-ΔS (H2) -12ΔS(O2) (44)

=6991-13068-12times20514

=-16334 JKmol

したがって

TΔS=29815times(-16334)=-486998=-4870 KJmol

(45)

そこで標準生成ギブス自由エネルギーΔG゜は式(39)から

-ΔG゜=-(ΔH゜-TΔS) (39)

=-{-28583-(-4870)}

=+23713 KJmol

33

すなわちこのエネルギーを電気エネルギーとして取り出すことができるそ

の起電力は式(41rsquo)から

n FV=-ΔG (41rsquo)

V= -ΔG(n F)

各数値を当てはめれば

V=237130(2times96485)

=1229 volt

先に【化学反応と電気エネルギー】のところで記したとおり25の基準

状態におけるこの電極電位はE゜=+1229 volt が得られているすなわち

こうして標準生成ギブス自由エネルギーから計算することでも同じ値を得る

ことができた

水素を単純に酸素と化合させる燃焼では式(43)で示されるエンタルピ

ーが発生する熱量を示している水素1モルあたり28583 KJである電池

にすれば水素1モルあたり23713 KJの仕事量が電気エネルギーとして取り

出すことができるその差は電池の場合熱が発生して利用できない

化学反応の過程を利用して化学エネルギーから直接電気エネルギーに変換す

るのが電池という装置であるが化学エネルギーは100電気エネルギ

ーに換えることはできないこのようにエネルギーの一部は電池の熱として

発散してしまう

理想気体の状態方程式

ギブス自由エネルギーΔG を定義した式(39)とエンタルピーΔH の定義

式(28)から

ΔG =ΔH-TΔS (39)

ΔH =ΔU +VΔP+ PΔV (28)

そこで次式が得られる

34

ΔG =ΔU+VΔP+ PΔV-TΔS (46)

またエネルギー保存則から得られた式(26)を応用すればギブス自由エ

ネルギーが変形できる

Q =ΔU+PΔV (26)

から

ΔU=Q-PΔV (47)

したがって式(46)は

ΔG = Q-PΔV+VΔP+ PΔV-TΔS

ΔG = Q-TΔS+VΔP (48)

エントロピーの定義からQ=TΔSであるから結局式(48)は

ΔG = VΔP (49)

と表すことができる

成分が混合された気体分子の分子間に働く力をゼロと仮定した「理想気体」を

考えるとき状態方程式としてボイルシャルル(Boyle-Charles)の法則が

利用できる

PV=nRT (50)

ここでnは気体のモル数PVT はそれぞれこれまでと同じ圧力体積温度(ケルビン温度)でありR は気体定数と呼ばれるもので次の値を持

R= 831441 JmolK (51) 単位で分母のKはケルビン温度の意味

35

状態方程式から式(49)の右辺を導くことを考えてみよう式(50)は

1モルの気体について V に対し次のように変形することができる

V 1

PRT (50rsquo)

両辺に圧力の微小変化量⊿P をかけると

PP

RTP V (52)

これを微分方程式として圧力p0 からp1 まで(p0≦p1)積分するなら

1

0

1

0

1

0

1p

p

p

p

p

pdP

PRTdP

P

RTdPV (53)

関数 f(x)=1x を積分したときの関数はF(x)=ln(x)であるので(ln は e を底

とする自然対数loge)

右辺=0

1ln)0ln()1ln(p

pRTpRTpRT (54)

ギブス自由エネルギーを表す式(49)は次のようであったから

ΔG = VΔP (49)

式(52)から得た式(54)を当てはめると状態G0(p0T)からG1(p1T)

へ変化する過程で圧力が p0 から p1 まで変化するものとして

dGG0

G1

G( p1T ) G(p0T ) RT lnp1

p0 (55)

あるいはこれを書き直して

V

36

G(p1 T) = G( p0T ) + RT lnp1p0

(56)

特別にG0(p0T)を標準状態T=29815K(25)p0=1atmに指定する

なら標準生成ギブス自由エネルギーを記号G゜として (56rsquo)

と表すことができる

式(56rsquo)の意味するところは標準状態から圧力の変化を伴う過程で理

G(p1 T) = Go + RT ln p1

想気体のギブス自由エネルギーは圧力の対数に比例して上昇することである

このことはさらに新しい着想を生む

すなわち水素を燃料とする上の燃料電池で1atm 標準状態の水素ガスの圧力

を2atm に上げれば式(56rsquo)からRTln2 余分にギブス自由エネルギー

が取り出せることになる

燃料電池において起電力を生むエネルギーは隔壁を水素イオンもしくは酸

素イオンが浸透しようとする力であるので1atm の水素ガスと2atm のそれで

は浸透しようとする圧力が異なりここに起電力が生じる

式(56)の第二項が圧力の差による仕事であるからこれをΔG とすれば

W=-ΔG の仕事量が電気エネルギーとして取り出せるはずである

W = minusΔG = minusRT lnp1p0

(57)

起電力に換算するために式(41)を使うと

W = n FV=minus ΔG (41)

から

01ln

pp

nFRTV ⎟

⎠⎞

⎜⎝⎛minus= (58)

この式(58)は一般にネルンスト(Nernst)の式と呼ばれる

37

理想溶液のギブス自由エネルギー

理想気体を想定したように無限に希釈された混合溶液に対して理想溶液を仮

定する「系」の圧力温度を一定に保つならば体積内部エネルギーエンタ

ルピーギブス自由エネルギーなどの示量数は混合溶液を構成する物質のモ

ル数mに比例するたとえば標準状態にある物質の1モルの体積をVとすれば

mモルの体積はそのm倍mVであるそうすると溶液中のi番目の成分がmi

モル「系」から「外界」に仕事をするときその成分iの持つ自由エネルギーの

mi倍の仕事が「外界」になされると考えればよい

この溶液成分のモル数と化学的仕事を結びつける示強因子がギブスによって

化学ポテンシャルと名付けられ一般に記号μが用いられる

化学ポテンシャルはこれまで見たようにギブス自由エネルギーで表される

また電位がψ(プサイ)にある系から-Δeの電荷が放出されるときには

-ψΔeの電気的仕事が得られるそこで記号μに両者を合わせた意味を持

たせて「電気化学ポテンシャル」と呼ぶ

概念の上で物質は電気化学ポテンシャルの高い方から低い方へ勾配にした

がって移動する

理想気体の標準状態が気体分圧を T=29815K(25)で 1atm としたのに対

し溶液成分の標準状態はその分圧に相当するモル数 m を用いるすなわち

標準状態にある成分 i の電気化学ポテンシャルμ0iは成分の持つ電荷(H+なら

1)を n として

μ0i = G i゜+nFψ i (59)

ギブス自由エネルギーは式(56rsquo)を借り理想溶液中の成分に対しては気

体圧力をその成分のモル濃度Cに書き換えればよいそこで

G(CT ) G RT lnC (60)

と表すことができる

したがって一般的な成分 i の電気化学ポテンシャルμiを表す式は標準状態

からの自由エネルギーの変化を考え式(59)と合わせて次のようになる

38

ψnFGii 0

式(60)から

ii CRTGTCGG ln)( 0

よって

(61) ψnFCRT iii ln0

実際的なことを考えると成分濃度はその有効イオン濃度とする必要があり

「活量係数」γを導入して次式で表されるイオン活量aを用いる

ai = γCi (62)

一般的にはγ=1と近似してモル濃度Cを使っているこのテキストでも

必要ではない限りイオン活量を用いることを省略して簡単に記述したい

膜電位

燃料電池に使われたナフィオンのような一つのイオンを通す膜を介して膜

の両側にC0 とC1 のイオン濃度差がある溶液が接するときの電気化学ポテン

シャルを考えよう

ある容器の底にナフィオン膜を取り付け容器の中と外のイオン濃度をC0

とC1としそれぞれの電気化学ポテンシャルをそれぞれμinとμoutとする

式(61)を使って

容器の中の電気化学ポテンシャル

(63) innFCRTin ψ 00 ln

容器の外の電気化学ポテンシャル

(64) outout nFCRT ψ 10 ln

イオン浸透性の膜を介して濃度変化が無視できるほどの移動があると考え

その電気化学ポテンシャルの差を式(63)(64)から求めれば

39

)(ln0

1 inoutinout nFC

CRT ψψ (65)

この系において今注目しているイオンが膜を介した両側で平衡状態にある

とき式(65)はΔμ=0と考えることができるすなわち

0)(ln0

1 inoutnFC

CRT ψψ

膜内外の電位差をΔψ=ψoutminus ψinとすれば

1

0

0

1 lnlnC

C

nF

RT

C

C

nF

RTψ (66)

式(66)は理想気体に対するネルンストの式(58)と同様溶液中のイ

オンに対するネルンスト(Nernst)の式として与えられる

細胞の膜においてもその生体膜の内外でたとえばカリウムイオンのように

非対称に分布して平衡に達している場合には式(66)で与えられる膜内外

で電位差が生じるこれは一般に膜電位と呼ばれる膜電位は平衡電位とも

呼ばれる

たとえば膜内外に1価のカリウムイオンに10倍の濃度差があるとすると

通常カリウムイオンは細胞内の濃度が高いので

C0 = 10timesC1

であるから

これを式(66)に当てはめてln(10)=2303 を用いlog への変換をすれば

Δψ=2303times(RTF)timeslog(10)

であるこれに R=831441 JmolKF=96485 CmolT=29815 K(25)

の各数値を当てはめると

Δψ=2303times831441times29815times196485 JC

=+005917 volt

すなわち膜の内外で約+60ミリボルトの膜電位が生じることになるこの

分だけ細胞の外側の電気化学ポテンシャルが高く膜の内側の膜電位が負であ

るそして膜にあるカリウムチャネルがこの電位を示すとき受動的なカリ

40

ウムの膜内外の移動は平衡に達することになる

水素イオン濃度測定

「標準水素電極」は1モル塩酸溶液につけた白金電極に1atm の水素ガスを

吹き込んで平衡状態に達したときの電位を基準としてゼロボルトと規定した

そこである溶液についてその水素イオン濃度を知ろうとするとき同じ水

素電極を用いることを考えれば標準状態にする目的で用いた1モル塩酸溶液

を濃度未知で X モルの塩酸溶液と想定すればその水素イオン濃度を知るこ

とができるだろうか

標準状態ではない X モルの塩酸溶液に浸けた白金電極が半電池として働くこ

とは間違いなさそうであるしかしその白金電極が持つ電極電位を測定する

にはいずれにしても標準電極と組み合わせて「電池」を構成しその電池

の起電力として計る必要がある電池を作れば起電力を知ることができ相

手の半電池の電極電位が知られていれば濃度が未知でXモルの溶液について

その水素イオン濃度を知ることができるだろう

こうした目的のためにいちいちゼロボルトと規定した標準水素電極を用いる

のは煩雑なのでしばしば後出の「銀塩化銀電極」が参照電極として用いら

れる

まず予め「銀塩化銀電極」を標準水素電極と組み合わせて電池とし一度

その起電力を測定しておけば後はいつもそれを標準電極として利用できる

「銀塩化銀電極」の半電池は

H+ (1 moll) Cl- | AgCl | Ag(s)

これに「標準水素電極」を組み合わせ電池を構成すると次のような電池

になる

Pt(s) | H2(g) | H+ (1 moll) Cl- | AgCl | Ag(s)

この電池の起電力を知れば「銀塩化銀電極」の半電池としての電極電位

を知ることができ参照電極として未知の半電池と組み合わせて起電力を測

定して相手の電極電位を計算できる

41

濃度 X モルの塩酸溶液を未知の溶液と想定すればその電極電位を知るために

組み立てる電池は次のようになる図10にその電池の図を示した

Pt(s) | H2(g) | H+ (x moll) Cl- | AgCl | Ag(s)

この電池の全反応は次の反応式で表される

AgCl(s) 1

2H2 (g) H Cl Ag(s) (67)

図10未知溶液の水素イオン濃度を測定しようとするための電池

化学反応の一般的な式

ここで電池に利用される化学反応から得られるエネルギーをギブス自由エ

ネルギーに換算し起電力を具体的に知る手だてとすることは上ですでに学

42

んだがより一般的な式を再度ここに書きだしておこう

化学反応が紙面で左から右に進む反応として次のような一般式で与えられ

るとき

aA + bB rarr cC + dD (68)

ギブス自由エネルギー変化量は標準状態ΔG゜からの変化量を加える形で式

(60)と同様次の式によって表される

G G RT(ln aCc aD

d ln aAa aB

b )

G RT ln

aCc aD

d

aAa aB

b (69)

aAは成分 A のイオン活量であるその他の成分も同じ

得られたエネルギーを電気エネルギーに換えるなら式(41)に習って

次式で表せば

ΔG=-n FV

there4V=-ΔG(nF) (70)

このときの起電力は標準状態における電位 E゜からの変化量として次式で与

えられる

E E

RT

nFln

aCc aD

d

aAa aB

b (71)

標準状態における起電力 E゜は反応が平衡状態にあるときで反応平衡定数

を K とするなら

K aC

c aDd

aAa aB

b (72)

で表されるそこでE゜は次のように書き改めることができる

43

E

RT

nFln K (73)

そこで式(67)で表される図10の電池「水素minus 銀塩化銀電池」に

対する起電力をギブス自由エネルギーから求めてみよう

反応から式(71)に当てはめれば

E E RT

Fln

aH

1 aCl

1 aAg1

aAgCl1 aH2

1

2

(74)

力学の慣例にしたがって固体の純物質の活量は1として扱い水素ガスを

想気体として見なして活量を1atm とするなら式(74)は次のよう

に簡略化される

E E

RT

Flna

H aCl (75)

ころで理想溶液として近似的に取り扱うときの希薄溶液でたとえば水素

入して詳細に検討するなら式( れる起電

オン濃度はイオン活量として aH+の記号を使うときすでに【理想溶液のギ

ブス自由エネルギー】の章で述べたようにこれを有効イオン濃度とする必要

がありイオン活量 a は「活量係数」γを導入して次式で表した

a H+= γH+CH+ (62)

この活量係数を導 75)で誘導さ

を計ることによって経験的に試料溶液中の水素イオン濃度を求めることは

困難である式(75)にあるイオン活量の項はモル濃度 C と活量係数γを

用いて次式で書き改められる

lnaH aCl

lnCH CCl

lnH Cl

(76)

まり式(76)右辺の第二項において互いに相手が知られなければ自分

決めることができず結果的に起電力を知っても(75)の値から水素イオ

ン濃度を導けないここに工夫が必要になる

44

の定義とその目盛り

液中の水素イオン濃度を直接意味するものではなく

を定義するとき測定されるのは1リットルの溶媒に存在す

pH = -log a H+ = -log(γH+CH+) (77)

際に試料溶液の pH を決定する際はpH 標準液を用いる

に溶液を入れ試料溶液 X と pH 標準液 S を

参 極を接続し電池を作成しその起

pH

現在pH の定義は溶

で述べたようにそれが簡便に測定できるものではないため次のように定

義されている

水素イオン濃度

水素イオン活量であるため定義式としては活量係数をγH+として次式で与

えられる

その要領は次のようである

上に図示した水素電極の容器内

れぞれ半電池(I)と(II)に入れる

半電池(I) Pt | H2 (1 atm) | 試料溶液

半電池(II) Pt | H2 (1 atm) | 試料溶液S

照電極として上図のごとく銀塩化銀電

電力を測定する半電池(I)のときの起電力を E(X)半電池(II)のそれを E(S)

とするこのとき試料溶液Xの pH は次式で計算される

pH (X) pH(S) E(S) E(X)

RT ln(10) (78)

ln(10)は自然対数を常用対数に戻すための定数で2303 を用いる

標準液

pH 標準液 S はpH 第一次標準液第二次標準液と呼ばれるべき

る測定

25で pH 4005 を示す

pH

上述した

のであり絶対的測定法である起電力の測定によって値をつける

標準液は安定で純粋な結晶が得られる試薬を調整してこれを測定す

上と同様に水素電極を用いこれに緩衝液を入れる参照電極として銀

塩化銀電極を接続して電池の起電力を測定する

たとえば005 moll フタル酸水素カリウム溶液は

一次標準(Primary Standard PS)の一つである半電池(III)として水素

45

電極を次のように準備する

半電池(III) Pt | H2 (1 atm) | PS 溶液

て電池を形成したとき得られる起電

参照電極として銀塩化銀電極を接続し

は式(75)から

E E

Ag AgCl RT

Flna

H aCl (79)

オン活量を濃度と活量係数の積(a H+= γH+CH+)にし自然対数を常用対数

すれば

E E

Ag AgCl RT ln(10)

F log(

H + CH+ Cl- CCl - ) (80)

E゜は水素標準電極(水素ガス分圧を1atm電極を浸ける溶液に001 moll

H

Cl を用いる)で得た起電力である

式(80)から

RT ln(10)

Flog(

H CH Cl

) (E EAg AgCl )

RT ln(10)

Flog C

Cl

(81)

らに

log(

H CH Cl

) F

RT ln(10)(E E

Ag AgCl ) logCCl

(82)

ころで式(77)から

(γH+CH+) (77)

-log a H+ =-loga H+-log(γCl-) +log(γCl-) =-log(a H+γCl-) +log(γCl-)

(83)の一番右の式で第一項は

pH = -log a H+ = -log

であるが右の式をさらに変形すると

(83)

46

-log(a H+γCl-)=-log(γH+ CH+γCl-) (84)

たがって式(82)の右辺で示されるように電池の起電力を測定すれば

よ 実際には溶液の塩素イオン濃

液で起電力を求め外挿する

起電

これによってpH を意味する式(83)は次式(85)で与えられる

p(aHγCl)はRG Bates によって Acidity Function と呼ばれている

らに式(85)最終項の log(γCl-) を補正しなければならないこの項は

本工業規格)によっても

であってこれは式(82)の左辺である

いただし塩素イオン濃度の項があって

をゼロにしたときの値が必要である

実測する際には塩素イオン濃度をゼロにできないので塩化ナトリウム NaCl

等を濃度を変えて添加しその時々の緩衝

勧告ではNaCl で 000500100015moll の3つの濃度を例示している

すなわち塩素イオン濃度ゼロのときの値は各塩素イオン濃度に対して

の値をそれぞれプロットしグラフから塩素イオンがゼロのときの起電力の

値を3点に対する回帰直線の延長で外挿して求めるこの点を次のように書

log( C H H Cl CCl

0

pa log( C log( (85) H H H Cl C

Cl0 Cl

)

素イオンの活動係数で与えられる補正項である

無限希釈溶液中のイオンの活動係数は理論的に Dubye-Huckel の式を用い

近似的に求めることが可能であるこれはJIS(日

用されていて Bates-Guggenheim の規約と呼ばれる (Bates RG

Guggenheim Pure Appl Chem 1 163-168 1960)

Dubye-Huckel の式は次のように与えられる

log A I

i 1 iB I (86)

47

I iについてそのモル濃度

計算される

はイオン強度でイオン mi と電荷 zi から次式で

I 1

2mizi (87)

また iは(86)式のBは温度と溶媒の性質による定数であり イオンの大

きさに関するパラメータで水和イオンの大きさとほぼ一致した値をとる標

準法の勧告では塩素イオンに対しイオンの大きさを46Åと決めてiBを

1

5 にしているそこで式(84)は次のようになる

ClA I

log 1 15 I

イオン強度 I は塩素イオン濃度を含まない計算となる

以上の方法によって実用的な pH 測定に用いられる第一次第二次標準液の

pH の値が得られる

絶対値としての

はpH の絶対測定法(第一次標準測定法)とされている

銀塩化銀参照電極は分極現象を防ぐために棒状の銀を塩酸で処理し表

に塩化銀を生成させたものを飽和塩化カリウム溶液につけてある

(88)

参考現在は実験的に求めた値と理論値の組み合わせで

素イオン濃度を求める方法を規定しているこの起電力から水素イオン濃度

を知るための測定方法

Buck RP Rondinini S Covington AK Baucke FGK Brett CMA Camoes MF

Milton MJT Mussini T Naumann R Pratt Kw Spitzer P Wilson GS

Measurement of pH definition standards and procedures Pure Appl Chem

74(11)2169-2200 2002Kristensen HB Salomon A Kokholm GInternational

pH scales and certification of pH Anal Chem 63(18) 885A-891A 1991)

銀塩化銀参照電極

電極の構成は

Cl-(aq) | AgCl(s) | Ag(s)

48

この半反応は次のようになる

AgCl(s) + e- rarr Ag(s) + Cl- (89)

の反応は次の2つの反応に分けて考えることができる

Ag+ + e- rarr Ag(s) (91)

AgCl(s)rarr Ag+ + Cl- (90)

図11銀塩化銀参照電極

(90)における銀 る塩素イオンによって左

されることが推測される

そこでカッコ [ ] をそれによって囲まれるイオンの濃度を表すことにし

式 イオン Ag+の溶解性は共存す

塩化銀の乖離定数Kを考えると

49

K = [Ag+][Cl-] (92)

これから

[Ag+]= K[Cl-] (93)

化カリウム溶液に漬けた銀塩化銀電極の電位 E は水素標準電極に対する

電 で与えられる

位を E゜として次式

E E

RT

nF

[ Ag ]

[Ag(s)]ln( )

Ag(s)のイオン活量は常に1とする

ここで半反応の電極電位を求めるために式(75)を利用することにすれば

(94)

熱力学の慣例にしたがって純物質個体

E E

RT

Flna

H Cl a (75)

式 の半反応をみると

応で電子1つが移動するので n=1 とするR=831441 JmolK1F = 96485

C はめれば

これに銀イオンの濃度として式(93)を当てはめる

この反応で移動する電子は (89) 銀イオン1つの反

molT=29815K(25)ln(10)=2303などの定数を当て

2303RTF = 005917

であるから(94)式は次のように表現できる

log[Cl]) E E 005917(logK (95)

たがって標準水素電極に対する銀塩化銀参照電極の標準状態における電

位 は半反応(89)に対して ゜=+0799で

化銀の乖離定数 K は182times10-10 であるのでその対数を取れば-973993

0799-005917times973993-005917log[Cl-]

E゜ E ある

ある

そこで式(95)は

E =

50

= 0799-0576-005917log[Cl-]

= 0223-005917log[Cl-] (96)

電極電位の関係について実測値

こうして求めた塩化カリウム溶液の濃度と

計算上の値は次のようである

KCl moll vs SHE volt25 計算値 volt25 01 02881 02822 35 0205 01908 飽和 0199 minus

実用 測定

実際の現場で水素イオン濃度を測定する目的の測定法で上のような2つの

極が同じ溶液に浸かっていたのでは試料溶液を交換するにも便利ではない

の容器に入れる未知試料溶液と銀塩化銀電極を隔離する

的な pH

そこで水素電極側

的で二つの電極容器をつなぐ液絡部をグラスフィルターやセラミック板

飽和塩化カリウムで作成したゼラチンなどの塩橋によって隔離遮断するこ

れを液絡部とよぶ

電池として機能するために必要な溶液イオンの交換はこの液絡部で行う

組み立てる電池は電池式で次のように表される

Pt(s) | H2 | 試料 (H+ x moll) || 飽和 KCl | AgCl | Ag(s)

の標準電極と銀塩化銀電極とは区切られていて溶液の直接の接触がない

とを意味するために電池式ではタテ二重線を用いる銀塩化銀参照電極

の容器には飽和塩化カリウム溶液が入れられる

51

図12液絡部のある pH 測定のための電池

この液絡部のある電池では塩橋を記号lsquo | | rsquoで表して次のように記す

試料 (H+ x moll) | | 飽和 KCl

ここでは試料溶液と飽和塩化カリウム溶液の異なる2液が接している

このような界面では膜電力が生じるのと同様「液間電位差」が生じることが

知られているしたがって上の電池で測定される起電力 E は

E = E[銀塩化銀電極電位]+E[液間電位]+E[水素電極電位]

で与えられることになってE[液間電位]のために図12の電池の起電力

は銀塩化銀参照電極の値を知っていても水素電極容器内に入れた未知溶

液の水素イオン濃度を正しく知ることができない

52

そこで実用的な測定法としてこの E[液間電位]を膜電位として積極的に利

用する方法が工夫されたすなわち水素イオンに感応するガラス薄膜を用い

るガラス電極法である

53

ガラス電極

ガラスはケイ素原子と酸素原子からなる SiO4 の結晶構造を持ち酸素で囲

まれた空隙があって水素イオンがそれを埋めることができる

この性質によってガラス膜表面は水溶液中の水素イオンに応じて膜電位を

変化させるのでこれを水素イオン濃度測定用の電極として利用することが考

えられるこれが通常用いられるガラス電極である

ガラス電極は標準電極と組み合わせれば電池を構成することができこの電

池の起電力を知ってガラス薄膜の内外にできたイオン濃度勾配を知ろうとす

るものである

薄いガラス膜(01mm程度)をはさんで接する2つの溶液のH+イオン濃

度が異なるとその差に応じてガラス膜の両側に電位差(Eg)が現れる

ネルンストの式でガラス電極の内部に入れた既知の濃度のH+([H+]in)に対

し試料中の水素イオン濃度が[H+]sampleのとき次の電位を生じる

)][

][log(059170)

][

][ln(

sample

in

sample

ing

H

H

H

H

F

RTE

(97)

図13ガラス電極

電極を構成するのは銀塩化銀電極と同じ電極で用いる塩溶液は一般的

54

に 01モル塩酸溶液である

この半電池の電池式は次のように書くことができる

Ag(s) | AgCl(s) | HCl (01 M) | ガラス薄膜 || 試料溶液 H+ (x moll)

Eg

この半電池の電極電圧を測定するために銀塩化銀標準電極と組み合わせ

電池を作って起電力を計る

構成される電池は下図のようになる

ガラス電極 銀塩化銀標準電極

図14ガラス電極を用いた pH 測定用の電池

この電池の起電力は次の各半電池の平衡電位を合わせたものになる

55

E1ガラス電極の内側電位

Ag(s) | AgCl(s) | HCl (01 M)

Egガラス薄膜の内外に生じる膜電位

HCl (01 M) | ガラス薄膜 || 試料溶液 H+ (x moll)

E2液間電位(膜電位)銀塩化銀標準電極のセラミックを介した試料溶液

と銀塩化銀標準電極の内部液(飽和 KCl 溶液)の間に発生する電位

試料溶液 H+ (x moll)|| セラミック | KCl(飽和)

E3銀塩化銀標準電極

KCl(飽和)| AgCl(s) | Ag(s)

pH メーター用のガラス電極に使われるガラス薄膜は水素イオンに感応して

膜電位(Eg)を生じるこれは【膜電位】の章で記したように薄膜がある

一つのイオンのみを通過させる特性を持っている場合にイオンが膜を介した

両側で平衡状態に達したとして電気化学ポテンシャルを膜の両側で等しいと

考えてそのイオンが濃厚な側から希薄な側にその差によって圧力を生じると

するものである

一方同じ試料溶液が銀塩化銀標準電極のセラミック液絡部を介して生じ

るだろう液間電位(膜電位E2)はいま関心がある水素イオンに対して特異

的に感応するのではないので試料溶液の水素イオン濃度に関係なく一定と見

なすことができる

すなわちpH メーターを構成する電池の起電力 E は

E = E1+Eg+E2+E3 (98)

このうちEg以外は一定と見なせるので

E1+E2+E3 = E

として式(98)を書き直すと

)][

][log(059170

sample

ing H

HEEEE

(99)

Eは標準液によって校正されるべき標準電極電位である

56

電極の校正

実際のイオン濃度を測定する場合低濃度標準液と高濃度標準液で得られ

る起電力を測定し計測のイオン濃度に対する係数(傾き)を求めておき未

知の試料に対して起電力を測定してそのイオン濃度を算出する方法が採られる

低濃度標準液と高濃度標準液のそれぞれの濃度をCLとCHとすればそれぞ

れの起電力ELとEHは次式で表される EH = E +β logCH (100)

EL = E +β log CL (101)

ただしβは式(99)の係数を簡略にしたものである

式(100)と(101)から検量線の傾きが次式で表せる

ΔE = EH minus EL = β(logCH minus logCL) = β logCH

CL

(102)

したがって係数βは

β =ΔE

log CH

CL

(103)

であらわされる

このときに使われる標準はすでに前出の pH 第一次標準第二次標準溶液で

ある

金属イオンに対応するイオン選択電極

現在臨床検査で日常的に使われている電解質測定のための電極はナトリウ

ムカリウムカルシウムクロールなどおよそ臨床的に必要な金属イオン

に対して入手可能である

カリウムイオン測定用のバリノマイシンの発見によってクラウンエーテルと

57

呼ばれる一連の化合物が知られたクラウンエーテルはその分子の中心に立

体的な空間を持ち特定のイオン径に対し合致するのでそのイオンに対して

選択的に感応するこれらの化合物はイオノフォアと呼ばれる

図 15クラウンエーテル

1つの金属イオンが環状化合物

15-crown-5 の中央にある空間を充填

している模式図

15-crown-5 の構造を作る10個の黒

い丸は炭素炭素2個のつながりごと

にある中心の白い丸は酸素酸素と

金属イオンの間の距離はおよそ 22~

23Åであるカリウムのファンデン

ワールス半径は 135Åイオン半径は

15~16Åである

測定したいイオンに対しポリ塩化ビニル(PVC)を支持体としてイオノフ

ォアを添加した液膜の電極膜を作成しこれをガラス電極におけるガラス薄膜

と同様試料に接する電極膜として用いるこの構造から一般的に液膜型電極

と呼ばれる電極膜には特異性を高めるため妨害イオン排除剤などが添加

される

pH メーターと同様銀塩化銀標準電極と組み合わせ電池を形成しその

起電力を計る測定したいイオンが液膜に対して内外で平衡に達したときの

膜電位を測定するのはガラス電極と同じである

カ リ ウ ム イ オ ン に は Bis[(benzo-15-crown-5) ( 正 式 名 は

Bis[(benzo-15-crown-5)-4-methyl]pimelate)ナトリウムには Bis[(12-crown-4)

やDibenzyl-bis[(12-crown-4)などがイオノフォアとして用いられる

58

図16カリウムイオン測定用に使われるクラウンエーテル

図17ナトリウムイオン測定用に使われるクラウンエーテル

59

参考イオン選択電極に関する文献Xia Z Badr IHA Plummer SL Cullen L

Bachas LG Synthesis and evaluation of a bis(crown ether) ionophore with a

conformationally constained bridge in ione- selective electrodes Anal Sci 14(2)

169-173 1998 Oh K-C Kang EC Cho YL Jeong K-S Y oo E-A Paeng K-J

Potassium-selective PVC membrane electrodes based on newly synthesized

cis- and trans-bis(crown ether)s ibid 14(10)1009-1012 1998 Dojindo WEB

site httpwwwdojindocojpwwwrootproductsjinfo2protocolp31pdf

<補遺> 60

補遺 状態関数 (本文 p21 10 行目参照)

一つの平衡状態にある系 A とこれに接する系 A にとって外部である系 B について系 B

から系 A に熱を与えこれによって系 A が他の平衡状態に移ったとき系 A はその結果とし

て膨張し系 B に対し仕事をする

このときの微少な熱量の移動を記号drsquoQ またなされた微少な仕事をdrsquoW とすると

系Aの内部エネルギーに関する微少な変化drsquoUA は両者の和として表される

WdQdUd A primeminusprime=prime (a-1)

この式 a-1 と本文中の式25との関係について

WQU A Δminus=Δ 本文(25)

<補遺> 61

式 a-1 と式25の記号の違いは変化の起きる前の平衡状態 S1 から変化後の平衡状態 S2

に状態変化があったとするなら式 a-1 を積分することで式25が得られるものと考えて区

別している

A

S

S A UUd Δ=primeint2

1 (a-2)

このことは重要であるすなわち内部エネルギーU は変化の起きる前後の状態を指定する

ことによって値が定まることを意味するこのように積分によって値を定めることが出来る

のでdrsquoU は完全微分であるという

内部エネルギーのように系の状態だけで値の定まる量を状態関数として扱う

一方式 a-1 のdrsquoQ drsquoW についても同様に微少の変化量を表しているが平衡状態 S1

から S2 への経路を指定しなければ積分の値は定まらない

本文中の記号にしたがって仕事量ΔW を次のように表すことにする

VpW Δ=Δ 本文(20) V

<補遺> 62

体積と圧力の関係を表す図を使ってこの仕事量が意味することを考える圧力 prsquo の下で

体積が V1 であるときを状態 S1 として圧力一定の下で体積を V2 まで膨張させるような変

化を行った後体積を等しく保って圧力を p にまで上げたときの状態を S2 とするこのとき

の仕事量は膨張に伴うものであるから図の体積‐圧力線の下の面積で示すことができる

平衡状態 S1 から S2 への変化の道筋を別にたどってみよう

新しい経路では圧力を先に p まで上げた後に膨張変化させている

図から直感的に明らかであるので数式での扱いを省略するが2 つの経路による仕事量には

差がある

すなわちdrsquoW は drsquoU と異なり変化の初め S1 と終わり S2 の状態が与えられても積分値

は定まらず変化の経路によって違ってくる

このように変化の経路を指定しなければ積分値が定まらないものを不完全微分と呼び扱

いを区別する

本文 p21 へ戻る

<補遺> 63

VpW

WQU

VpQU

VpUQ

1122 SSSS pVUpVUQ

pVU

VpUHHHQ SS 12

エンタルピー (本文 p24 20 行目参照)

本文中の式 20 および 25 から一定の圧力の元で起きる状態変化において内部エネルギー

の変化量に対する式 a-3 を得る

本文(20)

本文(25)

(a-3)

式 a-3 を Q について書き直す

(a-4)

状態の変化が平衡状態S1から平衡状態S2に移ったものとして式 a-4を丁寧に書き直すと

(a-5)

並び替えて

(a-6)

式 a-6 を見ると定圧過程における熱量の流入は

(a-7)

の形を持つ関数の差であることが分かる

一般に化学反応のような変化の過程では大気圧の下で行われるようなものに興味がある

そこで式 a-7 で与えられる項を一つの関数として定義するこれをエンタルピーと呼び記

号 H を与える式 a-4 はエンタルピーの変化量で次のように書き改められる

(a-8)

圧力が一定の下で起こる状態変化について流入する熱量は式 a-8 で示されるようにエンタ

ルピーの変化量に等しい

V

V

V

V V

V

V

1212 SSSS VVpUUQ VV

<補遺> 64

1Q

We

また式 a-8 からオートクレーブ内で起こるような体積変化のない過程ではこの値が内

部エネルギーの変化量で与えられることが明らかである

本文 p24 へ戻る

エントロピー (本文 p26 17 行目参照)

エントロピーは次のような思考実験から発想された仮想的な状態関数である

理想気体よりなる系 A が温度 T2で熱平衡状態にあり温度 T1の外部の熱源と接しているこ

とを想定する系 A の外部を系 B と呼ぶことにするT1は T2に対して無限小だけ高い温度と

する

系 A が系 B に対して温度圧力について平衡を保ちながら緩慢に系 B より熱量 Q1を受け取

る過程を考える(このような過程を準静的過程と呼ぶ)これによって系 A が熱量 Q1を得て膨

張するとき系 B に対して仕事をする続いて系 A から熱量 Q2が系 B に戻ることを考える

想定されるこの変化が可逆的であれば系 A と系 B を併せた全体は元の状態に戻る蒸気機

関に関するこのような研究が Nicolas Carnot によってなされたのは1824 年のことであった

ここに想定されたサイクルに対する Carnot の効率 e は移動した熱量となされた仕事によ

って定義され次の式で表される

(b-1)

<補遺> 65

理想気体では内部エネルギーU の変化ΔU はゼロと考えるしたがって熱力学の第一法

則を表す式(本文中の式25)から次の関係が示される

0=Δminus=Δ WQU

WQ Δ= (b-2)

これによってCarnot Cycleの効率eはQ2lt0 として次のように書き改めることが出来る

1

21

QQQe +

= (b-3)

ところで気体の状態方程式から1 モルの気体について次のような関係が示される

RTV

P

P1=

V = RTV (b-4)

V 式 b-4 の両辺に体積の微少変化量ΔV をかけて

(b-5)

これを体積Vについてその変化をV1からV2までとして積分するならば次式が得られる

VV

RTVP Δ=Δ 1V V

V

intint = 2

1

2

1

1V

V

V

VdV

VRTPdV

1V2V

11 lnRTW =

(b-6)

Q1の熱量によって起こる膨張がV1よりV2までとし圧力P温度T1の下でなされるその仕事

量をW1とするならそれは式b-6 の右辺によって示されるすなわち

(b-7)

VV

1

2lnVVRT=

V V

VV

V

V2int V2 intV1 V1

<補遺> 66

またQ2の熱量の移動が圧力P温度T2の下で起きこれによって系Aが可逆的に圧縮され

るなら体積変化はV2よりV1まで起こりその仕事量をW2で示すと次式のように表される

(b-8)

1

22

2

122 lnln

VVRT

VVRTW minus==VV

VV

Q1=W1Q2=W2の関係から式b-7 およびb-8 を用いてCarnot Cycleの効率eを表す式b-3

を書き改めると温度のみの関係式として次のように表される

1

21

TTTe minus

= (b-9)

ここでサイクルが可逆的過程であると想定するならば式 b-3 と式 b-9 から

1

21

1

21

TTT

QQQe minus

=+

= (b-10)

これから

12112111 QTQTQTQT minus=+ (b-11)

整理すると

02

2

1

1 =+TQ

TQ (b-12)

この考えをさらに発展させ系A

と系Bの間に数多くの系を挿入すること

にしてそれらの系を同様に熱源として

T1T2Tnと考えるこれによっ

て熱の受け渡しが系Aから系Bに至り

再び系Aにもどるサイクル過程に数多

くの寄り道の過程を加えることになる

熱量の移動に関して上の場合と同じく

準静的過程で行われると考えるこの

サイクル全過程について初めと終わ

<補遺> 67

n

i i

i

T

Q

1

0

0T

dQ

T

QS

T

dQASAS )()( 12

りが同じ状態になる可逆的な過程であるなら式 b-12 を拡大的に考えることになってそれ

は次式で表される

(b-13)

式 b-13 には重要な関数が現れるすなわち熱量と温度の比QT である

もし一つの系が無限小だけ温度の高い(dT )外界から温度圧力など平衡を保ちなが

ら極めて緩慢な過程(準静的過程)で無限小の熱量(dQ )を受け取るならばその変化は可

逆的でありdT について連続的な温度分布をする過程を考えるとき式 b-13 をさらに発展

させて次のように積分式で示すことが出来る

(b-14)

式 b-14 で積分記号にが付されているのはCarnot Cycle のような経路を一巡することを

意味している

Carnot の熱機関の効率という着想から生まれた熱量とそれを持つ系の温度との比 QT に

重要な意味を見出したのは Rudolph Clausius で彼はこの比にエントロピーという名前を与

えたエントロピーには記号ΔS を一般に用いる

(b-15)

エントロピーは初めと終わりの状態がわかれば過程に関わらず定まるので状態関数であ

系 A と外界のエントロピー変化を考えるときそれが可逆的過程であるならばすべてを併

せた全体のエントロピー変化は初めと終わりに変化がないという意味でゼロであるすなわ

ち初めの状態を S(A1)とし次の状態を S(A2)とするならそれぞれのエントロピーを

ΔS(A1)ΔS(A2)としてこの間におけるエントロピーの変化量は次のように示される

(b-16)

<補遺> 68

T

dQdS

0T

dQ

ある一つの変化については次のように示される

(b-17)

ここで式 b-17 の S に付けられたdは微分量すなわちごく微小の変化量を意味し式 b-15

で定義されたエントロピーに用いられる一般的な記号Δと区別する

ところで式 b-10 の関係においてもし移動した熱量のすべてが仕事に変わらなければ

効率 e を表す熱量を用いた関係式と温度で表される関係式は等号で結ぶことができないそれ

はエネルギーのロスを意味し初めと終わりの状態が異なってしまうことを意味するすなわ

ち全過程が構成する一つのサイクルは可逆的でなくなる

不可逆過程での熱効率 ersquo は 大値を示す可逆的過程の熱効率 e より小さな値をとる

ee

したがって 大効率を与える式 b-8 と式 b-3 から

01221

2112

1

21

1

21

QTQT

QTQT

Q

QQ

T

TT

両辺を T1T2で割ると

02

2

1

1 T

Q

T

Q

これを式 b12 と同様に発展させれば式 b-14 についてサイクルの変化が可逆的過程の

場合と不可逆的過程の場合の両方を併せClausius の不等式と呼ばれる次の関係が成立する

(b-18)

式 b-18 の等号が成立するのはサイクルが可逆的な理想の場合に限られる

ある孤立系で状態 A1 から状態 A2 へは不可逆変化で進められ状態 A2 から再び状態 A1

に戻るとき可逆変化であるような閉じた状態変化を考える可逆系のエントロピー変化には

記号 Q を使い不可逆変化には Q を用いるとするとそれぞれ積分式を用いて状態 A1 から

状態 A2 へは

<補遺> 69

d prime

状態 A2 から状態 A1 に戻るときは

全体では

=d prime

+d

(b-19)

Clausius の不等式から

0

式(b-19)の第二項で反応を逆に進めるときには次のように書き改めることができる

=d

よって式(b-19)は次のように書き直すことができClausius の不等式とあわせると

d prime d

0

すなわち

d prime d

上式の右辺は式(b-16)を用いて表せば

d prime

∆S ∆

この状態変化を微小変化とするならば断熱変化の場合 dQ = 0 であるから

∆S ∆ dS 0

すなわち不可逆変化を含む断熱変化ではエントロピーは必ず増大する

<補遺> 70

T

QS

BA SSS

(b-20)

(次の<補遺>ギブス自由エネルギーも参照せよ)

本文 p26 へ戻る

ギブス自由エネルギー (本文 p28 27 行目参照)

エントロピーの考えを導入することによって不可逆的に状態変化が起きるときにはエン

トロピーの増大を引き起こすことを知ったこれによって目前で起きる現象について温度の

変化があるものであれないものであれまた圧力の変化があるものであってもエントロピー

の定義式によって可逆的な変化におけるエントロピーの変化量を計算することが可能である

(b-15)

しかしながらこれから起こる変化について我々がすでにあらかじめ知っている物理量を

用いて予測的にその状態変化が起きるかどうか知ることは必ずしも容易ではないその理由

は式 b-15 に示されたエントロピーΔS が系とその外界をあわせた全体のエントロピーを示

しているからであるすなわち関心のある系を系 A としその外界を系 B とすると全体

のエントロピーは次のように表せる

(c-1)

関心のある系 A のエントロピー変化を知るためには系 B のそれを知ればよいがそれは

いつも容易とは限らない系 A の性質だけで状態変化の方向を知るには別の観点が必要にな

るようだ

そこでもう一度状態変化が熱量 Q の移動によって起きることについて考えてみようエン

トロピーの補遺で議論したように熱量の移動が準静的過程により行われるときには変化は可

逆的に起こると考えたこのとき外界すなわち系 B から移動する熱量を Q1とし系 A から

0S

<補遺> 71

21 QQ

T

Q

T

QSB

21

T

QSS A

2

QH

T

HSS AA

AA STHST

のそれを Q2 と記号を当てたのでこれをそのまま使うことにすれば可逆的な過程では系 B

の熱量 Q1 はすなわち系 A から戻る Q2 に他ならないので両者には次の関係が成立するも

のとしてよい

(c-2)

したがって

(c-3)

と考えてよくこれによって式 c-1 を次のように書きなおすことが出来る

(c-4)

独立した系で圧力とその体積に変化がなく一定の条件の下で状態変化が起きるときエン

タルピーの考えを使ってすでにひとつの関係があることを導いている

本文(31)

そこで式 c-4 を系のエンタルピーΔHAによって書き改めれば

(c-5)

この両辺に-T をかけて式を書き直せば次の関係式が得られる

(c-6)

式 c-6 を見るときその右辺がマイナスの値ならば左辺のΔS はプラスの値をとることが

分かるすなわちエントロピーが増大すると見ることが出来るこれまでの過程で自然の現

象はエントロピーが増大する方向に進むとしてきたので関心のある状態変化について式 c-6

の右辺で計算される値がマイナスの値ならばその変化は起きるものと考えてよいことになる

だろうしかも右辺はすべて独立した系の状態量で示されていて我々が知りうる値で計算

<補遺> 72

TSHG

STSTHG

STHG

可能である

そこでこれを熱力学ポテンシャルを表すものとしてギブス自由エネルギーと呼ぶことに

するギブス自由エネルギーは記号 G が用いられ次のように定義される

(c-7)

ここで関心があるのは自由エネルギーの絶対値ではなく式 c-6 に示されたようにその変化量

に興味があるので式 c-7 から

(c-8)

温度が一定の条件の下で状態変化が起きることを考えるなら式 c-8 は次のように書くこと

ができる

(c-9)

ギブス自由エネルギーは式 c-9 の右辺がすべて状態量であるからこれも状態量の一つで

ある定圧定温の条件下で起きる変化ではすでに議論したようにΔGlt0 であれば状態

変化は自発的に起きるものと予測できる

つまり式 c-5 の第一項は系のエントロピーΔSAそのものであり第二項で示されるエンタ

ルピーは系 A の温度が一定に保たれているのであるから発熱する熱量として外界に吸収さ

れるものであってこれは外界のエントロピーの増大につながるものとして解釈されるした

がって化学反応のように一定の圧力と一定の温度の下で起きる変化について自由エネルギ

ー変化量はその状態変化が自発的に起きる傾向を示しているといってよい

本文 p28 へ戻る

  • はじめに
  • 目次
  • 電気エネルギー
    • 金属のイオン化
    • 電池
    • 水素の反応
    • 燃料電池
    • 化学反応と電気エネルギー
      • エネルギーと熱力学
        • エネルギー保存則
        • エンタルピー
        • エントロピー13
        • ギブス自由エネルギー
        • 電池における化学反応のギブス自由エネルギー13
        • 理想気体の状態方程式
        • 理想溶液のギブス自由エネルギー
        • 膜電位
          • 水素イオン濃度測定
            • 化学反応の一般的な式
            • pHの定義とその目盛り
            • pH標準液
            • 銀塩化銀参照電極
            • 実用的なpH測定
            • ガラス電極
            • 電極の校正
            • 金属イオンに対応するイオン選択電極
              • 文献
              • 補遺
                • 状態関数
                • エンタルピー
                • エントロピー
                • ギブス自由エネルギー
Page 36: イオン選択電極i イオン選択電極 Ion Selective Electrode (ISE) を理解する ・ pHを測定する ・ NaやKなどのイオン濃度を測定する 神戸大学医学部保健学科

33

すなわちこのエネルギーを電気エネルギーとして取り出すことができるそ

の起電力は式(41rsquo)から

n FV=-ΔG (41rsquo)

V= -ΔG(n F)

各数値を当てはめれば

V=237130(2times96485)

=1229 volt

先に【化学反応と電気エネルギー】のところで記したとおり25の基準

状態におけるこの電極電位はE゜=+1229 volt が得られているすなわち

こうして標準生成ギブス自由エネルギーから計算することでも同じ値を得る

ことができた

水素を単純に酸素と化合させる燃焼では式(43)で示されるエンタルピ

ーが発生する熱量を示している水素1モルあたり28583 KJである電池

にすれば水素1モルあたり23713 KJの仕事量が電気エネルギーとして取り

出すことができるその差は電池の場合熱が発生して利用できない

化学反応の過程を利用して化学エネルギーから直接電気エネルギーに変換す

るのが電池という装置であるが化学エネルギーは100電気エネルギ

ーに換えることはできないこのようにエネルギーの一部は電池の熱として

発散してしまう

理想気体の状態方程式

ギブス自由エネルギーΔG を定義した式(39)とエンタルピーΔH の定義

式(28)から

ΔG =ΔH-TΔS (39)

ΔH =ΔU +VΔP+ PΔV (28)

そこで次式が得られる

34

ΔG =ΔU+VΔP+ PΔV-TΔS (46)

またエネルギー保存則から得られた式(26)を応用すればギブス自由エ

ネルギーが変形できる

Q =ΔU+PΔV (26)

から

ΔU=Q-PΔV (47)

したがって式(46)は

ΔG = Q-PΔV+VΔP+ PΔV-TΔS

ΔG = Q-TΔS+VΔP (48)

エントロピーの定義からQ=TΔSであるから結局式(48)は

ΔG = VΔP (49)

と表すことができる

成分が混合された気体分子の分子間に働く力をゼロと仮定した「理想気体」を

考えるとき状態方程式としてボイルシャルル(Boyle-Charles)の法則が

利用できる

PV=nRT (50)

ここでnは気体のモル数PVT はそれぞれこれまでと同じ圧力体積温度(ケルビン温度)でありR は気体定数と呼ばれるもので次の値を持

R= 831441 JmolK (51) 単位で分母のKはケルビン温度の意味

35

状態方程式から式(49)の右辺を導くことを考えてみよう式(50)は

1モルの気体について V に対し次のように変形することができる

V 1

PRT (50rsquo)

両辺に圧力の微小変化量⊿P をかけると

PP

RTP V (52)

これを微分方程式として圧力p0 からp1 まで(p0≦p1)積分するなら

1

0

1

0

1

0

1p

p

p

p

p

pdP

PRTdP

P

RTdPV (53)

関数 f(x)=1x を積分したときの関数はF(x)=ln(x)であるので(ln は e を底

とする自然対数loge)

右辺=0

1ln)0ln()1ln(p

pRTpRTpRT (54)

ギブス自由エネルギーを表す式(49)は次のようであったから

ΔG = VΔP (49)

式(52)から得た式(54)を当てはめると状態G0(p0T)からG1(p1T)

へ変化する過程で圧力が p0 から p1 まで変化するものとして

dGG0

G1

G( p1T ) G(p0T ) RT lnp1

p0 (55)

あるいはこれを書き直して

V

36

G(p1 T) = G( p0T ) + RT lnp1p0

(56)

特別にG0(p0T)を標準状態T=29815K(25)p0=1atmに指定する

なら標準生成ギブス自由エネルギーを記号G゜として (56rsquo)

と表すことができる

式(56rsquo)の意味するところは標準状態から圧力の変化を伴う過程で理

G(p1 T) = Go + RT ln p1

想気体のギブス自由エネルギーは圧力の対数に比例して上昇することである

このことはさらに新しい着想を生む

すなわち水素を燃料とする上の燃料電池で1atm 標準状態の水素ガスの圧力

を2atm に上げれば式(56rsquo)からRTln2 余分にギブス自由エネルギー

が取り出せることになる

燃料電池において起電力を生むエネルギーは隔壁を水素イオンもしくは酸

素イオンが浸透しようとする力であるので1atm の水素ガスと2atm のそれで

は浸透しようとする圧力が異なりここに起電力が生じる

式(56)の第二項が圧力の差による仕事であるからこれをΔG とすれば

W=-ΔG の仕事量が電気エネルギーとして取り出せるはずである

W = minusΔG = minusRT lnp1p0

(57)

起電力に換算するために式(41)を使うと

W = n FV=minus ΔG (41)

から

01ln

pp

nFRTV ⎟

⎠⎞

⎜⎝⎛minus= (58)

この式(58)は一般にネルンスト(Nernst)の式と呼ばれる

37

理想溶液のギブス自由エネルギー

理想気体を想定したように無限に希釈された混合溶液に対して理想溶液を仮

定する「系」の圧力温度を一定に保つならば体積内部エネルギーエンタ

ルピーギブス自由エネルギーなどの示量数は混合溶液を構成する物質のモ

ル数mに比例するたとえば標準状態にある物質の1モルの体積をVとすれば

mモルの体積はそのm倍mVであるそうすると溶液中のi番目の成分がmi

モル「系」から「外界」に仕事をするときその成分iの持つ自由エネルギーの

mi倍の仕事が「外界」になされると考えればよい

この溶液成分のモル数と化学的仕事を結びつける示強因子がギブスによって

化学ポテンシャルと名付けられ一般に記号μが用いられる

化学ポテンシャルはこれまで見たようにギブス自由エネルギーで表される

また電位がψ(プサイ)にある系から-Δeの電荷が放出されるときには

-ψΔeの電気的仕事が得られるそこで記号μに両者を合わせた意味を持

たせて「電気化学ポテンシャル」と呼ぶ

概念の上で物質は電気化学ポテンシャルの高い方から低い方へ勾配にした

がって移動する

理想気体の標準状態が気体分圧を T=29815K(25)で 1atm としたのに対

し溶液成分の標準状態はその分圧に相当するモル数 m を用いるすなわち

標準状態にある成分 i の電気化学ポテンシャルμ0iは成分の持つ電荷(H+なら

1)を n として

μ0i = G i゜+nFψ i (59)

ギブス自由エネルギーは式(56rsquo)を借り理想溶液中の成分に対しては気

体圧力をその成分のモル濃度Cに書き換えればよいそこで

G(CT ) G RT lnC (60)

と表すことができる

したがって一般的な成分 i の電気化学ポテンシャルμiを表す式は標準状態

からの自由エネルギーの変化を考え式(59)と合わせて次のようになる

38

ψnFGii 0

式(60)から

ii CRTGTCGG ln)( 0

よって

(61) ψnFCRT iii ln0

実際的なことを考えると成分濃度はその有効イオン濃度とする必要があり

「活量係数」γを導入して次式で表されるイオン活量aを用いる

ai = γCi (62)

一般的にはγ=1と近似してモル濃度Cを使っているこのテキストでも

必要ではない限りイオン活量を用いることを省略して簡単に記述したい

膜電位

燃料電池に使われたナフィオンのような一つのイオンを通す膜を介して膜

の両側にC0 とC1 のイオン濃度差がある溶液が接するときの電気化学ポテン

シャルを考えよう

ある容器の底にナフィオン膜を取り付け容器の中と外のイオン濃度をC0

とC1としそれぞれの電気化学ポテンシャルをそれぞれμinとμoutとする

式(61)を使って

容器の中の電気化学ポテンシャル

(63) innFCRTin ψ 00 ln

容器の外の電気化学ポテンシャル

(64) outout nFCRT ψ 10 ln

イオン浸透性の膜を介して濃度変化が無視できるほどの移動があると考え

その電気化学ポテンシャルの差を式(63)(64)から求めれば

39

)(ln0

1 inoutinout nFC

CRT ψψ (65)

この系において今注目しているイオンが膜を介した両側で平衡状態にある

とき式(65)はΔμ=0と考えることができるすなわち

0)(ln0

1 inoutnFC

CRT ψψ

膜内外の電位差をΔψ=ψoutminus ψinとすれば

1

0

0

1 lnlnC

C

nF

RT

C

C

nF

RTψ (66)

式(66)は理想気体に対するネルンストの式(58)と同様溶液中のイ

オンに対するネルンスト(Nernst)の式として与えられる

細胞の膜においてもその生体膜の内外でたとえばカリウムイオンのように

非対称に分布して平衡に達している場合には式(66)で与えられる膜内外

で電位差が生じるこれは一般に膜電位と呼ばれる膜電位は平衡電位とも

呼ばれる

たとえば膜内外に1価のカリウムイオンに10倍の濃度差があるとすると

通常カリウムイオンは細胞内の濃度が高いので

C0 = 10timesC1

であるから

これを式(66)に当てはめてln(10)=2303 を用いlog への変換をすれば

Δψ=2303times(RTF)timeslog(10)

であるこれに R=831441 JmolKF=96485 CmolT=29815 K(25)

の各数値を当てはめると

Δψ=2303times831441times29815times196485 JC

=+005917 volt

すなわち膜の内外で約+60ミリボルトの膜電位が生じることになるこの

分だけ細胞の外側の電気化学ポテンシャルが高く膜の内側の膜電位が負であ

るそして膜にあるカリウムチャネルがこの電位を示すとき受動的なカリ

40

ウムの膜内外の移動は平衡に達することになる

水素イオン濃度測定

「標準水素電極」は1モル塩酸溶液につけた白金電極に1atm の水素ガスを

吹き込んで平衡状態に達したときの電位を基準としてゼロボルトと規定した

そこである溶液についてその水素イオン濃度を知ろうとするとき同じ水

素電極を用いることを考えれば標準状態にする目的で用いた1モル塩酸溶液

を濃度未知で X モルの塩酸溶液と想定すればその水素イオン濃度を知るこ

とができるだろうか

標準状態ではない X モルの塩酸溶液に浸けた白金電極が半電池として働くこ

とは間違いなさそうであるしかしその白金電極が持つ電極電位を測定する

にはいずれにしても標準電極と組み合わせて「電池」を構成しその電池

の起電力として計る必要がある電池を作れば起電力を知ることができ相

手の半電池の電極電位が知られていれば濃度が未知でXモルの溶液について

その水素イオン濃度を知ることができるだろう

こうした目的のためにいちいちゼロボルトと規定した標準水素電極を用いる

のは煩雑なのでしばしば後出の「銀塩化銀電極」が参照電極として用いら

れる

まず予め「銀塩化銀電極」を標準水素電極と組み合わせて電池とし一度

その起電力を測定しておけば後はいつもそれを標準電極として利用できる

「銀塩化銀電極」の半電池は

H+ (1 moll) Cl- | AgCl | Ag(s)

これに「標準水素電極」を組み合わせ電池を構成すると次のような電池

になる

Pt(s) | H2(g) | H+ (1 moll) Cl- | AgCl | Ag(s)

この電池の起電力を知れば「銀塩化銀電極」の半電池としての電極電位

を知ることができ参照電極として未知の半電池と組み合わせて起電力を測

定して相手の電極電位を計算できる

41

濃度 X モルの塩酸溶液を未知の溶液と想定すればその電極電位を知るために

組み立てる電池は次のようになる図10にその電池の図を示した

Pt(s) | H2(g) | H+ (x moll) Cl- | AgCl | Ag(s)

この電池の全反応は次の反応式で表される

AgCl(s) 1

2H2 (g) H Cl Ag(s) (67)

図10未知溶液の水素イオン濃度を測定しようとするための電池

化学反応の一般的な式

ここで電池に利用される化学反応から得られるエネルギーをギブス自由エ

ネルギーに換算し起電力を具体的に知る手だてとすることは上ですでに学

42

んだがより一般的な式を再度ここに書きだしておこう

化学反応が紙面で左から右に進む反応として次のような一般式で与えられ

るとき

aA + bB rarr cC + dD (68)

ギブス自由エネルギー変化量は標準状態ΔG゜からの変化量を加える形で式

(60)と同様次の式によって表される

G G RT(ln aCc aD

d ln aAa aB

b )

G RT ln

aCc aD

d

aAa aB

b (69)

aAは成分 A のイオン活量であるその他の成分も同じ

得られたエネルギーを電気エネルギーに換えるなら式(41)に習って

次式で表せば

ΔG=-n FV

there4V=-ΔG(nF) (70)

このときの起電力は標準状態における電位 E゜からの変化量として次式で与

えられる

E E

RT

nFln

aCc aD

d

aAa aB

b (71)

標準状態における起電力 E゜は反応が平衡状態にあるときで反応平衡定数

を K とするなら

K aC

c aDd

aAa aB

b (72)

で表されるそこでE゜は次のように書き改めることができる

43

E

RT

nFln K (73)

そこで式(67)で表される図10の電池「水素minus 銀塩化銀電池」に

対する起電力をギブス自由エネルギーから求めてみよう

反応から式(71)に当てはめれば

E E RT

Fln

aH

1 aCl

1 aAg1

aAgCl1 aH2

1

2

(74)

力学の慣例にしたがって固体の純物質の活量は1として扱い水素ガスを

想気体として見なして活量を1atm とするなら式(74)は次のよう

に簡略化される

E E

RT

Flna

H aCl (75)

ころで理想溶液として近似的に取り扱うときの希薄溶液でたとえば水素

入して詳細に検討するなら式( れる起電

オン濃度はイオン活量として aH+の記号を使うときすでに【理想溶液のギ

ブス自由エネルギー】の章で述べたようにこれを有効イオン濃度とする必要

がありイオン活量 a は「活量係数」γを導入して次式で表した

a H+= γH+CH+ (62)

この活量係数を導 75)で誘導さ

を計ることによって経験的に試料溶液中の水素イオン濃度を求めることは

困難である式(75)にあるイオン活量の項はモル濃度 C と活量係数γを

用いて次式で書き改められる

lnaH aCl

lnCH CCl

lnH Cl

(76)

まり式(76)右辺の第二項において互いに相手が知られなければ自分

決めることができず結果的に起電力を知っても(75)の値から水素イオ

ン濃度を導けないここに工夫が必要になる

44

の定義とその目盛り

液中の水素イオン濃度を直接意味するものではなく

を定義するとき測定されるのは1リットルの溶媒に存在す

pH = -log a H+ = -log(γH+CH+) (77)

際に試料溶液の pH を決定する際はpH 標準液を用いる

に溶液を入れ試料溶液 X と pH 標準液 S を

参 極を接続し電池を作成しその起

pH

現在pH の定義は溶

で述べたようにそれが簡便に測定できるものではないため次のように定

義されている

水素イオン濃度

水素イオン活量であるため定義式としては活量係数をγH+として次式で与

えられる

その要領は次のようである

上に図示した水素電極の容器内

れぞれ半電池(I)と(II)に入れる

半電池(I) Pt | H2 (1 atm) | 試料溶液

半電池(II) Pt | H2 (1 atm) | 試料溶液S

照電極として上図のごとく銀塩化銀電

電力を測定する半電池(I)のときの起電力を E(X)半電池(II)のそれを E(S)

とするこのとき試料溶液Xの pH は次式で計算される

pH (X) pH(S) E(S) E(X)

RT ln(10) (78)

ln(10)は自然対数を常用対数に戻すための定数で2303 を用いる

標準液

pH 標準液 S はpH 第一次標準液第二次標準液と呼ばれるべき

る測定

25で pH 4005 を示す

pH

上述した

のであり絶対的測定法である起電力の測定によって値をつける

標準液は安定で純粋な結晶が得られる試薬を調整してこれを測定す

上と同様に水素電極を用いこれに緩衝液を入れる参照電極として銀

塩化銀電極を接続して電池の起電力を測定する

たとえば005 moll フタル酸水素カリウム溶液は

一次標準(Primary Standard PS)の一つである半電池(III)として水素

45

電極を次のように準備する

半電池(III) Pt | H2 (1 atm) | PS 溶液

て電池を形成したとき得られる起電

参照電極として銀塩化銀電極を接続し

は式(75)から

E E

Ag AgCl RT

Flna

H aCl (79)

オン活量を濃度と活量係数の積(a H+= γH+CH+)にし自然対数を常用対数

すれば

E E

Ag AgCl RT ln(10)

F log(

H + CH+ Cl- CCl - ) (80)

E゜は水素標準電極(水素ガス分圧を1atm電極を浸ける溶液に001 moll

H

Cl を用いる)で得た起電力である

式(80)から

RT ln(10)

Flog(

H CH Cl

) (E EAg AgCl )

RT ln(10)

Flog C

Cl

(81)

らに

log(

H CH Cl

) F

RT ln(10)(E E

Ag AgCl ) logCCl

(82)

ころで式(77)から

(γH+CH+) (77)

-log a H+ =-loga H+-log(γCl-) +log(γCl-) =-log(a H+γCl-) +log(γCl-)

(83)の一番右の式で第一項は

pH = -log a H+ = -log

であるが右の式をさらに変形すると

(83)

46

-log(a H+γCl-)=-log(γH+ CH+γCl-) (84)

たがって式(82)の右辺で示されるように電池の起電力を測定すれば

よ 実際には溶液の塩素イオン濃

液で起電力を求め外挿する

起電

これによってpH を意味する式(83)は次式(85)で与えられる

p(aHγCl)はRG Bates によって Acidity Function と呼ばれている

らに式(85)最終項の log(γCl-) を補正しなければならないこの項は

本工業規格)によっても

であってこれは式(82)の左辺である

いただし塩素イオン濃度の項があって

をゼロにしたときの値が必要である

実測する際には塩素イオン濃度をゼロにできないので塩化ナトリウム NaCl

等を濃度を変えて添加しその時々の緩衝

勧告ではNaCl で 000500100015moll の3つの濃度を例示している

すなわち塩素イオン濃度ゼロのときの値は各塩素イオン濃度に対して

の値をそれぞれプロットしグラフから塩素イオンがゼロのときの起電力の

値を3点に対する回帰直線の延長で外挿して求めるこの点を次のように書

log( C H H Cl CCl

0

pa log( C log( (85) H H H Cl C

Cl0 Cl

)

素イオンの活動係数で与えられる補正項である

無限希釈溶液中のイオンの活動係数は理論的に Dubye-Huckel の式を用い

近似的に求めることが可能であるこれはJIS(日

用されていて Bates-Guggenheim の規約と呼ばれる (Bates RG

Guggenheim Pure Appl Chem 1 163-168 1960)

Dubye-Huckel の式は次のように与えられる

log A I

i 1 iB I (86)

47

I iについてそのモル濃度

計算される

はイオン強度でイオン mi と電荷 zi から次式で

I 1

2mizi (87)

また iは(86)式のBは温度と溶媒の性質による定数であり イオンの大

きさに関するパラメータで水和イオンの大きさとほぼ一致した値をとる標

準法の勧告では塩素イオンに対しイオンの大きさを46Åと決めてiBを

1

5 にしているそこで式(84)は次のようになる

ClA I

log 1 15 I

イオン強度 I は塩素イオン濃度を含まない計算となる

以上の方法によって実用的な pH 測定に用いられる第一次第二次標準液の

pH の値が得られる

絶対値としての

はpH の絶対測定法(第一次標準測定法)とされている

銀塩化銀参照電極は分極現象を防ぐために棒状の銀を塩酸で処理し表

に塩化銀を生成させたものを飽和塩化カリウム溶液につけてある

(88)

参考現在は実験的に求めた値と理論値の組み合わせで

素イオン濃度を求める方法を規定しているこの起電力から水素イオン濃度

を知るための測定方法

Buck RP Rondinini S Covington AK Baucke FGK Brett CMA Camoes MF

Milton MJT Mussini T Naumann R Pratt Kw Spitzer P Wilson GS

Measurement of pH definition standards and procedures Pure Appl Chem

74(11)2169-2200 2002Kristensen HB Salomon A Kokholm GInternational

pH scales and certification of pH Anal Chem 63(18) 885A-891A 1991)

銀塩化銀参照電極

電極の構成は

Cl-(aq) | AgCl(s) | Ag(s)

48

この半反応は次のようになる

AgCl(s) + e- rarr Ag(s) + Cl- (89)

の反応は次の2つの反応に分けて考えることができる

Ag+ + e- rarr Ag(s) (91)

AgCl(s)rarr Ag+ + Cl- (90)

図11銀塩化銀参照電極

(90)における銀 る塩素イオンによって左

されることが推測される

そこでカッコ [ ] をそれによって囲まれるイオンの濃度を表すことにし

式 イオン Ag+の溶解性は共存す

塩化銀の乖離定数Kを考えると

49

K = [Ag+][Cl-] (92)

これから

[Ag+]= K[Cl-] (93)

化カリウム溶液に漬けた銀塩化銀電極の電位 E は水素標準電極に対する

電 で与えられる

位を E゜として次式

E E

RT

nF

[ Ag ]

[Ag(s)]ln( )

Ag(s)のイオン活量は常に1とする

ここで半反応の電極電位を求めるために式(75)を利用することにすれば

(94)

熱力学の慣例にしたがって純物質個体

E E

RT

Flna

H Cl a (75)

式 の半反応をみると

応で電子1つが移動するので n=1 とするR=831441 JmolK1F = 96485

C はめれば

これに銀イオンの濃度として式(93)を当てはめる

この反応で移動する電子は (89) 銀イオン1つの反

molT=29815K(25)ln(10)=2303などの定数を当て

2303RTF = 005917

であるから(94)式は次のように表現できる

log[Cl]) E E 005917(logK (95)

たがって標準水素電極に対する銀塩化銀参照電極の標準状態における電

位 は半反応(89)に対して ゜=+0799で

化銀の乖離定数 K は182times10-10 であるのでその対数を取れば-973993

0799-005917times973993-005917log[Cl-]

E゜ E ある

ある

そこで式(95)は

E =

50

= 0799-0576-005917log[Cl-]

= 0223-005917log[Cl-] (96)

電極電位の関係について実測値

こうして求めた塩化カリウム溶液の濃度と

計算上の値は次のようである

KCl moll vs SHE volt25 計算値 volt25 01 02881 02822 35 0205 01908 飽和 0199 minus

実用 測定

実際の現場で水素イオン濃度を測定する目的の測定法で上のような2つの

極が同じ溶液に浸かっていたのでは試料溶液を交換するにも便利ではない

の容器に入れる未知試料溶液と銀塩化銀電極を隔離する

的な pH

そこで水素電極側

的で二つの電極容器をつなぐ液絡部をグラスフィルターやセラミック板

飽和塩化カリウムで作成したゼラチンなどの塩橋によって隔離遮断するこ

れを液絡部とよぶ

電池として機能するために必要な溶液イオンの交換はこの液絡部で行う

組み立てる電池は電池式で次のように表される

Pt(s) | H2 | 試料 (H+ x moll) || 飽和 KCl | AgCl | Ag(s)

の標準電極と銀塩化銀電極とは区切られていて溶液の直接の接触がない

とを意味するために電池式ではタテ二重線を用いる銀塩化銀参照電極

の容器には飽和塩化カリウム溶液が入れられる

51

図12液絡部のある pH 測定のための電池

この液絡部のある電池では塩橋を記号lsquo | | rsquoで表して次のように記す

試料 (H+ x moll) | | 飽和 KCl

ここでは試料溶液と飽和塩化カリウム溶液の異なる2液が接している

このような界面では膜電力が生じるのと同様「液間電位差」が生じることが

知られているしたがって上の電池で測定される起電力 E は

E = E[銀塩化銀電極電位]+E[液間電位]+E[水素電極電位]

で与えられることになってE[液間電位]のために図12の電池の起電力

は銀塩化銀参照電極の値を知っていても水素電極容器内に入れた未知溶

液の水素イオン濃度を正しく知ることができない

52

そこで実用的な測定法としてこの E[液間電位]を膜電位として積極的に利

用する方法が工夫されたすなわち水素イオンに感応するガラス薄膜を用い

るガラス電極法である

53

ガラス電極

ガラスはケイ素原子と酸素原子からなる SiO4 の結晶構造を持ち酸素で囲

まれた空隙があって水素イオンがそれを埋めることができる

この性質によってガラス膜表面は水溶液中の水素イオンに応じて膜電位を

変化させるのでこれを水素イオン濃度測定用の電極として利用することが考

えられるこれが通常用いられるガラス電極である

ガラス電極は標準電極と組み合わせれば電池を構成することができこの電

池の起電力を知ってガラス薄膜の内外にできたイオン濃度勾配を知ろうとす

るものである

薄いガラス膜(01mm程度)をはさんで接する2つの溶液のH+イオン濃

度が異なるとその差に応じてガラス膜の両側に電位差(Eg)が現れる

ネルンストの式でガラス電極の内部に入れた既知の濃度のH+([H+]in)に対

し試料中の水素イオン濃度が[H+]sampleのとき次の電位を生じる

)][

][log(059170)

][

][ln(

sample

in

sample

ing

H

H

H

H

F

RTE

(97)

図13ガラス電極

電極を構成するのは銀塩化銀電極と同じ電極で用いる塩溶液は一般的

54

に 01モル塩酸溶液である

この半電池の電池式は次のように書くことができる

Ag(s) | AgCl(s) | HCl (01 M) | ガラス薄膜 || 試料溶液 H+ (x moll)

Eg

この半電池の電極電圧を測定するために銀塩化銀標準電極と組み合わせ

電池を作って起電力を計る

構成される電池は下図のようになる

ガラス電極 銀塩化銀標準電極

図14ガラス電極を用いた pH 測定用の電池

この電池の起電力は次の各半電池の平衡電位を合わせたものになる

55

E1ガラス電極の内側電位

Ag(s) | AgCl(s) | HCl (01 M)

Egガラス薄膜の内外に生じる膜電位

HCl (01 M) | ガラス薄膜 || 試料溶液 H+ (x moll)

E2液間電位(膜電位)銀塩化銀標準電極のセラミックを介した試料溶液

と銀塩化銀標準電極の内部液(飽和 KCl 溶液)の間に発生する電位

試料溶液 H+ (x moll)|| セラミック | KCl(飽和)

E3銀塩化銀標準電極

KCl(飽和)| AgCl(s) | Ag(s)

pH メーター用のガラス電極に使われるガラス薄膜は水素イオンに感応して

膜電位(Eg)を生じるこれは【膜電位】の章で記したように薄膜がある

一つのイオンのみを通過させる特性を持っている場合にイオンが膜を介した

両側で平衡状態に達したとして電気化学ポテンシャルを膜の両側で等しいと

考えてそのイオンが濃厚な側から希薄な側にその差によって圧力を生じると

するものである

一方同じ試料溶液が銀塩化銀標準電極のセラミック液絡部を介して生じ

るだろう液間電位(膜電位E2)はいま関心がある水素イオンに対して特異

的に感応するのではないので試料溶液の水素イオン濃度に関係なく一定と見

なすことができる

すなわちpH メーターを構成する電池の起電力 E は

E = E1+Eg+E2+E3 (98)

このうちEg以外は一定と見なせるので

E1+E2+E3 = E

として式(98)を書き直すと

)][

][log(059170

sample

ing H

HEEEE

(99)

Eは標準液によって校正されるべき標準電極電位である

56

電極の校正

実際のイオン濃度を測定する場合低濃度標準液と高濃度標準液で得られ

る起電力を測定し計測のイオン濃度に対する係数(傾き)を求めておき未

知の試料に対して起電力を測定してそのイオン濃度を算出する方法が採られる

低濃度標準液と高濃度標準液のそれぞれの濃度をCLとCHとすればそれぞ

れの起電力ELとEHは次式で表される EH = E +β logCH (100)

EL = E +β log CL (101)

ただしβは式(99)の係数を簡略にしたものである

式(100)と(101)から検量線の傾きが次式で表せる

ΔE = EH minus EL = β(logCH minus logCL) = β logCH

CL

(102)

したがって係数βは

β =ΔE

log CH

CL

(103)

であらわされる

このときに使われる標準はすでに前出の pH 第一次標準第二次標準溶液で

ある

金属イオンに対応するイオン選択電極

現在臨床検査で日常的に使われている電解質測定のための電極はナトリウ

ムカリウムカルシウムクロールなどおよそ臨床的に必要な金属イオン

に対して入手可能である

カリウムイオン測定用のバリノマイシンの発見によってクラウンエーテルと

57

呼ばれる一連の化合物が知られたクラウンエーテルはその分子の中心に立

体的な空間を持ち特定のイオン径に対し合致するのでそのイオンに対して

選択的に感応するこれらの化合物はイオノフォアと呼ばれる

図 15クラウンエーテル

1つの金属イオンが環状化合物

15-crown-5 の中央にある空間を充填

している模式図

15-crown-5 の構造を作る10個の黒

い丸は炭素炭素2個のつながりごと

にある中心の白い丸は酸素酸素と

金属イオンの間の距離はおよそ 22~

23Åであるカリウムのファンデン

ワールス半径は 135Åイオン半径は

15~16Åである

測定したいイオンに対しポリ塩化ビニル(PVC)を支持体としてイオノフ

ォアを添加した液膜の電極膜を作成しこれをガラス電極におけるガラス薄膜

と同様試料に接する電極膜として用いるこの構造から一般的に液膜型電極

と呼ばれる電極膜には特異性を高めるため妨害イオン排除剤などが添加

される

pH メーターと同様銀塩化銀標準電極と組み合わせ電池を形成しその

起電力を計る測定したいイオンが液膜に対して内外で平衡に達したときの

膜電位を測定するのはガラス電極と同じである

カ リ ウ ム イ オ ン に は Bis[(benzo-15-crown-5) ( 正 式 名 は

Bis[(benzo-15-crown-5)-4-methyl]pimelate)ナトリウムには Bis[(12-crown-4)

やDibenzyl-bis[(12-crown-4)などがイオノフォアとして用いられる

58

図16カリウムイオン測定用に使われるクラウンエーテル

図17ナトリウムイオン測定用に使われるクラウンエーテル

59

参考イオン選択電極に関する文献Xia Z Badr IHA Plummer SL Cullen L

Bachas LG Synthesis and evaluation of a bis(crown ether) ionophore with a

conformationally constained bridge in ione- selective electrodes Anal Sci 14(2)

169-173 1998 Oh K-C Kang EC Cho YL Jeong K-S Y oo E-A Paeng K-J

Potassium-selective PVC membrane electrodes based on newly synthesized

cis- and trans-bis(crown ether)s ibid 14(10)1009-1012 1998 Dojindo WEB

site httpwwwdojindocojpwwwrootproductsjinfo2protocolp31pdf

<補遺> 60

補遺 状態関数 (本文 p21 10 行目参照)

一つの平衡状態にある系 A とこれに接する系 A にとって外部である系 B について系 B

から系 A に熱を与えこれによって系 A が他の平衡状態に移ったとき系 A はその結果とし

て膨張し系 B に対し仕事をする

このときの微少な熱量の移動を記号drsquoQ またなされた微少な仕事をdrsquoW とすると

系Aの内部エネルギーに関する微少な変化drsquoUA は両者の和として表される

WdQdUd A primeminusprime=prime (a-1)

この式 a-1 と本文中の式25との関係について

WQU A Δminus=Δ 本文(25)

<補遺> 61

式 a-1 と式25の記号の違いは変化の起きる前の平衡状態 S1 から変化後の平衡状態 S2

に状態変化があったとするなら式 a-1 を積分することで式25が得られるものと考えて区

別している

A

S

S A UUd Δ=primeint2

1 (a-2)

このことは重要であるすなわち内部エネルギーU は変化の起きる前後の状態を指定する

ことによって値が定まることを意味するこのように積分によって値を定めることが出来る

のでdrsquoU は完全微分であるという

内部エネルギーのように系の状態だけで値の定まる量を状態関数として扱う

一方式 a-1 のdrsquoQ drsquoW についても同様に微少の変化量を表しているが平衡状態 S1

から S2 への経路を指定しなければ積分の値は定まらない

本文中の記号にしたがって仕事量ΔW を次のように表すことにする

VpW Δ=Δ 本文(20) V

<補遺> 62

体積と圧力の関係を表す図を使ってこの仕事量が意味することを考える圧力 prsquo の下で

体積が V1 であるときを状態 S1 として圧力一定の下で体積を V2 まで膨張させるような変

化を行った後体積を等しく保って圧力を p にまで上げたときの状態を S2 とするこのとき

の仕事量は膨張に伴うものであるから図の体積‐圧力線の下の面積で示すことができる

平衡状態 S1 から S2 への変化の道筋を別にたどってみよう

新しい経路では圧力を先に p まで上げた後に膨張変化させている

図から直感的に明らかであるので数式での扱いを省略するが2 つの経路による仕事量には

差がある

すなわちdrsquoW は drsquoU と異なり変化の初め S1 と終わり S2 の状態が与えられても積分値

は定まらず変化の経路によって違ってくる

このように変化の経路を指定しなければ積分値が定まらないものを不完全微分と呼び扱

いを区別する

本文 p21 へ戻る

<補遺> 63

VpW

WQU

VpQU

VpUQ

1122 SSSS pVUpVUQ

pVU

VpUHHHQ SS 12

エンタルピー (本文 p24 20 行目参照)

本文中の式 20 および 25 から一定の圧力の元で起きる状態変化において内部エネルギー

の変化量に対する式 a-3 を得る

本文(20)

本文(25)

(a-3)

式 a-3 を Q について書き直す

(a-4)

状態の変化が平衡状態S1から平衡状態S2に移ったものとして式 a-4を丁寧に書き直すと

(a-5)

並び替えて

(a-6)

式 a-6 を見ると定圧過程における熱量の流入は

(a-7)

の形を持つ関数の差であることが分かる

一般に化学反応のような変化の過程では大気圧の下で行われるようなものに興味がある

そこで式 a-7 で与えられる項を一つの関数として定義するこれをエンタルピーと呼び記

号 H を与える式 a-4 はエンタルピーの変化量で次のように書き改められる

(a-8)

圧力が一定の下で起こる状態変化について流入する熱量は式 a-8 で示されるようにエンタ

ルピーの変化量に等しい

V

V

V

V V

V

V

1212 SSSS VVpUUQ VV

<補遺> 64

1Q

We

また式 a-8 からオートクレーブ内で起こるような体積変化のない過程ではこの値が内

部エネルギーの変化量で与えられることが明らかである

本文 p24 へ戻る

エントロピー (本文 p26 17 行目参照)

エントロピーは次のような思考実験から発想された仮想的な状態関数である

理想気体よりなる系 A が温度 T2で熱平衡状態にあり温度 T1の外部の熱源と接しているこ

とを想定する系 A の外部を系 B と呼ぶことにするT1は T2に対して無限小だけ高い温度と

する

系 A が系 B に対して温度圧力について平衡を保ちながら緩慢に系 B より熱量 Q1を受け取

る過程を考える(このような過程を準静的過程と呼ぶ)これによって系 A が熱量 Q1を得て膨

張するとき系 B に対して仕事をする続いて系 A から熱量 Q2が系 B に戻ることを考える

想定されるこの変化が可逆的であれば系 A と系 B を併せた全体は元の状態に戻る蒸気機

関に関するこのような研究が Nicolas Carnot によってなされたのは1824 年のことであった

ここに想定されたサイクルに対する Carnot の効率 e は移動した熱量となされた仕事によ

って定義され次の式で表される

(b-1)

<補遺> 65

理想気体では内部エネルギーU の変化ΔU はゼロと考えるしたがって熱力学の第一法

則を表す式(本文中の式25)から次の関係が示される

0=Δminus=Δ WQU

WQ Δ= (b-2)

これによってCarnot Cycleの効率eはQ2lt0 として次のように書き改めることが出来る

1

21

QQQe +

= (b-3)

ところで気体の状態方程式から1 モルの気体について次のような関係が示される

RTV

P

P1=

V = RTV (b-4)

V 式 b-4 の両辺に体積の微少変化量ΔV をかけて

(b-5)

これを体積Vについてその変化をV1からV2までとして積分するならば次式が得られる

VV

RTVP Δ=Δ 1V V

V

intint = 2

1

2

1

1V

V

V

VdV

VRTPdV

1V2V

11 lnRTW =

(b-6)

Q1の熱量によって起こる膨張がV1よりV2までとし圧力P温度T1の下でなされるその仕事

量をW1とするならそれは式b-6 の右辺によって示されるすなわち

(b-7)

VV

1

2lnVVRT=

V V

VV

V

V2int V2 intV1 V1

<補遺> 66

またQ2の熱量の移動が圧力P温度T2の下で起きこれによって系Aが可逆的に圧縮され

るなら体積変化はV2よりV1まで起こりその仕事量をW2で示すと次式のように表される

(b-8)

1

22

2

122 lnln

VVRT

VVRTW minus==VV

VV

Q1=W1Q2=W2の関係から式b-7 およびb-8 を用いてCarnot Cycleの効率eを表す式b-3

を書き改めると温度のみの関係式として次のように表される

1

21

TTTe minus

= (b-9)

ここでサイクルが可逆的過程であると想定するならば式 b-3 と式 b-9 から

1

21

1

21

TTT

QQQe minus

=+

= (b-10)

これから

12112111 QTQTQTQT minus=+ (b-11)

整理すると

02

2

1

1 =+TQ

TQ (b-12)

この考えをさらに発展させ系A

と系Bの間に数多くの系を挿入すること

にしてそれらの系を同様に熱源として

T1T2Tnと考えるこれによっ

て熱の受け渡しが系Aから系Bに至り

再び系Aにもどるサイクル過程に数多

くの寄り道の過程を加えることになる

熱量の移動に関して上の場合と同じく

準静的過程で行われると考えるこの

サイクル全過程について初めと終わ

<補遺> 67

n

i i

i

T

Q

1

0

0T

dQ

T

QS

T

dQASAS )()( 12

りが同じ状態になる可逆的な過程であるなら式 b-12 を拡大的に考えることになってそれ

は次式で表される

(b-13)

式 b-13 には重要な関数が現れるすなわち熱量と温度の比QT である

もし一つの系が無限小だけ温度の高い(dT )外界から温度圧力など平衡を保ちなが

ら極めて緩慢な過程(準静的過程)で無限小の熱量(dQ )を受け取るならばその変化は可

逆的でありdT について連続的な温度分布をする過程を考えるとき式 b-13 をさらに発展

させて次のように積分式で示すことが出来る

(b-14)

式 b-14 で積分記号にが付されているのはCarnot Cycle のような経路を一巡することを

意味している

Carnot の熱機関の効率という着想から生まれた熱量とそれを持つ系の温度との比 QT に

重要な意味を見出したのは Rudolph Clausius で彼はこの比にエントロピーという名前を与

えたエントロピーには記号ΔS を一般に用いる

(b-15)

エントロピーは初めと終わりの状態がわかれば過程に関わらず定まるので状態関数であ

系 A と外界のエントロピー変化を考えるときそれが可逆的過程であるならばすべてを併

せた全体のエントロピー変化は初めと終わりに変化がないという意味でゼロであるすなわ

ち初めの状態を S(A1)とし次の状態を S(A2)とするならそれぞれのエントロピーを

ΔS(A1)ΔS(A2)としてこの間におけるエントロピーの変化量は次のように示される

(b-16)

<補遺> 68

T

dQdS

0T

dQ

ある一つの変化については次のように示される

(b-17)

ここで式 b-17 の S に付けられたdは微分量すなわちごく微小の変化量を意味し式 b-15

で定義されたエントロピーに用いられる一般的な記号Δと区別する

ところで式 b-10 の関係においてもし移動した熱量のすべてが仕事に変わらなければ

効率 e を表す熱量を用いた関係式と温度で表される関係式は等号で結ぶことができないそれ

はエネルギーのロスを意味し初めと終わりの状態が異なってしまうことを意味するすなわ

ち全過程が構成する一つのサイクルは可逆的でなくなる

不可逆過程での熱効率 ersquo は 大値を示す可逆的過程の熱効率 e より小さな値をとる

ee

したがって 大効率を与える式 b-8 と式 b-3 から

01221

2112

1

21

1

21

QTQT

QTQT

Q

QQ

T

TT

両辺を T1T2で割ると

02

2

1

1 T

Q

T

Q

これを式 b12 と同様に発展させれば式 b-14 についてサイクルの変化が可逆的過程の

場合と不可逆的過程の場合の両方を併せClausius の不等式と呼ばれる次の関係が成立する

(b-18)

式 b-18 の等号が成立するのはサイクルが可逆的な理想の場合に限られる

ある孤立系で状態 A1 から状態 A2 へは不可逆変化で進められ状態 A2 から再び状態 A1

に戻るとき可逆変化であるような閉じた状態変化を考える可逆系のエントロピー変化には

記号 Q を使い不可逆変化には Q を用いるとするとそれぞれ積分式を用いて状態 A1 から

状態 A2 へは

<補遺> 69

d prime

状態 A2 から状態 A1 に戻るときは

全体では

=d prime

+d

(b-19)

Clausius の不等式から

0

式(b-19)の第二項で反応を逆に進めるときには次のように書き改めることができる

=d

よって式(b-19)は次のように書き直すことができClausius の不等式とあわせると

d prime d

0

すなわち

d prime d

上式の右辺は式(b-16)を用いて表せば

d prime

∆S ∆

この状態変化を微小変化とするならば断熱変化の場合 dQ = 0 であるから

∆S ∆ dS 0

すなわち不可逆変化を含む断熱変化ではエントロピーは必ず増大する

<補遺> 70

T

QS

BA SSS

(b-20)

(次の<補遺>ギブス自由エネルギーも参照せよ)

本文 p26 へ戻る

ギブス自由エネルギー (本文 p28 27 行目参照)

エントロピーの考えを導入することによって不可逆的に状態変化が起きるときにはエン

トロピーの増大を引き起こすことを知ったこれによって目前で起きる現象について温度の

変化があるものであれないものであれまた圧力の変化があるものであってもエントロピー

の定義式によって可逆的な変化におけるエントロピーの変化量を計算することが可能である

(b-15)

しかしながらこれから起こる変化について我々がすでにあらかじめ知っている物理量を

用いて予測的にその状態変化が起きるかどうか知ることは必ずしも容易ではないその理由

は式 b-15 に示されたエントロピーΔS が系とその外界をあわせた全体のエントロピーを示

しているからであるすなわち関心のある系を系 A としその外界を系 B とすると全体

のエントロピーは次のように表せる

(c-1)

関心のある系 A のエントロピー変化を知るためには系 B のそれを知ればよいがそれは

いつも容易とは限らない系 A の性質だけで状態変化の方向を知るには別の観点が必要にな

るようだ

そこでもう一度状態変化が熱量 Q の移動によって起きることについて考えてみようエン

トロピーの補遺で議論したように熱量の移動が準静的過程により行われるときには変化は可

逆的に起こると考えたこのとき外界すなわち系 B から移動する熱量を Q1とし系 A から

0S

<補遺> 71

21 QQ

T

Q

T

QSB

21

T

QSS A

2

QH

T

HSS AA

AA STHST

のそれを Q2 と記号を当てたのでこれをそのまま使うことにすれば可逆的な過程では系 B

の熱量 Q1 はすなわち系 A から戻る Q2 に他ならないので両者には次の関係が成立するも

のとしてよい

(c-2)

したがって

(c-3)

と考えてよくこれによって式 c-1 を次のように書きなおすことが出来る

(c-4)

独立した系で圧力とその体積に変化がなく一定の条件の下で状態変化が起きるときエン

タルピーの考えを使ってすでにひとつの関係があることを導いている

本文(31)

そこで式 c-4 を系のエンタルピーΔHAによって書き改めれば

(c-5)

この両辺に-T をかけて式を書き直せば次の関係式が得られる

(c-6)

式 c-6 を見るときその右辺がマイナスの値ならば左辺のΔS はプラスの値をとることが

分かるすなわちエントロピーが増大すると見ることが出来るこれまでの過程で自然の現

象はエントロピーが増大する方向に進むとしてきたので関心のある状態変化について式 c-6

の右辺で計算される値がマイナスの値ならばその変化は起きるものと考えてよいことになる

だろうしかも右辺はすべて独立した系の状態量で示されていて我々が知りうる値で計算

<補遺> 72

TSHG

STSTHG

STHG

可能である

そこでこれを熱力学ポテンシャルを表すものとしてギブス自由エネルギーと呼ぶことに

するギブス自由エネルギーは記号 G が用いられ次のように定義される

(c-7)

ここで関心があるのは自由エネルギーの絶対値ではなく式 c-6 に示されたようにその変化量

に興味があるので式 c-7 から

(c-8)

温度が一定の条件の下で状態変化が起きることを考えるなら式 c-8 は次のように書くこと

ができる

(c-9)

ギブス自由エネルギーは式 c-9 の右辺がすべて状態量であるからこれも状態量の一つで

ある定圧定温の条件下で起きる変化ではすでに議論したようにΔGlt0 であれば状態

変化は自発的に起きるものと予測できる

つまり式 c-5 の第一項は系のエントロピーΔSAそのものであり第二項で示されるエンタ

ルピーは系 A の温度が一定に保たれているのであるから発熱する熱量として外界に吸収さ

れるものであってこれは外界のエントロピーの増大につながるものとして解釈されるした

がって化学反応のように一定の圧力と一定の温度の下で起きる変化について自由エネルギ

ー変化量はその状態変化が自発的に起きる傾向を示しているといってよい

本文 p28 へ戻る

  • はじめに
  • 目次
  • 電気エネルギー
    • 金属のイオン化
    • 電池
    • 水素の反応
    • 燃料電池
    • 化学反応と電気エネルギー
      • エネルギーと熱力学
        • エネルギー保存則
        • エンタルピー
        • エントロピー13
        • ギブス自由エネルギー
        • 電池における化学反応のギブス自由エネルギー13
        • 理想気体の状態方程式
        • 理想溶液のギブス自由エネルギー
        • 膜電位
          • 水素イオン濃度測定
            • 化学反応の一般的な式
            • pHの定義とその目盛り
            • pH標準液
            • 銀塩化銀参照電極
            • 実用的なpH測定
            • ガラス電極
            • 電極の校正
            • 金属イオンに対応するイオン選択電極
              • 文献
              • 補遺
                • 状態関数
                • エンタルピー
                • エントロピー
                • ギブス自由エネルギー
Page 37: イオン選択電極i イオン選択電極 Ion Selective Electrode (ISE) を理解する ・ pHを測定する ・ NaやKなどのイオン濃度を測定する 神戸大学医学部保健学科

34

ΔG =ΔU+VΔP+ PΔV-TΔS (46)

またエネルギー保存則から得られた式(26)を応用すればギブス自由エ

ネルギーが変形できる

Q =ΔU+PΔV (26)

から

ΔU=Q-PΔV (47)

したがって式(46)は

ΔG = Q-PΔV+VΔP+ PΔV-TΔS

ΔG = Q-TΔS+VΔP (48)

エントロピーの定義からQ=TΔSであるから結局式(48)は

ΔG = VΔP (49)

と表すことができる

成分が混合された気体分子の分子間に働く力をゼロと仮定した「理想気体」を

考えるとき状態方程式としてボイルシャルル(Boyle-Charles)の法則が

利用できる

PV=nRT (50)

ここでnは気体のモル数PVT はそれぞれこれまでと同じ圧力体積温度(ケルビン温度)でありR は気体定数と呼ばれるもので次の値を持

R= 831441 JmolK (51) 単位で分母のKはケルビン温度の意味

35

状態方程式から式(49)の右辺を導くことを考えてみよう式(50)は

1モルの気体について V に対し次のように変形することができる

V 1

PRT (50rsquo)

両辺に圧力の微小変化量⊿P をかけると

PP

RTP V (52)

これを微分方程式として圧力p0 からp1 まで(p0≦p1)積分するなら

1

0

1

0

1

0

1p

p

p

p

p

pdP

PRTdP

P

RTdPV (53)

関数 f(x)=1x を積分したときの関数はF(x)=ln(x)であるので(ln は e を底

とする自然対数loge)

右辺=0

1ln)0ln()1ln(p

pRTpRTpRT (54)

ギブス自由エネルギーを表す式(49)は次のようであったから

ΔG = VΔP (49)

式(52)から得た式(54)を当てはめると状態G0(p0T)からG1(p1T)

へ変化する過程で圧力が p0 から p1 まで変化するものとして

dGG0

G1

G( p1T ) G(p0T ) RT lnp1

p0 (55)

あるいはこれを書き直して

V

36

G(p1 T) = G( p0T ) + RT lnp1p0

(56)

特別にG0(p0T)を標準状態T=29815K(25)p0=1atmに指定する

なら標準生成ギブス自由エネルギーを記号G゜として (56rsquo)

と表すことができる

式(56rsquo)の意味するところは標準状態から圧力の変化を伴う過程で理

G(p1 T) = Go + RT ln p1

想気体のギブス自由エネルギーは圧力の対数に比例して上昇することである

このことはさらに新しい着想を生む

すなわち水素を燃料とする上の燃料電池で1atm 標準状態の水素ガスの圧力

を2atm に上げれば式(56rsquo)からRTln2 余分にギブス自由エネルギー

が取り出せることになる

燃料電池において起電力を生むエネルギーは隔壁を水素イオンもしくは酸

素イオンが浸透しようとする力であるので1atm の水素ガスと2atm のそれで

は浸透しようとする圧力が異なりここに起電力が生じる

式(56)の第二項が圧力の差による仕事であるからこれをΔG とすれば

W=-ΔG の仕事量が電気エネルギーとして取り出せるはずである

W = minusΔG = minusRT lnp1p0

(57)

起電力に換算するために式(41)を使うと

W = n FV=minus ΔG (41)

から

01ln

pp

nFRTV ⎟

⎠⎞

⎜⎝⎛minus= (58)

この式(58)は一般にネルンスト(Nernst)の式と呼ばれる

37

理想溶液のギブス自由エネルギー

理想気体を想定したように無限に希釈された混合溶液に対して理想溶液を仮

定する「系」の圧力温度を一定に保つならば体積内部エネルギーエンタ

ルピーギブス自由エネルギーなどの示量数は混合溶液を構成する物質のモ

ル数mに比例するたとえば標準状態にある物質の1モルの体積をVとすれば

mモルの体積はそのm倍mVであるそうすると溶液中のi番目の成分がmi

モル「系」から「外界」に仕事をするときその成分iの持つ自由エネルギーの

mi倍の仕事が「外界」になされると考えればよい

この溶液成分のモル数と化学的仕事を結びつける示強因子がギブスによって

化学ポテンシャルと名付けられ一般に記号μが用いられる

化学ポテンシャルはこれまで見たようにギブス自由エネルギーで表される

また電位がψ(プサイ)にある系から-Δeの電荷が放出されるときには

-ψΔeの電気的仕事が得られるそこで記号μに両者を合わせた意味を持

たせて「電気化学ポテンシャル」と呼ぶ

概念の上で物質は電気化学ポテンシャルの高い方から低い方へ勾配にした

がって移動する

理想気体の標準状態が気体分圧を T=29815K(25)で 1atm としたのに対

し溶液成分の標準状態はその分圧に相当するモル数 m を用いるすなわち

標準状態にある成分 i の電気化学ポテンシャルμ0iは成分の持つ電荷(H+なら

1)を n として

μ0i = G i゜+nFψ i (59)

ギブス自由エネルギーは式(56rsquo)を借り理想溶液中の成分に対しては気

体圧力をその成分のモル濃度Cに書き換えればよいそこで

G(CT ) G RT lnC (60)

と表すことができる

したがって一般的な成分 i の電気化学ポテンシャルμiを表す式は標準状態

からの自由エネルギーの変化を考え式(59)と合わせて次のようになる

38

ψnFGii 0

式(60)から

ii CRTGTCGG ln)( 0

よって

(61) ψnFCRT iii ln0

実際的なことを考えると成分濃度はその有効イオン濃度とする必要があり

「活量係数」γを導入して次式で表されるイオン活量aを用いる

ai = γCi (62)

一般的にはγ=1と近似してモル濃度Cを使っているこのテキストでも

必要ではない限りイオン活量を用いることを省略して簡単に記述したい

膜電位

燃料電池に使われたナフィオンのような一つのイオンを通す膜を介して膜

の両側にC0 とC1 のイオン濃度差がある溶液が接するときの電気化学ポテン

シャルを考えよう

ある容器の底にナフィオン膜を取り付け容器の中と外のイオン濃度をC0

とC1としそれぞれの電気化学ポテンシャルをそれぞれμinとμoutとする

式(61)を使って

容器の中の電気化学ポテンシャル

(63) innFCRTin ψ 00 ln

容器の外の電気化学ポテンシャル

(64) outout nFCRT ψ 10 ln

イオン浸透性の膜を介して濃度変化が無視できるほどの移動があると考え

その電気化学ポテンシャルの差を式(63)(64)から求めれば

39

)(ln0

1 inoutinout nFC

CRT ψψ (65)

この系において今注目しているイオンが膜を介した両側で平衡状態にある

とき式(65)はΔμ=0と考えることができるすなわち

0)(ln0

1 inoutnFC

CRT ψψ

膜内外の電位差をΔψ=ψoutminus ψinとすれば

1

0

0

1 lnlnC

C

nF

RT

C

C

nF

RTψ (66)

式(66)は理想気体に対するネルンストの式(58)と同様溶液中のイ

オンに対するネルンスト(Nernst)の式として与えられる

細胞の膜においてもその生体膜の内外でたとえばカリウムイオンのように

非対称に分布して平衡に達している場合には式(66)で与えられる膜内外

で電位差が生じるこれは一般に膜電位と呼ばれる膜電位は平衡電位とも

呼ばれる

たとえば膜内外に1価のカリウムイオンに10倍の濃度差があるとすると

通常カリウムイオンは細胞内の濃度が高いので

C0 = 10timesC1

であるから

これを式(66)に当てはめてln(10)=2303 を用いlog への変換をすれば

Δψ=2303times(RTF)timeslog(10)

であるこれに R=831441 JmolKF=96485 CmolT=29815 K(25)

の各数値を当てはめると

Δψ=2303times831441times29815times196485 JC

=+005917 volt

すなわち膜の内外で約+60ミリボルトの膜電位が生じることになるこの

分だけ細胞の外側の電気化学ポテンシャルが高く膜の内側の膜電位が負であ

るそして膜にあるカリウムチャネルがこの電位を示すとき受動的なカリ

40

ウムの膜内外の移動は平衡に達することになる

水素イオン濃度測定

「標準水素電極」は1モル塩酸溶液につけた白金電極に1atm の水素ガスを

吹き込んで平衡状態に達したときの電位を基準としてゼロボルトと規定した

そこである溶液についてその水素イオン濃度を知ろうとするとき同じ水

素電極を用いることを考えれば標準状態にする目的で用いた1モル塩酸溶液

を濃度未知で X モルの塩酸溶液と想定すればその水素イオン濃度を知るこ

とができるだろうか

標準状態ではない X モルの塩酸溶液に浸けた白金電極が半電池として働くこ

とは間違いなさそうであるしかしその白金電極が持つ電極電位を測定する

にはいずれにしても標準電極と組み合わせて「電池」を構成しその電池

の起電力として計る必要がある電池を作れば起電力を知ることができ相

手の半電池の電極電位が知られていれば濃度が未知でXモルの溶液について

その水素イオン濃度を知ることができるだろう

こうした目的のためにいちいちゼロボルトと規定した標準水素電極を用いる

のは煩雑なのでしばしば後出の「銀塩化銀電極」が参照電極として用いら

れる

まず予め「銀塩化銀電極」を標準水素電極と組み合わせて電池とし一度

その起電力を測定しておけば後はいつもそれを標準電極として利用できる

「銀塩化銀電極」の半電池は

H+ (1 moll) Cl- | AgCl | Ag(s)

これに「標準水素電極」を組み合わせ電池を構成すると次のような電池

になる

Pt(s) | H2(g) | H+ (1 moll) Cl- | AgCl | Ag(s)

この電池の起電力を知れば「銀塩化銀電極」の半電池としての電極電位

を知ることができ参照電極として未知の半電池と組み合わせて起電力を測

定して相手の電極電位を計算できる

41

濃度 X モルの塩酸溶液を未知の溶液と想定すればその電極電位を知るために

組み立てる電池は次のようになる図10にその電池の図を示した

Pt(s) | H2(g) | H+ (x moll) Cl- | AgCl | Ag(s)

この電池の全反応は次の反応式で表される

AgCl(s) 1

2H2 (g) H Cl Ag(s) (67)

図10未知溶液の水素イオン濃度を測定しようとするための電池

化学反応の一般的な式

ここで電池に利用される化学反応から得られるエネルギーをギブス自由エ

ネルギーに換算し起電力を具体的に知る手だてとすることは上ですでに学

42

んだがより一般的な式を再度ここに書きだしておこう

化学反応が紙面で左から右に進む反応として次のような一般式で与えられ

るとき

aA + bB rarr cC + dD (68)

ギブス自由エネルギー変化量は標準状態ΔG゜からの変化量を加える形で式

(60)と同様次の式によって表される

G G RT(ln aCc aD

d ln aAa aB

b )

G RT ln

aCc aD

d

aAa aB

b (69)

aAは成分 A のイオン活量であるその他の成分も同じ

得られたエネルギーを電気エネルギーに換えるなら式(41)に習って

次式で表せば

ΔG=-n FV

there4V=-ΔG(nF) (70)

このときの起電力は標準状態における電位 E゜からの変化量として次式で与

えられる

E E

RT

nFln

aCc aD

d

aAa aB

b (71)

標準状態における起電力 E゜は反応が平衡状態にあるときで反応平衡定数

を K とするなら

K aC

c aDd

aAa aB

b (72)

で表されるそこでE゜は次のように書き改めることができる

43

E

RT

nFln K (73)

そこで式(67)で表される図10の電池「水素minus 銀塩化銀電池」に

対する起電力をギブス自由エネルギーから求めてみよう

反応から式(71)に当てはめれば

E E RT

Fln

aH

1 aCl

1 aAg1

aAgCl1 aH2

1

2

(74)

力学の慣例にしたがって固体の純物質の活量は1として扱い水素ガスを

想気体として見なして活量を1atm とするなら式(74)は次のよう

に簡略化される

E E

RT

Flna

H aCl (75)

ころで理想溶液として近似的に取り扱うときの希薄溶液でたとえば水素

入して詳細に検討するなら式( れる起電

オン濃度はイオン活量として aH+の記号を使うときすでに【理想溶液のギ

ブス自由エネルギー】の章で述べたようにこれを有効イオン濃度とする必要

がありイオン活量 a は「活量係数」γを導入して次式で表した

a H+= γH+CH+ (62)

この活量係数を導 75)で誘導さ

を計ることによって経験的に試料溶液中の水素イオン濃度を求めることは

困難である式(75)にあるイオン活量の項はモル濃度 C と活量係数γを

用いて次式で書き改められる

lnaH aCl

lnCH CCl

lnH Cl

(76)

まり式(76)右辺の第二項において互いに相手が知られなければ自分

決めることができず結果的に起電力を知っても(75)の値から水素イオ

ン濃度を導けないここに工夫が必要になる

44

の定義とその目盛り

液中の水素イオン濃度を直接意味するものではなく

を定義するとき測定されるのは1リットルの溶媒に存在す

pH = -log a H+ = -log(γH+CH+) (77)

際に試料溶液の pH を決定する際はpH 標準液を用いる

に溶液を入れ試料溶液 X と pH 標準液 S を

参 極を接続し電池を作成しその起

pH

現在pH の定義は溶

で述べたようにそれが簡便に測定できるものではないため次のように定

義されている

水素イオン濃度

水素イオン活量であるため定義式としては活量係数をγH+として次式で与

えられる

その要領は次のようである

上に図示した水素電極の容器内

れぞれ半電池(I)と(II)に入れる

半電池(I) Pt | H2 (1 atm) | 試料溶液

半電池(II) Pt | H2 (1 atm) | 試料溶液S

照電極として上図のごとく銀塩化銀電

電力を測定する半電池(I)のときの起電力を E(X)半電池(II)のそれを E(S)

とするこのとき試料溶液Xの pH は次式で計算される

pH (X) pH(S) E(S) E(X)

RT ln(10) (78)

ln(10)は自然対数を常用対数に戻すための定数で2303 を用いる

標準液

pH 標準液 S はpH 第一次標準液第二次標準液と呼ばれるべき

る測定

25で pH 4005 を示す

pH

上述した

のであり絶対的測定法である起電力の測定によって値をつける

標準液は安定で純粋な結晶が得られる試薬を調整してこれを測定す

上と同様に水素電極を用いこれに緩衝液を入れる参照電極として銀

塩化銀電極を接続して電池の起電力を測定する

たとえば005 moll フタル酸水素カリウム溶液は

一次標準(Primary Standard PS)の一つである半電池(III)として水素

45

電極を次のように準備する

半電池(III) Pt | H2 (1 atm) | PS 溶液

て電池を形成したとき得られる起電

参照電極として銀塩化銀電極を接続し

は式(75)から

E E

Ag AgCl RT

Flna

H aCl (79)

オン活量を濃度と活量係数の積(a H+= γH+CH+)にし自然対数を常用対数

すれば

E E

Ag AgCl RT ln(10)

F log(

H + CH+ Cl- CCl - ) (80)

E゜は水素標準電極(水素ガス分圧を1atm電極を浸ける溶液に001 moll

H

Cl を用いる)で得た起電力である

式(80)から

RT ln(10)

Flog(

H CH Cl

) (E EAg AgCl )

RT ln(10)

Flog C

Cl

(81)

らに

log(

H CH Cl

) F

RT ln(10)(E E

Ag AgCl ) logCCl

(82)

ころで式(77)から

(γH+CH+) (77)

-log a H+ =-loga H+-log(γCl-) +log(γCl-) =-log(a H+γCl-) +log(γCl-)

(83)の一番右の式で第一項は

pH = -log a H+ = -log

であるが右の式をさらに変形すると

(83)

46

-log(a H+γCl-)=-log(γH+ CH+γCl-) (84)

たがって式(82)の右辺で示されるように電池の起電力を測定すれば

よ 実際には溶液の塩素イオン濃

液で起電力を求め外挿する

起電

これによってpH を意味する式(83)は次式(85)で与えられる

p(aHγCl)はRG Bates によって Acidity Function と呼ばれている

らに式(85)最終項の log(γCl-) を補正しなければならないこの項は

本工業規格)によっても

であってこれは式(82)の左辺である

いただし塩素イオン濃度の項があって

をゼロにしたときの値が必要である

実測する際には塩素イオン濃度をゼロにできないので塩化ナトリウム NaCl

等を濃度を変えて添加しその時々の緩衝

勧告ではNaCl で 000500100015moll の3つの濃度を例示している

すなわち塩素イオン濃度ゼロのときの値は各塩素イオン濃度に対して

の値をそれぞれプロットしグラフから塩素イオンがゼロのときの起電力の

値を3点に対する回帰直線の延長で外挿して求めるこの点を次のように書

log( C H H Cl CCl

0

pa log( C log( (85) H H H Cl C

Cl0 Cl

)

素イオンの活動係数で与えられる補正項である

無限希釈溶液中のイオンの活動係数は理論的に Dubye-Huckel の式を用い

近似的に求めることが可能であるこれはJIS(日

用されていて Bates-Guggenheim の規約と呼ばれる (Bates RG

Guggenheim Pure Appl Chem 1 163-168 1960)

Dubye-Huckel の式は次のように与えられる

log A I

i 1 iB I (86)

47

I iについてそのモル濃度

計算される

はイオン強度でイオン mi と電荷 zi から次式で

I 1

2mizi (87)

また iは(86)式のBは温度と溶媒の性質による定数であり イオンの大

きさに関するパラメータで水和イオンの大きさとほぼ一致した値をとる標

準法の勧告では塩素イオンに対しイオンの大きさを46Åと決めてiBを

1

5 にしているそこで式(84)は次のようになる

ClA I

log 1 15 I

イオン強度 I は塩素イオン濃度を含まない計算となる

以上の方法によって実用的な pH 測定に用いられる第一次第二次標準液の

pH の値が得られる

絶対値としての

はpH の絶対測定法(第一次標準測定法)とされている

銀塩化銀参照電極は分極現象を防ぐために棒状の銀を塩酸で処理し表

に塩化銀を生成させたものを飽和塩化カリウム溶液につけてある

(88)

参考現在は実験的に求めた値と理論値の組み合わせで

素イオン濃度を求める方法を規定しているこの起電力から水素イオン濃度

を知るための測定方法

Buck RP Rondinini S Covington AK Baucke FGK Brett CMA Camoes MF

Milton MJT Mussini T Naumann R Pratt Kw Spitzer P Wilson GS

Measurement of pH definition standards and procedures Pure Appl Chem

74(11)2169-2200 2002Kristensen HB Salomon A Kokholm GInternational

pH scales and certification of pH Anal Chem 63(18) 885A-891A 1991)

銀塩化銀参照電極

電極の構成は

Cl-(aq) | AgCl(s) | Ag(s)

48

この半反応は次のようになる

AgCl(s) + e- rarr Ag(s) + Cl- (89)

の反応は次の2つの反応に分けて考えることができる

Ag+ + e- rarr Ag(s) (91)

AgCl(s)rarr Ag+ + Cl- (90)

図11銀塩化銀参照電極

(90)における銀 る塩素イオンによって左

されることが推測される

そこでカッコ [ ] をそれによって囲まれるイオンの濃度を表すことにし

式 イオン Ag+の溶解性は共存す

塩化銀の乖離定数Kを考えると

49

K = [Ag+][Cl-] (92)

これから

[Ag+]= K[Cl-] (93)

化カリウム溶液に漬けた銀塩化銀電極の電位 E は水素標準電極に対する

電 で与えられる

位を E゜として次式

E E

RT

nF

[ Ag ]

[Ag(s)]ln( )

Ag(s)のイオン活量は常に1とする

ここで半反応の電極電位を求めるために式(75)を利用することにすれば

(94)

熱力学の慣例にしたがって純物質個体

E E

RT

Flna

H Cl a (75)

式 の半反応をみると

応で電子1つが移動するので n=1 とするR=831441 JmolK1F = 96485

C はめれば

これに銀イオンの濃度として式(93)を当てはめる

この反応で移動する電子は (89) 銀イオン1つの反

molT=29815K(25)ln(10)=2303などの定数を当て

2303RTF = 005917

であるから(94)式は次のように表現できる

log[Cl]) E E 005917(logK (95)

たがって標準水素電極に対する銀塩化銀参照電極の標準状態における電

位 は半反応(89)に対して ゜=+0799で

化銀の乖離定数 K は182times10-10 であるのでその対数を取れば-973993

0799-005917times973993-005917log[Cl-]

E゜ E ある

ある

そこで式(95)は

E =

50

= 0799-0576-005917log[Cl-]

= 0223-005917log[Cl-] (96)

電極電位の関係について実測値

こうして求めた塩化カリウム溶液の濃度と

計算上の値は次のようである

KCl moll vs SHE volt25 計算値 volt25 01 02881 02822 35 0205 01908 飽和 0199 minus

実用 測定

実際の現場で水素イオン濃度を測定する目的の測定法で上のような2つの

極が同じ溶液に浸かっていたのでは試料溶液を交換するにも便利ではない

の容器に入れる未知試料溶液と銀塩化銀電極を隔離する

的な pH

そこで水素電極側

的で二つの電極容器をつなぐ液絡部をグラスフィルターやセラミック板

飽和塩化カリウムで作成したゼラチンなどの塩橋によって隔離遮断するこ

れを液絡部とよぶ

電池として機能するために必要な溶液イオンの交換はこの液絡部で行う

組み立てる電池は電池式で次のように表される

Pt(s) | H2 | 試料 (H+ x moll) || 飽和 KCl | AgCl | Ag(s)

の標準電極と銀塩化銀電極とは区切られていて溶液の直接の接触がない

とを意味するために電池式ではタテ二重線を用いる銀塩化銀参照電極

の容器には飽和塩化カリウム溶液が入れられる

51

図12液絡部のある pH 測定のための電池

この液絡部のある電池では塩橋を記号lsquo | | rsquoで表して次のように記す

試料 (H+ x moll) | | 飽和 KCl

ここでは試料溶液と飽和塩化カリウム溶液の異なる2液が接している

このような界面では膜電力が生じるのと同様「液間電位差」が生じることが

知られているしたがって上の電池で測定される起電力 E は

E = E[銀塩化銀電極電位]+E[液間電位]+E[水素電極電位]

で与えられることになってE[液間電位]のために図12の電池の起電力

は銀塩化銀参照電極の値を知っていても水素電極容器内に入れた未知溶

液の水素イオン濃度を正しく知ることができない

52

そこで実用的な測定法としてこの E[液間電位]を膜電位として積極的に利

用する方法が工夫されたすなわち水素イオンに感応するガラス薄膜を用い

るガラス電極法である

53

ガラス電極

ガラスはケイ素原子と酸素原子からなる SiO4 の結晶構造を持ち酸素で囲

まれた空隙があって水素イオンがそれを埋めることができる

この性質によってガラス膜表面は水溶液中の水素イオンに応じて膜電位を

変化させるのでこれを水素イオン濃度測定用の電極として利用することが考

えられるこれが通常用いられるガラス電極である

ガラス電極は標準電極と組み合わせれば電池を構成することができこの電

池の起電力を知ってガラス薄膜の内外にできたイオン濃度勾配を知ろうとす

るものである

薄いガラス膜(01mm程度)をはさんで接する2つの溶液のH+イオン濃

度が異なるとその差に応じてガラス膜の両側に電位差(Eg)が現れる

ネルンストの式でガラス電極の内部に入れた既知の濃度のH+([H+]in)に対

し試料中の水素イオン濃度が[H+]sampleのとき次の電位を生じる

)][

][log(059170)

][

][ln(

sample

in

sample

ing

H

H

H

H

F

RTE

(97)

図13ガラス電極

電極を構成するのは銀塩化銀電極と同じ電極で用いる塩溶液は一般的

54

に 01モル塩酸溶液である

この半電池の電池式は次のように書くことができる

Ag(s) | AgCl(s) | HCl (01 M) | ガラス薄膜 || 試料溶液 H+ (x moll)

Eg

この半電池の電極電圧を測定するために銀塩化銀標準電極と組み合わせ

電池を作って起電力を計る

構成される電池は下図のようになる

ガラス電極 銀塩化銀標準電極

図14ガラス電極を用いた pH 測定用の電池

この電池の起電力は次の各半電池の平衡電位を合わせたものになる

55

E1ガラス電極の内側電位

Ag(s) | AgCl(s) | HCl (01 M)

Egガラス薄膜の内外に生じる膜電位

HCl (01 M) | ガラス薄膜 || 試料溶液 H+ (x moll)

E2液間電位(膜電位)銀塩化銀標準電極のセラミックを介した試料溶液

と銀塩化銀標準電極の内部液(飽和 KCl 溶液)の間に発生する電位

試料溶液 H+ (x moll)|| セラミック | KCl(飽和)

E3銀塩化銀標準電極

KCl(飽和)| AgCl(s) | Ag(s)

pH メーター用のガラス電極に使われるガラス薄膜は水素イオンに感応して

膜電位(Eg)を生じるこれは【膜電位】の章で記したように薄膜がある

一つのイオンのみを通過させる特性を持っている場合にイオンが膜を介した

両側で平衡状態に達したとして電気化学ポテンシャルを膜の両側で等しいと

考えてそのイオンが濃厚な側から希薄な側にその差によって圧力を生じると

するものである

一方同じ試料溶液が銀塩化銀標準電極のセラミック液絡部を介して生じ

るだろう液間電位(膜電位E2)はいま関心がある水素イオンに対して特異

的に感応するのではないので試料溶液の水素イオン濃度に関係なく一定と見

なすことができる

すなわちpH メーターを構成する電池の起電力 E は

E = E1+Eg+E2+E3 (98)

このうちEg以外は一定と見なせるので

E1+E2+E3 = E

として式(98)を書き直すと

)][

][log(059170

sample

ing H

HEEEE

(99)

Eは標準液によって校正されるべき標準電極電位である

56

電極の校正

実際のイオン濃度を測定する場合低濃度標準液と高濃度標準液で得られ

る起電力を測定し計測のイオン濃度に対する係数(傾き)を求めておき未

知の試料に対して起電力を測定してそのイオン濃度を算出する方法が採られる

低濃度標準液と高濃度標準液のそれぞれの濃度をCLとCHとすればそれぞ

れの起電力ELとEHは次式で表される EH = E +β logCH (100)

EL = E +β log CL (101)

ただしβは式(99)の係数を簡略にしたものである

式(100)と(101)から検量線の傾きが次式で表せる

ΔE = EH minus EL = β(logCH minus logCL) = β logCH

CL

(102)

したがって係数βは

β =ΔE

log CH

CL

(103)

であらわされる

このときに使われる標準はすでに前出の pH 第一次標準第二次標準溶液で

ある

金属イオンに対応するイオン選択電極

現在臨床検査で日常的に使われている電解質測定のための電極はナトリウ

ムカリウムカルシウムクロールなどおよそ臨床的に必要な金属イオン

に対して入手可能である

カリウムイオン測定用のバリノマイシンの発見によってクラウンエーテルと

57

呼ばれる一連の化合物が知られたクラウンエーテルはその分子の中心に立

体的な空間を持ち特定のイオン径に対し合致するのでそのイオンに対して

選択的に感応するこれらの化合物はイオノフォアと呼ばれる

図 15クラウンエーテル

1つの金属イオンが環状化合物

15-crown-5 の中央にある空間を充填

している模式図

15-crown-5 の構造を作る10個の黒

い丸は炭素炭素2個のつながりごと

にある中心の白い丸は酸素酸素と

金属イオンの間の距離はおよそ 22~

23Åであるカリウムのファンデン

ワールス半径は 135Åイオン半径は

15~16Åである

測定したいイオンに対しポリ塩化ビニル(PVC)を支持体としてイオノフ

ォアを添加した液膜の電極膜を作成しこれをガラス電極におけるガラス薄膜

と同様試料に接する電極膜として用いるこの構造から一般的に液膜型電極

と呼ばれる電極膜には特異性を高めるため妨害イオン排除剤などが添加

される

pH メーターと同様銀塩化銀標準電極と組み合わせ電池を形成しその

起電力を計る測定したいイオンが液膜に対して内外で平衡に達したときの

膜電位を測定するのはガラス電極と同じである

カ リ ウ ム イ オ ン に は Bis[(benzo-15-crown-5) ( 正 式 名 は

Bis[(benzo-15-crown-5)-4-methyl]pimelate)ナトリウムには Bis[(12-crown-4)

やDibenzyl-bis[(12-crown-4)などがイオノフォアとして用いられる

58

図16カリウムイオン測定用に使われるクラウンエーテル

図17ナトリウムイオン測定用に使われるクラウンエーテル

59

参考イオン選択電極に関する文献Xia Z Badr IHA Plummer SL Cullen L

Bachas LG Synthesis and evaluation of a bis(crown ether) ionophore with a

conformationally constained bridge in ione- selective electrodes Anal Sci 14(2)

169-173 1998 Oh K-C Kang EC Cho YL Jeong K-S Y oo E-A Paeng K-J

Potassium-selective PVC membrane electrodes based on newly synthesized

cis- and trans-bis(crown ether)s ibid 14(10)1009-1012 1998 Dojindo WEB

site httpwwwdojindocojpwwwrootproductsjinfo2protocolp31pdf

<補遺> 60

補遺 状態関数 (本文 p21 10 行目参照)

一つの平衡状態にある系 A とこれに接する系 A にとって外部である系 B について系 B

から系 A に熱を与えこれによって系 A が他の平衡状態に移ったとき系 A はその結果とし

て膨張し系 B に対し仕事をする

このときの微少な熱量の移動を記号drsquoQ またなされた微少な仕事をdrsquoW とすると

系Aの内部エネルギーに関する微少な変化drsquoUA は両者の和として表される

WdQdUd A primeminusprime=prime (a-1)

この式 a-1 と本文中の式25との関係について

WQU A Δminus=Δ 本文(25)

<補遺> 61

式 a-1 と式25の記号の違いは変化の起きる前の平衡状態 S1 から変化後の平衡状態 S2

に状態変化があったとするなら式 a-1 を積分することで式25が得られるものと考えて区

別している

A

S

S A UUd Δ=primeint2

1 (a-2)

このことは重要であるすなわち内部エネルギーU は変化の起きる前後の状態を指定する

ことによって値が定まることを意味するこのように積分によって値を定めることが出来る

のでdrsquoU は完全微分であるという

内部エネルギーのように系の状態だけで値の定まる量を状態関数として扱う

一方式 a-1 のdrsquoQ drsquoW についても同様に微少の変化量を表しているが平衡状態 S1

から S2 への経路を指定しなければ積分の値は定まらない

本文中の記号にしたがって仕事量ΔW を次のように表すことにする

VpW Δ=Δ 本文(20) V

<補遺> 62

体積と圧力の関係を表す図を使ってこの仕事量が意味することを考える圧力 prsquo の下で

体積が V1 であるときを状態 S1 として圧力一定の下で体積を V2 まで膨張させるような変

化を行った後体積を等しく保って圧力を p にまで上げたときの状態を S2 とするこのとき

の仕事量は膨張に伴うものであるから図の体積‐圧力線の下の面積で示すことができる

平衡状態 S1 から S2 への変化の道筋を別にたどってみよう

新しい経路では圧力を先に p まで上げた後に膨張変化させている

図から直感的に明らかであるので数式での扱いを省略するが2 つの経路による仕事量には

差がある

すなわちdrsquoW は drsquoU と異なり変化の初め S1 と終わり S2 の状態が与えられても積分値

は定まらず変化の経路によって違ってくる

このように変化の経路を指定しなければ積分値が定まらないものを不完全微分と呼び扱

いを区別する

本文 p21 へ戻る

<補遺> 63

VpW

WQU

VpQU

VpUQ

1122 SSSS pVUpVUQ

pVU

VpUHHHQ SS 12

エンタルピー (本文 p24 20 行目参照)

本文中の式 20 および 25 から一定の圧力の元で起きる状態変化において内部エネルギー

の変化量に対する式 a-3 を得る

本文(20)

本文(25)

(a-3)

式 a-3 を Q について書き直す

(a-4)

状態の変化が平衡状態S1から平衡状態S2に移ったものとして式 a-4を丁寧に書き直すと

(a-5)

並び替えて

(a-6)

式 a-6 を見ると定圧過程における熱量の流入は

(a-7)

の形を持つ関数の差であることが分かる

一般に化学反応のような変化の過程では大気圧の下で行われるようなものに興味がある

そこで式 a-7 で与えられる項を一つの関数として定義するこれをエンタルピーと呼び記

号 H を与える式 a-4 はエンタルピーの変化量で次のように書き改められる

(a-8)

圧力が一定の下で起こる状態変化について流入する熱量は式 a-8 で示されるようにエンタ

ルピーの変化量に等しい

V

V

V

V V

V

V

1212 SSSS VVpUUQ VV

<補遺> 64

1Q

We

また式 a-8 からオートクレーブ内で起こるような体積変化のない過程ではこの値が内

部エネルギーの変化量で与えられることが明らかである

本文 p24 へ戻る

エントロピー (本文 p26 17 行目参照)

エントロピーは次のような思考実験から発想された仮想的な状態関数である

理想気体よりなる系 A が温度 T2で熱平衡状態にあり温度 T1の外部の熱源と接しているこ

とを想定する系 A の外部を系 B と呼ぶことにするT1は T2に対して無限小だけ高い温度と

する

系 A が系 B に対して温度圧力について平衡を保ちながら緩慢に系 B より熱量 Q1を受け取

る過程を考える(このような過程を準静的過程と呼ぶ)これによって系 A が熱量 Q1を得て膨

張するとき系 B に対して仕事をする続いて系 A から熱量 Q2が系 B に戻ることを考える

想定されるこの変化が可逆的であれば系 A と系 B を併せた全体は元の状態に戻る蒸気機

関に関するこのような研究が Nicolas Carnot によってなされたのは1824 年のことであった

ここに想定されたサイクルに対する Carnot の効率 e は移動した熱量となされた仕事によ

って定義され次の式で表される

(b-1)

<補遺> 65

理想気体では内部エネルギーU の変化ΔU はゼロと考えるしたがって熱力学の第一法

則を表す式(本文中の式25)から次の関係が示される

0=Δminus=Δ WQU

WQ Δ= (b-2)

これによってCarnot Cycleの効率eはQ2lt0 として次のように書き改めることが出来る

1

21

QQQe +

= (b-3)

ところで気体の状態方程式から1 モルの気体について次のような関係が示される

RTV

P

P1=

V = RTV (b-4)

V 式 b-4 の両辺に体積の微少変化量ΔV をかけて

(b-5)

これを体積Vについてその変化をV1からV2までとして積分するならば次式が得られる

VV

RTVP Δ=Δ 1V V

V

intint = 2

1

2

1

1V

V

V

VdV

VRTPdV

1V2V

11 lnRTW =

(b-6)

Q1の熱量によって起こる膨張がV1よりV2までとし圧力P温度T1の下でなされるその仕事

量をW1とするならそれは式b-6 の右辺によって示されるすなわち

(b-7)

VV

1

2lnVVRT=

V V

VV

V

V2int V2 intV1 V1

<補遺> 66

またQ2の熱量の移動が圧力P温度T2の下で起きこれによって系Aが可逆的に圧縮され

るなら体積変化はV2よりV1まで起こりその仕事量をW2で示すと次式のように表される

(b-8)

1

22

2

122 lnln

VVRT

VVRTW minus==VV

VV

Q1=W1Q2=W2の関係から式b-7 およびb-8 を用いてCarnot Cycleの効率eを表す式b-3

を書き改めると温度のみの関係式として次のように表される

1

21

TTTe minus

= (b-9)

ここでサイクルが可逆的過程であると想定するならば式 b-3 と式 b-9 から

1

21

1

21

TTT

QQQe minus

=+

= (b-10)

これから

12112111 QTQTQTQT minus=+ (b-11)

整理すると

02

2

1

1 =+TQ

TQ (b-12)

この考えをさらに発展させ系A

と系Bの間に数多くの系を挿入すること

にしてそれらの系を同様に熱源として

T1T2Tnと考えるこれによっ

て熱の受け渡しが系Aから系Bに至り

再び系Aにもどるサイクル過程に数多

くの寄り道の過程を加えることになる

熱量の移動に関して上の場合と同じく

準静的過程で行われると考えるこの

サイクル全過程について初めと終わ

<補遺> 67

n

i i

i

T

Q

1

0

0T

dQ

T

QS

T

dQASAS )()( 12

りが同じ状態になる可逆的な過程であるなら式 b-12 を拡大的に考えることになってそれ

は次式で表される

(b-13)

式 b-13 には重要な関数が現れるすなわち熱量と温度の比QT である

もし一つの系が無限小だけ温度の高い(dT )外界から温度圧力など平衡を保ちなが

ら極めて緩慢な過程(準静的過程)で無限小の熱量(dQ )を受け取るならばその変化は可

逆的でありdT について連続的な温度分布をする過程を考えるとき式 b-13 をさらに発展

させて次のように積分式で示すことが出来る

(b-14)

式 b-14 で積分記号にが付されているのはCarnot Cycle のような経路を一巡することを

意味している

Carnot の熱機関の効率という着想から生まれた熱量とそれを持つ系の温度との比 QT に

重要な意味を見出したのは Rudolph Clausius で彼はこの比にエントロピーという名前を与

えたエントロピーには記号ΔS を一般に用いる

(b-15)

エントロピーは初めと終わりの状態がわかれば過程に関わらず定まるので状態関数であ

系 A と外界のエントロピー変化を考えるときそれが可逆的過程であるならばすべてを併

せた全体のエントロピー変化は初めと終わりに変化がないという意味でゼロであるすなわ

ち初めの状態を S(A1)とし次の状態を S(A2)とするならそれぞれのエントロピーを

ΔS(A1)ΔS(A2)としてこの間におけるエントロピーの変化量は次のように示される

(b-16)

<補遺> 68

T

dQdS

0T

dQ

ある一つの変化については次のように示される

(b-17)

ここで式 b-17 の S に付けられたdは微分量すなわちごく微小の変化量を意味し式 b-15

で定義されたエントロピーに用いられる一般的な記号Δと区別する

ところで式 b-10 の関係においてもし移動した熱量のすべてが仕事に変わらなければ

効率 e を表す熱量を用いた関係式と温度で表される関係式は等号で結ぶことができないそれ

はエネルギーのロスを意味し初めと終わりの状態が異なってしまうことを意味するすなわ

ち全過程が構成する一つのサイクルは可逆的でなくなる

不可逆過程での熱効率 ersquo は 大値を示す可逆的過程の熱効率 e より小さな値をとる

ee

したがって 大効率を与える式 b-8 と式 b-3 から

01221

2112

1

21

1

21

QTQT

QTQT

Q

QQ

T

TT

両辺を T1T2で割ると

02

2

1

1 T

Q

T

Q

これを式 b12 と同様に発展させれば式 b-14 についてサイクルの変化が可逆的過程の

場合と不可逆的過程の場合の両方を併せClausius の不等式と呼ばれる次の関係が成立する

(b-18)

式 b-18 の等号が成立するのはサイクルが可逆的な理想の場合に限られる

ある孤立系で状態 A1 から状態 A2 へは不可逆変化で進められ状態 A2 から再び状態 A1

に戻るとき可逆変化であるような閉じた状態変化を考える可逆系のエントロピー変化には

記号 Q を使い不可逆変化には Q を用いるとするとそれぞれ積分式を用いて状態 A1 から

状態 A2 へは

<補遺> 69

d prime

状態 A2 から状態 A1 に戻るときは

全体では

=d prime

+d

(b-19)

Clausius の不等式から

0

式(b-19)の第二項で反応を逆に進めるときには次のように書き改めることができる

=d

よって式(b-19)は次のように書き直すことができClausius の不等式とあわせると

d prime d

0

すなわち

d prime d

上式の右辺は式(b-16)を用いて表せば

d prime

∆S ∆

この状態変化を微小変化とするならば断熱変化の場合 dQ = 0 であるから

∆S ∆ dS 0

すなわち不可逆変化を含む断熱変化ではエントロピーは必ず増大する

<補遺> 70

T

QS

BA SSS

(b-20)

(次の<補遺>ギブス自由エネルギーも参照せよ)

本文 p26 へ戻る

ギブス自由エネルギー (本文 p28 27 行目参照)

エントロピーの考えを導入することによって不可逆的に状態変化が起きるときにはエン

トロピーの増大を引き起こすことを知ったこれによって目前で起きる現象について温度の

変化があるものであれないものであれまた圧力の変化があるものであってもエントロピー

の定義式によって可逆的な変化におけるエントロピーの変化量を計算することが可能である

(b-15)

しかしながらこれから起こる変化について我々がすでにあらかじめ知っている物理量を

用いて予測的にその状態変化が起きるかどうか知ることは必ずしも容易ではないその理由

は式 b-15 に示されたエントロピーΔS が系とその外界をあわせた全体のエントロピーを示

しているからであるすなわち関心のある系を系 A としその外界を系 B とすると全体

のエントロピーは次のように表せる

(c-1)

関心のある系 A のエントロピー変化を知るためには系 B のそれを知ればよいがそれは

いつも容易とは限らない系 A の性質だけで状態変化の方向を知るには別の観点が必要にな

るようだ

そこでもう一度状態変化が熱量 Q の移動によって起きることについて考えてみようエン

トロピーの補遺で議論したように熱量の移動が準静的過程により行われるときには変化は可

逆的に起こると考えたこのとき外界すなわち系 B から移動する熱量を Q1とし系 A から

0S

<補遺> 71

21 QQ

T

Q

T

QSB

21

T

QSS A

2

QH

T

HSS AA

AA STHST

のそれを Q2 と記号を当てたのでこれをそのまま使うことにすれば可逆的な過程では系 B

の熱量 Q1 はすなわち系 A から戻る Q2 に他ならないので両者には次の関係が成立するも

のとしてよい

(c-2)

したがって

(c-3)

と考えてよくこれによって式 c-1 を次のように書きなおすことが出来る

(c-4)

独立した系で圧力とその体積に変化がなく一定の条件の下で状態変化が起きるときエン

タルピーの考えを使ってすでにひとつの関係があることを導いている

本文(31)

そこで式 c-4 を系のエンタルピーΔHAによって書き改めれば

(c-5)

この両辺に-T をかけて式を書き直せば次の関係式が得られる

(c-6)

式 c-6 を見るときその右辺がマイナスの値ならば左辺のΔS はプラスの値をとることが

分かるすなわちエントロピーが増大すると見ることが出来るこれまでの過程で自然の現

象はエントロピーが増大する方向に進むとしてきたので関心のある状態変化について式 c-6

の右辺で計算される値がマイナスの値ならばその変化は起きるものと考えてよいことになる

だろうしかも右辺はすべて独立した系の状態量で示されていて我々が知りうる値で計算

<補遺> 72

TSHG

STSTHG

STHG

可能である

そこでこれを熱力学ポテンシャルを表すものとしてギブス自由エネルギーと呼ぶことに

するギブス自由エネルギーは記号 G が用いられ次のように定義される

(c-7)

ここで関心があるのは自由エネルギーの絶対値ではなく式 c-6 に示されたようにその変化量

に興味があるので式 c-7 から

(c-8)

温度が一定の条件の下で状態変化が起きることを考えるなら式 c-8 は次のように書くこと

ができる

(c-9)

ギブス自由エネルギーは式 c-9 の右辺がすべて状態量であるからこれも状態量の一つで

ある定圧定温の条件下で起きる変化ではすでに議論したようにΔGlt0 であれば状態

変化は自発的に起きるものと予測できる

つまり式 c-5 の第一項は系のエントロピーΔSAそのものであり第二項で示されるエンタ

ルピーは系 A の温度が一定に保たれているのであるから発熱する熱量として外界に吸収さ

れるものであってこれは外界のエントロピーの増大につながるものとして解釈されるした

がって化学反応のように一定の圧力と一定の温度の下で起きる変化について自由エネルギ

ー変化量はその状態変化が自発的に起きる傾向を示しているといってよい

本文 p28 へ戻る

  • はじめに
  • 目次
  • 電気エネルギー
    • 金属のイオン化
    • 電池
    • 水素の反応
    • 燃料電池
    • 化学反応と電気エネルギー
      • エネルギーと熱力学
        • エネルギー保存則
        • エンタルピー
        • エントロピー13
        • ギブス自由エネルギー
        • 電池における化学反応のギブス自由エネルギー13
        • 理想気体の状態方程式
        • 理想溶液のギブス自由エネルギー
        • 膜電位
          • 水素イオン濃度測定
            • 化学反応の一般的な式
            • pHの定義とその目盛り
            • pH標準液
            • 銀塩化銀参照電極
            • 実用的なpH測定
            • ガラス電極
            • 電極の校正
            • 金属イオンに対応するイオン選択電極
              • 文献
              • 補遺
                • 状態関数
                • エンタルピー
                • エントロピー
                • ギブス自由エネルギー
Page 38: イオン選択電極i イオン選択電極 Ion Selective Electrode (ISE) を理解する ・ pHを測定する ・ NaやKなどのイオン濃度を測定する 神戸大学医学部保健学科

35

状態方程式から式(49)の右辺を導くことを考えてみよう式(50)は

1モルの気体について V に対し次のように変形することができる

V 1

PRT (50rsquo)

両辺に圧力の微小変化量⊿P をかけると

PP

RTP V (52)

これを微分方程式として圧力p0 からp1 まで(p0≦p1)積分するなら

1

0

1

0

1

0

1p

p

p

p

p

pdP

PRTdP

P

RTdPV (53)

関数 f(x)=1x を積分したときの関数はF(x)=ln(x)であるので(ln は e を底

とする自然対数loge)

右辺=0

1ln)0ln()1ln(p

pRTpRTpRT (54)

ギブス自由エネルギーを表す式(49)は次のようであったから

ΔG = VΔP (49)

式(52)から得た式(54)を当てはめると状態G0(p0T)からG1(p1T)

へ変化する過程で圧力が p0 から p1 まで変化するものとして

dGG0

G1

G( p1T ) G(p0T ) RT lnp1

p0 (55)

あるいはこれを書き直して

V

36

G(p1 T) = G( p0T ) + RT lnp1p0

(56)

特別にG0(p0T)を標準状態T=29815K(25)p0=1atmに指定する

なら標準生成ギブス自由エネルギーを記号G゜として (56rsquo)

と表すことができる

式(56rsquo)の意味するところは標準状態から圧力の変化を伴う過程で理

G(p1 T) = Go + RT ln p1

想気体のギブス自由エネルギーは圧力の対数に比例して上昇することである

このことはさらに新しい着想を生む

すなわち水素を燃料とする上の燃料電池で1atm 標準状態の水素ガスの圧力

を2atm に上げれば式(56rsquo)からRTln2 余分にギブス自由エネルギー

が取り出せることになる

燃料電池において起電力を生むエネルギーは隔壁を水素イオンもしくは酸

素イオンが浸透しようとする力であるので1atm の水素ガスと2atm のそれで

は浸透しようとする圧力が異なりここに起電力が生じる

式(56)の第二項が圧力の差による仕事であるからこれをΔG とすれば

W=-ΔG の仕事量が電気エネルギーとして取り出せるはずである

W = minusΔG = minusRT lnp1p0

(57)

起電力に換算するために式(41)を使うと

W = n FV=minus ΔG (41)

から

01ln

pp

nFRTV ⎟

⎠⎞

⎜⎝⎛minus= (58)

この式(58)は一般にネルンスト(Nernst)の式と呼ばれる

37

理想溶液のギブス自由エネルギー

理想気体を想定したように無限に希釈された混合溶液に対して理想溶液を仮

定する「系」の圧力温度を一定に保つならば体積内部エネルギーエンタ

ルピーギブス自由エネルギーなどの示量数は混合溶液を構成する物質のモ

ル数mに比例するたとえば標準状態にある物質の1モルの体積をVとすれば

mモルの体積はそのm倍mVであるそうすると溶液中のi番目の成分がmi

モル「系」から「外界」に仕事をするときその成分iの持つ自由エネルギーの

mi倍の仕事が「外界」になされると考えればよい

この溶液成分のモル数と化学的仕事を結びつける示強因子がギブスによって

化学ポテンシャルと名付けられ一般に記号μが用いられる

化学ポテンシャルはこれまで見たようにギブス自由エネルギーで表される

また電位がψ(プサイ)にある系から-Δeの電荷が放出されるときには

-ψΔeの電気的仕事が得られるそこで記号μに両者を合わせた意味を持

たせて「電気化学ポテンシャル」と呼ぶ

概念の上で物質は電気化学ポテンシャルの高い方から低い方へ勾配にした

がって移動する

理想気体の標準状態が気体分圧を T=29815K(25)で 1atm としたのに対

し溶液成分の標準状態はその分圧に相当するモル数 m を用いるすなわち

標準状態にある成分 i の電気化学ポテンシャルμ0iは成分の持つ電荷(H+なら

1)を n として

μ0i = G i゜+nFψ i (59)

ギブス自由エネルギーは式(56rsquo)を借り理想溶液中の成分に対しては気

体圧力をその成分のモル濃度Cに書き換えればよいそこで

G(CT ) G RT lnC (60)

と表すことができる

したがって一般的な成分 i の電気化学ポテンシャルμiを表す式は標準状態

からの自由エネルギーの変化を考え式(59)と合わせて次のようになる

38

ψnFGii 0

式(60)から

ii CRTGTCGG ln)( 0

よって

(61) ψnFCRT iii ln0

実際的なことを考えると成分濃度はその有効イオン濃度とする必要があり

「活量係数」γを導入して次式で表されるイオン活量aを用いる

ai = γCi (62)

一般的にはγ=1と近似してモル濃度Cを使っているこのテキストでも

必要ではない限りイオン活量を用いることを省略して簡単に記述したい

膜電位

燃料電池に使われたナフィオンのような一つのイオンを通す膜を介して膜

の両側にC0 とC1 のイオン濃度差がある溶液が接するときの電気化学ポテン

シャルを考えよう

ある容器の底にナフィオン膜を取り付け容器の中と外のイオン濃度をC0

とC1としそれぞれの電気化学ポテンシャルをそれぞれμinとμoutとする

式(61)を使って

容器の中の電気化学ポテンシャル

(63) innFCRTin ψ 00 ln

容器の外の電気化学ポテンシャル

(64) outout nFCRT ψ 10 ln

イオン浸透性の膜を介して濃度変化が無視できるほどの移動があると考え

その電気化学ポテンシャルの差を式(63)(64)から求めれば

39

)(ln0

1 inoutinout nFC

CRT ψψ (65)

この系において今注目しているイオンが膜を介した両側で平衡状態にある

とき式(65)はΔμ=0と考えることができるすなわち

0)(ln0

1 inoutnFC

CRT ψψ

膜内外の電位差をΔψ=ψoutminus ψinとすれば

1

0

0

1 lnlnC

C

nF

RT

C

C

nF

RTψ (66)

式(66)は理想気体に対するネルンストの式(58)と同様溶液中のイ

オンに対するネルンスト(Nernst)の式として与えられる

細胞の膜においてもその生体膜の内外でたとえばカリウムイオンのように

非対称に分布して平衡に達している場合には式(66)で与えられる膜内外

で電位差が生じるこれは一般に膜電位と呼ばれる膜電位は平衡電位とも

呼ばれる

たとえば膜内外に1価のカリウムイオンに10倍の濃度差があるとすると

通常カリウムイオンは細胞内の濃度が高いので

C0 = 10timesC1

であるから

これを式(66)に当てはめてln(10)=2303 を用いlog への変換をすれば

Δψ=2303times(RTF)timeslog(10)

であるこれに R=831441 JmolKF=96485 CmolT=29815 K(25)

の各数値を当てはめると

Δψ=2303times831441times29815times196485 JC

=+005917 volt

すなわち膜の内外で約+60ミリボルトの膜電位が生じることになるこの

分だけ細胞の外側の電気化学ポテンシャルが高く膜の内側の膜電位が負であ

るそして膜にあるカリウムチャネルがこの電位を示すとき受動的なカリ

40

ウムの膜内外の移動は平衡に達することになる

水素イオン濃度測定

「標準水素電極」は1モル塩酸溶液につけた白金電極に1atm の水素ガスを

吹き込んで平衡状態に達したときの電位を基準としてゼロボルトと規定した

そこである溶液についてその水素イオン濃度を知ろうとするとき同じ水

素電極を用いることを考えれば標準状態にする目的で用いた1モル塩酸溶液

を濃度未知で X モルの塩酸溶液と想定すればその水素イオン濃度を知るこ

とができるだろうか

標準状態ではない X モルの塩酸溶液に浸けた白金電極が半電池として働くこ

とは間違いなさそうであるしかしその白金電極が持つ電極電位を測定する

にはいずれにしても標準電極と組み合わせて「電池」を構成しその電池

の起電力として計る必要がある電池を作れば起電力を知ることができ相

手の半電池の電極電位が知られていれば濃度が未知でXモルの溶液について

その水素イオン濃度を知ることができるだろう

こうした目的のためにいちいちゼロボルトと規定した標準水素電極を用いる

のは煩雑なのでしばしば後出の「銀塩化銀電極」が参照電極として用いら

れる

まず予め「銀塩化銀電極」を標準水素電極と組み合わせて電池とし一度

その起電力を測定しておけば後はいつもそれを標準電極として利用できる

「銀塩化銀電極」の半電池は

H+ (1 moll) Cl- | AgCl | Ag(s)

これに「標準水素電極」を組み合わせ電池を構成すると次のような電池

になる

Pt(s) | H2(g) | H+ (1 moll) Cl- | AgCl | Ag(s)

この電池の起電力を知れば「銀塩化銀電極」の半電池としての電極電位

を知ることができ参照電極として未知の半電池と組み合わせて起電力を測

定して相手の電極電位を計算できる

41

濃度 X モルの塩酸溶液を未知の溶液と想定すればその電極電位を知るために

組み立てる電池は次のようになる図10にその電池の図を示した

Pt(s) | H2(g) | H+ (x moll) Cl- | AgCl | Ag(s)

この電池の全反応は次の反応式で表される

AgCl(s) 1

2H2 (g) H Cl Ag(s) (67)

図10未知溶液の水素イオン濃度を測定しようとするための電池

化学反応の一般的な式

ここで電池に利用される化学反応から得られるエネルギーをギブス自由エ

ネルギーに換算し起電力を具体的に知る手だてとすることは上ですでに学

42

んだがより一般的な式を再度ここに書きだしておこう

化学反応が紙面で左から右に進む反応として次のような一般式で与えられ

るとき

aA + bB rarr cC + dD (68)

ギブス自由エネルギー変化量は標準状態ΔG゜からの変化量を加える形で式

(60)と同様次の式によって表される

G G RT(ln aCc aD

d ln aAa aB

b )

G RT ln

aCc aD

d

aAa aB

b (69)

aAは成分 A のイオン活量であるその他の成分も同じ

得られたエネルギーを電気エネルギーに換えるなら式(41)に習って

次式で表せば

ΔG=-n FV

there4V=-ΔG(nF) (70)

このときの起電力は標準状態における電位 E゜からの変化量として次式で与

えられる

E E

RT

nFln

aCc aD

d

aAa aB

b (71)

標準状態における起電力 E゜は反応が平衡状態にあるときで反応平衡定数

を K とするなら

K aC

c aDd

aAa aB

b (72)

で表されるそこでE゜は次のように書き改めることができる

43

E

RT

nFln K (73)

そこで式(67)で表される図10の電池「水素minus 銀塩化銀電池」に

対する起電力をギブス自由エネルギーから求めてみよう

反応から式(71)に当てはめれば

E E RT

Fln

aH

1 aCl

1 aAg1

aAgCl1 aH2

1

2

(74)

力学の慣例にしたがって固体の純物質の活量は1として扱い水素ガスを

想気体として見なして活量を1atm とするなら式(74)は次のよう

に簡略化される

E E

RT

Flna

H aCl (75)

ころで理想溶液として近似的に取り扱うときの希薄溶液でたとえば水素

入して詳細に検討するなら式( れる起電

オン濃度はイオン活量として aH+の記号を使うときすでに【理想溶液のギ

ブス自由エネルギー】の章で述べたようにこれを有効イオン濃度とする必要

がありイオン活量 a は「活量係数」γを導入して次式で表した

a H+= γH+CH+ (62)

この活量係数を導 75)で誘導さ

を計ることによって経験的に試料溶液中の水素イオン濃度を求めることは

困難である式(75)にあるイオン活量の項はモル濃度 C と活量係数γを

用いて次式で書き改められる

lnaH aCl

lnCH CCl

lnH Cl

(76)

まり式(76)右辺の第二項において互いに相手が知られなければ自分

決めることができず結果的に起電力を知っても(75)の値から水素イオ

ン濃度を導けないここに工夫が必要になる

44

の定義とその目盛り

液中の水素イオン濃度を直接意味するものではなく

を定義するとき測定されるのは1リットルの溶媒に存在す

pH = -log a H+ = -log(γH+CH+) (77)

際に試料溶液の pH を決定する際はpH 標準液を用いる

に溶液を入れ試料溶液 X と pH 標準液 S を

参 極を接続し電池を作成しその起

pH

現在pH の定義は溶

で述べたようにそれが簡便に測定できるものではないため次のように定

義されている

水素イオン濃度

水素イオン活量であるため定義式としては活量係数をγH+として次式で与

えられる

その要領は次のようである

上に図示した水素電極の容器内

れぞれ半電池(I)と(II)に入れる

半電池(I) Pt | H2 (1 atm) | 試料溶液

半電池(II) Pt | H2 (1 atm) | 試料溶液S

照電極として上図のごとく銀塩化銀電

電力を測定する半電池(I)のときの起電力を E(X)半電池(II)のそれを E(S)

とするこのとき試料溶液Xの pH は次式で計算される

pH (X) pH(S) E(S) E(X)

RT ln(10) (78)

ln(10)は自然対数を常用対数に戻すための定数で2303 を用いる

標準液

pH 標準液 S はpH 第一次標準液第二次標準液と呼ばれるべき

る測定

25で pH 4005 を示す

pH

上述した

のであり絶対的測定法である起電力の測定によって値をつける

標準液は安定で純粋な結晶が得られる試薬を調整してこれを測定す

上と同様に水素電極を用いこれに緩衝液を入れる参照電極として銀

塩化銀電極を接続して電池の起電力を測定する

たとえば005 moll フタル酸水素カリウム溶液は

一次標準(Primary Standard PS)の一つである半電池(III)として水素

45

電極を次のように準備する

半電池(III) Pt | H2 (1 atm) | PS 溶液

て電池を形成したとき得られる起電

参照電極として銀塩化銀電極を接続し

は式(75)から

E E

Ag AgCl RT

Flna

H aCl (79)

オン活量を濃度と活量係数の積(a H+= γH+CH+)にし自然対数を常用対数

すれば

E E

Ag AgCl RT ln(10)

F log(

H + CH+ Cl- CCl - ) (80)

E゜は水素標準電極(水素ガス分圧を1atm電極を浸ける溶液に001 moll

H

Cl を用いる)で得た起電力である

式(80)から

RT ln(10)

Flog(

H CH Cl

) (E EAg AgCl )

RT ln(10)

Flog C

Cl

(81)

らに

log(

H CH Cl

) F

RT ln(10)(E E

Ag AgCl ) logCCl

(82)

ころで式(77)から

(γH+CH+) (77)

-log a H+ =-loga H+-log(γCl-) +log(γCl-) =-log(a H+γCl-) +log(γCl-)

(83)の一番右の式で第一項は

pH = -log a H+ = -log

であるが右の式をさらに変形すると

(83)

46

-log(a H+γCl-)=-log(γH+ CH+γCl-) (84)

たがって式(82)の右辺で示されるように電池の起電力を測定すれば

よ 実際には溶液の塩素イオン濃

液で起電力を求め外挿する

起電

これによってpH を意味する式(83)は次式(85)で与えられる

p(aHγCl)はRG Bates によって Acidity Function と呼ばれている

らに式(85)最終項の log(γCl-) を補正しなければならないこの項は

本工業規格)によっても

であってこれは式(82)の左辺である

いただし塩素イオン濃度の項があって

をゼロにしたときの値が必要である

実測する際には塩素イオン濃度をゼロにできないので塩化ナトリウム NaCl

等を濃度を変えて添加しその時々の緩衝

勧告ではNaCl で 000500100015moll の3つの濃度を例示している

すなわち塩素イオン濃度ゼロのときの値は各塩素イオン濃度に対して

の値をそれぞれプロットしグラフから塩素イオンがゼロのときの起電力の

値を3点に対する回帰直線の延長で外挿して求めるこの点を次のように書

log( C H H Cl CCl

0

pa log( C log( (85) H H H Cl C

Cl0 Cl

)

素イオンの活動係数で与えられる補正項である

無限希釈溶液中のイオンの活動係数は理論的に Dubye-Huckel の式を用い

近似的に求めることが可能であるこれはJIS(日

用されていて Bates-Guggenheim の規約と呼ばれる (Bates RG

Guggenheim Pure Appl Chem 1 163-168 1960)

Dubye-Huckel の式は次のように与えられる

log A I

i 1 iB I (86)

47

I iについてそのモル濃度

計算される

はイオン強度でイオン mi と電荷 zi から次式で

I 1

2mizi (87)

また iは(86)式のBは温度と溶媒の性質による定数であり イオンの大

きさに関するパラメータで水和イオンの大きさとほぼ一致した値をとる標

準法の勧告では塩素イオンに対しイオンの大きさを46Åと決めてiBを

1

5 にしているそこで式(84)は次のようになる

ClA I

log 1 15 I

イオン強度 I は塩素イオン濃度を含まない計算となる

以上の方法によって実用的な pH 測定に用いられる第一次第二次標準液の

pH の値が得られる

絶対値としての

はpH の絶対測定法(第一次標準測定法)とされている

銀塩化銀参照電極は分極現象を防ぐために棒状の銀を塩酸で処理し表

に塩化銀を生成させたものを飽和塩化カリウム溶液につけてある

(88)

参考現在は実験的に求めた値と理論値の組み合わせで

素イオン濃度を求める方法を規定しているこの起電力から水素イオン濃度

を知るための測定方法

Buck RP Rondinini S Covington AK Baucke FGK Brett CMA Camoes MF

Milton MJT Mussini T Naumann R Pratt Kw Spitzer P Wilson GS

Measurement of pH definition standards and procedures Pure Appl Chem

74(11)2169-2200 2002Kristensen HB Salomon A Kokholm GInternational

pH scales and certification of pH Anal Chem 63(18) 885A-891A 1991)

銀塩化銀参照電極

電極の構成は

Cl-(aq) | AgCl(s) | Ag(s)

48

この半反応は次のようになる

AgCl(s) + e- rarr Ag(s) + Cl- (89)

の反応は次の2つの反応に分けて考えることができる

Ag+ + e- rarr Ag(s) (91)

AgCl(s)rarr Ag+ + Cl- (90)

図11銀塩化銀参照電極

(90)における銀 る塩素イオンによって左

されることが推測される

そこでカッコ [ ] をそれによって囲まれるイオンの濃度を表すことにし

式 イオン Ag+の溶解性は共存す

塩化銀の乖離定数Kを考えると

49

K = [Ag+][Cl-] (92)

これから

[Ag+]= K[Cl-] (93)

化カリウム溶液に漬けた銀塩化銀電極の電位 E は水素標準電極に対する

電 で与えられる

位を E゜として次式

E E

RT

nF

[ Ag ]

[Ag(s)]ln( )

Ag(s)のイオン活量は常に1とする

ここで半反応の電極電位を求めるために式(75)を利用することにすれば

(94)

熱力学の慣例にしたがって純物質個体

E E

RT

Flna

H Cl a (75)

式 の半反応をみると

応で電子1つが移動するので n=1 とするR=831441 JmolK1F = 96485

C はめれば

これに銀イオンの濃度として式(93)を当てはめる

この反応で移動する電子は (89) 銀イオン1つの反

molT=29815K(25)ln(10)=2303などの定数を当て

2303RTF = 005917

であるから(94)式は次のように表現できる

log[Cl]) E E 005917(logK (95)

たがって標準水素電極に対する銀塩化銀参照電極の標準状態における電

位 は半反応(89)に対して ゜=+0799で

化銀の乖離定数 K は182times10-10 であるのでその対数を取れば-973993

0799-005917times973993-005917log[Cl-]

E゜ E ある

ある

そこで式(95)は

E =

50

= 0799-0576-005917log[Cl-]

= 0223-005917log[Cl-] (96)

電極電位の関係について実測値

こうして求めた塩化カリウム溶液の濃度と

計算上の値は次のようである

KCl moll vs SHE volt25 計算値 volt25 01 02881 02822 35 0205 01908 飽和 0199 minus

実用 測定

実際の現場で水素イオン濃度を測定する目的の測定法で上のような2つの

極が同じ溶液に浸かっていたのでは試料溶液を交換するにも便利ではない

の容器に入れる未知試料溶液と銀塩化銀電極を隔離する

的な pH

そこで水素電極側

的で二つの電極容器をつなぐ液絡部をグラスフィルターやセラミック板

飽和塩化カリウムで作成したゼラチンなどの塩橋によって隔離遮断するこ

れを液絡部とよぶ

電池として機能するために必要な溶液イオンの交換はこの液絡部で行う

組み立てる電池は電池式で次のように表される

Pt(s) | H2 | 試料 (H+ x moll) || 飽和 KCl | AgCl | Ag(s)

の標準電極と銀塩化銀電極とは区切られていて溶液の直接の接触がない

とを意味するために電池式ではタテ二重線を用いる銀塩化銀参照電極

の容器には飽和塩化カリウム溶液が入れられる

51

図12液絡部のある pH 測定のための電池

この液絡部のある電池では塩橋を記号lsquo | | rsquoで表して次のように記す

試料 (H+ x moll) | | 飽和 KCl

ここでは試料溶液と飽和塩化カリウム溶液の異なる2液が接している

このような界面では膜電力が生じるのと同様「液間電位差」が生じることが

知られているしたがって上の電池で測定される起電力 E は

E = E[銀塩化銀電極電位]+E[液間電位]+E[水素電極電位]

で与えられることになってE[液間電位]のために図12の電池の起電力

は銀塩化銀参照電極の値を知っていても水素電極容器内に入れた未知溶

液の水素イオン濃度を正しく知ることができない

52

そこで実用的な測定法としてこの E[液間電位]を膜電位として積極的に利

用する方法が工夫されたすなわち水素イオンに感応するガラス薄膜を用い

るガラス電極法である

53

ガラス電極

ガラスはケイ素原子と酸素原子からなる SiO4 の結晶構造を持ち酸素で囲

まれた空隙があって水素イオンがそれを埋めることができる

この性質によってガラス膜表面は水溶液中の水素イオンに応じて膜電位を

変化させるのでこれを水素イオン濃度測定用の電極として利用することが考

えられるこれが通常用いられるガラス電極である

ガラス電極は標準電極と組み合わせれば電池を構成することができこの電

池の起電力を知ってガラス薄膜の内外にできたイオン濃度勾配を知ろうとす

るものである

薄いガラス膜(01mm程度)をはさんで接する2つの溶液のH+イオン濃

度が異なるとその差に応じてガラス膜の両側に電位差(Eg)が現れる

ネルンストの式でガラス電極の内部に入れた既知の濃度のH+([H+]in)に対

し試料中の水素イオン濃度が[H+]sampleのとき次の電位を生じる

)][

][log(059170)

][

][ln(

sample

in

sample

ing

H

H

H

H

F

RTE

(97)

図13ガラス電極

電極を構成するのは銀塩化銀電極と同じ電極で用いる塩溶液は一般的

54

に 01モル塩酸溶液である

この半電池の電池式は次のように書くことができる

Ag(s) | AgCl(s) | HCl (01 M) | ガラス薄膜 || 試料溶液 H+ (x moll)

Eg

この半電池の電極電圧を測定するために銀塩化銀標準電極と組み合わせ

電池を作って起電力を計る

構成される電池は下図のようになる

ガラス電極 銀塩化銀標準電極

図14ガラス電極を用いた pH 測定用の電池

この電池の起電力は次の各半電池の平衡電位を合わせたものになる

55

E1ガラス電極の内側電位

Ag(s) | AgCl(s) | HCl (01 M)

Egガラス薄膜の内外に生じる膜電位

HCl (01 M) | ガラス薄膜 || 試料溶液 H+ (x moll)

E2液間電位(膜電位)銀塩化銀標準電極のセラミックを介した試料溶液

と銀塩化銀標準電極の内部液(飽和 KCl 溶液)の間に発生する電位

試料溶液 H+ (x moll)|| セラミック | KCl(飽和)

E3銀塩化銀標準電極

KCl(飽和)| AgCl(s) | Ag(s)

pH メーター用のガラス電極に使われるガラス薄膜は水素イオンに感応して

膜電位(Eg)を生じるこれは【膜電位】の章で記したように薄膜がある

一つのイオンのみを通過させる特性を持っている場合にイオンが膜を介した

両側で平衡状態に達したとして電気化学ポテンシャルを膜の両側で等しいと

考えてそのイオンが濃厚な側から希薄な側にその差によって圧力を生じると

するものである

一方同じ試料溶液が銀塩化銀標準電極のセラミック液絡部を介して生じ

るだろう液間電位(膜電位E2)はいま関心がある水素イオンに対して特異

的に感応するのではないので試料溶液の水素イオン濃度に関係なく一定と見

なすことができる

すなわちpH メーターを構成する電池の起電力 E は

E = E1+Eg+E2+E3 (98)

このうちEg以外は一定と見なせるので

E1+E2+E3 = E

として式(98)を書き直すと

)][

][log(059170

sample

ing H

HEEEE

(99)

Eは標準液によって校正されるべき標準電極電位である

56

電極の校正

実際のイオン濃度を測定する場合低濃度標準液と高濃度標準液で得られ

る起電力を測定し計測のイオン濃度に対する係数(傾き)を求めておき未

知の試料に対して起電力を測定してそのイオン濃度を算出する方法が採られる

低濃度標準液と高濃度標準液のそれぞれの濃度をCLとCHとすればそれぞ

れの起電力ELとEHは次式で表される EH = E +β logCH (100)

EL = E +β log CL (101)

ただしβは式(99)の係数を簡略にしたものである

式(100)と(101)から検量線の傾きが次式で表せる

ΔE = EH minus EL = β(logCH minus logCL) = β logCH

CL

(102)

したがって係数βは

β =ΔE

log CH

CL

(103)

であらわされる

このときに使われる標準はすでに前出の pH 第一次標準第二次標準溶液で

ある

金属イオンに対応するイオン選択電極

現在臨床検査で日常的に使われている電解質測定のための電極はナトリウ

ムカリウムカルシウムクロールなどおよそ臨床的に必要な金属イオン

に対して入手可能である

カリウムイオン測定用のバリノマイシンの発見によってクラウンエーテルと

57

呼ばれる一連の化合物が知られたクラウンエーテルはその分子の中心に立

体的な空間を持ち特定のイオン径に対し合致するのでそのイオンに対して

選択的に感応するこれらの化合物はイオノフォアと呼ばれる

図 15クラウンエーテル

1つの金属イオンが環状化合物

15-crown-5 の中央にある空間を充填

している模式図

15-crown-5 の構造を作る10個の黒

い丸は炭素炭素2個のつながりごと

にある中心の白い丸は酸素酸素と

金属イオンの間の距離はおよそ 22~

23Åであるカリウムのファンデン

ワールス半径は 135Åイオン半径は

15~16Åである

測定したいイオンに対しポリ塩化ビニル(PVC)を支持体としてイオノフ

ォアを添加した液膜の電極膜を作成しこれをガラス電極におけるガラス薄膜

と同様試料に接する電極膜として用いるこの構造から一般的に液膜型電極

と呼ばれる電極膜には特異性を高めるため妨害イオン排除剤などが添加

される

pH メーターと同様銀塩化銀標準電極と組み合わせ電池を形成しその

起電力を計る測定したいイオンが液膜に対して内外で平衡に達したときの

膜電位を測定するのはガラス電極と同じである

カ リ ウ ム イ オ ン に は Bis[(benzo-15-crown-5) ( 正 式 名 は

Bis[(benzo-15-crown-5)-4-methyl]pimelate)ナトリウムには Bis[(12-crown-4)

やDibenzyl-bis[(12-crown-4)などがイオノフォアとして用いられる

58

図16カリウムイオン測定用に使われるクラウンエーテル

図17ナトリウムイオン測定用に使われるクラウンエーテル

59

参考イオン選択電極に関する文献Xia Z Badr IHA Plummer SL Cullen L

Bachas LG Synthesis and evaluation of a bis(crown ether) ionophore with a

conformationally constained bridge in ione- selective electrodes Anal Sci 14(2)

169-173 1998 Oh K-C Kang EC Cho YL Jeong K-S Y oo E-A Paeng K-J

Potassium-selective PVC membrane electrodes based on newly synthesized

cis- and trans-bis(crown ether)s ibid 14(10)1009-1012 1998 Dojindo WEB

site httpwwwdojindocojpwwwrootproductsjinfo2protocolp31pdf

<補遺> 60

補遺 状態関数 (本文 p21 10 行目参照)

一つの平衡状態にある系 A とこれに接する系 A にとって外部である系 B について系 B

から系 A に熱を与えこれによって系 A が他の平衡状態に移ったとき系 A はその結果とし

て膨張し系 B に対し仕事をする

このときの微少な熱量の移動を記号drsquoQ またなされた微少な仕事をdrsquoW とすると

系Aの内部エネルギーに関する微少な変化drsquoUA は両者の和として表される

WdQdUd A primeminusprime=prime (a-1)

この式 a-1 と本文中の式25との関係について

WQU A Δminus=Δ 本文(25)

<補遺> 61

式 a-1 と式25の記号の違いは変化の起きる前の平衡状態 S1 から変化後の平衡状態 S2

に状態変化があったとするなら式 a-1 を積分することで式25が得られるものと考えて区

別している

A

S

S A UUd Δ=primeint2

1 (a-2)

このことは重要であるすなわち内部エネルギーU は変化の起きる前後の状態を指定する

ことによって値が定まることを意味するこのように積分によって値を定めることが出来る

のでdrsquoU は完全微分であるという

内部エネルギーのように系の状態だけで値の定まる量を状態関数として扱う

一方式 a-1 のdrsquoQ drsquoW についても同様に微少の変化量を表しているが平衡状態 S1

から S2 への経路を指定しなければ積分の値は定まらない

本文中の記号にしたがって仕事量ΔW を次のように表すことにする

VpW Δ=Δ 本文(20) V

<補遺> 62

体積と圧力の関係を表す図を使ってこの仕事量が意味することを考える圧力 prsquo の下で

体積が V1 であるときを状態 S1 として圧力一定の下で体積を V2 まで膨張させるような変

化を行った後体積を等しく保って圧力を p にまで上げたときの状態を S2 とするこのとき

の仕事量は膨張に伴うものであるから図の体積‐圧力線の下の面積で示すことができる

平衡状態 S1 から S2 への変化の道筋を別にたどってみよう

新しい経路では圧力を先に p まで上げた後に膨張変化させている

図から直感的に明らかであるので数式での扱いを省略するが2 つの経路による仕事量には

差がある

すなわちdrsquoW は drsquoU と異なり変化の初め S1 と終わり S2 の状態が与えられても積分値

は定まらず変化の経路によって違ってくる

このように変化の経路を指定しなければ積分値が定まらないものを不完全微分と呼び扱

いを区別する

本文 p21 へ戻る

<補遺> 63

VpW

WQU

VpQU

VpUQ

1122 SSSS pVUpVUQ

pVU

VpUHHHQ SS 12

エンタルピー (本文 p24 20 行目参照)

本文中の式 20 および 25 から一定の圧力の元で起きる状態変化において内部エネルギー

の変化量に対する式 a-3 を得る

本文(20)

本文(25)

(a-3)

式 a-3 を Q について書き直す

(a-4)

状態の変化が平衡状態S1から平衡状態S2に移ったものとして式 a-4を丁寧に書き直すと

(a-5)

並び替えて

(a-6)

式 a-6 を見ると定圧過程における熱量の流入は

(a-7)

の形を持つ関数の差であることが分かる

一般に化学反応のような変化の過程では大気圧の下で行われるようなものに興味がある

そこで式 a-7 で与えられる項を一つの関数として定義するこれをエンタルピーと呼び記

号 H を与える式 a-4 はエンタルピーの変化量で次のように書き改められる

(a-8)

圧力が一定の下で起こる状態変化について流入する熱量は式 a-8 で示されるようにエンタ

ルピーの変化量に等しい

V

V

V

V V

V

V

1212 SSSS VVpUUQ VV

<補遺> 64

1Q

We

また式 a-8 からオートクレーブ内で起こるような体積変化のない過程ではこの値が内

部エネルギーの変化量で与えられることが明らかである

本文 p24 へ戻る

エントロピー (本文 p26 17 行目参照)

エントロピーは次のような思考実験から発想された仮想的な状態関数である

理想気体よりなる系 A が温度 T2で熱平衡状態にあり温度 T1の外部の熱源と接しているこ

とを想定する系 A の外部を系 B と呼ぶことにするT1は T2に対して無限小だけ高い温度と

する

系 A が系 B に対して温度圧力について平衡を保ちながら緩慢に系 B より熱量 Q1を受け取

る過程を考える(このような過程を準静的過程と呼ぶ)これによって系 A が熱量 Q1を得て膨

張するとき系 B に対して仕事をする続いて系 A から熱量 Q2が系 B に戻ることを考える

想定されるこの変化が可逆的であれば系 A と系 B を併せた全体は元の状態に戻る蒸気機

関に関するこのような研究が Nicolas Carnot によってなされたのは1824 年のことであった

ここに想定されたサイクルに対する Carnot の効率 e は移動した熱量となされた仕事によ

って定義され次の式で表される

(b-1)

<補遺> 65

理想気体では内部エネルギーU の変化ΔU はゼロと考えるしたがって熱力学の第一法

則を表す式(本文中の式25)から次の関係が示される

0=Δminus=Δ WQU

WQ Δ= (b-2)

これによってCarnot Cycleの効率eはQ2lt0 として次のように書き改めることが出来る

1

21

QQQe +

= (b-3)

ところで気体の状態方程式から1 モルの気体について次のような関係が示される

RTV

P

P1=

V = RTV (b-4)

V 式 b-4 の両辺に体積の微少変化量ΔV をかけて

(b-5)

これを体積Vについてその変化をV1からV2までとして積分するならば次式が得られる

VV

RTVP Δ=Δ 1V V

V

intint = 2

1

2

1

1V

V

V

VdV

VRTPdV

1V2V

11 lnRTW =

(b-6)

Q1の熱量によって起こる膨張がV1よりV2までとし圧力P温度T1の下でなされるその仕事

量をW1とするならそれは式b-6 の右辺によって示されるすなわち

(b-7)

VV

1

2lnVVRT=

V V

VV

V

V2int V2 intV1 V1

<補遺> 66

またQ2の熱量の移動が圧力P温度T2の下で起きこれによって系Aが可逆的に圧縮され

るなら体積変化はV2よりV1まで起こりその仕事量をW2で示すと次式のように表される

(b-8)

1

22

2

122 lnln

VVRT

VVRTW minus==VV

VV

Q1=W1Q2=W2の関係から式b-7 およびb-8 を用いてCarnot Cycleの効率eを表す式b-3

を書き改めると温度のみの関係式として次のように表される

1

21

TTTe minus

= (b-9)

ここでサイクルが可逆的過程であると想定するならば式 b-3 と式 b-9 から

1

21

1

21

TTT

QQQe minus

=+

= (b-10)

これから

12112111 QTQTQTQT minus=+ (b-11)

整理すると

02

2

1

1 =+TQ

TQ (b-12)

この考えをさらに発展させ系A

と系Bの間に数多くの系を挿入すること

にしてそれらの系を同様に熱源として

T1T2Tnと考えるこれによっ

て熱の受け渡しが系Aから系Bに至り

再び系Aにもどるサイクル過程に数多

くの寄り道の過程を加えることになる

熱量の移動に関して上の場合と同じく

準静的過程で行われると考えるこの

サイクル全過程について初めと終わ

<補遺> 67

n

i i

i

T

Q

1

0

0T

dQ

T

QS

T

dQASAS )()( 12

りが同じ状態になる可逆的な過程であるなら式 b-12 を拡大的に考えることになってそれ

は次式で表される

(b-13)

式 b-13 には重要な関数が現れるすなわち熱量と温度の比QT である

もし一つの系が無限小だけ温度の高い(dT )外界から温度圧力など平衡を保ちなが

ら極めて緩慢な過程(準静的過程)で無限小の熱量(dQ )を受け取るならばその変化は可

逆的でありdT について連続的な温度分布をする過程を考えるとき式 b-13 をさらに発展

させて次のように積分式で示すことが出来る

(b-14)

式 b-14 で積分記号にが付されているのはCarnot Cycle のような経路を一巡することを

意味している

Carnot の熱機関の効率という着想から生まれた熱量とそれを持つ系の温度との比 QT に

重要な意味を見出したのは Rudolph Clausius で彼はこの比にエントロピーという名前を与

えたエントロピーには記号ΔS を一般に用いる

(b-15)

エントロピーは初めと終わりの状態がわかれば過程に関わらず定まるので状態関数であ

系 A と外界のエントロピー変化を考えるときそれが可逆的過程であるならばすべてを併

せた全体のエントロピー変化は初めと終わりに変化がないという意味でゼロであるすなわ

ち初めの状態を S(A1)とし次の状態を S(A2)とするならそれぞれのエントロピーを

ΔS(A1)ΔS(A2)としてこの間におけるエントロピーの変化量は次のように示される

(b-16)

<補遺> 68

T

dQdS

0T

dQ

ある一つの変化については次のように示される

(b-17)

ここで式 b-17 の S に付けられたdは微分量すなわちごく微小の変化量を意味し式 b-15

で定義されたエントロピーに用いられる一般的な記号Δと区別する

ところで式 b-10 の関係においてもし移動した熱量のすべてが仕事に変わらなければ

効率 e を表す熱量を用いた関係式と温度で表される関係式は等号で結ぶことができないそれ

はエネルギーのロスを意味し初めと終わりの状態が異なってしまうことを意味するすなわ

ち全過程が構成する一つのサイクルは可逆的でなくなる

不可逆過程での熱効率 ersquo は 大値を示す可逆的過程の熱効率 e より小さな値をとる

ee

したがって 大効率を与える式 b-8 と式 b-3 から

01221

2112

1

21

1

21

QTQT

QTQT

Q

QQ

T

TT

両辺を T1T2で割ると

02

2

1

1 T

Q

T

Q

これを式 b12 と同様に発展させれば式 b-14 についてサイクルの変化が可逆的過程の

場合と不可逆的過程の場合の両方を併せClausius の不等式と呼ばれる次の関係が成立する

(b-18)

式 b-18 の等号が成立するのはサイクルが可逆的な理想の場合に限られる

ある孤立系で状態 A1 から状態 A2 へは不可逆変化で進められ状態 A2 から再び状態 A1

に戻るとき可逆変化であるような閉じた状態変化を考える可逆系のエントロピー変化には

記号 Q を使い不可逆変化には Q を用いるとするとそれぞれ積分式を用いて状態 A1 から

状態 A2 へは

<補遺> 69

d prime

状態 A2 から状態 A1 に戻るときは

全体では

=d prime

+d

(b-19)

Clausius の不等式から

0

式(b-19)の第二項で反応を逆に進めるときには次のように書き改めることができる

=d

よって式(b-19)は次のように書き直すことができClausius の不等式とあわせると

d prime d

0

すなわち

d prime d

上式の右辺は式(b-16)を用いて表せば

d prime

∆S ∆

この状態変化を微小変化とするならば断熱変化の場合 dQ = 0 であるから

∆S ∆ dS 0

すなわち不可逆変化を含む断熱変化ではエントロピーは必ず増大する

<補遺> 70

T

QS

BA SSS

(b-20)

(次の<補遺>ギブス自由エネルギーも参照せよ)

本文 p26 へ戻る

ギブス自由エネルギー (本文 p28 27 行目参照)

エントロピーの考えを導入することによって不可逆的に状態変化が起きるときにはエン

トロピーの増大を引き起こすことを知ったこれによって目前で起きる現象について温度の

変化があるものであれないものであれまた圧力の変化があるものであってもエントロピー

の定義式によって可逆的な変化におけるエントロピーの変化量を計算することが可能である

(b-15)

しかしながらこれから起こる変化について我々がすでにあらかじめ知っている物理量を

用いて予測的にその状態変化が起きるかどうか知ることは必ずしも容易ではないその理由

は式 b-15 に示されたエントロピーΔS が系とその外界をあわせた全体のエントロピーを示

しているからであるすなわち関心のある系を系 A としその外界を系 B とすると全体

のエントロピーは次のように表せる

(c-1)

関心のある系 A のエントロピー変化を知るためには系 B のそれを知ればよいがそれは

いつも容易とは限らない系 A の性質だけで状態変化の方向を知るには別の観点が必要にな

るようだ

そこでもう一度状態変化が熱量 Q の移動によって起きることについて考えてみようエン

トロピーの補遺で議論したように熱量の移動が準静的過程により行われるときには変化は可

逆的に起こると考えたこのとき外界すなわち系 B から移動する熱量を Q1とし系 A から

0S

<補遺> 71

21 QQ

T

Q

T

QSB

21

T

QSS A

2

QH

T

HSS AA

AA STHST

のそれを Q2 と記号を当てたのでこれをそのまま使うことにすれば可逆的な過程では系 B

の熱量 Q1 はすなわち系 A から戻る Q2 に他ならないので両者には次の関係が成立するも

のとしてよい

(c-2)

したがって

(c-3)

と考えてよくこれによって式 c-1 を次のように書きなおすことが出来る

(c-4)

独立した系で圧力とその体積に変化がなく一定の条件の下で状態変化が起きるときエン

タルピーの考えを使ってすでにひとつの関係があることを導いている

本文(31)

そこで式 c-4 を系のエンタルピーΔHAによって書き改めれば

(c-5)

この両辺に-T をかけて式を書き直せば次の関係式が得られる

(c-6)

式 c-6 を見るときその右辺がマイナスの値ならば左辺のΔS はプラスの値をとることが

分かるすなわちエントロピーが増大すると見ることが出来るこれまでの過程で自然の現

象はエントロピーが増大する方向に進むとしてきたので関心のある状態変化について式 c-6

の右辺で計算される値がマイナスの値ならばその変化は起きるものと考えてよいことになる

だろうしかも右辺はすべて独立した系の状態量で示されていて我々が知りうる値で計算

<補遺> 72

TSHG

STSTHG

STHG

可能である

そこでこれを熱力学ポテンシャルを表すものとしてギブス自由エネルギーと呼ぶことに

するギブス自由エネルギーは記号 G が用いられ次のように定義される

(c-7)

ここで関心があるのは自由エネルギーの絶対値ではなく式 c-6 に示されたようにその変化量

に興味があるので式 c-7 から

(c-8)

温度が一定の条件の下で状態変化が起きることを考えるなら式 c-8 は次のように書くこと

ができる

(c-9)

ギブス自由エネルギーは式 c-9 の右辺がすべて状態量であるからこれも状態量の一つで

ある定圧定温の条件下で起きる変化ではすでに議論したようにΔGlt0 であれば状態

変化は自発的に起きるものと予測できる

つまり式 c-5 の第一項は系のエントロピーΔSAそのものであり第二項で示されるエンタ

ルピーは系 A の温度が一定に保たれているのであるから発熱する熱量として外界に吸収さ

れるものであってこれは外界のエントロピーの増大につながるものとして解釈されるした

がって化学反応のように一定の圧力と一定の温度の下で起きる変化について自由エネルギ

ー変化量はその状態変化が自発的に起きる傾向を示しているといってよい

本文 p28 へ戻る

  • はじめに
  • 目次
  • 電気エネルギー
    • 金属のイオン化
    • 電池
    • 水素の反応
    • 燃料電池
    • 化学反応と電気エネルギー
      • エネルギーと熱力学
        • エネルギー保存則
        • エンタルピー
        • エントロピー13
        • ギブス自由エネルギー
        • 電池における化学反応のギブス自由エネルギー13
        • 理想気体の状態方程式
        • 理想溶液のギブス自由エネルギー
        • 膜電位
          • 水素イオン濃度測定
            • 化学反応の一般的な式
            • pHの定義とその目盛り
            • pH標準液
            • 銀塩化銀参照電極
            • 実用的なpH測定
            • ガラス電極
            • 電極の校正
            • 金属イオンに対応するイオン選択電極
              • 文献
              • 補遺
                • 状態関数
                • エンタルピー
                • エントロピー
                • ギブス自由エネルギー
Page 39: イオン選択電極i イオン選択電極 Ion Selective Electrode (ISE) を理解する ・ pHを測定する ・ NaやKなどのイオン濃度を測定する 神戸大学医学部保健学科

36

G(p1 T) = G( p0T ) + RT lnp1p0

(56)

特別にG0(p0T)を標準状態T=29815K(25)p0=1atmに指定する

なら標準生成ギブス自由エネルギーを記号G゜として (56rsquo)

と表すことができる

式(56rsquo)の意味するところは標準状態から圧力の変化を伴う過程で理

G(p1 T) = Go + RT ln p1

想気体のギブス自由エネルギーは圧力の対数に比例して上昇することである

このことはさらに新しい着想を生む

すなわち水素を燃料とする上の燃料電池で1atm 標準状態の水素ガスの圧力

を2atm に上げれば式(56rsquo)からRTln2 余分にギブス自由エネルギー

が取り出せることになる

燃料電池において起電力を生むエネルギーは隔壁を水素イオンもしくは酸

素イオンが浸透しようとする力であるので1atm の水素ガスと2atm のそれで

は浸透しようとする圧力が異なりここに起電力が生じる

式(56)の第二項が圧力の差による仕事であるからこれをΔG とすれば

W=-ΔG の仕事量が電気エネルギーとして取り出せるはずである

W = minusΔG = minusRT lnp1p0

(57)

起電力に換算するために式(41)を使うと

W = n FV=minus ΔG (41)

から

01ln

pp

nFRTV ⎟

⎠⎞

⎜⎝⎛minus= (58)

この式(58)は一般にネルンスト(Nernst)の式と呼ばれる

37

理想溶液のギブス自由エネルギー

理想気体を想定したように無限に希釈された混合溶液に対して理想溶液を仮

定する「系」の圧力温度を一定に保つならば体積内部エネルギーエンタ

ルピーギブス自由エネルギーなどの示量数は混合溶液を構成する物質のモ

ル数mに比例するたとえば標準状態にある物質の1モルの体積をVとすれば

mモルの体積はそのm倍mVであるそうすると溶液中のi番目の成分がmi

モル「系」から「外界」に仕事をするときその成分iの持つ自由エネルギーの

mi倍の仕事が「外界」になされると考えればよい

この溶液成分のモル数と化学的仕事を結びつける示強因子がギブスによって

化学ポテンシャルと名付けられ一般に記号μが用いられる

化学ポテンシャルはこれまで見たようにギブス自由エネルギーで表される

また電位がψ(プサイ)にある系から-Δeの電荷が放出されるときには

-ψΔeの電気的仕事が得られるそこで記号μに両者を合わせた意味を持

たせて「電気化学ポテンシャル」と呼ぶ

概念の上で物質は電気化学ポテンシャルの高い方から低い方へ勾配にした

がって移動する

理想気体の標準状態が気体分圧を T=29815K(25)で 1atm としたのに対

し溶液成分の標準状態はその分圧に相当するモル数 m を用いるすなわち

標準状態にある成分 i の電気化学ポテンシャルμ0iは成分の持つ電荷(H+なら

1)を n として

μ0i = G i゜+nFψ i (59)

ギブス自由エネルギーは式(56rsquo)を借り理想溶液中の成分に対しては気

体圧力をその成分のモル濃度Cに書き換えればよいそこで

G(CT ) G RT lnC (60)

と表すことができる

したがって一般的な成分 i の電気化学ポテンシャルμiを表す式は標準状態

からの自由エネルギーの変化を考え式(59)と合わせて次のようになる

38

ψnFGii 0

式(60)から

ii CRTGTCGG ln)( 0

よって

(61) ψnFCRT iii ln0

実際的なことを考えると成分濃度はその有効イオン濃度とする必要があり

「活量係数」γを導入して次式で表されるイオン活量aを用いる

ai = γCi (62)

一般的にはγ=1と近似してモル濃度Cを使っているこのテキストでも

必要ではない限りイオン活量を用いることを省略して簡単に記述したい

膜電位

燃料電池に使われたナフィオンのような一つのイオンを通す膜を介して膜

の両側にC0 とC1 のイオン濃度差がある溶液が接するときの電気化学ポテン

シャルを考えよう

ある容器の底にナフィオン膜を取り付け容器の中と外のイオン濃度をC0

とC1としそれぞれの電気化学ポテンシャルをそれぞれμinとμoutとする

式(61)を使って

容器の中の電気化学ポテンシャル

(63) innFCRTin ψ 00 ln

容器の外の電気化学ポテンシャル

(64) outout nFCRT ψ 10 ln

イオン浸透性の膜を介して濃度変化が無視できるほどの移動があると考え

その電気化学ポテンシャルの差を式(63)(64)から求めれば

39

)(ln0

1 inoutinout nFC

CRT ψψ (65)

この系において今注目しているイオンが膜を介した両側で平衡状態にある

とき式(65)はΔμ=0と考えることができるすなわち

0)(ln0

1 inoutnFC

CRT ψψ

膜内外の電位差をΔψ=ψoutminus ψinとすれば

1

0

0

1 lnlnC

C

nF

RT

C

C

nF

RTψ (66)

式(66)は理想気体に対するネルンストの式(58)と同様溶液中のイ

オンに対するネルンスト(Nernst)の式として与えられる

細胞の膜においてもその生体膜の内外でたとえばカリウムイオンのように

非対称に分布して平衡に達している場合には式(66)で与えられる膜内外

で電位差が生じるこれは一般に膜電位と呼ばれる膜電位は平衡電位とも

呼ばれる

たとえば膜内外に1価のカリウムイオンに10倍の濃度差があるとすると

通常カリウムイオンは細胞内の濃度が高いので

C0 = 10timesC1

であるから

これを式(66)に当てはめてln(10)=2303 を用いlog への変換をすれば

Δψ=2303times(RTF)timeslog(10)

であるこれに R=831441 JmolKF=96485 CmolT=29815 K(25)

の各数値を当てはめると

Δψ=2303times831441times29815times196485 JC

=+005917 volt

すなわち膜の内外で約+60ミリボルトの膜電位が生じることになるこの

分だけ細胞の外側の電気化学ポテンシャルが高く膜の内側の膜電位が負であ

るそして膜にあるカリウムチャネルがこの電位を示すとき受動的なカリ

40

ウムの膜内外の移動は平衡に達することになる

水素イオン濃度測定

「標準水素電極」は1モル塩酸溶液につけた白金電極に1atm の水素ガスを

吹き込んで平衡状態に達したときの電位を基準としてゼロボルトと規定した

そこである溶液についてその水素イオン濃度を知ろうとするとき同じ水

素電極を用いることを考えれば標準状態にする目的で用いた1モル塩酸溶液

を濃度未知で X モルの塩酸溶液と想定すればその水素イオン濃度を知るこ

とができるだろうか

標準状態ではない X モルの塩酸溶液に浸けた白金電極が半電池として働くこ

とは間違いなさそうであるしかしその白金電極が持つ電極電位を測定する

にはいずれにしても標準電極と組み合わせて「電池」を構成しその電池

の起電力として計る必要がある電池を作れば起電力を知ることができ相

手の半電池の電極電位が知られていれば濃度が未知でXモルの溶液について

その水素イオン濃度を知ることができるだろう

こうした目的のためにいちいちゼロボルトと規定した標準水素電極を用いる

のは煩雑なのでしばしば後出の「銀塩化銀電極」が参照電極として用いら

れる

まず予め「銀塩化銀電極」を標準水素電極と組み合わせて電池とし一度

その起電力を測定しておけば後はいつもそれを標準電極として利用できる

「銀塩化銀電極」の半電池は

H+ (1 moll) Cl- | AgCl | Ag(s)

これに「標準水素電極」を組み合わせ電池を構成すると次のような電池

になる

Pt(s) | H2(g) | H+ (1 moll) Cl- | AgCl | Ag(s)

この電池の起電力を知れば「銀塩化銀電極」の半電池としての電極電位

を知ることができ参照電極として未知の半電池と組み合わせて起電力を測

定して相手の電極電位を計算できる

41

濃度 X モルの塩酸溶液を未知の溶液と想定すればその電極電位を知るために

組み立てる電池は次のようになる図10にその電池の図を示した

Pt(s) | H2(g) | H+ (x moll) Cl- | AgCl | Ag(s)

この電池の全反応は次の反応式で表される

AgCl(s) 1

2H2 (g) H Cl Ag(s) (67)

図10未知溶液の水素イオン濃度を測定しようとするための電池

化学反応の一般的な式

ここで電池に利用される化学反応から得られるエネルギーをギブス自由エ

ネルギーに換算し起電力を具体的に知る手だてとすることは上ですでに学

42

んだがより一般的な式を再度ここに書きだしておこう

化学反応が紙面で左から右に進む反応として次のような一般式で与えられ

るとき

aA + bB rarr cC + dD (68)

ギブス自由エネルギー変化量は標準状態ΔG゜からの変化量を加える形で式

(60)と同様次の式によって表される

G G RT(ln aCc aD

d ln aAa aB

b )

G RT ln

aCc aD

d

aAa aB

b (69)

aAは成分 A のイオン活量であるその他の成分も同じ

得られたエネルギーを電気エネルギーに換えるなら式(41)に習って

次式で表せば

ΔG=-n FV

there4V=-ΔG(nF) (70)

このときの起電力は標準状態における電位 E゜からの変化量として次式で与

えられる

E E

RT

nFln

aCc aD

d

aAa aB

b (71)

標準状態における起電力 E゜は反応が平衡状態にあるときで反応平衡定数

を K とするなら

K aC

c aDd

aAa aB

b (72)

で表されるそこでE゜は次のように書き改めることができる

43

E

RT

nFln K (73)

そこで式(67)で表される図10の電池「水素minus 銀塩化銀電池」に

対する起電力をギブス自由エネルギーから求めてみよう

反応から式(71)に当てはめれば

E E RT

Fln

aH

1 aCl

1 aAg1

aAgCl1 aH2

1

2

(74)

力学の慣例にしたがって固体の純物質の活量は1として扱い水素ガスを

想気体として見なして活量を1atm とするなら式(74)は次のよう

に簡略化される

E E

RT

Flna

H aCl (75)

ころで理想溶液として近似的に取り扱うときの希薄溶液でたとえば水素

入して詳細に検討するなら式( れる起電

オン濃度はイオン活量として aH+の記号を使うときすでに【理想溶液のギ

ブス自由エネルギー】の章で述べたようにこれを有効イオン濃度とする必要

がありイオン活量 a は「活量係数」γを導入して次式で表した

a H+= γH+CH+ (62)

この活量係数を導 75)で誘導さ

を計ることによって経験的に試料溶液中の水素イオン濃度を求めることは

困難である式(75)にあるイオン活量の項はモル濃度 C と活量係数γを

用いて次式で書き改められる

lnaH aCl

lnCH CCl

lnH Cl

(76)

まり式(76)右辺の第二項において互いに相手が知られなければ自分

決めることができず結果的に起電力を知っても(75)の値から水素イオ

ン濃度を導けないここに工夫が必要になる

44

の定義とその目盛り

液中の水素イオン濃度を直接意味するものではなく

を定義するとき測定されるのは1リットルの溶媒に存在す

pH = -log a H+ = -log(γH+CH+) (77)

際に試料溶液の pH を決定する際はpH 標準液を用いる

に溶液を入れ試料溶液 X と pH 標準液 S を

参 極を接続し電池を作成しその起

pH

現在pH の定義は溶

で述べたようにそれが簡便に測定できるものではないため次のように定

義されている

水素イオン濃度

水素イオン活量であるため定義式としては活量係数をγH+として次式で与

えられる

その要領は次のようである

上に図示した水素電極の容器内

れぞれ半電池(I)と(II)に入れる

半電池(I) Pt | H2 (1 atm) | 試料溶液

半電池(II) Pt | H2 (1 atm) | 試料溶液S

照電極として上図のごとく銀塩化銀電

電力を測定する半電池(I)のときの起電力を E(X)半電池(II)のそれを E(S)

とするこのとき試料溶液Xの pH は次式で計算される

pH (X) pH(S) E(S) E(X)

RT ln(10) (78)

ln(10)は自然対数を常用対数に戻すための定数で2303 を用いる

標準液

pH 標準液 S はpH 第一次標準液第二次標準液と呼ばれるべき

る測定

25で pH 4005 を示す

pH

上述した

のであり絶対的測定法である起電力の測定によって値をつける

標準液は安定で純粋な結晶が得られる試薬を調整してこれを測定す

上と同様に水素電極を用いこれに緩衝液を入れる参照電極として銀

塩化銀電極を接続して電池の起電力を測定する

たとえば005 moll フタル酸水素カリウム溶液は

一次標準(Primary Standard PS)の一つである半電池(III)として水素

45

電極を次のように準備する

半電池(III) Pt | H2 (1 atm) | PS 溶液

て電池を形成したとき得られる起電

参照電極として銀塩化銀電極を接続し

は式(75)から

E E

Ag AgCl RT

Flna

H aCl (79)

オン活量を濃度と活量係数の積(a H+= γH+CH+)にし自然対数を常用対数

すれば

E E

Ag AgCl RT ln(10)

F log(

H + CH+ Cl- CCl - ) (80)

E゜は水素標準電極(水素ガス分圧を1atm電極を浸ける溶液に001 moll

H

Cl を用いる)で得た起電力である

式(80)から

RT ln(10)

Flog(

H CH Cl

) (E EAg AgCl )

RT ln(10)

Flog C

Cl

(81)

らに

log(

H CH Cl

) F

RT ln(10)(E E

Ag AgCl ) logCCl

(82)

ころで式(77)から

(γH+CH+) (77)

-log a H+ =-loga H+-log(γCl-) +log(γCl-) =-log(a H+γCl-) +log(γCl-)

(83)の一番右の式で第一項は

pH = -log a H+ = -log

であるが右の式をさらに変形すると

(83)

46

-log(a H+γCl-)=-log(γH+ CH+γCl-) (84)

たがって式(82)の右辺で示されるように電池の起電力を測定すれば

よ 実際には溶液の塩素イオン濃

液で起電力を求め外挿する

起電

これによってpH を意味する式(83)は次式(85)で与えられる

p(aHγCl)はRG Bates によって Acidity Function と呼ばれている

らに式(85)最終項の log(γCl-) を補正しなければならないこの項は

本工業規格)によっても

であってこれは式(82)の左辺である

いただし塩素イオン濃度の項があって

をゼロにしたときの値が必要である

実測する際には塩素イオン濃度をゼロにできないので塩化ナトリウム NaCl

等を濃度を変えて添加しその時々の緩衝

勧告ではNaCl で 000500100015moll の3つの濃度を例示している

すなわち塩素イオン濃度ゼロのときの値は各塩素イオン濃度に対して

の値をそれぞれプロットしグラフから塩素イオンがゼロのときの起電力の

値を3点に対する回帰直線の延長で外挿して求めるこの点を次のように書

log( C H H Cl CCl

0

pa log( C log( (85) H H H Cl C

Cl0 Cl

)

素イオンの活動係数で与えられる補正項である

無限希釈溶液中のイオンの活動係数は理論的に Dubye-Huckel の式を用い

近似的に求めることが可能であるこれはJIS(日

用されていて Bates-Guggenheim の規約と呼ばれる (Bates RG

Guggenheim Pure Appl Chem 1 163-168 1960)

Dubye-Huckel の式は次のように与えられる

log A I

i 1 iB I (86)

47

I iについてそのモル濃度

計算される

はイオン強度でイオン mi と電荷 zi から次式で

I 1

2mizi (87)

また iは(86)式のBは温度と溶媒の性質による定数であり イオンの大

きさに関するパラメータで水和イオンの大きさとほぼ一致した値をとる標

準法の勧告では塩素イオンに対しイオンの大きさを46Åと決めてiBを

1

5 にしているそこで式(84)は次のようになる

ClA I

log 1 15 I

イオン強度 I は塩素イオン濃度を含まない計算となる

以上の方法によって実用的な pH 測定に用いられる第一次第二次標準液の

pH の値が得られる

絶対値としての

はpH の絶対測定法(第一次標準測定法)とされている

銀塩化銀参照電極は分極現象を防ぐために棒状の銀を塩酸で処理し表

に塩化銀を生成させたものを飽和塩化カリウム溶液につけてある

(88)

参考現在は実験的に求めた値と理論値の組み合わせで

素イオン濃度を求める方法を規定しているこの起電力から水素イオン濃度

を知るための測定方法

Buck RP Rondinini S Covington AK Baucke FGK Brett CMA Camoes MF

Milton MJT Mussini T Naumann R Pratt Kw Spitzer P Wilson GS

Measurement of pH definition standards and procedures Pure Appl Chem

74(11)2169-2200 2002Kristensen HB Salomon A Kokholm GInternational

pH scales and certification of pH Anal Chem 63(18) 885A-891A 1991)

銀塩化銀参照電極

電極の構成は

Cl-(aq) | AgCl(s) | Ag(s)

48

この半反応は次のようになる

AgCl(s) + e- rarr Ag(s) + Cl- (89)

の反応は次の2つの反応に分けて考えることができる

Ag+ + e- rarr Ag(s) (91)

AgCl(s)rarr Ag+ + Cl- (90)

図11銀塩化銀参照電極

(90)における銀 る塩素イオンによって左

されることが推測される

そこでカッコ [ ] をそれによって囲まれるイオンの濃度を表すことにし

式 イオン Ag+の溶解性は共存す

塩化銀の乖離定数Kを考えると

49

K = [Ag+][Cl-] (92)

これから

[Ag+]= K[Cl-] (93)

化カリウム溶液に漬けた銀塩化銀電極の電位 E は水素標準電極に対する

電 で与えられる

位を E゜として次式

E E

RT

nF

[ Ag ]

[Ag(s)]ln( )

Ag(s)のイオン活量は常に1とする

ここで半反応の電極電位を求めるために式(75)を利用することにすれば

(94)

熱力学の慣例にしたがって純物質個体

E E

RT

Flna

H Cl a (75)

式 の半反応をみると

応で電子1つが移動するので n=1 とするR=831441 JmolK1F = 96485

C はめれば

これに銀イオンの濃度として式(93)を当てはめる

この反応で移動する電子は (89) 銀イオン1つの反

molT=29815K(25)ln(10)=2303などの定数を当て

2303RTF = 005917

であるから(94)式は次のように表現できる

log[Cl]) E E 005917(logK (95)

たがって標準水素電極に対する銀塩化銀参照電極の標準状態における電

位 は半反応(89)に対して ゜=+0799で

化銀の乖離定数 K は182times10-10 であるのでその対数を取れば-973993

0799-005917times973993-005917log[Cl-]

E゜ E ある

ある

そこで式(95)は

E =

50

= 0799-0576-005917log[Cl-]

= 0223-005917log[Cl-] (96)

電極電位の関係について実測値

こうして求めた塩化カリウム溶液の濃度と

計算上の値は次のようである

KCl moll vs SHE volt25 計算値 volt25 01 02881 02822 35 0205 01908 飽和 0199 minus

実用 測定

実際の現場で水素イオン濃度を測定する目的の測定法で上のような2つの

極が同じ溶液に浸かっていたのでは試料溶液を交換するにも便利ではない

の容器に入れる未知試料溶液と銀塩化銀電極を隔離する

的な pH

そこで水素電極側

的で二つの電極容器をつなぐ液絡部をグラスフィルターやセラミック板

飽和塩化カリウムで作成したゼラチンなどの塩橋によって隔離遮断するこ

れを液絡部とよぶ

電池として機能するために必要な溶液イオンの交換はこの液絡部で行う

組み立てる電池は電池式で次のように表される

Pt(s) | H2 | 試料 (H+ x moll) || 飽和 KCl | AgCl | Ag(s)

の標準電極と銀塩化銀電極とは区切られていて溶液の直接の接触がない

とを意味するために電池式ではタテ二重線を用いる銀塩化銀参照電極

の容器には飽和塩化カリウム溶液が入れられる

51

図12液絡部のある pH 測定のための電池

この液絡部のある電池では塩橋を記号lsquo | | rsquoで表して次のように記す

試料 (H+ x moll) | | 飽和 KCl

ここでは試料溶液と飽和塩化カリウム溶液の異なる2液が接している

このような界面では膜電力が生じるのと同様「液間電位差」が生じることが

知られているしたがって上の電池で測定される起電力 E は

E = E[銀塩化銀電極電位]+E[液間電位]+E[水素電極電位]

で与えられることになってE[液間電位]のために図12の電池の起電力

は銀塩化銀参照電極の値を知っていても水素電極容器内に入れた未知溶

液の水素イオン濃度を正しく知ることができない

52

そこで実用的な測定法としてこの E[液間電位]を膜電位として積極的に利

用する方法が工夫されたすなわち水素イオンに感応するガラス薄膜を用い

るガラス電極法である

53

ガラス電極

ガラスはケイ素原子と酸素原子からなる SiO4 の結晶構造を持ち酸素で囲

まれた空隙があって水素イオンがそれを埋めることができる

この性質によってガラス膜表面は水溶液中の水素イオンに応じて膜電位を

変化させるのでこれを水素イオン濃度測定用の電極として利用することが考

えられるこれが通常用いられるガラス電極である

ガラス電極は標準電極と組み合わせれば電池を構成することができこの電

池の起電力を知ってガラス薄膜の内外にできたイオン濃度勾配を知ろうとす

るものである

薄いガラス膜(01mm程度)をはさんで接する2つの溶液のH+イオン濃

度が異なるとその差に応じてガラス膜の両側に電位差(Eg)が現れる

ネルンストの式でガラス電極の内部に入れた既知の濃度のH+([H+]in)に対

し試料中の水素イオン濃度が[H+]sampleのとき次の電位を生じる

)][

][log(059170)

][

][ln(

sample

in

sample

ing

H

H

H

H

F

RTE

(97)

図13ガラス電極

電極を構成するのは銀塩化銀電極と同じ電極で用いる塩溶液は一般的

54

に 01モル塩酸溶液である

この半電池の電池式は次のように書くことができる

Ag(s) | AgCl(s) | HCl (01 M) | ガラス薄膜 || 試料溶液 H+ (x moll)

Eg

この半電池の電極電圧を測定するために銀塩化銀標準電極と組み合わせ

電池を作って起電力を計る

構成される電池は下図のようになる

ガラス電極 銀塩化銀標準電極

図14ガラス電極を用いた pH 測定用の電池

この電池の起電力は次の各半電池の平衡電位を合わせたものになる

55

E1ガラス電極の内側電位

Ag(s) | AgCl(s) | HCl (01 M)

Egガラス薄膜の内外に生じる膜電位

HCl (01 M) | ガラス薄膜 || 試料溶液 H+ (x moll)

E2液間電位(膜電位)銀塩化銀標準電極のセラミックを介した試料溶液

と銀塩化銀標準電極の内部液(飽和 KCl 溶液)の間に発生する電位

試料溶液 H+ (x moll)|| セラミック | KCl(飽和)

E3銀塩化銀標準電極

KCl(飽和)| AgCl(s) | Ag(s)

pH メーター用のガラス電極に使われるガラス薄膜は水素イオンに感応して

膜電位(Eg)を生じるこれは【膜電位】の章で記したように薄膜がある

一つのイオンのみを通過させる特性を持っている場合にイオンが膜を介した

両側で平衡状態に達したとして電気化学ポテンシャルを膜の両側で等しいと

考えてそのイオンが濃厚な側から希薄な側にその差によって圧力を生じると

するものである

一方同じ試料溶液が銀塩化銀標準電極のセラミック液絡部を介して生じ

るだろう液間電位(膜電位E2)はいま関心がある水素イオンに対して特異

的に感応するのではないので試料溶液の水素イオン濃度に関係なく一定と見

なすことができる

すなわちpH メーターを構成する電池の起電力 E は

E = E1+Eg+E2+E3 (98)

このうちEg以外は一定と見なせるので

E1+E2+E3 = E

として式(98)を書き直すと

)][

][log(059170

sample

ing H

HEEEE

(99)

Eは標準液によって校正されるべき標準電極電位である

56

電極の校正

実際のイオン濃度を測定する場合低濃度標準液と高濃度標準液で得られ

る起電力を測定し計測のイオン濃度に対する係数(傾き)を求めておき未

知の試料に対して起電力を測定してそのイオン濃度を算出する方法が採られる

低濃度標準液と高濃度標準液のそれぞれの濃度をCLとCHとすればそれぞ

れの起電力ELとEHは次式で表される EH = E +β logCH (100)

EL = E +β log CL (101)

ただしβは式(99)の係数を簡略にしたものである

式(100)と(101)から検量線の傾きが次式で表せる

ΔE = EH minus EL = β(logCH minus logCL) = β logCH

CL

(102)

したがって係数βは

β =ΔE

log CH

CL

(103)

であらわされる

このときに使われる標準はすでに前出の pH 第一次標準第二次標準溶液で

ある

金属イオンに対応するイオン選択電極

現在臨床検査で日常的に使われている電解質測定のための電極はナトリウ

ムカリウムカルシウムクロールなどおよそ臨床的に必要な金属イオン

に対して入手可能である

カリウムイオン測定用のバリノマイシンの発見によってクラウンエーテルと

57

呼ばれる一連の化合物が知られたクラウンエーテルはその分子の中心に立

体的な空間を持ち特定のイオン径に対し合致するのでそのイオンに対して

選択的に感応するこれらの化合物はイオノフォアと呼ばれる

図 15クラウンエーテル

1つの金属イオンが環状化合物

15-crown-5 の中央にある空間を充填

している模式図

15-crown-5 の構造を作る10個の黒

い丸は炭素炭素2個のつながりごと

にある中心の白い丸は酸素酸素と

金属イオンの間の距離はおよそ 22~

23Åであるカリウムのファンデン

ワールス半径は 135Åイオン半径は

15~16Åである

測定したいイオンに対しポリ塩化ビニル(PVC)を支持体としてイオノフ

ォアを添加した液膜の電極膜を作成しこれをガラス電極におけるガラス薄膜

と同様試料に接する電極膜として用いるこの構造から一般的に液膜型電極

と呼ばれる電極膜には特異性を高めるため妨害イオン排除剤などが添加

される

pH メーターと同様銀塩化銀標準電極と組み合わせ電池を形成しその

起電力を計る測定したいイオンが液膜に対して内外で平衡に達したときの

膜電位を測定するのはガラス電極と同じである

カ リ ウ ム イ オ ン に は Bis[(benzo-15-crown-5) ( 正 式 名 は

Bis[(benzo-15-crown-5)-4-methyl]pimelate)ナトリウムには Bis[(12-crown-4)

やDibenzyl-bis[(12-crown-4)などがイオノフォアとして用いられる

58

図16カリウムイオン測定用に使われるクラウンエーテル

図17ナトリウムイオン測定用に使われるクラウンエーテル

59

参考イオン選択電極に関する文献Xia Z Badr IHA Plummer SL Cullen L

Bachas LG Synthesis and evaluation of a bis(crown ether) ionophore with a

conformationally constained bridge in ione- selective electrodes Anal Sci 14(2)

169-173 1998 Oh K-C Kang EC Cho YL Jeong K-S Y oo E-A Paeng K-J

Potassium-selective PVC membrane electrodes based on newly synthesized

cis- and trans-bis(crown ether)s ibid 14(10)1009-1012 1998 Dojindo WEB

site httpwwwdojindocojpwwwrootproductsjinfo2protocolp31pdf

<補遺> 60

補遺 状態関数 (本文 p21 10 行目参照)

一つの平衡状態にある系 A とこれに接する系 A にとって外部である系 B について系 B

から系 A に熱を与えこれによって系 A が他の平衡状態に移ったとき系 A はその結果とし

て膨張し系 B に対し仕事をする

このときの微少な熱量の移動を記号drsquoQ またなされた微少な仕事をdrsquoW とすると

系Aの内部エネルギーに関する微少な変化drsquoUA は両者の和として表される

WdQdUd A primeminusprime=prime (a-1)

この式 a-1 と本文中の式25との関係について

WQU A Δminus=Δ 本文(25)

<補遺> 61

式 a-1 と式25の記号の違いは変化の起きる前の平衡状態 S1 から変化後の平衡状態 S2

に状態変化があったとするなら式 a-1 を積分することで式25が得られるものと考えて区

別している

A

S

S A UUd Δ=primeint2

1 (a-2)

このことは重要であるすなわち内部エネルギーU は変化の起きる前後の状態を指定する

ことによって値が定まることを意味するこのように積分によって値を定めることが出来る

のでdrsquoU は完全微分であるという

内部エネルギーのように系の状態だけで値の定まる量を状態関数として扱う

一方式 a-1 のdrsquoQ drsquoW についても同様に微少の変化量を表しているが平衡状態 S1

から S2 への経路を指定しなければ積分の値は定まらない

本文中の記号にしたがって仕事量ΔW を次のように表すことにする

VpW Δ=Δ 本文(20) V

<補遺> 62

体積と圧力の関係を表す図を使ってこの仕事量が意味することを考える圧力 prsquo の下で

体積が V1 であるときを状態 S1 として圧力一定の下で体積を V2 まで膨張させるような変

化を行った後体積を等しく保って圧力を p にまで上げたときの状態を S2 とするこのとき

の仕事量は膨張に伴うものであるから図の体積‐圧力線の下の面積で示すことができる

平衡状態 S1 から S2 への変化の道筋を別にたどってみよう

新しい経路では圧力を先に p まで上げた後に膨張変化させている

図から直感的に明らかであるので数式での扱いを省略するが2 つの経路による仕事量には

差がある

すなわちdrsquoW は drsquoU と異なり変化の初め S1 と終わり S2 の状態が与えられても積分値

は定まらず変化の経路によって違ってくる

このように変化の経路を指定しなければ積分値が定まらないものを不完全微分と呼び扱

いを区別する

本文 p21 へ戻る

<補遺> 63

VpW

WQU

VpQU

VpUQ

1122 SSSS pVUpVUQ

pVU

VpUHHHQ SS 12

エンタルピー (本文 p24 20 行目参照)

本文中の式 20 および 25 から一定の圧力の元で起きる状態変化において内部エネルギー

の変化量に対する式 a-3 を得る

本文(20)

本文(25)

(a-3)

式 a-3 を Q について書き直す

(a-4)

状態の変化が平衡状態S1から平衡状態S2に移ったものとして式 a-4を丁寧に書き直すと

(a-5)

並び替えて

(a-6)

式 a-6 を見ると定圧過程における熱量の流入は

(a-7)

の形を持つ関数の差であることが分かる

一般に化学反応のような変化の過程では大気圧の下で行われるようなものに興味がある

そこで式 a-7 で与えられる項を一つの関数として定義するこれをエンタルピーと呼び記

号 H を与える式 a-4 はエンタルピーの変化量で次のように書き改められる

(a-8)

圧力が一定の下で起こる状態変化について流入する熱量は式 a-8 で示されるようにエンタ

ルピーの変化量に等しい

V

V

V

V V

V

V

1212 SSSS VVpUUQ VV

<補遺> 64

1Q

We

また式 a-8 からオートクレーブ内で起こるような体積変化のない過程ではこの値が内

部エネルギーの変化量で与えられることが明らかである

本文 p24 へ戻る

エントロピー (本文 p26 17 行目参照)

エントロピーは次のような思考実験から発想された仮想的な状態関数である

理想気体よりなる系 A が温度 T2で熱平衡状態にあり温度 T1の外部の熱源と接しているこ

とを想定する系 A の外部を系 B と呼ぶことにするT1は T2に対して無限小だけ高い温度と

する

系 A が系 B に対して温度圧力について平衡を保ちながら緩慢に系 B より熱量 Q1を受け取

る過程を考える(このような過程を準静的過程と呼ぶ)これによって系 A が熱量 Q1を得て膨

張するとき系 B に対して仕事をする続いて系 A から熱量 Q2が系 B に戻ることを考える

想定されるこの変化が可逆的であれば系 A と系 B を併せた全体は元の状態に戻る蒸気機

関に関するこのような研究が Nicolas Carnot によってなされたのは1824 年のことであった

ここに想定されたサイクルに対する Carnot の効率 e は移動した熱量となされた仕事によ

って定義され次の式で表される

(b-1)

<補遺> 65

理想気体では内部エネルギーU の変化ΔU はゼロと考えるしたがって熱力学の第一法

則を表す式(本文中の式25)から次の関係が示される

0=Δminus=Δ WQU

WQ Δ= (b-2)

これによってCarnot Cycleの効率eはQ2lt0 として次のように書き改めることが出来る

1

21

QQQe +

= (b-3)

ところで気体の状態方程式から1 モルの気体について次のような関係が示される

RTV

P

P1=

V = RTV (b-4)

V 式 b-4 の両辺に体積の微少変化量ΔV をかけて

(b-5)

これを体積Vについてその変化をV1からV2までとして積分するならば次式が得られる

VV

RTVP Δ=Δ 1V V

V

intint = 2

1

2

1

1V

V

V

VdV

VRTPdV

1V2V

11 lnRTW =

(b-6)

Q1の熱量によって起こる膨張がV1よりV2までとし圧力P温度T1の下でなされるその仕事

量をW1とするならそれは式b-6 の右辺によって示されるすなわち

(b-7)

VV

1

2lnVVRT=

V V

VV

V

V2int V2 intV1 V1

<補遺> 66

またQ2の熱量の移動が圧力P温度T2の下で起きこれによって系Aが可逆的に圧縮され

るなら体積変化はV2よりV1まで起こりその仕事量をW2で示すと次式のように表される

(b-8)

1

22

2

122 lnln

VVRT

VVRTW minus==VV

VV

Q1=W1Q2=W2の関係から式b-7 およびb-8 を用いてCarnot Cycleの効率eを表す式b-3

を書き改めると温度のみの関係式として次のように表される

1

21

TTTe minus

= (b-9)

ここでサイクルが可逆的過程であると想定するならば式 b-3 と式 b-9 から

1

21

1

21

TTT

QQQe minus

=+

= (b-10)

これから

12112111 QTQTQTQT minus=+ (b-11)

整理すると

02

2

1

1 =+TQ

TQ (b-12)

この考えをさらに発展させ系A

と系Bの間に数多くの系を挿入すること

にしてそれらの系を同様に熱源として

T1T2Tnと考えるこれによっ

て熱の受け渡しが系Aから系Bに至り

再び系Aにもどるサイクル過程に数多

くの寄り道の過程を加えることになる

熱量の移動に関して上の場合と同じく

準静的過程で行われると考えるこの

サイクル全過程について初めと終わ

<補遺> 67

n

i i

i

T

Q

1

0

0T

dQ

T

QS

T

dQASAS )()( 12

りが同じ状態になる可逆的な過程であるなら式 b-12 を拡大的に考えることになってそれ

は次式で表される

(b-13)

式 b-13 には重要な関数が現れるすなわち熱量と温度の比QT である

もし一つの系が無限小だけ温度の高い(dT )外界から温度圧力など平衡を保ちなが

ら極めて緩慢な過程(準静的過程)で無限小の熱量(dQ )を受け取るならばその変化は可

逆的でありdT について連続的な温度分布をする過程を考えるとき式 b-13 をさらに発展

させて次のように積分式で示すことが出来る

(b-14)

式 b-14 で積分記号にが付されているのはCarnot Cycle のような経路を一巡することを

意味している

Carnot の熱機関の効率という着想から生まれた熱量とそれを持つ系の温度との比 QT に

重要な意味を見出したのは Rudolph Clausius で彼はこの比にエントロピーという名前を与

えたエントロピーには記号ΔS を一般に用いる

(b-15)

エントロピーは初めと終わりの状態がわかれば過程に関わらず定まるので状態関数であ

系 A と外界のエントロピー変化を考えるときそれが可逆的過程であるならばすべてを併

せた全体のエントロピー変化は初めと終わりに変化がないという意味でゼロであるすなわ

ち初めの状態を S(A1)とし次の状態を S(A2)とするならそれぞれのエントロピーを

ΔS(A1)ΔS(A2)としてこの間におけるエントロピーの変化量は次のように示される

(b-16)

<補遺> 68

T

dQdS

0T

dQ

ある一つの変化については次のように示される

(b-17)

ここで式 b-17 の S に付けられたdは微分量すなわちごく微小の変化量を意味し式 b-15

で定義されたエントロピーに用いられる一般的な記号Δと区別する

ところで式 b-10 の関係においてもし移動した熱量のすべてが仕事に変わらなければ

効率 e を表す熱量を用いた関係式と温度で表される関係式は等号で結ぶことができないそれ

はエネルギーのロスを意味し初めと終わりの状態が異なってしまうことを意味するすなわ

ち全過程が構成する一つのサイクルは可逆的でなくなる

不可逆過程での熱効率 ersquo は 大値を示す可逆的過程の熱効率 e より小さな値をとる

ee

したがって 大効率を与える式 b-8 と式 b-3 から

01221

2112

1

21

1

21

QTQT

QTQT

Q

QQ

T

TT

両辺を T1T2で割ると

02

2

1

1 T

Q

T

Q

これを式 b12 と同様に発展させれば式 b-14 についてサイクルの変化が可逆的過程の

場合と不可逆的過程の場合の両方を併せClausius の不等式と呼ばれる次の関係が成立する

(b-18)

式 b-18 の等号が成立するのはサイクルが可逆的な理想の場合に限られる

ある孤立系で状態 A1 から状態 A2 へは不可逆変化で進められ状態 A2 から再び状態 A1

に戻るとき可逆変化であるような閉じた状態変化を考える可逆系のエントロピー変化には

記号 Q を使い不可逆変化には Q を用いるとするとそれぞれ積分式を用いて状態 A1 から

状態 A2 へは

<補遺> 69

d prime

状態 A2 から状態 A1 に戻るときは

全体では

=d prime

+d

(b-19)

Clausius の不等式から

0

式(b-19)の第二項で反応を逆に進めるときには次のように書き改めることができる

=d

よって式(b-19)は次のように書き直すことができClausius の不等式とあわせると

d prime d

0

すなわち

d prime d

上式の右辺は式(b-16)を用いて表せば

d prime

∆S ∆

この状態変化を微小変化とするならば断熱変化の場合 dQ = 0 であるから

∆S ∆ dS 0

すなわち不可逆変化を含む断熱変化ではエントロピーは必ず増大する

<補遺> 70

T

QS

BA SSS

(b-20)

(次の<補遺>ギブス自由エネルギーも参照せよ)

本文 p26 へ戻る

ギブス自由エネルギー (本文 p28 27 行目参照)

エントロピーの考えを導入することによって不可逆的に状態変化が起きるときにはエン

トロピーの増大を引き起こすことを知ったこれによって目前で起きる現象について温度の

変化があるものであれないものであれまた圧力の変化があるものであってもエントロピー

の定義式によって可逆的な変化におけるエントロピーの変化量を計算することが可能である

(b-15)

しかしながらこれから起こる変化について我々がすでにあらかじめ知っている物理量を

用いて予測的にその状態変化が起きるかどうか知ることは必ずしも容易ではないその理由

は式 b-15 に示されたエントロピーΔS が系とその外界をあわせた全体のエントロピーを示

しているからであるすなわち関心のある系を系 A としその外界を系 B とすると全体

のエントロピーは次のように表せる

(c-1)

関心のある系 A のエントロピー変化を知るためには系 B のそれを知ればよいがそれは

いつも容易とは限らない系 A の性質だけで状態変化の方向を知るには別の観点が必要にな

るようだ

そこでもう一度状態変化が熱量 Q の移動によって起きることについて考えてみようエン

トロピーの補遺で議論したように熱量の移動が準静的過程により行われるときには変化は可

逆的に起こると考えたこのとき外界すなわち系 B から移動する熱量を Q1とし系 A から

0S

<補遺> 71

21 QQ

T

Q

T

QSB

21

T

QSS A

2

QH

T

HSS AA

AA STHST

のそれを Q2 と記号を当てたのでこれをそのまま使うことにすれば可逆的な過程では系 B

の熱量 Q1 はすなわち系 A から戻る Q2 に他ならないので両者には次の関係が成立するも

のとしてよい

(c-2)

したがって

(c-3)

と考えてよくこれによって式 c-1 を次のように書きなおすことが出来る

(c-4)

独立した系で圧力とその体積に変化がなく一定の条件の下で状態変化が起きるときエン

タルピーの考えを使ってすでにひとつの関係があることを導いている

本文(31)

そこで式 c-4 を系のエンタルピーΔHAによって書き改めれば

(c-5)

この両辺に-T をかけて式を書き直せば次の関係式が得られる

(c-6)

式 c-6 を見るときその右辺がマイナスの値ならば左辺のΔS はプラスの値をとることが

分かるすなわちエントロピーが増大すると見ることが出来るこれまでの過程で自然の現

象はエントロピーが増大する方向に進むとしてきたので関心のある状態変化について式 c-6

の右辺で計算される値がマイナスの値ならばその変化は起きるものと考えてよいことになる

だろうしかも右辺はすべて独立した系の状態量で示されていて我々が知りうる値で計算

<補遺> 72

TSHG

STSTHG

STHG

可能である

そこでこれを熱力学ポテンシャルを表すものとしてギブス自由エネルギーと呼ぶことに

するギブス自由エネルギーは記号 G が用いられ次のように定義される

(c-7)

ここで関心があるのは自由エネルギーの絶対値ではなく式 c-6 に示されたようにその変化量

に興味があるので式 c-7 から

(c-8)

温度が一定の条件の下で状態変化が起きることを考えるなら式 c-8 は次のように書くこと

ができる

(c-9)

ギブス自由エネルギーは式 c-9 の右辺がすべて状態量であるからこれも状態量の一つで

ある定圧定温の条件下で起きる変化ではすでに議論したようにΔGlt0 であれば状態

変化は自発的に起きるものと予測できる

つまり式 c-5 の第一項は系のエントロピーΔSAそのものであり第二項で示されるエンタ

ルピーは系 A の温度が一定に保たれているのであるから発熱する熱量として外界に吸収さ

れるものであってこれは外界のエントロピーの増大につながるものとして解釈されるした

がって化学反応のように一定の圧力と一定の温度の下で起きる変化について自由エネルギ

ー変化量はその状態変化が自発的に起きる傾向を示しているといってよい

本文 p28 へ戻る

  • はじめに
  • 目次
  • 電気エネルギー
    • 金属のイオン化
    • 電池
    • 水素の反応
    • 燃料電池
    • 化学反応と電気エネルギー
      • エネルギーと熱力学
        • エネルギー保存則
        • エンタルピー
        • エントロピー13
        • ギブス自由エネルギー
        • 電池における化学反応のギブス自由エネルギー13
        • 理想気体の状態方程式
        • 理想溶液のギブス自由エネルギー
        • 膜電位
          • 水素イオン濃度測定
            • 化学反応の一般的な式
            • pHの定義とその目盛り
            • pH標準液
            • 銀塩化銀参照電極
            • 実用的なpH測定
            • ガラス電極
            • 電極の校正
            • 金属イオンに対応するイオン選択電極
              • 文献
              • 補遺
                • 状態関数
                • エンタルピー
                • エントロピー
                • ギブス自由エネルギー
Page 40: イオン選択電極i イオン選択電極 Ion Selective Electrode (ISE) を理解する ・ pHを測定する ・ NaやKなどのイオン濃度を測定する 神戸大学医学部保健学科

37

理想溶液のギブス自由エネルギー

理想気体を想定したように無限に希釈された混合溶液に対して理想溶液を仮

定する「系」の圧力温度を一定に保つならば体積内部エネルギーエンタ

ルピーギブス自由エネルギーなどの示量数は混合溶液を構成する物質のモ

ル数mに比例するたとえば標準状態にある物質の1モルの体積をVとすれば

mモルの体積はそのm倍mVであるそうすると溶液中のi番目の成分がmi

モル「系」から「外界」に仕事をするときその成分iの持つ自由エネルギーの

mi倍の仕事が「外界」になされると考えればよい

この溶液成分のモル数と化学的仕事を結びつける示強因子がギブスによって

化学ポテンシャルと名付けられ一般に記号μが用いられる

化学ポテンシャルはこれまで見たようにギブス自由エネルギーで表される

また電位がψ(プサイ)にある系から-Δeの電荷が放出されるときには

-ψΔeの電気的仕事が得られるそこで記号μに両者を合わせた意味を持

たせて「電気化学ポテンシャル」と呼ぶ

概念の上で物質は電気化学ポテンシャルの高い方から低い方へ勾配にした

がって移動する

理想気体の標準状態が気体分圧を T=29815K(25)で 1atm としたのに対

し溶液成分の標準状態はその分圧に相当するモル数 m を用いるすなわち

標準状態にある成分 i の電気化学ポテンシャルμ0iは成分の持つ電荷(H+なら

1)を n として

μ0i = G i゜+nFψ i (59)

ギブス自由エネルギーは式(56rsquo)を借り理想溶液中の成分に対しては気

体圧力をその成分のモル濃度Cに書き換えればよいそこで

G(CT ) G RT lnC (60)

と表すことができる

したがって一般的な成分 i の電気化学ポテンシャルμiを表す式は標準状態

からの自由エネルギーの変化を考え式(59)と合わせて次のようになる

38

ψnFGii 0

式(60)から

ii CRTGTCGG ln)( 0

よって

(61) ψnFCRT iii ln0

実際的なことを考えると成分濃度はその有効イオン濃度とする必要があり

「活量係数」γを導入して次式で表されるイオン活量aを用いる

ai = γCi (62)

一般的にはγ=1と近似してモル濃度Cを使っているこのテキストでも

必要ではない限りイオン活量を用いることを省略して簡単に記述したい

膜電位

燃料電池に使われたナフィオンのような一つのイオンを通す膜を介して膜

の両側にC0 とC1 のイオン濃度差がある溶液が接するときの電気化学ポテン

シャルを考えよう

ある容器の底にナフィオン膜を取り付け容器の中と外のイオン濃度をC0

とC1としそれぞれの電気化学ポテンシャルをそれぞれμinとμoutとする

式(61)を使って

容器の中の電気化学ポテンシャル

(63) innFCRTin ψ 00 ln

容器の外の電気化学ポテンシャル

(64) outout nFCRT ψ 10 ln

イオン浸透性の膜を介して濃度変化が無視できるほどの移動があると考え

その電気化学ポテンシャルの差を式(63)(64)から求めれば

39

)(ln0

1 inoutinout nFC

CRT ψψ (65)

この系において今注目しているイオンが膜を介した両側で平衡状態にある

とき式(65)はΔμ=0と考えることができるすなわち

0)(ln0

1 inoutnFC

CRT ψψ

膜内外の電位差をΔψ=ψoutminus ψinとすれば

1

0

0

1 lnlnC

C

nF

RT

C

C

nF

RTψ (66)

式(66)は理想気体に対するネルンストの式(58)と同様溶液中のイ

オンに対するネルンスト(Nernst)の式として与えられる

細胞の膜においてもその生体膜の内外でたとえばカリウムイオンのように

非対称に分布して平衡に達している場合には式(66)で与えられる膜内外

で電位差が生じるこれは一般に膜電位と呼ばれる膜電位は平衡電位とも

呼ばれる

たとえば膜内外に1価のカリウムイオンに10倍の濃度差があるとすると

通常カリウムイオンは細胞内の濃度が高いので

C0 = 10timesC1

であるから

これを式(66)に当てはめてln(10)=2303 を用いlog への変換をすれば

Δψ=2303times(RTF)timeslog(10)

であるこれに R=831441 JmolKF=96485 CmolT=29815 K(25)

の各数値を当てはめると

Δψ=2303times831441times29815times196485 JC

=+005917 volt

すなわち膜の内外で約+60ミリボルトの膜電位が生じることになるこの

分だけ細胞の外側の電気化学ポテンシャルが高く膜の内側の膜電位が負であ

るそして膜にあるカリウムチャネルがこの電位を示すとき受動的なカリ

40

ウムの膜内外の移動は平衡に達することになる

水素イオン濃度測定

「標準水素電極」は1モル塩酸溶液につけた白金電極に1atm の水素ガスを

吹き込んで平衡状態に達したときの電位を基準としてゼロボルトと規定した

そこである溶液についてその水素イオン濃度を知ろうとするとき同じ水

素電極を用いることを考えれば標準状態にする目的で用いた1モル塩酸溶液

を濃度未知で X モルの塩酸溶液と想定すればその水素イオン濃度を知るこ

とができるだろうか

標準状態ではない X モルの塩酸溶液に浸けた白金電極が半電池として働くこ

とは間違いなさそうであるしかしその白金電極が持つ電極電位を測定する

にはいずれにしても標準電極と組み合わせて「電池」を構成しその電池

の起電力として計る必要がある電池を作れば起電力を知ることができ相

手の半電池の電極電位が知られていれば濃度が未知でXモルの溶液について

その水素イオン濃度を知ることができるだろう

こうした目的のためにいちいちゼロボルトと規定した標準水素電極を用いる

のは煩雑なのでしばしば後出の「銀塩化銀電極」が参照電極として用いら

れる

まず予め「銀塩化銀電極」を標準水素電極と組み合わせて電池とし一度

その起電力を測定しておけば後はいつもそれを標準電極として利用できる

「銀塩化銀電極」の半電池は

H+ (1 moll) Cl- | AgCl | Ag(s)

これに「標準水素電極」を組み合わせ電池を構成すると次のような電池

になる

Pt(s) | H2(g) | H+ (1 moll) Cl- | AgCl | Ag(s)

この電池の起電力を知れば「銀塩化銀電極」の半電池としての電極電位

を知ることができ参照電極として未知の半電池と組み合わせて起電力を測

定して相手の電極電位を計算できる

41

濃度 X モルの塩酸溶液を未知の溶液と想定すればその電極電位を知るために

組み立てる電池は次のようになる図10にその電池の図を示した

Pt(s) | H2(g) | H+ (x moll) Cl- | AgCl | Ag(s)

この電池の全反応は次の反応式で表される

AgCl(s) 1

2H2 (g) H Cl Ag(s) (67)

図10未知溶液の水素イオン濃度を測定しようとするための電池

化学反応の一般的な式

ここで電池に利用される化学反応から得られるエネルギーをギブス自由エ

ネルギーに換算し起電力を具体的に知る手だてとすることは上ですでに学

42

んだがより一般的な式を再度ここに書きだしておこう

化学反応が紙面で左から右に進む反応として次のような一般式で与えられ

るとき

aA + bB rarr cC + dD (68)

ギブス自由エネルギー変化量は標準状態ΔG゜からの変化量を加える形で式

(60)と同様次の式によって表される

G G RT(ln aCc aD

d ln aAa aB

b )

G RT ln

aCc aD

d

aAa aB

b (69)

aAは成分 A のイオン活量であるその他の成分も同じ

得られたエネルギーを電気エネルギーに換えるなら式(41)に習って

次式で表せば

ΔG=-n FV

there4V=-ΔG(nF) (70)

このときの起電力は標準状態における電位 E゜からの変化量として次式で与

えられる

E E

RT

nFln

aCc aD

d

aAa aB

b (71)

標準状態における起電力 E゜は反応が平衡状態にあるときで反応平衡定数

を K とするなら

K aC

c aDd

aAa aB

b (72)

で表されるそこでE゜は次のように書き改めることができる

43

E

RT

nFln K (73)

そこで式(67)で表される図10の電池「水素minus 銀塩化銀電池」に

対する起電力をギブス自由エネルギーから求めてみよう

反応から式(71)に当てはめれば

E E RT

Fln

aH

1 aCl

1 aAg1

aAgCl1 aH2

1

2

(74)

力学の慣例にしたがって固体の純物質の活量は1として扱い水素ガスを

想気体として見なして活量を1atm とするなら式(74)は次のよう

に簡略化される

E E

RT

Flna

H aCl (75)

ころで理想溶液として近似的に取り扱うときの希薄溶液でたとえば水素

入して詳細に検討するなら式( れる起電

オン濃度はイオン活量として aH+の記号を使うときすでに【理想溶液のギ

ブス自由エネルギー】の章で述べたようにこれを有効イオン濃度とする必要

がありイオン活量 a は「活量係数」γを導入して次式で表した

a H+= γH+CH+ (62)

この活量係数を導 75)で誘導さ

を計ることによって経験的に試料溶液中の水素イオン濃度を求めることは

困難である式(75)にあるイオン活量の項はモル濃度 C と活量係数γを

用いて次式で書き改められる

lnaH aCl

lnCH CCl

lnH Cl

(76)

まり式(76)右辺の第二項において互いに相手が知られなければ自分

決めることができず結果的に起電力を知っても(75)の値から水素イオ

ン濃度を導けないここに工夫が必要になる

44

の定義とその目盛り

液中の水素イオン濃度を直接意味するものではなく

を定義するとき測定されるのは1リットルの溶媒に存在す

pH = -log a H+ = -log(γH+CH+) (77)

際に試料溶液の pH を決定する際はpH 標準液を用いる

に溶液を入れ試料溶液 X と pH 標準液 S を

参 極を接続し電池を作成しその起

pH

現在pH の定義は溶

で述べたようにそれが簡便に測定できるものではないため次のように定

義されている

水素イオン濃度

水素イオン活量であるため定義式としては活量係数をγH+として次式で与

えられる

その要領は次のようである

上に図示した水素電極の容器内

れぞれ半電池(I)と(II)に入れる

半電池(I) Pt | H2 (1 atm) | 試料溶液

半電池(II) Pt | H2 (1 atm) | 試料溶液S

照電極として上図のごとく銀塩化銀電

電力を測定する半電池(I)のときの起電力を E(X)半電池(II)のそれを E(S)

とするこのとき試料溶液Xの pH は次式で計算される

pH (X) pH(S) E(S) E(X)

RT ln(10) (78)

ln(10)は自然対数を常用対数に戻すための定数で2303 を用いる

標準液

pH 標準液 S はpH 第一次標準液第二次標準液と呼ばれるべき

る測定

25で pH 4005 を示す

pH

上述した

のであり絶対的測定法である起電力の測定によって値をつける

標準液は安定で純粋な結晶が得られる試薬を調整してこれを測定す

上と同様に水素電極を用いこれに緩衝液を入れる参照電極として銀

塩化銀電極を接続して電池の起電力を測定する

たとえば005 moll フタル酸水素カリウム溶液は

一次標準(Primary Standard PS)の一つである半電池(III)として水素

45

電極を次のように準備する

半電池(III) Pt | H2 (1 atm) | PS 溶液

て電池を形成したとき得られる起電

参照電極として銀塩化銀電極を接続し

は式(75)から

E E

Ag AgCl RT

Flna

H aCl (79)

オン活量を濃度と活量係数の積(a H+= γH+CH+)にし自然対数を常用対数

すれば

E E

Ag AgCl RT ln(10)

F log(

H + CH+ Cl- CCl - ) (80)

E゜は水素標準電極(水素ガス分圧を1atm電極を浸ける溶液に001 moll

H

Cl を用いる)で得た起電力である

式(80)から

RT ln(10)

Flog(

H CH Cl

) (E EAg AgCl )

RT ln(10)

Flog C

Cl

(81)

らに

log(

H CH Cl

) F

RT ln(10)(E E

Ag AgCl ) logCCl

(82)

ころで式(77)から

(γH+CH+) (77)

-log a H+ =-loga H+-log(γCl-) +log(γCl-) =-log(a H+γCl-) +log(γCl-)

(83)の一番右の式で第一項は

pH = -log a H+ = -log

であるが右の式をさらに変形すると

(83)

46

-log(a H+γCl-)=-log(γH+ CH+γCl-) (84)

たがって式(82)の右辺で示されるように電池の起電力を測定すれば

よ 実際には溶液の塩素イオン濃

液で起電力を求め外挿する

起電

これによってpH を意味する式(83)は次式(85)で与えられる

p(aHγCl)はRG Bates によって Acidity Function と呼ばれている

らに式(85)最終項の log(γCl-) を補正しなければならないこの項は

本工業規格)によっても

であってこれは式(82)の左辺である

いただし塩素イオン濃度の項があって

をゼロにしたときの値が必要である

実測する際には塩素イオン濃度をゼロにできないので塩化ナトリウム NaCl

等を濃度を変えて添加しその時々の緩衝

勧告ではNaCl で 000500100015moll の3つの濃度を例示している

すなわち塩素イオン濃度ゼロのときの値は各塩素イオン濃度に対して

の値をそれぞれプロットしグラフから塩素イオンがゼロのときの起電力の

値を3点に対する回帰直線の延長で外挿して求めるこの点を次のように書

log( C H H Cl CCl

0

pa log( C log( (85) H H H Cl C

Cl0 Cl

)

素イオンの活動係数で与えられる補正項である

無限希釈溶液中のイオンの活動係数は理論的に Dubye-Huckel の式を用い

近似的に求めることが可能であるこれはJIS(日

用されていて Bates-Guggenheim の規約と呼ばれる (Bates RG

Guggenheim Pure Appl Chem 1 163-168 1960)

Dubye-Huckel の式は次のように与えられる

log A I

i 1 iB I (86)

47

I iについてそのモル濃度

計算される

はイオン強度でイオン mi と電荷 zi から次式で

I 1

2mizi (87)

また iは(86)式のBは温度と溶媒の性質による定数であり イオンの大

きさに関するパラメータで水和イオンの大きさとほぼ一致した値をとる標

準法の勧告では塩素イオンに対しイオンの大きさを46Åと決めてiBを

1

5 にしているそこで式(84)は次のようになる

ClA I

log 1 15 I

イオン強度 I は塩素イオン濃度を含まない計算となる

以上の方法によって実用的な pH 測定に用いられる第一次第二次標準液の

pH の値が得られる

絶対値としての

はpH の絶対測定法(第一次標準測定法)とされている

銀塩化銀参照電極は分極現象を防ぐために棒状の銀を塩酸で処理し表

に塩化銀を生成させたものを飽和塩化カリウム溶液につけてある

(88)

参考現在は実験的に求めた値と理論値の組み合わせで

素イオン濃度を求める方法を規定しているこの起電力から水素イオン濃度

を知るための測定方法

Buck RP Rondinini S Covington AK Baucke FGK Brett CMA Camoes MF

Milton MJT Mussini T Naumann R Pratt Kw Spitzer P Wilson GS

Measurement of pH definition standards and procedures Pure Appl Chem

74(11)2169-2200 2002Kristensen HB Salomon A Kokholm GInternational

pH scales and certification of pH Anal Chem 63(18) 885A-891A 1991)

銀塩化銀参照電極

電極の構成は

Cl-(aq) | AgCl(s) | Ag(s)

48

この半反応は次のようになる

AgCl(s) + e- rarr Ag(s) + Cl- (89)

の反応は次の2つの反応に分けて考えることができる

Ag+ + e- rarr Ag(s) (91)

AgCl(s)rarr Ag+ + Cl- (90)

図11銀塩化銀参照電極

(90)における銀 る塩素イオンによって左

されることが推測される

そこでカッコ [ ] をそれによって囲まれるイオンの濃度を表すことにし

式 イオン Ag+の溶解性は共存す

塩化銀の乖離定数Kを考えると

49

K = [Ag+][Cl-] (92)

これから

[Ag+]= K[Cl-] (93)

化カリウム溶液に漬けた銀塩化銀電極の電位 E は水素標準電極に対する

電 で与えられる

位を E゜として次式

E E

RT

nF

[ Ag ]

[Ag(s)]ln( )

Ag(s)のイオン活量は常に1とする

ここで半反応の電極電位を求めるために式(75)を利用することにすれば

(94)

熱力学の慣例にしたがって純物質個体

E E

RT

Flna

H Cl a (75)

式 の半反応をみると

応で電子1つが移動するので n=1 とするR=831441 JmolK1F = 96485

C はめれば

これに銀イオンの濃度として式(93)を当てはめる

この反応で移動する電子は (89) 銀イオン1つの反

molT=29815K(25)ln(10)=2303などの定数を当て

2303RTF = 005917

であるから(94)式は次のように表現できる

log[Cl]) E E 005917(logK (95)

たがって標準水素電極に対する銀塩化銀参照電極の標準状態における電

位 は半反応(89)に対して ゜=+0799で

化銀の乖離定数 K は182times10-10 であるのでその対数を取れば-973993

0799-005917times973993-005917log[Cl-]

E゜ E ある

ある

そこで式(95)は

E =

50

= 0799-0576-005917log[Cl-]

= 0223-005917log[Cl-] (96)

電極電位の関係について実測値

こうして求めた塩化カリウム溶液の濃度と

計算上の値は次のようである

KCl moll vs SHE volt25 計算値 volt25 01 02881 02822 35 0205 01908 飽和 0199 minus

実用 測定

実際の現場で水素イオン濃度を測定する目的の測定法で上のような2つの

極が同じ溶液に浸かっていたのでは試料溶液を交換するにも便利ではない

の容器に入れる未知試料溶液と銀塩化銀電極を隔離する

的な pH

そこで水素電極側

的で二つの電極容器をつなぐ液絡部をグラスフィルターやセラミック板

飽和塩化カリウムで作成したゼラチンなどの塩橋によって隔離遮断するこ

れを液絡部とよぶ

電池として機能するために必要な溶液イオンの交換はこの液絡部で行う

組み立てる電池は電池式で次のように表される

Pt(s) | H2 | 試料 (H+ x moll) || 飽和 KCl | AgCl | Ag(s)

の標準電極と銀塩化銀電極とは区切られていて溶液の直接の接触がない

とを意味するために電池式ではタテ二重線を用いる銀塩化銀参照電極

の容器には飽和塩化カリウム溶液が入れられる

51

図12液絡部のある pH 測定のための電池

この液絡部のある電池では塩橋を記号lsquo | | rsquoで表して次のように記す

試料 (H+ x moll) | | 飽和 KCl

ここでは試料溶液と飽和塩化カリウム溶液の異なる2液が接している

このような界面では膜電力が生じるのと同様「液間電位差」が生じることが

知られているしたがって上の電池で測定される起電力 E は

E = E[銀塩化銀電極電位]+E[液間電位]+E[水素電極電位]

で与えられることになってE[液間電位]のために図12の電池の起電力

は銀塩化銀参照電極の値を知っていても水素電極容器内に入れた未知溶

液の水素イオン濃度を正しく知ることができない

52

そこで実用的な測定法としてこの E[液間電位]を膜電位として積極的に利

用する方法が工夫されたすなわち水素イオンに感応するガラス薄膜を用い

るガラス電極法である

53

ガラス電極

ガラスはケイ素原子と酸素原子からなる SiO4 の結晶構造を持ち酸素で囲

まれた空隙があって水素イオンがそれを埋めることができる

この性質によってガラス膜表面は水溶液中の水素イオンに応じて膜電位を

変化させるのでこれを水素イオン濃度測定用の電極として利用することが考

えられるこれが通常用いられるガラス電極である

ガラス電極は標準電極と組み合わせれば電池を構成することができこの電

池の起電力を知ってガラス薄膜の内外にできたイオン濃度勾配を知ろうとす

るものである

薄いガラス膜(01mm程度)をはさんで接する2つの溶液のH+イオン濃

度が異なるとその差に応じてガラス膜の両側に電位差(Eg)が現れる

ネルンストの式でガラス電極の内部に入れた既知の濃度のH+([H+]in)に対

し試料中の水素イオン濃度が[H+]sampleのとき次の電位を生じる

)][

][log(059170)

][

][ln(

sample

in

sample

ing

H

H

H

H

F

RTE

(97)

図13ガラス電極

電極を構成するのは銀塩化銀電極と同じ電極で用いる塩溶液は一般的

54

に 01モル塩酸溶液である

この半電池の電池式は次のように書くことができる

Ag(s) | AgCl(s) | HCl (01 M) | ガラス薄膜 || 試料溶液 H+ (x moll)

Eg

この半電池の電極電圧を測定するために銀塩化銀標準電極と組み合わせ

電池を作って起電力を計る

構成される電池は下図のようになる

ガラス電極 銀塩化銀標準電極

図14ガラス電極を用いた pH 測定用の電池

この電池の起電力は次の各半電池の平衡電位を合わせたものになる

55

E1ガラス電極の内側電位

Ag(s) | AgCl(s) | HCl (01 M)

Egガラス薄膜の内外に生じる膜電位

HCl (01 M) | ガラス薄膜 || 試料溶液 H+ (x moll)

E2液間電位(膜電位)銀塩化銀標準電極のセラミックを介した試料溶液

と銀塩化銀標準電極の内部液(飽和 KCl 溶液)の間に発生する電位

試料溶液 H+ (x moll)|| セラミック | KCl(飽和)

E3銀塩化銀標準電極

KCl(飽和)| AgCl(s) | Ag(s)

pH メーター用のガラス電極に使われるガラス薄膜は水素イオンに感応して

膜電位(Eg)を生じるこれは【膜電位】の章で記したように薄膜がある

一つのイオンのみを通過させる特性を持っている場合にイオンが膜を介した

両側で平衡状態に達したとして電気化学ポテンシャルを膜の両側で等しいと

考えてそのイオンが濃厚な側から希薄な側にその差によって圧力を生じると

するものである

一方同じ試料溶液が銀塩化銀標準電極のセラミック液絡部を介して生じ

るだろう液間電位(膜電位E2)はいま関心がある水素イオンに対して特異

的に感応するのではないので試料溶液の水素イオン濃度に関係なく一定と見

なすことができる

すなわちpH メーターを構成する電池の起電力 E は

E = E1+Eg+E2+E3 (98)

このうちEg以外は一定と見なせるので

E1+E2+E3 = E

として式(98)を書き直すと

)][

][log(059170

sample

ing H

HEEEE

(99)

Eは標準液によって校正されるべき標準電極電位である

56

電極の校正

実際のイオン濃度を測定する場合低濃度標準液と高濃度標準液で得られ

る起電力を測定し計測のイオン濃度に対する係数(傾き)を求めておき未

知の試料に対して起電力を測定してそのイオン濃度を算出する方法が採られる

低濃度標準液と高濃度標準液のそれぞれの濃度をCLとCHとすればそれぞ

れの起電力ELとEHは次式で表される EH = E +β logCH (100)

EL = E +β log CL (101)

ただしβは式(99)の係数を簡略にしたものである

式(100)と(101)から検量線の傾きが次式で表せる

ΔE = EH minus EL = β(logCH minus logCL) = β logCH

CL

(102)

したがって係数βは

β =ΔE

log CH

CL

(103)

であらわされる

このときに使われる標準はすでに前出の pH 第一次標準第二次標準溶液で

ある

金属イオンに対応するイオン選択電極

現在臨床検査で日常的に使われている電解質測定のための電極はナトリウ

ムカリウムカルシウムクロールなどおよそ臨床的に必要な金属イオン

に対して入手可能である

カリウムイオン測定用のバリノマイシンの発見によってクラウンエーテルと

57

呼ばれる一連の化合物が知られたクラウンエーテルはその分子の中心に立

体的な空間を持ち特定のイオン径に対し合致するのでそのイオンに対して

選択的に感応するこれらの化合物はイオノフォアと呼ばれる

図 15クラウンエーテル

1つの金属イオンが環状化合物

15-crown-5 の中央にある空間を充填

している模式図

15-crown-5 の構造を作る10個の黒

い丸は炭素炭素2個のつながりごと

にある中心の白い丸は酸素酸素と

金属イオンの間の距離はおよそ 22~

23Åであるカリウムのファンデン

ワールス半径は 135Åイオン半径は

15~16Åである

測定したいイオンに対しポリ塩化ビニル(PVC)を支持体としてイオノフ

ォアを添加した液膜の電極膜を作成しこれをガラス電極におけるガラス薄膜

と同様試料に接する電極膜として用いるこの構造から一般的に液膜型電極

と呼ばれる電極膜には特異性を高めるため妨害イオン排除剤などが添加

される

pH メーターと同様銀塩化銀標準電極と組み合わせ電池を形成しその

起電力を計る測定したいイオンが液膜に対して内外で平衡に達したときの

膜電位を測定するのはガラス電極と同じである

カ リ ウ ム イ オ ン に は Bis[(benzo-15-crown-5) ( 正 式 名 は

Bis[(benzo-15-crown-5)-4-methyl]pimelate)ナトリウムには Bis[(12-crown-4)

やDibenzyl-bis[(12-crown-4)などがイオノフォアとして用いられる

58

図16カリウムイオン測定用に使われるクラウンエーテル

図17ナトリウムイオン測定用に使われるクラウンエーテル

59

参考イオン選択電極に関する文献Xia Z Badr IHA Plummer SL Cullen L

Bachas LG Synthesis and evaluation of a bis(crown ether) ionophore with a

conformationally constained bridge in ione- selective electrodes Anal Sci 14(2)

169-173 1998 Oh K-C Kang EC Cho YL Jeong K-S Y oo E-A Paeng K-J

Potassium-selective PVC membrane electrodes based on newly synthesized

cis- and trans-bis(crown ether)s ibid 14(10)1009-1012 1998 Dojindo WEB

site httpwwwdojindocojpwwwrootproductsjinfo2protocolp31pdf

<補遺> 60

補遺 状態関数 (本文 p21 10 行目参照)

一つの平衡状態にある系 A とこれに接する系 A にとって外部である系 B について系 B

から系 A に熱を与えこれによって系 A が他の平衡状態に移ったとき系 A はその結果とし

て膨張し系 B に対し仕事をする

このときの微少な熱量の移動を記号drsquoQ またなされた微少な仕事をdrsquoW とすると

系Aの内部エネルギーに関する微少な変化drsquoUA は両者の和として表される

WdQdUd A primeminusprime=prime (a-1)

この式 a-1 と本文中の式25との関係について

WQU A Δminus=Δ 本文(25)

<補遺> 61

式 a-1 と式25の記号の違いは変化の起きる前の平衡状態 S1 から変化後の平衡状態 S2

に状態変化があったとするなら式 a-1 を積分することで式25が得られるものと考えて区

別している

A

S

S A UUd Δ=primeint2

1 (a-2)

このことは重要であるすなわち内部エネルギーU は変化の起きる前後の状態を指定する

ことによって値が定まることを意味するこのように積分によって値を定めることが出来る

のでdrsquoU は完全微分であるという

内部エネルギーのように系の状態だけで値の定まる量を状態関数として扱う

一方式 a-1 のdrsquoQ drsquoW についても同様に微少の変化量を表しているが平衡状態 S1

から S2 への経路を指定しなければ積分の値は定まらない

本文中の記号にしたがって仕事量ΔW を次のように表すことにする

VpW Δ=Δ 本文(20) V

<補遺> 62

体積と圧力の関係を表す図を使ってこの仕事量が意味することを考える圧力 prsquo の下で

体積が V1 であるときを状態 S1 として圧力一定の下で体積を V2 まで膨張させるような変

化を行った後体積を等しく保って圧力を p にまで上げたときの状態を S2 とするこのとき

の仕事量は膨張に伴うものであるから図の体積‐圧力線の下の面積で示すことができる

平衡状態 S1 から S2 への変化の道筋を別にたどってみよう

新しい経路では圧力を先に p まで上げた後に膨張変化させている

図から直感的に明らかであるので数式での扱いを省略するが2 つの経路による仕事量には

差がある

すなわちdrsquoW は drsquoU と異なり変化の初め S1 と終わり S2 の状態が与えられても積分値

は定まらず変化の経路によって違ってくる

このように変化の経路を指定しなければ積分値が定まらないものを不完全微分と呼び扱

いを区別する

本文 p21 へ戻る

<補遺> 63

VpW

WQU

VpQU

VpUQ

1122 SSSS pVUpVUQ

pVU

VpUHHHQ SS 12

エンタルピー (本文 p24 20 行目参照)

本文中の式 20 および 25 から一定の圧力の元で起きる状態変化において内部エネルギー

の変化量に対する式 a-3 を得る

本文(20)

本文(25)

(a-3)

式 a-3 を Q について書き直す

(a-4)

状態の変化が平衡状態S1から平衡状態S2に移ったものとして式 a-4を丁寧に書き直すと

(a-5)

並び替えて

(a-6)

式 a-6 を見ると定圧過程における熱量の流入は

(a-7)

の形を持つ関数の差であることが分かる

一般に化学反応のような変化の過程では大気圧の下で行われるようなものに興味がある

そこで式 a-7 で与えられる項を一つの関数として定義するこれをエンタルピーと呼び記

号 H を与える式 a-4 はエンタルピーの変化量で次のように書き改められる

(a-8)

圧力が一定の下で起こる状態変化について流入する熱量は式 a-8 で示されるようにエンタ

ルピーの変化量に等しい

V

V

V

V V

V

V

1212 SSSS VVpUUQ VV

<補遺> 64

1Q

We

また式 a-8 からオートクレーブ内で起こるような体積変化のない過程ではこの値が内

部エネルギーの変化量で与えられることが明らかである

本文 p24 へ戻る

エントロピー (本文 p26 17 行目参照)

エントロピーは次のような思考実験から発想された仮想的な状態関数である

理想気体よりなる系 A が温度 T2で熱平衡状態にあり温度 T1の外部の熱源と接しているこ

とを想定する系 A の外部を系 B と呼ぶことにするT1は T2に対して無限小だけ高い温度と

する

系 A が系 B に対して温度圧力について平衡を保ちながら緩慢に系 B より熱量 Q1を受け取

る過程を考える(このような過程を準静的過程と呼ぶ)これによって系 A が熱量 Q1を得て膨

張するとき系 B に対して仕事をする続いて系 A から熱量 Q2が系 B に戻ることを考える

想定されるこの変化が可逆的であれば系 A と系 B を併せた全体は元の状態に戻る蒸気機

関に関するこのような研究が Nicolas Carnot によってなされたのは1824 年のことであった

ここに想定されたサイクルに対する Carnot の効率 e は移動した熱量となされた仕事によ

って定義され次の式で表される

(b-1)

<補遺> 65

理想気体では内部エネルギーU の変化ΔU はゼロと考えるしたがって熱力学の第一法

則を表す式(本文中の式25)から次の関係が示される

0=Δminus=Δ WQU

WQ Δ= (b-2)

これによってCarnot Cycleの効率eはQ2lt0 として次のように書き改めることが出来る

1

21

QQQe +

= (b-3)

ところで気体の状態方程式から1 モルの気体について次のような関係が示される

RTV

P

P1=

V = RTV (b-4)

V 式 b-4 の両辺に体積の微少変化量ΔV をかけて

(b-5)

これを体積Vについてその変化をV1からV2までとして積分するならば次式が得られる

VV

RTVP Δ=Δ 1V V

V

intint = 2

1

2

1

1V

V

V

VdV

VRTPdV

1V2V

11 lnRTW =

(b-6)

Q1の熱量によって起こる膨張がV1よりV2までとし圧力P温度T1の下でなされるその仕事

量をW1とするならそれは式b-6 の右辺によって示されるすなわち

(b-7)

VV

1

2lnVVRT=

V V

VV

V

V2int V2 intV1 V1

<補遺> 66

またQ2の熱量の移動が圧力P温度T2の下で起きこれによって系Aが可逆的に圧縮され

るなら体積変化はV2よりV1まで起こりその仕事量をW2で示すと次式のように表される

(b-8)

1

22

2

122 lnln

VVRT

VVRTW minus==VV

VV

Q1=W1Q2=W2の関係から式b-7 およびb-8 を用いてCarnot Cycleの効率eを表す式b-3

を書き改めると温度のみの関係式として次のように表される

1

21

TTTe minus

= (b-9)

ここでサイクルが可逆的過程であると想定するならば式 b-3 と式 b-9 から

1

21

1

21

TTT

QQQe minus

=+

= (b-10)

これから

12112111 QTQTQTQT minus=+ (b-11)

整理すると

02

2

1

1 =+TQ

TQ (b-12)

この考えをさらに発展させ系A

と系Bの間に数多くの系を挿入すること

にしてそれらの系を同様に熱源として

T1T2Tnと考えるこれによっ

て熱の受け渡しが系Aから系Bに至り

再び系Aにもどるサイクル過程に数多

くの寄り道の過程を加えることになる

熱量の移動に関して上の場合と同じく

準静的過程で行われると考えるこの

サイクル全過程について初めと終わ

<補遺> 67

n

i i

i

T

Q

1

0

0T

dQ

T

QS

T

dQASAS )()( 12

りが同じ状態になる可逆的な過程であるなら式 b-12 を拡大的に考えることになってそれ

は次式で表される

(b-13)

式 b-13 には重要な関数が現れるすなわち熱量と温度の比QT である

もし一つの系が無限小だけ温度の高い(dT )外界から温度圧力など平衡を保ちなが

ら極めて緩慢な過程(準静的過程)で無限小の熱量(dQ )を受け取るならばその変化は可

逆的でありdT について連続的な温度分布をする過程を考えるとき式 b-13 をさらに発展

させて次のように積分式で示すことが出来る

(b-14)

式 b-14 で積分記号にが付されているのはCarnot Cycle のような経路を一巡することを

意味している

Carnot の熱機関の効率という着想から生まれた熱量とそれを持つ系の温度との比 QT に

重要な意味を見出したのは Rudolph Clausius で彼はこの比にエントロピーという名前を与

えたエントロピーには記号ΔS を一般に用いる

(b-15)

エントロピーは初めと終わりの状態がわかれば過程に関わらず定まるので状態関数であ

系 A と外界のエントロピー変化を考えるときそれが可逆的過程であるならばすべてを併

せた全体のエントロピー変化は初めと終わりに変化がないという意味でゼロであるすなわ

ち初めの状態を S(A1)とし次の状態を S(A2)とするならそれぞれのエントロピーを

ΔS(A1)ΔS(A2)としてこの間におけるエントロピーの変化量は次のように示される

(b-16)

<補遺> 68

T

dQdS

0T

dQ

ある一つの変化については次のように示される

(b-17)

ここで式 b-17 の S に付けられたdは微分量すなわちごく微小の変化量を意味し式 b-15

で定義されたエントロピーに用いられる一般的な記号Δと区別する

ところで式 b-10 の関係においてもし移動した熱量のすべてが仕事に変わらなければ

効率 e を表す熱量を用いた関係式と温度で表される関係式は等号で結ぶことができないそれ

はエネルギーのロスを意味し初めと終わりの状態が異なってしまうことを意味するすなわ

ち全過程が構成する一つのサイクルは可逆的でなくなる

不可逆過程での熱効率 ersquo は 大値を示す可逆的過程の熱効率 e より小さな値をとる

ee

したがって 大効率を与える式 b-8 と式 b-3 から

01221

2112

1

21

1

21

QTQT

QTQT

Q

QQ

T

TT

両辺を T1T2で割ると

02

2

1

1 T

Q

T

Q

これを式 b12 と同様に発展させれば式 b-14 についてサイクルの変化が可逆的過程の

場合と不可逆的過程の場合の両方を併せClausius の不等式と呼ばれる次の関係が成立する

(b-18)

式 b-18 の等号が成立するのはサイクルが可逆的な理想の場合に限られる

ある孤立系で状態 A1 から状態 A2 へは不可逆変化で進められ状態 A2 から再び状態 A1

に戻るとき可逆変化であるような閉じた状態変化を考える可逆系のエントロピー変化には

記号 Q を使い不可逆変化には Q を用いるとするとそれぞれ積分式を用いて状態 A1 から

状態 A2 へは

<補遺> 69

d prime

状態 A2 から状態 A1 に戻るときは

全体では

=d prime

+d

(b-19)

Clausius の不等式から

0

式(b-19)の第二項で反応を逆に進めるときには次のように書き改めることができる

=d

よって式(b-19)は次のように書き直すことができClausius の不等式とあわせると

d prime d

0

すなわち

d prime d

上式の右辺は式(b-16)を用いて表せば

d prime

∆S ∆

この状態変化を微小変化とするならば断熱変化の場合 dQ = 0 であるから

∆S ∆ dS 0

すなわち不可逆変化を含む断熱変化ではエントロピーは必ず増大する

<補遺> 70

T

QS

BA SSS

(b-20)

(次の<補遺>ギブス自由エネルギーも参照せよ)

本文 p26 へ戻る

ギブス自由エネルギー (本文 p28 27 行目参照)

エントロピーの考えを導入することによって不可逆的に状態変化が起きるときにはエン

トロピーの増大を引き起こすことを知ったこれによって目前で起きる現象について温度の

変化があるものであれないものであれまた圧力の変化があるものであってもエントロピー

の定義式によって可逆的な変化におけるエントロピーの変化量を計算することが可能である

(b-15)

しかしながらこれから起こる変化について我々がすでにあらかじめ知っている物理量を

用いて予測的にその状態変化が起きるかどうか知ることは必ずしも容易ではないその理由

は式 b-15 に示されたエントロピーΔS が系とその外界をあわせた全体のエントロピーを示

しているからであるすなわち関心のある系を系 A としその外界を系 B とすると全体

のエントロピーは次のように表せる

(c-1)

関心のある系 A のエントロピー変化を知るためには系 B のそれを知ればよいがそれは

いつも容易とは限らない系 A の性質だけで状態変化の方向を知るには別の観点が必要にな

るようだ

そこでもう一度状態変化が熱量 Q の移動によって起きることについて考えてみようエン

トロピーの補遺で議論したように熱量の移動が準静的過程により行われるときには変化は可

逆的に起こると考えたこのとき外界すなわち系 B から移動する熱量を Q1とし系 A から

0S

<補遺> 71

21 QQ

T

Q

T

QSB

21

T

QSS A

2

QH

T

HSS AA

AA STHST

のそれを Q2 と記号を当てたのでこれをそのまま使うことにすれば可逆的な過程では系 B

の熱量 Q1 はすなわち系 A から戻る Q2 に他ならないので両者には次の関係が成立するも

のとしてよい

(c-2)

したがって

(c-3)

と考えてよくこれによって式 c-1 を次のように書きなおすことが出来る

(c-4)

独立した系で圧力とその体積に変化がなく一定の条件の下で状態変化が起きるときエン

タルピーの考えを使ってすでにひとつの関係があることを導いている

本文(31)

そこで式 c-4 を系のエンタルピーΔHAによって書き改めれば

(c-5)

この両辺に-T をかけて式を書き直せば次の関係式が得られる

(c-6)

式 c-6 を見るときその右辺がマイナスの値ならば左辺のΔS はプラスの値をとることが

分かるすなわちエントロピーが増大すると見ることが出来るこれまでの過程で自然の現

象はエントロピーが増大する方向に進むとしてきたので関心のある状態変化について式 c-6

の右辺で計算される値がマイナスの値ならばその変化は起きるものと考えてよいことになる

だろうしかも右辺はすべて独立した系の状態量で示されていて我々が知りうる値で計算

<補遺> 72

TSHG

STSTHG

STHG

可能である

そこでこれを熱力学ポテンシャルを表すものとしてギブス自由エネルギーと呼ぶことに

するギブス自由エネルギーは記号 G が用いられ次のように定義される

(c-7)

ここで関心があるのは自由エネルギーの絶対値ではなく式 c-6 に示されたようにその変化量

に興味があるので式 c-7 から

(c-8)

温度が一定の条件の下で状態変化が起きることを考えるなら式 c-8 は次のように書くこと

ができる

(c-9)

ギブス自由エネルギーは式 c-9 の右辺がすべて状態量であるからこれも状態量の一つで

ある定圧定温の条件下で起きる変化ではすでに議論したようにΔGlt0 であれば状態

変化は自発的に起きるものと予測できる

つまり式 c-5 の第一項は系のエントロピーΔSAそのものであり第二項で示されるエンタ

ルピーは系 A の温度が一定に保たれているのであるから発熱する熱量として外界に吸収さ

れるものであってこれは外界のエントロピーの増大につながるものとして解釈されるした

がって化学反応のように一定の圧力と一定の温度の下で起きる変化について自由エネルギ

ー変化量はその状態変化が自発的に起きる傾向を示しているといってよい

本文 p28 へ戻る

  • はじめに
  • 目次
  • 電気エネルギー
    • 金属のイオン化
    • 電池
    • 水素の反応
    • 燃料電池
    • 化学反応と電気エネルギー
      • エネルギーと熱力学
        • エネルギー保存則
        • エンタルピー
        • エントロピー13
        • ギブス自由エネルギー
        • 電池における化学反応のギブス自由エネルギー13
        • 理想気体の状態方程式
        • 理想溶液のギブス自由エネルギー
        • 膜電位
          • 水素イオン濃度測定
            • 化学反応の一般的な式
            • pHの定義とその目盛り
            • pH標準液
            • 銀塩化銀参照電極
            • 実用的なpH測定
            • ガラス電極
            • 電極の校正
            • 金属イオンに対応するイオン選択電極
              • 文献
              • 補遺
                • 状態関数
                • エンタルピー
                • エントロピー
                • ギブス自由エネルギー
Page 41: イオン選択電極i イオン選択電極 Ion Selective Electrode (ISE) を理解する ・ pHを測定する ・ NaやKなどのイオン濃度を測定する 神戸大学医学部保健学科

38

ψnFGii 0

式(60)から

ii CRTGTCGG ln)( 0

よって

(61) ψnFCRT iii ln0

実際的なことを考えると成分濃度はその有効イオン濃度とする必要があり

「活量係数」γを導入して次式で表されるイオン活量aを用いる

ai = γCi (62)

一般的にはγ=1と近似してモル濃度Cを使っているこのテキストでも

必要ではない限りイオン活量を用いることを省略して簡単に記述したい

膜電位

燃料電池に使われたナフィオンのような一つのイオンを通す膜を介して膜

の両側にC0 とC1 のイオン濃度差がある溶液が接するときの電気化学ポテン

シャルを考えよう

ある容器の底にナフィオン膜を取り付け容器の中と外のイオン濃度をC0

とC1としそれぞれの電気化学ポテンシャルをそれぞれμinとμoutとする

式(61)を使って

容器の中の電気化学ポテンシャル

(63) innFCRTin ψ 00 ln

容器の外の電気化学ポテンシャル

(64) outout nFCRT ψ 10 ln

イオン浸透性の膜を介して濃度変化が無視できるほどの移動があると考え

その電気化学ポテンシャルの差を式(63)(64)から求めれば

39

)(ln0

1 inoutinout nFC

CRT ψψ (65)

この系において今注目しているイオンが膜を介した両側で平衡状態にある

とき式(65)はΔμ=0と考えることができるすなわち

0)(ln0

1 inoutnFC

CRT ψψ

膜内外の電位差をΔψ=ψoutminus ψinとすれば

1

0

0

1 lnlnC

C

nF

RT

C

C

nF

RTψ (66)

式(66)は理想気体に対するネルンストの式(58)と同様溶液中のイ

オンに対するネルンスト(Nernst)の式として与えられる

細胞の膜においてもその生体膜の内外でたとえばカリウムイオンのように

非対称に分布して平衡に達している場合には式(66)で与えられる膜内外

で電位差が生じるこれは一般に膜電位と呼ばれる膜電位は平衡電位とも

呼ばれる

たとえば膜内外に1価のカリウムイオンに10倍の濃度差があるとすると

通常カリウムイオンは細胞内の濃度が高いので

C0 = 10timesC1

であるから

これを式(66)に当てはめてln(10)=2303 を用いlog への変換をすれば

Δψ=2303times(RTF)timeslog(10)

であるこれに R=831441 JmolKF=96485 CmolT=29815 K(25)

の各数値を当てはめると

Δψ=2303times831441times29815times196485 JC

=+005917 volt

すなわち膜の内外で約+60ミリボルトの膜電位が生じることになるこの

分だけ細胞の外側の電気化学ポテンシャルが高く膜の内側の膜電位が負であ

るそして膜にあるカリウムチャネルがこの電位を示すとき受動的なカリ

40

ウムの膜内外の移動は平衡に達することになる

水素イオン濃度測定

「標準水素電極」は1モル塩酸溶液につけた白金電極に1atm の水素ガスを

吹き込んで平衡状態に達したときの電位を基準としてゼロボルトと規定した

そこである溶液についてその水素イオン濃度を知ろうとするとき同じ水

素電極を用いることを考えれば標準状態にする目的で用いた1モル塩酸溶液

を濃度未知で X モルの塩酸溶液と想定すればその水素イオン濃度を知るこ

とができるだろうか

標準状態ではない X モルの塩酸溶液に浸けた白金電極が半電池として働くこ

とは間違いなさそうであるしかしその白金電極が持つ電極電位を測定する

にはいずれにしても標準電極と組み合わせて「電池」を構成しその電池

の起電力として計る必要がある電池を作れば起電力を知ることができ相

手の半電池の電極電位が知られていれば濃度が未知でXモルの溶液について

その水素イオン濃度を知ることができるだろう

こうした目的のためにいちいちゼロボルトと規定した標準水素電極を用いる

のは煩雑なのでしばしば後出の「銀塩化銀電極」が参照電極として用いら

れる

まず予め「銀塩化銀電極」を標準水素電極と組み合わせて電池とし一度

その起電力を測定しておけば後はいつもそれを標準電極として利用できる

「銀塩化銀電極」の半電池は

H+ (1 moll) Cl- | AgCl | Ag(s)

これに「標準水素電極」を組み合わせ電池を構成すると次のような電池

になる

Pt(s) | H2(g) | H+ (1 moll) Cl- | AgCl | Ag(s)

この電池の起電力を知れば「銀塩化銀電極」の半電池としての電極電位

を知ることができ参照電極として未知の半電池と組み合わせて起電力を測

定して相手の電極電位を計算できる

41

濃度 X モルの塩酸溶液を未知の溶液と想定すればその電極電位を知るために

組み立てる電池は次のようになる図10にその電池の図を示した

Pt(s) | H2(g) | H+ (x moll) Cl- | AgCl | Ag(s)

この電池の全反応は次の反応式で表される

AgCl(s) 1

2H2 (g) H Cl Ag(s) (67)

図10未知溶液の水素イオン濃度を測定しようとするための電池

化学反応の一般的な式

ここで電池に利用される化学反応から得られるエネルギーをギブス自由エ

ネルギーに換算し起電力を具体的に知る手だてとすることは上ですでに学

42

んだがより一般的な式を再度ここに書きだしておこう

化学反応が紙面で左から右に進む反応として次のような一般式で与えられ

るとき

aA + bB rarr cC + dD (68)

ギブス自由エネルギー変化量は標準状態ΔG゜からの変化量を加える形で式

(60)と同様次の式によって表される

G G RT(ln aCc aD

d ln aAa aB

b )

G RT ln

aCc aD

d

aAa aB

b (69)

aAは成分 A のイオン活量であるその他の成分も同じ

得られたエネルギーを電気エネルギーに換えるなら式(41)に習って

次式で表せば

ΔG=-n FV

there4V=-ΔG(nF) (70)

このときの起電力は標準状態における電位 E゜からの変化量として次式で与

えられる

E E

RT

nFln

aCc aD

d

aAa aB

b (71)

標準状態における起電力 E゜は反応が平衡状態にあるときで反応平衡定数

を K とするなら

K aC

c aDd

aAa aB

b (72)

で表されるそこでE゜は次のように書き改めることができる

43

E

RT

nFln K (73)

そこで式(67)で表される図10の電池「水素minus 銀塩化銀電池」に

対する起電力をギブス自由エネルギーから求めてみよう

反応から式(71)に当てはめれば

E E RT

Fln

aH

1 aCl

1 aAg1

aAgCl1 aH2

1

2

(74)

力学の慣例にしたがって固体の純物質の活量は1として扱い水素ガスを

想気体として見なして活量を1atm とするなら式(74)は次のよう

に簡略化される

E E

RT

Flna

H aCl (75)

ころで理想溶液として近似的に取り扱うときの希薄溶液でたとえば水素

入して詳細に検討するなら式( れる起電

オン濃度はイオン活量として aH+の記号を使うときすでに【理想溶液のギ

ブス自由エネルギー】の章で述べたようにこれを有効イオン濃度とする必要

がありイオン活量 a は「活量係数」γを導入して次式で表した

a H+= γH+CH+ (62)

この活量係数を導 75)で誘導さ

を計ることによって経験的に試料溶液中の水素イオン濃度を求めることは

困難である式(75)にあるイオン活量の項はモル濃度 C と活量係数γを

用いて次式で書き改められる

lnaH aCl

lnCH CCl

lnH Cl

(76)

まり式(76)右辺の第二項において互いに相手が知られなければ自分

決めることができず結果的に起電力を知っても(75)の値から水素イオ

ン濃度を導けないここに工夫が必要になる

44

の定義とその目盛り

液中の水素イオン濃度を直接意味するものではなく

を定義するとき測定されるのは1リットルの溶媒に存在す

pH = -log a H+ = -log(γH+CH+) (77)

際に試料溶液の pH を決定する際はpH 標準液を用いる

に溶液を入れ試料溶液 X と pH 標準液 S を

参 極を接続し電池を作成しその起

pH

現在pH の定義は溶

で述べたようにそれが簡便に測定できるものではないため次のように定

義されている

水素イオン濃度

水素イオン活量であるため定義式としては活量係数をγH+として次式で与

えられる

その要領は次のようである

上に図示した水素電極の容器内

れぞれ半電池(I)と(II)に入れる

半電池(I) Pt | H2 (1 atm) | 試料溶液

半電池(II) Pt | H2 (1 atm) | 試料溶液S

照電極として上図のごとく銀塩化銀電

電力を測定する半電池(I)のときの起電力を E(X)半電池(II)のそれを E(S)

とするこのとき試料溶液Xの pH は次式で計算される

pH (X) pH(S) E(S) E(X)

RT ln(10) (78)

ln(10)は自然対数を常用対数に戻すための定数で2303 を用いる

標準液

pH 標準液 S はpH 第一次標準液第二次標準液と呼ばれるべき

る測定

25で pH 4005 を示す

pH

上述した

のであり絶対的測定法である起電力の測定によって値をつける

標準液は安定で純粋な結晶が得られる試薬を調整してこれを測定す

上と同様に水素電極を用いこれに緩衝液を入れる参照電極として銀

塩化銀電極を接続して電池の起電力を測定する

たとえば005 moll フタル酸水素カリウム溶液は

一次標準(Primary Standard PS)の一つである半電池(III)として水素

45

電極を次のように準備する

半電池(III) Pt | H2 (1 atm) | PS 溶液

て電池を形成したとき得られる起電

参照電極として銀塩化銀電極を接続し

は式(75)から

E E

Ag AgCl RT

Flna

H aCl (79)

オン活量を濃度と活量係数の積(a H+= γH+CH+)にし自然対数を常用対数

すれば

E E

Ag AgCl RT ln(10)

F log(

H + CH+ Cl- CCl - ) (80)

E゜は水素標準電極(水素ガス分圧を1atm電極を浸ける溶液に001 moll

H

Cl を用いる)で得た起電力である

式(80)から

RT ln(10)

Flog(

H CH Cl

) (E EAg AgCl )

RT ln(10)

Flog C

Cl

(81)

らに

log(

H CH Cl

) F

RT ln(10)(E E

Ag AgCl ) logCCl

(82)

ころで式(77)から

(γH+CH+) (77)

-log a H+ =-loga H+-log(γCl-) +log(γCl-) =-log(a H+γCl-) +log(γCl-)

(83)の一番右の式で第一項は

pH = -log a H+ = -log

であるが右の式をさらに変形すると

(83)

46

-log(a H+γCl-)=-log(γH+ CH+γCl-) (84)

たがって式(82)の右辺で示されるように電池の起電力を測定すれば

よ 実際には溶液の塩素イオン濃

液で起電力を求め外挿する

起電

これによってpH を意味する式(83)は次式(85)で与えられる

p(aHγCl)はRG Bates によって Acidity Function と呼ばれている

らに式(85)最終項の log(γCl-) を補正しなければならないこの項は

本工業規格)によっても

であってこれは式(82)の左辺である

いただし塩素イオン濃度の項があって

をゼロにしたときの値が必要である

実測する際には塩素イオン濃度をゼロにできないので塩化ナトリウム NaCl

等を濃度を変えて添加しその時々の緩衝

勧告ではNaCl で 000500100015moll の3つの濃度を例示している

すなわち塩素イオン濃度ゼロのときの値は各塩素イオン濃度に対して

の値をそれぞれプロットしグラフから塩素イオンがゼロのときの起電力の

値を3点に対する回帰直線の延長で外挿して求めるこの点を次のように書

log( C H H Cl CCl

0

pa log( C log( (85) H H H Cl C

Cl0 Cl

)

素イオンの活動係数で与えられる補正項である

無限希釈溶液中のイオンの活動係数は理論的に Dubye-Huckel の式を用い

近似的に求めることが可能であるこれはJIS(日

用されていて Bates-Guggenheim の規約と呼ばれる (Bates RG

Guggenheim Pure Appl Chem 1 163-168 1960)

Dubye-Huckel の式は次のように与えられる

log A I

i 1 iB I (86)

47

I iについてそのモル濃度

計算される

はイオン強度でイオン mi と電荷 zi から次式で

I 1

2mizi (87)

また iは(86)式のBは温度と溶媒の性質による定数であり イオンの大

きさに関するパラメータで水和イオンの大きさとほぼ一致した値をとる標

準法の勧告では塩素イオンに対しイオンの大きさを46Åと決めてiBを

1

5 にしているそこで式(84)は次のようになる

ClA I

log 1 15 I

イオン強度 I は塩素イオン濃度を含まない計算となる

以上の方法によって実用的な pH 測定に用いられる第一次第二次標準液の

pH の値が得られる

絶対値としての

はpH の絶対測定法(第一次標準測定法)とされている

銀塩化銀参照電極は分極現象を防ぐために棒状の銀を塩酸で処理し表

に塩化銀を生成させたものを飽和塩化カリウム溶液につけてある

(88)

参考現在は実験的に求めた値と理論値の組み合わせで

素イオン濃度を求める方法を規定しているこの起電力から水素イオン濃度

を知るための測定方法

Buck RP Rondinini S Covington AK Baucke FGK Brett CMA Camoes MF

Milton MJT Mussini T Naumann R Pratt Kw Spitzer P Wilson GS

Measurement of pH definition standards and procedures Pure Appl Chem

74(11)2169-2200 2002Kristensen HB Salomon A Kokholm GInternational

pH scales and certification of pH Anal Chem 63(18) 885A-891A 1991)

銀塩化銀参照電極

電極の構成は

Cl-(aq) | AgCl(s) | Ag(s)

48

この半反応は次のようになる

AgCl(s) + e- rarr Ag(s) + Cl- (89)

の反応は次の2つの反応に分けて考えることができる

Ag+ + e- rarr Ag(s) (91)

AgCl(s)rarr Ag+ + Cl- (90)

図11銀塩化銀参照電極

(90)における銀 る塩素イオンによって左

されることが推測される

そこでカッコ [ ] をそれによって囲まれるイオンの濃度を表すことにし

式 イオン Ag+の溶解性は共存す

塩化銀の乖離定数Kを考えると

49

K = [Ag+][Cl-] (92)

これから

[Ag+]= K[Cl-] (93)

化カリウム溶液に漬けた銀塩化銀電極の電位 E は水素標準電極に対する

電 で与えられる

位を E゜として次式

E E

RT

nF

[ Ag ]

[Ag(s)]ln( )

Ag(s)のイオン活量は常に1とする

ここで半反応の電極電位を求めるために式(75)を利用することにすれば

(94)

熱力学の慣例にしたがって純物質個体

E E

RT

Flna

H Cl a (75)

式 の半反応をみると

応で電子1つが移動するので n=1 とするR=831441 JmolK1F = 96485

C はめれば

これに銀イオンの濃度として式(93)を当てはめる

この反応で移動する電子は (89) 銀イオン1つの反

molT=29815K(25)ln(10)=2303などの定数を当て

2303RTF = 005917

であるから(94)式は次のように表現できる

log[Cl]) E E 005917(logK (95)

たがって標準水素電極に対する銀塩化銀参照電極の標準状態における電

位 は半反応(89)に対して ゜=+0799で

化銀の乖離定数 K は182times10-10 であるのでその対数を取れば-973993

0799-005917times973993-005917log[Cl-]

E゜ E ある

ある

そこで式(95)は

E =

50

= 0799-0576-005917log[Cl-]

= 0223-005917log[Cl-] (96)

電極電位の関係について実測値

こうして求めた塩化カリウム溶液の濃度と

計算上の値は次のようである

KCl moll vs SHE volt25 計算値 volt25 01 02881 02822 35 0205 01908 飽和 0199 minus

実用 測定

実際の現場で水素イオン濃度を測定する目的の測定法で上のような2つの

極が同じ溶液に浸かっていたのでは試料溶液を交換するにも便利ではない

の容器に入れる未知試料溶液と銀塩化銀電極を隔離する

的な pH

そこで水素電極側

的で二つの電極容器をつなぐ液絡部をグラスフィルターやセラミック板

飽和塩化カリウムで作成したゼラチンなどの塩橋によって隔離遮断するこ

れを液絡部とよぶ

電池として機能するために必要な溶液イオンの交換はこの液絡部で行う

組み立てる電池は電池式で次のように表される

Pt(s) | H2 | 試料 (H+ x moll) || 飽和 KCl | AgCl | Ag(s)

の標準電極と銀塩化銀電極とは区切られていて溶液の直接の接触がない

とを意味するために電池式ではタテ二重線を用いる銀塩化銀参照電極

の容器には飽和塩化カリウム溶液が入れられる

51

図12液絡部のある pH 測定のための電池

この液絡部のある電池では塩橋を記号lsquo | | rsquoで表して次のように記す

試料 (H+ x moll) | | 飽和 KCl

ここでは試料溶液と飽和塩化カリウム溶液の異なる2液が接している

このような界面では膜電力が生じるのと同様「液間電位差」が生じることが

知られているしたがって上の電池で測定される起電力 E は

E = E[銀塩化銀電極電位]+E[液間電位]+E[水素電極電位]

で与えられることになってE[液間電位]のために図12の電池の起電力

は銀塩化銀参照電極の値を知っていても水素電極容器内に入れた未知溶

液の水素イオン濃度を正しく知ることができない

52

そこで実用的な測定法としてこの E[液間電位]を膜電位として積極的に利

用する方法が工夫されたすなわち水素イオンに感応するガラス薄膜を用い

るガラス電極法である

53

ガラス電極

ガラスはケイ素原子と酸素原子からなる SiO4 の結晶構造を持ち酸素で囲

まれた空隙があって水素イオンがそれを埋めることができる

この性質によってガラス膜表面は水溶液中の水素イオンに応じて膜電位を

変化させるのでこれを水素イオン濃度測定用の電極として利用することが考

えられるこれが通常用いられるガラス電極である

ガラス電極は標準電極と組み合わせれば電池を構成することができこの電

池の起電力を知ってガラス薄膜の内外にできたイオン濃度勾配を知ろうとす

るものである

薄いガラス膜(01mm程度)をはさんで接する2つの溶液のH+イオン濃

度が異なるとその差に応じてガラス膜の両側に電位差(Eg)が現れる

ネルンストの式でガラス電極の内部に入れた既知の濃度のH+([H+]in)に対

し試料中の水素イオン濃度が[H+]sampleのとき次の電位を生じる

)][

][log(059170)

][

][ln(

sample

in

sample

ing

H

H

H

H

F

RTE

(97)

図13ガラス電極

電極を構成するのは銀塩化銀電極と同じ電極で用いる塩溶液は一般的

54

に 01モル塩酸溶液である

この半電池の電池式は次のように書くことができる

Ag(s) | AgCl(s) | HCl (01 M) | ガラス薄膜 || 試料溶液 H+ (x moll)

Eg

この半電池の電極電圧を測定するために銀塩化銀標準電極と組み合わせ

電池を作って起電力を計る

構成される電池は下図のようになる

ガラス電極 銀塩化銀標準電極

図14ガラス電極を用いた pH 測定用の電池

この電池の起電力は次の各半電池の平衡電位を合わせたものになる

55

E1ガラス電極の内側電位

Ag(s) | AgCl(s) | HCl (01 M)

Egガラス薄膜の内外に生じる膜電位

HCl (01 M) | ガラス薄膜 || 試料溶液 H+ (x moll)

E2液間電位(膜電位)銀塩化銀標準電極のセラミックを介した試料溶液

と銀塩化銀標準電極の内部液(飽和 KCl 溶液)の間に発生する電位

試料溶液 H+ (x moll)|| セラミック | KCl(飽和)

E3銀塩化銀標準電極

KCl(飽和)| AgCl(s) | Ag(s)

pH メーター用のガラス電極に使われるガラス薄膜は水素イオンに感応して

膜電位(Eg)を生じるこれは【膜電位】の章で記したように薄膜がある

一つのイオンのみを通過させる特性を持っている場合にイオンが膜を介した

両側で平衡状態に達したとして電気化学ポテンシャルを膜の両側で等しいと

考えてそのイオンが濃厚な側から希薄な側にその差によって圧力を生じると

するものである

一方同じ試料溶液が銀塩化銀標準電極のセラミック液絡部を介して生じ

るだろう液間電位(膜電位E2)はいま関心がある水素イオンに対して特異

的に感応するのではないので試料溶液の水素イオン濃度に関係なく一定と見

なすことができる

すなわちpH メーターを構成する電池の起電力 E は

E = E1+Eg+E2+E3 (98)

このうちEg以外は一定と見なせるので

E1+E2+E3 = E

として式(98)を書き直すと

)][

][log(059170

sample

ing H

HEEEE

(99)

Eは標準液によって校正されるべき標準電極電位である

56

電極の校正

実際のイオン濃度を測定する場合低濃度標準液と高濃度標準液で得られ

る起電力を測定し計測のイオン濃度に対する係数(傾き)を求めておき未

知の試料に対して起電力を測定してそのイオン濃度を算出する方法が採られる

低濃度標準液と高濃度標準液のそれぞれの濃度をCLとCHとすればそれぞ

れの起電力ELとEHは次式で表される EH = E +β logCH (100)

EL = E +β log CL (101)

ただしβは式(99)の係数を簡略にしたものである

式(100)と(101)から検量線の傾きが次式で表せる

ΔE = EH minus EL = β(logCH minus logCL) = β logCH

CL

(102)

したがって係数βは

β =ΔE

log CH

CL

(103)

であらわされる

このときに使われる標準はすでに前出の pH 第一次標準第二次標準溶液で

ある

金属イオンに対応するイオン選択電極

現在臨床検査で日常的に使われている電解質測定のための電極はナトリウ

ムカリウムカルシウムクロールなどおよそ臨床的に必要な金属イオン

に対して入手可能である

カリウムイオン測定用のバリノマイシンの発見によってクラウンエーテルと

57

呼ばれる一連の化合物が知られたクラウンエーテルはその分子の中心に立

体的な空間を持ち特定のイオン径に対し合致するのでそのイオンに対して

選択的に感応するこれらの化合物はイオノフォアと呼ばれる

図 15クラウンエーテル

1つの金属イオンが環状化合物

15-crown-5 の中央にある空間を充填

している模式図

15-crown-5 の構造を作る10個の黒

い丸は炭素炭素2個のつながりごと

にある中心の白い丸は酸素酸素と

金属イオンの間の距離はおよそ 22~

23Åであるカリウムのファンデン

ワールス半径は 135Åイオン半径は

15~16Åである

測定したいイオンに対しポリ塩化ビニル(PVC)を支持体としてイオノフ

ォアを添加した液膜の電極膜を作成しこれをガラス電極におけるガラス薄膜

と同様試料に接する電極膜として用いるこの構造から一般的に液膜型電極

と呼ばれる電極膜には特異性を高めるため妨害イオン排除剤などが添加

される

pH メーターと同様銀塩化銀標準電極と組み合わせ電池を形成しその

起電力を計る測定したいイオンが液膜に対して内外で平衡に達したときの

膜電位を測定するのはガラス電極と同じである

カ リ ウ ム イ オ ン に は Bis[(benzo-15-crown-5) ( 正 式 名 は

Bis[(benzo-15-crown-5)-4-methyl]pimelate)ナトリウムには Bis[(12-crown-4)

やDibenzyl-bis[(12-crown-4)などがイオノフォアとして用いられる

58

図16カリウムイオン測定用に使われるクラウンエーテル

図17ナトリウムイオン測定用に使われるクラウンエーテル

59

参考イオン選択電極に関する文献Xia Z Badr IHA Plummer SL Cullen L

Bachas LG Synthesis and evaluation of a bis(crown ether) ionophore with a

conformationally constained bridge in ione- selective electrodes Anal Sci 14(2)

169-173 1998 Oh K-C Kang EC Cho YL Jeong K-S Y oo E-A Paeng K-J

Potassium-selective PVC membrane electrodes based on newly synthesized

cis- and trans-bis(crown ether)s ibid 14(10)1009-1012 1998 Dojindo WEB

site httpwwwdojindocojpwwwrootproductsjinfo2protocolp31pdf

<補遺> 60

補遺 状態関数 (本文 p21 10 行目参照)

一つの平衡状態にある系 A とこれに接する系 A にとって外部である系 B について系 B

から系 A に熱を与えこれによって系 A が他の平衡状態に移ったとき系 A はその結果とし

て膨張し系 B に対し仕事をする

このときの微少な熱量の移動を記号drsquoQ またなされた微少な仕事をdrsquoW とすると

系Aの内部エネルギーに関する微少な変化drsquoUA は両者の和として表される

WdQdUd A primeminusprime=prime (a-1)

この式 a-1 と本文中の式25との関係について

WQU A Δminus=Δ 本文(25)

<補遺> 61

式 a-1 と式25の記号の違いは変化の起きる前の平衡状態 S1 から変化後の平衡状態 S2

に状態変化があったとするなら式 a-1 を積分することで式25が得られるものと考えて区

別している

A

S

S A UUd Δ=primeint2

1 (a-2)

このことは重要であるすなわち内部エネルギーU は変化の起きる前後の状態を指定する

ことによって値が定まることを意味するこのように積分によって値を定めることが出来る

のでdrsquoU は完全微分であるという

内部エネルギーのように系の状態だけで値の定まる量を状態関数として扱う

一方式 a-1 のdrsquoQ drsquoW についても同様に微少の変化量を表しているが平衡状態 S1

から S2 への経路を指定しなければ積分の値は定まらない

本文中の記号にしたがって仕事量ΔW を次のように表すことにする

VpW Δ=Δ 本文(20) V

<補遺> 62

体積と圧力の関係を表す図を使ってこの仕事量が意味することを考える圧力 prsquo の下で

体積が V1 であるときを状態 S1 として圧力一定の下で体積を V2 まで膨張させるような変

化を行った後体積を等しく保って圧力を p にまで上げたときの状態を S2 とするこのとき

の仕事量は膨張に伴うものであるから図の体積‐圧力線の下の面積で示すことができる

平衡状態 S1 から S2 への変化の道筋を別にたどってみよう

新しい経路では圧力を先に p まで上げた後に膨張変化させている

図から直感的に明らかであるので数式での扱いを省略するが2 つの経路による仕事量には

差がある

すなわちdrsquoW は drsquoU と異なり変化の初め S1 と終わり S2 の状態が与えられても積分値

は定まらず変化の経路によって違ってくる

このように変化の経路を指定しなければ積分値が定まらないものを不完全微分と呼び扱

いを区別する

本文 p21 へ戻る

<補遺> 63

VpW

WQU

VpQU

VpUQ

1122 SSSS pVUpVUQ

pVU

VpUHHHQ SS 12

エンタルピー (本文 p24 20 行目参照)

本文中の式 20 および 25 から一定の圧力の元で起きる状態変化において内部エネルギー

の変化量に対する式 a-3 を得る

本文(20)

本文(25)

(a-3)

式 a-3 を Q について書き直す

(a-4)

状態の変化が平衡状態S1から平衡状態S2に移ったものとして式 a-4を丁寧に書き直すと

(a-5)

並び替えて

(a-6)

式 a-6 を見ると定圧過程における熱量の流入は

(a-7)

の形を持つ関数の差であることが分かる

一般に化学反応のような変化の過程では大気圧の下で行われるようなものに興味がある

そこで式 a-7 で与えられる項を一つの関数として定義するこれをエンタルピーと呼び記

号 H を与える式 a-4 はエンタルピーの変化量で次のように書き改められる

(a-8)

圧力が一定の下で起こる状態変化について流入する熱量は式 a-8 で示されるようにエンタ

ルピーの変化量に等しい

V

V

V

V V

V

V

1212 SSSS VVpUUQ VV

<補遺> 64

1Q

We

また式 a-8 からオートクレーブ内で起こるような体積変化のない過程ではこの値が内

部エネルギーの変化量で与えられることが明らかである

本文 p24 へ戻る

エントロピー (本文 p26 17 行目参照)

エントロピーは次のような思考実験から発想された仮想的な状態関数である

理想気体よりなる系 A が温度 T2で熱平衡状態にあり温度 T1の外部の熱源と接しているこ

とを想定する系 A の外部を系 B と呼ぶことにするT1は T2に対して無限小だけ高い温度と

する

系 A が系 B に対して温度圧力について平衡を保ちながら緩慢に系 B より熱量 Q1を受け取

る過程を考える(このような過程を準静的過程と呼ぶ)これによって系 A が熱量 Q1を得て膨

張するとき系 B に対して仕事をする続いて系 A から熱量 Q2が系 B に戻ることを考える

想定されるこの変化が可逆的であれば系 A と系 B を併せた全体は元の状態に戻る蒸気機

関に関するこのような研究が Nicolas Carnot によってなされたのは1824 年のことであった

ここに想定されたサイクルに対する Carnot の効率 e は移動した熱量となされた仕事によ

って定義され次の式で表される

(b-1)

<補遺> 65

理想気体では内部エネルギーU の変化ΔU はゼロと考えるしたがって熱力学の第一法

則を表す式(本文中の式25)から次の関係が示される

0=Δminus=Δ WQU

WQ Δ= (b-2)

これによってCarnot Cycleの効率eはQ2lt0 として次のように書き改めることが出来る

1

21

QQQe +

= (b-3)

ところで気体の状態方程式から1 モルの気体について次のような関係が示される

RTV

P

P1=

V = RTV (b-4)

V 式 b-4 の両辺に体積の微少変化量ΔV をかけて

(b-5)

これを体積Vについてその変化をV1からV2までとして積分するならば次式が得られる

VV

RTVP Δ=Δ 1V V

V

intint = 2

1

2

1

1V

V

V

VdV

VRTPdV

1V2V

11 lnRTW =

(b-6)

Q1の熱量によって起こる膨張がV1よりV2までとし圧力P温度T1の下でなされるその仕事

量をW1とするならそれは式b-6 の右辺によって示されるすなわち

(b-7)

VV

1

2lnVVRT=

V V

VV

V

V2int V2 intV1 V1

<補遺> 66

またQ2の熱量の移動が圧力P温度T2の下で起きこれによって系Aが可逆的に圧縮され

るなら体積変化はV2よりV1まで起こりその仕事量をW2で示すと次式のように表される

(b-8)

1

22

2

122 lnln

VVRT

VVRTW minus==VV

VV

Q1=W1Q2=W2の関係から式b-7 およびb-8 を用いてCarnot Cycleの効率eを表す式b-3

を書き改めると温度のみの関係式として次のように表される

1

21

TTTe minus

= (b-9)

ここでサイクルが可逆的過程であると想定するならば式 b-3 と式 b-9 から

1

21

1

21

TTT

QQQe minus

=+

= (b-10)

これから

12112111 QTQTQTQT minus=+ (b-11)

整理すると

02

2

1

1 =+TQ

TQ (b-12)

この考えをさらに発展させ系A

と系Bの間に数多くの系を挿入すること

にしてそれらの系を同様に熱源として

T1T2Tnと考えるこれによっ

て熱の受け渡しが系Aから系Bに至り

再び系Aにもどるサイクル過程に数多

くの寄り道の過程を加えることになる

熱量の移動に関して上の場合と同じく

準静的過程で行われると考えるこの

サイクル全過程について初めと終わ

<補遺> 67

n

i i

i

T

Q

1

0

0T

dQ

T

QS

T

dQASAS )()( 12

りが同じ状態になる可逆的な過程であるなら式 b-12 を拡大的に考えることになってそれ

は次式で表される

(b-13)

式 b-13 には重要な関数が現れるすなわち熱量と温度の比QT である

もし一つの系が無限小だけ温度の高い(dT )外界から温度圧力など平衡を保ちなが

ら極めて緩慢な過程(準静的過程)で無限小の熱量(dQ )を受け取るならばその変化は可

逆的でありdT について連続的な温度分布をする過程を考えるとき式 b-13 をさらに発展

させて次のように積分式で示すことが出来る

(b-14)

式 b-14 で積分記号にが付されているのはCarnot Cycle のような経路を一巡することを

意味している

Carnot の熱機関の効率という着想から生まれた熱量とそれを持つ系の温度との比 QT に

重要な意味を見出したのは Rudolph Clausius で彼はこの比にエントロピーという名前を与

えたエントロピーには記号ΔS を一般に用いる

(b-15)

エントロピーは初めと終わりの状態がわかれば過程に関わらず定まるので状態関数であ

系 A と外界のエントロピー変化を考えるときそれが可逆的過程であるならばすべてを併

せた全体のエントロピー変化は初めと終わりに変化がないという意味でゼロであるすなわ

ち初めの状態を S(A1)とし次の状態を S(A2)とするならそれぞれのエントロピーを

ΔS(A1)ΔS(A2)としてこの間におけるエントロピーの変化量は次のように示される

(b-16)

<補遺> 68

T

dQdS

0T

dQ

ある一つの変化については次のように示される

(b-17)

ここで式 b-17 の S に付けられたdは微分量すなわちごく微小の変化量を意味し式 b-15

で定義されたエントロピーに用いられる一般的な記号Δと区別する

ところで式 b-10 の関係においてもし移動した熱量のすべてが仕事に変わらなければ

効率 e を表す熱量を用いた関係式と温度で表される関係式は等号で結ぶことができないそれ

はエネルギーのロスを意味し初めと終わりの状態が異なってしまうことを意味するすなわ

ち全過程が構成する一つのサイクルは可逆的でなくなる

不可逆過程での熱効率 ersquo は 大値を示す可逆的過程の熱効率 e より小さな値をとる

ee

したがって 大効率を与える式 b-8 と式 b-3 から

01221

2112

1

21

1

21

QTQT

QTQT

Q

QQ

T

TT

両辺を T1T2で割ると

02

2

1

1 T

Q

T

Q

これを式 b12 と同様に発展させれば式 b-14 についてサイクルの変化が可逆的過程の

場合と不可逆的過程の場合の両方を併せClausius の不等式と呼ばれる次の関係が成立する

(b-18)

式 b-18 の等号が成立するのはサイクルが可逆的な理想の場合に限られる

ある孤立系で状態 A1 から状態 A2 へは不可逆変化で進められ状態 A2 から再び状態 A1

に戻るとき可逆変化であるような閉じた状態変化を考える可逆系のエントロピー変化には

記号 Q を使い不可逆変化には Q を用いるとするとそれぞれ積分式を用いて状態 A1 から

状態 A2 へは

<補遺> 69

d prime

状態 A2 から状態 A1 に戻るときは

全体では

=d prime

+d

(b-19)

Clausius の不等式から

0

式(b-19)の第二項で反応を逆に進めるときには次のように書き改めることができる

=d

よって式(b-19)は次のように書き直すことができClausius の不等式とあわせると

d prime d

0

すなわち

d prime d

上式の右辺は式(b-16)を用いて表せば

d prime

∆S ∆

この状態変化を微小変化とするならば断熱変化の場合 dQ = 0 であるから

∆S ∆ dS 0

すなわち不可逆変化を含む断熱変化ではエントロピーは必ず増大する

<補遺> 70

T

QS

BA SSS

(b-20)

(次の<補遺>ギブス自由エネルギーも参照せよ)

本文 p26 へ戻る

ギブス自由エネルギー (本文 p28 27 行目参照)

エントロピーの考えを導入することによって不可逆的に状態変化が起きるときにはエン

トロピーの増大を引き起こすことを知ったこれによって目前で起きる現象について温度の

変化があるものであれないものであれまた圧力の変化があるものであってもエントロピー

の定義式によって可逆的な変化におけるエントロピーの変化量を計算することが可能である

(b-15)

しかしながらこれから起こる変化について我々がすでにあらかじめ知っている物理量を

用いて予測的にその状態変化が起きるかどうか知ることは必ずしも容易ではないその理由

は式 b-15 に示されたエントロピーΔS が系とその外界をあわせた全体のエントロピーを示

しているからであるすなわち関心のある系を系 A としその外界を系 B とすると全体

のエントロピーは次のように表せる

(c-1)

関心のある系 A のエントロピー変化を知るためには系 B のそれを知ればよいがそれは

いつも容易とは限らない系 A の性質だけで状態変化の方向を知るには別の観点が必要にな

るようだ

そこでもう一度状態変化が熱量 Q の移動によって起きることについて考えてみようエン

トロピーの補遺で議論したように熱量の移動が準静的過程により行われるときには変化は可

逆的に起こると考えたこのとき外界すなわち系 B から移動する熱量を Q1とし系 A から

0S

<補遺> 71

21 QQ

T

Q

T

QSB

21

T

QSS A

2

QH

T

HSS AA

AA STHST

のそれを Q2 と記号を当てたのでこれをそのまま使うことにすれば可逆的な過程では系 B

の熱量 Q1 はすなわち系 A から戻る Q2 に他ならないので両者には次の関係が成立するも

のとしてよい

(c-2)

したがって

(c-3)

と考えてよくこれによって式 c-1 を次のように書きなおすことが出来る

(c-4)

独立した系で圧力とその体積に変化がなく一定の条件の下で状態変化が起きるときエン

タルピーの考えを使ってすでにひとつの関係があることを導いている

本文(31)

そこで式 c-4 を系のエンタルピーΔHAによって書き改めれば

(c-5)

この両辺に-T をかけて式を書き直せば次の関係式が得られる

(c-6)

式 c-6 を見るときその右辺がマイナスの値ならば左辺のΔS はプラスの値をとることが

分かるすなわちエントロピーが増大すると見ることが出来るこれまでの過程で自然の現

象はエントロピーが増大する方向に進むとしてきたので関心のある状態変化について式 c-6

の右辺で計算される値がマイナスの値ならばその変化は起きるものと考えてよいことになる

だろうしかも右辺はすべて独立した系の状態量で示されていて我々が知りうる値で計算

<補遺> 72

TSHG

STSTHG

STHG

可能である

そこでこれを熱力学ポテンシャルを表すものとしてギブス自由エネルギーと呼ぶことに

するギブス自由エネルギーは記号 G が用いられ次のように定義される

(c-7)

ここで関心があるのは自由エネルギーの絶対値ではなく式 c-6 に示されたようにその変化量

に興味があるので式 c-7 から

(c-8)

温度が一定の条件の下で状態変化が起きることを考えるなら式 c-8 は次のように書くこと

ができる

(c-9)

ギブス自由エネルギーは式 c-9 の右辺がすべて状態量であるからこれも状態量の一つで

ある定圧定温の条件下で起きる変化ではすでに議論したようにΔGlt0 であれば状態

変化は自発的に起きるものと予測できる

つまり式 c-5 の第一項は系のエントロピーΔSAそのものであり第二項で示されるエンタ

ルピーは系 A の温度が一定に保たれているのであるから発熱する熱量として外界に吸収さ

れるものであってこれは外界のエントロピーの増大につながるものとして解釈されるした

がって化学反応のように一定の圧力と一定の温度の下で起きる変化について自由エネルギ

ー変化量はその状態変化が自発的に起きる傾向を示しているといってよい

本文 p28 へ戻る

  • はじめに
  • 目次
  • 電気エネルギー
    • 金属のイオン化
    • 電池
    • 水素の反応
    • 燃料電池
    • 化学反応と電気エネルギー
      • エネルギーと熱力学
        • エネルギー保存則
        • エンタルピー
        • エントロピー13
        • ギブス自由エネルギー
        • 電池における化学反応のギブス自由エネルギー13
        • 理想気体の状態方程式
        • 理想溶液のギブス自由エネルギー
        • 膜電位
          • 水素イオン濃度測定
            • 化学反応の一般的な式
            • pHの定義とその目盛り
            • pH標準液
            • 銀塩化銀参照電極
            • 実用的なpH測定
            • ガラス電極
            • 電極の校正
            • 金属イオンに対応するイオン選択電極
              • 文献
              • 補遺
                • 状態関数
                • エンタルピー
                • エントロピー
                • ギブス自由エネルギー
Page 42: イオン選択電極i イオン選択電極 Ion Selective Electrode (ISE) を理解する ・ pHを測定する ・ NaやKなどのイオン濃度を測定する 神戸大学医学部保健学科

39

)(ln0

1 inoutinout nFC

CRT ψψ (65)

この系において今注目しているイオンが膜を介した両側で平衡状態にある

とき式(65)はΔμ=0と考えることができるすなわち

0)(ln0

1 inoutnFC

CRT ψψ

膜内外の電位差をΔψ=ψoutminus ψinとすれば

1

0

0

1 lnlnC

C

nF

RT

C

C

nF

RTψ (66)

式(66)は理想気体に対するネルンストの式(58)と同様溶液中のイ

オンに対するネルンスト(Nernst)の式として与えられる

細胞の膜においてもその生体膜の内外でたとえばカリウムイオンのように

非対称に分布して平衡に達している場合には式(66)で与えられる膜内外

で電位差が生じるこれは一般に膜電位と呼ばれる膜電位は平衡電位とも

呼ばれる

たとえば膜内外に1価のカリウムイオンに10倍の濃度差があるとすると

通常カリウムイオンは細胞内の濃度が高いので

C0 = 10timesC1

であるから

これを式(66)に当てはめてln(10)=2303 を用いlog への変換をすれば

Δψ=2303times(RTF)timeslog(10)

であるこれに R=831441 JmolKF=96485 CmolT=29815 K(25)

の各数値を当てはめると

Δψ=2303times831441times29815times196485 JC

=+005917 volt

すなわち膜の内外で約+60ミリボルトの膜電位が生じることになるこの

分だけ細胞の外側の電気化学ポテンシャルが高く膜の内側の膜電位が負であ

るそして膜にあるカリウムチャネルがこの電位を示すとき受動的なカリ

40

ウムの膜内外の移動は平衡に達することになる

水素イオン濃度測定

「標準水素電極」は1モル塩酸溶液につけた白金電極に1atm の水素ガスを

吹き込んで平衡状態に達したときの電位を基準としてゼロボルトと規定した

そこである溶液についてその水素イオン濃度を知ろうとするとき同じ水

素電極を用いることを考えれば標準状態にする目的で用いた1モル塩酸溶液

を濃度未知で X モルの塩酸溶液と想定すればその水素イオン濃度を知るこ

とができるだろうか

標準状態ではない X モルの塩酸溶液に浸けた白金電極が半電池として働くこ

とは間違いなさそうであるしかしその白金電極が持つ電極電位を測定する

にはいずれにしても標準電極と組み合わせて「電池」を構成しその電池

の起電力として計る必要がある電池を作れば起電力を知ることができ相

手の半電池の電極電位が知られていれば濃度が未知でXモルの溶液について

その水素イオン濃度を知ることができるだろう

こうした目的のためにいちいちゼロボルトと規定した標準水素電極を用いる

のは煩雑なのでしばしば後出の「銀塩化銀電極」が参照電極として用いら

れる

まず予め「銀塩化銀電極」を標準水素電極と組み合わせて電池とし一度

その起電力を測定しておけば後はいつもそれを標準電極として利用できる

「銀塩化銀電極」の半電池は

H+ (1 moll) Cl- | AgCl | Ag(s)

これに「標準水素電極」を組み合わせ電池を構成すると次のような電池

になる

Pt(s) | H2(g) | H+ (1 moll) Cl- | AgCl | Ag(s)

この電池の起電力を知れば「銀塩化銀電極」の半電池としての電極電位

を知ることができ参照電極として未知の半電池と組み合わせて起電力を測

定して相手の電極電位を計算できる

41

濃度 X モルの塩酸溶液を未知の溶液と想定すればその電極電位を知るために

組み立てる電池は次のようになる図10にその電池の図を示した

Pt(s) | H2(g) | H+ (x moll) Cl- | AgCl | Ag(s)

この電池の全反応は次の反応式で表される

AgCl(s) 1

2H2 (g) H Cl Ag(s) (67)

図10未知溶液の水素イオン濃度を測定しようとするための電池

化学反応の一般的な式

ここで電池に利用される化学反応から得られるエネルギーをギブス自由エ

ネルギーに換算し起電力を具体的に知る手だてとすることは上ですでに学

42

んだがより一般的な式を再度ここに書きだしておこう

化学反応が紙面で左から右に進む反応として次のような一般式で与えられ

るとき

aA + bB rarr cC + dD (68)

ギブス自由エネルギー変化量は標準状態ΔG゜からの変化量を加える形で式

(60)と同様次の式によって表される

G G RT(ln aCc aD

d ln aAa aB

b )

G RT ln

aCc aD

d

aAa aB

b (69)

aAは成分 A のイオン活量であるその他の成分も同じ

得られたエネルギーを電気エネルギーに換えるなら式(41)に習って

次式で表せば

ΔG=-n FV

there4V=-ΔG(nF) (70)

このときの起電力は標準状態における電位 E゜からの変化量として次式で与

えられる

E E

RT

nFln

aCc aD

d

aAa aB

b (71)

標準状態における起電力 E゜は反応が平衡状態にあるときで反応平衡定数

を K とするなら

K aC

c aDd

aAa aB

b (72)

で表されるそこでE゜は次のように書き改めることができる

43

E

RT

nFln K (73)

そこで式(67)で表される図10の電池「水素minus 銀塩化銀電池」に

対する起電力をギブス自由エネルギーから求めてみよう

反応から式(71)に当てはめれば

E E RT

Fln

aH

1 aCl

1 aAg1

aAgCl1 aH2

1

2

(74)

力学の慣例にしたがって固体の純物質の活量は1として扱い水素ガスを

想気体として見なして活量を1atm とするなら式(74)は次のよう

に簡略化される

E E

RT

Flna

H aCl (75)

ころで理想溶液として近似的に取り扱うときの希薄溶液でたとえば水素

入して詳細に検討するなら式( れる起電

オン濃度はイオン活量として aH+の記号を使うときすでに【理想溶液のギ

ブス自由エネルギー】の章で述べたようにこれを有効イオン濃度とする必要

がありイオン活量 a は「活量係数」γを導入して次式で表した

a H+= γH+CH+ (62)

この活量係数を導 75)で誘導さ

を計ることによって経験的に試料溶液中の水素イオン濃度を求めることは

困難である式(75)にあるイオン活量の項はモル濃度 C と活量係数γを

用いて次式で書き改められる

lnaH aCl

lnCH CCl

lnH Cl

(76)

まり式(76)右辺の第二項において互いに相手が知られなければ自分

決めることができず結果的に起電力を知っても(75)の値から水素イオ

ン濃度を導けないここに工夫が必要になる

44

の定義とその目盛り

液中の水素イオン濃度を直接意味するものではなく

を定義するとき測定されるのは1リットルの溶媒に存在す

pH = -log a H+ = -log(γH+CH+) (77)

際に試料溶液の pH を決定する際はpH 標準液を用いる

に溶液を入れ試料溶液 X と pH 標準液 S を

参 極を接続し電池を作成しその起

pH

現在pH の定義は溶

で述べたようにそれが簡便に測定できるものではないため次のように定

義されている

水素イオン濃度

水素イオン活量であるため定義式としては活量係数をγH+として次式で与

えられる

その要領は次のようである

上に図示した水素電極の容器内

れぞれ半電池(I)と(II)に入れる

半電池(I) Pt | H2 (1 atm) | 試料溶液

半電池(II) Pt | H2 (1 atm) | 試料溶液S

照電極として上図のごとく銀塩化銀電

電力を測定する半電池(I)のときの起電力を E(X)半電池(II)のそれを E(S)

とするこのとき試料溶液Xの pH は次式で計算される

pH (X) pH(S) E(S) E(X)

RT ln(10) (78)

ln(10)は自然対数を常用対数に戻すための定数で2303 を用いる

標準液

pH 標準液 S はpH 第一次標準液第二次標準液と呼ばれるべき

る測定

25で pH 4005 を示す

pH

上述した

のであり絶対的測定法である起電力の測定によって値をつける

標準液は安定で純粋な結晶が得られる試薬を調整してこれを測定す

上と同様に水素電極を用いこれに緩衝液を入れる参照電極として銀

塩化銀電極を接続して電池の起電力を測定する

たとえば005 moll フタル酸水素カリウム溶液は

一次標準(Primary Standard PS)の一つである半電池(III)として水素

45

電極を次のように準備する

半電池(III) Pt | H2 (1 atm) | PS 溶液

て電池を形成したとき得られる起電

参照電極として銀塩化銀電極を接続し

は式(75)から

E E

Ag AgCl RT

Flna

H aCl (79)

オン活量を濃度と活量係数の積(a H+= γH+CH+)にし自然対数を常用対数

すれば

E E

Ag AgCl RT ln(10)

F log(

H + CH+ Cl- CCl - ) (80)

E゜は水素標準電極(水素ガス分圧を1atm電極を浸ける溶液に001 moll

H

Cl を用いる)で得た起電力である

式(80)から

RT ln(10)

Flog(

H CH Cl

) (E EAg AgCl )

RT ln(10)

Flog C

Cl

(81)

らに

log(

H CH Cl

) F

RT ln(10)(E E

Ag AgCl ) logCCl

(82)

ころで式(77)から

(γH+CH+) (77)

-log a H+ =-loga H+-log(γCl-) +log(γCl-) =-log(a H+γCl-) +log(γCl-)

(83)の一番右の式で第一項は

pH = -log a H+ = -log

であるが右の式をさらに変形すると

(83)

46

-log(a H+γCl-)=-log(γH+ CH+γCl-) (84)

たがって式(82)の右辺で示されるように電池の起電力を測定すれば

よ 実際には溶液の塩素イオン濃

液で起電力を求め外挿する

起電

これによってpH を意味する式(83)は次式(85)で与えられる

p(aHγCl)はRG Bates によって Acidity Function と呼ばれている

らに式(85)最終項の log(γCl-) を補正しなければならないこの項は

本工業規格)によっても

であってこれは式(82)の左辺である

いただし塩素イオン濃度の項があって

をゼロにしたときの値が必要である

実測する際には塩素イオン濃度をゼロにできないので塩化ナトリウム NaCl

等を濃度を変えて添加しその時々の緩衝

勧告ではNaCl で 000500100015moll の3つの濃度を例示している

すなわち塩素イオン濃度ゼロのときの値は各塩素イオン濃度に対して

の値をそれぞれプロットしグラフから塩素イオンがゼロのときの起電力の

値を3点に対する回帰直線の延長で外挿して求めるこの点を次のように書

log( C H H Cl CCl

0

pa log( C log( (85) H H H Cl C

Cl0 Cl

)

素イオンの活動係数で与えられる補正項である

無限希釈溶液中のイオンの活動係数は理論的に Dubye-Huckel の式を用い

近似的に求めることが可能であるこれはJIS(日

用されていて Bates-Guggenheim の規約と呼ばれる (Bates RG

Guggenheim Pure Appl Chem 1 163-168 1960)

Dubye-Huckel の式は次のように与えられる

log A I

i 1 iB I (86)

47

I iについてそのモル濃度

計算される

はイオン強度でイオン mi と電荷 zi から次式で

I 1

2mizi (87)

また iは(86)式のBは温度と溶媒の性質による定数であり イオンの大

きさに関するパラメータで水和イオンの大きさとほぼ一致した値をとる標

準法の勧告では塩素イオンに対しイオンの大きさを46Åと決めてiBを

1

5 にしているそこで式(84)は次のようになる

ClA I

log 1 15 I

イオン強度 I は塩素イオン濃度を含まない計算となる

以上の方法によって実用的な pH 測定に用いられる第一次第二次標準液の

pH の値が得られる

絶対値としての

はpH の絶対測定法(第一次標準測定法)とされている

銀塩化銀参照電極は分極現象を防ぐために棒状の銀を塩酸で処理し表

に塩化銀を生成させたものを飽和塩化カリウム溶液につけてある

(88)

参考現在は実験的に求めた値と理論値の組み合わせで

素イオン濃度を求める方法を規定しているこの起電力から水素イオン濃度

を知るための測定方法

Buck RP Rondinini S Covington AK Baucke FGK Brett CMA Camoes MF

Milton MJT Mussini T Naumann R Pratt Kw Spitzer P Wilson GS

Measurement of pH definition standards and procedures Pure Appl Chem

74(11)2169-2200 2002Kristensen HB Salomon A Kokholm GInternational

pH scales and certification of pH Anal Chem 63(18) 885A-891A 1991)

銀塩化銀参照電極

電極の構成は

Cl-(aq) | AgCl(s) | Ag(s)

48

この半反応は次のようになる

AgCl(s) + e- rarr Ag(s) + Cl- (89)

の反応は次の2つの反応に分けて考えることができる

Ag+ + e- rarr Ag(s) (91)

AgCl(s)rarr Ag+ + Cl- (90)

図11銀塩化銀参照電極

(90)における銀 る塩素イオンによって左

されることが推測される

そこでカッコ [ ] をそれによって囲まれるイオンの濃度を表すことにし

式 イオン Ag+の溶解性は共存す

塩化銀の乖離定数Kを考えると

49

K = [Ag+][Cl-] (92)

これから

[Ag+]= K[Cl-] (93)

化カリウム溶液に漬けた銀塩化銀電極の電位 E は水素標準電極に対する

電 で与えられる

位を E゜として次式

E E

RT

nF

[ Ag ]

[Ag(s)]ln( )

Ag(s)のイオン活量は常に1とする

ここで半反応の電極電位を求めるために式(75)を利用することにすれば

(94)

熱力学の慣例にしたがって純物質個体

E E

RT

Flna

H Cl a (75)

式 の半反応をみると

応で電子1つが移動するので n=1 とするR=831441 JmolK1F = 96485

C はめれば

これに銀イオンの濃度として式(93)を当てはめる

この反応で移動する電子は (89) 銀イオン1つの反

molT=29815K(25)ln(10)=2303などの定数を当て

2303RTF = 005917

であるから(94)式は次のように表現できる

log[Cl]) E E 005917(logK (95)

たがって標準水素電極に対する銀塩化銀参照電極の標準状態における電

位 は半反応(89)に対して ゜=+0799で

化銀の乖離定数 K は182times10-10 であるのでその対数を取れば-973993

0799-005917times973993-005917log[Cl-]

E゜ E ある

ある

そこで式(95)は

E =

50

= 0799-0576-005917log[Cl-]

= 0223-005917log[Cl-] (96)

電極電位の関係について実測値

こうして求めた塩化カリウム溶液の濃度と

計算上の値は次のようである

KCl moll vs SHE volt25 計算値 volt25 01 02881 02822 35 0205 01908 飽和 0199 minus

実用 測定

実際の現場で水素イオン濃度を測定する目的の測定法で上のような2つの

極が同じ溶液に浸かっていたのでは試料溶液を交換するにも便利ではない

の容器に入れる未知試料溶液と銀塩化銀電極を隔離する

的な pH

そこで水素電極側

的で二つの電極容器をつなぐ液絡部をグラスフィルターやセラミック板

飽和塩化カリウムで作成したゼラチンなどの塩橋によって隔離遮断するこ

れを液絡部とよぶ

電池として機能するために必要な溶液イオンの交換はこの液絡部で行う

組み立てる電池は電池式で次のように表される

Pt(s) | H2 | 試料 (H+ x moll) || 飽和 KCl | AgCl | Ag(s)

の標準電極と銀塩化銀電極とは区切られていて溶液の直接の接触がない

とを意味するために電池式ではタテ二重線を用いる銀塩化銀参照電極

の容器には飽和塩化カリウム溶液が入れられる

51

図12液絡部のある pH 測定のための電池

この液絡部のある電池では塩橋を記号lsquo | | rsquoで表して次のように記す

試料 (H+ x moll) | | 飽和 KCl

ここでは試料溶液と飽和塩化カリウム溶液の異なる2液が接している

このような界面では膜電力が生じるのと同様「液間電位差」が生じることが

知られているしたがって上の電池で測定される起電力 E は

E = E[銀塩化銀電極電位]+E[液間電位]+E[水素電極電位]

で与えられることになってE[液間電位]のために図12の電池の起電力

は銀塩化銀参照電極の値を知っていても水素電極容器内に入れた未知溶

液の水素イオン濃度を正しく知ることができない

52

そこで実用的な測定法としてこの E[液間電位]を膜電位として積極的に利

用する方法が工夫されたすなわち水素イオンに感応するガラス薄膜を用い

るガラス電極法である

53

ガラス電極

ガラスはケイ素原子と酸素原子からなる SiO4 の結晶構造を持ち酸素で囲

まれた空隙があって水素イオンがそれを埋めることができる

この性質によってガラス膜表面は水溶液中の水素イオンに応じて膜電位を

変化させるのでこれを水素イオン濃度測定用の電極として利用することが考

えられるこれが通常用いられるガラス電極である

ガラス電極は標準電極と組み合わせれば電池を構成することができこの電

池の起電力を知ってガラス薄膜の内外にできたイオン濃度勾配を知ろうとす

るものである

薄いガラス膜(01mm程度)をはさんで接する2つの溶液のH+イオン濃

度が異なるとその差に応じてガラス膜の両側に電位差(Eg)が現れる

ネルンストの式でガラス電極の内部に入れた既知の濃度のH+([H+]in)に対

し試料中の水素イオン濃度が[H+]sampleのとき次の電位を生じる

)][

][log(059170)

][

][ln(

sample

in

sample

ing

H

H

H

H

F

RTE

(97)

図13ガラス電極

電極を構成するのは銀塩化銀電極と同じ電極で用いる塩溶液は一般的

54

に 01モル塩酸溶液である

この半電池の電池式は次のように書くことができる

Ag(s) | AgCl(s) | HCl (01 M) | ガラス薄膜 || 試料溶液 H+ (x moll)

Eg

この半電池の電極電圧を測定するために銀塩化銀標準電極と組み合わせ

電池を作って起電力を計る

構成される電池は下図のようになる

ガラス電極 銀塩化銀標準電極

図14ガラス電極を用いた pH 測定用の電池

この電池の起電力は次の各半電池の平衡電位を合わせたものになる

55

E1ガラス電極の内側電位

Ag(s) | AgCl(s) | HCl (01 M)

Egガラス薄膜の内外に生じる膜電位

HCl (01 M) | ガラス薄膜 || 試料溶液 H+ (x moll)

E2液間電位(膜電位)銀塩化銀標準電極のセラミックを介した試料溶液

と銀塩化銀標準電極の内部液(飽和 KCl 溶液)の間に発生する電位

試料溶液 H+ (x moll)|| セラミック | KCl(飽和)

E3銀塩化銀標準電極

KCl(飽和)| AgCl(s) | Ag(s)

pH メーター用のガラス電極に使われるガラス薄膜は水素イオンに感応して

膜電位(Eg)を生じるこれは【膜電位】の章で記したように薄膜がある

一つのイオンのみを通過させる特性を持っている場合にイオンが膜を介した

両側で平衡状態に達したとして電気化学ポテンシャルを膜の両側で等しいと

考えてそのイオンが濃厚な側から希薄な側にその差によって圧力を生じると

するものである

一方同じ試料溶液が銀塩化銀標準電極のセラミック液絡部を介して生じ

るだろう液間電位(膜電位E2)はいま関心がある水素イオンに対して特異

的に感応するのではないので試料溶液の水素イオン濃度に関係なく一定と見

なすことができる

すなわちpH メーターを構成する電池の起電力 E は

E = E1+Eg+E2+E3 (98)

このうちEg以外は一定と見なせるので

E1+E2+E3 = E

として式(98)を書き直すと

)][

][log(059170

sample

ing H

HEEEE

(99)

Eは標準液によって校正されるべき標準電極電位である

56

電極の校正

実際のイオン濃度を測定する場合低濃度標準液と高濃度標準液で得られ

る起電力を測定し計測のイオン濃度に対する係数(傾き)を求めておき未

知の試料に対して起電力を測定してそのイオン濃度を算出する方法が採られる

低濃度標準液と高濃度標準液のそれぞれの濃度をCLとCHとすればそれぞ

れの起電力ELとEHは次式で表される EH = E +β logCH (100)

EL = E +β log CL (101)

ただしβは式(99)の係数を簡略にしたものである

式(100)と(101)から検量線の傾きが次式で表せる

ΔE = EH minus EL = β(logCH minus logCL) = β logCH

CL

(102)

したがって係数βは

β =ΔE

log CH

CL

(103)

であらわされる

このときに使われる標準はすでに前出の pH 第一次標準第二次標準溶液で

ある

金属イオンに対応するイオン選択電極

現在臨床検査で日常的に使われている電解質測定のための電極はナトリウ

ムカリウムカルシウムクロールなどおよそ臨床的に必要な金属イオン

に対して入手可能である

カリウムイオン測定用のバリノマイシンの発見によってクラウンエーテルと

57

呼ばれる一連の化合物が知られたクラウンエーテルはその分子の中心に立

体的な空間を持ち特定のイオン径に対し合致するのでそのイオンに対して

選択的に感応するこれらの化合物はイオノフォアと呼ばれる

図 15クラウンエーテル

1つの金属イオンが環状化合物

15-crown-5 の中央にある空間を充填

している模式図

15-crown-5 の構造を作る10個の黒

い丸は炭素炭素2個のつながりごと

にある中心の白い丸は酸素酸素と

金属イオンの間の距離はおよそ 22~

23Åであるカリウムのファンデン

ワールス半径は 135Åイオン半径は

15~16Åである

測定したいイオンに対しポリ塩化ビニル(PVC)を支持体としてイオノフ

ォアを添加した液膜の電極膜を作成しこれをガラス電極におけるガラス薄膜

と同様試料に接する電極膜として用いるこの構造から一般的に液膜型電極

と呼ばれる電極膜には特異性を高めるため妨害イオン排除剤などが添加

される

pH メーターと同様銀塩化銀標準電極と組み合わせ電池を形成しその

起電力を計る測定したいイオンが液膜に対して内外で平衡に達したときの

膜電位を測定するのはガラス電極と同じである

カ リ ウ ム イ オ ン に は Bis[(benzo-15-crown-5) ( 正 式 名 は

Bis[(benzo-15-crown-5)-4-methyl]pimelate)ナトリウムには Bis[(12-crown-4)

やDibenzyl-bis[(12-crown-4)などがイオノフォアとして用いられる

58

図16カリウムイオン測定用に使われるクラウンエーテル

図17ナトリウムイオン測定用に使われるクラウンエーテル

59

参考イオン選択電極に関する文献Xia Z Badr IHA Plummer SL Cullen L

Bachas LG Synthesis and evaluation of a bis(crown ether) ionophore with a

conformationally constained bridge in ione- selective electrodes Anal Sci 14(2)

169-173 1998 Oh K-C Kang EC Cho YL Jeong K-S Y oo E-A Paeng K-J

Potassium-selective PVC membrane electrodes based on newly synthesized

cis- and trans-bis(crown ether)s ibid 14(10)1009-1012 1998 Dojindo WEB

site httpwwwdojindocojpwwwrootproductsjinfo2protocolp31pdf

<補遺> 60

補遺 状態関数 (本文 p21 10 行目参照)

一つの平衡状態にある系 A とこれに接する系 A にとって外部である系 B について系 B

から系 A に熱を与えこれによって系 A が他の平衡状態に移ったとき系 A はその結果とし

て膨張し系 B に対し仕事をする

このときの微少な熱量の移動を記号drsquoQ またなされた微少な仕事をdrsquoW とすると

系Aの内部エネルギーに関する微少な変化drsquoUA は両者の和として表される

WdQdUd A primeminusprime=prime (a-1)

この式 a-1 と本文中の式25との関係について

WQU A Δminus=Δ 本文(25)

<補遺> 61

式 a-1 と式25の記号の違いは変化の起きる前の平衡状態 S1 から変化後の平衡状態 S2

に状態変化があったとするなら式 a-1 を積分することで式25が得られるものと考えて区

別している

A

S

S A UUd Δ=primeint2

1 (a-2)

このことは重要であるすなわち内部エネルギーU は変化の起きる前後の状態を指定する

ことによって値が定まることを意味するこのように積分によって値を定めることが出来る

のでdrsquoU は完全微分であるという

内部エネルギーのように系の状態だけで値の定まる量を状態関数として扱う

一方式 a-1 のdrsquoQ drsquoW についても同様に微少の変化量を表しているが平衡状態 S1

から S2 への経路を指定しなければ積分の値は定まらない

本文中の記号にしたがって仕事量ΔW を次のように表すことにする

VpW Δ=Δ 本文(20) V

<補遺> 62

体積と圧力の関係を表す図を使ってこの仕事量が意味することを考える圧力 prsquo の下で

体積が V1 であるときを状態 S1 として圧力一定の下で体積を V2 まで膨張させるような変

化を行った後体積を等しく保って圧力を p にまで上げたときの状態を S2 とするこのとき

の仕事量は膨張に伴うものであるから図の体積‐圧力線の下の面積で示すことができる

平衡状態 S1 から S2 への変化の道筋を別にたどってみよう

新しい経路では圧力を先に p まで上げた後に膨張変化させている

図から直感的に明らかであるので数式での扱いを省略するが2 つの経路による仕事量には

差がある

すなわちdrsquoW は drsquoU と異なり変化の初め S1 と終わり S2 の状態が与えられても積分値

は定まらず変化の経路によって違ってくる

このように変化の経路を指定しなければ積分値が定まらないものを不完全微分と呼び扱

いを区別する

本文 p21 へ戻る

<補遺> 63

VpW

WQU

VpQU

VpUQ

1122 SSSS pVUpVUQ

pVU

VpUHHHQ SS 12

エンタルピー (本文 p24 20 行目参照)

本文中の式 20 および 25 から一定の圧力の元で起きる状態変化において内部エネルギー

の変化量に対する式 a-3 を得る

本文(20)

本文(25)

(a-3)

式 a-3 を Q について書き直す

(a-4)

状態の変化が平衡状態S1から平衡状態S2に移ったものとして式 a-4を丁寧に書き直すと

(a-5)

並び替えて

(a-6)

式 a-6 を見ると定圧過程における熱量の流入は

(a-7)

の形を持つ関数の差であることが分かる

一般に化学反応のような変化の過程では大気圧の下で行われるようなものに興味がある

そこで式 a-7 で与えられる項を一つの関数として定義するこれをエンタルピーと呼び記

号 H を与える式 a-4 はエンタルピーの変化量で次のように書き改められる

(a-8)

圧力が一定の下で起こる状態変化について流入する熱量は式 a-8 で示されるようにエンタ

ルピーの変化量に等しい

V

V

V

V V

V

V

1212 SSSS VVpUUQ VV

<補遺> 64

1Q

We

また式 a-8 からオートクレーブ内で起こるような体積変化のない過程ではこの値が内

部エネルギーの変化量で与えられることが明らかである

本文 p24 へ戻る

エントロピー (本文 p26 17 行目参照)

エントロピーは次のような思考実験から発想された仮想的な状態関数である

理想気体よりなる系 A が温度 T2で熱平衡状態にあり温度 T1の外部の熱源と接しているこ

とを想定する系 A の外部を系 B と呼ぶことにするT1は T2に対して無限小だけ高い温度と

する

系 A が系 B に対して温度圧力について平衡を保ちながら緩慢に系 B より熱量 Q1を受け取

る過程を考える(このような過程を準静的過程と呼ぶ)これによって系 A が熱量 Q1を得て膨

張するとき系 B に対して仕事をする続いて系 A から熱量 Q2が系 B に戻ることを考える

想定されるこの変化が可逆的であれば系 A と系 B を併せた全体は元の状態に戻る蒸気機

関に関するこのような研究が Nicolas Carnot によってなされたのは1824 年のことであった

ここに想定されたサイクルに対する Carnot の効率 e は移動した熱量となされた仕事によ

って定義され次の式で表される

(b-1)

<補遺> 65

理想気体では内部エネルギーU の変化ΔU はゼロと考えるしたがって熱力学の第一法

則を表す式(本文中の式25)から次の関係が示される

0=Δminus=Δ WQU

WQ Δ= (b-2)

これによってCarnot Cycleの効率eはQ2lt0 として次のように書き改めることが出来る

1

21

QQQe +

= (b-3)

ところで気体の状態方程式から1 モルの気体について次のような関係が示される

RTV

P

P1=

V = RTV (b-4)

V 式 b-4 の両辺に体積の微少変化量ΔV をかけて

(b-5)

これを体積Vについてその変化をV1からV2までとして積分するならば次式が得られる

VV

RTVP Δ=Δ 1V V

V

intint = 2

1

2

1

1V

V

V

VdV

VRTPdV

1V2V

11 lnRTW =

(b-6)

Q1の熱量によって起こる膨張がV1よりV2までとし圧力P温度T1の下でなされるその仕事

量をW1とするならそれは式b-6 の右辺によって示されるすなわち

(b-7)

VV

1

2lnVVRT=

V V

VV

V

V2int V2 intV1 V1

<補遺> 66

またQ2の熱量の移動が圧力P温度T2の下で起きこれによって系Aが可逆的に圧縮され

るなら体積変化はV2よりV1まで起こりその仕事量をW2で示すと次式のように表される

(b-8)

1

22

2

122 lnln

VVRT

VVRTW minus==VV

VV

Q1=W1Q2=W2の関係から式b-7 およびb-8 を用いてCarnot Cycleの効率eを表す式b-3

を書き改めると温度のみの関係式として次のように表される

1

21

TTTe minus

= (b-9)

ここでサイクルが可逆的過程であると想定するならば式 b-3 と式 b-9 から

1

21

1

21

TTT

QQQe minus

=+

= (b-10)

これから

12112111 QTQTQTQT minus=+ (b-11)

整理すると

02

2

1

1 =+TQ

TQ (b-12)

この考えをさらに発展させ系A

と系Bの間に数多くの系を挿入すること

にしてそれらの系を同様に熱源として

T1T2Tnと考えるこれによっ

て熱の受け渡しが系Aから系Bに至り

再び系Aにもどるサイクル過程に数多

くの寄り道の過程を加えることになる

熱量の移動に関して上の場合と同じく

準静的過程で行われると考えるこの

サイクル全過程について初めと終わ

<補遺> 67

n

i i

i

T

Q

1

0

0T

dQ

T

QS

T

dQASAS )()( 12

りが同じ状態になる可逆的な過程であるなら式 b-12 を拡大的に考えることになってそれ

は次式で表される

(b-13)

式 b-13 には重要な関数が現れるすなわち熱量と温度の比QT である

もし一つの系が無限小だけ温度の高い(dT )外界から温度圧力など平衡を保ちなが

ら極めて緩慢な過程(準静的過程)で無限小の熱量(dQ )を受け取るならばその変化は可

逆的でありdT について連続的な温度分布をする過程を考えるとき式 b-13 をさらに発展

させて次のように積分式で示すことが出来る

(b-14)

式 b-14 で積分記号にが付されているのはCarnot Cycle のような経路を一巡することを

意味している

Carnot の熱機関の効率という着想から生まれた熱量とそれを持つ系の温度との比 QT に

重要な意味を見出したのは Rudolph Clausius で彼はこの比にエントロピーという名前を与

えたエントロピーには記号ΔS を一般に用いる

(b-15)

エントロピーは初めと終わりの状態がわかれば過程に関わらず定まるので状態関数であ

系 A と外界のエントロピー変化を考えるときそれが可逆的過程であるならばすべてを併

せた全体のエントロピー変化は初めと終わりに変化がないという意味でゼロであるすなわ

ち初めの状態を S(A1)とし次の状態を S(A2)とするならそれぞれのエントロピーを

ΔS(A1)ΔS(A2)としてこの間におけるエントロピーの変化量は次のように示される

(b-16)

<補遺> 68

T

dQdS

0T

dQ

ある一つの変化については次のように示される

(b-17)

ここで式 b-17 の S に付けられたdは微分量すなわちごく微小の変化量を意味し式 b-15

で定義されたエントロピーに用いられる一般的な記号Δと区別する

ところで式 b-10 の関係においてもし移動した熱量のすべてが仕事に変わらなければ

効率 e を表す熱量を用いた関係式と温度で表される関係式は等号で結ぶことができないそれ

はエネルギーのロスを意味し初めと終わりの状態が異なってしまうことを意味するすなわ

ち全過程が構成する一つのサイクルは可逆的でなくなる

不可逆過程での熱効率 ersquo は 大値を示す可逆的過程の熱効率 e より小さな値をとる

ee

したがって 大効率を与える式 b-8 と式 b-3 から

01221

2112

1

21

1

21

QTQT

QTQT

Q

QQ

T

TT

両辺を T1T2で割ると

02

2

1

1 T

Q

T

Q

これを式 b12 と同様に発展させれば式 b-14 についてサイクルの変化が可逆的過程の

場合と不可逆的過程の場合の両方を併せClausius の不等式と呼ばれる次の関係が成立する

(b-18)

式 b-18 の等号が成立するのはサイクルが可逆的な理想の場合に限られる

ある孤立系で状態 A1 から状態 A2 へは不可逆変化で進められ状態 A2 から再び状態 A1

に戻るとき可逆変化であるような閉じた状態変化を考える可逆系のエントロピー変化には

記号 Q を使い不可逆変化には Q を用いるとするとそれぞれ積分式を用いて状態 A1 から

状態 A2 へは

<補遺> 69

d prime

状態 A2 から状態 A1 に戻るときは

全体では

=d prime

+d

(b-19)

Clausius の不等式から

0

式(b-19)の第二項で反応を逆に進めるときには次のように書き改めることができる

=d

よって式(b-19)は次のように書き直すことができClausius の不等式とあわせると

d prime d

0

すなわち

d prime d

上式の右辺は式(b-16)を用いて表せば

d prime

∆S ∆

この状態変化を微小変化とするならば断熱変化の場合 dQ = 0 であるから

∆S ∆ dS 0

すなわち不可逆変化を含む断熱変化ではエントロピーは必ず増大する

<補遺> 70

T

QS

BA SSS

(b-20)

(次の<補遺>ギブス自由エネルギーも参照せよ)

本文 p26 へ戻る

ギブス自由エネルギー (本文 p28 27 行目参照)

エントロピーの考えを導入することによって不可逆的に状態変化が起きるときにはエン

トロピーの増大を引き起こすことを知ったこれによって目前で起きる現象について温度の

変化があるものであれないものであれまた圧力の変化があるものであってもエントロピー

の定義式によって可逆的な変化におけるエントロピーの変化量を計算することが可能である

(b-15)

しかしながらこれから起こる変化について我々がすでにあらかじめ知っている物理量を

用いて予測的にその状態変化が起きるかどうか知ることは必ずしも容易ではないその理由

は式 b-15 に示されたエントロピーΔS が系とその外界をあわせた全体のエントロピーを示

しているからであるすなわち関心のある系を系 A としその外界を系 B とすると全体

のエントロピーは次のように表せる

(c-1)

関心のある系 A のエントロピー変化を知るためには系 B のそれを知ればよいがそれは

いつも容易とは限らない系 A の性質だけで状態変化の方向を知るには別の観点が必要にな

るようだ

そこでもう一度状態変化が熱量 Q の移動によって起きることについて考えてみようエン

トロピーの補遺で議論したように熱量の移動が準静的過程により行われるときには変化は可

逆的に起こると考えたこのとき外界すなわち系 B から移動する熱量を Q1とし系 A から

0S

<補遺> 71

21 QQ

T

Q

T

QSB

21

T

QSS A

2

QH

T

HSS AA

AA STHST

のそれを Q2 と記号を当てたのでこれをそのまま使うことにすれば可逆的な過程では系 B

の熱量 Q1 はすなわち系 A から戻る Q2 に他ならないので両者には次の関係が成立するも

のとしてよい

(c-2)

したがって

(c-3)

と考えてよくこれによって式 c-1 を次のように書きなおすことが出来る

(c-4)

独立した系で圧力とその体積に変化がなく一定の条件の下で状態変化が起きるときエン

タルピーの考えを使ってすでにひとつの関係があることを導いている

本文(31)

そこで式 c-4 を系のエンタルピーΔHAによって書き改めれば

(c-5)

この両辺に-T をかけて式を書き直せば次の関係式が得られる

(c-6)

式 c-6 を見るときその右辺がマイナスの値ならば左辺のΔS はプラスの値をとることが

分かるすなわちエントロピーが増大すると見ることが出来るこれまでの過程で自然の現

象はエントロピーが増大する方向に進むとしてきたので関心のある状態変化について式 c-6

の右辺で計算される値がマイナスの値ならばその変化は起きるものと考えてよいことになる

だろうしかも右辺はすべて独立した系の状態量で示されていて我々が知りうる値で計算

<補遺> 72

TSHG

STSTHG

STHG

可能である

そこでこれを熱力学ポテンシャルを表すものとしてギブス自由エネルギーと呼ぶことに

するギブス自由エネルギーは記号 G が用いられ次のように定義される

(c-7)

ここで関心があるのは自由エネルギーの絶対値ではなく式 c-6 に示されたようにその変化量

に興味があるので式 c-7 から

(c-8)

温度が一定の条件の下で状態変化が起きることを考えるなら式 c-8 は次のように書くこと

ができる

(c-9)

ギブス自由エネルギーは式 c-9 の右辺がすべて状態量であるからこれも状態量の一つで

ある定圧定温の条件下で起きる変化ではすでに議論したようにΔGlt0 であれば状態

変化は自発的に起きるものと予測できる

つまり式 c-5 の第一項は系のエントロピーΔSAそのものであり第二項で示されるエンタ

ルピーは系 A の温度が一定に保たれているのであるから発熱する熱量として外界に吸収さ

れるものであってこれは外界のエントロピーの増大につながるものとして解釈されるした

がって化学反応のように一定の圧力と一定の温度の下で起きる変化について自由エネルギ

ー変化量はその状態変化が自発的に起きる傾向を示しているといってよい

本文 p28 へ戻る

  • はじめに
  • 目次
  • 電気エネルギー
    • 金属のイオン化
    • 電池
    • 水素の反応
    • 燃料電池
    • 化学反応と電気エネルギー
      • エネルギーと熱力学
        • エネルギー保存則
        • エンタルピー
        • エントロピー13
        • ギブス自由エネルギー
        • 電池における化学反応のギブス自由エネルギー13
        • 理想気体の状態方程式
        • 理想溶液のギブス自由エネルギー
        • 膜電位
          • 水素イオン濃度測定
            • 化学反応の一般的な式
            • pHの定義とその目盛り
            • pH標準液
            • 銀塩化銀参照電極
            • 実用的なpH測定
            • ガラス電極
            • 電極の校正
            • 金属イオンに対応するイオン選択電極
              • 文献
              • 補遺
                • 状態関数
                • エンタルピー
                • エントロピー
                • ギブス自由エネルギー
Page 43: イオン選択電極i イオン選択電極 Ion Selective Electrode (ISE) を理解する ・ pHを測定する ・ NaやKなどのイオン濃度を測定する 神戸大学医学部保健学科

40

ウムの膜内外の移動は平衡に達することになる

水素イオン濃度測定

「標準水素電極」は1モル塩酸溶液につけた白金電極に1atm の水素ガスを

吹き込んで平衡状態に達したときの電位を基準としてゼロボルトと規定した

そこである溶液についてその水素イオン濃度を知ろうとするとき同じ水

素電極を用いることを考えれば標準状態にする目的で用いた1モル塩酸溶液

を濃度未知で X モルの塩酸溶液と想定すればその水素イオン濃度を知るこ

とができるだろうか

標準状態ではない X モルの塩酸溶液に浸けた白金電極が半電池として働くこ

とは間違いなさそうであるしかしその白金電極が持つ電極電位を測定する

にはいずれにしても標準電極と組み合わせて「電池」を構成しその電池

の起電力として計る必要がある電池を作れば起電力を知ることができ相

手の半電池の電極電位が知られていれば濃度が未知でXモルの溶液について

その水素イオン濃度を知ることができるだろう

こうした目的のためにいちいちゼロボルトと規定した標準水素電極を用いる

のは煩雑なのでしばしば後出の「銀塩化銀電極」が参照電極として用いら

れる

まず予め「銀塩化銀電極」を標準水素電極と組み合わせて電池とし一度

その起電力を測定しておけば後はいつもそれを標準電極として利用できる

「銀塩化銀電極」の半電池は

H+ (1 moll) Cl- | AgCl | Ag(s)

これに「標準水素電極」を組み合わせ電池を構成すると次のような電池

になる

Pt(s) | H2(g) | H+ (1 moll) Cl- | AgCl | Ag(s)

この電池の起電力を知れば「銀塩化銀電極」の半電池としての電極電位

を知ることができ参照電極として未知の半電池と組み合わせて起電力を測

定して相手の電極電位を計算できる

41

濃度 X モルの塩酸溶液を未知の溶液と想定すればその電極電位を知るために

組み立てる電池は次のようになる図10にその電池の図を示した

Pt(s) | H2(g) | H+ (x moll) Cl- | AgCl | Ag(s)

この電池の全反応は次の反応式で表される

AgCl(s) 1

2H2 (g) H Cl Ag(s) (67)

図10未知溶液の水素イオン濃度を測定しようとするための電池

化学反応の一般的な式

ここで電池に利用される化学反応から得られるエネルギーをギブス自由エ

ネルギーに換算し起電力を具体的に知る手だてとすることは上ですでに学

42

んだがより一般的な式を再度ここに書きだしておこう

化学反応が紙面で左から右に進む反応として次のような一般式で与えられ

るとき

aA + bB rarr cC + dD (68)

ギブス自由エネルギー変化量は標準状態ΔG゜からの変化量を加える形で式

(60)と同様次の式によって表される

G G RT(ln aCc aD

d ln aAa aB

b )

G RT ln

aCc aD

d

aAa aB

b (69)

aAは成分 A のイオン活量であるその他の成分も同じ

得られたエネルギーを電気エネルギーに換えるなら式(41)に習って

次式で表せば

ΔG=-n FV

there4V=-ΔG(nF) (70)

このときの起電力は標準状態における電位 E゜からの変化量として次式で与

えられる

E E

RT

nFln

aCc aD

d

aAa aB

b (71)

標準状態における起電力 E゜は反応が平衡状態にあるときで反応平衡定数

を K とするなら

K aC

c aDd

aAa aB

b (72)

で表されるそこでE゜は次のように書き改めることができる

43

E

RT

nFln K (73)

そこで式(67)で表される図10の電池「水素minus 銀塩化銀電池」に

対する起電力をギブス自由エネルギーから求めてみよう

反応から式(71)に当てはめれば

E E RT

Fln

aH

1 aCl

1 aAg1

aAgCl1 aH2

1

2

(74)

力学の慣例にしたがって固体の純物質の活量は1として扱い水素ガスを

想気体として見なして活量を1atm とするなら式(74)は次のよう

に簡略化される

E E

RT

Flna

H aCl (75)

ころで理想溶液として近似的に取り扱うときの希薄溶液でたとえば水素

入して詳細に検討するなら式( れる起電

オン濃度はイオン活量として aH+の記号を使うときすでに【理想溶液のギ

ブス自由エネルギー】の章で述べたようにこれを有効イオン濃度とする必要

がありイオン活量 a は「活量係数」γを導入して次式で表した

a H+= γH+CH+ (62)

この活量係数を導 75)で誘導さ

を計ることによって経験的に試料溶液中の水素イオン濃度を求めることは

困難である式(75)にあるイオン活量の項はモル濃度 C と活量係数γを

用いて次式で書き改められる

lnaH aCl

lnCH CCl

lnH Cl

(76)

まり式(76)右辺の第二項において互いに相手が知られなければ自分

決めることができず結果的に起電力を知っても(75)の値から水素イオ

ン濃度を導けないここに工夫が必要になる

44

の定義とその目盛り

液中の水素イオン濃度を直接意味するものではなく

を定義するとき測定されるのは1リットルの溶媒に存在す

pH = -log a H+ = -log(γH+CH+) (77)

際に試料溶液の pH を決定する際はpH 標準液を用いる

に溶液を入れ試料溶液 X と pH 標準液 S を

参 極を接続し電池を作成しその起

pH

現在pH の定義は溶

で述べたようにそれが簡便に測定できるものではないため次のように定

義されている

水素イオン濃度

水素イオン活量であるため定義式としては活量係数をγH+として次式で与

えられる

その要領は次のようである

上に図示した水素電極の容器内

れぞれ半電池(I)と(II)に入れる

半電池(I) Pt | H2 (1 atm) | 試料溶液

半電池(II) Pt | H2 (1 atm) | 試料溶液S

照電極として上図のごとく銀塩化銀電

電力を測定する半電池(I)のときの起電力を E(X)半電池(II)のそれを E(S)

とするこのとき試料溶液Xの pH は次式で計算される

pH (X) pH(S) E(S) E(X)

RT ln(10) (78)

ln(10)は自然対数を常用対数に戻すための定数で2303 を用いる

標準液

pH 標準液 S はpH 第一次標準液第二次標準液と呼ばれるべき

る測定

25で pH 4005 を示す

pH

上述した

のであり絶対的測定法である起電力の測定によって値をつける

標準液は安定で純粋な結晶が得られる試薬を調整してこれを測定す

上と同様に水素電極を用いこれに緩衝液を入れる参照電極として銀

塩化銀電極を接続して電池の起電力を測定する

たとえば005 moll フタル酸水素カリウム溶液は

一次標準(Primary Standard PS)の一つである半電池(III)として水素

45

電極を次のように準備する

半電池(III) Pt | H2 (1 atm) | PS 溶液

て電池を形成したとき得られる起電

参照電極として銀塩化銀電極を接続し

は式(75)から

E E

Ag AgCl RT

Flna

H aCl (79)

オン活量を濃度と活量係数の積(a H+= γH+CH+)にし自然対数を常用対数

すれば

E E

Ag AgCl RT ln(10)

F log(

H + CH+ Cl- CCl - ) (80)

E゜は水素標準電極(水素ガス分圧を1atm電極を浸ける溶液に001 moll

H

Cl を用いる)で得た起電力である

式(80)から

RT ln(10)

Flog(

H CH Cl

) (E EAg AgCl )

RT ln(10)

Flog C

Cl

(81)

らに

log(

H CH Cl

) F

RT ln(10)(E E

Ag AgCl ) logCCl

(82)

ころで式(77)から

(γH+CH+) (77)

-log a H+ =-loga H+-log(γCl-) +log(γCl-) =-log(a H+γCl-) +log(γCl-)

(83)の一番右の式で第一項は

pH = -log a H+ = -log

であるが右の式をさらに変形すると

(83)

46

-log(a H+γCl-)=-log(γH+ CH+γCl-) (84)

たがって式(82)の右辺で示されるように電池の起電力を測定すれば

よ 実際には溶液の塩素イオン濃

液で起電力を求め外挿する

起電

これによってpH を意味する式(83)は次式(85)で与えられる

p(aHγCl)はRG Bates によって Acidity Function と呼ばれている

らに式(85)最終項の log(γCl-) を補正しなければならないこの項は

本工業規格)によっても

であってこれは式(82)の左辺である

いただし塩素イオン濃度の項があって

をゼロにしたときの値が必要である

実測する際には塩素イオン濃度をゼロにできないので塩化ナトリウム NaCl

等を濃度を変えて添加しその時々の緩衝

勧告ではNaCl で 000500100015moll の3つの濃度を例示している

すなわち塩素イオン濃度ゼロのときの値は各塩素イオン濃度に対して

の値をそれぞれプロットしグラフから塩素イオンがゼロのときの起電力の

値を3点に対する回帰直線の延長で外挿して求めるこの点を次のように書

log( C H H Cl CCl

0

pa log( C log( (85) H H H Cl C

Cl0 Cl

)

素イオンの活動係数で与えられる補正項である

無限希釈溶液中のイオンの活動係数は理論的に Dubye-Huckel の式を用い

近似的に求めることが可能であるこれはJIS(日

用されていて Bates-Guggenheim の規約と呼ばれる (Bates RG

Guggenheim Pure Appl Chem 1 163-168 1960)

Dubye-Huckel の式は次のように与えられる

log A I

i 1 iB I (86)

47

I iについてそのモル濃度

計算される

はイオン強度でイオン mi と電荷 zi から次式で

I 1

2mizi (87)

また iは(86)式のBは温度と溶媒の性質による定数であり イオンの大

きさに関するパラメータで水和イオンの大きさとほぼ一致した値をとる標

準法の勧告では塩素イオンに対しイオンの大きさを46Åと決めてiBを

1

5 にしているそこで式(84)は次のようになる

ClA I

log 1 15 I

イオン強度 I は塩素イオン濃度を含まない計算となる

以上の方法によって実用的な pH 測定に用いられる第一次第二次標準液の

pH の値が得られる

絶対値としての

はpH の絶対測定法(第一次標準測定法)とされている

銀塩化銀参照電極は分極現象を防ぐために棒状の銀を塩酸で処理し表

に塩化銀を生成させたものを飽和塩化カリウム溶液につけてある

(88)

参考現在は実験的に求めた値と理論値の組み合わせで

素イオン濃度を求める方法を規定しているこの起電力から水素イオン濃度

を知るための測定方法

Buck RP Rondinini S Covington AK Baucke FGK Brett CMA Camoes MF

Milton MJT Mussini T Naumann R Pratt Kw Spitzer P Wilson GS

Measurement of pH definition standards and procedures Pure Appl Chem

74(11)2169-2200 2002Kristensen HB Salomon A Kokholm GInternational

pH scales and certification of pH Anal Chem 63(18) 885A-891A 1991)

銀塩化銀参照電極

電極の構成は

Cl-(aq) | AgCl(s) | Ag(s)

48

この半反応は次のようになる

AgCl(s) + e- rarr Ag(s) + Cl- (89)

の反応は次の2つの反応に分けて考えることができる

Ag+ + e- rarr Ag(s) (91)

AgCl(s)rarr Ag+ + Cl- (90)

図11銀塩化銀参照電極

(90)における銀 る塩素イオンによって左

されることが推測される

そこでカッコ [ ] をそれによって囲まれるイオンの濃度を表すことにし

式 イオン Ag+の溶解性は共存す

塩化銀の乖離定数Kを考えると

49

K = [Ag+][Cl-] (92)

これから

[Ag+]= K[Cl-] (93)

化カリウム溶液に漬けた銀塩化銀電極の電位 E は水素標準電極に対する

電 で与えられる

位を E゜として次式

E E

RT

nF

[ Ag ]

[Ag(s)]ln( )

Ag(s)のイオン活量は常に1とする

ここで半反応の電極電位を求めるために式(75)を利用することにすれば

(94)

熱力学の慣例にしたがって純物質個体

E E

RT

Flna

H Cl a (75)

式 の半反応をみると

応で電子1つが移動するので n=1 とするR=831441 JmolK1F = 96485

C はめれば

これに銀イオンの濃度として式(93)を当てはめる

この反応で移動する電子は (89) 銀イオン1つの反

molT=29815K(25)ln(10)=2303などの定数を当て

2303RTF = 005917

であるから(94)式は次のように表現できる

log[Cl]) E E 005917(logK (95)

たがって標準水素電極に対する銀塩化銀参照電極の標準状態における電

位 は半反応(89)に対して ゜=+0799で

化銀の乖離定数 K は182times10-10 であるのでその対数を取れば-973993

0799-005917times973993-005917log[Cl-]

E゜ E ある

ある

そこで式(95)は

E =

50

= 0799-0576-005917log[Cl-]

= 0223-005917log[Cl-] (96)

電極電位の関係について実測値

こうして求めた塩化カリウム溶液の濃度と

計算上の値は次のようである

KCl moll vs SHE volt25 計算値 volt25 01 02881 02822 35 0205 01908 飽和 0199 minus

実用 測定

実際の現場で水素イオン濃度を測定する目的の測定法で上のような2つの

極が同じ溶液に浸かっていたのでは試料溶液を交換するにも便利ではない

の容器に入れる未知試料溶液と銀塩化銀電極を隔離する

的な pH

そこで水素電極側

的で二つの電極容器をつなぐ液絡部をグラスフィルターやセラミック板

飽和塩化カリウムで作成したゼラチンなどの塩橋によって隔離遮断するこ

れを液絡部とよぶ

電池として機能するために必要な溶液イオンの交換はこの液絡部で行う

組み立てる電池は電池式で次のように表される

Pt(s) | H2 | 試料 (H+ x moll) || 飽和 KCl | AgCl | Ag(s)

の標準電極と銀塩化銀電極とは区切られていて溶液の直接の接触がない

とを意味するために電池式ではタテ二重線を用いる銀塩化銀参照電極

の容器には飽和塩化カリウム溶液が入れられる

51

図12液絡部のある pH 測定のための電池

この液絡部のある電池では塩橋を記号lsquo | | rsquoで表して次のように記す

試料 (H+ x moll) | | 飽和 KCl

ここでは試料溶液と飽和塩化カリウム溶液の異なる2液が接している

このような界面では膜電力が生じるのと同様「液間電位差」が生じることが

知られているしたがって上の電池で測定される起電力 E は

E = E[銀塩化銀電極電位]+E[液間電位]+E[水素電極電位]

で与えられることになってE[液間電位]のために図12の電池の起電力

は銀塩化銀参照電極の値を知っていても水素電極容器内に入れた未知溶

液の水素イオン濃度を正しく知ることができない

52

そこで実用的な測定法としてこの E[液間電位]を膜電位として積極的に利

用する方法が工夫されたすなわち水素イオンに感応するガラス薄膜を用い

るガラス電極法である

53

ガラス電極

ガラスはケイ素原子と酸素原子からなる SiO4 の結晶構造を持ち酸素で囲

まれた空隙があって水素イオンがそれを埋めることができる

この性質によってガラス膜表面は水溶液中の水素イオンに応じて膜電位を

変化させるのでこれを水素イオン濃度測定用の電極として利用することが考

えられるこれが通常用いられるガラス電極である

ガラス電極は標準電極と組み合わせれば電池を構成することができこの電

池の起電力を知ってガラス薄膜の内外にできたイオン濃度勾配を知ろうとす

るものである

薄いガラス膜(01mm程度)をはさんで接する2つの溶液のH+イオン濃

度が異なるとその差に応じてガラス膜の両側に電位差(Eg)が現れる

ネルンストの式でガラス電極の内部に入れた既知の濃度のH+([H+]in)に対

し試料中の水素イオン濃度が[H+]sampleのとき次の電位を生じる

)][

][log(059170)

][

][ln(

sample

in

sample

ing

H

H

H

H

F

RTE

(97)

図13ガラス電極

電極を構成するのは銀塩化銀電極と同じ電極で用いる塩溶液は一般的

54

に 01モル塩酸溶液である

この半電池の電池式は次のように書くことができる

Ag(s) | AgCl(s) | HCl (01 M) | ガラス薄膜 || 試料溶液 H+ (x moll)

Eg

この半電池の電極電圧を測定するために銀塩化銀標準電極と組み合わせ

電池を作って起電力を計る

構成される電池は下図のようになる

ガラス電極 銀塩化銀標準電極

図14ガラス電極を用いた pH 測定用の電池

この電池の起電力は次の各半電池の平衡電位を合わせたものになる

55

E1ガラス電極の内側電位

Ag(s) | AgCl(s) | HCl (01 M)

Egガラス薄膜の内外に生じる膜電位

HCl (01 M) | ガラス薄膜 || 試料溶液 H+ (x moll)

E2液間電位(膜電位)銀塩化銀標準電極のセラミックを介した試料溶液

と銀塩化銀標準電極の内部液(飽和 KCl 溶液)の間に発生する電位

試料溶液 H+ (x moll)|| セラミック | KCl(飽和)

E3銀塩化銀標準電極

KCl(飽和)| AgCl(s) | Ag(s)

pH メーター用のガラス電極に使われるガラス薄膜は水素イオンに感応して

膜電位(Eg)を生じるこれは【膜電位】の章で記したように薄膜がある

一つのイオンのみを通過させる特性を持っている場合にイオンが膜を介した

両側で平衡状態に達したとして電気化学ポテンシャルを膜の両側で等しいと

考えてそのイオンが濃厚な側から希薄な側にその差によって圧力を生じると

するものである

一方同じ試料溶液が銀塩化銀標準電極のセラミック液絡部を介して生じ

るだろう液間電位(膜電位E2)はいま関心がある水素イオンに対して特異

的に感応するのではないので試料溶液の水素イオン濃度に関係なく一定と見

なすことができる

すなわちpH メーターを構成する電池の起電力 E は

E = E1+Eg+E2+E3 (98)

このうちEg以外は一定と見なせるので

E1+E2+E3 = E

として式(98)を書き直すと

)][

][log(059170

sample

ing H

HEEEE

(99)

Eは標準液によって校正されるべき標準電極電位である

56

電極の校正

実際のイオン濃度を測定する場合低濃度標準液と高濃度標準液で得られ

る起電力を測定し計測のイオン濃度に対する係数(傾き)を求めておき未

知の試料に対して起電力を測定してそのイオン濃度を算出する方法が採られる

低濃度標準液と高濃度標準液のそれぞれの濃度をCLとCHとすればそれぞ

れの起電力ELとEHは次式で表される EH = E +β logCH (100)

EL = E +β log CL (101)

ただしβは式(99)の係数を簡略にしたものである

式(100)と(101)から検量線の傾きが次式で表せる

ΔE = EH minus EL = β(logCH minus logCL) = β logCH

CL

(102)

したがって係数βは

β =ΔE

log CH

CL

(103)

であらわされる

このときに使われる標準はすでに前出の pH 第一次標準第二次標準溶液で

ある

金属イオンに対応するイオン選択電極

現在臨床検査で日常的に使われている電解質測定のための電極はナトリウ

ムカリウムカルシウムクロールなどおよそ臨床的に必要な金属イオン

に対して入手可能である

カリウムイオン測定用のバリノマイシンの発見によってクラウンエーテルと

57

呼ばれる一連の化合物が知られたクラウンエーテルはその分子の中心に立

体的な空間を持ち特定のイオン径に対し合致するのでそのイオンに対して

選択的に感応するこれらの化合物はイオノフォアと呼ばれる

図 15クラウンエーテル

1つの金属イオンが環状化合物

15-crown-5 の中央にある空間を充填

している模式図

15-crown-5 の構造を作る10個の黒

い丸は炭素炭素2個のつながりごと

にある中心の白い丸は酸素酸素と

金属イオンの間の距離はおよそ 22~

23Åであるカリウムのファンデン

ワールス半径は 135Åイオン半径は

15~16Åである

測定したいイオンに対しポリ塩化ビニル(PVC)を支持体としてイオノフ

ォアを添加した液膜の電極膜を作成しこれをガラス電極におけるガラス薄膜

と同様試料に接する電極膜として用いるこの構造から一般的に液膜型電極

と呼ばれる電極膜には特異性を高めるため妨害イオン排除剤などが添加

される

pH メーターと同様銀塩化銀標準電極と組み合わせ電池を形成しその

起電力を計る測定したいイオンが液膜に対して内外で平衡に達したときの

膜電位を測定するのはガラス電極と同じである

カ リ ウ ム イ オ ン に は Bis[(benzo-15-crown-5) ( 正 式 名 は

Bis[(benzo-15-crown-5)-4-methyl]pimelate)ナトリウムには Bis[(12-crown-4)

やDibenzyl-bis[(12-crown-4)などがイオノフォアとして用いられる

58

図16カリウムイオン測定用に使われるクラウンエーテル

図17ナトリウムイオン測定用に使われるクラウンエーテル

59

参考イオン選択電極に関する文献Xia Z Badr IHA Plummer SL Cullen L

Bachas LG Synthesis and evaluation of a bis(crown ether) ionophore with a

conformationally constained bridge in ione- selective electrodes Anal Sci 14(2)

169-173 1998 Oh K-C Kang EC Cho YL Jeong K-S Y oo E-A Paeng K-J

Potassium-selective PVC membrane electrodes based on newly synthesized

cis- and trans-bis(crown ether)s ibid 14(10)1009-1012 1998 Dojindo WEB

site httpwwwdojindocojpwwwrootproductsjinfo2protocolp31pdf

<補遺> 60

補遺 状態関数 (本文 p21 10 行目参照)

一つの平衡状態にある系 A とこれに接する系 A にとって外部である系 B について系 B

から系 A に熱を与えこれによって系 A が他の平衡状態に移ったとき系 A はその結果とし

て膨張し系 B に対し仕事をする

このときの微少な熱量の移動を記号drsquoQ またなされた微少な仕事をdrsquoW とすると

系Aの内部エネルギーに関する微少な変化drsquoUA は両者の和として表される

WdQdUd A primeminusprime=prime (a-1)

この式 a-1 と本文中の式25との関係について

WQU A Δminus=Δ 本文(25)

<補遺> 61

式 a-1 と式25の記号の違いは変化の起きる前の平衡状態 S1 から変化後の平衡状態 S2

に状態変化があったとするなら式 a-1 を積分することで式25が得られるものと考えて区

別している

A

S

S A UUd Δ=primeint2

1 (a-2)

このことは重要であるすなわち内部エネルギーU は変化の起きる前後の状態を指定する

ことによって値が定まることを意味するこのように積分によって値を定めることが出来る

のでdrsquoU は完全微分であるという

内部エネルギーのように系の状態だけで値の定まる量を状態関数として扱う

一方式 a-1 のdrsquoQ drsquoW についても同様に微少の変化量を表しているが平衡状態 S1

から S2 への経路を指定しなければ積分の値は定まらない

本文中の記号にしたがって仕事量ΔW を次のように表すことにする

VpW Δ=Δ 本文(20) V

<補遺> 62

体積と圧力の関係を表す図を使ってこの仕事量が意味することを考える圧力 prsquo の下で

体積が V1 であるときを状態 S1 として圧力一定の下で体積を V2 まで膨張させるような変

化を行った後体積を等しく保って圧力を p にまで上げたときの状態を S2 とするこのとき

の仕事量は膨張に伴うものであるから図の体積‐圧力線の下の面積で示すことができる

平衡状態 S1 から S2 への変化の道筋を別にたどってみよう

新しい経路では圧力を先に p まで上げた後に膨張変化させている

図から直感的に明らかであるので数式での扱いを省略するが2 つの経路による仕事量には

差がある

すなわちdrsquoW は drsquoU と異なり変化の初め S1 と終わり S2 の状態が与えられても積分値

は定まらず変化の経路によって違ってくる

このように変化の経路を指定しなければ積分値が定まらないものを不完全微分と呼び扱

いを区別する

本文 p21 へ戻る

<補遺> 63

VpW

WQU

VpQU

VpUQ

1122 SSSS pVUpVUQ

pVU

VpUHHHQ SS 12

エンタルピー (本文 p24 20 行目参照)

本文中の式 20 および 25 から一定の圧力の元で起きる状態変化において内部エネルギー

の変化量に対する式 a-3 を得る

本文(20)

本文(25)

(a-3)

式 a-3 を Q について書き直す

(a-4)

状態の変化が平衡状態S1から平衡状態S2に移ったものとして式 a-4を丁寧に書き直すと

(a-5)

並び替えて

(a-6)

式 a-6 を見ると定圧過程における熱量の流入は

(a-7)

の形を持つ関数の差であることが分かる

一般に化学反応のような変化の過程では大気圧の下で行われるようなものに興味がある

そこで式 a-7 で与えられる項を一つの関数として定義するこれをエンタルピーと呼び記

号 H を与える式 a-4 はエンタルピーの変化量で次のように書き改められる

(a-8)

圧力が一定の下で起こる状態変化について流入する熱量は式 a-8 で示されるようにエンタ

ルピーの変化量に等しい

V

V

V

V V

V

V

1212 SSSS VVpUUQ VV

<補遺> 64

1Q

We

また式 a-8 からオートクレーブ内で起こるような体積変化のない過程ではこの値が内

部エネルギーの変化量で与えられることが明らかである

本文 p24 へ戻る

エントロピー (本文 p26 17 行目参照)

エントロピーは次のような思考実験から発想された仮想的な状態関数である

理想気体よりなる系 A が温度 T2で熱平衡状態にあり温度 T1の外部の熱源と接しているこ

とを想定する系 A の外部を系 B と呼ぶことにするT1は T2に対して無限小だけ高い温度と

する

系 A が系 B に対して温度圧力について平衡を保ちながら緩慢に系 B より熱量 Q1を受け取

る過程を考える(このような過程を準静的過程と呼ぶ)これによって系 A が熱量 Q1を得て膨

張するとき系 B に対して仕事をする続いて系 A から熱量 Q2が系 B に戻ることを考える

想定されるこの変化が可逆的であれば系 A と系 B を併せた全体は元の状態に戻る蒸気機

関に関するこのような研究が Nicolas Carnot によってなされたのは1824 年のことであった

ここに想定されたサイクルに対する Carnot の効率 e は移動した熱量となされた仕事によ

って定義され次の式で表される

(b-1)

<補遺> 65

理想気体では内部エネルギーU の変化ΔU はゼロと考えるしたがって熱力学の第一法

則を表す式(本文中の式25)から次の関係が示される

0=Δminus=Δ WQU

WQ Δ= (b-2)

これによってCarnot Cycleの効率eはQ2lt0 として次のように書き改めることが出来る

1

21

QQQe +

= (b-3)

ところで気体の状態方程式から1 モルの気体について次のような関係が示される

RTV

P

P1=

V = RTV (b-4)

V 式 b-4 の両辺に体積の微少変化量ΔV をかけて

(b-5)

これを体積Vについてその変化をV1からV2までとして積分するならば次式が得られる

VV

RTVP Δ=Δ 1V V

V

intint = 2

1

2

1

1V

V

V

VdV

VRTPdV

1V2V

11 lnRTW =

(b-6)

Q1の熱量によって起こる膨張がV1よりV2までとし圧力P温度T1の下でなされるその仕事

量をW1とするならそれは式b-6 の右辺によって示されるすなわち

(b-7)

VV

1

2lnVVRT=

V V

VV

V

V2int V2 intV1 V1

<補遺> 66

またQ2の熱量の移動が圧力P温度T2の下で起きこれによって系Aが可逆的に圧縮され

るなら体積変化はV2よりV1まで起こりその仕事量をW2で示すと次式のように表される

(b-8)

1

22

2

122 lnln

VVRT

VVRTW minus==VV

VV

Q1=W1Q2=W2の関係から式b-7 およびb-8 を用いてCarnot Cycleの効率eを表す式b-3

を書き改めると温度のみの関係式として次のように表される

1

21

TTTe minus

= (b-9)

ここでサイクルが可逆的過程であると想定するならば式 b-3 と式 b-9 から

1

21

1

21

TTT

QQQe minus

=+

= (b-10)

これから

12112111 QTQTQTQT minus=+ (b-11)

整理すると

02

2

1

1 =+TQ

TQ (b-12)

この考えをさらに発展させ系A

と系Bの間に数多くの系を挿入すること

にしてそれらの系を同様に熱源として

T1T2Tnと考えるこれによっ

て熱の受け渡しが系Aから系Bに至り

再び系Aにもどるサイクル過程に数多

くの寄り道の過程を加えることになる

熱量の移動に関して上の場合と同じく

準静的過程で行われると考えるこの

サイクル全過程について初めと終わ

<補遺> 67

n

i i

i

T

Q

1

0

0T

dQ

T

QS

T

dQASAS )()( 12

りが同じ状態になる可逆的な過程であるなら式 b-12 を拡大的に考えることになってそれ

は次式で表される

(b-13)

式 b-13 には重要な関数が現れるすなわち熱量と温度の比QT である

もし一つの系が無限小だけ温度の高い(dT )外界から温度圧力など平衡を保ちなが

ら極めて緩慢な過程(準静的過程)で無限小の熱量(dQ )を受け取るならばその変化は可

逆的でありdT について連続的な温度分布をする過程を考えるとき式 b-13 をさらに発展

させて次のように積分式で示すことが出来る

(b-14)

式 b-14 で積分記号にが付されているのはCarnot Cycle のような経路を一巡することを

意味している

Carnot の熱機関の効率という着想から生まれた熱量とそれを持つ系の温度との比 QT に

重要な意味を見出したのは Rudolph Clausius で彼はこの比にエントロピーという名前を与

えたエントロピーには記号ΔS を一般に用いる

(b-15)

エントロピーは初めと終わりの状態がわかれば過程に関わらず定まるので状態関数であ

系 A と外界のエントロピー変化を考えるときそれが可逆的過程であるならばすべてを併

せた全体のエントロピー変化は初めと終わりに変化がないという意味でゼロであるすなわ

ち初めの状態を S(A1)とし次の状態を S(A2)とするならそれぞれのエントロピーを

ΔS(A1)ΔS(A2)としてこの間におけるエントロピーの変化量は次のように示される

(b-16)

<補遺> 68

T

dQdS

0T

dQ

ある一つの変化については次のように示される

(b-17)

ここで式 b-17 の S に付けられたdは微分量すなわちごく微小の変化量を意味し式 b-15

で定義されたエントロピーに用いられる一般的な記号Δと区別する

ところで式 b-10 の関係においてもし移動した熱量のすべてが仕事に変わらなければ

効率 e を表す熱量を用いた関係式と温度で表される関係式は等号で結ぶことができないそれ

はエネルギーのロスを意味し初めと終わりの状態が異なってしまうことを意味するすなわ

ち全過程が構成する一つのサイクルは可逆的でなくなる

不可逆過程での熱効率 ersquo は 大値を示す可逆的過程の熱効率 e より小さな値をとる

ee

したがって 大効率を与える式 b-8 と式 b-3 から

01221

2112

1

21

1

21

QTQT

QTQT

Q

QQ

T

TT

両辺を T1T2で割ると

02

2

1

1 T

Q

T

Q

これを式 b12 と同様に発展させれば式 b-14 についてサイクルの変化が可逆的過程の

場合と不可逆的過程の場合の両方を併せClausius の不等式と呼ばれる次の関係が成立する

(b-18)

式 b-18 の等号が成立するのはサイクルが可逆的な理想の場合に限られる

ある孤立系で状態 A1 から状態 A2 へは不可逆変化で進められ状態 A2 から再び状態 A1

に戻るとき可逆変化であるような閉じた状態変化を考える可逆系のエントロピー変化には

記号 Q を使い不可逆変化には Q を用いるとするとそれぞれ積分式を用いて状態 A1 から

状態 A2 へは

<補遺> 69

d prime

状態 A2 から状態 A1 に戻るときは

全体では

=d prime

+d

(b-19)

Clausius の不等式から

0

式(b-19)の第二項で反応を逆に進めるときには次のように書き改めることができる

=d

よって式(b-19)は次のように書き直すことができClausius の不等式とあわせると

d prime d

0

すなわち

d prime d

上式の右辺は式(b-16)を用いて表せば

d prime

∆S ∆

この状態変化を微小変化とするならば断熱変化の場合 dQ = 0 であるから

∆S ∆ dS 0

すなわち不可逆変化を含む断熱変化ではエントロピーは必ず増大する

<補遺> 70

T

QS

BA SSS

(b-20)

(次の<補遺>ギブス自由エネルギーも参照せよ)

本文 p26 へ戻る

ギブス自由エネルギー (本文 p28 27 行目参照)

エントロピーの考えを導入することによって不可逆的に状態変化が起きるときにはエン

トロピーの増大を引き起こすことを知ったこれによって目前で起きる現象について温度の

変化があるものであれないものであれまた圧力の変化があるものであってもエントロピー

の定義式によって可逆的な変化におけるエントロピーの変化量を計算することが可能である

(b-15)

しかしながらこれから起こる変化について我々がすでにあらかじめ知っている物理量を

用いて予測的にその状態変化が起きるかどうか知ることは必ずしも容易ではないその理由

は式 b-15 に示されたエントロピーΔS が系とその外界をあわせた全体のエントロピーを示

しているからであるすなわち関心のある系を系 A としその外界を系 B とすると全体

のエントロピーは次のように表せる

(c-1)

関心のある系 A のエントロピー変化を知るためには系 B のそれを知ればよいがそれは

いつも容易とは限らない系 A の性質だけで状態変化の方向を知るには別の観点が必要にな

るようだ

そこでもう一度状態変化が熱量 Q の移動によって起きることについて考えてみようエン

トロピーの補遺で議論したように熱量の移動が準静的過程により行われるときには変化は可

逆的に起こると考えたこのとき外界すなわち系 B から移動する熱量を Q1とし系 A から

0S

<補遺> 71

21 QQ

T

Q

T

QSB

21

T

QSS A

2

QH

T

HSS AA

AA STHST

のそれを Q2 と記号を当てたのでこれをそのまま使うことにすれば可逆的な過程では系 B

の熱量 Q1 はすなわち系 A から戻る Q2 に他ならないので両者には次の関係が成立するも

のとしてよい

(c-2)

したがって

(c-3)

と考えてよくこれによって式 c-1 を次のように書きなおすことが出来る

(c-4)

独立した系で圧力とその体積に変化がなく一定の条件の下で状態変化が起きるときエン

タルピーの考えを使ってすでにひとつの関係があることを導いている

本文(31)

そこで式 c-4 を系のエンタルピーΔHAによって書き改めれば

(c-5)

この両辺に-T をかけて式を書き直せば次の関係式が得られる

(c-6)

式 c-6 を見るときその右辺がマイナスの値ならば左辺のΔS はプラスの値をとることが

分かるすなわちエントロピーが増大すると見ることが出来るこれまでの過程で自然の現

象はエントロピーが増大する方向に進むとしてきたので関心のある状態変化について式 c-6

の右辺で計算される値がマイナスの値ならばその変化は起きるものと考えてよいことになる

だろうしかも右辺はすべて独立した系の状態量で示されていて我々が知りうる値で計算

<補遺> 72

TSHG

STSTHG

STHG

可能である

そこでこれを熱力学ポテンシャルを表すものとしてギブス自由エネルギーと呼ぶことに

するギブス自由エネルギーは記号 G が用いられ次のように定義される

(c-7)

ここで関心があるのは自由エネルギーの絶対値ではなく式 c-6 に示されたようにその変化量

に興味があるので式 c-7 から

(c-8)

温度が一定の条件の下で状態変化が起きることを考えるなら式 c-8 は次のように書くこと

ができる

(c-9)

ギブス自由エネルギーは式 c-9 の右辺がすべて状態量であるからこれも状態量の一つで

ある定圧定温の条件下で起きる変化ではすでに議論したようにΔGlt0 であれば状態

変化は自発的に起きるものと予測できる

つまり式 c-5 の第一項は系のエントロピーΔSAそのものであり第二項で示されるエンタ

ルピーは系 A の温度が一定に保たれているのであるから発熱する熱量として外界に吸収さ

れるものであってこれは外界のエントロピーの増大につながるものとして解釈されるした

がって化学反応のように一定の圧力と一定の温度の下で起きる変化について自由エネルギ

ー変化量はその状態変化が自発的に起きる傾向を示しているといってよい

本文 p28 へ戻る

  • はじめに
  • 目次
  • 電気エネルギー
    • 金属のイオン化
    • 電池
    • 水素の反応
    • 燃料電池
    • 化学反応と電気エネルギー
      • エネルギーと熱力学
        • エネルギー保存則
        • エンタルピー
        • エントロピー13
        • ギブス自由エネルギー
        • 電池における化学反応のギブス自由エネルギー13
        • 理想気体の状態方程式
        • 理想溶液のギブス自由エネルギー
        • 膜電位
          • 水素イオン濃度測定
            • 化学反応の一般的な式
            • pHの定義とその目盛り
            • pH標準液
            • 銀塩化銀参照電極
            • 実用的なpH測定
            • ガラス電極
            • 電極の校正
            • 金属イオンに対応するイオン選択電極
              • 文献
              • 補遺
                • 状態関数
                • エンタルピー
                • エントロピー
                • ギブス自由エネルギー
Page 44: イオン選択電極i イオン選択電極 Ion Selective Electrode (ISE) を理解する ・ pHを測定する ・ NaやKなどのイオン濃度を測定する 神戸大学医学部保健学科

41

濃度 X モルの塩酸溶液を未知の溶液と想定すればその電極電位を知るために

組み立てる電池は次のようになる図10にその電池の図を示した

Pt(s) | H2(g) | H+ (x moll) Cl- | AgCl | Ag(s)

この電池の全反応は次の反応式で表される

AgCl(s) 1

2H2 (g) H Cl Ag(s) (67)

図10未知溶液の水素イオン濃度を測定しようとするための電池

化学反応の一般的な式

ここで電池に利用される化学反応から得られるエネルギーをギブス自由エ

ネルギーに換算し起電力を具体的に知る手だてとすることは上ですでに学

42

んだがより一般的な式を再度ここに書きだしておこう

化学反応が紙面で左から右に進む反応として次のような一般式で与えられ

るとき

aA + bB rarr cC + dD (68)

ギブス自由エネルギー変化量は標準状態ΔG゜からの変化量を加える形で式

(60)と同様次の式によって表される

G G RT(ln aCc aD

d ln aAa aB

b )

G RT ln

aCc aD

d

aAa aB

b (69)

aAは成分 A のイオン活量であるその他の成分も同じ

得られたエネルギーを電気エネルギーに換えるなら式(41)に習って

次式で表せば

ΔG=-n FV

there4V=-ΔG(nF) (70)

このときの起電力は標準状態における電位 E゜からの変化量として次式で与

えられる

E E

RT

nFln

aCc aD

d

aAa aB

b (71)

標準状態における起電力 E゜は反応が平衡状態にあるときで反応平衡定数

を K とするなら

K aC

c aDd

aAa aB

b (72)

で表されるそこでE゜は次のように書き改めることができる

43

E

RT

nFln K (73)

そこで式(67)で表される図10の電池「水素minus 銀塩化銀電池」に

対する起電力をギブス自由エネルギーから求めてみよう

反応から式(71)に当てはめれば

E E RT

Fln

aH

1 aCl

1 aAg1

aAgCl1 aH2

1

2

(74)

力学の慣例にしたがって固体の純物質の活量は1として扱い水素ガスを

想気体として見なして活量を1atm とするなら式(74)は次のよう

に簡略化される

E E

RT

Flna

H aCl (75)

ころで理想溶液として近似的に取り扱うときの希薄溶液でたとえば水素

入して詳細に検討するなら式( れる起電

オン濃度はイオン活量として aH+の記号を使うときすでに【理想溶液のギ

ブス自由エネルギー】の章で述べたようにこれを有効イオン濃度とする必要

がありイオン活量 a は「活量係数」γを導入して次式で表した

a H+= γH+CH+ (62)

この活量係数を導 75)で誘導さ

を計ることによって経験的に試料溶液中の水素イオン濃度を求めることは

困難である式(75)にあるイオン活量の項はモル濃度 C と活量係数γを

用いて次式で書き改められる

lnaH aCl

lnCH CCl

lnH Cl

(76)

まり式(76)右辺の第二項において互いに相手が知られなければ自分

決めることができず結果的に起電力を知っても(75)の値から水素イオ

ン濃度を導けないここに工夫が必要になる

44

の定義とその目盛り

液中の水素イオン濃度を直接意味するものではなく

を定義するとき測定されるのは1リットルの溶媒に存在す

pH = -log a H+ = -log(γH+CH+) (77)

際に試料溶液の pH を決定する際はpH 標準液を用いる

に溶液を入れ試料溶液 X と pH 標準液 S を

参 極を接続し電池を作成しその起

pH

現在pH の定義は溶

で述べたようにそれが簡便に測定できるものではないため次のように定

義されている

水素イオン濃度

水素イオン活量であるため定義式としては活量係数をγH+として次式で与

えられる

その要領は次のようである

上に図示した水素電極の容器内

れぞれ半電池(I)と(II)に入れる

半電池(I) Pt | H2 (1 atm) | 試料溶液

半電池(II) Pt | H2 (1 atm) | 試料溶液S

照電極として上図のごとく銀塩化銀電

電力を測定する半電池(I)のときの起電力を E(X)半電池(II)のそれを E(S)

とするこのとき試料溶液Xの pH は次式で計算される

pH (X) pH(S) E(S) E(X)

RT ln(10) (78)

ln(10)は自然対数を常用対数に戻すための定数で2303 を用いる

標準液

pH 標準液 S はpH 第一次標準液第二次標準液と呼ばれるべき

る測定

25で pH 4005 を示す

pH

上述した

のであり絶対的測定法である起電力の測定によって値をつける

標準液は安定で純粋な結晶が得られる試薬を調整してこれを測定す

上と同様に水素電極を用いこれに緩衝液を入れる参照電極として銀

塩化銀電極を接続して電池の起電力を測定する

たとえば005 moll フタル酸水素カリウム溶液は

一次標準(Primary Standard PS)の一つである半電池(III)として水素

45

電極を次のように準備する

半電池(III) Pt | H2 (1 atm) | PS 溶液

て電池を形成したとき得られる起電

参照電極として銀塩化銀電極を接続し

は式(75)から

E E

Ag AgCl RT

Flna

H aCl (79)

オン活量を濃度と活量係数の積(a H+= γH+CH+)にし自然対数を常用対数

すれば

E E

Ag AgCl RT ln(10)

F log(

H + CH+ Cl- CCl - ) (80)

E゜は水素標準電極(水素ガス分圧を1atm電極を浸ける溶液に001 moll

H

Cl を用いる)で得た起電力である

式(80)から

RT ln(10)

Flog(

H CH Cl

) (E EAg AgCl )

RT ln(10)

Flog C

Cl

(81)

らに

log(

H CH Cl

) F

RT ln(10)(E E

Ag AgCl ) logCCl

(82)

ころで式(77)から

(γH+CH+) (77)

-log a H+ =-loga H+-log(γCl-) +log(γCl-) =-log(a H+γCl-) +log(γCl-)

(83)の一番右の式で第一項は

pH = -log a H+ = -log

であるが右の式をさらに変形すると

(83)

46

-log(a H+γCl-)=-log(γH+ CH+γCl-) (84)

たがって式(82)の右辺で示されるように電池の起電力を測定すれば

よ 実際には溶液の塩素イオン濃

液で起電力を求め外挿する

起電

これによってpH を意味する式(83)は次式(85)で与えられる

p(aHγCl)はRG Bates によって Acidity Function と呼ばれている

らに式(85)最終項の log(γCl-) を補正しなければならないこの項は

本工業規格)によっても

であってこれは式(82)の左辺である

いただし塩素イオン濃度の項があって

をゼロにしたときの値が必要である

実測する際には塩素イオン濃度をゼロにできないので塩化ナトリウム NaCl

等を濃度を変えて添加しその時々の緩衝

勧告ではNaCl で 000500100015moll の3つの濃度を例示している

すなわち塩素イオン濃度ゼロのときの値は各塩素イオン濃度に対して

の値をそれぞれプロットしグラフから塩素イオンがゼロのときの起電力の

値を3点に対する回帰直線の延長で外挿して求めるこの点を次のように書

log( C H H Cl CCl

0

pa log( C log( (85) H H H Cl C

Cl0 Cl

)

素イオンの活動係数で与えられる補正項である

無限希釈溶液中のイオンの活動係数は理論的に Dubye-Huckel の式を用い

近似的に求めることが可能であるこれはJIS(日

用されていて Bates-Guggenheim の規約と呼ばれる (Bates RG

Guggenheim Pure Appl Chem 1 163-168 1960)

Dubye-Huckel の式は次のように与えられる

log A I

i 1 iB I (86)

47

I iについてそのモル濃度

計算される

はイオン強度でイオン mi と電荷 zi から次式で

I 1

2mizi (87)

また iは(86)式のBは温度と溶媒の性質による定数であり イオンの大

きさに関するパラメータで水和イオンの大きさとほぼ一致した値をとる標

準法の勧告では塩素イオンに対しイオンの大きさを46Åと決めてiBを

1

5 にしているそこで式(84)は次のようになる

ClA I

log 1 15 I

イオン強度 I は塩素イオン濃度を含まない計算となる

以上の方法によって実用的な pH 測定に用いられる第一次第二次標準液の

pH の値が得られる

絶対値としての

はpH の絶対測定法(第一次標準測定法)とされている

銀塩化銀参照電極は分極現象を防ぐために棒状の銀を塩酸で処理し表

に塩化銀を生成させたものを飽和塩化カリウム溶液につけてある

(88)

参考現在は実験的に求めた値と理論値の組み合わせで

素イオン濃度を求める方法を規定しているこの起電力から水素イオン濃度

を知るための測定方法

Buck RP Rondinini S Covington AK Baucke FGK Brett CMA Camoes MF

Milton MJT Mussini T Naumann R Pratt Kw Spitzer P Wilson GS

Measurement of pH definition standards and procedures Pure Appl Chem

74(11)2169-2200 2002Kristensen HB Salomon A Kokholm GInternational

pH scales and certification of pH Anal Chem 63(18) 885A-891A 1991)

銀塩化銀参照電極

電極の構成は

Cl-(aq) | AgCl(s) | Ag(s)

48

この半反応は次のようになる

AgCl(s) + e- rarr Ag(s) + Cl- (89)

の反応は次の2つの反応に分けて考えることができる

Ag+ + e- rarr Ag(s) (91)

AgCl(s)rarr Ag+ + Cl- (90)

図11銀塩化銀参照電極

(90)における銀 る塩素イオンによって左

されることが推測される

そこでカッコ [ ] をそれによって囲まれるイオンの濃度を表すことにし

式 イオン Ag+の溶解性は共存す

塩化銀の乖離定数Kを考えると

49

K = [Ag+][Cl-] (92)

これから

[Ag+]= K[Cl-] (93)

化カリウム溶液に漬けた銀塩化銀電極の電位 E は水素標準電極に対する

電 で与えられる

位を E゜として次式

E E

RT

nF

[ Ag ]

[Ag(s)]ln( )

Ag(s)のイオン活量は常に1とする

ここで半反応の電極電位を求めるために式(75)を利用することにすれば

(94)

熱力学の慣例にしたがって純物質個体

E E

RT

Flna

H Cl a (75)

式 の半反応をみると

応で電子1つが移動するので n=1 とするR=831441 JmolK1F = 96485

C はめれば

これに銀イオンの濃度として式(93)を当てはめる

この反応で移動する電子は (89) 銀イオン1つの反

molT=29815K(25)ln(10)=2303などの定数を当て

2303RTF = 005917

であるから(94)式は次のように表現できる

log[Cl]) E E 005917(logK (95)

たがって標準水素電極に対する銀塩化銀参照電極の標準状態における電

位 は半反応(89)に対して ゜=+0799で

化銀の乖離定数 K は182times10-10 であるのでその対数を取れば-973993

0799-005917times973993-005917log[Cl-]

E゜ E ある

ある

そこで式(95)は

E =

50

= 0799-0576-005917log[Cl-]

= 0223-005917log[Cl-] (96)

電極電位の関係について実測値

こうして求めた塩化カリウム溶液の濃度と

計算上の値は次のようである

KCl moll vs SHE volt25 計算値 volt25 01 02881 02822 35 0205 01908 飽和 0199 minus

実用 測定

実際の現場で水素イオン濃度を測定する目的の測定法で上のような2つの

極が同じ溶液に浸かっていたのでは試料溶液を交換するにも便利ではない

の容器に入れる未知試料溶液と銀塩化銀電極を隔離する

的な pH

そこで水素電極側

的で二つの電極容器をつなぐ液絡部をグラスフィルターやセラミック板

飽和塩化カリウムで作成したゼラチンなどの塩橋によって隔離遮断するこ

れを液絡部とよぶ

電池として機能するために必要な溶液イオンの交換はこの液絡部で行う

組み立てる電池は電池式で次のように表される

Pt(s) | H2 | 試料 (H+ x moll) || 飽和 KCl | AgCl | Ag(s)

の標準電極と銀塩化銀電極とは区切られていて溶液の直接の接触がない

とを意味するために電池式ではタテ二重線を用いる銀塩化銀参照電極

の容器には飽和塩化カリウム溶液が入れられる

51

図12液絡部のある pH 測定のための電池

この液絡部のある電池では塩橋を記号lsquo | | rsquoで表して次のように記す

試料 (H+ x moll) | | 飽和 KCl

ここでは試料溶液と飽和塩化カリウム溶液の異なる2液が接している

このような界面では膜電力が生じるのと同様「液間電位差」が生じることが

知られているしたがって上の電池で測定される起電力 E は

E = E[銀塩化銀電極電位]+E[液間電位]+E[水素電極電位]

で与えられることになってE[液間電位]のために図12の電池の起電力

は銀塩化銀参照電極の値を知っていても水素電極容器内に入れた未知溶

液の水素イオン濃度を正しく知ることができない

52

そこで実用的な測定法としてこの E[液間電位]を膜電位として積極的に利

用する方法が工夫されたすなわち水素イオンに感応するガラス薄膜を用い

るガラス電極法である

53

ガラス電極

ガラスはケイ素原子と酸素原子からなる SiO4 の結晶構造を持ち酸素で囲

まれた空隙があって水素イオンがそれを埋めることができる

この性質によってガラス膜表面は水溶液中の水素イオンに応じて膜電位を

変化させるのでこれを水素イオン濃度測定用の電極として利用することが考

えられるこれが通常用いられるガラス電極である

ガラス電極は標準電極と組み合わせれば電池を構成することができこの電

池の起電力を知ってガラス薄膜の内外にできたイオン濃度勾配を知ろうとす

るものである

薄いガラス膜(01mm程度)をはさんで接する2つの溶液のH+イオン濃

度が異なるとその差に応じてガラス膜の両側に電位差(Eg)が現れる

ネルンストの式でガラス電極の内部に入れた既知の濃度のH+([H+]in)に対

し試料中の水素イオン濃度が[H+]sampleのとき次の電位を生じる

)][

][log(059170)

][

][ln(

sample

in

sample

ing

H

H

H

H

F

RTE

(97)

図13ガラス電極

電極を構成するのは銀塩化銀電極と同じ電極で用いる塩溶液は一般的

54

に 01モル塩酸溶液である

この半電池の電池式は次のように書くことができる

Ag(s) | AgCl(s) | HCl (01 M) | ガラス薄膜 || 試料溶液 H+ (x moll)

Eg

この半電池の電極電圧を測定するために銀塩化銀標準電極と組み合わせ

電池を作って起電力を計る

構成される電池は下図のようになる

ガラス電極 銀塩化銀標準電極

図14ガラス電極を用いた pH 測定用の電池

この電池の起電力は次の各半電池の平衡電位を合わせたものになる

55

E1ガラス電極の内側電位

Ag(s) | AgCl(s) | HCl (01 M)

Egガラス薄膜の内外に生じる膜電位

HCl (01 M) | ガラス薄膜 || 試料溶液 H+ (x moll)

E2液間電位(膜電位)銀塩化銀標準電極のセラミックを介した試料溶液

と銀塩化銀標準電極の内部液(飽和 KCl 溶液)の間に発生する電位

試料溶液 H+ (x moll)|| セラミック | KCl(飽和)

E3銀塩化銀標準電極

KCl(飽和)| AgCl(s) | Ag(s)

pH メーター用のガラス電極に使われるガラス薄膜は水素イオンに感応して

膜電位(Eg)を生じるこれは【膜電位】の章で記したように薄膜がある

一つのイオンのみを通過させる特性を持っている場合にイオンが膜を介した

両側で平衡状態に達したとして電気化学ポテンシャルを膜の両側で等しいと

考えてそのイオンが濃厚な側から希薄な側にその差によって圧力を生じると

するものである

一方同じ試料溶液が銀塩化銀標準電極のセラミック液絡部を介して生じ

るだろう液間電位(膜電位E2)はいま関心がある水素イオンに対して特異

的に感応するのではないので試料溶液の水素イオン濃度に関係なく一定と見

なすことができる

すなわちpH メーターを構成する電池の起電力 E は

E = E1+Eg+E2+E3 (98)

このうちEg以外は一定と見なせるので

E1+E2+E3 = E

として式(98)を書き直すと

)][

][log(059170

sample

ing H

HEEEE

(99)

Eは標準液によって校正されるべき標準電極電位である

56

電極の校正

実際のイオン濃度を測定する場合低濃度標準液と高濃度標準液で得られ

る起電力を測定し計測のイオン濃度に対する係数(傾き)を求めておき未

知の試料に対して起電力を測定してそのイオン濃度を算出する方法が採られる

低濃度標準液と高濃度標準液のそれぞれの濃度をCLとCHとすればそれぞ

れの起電力ELとEHは次式で表される EH = E +β logCH (100)

EL = E +β log CL (101)

ただしβは式(99)の係数を簡略にしたものである

式(100)と(101)から検量線の傾きが次式で表せる

ΔE = EH minus EL = β(logCH minus logCL) = β logCH

CL

(102)

したがって係数βは

β =ΔE

log CH

CL

(103)

であらわされる

このときに使われる標準はすでに前出の pH 第一次標準第二次標準溶液で

ある

金属イオンに対応するイオン選択電極

現在臨床検査で日常的に使われている電解質測定のための電極はナトリウ

ムカリウムカルシウムクロールなどおよそ臨床的に必要な金属イオン

に対して入手可能である

カリウムイオン測定用のバリノマイシンの発見によってクラウンエーテルと

57

呼ばれる一連の化合物が知られたクラウンエーテルはその分子の中心に立

体的な空間を持ち特定のイオン径に対し合致するのでそのイオンに対して

選択的に感応するこれらの化合物はイオノフォアと呼ばれる

図 15クラウンエーテル

1つの金属イオンが環状化合物

15-crown-5 の中央にある空間を充填

している模式図

15-crown-5 の構造を作る10個の黒

い丸は炭素炭素2個のつながりごと

にある中心の白い丸は酸素酸素と

金属イオンの間の距離はおよそ 22~

23Åであるカリウムのファンデン

ワールス半径は 135Åイオン半径は

15~16Åである

測定したいイオンに対しポリ塩化ビニル(PVC)を支持体としてイオノフ

ォアを添加した液膜の電極膜を作成しこれをガラス電極におけるガラス薄膜

と同様試料に接する電極膜として用いるこの構造から一般的に液膜型電極

と呼ばれる電極膜には特異性を高めるため妨害イオン排除剤などが添加

される

pH メーターと同様銀塩化銀標準電極と組み合わせ電池を形成しその

起電力を計る測定したいイオンが液膜に対して内外で平衡に達したときの

膜電位を測定するのはガラス電極と同じである

カ リ ウ ム イ オ ン に は Bis[(benzo-15-crown-5) ( 正 式 名 は

Bis[(benzo-15-crown-5)-4-methyl]pimelate)ナトリウムには Bis[(12-crown-4)

やDibenzyl-bis[(12-crown-4)などがイオノフォアとして用いられる

58

図16カリウムイオン測定用に使われるクラウンエーテル

図17ナトリウムイオン測定用に使われるクラウンエーテル

59

参考イオン選択電極に関する文献Xia Z Badr IHA Plummer SL Cullen L

Bachas LG Synthesis and evaluation of a bis(crown ether) ionophore with a

conformationally constained bridge in ione- selective electrodes Anal Sci 14(2)

169-173 1998 Oh K-C Kang EC Cho YL Jeong K-S Y oo E-A Paeng K-J

Potassium-selective PVC membrane electrodes based on newly synthesized

cis- and trans-bis(crown ether)s ibid 14(10)1009-1012 1998 Dojindo WEB

site httpwwwdojindocojpwwwrootproductsjinfo2protocolp31pdf

<補遺> 60

補遺 状態関数 (本文 p21 10 行目参照)

一つの平衡状態にある系 A とこれに接する系 A にとって外部である系 B について系 B

から系 A に熱を与えこれによって系 A が他の平衡状態に移ったとき系 A はその結果とし

て膨張し系 B に対し仕事をする

このときの微少な熱量の移動を記号drsquoQ またなされた微少な仕事をdrsquoW とすると

系Aの内部エネルギーに関する微少な変化drsquoUA は両者の和として表される

WdQdUd A primeminusprime=prime (a-1)

この式 a-1 と本文中の式25との関係について

WQU A Δminus=Δ 本文(25)

<補遺> 61

式 a-1 と式25の記号の違いは変化の起きる前の平衡状態 S1 から変化後の平衡状態 S2

に状態変化があったとするなら式 a-1 を積分することで式25が得られるものと考えて区

別している

A

S

S A UUd Δ=primeint2

1 (a-2)

このことは重要であるすなわち内部エネルギーU は変化の起きる前後の状態を指定する

ことによって値が定まることを意味するこのように積分によって値を定めることが出来る

のでdrsquoU は完全微分であるという

内部エネルギーのように系の状態だけで値の定まる量を状態関数として扱う

一方式 a-1 のdrsquoQ drsquoW についても同様に微少の変化量を表しているが平衡状態 S1

から S2 への経路を指定しなければ積分の値は定まらない

本文中の記号にしたがって仕事量ΔW を次のように表すことにする

VpW Δ=Δ 本文(20) V

<補遺> 62

体積と圧力の関係を表す図を使ってこの仕事量が意味することを考える圧力 prsquo の下で

体積が V1 であるときを状態 S1 として圧力一定の下で体積を V2 まで膨張させるような変

化を行った後体積を等しく保って圧力を p にまで上げたときの状態を S2 とするこのとき

の仕事量は膨張に伴うものであるから図の体積‐圧力線の下の面積で示すことができる

平衡状態 S1 から S2 への変化の道筋を別にたどってみよう

新しい経路では圧力を先に p まで上げた後に膨張変化させている

図から直感的に明らかであるので数式での扱いを省略するが2 つの経路による仕事量には

差がある

すなわちdrsquoW は drsquoU と異なり変化の初め S1 と終わり S2 の状態が与えられても積分値

は定まらず変化の経路によって違ってくる

このように変化の経路を指定しなければ積分値が定まらないものを不完全微分と呼び扱

いを区別する

本文 p21 へ戻る

<補遺> 63

VpW

WQU

VpQU

VpUQ

1122 SSSS pVUpVUQ

pVU

VpUHHHQ SS 12

エンタルピー (本文 p24 20 行目参照)

本文中の式 20 および 25 から一定の圧力の元で起きる状態変化において内部エネルギー

の変化量に対する式 a-3 を得る

本文(20)

本文(25)

(a-3)

式 a-3 を Q について書き直す

(a-4)

状態の変化が平衡状態S1から平衡状態S2に移ったものとして式 a-4を丁寧に書き直すと

(a-5)

並び替えて

(a-6)

式 a-6 を見ると定圧過程における熱量の流入は

(a-7)

の形を持つ関数の差であることが分かる

一般に化学反応のような変化の過程では大気圧の下で行われるようなものに興味がある

そこで式 a-7 で与えられる項を一つの関数として定義するこれをエンタルピーと呼び記

号 H を与える式 a-4 はエンタルピーの変化量で次のように書き改められる

(a-8)

圧力が一定の下で起こる状態変化について流入する熱量は式 a-8 で示されるようにエンタ

ルピーの変化量に等しい

V

V

V

V V

V

V

1212 SSSS VVpUUQ VV

<補遺> 64

1Q

We

また式 a-8 からオートクレーブ内で起こるような体積変化のない過程ではこの値が内

部エネルギーの変化量で与えられることが明らかである

本文 p24 へ戻る

エントロピー (本文 p26 17 行目参照)

エントロピーは次のような思考実験から発想された仮想的な状態関数である

理想気体よりなる系 A が温度 T2で熱平衡状態にあり温度 T1の外部の熱源と接しているこ

とを想定する系 A の外部を系 B と呼ぶことにするT1は T2に対して無限小だけ高い温度と

する

系 A が系 B に対して温度圧力について平衡を保ちながら緩慢に系 B より熱量 Q1を受け取

る過程を考える(このような過程を準静的過程と呼ぶ)これによって系 A が熱量 Q1を得て膨

張するとき系 B に対して仕事をする続いて系 A から熱量 Q2が系 B に戻ることを考える

想定されるこの変化が可逆的であれば系 A と系 B を併せた全体は元の状態に戻る蒸気機

関に関するこのような研究が Nicolas Carnot によってなされたのは1824 年のことであった

ここに想定されたサイクルに対する Carnot の効率 e は移動した熱量となされた仕事によ

って定義され次の式で表される

(b-1)

<補遺> 65

理想気体では内部エネルギーU の変化ΔU はゼロと考えるしたがって熱力学の第一法

則を表す式(本文中の式25)から次の関係が示される

0=Δminus=Δ WQU

WQ Δ= (b-2)

これによってCarnot Cycleの効率eはQ2lt0 として次のように書き改めることが出来る

1

21

QQQe +

= (b-3)

ところで気体の状態方程式から1 モルの気体について次のような関係が示される

RTV

P

P1=

V = RTV (b-4)

V 式 b-4 の両辺に体積の微少変化量ΔV をかけて

(b-5)

これを体積Vについてその変化をV1からV2までとして積分するならば次式が得られる

VV

RTVP Δ=Δ 1V V

V

intint = 2

1

2

1

1V

V

V

VdV

VRTPdV

1V2V

11 lnRTW =

(b-6)

Q1の熱量によって起こる膨張がV1よりV2までとし圧力P温度T1の下でなされるその仕事

量をW1とするならそれは式b-6 の右辺によって示されるすなわち

(b-7)

VV

1

2lnVVRT=

V V

VV

V

V2int V2 intV1 V1

<補遺> 66

またQ2の熱量の移動が圧力P温度T2の下で起きこれによって系Aが可逆的に圧縮され

るなら体積変化はV2よりV1まで起こりその仕事量をW2で示すと次式のように表される

(b-8)

1

22

2

122 lnln

VVRT

VVRTW minus==VV

VV

Q1=W1Q2=W2の関係から式b-7 およびb-8 を用いてCarnot Cycleの効率eを表す式b-3

を書き改めると温度のみの関係式として次のように表される

1

21

TTTe minus

= (b-9)

ここでサイクルが可逆的過程であると想定するならば式 b-3 と式 b-9 から

1

21

1

21

TTT

QQQe minus

=+

= (b-10)

これから

12112111 QTQTQTQT minus=+ (b-11)

整理すると

02

2

1

1 =+TQ

TQ (b-12)

この考えをさらに発展させ系A

と系Bの間に数多くの系を挿入すること

にしてそれらの系を同様に熱源として

T1T2Tnと考えるこれによっ

て熱の受け渡しが系Aから系Bに至り

再び系Aにもどるサイクル過程に数多

くの寄り道の過程を加えることになる

熱量の移動に関して上の場合と同じく

準静的過程で行われると考えるこの

サイクル全過程について初めと終わ

<補遺> 67

n

i i

i

T

Q

1

0

0T

dQ

T

QS

T

dQASAS )()( 12

りが同じ状態になる可逆的な過程であるなら式 b-12 を拡大的に考えることになってそれ

は次式で表される

(b-13)

式 b-13 には重要な関数が現れるすなわち熱量と温度の比QT である

もし一つの系が無限小だけ温度の高い(dT )外界から温度圧力など平衡を保ちなが

ら極めて緩慢な過程(準静的過程)で無限小の熱量(dQ )を受け取るならばその変化は可

逆的でありdT について連続的な温度分布をする過程を考えるとき式 b-13 をさらに発展

させて次のように積分式で示すことが出来る

(b-14)

式 b-14 で積分記号にが付されているのはCarnot Cycle のような経路を一巡することを

意味している

Carnot の熱機関の効率という着想から生まれた熱量とそれを持つ系の温度との比 QT に

重要な意味を見出したのは Rudolph Clausius で彼はこの比にエントロピーという名前を与

えたエントロピーには記号ΔS を一般に用いる

(b-15)

エントロピーは初めと終わりの状態がわかれば過程に関わらず定まるので状態関数であ

系 A と外界のエントロピー変化を考えるときそれが可逆的過程であるならばすべてを併

せた全体のエントロピー変化は初めと終わりに変化がないという意味でゼロであるすなわ

ち初めの状態を S(A1)とし次の状態を S(A2)とするならそれぞれのエントロピーを

ΔS(A1)ΔS(A2)としてこの間におけるエントロピーの変化量は次のように示される

(b-16)

<補遺> 68

T

dQdS

0T

dQ

ある一つの変化については次のように示される

(b-17)

ここで式 b-17 の S に付けられたdは微分量すなわちごく微小の変化量を意味し式 b-15

で定義されたエントロピーに用いられる一般的な記号Δと区別する

ところで式 b-10 の関係においてもし移動した熱量のすべてが仕事に変わらなければ

効率 e を表す熱量を用いた関係式と温度で表される関係式は等号で結ぶことができないそれ

はエネルギーのロスを意味し初めと終わりの状態が異なってしまうことを意味するすなわ

ち全過程が構成する一つのサイクルは可逆的でなくなる

不可逆過程での熱効率 ersquo は 大値を示す可逆的過程の熱効率 e より小さな値をとる

ee

したがって 大効率を与える式 b-8 と式 b-3 から

01221

2112

1

21

1

21

QTQT

QTQT

Q

QQ

T

TT

両辺を T1T2で割ると

02

2

1

1 T

Q

T

Q

これを式 b12 と同様に発展させれば式 b-14 についてサイクルの変化が可逆的過程の

場合と不可逆的過程の場合の両方を併せClausius の不等式と呼ばれる次の関係が成立する

(b-18)

式 b-18 の等号が成立するのはサイクルが可逆的な理想の場合に限られる

ある孤立系で状態 A1 から状態 A2 へは不可逆変化で進められ状態 A2 から再び状態 A1

に戻るとき可逆変化であるような閉じた状態変化を考える可逆系のエントロピー変化には

記号 Q を使い不可逆変化には Q を用いるとするとそれぞれ積分式を用いて状態 A1 から

状態 A2 へは

<補遺> 69

d prime

状態 A2 から状態 A1 に戻るときは

全体では

=d prime

+d

(b-19)

Clausius の不等式から

0

式(b-19)の第二項で反応を逆に進めるときには次のように書き改めることができる

=d

よって式(b-19)は次のように書き直すことができClausius の不等式とあわせると

d prime d

0

すなわち

d prime d

上式の右辺は式(b-16)を用いて表せば

d prime

∆S ∆

この状態変化を微小変化とするならば断熱変化の場合 dQ = 0 であるから

∆S ∆ dS 0

すなわち不可逆変化を含む断熱変化ではエントロピーは必ず増大する

<補遺> 70

T

QS

BA SSS

(b-20)

(次の<補遺>ギブス自由エネルギーも参照せよ)

本文 p26 へ戻る

ギブス自由エネルギー (本文 p28 27 行目参照)

エントロピーの考えを導入することによって不可逆的に状態変化が起きるときにはエン

トロピーの増大を引き起こすことを知ったこれによって目前で起きる現象について温度の

変化があるものであれないものであれまた圧力の変化があるものであってもエントロピー

の定義式によって可逆的な変化におけるエントロピーの変化量を計算することが可能である

(b-15)

しかしながらこれから起こる変化について我々がすでにあらかじめ知っている物理量を

用いて予測的にその状態変化が起きるかどうか知ることは必ずしも容易ではないその理由

は式 b-15 に示されたエントロピーΔS が系とその外界をあわせた全体のエントロピーを示

しているからであるすなわち関心のある系を系 A としその外界を系 B とすると全体

のエントロピーは次のように表せる

(c-1)

関心のある系 A のエントロピー変化を知るためには系 B のそれを知ればよいがそれは

いつも容易とは限らない系 A の性質だけで状態変化の方向を知るには別の観点が必要にな

るようだ

そこでもう一度状態変化が熱量 Q の移動によって起きることについて考えてみようエン

トロピーの補遺で議論したように熱量の移動が準静的過程により行われるときには変化は可

逆的に起こると考えたこのとき外界すなわち系 B から移動する熱量を Q1とし系 A から

0S

<補遺> 71

21 QQ

T

Q

T

QSB

21

T

QSS A

2

QH

T

HSS AA

AA STHST

のそれを Q2 と記号を当てたのでこれをそのまま使うことにすれば可逆的な過程では系 B

の熱量 Q1 はすなわち系 A から戻る Q2 に他ならないので両者には次の関係が成立するも

のとしてよい

(c-2)

したがって

(c-3)

と考えてよくこれによって式 c-1 を次のように書きなおすことが出来る

(c-4)

独立した系で圧力とその体積に変化がなく一定の条件の下で状態変化が起きるときエン

タルピーの考えを使ってすでにひとつの関係があることを導いている

本文(31)

そこで式 c-4 を系のエンタルピーΔHAによって書き改めれば

(c-5)

この両辺に-T をかけて式を書き直せば次の関係式が得られる

(c-6)

式 c-6 を見るときその右辺がマイナスの値ならば左辺のΔS はプラスの値をとることが

分かるすなわちエントロピーが増大すると見ることが出来るこれまでの過程で自然の現

象はエントロピーが増大する方向に進むとしてきたので関心のある状態変化について式 c-6

の右辺で計算される値がマイナスの値ならばその変化は起きるものと考えてよいことになる

だろうしかも右辺はすべて独立した系の状態量で示されていて我々が知りうる値で計算

<補遺> 72

TSHG

STSTHG

STHG

可能である

そこでこれを熱力学ポテンシャルを表すものとしてギブス自由エネルギーと呼ぶことに

するギブス自由エネルギーは記号 G が用いられ次のように定義される

(c-7)

ここで関心があるのは自由エネルギーの絶対値ではなく式 c-6 に示されたようにその変化量

に興味があるので式 c-7 から

(c-8)

温度が一定の条件の下で状態変化が起きることを考えるなら式 c-8 は次のように書くこと

ができる

(c-9)

ギブス自由エネルギーは式 c-9 の右辺がすべて状態量であるからこれも状態量の一つで

ある定圧定温の条件下で起きる変化ではすでに議論したようにΔGlt0 であれば状態

変化は自発的に起きるものと予測できる

つまり式 c-5 の第一項は系のエントロピーΔSAそのものであり第二項で示されるエンタ

ルピーは系 A の温度が一定に保たれているのであるから発熱する熱量として外界に吸収さ

れるものであってこれは外界のエントロピーの増大につながるものとして解釈されるした

がって化学反応のように一定の圧力と一定の温度の下で起きる変化について自由エネルギ

ー変化量はその状態変化が自発的に起きる傾向を示しているといってよい

本文 p28 へ戻る

  • はじめに
  • 目次
  • 電気エネルギー
    • 金属のイオン化
    • 電池
    • 水素の反応
    • 燃料電池
    • 化学反応と電気エネルギー
      • エネルギーと熱力学
        • エネルギー保存則
        • エンタルピー
        • エントロピー13
        • ギブス自由エネルギー
        • 電池における化学反応のギブス自由エネルギー13
        • 理想気体の状態方程式
        • 理想溶液のギブス自由エネルギー
        • 膜電位
          • 水素イオン濃度測定
            • 化学反応の一般的な式
            • pHの定義とその目盛り
            • pH標準液
            • 銀塩化銀参照電極
            • 実用的なpH測定
            • ガラス電極
            • 電極の校正
            • 金属イオンに対応するイオン選択電極
              • 文献
              • 補遺
                • 状態関数
                • エンタルピー
                • エントロピー
                • ギブス自由エネルギー
Page 45: イオン選択電極i イオン選択電極 Ion Selective Electrode (ISE) を理解する ・ pHを測定する ・ NaやKなどのイオン濃度を測定する 神戸大学医学部保健学科

42

んだがより一般的な式を再度ここに書きだしておこう

化学反応が紙面で左から右に進む反応として次のような一般式で与えられ

るとき

aA + bB rarr cC + dD (68)

ギブス自由エネルギー変化量は標準状態ΔG゜からの変化量を加える形で式

(60)と同様次の式によって表される

G G RT(ln aCc aD

d ln aAa aB

b )

G RT ln

aCc aD

d

aAa aB

b (69)

aAは成分 A のイオン活量であるその他の成分も同じ

得られたエネルギーを電気エネルギーに換えるなら式(41)に習って

次式で表せば

ΔG=-n FV

there4V=-ΔG(nF) (70)

このときの起電力は標準状態における電位 E゜からの変化量として次式で与

えられる

E E

RT

nFln

aCc aD

d

aAa aB

b (71)

標準状態における起電力 E゜は反応が平衡状態にあるときで反応平衡定数

を K とするなら

K aC

c aDd

aAa aB

b (72)

で表されるそこでE゜は次のように書き改めることができる

43

E

RT

nFln K (73)

そこで式(67)で表される図10の電池「水素minus 銀塩化銀電池」に

対する起電力をギブス自由エネルギーから求めてみよう

反応から式(71)に当てはめれば

E E RT

Fln

aH

1 aCl

1 aAg1

aAgCl1 aH2

1

2

(74)

力学の慣例にしたがって固体の純物質の活量は1として扱い水素ガスを

想気体として見なして活量を1atm とするなら式(74)は次のよう

に簡略化される

E E

RT

Flna

H aCl (75)

ころで理想溶液として近似的に取り扱うときの希薄溶液でたとえば水素

入して詳細に検討するなら式( れる起電

オン濃度はイオン活量として aH+の記号を使うときすでに【理想溶液のギ

ブス自由エネルギー】の章で述べたようにこれを有効イオン濃度とする必要

がありイオン活量 a は「活量係数」γを導入して次式で表した

a H+= γH+CH+ (62)

この活量係数を導 75)で誘導さ

を計ることによって経験的に試料溶液中の水素イオン濃度を求めることは

困難である式(75)にあるイオン活量の項はモル濃度 C と活量係数γを

用いて次式で書き改められる

lnaH aCl

lnCH CCl

lnH Cl

(76)

まり式(76)右辺の第二項において互いに相手が知られなければ自分

決めることができず結果的に起電力を知っても(75)の値から水素イオ

ン濃度を導けないここに工夫が必要になる

44

の定義とその目盛り

液中の水素イオン濃度を直接意味するものではなく

を定義するとき測定されるのは1リットルの溶媒に存在す

pH = -log a H+ = -log(γH+CH+) (77)

際に試料溶液の pH を決定する際はpH 標準液を用いる

に溶液を入れ試料溶液 X と pH 標準液 S を

参 極を接続し電池を作成しその起

pH

現在pH の定義は溶

で述べたようにそれが簡便に測定できるものではないため次のように定

義されている

水素イオン濃度

水素イオン活量であるため定義式としては活量係数をγH+として次式で与

えられる

その要領は次のようである

上に図示した水素電極の容器内

れぞれ半電池(I)と(II)に入れる

半電池(I) Pt | H2 (1 atm) | 試料溶液

半電池(II) Pt | H2 (1 atm) | 試料溶液S

照電極として上図のごとく銀塩化銀電

電力を測定する半電池(I)のときの起電力を E(X)半電池(II)のそれを E(S)

とするこのとき試料溶液Xの pH は次式で計算される

pH (X) pH(S) E(S) E(X)

RT ln(10) (78)

ln(10)は自然対数を常用対数に戻すための定数で2303 を用いる

標準液

pH 標準液 S はpH 第一次標準液第二次標準液と呼ばれるべき

る測定

25で pH 4005 を示す

pH

上述した

のであり絶対的測定法である起電力の測定によって値をつける

標準液は安定で純粋な結晶が得られる試薬を調整してこれを測定す

上と同様に水素電極を用いこれに緩衝液を入れる参照電極として銀

塩化銀電極を接続して電池の起電力を測定する

たとえば005 moll フタル酸水素カリウム溶液は

一次標準(Primary Standard PS)の一つである半電池(III)として水素

45

電極を次のように準備する

半電池(III) Pt | H2 (1 atm) | PS 溶液

て電池を形成したとき得られる起電

参照電極として銀塩化銀電極を接続し

は式(75)から

E E

Ag AgCl RT

Flna

H aCl (79)

オン活量を濃度と活量係数の積(a H+= γH+CH+)にし自然対数を常用対数

すれば

E E

Ag AgCl RT ln(10)

F log(

H + CH+ Cl- CCl - ) (80)

E゜は水素標準電極(水素ガス分圧を1atm電極を浸ける溶液に001 moll

H

Cl を用いる)で得た起電力である

式(80)から

RT ln(10)

Flog(

H CH Cl

) (E EAg AgCl )

RT ln(10)

Flog C

Cl

(81)

らに

log(

H CH Cl

) F

RT ln(10)(E E

Ag AgCl ) logCCl

(82)

ころで式(77)から

(γH+CH+) (77)

-log a H+ =-loga H+-log(γCl-) +log(γCl-) =-log(a H+γCl-) +log(γCl-)

(83)の一番右の式で第一項は

pH = -log a H+ = -log

であるが右の式をさらに変形すると

(83)

46

-log(a H+γCl-)=-log(γH+ CH+γCl-) (84)

たがって式(82)の右辺で示されるように電池の起電力を測定すれば

よ 実際には溶液の塩素イオン濃

液で起電力を求め外挿する

起電

これによってpH を意味する式(83)は次式(85)で与えられる

p(aHγCl)はRG Bates によって Acidity Function と呼ばれている

らに式(85)最終項の log(γCl-) を補正しなければならないこの項は

本工業規格)によっても

であってこれは式(82)の左辺である

いただし塩素イオン濃度の項があって

をゼロにしたときの値が必要である

実測する際には塩素イオン濃度をゼロにできないので塩化ナトリウム NaCl

等を濃度を変えて添加しその時々の緩衝

勧告ではNaCl で 000500100015moll の3つの濃度を例示している

すなわち塩素イオン濃度ゼロのときの値は各塩素イオン濃度に対して

の値をそれぞれプロットしグラフから塩素イオンがゼロのときの起電力の

値を3点に対する回帰直線の延長で外挿して求めるこの点を次のように書

log( C H H Cl CCl

0

pa log( C log( (85) H H H Cl C

Cl0 Cl

)

素イオンの活動係数で与えられる補正項である

無限希釈溶液中のイオンの活動係数は理論的に Dubye-Huckel の式を用い

近似的に求めることが可能であるこれはJIS(日

用されていて Bates-Guggenheim の規約と呼ばれる (Bates RG

Guggenheim Pure Appl Chem 1 163-168 1960)

Dubye-Huckel の式は次のように与えられる

log A I

i 1 iB I (86)

47

I iについてそのモル濃度

計算される

はイオン強度でイオン mi と電荷 zi から次式で

I 1

2mizi (87)

また iは(86)式のBは温度と溶媒の性質による定数であり イオンの大

きさに関するパラメータで水和イオンの大きさとほぼ一致した値をとる標

準法の勧告では塩素イオンに対しイオンの大きさを46Åと決めてiBを

1

5 にしているそこで式(84)は次のようになる

ClA I

log 1 15 I

イオン強度 I は塩素イオン濃度を含まない計算となる

以上の方法によって実用的な pH 測定に用いられる第一次第二次標準液の

pH の値が得られる

絶対値としての

はpH の絶対測定法(第一次標準測定法)とされている

銀塩化銀参照電極は分極現象を防ぐために棒状の銀を塩酸で処理し表

に塩化銀を生成させたものを飽和塩化カリウム溶液につけてある

(88)

参考現在は実験的に求めた値と理論値の組み合わせで

素イオン濃度を求める方法を規定しているこの起電力から水素イオン濃度

を知るための測定方法

Buck RP Rondinini S Covington AK Baucke FGK Brett CMA Camoes MF

Milton MJT Mussini T Naumann R Pratt Kw Spitzer P Wilson GS

Measurement of pH definition standards and procedures Pure Appl Chem

74(11)2169-2200 2002Kristensen HB Salomon A Kokholm GInternational

pH scales and certification of pH Anal Chem 63(18) 885A-891A 1991)

銀塩化銀参照電極

電極の構成は

Cl-(aq) | AgCl(s) | Ag(s)

48

この半反応は次のようになる

AgCl(s) + e- rarr Ag(s) + Cl- (89)

の反応は次の2つの反応に分けて考えることができる

Ag+ + e- rarr Ag(s) (91)

AgCl(s)rarr Ag+ + Cl- (90)

図11銀塩化銀参照電極

(90)における銀 る塩素イオンによって左

されることが推測される

そこでカッコ [ ] をそれによって囲まれるイオンの濃度を表すことにし

式 イオン Ag+の溶解性は共存す

塩化銀の乖離定数Kを考えると

49

K = [Ag+][Cl-] (92)

これから

[Ag+]= K[Cl-] (93)

化カリウム溶液に漬けた銀塩化銀電極の電位 E は水素標準電極に対する

電 で与えられる

位を E゜として次式

E E

RT

nF

[ Ag ]

[Ag(s)]ln( )

Ag(s)のイオン活量は常に1とする

ここで半反応の電極電位を求めるために式(75)を利用することにすれば

(94)

熱力学の慣例にしたがって純物質個体

E E

RT

Flna

H Cl a (75)

式 の半反応をみると

応で電子1つが移動するので n=1 とするR=831441 JmolK1F = 96485

C はめれば

これに銀イオンの濃度として式(93)を当てはめる

この反応で移動する電子は (89) 銀イオン1つの反

molT=29815K(25)ln(10)=2303などの定数を当て

2303RTF = 005917

であるから(94)式は次のように表現できる

log[Cl]) E E 005917(logK (95)

たがって標準水素電極に対する銀塩化銀参照電極の標準状態における電

位 は半反応(89)に対して ゜=+0799で

化銀の乖離定数 K は182times10-10 であるのでその対数を取れば-973993

0799-005917times973993-005917log[Cl-]

E゜ E ある

ある

そこで式(95)は

E =

50

= 0799-0576-005917log[Cl-]

= 0223-005917log[Cl-] (96)

電極電位の関係について実測値

こうして求めた塩化カリウム溶液の濃度と

計算上の値は次のようである

KCl moll vs SHE volt25 計算値 volt25 01 02881 02822 35 0205 01908 飽和 0199 minus

実用 測定

実際の現場で水素イオン濃度を測定する目的の測定法で上のような2つの

極が同じ溶液に浸かっていたのでは試料溶液を交換するにも便利ではない

の容器に入れる未知試料溶液と銀塩化銀電極を隔離する

的な pH

そこで水素電極側

的で二つの電極容器をつなぐ液絡部をグラスフィルターやセラミック板

飽和塩化カリウムで作成したゼラチンなどの塩橋によって隔離遮断するこ

れを液絡部とよぶ

電池として機能するために必要な溶液イオンの交換はこの液絡部で行う

組み立てる電池は電池式で次のように表される

Pt(s) | H2 | 試料 (H+ x moll) || 飽和 KCl | AgCl | Ag(s)

の標準電極と銀塩化銀電極とは区切られていて溶液の直接の接触がない

とを意味するために電池式ではタテ二重線を用いる銀塩化銀参照電極

の容器には飽和塩化カリウム溶液が入れられる

51

図12液絡部のある pH 測定のための電池

この液絡部のある電池では塩橋を記号lsquo | | rsquoで表して次のように記す

試料 (H+ x moll) | | 飽和 KCl

ここでは試料溶液と飽和塩化カリウム溶液の異なる2液が接している

このような界面では膜電力が生じるのと同様「液間電位差」が生じることが

知られているしたがって上の電池で測定される起電力 E は

E = E[銀塩化銀電極電位]+E[液間電位]+E[水素電極電位]

で与えられることになってE[液間電位]のために図12の電池の起電力

は銀塩化銀参照電極の値を知っていても水素電極容器内に入れた未知溶

液の水素イオン濃度を正しく知ることができない

52

そこで実用的な測定法としてこの E[液間電位]を膜電位として積極的に利

用する方法が工夫されたすなわち水素イオンに感応するガラス薄膜を用い

るガラス電極法である

53

ガラス電極

ガラスはケイ素原子と酸素原子からなる SiO4 の結晶構造を持ち酸素で囲

まれた空隙があって水素イオンがそれを埋めることができる

この性質によってガラス膜表面は水溶液中の水素イオンに応じて膜電位を

変化させるのでこれを水素イオン濃度測定用の電極として利用することが考

えられるこれが通常用いられるガラス電極である

ガラス電極は標準電極と組み合わせれば電池を構成することができこの電

池の起電力を知ってガラス薄膜の内外にできたイオン濃度勾配を知ろうとす

るものである

薄いガラス膜(01mm程度)をはさんで接する2つの溶液のH+イオン濃

度が異なるとその差に応じてガラス膜の両側に電位差(Eg)が現れる

ネルンストの式でガラス電極の内部に入れた既知の濃度のH+([H+]in)に対

し試料中の水素イオン濃度が[H+]sampleのとき次の電位を生じる

)][

][log(059170)

][

][ln(

sample

in

sample

ing

H

H

H

H

F

RTE

(97)

図13ガラス電極

電極を構成するのは銀塩化銀電極と同じ電極で用いる塩溶液は一般的

54

に 01モル塩酸溶液である

この半電池の電池式は次のように書くことができる

Ag(s) | AgCl(s) | HCl (01 M) | ガラス薄膜 || 試料溶液 H+ (x moll)

Eg

この半電池の電極電圧を測定するために銀塩化銀標準電極と組み合わせ

電池を作って起電力を計る

構成される電池は下図のようになる

ガラス電極 銀塩化銀標準電極

図14ガラス電極を用いた pH 測定用の電池

この電池の起電力は次の各半電池の平衡電位を合わせたものになる

55

E1ガラス電極の内側電位

Ag(s) | AgCl(s) | HCl (01 M)

Egガラス薄膜の内外に生じる膜電位

HCl (01 M) | ガラス薄膜 || 試料溶液 H+ (x moll)

E2液間電位(膜電位)銀塩化銀標準電極のセラミックを介した試料溶液

と銀塩化銀標準電極の内部液(飽和 KCl 溶液)の間に発生する電位

試料溶液 H+ (x moll)|| セラミック | KCl(飽和)

E3銀塩化銀標準電極

KCl(飽和)| AgCl(s) | Ag(s)

pH メーター用のガラス電極に使われるガラス薄膜は水素イオンに感応して

膜電位(Eg)を生じるこれは【膜電位】の章で記したように薄膜がある

一つのイオンのみを通過させる特性を持っている場合にイオンが膜を介した

両側で平衡状態に達したとして電気化学ポテンシャルを膜の両側で等しいと

考えてそのイオンが濃厚な側から希薄な側にその差によって圧力を生じると

するものである

一方同じ試料溶液が銀塩化銀標準電極のセラミック液絡部を介して生じ

るだろう液間電位(膜電位E2)はいま関心がある水素イオンに対して特異

的に感応するのではないので試料溶液の水素イオン濃度に関係なく一定と見

なすことができる

すなわちpH メーターを構成する電池の起電力 E は

E = E1+Eg+E2+E3 (98)

このうちEg以外は一定と見なせるので

E1+E2+E3 = E

として式(98)を書き直すと

)][

][log(059170

sample

ing H

HEEEE

(99)

Eは標準液によって校正されるべき標準電極電位である

56

電極の校正

実際のイオン濃度を測定する場合低濃度標準液と高濃度標準液で得られ

る起電力を測定し計測のイオン濃度に対する係数(傾き)を求めておき未

知の試料に対して起電力を測定してそのイオン濃度を算出する方法が採られる

低濃度標準液と高濃度標準液のそれぞれの濃度をCLとCHとすればそれぞ

れの起電力ELとEHは次式で表される EH = E +β logCH (100)

EL = E +β log CL (101)

ただしβは式(99)の係数を簡略にしたものである

式(100)と(101)から検量線の傾きが次式で表せる

ΔE = EH minus EL = β(logCH minus logCL) = β logCH

CL

(102)

したがって係数βは

β =ΔE

log CH

CL

(103)

であらわされる

このときに使われる標準はすでに前出の pH 第一次標準第二次標準溶液で

ある

金属イオンに対応するイオン選択電極

現在臨床検査で日常的に使われている電解質測定のための電極はナトリウ

ムカリウムカルシウムクロールなどおよそ臨床的に必要な金属イオン

に対して入手可能である

カリウムイオン測定用のバリノマイシンの発見によってクラウンエーテルと

57

呼ばれる一連の化合物が知られたクラウンエーテルはその分子の中心に立

体的な空間を持ち特定のイオン径に対し合致するのでそのイオンに対して

選択的に感応するこれらの化合物はイオノフォアと呼ばれる

図 15クラウンエーテル

1つの金属イオンが環状化合物

15-crown-5 の中央にある空間を充填

している模式図

15-crown-5 の構造を作る10個の黒

い丸は炭素炭素2個のつながりごと

にある中心の白い丸は酸素酸素と

金属イオンの間の距離はおよそ 22~

23Åであるカリウムのファンデン

ワールス半径は 135Åイオン半径は

15~16Åである

測定したいイオンに対しポリ塩化ビニル(PVC)を支持体としてイオノフ

ォアを添加した液膜の電極膜を作成しこれをガラス電極におけるガラス薄膜

と同様試料に接する電極膜として用いるこの構造から一般的に液膜型電極

と呼ばれる電極膜には特異性を高めるため妨害イオン排除剤などが添加

される

pH メーターと同様銀塩化銀標準電極と組み合わせ電池を形成しその

起電力を計る測定したいイオンが液膜に対して内外で平衡に達したときの

膜電位を測定するのはガラス電極と同じである

カ リ ウ ム イ オ ン に は Bis[(benzo-15-crown-5) ( 正 式 名 は

Bis[(benzo-15-crown-5)-4-methyl]pimelate)ナトリウムには Bis[(12-crown-4)

やDibenzyl-bis[(12-crown-4)などがイオノフォアとして用いられる

58

図16カリウムイオン測定用に使われるクラウンエーテル

図17ナトリウムイオン測定用に使われるクラウンエーテル

59

参考イオン選択電極に関する文献Xia Z Badr IHA Plummer SL Cullen L

Bachas LG Synthesis and evaluation of a bis(crown ether) ionophore with a

conformationally constained bridge in ione- selective electrodes Anal Sci 14(2)

169-173 1998 Oh K-C Kang EC Cho YL Jeong K-S Y oo E-A Paeng K-J

Potassium-selective PVC membrane electrodes based on newly synthesized

cis- and trans-bis(crown ether)s ibid 14(10)1009-1012 1998 Dojindo WEB

site httpwwwdojindocojpwwwrootproductsjinfo2protocolp31pdf

<補遺> 60

補遺 状態関数 (本文 p21 10 行目参照)

一つの平衡状態にある系 A とこれに接する系 A にとって外部である系 B について系 B

から系 A に熱を与えこれによって系 A が他の平衡状態に移ったとき系 A はその結果とし

て膨張し系 B に対し仕事をする

このときの微少な熱量の移動を記号drsquoQ またなされた微少な仕事をdrsquoW とすると

系Aの内部エネルギーに関する微少な変化drsquoUA は両者の和として表される

WdQdUd A primeminusprime=prime (a-1)

この式 a-1 と本文中の式25との関係について

WQU A Δminus=Δ 本文(25)

<補遺> 61

式 a-1 と式25の記号の違いは変化の起きる前の平衡状態 S1 から変化後の平衡状態 S2

に状態変化があったとするなら式 a-1 を積分することで式25が得られるものと考えて区

別している

A

S

S A UUd Δ=primeint2

1 (a-2)

このことは重要であるすなわち内部エネルギーU は変化の起きる前後の状態を指定する

ことによって値が定まることを意味するこのように積分によって値を定めることが出来る

のでdrsquoU は完全微分であるという

内部エネルギーのように系の状態だけで値の定まる量を状態関数として扱う

一方式 a-1 のdrsquoQ drsquoW についても同様に微少の変化量を表しているが平衡状態 S1

から S2 への経路を指定しなければ積分の値は定まらない

本文中の記号にしたがって仕事量ΔW を次のように表すことにする

VpW Δ=Δ 本文(20) V

<補遺> 62

体積と圧力の関係を表す図を使ってこの仕事量が意味することを考える圧力 prsquo の下で

体積が V1 であるときを状態 S1 として圧力一定の下で体積を V2 まで膨張させるような変

化を行った後体積を等しく保って圧力を p にまで上げたときの状態を S2 とするこのとき

の仕事量は膨張に伴うものであるから図の体積‐圧力線の下の面積で示すことができる

平衡状態 S1 から S2 への変化の道筋を別にたどってみよう

新しい経路では圧力を先に p まで上げた後に膨張変化させている

図から直感的に明らかであるので数式での扱いを省略するが2 つの経路による仕事量には

差がある

すなわちdrsquoW は drsquoU と異なり変化の初め S1 と終わり S2 の状態が与えられても積分値

は定まらず変化の経路によって違ってくる

このように変化の経路を指定しなければ積分値が定まらないものを不完全微分と呼び扱

いを区別する

本文 p21 へ戻る

<補遺> 63

VpW

WQU

VpQU

VpUQ

1122 SSSS pVUpVUQ

pVU

VpUHHHQ SS 12

エンタルピー (本文 p24 20 行目参照)

本文中の式 20 および 25 から一定の圧力の元で起きる状態変化において内部エネルギー

の変化量に対する式 a-3 を得る

本文(20)

本文(25)

(a-3)

式 a-3 を Q について書き直す

(a-4)

状態の変化が平衡状態S1から平衡状態S2に移ったものとして式 a-4を丁寧に書き直すと

(a-5)

並び替えて

(a-6)

式 a-6 を見ると定圧過程における熱量の流入は

(a-7)

の形を持つ関数の差であることが分かる

一般に化学反応のような変化の過程では大気圧の下で行われるようなものに興味がある

そこで式 a-7 で与えられる項を一つの関数として定義するこれをエンタルピーと呼び記

号 H を与える式 a-4 はエンタルピーの変化量で次のように書き改められる

(a-8)

圧力が一定の下で起こる状態変化について流入する熱量は式 a-8 で示されるようにエンタ

ルピーの変化量に等しい

V

V

V

V V

V

V

1212 SSSS VVpUUQ VV

<補遺> 64

1Q

We

また式 a-8 からオートクレーブ内で起こるような体積変化のない過程ではこの値が内

部エネルギーの変化量で与えられることが明らかである

本文 p24 へ戻る

エントロピー (本文 p26 17 行目参照)

エントロピーは次のような思考実験から発想された仮想的な状態関数である

理想気体よりなる系 A が温度 T2で熱平衡状態にあり温度 T1の外部の熱源と接しているこ

とを想定する系 A の外部を系 B と呼ぶことにするT1は T2に対して無限小だけ高い温度と

する

系 A が系 B に対して温度圧力について平衡を保ちながら緩慢に系 B より熱量 Q1を受け取

る過程を考える(このような過程を準静的過程と呼ぶ)これによって系 A が熱量 Q1を得て膨

張するとき系 B に対して仕事をする続いて系 A から熱量 Q2が系 B に戻ることを考える

想定されるこの変化が可逆的であれば系 A と系 B を併せた全体は元の状態に戻る蒸気機

関に関するこのような研究が Nicolas Carnot によってなされたのは1824 年のことであった

ここに想定されたサイクルに対する Carnot の効率 e は移動した熱量となされた仕事によ

って定義され次の式で表される

(b-1)

<補遺> 65

理想気体では内部エネルギーU の変化ΔU はゼロと考えるしたがって熱力学の第一法

則を表す式(本文中の式25)から次の関係が示される

0=Δminus=Δ WQU

WQ Δ= (b-2)

これによってCarnot Cycleの効率eはQ2lt0 として次のように書き改めることが出来る

1

21

QQQe +

= (b-3)

ところで気体の状態方程式から1 モルの気体について次のような関係が示される

RTV

P

P1=

V = RTV (b-4)

V 式 b-4 の両辺に体積の微少変化量ΔV をかけて

(b-5)

これを体積Vについてその変化をV1からV2までとして積分するならば次式が得られる

VV

RTVP Δ=Δ 1V V

V

intint = 2

1

2

1

1V

V

V

VdV

VRTPdV

1V2V

11 lnRTW =

(b-6)

Q1の熱量によって起こる膨張がV1よりV2までとし圧力P温度T1の下でなされるその仕事

量をW1とするならそれは式b-6 の右辺によって示されるすなわち

(b-7)

VV

1

2lnVVRT=

V V

VV

V

V2int V2 intV1 V1

<補遺> 66

またQ2の熱量の移動が圧力P温度T2の下で起きこれによって系Aが可逆的に圧縮され

るなら体積変化はV2よりV1まで起こりその仕事量をW2で示すと次式のように表される

(b-8)

1

22

2

122 lnln

VVRT

VVRTW minus==VV

VV

Q1=W1Q2=W2の関係から式b-7 およびb-8 を用いてCarnot Cycleの効率eを表す式b-3

を書き改めると温度のみの関係式として次のように表される

1

21

TTTe minus

= (b-9)

ここでサイクルが可逆的過程であると想定するならば式 b-3 と式 b-9 から

1

21

1

21

TTT

QQQe minus

=+

= (b-10)

これから

12112111 QTQTQTQT minus=+ (b-11)

整理すると

02

2

1

1 =+TQ

TQ (b-12)

この考えをさらに発展させ系A

と系Bの間に数多くの系を挿入すること

にしてそれらの系を同様に熱源として

T1T2Tnと考えるこれによっ

て熱の受け渡しが系Aから系Bに至り

再び系Aにもどるサイクル過程に数多

くの寄り道の過程を加えることになる

熱量の移動に関して上の場合と同じく

準静的過程で行われると考えるこの

サイクル全過程について初めと終わ

<補遺> 67

n

i i

i

T

Q

1

0

0T

dQ

T

QS

T

dQASAS )()( 12

りが同じ状態になる可逆的な過程であるなら式 b-12 を拡大的に考えることになってそれ

は次式で表される

(b-13)

式 b-13 には重要な関数が現れるすなわち熱量と温度の比QT である

もし一つの系が無限小だけ温度の高い(dT )外界から温度圧力など平衡を保ちなが

ら極めて緩慢な過程(準静的過程)で無限小の熱量(dQ )を受け取るならばその変化は可

逆的でありdT について連続的な温度分布をする過程を考えるとき式 b-13 をさらに発展

させて次のように積分式で示すことが出来る

(b-14)

式 b-14 で積分記号にが付されているのはCarnot Cycle のような経路を一巡することを

意味している

Carnot の熱機関の効率という着想から生まれた熱量とそれを持つ系の温度との比 QT に

重要な意味を見出したのは Rudolph Clausius で彼はこの比にエントロピーという名前を与

えたエントロピーには記号ΔS を一般に用いる

(b-15)

エントロピーは初めと終わりの状態がわかれば過程に関わらず定まるので状態関数であ

系 A と外界のエントロピー変化を考えるときそれが可逆的過程であるならばすべてを併

せた全体のエントロピー変化は初めと終わりに変化がないという意味でゼロであるすなわ

ち初めの状態を S(A1)とし次の状態を S(A2)とするならそれぞれのエントロピーを

ΔS(A1)ΔS(A2)としてこの間におけるエントロピーの変化量は次のように示される

(b-16)

<補遺> 68

T

dQdS

0T

dQ

ある一つの変化については次のように示される

(b-17)

ここで式 b-17 の S に付けられたdは微分量すなわちごく微小の変化量を意味し式 b-15

で定義されたエントロピーに用いられる一般的な記号Δと区別する

ところで式 b-10 の関係においてもし移動した熱量のすべてが仕事に変わらなければ

効率 e を表す熱量を用いた関係式と温度で表される関係式は等号で結ぶことができないそれ

はエネルギーのロスを意味し初めと終わりの状態が異なってしまうことを意味するすなわ

ち全過程が構成する一つのサイクルは可逆的でなくなる

不可逆過程での熱効率 ersquo は 大値を示す可逆的過程の熱効率 e より小さな値をとる

ee

したがって 大効率を与える式 b-8 と式 b-3 から

01221

2112

1

21

1

21

QTQT

QTQT

Q

QQ

T

TT

両辺を T1T2で割ると

02

2

1

1 T

Q

T

Q

これを式 b12 と同様に発展させれば式 b-14 についてサイクルの変化が可逆的過程の

場合と不可逆的過程の場合の両方を併せClausius の不等式と呼ばれる次の関係が成立する

(b-18)

式 b-18 の等号が成立するのはサイクルが可逆的な理想の場合に限られる

ある孤立系で状態 A1 から状態 A2 へは不可逆変化で進められ状態 A2 から再び状態 A1

に戻るとき可逆変化であるような閉じた状態変化を考える可逆系のエントロピー変化には

記号 Q を使い不可逆変化には Q を用いるとするとそれぞれ積分式を用いて状態 A1 から

状態 A2 へは

<補遺> 69

d prime

状態 A2 から状態 A1 に戻るときは

全体では

=d prime

+d

(b-19)

Clausius の不等式から

0

式(b-19)の第二項で反応を逆に進めるときには次のように書き改めることができる

=d

よって式(b-19)は次のように書き直すことができClausius の不等式とあわせると

d prime d

0

すなわち

d prime d

上式の右辺は式(b-16)を用いて表せば

d prime

∆S ∆

この状態変化を微小変化とするならば断熱変化の場合 dQ = 0 であるから

∆S ∆ dS 0

すなわち不可逆変化を含む断熱変化ではエントロピーは必ず増大する

<補遺> 70

T

QS

BA SSS

(b-20)

(次の<補遺>ギブス自由エネルギーも参照せよ)

本文 p26 へ戻る

ギブス自由エネルギー (本文 p28 27 行目参照)

エントロピーの考えを導入することによって不可逆的に状態変化が起きるときにはエン

トロピーの増大を引き起こすことを知ったこれによって目前で起きる現象について温度の

変化があるものであれないものであれまた圧力の変化があるものであってもエントロピー

の定義式によって可逆的な変化におけるエントロピーの変化量を計算することが可能である

(b-15)

しかしながらこれから起こる変化について我々がすでにあらかじめ知っている物理量を

用いて予測的にその状態変化が起きるかどうか知ることは必ずしも容易ではないその理由

は式 b-15 に示されたエントロピーΔS が系とその外界をあわせた全体のエントロピーを示

しているからであるすなわち関心のある系を系 A としその外界を系 B とすると全体

のエントロピーは次のように表せる

(c-1)

関心のある系 A のエントロピー変化を知るためには系 B のそれを知ればよいがそれは

いつも容易とは限らない系 A の性質だけで状態変化の方向を知るには別の観点が必要にな

るようだ

そこでもう一度状態変化が熱量 Q の移動によって起きることについて考えてみようエン

トロピーの補遺で議論したように熱量の移動が準静的過程により行われるときには変化は可

逆的に起こると考えたこのとき外界すなわち系 B から移動する熱量を Q1とし系 A から

0S

<補遺> 71

21 QQ

T

Q

T

QSB

21

T

QSS A

2

QH

T

HSS AA

AA STHST

のそれを Q2 と記号を当てたのでこれをそのまま使うことにすれば可逆的な過程では系 B

の熱量 Q1 はすなわち系 A から戻る Q2 に他ならないので両者には次の関係が成立するも

のとしてよい

(c-2)

したがって

(c-3)

と考えてよくこれによって式 c-1 を次のように書きなおすことが出来る

(c-4)

独立した系で圧力とその体積に変化がなく一定の条件の下で状態変化が起きるときエン

タルピーの考えを使ってすでにひとつの関係があることを導いている

本文(31)

そこで式 c-4 を系のエンタルピーΔHAによって書き改めれば

(c-5)

この両辺に-T をかけて式を書き直せば次の関係式が得られる

(c-6)

式 c-6 を見るときその右辺がマイナスの値ならば左辺のΔS はプラスの値をとることが

分かるすなわちエントロピーが増大すると見ることが出来るこれまでの過程で自然の現

象はエントロピーが増大する方向に進むとしてきたので関心のある状態変化について式 c-6

の右辺で計算される値がマイナスの値ならばその変化は起きるものと考えてよいことになる

だろうしかも右辺はすべて独立した系の状態量で示されていて我々が知りうる値で計算

<補遺> 72

TSHG

STSTHG

STHG

可能である

そこでこれを熱力学ポテンシャルを表すものとしてギブス自由エネルギーと呼ぶことに

するギブス自由エネルギーは記号 G が用いられ次のように定義される

(c-7)

ここで関心があるのは自由エネルギーの絶対値ではなく式 c-6 に示されたようにその変化量

に興味があるので式 c-7 から

(c-8)

温度が一定の条件の下で状態変化が起きることを考えるなら式 c-8 は次のように書くこと

ができる

(c-9)

ギブス自由エネルギーは式 c-9 の右辺がすべて状態量であるからこれも状態量の一つで

ある定圧定温の条件下で起きる変化ではすでに議論したようにΔGlt0 であれば状態

変化は自発的に起きるものと予測できる

つまり式 c-5 の第一項は系のエントロピーΔSAそのものであり第二項で示されるエンタ

ルピーは系 A の温度が一定に保たれているのであるから発熱する熱量として外界に吸収さ

れるものであってこれは外界のエントロピーの増大につながるものとして解釈されるした

がって化学反応のように一定の圧力と一定の温度の下で起きる変化について自由エネルギ

ー変化量はその状態変化が自発的に起きる傾向を示しているといってよい

本文 p28 へ戻る

  • はじめに
  • 目次
  • 電気エネルギー
    • 金属のイオン化
    • 電池
    • 水素の反応
    • 燃料電池
    • 化学反応と電気エネルギー
      • エネルギーと熱力学
        • エネルギー保存則
        • エンタルピー
        • エントロピー13
        • ギブス自由エネルギー
        • 電池における化学反応のギブス自由エネルギー13
        • 理想気体の状態方程式
        • 理想溶液のギブス自由エネルギー
        • 膜電位
          • 水素イオン濃度測定
            • 化学反応の一般的な式
            • pHの定義とその目盛り
            • pH標準液
            • 銀塩化銀参照電極
            • 実用的なpH測定
            • ガラス電極
            • 電極の校正
            • 金属イオンに対応するイオン選択電極
              • 文献
              • 補遺
                • 状態関数
                • エンタルピー
                • エントロピー
                • ギブス自由エネルギー
Page 46: イオン選択電極i イオン選択電極 Ion Selective Electrode (ISE) を理解する ・ pHを測定する ・ NaやKなどのイオン濃度を測定する 神戸大学医学部保健学科

43

E

RT

nFln K (73)

そこで式(67)で表される図10の電池「水素minus 銀塩化銀電池」に

対する起電力をギブス自由エネルギーから求めてみよう

反応から式(71)に当てはめれば

E E RT

Fln

aH

1 aCl

1 aAg1

aAgCl1 aH2

1

2

(74)

力学の慣例にしたがって固体の純物質の活量は1として扱い水素ガスを

想気体として見なして活量を1atm とするなら式(74)は次のよう

に簡略化される

E E

RT

Flna

H aCl (75)

ころで理想溶液として近似的に取り扱うときの希薄溶液でたとえば水素

入して詳細に検討するなら式( れる起電

オン濃度はイオン活量として aH+の記号を使うときすでに【理想溶液のギ

ブス自由エネルギー】の章で述べたようにこれを有効イオン濃度とする必要

がありイオン活量 a は「活量係数」γを導入して次式で表した

a H+= γH+CH+ (62)

この活量係数を導 75)で誘導さ

を計ることによって経験的に試料溶液中の水素イオン濃度を求めることは

困難である式(75)にあるイオン活量の項はモル濃度 C と活量係数γを

用いて次式で書き改められる

lnaH aCl

lnCH CCl

lnH Cl

(76)

まり式(76)右辺の第二項において互いに相手が知られなければ自分

決めることができず結果的に起電力を知っても(75)の値から水素イオ

ン濃度を導けないここに工夫が必要になる

44

の定義とその目盛り

液中の水素イオン濃度を直接意味するものではなく

を定義するとき測定されるのは1リットルの溶媒に存在す

pH = -log a H+ = -log(γH+CH+) (77)

際に試料溶液の pH を決定する際はpH 標準液を用いる

に溶液を入れ試料溶液 X と pH 標準液 S を

参 極を接続し電池を作成しその起

pH

現在pH の定義は溶

で述べたようにそれが簡便に測定できるものではないため次のように定

義されている

水素イオン濃度

水素イオン活量であるため定義式としては活量係数をγH+として次式で与

えられる

その要領は次のようである

上に図示した水素電極の容器内

れぞれ半電池(I)と(II)に入れる

半電池(I) Pt | H2 (1 atm) | 試料溶液

半電池(II) Pt | H2 (1 atm) | 試料溶液S

照電極として上図のごとく銀塩化銀電

電力を測定する半電池(I)のときの起電力を E(X)半電池(II)のそれを E(S)

とするこのとき試料溶液Xの pH は次式で計算される

pH (X) pH(S) E(S) E(X)

RT ln(10) (78)

ln(10)は自然対数を常用対数に戻すための定数で2303 を用いる

標準液

pH 標準液 S はpH 第一次標準液第二次標準液と呼ばれるべき

る測定

25で pH 4005 を示す

pH

上述した

のであり絶対的測定法である起電力の測定によって値をつける

標準液は安定で純粋な結晶が得られる試薬を調整してこれを測定す

上と同様に水素電極を用いこれに緩衝液を入れる参照電極として銀

塩化銀電極を接続して電池の起電力を測定する

たとえば005 moll フタル酸水素カリウム溶液は

一次標準(Primary Standard PS)の一つである半電池(III)として水素

45

電極を次のように準備する

半電池(III) Pt | H2 (1 atm) | PS 溶液

て電池を形成したとき得られる起電

参照電極として銀塩化銀電極を接続し

は式(75)から

E E

Ag AgCl RT

Flna

H aCl (79)

オン活量を濃度と活量係数の積(a H+= γH+CH+)にし自然対数を常用対数

すれば

E E

Ag AgCl RT ln(10)

F log(

H + CH+ Cl- CCl - ) (80)

E゜は水素標準電極(水素ガス分圧を1atm電極を浸ける溶液に001 moll

H

Cl を用いる)で得た起電力である

式(80)から

RT ln(10)

Flog(

H CH Cl

) (E EAg AgCl )

RT ln(10)

Flog C

Cl

(81)

らに

log(

H CH Cl

) F

RT ln(10)(E E

Ag AgCl ) logCCl

(82)

ころで式(77)から

(γH+CH+) (77)

-log a H+ =-loga H+-log(γCl-) +log(γCl-) =-log(a H+γCl-) +log(γCl-)

(83)の一番右の式で第一項は

pH = -log a H+ = -log

であるが右の式をさらに変形すると

(83)

46

-log(a H+γCl-)=-log(γH+ CH+γCl-) (84)

たがって式(82)の右辺で示されるように電池の起電力を測定すれば

よ 実際には溶液の塩素イオン濃

液で起電力を求め外挿する

起電

これによってpH を意味する式(83)は次式(85)で与えられる

p(aHγCl)はRG Bates によって Acidity Function と呼ばれている

らに式(85)最終項の log(γCl-) を補正しなければならないこの項は

本工業規格)によっても

であってこれは式(82)の左辺である

いただし塩素イオン濃度の項があって

をゼロにしたときの値が必要である

実測する際には塩素イオン濃度をゼロにできないので塩化ナトリウム NaCl

等を濃度を変えて添加しその時々の緩衝

勧告ではNaCl で 000500100015moll の3つの濃度を例示している

すなわち塩素イオン濃度ゼロのときの値は各塩素イオン濃度に対して

の値をそれぞれプロットしグラフから塩素イオンがゼロのときの起電力の

値を3点に対する回帰直線の延長で外挿して求めるこの点を次のように書

log( C H H Cl CCl

0

pa log( C log( (85) H H H Cl C

Cl0 Cl

)

素イオンの活動係数で与えられる補正項である

無限希釈溶液中のイオンの活動係数は理論的に Dubye-Huckel の式を用い

近似的に求めることが可能であるこれはJIS(日

用されていて Bates-Guggenheim の規約と呼ばれる (Bates RG

Guggenheim Pure Appl Chem 1 163-168 1960)

Dubye-Huckel の式は次のように与えられる

log A I

i 1 iB I (86)

47

I iについてそのモル濃度

計算される

はイオン強度でイオン mi と電荷 zi から次式で

I 1

2mizi (87)

また iは(86)式のBは温度と溶媒の性質による定数であり イオンの大

きさに関するパラメータで水和イオンの大きさとほぼ一致した値をとる標

準法の勧告では塩素イオンに対しイオンの大きさを46Åと決めてiBを

1

5 にしているそこで式(84)は次のようになる

ClA I

log 1 15 I

イオン強度 I は塩素イオン濃度を含まない計算となる

以上の方法によって実用的な pH 測定に用いられる第一次第二次標準液の

pH の値が得られる

絶対値としての

はpH の絶対測定法(第一次標準測定法)とされている

銀塩化銀参照電極は分極現象を防ぐために棒状の銀を塩酸で処理し表

に塩化銀を生成させたものを飽和塩化カリウム溶液につけてある

(88)

参考現在は実験的に求めた値と理論値の組み合わせで

素イオン濃度を求める方法を規定しているこの起電力から水素イオン濃度

を知るための測定方法

Buck RP Rondinini S Covington AK Baucke FGK Brett CMA Camoes MF

Milton MJT Mussini T Naumann R Pratt Kw Spitzer P Wilson GS

Measurement of pH definition standards and procedures Pure Appl Chem

74(11)2169-2200 2002Kristensen HB Salomon A Kokholm GInternational

pH scales and certification of pH Anal Chem 63(18) 885A-891A 1991)

銀塩化銀参照電極

電極の構成は

Cl-(aq) | AgCl(s) | Ag(s)

48

この半反応は次のようになる

AgCl(s) + e- rarr Ag(s) + Cl- (89)

の反応は次の2つの反応に分けて考えることができる

Ag+ + e- rarr Ag(s) (91)

AgCl(s)rarr Ag+ + Cl- (90)

図11銀塩化銀参照電極

(90)における銀 る塩素イオンによって左

されることが推測される

そこでカッコ [ ] をそれによって囲まれるイオンの濃度を表すことにし

式 イオン Ag+の溶解性は共存す

塩化銀の乖離定数Kを考えると

49

K = [Ag+][Cl-] (92)

これから

[Ag+]= K[Cl-] (93)

化カリウム溶液に漬けた銀塩化銀電極の電位 E は水素標準電極に対する

電 で与えられる

位を E゜として次式

E E

RT

nF

[ Ag ]

[Ag(s)]ln( )

Ag(s)のイオン活量は常に1とする

ここで半反応の電極電位を求めるために式(75)を利用することにすれば

(94)

熱力学の慣例にしたがって純物質個体

E E

RT

Flna

H Cl a (75)

式 の半反応をみると

応で電子1つが移動するので n=1 とするR=831441 JmolK1F = 96485

C はめれば

これに銀イオンの濃度として式(93)を当てはめる

この反応で移動する電子は (89) 銀イオン1つの反

molT=29815K(25)ln(10)=2303などの定数を当て

2303RTF = 005917

であるから(94)式は次のように表現できる

log[Cl]) E E 005917(logK (95)

たがって標準水素電極に対する銀塩化銀参照電極の標準状態における電

位 は半反応(89)に対して ゜=+0799で

化銀の乖離定数 K は182times10-10 であるのでその対数を取れば-973993

0799-005917times973993-005917log[Cl-]

E゜ E ある

ある

そこで式(95)は

E =

50

= 0799-0576-005917log[Cl-]

= 0223-005917log[Cl-] (96)

電極電位の関係について実測値

こうして求めた塩化カリウム溶液の濃度と

計算上の値は次のようである

KCl moll vs SHE volt25 計算値 volt25 01 02881 02822 35 0205 01908 飽和 0199 minus

実用 測定

実際の現場で水素イオン濃度を測定する目的の測定法で上のような2つの

極が同じ溶液に浸かっていたのでは試料溶液を交換するにも便利ではない

の容器に入れる未知試料溶液と銀塩化銀電極を隔離する

的な pH

そこで水素電極側

的で二つの電極容器をつなぐ液絡部をグラスフィルターやセラミック板

飽和塩化カリウムで作成したゼラチンなどの塩橋によって隔離遮断するこ

れを液絡部とよぶ

電池として機能するために必要な溶液イオンの交換はこの液絡部で行う

組み立てる電池は電池式で次のように表される

Pt(s) | H2 | 試料 (H+ x moll) || 飽和 KCl | AgCl | Ag(s)

の標準電極と銀塩化銀電極とは区切られていて溶液の直接の接触がない

とを意味するために電池式ではタテ二重線を用いる銀塩化銀参照電極

の容器には飽和塩化カリウム溶液が入れられる

51

図12液絡部のある pH 測定のための電池

この液絡部のある電池では塩橋を記号lsquo | | rsquoで表して次のように記す

試料 (H+ x moll) | | 飽和 KCl

ここでは試料溶液と飽和塩化カリウム溶液の異なる2液が接している

このような界面では膜電力が生じるのと同様「液間電位差」が生じることが

知られているしたがって上の電池で測定される起電力 E は

E = E[銀塩化銀電極電位]+E[液間電位]+E[水素電極電位]

で与えられることになってE[液間電位]のために図12の電池の起電力

は銀塩化銀参照電極の値を知っていても水素電極容器内に入れた未知溶

液の水素イオン濃度を正しく知ることができない

52

そこで実用的な測定法としてこの E[液間電位]を膜電位として積極的に利

用する方法が工夫されたすなわち水素イオンに感応するガラス薄膜を用い

るガラス電極法である

53

ガラス電極

ガラスはケイ素原子と酸素原子からなる SiO4 の結晶構造を持ち酸素で囲

まれた空隙があって水素イオンがそれを埋めることができる

この性質によってガラス膜表面は水溶液中の水素イオンに応じて膜電位を

変化させるのでこれを水素イオン濃度測定用の電極として利用することが考

えられるこれが通常用いられるガラス電極である

ガラス電極は標準電極と組み合わせれば電池を構成することができこの電

池の起電力を知ってガラス薄膜の内外にできたイオン濃度勾配を知ろうとす

るものである

薄いガラス膜(01mm程度)をはさんで接する2つの溶液のH+イオン濃

度が異なるとその差に応じてガラス膜の両側に電位差(Eg)が現れる

ネルンストの式でガラス電極の内部に入れた既知の濃度のH+([H+]in)に対

し試料中の水素イオン濃度が[H+]sampleのとき次の電位を生じる

)][

][log(059170)

][

][ln(

sample

in

sample

ing

H

H

H

H

F

RTE

(97)

図13ガラス電極

電極を構成するのは銀塩化銀電極と同じ電極で用いる塩溶液は一般的

54

に 01モル塩酸溶液である

この半電池の電池式は次のように書くことができる

Ag(s) | AgCl(s) | HCl (01 M) | ガラス薄膜 || 試料溶液 H+ (x moll)

Eg

この半電池の電極電圧を測定するために銀塩化銀標準電極と組み合わせ

電池を作って起電力を計る

構成される電池は下図のようになる

ガラス電極 銀塩化銀標準電極

図14ガラス電極を用いた pH 測定用の電池

この電池の起電力は次の各半電池の平衡電位を合わせたものになる

55

E1ガラス電極の内側電位

Ag(s) | AgCl(s) | HCl (01 M)

Egガラス薄膜の内外に生じる膜電位

HCl (01 M) | ガラス薄膜 || 試料溶液 H+ (x moll)

E2液間電位(膜電位)銀塩化銀標準電極のセラミックを介した試料溶液

と銀塩化銀標準電極の内部液(飽和 KCl 溶液)の間に発生する電位

試料溶液 H+ (x moll)|| セラミック | KCl(飽和)

E3銀塩化銀標準電極

KCl(飽和)| AgCl(s) | Ag(s)

pH メーター用のガラス電極に使われるガラス薄膜は水素イオンに感応して

膜電位(Eg)を生じるこれは【膜電位】の章で記したように薄膜がある

一つのイオンのみを通過させる特性を持っている場合にイオンが膜を介した

両側で平衡状態に達したとして電気化学ポテンシャルを膜の両側で等しいと

考えてそのイオンが濃厚な側から希薄な側にその差によって圧力を生じると

するものである

一方同じ試料溶液が銀塩化銀標準電極のセラミック液絡部を介して生じ

るだろう液間電位(膜電位E2)はいま関心がある水素イオンに対して特異

的に感応するのではないので試料溶液の水素イオン濃度に関係なく一定と見

なすことができる

すなわちpH メーターを構成する電池の起電力 E は

E = E1+Eg+E2+E3 (98)

このうちEg以外は一定と見なせるので

E1+E2+E3 = E

として式(98)を書き直すと

)][

][log(059170

sample

ing H

HEEEE

(99)

Eは標準液によって校正されるべき標準電極電位である

56

電極の校正

実際のイオン濃度を測定する場合低濃度標準液と高濃度標準液で得られ

る起電力を測定し計測のイオン濃度に対する係数(傾き)を求めておき未

知の試料に対して起電力を測定してそのイオン濃度を算出する方法が採られる

低濃度標準液と高濃度標準液のそれぞれの濃度をCLとCHとすればそれぞ

れの起電力ELとEHは次式で表される EH = E +β logCH (100)

EL = E +β log CL (101)

ただしβは式(99)の係数を簡略にしたものである

式(100)と(101)から検量線の傾きが次式で表せる

ΔE = EH minus EL = β(logCH minus logCL) = β logCH

CL

(102)

したがって係数βは

β =ΔE

log CH

CL

(103)

であらわされる

このときに使われる標準はすでに前出の pH 第一次標準第二次標準溶液で

ある

金属イオンに対応するイオン選択電極

現在臨床検査で日常的に使われている電解質測定のための電極はナトリウ

ムカリウムカルシウムクロールなどおよそ臨床的に必要な金属イオン

に対して入手可能である

カリウムイオン測定用のバリノマイシンの発見によってクラウンエーテルと

57

呼ばれる一連の化合物が知られたクラウンエーテルはその分子の中心に立

体的な空間を持ち特定のイオン径に対し合致するのでそのイオンに対して

選択的に感応するこれらの化合物はイオノフォアと呼ばれる

図 15クラウンエーテル

1つの金属イオンが環状化合物

15-crown-5 の中央にある空間を充填

している模式図

15-crown-5 の構造を作る10個の黒

い丸は炭素炭素2個のつながりごと

にある中心の白い丸は酸素酸素と

金属イオンの間の距離はおよそ 22~

23Åであるカリウムのファンデン

ワールス半径は 135Åイオン半径は

15~16Åである

測定したいイオンに対しポリ塩化ビニル(PVC)を支持体としてイオノフ

ォアを添加した液膜の電極膜を作成しこれをガラス電極におけるガラス薄膜

と同様試料に接する電極膜として用いるこの構造から一般的に液膜型電極

と呼ばれる電極膜には特異性を高めるため妨害イオン排除剤などが添加

される

pH メーターと同様銀塩化銀標準電極と組み合わせ電池を形成しその

起電力を計る測定したいイオンが液膜に対して内外で平衡に達したときの

膜電位を測定するのはガラス電極と同じである

カ リ ウ ム イ オ ン に は Bis[(benzo-15-crown-5) ( 正 式 名 は

Bis[(benzo-15-crown-5)-4-methyl]pimelate)ナトリウムには Bis[(12-crown-4)

やDibenzyl-bis[(12-crown-4)などがイオノフォアとして用いられる

58

図16カリウムイオン測定用に使われるクラウンエーテル

図17ナトリウムイオン測定用に使われるクラウンエーテル

59

参考イオン選択電極に関する文献Xia Z Badr IHA Plummer SL Cullen L

Bachas LG Synthesis and evaluation of a bis(crown ether) ionophore with a

conformationally constained bridge in ione- selective electrodes Anal Sci 14(2)

169-173 1998 Oh K-C Kang EC Cho YL Jeong K-S Y oo E-A Paeng K-J

Potassium-selective PVC membrane electrodes based on newly synthesized

cis- and trans-bis(crown ether)s ibid 14(10)1009-1012 1998 Dojindo WEB

site httpwwwdojindocojpwwwrootproductsjinfo2protocolp31pdf

<補遺> 60

補遺 状態関数 (本文 p21 10 行目参照)

一つの平衡状態にある系 A とこれに接する系 A にとって外部である系 B について系 B

から系 A に熱を与えこれによって系 A が他の平衡状態に移ったとき系 A はその結果とし

て膨張し系 B に対し仕事をする

このときの微少な熱量の移動を記号drsquoQ またなされた微少な仕事をdrsquoW とすると

系Aの内部エネルギーに関する微少な変化drsquoUA は両者の和として表される

WdQdUd A primeminusprime=prime (a-1)

この式 a-1 と本文中の式25との関係について

WQU A Δminus=Δ 本文(25)

<補遺> 61

式 a-1 と式25の記号の違いは変化の起きる前の平衡状態 S1 から変化後の平衡状態 S2

に状態変化があったとするなら式 a-1 を積分することで式25が得られるものと考えて区

別している

A

S

S A UUd Δ=primeint2

1 (a-2)

このことは重要であるすなわち内部エネルギーU は変化の起きる前後の状態を指定する

ことによって値が定まることを意味するこのように積分によって値を定めることが出来る

のでdrsquoU は完全微分であるという

内部エネルギーのように系の状態だけで値の定まる量を状態関数として扱う

一方式 a-1 のdrsquoQ drsquoW についても同様に微少の変化量を表しているが平衡状態 S1

から S2 への経路を指定しなければ積分の値は定まらない

本文中の記号にしたがって仕事量ΔW を次のように表すことにする

VpW Δ=Δ 本文(20) V

<補遺> 62

体積と圧力の関係を表す図を使ってこの仕事量が意味することを考える圧力 prsquo の下で

体積が V1 であるときを状態 S1 として圧力一定の下で体積を V2 まで膨張させるような変

化を行った後体積を等しく保って圧力を p にまで上げたときの状態を S2 とするこのとき

の仕事量は膨張に伴うものであるから図の体積‐圧力線の下の面積で示すことができる

平衡状態 S1 から S2 への変化の道筋を別にたどってみよう

新しい経路では圧力を先に p まで上げた後に膨張変化させている

図から直感的に明らかであるので数式での扱いを省略するが2 つの経路による仕事量には

差がある

すなわちdrsquoW は drsquoU と異なり変化の初め S1 と終わり S2 の状態が与えられても積分値

は定まらず変化の経路によって違ってくる

このように変化の経路を指定しなければ積分値が定まらないものを不完全微分と呼び扱

いを区別する

本文 p21 へ戻る

<補遺> 63

VpW

WQU

VpQU

VpUQ

1122 SSSS pVUpVUQ

pVU

VpUHHHQ SS 12

エンタルピー (本文 p24 20 行目参照)

本文中の式 20 および 25 から一定の圧力の元で起きる状態変化において内部エネルギー

の変化量に対する式 a-3 を得る

本文(20)

本文(25)

(a-3)

式 a-3 を Q について書き直す

(a-4)

状態の変化が平衡状態S1から平衡状態S2に移ったものとして式 a-4を丁寧に書き直すと

(a-5)

並び替えて

(a-6)

式 a-6 を見ると定圧過程における熱量の流入は

(a-7)

の形を持つ関数の差であることが分かる

一般に化学反応のような変化の過程では大気圧の下で行われるようなものに興味がある

そこで式 a-7 で与えられる項を一つの関数として定義するこれをエンタルピーと呼び記

号 H を与える式 a-4 はエンタルピーの変化量で次のように書き改められる

(a-8)

圧力が一定の下で起こる状態変化について流入する熱量は式 a-8 で示されるようにエンタ

ルピーの変化量に等しい

V

V

V

V V

V

V

1212 SSSS VVpUUQ VV

<補遺> 64

1Q

We

また式 a-8 からオートクレーブ内で起こるような体積変化のない過程ではこの値が内

部エネルギーの変化量で与えられることが明らかである

本文 p24 へ戻る

エントロピー (本文 p26 17 行目参照)

エントロピーは次のような思考実験から発想された仮想的な状態関数である

理想気体よりなる系 A が温度 T2で熱平衡状態にあり温度 T1の外部の熱源と接しているこ

とを想定する系 A の外部を系 B と呼ぶことにするT1は T2に対して無限小だけ高い温度と

する

系 A が系 B に対して温度圧力について平衡を保ちながら緩慢に系 B より熱量 Q1を受け取

る過程を考える(このような過程を準静的過程と呼ぶ)これによって系 A が熱量 Q1を得て膨

張するとき系 B に対して仕事をする続いて系 A から熱量 Q2が系 B に戻ることを考える

想定されるこの変化が可逆的であれば系 A と系 B を併せた全体は元の状態に戻る蒸気機

関に関するこのような研究が Nicolas Carnot によってなされたのは1824 年のことであった

ここに想定されたサイクルに対する Carnot の効率 e は移動した熱量となされた仕事によ

って定義され次の式で表される

(b-1)

<補遺> 65

理想気体では内部エネルギーU の変化ΔU はゼロと考えるしたがって熱力学の第一法

則を表す式(本文中の式25)から次の関係が示される

0=Δminus=Δ WQU

WQ Δ= (b-2)

これによってCarnot Cycleの効率eはQ2lt0 として次のように書き改めることが出来る

1

21

QQQe +

= (b-3)

ところで気体の状態方程式から1 モルの気体について次のような関係が示される

RTV

P

P1=

V = RTV (b-4)

V 式 b-4 の両辺に体積の微少変化量ΔV をかけて

(b-5)

これを体積Vについてその変化をV1からV2までとして積分するならば次式が得られる

VV

RTVP Δ=Δ 1V V

V

intint = 2

1

2

1

1V

V

V

VdV

VRTPdV

1V2V

11 lnRTW =

(b-6)

Q1の熱量によって起こる膨張がV1よりV2までとし圧力P温度T1の下でなされるその仕事

量をW1とするならそれは式b-6 の右辺によって示されるすなわち

(b-7)

VV

1

2lnVVRT=

V V

VV

V

V2int V2 intV1 V1

<補遺> 66

またQ2の熱量の移動が圧力P温度T2の下で起きこれによって系Aが可逆的に圧縮され

るなら体積変化はV2よりV1まで起こりその仕事量をW2で示すと次式のように表される

(b-8)

1

22

2

122 lnln

VVRT

VVRTW minus==VV

VV

Q1=W1Q2=W2の関係から式b-7 およびb-8 を用いてCarnot Cycleの効率eを表す式b-3

を書き改めると温度のみの関係式として次のように表される

1

21

TTTe minus

= (b-9)

ここでサイクルが可逆的過程であると想定するならば式 b-3 と式 b-9 から

1

21

1

21

TTT

QQQe minus

=+

= (b-10)

これから

12112111 QTQTQTQT minus=+ (b-11)

整理すると

02

2

1

1 =+TQ

TQ (b-12)

この考えをさらに発展させ系A

と系Bの間に数多くの系を挿入すること

にしてそれらの系を同様に熱源として

T1T2Tnと考えるこれによっ

て熱の受け渡しが系Aから系Bに至り

再び系Aにもどるサイクル過程に数多

くの寄り道の過程を加えることになる

熱量の移動に関して上の場合と同じく

準静的過程で行われると考えるこの

サイクル全過程について初めと終わ

<補遺> 67

n

i i

i

T

Q

1

0

0T

dQ

T

QS

T

dQASAS )()( 12

りが同じ状態になる可逆的な過程であるなら式 b-12 を拡大的に考えることになってそれ

は次式で表される

(b-13)

式 b-13 には重要な関数が現れるすなわち熱量と温度の比QT である

もし一つの系が無限小だけ温度の高い(dT )外界から温度圧力など平衡を保ちなが

ら極めて緩慢な過程(準静的過程)で無限小の熱量(dQ )を受け取るならばその変化は可

逆的でありdT について連続的な温度分布をする過程を考えるとき式 b-13 をさらに発展

させて次のように積分式で示すことが出来る

(b-14)

式 b-14 で積分記号にが付されているのはCarnot Cycle のような経路を一巡することを

意味している

Carnot の熱機関の効率という着想から生まれた熱量とそれを持つ系の温度との比 QT に

重要な意味を見出したのは Rudolph Clausius で彼はこの比にエントロピーという名前を与

えたエントロピーには記号ΔS を一般に用いる

(b-15)

エントロピーは初めと終わりの状態がわかれば過程に関わらず定まるので状態関数であ

系 A と外界のエントロピー変化を考えるときそれが可逆的過程であるならばすべてを併

せた全体のエントロピー変化は初めと終わりに変化がないという意味でゼロであるすなわ

ち初めの状態を S(A1)とし次の状態を S(A2)とするならそれぞれのエントロピーを

ΔS(A1)ΔS(A2)としてこの間におけるエントロピーの変化量は次のように示される

(b-16)

<補遺> 68

T

dQdS

0T

dQ

ある一つの変化については次のように示される

(b-17)

ここで式 b-17 の S に付けられたdは微分量すなわちごく微小の変化量を意味し式 b-15

で定義されたエントロピーに用いられる一般的な記号Δと区別する

ところで式 b-10 の関係においてもし移動した熱量のすべてが仕事に変わらなければ

効率 e を表す熱量を用いた関係式と温度で表される関係式は等号で結ぶことができないそれ

はエネルギーのロスを意味し初めと終わりの状態が異なってしまうことを意味するすなわ

ち全過程が構成する一つのサイクルは可逆的でなくなる

不可逆過程での熱効率 ersquo は 大値を示す可逆的過程の熱効率 e より小さな値をとる

ee

したがって 大効率を与える式 b-8 と式 b-3 から

01221

2112

1

21

1

21

QTQT

QTQT

Q

QQ

T

TT

両辺を T1T2で割ると

02

2

1

1 T

Q

T

Q

これを式 b12 と同様に発展させれば式 b-14 についてサイクルの変化が可逆的過程の

場合と不可逆的過程の場合の両方を併せClausius の不等式と呼ばれる次の関係が成立する

(b-18)

式 b-18 の等号が成立するのはサイクルが可逆的な理想の場合に限られる

ある孤立系で状態 A1 から状態 A2 へは不可逆変化で進められ状態 A2 から再び状態 A1

に戻るとき可逆変化であるような閉じた状態変化を考える可逆系のエントロピー変化には

記号 Q を使い不可逆変化には Q を用いるとするとそれぞれ積分式を用いて状態 A1 から

状態 A2 へは

<補遺> 69

d prime

状態 A2 から状態 A1 に戻るときは

全体では

=d prime

+d

(b-19)

Clausius の不等式から

0

式(b-19)の第二項で反応を逆に進めるときには次のように書き改めることができる

=d

よって式(b-19)は次のように書き直すことができClausius の不等式とあわせると

d prime d

0

すなわち

d prime d

上式の右辺は式(b-16)を用いて表せば

d prime

∆S ∆

この状態変化を微小変化とするならば断熱変化の場合 dQ = 0 であるから

∆S ∆ dS 0

すなわち不可逆変化を含む断熱変化ではエントロピーは必ず増大する

<補遺> 70

T

QS

BA SSS

(b-20)

(次の<補遺>ギブス自由エネルギーも参照せよ)

本文 p26 へ戻る

ギブス自由エネルギー (本文 p28 27 行目参照)

エントロピーの考えを導入することによって不可逆的に状態変化が起きるときにはエン

トロピーの増大を引き起こすことを知ったこれによって目前で起きる現象について温度の

変化があるものであれないものであれまた圧力の変化があるものであってもエントロピー

の定義式によって可逆的な変化におけるエントロピーの変化量を計算することが可能である

(b-15)

しかしながらこれから起こる変化について我々がすでにあらかじめ知っている物理量を

用いて予測的にその状態変化が起きるかどうか知ることは必ずしも容易ではないその理由

は式 b-15 に示されたエントロピーΔS が系とその外界をあわせた全体のエントロピーを示

しているからであるすなわち関心のある系を系 A としその外界を系 B とすると全体

のエントロピーは次のように表せる

(c-1)

関心のある系 A のエントロピー変化を知るためには系 B のそれを知ればよいがそれは

いつも容易とは限らない系 A の性質だけで状態変化の方向を知るには別の観点が必要にな

るようだ

そこでもう一度状態変化が熱量 Q の移動によって起きることについて考えてみようエン

トロピーの補遺で議論したように熱量の移動が準静的過程により行われるときには変化は可

逆的に起こると考えたこのとき外界すなわち系 B から移動する熱量を Q1とし系 A から

0S

<補遺> 71

21 QQ

T

Q

T

QSB

21

T

QSS A

2

QH

T

HSS AA

AA STHST

のそれを Q2 と記号を当てたのでこれをそのまま使うことにすれば可逆的な過程では系 B

の熱量 Q1 はすなわち系 A から戻る Q2 に他ならないので両者には次の関係が成立するも

のとしてよい

(c-2)

したがって

(c-3)

と考えてよくこれによって式 c-1 を次のように書きなおすことが出来る

(c-4)

独立した系で圧力とその体積に変化がなく一定の条件の下で状態変化が起きるときエン

タルピーの考えを使ってすでにひとつの関係があることを導いている

本文(31)

そこで式 c-4 を系のエンタルピーΔHAによって書き改めれば

(c-5)

この両辺に-T をかけて式を書き直せば次の関係式が得られる

(c-6)

式 c-6 を見るときその右辺がマイナスの値ならば左辺のΔS はプラスの値をとることが

分かるすなわちエントロピーが増大すると見ることが出来るこれまでの過程で自然の現

象はエントロピーが増大する方向に進むとしてきたので関心のある状態変化について式 c-6

の右辺で計算される値がマイナスの値ならばその変化は起きるものと考えてよいことになる

だろうしかも右辺はすべて独立した系の状態量で示されていて我々が知りうる値で計算

<補遺> 72

TSHG

STSTHG

STHG

可能である

そこでこれを熱力学ポテンシャルを表すものとしてギブス自由エネルギーと呼ぶことに

するギブス自由エネルギーは記号 G が用いられ次のように定義される

(c-7)

ここで関心があるのは自由エネルギーの絶対値ではなく式 c-6 に示されたようにその変化量

に興味があるので式 c-7 から

(c-8)

温度が一定の条件の下で状態変化が起きることを考えるなら式 c-8 は次のように書くこと

ができる

(c-9)

ギブス自由エネルギーは式 c-9 の右辺がすべて状態量であるからこれも状態量の一つで

ある定圧定温の条件下で起きる変化ではすでに議論したようにΔGlt0 であれば状態

変化は自発的に起きるものと予測できる

つまり式 c-5 の第一項は系のエントロピーΔSAそのものであり第二項で示されるエンタ

ルピーは系 A の温度が一定に保たれているのであるから発熱する熱量として外界に吸収さ

れるものであってこれは外界のエントロピーの増大につながるものとして解釈されるした

がって化学反応のように一定の圧力と一定の温度の下で起きる変化について自由エネルギ

ー変化量はその状態変化が自発的に起きる傾向を示しているといってよい

本文 p28 へ戻る

  • はじめに
  • 目次
  • 電気エネルギー
    • 金属のイオン化
    • 電池
    • 水素の反応
    • 燃料電池
    • 化学反応と電気エネルギー
      • エネルギーと熱力学
        • エネルギー保存則
        • エンタルピー
        • エントロピー13
        • ギブス自由エネルギー
        • 電池における化学反応のギブス自由エネルギー13
        • 理想気体の状態方程式
        • 理想溶液のギブス自由エネルギー
        • 膜電位
          • 水素イオン濃度測定
            • 化学反応の一般的な式
            • pHの定義とその目盛り
            • pH標準液
            • 銀塩化銀参照電極
            • 実用的なpH測定
            • ガラス電極
            • 電極の校正
            • 金属イオンに対応するイオン選択電極
              • 文献
              • 補遺
                • 状態関数
                • エンタルピー
                • エントロピー
                • ギブス自由エネルギー
Page 47: イオン選択電極i イオン選択電極 Ion Selective Electrode (ISE) を理解する ・ pHを測定する ・ NaやKなどのイオン濃度を測定する 神戸大学医学部保健学科

44

の定義とその目盛り

液中の水素イオン濃度を直接意味するものではなく

を定義するとき測定されるのは1リットルの溶媒に存在す

pH = -log a H+ = -log(γH+CH+) (77)

際に試料溶液の pH を決定する際はpH 標準液を用いる

に溶液を入れ試料溶液 X と pH 標準液 S を

参 極を接続し電池を作成しその起

pH

現在pH の定義は溶

で述べたようにそれが簡便に測定できるものではないため次のように定

義されている

水素イオン濃度

水素イオン活量であるため定義式としては活量係数をγH+として次式で与

えられる

その要領は次のようである

上に図示した水素電極の容器内

れぞれ半電池(I)と(II)に入れる

半電池(I) Pt | H2 (1 atm) | 試料溶液

半電池(II) Pt | H2 (1 atm) | 試料溶液S

照電極として上図のごとく銀塩化銀電

電力を測定する半電池(I)のときの起電力を E(X)半電池(II)のそれを E(S)

とするこのとき試料溶液Xの pH は次式で計算される

pH (X) pH(S) E(S) E(X)

RT ln(10) (78)

ln(10)は自然対数を常用対数に戻すための定数で2303 を用いる

標準液

pH 標準液 S はpH 第一次標準液第二次標準液と呼ばれるべき

る測定

25で pH 4005 を示す

pH

上述した

のであり絶対的測定法である起電力の測定によって値をつける

標準液は安定で純粋な結晶が得られる試薬を調整してこれを測定す

上と同様に水素電極を用いこれに緩衝液を入れる参照電極として銀

塩化銀電極を接続して電池の起電力を測定する

たとえば005 moll フタル酸水素カリウム溶液は

一次標準(Primary Standard PS)の一つである半電池(III)として水素

45

電極を次のように準備する

半電池(III) Pt | H2 (1 atm) | PS 溶液

て電池を形成したとき得られる起電

参照電極として銀塩化銀電極を接続し

は式(75)から

E E

Ag AgCl RT

Flna

H aCl (79)

オン活量を濃度と活量係数の積(a H+= γH+CH+)にし自然対数を常用対数

すれば

E E

Ag AgCl RT ln(10)

F log(

H + CH+ Cl- CCl - ) (80)

E゜は水素標準電極(水素ガス分圧を1atm電極を浸ける溶液に001 moll

H

Cl を用いる)で得た起電力である

式(80)から

RT ln(10)

Flog(

H CH Cl

) (E EAg AgCl )

RT ln(10)

Flog C

Cl

(81)

らに

log(

H CH Cl

) F

RT ln(10)(E E

Ag AgCl ) logCCl

(82)

ころで式(77)から

(γH+CH+) (77)

-log a H+ =-loga H+-log(γCl-) +log(γCl-) =-log(a H+γCl-) +log(γCl-)

(83)の一番右の式で第一項は

pH = -log a H+ = -log

であるが右の式をさらに変形すると

(83)

46

-log(a H+γCl-)=-log(γH+ CH+γCl-) (84)

たがって式(82)の右辺で示されるように電池の起電力を測定すれば

よ 実際には溶液の塩素イオン濃

液で起電力を求め外挿する

起電

これによってpH を意味する式(83)は次式(85)で与えられる

p(aHγCl)はRG Bates によって Acidity Function と呼ばれている

らに式(85)最終項の log(γCl-) を補正しなければならないこの項は

本工業規格)によっても

であってこれは式(82)の左辺である

いただし塩素イオン濃度の項があって

をゼロにしたときの値が必要である

実測する際には塩素イオン濃度をゼロにできないので塩化ナトリウム NaCl

等を濃度を変えて添加しその時々の緩衝

勧告ではNaCl で 000500100015moll の3つの濃度を例示している

すなわち塩素イオン濃度ゼロのときの値は各塩素イオン濃度に対して

の値をそれぞれプロットしグラフから塩素イオンがゼロのときの起電力の

値を3点に対する回帰直線の延長で外挿して求めるこの点を次のように書

log( C H H Cl CCl

0

pa log( C log( (85) H H H Cl C

Cl0 Cl

)

素イオンの活動係数で与えられる補正項である

無限希釈溶液中のイオンの活動係数は理論的に Dubye-Huckel の式を用い

近似的に求めることが可能であるこれはJIS(日

用されていて Bates-Guggenheim の規約と呼ばれる (Bates RG

Guggenheim Pure Appl Chem 1 163-168 1960)

Dubye-Huckel の式は次のように与えられる

log A I

i 1 iB I (86)

47

I iについてそのモル濃度

計算される

はイオン強度でイオン mi と電荷 zi から次式で

I 1

2mizi (87)

また iは(86)式のBは温度と溶媒の性質による定数であり イオンの大

きさに関するパラメータで水和イオンの大きさとほぼ一致した値をとる標

準法の勧告では塩素イオンに対しイオンの大きさを46Åと決めてiBを

1

5 にしているそこで式(84)は次のようになる

ClA I

log 1 15 I

イオン強度 I は塩素イオン濃度を含まない計算となる

以上の方法によって実用的な pH 測定に用いられる第一次第二次標準液の

pH の値が得られる

絶対値としての

はpH の絶対測定法(第一次標準測定法)とされている

銀塩化銀参照電極は分極現象を防ぐために棒状の銀を塩酸で処理し表

に塩化銀を生成させたものを飽和塩化カリウム溶液につけてある

(88)

参考現在は実験的に求めた値と理論値の組み合わせで

素イオン濃度を求める方法を規定しているこの起電力から水素イオン濃度

を知るための測定方法

Buck RP Rondinini S Covington AK Baucke FGK Brett CMA Camoes MF

Milton MJT Mussini T Naumann R Pratt Kw Spitzer P Wilson GS

Measurement of pH definition standards and procedures Pure Appl Chem

74(11)2169-2200 2002Kristensen HB Salomon A Kokholm GInternational

pH scales and certification of pH Anal Chem 63(18) 885A-891A 1991)

銀塩化銀参照電極

電極の構成は

Cl-(aq) | AgCl(s) | Ag(s)

48

この半反応は次のようになる

AgCl(s) + e- rarr Ag(s) + Cl- (89)

の反応は次の2つの反応に分けて考えることができる

Ag+ + e- rarr Ag(s) (91)

AgCl(s)rarr Ag+ + Cl- (90)

図11銀塩化銀参照電極

(90)における銀 る塩素イオンによって左

されることが推測される

そこでカッコ [ ] をそれによって囲まれるイオンの濃度を表すことにし

式 イオン Ag+の溶解性は共存す

塩化銀の乖離定数Kを考えると

49

K = [Ag+][Cl-] (92)

これから

[Ag+]= K[Cl-] (93)

化カリウム溶液に漬けた銀塩化銀電極の電位 E は水素標準電極に対する

電 で与えられる

位を E゜として次式

E E

RT

nF

[ Ag ]

[Ag(s)]ln( )

Ag(s)のイオン活量は常に1とする

ここで半反応の電極電位を求めるために式(75)を利用することにすれば

(94)

熱力学の慣例にしたがって純物質個体

E E

RT

Flna

H Cl a (75)

式 の半反応をみると

応で電子1つが移動するので n=1 とするR=831441 JmolK1F = 96485

C はめれば

これに銀イオンの濃度として式(93)を当てはめる

この反応で移動する電子は (89) 銀イオン1つの反

molT=29815K(25)ln(10)=2303などの定数を当て

2303RTF = 005917

であるから(94)式は次のように表現できる

log[Cl]) E E 005917(logK (95)

たがって標準水素電極に対する銀塩化銀参照電極の標準状態における電

位 は半反応(89)に対して ゜=+0799で

化銀の乖離定数 K は182times10-10 であるのでその対数を取れば-973993

0799-005917times973993-005917log[Cl-]

E゜ E ある

ある

そこで式(95)は

E =

50

= 0799-0576-005917log[Cl-]

= 0223-005917log[Cl-] (96)

電極電位の関係について実測値

こうして求めた塩化カリウム溶液の濃度と

計算上の値は次のようである

KCl moll vs SHE volt25 計算値 volt25 01 02881 02822 35 0205 01908 飽和 0199 minus

実用 測定

実際の現場で水素イオン濃度を測定する目的の測定法で上のような2つの

極が同じ溶液に浸かっていたのでは試料溶液を交換するにも便利ではない

の容器に入れる未知試料溶液と銀塩化銀電極を隔離する

的な pH

そこで水素電極側

的で二つの電極容器をつなぐ液絡部をグラスフィルターやセラミック板

飽和塩化カリウムで作成したゼラチンなどの塩橋によって隔離遮断するこ

れを液絡部とよぶ

電池として機能するために必要な溶液イオンの交換はこの液絡部で行う

組み立てる電池は電池式で次のように表される

Pt(s) | H2 | 試料 (H+ x moll) || 飽和 KCl | AgCl | Ag(s)

の標準電極と銀塩化銀電極とは区切られていて溶液の直接の接触がない

とを意味するために電池式ではタテ二重線を用いる銀塩化銀参照電極

の容器には飽和塩化カリウム溶液が入れられる

51

図12液絡部のある pH 測定のための電池

この液絡部のある電池では塩橋を記号lsquo | | rsquoで表して次のように記す

試料 (H+ x moll) | | 飽和 KCl

ここでは試料溶液と飽和塩化カリウム溶液の異なる2液が接している

このような界面では膜電力が生じるのと同様「液間電位差」が生じることが

知られているしたがって上の電池で測定される起電力 E は

E = E[銀塩化銀電極電位]+E[液間電位]+E[水素電極電位]

で与えられることになってE[液間電位]のために図12の電池の起電力

は銀塩化銀参照電極の値を知っていても水素電極容器内に入れた未知溶

液の水素イオン濃度を正しく知ることができない

52

そこで実用的な測定法としてこの E[液間電位]を膜電位として積極的に利

用する方法が工夫されたすなわち水素イオンに感応するガラス薄膜を用い

るガラス電極法である

53

ガラス電極

ガラスはケイ素原子と酸素原子からなる SiO4 の結晶構造を持ち酸素で囲

まれた空隙があって水素イオンがそれを埋めることができる

この性質によってガラス膜表面は水溶液中の水素イオンに応じて膜電位を

変化させるのでこれを水素イオン濃度測定用の電極として利用することが考

えられるこれが通常用いられるガラス電極である

ガラス電極は標準電極と組み合わせれば電池を構成することができこの電

池の起電力を知ってガラス薄膜の内外にできたイオン濃度勾配を知ろうとす

るものである

薄いガラス膜(01mm程度)をはさんで接する2つの溶液のH+イオン濃

度が異なるとその差に応じてガラス膜の両側に電位差(Eg)が現れる

ネルンストの式でガラス電極の内部に入れた既知の濃度のH+([H+]in)に対

し試料中の水素イオン濃度が[H+]sampleのとき次の電位を生じる

)][

][log(059170)

][

][ln(

sample

in

sample

ing

H

H

H

H

F

RTE

(97)

図13ガラス電極

電極を構成するのは銀塩化銀電極と同じ電極で用いる塩溶液は一般的

54

に 01モル塩酸溶液である

この半電池の電池式は次のように書くことができる

Ag(s) | AgCl(s) | HCl (01 M) | ガラス薄膜 || 試料溶液 H+ (x moll)

Eg

この半電池の電極電圧を測定するために銀塩化銀標準電極と組み合わせ

電池を作って起電力を計る

構成される電池は下図のようになる

ガラス電極 銀塩化銀標準電極

図14ガラス電極を用いた pH 測定用の電池

この電池の起電力は次の各半電池の平衡電位を合わせたものになる

55

E1ガラス電極の内側電位

Ag(s) | AgCl(s) | HCl (01 M)

Egガラス薄膜の内外に生じる膜電位

HCl (01 M) | ガラス薄膜 || 試料溶液 H+ (x moll)

E2液間電位(膜電位)銀塩化銀標準電極のセラミックを介した試料溶液

と銀塩化銀標準電極の内部液(飽和 KCl 溶液)の間に発生する電位

試料溶液 H+ (x moll)|| セラミック | KCl(飽和)

E3銀塩化銀標準電極

KCl(飽和)| AgCl(s) | Ag(s)

pH メーター用のガラス電極に使われるガラス薄膜は水素イオンに感応して

膜電位(Eg)を生じるこれは【膜電位】の章で記したように薄膜がある

一つのイオンのみを通過させる特性を持っている場合にイオンが膜を介した

両側で平衡状態に達したとして電気化学ポテンシャルを膜の両側で等しいと

考えてそのイオンが濃厚な側から希薄な側にその差によって圧力を生じると

するものである

一方同じ試料溶液が銀塩化銀標準電極のセラミック液絡部を介して生じ

るだろう液間電位(膜電位E2)はいま関心がある水素イオンに対して特異

的に感応するのではないので試料溶液の水素イオン濃度に関係なく一定と見

なすことができる

すなわちpH メーターを構成する電池の起電力 E は

E = E1+Eg+E2+E3 (98)

このうちEg以外は一定と見なせるので

E1+E2+E3 = E

として式(98)を書き直すと

)][

][log(059170

sample

ing H

HEEEE

(99)

Eは標準液によって校正されるべき標準電極電位である

56

電極の校正

実際のイオン濃度を測定する場合低濃度標準液と高濃度標準液で得られ

る起電力を測定し計測のイオン濃度に対する係数(傾き)を求めておき未

知の試料に対して起電力を測定してそのイオン濃度を算出する方法が採られる

低濃度標準液と高濃度標準液のそれぞれの濃度をCLとCHとすればそれぞ

れの起電力ELとEHは次式で表される EH = E +β logCH (100)

EL = E +β log CL (101)

ただしβは式(99)の係数を簡略にしたものである

式(100)と(101)から検量線の傾きが次式で表せる

ΔE = EH minus EL = β(logCH minus logCL) = β logCH

CL

(102)

したがって係数βは

β =ΔE

log CH

CL

(103)

であらわされる

このときに使われる標準はすでに前出の pH 第一次標準第二次標準溶液で

ある

金属イオンに対応するイオン選択電極

現在臨床検査で日常的に使われている電解質測定のための電極はナトリウ

ムカリウムカルシウムクロールなどおよそ臨床的に必要な金属イオン

に対して入手可能である

カリウムイオン測定用のバリノマイシンの発見によってクラウンエーテルと

57

呼ばれる一連の化合物が知られたクラウンエーテルはその分子の中心に立

体的な空間を持ち特定のイオン径に対し合致するのでそのイオンに対して

選択的に感応するこれらの化合物はイオノフォアと呼ばれる

図 15クラウンエーテル

1つの金属イオンが環状化合物

15-crown-5 の中央にある空間を充填

している模式図

15-crown-5 の構造を作る10個の黒

い丸は炭素炭素2個のつながりごと

にある中心の白い丸は酸素酸素と

金属イオンの間の距離はおよそ 22~

23Åであるカリウムのファンデン

ワールス半径は 135Åイオン半径は

15~16Åである

測定したいイオンに対しポリ塩化ビニル(PVC)を支持体としてイオノフ

ォアを添加した液膜の電極膜を作成しこれをガラス電極におけるガラス薄膜

と同様試料に接する電極膜として用いるこの構造から一般的に液膜型電極

と呼ばれる電極膜には特異性を高めるため妨害イオン排除剤などが添加

される

pH メーターと同様銀塩化銀標準電極と組み合わせ電池を形成しその

起電力を計る測定したいイオンが液膜に対して内外で平衡に達したときの

膜電位を測定するのはガラス電極と同じである

カ リ ウ ム イ オ ン に は Bis[(benzo-15-crown-5) ( 正 式 名 は

Bis[(benzo-15-crown-5)-4-methyl]pimelate)ナトリウムには Bis[(12-crown-4)

やDibenzyl-bis[(12-crown-4)などがイオノフォアとして用いられる

58

図16カリウムイオン測定用に使われるクラウンエーテル

図17ナトリウムイオン測定用に使われるクラウンエーテル

59

参考イオン選択電極に関する文献Xia Z Badr IHA Plummer SL Cullen L

Bachas LG Synthesis and evaluation of a bis(crown ether) ionophore with a

conformationally constained bridge in ione- selective electrodes Anal Sci 14(2)

169-173 1998 Oh K-C Kang EC Cho YL Jeong K-S Y oo E-A Paeng K-J

Potassium-selective PVC membrane electrodes based on newly synthesized

cis- and trans-bis(crown ether)s ibid 14(10)1009-1012 1998 Dojindo WEB

site httpwwwdojindocojpwwwrootproductsjinfo2protocolp31pdf

<補遺> 60

補遺 状態関数 (本文 p21 10 行目参照)

一つの平衡状態にある系 A とこれに接する系 A にとって外部である系 B について系 B

から系 A に熱を与えこれによって系 A が他の平衡状態に移ったとき系 A はその結果とし

て膨張し系 B に対し仕事をする

このときの微少な熱量の移動を記号drsquoQ またなされた微少な仕事をdrsquoW とすると

系Aの内部エネルギーに関する微少な変化drsquoUA は両者の和として表される

WdQdUd A primeminusprime=prime (a-1)

この式 a-1 と本文中の式25との関係について

WQU A Δminus=Δ 本文(25)

<補遺> 61

式 a-1 と式25の記号の違いは変化の起きる前の平衡状態 S1 から変化後の平衡状態 S2

に状態変化があったとするなら式 a-1 を積分することで式25が得られるものと考えて区

別している

A

S

S A UUd Δ=primeint2

1 (a-2)

このことは重要であるすなわち内部エネルギーU は変化の起きる前後の状態を指定する

ことによって値が定まることを意味するこのように積分によって値を定めることが出来る

のでdrsquoU は完全微分であるという

内部エネルギーのように系の状態だけで値の定まる量を状態関数として扱う

一方式 a-1 のdrsquoQ drsquoW についても同様に微少の変化量を表しているが平衡状態 S1

から S2 への経路を指定しなければ積分の値は定まらない

本文中の記号にしたがって仕事量ΔW を次のように表すことにする

VpW Δ=Δ 本文(20) V

<補遺> 62

体積と圧力の関係を表す図を使ってこの仕事量が意味することを考える圧力 prsquo の下で

体積が V1 であるときを状態 S1 として圧力一定の下で体積を V2 まで膨張させるような変

化を行った後体積を等しく保って圧力を p にまで上げたときの状態を S2 とするこのとき

の仕事量は膨張に伴うものであるから図の体積‐圧力線の下の面積で示すことができる

平衡状態 S1 から S2 への変化の道筋を別にたどってみよう

新しい経路では圧力を先に p まで上げた後に膨張変化させている

図から直感的に明らかであるので数式での扱いを省略するが2 つの経路による仕事量には

差がある

すなわちdrsquoW は drsquoU と異なり変化の初め S1 と終わり S2 の状態が与えられても積分値

は定まらず変化の経路によって違ってくる

このように変化の経路を指定しなければ積分値が定まらないものを不完全微分と呼び扱

いを区別する

本文 p21 へ戻る

<補遺> 63

VpW

WQU

VpQU

VpUQ

1122 SSSS pVUpVUQ

pVU

VpUHHHQ SS 12

エンタルピー (本文 p24 20 行目参照)

本文中の式 20 および 25 から一定の圧力の元で起きる状態変化において内部エネルギー

の変化量に対する式 a-3 を得る

本文(20)

本文(25)

(a-3)

式 a-3 を Q について書き直す

(a-4)

状態の変化が平衡状態S1から平衡状態S2に移ったものとして式 a-4を丁寧に書き直すと

(a-5)

並び替えて

(a-6)

式 a-6 を見ると定圧過程における熱量の流入は

(a-7)

の形を持つ関数の差であることが分かる

一般に化学反応のような変化の過程では大気圧の下で行われるようなものに興味がある

そこで式 a-7 で与えられる項を一つの関数として定義するこれをエンタルピーと呼び記

号 H を与える式 a-4 はエンタルピーの変化量で次のように書き改められる

(a-8)

圧力が一定の下で起こる状態変化について流入する熱量は式 a-8 で示されるようにエンタ

ルピーの変化量に等しい

V

V

V

V V

V

V

1212 SSSS VVpUUQ VV

<補遺> 64

1Q

We

また式 a-8 からオートクレーブ内で起こるような体積変化のない過程ではこの値が内

部エネルギーの変化量で与えられることが明らかである

本文 p24 へ戻る

エントロピー (本文 p26 17 行目参照)

エントロピーは次のような思考実験から発想された仮想的な状態関数である

理想気体よりなる系 A が温度 T2で熱平衡状態にあり温度 T1の外部の熱源と接しているこ

とを想定する系 A の外部を系 B と呼ぶことにするT1は T2に対して無限小だけ高い温度と

する

系 A が系 B に対して温度圧力について平衡を保ちながら緩慢に系 B より熱量 Q1を受け取

る過程を考える(このような過程を準静的過程と呼ぶ)これによって系 A が熱量 Q1を得て膨

張するとき系 B に対して仕事をする続いて系 A から熱量 Q2が系 B に戻ることを考える

想定されるこの変化が可逆的であれば系 A と系 B を併せた全体は元の状態に戻る蒸気機

関に関するこのような研究が Nicolas Carnot によってなされたのは1824 年のことであった

ここに想定されたサイクルに対する Carnot の効率 e は移動した熱量となされた仕事によ

って定義され次の式で表される

(b-1)

<補遺> 65

理想気体では内部エネルギーU の変化ΔU はゼロと考えるしたがって熱力学の第一法

則を表す式(本文中の式25)から次の関係が示される

0=Δminus=Δ WQU

WQ Δ= (b-2)

これによってCarnot Cycleの効率eはQ2lt0 として次のように書き改めることが出来る

1

21

QQQe +

= (b-3)

ところで気体の状態方程式から1 モルの気体について次のような関係が示される

RTV

P

P1=

V = RTV (b-4)

V 式 b-4 の両辺に体積の微少変化量ΔV をかけて

(b-5)

これを体積Vについてその変化をV1からV2までとして積分するならば次式が得られる

VV

RTVP Δ=Δ 1V V

V

intint = 2

1

2

1

1V

V

V

VdV

VRTPdV

1V2V

11 lnRTW =

(b-6)

Q1の熱量によって起こる膨張がV1よりV2までとし圧力P温度T1の下でなされるその仕事

量をW1とするならそれは式b-6 の右辺によって示されるすなわち

(b-7)

VV

1

2lnVVRT=

V V

VV

V

V2int V2 intV1 V1

<補遺> 66

またQ2の熱量の移動が圧力P温度T2の下で起きこれによって系Aが可逆的に圧縮され

るなら体積変化はV2よりV1まで起こりその仕事量をW2で示すと次式のように表される

(b-8)

1

22

2

122 lnln

VVRT

VVRTW minus==VV

VV

Q1=W1Q2=W2の関係から式b-7 およびb-8 を用いてCarnot Cycleの効率eを表す式b-3

を書き改めると温度のみの関係式として次のように表される

1

21

TTTe minus

= (b-9)

ここでサイクルが可逆的過程であると想定するならば式 b-3 と式 b-9 から

1

21

1

21

TTT

QQQe minus

=+

= (b-10)

これから

12112111 QTQTQTQT minus=+ (b-11)

整理すると

02

2

1

1 =+TQ

TQ (b-12)

この考えをさらに発展させ系A

と系Bの間に数多くの系を挿入すること

にしてそれらの系を同様に熱源として

T1T2Tnと考えるこれによっ

て熱の受け渡しが系Aから系Bに至り

再び系Aにもどるサイクル過程に数多

くの寄り道の過程を加えることになる

熱量の移動に関して上の場合と同じく

準静的過程で行われると考えるこの

サイクル全過程について初めと終わ

<補遺> 67

n

i i

i

T

Q

1

0

0T

dQ

T

QS

T

dQASAS )()( 12

りが同じ状態になる可逆的な過程であるなら式 b-12 を拡大的に考えることになってそれ

は次式で表される

(b-13)

式 b-13 には重要な関数が現れるすなわち熱量と温度の比QT である

もし一つの系が無限小だけ温度の高い(dT )外界から温度圧力など平衡を保ちなが

ら極めて緩慢な過程(準静的過程)で無限小の熱量(dQ )を受け取るならばその変化は可

逆的でありdT について連続的な温度分布をする過程を考えるとき式 b-13 をさらに発展

させて次のように積分式で示すことが出来る

(b-14)

式 b-14 で積分記号にが付されているのはCarnot Cycle のような経路を一巡することを

意味している

Carnot の熱機関の効率という着想から生まれた熱量とそれを持つ系の温度との比 QT に

重要な意味を見出したのは Rudolph Clausius で彼はこの比にエントロピーという名前を与

えたエントロピーには記号ΔS を一般に用いる

(b-15)

エントロピーは初めと終わりの状態がわかれば過程に関わらず定まるので状態関数であ

系 A と外界のエントロピー変化を考えるときそれが可逆的過程であるならばすべてを併

せた全体のエントロピー変化は初めと終わりに変化がないという意味でゼロであるすなわ

ち初めの状態を S(A1)とし次の状態を S(A2)とするならそれぞれのエントロピーを

ΔS(A1)ΔS(A2)としてこの間におけるエントロピーの変化量は次のように示される

(b-16)

<補遺> 68

T

dQdS

0T

dQ

ある一つの変化については次のように示される

(b-17)

ここで式 b-17 の S に付けられたdは微分量すなわちごく微小の変化量を意味し式 b-15

で定義されたエントロピーに用いられる一般的な記号Δと区別する

ところで式 b-10 の関係においてもし移動した熱量のすべてが仕事に変わらなければ

効率 e を表す熱量を用いた関係式と温度で表される関係式は等号で結ぶことができないそれ

はエネルギーのロスを意味し初めと終わりの状態が異なってしまうことを意味するすなわ

ち全過程が構成する一つのサイクルは可逆的でなくなる

不可逆過程での熱効率 ersquo は 大値を示す可逆的過程の熱効率 e より小さな値をとる

ee

したがって 大効率を与える式 b-8 と式 b-3 から

01221

2112

1

21

1

21

QTQT

QTQT

Q

QQ

T

TT

両辺を T1T2で割ると

02

2

1

1 T

Q

T

Q

これを式 b12 と同様に発展させれば式 b-14 についてサイクルの変化が可逆的過程の

場合と不可逆的過程の場合の両方を併せClausius の不等式と呼ばれる次の関係が成立する

(b-18)

式 b-18 の等号が成立するのはサイクルが可逆的な理想の場合に限られる

ある孤立系で状態 A1 から状態 A2 へは不可逆変化で進められ状態 A2 から再び状態 A1

に戻るとき可逆変化であるような閉じた状態変化を考える可逆系のエントロピー変化には

記号 Q を使い不可逆変化には Q を用いるとするとそれぞれ積分式を用いて状態 A1 から

状態 A2 へは

<補遺> 69

d prime

状態 A2 から状態 A1 に戻るときは

全体では

=d prime

+d

(b-19)

Clausius の不等式から

0

式(b-19)の第二項で反応を逆に進めるときには次のように書き改めることができる

=d

よって式(b-19)は次のように書き直すことができClausius の不等式とあわせると

d prime d

0

すなわち

d prime d

上式の右辺は式(b-16)を用いて表せば

d prime

∆S ∆

この状態変化を微小変化とするならば断熱変化の場合 dQ = 0 であるから

∆S ∆ dS 0

すなわち不可逆変化を含む断熱変化ではエントロピーは必ず増大する

<補遺> 70

T

QS

BA SSS

(b-20)

(次の<補遺>ギブス自由エネルギーも参照せよ)

本文 p26 へ戻る

ギブス自由エネルギー (本文 p28 27 行目参照)

エントロピーの考えを導入することによって不可逆的に状態変化が起きるときにはエン

トロピーの増大を引き起こすことを知ったこれによって目前で起きる現象について温度の

変化があるものであれないものであれまた圧力の変化があるものであってもエントロピー

の定義式によって可逆的な変化におけるエントロピーの変化量を計算することが可能である

(b-15)

しかしながらこれから起こる変化について我々がすでにあらかじめ知っている物理量を

用いて予測的にその状態変化が起きるかどうか知ることは必ずしも容易ではないその理由

は式 b-15 に示されたエントロピーΔS が系とその外界をあわせた全体のエントロピーを示

しているからであるすなわち関心のある系を系 A としその外界を系 B とすると全体

のエントロピーは次のように表せる

(c-1)

関心のある系 A のエントロピー変化を知るためには系 B のそれを知ればよいがそれは

いつも容易とは限らない系 A の性質だけで状態変化の方向を知るには別の観点が必要にな

るようだ

そこでもう一度状態変化が熱量 Q の移動によって起きることについて考えてみようエン

トロピーの補遺で議論したように熱量の移動が準静的過程により行われるときには変化は可

逆的に起こると考えたこのとき外界すなわち系 B から移動する熱量を Q1とし系 A から

0S

<補遺> 71

21 QQ

T

Q

T

QSB

21

T

QSS A

2

QH

T

HSS AA

AA STHST

のそれを Q2 と記号を当てたのでこれをそのまま使うことにすれば可逆的な過程では系 B

の熱量 Q1 はすなわち系 A から戻る Q2 に他ならないので両者には次の関係が成立するも

のとしてよい

(c-2)

したがって

(c-3)

と考えてよくこれによって式 c-1 を次のように書きなおすことが出来る

(c-4)

独立した系で圧力とその体積に変化がなく一定の条件の下で状態変化が起きるときエン

タルピーの考えを使ってすでにひとつの関係があることを導いている

本文(31)

そこで式 c-4 を系のエンタルピーΔHAによって書き改めれば

(c-5)

この両辺に-T をかけて式を書き直せば次の関係式が得られる

(c-6)

式 c-6 を見るときその右辺がマイナスの値ならば左辺のΔS はプラスの値をとることが

分かるすなわちエントロピーが増大すると見ることが出来るこれまでの過程で自然の現

象はエントロピーが増大する方向に進むとしてきたので関心のある状態変化について式 c-6

の右辺で計算される値がマイナスの値ならばその変化は起きるものと考えてよいことになる

だろうしかも右辺はすべて独立した系の状態量で示されていて我々が知りうる値で計算

<補遺> 72

TSHG

STSTHG

STHG

可能である

そこでこれを熱力学ポテンシャルを表すものとしてギブス自由エネルギーと呼ぶことに

するギブス自由エネルギーは記号 G が用いられ次のように定義される

(c-7)

ここで関心があるのは自由エネルギーの絶対値ではなく式 c-6 に示されたようにその変化量

に興味があるので式 c-7 から

(c-8)

温度が一定の条件の下で状態変化が起きることを考えるなら式 c-8 は次のように書くこと

ができる

(c-9)

ギブス自由エネルギーは式 c-9 の右辺がすべて状態量であるからこれも状態量の一つで

ある定圧定温の条件下で起きる変化ではすでに議論したようにΔGlt0 であれば状態

変化は自発的に起きるものと予測できる

つまり式 c-5 の第一項は系のエントロピーΔSAそのものであり第二項で示されるエンタ

ルピーは系 A の温度が一定に保たれているのであるから発熱する熱量として外界に吸収さ

れるものであってこれは外界のエントロピーの増大につながるものとして解釈されるした

がって化学反応のように一定の圧力と一定の温度の下で起きる変化について自由エネルギ

ー変化量はその状態変化が自発的に起きる傾向を示しているといってよい

本文 p28 へ戻る

  • はじめに
  • 目次
  • 電気エネルギー
    • 金属のイオン化
    • 電池
    • 水素の反応
    • 燃料電池
    • 化学反応と電気エネルギー
      • エネルギーと熱力学
        • エネルギー保存則
        • エンタルピー
        • エントロピー13
        • ギブス自由エネルギー
        • 電池における化学反応のギブス自由エネルギー13
        • 理想気体の状態方程式
        • 理想溶液のギブス自由エネルギー
        • 膜電位
          • 水素イオン濃度測定
            • 化学反応の一般的な式
            • pHの定義とその目盛り
            • pH標準液
            • 銀塩化銀参照電極
            • 実用的なpH測定
            • ガラス電極
            • 電極の校正
            • 金属イオンに対応するイオン選択電極
              • 文献
              • 補遺
                • 状態関数
                • エンタルピー
                • エントロピー
                • ギブス自由エネルギー
Page 48: イオン選択電極i イオン選択電極 Ion Selective Electrode (ISE) を理解する ・ pHを測定する ・ NaやKなどのイオン濃度を測定する 神戸大学医学部保健学科

45

電極を次のように準備する

半電池(III) Pt | H2 (1 atm) | PS 溶液

て電池を形成したとき得られる起電

参照電極として銀塩化銀電極を接続し

は式(75)から

E E

Ag AgCl RT

Flna

H aCl (79)

オン活量を濃度と活量係数の積(a H+= γH+CH+)にし自然対数を常用対数

すれば

E E

Ag AgCl RT ln(10)

F log(

H + CH+ Cl- CCl - ) (80)

E゜は水素標準電極(水素ガス分圧を1atm電極を浸ける溶液に001 moll

H

Cl を用いる)で得た起電力である

式(80)から

RT ln(10)

Flog(

H CH Cl

) (E EAg AgCl )

RT ln(10)

Flog C

Cl

(81)

らに

log(

H CH Cl

) F

RT ln(10)(E E

Ag AgCl ) logCCl

(82)

ころで式(77)から

(γH+CH+) (77)

-log a H+ =-loga H+-log(γCl-) +log(γCl-) =-log(a H+γCl-) +log(γCl-)

(83)の一番右の式で第一項は

pH = -log a H+ = -log

であるが右の式をさらに変形すると

(83)

46

-log(a H+γCl-)=-log(γH+ CH+γCl-) (84)

たがって式(82)の右辺で示されるように電池の起電力を測定すれば

よ 実際には溶液の塩素イオン濃

液で起電力を求め外挿する

起電

これによってpH を意味する式(83)は次式(85)で与えられる

p(aHγCl)はRG Bates によって Acidity Function と呼ばれている

らに式(85)最終項の log(γCl-) を補正しなければならないこの項は

本工業規格)によっても

であってこれは式(82)の左辺である

いただし塩素イオン濃度の項があって

をゼロにしたときの値が必要である

実測する際には塩素イオン濃度をゼロにできないので塩化ナトリウム NaCl

等を濃度を変えて添加しその時々の緩衝

勧告ではNaCl で 000500100015moll の3つの濃度を例示している

すなわち塩素イオン濃度ゼロのときの値は各塩素イオン濃度に対して

の値をそれぞれプロットしグラフから塩素イオンがゼロのときの起電力の

値を3点に対する回帰直線の延長で外挿して求めるこの点を次のように書

log( C H H Cl CCl

0

pa log( C log( (85) H H H Cl C

Cl0 Cl

)

素イオンの活動係数で与えられる補正項である

無限希釈溶液中のイオンの活動係数は理論的に Dubye-Huckel の式を用い

近似的に求めることが可能であるこれはJIS(日

用されていて Bates-Guggenheim の規約と呼ばれる (Bates RG

Guggenheim Pure Appl Chem 1 163-168 1960)

Dubye-Huckel の式は次のように与えられる

log A I

i 1 iB I (86)

47

I iについてそのモル濃度

計算される

はイオン強度でイオン mi と電荷 zi から次式で

I 1

2mizi (87)

また iは(86)式のBは温度と溶媒の性質による定数であり イオンの大

きさに関するパラメータで水和イオンの大きさとほぼ一致した値をとる標

準法の勧告では塩素イオンに対しイオンの大きさを46Åと決めてiBを

1

5 にしているそこで式(84)は次のようになる

ClA I

log 1 15 I

イオン強度 I は塩素イオン濃度を含まない計算となる

以上の方法によって実用的な pH 測定に用いられる第一次第二次標準液の

pH の値が得られる

絶対値としての

はpH の絶対測定法(第一次標準測定法)とされている

銀塩化銀参照電極は分極現象を防ぐために棒状の銀を塩酸で処理し表

に塩化銀を生成させたものを飽和塩化カリウム溶液につけてある

(88)

参考現在は実験的に求めた値と理論値の組み合わせで

素イオン濃度を求める方法を規定しているこの起電力から水素イオン濃度

を知るための測定方法

Buck RP Rondinini S Covington AK Baucke FGK Brett CMA Camoes MF

Milton MJT Mussini T Naumann R Pratt Kw Spitzer P Wilson GS

Measurement of pH definition standards and procedures Pure Appl Chem

74(11)2169-2200 2002Kristensen HB Salomon A Kokholm GInternational

pH scales and certification of pH Anal Chem 63(18) 885A-891A 1991)

銀塩化銀参照電極

電極の構成は

Cl-(aq) | AgCl(s) | Ag(s)

48

この半反応は次のようになる

AgCl(s) + e- rarr Ag(s) + Cl- (89)

の反応は次の2つの反応に分けて考えることができる

Ag+ + e- rarr Ag(s) (91)

AgCl(s)rarr Ag+ + Cl- (90)

図11銀塩化銀参照電極

(90)における銀 る塩素イオンによって左

されることが推測される

そこでカッコ [ ] をそれによって囲まれるイオンの濃度を表すことにし

式 イオン Ag+の溶解性は共存す

塩化銀の乖離定数Kを考えると

49

K = [Ag+][Cl-] (92)

これから

[Ag+]= K[Cl-] (93)

化カリウム溶液に漬けた銀塩化銀電極の電位 E は水素標準電極に対する

電 で与えられる

位を E゜として次式

E E

RT

nF

[ Ag ]

[Ag(s)]ln( )

Ag(s)のイオン活量は常に1とする

ここで半反応の電極電位を求めるために式(75)を利用することにすれば

(94)

熱力学の慣例にしたがって純物質個体

E E

RT

Flna

H Cl a (75)

式 の半反応をみると

応で電子1つが移動するので n=1 とするR=831441 JmolK1F = 96485

C はめれば

これに銀イオンの濃度として式(93)を当てはめる

この反応で移動する電子は (89) 銀イオン1つの反

molT=29815K(25)ln(10)=2303などの定数を当て

2303RTF = 005917

であるから(94)式は次のように表現できる

log[Cl]) E E 005917(logK (95)

たがって標準水素電極に対する銀塩化銀参照電極の標準状態における電

位 は半反応(89)に対して ゜=+0799で

化銀の乖離定数 K は182times10-10 であるのでその対数を取れば-973993

0799-005917times973993-005917log[Cl-]

E゜ E ある

ある

そこで式(95)は

E =

50

= 0799-0576-005917log[Cl-]

= 0223-005917log[Cl-] (96)

電極電位の関係について実測値

こうして求めた塩化カリウム溶液の濃度と

計算上の値は次のようである

KCl moll vs SHE volt25 計算値 volt25 01 02881 02822 35 0205 01908 飽和 0199 minus

実用 測定

実際の現場で水素イオン濃度を測定する目的の測定法で上のような2つの

極が同じ溶液に浸かっていたのでは試料溶液を交換するにも便利ではない

の容器に入れる未知試料溶液と銀塩化銀電極を隔離する

的な pH

そこで水素電極側

的で二つの電極容器をつなぐ液絡部をグラスフィルターやセラミック板

飽和塩化カリウムで作成したゼラチンなどの塩橋によって隔離遮断するこ

れを液絡部とよぶ

電池として機能するために必要な溶液イオンの交換はこの液絡部で行う

組み立てる電池は電池式で次のように表される

Pt(s) | H2 | 試料 (H+ x moll) || 飽和 KCl | AgCl | Ag(s)

の標準電極と銀塩化銀電極とは区切られていて溶液の直接の接触がない

とを意味するために電池式ではタテ二重線を用いる銀塩化銀参照電極

の容器には飽和塩化カリウム溶液が入れられる

51

図12液絡部のある pH 測定のための電池

この液絡部のある電池では塩橋を記号lsquo | | rsquoで表して次のように記す

試料 (H+ x moll) | | 飽和 KCl

ここでは試料溶液と飽和塩化カリウム溶液の異なる2液が接している

このような界面では膜電力が生じるのと同様「液間電位差」が生じることが

知られているしたがって上の電池で測定される起電力 E は

E = E[銀塩化銀電極電位]+E[液間電位]+E[水素電極電位]

で与えられることになってE[液間電位]のために図12の電池の起電力

は銀塩化銀参照電極の値を知っていても水素電極容器内に入れた未知溶

液の水素イオン濃度を正しく知ることができない

52

そこで実用的な測定法としてこの E[液間電位]を膜電位として積極的に利

用する方法が工夫されたすなわち水素イオンに感応するガラス薄膜を用い

るガラス電極法である

53

ガラス電極

ガラスはケイ素原子と酸素原子からなる SiO4 の結晶構造を持ち酸素で囲

まれた空隙があって水素イオンがそれを埋めることができる

この性質によってガラス膜表面は水溶液中の水素イオンに応じて膜電位を

変化させるのでこれを水素イオン濃度測定用の電極として利用することが考

えられるこれが通常用いられるガラス電極である

ガラス電極は標準電極と組み合わせれば電池を構成することができこの電

池の起電力を知ってガラス薄膜の内外にできたイオン濃度勾配を知ろうとす

るものである

薄いガラス膜(01mm程度)をはさんで接する2つの溶液のH+イオン濃

度が異なるとその差に応じてガラス膜の両側に電位差(Eg)が現れる

ネルンストの式でガラス電極の内部に入れた既知の濃度のH+([H+]in)に対

し試料中の水素イオン濃度が[H+]sampleのとき次の電位を生じる

)][

][log(059170)

][

][ln(

sample

in

sample

ing

H

H

H

H

F

RTE

(97)

図13ガラス電極

電極を構成するのは銀塩化銀電極と同じ電極で用いる塩溶液は一般的

54

に 01モル塩酸溶液である

この半電池の電池式は次のように書くことができる

Ag(s) | AgCl(s) | HCl (01 M) | ガラス薄膜 || 試料溶液 H+ (x moll)

Eg

この半電池の電極電圧を測定するために銀塩化銀標準電極と組み合わせ

電池を作って起電力を計る

構成される電池は下図のようになる

ガラス電極 銀塩化銀標準電極

図14ガラス電極を用いた pH 測定用の電池

この電池の起電力は次の各半電池の平衡電位を合わせたものになる

55

E1ガラス電極の内側電位

Ag(s) | AgCl(s) | HCl (01 M)

Egガラス薄膜の内外に生じる膜電位

HCl (01 M) | ガラス薄膜 || 試料溶液 H+ (x moll)

E2液間電位(膜電位)銀塩化銀標準電極のセラミックを介した試料溶液

と銀塩化銀標準電極の内部液(飽和 KCl 溶液)の間に発生する電位

試料溶液 H+ (x moll)|| セラミック | KCl(飽和)

E3銀塩化銀標準電極

KCl(飽和)| AgCl(s) | Ag(s)

pH メーター用のガラス電極に使われるガラス薄膜は水素イオンに感応して

膜電位(Eg)を生じるこれは【膜電位】の章で記したように薄膜がある

一つのイオンのみを通過させる特性を持っている場合にイオンが膜を介した

両側で平衡状態に達したとして電気化学ポテンシャルを膜の両側で等しいと

考えてそのイオンが濃厚な側から希薄な側にその差によって圧力を生じると

するものである

一方同じ試料溶液が銀塩化銀標準電極のセラミック液絡部を介して生じ

るだろう液間電位(膜電位E2)はいま関心がある水素イオンに対して特異

的に感応するのではないので試料溶液の水素イオン濃度に関係なく一定と見

なすことができる

すなわちpH メーターを構成する電池の起電力 E は

E = E1+Eg+E2+E3 (98)

このうちEg以外は一定と見なせるので

E1+E2+E3 = E

として式(98)を書き直すと

)][

][log(059170

sample

ing H

HEEEE

(99)

Eは標準液によって校正されるべき標準電極電位である

56

電極の校正

実際のイオン濃度を測定する場合低濃度標準液と高濃度標準液で得られ

る起電力を測定し計測のイオン濃度に対する係数(傾き)を求めておき未

知の試料に対して起電力を測定してそのイオン濃度を算出する方法が採られる

低濃度標準液と高濃度標準液のそれぞれの濃度をCLとCHとすればそれぞ

れの起電力ELとEHは次式で表される EH = E +β logCH (100)

EL = E +β log CL (101)

ただしβは式(99)の係数を簡略にしたものである

式(100)と(101)から検量線の傾きが次式で表せる

ΔE = EH minus EL = β(logCH minus logCL) = β logCH

CL

(102)

したがって係数βは

β =ΔE

log CH

CL

(103)

であらわされる

このときに使われる標準はすでに前出の pH 第一次標準第二次標準溶液で

ある

金属イオンに対応するイオン選択電極

現在臨床検査で日常的に使われている電解質測定のための電極はナトリウ

ムカリウムカルシウムクロールなどおよそ臨床的に必要な金属イオン

に対して入手可能である

カリウムイオン測定用のバリノマイシンの発見によってクラウンエーテルと

57

呼ばれる一連の化合物が知られたクラウンエーテルはその分子の中心に立

体的な空間を持ち特定のイオン径に対し合致するのでそのイオンに対して

選択的に感応するこれらの化合物はイオノフォアと呼ばれる

図 15クラウンエーテル

1つの金属イオンが環状化合物

15-crown-5 の中央にある空間を充填

している模式図

15-crown-5 の構造を作る10個の黒

い丸は炭素炭素2個のつながりごと

にある中心の白い丸は酸素酸素と

金属イオンの間の距離はおよそ 22~

23Åであるカリウムのファンデン

ワールス半径は 135Åイオン半径は

15~16Åである

測定したいイオンに対しポリ塩化ビニル(PVC)を支持体としてイオノフ

ォアを添加した液膜の電極膜を作成しこれをガラス電極におけるガラス薄膜

と同様試料に接する電極膜として用いるこの構造から一般的に液膜型電極

と呼ばれる電極膜には特異性を高めるため妨害イオン排除剤などが添加

される

pH メーターと同様銀塩化銀標準電極と組み合わせ電池を形成しその

起電力を計る測定したいイオンが液膜に対して内外で平衡に達したときの

膜電位を測定するのはガラス電極と同じである

カ リ ウ ム イ オ ン に は Bis[(benzo-15-crown-5) ( 正 式 名 は

Bis[(benzo-15-crown-5)-4-methyl]pimelate)ナトリウムには Bis[(12-crown-4)

やDibenzyl-bis[(12-crown-4)などがイオノフォアとして用いられる

58

図16カリウムイオン測定用に使われるクラウンエーテル

図17ナトリウムイオン測定用に使われるクラウンエーテル

59

参考イオン選択電極に関する文献Xia Z Badr IHA Plummer SL Cullen L

Bachas LG Synthesis and evaluation of a bis(crown ether) ionophore with a

conformationally constained bridge in ione- selective electrodes Anal Sci 14(2)

169-173 1998 Oh K-C Kang EC Cho YL Jeong K-S Y oo E-A Paeng K-J

Potassium-selective PVC membrane electrodes based on newly synthesized

cis- and trans-bis(crown ether)s ibid 14(10)1009-1012 1998 Dojindo WEB

site httpwwwdojindocojpwwwrootproductsjinfo2protocolp31pdf

<補遺> 60

補遺 状態関数 (本文 p21 10 行目参照)

一つの平衡状態にある系 A とこれに接する系 A にとって外部である系 B について系 B

から系 A に熱を与えこれによって系 A が他の平衡状態に移ったとき系 A はその結果とし

て膨張し系 B に対し仕事をする

このときの微少な熱量の移動を記号drsquoQ またなされた微少な仕事をdrsquoW とすると

系Aの内部エネルギーに関する微少な変化drsquoUA は両者の和として表される

WdQdUd A primeminusprime=prime (a-1)

この式 a-1 と本文中の式25との関係について

WQU A Δminus=Δ 本文(25)

<補遺> 61

式 a-1 と式25の記号の違いは変化の起きる前の平衡状態 S1 から変化後の平衡状態 S2

に状態変化があったとするなら式 a-1 を積分することで式25が得られるものと考えて区

別している

A

S

S A UUd Δ=primeint2

1 (a-2)

このことは重要であるすなわち内部エネルギーU は変化の起きる前後の状態を指定する

ことによって値が定まることを意味するこのように積分によって値を定めることが出来る

のでdrsquoU は完全微分であるという

内部エネルギーのように系の状態だけで値の定まる量を状態関数として扱う

一方式 a-1 のdrsquoQ drsquoW についても同様に微少の変化量を表しているが平衡状態 S1

から S2 への経路を指定しなければ積分の値は定まらない

本文中の記号にしたがって仕事量ΔW を次のように表すことにする

VpW Δ=Δ 本文(20) V

<補遺> 62

体積と圧力の関係を表す図を使ってこの仕事量が意味することを考える圧力 prsquo の下で

体積が V1 であるときを状態 S1 として圧力一定の下で体積を V2 まで膨張させるような変

化を行った後体積を等しく保って圧力を p にまで上げたときの状態を S2 とするこのとき

の仕事量は膨張に伴うものであるから図の体積‐圧力線の下の面積で示すことができる

平衡状態 S1 から S2 への変化の道筋を別にたどってみよう

新しい経路では圧力を先に p まで上げた後に膨張変化させている

図から直感的に明らかであるので数式での扱いを省略するが2 つの経路による仕事量には

差がある

すなわちdrsquoW は drsquoU と異なり変化の初め S1 と終わり S2 の状態が与えられても積分値

は定まらず変化の経路によって違ってくる

このように変化の経路を指定しなければ積分値が定まらないものを不完全微分と呼び扱

いを区別する

本文 p21 へ戻る

<補遺> 63

VpW

WQU

VpQU

VpUQ

1122 SSSS pVUpVUQ

pVU

VpUHHHQ SS 12

エンタルピー (本文 p24 20 行目参照)

本文中の式 20 および 25 から一定の圧力の元で起きる状態変化において内部エネルギー

の変化量に対する式 a-3 を得る

本文(20)

本文(25)

(a-3)

式 a-3 を Q について書き直す

(a-4)

状態の変化が平衡状態S1から平衡状態S2に移ったものとして式 a-4を丁寧に書き直すと

(a-5)

並び替えて

(a-6)

式 a-6 を見ると定圧過程における熱量の流入は

(a-7)

の形を持つ関数の差であることが分かる

一般に化学反応のような変化の過程では大気圧の下で行われるようなものに興味がある

そこで式 a-7 で与えられる項を一つの関数として定義するこれをエンタルピーと呼び記

号 H を与える式 a-4 はエンタルピーの変化量で次のように書き改められる

(a-8)

圧力が一定の下で起こる状態変化について流入する熱量は式 a-8 で示されるようにエンタ

ルピーの変化量に等しい

V

V

V

V V

V

V

1212 SSSS VVpUUQ VV

<補遺> 64

1Q

We

また式 a-8 からオートクレーブ内で起こるような体積変化のない過程ではこの値が内

部エネルギーの変化量で与えられることが明らかである

本文 p24 へ戻る

エントロピー (本文 p26 17 行目参照)

エントロピーは次のような思考実験から発想された仮想的な状態関数である

理想気体よりなる系 A が温度 T2で熱平衡状態にあり温度 T1の外部の熱源と接しているこ

とを想定する系 A の外部を系 B と呼ぶことにするT1は T2に対して無限小だけ高い温度と

する

系 A が系 B に対して温度圧力について平衡を保ちながら緩慢に系 B より熱量 Q1を受け取

る過程を考える(このような過程を準静的過程と呼ぶ)これによって系 A が熱量 Q1を得て膨

張するとき系 B に対して仕事をする続いて系 A から熱量 Q2が系 B に戻ることを考える

想定されるこの変化が可逆的であれば系 A と系 B を併せた全体は元の状態に戻る蒸気機

関に関するこのような研究が Nicolas Carnot によってなされたのは1824 年のことであった

ここに想定されたサイクルに対する Carnot の効率 e は移動した熱量となされた仕事によ

って定義され次の式で表される

(b-1)

<補遺> 65

理想気体では内部エネルギーU の変化ΔU はゼロと考えるしたがって熱力学の第一法

則を表す式(本文中の式25)から次の関係が示される

0=Δminus=Δ WQU

WQ Δ= (b-2)

これによってCarnot Cycleの効率eはQ2lt0 として次のように書き改めることが出来る

1

21

QQQe +

= (b-3)

ところで気体の状態方程式から1 モルの気体について次のような関係が示される

RTV

P

P1=

V = RTV (b-4)

V 式 b-4 の両辺に体積の微少変化量ΔV をかけて

(b-5)

これを体積Vについてその変化をV1からV2までとして積分するならば次式が得られる

VV

RTVP Δ=Δ 1V V

V

intint = 2

1

2

1

1V

V

V

VdV

VRTPdV

1V2V

11 lnRTW =

(b-6)

Q1の熱量によって起こる膨張がV1よりV2までとし圧力P温度T1の下でなされるその仕事

量をW1とするならそれは式b-6 の右辺によって示されるすなわち

(b-7)

VV

1

2lnVVRT=

V V

VV

V

V2int V2 intV1 V1

<補遺> 66

またQ2の熱量の移動が圧力P温度T2の下で起きこれによって系Aが可逆的に圧縮され

るなら体積変化はV2よりV1まで起こりその仕事量をW2で示すと次式のように表される

(b-8)

1

22

2

122 lnln

VVRT

VVRTW minus==VV

VV

Q1=W1Q2=W2の関係から式b-7 およびb-8 を用いてCarnot Cycleの効率eを表す式b-3

を書き改めると温度のみの関係式として次のように表される

1

21

TTTe minus

= (b-9)

ここでサイクルが可逆的過程であると想定するならば式 b-3 と式 b-9 から

1

21

1

21

TTT

QQQe minus

=+

= (b-10)

これから

12112111 QTQTQTQT minus=+ (b-11)

整理すると

02

2

1

1 =+TQ

TQ (b-12)

この考えをさらに発展させ系A

と系Bの間に数多くの系を挿入すること

にしてそれらの系を同様に熱源として

T1T2Tnと考えるこれによっ

て熱の受け渡しが系Aから系Bに至り

再び系Aにもどるサイクル過程に数多

くの寄り道の過程を加えることになる

熱量の移動に関して上の場合と同じく

準静的過程で行われると考えるこの

サイクル全過程について初めと終わ

<補遺> 67

n

i i

i

T

Q

1

0

0T

dQ

T

QS

T

dQASAS )()( 12

りが同じ状態になる可逆的な過程であるなら式 b-12 を拡大的に考えることになってそれ

は次式で表される

(b-13)

式 b-13 には重要な関数が現れるすなわち熱量と温度の比QT である

もし一つの系が無限小だけ温度の高い(dT )外界から温度圧力など平衡を保ちなが

ら極めて緩慢な過程(準静的過程)で無限小の熱量(dQ )を受け取るならばその変化は可

逆的でありdT について連続的な温度分布をする過程を考えるとき式 b-13 をさらに発展

させて次のように積分式で示すことが出来る

(b-14)

式 b-14 で積分記号にが付されているのはCarnot Cycle のような経路を一巡することを

意味している

Carnot の熱機関の効率という着想から生まれた熱量とそれを持つ系の温度との比 QT に

重要な意味を見出したのは Rudolph Clausius で彼はこの比にエントロピーという名前を与

えたエントロピーには記号ΔS を一般に用いる

(b-15)

エントロピーは初めと終わりの状態がわかれば過程に関わらず定まるので状態関数であ

系 A と外界のエントロピー変化を考えるときそれが可逆的過程であるならばすべてを併

せた全体のエントロピー変化は初めと終わりに変化がないという意味でゼロであるすなわ

ち初めの状態を S(A1)とし次の状態を S(A2)とするならそれぞれのエントロピーを

ΔS(A1)ΔS(A2)としてこの間におけるエントロピーの変化量は次のように示される

(b-16)

<補遺> 68

T

dQdS

0T

dQ

ある一つの変化については次のように示される

(b-17)

ここで式 b-17 の S に付けられたdは微分量すなわちごく微小の変化量を意味し式 b-15

で定義されたエントロピーに用いられる一般的な記号Δと区別する

ところで式 b-10 の関係においてもし移動した熱量のすべてが仕事に変わらなければ

効率 e を表す熱量を用いた関係式と温度で表される関係式は等号で結ぶことができないそれ

はエネルギーのロスを意味し初めと終わりの状態が異なってしまうことを意味するすなわ

ち全過程が構成する一つのサイクルは可逆的でなくなる

不可逆過程での熱効率 ersquo は 大値を示す可逆的過程の熱効率 e より小さな値をとる

ee

したがって 大効率を与える式 b-8 と式 b-3 から

01221

2112

1

21

1

21

QTQT

QTQT

Q

QQ

T

TT

両辺を T1T2で割ると

02

2

1

1 T

Q

T

Q

これを式 b12 と同様に発展させれば式 b-14 についてサイクルの変化が可逆的過程の

場合と不可逆的過程の場合の両方を併せClausius の不等式と呼ばれる次の関係が成立する

(b-18)

式 b-18 の等号が成立するのはサイクルが可逆的な理想の場合に限られる

ある孤立系で状態 A1 から状態 A2 へは不可逆変化で進められ状態 A2 から再び状態 A1

に戻るとき可逆変化であるような閉じた状態変化を考える可逆系のエントロピー変化には

記号 Q を使い不可逆変化には Q を用いるとするとそれぞれ積分式を用いて状態 A1 から

状態 A2 へは

<補遺> 69

d prime

状態 A2 から状態 A1 に戻るときは

全体では

=d prime

+d

(b-19)

Clausius の不等式から

0

式(b-19)の第二項で反応を逆に進めるときには次のように書き改めることができる

=d

よって式(b-19)は次のように書き直すことができClausius の不等式とあわせると

d prime d

0

すなわち

d prime d

上式の右辺は式(b-16)を用いて表せば

d prime

∆S ∆

この状態変化を微小変化とするならば断熱変化の場合 dQ = 0 であるから

∆S ∆ dS 0

すなわち不可逆変化を含む断熱変化ではエントロピーは必ず増大する

<補遺> 70

T

QS

BA SSS

(b-20)

(次の<補遺>ギブス自由エネルギーも参照せよ)

本文 p26 へ戻る

ギブス自由エネルギー (本文 p28 27 行目参照)

エントロピーの考えを導入することによって不可逆的に状態変化が起きるときにはエン

トロピーの増大を引き起こすことを知ったこれによって目前で起きる現象について温度の

変化があるものであれないものであれまた圧力の変化があるものであってもエントロピー

の定義式によって可逆的な変化におけるエントロピーの変化量を計算することが可能である

(b-15)

しかしながらこれから起こる変化について我々がすでにあらかじめ知っている物理量を

用いて予測的にその状態変化が起きるかどうか知ることは必ずしも容易ではないその理由

は式 b-15 に示されたエントロピーΔS が系とその外界をあわせた全体のエントロピーを示

しているからであるすなわち関心のある系を系 A としその外界を系 B とすると全体

のエントロピーは次のように表せる

(c-1)

関心のある系 A のエントロピー変化を知るためには系 B のそれを知ればよいがそれは

いつも容易とは限らない系 A の性質だけで状態変化の方向を知るには別の観点が必要にな

るようだ

そこでもう一度状態変化が熱量 Q の移動によって起きることについて考えてみようエン

トロピーの補遺で議論したように熱量の移動が準静的過程により行われるときには変化は可

逆的に起こると考えたこのとき外界すなわち系 B から移動する熱量を Q1とし系 A から

0S

<補遺> 71

21 QQ

T

Q

T

QSB

21

T

QSS A

2

QH

T

HSS AA

AA STHST

のそれを Q2 と記号を当てたのでこれをそのまま使うことにすれば可逆的な過程では系 B

の熱量 Q1 はすなわち系 A から戻る Q2 に他ならないので両者には次の関係が成立するも

のとしてよい

(c-2)

したがって

(c-3)

と考えてよくこれによって式 c-1 を次のように書きなおすことが出来る

(c-4)

独立した系で圧力とその体積に変化がなく一定の条件の下で状態変化が起きるときエン

タルピーの考えを使ってすでにひとつの関係があることを導いている

本文(31)

そこで式 c-4 を系のエンタルピーΔHAによって書き改めれば

(c-5)

この両辺に-T をかけて式を書き直せば次の関係式が得られる

(c-6)

式 c-6 を見るときその右辺がマイナスの値ならば左辺のΔS はプラスの値をとることが

分かるすなわちエントロピーが増大すると見ることが出来るこれまでの過程で自然の現

象はエントロピーが増大する方向に進むとしてきたので関心のある状態変化について式 c-6

の右辺で計算される値がマイナスの値ならばその変化は起きるものと考えてよいことになる

だろうしかも右辺はすべて独立した系の状態量で示されていて我々が知りうる値で計算

<補遺> 72

TSHG

STSTHG

STHG

可能である

そこでこれを熱力学ポテンシャルを表すものとしてギブス自由エネルギーと呼ぶことに

するギブス自由エネルギーは記号 G が用いられ次のように定義される

(c-7)

ここで関心があるのは自由エネルギーの絶対値ではなく式 c-6 に示されたようにその変化量

に興味があるので式 c-7 から

(c-8)

温度が一定の条件の下で状態変化が起きることを考えるなら式 c-8 は次のように書くこと

ができる

(c-9)

ギブス自由エネルギーは式 c-9 の右辺がすべて状態量であるからこれも状態量の一つで

ある定圧定温の条件下で起きる変化ではすでに議論したようにΔGlt0 であれば状態

変化は自発的に起きるものと予測できる

つまり式 c-5 の第一項は系のエントロピーΔSAそのものであり第二項で示されるエンタ

ルピーは系 A の温度が一定に保たれているのであるから発熱する熱量として外界に吸収さ

れるものであってこれは外界のエントロピーの増大につながるものとして解釈されるした

がって化学反応のように一定の圧力と一定の温度の下で起きる変化について自由エネルギ

ー変化量はその状態変化が自発的に起きる傾向を示しているといってよい

本文 p28 へ戻る

  • はじめに
  • 目次
  • 電気エネルギー
    • 金属のイオン化
    • 電池
    • 水素の反応
    • 燃料電池
    • 化学反応と電気エネルギー
      • エネルギーと熱力学
        • エネルギー保存則
        • エンタルピー
        • エントロピー13
        • ギブス自由エネルギー
        • 電池における化学反応のギブス自由エネルギー13
        • 理想気体の状態方程式
        • 理想溶液のギブス自由エネルギー
        • 膜電位
          • 水素イオン濃度測定
            • 化学反応の一般的な式
            • pHの定義とその目盛り
            • pH標準液
            • 銀塩化銀参照電極
            • 実用的なpH測定
            • ガラス電極
            • 電極の校正
            • 金属イオンに対応するイオン選択電極
              • 文献
              • 補遺
                • 状態関数
                • エンタルピー
                • エントロピー
                • ギブス自由エネルギー
Page 49: イオン選択電極i イオン選択電極 Ion Selective Electrode (ISE) を理解する ・ pHを測定する ・ NaやKなどのイオン濃度を測定する 神戸大学医学部保健学科

46

-log(a H+γCl-)=-log(γH+ CH+γCl-) (84)

たがって式(82)の右辺で示されるように電池の起電力を測定すれば

よ 実際には溶液の塩素イオン濃

液で起電力を求め外挿する

起電

これによってpH を意味する式(83)は次式(85)で与えられる

p(aHγCl)はRG Bates によって Acidity Function と呼ばれている

らに式(85)最終項の log(γCl-) を補正しなければならないこの項は

本工業規格)によっても

であってこれは式(82)の左辺である

いただし塩素イオン濃度の項があって

をゼロにしたときの値が必要である

実測する際には塩素イオン濃度をゼロにできないので塩化ナトリウム NaCl

等を濃度を変えて添加しその時々の緩衝

勧告ではNaCl で 000500100015moll の3つの濃度を例示している

すなわち塩素イオン濃度ゼロのときの値は各塩素イオン濃度に対して

の値をそれぞれプロットしグラフから塩素イオンがゼロのときの起電力の

値を3点に対する回帰直線の延長で外挿して求めるこの点を次のように書

log( C H H Cl CCl

0

pa log( C log( (85) H H H Cl C

Cl0 Cl

)

素イオンの活動係数で与えられる補正項である

無限希釈溶液中のイオンの活動係数は理論的に Dubye-Huckel の式を用い

近似的に求めることが可能であるこれはJIS(日

用されていて Bates-Guggenheim の規約と呼ばれる (Bates RG

Guggenheim Pure Appl Chem 1 163-168 1960)

Dubye-Huckel の式は次のように与えられる

log A I

i 1 iB I (86)

47

I iについてそのモル濃度

計算される

はイオン強度でイオン mi と電荷 zi から次式で

I 1

2mizi (87)

また iは(86)式のBは温度と溶媒の性質による定数であり イオンの大

きさに関するパラメータで水和イオンの大きさとほぼ一致した値をとる標

準法の勧告では塩素イオンに対しイオンの大きさを46Åと決めてiBを

1

5 にしているそこで式(84)は次のようになる

ClA I

log 1 15 I

イオン強度 I は塩素イオン濃度を含まない計算となる

以上の方法によって実用的な pH 測定に用いられる第一次第二次標準液の

pH の値が得られる

絶対値としての

はpH の絶対測定法(第一次標準測定法)とされている

銀塩化銀参照電極は分極現象を防ぐために棒状の銀を塩酸で処理し表

に塩化銀を生成させたものを飽和塩化カリウム溶液につけてある

(88)

参考現在は実験的に求めた値と理論値の組み合わせで

素イオン濃度を求める方法を規定しているこの起電力から水素イオン濃度

を知るための測定方法

Buck RP Rondinini S Covington AK Baucke FGK Brett CMA Camoes MF

Milton MJT Mussini T Naumann R Pratt Kw Spitzer P Wilson GS

Measurement of pH definition standards and procedures Pure Appl Chem

74(11)2169-2200 2002Kristensen HB Salomon A Kokholm GInternational

pH scales and certification of pH Anal Chem 63(18) 885A-891A 1991)

銀塩化銀参照電極

電極の構成は

Cl-(aq) | AgCl(s) | Ag(s)

48

この半反応は次のようになる

AgCl(s) + e- rarr Ag(s) + Cl- (89)

の反応は次の2つの反応に分けて考えることができる

Ag+ + e- rarr Ag(s) (91)

AgCl(s)rarr Ag+ + Cl- (90)

図11銀塩化銀参照電極

(90)における銀 る塩素イオンによって左

されることが推測される

そこでカッコ [ ] をそれによって囲まれるイオンの濃度を表すことにし

式 イオン Ag+の溶解性は共存す

塩化銀の乖離定数Kを考えると

49

K = [Ag+][Cl-] (92)

これから

[Ag+]= K[Cl-] (93)

化カリウム溶液に漬けた銀塩化銀電極の電位 E は水素標準電極に対する

電 で与えられる

位を E゜として次式

E E

RT

nF

[ Ag ]

[Ag(s)]ln( )

Ag(s)のイオン活量は常に1とする

ここで半反応の電極電位を求めるために式(75)を利用することにすれば

(94)

熱力学の慣例にしたがって純物質個体

E E

RT

Flna

H Cl a (75)

式 の半反応をみると

応で電子1つが移動するので n=1 とするR=831441 JmolK1F = 96485

C はめれば

これに銀イオンの濃度として式(93)を当てはめる

この反応で移動する電子は (89) 銀イオン1つの反

molT=29815K(25)ln(10)=2303などの定数を当て

2303RTF = 005917

であるから(94)式は次のように表現できる

log[Cl]) E E 005917(logK (95)

たがって標準水素電極に対する銀塩化銀参照電極の標準状態における電

位 は半反応(89)に対して ゜=+0799で

化銀の乖離定数 K は182times10-10 であるのでその対数を取れば-973993

0799-005917times973993-005917log[Cl-]

E゜ E ある

ある

そこで式(95)は

E =

50

= 0799-0576-005917log[Cl-]

= 0223-005917log[Cl-] (96)

電極電位の関係について実測値

こうして求めた塩化カリウム溶液の濃度と

計算上の値は次のようである

KCl moll vs SHE volt25 計算値 volt25 01 02881 02822 35 0205 01908 飽和 0199 minus

実用 測定

実際の現場で水素イオン濃度を測定する目的の測定法で上のような2つの

極が同じ溶液に浸かっていたのでは試料溶液を交換するにも便利ではない

の容器に入れる未知試料溶液と銀塩化銀電極を隔離する

的な pH

そこで水素電極側

的で二つの電極容器をつなぐ液絡部をグラスフィルターやセラミック板

飽和塩化カリウムで作成したゼラチンなどの塩橋によって隔離遮断するこ

れを液絡部とよぶ

電池として機能するために必要な溶液イオンの交換はこの液絡部で行う

組み立てる電池は電池式で次のように表される

Pt(s) | H2 | 試料 (H+ x moll) || 飽和 KCl | AgCl | Ag(s)

の標準電極と銀塩化銀電極とは区切られていて溶液の直接の接触がない

とを意味するために電池式ではタテ二重線を用いる銀塩化銀参照電極

の容器には飽和塩化カリウム溶液が入れられる

51

図12液絡部のある pH 測定のための電池

この液絡部のある電池では塩橋を記号lsquo | | rsquoで表して次のように記す

試料 (H+ x moll) | | 飽和 KCl

ここでは試料溶液と飽和塩化カリウム溶液の異なる2液が接している

このような界面では膜電力が生じるのと同様「液間電位差」が生じることが

知られているしたがって上の電池で測定される起電力 E は

E = E[銀塩化銀電極電位]+E[液間電位]+E[水素電極電位]

で与えられることになってE[液間電位]のために図12の電池の起電力

は銀塩化銀参照電極の値を知っていても水素電極容器内に入れた未知溶

液の水素イオン濃度を正しく知ることができない

52

そこで実用的な測定法としてこの E[液間電位]を膜電位として積極的に利

用する方法が工夫されたすなわち水素イオンに感応するガラス薄膜を用い

るガラス電極法である

53

ガラス電極

ガラスはケイ素原子と酸素原子からなる SiO4 の結晶構造を持ち酸素で囲

まれた空隙があって水素イオンがそれを埋めることができる

この性質によってガラス膜表面は水溶液中の水素イオンに応じて膜電位を

変化させるのでこれを水素イオン濃度測定用の電極として利用することが考

えられるこれが通常用いられるガラス電極である

ガラス電極は標準電極と組み合わせれば電池を構成することができこの電

池の起電力を知ってガラス薄膜の内外にできたイオン濃度勾配を知ろうとす

るものである

薄いガラス膜(01mm程度)をはさんで接する2つの溶液のH+イオン濃

度が異なるとその差に応じてガラス膜の両側に電位差(Eg)が現れる

ネルンストの式でガラス電極の内部に入れた既知の濃度のH+([H+]in)に対

し試料中の水素イオン濃度が[H+]sampleのとき次の電位を生じる

)][

][log(059170)

][

][ln(

sample

in

sample

ing

H

H

H

H

F

RTE

(97)

図13ガラス電極

電極を構成するのは銀塩化銀電極と同じ電極で用いる塩溶液は一般的

54

に 01モル塩酸溶液である

この半電池の電池式は次のように書くことができる

Ag(s) | AgCl(s) | HCl (01 M) | ガラス薄膜 || 試料溶液 H+ (x moll)

Eg

この半電池の電極電圧を測定するために銀塩化銀標準電極と組み合わせ

電池を作って起電力を計る

構成される電池は下図のようになる

ガラス電極 銀塩化銀標準電極

図14ガラス電極を用いた pH 測定用の電池

この電池の起電力は次の各半電池の平衡電位を合わせたものになる

55

E1ガラス電極の内側電位

Ag(s) | AgCl(s) | HCl (01 M)

Egガラス薄膜の内外に生じる膜電位

HCl (01 M) | ガラス薄膜 || 試料溶液 H+ (x moll)

E2液間電位(膜電位)銀塩化銀標準電極のセラミックを介した試料溶液

と銀塩化銀標準電極の内部液(飽和 KCl 溶液)の間に発生する電位

試料溶液 H+ (x moll)|| セラミック | KCl(飽和)

E3銀塩化銀標準電極

KCl(飽和)| AgCl(s) | Ag(s)

pH メーター用のガラス電極に使われるガラス薄膜は水素イオンに感応して

膜電位(Eg)を生じるこれは【膜電位】の章で記したように薄膜がある

一つのイオンのみを通過させる特性を持っている場合にイオンが膜を介した

両側で平衡状態に達したとして電気化学ポテンシャルを膜の両側で等しいと

考えてそのイオンが濃厚な側から希薄な側にその差によって圧力を生じると

するものである

一方同じ試料溶液が銀塩化銀標準電極のセラミック液絡部を介して生じ

るだろう液間電位(膜電位E2)はいま関心がある水素イオンに対して特異

的に感応するのではないので試料溶液の水素イオン濃度に関係なく一定と見

なすことができる

すなわちpH メーターを構成する電池の起電力 E は

E = E1+Eg+E2+E3 (98)

このうちEg以外は一定と見なせるので

E1+E2+E3 = E

として式(98)を書き直すと

)][

][log(059170

sample

ing H

HEEEE

(99)

Eは標準液によって校正されるべき標準電極電位である

56

電極の校正

実際のイオン濃度を測定する場合低濃度標準液と高濃度標準液で得られ

る起電力を測定し計測のイオン濃度に対する係数(傾き)を求めておき未

知の試料に対して起電力を測定してそのイオン濃度を算出する方法が採られる

低濃度標準液と高濃度標準液のそれぞれの濃度をCLとCHとすればそれぞ

れの起電力ELとEHは次式で表される EH = E +β logCH (100)

EL = E +β log CL (101)

ただしβは式(99)の係数を簡略にしたものである

式(100)と(101)から検量線の傾きが次式で表せる

ΔE = EH minus EL = β(logCH minus logCL) = β logCH

CL

(102)

したがって係数βは

β =ΔE

log CH

CL

(103)

であらわされる

このときに使われる標準はすでに前出の pH 第一次標準第二次標準溶液で

ある

金属イオンに対応するイオン選択電極

現在臨床検査で日常的に使われている電解質測定のための電極はナトリウ

ムカリウムカルシウムクロールなどおよそ臨床的に必要な金属イオン

に対して入手可能である

カリウムイオン測定用のバリノマイシンの発見によってクラウンエーテルと

57

呼ばれる一連の化合物が知られたクラウンエーテルはその分子の中心に立

体的な空間を持ち特定のイオン径に対し合致するのでそのイオンに対して

選択的に感応するこれらの化合物はイオノフォアと呼ばれる

図 15クラウンエーテル

1つの金属イオンが環状化合物

15-crown-5 の中央にある空間を充填

している模式図

15-crown-5 の構造を作る10個の黒

い丸は炭素炭素2個のつながりごと

にある中心の白い丸は酸素酸素と

金属イオンの間の距離はおよそ 22~

23Åであるカリウムのファンデン

ワールス半径は 135Åイオン半径は

15~16Åである

測定したいイオンに対しポリ塩化ビニル(PVC)を支持体としてイオノフ

ォアを添加した液膜の電極膜を作成しこれをガラス電極におけるガラス薄膜

と同様試料に接する電極膜として用いるこの構造から一般的に液膜型電極

と呼ばれる電極膜には特異性を高めるため妨害イオン排除剤などが添加

される

pH メーターと同様銀塩化銀標準電極と組み合わせ電池を形成しその

起電力を計る測定したいイオンが液膜に対して内外で平衡に達したときの

膜電位を測定するのはガラス電極と同じである

カ リ ウ ム イ オ ン に は Bis[(benzo-15-crown-5) ( 正 式 名 は

Bis[(benzo-15-crown-5)-4-methyl]pimelate)ナトリウムには Bis[(12-crown-4)

やDibenzyl-bis[(12-crown-4)などがイオノフォアとして用いられる

58

図16カリウムイオン測定用に使われるクラウンエーテル

図17ナトリウムイオン測定用に使われるクラウンエーテル

59

参考イオン選択電極に関する文献Xia Z Badr IHA Plummer SL Cullen L

Bachas LG Synthesis and evaluation of a bis(crown ether) ionophore with a

conformationally constained bridge in ione- selective electrodes Anal Sci 14(2)

169-173 1998 Oh K-C Kang EC Cho YL Jeong K-S Y oo E-A Paeng K-J

Potassium-selective PVC membrane electrodes based on newly synthesized

cis- and trans-bis(crown ether)s ibid 14(10)1009-1012 1998 Dojindo WEB

site httpwwwdojindocojpwwwrootproductsjinfo2protocolp31pdf

<補遺> 60

補遺 状態関数 (本文 p21 10 行目参照)

一つの平衡状態にある系 A とこれに接する系 A にとって外部である系 B について系 B

から系 A に熱を与えこれによって系 A が他の平衡状態に移ったとき系 A はその結果とし

て膨張し系 B に対し仕事をする

このときの微少な熱量の移動を記号drsquoQ またなされた微少な仕事をdrsquoW とすると

系Aの内部エネルギーに関する微少な変化drsquoUA は両者の和として表される

WdQdUd A primeminusprime=prime (a-1)

この式 a-1 と本文中の式25との関係について

WQU A Δminus=Δ 本文(25)

<補遺> 61

式 a-1 と式25の記号の違いは変化の起きる前の平衡状態 S1 から変化後の平衡状態 S2

に状態変化があったとするなら式 a-1 を積分することで式25が得られるものと考えて区

別している

A

S

S A UUd Δ=primeint2

1 (a-2)

このことは重要であるすなわち内部エネルギーU は変化の起きる前後の状態を指定する

ことによって値が定まることを意味するこのように積分によって値を定めることが出来る

のでdrsquoU は完全微分であるという

内部エネルギーのように系の状態だけで値の定まる量を状態関数として扱う

一方式 a-1 のdrsquoQ drsquoW についても同様に微少の変化量を表しているが平衡状態 S1

から S2 への経路を指定しなければ積分の値は定まらない

本文中の記号にしたがって仕事量ΔW を次のように表すことにする

VpW Δ=Δ 本文(20) V

<補遺> 62

体積と圧力の関係を表す図を使ってこの仕事量が意味することを考える圧力 prsquo の下で

体積が V1 であるときを状態 S1 として圧力一定の下で体積を V2 まで膨張させるような変

化を行った後体積を等しく保って圧力を p にまで上げたときの状態を S2 とするこのとき

の仕事量は膨張に伴うものであるから図の体積‐圧力線の下の面積で示すことができる

平衡状態 S1 から S2 への変化の道筋を別にたどってみよう

新しい経路では圧力を先に p まで上げた後に膨張変化させている

図から直感的に明らかであるので数式での扱いを省略するが2 つの経路による仕事量には

差がある

すなわちdrsquoW は drsquoU と異なり変化の初め S1 と終わり S2 の状態が与えられても積分値

は定まらず変化の経路によって違ってくる

このように変化の経路を指定しなければ積分値が定まらないものを不完全微分と呼び扱

いを区別する

本文 p21 へ戻る

<補遺> 63

VpW

WQU

VpQU

VpUQ

1122 SSSS pVUpVUQ

pVU

VpUHHHQ SS 12

エンタルピー (本文 p24 20 行目参照)

本文中の式 20 および 25 から一定の圧力の元で起きる状態変化において内部エネルギー

の変化量に対する式 a-3 を得る

本文(20)

本文(25)

(a-3)

式 a-3 を Q について書き直す

(a-4)

状態の変化が平衡状態S1から平衡状態S2に移ったものとして式 a-4を丁寧に書き直すと

(a-5)

並び替えて

(a-6)

式 a-6 を見ると定圧過程における熱量の流入は

(a-7)

の形を持つ関数の差であることが分かる

一般に化学反応のような変化の過程では大気圧の下で行われるようなものに興味がある

そこで式 a-7 で与えられる項を一つの関数として定義するこれをエンタルピーと呼び記

号 H を与える式 a-4 はエンタルピーの変化量で次のように書き改められる

(a-8)

圧力が一定の下で起こる状態変化について流入する熱量は式 a-8 で示されるようにエンタ

ルピーの変化量に等しい

V

V

V

V V

V

V

1212 SSSS VVpUUQ VV

<補遺> 64

1Q

We

また式 a-8 からオートクレーブ内で起こるような体積変化のない過程ではこの値が内

部エネルギーの変化量で与えられることが明らかである

本文 p24 へ戻る

エントロピー (本文 p26 17 行目参照)

エントロピーは次のような思考実験から発想された仮想的な状態関数である

理想気体よりなる系 A が温度 T2で熱平衡状態にあり温度 T1の外部の熱源と接しているこ

とを想定する系 A の外部を系 B と呼ぶことにするT1は T2に対して無限小だけ高い温度と

する

系 A が系 B に対して温度圧力について平衡を保ちながら緩慢に系 B より熱量 Q1を受け取

る過程を考える(このような過程を準静的過程と呼ぶ)これによって系 A が熱量 Q1を得て膨

張するとき系 B に対して仕事をする続いて系 A から熱量 Q2が系 B に戻ることを考える

想定されるこの変化が可逆的であれば系 A と系 B を併せた全体は元の状態に戻る蒸気機

関に関するこのような研究が Nicolas Carnot によってなされたのは1824 年のことであった

ここに想定されたサイクルに対する Carnot の効率 e は移動した熱量となされた仕事によ

って定義され次の式で表される

(b-1)

<補遺> 65

理想気体では内部エネルギーU の変化ΔU はゼロと考えるしたがって熱力学の第一法

則を表す式(本文中の式25)から次の関係が示される

0=Δminus=Δ WQU

WQ Δ= (b-2)

これによってCarnot Cycleの効率eはQ2lt0 として次のように書き改めることが出来る

1

21

QQQe +

= (b-3)

ところで気体の状態方程式から1 モルの気体について次のような関係が示される

RTV

P

P1=

V = RTV (b-4)

V 式 b-4 の両辺に体積の微少変化量ΔV をかけて

(b-5)

これを体積Vについてその変化をV1からV2までとして積分するならば次式が得られる

VV

RTVP Δ=Δ 1V V

V

intint = 2

1

2

1

1V

V

V

VdV

VRTPdV

1V2V

11 lnRTW =

(b-6)

Q1の熱量によって起こる膨張がV1よりV2までとし圧力P温度T1の下でなされるその仕事

量をW1とするならそれは式b-6 の右辺によって示されるすなわち

(b-7)

VV

1

2lnVVRT=

V V

VV

V

V2int V2 intV1 V1

<補遺> 66

またQ2の熱量の移動が圧力P温度T2の下で起きこれによって系Aが可逆的に圧縮され

るなら体積変化はV2よりV1まで起こりその仕事量をW2で示すと次式のように表される

(b-8)

1

22

2

122 lnln

VVRT

VVRTW minus==VV

VV

Q1=W1Q2=W2の関係から式b-7 およびb-8 を用いてCarnot Cycleの効率eを表す式b-3

を書き改めると温度のみの関係式として次のように表される

1

21

TTTe minus

= (b-9)

ここでサイクルが可逆的過程であると想定するならば式 b-3 と式 b-9 から

1

21

1

21

TTT

QQQe minus

=+

= (b-10)

これから

12112111 QTQTQTQT minus=+ (b-11)

整理すると

02

2

1

1 =+TQ

TQ (b-12)

この考えをさらに発展させ系A

と系Bの間に数多くの系を挿入すること

にしてそれらの系を同様に熱源として

T1T2Tnと考えるこれによっ

て熱の受け渡しが系Aから系Bに至り

再び系Aにもどるサイクル過程に数多

くの寄り道の過程を加えることになる

熱量の移動に関して上の場合と同じく

準静的過程で行われると考えるこの

サイクル全過程について初めと終わ

<補遺> 67

n

i i

i

T

Q

1

0

0T

dQ

T

QS

T

dQASAS )()( 12

りが同じ状態になる可逆的な過程であるなら式 b-12 を拡大的に考えることになってそれ

は次式で表される

(b-13)

式 b-13 には重要な関数が現れるすなわち熱量と温度の比QT である

もし一つの系が無限小だけ温度の高い(dT )外界から温度圧力など平衡を保ちなが

ら極めて緩慢な過程(準静的過程)で無限小の熱量(dQ )を受け取るならばその変化は可

逆的でありdT について連続的な温度分布をする過程を考えるとき式 b-13 をさらに発展

させて次のように積分式で示すことが出来る

(b-14)

式 b-14 で積分記号にが付されているのはCarnot Cycle のような経路を一巡することを

意味している

Carnot の熱機関の効率という着想から生まれた熱量とそれを持つ系の温度との比 QT に

重要な意味を見出したのは Rudolph Clausius で彼はこの比にエントロピーという名前を与

えたエントロピーには記号ΔS を一般に用いる

(b-15)

エントロピーは初めと終わりの状態がわかれば過程に関わらず定まるので状態関数であ

系 A と外界のエントロピー変化を考えるときそれが可逆的過程であるならばすべてを併

せた全体のエントロピー変化は初めと終わりに変化がないという意味でゼロであるすなわ

ち初めの状態を S(A1)とし次の状態を S(A2)とするならそれぞれのエントロピーを

ΔS(A1)ΔS(A2)としてこの間におけるエントロピーの変化量は次のように示される

(b-16)

<補遺> 68

T

dQdS

0T

dQ

ある一つの変化については次のように示される

(b-17)

ここで式 b-17 の S に付けられたdは微分量すなわちごく微小の変化量を意味し式 b-15

で定義されたエントロピーに用いられる一般的な記号Δと区別する

ところで式 b-10 の関係においてもし移動した熱量のすべてが仕事に変わらなければ

効率 e を表す熱量を用いた関係式と温度で表される関係式は等号で結ぶことができないそれ

はエネルギーのロスを意味し初めと終わりの状態が異なってしまうことを意味するすなわ

ち全過程が構成する一つのサイクルは可逆的でなくなる

不可逆過程での熱効率 ersquo は 大値を示す可逆的過程の熱効率 e より小さな値をとる

ee

したがって 大効率を与える式 b-8 と式 b-3 から

01221

2112

1

21

1

21

QTQT

QTQT

Q

QQ

T

TT

両辺を T1T2で割ると

02

2

1

1 T

Q

T

Q

これを式 b12 と同様に発展させれば式 b-14 についてサイクルの変化が可逆的過程の

場合と不可逆的過程の場合の両方を併せClausius の不等式と呼ばれる次の関係が成立する

(b-18)

式 b-18 の等号が成立するのはサイクルが可逆的な理想の場合に限られる

ある孤立系で状態 A1 から状態 A2 へは不可逆変化で進められ状態 A2 から再び状態 A1

に戻るとき可逆変化であるような閉じた状態変化を考える可逆系のエントロピー変化には

記号 Q を使い不可逆変化には Q を用いるとするとそれぞれ積分式を用いて状態 A1 から

状態 A2 へは

<補遺> 69

d prime

状態 A2 から状態 A1 に戻るときは

全体では

=d prime

+d

(b-19)

Clausius の不等式から

0

式(b-19)の第二項で反応を逆に進めるときには次のように書き改めることができる

=d

よって式(b-19)は次のように書き直すことができClausius の不等式とあわせると

d prime d

0

すなわち

d prime d

上式の右辺は式(b-16)を用いて表せば

d prime

∆S ∆

この状態変化を微小変化とするならば断熱変化の場合 dQ = 0 であるから

∆S ∆ dS 0

すなわち不可逆変化を含む断熱変化ではエントロピーは必ず増大する

<補遺> 70

T

QS

BA SSS

(b-20)

(次の<補遺>ギブス自由エネルギーも参照せよ)

本文 p26 へ戻る

ギブス自由エネルギー (本文 p28 27 行目参照)

エントロピーの考えを導入することによって不可逆的に状態変化が起きるときにはエン

トロピーの増大を引き起こすことを知ったこれによって目前で起きる現象について温度の

変化があるものであれないものであれまた圧力の変化があるものであってもエントロピー

の定義式によって可逆的な変化におけるエントロピーの変化量を計算することが可能である

(b-15)

しかしながらこれから起こる変化について我々がすでにあらかじめ知っている物理量を

用いて予測的にその状態変化が起きるかどうか知ることは必ずしも容易ではないその理由

は式 b-15 に示されたエントロピーΔS が系とその外界をあわせた全体のエントロピーを示

しているからであるすなわち関心のある系を系 A としその外界を系 B とすると全体

のエントロピーは次のように表せる

(c-1)

関心のある系 A のエントロピー変化を知るためには系 B のそれを知ればよいがそれは

いつも容易とは限らない系 A の性質だけで状態変化の方向を知るには別の観点が必要にな

るようだ

そこでもう一度状態変化が熱量 Q の移動によって起きることについて考えてみようエン

トロピーの補遺で議論したように熱量の移動が準静的過程により行われるときには変化は可

逆的に起こると考えたこのとき外界すなわち系 B から移動する熱量を Q1とし系 A から

0S

<補遺> 71

21 QQ

T

Q

T

QSB

21

T

QSS A

2

QH

T

HSS AA

AA STHST

のそれを Q2 と記号を当てたのでこれをそのまま使うことにすれば可逆的な過程では系 B

の熱量 Q1 はすなわち系 A から戻る Q2 に他ならないので両者には次の関係が成立するも

のとしてよい

(c-2)

したがって

(c-3)

と考えてよくこれによって式 c-1 を次のように書きなおすことが出来る

(c-4)

独立した系で圧力とその体積に変化がなく一定の条件の下で状態変化が起きるときエン

タルピーの考えを使ってすでにひとつの関係があることを導いている

本文(31)

そこで式 c-4 を系のエンタルピーΔHAによって書き改めれば

(c-5)

この両辺に-T をかけて式を書き直せば次の関係式が得られる

(c-6)

式 c-6 を見るときその右辺がマイナスの値ならば左辺のΔS はプラスの値をとることが

分かるすなわちエントロピーが増大すると見ることが出来るこれまでの過程で自然の現

象はエントロピーが増大する方向に進むとしてきたので関心のある状態変化について式 c-6

の右辺で計算される値がマイナスの値ならばその変化は起きるものと考えてよいことになる

だろうしかも右辺はすべて独立した系の状態量で示されていて我々が知りうる値で計算

<補遺> 72

TSHG

STSTHG

STHG

可能である

そこでこれを熱力学ポテンシャルを表すものとしてギブス自由エネルギーと呼ぶことに

するギブス自由エネルギーは記号 G が用いられ次のように定義される

(c-7)

ここで関心があるのは自由エネルギーの絶対値ではなく式 c-6 に示されたようにその変化量

に興味があるので式 c-7 から

(c-8)

温度が一定の条件の下で状態変化が起きることを考えるなら式 c-8 は次のように書くこと

ができる

(c-9)

ギブス自由エネルギーは式 c-9 の右辺がすべて状態量であるからこれも状態量の一つで

ある定圧定温の条件下で起きる変化ではすでに議論したようにΔGlt0 であれば状態

変化は自発的に起きるものと予測できる

つまり式 c-5 の第一項は系のエントロピーΔSAそのものであり第二項で示されるエンタ

ルピーは系 A の温度が一定に保たれているのであるから発熱する熱量として外界に吸収さ

れるものであってこれは外界のエントロピーの増大につながるものとして解釈されるした

がって化学反応のように一定の圧力と一定の温度の下で起きる変化について自由エネルギ

ー変化量はその状態変化が自発的に起きる傾向を示しているといってよい

本文 p28 へ戻る

  • はじめに
  • 目次
  • 電気エネルギー
    • 金属のイオン化
    • 電池
    • 水素の反応
    • 燃料電池
    • 化学反応と電気エネルギー
      • エネルギーと熱力学
        • エネルギー保存則
        • エンタルピー
        • エントロピー13
        • ギブス自由エネルギー
        • 電池における化学反応のギブス自由エネルギー13
        • 理想気体の状態方程式
        • 理想溶液のギブス自由エネルギー
        • 膜電位
          • 水素イオン濃度測定
            • 化学反応の一般的な式
            • pHの定義とその目盛り
            • pH標準液
            • 銀塩化銀参照電極
            • 実用的なpH測定
            • ガラス電極
            • 電極の校正
            • 金属イオンに対応するイオン選択電極
              • 文献
              • 補遺
                • 状態関数
                • エンタルピー
                • エントロピー
                • ギブス自由エネルギー
Page 50: イオン選択電極i イオン選択電極 Ion Selective Electrode (ISE) を理解する ・ pHを測定する ・ NaやKなどのイオン濃度を測定する 神戸大学医学部保健学科

47

I iについてそのモル濃度

計算される

はイオン強度でイオン mi と電荷 zi から次式で

I 1

2mizi (87)

また iは(86)式のBは温度と溶媒の性質による定数であり イオンの大

きさに関するパラメータで水和イオンの大きさとほぼ一致した値をとる標

準法の勧告では塩素イオンに対しイオンの大きさを46Åと決めてiBを

1

5 にしているそこで式(84)は次のようになる

ClA I

log 1 15 I

イオン強度 I は塩素イオン濃度を含まない計算となる

以上の方法によって実用的な pH 測定に用いられる第一次第二次標準液の

pH の値が得られる

絶対値としての

はpH の絶対測定法(第一次標準測定法)とされている

銀塩化銀参照電極は分極現象を防ぐために棒状の銀を塩酸で処理し表

に塩化銀を生成させたものを飽和塩化カリウム溶液につけてある

(88)

参考現在は実験的に求めた値と理論値の組み合わせで

素イオン濃度を求める方法を規定しているこの起電力から水素イオン濃度

を知るための測定方法

Buck RP Rondinini S Covington AK Baucke FGK Brett CMA Camoes MF

Milton MJT Mussini T Naumann R Pratt Kw Spitzer P Wilson GS

Measurement of pH definition standards and procedures Pure Appl Chem

74(11)2169-2200 2002Kristensen HB Salomon A Kokholm GInternational

pH scales and certification of pH Anal Chem 63(18) 885A-891A 1991)

銀塩化銀参照電極

電極の構成は

Cl-(aq) | AgCl(s) | Ag(s)

48

この半反応は次のようになる

AgCl(s) + e- rarr Ag(s) + Cl- (89)

の反応は次の2つの反応に分けて考えることができる

Ag+ + e- rarr Ag(s) (91)

AgCl(s)rarr Ag+ + Cl- (90)

図11銀塩化銀参照電極

(90)における銀 る塩素イオンによって左

されることが推測される

そこでカッコ [ ] をそれによって囲まれるイオンの濃度を表すことにし

式 イオン Ag+の溶解性は共存す

塩化銀の乖離定数Kを考えると

49

K = [Ag+][Cl-] (92)

これから

[Ag+]= K[Cl-] (93)

化カリウム溶液に漬けた銀塩化銀電極の電位 E は水素標準電極に対する

電 で与えられる

位を E゜として次式

E E

RT

nF

[ Ag ]

[Ag(s)]ln( )

Ag(s)のイオン活量は常に1とする

ここで半反応の電極電位を求めるために式(75)を利用することにすれば

(94)

熱力学の慣例にしたがって純物質個体

E E

RT

Flna

H Cl a (75)

式 の半反応をみると

応で電子1つが移動するので n=1 とするR=831441 JmolK1F = 96485

C はめれば

これに銀イオンの濃度として式(93)を当てはめる

この反応で移動する電子は (89) 銀イオン1つの反

molT=29815K(25)ln(10)=2303などの定数を当て

2303RTF = 005917

であるから(94)式は次のように表現できる

log[Cl]) E E 005917(logK (95)

たがって標準水素電極に対する銀塩化銀参照電極の標準状態における電

位 は半反応(89)に対して ゜=+0799で

化銀の乖離定数 K は182times10-10 であるのでその対数を取れば-973993

0799-005917times973993-005917log[Cl-]

E゜ E ある

ある

そこで式(95)は

E =

50

= 0799-0576-005917log[Cl-]

= 0223-005917log[Cl-] (96)

電極電位の関係について実測値

こうして求めた塩化カリウム溶液の濃度と

計算上の値は次のようである

KCl moll vs SHE volt25 計算値 volt25 01 02881 02822 35 0205 01908 飽和 0199 minus

実用 測定

実際の現場で水素イオン濃度を測定する目的の測定法で上のような2つの

極が同じ溶液に浸かっていたのでは試料溶液を交換するにも便利ではない

の容器に入れる未知試料溶液と銀塩化銀電極を隔離する

的な pH

そこで水素電極側

的で二つの電極容器をつなぐ液絡部をグラスフィルターやセラミック板

飽和塩化カリウムで作成したゼラチンなどの塩橋によって隔離遮断するこ

れを液絡部とよぶ

電池として機能するために必要な溶液イオンの交換はこの液絡部で行う

組み立てる電池は電池式で次のように表される

Pt(s) | H2 | 試料 (H+ x moll) || 飽和 KCl | AgCl | Ag(s)

の標準電極と銀塩化銀電極とは区切られていて溶液の直接の接触がない

とを意味するために電池式ではタテ二重線を用いる銀塩化銀参照電極

の容器には飽和塩化カリウム溶液が入れられる

51

図12液絡部のある pH 測定のための電池

この液絡部のある電池では塩橋を記号lsquo | | rsquoで表して次のように記す

試料 (H+ x moll) | | 飽和 KCl

ここでは試料溶液と飽和塩化カリウム溶液の異なる2液が接している

このような界面では膜電力が生じるのと同様「液間電位差」が生じることが

知られているしたがって上の電池で測定される起電力 E は

E = E[銀塩化銀電極電位]+E[液間電位]+E[水素電極電位]

で与えられることになってE[液間電位]のために図12の電池の起電力

は銀塩化銀参照電極の値を知っていても水素電極容器内に入れた未知溶

液の水素イオン濃度を正しく知ることができない

52

そこで実用的な測定法としてこの E[液間電位]を膜電位として積極的に利

用する方法が工夫されたすなわち水素イオンに感応するガラス薄膜を用い

るガラス電極法である

53

ガラス電極

ガラスはケイ素原子と酸素原子からなる SiO4 の結晶構造を持ち酸素で囲

まれた空隙があって水素イオンがそれを埋めることができる

この性質によってガラス膜表面は水溶液中の水素イオンに応じて膜電位を

変化させるのでこれを水素イオン濃度測定用の電極として利用することが考

えられるこれが通常用いられるガラス電極である

ガラス電極は標準電極と組み合わせれば電池を構成することができこの電

池の起電力を知ってガラス薄膜の内外にできたイオン濃度勾配を知ろうとす

るものである

薄いガラス膜(01mm程度)をはさんで接する2つの溶液のH+イオン濃

度が異なるとその差に応じてガラス膜の両側に電位差(Eg)が現れる

ネルンストの式でガラス電極の内部に入れた既知の濃度のH+([H+]in)に対

し試料中の水素イオン濃度が[H+]sampleのとき次の電位を生じる

)][

][log(059170)

][

][ln(

sample

in

sample

ing

H

H

H

H

F

RTE

(97)

図13ガラス電極

電極を構成するのは銀塩化銀電極と同じ電極で用いる塩溶液は一般的

54

に 01モル塩酸溶液である

この半電池の電池式は次のように書くことができる

Ag(s) | AgCl(s) | HCl (01 M) | ガラス薄膜 || 試料溶液 H+ (x moll)

Eg

この半電池の電極電圧を測定するために銀塩化銀標準電極と組み合わせ

電池を作って起電力を計る

構成される電池は下図のようになる

ガラス電極 銀塩化銀標準電極

図14ガラス電極を用いた pH 測定用の電池

この電池の起電力は次の各半電池の平衡電位を合わせたものになる

55

E1ガラス電極の内側電位

Ag(s) | AgCl(s) | HCl (01 M)

Egガラス薄膜の内外に生じる膜電位

HCl (01 M) | ガラス薄膜 || 試料溶液 H+ (x moll)

E2液間電位(膜電位)銀塩化銀標準電極のセラミックを介した試料溶液

と銀塩化銀標準電極の内部液(飽和 KCl 溶液)の間に発生する電位

試料溶液 H+ (x moll)|| セラミック | KCl(飽和)

E3銀塩化銀標準電極

KCl(飽和)| AgCl(s) | Ag(s)

pH メーター用のガラス電極に使われるガラス薄膜は水素イオンに感応して

膜電位(Eg)を生じるこれは【膜電位】の章で記したように薄膜がある

一つのイオンのみを通過させる特性を持っている場合にイオンが膜を介した

両側で平衡状態に達したとして電気化学ポテンシャルを膜の両側で等しいと

考えてそのイオンが濃厚な側から希薄な側にその差によって圧力を生じると

するものである

一方同じ試料溶液が銀塩化銀標準電極のセラミック液絡部を介して生じ

るだろう液間電位(膜電位E2)はいま関心がある水素イオンに対して特異

的に感応するのではないので試料溶液の水素イオン濃度に関係なく一定と見

なすことができる

すなわちpH メーターを構成する電池の起電力 E は

E = E1+Eg+E2+E3 (98)

このうちEg以外は一定と見なせるので

E1+E2+E3 = E

として式(98)を書き直すと

)][

][log(059170

sample

ing H

HEEEE

(99)

Eは標準液によって校正されるべき標準電極電位である

56

電極の校正

実際のイオン濃度を測定する場合低濃度標準液と高濃度標準液で得られ

る起電力を測定し計測のイオン濃度に対する係数(傾き)を求めておき未

知の試料に対して起電力を測定してそのイオン濃度を算出する方法が採られる

低濃度標準液と高濃度標準液のそれぞれの濃度をCLとCHとすればそれぞ

れの起電力ELとEHは次式で表される EH = E +β logCH (100)

EL = E +β log CL (101)

ただしβは式(99)の係数を簡略にしたものである

式(100)と(101)から検量線の傾きが次式で表せる

ΔE = EH minus EL = β(logCH minus logCL) = β logCH

CL

(102)

したがって係数βは

β =ΔE

log CH

CL

(103)

であらわされる

このときに使われる標準はすでに前出の pH 第一次標準第二次標準溶液で

ある

金属イオンに対応するイオン選択電極

現在臨床検査で日常的に使われている電解質測定のための電極はナトリウ

ムカリウムカルシウムクロールなどおよそ臨床的に必要な金属イオン

に対して入手可能である

カリウムイオン測定用のバリノマイシンの発見によってクラウンエーテルと

57

呼ばれる一連の化合物が知られたクラウンエーテルはその分子の中心に立

体的な空間を持ち特定のイオン径に対し合致するのでそのイオンに対して

選択的に感応するこれらの化合物はイオノフォアと呼ばれる

図 15クラウンエーテル

1つの金属イオンが環状化合物

15-crown-5 の中央にある空間を充填

している模式図

15-crown-5 の構造を作る10個の黒

い丸は炭素炭素2個のつながりごと

にある中心の白い丸は酸素酸素と

金属イオンの間の距離はおよそ 22~

23Åであるカリウムのファンデン

ワールス半径は 135Åイオン半径は

15~16Åである

測定したいイオンに対しポリ塩化ビニル(PVC)を支持体としてイオノフ

ォアを添加した液膜の電極膜を作成しこれをガラス電極におけるガラス薄膜

と同様試料に接する電極膜として用いるこの構造から一般的に液膜型電極

と呼ばれる電極膜には特異性を高めるため妨害イオン排除剤などが添加

される

pH メーターと同様銀塩化銀標準電極と組み合わせ電池を形成しその

起電力を計る測定したいイオンが液膜に対して内外で平衡に達したときの

膜電位を測定するのはガラス電極と同じである

カ リ ウ ム イ オ ン に は Bis[(benzo-15-crown-5) ( 正 式 名 は

Bis[(benzo-15-crown-5)-4-methyl]pimelate)ナトリウムには Bis[(12-crown-4)

やDibenzyl-bis[(12-crown-4)などがイオノフォアとして用いられる

58

図16カリウムイオン測定用に使われるクラウンエーテル

図17ナトリウムイオン測定用に使われるクラウンエーテル

59

参考イオン選択電極に関する文献Xia Z Badr IHA Plummer SL Cullen L

Bachas LG Synthesis and evaluation of a bis(crown ether) ionophore with a

conformationally constained bridge in ione- selective electrodes Anal Sci 14(2)

169-173 1998 Oh K-C Kang EC Cho YL Jeong K-S Y oo E-A Paeng K-J

Potassium-selective PVC membrane electrodes based on newly synthesized

cis- and trans-bis(crown ether)s ibid 14(10)1009-1012 1998 Dojindo WEB

site httpwwwdojindocojpwwwrootproductsjinfo2protocolp31pdf

<補遺> 60

補遺 状態関数 (本文 p21 10 行目参照)

一つの平衡状態にある系 A とこれに接する系 A にとって外部である系 B について系 B

から系 A に熱を与えこれによって系 A が他の平衡状態に移ったとき系 A はその結果とし

て膨張し系 B に対し仕事をする

このときの微少な熱量の移動を記号drsquoQ またなされた微少な仕事をdrsquoW とすると

系Aの内部エネルギーに関する微少な変化drsquoUA は両者の和として表される

WdQdUd A primeminusprime=prime (a-1)

この式 a-1 と本文中の式25との関係について

WQU A Δminus=Δ 本文(25)

<補遺> 61

式 a-1 と式25の記号の違いは変化の起きる前の平衡状態 S1 から変化後の平衡状態 S2

に状態変化があったとするなら式 a-1 を積分することで式25が得られるものと考えて区

別している

A

S

S A UUd Δ=primeint2

1 (a-2)

このことは重要であるすなわち内部エネルギーU は変化の起きる前後の状態を指定する

ことによって値が定まることを意味するこのように積分によって値を定めることが出来る

のでdrsquoU は完全微分であるという

内部エネルギーのように系の状態だけで値の定まる量を状態関数として扱う

一方式 a-1 のdrsquoQ drsquoW についても同様に微少の変化量を表しているが平衡状態 S1

から S2 への経路を指定しなければ積分の値は定まらない

本文中の記号にしたがって仕事量ΔW を次のように表すことにする

VpW Δ=Δ 本文(20) V

<補遺> 62

体積と圧力の関係を表す図を使ってこの仕事量が意味することを考える圧力 prsquo の下で

体積が V1 であるときを状態 S1 として圧力一定の下で体積を V2 まで膨張させるような変

化を行った後体積を等しく保って圧力を p にまで上げたときの状態を S2 とするこのとき

の仕事量は膨張に伴うものであるから図の体積‐圧力線の下の面積で示すことができる

平衡状態 S1 から S2 への変化の道筋を別にたどってみよう

新しい経路では圧力を先に p まで上げた後に膨張変化させている

図から直感的に明らかであるので数式での扱いを省略するが2 つの経路による仕事量には

差がある

すなわちdrsquoW は drsquoU と異なり変化の初め S1 と終わり S2 の状態が与えられても積分値

は定まらず変化の経路によって違ってくる

このように変化の経路を指定しなければ積分値が定まらないものを不完全微分と呼び扱

いを区別する

本文 p21 へ戻る

<補遺> 63

VpW

WQU

VpQU

VpUQ

1122 SSSS pVUpVUQ

pVU

VpUHHHQ SS 12

エンタルピー (本文 p24 20 行目参照)

本文中の式 20 および 25 から一定の圧力の元で起きる状態変化において内部エネルギー

の変化量に対する式 a-3 を得る

本文(20)

本文(25)

(a-3)

式 a-3 を Q について書き直す

(a-4)

状態の変化が平衡状態S1から平衡状態S2に移ったものとして式 a-4を丁寧に書き直すと

(a-5)

並び替えて

(a-6)

式 a-6 を見ると定圧過程における熱量の流入は

(a-7)

の形を持つ関数の差であることが分かる

一般に化学反応のような変化の過程では大気圧の下で行われるようなものに興味がある

そこで式 a-7 で与えられる項を一つの関数として定義するこれをエンタルピーと呼び記

号 H を与える式 a-4 はエンタルピーの変化量で次のように書き改められる

(a-8)

圧力が一定の下で起こる状態変化について流入する熱量は式 a-8 で示されるようにエンタ

ルピーの変化量に等しい

V

V

V

V V

V

V

1212 SSSS VVpUUQ VV

<補遺> 64

1Q

We

また式 a-8 からオートクレーブ内で起こるような体積変化のない過程ではこの値が内

部エネルギーの変化量で与えられることが明らかである

本文 p24 へ戻る

エントロピー (本文 p26 17 行目参照)

エントロピーは次のような思考実験から発想された仮想的な状態関数である

理想気体よりなる系 A が温度 T2で熱平衡状態にあり温度 T1の外部の熱源と接しているこ

とを想定する系 A の外部を系 B と呼ぶことにするT1は T2に対して無限小だけ高い温度と

する

系 A が系 B に対して温度圧力について平衡を保ちながら緩慢に系 B より熱量 Q1を受け取

る過程を考える(このような過程を準静的過程と呼ぶ)これによって系 A が熱量 Q1を得て膨

張するとき系 B に対して仕事をする続いて系 A から熱量 Q2が系 B に戻ることを考える

想定されるこの変化が可逆的であれば系 A と系 B を併せた全体は元の状態に戻る蒸気機

関に関するこのような研究が Nicolas Carnot によってなされたのは1824 年のことであった

ここに想定されたサイクルに対する Carnot の効率 e は移動した熱量となされた仕事によ

って定義され次の式で表される

(b-1)

<補遺> 65

理想気体では内部エネルギーU の変化ΔU はゼロと考えるしたがって熱力学の第一法

則を表す式(本文中の式25)から次の関係が示される

0=Δminus=Δ WQU

WQ Δ= (b-2)

これによってCarnot Cycleの効率eはQ2lt0 として次のように書き改めることが出来る

1

21

QQQe +

= (b-3)

ところで気体の状態方程式から1 モルの気体について次のような関係が示される

RTV

P

P1=

V = RTV (b-4)

V 式 b-4 の両辺に体積の微少変化量ΔV をかけて

(b-5)

これを体積Vについてその変化をV1からV2までとして積分するならば次式が得られる

VV

RTVP Δ=Δ 1V V

V

intint = 2

1

2

1

1V

V

V

VdV

VRTPdV

1V2V

11 lnRTW =

(b-6)

Q1の熱量によって起こる膨張がV1よりV2までとし圧力P温度T1の下でなされるその仕事

量をW1とするならそれは式b-6 の右辺によって示されるすなわち

(b-7)

VV

1

2lnVVRT=

V V

VV

V

V2int V2 intV1 V1

<補遺> 66

またQ2の熱量の移動が圧力P温度T2の下で起きこれによって系Aが可逆的に圧縮され

るなら体積変化はV2よりV1まで起こりその仕事量をW2で示すと次式のように表される

(b-8)

1

22

2

122 lnln

VVRT

VVRTW minus==VV

VV

Q1=W1Q2=W2の関係から式b-7 およびb-8 を用いてCarnot Cycleの効率eを表す式b-3

を書き改めると温度のみの関係式として次のように表される

1

21

TTTe minus

= (b-9)

ここでサイクルが可逆的過程であると想定するならば式 b-3 と式 b-9 から

1

21

1

21

TTT

QQQe minus

=+

= (b-10)

これから

12112111 QTQTQTQT minus=+ (b-11)

整理すると

02

2

1

1 =+TQ

TQ (b-12)

この考えをさらに発展させ系A

と系Bの間に数多くの系を挿入すること

にしてそれらの系を同様に熱源として

T1T2Tnと考えるこれによっ

て熱の受け渡しが系Aから系Bに至り

再び系Aにもどるサイクル過程に数多

くの寄り道の過程を加えることになる

熱量の移動に関して上の場合と同じく

準静的過程で行われると考えるこの

サイクル全過程について初めと終わ

<補遺> 67

n

i i

i

T

Q

1

0

0T

dQ

T

QS

T

dQASAS )()( 12

りが同じ状態になる可逆的な過程であるなら式 b-12 を拡大的に考えることになってそれ

は次式で表される

(b-13)

式 b-13 には重要な関数が現れるすなわち熱量と温度の比QT である

もし一つの系が無限小だけ温度の高い(dT )外界から温度圧力など平衡を保ちなが

ら極めて緩慢な過程(準静的過程)で無限小の熱量(dQ )を受け取るならばその変化は可

逆的でありdT について連続的な温度分布をする過程を考えるとき式 b-13 をさらに発展

させて次のように積分式で示すことが出来る

(b-14)

式 b-14 で積分記号にが付されているのはCarnot Cycle のような経路を一巡することを

意味している

Carnot の熱機関の効率という着想から生まれた熱量とそれを持つ系の温度との比 QT に

重要な意味を見出したのは Rudolph Clausius で彼はこの比にエントロピーという名前を与

えたエントロピーには記号ΔS を一般に用いる

(b-15)

エントロピーは初めと終わりの状態がわかれば過程に関わらず定まるので状態関数であ

系 A と外界のエントロピー変化を考えるときそれが可逆的過程であるならばすべてを併

せた全体のエントロピー変化は初めと終わりに変化がないという意味でゼロであるすなわ

ち初めの状態を S(A1)とし次の状態を S(A2)とするならそれぞれのエントロピーを

ΔS(A1)ΔS(A2)としてこの間におけるエントロピーの変化量は次のように示される

(b-16)

<補遺> 68

T

dQdS

0T

dQ

ある一つの変化については次のように示される

(b-17)

ここで式 b-17 の S に付けられたdは微分量すなわちごく微小の変化量を意味し式 b-15

で定義されたエントロピーに用いられる一般的な記号Δと区別する

ところで式 b-10 の関係においてもし移動した熱量のすべてが仕事に変わらなければ

効率 e を表す熱量を用いた関係式と温度で表される関係式は等号で結ぶことができないそれ

はエネルギーのロスを意味し初めと終わりの状態が異なってしまうことを意味するすなわ

ち全過程が構成する一つのサイクルは可逆的でなくなる

不可逆過程での熱効率 ersquo は 大値を示す可逆的過程の熱効率 e より小さな値をとる

ee

したがって 大効率を与える式 b-8 と式 b-3 から

01221

2112

1

21

1

21

QTQT

QTQT

Q

QQ

T

TT

両辺を T1T2で割ると

02

2

1

1 T

Q

T

Q

これを式 b12 と同様に発展させれば式 b-14 についてサイクルの変化が可逆的過程の

場合と不可逆的過程の場合の両方を併せClausius の不等式と呼ばれる次の関係が成立する

(b-18)

式 b-18 の等号が成立するのはサイクルが可逆的な理想の場合に限られる

ある孤立系で状態 A1 から状態 A2 へは不可逆変化で進められ状態 A2 から再び状態 A1

に戻るとき可逆変化であるような閉じた状態変化を考える可逆系のエントロピー変化には

記号 Q を使い不可逆変化には Q を用いるとするとそれぞれ積分式を用いて状態 A1 から

状態 A2 へは

<補遺> 69

d prime

状態 A2 から状態 A1 に戻るときは

全体では

=d prime

+d

(b-19)

Clausius の不等式から

0

式(b-19)の第二項で反応を逆に進めるときには次のように書き改めることができる

=d

よって式(b-19)は次のように書き直すことができClausius の不等式とあわせると

d prime d

0

すなわち

d prime d

上式の右辺は式(b-16)を用いて表せば

d prime

∆S ∆

この状態変化を微小変化とするならば断熱変化の場合 dQ = 0 であるから

∆S ∆ dS 0

すなわち不可逆変化を含む断熱変化ではエントロピーは必ず増大する

<補遺> 70

T

QS

BA SSS

(b-20)

(次の<補遺>ギブス自由エネルギーも参照せよ)

本文 p26 へ戻る

ギブス自由エネルギー (本文 p28 27 行目参照)

エントロピーの考えを導入することによって不可逆的に状態変化が起きるときにはエン

トロピーの増大を引き起こすことを知ったこれによって目前で起きる現象について温度の

変化があるものであれないものであれまた圧力の変化があるものであってもエントロピー

の定義式によって可逆的な変化におけるエントロピーの変化量を計算することが可能である

(b-15)

しかしながらこれから起こる変化について我々がすでにあらかじめ知っている物理量を

用いて予測的にその状態変化が起きるかどうか知ることは必ずしも容易ではないその理由

は式 b-15 に示されたエントロピーΔS が系とその外界をあわせた全体のエントロピーを示

しているからであるすなわち関心のある系を系 A としその外界を系 B とすると全体

のエントロピーは次のように表せる

(c-1)

関心のある系 A のエントロピー変化を知るためには系 B のそれを知ればよいがそれは

いつも容易とは限らない系 A の性質だけで状態変化の方向を知るには別の観点が必要にな

るようだ

そこでもう一度状態変化が熱量 Q の移動によって起きることについて考えてみようエン

トロピーの補遺で議論したように熱量の移動が準静的過程により行われるときには変化は可

逆的に起こると考えたこのとき外界すなわち系 B から移動する熱量を Q1とし系 A から

0S

<補遺> 71

21 QQ

T

Q

T

QSB

21

T

QSS A

2

QH

T

HSS AA

AA STHST

のそれを Q2 と記号を当てたのでこれをそのまま使うことにすれば可逆的な過程では系 B

の熱量 Q1 はすなわち系 A から戻る Q2 に他ならないので両者には次の関係が成立するも

のとしてよい

(c-2)

したがって

(c-3)

と考えてよくこれによって式 c-1 を次のように書きなおすことが出来る

(c-4)

独立した系で圧力とその体積に変化がなく一定の条件の下で状態変化が起きるときエン

タルピーの考えを使ってすでにひとつの関係があることを導いている

本文(31)

そこで式 c-4 を系のエンタルピーΔHAによって書き改めれば

(c-5)

この両辺に-T をかけて式を書き直せば次の関係式が得られる

(c-6)

式 c-6 を見るときその右辺がマイナスの値ならば左辺のΔS はプラスの値をとることが

分かるすなわちエントロピーが増大すると見ることが出来るこれまでの過程で自然の現

象はエントロピーが増大する方向に進むとしてきたので関心のある状態変化について式 c-6

の右辺で計算される値がマイナスの値ならばその変化は起きるものと考えてよいことになる

だろうしかも右辺はすべて独立した系の状態量で示されていて我々が知りうる値で計算

<補遺> 72

TSHG

STSTHG

STHG

可能である

そこでこれを熱力学ポテンシャルを表すものとしてギブス自由エネルギーと呼ぶことに

するギブス自由エネルギーは記号 G が用いられ次のように定義される

(c-7)

ここで関心があるのは自由エネルギーの絶対値ではなく式 c-6 に示されたようにその変化量

に興味があるので式 c-7 から

(c-8)

温度が一定の条件の下で状態変化が起きることを考えるなら式 c-8 は次のように書くこと

ができる

(c-9)

ギブス自由エネルギーは式 c-9 の右辺がすべて状態量であるからこれも状態量の一つで

ある定圧定温の条件下で起きる変化ではすでに議論したようにΔGlt0 であれば状態

変化は自発的に起きるものと予測できる

つまり式 c-5 の第一項は系のエントロピーΔSAそのものであり第二項で示されるエンタ

ルピーは系 A の温度が一定に保たれているのであるから発熱する熱量として外界に吸収さ

れるものであってこれは外界のエントロピーの増大につながるものとして解釈されるした

がって化学反応のように一定の圧力と一定の温度の下で起きる変化について自由エネルギ

ー変化量はその状態変化が自発的に起きる傾向を示しているといってよい

本文 p28 へ戻る

  • はじめに
  • 目次
  • 電気エネルギー
    • 金属のイオン化
    • 電池
    • 水素の反応
    • 燃料電池
    • 化学反応と電気エネルギー
      • エネルギーと熱力学
        • エネルギー保存則
        • エンタルピー
        • エントロピー13
        • ギブス自由エネルギー
        • 電池における化学反応のギブス自由エネルギー13
        • 理想気体の状態方程式
        • 理想溶液のギブス自由エネルギー
        • 膜電位
          • 水素イオン濃度測定
            • 化学反応の一般的な式
            • pHの定義とその目盛り
            • pH標準液
            • 銀塩化銀参照電極
            • 実用的なpH測定
            • ガラス電極
            • 電極の校正
            • 金属イオンに対応するイオン選択電極
              • 文献
              • 補遺
                • 状態関数
                • エンタルピー
                • エントロピー
                • ギブス自由エネルギー
Page 51: イオン選択電極i イオン選択電極 Ion Selective Electrode (ISE) を理解する ・ pHを測定する ・ NaやKなどのイオン濃度を測定する 神戸大学医学部保健学科

48

この半反応は次のようになる

AgCl(s) + e- rarr Ag(s) + Cl- (89)

の反応は次の2つの反応に分けて考えることができる

Ag+ + e- rarr Ag(s) (91)

AgCl(s)rarr Ag+ + Cl- (90)

図11銀塩化銀参照電極

(90)における銀 る塩素イオンによって左

されることが推測される

そこでカッコ [ ] をそれによって囲まれるイオンの濃度を表すことにし

式 イオン Ag+の溶解性は共存す

塩化銀の乖離定数Kを考えると

49

K = [Ag+][Cl-] (92)

これから

[Ag+]= K[Cl-] (93)

化カリウム溶液に漬けた銀塩化銀電極の電位 E は水素標準電極に対する

電 で与えられる

位を E゜として次式

E E

RT

nF

[ Ag ]

[Ag(s)]ln( )

Ag(s)のイオン活量は常に1とする

ここで半反応の電極電位を求めるために式(75)を利用することにすれば

(94)

熱力学の慣例にしたがって純物質個体

E E

RT

Flna

H Cl a (75)

式 の半反応をみると

応で電子1つが移動するので n=1 とするR=831441 JmolK1F = 96485

C はめれば

これに銀イオンの濃度として式(93)を当てはめる

この反応で移動する電子は (89) 銀イオン1つの反

molT=29815K(25)ln(10)=2303などの定数を当て

2303RTF = 005917

であるから(94)式は次のように表現できる

log[Cl]) E E 005917(logK (95)

たがって標準水素電極に対する銀塩化銀参照電極の標準状態における電

位 は半反応(89)に対して ゜=+0799で

化銀の乖離定数 K は182times10-10 であるのでその対数を取れば-973993

0799-005917times973993-005917log[Cl-]

E゜ E ある

ある

そこで式(95)は

E =

50

= 0799-0576-005917log[Cl-]

= 0223-005917log[Cl-] (96)

電極電位の関係について実測値

こうして求めた塩化カリウム溶液の濃度と

計算上の値は次のようである

KCl moll vs SHE volt25 計算値 volt25 01 02881 02822 35 0205 01908 飽和 0199 minus

実用 測定

実際の現場で水素イオン濃度を測定する目的の測定法で上のような2つの

極が同じ溶液に浸かっていたのでは試料溶液を交換するにも便利ではない

の容器に入れる未知試料溶液と銀塩化銀電極を隔離する

的な pH

そこで水素電極側

的で二つの電極容器をつなぐ液絡部をグラスフィルターやセラミック板

飽和塩化カリウムで作成したゼラチンなどの塩橋によって隔離遮断するこ

れを液絡部とよぶ

電池として機能するために必要な溶液イオンの交換はこの液絡部で行う

組み立てる電池は電池式で次のように表される

Pt(s) | H2 | 試料 (H+ x moll) || 飽和 KCl | AgCl | Ag(s)

の標準電極と銀塩化銀電極とは区切られていて溶液の直接の接触がない

とを意味するために電池式ではタテ二重線を用いる銀塩化銀参照電極

の容器には飽和塩化カリウム溶液が入れられる

51

図12液絡部のある pH 測定のための電池

この液絡部のある電池では塩橋を記号lsquo | | rsquoで表して次のように記す

試料 (H+ x moll) | | 飽和 KCl

ここでは試料溶液と飽和塩化カリウム溶液の異なる2液が接している

このような界面では膜電力が生じるのと同様「液間電位差」が生じることが

知られているしたがって上の電池で測定される起電力 E は

E = E[銀塩化銀電極電位]+E[液間電位]+E[水素電極電位]

で与えられることになってE[液間電位]のために図12の電池の起電力

は銀塩化銀参照電極の値を知っていても水素電極容器内に入れた未知溶

液の水素イオン濃度を正しく知ることができない

52

そこで実用的な測定法としてこの E[液間電位]を膜電位として積極的に利

用する方法が工夫されたすなわち水素イオンに感応するガラス薄膜を用い

るガラス電極法である

53

ガラス電極

ガラスはケイ素原子と酸素原子からなる SiO4 の結晶構造を持ち酸素で囲

まれた空隙があって水素イオンがそれを埋めることができる

この性質によってガラス膜表面は水溶液中の水素イオンに応じて膜電位を

変化させるのでこれを水素イオン濃度測定用の電極として利用することが考

えられるこれが通常用いられるガラス電極である

ガラス電極は標準電極と組み合わせれば電池を構成することができこの電

池の起電力を知ってガラス薄膜の内外にできたイオン濃度勾配を知ろうとす

るものである

薄いガラス膜(01mm程度)をはさんで接する2つの溶液のH+イオン濃

度が異なるとその差に応じてガラス膜の両側に電位差(Eg)が現れる

ネルンストの式でガラス電極の内部に入れた既知の濃度のH+([H+]in)に対

し試料中の水素イオン濃度が[H+]sampleのとき次の電位を生じる

)][

][log(059170)

][

][ln(

sample

in

sample

ing

H

H

H

H

F

RTE

(97)

図13ガラス電極

電極を構成するのは銀塩化銀電極と同じ電極で用いる塩溶液は一般的

54

に 01モル塩酸溶液である

この半電池の電池式は次のように書くことができる

Ag(s) | AgCl(s) | HCl (01 M) | ガラス薄膜 || 試料溶液 H+ (x moll)

Eg

この半電池の電極電圧を測定するために銀塩化銀標準電極と組み合わせ

電池を作って起電力を計る

構成される電池は下図のようになる

ガラス電極 銀塩化銀標準電極

図14ガラス電極を用いた pH 測定用の電池

この電池の起電力は次の各半電池の平衡電位を合わせたものになる

55

E1ガラス電極の内側電位

Ag(s) | AgCl(s) | HCl (01 M)

Egガラス薄膜の内外に生じる膜電位

HCl (01 M) | ガラス薄膜 || 試料溶液 H+ (x moll)

E2液間電位(膜電位)銀塩化銀標準電極のセラミックを介した試料溶液

と銀塩化銀標準電極の内部液(飽和 KCl 溶液)の間に発生する電位

試料溶液 H+ (x moll)|| セラミック | KCl(飽和)

E3銀塩化銀標準電極

KCl(飽和)| AgCl(s) | Ag(s)

pH メーター用のガラス電極に使われるガラス薄膜は水素イオンに感応して

膜電位(Eg)を生じるこれは【膜電位】の章で記したように薄膜がある

一つのイオンのみを通過させる特性を持っている場合にイオンが膜を介した

両側で平衡状態に達したとして電気化学ポテンシャルを膜の両側で等しいと

考えてそのイオンが濃厚な側から希薄な側にその差によって圧力を生じると

するものである

一方同じ試料溶液が銀塩化銀標準電極のセラミック液絡部を介して生じ

るだろう液間電位(膜電位E2)はいま関心がある水素イオンに対して特異

的に感応するのではないので試料溶液の水素イオン濃度に関係なく一定と見

なすことができる

すなわちpH メーターを構成する電池の起電力 E は

E = E1+Eg+E2+E3 (98)

このうちEg以外は一定と見なせるので

E1+E2+E3 = E

として式(98)を書き直すと

)][

][log(059170

sample

ing H

HEEEE

(99)

Eは標準液によって校正されるべき標準電極電位である

56

電極の校正

実際のイオン濃度を測定する場合低濃度標準液と高濃度標準液で得られ

る起電力を測定し計測のイオン濃度に対する係数(傾き)を求めておき未

知の試料に対して起電力を測定してそのイオン濃度を算出する方法が採られる

低濃度標準液と高濃度標準液のそれぞれの濃度をCLとCHとすればそれぞ

れの起電力ELとEHは次式で表される EH = E +β logCH (100)

EL = E +β log CL (101)

ただしβは式(99)の係数を簡略にしたものである

式(100)と(101)から検量線の傾きが次式で表せる

ΔE = EH minus EL = β(logCH minus logCL) = β logCH

CL

(102)

したがって係数βは

β =ΔE

log CH

CL

(103)

であらわされる

このときに使われる標準はすでに前出の pH 第一次標準第二次標準溶液で

ある

金属イオンに対応するイオン選択電極

現在臨床検査で日常的に使われている電解質測定のための電極はナトリウ

ムカリウムカルシウムクロールなどおよそ臨床的に必要な金属イオン

に対して入手可能である

カリウムイオン測定用のバリノマイシンの発見によってクラウンエーテルと

57

呼ばれる一連の化合物が知られたクラウンエーテルはその分子の中心に立

体的な空間を持ち特定のイオン径に対し合致するのでそのイオンに対して

選択的に感応するこれらの化合物はイオノフォアと呼ばれる

図 15クラウンエーテル

1つの金属イオンが環状化合物

15-crown-5 の中央にある空間を充填

している模式図

15-crown-5 の構造を作る10個の黒

い丸は炭素炭素2個のつながりごと

にある中心の白い丸は酸素酸素と

金属イオンの間の距離はおよそ 22~

23Åであるカリウムのファンデン

ワールス半径は 135Åイオン半径は

15~16Åである

測定したいイオンに対しポリ塩化ビニル(PVC)を支持体としてイオノフ

ォアを添加した液膜の電極膜を作成しこれをガラス電極におけるガラス薄膜

と同様試料に接する電極膜として用いるこの構造から一般的に液膜型電極

と呼ばれる電極膜には特異性を高めるため妨害イオン排除剤などが添加

される

pH メーターと同様銀塩化銀標準電極と組み合わせ電池を形成しその

起電力を計る測定したいイオンが液膜に対して内外で平衡に達したときの

膜電位を測定するのはガラス電極と同じである

カ リ ウ ム イ オ ン に は Bis[(benzo-15-crown-5) ( 正 式 名 は

Bis[(benzo-15-crown-5)-4-methyl]pimelate)ナトリウムには Bis[(12-crown-4)

やDibenzyl-bis[(12-crown-4)などがイオノフォアとして用いられる

58

図16カリウムイオン測定用に使われるクラウンエーテル

図17ナトリウムイオン測定用に使われるクラウンエーテル

59

参考イオン選択電極に関する文献Xia Z Badr IHA Plummer SL Cullen L

Bachas LG Synthesis and evaluation of a bis(crown ether) ionophore with a

conformationally constained bridge in ione- selective electrodes Anal Sci 14(2)

169-173 1998 Oh K-C Kang EC Cho YL Jeong K-S Y oo E-A Paeng K-J

Potassium-selective PVC membrane electrodes based on newly synthesized

cis- and trans-bis(crown ether)s ibid 14(10)1009-1012 1998 Dojindo WEB

site httpwwwdojindocojpwwwrootproductsjinfo2protocolp31pdf

<補遺> 60

補遺 状態関数 (本文 p21 10 行目参照)

一つの平衡状態にある系 A とこれに接する系 A にとって外部である系 B について系 B

から系 A に熱を与えこれによって系 A が他の平衡状態に移ったとき系 A はその結果とし

て膨張し系 B に対し仕事をする

このときの微少な熱量の移動を記号drsquoQ またなされた微少な仕事をdrsquoW とすると

系Aの内部エネルギーに関する微少な変化drsquoUA は両者の和として表される

WdQdUd A primeminusprime=prime (a-1)

この式 a-1 と本文中の式25との関係について

WQU A Δminus=Δ 本文(25)

<補遺> 61

式 a-1 と式25の記号の違いは変化の起きる前の平衡状態 S1 から変化後の平衡状態 S2

に状態変化があったとするなら式 a-1 を積分することで式25が得られるものと考えて区

別している

A

S

S A UUd Δ=primeint2

1 (a-2)

このことは重要であるすなわち内部エネルギーU は変化の起きる前後の状態を指定する

ことによって値が定まることを意味するこのように積分によって値を定めることが出来る

のでdrsquoU は完全微分であるという

内部エネルギーのように系の状態だけで値の定まる量を状態関数として扱う

一方式 a-1 のdrsquoQ drsquoW についても同様に微少の変化量を表しているが平衡状態 S1

から S2 への経路を指定しなければ積分の値は定まらない

本文中の記号にしたがって仕事量ΔW を次のように表すことにする

VpW Δ=Δ 本文(20) V

<補遺> 62

体積と圧力の関係を表す図を使ってこの仕事量が意味することを考える圧力 prsquo の下で

体積が V1 であるときを状態 S1 として圧力一定の下で体積を V2 まで膨張させるような変

化を行った後体積を等しく保って圧力を p にまで上げたときの状態を S2 とするこのとき

の仕事量は膨張に伴うものであるから図の体積‐圧力線の下の面積で示すことができる

平衡状態 S1 から S2 への変化の道筋を別にたどってみよう

新しい経路では圧力を先に p まで上げた後に膨張変化させている

図から直感的に明らかであるので数式での扱いを省略するが2 つの経路による仕事量には

差がある

すなわちdrsquoW は drsquoU と異なり変化の初め S1 と終わり S2 の状態が与えられても積分値

は定まらず変化の経路によって違ってくる

このように変化の経路を指定しなければ積分値が定まらないものを不完全微分と呼び扱

いを区別する

本文 p21 へ戻る

<補遺> 63

VpW

WQU

VpQU

VpUQ

1122 SSSS pVUpVUQ

pVU

VpUHHHQ SS 12

エンタルピー (本文 p24 20 行目参照)

本文中の式 20 および 25 から一定の圧力の元で起きる状態変化において内部エネルギー

の変化量に対する式 a-3 を得る

本文(20)

本文(25)

(a-3)

式 a-3 を Q について書き直す

(a-4)

状態の変化が平衡状態S1から平衡状態S2に移ったものとして式 a-4を丁寧に書き直すと

(a-5)

並び替えて

(a-6)

式 a-6 を見ると定圧過程における熱量の流入は

(a-7)

の形を持つ関数の差であることが分かる

一般に化学反応のような変化の過程では大気圧の下で行われるようなものに興味がある

そこで式 a-7 で与えられる項を一つの関数として定義するこれをエンタルピーと呼び記

号 H を与える式 a-4 はエンタルピーの変化量で次のように書き改められる

(a-8)

圧力が一定の下で起こる状態変化について流入する熱量は式 a-8 で示されるようにエンタ

ルピーの変化量に等しい

V

V

V

V V

V

V

1212 SSSS VVpUUQ VV

<補遺> 64

1Q

We

また式 a-8 からオートクレーブ内で起こるような体積変化のない過程ではこの値が内

部エネルギーの変化量で与えられることが明らかである

本文 p24 へ戻る

エントロピー (本文 p26 17 行目参照)

エントロピーは次のような思考実験から発想された仮想的な状態関数である

理想気体よりなる系 A が温度 T2で熱平衡状態にあり温度 T1の外部の熱源と接しているこ

とを想定する系 A の外部を系 B と呼ぶことにするT1は T2に対して無限小だけ高い温度と

する

系 A が系 B に対して温度圧力について平衡を保ちながら緩慢に系 B より熱量 Q1を受け取

る過程を考える(このような過程を準静的過程と呼ぶ)これによって系 A が熱量 Q1を得て膨

張するとき系 B に対して仕事をする続いて系 A から熱量 Q2が系 B に戻ることを考える

想定されるこの変化が可逆的であれば系 A と系 B を併せた全体は元の状態に戻る蒸気機

関に関するこのような研究が Nicolas Carnot によってなされたのは1824 年のことであった

ここに想定されたサイクルに対する Carnot の効率 e は移動した熱量となされた仕事によ

って定義され次の式で表される

(b-1)

<補遺> 65

理想気体では内部エネルギーU の変化ΔU はゼロと考えるしたがって熱力学の第一法

則を表す式(本文中の式25)から次の関係が示される

0=Δminus=Δ WQU

WQ Δ= (b-2)

これによってCarnot Cycleの効率eはQ2lt0 として次のように書き改めることが出来る

1

21

QQQe +

= (b-3)

ところで気体の状態方程式から1 モルの気体について次のような関係が示される

RTV

P

P1=

V = RTV (b-4)

V 式 b-4 の両辺に体積の微少変化量ΔV をかけて

(b-5)

これを体積Vについてその変化をV1からV2までとして積分するならば次式が得られる

VV

RTVP Δ=Δ 1V V

V

intint = 2

1

2

1

1V

V

V

VdV

VRTPdV

1V2V

11 lnRTW =

(b-6)

Q1の熱量によって起こる膨張がV1よりV2までとし圧力P温度T1の下でなされるその仕事

量をW1とするならそれは式b-6 の右辺によって示されるすなわち

(b-7)

VV

1

2lnVVRT=

V V

VV

V

V2int V2 intV1 V1

<補遺> 66

またQ2の熱量の移動が圧力P温度T2の下で起きこれによって系Aが可逆的に圧縮され

るなら体積変化はV2よりV1まで起こりその仕事量をW2で示すと次式のように表される

(b-8)

1

22

2

122 lnln

VVRT

VVRTW minus==VV

VV

Q1=W1Q2=W2の関係から式b-7 およびb-8 を用いてCarnot Cycleの効率eを表す式b-3

を書き改めると温度のみの関係式として次のように表される

1

21

TTTe minus

= (b-9)

ここでサイクルが可逆的過程であると想定するならば式 b-3 と式 b-9 から

1

21

1

21

TTT

QQQe minus

=+

= (b-10)

これから

12112111 QTQTQTQT minus=+ (b-11)

整理すると

02

2

1

1 =+TQ

TQ (b-12)

この考えをさらに発展させ系A

と系Bの間に数多くの系を挿入すること

にしてそれらの系を同様に熱源として

T1T2Tnと考えるこれによっ

て熱の受け渡しが系Aから系Bに至り

再び系Aにもどるサイクル過程に数多

くの寄り道の過程を加えることになる

熱量の移動に関して上の場合と同じく

準静的過程で行われると考えるこの

サイクル全過程について初めと終わ

<補遺> 67

n

i i

i

T

Q

1

0

0T

dQ

T

QS

T

dQASAS )()( 12

りが同じ状態になる可逆的な過程であるなら式 b-12 を拡大的に考えることになってそれ

は次式で表される

(b-13)

式 b-13 には重要な関数が現れるすなわち熱量と温度の比QT である

もし一つの系が無限小だけ温度の高い(dT )外界から温度圧力など平衡を保ちなが

ら極めて緩慢な過程(準静的過程)で無限小の熱量(dQ )を受け取るならばその変化は可

逆的でありdT について連続的な温度分布をする過程を考えるとき式 b-13 をさらに発展

させて次のように積分式で示すことが出来る

(b-14)

式 b-14 で積分記号にが付されているのはCarnot Cycle のような経路を一巡することを

意味している

Carnot の熱機関の効率という着想から生まれた熱量とそれを持つ系の温度との比 QT に

重要な意味を見出したのは Rudolph Clausius で彼はこの比にエントロピーという名前を与

えたエントロピーには記号ΔS を一般に用いる

(b-15)

エントロピーは初めと終わりの状態がわかれば過程に関わらず定まるので状態関数であ

系 A と外界のエントロピー変化を考えるときそれが可逆的過程であるならばすべてを併

せた全体のエントロピー変化は初めと終わりに変化がないという意味でゼロであるすなわ

ち初めの状態を S(A1)とし次の状態を S(A2)とするならそれぞれのエントロピーを

ΔS(A1)ΔS(A2)としてこの間におけるエントロピーの変化量は次のように示される

(b-16)

<補遺> 68

T

dQdS

0T

dQ

ある一つの変化については次のように示される

(b-17)

ここで式 b-17 の S に付けられたdは微分量すなわちごく微小の変化量を意味し式 b-15

で定義されたエントロピーに用いられる一般的な記号Δと区別する

ところで式 b-10 の関係においてもし移動した熱量のすべてが仕事に変わらなければ

効率 e を表す熱量を用いた関係式と温度で表される関係式は等号で結ぶことができないそれ

はエネルギーのロスを意味し初めと終わりの状態が異なってしまうことを意味するすなわ

ち全過程が構成する一つのサイクルは可逆的でなくなる

不可逆過程での熱効率 ersquo は 大値を示す可逆的過程の熱効率 e より小さな値をとる

ee

したがって 大効率を与える式 b-8 と式 b-3 から

01221

2112

1

21

1

21

QTQT

QTQT

Q

QQ

T

TT

両辺を T1T2で割ると

02

2

1

1 T

Q

T

Q

これを式 b12 と同様に発展させれば式 b-14 についてサイクルの変化が可逆的過程の

場合と不可逆的過程の場合の両方を併せClausius の不等式と呼ばれる次の関係が成立する

(b-18)

式 b-18 の等号が成立するのはサイクルが可逆的な理想の場合に限られる

ある孤立系で状態 A1 から状態 A2 へは不可逆変化で進められ状態 A2 から再び状態 A1

に戻るとき可逆変化であるような閉じた状態変化を考える可逆系のエントロピー変化には

記号 Q を使い不可逆変化には Q を用いるとするとそれぞれ積分式を用いて状態 A1 から

状態 A2 へは

<補遺> 69

d prime

状態 A2 から状態 A1 に戻るときは

全体では

=d prime

+d

(b-19)

Clausius の不等式から

0

式(b-19)の第二項で反応を逆に進めるときには次のように書き改めることができる

=d

よって式(b-19)は次のように書き直すことができClausius の不等式とあわせると

d prime d

0

すなわち

d prime d

上式の右辺は式(b-16)を用いて表せば

d prime

∆S ∆

この状態変化を微小変化とするならば断熱変化の場合 dQ = 0 であるから

∆S ∆ dS 0

すなわち不可逆変化を含む断熱変化ではエントロピーは必ず増大する

<補遺> 70

T

QS

BA SSS

(b-20)

(次の<補遺>ギブス自由エネルギーも参照せよ)

本文 p26 へ戻る

ギブス自由エネルギー (本文 p28 27 行目参照)

エントロピーの考えを導入することによって不可逆的に状態変化が起きるときにはエン

トロピーの増大を引き起こすことを知ったこれによって目前で起きる現象について温度の

変化があるものであれないものであれまた圧力の変化があるものであってもエントロピー

の定義式によって可逆的な変化におけるエントロピーの変化量を計算することが可能である

(b-15)

しかしながらこれから起こる変化について我々がすでにあらかじめ知っている物理量を

用いて予測的にその状態変化が起きるかどうか知ることは必ずしも容易ではないその理由

は式 b-15 に示されたエントロピーΔS が系とその外界をあわせた全体のエントロピーを示

しているからであるすなわち関心のある系を系 A としその外界を系 B とすると全体

のエントロピーは次のように表せる

(c-1)

関心のある系 A のエントロピー変化を知るためには系 B のそれを知ればよいがそれは

いつも容易とは限らない系 A の性質だけで状態変化の方向を知るには別の観点が必要にな

るようだ

そこでもう一度状態変化が熱量 Q の移動によって起きることについて考えてみようエン

トロピーの補遺で議論したように熱量の移動が準静的過程により行われるときには変化は可

逆的に起こると考えたこのとき外界すなわち系 B から移動する熱量を Q1とし系 A から

0S

<補遺> 71

21 QQ

T

Q

T

QSB

21

T

QSS A

2

QH

T

HSS AA

AA STHST

のそれを Q2 と記号を当てたのでこれをそのまま使うことにすれば可逆的な過程では系 B

の熱量 Q1 はすなわち系 A から戻る Q2 に他ならないので両者には次の関係が成立するも

のとしてよい

(c-2)

したがって

(c-3)

と考えてよくこれによって式 c-1 を次のように書きなおすことが出来る

(c-4)

独立した系で圧力とその体積に変化がなく一定の条件の下で状態変化が起きるときエン

タルピーの考えを使ってすでにひとつの関係があることを導いている

本文(31)

そこで式 c-4 を系のエンタルピーΔHAによって書き改めれば

(c-5)

この両辺に-T をかけて式を書き直せば次の関係式が得られる

(c-6)

式 c-6 を見るときその右辺がマイナスの値ならば左辺のΔS はプラスの値をとることが

分かるすなわちエントロピーが増大すると見ることが出来るこれまでの過程で自然の現

象はエントロピーが増大する方向に進むとしてきたので関心のある状態変化について式 c-6

の右辺で計算される値がマイナスの値ならばその変化は起きるものと考えてよいことになる

だろうしかも右辺はすべて独立した系の状態量で示されていて我々が知りうる値で計算

<補遺> 72

TSHG

STSTHG

STHG

可能である

そこでこれを熱力学ポテンシャルを表すものとしてギブス自由エネルギーと呼ぶことに

するギブス自由エネルギーは記号 G が用いられ次のように定義される

(c-7)

ここで関心があるのは自由エネルギーの絶対値ではなく式 c-6 に示されたようにその変化量

に興味があるので式 c-7 から

(c-8)

温度が一定の条件の下で状態変化が起きることを考えるなら式 c-8 は次のように書くこと

ができる

(c-9)

ギブス自由エネルギーは式 c-9 の右辺がすべて状態量であるからこれも状態量の一つで

ある定圧定温の条件下で起きる変化ではすでに議論したようにΔGlt0 であれば状態

変化は自発的に起きるものと予測できる

つまり式 c-5 の第一項は系のエントロピーΔSAそのものであり第二項で示されるエンタ

ルピーは系 A の温度が一定に保たれているのであるから発熱する熱量として外界に吸収さ

れるものであってこれは外界のエントロピーの増大につながるものとして解釈されるした

がって化学反応のように一定の圧力と一定の温度の下で起きる変化について自由エネルギ

ー変化量はその状態変化が自発的に起きる傾向を示しているといってよい

本文 p28 へ戻る

  • はじめに
  • 目次
  • 電気エネルギー
    • 金属のイオン化
    • 電池
    • 水素の反応
    • 燃料電池
    • 化学反応と電気エネルギー
      • エネルギーと熱力学
        • エネルギー保存則
        • エンタルピー
        • エントロピー13
        • ギブス自由エネルギー
        • 電池における化学反応のギブス自由エネルギー13
        • 理想気体の状態方程式
        • 理想溶液のギブス自由エネルギー
        • 膜電位
          • 水素イオン濃度測定
            • 化学反応の一般的な式
            • pHの定義とその目盛り
            • pH標準液
            • 銀塩化銀参照電極
            • 実用的なpH測定
            • ガラス電極
            • 電極の校正
            • 金属イオンに対応するイオン選択電極
              • 文献
              • 補遺
                • 状態関数
                • エンタルピー
                • エントロピー
                • ギブス自由エネルギー
Page 52: イオン選択電極i イオン選択電極 Ion Selective Electrode (ISE) を理解する ・ pHを測定する ・ NaやKなどのイオン濃度を測定する 神戸大学医学部保健学科

49

K = [Ag+][Cl-] (92)

これから

[Ag+]= K[Cl-] (93)

化カリウム溶液に漬けた銀塩化銀電極の電位 E は水素標準電極に対する

電 で与えられる

位を E゜として次式

E E

RT

nF

[ Ag ]

[Ag(s)]ln( )

Ag(s)のイオン活量は常に1とする

ここで半反応の電極電位を求めるために式(75)を利用することにすれば

(94)

熱力学の慣例にしたがって純物質個体

E E

RT

Flna

H Cl a (75)

式 の半反応をみると

応で電子1つが移動するので n=1 とするR=831441 JmolK1F = 96485

C はめれば

これに銀イオンの濃度として式(93)を当てはめる

この反応で移動する電子は (89) 銀イオン1つの反

molT=29815K(25)ln(10)=2303などの定数を当て

2303RTF = 005917

であるから(94)式は次のように表現できる

log[Cl]) E E 005917(logK (95)

たがって標準水素電極に対する銀塩化銀参照電極の標準状態における電

位 は半反応(89)に対して ゜=+0799で

化銀の乖離定数 K は182times10-10 であるのでその対数を取れば-973993

0799-005917times973993-005917log[Cl-]

E゜ E ある

ある

そこで式(95)は

E =

50

= 0799-0576-005917log[Cl-]

= 0223-005917log[Cl-] (96)

電極電位の関係について実測値

こうして求めた塩化カリウム溶液の濃度と

計算上の値は次のようである

KCl moll vs SHE volt25 計算値 volt25 01 02881 02822 35 0205 01908 飽和 0199 minus

実用 測定

実際の現場で水素イオン濃度を測定する目的の測定法で上のような2つの

極が同じ溶液に浸かっていたのでは試料溶液を交換するにも便利ではない

の容器に入れる未知試料溶液と銀塩化銀電極を隔離する

的な pH

そこで水素電極側

的で二つの電極容器をつなぐ液絡部をグラスフィルターやセラミック板

飽和塩化カリウムで作成したゼラチンなどの塩橋によって隔離遮断するこ

れを液絡部とよぶ

電池として機能するために必要な溶液イオンの交換はこの液絡部で行う

組み立てる電池は電池式で次のように表される

Pt(s) | H2 | 試料 (H+ x moll) || 飽和 KCl | AgCl | Ag(s)

の標準電極と銀塩化銀電極とは区切られていて溶液の直接の接触がない

とを意味するために電池式ではタテ二重線を用いる銀塩化銀参照電極

の容器には飽和塩化カリウム溶液が入れられる

51

図12液絡部のある pH 測定のための電池

この液絡部のある電池では塩橋を記号lsquo | | rsquoで表して次のように記す

試料 (H+ x moll) | | 飽和 KCl

ここでは試料溶液と飽和塩化カリウム溶液の異なる2液が接している

このような界面では膜電力が生じるのと同様「液間電位差」が生じることが

知られているしたがって上の電池で測定される起電力 E は

E = E[銀塩化銀電極電位]+E[液間電位]+E[水素電極電位]

で与えられることになってE[液間電位]のために図12の電池の起電力

は銀塩化銀参照電極の値を知っていても水素電極容器内に入れた未知溶

液の水素イオン濃度を正しく知ることができない

52

そこで実用的な測定法としてこの E[液間電位]を膜電位として積極的に利

用する方法が工夫されたすなわち水素イオンに感応するガラス薄膜を用い

るガラス電極法である

53

ガラス電極

ガラスはケイ素原子と酸素原子からなる SiO4 の結晶構造を持ち酸素で囲

まれた空隙があって水素イオンがそれを埋めることができる

この性質によってガラス膜表面は水溶液中の水素イオンに応じて膜電位を

変化させるのでこれを水素イオン濃度測定用の電極として利用することが考

えられるこれが通常用いられるガラス電極である

ガラス電極は標準電極と組み合わせれば電池を構成することができこの電

池の起電力を知ってガラス薄膜の内外にできたイオン濃度勾配を知ろうとす

るものである

薄いガラス膜(01mm程度)をはさんで接する2つの溶液のH+イオン濃

度が異なるとその差に応じてガラス膜の両側に電位差(Eg)が現れる

ネルンストの式でガラス電極の内部に入れた既知の濃度のH+([H+]in)に対

し試料中の水素イオン濃度が[H+]sampleのとき次の電位を生じる

)][

][log(059170)

][

][ln(

sample

in

sample

ing

H

H

H

H

F

RTE

(97)

図13ガラス電極

電極を構成するのは銀塩化銀電極と同じ電極で用いる塩溶液は一般的

54

に 01モル塩酸溶液である

この半電池の電池式は次のように書くことができる

Ag(s) | AgCl(s) | HCl (01 M) | ガラス薄膜 || 試料溶液 H+ (x moll)

Eg

この半電池の電極電圧を測定するために銀塩化銀標準電極と組み合わせ

電池を作って起電力を計る

構成される電池は下図のようになる

ガラス電極 銀塩化銀標準電極

図14ガラス電極を用いた pH 測定用の電池

この電池の起電力は次の各半電池の平衡電位を合わせたものになる

55

E1ガラス電極の内側電位

Ag(s) | AgCl(s) | HCl (01 M)

Egガラス薄膜の内外に生じる膜電位

HCl (01 M) | ガラス薄膜 || 試料溶液 H+ (x moll)

E2液間電位(膜電位)銀塩化銀標準電極のセラミックを介した試料溶液

と銀塩化銀標準電極の内部液(飽和 KCl 溶液)の間に発生する電位

試料溶液 H+ (x moll)|| セラミック | KCl(飽和)

E3銀塩化銀標準電極

KCl(飽和)| AgCl(s) | Ag(s)

pH メーター用のガラス電極に使われるガラス薄膜は水素イオンに感応して

膜電位(Eg)を生じるこれは【膜電位】の章で記したように薄膜がある

一つのイオンのみを通過させる特性を持っている場合にイオンが膜を介した

両側で平衡状態に達したとして電気化学ポテンシャルを膜の両側で等しいと

考えてそのイオンが濃厚な側から希薄な側にその差によって圧力を生じると

するものである

一方同じ試料溶液が銀塩化銀標準電極のセラミック液絡部を介して生じ

るだろう液間電位(膜電位E2)はいま関心がある水素イオンに対して特異

的に感応するのではないので試料溶液の水素イオン濃度に関係なく一定と見

なすことができる

すなわちpH メーターを構成する電池の起電力 E は

E = E1+Eg+E2+E3 (98)

このうちEg以外は一定と見なせるので

E1+E2+E3 = E

として式(98)を書き直すと

)][

][log(059170

sample

ing H

HEEEE

(99)

Eは標準液によって校正されるべき標準電極電位である

56

電極の校正

実際のイオン濃度を測定する場合低濃度標準液と高濃度標準液で得られ

る起電力を測定し計測のイオン濃度に対する係数(傾き)を求めておき未

知の試料に対して起電力を測定してそのイオン濃度を算出する方法が採られる

低濃度標準液と高濃度標準液のそれぞれの濃度をCLとCHとすればそれぞ

れの起電力ELとEHは次式で表される EH = E +β logCH (100)

EL = E +β log CL (101)

ただしβは式(99)の係数を簡略にしたものである

式(100)と(101)から検量線の傾きが次式で表せる

ΔE = EH minus EL = β(logCH minus logCL) = β logCH

CL

(102)

したがって係数βは

β =ΔE

log CH

CL

(103)

であらわされる

このときに使われる標準はすでに前出の pH 第一次標準第二次標準溶液で

ある

金属イオンに対応するイオン選択電極

現在臨床検査で日常的に使われている電解質測定のための電極はナトリウ

ムカリウムカルシウムクロールなどおよそ臨床的に必要な金属イオン

に対して入手可能である

カリウムイオン測定用のバリノマイシンの発見によってクラウンエーテルと

57

呼ばれる一連の化合物が知られたクラウンエーテルはその分子の中心に立

体的な空間を持ち特定のイオン径に対し合致するのでそのイオンに対して

選択的に感応するこれらの化合物はイオノフォアと呼ばれる

図 15クラウンエーテル

1つの金属イオンが環状化合物

15-crown-5 の中央にある空間を充填

している模式図

15-crown-5 の構造を作る10個の黒

い丸は炭素炭素2個のつながりごと

にある中心の白い丸は酸素酸素と

金属イオンの間の距離はおよそ 22~

23Åであるカリウムのファンデン

ワールス半径は 135Åイオン半径は

15~16Åである

測定したいイオンに対しポリ塩化ビニル(PVC)を支持体としてイオノフ

ォアを添加した液膜の電極膜を作成しこれをガラス電極におけるガラス薄膜

と同様試料に接する電極膜として用いるこの構造から一般的に液膜型電極

と呼ばれる電極膜には特異性を高めるため妨害イオン排除剤などが添加

される

pH メーターと同様銀塩化銀標準電極と組み合わせ電池を形成しその

起電力を計る測定したいイオンが液膜に対して内外で平衡に達したときの

膜電位を測定するのはガラス電極と同じである

カ リ ウ ム イ オ ン に は Bis[(benzo-15-crown-5) ( 正 式 名 は

Bis[(benzo-15-crown-5)-4-methyl]pimelate)ナトリウムには Bis[(12-crown-4)

やDibenzyl-bis[(12-crown-4)などがイオノフォアとして用いられる

58

図16カリウムイオン測定用に使われるクラウンエーテル

図17ナトリウムイオン測定用に使われるクラウンエーテル

59

参考イオン選択電極に関する文献Xia Z Badr IHA Plummer SL Cullen L

Bachas LG Synthesis and evaluation of a bis(crown ether) ionophore with a

conformationally constained bridge in ione- selective electrodes Anal Sci 14(2)

169-173 1998 Oh K-C Kang EC Cho YL Jeong K-S Y oo E-A Paeng K-J

Potassium-selective PVC membrane electrodes based on newly synthesized

cis- and trans-bis(crown ether)s ibid 14(10)1009-1012 1998 Dojindo WEB

site httpwwwdojindocojpwwwrootproductsjinfo2protocolp31pdf

<補遺> 60

補遺 状態関数 (本文 p21 10 行目参照)

一つの平衡状態にある系 A とこれに接する系 A にとって外部である系 B について系 B

から系 A に熱を与えこれによって系 A が他の平衡状態に移ったとき系 A はその結果とし

て膨張し系 B に対し仕事をする

このときの微少な熱量の移動を記号drsquoQ またなされた微少な仕事をdrsquoW とすると

系Aの内部エネルギーに関する微少な変化drsquoUA は両者の和として表される

WdQdUd A primeminusprime=prime (a-1)

この式 a-1 と本文中の式25との関係について

WQU A Δminus=Δ 本文(25)

<補遺> 61

式 a-1 と式25の記号の違いは変化の起きる前の平衡状態 S1 から変化後の平衡状態 S2

に状態変化があったとするなら式 a-1 を積分することで式25が得られるものと考えて区

別している

A

S

S A UUd Δ=primeint2

1 (a-2)

このことは重要であるすなわち内部エネルギーU は変化の起きる前後の状態を指定する

ことによって値が定まることを意味するこのように積分によって値を定めることが出来る

のでdrsquoU は完全微分であるという

内部エネルギーのように系の状態だけで値の定まる量を状態関数として扱う

一方式 a-1 のdrsquoQ drsquoW についても同様に微少の変化量を表しているが平衡状態 S1

から S2 への経路を指定しなければ積分の値は定まらない

本文中の記号にしたがって仕事量ΔW を次のように表すことにする

VpW Δ=Δ 本文(20) V

<補遺> 62

体積と圧力の関係を表す図を使ってこの仕事量が意味することを考える圧力 prsquo の下で

体積が V1 であるときを状態 S1 として圧力一定の下で体積を V2 まで膨張させるような変

化を行った後体積を等しく保って圧力を p にまで上げたときの状態を S2 とするこのとき

の仕事量は膨張に伴うものであるから図の体積‐圧力線の下の面積で示すことができる

平衡状態 S1 から S2 への変化の道筋を別にたどってみよう

新しい経路では圧力を先に p まで上げた後に膨張変化させている

図から直感的に明らかであるので数式での扱いを省略するが2 つの経路による仕事量には

差がある

すなわちdrsquoW は drsquoU と異なり変化の初め S1 と終わり S2 の状態が与えられても積分値

は定まらず変化の経路によって違ってくる

このように変化の経路を指定しなければ積分値が定まらないものを不完全微分と呼び扱

いを区別する

本文 p21 へ戻る

<補遺> 63

VpW

WQU

VpQU

VpUQ

1122 SSSS pVUpVUQ

pVU

VpUHHHQ SS 12

エンタルピー (本文 p24 20 行目参照)

本文中の式 20 および 25 から一定の圧力の元で起きる状態変化において内部エネルギー

の変化量に対する式 a-3 を得る

本文(20)

本文(25)

(a-3)

式 a-3 を Q について書き直す

(a-4)

状態の変化が平衡状態S1から平衡状態S2に移ったものとして式 a-4を丁寧に書き直すと

(a-5)

並び替えて

(a-6)

式 a-6 を見ると定圧過程における熱量の流入は

(a-7)

の形を持つ関数の差であることが分かる

一般に化学反応のような変化の過程では大気圧の下で行われるようなものに興味がある

そこで式 a-7 で与えられる項を一つの関数として定義するこれをエンタルピーと呼び記

号 H を与える式 a-4 はエンタルピーの変化量で次のように書き改められる

(a-8)

圧力が一定の下で起こる状態変化について流入する熱量は式 a-8 で示されるようにエンタ

ルピーの変化量に等しい

V

V

V

V V

V

V

1212 SSSS VVpUUQ VV

<補遺> 64

1Q

We

また式 a-8 からオートクレーブ内で起こるような体積変化のない過程ではこの値が内

部エネルギーの変化量で与えられることが明らかである

本文 p24 へ戻る

エントロピー (本文 p26 17 行目参照)

エントロピーは次のような思考実験から発想された仮想的な状態関数である

理想気体よりなる系 A が温度 T2で熱平衡状態にあり温度 T1の外部の熱源と接しているこ

とを想定する系 A の外部を系 B と呼ぶことにするT1は T2に対して無限小だけ高い温度と

する

系 A が系 B に対して温度圧力について平衡を保ちながら緩慢に系 B より熱量 Q1を受け取

る過程を考える(このような過程を準静的過程と呼ぶ)これによって系 A が熱量 Q1を得て膨

張するとき系 B に対して仕事をする続いて系 A から熱量 Q2が系 B に戻ることを考える

想定されるこの変化が可逆的であれば系 A と系 B を併せた全体は元の状態に戻る蒸気機

関に関するこのような研究が Nicolas Carnot によってなされたのは1824 年のことであった

ここに想定されたサイクルに対する Carnot の効率 e は移動した熱量となされた仕事によ

って定義され次の式で表される

(b-1)

<補遺> 65

理想気体では内部エネルギーU の変化ΔU はゼロと考えるしたがって熱力学の第一法

則を表す式(本文中の式25)から次の関係が示される

0=Δminus=Δ WQU

WQ Δ= (b-2)

これによってCarnot Cycleの効率eはQ2lt0 として次のように書き改めることが出来る

1

21

QQQe +

= (b-3)

ところで気体の状態方程式から1 モルの気体について次のような関係が示される

RTV

P

P1=

V = RTV (b-4)

V 式 b-4 の両辺に体積の微少変化量ΔV をかけて

(b-5)

これを体積Vについてその変化をV1からV2までとして積分するならば次式が得られる

VV

RTVP Δ=Δ 1V V

V

intint = 2

1

2

1

1V

V

V

VdV

VRTPdV

1V2V

11 lnRTW =

(b-6)

Q1の熱量によって起こる膨張がV1よりV2までとし圧力P温度T1の下でなされるその仕事

量をW1とするならそれは式b-6 の右辺によって示されるすなわち

(b-7)

VV

1

2lnVVRT=

V V

VV

V

V2int V2 intV1 V1

<補遺> 66

またQ2の熱量の移動が圧力P温度T2の下で起きこれによって系Aが可逆的に圧縮され

るなら体積変化はV2よりV1まで起こりその仕事量をW2で示すと次式のように表される

(b-8)

1

22

2

122 lnln

VVRT

VVRTW minus==VV

VV

Q1=W1Q2=W2の関係から式b-7 およびb-8 を用いてCarnot Cycleの効率eを表す式b-3

を書き改めると温度のみの関係式として次のように表される

1

21

TTTe minus

= (b-9)

ここでサイクルが可逆的過程であると想定するならば式 b-3 と式 b-9 から

1

21

1

21

TTT

QQQe minus

=+

= (b-10)

これから

12112111 QTQTQTQT minus=+ (b-11)

整理すると

02

2

1

1 =+TQ

TQ (b-12)

この考えをさらに発展させ系A

と系Bの間に数多くの系を挿入すること

にしてそれらの系を同様に熱源として

T1T2Tnと考えるこれによっ

て熱の受け渡しが系Aから系Bに至り

再び系Aにもどるサイクル過程に数多

くの寄り道の過程を加えることになる

熱量の移動に関して上の場合と同じく

準静的過程で行われると考えるこの

サイクル全過程について初めと終わ

<補遺> 67

n

i i

i

T

Q

1

0

0T

dQ

T

QS

T

dQASAS )()( 12

りが同じ状態になる可逆的な過程であるなら式 b-12 を拡大的に考えることになってそれ

は次式で表される

(b-13)

式 b-13 には重要な関数が現れるすなわち熱量と温度の比QT である

もし一つの系が無限小だけ温度の高い(dT )外界から温度圧力など平衡を保ちなが

ら極めて緩慢な過程(準静的過程)で無限小の熱量(dQ )を受け取るならばその変化は可

逆的でありdT について連続的な温度分布をする過程を考えるとき式 b-13 をさらに発展

させて次のように積分式で示すことが出来る

(b-14)

式 b-14 で積分記号にが付されているのはCarnot Cycle のような経路を一巡することを

意味している

Carnot の熱機関の効率という着想から生まれた熱量とそれを持つ系の温度との比 QT に

重要な意味を見出したのは Rudolph Clausius で彼はこの比にエントロピーという名前を与

えたエントロピーには記号ΔS を一般に用いる

(b-15)

エントロピーは初めと終わりの状態がわかれば過程に関わらず定まるので状態関数であ

系 A と外界のエントロピー変化を考えるときそれが可逆的過程であるならばすべてを併

せた全体のエントロピー変化は初めと終わりに変化がないという意味でゼロであるすなわ

ち初めの状態を S(A1)とし次の状態を S(A2)とするならそれぞれのエントロピーを

ΔS(A1)ΔS(A2)としてこの間におけるエントロピーの変化量は次のように示される

(b-16)

<補遺> 68

T

dQdS

0T

dQ

ある一つの変化については次のように示される

(b-17)

ここで式 b-17 の S に付けられたdは微分量すなわちごく微小の変化量を意味し式 b-15

で定義されたエントロピーに用いられる一般的な記号Δと区別する

ところで式 b-10 の関係においてもし移動した熱量のすべてが仕事に変わらなければ

効率 e を表す熱量を用いた関係式と温度で表される関係式は等号で結ぶことができないそれ

はエネルギーのロスを意味し初めと終わりの状態が異なってしまうことを意味するすなわ

ち全過程が構成する一つのサイクルは可逆的でなくなる

不可逆過程での熱効率 ersquo は 大値を示す可逆的過程の熱効率 e より小さな値をとる

ee

したがって 大効率を与える式 b-8 と式 b-3 から

01221

2112

1

21

1

21

QTQT

QTQT

Q

QQ

T

TT

両辺を T1T2で割ると

02

2

1

1 T

Q

T

Q

これを式 b12 と同様に発展させれば式 b-14 についてサイクルの変化が可逆的過程の

場合と不可逆的過程の場合の両方を併せClausius の不等式と呼ばれる次の関係が成立する

(b-18)

式 b-18 の等号が成立するのはサイクルが可逆的な理想の場合に限られる

ある孤立系で状態 A1 から状態 A2 へは不可逆変化で進められ状態 A2 から再び状態 A1

に戻るとき可逆変化であるような閉じた状態変化を考える可逆系のエントロピー変化には

記号 Q を使い不可逆変化には Q を用いるとするとそれぞれ積分式を用いて状態 A1 から

状態 A2 へは

<補遺> 69

d prime

状態 A2 から状態 A1 に戻るときは

全体では

=d prime

+d

(b-19)

Clausius の不等式から

0

式(b-19)の第二項で反応を逆に進めるときには次のように書き改めることができる

=d

よって式(b-19)は次のように書き直すことができClausius の不等式とあわせると

d prime d

0

すなわち

d prime d

上式の右辺は式(b-16)を用いて表せば

d prime

∆S ∆

この状態変化を微小変化とするならば断熱変化の場合 dQ = 0 であるから

∆S ∆ dS 0

すなわち不可逆変化を含む断熱変化ではエントロピーは必ず増大する

<補遺> 70

T

QS

BA SSS

(b-20)

(次の<補遺>ギブス自由エネルギーも参照せよ)

本文 p26 へ戻る

ギブス自由エネルギー (本文 p28 27 行目参照)

エントロピーの考えを導入することによって不可逆的に状態変化が起きるときにはエン

トロピーの増大を引き起こすことを知ったこれによって目前で起きる現象について温度の

変化があるものであれないものであれまた圧力の変化があるものであってもエントロピー

の定義式によって可逆的な変化におけるエントロピーの変化量を計算することが可能である

(b-15)

しかしながらこれから起こる変化について我々がすでにあらかじめ知っている物理量を

用いて予測的にその状態変化が起きるかどうか知ることは必ずしも容易ではないその理由

は式 b-15 に示されたエントロピーΔS が系とその外界をあわせた全体のエントロピーを示

しているからであるすなわち関心のある系を系 A としその外界を系 B とすると全体

のエントロピーは次のように表せる

(c-1)

関心のある系 A のエントロピー変化を知るためには系 B のそれを知ればよいがそれは

いつも容易とは限らない系 A の性質だけで状態変化の方向を知るには別の観点が必要にな

るようだ

そこでもう一度状態変化が熱量 Q の移動によって起きることについて考えてみようエン

トロピーの補遺で議論したように熱量の移動が準静的過程により行われるときには変化は可

逆的に起こると考えたこのとき外界すなわち系 B から移動する熱量を Q1とし系 A から

0S

<補遺> 71

21 QQ

T

Q

T

QSB

21

T

QSS A

2

QH

T

HSS AA

AA STHST

のそれを Q2 と記号を当てたのでこれをそのまま使うことにすれば可逆的な過程では系 B

の熱量 Q1 はすなわち系 A から戻る Q2 に他ならないので両者には次の関係が成立するも

のとしてよい

(c-2)

したがって

(c-3)

と考えてよくこれによって式 c-1 を次のように書きなおすことが出来る

(c-4)

独立した系で圧力とその体積に変化がなく一定の条件の下で状態変化が起きるときエン

タルピーの考えを使ってすでにひとつの関係があることを導いている

本文(31)

そこで式 c-4 を系のエンタルピーΔHAによって書き改めれば

(c-5)

この両辺に-T をかけて式を書き直せば次の関係式が得られる

(c-6)

式 c-6 を見るときその右辺がマイナスの値ならば左辺のΔS はプラスの値をとることが

分かるすなわちエントロピーが増大すると見ることが出来るこれまでの過程で自然の現

象はエントロピーが増大する方向に進むとしてきたので関心のある状態変化について式 c-6

の右辺で計算される値がマイナスの値ならばその変化は起きるものと考えてよいことになる

だろうしかも右辺はすべて独立した系の状態量で示されていて我々が知りうる値で計算

<補遺> 72

TSHG

STSTHG

STHG

可能である

そこでこれを熱力学ポテンシャルを表すものとしてギブス自由エネルギーと呼ぶことに

するギブス自由エネルギーは記号 G が用いられ次のように定義される

(c-7)

ここで関心があるのは自由エネルギーの絶対値ではなく式 c-6 に示されたようにその変化量

に興味があるので式 c-7 から

(c-8)

温度が一定の条件の下で状態変化が起きることを考えるなら式 c-8 は次のように書くこと

ができる

(c-9)

ギブス自由エネルギーは式 c-9 の右辺がすべて状態量であるからこれも状態量の一つで

ある定圧定温の条件下で起きる変化ではすでに議論したようにΔGlt0 であれば状態

変化は自発的に起きるものと予測できる

つまり式 c-5 の第一項は系のエントロピーΔSAそのものであり第二項で示されるエンタ

ルピーは系 A の温度が一定に保たれているのであるから発熱する熱量として外界に吸収さ

れるものであってこれは外界のエントロピーの増大につながるものとして解釈されるした

がって化学反応のように一定の圧力と一定の温度の下で起きる変化について自由エネルギ

ー変化量はその状態変化が自発的に起きる傾向を示しているといってよい

本文 p28 へ戻る

  • はじめに
  • 目次
  • 電気エネルギー
    • 金属のイオン化
    • 電池
    • 水素の反応
    • 燃料電池
    • 化学反応と電気エネルギー
      • エネルギーと熱力学
        • エネルギー保存則
        • エンタルピー
        • エントロピー13
        • ギブス自由エネルギー
        • 電池における化学反応のギブス自由エネルギー13
        • 理想気体の状態方程式
        • 理想溶液のギブス自由エネルギー
        • 膜電位
          • 水素イオン濃度測定
            • 化学反応の一般的な式
            • pHの定義とその目盛り
            • pH標準液
            • 銀塩化銀参照電極
            • 実用的なpH測定
            • ガラス電極
            • 電極の校正
            • 金属イオンに対応するイオン選択電極
              • 文献
              • 補遺
                • 状態関数
                • エンタルピー
                • エントロピー
                • ギブス自由エネルギー
Page 53: イオン選択電極i イオン選択電極 Ion Selective Electrode (ISE) を理解する ・ pHを測定する ・ NaやKなどのイオン濃度を測定する 神戸大学医学部保健学科

50

= 0799-0576-005917log[Cl-]

= 0223-005917log[Cl-] (96)

電極電位の関係について実測値

こうして求めた塩化カリウム溶液の濃度と

計算上の値は次のようである

KCl moll vs SHE volt25 計算値 volt25 01 02881 02822 35 0205 01908 飽和 0199 minus

実用 測定

実際の現場で水素イオン濃度を測定する目的の測定法で上のような2つの

極が同じ溶液に浸かっていたのでは試料溶液を交換するにも便利ではない

の容器に入れる未知試料溶液と銀塩化銀電極を隔離する

的な pH

そこで水素電極側

的で二つの電極容器をつなぐ液絡部をグラスフィルターやセラミック板

飽和塩化カリウムで作成したゼラチンなどの塩橋によって隔離遮断するこ

れを液絡部とよぶ

電池として機能するために必要な溶液イオンの交換はこの液絡部で行う

組み立てる電池は電池式で次のように表される

Pt(s) | H2 | 試料 (H+ x moll) || 飽和 KCl | AgCl | Ag(s)

の標準電極と銀塩化銀電極とは区切られていて溶液の直接の接触がない

とを意味するために電池式ではタテ二重線を用いる銀塩化銀参照電極

の容器には飽和塩化カリウム溶液が入れられる

51

図12液絡部のある pH 測定のための電池

この液絡部のある電池では塩橋を記号lsquo | | rsquoで表して次のように記す

試料 (H+ x moll) | | 飽和 KCl

ここでは試料溶液と飽和塩化カリウム溶液の異なる2液が接している

このような界面では膜電力が生じるのと同様「液間電位差」が生じることが

知られているしたがって上の電池で測定される起電力 E は

E = E[銀塩化銀電極電位]+E[液間電位]+E[水素電極電位]

で与えられることになってE[液間電位]のために図12の電池の起電力

は銀塩化銀参照電極の値を知っていても水素電極容器内に入れた未知溶

液の水素イオン濃度を正しく知ることができない

52

そこで実用的な測定法としてこの E[液間電位]を膜電位として積極的に利

用する方法が工夫されたすなわち水素イオンに感応するガラス薄膜を用い

るガラス電極法である

53

ガラス電極

ガラスはケイ素原子と酸素原子からなる SiO4 の結晶構造を持ち酸素で囲

まれた空隙があって水素イオンがそれを埋めることができる

この性質によってガラス膜表面は水溶液中の水素イオンに応じて膜電位を

変化させるのでこれを水素イオン濃度測定用の電極として利用することが考

えられるこれが通常用いられるガラス電極である

ガラス電極は標準電極と組み合わせれば電池を構成することができこの電

池の起電力を知ってガラス薄膜の内外にできたイオン濃度勾配を知ろうとす

るものである

薄いガラス膜(01mm程度)をはさんで接する2つの溶液のH+イオン濃

度が異なるとその差に応じてガラス膜の両側に電位差(Eg)が現れる

ネルンストの式でガラス電極の内部に入れた既知の濃度のH+([H+]in)に対

し試料中の水素イオン濃度が[H+]sampleのとき次の電位を生じる

)][

][log(059170)

][

][ln(

sample

in

sample

ing

H

H

H

H

F

RTE

(97)

図13ガラス電極

電極を構成するのは銀塩化銀電極と同じ電極で用いる塩溶液は一般的

54

に 01モル塩酸溶液である

この半電池の電池式は次のように書くことができる

Ag(s) | AgCl(s) | HCl (01 M) | ガラス薄膜 || 試料溶液 H+ (x moll)

Eg

この半電池の電極電圧を測定するために銀塩化銀標準電極と組み合わせ

電池を作って起電力を計る

構成される電池は下図のようになる

ガラス電極 銀塩化銀標準電極

図14ガラス電極を用いた pH 測定用の電池

この電池の起電力は次の各半電池の平衡電位を合わせたものになる

55

E1ガラス電極の内側電位

Ag(s) | AgCl(s) | HCl (01 M)

Egガラス薄膜の内外に生じる膜電位

HCl (01 M) | ガラス薄膜 || 試料溶液 H+ (x moll)

E2液間電位(膜電位)銀塩化銀標準電極のセラミックを介した試料溶液

と銀塩化銀標準電極の内部液(飽和 KCl 溶液)の間に発生する電位

試料溶液 H+ (x moll)|| セラミック | KCl(飽和)

E3銀塩化銀標準電極

KCl(飽和)| AgCl(s) | Ag(s)

pH メーター用のガラス電極に使われるガラス薄膜は水素イオンに感応して

膜電位(Eg)を生じるこれは【膜電位】の章で記したように薄膜がある

一つのイオンのみを通過させる特性を持っている場合にイオンが膜を介した

両側で平衡状態に達したとして電気化学ポテンシャルを膜の両側で等しいと

考えてそのイオンが濃厚な側から希薄な側にその差によって圧力を生じると

するものである

一方同じ試料溶液が銀塩化銀標準電極のセラミック液絡部を介して生じ

るだろう液間電位(膜電位E2)はいま関心がある水素イオンに対して特異

的に感応するのではないので試料溶液の水素イオン濃度に関係なく一定と見

なすことができる

すなわちpH メーターを構成する電池の起電力 E は

E = E1+Eg+E2+E3 (98)

このうちEg以外は一定と見なせるので

E1+E2+E3 = E

として式(98)を書き直すと

)][

][log(059170

sample

ing H

HEEEE

(99)

Eは標準液によって校正されるべき標準電極電位である

56

電極の校正

実際のイオン濃度を測定する場合低濃度標準液と高濃度標準液で得られ

る起電力を測定し計測のイオン濃度に対する係数(傾き)を求めておき未

知の試料に対して起電力を測定してそのイオン濃度を算出する方法が採られる

低濃度標準液と高濃度標準液のそれぞれの濃度をCLとCHとすればそれぞ

れの起電力ELとEHは次式で表される EH = E +β logCH (100)

EL = E +β log CL (101)

ただしβは式(99)の係数を簡略にしたものである

式(100)と(101)から検量線の傾きが次式で表せる

ΔE = EH minus EL = β(logCH minus logCL) = β logCH

CL

(102)

したがって係数βは

β =ΔE

log CH

CL

(103)

であらわされる

このときに使われる標準はすでに前出の pH 第一次標準第二次標準溶液で

ある

金属イオンに対応するイオン選択電極

現在臨床検査で日常的に使われている電解質測定のための電極はナトリウ

ムカリウムカルシウムクロールなどおよそ臨床的に必要な金属イオン

に対して入手可能である

カリウムイオン測定用のバリノマイシンの発見によってクラウンエーテルと

57

呼ばれる一連の化合物が知られたクラウンエーテルはその分子の中心に立

体的な空間を持ち特定のイオン径に対し合致するのでそのイオンに対して

選択的に感応するこれらの化合物はイオノフォアと呼ばれる

図 15クラウンエーテル

1つの金属イオンが環状化合物

15-crown-5 の中央にある空間を充填

している模式図

15-crown-5 の構造を作る10個の黒

い丸は炭素炭素2個のつながりごと

にある中心の白い丸は酸素酸素と

金属イオンの間の距離はおよそ 22~

23Åであるカリウムのファンデン

ワールス半径は 135Åイオン半径は

15~16Åである

測定したいイオンに対しポリ塩化ビニル(PVC)を支持体としてイオノフ

ォアを添加した液膜の電極膜を作成しこれをガラス電極におけるガラス薄膜

と同様試料に接する電極膜として用いるこの構造から一般的に液膜型電極

と呼ばれる電極膜には特異性を高めるため妨害イオン排除剤などが添加

される

pH メーターと同様銀塩化銀標準電極と組み合わせ電池を形成しその

起電力を計る測定したいイオンが液膜に対して内外で平衡に達したときの

膜電位を測定するのはガラス電極と同じである

カ リ ウ ム イ オ ン に は Bis[(benzo-15-crown-5) ( 正 式 名 は

Bis[(benzo-15-crown-5)-4-methyl]pimelate)ナトリウムには Bis[(12-crown-4)

やDibenzyl-bis[(12-crown-4)などがイオノフォアとして用いられる

58

図16カリウムイオン測定用に使われるクラウンエーテル

図17ナトリウムイオン測定用に使われるクラウンエーテル

59

参考イオン選択電極に関する文献Xia Z Badr IHA Plummer SL Cullen L

Bachas LG Synthesis and evaluation of a bis(crown ether) ionophore with a

conformationally constained bridge in ione- selective electrodes Anal Sci 14(2)

169-173 1998 Oh K-C Kang EC Cho YL Jeong K-S Y oo E-A Paeng K-J

Potassium-selective PVC membrane electrodes based on newly synthesized

cis- and trans-bis(crown ether)s ibid 14(10)1009-1012 1998 Dojindo WEB

site httpwwwdojindocojpwwwrootproductsjinfo2protocolp31pdf

<補遺> 60

補遺 状態関数 (本文 p21 10 行目参照)

一つの平衡状態にある系 A とこれに接する系 A にとって外部である系 B について系 B

から系 A に熱を与えこれによって系 A が他の平衡状態に移ったとき系 A はその結果とし

て膨張し系 B に対し仕事をする

このときの微少な熱量の移動を記号drsquoQ またなされた微少な仕事をdrsquoW とすると

系Aの内部エネルギーに関する微少な変化drsquoUA は両者の和として表される

WdQdUd A primeminusprime=prime (a-1)

この式 a-1 と本文中の式25との関係について

WQU A Δminus=Δ 本文(25)

<補遺> 61

式 a-1 と式25の記号の違いは変化の起きる前の平衡状態 S1 から変化後の平衡状態 S2

に状態変化があったとするなら式 a-1 を積分することで式25が得られるものと考えて区

別している

A

S

S A UUd Δ=primeint2

1 (a-2)

このことは重要であるすなわち内部エネルギーU は変化の起きる前後の状態を指定する

ことによって値が定まることを意味するこのように積分によって値を定めることが出来る

のでdrsquoU は完全微分であるという

内部エネルギーのように系の状態だけで値の定まる量を状態関数として扱う

一方式 a-1 のdrsquoQ drsquoW についても同様に微少の変化量を表しているが平衡状態 S1

から S2 への経路を指定しなければ積分の値は定まらない

本文中の記号にしたがって仕事量ΔW を次のように表すことにする

VpW Δ=Δ 本文(20) V

<補遺> 62

体積と圧力の関係を表す図を使ってこの仕事量が意味することを考える圧力 prsquo の下で

体積が V1 であるときを状態 S1 として圧力一定の下で体積を V2 まで膨張させるような変

化を行った後体積を等しく保って圧力を p にまで上げたときの状態を S2 とするこのとき

の仕事量は膨張に伴うものであるから図の体積‐圧力線の下の面積で示すことができる

平衡状態 S1 から S2 への変化の道筋を別にたどってみよう

新しい経路では圧力を先に p まで上げた後に膨張変化させている

図から直感的に明らかであるので数式での扱いを省略するが2 つの経路による仕事量には

差がある

すなわちdrsquoW は drsquoU と異なり変化の初め S1 と終わり S2 の状態が与えられても積分値

は定まらず変化の経路によって違ってくる

このように変化の経路を指定しなければ積分値が定まらないものを不完全微分と呼び扱

いを区別する

本文 p21 へ戻る

<補遺> 63

VpW

WQU

VpQU

VpUQ

1122 SSSS pVUpVUQ

pVU

VpUHHHQ SS 12

エンタルピー (本文 p24 20 行目参照)

本文中の式 20 および 25 から一定の圧力の元で起きる状態変化において内部エネルギー

の変化量に対する式 a-3 を得る

本文(20)

本文(25)

(a-3)

式 a-3 を Q について書き直す

(a-4)

状態の変化が平衡状態S1から平衡状態S2に移ったものとして式 a-4を丁寧に書き直すと

(a-5)

並び替えて

(a-6)

式 a-6 を見ると定圧過程における熱量の流入は

(a-7)

の形を持つ関数の差であることが分かる

一般に化学反応のような変化の過程では大気圧の下で行われるようなものに興味がある

そこで式 a-7 で与えられる項を一つの関数として定義するこれをエンタルピーと呼び記

号 H を与える式 a-4 はエンタルピーの変化量で次のように書き改められる

(a-8)

圧力が一定の下で起こる状態変化について流入する熱量は式 a-8 で示されるようにエンタ

ルピーの変化量に等しい

V

V

V

V V

V

V

1212 SSSS VVpUUQ VV

<補遺> 64

1Q

We

また式 a-8 からオートクレーブ内で起こるような体積変化のない過程ではこの値が内

部エネルギーの変化量で与えられることが明らかである

本文 p24 へ戻る

エントロピー (本文 p26 17 行目参照)

エントロピーは次のような思考実験から発想された仮想的な状態関数である

理想気体よりなる系 A が温度 T2で熱平衡状態にあり温度 T1の外部の熱源と接しているこ

とを想定する系 A の外部を系 B と呼ぶことにするT1は T2に対して無限小だけ高い温度と

する

系 A が系 B に対して温度圧力について平衡を保ちながら緩慢に系 B より熱量 Q1を受け取

る過程を考える(このような過程を準静的過程と呼ぶ)これによって系 A が熱量 Q1を得て膨

張するとき系 B に対して仕事をする続いて系 A から熱量 Q2が系 B に戻ることを考える

想定されるこの変化が可逆的であれば系 A と系 B を併せた全体は元の状態に戻る蒸気機

関に関するこのような研究が Nicolas Carnot によってなされたのは1824 年のことであった

ここに想定されたサイクルに対する Carnot の効率 e は移動した熱量となされた仕事によ

って定義され次の式で表される

(b-1)

<補遺> 65

理想気体では内部エネルギーU の変化ΔU はゼロと考えるしたがって熱力学の第一法

則を表す式(本文中の式25)から次の関係が示される

0=Δminus=Δ WQU

WQ Δ= (b-2)

これによってCarnot Cycleの効率eはQ2lt0 として次のように書き改めることが出来る

1

21

QQQe +

= (b-3)

ところで気体の状態方程式から1 モルの気体について次のような関係が示される

RTV

P

P1=

V = RTV (b-4)

V 式 b-4 の両辺に体積の微少変化量ΔV をかけて

(b-5)

これを体積Vについてその変化をV1からV2までとして積分するならば次式が得られる

VV

RTVP Δ=Δ 1V V

V

intint = 2

1

2

1

1V

V

V

VdV

VRTPdV

1V2V

11 lnRTW =

(b-6)

Q1の熱量によって起こる膨張がV1よりV2までとし圧力P温度T1の下でなされるその仕事

量をW1とするならそれは式b-6 の右辺によって示されるすなわち

(b-7)

VV

1

2lnVVRT=

V V

VV

V

V2int V2 intV1 V1

<補遺> 66

またQ2の熱量の移動が圧力P温度T2の下で起きこれによって系Aが可逆的に圧縮され

るなら体積変化はV2よりV1まで起こりその仕事量をW2で示すと次式のように表される

(b-8)

1

22

2

122 lnln

VVRT

VVRTW minus==VV

VV

Q1=W1Q2=W2の関係から式b-7 およびb-8 を用いてCarnot Cycleの効率eを表す式b-3

を書き改めると温度のみの関係式として次のように表される

1

21

TTTe minus

= (b-9)

ここでサイクルが可逆的過程であると想定するならば式 b-3 と式 b-9 から

1

21

1

21

TTT

QQQe minus

=+

= (b-10)

これから

12112111 QTQTQTQT minus=+ (b-11)

整理すると

02

2

1

1 =+TQ

TQ (b-12)

この考えをさらに発展させ系A

と系Bの間に数多くの系を挿入すること

にしてそれらの系を同様に熱源として

T1T2Tnと考えるこれによっ

て熱の受け渡しが系Aから系Bに至り

再び系Aにもどるサイクル過程に数多

くの寄り道の過程を加えることになる

熱量の移動に関して上の場合と同じく

準静的過程で行われると考えるこの

サイクル全過程について初めと終わ

<補遺> 67

n

i i

i

T

Q

1

0

0T

dQ

T

QS

T

dQASAS )()( 12

りが同じ状態になる可逆的な過程であるなら式 b-12 を拡大的に考えることになってそれ

は次式で表される

(b-13)

式 b-13 には重要な関数が現れるすなわち熱量と温度の比QT である

もし一つの系が無限小だけ温度の高い(dT )外界から温度圧力など平衡を保ちなが

ら極めて緩慢な過程(準静的過程)で無限小の熱量(dQ )を受け取るならばその変化は可

逆的でありdT について連続的な温度分布をする過程を考えるとき式 b-13 をさらに発展

させて次のように積分式で示すことが出来る

(b-14)

式 b-14 で積分記号にが付されているのはCarnot Cycle のような経路を一巡することを

意味している

Carnot の熱機関の効率という着想から生まれた熱量とそれを持つ系の温度との比 QT に

重要な意味を見出したのは Rudolph Clausius で彼はこの比にエントロピーという名前を与

えたエントロピーには記号ΔS を一般に用いる

(b-15)

エントロピーは初めと終わりの状態がわかれば過程に関わらず定まるので状態関数であ

系 A と外界のエントロピー変化を考えるときそれが可逆的過程であるならばすべてを併

せた全体のエントロピー変化は初めと終わりに変化がないという意味でゼロであるすなわ

ち初めの状態を S(A1)とし次の状態を S(A2)とするならそれぞれのエントロピーを

ΔS(A1)ΔS(A2)としてこの間におけるエントロピーの変化量は次のように示される

(b-16)

<補遺> 68

T

dQdS

0T

dQ

ある一つの変化については次のように示される

(b-17)

ここで式 b-17 の S に付けられたdは微分量すなわちごく微小の変化量を意味し式 b-15

で定義されたエントロピーに用いられる一般的な記号Δと区別する

ところで式 b-10 の関係においてもし移動した熱量のすべてが仕事に変わらなければ

効率 e を表す熱量を用いた関係式と温度で表される関係式は等号で結ぶことができないそれ

はエネルギーのロスを意味し初めと終わりの状態が異なってしまうことを意味するすなわ

ち全過程が構成する一つのサイクルは可逆的でなくなる

不可逆過程での熱効率 ersquo は 大値を示す可逆的過程の熱効率 e より小さな値をとる

ee

したがって 大効率を与える式 b-8 と式 b-3 から

01221

2112

1

21

1

21

QTQT

QTQT

Q

QQ

T

TT

両辺を T1T2で割ると

02

2

1

1 T

Q

T

Q

これを式 b12 と同様に発展させれば式 b-14 についてサイクルの変化が可逆的過程の

場合と不可逆的過程の場合の両方を併せClausius の不等式と呼ばれる次の関係が成立する

(b-18)

式 b-18 の等号が成立するのはサイクルが可逆的な理想の場合に限られる

ある孤立系で状態 A1 から状態 A2 へは不可逆変化で進められ状態 A2 から再び状態 A1

に戻るとき可逆変化であるような閉じた状態変化を考える可逆系のエントロピー変化には

記号 Q を使い不可逆変化には Q を用いるとするとそれぞれ積分式を用いて状態 A1 から

状態 A2 へは

<補遺> 69

d prime

状態 A2 から状態 A1 に戻るときは

全体では

=d prime

+d

(b-19)

Clausius の不等式から

0

式(b-19)の第二項で反応を逆に進めるときには次のように書き改めることができる

=d

よって式(b-19)は次のように書き直すことができClausius の不等式とあわせると

d prime d

0

すなわち

d prime d

上式の右辺は式(b-16)を用いて表せば

d prime

∆S ∆

この状態変化を微小変化とするならば断熱変化の場合 dQ = 0 であるから

∆S ∆ dS 0

すなわち不可逆変化を含む断熱変化ではエントロピーは必ず増大する

<補遺> 70

T

QS

BA SSS

(b-20)

(次の<補遺>ギブス自由エネルギーも参照せよ)

本文 p26 へ戻る

ギブス自由エネルギー (本文 p28 27 行目参照)

エントロピーの考えを導入することによって不可逆的に状態変化が起きるときにはエン

トロピーの増大を引き起こすことを知ったこれによって目前で起きる現象について温度の

変化があるものであれないものであれまた圧力の変化があるものであってもエントロピー

の定義式によって可逆的な変化におけるエントロピーの変化量を計算することが可能である

(b-15)

しかしながらこれから起こる変化について我々がすでにあらかじめ知っている物理量を

用いて予測的にその状態変化が起きるかどうか知ることは必ずしも容易ではないその理由

は式 b-15 に示されたエントロピーΔS が系とその外界をあわせた全体のエントロピーを示

しているからであるすなわち関心のある系を系 A としその外界を系 B とすると全体

のエントロピーは次のように表せる

(c-1)

関心のある系 A のエントロピー変化を知るためには系 B のそれを知ればよいがそれは

いつも容易とは限らない系 A の性質だけで状態変化の方向を知るには別の観点が必要にな

るようだ

そこでもう一度状態変化が熱量 Q の移動によって起きることについて考えてみようエン

トロピーの補遺で議論したように熱量の移動が準静的過程により行われるときには変化は可

逆的に起こると考えたこのとき外界すなわち系 B から移動する熱量を Q1とし系 A から

0S

<補遺> 71

21 QQ

T

Q

T

QSB

21

T

QSS A

2

QH

T

HSS AA

AA STHST

のそれを Q2 と記号を当てたのでこれをそのまま使うことにすれば可逆的な過程では系 B

の熱量 Q1 はすなわち系 A から戻る Q2 に他ならないので両者には次の関係が成立するも

のとしてよい

(c-2)

したがって

(c-3)

と考えてよくこれによって式 c-1 を次のように書きなおすことが出来る

(c-4)

独立した系で圧力とその体積に変化がなく一定の条件の下で状態変化が起きるときエン

タルピーの考えを使ってすでにひとつの関係があることを導いている

本文(31)

そこで式 c-4 を系のエンタルピーΔHAによって書き改めれば

(c-5)

この両辺に-T をかけて式を書き直せば次の関係式が得られる

(c-6)

式 c-6 を見るときその右辺がマイナスの値ならば左辺のΔS はプラスの値をとることが

分かるすなわちエントロピーが増大すると見ることが出来るこれまでの過程で自然の現

象はエントロピーが増大する方向に進むとしてきたので関心のある状態変化について式 c-6

の右辺で計算される値がマイナスの値ならばその変化は起きるものと考えてよいことになる

だろうしかも右辺はすべて独立した系の状態量で示されていて我々が知りうる値で計算

<補遺> 72

TSHG

STSTHG

STHG

可能である

そこでこれを熱力学ポテンシャルを表すものとしてギブス自由エネルギーと呼ぶことに

するギブス自由エネルギーは記号 G が用いられ次のように定義される

(c-7)

ここで関心があるのは自由エネルギーの絶対値ではなく式 c-6 に示されたようにその変化量

に興味があるので式 c-7 から

(c-8)

温度が一定の条件の下で状態変化が起きることを考えるなら式 c-8 は次のように書くこと

ができる

(c-9)

ギブス自由エネルギーは式 c-9 の右辺がすべて状態量であるからこれも状態量の一つで

ある定圧定温の条件下で起きる変化ではすでに議論したようにΔGlt0 であれば状態

変化は自発的に起きるものと予測できる

つまり式 c-5 の第一項は系のエントロピーΔSAそのものであり第二項で示されるエンタ

ルピーは系 A の温度が一定に保たれているのであるから発熱する熱量として外界に吸収さ

れるものであってこれは外界のエントロピーの増大につながるものとして解釈されるした

がって化学反応のように一定の圧力と一定の温度の下で起きる変化について自由エネルギ

ー変化量はその状態変化が自発的に起きる傾向を示しているといってよい

本文 p28 へ戻る

  • はじめに
  • 目次
  • 電気エネルギー
    • 金属のイオン化
    • 電池
    • 水素の反応
    • 燃料電池
    • 化学反応と電気エネルギー
      • エネルギーと熱力学
        • エネルギー保存則
        • エンタルピー
        • エントロピー13
        • ギブス自由エネルギー
        • 電池における化学反応のギブス自由エネルギー13
        • 理想気体の状態方程式
        • 理想溶液のギブス自由エネルギー
        • 膜電位
          • 水素イオン濃度測定
            • 化学反応の一般的な式
            • pHの定義とその目盛り
            • pH標準液
            • 銀塩化銀参照電極
            • 実用的なpH測定
            • ガラス電極
            • 電極の校正
            • 金属イオンに対応するイオン選択電極
              • 文献
              • 補遺
                • 状態関数
                • エンタルピー
                • エントロピー
                • ギブス自由エネルギー
Page 54: イオン選択電極i イオン選択電極 Ion Selective Electrode (ISE) を理解する ・ pHを測定する ・ NaやKなどのイオン濃度を測定する 神戸大学医学部保健学科

51

図12液絡部のある pH 測定のための電池

この液絡部のある電池では塩橋を記号lsquo | | rsquoで表して次のように記す

試料 (H+ x moll) | | 飽和 KCl

ここでは試料溶液と飽和塩化カリウム溶液の異なる2液が接している

このような界面では膜電力が生じるのと同様「液間電位差」が生じることが

知られているしたがって上の電池で測定される起電力 E は

E = E[銀塩化銀電極電位]+E[液間電位]+E[水素電極電位]

で与えられることになってE[液間電位]のために図12の電池の起電力

は銀塩化銀参照電極の値を知っていても水素電極容器内に入れた未知溶

液の水素イオン濃度を正しく知ることができない

52

そこで実用的な測定法としてこの E[液間電位]を膜電位として積極的に利

用する方法が工夫されたすなわち水素イオンに感応するガラス薄膜を用い

るガラス電極法である

53

ガラス電極

ガラスはケイ素原子と酸素原子からなる SiO4 の結晶構造を持ち酸素で囲

まれた空隙があって水素イオンがそれを埋めることができる

この性質によってガラス膜表面は水溶液中の水素イオンに応じて膜電位を

変化させるのでこれを水素イオン濃度測定用の電極として利用することが考

えられるこれが通常用いられるガラス電極である

ガラス電極は標準電極と組み合わせれば電池を構成することができこの電

池の起電力を知ってガラス薄膜の内外にできたイオン濃度勾配を知ろうとす

るものである

薄いガラス膜(01mm程度)をはさんで接する2つの溶液のH+イオン濃

度が異なるとその差に応じてガラス膜の両側に電位差(Eg)が現れる

ネルンストの式でガラス電極の内部に入れた既知の濃度のH+([H+]in)に対

し試料中の水素イオン濃度が[H+]sampleのとき次の電位を生じる

)][

][log(059170)

][

][ln(

sample

in

sample

ing

H

H

H

H

F

RTE

(97)

図13ガラス電極

電極を構成するのは銀塩化銀電極と同じ電極で用いる塩溶液は一般的

54

に 01モル塩酸溶液である

この半電池の電池式は次のように書くことができる

Ag(s) | AgCl(s) | HCl (01 M) | ガラス薄膜 || 試料溶液 H+ (x moll)

Eg

この半電池の電極電圧を測定するために銀塩化銀標準電極と組み合わせ

電池を作って起電力を計る

構成される電池は下図のようになる

ガラス電極 銀塩化銀標準電極

図14ガラス電極を用いた pH 測定用の電池

この電池の起電力は次の各半電池の平衡電位を合わせたものになる

55

E1ガラス電極の内側電位

Ag(s) | AgCl(s) | HCl (01 M)

Egガラス薄膜の内外に生じる膜電位

HCl (01 M) | ガラス薄膜 || 試料溶液 H+ (x moll)

E2液間電位(膜電位)銀塩化銀標準電極のセラミックを介した試料溶液

と銀塩化銀標準電極の内部液(飽和 KCl 溶液)の間に発生する電位

試料溶液 H+ (x moll)|| セラミック | KCl(飽和)

E3銀塩化銀標準電極

KCl(飽和)| AgCl(s) | Ag(s)

pH メーター用のガラス電極に使われるガラス薄膜は水素イオンに感応して

膜電位(Eg)を生じるこれは【膜電位】の章で記したように薄膜がある

一つのイオンのみを通過させる特性を持っている場合にイオンが膜を介した

両側で平衡状態に達したとして電気化学ポテンシャルを膜の両側で等しいと

考えてそのイオンが濃厚な側から希薄な側にその差によって圧力を生じると

するものである

一方同じ試料溶液が銀塩化銀標準電極のセラミック液絡部を介して生じ

るだろう液間電位(膜電位E2)はいま関心がある水素イオンに対して特異

的に感応するのではないので試料溶液の水素イオン濃度に関係なく一定と見

なすことができる

すなわちpH メーターを構成する電池の起電力 E は

E = E1+Eg+E2+E3 (98)

このうちEg以外は一定と見なせるので

E1+E2+E3 = E

として式(98)を書き直すと

)][

][log(059170

sample

ing H

HEEEE

(99)

Eは標準液によって校正されるべき標準電極電位である

56

電極の校正

実際のイオン濃度を測定する場合低濃度標準液と高濃度標準液で得られ

る起電力を測定し計測のイオン濃度に対する係数(傾き)を求めておき未

知の試料に対して起電力を測定してそのイオン濃度を算出する方法が採られる

低濃度標準液と高濃度標準液のそれぞれの濃度をCLとCHとすればそれぞ

れの起電力ELとEHは次式で表される EH = E +β logCH (100)

EL = E +β log CL (101)

ただしβは式(99)の係数を簡略にしたものである

式(100)と(101)から検量線の傾きが次式で表せる

ΔE = EH minus EL = β(logCH minus logCL) = β logCH

CL

(102)

したがって係数βは

β =ΔE

log CH

CL

(103)

であらわされる

このときに使われる標準はすでに前出の pH 第一次標準第二次標準溶液で

ある

金属イオンに対応するイオン選択電極

現在臨床検査で日常的に使われている電解質測定のための電極はナトリウ

ムカリウムカルシウムクロールなどおよそ臨床的に必要な金属イオン

に対して入手可能である

カリウムイオン測定用のバリノマイシンの発見によってクラウンエーテルと

57

呼ばれる一連の化合物が知られたクラウンエーテルはその分子の中心に立

体的な空間を持ち特定のイオン径に対し合致するのでそのイオンに対して

選択的に感応するこれらの化合物はイオノフォアと呼ばれる

図 15クラウンエーテル

1つの金属イオンが環状化合物

15-crown-5 の中央にある空間を充填

している模式図

15-crown-5 の構造を作る10個の黒

い丸は炭素炭素2個のつながりごと

にある中心の白い丸は酸素酸素と

金属イオンの間の距離はおよそ 22~

23Åであるカリウムのファンデン

ワールス半径は 135Åイオン半径は

15~16Åである

測定したいイオンに対しポリ塩化ビニル(PVC)を支持体としてイオノフ

ォアを添加した液膜の電極膜を作成しこれをガラス電極におけるガラス薄膜

と同様試料に接する電極膜として用いるこの構造から一般的に液膜型電極

と呼ばれる電極膜には特異性を高めるため妨害イオン排除剤などが添加

される

pH メーターと同様銀塩化銀標準電極と組み合わせ電池を形成しその

起電力を計る測定したいイオンが液膜に対して内外で平衡に達したときの

膜電位を測定するのはガラス電極と同じである

カ リ ウ ム イ オ ン に は Bis[(benzo-15-crown-5) ( 正 式 名 は

Bis[(benzo-15-crown-5)-4-methyl]pimelate)ナトリウムには Bis[(12-crown-4)

やDibenzyl-bis[(12-crown-4)などがイオノフォアとして用いられる

58

図16カリウムイオン測定用に使われるクラウンエーテル

図17ナトリウムイオン測定用に使われるクラウンエーテル

59

参考イオン選択電極に関する文献Xia Z Badr IHA Plummer SL Cullen L

Bachas LG Synthesis and evaluation of a bis(crown ether) ionophore with a

conformationally constained bridge in ione- selective electrodes Anal Sci 14(2)

169-173 1998 Oh K-C Kang EC Cho YL Jeong K-S Y oo E-A Paeng K-J

Potassium-selective PVC membrane electrodes based on newly synthesized

cis- and trans-bis(crown ether)s ibid 14(10)1009-1012 1998 Dojindo WEB

site httpwwwdojindocojpwwwrootproductsjinfo2protocolp31pdf

<補遺> 60

補遺 状態関数 (本文 p21 10 行目参照)

一つの平衡状態にある系 A とこれに接する系 A にとって外部である系 B について系 B

から系 A に熱を与えこれによって系 A が他の平衡状態に移ったとき系 A はその結果とし

て膨張し系 B に対し仕事をする

このときの微少な熱量の移動を記号drsquoQ またなされた微少な仕事をdrsquoW とすると

系Aの内部エネルギーに関する微少な変化drsquoUA は両者の和として表される

WdQdUd A primeminusprime=prime (a-1)

この式 a-1 と本文中の式25との関係について

WQU A Δminus=Δ 本文(25)

<補遺> 61

式 a-1 と式25の記号の違いは変化の起きる前の平衡状態 S1 から変化後の平衡状態 S2

に状態変化があったとするなら式 a-1 を積分することで式25が得られるものと考えて区

別している

A

S

S A UUd Δ=primeint2

1 (a-2)

このことは重要であるすなわち内部エネルギーU は変化の起きる前後の状態を指定する

ことによって値が定まることを意味するこのように積分によって値を定めることが出来る

のでdrsquoU は完全微分であるという

内部エネルギーのように系の状態だけで値の定まる量を状態関数として扱う

一方式 a-1 のdrsquoQ drsquoW についても同様に微少の変化量を表しているが平衡状態 S1

から S2 への経路を指定しなければ積分の値は定まらない

本文中の記号にしたがって仕事量ΔW を次のように表すことにする

VpW Δ=Δ 本文(20) V

<補遺> 62

体積と圧力の関係を表す図を使ってこの仕事量が意味することを考える圧力 prsquo の下で

体積が V1 であるときを状態 S1 として圧力一定の下で体積を V2 まで膨張させるような変

化を行った後体積を等しく保って圧力を p にまで上げたときの状態を S2 とするこのとき

の仕事量は膨張に伴うものであるから図の体積‐圧力線の下の面積で示すことができる

平衡状態 S1 から S2 への変化の道筋を別にたどってみよう

新しい経路では圧力を先に p まで上げた後に膨張変化させている

図から直感的に明らかであるので数式での扱いを省略するが2 つの経路による仕事量には

差がある

すなわちdrsquoW は drsquoU と異なり変化の初め S1 と終わり S2 の状態が与えられても積分値

は定まらず変化の経路によって違ってくる

このように変化の経路を指定しなければ積分値が定まらないものを不完全微分と呼び扱

いを区別する

本文 p21 へ戻る

<補遺> 63

VpW

WQU

VpQU

VpUQ

1122 SSSS pVUpVUQ

pVU

VpUHHHQ SS 12

エンタルピー (本文 p24 20 行目参照)

本文中の式 20 および 25 から一定の圧力の元で起きる状態変化において内部エネルギー

の変化量に対する式 a-3 を得る

本文(20)

本文(25)

(a-3)

式 a-3 を Q について書き直す

(a-4)

状態の変化が平衡状態S1から平衡状態S2に移ったものとして式 a-4を丁寧に書き直すと

(a-5)

並び替えて

(a-6)

式 a-6 を見ると定圧過程における熱量の流入は

(a-7)

の形を持つ関数の差であることが分かる

一般に化学反応のような変化の過程では大気圧の下で行われるようなものに興味がある

そこで式 a-7 で与えられる項を一つの関数として定義するこれをエンタルピーと呼び記

号 H を与える式 a-4 はエンタルピーの変化量で次のように書き改められる

(a-8)

圧力が一定の下で起こる状態変化について流入する熱量は式 a-8 で示されるようにエンタ

ルピーの変化量に等しい

V

V

V

V V

V

V

1212 SSSS VVpUUQ VV

<補遺> 64

1Q

We

また式 a-8 からオートクレーブ内で起こるような体積変化のない過程ではこの値が内

部エネルギーの変化量で与えられることが明らかである

本文 p24 へ戻る

エントロピー (本文 p26 17 行目参照)

エントロピーは次のような思考実験から発想された仮想的な状態関数である

理想気体よりなる系 A が温度 T2で熱平衡状態にあり温度 T1の外部の熱源と接しているこ

とを想定する系 A の外部を系 B と呼ぶことにするT1は T2に対して無限小だけ高い温度と

する

系 A が系 B に対して温度圧力について平衡を保ちながら緩慢に系 B より熱量 Q1を受け取

る過程を考える(このような過程を準静的過程と呼ぶ)これによって系 A が熱量 Q1を得て膨

張するとき系 B に対して仕事をする続いて系 A から熱量 Q2が系 B に戻ることを考える

想定されるこの変化が可逆的であれば系 A と系 B を併せた全体は元の状態に戻る蒸気機

関に関するこのような研究が Nicolas Carnot によってなされたのは1824 年のことであった

ここに想定されたサイクルに対する Carnot の効率 e は移動した熱量となされた仕事によ

って定義され次の式で表される

(b-1)

<補遺> 65

理想気体では内部エネルギーU の変化ΔU はゼロと考えるしたがって熱力学の第一法

則を表す式(本文中の式25)から次の関係が示される

0=Δminus=Δ WQU

WQ Δ= (b-2)

これによってCarnot Cycleの効率eはQ2lt0 として次のように書き改めることが出来る

1

21

QQQe +

= (b-3)

ところで気体の状態方程式から1 モルの気体について次のような関係が示される

RTV

P

P1=

V = RTV (b-4)

V 式 b-4 の両辺に体積の微少変化量ΔV をかけて

(b-5)

これを体積Vについてその変化をV1からV2までとして積分するならば次式が得られる

VV

RTVP Δ=Δ 1V V

V

intint = 2

1

2

1

1V

V

V

VdV

VRTPdV

1V2V

11 lnRTW =

(b-6)

Q1の熱量によって起こる膨張がV1よりV2までとし圧力P温度T1の下でなされるその仕事

量をW1とするならそれは式b-6 の右辺によって示されるすなわち

(b-7)

VV

1

2lnVVRT=

V V

VV

V

V2int V2 intV1 V1

<補遺> 66

またQ2の熱量の移動が圧力P温度T2の下で起きこれによって系Aが可逆的に圧縮され

るなら体積変化はV2よりV1まで起こりその仕事量をW2で示すと次式のように表される

(b-8)

1

22

2

122 lnln

VVRT

VVRTW minus==VV

VV

Q1=W1Q2=W2の関係から式b-7 およびb-8 を用いてCarnot Cycleの効率eを表す式b-3

を書き改めると温度のみの関係式として次のように表される

1

21

TTTe minus

= (b-9)

ここでサイクルが可逆的過程であると想定するならば式 b-3 と式 b-9 から

1

21

1

21

TTT

QQQe minus

=+

= (b-10)

これから

12112111 QTQTQTQT minus=+ (b-11)

整理すると

02

2

1

1 =+TQ

TQ (b-12)

この考えをさらに発展させ系A

と系Bの間に数多くの系を挿入すること

にしてそれらの系を同様に熱源として

T1T2Tnと考えるこれによっ

て熱の受け渡しが系Aから系Bに至り

再び系Aにもどるサイクル過程に数多

くの寄り道の過程を加えることになる

熱量の移動に関して上の場合と同じく

準静的過程で行われると考えるこの

サイクル全過程について初めと終わ

<補遺> 67

n

i i

i

T

Q

1

0

0T

dQ

T

QS

T

dQASAS )()( 12

りが同じ状態になる可逆的な過程であるなら式 b-12 を拡大的に考えることになってそれ

は次式で表される

(b-13)

式 b-13 には重要な関数が現れるすなわち熱量と温度の比QT である

もし一つの系が無限小だけ温度の高い(dT )外界から温度圧力など平衡を保ちなが

ら極めて緩慢な過程(準静的過程)で無限小の熱量(dQ )を受け取るならばその変化は可

逆的でありdT について連続的な温度分布をする過程を考えるとき式 b-13 をさらに発展

させて次のように積分式で示すことが出来る

(b-14)

式 b-14 で積分記号にが付されているのはCarnot Cycle のような経路を一巡することを

意味している

Carnot の熱機関の効率という着想から生まれた熱量とそれを持つ系の温度との比 QT に

重要な意味を見出したのは Rudolph Clausius で彼はこの比にエントロピーという名前を与

えたエントロピーには記号ΔS を一般に用いる

(b-15)

エントロピーは初めと終わりの状態がわかれば過程に関わらず定まるので状態関数であ

系 A と外界のエントロピー変化を考えるときそれが可逆的過程であるならばすべてを併

せた全体のエントロピー変化は初めと終わりに変化がないという意味でゼロであるすなわ

ち初めの状態を S(A1)とし次の状態を S(A2)とするならそれぞれのエントロピーを

ΔS(A1)ΔS(A2)としてこの間におけるエントロピーの変化量は次のように示される

(b-16)

<補遺> 68

T

dQdS

0T

dQ

ある一つの変化については次のように示される

(b-17)

ここで式 b-17 の S に付けられたdは微分量すなわちごく微小の変化量を意味し式 b-15

で定義されたエントロピーに用いられる一般的な記号Δと区別する

ところで式 b-10 の関係においてもし移動した熱量のすべてが仕事に変わらなければ

効率 e を表す熱量を用いた関係式と温度で表される関係式は等号で結ぶことができないそれ

はエネルギーのロスを意味し初めと終わりの状態が異なってしまうことを意味するすなわ

ち全過程が構成する一つのサイクルは可逆的でなくなる

不可逆過程での熱効率 ersquo は 大値を示す可逆的過程の熱効率 e より小さな値をとる

ee

したがって 大効率を与える式 b-8 と式 b-3 から

01221

2112

1

21

1

21

QTQT

QTQT

Q

QQ

T

TT

両辺を T1T2で割ると

02

2

1

1 T

Q

T

Q

これを式 b12 と同様に発展させれば式 b-14 についてサイクルの変化が可逆的過程の

場合と不可逆的過程の場合の両方を併せClausius の不等式と呼ばれる次の関係が成立する

(b-18)

式 b-18 の等号が成立するのはサイクルが可逆的な理想の場合に限られる

ある孤立系で状態 A1 から状態 A2 へは不可逆変化で進められ状態 A2 から再び状態 A1

に戻るとき可逆変化であるような閉じた状態変化を考える可逆系のエントロピー変化には

記号 Q を使い不可逆変化には Q を用いるとするとそれぞれ積分式を用いて状態 A1 から

状態 A2 へは

<補遺> 69

d prime

状態 A2 から状態 A1 に戻るときは

全体では

=d prime

+d

(b-19)

Clausius の不等式から

0

式(b-19)の第二項で反応を逆に進めるときには次のように書き改めることができる

=d

よって式(b-19)は次のように書き直すことができClausius の不等式とあわせると

d prime d

0

すなわち

d prime d

上式の右辺は式(b-16)を用いて表せば

d prime

∆S ∆

この状態変化を微小変化とするならば断熱変化の場合 dQ = 0 であるから

∆S ∆ dS 0

すなわち不可逆変化を含む断熱変化ではエントロピーは必ず増大する

<補遺> 70

T

QS

BA SSS

(b-20)

(次の<補遺>ギブス自由エネルギーも参照せよ)

本文 p26 へ戻る

ギブス自由エネルギー (本文 p28 27 行目参照)

エントロピーの考えを導入することによって不可逆的に状態変化が起きるときにはエン

トロピーの増大を引き起こすことを知ったこれによって目前で起きる現象について温度の

変化があるものであれないものであれまた圧力の変化があるものであってもエントロピー

の定義式によって可逆的な変化におけるエントロピーの変化量を計算することが可能である

(b-15)

しかしながらこれから起こる変化について我々がすでにあらかじめ知っている物理量を

用いて予測的にその状態変化が起きるかどうか知ることは必ずしも容易ではないその理由

は式 b-15 に示されたエントロピーΔS が系とその外界をあわせた全体のエントロピーを示

しているからであるすなわち関心のある系を系 A としその外界を系 B とすると全体

のエントロピーは次のように表せる

(c-1)

関心のある系 A のエントロピー変化を知るためには系 B のそれを知ればよいがそれは

いつも容易とは限らない系 A の性質だけで状態変化の方向を知るには別の観点が必要にな

るようだ

そこでもう一度状態変化が熱量 Q の移動によって起きることについて考えてみようエン

トロピーの補遺で議論したように熱量の移動が準静的過程により行われるときには変化は可

逆的に起こると考えたこのとき外界すなわち系 B から移動する熱量を Q1とし系 A から

0S

<補遺> 71

21 QQ

T

Q

T

QSB

21

T

QSS A

2

QH

T

HSS AA

AA STHST

のそれを Q2 と記号を当てたのでこれをそのまま使うことにすれば可逆的な過程では系 B

の熱量 Q1 はすなわち系 A から戻る Q2 に他ならないので両者には次の関係が成立するも

のとしてよい

(c-2)

したがって

(c-3)

と考えてよくこれによって式 c-1 を次のように書きなおすことが出来る

(c-4)

独立した系で圧力とその体積に変化がなく一定の条件の下で状態変化が起きるときエン

タルピーの考えを使ってすでにひとつの関係があることを導いている

本文(31)

そこで式 c-4 を系のエンタルピーΔHAによって書き改めれば

(c-5)

この両辺に-T をかけて式を書き直せば次の関係式が得られる

(c-6)

式 c-6 を見るときその右辺がマイナスの値ならば左辺のΔS はプラスの値をとることが

分かるすなわちエントロピーが増大すると見ることが出来るこれまでの過程で自然の現

象はエントロピーが増大する方向に進むとしてきたので関心のある状態変化について式 c-6

の右辺で計算される値がマイナスの値ならばその変化は起きるものと考えてよいことになる

だろうしかも右辺はすべて独立した系の状態量で示されていて我々が知りうる値で計算

<補遺> 72

TSHG

STSTHG

STHG

可能である

そこでこれを熱力学ポテンシャルを表すものとしてギブス自由エネルギーと呼ぶことに

するギブス自由エネルギーは記号 G が用いられ次のように定義される

(c-7)

ここで関心があるのは自由エネルギーの絶対値ではなく式 c-6 に示されたようにその変化量

に興味があるので式 c-7 から

(c-8)

温度が一定の条件の下で状態変化が起きることを考えるなら式 c-8 は次のように書くこと

ができる

(c-9)

ギブス自由エネルギーは式 c-9 の右辺がすべて状態量であるからこれも状態量の一つで

ある定圧定温の条件下で起きる変化ではすでに議論したようにΔGlt0 であれば状態

変化は自発的に起きるものと予測できる

つまり式 c-5 の第一項は系のエントロピーΔSAそのものであり第二項で示されるエンタ

ルピーは系 A の温度が一定に保たれているのであるから発熱する熱量として外界に吸収さ

れるものであってこれは外界のエントロピーの増大につながるものとして解釈されるした

がって化学反応のように一定の圧力と一定の温度の下で起きる変化について自由エネルギ

ー変化量はその状態変化が自発的に起きる傾向を示しているといってよい

本文 p28 へ戻る

  • はじめに
  • 目次
  • 電気エネルギー
    • 金属のイオン化
    • 電池
    • 水素の反応
    • 燃料電池
    • 化学反応と電気エネルギー
      • エネルギーと熱力学
        • エネルギー保存則
        • エンタルピー
        • エントロピー13
        • ギブス自由エネルギー
        • 電池における化学反応のギブス自由エネルギー13
        • 理想気体の状態方程式
        • 理想溶液のギブス自由エネルギー
        • 膜電位
          • 水素イオン濃度測定
            • 化学反応の一般的な式
            • pHの定義とその目盛り
            • pH標準液
            • 銀塩化銀参照電極
            • 実用的なpH測定
            • ガラス電極
            • 電極の校正
            • 金属イオンに対応するイオン選択電極
              • 文献
              • 補遺
                • 状態関数
                • エンタルピー
                • エントロピー
                • ギブス自由エネルギー
Page 55: イオン選択電極i イオン選択電極 Ion Selective Electrode (ISE) を理解する ・ pHを測定する ・ NaやKなどのイオン濃度を測定する 神戸大学医学部保健学科

52

そこで実用的な測定法としてこの E[液間電位]を膜電位として積極的に利

用する方法が工夫されたすなわち水素イオンに感応するガラス薄膜を用い

るガラス電極法である

53

ガラス電極

ガラスはケイ素原子と酸素原子からなる SiO4 の結晶構造を持ち酸素で囲

まれた空隙があって水素イオンがそれを埋めることができる

この性質によってガラス膜表面は水溶液中の水素イオンに応じて膜電位を

変化させるのでこれを水素イオン濃度測定用の電極として利用することが考

えられるこれが通常用いられるガラス電極である

ガラス電極は標準電極と組み合わせれば電池を構成することができこの電

池の起電力を知ってガラス薄膜の内外にできたイオン濃度勾配を知ろうとす

るものである

薄いガラス膜(01mm程度)をはさんで接する2つの溶液のH+イオン濃

度が異なるとその差に応じてガラス膜の両側に電位差(Eg)が現れる

ネルンストの式でガラス電極の内部に入れた既知の濃度のH+([H+]in)に対

し試料中の水素イオン濃度が[H+]sampleのとき次の電位を生じる

)][

][log(059170)

][

][ln(

sample

in

sample

ing

H

H

H

H

F

RTE

(97)

図13ガラス電極

電極を構成するのは銀塩化銀電極と同じ電極で用いる塩溶液は一般的

54

に 01モル塩酸溶液である

この半電池の電池式は次のように書くことができる

Ag(s) | AgCl(s) | HCl (01 M) | ガラス薄膜 || 試料溶液 H+ (x moll)

Eg

この半電池の電極電圧を測定するために銀塩化銀標準電極と組み合わせ

電池を作って起電力を計る

構成される電池は下図のようになる

ガラス電極 銀塩化銀標準電極

図14ガラス電極を用いた pH 測定用の電池

この電池の起電力は次の各半電池の平衡電位を合わせたものになる

55

E1ガラス電極の内側電位

Ag(s) | AgCl(s) | HCl (01 M)

Egガラス薄膜の内外に生じる膜電位

HCl (01 M) | ガラス薄膜 || 試料溶液 H+ (x moll)

E2液間電位(膜電位)銀塩化銀標準電極のセラミックを介した試料溶液

と銀塩化銀標準電極の内部液(飽和 KCl 溶液)の間に発生する電位

試料溶液 H+ (x moll)|| セラミック | KCl(飽和)

E3銀塩化銀標準電極

KCl(飽和)| AgCl(s) | Ag(s)

pH メーター用のガラス電極に使われるガラス薄膜は水素イオンに感応して

膜電位(Eg)を生じるこれは【膜電位】の章で記したように薄膜がある

一つのイオンのみを通過させる特性を持っている場合にイオンが膜を介した

両側で平衡状態に達したとして電気化学ポテンシャルを膜の両側で等しいと

考えてそのイオンが濃厚な側から希薄な側にその差によって圧力を生じると

するものである

一方同じ試料溶液が銀塩化銀標準電極のセラミック液絡部を介して生じ

るだろう液間電位(膜電位E2)はいま関心がある水素イオンに対して特異

的に感応するのではないので試料溶液の水素イオン濃度に関係なく一定と見

なすことができる

すなわちpH メーターを構成する電池の起電力 E は

E = E1+Eg+E2+E3 (98)

このうちEg以外は一定と見なせるので

E1+E2+E3 = E

として式(98)を書き直すと

)][

][log(059170

sample

ing H

HEEEE

(99)

Eは標準液によって校正されるべき標準電極電位である

56

電極の校正

実際のイオン濃度を測定する場合低濃度標準液と高濃度標準液で得られ

る起電力を測定し計測のイオン濃度に対する係数(傾き)を求めておき未

知の試料に対して起電力を測定してそのイオン濃度を算出する方法が採られる

低濃度標準液と高濃度標準液のそれぞれの濃度をCLとCHとすればそれぞ

れの起電力ELとEHは次式で表される EH = E +β logCH (100)

EL = E +β log CL (101)

ただしβは式(99)の係数を簡略にしたものである

式(100)と(101)から検量線の傾きが次式で表せる

ΔE = EH minus EL = β(logCH minus logCL) = β logCH

CL

(102)

したがって係数βは

β =ΔE

log CH

CL

(103)

であらわされる

このときに使われる標準はすでに前出の pH 第一次標準第二次標準溶液で

ある

金属イオンに対応するイオン選択電極

現在臨床検査で日常的に使われている電解質測定のための電極はナトリウ

ムカリウムカルシウムクロールなどおよそ臨床的に必要な金属イオン

に対して入手可能である

カリウムイオン測定用のバリノマイシンの発見によってクラウンエーテルと

57

呼ばれる一連の化合物が知られたクラウンエーテルはその分子の中心に立

体的な空間を持ち特定のイオン径に対し合致するのでそのイオンに対して

選択的に感応するこれらの化合物はイオノフォアと呼ばれる

図 15クラウンエーテル

1つの金属イオンが環状化合物

15-crown-5 の中央にある空間を充填

している模式図

15-crown-5 の構造を作る10個の黒

い丸は炭素炭素2個のつながりごと

にある中心の白い丸は酸素酸素と

金属イオンの間の距離はおよそ 22~

23Åであるカリウムのファンデン

ワールス半径は 135Åイオン半径は

15~16Åである

測定したいイオンに対しポリ塩化ビニル(PVC)を支持体としてイオノフ

ォアを添加した液膜の電極膜を作成しこれをガラス電極におけるガラス薄膜

と同様試料に接する電極膜として用いるこの構造から一般的に液膜型電極

と呼ばれる電極膜には特異性を高めるため妨害イオン排除剤などが添加

される

pH メーターと同様銀塩化銀標準電極と組み合わせ電池を形成しその

起電力を計る測定したいイオンが液膜に対して内外で平衡に達したときの

膜電位を測定するのはガラス電極と同じである

カ リ ウ ム イ オ ン に は Bis[(benzo-15-crown-5) ( 正 式 名 は

Bis[(benzo-15-crown-5)-4-methyl]pimelate)ナトリウムには Bis[(12-crown-4)

やDibenzyl-bis[(12-crown-4)などがイオノフォアとして用いられる

58

図16カリウムイオン測定用に使われるクラウンエーテル

図17ナトリウムイオン測定用に使われるクラウンエーテル

59

参考イオン選択電極に関する文献Xia Z Badr IHA Plummer SL Cullen L

Bachas LG Synthesis and evaluation of a bis(crown ether) ionophore with a

conformationally constained bridge in ione- selective electrodes Anal Sci 14(2)

169-173 1998 Oh K-C Kang EC Cho YL Jeong K-S Y oo E-A Paeng K-J

Potassium-selective PVC membrane electrodes based on newly synthesized

cis- and trans-bis(crown ether)s ibid 14(10)1009-1012 1998 Dojindo WEB

site httpwwwdojindocojpwwwrootproductsjinfo2protocolp31pdf

<補遺> 60

補遺 状態関数 (本文 p21 10 行目参照)

一つの平衡状態にある系 A とこれに接する系 A にとって外部である系 B について系 B

から系 A に熱を与えこれによって系 A が他の平衡状態に移ったとき系 A はその結果とし

て膨張し系 B に対し仕事をする

このときの微少な熱量の移動を記号drsquoQ またなされた微少な仕事をdrsquoW とすると

系Aの内部エネルギーに関する微少な変化drsquoUA は両者の和として表される

WdQdUd A primeminusprime=prime (a-1)

この式 a-1 と本文中の式25との関係について

WQU A Δminus=Δ 本文(25)

<補遺> 61

式 a-1 と式25の記号の違いは変化の起きる前の平衡状態 S1 から変化後の平衡状態 S2

に状態変化があったとするなら式 a-1 を積分することで式25が得られるものと考えて区

別している

A

S

S A UUd Δ=primeint2

1 (a-2)

このことは重要であるすなわち内部エネルギーU は変化の起きる前後の状態を指定する

ことによって値が定まることを意味するこのように積分によって値を定めることが出来る

のでdrsquoU は完全微分であるという

内部エネルギーのように系の状態だけで値の定まる量を状態関数として扱う

一方式 a-1 のdrsquoQ drsquoW についても同様に微少の変化量を表しているが平衡状態 S1

から S2 への経路を指定しなければ積分の値は定まらない

本文中の記号にしたがって仕事量ΔW を次のように表すことにする

VpW Δ=Δ 本文(20) V

<補遺> 62

体積と圧力の関係を表す図を使ってこの仕事量が意味することを考える圧力 prsquo の下で

体積が V1 であるときを状態 S1 として圧力一定の下で体積を V2 まで膨張させるような変

化を行った後体積を等しく保って圧力を p にまで上げたときの状態を S2 とするこのとき

の仕事量は膨張に伴うものであるから図の体積‐圧力線の下の面積で示すことができる

平衡状態 S1 から S2 への変化の道筋を別にたどってみよう

新しい経路では圧力を先に p まで上げた後に膨張変化させている

図から直感的に明らかであるので数式での扱いを省略するが2 つの経路による仕事量には

差がある

すなわちdrsquoW は drsquoU と異なり変化の初め S1 と終わり S2 の状態が与えられても積分値

は定まらず変化の経路によって違ってくる

このように変化の経路を指定しなければ積分値が定まらないものを不完全微分と呼び扱

いを区別する

本文 p21 へ戻る

<補遺> 63

VpW

WQU

VpQU

VpUQ

1122 SSSS pVUpVUQ

pVU

VpUHHHQ SS 12

エンタルピー (本文 p24 20 行目参照)

本文中の式 20 および 25 から一定の圧力の元で起きる状態変化において内部エネルギー

の変化量に対する式 a-3 を得る

本文(20)

本文(25)

(a-3)

式 a-3 を Q について書き直す

(a-4)

状態の変化が平衡状態S1から平衡状態S2に移ったものとして式 a-4を丁寧に書き直すと

(a-5)

並び替えて

(a-6)

式 a-6 を見ると定圧過程における熱量の流入は

(a-7)

の形を持つ関数の差であることが分かる

一般に化学反応のような変化の過程では大気圧の下で行われるようなものに興味がある

そこで式 a-7 で与えられる項を一つの関数として定義するこれをエンタルピーと呼び記

号 H を与える式 a-4 はエンタルピーの変化量で次のように書き改められる

(a-8)

圧力が一定の下で起こる状態変化について流入する熱量は式 a-8 で示されるようにエンタ

ルピーの変化量に等しい

V

V

V

V V

V

V

1212 SSSS VVpUUQ VV

<補遺> 64

1Q

We

また式 a-8 からオートクレーブ内で起こるような体積変化のない過程ではこの値が内

部エネルギーの変化量で与えられることが明らかである

本文 p24 へ戻る

エントロピー (本文 p26 17 行目参照)

エントロピーは次のような思考実験から発想された仮想的な状態関数である

理想気体よりなる系 A が温度 T2で熱平衡状態にあり温度 T1の外部の熱源と接しているこ

とを想定する系 A の外部を系 B と呼ぶことにするT1は T2に対して無限小だけ高い温度と

する

系 A が系 B に対して温度圧力について平衡を保ちながら緩慢に系 B より熱量 Q1を受け取

る過程を考える(このような過程を準静的過程と呼ぶ)これによって系 A が熱量 Q1を得て膨

張するとき系 B に対して仕事をする続いて系 A から熱量 Q2が系 B に戻ることを考える

想定されるこの変化が可逆的であれば系 A と系 B を併せた全体は元の状態に戻る蒸気機

関に関するこのような研究が Nicolas Carnot によってなされたのは1824 年のことであった

ここに想定されたサイクルに対する Carnot の効率 e は移動した熱量となされた仕事によ

って定義され次の式で表される

(b-1)

<補遺> 65

理想気体では内部エネルギーU の変化ΔU はゼロと考えるしたがって熱力学の第一法

則を表す式(本文中の式25)から次の関係が示される

0=Δminus=Δ WQU

WQ Δ= (b-2)

これによってCarnot Cycleの効率eはQ2lt0 として次のように書き改めることが出来る

1

21

QQQe +

= (b-3)

ところで気体の状態方程式から1 モルの気体について次のような関係が示される

RTV

P

P1=

V = RTV (b-4)

V 式 b-4 の両辺に体積の微少変化量ΔV をかけて

(b-5)

これを体積Vについてその変化をV1からV2までとして積分するならば次式が得られる

VV

RTVP Δ=Δ 1V V

V

intint = 2

1

2

1

1V

V

V

VdV

VRTPdV

1V2V

11 lnRTW =

(b-6)

Q1の熱量によって起こる膨張がV1よりV2までとし圧力P温度T1の下でなされるその仕事

量をW1とするならそれは式b-6 の右辺によって示されるすなわち

(b-7)

VV

1

2lnVVRT=

V V

VV

V

V2int V2 intV1 V1

<補遺> 66

またQ2の熱量の移動が圧力P温度T2の下で起きこれによって系Aが可逆的に圧縮され

るなら体積変化はV2よりV1まで起こりその仕事量をW2で示すと次式のように表される

(b-8)

1

22

2

122 lnln

VVRT

VVRTW minus==VV

VV

Q1=W1Q2=W2の関係から式b-7 およびb-8 を用いてCarnot Cycleの効率eを表す式b-3

を書き改めると温度のみの関係式として次のように表される

1

21

TTTe minus

= (b-9)

ここでサイクルが可逆的過程であると想定するならば式 b-3 と式 b-9 から

1

21

1

21

TTT

QQQe minus

=+

= (b-10)

これから

12112111 QTQTQTQT minus=+ (b-11)

整理すると

02

2

1

1 =+TQ

TQ (b-12)

この考えをさらに発展させ系A

と系Bの間に数多くの系を挿入すること

にしてそれらの系を同様に熱源として

T1T2Tnと考えるこれによっ

て熱の受け渡しが系Aから系Bに至り

再び系Aにもどるサイクル過程に数多

くの寄り道の過程を加えることになる

熱量の移動に関して上の場合と同じく

準静的過程で行われると考えるこの

サイクル全過程について初めと終わ

<補遺> 67

n

i i

i

T

Q

1

0

0T

dQ

T

QS

T

dQASAS )()( 12

りが同じ状態になる可逆的な過程であるなら式 b-12 を拡大的に考えることになってそれ

は次式で表される

(b-13)

式 b-13 には重要な関数が現れるすなわち熱量と温度の比QT である

もし一つの系が無限小だけ温度の高い(dT )外界から温度圧力など平衡を保ちなが

ら極めて緩慢な過程(準静的過程)で無限小の熱量(dQ )を受け取るならばその変化は可

逆的でありdT について連続的な温度分布をする過程を考えるとき式 b-13 をさらに発展

させて次のように積分式で示すことが出来る

(b-14)

式 b-14 で積分記号にが付されているのはCarnot Cycle のような経路を一巡することを

意味している

Carnot の熱機関の効率という着想から生まれた熱量とそれを持つ系の温度との比 QT に

重要な意味を見出したのは Rudolph Clausius で彼はこの比にエントロピーという名前を与

えたエントロピーには記号ΔS を一般に用いる

(b-15)

エントロピーは初めと終わりの状態がわかれば過程に関わらず定まるので状態関数であ

系 A と外界のエントロピー変化を考えるときそれが可逆的過程であるならばすべてを併

せた全体のエントロピー変化は初めと終わりに変化がないという意味でゼロであるすなわ

ち初めの状態を S(A1)とし次の状態を S(A2)とするならそれぞれのエントロピーを

ΔS(A1)ΔS(A2)としてこの間におけるエントロピーの変化量は次のように示される

(b-16)

<補遺> 68

T

dQdS

0T

dQ

ある一つの変化については次のように示される

(b-17)

ここで式 b-17 の S に付けられたdは微分量すなわちごく微小の変化量を意味し式 b-15

で定義されたエントロピーに用いられる一般的な記号Δと区別する

ところで式 b-10 の関係においてもし移動した熱量のすべてが仕事に変わらなければ

効率 e を表す熱量を用いた関係式と温度で表される関係式は等号で結ぶことができないそれ

はエネルギーのロスを意味し初めと終わりの状態が異なってしまうことを意味するすなわ

ち全過程が構成する一つのサイクルは可逆的でなくなる

不可逆過程での熱効率 ersquo は 大値を示す可逆的過程の熱効率 e より小さな値をとる

ee

したがって 大効率を与える式 b-8 と式 b-3 から

01221

2112

1

21

1

21

QTQT

QTQT

Q

QQ

T

TT

両辺を T1T2で割ると

02

2

1

1 T

Q

T

Q

これを式 b12 と同様に発展させれば式 b-14 についてサイクルの変化が可逆的過程の

場合と不可逆的過程の場合の両方を併せClausius の不等式と呼ばれる次の関係が成立する

(b-18)

式 b-18 の等号が成立するのはサイクルが可逆的な理想の場合に限られる

ある孤立系で状態 A1 から状態 A2 へは不可逆変化で進められ状態 A2 から再び状態 A1

に戻るとき可逆変化であるような閉じた状態変化を考える可逆系のエントロピー変化には

記号 Q を使い不可逆変化には Q を用いるとするとそれぞれ積分式を用いて状態 A1 から

状態 A2 へは

<補遺> 69

d prime

状態 A2 から状態 A1 に戻るときは

全体では

=d prime

+d

(b-19)

Clausius の不等式から

0

式(b-19)の第二項で反応を逆に進めるときには次のように書き改めることができる

=d

よって式(b-19)は次のように書き直すことができClausius の不等式とあわせると

d prime d

0

すなわち

d prime d

上式の右辺は式(b-16)を用いて表せば

d prime

∆S ∆

この状態変化を微小変化とするならば断熱変化の場合 dQ = 0 であるから

∆S ∆ dS 0

すなわち不可逆変化を含む断熱変化ではエントロピーは必ず増大する

<補遺> 70

T

QS

BA SSS

(b-20)

(次の<補遺>ギブス自由エネルギーも参照せよ)

本文 p26 へ戻る

ギブス自由エネルギー (本文 p28 27 行目参照)

エントロピーの考えを導入することによって不可逆的に状態変化が起きるときにはエン

トロピーの増大を引き起こすことを知ったこれによって目前で起きる現象について温度の

変化があるものであれないものであれまた圧力の変化があるものであってもエントロピー

の定義式によって可逆的な変化におけるエントロピーの変化量を計算することが可能である

(b-15)

しかしながらこれから起こる変化について我々がすでにあらかじめ知っている物理量を

用いて予測的にその状態変化が起きるかどうか知ることは必ずしも容易ではないその理由

は式 b-15 に示されたエントロピーΔS が系とその外界をあわせた全体のエントロピーを示

しているからであるすなわち関心のある系を系 A としその外界を系 B とすると全体

のエントロピーは次のように表せる

(c-1)

関心のある系 A のエントロピー変化を知るためには系 B のそれを知ればよいがそれは

いつも容易とは限らない系 A の性質だけで状態変化の方向を知るには別の観点が必要にな

るようだ

そこでもう一度状態変化が熱量 Q の移動によって起きることについて考えてみようエン

トロピーの補遺で議論したように熱量の移動が準静的過程により行われるときには変化は可

逆的に起こると考えたこのとき外界すなわち系 B から移動する熱量を Q1とし系 A から

0S

<補遺> 71

21 QQ

T

Q

T

QSB

21

T

QSS A

2

QH

T

HSS AA

AA STHST

のそれを Q2 と記号を当てたのでこれをそのまま使うことにすれば可逆的な過程では系 B

の熱量 Q1 はすなわち系 A から戻る Q2 に他ならないので両者には次の関係が成立するも

のとしてよい

(c-2)

したがって

(c-3)

と考えてよくこれによって式 c-1 を次のように書きなおすことが出来る

(c-4)

独立した系で圧力とその体積に変化がなく一定の条件の下で状態変化が起きるときエン

タルピーの考えを使ってすでにひとつの関係があることを導いている

本文(31)

そこで式 c-4 を系のエンタルピーΔHAによって書き改めれば

(c-5)

この両辺に-T をかけて式を書き直せば次の関係式が得られる

(c-6)

式 c-6 を見るときその右辺がマイナスの値ならば左辺のΔS はプラスの値をとることが

分かるすなわちエントロピーが増大すると見ることが出来るこれまでの過程で自然の現

象はエントロピーが増大する方向に進むとしてきたので関心のある状態変化について式 c-6

の右辺で計算される値がマイナスの値ならばその変化は起きるものと考えてよいことになる

だろうしかも右辺はすべて独立した系の状態量で示されていて我々が知りうる値で計算

<補遺> 72

TSHG

STSTHG

STHG

可能である

そこでこれを熱力学ポテンシャルを表すものとしてギブス自由エネルギーと呼ぶことに

するギブス自由エネルギーは記号 G が用いられ次のように定義される

(c-7)

ここで関心があるのは自由エネルギーの絶対値ではなく式 c-6 に示されたようにその変化量

に興味があるので式 c-7 から

(c-8)

温度が一定の条件の下で状態変化が起きることを考えるなら式 c-8 は次のように書くこと

ができる

(c-9)

ギブス自由エネルギーは式 c-9 の右辺がすべて状態量であるからこれも状態量の一つで

ある定圧定温の条件下で起きる変化ではすでに議論したようにΔGlt0 であれば状態

変化は自発的に起きるものと予測できる

つまり式 c-5 の第一項は系のエントロピーΔSAそのものであり第二項で示されるエンタ

ルピーは系 A の温度が一定に保たれているのであるから発熱する熱量として外界に吸収さ

れるものであってこれは外界のエントロピーの増大につながるものとして解釈されるした

がって化学反応のように一定の圧力と一定の温度の下で起きる変化について自由エネルギ

ー変化量はその状態変化が自発的に起きる傾向を示しているといってよい

本文 p28 へ戻る

  • はじめに
  • 目次
  • 電気エネルギー
    • 金属のイオン化
    • 電池
    • 水素の反応
    • 燃料電池
    • 化学反応と電気エネルギー
      • エネルギーと熱力学
        • エネルギー保存則
        • エンタルピー
        • エントロピー13
        • ギブス自由エネルギー
        • 電池における化学反応のギブス自由エネルギー13
        • 理想気体の状態方程式
        • 理想溶液のギブス自由エネルギー
        • 膜電位
          • 水素イオン濃度測定
            • 化学反応の一般的な式
            • pHの定義とその目盛り
            • pH標準液
            • 銀塩化銀参照電極
            • 実用的なpH測定
            • ガラス電極
            • 電極の校正
            • 金属イオンに対応するイオン選択電極
              • 文献
              • 補遺
                • 状態関数
                • エンタルピー
                • エントロピー
                • ギブス自由エネルギー
Page 56: イオン選択電極i イオン選択電極 Ion Selective Electrode (ISE) を理解する ・ pHを測定する ・ NaやKなどのイオン濃度を測定する 神戸大学医学部保健学科

53

ガラス電極

ガラスはケイ素原子と酸素原子からなる SiO4 の結晶構造を持ち酸素で囲

まれた空隙があって水素イオンがそれを埋めることができる

この性質によってガラス膜表面は水溶液中の水素イオンに応じて膜電位を

変化させるのでこれを水素イオン濃度測定用の電極として利用することが考

えられるこれが通常用いられるガラス電極である

ガラス電極は標準電極と組み合わせれば電池を構成することができこの電

池の起電力を知ってガラス薄膜の内外にできたイオン濃度勾配を知ろうとす

るものである

薄いガラス膜(01mm程度)をはさんで接する2つの溶液のH+イオン濃

度が異なるとその差に応じてガラス膜の両側に電位差(Eg)が現れる

ネルンストの式でガラス電極の内部に入れた既知の濃度のH+([H+]in)に対

し試料中の水素イオン濃度が[H+]sampleのとき次の電位を生じる

)][

][log(059170)

][

][ln(

sample

in

sample

ing

H

H

H

H

F

RTE

(97)

図13ガラス電極

電極を構成するのは銀塩化銀電極と同じ電極で用いる塩溶液は一般的

54

に 01モル塩酸溶液である

この半電池の電池式は次のように書くことができる

Ag(s) | AgCl(s) | HCl (01 M) | ガラス薄膜 || 試料溶液 H+ (x moll)

Eg

この半電池の電極電圧を測定するために銀塩化銀標準電極と組み合わせ

電池を作って起電力を計る

構成される電池は下図のようになる

ガラス電極 銀塩化銀標準電極

図14ガラス電極を用いた pH 測定用の電池

この電池の起電力は次の各半電池の平衡電位を合わせたものになる

55

E1ガラス電極の内側電位

Ag(s) | AgCl(s) | HCl (01 M)

Egガラス薄膜の内外に生じる膜電位

HCl (01 M) | ガラス薄膜 || 試料溶液 H+ (x moll)

E2液間電位(膜電位)銀塩化銀標準電極のセラミックを介した試料溶液

と銀塩化銀標準電極の内部液(飽和 KCl 溶液)の間に発生する電位

試料溶液 H+ (x moll)|| セラミック | KCl(飽和)

E3銀塩化銀標準電極

KCl(飽和)| AgCl(s) | Ag(s)

pH メーター用のガラス電極に使われるガラス薄膜は水素イオンに感応して

膜電位(Eg)を生じるこれは【膜電位】の章で記したように薄膜がある

一つのイオンのみを通過させる特性を持っている場合にイオンが膜を介した

両側で平衡状態に達したとして電気化学ポテンシャルを膜の両側で等しいと

考えてそのイオンが濃厚な側から希薄な側にその差によって圧力を生じると

するものである

一方同じ試料溶液が銀塩化銀標準電極のセラミック液絡部を介して生じ

るだろう液間電位(膜電位E2)はいま関心がある水素イオンに対して特異

的に感応するのではないので試料溶液の水素イオン濃度に関係なく一定と見

なすことができる

すなわちpH メーターを構成する電池の起電力 E は

E = E1+Eg+E2+E3 (98)

このうちEg以外は一定と見なせるので

E1+E2+E3 = E

として式(98)を書き直すと

)][

][log(059170

sample

ing H

HEEEE

(99)

Eは標準液によって校正されるべき標準電極電位である

56

電極の校正

実際のイオン濃度を測定する場合低濃度標準液と高濃度標準液で得られ

る起電力を測定し計測のイオン濃度に対する係数(傾き)を求めておき未

知の試料に対して起電力を測定してそのイオン濃度を算出する方法が採られる

低濃度標準液と高濃度標準液のそれぞれの濃度をCLとCHとすればそれぞ

れの起電力ELとEHは次式で表される EH = E +β logCH (100)

EL = E +β log CL (101)

ただしβは式(99)の係数を簡略にしたものである

式(100)と(101)から検量線の傾きが次式で表せる

ΔE = EH minus EL = β(logCH minus logCL) = β logCH

CL

(102)

したがって係数βは

β =ΔE

log CH

CL

(103)

であらわされる

このときに使われる標準はすでに前出の pH 第一次標準第二次標準溶液で

ある

金属イオンに対応するイオン選択電極

現在臨床検査で日常的に使われている電解質測定のための電極はナトリウ

ムカリウムカルシウムクロールなどおよそ臨床的に必要な金属イオン

に対して入手可能である

カリウムイオン測定用のバリノマイシンの発見によってクラウンエーテルと

57

呼ばれる一連の化合物が知られたクラウンエーテルはその分子の中心に立

体的な空間を持ち特定のイオン径に対し合致するのでそのイオンに対して

選択的に感応するこれらの化合物はイオノフォアと呼ばれる

図 15クラウンエーテル

1つの金属イオンが環状化合物

15-crown-5 の中央にある空間を充填

している模式図

15-crown-5 の構造を作る10個の黒

い丸は炭素炭素2個のつながりごと

にある中心の白い丸は酸素酸素と

金属イオンの間の距離はおよそ 22~

23Åであるカリウムのファンデン

ワールス半径は 135Åイオン半径は

15~16Åである

測定したいイオンに対しポリ塩化ビニル(PVC)を支持体としてイオノフ

ォアを添加した液膜の電極膜を作成しこれをガラス電極におけるガラス薄膜

と同様試料に接する電極膜として用いるこの構造から一般的に液膜型電極

と呼ばれる電極膜には特異性を高めるため妨害イオン排除剤などが添加

される

pH メーターと同様銀塩化銀標準電極と組み合わせ電池を形成しその

起電力を計る測定したいイオンが液膜に対して内外で平衡に達したときの

膜電位を測定するのはガラス電極と同じである

カ リ ウ ム イ オ ン に は Bis[(benzo-15-crown-5) ( 正 式 名 は

Bis[(benzo-15-crown-5)-4-methyl]pimelate)ナトリウムには Bis[(12-crown-4)

やDibenzyl-bis[(12-crown-4)などがイオノフォアとして用いられる

58

図16カリウムイオン測定用に使われるクラウンエーテル

図17ナトリウムイオン測定用に使われるクラウンエーテル

59

参考イオン選択電極に関する文献Xia Z Badr IHA Plummer SL Cullen L

Bachas LG Synthesis and evaluation of a bis(crown ether) ionophore with a

conformationally constained bridge in ione- selective electrodes Anal Sci 14(2)

169-173 1998 Oh K-C Kang EC Cho YL Jeong K-S Y oo E-A Paeng K-J

Potassium-selective PVC membrane electrodes based on newly synthesized

cis- and trans-bis(crown ether)s ibid 14(10)1009-1012 1998 Dojindo WEB

site httpwwwdojindocojpwwwrootproductsjinfo2protocolp31pdf

<補遺> 60

補遺 状態関数 (本文 p21 10 行目参照)

一つの平衡状態にある系 A とこれに接する系 A にとって外部である系 B について系 B

から系 A に熱を与えこれによって系 A が他の平衡状態に移ったとき系 A はその結果とし

て膨張し系 B に対し仕事をする

このときの微少な熱量の移動を記号drsquoQ またなされた微少な仕事をdrsquoW とすると

系Aの内部エネルギーに関する微少な変化drsquoUA は両者の和として表される

WdQdUd A primeminusprime=prime (a-1)

この式 a-1 と本文中の式25との関係について

WQU A Δminus=Δ 本文(25)

<補遺> 61

式 a-1 と式25の記号の違いは変化の起きる前の平衡状態 S1 から変化後の平衡状態 S2

に状態変化があったとするなら式 a-1 を積分することで式25が得られるものと考えて区

別している

A

S

S A UUd Δ=primeint2

1 (a-2)

このことは重要であるすなわち内部エネルギーU は変化の起きる前後の状態を指定する

ことによって値が定まることを意味するこのように積分によって値を定めることが出来る

のでdrsquoU は完全微分であるという

内部エネルギーのように系の状態だけで値の定まる量を状態関数として扱う

一方式 a-1 のdrsquoQ drsquoW についても同様に微少の変化量を表しているが平衡状態 S1

から S2 への経路を指定しなければ積分の値は定まらない

本文中の記号にしたがって仕事量ΔW を次のように表すことにする

VpW Δ=Δ 本文(20) V

<補遺> 62

体積と圧力の関係を表す図を使ってこの仕事量が意味することを考える圧力 prsquo の下で

体積が V1 であるときを状態 S1 として圧力一定の下で体積を V2 まで膨張させるような変

化を行った後体積を等しく保って圧力を p にまで上げたときの状態を S2 とするこのとき

の仕事量は膨張に伴うものであるから図の体積‐圧力線の下の面積で示すことができる

平衡状態 S1 から S2 への変化の道筋を別にたどってみよう

新しい経路では圧力を先に p まで上げた後に膨張変化させている

図から直感的に明らかであるので数式での扱いを省略するが2 つの経路による仕事量には

差がある

すなわちdrsquoW は drsquoU と異なり変化の初め S1 と終わり S2 の状態が与えられても積分値

は定まらず変化の経路によって違ってくる

このように変化の経路を指定しなければ積分値が定まらないものを不完全微分と呼び扱

いを区別する

本文 p21 へ戻る

<補遺> 63

VpW

WQU

VpQU

VpUQ

1122 SSSS pVUpVUQ

pVU

VpUHHHQ SS 12

エンタルピー (本文 p24 20 行目参照)

本文中の式 20 および 25 から一定の圧力の元で起きる状態変化において内部エネルギー

の変化量に対する式 a-3 を得る

本文(20)

本文(25)

(a-3)

式 a-3 を Q について書き直す

(a-4)

状態の変化が平衡状態S1から平衡状態S2に移ったものとして式 a-4を丁寧に書き直すと

(a-5)

並び替えて

(a-6)

式 a-6 を見ると定圧過程における熱量の流入は

(a-7)

の形を持つ関数の差であることが分かる

一般に化学反応のような変化の過程では大気圧の下で行われるようなものに興味がある

そこで式 a-7 で与えられる項を一つの関数として定義するこれをエンタルピーと呼び記

号 H を与える式 a-4 はエンタルピーの変化量で次のように書き改められる

(a-8)

圧力が一定の下で起こる状態変化について流入する熱量は式 a-8 で示されるようにエンタ

ルピーの変化量に等しい

V

V

V

V V

V

V

1212 SSSS VVpUUQ VV

<補遺> 64

1Q

We

また式 a-8 からオートクレーブ内で起こるような体積変化のない過程ではこの値が内

部エネルギーの変化量で与えられることが明らかである

本文 p24 へ戻る

エントロピー (本文 p26 17 行目参照)

エントロピーは次のような思考実験から発想された仮想的な状態関数である

理想気体よりなる系 A が温度 T2で熱平衡状態にあり温度 T1の外部の熱源と接しているこ

とを想定する系 A の外部を系 B と呼ぶことにするT1は T2に対して無限小だけ高い温度と

する

系 A が系 B に対して温度圧力について平衡を保ちながら緩慢に系 B より熱量 Q1を受け取

る過程を考える(このような過程を準静的過程と呼ぶ)これによって系 A が熱量 Q1を得て膨

張するとき系 B に対して仕事をする続いて系 A から熱量 Q2が系 B に戻ることを考える

想定されるこの変化が可逆的であれば系 A と系 B を併せた全体は元の状態に戻る蒸気機

関に関するこのような研究が Nicolas Carnot によってなされたのは1824 年のことであった

ここに想定されたサイクルに対する Carnot の効率 e は移動した熱量となされた仕事によ

って定義され次の式で表される

(b-1)

<補遺> 65

理想気体では内部エネルギーU の変化ΔU はゼロと考えるしたがって熱力学の第一法

則を表す式(本文中の式25)から次の関係が示される

0=Δminus=Δ WQU

WQ Δ= (b-2)

これによってCarnot Cycleの効率eはQ2lt0 として次のように書き改めることが出来る

1

21

QQQe +

= (b-3)

ところで気体の状態方程式から1 モルの気体について次のような関係が示される

RTV

P

P1=

V = RTV (b-4)

V 式 b-4 の両辺に体積の微少変化量ΔV をかけて

(b-5)

これを体積Vについてその変化をV1からV2までとして積分するならば次式が得られる

VV

RTVP Δ=Δ 1V V

V

intint = 2

1

2

1

1V

V

V

VdV

VRTPdV

1V2V

11 lnRTW =

(b-6)

Q1の熱量によって起こる膨張がV1よりV2までとし圧力P温度T1の下でなされるその仕事

量をW1とするならそれは式b-6 の右辺によって示されるすなわち

(b-7)

VV

1

2lnVVRT=

V V

VV

V

V2int V2 intV1 V1

<補遺> 66

またQ2の熱量の移動が圧力P温度T2の下で起きこれによって系Aが可逆的に圧縮され

るなら体積変化はV2よりV1まで起こりその仕事量をW2で示すと次式のように表される

(b-8)

1

22

2

122 lnln

VVRT

VVRTW minus==VV

VV

Q1=W1Q2=W2の関係から式b-7 およびb-8 を用いてCarnot Cycleの効率eを表す式b-3

を書き改めると温度のみの関係式として次のように表される

1

21

TTTe minus

= (b-9)

ここでサイクルが可逆的過程であると想定するならば式 b-3 と式 b-9 から

1

21

1

21

TTT

QQQe minus

=+

= (b-10)

これから

12112111 QTQTQTQT minus=+ (b-11)

整理すると

02

2

1

1 =+TQ

TQ (b-12)

この考えをさらに発展させ系A

と系Bの間に数多くの系を挿入すること

にしてそれらの系を同様に熱源として

T1T2Tnと考えるこれによっ

て熱の受け渡しが系Aから系Bに至り

再び系Aにもどるサイクル過程に数多

くの寄り道の過程を加えることになる

熱量の移動に関して上の場合と同じく

準静的過程で行われると考えるこの

サイクル全過程について初めと終わ

<補遺> 67

n

i i

i

T

Q

1

0

0T

dQ

T

QS

T

dQASAS )()( 12

りが同じ状態になる可逆的な過程であるなら式 b-12 を拡大的に考えることになってそれ

は次式で表される

(b-13)

式 b-13 には重要な関数が現れるすなわち熱量と温度の比QT である

もし一つの系が無限小だけ温度の高い(dT )外界から温度圧力など平衡を保ちなが

ら極めて緩慢な過程(準静的過程)で無限小の熱量(dQ )を受け取るならばその変化は可

逆的でありdT について連続的な温度分布をする過程を考えるとき式 b-13 をさらに発展

させて次のように積分式で示すことが出来る

(b-14)

式 b-14 で積分記号にが付されているのはCarnot Cycle のような経路を一巡することを

意味している

Carnot の熱機関の効率という着想から生まれた熱量とそれを持つ系の温度との比 QT に

重要な意味を見出したのは Rudolph Clausius で彼はこの比にエントロピーという名前を与

えたエントロピーには記号ΔS を一般に用いる

(b-15)

エントロピーは初めと終わりの状態がわかれば過程に関わらず定まるので状態関数であ

系 A と外界のエントロピー変化を考えるときそれが可逆的過程であるならばすべてを併

せた全体のエントロピー変化は初めと終わりに変化がないという意味でゼロであるすなわ

ち初めの状態を S(A1)とし次の状態を S(A2)とするならそれぞれのエントロピーを

ΔS(A1)ΔS(A2)としてこの間におけるエントロピーの変化量は次のように示される

(b-16)

<補遺> 68

T

dQdS

0T

dQ

ある一つの変化については次のように示される

(b-17)

ここで式 b-17 の S に付けられたdは微分量すなわちごく微小の変化量を意味し式 b-15

で定義されたエントロピーに用いられる一般的な記号Δと区別する

ところで式 b-10 の関係においてもし移動した熱量のすべてが仕事に変わらなければ

効率 e を表す熱量を用いた関係式と温度で表される関係式は等号で結ぶことができないそれ

はエネルギーのロスを意味し初めと終わりの状態が異なってしまうことを意味するすなわ

ち全過程が構成する一つのサイクルは可逆的でなくなる

不可逆過程での熱効率 ersquo は 大値を示す可逆的過程の熱効率 e より小さな値をとる

ee

したがって 大効率を与える式 b-8 と式 b-3 から

01221

2112

1

21

1

21

QTQT

QTQT

Q

QQ

T

TT

両辺を T1T2で割ると

02

2

1

1 T

Q

T

Q

これを式 b12 と同様に発展させれば式 b-14 についてサイクルの変化が可逆的過程の

場合と不可逆的過程の場合の両方を併せClausius の不等式と呼ばれる次の関係が成立する

(b-18)

式 b-18 の等号が成立するのはサイクルが可逆的な理想の場合に限られる

ある孤立系で状態 A1 から状態 A2 へは不可逆変化で進められ状態 A2 から再び状態 A1

に戻るとき可逆変化であるような閉じた状態変化を考える可逆系のエントロピー変化には

記号 Q を使い不可逆変化には Q を用いるとするとそれぞれ積分式を用いて状態 A1 から

状態 A2 へは

<補遺> 69

d prime

状態 A2 から状態 A1 に戻るときは

全体では

=d prime

+d

(b-19)

Clausius の不等式から

0

式(b-19)の第二項で反応を逆に進めるときには次のように書き改めることができる

=d

よって式(b-19)は次のように書き直すことができClausius の不等式とあわせると

d prime d

0

すなわち

d prime d

上式の右辺は式(b-16)を用いて表せば

d prime

∆S ∆

この状態変化を微小変化とするならば断熱変化の場合 dQ = 0 であるから

∆S ∆ dS 0

すなわち不可逆変化を含む断熱変化ではエントロピーは必ず増大する

<補遺> 70

T

QS

BA SSS

(b-20)

(次の<補遺>ギブス自由エネルギーも参照せよ)

本文 p26 へ戻る

ギブス自由エネルギー (本文 p28 27 行目参照)

エントロピーの考えを導入することによって不可逆的に状態変化が起きるときにはエン

トロピーの増大を引き起こすことを知ったこれによって目前で起きる現象について温度の

変化があるものであれないものであれまた圧力の変化があるものであってもエントロピー

の定義式によって可逆的な変化におけるエントロピーの変化量を計算することが可能である

(b-15)

しかしながらこれから起こる変化について我々がすでにあらかじめ知っている物理量を

用いて予測的にその状態変化が起きるかどうか知ることは必ずしも容易ではないその理由

は式 b-15 に示されたエントロピーΔS が系とその外界をあわせた全体のエントロピーを示

しているからであるすなわち関心のある系を系 A としその外界を系 B とすると全体

のエントロピーは次のように表せる

(c-1)

関心のある系 A のエントロピー変化を知るためには系 B のそれを知ればよいがそれは

いつも容易とは限らない系 A の性質だけで状態変化の方向を知るには別の観点が必要にな

るようだ

そこでもう一度状態変化が熱量 Q の移動によって起きることについて考えてみようエン

トロピーの補遺で議論したように熱量の移動が準静的過程により行われるときには変化は可

逆的に起こると考えたこのとき外界すなわち系 B から移動する熱量を Q1とし系 A から

0S

<補遺> 71

21 QQ

T

Q

T

QSB

21

T

QSS A

2

QH

T

HSS AA

AA STHST

のそれを Q2 と記号を当てたのでこれをそのまま使うことにすれば可逆的な過程では系 B

の熱量 Q1 はすなわち系 A から戻る Q2 に他ならないので両者には次の関係が成立するも

のとしてよい

(c-2)

したがって

(c-3)

と考えてよくこれによって式 c-1 を次のように書きなおすことが出来る

(c-4)

独立した系で圧力とその体積に変化がなく一定の条件の下で状態変化が起きるときエン

タルピーの考えを使ってすでにひとつの関係があることを導いている

本文(31)

そこで式 c-4 を系のエンタルピーΔHAによって書き改めれば

(c-5)

この両辺に-T をかけて式を書き直せば次の関係式が得られる

(c-6)

式 c-6 を見るときその右辺がマイナスの値ならば左辺のΔS はプラスの値をとることが

分かるすなわちエントロピーが増大すると見ることが出来るこれまでの過程で自然の現

象はエントロピーが増大する方向に進むとしてきたので関心のある状態変化について式 c-6

の右辺で計算される値がマイナスの値ならばその変化は起きるものと考えてよいことになる

だろうしかも右辺はすべて独立した系の状態量で示されていて我々が知りうる値で計算

<補遺> 72

TSHG

STSTHG

STHG

可能である

そこでこれを熱力学ポテンシャルを表すものとしてギブス自由エネルギーと呼ぶことに

するギブス自由エネルギーは記号 G が用いられ次のように定義される

(c-7)

ここで関心があるのは自由エネルギーの絶対値ではなく式 c-6 に示されたようにその変化量

に興味があるので式 c-7 から

(c-8)

温度が一定の条件の下で状態変化が起きることを考えるなら式 c-8 は次のように書くこと

ができる

(c-9)

ギブス自由エネルギーは式 c-9 の右辺がすべて状態量であるからこれも状態量の一つで

ある定圧定温の条件下で起きる変化ではすでに議論したようにΔGlt0 であれば状態

変化は自発的に起きるものと予測できる

つまり式 c-5 の第一項は系のエントロピーΔSAそのものであり第二項で示されるエンタ

ルピーは系 A の温度が一定に保たれているのであるから発熱する熱量として外界に吸収さ

れるものであってこれは外界のエントロピーの増大につながるものとして解釈されるした

がって化学反応のように一定の圧力と一定の温度の下で起きる変化について自由エネルギ

ー変化量はその状態変化が自発的に起きる傾向を示しているといってよい

本文 p28 へ戻る

  • はじめに
  • 目次
  • 電気エネルギー
    • 金属のイオン化
    • 電池
    • 水素の反応
    • 燃料電池
    • 化学反応と電気エネルギー
      • エネルギーと熱力学
        • エネルギー保存則
        • エンタルピー
        • エントロピー13
        • ギブス自由エネルギー
        • 電池における化学反応のギブス自由エネルギー13
        • 理想気体の状態方程式
        • 理想溶液のギブス自由エネルギー
        • 膜電位
          • 水素イオン濃度測定
            • 化学反応の一般的な式
            • pHの定義とその目盛り
            • pH標準液
            • 銀塩化銀参照電極
            • 実用的なpH測定
            • ガラス電極
            • 電極の校正
            • 金属イオンに対応するイオン選択電極
              • 文献
              • 補遺
                • 状態関数
                • エンタルピー
                • エントロピー
                • ギブス自由エネルギー
Page 57: イオン選択電極i イオン選択電極 Ion Selective Electrode (ISE) を理解する ・ pHを測定する ・ NaやKなどのイオン濃度を測定する 神戸大学医学部保健学科

54

に 01モル塩酸溶液である

この半電池の電池式は次のように書くことができる

Ag(s) | AgCl(s) | HCl (01 M) | ガラス薄膜 || 試料溶液 H+ (x moll)

Eg

この半電池の電極電圧を測定するために銀塩化銀標準電極と組み合わせ

電池を作って起電力を計る

構成される電池は下図のようになる

ガラス電極 銀塩化銀標準電極

図14ガラス電極を用いた pH 測定用の電池

この電池の起電力は次の各半電池の平衡電位を合わせたものになる

55

E1ガラス電極の内側電位

Ag(s) | AgCl(s) | HCl (01 M)

Egガラス薄膜の内外に生じる膜電位

HCl (01 M) | ガラス薄膜 || 試料溶液 H+ (x moll)

E2液間電位(膜電位)銀塩化銀標準電極のセラミックを介した試料溶液

と銀塩化銀標準電極の内部液(飽和 KCl 溶液)の間に発生する電位

試料溶液 H+ (x moll)|| セラミック | KCl(飽和)

E3銀塩化銀標準電極

KCl(飽和)| AgCl(s) | Ag(s)

pH メーター用のガラス電極に使われるガラス薄膜は水素イオンに感応して

膜電位(Eg)を生じるこれは【膜電位】の章で記したように薄膜がある

一つのイオンのみを通過させる特性を持っている場合にイオンが膜を介した

両側で平衡状態に達したとして電気化学ポテンシャルを膜の両側で等しいと

考えてそのイオンが濃厚な側から希薄な側にその差によって圧力を生じると

するものである

一方同じ試料溶液が銀塩化銀標準電極のセラミック液絡部を介して生じ

るだろう液間電位(膜電位E2)はいま関心がある水素イオンに対して特異

的に感応するのではないので試料溶液の水素イオン濃度に関係なく一定と見

なすことができる

すなわちpH メーターを構成する電池の起電力 E は

E = E1+Eg+E2+E3 (98)

このうちEg以外は一定と見なせるので

E1+E2+E3 = E

として式(98)を書き直すと

)][

][log(059170

sample

ing H

HEEEE

(99)

Eは標準液によって校正されるべき標準電極電位である

56

電極の校正

実際のイオン濃度を測定する場合低濃度標準液と高濃度標準液で得られ

る起電力を測定し計測のイオン濃度に対する係数(傾き)を求めておき未

知の試料に対して起電力を測定してそのイオン濃度を算出する方法が採られる

低濃度標準液と高濃度標準液のそれぞれの濃度をCLとCHとすればそれぞ

れの起電力ELとEHは次式で表される EH = E +β logCH (100)

EL = E +β log CL (101)

ただしβは式(99)の係数を簡略にしたものである

式(100)と(101)から検量線の傾きが次式で表せる

ΔE = EH minus EL = β(logCH minus logCL) = β logCH

CL

(102)

したがって係数βは

β =ΔE

log CH

CL

(103)

であらわされる

このときに使われる標準はすでに前出の pH 第一次標準第二次標準溶液で

ある

金属イオンに対応するイオン選択電極

現在臨床検査で日常的に使われている電解質測定のための電極はナトリウ

ムカリウムカルシウムクロールなどおよそ臨床的に必要な金属イオン

に対して入手可能である

カリウムイオン測定用のバリノマイシンの発見によってクラウンエーテルと

57

呼ばれる一連の化合物が知られたクラウンエーテルはその分子の中心に立

体的な空間を持ち特定のイオン径に対し合致するのでそのイオンに対して

選択的に感応するこれらの化合物はイオノフォアと呼ばれる

図 15クラウンエーテル

1つの金属イオンが環状化合物

15-crown-5 の中央にある空間を充填

している模式図

15-crown-5 の構造を作る10個の黒

い丸は炭素炭素2個のつながりごと

にある中心の白い丸は酸素酸素と

金属イオンの間の距離はおよそ 22~

23Åであるカリウムのファンデン

ワールス半径は 135Åイオン半径は

15~16Åである

測定したいイオンに対しポリ塩化ビニル(PVC)を支持体としてイオノフ

ォアを添加した液膜の電極膜を作成しこれをガラス電極におけるガラス薄膜

と同様試料に接する電極膜として用いるこの構造から一般的に液膜型電極

と呼ばれる電極膜には特異性を高めるため妨害イオン排除剤などが添加

される

pH メーターと同様銀塩化銀標準電極と組み合わせ電池を形成しその

起電力を計る測定したいイオンが液膜に対して内外で平衡に達したときの

膜電位を測定するのはガラス電極と同じである

カ リ ウ ム イ オ ン に は Bis[(benzo-15-crown-5) ( 正 式 名 は

Bis[(benzo-15-crown-5)-4-methyl]pimelate)ナトリウムには Bis[(12-crown-4)

やDibenzyl-bis[(12-crown-4)などがイオノフォアとして用いられる

58

図16カリウムイオン測定用に使われるクラウンエーテル

図17ナトリウムイオン測定用に使われるクラウンエーテル

59

参考イオン選択電極に関する文献Xia Z Badr IHA Plummer SL Cullen L

Bachas LG Synthesis and evaluation of a bis(crown ether) ionophore with a

conformationally constained bridge in ione- selective electrodes Anal Sci 14(2)

169-173 1998 Oh K-C Kang EC Cho YL Jeong K-S Y oo E-A Paeng K-J

Potassium-selective PVC membrane electrodes based on newly synthesized

cis- and trans-bis(crown ether)s ibid 14(10)1009-1012 1998 Dojindo WEB

site httpwwwdojindocojpwwwrootproductsjinfo2protocolp31pdf

<補遺> 60

補遺 状態関数 (本文 p21 10 行目参照)

一つの平衡状態にある系 A とこれに接する系 A にとって外部である系 B について系 B

から系 A に熱を与えこれによって系 A が他の平衡状態に移ったとき系 A はその結果とし

て膨張し系 B に対し仕事をする

このときの微少な熱量の移動を記号drsquoQ またなされた微少な仕事をdrsquoW とすると

系Aの内部エネルギーに関する微少な変化drsquoUA は両者の和として表される

WdQdUd A primeminusprime=prime (a-1)

この式 a-1 と本文中の式25との関係について

WQU A Δminus=Δ 本文(25)

<補遺> 61

式 a-1 と式25の記号の違いは変化の起きる前の平衡状態 S1 から変化後の平衡状態 S2

に状態変化があったとするなら式 a-1 を積分することで式25が得られるものと考えて区

別している

A

S

S A UUd Δ=primeint2

1 (a-2)

このことは重要であるすなわち内部エネルギーU は変化の起きる前後の状態を指定する

ことによって値が定まることを意味するこのように積分によって値を定めることが出来る

のでdrsquoU は完全微分であるという

内部エネルギーのように系の状態だけで値の定まる量を状態関数として扱う

一方式 a-1 のdrsquoQ drsquoW についても同様に微少の変化量を表しているが平衡状態 S1

から S2 への経路を指定しなければ積分の値は定まらない

本文中の記号にしたがって仕事量ΔW を次のように表すことにする

VpW Δ=Δ 本文(20) V

<補遺> 62

体積と圧力の関係を表す図を使ってこの仕事量が意味することを考える圧力 prsquo の下で

体積が V1 であるときを状態 S1 として圧力一定の下で体積を V2 まで膨張させるような変

化を行った後体積を等しく保って圧力を p にまで上げたときの状態を S2 とするこのとき

の仕事量は膨張に伴うものであるから図の体積‐圧力線の下の面積で示すことができる

平衡状態 S1 から S2 への変化の道筋を別にたどってみよう

新しい経路では圧力を先に p まで上げた後に膨張変化させている

図から直感的に明らかであるので数式での扱いを省略するが2 つの経路による仕事量には

差がある

すなわちdrsquoW は drsquoU と異なり変化の初め S1 と終わり S2 の状態が与えられても積分値

は定まらず変化の経路によって違ってくる

このように変化の経路を指定しなければ積分値が定まらないものを不完全微分と呼び扱

いを区別する

本文 p21 へ戻る

<補遺> 63

VpW

WQU

VpQU

VpUQ

1122 SSSS pVUpVUQ

pVU

VpUHHHQ SS 12

エンタルピー (本文 p24 20 行目参照)

本文中の式 20 および 25 から一定の圧力の元で起きる状態変化において内部エネルギー

の変化量に対する式 a-3 を得る

本文(20)

本文(25)

(a-3)

式 a-3 を Q について書き直す

(a-4)

状態の変化が平衡状態S1から平衡状態S2に移ったものとして式 a-4を丁寧に書き直すと

(a-5)

並び替えて

(a-6)

式 a-6 を見ると定圧過程における熱量の流入は

(a-7)

の形を持つ関数の差であることが分かる

一般に化学反応のような変化の過程では大気圧の下で行われるようなものに興味がある

そこで式 a-7 で与えられる項を一つの関数として定義するこれをエンタルピーと呼び記

号 H を与える式 a-4 はエンタルピーの変化量で次のように書き改められる

(a-8)

圧力が一定の下で起こる状態変化について流入する熱量は式 a-8 で示されるようにエンタ

ルピーの変化量に等しい

V

V

V

V V

V

V

1212 SSSS VVpUUQ VV

<補遺> 64

1Q

We

また式 a-8 からオートクレーブ内で起こるような体積変化のない過程ではこの値が内

部エネルギーの変化量で与えられることが明らかである

本文 p24 へ戻る

エントロピー (本文 p26 17 行目参照)

エントロピーは次のような思考実験から発想された仮想的な状態関数である

理想気体よりなる系 A が温度 T2で熱平衡状態にあり温度 T1の外部の熱源と接しているこ

とを想定する系 A の外部を系 B と呼ぶことにするT1は T2に対して無限小だけ高い温度と

する

系 A が系 B に対して温度圧力について平衡を保ちながら緩慢に系 B より熱量 Q1を受け取

る過程を考える(このような過程を準静的過程と呼ぶ)これによって系 A が熱量 Q1を得て膨

張するとき系 B に対して仕事をする続いて系 A から熱量 Q2が系 B に戻ることを考える

想定されるこの変化が可逆的であれば系 A と系 B を併せた全体は元の状態に戻る蒸気機

関に関するこのような研究が Nicolas Carnot によってなされたのは1824 年のことであった

ここに想定されたサイクルに対する Carnot の効率 e は移動した熱量となされた仕事によ

って定義され次の式で表される

(b-1)

<補遺> 65

理想気体では内部エネルギーU の変化ΔU はゼロと考えるしたがって熱力学の第一法

則を表す式(本文中の式25)から次の関係が示される

0=Δminus=Δ WQU

WQ Δ= (b-2)

これによってCarnot Cycleの効率eはQ2lt0 として次のように書き改めることが出来る

1

21

QQQe +

= (b-3)

ところで気体の状態方程式から1 モルの気体について次のような関係が示される

RTV

P

P1=

V = RTV (b-4)

V 式 b-4 の両辺に体積の微少変化量ΔV をかけて

(b-5)

これを体積Vについてその変化をV1からV2までとして積分するならば次式が得られる

VV

RTVP Δ=Δ 1V V

V

intint = 2

1

2

1

1V

V

V

VdV

VRTPdV

1V2V

11 lnRTW =

(b-6)

Q1の熱量によって起こる膨張がV1よりV2までとし圧力P温度T1の下でなされるその仕事

量をW1とするならそれは式b-6 の右辺によって示されるすなわち

(b-7)

VV

1

2lnVVRT=

V V

VV

V

V2int V2 intV1 V1

<補遺> 66

またQ2の熱量の移動が圧力P温度T2の下で起きこれによって系Aが可逆的に圧縮され

るなら体積変化はV2よりV1まで起こりその仕事量をW2で示すと次式のように表される

(b-8)

1

22

2

122 lnln

VVRT

VVRTW minus==VV

VV

Q1=W1Q2=W2の関係から式b-7 およびb-8 を用いてCarnot Cycleの効率eを表す式b-3

を書き改めると温度のみの関係式として次のように表される

1

21

TTTe minus

= (b-9)

ここでサイクルが可逆的過程であると想定するならば式 b-3 と式 b-9 から

1

21

1

21

TTT

QQQe minus

=+

= (b-10)

これから

12112111 QTQTQTQT minus=+ (b-11)

整理すると

02

2

1

1 =+TQ

TQ (b-12)

この考えをさらに発展させ系A

と系Bの間に数多くの系を挿入すること

にしてそれらの系を同様に熱源として

T1T2Tnと考えるこれによっ

て熱の受け渡しが系Aから系Bに至り

再び系Aにもどるサイクル過程に数多

くの寄り道の過程を加えることになる

熱量の移動に関して上の場合と同じく

準静的過程で行われると考えるこの

サイクル全過程について初めと終わ

<補遺> 67

n

i i

i

T

Q

1

0

0T

dQ

T

QS

T

dQASAS )()( 12

りが同じ状態になる可逆的な過程であるなら式 b-12 を拡大的に考えることになってそれ

は次式で表される

(b-13)

式 b-13 には重要な関数が現れるすなわち熱量と温度の比QT である

もし一つの系が無限小だけ温度の高い(dT )外界から温度圧力など平衡を保ちなが

ら極めて緩慢な過程(準静的過程)で無限小の熱量(dQ )を受け取るならばその変化は可

逆的でありdT について連続的な温度分布をする過程を考えるとき式 b-13 をさらに発展

させて次のように積分式で示すことが出来る

(b-14)

式 b-14 で積分記号にが付されているのはCarnot Cycle のような経路を一巡することを

意味している

Carnot の熱機関の効率という着想から生まれた熱量とそれを持つ系の温度との比 QT に

重要な意味を見出したのは Rudolph Clausius で彼はこの比にエントロピーという名前を与

えたエントロピーには記号ΔS を一般に用いる

(b-15)

エントロピーは初めと終わりの状態がわかれば過程に関わらず定まるので状態関数であ

系 A と外界のエントロピー変化を考えるときそれが可逆的過程であるならばすべてを併

せた全体のエントロピー変化は初めと終わりに変化がないという意味でゼロであるすなわ

ち初めの状態を S(A1)とし次の状態を S(A2)とするならそれぞれのエントロピーを

ΔS(A1)ΔS(A2)としてこの間におけるエントロピーの変化量は次のように示される

(b-16)

<補遺> 68

T

dQdS

0T

dQ

ある一つの変化については次のように示される

(b-17)

ここで式 b-17 の S に付けられたdは微分量すなわちごく微小の変化量を意味し式 b-15

で定義されたエントロピーに用いられる一般的な記号Δと区別する

ところで式 b-10 の関係においてもし移動した熱量のすべてが仕事に変わらなければ

効率 e を表す熱量を用いた関係式と温度で表される関係式は等号で結ぶことができないそれ

はエネルギーのロスを意味し初めと終わりの状態が異なってしまうことを意味するすなわ

ち全過程が構成する一つのサイクルは可逆的でなくなる

不可逆過程での熱効率 ersquo は 大値を示す可逆的過程の熱効率 e より小さな値をとる

ee

したがって 大効率を与える式 b-8 と式 b-3 から

01221

2112

1

21

1

21

QTQT

QTQT

Q

QQ

T

TT

両辺を T1T2で割ると

02

2

1

1 T

Q

T

Q

これを式 b12 と同様に発展させれば式 b-14 についてサイクルの変化が可逆的過程の

場合と不可逆的過程の場合の両方を併せClausius の不等式と呼ばれる次の関係が成立する

(b-18)

式 b-18 の等号が成立するのはサイクルが可逆的な理想の場合に限られる

ある孤立系で状態 A1 から状態 A2 へは不可逆変化で進められ状態 A2 から再び状態 A1

に戻るとき可逆変化であるような閉じた状態変化を考える可逆系のエントロピー変化には

記号 Q を使い不可逆変化には Q を用いるとするとそれぞれ積分式を用いて状態 A1 から

状態 A2 へは

<補遺> 69

d prime

状態 A2 から状態 A1 に戻るときは

全体では

=d prime

+d

(b-19)

Clausius の不等式から

0

式(b-19)の第二項で反応を逆に進めるときには次のように書き改めることができる

=d

よって式(b-19)は次のように書き直すことができClausius の不等式とあわせると

d prime d

0

すなわち

d prime d

上式の右辺は式(b-16)を用いて表せば

d prime

∆S ∆

この状態変化を微小変化とするならば断熱変化の場合 dQ = 0 であるから

∆S ∆ dS 0

すなわち不可逆変化を含む断熱変化ではエントロピーは必ず増大する

<補遺> 70

T

QS

BA SSS

(b-20)

(次の<補遺>ギブス自由エネルギーも参照せよ)

本文 p26 へ戻る

ギブス自由エネルギー (本文 p28 27 行目参照)

エントロピーの考えを導入することによって不可逆的に状態変化が起きるときにはエン

トロピーの増大を引き起こすことを知ったこれによって目前で起きる現象について温度の

変化があるものであれないものであれまた圧力の変化があるものであってもエントロピー

の定義式によって可逆的な変化におけるエントロピーの変化量を計算することが可能である

(b-15)

しかしながらこれから起こる変化について我々がすでにあらかじめ知っている物理量を

用いて予測的にその状態変化が起きるかどうか知ることは必ずしも容易ではないその理由

は式 b-15 に示されたエントロピーΔS が系とその外界をあわせた全体のエントロピーを示

しているからであるすなわち関心のある系を系 A としその外界を系 B とすると全体

のエントロピーは次のように表せる

(c-1)

関心のある系 A のエントロピー変化を知るためには系 B のそれを知ればよいがそれは

いつも容易とは限らない系 A の性質だけで状態変化の方向を知るには別の観点が必要にな

るようだ

そこでもう一度状態変化が熱量 Q の移動によって起きることについて考えてみようエン

トロピーの補遺で議論したように熱量の移動が準静的過程により行われるときには変化は可

逆的に起こると考えたこのとき外界すなわち系 B から移動する熱量を Q1とし系 A から

0S

<補遺> 71

21 QQ

T

Q

T

QSB

21

T

QSS A

2

QH

T

HSS AA

AA STHST

のそれを Q2 と記号を当てたのでこれをそのまま使うことにすれば可逆的な過程では系 B

の熱量 Q1 はすなわち系 A から戻る Q2 に他ならないので両者には次の関係が成立するも

のとしてよい

(c-2)

したがって

(c-3)

と考えてよくこれによって式 c-1 を次のように書きなおすことが出来る

(c-4)

独立した系で圧力とその体積に変化がなく一定の条件の下で状態変化が起きるときエン

タルピーの考えを使ってすでにひとつの関係があることを導いている

本文(31)

そこで式 c-4 を系のエンタルピーΔHAによって書き改めれば

(c-5)

この両辺に-T をかけて式を書き直せば次の関係式が得られる

(c-6)

式 c-6 を見るときその右辺がマイナスの値ならば左辺のΔS はプラスの値をとることが

分かるすなわちエントロピーが増大すると見ることが出来るこれまでの過程で自然の現

象はエントロピーが増大する方向に進むとしてきたので関心のある状態変化について式 c-6

の右辺で計算される値がマイナスの値ならばその変化は起きるものと考えてよいことになる

だろうしかも右辺はすべて独立した系の状態量で示されていて我々が知りうる値で計算

<補遺> 72

TSHG

STSTHG

STHG

可能である

そこでこれを熱力学ポテンシャルを表すものとしてギブス自由エネルギーと呼ぶことに

するギブス自由エネルギーは記号 G が用いられ次のように定義される

(c-7)

ここで関心があるのは自由エネルギーの絶対値ではなく式 c-6 に示されたようにその変化量

に興味があるので式 c-7 から

(c-8)

温度が一定の条件の下で状態変化が起きることを考えるなら式 c-8 は次のように書くこと

ができる

(c-9)

ギブス自由エネルギーは式 c-9 の右辺がすべて状態量であるからこれも状態量の一つで

ある定圧定温の条件下で起きる変化ではすでに議論したようにΔGlt0 であれば状態

変化は自発的に起きるものと予測できる

つまり式 c-5 の第一項は系のエントロピーΔSAそのものであり第二項で示されるエンタ

ルピーは系 A の温度が一定に保たれているのであるから発熱する熱量として外界に吸収さ

れるものであってこれは外界のエントロピーの増大につながるものとして解釈されるした

がって化学反応のように一定の圧力と一定の温度の下で起きる変化について自由エネルギ

ー変化量はその状態変化が自発的に起きる傾向を示しているといってよい

本文 p28 へ戻る

  • はじめに
  • 目次
  • 電気エネルギー
    • 金属のイオン化
    • 電池
    • 水素の反応
    • 燃料電池
    • 化学反応と電気エネルギー
      • エネルギーと熱力学
        • エネルギー保存則
        • エンタルピー
        • エントロピー13
        • ギブス自由エネルギー
        • 電池における化学反応のギブス自由エネルギー13
        • 理想気体の状態方程式
        • 理想溶液のギブス自由エネルギー
        • 膜電位
          • 水素イオン濃度測定
            • 化学反応の一般的な式
            • pHの定義とその目盛り
            • pH標準液
            • 銀塩化銀参照電極
            • 実用的なpH測定
            • ガラス電極
            • 電極の校正
            • 金属イオンに対応するイオン選択電極
              • 文献
              • 補遺
                • 状態関数
                • エンタルピー
                • エントロピー
                • ギブス自由エネルギー
Page 58: イオン選択電極i イオン選択電極 Ion Selective Electrode (ISE) を理解する ・ pHを測定する ・ NaやKなどのイオン濃度を測定する 神戸大学医学部保健学科

55

E1ガラス電極の内側電位

Ag(s) | AgCl(s) | HCl (01 M)

Egガラス薄膜の内外に生じる膜電位

HCl (01 M) | ガラス薄膜 || 試料溶液 H+ (x moll)

E2液間電位(膜電位)銀塩化銀標準電極のセラミックを介した試料溶液

と銀塩化銀標準電極の内部液(飽和 KCl 溶液)の間に発生する電位

試料溶液 H+ (x moll)|| セラミック | KCl(飽和)

E3銀塩化銀標準電極

KCl(飽和)| AgCl(s) | Ag(s)

pH メーター用のガラス電極に使われるガラス薄膜は水素イオンに感応して

膜電位(Eg)を生じるこれは【膜電位】の章で記したように薄膜がある

一つのイオンのみを通過させる特性を持っている場合にイオンが膜を介した

両側で平衡状態に達したとして電気化学ポテンシャルを膜の両側で等しいと

考えてそのイオンが濃厚な側から希薄な側にその差によって圧力を生じると

するものである

一方同じ試料溶液が銀塩化銀標準電極のセラミック液絡部を介して生じ

るだろう液間電位(膜電位E2)はいま関心がある水素イオンに対して特異

的に感応するのではないので試料溶液の水素イオン濃度に関係なく一定と見

なすことができる

すなわちpH メーターを構成する電池の起電力 E は

E = E1+Eg+E2+E3 (98)

このうちEg以外は一定と見なせるので

E1+E2+E3 = E

として式(98)を書き直すと

)][

][log(059170

sample

ing H

HEEEE

(99)

Eは標準液によって校正されるべき標準電極電位である

56

電極の校正

実際のイオン濃度を測定する場合低濃度標準液と高濃度標準液で得られ

る起電力を測定し計測のイオン濃度に対する係数(傾き)を求めておき未

知の試料に対して起電力を測定してそのイオン濃度を算出する方法が採られる

低濃度標準液と高濃度標準液のそれぞれの濃度をCLとCHとすればそれぞ

れの起電力ELとEHは次式で表される EH = E +β logCH (100)

EL = E +β log CL (101)

ただしβは式(99)の係数を簡略にしたものである

式(100)と(101)から検量線の傾きが次式で表せる

ΔE = EH minus EL = β(logCH minus logCL) = β logCH

CL

(102)

したがって係数βは

β =ΔE

log CH

CL

(103)

であらわされる

このときに使われる標準はすでに前出の pH 第一次標準第二次標準溶液で

ある

金属イオンに対応するイオン選択電極

現在臨床検査で日常的に使われている電解質測定のための電極はナトリウ

ムカリウムカルシウムクロールなどおよそ臨床的に必要な金属イオン

に対して入手可能である

カリウムイオン測定用のバリノマイシンの発見によってクラウンエーテルと

57

呼ばれる一連の化合物が知られたクラウンエーテルはその分子の中心に立

体的な空間を持ち特定のイオン径に対し合致するのでそのイオンに対して

選択的に感応するこれらの化合物はイオノフォアと呼ばれる

図 15クラウンエーテル

1つの金属イオンが環状化合物

15-crown-5 の中央にある空間を充填

している模式図

15-crown-5 の構造を作る10個の黒

い丸は炭素炭素2個のつながりごと

にある中心の白い丸は酸素酸素と

金属イオンの間の距離はおよそ 22~

23Åであるカリウムのファンデン

ワールス半径は 135Åイオン半径は

15~16Åである

測定したいイオンに対しポリ塩化ビニル(PVC)を支持体としてイオノフ

ォアを添加した液膜の電極膜を作成しこれをガラス電極におけるガラス薄膜

と同様試料に接する電極膜として用いるこの構造から一般的に液膜型電極

と呼ばれる電極膜には特異性を高めるため妨害イオン排除剤などが添加

される

pH メーターと同様銀塩化銀標準電極と組み合わせ電池を形成しその

起電力を計る測定したいイオンが液膜に対して内外で平衡に達したときの

膜電位を測定するのはガラス電極と同じである

カ リ ウ ム イ オ ン に は Bis[(benzo-15-crown-5) ( 正 式 名 は

Bis[(benzo-15-crown-5)-4-methyl]pimelate)ナトリウムには Bis[(12-crown-4)

やDibenzyl-bis[(12-crown-4)などがイオノフォアとして用いられる

58

図16カリウムイオン測定用に使われるクラウンエーテル

図17ナトリウムイオン測定用に使われるクラウンエーテル

59

参考イオン選択電極に関する文献Xia Z Badr IHA Plummer SL Cullen L

Bachas LG Synthesis and evaluation of a bis(crown ether) ionophore with a

conformationally constained bridge in ione- selective electrodes Anal Sci 14(2)

169-173 1998 Oh K-C Kang EC Cho YL Jeong K-S Y oo E-A Paeng K-J

Potassium-selective PVC membrane electrodes based on newly synthesized

cis- and trans-bis(crown ether)s ibid 14(10)1009-1012 1998 Dojindo WEB

site httpwwwdojindocojpwwwrootproductsjinfo2protocolp31pdf

<補遺> 60

補遺 状態関数 (本文 p21 10 行目参照)

一つの平衡状態にある系 A とこれに接する系 A にとって外部である系 B について系 B

から系 A に熱を与えこれによって系 A が他の平衡状態に移ったとき系 A はその結果とし

て膨張し系 B に対し仕事をする

このときの微少な熱量の移動を記号drsquoQ またなされた微少な仕事をdrsquoW とすると

系Aの内部エネルギーに関する微少な変化drsquoUA は両者の和として表される

WdQdUd A primeminusprime=prime (a-1)

この式 a-1 と本文中の式25との関係について

WQU A Δminus=Δ 本文(25)

<補遺> 61

式 a-1 と式25の記号の違いは変化の起きる前の平衡状態 S1 から変化後の平衡状態 S2

に状態変化があったとするなら式 a-1 を積分することで式25が得られるものと考えて区

別している

A

S

S A UUd Δ=primeint2

1 (a-2)

このことは重要であるすなわち内部エネルギーU は変化の起きる前後の状態を指定する

ことによって値が定まることを意味するこのように積分によって値を定めることが出来る

のでdrsquoU は完全微分であるという

内部エネルギーのように系の状態だけで値の定まる量を状態関数として扱う

一方式 a-1 のdrsquoQ drsquoW についても同様に微少の変化量を表しているが平衡状態 S1

から S2 への経路を指定しなければ積分の値は定まらない

本文中の記号にしたがって仕事量ΔW を次のように表すことにする

VpW Δ=Δ 本文(20) V

<補遺> 62

体積と圧力の関係を表す図を使ってこの仕事量が意味することを考える圧力 prsquo の下で

体積が V1 であるときを状態 S1 として圧力一定の下で体積を V2 まで膨張させるような変

化を行った後体積を等しく保って圧力を p にまで上げたときの状態を S2 とするこのとき

の仕事量は膨張に伴うものであるから図の体積‐圧力線の下の面積で示すことができる

平衡状態 S1 から S2 への変化の道筋を別にたどってみよう

新しい経路では圧力を先に p まで上げた後に膨張変化させている

図から直感的に明らかであるので数式での扱いを省略するが2 つの経路による仕事量には

差がある

すなわちdrsquoW は drsquoU と異なり変化の初め S1 と終わり S2 の状態が与えられても積分値

は定まらず変化の経路によって違ってくる

このように変化の経路を指定しなければ積分値が定まらないものを不完全微分と呼び扱

いを区別する

本文 p21 へ戻る

<補遺> 63

VpW

WQU

VpQU

VpUQ

1122 SSSS pVUpVUQ

pVU

VpUHHHQ SS 12

エンタルピー (本文 p24 20 行目参照)

本文中の式 20 および 25 から一定の圧力の元で起きる状態変化において内部エネルギー

の変化量に対する式 a-3 を得る

本文(20)

本文(25)

(a-3)

式 a-3 を Q について書き直す

(a-4)

状態の変化が平衡状態S1から平衡状態S2に移ったものとして式 a-4を丁寧に書き直すと

(a-5)

並び替えて

(a-6)

式 a-6 を見ると定圧過程における熱量の流入は

(a-7)

の形を持つ関数の差であることが分かる

一般に化学反応のような変化の過程では大気圧の下で行われるようなものに興味がある

そこで式 a-7 で与えられる項を一つの関数として定義するこれをエンタルピーと呼び記

号 H を与える式 a-4 はエンタルピーの変化量で次のように書き改められる

(a-8)

圧力が一定の下で起こる状態変化について流入する熱量は式 a-8 で示されるようにエンタ

ルピーの変化量に等しい

V

V

V

V V

V

V

1212 SSSS VVpUUQ VV

<補遺> 64

1Q

We

また式 a-8 からオートクレーブ内で起こるような体積変化のない過程ではこの値が内

部エネルギーの変化量で与えられることが明らかである

本文 p24 へ戻る

エントロピー (本文 p26 17 行目参照)

エントロピーは次のような思考実験から発想された仮想的な状態関数である

理想気体よりなる系 A が温度 T2で熱平衡状態にあり温度 T1の外部の熱源と接しているこ

とを想定する系 A の外部を系 B と呼ぶことにするT1は T2に対して無限小だけ高い温度と

する

系 A が系 B に対して温度圧力について平衡を保ちながら緩慢に系 B より熱量 Q1を受け取

る過程を考える(このような過程を準静的過程と呼ぶ)これによって系 A が熱量 Q1を得て膨

張するとき系 B に対して仕事をする続いて系 A から熱量 Q2が系 B に戻ることを考える

想定されるこの変化が可逆的であれば系 A と系 B を併せた全体は元の状態に戻る蒸気機

関に関するこのような研究が Nicolas Carnot によってなされたのは1824 年のことであった

ここに想定されたサイクルに対する Carnot の効率 e は移動した熱量となされた仕事によ

って定義され次の式で表される

(b-1)

<補遺> 65

理想気体では内部エネルギーU の変化ΔU はゼロと考えるしたがって熱力学の第一法

則を表す式(本文中の式25)から次の関係が示される

0=Δminus=Δ WQU

WQ Δ= (b-2)

これによってCarnot Cycleの効率eはQ2lt0 として次のように書き改めることが出来る

1

21

QQQe +

= (b-3)

ところで気体の状態方程式から1 モルの気体について次のような関係が示される

RTV

P

P1=

V = RTV (b-4)

V 式 b-4 の両辺に体積の微少変化量ΔV をかけて

(b-5)

これを体積Vについてその変化をV1からV2までとして積分するならば次式が得られる

VV

RTVP Δ=Δ 1V V

V

intint = 2

1

2

1

1V

V

V

VdV

VRTPdV

1V2V

11 lnRTW =

(b-6)

Q1の熱量によって起こる膨張がV1よりV2までとし圧力P温度T1の下でなされるその仕事

量をW1とするならそれは式b-6 の右辺によって示されるすなわち

(b-7)

VV

1

2lnVVRT=

V V

VV

V

V2int V2 intV1 V1

<補遺> 66

またQ2の熱量の移動が圧力P温度T2の下で起きこれによって系Aが可逆的に圧縮され

るなら体積変化はV2よりV1まで起こりその仕事量をW2で示すと次式のように表される

(b-8)

1

22

2

122 lnln

VVRT

VVRTW minus==VV

VV

Q1=W1Q2=W2の関係から式b-7 およびb-8 を用いてCarnot Cycleの効率eを表す式b-3

を書き改めると温度のみの関係式として次のように表される

1

21

TTTe minus

= (b-9)

ここでサイクルが可逆的過程であると想定するならば式 b-3 と式 b-9 から

1

21

1

21

TTT

QQQe minus

=+

= (b-10)

これから

12112111 QTQTQTQT minus=+ (b-11)

整理すると

02

2

1

1 =+TQ

TQ (b-12)

この考えをさらに発展させ系A

と系Bの間に数多くの系を挿入すること

にしてそれらの系を同様に熱源として

T1T2Tnと考えるこれによっ

て熱の受け渡しが系Aから系Bに至り

再び系Aにもどるサイクル過程に数多

くの寄り道の過程を加えることになる

熱量の移動に関して上の場合と同じく

準静的過程で行われると考えるこの

サイクル全過程について初めと終わ

<補遺> 67

n

i i

i

T

Q

1

0

0T

dQ

T

QS

T

dQASAS )()( 12

りが同じ状態になる可逆的な過程であるなら式 b-12 を拡大的に考えることになってそれ

は次式で表される

(b-13)

式 b-13 には重要な関数が現れるすなわち熱量と温度の比QT である

もし一つの系が無限小だけ温度の高い(dT )外界から温度圧力など平衡を保ちなが

ら極めて緩慢な過程(準静的過程)で無限小の熱量(dQ )を受け取るならばその変化は可

逆的でありdT について連続的な温度分布をする過程を考えるとき式 b-13 をさらに発展

させて次のように積分式で示すことが出来る

(b-14)

式 b-14 で積分記号にが付されているのはCarnot Cycle のような経路を一巡することを

意味している

Carnot の熱機関の効率という着想から生まれた熱量とそれを持つ系の温度との比 QT に

重要な意味を見出したのは Rudolph Clausius で彼はこの比にエントロピーという名前を与

えたエントロピーには記号ΔS を一般に用いる

(b-15)

エントロピーは初めと終わりの状態がわかれば過程に関わらず定まるので状態関数であ

系 A と外界のエントロピー変化を考えるときそれが可逆的過程であるならばすべてを併

せた全体のエントロピー変化は初めと終わりに変化がないという意味でゼロであるすなわ

ち初めの状態を S(A1)とし次の状態を S(A2)とするならそれぞれのエントロピーを

ΔS(A1)ΔS(A2)としてこの間におけるエントロピーの変化量は次のように示される

(b-16)

<補遺> 68

T

dQdS

0T

dQ

ある一つの変化については次のように示される

(b-17)

ここで式 b-17 の S に付けられたdは微分量すなわちごく微小の変化量を意味し式 b-15

で定義されたエントロピーに用いられる一般的な記号Δと区別する

ところで式 b-10 の関係においてもし移動した熱量のすべてが仕事に変わらなければ

効率 e を表す熱量を用いた関係式と温度で表される関係式は等号で結ぶことができないそれ

はエネルギーのロスを意味し初めと終わりの状態が異なってしまうことを意味するすなわ

ち全過程が構成する一つのサイクルは可逆的でなくなる

不可逆過程での熱効率 ersquo は 大値を示す可逆的過程の熱効率 e より小さな値をとる

ee

したがって 大効率を与える式 b-8 と式 b-3 から

01221

2112

1

21

1

21

QTQT

QTQT

Q

QQ

T

TT

両辺を T1T2で割ると

02

2

1

1 T

Q

T

Q

これを式 b12 と同様に発展させれば式 b-14 についてサイクルの変化が可逆的過程の

場合と不可逆的過程の場合の両方を併せClausius の不等式と呼ばれる次の関係が成立する

(b-18)

式 b-18 の等号が成立するのはサイクルが可逆的な理想の場合に限られる

ある孤立系で状態 A1 から状態 A2 へは不可逆変化で進められ状態 A2 から再び状態 A1

に戻るとき可逆変化であるような閉じた状態変化を考える可逆系のエントロピー変化には

記号 Q を使い不可逆変化には Q を用いるとするとそれぞれ積分式を用いて状態 A1 から

状態 A2 へは

<補遺> 69

d prime

状態 A2 から状態 A1 に戻るときは

全体では

=d prime

+d

(b-19)

Clausius の不等式から

0

式(b-19)の第二項で反応を逆に進めるときには次のように書き改めることができる

=d

よって式(b-19)は次のように書き直すことができClausius の不等式とあわせると

d prime d

0

すなわち

d prime d

上式の右辺は式(b-16)を用いて表せば

d prime

∆S ∆

この状態変化を微小変化とするならば断熱変化の場合 dQ = 0 であるから

∆S ∆ dS 0

すなわち不可逆変化を含む断熱変化ではエントロピーは必ず増大する

<補遺> 70

T

QS

BA SSS

(b-20)

(次の<補遺>ギブス自由エネルギーも参照せよ)

本文 p26 へ戻る

ギブス自由エネルギー (本文 p28 27 行目参照)

エントロピーの考えを導入することによって不可逆的に状態変化が起きるときにはエン

トロピーの増大を引き起こすことを知ったこれによって目前で起きる現象について温度の

変化があるものであれないものであれまた圧力の変化があるものであってもエントロピー

の定義式によって可逆的な変化におけるエントロピーの変化量を計算することが可能である

(b-15)

しかしながらこれから起こる変化について我々がすでにあらかじめ知っている物理量を

用いて予測的にその状態変化が起きるかどうか知ることは必ずしも容易ではないその理由

は式 b-15 に示されたエントロピーΔS が系とその外界をあわせた全体のエントロピーを示

しているからであるすなわち関心のある系を系 A としその外界を系 B とすると全体

のエントロピーは次のように表せる

(c-1)

関心のある系 A のエントロピー変化を知るためには系 B のそれを知ればよいがそれは

いつも容易とは限らない系 A の性質だけで状態変化の方向を知るには別の観点が必要にな

るようだ

そこでもう一度状態変化が熱量 Q の移動によって起きることについて考えてみようエン

トロピーの補遺で議論したように熱量の移動が準静的過程により行われるときには変化は可

逆的に起こると考えたこのとき外界すなわち系 B から移動する熱量を Q1とし系 A から

0S

<補遺> 71

21 QQ

T

Q

T

QSB

21

T

QSS A

2

QH

T

HSS AA

AA STHST

のそれを Q2 と記号を当てたのでこれをそのまま使うことにすれば可逆的な過程では系 B

の熱量 Q1 はすなわち系 A から戻る Q2 に他ならないので両者には次の関係が成立するも

のとしてよい

(c-2)

したがって

(c-3)

と考えてよくこれによって式 c-1 を次のように書きなおすことが出来る

(c-4)

独立した系で圧力とその体積に変化がなく一定の条件の下で状態変化が起きるときエン

タルピーの考えを使ってすでにひとつの関係があることを導いている

本文(31)

そこで式 c-4 を系のエンタルピーΔHAによって書き改めれば

(c-5)

この両辺に-T をかけて式を書き直せば次の関係式が得られる

(c-6)

式 c-6 を見るときその右辺がマイナスの値ならば左辺のΔS はプラスの値をとることが

分かるすなわちエントロピーが増大すると見ることが出来るこれまでの過程で自然の現

象はエントロピーが増大する方向に進むとしてきたので関心のある状態変化について式 c-6

の右辺で計算される値がマイナスの値ならばその変化は起きるものと考えてよいことになる

だろうしかも右辺はすべて独立した系の状態量で示されていて我々が知りうる値で計算

<補遺> 72

TSHG

STSTHG

STHG

可能である

そこでこれを熱力学ポテンシャルを表すものとしてギブス自由エネルギーと呼ぶことに

するギブス自由エネルギーは記号 G が用いられ次のように定義される

(c-7)

ここで関心があるのは自由エネルギーの絶対値ではなく式 c-6 に示されたようにその変化量

に興味があるので式 c-7 から

(c-8)

温度が一定の条件の下で状態変化が起きることを考えるなら式 c-8 は次のように書くこと

ができる

(c-9)

ギブス自由エネルギーは式 c-9 の右辺がすべて状態量であるからこれも状態量の一つで

ある定圧定温の条件下で起きる変化ではすでに議論したようにΔGlt0 であれば状態

変化は自発的に起きるものと予測できる

つまり式 c-5 の第一項は系のエントロピーΔSAそのものであり第二項で示されるエンタ

ルピーは系 A の温度が一定に保たれているのであるから発熱する熱量として外界に吸収さ

れるものであってこれは外界のエントロピーの増大につながるものとして解釈されるした

がって化学反応のように一定の圧力と一定の温度の下で起きる変化について自由エネルギ

ー変化量はその状態変化が自発的に起きる傾向を示しているといってよい

本文 p28 へ戻る

  • はじめに
  • 目次
  • 電気エネルギー
    • 金属のイオン化
    • 電池
    • 水素の反応
    • 燃料電池
    • 化学反応と電気エネルギー
      • エネルギーと熱力学
        • エネルギー保存則
        • エンタルピー
        • エントロピー13
        • ギブス自由エネルギー
        • 電池における化学反応のギブス自由エネルギー13
        • 理想気体の状態方程式
        • 理想溶液のギブス自由エネルギー
        • 膜電位
          • 水素イオン濃度測定
            • 化学反応の一般的な式
            • pHの定義とその目盛り
            • pH標準液
            • 銀塩化銀参照電極
            • 実用的なpH測定
            • ガラス電極
            • 電極の校正
            • 金属イオンに対応するイオン選択電極
              • 文献
              • 補遺
                • 状態関数
                • エンタルピー
                • エントロピー
                • ギブス自由エネルギー
Page 59: イオン選択電極i イオン選択電極 Ion Selective Electrode (ISE) を理解する ・ pHを測定する ・ NaやKなどのイオン濃度を測定する 神戸大学医学部保健学科

56

電極の校正

実際のイオン濃度を測定する場合低濃度標準液と高濃度標準液で得られ

る起電力を測定し計測のイオン濃度に対する係数(傾き)を求めておき未

知の試料に対して起電力を測定してそのイオン濃度を算出する方法が採られる

低濃度標準液と高濃度標準液のそれぞれの濃度をCLとCHとすればそれぞ

れの起電力ELとEHは次式で表される EH = E +β logCH (100)

EL = E +β log CL (101)

ただしβは式(99)の係数を簡略にしたものである

式(100)と(101)から検量線の傾きが次式で表せる

ΔE = EH minus EL = β(logCH minus logCL) = β logCH

CL

(102)

したがって係数βは

β =ΔE

log CH

CL

(103)

であらわされる

このときに使われる標準はすでに前出の pH 第一次標準第二次標準溶液で

ある

金属イオンに対応するイオン選択電極

現在臨床検査で日常的に使われている電解質測定のための電極はナトリウ

ムカリウムカルシウムクロールなどおよそ臨床的に必要な金属イオン

に対して入手可能である

カリウムイオン測定用のバリノマイシンの発見によってクラウンエーテルと

57

呼ばれる一連の化合物が知られたクラウンエーテルはその分子の中心に立

体的な空間を持ち特定のイオン径に対し合致するのでそのイオンに対して

選択的に感応するこれらの化合物はイオノフォアと呼ばれる

図 15クラウンエーテル

1つの金属イオンが環状化合物

15-crown-5 の中央にある空間を充填

している模式図

15-crown-5 の構造を作る10個の黒

い丸は炭素炭素2個のつながりごと

にある中心の白い丸は酸素酸素と

金属イオンの間の距離はおよそ 22~

23Åであるカリウムのファンデン

ワールス半径は 135Åイオン半径は

15~16Åである

測定したいイオンに対しポリ塩化ビニル(PVC)を支持体としてイオノフ

ォアを添加した液膜の電極膜を作成しこれをガラス電極におけるガラス薄膜

と同様試料に接する電極膜として用いるこの構造から一般的に液膜型電極

と呼ばれる電極膜には特異性を高めるため妨害イオン排除剤などが添加

される

pH メーターと同様銀塩化銀標準電極と組み合わせ電池を形成しその

起電力を計る測定したいイオンが液膜に対して内外で平衡に達したときの

膜電位を測定するのはガラス電極と同じである

カ リ ウ ム イ オ ン に は Bis[(benzo-15-crown-5) ( 正 式 名 は

Bis[(benzo-15-crown-5)-4-methyl]pimelate)ナトリウムには Bis[(12-crown-4)

やDibenzyl-bis[(12-crown-4)などがイオノフォアとして用いられる

58

図16カリウムイオン測定用に使われるクラウンエーテル

図17ナトリウムイオン測定用に使われるクラウンエーテル

59

参考イオン選択電極に関する文献Xia Z Badr IHA Plummer SL Cullen L

Bachas LG Synthesis and evaluation of a bis(crown ether) ionophore with a

conformationally constained bridge in ione- selective electrodes Anal Sci 14(2)

169-173 1998 Oh K-C Kang EC Cho YL Jeong K-S Y oo E-A Paeng K-J

Potassium-selective PVC membrane electrodes based on newly synthesized

cis- and trans-bis(crown ether)s ibid 14(10)1009-1012 1998 Dojindo WEB

site httpwwwdojindocojpwwwrootproductsjinfo2protocolp31pdf

<補遺> 60

補遺 状態関数 (本文 p21 10 行目参照)

一つの平衡状態にある系 A とこれに接する系 A にとって外部である系 B について系 B

から系 A に熱を与えこれによって系 A が他の平衡状態に移ったとき系 A はその結果とし

て膨張し系 B に対し仕事をする

このときの微少な熱量の移動を記号drsquoQ またなされた微少な仕事をdrsquoW とすると

系Aの内部エネルギーに関する微少な変化drsquoUA は両者の和として表される

WdQdUd A primeminusprime=prime (a-1)

この式 a-1 と本文中の式25との関係について

WQU A Δminus=Δ 本文(25)

<補遺> 61

式 a-1 と式25の記号の違いは変化の起きる前の平衡状態 S1 から変化後の平衡状態 S2

に状態変化があったとするなら式 a-1 を積分することで式25が得られるものと考えて区

別している

A

S

S A UUd Δ=primeint2

1 (a-2)

このことは重要であるすなわち内部エネルギーU は変化の起きる前後の状態を指定する

ことによって値が定まることを意味するこのように積分によって値を定めることが出来る

のでdrsquoU は完全微分であるという

内部エネルギーのように系の状態だけで値の定まる量を状態関数として扱う

一方式 a-1 のdrsquoQ drsquoW についても同様に微少の変化量を表しているが平衡状態 S1

から S2 への経路を指定しなければ積分の値は定まらない

本文中の記号にしたがって仕事量ΔW を次のように表すことにする

VpW Δ=Δ 本文(20) V

<補遺> 62

体積と圧力の関係を表す図を使ってこの仕事量が意味することを考える圧力 prsquo の下で

体積が V1 であるときを状態 S1 として圧力一定の下で体積を V2 まで膨張させるような変

化を行った後体積を等しく保って圧力を p にまで上げたときの状態を S2 とするこのとき

の仕事量は膨張に伴うものであるから図の体積‐圧力線の下の面積で示すことができる

平衡状態 S1 から S2 への変化の道筋を別にたどってみよう

新しい経路では圧力を先に p まで上げた後に膨張変化させている

図から直感的に明らかであるので数式での扱いを省略するが2 つの経路による仕事量には

差がある

すなわちdrsquoW は drsquoU と異なり変化の初め S1 と終わり S2 の状態が与えられても積分値

は定まらず変化の経路によって違ってくる

このように変化の経路を指定しなければ積分値が定まらないものを不完全微分と呼び扱

いを区別する

本文 p21 へ戻る

<補遺> 63

VpW

WQU

VpQU

VpUQ

1122 SSSS pVUpVUQ

pVU

VpUHHHQ SS 12

エンタルピー (本文 p24 20 行目参照)

本文中の式 20 および 25 から一定の圧力の元で起きる状態変化において内部エネルギー

の変化量に対する式 a-3 を得る

本文(20)

本文(25)

(a-3)

式 a-3 を Q について書き直す

(a-4)

状態の変化が平衡状態S1から平衡状態S2に移ったものとして式 a-4を丁寧に書き直すと

(a-5)

並び替えて

(a-6)

式 a-6 を見ると定圧過程における熱量の流入は

(a-7)

の形を持つ関数の差であることが分かる

一般に化学反応のような変化の過程では大気圧の下で行われるようなものに興味がある

そこで式 a-7 で与えられる項を一つの関数として定義するこれをエンタルピーと呼び記

号 H を与える式 a-4 はエンタルピーの変化量で次のように書き改められる

(a-8)

圧力が一定の下で起こる状態変化について流入する熱量は式 a-8 で示されるようにエンタ

ルピーの変化量に等しい

V

V

V

V V

V

V

1212 SSSS VVpUUQ VV

<補遺> 64

1Q

We

また式 a-8 からオートクレーブ内で起こるような体積変化のない過程ではこの値が内

部エネルギーの変化量で与えられることが明らかである

本文 p24 へ戻る

エントロピー (本文 p26 17 行目参照)

エントロピーは次のような思考実験から発想された仮想的な状態関数である

理想気体よりなる系 A が温度 T2で熱平衡状態にあり温度 T1の外部の熱源と接しているこ

とを想定する系 A の外部を系 B と呼ぶことにするT1は T2に対して無限小だけ高い温度と

する

系 A が系 B に対して温度圧力について平衡を保ちながら緩慢に系 B より熱量 Q1を受け取

る過程を考える(このような過程を準静的過程と呼ぶ)これによって系 A が熱量 Q1を得て膨

張するとき系 B に対して仕事をする続いて系 A から熱量 Q2が系 B に戻ることを考える

想定されるこの変化が可逆的であれば系 A と系 B を併せた全体は元の状態に戻る蒸気機

関に関するこのような研究が Nicolas Carnot によってなされたのは1824 年のことであった

ここに想定されたサイクルに対する Carnot の効率 e は移動した熱量となされた仕事によ

って定義され次の式で表される

(b-1)

<補遺> 65

理想気体では内部エネルギーU の変化ΔU はゼロと考えるしたがって熱力学の第一法

則を表す式(本文中の式25)から次の関係が示される

0=Δminus=Δ WQU

WQ Δ= (b-2)

これによってCarnot Cycleの効率eはQ2lt0 として次のように書き改めることが出来る

1

21

QQQe +

= (b-3)

ところで気体の状態方程式から1 モルの気体について次のような関係が示される

RTV

P

P1=

V = RTV (b-4)

V 式 b-4 の両辺に体積の微少変化量ΔV をかけて

(b-5)

これを体積Vについてその変化をV1からV2までとして積分するならば次式が得られる

VV

RTVP Δ=Δ 1V V

V

intint = 2

1

2

1

1V

V

V

VdV

VRTPdV

1V2V

11 lnRTW =

(b-6)

Q1の熱量によって起こる膨張がV1よりV2までとし圧力P温度T1の下でなされるその仕事

量をW1とするならそれは式b-6 の右辺によって示されるすなわち

(b-7)

VV

1

2lnVVRT=

V V

VV

V

V2int V2 intV1 V1

<補遺> 66

またQ2の熱量の移動が圧力P温度T2の下で起きこれによって系Aが可逆的に圧縮され

るなら体積変化はV2よりV1まで起こりその仕事量をW2で示すと次式のように表される

(b-8)

1

22

2

122 lnln

VVRT

VVRTW minus==VV

VV

Q1=W1Q2=W2の関係から式b-7 およびb-8 を用いてCarnot Cycleの効率eを表す式b-3

を書き改めると温度のみの関係式として次のように表される

1

21

TTTe minus

= (b-9)

ここでサイクルが可逆的過程であると想定するならば式 b-3 と式 b-9 から

1

21

1

21

TTT

QQQe minus

=+

= (b-10)

これから

12112111 QTQTQTQT minus=+ (b-11)

整理すると

02

2

1

1 =+TQ

TQ (b-12)

この考えをさらに発展させ系A

と系Bの間に数多くの系を挿入すること

にしてそれらの系を同様に熱源として

T1T2Tnと考えるこれによっ

て熱の受け渡しが系Aから系Bに至り

再び系Aにもどるサイクル過程に数多

くの寄り道の過程を加えることになる

熱量の移動に関して上の場合と同じく

準静的過程で行われると考えるこの

サイクル全過程について初めと終わ

<補遺> 67

n

i i

i

T

Q

1

0

0T

dQ

T

QS

T

dQASAS )()( 12

りが同じ状態になる可逆的な過程であるなら式 b-12 を拡大的に考えることになってそれ

は次式で表される

(b-13)

式 b-13 には重要な関数が現れるすなわち熱量と温度の比QT である

もし一つの系が無限小だけ温度の高い(dT )外界から温度圧力など平衡を保ちなが

ら極めて緩慢な過程(準静的過程)で無限小の熱量(dQ )を受け取るならばその変化は可

逆的でありdT について連続的な温度分布をする過程を考えるとき式 b-13 をさらに発展

させて次のように積分式で示すことが出来る

(b-14)

式 b-14 で積分記号にが付されているのはCarnot Cycle のような経路を一巡することを

意味している

Carnot の熱機関の効率という着想から生まれた熱量とそれを持つ系の温度との比 QT に

重要な意味を見出したのは Rudolph Clausius で彼はこの比にエントロピーという名前を与

えたエントロピーには記号ΔS を一般に用いる

(b-15)

エントロピーは初めと終わりの状態がわかれば過程に関わらず定まるので状態関数であ

系 A と外界のエントロピー変化を考えるときそれが可逆的過程であるならばすべてを併

せた全体のエントロピー変化は初めと終わりに変化がないという意味でゼロであるすなわ

ち初めの状態を S(A1)とし次の状態を S(A2)とするならそれぞれのエントロピーを

ΔS(A1)ΔS(A2)としてこの間におけるエントロピーの変化量は次のように示される

(b-16)

<補遺> 68

T

dQdS

0T

dQ

ある一つの変化については次のように示される

(b-17)

ここで式 b-17 の S に付けられたdは微分量すなわちごく微小の変化量を意味し式 b-15

で定義されたエントロピーに用いられる一般的な記号Δと区別する

ところで式 b-10 の関係においてもし移動した熱量のすべてが仕事に変わらなければ

効率 e を表す熱量を用いた関係式と温度で表される関係式は等号で結ぶことができないそれ

はエネルギーのロスを意味し初めと終わりの状態が異なってしまうことを意味するすなわ

ち全過程が構成する一つのサイクルは可逆的でなくなる

不可逆過程での熱効率 ersquo は 大値を示す可逆的過程の熱効率 e より小さな値をとる

ee

したがって 大効率を与える式 b-8 と式 b-3 から

01221

2112

1

21

1

21

QTQT

QTQT

Q

QQ

T

TT

両辺を T1T2で割ると

02

2

1

1 T

Q

T

Q

これを式 b12 と同様に発展させれば式 b-14 についてサイクルの変化が可逆的過程の

場合と不可逆的過程の場合の両方を併せClausius の不等式と呼ばれる次の関係が成立する

(b-18)

式 b-18 の等号が成立するのはサイクルが可逆的な理想の場合に限られる

ある孤立系で状態 A1 から状態 A2 へは不可逆変化で進められ状態 A2 から再び状態 A1

に戻るとき可逆変化であるような閉じた状態変化を考える可逆系のエントロピー変化には

記号 Q を使い不可逆変化には Q を用いるとするとそれぞれ積分式を用いて状態 A1 から

状態 A2 へは

<補遺> 69

d prime

状態 A2 から状態 A1 に戻るときは

全体では

=d prime

+d

(b-19)

Clausius の不等式から

0

式(b-19)の第二項で反応を逆に進めるときには次のように書き改めることができる

=d

よって式(b-19)は次のように書き直すことができClausius の不等式とあわせると

d prime d

0

すなわち

d prime d

上式の右辺は式(b-16)を用いて表せば

d prime

∆S ∆

この状態変化を微小変化とするならば断熱変化の場合 dQ = 0 であるから

∆S ∆ dS 0

すなわち不可逆変化を含む断熱変化ではエントロピーは必ず増大する

<補遺> 70

T

QS

BA SSS

(b-20)

(次の<補遺>ギブス自由エネルギーも参照せよ)

本文 p26 へ戻る

ギブス自由エネルギー (本文 p28 27 行目参照)

エントロピーの考えを導入することによって不可逆的に状態変化が起きるときにはエン

トロピーの増大を引き起こすことを知ったこれによって目前で起きる現象について温度の

変化があるものであれないものであれまた圧力の変化があるものであってもエントロピー

の定義式によって可逆的な変化におけるエントロピーの変化量を計算することが可能である

(b-15)

しかしながらこれから起こる変化について我々がすでにあらかじめ知っている物理量を

用いて予測的にその状態変化が起きるかどうか知ることは必ずしも容易ではないその理由

は式 b-15 に示されたエントロピーΔS が系とその外界をあわせた全体のエントロピーを示

しているからであるすなわち関心のある系を系 A としその外界を系 B とすると全体

のエントロピーは次のように表せる

(c-1)

関心のある系 A のエントロピー変化を知るためには系 B のそれを知ればよいがそれは

いつも容易とは限らない系 A の性質だけで状態変化の方向を知るには別の観点が必要にな

るようだ

そこでもう一度状態変化が熱量 Q の移動によって起きることについて考えてみようエン

トロピーの補遺で議論したように熱量の移動が準静的過程により行われるときには変化は可

逆的に起こると考えたこのとき外界すなわち系 B から移動する熱量を Q1とし系 A から

0S

<補遺> 71

21 QQ

T

Q

T

QSB

21

T

QSS A

2

QH

T

HSS AA

AA STHST

のそれを Q2 と記号を当てたのでこれをそのまま使うことにすれば可逆的な過程では系 B

の熱量 Q1 はすなわち系 A から戻る Q2 に他ならないので両者には次の関係が成立するも

のとしてよい

(c-2)

したがって

(c-3)

と考えてよくこれによって式 c-1 を次のように書きなおすことが出来る

(c-4)

独立した系で圧力とその体積に変化がなく一定の条件の下で状態変化が起きるときエン

タルピーの考えを使ってすでにひとつの関係があることを導いている

本文(31)

そこで式 c-4 を系のエンタルピーΔHAによって書き改めれば

(c-5)

この両辺に-T をかけて式を書き直せば次の関係式が得られる

(c-6)

式 c-6 を見るときその右辺がマイナスの値ならば左辺のΔS はプラスの値をとることが

分かるすなわちエントロピーが増大すると見ることが出来るこれまでの過程で自然の現

象はエントロピーが増大する方向に進むとしてきたので関心のある状態変化について式 c-6

の右辺で計算される値がマイナスの値ならばその変化は起きるものと考えてよいことになる

だろうしかも右辺はすべて独立した系の状態量で示されていて我々が知りうる値で計算

<補遺> 72

TSHG

STSTHG

STHG

可能である

そこでこれを熱力学ポテンシャルを表すものとしてギブス自由エネルギーと呼ぶことに

するギブス自由エネルギーは記号 G が用いられ次のように定義される

(c-7)

ここで関心があるのは自由エネルギーの絶対値ではなく式 c-6 に示されたようにその変化量

に興味があるので式 c-7 から

(c-8)

温度が一定の条件の下で状態変化が起きることを考えるなら式 c-8 は次のように書くこと

ができる

(c-9)

ギブス自由エネルギーは式 c-9 の右辺がすべて状態量であるからこれも状態量の一つで

ある定圧定温の条件下で起きる変化ではすでに議論したようにΔGlt0 であれば状態

変化は自発的に起きるものと予測できる

つまり式 c-5 の第一項は系のエントロピーΔSAそのものであり第二項で示されるエンタ

ルピーは系 A の温度が一定に保たれているのであるから発熱する熱量として外界に吸収さ

れるものであってこれは外界のエントロピーの増大につながるものとして解釈されるした

がって化学反応のように一定の圧力と一定の温度の下で起きる変化について自由エネルギ

ー変化量はその状態変化が自発的に起きる傾向を示しているといってよい

本文 p28 へ戻る

  • はじめに
  • 目次
  • 電気エネルギー
    • 金属のイオン化
    • 電池
    • 水素の反応
    • 燃料電池
    • 化学反応と電気エネルギー
      • エネルギーと熱力学
        • エネルギー保存則
        • エンタルピー
        • エントロピー13
        • ギブス自由エネルギー
        • 電池における化学反応のギブス自由エネルギー13
        • 理想気体の状態方程式
        • 理想溶液のギブス自由エネルギー
        • 膜電位
          • 水素イオン濃度測定
            • 化学反応の一般的な式
            • pHの定義とその目盛り
            • pH標準液
            • 銀塩化銀参照電極
            • 実用的なpH測定
            • ガラス電極
            • 電極の校正
            • 金属イオンに対応するイオン選択電極
              • 文献
              • 補遺
                • 状態関数
                • エンタルピー
                • エントロピー
                • ギブス自由エネルギー
Page 60: イオン選択電極i イオン選択電極 Ion Selective Electrode (ISE) を理解する ・ pHを測定する ・ NaやKなどのイオン濃度を測定する 神戸大学医学部保健学科

57

呼ばれる一連の化合物が知られたクラウンエーテルはその分子の中心に立

体的な空間を持ち特定のイオン径に対し合致するのでそのイオンに対して

選択的に感応するこれらの化合物はイオノフォアと呼ばれる

図 15クラウンエーテル

1つの金属イオンが環状化合物

15-crown-5 の中央にある空間を充填

している模式図

15-crown-5 の構造を作る10個の黒

い丸は炭素炭素2個のつながりごと

にある中心の白い丸は酸素酸素と

金属イオンの間の距離はおよそ 22~

23Åであるカリウムのファンデン

ワールス半径は 135Åイオン半径は

15~16Åである

測定したいイオンに対しポリ塩化ビニル(PVC)を支持体としてイオノフ

ォアを添加した液膜の電極膜を作成しこれをガラス電極におけるガラス薄膜

と同様試料に接する電極膜として用いるこの構造から一般的に液膜型電極

と呼ばれる電極膜には特異性を高めるため妨害イオン排除剤などが添加

される

pH メーターと同様銀塩化銀標準電極と組み合わせ電池を形成しその

起電力を計る測定したいイオンが液膜に対して内外で平衡に達したときの

膜電位を測定するのはガラス電極と同じである

カ リ ウ ム イ オ ン に は Bis[(benzo-15-crown-5) ( 正 式 名 は

Bis[(benzo-15-crown-5)-4-methyl]pimelate)ナトリウムには Bis[(12-crown-4)

やDibenzyl-bis[(12-crown-4)などがイオノフォアとして用いられる

58

図16カリウムイオン測定用に使われるクラウンエーテル

図17ナトリウムイオン測定用に使われるクラウンエーテル

59

参考イオン選択電極に関する文献Xia Z Badr IHA Plummer SL Cullen L

Bachas LG Synthesis and evaluation of a bis(crown ether) ionophore with a

conformationally constained bridge in ione- selective electrodes Anal Sci 14(2)

169-173 1998 Oh K-C Kang EC Cho YL Jeong K-S Y oo E-A Paeng K-J

Potassium-selective PVC membrane electrodes based on newly synthesized

cis- and trans-bis(crown ether)s ibid 14(10)1009-1012 1998 Dojindo WEB

site httpwwwdojindocojpwwwrootproductsjinfo2protocolp31pdf

<補遺> 60

補遺 状態関数 (本文 p21 10 行目参照)

一つの平衡状態にある系 A とこれに接する系 A にとって外部である系 B について系 B

から系 A に熱を与えこれによって系 A が他の平衡状態に移ったとき系 A はその結果とし

て膨張し系 B に対し仕事をする

このときの微少な熱量の移動を記号drsquoQ またなされた微少な仕事をdrsquoW とすると

系Aの内部エネルギーに関する微少な変化drsquoUA は両者の和として表される

WdQdUd A primeminusprime=prime (a-1)

この式 a-1 と本文中の式25との関係について

WQU A Δminus=Δ 本文(25)

<補遺> 61

式 a-1 と式25の記号の違いは変化の起きる前の平衡状態 S1 から変化後の平衡状態 S2

に状態変化があったとするなら式 a-1 を積分することで式25が得られるものと考えて区

別している

A

S

S A UUd Δ=primeint2

1 (a-2)

このことは重要であるすなわち内部エネルギーU は変化の起きる前後の状態を指定する

ことによって値が定まることを意味するこのように積分によって値を定めることが出来る

のでdrsquoU は完全微分であるという

内部エネルギーのように系の状態だけで値の定まる量を状態関数として扱う

一方式 a-1 のdrsquoQ drsquoW についても同様に微少の変化量を表しているが平衡状態 S1

から S2 への経路を指定しなければ積分の値は定まらない

本文中の記号にしたがって仕事量ΔW を次のように表すことにする

VpW Δ=Δ 本文(20) V

<補遺> 62

体積と圧力の関係を表す図を使ってこの仕事量が意味することを考える圧力 prsquo の下で

体積が V1 であるときを状態 S1 として圧力一定の下で体積を V2 まで膨張させるような変

化を行った後体積を等しく保って圧力を p にまで上げたときの状態を S2 とするこのとき

の仕事量は膨張に伴うものであるから図の体積‐圧力線の下の面積で示すことができる

平衡状態 S1 から S2 への変化の道筋を別にたどってみよう

新しい経路では圧力を先に p まで上げた後に膨張変化させている

図から直感的に明らかであるので数式での扱いを省略するが2 つの経路による仕事量には

差がある

すなわちdrsquoW は drsquoU と異なり変化の初め S1 と終わり S2 の状態が与えられても積分値

は定まらず変化の経路によって違ってくる

このように変化の経路を指定しなければ積分値が定まらないものを不完全微分と呼び扱

いを区別する

本文 p21 へ戻る

<補遺> 63

VpW

WQU

VpQU

VpUQ

1122 SSSS pVUpVUQ

pVU

VpUHHHQ SS 12

エンタルピー (本文 p24 20 行目参照)

本文中の式 20 および 25 から一定の圧力の元で起きる状態変化において内部エネルギー

の変化量に対する式 a-3 を得る

本文(20)

本文(25)

(a-3)

式 a-3 を Q について書き直す

(a-4)

状態の変化が平衡状態S1から平衡状態S2に移ったものとして式 a-4を丁寧に書き直すと

(a-5)

並び替えて

(a-6)

式 a-6 を見ると定圧過程における熱量の流入は

(a-7)

の形を持つ関数の差であることが分かる

一般に化学反応のような変化の過程では大気圧の下で行われるようなものに興味がある

そこで式 a-7 で与えられる項を一つの関数として定義するこれをエンタルピーと呼び記

号 H を与える式 a-4 はエンタルピーの変化量で次のように書き改められる

(a-8)

圧力が一定の下で起こる状態変化について流入する熱量は式 a-8 で示されるようにエンタ

ルピーの変化量に等しい

V

V

V

V V

V

V

1212 SSSS VVpUUQ VV

<補遺> 64

1Q

We

また式 a-8 からオートクレーブ内で起こるような体積変化のない過程ではこの値が内

部エネルギーの変化量で与えられることが明らかである

本文 p24 へ戻る

エントロピー (本文 p26 17 行目参照)

エントロピーは次のような思考実験から発想された仮想的な状態関数である

理想気体よりなる系 A が温度 T2で熱平衡状態にあり温度 T1の外部の熱源と接しているこ

とを想定する系 A の外部を系 B と呼ぶことにするT1は T2に対して無限小だけ高い温度と

する

系 A が系 B に対して温度圧力について平衡を保ちながら緩慢に系 B より熱量 Q1を受け取

る過程を考える(このような過程を準静的過程と呼ぶ)これによって系 A が熱量 Q1を得て膨

張するとき系 B に対して仕事をする続いて系 A から熱量 Q2が系 B に戻ることを考える

想定されるこの変化が可逆的であれば系 A と系 B を併せた全体は元の状態に戻る蒸気機

関に関するこのような研究が Nicolas Carnot によってなされたのは1824 年のことであった

ここに想定されたサイクルに対する Carnot の効率 e は移動した熱量となされた仕事によ

って定義され次の式で表される

(b-1)

<補遺> 65

理想気体では内部エネルギーU の変化ΔU はゼロと考えるしたがって熱力学の第一法

則を表す式(本文中の式25)から次の関係が示される

0=Δminus=Δ WQU

WQ Δ= (b-2)

これによってCarnot Cycleの効率eはQ2lt0 として次のように書き改めることが出来る

1

21

QQQe +

= (b-3)

ところで気体の状態方程式から1 モルの気体について次のような関係が示される

RTV

P

P1=

V = RTV (b-4)

V 式 b-4 の両辺に体積の微少変化量ΔV をかけて

(b-5)

これを体積Vについてその変化をV1からV2までとして積分するならば次式が得られる

VV

RTVP Δ=Δ 1V V

V

intint = 2

1

2

1

1V

V

V

VdV

VRTPdV

1V2V

11 lnRTW =

(b-6)

Q1の熱量によって起こる膨張がV1よりV2までとし圧力P温度T1の下でなされるその仕事

量をW1とするならそれは式b-6 の右辺によって示されるすなわち

(b-7)

VV

1

2lnVVRT=

V V

VV

V

V2int V2 intV1 V1

<補遺> 66

またQ2の熱量の移動が圧力P温度T2の下で起きこれによって系Aが可逆的に圧縮され

るなら体積変化はV2よりV1まで起こりその仕事量をW2で示すと次式のように表される

(b-8)

1

22

2

122 lnln

VVRT

VVRTW minus==VV

VV

Q1=W1Q2=W2の関係から式b-7 およびb-8 を用いてCarnot Cycleの効率eを表す式b-3

を書き改めると温度のみの関係式として次のように表される

1

21

TTTe minus

= (b-9)

ここでサイクルが可逆的過程であると想定するならば式 b-3 と式 b-9 から

1

21

1

21

TTT

QQQe minus

=+

= (b-10)

これから

12112111 QTQTQTQT minus=+ (b-11)

整理すると

02

2

1

1 =+TQ

TQ (b-12)

この考えをさらに発展させ系A

と系Bの間に数多くの系を挿入すること

にしてそれらの系を同様に熱源として

T1T2Tnと考えるこれによっ

て熱の受け渡しが系Aから系Bに至り

再び系Aにもどるサイクル過程に数多

くの寄り道の過程を加えることになる

熱量の移動に関して上の場合と同じく

準静的過程で行われると考えるこの

サイクル全過程について初めと終わ

<補遺> 67

n

i i

i

T

Q

1

0

0T

dQ

T

QS

T

dQASAS )()( 12

りが同じ状態になる可逆的な過程であるなら式 b-12 を拡大的に考えることになってそれ

は次式で表される

(b-13)

式 b-13 には重要な関数が現れるすなわち熱量と温度の比QT である

もし一つの系が無限小だけ温度の高い(dT )外界から温度圧力など平衡を保ちなが

ら極めて緩慢な過程(準静的過程)で無限小の熱量(dQ )を受け取るならばその変化は可

逆的でありdT について連続的な温度分布をする過程を考えるとき式 b-13 をさらに発展

させて次のように積分式で示すことが出来る

(b-14)

式 b-14 で積分記号にが付されているのはCarnot Cycle のような経路を一巡することを

意味している

Carnot の熱機関の効率という着想から生まれた熱量とそれを持つ系の温度との比 QT に

重要な意味を見出したのは Rudolph Clausius で彼はこの比にエントロピーという名前を与

えたエントロピーには記号ΔS を一般に用いる

(b-15)

エントロピーは初めと終わりの状態がわかれば過程に関わらず定まるので状態関数であ

系 A と外界のエントロピー変化を考えるときそれが可逆的過程であるならばすべてを併

せた全体のエントロピー変化は初めと終わりに変化がないという意味でゼロであるすなわ

ち初めの状態を S(A1)とし次の状態を S(A2)とするならそれぞれのエントロピーを

ΔS(A1)ΔS(A2)としてこの間におけるエントロピーの変化量は次のように示される

(b-16)

<補遺> 68

T

dQdS

0T

dQ

ある一つの変化については次のように示される

(b-17)

ここで式 b-17 の S に付けられたdは微分量すなわちごく微小の変化量を意味し式 b-15

で定義されたエントロピーに用いられる一般的な記号Δと区別する

ところで式 b-10 の関係においてもし移動した熱量のすべてが仕事に変わらなければ

効率 e を表す熱量を用いた関係式と温度で表される関係式は等号で結ぶことができないそれ

はエネルギーのロスを意味し初めと終わりの状態が異なってしまうことを意味するすなわ

ち全過程が構成する一つのサイクルは可逆的でなくなる

不可逆過程での熱効率 ersquo は 大値を示す可逆的過程の熱効率 e より小さな値をとる

ee

したがって 大効率を与える式 b-8 と式 b-3 から

01221

2112

1

21

1

21

QTQT

QTQT

Q

QQ

T

TT

両辺を T1T2で割ると

02

2

1

1 T

Q

T

Q

これを式 b12 と同様に発展させれば式 b-14 についてサイクルの変化が可逆的過程の

場合と不可逆的過程の場合の両方を併せClausius の不等式と呼ばれる次の関係が成立する

(b-18)

式 b-18 の等号が成立するのはサイクルが可逆的な理想の場合に限られる

ある孤立系で状態 A1 から状態 A2 へは不可逆変化で進められ状態 A2 から再び状態 A1

に戻るとき可逆変化であるような閉じた状態変化を考える可逆系のエントロピー変化には

記号 Q を使い不可逆変化には Q を用いるとするとそれぞれ積分式を用いて状態 A1 から

状態 A2 へは

<補遺> 69

d prime

状態 A2 から状態 A1 に戻るときは

全体では

=d prime

+d

(b-19)

Clausius の不等式から

0

式(b-19)の第二項で反応を逆に進めるときには次のように書き改めることができる

=d

よって式(b-19)は次のように書き直すことができClausius の不等式とあわせると

d prime d

0

すなわち

d prime d

上式の右辺は式(b-16)を用いて表せば

d prime

∆S ∆

この状態変化を微小変化とするならば断熱変化の場合 dQ = 0 であるから

∆S ∆ dS 0

すなわち不可逆変化を含む断熱変化ではエントロピーは必ず増大する

<補遺> 70

T

QS

BA SSS

(b-20)

(次の<補遺>ギブス自由エネルギーも参照せよ)

本文 p26 へ戻る

ギブス自由エネルギー (本文 p28 27 行目参照)

エントロピーの考えを導入することによって不可逆的に状態変化が起きるときにはエン

トロピーの増大を引き起こすことを知ったこれによって目前で起きる現象について温度の

変化があるものであれないものであれまた圧力の変化があるものであってもエントロピー

の定義式によって可逆的な変化におけるエントロピーの変化量を計算することが可能である

(b-15)

しかしながらこれから起こる変化について我々がすでにあらかじめ知っている物理量を

用いて予測的にその状態変化が起きるかどうか知ることは必ずしも容易ではないその理由

は式 b-15 に示されたエントロピーΔS が系とその外界をあわせた全体のエントロピーを示

しているからであるすなわち関心のある系を系 A としその外界を系 B とすると全体

のエントロピーは次のように表せる

(c-1)

関心のある系 A のエントロピー変化を知るためには系 B のそれを知ればよいがそれは

いつも容易とは限らない系 A の性質だけで状態変化の方向を知るには別の観点が必要にな

るようだ

そこでもう一度状態変化が熱量 Q の移動によって起きることについて考えてみようエン

トロピーの補遺で議論したように熱量の移動が準静的過程により行われるときには変化は可

逆的に起こると考えたこのとき外界すなわち系 B から移動する熱量を Q1とし系 A から

0S

<補遺> 71

21 QQ

T

Q

T

QSB

21

T

QSS A

2

QH

T

HSS AA

AA STHST

のそれを Q2 と記号を当てたのでこれをそのまま使うことにすれば可逆的な過程では系 B

の熱量 Q1 はすなわち系 A から戻る Q2 に他ならないので両者には次の関係が成立するも

のとしてよい

(c-2)

したがって

(c-3)

と考えてよくこれによって式 c-1 を次のように書きなおすことが出来る

(c-4)

独立した系で圧力とその体積に変化がなく一定の条件の下で状態変化が起きるときエン

タルピーの考えを使ってすでにひとつの関係があることを導いている

本文(31)

そこで式 c-4 を系のエンタルピーΔHAによって書き改めれば

(c-5)

この両辺に-T をかけて式を書き直せば次の関係式が得られる

(c-6)

式 c-6 を見るときその右辺がマイナスの値ならば左辺のΔS はプラスの値をとることが

分かるすなわちエントロピーが増大すると見ることが出来るこれまでの過程で自然の現

象はエントロピーが増大する方向に進むとしてきたので関心のある状態変化について式 c-6

の右辺で計算される値がマイナスの値ならばその変化は起きるものと考えてよいことになる

だろうしかも右辺はすべて独立した系の状態量で示されていて我々が知りうる値で計算

<補遺> 72

TSHG

STSTHG

STHG

可能である

そこでこれを熱力学ポテンシャルを表すものとしてギブス自由エネルギーと呼ぶことに

するギブス自由エネルギーは記号 G が用いられ次のように定義される

(c-7)

ここで関心があるのは自由エネルギーの絶対値ではなく式 c-6 に示されたようにその変化量

に興味があるので式 c-7 から

(c-8)

温度が一定の条件の下で状態変化が起きることを考えるなら式 c-8 は次のように書くこと

ができる

(c-9)

ギブス自由エネルギーは式 c-9 の右辺がすべて状態量であるからこれも状態量の一つで

ある定圧定温の条件下で起きる変化ではすでに議論したようにΔGlt0 であれば状態

変化は自発的に起きるものと予測できる

つまり式 c-5 の第一項は系のエントロピーΔSAそのものであり第二項で示されるエンタ

ルピーは系 A の温度が一定に保たれているのであるから発熱する熱量として外界に吸収さ

れるものであってこれは外界のエントロピーの増大につながるものとして解釈されるした

がって化学反応のように一定の圧力と一定の温度の下で起きる変化について自由エネルギ

ー変化量はその状態変化が自発的に起きる傾向を示しているといってよい

本文 p28 へ戻る

  • はじめに
  • 目次
  • 電気エネルギー
    • 金属のイオン化
    • 電池
    • 水素の反応
    • 燃料電池
    • 化学反応と電気エネルギー
      • エネルギーと熱力学
        • エネルギー保存則
        • エンタルピー
        • エントロピー13
        • ギブス自由エネルギー
        • 電池における化学反応のギブス自由エネルギー13
        • 理想気体の状態方程式
        • 理想溶液のギブス自由エネルギー
        • 膜電位
          • 水素イオン濃度測定
            • 化学反応の一般的な式
            • pHの定義とその目盛り
            • pH標準液
            • 銀塩化銀参照電極
            • 実用的なpH測定
            • ガラス電極
            • 電極の校正
            • 金属イオンに対応するイオン選択電極
              • 文献
              • 補遺
                • 状態関数
                • エンタルピー
                • エントロピー
                • ギブス自由エネルギー
Page 61: イオン選択電極i イオン選択電極 Ion Selective Electrode (ISE) を理解する ・ pHを測定する ・ NaやKなどのイオン濃度を測定する 神戸大学医学部保健学科

58

図16カリウムイオン測定用に使われるクラウンエーテル

図17ナトリウムイオン測定用に使われるクラウンエーテル

59

参考イオン選択電極に関する文献Xia Z Badr IHA Plummer SL Cullen L

Bachas LG Synthesis and evaluation of a bis(crown ether) ionophore with a

conformationally constained bridge in ione- selective electrodes Anal Sci 14(2)

169-173 1998 Oh K-C Kang EC Cho YL Jeong K-S Y oo E-A Paeng K-J

Potassium-selective PVC membrane electrodes based on newly synthesized

cis- and trans-bis(crown ether)s ibid 14(10)1009-1012 1998 Dojindo WEB

site httpwwwdojindocojpwwwrootproductsjinfo2protocolp31pdf

<補遺> 60

補遺 状態関数 (本文 p21 10 行目参照)

一つの平衡状態にある系 A とこれに接する系 A にとって外部である系 B について系 B

から系 A に熱を与えこれによって系 A が他の平衡状態に移ったとき系 A はその結果とし

て膨張し系 B に対し仕事をする

このときの微少な熱量の移動を記号drsquoQ またなされた微少な仕事をdrsquoW とすると

系Aの内部エネルギーに関する微少な変化drsquoUA は両者の和として表される

WdQdUd A primeminusprime=prime (a-1)

この式 a-1 と本文中の式25との関係について

WQU A Δminus=Δ 本文(25)

<補遺> 61

式 a-1 と式25の記号の違いは変化の起きる前の平衡状態 S1 から変化後の平衡状態 S2

に状態変化があったとするなら式 a-1 を積分することで式25が得られるものと考えて区

別している

A

S

S A UUd Δ=primeint2

1 (a-2)

このことは重要であるすなわち内部エネルギーU は変化の起きる前後の状態を指定する

ことによって値が定まることを意味するこのように積分によって値を定めることが出来る

のでdrsquoU は完全微分であるという

内部エネルギーのように系の状態だけで値の定まる量を状態関数として扱う

一方式 a-1 のdrsquoQ drsquoW についても同様に微少の変化量を表しているが平衡状態 S1

から S2 への経路を指定しなければ積分の値は定まらない

本文中の記号にしたがって仕事量ΔW を次のように表すことにする

VpW Δ=Δ 本文(20) V

<補遺> 62

体積と圧力の関係を表す図を使ってこの仕事量が意味することを考える圧力 prsquo の下で

体積が V1 であるときを状態 S1 として圧力一定の下で体積を V2 まで膨張させるような変

化を行った後体積を等しく保って圧力を p にまで上げたときの状態を S2 とするこのとき

の仕事量は膨張に伴うものであるから図の体積‐圧力線の下の面積で示すことができる

平衡状態 S1 から S2 への変化の道筋を別にたどってみよう

新しい経路では圧力を先に p まで上げた後に膨張変化させている

図から直感的に明らかであるので数式での扱いを省略するが2 つの経路による仕事量には

差がある

すなわちdrsquoW は drsquoU と異なり変化の初め S1 と終わり S2 の状態が与えられても積分値

は定まらず変化の経路によって違ってくる

このように変化の経路を指定しなければ積分値が定まらないものを不完全微分と呼び扱

いを区別する

本文 p21 へ戻る

<補遺> 63

VpW

WQU

VpQU

VpUQ

1122 SSSS pVUpVUQ

pVU

VpUHHHQ SS 12

エンタルピー (本文 p24 20 行目参照)

本文中の式 20 および 25 から一定の圧力の元で起きる状態変化において内部エネルギー

の変化量に対する式 a-3 を得る

本文(20)

本文(25)

(a-3)

式 a-3 を Q について書き直す

(a-4)

状態の変化が平衡状態S1から平衡状態S2に移ったものとして式 a-4を丁寧に書き直すと

(a-5)

並び替えて

(a-6)

式 a-6 を見ると定圧過程における熱量の流入は

(a-7)

の形を持つ関数の差であることが分かる

一般に化学反応のような変化の過程では大気圧の下で行われるようなものに興味がある

そこで式 a-7 で与えられる項を一つの関数として定義するこれをエンタルピーと呼び記

号 H を与える式 a-4 はエンタルピーの変化量で次のように書き改められる

(a-8)

圧力が一定の下で起こる状態変化について流入する熱量は式 a-8 で示されるようにエンタ

ルピーの変化量に等しい

V

V

V

V V

V

V

1212 SSSS VVpUUQ VV

<補遺> 64

1Q

We

また式 a-8 からオートクレーブ内で起こるような体積変化のない過程ではこの値が内

部エネルギーの変化量で与えられることが明らかである

本文 p24 へ戻る

エントロピー (本文 p26 17 行目参照)

エントロピーは次のような思考実験から発想された仮想的な状態関数である

理想気体よりなる系 A が温度 T2で熱平衡状態にあり温度 T1の外部の熱源と接しているこ

とを想定する系 A の外部を系 B と呼ぶことにするT1は T2に対して無限小だけ高い温度と

する

系 A が系 B に対して温度圧力について平衡を保ちながら緩慢に系 B より熱量 Q1を受け取

る過程を考える(このような過程を準静的過程と呼ぶ)これによって系 A が熱量 Q1を得て膨

張するとき系 B に対して仕事をする続いて系 A から熱量 Q2が系 B に戻ることを考える

想定されるこの変化が可逆的であれば系 A と系 B を併せた全体は元の状態に戻る蒸気機

関に関するこのような研究が Nicolas Carnot によってなされたのは1824 年のことであった

ここに想定されたサイクルに対する Carnot の効率 e は移動した熱量となされた仕事によ

って定義され次の式で表される

(b-1)

<補遺> 65

理想気体では内部エネルギーU の変化ΔU はゼロと考えるしたがって熱力学の第一法

則を表す式(本文中の式25)から次の関係が示される

0=Δminus=Δ WQU

WQ Δ= (b-2)

これによってCarnot Cycleの効率eはQ2lt0 として次のように書き改めることが出来る

1

21

QQQe +

= (b-3)

ところで気体の状態方程式から1 モルの気体について次のような関係が示される

RTV

P

P1=

V = RTV (b-4)

V 式 b-4 の両辺に体積の微少変化量ΔV をかけて

(b-5)

これを体積Vについてその変化をV1からV2までとして積分するならば次式が得られる

VV

RTVP Δ=Δ 1V V

V

intint = 2

1

2

1

1V

V

V

VdV

VRTPdV

1V2V

11 lnRTW =

(b-6)

Q1の熱量によって起こる膨張がV1よりV2までとし圧力P温度T1の下でなされるその仕事

量をW1とするならそれは式b-6 の右辺によって示されるすなわち

(b-7)

VV

1

2lnVVRT=

V V

VV

V

V2int V2 intV1 V1

<補遺> 66

またQ2の熱量の移動が圧力P温度T2の下で起きこれによって系Aが可逆的に圧縮され

るなら体積変化はV2よりV1まで起こりその仕事量をW2で示すと次式のように表される

(b-8)

1

22

2

122 lnln

VVRT

VVRTW minus==VV

VV

Q1=W1Q2=W2の関係から式b-7 およびb-8 を用いてCarnot Cycleの効率eを表す式b-3

を書き改めると温度のみの関係式として次のように表される

1

21

TTTe minus

= (b-9)

ここでサイクルが可逆的過程であると想定するならば式 b-3 と式 b-9 から

1

21

1

21

TTT

QQQe minus

=+

= (b-10)

これから

12112111 QTQTQTQT minus=+ (b-11)

整理すると

02

2

1

1 =+TQ

TQ (b-12)

この考えをさらに発展させ系A

と系Bの間に数多くの系を挿入すること

にしてそれらの系を同様に熱源として

T1T2Tnと考えるこれによっ

て熱の受け渡しが系Aから系Bに至り

再び系Aにもどるサイクル過程に数多

くの寄り道の過程を加えることになる

熱量の移動に関して上の場合と同じく

準静的過程で行われると考えるこの

サイクル全過程について初めと終わ

<補遺> 67

n

i i

i

T

Q

1

0

0T

dQ

T

QS

T

dQASAS )()( 12

りが同じ状態になる可逆的な過程であるなら式 b-12 を拡大的に考えることになってそれ

は次式で表される

(b-13)

式 b-13 には重要な関数が現れるすなわち熱量と温度の比QT である

もし一つの系が無限小だけ温度の高い(dT )外界から温度圧力など平衡を保ちなが

ら極めて緩慢な過程(準静的過程)で無限小の熱量(dQ )を受け取るならばその変化は可

逆的でありdT について連続的な温度分布をする過程を考えるとき式 b-13 をさらに発展

させて次のように積分式で示すことが出来る

(b-14)

式 b-14 で積分記号にが付されているのはCarnot Cycle のような経路を一巡することを

意味している

Carnot の熱機関の効率という着想から生まれた熱量とそれを持つ系の温度との比 QT に

重要な意味を見出したのは Rudolph Clausius で彼はこの比にエントロピーという名前を与

えたエントロピーには記号ΔS を一般に用いる

(b-15)

エントロピーは初めと終わりの状態がわかれば過程に関わらず定まるので状態関数であ

系 A と外界のエントロピー変化を考えるときそれが可逆的過程であるならばすべてを併

せた全体のエントロピー変化は初めと終わりに変化がないという意味でゼロであるすなわ

ち初めの状態を S(A1)とし次の状態を S(A2)とするならそれぞれのエントロピーを

ΔS(A1)ΔS(A2)としてこの間におけるエントロピーの変化量は次のように示される

(b-16)

<補遺> 68

T

dQdS

0T

dQ

ある一つの変化については次のように示される

(b-17)

ここで式 b-17 の S に付けられたdは微分量すなわちごく微小の変化量を意味し式 b-15

で定義されたエントロピーに用いられる一般的な記号Δと区別する

ところで式 b-10 の関係においてもし移動した熱量のすべてが仕事に変わらなければ

効率 e を表す熱量を用いた関係式と温度で表される関係式は等号で結ぶことができないそれ

はエネルギーのロスを意味し初めと終わりの状態が異なってしまうことを意味するすなわ

ち全過程が構成する一つのサイクルは可逆的でなくなる

不可逆過程での熱効率 ersquo は 大値を示す可逆的過程の熱効率 e より小さな値をとる

ee

したがって 大効率を与える式 b-8 と式 b-3 から

01221

2112

1

21

1

21

QTQT

QTQT

Q

QQ

T

TT

両辺を T1T2で割ると

02

2

1

1 T

Q

T

Q

これを式 b12 と同様に発展させれば式 b-14 についてサイクルの変化が可逆的過程の

場合と不可逆的過程の場合の両方を併せClausius の不等式と呼ばれる次の関係が成立する

(b-18)

式 b-18 の等号が成立するのはサイクルが可逆的な理想の場合に限られる

ある孤立系で状態 A1 から状態 A2 へは不可逆変化で進められ状態 A2 から再び状態 A1

に戻るとき可逆変化であるような閉じた状態変化を考える可逆系のエントロピー変化には

記号 Q を使い不可逆変化には Q を用いるとするとそれぞれ積分式を用いて状態 A1 から

状態 A2 へは

<補遺> 69

d prime

状態 A2 から状態 A1 に戻るときは

全体では

=d prime

+d

(b-19)

Clausius の不等式から

0

式(b-19)の第二項で反応を逆に進めるときには次のように書き改めることができる

=d

よって式(b-19)は次のように書き直すことができClausius の不等式とあわせると

d prime d

0

すなわち

d prime d

上式の右辺は式(b-16)を用いて表せば

d prime

∆S ∆

この状態変化を微小変化とするならば断熱変化の場合 dQ = 0 であるから

∆S ∆ dS 0

すなわち不可逆変化を含む断熱変化ではエントロピーは必ず増大する

<補遺> 70

T

QS

BA SSS

(b-20)

(次の<補遺>ギブス自由エネルギーも参照せよ)

本文 p26 へ戻る

ギブス自由エネルギー (本文 p28 27 行目参照)

エントロピーの考えを導入することによって不可逆的に状態変化が起きるときにはエン

トロピーの増大を引き起こすことを知ったこれによって目前で起きる現象について温度の

変化があるものであれないものであれまた圧力の変化があるものであってもエントロピー

の定義式によって可逆的な変化におけるエントロピーの変化量を計算することが可能である

(b-15)

しかしながらこれから起こる変化について我々がすでにあらかじめ知っている物理量を

用いて予測的にその状態変化が起きるかどうか知ることは必ずしも容易ではないその理由

は式 b-15 に示されたエントロピーΔS が系とその外界をあわせた全体のエントロピーを示

しているからであるすなわち関心のある系を系 A としその外界を系 B とすると全体

のエントロピーは次のように表せる

(c-1)

関心のある系 A のエントロピー変化を知るためには系 B のそれを知ればよいがそれは

いつも容易とは限らない系 A の性質だけで状態変化の方向を知るには別の観点が必要にな

るようだ

そこでもう一度状態変化が熱量 Q の移動によって起きることについて考えてみようエン

トロピーの補遺で議論したように熱量の移動が準静的過程により行われるときには変化は可

逆的に起こると考えたこのとき外界すなわち系 B から移動する熱量を Q1とし系 A から

0S

<補遺> 71

21 QQ

T

Q

T

QSB

21

T

QSS A

2

QH

T

HSS AA

AA STHST

のそれを Q2 と記号を当てたのでこれをそのまま使うことにすれば可逆的な過程では系 B

の熱量 Q1 はすなわち系 A から戻る Q2 に他ならないので両者には次の関係が成立するも

のとしてよい

(c-2)

したがって

(c-3)

と考えてよくこれによって式 c-1 を次のように書きなおすことが出来る

(c-4)

独立した系で圧力とその体積に変化がなく一定の条件の下で状態変化が起きるときエン

タルピーの考えを使ってすでにひとつの関係があることを導いている

本文(31)

そこで式 c-4 を系のエンタルピーΔHAによって書き改めれば

(c-5)

この両辺に-T をかけて式を書き直せば次の関係式が得られる

(c-6)

式 c-6 を見るときその右辺がマイナスの値ならば左辺のΔS はプラスの値をとることが

分かるすなわちエントロピーが増大すると見ることが出来るこれまでの過程で自然の現

象はエントロピーが増大する方向に進むとしてきたので関心のある状態変化について式 c-6

の右辺で計算される値がマイナスの値ならばその変化は起きるものと考えてよいことになる

だろうしかも右辺はすべて独立した系の状態量で示されていて我々が知りうる値で計算

<補遺> 72

TSHG

STSTHG

STHG

可能である

そこでこれを熱力学ポテンシャルを表すものとしてギブス自由エネルギーと呼ぶことに

するギブス自由エネルギーは記号 G が用いられ次のように定義される

(c-7)

ここで関心があるのは自由エネルギーの絶対値ではなく式 c-6 に示されたようにその変化量

に興味があるので式 c-7 から

(c-8)

温度が一定の条件の下で状態変化が起きることを考えるなら式 c-8 は次のように書くこと

ができる

(c-9)

ギブス自由エネルギーは式 c-9 の右辺がすべて状態量であるからこれも状態量の一つで

ある定圧定温の条件下で起きる変化ではすでに議論したようにΔGlt0 であれば状態

変化は自発的に起きるものと予測できる

つまり式 c-5 の第一項は系のエントロピーΔSAそのものであり第二項で示されるエンタ

ルピーは系 A の温度が一定に保たれているのであるから発熱する熱量として外界に吸収さ

れるものであってこれは外界のエントロピーの増大につながるものとして解釈されるした

がって化学反応のように一定の圧力と一定の温度の下で起きる変化について自由エネルギ

ー変化量はその状態変化が自発的に起きる傾向を示しているといってよい

本文 p28 へ戻る

  • はじめに
  • 目次
  • 電気エネルギー
    • 金属のイオン化
    • 電池
    • 水素の反応
    • 燃料電池
    • 化学反応と電気エネルギー
      • エネルギーと熱力学
        • エネルギー保存則
        • エンタルピー
        • エントロピー13
        • ギブス自由エネルギー
        • 電池における化学反応のギブス自由エネルギー13
        • 理想気体の状態方程式
        • 理想溶液のギブス自由エネルギー
        • 膜電位
          • 水素イオン濃度測定
            • 化学反応の一般的な式
            • pHの定義とその目盛り
            • pH標準液
            • 銀塩化銀参照電極
            • 実用的なpH測定
            • ガラス電極
            • 電極の校正
            • 金属イオンに対応するイオン選択電極
              • 文献
              • 補遺
                • 状態関数
                • エンタルピー
                • エントロピー
                • ギブス自由エネルギー
Page 62: イオン選択電極i イオン選択電極 Ion Selective Electrode (ISE) を理解する ・ pHを測定する ・ NaやKなどのイオン濃度を測定する 神戸大学医学部保健学科

59

参考イオン選択電極に関する文献Xia Z Badr IHA Plummer SL Cullen L

Bachas LG Synthesis and evaluation of a bis(crown ether) ionophore with a

conformationally constained bridge in ione- selective electrodes Anal Sci 14(2)

169-173 1998 Oh K-C Kang EC Cho YL Jeong K-S Y oo E-A Paeng K-J

Potassium-selective PVC membrane electrodes based on newly synthesized

cis- and trans-bis(crown ether)s ibid 14(10)1009-1012 1998 Dojindo WEB

site httpwwwdojindocojpwwwrootproductsjinfo2protocolp31pdf

<補遺> 60

補遺 状態関数 (本文 p21 10 行目参照)

一つの平衡状態にある系 A とこれに接する系 A にとって外部である系 B について系 B

から系 A に熱を与えこれによって系 A が他の平衡状態に移ったとき系 A はその結果とし

て膨張し系 B に対し仕事をする

このときの微少な熱量の移動を記号drsquoQ またなされた微少な仕事をdrsquoW とすると

系Aの内部エネルギーに関する微少な変化drsquoUA は両者の和として表される

WdQdUd A primeminusprime=prime (a-1)

この式 a-1 と本文中の式25との関係について

WQU A Δminus=Δ 本文(25)

<補遺> 61

式 a-1 と式25の記号の違いは変化の起きる前の平衡状態 S1 から変化後の平衡状態 S2

に状態変化があったとするなら式 a-1 を積分することで式25が得られるものと考えて区

別している

A

S

S A UUd Δ=primeint2

1 (a-2)

このことは重要であるすなわち内部エネルギーU は変化の起きる前後の状態を指定する

ことによって値が定まることを意味するこのように積分によって値を定めることが出来る

のでdrsquoU は完全微分であるという

内部エネルギーのように系の状態だけで値の定まる量を状態関数として扱う

一方式 a-1 のdrsquoQ drsquoW についても同様に微少の変化量を表しているが平衡状態 S1

から S2 への経路を指定しなければ積分の値は定まらない

本文中の記号にしたがって仕事量ΔW を次のように表すことにする

VpW Δ=Δ 本文(20) V

<補遺> 62

体積と圧力の関係を表す図を使ってこの仕事量が意味することを考える圧力 prsquo の下で

体積が V1 であるときを状態 S1 として圧力一定の下で体積を V2 まで膨張させるような変

化を行った後体積を等しく保って圧力を p にまで上げたときの状態を S2 とするこのとき

の仕事量は膨張に伴うものであるから図の体積‐圧力線の下の面積で示すことができる

平衡状態 S1 から S2 への変化の道筋を別にたどってみよう

新しい経路では圧力を先に p まで上げた後に膨張変化させている

図から直感的に明らかであるので数式での扱いを省略するが2 つの経路による仕事量には

差がある

すなわちdrsquoW は drsquoU と異なり変化の初め S1 と終わり S2 の状態が与えられても積分値

は定まらず変化の経路によって違ってくる

このように変化の経路を指定しなければ積分値が定まらないものを不完全微分と呼び扱

いを区別する

本文 p21 へ戻る

<補遺> 63

VpW

WQU

VpQU

VpUQ

1122 SSSS pVUpVUQ

pVU

VpUHHHQ SS 12

エンタルピー (本文 p24 20 行目参照)

本文中の式 20 および 25 から一定の圧力の元で起きる状態変化において内部エネルギー

の変化量に対する式 a-3 を得る

本文(20)

本文(25)

(a-3)

式 a-3 を Q について書き直す

(a-4)

状態の変化が平衡状態S1から平衡状態S2に移ったものとして式 a-4を丁寧に書き直すと

(a-5)

並び替えて

(a-6)

式 a-6 を見ると定圧過程における熱量の流入は

(a-7)

の形を持つ関数の差であることが分かる

一般に化学反応のような変化の過程では大気圧の下で行われるようなものに興味がある

そこで式 a-7 で与えられる項を一つの関数として定義するこれをエンタルピーと呼び記

号 H を与える式 a-4 はエンタルピーの変化量で次のように書き改められる

(a-8)

圧力が一定の下で起こる状態変化について流入する熱量は式 a-8 で示されるようにエンタ

ルピーの変化量に等しい

V

V

V

V V

V

V

1212 SSSS VVpUUQ VV

<補遺> 64

1Q

We

また式 a-8 からオートクレーブ内で起こるような体積変化のない過程ではこの値が内

部エネルギーの変化量で与えられることが明らかである

本文 p24 へ戻る

エントロピー (本文 p26 17 行目参照)

エントロピーは次のような思考実験から発想された仮想的な状態関数である

理想気体よりなる系 A が温度 T2で熱平衡状態にあり温度 T1の外部の熱源と接しているこ

とを想定する系 A の外部を系 B と呼ぶことにするT1は T2に対して無限小だけ高い温度と

する

系 A が系 B に対して温度圧力について平衡を保ちながら緩慢に系 B より熱量 Q1を受け取

る過程を考える(このような過程を準静的過程と呼ぶ)これによって系 A が熱量 Q1を得て膨

張するとき系 B に対して仕事をする続いて系 A から熱量 Q2が系 B に戻ることを考える

想定されるこの変化が可逆的であれば系 A と系 B を併せた全体は元の状態に戻る蒸気機

関に関するこのような研究が Nicolas Carnot によってなされたのは1824 年のことであった

ここに想定されたサイクルに対する Carnot の効率 e は移動した熱量となされた仕事によ

って定義され次の式で表される

(b-1)

<補遺> 65

理想気体では内部エネルギーU の変化ΔU はゼロと考えるしたがって熱力学の第一法

則を表す式(本文中の式25)から次の関係が示される

0=Δminus=Δ WQU

WQ Δ= (b-2)

これによってCarnot Cycleの効率eはQ2lt0 として次のように書き改めることが出来る

1

21

QQQe +

= (b-3)

ところで気体の状態方程式から1 モルの気体について次のような関係が示される

RTV

P

P1=

V = RTV (b-4)

V 式 b-4 の両辺に体積の微少変化量ΔV をかけて

(b-5)

これを体積Vについてその変化をV1からV2までとして積分するならば次式が得られる

VV

RTVP Δ=Δ 1V V

V

intint = 2

1

2

1

1V

V

V

VdV

VRTPdV

1V2V

11 lnRTW =

(b-6)

Q1の熱量によって起こる膨張がV1よりV2までとし圧力P温度T1の下でなされるその仕事

量をW1とするならそれは式b-6 の右辺によって示されるすなわち

(b-7)

VV

1

2lnVVRT=

V V

VV

V

V2int V2 intV1 V1

<補遺> 66

またQ2の熱量の移動が圧力P温度T2の下で起きこれによって系Aが可逆的に圧縮され

るなら体積変化はV2よりV1まで起こりその仕事量をW2で示すと次式のように表される

(b-8)

1

22

2

122 lnln

VVRT

VVRTW minus==VV

VV

Q1=W1Q2=W2の関係から式b-7 およびb-8 を用いてCarnot Cycleの効率eを表す式b-3

を書き改めると温度のみの関係式として次のように表される

1

21

TTTe minus

= (b-9)

ここでサイクルが可逆的過程であると想定するならば式 b-3 と式 b-9 から

1

21

1

21

TTT

QQQe minus

=+

= (b-10)

これから

12112111 QTQTQTQT minus=+ (b-11)

整理すると

02

2

1

1 =+TQ

TQ (b-12)

この考えをさらに発展させ系A

と系Bの間に数多くの系を挿入すること

にしてそれらの系を同様に熱源として

T1T2Tnと考えるこれによっ

て熱の受け渡しが系Aから系Bに至り

再び系Aにもどるサイクル過程に数多

くの寄り道の過程を加えることになる

熱量の移動に関して上の場合と同じく

準静的過程で行われると考えるこの

サイクル全過程について初めと終わ

<補遺> 67

n

i i

i

T

Q

1

0

0T

dQ

T

QS

T

dQASAS )()( 12

りが同じ状態になる可逆的な過程であるなら式 b-12 を拡大的に考えることになってそれ

は次式で表される

(b-13)

式 b-13 には重要な関数が現れるすなわち熱量と温度の比QT である

もし一つの系が無限小だけ温度の高い(dT )外界から温度圧力など平衡を保ちなが

ら極めて緩慢な過程(準静的過程)で無限小の熱量(dQ )を受け取るならばその変化は可

逆的でありdT について連続的な温度分布をする過程を考えるとき式 b-13 をさらに発展

させて次のように積分式で示すことが出来る

(b-14)

式 b-14 で積分記号にが付されているのはCarnot Cycle のような経路を一巡することを

意味している

Carnot の熱機関の効率という着想から生まれた熱量とそれを持つ系の温度との比 QT に

重要な意味を見出したのは Rudolph Clausius で彼はこの比にエントロピーという名前を与

えたエントロピーには記号ΔS を一般に用いる

(b-15)

エントロピーは初めと終わりの状態がわかれば過程に関わらず定まるので状態関数であ

系 A と外界のエントロピー変化を考えるときそれが可逆的過程であるならばすべてを併

せた全体のエントロピー変化は初めと終わりに変化がないという意味でゼロであるすなわ

ち初めの状態を S(A1)とし次の状態を S(A2)とするならそれぞれのエントロピーを

ΔS(A1)ΔS(A2)としてこの間におけるエントロピーの変化量は次のように示される

(b-16)

<補遺> 68

T

dQdS

0T

dQ

ある一つの変化については次のように示される

(b-17)

ここで式 b-17 の S に付けられたdは微分量すなわちごく微小の変化量を意味し式 b-15

で定義されたエントロピーに用いられる一般的な記号Δと区別する

ところで式 b-10 の関係においてもし移動した熱量のすべてが仕事に変わらなければ

効率 e を表す熱量を用いた関係式と温度で表される関係式は等号で結ぶことができないそれ

はエネルギーのロスを意味し初めと終わりの状態が異なってしまうことを意味するすなわ

ち全過程が構成する一つのサイクルは可逆的でなくなる

不可逆過程での熱効率 ersquo は 大値を示す可逆的過程の熱効率 e より小さな値をとる

ee

したがって 大効率を与える式 b-8 と式 b-3 から

01221

2112

1

21

1

21

QTQT

QTQT

Q

QQ

T

TT

両辺を T1T2で割ると

02

2

1

1 T

Q

T

Q

これを式 b12 と同様に発展させれば式 b-14 についてサイクルの変化が可逆的過程の

場合と不可逆的過程の場合の両方を併せClausius の不等式と呼ばれる次の関係が成立する

(b-18)

式 b-18 の等号が成立するのはサイクルが可逆的な理想の場合に限られる

ある孤立系で状態 A1 から状態 A2 へは不可逆変化で進められ状態 A2 から再び状態 A1

に戻るとき可逆変化であるような閉じた状態変化を考える可逆系のエントロピー変化には

記号 Q を使い不可逆変化には Q を用いるとするとそれぞれ積分式を用いて状態 A1 から

状態 A2 へは

<補遺> 69

d prime

状態 A2 から状態 A1 に戻るときは

全体では

=d prime

+d

(b-19)

Clausius の不等式から

0

式(b-19)の第二項で反応を逆に進めるときには次のように書き改めることができる

=d

よって式(b-19)は次のように書き直すことができClausius の不等式とあわせると

d prime d

0

すなわち

d prime d

上式の右辺は式(b-16)を用いて表せば

d prime

∆S ∆

この状態変化を微小変化とするならば断熱変化の場合 dQ = 0 であるから

∆S ∆ dS 0

すなわち不可逆変化を含む断熱変化ではエントロピーは必ず増大する

<補遺> 70

T

QS

BA SSS

(b-20)

(次の<補遺>ギブス自由エネルギーも参照せよ)

本文 p26 へ戻る

ギブス自由エネルギー (本文 p28 27 行目参照)

エントロピーの考えを導入することによって不可逆的に状態変化が起きるときにはエン

トロピーの増大を引き起こすことを知ったこれによって目前で起きる現象について温度の

変化があるものであれないものであれまた圧力の変化があるものであってもエントロピー

の定義式によって可逆的な変化におけるエントロピーの変化量を計算することが可能である

(b-15)

しかしながらこれから起こる変化について我々がすでにあらかじめ知っている物理量を

用いて予測的にその状態変化が起きるかどうか知ることは必ずしも容易ではないその理由

は式 b-15 に示されたエントロピーΔS が系とその外界をあわせた全体のエントロピーを示

しているからであるすなわち関心のある系を系 A としその外界を系 B とすると全体

のエントロピーは次のように表せる

(c-1)

関心のある系 A のエントロピー変化を知るためには系 B のそれを知ればよいがそれは

いつも容易とは限らない系 A の性質だけで状態変化の方向を知るには別の観点が必要にな

るようだ

そこでもう一度状態変化が熱量 Q の移動によって起きることについて考えてみようエン

トロピーの補遺で議論したように熱量の移動が準静的過程により行われるときには変化は可

逆的に起こると考えたこのとき外界すなわち系 B から移動する熱量を Q1とし系 A から

0S

<補遺> 71

21 QQ

T

Q

T

QSB

21

T

QSS A

2

QH

T

HSS AA

AA STHST

のそれを Q2 と記号を当てたのでこれをそのまま使うことにすれば可逆的な過程では系 B

の熱量 Q1 はすなわち系 A から戻る Q2 に他ならないので両者には次の関係が成立するも

のとしてよい

(c-2)

したがって

(c-3)

と考えてよくこれによって式 c-1 を次のように書きなおすことが出来る

(c-4)

独立した系で圧力とその体積に変化がなく一定の条件の下で状態変化が起きるときエン

タルピーの考えを使ってすでにひとつの関係があることを導いている

本文(31)

そこで式 c-4 を系のエンタルピーΔHAによって書き改めれば

(c-5)

この両辺に-T をかけて式を書き直せば次の関係式が得られる

(c-6)

式 c-6 を見るときその右辺がマイナスの値ならば左辺のΔS はプラスの値をとることが

分かるすなわちエントロピーが増大すると見ることが出来るこれまでの過程で自然の現

象はエントロピーが増大する方向に進むとしてきたので関心のある状態変化について式 c-6

の右辺で計算される値がマイナスの値ならばその変化は起きるものと考えてよいことになる

だろうしかも右辺はすべて独立した系の状態量で示されていて我々が知りうる値で計算

<補遺> 72

TSHG

STSTHG

STHG

可能である

そこでこれを熱力学ポテンシャルを表すものとしてギブス自由エネルギーと呼ぶことに

するギブス自由エネルギーは記号 G が用いられ次のように定義される

(c-7)

ここで関心があるのは自由エネルギーの絶対値ではなく式 c-6 に示されたようにその変化量

に興味があるので式 c-7 から

(c-8)

温度が一定の条件の下で状態変化が起きることを考えるなら式 c-8 は次のように書くこと

ができる

(c-9)

ギブス自由エネルギーは式 c-9 の右辺がすべて状態量であるからこれも状態量の一つで

ある定圧定温の条件下で起きる変化ではすでに議論したようにΔGlt0 であれば状態

変化は自発的に起きるものと予測できる

つまり式 c-5 の第一項は系のエントロピーΔSAそのものであり第二項で示されるエンタ

ルピーは系 A の温度が一定に保たれているのであるから発熱する熱量として外界に吸収さ

れるものであってこれは外界のエントロピーの増大につながるものとして解釈されるした

がって化学反応のように一定の圧力と一定の温度の下で起きる変化について自由エネルギ

ー変化量はその状態変化が自発的に起きる傾向を示しているといってよい

本文 p28 へ戻る

  • はじめに
  • 目次
  • 電気エネルギー
    • 金属のイオン化
    • 電池
    • 水素の反応
    • 燃料電池
    • 化学反応と電気エネルギー
      • エネルギーと熱力学
        • エネルギー保存則
        • エンタルピー
        • エントロピー13
        • ギブス自由エネルギー
        • 電池における化学反応のギブス自由エネルギー13
        • 理想気体の状態方程式
        • 理想溶液のギブス自由エネルギー
        • 膜電位
          • 水素イオン濃度測定
            • 化学反応の一般的な式
            • pHの定義とその目盛り
            • pH標準液
            • 銀塩化銀参照電極
            • 実用的なpH測定
            • ガラス電極
            • 電極の校正
            • 金属イオンに対応するイオン選択電極
              • 文献
              • 補遺
                • 状態関数
                • エンタルピー
                • エントロピー
                • ギブス自由エネルギー
Page 63: イオン選択電極i イオン選択電極 Ion Selective Electrode (ISE) を理解する ・ pHを測定する ・ NaやKなどのイオン濃度を測定する 神戸大学医学部保健学科

<補遺> 60

補遺 状態関数 (本文 p21 10 行目参照)

一つの平衡状態にある系 A とこれに接する系 A にとって外部である系 B について系 B

から系 A に熱を与えこれによって系 A が他の平衡状態に移ったとき系 A はその結果とし

て膨張し系 B に対し仕事をする

このときの微少な熱量の移動を記号drsquoQ またなされた微少な仕事をdrsquoW とすると

系Aの内部エネルギーに関する微少な変化drsquoUA は両者の和として表される

WdQdUd A primeminusprime=prime (a-1)

この式 a-1 と本文中の式25との関係について

WQU A Δminus=Δ 本文(25)

<補遺> 61

式 a-1 と式25の記号の違いは変化の起きる前の平衡状態 S1 から変化後の平衡状態 S2

に状態変化があったとするなら式 a-1 を積分することで式25が得られるものと考えて区

別している

A

S

S A UUd Δ=primeint2

1 (a-2)

このことは重要であるすなわち内部エネルギーU は変化の起きる前後の状態を指定する

ことによって値が定まることを意味するこのように積分によって値を定めることが出来る

のでdrsquoU は完全微分であるという

内部エネルギーのように系の状態だけで値の定まる量を状態関数として扱う

一方式 a-1 のdrsquoQ drsquoW についても同様に微少の変化量を表しているが平衡状態 S1

から S2 への経路を指定しなければ積分の値は定まらない

本文中の記号にしたがって仕事量ΔW を次のように表すことにする

VpW Δ=Δ 本文(20) V

<補遺> 62

体積と圧力の関係を表す図を使ってこの仕事量が意味することを考える圧力 prsquo の下で

体積が V1 であるときを状態 S1 として圧力一定の下で体積を V2 まで膨張させるような変

化を行った後体積を等しく保って圧力を p にまで上げたときの状態を S2 とするこのとき

の仕事量は膨張に伴うものであるから図の体積‐圧力線の下の面積で示すことができる

平衡状態 S1 から S2 への変化の道筋を別にたどってみよう

新しい経路では圧力を先に p まで上げた後に膨張変化させている

図から直感的に明らかであるので数式での扱いを省略するが2 つの経路による仕事量には

差がある

すなわちdrsquoW は drsquoU と異なり変化の初め S1 と終わり S2 の状態が与えられても積分値

は定まらず変化の経路によって違ってくる

このように変化の経路を指定しなければ積分値が定まらないものを不完全微分と呼び扱

いを区別する

本文 p21 へ戻る

<補遺> 63

VpW

WQU

VpQU

VpUQ

1122 SSSS pVUpVUQ

pVU

VpUHHHQ SS 12

エンタルピー (本文 p24 20 行目参照)

本文中の式 20 および 25 から一定の圧力の元で起きる状態変化において内部エネルギー

の変化量に対する式 a-3 を得る

本文(20)

本文(25)

(a-3)

式 a-3 を Q について書き直す

(a-4)

状態の変化が平衡状態S1から平衡状態S2に移ったものとして式 a-4を丁寧に書き直すと

(a-5)

並び替えて

(a-6)

式 a-6 を見ると定圧過程における熱量の流入は

(a-7)

の形を持つ関数の差であることが分かる

一般に化学反応のような変化の過程では大気圧の下で行われるようなものに興味がある

そこで式 a-7 で与えられる項を一つの関数として定義するこれをエンタルピーと呼び記

号 H を与える式 a-4 はエンタルピーの変化量で次のように書き改められる

(a-8)

圧力が一定の下で起こる状態変化について流入する熱量は式 a-8 で示されるようにエンタ

ルピーの変化量に等しい

V

V

V

V V

V

V

1212 SSSS VVpUUQ VV

<補遺> 64

1Q

We

また式 a-8 からオートクレーブ内で起こるような体積変化のない過程ではこの値が内

部エネルギーの変化量で与えられることが明らかである

本文 p24 へ戻る

エントロピー (本文 p26 17 行目参照)

エントロピーは次のような思考実験から発想された仮想的な状態関数である

理想気体よりなる系 A が温度 T2で熱平衡状態にあり温度 T1の外部の熱源と接しているこ

とを想定する系 A の外部を系 B と呼ぶことにするT1は T2に対して無限小だけ高い温度と

する

系 A が系 B に対して温度圧力について平衡を保ちながら緩慢に系 B より熱量 Q1を受け取

る過程を考える(このような過程を準静的過程と呼ぶ)これによって系 A が熱量 Q1を得て膨

張するとき系 B に対して仕事をする続いて系 A から熱量 Q2が系 B に戻ることを考える

想定されるこの変化が可逆的であれば系 A と系 B を併せた全体は元の状態に戻る蒸気機

関に関するこのような研究が Nicolas Carnot によってなされたのは1824 年のことであった

ここに想定されたサイクルに対する Carnot の効率 e は移動した熱量となされた仕事によ

って定義され次の式で表される

(b-1)

<補遺> 65

理想気体では内部エネルギーU の変化ΔU はゼロと考えるしたがって熱力学の第一法

則を表す式(本文中の式25)から次の関係が示される

0=Δminus=Δ WQU

WQ Δ= (b-2)

これによってCarnot Cycleの効率eはQ2lt0 として次のように書き改めることが出来る

1

21

QQQe +

= (b-3)

ところで気体の状態方程式から1 モルの気体について次のような関係が示される

RTV

P

P1=

V = RTV (b-4)

V 式 b-4 の両辺に体積の微少変化量ΔV をかけて

(b-5)

これを体積Vについてその変化をV1からV2までとして積分するならば次式が得られる

VV

RTVP Δ=Δ 1V V

V

intint = 2

1

2

1

1V

V

V

VdV

VRTPdV

1V2V

11 lnRTW =

(b-6)

Q1の熱量によって起こる膨張がV1よりV2までとし圧力P温度T1の下でなされるその仕事

量をW1とするならそれは式b-6 の右辺によって示されるすなわち

(b-7)

VV

1

2lnVVRT=

V V

VV

V

V2int V2 intV1 V1

<補遺> 66

またQ2の熱量の移動が圧力P温度T2の下で起きこれによって系Aが可逆的に圧縮され

るなら体積変化はV2よりV1まで起こりその仕事量をW2で示すと次式のように表される

(b-8)

1

22

2

122 lnln

VVRT

VVRTW minus==VV

VV

Q1=W1Q2=W2の関係から式b-7 およびb-8 を用いてCarnot Cycleの効率eを表す式b-3

を書き改めると温度のみの関係式として次のように表される

1

21

TTTe minus

= (b-9)

ここでサイクルが可逆的過程であると想定するならば式 b-3 と式 b-9 から

1

21

1

21

TTT

QQQe minus

=+

= (b-10)

これから

12112111 QTQTQTQT minus=+ (b-11)

整理すると

02

2

1

1 =+TQ

TQ (b-12)

この考えをさらに発展させ系A

と系Bの間に数多くの系を挿入すること

にしてそれらの系を同様に熱源として

T1T2Tnと考えるこれによっ

て熱の受け渡しが系Aから系Bに至り

再び系Aにもどるサイクル過程に数多

くの寄り道の過程を加えることになる

熱量の移動に関して上の場合と同じく

準静的過程で行われると考えるこの

サイクル全過程について初めと終わ

<補遺> 67

n

i i

i

T

Q

1

0

0T

dQ

T

QS

T

dQASAS )()( 12

りが同じ状態になる可逆的な過程であるなら式 b-12 を拡大的に考えることになってそれ

は次式で表される

(b-13)

式 b-13 には重要な関数が現れるすなわち熱量と温度の比QT である

もし一つの系が無限小だけ温度の高い(dT )外界から温度圧力など平衡を保ちなが

ら極めて緩慢な過程(準静的過程)で無限小の熱量(dQ )を受け取るならばその変化は可

逆的でありdT について連続的な温度分布をする過程を考えるとき式 b-13 をさらに発展

させて次のように積分式で示すことが出来る

(b-14)

式 b-14 で積分記号にが付されているのはCarnot Cycle のような経路を一巡することを

意味している

Carnot の熱機関の効率という着想から生まれた熱量とそれを持つ系の温度との比 QT に

重要な意味を見出したのは Rudolph Clausius で彼はこの比にエントロピーという名前を与

えたエントロピーには記号ΔS を一般に用いる

(b-15)

エントロピーは初めと終わりの状態がわかれば過程に関わらず定まるので状態関数であ

系 A と外界のエントロピー変化を考えるときそれが可逆的過程であるならばすべてを併

せた全体のエントロピー変化は初めと終わりに変化がないという意味でゼロであるすなわ

ち初めの状態を S(A1)とし次の状態を S(A2)とするならそれぞれのエントロピーを

ΔS(A1)ΔS(A2)としてこの間におけるエントロピーの変化量は次のように示される

(b-16)

<補遺> 68

T

dQdS

0T

dQ

ある一つの変化については次のように示される

(b-17)

ここで式 b-17 の S に付けられたdは微分量すなわちごく微小の変化量を意味し式 b-15

で定義されたエントロピーに用いられる一般的な記号Δと区別する

ところで式 b-10 の関係においてもし移動した熱量のすべてが仕事に変わらなければ

効率 e を表す熱量を用いた関係式と温度で表される関係式は等号で結ぶことができないそれ

はエネルギーのロスを意味し初めと終わりの状態が異なってしまうことを意味するすなわ

ち全過程が構成する一つのサイクルは可逆的でなくなる

不可逆過程での熱効率 ersquo は 大値を示す可逆的過程の熱効率 e より小さな値をとる

ee

したがって 大効率を与える式 b-8 と式 b-3 から

01221

2112

1

21

1

21

QTQT

QTQT

Q

QQ

T

TT

両辺を T1T2で割ると

02

2

1

1 T

Q

T

Q

これを式 b12 と同様に発展させれば式 b-14 についてサイクルの変化が可逆的過程の

場合と不可逆的過程の場合の両方を併せClausius の不等式と呼ばれる次の関係が成立する

(b-18)

式 b-18 の等号が成立するのはサイクルが可逆的な理想の場合に限られる

ある孤立系で状態 A1 から状態 A2 へは不可逆変化で進められ状態 A2 から再び状態 A1

に戻るとき可逆変化であるような閉じた状態変化を考える可逆系のエントロピー変化には

記号 Q を使い不可逆変化には Q を用いるとするとそれぞれ積分式を用いて状態 A1 から

状態 A2 へは

<補遺> 69

d prime

状態 A2 から状態 A1 に戻るときは

全体では

=d prime

+d

(b-19)

Clausius の不等式から

0

式(b-19)の第二項で反応を逆に進めるときには次のように書き改めることができる

=d

よって式(b-19)は次のように書き直すことができClausius の不等式とあわせると

d prime d

0

すなわち

d prime d

上式の右辺は式(b-16)を用いて表せば

d prime

∆S ∆

この状態変化を微小変化とするならば断熱変化の場合 dQ = 0 であるから

∆S ∆ dS 0

すなわち不可逆変化を含む断熱変化ではエントロピーは必ず増大する

<補遺> 70

T

QS

BA SSS

(b-20)

(次の<補遺>ギブス自由エネルギーも参照せよ)

本文 p26 へ戻る

ギブス自由エネルギー (本文 p28 27 行目参照)

エントロピーの考えを導入することによって不可逆的に状態変化が起きるときにはエン

トロピーの増大を引き起こすことを知ったこれによって目前で起きる現象について温度の

変化があるものであれないものであれまた圧力の変化があるものであってもエントロピー

の定義式によって可逆的な変化におけるエントロピーの変化量を計算することが可能である

(b-15)

しかしながらこれから起こる変化について我々がすでにあらかじめ知っている物理量を

用いて予測的にその状態変化が起きるかどうか知ることは必ずしも容易ではないその理由

は式 b-15 に示されたエントロピーΔS が系とその外界をあわせた全体のエントロピーを示

しているからであるすなわち関心のある系を系 A としその外界を系 B とすると全体

のエントロピーは次のように表せる

(c-1)

関心のある系 A のエントロピー変化を知るためには系 B のそれを知ればよいがそれは

いつも容易とは限らない系 A の性質だけで状態変化の方向を知るには別の観点が必要にな

るようだ

そこでもう一度状態変化が熱量 Q の移動によって起きることについて考えてみようエン

トロピーの補遺で議論したように熱量の移動が準静的過程により行われるときには変化は可

逆的に起こると考えたこのとき外界すなわち系 B から移動する熱量を Q1とし系 A から

0S

<補遺> 71

21 QQ

T

Q

T

QSB

21

T

QSS A

2

QH

T

HSS AA

AA STHST

のそれを Q2 と記号を当てたのでこれをそのまま使うことにすれば可逆的な過程では系 B

の熱量 Q1 はすなわち系 A から戻る Q2 に他ならないので両者には次の関係が成立するも

のとしてよい

(c-2)

したがって

(c-3)

と考えてよくこれによって式 c-1 を次のように書きなおすことが出来る

(c-4)

独立した系で圧力とその体積に変化がなく一定の条件の下で状態変化が起きるときエン

タルピーの考えを使ってすでにひとつの関係があることを導いている

本文(31)

そこで式 c-4 を系のエンタルピーΔHAによって書き改めれば

(c-5)

この両辺に-T をかけて式を書き直せば次の関係式が得られる

(c-6)

式 c-6 を見るときその右辺がマイナスの値ならば左辺のΔS はプラスの値をとることが

分かるすなわちエントロピーが増大すると見ることが出来るこれまでの過程で自然の現

象はエントロピーが増大する方向に進むとしてきたので関心のある状態変化について式 c-6

の右辺で計算される値がマイナスの値ならばその変化は起きるものと考えてよいことになる

だろうしかも右辺はすべて独立した系の状態量で示されていて我々が知りうる値で計算

<補遺> 72

TSHG

STSTHG

STHG

可能である

そこでこれを熱力学ポテンシャルを表すものとしてギブス自由エネルギーと呼ぶことに

するギブス自由エネルギーは記号 G が用いられ次のように定義される

(c-7)

ここで関心があるのは自由エネルギーの絶対値ではなく式 c-6 に示されたようにその変化量

に興味があるので式 c-7 から

(c-8)

温度が一定の条件の下で状態変化が起きることを考えるなら式 c-8 は次のように書くこと

ができる

(c-9)

ギブス自由エネルギーは式 c-9 の右辺がすべて状態量であるからこれも状態量の一つで

ある定圧定温の条件下で起きる変化ではすでに議論したようにΔGlt0 であれば状態

変化は自発的に起きるものと予測できる

つまり式 c-5 の第一項は系のエントロピーΔSAそのものであり第二項で示されるエンタ

ルピーは系 A の温度が一定に保たれているのであるから発熱する熱量として外界に吸収さ

れるものであってこれは外界のエントロピーの増大につながるものとして解釈されるした

がって化学反応のように一定の圧力と一定の温度の下で起きる変化について自由エネルギ

ー変化量はその状態変化が自発的に起きる傾向を示しているといってよい

本文 p28 へ戻る

  • はじめに
  • 目次
  • 電気エネルギー
    • 金属のイオン化
    • 電池
    • 水素の反応
    • 燃料電池
    • 化学反応と電気エネルギー
      • エネルギーと熱力学
        • エネルギー保存則
        • エンタルピー
        • エントロピー13
        • ギブス自由エネルギー
        • 電池における化学反応のギブス自由エネルギー13
        • 理想気体の状態方程式
        • 理想溶液のギブス自由エネルギー
        • 膜電位
          • 水素イオン濃度測定
            • 化学反応の一般的な式
            • pHの定義とその目盛り
            • pH標準液
            • 銀塩化銀参照電極
            • 実用的なpH測定
            • ガラス電極
            • 電極の校正
            • 金属イオンに対応するイオン選択電極
              • 文献
              • 補遺
                • 状態関数
                • エンタルピー
                • エントロピー
                • ギブス自由エネルギー
Page 64: イオン選択電極i イオン選択電極 Ion Selective Electrode (ISE) を理解する ・ pHを測定する ・ NaやKなどのイオン濃度を測定する 神戸大学医学部保健学科

<補遺> 61

式 a-1 と式25の記号の違いは変化の起きる前の平衡状態 S1 から変化後の平衡状態 S2

に状態変化があったとするなら式 a-1 を積分することで式25が得られるものと考えて区

別している

A

S

S A UUd Δ=primeint2

1 (a-2)

このことは重要であるすなわち内部エネルギーU は変化の起きる前後の状態を指定する

ことによって値が定まることを意味するこのように積分によって値を定めることが出来る

のでdrsquoU は完全微分であるという

内部エネルギーのように系の状態だけで値の定まる量を状態関数として扱う

一方式 a-1 のdrsquoQ drsquoW についても同様に微少の変化量を表しているが平衡状態 S1

から S2 への経路を指定しなければ積分の値は定まらない

本文中の記号にしたがって仕事量ΔW を次のように表すことにする

VpW Δ=Δ 本文(20) V

<補遺> 62

体積と圧力の関係を表す図を使ってこの仕事量が意味することを考える圧力 prsquo の下で

体積が V1 であるときを状態 S1 として圧力一定の下で体積を V2 まで膨張させるような変

化を行った後体積を等しく保って圧力を p にまで上げたときの状態を S2 とするこのとき

の仕事量は膨張に伴うものであるから図の体積‐圧力線の下の面積で示すことができる

平衡状態 S1 から S2 への変化の道筋を別にたどってみよう

新しい経路では圧力を先に p まで上げた後に膨張変化させている

図から直感的に明らかであるので数式での扱いを省略するが2 つの経路による仕事量には

差がある

すなわちdrsquoW は drsquoU と異なり変化の初め S1 と終わり S2 の状態が与えられても積分値

は定まらず変化の経路によって違ってくる

このように変化の経路を指定しなければ積分値が定まらないものを不完全微分と呼び扱

いを区別する

本文 p21 へ戻る

<補遺> 63

VpW

WQU

VpQU

VpUQ

1122 SSSS pVUpVUQ

pVU

VpUHHHQ SS 12

エンタルピー (本文 p24 20 行目参照)

本文中の式 20 および 25 から一定の圧力の元で起きる状態変化において内部エネルギー

の変化量に対する式 a-3 を得る

本文(20)

本文(25)

(a-3)

式 a-3 を Q について書き直す

(a-4)

状態の変化が平衡状態S1から平衡状態S2に移ったものとして式 a-4を丁寧に書き直すと

(a-5)

並び替えて

(a-6)

式 a-6 を見ると定圧過程における熱量の流入は

(a-7)

の形を持つ関数の差であることが分かる

一般に化学反応のような変化の過程では大気圧の下で行われるようなものに興味がある

そこで式 a-7 で与えられる項を一つの関数として定義するこれをエンタルピーと呼び記

号 H を与える式 a-4 はエンタルピーの変化量で次のように書き改められる

(a-8)

圧力が一定の下で起こる状態変化について流入する熱量は式 a-8 で示されるようにエンタ

ルピーの変化量に等しい

V

V

V

V V

V

V

1212 SSSS VVpUUQ VV

<補遺> 64

1Q

We

また式 a-8 からオートクレーブ内で起こるような体積変化のない過程ではこの値が内

部エネルギーの変化量で与えられることが明らかである

本文 p24 へ戻る

エントロピー (本文 p26 17 行目参照)

エントロピーは次のような思考実験から発想された仮想的な状態関数である

理想気体よりなる系 A が温度 T2で熱平衡状態にあり温度 T1の外部の熱源と接しているこ

とを想定する系 A の外部を系 B と呼ぶことにするT1は T2に対して無限小だけ高い温度と

する

系 A が系 B に対して温度圧力について平衡を保ちながら緩慢に系 B より熱量 Q1を受け取

る過程を考える(このような過程を準静的過程と呼ぶ)これによって系 A が熱量 Q1を得て膨

張するとき系 B に対して仕事をする続いて系 A から熱量 Q2が系 B に戻ることを考える

想定されるこの変化が可逆的であれば系 A と系 B を併せた全体は元の状態に戻る蒸気機

関に関するこのような研究が Nicolas Carnot によってなされたのは1824 年のことであった

ここに想定されたサイクルに対する Carnot の効率 e は移動した熱量となされた仕事によ

って定義され次の式で表される

(b-1)

<補遺> 65

理想気体では内部エネルギーU の変化ΔU はゼロと考えるしたがって熱力学の第一法

則を表す式(本文中の式25)から次の関係が示される

0=Δminus=Δ WQU

WQ Δ= (b-2)

これによってCarnot Cycleの効率eはQ2lt0 として次のように書き改めることが出来る

1

21

QQQe +

= (b-3)

ところで気体の状態方程式から1 モルの気体について次のような関係が示される

RTV

P

P1=

V = RTV (b-4)

V 式 b-4 の両辺に体積の微少変化量ΔV をかけて

(b-5)

これを体積Vについてその変化をV1からV2までとして積分するならば次式が得られる

VV

RTVP Δ=Δ 1V V

V

intint = 2

1

2

1

1V

V

V

VdV

VRTPdV

1V2V

11 lnRTW =

(b-6)

Q1の熱量によって起こる膨張がV1よりV2までとし圧力P温度T1の下でなされるその仕事

量をW1とするならそれは式b-6 の右辺によって示されるすなわち

(b-7)

VV

1

2lnVVRT=

V V

VV

V

V2int V2 intV1 V1

<補遺> 66

またQ2の熱量の移動が圧力P温度T2の下で起きこれによって系Aが可逆的に圧縮され

るなら体積変化はV2よりV1まで起こりその仕事量をW2で示すと次式のように表される

(b-8)

1

22

2

122 lnln

VVRT

VVRTW minus==VV

VV

Q1=W1Q2=W2の関係から式b-7 およびb-8 を用いてCarnot Cycleの効率eを表す式b-3

を書き改めると温度のみの関係式として次のように表される

1

21

TTTe minus

= (b-9)

ここでサイクルが可逆的過程であると想定するならば式 b-3 と式 b-9 から

1

21

1

21

TTT

QQQe minus

=+

= (b-10)

これから

12112111 QTQTQTQT minus=+ (b-11)

整理すると

02

2

1

1 =+TQ

TQ (b-12)

この考えをさらに発展させ系A

と系Bの間に数多くの系を挿入すること

にしてそれらの系を同様に熱源として

T1T2Tnと考えるこれによっ

て熱の受け渡しが系Aから系Bに至り

再び系Aにもどるサイクル過程に数多

くの寄り道の過程を加えることになる

熱量の移動に関して上の場合と同じく

準静的過程で行われると考えるこの

サイクル全過程について初めと終わ

<補遺> 67

n

i i

i

T

Q

1

0

0T

dQ

T

QS

T

dQASAS )()( 12

りが同じ状態になる可逆的な過程であるなら式 b-12 を拡大的に考えることになってそれ

は次式で表される

(b-13)

式 b-13 には重要な関数が現れるすなわち熱量と温度の比QT である

もし一つの系が無限小だけ温度の高い(dT )外界から温度圧力など平衡を保ちなが

ら極めて緩慢な過程(準静的過程)で無限小の熱量(dQ )を受け取るならばその変化は可

逆的でありdT について連続的な温度分布をする過程を考えるとき式 b-13 をさらに発展

させて次のように積分式で示すことが出来る

(b-14)

式 b-14 で積分記号にが付されているのはCarnot Cycle のような経路を一巡することを

意味している

Carnot の熱機関の効率という着想から生まれた熱量とそれを持つ系の温度との比 QT に

重要な意味を見出したのは Rudolph Clausius で彼はこの比にエントロピーという名前を与

えたエントロピーには記号ΔS を一般に用いる

(b-15)

エントロピーは初めと終わりの状態がわかれば過程に関わらず定まるので状態関数であ

系 A と外界のエントロピー変化を考えるときそれが可逆的過程であるならばすべてを併

せた全体のエントロピー変化は初めと終わりに変化がないという意味でゼロであるすなわ

ち初めの状態を S(A1)とし次の状態を S(A2)とするならそれぞれのエントロピーを

ΔS(A1)ΔS(A2)としてこの間におけるエントロピーの変化量は次のように示される

(b-16)

<補遺> 68

T

dQdS

0T

dQ

ある一つの変化については次のように示される

(b-17)

ここで式 b-17 の S に付けられたdは微分量すなわちごく微小の変化量を意味し式 b-15

で定義されたエントロピーに用いられる一般的な記号Δと区別する

ところで式 b-10 の関係においてもし移動した熱量のすべてが仕事に変わらなければ

効率 e を表す熱量を用いた関係式と温度で表される関係式は等号で結ぶことができないそれ

はエネルギーのロスを意味し初めと終わりの状態が異なってしまうことを意味するすなわ

ち全過程が構成する一つのサイクルは可逆的でなくなる

不可逆過程での熱効率 ersquo は 大値を示す可逆的過程の熱効率 e より小さな値をとる

ee

したがって 大効率を与える式 b-8 と式 b-3 から

01221

2112

1

21

1

21

QTQT

QTQT

Q

QQ

T

TT

両辺を T1T2で割ると

02

2

1

1 T

Q

T

Q

これを式 b12 と同様に発展させれば式 b-14 についてサイクルの変化が可逆的過程の

場合と不可逆的過程の場合の両方を併せClausius の不等式と呼ばれる次の関係が成立する

(b-18)

式 b-18 の等号が成立するのはサイクルが可逆的な理想の場合に限られる

ある孤立系で状態 A1 から状態 A2 へは不可逆変化で進められ状態 A2 から再び状態 A1

に戻るとき可逆変化であるような閉じた状態変化を考える可逆系のエントロピー変化には

記号 Q を使い不可逆変化には Q を用いるとするとそれぞれ積分式を用いて状態 A1 から

状態 A2 へは

<補遺> 69

d prime

状態 A2 から状態 A1 に戻るときは

全体では

=d prime

+d

(b-19)

Clausius の不等式から

0

式(b-19)の第二項で反応を逆に進めるときには次のように書き改めることができる

=d

よって式(b-19)は次のように書き直すことができClausius の不等式とあわせると

d prime d

0

すなわち

d prime d

上式の右辺は式(b-16)を用いて表せば

d prime

∆S ∆

この状態変化を微小変化とするならば断熱変化の場合 dQ = 0 であるから

∆S ∆ dS 0

すなわち不可逆変化を含む断熱変化ではエントロピーは必ず増大する

<補遺> 70

T

QS

BA SSS

(b-20)

(次の<補遺>ギブス自由エネルギーも参照せよ)

本文 p26 へ戻る

ギブス自由エネルギー (本文 p28 27 行目参照)

エントロピーの考えを導入することによって不可逆的に状態変化が起きるときにはエン

トロピーの増大を引き起こすことを知ったこれによって目前で起きる現象について温度の

変化があるものであれないものであれまた圧力の変化があるものであってもエントロピー

の定義式によって可逆的な変化におけるエントロピーの変化量を計算することが可能である

(b-15)

しかしながらこれから起こる変化について我々がすでにあらかじめ知っている物理量を

用いて予測的にその状態変化が起きるかどうか知ることは必ずしも容易ではないその理由

は式 b-15 に示されたエントロピーΔS が系とその外界をあわせた全体のエントロピーを示

しているからであるすなわち関心のある系を系 A としその外界を系 B とすると全体

のエントロピーは次のように表せる

(c-1)

関心のある系 A のエントロピー変化を知るためには系 B のそれを知ればよいがそれは

いつも容易とは限らない系 A の性質だけで状態変化の方向を知るには別の観点が必要にな

るようだ

そこでもう一度状態変化が熱量 Q の移動によって起きることについて考えてみようエン

トロピーの補遺で議論したように熱量の移動が準静的過程により行われるときには変化は可

逆的に起こると考えたこのとき外界すなわち系 B から移動する熱量を Q1とし系 A から

0S

<補遺> 71

21 QQ

T

Q

T

QSB

21

T

QSS A

2

QH

T

HSS AA

AA STHST

のそれを Q2 と記号を当てたのでこれをそのまま使うことにすれば可逆的な過程では系 B

の熱量 Q1 はすなわち系 A から戻る Q2 に他ならないので両者には次の関係が成立するも

のとしてよい

(c-2)

したがって

(c-3)

と考えてよくこれによって式 c-1 を次のように書きなおすことが出来る

(c-4)

独立した系で圧力とその体積に変化がなく一定の条件の下で状態変化が起きるときエン

タルピーの考えを使ってすでにひとつの関係があることを導いている

本文(31)

そこで式 c-4 を系のエンタルピーΔHAによって書き改めれば

(c-5)

この両辺に-T をかけて式を書き直せば次の関係式が得られる

(c-6)

式 c-6 を見るときその右辺がマイナスの値ならば左辺のΔS はプラスの値をとることが

分かるすなわちエントロピーが増大すると見ることが出来るこれまでの過程で自然の現

象はエントロピーが増大する方向に進むとしてきたので関心のある状態変化について式 c-6

の右辺で計算される値がマイナスの値ならばその変化は起きるものと考えてよいことになる

だろうしかも右辺はすべて独立した系の状態量で示されていて我々が知りうる値で計算

<補遺> 72

TSHG

STSTHG

STHG

可能である

そこでこれを熱力学ポテンシャルを表すものとしてギブス自由エネルギーと呼ぶことに

するギブス自由エネルギーは記号 G が用いられ次のように定義される

(c-7)

ここで関心があるのは自由エネルギーの絶対値ではなく式 c-6 に示されたようにその変化量

に興味があるので式 c-7 から

(c-8)

温度が一定の条件の下で状態変化が起きることを考えるなら式 c-8 は次のように書くこと

ができる

(c-9)

ギブス自由エネルギーは式 c-9 の右辺がすべて状態量であるからこれも状態量の一つで

ある定圧定温の条件下で起きる変化ではすでに議論したようにΔGlt0 であれば状態

変化は自発的に起きるものと予測できる

つまり式 c-5 の第一項は系のエントロピーΔSAそのものであり第二項で示されるエンタ

ルピーは系 A の温度が一定に保たれているのであるから発熱する熱量として外界に吸収さ

れるものであってこれは外界のエントロピーの増大につながるものとして解釈されるした

がって化学反応のように一定の圧力と一定の温度の下で起きる変化について自由エネルギ

ー変化量はその状態変化が自発的に起きる傾向を示しているといってよい

本文 p28 へ戻る

  • はじめに
  • 目次
  • 電気エネルギー
    • 金属のイオン化
    • 電池
    • 水素の反応
    • 燃料電池
    • 化学反応と電気エネルギー
      • エネルギーと熱力学
        • エネルギー保存則
        • エンタルピー
        • エントロピー13
        • ギブス自由エネルギー
        • 電池における化学反応のギブス自由エネルギー13
        • 理想気体の状態方程式
        • 理想溶液のギブス自由エネルギー
        • 膜電位
          • 水素イオン濃度測定
            • 化学反応の一般的な式
            • pHの定義とその目盛り
            • pH標準液
            • 銀塩化銀参照電極
            • 実用的なpH測定
            • ガラス電極
            • 電極の校正
            • 金属イオンに対応するイオン選択電極
              • 文献
              • 補遺
                • 状態関数
                • エンタルピー
                • エントロピー
                • ギブス自由エネルギー
Page 65: イオン選択電極i イオン選択電極 Ion Selective Electrode (ISE) を理解する ・ pHを測定する ・ NaやKなどのイオン濃度を測定する 神戸大学医学部保健学科

<補遺> 62

体積と圧力の関係を表す図を使ってこの仕事量が意味することを考える圧力 prsquo の下で

体積が V1 であるときを状態 S1 として圧力一定の下で体積を V2 まで膨張させるような変

化を行った後体積を等しく保って圧力を p にまで上げたときの状態を S2 とするこのとき

の仕事量は膨張に伴うものであるから図の体積‐圧力線の下の面積で示すことができる

平衡状態 S1 から S2 への変化の道筋を別にたどってみよう

新しい経路では圧力を先に p まで上げた後に膨張変化させている

図から直感的に明らかであるので数式での扱いを省略するが2 つの経路による仕事量には

差がある

すなわちdrsquoW は drsquoU と異なり変化の初め S1 と終わり S2 の状態が与えられても積分値

は定まらず変化の経路によって違ってくる

このように変化の経路を指定しなければ積分値が定まらないものを不完全微分と呼び扱

いを区別する

本文 p21 へ戻る

<補遺> 63

VpW

WQU

VpQU

VpUQ

1122 SSSS pVUpVUQ

pVU

VpUHHHQ SS 12

エンタルピー (本文 p24 20 行目参照)

本文中の式 20 および 25 から一定の圧力の元で起きる状態変化において内部エネルギー

の変化量に対する式 a-3 を得る

本文(20)

本文(25)

(a-3)

式 a-3 を Q について書き直す

(a-4)

状態の変化が平衡状態S1から平衡状態S2に移ったものとして式 a-4を丁寧に書き直すと

(a-5)

並び替えて

(a-6)

式 a-6 を見ると定圧過程における熱量の流入は

(a-7)

の形を持つ関数の差であることが分かる

一般に化学反応のような変化の過程では大気圧の下で行われるようなものに興味がある

そこで式 a-7 で与えられる項を一つの関数として定義するこれをエンタルピーと呼び記

号 H を与える式 a-4 はエンタルピーの変化量で次のように書き改められる

(a-8)

圧力が一定の下で起こる状態変化について流入する熱量は式 a-8 で示されるようにエンタ

ルピーの変化量に等しい

V

V

V

V V

V

V

1212 SSSS VVpUUQ VV

<補遺> 64

1Q

We

また式 a-8 からオートクレーブ内で起こるような体積変化のない過程ではこの値が内

部エネルギーの変化量で与えられることが明らかである

本文 p24 へ戻る

エントロピー (本文 p26 17 行目参照)

エントロピーは次のような思考実験から発想された仮想的な状態関数である

理想気体よりなる系 A が温度 T2で熱平衡状態にあり温度 T1の外部の熱源と接しているこ

とを想定する系 A の外部を系 B と呼ぶことにするT1は T2に対して無限小だけ高い温度と

する

系 A が系 B に対して温度圧力について平衡を保ちながら緩慢に系 B より熱量 Q1を受け取

る過程を考える(このような過程を準静的過程と呼ぶ)これによって系 A が熱量 Q1を得て膨

張するとき系 B に対して仕事をする続いて系 A から熱量 Q2が系 B に戻ることを考える

想定されるこの変化が可逆的であれば系 A と系 B を併せた全体は元の状態に戻る蒸気機

関に関するこのような研究が Nicolas Carnot によってなされたのは1824 年のことであった

ここに想定されたサイクルに対する Carnot の効率 e は移動した熱量となされた仕事によ

って定義され次の式で表される

(b-1)

<補遺> 65

理想気体では内部エネルギーU の変化ΔU はゼロと考えるしたがって熱力学の第一法

則を表す式(本文中の式25)から次の関係が示される

0=Δminus=Δ WQU

WQ Δ= (b-2)

これによってCarnot Cycleの効率eはQ2lt0 として次のように書き改めることが出来る

1

21

QQQe +

= (b-3)

ところで気体の状態方程式から1 モルの気体について次のような関係が示される

RTV

P

P1=

V = RTV (b-4)

V 式 b-4 の両辺に体積の微少変化量ΔV をかけて

(b-5)

これを体積Vについてその変化をV1からV2までとして積分するならば次式が得られる

VV

RTVP Δ=Δ 1V V

V

intint = 2

1

2

1

1V

V

V

VdV

VRTPdV

1V2V

11 lnRTW =

(b-6)

Q1の熱量によって起こる膨張がV1よりV2までとし圧力P温度T1の下でなされるその仕事

量をW1とするならそれは式b-6 の右辺によって示されるすなわち

(b-7)

VV

1

2lnVVRT=

V V

VV

V

V2int V2 intV1 V1

<補遺> 66

またQ2の熱量の移動が圧力P温度T2の下で起きこれによって系Aが可逆的に圧縮され

るなら体積変化はV2よりV1まで起こりその仕事量をW2で示すと次式のように表される

(b-8)

1

22

2

122 lnln

VVRT

VVRTW minus==VV

VV

Q1=W1Q2=W2の関係から式b-7 およびb-8 を用いてCarnot Cycleの効率eを表す式b-3

を書き改めると温度のみの関係式として次のように表される

1

21

TTTe minus

= (b-9)

ここでサイクルが可逆的過程であると想定するならば式 b-3 と式 b-9 から

1

21

1

21

TTT

QQQe minus

=+

= (b-10)

これから

12112111 QTQTQTQT minus=+ (b-11)

整理すると

02

2

1

1 =+TQ

TQ (b-12)

この考えをさらに発展させ系A

と系Bの間に数多くの系を挿入すること

にしてそれらの系を同様に熱源として

T1T2Tnと考えるこれによっ

て熱の受け渡しが系Aから系Bに至り

再び系Aにもどるサイクル過程に数多

くの寄り道の過程を加えることになる

熱量の移動に関して上の場合と同じく

準静的過程で行われると考えるこの

サイクル全過程について初めと終わ

<補遺> 67

n

i i

i

T

Q

1

0

0T

dQ

T

QS

T

dQASAS )()( 12

りが同じ状態になる可逆的な過程であるなら式 b-12 を拡大的に考えることになってそれ

は次式で表される

(b-13)

式 b-13 には重要な関数が現れるすなわち熱量と温度の比QT である

もし一つの系が無限小だけ温度の高い(dT )外界から温度圧力など平衡を保ちなが

ら極めて緩慢な過程(準静的過程)で無限小の熱量(dQ )を受け取るならばその変化は可

逆的でありdT について連続的な温度分布をする過程を考えるとき式 b-13 をさらに発展

させて次のように積分式で示すことが出来る

(b-14)

式 b-14 で積分記号にが付されているのはCarnot Cycle のような経路を一巡することを

意味している

Carnot の熱機関の効率という着想から生まれた熱量とそれを持つ系の温度との比 QT に

重要な意味を見出したのは Rudolph Clausius で彼はこの比にエントロピーという名前を与

えたエントロピーには記号ΔS を一般に用いる

(b-15)

エントロピーは初めと終わりの状態がわかれば過程に関わらず定まるので状態関数であ

系 A と外界のエントロピー変化を考えるときそれが可逆的過程であるならばすべてを併

せた全体のエントロピー変化は初めと終わりに変化がないという意味でゼロであるすなわ

ち初めの状態を S(A1)とし次の状態を S(A2)とするならそれぞれのエントロピーを

ΔS(A1)ΔS(A2)としてこの間におけるエントロピーの変化量は次のように示される

(b-16)

<補遺> 68

T

dQdS

0T

dQ

ある一つの変化については次のように示される

(b-17)

ここで式 b-17 の S に付けられたdは微分量すなわちごく微小の変化量を意味し式 b-15

で定義されたエントロピーに用いられる一般的な記号Δと区別する

ところで式 b-10 の関係においてもし移動した熱量のすべてが仕事に変わらなければ

効率 e を表す熱量を用いた関係式と温度で表される関係式は等号で結ぶことができないそれ

はエネルギーのロスを意味し初めと終わりの状態が異なってしまうことを意味するすなわ

ち全過程が構成する一つのサイクルは可逆的でなくなる

不可逆過程での熱効率 ersquo は 大値を示す可逆的過程の熱効率 e より小さな値をとる

ee

したがって 大効率を与える式 b-8 と式 b-3 から

01221

2112

1

21

1

21

QTQT

QTQT

Q

QQ

T

TT

両辺を T1T2で割ると

02

2

1

1 T

Q

T

Q

これを式 b12 と同様に発展させれば式 b-14 についてサイクルの変化が可逆的過程の

場合と不可逆的過程の場合の両方を併せClausius の不等式と呼ばれる次の関係が成立する

(b-18)

式 b-18 の等号が成立するのはサイクルが可逆的な理想の場合に限られる

ある孤立系で状態 A1 から状態 A2 へは不可逆変化で進められ状態 A2 から再び状態 A1

に戻るとき可逆変化であるような閉じた状態変化を考える可逆系のエントロピー変化には

記号 Q を使い不可逆変化には Q を用いるとするとそれぞれ積分式を用いて状態 A1 から

状態 A2 へは

<補遺> 69

d prime

状態 A2 から状態 A1 に戻るときは

全体では

=d prime

+d

(b-19)

Clausius の不等式から

0

式(b-19)の第二項で反応を逆に進めるときには次のように書き改めることができる

=d

よって式(b-19)は次のように書き直すことができClausius の不等式とあわせると

d prime d

0

すなわち

d prime d

上式の右辺は式(b-16)を用いて表せば

d prime

∆S ∆

この状態変化を微小変化とするならば断熱変化の場合 dQ = 0 であるから

∆S ∆ dS 0

すなわち不可逆変化を含む断熱変化ではエントロピーは必ず増大する

<補遺> 70

T

QS

BA SSS

(b-20)

(次の<補遺>ギブス自由エネルギーも参照せよ)

本文 p26 へ戻る

ギブス自由エネルギー (本文 p28 27 行目参照)

エントロピーの考えを導入することによって不可逆的に状態変化が起きるときにはエン

トロピーの増大を引き起こすことを知ったこれによって目前で起きる現象について温度の

変化があるものであれないものであれまた圧力の変化があるものであってもエントロピー

の定義式によって可逆的な変化におけるエントロピーの変化量を計算することが可能である

(b-15)

しかしながらこれから起こる変化について我々がすでにあらかじめ知っている物理量を

用いて予測的にその状態変化が起きるかどうか知ることは必ずしも容易ではないその理由

は式 b-15 に示されたエントロピーΔS が系とその外界をあわせた全体のエントロピーを示

しているからであるすなわち関心のある系を系 A としその外界を系 B とすると全体

のエントロピーは次のように表せる

(c-1)

関心のある系 A のエントロピー変化を知るためには系 B のそれを知ればよいがそれは

いつも容易とは限らない系 A の性質だけで状態変化の方向を知るには別の観点が必要にな

るようだ

そこでもう一度状態変化が熱量 Q の移動によって起きることについて考えてみようエン

トロピーの補遺で議論したように熱量の移動が準静的過程により行われるときには変化は可

逆的に起こると考えたこのとき外界すなわち系 B から移動する熱量を Q1とし系 A から

0S

<補遺> 71

21 QQ

T

Q

T

QSB

21

T

QSS A

2

QH

T

HSS AA

AA STHST

のそれを Q2 と記号を当てたのでこれをそのまま使うことにすれば可逆的な過程では系 B

の熱量 Q1 はすなわち系 A から戻る Q2 に他ならないので両者には次の関係が成立するも

のとしてよい

(c-2)

したがって

(c-3)

と考えてよくこれによって式 c-1 を次のように書きなおすことが出来る

(c-4)

独立した系で圧力とその体積に変化がなく一定の条件の下で状態変化が起きるときエン

タルピーの考えを使ってすでにひとつの関係があることを導いている

本文(31)

そこで式 c-4 を系のエンタルピーΔHAによって書き改めれば

(c-5)

この両辺に-T をかけて式を書き直せば次の関係式が得られる

(c-6)

式 c-6 を見るときその右辺がマイナスの値ならば左辺のΔS はプラスの値をとることが

分かるすなわちエントロピーが増大すると見ることが出来るこれまでの過程で自然の現

象はエントロピーが増大する方向に進むとしてきたので関心のある状態変化について式 c-6

の右辺で計算される値がマイナスの値ならばその変化は起きるものと考えてよいことになる

だろうしかも右辺はすべて独立した系の状態量で示されていて我々が知りうる値で計算

<補遺> 72

TSHG

STSTHG

STHG

可能である

そこでこれを熱力学ポテンシャルを表すものとしてギブス自由エネルギーと呼ぶことに

するギブス自由エネルギーは記号 G が用いられ次のように定義される

(c-7)

ここで関心があるのは自由エネルギーの絶対値ではなく式 c-6 に示されたようにその変化量

に興味があるので式 c-7 から

(c-8)

温度が一定の条件の下で状態変化が起きることを考えるなら式 c-8 は次のように書くこと

ができる

(c-9)

ギブス自由エネルギーは式 c-9 の右辺がすべて状態量であるからこれも状態量の一つで

ある定圧定温の条件下で起きる変化ではすでに議論したようにΔGlt0 であれば状態

変化は自発的に起きるものと予測できる

つまり式 c-5 の第一項は系のエントロピーΔSAそのものであり第二項で示されるエンタ

ルピーは系 A の温度が一定に保たれているのであるから発熱する熱量として外界に吸収さ

れるものであってこれは外界のエントロピーの増大につながるものとして解釈されるした

がって化学反応のように一定の圧力と一定の温度の下で起きる変化について自由エネルギ

ー変化量はその状態変化が自発的に起きる傾向を示しているといってよい

本文 p28 へ戻る

  • はじめに
  • 目次
  • 電気エネルギー
    • 金属のイオン化
    • 電池
    • 水素の反応
    • 燃料電池
    • 化学反応と電気エネルギー
      • エネルギーと熱力学
        • エネルギー保存則
        • エンタルピー
        • エントロピー13
        • ギブス自由エネルギー
        • 電池における化学反応のギブス自由エネルギー13
        • 理想気体の状態方程式
        • 理想溶液のギブス自由エネルギー
        • 膜電位
          • 水素イオン濃度測定
            • 化学反応の一般的な式
            • pHの定義とその目盛り
            • pH標準液
            • 銀塩化銀参照電極
            • 実用的なpH測定
            • ガラス電極
            • 電極の校正
            • 金属イオンに対応するイオン選択電極
              • 文献
              • 補遺
                • 状態関数
                • エンタルピー
                • エントロピー
                • ギブス自由エネルギー
Page 66: イオン選択電極i イオン選択電極 Ion Selective Electrode (ISE) を理解する ・ pHを測定する ・ NaやKなどのイオン濃度を測定する 神戸大学医学部保健学科

<補遺> 63

VpW

WQU

VpQU

VpUQ

1122 SSSS pVUpVUQ

pVU

VpUHHHQ SS 12

エンタルピー (本文 p24 20 行目参照)

本文中の式 20 および 25 から一定の圧力の元で起きる状態変化において内部エネルギー

の変化量に対する式 a-3 を得る

本文(20)

本文(25)

(a-3)

式 a-3 を Q について書き直す

(a-4)

状態の変化が平衡状態S1から平衡状態S2に移ったものとして式 a-4を丁寧に書き直すと

(a-5)

並び替えて

(a-6)

式 a-6 を見ると定圧過程における熱量の流入は

(a-7)

の形を持つ関数の差であることが分かる

一般に化学反応のような変化の過程では大気圧の下で行われるようなものに興味がある

そこで式 a-7 で与えられる項を一つの関数として定義するこれをエンタルピーと呼び記

号 H を与える式 a-4 はエンタルピーの変化量で次のように書き改められる

(a-8)

圧力が一定の下で起こる状態変化について流入する熱量は式 a-8 で示されるようにエンタ

ルピーの変化量に等しい

V

V

V

V V

V

V

1212 SSSS VVpUUQ VV

<補遺> 64

1Q

We

また式 a-8 からオートクレーブ内で起こるような体積変化のない過程ではこの値が内

部エネルギーの変化量で与えられることが明らかである

本文 p24 へ戻る

エントロピー (本文 p26 17 行目参照)

エントロピーは次のような思考実験から発想された仮想的な状態関数である

理想気体よりなる系 A が温度 T2で熱平衡状態にあり温度 T1の外部の熱源と接しているこ

とを想定する系 A の外部を系 B と呼ぶことにするT1は T2に対して無限小だけ高い温度と

する

系 A が系 B に対して温度圧力について平衡を保ちながら緩慢に系 B より熱量 Q1を受け取

る過程を考える(このような過程を準静的過程と呼ぶ)これによって系 A が熱量 Q1を得て膨

張するとき系 B に対して仕事をする続いて系 A から熱量 Q2が系 B に戻ることを考える

想定されるこの変化が可逆的であれば系 A と系 B を併せた全体は元の状態に戻る蒸気機

関に関するこのような研究が Nicolas Carnot によってなされたのは1824 年のことであった

ここに想定されたサイクルに対する Carnot の効率 e は移動した熱量となされた仕事によ

って定義され次の式で表される

(b-1)

<補遺> 65

理想気体では内部エネルギーU の変化ΔU はゼロと考えるしたがって熱力学の第一法

則を表す式(本文中の式25)から次の関係が示される

0=Δminus=Δ WQU

WQ Δ= (b-2)

これによってCarnot Cycleの効率eはQ2lt0 として次のように書き改めることが出来る

1

21

QQQe +

= (b-3)

ところで気体の状態方程式から1 モルの気体について次のような関係が示される

RTV

P

P1=

V = RTV (b-4)

V 式 b-4 の両辺に体積の微少変化量ΔV をかけて

(b-5)

これを体積Vについてその変化をV1からV2までとして積分するならば次式が得られる

VV

RTVP Δ=Δ 1V V

V

intint = 2

1

2

1

1V

V

V

VdV

VRTPdV

1V2V

11 lnRTW =

(b-6)

Q1の熱量によって起こる膨張がV1よりV2までとし圧力P温度T1の下でなされるその仕事

量をW1とするならそれは式b-6 の右辺によって示されるすなわち

(b-7)

VV

1

2lnVVRT=

V V

VV

V

V2int V2 intV1 V1

<補遺> 66

またQ2の熱量の移動が圧力P温度T2の下で起きこれによって系Aが可逆的に圧縮され

るなら体積変化はV2よりV1まで起こりその仕事量をW2で示すと次式のように表される

(b-8)

1

22

2

122 lnln

VVRT

VVRTW minus==VV

VV

Q1=W1Q2=W2の関係から式b-7 およびb-8 を用いてCarnot Cycleの効率eを表す式b-3

を書き改めると温度のみの関係式として次のように表される

1

21

TTTe minus

= (b-9)

ここでサイクルが可逆的過程であると想定するならば式 b-3 と式 b-9 から

1

21

1

21

TTT

QQQe minus

=+

= (b-10)

これから

12112111 QTQTQTQT minus=+ (b-11)

整理すると

02

2

1

1 =+TQ

TQ (b-12)

この考えをさらに発展させ系A

と系Bの間に数多くの系を挿入すること

にしてそれらの系を同様に熱源として

T1T2Tnと考えるこれによっ

て熱の受け渡しが系Aから系Bに至り

再び系Aにもどるサイクル過程に数多

くの寄り道の過程を加えることになる

熱量の移動に関して上の場合と同じく

準静的過程で行われると考えるこの

サイクル全過程について初めと終わ

<補遺> 67

n

i i

i

T

Q

1

0

0T

dQ

T

QS

T

dQASAS )()( 12

りが同じ状態になる可逆的な過程であるなら式 b-12 を拡大的に考えることになってそれ

は次式で表される

(b-13)

式 b-13 には重要な関数が現れるすなわち熱量と温度の比QT である

もし一つの系が無限小だけ温度の高い(dT )外界から温度圧力など平衡を保ちなが

ら極めて緩慢な過程(準静的過程)で無限小の熱量(dQ )を受け取るならばその変化は可

逆的でありdT について連続的な温度分布をする過程を考えるとき式 b-13 をさらに発展

させて次のように積分式で示すことが出来る

(b-14)

式 b-14 で積分記号にが付されているのはCarnot Cycle のような経路を一巡することを

意味している

Carnot の熱機関の効率という着想から生まれた熱量とそれを持つ系の温度との比 QT に

重要な意味を見出したのは Rudolph Clausius で彼はこの比にエントロピーという名前を与

えたエントロピーには記号ΔS を一般に用いる

(b-15)

エントロピーは初めと終わりの状態がわかれば過程に関わらず定まるので状態関数であ

系 A と外界のエントロピー変化を考えるときそれが可逆的過程であるならばすべてを併

せた全体のエントロピー変化は初めと終わりに変化がないという意味でゼロであるすなわ

ち初めの状態を S(A1)とし次の状態を S(A2)とするならそれぞれのエントロピーを

ΔS(A1)ΔS(A2)としてこの間におけるエントロピーの変化量は次のように示される

(b-16)

<補遺> 68

T

dQdS

0T

dQ

ある一つの変化については次のように示される

(b-17)

ここで式 b-17 の S に付けられたdは微分量すなわちごく微小の変化量を意味し式 b-15

で定義されたエントロピーに用いられる一般的な記号Δと区別する

ところで式 b-10 の関係においてもし移動した熱量のすべてが仕事に変わらなければ

効率 e を表す熱量を用いた関係式と温度で表される関係式は等号で結ぶことができないそれ

はエネルギーのロスを意味し初めと終わりの状態が異なってしまうことを意味するすなわ

ち全過程が構成する一つのサイクルは可逆的でなくなる

不可逆過程での熱効率 ersquo は 大値を示す可逆的過程の熱効率 e より小さな値をとる

ee

したがって 大効率を与える式 b-8 と式 b-3 から

01221

2112

1

21

1

21

QTQT

QTQT

Q

QQ

T

TT

両辺を T1T2で割ると

02

2

1

1 T

Q

T

Q

これを式 b12 と同様に発展させれば式 b-14 についてサイクルの変化が可逆的過程の

場合と不可逆的過程の場合の両方を併せClausius の不等式と呼ばれる次の関係が成立する

(b-18)

式 b-18 の等号が成立するのはサイクルが可逆的な理想の場合に限られる

ある孤立系で状態 A1 から状態 A2 へは不可逆変化で進められ状態 A2 から再び状態 A1

に戻るとき可逆変化であるような閉じた状態変化を考える可逆系のエントロピー変化には

記号 Q を使い不可逆変化には Q を用いるとするとそれぞれ積分式を用いて状態 A1 から

状態 A2 へは

<補遺> 69

d prime

状態 A2 から状態 A1 に戻るときは

全体では

=d prime

+d

(b-19)

Clausius の不等式から

0

式(b-19)の第二項で反応を逆に進めるときには次のように書き改めることができる

=d

よって式(b-19)は次のように書き直すことができClausius の不等式とあわせると

d prime d

0

すなわち

d prime d

上式の右辺は式(b-16)を用いて表せば

d prime

∆S ∆

この状態変化を微小変化とするならば断熱変化の場合 dQ = 0 であるから

∆S ∆ dS 0

すなわち不可逆変化を含む断熱変化ではエントロピーは必ず増大する

<補遺> 70

T

QS

BA SSS

(b-20)

(次の<補遺>ギブス自由エネルギーも参照せよ)

本文 p26 へ戻る

ギブス自由エネルギー (本文 p28 27 行目参照)

エントロピーの考えを導入することによって不可逆的に状態変化が起きるときにはエン

トロピーの増大を引き起こすことを知ったこれによって目前で起きる現象について温度の

変化があるものであれないものであれまた圧力の変化があるものであってもエントロピー

の定義式によって可逆的な変化におけるエントロピーの変化量を計算することが可能である

(b-15)

しかしながらこれから起こる変化について我々がすでにあらかじめ知っている物理量を

用いて予測的にその状態変化が起きるかどうか知ることは必ずしも容易ではないその理由

は式 b-15 に示されたエントロピーΔS が系とその外界をあわせた全体のエントロピーを示

しているからであるすなわち関心のある系を系 A としその外界を系 B とすると全体

のエントロピーは次のように表せる

(c-1)

関心のある系 A のエントロピー変化を知るためには系 B のそれを知ればよいがそれは

いつも容易とは限らない系 A の性質だけで状態変化の方向を知るには別の観点が必要にな

るようだ

そこでもう一度状態変化が熱量 Q の移動によって起きることについて考えてみようエン

トロピーの補遺で議論したように熱量の移動が準静的過程により行われるときには変化は可

逆的に起こると考えたこのとき外界すなわち系 B から移動する熱量を Q1とし系 A から

0S

<補遺> 71

21 QQ

T

Q

T

QSB

21

T

QSS A

2

QH

T

HSS AA

AA STHST

のそれを Q2 と記号を当てたのでこれをそのまま使うことにすれば可逆的な過程では系 B

の熱量 Q1 はすなわち系 A から戻る Q2 に他ならないので両者には次の関係が成立するも

のとしてよい

(c-2)

したがって

(c-3)

と考えてよくこれによって式 c-1 を次のように書きなおすことが出来る

(c-4)

独立した系で圧力とその体積に変化がなく一定の条件の下で状態変化が起きるときエン

タルピーの考えを使ってすでにひとつの関係があることを導いている

本文(31)

そこで式 c-4 を系のエンタルピーΔHAによって書き改めれば

(c-5)

この両辺に-T をかけて式を書き直せば次の関係式が得られる

(c-6)

式 c-6 を見るときその右辺がマイナスの値ならば左辺のΔS はプラスの値をとることが

分かるすなわちエントロピーが増大すると見ることが出来るこれまでの過程で自然の現

象はエントロピーが増大する方向に進むとしてきたので関心のある状態変化について式 c-6

の右辺で計算される値がマイナスの値ならばその変化は起きるものと考えてよいことになる

だろうしかも右辺はすべて独立した系の状態量で示されていて我々が知りうる値で計算

<補遺> 72

TSHG

STSTHG

STHG

可能である

そこでこれを熱力学ポテンシャルを表すものとしてギブス自由エネルギーと呼ぶことに

するギブス自由エネルギーは記号 G が用いられ次のように定義される

(c-7)

ここで関心があるのは自由エネルギーの絶対値ではなく式 c-6 に示されたようにその変化量

に興味があるので式 c-7 から

(c-8)

温度が一定の条件の下で状態変化が起きることを考えるなら式 c-8 は次のように書くこと

ができる

(c-9)

ギブス自由エネルギーは式 c-9 の右辺がすべて状態量であるからこれも状態量の一つで

ある定圧定温の条件下で起きる変化ではすでに議論したようにΔGlt0 であれば状態

変化は自発的に起きるものと予測できる

つまり式 c-5 の第一項は系のエントロピーΔSAそのものであり第二項で示されるエンタ

ルピーは系 A の温度が一定に保たれているのであるから発熱する熱量として外界に吸収さ

れるものであってこれは外界のエントロピーの増大につながるものとして解釈されるした

がって化学反応のように一定の圧力と一定の温度の下で起きる変化について自由エネルギ

ー変化量はその状態変化が自発的に起きる傾向を示しているといってよい

本文 p28 へ戻る

  • はじめに
  • 目次
  • 電気エネルギー
    • 金属のイオン化
    • 電池
    • 水素の反応
    • 燃料電池
    • 化学反応と電気エネルギー
      • エネルギーと熱力学
        • エネルギー保存則
        • エンタルピー
        • エントロピー13
        • ギブス自由エネルギー
        • 電池における化学反応のギブス自由エネルギー13
        • 理想気体の状態方程式
        • 理想溶液のギブス自由エネルギー
        • 膜電位
          • 水素イオン濃度測定
            • 化学反応の一般的な式
            • pHの定義とその目盛り
            • pH標準液
            • 銀塩化銀参照電極
            • 実用的なpH測定
            • ガラス電極
            • 電極の校正
            • 金属イオンに対応するイオン選択電極
              • 文献
              • 補遺
                • 状態関数
                • エンタルピー
                • エントロピー
                • ギブス自由エネルギー
Page 67: イオン選択電極i イオン選択電極 Ion Selective Electrode (ISE) を理解する ・ pHを測定する ・ NaやKなどのイオン濃度を測定する 神戸大学医学部保健学科

<補遺> 64

1Q

We

また式 a-8 からオートクレーブ内で起こるような体積変化のない過程ではこの値が内

部エネルギーの変化量で与えられることが明らかである

本文 p24 へ戻る

エントロピー (本文 p26 17 行目参照)

エントロピーは次のような思考実験から発想された仮想的な状態関数である

理想気体よりなる系 A が温度 T2で熱平衡状態にあり温度 T1の外部の熱源と接しているこ

とを想定する系 A の外部を系 B と呼ぶことにするT1は T2に対して無限小だけ高い温度と

する

系 A が系 B に対して温度圧力について平衡を保ちながら緩慢に系 B より熱量 Q1を受け取

る過程を考える(このような過程を準静的過程と呼ぶ)これによって系 A が熱量 Q1を得て膨

張するとき系 B に対して仕事をする続いて系 A から熱量 Q2が系 B に戻ることを考える

想定されるこの変化が可逆的であれば系 A と系 B を併せた全体は元の状態に戻る蒸気機

関に関するこのような研究が Nicolas Carnot によってなされたのは1824 年のことであった

ここに想定されたサイクルに対する Carnot の効率 e は移動した熱量となされた仕事によ

って定義され次の式で表される

(b-1)

<補遺> 65

理想気体では内部エネルギーU の変化ΔU はゼロと考えるしたがって熱力学の第一法

則を表す式(本文中の式25)から次の関係が示される

0=Δminus=Δ WQU

WQ Δ= (b-2)

これによってCarnot Cycleの効率eはQ2lt0 として次のように書き改めることが出来る

1

21

QQQe +

= (b-3)

ところで気体の状態方程式から1 モルの気体について次のような関係が示される

RTV

P

P1=

V = RTV (b-4)

V 式 b-4 の両辺に体積の微少変化量ΔV をかけて

(b-5)

これを体積Vについてその変化をV1からV2までとして積分するならば次式が得られる

VV

RTVP Δ=Δ 1V V

V

intint = 2

1

2

1

1V

V

V

VdV

VRTPdV

1V2V

11 lnRTW =

(b-6)

Q1の熱量によって起こる膨張がV1よりV2までとし圧力P温度T1の下でなされるその仕事

量をW1とするならそれは式b-6 の右辺によって示されるすなわち

(b-7)

VV

1

2lnVVRT=

V V

VV

V

V2int V2 intV1 V1

<補遺> 66

またQ2の熱量の移動が圧力P温度T2の下で起きこれによって系Aが可逆的に圧縮され

るなら体積変化はV2よりV1まで起こりその仕事量をW2で示すと次式のように表される

(b-8)

1

22

2

122 lnln

VVRT

VVRTW minus==VV

VV

Q1=W1Q2=W2の関係から式b-7 およびb-8 を用いてCarnot Cycleの効率eを表す式b-3

を書き改めると温度のみの関係式として次のように表される

1

21

TTTe minus

= (b-9)

ここでサイクルが可逆的過程であると想定するならば式 b-3 と式 b-9 から

1

21

1

21

TTT

QQQe minus

=+

= (b-10)

これから

12112111 QTQTQTQT minus=+ (b-11)

整理すると

02

2

1

1 =+TQ

TQ (b-12)

この考えをさらに発展させ系A

と系Bの間に数多くの系を挿入すること

にしてそれらの系を同様に熱源として

T1T2Tnと考えるこれによっ

て熱の受け渡しが系Aから系Bに至り

再び系Aにもどるサイクル過程に数多

くの寄り道の過程を加えることになる

熱量の移動に関して上の場合と同じく

準静的過程で行われると考えるこの

サイクル全過程について初めと終わ

<補遺> 67

n

i i

i

T

Q

1

0

0T

dQ

T

QS

T

dQASAS )()( 12

りが同じ状態になる可逆的な過程であるなら式 b-12 を拡大的に考えることになってそれ

は次式で表される

(b-13)

式 b-13 には重要な関数が現れるすなわち熱量と温度の比QT である

もし一つの系が無限小だけ温度の高い(dT )外界から温度圧力など平衡を保ちなが

ら極めて緩慢な過程(準静的過程)で無限小の熱量(dQ )を受け取るならばその変化は可

逆的でありdT について連続的な温度分布をする過程を考えるとき式 b-13 をさらに発展

させて次のように積分式で示すことが出来る

(b-14)

式 b-14 で積分記号にが付されているのはCarnot Cycle のような経路を一巡することを

意味している

Carnot の熱機関の効率という着想から生まれた熱量とそれを持つ系の温度との比 QT に

重要な意味を見出したのは Rudolph Clausius で彼はこの比にエントロピーという名前を与

えたエントロピーには記号ΔS を一般に用いる

(b-15)

エントロピーは初めと終わりの状態がわかれば過程に関わらず定まるので状態関数であ

系 A と外界のエントロピー変化を考えるときそれが可逆的過程であるならばすべてを併

せた全体のエントロピー変化は初めと終わりに変化がないという意味でゼロであるすなわ

ち初めの状態を S(A1)とし次の状態を S(A2)とするならそれぞれのエントロピーを

ΔS(A1)ΔS(A2)としてこの間におけるエントロピーの変化量は次のように示される

(b-16)

<補遺> 68

T

dQdS

0T

dQ

ある一つの変化については次のように示される

(b-17)

ここで式 b-17 の S に付けられたdは微分量すなわちごく微小の変化量を意味し式 b-15

で定義されたエントロピーに用いられる一般的な記号Δと区別する

ところで式 b-10 の関係においてもし移動した熱量のすべてが仕事に変わらなければ

効率 e を表す熱量を用いた関係式と温度で表される関係式は等号で結ぶことができないそれ

はエネルギーのロスを意味し初めと終わりの状態が異なってしまうことを意味するすなわ

ち全過程が構成する一つのサイクルは可逆的でなくなる

不可逆過程での熱効率 ersquo は 大値を示す可逆的過程の熱効率 e より小さな値をとる

ee

したがって 大効率を与える式 b-8 と式 b-3 から

01221

2112

1

21

1

21

QTQT

QTQT

Q

QQ

T

TT

両辺を T1T2で割ると

02

2

1

1 T

Q

T

Q

これを式 b12 と同様に発展させれば式 b-14 についてサイクルの変化が可逆的過程の

場合と不可逆的過程の場合の両方を併せClausius の不等式と呼ばれる次の関係が成立する

(b-18)

式 b-18 の等号が成立するのはサイクルが可逆的な理想の場合に限られる

ある孤立系で状態 A1 から状態 A2 へは不可逆変化で進められ状態 A2 から再び状態 A1

に戻るとき可逆変化であるような閉じた状態変化を考える可逆系のエントロピー変化には

記号 Q を使い不可逆変化には Q を用いるとするとそれぞれ積分式を用いて状態 A1 から

状態 A2 へは

<補遺> 69

d prime

状態 A2 から状態 A1 に戻るときは

全体では

=d prime

+d

(b-19)

Clausius の不等式から

0

式(b-19)の第二項で反応を逆に進めるときには次のように書き改めることができる

=d

よって式(b-19)は次のように書き直すことができClausius の不等式とあわせると

d prime d

0

すなわち

d prime d

上式の右辺は式(b-16)を用いて表せば

d prime

∆S ∆

この状態変化を微小変化とするならば断熱変化の場合 dQ = 0 であるから

∆S ∆ dS 0

すなわち不可逆変化を含む断熱変化ではエントロピーは必ず増大する

<補遺> 70

T

QS

BA SSS

(b-20)

(次の<補遺>ギブス自由エネルギーも参照せよ)

本文 p26 へ戻る

ギブス自由エネルギー (本文 p28 27 行目参照)

エントロピーの考えを導入することによって不可逆的に状態変化が起きるときにはエン

トロピーの増大を引き起こすことを知ったこれによって目前で起きる現象について温度の

変化があるものであれないものであれまた圧力の変化があるものであってもエントロピー

の定義式によって可逆的な変化におけるエントロピーの変化量を計算することが可能である

(b-15)

しかしながらこれから起こる変化について我々がすでにあらかじめ知っている物理量を

用いて予測的にその状態変化が起きるかどうか知ることは必ずしも容易ではないその理由

は式 b-15 に示されたエントロピーΔS が系とその外界をあわせた全体のエントロピーを示

しているからであるすなわち関心のある系を系 A としその外界を系 B とすると全体

のエントロピーは次のように表せる

(c-1)

関心のある系 A のエントロピー変化を知るためには系 B のそれを知ればよいがそれは

いつも容易とは限らない系 A の性質だけで状態変化の方向を知るには別の観点が必要にな

るようだ

そこでもう一度状態変化が熱量 Q の移動によって起きることについて考えてみようエン

トロピーの補遺で議論したように熱量の移動が準静的過程により行われるときには変化は可

逆的に起こると考えたこのとき外界すなわち系 B から移動する熱量を Q1とし系 A から

0S

<補遺> 71

21 QQ

T

Q

T

QSB

21

T

QSS A

2

QH

T

HSS AA

AA STHST

のそれを Q2 と記号を当てたのでこれをそのまま使うことにすれば可逆的な過程では系 B

の熱量 Q1 はすなわち系 A から戻る Q2 に他ならないので両者には次の関係が成立するも

のとしてよい

(c-2)

したがって

(c-3)

と考えてよくこれによって式 c-1 を次のように書きなおすことが出来る

(c-4)

独立した系で圧力とその体積に変化がなく一定の条件の下で状態変化が起きるときエン

タルピーの考えを使ってすでにひとつの関係があることを導いている

本文(31)

そこで式 c-4 を系のエンタルピーΔHAによって書き改めれば

(c-5)

この両辺に-T をかけて式を書き直せば次の関係式が得られる

(c-6)

式 c-6 を見るときその右辺がマイナスの値ならば左辺のΔS はプラスの値をとることが

分かるすなわちエントロピーが増大すると見ることが出来るこれまでの過程で自然の現

象はエントロピーが増大する方向に進むとしてきたので関心のある状態変化について式 c-6

の右辺で計算される値がマイナスの値ならばその変化は起きるものと考えてよいことになる

だろうしかも右辺はすべて独立した系の状態量で示されていて我々が知りうる値で計算

<補遺> 72

TSHG

STSTHG

STHG

可能である

そこでこれを熱力学ポテンシャルを表すものとしてギブス自由エネルギーと呼ぶことに

するギブス自由エネルギーは記号 G が用いられ次のように定義される

(c-7)

ここで関心があるのは自由エネルギーの絶対値ではなく式 c-6 に示されたようにその変化量

に興味があるので式 c-7 から

(c-8)

温度が一定の条件の下で状態変化が起きることを考えるなら式 c-8 は次のように書くこと

ができる

(c-9)

ギブス自由エネルギーは式 c-9 の右辺がすべて状態量であるからこれも状態量の一つで

ある定圧定温の条件下で起きる変化ではすでに議論したようにΔGlt0 であれば状態

変化は自発的に起きるものと予測できる

つまり式 c-5 の第一項は系のエントロピーΔSAそのものであり第二項で示されるエンタ

ルピーは系 A の温度が一定に保たれているのであるから発熱する熱量として外界に吸収さ

れるものであってこれは外界のエントロピーの増大につながるものとして解釈されるした

がって化学反応のように一定の圧力と一定の温度の下で起きる変化について自由エネルギ

ー変化量はその状態変化が自発的に起きる傾向を示しているといってよい

本文 p28 へ戻る

  • はじめに
  • 目次
  • 電気エネルギー
    • 金属のイオン化
    • 電池
    • 水素の反応
    • 燃料電池
    • 化学反応と電気エネルギー
      • エネルギーと熱力学
        • エネルギー保存則
        • エンタルピー
        • エントロピー13
        • ギブス自由エネルギー
        • 電池における化学反応のギブス自由エネルギー13
        • 理想気体の状態方程式
        • 理想溶液のギブス自由エネルギー
        • 膜電位
          • 水素イオン濃度測定
            • 化学反応の一般的な式
            • pHの定義とその目盛り
            • pH標準液
            • 銀塩化銀参照電極
            • 実用的なpH測定
            • ガラス電極
            • 電極の校正
            • 金属イオンに対応するイオン選択電極
              • 文献
              • 補遺
                • 状態関数
                • エンタルピー
                • エントロピー
                • ギブス自由エネルギー
Page 68: イオン選択電極i イオン選択電極 Ion Selective Electrode (ISE) を理解する ・ pHを測定する ・ NaやKなどのイオン濃度を測定する 神戸大学医学部保健学科

<補遺> 65

理想気体では内部エネルギーU の変化ΔU はゼロと考えるしたがって熱力学の第一法

則を表す式(本文中の式25)から次の関係が示される

0=Δminus=Δ WQU

WQ Δ= (b-2)

これによってCarnot Cycleの効率eはQ2lt0 として次のように書き改めることが出来る

1

21

QQQe +

= (b-3)

ところで気体の状態方程式から1 モルの気体について次のような関係が示される

RTV

P

P1=

V = RTV (b-4)

V 式 b-4 の両辺に体積の微少変化量ΔV をかけて

(b-5)

これを体積Vについてその変化をV1からV2までとして積分するならば次式が得られる

VV

RTVP Δ=Δ 1V V

V

intint = 2

1

2

1

1V

V

V

VdV

VRTPdV

1V2V

11 lnRTW =

(b-6)

Q1の熱量によって起こる膨張がV1よりV2までとし圧力P温度T1の下でなされるその仕事

量をW1とするならそれは式b-6 の右辺によって示されるすなわち

(b-7)

VV

1

2lnVVRT=

V V

VV

V

V2int V2 intV1 V1

<補遺> 66

またQ2の熱量の移動が圧力P温度T2の下で起きこれによって系Aが可逆的に圧縮され

るなら体積変化はV2よりV1まで起こりその仕事量をW2で示すと次式のように表される

(b-8)

1

22

2

122 lnln

VVRT

VVRTW minus==VV

VV

Q1=W1Q2=W2の関係から式b-7 およびb-8 を用いてCarnot Cycleの効率eを表す式b-3

を書き改めると温度のみの関係式として次のように表される

1

21

TTTe minus

= (b-9)

ここでサイクルが可逆的過程であると想定するならば式 b-3 と式 b-9 から

1

21

1

21

TTT

QQQe minus

=+

= (b-10)

これから

12112111 QTQTQTQT minus=+ (b-11)

整理すると

02

2

1

1 =+TQ

TQ (b-12)

この考えをさらに発展させ系A

と系Bの間に数多くの系を挿入すること

にしてそれらの系を同様に熱源として

T1T2Tnと考えるこれによっ

て熱の受け渡しが系Aから系Bに至り

再び系Aにもどるサイクル過程に数多

くの寄り道の過程を加えることになる

熱量の移動に関して上の場合と同じく

準静的過程で行われると考えるこの

サイクル全過程について初めと終わ

<補遺> 67

n

i i

i

T

Q

1

0

0T

dQ

T

QS

T

dQASAS )()( 12

りが同じ状態になる可逆的な過程であるなら式 b-12 を拡大的に考えることになってそれ

は次式で表される

(b-13)

式 b-13 には重要な関数が現れるすなわち熱量と温度の比QT である

もし一つの系が無限小だけ温度の高い(dT )外界から温度圧力など平衡を保ちなが

ら極めて緩慢な過程(準静的過程)で無限小の熱量(dQ )を受け取るならばその変化は可

逆的でありdT について連続的な温度分布をする過程を考えるとき式 b-13 をさらに発展

させて次のように積分式で示すことが出来る

(b-14)

式 b-14 で積分記号にが付されているのはCarnot Cycle のような経路を一巡することを

意味している

Carnot の熱機関の効率という着想から生まれた熱量とそれを持つ系の温度との比 QT に

重要な意味を見出したのは Rudolph Clausius で彼はこの比にエントロピーという名前を与

えたエントロピーには記号ΔS を一般に用いる

(b-15)

エントロピーは初めと終わりの状態がわかれば過程に関わらず定まるので状態関数であ

系 A と外界のエントロピー変化を考えるときそれが可逆的過程であるならばすべてを併

せた全体のエントロピー変化は初めと終わりに変化がないという意味でゼロであるすなわ

ち初めの状態を S(A1)とし次の状態を S(A2)とするならそれぞれのエントロピーを

ΔS(A1)ΔS(A2)としてこの間におけるエントロピーの変化量は次のように示される

(b-16)

<補遺> 68

T

dQdS

0T

dQ

ある一つの変化については次のように示される

(b-17)

ここで式 b-17 の S に付けられたdは微分量すなわちごく微小の変化量を意味し式 b-15

で定義されたエントロピーに用いられる一般的な記号Δと区別する

ところで式 b-10 の関係においてもし移動した熱量のすべてが仕事に変わらなければ

効率 e を表す熱量を用いた関係式と温度で表される関係式は等号で結ぶことができないそれ

はエネルギーのロスを意味し初めと終わりの状態が異なってしまうことを意味するすなわ

ち全過程が構成する一つのサイクルは可逆的でなくなる

不可逆過程での熱効率 ersquo は 大値を示す可逆的過程の熱効率 e より小さな値をとる

ee

したがって 大効率を与える式 b-8 と式 b-3 から

01221

2112

1

21

1

21

QTQT

QTQT

Q

QQ

T

TT

両辺を T1T2で割ると

02

2

1

1 T

Q

T

Q

これを式 b12 と同様に発展させれば式 b-14 についてサイクルの変化が可逆的過程の

場合と不可逆的過程の場合の両方を併せClausius の不等式と呼ばれる次の関係が成立する

(b-18)

式 b-18 の等号が成立するのはサイクルが可逆的な理想の場合に限られる

ある孤立系で状態 A1 から状態 A2 へは不可逆変化で進められ状態 A2 から再び状態 A1

に戻るとき可逆変化であるような閉じた状態変化を考える可逆系のエントロピー変化には

記号 Q を使い不可逆変化には Q を用いるとするとそれぞれ積分式を用いて状態 A1 から

状態 A2 へは

<補遺> 69

d prime

状態 A2 から状態 A1 に戻るときは

全体では

=d prime

+d

(b-19)

Clausius の不等式から

0

式(b-19)の第二項で反応を逆に進めるときには次のように書き改めることができる

=d

よって式(b-19)は次のように書き直すことができClausius の不等式とあわせると

d prime d

0

すなわち

d prime d

上式の右辺は式(b-16)を用いて表せば

d prime

∆S ∆

この状態変化を微小変化とするならば断熱変化の場合 dQ = 0 であるから

∆S ∆ dS 0

すなわち不可逆変化を含む断熱変化ではエントロピーは必ず増大する

<補遺> 70

T

QS

BA SSS

(b-20)

(次の<補遺>ギブス自由エネルギーも参照せよ)

本文 p26 へ戻る

ギブス自由エネルギー (本文 p28 27 行目参照)

エントロピーの考えを導入することによって不可逆的に状態変化が起きるときにはエン

トロピーの増大を引き起こすことを知ったこれによって目前で起きる現象について温度の

変化があるものであれないものであれまた圧力の変化があるものであってもエントロピー

の定義式によって可逆的な変化におけるエントロピーの変化量を計算することが可能である

(b-15)

しかしながらこれから起こる変化について我々がすでにあらかじめ知っている物理量を

用いて予測的にその状態変化が起きるかどうか知ることは必ずしも容易ではないその理由

は式 b-15 に示されたエントロピーΔS が系とその外界をあわせた全体のエントロピーを示

しているからであるすなわち関心のある系を系 A としその外界を系 B とすると全体

のエントロピーは次のように表せる

(c-1)

関心のある系 A のエントロピー変化を知るためには系 B のそれを知ればよいがそれは

いつも容易とは限らない系 A の性質だけで状態変化の方向を知るには別の観点が必要にな

るようだ

そこでもう一度状態変化が熱量 Q の移動によって起きることについて考えてみようエン

トロピーの補遺で議論したように熱量の移動が準静的過程により行われるときには変化は可

逆的に起こると考えたこのとき外界すなわち系 B から移動する熱量を Q1とし系 A から

0S

<補遺> 71

21 QQ

T

Q

T

QSB

21

T

QSS A

2

QH

T

HSS AA

AA STHST

のそれを Q2 と記号を当てたのでこれをそのまま使うことにすれば可逆的な過程では系 B

の熱量 Q1 はすなわち系 A から戻る Q2 に他ならないので両者には次の関係が成立するも

のとしてよい

(c-2)

したがって

(c-3)

と考えてよくこれによって式 c-1 を次のように書きなおすことが出来る

(c-4)

独立した系で圧力とその体積に変化がなく一定の条件の下で状態変化が起きるときエン

タルピーの考えを使ってすでにひとつの関係があることを導いている

本文(31)

そこで式 c-4 を系のエンタルピーΔHAによって書き改めれば

(c-5)

この両辺に-T をかけて式を書き直せば次の関係式が得られる

(c-6)

式 c-6 を見るときその右辺がマイナスの値ならば左辺のΔS はプラスの値をとることが

分かるすなわちエントロピーが増大すると見ることが出来るこれまでの過程で自然の現

象はエントロピーが増大する方向に進むとしてきたので関心のある状態変化について式 c-6

の右辺で計算される値がマイナスの値ならばその変化は起きるものと考えてよいことになる

だろうしかも右辺はすべて独立した系の状態量で示されていて我々が知りうる値で計算

<補遺> 72

TSHG

STSTHG

STHG

可能である

そこでこれを熱力学ポテンシャルを表すものとしてギブス自由エネルギーと呼ぶことに

するギブス自由エネルギーは記号 G が用いられ次のように定義される

(c-7)

ここで関心があるのは自由エネルギーの絶対値ではなく式 c-6 に示されたようにその変化量

に興味があるので式 c-7 から

(c-8)

温度が一定の条件の下で状態変化が起きることを考えるなら式 c-8 は次のように書くこと

ができる

(c-9)

ギブス自由エネルギーは式 c-9 の右辺がすべて状態量であるからこれも状態量の一つで

ある定圧定温の条件下で起きる変化ではすでに議論したようにΔGlt0 であれば状態

変化は自発的に起きるものと予測できる

つまり式 c-5 の第一項は系のエントロピーΔSAそのものであり第二項で示されるエンタ

ルピーは系 A の温度が一定に保たれているのであるから発熱する熱量として外界に吸収さ

れるものであってこれは外界のエントロピーの増大につながるものとして解釈されるした

がって化学反応のように一定の圧力と一定の温度の下で起きる変化について自由エネルギ

ー変化量はその状態変化が自発的に起きる傾向を示しているといってよい

本文 p28 へ戻る

  • はじめに
  • 目次
  • 電気エネルギー
    • 金属のイオン化
    • 電池
    • 水素の反応
    • 燃料電池
    • 化学反応と電気エネルギー
      • エネルギーと熱力学
        • エネルギー保存則
        • エンタルピー
        • エントロピー13
        • ギブス自由エネルギー
        • 電池における化学反応のギブス自由エネルギー13
        • 理想気体の状態方程式
        • 理想溶液のギブス自由エネルギー
        • 膜電位
          • 水素イオン濃度測定
            • 化学反応の一般的な式
            • pHの定義とその目盛り
            • pH標準液
            • 銀塩化銀参照電極
            • 実用的なpH測定
            • ガラス電極
            • 電極の校正
            • 金属イオンに対応するイオン選択電極
              • 文献
              • 補遺
                • 状態関数
                • エンタルピー
                • エントロピー
                • ギブス自由エネルギー
Page 69: イオン選択電極i イオン選択電極 Ion Selective Electrode (ISE) を理解する ・ pHを測定する ・ NaやKなどのイオン濃度を測定する 神戸大学医学部保健学科

<補遺> 66

またQ2の熱量の移動が圧力P温度T2の下で起きこれによって系Aが可逆的に圧縮され

るなら体積変化はV2よりV1まで起こりその仕事量をW2で示すと次式のように表される

(b-8)

1

22

2

122 lnln

VVRT

VVRTW minus==VV

VV

Q1=W1Q2=W2の関係から式b-7 およびb-8 を用いてCarnot Cycleの効率eを表す式b-3

を書き改めると温度のみの関係式として次のように表される

1

21

TTTe minus

= (b-9)

ここでサイクルが可逆的過程であると想定するならば式 b-3 と式 b-9 から

1

21

1

21

TTT

QQQe minus

=+

= (b-10)

これから

12112111 QTQTQTQT minus=+ (b-11)

整理すると

02

2

1

1 =+TQ

TQ (b-12)

この考えをさらに発展させ系A

と系Bの間に数多くの系を挿入すること

にしてそれらの系を同様に熱源として

T1T2Tnと考えるこれによっ

て熱の受け渡しが系Aから系Bに至り

再び系Aにもどるサイクル過程に数多

くの寄り道の過程を加えることになる

熱量の移動に関して上の場合と同じく

準静的過程で行われると考えるこの

サイクル全過程について初めと終わ

<補遺> 67

n

i i

i

T

Q

1

0

0T

dQ

T

QS

T

dQASAS )()( 12

りが同じ状態になる可逆的な過程であるなら式 b-12 を拡大的に考えることになってそれ

は次式で表される

(b-13)

式 b-13 には重要な関数が現れるすなわち熱量と温度の比QT である

もし一つの系が無限小だけ温度の高い(dT )外界から温度圧力など平衡を保ちなが

ら極めて緩慢な過程(準静的過程)で無限小の熱量(dQ )を受け取るならばその変化は可

逆的でありdT について連続的な温度分布をする過程を考えるとき式 b-13 をさらに発展

させて次のように積分式で示すことが出来る

(b-14)

式 b-14 で積分記号にが付されているのはCarnot Cycle のような経路を一巡することを

意味している

Carnot の熱機関の効率という着想から生まれた熱量とそれを持つ系の温度との比 QT に

重要な意味を見出したのは Rudolph Clausius で彼はこの比にエントロピーという名前を与

えたエントロピーには記号ΔS を一般に用いる

(b-15)

エントロピーは初めと終わりの状態がわかれば過程に関わらず定まるので状態関数であ

系 A と外界のエントロピー変化を考えるときそれが可逆的過程であるならばすべてを併

せた全体のエントロピー変化は初めと終わりに変化がないという意味でゼロであるすなわ

ち初めの状態を S(A1)とし次の状態を S(A2)とするならそれぞれのエントロピーを

ΔS(A1)ΔS(A2)としてこの間におけるエントロピーの変化量は次のように示される

(b-16)

<補遺> 68

T

dQdS

0T

dQ

ある一つの変化については次のように示される

(b-17)

ここで式 b-17 の S に付けられたdは微分量すなわちごく微小の変化量を意味し式 b-15

で定義されたエントロピーに用いられる一般的な記号Δと区別する

ところで式 b-10 の関係においてもし移動した熱量のすべてが仕事に変わらなければ

効率 e を表す熱量を用いた関係式と温度で表される関係式は等号で結ぶことができないそれ

はエネルギーのロスを意味し初めと終わりの状態が異なってしまうことを意味するすなわ

ち全過程が構成する一つのサイクルは可逆的でなくなる

不可逆過程での熱効率 ersquo は 大値を示す可逆的過程の熱効率 e より小さな値をとる

ee

したがって 大効率を与える式 b-8 と式 b-3 から

01221

2112

1

21

1

21

QTQT

QTQT

Q

QQ

T

TT

両辺を T1T2で割ると

02

2

1

1 T

Q

T

Q

これを式 b12 と同様に発展させれば式 b-14 についてサイクルの変化が可逆的過程の

場合と不可逆的過程の場合の両方を併せClausius の不等式と呼ばれる次の関係が成立する

(b-18)

式 b-18 の等号が成立するのはサイクルが可逆的な理想の場合に限られる

ある孤立系で状態 A1 から状態 A2 へは不可逆変化で進められ状態 A2 から再び状態 A1

に戻るとき可逆変化であるような閉じた状態変化を考える可逆系のエントロピー変化には

記号 Q を使い不可逆変化には Q を用いるとするとそれぞれ積分式を用いて状態 A1 から

状態 A2 へは

<補遺> 69

d prime

状態 A2 から状態 A1 に戻るときは

全体では

=d prime

+d

(b-19)

Clausius の不等式から

0

式(b-19)の第二項で反応を逆に進めるときには次のように書き改めることができる

=d

よって式(b-19)は次のように書き直すことができClausius の不等式とあわせると

d prime d

0

すなわち

d prime d

上式の右辺は式(b-16)を用いて表せば

d prime

∆S ∆

この状態変化を微小変化とするならば断熱変化の場合 dQ = 0 であるから

∆S ∆ dS 0

すなわち不可逆変化を含む断熱変化ではエントロピーは必ず増大する

<補遺> 70

T

QS

BA SSS

(b-20)

(次の<補遺>ギブス自由エネルギーも参照せよ)

本文 p26 へ戻る

ギブス自由エネルギー (本文 p28 27 行目参照)

エントロピーの考えを導入することによって不可逆的に状態変化が起きるときにはエン

トロピーの増大を引き起こすことを知ったこれによって目前で起きる現象について温度の

変化があるものであれないものであれまた圧力の変化があるものであってもエントロピー

の定義式によって可逆的な変化におけるエントロピーの変化量を計算することが可能である

(b-15)

しかしながらこれから起こる変化について我々がすでにあらかじめ知っている物理量を

用いて予測的にその状態変化が起きるかどうか知ることは必ずしも容易ではないその理由

は式 b-15 に示されたエントロピーΔS が系とその外界をあわせた全体のエントロピーを示

しているからであるすなわち関心のある系を系 A としその外界を系 B とすると全体

のエントロピーは次のように表せる

(c-1)

関心のある系 A のエントロピー変化を知るためには系 B のそれを知ればよいがそれは

いつも容易とは限らない系 A の性質だけで状態変化の方向を知るには別の観点が必要にな

るようだ

そこでもう一度状態変化が熱量 Q の移動によって起きることについて考えてみようエン

トロピーの補遺で議論したように熱量の移動が準静的過程により行われるときには変化は可

逆的に起こると考えたこのとき外界すなわち系 B から移動する熱量を Q1とし系 A から

0S

<補遺> 71

21 QQ

T

Q

T

QSB

21

T

QSS A

2

QH

T

HSS AA

AA STHST

のそれを Q2 と記号を当てたのでこれをそのまま使うことにすれば可逆的な過程では系 B

の熱量 Q1 はすなわち系 A から戻る Q2 に他ならないので両者には次の関係が成立するも

のとしてよい

(c-2)

したがって

(c-3)

と考えてよくこれによって式 c-1 を次のように書きなおすことが出来る

(c-4)

独立した系で圧力とその体積に変化がなく一定の条件の下で状態変化が起きるときエン

タルピーの考えを使ってすでにひとつの関係があることを導いている

本文(31)

そこで式 c-4 を系のエンタルピーΔHAによって書き改めれば

(c-5)

この両辺に-T をかけて式を書き直せば次の関係式が得られる

(c-6)

式 c-6 を見るときその右辺がマイナスの値ならば左辺のΔS はプラスの値をとることが

分かるすなわちエントロピーが増大すると見ることが出来るこれまでの過程で自然の現

象はエントロピーが増大する方向に進むとしてきたので関心のある状態変化について式 c-6

の右辺で計算される値がマイナスの値ならばその変化は起きるものと考えてよいことになる

だろうしかも右辺はすべて独立した系の状態量で示されていて我々が知りうる値で計算

<補遺> 72

TSHG

STSTHG

STHG

可能である

そこでこれを熱力学ポテンシャルを表すものとしてギブス自由エネルギーと呼ぶことに

するギブス自由エネルギーは記号 G が用いられ次のように定義される

(c-7)

ここで関心があるのは自由エネルギーの絶対値ではなく式 c-6 に示されたようにその変化量

に興味があるので式 c-7 から

(c-8)

温度が一定の条件の下で状態変化が起きることを考えるなら式 c-8 は次のように書くこと

ができる

(c-9)

ギブス自由エネルギーは式 c-9 の右辺がすべて状態量であるからこれも状態量の一つで

ある定圧定温の条件下で起きる変化ではすでに議論したようにΔGlt0 であれば状態

変化は自発的に起きるものと予測できる

つまり式 c-5 の第一項は系のエントロピーΔSAそのものであり第二項で示されるエンタ

ルピーは系 A の温度が一定に保たれているのであるから発熱する熱量として外界に吸収さ

れるものであってこれは外界のエントロピーの増大につながるものとして解釈されるした

がって化学反応のように一定の圧力と一定の温度の下で起きる変化について自由エネルギ

ー変化量はその状態変化が自発的に起きる傾向を示しているといってよい

本文 p28 へ戻る

  • はじめに
  • 目次
  • 電気エネルギー
    • 金属のイオン化
    • 電池
    • 水素の反応
    • 燃料電池
    • 化学反応と電気エネルギー
      • エネルギーと熱力学
        • エネルギー保存則
        • エンタルピー
        • エントロピー13
        • ギブス自由エネルギー
        • 電池における化学反応のギブス自由エネルギー13
        • 理想気体の状態方程式
        • 理想溶液のギブス自由エネルギー
        • 膜電位
          • 水素イオン濃度測定
            • 化学反応の一般的な式
            • pHの定義とその目盛り
            • pH標準液
            • 銀塩化銀参照電極
            • 実用的なpH測定
            • ガラス電極
            • 電極の校正
            • 金属イオンに対応するイオン選択電極
              • 文献
              • 補遺
                • 状態関数
                • エンタルピー
                • エントロピー
                • ギブス自由エネルギー
Page 70: イオン選択電極i イオン選択電極 Ion Selective Electrode (ISE) を理解する ・ pHを測定する ・ NaやKなどのイオン濃度を測定する 神戸大学医学部保健学科

<補遺> 67

n

i i

i

T

Q

1

0

0T

dQ

T

QS

T

dQASAS )()( 12

りが同じ状態になる可逆的な過程であるなら式 b-12 を拡大的に考えることになってそれ

は次式で表される

(b-13)

式 b-13 には重要な関数が現れるすなわち熱量と温度の比QT である

もし一つの系が無限小だけ温度の高い(dT )外界から温度圧力など平衡を保ちなが

ら極めて緩慢な過程(準静的過程)で無限小の熱量(dQ )を受け取るならばその変化は可

逆的でありdT について連続的な温度分布をする過程を考えるとき式 b-13 をさらに発展

させて次のように積分式で示すことが出来る

(b-14)

式 b-14 で積分記号にが付されているのはCarnot Cycle のような経路を一巡することを

意味している

Carnot の熱機関の効率という着想から生まれた熱量とそれを持つ系の温度との比 QT に

重要な意味を見出したのは Rudolph Clausius で彼はこの比にエントロピーという名前を与

えたエントロピーには記号ΔS を一般に用いる

(b-15)

エントロピーは初めと終わりの状態がわかれば過程に関わらず定まるので状態関数であ

系 A と外界のエントロピー変化を考えるときそれが可逆的過程であるならばすべてを併

せた全体のエントロピー変化は初めと終わりに変化がないという意味でゼロであるすなわ

ち初めの状態を S(A1)とし次の状態を S(A2)とするならそれぞれのエントロピーを

ΔS(A1)ΔS(A2)としてこの間におけるエントロピーの変化量は次のように示される

(b-16)

<補遺> 68

T

dQdS

0T

dQ

ある一つの変化については次のように示される

(b-17)

ここで式 b-17 の S に付けられたdは微分量すなわちごく微小の変化量を意味し式 b-15

で定義されたエントロピーに用いられる一般的な記号Δと区別する

ところで式 b-10 の関係においてもし移動した熱量のすべてが仕事に変わらなければ

効率 e を表す熱量を用いた関係式と温度で表される関係式は等号で結ぶことができないそれ

はエネルギーのロスを意味し初めと終わりの状態が異なってしまうことを意味するすなわ

ち全過程が構成する一つのサイクルは可逆的でなくなる

不可逆過程での熱効率 ersquo は 大値を示す可逆的過程の熱効率 e より小さな値をとる

ee

したがって 大効率を与える式 b-8 と式 b-3 から

01221

2112

1

21

1

21

QTQT

QTQT

Q

QQ

T

TT

両辺を T1T2で割ると

02

2

1

1 T

Q

T

Q

これを式 b12 と同様に発展させれば式 b-14 についてサイクルの変化が可逆的過程の

場合と不可逆的過程の場合の両方を併せClausius の不等式と呼ばれる次の関係が成立する

(b-18)

式 b-18 の等号が成立するのはサイクルが可逆的な理想の場合に限られる

ある孤立系で状態 A1 から状態 A2 へは不可逆変化で進められ状態 A2 から再び状態 A1

に戻るとき可逆変化であるような閉じた状態変化を考える可逆系のエントロピー変化には

記号 Q を使い不可逆変化には Q を用いるとするとそれぞれ積分式を用いて状態 A1 から

状態 A2 へは

<補遺> 69

d prime

状態 A2 から状態 A1 に戻るときは

全体では

=d prime

+d

(b-19)

Clausius の不等式から

0

式(b-19)の第二項で反応を逆に進めるときには次のように書き改めることができる

=d

よって式(b-19)は次のように書き直すことができClausius の不等式とあわせると

d prime d

0

すなわち

d prime d

上式の右辺は式(b-16)を用いて表せば

d prime

∆S ∆

この状態変化を微小変化とするならば断熱変化の場合 dQ = 0 であるから

∆S ∆ dS 0

すなわち不可逆変化を含む断熱変化ではエントロピーは必ず増大する

<補遺> 70

T

QS

BA SSS

(b-20)

(次の<補遺>ギブス自由エネルギーも参照せよ)

本文 p26 へ戻る

ギブス自由エネルギー (本文 p28 27 行目参照)

エントロピーの考えを導入することによって不可逆的に状態変化が起きるときにはエン

トロピーの増大を引き起こすことを知ったこれによって目前で起きる現象について温度の

変化があるものであれないものであれまた圧力の変化があるものであってもエントロピー

の定義式によって可逆的な変化におけるエントロピーの変化量を計算することが可能である

(b-15)

しかしながらこれから起こる変化について我々がすでにあらかじめ知っている物理量を

用いて予測的にその状態変化が起きるかどうか知ることは必ずしも容易ではないその理由

は式 b-15 に示されたエントロピーΔS が系とその外界をあわせた全体のエントロピーを示

しているからであるすなわち関心のある系を系 A としその外界を系 B とすると全体

のエントロピーは次のように表せる

(c-1)

関心のある系 A のエントロピー変化を知るためには系 B のそれを知ればよいがそれは

いつも容易とは限らない系 A の性質だけで状態変化の方向を知るには別の観点が必要にな

るようだ

そこでもう一度状態変化が熱量 Q の移動によって起きることについて考えてみようエン

トロピーの補遺で議論したように熱量の移動が準静的過程により行われるときには変化は可

逆的に起こると考えたこのとき外界すなわち系 B から移動する熱量を Q1とし系 A から

0S

<補遺> 71

21 QQ

T

Q

T

QSB

21

T

QSS A

2

QH

T

HSS AA

AA STHST

のそれを Q2 と記号を当てたのでこれをそのまま使うことにすれば可逆的な過程では系 B

の熱量 Q1 はすなわち系 A から戻る Q2 に他ならないので両者には次の関係が成立するも

のとしてよい

(c-2)

したがって

(c-3)

と考えてよくこれによって式 c-1 を次のように書きなおすことが出来る

(c-4)

独立した系で圧力とその体積に変化がなく一定の条件の下で状態変化が起きるときエン

タルピーの考えを使ってすでにひとつの関係があることを導いている

本文(31)

そこで式 c-4 を系のエンタルピーΔHAによって書き改めれば

(c-5)

この両辺に-T をかけて式を書き直せば次の関係式が得られる

(c-6)

式 c-6 を見るときその右辺がマイナスの値ならば左辺のΔS はプラスの値をとることが

分かるすなわちエントロピーが増大すると見ることが出来るこれまでの過程で自然の現

象はエントロピーが増大する方向に進むとしてきたので関心のある状態変化について式 c-6

の右辺で計算される値がマイナスの値ならばその変化は起きるものと考えてよいことになる

だろうしかも右辺はすべて独立した系の状態量で示されていて我々が知りうる値で計算

<補遺> 72

TSHG

STSTHG

STHG

可能である

そこでこれを熱力学ポテンシャルを表すものとしてギブス自由エネルギーと呼ぶことに

するギブス自由エネルギーは記号 G が用いられ次のように定義される

(c-7)

ここで関心があるのは自由エネルギーの絶対値ではなく式 c-6 に示されたようにその変化量

に興味があるので式 c-7 から

(c-8)

温度が一定の条件の下で状態変化が起きることを考えるなら式 c-8 は次のように書くこと

ができる

(c-9)

ギブス自由エネルギーは式 c-9 の右辺がすべて状態量であるからこれも状態量の一つで

ある定圧定温の条件下で起きる変化ではすでに議論したようにΔGlt0 であれば状態

変化は自発的に起きるものと予測できる

つまり式 c-5 の第一項は系のエントロピーΔSAそのものであり第二項で示されるエンタ

ルピーは系 A の温度が一定に保たれているのであるから発熱する熱量として外界に吸収さ

れるものであってこれは外界のエントロピーの増大につながるものとして解釈されるした

がって化学反応のように一定の圧力と一定の温度の下で起きる変化について自由エネルギ

ー変化量はその状態変化が自発的に起きる傾向を示しているといってよい

本文 p28 へ戻る

  • はじめに
  • 目次
  • 電気エネルギー
    • 金属のイオン化
    • 電池
    • 水素の反応
    • 燃料電池
    • 化学反応と電気エネルギー
      • エネルギーと熱力学
        • エネルギー保存則
        • エンタルピー
        • エントロピー13
        • ギブス自由エネルギー
        • 電池における化学反応のギブス自由エネルギー13
        • 理想気体の状態方程式
        • 理想溶液のギブス自由エネルギー
        • 膜電位
          • 水素イオン濃度測定
            • 化学反応の一般的な式
            • pHの定義とその目盛り
            • pH標準液
            • 銀塩化銀参照電極
            • 実用的なpH測定
            • ガラス電極
            • 電極の校正
            • 金属イオンに対応するイオン選択電極
              • 文献
              • 補遺
                • 状態関数
                • エンタルピー
                • エントロピー
                • ギブス自由エネルギー
Page 71: イオン選択電極i イオン選択電極 Ion Selective Electrode (ISE) を理解する ・ pHを測定する ・ NaやKなどのイオン濃度を測定する 神戸大学医学部保健学科

<補遺> 68

T

dQdS

0T

dQ

ある一つの変化については次のように示される

(b-17)

ここで式 b-17 の S に付けられたdは微分量すなわちごく微小の変化量を意味し式 b-15

で定義されたエントロピーに用いられる一般的な記号Δと区別する

ところで式 b-10 の関係においてもし移動した熱量のすべてが仕事に変わらなければ

効率 e を表す熱量を用いた関係式と温度で表される関係式は等号で結ぶことができないそれ

はエネルギーのロスを意味し初めと終わりの状態が異なってしまうことを意味するすなわ

ち全過程が構成する一つのサイクルは可逆的でなくなる

不可逆過程での熱効率 ersquo は 大値を示す可逆的過程の熱効率 e より小さな値をとる

ee

したがって 大効率を与える式 b-8 と式 b-3 から

01221

2112

1

21

1

21

QTQT

QTQT

Q

QQ

T

TT

両辺を T1T2で割ると

02

2

1

1 T

Q

T

Q

これを式 b12 と同様に発展させれば式 b-14 についてサイクルの変化が可逆的過程の

場合と不可逆的過程の場合の両方を併せClausius の不等式と呼ばれる次の関係が成立する

(b-18)

式 b-18 の等号が成立するのはサイクルが可逆的な理想の場合に限られる

ある孤立系で状態 A1 から状態 A2 へは不可逆変化で進められ状態 A2 から再び状態 A1

に戻るとき可逆変化であるような閉じた状態変化を考える可逆系のエントロピー変化には

記号 Q を使い不可逆変化には Q を用いるとするとそれぞれ積分式を用いて状態 A1 から

状態 A2 へは

<補遺> 69

d prime

状態 A2 から状態 A1 に戻るときは

全体では

=d prime

+d

(b-19)

Clausius の不等式から

0

式(b-19)の第二項で反応を逆に進めるときには次のように書き改めることができる

=d

よって式(b-19)は次のように書き直すことができClausius の不等式とあわせると

d prime d

0

すなわち

d prime d

上式の右辺は式(b-16)を用いて表せば

d prime

∆S ∆

この状態変化を微小変化とするならば断熱変化の場合 dQ = 0 であるから

∆S ∆ dS 0

すなわち不可逆変化を含む断熱変化ではエントロピーは必ず増大する

<補遺> 70

T

QS

BA SSS

(b-20)

(次の<補遺>ギブス自由エネルギーも参照せよ)

本文 p26 へ戻る

ギブス自由エネルギー (本文 p28 27 行目参照)

エントロピーの考えを導入することによって不可逆的に状態変化が起きるときにはエン

トロピーの増大を引き起こすことを知ったこれによって目前で起きる現象について温度の

変化があるものであれないものであれまた圧力の変化があるものであってもエントロピー

の定義式によって可逆的な変化におけるエントロピーの変化量を計算することが可能である

(b-15)

しかしながらこれから起こる変化について我々がすでにあらかじめ知っている物理量を

用いて予測的にその状態変化が起きるかどうか知ることは必ずしも容易ではないその理由

は式 b-15 に示されたエントロピーΔS が系とその外界をあわせた全体のエントロピーを示

しているからであるすなわち関心のある系を系 A としその外界を系 B とすると全体

のエントロピーは次のように表せる

(c-1)

関心のある系 A のエントロピー変化を知るためには系 B のそれを知ればよいがそれは

いつも容易とは限らない系 A の性質だけで状態変化の方向を知るには別の観点が必要にな

るようだ

そこでもう一度状態変化が熱量 Q の移動によって起きることについて考えてみようエン

トロピーの補遺で議論したように熱量の移動が準静的過程により行われるときには変化は可

逆的に起こると考えたこのとき外界すなわち系 B から移動する熱量を Q1とし系 A から

0S

<補遺> 71

21 QQ

T

Q

T

QSB

21

T

QSS A

2

QH

T

HSS AA

AA STHST

のそれを Q2 と記号を当てたのでこれをそのまま使うことにすれば可逆的な過程では系 B

の熱量 Q1 はすなわち系 A から戻る Q2 に他ならないので両者には次の関係が成立するも

のとしてよい

(c-2)

したがって

(c-3)

と考えてよくこれによって式 c-1 を次のように書きなおすことが出来る

(c-4)

独立した系で圧力とその体積に変化がなく一定の条件の下で状態変化が起きるときエン

タルピーの考えを使ってすでにひとつの関係があることを導いている

本文(31)

そこで式 c-4 を系のエンタルピーΔHAによって書き改めれば

(c-5)

この両辺に-T をかけて式を書き直せば次の関係式が得られる

(c-6)

式 c-6 を見るときその右辺がマイナスの値ならば左辺のΔS はプラスの値をとることが

分かるすなわちエントロピーが増大すると見ることが出来るこれまでの過程で自然の現

象はエントロピーが増大する方向に進むとしてきたので関心のある状態変化について式 c-6

の右辺で計算される値がマイナスの値ならばその変化は起きるものと考えてよいことになる

だろうしかも右辺はすべて独立した系の状態量で示されていて我々が知りうる値で計算

<補遺> 72

TSHG

STSTHG

STHG

可能である

そこでこれを熱力学ポテンシャルを表すものとしてギブス自由エネルギーと呼ぶことに

するギブス自由エネルギーは記号 G が用いられ次のように定義される

(c-7)

ここで関心があるのは自由エネルギーの絶対値ではなく式 c-6 に示されたようにその変化量

に興味があるので式 c-7 から

(c-8)

温度が一定の条件の下で状態変化が起きることを考えるなら式 c-8 は次のように書くこと

ができる

(c-9)

ギブス自由エネルギーは式 c-9 の右辺がすべて状態量であるからこれも状態量の一つで

ある定圧定温の条件下で起きる変化ではすでに議論したようにΔGlt0 であれば状態

変化は自発的に起きるものと予測できる

つまり式 c-5 の第一項は系のエントロピーΔSAそのものであり第二項で示されるエンタ

ルピーは系 A の温度が一定に保たれているのであるから発熱する熱量として外界に吸収さ

れるものであってこれは外界のエントロピーの増大につながるものとして解釈されるした

がって化学反応のように一定の圧力と一定の温度の下で起きる変化について自由エネルギ

ー変化量はその状態変化が自発的に起きる傾向を示しているといってよい

本文 p28 へ戻る

  • はじめに
  • 目次
  • 電気エネルギー
    • 金属のイオン化
    • 電池
    • 水素の反応
    • 燃料電池
    • 化学反応と電気エネルギー
      • エネルギーと熱力学
        • エネルギー保存則
        • エンタルピー
        • エントロピー13
        • ギブス自由エネルギー
        • 電池における化学反応のギブス自由エネルギー13
        • 理想気体の状態方程式
        • 理想溶液のギブス自由エネルギー
        • 膜電位
          • 水素イオン濃度測定
            • 化学反応の一般的な式
            • pHの定義とその目盛り
            • pH標準液
            • 銀塩化銀参照電極
            • 実用的なpH測定
            • ガラス電極
            • 電極の校正
            • 金属イオンに対応するイオン選択電極
              • 文献
              • 補遺
                • 状態関数
                • エンタルピー
                • エントロピー
                • ギブス自由エネルギー
Page 72: イオン選択電極i イオン選択電極 Ion Selective Electrode (ISE) を理解する ・ pHを測定する ・ NaやKなどのイオン濃度を測定する 神戸大学医学部保健学科

<補遺> 69

d prime

状態 A2 から状態 A1 に戻るときは

全体では

=d prime

+d

(b-19)

Clausius の不等式から

0

式(b-19)の第二項で反応を逆に進めるときには次のように書き改めることができる

=d

よって式(b-19)は次のように書き直すことができClausius の不等式とあわせると

d prime d

0

すなわち

d prime d

上式の右辺は式(b-16)を用いて表せば

d prime

∆S ∆

この状態変化を微小変化とするならば断熱変化の場合 dQ = 0 であるから

∆S ∆ dS 0

すなわち不可逆変化を含む断熱変化ではエントロピーは必ず増大する

<補遺> 70

T

QS

BA SSS

(b-20)

(次の<補遺>ギブス自由エネルギーも参照せよ)

本文 p26 へ戻る

ギブス自由エネルギー (本文 p28 27 行目参照)

エントロピーの考えを導入することによって不可逆的に状態変化が起きるときにはエン

トロピーの増大を引き起こすことを知ったこれによって目前で起きる現象について温度の

変化があるものであれないものであれまた圧力の変化があるものであってもエントロピー

の定義式によって可逆的な変化におけるエントロピーの変化量を計算することが可能である

(b-15)

しかしながらこれから起こる変化について我々がすでにあらかじめ知っている物理量を

用いて予測的にその状態変化が起きるかどうか知ることは必ずしも容易ではないその理由

は式 b-15 に示されたエントロピーΔS が系とその外界をあわせた全体のエントロピーを示

しているからであるすなわち関心のある系を系 A としその外界を系 B とすると全体

のエントロピーは次のように表せる

(c-1)

関心のある系 A のエントロピー変化を知るためには系 B のそれを知ればよいがそれは

いつも容易とは限らない系 A の性質だけで状態変化の方向を知るには別の観点が必要にな

るようだ

そこでもう一度状態変化が熱量 Q の移動によって起きることについて考えてみようエン

トロピーの補遺で議論したように熱量の移動が準静的過程により行われるときには変化は可

逆的に起こると考えたこのとき外界すなわち系 B から移動する熱量を Q1とし系 A から

0S

<補遺> 71

21 QQ

T

Q

T

QSB

21

T

QSS A

2

QH

T

HSS AA

AA STHST

のそれを Q2 と記号を当てたのでこれをそのまま使うことにすれば可逆的な過程では系 B

の熱量 Q1 はすなわち系 A から戻る Q2 に他ならないので両者には次の関係が成立するも

のとしてよい

(c-2)

したがって

(c-3)

と考えてよくこれによって式 c-1 を次のように書きなおすことが出来る

(c-4)

独立した系で圧力とその体積に変化がなく一定の条件の下で状態変化が起きるときエン

タルピーの考えを使ってすでにひとつの関係があることを導いている

本文(31)

そこで式 c-4 を系のエンタルピーΔHAによって書き改めれば

(c-5)

この両辺に-T をかけて式を書き直せば次の関係式が得られる

(c-6)

式 c-6 を見るときその右辺がマイナスの値ならば左辺のΔS はプラスの値をとることが

分かるすなわちエントロピーが増大すると見ることが出来るこれまでの過程で自然の現

象はエントロピーが増大する方向に進むとしてきたので関心のある状態変化について式 c-6

の右辺で計算される値がマイナスの値ならばその変化は起きるものと考えてよいことになる

だろうしかも右辺はすべて独立した系の状態量で示されていて我々が知りうる値で計算

<補遺> 72

TSHG

STSTHG

STHG

可能である

そこでこれを熱力学ポテンシャルを表すものとしてギブス自由エネルギーと呼ぶことに

するギブス自由エネルギーは記号 G が用いられ次のように定義される

(c-7)

ここで関心があるのは自由エネルギーの絶対値ではなく式 c-6 に示されたようにその変化量

に興味があるので式 c-7 から

(c-8)

温度が一定の条件の下で状態変化が起きることを考えるなら式 c-8 は次のように書くこと

ができる

(c-9)

ギブス自由エネルギーは式 c-9 の右辺がすべて状態量であるからこれも状態量の一つで

ある定圧定温の条件下で起きる変化ではすでに議論したようにΔGlt0 であれば状態

変化は自発的に起きるものと予測できる

つまり式 c-5 の第一項は系のエントロピーΔSAそのものであり第二項で示されるエンタ

ルピーは系 A の温度が一定に保たれているのであるから発熱する熱量として外界に吸収さ

れるものであってこれは外界のエントロピーの増大につながるものとして解釈されるした

がって化学反応のように一定の圧力と一定の温度の下で起きる変化について自由エネルギ

ー変化量はその状態変化が自発的に起きる傾向を示しているといってよい

本文 p28 へ戻る

  • はじめに
  • 目次
  • 電気エネルギー
    • 金属のイオン化
    • 電池
    • 水素の反応
    • 燃料電池
    • 化学反応と電気エネルギー
      • エネルギーと熱力学
        • エネルギー保存則
        • エンタルピー
        • エントロピー13
        • ギブス自由エネルギー
        • 電池における化学反応のギブス自由エネルギー13
        • 理想気体の状態方程式
        • 理想溶液のギブス自由エネルギー
        • 膜電位
          • 水素イオン濃度測定
            • 化学反応の一般的な式
            • pHの定義とその目盛り
            • pH標準液
            • 銀塩化銀参照電極
            • 実用的なpH測定
            • ガラス電極
            • 電極の校正
            • 金属イオンに対応するイオン選択電極
              • 文献
              • 補遺
                • 状態関数
                • エンタルピー
                • エントロピー
                • ギブス自由エネルギー
Page 73: イオン選択電極i イオン選択電極 Ion Selective Electrode (ISE) を理解する ・ pHを測定する ・ NaやKなどのイオン濃度を測定する 神戸大学医学部保健学科

<補遺> 70

T

QS

BA SSS

(b-20)

(次の<補遺>ギブス自由エネルギーも参照せよ)

本文 p26 へ戻る

ギブス自由エネルギー (本文 p28 27 行目参照)

エントロピーの考えを導入することによって不可逆的に状態変化が起きるときにはエン

トロピーの増大を引き起こすことを知ったこれによって目前で起きる現象について温度の

変化があるものであれないものであれまた圧力の変化があるものであってもエントロピー

の定義式によって可逆的な変化におけるエントロピーの変化量を計算することが可能である

(b-15)

しかしながらこれから起こる変化について我々がすでにあらかじめ知っている物理量を

用いて予測的にその状態変化が起きるかどうか知ることは必ずしも容易ではないその理由

は式 b-15 に示されたエントロピーΔS が系とその外界をあわせた全体のエントロピーを示

しているからであるすなわち関心のある系を系 A としその外界を系 B とすると全体

のエントロピーは次のように表せる

(c-1)

関心のある系 A のエントロピー変化を知るためには系 B のそれを知ればよいがそれは

いつも容易とは限らない系 A の性質だけで状態変化の方向を知るには別の観点が必要にな

るようだ

そこでもう一度状態変化が熱量 Q の移動によって起きることについて考えてみようエン

トロピーの補遺で議論したように熱量の移動が準静的過程により行われるときには変化は可

逆的に起こると考えたこのとき外界すなわち系 B から移動する熱量を Q1とし系 A から

0S

<補遺> 71

21 QQ

T

Q

T

QSB

21

T

QSS A

2

QH

T

HSS AA

AA STHST

のそれを Q2 と記号を当てたのでこれをそのまま使うことにすれば可逆的な過程では系 B

の熱量 Q1 はすなわち系 A から戻る Q2 に他ならないので両者には次の関係が成立するも

のとしてよい

(c-2)

したがって

(c-3)

と考えてよくこれによって式 c-1 を次のように書きなおすことが出来る

(c-4)

独立した系で圧力とその体積に変化がなく一定の条件の下で状態変化が起きるときエン

タルピーの考えを使ってすでにひとつの関係があることを導いている

本文(31)

そこで式 c-4 を系のエンタルピーΔHAによって書き改めれば

(c-5)

この両辺に-T をかけて式を書き直せば次の関係式が得られる

(c-6)

式 c-6 を見るときその右辺がマイナスの値ならば左辺のΔS はプラスの値をとることが

分かるすなわちエントロピーが増大すると見ることが出来るこれまでの過程で自然の現

象はエントロピーが増大する方向に進むとしてきたので関心のある状態変化について式 c-6

の右辺で計算される値がマイナスの値ならばその変化は起きるものと考えてよいことになる

だろうしかも右辺はすべて独立した系の状態量で示されていて我々が知りうる値で計算

<補遺> 72

TSHG

STSTHG

STHG

可能である

そこでこれを熱力学ポテンシャルを表すものとしてギブス自由エネルギーと呼ぶことに

するギブス自由エネルギーは記号 G が用いられ次のように定義される

(c-7)

ここで関心があるのは自由エネルギーの絶対値ではなく式 c-6 に示されたようにその変化量

に興味があるので式 c-7 から

(c-8)

温度が一定の条件の下で状態変化が起きることを考えるなら式 c-8 は次のように書くこと

ができる

(c-9)

ギブス自由エネルギーは式 c-9 の右辺がすべて状態量であるからこれも状態量の一つで

ある定圧定温の条件下で起きる変化ではすでに議論したようにΔGlt0 であれば状態

変化は自発的に起きるものと予測できる

つまり式 c-5 の第一項は系のエントロピーΔSAそのものであり第二項で示されるエンタ

ルピーは系 A の温度が一定に保たれているのであるから発熱する熱量として外界に吸収さ

れるものであってこれは外界のエントロピーの増大につながるものとして解釈されるした

がって化学反応のように一定の圧力と一定の温度の下で起きる変化について自由エネルギ

ー変化量はその状態変化が自発的に起きる傾向を示しているといってよい

本文 p28 へ戻る

  • はじめに
  • 目次
  • 電気エネルギー
    • 金属のイオン化
    • 電池
    • 水素の反応
    • 燃料電池
    • 化学反応と電気エネルギー
      • エネルギーと熱力学
        • エネルギー保存則
        • エンタルピー
        • エントロピー13
        • ギブス自由エネルギー
        • 電池における化学反応のギブス自由エネルギー13
        • 理想気体の状態方程式
        • 理想溶液のギブス自由エネルギー
        • 膜電位
          • 水素イオン濃度測定
            • 化学反応の一般的な式
            • pHの定義とその目盛り
            • pH標準液
            • 銀塩化銀参照電極
            • 実用的なpH測定
            • ガラス電極
            • 電極の校正
            • 金属イオンに対応するイオン選択電極
              • 文献
              • 補遺
                • 状態関数
                • エンタルピー
                • エントロピー
                • ギブス自由エネルギー
Page 74: イオン選択電極i イオン選択電極 Ion Selective Electrode (ISE) を理解する ・ pHを測定する ・ NaやKなどのイオン濃度を測定する 神戸大学医学部保健学科

<補遺> 71

21 QQ

T

Q

T

QSB

21

T

QSS A

2

QH

T

HSS AA

AA STHST

のそれを Q2 と記号を当てたのでこれをそのまま使うことにすれば可逆的な過程では系 B

の熱量 Q1 はすなわち系 A から戻る Q2 に他ならないので両者には次の関係が成立するも

のとしてよい

(c-2)

したがって

(c-3)

と考えてよくこれによって式 c-1 を次のように書きなおすことが出来る

(c-4)

独立した系で圧力とその体積に変化がなく一定の条件の下で状態変化が起きるときエン

タルピーの考えを使ってすでにひとつの関係があることを導いている

本文(31)

そこで式 c-4 を系のエンタルピーΔHAによって書き改めれば

(c-5)

この両辺に-T をかけて式を書き直せば次の関係式が得られる

(c-6)

式 c-6 を見るときその右辺がマイナスの値ならば左辺のΔS はプラスの値をとることが

分かるすなわちエントロピーが増大すると見ることが出来るこれまでの過程で自然の現

象はエントロピーが増大する方向に進むとしてきたので関心のある状態変化について式 c-6

の右辺で計算される値がマイナスの値ならばその変化は起きるものと考えてよいことになる

だろうしかも右辺はすべて独立した系の状態量で示されていて我々が知りうる値で計算

<補遺> 72

TSHG

STSTHG

STHG

可能である

そこでこれを熱力学ポテンシャルを表すものとしてギブス自由エネルギーと呼ぶことに

するギブス自由エネルギーは記号 G が用いられ次のように定義される

(c-7)

ここで関心があるのは自由エネルギーの絶対値ではなく式 c-6 に示されたようにその変化量

に興味があるので式 c-7 から

(c-8)

温度が一定の条件の下で状態変化が起きることを考えるなら式 c-8 は次のように書くこと

ができる

(c-9)

ギブス自由エネルギーは式 c-9 の右辺がすべて状態量であるからこれも状態量の一つで

ある定圧定温の条件下で起きる変化ではすでに議論したようにΔGlt0 であれば状態

変化は自発的に起きるものと予測できる

つまり式 c-5 の第一項は系のエントロピーΔSAそのものであり第二項で示されるエンタ

ルピーは系 A の温度が一定に保たれているのであるから発熱する熱量として外界に吸収さ

れるものであってこれは外界のエントロピーの増大につながるものとして解釈されるした

がって化学反応のように一定の圧力と一定の温度の下で起きる変化について自由エネルギ

ー変化量はその状態変化が自発的に起きる傾向を示しているといってよい

本文 p28 へ戻る

  • はじめに
  • 目次
  • 電気エネルギー
    • 金属のイオン化
    • 電池
    • 水素の反応
    • 燃料電池
    • 化学反応と電気エネルギー
      • エネルギーと熱力学
        • エネルギー保存則
        • エンタルピー
        • エントロピー13
        • ギブス自由エネルギー
        • 電池における化学反応のギブス自由エネルギー13
        • 理想気体の状態方程式
        • 理想溶液のギブス自由エネルギー
        • 膜電位
          • 水素イオン濃度測定
            • 化学反応の一般的な式
            • pHの定義とその目盛り
            • pH標準液
            • 銀塩化銀参照電極
            • 実用的なpH測定
            • ガラス電極
            • 電極の校正
            • 金属イオンに対応するイオン選択電極
              • 文献
              • 補遺
                • 状態関数
                • エンタルピー
                • エントロピー
                • ギブス自由エネルギー
Page 75: イオン選択電極i イオン選択電極 Ion Selective Electrode (ISE) を理解する ・ pHを測定する ・ NaやKなどのイオン濃度を測定する 神戸大学医学部保健学科

<補遺> 72

TSHG

STSTHG

STHG

可能である

そこでこれを熱力学ポテンシャルを表すものとしてギブス自由エネルギーと呼ぶことに

するギブス自由エネルギーは記号 G が用いられ次のように定義される

(c-7)

ここで関心があるのは自由エネルギーの絶対値ではなく式 c-6 に示されたようにその変化量

に興味があるので式 c-7 から

(c-8)

温度が一定の条件の下で状態変化が起きることを考えるなら式 c-8 は次のように書くこと

ができる

(c-9)

ギブス自由エネルギーは式 c-9 の右辺がすべて状態量であるからこれも状態量の一つで

ある定圧定温の条件下で起きる変化ではすでに議論したようにΔGlt0 であれば状態

変化は自発的に起きるものと予測できる

つまり式 c-5 の第一項は系のエントロピーΔSAそのものであり第二項で示されるエンタ

ルピーは系 A の温度が一定に保たれているのであるから発熱する熱量として外界に吸収さ

れるものであってこれは外界のエントロピーの増大につながるものとして解釈されるした

がって化学反応のように一定の圧力と一定の温度の下で起きる変化について自由エネルギ

ー変化量はその状態変化が自発的に起きる傾向を示しているといってよい

本文 p28 へ戻る

  • はじめに
  • 目次
  • 電気エネルギー
    • 金属のイオン化
    • 電池
    • 水素の反応
    • 燃料電池
    • 化学反応と電気エネルギー
      • エネルギーと熱力学
        • エネルギー保存則
        • エンタルピー
        • エントロピー13
        • ギブス自由エネルギー
        • 電池における化学反応のギブス自由エネルギー13
        • 理想気体の状態方程式
        • 理想溶液のギブス自由エネルギー
        • 膜電位
          • 水素イオン濃度測定
            • 化学反応の一般的な式
            • pHの定義とその目盛り
            • pH標準液
            • 銀塩化銀参照電極
            • 実用的なpH測定
            • ガラス電極
            • 電極の校正
            • 金属イオンに対応するイオン選択電極
              • 文献
              • 補遺
                • 状態関数
                • エンタルピー
                • エントロピー
                • ギブス自由エネルギー