7. その他の資料・情報 - JICA · 2015. 5. 14. · app - 61 7. その他の資料・情報 7.1 概略設計図面 概略設計図面リスト 番 号 施設区分 図面標題
曲面の同相写像のホモトピーとイソトピー - Hiroshima …1 概念の準備 1.1...
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曲面の同相写像のホモトピーとイソトピー
B124380 村長 達
指導教員 古宇田 悠哉
広島大学・理学部・数学科
卒業論文
2016年 2月 10日
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まえがき曲面, つまり 2 次元多様体上の PL 同相写像について, 自明な例外を除き
「曲面上の二つのホモトピックな同相写像はイソトピックである」ということが Epstein [1] によって証明されている.本論文の目的はこの Epstein の定理の紹介・証明である.第 1 章では主題の理解に必要な語句や定義の紹介, および技術的に必要な補
題の証明をする.第 2 章では恒等写像との間の固有ホモトピーが存在する場合での証明と, 平
面, アニュラス, Möbiusの帯といった特定の曲面の場合での定理の証明をする.特に, 固有ホモトピーが存在する場合の証明は非常に重要である.実際, 閉曲面上の任意のホモトピーは, 直ちに固有ホモトピーでもあるので, この証明がそのまま閉曲面の場合での定理の証明となる.第 3 章では第 2 章で扱った曲面以外の場合での定理の証明をする.章の最
後に第 2 章, 第 3 章の結果をまとめて定理の形で紹介する.本論文を書くに当たり, 指導教員の古宇田悠哉先生をはじめ, 作間誠先生な
らびに先輩方にはご多忙の中多くのご指導をいただきましたことを, この場をお借りして深く御礼申し上げます.
村長 達
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目 次
1 概念の準備 31.1 曲面, ホモトピー, イソトピー . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 31.2 補題 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 6
2 特定の曲面の場合 112.1 準備 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 112.2 特定の曲面におけるホモトピーとイソトピー . . . . . . . . . . . 14
3 一般の曲面におけるホモトピーとイソトピー 20
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1 概念の準備
1.1 曲面, ホモトピー, イソトピー
この論文を通して, 曲面の二つの PL 同相写像がホモトピックであることとイソトピックであることの同値性を主張する, Epstein の定理 [1]を紹介・証明していく.つまり f , g を曲面上の PL 同相写像としたとき, f と g がホモトピックならば f と g がイソトピックであることを示す.この逆はホモトピー,イソトピーの定義より明らかなので, これより同値性を得る.Epstein の定理を示すには, f が恒等写像とホモトピックであるならば f が恒等写像とイソトピックであることを示せば十分である.つまり, 以下の定理の証明が本論文の目標である.
定理. M を連結な曲面で, ∂M がコンパクトなものとする.
(A) ϕ, ψ : M → M を PL 同相写像とする.特に M が D2, S2, R2, S1 × I,S1 × R のときにはどちらも向きを保つものとする.このとき h ≃ id ならば h ≈ id である.
(B) ϕ, ψ : (M,x0) → (M,x0) を基点を固定する PL 同相写像とする.特にM が (開) Möbiusの帯ならば ϕ, ψ はともに x0 の近傍で向きを保つものとする.このとき h ≃ id (rel. x0) ならば h ≈ id (rel. x0) である.
この節では基本的な定義や, のちに使う定理及びその証明を述べる.
定義 1.1. X を位相空間, I を以下, 特に断らない限り実閉区間 [0, 1] とする.X 上の弧 (arc)とは連続写像 α : I → X のことである.文脈によっては道(path)ともいう.弧が単純 (simple)であるとは弧 α が単射であるとき, つまり弧の像に自己交差がないときをいう.弧が固有 (proper)であるとは {0, 1} ∈ Iに対して α({0, 1}) ∈ ∂X が成立するときをいう.
定義 1.2. 2 次元多様体のことを特に曲面という. つまり, 第二可算公理を満たすHausdorff空間であって, 各点に対して 2 次元Euclid空間 R2 内の開集合と同相な開近傍がとれるもののことをいう.M を曲面, X を M の部分曲面とする.M の多様体としての境界を ∂M と
表記する.M − cl(M −X) を ◦X と表記する.ただし, M の部分集合 A に対し, cl(A) は A の閉包を表すとする.◦X − ∂X を IntM(X) と表記する.Möbius の帯が位相的に埋めまれていないとき, その曲面は向き付け可能で
あるという.境界のないコンパクトな曲面のことを閉曲面と呼ぶ.
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定義 1.3. K, L を単体複体とする.連続写像 f : |K| → |L| が次の二つの条件を満たすとき, f を単体写像と呼ぶ.
(1) K の任意の単体 σ について, f(σ) は L の単体である.
(2) σ の点 x = λ0a0+λ1a1+ · · ·+λkak に対して, f(x) = λ0f(a0)+λ1f(a1)+· · ·+λkf(ak)となる.ただし, λi (i = 0, . . . , k) ∈ Rで ai (i = 0, . . . , k) ∈K(0) である.
条件 (2)において, f(a0), f(a1), . . . , f(ak) には重複があっても良い.
定義 1.4. (PL 写像)単体写像とは限らない連続写像 f : |K| → |L| について, f が次の条件 (3)を満たすとき, f を PL 写像 (Piecewise Linear : 区分的線形) という.
(3) f : |K1| → |L1| が単体写像となるような K, L の細分 K1, L1 が存在する.
Xを位相空間とする.X に対して単体複体 K と同相写像 f : |K| → X が存在するとき, (K, f) または K を 3 角形分割といい, X に 3 角形分割が存在するとき X は 3 角形分割可能であるという.3 角形分割可能な位相空間 X,Y と連続写像 h : X → Y について, X, Y の 3 角形分割 (X, f), (Y , g) でg−1 ◦ h ◦ f : |K| → |L| が単体写像, または PL 写像となるものがある場合, hを PL 写像という.特に h が同相写像である場合, h は PL 同相写像といい,X と Y は PL 同相であるという.このとき h の逆写像 h−1 も PL 同相写像である.
以下, 位相空間は 3 角形分割可能なもののみ考える.また, 写像はすべて PL写像であるとする.そのため, 以降は PL という言葉をつけないことにする.
定義 1.5. X, Y を位相空間, f, g : X → Y を連続写像とする.連続写像F : X × I → Y を考える.F (x, t) = ft(x) とおく.f0(x) = f(x), f1(x) = g(x)であるとき, F を f と g の間のホモトピーという.以下, F を {ft}t∈I と表す.また, f と g の間のホモトピーが存在するとき, f と g はホモトピックであるといい, f ≃ g と表記する.AをX の部分空間とする.このとき, f と gの間のホモトピー F : X×I → Y
が任意の a ∈ A と任意の t ∈ I で F (a, t) = f(a) = g(a) となるとき, f と gはAを動かさずにホモトピックであるといい, f ≃ g (rel. A) と表記する.本
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論文では特に集合 A が一点集合 {x} の場合, (rel. x) と表記することにする.
定義 1.6. X, Y を位相空間, f, g : X → Y を埋め込みとする.連続写像F : X × I → Y を考える.F (x, t) = ft(x) とおく.f0(x) = f(x), f1(x) = g(x)で, 任意の t ∈ I で ft が埋め込みであるとき, F を f と g の間のイソトピーという.以下, F を {ft}t∈I と表す.また, f と g の間のイソトピーが存在するとき, f と g はイソトピックであるといい, f ≈ g と表記する.AをX の部分空間とする.このとき, f と gの間のイソトピー F : X×I → Y
が任意の a ∈ A と任意の t ∈ I で F (a, t) = f(a) = g(a) となるとき, f と gはAを動かさずにイソトピックであるといい, f ≈ g (rel. A) と表記する.本論文では特に集合 A が一点集合 {x} の場合, (rel. x) と表記することにする.
定義 1.7. X, Y を位相空間, f, g : X → Y を同相写像とする.f , g の間のイソトピー {ht}t∈I に対し, 次の写像を考える.
H : X × I → Y × I (H(x, t) = (ht(x), t) とおく).
これは同相写像であり, 任意の x ∈ X で, h0(x) = f(x), h1(x) = g(x) である.このような H も f と g の間のイソトピーである.以下, H を {ht}t∈I と表す.特に X = Y かつ f = id であるとき, 上の {ht}t∈I をXの同位変形という.埋め込み f, g : X → Y が全同位 (アンビエント・イソトピック) であると
は, ある Y の同位変形 {ηt}t∈I が存在し, その同位変形に関して η1f = g が成立すること.またこのとき, f
a≈ g と表記する.
定義 1.8. X, Y を位相空間, f : X → Y を連続写像とする.f が零ホモトピック (f ≃ 0と表記する) であるとは, f ≃ c (ただし c : X → Y は定値写像) が成立するときをいう.
定義 1.9. R2 内の n 個の有限点列 a0, a1, . . . , an (ai ∈ R, i = 1, 2, . . . , n) と線分 a0a1, a1a2, . . . , an−1an から成る図形を折線といい, 各 aiai+1 を辺という.a0 = an のとき, 閉折線といい, 自己交差がない場合単純折線という.n 個の辺から成る単純閉折線とその内部も合わせて多角形という.
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1.2 補題
以下, 本題の証明のための補題の証明や, それに使う語句や概念などの定義を紹介する.
補題 1.10. Dn を n 次元球体とする.連続写像 f : Sn → X が零ホモトピックであることの, 必要十分条件は f が連続写像 f̃ : Dn → X (f̃ |Sn = f) へ拡張可能であることである.
証明は [3]の第 5章の命題 1.16 を参照のこと.
定理 1.11. (Alexander の同位定理)同相写像 h : Dn → Dn について, h|Sn−1 = idSn−1 ならば h ≈ idDn (rel. Sn−1)である.
証明. idDn と h の間のイソトピーを構成すればよい.次のようにイソトピー{ηt}t∈I を定義する.
ηt(x) =
{x (x ∈ Dn, 0 ≤ t ≤ ∥x∥),th(x/t) (x ∈ Dn, 0 ≤ ∥x∥ ≤ t ≤ 1).
明らかにこれは idDn と h の間のイソトピーである (図 1参照).
-1 1
1
-1
-1 1
1
-1
-1 1
1
-1
t=0 t=1/2 t=1
図 1.イソトピー {ηt}t∈I
定理 1.12. (円環領域定理)Π, Π′ を多角形とする.Π′ ⊂ IntR2(Π) ならば cl(Π−Π′) =Π− IntR2(Π′)が成立する.
証明は [7]を参照のこと.
定理 1.13. h : (S2, x0) → (S2, x0) を向きを保つ同相写像とする.このときh ≈ id (rel. x0) が成立する.
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この定理は一般の次元でも成立するが, 本論文では 2 次元の場合のみ必要なので, 2 次元に絞った形で紹介する.
証明. S2 上に 2 次元円板 D を x0 ∈ ◦D となるようにとる。ただし, ◦D はD の内部を表す.このとき, 仮定より h(x0) = x0 なので x0 ∈ h(◦D) が成立.よって x0 ∈ D0 ⊂ ◦D ∩ h(◦D) なる D0 がとれる.円環領域定理より h(D)− ◦D0 ∼= S1 × I なので, この円環に沿った同位変形
で h(D) を縮小するようなものが存在する.よって h(D) ⊂ ◦D として良い.再び円環領域定理より D − h(◦D) ∼= S1 × I なので, h(D) を拡大するような同位変形があり, 故に h(D) = D として良い.仮定より, h は向きを保つので,h|∂D も向きを保つ.よって h(D) = D と合わせて, h|∂D ≈ id を得る.この h|∂D と id の間のイソトピーについて, S2 上で ∂D 以外では恒等写
像と定義するとそのイソトピーは S2 上で定義されたイソトピーとなるので,h|∂D = id として良い.D′ を S2 − ◦D とすると, D′ は円板に同相なので, h|Dと h|D′ にそれぞれ Alexander の同位定理 (定理 1.11) を用いれば, h ≈ id を得る.
定義 1.14. K を単体複体とする.K の各単体 σλ についてその内点 xλ を任意に一つとり, 固定する.重心細分の際の重心 σ̂λ を xλ にして得られる K の細分
{⟨xλ0 , xλ1 , . . . , xλn⟩ | σλ0 ≺ · · · ≺ σλn , σλi ∈ K},
を K の 導細分といい, Sd∗(K) と表記する.ただし, n 単体 σn = ⟨a0, . . . , an⟩に対し,
σ̂n =n∑
i=0
ai/(n+ 1),
である.つまり, トポロジカルには重心細分のことである.n 回導細分を次のように帰納的に定義する.
Sd1∗(K) = Sd∗(K) , Sdn∗ (K) = Sd(Sd
n−1∗ (K)).
K を複体, L をその部分複体とする.K 内の単体 σ に対し、F (σ;K) = { τ ∈K| σ ≺ τ } とする.2回導細分 (Sd2∗(K), Sd2∗(L)) に対し, Sd2∗(L) の星状近傍st(Sd2∗(L); Sd
2∗(K))(= { ρ ∈ Sd2∗(K) | ρ ≺ τ ∈ F (Sd2∗(L);K) }) を |L| の |K|
における導近傍と呼び, N(L;K) と表記する.
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定理 1.15. (カラー近傍定理)M を n 次元多様体とする.∂M の M における導近傍 N(∂M ;M) に対し, 任意の x ∈ ∂M で c(x, 0) = x なる同相写像 c : ∂M × I → N(∂M ;M) が存在する.この c を ∂M のカラー, N(∂M ;M) を ∂M のカラー近傍という.
証明は [3]の第 6章の定理 2.18 を参照のこと.
定理 1.16. (ホモトピー拡張定理)X を任意の位相空間とする.K ⊂ Rn を有限複体, L ⊂ K を K の部分複体とする.連続写像 f : |K| → X, およびホモトピー H : |L| × I → X について f ||L| =H||L|×{0}ならばホモトピー G : |K|×I → X が存在し, G||K|×{0} = f , G||L|×I =H を満たす.
証明は [3]の定理 1.8 を参照のこと.
定理 1.17. M を実射影平面以外の曲面, α, β ∈ π1(M) とする.このときα ̸= 1, β−1αβ = α−1 が成立するならば M は Klein の壺である.以下, Kleinの壺を kb と表記する.
定理 1.18. M を実射影平面以外の曲面, α, β ∈ π1(M), α ̸= 1 ̸= β とする.このとき αβ ̸= βα で, α, β が π1(M) の同一の巡回部分群に属さないならば Mは T 2 か kb で α, β は共に向きを保つ.
定理 1.17, 1.18 の証明は [1]の Lemma 2.3, 2.4 を参照のこと.
補題 1.19. M を S2, P2 以外の曲面とする.ただし, S2 は 2次球面, P2 は実射影平面を表す.C を M の内部, もしくは ∂M 上の単純閉曲線とする.N を Cの導近傍とする.さらに, h :M →M を h(C) = C を満たす同相写像とする.M 上の恒等写像と h の間にホモトピー H : M × I → M が存在し, 次の条件を満たすとする.ただし, H(M, t) = ηt(M) とおく.
(1) H(C × I) ̸⊂ C (つまり, ある t ∈ I で ηt(C) ̸⊂ C) ならば Cは円板やMöbius の帯の境界ではない.
(2) M がトーラス T 2 か Klein の壺 kb の場合, H は C の基点 s0 を固定する.つまり任意の t ∈ I に対し, ηt(s0) = s0 となる.
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このとき, H の同位変形 Φ : M × I → M (Φ(M, t) = ϕt(M) とおく) とホモトピー H ′ : M × I → M (H ′(M, t) = η′t(M) とおく) が存在し, 次の条件を満たす.
1. 任意の t ∈ I に対し ϕt|cl(M−N) = id, ϕt(C) = C となる.
2. H ′ は M 上の id と ϕ1 ◦ h の間のホモトピーであり, 任意の t ∈ I に対して η′t|C = id かつ H ′(N × I) ⊂ H(N × I) となる.
3. cl(M −N)× I 上で H ′ = H となる.
4. H が基点を固定するなら, Φ も H ′ も s0 を固定する.
証明. (手順 1) M の基点 x0 を考える場合, x0 ∈ C ならば x0 = s0, x0 ̸∈ C ならばx0 ̸∈ N と仮定してよい.またM の基点を考えないならば C の基点をMの基点として良い.いずれにしても仮定より h(C) = C なので cl(M−N)を固定したまま h(C) を C 上で回転させるような M の同位変形 Φ′ :M × I →M(Φ′(M, t) = ϕ′t(M) とおく) が存在し, 次を満たす.
ϕ′t|cl(M−N) = id, ϕ′t(C) = C, ϕ′1h(s0) = s0.
故に h(s0) = s0 と仮定しても一般性は失われないため, 以後そう仮定する.
(手順 2) H(C × I) の M における導近傍を U とする.上の議論より h(s0) =s0 であり, H は idM と h の間のホモトピーより, H(s0, 0) = id(s0) = s0,H(s0, 1) = h(s0) = s0 なので, H(s0, 0) = H(s0, 1), つまりこのホモトピーによる s0 の軌跡は M 上の閉曲線とわかる.また, h に関する仮定 h(C) = C より, その閉曲線は U 上の閉曲線とわかる.この閉曲線を γ ∈ π1(U, s0) とおく.α ∈ π1(U, s0) を C の代表元とする.このとき γ が U 上にあるということより γ−1αγ = αε が成立することがわかる.ただし ε = ±1 である.M が T 2 や kbならば仮定より H は任意の t ∈ I で s0 を固定するので γ は
π1(U, s0)内の単位元であることがわかる.そうでないとき,定理 1.17の対偶命題より αε = α がわかる.よって定理 1.18 の対偶命題より α と γ は同一の巡回部分群に属する.仮定の H(C × I) ⊂ C より, ある整数 n が存在し, γ = αn
が成立する.(手順 1)の Φ′ と同様に cl(M − N) を固定したまま, h(C) を C上で n 回 C の向きと逆に回転させる M の同位変形 Φ′′ :M × I →M を用いて, 一般性を失わずに γ が π1(U, s0) の単位元となるように見なせる.よって,定理 1.13 より h|C ≈ id だが, ここで用いているイソトピーを C 以外の M 上で id と定義すれば M 上のイソトピー Φ′′′ に拡張できるので, h|C = id とし
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て良い.ここまで出てきた Φ′, Φ′′, Φ′′′ を合成したものを Φ とすれば, 求めている Φ となる.
(手順 3) 写像 F :M × I × I →M を次のように構成する.
1. y ∈ M に対し, F (y, s, 0) = H(y, s), F (y, 0, t) = y, F (y, 1, t) = h(y) を満たす.
2. y ∈ C に対し, F (y, s, 1) = y を満たす.
3. y ∈ cl(M −N) に対し, F (y, s, t) = H(y, s) を満たす.
4. H によって固定される基点 x0 が存在するとき, F (x0, s, t) = x0 を満たす.
この F を s0 × I × I 上に次のように拡張する (x0 = s0 ならばすでに拡張されている).
F (s0, s, t) = H(s0, s) ⊂ H(C × I).
M ̸= P2, S2 より, 明らかに U ̸= P2, S2 より π2(H(C × I)) ∼= π2(U) = {1} を得る.よって F は零ホモトピックであることがわかる.故に補題 1.10 より Fは C × I × I → H(C × I) なるものに拡張できる.また, ホモトピー拡張定理より, F |C×I×I は単射写像 N × I × I → H(N × I) に拡張できる.このとき, F は M × I × I 全体で定義されていることがわかる.この F について,F (y, s, 1) が存在を示したかった H ′(y, s) である.
注意. この補題は C の近傍での議論を曲面全体に拡張して結果を得ているため, M 上の単純閉曲線の非交和
⊔Ci にも適用可能である.
補題 1.20. M を境界付き曲面, A ⊂M を単純固有弧, L ⊂M を部分曲面とする.A ∩ L = ∂A とする.N を A の導近傍 N(A;M) とする.h :M →M をh(A) = Aを満たす同相写像とする.idM と hの間にホモトピー H :M × I →M (H(M, t) = ηt(M)) が存在し, ηt|L = id とする.このとき, M の同位変形 Φ : M × I → M (Φ(M, t) = ϕt(M) とおく) とホモトピー H ′ :M × I →M (H ′(M, t) = η′t(M) とおく) が存在し, 次を満たす.
1. ϕt|L = id, ϕt|cl(M−N) = id, ϕt(A) = A (∀t ∈ I)となる.
2. H ′は idM と ϕ1◦hの間のホモトピーで, η′t|A = id, η′t|L = id,H ′(M×I) ⊂H(N × I) となる.
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3. cl(M −N)× I 上で H ′ = H となる.
4. H が基点を固定するなら Φ, H ′ も x0 を固定する.
証明は補題 1.19 とほぼ一緒である.ただし A が単純弧なので N は円板である.よって, 補題 1.19 の証明の手順 2の定理 1.13 の代わりに, Alexander の同位定理 (定理 1.11) を用いればよい.手順 3では L に注意しながら証明すればよい.
2 特定の曲面の場合
2.1 準備
一般の曲面におけるホモトピーとイソトピーの同一性を示すのが本論文の目的だが, 特定の曲面の場合をまず示し, その結果を一般の曲面に拡張することで一般の曲面での結果を得る.本節ではその特定の曲面での証明に必要な定義, 定理の導入と証明をする.
定義 2.1. M を多様体とする.ホモトピー H :M × I →M が固有ホモトピー(proper homotopy)であるとは, H(∂M × I) ⊂ ∂M を満たすときをいう.
定義 2.2. M を n 次元多様体, X ⊂ M を (n − 1) 次元部分多様体とする.X が両側であるとは X の M における導近傍 N(X;M) に対して, 同相写像 h : X × [−1, 1] → N(X;M) が存在して, h(X × {0}) = X, h−1(∂M) =∂X × [−1, 1] が成立するときをいう.
次の三つの定理は曲面上の単純閉曲線と単純弧に関する定理である.
定理 2.3. M を連結な曲面, x0 ∈ ◦M を基点, s0 = (1, 0) ∈ S1 を指定する.f0, f1 : (S
1, s0) → (M0, x0) を埋め込みとする.また, f0(S1) は M 上で円板もMöbiusの帯も囲まないものとする.このとき f0 ≃ f1 (rel. x0) ならばコンパクト集合 V ⊂ ◦M が存在し f0
a≈ f1 (rel. {x0} ∪ (M − ◦V )) が成立する.
定理 2.4. M を曲面, f0, f1 : S1 → ◦M を埋め込みとする.また, f0(S1) を単純閉曲線として, 両側であり, 可縮でないものとする.このとき f0 ≃ f1 ならばコンパクト集合 V ⊂ ◦M が存在し, f0
a≈ f1 (rel. M − ◦V ) が成立する.
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定理 2.5. M を曲面, S0, S1 を M 上の単純弧で ∂S0 = ∂S1 を満たすものとする.このとき S0 ≃ S1 (rel. ∂S0) ならばコンパクト集合 V ⊂ ◦M が存在し,S0
a≈ S1 (rel. M − ◦V ) が成立する.
つまり, 曲面上でホモトピックである二つの単純閉曲線 (単純弧) の間に, それらの近傍の外部を固定したままもう一方に変形する曲面上のイソトピーが存在することをこれらの定理は保証している.これらの証明は [1]の定理 3.1–3.3を参照のこと.
次の二つの定理で曲面の境界が特徴づけられる.
定理 2.6. n 次元多様体 M について, ∂M は境界のない (n− 1) 次元多様体である.
定理 2.7. 任意の 1 次元多様体は S1, D1, R, R+ のいずれかと同相である.
今, 曲面は 2 次元多様体であるので定理 2.6 よりその境界は 1 次元多様体であることがわかる.よって定理 2.7 より, 曲面の境界は S1, R のいずれかと同相であることがわかる.証明は [3]の第 6章の定理 1.9 と定理 3.3 を参照のこと.
定理 2.8. M を連結な曲面, 基点 x0 ∈ ◦M , s0 = (1, 0) ∈ S1 を指定する.f0, f1: (S1, s0) → (M,x0)を埋め込みとして, f0(S1) が M 上で円板もMöbiusの帯も囲まないとする.このとき f0 ≃ f1 (rel. x0) ならばコンパクト集合 V ⊂ ◦Mが存在し, f0
a≈ f1 (rel. {x0} ∩ (F − ◦V )) が成立する.
証明は [1]の定理 3.4 を参照のこと.
定理 2.9. M を n 次元閉多様体, h :M × [0,∞) →M × [0,∞) を同相写像とする.このとき h|M×{0} = id ならば h ≈ id (rel. M × {0}) が成立する.
証明. 仮定から M × [0,∞) の境界は M × {0} でカラー近傍定理 (定理 1.15)より N(M ×{0};M × [0,∞)) =M × [0, 1]として良い.このカラー近傍に沿って h を変える M × [0,∞) の同位変形によって h|M×[0,1] = id として良い.
Φ : [0,∞)× [0,∞) → [0,∞)× [0,∞),
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を次のように定義する.まず, [0,∞)× [0,∞) ⊂ R2 の格子点を頂点として, これらの点を通り, 座標軸に平行な直線, および傾きが 1の直線の全体が 1-骨格になるように [0,∞)× [0,∞) を単体分割する.整数 m, n に対して
Φ(m,n) =
(m− n, n) (0 ≤ n ≤ m− 1),(2m−n−1, n) (0 ≤ m− 1 ≤ n),(0, n) (m = 0)
と定義し, 各 1単体, 2単体にはこれを線形に拡張する.格子点は格子点に写されるので
Φ(x) = Φ(n∑
i=0
λi(m,n)) =n∑
i=0
λiΦ(m,n) (λi ∈ R),
とすれば各 1単体, 2単体, x に関する写像へと拡張できる.この Φ を用いて,同相写像 Ψ :M × [0,∞)× [0,∞) →M × [0,∞)× [0,∞) を次のように定める.
Ψ(x, s, t) = (id× Φ−1)(h(x, p1Φ(s, t)), t).
ただし, p1 は第 1成分への射影であり, id×Φ−1 は (id×Φ−1)(x1, x2) = (id(x1),Φ−1(x2)) で定められる写像である.ここで
Ψ(x, s, 0) = (id× Φ−1)(h(x, p1Φ(s, 0)), 0)= (id× Φ−1)(h(x, s), 0)= (h(x, s), 0)
= (x, s, 0),
Ψ(x, 0, t) = (id× Φ−1)(h(x, p1Φ(0, t)), t)= (id× Φ−1)(h(x, 0), t)= (id× Φ−1)(x, 0, t)= (id(x)Φ−1(0, t))
= (x, 0, t)
が成立する.また t ≥ s− 1 の場合
Ψ(x, s, t) = (id× Φ−1)(h(x, p1Φ(s, t)), t)= (id× Φ−1)(h(x, 2s−t−1), t)= (id× Φ−1)(x, 2s−t−1, t)= (x, s, t)
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となる.σ : [0, 1) → [0,∞) を同相写像とする.この σ を用いて次のようなイソト
ピー H̃ :M × [0,∞)× I →M × [0,∞)× I を考える.
H̃(x, s, t) =
{(id× id× σ−1)(Ψ(x, s, σ(t))) (t < 1),(x, s, t) (t = 1).
明らかに H̃ は M × {0} を固定する.また, 明らかに H̃ は h と id の間のイソトピーであるので, この H̃ より h ≈ id (rel. M × {0}) を得る.
2.2 特定の曲面におけるホモトピーとイソトピー
ここからは特定の曲面におけるホモトピーとイソトピーの同一性を示していく.
定理 2.10. (R2 における同一性)同相写像 h : (R2, x0) → (R2, x0) が向きを保つならば h ≈ id (rel. x0) が成立する.
証明. 円板 D ⊂ R2 を x0 ∈ ◦D となるように選ぶ.定理 1.13 のように円環領域定理を 2度用いれば h(D) = D とするような R2 の同位変形を作れる.今, hは向きを保つので, h|∂D も向きを保つ.ここで, h|∂D は S1 上の同相写像だが,S1 上の同相写像は向きを保つ場合, id とイソトピックである.しかも h|∂D とid の間のイソトピーは R2 − ◦N(∂D;R2) を固定するような R2 の同位変形に拡張できる (本来このイソトピーは h|∂D の近傍上でのみ定義されているので,R2 − ◦N(∂D;R2) 上で id となるように新しくイソトピーを定義すれば良い).よって, h|D = id として良い.Alexander の同位定理 (定理 1.11) を h|D に適用して, h|D ≈ id (rel. ∂D ∪ {x0}) を得る.一方, E = R2 − ◦D ∼= S1 × [0,∞)より, 定理 2.9 より h|E ≈ id (rel. ∂D) が成立する.
定理 2.11. (S1 × I における同一性)h : (S1 × I, x0) → (S1 × I, x0) を向きを保つ同相写像とする.このとき h ≃id (rel. x0) ならば h ≈ id (rel. x0) が成立する.
証明. h ≃ id という仮定より h(S1×{0}) = S1×{0}, h(S1×{1}) = S1×{1}として良い.また, h は向きを保つので, h|S1×{0}, h|S1×{1} も向きを保つ.よって, 定理 1.13 を 1 次元で考えたものを考えると, h|S1×∂I ≈ id だが, このイソトピーは S1 × I − ◦N(S1 × ∂I;S1 × I) を固定するように拡張できる
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(S1 × I − ◦N(S1 × ∂I;S1 × I) 上で id, それ以外で本来のイソトピーを作用させるように, イソトピーを新しく定めればよい).故に h|S1×∂I = id として良い.以下, x0 の位置に関して場合分けを行う.
(場合 1) (x0 ∈ S1 × {0} または x0 ∈ S1 × {1} の場合)S1 × {0} を固定して S1 × {1} のみ 2nπ (n ∈ Z)回転することで得られる同位変形により, 単純固有弧 h({x0} × I) は端点を固定したままで {x0} × I とホモトピックとなる.つまり h({x0} × I) ≃ {x0} × I (rel. {x0} × ∂I) であることがわかる.定理 2.4 より h|(S1×∂I)∪({x0}×I)= id として良い.S1 × I を{x0}× I で切って得られる円板に Alexander の同位定理 (定理 1.11) を適用すれば, h ≈ id (rel. x0) を得る.
(場合 2) (x0 ∈ ◦S1 × I の場合)x0 = (s0, t0) (s0 ∈ S1, 0 < t0 < 1) とすると定理 2.3 を h|S1×{t0}, idS1×{t0}に適用することで, h|S1×{t0} = idS1×{t0} として良い.この後は S1 × [0, t0] とS1 × [t0, 1] 各々が場合 1の状況になっているので, 場合 1のように証明すればよい.
定理 2.12. (S1 × R における同一性)h : (S1 × R, x0) → (S1 × R, x0) を向きを保つ同相写像とする.このとき h ≃id (rel. x0) ならば h ≈ id (rel. x0) が成立する.
証明. x0 ∈ S1 × {t0} とすると定理 2.3 より h|S1×{t0} = idS1×{t0} と仮定してよい.故にあとは h|S1×(−∞,t0]と h|S1×[t0,∞) に定理 2.9 を適用すればよい.
次の定理はMöbiusの帯における同一性を示すのに使う定理である.
定理 2.13. Möbiusの帯 Mb 上の同相写像 ψ : Mb → Mb について, ψ|∂Mb =id∂Mb ならば ψ ≈ idMb (rel. ∂Mb) が成立する.
証明. A を A∩Mb = ∂Mb かつ, A で Mb を切っても, 切った後の曲面が非連結にならないような弧とする.N を Mb の普遍被覆, B を A の持ち上げで, Bの始点を X, 終点を Y とする.α を被覆変換群の生成元とする.このとき, 一般性を失うことなく Y は α2r−1X と α2r+1X の間にあるものとして良い.このとき, r = 0 であることを示したい.もし r > 0 ならば B は αX と α2rXを分断する.よって B は αX と αY を分断することになる.しかし, αB はαX から αY に向かう道なので, B ∩ αB ̸= ϕ となり, B と αB が A の持ち上げであることに矛盾.r < 0 も同様.よって r = 0 を得る.つまり, どの弧もA と端点を固定してホモトピックであることがわかる.定理 2.5 よりその 2つ
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は全同位であることがわかる.よって ψ|A = id として良い.また, A のとり方から Mb を A で切ると円板になるので, Alexander の同位定理 (定理 1.11)より ψ ≈ idMb (rel. ∂Mb) が示された.
定理 2.14. ((開) Möbiusの帯における同一性)MbをMöbiusの帯, ◦Mbを開Möbiusの帯, h : Mb → Mbを同相写像とする.このとき, h ≃ idならば h ≈ idが成立する.
証明. (Mb の場合) ∂Mb は π1(Mb) ∼= Z の生成元の 2乗を代表元に持つので, h|∂Mb ≃ id を得る. S1 上の同相写像で向きを保つものは, id とイソトピックであるので, h|∂Mb ≈ id として良い.このイソトピーをカラー近傍を用いて Mb 全体に拡張することができるので, h|∂Mb = id として良い.ここで定理2.13 を用いれば, 示したいことが示せる.
(◦Mbの場合) ◦Mbの中心線を S, S の導近傍を N0, N0 の導近傍を N1 とする.このとき, 明らかに N0, N1 はともに閉Möbiusの帯である.ここで N1 − ◦N0の各成分は S1 × I に同相なのでこのアニュラスに沿ったイソトピーが存在するため h(N0) = N0 とできる.Mb の場合の主張より h|N0 = id を得る.また◦Mb− ◦N0 ∼= S1× [0,∞) に定理 2.9 を用いることで h|◦Mb−◦N0 ≈ id (rel. ∂N0)を得る.よって, この 2つより h ≈ id を得られる.
定理 2.15. ((開) Möbiusの帯における同一性 (基点を固定する場合))Mb をMöbiusの帯, ◦Mb を開Möbiusの帯とする.h : (Mb, x0) → (Mb, x0),h : (◦Mb, x0) → (◦Mb, x0) を x0 の近傍の向きを保つ同相写像とする.このとき, h ≃ id (rel. x0) ならば h ≈ id (rel. x0) が成立する.
証明. (Mb の場合) x0 ∈ ∂Mb ならば定理 2.14 と同じ証明でよい.よってx0 ∈ ◦Mb とする.Mb の中心線とイソトピックな単純閉曲線 S ⊂ ◦Mb を選ぶ.このとき x0 ∈ S としても一般性は失わない. S は中心線にイソトピックな単純閉曲線であるので, 定理 2.8 より h|S = id として良い.補題 1.19 よりid と h の間の, 基点を固定するホモトピー H を H(Mb, t) = ηt(Mb) とおくと, ηt|S = id として良い.さらに, 定理 2.14 の証明と同じように h|∂Mb = idと仮定してよい.このとき, S で Mb を切るとアニュラス A (∼= S1 × I) を得る.つまり h を A 上の同相写像と考えられる.しかし S1 × I 上の同一性はすでに定理 2.11 でやったため, 証明できた.
(◦Mbの場合) S ⊂ ◦Mbを中心線として, N0 = N(S; ◦Mb)とする.一般性を失うことなく, x0 ∈ N0 と仮定できる.定理 2.14 の証明のように h(N0) = N0 と
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して良い.さらに上の結果より h|N0 = id とできる.◦Mb− ◦N0 ∼= S1 × [0,∞)なので, S1 × R の場合に帰着できる.よって h|◦Mb−◦N0 ≈ id (rel. ∂N0) を得る.よって 2つを合わせると h ≈ id を得る.
定理 2.16. M を曲面, h : M → M を同相写像とする.ただし, M が R ならば h は向きを保つとする.h と idM の間に固有ホモトピー H : M × I → Mが存在するならば h ≈ id, つまり h と id の間にイソトピー Φ : M × I → Mが存在する.特に H が基点 x0 ∈M を固定するなら Φ も x0 を固定する.
この定理は非常に重要である.実際, 閉曲面はその定義から境界がないので,閉曲面上の同相写像 h に関して h ≃ id ならばそのホモトピーは固有ホモトピーであることがわかるので h ≈ id が言えるためである.
証明. H が基点を固定しない場合, 基点 x0 は h(x0)へ道 β = { ηt(x0) | t ∈ I }に沿って動く.逆の道 β に沿って h(x0) を x0 に動かすようなイソトピーを用いて h(x0) = x0 とする.結果として, ホモトピー H の間に x0 は可縮な閉道β ∗ β を動くようにできる.よってホモトピー拡張定理 (定理 1.16) より H をx0 を固定するようなホモトピーにできる.このとき, ηt(x0) ∈ ∂M なので, この新しいホモトピーが固有ホモトピーである.つまり H が基点を固定する場合に帰着できたので, 以下 H が基点を固定する場合を考える.
(手順 1) M が R の場合, 定理 2.10 で扱う.よって以下 M ̸= R とする.Mは 2 次元多様体なので, 定理 2.6 より ∂M は 1 次元多様体である.境界の定義と定理 2.7 より S1 か R と同相である.S1 に同相ならば定理 1.13 を 1 次元で適用することで h|∂M ≈ id である.R に同相ならば固有ホモトピーが存在しているという仮定より, h|∂M ≈ id である.よって, 最初から h|∂M = id として良い.以下, H(M, t) = ηt(M) とおく.補題 1.19 より ∂M のコンパクトな成分 C 上では ηt|C = id として良い.∂M 上の非コンパクトな成分 B 上でも, 実直線の線形構造より ηt|B = id となるように H|B×I を変えることができる.このような変形は M − ◦N(B;M) では H をそのまま利用し, カラー近傍N(B;M) の中に自然に埋め込むことで, M の固有ホモトピーに拡張することができる.故に固有ホモトピー H : h ≃ id は ηt|∂M = id と仮定してよい.このとき, M が円板ならば直ちに Alexander の同位定理 (定理 1.11) より h ≃ idを得る.よって, 以下 M は円板でもないとする.
(手順 2) M を非コンパクトな曲面とする.コンパクトな場合の証明は後で与える.次に挙げる性質を持つ, コンパクトで連結な部分曲面の増大列 Mi ⊂M (i = 1, 2, . . .) を帰納的に作る.
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1. x0 ∈ IntM(M1) が成立する.
2. M1 が円板や 2 次元球面でない場合, 単純閉曲線 S ⊂ ◦M1 を 2 次元球面もMöbiusの帯も囲まないように選ぶ.
このとき,定理 2.3よりコンパクト集合 V ⊂ ◦M とM の同位変形 {θt}t∈Iが存在して, θt|(M−◦V ) = id , θ1h|S = idとなるのでM2 を ◦M2 ⊃M1∪Vを満たすようにとる.
3. H−1H(Mi × I) ⊂ ◦Mi+1 × I (i = 1, 2, . . .) が成立する.
4. M − ◦Mi (i = 1, 2, . . .) の各連結成分は非コンパクトである.
5.∞∪i=1
Mi =M が成立する.
M1 M2
x0 x0
図 2.部分曲面 M1, M2
H|M×{0} = id より, 上の条件 (3)から常に次が成立する.
H−1(Mi) ⊂ ◦Mi+1 × I, H(Mi × I) ⊂ ◦Mi+1.
後者は p ∈ H(Mi × I) とすると, (p, 0) ∈ H−1H(Mi × I) が成立する.条件 3より H−1H(Mi × I) ⊂ ◦Mi+1 × I であるので, p ∈ ◦Mi+1 とできることからわかる.特に, H(∂Mi × I) ⊂ ◦Mi+1 −Mi−1 が成立する.定理 2.4 を ∂M2i − ∂M の各成分に適用することにより, ◦M2i+1 −M2i−1 上
の同位変形で h を ∂M2i 上で恒等写像に変換できる.特にこの同位変形として, ◦M2i+1−M2i−1 の,あるコンパクト集合 Vi の外部と境界 ∂(◦M2i+1−M2i−1)を固定するものが存在するので, それを選ぶ.すべての i に対して同時にこの同位変形を作用させる.M1 (したがって x0 ) はこの同位変形で固定されてい
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る.前補題 1.19, 1.20 により各 i ≥ 1 について, ∂M2i 上では, ηt|∂M2i = id として良いことがわかる.故に今後はこれを仮定する.
(手順 3) M2 が円板のときは手順 2の最後の議論により, ηt|∂M2 = id であるので, Alexander の同位定理 (定理 1.11) より ηt|M2 = id となる.M2 が 2 次元球面のときは定理 1.13 により, ηt|M2 = id としてよい.M2 が円板でも 2 次元球面でもない場合, 手順 2での条件 (3)により, h|S = id とできる.またこのとき, 補題 1.19 により ηt|S = id と仮定してよい.そこで, M2 上にそれぞれ互いに共通部分を持たない単純弧 A1, . . . , An(1) を次のように選ぶ.
1. Aj ∩ ∂M2 ⊂ ∂Aj ⊂ S ∩ ∂M2 が成立する.
2. M2 を S ∩A1 ∩ · · · ∩An(1) で切り開くと, 連結成分はすべて円板になる.
このとき, A1 に関しては定理 2.5と h ≃ idという仮定より, 境界と S と, コンパクト部分集合の外部を固定する h(A1) を A1 に動かす同位変形が存在する.更に i ≥ 2 に関して, Ni = M2i − ◦M2i−2 の中にそれぞれ互いに共通部分を
持たない単純弧 An(i−1)+1, . . . , An(i) を次のように選ぶ.
1. Aj ∩ ∂Ni = ∂Aj (n(i− 1) + 1 ≤ j ≤ n(i)) が成立する.
2. Ni を An(i−1)+1, . . . , An(i) で切ると, 連結成分はすべて円板になる.
ホモトピーH はAn(i−1)+1, . . . , An(i)上で恒等的,つまり,H はAn(i−1)+1, . . . , An(i)を固定すると仮定する.また, h(Aj) と Aj が有限個の交点を持つと仮定しても一般性を失わない.p : M̃ →M を普遍被覆とする.このとき, p−1(S), p−1(Aj), p−1(∂Ni−∂M)
の各連結成分はいずれも単純弧か, R に同相である.よって Ni−S−j−1∪k=1
Ak の
逆像の各成分は単連結であることがわかる.そこで, h(Aj) と Aj をそれらの
成分に持ち上げたものを考えると, それらは Ni を S ∪j−1∪k=1
Ak で切って得られ
る曲面内でホモトピックであることがわかる.定理 2.5 より Ni −j−1∪k=1
Ak の同
位変形が存在して, h(Aj) を Aj に動かすが, この同位変形は境界と S と, コンパクト部分集合の外部を固定するものである.よって帰納的に, 一般性を失わずに h|Aj = id とできる.このとき補題 1.20 より ηt|Aj = id と仮定してよい.最後に Alexander の同位定理 (定理 1.11) を適用すれば h と id の間の求めるイソトピー Φ が得られる.
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M がコンパクトで境界のある曲面の場合, 直接手順 3のような弧をとればそのまま証明できる.M が閉曲面の場合, 基点を内部に持つ円板 D を一つとる.このとき, 円環領域定理より h(D) = D とできる.さらに簡単な同位辺形により h|D = id とできる.そこでM − ◦D と hM−◦D に対し,コンパクトで境界のある曲面と同様の議論を行えばよい.
3 一般の曲面におけるホモトピーとイソトピーこの節で,一般の曲面におけるホモトピーとイソトピーの同一性を示す.次の
定理により, 曲面上においてホモトピーとイソトピーが一致することが示せる.
定理 3.1. M を連結な曲面で, ∂M がコンパクトであるようなものとする.このとき次の 2つが成立する.
(A) h :M →M を同相写像とする.ただし, M が D2, S2, R2, S1 × I, または S1 × R の場合, h は向きを保つものとする.このとき h ≃ id ならばh ≈ id となる.
(B) h : (M,x0) → (M,x0) を基点を固定する同相写像とする.特に, M が(開) Möbiusの帯ならば h は x0 の近傍で向きを保つものとする.このとき h ≃ id (rel. x0) ならば h ≈ id (rel. x0) となる.
初めに言った通り,この定理が示せたならば曲面上のホモトピーとイソトピーは一致することが言える.
証明. M が D2, S2, R2, S1 × I, S1 × R, (開) Möbiusの帯の場合, 定理 1.11,2.10–2.15 で示した.また, M が閉曲面の場合, 閉曲面上のホモトピーはすべて固有ホモトピーなので, 定理 2.16 より示されている.よって, ここでは Mを前に示した曲面や閉曲面でないもので, ∂M ̸= ϕ または非コンパクトなものであると仮定する.M が ∂M ̸= ϕ であるコンパクトな曲面の場合, M の仮定と定理 2.4 より
∂M 各成分 b について h(b) = b が言える.M 上の恒等写像 id と h の間のホモトピー H : M × I → M を H(M, t) = ηt(M) とおくと, ∂M ̸= ϕ という仮定より M は T 2, kb ではないことがわかるので, 補題 1.19 とその注意によりηt|∂M = id として良い.H が固有ホモトピーであることがわかる.定理 2.16を用いれば (A)も (B)も示せる.よって以下, M を非コンパクトな曲面とする.境界については上の議論により固定できるので, あってもなくても良い.
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x0 ̸∈ ◦M の場合は上の議論と全く同じ証明をすればよいので x0 ∈ ◦M とする.x0 を通る単純閉曲線 S ⊂ ◦M を M 上で円板もMöbiusの帯も囲まないように選ぶ.このとき定理 2.4 より h|S = id として良い.故に補題 1.19 より ηt|S = id とできる.そこで, M のコンパクトで連結な部分曲面の増大列{Mi}(i = 1, 2, . . .) を次のように構成する.
1. Mi ⊂ ◦Mi+1,∞∪i=1
Mi =M である.
2. M1 は S1 × I でもMöbiusの帯でもなく, S ⊂ ◦M1 で, もし ∂M ̸= ϕ ならば M1 ∩ ∂M ̸= ϕ である.
3. M − ◦Mi の各連結成分は非コンパクトである.
4. ∂M の連結成分 b が Mi と交わるならば b ⊂Mi である.
5. Mi+1 − ◦Mi の連結成分 P が S1 × I に同相ならば M − ◦Mi の連結成分で P を含むものは S1 × [0,∞) と同相である.
M1 M2
x0 x0
S
図 3.部分曲面 M1, M2
この部分曲面の増大列に対し, 次の命題が成立する.
命題 3.2. ∂M ∪ {x0} を固定して, h|Mi を恒等写像に変えるようなイソトピーが構成できたと仮定すると, これから ∂M ∪Mi を固定し, h|Mi+1 を恒等写像に変えるようなイソトピーが構成できる.
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この命題が証明されたとすると, これらのイソトピーを全部合わせて t を保存するような同相写像
Ψ :M × [0,∞) →M × [0,∞), Ψ(x, t) = (ψt(x), t)
が得られる.この同相写像は i ≤ t上で恒等写像となっている.つまり ψt|Mi =id (i ≤ t) となる.同相写像 [0,∞) → [0, 1) を用いて, t を保つ同相写像Φ :M × [0, 1) → [0, 1) が得られる.この写像を M ×{1} 上で恒等写像と定めることにより, t ∈ I を保存する同相写像 Φ :M × I →M × I に拡張され, これはまさしく求めているイソトピーである.このイソトピーで h ≈ id を得る.
命題 3.2の証明帰納法で示す.まず,M1 の上では次の補題と定理 2.5により S と ∂M∪{x0}
を固定して, h|M1 を恒等写像に変えるようなイソトピーが構成できる.
補題. M を S2 と P2 以外の曲面, h を同相写像 M 上の同相写像, C とS1, . . . , Sn を次の条件を満たす可縮でない M 上の単純閉曲線とする.
1. C ∩ Si = ϕ (i = 1, 2, . . . , n)である.
2. C ̸≃ Si (i = 1, 2, . . . , n)である.
このとき h が恒等写像と S1, . . . , Sn を固定してホモトピックであるならば
h(C) は C と M −n∪
i=1
Si 上でホモトピックである.
このとき, C を ∂M2 − ∂M1 の連結成分として, M − ◦M1 の成分のうちで,S1 × [0,∞) と同相なものには含まれないとする.同相なものは定理 2.9 の 1次元版より h をその上で恒等写像になるようにできる.∂M2 の連結成分をC1, C2, . . . , Cn とすると, 上の補題により C1 と h(C1) は N2 =M −M1 − S上でホモトピックである.同様に k ≥ 2 のとき Ck と h(Ck) は Nk = M −
M1 − S −k−1∪l=1
Cl 上でホモトピックである.よって定理 2.5 より h|Cj を恒等写
像に変える同位変形で, Nj のあるコンパクト集合の外部を固定するものが存在する.補題 1.19 とその注意により ηt|M1∪∂M∪∂M2 = id とできる.よって定理 2.16 より ηt|M2∪∂M = id とできる.つまり ∂M ∪ {x0} を固定して, h|M1 を恒等写像に変えるようなイソトピーから, ∂M ∪M1 を固定し, h|M2 を恒等写像に変えるようなイソトピーが構成できた.i ≥ 2 とする.h|Mi∪∂M = id, ηt|Mi∪∂M = id と仮定する.M − ◦Mi の成分の
中に S1 × [0,∞) と同相な P があれば, 定理 2.9 より, h が恒等写像となるよ
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うにできる.C を ∂Mi+1 − ∂Mi の連結成分として, M − ◦Mi の成分のうちで,S1 × [0,∞) と同相なものには含まれないとする.∂Mi+1 の連結成分を C1, C2, . . . , Cn として, ηt|C1∪···∪Cn = id と仮定する.
ここで, Cj = C とすると, 補題より Cj と h(Cj) は Nj =M −Mi−j−1∪i=1
Ci 上で
ホモトピックである.このとき定理 2.5 により h|Cj を恒等写像に変える M の同位変形で Nj の, あるコンパクト集合の外部を固定するものが存在する.故に補題 1.19 により ηt|Cj = id とできる.i = 1 のときと同様に, これを繰り返せば ηt|Mi∪∂M∪∂Mi+1 を得る.定理 2.9 より ηt|Mi+1∪∂M = id とできる.よって示された.
これまでの結果を総括して, 以下, 定理としてまとめる.
定理. M を連結な曲面で, ∂M がコンパクトなものとする.
(A) ϕ, ψ : M →M を同相写像とする.特に M が D2, S2, R2, S1 × I, または S1 × R のときにはどちらも向きを保つものとする.このとき h ≃ idならば h ≈ id である.
(B) ϕ, ψ : (M,x0) → (M,x0) を基点を固定する同相写像とする.特に M が(開) Möbiusの帯ならば ϕ, ψはともに x0 の近傍で向きを保つものとする.このとき h ≃ id (rel. x0) ならば h ≈ id (rel. x0) である.
本論文では写像はすべて PL 写像と仮定していた.定理 3.4 の結果を一般の同相写像に拡張する方法は [1]のAppendixを参照のこと.
参考文献[1] Epstein, D. B. A., Curves on 2-manifolds and isotopies, Acta Math. 115 (1966), 83–107.
[2] 森元勘治,3次元多様体入門,培風館 (1996).
[3] 鈴木晋一,曲面の線形トポロジー 上,数学選書 槇書店 (1986).
[4] 鈴木晋一,曲面の線形トポロジー 下,数学選書 槇書店 (1987).
[5] 河内明夫,結び目理論,シュプリンガー・フェアラーク東京株式会社 (1990).
[6] Farb, B., Margalit, D., A primer on mapping class groups, Princeton MathematicalSeries, 49, Princeton University Press, Princeton, NJ, 2012.
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