量子力学III - shimane-u.ac.jp・弱い一様電場中に置かれた水素原子(Stark 効果) H...

24
量子力学 III

Transcript of 量子力学III - shimane-u.ac.jp・弱い一様電場中に置かれた水素原子(Stark 効果) H...

  • 量子力学III

  • I 近似法量子力学において厳密に解ける(=全てのエネルギー固有値と固有関数を解析的に決定できる)問題は「量子力学 I・II・演習」で学んだ

    V (x) ∝ 定数 (箱形), x2 (調和振動子), − 1|x| (H原子)

    ²n ∝ n2, n + 12

    , − 1n2

    など極く少数である. 大多数の物理現象を記述する厳密に解けない系に対しては数値的解法を用いるか、あるいは近似法を用いる必要がある. あらゆる場合に万能な近似法は存在しないので場合に応じて最適な方法を選ぶ.

    • 摂動論 : Hamiltonianが厳密に解ける場合に近い場合 (定常・非定常)

    • WKB法 : 古典論に近い領域に関心がある場合

    • 変分法 : 波動関数の概形が予想できる場合

  • • 摂動論 : Hamiltonianが厳密に解ける場合に近い場合 (定常・非定常)

    厳密に解ける場合からのずれを表すパラメータλによる系統的展開

    • WKB法 : 古典論に近い領域に関心がある場合

    Planck定数 h̄による系統的展開

    • 変分法 : 波動関数の概形が予想できる場合

    展開パラメータは存在しない

  • 1 摂動論:定常1.1 摂動展開

    Hamiltonianが

    H = H0 + λH′

    の形に書かれる場合を考える. λ ¿ 1は定数.ただし H0の固有値²n および随伴する固有関数ϕ

    (0)n (x)

    あるいは固有ベクトル |n〉は既知とする:H0 ϕ

    (0)n = ²n ϕ

    (0)n あるいは H0|n〉 = ²n|n〉.

    ・Hookeの法則から僅かに外れた非調和振動子

    H = − d2

    dx2+ x2 + λx4,

    ・弱い一様電場中に置かれた水素原子 (Stark効果)

    H = −∇2 − 1|x| + λz,

    ・スピン軌道相互作用を取り入れた水素原子

    H = −∇2 − 1|x| + λL · S.

  • エルミート演算子・行列の固有関数・ベクトルである{ϕ(0)n (x)}あるいは{|n〉}は完全系をなす.

    簡単のため H0の固有値は離散的で縮退がなく, 従って異なる固有値に属する固有関数あるいは固有ベクトルは直交すると仮定する:∫

    dx ϕ(0)n (x)

    ∗ϕ(0)m (x) = δnm あるいは 〈n|m〉 = δnm.

    以下では便宜上, 行列形式の記号に統一する.

    λが小さいが0ではないとき, 全HamiltonianH = H0 + λH

    ′の固有値Enおよび固有ベクトル |ϕn〉はH0の固有値²nおよび固有ベクトル |n〉に近く,λ → 0の極限でそれらに滑らかに収束するはずである.⇒ 固有値および固有関数はλに関する冪級数展開

    |ϕn〉 = |n〉+ λ |ϕ(1)n 〉+ λ2 |ϕ(2)n 〉+ · · · ,En = ²n + λ E

    (1)n + λ

    2E(2)n + · · ·

    の形に表されるとしてよい.

  • |ϕn〉 = |n〉+ λ |ϕ(1)n 〉+ λ2 |ϕ(2)n 〉+ · · · ,En = ²n + λ E

    (1)n + λ

    2E(2)n + · · ·

    をSchrödinger方程式

    H ϕn = (H0 + λH′)ϕn = ²nϕn

    の両辺に代入してλの各冪の係数を比較すると,

    λ0 : H0 |n〉 = ²n |n〉 (定義),λ1 : H ′|n〉+ H0|ϕ(1)n 〉 = E(1)n |n〉+ ²n|ϕ(1)n 〉,λ2 : H ′|ϕ(1)n 〉+ H0|ϕ(2)n 〉 =

    E(2)n |n〉+ E(1)n |ϕ(1)n 〉+ ²n|ϕ(2)n 〉, . . .

    一方, 摂動がないときの固有ベクトル{|n〉}の完全性により, 固有ベクトルの摂動展開に現れる|ϕ(1)n 〉, |ϕ(2)n 〉, . . .などの状態ベクトルを |n〉の線形結合として一意的に表すことができる:

    |ϕ(1)n 〉 =∑

    j

    cn,j|j〉, |ϕ(2)n 〉 =∑

    j

    dn,j|j〉, . . . .

    これらを上のλの各冪の係数から得た式に代入して係数cn,j, dn,j, · · ·およびE(1)n , E(2)n , . . .を逐次決定する.

  • 1次摂動 λ1の係数からは

    H ′|n〉+∑

    j

    ²jcn,j|j〉 = E(1)n |n〉+ ²n∑

    j

    cn,j|j〉

    ⇔ (H ′ − E(1)n )|n〉+∑

    j

    (²j − ²n)cn,j|j〉 = 0.

    この式と〈n|との内積をとり正規直交性〈n|j〉 = δnj を用いると, 第2項は寄与せず

    〈n|H ′|n〉 − E(1)n = 0よってn番目のエネルギー準位に対する最低次の補正が既知の量H ′および |n〉を用いて

    E(1)n = 〈n|H ′|n〉.

    また上の式と〈i|との内積をとると,〈i|H ′|n〉+ cn,i(²i − ²n) = 0

    よってn番目の固有ベクトルに対する1次の補正項の係数cn,iは

    cn,i = −〈i|H ′|n〉²i − ²n

    (i 6= n).

    縮退がない(²i − ²n 6= 0)から割り算が許される.

  • ただしcn,nだけはこの方法では決定できない. cn,nを決定するためには固有ベクトル |ϕn〉の規格化を用いる:('は「λ2および高次の項を除いて等しい」ことを表す)

    1 = 〈ϕn|ϕn〉 '(〈n|+ λ 〈ϕ(1)n |

    ) (|n〉+ λ |ϕ(1)n 〉

    )

    ' 〈n|n〉+ λ(〈n|ϕ(1)n 〉+ 〈ϕ(1)n |n〉

    )

    = 1 + λ(cn,n + c∗n,n).

    よってc∗n,n = −cn,n ⇒ cn,n=純虚数 iγがわかる.このとき固有ベクトルは (∑j ′ ≡

    ∑j 6=n)

    |ϕn〉 ' |n〉+ λ∑

    j

    ′cn,j|j〉+ λ iγ |n〉

    ' (1 + iγλ)|n〉+ λ

    j

    ′cn,j|j〉

    ' eiγλ状態ベクトル全体にかかる位相は物理量に影響を与えないからeiγλ = 1すなわち iγ = cn,n = 0としてよい.

    |ϕn〉 ' |n〉 − λ∑

    j

    ′〈j|H ′|n〉²j − ²n

    |j〉.

  • 2次摂動 λ2の係数

    H ′|ϕ(1)n 〉+H0|ϕ(2)n 〉 = E(2)n |n〉+E(1)n |ϕ(1)n 〉+²n|ϕ(2)n 〉に |ϕ(1)n 〉 = ∑j ′cn,j|j〉, |ϕ(2)n 〉 =

    ∑j dn,j|j〉 を代入:

    j

    ′cn,jH ′|j〉+∑

    j

    dn,j(²j − ²n)|j〉

    = E(2)n |n〉+ E(1)n∑

    j

    ′cn,j|j〉.

    再びこれと 〈n|との内積をとり正規直交性を用いると,左辺第2項と右辺第2項の∑j ′(定数)|j〉は寄与せず

    j

    ′cn,j〈n|H ′|j〉 = E(2)n すなわち

    E(2)n =

    j

    ′−〈j|H ′|n〉²j − ²n

    〈n|H ′|j〉 = −∑

    j

    ′∣∣〈j|H ′|n〉∣∣2

    ²j − ²n.

    特に基底状態のエネルギー (固有エネルギーの最低値)に対する2次補正については, 上式の分子・分母とも正であるからE(2)0 は常に負となる.

  • また〈j| (j 6= n)との内積をとり, さらに状態ベクトルを規格化することによって展開係数{dn,j} も完全に決定できる(小出「量子力学(I)」p.199, (16)).

    λ2までの近似でエネルギー準位は

    En ' ²n + λ 〈n|H ′|n〉 − λ2∑

    j

    ′∣∣〈j|H ′|n〉∣∣2

    ²j − ²n.

    λ1までの近似で固有ベクトルは

    |ϕn〉 ' |n〉 − λ∑

    j

    ′〈j|H ′|n〉²j − ²n

    |j〉.

  • 1.2 水素原子の分極

    H原子中の電子のエネルギー準位と波動関数は, 陽子のつくるCoulombポテンシャルをもつHamiltonian(簡単のため無次元化する)

    H0 = −1

    2∇2 − 1

    r

    に対する固有値問題を(r, θ, φ)に変数分離して解くことにより決定でき,

    |n`m〉 ∼ ϕ(0)n`m(r, θ, φ) = Rn`(r)Y m` (θ, φ),²n = − 1

    2n2.

    球面調和関数Y m` (θ, φ)は(6 角運動量 参照)

    Y 00 =1√4π

    ,

    Y 01 =

    √3

    4πcos θ, Y ±11 = ∓

    √3

    8πsin θ e±iφ, ...

    であり, 規格直交性を満たす. 特に, Y 00 は角度変数に依らないから基底状態 |100〉の波動関数は球対称.

  • H原子を一様電場E ‖ z軸中に置くとHamiltonianはH = H0 + eEz ≡ H0 + λ r cos θ

    と変更される. この影響で基底状態の球対称な確率密度が変形する分極現象を印加された電場が弱いとして摂動論で扱おう. 波動関数はλ1までの近似で

    |ϕ100〉 ' |100〉 − λ∑

    n,`,m

    ′〈n`m|r cos θ|100〉²n − ²1

    |n`m〉.

    行列要素

    〈n`m|r cos θ|100〉 =∫ ∞0

    dr r2 R∗n`(r)r R10(r)

    ×∫

    dΩY m` (θ, φ)∗ cos θ Y 00 (θ, φ)

    の角度積分は∫

    dΩY m` (θ, φ)∗ 1√

    3Y 01 (θ, φ) =

    1√3

    δ`,1δm,0

    なので, 1次摂動で混合してくる状態は ` = 1, m = 0なもののみ. このためエネルギーの1次補正はE

    (1)100 = 〈100|z|100〉 = 0となる. また,動径積分の値もRn`(r)の具体形を用いて計算できる:

    〈n10|r cos θ|100〉 = 1√3

    ∫ ∞0

    dr r2 Rn1(r)r R10(r) ≡ bn

  • bn = 〈n10|z|100〉 = 1√3

    ∫ ∞0

    dr r2 Rn1(r)r R10(r),

    b2 = 〈210|z|100〉 =1√3

    ∫ ∞0

    dr r2 R21(r)r R10(r)

    =∫ ∞0

    drr3√3

    r e−r/2

    2√

    62e−r = 2

    7√

    2

    35.

    以上より

    |ϕ100〉 ' |100〉 − λ∑

    n≥2

    bn

    −1/(2n2) + 1/2|n10〉.

    この波動関数を用いて分極〈z〉を計算すると,〈z〉 = 〈ϕ100|z|ϕ100〉

    ' 〈100|z|100〉−λ

    n≥2

    2bn1− n−2(〈100|z|n10〉+ 〈n10|z|100〉)

    = 0− λ∞∑

    n=2

    4b2n1− n−2 = −λ

    (217/310

    1− 2−2 + · · ·)

    .

    総和の初項の値は2.95 . . .であるが, 実は総和を解析的に実行できて9/2になることが知られている.

  • 単位系を元に戻すと, 双極子モーメントPは

    P = −e 〈z〉 = −92

    (4π²0)4 h̄6

    m3e6E ≡ −αE

    となり, 外部電場との比例係数である分極率αが求まる.双極子モーメントの誘起は外部電場の影響で確率密度の重心が陽子のz軸下方に移動したことに由来する.

  • 1.3 縮退がある場合

    前節では摂動がないHamiltonian H0のエネルギー固有値{²n}が縮退していない場合に限定していた.摂動があるときの固有状態はH0の固有状態 |n〉に他の状態 |j〉が混入したものになるが, 縮退がある場合には係数の分母²j − ²n が0になり得るために注意が必要.

    H0の初めのN個の固有値が縮退 ²1 = · · · = ²N(≡ ²)とし, 規格直交化されたN個の固有状態の組の一つを{|1〉, · · · , |N〉}とする. H ′のエルミート性のためにそれらの行列要素を並べたN ×N行列

    H′ =〈1|H ′|1〉 · · · 〈1|H ′|N〉

    ... . . . ...〈N |H ′|1〉 · · · 〈N |H ′|N〉

    もエルミートであるから, あるN ×Nユニタリー行列Uにより対角化できる:

    U†H′U =

    E(1)1 . . .

    E(1)N

    , U†U = 1.

  • 換言すれば, ユニタリー行列Uを用いて[|1̃〉 · · · |Ñ〉

    ]= [|1〉 · · · |N〉]U

    で定義される新たなN個の状態の組 |1̃〉, . . . , |Ñ〉はやはり規格直交化されたH0の固有状態になっており, これらに対するH ′の行列要素は対角的である:

    〈1̃|H ′|1̃〉 · · · 〈1̃|H ′|Ñ〉

    ... . . . ...〈Ñ |H ′|1̃〉 · · · 〈Ñ |H ′|Ñ〉

    =

    〈1̃|...〈Ñ |

    H ′[|1̃〉 · · · |Ñ〉]

    = U†〈1|...〈N |

    H ′[|1〉 · · · |N〉]U

    = U†H′U =

    E(1)1 . . .

    E(1)N

    .

  • 〈1̃|H ′|1̃〉 · · · 〈1̃|H ′|Ñ〉

    ... . . . ...〈Ñ |H ′|1̃〉 · · · 〈Ñ |H ′|Ñ〉

    =

    E(1)1 . . .

    E(1)N

    .

    H0の固有状態の規格直交完全系として始めから

    |1̃〉, . . . , |Ñ〉, |N + 1〉, |N + 2〉, . . .を選んでおけば始めのN個の状態のうち異なる状態間の行列要素〈m̃|H ′|ñ〉 は0となるから, 通常の公式

    Eñ ' ² + λ 〈ñ|H ′|ñ〉 − λ2∑

    j 6=ñ

    ∣∣〈j|H ′|ñ〉∣∣2²j − ²

    = ² + λ E(1)n − λ2∑

    j≥N+1

    ∣∣〈j|H ′|ñ〉∣∣2²j − ²

    ,

    |ϕñ〉 ' |ñ〉 − λ∑

    j≥N+1

    〈j|H ′|ñ〉²j − ²

    |j〉

    を用いることができる. 特に, エネルギーの1次補正E

    (1)n はN ×N行列H′ の固有値 = 特性方程式の根:

    ∣∣∣H′ − E(1)1∣∣∣ = 0

  • 1.4 2次元非調和振動子

    10 近似法では1次元非調和振動子を摂動的に扱った.ここでは原点の距離にほぼ比例する力を受けてxy平面を運動する2次元非調和振動子を扱う. 摂動がないとき, Hamiltonianはx成分とy成分の単なる和

    H0 =1

    2(p2x+x

    2)+1

    2(p2y+y

    2) = (a†xax+1

    2)+(a†yay+

    1

    2)

    だから, エネルギー固有状態はx, yが変数分離 (直積)

    |nx ny〉 = |nx〉 ⊗ |ny〉, nx, ny = 0,1,2, . . . ,対応する固有値はnx + ny + 1. このため第N励起準位 ²N = N + 1 (N = 0,1,2, · · ·)は{|N 0〉, |N − 11〉, . . . , |0N〉}のN + 1重に縮退.

    2次元調和振動子に摂動H ′ = xyが掛けられた場合の第1励起準位の変化を前節に従って取り扱う.²1 = 2は{|10〉, |01〉}の2重に縮退している. H ′の行列要素の計算には生成消滅演算子の作用を用いる:

    a|n〉 = √n|n− 1〉, a†|n〉 =√

    n + 1|n + 1〉.

  • a|n〉 = √n|n− 1〉, a†|n〉 =√

    n + 1|n + 1〉.

    xy|10〉 = ax + a†x√

    2|1〉ay + a

    †y√

    2|0〉

    =1

    2

    (√2|2〉+ |0〉

    )|1〉 = 1√

    2|21〉+ 1

    2|01〉.

    xy|01〉も同様. 〈10|および〈01|との内積をとり規格直交性を用いると

    H′ =[〈10|H ′|10〉 〈10|H ′|01〉〈01|H ′|10〉 〈01|H ′|01〉

    ]=

    [0 1212 0

    ].

    行列H′の固有値:+12,−12, 規格化された固有ベクトル:

    |1+〉 = |10〉+ |01〉√2

    , |1−〉 = |10〉 − |01〉√2

    .

    これらの状態を第1励起状態の基底として改めて摂動展開を行う. |1±〉と他の状態との間のH ′ = xyの行列要素は同様に計算できる:

    xy|1±〉 = xy |10〉 ± |01〉√2

    =1√2

    (1√2|21〉+ 1

    2|01〉

    ± 1√2|12〉 ± 1

    2|10〉

    )=

    1

    2|21〉 ± 1

    2|12〉 ± 1

    2|1±〉.

  • 摂動の2次までのエネルギーの公式にこれら行列要素を代入して,

    E1± ' ²1 + λ〈1± |H ′|1±〉

    −λ2∑

    nx,nynx+ny 6=1

    |〈nx ny|H ′|1±〉|2²nx+ny − ²1

    = 2 + λ(±12)

    −λ2(|〈21|H ′|1±〉|2

    ²3 − ²1+|〈12|H ′|1±〉|2

    ²3 − ²1

    )

    = 2± λ2− λ

    2

    4.

    1次摂動により縮退が解ける.

  • ²1± ' 2±λ

    2− λ

    2

    4.

    実はHamiltonian H = H0+λH ′ のポテンシャルは2次式だから主軸変換(45◦回転)により変数分離可能:

    H =1

    2(p2x + p

    2y) +

    1

    2(x2 + y2 + 2λxy)

    =1

    2(p2X + p

    2Y ) +

    1

    2

    ((1 + λ)X2 + (1− λ)Y 2

    ).

    この形では, 摂動Hamiltonian Hは無摂動Hamilto-nian H0のバネ定数を1 → 1± λに変化させたものに他ならず, そのエネルギー固有値は厳密に

    EnX nY = (nX +1

    2)√

    1 + λ + (nY +1

    2)√

    1− λ,nX , nY = 0,1,2, . . .

    平方根をλ2までTaylor展開すると

    EnX nY ' (nX+nY +1)+nX − nY

    2λ−nX + nY + 1

    8λ2

    となり, (nX , nY ) = (1,0), (0,1)のときには摂動論の結果が確かに厳密値の正しい近似になっていることが検証できる.

  • 1.5 励起水素原子の分極 (Stark効果)

    1.2節では基底状態(n = 1)にあるH原子中の電子の分極現象を摂動的に扱った. 第1励起状態(n = 2)は4重に縮退しているため, 1.3節に従って取り扱う.まずは角運動量の大きさとz成分の同時固有状態

    {|2`m〉} = {|200〉, |210〉, |211〉, |21-1〉}を基底としてH ′=zの行列要素〈2`′m′|z|2`m〉を計算.波動関数ϕ(0)n`m(x)は空間反転x → −x, すなわちφ → φ + π, θ → π − θ の下での偶奇性をもつ:

    ϕ(0)n`m(−x,−y,−z) = (−1)`ϕ

    (0)n`m(x, y, z)

    (Y m` の性質)から, `が等しい状態間では

    〈2`m′|z|2`m〉=

    ∫ ∫ ∫ ∞−∞

    dx dy dz ϕ(0)∗2`m′(x, y, z)z ϕ

    (0)2`m(x, y, z)

    =∫ ∫ ∫ −∞

    ∞(−dx)(−dy)(−dz)ϕ(0)∗2`m′(−x,−y,−z)

    × (−z)ϕ(0)2`m(−x,−y,−z)= (−)2`+1

    ∫ ∫ ∫ ∞−∞

    dx dy dz ϕ(0)∗2`m′(x, y, z)z ϕ

    (0)2`m(x, y, z)

    = −〈2`m′|z|2`m〉 = 0.

  • よって行列要素を持ち得るのは角運動量の大きさ`が異なる状態間〈21m|z|200〉であるが, cos θ Y 00 ∝ Y 01 であるから実際に0でないものは〈210|z|200〉のみで,

    〈210|r cos θ|200〉=

    ∫ ∞0

    dr r2 R21(r)∗r R20(r)

    ∫dΩY 01 (θ, φ)

    ∗ cos θ Y 00 (θ, φ)

    =∫ ∞0

    dr r3r

    2√

    6e−r/2

    1− r2√2

    e−r/2 × 1√3

    = −3.

    以上より4× 4行列H′ =

    〈200|z|200〉 〈200|z|210〉 〈200|z|211〉 〈200|z|21-1〉〈210|z|200〉 〈210|z|210〉 〈210|z|211〉 〈210|z|21-1〉〈211|z|200〉 〈211|z|210〉 〈211|z|211〉 〈211|z|21-1〉〈21-1|z|200〉〈21-1|z|210〉〈21-1|z|211〉〈21-1|z|21-1〉

    =

    0 -3 0 0-3 0 0 00 0 0 00 0 0 0

    .

    H′の固有値は0,0, および[

    0 -3-3 0

    ]の固有値の−3,+3.

    H′の規格化された固有ベクトルは

    |211〉, |21-1〉, |2±〉 = |200〉 ± |210〉√2

    .

  • これら4つの状態 |211〉, |21-1〉, |2+〉, |2−〉 を第1励起(n = 2)状態の基底とし, 改めて摂動展開を行う.

    摂動の1次近似でのエネルギーは

    E211 = E21-1 = −1

    8, E2+ = −

    1

    8−3λ, E2− = −

    1

    8+3λ

    となり4重の縮退が部分的に解ける.

    状態 |ϕ2±〉 = |2±〉+ · · ·は摂動の0次で(外部電場がない場合) 既に0でない分極を持っている (自発分極):

    〈z〉2± = 〈ϕ2±|z|ϕ2±〉' 1

    2(±〈210|z|200〉 ± 〈200|z|210〉) = ∓3.

    単位系を元に戻すと自発分極に伴う双極子モーメントは

    P = −e 〈z〉 = ∓34π²0 h̄2

    me.