宮野森小学校 Miyanomori Elementary School 東松...

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Miyanomori Elementary School 宮野森小学校 東松島市立

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  • シーラカンスケイアンドエイチ株式会社

    工藤和美+堀場弘

    Miyanomori E lementary School

    東松島市立

    宮野森小学校

    シーラカンスケイアンドエイチ株式会社

    工藤和美+堀場弘

    Miyanomori E lementary School

    東松島市立

    宮野森小学校

    シーラカンスケイアンドエイチ株式会社

    工藤和美+堀場弘

    Miyanomori E lementary School

    東松島市立

    宮野森小学校

  • 未来を感じる新たな小学校として 適正規模化という名のもとに、平成の時代に入って大規模な統廃合が各地で行なわれてきました。その一方で、地域コミュニティの核として学校の在り方が、再び問われています。学校が減って子ども達の姿が地域から離れ、大規模な集約や小中一貫の新しい学校の建築は、もはや子どものスケールではなくオフィスを思わせる閉じた建築に向かっています。感性を育て、自然に接する豊かな教育の環境を、建築の面からもう一度見つめなおす時期に来ていると感じます。宮野森小学校は、

    『森の学校』という大きなテーマの下で、復興の森の整備と伴に、多くの方々が力を注いできました。しかし、失われた様々な事を温存するのではなく、あえて感じさせない。穏やかな自然に開き美しい光に包まれた、未来に向けた豊かな教育実践の拠点として、新しい第一歩を示した現代木造の小学校です。 宮戸の海と野蒜の森をテーマに、外での学びと室内での学びを一体的に考えた校舎です。小さな家型の教室が森や中庭に開き、おおらかな屋根に包まれ、海に見立てた中庭を囲みながら、穏やかで明るい学びの環境を実現しています。木造でありながら、気密性や消音への細かな配慮によって、静かな学習環境を実現しています。野蒜ケ丘の新しい拠点として、こころ豊かにのびのび子どもたちが過ごせるようにたくさんの工夫が施されています。

    ©Satoshi Asakawa

  • 子どもたちを迎えるアプローチ。昇降口は図書室に隣接し、下校時に宿題やバス待ちでにぎわう。©Satoshi Asakawa

  • まちに開いた学校。管理諸室や、図書室、地域ラウンジや地域開放する体育館など地域に関係する部屋が町に開き、街並みを形成している。©Satoshi Asakawa

  • 中庭には、松島に点在する島々をイメージしたテラスがあり、外での学習を誘発します。2 つの教室の間には、森へ出かけるための小さな出入り口と水場があり、森とのつなぎになります。©Satoshi Asakawa

  • ■野蒜小学校災害復旧工事として■住むことのリアリティを希望に変える新校舎

    図 A-3: 地図 (©Google マップ)

    図 A-4: 被災前の東松島市の航空写真 図 A-5: 被災直後の東松島市の航空写真 図 A-6: 復興中の東松島市の航空写真

    図 A-14 ~ 17: 関係各所との打ち合わせ、ワークショップなどの風景写真

    図 A-2: 実施設計時の鳥瞰パース

    図 A-9: 東松島を舟で視察

    図 A-14: 基本設計当時の模型 図 A-15:1/50 の模型による検討

    図 A-1: 裏山から見る敷地の眺望

    図 A-7: 復興の森計画図 (© 早稲田大学古谷誠章研究室 ) 図 A-8: 復興の森 ( ツリーハウス )

    図 A-10 図 A-12図 A-11 図 A-13

     最初に目にした造成地の光景は、30 年程前に千葉県の幕張ベイタウン

    の計画に着手した時の事を蘇らせた。何もない、埋め立てのススキの原に、

    人が住むリアリティをデザインで生み出すという事。そして、最初の公共

    施設としての打瀬小学校が、街のコミュニティをつくりあげ、学校の評判

    が世界を巡りマンションは売れ、街は賑わいを生みだした。その記憶を、

    復興の地では森との共存で、美しく強く豊かな木造校舎を実現し、再建を

    希望に変えたいと考えた。

     東松島市立宮野森小学校は,全校児童数 143 名の小規模校である。被

    災した野蒜小学校と児童数が減っていた宮戸小学校の統合によって生まれ

    た新しい学校である。

     私たちは、木造校舎での出直し実施設計プロポーザルコンペという、特

    殊な状況から本プロジェクトに参加した。十分な時間や設計費もない中で、

    基本設計からすべてやり直す作業は、これまでにない困難を伴った。しか

    し、本建物を 2016 年末までに完成させ、3 学期だけでも本当の校舎で学

    ばせてあげたいという、学校関係者や地域の方々の熱い思いを受け、地元

    事務所との協働で取組んだ。敷地造成が始まったばかりの頃、基本設計を

    急ピッチにまとめた矢先に、敷地の形状が 10m 以上異なることが、よう

    やく出てきた敷地図から判明し、すべてやり直すなど、先の見えない不安

    な中での設計となった。

     東日本大震災による甚大な津波被害を受けた地域では、6 年目の春を

    迎え、ようやく具体的な街の姿が見え始めている。宮城県東松島市(図

    A-3)では、災害後いち早く高台への集団移転を決め、URによる土地区

    画整理事業が急ピッチで行われた ( 図 A-5,6)。山が削られ土砂が長大なベ

    ルトコンベアーで沿岸部に運ばれる姿は、特異な光景であった。我々は、

    まだ目えない敷地を裏山から眺め(図 A-1)、設計に着手した。裏手にあ

    る「復興の森」*1(図 A-7)を含めて市が土地を準備したのは、震災後に

    アファンの森 *2(長野県黒姫山)で心を癒され、元気な笑顔を取り戻し

    た子ども達の様子に、自然の治癒力を実感した上での事であった。今回、

    全体コンセプトとなる「森の学校」が生み出されるまでには、実に多くの

    方々の熱い思いと献身的な努力の積み重ねに寄るものである。それ故、建

    築家に託された校舎設計の役割には、重いものがある。

    *1 復興の森 : 地域本来の森や川、海などの自然環境を取り戻し、豊かな森が持つ " 森の癒し " を提供しようというアファンの森財団が中心となっての取り組みがなされている森。

    *2 長野県黒姫で森を甦らせる活動を行っている C.W. 二コル・アファンの森財団の森

    特別名勝松島保護地区

     被災地での工事落札不調が続く中で、円滑な工事を行う必要があった。

    当時は、プラン不足によるコンクリート待ちが続いており、極力 RC 部を

    減らし、木造とすることで工期を安定させることとした。また、木材に関

    しては、特殊な材の使用を減らし、一般流通材のスギ製材を主体に、4m

    の規格サイズを大半とすることに決めた。さらに、被災地での大工不足が

    懸念されたため、プレカットで加工可能な接手を前提とし、意匠と構造の

    設計を確定していくこととした。

  • 中庭

    グラウンド

    2階

    教室棟教室棟

    特別教室棟特別教室棟

    図書棟図書棟

    管理棟管理棟

    職員・外来玄関

    生活科室

    教室教室

    外の教室

    教室

    教室

    特別活動室1

    教材庫

    土間教室

    教室

    特別活動室2教材庫

    図工室理科室

    配膳室

    機械室

    地域ラウンジ

    PC室 図書室

    放送室

    児童用玄関

    家庭科室

    音楽室

    多目的室

    EV

    機械室

    屋内運動場屋内運動場

    WC

    プール

    教室 教室

    職員室

    校長室

    保健室

    野蒜駅→

     

    図 A-17: 被災前の校舎 図 A-18: 新校舎図 A-16: 昔の校舎

    全体平面図 S=1/500

     学校建築は,昭和 25 年代以降の急激な人口増に対応するため、画一化

    と効率重視で進められてきた歴史がある。しかし、感性が磨かれる幼い子

    ども達にとって、一日の大半を過ごす学校空間は、単なる効率化であって

    はならない。豊かで一人一人を大切にし、先生も児童も互いに助け合い切

    磋琢磨できる居心地のよい空間が必要である。被災地復興の鍵は、これか

    らの社会を担う子ども達にあるからだ。 そこで背面にある山と谷戸の「復

    興の森」を常に感じながらみんなが一緒に居ることを視覚的にも感じられ

    安心して落ち着いて学べる環境を整えたいと考えた。本建物は、中庭を取

    り囲むように、平屋の管理棟・教室棟・図書棟が三つの渡り廊下で連結し

    ている。こうすることで、独立性を保ちながらも、互いに程よい距離で様

    子がわかる。小規模校だからこそのメリットを贅沢に生かした点でもあ

    る。建物全体を貫く、欄間梁や格子柱は昼間は光を取り入れ、かつ目線を

    抜き線材の繊細な美しさをもちながら建物を支えている構造材として役割

    を担っている。森や街に向けて開いた家型開口部には樹形状のブレースが

    対に設置されている。これは意匠と構造で何度もキャッチボールしながら

    解析を行い形を決定した。

     この小学校は、被災した野蒜小学校と児童数が減少した宮戸小学校との

    統合校で、児童数 143 名でスタートした。普通教室が 6 教室と特別活動

    用に 3 教室、特別活動が 2 教室。つまり、低中高学年ごとに 1 教室を余

    裕として使えるような計画とした。

     孟母三遷 *4 という言葉は、学校を設計する度に思いだす言葉の一つだ。

    子を託す学び舎への期待は、住まいを選ぶ事と直結している。仙石線が高

    台での運行を始め、自立再建の家々や災害公営住宅の建設が野蒜ケ丘 *5

    で加速的に始まっていた。最初の灯となって街に安らぎを与える宮野森小

    学校は、これからの社会で期待される学校像とも言える。自然の中で、多

    くの発見や五感に満ちた学びの環境は、街の未来を託す子ども達の居場所

    となる。同時に、コミュニティスクールのスタートに合わせて、地域の教

    育力を発揮するラウンジも設置した。将来の休日利用も見据えて、図書棟、

    特別教室棟、体育館といった施設を、街に開きやすい配置とした。校内で

    活発に過ごす児童たちの姿が、街を元気にし、身近な公共施設としての学

    校を目指している。何と言っても、夕刻には木造校舎から漏れる美しい光

    が、復興への心の安らぎになっている。これから始まる文部科学省 学習

    指導要領の大改訂に織り込まれている、「次世代の学校・地域」創生プラ

    ンや「チームとしての学校」を実践できる、先駆的な施設計画にもなって

    いる。

     昭和 30 年代まで、野蒜小学校は美しい破風を持つ木造の校舎(図

    A-16)だった。その姿が、鉄筋コンクリートの標準設計(図 A-17)に取っ

    て変わり、その後、耐震補強で耐えながら津波被害に見舞われた。再建す

    るにあたり、次の時代を担う校舎を、もう一度、木造にしたいという英断

    を市が下した。心温まる美しい木造校舎を、耐震性にも優れた現代木造で

    実現すると同時に、被災地の入札不落やコンクリート不足、人手不足を視

    野に入れた設計である事に加え、自衛隊東松島基地から飛びたつ飛行機の

    防音対策等、通常の学校設計より数倍も条件が厳しい中、実施設計からの

    やり直しプロポーザル *3 がスタートした。それでも、復興の森に接す

    ■街を育てる、街に開かれた学校として ■線材の組合せによる,美しく強い木造校舎■再び木造校舎に戻るという意味

     特別名勝松島保護地区という条件の中で、自然に溶け込み、遠方からの景

    観に調和する色や型が条件となった。

    ■特別名勝松島保護地区

    る豊かさや、小規模校ならではのコンパクトさから大半を平屋で構成でき

    る事など、好条件も揃っていた。被災した年に入学し仮設校舎で過ごした

    6 年生に、最後の 1 学期間だけでも本当の学校に通わせてあげたいという、

    大人たちの要望に応えるべく、検討を重ねた。

    *3 2014 年 4 月実施設計プロポーザルコンペを経て、地元の盛総合設計と協働で取り組んだ。*4 孔子の母がより良い子供の教育環境を求めて、居を 3 度変えたということわざ*5 野蒜ケ丘 : 高台移転で生まれた新しい街の名前

    グラウンドと体育館は接するのが一般的だが、ここでは狭小立地の特性から「復興の森」での学習連携を視野に入れた最適配置とした。

    ©Satoshi Asakawa

  • 外部と内部に織りなす樹状ブレース構造が教室の耐震要素として機能しながら、「森の学校」らしさを醸し出す。©Satoshi Asakawa

  • ラチス状の格子で構成された柱・梁が登り梁を支えている。森に向かい北側に配置した教室と、南側の特別教室やオープンスペースが連続的に繋がる。冬には庇のあるハイサイドから入った光が室内を温め、教室上部の遮光膜が光を和らげる。

    教室棟の中央にある土間部分と職員室と図書室以外の渡り廊下部分を耐火建築とし、1,000㎡以内の別棟扱いにすることで、木造現しの建築を実現した。

    大屋根の下に、教室ごとの小さな家型が貫入し森に開き、教室棟、図書棟と管理棟が中庭を囲みながら連結している。どこにいても、誰かが見守っていてくれる視線の抜けの良い校舎となっている。©Satoshi Asakawa

  • ©Satoshi Asakawa

  • スパンが大きい管理棟は大梁が屋根を支える。

    樹状のフレームは図書棟の耐震要素として機能する。特別教室棟の 2 階からは、北に美しい「復興の森」を臨み、表現の舞台をのぼると、遠くに宮戸の海を見晴らす事が出来る。

    海と森の小学校の統合として、象徴的な空間となっている。

    ©Satoshi Asakawa

    ©Satoshi Asakawa

    ©Satoshi Asakawa

  • ©Satoshi Asakawa

  • 外の教室(バームルーム)は、丸太仕上げの特別な部屋であり、全開する建具の先に、森に向かう道が近く整備される。©Satoshi Asakawa ©Satoshi Asakawa

    ©Satoshi Asakawa

    ©Satoshi Asakawa ©Satoshi Asakawa

  • 少人数に対して普通教室が十分広いため、一般的なオープンスぺ―スではなく、児童数が増えた

    時に教室に移行できる事を見据えた多目的活動室とし、豊かな学習環境を生みだしている。©Satoshi Asakawa

    ©Satoshi Asakawa

  • 図書館棟部分平面詳細図 S=1/100

    図書館棟 Y17 通り断面詳細図 S=1/100

    教室棟部分平面詳細図 S=1/100

    教室棟断面詳細図 S=1/100

    2475022500900

    1800 5400 3600 5400 1800 3600 9001350

    1800 1800 1800 1800 1800 1800 1800 1800 1800 1800

    1800

    10200

    15600

    4500

    3600

    2100

    3600

    1800

    1800

    400

    7070

    7070

    7070

    7070

    7070

    7070

    7070

    7070

    7070

    7070

    7070

    110 110

    7070

    217

    5050

    900

    190

    750

    450

    900

    750

    190

    260

    9560

    70

    下駄箱

    お話しルーム アルコーブ

    放送室

    図書室PC室

    CX8CX6CX5CX4CX3CX2 CX7CX1

    CY1

    CY2

    CY3

    CY4

    900

    900900 900 900

    900

    900

    900

    600

    900

    900

    900

    900

    900

    900

    900

    900

    900

    900

    900

    900

    900

    900900900900900900900 9009009009002700 7200

    9900

    900

    900

    900

    900

    900

    900

    900

    900

    900

    900900900900 900900900 90072003600

    900

    8100

    土間

    渡り廊下3

    特別活動室2

    更衣室

    多目的スペース3

    学級園5

    クワイエットルーム3

    廊下(高学年)

    教材庫2

    室外機3

    手洗いコーナー3

    アルコーブ3

    昇降口3

    普通教室5普通教室6

    1475

    1475

    1500

    2950

    9524.37

    1500

    1500

    7575

    教室棟

    渡り廊下3

    AX9

    AX2AX1 AX3 AX5 AX6AX4

    AY7

    AY6

    AY5

    AY4

    AY3

    AY2

    AY1

    DS

    DS

    庇の端部

    庇の端部

    庇の端部

    生活科室

    屋根:フッ素カラーガルバリウム鋼板t-0.4    横葺

    アスファルトルーフィング940硬質木片セメント板 t-25

    垂木 90×90 @600硬質木片セメント板 t-18構造用合板 t-24

    掲示用ブルテンボード 25×40

    硬質ウレタンフォーム断熱材 t-30

    廊下樹状木柱フレーム

    テラス

    パーチ t-20.0 + ラワン合板 t-12.0 下地

    鋼製支持脚鋼製支持脚

    カ゛ラス繊維・ハ゜ルフ゜混抄シート t-0.7ハイサイト゛ライト遮光幕天井:吸音材表し グラスウールマット 32kg/㎡ t-25 厚手ガラスクロス貼り

    屋外木部用高性能木材保護塗装

    砕石 t-90均しコンクリート t-60ポリエチレンフィルム t-0.15

    床吹出口

    床:リノリウム床シート t-2.5パーチ t-20.0 + ラワン合板 t-12.0 下地

    壁:構造用合板 t-9.0杉羽目板張(横目 特1等)t-12.0 自然保護塗装

    普通教室1

    壁:構造用合板 t-9.0杉羽目板張(横目 特1等)t-12.0 自然保護塗装

    巾木:木巾木(杉材) t-12.0 H=135 自然保護塗装

    外壁:レット゛シタ゛ー t-15 H135

    透湿防水シート

    縦胴縁 t-18横胴縁 t-18

    水切り:カラーガルバリウム鋼板t-0.4加工

    天井:吸音材表し グラスウールマット 32kg/㎡ t-25 厚手ガラスクロス貼り

    床:センフローリング t-17.0 ウレタン塗装

    基礎立上り:塗膜防水

    硬質ウレタンフォーム t-80

    空調吹き出し

    エコシルフィー

    間接照明

    FL

    教室・生活室 軒高 FL+2896

    モルタル金ゴテ

    棟木天端 FL+4305

    AY1 AY2 AY3 AY4 AY5 AY6 AY7

    60036001800360024003600450060019500

    1605

    180

    6090

    210

    4095

    750

    1170

    1350

    5190

    180

    2760

    2328

    .09

    3840

    3660

    400

    1610

    240

    180

    375

    2250

    2010

    450010200

    360021003600

    60

    937.

    55

    30

    1512

    放送室

    ガルバリウム鋼板水切り

    (タイガースーパーハード同等品)

    硬質木片セメント板 t=25構造用合板 t=12

    レッドシダー15t×128通気胴縁 15×60

    アクアフォームNEO同等品 t=45

    透湿防水シート

    間柱60×90木額縁 t=25

    屋根同材水切り

    普通硬質せっこうボード t=15

    屋根同材軒先水切り屋根同材 針葉樹合板t12

    (キシラデコール同等品)屋外木部用高性能木材保護塗装

    構造用合板t12屋外木部用高性能木材保護塗装

    (キシラデコール同等品)

    垂木 90×90 @600

    垂木 90×90 @600

    パーフェクトルーフ(同等品)

    非加硫ブチルゴム裏打ち

    硬質木片セメント板 t=25

    フッ素ガルバリウム鋼板 t=0.4

    KDシート t=1m/mADボンド

    ネオマフォームt80

    硬質木片セメント板 t=18構造用合板 t=24

    グラスウールマット35kg/m

    CY4 CY3 CY2 CY1

    3.810

  • ■自然を生かした設備計画と防音計画

    ■「ラチス状ラーメン構造」による半透明空間

     庇のあるハイサイドは夏の日差しをカットし ( 図 E-2)、冬に入る光によ

    り室内が暖められ、暖房をあまり必要としない環境を目指した ( 図 E-1)。

    遮音性能を担保するためガラスの遮音・断熱性能が高く、また屋根および

    壁の断熱性能も高く保つことで、建物全体をワンルームとしてとらえる環

    境を実現させた。教室棟は天井が高いため、空調は床下に暖気を送ること

    で足元から温めながら、窓際のペリメーターから室内に入り、教室を通っ

    て通路側に流れる。通路の上部に上がった暖気をサーキュレーションファ

    ン ( 図 E-3) により下部に戻すことで効率的で快適な室内環境を保っている。

    夏場も同様に床下を冷やすことで建物全体に空気が流れる計画になってお

    り、夏場でも過ごしやすい環境を実現している。教室とともに利用率の高

    い職員室と図書室についても同様の計画としている。特別教室棟は部屋ご

    との利用が想定されるため部屋ごとの個別空調を採用した。

    軒高さ

    1FL

    上弦材天端

    下弦材・棟木天端

    ジョイントクリアランス150mm

    エキスパンション

    C6 C6 C6 C6C6C6 C6C6 C6 C6C6C6 C6 C6 C6 C6 C6 C6 C6 C6C6 C6C6C6C6C6

    斜材はG18a以外全てC1とする

    C6 C6C6

    C6

    G18b

    G21bG21b G21b G21b G21bG21bG21b G21b

    FG1a FG1aFG1a FG1a FG1a FG1a FG1a FG1a FG1aFG1a FG1a

    G18a G18a G18a G18a G21bG21bG21bG21b G21b G21b

    72006750 360049860

    6090

    1785

    1800 900

    3600 3600 3600 3600 6750 3600 36003600

    1350 900 900 900 9001800900 450450 900 13501350135018009001800900

    360

    555

    525

    210

    180

    2896

    1409

    300

    900

    70

    110110

    AX11AX9 AX10 AX13AX12 AX17 AX18 AX19 AX20 AX21 AX22AX15

    AX8

     宮野森小学校は海から少し離れた小高い野蒜ケ丘を造成してできた敷地

    に建ち、北側は復興の森に面している。東西に長い敷地に建ち、南側から

    の海風が吹く環境のよい場所にあるため自然の採光通風を存分に活かした

    0

    10

    20

    30

    40

    50

    60

    125 250 500 1000 2000 4000

    透過

    損失

    (dB)

    1/3オクターブバンド中心周波数(Hz)

    FL8+A12+FL3+SAF(30il)+FL3

    FL4+A6+FL6

    FL4+A12+FL6

    FL5+A6+FL5

    FL5+A12+FL5

    FL8+A12+FL8

    FL4+A6+FL8

    FL5+A6+FL8

    FL5+A12+PW6.8

    FL5+A6+FL10

    FL6+A6+FL12

    FL6+A12+FL10

    FL8+A12+FL12

    16Hz 31.5Hz 63Hz 125Hz 250Hz 500Hz 1kHz 2kHz 4kHz

    工事音1 65.2 71.3 70 59.6 58.3 56.1 51.4 53.1 43.9

    工事音2 66 72.6 72.8 65.2 59.9 60.2 56.2 54.2 44.5

    ブルーインパルス1 66.8 75 73.2 70.8 71.6 69.5 65.6 60.7 49.7

    ブルーインパルス5台 66.6 69.3 71.9 72.4 72.8 71.2 68.5 63 50.6

    工事音3(シャベルのみ) 65.9 67.9 68.9 62.5 61.2 58.8 55.3 55.5 45.7

    0

    10

    20

    30

    40

    50

    60

    70

    80

    音圧

    レベル

    (dB)

    周波数(Hz)

    140818_東松島航空騒音実測データ

    計画をする一方、東松島市には、航空自衛隊の基地があることから航空騒

    音を考慮した防音計画が求められた。そのため、夏場でも窓を閉めること

    があり、空調設備を前提とした場合でも対応できる計画が求められた。

    図 S-4: 校舎棟 ( 東棟 ) ラチス状ラーメン構造の軸組図 S=1/50

    図 S-3: 校舎棟 ( 東棟 ) 構造解析モデル

    図 S-1: ラチス化されたラーメン構造

    図 E-1: 冬場の室内環境 図 E-3: サーキュレーションファン

    図 E-2: 夏場の室内環境

    図 S-2: 数種の構造が一堂に会す廊下

    ■天井の高いワンルーム空間に対応した室内環境を実現

    図 E-5: 東松島 航空騒音実測データ (2014.08.18)

    図 E-4: 敷地周辺を飛行する航空自衛隊松島基地の訓練の様子

    図 E-6: ガラスの仕様による透過損失比較

    ■材数が多くても「小径材」 小学校は大きさと形状の異なる多種の空間が必要で、架構形状を統一し

    づらいため、木造でなくても手間がかかる。本建築は、4000㎡程度の規

    模の木造建物を半年程度で設計しなければならないこと、また施工性を考

    えると在来工法を基本としながら、所々で木組みを魅せるという方法を試

    みた。「森の学校」というイメージから「ナチュラル」な風合いを生かし

    ながら、大小の空間を全て製材で構成している。

    地場の製材所へのヒアリングによると、特殊寸法の製材は調達しづらい状

    況だとわかり、使用する製材の幅は短辺 105㎜または 120㎜、長辺 240㎜

    を最大とし、長さはできるだけ 4m 材というオーダーがイメージされた。

    正方形断面なら 150 × 150 がまでが標準で 180 × 180㎜程度が最大となる。

     木造の計画では、材数を多くしてでも、調達可能な小径材で構成できる

    「斜め格子」を活用して、部材を「ラチス化」することを考えた。

    格子の模様を単純な正方形の斜め格子とし、ほとんどを単純な相欠きで接

    合する、90°の相欠きなので刻みの手間を減らせて、格子部の材を 120 ×

    120㎜程度の小径材にできるとわかった。また、空間の大きさによってラ

    チス化する部材が異なっても、基本的には同じ納まりが適用できた。いっ

    たん格子の挙動を把握してしまえば設計手間も少なくでき、こうした「斜

    め格子」を基調とし、後述する「樹状柱」「張弦」を補助的な要素として

    構成する構造で全体を統一する方針が生まれた。

    ■斜め格子 メッシュ構造は、梁としても耐震壁としても効かせることができ、汎用

    性が高い。ラチス梁は、複数のトラス構造がずれて重なったものと解釈で

    き、小さな材で構成できる。面的な構造だが透明感があり、招き屋根のハ

    イサイドの開口部に欄間状にあっても、空間の広がりを遮らない。最終的

    には後述する「張弦」としたが、「ラチス」の使い方として、特別教室棟

    で大きな空間を作るために、小屋組の空間を間仕切るように配置する案や、

    棟梁の背を大きく採り、ラチス状にして長辺方向に架け渡す案なども検討

    していた。

     斜め格子は耐震壁にも適用できる。壁幅が広いほうが、斜材が筋違とし

    て働きやすく効きがよいが、壁幅が細くてもラチス状の柱として働き水平

    力を負担できる。東西の校舎棟などで、教室の側壁が塞がれる部分には筋

    違を設けて主に短辺方向の耐震要素とし、長辺方向には現しになっても透

    明感ある「ラチス耐震壁」を設けることとしたが、あまり広幅のラチス壁

    は存在しない。結果的に、細幅の耐震壁がラチス状の柱のように見え、欄

    間状のラチス梁との組み合わせによって、「ラチス状ラーメン構造」(図

    S-1,2,3,4)を形成しているイメージとなった。

    ■航空機騒音 近接地に航空自衛隊東松島基地があり、ブルーインパルスと戦闘機の騒

    音 ( 図 E-4,5) に木造が対応できるのかという難題も背負っていた。外壁や

    屋根は遮音を考え、硬質木片セメント版や硬質石膏ボードなど平米 70kg/㎡

    サーキュレーションファン

    FL

    鋼製支持脚

    エコシルフィー

    FL

    鋼製支持脚

    エコシルフィー

    FL

    サーキュレーションファン

    FL

    サーキュレーションファン

    FL

    鋼製支持脚

    エコシルフィー

    FL

    鋼製支持脚

    エコシルフィー

    FL

    サーキュレーションファン

    FL

    相当まで比重を上げた。開口部についてはガラス厚 FL6+A12+FL10 の防

    音サッシ ( 図 E-6) により、一定レベルの性能が確保されている。

  • 図 S-11: 欄間部斜め格子 S=1/50

    角座金 PL-6x60x60

    座ぐり 70x70スプリングワッシャー

    屋内側

    角座金 PL-9x105x105

    座ぐりスプリングワッシャー

    屋外側

    ロッド貫通孔 φ24ロッド端部 ねじ切り 450

    ダブルナットシングルナット

    桁梁ほぞ 30x60x302-ミニコーナー(カネシン)

    (短期許容 2x5.1=10.2kN 相当)

    角座金 PL-6x60x60屋内側

    雌ねじ切り M20,L=60丸鋼 3-φ32,L=100柱頭ほぞ 40x90x25

    2-ミニコーナー(カネシン)(短期許容 2x5.1=10.2kN 相当)

    ロッド端部 ねじ切り 300

    添板 PL-2.3x110x320 折曲げ木ねじ 2x2-M4.8

    登り梁端部

    シングルナット

    角座金 PL-9x105x105屋外側

    ダブルナット

    スプリングワッシャー

    スプリングワッシャー

    座ぐり 70x70

    ほぞ 30x60x30

    座ぐり 24

    ロッド貫通孔 φ24

    G22 : 120x

    210

    G22G22

    450

    200

    70

    30

    60

    30

    8020

    100 100100

    300

    φ32

    BR3 : 丸鋼 φ20

    BR3

    BR3

    BR3

    52.552.5105

    15

    図 S-13: 重ね梁詳細図 S=1/40

    ラグスクリュー 2-M12, L=180

    1FL

    □-100x50x3.2, STKR400

    ほぞ 30x15x50

    90

    1200

    600

    7200

    2525

    1530

    85

    306030

    A部

    A部

    エキスパ

    ンション

    ジョイン

    クリアラ

    ンス150

    mm

    C6

    C6

    C6

    C6

    C6

    C6

    C6

    C6C6C6

    C6

    C6

    C6 C6

    C6C6C6

    C6C6

    C6

    C6

    C6

    C6

    C6

    C6

    C1

    C1C1

    C7

    C7

    C1

    C2

    C4C1

    C2

    C4

    C1

    C5

    C3

    C4C1

    C3

    C4

    C1

    C4

    C2

    C4

    C3

    C2C2

    C4

    C2C4

    C3

    C1

    C5

    C4

    C3

    C2

    C2

    C2

    C2

    C7

    C4

    C6

    C2

    C3

    C4

    C7

    C6

    C1C2

    C1

    C2

    C2

    C5

    C1

    C1

    C1

    C1

    C1

    C1

    C1

    C1 C1C1 C1

    C1C1C1

    C1C1

    C1 C1

    C1 C1

    C1

    C6

    C3

    C6

    C1

    C5

    C1

    C1

    G18a

    G27

    G27

    G27

    G27

    G27

    G27

    G27

    G27

    G27

    G27

    G18a

    G18aG

    18a

    G18aG

    18a

    G18a

    G18aG

    18a

    G18a

    G18a

    G18a

    G18a

    G18a

    G18aG1

    8aG18

    aG18

    aG18

    aG18

    aG18

    a

    G18a

    G18aG1

    8a

    G18aG

    18a

    G18a

    G18aG

    18a

    G18a

    G18a

    G18a

    G18a

    G18a

    G18a

    G18a

    G18aG18a

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    G18a

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    G18a

    G18aG18a

    G18a

    G18a

    G18a G18a

    G18a

    G18aG18a

    G18a

    G18a

    G18a

    G18a

    G18a

    G18a

    G18a

    G18a

    G18a

    G18a

    G27

    G27G27

    G27

    G27G27

    G27

    G27

    G27G27

    G18aG18a

    G18a G18a

    G18a

    G18a

    G18a

    G18a

    G18a

    G18a

    G18a

    G18a

    G27

    G18a

    G18a

    G15a (1

    FL+430

    5)

    G27

    G27

    G15a (1

    FL+430

    5)

    G15a (1FL+4305)

    G18a

    G27

    G27

    G27

    G27

    G27

    (G27)(G27)

    G27

    G27

    G27

    (G27)(G27)

    G27

    G27(G27)

    (G27)

    G27

    G27

    G27

    G27

    (G27

    )G2

    7

    G27

    G27G2

    7G2

    7

    (G27

    )G2

    7G27

    (G27

    (G27

    )(G

    27)

    G18aG18a

    G18a

    G27

    G27

    G27

    G27

    G27

    (G27

    G18a

    G18a

    G18a

    G15a (1FL+4305)

    G15a (1FL+4305)

    G15a (1FL+4305) G18a

    G18a

    G18a

    G15a (1FL+4305) G18a

    G18a

    G15a (1

    FL+430

    5)

    G15a (1

    FL+430

    5)G18

    a

    G18a

    G15a (1

    FL+430

    5)

    G27

    G27

    G18a

    G18a

    G18a

    G18a

    G18aG18a

    G27

    G18a

    G18a

    G18a

    G18aG

    18a

    G18a

    G18aG18aG18a G18a

    G18a

    G18a

    G18a

    G18a

    G18a

    G18a

    G18a

    G18a

    G18a

    G18a

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    G18a

    G18a

    G18a

    G18a

    G18aG18a

    G18a

    G18a

    G18a

    G18a

    G18a G18aG18a

    G18a

    G18a

    G18a

    G18aG1

    8aG1

    8a

    G18a

    G18a

    G18a

    G18a

    G18a G18aG18a

    G18a

    G18a

    G18aG1

    8aG1

    8a

    G18a

    G18a

    G18a

    G18a

    G18a

    G18a

    G18aG18a

    G18a

    G18aG18

    a

    G18aG18a

    G18a

    G18a

    G18a

    G18a

    G18a

    G18a

    G18aG18a

    G18aG18a

    G18aG18

    a

    G18aG18a

    G18a

    G18a

    G18aG18a

    G18a

    G18a

    G18aG18a

    G18aG18a

    G18aG18

    a

    G18a

    G18a

    G18a

    G18a

    G18a

    G18a

    G18a

    G18a

    G18a

    G18aG18a

    G18a

    G18a

    G18a

    G18a

    G18a

    G18a G18a

    G18a G18a

    G18a G1

    8a

    G18a

    G18a G1

    8a

    G18aG18a

    G18a

    G18aG18a

    G18a

    G18a

    G15a (1FL+4305)

    G15a (1FL+4305)

    G27

    G27

    G27

    (G27

    900180013501350 1350

    1800

    3600

    2500

    3600

    3600

    2500

    4500

    3600

    4500

    3600

    7200

    3600

    720028800

    7200

    3600

    3600

    3600

    3600

    3600

    3600

    7200

    21600

    3600

    3600

    3600

    14400

    36003600

    3600

    21600

    36003600

    3600

    3600

    1800

    1350

    90018001350

    1350

    1800 900

    900

    900

    1350

    450

    900

    900

    900

    450 900

    1800

    1800 900

    900

    1800

    900

    1800

    900

    1800

    900

    1800

    1800

    1800

    1800

    1800

    1800

    1800

    1800

    1800

    1800

    1800

    1800

    1800

    1800

    1800

    18001800

    1800

    900

    1800

    600

    600

    20800

    2080

    0

    600

    600

    300

    300

    300

    300

    1725

    1725

    AY3

    AY2

    AY4

    AY5

    AY6

    AY7

    AY3

    AX9

    AX10

    AX11

    AX12

    AX13

    AX14

    AX17AX18

    AX19

    AY7

    AY6

    AY5

    AY4

    AY1

    AY2

    AX10

    AX12

    AX20AX21

    AX22

    AX19

    AX18

    AX20AX21

    AX22

    AY1

    AX9

    AX11

    AX16

    AX15

    BR21

    BR21

    BR21

    BR21

    BR21

    BR21

    BR21

    BR21

    BR21

    BR21

    BR21

    BR21

    BR21

    BR15

    BR15

    BR10BR

    10

    BR15

    BR15

    BR21

    BR21

    BR21

    BR10

    BR10

    S1b

    S1b

    B12 (1

    FL+430

    5)

    B12 (1FL+4305)

    B12 (1

    FL+430

    5)

    B12 (1

    FL+430

    5)

    B12 (1FL+4305)

    B12 (1FL+4305)

    B12 (1FL+4305)

    記号材種幅 b 上下段せい h1 段数 n

    構成 木ダボ外形材種

    共通事項:構成材はスパン全長に渡り継手を設けないこととし、重ね面に接着剤を塗布し一体化すること

    木ダボ

    特記外材端形状:別途詳細図がある部位は詳細図を優先する

    径 φ ピッチ p長さ L

    腰掛け

    座ぐり 40×φ80

    角座金 PL-6×54x54中ボルト M16

    スプリングワッシャー

    木栓

    中段せい h2G72 120120x720 かし(比重0.9) 相当240 3すぎ E70 相当 30 200100240

    木ダボの先穴径はダボ径φと同一とする

    W羽根U ビスタイプ(タナカ製)両引き,両側面仕上げ内に

    仕上げがない場合は別途協議すること

    ビスφ4.5 L=60 斜め打ち 両側面 計4本

    端部のみ

    G75 150150x720 かし(比重0.9) 相当240 3すぎ E70 相当 30 200100240

    ph1h2

    h1

    b

    L/2

    L/2

    L

    h2/2

    h2/2

    h1

    20

    20

    9075

    200p

    図 S-7: 校舎棟 ( 東棟 ) 屋根伏図 S=1/400

    図 S-6: 樹状柱詳細図 S=1/100

    図 S-5: 斜め格子と弦材の接合部 図 S-12 スパン 7.2m の重ね梁図 S-10: 音楽室に並ぶ張弦図 S-8: 二重に重なる樹状柱

    ■樹状柱 樹状の構造は、架構の弱点を補う要素として考案した。

    弱点の1つは、切妻状の架構のスラストを抑える効果が足りない部分であ

    る(図 S-7)。これは、東西の校舎棟で背骨状の「招き屋根」からいくつ

    も分岐している切妻屋根の部分で、小屋組なしに面的に作っているために

    切妻が開くように発生するスラストで、多くは招き屋根の面と欄間状のラ

    チス梁で抑えられるのだが、抑えの緩い部分があるために樹状構造で持ち

    上げるものとしている。

     もう1つは、同じく東西の校舎棟や管理棟の切妻部分で、背骨状の招き

    屋根から離れた端部が地震時に振られること。ここでは上記のスラスト抑

    えも必要で、樹状構造は鉛直荷重を支えながら水平力にも抵抗できる。

     材を小さくするには材数を多くする。「山鹿市立山鹿小学校」で南京玉

    簾状の構造を実践したときに枝分かれの納まりと強度特性をつかんでいた

    ことから、樹状の柱が思い浮かんだ。さらに、ファサードに2重に重ねて

    配置することによって、方杖が張り巡らされたような模様になって、2倍

    以上の強度を発揮する効果も利用することにした(図 S-8,9)。

     斜め格子は、面外の座屈に対して評価を精緻に行うと座屈長さが縁から

    縁の全長よりも短い。これだけ沢山の量を使用するので、十分にその効力

    を見込めるよう詳細な解析を行なっている。刻んだ部分は細いものとして

    詳しくモデル化し、座屈解析を行なったところ、座屈安全率が 3.1 倍程度

    と分かった。果たして、格子の材は体育館も含めた全棟で 120 × 120㎜と

    することができた。

     斜め格子と弦材、縁材の間には大きな応力伝達が発生する。ここは木組

    み的にしようとすると複雑になるので無理しない接合方法でと割り切っ

    て、ドリフトピン接合としている(図 S-5,6)。

    ■張弦 張弦は、さらに補助的な要素として考案した。前述のように切妻屋根の

    スラストを抑える必要のある部分で、樹状柱を設けづらい場合に設けるこ

    ととした(図 S-10,11)。

     この要素を使うことになってから、特別教室棟の音楽室や家庭科室では

    この張弦を積極的に活用しようということになり、数多く並べて軽快な屋

    根を構成している。

    ■教室のスパン 2階建ての学校を木造とするときに7~8mを要求される教室のスパン

    が課題となる。屋根なら小屋組みの背を大きく採れば小径材で構成するこ

    とができるが、2階床となると難問で、階高を大きくしないようにするに

    は天井部分に背の大きな架構を作りにくい。これを単純に梁で架け渡そう

    とすると、120 × 540 @ 900 mmなどの材になる。この部分だけ集成材

    にするのは不経済なので、120 × 240 mmの製材を3段積んだ「重ね梁」

    とした(図 S-12,13)。

     平面的な骨組なので面外の座屈が止めにくいが長方形材を使って奥行を

    大きくすれば透明感を失いにくい。

     枝分かれの納まりは「山鹿小学校」のものと同様で、凸形のホゾを相手

    に挿入することによって圧縮を伝達しつつ脱落を防止する。ホゾだけでは

    滑り方向のせん断耐力が少々足りない部分もあるので、上部からラグスク

    リューを打ち込んでいるがほとんど見えない。

     この刻みは手間がかかるが、ファサードとなる綺麗に見せたい部分でも

    あり、数が少ないのでそう施工の負担にはならない。こうして凝る部分を

    所々に盛り込み、全体的に木組みの風合いが広がるよう設計した。

     この樹状柱は、図書館棟ではスラスト抑えとしてではなく、招き屋根を

    支持すると同時に耐震要素として列柱状に並べており、少し他と異なる空

    間の様子を見せている。

  • 地域産材の杉の一般流通製材を中心に、プレカットで可能な仕口にする事や、4m未満の材を組み合わせて体育館の大スパンを飛ばす工夫を構造家の佐藤淳氏と知恵を出し合った。格子状の柱や欄間梁からの光と視線の抜けなど、配置から来る予見を工夫しながら実現した。©Satoshi Asakawa

  • 図 S-17: 体育館格子交差種別配置図 S=1/100

    図 S-14: 体育館の架構見上げ 図 S-15: ラチス化された体育館の構面

    図 S-16: 体育館軸組図 S=1/300

    平面図 S= 1/500

    2500 1250 3125 172.5

    2600

    1100

    2050

    2000

    180

    500

    2160

    450

    625

    110110

    40

    1250

    1100

    100

    EX3 EX4

    1FL500

    設計GL0

    屋体軒高5500

    屋体CWFL3110

    屋体棟高11215

    キャットウォーク

    侵入防止用手摺

    木製ルーバー 30×60

    バスケットゴール受け材

    砕石 t-90均しコンクリート t-60

    砕石 t-90均しコンクリート t-60

    断熱材:硬質ウレタンフォーム吹付 t-35

    水切り:カラーガルバリウム鋼板  t-0.4加工

    ポリエチレンフィルム t-0.15

    木額縁 t-40

    間柱95×105@625

    グラスウールマット 32kg/㎡ t-50

    巾木:長尺塩ビシート t-2.5立上 H=100床:長尺塩ビシートt-2.5

    鋼製支持脚

    壁:捨張合板t-9.0下地 メラミン不燃化粧板張(木目)t-3.0

    床:長尺塩ビシートt-2.0

    天井:捨貼合板 t-9.0下地

    構造用合板t-24.0捨貼合板 t-9

    化粧シナ合板t-5.5

    構造用合板 t-15.0 + ラワン合板 t-15.0下地

    基礎立上り:塗膜防水

    男子WC

    体育館棟断面詳細図 S=1/50

    体育館棟格子詳細図 S=1/50

    EX1

    ドリフトピン 4-φ16G.PL-6x120x260ドリフトピン 4-φ16

    G.PL-6x120x450ドリフトピン 6-φ20

    G.PL-6x100ドリフトピン 2x6-φ12

    G.PL-6x120x260G.PL-6x100ドリフトピン 6-φ12

    両側 ダブルナット   スプリングワッシャー

    ネジ棒 M12

       角座金 PL-4.5x45x45

    ほぞ 40x60x10

    C1C1 C1

    1250 18753125

    115

    2550

    115

    3025

    5026

    0

    140

    140

    140

    3025

    5045

    0

    25d

    8570270

    30

    85

    2550

    115

    30

    115

    8020 20120

    260

    対称面

    XB

    XB

    XB

    XB

    XB

    XB

    XB

    XB

    XB XB

    XB

    XB

    XB

    XB

    XBXBXB

    XB

    XB

    XB

    XB

    特記外斜材はB11とする     は弦材継手位置を表す。

    基礎スラブ天端

    TA

    KA10

    TA

    TA

    TA

    TA

    TA

    TB

    TA

    KA32

    特記外 斜材交差部 は XA とする

    JC

    JD

    JA21 KA21 JA11

    KA11 JA'11

    KA11

    KA11JA22KA22

    JA22JA11JA12

    JB

    JE

    JF

    KA11

    KA11 KA11

    JA21

    JGKA01

    KA21

    KB

    KC

    KA21

    XB

    XB

    XB

    XB

    XB'

    XB'

    XB'

    XB'

    XB

    XB

    XB XB

    KA11

    記号KA,JAに続く2つの数字はドリフトピンの列数を表す 1つめの数字:下側又は外側の斜材 2つめの数字:上側又は内側の斜材

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     内側 2x3-φ12弦材側ドリフトピン

     外側 2x2-φ12

    2xTB

    C1C1 C1

    G11G11

    G11

    G11

    G11

    G11 G11 G11 G11 G11

    G11 G11

    G11

    G11

    KD

    体育館の 1 構面による座屈解析体育館 構造解析モデル

    ■ラチス状ラーメン構造の大空間 体育館は、内法スパン 25 × 25m の正方形平面となり、最終的にはワンウェ

    イの架構となったが、最初はツーウェイに架構を架け渡す形式を検討した。少

    し長方形になると長辺の架構が効きにくくなるので圧倒的にワンウェイの架構

    が相応しくなるが、正方形に近いとツーウェイの両方向とも効きが良く、同じ

    部材なら間隔を空けられるので密度が薄い架構に見せることができた。

     この架構も背を大きく採って、斜め格子を使ってラーメン架構をラチス化し

    たようにしてみようと考え、試算してみたところ、柱脚部で背を 2 m、梁中央

    で 1.4m とすれば斜め格子材が 120 × 120 mmで、上下弦材が 180 × 180 mm

    となり、入手しやすい小径材でできるオーダーの寸法となることが分かり、ラ

    チスの背としても必要な空間の有効寸法が確保できた。最も負荷のかかる架構

    の肩部で、方杖状に広い面が作れたことも良く効いている。

    そしてその後検討を進めると、この部材寸法でよければ屋根面でラチス梁が格

    子状に配置される必要はなく、4方の壁にラチス柱が並べてあればよいことが

    分かり、そこで片方の架構はラチス柱のみとなった(図 S-14,15,16)。

     体育館でも斜め格子は基本的に相欠きとし、部分的に半分の断面では、強度

    が足りない部分で必要な片方を通し材として、もう片方は分断し、分断した方

    は引きボルトで接合している(図 S-17)。これも既製の接合方法なので手間は

    少ない。

     平面的な隅部で、ツーウェイのラチス柱が交差する。弦材やラチスの交差で

    もドリフトピンを駆使し、なおかつあまり凝った刻みは避けることとした。

    弦材と斜材:一般部 接合KA 弦材と斜材:弦材継手位置 接合JA 接合JA’ 斜材交差部:相欠きの場合 接合XA

    斜材交差部:片側通しの場合 接合XB

    ©Satoshi Asakawa

  • ©Satoshi Asakawa

  • ©Satoshi Asakawa