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生態系生態学講義資料 (渡辺 担当分) 5 回 陸域生態系の成り立ち~遷移、植生分布 6 回 陸域(主に森林)の炭素循環 7 回 陸域(主に森林)の窒素循環 8 回 リンの循環 9 回 草食動物に対する植物の被食防衛 10 回 森林衰退 11 回 森林景観と生態系サービス 連絡先(e-mail): [email protected]

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  • 生態系生態学講義資料 (渡辺 誠 担当分)

    第 5 回 陸域生態系の成り立ち~遷移、植生分布 第 6 回 陸域(主に森林)の炭素循環 第 7 回 陸域(主に森林)の窒素循環 第 8 回 リンの循環 第 9 回 草食動物に対する植物の被食防衛 第 10 回 森林衰退 第 11 回 森林景観と生態系サービス

    連絡先(e-mail): [email protected]

  • 生態系生態学第 5回

    陸域生態系の成り立ち~遷移、植生分布~

    ⓪植物の機能型(functional type)とは?

    →ある機能に着目したタイプ分け

    木本/草本 木か草か (形成層の有無) 常緑/落葉 冬(あるいは乾季)の落葉の有無(樹木) 落葉性 毎年ほぼ決まった期間、葉を付けない

    もの(通常樹木を対象とする. 常緑性 一年中葉を保持する. 葉の寿命が 1 年

    以上とは限らない. 葉の寿命が 1 年未満でも、葉を付け変えながら葉を保持

    すれば常緑性. 単子葉/双子葉 子葉が 1 枚か 2 枚か. 一年生/多年生 寿命の違い.

    植物を機能型に分けることにより、その生態が理解

    しやすくなる. ① どんなところにどんな植物が住んでいる?

    ~植生を決定する要因~

    ケッペンの気候区分: 植生に基づいた気候区分

    A, C, D は森林気候 → 乾燥・低温以外は基本的に森林になる

    気温と降水量が植生の分布を決める重要な要素 吉良の指数と植生分布 降水量の多い地域が主な対象 暖かさの指数 月平均気温が 5℃以上の月の平均気

    温から 5℃を引いた値の年間合計値 (10℃の月の場合: 10 – 5 = 5)

    寒さの指数 月平均気温が 5℃以下の月の平均気温を 5 度から引いた値の年間合計値 (3℃の月の場合: 5 – 3 = 2)

    (岩坪五郎 1996, 森林生態学)

    Whittaker による気温降水量と植生の関係

    (岩坪五郎 1996, 森林生態学) 潜在自然植生と現存植生の違い 潜在自然植生 最終的にたどり着く(であろう)植生. 高緯度では亜高山帯の植生が低標高に見られる

    (宮脇昭 1977, 日本の植生) 現存植生 現在、我々が見ている植生. 日本では「自然環境保全基礎調査(緑の国勢調査)」が行われて

    いる. 陸域、陸水域、海域について国土全体の状況を調査 第 1 回調査は昭和 48 年(1973 年)で、現在までで 7回行われている. 利用可能な情報は ・1/50,000, 1/25,000 の植生図 ・3 次メッシュ(約 1 km x 1 km) の植生コード など

    環境省 自然環境局 生物多様性センターの HP (http://www.biodic.go.jp/)

  • (3次メッシュ(約1 km x 1 km)植生コードより作成) 現存する多くの森林には人の手が加わっている (人工林、里山など) 世界の植生分布

    世界の自然植生 (寺島ら 2004, 植物生態学より) 赤道直下に砂漠はない

    大気の循環 (寺島ら 2004, 植物生態学)

    南北緯 20-30 度付近で高温少雨になる原因

    ② 生態系の遷移とは?(一次遷移・二次遷移) 植生やそれを取りまく環境を含めた陸上生態系の 方向性のある時間変化. Frederic Clements (1874 -1945)によって体系立てられた(Clements, 1916)

    例)裸地が数年後、雑草に覆われる (原則として逆方向には変化しない)

    一次遷移と二次遷移 一次遷移 植物が全くない状態から始まる

    (火山の溶岩上、氷河の後退跡) 二次遷移 土壌とともに埋土種子などの植物体が

    ある状態から始まる(山火事跡地、台風

    などの風害跡地、放棄畑等). 土壌があるので栄養塩類の可給性や水

    分保持力が高く一次遷移よりも進行速

    度が速い 攪乱の程度(生物体残存物の残り具合)によって、

    一次と二次が明確に区別できない事もある. 遷移系列の研究手法(クロノシーケンス法) 成立年代のみが異なる立地を相互比較することで、

    一次遷移に伴う植生の変化を調べる.

    三宅島における調査地点と攪乱時期(上). 各年代にお

    ける植生分布(下). (Kamijo et al. 2002, Fol Geobot)

  • 遷移の進行と土壌養分の蓄積

    伊豆大島におけるクロノシーケンス. 植生の発達

    に伴って土壌の有機物量が増加(左). 有機物含量

    の増加に伴って窒素・リンの濃度も増加する.

    (Tezuka 1961, Jap. Journ. Bot)

    ③遷移に関わる要因

    遷移初期種と遷移後期種の特徴 各遷移段階の主な高木種

    遷移初期種 アカマツ、コナラ、カラマツ、ヤナギ、 シラカンバなど

    遷移後期種 ブナ、モミ、トウヒなど

    種子の違い 遷移初期種 小さな種子 (風散布)

    広い範囲に種子を散布できる

    遷移後期種 大きな種子 (重力散布や動物散布) 定着確率が高い

    各遷移段階の群落で採取した種子の重さ(Chapin et al.

    2011, Principles of Terrestrial Ecosystem Ecology より)

    光合成特性の違い 遷移初期種 最大光合成速度が高い

    (明るい条件で多くの生産) 遷移後期種 光補償点が低い

    (暗い条件でも生産できる)

    各遷移段階における光合成特性

    左) http://takenaka-akio.org/album/oshima_2002_11/reynoutria.jpg

    ササによる更新阻害 最終噴火から約千年経った摩周湖外輪山で先駆種

    のダケカンバの純林が広がる. ダケカンバの生態的寿命は 200年以上だが 1000年は生きない(シラカンバ 80-100 年, ウダイカンバ 200 年以上).

    →林床を覆うササが森林更新を阻害 ・高密度のササの下部では相対光量が 1~5%程度

    になる。常緑性なので季節ギャップもない

    ・厚いリター層の為、実生の根が土壌に届かない

    ・野ネズミのすみかとなり、種子や実生が食べられる

    →セーフサイトの重要性(根返りや倒木の利用)

  • 上) ダケカンバの純林 中) 高密度のササ 下) 厚いリター層

    セーフサイトを生み出す根返りと倒木更新. ※人工更新では地拵え(落葉・落枝、林床植生などの取り

    除き) 一次遷移における窒素固定の重要性 多くの養分は潜在的に岩石中に存在するが、窒素は

    岩石中にほとんど含まれていない. そのため一次遷移初期においては窒素固定植物(根粒菌など大気中

    の窒素をアンモニアに変

    換する細菌と共生してい

    る植物)の定着とその遷移

    の促進効果が顕著になる. マメ科のアカシアなどに

    よる窒素固定により、生態

    系に窒素が供給され、植物

    の侵入が容易になる.

    森林火災跡地におけるアカシア(窒素固定)の役割(オーストラリア タスマニア) 二次遷移において重要な要素 ・埋土種子 土壌中で休眠している発芽可能種子

    地温や光量の増加によって発芽 ・栄養繁殖 地下茎などからの繁殖 ・萌芽 切り株などからの再生

    (遷移初期段階で遷移後期種が混生)

    萌芽の例 ④極相林も安定していない

    昔の認識 極相林の構成樹種は暗い林床でも子孫

    を残せるため、親個体が寿命に達した後、子孫がそ

    の空間を継承する。その結果、長年安定した種構成

    の森林が維持される。 現在の認識 極相林は見かけ上安定しているが、実

    際には動きのある動的平衡状態である

    攪乱に伴う植生の更新動態. いつ・どのサイズのギャップができ、どのような樹種が林冠木になるのか

    は予測できない

    ギャップの形成(林床の植物の成長促進)

    同じ樹種が林冠木になる

    違う樹種が林冠木になる

    攪乱

    N2

    NH3

  • 主な攪乱要因 落雷、台風、山火事(非生物的) 食害、病気、老衰 (生物的)

    極相林は、成熟した森林と衰退し始めた森林、ギャ

    ップとその回復途中の若い森林がモザイク状に分

    布している状態にある森林である ⑤数百万年の遷移

    ~ハワイ諸島における森林の発達と衰退~

    ハワイ諸島における各島の立地年数(上)、立地年数と地上部現存量の関係(下) (植物生態学 2011 日本生態学会編)

  • 生態系生態学第 6回

    陸域(主に森林)の炭素循環

    ①炭素循環の概要

    炭素とは?

    ・全ての生物の構成材料

    (人体の乾燥重量の 2/3、植物の半分は炭素)

    ・石油・石炭・天然ガスなど化石燃料の主要成分

    ・二酸化炭素やメタンなどの温室効果ガスの構成要素

    炭素循環の基本用語 炭素循環 (Carbon Cycle) 地球上の炭素の移動

    炭素プール (Carbon Pool) 大気、森林、海など炭素を貯蔵あるいは放出するこ

    とができるシステム。木材製品なども炭素プールで

    ある

    炭素ストック (Carbon Stock) 炭素プールに貯蔵されている炭素の量。炭素貯留量

    炭素フラックス (Carbon Flux) 炭素プール間の炭素の移動。単位土地面積あたり、

    単位時間あたりの移動炭素重量で表す

    ※他の物質の循環も同様の用語を用いる

    物質循環を考えるにあたって

    物質循環の基本的な考え方

    地球上の炭素循環 (IPCC 2013 より作図)

    陸域(森林)における炭素循環 (大塚ら 2004, 地球環境より作図)

    物質収支と蓄積

    Input > Output → ストック増加Input < Output → ストック減少

    Input = Output → 変化せず

    プール

    Input(吸収) Output(放出)

    化石燃料の消費7.8

    土地利用の変化1.1

    +14.12.3

    +11.6

    植生・土壌・デトリタス1950-3050

    大気589

    海洋海洋生物相3表層900深海37100堆積物1750 etc.

    化石燃料1002-1940

    光合成108.9

    呼吸107.2

    0.7

    0.9 単位蓄積量: PgC輸送量: PgC year-1

    毎年4増加

    +240

    -30

    -365 化石燃料の消費

    +155

    大気中の二酸化炭素

    地上部バイオマス

    地下部バイオマス

    落葉落枝(リター)

    土壌有機炭素(SOC)

    デトリタス+微生物

    粗大有機物

    光合成 植物の地上部呼吸

    従属栄養生物の呼吸 根

    呼吸

    土壌呼吸

    従属栄養生物

    の呼吸

  • ②葉における光合成

    植物の葉における光合成が森林生態系への炭素の

    インプットのほぼすべてを占める。

    ~個葉の光合成~ 測定方法

    基本的な光合成の測定原理(開放系). 通常、光合成速

    度は単位時間、単位葉面積あたりの CO2吸収量として

    測定する. 針葉樹の場合は葉面積の測定が困難. 大き

    な木の場合は樹冠へのアクセスも課題となる(観測タ

    ワー、ジャングルジム、林冠クレーン)

    光合成の律速

    光合成における CO2の流れ. 乾燥などにより気孔が

    閉じると葉内の CO2濃度は低下する. 一方で葉緑体

    活性が低下すると葉内 CO2 は増加する.

    高い光合成速度を実現するには

    ・気孔を大きく開く

    → 限度がある、陸上植物の最大のジレンマ「水は失

    いたくないけど CO2は吸収したい」

    ・葉緑体光合成活性を高める

    → 光合成酵素を多くする

    葉緑体における生化学的光合成プロセス

    葉緑体における光合成反応(C3 植物)の概要. チラコ

    イド膜上にある電子伝達系で NPADP の生成が行わ

    れる. その際にストロマからルーメンに H+が流入

    する。流入した H+が ATP 合成酵素を通ってストロ

    マに戻る際に ATP が合成される. Rubisco はストロ

    マにおけるカルビンサイクルの酵素であり、CO2 を

    固定する反応を触媒する. CO2 固定に伴い生成され

    た PGA (ホスホグリセリン酸)を RuBP に再生するた

    めに NADPHとATPが用いられる. カルビンサイク

    ルの構成物質である TP(トリオ―スリン酸)の一部

    は葉緑体を出て細胞質に輸送されスクロース合成

    に使われる. 生成されたスクロースは師管を通って

    植物体内の各器官へ運ばれる. スクロース合成時に

    遊離したリン酸はTPが細胞質に輸送される際に(葉

    緑体膜を通過する際に)葉緑体内に戻される.

    Rubisco (ルビスコ)

    ・リブロース 1, 5- ビスリン酸カルボキシラーゼ /

    オキシゲナーゼの略称

    ・カルビンサイクルで行われる CO2固定反応を触媒

    する酵素

    ・この酵素を多く持つことで光合成速度が増加する

    (光が十分にある環境)

    ・地球上でもっとも多いタンパク質

    森林生態系

    Input(吸収) Output(放出)大気 大気

    葉における光合成

    6CO2 + 12H2O + 光エネルギー → C6H12O6 + 6O2 + 6H2O光合成(葉緑体)

    C6H12O6 + 6O2 + 6H2O → 6CO2 + 12H2O + 38ATP呼吸(細胞質基質・ミトコンドリア)

    純光合成速度 = 総光合成速度 – 呼吸速度

    CO2濃度を計測

    純光合成速度の単位

    μmol m-2 s-1

    CO2の低下量葉面積

    1m2葉が1秒あたり何μmolのCO2を吸収するか

    CO2

    CO2CO2

    CO2

    CO2

    CO2

    CO2CO2

    CO2

    CO2

    CO2

    CO2

    CO2

    CO2

    CO2CO2

    CO2

    CO2葉緑体

    気孔

    外側 内側

    [Supply function(供給)] [Demand function(要求)]

    葉緑体における生化学的光合成プロセス

    デンプン RuBP

    PGATP

    Ru5P

    ATP, NADPHADP, NADP+

    Fru6P

    ADPATP

    CO2Rubisco

    カルビンサイクル

    H+

    ADP+Pi ATP

    ATP合成酵素

    ATP合成系

    チラコイド膜

    ルーメン

    ストロマ

    スクロース

    Pi細胞質

    スクロース合成

    C3植物Pi: 無機リン酸

    H2O1/2O2+2H+

    PQ

    2H+2e-

    2H+2e-

    4H+4e- PC2e- 2e-

    NADP++H+ NADPH

    PSIcyt.b6/f

    comp.PSII

    電子伝達系

  • 葉の窒素、Rubisco 含量および光合成速度の関係

    ・葉の窒素の 40-50%は光合成に投資、そのうちの

    半分近くをルビスコに投資

    ブナとカラマツの葉における光合成系への窒素の

    分配割合. (Watanabe et al. 2011, Tree Physiol; 2013,

    Environ Pollut より作図)

    ・葉に多くの窒素を投資すると、Rubisco 含量が高

    くなり光合成速度が高くなる

    葉の窒素および Rubisco含量と純光合成速度の関係.

    (Takashima et al. 2004, Plant Cell Environ)

    ・一般に温帯林や冷温帯林は窒素不足状態

    窒素沈着と生態系の生産量.人為的な土壌への窒素付加あるいは大気からの窒素沈着量の増加によっ

    て生産(CO2 吸収)が増加 . (Mao et al. 2014 Landscape Ecol Eng; Magnani et al 2007, Nature).

    ~葉群の光合成~ ボイセン-イェンセン Boysen Jensen (1883-1959)

    ・デンマークの植物生理学・生態学者

    ・光合成産物の呼吸による消費や成長への配分など

    を解析し、生態学の定量的研究の基礎を築く. 植

    物の成長の解析に、経済学的な視点を導入した

    成長量 = 光合成量 – 呼吸量 – 枝葉の脱落量

    ・屈光性の研究から生長ホルモン(オーキシン)の

    存在を解明

    個葉と群落の光合成の違い

    個葉光合成と群落光合成の違い(彦坂 2003 より)

    Monsi-Saeki の群落光合成モデル

    ・群落内における光の減衰をモデル化

    ・葉面積指数 (Leaf Area Index, LAI):

    単位土地面積あたりの葉面積(m2 m-2)

    LAI の概念図. ある面積の土地上に存在する葉を、

    すべて地面に隙間なく並べた時に何層できるか.

    8

    6

    4

    2

    0

    0 5 10 15 20 25

    光強度 (klx)

    葉面

    積あ

    たり

    の光

    合成

    速度

    (mg

    50 c

    m-2

    h-1 )

    個葉

    群落

    光合成速度

    個葉 > 群落

    光合成の飽和点

    個葉 < 群落

    群落の光合成は低いが、なかなか飽和しない

    LAI = 3 LAI = 1

  • ・LAI と樹冠内の光強度の関係

    LAI(ただしここは対象範囲の積算葉面積指数)と光

    強度の関係. 図の縦軸が対数になっている事に注意.

    ある高さにおける光強度は群落上部の光強度、その

    群落が持つ吸光係数およびその地点より上の積算

    葉面積指数によって決定される. 吸光係数 K は葉の

    角度によって決まる.

    吸光係数の違いと葉傾斜角の関係

    ・個葉光合成速度の積み上げ

    各高さの光強度と光-光合成曲線から単位面積当た

    りの光合成速度を求め、それぞれに対応する葉面積

    との積を求める。すべての高さの積を足すことによ

    り葉群全体の光合成速度を算出する事が出来る.

    ③樹木の成長と炭素の蓄積

    植物の成長

    植物の成長. 葉における光合成で得た炭水化物を葉、

    枝、幹および根などに分配し細胞分裂や細胞伸長に

    よって成長を行う.

    樹体内における炭素の配分

    同化/非同化の割合を決める要因

    各高さで光強度

    各範囲のLAI

    1.0

    0.1

    0.01

    0.001

    相対

    光強

    y = e-0.7x

    I = I0 e-KFI : ある高さにおける光強度I0: 群落上部における光強度K : 吸光係数F : 積算葉面積指数 (LAI)

    1.0

    0.1

    0.01

    0.001

    LAI (m2 m-2)0 2 4 6 8

    相対

    光強

    吸光係数大

    吸光係数小

    イネ科型植物 0.3~0.6広葉型植物 0.6~0.9

    吸光係数の大きさは葉の角度で決まる

    吸光係数 大

    吸光係数 小

    光強度

    光合

    成速

    個葉の光合成能力

    0 0.5 1.0 1.5 2.0LAI (m2 m-2)

    4.03.53.02.52.01.51.00.5

    0

    高さ

    (m)

    LAI

    「個葉の光合成速度 x LAI」を各高さで計算し足し合わせると

    葉群光合成速度

    相対光強度

    相対光強度

    分配

    光合成(-呼吸)

    炭CO2

    炭CO2 炭

    CO2

    CO2

    炭 ・・・炭水化物(光合成産物)

    葉・・・同化器官

    光合成により炭水化物を作るCO2を吸収落ちた葉は分解されCO2を放出

    幹・枝・根・・・非同化器官

    ・光合成で得られた炭水化物を蓄える・呼吸により炭水化物を消費 CO2を放出

    森林での炭素保持には非同化器官が重要

    葉に配分 根に配分

    遷移初期 遷移後期

    被陰 全天

    富栄養 貧栄養

    湿潤 乾燥

  • 粗大有機物(Coarse Woody Debris, CWD)

    微生物分解を受ける前の、枯死した生物(主に植物)

    個体やその一部

    ・倒木、立ち枯れ木

    ・落葉、落枝、枯根(CWD に含めない場合あり)

    デトリタス(Detritus)

    ・生物の遺体やその破片、微生物の遺体、それらの

    排泄物で構成される有機物

    ・森林では落葉層の下の腐植土

    ・土壌有機炭素(SOC) =

    デトリタス+土壌生物(主に微生物)

    ④土壌における炭素蓄積

    土壌に供給される有機物の 70%近くは落葉・落枝

    リターの分解過程

    植物リターの分解過程. (上)分解しやすい炭水化

    物は比較的速やかに分解されるが、腐植などの分解

    されにくい物質は安定化した土壌有機物質として

    長期に渡り土壌に貯留される.(腐蝕)生物遺体の分

    解と腐食の生成過程. (下)分解されにくい炭水化

    物であるリグニンとタンパク質の複合体などが腐

    植の主成分である. (依田 1971, 森林の生態学)

    各用語の比較

    文献によって呼び方や定義が異なるが、大まかには

    下記のように分けられる.

    粗大有機物・リター 生物遺体(個体・あるいは一部). 分解作用をほと

    んど受けていない. 主として大きさによって粗大有

    機物とリターは区別される. 一般的に落葉・落枝・

    枯根はリターだが、太い枝は粗大有機物.

    デトリタス 生物遺体やその破片、微生物の遺体、それらの排泄

    物で構成される有機物. 微生物を含むこともある.

    腐植 狭義には微生物による生物遺体の分解作用の中で

    生成される物質(腐植酸、フルボ酸、フミン)広義

    には分解過程を経て残ったもの(分解されにくいも

    の)、非腐植物質(糖・タンパク質など)も含んだ

    土壌有機物など≒デトリタス

    炭素含量は減っていく

    微生物遺体排泄物

    捕食動物の排泄物も含む

    粗大有機物 デトリタス

    落葉・落枝根からの供給

    植物体

    未分解リター

    易分解有機物

    難分解有機物

    安定化した土壌有機物(主に下層に見られる)

    回転率10年オーダー

    回転率100年オーダー

    回転率1000年オーダー

    土壌呼吸

    腐食→分解されにくい

    植物体

    分解 未分解 分解

    大気 生物遺体

    炭水化物他 タンパク質

    CO2 H2O リグニン タンパク質 アミノ酸

    アンモニア

    亜硝酸

    硝酸

    リグニン-タンパク複合体ロウ・樹脂・腐植酸

    CO2 H2O アンモニア

  • 土壌断面図と各土壌層

    O 層は A0 層ともいわれる

    土壌の深さと土壌有機炭素の蓄積

    土壌有機炭素の蓄積. 土壌の浅い所で有機炭素(主

    に腐植)が蓄積(深い所は変化しない)(Wang et al.

    2011 Glob Chang Biol) 各気候帯の森林におけるリター供給量と

    土壌有機物層の量

    年平均気温と植物群落による 1 年間のリター供給量

    の関係(左)と年平均気温と土壌有機物量(A0 層 = O

    層)の関係 (右) (武田依田 1971). 暑い地域ほど有機

    物供給量は多いが、寒い地域ほど土壌有機物蓄積量

    は多い。(武田 1996, 森林生態学より作図)

    土壌有機物の集積と温度の関係

    有機物の蓄積は供給量>分解の時に起こる. 気温が

    低い、土壌が乾燥、過湿などの場合は有機物の分解

    が著しく阻害されるので土壌に炭素が蓄積しやす

    い. (依田 1971, 森林の生態学より作成)

    各生態系における有機物の滞留期間

    寒い地域では有機物の滞留時間が長い(有機物が分

    解されにくい)(武田 1996, 森林生態学より作図)

    森林での炭素循環

    リタ

    ー供

    給量

    (Ton

    /ha年

    )

    年平均気温 (℃)

    10

    8

    6

    4

    2

    00 10 20 30

    森林

    のA 0

    (Ton

    /ha)

    年平均気温 (℃)

    50

    40

    30

    20

    10

    00 10 20 30

    熱帯林亜熱帯林暖温帯林冷温帯林北方林

    暑 寒

    滞留時間

    (年)2.4 5.6 3.1 4.6

    10.217.9

    59.8

    熱帯 亜熱帯 暖温帯 冷温帯 亜寒帯

    70

    60

    50

    40

    30

    20

    10

    0

    森林生態系

    Input(吸収) Output(放出)

    生物体(樹木では主に幹や根)粗大有機物

    生物体(根)微生物(分解)

    葉における光合成

    地上

    地下

    デトリタス

    微生物分解(土壌動物の

    間接的な補助)

    大気 大気

    植物の呼吸

  • 泥炭

    主に低気温地域の沼地(嫌気条件)で、植物遺骸が十

    分分解されずに堆積して形成される。石炭化の最初

    の段階 (植物体→泥炭→褐炭→歴青炭→無煙炭 )

    化学的には植物体の主要構成元素である炭素・

    酸素・水素のうち、酸素と水素がなくなって炭素

    濃度が増加して生成. 数千~数万年で形成(石炭は数億年)

    泥炭は熱帯でも形成されるが原料が異なる(冷温帯

    亜寒帯:水生植物やコケ類、熱帯:木本)。熱帯泥

    炭林の場合、雨季には数十 cm から数 m 冠水する。

    石狩川流域の泥炭地形成

    森林火災の影響

    シベリア 東シベリアで 100 年以上強度の火災にあ

    っていない森林では炭が地中に埋もれている. 火災

    が頻発すると、炭が地中に埋もれる前に燃えてなく

    なる.

    インドネシア 世界一森林消失の早い国(2008 年ギ

    ネスブック) 1997~98 年(エルニーニョ発生年)の熱

    帯泥炭の焼失による炭素放出は全世界の化石燃料

    による C 放出の 13~40 % に相当(Page et al. 2002).

    泥炭林の火災では土壌(泥炭土)が燃えるため、長

    期に渡って大規模な火災となる. インドネシアでは土地開発などにより地下水位が低下しているため、

    泥炭火災が発生しやすい.

    ⑤生態系の純一次生産・生態系生産の推定法

    純一次生産と生態系純生産. 総一次生産から植物の

    呼吸を引いたものが純一次生産. 純一次生産から従

    属栄養生物の呼吸を引いたものが生態系純生産

    積み上げ法による純一次生産(NPP)の推定

    ある植物群落のバイオマス(Bt1)と一定期間後の同じ

    植物群落のバイオマス(Bt2)より NPP を算出

    草本の場合、種のバイオマスはほぼ無視できるため、

    植物体を掘り出し、乾燥させた重さをバイオマスと

    して定量できる. 樹木に関しては、サイズ大きいた

    め困難.

    樹木のバイオマス調査の様子

    気候帯 原料植物

    冷温帯・亜寒帯 水生植物やコケ類

    熱帯 木本

    大気中の二酸化炭素

    土壌有機炭素(SOC)

    落葉落枝(リター)

    純一次生産 (NPP)= GPP- RP総一次生産

    (GPP)植物の呼吸 (RP)

    従属栄養生物の呼吸 (RH)

    NPP (純一次生産): 植物の炭素固定量

    動物による摂食

    生態系純生産 (NEP)= NPP - RH

    NEP (生態系純生産): 生態系の炭素固定量

    Bt2Bt1

    NPP

    古いバイオマスの枯死量

    新しく蓄積したバイオマスの枯死量

    新しく蓄積したバイオマス

  • アロメトリー式の作成。これにより非破壊でバイオ

    マスの継続測定が可能になる。森林ではこのアロメ

    トリーによる推定が良く使われる.(小塚ら 2005. 北

    大演研報)

    生態系純生産を推定するためのその他の構成要素

    微気象学的方法

    微気象学的方法。純生態系 CO2交換量(≒NEP)を

    直接測定(30分から 1時間平均の細かい時間分解能).

    これに加えて葉群光合成、幹呼吸、土壌呼吸などの

    測定を加えることで、生態系のどのコンポーネント

    がどれくらい CO2交換量に寄与しているのかが推

    定できる.

    Japan Flux (http://www.japanflux.org)

    Japan Flux の観測サイト

    全国のGPP, NPP, NEPの推定結果は以下のURLに掲

    載されている

    http://db.cger.nies.go.jp/dataset/terres_carbon/index.html

  • 生態系生態学第 7回

    陸域(主に森林)の窒素循環

    ①外部循環と内部循環 概要 ・窒素ガス(N2) 大気の 78%を占め化学反応性なし ・窒素化合物(NOx, NHy) 反応性高い. 様々な形態

    がある為、リンやカリウムなどよりも反応が複雑 主な窒素化合物 二酸化窒素(NO2)

    一酸化窒素(NO) 硝酸態窒素(NO3-) ・・・NOx アンモニア(NH3) アンモニウム態窒素(NH4+) ・・・NHy

    様々な窒素の形態 (原田ら 2010, 生態学入門)

    窒素沈着と生態系の生産量. 一般に、温帯、冷温帯林は窒素不足状態であるため、人為的な土壌への窒

    素付加あるいは大気からの窒素沈着量の増加によ

    って生産(CO2 吸収)が増加. (Mao et al. 2014 Landscape Ecol Eng; Magnani et al 2007, Nature).

    植物生態系における窒素循環プロセス. 外部循環(系への流入・流出)と内部循環(系内での移動)がある.

    窒素の外部循環. 窒素は大気との間で行き来するが、河川などへは流出が主である. ただし河畔帯などはその限りではない. ②大気から森林への窒素流入

    微生物による土壌窒素固定 (窒素ガス(N2)→アンモニア(NH3))

    土壌窒素固定の主な形態 (岩坪(編) 1996, 森林生態学)

    N2ONONO2

    N2

    NH3

    NO2-

    NO3-

    アミノ酸タンパク質

    窒素

    の酸

    化数

    +1

    +2

    +4

    0

    -3

    +3

    +5

    -3

    ①微生物による土壌窒素固定窒素ガス(N2)→アンモニア(NH3)

    ②大気窒素化合物の沈着(湿性・乾性)

    天然起源空中放電による窒素ガスの酸化微生物によるNH3揮散(アルカリ土壌)

    人為起源化石燃料、工業的窒素固定

  • 大気窒素化合物の沈着 ・沈着形態 (両形態の寄与率は同程度) 湿性沈着 [水(雨・雪・霧)に溶けて沈着する現象] 降水量と溶けている物質量から評価 →測定方法がほぼ確立している 乾性沈着 [ガス・粒子に付着して沈着する現象] 葉の状態・風速・気温などによって

    沈着量が変化 → 評価が難しい

    林内雨・林外雨法による乾性沈着の評価

    酸性沈着の観測方法

    沈着モデルによる評価 (松田 2009, 大気環境学会誌) 実際には観測とモデルの組み合わせであり、窒素沈着な

    どについては、大気や葉表面などでの化学変化も起こる

    ため、色々と複雑。 硝化・溶脱・脱窒 ・硝化反応 (NH4+ → NO2- →NO3-)

    このプロセスから H+が放出される(土壌酸性化) 土壌粒子はマイナスに帯電しているので、NO3-

    は吸着されない→溶脱しやすい ・脱窒 (NO3- → NO2- →N2O → N2)

    還元的条件で脱窒細菌によって生じる. 中間産物として強力な温室効果ガス(CO2 の約 300 倍)であり、オゾン層を破壊する原因にもなる亜酸化窒素(N2O)が生成される

    植物による吸収・分配・利用効率 ・窒素の吸収と窒素代謝

    窒素の吸収と植物体における同化(窒素代謝)の概要. 一般的な環境ではアミノ酸の吸収はほとんどない. 亜硝酸態窒素(NO2--N)やアンモニウム態窒素(NH4+-N)は有害なため、植物は硝酸態窒素(NO3--N)の形態で窒素を蓄積.

    林内雨 林外雨

    樹冠に乾性沈着した物質が洗い流される

    樹幹流

    乾性沈着+湿性沈着 湿性沈着

    この差が乾性沈着量

    吸収できる窒素の形態

    無機態窒素

    硝酸態窒素(NO3--N)アンモニウム態窒素(NH4+-N)

    有機態窒素

    アミノ酸

    NH4+-N硝化

    NO3--N

    NO3--N

    NO2--N

    NH4+-N

    有機態窒素

    硝酸還元酵素

    亜硝酸還元酵素

    窒素代謝系

  • ・植物体内での窒素の分布 葉に最も多く窒素が分配される。葉の中では葉緑体

    に多く分配される(コムギでは 80%の窒素が葉緑体に存在)。Rubisco が最も大きな窒素投資先(→高い光合成速度を実現するため). ・葉群における窒素の分配 キャノピー上部は明るく下部は暗い. 暗い所に窒素を投資しても、生産効率は上がらないため、キャノ

    ピーの上部に多くの窒素が分配される.

    (左) シラカンバ、ブナ、ミズナラの樹冠上部と下部の葉の窒素含量 (Watanabe et al. 2018, STOTEN). (右) セイタカアワダチソウにおける積算葉面積指数(LAI)と葉の窒素含量の関係 (Hikosaka et al. 2016, JPR). キャノピー内の葉の窒素含量はその葉より上にある葉の合計面積(積算 LAI)が小さいほど高くなる。

    葉群内における光の減衰と窒素の低下

    吸光係数 K と窒素の低下係数 KN (Hikosaka et al., 2016, Ann Bot)

    窒素の再利用(限りある資源を有効に). 古い葉で使われていた窒素の 80%が回収・再利用される事もある. ・樹木の窒素吸収・放出量

    森林によって大きく異なる. 巨視的にみると熱帯林で大きく針葉樹林で小さい. おおむね純一次生産量に対応する(岩坪 1996, 森林生態学). ・窒素利用効率

    窒素利用効率(NUE: Nitrogen Use Efficiency)とその構成要素(窒素生産力 NP: Nitrogen Productivity, 平均窒素滞留時間 Mean Residence Time). NUEは吸収した窒素量あたりの個体の成長量として定

    義される. NP は保持している窒素あたりの成長速度、MRT は植物体内の窒素の保持期間を表し、NUEはこれらの積として表される. 前者は保持している窒素をどれだけ光合成生産に使っているかを示し、

    後者は吸収した窒素をどれだけ体内にとどめてい

    るかを示す. 窒素を式で書くと以下の通り. NUE = W / N = (1 / N ×W / T) × N T / N

    ↑ ↑ NP MRT

    ここで、W ある期間(T)における成長量(バイオマス増加量); N ある期間(T)における窒素吸収量; N ある期間(T)における平均窒素保持量

    LAI (m2 m-2)

    1.21.00.80.60.40.20.0

    0 2 4 6 8

    各高さで光強度

    各範囲のLAI

    1.0

    0.1

    0.01

    0.001

    相対

    光強

    y = e-0.7x

    I = I0 e-KFI : ある高さにおける光強度I0: 群落上部における光強度K : 吸光係数F : 積算葉面積指数 (LAI)

    各高さで窒素含量を測定し、光強度と同じ解析をすると

    N = N0 e-KNF

    広葉樹林

    針葉樹林

    広葉樹林

    針葉樹林

    照葉樹林

    熱帯季節林

    熱帯多雨林

    50-15247-8842-10826-74101112273

    窒素吸収量 (kg ha-1 年-1)欧米

    日本

    30334573

    144

    リターの窒素量 (kg ha-1 年-1)亜寒帯・亜高山針葉樹林

    温帯針葉樹林

    温帯広葉樹林

    照葉樹林

    熱帯林

    植物体内の窒素の保持期間

    窒素利用効率(NUE, g g N-1)

    個体の成長量 (g)窒素の吸収量 (g N)

    窒素生産力(NP, g g-1 N day-1)

    個体の成長速度 (g day-1)窒素の保持量 (g N)

    平均窒素滞留時間(MRT, day)

    積算窒素保持量(g N day)窒素吸収量(g N)

    窒素利用効率 = 窒素生産力×平均窒素滞留時間

  • 様々な森林における、リターとして樹体から一年間

    に放出される窒素の量(土地面積あたり)と樹木の窒素利用効率の関係. 森林が定常状態にある(系外からの物質の流入量と系外への物質の流出量が釣り

    合っている)場合、リターのバイオマスはその年の

    生産量をリターに含まれる窒素はその年の窒素獲

    得量を示す。リターの窒素量が多い(窒素を多く捨

    てている)森林では窒素利用効率が低い(岩坪 1996, 森林生態学). 森林内での窒素の再利用 森林土壌には落葉落枝として主に有機体窒素が供

    給される、それらの窒素は微生物によって分解(無

    機化)され、微生物や植物に利用される ②人為起源の窒素化合物の増加

    ~過ぎたるは猶及ばざるが如し~

    地球上の窒素化合物の増加 ・工業的窒素固定(農地に供給される窒素の増加)

    ハーバーボッシュ法(N2 + 3H2 → 2NH3) 「水と石炭と空気とからパンを作る方法」 オスワルト法(NH3 + 2O2 → HNO3 + H2O)

    ・化石燃料の消費

    化石燃料消費量の推移 (環境白書 H10 年度). 不純物として窒素化合物が含まれるため、燃焼時に窒素

    酸化物が放出される.

    ・農作物による窒素固定 窒素固定菌を有する農作物(ダイズなど)の栽培. クズ(葛)による窒素過剰(アメリカ)19 世紀後半に日本から導入. 20 世紀初頭に緑化・土壌流失防止用として広まる. 最大で 235 kg N ha-1 年-1の窒素沈着. その結果、土壌からの窒素化合物の放出が促進.

    ・人為起源の窒素放出量と沈着量の増加

    (上)天然起源と人為起源の窒素生産量の比較.(中)窒素放出量と沈着量の推移窒素沈着量の増加. (下)アジアでは更なる増加が予想されている(Galloway et al. 2001, Water Air Soil Pollut; 2004, Biogeochem)

    コムギ畑 ダイズ畑

    N2 N2N2N2 N2

    N2

    0

    50

    100

    150

    200

    250

    300

    350

    1860年 1990年代初期 2050年

    生物窒素固定(海洋)生物窒素固定(陸域)空中放電

    窒素

    化合

    物の

    生産

    量(T

    g N

    年-1)

    1860 1990年代初期

    20500

    50

    100

    150

    200

    250

    300

    350

    1860年 1990年代初期 2050年

    化石燃料消費

    農作物の窒素固定

    ハーバーボッシュ

    1860 1990年代初期

    2050

    天然起源 人為起源

  • 森林生態系の窒素飽和

    Aber et al. (1989 BioScience, 1998 BioScience)による窒素飽和現象の定義 ステージ 0 窒素が制限された状態. 窒素は植物による一次生産や微生物による有機物分解によって

    固定されるため、系外への流出は

    少ない.

    ステージ 1 外部からの窒素は植物にとって肥料として働く. 成長が良くなった植物体に窒素が貯蓄されるため、系外への流出は少ない.

    ステージ 2 森林は窒素の吸収源として機能しない.窒素増加に伴う、植物への悪影響. 硝化に伴う土壌酸性化. 溶脱によるNO3-の流出が顕著になる. N2O が生成

    ステージ 3 窒素飽和の悪影響が顕在化し、森林衰退が認められる

    窒素飽和の指標 (渓流水中の NO3-濃度) 健全な場合 渓流水中の NO3-濃度には明確な季節変動がある. 夏に低く(植物によって吸収されるため) 冬に高い. 窒素飽和の場合 渓流水中の NO3-濃度の季節変動が不明瞭になる

    ただし日本の場合、窒素飽和していなくても、季節変

    動が不明瞭になる事もある→夏に雨が多いため植物が吸収する前に窒素が流出など (Ohte et al. 2001, Water Air Soil Pollut)

    窒素沈着量と渓流水からの NO3-の流出(左, Ohrui & Mitchell 1997, Ecol Appl)と窒素沈着量の観測例(林内雨)(右)

    森林

    森林

    森林

    森林

  • 生態系生態学第 8回

    リンの循環

    ①概要 リン 原子番号 15 の元素 地殻推定現存量: 第11位 用途 ・化学肥料 ・農薬・殺虫剤 ・洗剤(富栄養化の為、使用減(無リンへ)) ・潤滑用途(エンジンオイル)

    リンの同素体 (http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3% 83%AA%E3%83%B3) 生体内のリン ・生体内のリンは、ほぼ正リン酸(H3PO4)か、その

    エステル化合物. ・代謝におけるリンは常にリン酸基のグループ転移 (リン単体での反応はない) リン代謝 = リン酸代謝 ・リン酸基は pH6~8 で緩衝能をもつ. 中性から

    弱アルカリ性で起こる細胞質の化学反応にとっ

    て重要な緩衝物質として働く(下図)

    100 mM リン酸 10ml を 100mM 水酸化ナトリウムで滴定. pH2~3、6~8、11~12 で pH が変わりにくい部分(緩衝帯)がある。リン酸緩衝液(リン酸

    バッファー)は生物系の実験でよく使用される.

    ②植物栄養としてのリン

    植物の三大栄養素(窒素、リン酸、カリウム)の一つ 植物体内におけるリン ・核酸(DNA や RNA)

    ・リン脂質(細胞膜の成分) ・NADP(酸化還元補酵素) ・ATP(エネルギー) ・無機リン酸

    右図. ヨーロッパトウヒ苗に対するリン施肥の影響. Utriainen et al. (2001, Tree Physiology) 光合成系におけるリンの利用

    光合成系ではATPの合成で無機リン酸(Pi)が利用される. 合成された ATP はカルビンサイクルで利用され、そのリンの一部はトリオースリン酸(TP)として葉緑体外(細胞質)に運ばれる。細胞質でスクロ

    ース合成の際に Pi が遊離する. 遊離した Pi は TPが葉緑体膜を通過するのと同時に葉緑体内に戻り、

    ATP 合成に使われる.

    葉緑体における生化学的光合成プロセス

    デンプン RuBP

    PGATP

    Ru5P

    ATP, NADPHADP, NADP+

    Fru6P

    ADPATP

    CO2Rubisco

    カルビンサイクル

    H+

    ADP+Pi ATP

    ATP合成酵素

    ATP合成系

    チラコイド膜

    ルーメン

    ストロマ

    スクロース

    Pi細胞質

    スクロース合成

    C3植物Pi: 無機リン酸

    H2O1/2O2+2H+

    PQ

    2H+2e-

    2H+2e-

    4H+4e- PC2e- 2e-

    NADP++H+ NADPH

    PSIcyt.b6/f

    comp.PSII

    電子伝達系

  • 限られたリンの有効利用

    オオムギにおけるリン欠乏下でのリン転流. リンの放射性同位体 32P を使った実験. リン供給が限られた場合、老化組織のリン酸は若い組織へと転流する. リンは熱帯林における生産律速要因

    リター中のリンに対する窒素利用効率(上)とリン

    利用効率(下)の関係. 同じリター中のリン量で比較した場合、温帯・北方林に比べて熱帯林の方がリ

    ン利用効率が高い. つまり、熱帯ではリンの樹体への引き戻しが多く、リンが欠乏しがちである事を示

    している. 一方で窒素利用効率はあまり変わらない. (Vitousek 1984, Ecology)

    冷温帯林でもリン律速

    カラマツ針葉のリン濃度と窒素濃度の関係. 図中の白部分は窒素律速、斜線部分は窒素とリンの共律速、

    灰色部分はリン律速の領域を示す. 一般的なカラマツ林では窒素とリンの共律速もしくは窒素律速だ

    が、札幌市白旗山のカラマツはリン律速と考えられ

    る. (Koike et al. 2005, Phyton) 窒素沈着量の増加とリン律速 人為起源の窒素放出量とそれに伴う窒素沈着量の

    増加によって、温帯・北方林でもリン律速にシフト

    か? リービッヒの最少律 植物の成長は、必要な栄養素のうち、もっとも少な

    いものに影響される.

    ドベネックの桶. リービッヒの最少律を説明するものとしてよく使われる. 桶の水は最も短い板(要素)の高さまでしか溜まらない. 温帯・北方林では窒素が最も短い板(生産の律速要因)であると考えられ

    ているが、窒素沈着量の増加によって律速要因でな

    くなる可能性がある. そしてリンがその次の律速要因になる可能性がある. (図には気象要因なども含まれるが、窒素律速→リン律速は栄養元素のみで考え

    た場合である).

  • ③生態系におけるリンの循環

    陸域生態系への流入・蓄積 ・リン循環と窒素循環の違い

    リン循環と窒素循環の違い. リン循環には大気を介したプロセスがほとんどない. Chapin et al. (2011, Ecosystem Ecology)

    ・陸域生態系におけるリンの循環

    陸域生態系におけるリンの循環の概要. リンは陸域生態系内では循環・再利用されるが、基本的にはリ

    ン灰石や岩石から生態系に供給され、最終的には河

    川を介して海洋に到達する(一方通行). (依田 1971, 森林の生態学, を改作). ・岩石→生態系 風化作用 岩石が日射や風雨で変質・破壊されること

    物理的風化: 岩石の崩壊・破壊水の氷結融解や 氷河、砂、水による侵食

    化学的風化 岩石の溶解、分解

    様々な形態の風化 (http://homepage2.nifty.com/ izumonotisitu/uppurui4.html)

    リン

    窒素

    植生のストック

    500 Tg6500Tg

    大気→植生のフラックス

    3 Tg 年-1335 Tg 年-1

    陸域生態系

    火山性リン灰石(かいせき)など

    リン酸含有岩石

    深海性堆積物

    浅海性堆積物

    遺体

    植物体 動物体

    浸食風化

    溶脱 河川流出

    リン酸 バクテリア

    細胞質合成

    排泄物

    沈着

    動物による移動

    可溶性リン酸塩

    大気中のリン

    地殻変動

  • 菌根菌の働き 菌根菌: 菌根を作って植物と共生する菌類 ↑土壌中の糸状菌が、根の表面または内部

    に着生したもの

    アーバスキュラー菌根菌と外性菌根菌. 樹木は主に外性菌根菌と共生 (小池 2004, 樹木生理生態学)

    樹木と菌根菌の共生関係. 菌根菌は細い菌糸を利用して養水分を効率的に吸収し、宿主である樹木に供

    給する. また病原体からの防御や有害物質の吸収抑制の役割もあると考えられている. 樹木は光合成産物(炭水化物)を菌根菌に提供する. http://cse.ffpri.affrc. go.jp/akema/public/article/GreenAge2005/GreenAge2005.html

    (左) ノルウェーのフィヨルドに生息する植生. ヨーロッパアカマツなど外性菌根菌と共生関係にあ

    る樹木が生息する. 外生菌根菌の菌糸は火山岩や変成岩にも穴を空ける事ができる. (右上)コナラの菌根. (右下)スダジイの菌根.

    ・遷移の進行と土壌へのリンの蓄積

    伊豆大島におけるクロノシーケンス.土壌有機物量

    の増加(植生の発達)に伴って、土壌の全リン量は増

    加し続けるが、植物が利用できる可溶性リン量は比

    較的早い段階で飽和する. (Tezuka 1961, Jap. Journ. Bot)

    土壌 pH とリンの主要な形態. pH6.5 付近の限られた範囲以外はリンの利用性は低い(土壌金属元素な

    ど と 結 合 し て し ま う . (Chapin et al. 2011, Ecosystem Ecology)

  • ・地史レベルでのリンの欠乏

    100 万年オーダーではリンが土壌中で付可給態になるため、リンが欠乏し、バイオマスの減少を引き起

    こす. (植物生態学 2011 日本生態学会編) 生態系における内部循環

    天然性落葉広葉樹林のリン循環. (岩坪 1996, 森林生態学, より作図) ・窒素循環との比較

    リンは大気とのやり取りがほとんどなく、土壌、樹

    体両方においても酸化還元反応がないため生態系

    におけるリン循環は比較的単純である.(岩坪 1996, 森林生態学, より作図)

    ・斜面上部と下部におけるリン蓄積量の違い

    斜面下部の土壌は上部に比べて、湿潤、土壌が深い、

    物理的・化学的な性質が良い. (岩坪 1996, 森林生態学, より作図) 陸域-水系でのリンの移動

    基本的にリンは森林→河川→海洋と移動し、湖底や

    海底に沈降する. 一部は動物の働きによって陸域に戻される. ・湧昇流とグアノの形成

    湧昇流によって深海に堆積した窒素やリンが海面

    近くまで運ばれると、植物プランクトンの急激な増

    加が起こるため、それを捕食する魚類が増加する. さらに魚類を捕食する鳥類の生息域にもなる. グアノは餌が豊富な湧昇流のある場所で、海鳥の死骸・

    糞・エサの魚・卵の殻などが数千~数万年かけて堆

    積して化石化したもの. 窒素やリンの濃度が高く肥料として極めて有用.

    NH4+-N硝化

    NO3--N

    NO3--N

    NO2--N

    NH4+-N

    有機態窒素

    硝酸還元酵素

    亜硝酸還元酵素N2NOxNHy

    溶脱(河川へ)

    脱膣(大気へ)

    落葉 落枝

    大気から

    リンの循環では酸化還元反応が

    伴わない

    0

    50

    100

    150

    200

    250

    リン

    集積

    量 (k

    g ha

    -1) 上部 下部

    天然林 二次林

    ※両方とも落葉広葉樹林

    湖海

    一部は水中の生物(プランクトンなど)が利用

    残りは湖底、海底に沈降

    水鳥や水生昆虫によって、一部のリンは陸域へ戻される

  • ・主な湧昇流 沿岸湧昇、赤道湧昇、

    海洋地形による湧昇 など カリフォルニアやペル

    ーなどの沿岸が有名 ④リン資源とその動向

    農地へのリン投入 リン鉱石から採取されたほとんどは農業用のリン

    酸肥料. 土壌中の有効リン酸濃度は数 μM しかないため、農地において作物の正常な生育には多量のリ

    ン施肥が必要. しかし施用したリンのすべてが植物に吸収されるわけではない.

    リン鉱床 (すべて有限な資源) 化石質鉱床 古代の動植物や微生物が起源となった比較的大規

    模なリン鉱石鉱床 火成鉱床 地殻変動によって生じた金属鉱床などと同じ無機

    質のリン鉱石鉱床 グアノ鉱床 海鳥の死骸・糞・エサの魚・卵の殻などが堆積して

    化石化したもの(数千~数万年) グアノの枯渇 (ナウル共和国の事例) グアノの採掘によって繁栄. 世界で最も高い生活水準(税金なし). 無料の医療・教育・年金(すべての年齢に対する給与として) しかし、20 世紀末にグアノの枯渇 すべての社会福祉が破綻. 基本的インフラの維持でさえ困難. 外国からの援助が唯一の外貨獲得手段.

    リン鉱石の産出国

    国別リン産出量. リン鉱床の分布には大きな偏りがある. 国内に限らず海外のリン鉱床の採取権益を持つ場合もある リンに関わる社会の動向 ・一時期、リン鉱石の枯渇問題が注目されたが、最

    近はあまり切迫していないと考えられている(鉱

    石埋蔵量の大幅な増加修正など). ・リン鉱石の権益保有国がリンをどのように販売す

    るかは重要な食糧政策(どの国も自国の食糧調達

    を優先) 米国: リン鉱石での輸出は行わず、全てリン

    化合物の形で輸出 中国: 輸出規制により徐々に輸出量が減少

    ・日本では何らかの状況によってリンや肥料の輸入

    が制限された場合のリスクが非常に大きい。その

    ため大手肥料メーカーや商社は海外の鉱山プロ

    ジェクトへの出資や工業用に加え、肥料用リンの

    取扱を検討し始めている 20 世紀におけるリン肥料の世界使用量

    ・20 世紀中頃より急増(集約的農業の発展と連動) ・1850~2000 年の期間に 550 Tg のリンが農地に投入 ・現在は年間 10-15 Tg のリンが農地に投入 ・風雨などにより年間 15 Tg のリンが農地から流出 ・窒素とともに水系の富栄養化(赤潮・あおこ)を

    引き起こす ( 新藤 2010, http://www.naro.affrc.go.jp/archive /niaes/magazine/pdf/mgzn12301(3).pdf, Chapin et al. 2011, Ecosystem Ecology)

    リン肥料

    植物 土壌

    火山灰土壌リン酸吸収係数が高い(鉄やアルミニウムとの結合)

    0

    20

    40

    60

    80

    100

    120

    リン

    生産

    量(百

    万ト

    ン)

    中国 米国 モロッコ西サハラ

    ロシア ヨルダン その他

    43%

    14% 13%6% 3%

    21%

  • 生態系生態学第 9回

    草食動物に対する植物の被食防衛

    ①世界はなぜ「緑」か?

    ~トップダウン・コントロールと ボトムアップ・コントロール~

    植食者(草食動物)による摂食の実態. (下図, Cyr and Pace 1993, Nature) HSS 仮説 Hairston, Smith and Slobodkin (1960) Community structure, population control and competition. The American Naturalist

    捕食者、植食者および植物の関係. HSS 仮説では植物は植食者の数をコントロールしない. つまり世界が緑なのは植食者が全ての植物を食べつくすこと

    がないからであり、植物はただ余っているだけであ

    るという、トップダウン・コントロールに基づく. 植物による植食者のコントロール

    植食者と一次生産(NPP)の関係. NPP と植食者のバイオマスに正の相関が認められる. 同一の植生間で比較した場合、その関係はより明確. もし植物が余

    っているだけなら(植食者が食べたいだけ食べられ

    るのであれば)、これらに相関は見られないはず. 植物は植食者の数を制限する要因であり、ボトムアッ

    プ・コントロールが成り立つ. 実際にはトップダウンとボトムアップの両方が存在すると考えられる. (Chapin et al. 2011, Ecosystem Ecology)

    異なる機能型の植生における被食量の違い. 植食者による摂食量は葉の生産量と関係が深く構造的な

    木質バイオマスはあまり食べられない. ただし、葉がすべて食べられるわけではない(ある一定割合の

    被食). (Chapin et al. 2011, Ecosystem Ecology) ②植物の被食防衛

    植食者にとって植物はおいしい食材とは限らない ・栄養が少ない(質が悪い) ・質と量が時間的・空間的に変化する ・摂食に対する防御がある 動物と植物の窒素濃度 動物の窒素濃度 多くの場合 10%を超える 植物の窒素濃度 葉で 1-5%、その他の器官ではもっと低い

    でも実際はそうではない

    食べ尽くされてもおかしくない

    捕食者

    植食者

    植物

    捕食者

    植食者

    植物トップダウンコントロール

    動物の窒素濃度 多くの場合10%を超える植物の窒素濃度 葉で1-5%、その他の器官ではもっと低い

    イモムシ5gに必要な葉の面積 = 2000 cm2

    =

    計算条件イモムシの窒素濃度 10%, 葉の窒素濃度 2%, LMA (比葉重) 50 g m-2, 葉1枚当たりの面積 60cm2, 窒素の吸収率100%

    33枚

  • 植食者に対する植物の様々な防御

    直接的防御

    被食に対する植物の化学的防御と物理的防御. (松木, 2011, 北海道の森林, 北方森林学会編)

    物理的防御の例. サボテンやハリギリにはとげがある. 植物の葉には毛状組織(トリコーム)があり、植食昆虫による被食を防御している. なお、トリコームは葉脈など葉において重要な部分に多く生え

    ている.

    化学的防御 二次代謝物質 一次代謝 生命を維持する上で必要不可欠な代謝. 代謝物質に生物間で普遍性、規則性がある. タンパク質、炭水化物、脂質など. 二次代謝 個体の生育には直接関与しない代謝. 代謝物質は多様であり、特異性がある. ・テルペン類・フェノール類(窒素を含まない) ・アルカロイド(窒素を含む)

    ※植物の薬用成分はいずれも二次代謝物質 多くの二次代謝物質が植物の防御に関わっている

    ため「二次代謝物質」=「化学防御物質」と扱われることが多い. 摂食防御以外に病気に対する防御にも重要

    化学的防御の例. 防御物質が多い方がタバコガ幼虫の育ちが悪い. ゴシポール: テルペン類の一種. 抗菌作用や殺菌作用がある. (Hedin 1983, Plant Resistance to Insects) なぜ植物によって防御能力が異なるのか? ・植物の生育環境 植食者にとって富栄養環境で育った植物より貧栄

    養環境で育った植物の方が不味くなる ・タンパク質含量の低下 ・炭素ベースの防御物質の増加 →成長の方が光合成よりも強く律速されるので

    成長に使えない炭水化物を防御へ

    直接的防御

    間接的防御

    手段の違いによる分類

    誘導防御

    恒常的防御

    タイミングの違いによる分類

    物理的防御

    ・棘や毛

    ・組織を硬くする

    ・粘着性植食者の移動や摂食を阻害する

    化学的防御

    ・量的防御タンニンやフェノールなど(消化阻害)

    ・質的防御カラシ油配糖体やアルカロイドなど(毒性)

    ・腺毛など(物理防御+化学防御)

  • ・成長と防御への投資割合の調整

    資源利用性に対する成長・防御への投資モデル. 利用できる資源(窒素など)が限られる場合、植物は

    防御に多く投資するが、資源が豊富にある場合は成

    長に多く投資する. (Herms and Mattson, 1992, Quart Rev Biol).

    葉のタンニン濃度と出葉数(成長)の関係. 葉にタンニンを多く含有する個体は成長が悪い. 成長や防御に投資できる光合成産物は限られているため、これ

    らの間にはトレードオフの関係が存在する(Chapin et al. 2011, Ecosystem Ecology). ・CNB 仮説とその検証

    炭素栄養バランス仮説(CNB 仮説). 植物は低養分環境では炭素ベースの防御物質を利用し、低炭素環境

    では窒素ベースの防御物質の利用が相対的に高く

    なる、という仮説. (Bryant et al., 1983, Oikos)

    異なる光量(左)および養分条件(右)における葉の防御物質の濃度. 明るい時(光合成でたくさん炭素が得られる時)や養分が少ない時(養分に対して相

    対的に光合成が低い時)防御物質が増加する. これらは CNB 仮説を支持する. (Waterman and Mole, 1989, Insect-plant interactions; Bryant et al., 1987, Oecologia). ・防御能力の季節変化

    出葉直後の葉は防御物質が少なく栄養(タンパク質)

    が多いので植食者にとって美味しい(良質な)食材

    ある. ・窒素を含んだ防御物質

    -窒素が豊富な環境で生産(窒素固定植物など) -アルカロイド、シアン配糖体、カラシ油配糖体など -少量でも強い毒性(質的防御物質) -解毒機構を持つ植食者には弱い -葉における濃度は 2%以下

    一方で、セルロース、リグニン、フェノール、タンニ

    ンなどは量的防御物質と呼ばれる. 葉に比較的高濃度(8.5%以上)含まれ、消化阻害などを引き起こす.

    低 高

    投資

    資源利用性

    生産量

    防御

    成長

    低養分環境

    貧栄養 十分な光とCO2

    養分吸収↓

    養分濃度↓

    成長↓炭水化物濃度↑

    窒素ベースの防御↓

    炭素ベースの防御↑

    光合成↓

    (-)

    (-)

    低炭素環境

    十分な栄養 光とCO2欠乏

    養分吸収↓

    養分濃度↑

    成長↓炭水化物濃度↓

    窒素ベースの防御↑

    炭素ベースの防御↓

    光合成↓(-)(-)

    (-)

  • 間接的防御 傭兵防御 ・アリ植物 植食者を排除してくれるアリに巣や餌を提供 ・寄生者を呼び寄せる 揮発性成分を放出して寄生者を呼ぶ

    恒常的防御と誘導防御 恒常的防御 葉が最初から持っている防御 誘導防御 食害に遭って発現する防御. 傭兵防御を誘導する事もある. 食害がなければ資源を成長に 使えるため他植物との競争に勝てる(成長と防御のトレードオフ). なぜ多様な防御物質が存在するのか? 共進化仮説 食べられない植物とそれを食べる植食者の進化の

    繰り返し.

    植物と植食者の共進化の概念. ある食害を受けている群落において防御能力が高い植物の突然変異が

    生まれると、それらが分布を広げる。しかしやがて

    その防御を突破する植食者が突然変異として現れ、

    摂食を行う。この繰り返しによって植物と植食者は

    共進化してきたという説.

    植物の防御と物質循環

    異なる土壌栄養条件における. 植物の被食に対する防御と物質循環の関係. 植物の防御能力の違いと生態系の物質循環はお互いに関係し合っている . (Chapin et al. 2011, Ecosystem Ecology). ③植物の防御と環境変動

    ~将来環境では植物はもっと食べられるのか?~ 高 CO2環境下における葉内防御物質の含量

    高 CO2 環境下でのフェノール性物質の蓄積. (左)高CO2 環境で育成したカラマツの方が細胞が強く染まっており、フェノール性物質の蓄積が認められた. (右)ヨーロッパシラカンバの葉の全フェノール濃度は高 CO2環境で育成した方が高い値を示した。またフェノールの組成も変化した. (Watanabe et al., 2011, Tree Physiol; Peltonen et al., 2005, Glob Chang Biol). 葉の窒素濃度の低下は食害を減らす?増やす?

    高 CO2 環境で栽培したカラマツでは葉の窒素濃度が低下したが、これが食害を増やすのか減らすのか

    について単純には答えることは難しい. (Watanabe et al., 2011, Tree Physiol).

    植物×1, 虫×1

    植物×2, 虫×1

    植物×2, 虫×2

    植物×3, 虫×2

    植物×3, 虫×3

    低い分解速度

    高い防御

    低い成長速度

    貧栄養

    高い分解速度

    高い成長速度

    糞尿による養分の還元

    低い防御 高い被食

    富栄養

    土壌の肥沃度の違い

    0.0

    0.5

    1.0

    1.5

    対照 高CO2

    葉の

    窒素

    濃度

    (%)

    栄養が少なくて虫が減る

    栄養が少ないので、たくさん食べて補償する

    カラマツ

  • 生態系生態学第 10 回

    森林衰退とその要因(前半)

    ①なぜ木が枯れるのか?

    ~Manion の枯死プロセス~

    樹木枯死における素因・誘因・主因 素因 植物自身の健全性を左右する要因 誘因 植物の健全性を損なう要因

    比較的短期間の現象 主因 植物を枯死に至らす原因

    Manion (1981)に基づく樹木の衰退-枯死スパイラル. この図は主に病害に関する文献から作成しているため、主因に病害のみ書かれているが、乾燥や塩

    害などが主因になる事もある. (http://www.invasive.org/symposium/Mattson-1.gif) 樹木の枯死プロセス

    そもそもの樹木の活力は素因によって決定される.誘因によってストレスが引き起こされた際、もとも

    との活力がある樹木は枯死せずに回復する事がで

    きるが、素因によって活力が損なわれた樹木では回

    復できず枯死する. (佐久間ら 2012, 北方森林研究)

    ②樹木流行病による森林衰退

    世界規模での樹木の流行病の蔓延 世界の樹木三大流行病 ・クリ胴枯病 ・五葉マツ発疹サビ病 ・ニレ立枯病 ※20 世紀以降の樹木、苗木、材の広域的移動が原因 日本において問題となっている主な病気 ・マツ材線虫病(マツ枯れ) ・ブナ科樹木萎凋病(ナラ枯れ) マツ枯れ マツノマダラカミキリによって媒介されたマツノ

    ザイセンチュウがアカマツやクロマツ等を枯死さ

    せる病気. 最初に発見されたのは 1900 年代初頭

    http://cs.ffpri.affrc.go.jp/labs/seibut/bcg/images/00155-2.jpg http://www.rinya.maff.go.jp/kyusyu/keikakuhozenbu/biodiversity/img/07-09.jpg https://www.ffpri.affrc.go.jp/labs/seibut/bcg/images/00154-1.jpg

    ・マツ枯れのしくみ 主に 6~8 月 カミキリの成虫が健全なマツの若枝を食べる(下写真)。できた傷からセンチュウが樹体内に侵入 感染から 1ヶ月以降 樹体内でセンチュウが増加すると、水分通導阻害が引き起こされ衰弱・枯死が始

    まる(針葉の赤褐色化)。 秋 衰弱・枯死木にカミキリが産卵(繭で越冬) 翌年春 羽化したカミキリの腹部の気門内にセン

    チュウが潜り込む 翌年 6~8 月 カミキリは新しいマツを求めて移動

    http://cs.ffpri.affrc.go.jp/labs/seibut/bcg/images/00155-1.jpg

    樹木の活力

    誘因

    枯死しない個体

    枯死する個体

    枯死

    素因

    時間

  • ・マツ枯れ被害の動向

    松くい虫被害量推移. 被害量は 1979 年度をピークに減少し 2010 年度はピーク時の 4 分の 1 まで減少しているが、依然として日本の森林病害虫の中で最

    大被害. 青森県では 2010 年 1 月に初めて被害が確認された. (平成 23 年森林・林業白書) ナラ枯れ カシノナガキクイムシ(カシナガ, 養菌性)によって運ばれた糸状菌の一種(Raffaelea quercivora)によって引き起こされる. 1980 年代以降発生

    http://www.ffpri-kys.affrc.go.jp/kysmr/data/mr0089k104.jpg http://www.ffpri.affrc.go.jp/fsm/research/pubs/documents/nara-fsm_201003.pdf ・ナラ枯れのしくみ(カシナガの生態) 6~7 月 枯れたナラからカシナガが飛び出していく 6~10 月 健全なナラに飛来し、穿入する 7~10 月 集合フェロモンによって、集中的に穿入する(マスアタック). 大径木を好み、幹の太い部分に集中して穿入する. 孔道内壁にメスが菌を接種し、続いて産卵する. 冬 カシナガは主に終齢幼虫で越冬する

    http://www.ffpri.affrc.go.jp/fsm/research/pubs/documents/nara-fsm_201003.pdf

    ・ナラ枯れのしくみ(病原菌による通水阻害) -摂取された病原菌が樹木の柔細胞などに侵入 -柔細胞が防御反応として二次代謝産物を生産 -生産された二次代謝産物の一部が道管の水の 流れを妨げる -通水できなくなった樹木が枯死する

    病原菌に感染したコナラの幹の様子. 色のついた部分は二次代謝産物 http://www.ffpri.affrc.go.jp/fsm/research/pubs/documents/nara-fsm_201003.pdf ・ナラ枯れ被害の動向

    最近は減少傾向にあるが 1990 年代に比べると依然として高い(左の図と右の図で縦軸の単位が異なる事に注意). http://www.ffpri.affrc.go.jp/fsm/research/pubs/documents/nara-fsm_201003.pdf http://www.rinya.maff.go.jp/j/hogo/higai/naragare.html

    松くい

    虫被

    害量

    (材

    積, 万

    m3 )

    ’70s ’80s ’90s ’00s

    350

    300

    250

    200

    150

    100

    50

    0

    35

    30

    25

    20

    15

    10

    5

    0

    割合

    (%)

    東北地方の割合(民有林, 右軸)

    全国の合計値

  • マツ枯れ・ナラ枯れが蔓延した背景

    潜在自然植生とコナラ・アカマツ林の分布. コナラもアカマツも自然植生として分布しているわけで

    はなく、その多くは人間が利用するための森林(里山、雑木林など)である. ・アカマツ林・ナラ林(雑木林)の利用 古くから雑木林として利用されてきた. コナラ(・クヌギ)林

    -薪や炭の原料(伐採・萌芽更新) -落ち葉の堆肥化 -シイタケのほだ木

    http://www.icp.gr.jp/maki-img/new5/01k_hoso01.jpg http://cdn.amanaimages.com/cen3tzG4fTr7Gtw1PoeRer/25252000044.jpg アカマツ林

    -主に建材 -薪や炭の原料 -落ち葉も燃料になる(樹脂が多い) -マツタケ採取(貧栄養が良い)

    https://unit.aist.go.jp/smri/ja/group/ermat/kansouDB/Example/Okayama/Akamatsu/Photos/Photo1-3.jpg http://www.pref.kyoto.jp/rinmu/images/matutake02.jpg

    ・アカマツ林・ナラ林の利用低下 戦後、家庭の暖房や炊事で使われていた薪や炭が石油・

    ガス・電気などに移行. 肥料も堆肥から化学肥料へ ↓

    アカマツ・ナラなどの雑木林の利用が急激に低下 ↓

    アカマツの枯死木(カミキリムシの繁殖源)の放置 ナラの大径化・高齢化(カシナガが好む)

    ↓ 媒介昆虫の爆発的な増加 ※今後の管理方法が検討されている.

    全国の木炭生産量の推移. 戦後、燃料革命や化学肥料の使用増大に伴って、木炭の生産量は急激に低下. http://www.rinya.maff.go.jp/j/tokuyou/tokusan/megurujoukyou/pdf/3mokutan.pdf ③シカによる森林被害

    シカによる主な森林被害. http://www.rinya.maff.go.jp/kyusyu/saisei_plan/img/saise-sikagai.jpg http://www.rinya.maff.go.jp/j/hogo/higai/attach/img/tyouju-8.jpg http://www.pref.mie.lg.jp/common/content/000401141.jpg ・シカが増えた主な要因 -シカの捕獲数が減ったため ・肉や毛皮としての利用減少 ・ハンターの高齢化・減少 -積雪減少に伴いシカの生息範囲が広がり、越冬し

    やすくなったため -耕作放棄農地が増え、シカの餌となる雑草や低木

    が増えたため

    ’50 ’60 ’70 ’80 ’90 ’00 ’10

    250200150100500

    (万ト

    ン)

    全国の木炭生産量

  • 生態系生態学第 10 回

    森林衰退とその要因(後半)

    ①酸性雨問題

    酸性雨問題の全体像. 雨の pH (酸性の雨)の問題だけではなく. 人為起源の大気汚染全般の問題として考えられている. (久米, 2009, 北の森づくり Q&A)を改訂 ②「新しいタイプ」の森林衰退

    従来の森林衰退 気象害、病虫害など 古典的な大気汚染による衰退 原因が特定できる 新しいタイプの森林衰退 原因がはっきり特定

    できない 森林衰退を説明する仮説

    中央ヨーロッパにおける森林衰退と大気汚染の関与

    ドイツにおける森林衰退(トウヒの衰退)とその要因. それぞれの森林において、様々な原因が挙げられて

    おり、何か一つの要因で衰退したわけではないと考

    えられている. (Pitelka and Raynal, 1989, Ecology) ・中央ヨーロッパにおける森林衰退への大気汚染の

    関与は限定的 - 1980 年代初期に懸念された中欧の森林が大気

    汚染によって衰退・枯死するという可能性につ

    いて、その後の調査では、それを裏付ける結果

    は得られなかった. - 旧東欧との国境地帯などでは大気汚染(主に

    SO2)による被害や、それに伴う枯死現象がみられるが、凍害や虫害なども関与している

    Kandler and Innes (1995) Air pollution and forest decline in central Europe. Environ Pollut. 新しいタイプの森林衰退ではない

    …The term, “novel forest decline” is an attempt to differentiatesymptomatology from that of known decline-causing factors suchas climatic and biotic stresses and also from “classical smokeinjury” observed since the beginning of the industrial revolution.However in the latter cases, a true cause-effect relationship can bedefined. Today we are dealing in central Europe in most regions withthe problem of an obvious effect but with no obvious cause. Thispaper gives an…. Krause et al. (1986, WASP)

    Ore Mountains局地的な高濃度SO2Southern Bavaria低地における葉の赤化と落葉酸性降下物や大気汚染物質は関係ない(凍結害など)

    Calcareous Alpsマグネシウム・カリウム欠乏カルシウム土壌なので酸性降下物の影響なし酸性霧やオゾンが養分欠乏に関与か?

    Bavarian Alps, Black Forest, Harz Mountains(高標高の酸性土壌)酸性降下物が針葉の黄化や落葉に関与マグネシウム欠乏が関与(施肥で緩和できる)実験的な養分欠乏で、針葉黄化を再現

    チェコ

    ポーランド

    フランス

    スイス オーストリア

    オランダ ドイツ

    Calcareous Alps

    Ore Mountain

    Black Forest

    Bavarian Alps

    Harz Mountain

    チェコ

    ポーランド

    フランス

    スイス オーストリア

    オランダ ドイツ

    Calcareous Alps

    Ore Mountain

    Black Forest

    Bavarian Alps

    Harz Mountain

    原因仮説 特徴 現象・症状 問題点 提唱者

    オゾン説 成長低下 ・ 北米の森林衰退地域と 欧州の衰退への Krause et al.

    光合成低下 高濃度オゾン地帯が一致 不適合有り (1986)

    クチクラ層損傷 ・ 現状レベルの濃度で障害発現

    土壌 根系障害 ・ 土壌酸性化で養分溶出 総合解釈不可 Ulrich (1979)

    酸化説 Al障害 ・ Alによる根障害

    窒素 初期は成長促進 ・ 窒素が汚染物質により過剰供給 衰退全般の Schitt & Cowling

    過剰説 根の成長低下 ・ 他の養分の欠乏 説明はできない (1985)

    栄養バランス崩壊 ・ ミコリザの活性低下

    病虫害,凍霜害 ・ 成長のバランスを損なう

    栄養 Mg欠乏 ・ 高標高のトウヒ衰退や針葉黄化 特定地域の Rehfuess (1983)

    不均衡説 葉の黄化 ・ クチクラ損傷 説明に限定

    複合 上記の複合タイプ ・ 上記4種の衰退が 地域によって主要な Schulze et al. (1989)

    要因説 複合されたストレス障害 ストレスが異なる Linkens (1989)

  • ③オゾンと森林衰退 南カリフォルニアにおける森林衰退

    ロサンゼルス市街地の上空に光化学スモッグが発

    生し、午後になると森林地帯に移動してくる. その結果この地域のポンデローサマツの衰退が引き起

    こされた. Stark and Cobb Jr. (1969) ・オゾン濃度の推移

    (上)最大オゾン濃度と日平均オゾン濃度の推移. 最大オゾン濃度は 1980 年代以降低下しているが、平均濃度はあまり低下していない. (Bytnerowicz et al., 2008, Environ Pollut)

    ・高オゾン地域における障害

    オゾン濃度の高い地域ではポンデローサマツの葉

    に可視障害(実験的にオゾン暴露した際に認められたものと同じもの)の発現、着葉期間の減少および根の成長低下などが認められている. (Grulke et al., 1998, Environ Pollut)

    乾燥時期におけるポンデローサマツの枯死率と虫

    害発生率. オゾン濃度が高い地点ではポンデローサマツの枯死率と虫害発生率が増加した. また窒素負荷によっても枯死率の増加が見られた. (Jones et al., 2004, Forest Ecol Manage) 丹沢のブナ衰退

    神奈川県丹沢山系におけるブナ林の衰退. 都市域からの汚染物質の流入が衰退に関与していると考え

    らえている.

    0

    5

    10

    15

    20

    25枯

    死率

    (%)

    枯死

    率(%

    )

    低オゾン 高オゾン

    0 50 150 0 50 1500

    10

    20

    30

    40

    50

    60

    虫害

    発生

    率(%

    )虫

    害発

    生率

    (%)

    低オゾン 高オゾン

    0 50 150 0 50 150

  • (左) 丹沢におけるオゾン濃度は都市部よりも高い. (右) 大気の逆転層が形成されることで、汚染物質がブナ林の高度に留まってしまう事がある.

    オープントップチャンバーによるオゾン影響の評価. オゾンを除去した空気と除去しなかった空気のそれぞれ

    で植物を育成し、その成長や生理活性を比較する事で、

    オゾンが植物に与える影響を評価する.

    オープントップチャンバー法による評価結果. 大気を浄化しなかった処理区で育成したブナでは秋に

    おける葉数の低下が早く、個体の乾物成長の著しい

    低下が認められた.

    気を付けてほしい事 現在の日本、ヨーロッパ、アメリカなどでは大気汚

    染だけで木が枯れることは(ほぼ)ありません! たとえば丹沢では大気汚染の他に ・乾燥 ・ハバチによる食害 ・シカによる樹皮剥ぎ などもブナ衰退の原因と考えられています

  • 生態系生態学第 11 回

    景観と生態系サービス

    ①景観 景観とは? 森と草地のような異質な生態系(景観要素)がモザ

    イク状に分布する空間の全体的なシステム

    森に囲まれた池と草地に囲まれた池では、そこに住

    む生物の種類は異なる. その結果として、その池が地域の中で果たす役割(機能)は異なる.

    同じ森林面積でもひとまとまりの森林と分断され

    た森林ではそこに住む生物の種類は異なる. その結果として、その森が地域の中で果たす役割(機能)

    は異なる. 景観に含まれる生態系(景観要素)の空間配置と生

    態系のプロセスや個々の生態系が持つ機能の間に

    は密接な関係がある. また、景観は人間活動の影響を強く受けるため、その理解には自然科学だけでな

    く社会・文化的なアプローチも必要になる. 「景観生態学」は「景観」というシステムを様々なスケー

    ル、様々な視点から階層的に解明していく学際的な

    学問である.

    景観に関する 2 つの基本的な区分 「地域特性」の違いによる区分と「スケール」の違

    いによる区分

    景観を理解するためには「地域特性」と「スケール」

    の二つの区分を意識する必要がある.「地域特性」とは対象とする景観に含まれる各要素の種類やそれ

    らの比率を指す. 「スケール」は広域、中間、地点の三種類に区分され、それぞれのスケールにおいて

    地域特性の種類は異なる(広域スケールにおいて、

    個々の林分は議論しない). (森林総合研究所, 2006, 研究成果選集) ②生態系サービス 生態系サービスとその 4 分類 ・生態系サービスとは

    - 人類が生態系から得られる恵み - 生物・生態系に由来する人類の利益になる機能(サービス)

    例) 森林 木材・木質繊維の供給

    二酸化炭素の吸収(光合成)による気候調整 医療品に使える遺伝資源(二次代謝産物)

    干潟 水をきれいにする 高潮などの災害リスクの低減 観光資源

    森に囲まれた池 草地に囲まれた池

    まとまった森

    分断された森

    「地域特性」の違いによる区分

    「スケール」の違いによる区分

    広域(マクロ)スケール流域や地域土地計画区の単位日常から数日で体験できる景観

    中間(メソ)スケール個々の活動エリアの単位一日の活動で体験できる景観

    地点(ミクロ)スケール個々の林分単位ある地点からの景観行動拠点・園地の景観

    里山域 原生域

    リゾート域

    都市近郊域

    都市域

    遊歩道

    ○○ゾーン▲▲ゾーン

  • ・生態系サービスの 4 分類

    生態系サービスの 4 分類. 次節のミレニアム生態系評価において適用された分類. それぞれの分類において項目分けがされている(全 24 項目) ミレニアム生態系評価 生態系に関する大規模な総合的評価(地球規模の生

    態系に関する環境アセスメント). ・・・世界で初めての取組み

    国連の呼びかけにより、95 カ国から 1,360 人の専門家が参加し、2001 年から 2005 年まで実施. ・目的

    - 生態系の変化が人間の生活の豊かさに与える 影響の提示

    - 生態系に関わるあらゆる団体・個人に対し、 意志決定に役立つ総合的な情報の提示

    - 生態系サービスや生態系保護・回復などの提言 ・評価結果 向上した項目・・・4 項目

    穀物、家畜、水産養殖、気候調節 低下した項目・・・15 項目

    漁獲、木質燃料、遺伝資源、淡水、災害制御など ・生態系の機能の低下を防ぐための主な提言

    - 意志決定に対する経済的な背景を変えること - 政策や計画、管理を改善すること - 個人の行動に影響を及ぼすこと - 環境に優しい技術を開発し利用すること

    生態系と生物多様性の経済学(TEEB) TEEB: The Economics of Ecosystem and Biodiversity すべての人々が生物多様性と生態系サービスの価

    値を認識し、自らの意思決定や行動に反映させる社

    会を目指し、これらの価値を経済的に可視化するこ

    との有効性を訴える取組 https://www.biodic.go.jp/biodiversity/activity/policy/valuation/teeb.html 1. 様々な主体の行動や意思決定に生物多様性の価値を反映することが重要である. 生物多様性や生態系サービスはタダ(無料)ではな

    い. これまでは、その価値を十分に評価・認識してこなかったため、生物多様性の損失や生態系サービ

    スの劣化を招いた.市民、ビジネス、行政などあらゆる主体が、商品の購入、企業活動、政策立案など、

    あらゆる意思決定の場面に生物多様性や生態系サ

    ービスの価値を反映していくことが重要. 2.生物多様性の価値を経済的評価などにより可視

    化することが有効である. 生物多様性や生態系サービスの価値を経済的な

    価値に置き換えることで(可視化)適切に認識することができる. 可視化により、生物多様性の保全や生態系サービスの利用にかかるコストや便益を考慮

    した意思決定につながる場合がある. ただし、経済的価値評価には限界があり、生物多様性の価値のす

    べてを明らかにすることは困難である. ・生物多様性の保全と持続可能な利用の達成に 向けた段階的アプローチ ステップ 1 生態系サービスの価値の認識 ステップ 2 生態系サービスの可視化(経済価値

    評価) ステップ 3 生態系サービスの価値の捕捉

    基盤サービス他の生態系サービスの基盤となるサービス

    栄養塩の循環土壌形成一次生産

    供給サービス生態系が生産する

    もの

    食糧淡水

    木材および繊維燃料

    文化的サービス生態系から得られる

    非物質的利益

    審美的レクリエーション的

    精神的教育的

    調整サービス生態系プロセスの制御

    から得られる利益

    気候調整洪水制御疾病制御水の浄化etc etc etc

    etc

  • ・自然がもつ価値の分類

    経済的価値の評価の限界

    経済的価値の評価手法に関して、様々な開発や改良

    がおこなわれているが、生物多様性や生態系サービ

    スの機能そのものについて未解明な部分も多いた

    め、評価できるのはごく一部に限られる. 森林に対する国民の期待

    森林に期待する働き(内閣府・農林水産省によるアンケート調査). 時代とともに森�