全域的 wh 疑問文と wh&wh...

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1.序 本稿の目的は,下記の(1)に示したような等位構文のすべての等位項に wh 移動が適用さ れて生成される全域的 wh 疑問文と,(2)に例示したような等位に接続された wh 句を持つ wh&wh 疑問文という等位構文に関係する二種類の wh 構文の言語的特徴が,生成文法の枠組 みでどのように説明されるかを考察することである。 (1)What did John lose and Bill find?Citko 2011:55) (2)What and where did Sally sing?Grac ˆ anin-Yuksek 2007:18) 生成文法における Citko(2011)や Grac ˆ anin-Yuksek(2007)などによるこれらの構文に関 する最近の研究では,これら二種類の構文はいずれも並列併合(parallel merge)によって生 成される等位構造[&P XP&’ & XP]]を持つと分析される。しかしその先行研究の分析には いくつかの重要な不備が存在する。したがって,その分析に基づいてこれら二種類の構文の特 徴を説明することは適切であるとは言えない。本稿では,その先行研究による分析への対案と して三次元文法(cf.岩田(1987,1998,2007,2015,など))に基づく分析とその分析に基づく 説明を提示し,その三次元文法の記述的妥当性を高めることを目指す。 まず第2節においてこれら二種類の構文にはどのような特徴があり,その構文に対してどの ような分析がなされているかについて Citko(2011)と Grac ˆ anin-Yuksek(2007)と Citko & 全域的 wh 疑問文と wh&wh 疑問文について 〔要 旨〕 本稿の目的は,下記の(ⅰ)に例示したような全域的 wh 疑問文(across- the-boardATBwh-questions)と(ⅱ)に 示 し た よ う な wh&wh 疑 問 文(wh- questions with conjoined wh-pronouns)という等位構文に関係する二種類の wh 構文 の言語的特徴が,生成文法の枠組みでどのように説明されるかを論考することである。 (ⅰ)What did John lose and Bill find?Citko 2011:55) (ⅱ)What and where did Sally sing?Grac ˆ anin-Yuksek 2007:18) 生成文法におけるこれらの構文に関する最近の研究である Citko(2011)や Grac ˆ anin- Yuksek(2007)では,これら二種類の構文はいずれも並列併合(parallel merge)に よって作られる等位構造[&P XP &’ & XP]]を持つと分析されている。しかしその先 行研究の分析にはいくつかの重要な不備があり,その分析に基づく説明は適切な仮説で あるとは言えない。本稿では,その先行研究による分析への対案として三次元文法(cf岩田(1987,1998,2007,2015,など))に基づく分析と説明を提示し,その三次元文法の 記述的妥当性を高めることを目指す。 〔キーワード〕 全域的 wh 疑問文,wh&wh 疑問文,&P と並列併合に基づく分析,三 次元文法に基づく分析と説明,三次元文法の記述的妥当性 1

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1.序

本稿の目的は,下記の(1)に示したような等位構文のすべての等位項に wh移動が適用されて生成される全域的 wh疑問文と,(2)に例示したような等位に接続された wh句を持つwh&wh疑問文という等位構文に関係する二種類の wh構文の言語的特徴が,生成文法の枠組みでどのように説明されるかを考察することである。

(1)What did John lose and Bill find?(Citko 2011:55)(2)What and where did Sally sing?(Grac

ˆ

anin-Yuksek 2007:18)

生成文法における Citko(2011)や Grac

ˆ

anin-Yuksek(2007)などによるこれらの構文に関する最近の研究では,これら二種類の構文はいずれも並列併合(parallel merge)によって生成される等位構造[&P XP[&’ & XP]]を持つと分析される。しかしその先行研究の分析にはいくつかの重要な不備が存在する。したがって,その分析に基づいてこれら二種類の構文の特徴を説明することは適切であるとは言えない。本稿では,その先行研究による分析への対案として三次元文法(cf.岩田(1987,1998,2007,2015,など))に基づく分析とその分析に基づく説明を提示し,その三次元文法の記述的妥当性を高めることを目指す。まず第2節においてこれら二種類の構文にはどのような特徴があり,その構文に対してどの

ような分析がなされているかについて Citko(2011)と Grac

ˆ

anin-Yuksek(2007)と Citko &

全域的 wh疑問文と wh&wh疑問文について

〔要 旨〕 本稿の目的は,下記の(ⅰ)に例示したような全域的 wh疑問文(across-the-board(ATB)wh-questions)と(ⅱ)に 示 し た よ う な wh&wh疑 問 文(wh-questions with conjoined wh-pronouns)という等位構文に関係する二種類の wh構文の言語的特徴が,生成文法の枠組みでどのように説明されるかを論考することである。(ⅰ)What did John lose and Bill find?(Citko 2011:55)(ⅱ)What and where did Sally sing?(Grac

ˆ

anin-Yuksek 2007:18)生成文法におけるこれらの構文に関する最近の研究である Citko(2011)や Grac

ˆ

anin-

Yuksek(2007)では,これら二種類の構文はいずれも並列併合(parallel merge)によって作られる等位構造[&P XP[&’ & XP]]を持つと分析されている。しかしその先行研究の分析にはいくつかの重要な不備があり,その分析に基づく説明は適切な仮説であるとは言えない。本稿では,その先行研究による分析への対案として三次元文法(cf.岩田(1987,1998,2007,2015,など))に基づく分析と説明を提示し,その三次元文法の記述的妥当性を高めることを目指す。〔キーワード〕 全域的 wh疑問文,wh&wh疑問文,&Pと並列併合に基づく分析,三次元文法に基づく分析と説明,三次元文法の記述的妥当性

岩 田 良 治

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Grac

ˆ

anin-Yuksek(2013)による先行研究を概観する。次に,それらの先行研究の分析に見られる問題点を第3節で指摘する。最後に,第4節で,対案となる仮説を示し,その仮説に基づいてこれらの二種類の構文の特徴がどのように説明されるかを考察する。

2.先行研究

2.1.全域的wh疑問文の特徴と分析以下,Citko(2011)に基づいて,(1)に例示した全域的 wh疑問文の特徴を示す(1)。

(ⅰ)全 域 的 wh疑 問 文 は(4)に 示 し た「等 位 構 造 制 約(Coordinate Structure

Constraint : CSC)」に従わない。

(3)a.*Whati did John lose glasses and Bill find ti?(Citko 2011:56)b.Whati did John lose ti and Bill find ti? (ibid.)

(4)等位構造制約In a coordinate structure, no conjunct may be moved, nor may any

element contained in a conjunct be moved out of that conjunct.(Ross 1967:89)

(3a)では一方の被接続要素(conjunct)から wh要素が移動し,(3b)では両方の被接続要素から wh要素が同時に移動している。CSCに従えば(3a)だけでなく(3b)も非文法的になるはずであるが,事実は(3b)は文法的である。このように,全域的 wh疑問文はCSCに従わない。

(ⅱ)多重全域的 wh移動(multiple ATB wh-movement)は可能ではない。すなわち,例えば,(5)にあるように,[CP WHi WHj[TP … ti …]and[TP … tj …]]という形式の全域的 wh疑問文はないということである。

(5)*Whatj whati did John lose ti and Bill find tj?(Citko 2011:57)

(ⅲ)全域的 wh移動には「一致効果(matching effect)」がなければならない。例えば,次例のポーランド語に見られるように,各等位項の wh句には動詞から同じ格(Case)が付与されないと非文になる。

(6)a.Kogo Jan lubi tACC a Piotr kocha tACC?

who.ACC Jan like and Piotr love

‘Whom does Jan like and Piotr love?’(Citko 2011:58)b.*Kogo / *komu Jan lubi tACC a Piotr ufa tDAT?

who.ACC / who.DAT Jan like and Piotr trust

‘Whom does Jan like and Piotr trust?’ (ibid.)

(*Kogo /*komuは kogoと komuのどちらか一方が用いられることを表す。)

2 天理大学学報 第67巻第1号

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Citko(2011:3.6節)によると,(1)の全域的 wh疑問文という構文は,等位構造&P([&P XP [&’ & XP]])を持つ。そして,全域的 wh疑問文においては,次の(7)と(8)から分かるように,2つの被接続要素の時制(tense)と態(voice)は一致していなければならない。これらのことを根拠として Citko(2011:55)はこの疑問文(例えば(1))の等位構造は Tと vと wh句が2つの被接続要素間で共有されている並列構造(parallel structure)である次の(9)の構造を持つと仮定している。

(7)a.*Whati did John lose ti and Bill will find ti?b.*Whati will Bill find ti and John lost ti?

(Citko 2011:55)(8)a.*Whati did John lose ti and was found ti by John?

b.*Whati was found ti by Bill and John lose ti?(ibid.)

(9) CP

C &P

TP1 &’

T1’ & TP2

T vP1 T2’

John v1’ vP2

v VP1 Bill v2’

lose VP2

find what

(9)に適用される移動操作の概略を図示すると(10)となる。

全域的 wh疑問文と wh&wh疑問文について 3

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(10) CP

whati C’

C &P

TP &’

Johnj T’ & TP

T’T vP Billj

ti vP vP

tj v’ vP

v VP tj v’

lose VP

find ti

そして,この構造が直線化(linearize)されて(1)が生成されると分析している。

2.2.wh&wh疑問文の特徴と分析(11)に示したような wh&wh疑問文の特徴を Citko(2011)は下記(ⅰ)~(�)のよう

に記述している。

(11)a.What and where did Sally sing?(=(2))b.What and why did you eat?(Citko 2011:62)

(ⅰ)wh&wh疑問文では「同種要素等位接続の法則(the Law of Coordination of

Likes)」(2)の違反が起こりうる。つまり,(11a)の ‘[What]NP and [where]AdvP did Sally

sing?’ のように wh&wh 疑問文では,異なる範疇の wh句が等位接続されうる。

(ⅱ)異なる文法機能の項(arguments of different grammatical functions)は等位に接続されえない。つまり,次の(12)のように,どちらの wh句も項(argument)で,一方が主語で,他方が目的語のような等位接続は許されないが,(11b)の ‘what’ と ‘why’ のような一方の wh句が項で,他方の wh句が付加詞(adjunct)である,つまり両方ともが項であるのではない場合は,両者の文法機能が異なっていても等位接続は可能である。

(12)*Who and what read?(Citko 2011:63)

(ⅲ)wh&wh 疑問文は目的語をとることが随意的である動詞(optionally transitive

verbs)とのみ使用できる。つまり,(wh句の一方が目的語である場合,)wh&wh疑問文には

4 天理大学学報 第67巻第1号

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例えば ‘eat’ のように他動詞としても自動詞としても用いられる動詞は使えるが(cf.(11b)),次の(13)にあるように,‘devour’ のような他動詞としてしか用いられない動詞は使えない。

(13)*What and why did you devour?(Citko 2011:63)

(�)wh&wh疑問文は単一の対回答(single pair answer)を好む。例えば,(11a)の‘What and where did Sally sing?’ という問いに対しては単一の対回答である下記(14a)あるいは(14b)は与えられるが,(15)のような対回答の列挙(pair list answer)は与えられえない。一方,wh&wh疑問文と違って二つの wh句が等位接続されていない(16)のような多重 wh疑問文(multiple wh-question)の場合は,逆に対回答の列挙は許されるが,単一の対回答は許されない。

(14)a.Sally sang Morzart and she sang at the Met.(Citko 2011:64)b.Sally sang Morzart at the Met. (ibid.)

(15)Sally sang an aria at the Met, a hymn at church and a lullaby at home. (ibid.)(16)Where did Sally sing what? (ibid.)

まず,Grac

ˆ

anin-Yuksek(2007)は,この種類の構文は,(17)に示したような wh句,例えば(11b)の ‘what’ と ‘why’ 以外のすべての要素が二つの節に共有されている構造を持つと分析している。

(17) &P

CP1 &’

C1’ and CP2

did TP1 C2’

you T1’ TP2

T vP1 T2’

v VP1 vP2

eat what VP2

why

そして,この構造の二つの wh句が,概略,(18)に示したようにそれぞれを支配する CPの指定部の位置に移動する。

全域的 wh疑問文と wh&wh疑問文について 5

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(18) &P

CP1 &’

whati C1’ and CP2

whyj C2’did TP1

you T1’ TP2

T vP1 T2’

v VP1 vP2

eat ti VP2

tj

この構造から(11b)がどのように派生されるか(即ち,この(18)の構造から(11b)という直線的な連鎖がどのように生成されるか)は Grac

ˆ

anin-Yuksek(2007)では示されていない。次に,Citko and Grac

ˆ

anin-Yuksek(2013)は,wh&wh疑問文は次の(19)(a)―(c)のいずれかの構造を持つと提案している。

(19)a.単一節等位 wh疑問文(mono-clausal coordinated wh-questions)

CP

&P C’

wh1 &’ C0 TP

&0 wh2 twh1 . . . twh2

b.二つの節からなる多量共有型等位 wh疑問文(bi-clausal coordinatedwh-questions with bulk sharing)

6 天理大学学報 第67巻第1号

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&P

CP &’

wh1 C’ &0 CP

C0 wh2 C’

C0 TP

twh1 . . . twh2

c.二つの節からなる非多量共有型等位 wh疑問文(bi-clausal coordinatedwh-questions with non-bulk sharing)

&P

CP CP

wh1 C’ wh2 C’

C0 TP TP

subj T’ T’

T0 VP VP

V0 twh1 twh2

以 上 の よ う に,Citko(2011:3.6節),Grac

ˆ

anin-Yuksek(2007)及 び Citko and

Grac

ˆ

anin-Yuksek(2013)によると上記の二種類の構文は,等位構造 &P((9),(10),(17),(18),(19a),(19b)は [&P XP [&’ & XP]]で(19c)は [&P XP XP])を持つ。

3.先行研究の問題点

等位構文は[&P XP[&’ & XP]]という構造を持つという上記の先行研究による分析には岩田(1987;1998;2000)で詳細に論じられている問題点が生じる。その問題点を概述すると(20)のようになる。

(20)a.等位構文には等位接続詞を持たないものが無標(unmarked)であるという特徴がある(cf. Mithun(1988:331))。すると,& という等位接続詞が生じる統語範疇を主要部(head)とする&Pを仮定することは,多くの場合,主要部が空(empty)である構造を仮定することになり,自然で妥当なこととは言えない。

b.等位接続構文の一方の被接続要素が等位接続詞を主要部とする句の指定部(specifier)で,もう一方の被接続要素がその主要部の補部(complement)

全域的 wh疑問文と wh&wh疑問文について 7

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として生成されるという分析は,一般に文法上互いに対等なあるいは平行の関係にある等位項で構成される等位接続構文の分析として,一般性と妥当性に欠ける。

c.等位接続詞によって連結されている主要部を持つ事例(例えば ‘the car and

the train that collided at the crossing’)に対して適切な構造を与えることができず,したがって言語事実との整合性を持たない。

d.最も生産的な言語操作の一つである接続という操作によって形成される等位構文に関する何種類かの言語事実が,θ理論,格理論および束縛理論というChomsky(1981)で提出された普遍文法の原理の下位体系では説明のつかない例外になってしまうという不具合が生じ,したがって[&P XP[&’[XP]]という&P分析は記述的な妥当性に欠ける。(3),(4)

そして,等位構造として[&P XP[&’ & XP]]という構造を唯一持たない(19c)の分析については,CPと CPの併合によってなぜ &Pという範疇が生成されるのか不明であるなどの問題点が生じ,妥当な分析とは言えない。

4.代案と特徴の説明

4.1.代案岩田(1987,1998,2015)は,(20)に示したような先行研究に見られる問題点を踏まえて,

等位構文はどのよう構造を持つか,その構造は文法のどのような条件にしたがって生成されるか,そしてそのように生成された等位構造から等位構文はどのように得られるかという問題に対して,生成文法の「原理とパラミター理論(GB理論)」に依拠し,等位構文に関する一群の仮定と条件を提案した。そのうち本稿の問題に関係するものを概述すると以下のようになる(5)。

(21)仮定等位構文は三次元構造を持つ(6)。

(22)条件(ⅰ)三次元構造生成条件(Condition on the Generation of Three-dimensional

Structures):Xの最大投射 Ximaxは,その背部に別の Ximaxを持つことができる。(X=C(omp),I(nfl),N,V,A,P,Adv。指標 iは前後の Xが同一の範疇であることを示す。)そして,(ⅰ)背部の Xmaxは,X=Cの場合は,前部のXmaxと対等の位置あるいはそれに直接支配される位置にあり,X≠Cの場合は,前部の Xmaxと対等の位置にある。(ⅱ)前部の Xmaxと対等の位置にある背部の Xmaxは,前部の Xmaxを直接支配する節点が存在する場合には,その節点に直接支配される。

(ⅱ)等位構造条件(the coordinate structure condition):文法の規則,条件および原理は,(三次元構造にある)すべての等位項に適用される。

(ⅲ)直線化規約(linearization convention : LC):次の構造において,

8 天理大学学報 第67巻第1号

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(a)X1と X2の右側に同一の要素がある場合は,その同一の要素より先にX1と X2を解釈しなければならない。

(b)すべての X1と X2は同じ順序に解釈されなければならない。(c)X1と X2の同じ左枝の位置に共通して含まれる要素の二度目およびそれ

以降の解釈に際しては,それ(ら)をゼロと解釈してもよい。(d)X1と X2を解釈する際に,X1と X2の一方に等位接続要素(の音韻素性

と形式素性)を付加してもよい。X1

X2(X(≠φ)は要素の連鎖あるいはその一部である。)

そして,(22)の一群の条件は文法の(仕組みの)中に(23)に示したように位置付けられている。

(23) Xバー理論二次元構造生成条件三次元構造生成条件

等位構造条件

D構造

変形部門

S構造

PF部門 LF部門

PF LF

等位構造条件

直線化規約等位構造条件 等位構造条件

上述の仮定と条件(とパラミター)を含む(23)の文法を三次元文法と呼ぶと,三次元文法では,本稿の第3節で指摘された問題点は,岩田(1998)で詳細に論じられているように,生じない。そして(22)(ⅲ)の LCの(d)で述べられている「付加」については,次のパラミターが関係する。

(24)等位接続要素付加パラミター[±等位接続要素は右側の等位項に付加される]

これは,LCに従って三次元構造の等位項が直線化される際に,英語のような等位接続要素が右側の等位項に付加される主要部先端型の言語(cf.(25))と,日本語のような等位接続要素が左側の等位項に付加される主要部末端型の言語(cf.(26))とを区別するためのパラミターである。

全域的 wh疑問文と wh&wh疑問文について 9

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(25)Michael ate a sandwich, and Gordon a hamburger.(26)サンドイッチとハンバーガー

4.2.特徴の説明4.2.1.全域的wh疑問文についての三次元分析まず,全域的 wh疑問文について,本稿の2.1.節で示された3つの特徴は三次元文法では

以下のように説明される。

2.1.の(ⅰ)について上記の三次元文法では(3b)の全域的 wh疑問文は,概略,次の三次元構造を持つ(7)。

[CP1 John lost what]

(27)[CP2 Bill found what]

この構造に関しては,(4)の「等位構造制約」に代わってより一般的な条件として岩田(1987)で提案された上記(22)(ⅱ)の「等位構造条件」に従って「wh移動」などが両方の等位項である2つの CPの内部で適用される。このように,三次元文法の分析では,全域的wh移動は被接続要素の外側への移動ではないので,(4)の「等位構造制約」に抵触することはない。そして,この2つの CPにある共通の要素が単一の要素として表示されると,概略,次の構造が得られる(8)。

John lose t]

(28)[CP what didBill find t]

この構造が上記(23)の文法(=普遍文法)の PF部門で上記(22)(ⅲ)の LCと(24)の「等位接続要素付加パラミター」に従って音声解釈されると(3b)が派生される。あるいは,(27)の構造の両方の等位項に共通して存在する同一の要素 ‘what’ が単一の要素

として表示されると,概略,次の構造になる。

[CP1 John lost

(29) what]

[CP2 Bill found

この構造に wh移動が適用されて,両方の被接続要素に共通の要素が単一の要素として表示されると,概略,次の構造が得られる。

John lose

(30)[CP what did t]

Bill find

10 天理大学学報 第67巻第1号

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この構造が LCと(24)のパラミターに従って音声解釈されると(3b)が生成される。そして,次の構造において,CP2にのみ wh移動を適用することは,上記の「等位構造条

件」に抵触するので,三次元文法のもとでは(3a)という連鎖は非文として排除されることになる。

[CP1 John lost glasses]

(31)[CP2 Bill found what]

以上のように,本稿の分析では,全域的 wh疑問文(例えば(3b))は「等位構造制約」に抵触することなく生成される。(3a)と(3b)の文法性の違いは(22)(ⅱ)の「等位構造条件」に基づいて説明される。

2.1.の(ⅱ)についてここでは,次の三次元構造が与えられた場合を考えてみる。

[CP1 John lost what]

(32)(=(27))[CP2 Bill found what]

両方の被接続要素に共通の2つの ‘what’ が単一の要素として表示されると,上述のように(29)の構造が得られる。あるいは,(22)(ⅱ)の「等位構造条件」に従って両方の wh要素が移動したあとの構造である(33)の両方の被接続要素に共通の2つの ‘what did’ が単一の要素として表示されると(28)となる。((28)の両方の被接続要素に共通の2つの tも単一の要素として表示されると(34)となる。)

what did John lose t

(33)what did Bill find t

John lose

(34)(=(30))what did t

Bill find

したがって,(29)あるいは(28)(あるいは(34))という構造から(5)のような[CP WHiWHj[TP … ti …]and[TP … tj …]]という形式の多重全域的 wh疑問文が派生されることはない。あるいは,(33)の両方の被接続要素に共通の2つの ‘what did’ が単一の要素として表示さ

れない場合,その構造からは(22)(ⅲ)の LCと(24)の「等位接続要素付加パラミター」に従って,次の(35)が生成されるので,(5)の多重全域的 wh疑問文が派生されることはない。

全域的 wh疑問文と wh&wh疑問文について 11

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(35)What did John lose and (what did) Bill find?

以上のことから,三次元文法のもとでは,どのような分析を施しても,[CP WHi WHj[TP… ti …]and[TP … tj …]]という形式の多重全域的 wh疑問文が派生されることはない。

2.1.の(ⅲ)について上記の三次元文法では,(36)として再述した(6b)の構造(と格付与操作)は,概略,

(37)である。

(36)(=(6b))*Kogo / *komu Jan lubi tACC a Piotr ufa tDAT?Jan lubi kogo

(37) [ACC]

Piotr ufa komu

[DAT]

この構造に「等位構造条件」に従って wh移動が適用されて得られる次の構造を LCと「等位接続要素付加パラミター」に従って音声解釈しても 上記の(6)の bの連鎖が派生されることはない。

kogoi Jan lubi ti

(38)komuj Piotr ufa tj

一方,(6)の aは,次の三次元基底構造を持つ(格付与操作を含む)。

Jan lubi kogo

(39) [ACC]

Piotr kocha kogo

[ACC]

この構造に「等位構造条件」に従って両方の被接続要素に wh移動が適用されて,同一の要素が単一の要素として表示されると,概略,次の構造が得られる。

Jan lubi t

(40)kogoPiotr kocha t

この構造に LCに従って音声解釈規則が適用され,その際に LCの(d)の適用に関して(24)の「等位接続要素付加パラミター」に従って等位接続詞が付加されて(6a)が派生される。一方,共通の要素が単一の要素として表示されず,次の(41)のように表示された場合は,LCに従って2度目の ‘kogo’ がゼロと解釈されて,(24)のパラミターに従って等位接続

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詞が付加されると(6a)が得られる。

kogo Jan lubi t

(41)kogo Piotr kocha t

2度目の ‘kogo’ がゼロと解釈されなければ ‘Kogo Jan lubi a kogo Piotr kocha?’ が派生される。全域的 wh移動が「一致効果」に従うという特徴は,上記の三次元文法ではこのように説明される。

4.2.2.wh&wh疑問文についての三次元分析wh&wh疑問文に関する上記2.2.節の(ⅰ)から(�)の4つの特徴は,三次元文法理

論では以下のように説明されることになる。

2.2.の(ⅰ)について本稿で仮定されている三次元文法では,wh&wh疑問文は,概略,下記(42)のように二つ

の節(=(22)(ⅰ)の「三次元構造生成条件」の Xmax)の等位接続と分析されるので,三次元文法に基づいて与えられる構造は「同種要素等位接続の法則」を遵守しており,したがって(23)の三次元文法においてはこの法則への違反は生じない。

[CP Sally sang [NP what]]

(42)a.[CP Sally sang [AdvP where]]

[CP you ate [NP what]]

b.[CP you ate [AdvP why]]

そして「等位構造条件」に従って,これらの構造の両方の被接続要素 CPに wh移動が適用され,さらに両方の被接続要素 CPに存在する共通の要素が単一の要素として表示されると,概略,次の構造が得られる。

[NP what]

(43)a. did Sally sing

[AdvP where]

[NP what]

b. did you eat

[AdvP why]

この構造が LCと「被接続要素付加パラミター」に従って音声解釈されることによって(11a)と(11b)が派生される。このように,三次元文法のもとでは,wh&wh 疑問文は基底構造レベルの段階で「同種要素等位接続の法則」を遵守しており,その一方で派生構造レベルで

全域的 wh疑問文と wh&wh疑問文について 13

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は異なる範疇の wh句が等位接続され得る。wh&wh 疑問文と「同種要素等位接続の法則」の関係は三次元文法においてはこのように説明される。

2.2.の(ⅱ)についてwh&wh 疑問文の一方の wh句が項で他方の wh句が項ではない例えば(11b)は,本稿の三次元文法のもとでは例えば上記4.2.2.節の「2.2.の(ⅰ)について」で示したように生成される。一方,wh&wh 疑問文の両方の wh句が項である事例は,三次元文法においては,例えば次のような構造を持つことになる。

[CP1 whoi read whatj]

(44)[CP2 whoi read whatj]

この構造に音声解釈規則が LCに従って適用され,その際に二度目の[CP who read what]がゼロと解釈されると次の(45)が生成される。

(45)Who read what?

(44)の構造の CP1と CP2にある共通の要素 ‘who read what’ が単一の要素として表示された場合は次の構造となり,最終的に(45)が生成される。

(46)[CP whoi read whatj]

したがって,本稿で仮定する三次元文法のもとでは,wh&wh疑問文のそれぞれの wh句が異なる文法機能の項である事例(例えば(12))が派生されることはなく,2.2.節の(ⅱ)の特徴はそのように説明される。

2.2.の(ⅲ)について例えば次のような三次元構造があると仮定してみよう。

[CP1 you devour what]

(47)[CP2 you devour why]

この構造において,CP2の動詞 ‘devour’ は義務的に目的語を取る動詞であるので,この三次元構造の CP2には(23)の文法にある「二次元構造生成条件」つまり devour [AG, TH] のTH(=目的語)が投射原理(projection principle)で投射されねばならない。したがって,(47)のような一方の CPのみに目的語がある三次元構造は三次元文法(cf.(23))の「二次元構造生成条件」に違反する。つまり,(47)の CP2では,devourの選択制限が満たされていない。ゆえに,(47)のような構造から(13)のような連鎖が派生されることはない。wh&wh疑問文は義務的に目的語を取る動詞とは使用できないという2.2.節の(ⅲ)の特徴は,

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三次元文法のもとではこのように説明されることになる。

2.2.の(ⅳ)について例えば,(11a)の wh&wh疑問文は,概略,次の三次元構造を持つ。

Sally sang what

(48)Sally sang where

(=(42a))

「等位構造条件」に従ってこの構造の両方の被接続要素に wh移動が適用されると,概略,次の構造が得られる。

what did Sally sing

(49)where did Sally sing

この構造が(23)の文法の LFで解釈されると,その問いに対しては例えば ‘Sally sang

Morzart and she sang at the Met.’ という単一の対回答が与えられる。次に,(49)の両方の被接続要素にある共通要素が単一の要素として表示されると次の構造が得られる。

what

(50) did Sally sing

where

(=(43a))

この構造が LFで解釈されると,その問いに対しては例えば ‘Sally sang Morzart at the Met.’という単一の対回答が与えられる。以上のように,wh&wh疑問文には単一の対回答のみが与えられ,単一の対回答を好むという wh&wh疑問文の持つ特徴は三次元文法ではこのようにして説明される。

5.結び

本稿では,全域的 wh疑問文と wh&wh疑問文という等位構文に関係する二種類の構文が,生成文法において,どのように分析され,それぞれの構文が持ついくつかの特徴がどのように説明されるかを考察した。その結果,それらの二種類の構文に対する従来の分析には重要な不備があることが指摘できる。本稿では,従来の分析に代わって三次元文法機構を仮定する文法理論に基づく分析を代案として仮定し,それらの二種類の構文の特徴が先行研究の不備をもたらすことなくどのように説明されるかを提示した。本稿の考察の帰結として,岩田(1987,1998,2015など)の三次元文法のさらなる記述的妥当性が得られたことになる。

全域的 wh疑問文と wh&wh疑問文について 15

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註(1) Citko(2011)で示されている全域的 wh疑問文の4つの特徴のうち,本稿では3つの特徴を

取り上げる。(2) 「同種要素等位接続の法則」とは ‘only likes and likes can coordinate’(Williams1981:

649)ということである。(3) 「節1-and-節2」という形式の重文において,andは節2を導入しているのではなく,単に

節1と節2を接続しているにすぎない。したがって,and以下を文頭に移すことはできない。一方,複文においては,従位接続詞とそれに導入される節が一つのまとまりをなしており,接続詞以下を文頭に移動することができる。(以上,鈴木(1990)を参照)つまり,「節1-and-節2」の「and-節2」は統語的に一つのまとまりをなしておらず,したがって,本稿の第2節の分析に見られる[&’ & CP2]や[&’ and CP2]や[&’ &0 CP]のように[and 節2]を統語的に一つのまとまりと分析することは適切ではない。さらに,等位構造を[&P XP[&’ & XP]]と分析することに対しては,本稿で示された問題点の他にも,Borsley(1994;2005)や Sag(2000)による批判および Zhang(2010:60―65)による反論がある。

(4) 等位構造として[&P XP[&’ & XP]]ではなく,下記(ⅰ)のような併合によって生成される構造を仮定してもさまざまな重要な問題点が生じるということについては,岩田(2015など)を参照されたい。

(ⅰ) d(=ConjP)

b[P/S/T]

g(=Conj’)

a[P/S/T]

Conj[P/S/T]

(P:音韻素性の集合;S:意味素性の集合;T:形式素性の集合)

(5) 本稿の(21)―(24)に概述されている文法の詳細については岩田(1987,1998,2015)を参照されたい。

(6) 岩田(2015:註(19))でも述べたように,等位構造において,第1の等位項は第2の等位項を c統御せず,第2の等位項は第1の等位項を c統御しない(cf. Progovac(1998a;1998b),Munn(1993:13),Camacho(1997))。そして,c統御は二次元の構造に存在する節点間の関係に適用される概念である。三次元構造の2つ(以上)の等位項という異なる次元に存在する節点間の関係には適用されない。以上のことが正しいとすると,第1の等位項のみが第2の等位項を c統御し,第2の等位項は第1の等位項を c統御しない非対称的(asymmetric)な[&PXP[&’ & XP]]という構造を仮定することには大きな問題があることになる。そして,この c統御の問題は,等位構造として三次元構造を仮定することによってのみ生じないことになる。

(7) 本稿の(22)と(23)に従って生成される三次元構造は例えば(3b)の場合は,概略,以下の(ⅰ)に示したものであるが,便宜上,本稿の(27)のように表示する。((ⅰ)において,CP2は(22)(ⅰ)の「三次元構造生成条件」に基づいて CP1の背部に生成された範疇である。)

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(ⅰ) CP2

Bill found what

CP1

John lost what

(8) 2つの被接続要素に共通の要素((27)に関しては wh移動が適用されたあとの下記(ⅰ)の‘what did’)を(28)に示したように,単一の要素として表示する本稿の分析と同じ分析が,岩田(2015:註(21))でも示したように,二次元構造を仮定する分析のもとで de Vries(2012)によって提案されている。例えば,(ⅱ)の右枝節点繰り上げ(right node raising)構文の構造は(ⅲ)のように表示される。

(ⅰ) what did John lose

what did Bill find

(ⅱ)Joop bought _____ and Jaap sold a car.(Vries 2012:151)(ⅲ)

and

JaapJoop sold

bought a car(ibid.)

参考文献Borsley, R.D. (1994) ‘In Defence of Coordinate Structures,’ Linguistic Analysis 24 : 2018―246.

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Citko, B. (2011) Symmetry in Syntax : Merge, Move, and Labels. Cambridge University Press.

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岩田良治(1987)「等位構造の三次元性」天理大学学報 第155輯,27―63.(1998)『三次元文法論』英潮社.(2000)「生成文法理論における現代英語の等位構造について」天理大学学報 第195輯,39―61.(2007)「英語の不連続構文の歴史的考察」博士論文(甲南大学)(2015)「三次元文法の妥当性について」天理大学学報 第238輯,1―27.

全域的 wh疑問文と wh&wh疑問文について 17

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