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.震源モデル(1) 地震波の放射パターン 地震波は規則性を持っていて、それを使えば地下で発生している現象の理解につ ながることを理解する。 モーメントテンソル 震源では色々な現象が起きているが、弾性論の枠内で理解する。 変位不連続とモーメントテンソル(MT) 断層運動やダイクの貫入をモーメントテンソルで記述する。 モーメントテンソル(MT)とダブルカップル(DC) 断層運動の等価体積力はDCで表現できる。MTとDCの関係を理解する。 第3回 地球変動科学 参考文献: Aki & Richards, Quantitative Seismology ② 松浦,地球連続体力学(5章),岩波講座地球惑星科学

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1.2 震源モデル(1)

地震波の放射パターン 地震波は規則性を持っていて、それを使えば地下で発生している現象の理解につながることを理解する。

モーメントテンソル 震源では色々な現象が起きているが、弾性論の枠内で理解する。

変位不連続とモーメントテンソル(MT) 断層運動やダイクの貫入をモーメントテンソルで記述する。

モーメントテンソル(MT)とダブルカップル(DC) 断層運動の等価体積力はDCで表現できる。MTとDCの関係を理解する。

第3回 地球変動科学

参考文献: ① Aki & Richards, Quantitative Seismology ② 松浦,地球連続体力学(5章),岩波講座地球惑星科学

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1.2 震源モデル

地震波の放射パターン地震波の振幅・その振動方向は一定の規則性を有している。

放射パターン

震源メカニズム

遠地実体波十分震源から離れた点での地震波形は

Uc r,γ ,t( ) = Rc γ( )

4πρc3r Sc t − r

c,γ⎛

⎝⎜⎞⎠⎟

方位震源時間関数 震源域での擾乱の時間経過

震源の幾何学によって定まる放射パターン因子

Surface

P-wave

Compressional P wave

Dilatational P wave

time

Compressional P wave

Dilatational P wave

upUD comp.

志田(1929)を参考に作成

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1.2 震源モデル

モーメントテンソル その1震源の中でどんな現象が発生しているのか? 塑性変形・体積膨張等

これらを弾性体力学の範疇で扱うのは無理

扱えない領域を何らかの領域で取り囲んで、その外だけを取り扱う(Eshelby, 1957) Mij = σ ij

TV i, j = 1,2,3( )

モーメントテンソル 塑性変形相当の応力(塑性歪みを弾性変形と見なした時の応力)に体積をかけたもの

V

Tij

弾性体

切り取る

変形させる

塑性歪み

復元する

元に戻す

V

ijT

Ti = ijn j

Mij

Ti

波波

波T

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1.2 震源モデル

モーメントテンソル その2

6つのシングルカップル (SC)、3つのダイポール(DP)で表現できる。 一つのSCでは回転する。回転しないためには、対象テンソルとなる必要あり。この時、独立な成分は3つのSCと3つのDP

Mij

i ≠ j の時 i 軸方向に働く、j 軸上にあるSC

i = j の時 i 軸方向に働く、i 軸上にあるDP

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1.2 震源モデル

モーメントテンソル その3モーメントテンソルの成分

対称テンソルで、6成分が独立

I = M11 + M 22 + M 33

3

体積変化は対角成分の平均値

M11 M12 M13

M 21 M 22 M 23

M 31 M 32 M 33

⎜⎜⎜

⎟⎟⎟

Mij = M ji

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1.2 震源モデル

モーメントテンソル その4モーメントテンソルの各成分が時間変化しない場合、つまり断層パラメターが時間変化しない場合

放射パターンは、モーメントテンソル成分、波線方向、揺れる方向で求まる。

Mij = mij M 0 t( ) 全成分に共通の時間関数で、モーメント関数と呼ばれる

Uc r,γ ,t( ) = Rc

4πρc31r!M 0 t − r

c⎛⎝⎜

⎞⎠⎟

点震源を仮定すると遠地実体波は、

RC = mijγ i ecj 波が揺れる方向 P波:波線方向 S波:直行方向

核実験のような等方モーメントテンソルの場合

RP = δ ijγ iγ j = γ iγ i = 1

mij = δ ij i, j = 1,2,3

RS = δ ijγ ieSj = γ ieSi = 0 ∵γ ⊥ eSi( )

P波は

S波は、波線と振動方向が直交することに注意すると

よって、核実験ではS波が観測されない。

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1.2 震源モデルモーメントテンソル その5等方成分をのぞいた成分は偏差成分で、断層の動きやマグマの動きに関係するものになる。

ダブルカップル(断層運動)

CLVD(Compensated Linear Vector Dipole)

0 0 M 0

0 0 0M 0 0 0

⎜⎜⎜

⎟⎟⎟

例)断層の面は ξ3 に垂直、すべり方向は、ξ1 の場合、モメントテンソルは、

1

23

1

23

−M 0 0 00 −M 0 00 0 2M 0

⎜⎜⎜

⎟⎟⎟

細長い立方体を上下方向に引っ張ったときのモーメントテンソル(ただし、体積の変化は無しとする)は、

== fault1

3

1

3

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1.2 震源モデル

変位不連続とモーメントテンソル その1塑性変形領域を取り囲む閉空間の極限として、面状の変位の不連続を考える。 天下り的ではあるが、 この時のモーメントテンソルは、

Mij = λν knkδ ij + µ ν in j +ν jni( )⎡⎣ ⎤⎦DS

λ =2v

1− 2v⎡⎣⎢

⎤⎦⎥µラメ定数

と書ける。

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1.2 震源モデル

変位不連続とモーメントテンソル その2

Mij = ν in j +ν jni( )µDS = ν in j +ν jni( )M0

V = Sdw

σ 12 =σ 21 = 2µε12 = 2µε21 ! µDdw

この式を確認してみる。まず、クラックを囲っている非弾性領域の体積は、

断層運動に対応するモーメントテンソル成分について考える。

断層面と滑りの方向を と置くと、値を持つのはn = (0,1,0), ν = (1,0,0)

したがって、M12 = M21 =σ 12V =σ 21V = µ D

dwSdw = µDS = M0

地震モーメントは、地震よるトルクの値に対応する。ではなぜエネルギーと関係して説明されているのか? それは、地震波エネルギーと地震モーメントには下記の関係があるから:

Es =Δσ2µ M0

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1.2 震源モデル

変位不連続とモーメントテンソル その3断層すべりの場合

Mij = λν knkδ ij + µ ν in j +ν jni( )⎡⎣ ⎤⎦DS

面とすべりベクトルは直行するのでゼロ

Mij = ν in j +ν jni( )µDS = ν in j +ν jni( )M 0

よって、

M 0 = µDSここで、地震モーメント

これを用いてP波の遠地近似の放射パターン因子は、

RP = ν in j +ν jni( )γ iγ j = 2 vkγ k( ) nlγ l( )すべりベクトルと波線方向の内積

面の法線ベクトルと波線方向の内積

このRpから、すべりベクトルと断層面に直交する方向に進行するP波はゼロで、+ーで色分けされる4象限が求まる。 押し(+)引き(-)の腹で振幅が最大

P波の押しの中心を「T軸」 引きの領域を「P軸」、 これらの軸と直交する軸を「B軸」 と呼ぶ。

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1.2 震源モデル

変位不連続とモーメントテンソル その4

問題点

断層の運動は、4象限の押し引き分布になるが、可能性がある断層面が2面になる。

地震波形のみから、断層面を決定することは、本質的に難しく、断層面の広がり(余震分布・モーメント密度関数の空間分布)等から間接的に求めるしかない。

ダブルカップル食い違い運動 食い違い運動

= = fault

fault

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1.2 震源モデル

変位不連続とモーメントテンソル その5開口割れ目(ダイクの貫入)の場合

ξ3 軸方向の引張型変位不連続面を考える。 つまり、

n = 0,0,1( ), D = 0,0,1( )

よって、モーメントテンソルは、

λ 0 00 λ 00 0 λ + 2µ

⎜⎜⎜

⎟⎟⎟DS

I = 53M 0 , λ = µ( )

等方成分はポアソン物質を仮定すると、

偏差成分は、

−1 0 00 −1 00 0 2

⎜⎜

⎟⎟23µDS

これは対角成分が2:-1:-1となりCLVD ダイクの貫入は等方成分とCLVDの和。

1

23

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1.2 震源モデル

モーメントテンソルとダブルカップル その1

断層運動は、二つの力のカップルの足し合わせである、ダブルカップルモデルで説明できる。 = 任意のダブルカップルによるモーメントテンソルは、適当な回転行列を用いて、対角化できる。

M = R1

M 0 0 00 −M 0 00 0 0

⎢⎢⎢

⎥⎥⎥R1

T = R2

0 0 M 0

0 0 0M 0 0 0

⎢⎢⎢

⎥⎥⎥R2

T

回転について理解を深める。

M = R2M 'R2T

M ' =0 0 M 0

0 0 0M 0 0 0

⎢⎢⎢

⎥⎥⎥

2

3

M13

M31

1

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1.2 震源モデル

モーメントテンソルとダブルカップル その2M’に対応する断層面に対する法線ベクトルn’、すべりベクトルv’はそれぞれ、

回転前のそれぞれのベクトルは、

′n =001

⎜⎜

⎟⎟

, ′ν =100

⎜⎜

⎟⎟

R2 ′n = n =n1

n2

n3

⎜⎜⎜

⎟⎟⎟

, R2 ′ν = n =v1

v2

v3

⎜⎜⎜

⎟⎟⎟

よって、回転行列は、

R2 =v1v2v3

b1b2b3

n1n2n3

⎜⎜⎜

⎟⎟⎟

ベクトル B は n, v に直行するベクトル 1

2

3

v’

n’

b

2

3

M13

M31

1

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1.2 震源モデル

モーメントテンソルとダブルカップル その3

よって、

M = R2 ′M R2T

=v1v2v3

b1b2b3

n1n2n3

⎜⎜⎜

⎟⎟⎟

0 0 M 0

0 0 0M 0 0 0

⎜⎜⎜

⎟⎟⎟

v1 v2 v3b1 b2 b3n1 n2 n3

⎜⎜⎜

⎟⎟⎟

= M 0

n1v1 + n1v1 n2v1 + n1v2 n3v1 + n1v3n1v2 + n2v1 n2v2 + n2v2 n3v2 + n2v3n1v3 + n3v1 n2v3 + n3v2 n3v3 + n3v3

⎜⎜⎜

⎟⎟⎟

以上より、

Mij = ν in j +ν jni( )M 0

つまり、断層運動によるモーメントテンソルは軸を、回転させることによって、ダブルカップルで表現できる。回転行列は、断層面、すべり面とそれに直行するベクトルで表現される。

となる。

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1.2 震源モデル

モーメントテンソルとダブルカップル その4

モーメントテンソルの固有値がすべて値を持つ場合、震源で何が起きているのか?

M = R1

M1 0 00 M 2 00 0 M 3

⎢⎢⎢

⎥⎥⎥R1

T

M1 0 00 M 2 00 0 M 3

⎜⎜⎜

⎟⎟⎟= 13

M1 −M 2 0 0

0 − M1 −M 2( ) 00 0 0

⎜⎜⎜

⎟⎟⎟

+ 13

0 0 00 M 2 −M 3 0

0 0 − M 2 −M 3( )

⎜⎜⎜

⎟⎟⎟+ 13

M1 −M 3 0 00 0 00 0 − M1 −M 3( )

⎜⎜⎜

⎟⎟⎟

可能性2: CLVD の震源が同時に動いた

M1 0 00 M 2 00 0 M 3

⎜⎜⎜

⎟⎟⎟=

13

2M1 0 00 −M1 00 0 −M1

⎜⎜⎜

⎟⎟⎟

+ 13

−M 2 0 00 2M 2 00 0 −M 2

⎜⎜⎜

⎟⎟⎟

+ 13

−M 3 0 00 −M 3 00 0 2M 3

⎜⎜⎜

⎟⎟⎟

複数の可能性がある。(M1>M2>M3) 可能性1:複数の断層が動いた

これは3つの断層が同時に動いたことを意味する。