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Ⅱ.就労後のつまずきと 職場定着支援事例
本事業では、支援学校等の卒業生が就労した企業を訪問し、勤務状況や態度、仕事場での課題を聞き取り、本人との面談を行ってきた。職種や本人の特性によって、相談ケースは様々であったが、その中でも多くの事例に共通していた職場定着支援について、「就労後すぐに起きやすい事例」と「就労後半年以降に起きやすい事例」について、7事例を紹介する。事例のエッセンスを「職場定着支援のポイント」として掲載しているので、「Ⅲ.すぐに使える様式・資料」とあわせて読んでいただきたい。
○就労後すぐに起きやすい事例 (1)障がい理解の促進とマッチング (2)職場実習と就労の違いに戸惑う (3)生活の基礎と仕事の責任感 (4)業務中のけが等による休職と復帰
○就労後半年以降に起きやすい事例 (5)メモの活用とスキルアップ (6)仕事の慣れと職場での態度 (7)配置換えと引き継ぎ
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(1)障がい理解の促進とマッチング
会社として、初めての障がい者雇用であったが、本人の特性を学校からしっかりと伝えていたこと、障害者就業・生活支援センターに引き継いでいたこと、ジョブコーチ支援を受けたことなどにより、順調に業務に取り組むことができている。
事例
○就労後すぐに起きやすい事例
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会社として、初めての障がい者雇用であったが、本人の特性を学校からしっかりと伝えていたこと、障害者就業・生活支援センターに引き継いでいたこと、ジョブコーチ支援を受けたことなどにより、順調に業務に取り組むことができている。
【職場実習にむけて】・学校見学の実施以前にも職場実習の受け入れを検討したが、現場の賛成が得られずにできなかったことがあったため、学校見学により学校の取り組みを見学してもらい、職場実習でできる仕事があるか見立ててもらう。・職場実習の事前打合せ時に生徒からプレゼンテーション 授業で取り組んだ成果を、生徒自身が作品や写真を使って紹介する。
【入社後の定着支援】
それぞれの主張
作業がうまくできなかったときも、周りの人からこまめに声を掛けてもらって気持ちが楽になった。
会社担当者
本人
【解説】初めて障がい者雇用に取り組む会社では、「障がい特性とはどのようなものか」、「どのようなことができるのか」、「学校ではどのような取り組みをしているのか」などについて疑問や不安を持たれていることが多い。
職場定着支援の例
障がいのある方を雇用するにあたって、担当者である自分が不安であったし、その他の社員はもっと不安を感じていた。学校見学や、就労後の支援機関からのサポートにより、社員として順調に成長してくれていて、雇ってよかった。
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【職場実習にむけて】・学校見学の実施以前にも職場実習の受け入れを検討したが、現場の賛成が得られずにできなかったことがあったため、学校見学により学校の取り組みを見学してもらい、職場実習でできる仕事があるか見立ててもらう。・職場実習の事前打合せ時に生徒からプレゼンテーション 授業で取り組んだ成果を、生徒自身が作品や写真を使って紹介する。
【入社後の定着支援】
学校の取り組みや、学校だからこそ見ることができる生徒の様子について、企業からの見学を受入れることも有効な方法である。学校・会社の都合にあわせて日程調整や見学内容の検討が必要となるが、生徒の活き活きとした様子を見ていただく良い機会である。
また、採用人事担当者から、現場の担当者に生徒の様子が伝わるように、実習生プロフィール票を活用することや、機会があれば職場の見学に生徒を同席させておきたい。
職場定着支援のポイント
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(2)職場実習と就労の違いに戸惑う
職場実習の時には自分から挨拶をすることができ、作業が完了すると自分から指示を聞くなど一生懸命な姿を見ることができていたが、入社して2ヶ月が経つと、職場実習の時にできていた「元気のよい挨拶や、めりはりのある動作」が見られなくなり、仕事に対する「一生懸命さ」が伝わってこなくなった。
それぞれの主張
入社してから、やらないといけないことが増えてきた。指示されることも多くなって、途中でわからなくなってしまうときもあるけど、返事はしておかないと怒られるだろうし・・・。
会社担当者
本人
【解説】入社直後に「職場実習の時にできていたことが就労してからできなくなっている」と、会社の担当者から連絡が入ることがある。そのような相談の背景には、本人が「職場実習の時よりも仕事量が増えた」「職場実習のような終わりが見えず、ずっと働くことが不安」、「よく怒られるようになった」などの思いを持っていることが多い。
事例
同じ社員になったのだから、これぐらいはやってもらわないと・・・。忙しくても、ていねいに説明しているのだが。他のみんなは、同じ説明でわかってくれている。本人も「はい、わかりました。」と言っているのになあ。
○就労後すぐに起きやすい事例
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1.本人と支援者が面談し、会社で困っていることがないかを聞き取った。その結果、以下のようなことがわかった。・職場実習の時と比べて、作業内容が増えて戸惑っている。・職場実習は2週間だけだったが、今は終わりがないので不安である。・返事をしなければならない気持ちが強くて、わかっていなくても「はい」と返事をすることがある。・「大丈夫?」と声をかけられると、「きちんとやりなさい」と言われている気がして、焦ってしまう。
2.本人の聞き取ったことを会社の担当者に伝え、「指示の仕方や声かけの時に気をつけること」について、以下のようなお願いをした。
・一度に多くの指示があると混乱してしまうため、仕事に慣れるまでは、細かく区切って指示を出していただく。・作業を時間で区切って、できたときには「できました」と作業の完了報告をさせてから、次の作業を指示していただく。・本人が「このやり方で大丈夫」と感じられるように、できたことについてはこまめにほめていただく。
このような事例では「本人と会社担当者が共通認識を持てるようにすること」が必要である。具体的には、以下のようなてだてがある。
①本人が職場や仕事に対して感じていることを聞きとる。 *本人が本音で話すことができる環境を整える。 ②本人から聞き取った内容を、「自分が頑張って解決しなければならな
い課題」、「職場の方に協力をお願いして解決をめざす課題」に整理する。
③現時点での課題について、職場の方と情報共有し、支援のてだてを検討する。
職場定着支援の例
職場定着支援のポイント
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(3)生活の基礎と仕事の責任感
入社して1ヶ月が経ったころに、友だちと夜遅くまで遊んでいたら、最終電車にも乗り遅れてしまい、自宅に帰れなくなってしまった。自宅や会社で怒られるのが嫌だったから、自宅に戻らず、会社を無断欠勤してしまった。
それぞれの主張
友達と遊ぶのが楽しくて、家に帰るお金が無くなったなんて、家の人にも怒られるし・・・会社も休んでしまおう。
会社担当者
本人
【解説】入社してしばらくは順調に勤務していたのに、1ヶ月が過ぎようとした頃、会社側から「特に理由もなく『休みます』と連絡が入ったり、無断の遅刻・欠勤が増えてきて困っている。」という相談を受けることがある。在学時と卒業後で、生活環境が大きく変わる場合(一人暮らしを始めるなど)には、このような事例が起きることがある。
事例
連絡なく休むと、「何かあったのかな」と心配するのと、「休んだ分の仕事は誰がするのか」ということをわかってほしいけれど、どうしたらいいかなぁ。
○就労後すぐに起きやすい事例
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今回の事例では、本人に「無断欠勤してはいけないこと」を伝えることが大切である。しかしながら、本人は「怒られること」に対して拒否感を示していることから、本人が納得しやすい環境を整えるために、以下について、支援者が本人・会社と調整を行った。
・本人にとっての「キーパーソン」(信頼をおける人)の協力を仰ぐ*入社後まもなくは、教員・保護者が担うことも必要であるが、徐々に支援機関にも担ってもらえるように引き継ぐ。
・「欠勤した時の周りへの影響」を認識しやすいよう、本人の仕事内容を明確にして、担当している仕事に自信を持てるよう声をかけるなどの支援をお願いする。
このような事例では、以下の内容が関係していることがある。
○生活環境の変化「社会人=自分の思った通りに時間を使える」というイメージから生活リズムが乱れてしまう。
○金銭感覚の未熟さ、管理不足初めて受け取る給料の額が、今までの小遣いの額と違いすぎて、気持ちが大きくなり友達に食事をおごるなどして、すぐに使い切ってしまう。
○なぜ働くのかという認識不足「何のために働くのか」について考えることができておらず、給料の使い道や管理の仕方を考えていない。
○働くことの責任感の不足自分が無断で休むことで、周りにどのような影響があるのか、周りがどのような気持ちになるのかについて捉えることができていない。
職場定着支援の例
職場定着支援のポイント
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(4)業務中のけが等による休職と復帰
入社して1ヶ月の頃、一生懸命に働くあまり、無理をして重い物を運んだことが原因で、腰に痛みが起きてしまった。しばらくは、我慢して働いていたが、家に帰ると腰が痛くて動けない日々が続いていた。病院受診の結果、手術を勧められたが、長い期間休んでしまうと退職となってしまうと思い、会社になかなか言い出せなかった。
それぞれの主張
腰が痛くなったときは、「我慢すればすぐ治る」と思ってやりすごしたけど、その時に言えばよかったかもしれない。でも、1週間も前のことで、しかも長く休まなければならないなんて、どのように相談すればよいかわからない。
会社担当者
本人
【解説】就職後、思わぬ事故にあったり、病気にかかったりすることがある労災等の申請の手続きを行うことにより、職場での配慮をしてもらえるが、本人がうまく症状を伝えられず、病院に行くために休むことを遠慮して、無理して出勤することも考えられる。
事例
本人は普段通りに出勤して、作業も真面目に取り組んでいたので、痛みを我慢しているなんて気づかなかった。言ってくれればよかったのに。
○就労後すぐに起きやすい事例
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○支援者が会社への対応の確認 本人は、今回のような怪我は今まで経験したことがなく、また、入社後すぐの時期であった。労災の制度等がどのようなものであるか、また、どのように手続きをすればよいかの知識がなかったため、手術にかかる費用や時間などで不安を感じていたようである。
○本人の気持ちの安定 労災の制度等に関する手続きや、療育中の休業等にも対応してもらえることを伝え、職場復帰に向けての見通しを持てるようにした。
職場定着のためには、突発的なことが起こったときに、どこに、何を相談すればよいのかを伝えておくことや、労災保険についても生徒・保護者が十分に理解をしておく必要がある。
また、会社や支援機関への引き継ぎの際に、定期的な通院や服薬管理などについても、必要に応じて支援機関や会社の担当者に伝えて、入社後の対応を相談しておくことも大切である。
職場定着支援の例
職場定着支援のポイント
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(5)メモの活用とスキルアップ
家電量販店に就労して半年が経ったころ、基本的な仕事の流れを覚えて、商品の陳列や荷受の仕事を一人で行うことが増えて、会社としてはスキルアップのために、メモを活用できるように指導したいと考えている。しかしながら、メモを取ることに時間がかかったり、自分で取ったメモを、後日確認するとわからなくなってしまったりしているため、どのように指導すればよいか悩んでいる。
それぞれの主張
「メモを取る」と言われても、何をどう書いたらよいかわからないし、書くのに時間がかかってお客様を待たせてしまう。
会社担当者
本人
【解説】メモを活用することは、多くの就労先で取り組まれていることである。相手の話を聞いてメモをとることについて、以下のようなつまずきが考えられる。 ○ていねいに書こうとして、時間がかかってしまう ○どのような項目をメモに記入すればよいかわからない ○メモ取りに集中してしまい、相手への応答ができていない ○メモに記入したことを忘れてしまう
事例
メモを取ることができれば、お客様への対応の時に役に立ち、できることが増えて自信につながると思うから、ぜひやってほしい。
○就労後半年以降に起きやすい事例
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1 本人のメモを記入する様子を見て、課題を見つける。 ○メモを取るのに時間がかかる。(相手を待たせてしまう。) ・話をされたことを一言一句、すべて書こうとしている。 ・漢字を使おうとするが、思い出せずに悩んでしまう。 ○いつ、どこで書いたメモなのか、わからない。
・日付や場所等を記入せず、メモの空いているスペースに記入していくので、過去の内容と新しい内容が混ざってしまう。
2 メモを有効に活用するための助言を行う。 ・メモは自分がわかりやすい書き方でよい。
・漢字を使わなくてよい。 ・大事なことだけを書く。
(商品名、型番、色、いつまでに、だれに、どこに)など。 ・メモを書き始めるときに、その日の日付と時間を書く。 ・メモの内容を、その場で復唱して、相手に聞いてもらう。
話を聞きながら、要点をメモにまとめるためには、何をメモに残すかを明確にしておく。 メモにまとめるポイントとして、以下の内容(5W3H)をあらかじめ記入欄を作っておき、必要な箇所に書き込む方法がある。 5W 3H ① いつ (時間) ①どのように (方法)
② どこで (場所) ②どのくらい (数量) ③ だれが (相手) ③いくらで (値段) ④ なにを (品物) ⑤ なぜ (理由)
職場定着支援の例
職場定着支援のポイント
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(6)仕事の慣れと職場での態度
スーパーマーケットに入社して3年め、仕事にも慣れてきて、余裕が出てきた反面、業務時間中でも「面倒くさい」、「疲れた」などの発言が見られるようになった。そのことについて、他部署から配属された先輩従業員に度々注意されるが、その都度口論となってしまう。また、業務時間中でも不機嫌な態度をとってしまい、お客様への対応にも表れてしまう。
それぞれの主張
仕事を明るく楽しくしようと思っているのに、いつも細かいことを言われてイライラする。仕事にも身が入らないから、なんとかしてほしい。
会社担当者
本人
【解説】お客様に応対する職場では、言葉や表情、姿勢などが会社の評判につながっていくことをていねいに伝えておくことが必要である。しかしながら、入社直後は緊張感により抑えられていた感情が、仕事や職場環境に慣れるにつれて、勤務態度に出てしまうことがある。そのようなときに同僚からの指摘を受け入れることができず、感情的に不安定になることがある。。
事例
職場に慣れてきて、自分の気持ちを相手に伝えたり、場を明るくしようとする心遣いはありがたい。しかし、いろいろな思いがあったとしても、お客様の前では絶対に不機嫌な態度をとってほしくないなぁ。
○就労後半年以降に起きやすい事例
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このような事例では、以下のような内容が関係していることがある。○職場での緊張の維持
仕事や職場環境に慣れてきたころに、言葉遣いや身だしなみなどが乱れることがある。何気ない一言や態度によってトラブルに発展することがある。
○特定の人とのトラブル当事者同士が、お互いのコミュニケーションの取り方(敬語や話すタイミング、話す内容などの違い)が原因でトラブルになる場合と、障がい特性の理解が十分でない中で、トラブルに発展する場合がある。
どちらの場合についても、他の従業員と協力して働くことができるように、会社の担当者に本人の特性をていねいに伝えて、配慮をしていただけるようにお願いしておくことが大切である。
職場定着支援の例
職場定着支援のポイント
今回の事例では、支援者が本人の話を聞き、「面倒くさい」という発言が「職場を和ますための冗談」であることが分かった。また、言い合いになったときに「冗談だ」と伝えているが、相手は聞いてくれず、そのうちイライラが募り、不機嫌になっていたようである。 このことから、支援者と本人で「嫌なことがあったときに気分転換できる方法」について相談して、以下の2つの方法を行うこととした。
・外の景色が見える場所で静かに過ごす。・深呼吸を5回する。
また、本人と職場の方で「気分転換のルール」を相談し、①気分転換したいときには担当者に声をかける②時間を決めて気分転換をして、その後の1時間は頑張って取り組む
の2点を約束した。
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(7)配置換えと引き継ぎ
事務関係の職場に就労し、書類整理等の仕事を担当することになった。聴覚障がいがあるが、相手とのコミュニケーションは口話を中心に行っている。入社直後は学校からの引き継ぎがあり、会社主催で手話の学習会を行ったりしていたが、入社して3年が経ったころに職場での担当部署が変わり、新たな部署での人間関係を築いていくことになった。
それぞれの主張
前の部署ではとても働きやすかったけれど、新たに所属する部署には、どんな人がいて、何をするのか想像がつかなくて、やっていけるのか心配。
会社担当者
本人
【解説】入社して数年経つと、配置換えの可能性がある。職場環境の変化は本人の不安につながることがあり、その不安をできるだけ和らげるように支援することが重要である。支援の方法について、入社時には学校が引き継ぎをおこなうが、入社後もすぐに対応できるよう、支援機関に引き継いでおくことが大切である。
事例
会社としては障がい者雇用を積極的に進めていきたいが、一緒に働いたことがなく、どのようなことが必要なのか不安がいっぱい。どんなことが必要なのかを知りたい。。
○就労後半年以降に起きやすい事例
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卒業時に管轄の障害者就業・生活支援センターに登録する際、学校から本人の特性について細やかな引き継ぎがあったことで、スムーズに連携・対応をすることができた。新しい部署での定着のために、本人、支援機関、前の部署と新たな部署の担当者の4者でケース会議を設定し、以下の2つについて情報共有を行った。
①本人の障がい特性と、今までの部署で行ってきたコミュニケーションの手段を確認した。
・通常は「ゆっくり話す」ことによって、口の動きを見て会話ができていた。
・細かい指示があるときには、内容を書いた紙を渡すことで理解できていた。
②新しい部署で、どのような対応ができるかを確認した。 ・新しい部署の担当者より「前の部署で取り組んでいたことを、その
ままできるようにする」と、本人に伝えていただいた。 ・いつでも筆談ができるように、当該部署の全員がメモとペンを持ち
歩くように働きかけることになった。
同じ会社でも配置換えで環境が変わることに不安を感じて、つまずく場合もあるが、入社後数年が経っていて、学校だけで対応するのは難しいことがある。そのようなときのフォローアップのためにも、卒業時に地域の障害者就業・生活支援センターなどの支援機関に引き継いでおくことが大切である。
○支援機関への登録 ・本人、保護者、教員、支援機関の担当者との面談を設定する。 ・個別の移行支援計画等を作成し、本人・保護者の了承のもとで、支援
機関の担当者に引き継ぎ、支援のてだてや時期について相談する。 ○支援機関と就労先の引き継ぎ・学校も加わって、会社と支援機関の引き継ぎを行う。
職場定着支援の例
職場定着支援のポイント
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MEMO