Title 有機電解液を用いたフッ化物イオンシャトル二次電池の ......638...

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Title 有機電解液を用いたフッ化物イオンシャトル二次電池の 開発 Author(s) 湊, 丈俊; 小西, 宏明; KUCUK CELIK, Asuman; 安部, 武志; 小久見, 善八 Citation セラミックス (2019), 54(9): 637-641 Issue Date 2019-09 URL http://hdl.handle.net/2433/250877 Right © 日本セラミックス協会; 許諾条件に基づいて掲載してい ます。 Type Journal Article Textversion publisher Kyoto University

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  • Title 有機電解液を用いたフッ化物イオンシャトル二次電池の開発

    Author(s) 湊, 丈俊; 小西, 宏明; KUCUK CELIK, Asuman; 安部, 武志;小久見, 善八

    Citation セラミックス (2019), 54(9): 637-641

    Issue Date 2019-09

    URL http://hdl.handle.net/2433/250877

    Right © 日本セラミックス協会; 許諾条件に基づいて掲載しています。

    Type Journal Article

    Textversion publisher

    Kyoto University

  • 637セラミックス 54(2019)No. 9

    1. はじめに

     我々の住むこの世界は原子分子から構成され,運動(移動),熱,光,電気,反応等のエネルギーが生み出されている.これらのエネルギーを理解し,制御していくことは,我々の生活を便利にするだけでなく,深みや豊かさを与えてくれる.2011 年 3 月 11 日に我々が経験した東日本大震災は,そのエネルギーに関する技術のあるべき姿を再考するきっかけとなり,現在,エネルギーの理解と制御に関わる研究は最も注目されるトピックスの一つとなっている.多くのエネルギー技術の中で二次電池を用いてエネルギーを蓄積し,利用する時,場所,そして量を制御する技術は,多様性を有する社会を築く基盤となり得ることから,その持

    続的な発展が強く望まれている. 二次電池の中で,リチウムイオン二次電池は現在最も広く利用されている 1)~3).これまでリチウムイオン二次電池は電子機器等を中心に利用されてきたが,電気自動車や再生可能エネルギーの貯蔵等二次電池を使用する対象が拡大するにつれて,求められる性能も高くなっている.そこで,リチウムイオン二次電池の性能を超える新しい二次電池の開発が期待されている. このような現状の中,筆者らの研究グループは,社会の要請に応えるべく新しい電池系として「フッ化物イオンシャトル二次電池」(図 1 に野村康生氏(http://yasuonomura.com/)によって描かれたフッ化物イオンシャトル二次電池の概念を表現する作品を示す.)の開発を進めている.フッ化物イオンシャトル二次電池は,フッ化物イオンの電解質中でのシャトル現象によって,金属フッ化物/金属電極の脱フッ化・フッ化反応を進行させ起電力を得る.筆者らは室温でのイオン伝導や電極との界面接合状態に優れている有機溶媒を用いた電解質(有機電解液)を用いたフッ化物イオンシャトル二次電池に注目し,その開発を進めてきた.本稿では,フッ化物シャトルイオン二次電池の動作原理,これまでの背景,経緯,そして近年の開発状況等について紹介したい.

    2. 原理と特徴

    フッ化物イオンシャトル二次電池(図 2)は,放電時に正極において脱フッ化反応,負極においてフッ化反応を進行することで,起電力を得る.化学式では,  正極:MFx+xe- → M0+xF–� 式(1)  負極:M’0+xF- → M’Fx+xe-� 式(2)  (M は金属,M’ は M とは異なる金属を意味する.)と表現される.正極での脱フッ化反応と負極でのフッ化反応のエネルギー差から起電力が得られる.また,

    © 日本セラミックス協会

    特集 金属フッ化物

    有機電解液を用いたフッ化物イオンシャトル二次電池の開発Developments�of�Fluoride�Shuttle�Battery�using�Organic�Electrolyte Key-words:�Fluoride,� Shuttle� battery,�Rechargeable� battery,�Bismuth� fluo-

    ride,�Lead�fluoride,�Dfluorination/Fluorination

    湊 丈 俊・小 西 宏 明・ Asuman CELIK KUCUK・安 部 武 志・小 久 見 善 八Taketoshi�MINATO*1,�Hiroaki�KONISHI*2,�Asuman�CELIK�KUCUK*1,�Takeshi�ABE*1�and�Zempachi�OGUMI*1

    (*1Kyoto�University,�*2Hitachi�Ltd.)

    図 1� フッ化物イオンシャトル二次電池の概念から創られた野村康生氏(芸術家)の作品(Copyright�©�Yasuo�NOMURA.�All�rights�reserved.).金属フッ化物(フッ化ビスマス)から脱フッ化反応しながら金属化することで,電流が流れる.筆者らが明らかにした概念が芸術家の手法で顕在化された.

  • 638 セラミックス 54(2019)No. 9

    充電時には,逆反応である  正極:M0+xF- → MFx+xe–� 式(3)  負極:M’Fx+xe- → M’0+xF–� 式(4)が進行する. このフッ化物イオンシャトル二次電池には,以下に示す特徴があり,極めて高い理論エネルギー密度を有する.まず,電極中で多価の酸化還元反応を進行させることができれば,高いエネルギー密度を得ることができる.これまで Mg2+ や Al3+ 等の多価イオンをキャリアイオンとして用いることで多価の酸化還元反応を実現する研究が進められてきた 4)~7).しかし,多価イオンを利用する電池系には電極内での拡散等で大きな障壁があり,実用的な条件で高いエネルギー密度を得るには課題がある 8),9).ここで,多くの金属フッ化物は,一つの多価金属イオンに複数のフッ化物イオンが配位した構造を持っていることに注目する.もし,金属フッ化物中のフッ化物イオンを移動させることができれば,一価のアニオンであるフッ化物イオンをキャリアイオンとしながら,電極中では,多価の酸化還元反応が実現できることになる.これがフッ化物イオンシャトル二次電池の大きな利点である. また,フッ化物イオンシャトル二次電池は,放電(式

    (1),式(2))・充電(式(3),式(4))反応において,活物質はキャリアイオンとなるフッ化物イオンを除くと単一の元素で構成されるため,高いエネルギー密度が得られる.さらに,フッ化物材料は多様性に富む 10)ため,活物質に豊富な選択性があり,電池系の設計によって高エネルギー密度を達成できる. 以上の点から,フッ化物イオンシャトル二次電池は高エネルギー密度を有する電池となる.例えば,材料のみでは 2500�Wh�kg-1 以上の重量エネルギー密度を見積もることができる 11).この値は,現行のリチウムイオン二次電池で使用している材料から求めた理論値に比べて 6 倍以上のエネルギー密度となる 11).したがって,フッ化物イオンシャトル二次電池は,既存のエネルギー技術に大きな発展をもたらす可能性を持っている.

    3. フッ化物イオンシャトル二次電池用の有機電解液の開発

     フッ化物イオンをキャリアイオンに用いた蓄電池は,2011 年に固体電解質を用いた学術論文の報告がある 12).フッ化物イオンを伝導する固体電解質は古くから研究されており,1970 年代から論文報告が増えている 13).固体電解質は安定性に優れているが,室温でのイオン伝導度や電極との接触状態が十分でないこと等が要因となり,室温では十分な性能(容量,サイクル特性等)が得られていなかった. 筆者らは,これらの問題を克服するために,有機溶媒から調製した電解液(有機電解液)を用いたフッ化物イオンシャトル電池の開発を始めた.既に多くの材料が報告されていた固体電解質とは異なり,脱フッ化・フッ化反応を進行する有機電解液は報告されていなかった.フッ化物イオンを伝導し,可逆的に電極の脱フッ化・フッ化反応を進行させる性能を持つ有機電解液を開発するために,フッ化物塩を有機溶媒に溶解させる試みを行ったが,検討の結果,一般に無機フッ化物塩は有機溶媒に難溶であることがわかった 14).また,有機フッ化物塩は有機溶媒に溶解するが,安定性に問題があった.そこで,筆者らはフッ化物イオンと配位する性能を持つアニオンアクセプターを電解液に添加することでフッ化物塩の溶解度を向上させることを考案した.しかし,アニオンアクセプターとフッ化物イオンの相互作用が強すぎると,電解液中のフッ化物イオンが電極に移動してフッ化することが困難となる.また,相互作用が弱すぎるとフッ化物塩の溶解度が十分ではなくなる.そのため,適切な相互作用を有するアニオンアクセプターを探索する必要があった.第一原理計算を用いて候補となる材料のフッ化物イオンとの相互作用を検討した結果,fluorobis(2,4,6-trimethylphenyl)borane(FBTMPhB:図 3)等のホウ素を含んだ化合物が約 300�kJ�mol-1 のフッ化物イオンの吸着エネルギーを示し,フッ化物イオンシャトル二次電池の電解液の添加物に使用できることが示唆された 14).そこで,有機溶媒として比較的安定性に優れた bis[2-(2-methoxyethoxy)ethyl]ether(略称テトラグライム)15)に FBTMPhB を0.5�mol�dm-3 加えながら,フッ化物塩である CsF を溶

    図 3 第一原理計算で最適化したフッ化物イオンを配位したfluorobis(2,4,6-trimethylphenyl)borane(FBTMPhB)の分子構造.灰丸は炭素,白丸は水素,水色丸はフッ素,桃色はホウ素を示している(Reprinted�from�Ref.�14.)(カラー図は Web 版を参照).

    図 2 フッ化物イオンシャトル二次電池の稼動原理図.Mは金属元素,M’ は M とは異なる金属元素を示している.紫丸は金属イオン,水色丸はフッ化物イオン,黄色丸は紫丸とは異なる金属原子,灰色部分は電解質を示している.電解質中をフッ化物イオンがシャトルしている様子を示している(カラー図は Web 版を参照).

    MF x M’F-

    負極正極 電解質

    充電 放電

    デバイス

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    解させてみると,溶解度が FBTMPhB を加えない場合に比べて約 3 桁向上することがわかった 14).イオン伝導度,安定性等が十分であることも確認し,有機電解液を調製することができた.

    4. 有機電解液による脱フッ化・フッ化反応の実証

     次に,調製した有機電解液が電極の脱フッ化・フッ化反応を進行させることができるか検討を始めた.ここで用いた電極は,フッ化ビスマス(BiF3)を活物質として,導電剤,結着剤等で調製した合剤電極である.この電極そのものの反応については,リチウムイオン二次電池の電解液を用いて事前に検討し,可逆な反応性を有することを確認していた 16)~18).この電極を用いて,0.5�mol�dm-3 の FBTMPhB と 0.45�mol�dm-3 のCsF をテトラグライムに溶解して調製した有機電解液中で定電流放電反応(定電流での還元反応)を進行させた.すると,BiF3 の理論容量(302�mAh�g-1)とほぼ同程度の容量(312�mAh�g-1)が得られ,脱フッ化反応が進行した可能性が示された(図 4(a)赤線).さらに,定電流充電反応(定電流での酸化反応)を進行させると,218�mAh�g-1 の容量が得られた(図 4(a)赤線).放電と充電の容量が異なるが,少なくとも70%の容量が可逆的に得られることがわかった.X 線回折(XRD)を用いて,活物質の結晶構造の変化を解析した結果,放電反応後に BiF3 がビスマス(Bi)に変化し,充電反応後に BiF3 が生成していることが確認された(図 4(b)).この結果は有機電解液中での電極の脱フッ化・フッ化反応が初めて達成されたこと

    を裏付けるものである 14).

    5. 電極反応の改善

     電極の脱フッ化・フッ化反応は達成できたが,この電解液中では,放電と充電を繰り返すことによって容量が大きく減少してしまうという問題があった 14).筆者らは,この容量減少が,活物質の電解液への溶出に由来している可能性を考えた.使用した電解液には,CsF の溶解度を向上させるために CsF よりもやや過剰なモル濃度(約 1.1 倍)で FBTMPhB を添加していた.過剰な FBTMPhB がフッ化物イオンと強く相互作用する可能性があり,活物質である BiF3 の溶出を進行させている恐れがあった.そこで,1 回目の放電反応後の電解液中に存在する Bi 量を原子吸光法で定量したところ,電極中の 38%の BiF3 が溶出していることがわかった 14).この溶出を抑制するために,支持塩である CsF を飽和濃度になるまで電解液に添加し,活物質との相互作用を減少させることを試みた. 図 5(a)は,CsF を飽和濃度まで添加した電解液を用いて得られた充放電曲線である 19).1 回目の放電反応では 212�mAh�g-1 の容量が得られ,充電反応では95�mAh�g-1 の容量が得られた(図 5(a)黒線).2 回目の放電,充電反応では 1 回目の容量の 69%,109%の容量が得られ,これは電解液を改良する前の容量変化

    (37,53%)に比べて明らかな改善を示した.X 線光電子分光法(XPS)を用いて,BiF3 の脱フッ化,フッ化反応の進行も確認された(図 5(b)).原子吸光法で放電反応後の Bi 溶出量を定了すると,電極中から溶出した BiF3 は 0.04%となり,明らかに BiF3 の溶出が抑制されていることが確認できた.以上のことから,電解

    の 容 量 ( 3 1 2 m A h g -1 ) が 得ら れ , 脱 フ ッ 化 反 応 が 進 行 し た 可 能 性 が 示 さ れ た( 図 4 (a) 赤 線 ) . さ ら に , 定 電 流 充 電 反 応 ( 定 電流 で の 酸 化 反 応 ) を 進 行 さ せ る と , 2 1 8 m A h g 1 の 容 量 が 得 ら れ た ( 図 4(a) 赤 線 ) . 放 電 と 充 電 の容 量 が 異 な る が , 少 な く と も 7 0 % の 容 量 が 可 逆 的に 得 ら れ る こ と が わかっ た . X 線 回 折 ( X R D ) を用 い て , 活 物 質 の 結 晶 構 造 の 変 化 を 解 析 し た 結果 , 放 電 反 応 後 に B i F 3 が ビ ス マ ス ( B i ) に 変 化し , 充 電 反 応 後 に B i F 3 が 生 成 し て い る こ と が 確認 さ れ た ( 図 4(b) ) . こ の 結 果 は 有 機 電 解 液 中 で の電 極 の 脱 フ ッ 化 ・ フ ッ 化 反 応 が 初 め て 達 成 さ れ た結 果 と な っ た 14) . (a) (b)

    図 4 有 機 電 解 液 を 用 い た B i F 3 電 極 の 脱 フ ッ化 , フ ッ 化 反 応 の 実 証 . ( a ) 定 電 流 充 放電曲線 . 赤 線 が C s F , F B T M P h B , テ ト ラ グ ラ イ ムか ら 調 製 し た 電 解 液 を 用 い た 場 合 に 得 ら れ た 曲 線で あ る . ( b ) X R D に よ る 電 極 の 結 晶 構 造 解 析 .下 か ら , P r i s t i n e ( 放 電 前 ) , S e m id i s c h a r g e d ( 満 放 電 の 半 分 の 容 量 を 放 電 し た後 ) , F u l l y d i s c h a r g e d ( 満 放 電 後 ),F u l l y c h a r g e d ( 満 充 電 後 ) の 電 極 か ら 得 ら れた X 線 回 折 パ タ ー ン . 白 丸 は o r t h o r h o m b i c 相 B i F 3 , 黒 三 角 は r h o m b o h e d r a l 相 B i , 白四角 は h e x a g o n a l 相 B i F 3 の 結 晶 構 造 に 起 因 す る回 折 ピ ー ク で あ る . こ の 結 果 か ら , 放 電 前 は B i F 3 の み が 存 在 す る が , 放 電 後 に B i と 変 化 し ,充 電 後 に 大 部 分 が B i F 3 に 変 化 す る こ と が わかった . ( R e p r i n t e d f r o m R e f . 1 4 . )

    5.電 極 反 応 の 改 善

    電 極 の 脱 フ ッ 化 ・ フ ッ 化 反 応 は 達 成 でき た が ,こ の 電 解 液 中 で は , 放 電

    と 充 電 を 繰 り 返 す こ と によ っ て 容 量 が 大 き く 減 少 し ま う と い う 問 題 が あ

    った 14) .筆者らは , こ の 容 量 減 少 が , 活 物 質 の 電 解液 へ の 溶 出 に 由 来 し て い

    る 可 能 性 を 考 え た . 使 用し た 電 解 液 に は , C s F の 溶 解 度 を 向 上 さ せ る た めに C s F よ り も や や 過 剰 な モ ル 濃 度 ( 約 1 . 1 倍 )で F B T M P h B を 添 加 し て い た . 電 解 液 に は さら にフ ッ 化 物 イ オ ン と 強 く 相 互 作 用 す る 可 能 性 が あり ,

    活 物 質 で あ る B i F 3 の 溶 出 を 進 行 さ せ て い る恐 れ が あ っ た . そ こ で , 1 回 目 の 放 電 反 応 後 の 電解 液 中 に 存 在 す る B i 量 を 原 子 吸 光 法 で 定 量 し たと こ ろ , 電 極 中 の 3 8 % の B i F 3 が 溶 出 し て い る こと が わかっ た 14) . こ の 溶 出 を 抑 制 す る た め に ,支 持 塩 で あ る C s F を 飽 和 濃 度 に な る ま で 電 解 液 に添 加 し , 活 物 質 と の 相 互 作 用 を 減 少 さ せ る こ と を試 み た .

    図 5(a) は , C s F を 飽 和 濃 度 ま で 添 加 し た 電 解 液を 用 い て 得 ら れ た 充 放 電 曲 線 で あ る 19) . 1 回 目の 放 電 反 応 で は 2 1 2 m A h g -1 の 容 量 が 得 ら れ ,充 電 反 応 で は 9 5 m A h g -1 の 容 量 が 得 ら れ た(図 5(a) 黒 線 ) . 2 回 目 の 放 電 , 充 電 反 応 で は 1 回 目 の 容 量 の 6 9 % , 1 0 9 % の 容 量 が 得 ら れ , こ れは 電 解 液 を 改 良 す る 前 の

    図 4 有機電解液を用いた BiF3 電極の脱フッ化,フッ化反応の実証.(a)定電流充放電曲線. 赤線が CsF,FBTMPhB,テトラグライムから調製した電解液を用いた場合に得られた曲線である.(b)XRD による電極の結晶構造解析.下から,Pristine(放電前),Semi�discharged(満放電の半分の容量を放電した後),Fully� discharged(満放電後),Fully� charged(満充電後)の電極から得られた X 線回折パターン.白丸は orthorhombic 相 BiF3,黒三角は rhombohedral 相Bi,白四角は hexagonal 相 BiF3 の結晶構造に起因する回折ピークである.この結果から,放電前は BiF3のみが存在するが,放電後に Bi と変化し,充電後に大部分が BiF3 に変化することがわかった(Reprinted�from�Ref.�14.).

    の 容 量 ( 3 1 2 m A h g -1 ) が 得ら れ , 脱 フ ッ 化 反 応 が 進 行 し た 可 能 性 が 示 さ れ た( 図 4 (a) 赤 線 ) . さ ら に , 定 電 流 充 電 反 応 ( 定 電流 で の 酸 化 反 応 ) を 進 行 さ せ る と , 2 1 8 m A h g 1 の 容 量 が 得 ら れ た ( 図 4(a) 赤 線 ) . 放 電 と 充 電 の容 量 が 異 な る が , 少 な く と も 7 0 % の 容 量 が 可 逆 的に 得 ら れ る こ と が わかっ た . X 線 回 折 ( X R D ) を用 い て , 活 物 質 の 結 晶 構 造 の 変 化 を 解 析 し た 結果 , 放 電 反 応 後 に B i F 3 が ビ ス マ ス ( B i ) に 変 化し , 充 電 反 応 後 に B i F 3 が 生 成 し て い る こ と が 確認 さ れ た ( 図 4(b) ) . こ の 結 果 は 有 機 電 解 液 中 で の電 極 の 脱 フ ッ 化 ・ フ ッ 化 反 応 が 初 め て 達 成 さ れ た結 果 と な っ た 14) . (a) (b)

    図 4 有 機 電 解 液 を 用 い た B i F 3 電 極 の 脱 フ ッ化 , フ ッ 化 反 応 の 実 証 . ( a ) 定 電 流 充 放電曲線 . 赤 線 が C s F , F B T M P h B , テ ト ラ グ ラ イ ムか ら 調 製 し た 電 解 液 を 用 い た 場 合 に 得 ら れ た 曲 線で あ る . ( b ) X R D に よ る 電 極 の 結 晶 構 造 解 析 .下 か ら , P r i s t i n e ( 放 電 前 ) , S e m id i s c h a r g e d ( 満 放 電 の 半 分 の 容 量 を 放 電 し た後 ) , F u l l y d i s c h a r g e d ( 満 放 電 後 ),F u l l y c h a r g e d ( 満 充 電 後 ) の 電 極 か ら 得 ら れた X 線 回 折 パ タ ー ン . 白 丸 は o r t h o r h o m b i c 相 B i F 3 , 黒 三 角 は r h o m b o h e d r a l 相 B i , 白四角 は h e x a g o n a l 相 B i F 3 の 結 晶 構 造 に 起 因 す る回 折 ピ ー ク で あ る . こ の 結 果 か ら , 放 電 前 は B i F 3 の み が 存 在 す る が , 放 電 後 に B i と 変 化 し ,充 電 後 に 大 部 分 が B i F 3 に 変 化 す る こ と が わかった . ( R e p r i n t e d f r o m R e f . 1 4 . )

    5.電 極 反 応 の 改 善

    電 極 の 脱 フ ッ 化 ・ フ ッ 化 反 応 は 達 成 でき た が ,こ の 電 解 液 中 で は , 放 電

    と 充 電 を 繰 り 返 す こ と によ っ て 容 量 が 大 き く 減 少 し ま う と い う 問 題 が あ

    った 14) .筆者らは , こ の 容 量 減 少 が , 活 物 質 の 電 解液 へ の 溶 出 に 由 来 し て い

    る 可 能 性 を 考 え た . 使 用し た 電 解 液 に は , C s F の 溶 解 度 を 向 上 さ せ る た めに C s F よ り も や や 過 剰 な モ ル 濃 度 ( 約 1 . 1 倍 )で F B T M P h B を 添 加 し て い た . 電 解 液 に は さら にフ ッ 化 物 イ オ ン と 強 く 相 互 作 用 す る 可 能 性 が あり ,

    活 物 質 で あ る B i F 3 の 溶 出 を 進 行 さ せ て い る恐 れ が あ っ た . そ こ で , 1 回 目 の 放 電 反 応 後 の 電解 液 中 に 存 在 す る B i 量 を 原 子 吸 光 法 で 定 量 し たと こ ろ , 電 極 中 の 3 8 % の B i F 3 が 溶 出 し て い る こと が わかっ た 14) . こ の 溶 出 を 抑 制 す る た め に ,支 持 塩 で あ る C s F を 飽 和 濃 度 に な る ま で 電 解 液 に添 加 し , 活 物 質 と の 相 互 作 用 を 減 少 さ せ る こ と を試 み た .

    図 5(a) は , C s F を 飽 和 濃 度 ま で 添 加 し た 電 解 液を 用 い て 得 ら れ た 充 放 電 曲 線 で あ る 19) . 1 回 目の 放 電 反 応 で は 2 1 2 m A h g -1 の 容 量 が 得 ら れ ,充 電 反 応 で は 9 5 m A h g -1 の 容 量 が 得 ら れ た(図 5(a) 黒 線 ) . 2 回 目 の 放 電 , 充 電 反 応 で は 1 回 目 の 容 量 の 6 9 % , 1 0 9 % の 容 量 が 得 ら れ , こ れは 電 解 液 を 改 良 す る 前 の

    容 量 変 化 ( 3 7 , 5 3 % )に 比 べ て 明 ら か な 改 善 を 示 し た . X 線 光 電 子 分 光法 ( X P S ) を 用 い て , B i F 3 の 脱 フ ッ 化 , フ ッ 化反 応 の 進 行 も 確 認 さ れ た ( 図 5 (b) ) . 原 子 吸 光 法 で放 電 反 応 後 の B i 溶 出 量 を 定 了 す る と , 電 極 中 から 溶 出 し た B i F 3 は 0 . 0 4 % と な り , 明 ら か に B i F 3 の 溶 出 が 抑 制 さ れ て い る こ と が 確 認 で きた . 以 上 の こ と か ら , 電 解 液 中 の ア ニ オ ン ア ク セプ タ ー の 効 果 を

    制 御 す る こ と で 電 極 反 応 を 向 上 させ る こ と が できる こ と が わかっ た 19) . (a) (b)

    図 5 改 良 し た 有 機 電 解 液 を 用 い た B i F 3 電 極 で得 ら れ た ( a ) 定 電 流 充 放 電 曲 線 , ( b ) 放 電 前 ,半 放 電 後 , 満 放 電 後 , 満 充 電 後 の 電 極 か ら 得 ら れた B i 4 f 領 域 の X 線 光 電 子 分 光 ス ペ ク ト ル . 下か ら , P r i s t i n e ( 放 電 前 ) , P a r t i a l l y d i s c h a r g e d ( 満 放 電 の 半 分 の 容 量 を 放 電 し た後 ) , F u l l y d i s c h a r g e d ( 満 放 電 後 ) ,F u l l y c h a r g e d ( 満 充 電 後 ) の 電 極 か ら 得 ら れた ス ペ ク ト ル . P r i s t i n e で は B i F 3 に 由 来 す る B i 3 + の ピ ー ク ( 1 6 0 . 5 , 1 6 5 . 8 e V ) が 存 在 する が , P a r t i a l l y d i s c h a r g e d や F u l l y d i s c h a r g e d で は B i 0 に 由 来 す る ピ ー ク( 1 5 6 . 9 , 1 6 2 . 2 e V ) が 検 出 さ れ , さ ら に , F u l l y c h a r g e d に は B i 3 + に 由 来 す る ピ ー ク( 1 6 0 . 5 , 1 6 5 . 8 e V ) が 確 認 さ れ た .( R e p r i n t e d b y p e r m i s s i o n f r o m S p r i n g e r N a t u r e , r e f . 1 9 , 2 0 1 8 ,d o i . o r g / 1 0 . 1 0 0 7 / s 1 0 8 0 0 - 0 1 8 - 1 2 4 1 - z )

    ま た , 電 解 液 の み な ら ず 電 極 も 改 良 を 進 め た .フ ッ 化 物 イ オ ン シ ャ ト ル 二 次 電

    池 で 用 い る 活 物 質に は 電 子 伝 導 が 求 め ら れ る が , B i F 3 は 電 子 伝 導度 が 低 く 脱 フ ッ 化 ・ フ ッ 化 反 応 を 阻 害 し て いる 可 能 性 が あ っ た . そ こ で , 高 い 電 子 伝 導 性 を 持つ

    ア セ チ レ ン ブ ラ ッ ク を B i F 3 と 強 く 密 着 さ せ るこ と で 電 子 伝 導 性 を 高 め , 電 極 の 反 応 性 を 向 上 させ る 検 証 を 行 っ た . ア セ チ レ ン ブ ラ ッ ク の 密 着 処理 を 行わない B i F 3 ( 図 6(a) ) で 調 製 し た 電 極 と 行っ た B i F 3 ( 図 6 (b) ) を 用 い て 調 製 し た 電 極 で そ れぞ れ 得 ら れ た 充 放 電 曲 線 を 比 較 す る と , ア セ チ レン ブ ラ ッ ク と の 密 着 処 理 を 行 う こ と で 得

    ら れ る 容量 が 2 倍 以 上 に な る こ と が わかった 20) . 放 射 光を 用 い た X 線 吸 収 分 光 法 ( X A S ) 等 か ら , 脱 フッ 化 ・ フ ッ 化 反 応 が 進 行 し て い る こ と も 確 認 され , 電 子 伝 導 性 を 持 っ た 材 料 と の 密 着 が 電 極 反 応性 を 高 め る こ と を 実 証 し た 20) .

    図 5� 改良した有機電解液を用いた BiF3 電極で得られた(a)定電流充放電曲線,(b)X 線光電子分光法による電極中の Bi�4f 領域の電子状態解析.下から,Pristine

    (放電前),Partially�discharged(満放電の半分の容量を放電した後),Fully�discharged(満放電後),Fully�charged(満充電後)の電極から得られたスペクトル.Pristine では BiF3 に由来する Bi3+ のピーク(160.5,165.8�eV) が存在するが,Partially� discharged やFully� discharged では Bi0 に由来するピーク(156.9,162.2�eV)が検出され,さらに,Fully� charged にはBi3+ に由来するピーク(160.5,165.8�eV)が確認された(Reprinted�by�permission� from�Springer�Nature,�Ref.�19,�2018,�doi.org/10.1007/s10800-018-1241-z).

    容 量 変 化 ( 3 7 , 5 3 % )に 比 べ て 明 ら か な 改 善 を 示 し た . X 線 光 電 子 分 光法 ( X P S ) を 用 い て , B i F 3 の 脱 フ ッ 化 , フ ッ 化反 応 の 進 行 も 確 認 さ れ た ( 図 5 (b) ) . 原 子 吸 光 法 で放 電 反 応 後 の B i 溶 出 量 を 定 了 す る と , 電 極 中 から 溶 出 し た B i F 3 は 0 . 0 4 % と な り , 明 ら か に B i F 3 の 溶 出 が 抑 制 さ れ て い る こ と が 確 認 で きた . 以 上 の こ と か ら , 電 解 液 中 の ア ニ オ ン ア ク セプ タ ー の 効 果 を

    制 御 す る こ と で 電 極 反 応 を 向 上 させ る こ と が できる こ と が わかっ た 19) . (a) (b)

    図 5 改 良 し た 有 機 電 解 液 を 用 い た B i F 3 電 極 で得 ら れ た ( a ) 定 電 流 充 放 電 曲 線 , ( b ) 放 電 前 ,半 放 電 後 , 満 放 電 後 , 満 充 電 後 の 電 極 か ら 得 ら れた B i 4 f 領 域 の X 線 光 電 子 分 光 ス ペ ク ト ル . 下か ら , P r i s t i n e ( 放 電 前 ) , P a r t i a l l y d i s c h a r g e d ( 満 放 電 の 半 分 の 容 量 を 放 電 し た後 ) , F u l l y d i s c h a r g e d ( 満 放 電 後 ) ,F u l l y c h a r g e d ( 満 充 電 後 ) の 電 極 か ら 得 ら れた ス ペ ク ト ル . P r i s t i n e で は B i F 3 に 由 来 す る B i 3 + の ピ ー ク ( 1 6 0 . 5 , 1 6 5 . 8 e V ) が 存 在 する が , P a r t i a l l y d i s c h a r g e d や F u l l y d i s c h a r g e d で は B i 0 に 由 来 す る ピ ー ク( 1 5 6 . 9 , 1 6 2 . 2 e V ) が 検 出 さ れ , さ ら に , F u l l y c h a r g e d に は B i 3 + に 由 来 す る ピ ー ク( 1 6 0 . 5 , 1 6 5 . 8 e V ) が 確 認 さ れ た .( R e p r i n t e d b y p e r m i s s i o n f r o m S p r i n g e r N a t u r e , r e f . 1 9 , 2 0 1 8 ,d o i . o r g / 1 0 . 1 0 0 7 / s 1 0 8 0 0 - 0 1 8 - 1 2 4 1 - z )

    ま た , 電 解 液 の み な ら ず 電 極 も 改 良 を 進 め た .フ ッ 化 物 イ オ ン シ ャ ト ル 二 次 電

    池 で 用 い る 活 物 質に は 電 子 伝 導 が 求 め ら れ る が , B i F 3 は 電 子 伝 導度 が 低 く 脱 フ ッ 化 ・ フ ッ 化 反 応 を 阻 害 し て いる 可 能 性 が あ っ た . そ こ で , 高 い 電 子 伝 導 性 を 持つ

    ア セ チ レ ン ブ ラ ッ ク を B i F 3 と 強 く 密 着 さ せ るこ と で 電 子 伝 導 性 を 高 め , 電 極 の 反 応 性 を 向 上 させ る 検 証 を 行 っ た . ア セ チ レ ン ブ ラ ッ ク の 密 着 処理 を 行わない B i F 3 ( 図 6(a) ) で 調 製 し た 電 極 と 行っ た B i F 3 ( 図 6 (b) ) を 用 い て 調 製 し た 電 極 で そ れぞ れ 得 ら れ た 充 放 電 曲 線 を 比 較 す る と , ア セ チ レン ブ ラ ッ ク と の 密 着 処 理 を 行 う こ と で 得

    ら れ る 容量 が 2 倍 以 上 に な る こ と が わかった 20) . 放 射 光を 用 い た X 線 吸 収 分 光 法 ( X A S ) 等 か ら , 脱 フッ 化 ・ フ ッ 化 反 応 が 進 行 し て い る こ と も 確 認 され , 電 子 伝 導 性 を 持 っ た 材 料 と の 密 着 が 電 極 反 応性 を 高 め る こ と を 実 証 し た 20) .

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    液中のアニオンアクセプターの効果を制御することで電極反応を向上させることができることがわかった 19). また,電解液のみならず電極も改良を進めた.フッ化物イオンシャトル二次電池で用いる活物質には電子伝導が求められるが,BiF3 は電子伝導度が低く脱フッ化・フッ化反応を阻害している可能性があった.そこで,高い電子伝導性を持つアセチレンブラックをBiF3 と強く密着させることで電子伝導性を高め,電極の反応性を向上させる検証を行った.アセチレンブラックの密着処理を行わない BiF3(図 6(a))で調製した電極と行った BiF3(図 6(b))を用いて調製した電極でそれぞれ得られた充放電曲線を比較すると,アセチレンブラックとの密着処理を行うことで得られる容量が 2 倍以上になることがわかった 20).放射光を用いたX線吸収分光法(XAS)等から,脱フッ化・フッ化反応が進行していることも確認され,電子伝導性を持った材料との密着が電極反応性を高めることを実証した 20).

    6. 電極・電解質の開発状況

     上記では,活物質として BiF3 が脱フッ化・フッ化反応を進行させることを示した.BiF3 のみならず,PbF2が活物質として有機電解液中で脱フッ化・フッ化反応を進行させることができることがわかった 21)~23).PbF2 は,高い反応性,繰り返し反応性を示すため,反応機構の解析,電解液開発の初期検討材料等に有用であると考えられる. また,筆者らが開発しているフッ化物イオンシャトル二次電池用の有機電解液では,アニオンアクセプターが重要な役割を果たしている.これまで FBTMPhB に加えて,triphenylborane23),24)や triphenylboroxine22),24)~26)

    が有効なアニオンアクセプターとして機能し,脱フッ化・フッ化反応を進行させることが可能であることを見いだしている.支持塩とのモル比率が活物質との反

    応性に与える効果は,これらのアニオンアクセプターでも観察された 25)ことから,一般性を持った事実であることがわかった.また,lithiumbis(oxalato)borateも電解液の添加物として,CsF の溶解度を向上し,脱フッ化・フッ化反応を促進することがわかっている 26). 筆者らはこれまで,無機フッ化物塩をアニオンアクセプターを用いて有機溶媒に溶かして調製した電解液を用いてきたが,Davis らは有機フッ化物塩であるneopentyl-substitutedalkylammonium を bis(2,2,2-�trifluoroethyl)ether に溶解させた電解液で,金属電極の脱フッ化・フッ化反応が可能となることを報告している 27).また,イオン液体である N,N,N-trimethyl-Npropylammoniumbis(trifluoromethanesulfonyl)amide に 1-methyl-1-propylpiperidinium� fluoride を溶解させることで調製した電解液を用いた脱フッ化・フッ化反応も可能である 28).充放電の繰り返し使用はできないものの,ポリマーを用いた脱フッ化反応も報告されている 29).今後多様な電解液が開発されると考えられる. 有 機 電 解 液 中 の 電 極 の 反 応 機 構 に つ い て は,XRD14),20),21),XPS19),22)~25),XAS22)等に加えて,走査型電子顕微鏡 14),25)(図 7),ラマン分光法 26),30),31)

    等による解析が行われている.これらの結果から,アニオンアクセプターが反応機構に大きな影響を与えていると考えられる.ただし,フッ化物イオンシャトル二次電池の反応機構について不明な点が多く残ってお

    図 6 (a)BiF3,(b)アセチレンブラックとの密着処理を施したBiF3 の SEM 二次電子像(Reprinted�with�permission�from�Ref.�20.�2019,�Elsevier.).

    図 7� 半放電した活物質の SEM(a)反射電子像とエネルギー分散型 X 線分光法で得られた(b)BiMα1,(c)F-Kα12のマッピング像.粒子の外側が Bi,内側が BiF3 で構成されており,脱フッ化反応が粒子の外側から進行することを示している(Reprinted� with� permission�from� Ref.� 25.� Copyright� 2019� American� Chemical�Society).

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    り,今後,in-situ 測定等さまざまな手法を用いた解析が発展すると期待される. また,固体電解質を用いた金属電極の脱フッ化・フッ化反応については,引き続き充放電速度,容量,繰り返し利用等に問題はあるが,室温でのイオン伝導が向上し,室温でも脱フッ化・フッ化反応が可能になったという報告も現れてきた 32),33).今後,電解質や電極の改良等により,固体電解質を用いたフッ化物イオンシャトル二次電池が発展する可能性がある.

    7. まとめ

     以上のように,有機電解液中のフッ化物イオンのシャトル現象を用いて駆動し,高エネルギー密度を有するフッ化物イオンシャトル二次電池中の電極の脱フッ化,フッ化反応を確立した.フッ化物イオンのシャトル現象を用いた電池は,近年高く注目されており,筆者らのグループ以外にも海外のグループを中心にさまざまな論文報告が増えている 11),12),27),29),32),33).今後研究が発展することで,電気自動車,再生可能エネルギーの貯蔵等への実用が進展していくと考えられる.

     謝 辞 本研究成果は,(国研)新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)革新型蓄電池先端科学基礎研究事業(RISING)および革新型蓄電池実用化促進基盤技術開発(RISING2)で得られたものである.また,フッ化物イオンシャトル二次電池の概念を表現する作品(図 1)を制作していただいた野村康生氏,当該制作にあたり,ご協力いただいた佐近利幸氏,野村奈津子氏に謝意を示す.

    文  献

    1)� G.-A.�Nazari�and�G.�Pistoia,�“Lithium�Batteries”,�Springer(2003).

    2)� B.�Scrosati,�K.�M.�Abram,�W.�Schalkwijk�and�J.�Hassoum,�“Lithium�Batteries”,�Wiley-VCH(2013).

    3)� T.�Minato�and�T.�Abe,�Prog. Surf. Sci.,�92,�240-280(2017).4)� D.�Aurbach,�Z.�Lu,�A.�Schechter,�Y.�Gofer,�H.�Gizbar,�R.�

    Turgeman,�Y.�Cohen,�M.�Moshkovich�and�E.�Levi,�Nature,�407,�724-727(2000).

    5)� Y.�Orikasa,�T.�Masese,�Y.�Koyama,�T.�Mori,�M.�Hattori,�K.�Yamamoto,�T.�Okado,�Z.-D.�Huang,�T.�Minato,�C.�Tassel,�J.�Kim,� Y.� Kobayashi,� T.� Abe,� H.� Kageyama� and� Y.�Uchimoto,�Sci. Rep.,�4,�5622(2014).

    6)� N.�Jayaprakash,�S.�K.�Das�and�L.�A.�Archer,�Chem. Com-mun.,�47,�12610-12612(2011).

    7)� M.-C.�Lin,�M.�Gong,�B.�Lu,�Y.�Wu,�D.-Y.�Wang,�M.�Guan,�M.�Angell,�C.�Chen,�J.�Yang,�B.-J.�Hwang�and�H.�Dai,�Nature,�520,�325(2015).

    8)� A.�Yamada,�Electrochemistry,�82,�169-174(2014).9)� 吉本信子,森田昌行,表面技術,62,211(2011).

    10)� Inorganic� Crystal� Structure� Database のデータベースに登録されている 2019 年 6 月時点でのフッ素を含む化合物は 9876 個(同じ組成のデータを含む)である.

    11)� F.�Gschwind,�G.�Rodriguez�Garcia,�D.� J.� S.� Sandbeck,�A.�Gross,�M.�Weil,�M.�Fichtner�and�N.�Gormann,� Journal of Fluorine Chemistry,�182,�76-90(2016).

    12)� M.�A.�Reddy�and�M.�Fichtner,�J. Mater. Chem.,�21,�17059(2011).

    13)� N.�I.�Sorokin�and�B.�P.�Sobolev,�Crystallography Rep.,�52,�842-863(2007).

    14)� H.�Konishi,�T.�Minato,�T.�Abe�and�Z.�Ogumi,� J. Electro-chem. Soc.,�164,�A3702A3708(2017).

    15)� T.� Minato,� Y.� Araki,� K.� Umeda,� T.� Yamanaka,� K.-i.�

    Okazaki,�H.�Onishi,�T.�Abe�and�Z.�Ogumi,�J. Chem. Phys.,�147,�124701(2017).

    16)� H.�Konishi,�T.�Minato,�T.�Abe�and�Z.�Ogumi,� J. Electro-anal. Chem.,�806,�82-87(2017).

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    18)� H.�Konishi,�T.�Minato,�T.�Abe� and�Z.�Ogumi,�Chemistry Select,�2,�3504-3510(2017).

    19)� H.� Konishi,� T.� Minato,� T.� Abe� and� Z.� Ogumi,� J. Appl. Electrochem.,�48,�1205-1211(2018).

    20)� H.�Konishi,�A.�C.�Kucuk,�T.�Minato,�T.�Abe�and�Z.�Ogumi,�J. Electroanal. Chem.,�839,�173-176(2019).

    21)� H.�Konishi,�T.�Minato,�T.�Abe�and�Z.�Ogumi,� J. Electro-anal. Chem.,�826,�60-64(2018).

    22)� H.� Konishi,� T.� Minato,� T.� Abe� and� Z.� Ogumi,� Mater. Chem. Phys.,�226,�1-5(2019).

    23)� H.�Konishi,�T.�Minato,�T.�Abe� and�Z.�Ogumi,�Chemistry Select,�4,�5984-5987(2019).

    24)� H.�Konishi,�T.�Minato,�T.�Abe� and�Z.�Ogumi,�Chemistry Letters,�47,�1346-1349(2018).

    25)� H.� Konishi,� T.� Minato,� T.� Abe� and� Z.� Ogumi,� J. Phys. Chem. C,�123,�10246-10252(2019).

    26)� A.� C.� Kucuk,� T.� Minato,� T.� Yamanaka� and� T.� Abe,� J. Mater. Chem. A,�7,�8559-8567(2019).

    27)� V.� K.� Davis,� C.� M.� Bates,� K.� Omichi,� B.� M.� Savoie,� N.�Momčilović,�Q.�Xu,�W.�J.�Wolf,�M.�A.�Webb,�K.�J.�Billings,�N.�H.�Chou,�S.�Alayoglu,�R.�K.�McKenney,�I.�M.�Darolles,�N.�G.�Mair,� A.� Hightower,� D.� Rosenberg,� M.� Ahmed,� C.� J.�Brooks,�T.�F.�Miller,�R.�H.�Grubbs�and�S.�C.�Jones,�Science,�362,�1144-1148(2018).

    28)� K.� Okazaki,� Y.� Uchimoto,� T.� Abe� and� Z.� Ogumi,� ACS Energy Lett.,�2,�1460-1464(2017).

    29)� F.�Gschwind,�Z.�Zhao-Karger�and�M.�Fichtner,�J. Mater. Chem. A,�2,�13746(2014).

    30)� T.� Yamanaka,� H.� Nakamoto,� T.� Abe,� K.� Nishio� and� Z.�Ogumi,�ACS Appl. Energy Mater.,�25,�30923097(2019).

    31)� T.�Yamanaka,�T.�Abe,�K.�Nishio�and�Z.�Ogumi,�J. Electro-chem. Soc.,�166,�A635A640(2019).

    32)� I.�Mohammad,�R.�Witter,�M.�Fichtner�and�M.�A.�Reddy,�ACS Appl. Mater. Interf.,�1,�4766(2018).

    33)� I.�Mohammad,�R.�Witter,�M.�Fichtner�and�M.�A.�Reddy,�ACS Appl. Ener. Mater.,�1,�4766(2019).

    筆 者 紹 介

    湊 丈俊(みなと たけとし) 京都大学産官学連携本部特定准教授.

    [連絡先] 〒 615-8530 京都府京都市西京区京都大学桂E-mail:[email protected]

    小西 宏明(こにし ひろあき) (株)日立製作所電動機材料研究部研究員.

    [連絡先] 〒 319-1292 茨城県日立市大みか町 7-1-1E-mail:[email protected]

    Asuman CELIK KUCUK(アスマン セリック クチュク) 京都大学産官学連携本部研究員.

    [連絡先] 〒 615-8530 京都府京都市西京区京都大学桂E-mail:[email protected]

    安部 武志(あべ たけし) 京都大学大学院地球環境学堂教授.

    [連絡先] 〒 615-8510 京都府京都市西京区京都大学桂E-mail:[email protected]

    小久見 善八(おぐみ ぜんぱち) 京都大学産官学連携本部特任教授.

    [連絡先] 〒 611-0011 京都府宇治市五ヶ庄E-mail:[email protected]