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Title ガボン南部バボンゴ・ピグミーの社会変容と民族関係に ......―548―...
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Title ガボン南部バボンゴ・ピグミーの社会変容と民族関係に関する人類学的研究( Abstract_要旨 )
Author(s) 松浦, 直毅
Citation Kyoto University (京都大学)
Issue Date 2008-03-24
URL http://hdl.handle.net/2433/136934
Right
Type Thesis or Dissertation
Textversion none
Kyoto University
―547―
【211】
氏 名 松まつ
浦うら
直なお
毅き
学位(専攻分野) 博 士 (理 学)
学 位 記 番 号 理 博 第 3300 号
学位授与の日付 平 成 20 年 3 月 24 日
学位授与の要件 学 位 規 則 第 4 条 第 1 項 該 当
研究科・専攻 理 学 研 究 科 生 物 科 学 専 攻
学位論文題目 ガボン南部バボンゴ・ピグミーの社会変容と民族関係に関する人類学的研究
(主 査)論文調査委員 教 授 山 極 壽 一 教 授 今 福 道 夫 准教授 中 川 尚 史
論 文 内 容 の 要 旨
本研究は,アフリカ熱帯林の狩猟採集民バボンゴ・ピグミーと近隣農耕民が,これまでに指摘されてきた狩猟採集民と農
耕民の不平等な関係とは異なり,社会的な格差が小さく民族境界があいまいな関係を築いていることを明らかにしたもので
ある。
主論文1では,これまでほとんど報告がなかったガボン共和国のピグミー系狩猟採集民の分布と居住様式を報告するとと
もに,ガボン南部に暮らすバボンゴの日常活動と社会関係の概要をまとめた。バボンゴは,自立的に営む農耕によって食事
の大半を占める農作物を獲得し,ほとんどの日を定住集落で過ごしていることが明らかになった。また,バボンゴは近隣農
耕民マサンゴと同じ村に混住していること,クランや儀礼などの社会制度を共有していること,バボンゴとマサンゴの間で
高い割合で通婚がみられ,しかも双方向的であることが明らかになった。このことから,バボンゴは著しく定住化が進んで
いるとともに,マサンゴとの社会的な格差が小さくなっている可能性を指摘した。
主論文2では,バボンゴとマサンゴの間で共有されている儀礼に注目して,儀礼における両者の関係を分析した。バボン
ゴとマサンゴの儀礼への参加者数が均等であること,儀礼において重要な役割を双方が担っていること,儀礼の規範を両者
が共有していることが明らかになった。このことから,社会的な格差が小さいというバボンゴとマサンゴの関係が,儀礼の
過程にも見出されることを指摘した。
主論文3では,基本的な日常活動であるとともに社会関係を反映する活動でもある訪問活動に注目し,同じピグミー系狩
猟採集民であるカメルーン南東部のバカ・ピグミーとバボンゴとを比較した。バカと農耕民はお互いの集落を訪問して1泊
以上滞在することはないがバボンゴとマサンゴは相互に訪問しあっていること,バボンゴはバカに比べて都市への訪問経験
が豊富であることが明らかになった。このことから,バボンゴとマサンゴの関係は,境界が明瞭で不平等なバカと農耕民の
関係とは異なっていることを指摘するとともに,このような民族関係の相違は,両者を取り巻く政治,経済的な状況の相違
によって説明されることを示した。
主論文4では,バボンゴとマサンゴの民族関係を個人間,家族間関係の視点から分析するために通婚に注目し,婚姻や家
族に関する社会制度を検討するとともに,バボンゴとマサンゴの通婚の具体的な4つの事例を分析した。マサンゴ起源で現
在はバボンゴとマサンゴの間で共有されている母系夫方居住を基本とした社会制度においては,父系母系の双方に幅広いネ
ットワークが形成される一方で,権威は集中しにくく社会的な格差が生じにくいことが明らかになった。また,通婚の事例
から,婚出した女性は婚出後も親族との結びつきを保っていること,子どもは父方だけでなく母方の親族とも親密な関係に
あること,婚姻の当事者だけでなくその親族の間にも関係が築かれることが明らかになった。このことから,社会的な格差
が生じにくい特徴をもったマサンゴの社会制度をバボンゴが受容しマサンゴとの間で共有してきたこと,そのような社会制
度のもとで個人間,家族間を結びつける通婚が起こってきたことでバボンゴとマサンゴの社会的な格差は小さくなり,両者
の民族境界があいまいになってきたことを指摘した。
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本研究では,これまで民族関係を扱った研究ではあまり行われてこなかった行動の詳細な観察と記録,定量データの分析と
いう生態学,行動学的な手法を用い,狩猟採集民が受動的に差別されるだけでなく,社会的な状況に柔軟に対応して主体的
に民族関係を形成していることを明らかにした。
論 文 審 査 の 結 果 の 要 旨
アフリカの狩猟採集民は平等主義的な社会関係を保ち,近年にいたるまで父系で結ばれた家族からなる小集団で移動生活
を送ってきたことが知られている。その多くは近隣の農耕民と密接な関係を保っており,農耕民との間に社会的な格差があ
ると報告されてきた。これらの狩猟採集民を抱える国々では,近年彼らの定住化を推進し,国民として主流社会に統合する
政策を推進しているが,そうした政策は周辺の農耕民との間に歴然とした社会的格差があるために難航しているのが現状で
ある。ただ,この格差が狩猟採集民の生業様式や文化,あるいは周辺の農耕民との相互関係に見られる,どのような特徴に
由来するものであるのか,まだ具体的な資料から論じられた研究はほとんどない。
申請者は,ガボン共和国でバボンゴと呼ばれるピグミー系の狩猟採集民のもとで調査を行い,彼らがすでに農耕に大きく
依存した定住生活を送っており,近隣の農耕民と対等な社会関係を築いていることを発見した。そこで,こうした変化が起
こったプロセスを分析し,対等な社会関係が生じた理由について生態人類学的な検討を行った。
主論文1では,狩猟採集民バボンゴの主食と副食の採取方法,1日の活動時間割合,人々の移動様式などについて直接観
察による資料を収集し,それをもとに彼らが農耕に大きく依存した定住生活を送ってはいるものの,頻繁に場所を変えたり,
離れて暮らす親族を訪問するなど,移動生活をしてきた狩猟採集民の特徴を残していることが明らかになった。主論文2で
は,バボンゴとその近隣に住む農耕民マサンゴの間で共通の儀礼が営まれていることに注目し,自らその結社の一員となる
儀礼を体験して,その儀礼の役割がどのように分担されているかを克明に調べた。その結果,儀礼の重要な役割をバボンゴ
とマサンゴが対等に分担していることが判明した。主論文3では,バボンゴとマサンゴの相互の訪問パターンを,農耕民に
よる差別が顕著なカメルーンの狩猟採集民バカと農耕民バンガンドの訪問パターンと比較し,政治経済的な条件がバボンゴ
の移動性の高さと双方向的な訪問を促進していることを明らかにした。主論文4では,バボンゴとマサンゴ間の訪問と通婚
を具体的事例から検討し,両者がともに母系による社会関係を重視しつつも夫方居住婚の居住形態をとることが,両者の間
に双方向的な通婚関係をもたらしていることを示唆した。これらの結果に基づき,申請者はバボンゴとマサンゴの社会的格
差が,相互の訪問や通婚によって減じられ,対等な民族間関係を支える大きな要因となっていることを具体的に示した。こ
れらの指摘は他のピグミー系狩猟採集民では報告されていない特徴であり,狩猟採集社会の変化と民族間関係の理解に関し
て新たな知見を加えるものと評価できる。
以上のように申請者は,これまで聞き込みやアンケートによって調べられていた狩猟採集民と農耕民の社会関係を直接観
察によって定量化し,その対等な関係を行動様式から生態人類学的に分析することに成功した。これは画期的な成果といっ
てよく,人類学に新たな可能性を開く業績だと高く評価できる。まだ分析が不十分なところや,他の狩猟採集民との慎重な
比較が必要と思われる箇所も見受けられるが,今後これらの成果を活用して新しい発見を導くことができると判断された。
よって本論文は博士(理学)の学位論文として価値あるものと認める。なお,論文内容とそれに関連した分野について口頭
試問を行った結果,合格と認めた。