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Title 原子間力顕微鏡を用いた有機半導体グレイン/電極界面 の局所電気特性評価( Dissertation_全文 ) Author(s) 木村, 知玄 Citation 京都大学 Issue Date 2016-03-23 URL https://doi.org/10.14989/doctor.k19715 Right 許諾条件により本文は2017-03-23に公開 Type Thesis or Dissertation Textversion ETD Kyoto University

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Title 原子間力顕微鏡を用いた有機半導体グレイン電極界面の局所電気特性評価( Dissertation_全文 )

Author(s) 木村 知玄

Citation 京都大学

Issue Date 2016-03-23

URL httpsdoiorg1014989doctork19715

Right 許諾条件により本文は2017-03-23に公開

Type Thesis or Dissertation

Textversion ETD

Kyoto University

原子間力顕微鏡を用いた有機半導体 グレイン電極界面の局所電気特性評価

木村 知玄

2016年

原子間力顕微鏡を用いた有機半導体グレイン電極界面の局所電気特性評価

木村 知玄

2016年

i

目次

第 1章 序論 1

11 研究背景 1

111 有機分子エレクトロニクス 1

112 有機トランジスタの進展 2

113 金属ndash有機界面物性 3

114 有機材料物性評価と走査プローブ顕微鏡技術 5

12 研究目的 6

13 本論文の構成 6

第 2章 原子間力顕微鏡の基礎 9

21 走査型プローブ顕微鏡 9

22 原子間力顕微鏡 (AFM) 10

23 AFMの走査方式 12

24 AFMの動作モード 14

241 Static-mode (コンタクトモード) 14

242 Dynamic-mode 15

243 振幅変調方式 AFM (AM-AFM) 16

244 周波数変調方式 AFM (FM-AFM) 18

25 AFMの電流検出応用 18

251 導電性 AFM (c-AFM) 19

252 点接触電流イメージング AFM (PCI-AFM) 19

26 AFMの静電気力検出応用 20

261 静電気力顕微鏡 (EFM) 20

262 ケルビンプローブ原子間力顕微鏡 (KFM) 21

27 本章のまとめ 22

第 3章 AFM電流測定法を用いた有機グレインの局所電気特性評価 23

31 OFET評価に適した電流測定法の検討 23

311 PCI-AFMの真空動作化 (Q値制御法) 24

312 接触状態の検証 26

32 マルチグレイン有機薄膜の複数雰囲気中測定 29

ii 目次

321 測定試料 29

322 装置構成 31

323 大気中 PCI-AFM評価 31

324 真空中 PCI-AFM評価および雰囲気比較 33

33 単一微小グレイン OFETの特性評価 36

331 Point-by-point動作時間間隔の自由化 36

332 ペンタセン微結晶上の PCI-AFMライン測定 38

333 抵抗の距離依存性の理論数値的検討 39

334 電極近傍の電気伝導特性 44

34 AFMによる接触電流測定の問題点 45

35 本章のまとめ 46

第 4章 新規局所インピーダンス評価法の開発と金属―有機界面物性の評価 47

41 走査インピーダンス顕微鏡 (SIM) 47

42 周波数変調走査インピーダンス顕微鏡 (FM-SIM)の開発 48

421 FM-SIMの原理 49

422 OFETにおける FM-SIM応答の妥当性 52

423 局所インピーダンスの解析 55

43 ペンタセングレイン上の局所インピーダンス評価 59

431 単一グレイン上の周波数依存評価 59

432 電極ndashグレイン界面インピーダンスの一般性 61

433 キャリア蓄積による電極ndashグレイン界面物性変化 62

44 電極表面処理による OFET特性への直接影響評価 65

441 電極表面処理および試料作製 65

442 電気特性評価 66

443 FM-SIMによる電極ndashDNTT界面局所電気特性評価 68

45 本章のまとめ 74

第 5章 時間分解測定による有機グレイン中のキャリアダイナミクス評価 77

51 時間分解 EFM (TR-EFM) 77

511 TR-EFMの動作 78

512 妥当性検証 79

52 有機グレインのキャリアダイナミクス評価 84

521 単一グレインの時間分解パルス電圧応答 85

522 比例係数補正と電圧依存界面電気特性 90

53 単一グレインのチャネル形成評価 95

531 TR-EFMFM-SIM同時測定法 95

532 グレイン依存性と TR-EFMSIM対応関係 96

533 バイアス分光による導通領域変調評価 101

54 本章のまとめ 105

iii

第 6章 結論 107

61 総括 107

62 今後の展望 108

付録 A 静電気力顕微鏡の検出モード比較 111

付録 B FM-SIMの正規化アドミタンス評価の補足 115

付録 C 有機半導体グレイン境界のインピーダンス評価 119

研究業績 123

謝辞 127

参考文献 129

索引 136

1

第 1章

序論

11 研究背景111 有機分子エレクトロニクス現在われわれはたくさんの電子情報機器に囲まれて生活をしているテレビやスマートフォンのような直接的能動的に使用するものだけでなく物販医療交通といった生活のあらゆる場面で電子情報機器はわれわれの営みの中核をなしているこうした電子機器はわれわれに便利な暮らしをもたらすと同時にそれなしでは生活が非常に困難な社会となってきたこのような社会変化をもたらした数十年間のエレクトロニクスの進歩の大部分はSiを材料として用いた無機半導体デバイスの進歩によるものである1965年に提示された集積回路上のトランジスタ数が 18ヶ月ごとに倍になる ldquoMoorersquos lawrdquo [1]を指標として半導体の高集積化と微細化が進み現在ではプロセスルールが 14 nm のプロセッサが市販化されているまでに至った [2]一方でトランジスタ数や微細化以外の軸での「高機能化」も取り組まれている2007 年 12 月に行われた ITRS Public

Conference 2007 (セミコンジャパン 2008内)では新技術も含めたこれまでのスケーリング則を踏襲する ldquoMore Moorerdquoに加えてデバイスの多機能化による価値向上を目指す ldquoMore than Moorerdquo

という新たな軸が明示された [3]More than Moore の軸ではアナログ信号との融和センサの集積バイオといった技術が見据えられておりldquoInteracting with people and environmentrdquoと述べられていることからも人や周囲との繋がりをより重視していくと考えられる [4]ldquoモノのインターネット (Internet of Things IoT)rdquoが進められるようにUbiquitousな電子化情報化に向けたデバイス開発が望まれる中でMore than Mooreに向けた新規エレクトロニクス分野の一つとして有機分子エレクトロニクスが期待されている有機分子エレクトロニクスは有機分子を電気的光学的機能材料として用いた電子デバイスの創成を目指す研究分野である有機材料のもつプラスチックのような軽量性可撓性を活かし形の任意性や意匠性あるデバイス軽量基板を用いた設置コストの小さなデバイス [5]ヒトに直接装着できるウェアラブルデバイスへの展開が期待されている [6]また生体分子や DNAとの親和性からバイオセンサといったバイオエレクトロニクスとの共通項や有機分子の自己組織性を利用した新規プロセスやデバイスも考えられているこのように電気だけでなく化学生物等との分野融合的な取り組みにより有機エレクトロニクスは応用物理学会の該当分野における学会発表件数でも 2014年秋季で 500件を超えるまでに成長した一大分野となっている [7]

2 第 1章 序論

VD

VG

DrainOrganic semiconductor

Source

GateInsulator

図 11 有機電界効果トランジスタ (OFET)の模式図p型有機半導体 (organic semiconductor)を用いた場合VG lt 0 Vのゲートバイアス印加でソースndashドレイン間電流が増加する p型 OFETとなる

有機エレクトロニクスの研究は1977 年の Shirakawa らによる導電性高分子の作製に端を発する [8]当時高分子は絶縁体とみなされていたがポリアセチレンにハロゲンをドープすることで元の導電率から 8 桁以上改善させ導電体と知られる電荷移動金属錯体 (TTF)(TCNQ) の導電率10Ωminus1cmminus1 を上回る導電率を持つポリマー膜を作製した以降の研究で現在のエレクトロニクスで活躍するデバイスのアナロジーである有機電界効果トランジスタ (Organic field-effect transistor

OFET)有機発光ダイオード (Organic light-emitting diode OLED)有機太陽電池 (Organic photo

voltaic cell OPVC)が開発され現在の有機エレクトロニクス研究の中核を成している特に OLED

に関しては有機材料自身が発光することで液晶ディスプレイに比べてコントラスト比が向上するというメリットもあり有機 ELディスプレイとして 2007年には小型テレビが [9]現在ではスマートフォンやフル HDテレビが市販されるに至っている [10]

112 有機トランジスタの進展OFETは図 11のようにドレインソースゲートの 3電極と絶縁膜を隔てたゲート電極の向かいである有機半導体層から構成されており有機エレクトロニクスにおけるスイッチング電流制御を行う能動素子として位置づけれられる無機半導体の基本素子である MOSFET (Metal-oxide-

semiconductor FET)と異なり半導体層の多数キャリアの注入による蓄積層がチャネルとなるアモルファスシリコン (a-Si)で広く用いられる薄膜トランジスタ (Thin film transistor TFT)との動作原理および構造のアナロジーから有機薄膜トランジスタ (Organic TFT OTFT)とも呼ばれる

1986年に高分子を用いた OFETが最初1に報告され [11]低分子材料では 1989年にフランス国立研究所の Horowitzらによりその動作が報告された [12]これら報告ではそれぞれチオフェンと呼ばれる分子の高分子オリゴマーを用いているこれらポリオリゴチオフェンは単結合二重結合が交互に連なる分子であり先に述べたポリアセチレンも含めて π共役系分子 (ポリマー)と呼ばれる以降π共役系分子を中心に OFET研究は進展していくこととなる

OFET に関する研究で最初に注力されていた点は (電界効果) 移動度の向上であるこれは例えばディスプレイの画素の駆動に必要な OFET の面積の削減やデバイス駆動の定電圧化デバイス駆動熱の低減という観点から実用的なデバイスに向けて必要となる1989 年の報告で1 times 10minus3 cm2(Vs) であった移動度は表面処理や真空蒸着におけるプロセス条件の改善により

1 出力特性に飽和特性が現れるものとしては最初

11 研究背景 3

1997年にペンタセンを用いた OFETで a-Si TFTの目安である 1 cm2(Vs)を超える移動度を達成している [13]さらに絶縁膜の影響を考慮することや単結晶の作製により2004年には 20 cm2(Vs)

を [14]2007年には 40 cm2(Vs)を達成している [15]しかしこれら高移動度の OFETの報告は実用化には不向きな昇華生成により作製した単結晶を用いていること後述の接触抵抗の影響を排除した材料本来の移動度を抽出したことによる結果のため実用的な作製法での実効的移動度向上を目指した研究が続けられているこういった OFET の性能向上に伴い別の観点からの研究も増加してきた一つは有機エレクトロニクスの特長といえる塗布型デバイスの作製に関する研究である塗布型の始まりは高分子半導体であるが01 cm2(Vs)程度という低移動度が問題であった [16]高移動度化のために研究された可溶性の低分子有機半導体材料の中で有名なものとしてアニールなどの追加の加熱プロセスが不要な TIPS (Triisopropyl-silylethynyl)ペンタセンがある [17 18]さらに近年の研究で移動度10 cm2(Vs) を超える高結晶性な塗布型 OFET も報告されており現在盛んに研究されている内容の一つである [19]一方OFETを回路の一部として組み込む例も現れてきたエレクトロニクスの基本単位である CMOS (Complementary MOS-FET)回路を模倣しpn両方の OFETを用いたインバータ動作 [20] やインバータを直列に接続したリングオシレータによる発振動作の実証がある [2122]また可撓性のある OFETアレイを用いてメモリやセンサといったデバイス応用を見据えた研究が着実に進められている [6 23 24]

113 金属ndash有機界面物性これまでの研究で OFETの進展が見られる一方それに伴いいくつかの問題点が実用化を阻んでいる一点目として高結晶性高移動度材料の開発が進むことで有機薄膜内部の抵抗は低減するが相対的に接触抵抗の影響が顕著に現れるようになる [19]これはOFETの集積化に必要な微細化によっても顕著になる問題である二点目として素子のばらつきの問題がある特に高移動度や高結晶性材料を用いた OFETでは接触抵抗のばらつきが移動度のばらつきとして顕著に現れるバンク構造やディスペンサによるプロセスの画一化によるばらつき低減に関する研究も行われているものの依然解決には至っていない [25]このような接触抵抗つまり金属ndash有機界面における電気特性が現在 OFETのデバイス性能向上や制御の障害となっている以下ではこれまで研究された金属ndash有機界面物性やその評価法について述べる金属ndash有機界面における問題はモルフォロジーによる影響と電子物性による影響に大きく二分される一般的な製膜方法である真空蒸着法で作製した有機薄膜は通常マルチグレイン (マルチドメイン)薄膜2と呼ばれ微小な島状の有機薄膜である「グレイン」が多数接続したモルフォロジーを成すグレインサイズは蒸着条件 [26 27]酸化絶縁膜表面のオゾン処理 [28]絶縁膜材料や表面の自己組織化単分子膜 (Self-assembled monolayer SAM) 処理 [29 30] によって変化するが一般にサブ micromから数 micromの範囲にあるこのグレイン境界はチャネル長が数 10 micromから数 100 microm

程度であることを鑑みるとチャネル中を電流が流れる際に多数のグレイン境界を通過することに

2 有機薄膜においては ldquoグレインrdquoと ldquoドメインrdquoおよびその境界の言葉の定義が曖昧であり人により用法が異なる有機薄膜中の島状の区画は一般にグレインと呼ばれるが単分子層であっても単結晶ではなく結晶方位が異なる場合がありそのときのそれぞれの区画をドメインと呼ぶことがある本論文では少なくとも表面形状像から推測される溝で区切られた区画をグレインと呼びその境界をグレイン境界とする

4 第 1章 序論

なるグレイン境界は多結晶質の無機半導体とのアナロジーからキャリア輸送の阻害要因として考えられることが多いそのため一般にグレインサイズが大きいほどつまりチャネル中にグレイン境界が少ないほど移動度が向上するといわれその観点に基づく移動度モデルが提唱されてきた [26 27 31 32]ここで電極上や電極付近ではチャネル上と異なるモルフォロジーを呈することが知られており電極付近では小さなグレインを形成することにより低移動度となり等価的に接触抵抗が増加することが金属ndash有機界面における一点目の問題である一方有機半導体と金属のエネルギー準位の関係という電子物性の影響も長らく議論されてきた無機半導体においては金属ndash半導体界面は両者のフェルミ準位が一致するように真空準位に差が生じる Schottky則が基本となるが有機半導体はその限りではない例えば p型 (ホール伝導型)の場合有機半導体の最高被占分子軌道 (Highest occupied molecular orbital HOMO)準位 [33]を無機半導体の価電子帯と対応させ金属のフェルミ準位と有機半導体の HOMO準位が非整合なときにキャリア輸送阻害となるという一般的な理解を元に議論されるこのように両者の真空準位を一致させる方法を ldquoSchottkyndashMott 則rdquo といいTang と Slyke による正孔注入層を挿入した実用的な OLED

が報告されて以降 [34]有機エレクトロニクス全般で SchottkyndashMott則に基づく界面エンジニアリングが行われてきたこういった金属ndash有機界面の電子準位の評価には光電子分光法やその派生手法が用いられこれまで様々な金属電極と有機薄膜の組み合わせや [35ndash37]間に別の材料を挟むヘテロ接合での電子準位 [38]が評価されてきたこれら研究により金属ndash有機界面は SchottkyndashMott

則のような単純な関係ではなく金属ndash有機間の電荷の授受有機分子のダイポールやピロー効果によって生じる真空準位シフトにより有機側のエネルギー準位にずれが生じることが明らかとなった特に有機側の界面準位などにより電極の仕事関数に関わらずフェルミ準位ndashHOMO準位差が一定となるように真空準位シフトが起こる場合を ldquoFermi-level pinning (フェルミ準位のピン留め効果)rdquo といい [39]SchottkyndashMott 則に基づく界面エンジニアリングは効果をなさないこのように金属ndash有機界面の電子物性は複雑さを極めており金属ndash有機界面における二点目の問題となる以上のような金属ndash有機界面物性のため接触抵抗は電極材料 [40ndash42] や電極表面処理 [43ndash45]デバイス構造 [46 47] によっても異なることが知られており接触抵抗の変化により実効的な移動度つまり特性変化が引き起こされるさらに接触抵抗が単なる抵抗ではなくゲートバイアス依存 [41 48]や低バイアス領域や短チャネル系では非線形性 [49ndash51]が現れることが確認されており接触抵抗が単純な抵抗としてはモデル化できないことを示唆している以上のようにデバイス特性と上述の金属ndash有機界面物性がどのように関わるかについては現在も議論が続いている金属ndash有機界面の電気特性の評価にはOFETに限らず様々な構造において様々な手法がなされてきた (表 11)接触抵抗とチャネル特性を分離する基本的な手法として四端子法および Transfer line

methodまたは Transition line method (TLM)が知られている [52]四端子法は電流を流す 2端子に加え電圧測定用の 2端子を用いることで微小抵抗材料の導電率測定を行う手法であるがOFETではゲート電圧依存のソースドレイン界面の接触抵抗の測定に用いられる [415354]しかしチャネル上の電位勾配が均一でない場合は正しい値とならないTLMはチャネル長の異なる複数のデバイスを用いて総抵抗の変化から接触抵抗とチャネル領域の移動度を分離する手法であり [46 48 55]フィッティング点数が多い面で四端子法よりもばらつきの影響は抑えられるしかしソースドレイン界面の接触抵抗を分離できないことに加え短チャネルでは TLMで求まる接触抵抗が実際よりも大きく見積もられるという問題がある [56]

11 研究背景 5

表 11 OFETや有機薄膜の電気特性測定に用いられるマクロ薄膜での手法と対応する走査プローブ技術

評価対象 マクロ手法 走査プローブ技術

総抵抗 電流ndash電圧 (IndashV)測定導電性 AFM (c-AFM)

デュアルプローブ AFM (DP-AFM)

局所抵抗の分離評価4端子測定 ケルビンプローブ原子間力顕微鏡 (KFM)

Transition line method (TLM) mdash

インピーダンス インピーダンス分光 (IS) mdash

キャリア注入容量ndash電圧 (CndashV)測定 mdash

変位電流測定 (DCM) mdash

キャリア注入輸送特性という観点では容量ndash電圧 (CndashV) 測定や変位電流測定 (Displacement

current measurement DCM)インピーダンス分光といった交流特性を利用した評価が有用であるCndashV 測定は金属ndash絶縁膜ndash半導体 (Metal-insulator-semiconductor MIS)接合の試料においてゲートバイアスを掃引しながら容量を測定し注入が始まる電位が評価できると共に周波数による特性変化から金属ndash有機界面の接触抵抗に関しても議論が可能な手法である [57]一方DCMは CndashV 測定と同じMIS構造で三角波のバイアス電圧を印加することで変位電流の大きさから有機半導体へのキャリア注入状態の変化を評価可能である [58]これら 2手法はMIS構造に基づく評価手法であるがOFETに適用することで注入電圧 [59 60]や接触インピーダンス [61]やチャネル上のトラップ [62]について評価した例もある最後にインピーダンス分光は交流バイアスに対する複素電流応答の周波数依存性を測定することで積層デバイスの回路インピーダンスの同定 [63]や OLEDの接触インピーダンス評価に利用できる [64]金属ndash有機界面物性は様々な側面を孕んでいるが以上で述べた評価法は基本的に大面積な電極および有機薄膜を使用した評価である一方有機薄膜が基本的にマルチグレイン薄膜であることを鑑みると電極近傍のモルフォロジー変化やグレイン境界の影響を含んでしまう恐れがあり真の金属ndash有機界面物性評価が可能とは言いがたいよって今後 OFETの進展に向けて電子物性とモルフォロジーの影響を弁別して評価するためにldquo特定のrdquoグレインに注目した評価手法が必要となる

114 有機材料物性評価と走査プローブ顕微鏡技術原子間力顕微鏡 (Atomic force microscopy AFM)はカンチレバーと呼ばれる先鋭な微小探針を有すプローブを用いて表面形状を測定する手法でありナノスケール領域での表面分析手法の一つとして広く用いられている [65]AFMの特徴として絶縁膜や低導電性材料においても評価可能であるという走査電子顕微鏡や走査トンネル顕微鏡 (Scanning tunneling microscopy STM) に対する優位性導電性プローブを用いることで電気的刺激応答評価が可能となることによる多彩な応用可能性の 2点があげられる特に後者に関しては有機半導体に対するナノスケールの ldquoテスタrdquoとして用いることができることから多くの研究がなされてきたこれらの研究はスケールの観点から有機薄膜やデバイスにおける評価とグレインスケールや単分子膜における評価に大きく二分できる有機薄膜やデバイスにおいてはケルビンプローブ原子間力顕微鏡 (Kelvin-probe force microscopy

KFM)を用いた表面電位評価が有効であるOFETにバイアスを印加させ動作している状態での

6 第 1章 序論

チャネル上の電位分布電位勾配を測定できマクロ薄膜での評価手法である 4端子測定をナノスケールチャネル全域評価へ拡張したものとみなせるKFMを用いることで 4端子測定ではアクセス不可能な OFETの電極ndash有機界面の最近傍にアクセスできる上に [40]チャネル中のグレイン境界における電圧勾配も可視化可能である [47 66]近年ではOFETの有機薄膜ndashゲート電極方向の断面における電位像取得も達成されており [67]OFETの局所制限要因を評価する有用な手法であるといえる一方でKFMによる OFETの電位評価では定性的なグレイン境界の影響は見えるが一般にチャネル中のグレイン数が多いため定量的な評価は困難である対してグレインスケールでは導電性 AFM (conductive-AFM c-AFM)を用いた電流測定が報告されている1999年に KelleyFrisbieによって Au電極に接続した絶縁膜上の無置換オリゴチオフェン 6量体 (α-6T)グレインに AFMの導電性探針を接触させ単一グレインの IndashV 特性の測定に成功している [68]またゲートバイアスを印加した局所 OFET構造での測定やグレイン境界を跨ぐ測定も行われている [69 70]一方近年では電極に接続していない任意のグレインの電気特性評価ができる複数探針を有す AFMシステムの開発が盛んに行われてきた音叉型カンチレバーを用いることで 4本の探針を備えた AFMシステムではグラフェンの導電性の 4端子測定を達成している [71]また従来のカンチレバーを用いることで音叉型では困難な接触力制御を可能にした二探針 AFMシステムも報告されており [72 73]単一グレイン内 [74]や単一グレイン境界 [75]における電気特性測定が行われてきたここで大面積 (マクロ)な有機薄膜における電気特性の評価手法と走査プローブ技術とを比較すると表 11のようにまとめられるc-AFMや DP-AFMによっても電極間距離や位置と電気特性の関係についてもある程度議論ができるが位置精度や各測定の同一条件性の点で不十分といえマクロ測定の TLMに対応するより体系的なプローブ評価手法が必要と考えられるまた4端子測定と対応する KFMにより接触抵抗の評価が可能となるが界面の電子物性との関係に言及するには不十分であるインピーダンス分光や CndashV 測定のような交流電圧や経時応答を用いることでより深い物性の議論が可能になることが期待される

12 研究目的以上で述べたようにOFETの局所電気特性についてこれまでも様々な AFMの応用手法による評価が行われてきたが単一グレインスケールでの金属ndash有機界面物性評価には至っていないよって本研究では「真の金属ndash有機界面物性評価」を目指した AFMによる電極ndash単一グレイン界面電気特性測定手法の構築を研究目的として掲げるそのためにはデバイスレベルでは有用なマクロ薄膜での各種電気特性測定手法を活用し未だ試みられていない AFMとマクロ電気特性手法との組み合わせを通した新規手法についても模索するまた従来手法で問題となりうる電極付近のその他評価可能な局所電気特性についても理解を深めることとする

13 本論文の構成本論文は以下に示す 6章で構成されておりそれぞれの章には図 12で示す繋がりがある

第 1章 序章

13 本論文の構成 7

第 2章 原子間力顕微鏡の基礎本研究の主体となる AFMとこれまで用いられてきた応用手法技術に関して述べると共に従来手法を OFETの局所電気特性評価に用いる上での問題点や未だ試みられていない領域について言及する

第 3章 AFM電流測定法を用いた有機グレインの局所電気特性評価OFET測定に特化した AFMの電流測定応用手法の開発改善を行った結果を述べるまたその手法を用いて有機半導体であるペンタセングレイン上で測定することでグレイン境界や微小グレインといった局所電気特性の抽出を行う

第 4章 新規局所インピーダンス評価法の開発と金属ndash有機界面物性の評価新たに提案する OFET の局所インピーダンス評価のための AFM 応用手法について述べる電極ndash単一ペンタセングレイン界面の評価を通した新規手法の妥当性や物性について議論するまた応用として OFETの電極表面処理の有無による影響を電気特性モルフォロジーおよび本手法を用いた局所インピーダンスの観点から評価する

第 5章 時間分解測定による有機グレイン中のキャリアダイナミクス評価従来の AFM 電位評価法を時間分解測定に応用し単一有機半導体グレインにおけるキャリアの注入排出過程における電気特性評価を行う注入時蓄積時での電極ndash単一グレイン界面電気特性比較を行うとともに様々なキャリア蓄積状態での測定を通してチャネル形成過程を明らかにする

第 6章 結論本論文の総括および本論文を踏まえた今後の展開について述べる

8 第 1章 序論

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図 12 本論文の構成図

9

第 2章

原子間力顕微鏡の基礎

本章では本研究で用いた主たる測定手法である原子間力顕微鏡に関してその概要と基礎的な動作機構およびこれまでに開発されてきた応用手法について述べる

21 走査型プローブ顕微鏡走査型プローブ顕微鏡 (Scanning probe microscopy SPM) とはプローブ (Probe) と呼ばれる先端が鋭く尖った探針 (Tip)を試料表面近傍で走査することで試料表面の凹凸を数 micromから数 nmの分解能で測定する評価手法の総称であるまた基本となる SPMを応用して開発された表面形状以外の様々な電気的光学的機械的物性を測定する手法も広義には SPM と称す試料表面を走査せずに一点 (もしくは多点)で電圧や周波数といった他のパラメータを掃引して測定する場合もSPMと呼ぶかもしくは末尾を他の周波数分解測定に倣って「分光」(Spectroscopy)と付ける場合がある

SPM技術の発端は1982年に IBM Zurich研究所の Binnig Rohrerらによって発明された走査型トンネル顕微鏡 (Scanning tunneling microscopy STM)である [76]STMでは探針を試料表面から数 nmの高さまで近づけた際に探針ndash試料間に流れるトンネル電流を検出し試料の表面形状を取得する一方探針を試料表面近傍に近づけた際の探針ndash試料間に働く相互作用力を用いて表面形状を取得する手法を原子間力顕微鏡 (Atomic force microscopy AFM)と呼ぶSPM技術の中で表面形状を取得する手法はこの STMと AFMに大きく二分される

表面形状取得の概要 SPM技術における共通項として探針が試料表面を走査し探針ndash試料間距離を制御することが挙げられ探針走査機構 (スキャナ scanner)および探針ndash試料間距離制御機構が共通の構成要素となる図 21に一般的な SPMの概要図を示す1試料表面の走査および探針ndash

試料間距離を変えるための X Y Zの 3軸に動く微小移動機構を有し一般的に圧電体 (ピエゾ素子)

が用いられる図 21(a) のようにスキャナが探針に接続しているものをプローブスキャナと呼び図 21(b)のように試料台直下に位置するものをサンプルスキャナと呼ぶサンプルスキャナとして円筒状の圧電体を用いることからチューブスキャナとも呼ばれ試料に平行な 2軸および円筒上下方向それぞれに高電圧を印加することで X Y Zの 3軸方向に nmオーダの分解能で微小移動させる

1 以下試料表面を XY平面試料高さ方向を Z方向と呼ぶ

10 第 2章 原子間力顕微鏡の基礎

X

Scanner

Reference

Topography

Sample

Tip

Z

Y

+minus

Feedbackcontroller

Controlledvariable

(a) (b)

Z

YX X

Scanner

図 21 SPM における表面形状取得の概念図と構成要素(a) プローブスキャナを用いた場合の構成図(b)サンプルスキャナ (チューブスキャナ)の動作概念図

ことができるなお本研究では全て試料側を動かすサンプルスキャナにより走査測定を行っており特記がない限りスキャナと呼ぶ場合はサンプルスキャナのことを指すとするまた簡単のため「探針を試料に対して移動させる」ような動作を記述している場合はサンプルスキャナにより試料を逆方向に移動させているものとする次に探針ndash試料間距離は制御量 (STMにおけるトンネル電流AFMにおける探針ndash試料間相互作用力)を検出しフィードバック回路を用いて目標量に一致するように Z軸のスキャナ (Zスキャナ)に出力することで一定に保たれるこのとき試料高さの上下が Zスキャナへの出力値の増減に直接対応するためZスキャナへの出力値から試料の高さを得ることができ探針の走査により試料表面形状を得ることができる

22 原子間力顕微鏡 (AFM)

STM は試料表面構造をナノスケールで実空間観察が可能という画期的な手法であったがトンネル電流を検出しなくてはならないという原理的制約から絶縁体上での測定ができないという限界があったその後STMを発明した Binnigは探針の試料近接時に微小な力が働くことを見出しカンチレバー (Cantilever)と呼ばれる微小な片持ち梁の板ばね構造を持つ探針を用いた AFMを1986年に発表し絶縁体であるセラミック (Al2O3)表面のナノスケール構造観察に成功した [65]このとき開発された AFMは試料近接時に働く力により生ずるカンチレバーの変位を STMにより検出するという方式であり現在用いられている AFMに比べて複雑な機構やカンチレバーに高価な Au泊を用いていたしかし以降の研究で後に紹介する光てこ法を始めとする力検出方法や安価な Si製カンチレバーによりAFMは様々な分野に用いられるほどに広まっていくこととなる

AFMは表面形状のみならず先鋭な探針で試料の局所的な物性を測定できる手法として様々な応用手法が考案されてきたこれら AFMの応用手法として 2つの系統に分けることができる1つは表面形状に由来する力以外の相互作用力を検出し異なる物性を測定するというものこのカテゴリーとしては静電気力磁気力をそれぞれ検出する静電気力顕微鏡 (Electrostatic force microscopy

EFM)磁気力顕微鏡 (Magnetic force microscopy MFM)が有名であるもう一つは AFM中の外部からの刺激を力以外の方法で検出するものこちらは探針ndash試料間に印加した電圧に対して探針に流れる電流もしくは試料上の電極間を流れる電流をそれぞれ検出する導電性 AFM(conductive

22 原子間力顕微鏡 (AFM) 11

AFM c-AFM)や走査ゲート顕微鏡 (Scanning gate microscopy SGM)が当てはまる本研究で用いるいくつかの応用手法に関する詳細は後述する

AFMではSPMに共通する構成要素に加え探針ndash試料間に働く相互作用力を検出する力センサ系が重要となる以下では AFMにおける力検出に関わる原理技術について説明する

探針ndash試料間相互作用力 探針を試料表面近傍に近づけると探針や試料の材料や状態により様々な相互作用力が生じる原子間原子分子間などに働く van der Waals力 (vdW力)パウリの排他律に従い電子雲の重なりにより生じる斥力 (パウリ斥力)表面のダングリングボンドで生じる化学結合力接触電位差や電荷電気的ダイポールにより生じる静電気力などがあり基本的に AFMの名前の由来である原子間力はこれらの総称または総合したものと考えることができる本研究では静電気力は別に考慮し化学結合力を除いた vdW力およびパウリ斥力を探針ndash試料間に作用する原子間力と考える中性二原子間に働く相互作用を記述するポテンシャルとしてレナードジョーンズポテンシャルが知られておりその代表例として式 (21)で表される (612)-ポテンシャルがよく知られている

ULJ = 4ε[(σ

z

)12minus(σ

z

)6] (21)

但し二原子間距離を zポテンシャルの極小値を εポテンシャルが 0を通る距離を σとおいた(612)-ポテンシャルのうちzminus6 の項が vdW力に対応する引力を記述し中性二原子が互いに双極子モーメントを誘起し発生した相互作用エネルギーからminus6 乗の依存性を導出できる [77]次に探針ndash試料間に作用する力を考える際探針試料それぞれに有す多数の原子間の寄与を総合しなくてはならない探針を先端曲率半径 Rの放物曲面試料を 2次元平面と考えそれぞれの原子数密度 nとして系全体のポテンシャル Uts を式 (21)を用いて求めると探針ndash試料間に働く力Fts =

dUtsdz は

Fts(z) =23π2Rεn2σ4

[ 130

(σz

)8minus(σ

z

)2](22)

と記述される [78]Fts の値は正が斥力に負が引力に対応する典型値として R = 20 nm ε =

001 eV σ = 025 nm n = 50 times 1028 mminus3 としたこの曲線の概形を図 22に示す図 22から分かるように多数の原子が関わっているのにも関わらず探針ndash試料間距離が 1 nm以内に近づかないと相互作用力がかからないこのため非常に高い垂直分解能で形状評価が可能となりまた探針の一番先端に存在する 1個の原子と試料との間の力が探針にかかる力に関わるため探針の曲率半径よりも小さな構造を可視化できる

相互作用力の検出 (光てこ法) 微小な相互作用力の検出には22 節で述べたようにカンチレバーを用いるばね定数 k のカンチレバーに対し垂直方向に力 F がかかると変位 ∆z = Fk だけカンチレバーのたわみが生じる例えばばね定数 2 Nmのカンチレバーに対して 2 nNの力がかかる場合変位は 1 nm と非常に微小であり直接観測することは困難であるこのような微小なカンチレバーのたわみに対しこれまでピエゾ抵抗 [79]やチューニングフォーク (音叉型共振センサ) [80]による自己検出法光干渉法 [81]といった様々な検出方法が考案されてきた本研究ではカンチレバーの種類に依存せず装置構成が簡単な光てこ方式 [82]を用いた光てこ方式では図 23 のようにレーザーダイオード (Laser diode LD) からカンチレバーの背面にレーザを照射し反射した光を四分割フォトダイオード (Position sensitive photo diodedetector

12 第 2章 原子間力顕微鏡の基礎

-4

-2

0

2

4

0 02 04 06 08 1

Forc

e [n

N]

Distance [nm]

Attractive region

Repulsive region

図 22 (612)-ポテンシャルに従う探針ndash試料間相互作用力の距離依存性 (式 (22))1 nm以内でnNオーダの力が加わることが分かる力勾配の正負からそれぞれ引力 (attractive)領域斥力(repulsive) 領域に分けられる探針がどの領域の力を感じるかで式 (25) に示す励振特性がどう変わるかが異なる

PSPD) で受光するPSPD は検出部分が 4 つのフォトダイオードで構成されておりそれぞれのフォトダイオードからパワーに比例した電流を出力しプリアンプにより電圧値に変換されるこのとき上部 2 つ (A) と下部 2 つ (B) のフォトダイオードの出力差を vAminusB とおくとPSPD 上のレーザスポットの微小変位 ∆aに対して vAminusB は比例した電圧を出力することが分かる一方カンチレバーの長さを lカンチレバーから PSPDまでの距離を d とおくとカンチレバーのたわみ ∆z

に対しレーザスポット変位 ∆aは∆a =

2dl∆z (23)

と記述できる例としてl = 100 microm の長さのカンチレバーに対し距離 d = 10 mm を設定するとレーザスポットの変位はカンチレバーの変位に対し 100倍となるように手法名のとおり光に対する「てこ」として働く実際の実験においてはカンチレバーの変位量を測定するために ∆zに対する vAminusB の比例係数つまり感度 (Sensitivity単位 mVnm)の校正を行う同様にカンチレバーのねじれに対してもばね定数および変位を定義できPSPDの左側 2つ (C)

と右側 2つ (D)のフォトダイオードの出力差 vCminusD からねじれ変位を検出できるねじれ変位は摩擦力測定やひねり共振 (Torsional resonance)における発振に用いられる

23 AFMの走査方式AFMに限らずSPMでは探針を走査しながら様々な物性値を測定するそのとき探針の走査の方法によりいくつかの方式が存在する本節では走査方式を (a) 力一定モード (Constant force)(b)高さ一定モード (Constant height)(c)高さ変調モード(d) Line-by-line(e) Point-by-pointに大分して説明するそれぞれの走査方法の概略図を図 24に示す

23 AFMの走査方式 13

PSPD

Cantilever

LD

AC D

Bd

∆z l

∆a

図 23 光てこ法によるカンチレバーのたわみ検知の概要図レーザダイオード (LD) より照射したレーザがカンチレバーで反射しフォトダイオード (PSPD)で受光するこのときカンチレバーたわみ ∆zに比例したレーザスポット ∆aの変位が生じる

(a) Constant force

SampleTrack

1st2nd

Scan direction

(b) Constant height (c) Height modulation

(d) Line-by-line (e) Point-by-point

Change of another parameter at each point

図 24 AFM におけるそれぞれの走査方式の動作概略図(a) 力一定モード(b) 高さ一定モード(c)高さ変調モード(d) Line-by-line(e) Point-by-point

力一定モード 力一定モードは最も基本となる AFMの走査方式でありいわゆる「表面形状」取得および表面に沿った物性測定を行うために用いられる図 24(a)のように探針を走査しながら力2が一定になるように Zスキャナを制御する

高さ一定モード 高さ一定モードでは図 24(b)のように走査中 Zスキャナを一定値に固定する3力一定モードと異なりZスキャナのフィードバック制御が行われないためノイズによる不要な上下動やフィードバックの行き過ぎによるカンチレバーの試料への不意な衝突などが抑制されるため非常に繊細な測定が可能となる試料の高さ粗さが小さくかつドリフトの小さい超高真空のような系で主に用いられる高さ一定モードにおいて高さを変えながら複数枚の画像から 3次元 (3D)データを取得する方法も提案されている [83]本研究ではこのモードは使用しない

2 場合により別の物理量STMではトンネル電流を一定に制御するが試料の凹凸以外の情報も含まれるためSTM像は「真の」表面形状とは考えられないことが多い

3 ドリフト補正のためXY位置に対応する補正値を加えている場合もある

14 第 2章 原子間力顕微鏡の基礎

高さ変調モード 高さを変調する方式ではベースとなる AFM の方式や高さの変調方法や接触の利用によりいくつかの方法が存在している高さ一定モードを用いて 3D 分布データ取得する以外にも図 24(c)のように試料上の各点で高さを変化させて物理量を測定することで 3D分布データを取得することも考えられるこれは探針ndash試料間を変化させながら力を測定するForce curve

測定を全ての点で行ったものとも考えることができこのような方法により溶液中 [84]において力の 3D分布を可視化した報告があるまた試料との接触後も探針の高さを変化させることで接触後のたわみや吸着力を測定する

Jumping modeという方式もある [85]さらにこの上下動を数 kHzという早さで行い高速かつ多様な物性を同時に測定できる手法として PeakForce Tapping Rcopy が知られている [86]

Line-by-line AFMの走査は Fast scan方向へ往復走査後Slow scan方向へ 1分割値だけ移動しFast scan方向への往復走査を行うという動作を繰り返すこの際図 24(d)のように Fast scan方向の 1 走査 (1st scan) 終了後高さを変化させて 1st scan で取得した軌跡をたどる (2nd scan) ようにZスキャナを制御する方法を Line-by-lineと呼び特に 2nd scanで 1st scanよりも試料から離れる場合はリフトモードとも呼ばれるライン毎の時分割による複数データ取得とみなすこともできるリフトモードでは距離による力の影響の違いから2nd scanでは静電気力 [47]や磁気力といった通常の力制御時とは異なる力を検出するために用いられている本研究ではこの方式は用いない

Point-by-point Point-by-point法は力一定モードのように単に試料表面を走査するのみならず図24(e) で示すように各点で力一定モードとバイアス印加掃引や力変調といったパラメータ変更を交互に行い表面形状と同時に複数の物理量をマッピング可能であるこのような各点における動作をldquoPoint-by-pointrdquoと呼ぶそのためPoint-by-pointでは走査点毎時分割による複数データ取得といえるLine-by-lineに対し表面形状と他の観測物理量との位置整合性が良いという長所がある動作の詳細は 252節で述べる

24 AFMの動作モード図 25に力検出方式の異なる動作モード同士の関係図を示すカンチレバーの励振の有無によりそれぞれ Dynamic-mode と Static-mode に分けられるさらにDynamic-mode はカンチレバーの励振特性変化の検出方法の違いにより振幅変調 (Amplitude-modulation AM)方式 (AM-AFM)と周波数変調 (Frequency-modulation FM) 方式 (FM-AFM) に分けられる本研究ではそれぞれの方法を測定のフェーズや内容によって使い分けているため以下ではそれぞれの方式について個別に原理動作を説明する

241 Static-mode (コンタクトモード)

Static-modeはカンチレバーを励振させずに測定を行う方式の総称でありその中でも力一定モードで行われる Static-modeを特にコンタクトモード (contact-mode)と呼ぶコンタクトモードではカンチレバーを試料に近接させた際に生じるカンチレバーの変位 ∆zが一定になるように Zスキャナを制御する図 22のように探針にかかる力は探針ndash試料間距離が近づくにつれて若干の引力の後す

24 AFMの動作モード 15

Atomic force microscopy

Static-mode (contact-mode)

Amplitude-modulation (AM tapping)

Frequency-modulation (FM non-contact)

Dynamic-mode

図 25 AFMの動作モードの関係図

ぐに斥力に変化してしまうさらにdFtsdz がカンチレバーのばね定数 kよりも大きくなるとカンチレ

バーの復元力が探針に加わる力に負けてしまい一気に斥力領域に突入してしまう Jump-to-contact

が起こる以上のことからStatic-modeを引力領域で測定するのは非常に難しく通常斥力領域で測定するコンタクトモードは試料に接触させた測定のため試料の力学的な特性が探針の応答に如実に現れるこのことを利用した応用手法として摩擦力顕微鏡 (Friction force microscopy FFM)や直交剪断応力顕微鏡 (Transverse shear microscopy TSM)があるFFMはカンチレバーの軸に対し直交方向にカンチレバーをコンタクトモードで走査することで発生するねじれ量を検出することで摩擦力の違いを可視化する AFMの応用手法であり末端基による結合力の違いを可視化した例がある [87]TSMは通常と同じ軸方向に対しカンチレバーを走査するがその際分子結晶の配向によりねじれの交流信号に違いが現れるためFFMよりも明瞭に分子結晶の配向を可視化できる [88]

242 Dynamic-mode

Dynamic-modeはカンチレバーをピエゾ素子 (PZT)などの外力を用いて振動させながら測定を行う方式の総称でありDynamic-mode AFMを Dynamic force microsopy (DFM)と呼ぶ場合もあるDynamic-modeではカンチレバーの振動特性が重要となるカンチレバーは有効質量 mばね定数 kの調和振動子モデルに近似できるここでカンチレバーを振動させる外力 Fext と探針ndash試料間の相互作用力 Fint がカンチレバーにかかっている場合カンチレバーのつりあいの位置からの変位 zに対して運動方程式

mz + γz + kz = Fext + Fint (24)

が成り立つただしγ はカンチレバーの変位速度に比例する減衰定数を表し相互作用力はFint gt 0を斥力とする相互作用力がないとき (Fint = 0)カンチレバーに角周波数 ω振幅 Aの外力 Fext = Aext cosωt を加えると定常解 z(t) = A cos(ωt + φ) の振幅 A と位相 φ は以下のように求まる

A =Aextradic

(mω2 minus k)2 + γ2ω2(25)

φ = tanminus1( γ

mω2 minus k

)(26)

16 第 2章 原子間力顕微鏡の基礎

FintFext

m

z

0

kModelling

図 26 カンチレバーの調和振動子モデル

A φの外力の角周波数依存性を図 27の (1)に示すγ radic

kmが成り立つとき

f0 equivω0

2πequiv 1

radickm

(27)

で与えられる f0(ω0)を (自由振動時の)共振 (角)周波数と呼びこの周波数で振幅 Aは最大値を取る4また振幅が最大値の 1

radic2 倍となる角周波数 ωplusmn(ω+ gt ωminus) を用いてカンチレバーの Q

値 QがQ equiv ω0

ω+ minus ωminus=

mω0

γ(28)

のように定義できる図 27に示すような共振周波数 f0 および Qで特性付けられる振動特性のことを Qカーブと呼ぶ次に力勾配 kint = minus partFint

partz を用い微小な相互作用力 Fint = minuskintzが働いていると考える5kint gt 0

の場合試料近接時 z lt 0に対し Fint gt 0のため斥力領域に対応しkint lt 0は引力領域のモデルとなる式 (24)の kを k + kint に置き換えることで力が働いているときの共振周波数

f0prime =1

radick + kint

m(29)

が得られQカーブは引力領域では (2)斥力領域では (3)のように変化するDynamic-modeではこの Qカーブの変化に伴う励振特性の変化を検出することで探針ndash試料間相互作用力が働いていることを検知する

243 振幅変調方式 AFM (AM-AFM)

AM-AFMは探針ndash試料間相互作用による Qカーブの変化を振幅の変化から検出する手法の AFM

である微小な探針ndash試料間相互作用力 Fint = minuskintzが働いているとき式 (25)は

A =Aextradic

(mω2 minus k minus kint)2 + γ2ω2

sim Aextradic(mω2 minus k)2 + γ2ω2

[1 + kint

mω2 minus k(mω2 minus k)2 + γ2ω2

](210)

となるため振幅変化 ∆Aは

∆A sim kintAext(mω2 minus k)

[(mω2 minus k minus kint)2 + γ2ω2] 3

2(211)

4 厳密には共振周波数は 12π

radickm minus

γ2

2m2

5 定数値は釣り合いの位置をずらすだけなのでここでは無視する

24 AFMの動作モード 17

0

99 100 101

Am

plitu

de [arb

unit]

Frequency [kHz]

-180

-90

0

99 100 101

Phase [deg]

Frequency [kHz]

(a) (b)

f0

f0(1)

(1)

(3)(2)

(2)

(3)

図 27 カンチレバーの共振周波数付近の振動特性 (Qカーブ)((a)振幅(b)励振信号に対する位相)パラメータとして f0 = 100 kHz Q = 300 を用いており相互作用が (1) なし(2) 引力kint = minus0005k(3)斥力 kint = 0005kのときの Qカーブを表す

Topography

Feedbackcontroller

RMS

Scanner

LD PSPD

PZT

FG

図 28 AM-AFMの装置構成図

と力勾配に比例することが分かるただし近似として kint の 1次項のみを扱った実際の動作では一定の周波数で振動しているカンチレバーの振幅減少を試料への近接とみなし減少した振幅が一定となるように高さフィードバック動作を行うAM-AFMでは図 22の引力領域と斥力領域を行き来するように Tipが動くためコンタクトモードが「接触している」のに対し「間欠接触モード(Intermittent-contact mode)」または「タッピングモード (Tapping mode)」とも呼ばれる6図 28に AM-AFMの装置構成を示すファンクションジェネレータ (Function generator FG)で生成した交流信号をピエゾ素子 (PZT) に入力しカンチレバーを励振する (強制振動)カンチレバーの変位信号を二乗平均平方根 (RMS)回路で振幅信号に変換し振幅が一定になるようにフィードバック回路から Zスキャナに出力する本研究では強制振動の周波数としてカンチレバーの Q

カーブにおける最大振幅の約 07倍となる (共振周波数より低い)周波数を設定しているまたカンチレバーの振動振幅が約 20 nmp-p となるように FGの振幅を設定している

18 第 2章 原子間力顕微鏡の基礎

Topography

Feedbackcontroller

PLL

RMSAGC

Scanner

LD PSPDPZT

Phaseshifter Comparator

Phase lock

Frequency detectionblock

Self-excitation block

図 29 FM-AFMの装置構成図

244 周波数変調方式 AFM (FM-AFM)

探針ndash試料間相互作用力 Fint = minuskintzが小さいとき (|kint| k)式 (29)より共振周波数シフト ∆f

は∆f = f0prime minus f0 sim

f02k

kint (212)

で表されるように力勾配に比例し引力領域では負の周波数シフトを起こす図 22で示されるように力勾配は探針ndash試料間距離が近づくにつれて大きくなるため共振周波数の変化から探針の試料への近接を検出できるこのように共振周波数の変化を一定にするように探針ndash試料間距離を制御する方式を FM-AFM と呼ぶ図 22 の引力領域で用いられ試料へ非接触な状態で動作するため「非接触 AFM」とも呼ばれる図 29に FM-AFMの装置構成図を示す共振周波数を追跡するため自励発振 (Self-excitation)

回路を用いてカンチレバーを常に共振周波数で励振する図 27から分かるように共振周波数での振動信号は励振信号に対し 90 遅れており振動信号の 90 位相を早めた信号で励振することで共振周波数で振動することになる自励発振回路ではこの位相シフタ (Phase shifter)と自動ゲイン回路 (Automatic gain controller AGC)によって励振が行われている一方周波数の変化は位相同期回路 (Phase-locked loop PLL)により検出している [89]

25 AFMの電流検出応用AFMの探針は非常に微小なためナノスケールのテスタのような応用が期待できるAFMの探針を試料に接触させ探針ndash試料間に流れる電流を測定しまたはその特性の分布図を取得する応用手

6 厳密には変調 (検出)方式と動作方式という定義の違いがあるが本研究では同義に扱う

25 AFMの電流検出応用 19

法を総称して電流検出 AFM(Current-sensing AFM CS-AFM) [90]と呼ぶ本項ではこれまで開発利用されてきた AFM の電流検出応用手法のうち最も基本となる導電性 AFM(Conductive-AFM

c-AFM) およびその応用手法である点接触電流イメージング AFM(Point-contact current imaging

AFM PCI-AFM)について原理と適用範囲を述べる

251 導電性 AFM (c-AFM)

導電性探針と試料の間に直流電圧を印加しながら試料に探針を接触させることで探針ndash試料間に流れる電気特性を測定する手法を c-AFM7と呼ぶSTM でも電流のマッピングは可能であるがc-AFM では AFM をベースとしていることから(1) 確実に接触させ接触力を制御できること(2)絶縁体上の試料においても電流測定できることの 2点において STMよりも優位である特に(2) は絶縁膜上に構築した様々なデバイスやナノスケール構造において電気特性が測定可能であるという点で非常に重要であるナノスケール構造の一例としてカーボンナノチューブ (Carbon

nanotube CNT)の測定が挙げられる [91 92]CNTは長さが数 micromの細長い円筒状の構造をしており直径は単層で数 nm多層でも数 10 nm と非常に微細なため一本の CNT の電気特性を電極間に架橋させて測定するのは非常に困難であることが予想される一方CNTの片端のみ電極に接続するのは後から成膜もしくは電極上に分散させるなど比較的容易に達成できるためc-AFMでCNTのもう一方の端に接触させることで単一の CNTの電気特性測定が可能となる一方(1)の利点を活用し均一に分子が存在する試料に接触させることで接触面積から 1分子あたりの電気特性を評価する試みもなされておりSAM分子の電気特性の鎖長依存性 [93ndash96]やタンパク質の電気伝導評価 [97]も報告されている高分子ナノファイバ [98]や光反応性のタンパク質 [99]に対して光照射時の電流特性測定という応用も行われている

c-AFMには大きく分けて(a)試料上のある一点に接触させ主に電圧ndash電流 (IndashV)特性を取得する方法 (IndashV 測定モード)および (b) 一定電圧をかけながらコンタクトモードで試料上を走査し電流像を得る手法 (スキャンモード)の 2種類あるIndashV 測定モードは上述の CNTの評価の他に有機薄膜 [31 68 70]や細菌 [100]といった幅広い材料に対して用いられている一方スキャンモードはコンタクトモードで走査可能という制限があるため高分子 [98 101] や分子結晶ナノファイバ [102]のような比較的硬い材料に限られている

252 点接触電流イメージング AFM (PCI-AFM)

c-AFMはナノ構造の電気特性測定ができる非常に有用な手法であるがIndashV 測定モードでは 1点ごとの測定のため測定位置の不確定さや接触ごとのばらつきより微細な内部構造の可視化ができないといったデメリットがあるまたスキャンモードもコンタクトモードで走査可能な比較的硬く起伏の少ない試料に限られるこれに対し大阪大学の Otsukaらはこれらの問題を克服する手法としてpoint-by-pointでの接触方法を活用した PCI-AFMを開発した [103]図 210に PCI-AFMの動作概念図を示すPCI-AFM

はAM-AFM (Tapping) による高さフィードバックと c-AFM による電流測定を各点で交互に行う

7 C D Frisbieなど CP-AFM(Conducting probe AFM)と呼ぶ研究グループもあるが基本的に同義である

20 第 2章 原子間力顕微鏡の基礎

(a) Height control (b) Approach (d) Retract(c) IndashV

Cantilever

Electrode

Sample lm

Mode

Movement

FeedbackTapping StaticON Hold

Time

図 210 PCI-AFM の動作概念図時系列の TappingStatic 動作および高さフィードバックのONHoldのタイミングを併記した

手法である(a)まずある測定点において AM-AFMにより探針ndash試料間距離を一定にしこの状態で高さを固定 (Hold)する(b)探針の励振を停止させ探針を試料に一定距離だけ近づけ試料に接触させる(c) 接触状態で探針ndash試料間に電圧を印加しIndashV 測定を行う(d) 探針を試料から離し励振を再開し高さ制御を再開すると共に次の測定点へ移動するこれらの測定を試料 XY平面上の各点で行うことで表面形状と各点での IndashV 特性の位置を完全に対応づけることができるOtsukaらは PCI-AFMを用いることでc-AFMのスキャンモードによる試料構造破壊の問題を解消し単層 CNTの距離依存電流測定を達成した以降PCI-AFMの非破壊性を活かしCNTのバンドル間伝導特性 [104]やバンドル CNT中における単一 CNTの可視化 [105]分子性ナノワイヤ [106107]DNA [108]や DNAベースのナノワイヤ [109]ナノ粒子 [110ndash112]の電気特性評価に用いられてきた一方有機薄膜に対して用いた例は銅フタロシアニングレイン上の報告 [113]の一例に留まるまたCNTや有機薄膜の FET構造においてゲートバイアスを印加した状態での PCI-AFM測定は現在のところ報告されていないこのように PCI-AFMはナノスケールでの電気特性評価に有用な手法である一方で活用範囲としてまだ進んでいない領域がある本研究では新領域活用への障害となる PCI-AFMの問題点について対策を考え新規活用法を模索することも目的の一つと位置づける

26 AFMの静電気力検出応用261 静電気力顕微鏡 (EFM)

AFM で測定される力のうち静電気力を検出する手法を広義の EFM と称する静電気力は探針ndash試料間に印加した電圧のみならず試料の仕事関数試料上の固定電荷や電気的ダイポールなど様々な物性が起因となり変化するそのため報告によってどの物性に注目するかが異なり検出した静電気力の取り扱いも異なるここでは一般化し明確な探針ndash試料間の電位差Vts = Vs(試料電位) minus Vt(探針電位)があると仮定する探針ndash試料間の容量を Cts とすると電位を固定したときの系の静電ポテンシャル UES は UES =

12CtsV2

ES と記述されるこのとき探針が感じる静電気力 FES は斥力を正とするとFES =

partUESpartz =

12partCtspartz V2

ts と記述されるつまりCts が一定であれば Vts の 2乗に比例した静電気力を探針が感じることが分かる

26 AFMの静電気力検出応用 21

しかし探針ndash試料間には 22節で述べたような相互作用力が働いているため電位差を評価するには静電気力による寄与を分離する必要がある原子分子間力の距離依存性が急峻であることを利用してEFM や MFM では Line-by-line で距離を変化させることで静電気力磁気力のみ評価する方法もあるがここでは交流電圧の変調による手法について述べる角周波数 ωm の変調電圧Vac cosωmtを試料 (または探針)に印加すると静電気力は

FES =12partCts

partz(Vts + Vac cosωmt)2

=12partCts

partz

[(V2

ts +V2

ac

2

)+ 2VtsVac cosωmt +

V2ac

2cos 2ωmt

](213)

となりFES の ωm 成分は電位差 Vts に比例することが分かる実際の測定では振幅変化 (AM) または周波数変化 (FM)を測定するため測定量は式 (211)および (212)に従い力勾配 partFES

partz に比例するするとωm 成分は (partFES

partz

)

ωm

=part2Cts

partz2 VtsVac cosωmt (214)

と表される比例係数の part2Ctspartz2 は同一の探針同一の探針ndash試料間距離同一の探針振幅であれば一

定と考えることができるよって振幅変化または周波数変化の ωm 成分をロックイン検出することで電位差に比例する成分を得ることができる

262 ケルビンプローブ原子間力顕微鏡 (KFM)

EFM では電位差に比例したコントラストを得られる一方で電位の実際の値を知るには比例定数のキャリブレーションが必要であるケルビンプローブ原子間力顕微鏡 (Kelvin-probe force

microscopy KFM)8は EFM に零位法を組み合わせることで電位の実際の値を測定することができる AFMの応用手法である

KFMの名前はケルビン法と呼ばれる試料の仕事関数を測定する巨視的な評価手法に由来するケルビン法では既知未知の仕事関数を有する材料の二表面を近接させ振動させた際に発生する交流電流がゼロになるように二試料間に印加する直流バイアスを調整することで未知の仕事関数を測定する同様にKFMでは partFES

partz に比例する測定量の ωm 成分がゼロになるように探針ndash試料間に追加の直流電位 VFB をフィードバック制御する試料上を走査中に随時行うことで表面電位像の測定が実現される

EFMKFMには AFM動作モードおよび変調信号の検出方法で複数の種類が存在する本研究では真空中つまり高 Q 値環境下での測定が簡単であること比較的面内分解能が高いことからFM-AFMをベースとし変調信号を FM検出する手法を用いた以下この手法による EFMKFM

をそれぞれ FM-EFMFM-KFM と呼ぶ図 211 に FM-EFM および FM-KFM の装置構成図を示す詳細なセットアップパラメータは後の章 (4章 KFM 5章 EFM)で述べる

8 KPFMの略称を用いる場合がデファクトスタンダードとなりつつあるが本論文では KFMを用いる

22 第 2章 原子間力顕微鏡の基礎

Topography

EFM signal

Potential

Feedbackcontroller

Frequencydetection

Self-excitationcircuit

Scanner

LD PSPDPZT

Lock-in amp

Bias feedbackKFMEFM

図 211 FM-EFMおよび FM-KFMの装置構成図

27 本章のまとめ本章ではSPM および AFM の成り立ちについて説明した上で基本的な表面形状取得の概要力検出技術および走査技術について説明した近年提案されている様々な AFM応用手法がどのような動作に基づいているかを理解する上で走査方法の面から分類することは必要と考えるまたAFMの動作とくに Dynamic-modeにおけるカンチレバーの励振特性について探針ndash試料間相互作用が働いた場合にどのような変化が生じるのかについて説明したまたこの解析に基づき基礎的な AM-AFMおよび FM-AFMの動作装置について言及した

AFMの応用手法に関して本研究で用いた手法のベースとなる電流検出応用静電気力検出応用について説明した電流検出に関しては従来手法となる c-AFMに対する PCI-AFMの優位性を述べた上でPCI-AFMの OFET評価としての活用が未発展であることを示し新規活用法を模索することを以降の研究の目標点の一つとして掲げるまた静電気力検出に関しては主として用いた FM

方式の EFMKFMについて基礎的な理論技術を説明した以上ではナノスケールの電気的評価が可能な AFMの応用手法について説明したが有機薄膜を対象とした測定にはいくつか未達成または困難な点が存在するPCI-AFMの活用については 3章で装置動作の面から試みることとするまた KFM は面内の相対的な局所抵抗比較に留まる一方プローブ測定のみで測定対象と参照を同時に測定できるような手法を開発することは特に巨視的測定が困難なナノスケールのグレインの電気特性評価を進めていく上で重要であるよって静電気力検出をベースとした新規局所電気特性評価手法に関して4章および 5章で検討を行う

23

第 3章

AFM電流測定法を用いた有機グレインの局所電気特性評価

AFMの導電性探針を用いて直接試料に接触させ電流を測定することで有機材料の電気特性測定がなされてきたことは既に 1章で述べたしかし従来手法のうち非マッピングである c-AFMや多探針 AFMでは測定点が数点に限られ接触位置の同定が不確定という問題がある一方マッピングを行う c-AFM では硬い材料に限定されること接触力の増加による分解能の制限といった問題を有するこれらに対し2章で述べた点接触電流イメージング AFM (PCI-AFM)は非破壊にて構造と電気特性の同時マッピングを行うことが可能であり少数単一グレインスケールにおけるTLMとなりうることが期待されるがその適用には課題が二点ある一点目は有機半導体の電気特性評価では必須となる真空中での測定が困難であることであるこれは AM-AFMをベースにしていることに加えて後述の探針励振停止再開動作が関わっており真空中では非現実的な測定時間が必要となる二点目はこれまで PCI-AFMは 1次元系材料での評価が多く有機半導体薄膜のような薄膜試料での報告例がほとんどないことである1次元系と異なりOFETのような薄膜試料では電流広がりなどを考慮した測定結果の解析が必要となる以上を踏まえ本章では PCI-AFMの真空動作化および OFET評価に適した動作確立システム構築を通してOFET中の様々な局所電気特性を選択的に評価するナノスケール TLMへの活用を目標とする

31 OFET評価に適した電流測定法の検討252節にてPCI-AFMはナノ構造の電流マッピングに非常に有用な手法であることを説明した

PCI-AFM を有機グレインの OFET 評価に適用するにあたり信頼性のある安定した測定に向けて検討しておくべき項目がいくつか存在する本節では「真空動作」「接触圧」の観点から PCI-AFM

の改良に取り組む

24 第 3章 AFM電流測定法を用いた有機グレインの局所電気特性評価

Phaseshifter

Oscillator

Excitation

Variablegain amp

z(t)

Ge-jθ

図 31 Q値制御回路のブロック図

311 PCI-AFMの真空動作化 (Q値制御法)

242節で説明したとおりカンチレバーの運動は式 (24)にて記述されるここでt = 0で外力が 0になったときの過渡応答を考えるFext = Fint = 0よりz(t)の特性解 λは 2次方程式

mλ2 + γλ + k = 0 (31)

を解くことでλ = minus1

τplusmn jω (32)

と求まるここでτ = 2mγ =

2Qω0ω = ω0

radic1 minus ( 1

2Q )2 であるカンチレバーが t lt 0 では z(t) =

A cosωtで振動しているとするとt ge 0でのカンチレバーの運動は

z(t) = Aeminustτ cosωt (33)

という時定数 τ の減衰振動解になるつまりカンチレバーの振幅変化に要する時間は Q に比例する本研究で用いているカンチレバー (Olympus OMCL-AC240TM-R3) の典型的な共振周波数は f0 = 70 kHz でありQ 値は大気中では数 100 なのに対し真空中では 2000 を超える例として振幅が減衰開始時の 01 倍となる時間 minus ln(01)τ sim 23τ を振動停止開始の所要時間と考えると256 times 256点で振動停止開始それぞれで 23τ必要となり測定に必要な時間は待ち時間だけでも数時間に及ぶためドリフトの影響を考えると真空中での PCI-AFM測定は非現実的であることが分かるまたPCI-AFM では振幅変化を検出する AM-AFM をベースとしているが同じ理由でAM-AFMは一般的に真空中での測定は不向きであることもPCI-AFMの真空中測定を困難にしているそこでPCI-AFMの振動停止再開動作を真空中でも可能にするために本研究ではAnczykowski

らにより提案された Q値制御法 [114]を用いるQ値制御回路のブロック図を図 31に示すQ値制御法ではカンチレバーの変位信号1z(t) = Aejωt にゲイン G および位相シフタ eminusjθ を介した信号を励振信号に加えるこの信号成分は z(t)に対する in-phase out-of-phaseを分けることで

Geminusjθz(t) = (G cos θ)z +minusG sin θω

z (34)

と表されるため運動方程式 (24)の γ を γprime = γ + Gω sin θk を kprime = k minusG cos θ に置き換えること

で同様の議論ができるつまり運動方程式 (24)および Qカーブを表す式 (25)は次のように表さ

1 簡単のためフェーザ (Phasor)で考える最終的に実部を取ることで実信号とする

31 OFET評価に適した電流測定法の検討 25

0

5

10

695 70 705

Am

plitu

de [nm

]

Frequency [kHz]

0

1=10-3

2=10-3

5=10-3

G Pѱ0

2

図 32 Q 値制御法を用いた場合の Q カーブの理想的なゲイン G 依存性 f0 =ω02π = 70 kHz

Q = 2 times 103 Aextk = 5 times 10minus3 nm

れる

mz + γprimez + kprimez = Fext (35)

A =Aext

kω2

0radic(ω2 minus ωprime20 )2 + (ωωprime0Qprime)2

(36)

但しQ値制御後の (見かけの)Q値 Qprime および共振周波数 ωprime0 をそれぞれ

Qprime =mωprime0γprime ωprime0 =

radickprime

m(37)

としたここで位相シフト量を θ = π2に設定すると Gを増加させるに従い γprime が増加することが分かるこのとき理論上の Qカーブの変化を図 32に示すこのようにQ値制御法を用いることで見かけの Q値 Qprime を減少させることができる2実際に真空中 (lt 10minus3 Pa)でカンチレバーの励振 (発振器からの信号)を 5 msごとに開始停止させた際に従来通りの強制励振と Q値制御法を用いた場合のカンチレバーの動作を比較したものを図 33に示すただし典型的な共振周波数が f0 sim 70 kHzであるカンチレバーを用いたQ値制御前では Q sim 2000であり上述の振動停止開始時間は 23τ sim 21 msとなり図 33(a)のように 5 ms

では完全には振幅が収束していないことがわかるQ 値制御法により見かけの Q 値を Qprime sim 100

まで減少させた結果振動停止開始時間は 23τ sim 1 msとなり図 33(b)のように励振停止時に完全に停止している様子が見て取れるPCI-AFMの振動停止再開動作に要する時間を減少でき全体の測定時間が現実的なスケールとなるまた見かけの Q値を減少させたことによりAM-AFM

の動作も大気中と同等の設定で可能となる

パラメータ設定の問題点と改良した設定方法 本研究では研究室で作成された Q値制御回路 [78]

を用いFGとして Yokogawa FG120を用いたここで自家製の Q値制御回路では φおよび Gを手動でしか変更できないため次のような問題が生ずる図 34に G = 001mω2

0 における周波数および位相シフト量に対する振幅の変化を示す周波数が正しく共振周波数に合っている場合は位相 θ を変えると θ = π2で振幅が最小値となるしかし周波数がずれている場合に振幅が最小

2 本来の用い方は Q値の小さいとき検出感度を上げるために θ = minusπ2に設定することで Q値を増加させて用いる

26 第 3章 AFM電流測定法を用いた有機グレインの局所電気特性評価

ON OFF ON OFFExcitation

5 ms Time

200 mV(~7 nm)

(a) conventional

(b) with Q-control

Deection signal

Q ~ 2000

Qrsquo ~ 100

図 33 真空中でカンチレバーの励振を 5 ms ごとに開始停止させた際のカンチレバー変位 (Deflection) の包絡線 (振幅) 時間波形(a) Q 値制御法を用いない従来の強制励振の場合(Q sim 2000)(b) Q値制御法を用いた場合 (Q sim 100)の包絡線とカンチレバーの動作イメージを示している

695 70 705

Frequency [kHz]

0

90

180

Phase [deg]

01

1

10

Am

plitu

de [nm

]

Minim

um

Resonance

Resonance

図 34 G = 001mω20 における周波数および位相シフト量に対する振幅変化矢印は共振周波数

探索rarr最小振幅となる位相探索の順にパラメータ探索する場合のパラメータ軌跡

となる位相は π2とは異なるそのため例えばパラメータの設定を共振周波数探索rarr振幅最小位相探索の順に行ってしまうと図 34のように最適な位相 π2に到達できず同じ設定値をループすることになるこれを回避するためには位相およびゲインを変えながらも常に共振周波数をトラックする必要があるそのため本研究では FG120の GP-IB3通信および LabVIEWを用いて任意の周波数レンジおよび掃引速度で連続的に FGの周波数設定値を掃引できるようなプログラムを作成したこれにより効率的に Q値制御回路の位相設定を行えるようなセットアップとなっている

312 接触状態の検証導電性探針を用いた電流測定は探針ndash試料間に流れる電流が測定値となるためその接触状態が測定値に大きく影響を与えることが懸念されるしかし報告により用いている探針の材料ばね定数または対象とする試料や実際の接触力などの測定条件が異なるため本研究でも独自に影響評

3 General purpose interface bus短距離デジタル通信バス仕様である IEEE 488の実装であり計測器制御に用いられる汎用接続形式である

31 OFET評価に適した電流測定法の検討 27

HOPG

Conductivecantilever

図 35 導電性探針による接触電流評価の模式図

0

50

100

150

0 5 10 15 20 25

5HVLVWDQFHgt0ї

)RUFHgtQ1

OriginalOvercoated

(c)

-100

-50

0

50

100

-1 0 1

ampXUUHQWgtQ$

LDVgt9

(a) Original

0 nN4 nN

10 nN

14 nN19 nN23 nN

-100

-50

0

50

100

-1 0 1ampXUUHQWgtQ$

LDVgt9

(b) Overcoated

4 nN7 nN

10 nN

13 nN16 nN

図 36 導電性探針ndashHOPG系の接触電流測定結果(a)市販コート探針(b)再コート探針を用いて測定された IndashV 特性(c) +15 Vにおける接触力と抵抗値の関係

価することが望ましいそこで接触力評価として導電性カンチレバーを導電性の平坦試料である高配向パイログラファイト (Highly oriented pyrolytic graphite HOPG)に接触させ電流測定を行うとともに探針の試料への接触面積の見積もりを試みた導電性探針として(1)市販の PtIrコート済みカンチレバー (Olympus OMCL-AC240TM-R3)(市販コート探針と呼ぶ) および (2)OMCL-AC240TM-R3 の Tip 側にスパッタリング装置を用いて約20 nmの Ptを堆積させたカンチレバー (再コート探針と呼ぶ)を用いた再コート探針は市販コート探針よりも Tip上への堆積量が多く先端曲率半径の増加が懸念されるがより長時間多回数の接触に耐えうることが見込まれるためその電気特性の差異がないことを確認する図 35のセットアップにおいて以下のプロセスで測定を行った

1 探針ndash試料間のバイアス電圧を 0 V としコンタクトモードにおいて Reference を徐々に上げ探針をわずかに HOPGに接触させる

28 第 3章 AFM電流測定法を用いた有機グレインの局所電気特性評価

表 31 探針接触半径の見積もりに用いた各材料の物性値

材料 ヤング率 ポワソン比

Pt [118] 168 GPa 0377

HOPG [119 120] 365 GPa 025

2 ある分量ずつ Referenceを増加させることで接触力を増加させ各接触力において plusmn15 Vの三角波 (2 s)を 5回印加

3 測定時のカンチレバー変位IndashV 出力をデータロガーで取得し「カンチレバーばね定数(2 Nm)times(接触時の変位 minus 非接触時の変位)別途測定した変位検出感度 (nmmV)」を接触圧とした

図 36に IndashV 特性および +15 Vでの抵抗値の接触圧依存性を示す市販コート再コートどちらの探針においても接触力の増加に従い電流が増加したまたIndashV 波形が非線形である原因として探針先端または試料表面の不純物やPtndashHOPG間接触の本来の特性が考えられる図 36(c)よりどちらの探針も比較的同等の特性を持っており以降では再コート探針でも市販コート探針と同様に使用可能としたまた接触力が 10 nN付近で抵抗値がある程度収束しており接触電流測定に必要な接触力の目安は 10 nNと見積もられるこの接触力は過去の c-AFM [115]や PCI-AFM [103104]

の報告における設定値と同程度である次に接触面積の見積もりを行う無機材料での探針接触電流測定では一般に 2体の付着を考えない Hertz理論を用いて評価されるが [116]有機物など付着のある系では JKR理論を用いて評価する必要がある [92]JKR理論では曲率半径 Rt Rs の 2体が接触力 F で接触するとき接触半径 a

は次のように表される [117]

a3 =34

Rlowast

Elowast[F + 3πRlowastWts +

radic6πRlowastWtsF + (3πRlowastWts)2

](38)

但しWts は 2体の付着仕事 (凝着エネルギー)Rlowast は実効曲率半径 Rlowastminus1 = Rminus1t + Rminus1

s また Elowast は実効ヤング率を表しサンプル (s)探針 (t)それぞれのヤング率を Es Etポアソン比を σs σt とおくと Elowastminus1 = (1minusσs

2)Esminus1 + (1minusσt

2)Etminus1 で与えられるここで式 (38)の根号内が F gt minusFad で 0

以上となる場合Fad は吸着力を表し

Fad = minus32πRlowastWts (39)

で与えられるよって式 (38)は

a3 =34

Rlowast

Elowast(radic

F + Fad +radic

Fad)2 (310)

と簡略化されるPt 探針を HOPG に接触させた場合を想定する試料が無限平面と仮定できるため Rlowast = Rt であり探針の曲率半径として OMCL-AC240TM-R3の公表値 15 nmを用いる材料のヤング率ポアソン比として表 31の値を用いると吸着力 Fad が 10 nNのときの接触力と接触半径の関係は図 37

のようになる探針の曲率半径は 10 nmを超えているものの接触半径は数 nmに留まることが分かるまた接触力 10 nN付近では微小な接触力の変動に対する接触半径の変動は 1割に満たないことも式から求まる

32 マルチグレイン有機薄膜の複数雰囲気中測定 29

0

1

2

3

4

-10 0 10 20 30

Con

tact

radi

us [n

m]

Contact force [nN]

図 37 吸着力 Fad = 10 nNのときの接触力と接触半径の関係(Rlowast Rt = 15 nm)

図 38 ペンタセンの分子構造式

32 マルチグレイン有機薄膜の複数雰囲気中測定有機半導体薄膜の電気特性は雰囲気により大きく変化するがその影響にはグレイン境界やグレイン内部など複数の局所物性が関わっているため従来の大面積の電極を用いた測定では議論が不十分である一方局所電気特性測定に有用と考えられる PCI-AFMは原理上真空中での動作が困難でありまたこれまで OFETの評価に用いられたことはなかった本節では 311節で真空動作化を施した PCI-AFMを使用しペンタセンのマルチグレイン薄膜を対象に局所電気特性測定を行い大気の影響を抑えた材料本来の特性測定を行う同時に大気真空の両雰囲気中で評価することで特定の局所構造に対する大気の影響を評価する

321 測定試料ペンタセン 測定試料としてペンタセンのマルチグレイン薄膜を用いたペンタセン (C22H14)は図 38のようにベンゼン環が 5つ縮合した構造をもつアセン系 π共役分子であり最も基礎的な p

型有機半導体の 1つとして知られる真空蒸着による簡便な成膜によっても 1 cm2(Vs)という比較的高性能な移動度を有することで知られている [30 121]そのため金属ndash有機分子界面評価のベンチマーク [39]という基礎的なことから論理回路 [21]という応用的なところまで幅広い研究に用いられている一方ペンタセンの真空蒸着により成膜すると一般にグレインが多数連なったマルチグレイン薄膜となるこれは蒸着条件や絶縁膜の表面処理を変化させても最大で数 microm程度の大きさにしかならず [29 122]OFETを作製すると多数のグレイン境界を通ることになるグレイン境界により制限された OFETの電気特性および移動度の評価が四端子法により行われているものの [32]影響を平均した評価にならざるを得ないよって本研究でもペンタセンのマルチグレイン薄膜を試料として用い過去の報告の知見を活かしつつPCI-AFMの利点を活かした特定のグレイン境界評価に臨む

30 第 3章 AFM電流測定法を用いた有機グレインの局所電気特性評価

SPM solution

Waferchip

LOR 3B

Au

S1813UVozone

UV

Photomask

(1) SPM cleaning (2) UVozone cleaning (3) Spincoat amp bake (4) Resist coating

(5) UV exposure(6) Development(7) Deposition

(9) EB resist (10) EB lithography (11) Development

(14) Deposition

(12) Deposition

(8) Lift-oamp cleaning

(13) Lift-oamp cleaning

eminus eminusPtZEP 520A

Organic lm

UV

litho

grap

hyEB

lith

ogra

phy

図 39 測定試料の作製手順の模式図

試料作製手順 測定試料は以下のプロセスにより作製した図 39に手順全体の模式図を示す

1 表面に 100 nmの熱酸化膜 (SiO2)を有する高ドープ n型 Siウェハを用い硫酸ndash過酸化水素水 (SPM)洗浄を行う

2 紫外線 (UV)露光をし (UVオゾン洗浄)表面を親水化する3 LOR3Bを 4000 rpmで 45秒スピンコートし190Cで 5分ベーク4 UVレジスト S1813を 5000 rpmで 30秒スピンコートし115Cで 1分ベーク5 マスクアライナーを用いてUV露光を 3秒行いマスクパターンを転写6 現像液MICROPOSIT CD-26に 1分程度浸漬することで現像7 真空蒸着装置を用い1 times 10minus4 Pa以下の高真空下で Crを電子線 (EB)加熱により 3 nmAu

を抵抗加熱により 50 nm蒸着8 Remover1165でリフトオフを行い続いて UVオゾン洗浄9 EBリソグラフィ用のレジスト ZEP 520Aを 1500 rpm60秒の条件でスピンコートし160C

で 5分ベーク10 ギャップ幅 100 nmギャップ長 300 nmの条件で EB描画11 EBレジストの現像液 ZED-N50に 2分浸漬することで現像

32 マルチグレイン有機薄膜の複数雰囲気中測定 31

12 スパッタリング装置により Ptを約 5 nm堆積13 Remover1165によるリフトオフ続いてイソプロパノール (IPA)蒸気洗浄および UVオゾン洗浄

14 真空蒸着によりペンタセンを約 01 nmminの蒸着レートで 10 nm堆積

(3)から (8)の行程は UVリソグラフィ(9)から (13)の行程は EBリソグラフィに対応する

322 装置構成PCI-AFM測定時の装置構成を図 310に示すAFMコントローラとして日本電子製 JSPM-4200

を用いFG1 (Yokogawa FG120)からの励振信号で AM-AFMを動作させている真空中では Q値制御装置を用いたQ 値制御回路使用時は安定した励振を行うために不要な高調波を除去するローパスフィルタ (Low-pass filter LPF)を挿入した電気回路部については試料上の電極 (Drain)に定電圧 (VD)を印加しSi基板 (Gate)にゲートバイアス (VG)として FG2 (Tektronix AFG320)から任意波形を出力した試料ndash導電性探針間を流れる電流 (ID) はカンチレバーホルダー直結の低バイアス電流な自作電流アンプ (109 VA) で検出し電流信号はデータロガー (Keyence NR-500 NR-H08)で測定全時間に渡り取得した

Point-by-point動作は AFMコントローラに備わる「MFMモード」を利用したMFMモードでは256 times 256点の各点で10 ms毎にフィードバックモードとホールド (高さ固定)モードを切り替える本来の MFMモードは MFM測定のために試料から離れる (Lift)方向にしか動かせない本研究で用いた AFM コントローラは研究室で改造が行われており外部から直接高さの変調信号 (Z-mod)

を加えられるようになっている [78]高さ変調信号は FG3 (Tektronix AFG320) から出力した信号を minus20 dB減衰器に通した上で Z-modに入力したまたフィードバックモードとホールドモードに同期した信号が JSPM-4200 の PR2 端子からLIFT 信号として出力されているこの信号に FG1 FG2 FG3 を同期させることで point-by-

pointでの振動電圧印加接触動作が可能となる図 311のタイムチャートは測定点の移動 (X)カンチレバー変位 (Deflection)Lift信号それぞれの FGの時間波形と動作タイミングを示している1点当たり 20 ms (=1 period)を要し一定時間フィードバック動作を行ったのちホールドモードとなりLift信号が off状態になるFG1 (Excitation)はこのLift信号が on状態のときのみ出力する GateモードとしているFG2および FG3は Positive edgeの Triggerのみ受け付けるためLift

信号を Not回路に通した上で FG2と FG3の Triggerに入力したFG3の電圧値は実際に接触しているときの Defletion変化 (∆z)から計算される接触力が 10 nN程度になるよう調節した結果表示で 06ndash08 Vとなった

323 大気中 PCI-AFM評価大気中でペンタセン薄膜に対し PCI-AFM測定を行ったVD = minus2 Vとし接触中に VG を minus1 V

から minus5 Vへ変化させながら測定した図 312(a)は PCI-AFMで同時測定された表面形状像であるより大きい範囲の表面形状像から推定した電極の位置を点線の枠で示しているPCI-AFMでは各点でカンチレバーの振動停止再開をしていることから探針ndash試料間距離が不均一になることが懸念さ

32 第 3章 AFM電流測定法を用いた有機グレインの局所電気特性評価

RMS

Data logger

Feedbackcontroller

Scanner

LDPSPD

Q-controller

AFM controller

PZT

FG1

FG2

FG3

Z-mod

Gate

Lift

InsulatorGate

VD

IndashV amp

-20 dB

LPF

Deection

Current Trigger

図 310 真空動作 PCI-AFMを用いた OFET電気特性測定時の装置構成図

Deection

LiftZ hold Z hold

FG1 (excitation)

FG2 (VG)[100 Hz]

FG3 (Z-mod)[501Hz]

X

1 period = 20 ms

-5 V

[period]

[period]

0 01 09 1

001

02095

1

Time

Gate

Trig

Trig

Δz

図 311 PCI-AFM測定の各信号のタイムチャート

32 マルチグレイン有機薄膜の複数雰囲気中測定 33

100 nm0

30

[nm

]

Electrode

(a)

10

0

I D [n

A]

(b) AB

C

VG iuml V

(c)

iuml V

(d)

iuml V

(e)

iuml V

(f)

iuml V

図 312 マルチグレイン薄膜の大気中 PCI-AFM 測定結果 (VD = minus2 V)(a) Pt 電極に接続したペンタセン薄膜の表面形状像(b)ndash(f) VG = minus1 minus2 minus3 minus4 minus5 Vの電流値で再構成した電流 (ID)像図中の矢印はグレイン境界太点線はグレイン A B Cの範囲をそれぞれ表す

れるが表面形状像からはドット状ライン状のノイズは見られないことから安定して動作していることが分かる図 312(a)より多数のペンタセングレインが電極に接続していることがわかり薄膜中の「谷」部から矢印で示すようなグレイン境界が見て取れるここでペンタセン薄膜内にいくらか平坦な領域が存在しているSiO2 のような非活性な基板上で成膜したペンタセン薄膜は 1

軸配向性を示すことがこれまでも多く報告されており今回のペンタセン薄膜においても分子長軸を基板に対して立てて配向していると考えられる図 312(b)ndash(f) はそれぞれ VG = minus1 V からminus5 V

の電流値を抽出し再構成した電流像であるまず電極付近は電流値の大きい地点が多くまた VG の印加により大きな変化はない一方赤色の点線で囲ったグレイン A B C についてはVG = minus1 V

の電流像では暗いままつまり電流が小さいのに対しVG = minus5 Vの電流像では接続している膜部分と同等の電流値を観測しているこのように負のゲートバイアスの印加に従う電流の増加は p型有機半導体を用いた OFET の特徴であるこれはPCI-AFM を用いて有機半導体薄膜の各点で構成した局所 OFETの特性を測定した初めての例であるグレイン毎の違いを詳しく見てみると図312(b)のグレイン Bでは少しだけ電流が流れているがグレイン A Cはほぼ電流が観測されていないまた図 312(f)ではグレイン Aはグレイン Bと同程度の電流値になったもののグレインCは他の 2つに比べて電流が小さいこのような電流増加傾向の違いがグレイン毎に現れていることはこのペンタセン薄膜においては電気特性がグレイン境界によって大きく制限されていることを示している

324 真空中 PCI-AFM評価および雰囲気比較前節ではグレイン A Bと連続して接続しているグレインに関してゲートバイアス特性 (IDndashVG)が異なるという興味深い結果が得られたそのため評価対象をこのグレイン A Bに限定してより狭い範囲で測定することでより詳細な評価を行う図 312(a)の矩形範囲について真空中で PCI-AFM

34 第 3章 AFM電流測定法を用いた有機グレインの局所電気特性評価

0

30

Electrode50 nm

(a)

[nm

]

2

0

I D [n

A]

A

B

(b)

VG = 0 V

(c)

VG iuml V

(d)

VG iuml V

(e)

VG iuml V

(f)

VG iuml V

図 313 マルチグレイン薄膜の真空中 PCI-AFM測定結果 (VD = minus2 V)(a)表面形状像(b)ndash(f)VG = 0 minus1 minus2 minus3 minus5 Vにおける電流 (ID) 像図中の矢印はグレイン境界太点線はグレインA Bの範囲をそれぞれ表す

測定を行ったVD = minus2 VのままVG として 0 Vから minus5 Vの Ramp信号を用いた図 313に真空中の PCI-AFM測定で同時に得られた表面形状像 (a)および VG = 0 V minus1 V minus2 V minus3 V minus5 Vにおける電流像 (b)ndash(f)を示す大気中の結果と同様に滑らかな表面形状が得られておりQ値制御を用いることで真空中でも安定した PCI-AFM動作が実現できていると考えられる図 313(b)ndash(f)から大気中の結果同様に VG の印加に従い電流増加が見られているまたグレイン Bは VG = minus2 Vから minus4 Vにかけてグレイン Aは VG = minus1 Vから minus3 Vにかけてというように電極から近いグレイン順に電流増加が始まることが明瞭に観察された図 314に大気中真空中 PCI-AFMで得られた結果のうち図 313(a)の矩形領域で示す同一グレイン上の結果を比較したものを示す図 314(a) (b)の表面形状像から同一位置であることを推定した但し横軸を電極からの距離と取るために図 313に対し 90 回転させておりまた測定時の熱ドリフトの違いやスキャナのクリープの影響により像のサイズは若干異なっている図 314(c)

(d)は表面形状像の実線に沿った IDndashVG 特性を電流値マップとしてプロットしたものであり横軸が表面形状の実線の位置に対応する但し元の電流像から 64 times 64ピクセルに周辺の最大値を取るようダウンサンプルした上で表面形状像の実線に対し 10ピクセルの幅で平均した電流値を用いている電流値マップから電極上は VG による明確な電流変化はなくグレイン上での電流は VG により変化していることが明瞭に観測できる特に点線で示されているグレイン B Aの境界で電流マップのコントラスト変化が見て取れ電流マップにより IDndashVG 特性の変化が容易に確認できるといえるまた図 314(e) (f)は (c) (d)を見かけの抵抗値 RD = |VDID|として変換したものであるりいくつかの VG についてプロファイルをプロットしたこの RD は位置に伴う抵抗の積算値と考えることができるここで距離による抵抗の増加は明瞭には観察されなかったが一方でグレインBよりも一つグレイン境界を跨ぐグレイン Aで抵抗値が大きく増加しておりここからもグレイン内部よりも AndashB 間グレイン境界が OFET としての電気特性を大きく左右していることがよく分か

32 マルチグレイン有機薄膜の複数雰囲気中測定 35

0 1 2 3 4 5 6

RDgt

ї

VG=-1V

-5V

-2V

B

Electrode A

-3V

0

10

20

30

40

50R

Dgt

ї VG=0V

-1V

-2V-3V-5V

B A

Electrode

-1

-5

V Ggt9

+1

-5

V Ggt9

In air(a) (b)

(c) (d)

(e) (f)

In vacuum

Elec

trode

Elec

trode

10

0

I DgtQ$

4

0

I DgtQ$

図 314 同一グレインにおける (ace)大気中(bdf)真空中の PCI-AFM結果比較(a) (b)表面形状像(c) (d)表面形状像の実線に沿ったゲートバイアス依存の電流値マップ(e) (f)各ゲート電圧値に対する電流値より計算した見かけの抵抗値プロファイル左から右に進むに従い接触時の電極からの距離が遠くなる図中の A Bは図 312 313におけるグレイン A Bの領域に対応する

るAndashB間グレイン境界による特性への影響をより詳しく評価するために図 314のグレイン A

B上で平均した IDndashVG 特性を図 315(a)に示すFETの IDndashVG 特性は電流の立ち上がりがしきい値電圧 Vth に対応する図 315(a)を見ると大気中真空中共にグレイン Aの Vth がグレイン Bに対して負電圧にシフトしていることがわかるこのことは図 312および図 313で見られたようにグレイン毎に OFETの動作が ldquoONrdquoになることを再度示しているといえる一方傾きに対応する伝達コンダクタンス partID

partVDはグレイン A Bで大きな違いはなかった過去のペンタセン OFETに関

する研究においてもグレイン境界がしきい値電圧を負にシフトさせている報告があり [27 28]今回の測定も妥当な結果が得られていると考えられる一般的にしきい値電圧は深いトラップ準位一方しきい値電圧以降の伝導特性は浅いトラップ準位が影響するといわれている [54]このことを踏まえるとグレイン境界は深いトラップ準位リッチと考えられるグレイン境界とトラップの関係はこれまでも指摘されてきたものの [123]今回のように単一の特性のグレイン境界においてしきい値電圧シフトを直接観測したことは有機デバイスの電気特性と物性の相関を確かめる上で非常に有意な結果と考える

36 第 3章 AFM電流測定法を用いた有機グレインの局所電気特性評価

0

2

4

6

-4-2 0

I D [n

A]

VG [V]

AirAB

Vacuum

0

100

200

300

400

-20-15-10-5 0

I D [n

A]

VG [V]

AirVacuum

Vacuum

Air

(a) PCI-AFM (b) Reference OFET

図 315 (a)図 314で示したグレイン A B上で平均した大気中 (赤色)真空中 (緑色)の IDndashVG

特性菱型記号丸記号はそれぞれグレイン A Bの特性を表す(b)レファレンスとして作製したチャネル長 200 nmの OFETの IDndashVG 特性

一方雰囲気で比較すると真空中に比べて大気中では全体的に電流値の増加が見られるまたグレイン A の VG = minus1 V が顕著なようにしきい値電圧の若干の正シフトも見られるしかしこれら変化はどちらのグレイン上においても同等の影響となっているこのような電流値の増加は大気中の酸素の影響と考えられており [124ndash126]有機膜に取り込まれた酸素分子が正孔ドープを行うために抵抗が減少し同時にその正孔により若干のトラップ準位も埋めたことでしきい値電圧が正にシフトしたと考えられる電極対を用いたペンタセン OFETを作製し大気中真空中で伝達測定した結果においても同様の電流の増加としきい値電圧の正シフトが見られた (図 315(b))PCI-AFM で測定された OFET 構造では二つのグレインのみが関係するが電極対を用いた測定ではチャネル中に多数のグレインが存在するそれにも関わらず雰囲気による影響で同様の傾向が見られていることは大気中の酸素による影響はグレイン境界よりもグレイン内部や電極ndash有機界面に大きく影響を与えると考えられるこのように複数環境で PCI-AFMを用いられることは局所電気特性評価を行う上で非常に有用だということが示されたと考える

33 単一微小グレイン OFETの特性評価32節では真空動作化した PCI-AFMを用い真空中での PCI-AFM測定が実現されたことを確認したまたグレイン境界が与える OFETの電気特性への影響とグレイン境界が持つ物性について知見を得た一方でグレイン境界により電気特性が制限されていたためグレイン内部の電気特性についての知見は得られなかった本節ではグレイン内部の電気伝導に着目しPCI-AFM測定により単一のグレインの持つ電気特性を抽出評価することを目標とする

331 Point-by-point動作時間間隔の自由化32節の測定では JEOL製 AFMコントローラのMFMモードを利用した point-by-point動作を実現したしかしMFM モードの利用はソフトウェアの制限により最長で 10 ms のホールド時間しか確保できない電圧掃引時間を長くする積算回数を増やすといった測定のためには自由にホー

33 単一微小グレイン OFETの特性評価 37

Lift down

Lift up

Restart excitation

Trigger

Pre-lift Stop excitation

Mesh point

Restart

From controller

100 ms

350 ms

50 ms

200 ms

Measurement period Bias voltage

To controller

FG120 (FG1)excitation

AFG320 (FG3)

GP-IBGP-IB

GP-IB

図 316 PCI-AFM の point-by-point 動作時間間隔を自由に設定するために作成したプログラムのフローチャートFG1 FG3は図 310の FG1 FG3に対応する

ルド時間が設定できることが望まれるそのため研究室で製作された PXI4および FPGA5ベースの AFMコントローラを用いた point-by-point動作用セットアップを構築した図 316に point-by-

point動作のために作成した LabVIEW6プログラム (Externalプログラムと呼ぶ)のフローチャートを示す動作は以下の順序で実行される

1 (External外) AFMコントローラにおいて point-by-point動作点 (Mesh点と呼ぶ)に来た場合フィードバックモードからホールドモードにしプログラム的に Externalプログラムに信号を送る

2 励振停止指示を GP-IB接続した FG1に送る同時に探針を試料に若干近づける (Pre-lift)3 探針を試料に接触させる (Lift down)4 測定用バイアス出力指示を GP-IB接続した FG3に送る5 任意測定時間経過後探針を試料から離す (Lift up)6 励振再開指示を FG1に送る7 AFMコントローラにMesh点動作終了を通知する

AFM コントローラと External プログラムの間の信号伝達は LabVIEW のシェア変数により実現されているそのため完全に同期させた動作は困難であり各プロセス間に図中のとおりのウェイト時間を設けることで各プロセスを完了するように調整した

38 第 3章 AFM電流測定法を用いた有機グレインの局所電気特性評価

Electrode Pentacene grain

SiO2

[nm

]

30

0

50 nm(a)

(b)

[nA]

15

0

(d)

Tim

es

(c)

Electrod

e

0

100

200

0 100 2005HVLVWDQFHgtї

LVWDQFHgtQP

0

05

1

15

ampXUUHQWgtQ$

IA BII III

2 V0 V

iuml9iuml4 Viuml6 Viuml8 V

VG

A B

A B

図 317 ペンタセン微結晶上における PCI-AFM ライン測定結果(a) ペンタセン微結晶の表面形状像(b) (a)の AndashBラインに沿った PCI-AFM測定によって得られた位置および測定回数に対してプロットした電流マップ (VG = minus8 V)(c) (d)各 VG における電流値 (c)および抵抗値 (d)の電極からの距離依存性(c) (d)のプロファイルに対応する表面形状像および AndashBライン領域 I II IIIの位置を (c)のインセットに示す

332 ペンタセン微結晶上の PCI-AFMライン測定321節と同様に作製したペンタセン薄膜試料の表面形状像を図 317(a)に示す321で得られたペンタセン薄膜 (図 312(a))と比べ比較的平坦部分が増しまたグレインの縁が単結晶のように直線的になっている本試料は前節と異なり蒸着中の基板温度を常温から 45Cに上げており蒸着量を約 5 nmとした基板温度の影響はペンタセンのグレイン構造に大きく影響を与えることが指摘されており [122]図 317(a)のペンタセングレインは基板温度を上げたことにより比較的結晶性の良いグレインとなっていると考えられる続いて図 317(a)の AndashBラインに沿って各点 IDndashVG のPCI-AFM測定を行った電極に +3 V各点における基板へのバイアス印加を +5 Vから minus5 Vとすることで実効的に電極がソースカンチレバーがドレインとなるように動作させこのときのドレインバイアス (VD)は minus3 Vゲートバイアス (VG)は +2 Vから minus8 Vと換算できるPCI-AFM測定は同一ライン上を複数回取得した得られた VG = minus8 Vにおける電流プロファイルの測定回数依存を図 317(b)に示す電流マップの上から下にかけて測定回数が増えるが少なくとも 10ラインはほぼ同一の特性が得られていることが分かるよってこの間は探針の変化は小さくまた試料の電気特性変化も起きていないと考え以下の解析では 2ndash8ライン目の計 7ラインを平均した結果を

4 PCI eXtentions for Instrumentation5 Field-programmable gate array6 National Insturments社のグラフィカルプログラミング統合開発環境の名称

33 単一微小グレイン OFETの特性評価 39

Tip Mirror tip

V

Electrode

(a) (b)

VminusV

PE(r)

rArB

x

A(L0)B(-L0)

r

y

0

Tip

図 318 2D伝導の理論的検討(a)電界広がりを考慮した抵抗体内の電界の模式図(b)鏡像電位 minusV を用いて求める場合の模式図電位 V中心点 A(d 0)半径 rの Tip接触部に対して鏡像Tipを電位 minusV中心点 B(minusd 0)半径 r の円と定めることでx gt 0の範囲で (a)と同一の電界分布となる

用いたなお測定の後半では若干電流値の減少が見られておりこの領域では探針の摩耗といった特性変化の影響が考えられる

PCI-AFMで得られた電流プロファイルの VG 依存性を図 317(c)に示す図 317(c)のインセットに位置を対応させた表面形状像を表示しているまず電極端に対応する位置で電流値が最大となっている電極直上ではゲートバイアスによる電荷蓄積の影響が現れにくくほぼペンタセンの真性状態の特性しか現れていないと考えられるため電流値が減少したと考えられる次に電極からの距離が遠くなるに従い電流値の減少が見らるがグレイン内を通る距離が増える分抵抗が大きくなることと合致する最後に絶縁膜である SiO2 上では電流は検知されず漏れ電流やゲートバイアス掃引による影響は排除できていると考える電流プロファイルからはグレイン内で距離が増加するに従い電流が減少する傾向に明確な違いは見受けられないが図 317(d)のように R = |VDID|で変換した抵抗値のプロファイルを見ると傾向の違ういくつかの領域があることが分かる電極からの距離が近い順に領域 I II III と名付けると領域 I は電極端から非線形的に抵抗が増加している一方領域 IIは距離に対して線形に変化しており特に VG lt minus4 Vで顕著である領域 IIIは単調な変化をしていないが対応する表面形状から別のグレインが繋がったものと考え今回の評価からは除外する以下領域 I IIを含むペンタセングレインを微結晶と呼ぶ

333 抵抗の距離依存性の理論数値的検討前節では微結晶上の領域 I IIで異なる抵抗の距離依存性を確認できた本節では特に領域 IIに注目し微結晶本来の特性の抽出を検討する

理論的考察 抵抗率 ρの抵抗体の抵抗を考えるとき最も基本的な伝導は全ての電界が抵抗体内では平行に分布する場合であるX Y Z 方向にそれぞれ長さ L w t の直方体の X 方向の両端に電極を接続する場合の抵抗 Rは

R = ρLwt

(311)

のように電極間距離 L に対して線形に変化するこのような伝導を以下 1D 伝導と呼ぶしかし図 317(a)の表面形状像では微結晶が電極に接触している部分が多く図 318(a)のように電界が平行ではなく平面上を広がる可能性があるこのような伝導を 2D伝導と呼ぶ2D伝導における抵

40 第 3章 AFM電流測定法を用いた有機グレインの局所電気特性評価

抗を求めるため試料をシート抵抗 ρ厚さ 0の抵抗体と考えx = 0で y方向に無限に長い電位 0

の電極および点 A(L 0)を中心とする半径 r電位 V の円を接触している Tipと考え接触電流測定のモデルとする図 318(b)のように点 B(minusL 0)を中心とする半径 r電位 minusV の円を Tipの鏡像を考えるとx gt 0の範囲は求める電界分布と同一であるここで点 P(x y)の位置が点 A Bそれぞれからの位置ベクトル rA rB で表されるときTipおよび Tipの鏡像が作る点 Pにおける電界はそれぞれ定数 λを用いて

EA =λ

2πrA

|rA|2 EB =

minusλ2π

rB

|rB|2(312)

と表される7よって点 Pでの x方向の電界 Ex は

Ex(x y) =λ

[L minus x

(L minus x)2 + y2 minusL + x

(L + x)2 + y2

](313)

であるTipndash電極間に流れる電流を I とすると電極上 x = 0における電界から電流が

I =1ρ

int infin

minusinfinminusEx(0 y)dy

ρπ

int infin

minusinfin

LL2 + y2 dy

ρπ

int π2

minus π2dθ =

λ

ρ(314)

と表されることからλ = ρI と求まる一方Tipndash鏡像 Tip間の電位差は

2V = minusint Lminusr

minus(Lminusr)Ex(x 0)dx

= minusρI2π

int Lminusr

minus(Lminusr)

[1

L minus xminus 1

L + x

]dx

= minusρI2π[log(L minus x) minus log(L + x)

]Lminusrminus(Lminusr)

=ρI2π

log4L2 minus r2

r2 (315)

と表されるため2D伝導の抵抗 R2D は

R2D =ρ4π

log4L2 minus r2

r2 (316)

と求まるL - rのときR2D sim ρ2π log 2Lr となるため1D伝導とは異なり距離に対して対数的に変

化することが分かる過去の SPMを用いた報告として2つの探針を有する STMを用いてポリ 3-オクチルチオフェン

(poly(3-octylthiophene) P3OT) の薄膜の抵抗率を測定した結果がある [128]この報告では非常に広い薄膜を用いているため距離に対して対数的に変化する 2D伝導として記述できることから抵抗率を算出している一方で有機薄膜における探針電流測定において実効的なチャネル幅を見積もることで線形的な変化とみなす試みもなされている [129]しかし有限要素法による解析ではチャネルの存在が仮定されておらずバルク部での電界の広がりとチャネル領域との振る舞いの違いが懸念される

33 単一微小グレイン OFETの特性評価 41

Electrode

(buried)

Bulk (σbulk)

Channel (σch)

Contact area (Tip)

tbulk

L

Lmax

w

teltch

r

図 319 有限要素法による OFETモデルの電界シュミレーションに用いた試料モデル

表 32 有限要素法による OFETモデルの電界シュミレーションで用いたパラメータ印以外は実測に則した値を用いており印はモデル化のため仮定した

Parameter Description Value

tel 電極厚さ 5 nm

tbulk 有機膜厚さ 20 nm

tch チャネル層厚さ 1 nm

w 電極接触幅 100 nm

Lmax 微結晶最大長 100 nm

σch チャネル導電率 1 Sm

σbulk バルク部導電率 01 Sm

r 探針接触半径 5 nm 10 nm

数値的考察 理論的な考察を踏まえ実際の測定系に近いサイズで電界がどのように振る舞うか調べるために本研究でも有限要素法による電界シュミレーションを行った図 319に電界シュミレーションで用いた試料モデルの模式図を対応する用いた各種パラメータを表 32にそれぞれ示す各種パラメータは用いた電極および図 317(a)から求まる概算の実測値を用いている絶縁膜直上の 1分子層にほとんどの電荷が蓄積されることが知られているため [130]チャネル層の厚さは簡単に 1 nmとした図 320に電界シュミレーションで得られた電流密度マップを示すほとんどの電流は速やかにチャネル層に到達しておりまた電極接続幅全体に渡っていることが分かる特に電極端から 20 nm程度は平行にほぼ同じ電流密度で流れているこれは 2D伝導よりも 1D伝導に近いことを示唆する結果である図 321(a)に探針接触径 r = 5 nm 10 nmのときの抵抗距離依存性の計算結果を示すどちらの接触径においても距離に対してほぼ線形に変化していることが明瞭である接触径が 10 nm から 5 nm になることで距離 0 での抵抗がほぼ 2 倍となっている距離 0

7 2次元伝導の場合無限遠点の電位が 0とはならない [127]

42 第 3章 AFM電流測定法を用いた有機グレインの局所電気特性評価

(a)

r = 10 nm L = 80 nm

(b)

Tip

Electrode

50 nm

図 320 OFETモデルの電界シュミレーションで得られた電流密度マップr = 10 nmL = 80 nmのときの結果を示している

0

200

400

600

800

0 20 40 60 80 100

5HVLVWDQFHgt0ї

LgtQP

r = 10nm

r = 5nm

0

5

10

0 5 10

Appa

rent

ѫchgt6

P

5HDOѫchgt6P

FittingCalculation

(b)(a)

図 321 OFETモデルの電界シュミレーション結果(a) r = 5 nm 10 nmにおける抵抗の距離依存性(b) r = 10 nm におけるチャネル導電率を変化させたときの見かけの導電率の変化(a)の 30 nmndash80 nm 間の傾きを dRdL としたとき見かけの導電率は σprimech = (wtch

dRdL )minus1 で記述され

る値

のとき電流経路はほぼバルク部分のみであるため接触抵抗とみなすことができる一方傾きは接触径によりあまり変化していないことから実際の測定における接触径と異なるとしても距離依存性への影響は小さいと考えられるこのように距離に対して線形に変化することから微結晶上のPCI-AFM測定では 1D伝導とみなして評価できるといえる電極付近ではほとんどの電流がチャネル中を流れるとすると微小な距離増加 dLに対する微小な抵抗増加は dR = dL(σchwtch)と記述できるよって抵抗ndash距離依存性の計算結果における傾き ( dR

dL )からチャネル導電率は

σapparent =(wtch

dRdL

)minus1(317)

と計算される図 321(b)にチャネル導電率を変化させた際の計算結果における dRdL から算出した見

かけのチャネル導電率のプロット結果を示す実際のチャネル導電率がバルク導電率に近い場合見かけの導電率は大きく異なるがチャネル導電率がバルク導電率に比べて非常に大きいときは実

33 単一微小グレイン OFETの特性評価 43

0

2

4

6

8

10

12

-8-6-4-2 0 2

S gtQP

ї

VGgt9

ch

101

102

103

104

-8-6-4-2 0 2

WR

pgtNїAtildeFP

VGgt9

(a) Channel conductivity (b) Parasitic resistance

図 322 PCI-AFMにより得られた微結晶上の抵抗の距離依存性 (図 317(d))のうち領域 IIについて TLMで抽出した (a)チャネル導電率 S ch(b)寄生抵抗 Rp

際と見かけの導電率はかなり似通ってくるまた図 321(b)のプロットを線形フィッティングすると傾きは約 09となり dR

dL から計算されるチャネル導電率は実際の導電率とほぼ同等ということが分かった

微結晶のパラメータ抽出 以上の理論数値的検討よりPCI-AFM測定で得られた微結晶の領域IIにおける抵抗の距離依存性は 1次元伝導として解析可能だと結論づけたOFETとチャネル長との関係は非常に深くこれまで多くの研究において 4端子法 [41 53]や TLM [48 131ndash134]を用いた真の OFETチャネル伝導特性評価が試みられてきたこれら手法は OFETの特性に含まれる接触抵抗と OFET本来の特性とを分離するための手法でありOFET特性に由来する抵抗のチャネル長依存性が線形であることを利用しているTLMの方法を以下で説明するOFETの線形領域における特性より全抵抗 Rは

R = Rp +L

wCimicro(VG minus Vth)minus1 (318)

と記述できチャネル長 Lに対して線形に変化する但しチャネル幅 w単位面積あたりの絶縁膜容量 Ciしきい値電圧 Vth移動度 microであるチャネル長を変化させたデバイスを作製すると理想的には L以外のパラメータは一定なため距離依存の線形近似により移動度および切片から接触抵抗 Rp を求めることができるもしくは全抵抗の距離微分の逆数 (チャネル導電率)S ch が

S ch equiv(dR

dL

)minus1= wCimicro(VG minus Vth) (319)

のようにゲートバイアス VG に対して線形に変化することからしきい値電圧も抽出することができるこちらの手法を Gated-TLMと呼ぶこともある図 317(d)の領域 IIのうち電極からの距離 30 nmndash100 nm間についての線形近似で得られたチャネル導電率 S ch および寄生抵抗 Rp を図 322に示す寄生抵抗の影響を排除したにも関わらずチャネル導電率は式 (319)のように VG に対して線形に変化していないそのため移動度がゲートバイアス依存をもっていると解釈できるこのような移動度のゲートバイアス依存は有機層がエネルギーに対して指数的に分布するトラップ準位を有す場合に発現することが知られ半経験的な式

44 第 3章 AFM電流測定法を用いた有機グレインの局所電気特性評価

として次のような形が知られている [135 136]

micro = κ(VG minus Vth)α (320)

指数分布する局在準位と伝導に寄与する準位との間を行き来しながら電荷が通過することでチャネル内伝導が起こるとしたMultiple trapping and release (MTR)モデルではこの移動度のゲートバイアス依存性が解析的に導かれている [137]一方で指数分布するトラップ準位を考慮した電気伝導はアモルファスシリコン (a-Si)を用いた FETで記述された考え方であり [138]非常にトラップが多い系を対象とする式 (320)を考慮した移動度の抽出手順としてσch を 1(α + 1)乗 (α ge 0)しminus3 V le VG le minus8 Vの範囲に対して線形最小二乗法フィッティングを行いフィッティングの確実度(=回帰の平方和総平方和)が最も 1に近くなるような αを最適値とした最適フィッティングパラメータはα = 218でありこのとき Vth = 03 Vκ = 315 times 10minus6 cm2(V1+α middot s)となった過去の報告では αの値は 1程度かそれ以下であり [135 136]本研究で得られた値は大きく異なる一方MTRモデルを考えαをトラップ深さに対応するエネルギーに変換すると 80 meVとなる比較としてペンタセンを用いた OFETにおける活性化エネルギーとしては 20 meVndash40 meVが知られている [2953]またAFMポテンショメトリーを用いたペンタセングレイン内の電位測定からグレイン内部のバンドゆらぎが 20 meV 程度あることが指摘されている以上の結果もやはり本結果よりもエネルギーが小さい値である今回測定した微結晶においてこのようにトラップに対応するエネルギーがこれまでの報告に比べ大きい理由としては以下のことが考えられる第一にOFET

の移動度は有機ndash絶縁膜界面によって非常に影響を受けるということである絶縁膜 SiO2 の表面に塗布するバッファ層の種類により移動度が一桁以上変化する報告もあり [139]本研究では有機ndash絶縁膜界面が比較的トラップリッチだったことが考えられる第二に電極ndash有機界面部分の特性がTLMのみでは排除しきれていない可能性がある図 320の電界シミュレーション結果より電流密度が電極付近で非常に大きくなっていることが分かるそのためたとえ距離依存性からチャネルのみの特性を抽出していたとしても電極付近の特性が特に含まれている可能性がある電極付近は通常のチャネル部よりも活性化エネルギーの高さが指摘されていることからも [53]考慮にいれるべきであろう

334 電極近傍の電気伝導特性本節では図 317(c)の領域 Iに注目する領域 Iは電極からの距離がおよそ 25 nm以内であるがペンタセングレインの厚さが 20 nm程度ということを加味すると電流経路としてチャネルを通らずに探針ndash電極間で直接伝導するものも含まれうるこのとき探針ndash電極間直線距離 Ldirect に応じて増加する抵抗 Rdirect を考えると全体の電流は図 323(a) のように式 (318) で記述される OFET

の抵抗を経由する電流 IFET = VD(Rp + RFET)と直接伝導する電流 Idirect = VDRdirect の和となるただし図では式 (318)の右辺第二項を RFET としたここで図 317(c)における電流距離依存性をLminus1

direct に対する依存性に変換したものを図 323(b) に示すただし電極ndash探針間水平距離 L膜厚tbulk = 20 nmに対して Ldirect =

radicL2 + t2

bulk としたもし Idirect なる成分がない場合1Ldirect が増加しても IFET は VDRp で飽和するその傾向は図 323(b) の領域 II(距離減少に対して IFET 増加) および IIrsquo(IFET 飽和)にあらわれている一方領域 Iに対応する箇所では 1Ldirect に対して増加しておりこの増加する成分が Idirect に対応すると考えられるまた領域 Iの 1Ldirect に対する傾き

34 AFMによる接触電流測定の問題点 45

0

05

1

0 002 004

Cur

rent

[nA]

1Ldirect [1nm]

2 V0 Vndash2 Vndash4 V

ndash6 V

ndash8 VVG

III IIrsquo

Rp

RFET

RdirectIdirect

IFET

Tip

Electrode

(a) (b)

IFET

Idirect

図 323 (a) チャネルを通る伝導 (電流 IFET) に加えて電極近傍における探針ndash電極間直接伝導(電流 Idirect) を考慮した回路モデル(b) 図 317(c) の電流を探針ndash電極間直線距離 Ldirect の逆数1Ldirect に対してプロットしたグラフ領域 I と領域 II (IIrsquo 含む) はそれぞれ図 317(c) のインセットにおける領域 I IIに対応する

VG VD

Cantilever(source)

GrainCarrier

Electrode(drain)

VG ndash VD ndashVD

Cantilever(drain)

Grain

GateCarrier

Electrode(source)

(a) Cantilever-Source (b) Cantilever-Drain

Gate

図 324 カンチレバーのソース動作 (a)ドレイン動作 (b)の模式図とキャリア (正孔)の動きドレイン動作時は固定電極に minusVDゲートに VG minus VD を加える事で(a)とバイアス条件を同じにしながらカンチレバーの接続を変えることなくドレイン動作させることができる

つまり直接伝導の抵抗率は VG 依存性を持っておりVG lt minus4 Vの領域で比較的一定であるIdirect

の電流成分はチャネル部を通過していないのにも関わらずこのような抵抗変調が起きる原因として電極を覆うグレインの存在が考えられる本試料のように電極をゲート絶縁膜直上に形成後有機薄膜を作製するボトムコンタクト型 OFETにおいて電極直上のドーピングによる効果が観測されている [140]これは電極直上の薄膜部分も伝導に関与していることを示しておりVG の印加によるキャリア変調も起こる可能性があるつまり図 323(b)の領域 Iで見られた抵抗率の VG 依存性は電極直上の薄膜の存在が接触抵抗を減少させうることを示唆する結果といえる

34 AFMによる接触電流測定の問題点32節では PCI-AFMの電流マッピングを活用し単一グレインを挟んだ際の OFET特性変化を

33節では PCI-AFMの位置依存性評価を推し進め微結晶のナノスケール TLM評価に適用することで微結晶のみの伝導特性を抽出できた一方ナノスケール TLMでは図 322(b)のように寄生抵抗も抽出でき従来の TLMではこの成分を接触抵抗とするがAFM電流測定では電極ndashグレイン界面の接触抵抗 (電極接触抵抗)だけでなく探針ndashグレイン界面の接触抵抗 (探針接触抵抗)も含む近似的に接触面積が接触抵抗に影響すると考えると探針接触抵抗の方が大きいということが予期

46 第 3章 AFM電流測定法を用いた有機グレインの局所電気特性評価

0

10

20

30

40

-5-4-3-2-1 0C

urre

nt [n

A]VD [V]

VG

ndash10 Vndash5 V

0 V

ndash15 V

-40

-30

-20

-10

0-5-4-3-2-1 0

Cur

rent

[nA]

VD [V]

VG

ndash10 V

ndash5 V

0 V

ndash15 V

Electrode

Pentacenegrain

(a) Topography (b) Cantilever-source (c) Cantilever-drain

Contactingpoint

図 325 カンチレバーをペンタセングレイン (表面形状像 (a) の x 点) に接触させて測定したVDndashID 特性(b)カンチレバーのソース動作時(c)ドレイン動作時

されるここで探針接触抵抗と電極接触抵抗の均衡性について議論するためカンチレバーをソース動作させた際とドレイン動作させた際の特性変化を調べた (図 324)セットアップの都合上カンチレバーには電圧を印加できないため固定電極に minusVDゲートに VG minusVD を印加することで実効的にカンチレバーを OFETのドレインつまりキャリア (正孔)の引き抜き側として動作させた図 325(a)の x点で示すペンタセングレイン上の 1点にカンチレバーを接触させカンチレバーをソースドレイン動作させVG = 0 V minus5 V minus10 V minus15 Vについて IDndashVD 特性を測定した結果をそれぞれ図 325(b) (c)に示す結果よりカンチレバーのソース動作時はドレイン動作時に比べて電流が半分程度となったOFETの接触抵抗はドレイン電極端よりもソース電極端の方が大きいことが知られている [141]そのため探針接触抵抗が電極接触抵抗に比べて支配的であることでこのようにカンチレバーのソースドレイン動作による非対称性が現れたと考えられるこのことはナノスケール TLM で抽出された寄生抵抗の大部分が探針接触抵抗によるものであることを示しておりAFM電流測定を用いた電極接触抵抗評価は困難であると考えられる

35 本章のまとめ本章では PCI-AFM を用いた OFET の局所電気特性評価について検証および測定を行ったまず従来手法では困難であった真空中動作を Q 値制御法の利用により実現し効率的な動作パラメータ設定と柔軟な point-by-point 動作設定が可能な制御プログラムの作成を通したフレキシブルな PCI-AFMシステムを構築したペンタセンのマルチグレイン薄膜上の測定から雰囲気による特性変化がグレイン内部で起こることを示したまた単一グレイン境界によるしきい値電圧変化を電流像として可視化できPCI-AFMが位置依存での電気特性評価に有効であることが示された一方単一グレイン上での測定では数値計算から TLM による距離依存性評価が可能であるとわかり単一グレイン上で 100 nm以下のスケールでの TLMを達成したしかしTLMから求まった寄生抵抗には電極ndashグレイン界面の接触抵抗以外に探針ndashグレイン間の抵抗が含まれてしまい探針のソースドレイン電極動作結果から探針ndashグレイン間抵抗が支配的であることが分かった以上のことはPCI-AFMによる OFET評価はグレインndashグレイン間やグレイン内の ldquo比較rdquoがあれば定量的評価が可能であるが比較をとることのできない電極ndashグレイン界面の電気特性評価には向かないことを示している

47

第 4章

新規局所インピーダンス評価法の開発と金属―有機界面物性の評価

3章では PCI-AFMを用いた OFETのナノスケール TLMを行い単一グレイン境界や単一グレイン内伝導の分離評価を達成した一方電極ndashグレイン界面については探針接触抵抗の影響が大きいため評価が困難であることが明らかとなった局所電気特性のうち未達成である電極ndashグレイン界面電気特性の評価のため次の二点に注目する一点目として2章で述べた EFMをベースとする非接触測定により接触抵抗の影響を回避する二点目としてIndashV 測定のような直流評価に留まらず複数物性評価を通したより詳細な物性議論を行うことであるこれはインピーダンス分光や容量ndash電圧測定のようなマクロ薄膜での評価法の AFM応用やKFMによる準位評価 [142 143]を併用することで可能となることが期待されるよって本章では電極ndashグレイン界面の電気特性の選択的評価を行うための新規局所インピーダンス評価法を開発し界面電気特性の由来となる物性の解明を目的とする

41 走査インピーダンス顕微鏡 (SIM)

本研究の目指す AFM を用いた局所インピーダンス評価応用としてはこれまでに走査インピーダンス顕微鏡 (Scanning impedance microscopy SIM) という手法が開発されているSIM はPennsylvania大の Kalinin Bonnellによって 2001年に開発された AFMの応用手法であり試料の水平方向の局所インピーダンスを検出できる [144]SIMの基本的な装置構成を図 41に示すSIM

は AM-AFMの Liftモードで動作する先に AM-AFMにより表面形状像を取得しそのプロファイルに沿って試料より一定距離高いところを走査する試料としては水平方向に材料 A Bが接続もしくは同じ材料でも垂直方向に defect が存在する系を考えるこの材料 A B の間に角周波数 ωの交流電圧を加える表面電位 Vsurf は

Vsurf = Vs + Vac cos(ωt + φc) (41)

と記述できる但しVs は試料表面の直流電位Vac および φc は交流電位の振幅および位相であるこの交流電圧による静電気力 F(t) = F1ω cos(ωt + φc)は

F1ω =partC(z)partz

(Vtip minus Vs)Vac (42)

48 第 4章 新規局所インピーダンス評価法の開発と金属―有機界面物性の評価

LDPSPD

ω

Reference

Sample

Local impedance

A B

Lock-in amp

Amplitude amp Phase

図 41 走査インピーダンス顕微鏡 (SIM)の装置構成図

のように交流電圧の振幅に比例し同じ位相となる静電気力によりカンチレバーも振動を生じるが振幅は F1ω に比例し位相は振動特性による位相差 φを含む φc + φとなるこのときAndashB境界部分にインピーダンスが存在するとA Bでの交流電圧に位相差 φBA が起きるこれによりカンチレバーに生ずる振動の位相はA上で φc + φB上で φc + φ + φBA となるためその位相差が直接 AndashB間交流電圧の位相差として検出できる2002年の報告では界面インピーダンスがより厳密にモデル化できる金属ndashSi ショットキー界面を用いている [145]ショットキー界面の抵抗ndash容量(RC)並列回路によるインピーダンスを Zd とし回路の両端に定抵抗 Rを挿入すると位相差は電流に関わらず

tan(φBA) =Im( R

Zd+R )

Re( RZd+R )

(43)

と求まるためカンチレバーから検出した位相差とショットキー界面の理論式からショットキー界面の抵抗容量を算出している以降SIMの基本的な技術は同じにしつつ非線形応答 [146]や走査ゲート顕微鏡を組み合わせることで CNTの欠陥の可視化 [147]CNTネットワークの電気特性 [148]といった様々な試料の面内方向に関する電気的な局所物性の評価に用いられてきたしかしLiftモードでの測定で試料表面より 100 nmという非常に離れたところで静電気力を測定しているため空間的な分解能はそれよりも大きいものとなってしまうまた直流電位を測定する別の手法と組み合わせることで詳細な評価を行なっているが完全に同位置の測定ができないこと元々試料に高電位がかかっている場合に SIMの測定中は打ち消せないことなどの問題が内在しているSIMを OFETの局所物性評価に応用する場合まずグレインが 1 microm以下の微小なものであることや比較的高いバイアスオフセットがかかるといった以上で述べた問題に関わる上に真の物性測定のためには真空中での測定が不可欠であるSIMでは振幅変化を捉えるため真空中での測定は問題となる可能性がある

42 周波数変調走査インピーダンス顕微鏡 (FM-SIM)の開発本研究では従来の SIMのコンセプトを踏襲しOFETの評価に適した新規手法である周波数変調走査インピーダンス顕微鏡 (Frequency-modulation SIM FM-SIM)を提案する従来の SIMの問題点である真空中評価に関しては FM検出方式の導入により改善され同時に Liftモードを用いるこ

42 周波数変調走査インピーダンス顕微鏡 (FM-SIM)の開発 49

FM-SIM

FM-AFMTopography

(height control)

FM-KFMLocal potential

(bias oset)

FM-EFM

SIM

Local AC signal

Lateral AC bias

図 42 周波数変調インピーダンス顕微鏡 (FM-SIM)に含まれる既存技術の概要図

Lock-in amp

Lock-in amp

Bias feedbackSelf-excitationblock

Frequencydetection

Heightfeedback

Scanner

LDPSPD

Sample AC

Tip AC

InsulatorGate

Grain

Electrode

Topography

FM-SIM signal

Local potential

図 43 FM-SIM 測定における基本装置構成図図中の灰色の要素が FM-AFM紫色の要素がKFMそして橙色の要素が FM-SIMの技術に対応する

となく静電気力の検出が可能となるさらに FM-KFM を組み合わせることで直流電位の影響を排除でき表面形状直流電位と同時に交流電圧による局所的な応答を取得することができるようになる図 42に FM-SIMに含まれる SIMや既存技術の関係を示す

421 FM-SIMの原理FM-SIM測定における基本的な装置構成を図 43に示す本研究ではまず金属ndash有機グレイン境界における局所インピーダンス評価を対象とするまず 244節の説明と同様にFM-AFMによるカンチレバーの共振周波数での励振および共振周波数シフト (∆f dc)の変化を一定にするような高さ制御により表面形状像を得る次にVt = Vdc

t + Vact cosωtt なるバイアスをカンチレバーに加え

る但しVdct は FM-KFMにより探針ndash試料間電位差を打ち消すための制御電圧である同時に試

料上の電極に交流電圧 Vacs cosωstを加える局所的な電位がVlo = Vdc

lo + Vaclo cos(ωst + φlo)と記述

50 第 4章 新規局所インピーダンス評価法の開発と金属―有機界面物性の評価

できるときカンチレバーが感じる静電気力は次の FES で与えられる

FES =12partCts

partz[Vdc

lo + Vdct + Vac

t cosωtt + Vaclo cos(ωst + φlo)

]2 (44)

ここでzCts はそれぞれ探針ndash試料間の距離および容量であるFES にはいくつかの周波数成分があり以下の 7つの成分に書き下される

DC FdcES =

12partCts

partz

(Vdc

lo + Vdct +

12

Vaclo +

12

Vact

)2

ωt F tES =

12partCts

partz(Vdc

lo + Vdct )Vac

t cosωtt

ωs FsES =

12partCts

partz(Vdc

lo + Vdcs )Vac

lo cos(ωst + φlo)

2ωt F2tES =

14partCts

partz(Vac

t )2 cos 2ωtt

2ωs F2sES =

14partCts

partz(Vac

lo )2 cos(2ωst + 2φlo)

ωt plusmn ωs F tplusmnsES =

12partCts

partzVac

t Vaclo cos

[(ωt plusmn ωs)t plusmn φlo

](複号同順) (45)

ここでF tES により生じる周波数変調成分 ∆f t をロックインアンプ (Lock-in amplifier LIA)で検出

しその振幅成分が 0となるようフィードバック回路により直流電圧 Vdct を制御するこのような

FM-KFM動作により表面 (直流)電位 Vdclo = minusVdc

t が測定されるこれら FM-AFM FM-KFMが動作している状態で試料の交流電圧の振幅位相成分を測定することを考えるまず上記のように Vdc

t を設定することでωs 成分である FsES が同様に 0となるこ

とが分かるためωs 成分を用いて評価することはできない残る成分のうちVaclo および φlo が含ま

れている成分は F2tES Ftplusmns の 3つであるしかし2ωs 成分である F2s

ES から定量評価するには測定した振幅に対し二乗根を取る必要がありSNの低下が懸念される一方F tplusmns

ES は試料の交流電圧に比例するためF tplusmns

ES により生じたカンチレバーの周波数変調信号 ∆f tplusmns も Vaclo に比例した振幅およ

び φloと一致する位相をもつよって ∆f の ωtplusmnωs成分を測定することでより単純に試料の交流電圧を測定できると考えられるここで特にカンチレバーの周波数変調信号の和周波成分を「FM-SIM

信号」と呼ぶ以下の議論では簡単のため試料上の交流信号と FM-SIM信号はフェーザ形式を用いて表しそれぞれ Vx∆fx の記号を用いるただし交流信号は実振幅 Vac

x と位相 φx を用いてVx = Vac

x ejφx と書き下しFM-SIM信号は複素比例係数 αを用いて ∆fx = αVx と表すαは探針ndash試料間距離が同じで∆f dcや振動振幅を同一条件にしている限り測定内では一定とみなせるまたx

は試料上のある場所を表す suffixでありx = el(電極上) lo(有機膜上) g(ゲートゲート絶縁膜上)

とする

実際の装置構成 421節では基本的な装置構成に基づいて局所交流信号を得る方法を説明したしかし実際の測定では複数の装置や設定項目を用いているためそれらについてここでまとめておく図 44に OFET上で FM-SIM測定を行う場合の実際の装置構成および配線図を示すただし図 41における自励発振系FM-AFM部分については省略したAFMコントローラは 33節と同じく PXIベースの自家製コントローラを使用し自励発振系周波数検出器 (PLL)Bias feedback

および加算器 (Adder) は研究室で作成された自家製回路であるLIA として Zurich Instruments 製HF2LI-MF (以下 ZI-LIA)エヌエフ回路設計ブロック製 LI5640 (以下 NF-LIA)を用いたまた以

42 周波数変調走査インピーダンス顕微鏡 (FM-SIM)の開発 51

AFM controller(data in)

Lock-in amp(ZI-LIA)

Osc 1

In 1 In 2 Out

Osc 2

fs ft

Lock-in amp(NF-LIA)

Ref OutIn

Frequency detection(PLL)

InsulatorGate

AC elOpposite el

Deection Biasfeedback

VG

IAC

IDC

RG

RacRopp

VDS

el = electrode

LPF

図 44 FM-SIM測定における実際の装置構成および配線の詳細図

後 FM-SIMによる全ての測定は真空度 1 times 10minus3 Pa以下の高真空中で行ったその他の構成設定は以下のとおりである

用語定義 交流バイアス印加電極 AC 電極 (AC el ldquoacrdquo)印加していない方の電極 対向電極(Opposite el ldquoopprdquo)とする

DCバイアス ゲート (Si基板)に VG をAC電極に VD(ドレイン動作の場合)VS(ソース動作の場合)を印加

KFM変調 ZI-LIA(Osc2)より振幅 Vact = 2 Vp-p周波数 ft = 1 kHzで変調

KFM検出 NF-LIAによりPLLからの出力 (∆f )に対してZI-LIA(Osc2)の信号を Referenceとして in-phaseを検出その信号を Bias feedback回路へ

FM-SIM変調 ZI-LIA(Osc1)よりAC電極に振幅 Vacs = 1 Vp-p周波数 fs(測定により異なる)の交

流電圧を印加FM-SIM検出 ZI-LIAにより∆f に対して ft + fs 成分の振幅 (R)位相 (φ)を検出しAFMコン

トローラで画像化電流 対向電極から流れる電流を Femto製電流アンプ DLPCA-200により検出直流成分 (IDC)は

LPF(lt 1 Hz) に通した信号を交流成分 (IAC) は ZI-LIA により fs 成分の振幅位相を検出しそれぞれ AFMコントローラで取得

実験によって電流を取得していないなどの違いが若干あるが測定時している場合の構成は基本的に上述のとおりである以下に特記事項について述べる

ロックインアンプ設定 FM-SIM測定のためにはft + fs という和周波の Lock-in検出が必要となるよりフレキシブルな測定のため本研究では Zurich instruments 社の HF2LI-MF(以下 ZI-LIA)

52 第 4章 新規局所インピーダンス評価法の開発と金属―有機界面物性の評価

を用いたZI-LIA上で和周波を Lock-in検出する方法として以下の 3方式について順に検討した

1 ZI-LIAの PID機能を用いて和周波数を作成し検出2 Reference周波数として直接 ft + fs を入力し検出3 ft fs をそれぞれ fbase の m倍波n倍波として出力し fbase の (m + n)倍波を検出

1は fs を中心とし入力 ft に対してゲイン minus1の周波数フィードバックをすることで ft + fs が作成できるしかしこの 1と 2の方式は fs と ft + fs との間に同期が取れている保証がない特に画像取得など長時間要する場合は測定の初めと終わりで位相のオフセットが変化してしまう例として1 kHzに対して 1 times 10minus3 Hzのズレ (つまりビート)が存在する場合1分あたり元信号に対して約 20 変化してしまう一方3の方式はZI-LIA上からどちらの周波数信号も出力すれば ZI-LIA

内で確実に同期が取れていることから同一条件であれば位相オフセットは同じとなるよって以降の FM-SIM 測定では 3 の方式を用い設定周波数はベース周波数 (例 200 Hz ) および倍波指定(例 4倍波)に対して ldquo800 Hz(200 Hz times 4)rdquoのように示すこととするまた図 44の ZI-LIA In 1についてPLLからの出力は minus5 V付近なのに対しZI-LIAは plusmn1 V

の範囲でしか入力できない一方ZI-LIAの入力を AC couplingにすると 1 kHz以下の信号にフィルタがかかってしまい振幅の減少と位相変化が生じるよって本研究では入力段に 100 nF のキャパシタを直列に挿入することでカットオフ周波数が 10 Hz以下の HPFとした

回路抵抗 本研究では図 44 のとおりOFET の電極ゲートとの接続部分に直列に抵抗を挿入した理由として(1) 従来の SIM [147] で厳密にインピーダンス解析を行う場合にも挿入しているため(2)対向電極の FM-SIM信号がほぼ 0な場合に LIAで位相検出が困難になることを防ぐためである(2) については対向電極上のデータが最終的に不要となる場合もあるが画像化を重視し基本的に抵抗を挿入することとする特記がない場合以下の実験では Rac = RG = 10 kΩ

Ropp = 1 MΩを使用した

422 OFETにおける FM-SIM応答の妥当性3章と同様の方法で作製したペンタセン薄膜に対しFM-SIM測定した下部電極を AC電極およびソース電極として交流電圧 ( fs = 800 Hz)と +1 Vの直流電圧を印加し上部電極は接地ゲートに +2 V印加しながら FM-SIM測定し表面形状表面電位像と同時に FM-SIM信号の振幅位相を取得しマッピングした結果を図 45に示す図 45(a)(b)に関しては FM-KFMと同様の測定でありグレイン形状に対応した電位分布が現れていることからFM-SIMと同時に KFMを動作可能であることがよくわかるFM-SIM 振幅像は AC 電極付近だけ非常に明るくなっておりAC

電極から離れたグレインや対向電極絶縁膜上はほぼ同じ信号強度であったFM-SIM位相像ではAC電極付近から離れるにつれて位相が正にシフトしており対向電極上は AC電極に比べて約 60

の違いが生じたここでAC 電極は直接交流電圧を印加しているため抵抗を介してはいるものの位相はほぼ印加電圧のそれと同じつまり理論上は 0 となるはずであるしかし図 45(d) から実際に測定された AC電極上の位相は 1264 であり大きく異なるこれは421節で用いた比例定数 αが実数ではないことに対応し周波数検波の PLLやカンチレバーの応答その他複数の要因により位相オフセットが生じていると考えられるしかし前述のように印加交流電圧の周波

42 周波数変調走査インピーダンス顕微鏡 (FM-SIM)の開発 53

04 V 16 V

5 mV 15 mV -150ordm -60ordm

(a) Topo

(c) SIM-amplitude

(b) Potential

(d) SIM-phase

(e)

(f)

0

20

40

0 200 400 600 800

-140

-120

-100

-80

SIM

-Am

pl [

mV]

SIM

-Pha

se [d

eg]

Distance [nm]

ElGr 1 Ins

0

20

40

0 100 200 300

-140

-120

-100

-80

SIM

-Am

pl [

mV] SIM

-Pha

se [d

eg]

Distance [nm]

El Gr 2

150 nm

A1

A2

B1

A1 B1

A2 B2

B2

AC el (+1 V)

GNDVG = +2 V

図 45 ペンタセン薄膜上の FM-SIM測定結果 ( fs = 800 Hz VG = +2 V)(a)表面形状像(b)表面電位像(c) FM-SIM振幅像(d) FM-SIM位相像(e) (f)それぞれ (a)の A1ndashB1A2ndashB2 ラインに沿った FM-SIM振幅位相プロファイルldquoElrdquo は電極ldquoInsrdquoは絶縁膜上の領域を示す

数を倍波設定で行なっているためオフセット値は常に一定であるよって以後の測定結果ではFM-SIM 位相の絶対値には意味を考えずAC 電極上の FM-SIM 位相が 0 となるように像全体からオフセットを差し引いた値を解析に用いることとする図 45(a)の A1ndashB1 および A2ndashB2 ラインに沿った FM-SIM信号のプロファイルを図 45(e) (f)に示すAC電極 (El)より左 (Gr1)では電極からの距離が遠くなるに従い徐々に強度が減衰しており最終的に絶縁膜上 (Ins)と同等の強度であるまた位相は距離と共に線形に正シフトしている一方 A2ndashB2 ライン上の Gr2では 10ndash20 mV

と絶縁膜上よりも強度が大きく位相も電極上と大きな違いはなくGr2 上ではほぼ一定であるOFET構造において FM-SIM測定を行い以上のように得られる結果が何に由来しているかについて(1)絶縁膜対向電極上の応答(2)有機膜上の応答の二項に分けて議論する

1 FM-SIM応答に則す回路モデル 図 45の測定と同時に取得した対向電極での交流電流 IAC は693 nArmsang616 であった対向電極は GND との間に Ropp = 1 MΩ を挿入しているため対向電極上の交流電圧の位相は IAC と同じはずであるが前述の位相オフセットのためズレが生じている一方 AC電極と対向電極との FM-SIM位相差が約 60 であることと交流電流の位相が良い一致を示しているため測定された交流電流は正しく OFET回路における応答を反映したものと考えられる交流電圧に対する対向電極への信号の伝わり方として(i) AC電極ndashゲート間およびゲートndash対向電極間の容量を介した伝導(ii) AC電極ndash有機膜ndash対向電極という経路の伝導の二通りが考えられるしかしゲートバイアスを印加 (VG = minus4 V)して同様の測定を行うと 696 nArmsang614 という交流電流が得られる一方で後の測定で見られるように FM-SIM像が大きく変化するこれは有機膜

54 第 4章 新規局所インピーダンス評価法の開発と金属―有機界面物性の評価

GateInsulator

Rac Ropp

RG

C1 C2

Vac~

VG~

IG~

Iopp~

V0~

Vopp~

図 46 FM-SIM応答を考える上でゲート容量を介した伝導を考慮したマクロ回路モデル

表 41 マクロ回路モデルから計算された各位置における交流電圧および交流電流の計算値および FM-SIMから測定された実測値

計算値 実測値 (FM-SIM信号)

AC電極 VacV0 094ang minus 111 (1ang0)

ゲート VGV0 020ang669 018ang479 (絶縁膜上)

対向電極 VoppV0 020ang695 022ang637

IG 99 microAang669 NA

が OFET構造全体における交流電圧応答に関与していないことの現れであると考えられるため(ii)

による寄与は非常に小さいといえる(i)による寄与を回路モデル化すると図 46のように表されるAC電極対向電極ゲートそれぞれへの経路上の抵抗を Rac Ropp RG とおきAC電極対向電極とゲート間の容量を C1 = C2 = C とするAC 電極から角周波数 ω の電圧 V0 を入力しAC 電極上対向電極上ゲート上の複素電圧がそれぞれ Vac Vopp VG に決まる例えばVopp は

Vopp

V0=[1 minus 1

(ωC)2RGRopp+ Rac

( 1Ropp

+1

RG

)minus j

1ωC

( 2Ropp

+1

RG+

Rac

RGRopp

)]minus1(46)

のように与えられるここでRac = RG = 10 kΩ Ropp = 1 MΩ∣∣∣V0∣∣∣ = 1 Vp-pω = 2πtimes800 Hzのとき

に測定された対向電極での電流 Iopp の絶対値 69 nArms と一致するように C を求めるとC = 43 nF

となるこの値を用いて各位置における電圧および電流を求めた結果と図 45から求めた対応する FM-SIM信号の値を表 41にまとめたまず Vopp の振幅は計算値と実測値比較的よい一致を示しているまた絶縁膜上の信号はゲート上の計算値と比較的近い値であり絶縁膜上で測定されるFM-SIM信号はゲート由来のものであると推察される一方Vopp の位相は 10 程度異なる計算では全ての抵抗を既知としたがゲートが高ドープ Siであることによる酸化膜の影響や配線に用いた銀ペーストの影響によりRG に抵抗や容量が含まれている可能性があるこれらの影響で実際には理想的なモデルからは位相がずれてしまったと考えられるただ全体としては図 46の回路モデルは FM-SIM信号をよく表しており対向電極上の応答は (i)で決定されると考えられるつまり対向電極の応答はマクロ回路部で決定されるため有機膜ndash対向電極界面の FM-SIM信号変化はあまり意味を持たないよって FM-SIMを用いて有機ndash電極界面の物性議論を行うためには評価対象の電極を AC電極とすることに留意しなくてはならない次にAC電極ndashゲートに流れる電流は約 10 microAと対向電極の電流に比べて非常に大きいため対向電極の存在は交流電圧の振る舞い

42 周波数変調走査インピーダンス顕微鏡 (FM-SIM)の開発 55

にほとんど影響を与えていないといえるまた先述のとおりゲートバイアス印加による FM-SIM

像の変化があったとしても元々の AC電極ndashゲート間交流電流が大きいためVel や VG はほとんど変化しないよってこれら電圧は同一周波数同一サンプルではほぼ一定とみなすことができるこの事実は後の節で局所インピーダンス解析を行う上で局所領域とマクロ部分を分離して考えることのできる理由付けとなる

2 有機膜上の応答要因 図 45(e)の Gr1上の応答について考察するまずFM-SIM信号の振幅が速やかに減少しているため分布定数回路での記述が考えられる単位距離あたりの抵抗容量をそれぞれ r cとすると位置 xにおける複素電位 v(x)は微分方程式

d2vdx2 = jωcrv(x) (47)

を満たすため解は定数 κ =radicωcr2を用いて

v(x) = v(0)eminusκxeminusjκx (48)

と求まる距離が遠くなるに従い指数関数的に振幅が減少するが同時に位相が 1次関数的に減少(負シフト)することが分かるしかし図 45(e)では FM-SIM位相は正にシフトしているため分布定数による振幅の減衰ではないと判断できるここでGr1上が収束していく値と絶縁膜上の応答が比較的近いことから実際の Gr1 上の応答にゲートの応答がカップルしていることが考えられる図 47 に図 45(e) の Gr1 上およびゲート (絶縁膜) 上の FM-SIM 信号の極座標プロットを示すただし先述の議論に基づき AC電極上の位相が 0になるよう位相オフセットを施した確かに Gr1上の信号は最終的にゲート上の信号と一致するが収束するまでの値は AC電極上とゲート上の信号を結ぶ直線上にほぼ乗っているそのためGr1自体の応答の減衰に従いゲート上の応答が支配的になることで図 45の Gr1のような応答が得られたのだと考えられる一方Gr2は内部でほぼ一定でありGr1のような強度の減衰に伴うゲート応答のカップリングは見られないこの場合は AC電極から伝わった膜自体の交流電圧がそのまま応答として得られているといえるしかしAC電極とは振幅位相が若干異なりAC電極と Gr2の間に電気的な阻害要因つまり局所インピーダンスが存在すると考えられる後の議論で有機膜上の応答を検証する場合Gr1のようになだらかに変化する応答ではなくGr2のようにある程度一定の振幅位相の値をもちゲートからの応答が直接カップルしていない領域を対象とする

423 局所インピーダンスの解析422節では交流電流や回路モデルの観点からFM-SIMが AC電極対向電極そして有機膜上の交流電圧に対応する応答を測定していることを確かめた一方で有機膜上のインピーダンス変化に比べてマクロ回路の交流電流が非常に大きいため交流電流や回路モデルから局所インピーダンスの評価を行うのは困難であるしかしVel VG は同一条件内でほとんど変化しないことFM-SIM

測定中に同時に得られることからこれら信号をレファレンスとして利用できる可能性がある以下ではこれに基づいたインピーダンス解析法を提案し理想的な周波数特性を計算そして実際の FM-SIM測定から局所インピーダンスを得るプロセスを順に述べる

56 第 4章 新規局所インピーダンス評価法の開発と金属―有機界面物性の評価

-20

0

20

0 20 40

SIM

(im

ag)

[mV

]SIM(real) [mV]

On ins

On Gr1

Distant from El

ElGate

図 47 図 45(e)の A1ndashB1 ラインに沿った FM-SIM信号のうちGr1上および絶縁膜上 (Ins)それぞれについて極座標プロットした結果ただしAC電極上 (El)の位相が 0となるように位相オフセットを施した

Gate

FilmElectrode

Insulator

図 48 FM-SIM信号から局所インピーダンスへ変換するための等価回路モデル

局所インピーダンスへの変換 試料上に Lateralなインピーダンスが存在すると局所交流電圧が変化しFM-SIM 信号の変化から試料上の Lateral な局所インピーダンスの存在について議論はできるしかし局所インピーダンスを定量的に評価することはできないそこで図 48 のような等価回路を考える電極ndash有機膜界面のインピーダンスを Zlo とし有機膜下の実行的なゲート絶縁膜容量を Ci とする有機膜内のインピーダンスが電極ndash有機界面のインピーダンスに比べて十分小さく膜内の交流信号がほぼ一定と仮定できる場合図 48 の等価回路が成り立つまず測定したFM-SIM信号に対し正規化 FM-SIM信号 γを

γ equiv ∆flo minus ∆fg∆fel minus ∆fg

=Vlo minus Vg

Vel minus Vg(49)

のように定義するすると等価回路より γ は界面インピーダンスと実効容量インピーダンスによる複素電圧の内分と同等つまり

γ =1(jωsCi)

Zlo + 1(jωsCi)=

11 + jωsCiZlo

(410)

と記述できることが分かるつまり式 (410)により FM-SIM信号と界面インピーダンスを一対一に対応させることができる

理想周波数応答 インピーダンス分光ではインピーダンスの周波数依存性を複素平面表示したColendashColeプロットから系の等価回路を推定可能である本研究でも正規化 FM-SIM信号の周波数応答と界面インピーダンスとの関係について考察する式 (410)より様々な Zlo を仮定すること

42 周波数変調走査インピーダンス顕微鏡 (FM-SIM)の開発 57

2πCiRlo = 10 ms

CloCi = 2

(a) Amplitude

(c) Amplitude (d) Phase

(b) Phase

ќDP

SOLWXGH

0

02

04

06

08

1

10 100 1000)UHTXHQFgt+]

CloCi = infin

2

1

05

ќDP

SOLWXGH

0

02

04

06

08

1

10 100 1000)UHTXHQFgt+]

2πCiRlo33 ms10 ms33 ms

ќSKDVHgtGHJ

0

10 100 1000)UHTXHQFgt+]

2πCiRlo

10 ms33 ms

33 ms

ќSKDVHgtGHJ

0

10 100 1000)UHTXHQFgt+]

CloCi = infin

2105

Rlo Clo

Fixed C

Fixed R

図 49 正規化 FM-SIM信号の理想周波数応答 (界面インピーダンスが直列 RCの場合)(a) (b)CloCi = 2 に固定したとき2πCiRlo = 33 ms 10 ms 33 ms での振幅位相(c) (d) 2πCiRlo =

10 msに固定したときCloCi = infin 2 1 05での振幅位相

でその理想的な周波数応答が分かるまず界面インピーダンスが抵抗と容量の直列回路 (直列 RC)

で表される場合を考えるZlo = Rlo minus j(2π fClo)minus1 としRlo および Clo をそれぞれ変化させた際の正規化 FM-SIM信号の周波数応答を図 49に示すただし Ci が既知ではないためCi に対して正規化した値を与えたまず全体の形状として周波数の増加に従い振幅が減少し0へ収束するまた位相は 0から負にシフトしminus90 へ収束することが分かる抵抗を増加させると曲線の形状は変化しないが振幅位相共に低周波数側へシフトする一方容量が減少すると低周波側の振幅が減衰する次に界面インピーダンスが抵抗と容量の並列回路 (並列 RC) で表される場合を考えるZlo =

(Rminus1lo + j2π fClo)minus1 としRlo および Clo をそれぞれ変化させた際の正規化 FM-SIM 信号の周波数応

答を図 410に示す周波数の増加に従う振幅の減少は直列回路と同じであるが1から開始し 0以外の値へ収束しているまた位相は 0から負にシフトするがClo = 0以外は 0へ収束する抵抗を増加させると直列回路と同様に低周波側にシフトし容量を増加させると高周波側の振幅が増加する以上の周波数特性を正規化 FM-SIM信号の複素平面プロット (以後 γndashプロットと呼ぶ)として示したものを図 411に示す特筆すべきことは全ての応答は円弧状の軌跡を描くことであるそのため先に述べたそれぞれの等価回路での特性を非常に簡潔に表すことができ直列 RC では 1

以外の値から 0 へ並列 RC では 1 から 0 以外の値へ収束していることがよく分かるまた図411(a) (b) の水色線はどちらも抵抗のみの回路に対応し直径 1 の半円となるRlo の変化に対し

58 第 4章 新規局所インピーダンス評価法の開発と金属―有機界面物性の評価

(a) Amplitude

(c) Amplitude

(b) Phase

(d) Phase

ќDP

SOLWXGH

0

02

04

06

08

1

10 100 1000)UHTXHQFgt+]

2πCiRlo33 ms

10 ms

33 ms

ќDP

SOLWXGH

0

02

04

06

08

1

10 100 1000)UHTXHQFgt+]

CloCi

0

05

1

2

0

10 100 1000)UHTXHQFgt+]

33 ms10 ms33 ms

ќSKDVHgtGHJ

0

10 100 1000)UHTXHQFgt+]

CloCi = 0

051

2

ќSKDVHgtGHJ

Rlo

Clo

2πCiRlo = 10 ms

CloCi = 05

Fixed C

Fixed R

図 410 正規化 FM-SIM 信号の理想周波数応答 (界面インピーダンスが並列 RC の場合)(a)(b) CloCi = 05 に固定したとき2πCiRlo = 33 ms 10 ms 33 ms での振幅位相(c) (d)2πCiRlo = 10 msに固定したときCloCi = 0 05 1 2での振幅位相

Rlo Clo

f = (2πCiRlo)-1 f = (2πCiRlo)-1

-05

0 0 05 1

Imgtќ

5Hgtќ

CloCi = infin

21

05

(a) RC-series (b) RC-parallel

Imgtќ

5Hgtќ

-05

0 0 05 1

CloCi = 0

21

05

Rlo

Clo

図 411 正規化 FM-SIM 信号 γ の理想周波数応答の複素平面プロット(a) 界面インピーダンスが直列 RC の場合(b) 並列 RC の場合それぞれの図における破線との交点では周波数がf = (2πCiRlo)minus1 となる

43 ペンタセングレイン上の局所インピーダンス評価 59

0 mV 40 mV -40ordm +10ordm

(a) Topography (b) Potential

(c) SIM-amplitude (d) SIM-phase

02 V 08 V35 nm

Elec

trod

e 100 nmA

AC el (VD = 0 V)

VG = 0 V

図 412 ペンタセン薄膜上の FM-SIM測定結果 (VD = VG = 0 V fs = 100 Hz)(a)表面形状像(b)表面電位像(c) FM-SIM振幅像(d) FM-SIM位相像矢印で示すグレイン Aは以降の評価の対象とした孤立ペンタセングレイン

て軌跡の概形は全く変化せずClo の変化に対しては円弧の半径が変化することが分かるまた図411の破線 (0 minus 05jを中心とする半径 05の円弧)との交点における周波数が f = (2πCiRlo)minus1 に対応することからRlo の大小も評価できる以上の振る舞いは次のように説明できる先に比抵抗 τr = 2πCiRlo および比容量 βc = CloCi を定める直列 RCの場合は γは

γ =1

2(1 + βminus1c )[eminusj2θ( f ) + 1

](411)

θ( f ) = tanminus1( f τr

1 + βminus1c

)(412)

のように変形でき中心 ( 12(1+βminus1

c ) 0)半径 12(1+βminus1

c ) の半円だということが分かる並列 RCの場合

γ = 1 +1

2(1 + βc)[eminusj2θ( f ) minus 1

](413)

θ( f ) = tanminus1[(1 + βc) f τr]

(414)

となり中心 (1minus 12(1+βc) 0)半径 1

2(1+βc) の半円だということが分かるこれらのことから式 (410)

に直接フィッティングさせずともγプロットの概形から簡易的に界面インピーダンスの等価回路やその抵抗容量の変化が判別できるということが分かる

43 ペンタセングレイン上の局所インピーダンス評価431 単一グレイン上の周波数依存評価これまで述べた局所インピーダンス解析法を実際の結果に適用する図 45と同じペンタセン薄膜の上部電極付近でFM-SIM測定した結果を図 412に示すただしfs = 1times100 Hz ft = 10times100 Hz

60 第 4章 新規局所インピーダンス評価法の開発と金属―有機界面物性の評価

-05

0

0 05 1

Im[a

]

Re[a]

R only

fs

0

02

04

06

08

1

10 100 1000

a-a

mp

litu

de

Frequency [Hz]

-1 V

Fitted

-3 V

-5 V

(a) (b)

図 413 グレイン A上の正規化 FM-SIM信号 γの周波数依存性(a)周波数ndash振幅プロット(b)γプロットVG = minus1 V(赤)minus3 V(橙)minus5 V(緑)における応答および並列 RC回路としてフィッティングした結果 (実線)破線は界面インピーダンスが抵抗のみとした場合の理想的なγの応答

とした矢印で示すペンタセングレイン (グレイン A)は他のグレインから孤立しており直接 AC

電極に接続している単一グレインであることが分かるFM-SIM振幅像は表面電位像に比べてグレインの形状をより綺麗に示しておりFM-SIM では FM-KFM よりも空間分解能の高い測定ができる可能性があることを示唆しているFM-SIM振幅位相は共にグレイン A内で均一であるグレイン A以外では電極とほぼ同じ位相だがグレイン Aでは電極ndashグレイン A界面で大きな差異があるFM-SIM信号の変化は局所インピーダンスの存在を示していることを考慮するとグレイン A

は電極との電気的接続が良くないということグレイン A内のインピーダンスは電極ndashグレイン界面に比べて十分小さいということが分かるそのためグレイン Aは図 48の等価回路で示すことができると考えられる続いて電極ndashグレイン界面インピーダンスの等価回路を検証するため周波数 fs 依存の FM-SIM

測定を行った fs を 10 Hzから 900 Hzの間で変化させ電極グレイン A絶縁膜の FM-SIM信号を取得し正規化 FM-SIM信号を得たなおこの測定は VG = minus1 V minus3 V minus5 Vのゲートバイアスについて行いグレインには正孔が蓄積しているまた fs の掃引に同期して ft + fs を設定する必要があるためこの測定については 421節「ロックインアンプ設定」の項の 1の方式で検出した得られた正規化 FM-SIM信号の周波数ndashFM-SIM振幅プロットを図 413(a)にγプロットを図 413(b) に示す周波数掃引に従い振幅が 1 近くから減少し約 02 で収束している様子が見られ並列 RC回路に対応する図 410(a) (c)の振る舞いに似ているγ プロットでは測定点が低周波では 1近くで半径が 1より小さい円弧状に並んでいる様子が明瞭に確認できるつまり電極ndashグレイン A界面は並列 RC回路で記述できる次に式 (413)を用いた界面インピーダンスの半定量評価を次のプロセスで行なった

1 円弧フィッティングGNU Octave 380の fminsearch関数を用いてデータ点との距離の二乗和が最小になるような円弧の中心半径を求めβc を算出

2 振幅値フィッティングGnuplot 46の fit機能と 1で求めた βc を用いて式 (413)の振幅に最小二乗フィッティン

43 ペンタセングレイン上の局所インピーダンス評価 61

表 42 FM-SIM周波数依存性 (図 413)からフィッティングにより求めた並列 RC回路における界面インピーダンスのパラメータ

VG 比容量 βc 比抵抗 τr [ms]

minus1 V 016 1564plusmn040

minus3 V 018 1354plusmn023

minus5 V 021 539plusmn013

グを行いτr を算出

これにより求めたフィッティングパラメータを表 42にパラメータを用いたフィッティングカーブを図 413 の実線に示す図 413(a) (b) 共にそれぞれの VG におけるデータ点をうまく表しておりτr の誤差も 3以内に収まっていることからうまく並列 RCの式にフィッティングできていると考えられるつまり金属ndash有機界面では接触抵抗だけでなく局所容量も存在していることを示しているこれまでも界面容量が金属のフェルミ準位と有機薄膜の HOMO 準位のミスマッチにより生じると報告されている [149 150]しかしこれらの報告はトップコンタクト OFETつまり有機薄膜が電極と絶縁膜の間に挟まれている構造での測定に基づいている有機薄膜の厚さは通常キャリアが流れるチャネル層の厚さに比べて十分厚いためトップコンタクト OFETにおける界面インピーダンスには有機薄膜のバルク部分のインピーダンスも含んでしまう一方本測定はボトムコンタクト型の接触のためこれまでの研究と比較してより直接界面容量の存在を確認したといえる

432 電極ndashグレイン界面インピーダンスの一般性前節ではグレイン内部のインピーダンスが電極ndash単一グレイン界面インピーダンスよりも十分小さく界面インピーダンスが並列 RCで記述できることがわかったこのような傾向がグレイン A以外にも現れるか確かめるため他のグレインについても評価を行う図 412の範囲を含む広い領域 (図 414(a))でゲートバイアスを VG = minus1 Vとし上下電極を AC

電極として FM-SIM測定し得られた FM-SIM振幅像および位相像をそれぞれ図 414(b) (c)に示すただしfs = 100 Hz 300 Hz 800 Hzについて測定した本測定では上下両方の電極を AC電極としているためどちら側に接続しているグレインも応答することになるまず fs = 100 Hzでの両結果から見て取れることはそれぞれのグレインの応答が異なることであるしかしそれぞれのグレイン内ではある程度均一であることもわかるこれはどのグレインにおいても図 48の等価回路が成り立つことを示しているそのためFM-SIM信号の違いは電極ndashグレイン界面インピーダンスの違いつまり電極との電気的カップリングの違いを表しているといえる次にACバイアスの周波数 fsを増加させた際の変化を見るまずFM-SIM振幅信号 (図 414(b))

が全体として増加しているがこれは図 46においてゲート抵抗 RG に比べて絶縁膜部分のインピーダンス (C1 由来)が減少することでゲート電極上の応答

∣∣∣VG∣∣∣が大きくなることに由来するため問

題とはならない次に表面形状像 (図 414(a))の破線で示した 4つのグレイン (A B C D)に注目するグレイン A B Cに関しては fs の増加に伴い FM-SIM位相が増加し振幅が絶縁膜上の値に近づいているこれはまさに図 413(b)の正規化 FM-SIM信号の周波数依存性で見られた円弧の左

62 第 4章 新規局所インピーダンス評価法の開発と金属―有機界面物性の評価

-40ordm +50ordm

2 mV 45 mV35 nm

(a) Topography (b) SIM-amplitude

(c) SIM-phase

AC el (GND)

AC el (GND) 150 nm

fs = 100 Hz 300 Hz 800 Hz

fs = 100 Hz 300 Hz 800 Hz

AB

DC

図 414 ペンタセン薄膜上の FM-SIM測定結果 (広範囲)VG = minus1 VAC電極は上下両電極とした(a)表面形状像(b) FM-SIM振幅像 ( fs = 100 Hz 300 Hz 800 Hz)(c) FM-SIM位相像 (同fs)電極を太破線グレイン A B C Dを細破線で示している

半分の変化を示すもので周波数の増加により |γ|の減少γ位相の増加と対応する一方グレイン Dは fs の増加に伴う振幅の変化は少なく位相は減少しているこれは他の 3グレインと違い位相のみ特徴的に減少する図 413(b)の右半分と対応することがわかるつまり前節のグレイン A

に限らずどのグレインにおいても図 413のような周波数応答を示すことを示唆しておりRC並列回路は電極ndashグレイン界面インピーダンス一般に成り立つことが分かった

433 キャリア蓄積による電極ndashグレイン界面物性変化431節の結果よりVG による変化に関してはどちらのパラメータも単調に変化しているが特に比抵抗の減少が顕著に見られるこのようにグレイン中へのキャリア蓄積状態によって金属ndash有機界面の電子物性も変化していることが分かる金属ndash有機界面で生じる接触抵抗の起源を明らかにするためにも界面インピーダンスの VG 依存性について詳しく評価するなお上述の議論で界面インピーダンスを並列 RCで記述できることがわかったため以下では界面インピーダンスをその逆数つまり「アドミタンス」として考え次式で示す正規化アドミタンスを導入する

Ynorm =1

2π fsCiZlo=

12π fsCiRlo

+ jClo

Ci(415)

43 ペンタセングレイン上の局所インピーダンス評価 63

SIM

-Am

pl [

mV]

Distance [nm]

0

12

4

8

0 200 400 600

A B

A B

Electrode

GrainInsu

lator

Topo(a)

(b)

012 -1 -2 -3VG [V]

-02

0

02

10-2

100

10-2

100

∆V [V

]Re

(Yno

rm)

Im(Y

norm

)

(c)

(d)

(e)

ForwardBackward

+2 V

-3 V-25 V

+15 V+1 V

+05 V0 V

-05 V-1 V

-15 V-2 V

図 415 (a)電極とグレイン A界面付近の表面形状像(b) (a)の AndashBライン上で測定された FM-SIM振幅プロファイル(cndashe) VG を変えた際の電極ndashグレイン界面の正規化アドミタンス (Ynorm)の実部 (c)虚部 (d)および界面電位差 (∆V)(e)赤は VG を +2 Vから minus3 Vへの (forward)青は minus3 Vから +2 Vへの (backward)変化時のデータ点を示す

Ynorm は 2π fsCi で界面インピーダンスを規格化しているため無次元の量であり実部が (規格化)コンダクタンス虚部が (規格化)サセプタンスとなる

VG 依存性の FM-SIM測定ではfs = 100 Hzに固定しVG と直列接続となっている Vacs の影響を

抑えるためVacs = 02 Vp-p としたVG は +2 Vから minus3 Vまで 05 V刻みで変化させた後 (forward)

+2 Vまで戻した (backward)図 415(a) に示す表面形状像の AndashB ライン上で複数回 FM-SIM 測定しそれぞれの VG で 5ラインずつ平均した結果得られた FM-SIM振幅プロファイルを図 415(b)

に示すVG により電極上の FM-SIM振幅に変化はなくグレイン A上のみ徐々に増加していることが分かる電極グレイン A絶縁膜それぞれの領域で FM-SIM振幅および位相の平均を求め式(49)より正規化 FM-SIM信号 (γ)を続けて式 (415)により正規化アドミタンス (Ynorm)を求めた同時に界面での直流電位差との関係を議論するため同時測定の FM-KFMで得られた表面電位から電極に対するグレイン電位 (電位差 ∆V)も求めたこれらを図 415(c)ndash(e)に示すまず VG を正から負に印加することでコンダクタンス (Re[Ynorm]) が急増したVG lt 0 でも継続して増加していることは423節の周波数依存性で見られた VG 印加による τr 減少と合致する結果であるVG 印加による接触抵抗の減少はこれまで OFETにおける研究で多く見られてきた [55 131 151]接触抵抗減少のモデルとしては有機薄膜のバルク部の効果や電極付近の低移動度領域が提唱されているがこれらはトップコンタクト OFETやマルチグレイン薄膜で説明されたモデルである [151 152]本研究の FM-SIM測定では単一グレインと電極との界面を考えておりバルク部やグレイン境界によるインピーダンスへの影響は排除できると考えられるよって図 415(c)のような界面コンダクタンスの増加 (接触抵抗の減少) は金属ndashグレイン界面の電子物性本来の効果が現れたものだと考えられる興味深いことに図 415(c) (e)で見られるように界面コンダクタンスと電位差でゲートバイアス変化の forwardと backwardで似たヒステリシス (履歴)効果が現れているこのような履歴効果

64 第 4章 新規局所インピーダンス評価法の開発と金属―有機界面物性の評価

Large mismatch

EF

VL

Trap states

E

DOS

HOMO

Metal Organic

∆V gt 0

Small mismatch

Metal Organic

∆V lt 0

(b) Depletion(a) (c) Accumulation

0

1

15

05

-02 0 02∆V [V]

Re(Y

norm

)DepletionAccumulation

VG = 2 V

VG = -3 VForwardBackward

図 416 (a) 界面コンダクタンス Re[Ynorm] の電位差依存性 (図 415(c) (e) より)赤は負方向(forward)青は正方向 (backward) 測定に対応する(b) (c) Pt 電極とペンタセングレイン界面におけるエネルギー準位の模式図およびグレイン内部のエネルギー (E) に対する状態密度(DOS)の概要図

は OFETの伝達特性でも良く見られている [139]正孔が蓄積している状態では正孔が有機ndash絶縁膜界面の深いトラップ準位に捕捉されVG の正方向掃引でしきい値電圧の負シフトを引き起こす今回用いている絶縁膜 SiO2 もヒステリシスを良く引き起こす材料であるため図 415(c) (e)のヒステリシスもトラップ準位によると考えられるこのことを踏まえると界面コンダクタンスの変化は VG によって直接引き起こされたものではなく電位差 ∆V により大きく関係していると考えられるそこで界面コンダクタンスを電位差に対してプロットし直すと図 416(a)のように forwardと backwardのヒステリシスが非常に小さくなったため電極ndashグレイン界面物性はその電位差によって決定されていることが言えるこのことからも図 415(c) (e)で見られたヒステリシスは界面における本来の物性ではないことが分かる図 416(a) を見ると ∆V gt 0 は VG gt 0 の空乏 (depletion) 状態に対応し界面コンダクタンスRe[Ynorm]がほぼ 0である一方 VG lt 0の蓄積 (accumulation)状態では ∆V lt 0でありRe[Ynorm]

が増加しているこの増加は ∆V = minus02 V で急峻となっており電極ndashグレイン界面が導通するには minus02 V程度の界面電位差が必要であることが示唆されるこれら電位差と界面コンダクタンスの関係は電極とグレインのエネルギー準位の関係から説明できる図 416(b) (c)は電極ndashグレイン界面のエネルギー準位を模式的に示したものであるバイアスが印加されていない状態ではグレインは空乏状態にある一般にキャリア蓄積がおこるチャネル層は HOMO準位と LUMO準位の間にトラップ準位による DOSが存在する (図 416(b))空乏状態ではそれが一部だけ満たされることでEF が EHOMO と ELUMO の間に位置するEF が EHOMO よりも高い準位に位置しているため準位ミスマッチが大きく正孔注入障壁が生じるこの場合電極からグレインに正孔を注入するのが困難となりこれが接触抵抗となる一方ゲートに負バイアスを加えるとグレインが蓄積状態となりトラップ準位が満たされEHOMO

が EF に近づくことで ∆V の負シフトが起こるこれによりエネルギー準位ミスマッチが小さくなり正孔がグレインに注入しやすくなるそのため図 416(c)のように接触抵抗が低減すると説明できる以上のようにVG の印加により電極ndash有機界面のエネルギー準位整合性が良くなり接触抵抗の低減が起こるこの単純な解釈はこれまで異なる仕事関数や SAM修飾を施した電極を用いた電気特性評価によっても議論されてきたものであるしかし単一グレインとの界面においてエ

44 電極表面処理による OFET特性への直接影響評価 65

ネルギー準位の整合状態と接触抵抗との関係を議論したことは非常に意義深いこのようにこれまでの手法では測定できなかった特定の単一グレインにおいても金属ndash有機界面物性について議論できFM-SIMという新規手法開発および評価法の妥当性と有用性が示されたといえる

44 電極表面処理による OFET特性への直接影響評価42節では OFETで局所インピーダンス測定を行うための新規手法 FM-SIMを提案し回路モデルを用いて理論実験両方面から妥当性を示した局所インピーダンスの解析法を用いて電極ndash単一有機グレイン界面の電気特性について議論するに至った本節では有用性を示した FM-SIMを用いて応用的な内容として動作中の OFETの金属ndash有機界面物性の評価に臨むOFETの電極を自己組織化単分子膜 (Self-assembled monolayer SAM)で修飾することで性能向上することが確認できるこの電気特性の変化が何に起因しているかをFM-SIMを用いた電位局所インピーダンス測定により解明を目指す

441 電極表面処理および試料作製本測定で対象とする試料としてdinaphto[23-b2rsquo3rsquo-f ]-thieno[32-b]thiophene (DNTT) 薄膜を活性層としチオール系 SAMの一つである pentafluorobenzenethiol (PFBT)の SAMで電極を修飾した OFETを用いた

DNTT DNTT (C22H12S2) は図 417(a) のような分子構造をもつヘテロ環式芳香族分子であるDNTT は 2007 年に広島大学の Yamamoto Takimiya によって合成された有機半導体分子である [153 154]DNTT に含まれるベンゼン等の芳香族とチエノチオフェンが縮環した分子構造は2006 年の同グループによるベンゾチエノベンゾチオフェン (BTBT) 誘導体の合成 [155] を皮切りに1 cm2(Vs)を超える高い移動度と大気安定性 [156] を持つ p 型有機半導体分子のベースとなる構造として近年非常に注目を受けているこのような大気安定性は深い HOMO 準位と大きなHOMOndashLUMOギャップによりもたらされたものであるが [153]一方でこの深い HOMO準位により電極との界面で大きなキャリア注入障壁が生じてしまい接触抵抗が大きくなるという問題が指摘されている [152]

PFBT PFBT (F5C6HS)は図 418(a)のような分子構造をもつチオールの一種であるチオール系分子は図 418(b)のように S原子が金属と結合するような形で分子が並びSAMを形成することが知られている対象とする金属は Auが一般的であるがAgPtなど他の金属でも SAMを形成する [157]PFBTはペンタセン誘導体やアントラセン誘導体など溶液プロセスにおける低分子系OFETの電極修飾に用いられてきた [18 22]図 419に測定で用いた試料の作製手順を示すまず UVリソグラフィによりチャネル幅約 1 micromチャネル長約 500 nm厚さ約 20 nm の Au 電極を作製し30 mM の PFBT を混合したイソプロパノール (IPA)溶液に電極を 5分間浸漬させることで PFBT-SAMを形成したその後SAM処理を行っていない電極にも同時に DNTT分子を真空蒸着法で約 100 nmの薄膜を成膜しOFETを得た今後SAM修飾を行った試料を「PFBT-Au」試料 (OFET)行っていない試料を「Bare-Au」試料(OFET)と呼ぶ

66 第 4章 新規局所インピーダンス評価法の開発と金属―有機界面物性の評価

(a)

(b)

図 417 (a) DNTTの分子構造式(b) DNTTの結晶構造 (左 b軸投影右 各層のヘリンボーン構造図)(Ref [153] J Am Chem Soc 129 (2007) 2224)

(a) (b)

SH

F

F

F F

F

S Body

SAM

Metal (Au Pt Ag )

図 418 (a) PFBTの分子構造式(b)チオール系分子による SAMの模式図

(1) Electrode fabrication(UV lithography)

(2) SAM fabrication (3) DNTT deposition

30 mM PFBTin isopropanol

Au 20 nm

DNTT 100 nm

PFBT-Au

Bare-Au

PFBT modied Au

SiSiO2

図 419 電極表面修飾比較に用いた試料の作製手順図UVリソグラフィ (図 39参照)で作製した Au電極を PFBT溶液に浸漬させることで PFBT-SAMで修飾した Au電極を作製しSAM修飾有無の電極上に DNTTを同時に成膜した

442 電気特性評価図 420 に電極対で測定した両 OFET の電気特性測定結果を示す出力特性の結果を見るとどちらも飽和領域が表れているがPFBT-Au試料の方が電流が大きい伝達特性については

radicID は

PFBT-Au試料の方が傾きが大きいがしきい値電圧はほとんど変わらない同一基板上のそれぞれ3つの OFETについて平均した移動度はBare-Auでは micro = 044 cm2(Vs)なのに対しPFBT-Auでは micro = 099 cm2(Vs)と 2倍以上に増加したよって本研究で作製した PFBT-SAM修飾電極においても過去の報告と同じく OFETの性能向上の効果が得られている一方しきい値電圧はBare-Au

では minus94 VPFBT-Auでは minus79 Vであり変化は小さかったしきい値電圧はチャネル領域の薄

44 電極表面処理による OFET特性への直接影響評価 67

-8

-6

-4

-2

0-20-15-10-5 0

Cur

rent

[ѥA]

VD [V]

0 V-5 V

-10 V-15 V-20 V-25 VVG

VG = ndash25 V

ndash20 V

ndash15 V

ndash10 V0 Vndash -5 V

-8

-6

-4

-2

0-20-15-10-5 0

ampXUUHQWgtѥ$

VD [V]

VG = ndash25 V

ndash20 V

ndash15 V

ndash10 Vndash5 V

0 V

(a) Bare-Au

(c)

(b) PFBT-Au

10-1010-910-810-710-610-5

-20-15-10-5 0 5 0

1

2

3

I D [A

] (lin

e)

3ID

[10-3

A-1

2] (

plot

)VG [V]

PFBT-AuBare-Au

図 420 電極対で測定した DNTT-OFETの電気特性(a) Bare-Au OFET(b) PFBT-Au OFETの出力特性(c)両 OFETの VD = minus5 Vにおける伝達特性プロットは

radic|ID|(右軸)実線は片対数(左軸)

400 nm 400 nm

80 nm

(a) Bare-Au (b) PFBT-Au

Electrode

図 421 (a) Bare-Au OFETおよび (b) PFBT-Au OFETにおける表面形状像破線で囲まれた領域は電極のある場所を示す

膜の構造やドーピングによって大きく変化することが知られているため [158ndash160]この結果は電極の SAM処理がチャネル領域に与える影響が小さかったことを示しているチャネル領域の状態を確認するためにAM-AFMで取得した OFETの表面形状像を図 421に示す膜の形状は全く同じとは言えないもののグレインの大きさは 100 nmから 200 nmと同程度といえるよって電極の SAM修飾による電気特性の変化はその修飾した電極と有機薄膜との界面における電気特性が変化したものによると考える

68 第 4章 新規局所インピーダンス評価法の開発と金属―有機界面物性の評価

-02 0

02 04

Pote

ntia

l [V]

0

05

1

Ampl

[m

V]-60

-30

0

0 250 500 750 1000Ph

ase

[deg

]

Distance [nm]

-03

0

03

Pote

ntia

l [V]

0

05

1

Ampl

[m

V]

-60

-30

0

0 250 500 750

Phas

e [d

eg]

Distance [nm]

iuml9iuml9iuml9iuml9iuml9iuml9iuml9iuml9

VG

AC electrode AC electrode

(d)

(e)

(f)

(a)

(b)

(c)

(VD = 0 V) (VD = 0 V)Bare-Au PFBT-Au

図 422 (a)ndash(c) Bare-Au試料および (d)ndash(f) PFBT-Au試料での FM-SIM測定結果 (VD = 0 V)(a) (d)表面電位(b) (e) FM-SIM振幅(c) (f) FM-SIM位相プロファイル網掛け部は電極位置を表しAC電極は右電極とした

443 FM-SIMによる電極ndashDNTT界面局所電気特性評価電気特性測定の結果から電極の SAM修飾により電極ndash有機界面の電気特性変化が示唆されたそこでFM-SIMを用いて電極ndash有機界面の電位差や局所インピーダンスの違いを評価する測定条件として(a) VD = 0 Vおよび (b) VD = minus1 V(c) VD = minus5 Vの 3つのドレインバイアスについて測定した(a) では 422 節同様キャリア注入に従う電位差局所インピーダンス変化を評価する一方(b) (c)ではドレインバイアスが加わり OFETが動作している状態でチャネル内の電位プロファイル評価と局所インピーダンス評価を行う

測定方法 測定時のセットアップは 421節の図 43図 44と同じ装置構成である電極に加える交流バイアスは Vac

s = 1 Vp-p fs = 100 Hzとした表面形状像 (図 421)における右電極をソース電極左電極をドレイン電極とし測定により AC電極を変更することでソースドレイン両方の電極ndash有機界面物性を評価する直流バイアスは AC電極側にしか印加しないがAC電極およびゲートに印加する直流バイアスを調整しているため本節で示す VD VG はソースに対するドレインおよびゲートの電圧とみなす1また電極ndash有機界面に絞って評価するため以下の測定では全てチャネルに沿って両電極間を往復するように測定しており5ndash7ラインを平均したデータを用いたこの間位置が同一であることは同時に測定している表面形状プロファイルが同一であることから確認した

ソースドレイン電極接地時 VD = 0 Vにおいて右電極を AC電極として FM-SIM測定した結果得られた表面電位FM-SIM信号の振幅位相のプロファイルを図 422に示す表面電位を見る

1 例えば右電極に1 Vゲートに minus4 V印加するとVD = minus1 VVG = minus5 Vとみなせる

44 電極表面処理による OFET特性への直接影響評価 69

0

01

02

03

04

-06 -04 -02 0 02

Re[

Y nor

m]

6V [V]

0 V

iuml9

VG

0

01

02

03

04

-06 -04 -02 0 02

Im[Y

norm

]

6V [V]

0 V

iuml9

VG

(a) Conductance (b) SusceptancePFBT-AuBare-Au

PFBT-AuBare-Au

図 423 VD = 0 V における (a) 正規化コンダクタンス Re[Ynorm](b) 正規化サセプタンスIm[Ynorm]の ∆V 依存性

とどちらの OFETも負の VG を印加するに従い電極に対するチャネル上の電位が負にシフトしているこれは単一グレインで測定した図 415(e)の結果と合致する結果であるまたVG 印加によりFM-SIM振幅は 0から増加位相は 0 から負シフトする傾向もどちらの OFETでも見られているFM-SIM振幅については小さなゲートバイアスでは AC電極付近と対向電極付近とで差異があるが少なくとも minus4 V以降ではチャネル内で一定でありチャネル内抵抗に比べて AC電極ndash

チャネル界面インピーダンスが支配的であることが分かるまたチャネル内の表面電位は表面形状にカップリングしており再現性はあるが不均一な応答が見られている一方FM-SIM 振幅位相は十分な信号強度があれば十分均一に見えておりKFMにより測定される表面電位よりも表面形状による影響を受けにくいといえこの意味でも KFMよりも OFET中のより局所的な電子物性評価が可能と考えられる図 422の AC電極上チャネル上の均一な応答について平均した値を用い423節と同様に正規化 FM-SIM信号から正規化アドミタンス Ynorm を求めチャネルndashAC電極電位差 ∆V に対してその実部 (コンダクタンス)虚部 (サセプタンス)をプロットした結果を図 423に示すまず図 423(a)

について単一グレインで測定した図 416(a)同様 VG 印加に従い先に ∆V が負シフトし次いでコンダクタンスが増加している416(a)に比べて低 ∆V でも若干コンダクタンスが増加しているのは単一グレインではなく連続膜であるためVG 印加に従いチャネルとなる領域が変化している影響が考えられるしかし上述のとおり VG = minus4 Vでチャネル内の応答が一定となり蓄積がほぼ完了していると考えられるためそれより大きなゲートバイアス領域では意味ある結果が得られていると考える両 OFET で比較するとサセプタンスに関しては単一グレインでの結果 (図 415) 同様単調な増加減少は見られないコンダクタンスに関してはPFBT-Auでは負シフトしていた ∆V が minus035 V

付近で収束しコンダクタンスが増加し続けているがBare-Auではコンダクタンスが増加し始めてからも ∆V がシフトし続けまたコンダクタンスの増加も停滞しているこのことから 2点のことが示唆される一つはPFBT-Auの方が AC電極ndashチャネル界面でキャリア蓄積後のコンダクタンスが大きいということであるこれは電極対を用いた電気特性で電流移動度が向上したことと合致するもう一つは AC 電極ndashチャネル界面が導通するために必要な ∆V が異なるということである433節で議論したように ∆V は電極のフェルミ準位とチャネルの HOMO準位の整合状態と関わっ

70 第 4章 新規局所インピーダンス評価法の開発と金属―有機界面物性の評価

minus1 V

Bare-Au

minus5 V

AC el AC el

Drain Source Drain Source

0

Pote

ntia

lSI

M a

mpl

SI

M p

hase

Po

tent

ial

SIM

am

pl

SIM

pha

se

AC-drain AC-source

iuml9iuml9iuml9iuml9iuml9iuml9iuml9iuml9

VG

Channel Channel

-05

0

3RWHQWLDOgt9

0

05

$PSOgtP9

-30

0

30

0 500 750

3KDVHgtGHJ

LVWDQFHgtQP

-5

0

3RWHQWLDOgt9

0

05

$PSOgtP9

-30

0

30

0 500 750

3KDVHgtGHJ

LVWDQFHgtQP 500 750 LVWDQFHgtQP

(a)

(b)

(c)

(d)

(e)

(f)

(g)

(h)

(i)

(j)

(k)

(l)

図 424 Bare-Au OFET の動作時の FM-SIM 測定結果 (VD = minus1 V(andashf) minus5 V(gndashl))ドレイン(左電極)を AC電極とした場合 (andashc gndashi)およびソース (右電極)を AC電極とした場合 (dndashf jndashl)の結果(a d g j)表面電位(b e h k) FM-SIM振幅(c f i l) FM-SIM位相プロファイル位相プロファイルのみスプライン曲線による平滑化を行っている

ている今回の結果ではPFBT-Auでの電極ndashチャネル界面の方が Bare-Auのそれよりも元々の電極ndashチャネル間準位整合状態が良かったと考えられるVG = minus15 V における ∆V を比較するとBare-Auでは 015 V程度大きい準位シフトが必要ということになるこのように電極の SAM修飾により仕事関数を増加させるという結果がいくつか報告されている [161ndash163]フッ素系の SAM

の場合チオール基から表面方向に対し分子軸に沿って負のダイポールが存在するため電極の見かけの仕事関数が増加すると考えられているしかし報告によって仕事関数の変化は 05 eVから1 eVと異なるこのことは本研究の KFMで測定された ∆V の差異とも異なることも含めると電極の SAM修飾による電気特性変化が全てこの仕事関数変化による影響に帰結されるとは限らないことを示唆しているそのためこの後 OFET動作中での評価結果も含めて電極 SAM修飾による特性変化の起源を議論していく

44 電極表面処理による OFET特性への直接影響評価 71

PFBT-AuAC el AC el

Drain Channel ChannelSource Drain Source

minus1 V

minus5 V

Pote

ntia

lSI

M a

mpl

SI

M p

hase

Po

tent

ial

SIM

am

pl

SIM

pha

se

0

AC-drain AC-source

iuml9iuml9iuml9iuml9iuml9iuml9iuml9iuml9

VG

-05

0

3RWHQWLDOgt9

0

05

$PSOgtP9

-30

0

30

3KDVHgtGHJ

(a)

(b)

(c)

(d)

(e)

(f)

-5

0

3RWHQWLDOgt9

0

05

$PSOgtP9

-30

0

30

0 500

3KDVHgtGHJ

LVWDQFHgtQP

-5

0

3RWHQWLDOgt9

0

05

$PSOgtP9

-30

0

30

500

3KDVHgtGHJ

LVWDQFHgtQP0

(g)

(h)

(i)

(j)

(k)

(l)

図 425 PFBT-Au OFET の動作時の FM-SIM 測定結果 (VD = minus1 V(andashf) minus5 V(gndashl))ドレイン(左電極)を AC電極とした場合 (andashc gndashi)およびソース (右電極)を AC電極とした場合 (dndashf jndashl)の結果(a d g j)表面電位(b e h k) FM-SIM振幅(c f i l) FM-SIM位相プロファイル平滑化を図 424と同様に行った

-4

-2

0

2

-12-8-4 0

0

100

200

300

umlV [V

]

Cur

rent

[nA]

VG [V]

PFBT-AuBare-Au

図 426 VD = minus5 V におけるチャネルndashソース間電位差 (∆V) と測定中の直流電流の VG 依存性赤線四角のシンボルが PFBT-Auを青線丸のシンボルが Bare-Auの結果を示す実線が ∆V破線が電流を示す

72 第 4章 新規局所インピーダンス評価法の開発と金属―有機界面物性の評価

(a) Conductance (b) Susceptance

0

01

02

-12-8-4 0

Re[

Y nor

m]

VG [V]

PFBT-AuBare-Au

0

02

04

-12-8-4 0

Im[Y

norm

]

VG [V]

PFBT-AuBare-Au

図 427 VD = minus5 V での FM-SIM 結果から得られた (a) 正規化コンダクタンス (Re[Ynorm]) および (b)正規化サセプタンス (Im[Ynorm])の VG 依存性

ドレインバイアス印加時 (OFET 動作時) 次にドレインバイアスを加えた状態でBare-Au とPFBT-Au でどのような違いが現れるかを検証するドレインバイアス VD = minus1 V minus5 V についてドレイン (左)ソース (右) それぞれの電極を AC 電極とした際の FM-SIM 測定結果を図 424

(Bare-Au OFET)および図 425 (PFBT-Au OFET)に示すプロファイルは表形式で示しており左の列はドレインを AC電極とした場合 (AC-drain)右の列はソースを AC電極とした場合 (AC-source)

のプロファイルであるまた行は上から minus1 V での表面電位FM-SIM 振幅FM-SIM 位相および minus5 V でのそれぞれの結果という順に並んでいるこれまでの議論からFM-SIM では AC を印加している電極と有機薄膜との界面のインピーダンスを優先的に評価できるためAC-drain とAC-sourceではそれぞれドレインndashチャネル界面ソースndashチャネル界面の物性が FM-SIM信号に現れるそれに対し表面電位は交流バイアスの印加を除くと全く同じ条件で測定されているため得られる電位プロファイルは原理上同じと考えられるまずこれら原理的な点について注目する図424(a) (d)はそれぞれ AC-drain AC-sourceの表面電位でありVG lt minus2 Vではほぼソースndashチャネル界面に電位ドロップが集中する傾向が一致している同様に図 424の (g)と (j)図 425の (a)と(d)(g) と (j) が若干の電位分布の違いがあるものの基本的に傾向は同じでありAC-drain とAC-sourceの測定は DC的に見るとほぼ同条件で測定されているとみなせる図 426に VD = minus5 V

における VG を変えたときのチャネルndashソース間電位差 (∆V)と直流電流値の変化を示すVG = minus8 V

まではゲートバイアス印加に従い ∆V は負に大きくなるが電流はほぼ 0のままである一方 minus8 V

を超えると ∆V は minus4 V程度で飽和し電流は増加を始めている電流が VG = minus8 V を境に増加を始めるという結果は事前の電気測定結果 (図 420(c)) と非常に良い一致を示しており交流バイアスなどによる大きな影響はないことを示しているここでOFET が導通 (ON 状態) しているVG lt minus8 Vの区間で∆V がほぼ VD の値で飽和しているためON状態における OFETの抵抗のほとんどはソースndashチャネル界面であると分かる次に FM-SIM信号に注目するAC-drainと AC-sourceで比較するとBare-Auか PFBT-Auかどうかや VD の値に関わらずチャネル上の FM-SIM振幅は AC-drainの方が大きいという一定の傾向があるゲートに負バイアスを印加中は電圧のほとんどがソースndashチャネル界面に加わっていることを加味するとドレインndashチャネル界面よりソースndashチャネル界面の方が電気的カップリングが悪いことを示唆しているこのことからも電極の SAM修飾による性能向上はソースndashチャネル界面の

44 電極表面処理による OFET特性への直接影響評価 73

Trap rich region

Trapped hole Trapped stateHOMO (Mobile)Mobile hole

HOMO

EFHOMO

EF

Bare-Au PFBT-Au

∆ xed

Increase

∆ gradual

Slight increase

C C

C

VG

MetalOrganic

図 428 FM-SIM で測定された容量変化から想定される Bare-Au 試料と PFBT-Au 試料での金属ndash有機界面の電子準位と状態の概要図VG 印加に従い正孔が蓄積するが界面付近ではより多く蓄積させないと可動 (Mobile)キャリアが生まれない容量 (C)は可動キャリアの存在する領域に由来すると考えると金属ndash有機界面のトラップ準位が多い系では容量増加が小さくトラップが少ないと瞬時に蓄積し容量が増加する

局所インピーダンス変化を追うことで直接評価比較できると考えられる次に VD による違いに注目するとVD = minus1 Vに比べ minus5 Vの方が FM-SIM振幅が大きい特に AC-drain (図 424 425(h))

ではチャネル上の FM-SIM振幅がドレイン電極とほぼ同程度になっておりドレインndashチャネル界面インピーダンスの寄与が非常に小さくなっていると考えられる以上の傾向は大まかに Bare-Au と PFBT-Au で似た挙動を示しており電極の SAM 処理による電気特性の違いを反映したものとは言えないBare-Au (図 424)と PFBT-Au (図 425)とで比較するとまず VD = minus1 Vでは挙動はほぼ同じでAC-drainと AC-source共に VG 印加によりチャネル上 FM-SIM位相が負にシフトしている一方 VD = minus5 V についてAC-sourceの FM-SIM位相がPFBT-Au (図 425(l))では負シフトしているがBare-Au (図 424(l))では界面での明確な負シフトが見られないこのように Bare-Auと PFBT-Auとの違いが VD = minus1 Vでは見られずminus5 Vで見られた要因として図 420(a) (b) の電気特性の低 VD 領域における非線形な特性が挙げられる低 VD

ではほとんど電流が流れていないという特性差のなさが FM-SIMの結果でもあまり違いを生まず一方大 VD では特性差も現れる程度に電流が流れたために FM-SIMの結果に違いが現れたと考えられる以上のことからSAM処理による電気特性変化はソースndashチャネル界面 (AC-source結果)に由来するとしVD = minus5 Vでの結果に注目する

74 第 4章 新規局所インピーダンス評価法の開発と金属―有機界面物性の評価

433節での解析を踏まえソースndashチャネル界面インピーダンスを並列 RC回路と考え式 (415)

を用いて界面正規化アドミタンス (実部界面コンダクタンス Re[Ynorm]虚部界面サセプタンスIm[Ynorm]) を評価するVD = minus5 V における結果を図 427 に示すまず界面コンダクタンス (図427(a)) は Bare-Au PFBT-Au 共に VG = minus8 V から増加を始めるという図 426 で見られた傾向と一致しておりソースndashチャネル界面の影響が電気特性にそのまま現れたことが分かるまたVG = minus8 V以降の界面コンダクタンスの増加はBare-Auに比べ PFBT-Auの方が顕著であるここでFM-SIMで測定したプロファイル (図 424 425)からソースndashチャネル間の変化は 100 nm以下の分解能で観測されているためFM-SIMでは電極付近のグレインの影響を排除した金属ndash有機界面物性を評価していると考えられるそのため電極付近のグレインサイズによる接触抵抗への影響ではなく確かに金属ndash有機界面物性が変化したことにより接触抵抗が低減したことを図 427(a)

は示している次に界面サセプタンス (図 427(b)) を通して接触抵抗低減の起源について考察する界面サセプタンスはBare-Auでは VG 印加に対してゆるやかな増加を示している一方でPFBT-Auでは界面コンダクタンスと同じく VG = minus8 Vを境に顕著な増加が見られたここで測定周波数は同じなのでサセプタンスは金属ndash有機界面の容量と対応付けることができる容量の起源として金属ndash有機界面における有機薄膜の不連続性が挙げられる金属近傍の結晶性低下や金属による準位への影響により有機薄膜中のトラップ準位はチャネル中よりも多くなるこのような金属ndash有機界面のトラップリッチな領域が空乏層となり界面容量を生むと考えられる [41 61 149]ここでゲートバイアスの印加によりキャリア (正孔)注入が起きるとトラップが埋まり空乏層幅が減少することで図 427(b)の PFBT-Auのような界面容量の急速な増加が見られると考えられる (図 428右)一方元々のトラップ準位の量が多いと空乏層幅の減少も顕著ではなくなるそのためPFBT-Auでは bare-Auに比べ金属ndash有機界面のトラップ量が減少していることが示唆される (図 428左)過去の報告でOFETの電極と有機薄膜の間にドープ層を挿入することで金属ndash有機界面のキャリアを増やし空乏領域を狭めた報告がある [152]正孔のドープ層としては有機薄膜と直接電荷の授受を行うFeCl3 や F4-TCNQが知られているが直接正孔を生まない SAMや極薄酸化膜によっても金属と有機分子の間の相互作用を抑えることで金属ndash有機界面のトラップを減少させることができるといわれている [150 164]これを踏まえるとやはり PFBTを用いた電極の SAM修飾により金属ndash有機界面のトラップが減少したといえる (図 428)特に浅いトラップはその領域の移動度とも密接に関わっており本研究の bare-Au OFETに対する PFBT-Au OFETでの接触抵抗低減は界面トラップの減少による効果と結論づける

45 本章のまとめ本章では 3章で課題として挙がっていた金属ndash有機界面の電気特性の測定に注目し新規局所インピーダンス評価法として FM-SIM を開発した等価回路モデルから FM-SIM 信号と界面インピーダンスが一対一に対応する式を導出するとともに周波数依存性から回路定数を半定量的に算出できることを見出した金ndashペンタセン単一グレインに適用することでトップコンタクト OFETでの測定でも観測されていた抵抗ndash容量並列回路の界面インピーダンスが単一グレイン系においても生じることを見出した

45 本章のまとめ 75

FM-SIMの応用として電極表面の SAM処理による移動度向上要因を評価したOFET動作前のみならず OFET動作時にも FM-SIM測定できることを示しOFETの動作がソース電極ndashチャネル間の電気特性に支配されていることを確認したこれを踏まえソース電極ndashチャネル界面のインピーダンス評価によりSAM処理が界面の準位整合状態のみならずトラップを減少させたことにより界面部分の導電性向上に繋がったことが明らかとなった

77

第 5章

時間分解測定による有機グレイン中のキャリアダイナミクス評価

3 章で問題となった金属ndash有機界面の電気特性が接触電流測定では困難であることに対し4 章で提案した FM-SIM による非接触での電位測定で実現したしかしFM-SIM や従来手法であるKFMではOFETのチャネルが既に形成している状態の電気特性しか測ることができないこれには以下に挙げる 2点の問題がある一つはバイアスストレスの問題であるOFETではゲートバイアスを印加した状態が長時間続くと電流が低下することが問題となっている [165]主にチャネルに長時間キャリアが蓄積することでキャリアトラップが誘起されることが原因と考えられているバイアスストレスによる変化でKFMで測定される電位像も経時変化が起きるため [166]長時間のバイアスをかけずとも局所電気特性評価を可能にすることも必要であるもう一つはチャネル形成前ないし形成中の電気特性が評価できないという点であるこれらの課題に対し経時変化そのものに注目することで電気特性評価を試みている報告がいくつかある有機薄膜へのキャリア注入中の経時電流を測定する変位電流測定 (Displacement current

measurement DCM)は従来金属絶縁膜有機半導体 (MIS)構成で用いられた手法だがOFETに拡張し金属ndash有機界面の注入電圧や絶縁膜界面のトラップについて評価した報告がある [60 62]また注入時のキャリア端をマッピングできる時間分解顕微二次高調波発生 (TRM-SHG)法を利用し有機薄膜の移動度異方性を一度に測定した例がある [167]このような時間分解測定を利用したチャネル形成過程の評価をプローブ技術に活かし有機半導体グレインへのキャリア注入排出時の局所電気特性評価を本章での目標とする

51 時間分解 EFM (TR-EFM)

電位の経時変化を測定するという観点で考えると2 章で述べた KFM を用いるのが最もシンプルであるしかしKFM ではバイアスフィードバック回路を用いており追従速度の遅さが問題である本研究では有機半導体グレインを対象とするが4 章での結果から応答する周波数範囲は100 Hzから 1 kHz程度の早さと考えられるつまり時間分解能としては 1 ms程度必要であり従来の KFMでは難しいよって本研究ではバイアスフィードバックを必要としない EFMをベースとして考えるまたこれまでの議論と同様に真空中での測定を行うため FM-EFMを用いる

78 第 5章 時間分解測定による有機グレイン中のキャリアダイナミクス評価

511 TR-EFMの動作電圧印加に対するグレイン応答の経時変化をマッピングするため本研究では 3 章の point-by-

point技術を活用した時間分解 EFM (Time-resolved EFM TR-EFM)を測定に用いたTR-EFMの動作模式図を図 51に示すTR-EFMでは試料上の各点において(a) FM-AFMを用いて探針ndash試料間距離を一定にするとともに高さの測定を行う動作 (図 51(a))と(b)高さを固定し何らかの電圧(パルス)を加えその間の FM-EFMの出力 (EFM信号)の経時変化を測定する動作 (図 51(b))を交互に繰り返すこのような point-by-pointでの AFMEFM交互動作には経時応答を測定できる以外に 2つの利点がある一つは各点での FM-EFM測定時のみバイアスを印加するためバイアスストレスによる経時変化の影響を抑制することができる点であるもう一つは通常 KFMではバイアスを印加しながら測定するがTR-EFMでは表面形状取得 (FM-AFM)時にバイアスをかけていないため従来よりも探針ndash試料間距離が一定に保たれていると考えられるそのためTR-EFMは経時応答以外の面からも有利といえる装置構成図を図 52(a) に示すTR-EFM では FM-EFM の特性と FM-AFM フィードバックを分けて考えるためPLL を 2 台用いたFM-AFM 用 (PLL1) には 42 節と同じ自家製回路を用いFM-EFM用 (PLL2)には Zurich Instrumentsのロックインアンプ (LIA)である HF2LI-MF (以降ZI-LIA)の PLLオプションを用いたZI-LIAからACバイアス信号 ((角)周波数 ft(ωt))をカンチレバーに加え変位信号を PLL2で周波数検波しZI-LIAにより Lock-in検出することで EFM信号が得られ経時信号をデータロガー (NR-500)で記録したPoint-by-point動作を行うトリガー信号は自家製 AFMコントローラより出力されFG1 (Tektronics AFG 3000)の出力トリガーに用いるとともに信号の再構成用にデータロガーで記録したカンチレバーは Olympus OMCL-AC240TM-R3

(共振周波数 sim 70 kHzばね定数 sim 2 Nm)を用いたFG1から出力する電圧パルスの波形の概略を図 52(b)に示す0 Vを間に挟む正負交互の電圧波形と複数の振幅のパルスを一度に印加することが特徴であるこのようなパルス波形は Oak Ridge

国立研究所の Kalininおよびダブリン大学の Rodrigezらのグループにより提唱された電気化学原子間力顕微鏡で用いられたものから着想しており複数の電圧に対する応答を一度に測定できるという利点を有している [168]本研究では対象とするグレインや測定内容によりパルス波形に調整を加えているため次のようにパルス波形を定義する

1パルス時間 tp を用い一つの電圧に対応するパルスの時間を表すシーケンス +Ak rarr 0 rarr minusAk rarr 0という一連のパルスを出力する期間を表すあるシーケンスで

のパルス振幅を Ap = plusmnA1 middot middot middot plusmnAk middot middot middot Anの形で示す正パルスまたは負パルスのみの場合は符号をそのように指定することで示す

シーケンス回数 nで定義する

例えば主に用いているパルス波形はtp = 20 msn = 5Ap = plusmn05 V middot middot middot plusmn25 Vと表すことができるこの場合総パルス時間は 4ntp = 400 msである

51 時間分解 EFM (TR-EFM) 79

(a) Height control(FM-AFM)

(b) Bias applicationamp FM-EFM

Cantilever

ElectrodeInsulatorGate

Feedback ONWithout bias With bias

Feedback hold

Pulse bias

EFM signal

図 51 時間分解 EFM (TR-EFM) の動作模式図試料上の各点 (走査中の全点) において(a)FM-AFMによる探針ndash試料間距離制御と(b)パルス電圧印加および FM-EFM測定を交互に繰り返す

PLL1

Data logger

Lock-in amp

PLL2

Self-excitationblock

Heightfeedback

Scanner

LDPSPD

Tip AC

FG1SampleInsulatorGate

Electrode

AFM controller

EFM signal

ZI-LIA

Trigger signal

∆f dc∆f ac

(a) Setup

(b) Pulse form (FG1)

Pulse period tp

Total pulse period 4ntp

Sequence 1

Sequence nVel

Injection

Extraction

plusmnA1 plusmnAn

図 52 (a) TR-EFMの装置構成図(b) FG1により印加したパルス電圧の模式図

512 妥当性検証電位応答の評価法としての妥当性を示すために(1) EFM 信号の値(2) 応答時間1の面から

TR-EFMの検証を行った

1 本節では電圧変化に対して EFM信号が追従する時間のことを指す

80 第 5章 時間分解測定による有機グレイン中のキャリアダイナミクス評価

1 EFM信号値 26節でも述べたようにFM-EFMでは変調信号を FM検波の後 Lock-in検出することで EFM信号 (∆f )ωt が得られる試料電位を Vs とすると式 (213)および式 (212)より

(∆f )ωt =f02kpart2Cts

partz2 VsVac cosωtt (51)

で表されるPoint-by-point 動作においても Vs に比例した EFM 信号が得られるかを検証した測定条件 [設定値 1]を以下に示す

概要 Au電極上 TR-EFM [設定値 1]

Pulse tp = 20 msn = 5Ap = plusmn05 V middot middot middot plusmn25 VLIA ft = 5 kHzバンド幅 (BW) 500 HzPLL2 自動 BW設定Logger 05 mssamplingで PulseEFM信号を取得

Au電極上で電極に上述のパルスを加えTR-EFM測定を行った各シーケンスの初めを 0 ms

に合わせた EFM信号経時変化を図 53(a)に示すここでは全体の傾向について議論を行うため単一ではなく 9回平均したデータを用いた図 53(a)よりパルスに応じて EFM信号の変化が分かるパルスのうち 0 Vとなっているところではどのシーケンスの EFM信号も重なっておりほぼ同じ値が得られていることが分かるこれはパルス印加中に探針や試料 (電極)の電位変化やカンチレバーの高さ変化は起こっていないことを示し今回のようなパルスが測定には影響しないと分かる一方 0 Vで EFM信号が 0となっていないことは探針ndash電極間の仕事関数差が影響していると考えられる以後まず測定時に電極上での EFM 信号がほぼ 0 となるように探針にバイアス電圧を加えさらに測定後に電極上の 0 Vでの EFM信号をオフセットとして全体から差し引くことで電極に対する電位相当の信号として評価するそれぞれのバイアス印加時の EFM 信号は少なくとも今回の PLL および LIA の設定では一定であることが分かる飽和後の EFM 信号の平均値をバイアス電圧に対してプロットしたものを図53(c)に示すEFM信号の理論式 (51)で示したとおり飽和値はバイアス電圧に対して線形に変化することがわかるよって測定量に関して TR-EFMは妥当な結果が得られているといえる電位 U に対してEFM signal= (U times 453 mVV + 18 mV)と線形フィッティングできたがこの比例係数および切片は探針や PLLLIAの設定値によって変化することに留意する必要がある

2 応答時間と設定値の関係 図 53(a)の 0ndash5 ms を拡大したものを図 53(b)に示すplusmn05 V での結果を除きどのバイアス電圧においても 1 ms の時点で飽和値の 9 割に到達しておりplusmn05 V のEFM信号も 15 msで十分飽和しているつまり[設定値 1]での測定の時間分解能は約 1 msといえ本節の冒頭に述べた時間分解能を満たしているため有機半導体グレインへの電荷注入応答を測定する十分なポテンシャルがある一方グレインによって応答が異なること今後 TR-EFMを活用した経時応答測定を行うことを考慮すると装置設定と EFM信号の応答時間信号対電圧比 (Signal-to-noise ratio SN)を比較することは有用である本項では変調周波数 fm のみならずカンチレバーの共振周波数PLL2の設定値 (ループゲイン PPLL および位相検出器 (PD)カットオフ周波数 fPD)LIAのバンド幅 BWについても考慮し所望の応答速度に対する設定項目の目安や最適値という実践的な面に注目して議論

51 時間分解 EFM (TR-EFM) 81

0

50

100

150

0 1 2 3 4 5

EFM

sig

nal [

mV]

Time [ms]

-100

0

100

0 20 40 60 80EFM

sig

nal [

mV]

Bias

[arb

uni

t]

Time [ms]

(a) (b)

plusmn05 Vplusmn1 V

plusmn15 Vplusmn2 V

plusmn25 V

VB

05 V

1 V

15 V

2 V

VB = 25 V

-100

0

100

-2 0 2

Satu

rate

d si

gnal

[mV]

Bias (VB) [V]

FitData

(c)

VB

図 53 Au電極上 TR-EFM測定結果(a)各シーケンスの初めを 0 msに合わせた EFM信号 (左軸)および加えたパルスバイアス波形 (右軸)バイアスの波高を VB としている(b)各シーケンスの EFM信号の 0ndash5 msを拡大したもの(c) EFM信号 (飽和値)のバイアス電圧依存性 (Plot)および線形フィッティング結果 (Line)

する前項目同様に Au 電極上の TR-EFM 波形から実効的な応答時間 (Response time) τres を比較する ft = 5 kHz および BW を 500 Hz に固定しパルス電圧として tp = 20 msn = 5Ap =

+1 V middot middot middot +1 V を印加しTR-EFM 測定を行った励振させるカンチレバーの共振周波数は 1

次2 次のたわみモードを用いることで比較しPD のカットオフ周波数と合わせて 1 次は fPD =

8 kHz 20 kHzについて2次は fPD = 20 kHz 40 kHzについて測定したなおOMCL-AC240TM-

R3の 2次共振周波数はおよそ 340 kHzであるまた PPLL として 178 349 524 873 140のうちいくつかについて比較したまたZI-LIAに備わっている PPLL fPD の自動設定 (auto)の見積もりも兼ねた1シーケンスの EFM信号を比較したものを図 54(a) (b)に示す図 54(a)よりPLLゲイン増加に伴い信号強度の増加がよく分かるが同時にノイズ分も増加していることが分かるこれは PLLの帯域増加による信号およびノイズ増加に対応するまた結果より1次での自動設定はおおよそ PPLL = 349と推察されるEFM信号値の妥当性検証時は PLLの自動設定を用いたがゲイン増加により自動設定のときよりも信号が増加しており ft が PLLの応答帯域外だったことを示している一方 fPD は強度には大きく影響しておらず帯域は PPLL が制限していることが分かるがPPLL = 873かつ fPD = 8 kHzの結果 (図 54(a)青破線)のように十分な fPD が無いとノイズの原因となる2次の結果 (図 54(b))もおおよそ同様の傾向を示しているが自動設定では 1次のそれに比べて強度ノイズともに良好な結果が得られたSN および τres を比較したものを図 54(c)

82 第 5章 時間分解測定による有機グレイン中のキャリアダイナミクス評価

0

20

40

60

80

100

Auto

178

349

524

873

140

SN

(b

ar)

P gain

0

100

200

0 5 10 15 20

EF

M s

ign

al [m

V]

Time [ms]

178

524

349

Auto

P= 873

0

100

200

0 5 10 15 20

EF

M s

ign

al [m

V]

Time [ms]

P= 140Auto

P= 873

(a) 1st resonance (b) 2nd resonance

(c)

PLL auto

1788k 20k 40k

349524873140

P (g

ain)

PD cuto (fPD) [Hz](a) (b)

1st

fPD

2nd

Reso8 kHz

20 kHz

20 kHz

40 kHz

1 seq Averaged

τres

0

05

1

15

Re

sp

on

se

tim

e Ѭ

res

(plo

t) [

ms]

図 54 カンチレバーの共振次数および PLL設定値 (PLLゲイン PPLL位相検出器 (PD)カットオフ周波数 fPD)による TR-EFM信号変化(a) 1次 (b) 2次共振での 1シーケンスの EFM信号波形 (実線 fPD = 20 kHz点線 fPD = 8 kHz(1次)40 kHz(2次))(c) SN(左軸棒グラフ)および応答時間 τres(右軸プロット)比較1シーケンスでの結果を塗りつぶし5シーケンス平均での結果を中空で示した

に示すなおτres として飽和値の 9割に到達した時間を用いたSNとしては 1シーケンスの結果および 5シーケンスの信号の平均から求めた結果を示したまず τres は PLL設定値にほぼ依らないことが明らかである一方 SNは1シーケンスの結果ではゲイン増加により落ちてしまうが平均することでかなり向上する全体の傾向としては 2次共振の方が SNが高めであり本セットアップでは 2次共振での測定が有利であるといえる2

次にロックイン検出の平均時間 (LIAの時定数)に注目する本研究で用いた ZI-LIAでは変調周波数からのバンド幅 (BW) として設定するため必ずしも 1 対 1 に対応するとは限らないまた実際の TR-EFM測定で BWに依存しない領域がある可能性もあるためSNと合わせてここで検証する上述の議論で 2次共振の PLL自動設定がある程度大きな帯域を有していたため2次を中心に比較した変調周波数と BWを変えながら TR-EFM測定した結果を図 55に示すここでは簡単のため共振次数に関わらず PLLの自動設定を用いた変調周波数を上げるに従い信号強度が小さくなるのはPLL 設定値による変化と同じく PLL の応答帯域による影響であるただしPLL 設定値は同一のためノイズは同等でありSNは減少する同じ変調周波数では BWの増加に従い明確に応答時間が短くなっておりパルス電圧印加の遅れが EFM 信号の立ち上がりの遅れに影響し

2 実験の順序の関係により大半の TR-EFM測定では 1次-PLL自動設定を用いているがベースノイズが小さいため平均せずとも比較的応答を綺麗に見ることができるという利点がある

51 時間分解 EFM (TR-EFM) 83

0

100

200

0 1 2

EFM

sig

nal [

mV]

5 10 15 20Time [ms]

0

100

200

0 1 2

EFM

sig

nal [

mV]

5 10 15 20Time [ms]

0

100

200

0 1 2

EFM

sig

nal [

mV]

5 10 15 20Time [ms]

0

100

200

0 1 2

EFM

sig

nal [

mV]

5 10 15 20Time [ms]

0

100

200

0 1 2

EFM

sig

nal [

mV]

5 10 15 20Time [ms]

(a) ft = 5 kHz (b) 8 kHz (c) 10 kHz

(d) 12 kHz (e) 5 kHz (1st) BW

200 Hz500 Hz800 Hz

1 kHz12 kHz

図 55 変調周波数 ( ft)と LIAバンド幅 (BW)による 5シーケンス平均の TR-EFM信号変化見やすさのため立ち上がり 2 ms間を拡大した(a) 2次-5 kHz(b) 2次-8 kHz(c) 2次-10 kHz(d)2次-12 kHz(e) 1次-5 kHz

(a) (b)

1st

ft

2nd

5 kHz

10 kHz

5 kHz

8 kHz

10 kHz

12 kHz

1 seq Averaged 0

50

100

150

200 500 800 1k 12k

SN

BW [Hz]

0

1

2

3

0 2 4 6

Ris

ing

tim

e [

ms]

1BW [ms]

5 kHz

8 kHz

10 kHz

12 kHz

ft =

図 56 (a)各変調周波数 ( ft)と共振次数における EFM信号の SN比較1シーケンスでの結果を塗りつぶし5シーケンス平均での結果を中空で示した(b) 2次共振での変調周波数ごとの応答時間 τres 比較1BWに対してプロットした

ているわけではないことが分かるこの傾向はどの変調周波数でも見られたしかしBWの増加でノイズも増加しており5回の平均でも除去できていないことが分かるこれらの EFM信号から得られた SNの比較を図 56(a)に示すBWの増加による SNの減少が起こるが1次-5 kHzや 2

次-5 kHzのように平均化によりある程度是正されていることが分かる図 56(b)に BWによる応答時間の変化 (ただし 2次のみ)を示す同じ BWでは応答時間は変調周波数に関わらずほぼ同じであることが分かるそのため求める応答時間に対して最もよい SNを示す設定値が最適といえるここで変調周波数の増加に伴い SNが減少することを踏まえるとノイズが劇的に悪化することがない限り低い変調周波数を用いるのが適当であることが分かったBWに対する応答時間の変化はおおまかに (2BW)minus1 で記述できることが図 56(b)より見て取れるつまり05 msの時間分

84 第 5章 時間分解測定による有機グレイン中のキャリアダイナミクス評価

40 nm (a) (b)50 nm (c)

150 nm

Gr2a

Gr2b150 nm

Gr1

Insulator

Electrod

e

150 nm

Gr3aGr3b

(a) (b) (c)

図 57 TR-EFM測定に用いた Au電極接続ペンタセングレインの表面形状像

解能が必要な場合BWを 1 kHzに設定する必要がありその中で SNが良い ft = 5 kHzが最適値と考えられる

52 有機グレインのキャリアダイナミクス評価前節では新規提案した TR-EFMの動作原理と測定の妥当性について議論した本節では実際に有機半導体グレイン上で TR-EFM測定を行いその電位応答からキャリア注入蓄積または排出がどのように起こっているかを検証し単一グレイン系における局所抵抗の評価に繋げる

測定試料 測定試料としてAu電極に接続したペンタセングレインを用いたAu電極は 441節と同様に UVリソグラフィで作製したペンタセンは 321節で述べたとおりである図 57に以降の測定で用いたペンタセングレインの表面形状像とそれぞれのグレインの名称 (Gr1 Gr2a Gr2b

Gr3a Gr3b)を示すGr1以外は明確なくびれがグレイン内に無く単一グレインとみなすGr1についてはくびれは無いがグレイン内で層数の分布が見て取れる以降の測定ではこれらの影響も含めて議論する

用語定義 TR-EFMでは特殊なパルスを用いており一度の測定で電圧の正負または 0 Vへ戻したときさらにそのバイアス依存や時間依存など複数種の応答が同時に得られる以降の評価で用語が混同しないように本項目で用語を定義するなおこの定義ではペンタセンが p型有機半導体であること電極として Auを用いていることから電極ndashゲート間に正電圧印加時に正孔が注入されることを基としている

EFM信号 TR-EFMまたは単なる FM-EFMにより得られたロックイン出力値またはその経時波形

バイアス電圧 ある時間期間における電圧値VB で表す注入 (injection) 電極電圧3を 0 Vから +VB にステップ変化させることまたはその応答排出 (removal) 電極電圧を +VB から 0 Vにステップ変化させることまたはその応答空乏 (depletion) 電極電圧を 0 Vから minusVB にステップ変化させることまたはその応答回復 (recovery) 電極電圧を minusVB から 0 Vにステップ変化させることまたはその応答緩和 (relaxation) 電圧のステップ変化後に継続して電圧または EFM信号が変化している期間ま

たはその応答飽和飽和値 (saturation) 電圧のステップ変化後にほぼ一定の電圧または EFM信号となっている期

3 ゲートに対する電極電圧以下略

52 有機グレインのキャリアダイナミクス評価 85

Pulse bias(to the elctrode)Response

(on the grain)Injectio

n

Time lapse

Relaxation

Saturation

Removal

Depletion

Recovery

図 58 TR-EFMにおける用語定義の概要図

間またはその応答その平均値応答 (response) 電極電圧変化に対するグレインの電位変化全般を表す用語応答時間 (response time) バイアス電圧変化に対して EFM信号 (等)が追従し収束するのに要し

た時間(例 グレイン上の応答時間 =グレイン上 EFM信号の応答時間)

蓄積 (accumulation)空乏 注入時の飽和特性を ldquo蓄積rdquo と呼ぶこともあるその場合の対義語としても ldquo空乏rdquoを用いる

これらの定義をまとめたものを図 58に示す

521 単一グレインの時間分解パルス電圧応答図 57(a)の Gr1に関して測定条件 [設定値 1]tp = 20 msn = 5Ap = plusmn05 V middot middot middot plusmn25 Vのパルスで TR-EFM測定した結果のうち plusmn25 Vのシーケンスにおいて各点の同一時間に対応する EFM信号で再構成した時間分解 EFM像を図 59にまとめて示すここでは注入時排出時空乏時回復時の電圧変化時刻から起算して minus1 0 1 2 5 10 15 ms後における EFM像のみ示しているカラースケールは共通で0 Vでの電極上 EFM信号に対する値として示しているまず EFM像全体に共通して言えることはEFM像のある一点をとったとき付近の応答が比較的近い値を示していることである単に Fast scan (X)方向だけでなく Slow scan (Y)方向も均一である各点でパルス電圧を印加していることを踏まえるとここで得られている応答は非常に再現性の高いものといえ前回のパルス電圧による影響があるとしても次回のパルス印加時には十分消失しているといえるこれらのことはTR-EFM 測定の妥当性を確保する上で重要な視点となる他の EFM像に比べ電圧変化後 0 msの応答はノイズ状になっているがこれは原理上データログのタイミングに plusmn025 msの誤差が存在してしまうことと再構成用のタイミング信号とパルス印加のトリガーのずれによって生じるものであるため取り除くことは困難であるそのため以下の評価では 0 msでのデータは無視する注入時 (図 59(a))の EFM像に注目するとGr1上の EFM信号は電圧変化後 1 msから 15 msにかけてゆっくりと変化 (緩和)している一方電極上は 1 msでほぼ収束しているEFMの応答時間はほぼ電極上の応答時間と対応付けられるためGr1上の緩和応答は装置測定上の問題ではなく試料中の何らかの要因によるものとわかるこのように電極上の応答時間と比較することで装置上の問題と即座に切り分けることができる点が TR-EFMの利点の一つであるまた512節での

86 第 5章 時間分解測定による有機グレイン中のキャリアダイナミクス評価

Tim

e la

pse

(a) Injection

-1 ms

1 ms

2 ms

5 ms

10 ms

15 ms

0 ms

(b) Removal (c) Depletion (d) Recovery

(e) Topography(simultaneous)

25 V 0 V ndash25 V 0 V

-150 mV 150 mVEFM signal

Potential0 V +ndash

図 59 Gr1上 TR-EFM結果から再構成により得られた時間分解 EFM像plusmn25 Vのシーケンスにおける (a)注入時(b)排出時(c)空乏時(d)回復時の電圧変化前 1 msから変化後 15 msまでの応答を示している(e) TR-EFM測定時に同時に得られた表面形状像

52 有機グレインのキャリアダイナミクス評価 87

0

50

100

150

200

0 5 10 15 20

EFM

sig

nal [

mV]

Time [ms]

0

50

100

150

200

0 5 10 15 20

EFM

sig

nal [

mV]

Time [ms]

0

100

200

0 200 400 600

EFM

sig

nal [

mV]

Ditance [nm]

Elec

trod

e

Insu

lato

r

Init

BA

0

100

200

0 200 400 600

EFM

sig

nal [

mV]

Ditance [nm]

Init BA

1 ms

Init

2 ms5 ms

10 ms15 ms

Time lapseafter change

(a) Injection-prole (b) Removal-prole

(c) Injection-ave (d) Removal-ave

BA05 V

1 V15 V

2 V25 V

VB

(e) cf topography of Gr1

図 510 Gr1上 TR-EFM結果 経時変化(a) (b)それぞれ+25 Vシーケンスの注入排出時における EFM信号の時間分解ラインプロファイル表面形状像 (e)の線分 AndashB上におけるプロファイルを得た電圧変化直前の信号を破線で示しているまた指数関数フィッティングの結果を黒細線で示した(c) (d)それぞれ各シーケンスの注入排出時における Gr1上 EFM信号の経時変化形状像 (e)の x点付近の 5点平均値を示した

Gate

Electrode Grain

Insulator

Fermi levelHOMO

Metal Organic Metal Organic

(a) Equivalent circuit (b) Injection process (c) Removal process

Ener

gy

図 511 (a) グレイン上電位応答を表す等価回路モデル(b) キャリア注入時(c) 排出時のキャリアの動きと金属ndash有機界面の電子準位の模式図図中下方向がホールに対してエネルギーが高い方向となる

議論でTR-EFM としての時間分解能はおおよそ (2BW)minus1 であることを述べた本測定では BW

が 500 Hzのため時間分解能は約 1 msであり電極上 EFM信号の応答時間と一致する注入時以外の経時変化に注目すると排出時 (図 59(b))と空乏時 (図 59(c))は電圧変化後 1 msで

Gr1上の応答がほぼ飽和しており注入時とは明らかに異なる応答を示している一方回復時 (図59(d))は注入時ほど遅くはないが1 msから 5 msにかけて Gr1上の EFM信号に変化が見られる注入時と回復時は電極からグレインへの「キャリア (ホール)注入」排出時と空乏時はグレインから電極への「キャリア排出」過程と考えることができこれら Gr1上の応答時間の違いはキャリア注入排出過程の違いと考えることができる

88 第 5章 時間分解測定による有機グレイン中のキャリアダイナミクス評価

表 51 Gr1上 EFM信号の指数関数フィッティング結果 (抜粋)

Bias (Vstart minus Vend) [mV] τ [ms] Vend [mV] Residue

1 V注入 minus653 plusmn 11 417 plusmn 017 702 plusmn 06 179

2 V注入 minus1431 plusmn 23 563 plusmn 025 1448 plusmn 18 384

1 V排出 532 plusmn 07 0613 plusmn 0016 934 plusmn 012 068

図 510に Gr1上 EFM信号プロファイルつまり電極からの距離依存性を示すプロファイルは図 510(e)の線分 AndashB上で取得した(a) (b)はそれぞれ各時間における注入排出時のプロファイルを示しているが電極ndashGr1界面以外の明確なドロップがないことが分かる試料中の基板と平行な方向の伝導度が異なると応答時間に影響を与えるのでこの結果から注入排出時のキャリア輸送の阻害となる領域はほぼ電極ndashGr1界面のみであることがわかるまた先に議論した注入排出過程での応答時間の違いも図 510からよく分かる排出時の 1 ms後も Gr1上の EFM信号が若干現れているため電極と完全に同期して緩和しているわけではないと見て取れる輸送阻害となる要因がほぼ電極ndashGr1界面のみであるためGr1上のある点を Gr1全体の応答の代表とすることは問題とならない図 510(c) (d)はそれぞれ図 510(e)の x点における注入排出時の EFM信号の経時変化である注入排出ともに緩和から飽和への変化が明瞭に確認できる応答時間と電気特性との対応づけのため図 511(a)のような等価回路を考えるグレイン上の抵抗は電極ndashグレイン界面の抵抗 Rに比べて十分小さいと考えまた 4章と同様にグレインのゲート容量 C

をおく電極ndashゲート間電圧が Vstart から Vend に瞬時に変化するとグレイン上の電位 V(t)は次のように記述される

V(t) = Vend + (Vstart minus Vend) exp(minus tτ

) where τ = RC (52)

ここで同一グレインに関してはゲート容量 C は同じであるため指数関数フィッティングで得られた時定数 τは電極ndashグレイン界面の抵抗 Rに比例する図 510(c) (d)において指数関数フィッティングした結果を黒細線で重ねて示したまたフィッティングパラメータ (抜粋)を表 51に示すただし排出時の応答は 1 Vのシーケンスのみフィッティングした注入時の 05 V1 Vや排出時は実際の EFM信号とフィッティング線が比較的重なっているがそれより大きなバイアスでの注入特性は指数関数とはずれていることが分かる表 51からも残差 (Residue)が 2 Vの注入時で大きくなっていることが分かるこれら指数関数からのずれは EFM 信号の比例係数が影響していると考えられ522節において議論する

VB = 1 Vにおける時定数は注入時は 4 ms排出時は 07 msと 5倍近い差があることが分かるそして上述の議論よりこれは排出時に比べて注入時のほうが電極ndashGr1 界面の抵抗が大きいことを示しているこれは図 511(b) (c)のような金属ndash有機界面のエネルギー準位の模式図により説明できるAu上のペンタセン HOMO準位は Auのフェルミ準位 (Fermi level)よりも (電子にとって)

低いエネルギーに位置することが光電子分光法を用いた研究で報告されている [37 169]よってホールが電極からグレインに注入される際には余分にエネルギーを要する (図 511(b))一方グレインから電極にホールが排出されるときは少なくとも注入時のようなエネルギー障壁を感じることはない (図 511(c))ただし4章で議論したようにエネルギーのミスマッチ自体が電気特性に影響を及ぼす可能性はあるが注入排出時のエネルギー障壁の有無が抵抗の大小に影響したこと

52 有機グレインのキャリアダイナミクス評価 89

-200

-100

0

100

200

0 200 400 600

EFM

sig

nal [

mV]

Ditance [nm]

+25 V+2 V

+15 V+1 V

+05 V

ndash05 V

ndash15 V

ndash25 V

ndash1 V

ndash2 V

Bias

-100

0

100

-2 0 2

Sign

al (s

at)

[mV]

Bias [V]

Electrode (ref)

Gr1

(a) (b)

図 512 Gr1 上 TR-EFM 結果 飽和値(a) それぞれのバイアス電圧における電圧変化後 15ndash195 ms 間を平均した飽和値プロファイル正バイアスが蓄積時負バイアスが空乏時に対応する(b) Gr1上を平均した飽和値のバイアス依存性電極上の EFM信号をレファレンスとして黒実線で示す

は明確であるこれまでも多く報告されてきた簡易な議論ではあるが単一グレインndash電極界面での評価を達成したことはモルフォロジーやグレイン境界といった影響ではなく純粋な金属ndash有機界面で同様のことが起こるという裏付けとなりTR-EFMの局所電気特性評価法としての有用性を示す成果である最後に飽和値について言及しておく図 512(a)は各シーケンスの注入空乏時の飽和特性 (蓄積空乏特性)をプロファイルで示しているただし電圧変化後 15ndash195 ms間を平均して用いた飽和時の特性は基本的にゲートバイアスを印加した KFM測定と同じものを見ていることになる蓄積時は電極電位と同様に Gr1上の信号も増加しているが空乏時は minus15 V以降で電極ndashGr1界面のドロップが発生している一方絶縁膜上の EFM信号はほぼ変わっておらずゲートへのカップリングは起こっていないといえる図 512(b)に Gr1上で平均したバイアス依存の EFM信号飽和値を示す電極上からも取得し線形フィッティング結果を実線で示している負バイアス印加時に電極に追随して電位変化が起こらない理由としてp型有機半導体への電子注入が困難であることがあげられるAundashペンタセンの系でフェルミ準位から HOMO準位へのエネルギーオンセットがあることは既に述べたが電子にとっての障壁である金属のフェルミ準位から LUMO準位へのエネルギー差は HOMOのそれよりも大きい [170]そのためp型有機半導体に正のゲートバイアスを印加し n

チャネル動作させた際の実効的な移動度はpチャネル動作のそれよりも非常に小さい図 512(b)

の負バイアス印加時の変化が小さいのも同様の理由と考えられるここでVB = minus1 Vまではバイアス印加に伴い EFM信号すなわち電位がある程度負に変化しているこれは電子注入が起こったというよりも元々ペンタセン中に存在した余剰ホールの排出と考える方がよい本試料は成膜後AFM真空チャンバに導入するまでに大気暴露されておりペンタセン薄膜中に取り込まれた酸素分子がアクセプタとして機能することで余剰ホールが発生したつまり p型ドープが起こったと考えられる [124ndash126]一方正バイアスでは Gr1上で電極上よりも大きい EFM信号の飽和値が得られているEFM信号が電位に比例することを踏まえるとこれは電極に対して Gr1 の電位が高いことを意味するが433節では (ゲート)バイアス印加によりペンタセン単一グレインの電位が電極に対して負であるこ

90 第 5章 時間分解測定による有機グレイン中のキャリアダイナミクス評価

0 100 200 300

0 200 400 600

0 10 20

EFM

sig

nal [

mV]

2f s

igna

l [m

V]

Ditance [nm]

ForwardBackward

Elec

trod

e

Insu

lato

r

0 mV 280 mV

5 mV 250 mV

(b) EFM forward

(a) Topography(taken before)

Measuredregion (e) Proles

(c) EFM backward

(d) 2ft signal

B BA A

図 513 Gr1上の往復 TR-EFM結果表面形状像 (a)の破線で囲った箇所を測定した(b)像の左から右 (forward)(c) 右から左 (backward) へのスキャン時の 2 V 注入時 18 ms 後の EFM 像(d) Forwardでの 2倍波信号像(e) (a)の線分 AndashB上における EFM信号 (Forward Backward)2倍波信号プロファイル

とを確認したこれは EFM信号の比例係数の影響が含まれていると考えGr1上 EFM信号経時変化の指数関数フィッティングがうまくいかなかったこと (図 510(c))と合わせて次節で議論する

522 比例係数補正と電圧依存界面電気特性EFM信号は式 (51)のとおりpart2Cts

partz2 に比例するこの係数は探針と Vacが印加されている導電部分との距離や誘電率試料形状に依存するグレイン内が完全に導体でパルス印加直前の FM-AFM

によるフィードバックが完全であればこの距離は一定と考えられるが何らかの要因により異なれば同じ電位でも EFM信号が異なるここで∆f の 2ωm 成分は式 (213)より

(∆f )2ωm =f02kpart2Cts

partz212

V2ac cos 2ωmt (53)

のように表せるつまり(∆f )2ωm (以下 2倍波信号と呼ぶ)の変化から part2Ctspartz2 の変化を測定できる4

ここで蓄積時の EFM信号プロファイル (図 512(a))ではGr1上の EFM信号が電極よりも単に大きいだけでなく電極から離れるに従い徐々に大きくなる傾向が見て取れるEFM信号の比例係数に加えバイアス印加の経時回数によるストレスの影響も考えられるTR-EFMを往復つまり電極から絶縁膜方向 (Forward)と逆方向 (Backward)で取得し同時に 2倍波信号を測定することでこれら 2種類の影響を評価する測定条件としてカンチレバーの 2次共振 ( f0 sim 340 kHz)を用いた以外は [設定値 1]と同じセットアップとし2倍波信号は ZI-LIAで 100 Hzの BWで検出した図 513に往復 TR-EFM測定結果を示すForward (b) と Backward (c) で EFM 像に明確な違いはないプロファイル (e) では 52

節よりも程度は小さいがやはり電極から離れるに従い EFM信号が徐々に増加している傾向が見られるがforwardと backwardのプロファイルが重なっているためバイアスストレスの影響ではな

4 2Vac times (∆f )ωm(∆f )2ωm により試料電位 Vs を得ることができることが分かるFM-KFM のようなバイアスフィードバックを使わずこのような計算により電位を得る手法は Open-loop KFMと呼ばれる [171]

52 有機グレインのキャリアダイナミクス評価 91

8mV3mV-100 mV 100 mV

(a) Topography

(e)

(b) EFM image (+1 V) (c) 2ft image (0 V) (d) 2ft image (+1 V)

0

10

20

30

0 500 1000

He

igh

t [n

m]

Ditance [nm]

BA

-15

-1

-05

0

05

1

15

-1 0 1

No

rm

po

ten

tia

l

Bias [V]

Ref

Before

After

TR-EFM

FM-KFM

Tapping

(f) Proles (topography)Electrode (bare)Grain

Electrode

図 514 Ptndashペンタセン試料上での TR-EFM 測定と 2 倍波信号比較(a) 表面形状像(b) EFM像(c) (d) 2倍波像(b)および (d)は電極に +1 V注入時 (19 ms後)(c)は 0 Vでの結果を示している(e) 2倍波信号による校正前後の飽和信号比較(f) (a)の線分 AndashB上での高さプロファイル比較 (TR-EFM FM-KFMタッピング)

いと結論づけた一方 2倍波は BWが異なるため応答時間に注意を要するがこれまでの議論より1(2 times 100 Hz) = 5 ms程度で収束すると考えられるため電圧変化後 18 msは十分な時間である2

倍波像も EFM像と同様になめらかに取得できているプロファイルより2倍波信号は電極上に比べて Gr1上で若干大きいことが分かるこのことはGr1上飽和値が電極上よりも大きくなった原因が EFM信号の比例係数変化によるものであることを示唆する結果である

EFM信号の比例係数変化の要因を調べるため様々なサイズのペンタセングレインが接続している系 (42節と同じ試料)で同様の測定を行った (図 514)図 514(a)には現れていないが本試料は対向電極が存在しており図 514(b)の +1 V蓄積時 EFM像の左右の膜上の EFM信号が電極よりも小さい原因は対向電極に接続していることによる電圧の分配が影響しているバイアスが 0 Vのときはグレイン上の 2倍波信号は電極のそれよりも若干小さいが1 Vでは電極よりも大きいことが明瞭に確認できるこのときどのグレインにおいてもほぼ同じ 2倍波信号が得られており像左部の膜上でも同様の傾向が得られたこの結果からEFM信号の比例係数変化は電極とグレインのスケール差によるものではないと結論づけられる図 514(f)は (a)の線分 AndashBに沿った形状プロファイルおよび別途 FM-KFMおよび Tappingにより測定した同位置の形状プロファイルを示している高さの 0点は絶縁膜の高さに揃えた興味深いことに絶縁膜直上のグレイン上 (灰色領域)でのみかけの高さはどの手法でもほぼ同じであるのに対しグレインに覆われていない電極 (橙色領域)は Tappingに比べて TR-EFMFM-KFMでは高く見えているKFMのような交流バイアスを用いない通常の FM-AFMと Tappingを比較して

92 第 5章 時間分解測定による有機グレイン中のキャリアダイナミクス評価

も同様の結果が得られたこれは探針ndash電極間に電位差があり電極上のみ本来より高い位置でフィードバックが釣り合ってしまうことに起因すると考えられる引力領域で制御する FM-AFM

の方がこの影響が強いTR-EFMでは高さ固定時の探針ndashグレイン間距離よりも探針ndash電極間距離のほうが長かったためバイアス印加でグレイン導通時に EFM信号の比例係数がグレイン上で電極よりも大きくなってしまったと考えられる図 514(e)に 2倍波信号での校正前後での EFM信号の変化を示す校正は各バイアスでの飽和 EFM 信号を飽和 2 倍波信号で割ることで行い比較のためVB = 1 Vでの電極上の EFM信号 (校正前後)で規格化した図中の傾き 1の破線が電極上の値(Ref)を示している図 512(b)同様校正前は電極上よりも電位が高く見えているが校正により確かに下回ることが分かる

2倍波信号を用いない校正法 上述の方法は open-loop KFMと同じく EFM信号の比例係数変化を排除しかつ FM-KFM同様電位として値を得ることができる一方2倍波信号を別途測定する必要があり ft が大きいと PLLの帯域内に収まらない恐れやSNを確保するために BWを大きく設定すると EFM信号とは応答時間が異なるため時間分解での評価ができなくなるという問題が生じるよって時間分解測定を維持しながらEFM信号の比例係数校正を行うためには別の手法を考えねばならない電極にバイアス VB 印加時に位置 x時間 tにおける電極に対して電位差 ∆V(VB x t)が発生するとするこのとき EFM信号 sE(VB x t)を

sE(VB x t) = ACprimez(VB x t)[VB + ∆V(VB x t)] (54)

と表すここでAは VB に依らない EFM信号の比例係数Cprimez(VB x t)は part2Ctspartz2 の VB x tによる変

化を表すこれまでの測定ではパルス電圧を全て電極に印加してきたがゲートに逆符号のパルス電圧 (バイアス電圧 minusVB) を印加することを考える (図 515(a))このような印加方法による測定をゲート印加 (gate-pulse) TR-EFMと呼ぶこのとき電極グレインゲートの相対的な電位は探針やその他グラウンドの影響が除外できるとすると電極に加えるときと全く同じであるためグレイン相対電位は同じ ∆V となるこのときの EFM信号 sG(VB x t)は

sG(VB x t) = ACprimez(VB x t)∆V(VB x t) (55)

と表すことができるこれより

ACprimez(VB x t) =sE minus sG

VB(VB 0) (56)

∆V(VB x t) =sG

sE minus sGVB (57)

が得られCprimez の影響を除いたグレイン電位 ∆V が得られることが分かる図 515(b)に Gr1上でゲート印加 TR-EFM測定を行った結果得られた+25 V注入後 1 ms5 ms

10 msの EFM像を示す図 515に示すとおり注入時はゲート電極に minusVB を印加するため絶縁膜を通して負の電位を感じる一方電極は 0 VでありEFM信号はほぼ 0となるminusVB 印加直後は Gr1上が絶縁膜上よりも EFM信号が負になっているがこれは前項で述べたとおり EFM信号の比例係数の違いによるものであるそれを除けば図 59(a)で見られた電極印加の TR-EFM結果と定性的に同様の EFM像が得られており原理的には同じものであることが伺えるただしパルス電

52 有機グレインのキャリアダイナミクス評価 93

-110 mV 40 mV

1 ms 5 ms 10 ms

(b) EFM images (gate-pulse)(a)

InsulatorGate

Gate-pulse

GrainElectrode

0 V∆V

ndashVB

図 515 (a)ゲート印加 TR-EFMの応答模式図電極に VB を印加したときのグレインndash電極電位差を ∆V とするとゲートに minusVB のパルス電圧を印加したときのグレイン電位は ∆V と表せる(b) Gr1上ゲート印加 TR-EFMで得られた時間分解 EFM像

-3-2-1 0 1 2 3

0 200 400 600

(VBumlV

) [V

]

Ditance [nm]

0

02

04

06

08

1

0 200 400 600

ACz

Ditance [nm]

Elec

trod

e

Insu

lato

r

+25 V

ndash25 V

VB +25 V

+05 V0 V

ndash05 V

ndash25 V

VB

(a) corrected ACz (b) corrected ∆V

-3

-2

-1

0

1

0 5 10 15 20

6V

[V]

Time [ms]

05 V1 V

15 V2 V

25 VVB

0

5

10

0 1 2 3

Fitte

d Ѭ

[ms]

Bias [V]

(d) (c)

図 516 式 (56)(57) より得た図 510(e) 線分 AndashB 上の (a) ACprimez(b) (∆V + VB) プロファイルのバイアス依存性(c) Gr1上 ∆V の経時変化 (プロット)と指数関数フィッティング曲線 (実線)(d) (c)の指数関数フィッティングにより得た時定数のバイアス依存性

圧印加直後はグレイン上は電極に対して minusVB だけ電位が異なるグレイン上の EFM信号を考えると電極印加時は同程度であるがゲート印加時は瞬時に minusVB 相当の信号となるため変化が大きいそのため追従にさらに時間を要することに注意が必要である先述の Gr1上 TR-EFM測定結果とゲート印加 TR-EFM測定結果式 (56)(57)を用いて補正を行った結果を図 516に示す図 516(a)は飽和 EFM信号における ACprimez のバイアス依存性であり2

倍波信号に対応する成分と考えられる電極上絶縁膜上ではほぼ一定の値だがGr1上では minusVB

の正負で大きく変化する負バイアス (空乏時)では絶縁膜上の値に近くなっておりグレイン上が導通していないことを伺わせる正バイアス (蓄積時)では図 514で見られたように Gr1上 ACprimez (つ

94 第 5章 時間分解測定による有機グレイン中のキャリアダイナミクス評価

まり 2倍波信号)が電極上よりも大きくなっており確かに飽和値の結果 (図 512)は比例係数の影響を受けていたと分かった図 516(b)は補正された ∆V を視認しやすいように (∆V + VB)の形で示したプロファイルであるまず電極上で印加バイアスに対応する電圧となっており絶縁膜上の電位は一定に保たれているそして図 510(a)で見られる通常の TR-EFMプロファイルよりも Gr1

上の均一性がよくなっており比例係数の影響を排除できているしかし高負バイアスでは Gr1

上でポテンシャルの勾配がなお存在している負バイアスの変化に対しプロファイルの共通部分が存在しているため比例係数ではなくGr1上に分布している別の要因があると考えられる空乏時のグレインの物性に関してはのちに改めて議論する本校正法の最大の利点としては EFM 応答時間の条件が同じまま時間分解測定ができることにあるGr1上で平均した時間分解 EFM信号から ∆V に変換した結果を図 516(c)に示す電圧印加後15 ms は EFM 応答時間と先述のゲート印加時の応答遅れにより無視しそれ以外の領域で指数関数フィッティングした結果を実線で示している図 510(c)に比べて明らかにフィッティング曲線とのずれが小さい+25 Vでの結果をフィッティングした残差を比較すると補正前の 19に対し補正後は 024と約 110になり補正前は EFM信号の比例係数による影響が大きかったことが伺える図 516(d)は ∆V の指数関数フィッティングにより得られた時定数のバイアス依存性であるVB が大きくなるに従い時定数つまり電極ndashGr1界面の抵抗が増加しているつまり電圧に対して電流が非線形に変化する非オーム性の抵抗であることがわかった金属ndash有機界面の接触抵抗の非線形性はこれまで大電極を用いた測定で頻繁に取り沙汰されてきた一般に出力 (VDndashID)特性の低バイアス部が線形ではなく下に凸の加速度的増加を示している場合に接触抵抗の影響が大きいとされるこれは特に短チャネル低温の場合に顕著である [4950]また注入特性の改善をまずこの点から確認することもできる [161]このようなある程度ドレインバイアスをかけないと導通しないという特性はNecliudov らにより逆方向に並列接続したダイオードでモデル化された回路が用いられることが多い [136 172]しかしパラメータに物理的な意味づけができないことがこのモデルの問題点である5一方金属ndash有機界面を金属ndash半導体界面のアナロジーと考えその最も一般的なモデルである Schottky 障壁を介した注入モデルを用いて接触抵抗と障壁の関係を議論している研究もある [173 174]金属ndash半導体界面の Schottky障壁は両材料のフェルミ準位の違いにより発生するが有機半導体はフェルミ準位を定義することは難しいしかし接触後金属のフェルミ準位と (p型の場合)有機の HOMO準位に差が存在することは明確でありHOMO準位を半導体の価電子帯上端と同等とみなすことで同様に議論できると考えられるここで有機に対して金属側を正電位にすることはSchottky障壁において逆バイアスに相当するつまりSchottky障壁モデルでキャリア注入を記述する場合逆バイアスのダイオードでモデル化するほうが物理的な意味が備わると考えるここで結果に戻るとVB が大きくなるに従い抵抗が大きくなる傾向は逆バイアスのダイオードの特性と定性的に一致しているよってTR-EFMにより確認された非オーム性抵抗は金属ndash有機界面における金属フェルミ準位と有機 HOMO準位差に起因する Schottky障壁を通した注入特性を純粋に反映したものと結論づける

5 もし対応付けできると考えると導通開始に 5 Vのドレインバイアスを要すとき界面障壁が 5 eVということになりナンセンスである

53 単一グレインのチャネル形成評価 95

Lock-in ampLock-in amp

PLL2

Scanner

LDPSPDTip AC

FG1SampleInsulatorGate

Electrode

EFM signalSIM signal[X Y] [Ampl]

ZI-LIA

BWSIM BWEFM

∆f ac

ftplusmnfs ft Sample AC

図 517 TR-EFMFM-SIM同時測定 (TR-SIM)装置構成図

53 単一グレインのチャネル形成評価52節では一つのグレイン (Gr1)に注目しTR-EFMにより得られた EFM信号の経時変化や飽和値から単一グレインでの金属ndash有機界面電気特性の測定が可能であることを示したこの評価プロセスを活かしグレイン毎にどのような電気特性差が存在しどのような局所物性が特性差に影響を与えているかを評価したいと考えるここで4章で開発した FM-SIMは同じ単一グレインにおける界面電気特性を測定できる手法でありTR-EFMとの組み合わせにより相補的ないしは相乗的な評価が可能になることが期待される本節ではいくつかのグレインについて TR-EFM およびFM-SIMの結果を比較しつつグレイン間特性差を議論する

531 TR-EFMFM-SIM同時測定法図 517 は一部簡略化した TR-EFMFM-SIM 同時測定 (TR-SIM と呼ぶ) 用の装置構成図である基本的な要素としては図 43 と同じであるが全て ZI-LIA を用いていることバイアスフィードバックを行っていないことが 4章と異なる表 52に以下の測定で用いた測定条件を示すTR-EFM

では 5 kHzを用いており4章のように ft + fs の検出では PLLの帯域を大きく外れ測定が難しいそのため[設定値 SIM-1]では ft minus fs 成分を FM-SIM信号として用いたそのときLIAから得られる位相は本来の Vlo とは符号が逆になることに注意する (cf 式 (45))6設定値の目安として ftfs ft plusmn fs が互いの 23倍波と重ならないことこれら周波数の間隔が BWに対して十分取れること7 fs がそのグレインの測定レンジに入っていること8が必要である

FM-SIM信号強度が小さいと位相信号が非常に乱雑となるため以下では振幅位相の代わりにin-phase (SIM-Xと呼ぶ)out-of-phase (SIM-Y)の信号を取得した

Sweep-SIM TR-EFM (TR-SIM)ではパルス電圧に対する応答を測定するがpoint-by-point動作を利用すれば別の波形に対する応答も取得できる飽和値のバイアス依存を連続的に測定するため

6 ft lt fs のときは同相となる7 例えば441節で用いた ft + fs = 11 kHzでは EFM信号に大きくカップリングする8 図 411参照周波数が大きすぎると応答が全く得られない

96 第 5章 時間分解測定による有機グレイン中のキャリアダイナミクス評価

表 52 TR-EFMFM-SIM同時測定設定値

設定値 ft fs SIM BWEFM BWSIM

SIM-1 5 kHz minus 18 kHz = 32 kHz 200 Hz 50 Hz

SIM-2 2 kHz + 04 kHz = 24 kHz 100 Hz 20 Hz

に各点で FG1 から三角波を印加する方法を Sweep-SIM と呼ぶSweep-SIM では測定条件として[設定値 SIM-2]を用いた

532 グレイン依存性と TR-EFMSIM対応関係Gr2上 (図 57(b))において測定条件 [設定値 SIM-1]tp = 20 msn = 5Ap = plusmn05 V middot middot middot plusmn25 Vのパルスで TR-SIM測定した+25 Vのシーケンスの注入時排出時の時間分解 EFM像FM-SIM

像 (SIM-X SIM-Y)をそれぞれ図 518の (b)ndash(d)に示す図 518(a)のように測定範囲には Gr2aGr2bの二つのペンタセングレインが含まれているEFM像に注目すると注入開始後 2ndash14 msでGr2a上は同じ応答でありGr2aの応答時間は EFM信号の応答時間よりも短いことが示唆される一方 Gr2bは注入開始後 2ndash14 msで徐々に変化しているこれらグレインの注入時の時定数は 52節で測定した Gr1の時定数とは異なる図 518では Gr2a Gr2bを同時に測定しているため測定ごとに異なる応答時間が検出される可能性は排除できていることを加味するとグレインによって電極ndashグレイン界面抵抗が異なりうることを示している一方排出時は両グレイン共に 2 msでほぼEFM信号が収束しているGr2b上の EFM信号は排出後 2 msのみ若干残存しており注入時の特性差が排出時にも現れることを示唆しているこのようにGr1よりも応答の遅い Gr2bにおいても注入よりも排出過程の方が応答が早いことがわかり52節での議論は一般化できる事象だと考えられる参考としてGr2aおよび Gr2b上で 25点平均した経時 EFM信号および EFM信号を指数関数フィッティングした場合の時定数 (概算)を図 519に示すGr2bの注入時は飽和値が不明なためGr2aの飽和値と同じと推定してフィッティングを行った次に SIM-XY像 (図 518(c) (d))に注目するノイズ軽減のために TR-EFMに比べて小さい BW

(50 Hz) を用いているため測定の応答時間は約 10 ms であり電圧変化後 2 ms の SIM 像は無視する全体の傾向として注入前 minus1 ms と排出後 14 ms はほぼ同じ SIM 像となっておりパルス電圧印加前後での特性変化は小さいと考えられるGr2a について注入前後で SIM-X の強度は若干大きくなりSIM-Y では顕著に増加したここで興味深いことに注入後 14 ms の像に破線で囲ったとおり絶縁膜上の Gr2a ((ins)とする)のみならず電極上を覆う部分 (on)においてもほぼ同じ強度の SIM-Y 信号が得られている4 章でも議論したとおり交流電流の経路中に局所インピーダンスが存在する場所で SIM信号が変化するがここでは Gr2a(on)まで一様であることからGr2a(ins)ndashGr2a(on)間は十分導通しているといえる同じ注入後 14 msに関してGr2a(ins)の EFM

信号が電極上よりも大きいという EFM信号の比例係数変化による影響が Gr2a(on)においても現れているのが確認できることやGr2a(on)の SIM-X信号強度が Gr2a(ins)と同等で電極上よりも小さいことは同じく Gr2a(ins)ndashGr2a(on)間の導通を示唆する結果であるしかしインピーダンスの影響がないもしくは導通のないデフォルトの状態で SIM-Y信号が 0であることからSIM-Y像はグレインの導通領域の確認に非常に有効な手段であるといえる

53 単一グレインのチャネル形成評価 97

Time lapse(after change)

2 ms

2 ms

2 ms

8 ms

14 ms

8 ms

8 ms

14 ms

14 ms

19 ms(-1 ms)

19 ms

(ndash1 ms)

2 ms

8 ms

14 ms

0 ms

0 ms

(b) EFM signal (c) SIM-X(a) Topography) (d) SIM-Y

-100 mV 210 mV 0 mV 15 mV 0 mV 15 mV

150 nm

Gr2a

Gr2b

OnIns

25 VInjection

0 VRemoval

ndash1 ms

図 518 Gr2上 TR-SIM測定により得られた表面形状像 (a)時間分解 EFM像 (b)FM-SIMのin-phase像 (SIM-X)(c)out-of-phase像 (SIM-Y)(d)測定全体のうち+25 Vのシーケンスにおける注入時排出時の応答を示している

98 第 5章 時間分解測定による有機グレイン中のキャリアダイナミクス評価

0

50

100

150

200

0 10 20 30 40

EFM

sig

nal [

mV]

Time [ms]

+25 V 0 V

0

50

100

150

200

0 10 20 30 40

EFM

sig

nal [

mV]

Time [ms]

+25 V 0 V

05 V1 V

15 V2 V

25 V

(a) Gr2aτ ~ 14 ms(05 V)

τ ~ 3 ms(05 V)

τ lt 1 ms(b) Gr2b

Bias Bias

図 519 (a) Gr2a(b) Gr2b上の 25点平均 TR-EFM信号 (注入排出のみ)τは指数関数フィッティングした場合の注入排出それぞれにおける時定数の概算値

0

05

1

15

0 05 1 15

Re[

Y]

Ѭinj [ms-1]

0

05

1

15

-2 -1 0 1 2

Re

Im(Y

)

Bias [V]

0

05

1

15

-2 -1 0 1 2

Re

Im(Y

)

Bias [V]

0

05

1

15

-2 -1 0 1 2

Re

Im(Y

)

Bias [V]

(a) Gr2a

(d)

(b) Gr3a (c) Gr3b

Gr2bGr2b

Gr2a

Gr3b

Gr3a

(e) SIM-X(VB = ndash2 V saturation)

Re

Re

Re

Im Im Im

Gr2aGr2bGr3aGr3bGr1

1(2πfsτ)

図 520 (a)ndash(c) TR-SIMと SIMアドミタンス解析により得られたグレインごとのアドミタンス(実部 Re虚部 Im)のバイアス依存 (a Gr2a b Gr3a c Gr3b)(d)注入時の時定数 (逆数)に対するアドミタンス実部の関係同じプロット種は同じグレインの各バイアスにおける値を示している破線は理論値 Re[Y] = 1

2π fsτminus1(Gr1のみ fs = 600 Hzでの TR-SIM測定の VB = 2 Vの結

果を規格化して示した)

一方Gr2bは注入後もほとんど応答が得られておらず与えられた fs に対して界面抵抗が大きすぎると考えられるこのことはEFM像における応答時間が Gr2aに対して非常に大きい事実と合致する図 518で示した TR-SIM測定ではバイアスに対する SIM信号の飽和値が測定できる式 (415)

により SIM 信号から電極ndashGr2a 界面の正規化アドミタンス Y を算出した結果を図 520(a) に示す

53 単一グレインのチャネル形成評価 99

負バイアスでは SIM 信号が全く観測されずバイアスを正に大きくするに従い 4 章と同じく実部(Re)の増加が見られた図 57の Gr3a Gr3bでも同様の測定を行い得られた正規化界面アドミタンスを図 520(b) (c)に示すどちらのグレインにおいてもバイアスの正負で Y の振る舞いが大きく異なるしかし Gr3aに比べてGr2aと Gr3bの実部 (界面コンダクタンス)は一桁大きい値を示している同時にGr2aと Gr3bはバイアス変化により虚部にピークが現れており電極ndashグレイン界面抵抗の大小との相関が示唆される以上のように TR-SIMで観測される応答時間 (時定数)や FM-SIM解析から得られる電極ndashグレイン界面アドミタンスにはグレインごとに差異が存在するここで注入時の時定数 τinj は接触抵抗Rとグレインのゲート容量 C に対して τinj = RC と対応付けらるまた界面コンダクタンス Re[Y]

は式 (415)より Re[Y] = 1(2π fsCR)であるため

Re[Y] =1

2π fsτminus1 (58)

のように時定数の逆数に比例することがわかるこれまで TR-SIM 測定を行ったグレイン (Gr2a

Gr2b Gr3a Gr3b) に関して注入時の経時 EFM 信号の指数関数フィッティングで得られた時定数および飽和 (蓄積) 時の界面コンダクタンスを各シーケンスから算出しプロットした結果を図520(d)に示すただしGr1のみ VB = 2 Vの値のみ示しておりまた [設定値 SIM-1]とは異なりf primes = 600 Hzで測定したため実効的に fs = 18 kHzで測定されうる値となるよう f primes fs 倍した界面コンダクタンスをプロットしたまたGr2bの SIM信号は測定限界以下の強度であったため0とみなしてプロットした図 520(d) より1τinj が大きい (時定数が小さい) グレインでは界面コンダクタンスも大きい傾向が明らかであるこの結果よりグレインごとに測定された EFM 信号の応答時間の違いが測定ごとの探針やバイアスといった測定条件による影響で現れているわけではなくグレインごとの電気特性の違いを反映したものであることを保証できるただし理論より考えられる直線からは大きく外れる結果となったこの原因として一つは電極ndashグレイン界面の静電容量の影響が考えられる界面アドミタンスの並列容量 Clo の存在により見かけの時定数がτapp = R(C +Clo)に変化することは図 511(a)と同様のモデルから容易に導出できるそのため理論上の時定数 τに比べて τapp gt τとなるしかし図 520(a)ndash(c)より界面アドミタンスの虚部つまり CloC はたかだか 1であることから全てこの影響であるとは考えにくい第二にEFM信号の応答時間と FM-SIMでは厳密には測定している過程が異なることが挙げられるFM-SIMでは注入特性のうち飽和 (蓄積)時の特性を反映したものでキャリアの動きとしては蓄積状態のまま微量な注入排出が起こっている一方TR-EFMの注入時は 52節で述べたように排出時に比べて接触抵抗が大きいためFM-SIMから評価される「コンダクタンス」の方が大きめに算出される可能性はあるその影響を考慮すると図 520(d) より注入時と蓄積時のコンダクタンスがグレインに関わらず線形関係にあることが読み取れそれらの過程が全くの別物ではなく結びついていることを示唆しているつまり注入時と蓄積時の抵抗比が Aundashペンタセングレイン界面一般に成立しうることが考えられる蓄積時の時定数 τacc に対して注入時の時定数が τinj = ατacc と示されるつまり実効的な注入時蓄積時の抵抗比が αで表されるとするVB = 2 Vでの τminus1ndashRe[Y]プロットの線形フィッティングからα = 62 plusmn 08と算出されたこの結果はグレインごとに観測するとGr2a と Gr2b のように電極ndashグレイン界面抵抗は大きく変わりうるがマクロで考えると蓄積状態に比べて注入時は接触抵抗が α倍大きいことを意味しているこれまでの研究ではマクロ電極の

100 第 5章 時間分解測定による有機グレイン中のキャリアダイナミクス評価

-410 mV 410 mV 0 mV 17 mV 0 mV -12 mV

(a) EFM signal (b) SIM-X (c) SIM-YBias(VB)

+2 V

+15 V

+1 V

+05 V

0 V

ndash05 V

ndash1 V

ndash15 V

ndash2 V

(i)Metalndashorganicinterface

(ii)In-graindisorder

(iii)Whole grain

On

図 521 Gr1上 Sweep-SIM測定結果

TLM測定や KFMを用いた OFETの接触抵抗評価が行われてきたがこれらは基本的には蓄積状態での抵抗を見ている一方本研究より注入時は蓄積時よりも大きな金属ndash有機界面の接触抵抗が現れることが分かったそのためキャリア注入が動作を支配する OFETのオン動作にかかる時間は蓄積状態での抵抗から見積もられるよりもずっと長く要することに注意せねばならない

53 単一グレインのチャネル形成評価 101

-10

0

0 200 400 600

-SIM

-Y [m

V]

Distance [nm]

(a) SIM-Y(VB = ndash1 V)

(b)

(c)

0

25

50

75

100

0 05 1 15 2

d ove

r [nm

]

Bias [V]

90Average

dover

Elec

trod

e

Left edge

図 522 Gr1 上 Sweep-SIM 結果 (i) 蓄積状態の SIM-Y 像における Gr1(on) 導通領域評価結果(a)で示す線分に沿った SIM-Y像のプロファイル (b)に対しGr1上平均に対して SIM-Y信号が90となる電極端からの距離 dover をバイアス電圧に対してプロットした (c)

533 バイアス分光による導通領域変調評価前節では TR-EFMと FM-SIMを同時測定したときのそれぞれの手法の関係性について議論し

FM-SIM信号の利用によりグレインの導通領域の評価に利用できることが分かったこれまでの議論はグレイン内分布がない領域について評価していたが522節でも述べたように空乏時にはグレイン内ポテンシャル勾配が見られキャリア蓄積状態によってグレイン内の導通状態が変化していることが考えられる本項ではグレイン内外の分布を調べるために 531節で述べた Sweep-SIM

を用いグレインを空乏状態から蓄積状態まで変化させた際の SIM像変化と 521節の結果とを比較し評価を行う測定条件 [設定値 SIM-2] を用いSweep-SIM として各点 400 ms の期間に plusmn25 V の三角波を電極に印加する測定を行った結果のうちBWによる SIM信号遅れが現れていない plusmn2 Vの範囲について EFM像SIM-XSIM-Yを再構成したものを図 521に示すEFM像は図 512(a)の飽和値プロファイルに対応する量であり三角波の印加でもグレイン上の電位が十分追従していると考えられる一方SIM-X 像における Gr1 の見え方が VB によって変化しているここで+2 V からminus2 Vのバイアス範囲を(i) SIM-X像が均一 (蓄積状態VB ge minus05 V)(ii) SIM-X像が不均一 (半空乏状態minus05 V le VB le minus15 V)(iii) SIM-X像に現れない (空乏状態VB le minus15 V)3つの領域に分けることができる

(i)蓄積状態 (i)では SIM-Xに限らず EFM像SIM-Y像でも Gr1内で応答が均一であり電極ndash

グレイン界面の抵抗のみ影響する図 511(a)のモデルを適用して評価を行ったことはこれまでに述べた一方SIM-Y(図 521(c))に注目するとGr2aと同様に絶縁膜上のグレインのみならず電極上を覆う部分 (Gr1(on))においても SIM-Y信号が現れているがこの範囲がバイアスにより変化していることが分かるつまりバイアスによって電極上を覆う部分の導通領域が変調されているそこで次のようなプロセスで導通領域長さ dover を定義算出した図 522(a)の線分に沿った SIM-Y

プロファイルを用いGr1の絶縁膜上領域 (Gr1(ins))の SIM-Y信号平均値に対して 90の大きさと

102 第 5章 時間分解測定による有機グレイン中のキャリアダイナミクス評価

(b) SIM-X (VB = 0 V)(a) Topography (c) SIM-X (VB = ndash1 V)

Gr1

PlateauPlateau

図 523 Gr1上 Sweep-SIM結果 (ii)半空乏状態の SIM-X像とグレイン形状の比較(a)表面形状像と Gr1上の台地 (Plateau)位置 (破線)(Sweep-SIMとは別取得像)(b) VB = 0 V (c) VB = minus1 Vにおける SIM-X像Gr1形状を白破線で台地領域を赤破線で示した

なる Gr1(on)での位置を考え電極端からの距離を dover とするこれを各バイアス (01 V刻み)で行った結果を図 522(c)に示す100 nm以上の距離は像の左端に位置するため測定不能である導通領域長さは正バイアス電圧に対して単調に増加したが12 Vを境にその増加傾向が増している一方バイアス依存アドミタンス解析 (図 520(a)ndash(c))より電極ndashグレイン界面コンダクタンスの増加は minus05 Vのバイアス電圧で開始していることを確認しており導通領域長さの増加開始はグレインの導通開始電圧よりも大きな正バイアス電圧が必要ということになる

(ii)半空乏状態 VB = minus1 Vのときの SIM-X像 (図 521(b))では Gr1内の信号に明確な不均一性が現れたGr1の形状と SIM-X像を比較するためVB = 0 V (i蓄積状態)minus1 V (ii半空乏状態)でのSIM-X像上に表面形状から確認できるグレインの輪郭を破線で示した (図 523(b) (c))VB = 0 V

のときSIM-X信号が得られている領域は EFM信号と同じくほぼグレイン内部のみである一方VB = minus1 VではGr1の上右下に伸びる 3枝 (それぞれ上枝右枝下枝と呼ぶ)の分岐部は VB = 0 V

と同程度の信号が得られているのに対しそれぞれの枝の先まで信号が到達していないこの結果は(i)の蓄積状態とは違いGr1内にも無視できない抵抗成分があることを示しているこの抵抗の由来として分布定数回路のように距離に関係するものグレイン境界のように構造に関係するものそれ以外の影響の 3通り考えられる

532 節で述べたようにFM-SIM と TR-EFM の信号にはそれぞれ関係がある図 523(c) のSIM-X 信号では応答消失後はより遠いところの応答は見ることができないがTR-EFM では全体から信号が得られるためGr1の分岐先についても何らかの変化が観察できると考えられる図524(a)に Gr1上の (I)電極付近 (分岐部)(II)遠方 (分岐先右枝)における空乏時 (VB = minus1 V)の経時EFM信号を示す電極付近に比べて遠方では EFM信号 (の絶対値)が小さいこのこと自体は負バイアス時の EFM信号飽和値プロファイル (図 512(a))や校正後 ∆V 飽和値プロファイル (図 516(b))

からも見て取れるしかしそれに加えて電圧変化後 2 ms以降の信号に注目すると電極付近ではほとんど変化していないのに対し遠方では有意な傾き (経時変化)が見て取れるこれはキャリア輸送による電位の時間変動が起こっていることを示すものであり負バイアス時 (空乏時)の ∆V 飽和値プロファイルの勾配 (図 516(a))は静的なキャリア分布による電位勾配ではなく何らかの抵抗により発生していることを示している図 524(a)で見られた EFM信号の経時変化率 (Vs)を各負バイアスにおいて全点で算出しマッピングしたものを図 524(b)ndash(f)に示す経時変化率の算出には元の TR-EFM信号に対して付近 3 times 3

点平均で平滑化し電圧変化後 (10 plusmn 65)msのデータ点の最小二乗線形フィッティングにより得た

53 単一グレインのチャネル形成評価 103

-30

-20

-10

0

10

0 5 10 15 20

EFM

sig

nal [

mV]

Time[ms]

Near (I)

Far (II)

Gr1

05 Vsndash05 Vs

(I)

(II)

(a) EFM signal at VB = ndash1 VEFM-slope images in ldquodepletionrdquo regime

(b) ndash05 V

(c) ndash1 V

(d) ndash15 V

(e) ndash2 V

(f) ndash25 V

Plateau

Slope

Slope

図 524 (a) TR-EFM 測定で得られた Gr1 上の電極付近 (Near I) および遠方 (Far II) での空乏時の経時 EFM 信号比較(b)ndash(f) TR-EFM 結果より求めた空乏時 EFM 信号の経時変化率マップ(b) VB = minus05 V (c) minus1 V (d) minus15 V (e) minus2 V (f) minus25 VGr1輪郭を黒破線台地領域 (図523(a)参照)を赤破線で示した

(a) ndash05 V (d) ndash2 V

(e) ndash25 V(b) ndash1 V

(c) ndash15 V

08 Vsndash08 Vs

EFM-slope images in ldquorecoveryrdquo regime

(f)

Grain

Disorder

NegativeElectrode

図 525 (a)ndash(e) TR-EFM結果より求めた回復時 EFM信号の経時変化率マップ(a) VB = minus05 V(b) minus1 V (c) minus15 V (d) minus2 V (e) minus25 VGr1輪郭を黒破線台地領域 (図 523(a)参照)を青破線で示した(f)回復時の EFM時間応答を説明する模式図Disorderでのキャリア蓄積が十分ではないため抵抗として現れる

まず minus05 V (i)ではグレイン内で変化率に大きな差は見られない一方 minus1 V (ii)のときGr1の電極付近の変化率はほぼ 0なのに対し遠方では経時変化率が負であることが明瞭に観察できる特にGr1下枝では広い範囲で同程度の経時変化率であり分布的な抵抗と距離による影響ではなくグレイン内の局所抵抗が作用していると考えられるここでグレインの表面構造と比較するため図 523(a)の Gr1表面形状より台地 (Plateau)部分の輪郭を取得し経時変化率マッピングに赤破線にて重ねて示しているminus1 V (図 524(c))での経時変化率が負の領域は例えば右枝では変化率が 0

に近い領域が台地部分に侵食しているように台地部分と完全に対応しているとはいいがたいこれは同様に台地部分を桃破線で重ねて示した SIM-X像 (図 523(c))において SIM-X信号が台地部分

104 第 5章 時間分解測定による有機グレイン中のキャリアダイナミクス評価

GrainChannel

Electrodendashgrain Channel Disorder

Disorder

ON

Resist

ON ON

OFF OFF OFF

Electrode

SubstrateInsulator

VB(ndashVG)

2 V

ndash2 V

0 V

ndash1 V

(a)

(b)

(c)

(d)

(i)

(ii)

(iii)

図 526 TR-EFMFM-SIM評価から想定される単一グレインのチャネル形成過程の模式図

まで侵食していることからも確認できるよってGr1台地部分との境目ではなく表面形状から確認できないグレイン内の欠陥が抵抗として働いていると考えられる最後にVB le minus15 V (iii)では全体が同程度の変化率となっており電極ndashグレイン界面が制限していることが分かる同様に TR-EFM の回復時について11 plusmn 65 ms のデータ点の線形フィッティングで算出した

EFM信号経時変化率マップを図 525に示す回復時もやはりminus05 Vでは Gr1内は経時変化率が均一だがminus1 Vから minus25 Vでは Gr1の上枝および下枝において経時変化率が増加しているこれは電極付近では迅速なキャリア再注入により電圧変化の 10 ms後には十分収束しているが下枝等遠方ではグレイン内の局所抵抗によりキャリア再注入が阻害され負電位から 0への緩和が遅れるため他の部分よりも経時変化率が大きくなったと考えられる (図 525(f))さらにminus1 Vからminus25 Vの下枝の経時変化率が異なる領域は Gr1台地部分全体よりも小さいことが空乏時 (図 524)

の経時変化率マップよりもよくわかるこのような (見かけの)グレイン境界とは異なるペンタセングレイン内の欠陥はこれまでの研究でも報告されているNakamuraらの AFMポテンショメトリーを用いたペンタセン薄膜の電位測定から見かけのグレイン内部でも電位ドロップが起きることが指摘されている [31 32]それらはグレイン内の浅い溝状構造と相関があるとされており基板温度を常温以上にしてペンタセン薄膜を作製した際に起こりやすい走査型近接場光顕微鏡を用いた局所赤外分光評価によりこの浅い溝は温度変化で発生したペンタセン薄膜内部の歪みを薄膜相からバルク相への相転移で緩和したことにより生じたものであると評価された報告があり [175]相間の境界またはバルク相自体の低移動度性に由来する局所抵抗といえるこのようにペンタセングレインでは形状には現れてこない局所抵抗が存在し本研究でもそれが SIM-X像の変化または EFM

信号経時変化率の違いとして現れたと考えられる以上の Sweep-SIMおよび TR-EFMの経時変化率評価の結果から電極―単一グレインにおけるチャネル形成過程は図 526 のように示すことができるVB lt minus1 V (iii) では電極―グレイン界面グレイン内 (チャネル)共に空乏化しOFF状態である (図 526(d))VB sim minus1 V (ii)付近ではチャネルは導通しON状態となるがグレイン内にも存在する欠陥ではまだ空乏状態であり抵抗が存在

54 本章のまとめ 105

する (図 526(c))このチャネルの導通と局所欠陥による導通電圧の違いはOFETにおけるしきい値電圧の違いとも考えられ3章で確認したグレイン境界におけるしきい値電圧変調効果と合致する結果であるVB gt minus1 V(i)では欠陥部分も十分導通しグレイン内は均一となる (図 526(b))そのため系全体の抵抗は電極―グレイン界面のみとなるさらに VB を増加させるとグレインの電極上領域まで導通するようになり実効的な接触面積の増加から接触抵抗の低減が起こるこのことは接触抵抗のゲートバイアス依存性ともとることができる

54 本章のまとめ本章では従来手法では困難なキャリアダイナミクスの可視化評価に向け3 章で培った point-

by-point 手法を用いた実用的な TR-EFM 測定システムを構築した測定系由来の応答遅れが PLL

のバンド幅のみに依存するという重要な知見を得た上で1 msという時間分解能を達成したペンタセン単一グレインに適用することで単一グレインへのキャリア注入排出過程を可視化し注入排出で非対称な接触抵抗およびバイアス電圧依存が現れることを明らかにした

FM-SIMとの併用による多角的評価ではFM-SIMによる界面インピーダンス評価とグレイン上導通領域評価の 2つの側面から活用可能であった界面コンダクタンス測定によりグレインごとに異なる EFM信号の時定数が界面コンダクタンスと相関があることがわかり注入時と蓄積時の金属ndashグレイン界面抵抗の比として定量的に示すことができたまたバイアス分光評価と TR-EFM

の経時変化率評価により単一グレイン内部の欠陥による局所抵抗があることを明らかにした

107

第 6章

結論

61 総括本論文では従来の原子間力顕微鏡技術の改善やマクロ評価技術を組み合わせた新規測定手法の構築を通して金属ndash有機界面および近傍の局所電気特性評価を行ってきた以下ではそれぞれの項目の総括を述べる

第 3章【AFM電流測定法を用いた有機グレインの局所電気特性評価】第 3章では AFM電流測定法の一つである PCI-AFMを用いた OFETの局所電気特性評価に向けた改善および測定を行った改善の面ではまず従来の PCI-AFMでは非現実的であった真空中動作を Q値制御法の利用により実現したこれにより雰囲気による OFET電気特性への影響を排除した測定が可能となったまた効率的な動作パラメータ設定と柔軟な point-by-point動作設定が可能な制御プログラムの作成を通したフレキシブルな PCI-AFM システムを構築したこの寄与が第 5

章の TR-EFM測定システム構築の足がかりとなった測定ではマルチグレイン薄膜および単一グレイン上で評価を行ったマルチグレイン薄膜では大気真空両雰囲気中で PCI-AFM測定を実現するとともにグレインごとの局所 OFETの ON状態への変化を電流像として可視化したこのような表面形状と電流の同時マッピングによる評価は特性が変化する位置を像として明確にすることができる点が従来の AFM電流測定法に比べて優位である

第 4章【新規局所インピーダンス評価法の開発と金属―有機界面物性の評価】AFM電流測定法が電極ndashグレイン界面の電気特性評価に不向きであることを受け第 4章では新規局所インピーダンス評価法として周波数変調走査インピーダンス顕微鏡 (FM-SIM)を提案開発した開発において等価回路モデルから FM-SIM信号と電極ndashグレイン界面のインピーダンスを一対一に対応させることができることを導き等価回路定数を半定量的に算出可能な周波数解析法を考案した同手法を適用することで Aundashペンタセン単一グレイン界面のインピーダンスが抵抗ndash容量並列回路で記述できることの一般性を明らかにしたまたバイアス依存性よりAundashペンタセン界面の準位整合状態と接触抵抗が相関することを見出したことはモルフォロジーの影響を排除し

108 第 6章 結論

た真の金属ndash有機界面電気特性と電子物性を結びつけた初の試みといえる第 4章では開発した FM-SIMを用いて電極表面の自己組織化単分子膜 (SAM)処理による移動度向上の要因の評価も行ったOFET 動作中においても FM-SIM 測定が行えることを示しソース電極ndashチャネル界面のコンダクタンス増加とキャリアトラップ減少が SAM 処理による影響とわかった

第 5章【時間分解測定による有機グレイン中のキャリアダイナミクス評価】第 5章では第 4章とは違う観点からの電極ndashグレイン界面電気特性評価の試みであるとともに従来の AFM応用手法では評価しえない有機グレイン中のキャリアダイナミクスを評価するため第 3

章の point-by-pointシステムを活用した時間分解静電気力顕微鏡 (TR-EFM)を考案した測定系由来の応答遅れが PLLのバンド幅のみに依存することを示し時間分解能 1 msの電位応答測定を実現したペンタセン単一グレインの測定では十分な空間分解能でキャリア注入排出する過程を可視化することができ注入排出過程では接触抵抗が支配的であると分かった新規比例係数校正法から一般的な金属ndash有機界面の電子準位モデルで解釈可能な注入バイアス電圧依存性を確認した最後にFM-SIMの併用による相補的相乗的評価を行ったTR-EFMFM-SIM同時測定を複数のグレインに適用しグレインごとの注入過程の時定数および界面コンダクタンス値を測定したそれぞれのグレインの時定数は異なるが時定数の逆数と界面コンダクタンスは線形な関係にあることを示し注入時と蓄積時の接触抵抗がある一定の比をとることを示したまたFM-SIM像による導通領域可視化と TR-EFM測定の空乏時回復時の EFM信号時間変化率評価から単一グレイン内部においても局所抵抗を生み出す欠陥が存在することが判明した

62 今後の展望本論文では電極ndashグレイン界面を中心に様々な微小抵抗の静的動的電気特性評価が可能な手法や解析法を述べてきたこれまでで得られた物性的知見や手法をさらに推し進めることで物性的な応用と材料的な応用が期待される

物性的応用 有機ndash絶縁膜界面物性評価 金属ndash有機界面は接触抵抗という形で OFETへ直接的に影響するが有機ndash絶縁膜界面はトラップや耐久性といった内在的な影響をも有しており金属ndash有機界面物性と同じくらいに大きな OFETの制限要因であるしかし有機ndash絶縁膜界面もグレイン内部境界といった局所構造によりその影響の程度が異なる上に膜厚方向についてもキャリア蓄積効果と密接に関わってくるためこれまで同様マクロ薄膜での評価では困難であるさらに経時的変化が予想される物性のため過渡的な応答評価が可能であることが必要となるここでTR-EFM は特にこの過渡応答に強力な手法であり有機ndash絶縁膜界面物性への展開に有利であると考えられる本研究ではキャリア注入や排出時の時間は一定にして測定したが有機ndash絶縁膜界面では蓄積時のキャリア量とその時間に依存したキャリアトラップが起きるため蓄積時間変調のようなこれまでと異なるパラメータへと時間分解測定を拡張することで有機ndash絶縁膜界面物性評価に繋げられると期待される先に TR-EFMや FM-SIMを活用し微小抵抗を可視化することで

62 今後の展望 109

Insulator

Substrate

Trap

Resistance

Conduction

図 61 今後の展開の模式図本研究をナノワイヤのようなナノスケール材料へ適用することで分子ナノエレクトロニクス材料の局所特性制限要因の解明が期待される

有機半導体グレインやグレイン境界微小欠陥が生み出すキャリアトラップの程度を評価比較していくことが本研究の物性的応用と位置づけられる

材料的応用 ナノスケール材料への展開 本論文では測定対象としてサブ micromスケールの有機半導体グレインを用いたしかし金属電極との界面における接触抵抗や内部の微小抵抗といった局所電気特性は有機薄膜に限らず様々なナノスケール材料においても有する例として高分子ナノファイバーやカーボンナノチューブ (CNT)

は非常に微小なチャネル幅チャネル長をもつ FETへと応用が期待される一方で電極間への架橋が困難であることやそれぞれのナノファイバーCNTにおける電気特性差が生じることが物性解明の障害であるまた近年炭素のナノシートであるグラフェン利用も急速に発展しており化学的気相成長法や酸化グラフェンの還元といった産業応用を狙った手法で作製されたグラフェンの電気特性評価も必須となる本研究で提案した FM-SIM や TR-EFM の特長として非架橋非接触で電気特性評価が可能であることを鑑みると以上のような架橋の困難なナノスケール材料においても適用できると期待されるさらに静電気力検出をベースとした非接触測定手法であることから幅が数 nmと非常に微細なスケールであっても可視化可能である利点を有する上述の絶縁膜界面物性評価にもあるような時間分解測定の拡張も踏まえた多角的評価手法によりナノスケール材料の 1次元伝導度微小抵抗キャリアトラップといった局所電気特性評価を行うことで分子ナノエレクトロニクスへの展開が本研究の材料的応用と位置づけられる (図 61)

111

付録 A

静電気力顕微鏡の検出モード比較

本論文では 4章5章にて周波数変調方式の静電気力顕微鏡 (FM-EFM)をベースとした測定手法を扱ってきたカンチレバーの共振 (励振)周波数を f0交流バイアスの周波数を fm とすると交流バイアスに起因する静電気力成分は f0 plusmn fm に生じる (図 A1(a))これまでの FM-EFMでは 26

節で述べたように PLLを用いて周波数信号に変換した上で (図 A1(b))ロックインアンプ (LIA)により fm 成分を検出することで EFM信号を測定できるこの手法は Kitamuraらによって提案された手法 [176]でありここでは ldquoConventional-EFMrdquoと呼ぶこととするConventional-EFMの問題点としてPLLのバンド幅 (BWPLL)を変調周波数 fm より大きくする必要があるが大きな BWはループの発振を招くためあまり fm を大きくできないことにある一方図 A1(a)のように f0 plusmn fm 成分を直接ロックイン検出することによっても静電気力成分が検出できることが予想される本研究で用いた LIA である Zurich Instruments 社の HF2LI-MF (以下 ZI-LIA)にはモジュールを入れることで FM変調された信号を直接ロックイン検出する機能を有しているこれにより EFM 信号を測定する手法を Sideband-EFM と呼ぶSideband-EFM ではPLLを介さないためConventional-EFMに比べて fm を大きくでき測定速度を向上できると考えられている本章では Conventional-EFMと Sideband-EFMをそれぞれの測定 (応答)速度および SNの観点から比較するなおこの研究は京都大学大学院工学研究科馬詰彰奨学寄附金の支援で実現したカナダMcGill大学への海外研修の際に取り組んだものである

理論的比較カンチレバーの共振 (励振)周波数を f0振幅を A交流バイアスの周波数を fm静電気力による周波数変調度 (つまり所望の信号)を fp とするとカンチレバーの変位信号 s(t)は

s(t) = A cosΩ(t) = A cos[2π f0t +

fpfm

sin(2π fmt)]

(A1)

と表されるFM検出方式では周波数つまり位相 Ω(t)の微分を検出するためPLLの出力は1

2πdΩdt= f0 minus fp cos(2π fmt) (A2)

となるConventional-EFMでは fm 成分を検出するがその EFM信号の大きさは fp であり変調周波数に依存しない一方微分は周波数軸に対して積の形で現れるため変位信号におけるホワ

112 付録 A 静電気力顕微鏡の検出モード比較

(a) Signal

Sideband

PLL BWConventional

Noise level

f0f

f0+fmf0ndashfm

(b) Frequency shift

fmf

s(t) dΩdtBWPLL

図 A1 FM-EFMにおける変位信号に含まれる周波数成分の模式図(a)変位信号の周波数成分と PLLおよび Sideband-EFMによる検出領域の模式図(b) (a)から PLLにより得られた周波数シフトの周波数成分と Conventional-EFMによる検出領域の模式図

PLL2

LIA2

LIA1

BWLIA

BWLIA

BWPLL1

ZI-LIA ZI-LIA

BW100 Hz

fm f0fm

fm

f0+fm

PLL1

Deection signal Deection signal

EFM signalEFM signal

Conventional Direct sideband(a) Setup

Cantilever

Electrode

(b) (c)

図 A2 (a) ConventionalSideband-EFM のパルス電圧応答比較の共通セットアップ模式図(b)Conventional-EFMのブロックダイアグラム(c) Sideband-EFMのブロックダイアグラム

イトノイズは周波数シフトでは周波数に比例して大きくなるよってConventional-EFMの SN

は fm に反比例することがわかる一方変位信号の cos[ fp

fmsin(2π fmt)]部は Bessel関数で展開できるが fp fm の条件下では以下

の形に簡略化できるs(t) A

[cos 2π f0t plusmn fp

2 fmcos 2π( f0 plusmn fm)t

](A3)

f0 + fm 成分を直接ロックイン検出した場合EFM信号の大きさは A fp2 fmとなり fm に反比例する

一方ノイズは一定値でありSideband-EFMの SNは原理上 Conventional-EFMの SNと同じであることが予想される

パルス電圧応答比較5章の TR-EFMと同じく導電性試料にパルス電圧を加えた際の EFM信号の過渡応答を比較した (図 A2(a))図 A2(b) (c) はそれぞれ Conventional-EFM および Sideband-EFM において EFM

信号を検出する回路のブロックダイアグラムである変調周波数は fm = 1 kHz 10 kHz について評価したConventional-EFM では PLL1 の BW を BWPLL1 = 2 kHz ( fm = 1 kHz のとき) 10 kHz

( fm = 10 kHz) としたSideband-EFM では内部で PLL (PLL2) が搬送周波数 f0 を測定しデジ

113

0 02 04 06 08

1 12

0 10 20 30 40

Sign

al

Time [ms]

0

01

02

03

0 10 20 30 40

Sign

al

Time [ms]

100 Hz100 Hz(signal times 05 oset)

70 Hz

70 Hz (oset)

50 Hz50 Hz

30 HzBWLIA 20 Hz

30 HzBWLIA 20 Hz

(a) Conventional (1 kHz) (b) Sideband (1 kHz)

(c) Conventional (10 kHz) (d) Sideband (10 kHz)

0

02

04

06

08

1

-5 0 5 10 15

Sign

al

Time [ms]

0

05

1

15

2

-5 0 5 10 15

Sign

al

Time [ms]

500 Hz300 Hz200 Hz100 Hz

BWLIA

500 Hz300 Hz200 Hz100 Hz

BWLIA

図 A3 ConventionalSideband-EFM のパルス電圧応答比較結果(a) (b) は fm = 1 kHz でのConventionalSideband-EFM結果(c) (d)は fm = 10 kHzでの結果を示すただしTime lt 0 msではパルス電圧のバイアスは 0 VでありTime 0 msで 15 Vである

タル的に f0 + fm の周波数信号を参照としてロックイン検出することで実現しているそのときのPLL2の BW設定は 100 Hzとし検出される搬送周波数の fm による変動を抑えた両者の LIAのBW (BWLIA)は同じ値で比較を行った図 A3 に EFM 信号の過渡応答測定結果を示すまず fm = 1 kHz のとき図 A3(a) のように BWLIA を増加させるに応じて Conventional-EFM の応答速度が向上しており5 章での議論と合致するそれに伴い SN が低下していることは上述のとおりである一方Sideband-EFM はBWLIA = 30 Hzまでは Conventional-EFMと同等の SNおよび応答速度の EFM信号が得られているがそれよりも BW を大きくすると所望ではない交流信号が現れてしまったこの周波数は約2 kHzであり変調周波数の約 2倍である

Conventional-EFMでは困難となる変調周波数の高い場合 ( fm = 10 kHz)にも定性的に同じような応答が得られたConventional-EFMではノイズが増加するものの 0 ms前後での応答差がまだ確認できるがSideband-EFMでは BWLIA = 500 Hzの時点で確認不可能であるこのように Sideband-EFM で大きな交流信号が EFM 信号に現れる原因として搬送周波数 (共振周波数)成分の影響があげられる図 A1(a)や図 A2(c)で示したようにSideband-EFMでは変位信号からそのままロックイン検出しているがこのとき LIA の BW を大きくしすぎると搬送周波数 f0 成分にかかり始める一方Conventional-EFM では周囲 fm に Sideband-EFM のような大

114 付録 A 静電気力顕微鏡の検出モード比較

きな信号はないそのためConventional-EFMよりも Sideband-EFMのほうが LIAの BWを上げにくいと考えられるBWを小さくして測定したとしても5章で述べたように応答速度は LIAのBW にのみ依存することから高い変調周波数を扱うメリットはないさらに今回の測定ではfm = 10 kHzという高い変調周波数においても SN的に Sideband-EFMの優位性は認められなかったSideband-EFMの問題点を解消する方法としてLIAを二段構成にする方法がある [177]一段目の LIAにて搬送周波数で変位信号のロックイン検出を行うことで搬送波成分が直流となり二段目の LIA では問題とならないConventional と Sideband を正しく比較する場合にはこの方法を用いることが望まれる

115

付録 B

FM-SIMの正規化アドミタンス評価の補足

4章では周波数変調走査インピーダンス顕微鏡 (FM-SIM)を用いてAundashペンタセン単一グレイン界面インピーダンスが RC並列回路で表されることを説明した本編では式 (410)を用いて正規化アドミタンスに変換したが本章では正規化 FM-SIM信号 (γ)から視覚的に変化を読み取る方法について説明する

アドミタンスグリッド正規化アドミタンス Ynorm(式 (415)) を導入すると式 (410) より正規化 FM-SIM 信号は次のようにかける

γ =1

1 + jYminus1norm

(B1)

ここでYnorm の実部 (正規化コンダクタンス)虚部 (正規化サセプタンス)をそれぞれ g cと表す書き下すと以下のようになる

g =1

2π fsCiRlo(B2)

c = CloCi

g cのうち片方を固定し片方を 0から infinまで変化させた際の正規化 FM-SIM信号の軌跡 (γプロット)を図 B1に示すcを固定しgを変化させた際は γの周波数依存性と同じく γ = 1を通る径の異なる半円となる (破線)これは式 413において f と τr(つまり Rlo)が等価であることと対応する一方gを固定しcを変化させると点線のような軌跡をとるここで任意の γが与えられたときこの平面上のどこかにプロットできるプロット点を通るであろう gの軌跡から cがcの軌跡から gが読み取れる図 B1に示す軌跡をアドミタンスグリッドと呼ぶアドミタンスグリッドの利点は連続的なパラメータ変化に対するアドミタンス変化の概形を読み取ることである図B1を見ると分かるとおりg c lt 01または g c gt 10の領域は γの変化に対しての g cの変化が非常に大きいこれは本編のようにチャネルの ONOFF時の変化を Ynorm の変化として算出するときにFM-SIM信号強度が小さいと問題が生じる一方Ynorm を値として計算せずアドミタン

116 付録 B FM-SIMの正規化アドミタンス評価の補足

0

0

0

05

-05

1

01

1

10

g

cinfin05 1 2 10

Re[γ]

Im[γ] (Suscept)

(Conduct)

Ampl

PhaseRlo

Clo

g-1

c

Normalized

図 B1 γプロットの正規化アドミタンス (実部 g虚部 c)依存性cを固定し gを変化させた軌跡を (赤)破線でgを固定し cを変化させた軌跡を (青)点線で示しているこのような γプロットをアドミタンスグリッドと呼び任意の γ(振幅および位相)が与えられた際グリッドとの位置関係から大まかな g cの変化が読み取れる

-Imag(a) Real(a)

0

01

1

10

infin05 1 2 10

ForwardBackward

(Capacitance)

(Conductance)g

cVG = 2 V

VG = ndash3 V

図 B2 433 節のペンタセン単一グレイン上 FM-SIM 測定結果の γ プロット (アドミタンスグリッド上)Solid点が VG = 2 Vrarr minus3 Vに変化させた際 (Forward)Open点が逆方向 (Backward)での測定点である

スグリッド上に連続的にプロットすることで真値は分からなくとも変化の概形は読み取ることができる

バイアス電圧依存のアドミタンスグリッドアドミタンスグリッド上 γ プロットの例として433 節で示したペンタセン単一グレイン (グレイン A) における FM-SIM 測定結果をプロットした (図 B2)図 415 同様 VG 変化の Forward

と Backwardに関してプロットしているがプロット点の位置は違えどもその軌跡は ForwardとBackwardで非常に重なっていることがわかる433節 (図 415(c))で述べたように界面アドミタンスは VG に対してヒステリシスを示したが取りうる界面アドミタンスの値は同一であることが図B2からわかるまたグリッド線と比較すると変化の軌跡は cを固定して gを増加させた場合の軌跡に近いであろうことが見て取れるここからも負の VG 印加により界面コンダクタンスが増加し界面容量は比較的一定であることがわかる式 (B2)よりアドミタンスグリッド上で gは電極の交流バイアス周波数 fs に依存するそのため fs を変えることで g軸に沿ってプロット位置が変化することが予想される図 B3(a)に示す別のペンタセングレイン (B)に関してfs = 100 Hz 300 Hzでゲートバイアス VG 依存性を取得した結果を図 B3(b)に示すただしVG は 2 Vから minus8 Vの範囲で連続的に変化させたまずこのグレ

117

0 nm 30 nm

-05

0 05 1

fs = 50 Hz

100 Hz150 Hz

200 Hz300 Hz

500 Hz800 Hz

Imag

(a)

Real(a)

0

01

1

10

cinfin05

Conductance

g

101 2

Capacitance

VG = ndash8 V

VG

300 Hz

100 Hz

100 HzForBack

300 Hzfs

(a) Topography

(b) VG-dependence

(c) fs-dependenceElectrod

e

150 nm

Grain B

A B

図 B3 (a)グレイン Bの表面形状像(b)グレイン B((a)の x点)でのアドミタンスグリッド上 γプロットゲートバイアスを VG = 2 Vから minus8 Vに (Forward)および逆方向 (Backward)に掃引しながら測定した(c)グレイン B上周波数依存 γプロット (VG = minus1 V)

イン Bに関してもグレイン A同様に負の VG 印加に従い g軸正方向へ変化しておりキャリア蓄積に伴う接触抵抗の低減が見て取れるどちらの fs においてもその傾向が現れているが fs = 300 Hz

では 100 Hzでの gに比べて 13程度になっており予想どおりの結果となった周波数依存性との対応も調べるためいくつかの fs について図 B3(a)の線分 AndashB上をラインスキャンし電極グレイン B上の FM-SIM信号から γプロットした結果を図 B3(c)に示すグレイン Aの周波数依存性 (図 413)では周波数を掃引して測定したが非連続的に周波数を変化させても同じように半円状の変化を示すことがわかるここで fs = 100 Hz 300 Hzでの結果はそれぞれの図 B3(b)でのプロット位置と大まかに一致していることから以上の測定結果の再現性も確認できたといえる

ヒストグラムプロットγプロットは界面アドミタンスの概略的な傾向を見るのに有用だが何らかの方法で FM-SIM信号の ldquo値rdquoを抽出する必要がある代表点ラインプロファイル平均といった方法で評価はできるもののどこまでの範囲を考慮するかにおいて任意性がどうしても存在するその問題点を解消する方法として以下に述べるヒストグラムプロットがあるヒストグラムプロットでは同一領域の FM-SIM 振幅像および位相像を用い像の各点における FM-SIM信号が γプロットのどの位置に来るかを計算しγプロット内の頻度を画像化したものであるこれによりもっともらしい γ において最も頻度が大きくなりγ の位置把握に役立つ図 B4 は図 414 と同じペンタセン薄膜に対してヒストグラムプロットを適用した結果である図B4(a)の領域 [1]に対し図 B4(b) (c)で示す FM-SIM振幅位相像をそれぞれのゲートバイアスで取得し本画像から図 B4(d) (e) に示すヒストグラムプロットを得た図 B4(d) では 0 および infinの部分以外に頻度の高い領域が 2箇所見て取れるこれらは大体の FM-SIM振幅位相値からそれ

118 付録 B FM-SIMの正規化アドミタンス評価の補足

0

01

1

10

cinfin05

g

101 2 0

01

1

10

cinfin05

g

101 2

(d) [1] VG = ndash1 V

VG = ndash1 V ndash4 V VG = ndash1 V ndash4 V

(e) [1] VG = ndash4 V

Count

Large

(a) Topography (b) SIM-Ampl (c) SIM-Phase

[1]

-40ordm +50ordm2 mV 45 mV35 nm

A

C

A

C

A

C

図 B4 ペンタセン薄膜上 FM-SIM結果とヒストグラムプロット (領域 [1])(a)表面形状と領域[1](b)領域 [1]における FM-SIM振幅像(c)位相像 (それぞれ VG = minus1 Vおよび minus4 V)矢印にてグレイン A Cを示している (図 414と同一)(d) VG = minus1 V (e) minus4 Vにおける領域 [1]の γのヒストグラムプロットA Cで示した点はそれぞれ (b)内で示したグレインに対応する

0

01

1

10

cinfin05

g

101 2

VG-dependence (Grain A)

Count

Large

VG

図 B5 図 415(b)で示したペンタセングレイン A上 FM-SIMラインスキャン像から得たヒストグラムプロット

ぞれ図 B4(b)で示したグレイン A Cであることは判別できるVG を minus1 Vから minus4 Vに増加させるとヒストグラムプロットは図 B4(e)のように変化しグレイン A Cに対応する箇所が移動しているのがわかるg軸について見るとこれらは gの増加と対応していると確認できる同様に図415で示したペンタセングレイン A上における FM-SIMで得られたラインスキャン FM-SIM像からヒストグラムプロットした結果を図 B5に示す結果的には図 B2と全く同じものをプロットしているもののデータ抽出の恣意性がない分純粋な傾向を確認するのには有用と考えられる

119

付録 C

有機半導体グレイン境界のインピーダンス評価

4章では周波数変調走査インピーダンス顕微鏡 (FM-SIM)を開発し電極ndashグレイン界面に焦点を当てた局所インピーダンス評価を行ったOFET内の局所抵抗としては電極ndashグレイン界面以外にグレイン境界も大きな影響を有することがケルビンプローブ原子間力顕微鏡 (KFM)を用いた表面電位分布測定によって確認されてきた本節では 4章よりも現実の系に近い有機半導体のマルチグレイン薄膜 OFETにおいて FM-SIM測定を行いFM-SIMの電極界面以外への応用可能性や KFMとの手法比較を行う

測定条件測定試料は 422節と同様に UVおよび電子線リソグラフィにより作製した Pt電極上にペンタセンを蒸着することで作製した図 C1(a)に測定したペンタセンマルチグレイン薄膜試料の表面形状を示す図の上下にある破線で囲まれた領域に電極があり上部電極 (領域 A) をドレインとしてVD = minus1 V印加し下部電極 (E)をソース (Ground)とした上下の電極は図左半分のグレインを通じて繋がっておりこのグレインをチャネルとした OFETを形成している図中点線で示すように表面形状内のくびれくぼみからグレイン境界が判別できグレイン境界で分けられたグレインを領域 B C Dとする (図 C1(a)参照)

FM-SIM の装置構成は図 43 44 と同様であり電極 AC 電圧として振幅 Vacs = 2 Vp-p周

波数 fs = 100 Hz を用いたZI-LIA で ft + fs = 1100 Hz の ∆f の成分を検出しFM-SIM 信号とした測定では上部下部それぞれの電極を AC 電極とした測定を行いゲートバイアスVG = 1 V minus1 V minus3 V minus5 Vについて測定を行った

測定結果図 C1 に下部電極を AC 電極として FM-SIMKFM 測定した結果を示す電位像に注目すると

VG = 1 Vの時はドレインソース両電極界面 (AndashB EndashD界面)での電圧降下はほとんどなくチャネル全体にドレイン電圧が印加されていることがプロファイル (図 C1(e))からも確認できるこれは正の VG によりグレイン内が空乏化し導通していないことを示しているVG = minus1 Vでは電圧降

120 付録 C 有機半導体グレイン境界のインピーダンス評価

7006005004003002001000

14

12

1

08

06

Distance [nm]

Pote

ntia

l [V]

7006005004003002001000

30

20

10

0

Distance [nm]

SIM

-Am

pl [

mV]

7006005004003002001000

50

0

-50

-100

-150

Distance [nm]

SIM

-Pha

se [d

eg]

(b) Potential(a) Topography (c) FM-SIM ampl (d) FM-SIM phase

03 V 16 V 0 mV 50 mV -140ordm 40ordm

(g) FM-SIM phase prole(f) FM-SIM ampl proleA B C D E A B C D E A B C D E

VG = 1 V ID = 0 nA

001 nA

011 nA

028 nA

ndash1 V

ndash3 V

ndash5 V

ndash1 V

ndash3 V

ndash5 V

ndash1 V

ndash3 V

ndash5 V

VG = 1 V VG = 1 V

B

C

D

(e) Potential prole

200 nm

A

E

Source (0 V AC)

Drain (ndash1V)

Elec

trod

e

VG

1 Vndash1 Vndash3 Vndash5 V

図 C1 ペンタセンマルチグレイン OFET上の FM-SIM測定結果 (下部電極=AC電極)(b)電位像 (c) FM-SIM 振幅像 (d) FM-SIM 位相像のゲートバイアス (VG) 依存性(a) の線分 (AndashE 間)に沿った (e)電位(f) FM-SIM振幅(g) FM-SIM位相プロファイル同時に測定したドレイン電流 (ID)を (b)中に併記した

121

7006005004003002001000

30

20

10

0

Distance [nm]

SIM

-Am

pl [

mV]

-06 V 07 V 0 mV 50 mV -140ordm -60ordm

7006005004003002001000

060402

0-02-04

Distance [nm]

Pote

ntia

l [V]

7006005004003002001000

40

0

-40

-80

-120

Distance [nm]

SIM

-Pha

se [d

eg]

A B C D E A B C D E A B C D E

(b) Potential (c) FM-SIM ampl (d) FM-SIM phase

VG = 1 V

ndash1 V

ndash3 V

ndash5 V

VG = 1 V

ndash1 V

ndash3 V

ndash5 V

VG = 1 V

ndash1 V

ndash3 V

ndash5 V

(a) Topography

(g) FM-SIM phase prole(f) FM-SIM ampl prole(e) Potential prole

4002000

-108

-124

Distance [nm]

[deg

]

A B C D

B

C

D200 nm

A

E

Source (0 V)

Drain (ndash1V AC)

Elec

trod

e

VG

1 Vndash1 Vndash3 Vndash5 V

図 C2 ペンタセンマルチグレイン OFET上の FM-SIM測定結果 (上部電極=AC電極)(b)電位像 (c) FM-SIM 振幅像 (d) FM-SIM 位相像のゲートバイアス (VG) 依存性(a) の線分 (AndashE 間)に沿った (e)電位(f) FM-SIM振幅(g) FM-SIM位相プロファイル同時に測定したドレイン電流 (ID)を (b)中に併記した

122 付録 C 有機半導体グレイン境界のインピーダンス評価

下が BndashC間DndashE間で確認できminus3 V minus5 Vになると DndashE間のみとなった同時に測定した電流(図 C1(b) inset参照)から VG = plusmn1 Vでは OFETは OFF状態minus3 V minus5 Vでは ON状態であることがわかるこのことを考慮するとBndashC 間のグレイン境界が OFET の ONOFF 状態を支配しておりON状態での電気特性は DndashE間つまりソースndashチャネル界面が制限していると考えられるKFMではこのように OFET全体に占める局所抵抗の割合という相対的な評価が可能であるが例えば BndashC間グレイン境界のみの抵抗変化は電流を用いて計算する必要があり煩雑である

FM-SIMは 4章で述べたようにAC電極からの経路つまり図 C1では下部電極 (E)からの導通度合いが信号強度に反映されるまたKFM とは異なり絶対的な局所抵抗が影響しチャネル内において相対的な影響が増えても同じ抵抗値であれば同じ振幅位相となるFM-SIM 振幅像(図 C1(c)) を見るとまず VG = 1 V では E から D にかけて強度が減少している電位像では電圧降下が DndashE 間で現れていないが十分抵抗が大きいことが見て取れる次にON 状態であるVG le minus3 Vにおいて電位像には明確な変化が見られなかった BndashC界面で大きな信号低下が生じているBndashC間グレイン境界の局所抵抗は相対的には小さくなったものの抵抗値としての変化は小さいということを意味しているKFMからは BndashC間と CndashD間で明確な違いを確認することができないがFM-SIMを用いると局所抵抗の絶対値が影響するため図 C1(c)のように影響を可視化することができるというメリットがある図 C2は同様に上部電極を AC電極として FM-SIM測定した結果を示しておりFM-SIM像では上部電極からの導通度合いが反映されるまず図 C2(b) (e)は図 C2(b) (e)とほぼ同じ電位分布が得られておりバイアス印加条件を変えていないため理想的には同じ動作状況である事実と合致するFM-SIM振幅像 (図 C2(c))を見るとVG = 1 Vではやはり AC電極のすぐ隣である B上の強度が小さくなっており下部電極を AC電極としたときと同様電極界面もまだ導通していないといえるVG le minus1 Vでは AndashB間の FM-SIM振幅値が比較的近くAndashB間は DndashE間に比べて導通していると考えられる44節で述べたようにこれはソースndashチャネル界面に比べてドレインndashチャネル界面ではホールの感じる注入障壁が小さいことを示しているBndashC間グレイン境界に関しては下部電極を AC電極としたとき同様やはり大きな FM-SIM振幅変化が見られるさらにFM-SIM位相に注目すると図 C2(g)のインセットのように BndashC界面で若干の位相変化も得られた振幅変化のみであれば信号強度の比例係数変化 (522節参照)の可能性も無視できないがAC電極と比較して位相が負シフトした場合は 432節で議論したことや付録 Bのアドミタンスグリッドから分かるように抵抗性のインピーダンスが存在することを示している以上のようにKFMでは局所抵抗の相対的な変化や支配要因を評価できるがFM-SIMでは絶対的な変化を確認できるという点で相補的な評価が可能と考えられるしかし本章のようにマルチグレイン薄膜で OFETの ON状態においてもグレイン境界の影響が現れるような系では複数の局所インピーダンスが回路中に存在することグレイン容量が一定とみなすことができないことから423節のような単純な回路モデルによる半定量的なインピーダンス解析はできないことに注意する必要がある

123

研究業績

公表論文(A1) Tomoharu Kimura Yuji Miyato Kei Kobayashi Hirofumi Yamada Kazumi Matsushige ldquoIn-

vestigations of Local Electrical Characteristics of a Pentacene Thin Film by Point-Contact Current

Imaging Atomic Force Microscopyrdquo Japanese Journal of Applied Physics 51 (2012) 08KB05

(A2) Tomoharu Kimura Kei Kobayashi Hirofumi Yamada ldquoLocal impedance measurement of an

electrodesingle-pentacene-grain interface by frequency-modulation scanning impedance micro-

copyrdquo Journal of Applied Physics 118 (2015) 055501

(A3) Tomoharu Kimura Kei Kobayashi Hirofumi Yamada ldquoLocal impedance investigation of or-

ganic field-effect transistors with electrodes modified by self-assembled monolayerrdquo To be sub-

mitted

国際学会発表 (本人登壇分)

(I1) T Kimura Y Miyato K Kobayashi H Yamada K Matsushige ldquoInvestigation of Local Elec-

trical Properties of Pentacene Thin Films by Point-Contact Current-Imaging Atomic Force Mi-

croscopyrdquo 15th International Conference on Thin Films O-S17-05(Oral) Kyoto Japan (Nov

2011)

(I2) T Kimura Y Miyato K Kobayashi H Yamada K Matsushige ldquoLocal Electrical Characteristics

of Pentacene Thin Films Measured by Point-Contact Current-Imaging Atomic Force Microscopyrdquo

The 19th International Colloquium on Scanning Probe Microscopy S5-4(Oral) Toyako Hokkaido

Japan (Dec 2011)

(I3) T Kimura K Kobayashi H Yamada ldquoInvestigation of Local Field-Effect Characteristics of

Pentacene Thin Films by Point-Contact Current Imaging Atomic Force Microscopyrdquo IUMRS-

International Conference on Electronic Materials 2012 D-7-O25-004(Oral) Yokohama Japan

(Sep 2012)

(I4) T Kimura K Kobayashi H Yamada ldquoElectrical Property Measurements on Organic Semicon-

ductor Grains Using Point-Contact Current Imaging Atomic Force Microscopyrdquo 2013 MRS Spring

Meeting amp Exhibit Y604(Oral) San Francisco California United States (Apr 2013)

(I5) T Kimura K Kobayashi H Yamada ldquoLocal surface potential measurements of organic field-

effect transistors having a submicron crystalline grain channel by Kelvin-probe force microscopyrdquo

124 研究業績

19th International Vacuum Congress FMMMNST-1-Or-2(Oral) Paris France (Sep 2013)

(I6) T Kimura K Kobayashi H Yamada ldquoInvestigation of Local Electrical Properties of Organic

Field-Effect Transistors by Frequency-Modulation Scanning Impedance Microscopyrdquo 12th Interna-

tional Conference on Atomically Controlled Surfaces Interfaces and Nanostructures in conjunction

with 21st International Colloquium on Scanning Probe Microscopy 7PN-109(Poster) Tsukuba

Japan (Nov 2013)

(I7) T Kimura K Kobayashi H Yamada ldquoLocal Impedance Measurements of Organic Field-Effect

Transistors by Frequency-Modulation Scanning Impedance Microscopyrdquo The 10th MicRO Al-

liance Meeting P-15(Poster) Kyoto Japan (Nov 2013)

(I8) T Kimura K Kobayashi H Yamada ldquoLocal Impedance Characterization of Pentacene Thin

Films by Frequency-Modulation Scanning Impedance Microscopyrdquo International Conference on

Nanoscience + Technology 2014 SP-WeA9(Oral) Vail Colorado United States (Jul 2014)

(I9) T Kimura K Kobayashi H Yamada ldquoScanning Impedance Microscopic Study of Electrodendash

Channel Interface in Organic Field-Effect Transistors with Modified Electrodesrdquo 22nd International

Colloquium on Scanning Probe Microscopy S10-2(Oral) Higashiizu Shizuoka Japan (Dec 2014)

(I10) T Kimura K Kobayashi H Yamada ldquoVisualization of carrier injection and extraction processes

in organic semiconductor grain using time-resolved electrostatic force microscopyrdquo 18th Interna-

tional Conference on non contact Atomic Force Microscopy P-Wed-38(Oral) Cassis France (Sept

2015)

国内学会発表 (本人登壇分)

(N1) 木村知玄宮戸祐治小林圭山田啓文松重和美「点接触電流イメージング AFMによるペンタセン薄膜の局所電気特性の評価」第 72回応用物理学会学術講演会2a-ZB-6(口頭講演)山形 (2011年 9月)

(N2) 木村知玄宮戸祐治小林圭山田啓文松重和美 「点接触電流イメージング AFMを用いた有機薄膜トランジスタにおける局所電気特性評価」 第 59 回応用物理学関係連合講演会

16a-F5-4(口頭講演)東京 (2012年 3月)

(N3) 木村知玄小林圭山田啓文 「点接触電流イメージング AFMによる有機半導体微結晶の局所電気特性評価」第 73回応用物理学会学術講演会 11p-H1-14(口頭講演)松山 (2012年 9月)

(N4) 木村知玄小林圭山田啓文「ケルビンプローブ原子間力顕微鏡を用いた有機微結晶トランジスタの動作時における局所表面電位評価」第 60回応用物理学会春季学術講演会 29a-G8-5(口頭講演)厚木神奈川 (2013年 3月)

(N5) 木村知玄小林圭山田啓文 「周波数変調方式走査インピーダンス顕微鏡を用いた有機薄膜トランジスタの局所電気特性評価」 第 74 回応用物理学会秋季学術講演会19a-D2-3(口頭講演)京田辺京都 (2013年 9月)

(N6) 木村知玄小林圭山田啓文 「周波数変調方式走査インピーダンス顕微鏡を用いたペンタセン薄膜の局所インピーダンス計測」第 61回応用物理学会春季学術講演会20a-E16-10(口頭講演)相模原神奈川 (2014年 3月)

125

(N7) 木村知玄小林圭山田啓文 「原子間力顕微鏡を用いた有機ndash電極界面における局所インピーダンス新規評価手法」 応用物理学会関西支部 平成 26 年度 第 1 回講演会 (ポスター)京都(2014年 6月)

(N8) 木村知玄小林圭山田啓文 「電極表面処理による電極ndash有機グレイン界面物性の局所影響評価」第 75回応用物理学会秋季学術講演会17p-A2-5(口頭講演)札幌 (2014年 9月)

(N9) 木村知玄小林圭山田啓文 「時間分解静電気力顕微鏡による有機半導体グレインへの電荷注入排出過程の可視化」第 62回応用物理学会春季学術講演会13a-D14-3(口頭講演)平塚神奈川 (2015年 3月)

その他シンポジウムセミナー(S1) 木村知玄小林圭山田啓文松重和美「点接触電流イメージング AFMによる有機薄膜トラ

ンジスタの局所電気特性の評価」応用物理学会関西支部主催 2011年度関西薄膜表面セミナー(口頭講演)交野大阪 (2011年 11月)

(S2) 木村知玄 「走査プローブ技術を用いた有機薄膜の局所電気特性評価」第 7回有機デバイス院生研究会 (口頭講演)京都 (2012年 6月)

(S3) Tomoharu Kimura Kei Kobayashi Hirofumi Yamada ldquoLocal Impedance Investigation of

ElectrodendashChannel Interface in Organic Field-Effect Transistors with Modified Electrodesrdquo

Global COE 6th International Symposium on Photonics and Electroncis Science and Engineering

Kyoto Japan (Mar 2013)

(S4) 木村知玄 第 10回八大学工学系連合会「博士学生交流フォーラム」京都 (2013年 11月)

(S5) 木村知玄 「原子間力顕微鏡を用いた有機半導体薄膜の局所インピーダンス計測」第 9回有機デバイス院生研究会 (ポスター)福岡 (2014年 6月)

(S6) 木村知玄 第 11回八大学工学系連合会「博士学生交流フォーラム」札幌 (2014年 10月)

(S7) 木村知玄 「静電気力顕微鏡を用いた有機半導体グレインへの電荷注入排出過程の時間分解測定」第 10回有機デバイス院生研究会 (口頭講演)大阪 (2015年 7月)

受賞(P1) 平成 25年度京都大学大学院「工学研究科馬詰研究奨励賞」

127

謝辞

本研究は京都大学大学院工学研究科電子工学専攻教授山田啓文先生のご指導のもとで行ないました先生の深く幅広い分野における造詣に感銘を受けそこに博士のあるべき姿を重ねました常日頃より様々な学問的知識やノウハウをご教授いただいたことで研究を修めることが出来ましたここに深く感謝いたします本研究科電子工学専攻教授北野正雄先生には博士前後期連携コースの副指導教員として長きに渡りご指導を賜りましたご多忙の中でも親身になって議論していただきまた馬詰彰奨学寄附金での海外研修の際も迷いがちな私の背中を押していただきましたここに深く感謝いたします本研究科材料工学専攻教授杉村博之先生には同じく副指導教員としてご指導を賜りました他分野にも関わらず興味深く研究の相談に乗っていただき分野の垣根を超えたコラボレーションの可能性を感じさせてくださりましたここに深く感謝いたします京都大学名誉教授の松重和美先生 (現四国大学学長)には有機分子エレクトロニクスの面白さと夢のある将来展望についての熱意あふれるご講義を賜り私が博士課程へ進むきっかけを与えてくださりましたまた科学技術が学術的な面白さだけでなくモノづくりへ如何につなげるかが重要であるとの視点を与えてくださりましたここに深く感謝いたします元分子工学専攻の田中一義先生 (現福井センターシニアリサーチフェロー)には連携コースの副指導としてご指導を賜りました化学の視点に立って材料やプロセスの面で多大なご助言をいただき電気電子の分野のみでは備わらないノウハウや化学における常識を教わることができましたここに深く感謝いたします京都大学白眉センター特定准教授 小林圭先生には普段の研究で感じる様々な問題のみならず研究生活における素朴な疑問にも親身になって対処していただきました特に迷いがちな私の研究の指向に明確で分かりやすい道筋をつけてくださり研究におけるマイルストーンを示していただきましたここに深く感謝いたしいます慶應義塾大学理工学部准教授野田啓先生には在学中に有機材料や有機半導体に関する知識をお教えいただきまた研究や研究環境へ真摯に向き合うことの大切さをお教えいただきましたここに深く感謝いたしますナノテクノロジーハブ拠点の大村英治氏にはナノギャップ電極作製工程の EB描画において多大なご助力をいただきましたここに深く感謝いたします元研究室所属の鈴木一博氏服部真史氏 (現東京工業大学博士研究員)細川義浩氏井戸慎一郎氏広瀬政晴氏には博士課程の先輩として装置や研究内容だけでなく博士研究そのものについてどのようなスタンスや心持ちで臨むべきかについて様々なことをお教えいただきました特に広瀬政晴氏には同じ有機半導体を対象とした研究の先輩として研究の始まりの際に一から手ほど

128 謝辞

きをしていただき最も近い博士課程の先輩として博士課程を進める上でのノウハウをお教えいただきそして規則正しく堅実な研究生活を営む理想となる研究者の先輩としてその背中から多くのことを学ばせていただきましたここに深く感謝いたします博士研究員の木村邦子氏梅田健一氏八尾惇氏には研究者の先輩としてたくさんのことを学ばせていただきましたその真摯な研究姿勢からは常に深く探求することの重要性を知りまたその研究への熱意からは自身の研究への信念と確固たる我の必要性を学びました時には私の考えの甘さを叱責してくださり時には他愛ない会話で研究生活に一息つけるひとときをくださりましたここに深く感謝いたします本研究室の現役メンバーである博士課程学生の山岸裕史氏崔子鵬氏木南裕陽氏修士課程学生の黄雲飛氏黄子玲氏清水太一氏長谷川俊氏宮本眞之氏山下貴裕氏学部学生の野坂俊太氏濱田貴裕氏福塚清嵩氏そして旧松重研究室旧電子材料物性研究室に在籍された先輩後輩諸氏との研究のみならず日常においても親しげな関わりあいや対話があったからこそともすれば単調となりがちな研究生活を有意義に送ることができました特に山岸裕史氏とは学部学生での配属時より六年間の長きに渡り苦楽を共にし互いの支えあいあってこその博士課程であったと感じております同じ有機半導体を対象としていることから時には研究内容における相談や議論にも親身に付き合ってもらえ別の視点からの意見によって自分の思い込みを見つめなおすきっかけを与えてくれましたここに深く感謝いたします教務補佐員の林田知子氏には研究室の運営と研究環境の維持にご尽力いただき書類などの事務作業で妨げられることなく研究を進めることができましたここに深く感謝いたします博士課程中の海外研修にあたり京都大学大学院工学研究科馬詰彰奨学寄附金の支援を賜り海外の大学での 6週間に渡る研究生活という滅多にない経験を得ることができ日本とは異なる研究への姿勢指向と考え方を育むことができましたここに深く感謝いたします研究の遂行にあたり安定した研究生活基盤を提供いただいた工学研究科ならびに卓越した大学院拠点形成支援プログラムに深く感謝いたします最後に私の研究生活を支えてくれた家族友人たちに深く感謝いたします

129

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L Mariucci Appl Phys Lett 99 (2011) 233309

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L Mariucci Org Electron 13 (2012) 2017

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136

索引

2倍波信号 90

AFM 10AM-AFM 16

DNTT (dinaphto-thieno-thiophene) 65Dynamic-mode 15

EFM信号 84

FM-SIM (Frequency-modulation scanning impedancemicroscopy) 48

FM-SIM信号 50

γプロット 57

HOMO (Highest occupied molecular orbital) 4 64 65

Jump-to-contact 15

KFM (Kelvin-probe force microscopy) 21

LIA (Lock-in amplifier) 50Line-by-line 14

PCI-AFM 19PFBT (pentafluoro-benzene-thiol) 65Point-by-point 14

Q値制御法 24

SAM (Self-assembled monolayer) 3 19 65SIM (Scanning impedance microscopy) 47Static-mode 14Sweep-SIM 96

TLM (Transition line method) 4 43TR-EFM (Time-resolved EFM) 78TR-SIM 95

Zスキャナ 10

アドミタンスグリッド 115

カンチレバー 11

グレイン境界 3 29 119

正規化 FM-SIM信号 56正規化アドミタンス 62 98

ヒストグラムプロット 117

ペンタセン 29

  • 序論
    • 研究背景
      • 有機分子エレクトロニクス
      • 有機トランジスタの進展
      • 金属有機界面物性
      • 有機材料物性評価と走査プローブ顕微鏡技術
        • 研究目的
        • 本論文の構成
          • 原子間力顕微鏡の基礎
            • 走査型プローブ顕微鏡
            • 原子間力顕微鏡(AFM)
            • AFMの走査方式
            • AFMの動作モード
              • Static-mode (コンタクトモード)
              • Dynamic-mode
              • 振幅変調方式AFM (AM-AFM)
              • 周波数変調方式AFM (FM-AFM)
                • AFMの電流検出応用
                  • 導電性AFM (c-AFM)
                  • 点接触電流イメージングAFM (PCI-AFM)
                    • AFMの静電気力検出応用
                      • 静電気力顕微鏡(EFM)
                      • ケルビンプローブ原子間力顕微鏡(KFM)
                        • 本章のまとめ
                          • AFM電流測定法を用いた有機グレインの局所電気特性評価
                            • OFET評価に適した電流測定法の検討
                              • PCI-AFMの真空動作化(Q値制御法)
                              • 接触状態の検証
                                • マルチグレイン有機薄膜の複数雰囲気中測定
                                  • 測定試料
                                  • 装置構成
                                  • 大気中PCI-AFM評価
                                  • 真空中PCI-AFM評価および雰囲気比較
                                    • 単一微小グレインOFETの特性評価
                                      • Point-by-point動作時間間隔の自由化
                                      • ペンタセン微結晶上のPCI-AFMライン測定
                                      • 抵抗の距離依存性の理論数値的検討
                                      • 電極近傍の電気伝導特性
                                        • AFMによる接触電流測定の問題点
                                        • 本章のまとめ
                                          • 新規局所インピーダンス評価法の開発と金属―有機界面物性の評価
                                            • 走査インピーダンス顕微鏡(SIM)
                                            • 周波数変調走査インピーダンス顕微鏡(FM-SIM)の開発
                                              • FM-SIMの原理
                                              • OFETにおけるFM-SIM応答の妥当性
                                              • 局所インピーダンスの解析
                                                • ペンタセングレイン上の局所インピーダンス評価
                                                  • 単一グレイン上の周波数依存評価
                                                  • 電極グレイン界面インピーダンスの一般性
                                                  • キャリア蓄積による電極グレイン界面物性変化
                                                    • 電極表面処理によるOFET特性への直接影響評価
                                                      • 電極表面処理および試料作製
                                                      • 電気特性評価
                                                      • FM-SIMによる電極DNTT界面局所電気特性評価
                                                        • 本章のまとめ
                                                          • 時間分解測定による有機グレイン中のキャリアダイナミクス評価
                                                            • 時間分解EFM (TR-EFM)
                                                              • TR-EFMの動作
                                                              • 妥当性検証
                                                                • 有機グレインのキャリアダイナミクス評価
                                                                  • 単一グレインの時間分解パルス電圧応答
                                                                  • 比例係数補正と電圧依存界面電気特性
                                                                    • 単一グレインのチャネル形成評価
                                                                      • TR-EFMFM-SIM同時測定法
                                                                      • グレイン依存性とTR-EFMSIM対応関係
                                                                      • バイアス分光による導通領域変調評価
                                                                        • 本章のまとめ
                                                                          • 結論
                                                                            • 総括
                                                                            • 今後の展望
                                                                              • 静電気力顕微鏡の検出モード比較
                                                                              • FM-SIMの正規化アドミタンス評価の補足
                                                                              • 有機半導体グレイン境界のインピーダンス評価
                                                                              • 研究業績
                                                                              • 謝辞
                                                                              • 参考文献
                                                                              • 索引
Page 2: Title 原子間力顕微鏡を用いた有機半導体グレイン/電極界面 ...2.6.1 静電気力顕微鏡(EFM) .....20 2.6.2 ケルビンプローブ原子間力顕微鏡(KFM)

原子間力顕微鏡を用いた有機半導体 グレイン電極界面の局所電気特性評価

木村 知玄

2016年

原子間力顕微鏡を用いた有機半導体グレイン電極界面の局所電気特性評価

木村 知玄

2016年

i

目次

第 1章 序論 1

11 研究背景 1

111 有機分子エレクトロニクス 1

112 有機トランジスタの進展 2

113 金属ndash有機界面物性 3

114 有機材料物性評価と走査プローブ顕微鏡技術 5

12 研究目的 6

13 本論文の構成 6

第 2章 原子間力顕微鏡の基礎 9

21 走査型プローブ顕微鏡 9

22 原子間力顕微鏡 (AFM) 10

23 AFMの走査方式 12

24 AFMの動作モード 14

241 Static-mode (コンタクトモード) 14

242 Dynamic-mode 15

243 振幅変調方式 AFM (AM-AFM) 16

244 周波数変調方式 AFM (FM-AFM) 18

25 AFMの電流検出応用 18

251 導電性 AFM (c-AFM) 19

252 点接触電流イメージング AFM (PCI-AFM) 19

26 AFMの静電気力検出応用 20

261 静電気力顕微鏡 (EFM) 20

262 ケルビンプローブ原子間力顕微鏡 (KFM) 21

27 本章のまとめ 22

第 3章 AFM電流測定法を用いた有機グレインの局所電気特性評価 23

31 OFET評価に適した電流測定法の検討 23

311 PCI-AFMの真空動作化 (Q値制御法) 24

312 接触状態の検証 26

32 マルチグレイン有機薄膜の複数雰囲気中測定 29

ii 目次

321 測定試料 29

322 装置構成 31

323 大気中 PCI-AFM評価 31

324 真空中 PCI-AFM評価および雰囲気比較 33

33 単一微小グレイン OFETの特性評価 36

331 Point-by-point動作時間間隔の自由化 36

332 ペンタセン微結晶上の PCI-AFMライン測定 38

333 抵抗の距離依存性の理論数値的検討 39

334 電極近傍の電気伝導特性 44

34 AFMによる接触電流測定の問題点 45

35 本章のまとめ 46

第 4章 新規局所インピーダンス評価法の開発と金属―有機界面物性の評価 47

41 走査インピーダンス顕微鏡 (SIM) 47

42 周波数変調走査インピーダンス顕微鏡 (FM-SIM)の開発 48

421 FM-SIMの原理 49

422 OFETにおける FM-SIM応答の妥当性 52

423 局所インピーダンスの解析 55

43 ペンタセングレイン上の局所インピーダンス評価 59

431 単一グレイン上の周波数依存評価 59

432 電極ndashグレイン界面インピーダンスの一般性 61

433 キャリア蓄積による電極ndashグレイン界面物性変化 62

44 電極表面処理による OFET特性への直接影響評価 65

441 電極表面処理および試料作製 65

442 電気特性評価 66

443 FM-SIMによる電極ndashDNTT界面局所電気特性評価 68

45 本章のまとめ 74

第 5章 時間分解測定による有機グレイン中のキャリアダイナミクス評価 77

51 時間分解 EFM (TR-EFM) 77

511 TR-EFMの動作 78

512 妥当性検証 79

52 有機グレインのキャリアダイナミクス評価 84

521 単一グレインの時間分解パルス電圧応答 85

522 比例係数補正と電圧依存界面電気特性 90

53 単一グレインのチャネル形成評価 95

531 TR-EFMFM-SIM同時測定法 95

532 グレイン依存性と TR-EFMSIM対応関係 96

533 バイアス分光による導通領域変調評価 101

54 本章のまとめ 105

iii

第 6章 結論 107

61 総括 107

62 今後の展望 108

付録 A 静電気力顕微鏡の検出モード比較 111

付録 B FM-SIMの正規化アドミタンス評価の補足 115

付録 C 有機半導体グレイン境界のインピーダンス評価 119

研究業績 123

謝辞 127

参考文献 129

索引 136

1

第 1章

序論

11 研究背景111 有機分子エレクトロニクス現在われわれはたくさんの電子情報機器に囲まれて生活をしているテレビやスマートフォンのような直接的能動的に使用するものだけでなく物販医療交通といった生活のあらゆる場面で電子情報機器はわれわれの営みの中核をなしているこうした電子機器はわれわれに便利な暮らしをもたらすと同時にそれなしでは生活が非常に困難な社会となってきたこのような社会変化をもたらした数十年間のエレクトロニクスの進歩の大部分はSiを材料として用いた無機半導体デバイスの進歩によるものである1965年に提示された集積回路上のトランジスタ数が 18ヶ月ごとに倍になる ldquoMoorersquos lawrdquo [1]を指標として半導体の高集積化と微細化が進み現在ではプロセスルールが 14 nm のプロセッサが市販化されているまでに至った [2]一方でトランジスタ数や微細化以外の軸での「高機能化」も取り組まれている2007 年 12 月に行われた ITRS Public

Conference 2007 (セミコンジャパン 2008内)では新技術も含めたこれまでのスケーリング則を踏襲する ldquoMore Moorerdquoに加えてデバイスの多機能化による価値向上を目指す ldquoMore than Moorerdquo

という新たな軸が明示された [3]More than Moore の軸ではアナログ信号との融和センサの集積バイオといった技術が見据えられておりldquoInteracting with people and environmentrdquoと述べられていることからも人や周囲との繋がりをより重視していくと考えられる [4]ldquoモノのインターネット (Internet of Things IoT)rdquoが進められるようにUbiquitousな電子化情報化に向けたデバイス開発が望まれる中でMore than Mooreに向けた新規エレクトロニクス分野の一つとして有機分子エレクトロニクスが期待されている有機分子エレクトロニクスは有機分子を電気的光学的機能材料として用いた電子デバイスの創成を目指す研究分野である有機材料のもつプラスチックのような軽量性可撓性を活かし形の任意性や意匠性あるデバイス軽量基板を用いた設置コストの小さなデバイス [5]ヒトに直接装着できるウェアラブルデバイスへの展開が期待されている [6]また生体分子や DNAとの親和性からバイオセンサといったバイオエレクトロニクスとの共通項や有機分子の自己組織性を利用した新規プロセスやデバイスも考えられているこのように電気だけでなく化学生物等との分野融合的な取り組みにより有機エレクトロニクスは応用物理学会の該当分野における学会発表件数でも 2014年秋季で 500件を超えるまでに成長した一大分野となっている [7]

2 第 1章 序論

VD

VG

DrainOrganic semiconductor

Source

GateInsulator

図 11 有機電界効果トランジスタ (OFET)の模式図p型有機半導体 (organic semiconductor)を用いた場合VG lt 0 Vのゲートバイアス印加でソースndashドレイン間電流が増加する p型 OFETとなる

有機エレクトロニクスの研究は1977 年の Shirakawa らによる導電性高分子の作製に端を発する [8]当時高分子は絶縁体とみなされていたがポリアセチレンにハロゲンをドープすることで元の導電率から 8 桁以上改善させ導電体と知られる電荷移動金属錯体 (TTF)(TCNQ) の導電率10Ωminus1cmminus1 を上回る導電率を持つポリマー膜を作製した以降の研究で現在のエレクトロニクスで活躍するデバイスのアナロジーである有機電界効果トランジスタ (Organic field-effect transistor

OFET)有機発光ダイオード (Organic light-emitting diode OLED)有機太陽電池 (Organic photo

voltaic cell OPVC)が開発され現在の有機エレクトロニクス研究の中核を成している特に OLED

に関しては有機材料自身が発光することで液晶ディスプレイに比べてコントラスト比が向上するというメリットもあり有機 ELディスプレイとして 2007年には小型テレビが [9]現在ではスマートフォンやフル HDテレビが市販されるに至っている [10]

112 有機トランジスタの進展OFETは図 11のようにドレインソースゲートの 3電極と絶縁膜を隔てたゲート電極の向かいである有機半導体層から構成されており有機エレクトロニクスにおけるスイッチング電流制御を行う能動素子として位置づけれられる無機半導体の基本素子である MOSFET (Metal-oxide-

semiconductor FET)と異なり半導体層の多数キャリアの注入による蓄積層がチャネルとなるアモルファスシリコン (a-Si)で広く用いられる薄膜トランジスタ (Thin film transistor TFT)との動作原理および構造のアナロジーから有機薄膜トランジスタ (Organic TFT OTFT)とも呼ばれる

1986年に高分子を用いた OFETが最初1に報告され [11]低分子材料では 1989年にフランス国立研究所の Horowitzらによりその動作が報告された [12]これら報告ではそれぞれチオフェンと呼ばれる分子の高分子オリゴマーを用いているこれらポリオリゴチオフェンは単結合二重結合が交互に連なる分子であり先に述べたポリアセチレンも含めて π共役系分子 (ポリマー)と呼ばれる以降π共役系分子を中心に OFET研究は進展していくこととなる

OFET に関する研究で最初に注力されていた点は (電界効果) 移動度の向上であるこれは例えばディスプレイの画素の駆動に必要な OFET の面積の削減やデバイス駆動の定電圧化デバイス駆動熱の低減という観点から実用的なデバイスに向けて必要となる1989 年の報告で1 times 10minus3 cm2(Vs) であった移動度は表面処理や真空蒸着におけるプロセス条件の改善により

1 出力特性に飽和特性が現れるものとしては最初

11 研究背景 3

1997年にペンタセンを用いた OFETで a-Si TFTの目安である 1 cm2(Vs)を超える移動度を達成している [13]さらに絶縁膜の影響を考慮することや単結晶の作製により2004年には 20 cm2(Vs)

を [14]2007年には 40 cm2(Vs)を達成している [15]しかしこれら高移動度の OFETの報告は実用化には不向きな昇華生成により作製した単結晶を用いていること後述の接触抵抗の影響を排除した材料本来の移動度を抽出したことによる結果のため実用的な作製法での実効的移動度向上を目指した研究が続けられているこういった OFET の性能向上に伴い別の観点からの研究も増加してきた一つは有機エレクトロニクスの特長といえる塗布型デバイスの作製に関する研究である塗布型の始まりは高分子半導体であるが01 cm2(Vs)程度という低移動度が問題であった [16]高移動度化のために研究された可溶性の低分子有機半導体材料の中で有名なものとしてアニールなどの追加の加熱プロセスが不要な TIPS (Triisopropyl-silylethynyl)ペンタセンがある [17 18]さらに近年の研究で移動度10 cm2(Vs) を超える高結晶性な塗布型 OFET も報告されており現在盛んに研究されている内容の一つである [19]一方OFETを回路の一部として組み込む例も現れてきたエレクトロニクスの基本単位である CMOS (Complementary MOS-FET)回路を模倣しpn両方の OFETを用いたインバータ動作 [20] やインバータを直列に接続したリングオシレータによる発振動作の実証がある [2122]また可撓性のある OFETアレイを用いてメモリやセンサといったデバイス応用を見据えた研究が着実に進められている [6 23 24]

113 金属ndash有機界面物性これまでの研究で OFETの進展が見られる一方それに伴いいくつかの問題点が実用化を阻んでいる一点目として高結晶性高移動度材料の開発が進むことで有機薄膜内部の抵抗は低減するが相対的に接触抵抗の影響が顕著に現れるようになる [19]これはOFETの集積化に必要な微細化によっても顕著になる問題である二点目として素子のばらつきの問題がある特に高移動度や高結晶性材料を用いた OFETでは接触抵抗のばらつきが移動度のばらつきとして顕著に現れるバンク構造やディスペンサによるプロセスの画一化によるばらつき低減に関する研究も行われているものの依然解決には至っていない [25]このような接触抵抗つまり金属ndash有機界面における電気特性が現在 OFETのデバイス性能向上や制御の障害となっている以下ではこれまで研究された金属ndash有機界面物性やその評価法について述べる金属ndash有機界面における問題はモルフォロジーによる影響と電子物性による影響に大きく二分される一般的な製膜方法である真空蒸着法で作製した有機薄膜は通常マルチグレイン (マルチドメイン)薄膜2と呼ばれ微小な島状の有機薄膜である「グレイン」が多数接続したモルフォロジーを成すグレインサイズは蒸着条件 [26 27]酸化絶縁膜表面のオゾン処理 [28]絶縁膜材料や表面の自己組織化単分子膜 (Self-assembled monolayer SAM) 処理 [29 30] によって変化するが一般にサブ micromから数 micromの範囲にあるこのグレイン境界はチャネル長が数 10 micromから数 100 microm

程度であることを鑑みるとチャネル中を電流が流れる際に多数のグレイン境界を通過することに

2 有機薄膜においては ldquoグレインrdquoと ldquoドメインrdquoおよびその境界の言葉の定義が曖昧であり人により用法が異なる有機薄膜中の島状の区画は一般にグレインと呼ばれるが単分子層であっても単結晶ではなく結晶方位が異なる場合がありそのときのそれぞれの区画をドメインと呼ぶことがある本論文では少なくとも表面形状像から推測される溝で区切られた区画をグレインと呼びその境界をグレイン境界とする

4 第 1章 序論

なるグレイン境界は多結晶質の無機半導体とのアナロジーからキャリア輸送の阻害要因として考えられることが多いそのため一般にグレインサイズが大きいほどつまりチャネル中にグレイン境界が少ないほど移動度が向上するといわれその観点に基づく移動度モデルが提唱されてきた [26 27 31 32]ここで電極上や電極付近ではチャネル上と異なるモルフォロジーを呈することが知られており電極付近では小さなグレインを形成することにより低移動度となり等価的に接触抵抗が増加することが金属ndash有機界面における一点目の問題である一方有機半導体と金属のエネルギー準位の関係という電子物性の影響も長らく議論されてきた無機半導体においては金属ndash半導体界面は両者のフェルミ準位が一致するように真空準位に差が生じる Schottky則が基本となるが有機半導体はその限りではない例えば p型 (ホール伝導型)の場合有機半導体の最高被占分子軌道 (Highest occupied molecular orbital HOMO)準位 [33]を無機半導体の価電子帯と対応させ金属のフェルミ準位と有機半導体の HOMO準位が非整合なときにキャリア輸送阻害となるという一般的な理解を元に議論されるこのように両者の真空準位を一致させる方法を ldquoSchottkyndashMott 則rdquo といいTang と Slyke による正孔注入層を挿入した実用的な OLED

が報告されて以降 [34]有機エレクトロニクス全般で SchottkyndashMott則に基づく界面エンジニアリングが行われてきたこういった金属ndash有機界面の電子準位の評価には光電子分光法やその派生手法が用いられこれまで様々な金属電極と有機薄膜の組み合わせや [35ndash37]間に別の材料を挟むヘテロ接合での電子準位 [38]が評価されてきたこれら研究により金属ndash有機界面は SchottkyndashMott

則のような単純な関係ではなく金属ndash有機間の電荷の授受有機分子のダイポールやピロー効果によって生じる真空準位シフトにより有機側のエネルギー準位にずれが生じることが明らかとなった特に有機側の界面準位などにより電極の仕事関数に関わらずフェルミ準位ndashHOMO準位差が一定となるように真空準位シフトが起こる場合を ldquoFermi-level pinning (フェルミ準位のピン留め効果)rdquo といい [39]SchottkyndashMott 則に基づく界面エンジニアリングは効果をなさないこのように金属ndash有機界面の電子物性は複雑さを極めており金属ndash有機界面における二点目の問題となる以上のような金属ndash有機界面物性のため接触抵抗は電極材料 [40ndash42] や電極表面処理 [43ndash45]デバイス構造 [46 47] によっても異なることが知られており接触抵抗の変化により実効的な移動度つまり特性変化が引き起こされるさらに接触抵抗が単なる抵抗ではなくゲートバイアス依存 [41 48]や低バイアス領域や短チャネル系では非線形性 [49ndash51]が現れることが確認されており接触抵抗が単純な抵抗としてはモデル化できないことを示唆している以上のようにデバイス特性と上述の金属ndash有機界面物性がどのように関わるかについては現在も議論が続いている金属ndash有機界面の電気特性の評価にはOFETに限らず様々な構造において様々な手法がなされてきた (表 11)接触抵抗とチャネル特性を分離する基本的な手法として四端子法および Transfer line

methodまたは Transition line method (TLM)が知られている [52]四端子法は電流を流す 2端子に加え電圧測定用の 2端子を用いることで微小抵抗材料の導電率測定を行う手法であるがOFETではゲート電圧依存のソースドレイン界面の接触抵抗の測定に用いられる [415354]しかしチャネル上の電位勾配が均一でない場合は正しい値とならないTLMはチャネル長の異なる複数のデバイスを用いて総抵抗の変化から接触抵抗とチャネル領域の移動度を分離する手法であり [46 48 55]フィッティング点数が多い面で四端子法よりもばらつきの影響は抑えられるしかしソースドレイン界面の接触抵抗を分離できないことに加え短チャネルでは TLMで求まる接触抵抗が実際よりも大きく見積もられるという問題がある [56]

11 研究背景 5

表 11 OFETや有機薄膜の電気特性測定に用いられるマクロ薄膜での手法と対応する走査プローブ技術

評価対象 マクロ手法 走査プローブ技術

総抵抗 電流ndash電圧 (IndashV)測定導電性 AFM (c-AFM)

デュアルプローブ AFM (DP-AFM)

局所抵抗の分離評価4端子測定 ケルビンプローブ原子間力顕微鏡 (KFM)

Transition line method (TLM) mdash

インピーダンス インピーダンス分光 (IS) mdash

キャリア注入容量ndash電圧 (CndashV)測定 mdash

変位電流測定 (DCM) mdash

キャリア注入輸送特性という観点では容量ndash電圧 (CndashV) 測定や変位電流測定 (Displacement

current measurement DCM)インピーダンス分光といった交流特性を利用した評価が有用であるCndashV 測定は金属ndash絶縁膜ndash半導体 (Metal-insulator-semiconductor MIS)接合の試料においてゲートバイアスを掃引しながら容量を測定し注入が始まる電位が評価できると共に周波数による特性変化から金属ndash有機界面の接触抵抗に関しても議論が可能な手法である [57]一方DCMは CndashV 測定と同じMIS構造で三角波のバイアス電圧を印加することで変位電流の大きさから有機半導体へのキャリア注入状態の変化を評価可能である [58]これら 2手法はMIS構造に基づく評価手法であるがOFETに適用することで注入電圧 [59 60]や接触インピーダンス [61]やチャネル上のトラップ [62]について評価した例もある最後にインピーダンス分光は交流バイアスに対する複素電流応答の周波数依存性を測定することで積層デバイスの回路インピーダンスの同定 [63]や OLEDの接触インピーダンス評価に利用できる [64]金属ndash有機界面物性は様々な側面を孕んでいるが以上で述べた評価法は基本的に大面積な電極および有機薄膜を使用した評価である一方有機薄膜が基本的にマルチグレイン薄膜であることを鑑みると電極近傍のモルフォロジー変化やグレイン境界の影響を含んでしまう恐れがあり真の金属ndash有機界面物性評価が可能とは言いがたいよって今後 OFETの進展に向けて電子物性とモルフォロジーの影響を弁別して評価するためにldquo特定のrdquoグレインに注目した評価手法が必要となる

114 有機材料物性評価と走査プローブ顕微鏡技術原子間力顕微鏡 (Atomic force microscopy AFM)はカンチレバーと呼ばれる先鋭な微小探針を有すプローブを用いて表面形状を測定する手法でありナノスケール領域での表面分析手法の一つとして広く用いられている [65]AFMの特徴として絶縁膜や低導電性材料においても評価可能であるという走査電子顕微鏡や走査トンネル顕微鏡 (Scanning tunneling microscopy STM) に対する優位性導電性プローブを用いることで電気的刺激応答評価が可能となることによる多彩な応用可能性の 2点があげられる特に後者に関しては有機半導体に対するナノスケールの ldquoテスタrdquoとして用いることができることから多くの研究がなされてきたこれらの研究はスケールの観点から有機薄膜やデバイスにおける評価とグレインスケールや単分子膜における評価に大きく二分できる有機薄膜やデバイスにおいてはケルビンプローブ原子間力顕微鏡 (Kelvin-probe force microscopy

KFM)を用いた表面電位評価が有効であるOFETにバイアスを印加させ動作している状態での

6 第 1章 序論

チャネル上の電位分布電位勾配を測定できマクロ薄膜での評価手法である 4端子測定をナノスケールチャネル全域評価へ拡張したものとみなせるKFMを用いることで 4端子測定ではアクセス不可能な OFETの電極ndash有機界面の最近傍にアクセスできる上に [40]チャネル中のグレイン境界における電圧勾配も可視化可能である [47 66]近年ではOFETの有機薄膜ndashゲート電極方向の断面における電位像取得も達成されており [67]OFETの局所制限要因を評価する有用な手法であるといえる一方でKFMによる OFETの電位評価では定性的なグレイン境界の影響は見えるが一般にチャネル中のグレイン数が多いため定量的な評価は困難である対してグレインスケールでは導電性 AFM (conductive-AFM c-AFM)を用いた電流測定が報告されている1999年に KelleyFrisbieによって Au電極に接続した絶縁膜上の無置換オリゴチオフェン 6量体 (α-6T)グレインに AFMの導電性探針を接触させ単一グレインの IndashV 特性の測定に成功している [68]またゲートバイアスを印加した局所 OFET構造での測定やグレイン境界を跨ぐ測定も行われている [69 70]一方近年では電極に接続していない任意のグレインの電気特性評価ができる複数探針を有す AFMシステムの開発が盛んに行われてきた音叉型カンチレバーを用いることで 4本の探針を備えた AFMシステムではグラフェンの導電性の 4端子測定を達成している [71]また従来のカンチレバーを用いることで音叉型では困難な接触力制御を可能にした二探針 AFMシステムも報告されており [72 73]単一グレイン内 [74]や単一グレイン境界 [75]における電気特性測定が行われてきたここで大面積 (マクロ)な有機薄膜における電気特性の評価手法と走査プローブ技術とを比較すると表 11のようにまとめられるc-AFMや DP-AFMによっても電極間距離や位置と電気特性の関係についてもある程度議論ができるが位置精度や各測定の同一条件性の点で不十分といえマクロ測定の TLMに対応するより体系的なプローブ評価手法が必要と考えられるまた4端子測定と対応する KFMにより接触抵抗の評価が可能となるが界面の電子物性との関係に言及するには不十分であるインピーダンス分光や CndashV 測定のような交流電圧や経時応答を用いることでより深い物性の議論が可能になることが期待される

12 研究目的以上で述べたようにOFETの局所電気特性についてこれまでも様々な AFMの応用手法による評価が行われてきたが単一グレインスケールでの金属ndash有機界面物性評価には至っていないよって本研究では「真の金属ndash有機界面物性評価」を目指した AFMによる電極ndash単一グレイン界面電気特性測定手法の構築を研究目的として掲げるそのためにはデバイスレベルでは有用なマクロ薄膜での各種電気特性測定手法を活用し未だ試みられていない AFMとマクロ電気特性手法との組み合わせを通した新規手法についても模索するまた従来手法で問題となりうる電極付近のその他評価可能な局所電気特性についても理解を深めることとする

13 本論文の構成本論文は以下に示す 6章で構成されておりそれぞれの章には図 12で示す繋がりがある

第 1章 序章

13 本論文の構成 7

第 2章 原子間力顕微鏡の基礎本研究の主体となる AFMとこれまで用いられてきた応用手法技術に関して述べると共に従来手法を OFETの局所電気特性評価に用いる上での問題点や未だ試みられていない領域について言及する

第 3章 AFM電流測定法を用いた有機グレインの局所電気特性評価OFET測定に特化した AFMの電流測定応用手法の開発改善を行った結果を述べるまたその手法を用いて有機半導体であるペンタセングレイン上で測定することでグレイン境界や微小グレインといった局所電気特性の抽出を行う

第 4章 新規局所インピーダンス評価法の開発と金属ndash有機界面物性の評価新たに提案する OFET の局所インピーダンス評価のための AFM 応用手法について述べる電極ndash単一ペンタセングレイン界面の評価を通した新規手法の妥当性や物性について議論するまた応用として OFETの電極表面処理の有無による影響を電気特性モルフォロジーおよび本手法を用いた局所インピーダンスの観点から評価する

第 5章 時間分解測定による有機グレイン中のキャリアダイナミクス評価従来の AFM 電位評価法を時間分解測定に応用し単一有機半導体グレインにおけるキャリアの注入排出過程における電気特性評価を行う注入時蓄積時での電極ndash単一グレイン界面電気特性比較を行うとともに様々なキャリア蓄積状態での測定を通してチャネル形成過程を明らかにする

第 6章 結論本論文の総括および本論文を踏まえた今後の展開について述べる

8 第 1章 序論

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図 12 本論文の構成図

9

第 2章

原子間力顕微鏡の基礎

本章では本研究で用いた主たる測定手法である原子間力顕微鏡に関してその概要と基礎的な動作機構およびこれまでに開発されてきた応用手法について述べる

21 走査型プローブ顕微鏡走査型プローブ顕微鏡 (Scanning probe microscopy SPM) とはプローブ (Probe) と呼ばれる先端が鋭く尖った探針 (Tip)を試料表面近傍で走査することで試料表面の凹凸を数 micromから数 nmの分解能で測定する評価手法の総称であるまた基本となる SPMを応用して開発された表面形状以外の様々な電気的光学的機械的物性を測定する手法も広義には SPM と称す試料表面を走査せずに一点 (もしくは多点)で電圧や周波数といった他のパラメータを掃引して測定する場合もSPMと呼ぶかもしくは末尾を他の周波数分解測定に倣って「分光」(Spectroscopy)と付ける場合がある

SPM技術の発端は1982年に IBM Zurich研究所の Binnig Rohrerらによって発明された走査型トンネル顕微鏡 (Scanning tunneling microscopy STM)である [76]STMでは探針を試料表面から数 nmの高さまで近づけた際に探針ndash試料間に流れるトンネル電流を検出し試料の表面形状を取得する一方探針を試料表面近傍に近づけた際の探針ndash試料間に働く相互作用力を用いて表面形状を取得する手法を原子間力顕微鏡 (Atomic force microscopy AFM)と呼ぶSPM技術の中で表面形状を取得する手法はこの STMと AFMに大きく二分される

表面形状取得の概要 SPM技術における共通項として探針が試料表面を走査し探針ndash試料間距離を制御することが挙げられ探針走査機構 (スキャナ scanner)および探針ndash試料間距離制御機構が共通の構成要素となる図 21に一般的な SPMの概要図を示す1試料表面の走査および探針ndash

試料間距離を変えるための X Y Zの 3軸に動く微小移動機構を有し一般的に圧電体 (ピエゾ素子)

が用いられる図 21(a) のようにスキャナが探針に接続しているものをプローブスキャナと呼び図 21(b)のように試料台直下に位置するものをサンプルスキャナと呼ぶサンプルスキャナとして円筒状の圧電体を用いることからチューブスキャナとも呼ばれ試料に平行な 2軸および円筒上下方向それぞれに高電圧を印加することで X Y Zの 3軸方向に nmオーダの分解能で微小移動させる

1 以下試料表面を XY平面試料高さ方向を Z方向と呼ぶ

10 第 2章 原子間力顕微鏡の基礎

X

Scanner

Reference

Topography

Sample

Tip

Z

Y

+minus

Feedbackcontroller

Controlledvariable

(a) (b)

Z

YX X

Scanner

図 21 SPM における表面形状取得の概念図と構成要素(a) プローブスキャナを用いた場合の構成図(b)サンプルスキャナ (チューブスキャナ)の動作概念図

ことができるなお本研究では全て試料側を動かすサンプルスキャナにより走査測定を行っており特記がない限りスキャナと呼ぶ場合はサンプルスキャナのことを指すとするまた簡単のため「探針を試料に対して移動させる」ような動作を記述している場合はサンプルスキャナにより試料を逆方向に移動させているものとする次に探針ndash試料間距離は制御量 (STMにおけるトンネル電流AFMにおける探針ndash試料間相互作用力)を検出しフィードバック回路を用いて目標量に一致するように Z軸のスキャナ (Zスキャナ)に出力することで一定に保たれるこのとき試料高さの上下が Zスキャナへの出力値の増減に直接対応するためZスキャナへの出力値から試料の高さを得ることができ探針の走査により試料表面形状を得ることができる

22 原子間力顕微鏡 (AFM)

STM は試料表面構造をナノスケールで実空間観察が可能という画期的な手法であったがトンネル電流を検出しなくてはならないという原理的制約から絶縁体上での測定ができないという限界があったその後STMを発明した Binnigは探針の試料近接時に微小な力が働くことを見出しカンチレバー (Cantilever)と呼ばれる微小な片持ち梁の板ばね構造を持つ探針を用いた AFMを1986年に発表し絶縁体であるセラミック (Al2O3)表面のナノスケール構造観察に成功した [65]このとき開発された AFMは試料近接時に働く力により生ずるカンチレバーの変位を STMにより検出するという方式であり現在用いられている AFMに比べて複雑な機構やカンチレバーに高価な Au泊を用いていたしかし以降の研究で後に紹介する光てこ法を始めとする力検出方法や安価な Si製カンチレバーによりAFMは様々な分野に用いられるほどに広まっていくこととなる

AFMは表面形状のみならず先鋭な探針で試料の局所的な物性を測定できる手法として様々な応用手法が考案されてきたこれら AFMの応用手法として 2つの系統に分けることができる1つは表面形状に由来する力以外の相互作用力を検出し異なる物性を測定するというものこのカテゴリーとしては静電気力磁気力をそれぞれ検出する静電気力顕微鏡 (Electrostatic force microscopy

EFM)磁気力顕微鏡 (Magnetic force microscopy MFM)が有名であるもう一つは AFM中の外部からの刺激を力以外の方法で検出するものこちらは探針ndash試料間に印加した電圧に対して探針に流れる電流もしくは試料上の電極間を流れる電流をそれぞれ検出する導電性 AFM(conductive

22 原子間力顕微鏡 (AFM) 11

AFM c-AFM)や走査ゲート顕微鏡 (Scanning gate microscopy SGM)が当てはまる本研究で用いるいくつかの応用手法に関する詳細は後述する

AFMではSPMに共通する構成要素に加え探針ndash試料間に働く相互作用力を検出する力センサ系が重要となる以下では AFMにおける力検出に関わる原理技術について説明する

探針ndash試料間相互作用力 探針を試料表面近傍に近づけると探針や試料の材料や状態により様々な相互作用力が生じる原子間原子分子間などに働く van der Waals力 (vdW力)パウリの排他律に従い電子雲の重なりにより生じる斥力 (パウリ斥力)表面のダングリングボンドで生じる化学結合力接触電位差や電荷電気的ダイポールにより生じる静電気力などがあり基本的に AFMの名前の由来である原子間力はこれらの総称または総合したものと考えることができる本研究では静電気力は別に考慮し化学結合力を除いた vdW力およびパウリ斥力を探針ndash試料間に作用する原子間力と考える中性二原子間に働く相互作用を記述するポテンシャルとしてレナードジョーンズポテンシャルが知られておりその代表例として式 (21)で表される (612)-ポテンシャルがよく知られている

ULJ = 4ε[(σ

z

)12minus(σ

z

)6] (21)

但し二原子間距離を zポテンシャルの極小値を εポテンシャルが 0を通る距離を σとおいた(612)-ポテンシャルのうちzminus6 の項が vdW力に対応する引力を記述し中性二原子が互いに双極子モーメントを誘起し発生した相互作用エネルギーからminus6 乗の依存性を導出できる [77]次に探針ndash試料間に作用する力を考える際探針試料それぞれに有す多数の原子間の寄与を総合しなくてはならない探針を先端曲率半径 Rの放物曲面試料を 2次元平面と考えそれぞれの原子数密度 nとして系全体のポテンシャル Uts を式 (21)を用いて求めると探針ndash試料間に働く力Fts =

dUtsdz は

Fts(z) =23π2Rεn2σ4

[ 130

(σz

)8minus(σ

z

)2](22)

と記述される [78]Fts の値は正が斥力に負が引力に対応する典型値として R = 20 nm ε =

001 eV σ = 025 nm n = 50 times 1028 mminus3 としたこの曲線の概形を図 22に示す図 22から分かるように多数の原子が関わっているのにも関わらず探針ndash試料間距離が 1 nm以内に近づかないと相互作用力がかからないこのため非常に高い垂直分解能で形状評価が可能となりまた探針の一番先端に存在する 1個の原子と試料との間の力が探針にかかる力に関わるため探針の曲率半径よりも小さな構造を可視化できる

相互作用力の検出 (光てこ法) 微小な相互作用力の検出には22 節で述べたようにカンチレバーを用いるばね定数 k のカンチレバーに対し垂直方向に力 F がかかると変位 ∆z = Fk だけカンチレバーのたわみが生じる例えばばね定数 2 Nmのカンチレバーに対して 2 nNの力がかかる場合変位は 1 nm と非常に微小であり直接観測することは困難であるこのような微小なカンチレバーのたわみに対しこれまでピエゾ抵抗 [79]やチューニングフォーク (音叉型共振センサ) [80]による自己検出法光干渉法 [81]といった様々な検出方法が考案されてきた本研究ではカンチレバーの種類に依存せず装置構成が簡単な光てこ方式 [82]を用いた光てこ方式では図 23 のようにレーザーダイオード (Laser diode LD) からカンチレバーの背面にレーザを照射し反射した光を四分割フォトダイオード (Position sensitive photo diodedetector

12 第 2章 原子間力顕微鏡の基礎

-4

-2

0

2

4

0 02 04 06 08 1

Forc

e [n

N]

Distance [nm]

Attractive region

Repulsive region

図 22 (612)-ポテンシャルに従う探針ndash試料間相互作用力の距離依存性 (式 (22))1 nm以内でnNオーダの力が加わることが分かる力勾配の正負からそれぞれ引力 (attractive)領域斥力(repulsive) 領域に分けられる探針がどの領域の力を感じるかで式 (25) に示す励振特性がどう変わるかが異なる

PSPD) で受光するPSPD は検出部分が 4 つのフォトダイオードで構成されておりそれぞれのフォトダイオードからパワーに比例した電流を出力しプリアンプにより電圧値に変換されるこのとき上部 2 つ (A) と下部 2 つ (B) のフォトダイオードの出力差を vAminusB とおくとPSPD 上のレーザスポットの微小変位 ∆aに対して vAminusB は比例した電圧を出力することが分かる一方カンチレバーの長さを lカンチレバーから PSPDまでの距離を d とおくとカンチレバーのたわみ ∆z

に対しレーザスポット変位 ∆aは∆a =

2dl∆z (23)

と記述できる例としてl = 100 microm の長さのカンチレバーに対し距離 d = 10 mm を設定するとレーザスポットの変位はカンチレバーの変位に対し 100倍となるように手法名のとおり光に対する「てこ」として働く実際の実験においてはカンチレバーの変位量を測定するために ∆zに対する vAminusB の比例係数つまり感度 (Sensitivity単位 mVnm)の校正を行う同様にカンチレバーのねじれに対してもばね定数および変位を定義できPSPDの左側 2つ (C)

と右側 2つ (D)のフォトダイオードの出力差 vCminusD からねじれ変位を検出できるねじれ変位は摩擦力測定やひねり共振 (Torsional resonance)における発振に用いられる

23 AFMの走査方式AFMに限らずSPMでは探針を走査しながら様々な物性値を測定するそのとき探針の走査の方法によりいくつかの方式が存在する本節では走査方式を (a) 力一定モード (Constant force)(b)高さ一定モード (Constant height)(c)高さ変調モード(d) Line-by-line(e) Point-by-pointに大分して説明するそれぞれの走査方法の概略図を図 24に示す

23 AFMの走査方式 13

PSPD

Cantilever

LD

AC D

Bd

∆z l

∆a

図 23 光てこ法によるカンチレバーのたわみ検知の概要図レーザダイオード (LD) より照射したレーザがカンチレバーで反射しフォトダイオード (PSPD)で受光するこのときカンチレバーたわみ ∆zに比例したレーザスポット ∆aの変位が生じる

(a) Constant force

SampleTrack

1st2nd

Scan direction

(b) Constant height (c) Height modulation

(d) Line-by-line (e) Point-by-point

Change of another parameter at each point

図 24 AFM におけるそれぞれの走査方式の動作概略図(a) 力一定モード(b) 高さ一定モード(c)高さ変調モード(d) Line-by-line(e) Point-by-point

力一定モード 力一定モードは最も基本となる AFMの走査方式でありいわゆる「表面形状」取得および表面に沿った物性測定を行うために用いられる図 24(a)のように探針を走査しながら力2が一定になるように Zスキャナを制御する

高さ一定モード 高さ一定モードでは図 24(b)のように走査中 Zスキャナを一定値に固定する3力一定モードと異なりZスキャナのフィードバック制御が行われないためノイズによる不要な上下動やフィードバックの行き過ぎによるカンチレバーの試料への不意な衝突などが抑制されるため非常に繊細な測定が可能となる試料の高さ粗さが小さくかつドリフトの小さい超高真空のような系で主に用いられる高さ一定モードにおいて高さを変えながら複数枚の画像から 3次元 (3D)データを取得する方法も提案されている [83]本研究ではこのモードは使用しない

2 場合により別の物理量STMではトンネル電流を一定に制御するが試料の凹凸以外の情報も含まれるためSTM像は「真の」表面形状とは考えられないことが多い

3 ドリフト補正のためXY位置に対応する補正値を加えている場合もある

14 第 2章 原子間力顕微鏡の基礎

高さ変調モード 高さを変調する方式ではベースとなる AFM の方式や高さの変調方法や接触の利用によりいくつかの方法が存在している高さ一定モードを用いて 3D 分布データ取得する以外にも図 24(c)のように試料上の各点で高さを変化させて物理量を測定することで 3D分布データを取得することも考えられるこれは探針ndash試料間を変化させながら力を測定するForce curve

測定を全ての点で行ったものとも考えることができこのような方法により溶液中 [84]において力の 3D分布を可視化した報告があるまた試料との接触後も探針の高さを変化させることで接触後のたわみや吸着力を測定する

Jumping modeという方式もある [85]さらにこの上下動を数 kHzという早さで行い高速かつ多様な物性を同時に測定できる手法として PeakForce Tapping Rcopy が知られている [86]

Line-by-line AFMの走査は Fast scan方向へ往復走査後Slow scan方向へ 1分割値だけ移動しFast scan方向への往復走査を行うという動作を繰り返すこの際図 24(d)のように Fast scan方向の 1 走査 (1st scan) 終了後高さを変化させて 1st scan で取得した軌跡をたどる (2nd scan) ようにZスキャナを制御する方法を Line-by-lineと呼び特に 2nd scanで 1st scanよりも試料から離れる場合はリフトモードとも呼ばれるライン毎の時分割による複数データ取得とみなすこともできるリフトモードでは距離による力の影響の違いから2nd scanでは静電気力 [47]や磁気力といった通常の力制御時とは異なる力を検出するために用いられている本研究ではこの方式は用いない

Point-by-point Point-by-point法は力一定モードのように単に試料表面を走査するのみならず図24(e) で示すように各点で力一定モードとバイアス印加掃引や力変調といったパラメータ変更を交互に行い表面形状と同時に複数の物理量をマッピング可能であるこのような各点における動作をldquoPoint-by-pointrdquoと呼ぶそのためPoint-by-pointでは走査点毎時分割による複数データ取得といえるLine-by-lineに対し表面形状と他の観測物理量との位置整合性が良いという長所がある動作の詳細は 252節で述べる

24 AFMの動作モード図 25に力検出方式の異なる動作モード同士の関係図を示すカンチレバーの励振の有無によりそれぞれ Dynamic-mode と Static-mode に分けられるさらにDynamic-mode はカンチレバーの励振特性変化の検出方法の違いにより振幅変調 (Amplitude-modulation AM)方式 (AM-AFM)と周波数変調 (Frequency-modulation FM) 方式 (FM-AFM) に分けられる本研究ではそれぞれの方法を測定のフェーズや内容によって使い分けているため以下ではそれぞれの方式について個別に原理動作を説明する

241 Static-mode (コンタクトモード)

Static-modeはカンチレバーを励振させずに測定を行う方式の総称でありその中でも力一定モードで行われる Static-modeを特にコンタクトモード (contact-mode)と呼ぶコンタクトモードではカンチレバーを試料に近接させた際に生じるカンチレバーの変位 ∆zが一定になるように Zスキャナを制御する図 22のように探針にかかる力は探針ndash試料間距離が近づくにつれて若干の引力の後す

24 AFMの動作モード 15

Atomic force microscopy

Static-mode (contact-mode)

Amplitude-modulation (AM tapping)

Frequency-modulation (FM non-contact)

Dynamic-mode

図 25 AFMの動作モードの関係図

ぐに斥力に変化してしまうさらにdFtsdz がカンチレバーのばね定数 kよりも大きくなるとカンチレ

バーの復元力が探針に加わる力に負けてしまい一気に斥力領域に突入してしまう Jump-to-contact

が起こる以上のことからStatic-modeを引力領域で測定するのは非常に難しく通常斥力領域で測定するコンタクトモードは試料に接触させた測定のため試料の力学的な特性が探針の応答に如実に現れるこのことを利用した応用手法として摩擦力顕微鏡 (Friction force microscopy FFM)や直交剪断応力顕微鏡 (Transverse shear microscopy TSM)があるFFMはカンチレバーの軸に対し直交方向にカンチレバーをコンタクトモードで走査することで発生するねじれ量を検出することで摩擦力の違いを可視化する AFMの応用手法であり末端基による結合力の違いを可視化した例がある [87]TSMは通常と同じ軸方向に対しカンチレバーを走査するがその際分子結晶の配向によりねじれの交流信号に違いが現れるためFFMよりも明瞭に分子結晶の配向を可視化できる [88]

242 Dynamic-mode

Dynamic-modeはカンチレバーをピエゾ素子 (PZT)などの外力を用いて振動させながら測定を行う方式の総称でありDynamic-mode AFMを Dynamic force microsopy (DFM)と呼ぶ場合もあるDynamic-modeではカンチレバーの振動特性が重要となるカンチレバーは有効質量 mばね定数 kの調和振動子モデルに近似できるここでカンチレバーを振動させる外力 Fext と探針ndash試料間の相互作用力 Fint がカンチレバーにかかっている場合カンチレバーのつりあいの位置からの変位 zに対して運動方程式

mz + γz + kz = Fext + Fint (24)

が成り立つただしγ はカンチレバーの変位速度に比例する減衰定数を表し相互作用力はFint gt 0を斥力とする相互作用力がないとき (Fint = 0)カンチレバーに角周波数 ω振幅 Aの外力 Fext = Aext cosωt を加えると定常解 z(t) = A cos(ωt + φ) の振幅 A と位相 φ は以下のように求まる

A =Aextradic

(mω2 minus k)2 + γ2ω2(25)

φ = tanminus1( γ

mω2 minus k

)(26)

16 第 2章 原子間力顕微鏡の基礎

FintFext

m

z

0

kModelling

図 26 カンチレバーの調和振動子モデル

A φの外力の角周波数依存性を図 27の (1)に示すγ radic

kmが成り立つとき

f0 equivω0

2πequiv 1

radickm

(27)

で与えられる f0(ω0)を (自由振動時の)共振 (角)周波数と呼びこの周波数で振幅 Aは最大値を取る4また振幅が最大値の 1

radic2 倍となる角周波数 ωplusmn(ω+ gt ωminus) を用いてカンチレバーの Q

値 QがQ equiv ω0

ω+ minus ωminus=

mω0

γ(28)

のように定義できる図 27に示すような共振周波数 f0 および Qで特性付けられる振動特性のことを Qカーブと呼ぶ次に力勾配 kint = minus partFint

partz を用い微小な相互作用力 Fint = minuskintzが働いていると考える5kint gt 0

の場合試料近接時 z lt 0に対し Fint gt 0のため斥力領域に対応しkint lt 0は引力領域のモデルとなる式 (24)の kを k + kint に置き換えることで力が働いているときの共振周波数

f0prime =1

radick + kint

m(29)

が得られQカーブは引力領域では (2)斥力領域では (3)のように変化するDynamic-modeではこの Qカーブの変化に伴う励振特性の変化を検出することで探針ndash試料間相互作用力が働いていることを検知する

243 振幅変調方式 AFM (AM-AFM)

AM-AFMは探針ndash試料間相互作用による Qカーブの変化を振幅の変化から検出する手法の AFM

である微小な探針ndash試料間相互作用力 Fint = minuskintzが働いているとき式 (25)は

A =Aextradic

(mω2 minus k minus kint)2 + γ2ω2

sim Aextradic(mω2 minus k)2 + γ2ω2

[1 + kint

mω2 minus k(mω2 minus k)2 + γ2ω2

](210)

となるため振幅変化 ∆Aは

∆A sim kintAext(mω2 minus k)

[(mω2 minus k minus kint)2 + γ2ω2] 3

2(211)

4 厳密には共振周波数は 12π

radickm minus

γ2

2m2

5 定数値は釣り合いの位置をずらすだけなのでここでは無視する

24 AFMの動作モード 17

0

99 100 101

Am

plitu

de [arb

unit]

Frequency [kHz]

-180

-90

0

99 100 101

Phase [deg]

Frequency [kHz]

(a) (b)

f0

f0(1)

(1)

(3)(2)

(2)

(3)

図 27 カンチレバーの共振周波数付近の振動特性 (Qカーブ)((a)振幅(b)励振信号に対する位相)パラメータとして f0 = 100 kHz Q = 300 を用いており相互作用が (1) なし(2) 引力kint = minus0005k(3)斥力 kint = 0005kのときの Qカーブを表す

Topography

Feedbackcontroller

RMS

Scanner

LD PSPD

PZT

FG

図 28 AM-AFMの装置構成図

と力勾配に比例することが分かるただし近似として kint の 1次項のみを扱った実際の動作では一定の周波数で振動しているカンチレバーの振幅減少を試料への近接とみなし減少した振幅が一定となるように高さフィードバック動作を行うAM-AFMでは図 22の引力領域と斥力領域を行き来するように Tipが動くためコンタクトモードが「接触している」のに対し「間欠接触モード(Intermittent-contact mode)」または「タッピングモード (Tapping mode)」とも呼ばれる6図 28に AM-AFMの装置構成を示すファンクションジェネレータ (Function generator FG)で生成した交流信号をピエゾ素子 (PZT) に入力しカンチレバーを励振する (強制振動)カンチレバーの変位信号を二乗平均平方根 (RMS)回路で振幅信号に変換し振幅が一定になるようにフィードバック回路から Zスキャナに出力する本研究では強制振動の周波数としてカンチレバーの Q

カーブにおける最大振幅の約 07倍となる (共振周波数より低い)周波数を設定しているまたカンチレバーの振動振幅が約 20 nmp-p となるように FGの振幅を設定している

18 第 2章 原子間力顕微鏡の基礎

Topography

Feedbackcontroller

PLL

RMSAGC

Scanner

LD PSPDPZT

Phaseshifter Comparator

Phase lock

Frequency detectionblock

Self-excitation block

図 29 FM-AFMの装置構成図

244 周波数変調方式 AFM (FM-AFM)

探針ndash試料間相互作用力 Fint = minuskintzが小さいとき (|kint| k)式 (29)より共振周波数シフト ∆f

は∆f = f0prime minus f0 sim

f02k

kint (212)

で表されるように力勾配に比例し引力領域では負の周波数シフトを起こす図 22で示されるように力勾配は探針ndash試料間距離が近づくにつれて大きくなるため共振周波数の変化から探針の試料への近接を検出できるこのように共振周波数の変化を一定にするように探針ndash試料間距離を制御する方式を FM-AFM と呼ぶ図 22 の引力領域で用いられ試料へ非接触な状態で動作するため「非接触 AFM」とも呼ばれる図 29に FM-AFMの装置構成図を示す共振周波数を追跡するため自励発振 (Self-excitation)

回路を用いてカンチレバーを常に共振周波数で励振する図 27から分かるように共振周波数での振動信号は励振信号に対し 90 遅れており振動信号の 90 位相を早めた信号で励振することで共振周波数で振動することになる自励発振回路ではこの位相シフタ (Phase shifter)と自動ゲイン回路 (Automatic gain controller AGC)によって励振が行われている一方周波数の変化は位相同期回路 (Phase-locked loop PLL)により検出している [89]

25 AFMの電流検出応用AFMの探針は非常に微小なためナノスケールのテスタのような応用が期待できるAFMの探針を試料に接触させ探針ndash試料間に流れる電流を測定しまたはその特性の分布図を取得する応用手

6 厳密には変調 (検出)方式と動作方式という定義の違いがあるが本研究では同義に扱う

25 AFMの電流検出応用 19

法を総称して電流検出 AFM(Current-sensing AFM CS-AFM) [90]と呼ぶ本項ではこれまで開発利用されてきた AFM の電流検出応用手法のうち最も基本となる導電性 AFM(Conductive-AFM

c-AFM) およびその応用手法である点接触電流イメージング AFM(Point-contact current imaging

AFM PCI-AFM)について原理と適用範囲を述べる

251 導電性 AFM (c-AFM)

導電性探針と試料の間に直流電圧を印加しながら試料に探針を接触させることで探針ndash試料間に流れる電気特性を測定する手法を c-AFM7と呼ぶSTM でも電流のマッピングは可能であるがc-AFM では AFM をベースとしていることから(1) 確実に接触させ接触力を制御できること(2)絶縁体上の試料においても電流測定できることの 2点において STMよりも優位である特に(2) は絶縁膜上に構築した様々なデバイスやナノスケール構造において電気特性が測定可能であるという点で非常に重要であるナノスケール構造の一例としてカーボンナノチューブ (Carbon

nanotube CNT)の測定が挙げられる [91 92]CNTは長さが数 micromの細長い円筒状の構造をしており直径は単層で数 nm多層でも数 10 nm と非常に微細なため一本の CNT の電気特性を電極間に架橋させて測定するのは非常に困難であることが予想される一方CNTの片端のみ電極に接続するのは後から成膜もしくは電極上に分散させるなど比較的容易に達成できるためc-AFMでCNTのもう一方の端に接触させることで単一の CNTの電気特性測定が可能となる一方(1)の利点を活用し均一に分子が存在する試料に接触させることで接触面積から 1分子あたりの電気特性を評価する試みもなされておりSAM分子の電気特性の鎖長依存性 [93ndash96]やタンパク質の電気伝導評価 [97]も報告されている高分子ナノファイバ [98]や光反応性のタンパク質 [99]に対して光照射時の電流特性測定という応用も行われている

c-AFMには大きく分けて(a)試料上のある一点に接触させ主に電圧ndash電流 (IndashV)特性を取得する方法 (IndashV 測定モード)および (b) 一定電圧をかけながらコンタクトモードで試料上を走査し電流像を得る手法 (スキャンモード)の 2種類あるIndashV 測定モードは上述の CNTの評価の他に有機薄膜 [31 68 70]や細菌 [100]といった幅広い材料に対して用いられている一方スキャンモードはコンタクトモードで走査可能という制限があるため高分子 [98 101] や分子結晶ナノファイバ [102]のような比較的硬い材料に限られている

252 点接触電流イメージング AFM (PCI-AFM)

c-AFMはナノ構造の電気特性測定ができる非常に有用な手法であるがIndashV 測定モードでは 1点ごとの測定のため測定位置の不確定さや接触ごとのばらつきより微細な内部構造の可視化ができないといったデメリットがあるまたスキャンモードもコンタクトモードで走査可能な比較的硬く起伏の少ない試料に限られるこれに対し大阪大学の Otsukaらはこれらの問題を克服する手法としてpoint-by-pointでの接触方法を活用した PCI-AFMを開発した [103]図 210に PCI-AFMの動作概念図を示すPCI-AFM

はAM-AFM (Tapping) による高さフィードバックと c-AFM による電流測定を各点で交互に行う

7 C D Frisbieなど CP-AFM(Conducting probe AFM)と呼ぶ研究グループもあるが基本的に同義である

20 第 2章 原子間力顕微鏡の基礎

(a) Height control (b) Approach (d) Retract(c) IndashV

Cantilever

Electrode

Sample lm

Mode

Movement

FeedbackTapping StaticON Hold

Time

図 210 PCI-AFM の動作概念図時系列の TappingStatic 動作および高さフィードバックのONHoldのタイミングを併記した

手法である(a)まずある測定点において AM-AFMにより探針ndash試料間距離を一定にしこの状態で高さを固定 (Hold)する(b)探針の励振を停止させ探針を試料に一定距離だけ近づけ試料に接触させる(c) 接触状態で探針ndash試料間に電圧を印加しIndashV 測定を行う(d) 探針を試料から離し励振を再開し高さ制御を再開すると共に次の測定点へ移動するこれらの測定を試料 XY平面上の各点で行うことで表面形状と各点での IndashV 特性の位置を完全に対応づけることができるOtsukaらは PCI-AFMを用いることでc-AFMのスキャンモードによる試料構造破壊の問題を解消し単層 CNTの距離依存電流測定を達成した以降PCI-AFMの非破壊性を活かしCNTのバンドル間伝導特性 [104]やバンドル CNT中における単一 CNTの可視化 [105]分子性ナノワイヤ [106107]DNA [108]や DNAベースのナノワイヤ [109]ナノ粒子 [110ndash112]の電気特性評価に用いられてきた一方有機薄膜に対して用いた例は銅フタロシアニングレイン上の報告 [113]の一例に留まるまたCNTや有機薄膜の FET構造においてゲートバイアスを印加した状態での PCI-AFM測定は現在のところ報告されていないこのように PCI-AFMはナノスケールでの電気特性評価に有用な手法である一方で活用範囲としてまだ進んでいない領域がある本研究では新領域活用への障害となる PCI-AFMの問題点について対策を考え新規活用法を模索することも目的の一つと位置づける

26 AFMの静電気力検出応用261 静電気力顕微鏡 (EFM)

AFM で測定される力のうち静電気力を検出する手法を広義の EFM と称する静電気力は探針ndash試料間に印加した電圧のみならず試料の仕事関数試料上の固定電荷や電気的ダイポールなど様々な物性が起因となり変化するそのため報告によってどの物性に注目するかが異なり検出した静電気力の取り扱いも異なるここでは一般化し明確な探針ndash試料間の電位差Vts = Vs(試料電位) minus Vt(探針電位)があると仮定する探針ndash試料間の容量を Cts とすると電位を固定したときの系の静電ポテンシャル UES は UES =

12CtsV2

ES と記述されるこのとき探針が感じる静電気力 FES は斥力を正とするとFES =

partUESpartz =

12partCtspartz V2

ts と記述されるつまりCts が一定であれば Vts の 2乗に比例した静電気力を探針が感じることが分かる

26 AFMの静電気力検出応用 21

しかし探針ndash試料間には 22節で述べたような相互作用力が働いているため電位差を評価するには静電気力による寄与を分離する必要がある原子分子間力の距離依存性が急峻であることを利用してEFM や MFM では Line-by-line で距離を変化させることで静電気力磁気力のみ評価する方法もあるがここでは交流電圧の変調による手法について述べる角周波数 ωm の変調電圧Vac cosωmtを試料 (または探針)に印加すると静電気力は

FES =12partCts

partz(Vts + Vac cosωmt)2

=12partCts

partz

[(V2

ts +V2

ac

2

)+ 2VtsVac cosωmt +

V2ac

2cos 2ωmt

](213)

となりFES の ωm 成分は電位差 Vts に比例することが分かる実際の測定では振幅変化 (AM) または周波数変化 (FM)を測定するため測定量は式 (211)および (212)に従い力勾配 partFES

partz に比例するするとωm 成分は (partFES

partz

)

ωm

=part2Cts

partz2 VtsVac cosωmt (214)

と表される比例係数の part2Ctspartz2 は同一の探針同一の探針ndash試料間距離同一の探針振幅であれば一

定と考えることができるよって振幅変化または周波数変化の ωm 成分をロックイン検出することで電位差に比例する成分を得ることができる

262 ケルビンプローブ原子間力顕微鏡 (KFM)

EFM では電位差に比例したコントラストを得られる一方で電位の実際の値を知るには比例定数のキャリブレーションが必要であるケルビンプローブ原子間力顕微鏡 (Kelvin-probe force

microscopy KFM)8は EFM に零位法を組み合わせることで電位の実際の値を測定することができる AFMの応用手法である

KFMの名前はケルビン法と呼ばれる試料の仕事関数を測定する巨視的な評価手法に由来するケルビン法では既知未知の仕事関数を有する材料の二表面を近接させ振動させた際に発生する交流電流がゼロになるように二試料間に印加する直流バイアスを調整することで未知の仕事関数を測定する同様にKFMでは partFES

partz に比例する測定量の ωm 成分がゼロになるように探針ndash試料間に追加の直流電位 VFB をフィードバック制御する試料上を走査中に随時行うことで表面電位像の測定が実現される

EFMKFMには AFM動作モードおよび変調信号の検出方法で複数の種類が存在する本研究では真空中つまり高 Q 値環境下での測定が簡単であること比較的面内分解能が高いことからFM-AFMをベースとし変調信号を FM検出する手法を用いた以下この手法による EFMKFM

をそれぞれ FM-EFMFM-KFM と呼ぶ図 211 に FM-EFM および FM-KFM の装置構成図を示す詳細なセットアップパラメータは後の章 (4章 KFM 5章 EFM)で述べる

8 KPFMの略称を用いる場合がデファクトスタンダードとなりつつあるが本論文では KFMを用いる

22 第 2章 原子間力顕微鏡の基礎

Topography

EFM signal

Potential

Feedbackcontroller

Frequencydetection

Self-excitationcircuit

Scanner

LD PSPDPZT

Lock-in amp

Bias feedbackKFMEFM

図 211 FM-EFMおよび FM-KFMの装置構成図

27 本章のまとめ本章ではSPM および AFM の成り立ちについて説明した上で基本的な表面形状取得の概要力検出技術および走査技術について説明した近年提案されている様々な AFM応用手法がどのような動作に基づいているかを理解する上で走査方法の面から分類することは必要と考えるまたAFMの動作とくに Dynamic-modeにおけるカンチレバーの励振特性について探針ndash試料間相互作用が働いた場合にどのような変化が生じるのかについて説明したまたこの解析に基づき基礎的な AM-AFMおよび FM-AFMの動作装置について言及した

AFMの応用手法に関して本研究で用いた手法のベースとなる電流検出応用静電気力検出応用について説明した電流検出に関しては従来手法となる c-AFMに対する PCI-AFMの優位性を述べた上でPCI-AFMの OFET評価としての活用が未発展であることを示し新規活用法を模索することを以降の研究の目標点の一つとして掲げるまた静電気力検出に関しては主として用いた FM

方式の EFMKFMについて基礎的な理論技術を説明した以上ではナノスケールの電気的評価が可能な AFMの応用手法について説明したが有機薄膜を対象とした測定にはいくつか未達成または困難な点が存在するPCI-AFMの活用については 3章で装置動作の面から試みることとするまた KFM は面内の相対的な局所抵抗比較に留まる一方プローブ測定のみで測定対象と参照を同時に測定できるような手法を開発することは特に巨視的測定が困難なナノスケールのグレインの電気特性評価を進めていく上で重要であるよって静電気力検出をベースとした新規局所電気特性評価手法に関して4章および 5章で検討を行う

23

第 3章

AFM電流測定法を用いた有機グレインの局所電気特性評価

AFMの導電性探針を用いて直接試料に接触させ電流を測定することで有機材料の電気特性測定がなされてきたことは既に 1章で述べたしかし従来手法のうち非マッピングである c-AFMや多探針 AFMでは測定点が数点に限られ接触位置の同定が不確定という問題がある一方マッピングを行う c-AFM では硬い材料に限定されること接触力の増加による分解能の制限といった問題を有するこれらに対し2章で述べた点接触電流イメージング AFM (PCI-AFM)は非破壊にて構造と電気特性の同時マッピングを行うことが可能であり少数単一グレインスケールにおけるTLMとなりうることが期待されるがその適用には課題が二点ある一点目は有機半導体の電気特性評価では必須となる真空中での測定が困難であることであるこれは AM-AFMをベースにしていることに加えて後述の探針励振停止再開動作が関わっており真空中では非現実的な測定時間が必要となる二点目はこれまで PCI-AFMは 1次元系材料での評価が多く有機半導体薄膜のような薄膜試料での報告例がほとんどないことである1次元系と異なりOFETのような薄膜試料では電流広がりなどを考慮した測定結果の解析が必要となる以上を踏まえ本章では PCI-AFMの真空動作化および OFET評価に適した動作確立システム構築を通してOFET中の様々な局所電気特性を選択的に評価するナノスケール TLMへの活用を目標とする

31 OFET評価に適した電流測定法の検討252節にてPCI-AFMはナノ構造の電流マッピングに非常に有用な手法であることを説明した

PCI-AFM を有機グレインの OFET 評価に適用するにあたり信頼性のある安定した測定に向けて検討しておくべき項目がいくつか存在する本節では「真空動作」「接触圧」の観点から PCI-AFM

の改良に取り組む

24 第 3章 AFM電流測定法を用いた有機グレインの局所電気特性評価

Phaseshifter

Oscillator

Excitation

Variablegain amp

z(t)

Ge-jθ

図 31 Q値制御回路のブロック図

311 PCI-AFMの真空動作化 (Q値制御法)

242節で説明したとおりカンチレバーの運動は式 (24)にて記述されるここでt = 0で外力が 0になったときの過渡応答を考えるFext = Fint = 0よりz(t)の特性解 λは 2次方程式

mλ2 + γλ + k = 0 (31)

を解くことでλ = minus1

τplusmn jω (32)

と求まるここでτ = 2mγ =

2Qω0ω = ω0

radic1 minus ( 1

2Q )2 であるカンチレバーが t lt 0 では z(t) =

A cosωtで振動しているとするとt ge 0でのカンチレバーの運動は

z(t) = Aeminustτ cosωt (33)

という時定数 τ の減衰振動解になるつまりカンチレバーの振幅変化に要する時間は Q に比例する本研究で用いているカンチレバー (Olympus OMCL-AC240TM-R3) の典型的な共振周波数は f0 = 70 kHz でありQ 値は大気中では数 100 なのに対し真空中では 2000 を超える例として振幅が減衰開始時の 01 倍となる時間 minus ln(01)τ sim 23τ を振動停止開始の所要時間と考えると256 times 256点で振動停止開始それぞれで 23τ必要となり測定に必要な時間は待ち時間だけでも数時間に及ぶためドリフトの影響を考えると真空中での PCI-AFM測定は非現実的であることが分かるまたPCI-AFM では振幅変化を検出する AM-AFM をベースとしているが同じ理由でAM-AFMは一般的に真空中での測定は不向きであることもPCI-AFMの真空中測定を困難にしているそこでPCI-AFMの振動停止再開動作を真空中でも可能にするために本研究ではAnczykowski

らにより提案された Q値制御法 [114]を用いるQ値制御回路のブロック図を図 31に示すQ値制御法ではカンチレバーの変位信号1z(t) = Aejωt にゲイン G および位相シフタ eminusjθ を介した信号を励振信号に加えるこの信号成分は z(t)に対する in-phase out-of-phaseを分けることで

Geminusjθz(t) = (G cos θ)z +minusG sin θω

z (34)

と表されるため運動方程式 (24)の γ を γprime = γ + Gω sin θk を kprime = k minusG cos θ に置き換えること

で同様の議論ができるつまり運動方程式 (24)および Qカーブを表す式 (25)は次のように表さ

1 簡単のためフェーザ (Phasor)で考える最終的に実部を取ることで実信号とする

31 OFET評価に適した電流測定法の検討 25

0

5

10

695 70 705

Am

plitu

de [nm

]

Frequency [kHz]

0

1=10-3

2=10-3

5=10-3

G Pѱ0

2

図 32 Q 値制御法を用いた場合の Q カーブの理想的なゲイン G 依存性 f0 =ω02π = 70 kHz

Q = 2 times 103 Aextk = 5 times 10minus3 nm

れる

mz + γprimez + kprimez = Fext (35)

A =Aext

kω2

0radic(ω2 minus ωprime20 )2 + (ωωprime0Qprime)2

(36)

但しQ値制御後の (見かけの)Q値 Qprime および共振周波数 ωprime0 をそれぞれ

Qprime =mωprime0γprime ωprime0 =

radickprime

m(37)

としたここで位相シフト量を θ = π2に設定すると Gを増加させるに従い γprime が増加することが分かるこのとき理論上の Qカーブの変化を図 32に示すこのようにQ値制御法を用いることで見かけの Q値 Qprime を減少させることができる2実際に真空中 (lt 10minus3 Pa)でカンチレバーの励振 (発振器からの信号)を 5 msごとに開始停止させた際に従来通りの強制励振と Q値制御法を用いた場合のカンチレバーの動作を比較したものを図 33に示すただし典型的な共振周波数が f0 sim 70 kHzであるカンチレバーを用いたQ値制御前では Q sim 2000であり上述の振動停止開始時間は 23τ sim 21 msとなり図 33(a)のように 5 ms

では完全には振幅が収束していないことがわかるQ 値制御法により見かけの Q 値を Qprime sim 100

まで減少させた結果振動停止開始時間は 23τ sim 1 msとなり図 33(b)のように励振停止時に完全に停止している様子が見て取れるPCI-AFMの振動停止再開動作に要する時間を減少でき全体の測定時間が現実的なスケールとなるまた見かけの Q値を減少させたことによりAM-AFM

の動作も大気中と同等の設定で可能となる

パラメータ設定の問題点と改良した設定方法 本研究では研究室で作成された Q値制御回路 [78]

を用いFGとして Yokogawa FG120を用いたここで自家製の Q値制御回路では φおよび Gを手動でしか変更できないため次のような問題が生ずる図 34に G = 001mω2

0 における周波数および位相シフト量に対する振幅の変化を示す周波数が正しく共振周波数に合っている場合は位相 θ を変えると θ = π2で振幅が最小値となるしかし周波数がずれている場合に振幅が最小

2 本来の用い方は Q値の小さいとき検出感度を上げるために θ = minusπ2に設定することで Q値を増加させて用いる

26 第 3章 AFM電流測定法を用いた有機グレインの局所電気特性評価

ON OFF ON OFFExcitation

5 ms Time

200 mV(~7 nm)

(a) conventional

(b) with Q-control

Deection signal

Q ~ 2000

Qrsquo ~ 100

図 33 真空中でカンチレバーの励振を 5 ms ごとに開始停止させた際のカンチレバー変位 (Deflection) の包絡線 (振幅) 時間波形(a) Q 値制御法を用いない従来の強制励振の場合(Q sim 2000)(b) Q値制御法を用いた場合 (Q sim 100)の包絡線とカンチレバーの動作イメージを示している

695 70 705

Frequency [kHz]

0

90

180

Phase [deg]

01

1

10

Am

plitu

de [nm

]

Minim

um

Resonance

Resonance

図 34 G = 001mω20 における周波数および位相シフト量に対する振幅変化矢印は共振周波数

探索rarr最小振幅となる位相探索の順にパラメータ探索する場合のパラメータ軌跡

となる位相は π2とは異なるそのため例えばパラメータの設定を共振周波数探索rarr振幅最小位相探索の順に行ってしまうと図 34のように最適な位相 π2に到達できず同じ設定値をループすることになるこれを回避するためには位相およびゲインを変えながらも常に共振周波数をトラックする必要があるそのため本研究では FG120の GP-IB3通信および LabVIEWを用いて任意の周波数レンジおよび掃引速度で連続的に FGの周波数設定値を掃引できるようなプログラムを作成したこれにより効率的に Q値制御回路の位相設定を行えるようなセットアップとなっている

312 接触状態の検証導電性探針を用いた電流測定は探針ndash試料間に流れる電流が測定値となるためその接触状態が測定値に大きく影響を与えることが懸念されるしかし報告により用いている探針の材料ばね定数または対象とする試料や実際の接触力などの測定条件が異なるため本研究でも独自に影響評

3 General purpose interface bus短距離デジタル通信バス仕様である IEEE 488の実装であり計測器制御に用いられる汎用接続形式である

31 OFET評価に適した電流測定法の検討 27

HOPG

Conductivecantilever

図 35 導電性探針による接触電流評価の模式図

0

50

100

150

0 5 10 15 20 25

5HVLVWDQFHgt0ї

)RUFHgtQ1

OriginalOvercoated

(c)

-100

-50

0

50

100

-1 0 1

ampXUUHQWgtQ$

LDVgt9

(a) Original

0 nN4 nN

10 nN

14 nN19 nN23 nN

-100

-50

0

50

100

-1 0 1ampXUUHQWgtQ$

LDVgt9

(b) Overcoated

4 nN7 nN

10 nN

13 nN16 nN

図 36 導電性探針ndashHOPG系の接触電流測定結果(a)市販コート探針(b)再コート探針を用いて測定された IndashV 特性(c) +15 Vにおける接触力と抵抗値の関係

価することが望ましいそこで接触力評価として導電性カンチレバーを導電性の平坦試料である高配向パイログラファイト (Highly oriented pyrolytic graphite HOPG)に接触させ電流測定を行うとともに探針の試料への接触面積の見積もりを試みた導電性探針として(1)市販の PtIrコート済みカンチレバー (Olympus OMCL-AC240TM-R3)(市販コート探針と呼ぶ) および (2)OMCL-AC240TM-R3 の Tip 側にスパッタリング装置を用いて約20 nmの Ptを堆積させたカンチレバー (再コート探針と呼ぶ)を用いた再コート探針は市販コート探針よりも Tip上への堆積量が多く先端曲率半径の増加が懸念されるがより長時間多回数の接触に耐えうることが見込まれるためその電気特性の差異がないことを確認する図 35のセットアップにおいて以下のプロセスで測定を行った

1 探針ndash試料間のバイアス電圧を 0 V としコンタクトモードにおいて Reference を徐々に上げ探針をわずかに HOPGに接触させる

28 第 3章 AFM電流測定法を用いた有機グレインの局所電気特性評価

表 31 探針接触半径の見積もりに用いた各材料の物性値

材料 ヤング率 ポワソン比

Pt [118] 168 GPa 0377

HOPG [119 120] 365 GPa 025

2 ある分量ずつ Referenceを増加させることで接触力を増加させ各接触力において plusmn15 Vの三角波 (2 s)を 5回印加

3 測定時のカンチレバー変位IndashV 出力をデータロガーで取得し「カンチレバーばね定数(2 Nm)times(接触時の変位 minus 非接触時の変位)別途測定した変位検出感度 (nmmV)」を接触圧とした

図 36に IndashV 特性および +15 Vでの抵抗値の接触圧依存性を示す市販コート再コートどちらの探針においても接触力の増加に従い電流が増加したまたIndashV 波形が非線形である原因として探針先端または試料表面の不純物やPtndashHOPG間接触の本来の特性が考えられる図 36(c)よりどちらの探針も比較的同等の特性を持っており以降では再コート探針でも市販コート探針と同様に使用可能としたまた接触力が 10 nN付近で抵抗値がある程度収束しており接触電流測定に必要な接触力の目安は 10 nNと見積もられるこの接触力は過去の c-AFM [115]や PCI-AFM [103104]

の報告における設定値と同程度である次に接触面積の見積もりを行う無機材料での探針接触電流測定では一般に 2体の付着を考えない Hertz理論を用いて評価されるが [116]有機物など付着のある系では JKR理論を用いて評価する必要がある [92]JKR理論では曲率半径 Rt Rs の 2体が接触力 F で接触するとき接触半径 a

は次のように表される [117]

a3 =34

Rlowast

Elowast[F + 3πRlowastWts +

radic6πRlowastWtsF + (3πRlowastWts)2

](38)

但しWts は 2体の付着仕事 (凝着エネルギー)Rlowast は実効曲率半径 Rlowastminus1 = Rminus1t + Rminus1

s また Elowast は実効ヤング率を表しサンプル (s)探針 (t)それぞれのヤング率を Es Etポアソン比を σs σt とおくと Elowastminus1 = (1minusσs

2)Esminus1 + (1minusσt

2)Etminus1 で与えられるここで式 (38)の根号内が F gt minusFad で 0

以上となる場合Fad は吸着力を表し

Fad = minus32πRlowastWts (39)

で与えられるよって式 (38)は

a3 =34

Rlowast

Elowast(radic

F + Fad +radic

Fad)2 (310)

と簡略化されるPt 探針を HOPG に接触させた場合を想定する試料が無限平面と仮定できるため Rlowast = Rt であり探針の曲率半径として OMCL-AC240TM-R3の公表値 15 nmを用いる材料のヤング率ポアソン比として表 31の値を用いると吸着力 Fad が 10 nNのときの接触力と接触半径の関係は図 37

のようになる探針の曲率半径は 10 nmを超えているものの接触半径は数 nmに留まることが分かるまた接触力 10 nN付近では微小な接触力の変動に対する接触半径の変動は 1割に満たないことも式から求まる

32 マルチグレイン有機薄膜の複数雰囲気中測定 29

0

1

2

3

4

-10 0 10 20 30

Con

tact

radi

us [n

m]

Contact force [nN]

図 37 吸着力 Fad = 10 nNのときの接触力と接触半径の関係(Rlowast Rt = 15 nm)

図 38 ペンタセンの分子構造式

32 マルチグレイン有機薄膜の複数雰囲気中測定有機半導体薄膜の電気特性は雰囲気により大きく変化するがその影響にはグレイン境界やグレイン内部など複数の局所物性が関わっているため従来の大面積の電極を用いた測定では議論が不十分である一方局所電気特性測定に有用と考えられる PCI-AFMは原理上真空中での動作が困難でありまたこれまで OFETの評価に用いられたことはなかった本節では 311節で真空動作化を施した PCI-AFMを使用しペンタセンのマルチグレイン薄膜を対象に局所電気特性測定を行い大気の影響を抑えた材料本来の特性測定を行う同時に大気真空の両雰囲気中で評価することで特定の局所構造に対する大気の影響を評価する

321 測定試料ペンタセン 測定試料としてペンタセンのマルチグレイン薄膜を用いたペンタセン (C22H14)は図 38のようにベンゼン環が 5つ縮合した構造をもつアセン系 π共役分子であり最も基礎的な p

型有機半導体の 1つとして知られる真空蒸着による簡便な成膜によっても 1 cm2(Vs)という比較的高性能な移動度を有することで知られている [30 121]そのため金属ndash有機分子界面評価のベンチマーク [39]という基礎的なことから論理回路 [21]という応用的なところまで幅広い研究に用いられている一方ペンタセンの真空蒸着により成膜すると一般にグレインが多数連なったマルチグレイン薄膜となるこれは蒸着条件や絶縁膜の表面処理を変化させても最大で数 microm程度の大きさにしかならず [29 122]OFETを作製すると多数のグレイン境界を通ることになるグレイン境界により制限された OFETの電気特性および移動度の評価が四端子法により行われているものの [32]影響を平均した評価にならざるを得ないよって本研究でもペンタセンのマルチグレイン薄膜を試料として用い過去の報告の知見を活かしつつPCI-AFMの利点を活かした特定のグレイン境界評価に臨む

30 第 3章 AFM電流測定法を用いた有機グレインの局所電気特性評価

SPM solution

Waferchip

LOR 3B

Au

S1813UVozone

UV

Photomask

(1) SPM cleaning (2) UVozone cleaning (3) Spincoat amp bake (4) Resist coating

(5) UV exposure(6) Development(7) Deposition

(9) EB resist (10) EB lithography (11) Development

(14) Deposition

(12) Deposition

(8) Lift-oamp cleaning

(13) Lift-oamp cleaning

eminus eminusPtZEP 520A

Organic lm

UV

litho

grap

hyEB

lith

ogra

phy

図 39 測定試料の作製手順の模式図

試料作製手順 測定試料は以下のプロセスにより作製した図 39に手順全体の模式図を示す

1 表面に 100 nmの熱酸化膜 (SiO2)を有する高ドープ n型 Siウェハを用い硫酸ndash過酸化水素水 (SPM)洗浄を行う

2 紫外線 (UV)露光をし (UVオゾン洗浄)表面を親水化する3 LOR3Bを 4000 rpmで 45秒スピンコートし190Cで 5分ベーク4 UVレジスト S1813を 5000 rpmで 30秒スピンコートし115Cで 1分ベーク5 マスクアライナーを用いてUV露光を 3秒行いマスクパターンを転写6 現像液MICROPOSIT CD-26に 1分程度浸漬することで現像7 真空蒸着装置を用い1 times 10minus4 Pa以下の高真空下で Crを電子線 (EB)加熱により 3 nmAu

を抵抗加熱により 50 nm蒸着8 Remover1165でリフトオフを行い続いて UVオゾン洗浄9 EBリソグラフィ用のレジスト ZEP 520Aを 1500 rpm60秒の条件でスピンコートし160C

で 5分ベーク10 ギャップ幅 100 nmギャップ長 300 nmの条件で EB描画11 EBレジストの現像液 ZED-N50に 2分浸漬することで現像

32 マルチグレイン有機薄膜の複数雰囲気中測定 31

12 スパッタリング装置により Ptを約 5 nm堆積13 Remover1165によるリフトオフ続いてイソプロパノール (IPA)蒸気洗浄および UVオゾン洗浄

14 真空蒸着によりペンタセンを約 01 nmminの蒸着レートで 10 nm堆積

(3)から (8)の行程は UVリソグラフィ(9)から (13)の行程は EBリソグラフィに対応する

322 装置構成PCI-AFM測定時の装置構成を図 310に示すAFMコントローラとして日本電子製 JSPM-4200

を用いFG1 (Yokogawa FG120)からの励振信号で AM-AFMを動作させている真空中では Q値制御装置を用いたQ 値制御回路使用時は安定した励振を行うために不要な高調波を除去するローパスフィルタ (Low-pass filter LPF)を挿入した電気回路部については試料上の電極 (Drain)に定電圧 (VD)を印加しSi基板 (Gate)にゲートバイアス (VG)として FG2 (Tektronix AFG320)から任意波形を出力した試料ndash導電性探針間を流れる電流 (ID) はカンチレバーホルダー直結の低バイアス電流な自作電流アンプ (109 VA) で検出し電流信号はデータロガー (Keyence NR-500 NR-H08)で測定全時間に渡り取得した

Point-by-point動作は AFMコントローラに備わる「MFMモード」を利用したMFMモードでは256 times 256点の各点で10 ms毎にフィードバックモードとホールド (高さ固定)モードを切り替える本来の MFMモードは MFM測定のために試料から離れる (Lift)方向にしか動かせない本研究で用いた AFM コントローラは研究室で改造が行われており外部から直接高さの変調信号 (Z-mod)

を加えられるようになっている [78]高さ変調信号は FG3 (Tektronix AFG320) から出力した信号を minus20 dB減衰器に通した上で Z-modに入力したまたフィードバックモードとホールドモードに同期した信号が JSPM-4200 の PR2 端子からLIFT 信号として出力されているこの信号に FG1 FG2 FG3 を同期させることで point-by-

pointでの振動電圧印加接触動作が可能となる図 311のタイムチャートは測定点の移動 (X)カンチレバー変位 (Deflection)Lift信号それぞれの FGの時間波形と動作タイミングを示している1点当たり 20 ms (=1 period)を要し一定時間フィードバック動作を行ったのちホールドモードとなりLift信号が off状態になるFG1 (Excitation)はこのLift信号が on状態のときのみ出力する GateモードとしているFG2および FG3は Positive edgeの Triggerのみ受け付けるためLift

信号を Not回路に通した上で FG2と FG3の Triggerに入力したFG3の電圧値は実際に接触しているときの Defletion変化 (∆z)から計算される接触力が 10 nN程度になるよう調節した結果表示で 06ndash08 Vとなった

323 大気中 PCI-AFM評価大気中でペンタセン薄膜に対し PCI-AFM測定を行ったVD = minus2 Vとし接触中に VG を minus1 V

から minus5 Vへ変化させながら測定した図 312(a)は PCI-AFMで同時測定された表面形状像であるより大きい範囲の表面形状像から推定した電極の位置を点線の枠で示しているPCI-AFMでは各点でカンチレバーの振動停止再開をしていることから探針ndash試料間距離が不均一になることが懸念さ

32 第 3章 AFM電流測定法を用いた有機グレインの局所電気特性評価

RMS

Data logger

Feedbackcontroller

Scanner

LDPSPD

Q-controller

AFM controller

PZT

FG1

FG2

FG3

Z-mod

Gate

Lift

InsulatorGate

VD

IndashV amp

-20 dB

LPF

Deection

Current Trigger

図 310 真空動作 PCI-AFMを用いた OFET電気特性測定時の装置構成図

Deection

LiftZ hold Z hold

FG1 (excitation)

FG2 (VG)[100 Hz]

FG3 (Z-mod)[501Hz]

X

1 period = 20 ms

-5 V

[period]

[period]

0 01 09 1

001

02095

1

Time

Gate

Trig

Trig

Δz

図 311 PCI-AFM測定の各信号のタイムチャート

32 マルチグレイン有機薄膜の複数雰囲気中測定 33

100 nm0

30

[nm

]

Electrode

(a)

10

0

I D [n

A]

(b) AB

C

VG iuml V

(c)

iuml V

(d)

iuml V

(e)

iuml V

(f)

iuml V

図 312 マルチグレイン薄膜の大気中 PCI-AFM 測定結果 (VD = minus2 V)(a) Pt 電極に接続したペンタセン薄膜の表面形状像(b)ndash(f) VG = minus1 minus2 minus3 minus4 minus5 Vの電流値で再構成した電流 (ID)像図中の矢印はグレイン境界太点線はグレイン A B Cの範囲をそれぞれ表す

れるが表面形状像からはドット状ライン状のノイズは見られないことから安定して動作していることが分かる図 312(a)より多数のペンタセングレインが電極に接続していることがわかり薄膜中の「谷」部から矢印で示すようなグレイン境界が見て取れるここでペンタセン薄膜内にいくらか平坦な領域が存在しているSiO2 のような非活性な基板上で成膜したペンタセン薄膜は 1

軸配向性を示すことがこれまでも多く報告されており今回のペンタセン薄膜においても分子長軸を基板に対して立てて配向していると考えられる図 312(b)ndash(f) はそれぞれ VG = minus1 V からminus5 V

の電流値を抽出し再構成した電流像であるまず電極付近は電流値の大きい地点が多くまた VG の印加により大きな変化はない一方赤色の点線で囲ったグレイン A B C についてはVG = minus1 V

の電流像では暗いままつまり電流が小さいのに対しVG = minus5 Vの電流像では接続している膜部分と同等の電流値を観測しているこのように負のゲートバイアスの印加に従う電流の増加は p型有機半導体を用いた OFET の特徴であるこれはPCI-AFM を用いて有機半導体薄膜の各点で構成した局所 OFETの特性を測定した初めての例であるグレイン毎の違いを詳しく見てみると図312(b)のグレイン Bでは少しだけ電流が流れているがグレイン A Cはほぼ電流が観測されていないまた図 312(f)ではグレイン Aはグレイン Bと同程度の電流値になったもののグレインCは他の 2つに比べて電流が小さいこのような電流増加傾向の違いがグレイン毎に現れていることはこのペンタセン薄膜においては電気特性がグレイン境界によって大きく制限されていることを示している

324 真空中 PCI-AFM評価および雰囲気比較前節ではグレイン A Bと連続して接続しているグレインに関してゲートバイアス特性 (IDndashVG)が異なるという興味深い結果が得られたそのため評価対象をこのグレイン A Bに限定してより狭い範囲で測定することでより詳細な評価を行う図 312(a)の矩形範囲について真空中で PCI-AFM

34 第 3章 AFM電流測定法を用いた有機グレインの局所電気特性評価

0

30

Electrode50 nm

(a)

[nm

]

2

0

I D [n

A]

A

B

(b)

VG = 0 V

(c)

VG iuml V

(d)

VG iuml V

(e)

VG iuml V

(f)

VG iuml V

図 313 マルチグレイン薄膜の真空中 PCI-AFM測定結果 (VD = minus2 V)(a)表面形状像(b)ndash(f)VG = 0 minus1 minus2 minus3 minus5 Vにおける電流 (ID) 像図中の矢印はグレイン境界太点線はグレインA Bの範囲をそれぞれ表す

測定を行ったVD = minus2 VのままVG として 0 Vから minus5 Vの Ramp信号を用いた図 313に真空中の PCI-AFM測定で同時に得られた表面形状像 (a)および VG = 0 V minus1 V minus2 V minus3 V minus5 Vにおける電流像 (b)ndash(f)を示す大気中の結果と同様に滑らかな表面形状が得られておりQ値制御を用いることで真空中でも安定した PCI-AFM動作が実現できていると考えられる図 313(b)ndash(f)から大気中の結果同様に VG の印加に従い電流増加が見られているまたグレイン Bは VG = minus2 Vから minus4 Vにかけてグレイン Aは VG = minus1 Vから minus3 Vにかけてというように電極から近いグレイン順に電流増加が始まることが明瞭に観察された図 314に大気中真空中 PCI-AFMで得られた結果のうち図 313(a)の矩形領域で示す同一グレイン上の結果を比較したものを示す図 314(a) (b)の表面形状像から同一位置であることを推定した但し横軸を電極からの距離と取るために図 313に対し 90 回転させておりまた測定時の熱ドリフトの違いやスキャナのクリープの影響により像のサイズは若干異なっている図 314(c)

(d)は表面形状像の実線に沿った IDndashVG 特性を電流値マップとしてプロットしたものであり横軸が表面形状の実線の位置に対応する但し元の電流像から 64 times 64ピクセルに周辺の最大値を取るようダウンサンプルした上で表面形状像の実線に対し 10ピクセルの幅で平均した電流値を用いている電流値マップから電極上は VG による明確な電流変化はなくグレイン上での電流は VG により変化していることが明瞭に観測できる特に点線で示されているグレイン B Aの境界で電流マップのコントラスト変化が見て取れ電流マップにより IDndashVG 特性の変化が容易に確認できるといえるまた図 314(e) (f)は (c) (d)を見かけの抵抗値 RD = |VDID|として変換したものであるりいくつかの VG についてプロファイルをプロットしたこの RD は位置に伴う抵抗の積算値と考えることができるここで距離による抵抗の増加は明瞭には観察されなかったが一方でグレインBよりも一つグレイン境界を跨ぐグレイン Aで抵抗値が大きく増加しておりここからもグレイン内部よりも AndashB 間グレイン境界が OFET としての電気特性を大きく左右していることがよく分か

32 マルチグレイン有機薄膜の複数雰囲気中測定 35

0 1 2 3 4 5 6

RDgt

ї

VG=-1V

-5V

-2V

B

Electrode A

-3V

0

10

20

30

40

50R

Dgt

ї VG=0V

-1V

-2V-3V-5V

B A

Electrode

-1

-5

V Ggt9

+1

-5

V Ggt9

In air(a) (b)

(c) (d)

(e) (f)

In vacuum

Elec

trode

Elec

trode

10

0

I DgtQ$

4

0

I DgtQ$

図 314 同一グレインにおける (ace)大気中(bdf)真空中の PCI-AFM結果比較(a) (b)表面形状像(c) (d)表面形状像の実線に沿ったゲートバイアス依存の電流値マップ(e) (f)各ゲート電圧値に対する電流値より計算した見かけの抵抗値プロファイル左から右に進むに従い接触時の電極からの距離が遠くなる図中の A Bは図 312 313におけるグレイン A Bの領域に対応する

るAndashB間グレイン境界による特性への影響をより詳しく評価するために図 314のグレイン A

B上で平均した IDndashVG 特性を図 315(a)に示すFETの IDndashVG 特性は電流の立ち上がりがしきい値電圧 Vth に対応する図 315(a)を見ると大気中真空中共にグレイン Aの Vth がグレイン Bに対して負電圧にシフトしていることがわかるこのことは図 312および図 313で見られたようにグレイン毎に OFETの動作が ldquoONrdquoになることを再度示しているといえる一方傾きに対応する伝達コンダクタンス partID

partVDはグレイン A Bで大きな違いはなかった過去のペンタセン OFETに関

する研究においてもグレイン境界がしきい値電圧を負にシフトさせている報告があり [27 28]今回の測定も妥当な結果が得られていると考えられる一般的にしきい値電圧は深いトラップ準位一方しきい値電圧以降の伝導特性は浅いトラップ準位が影響するといわれている [54]このことを踏まえるとグレイン境界は深いトラップ準位リッチと考えられるグレイン境界とトラップの関係はこれまでも指摘されてきたものの [123]今回のように単一の特性のグレイン境界においてしきい値電圧シフトを直接観測したことは有機デバイスの電気特性と物性の相関を確かめる上で非常に有意な結果と考える

36 第 3章 AFM電流測定法を用いた有機グレインの局所電気特性評価

0

2

4

6

-4-2 0

I D [n

A]

VG [V]

AirAB

Vacuum

0

100

200

300

400

-20-15-10-5 0

I D [n

A]

VG [V]

AirVacuum

Vacuum

Air

(a) PCI-AFM (b) Reference OFET

図 315 (a)図 314で示したグレイン A B上で平均した大気中 (赤色)真空中 (緑色)の IDndashVG

特性菱型記号丸記号はそれぞれグレイン A Bの特性を表す(b)レファレンスとして作製したチャネル長 200 nmの OFETの IDndashVG 特性

一方雰囲気で比較すると真空中に比べて大気中では全体的に電流値の増加が見られるまたグレイン A の VG = minus1 V が顕著なようにしきい値電圧の若干の正シフトも見られるしかしこれら変化はどちらのグレイン上においても同等の影響となっているこのような電流値の増加は大気中の酸素の影響と考えられており [124ndash126]有機膜に取り込まれた酸素分子が正孔ドープを行うために抵抗が減少し同時にその正孔により若干のトラップ準位も埋めたことでしきい値電圧が正にシフトしたと考えられる電極対を用いたペンタセン OFETを作製し大気中真空中で伝達測定した結果においても同様の電流の増加としきい値電圧の正シフトが見られた (図 315(b))PCI-AFM で測定された OFET 構造では二つのグレインのみが関係するが電極対を用いた測定ではチャネル中に多数のグレインが存在するそれにも関わらず雰囲気による影響で同様の傾向が見られていることは大気中の酸素による影響はグレイン境界よりもグレイン内部や電極ndash有機界面に大きく影響を与えると考えられるこのように複数環境で PCI-AFMを用いられることは局所電気特性評価を行う上で非常に有用だということが示されたと考える

33 単一微小グレイン OFETの特性評価32節では真空動作化した PCI-AFMを用い真空中での PCI-AFM測定が実現されたことを確認したまたグレイン境界が与える OFETの電気特性への影響とグレイン境界が持つ物性について知見を得た一方でグレイン境界により電気特性が制限されていたためグレイン内部の電気特性についての知見は得られなかった本節ではグレイン内部の電気伝導に着目しPCI-AFM測定により単一のグレインの持つ電気特性を抽出評価することを目標とする

331 Point-by-point動作時間間隔の自由化32節の測定では JEOL製 AFMコントローラのMFMモードを利用した point-by-point動作を実現したしかしMFM モードの利用はソフトウェアの制限により最長で 10 ms のホールド時間しか確保できない電圧掃引時間を長くする積算回数を増やすといった測定のためには自由にホー

33 単一微小グレイン OFETの特性評価 37

Lift down

Lift up

Restart excitation

Trigger

Pre-lift Stop excitation

Mesh point

Restart

From controller

100 ms

350 ms

50 ms

200 ms

Measurement period Bias voltage

To controller

FG120 (FG1)excitation

AFG320 (FG3)

GP-IBGP-IB

GP-IB

図 316 PCI-AFM の point-by-point 動作時間間隔を自由に設定するために作成したプログラムのフローチャートFG1 FG3は図 310の FG1 FG3に対応する

ルド時間が設定できることが望まれるそのため研究室で製作された PXI4および FPGA5ベースの AFMコントローラを用いた point-by-point動作用セットアップを構築した図 316に point-by-

point動作のために作成した LabVIEW6プログラム (Externalプログラムと呼ぶ)のフローチャートを示す動作は以下の順序で実行される

1 (External外) AFMコントローラにおいて point-by-point動作点 (Mesh点と呼ぶ)に来た場合フィードバックモードからホールドモードにしプログラム的に Externalプログラムに信号を送る

2 励振停止指示を GP-IB接続した FG1に送る同時に探針を試料に若干近づける (Pre-lift)3 探針を試料に接触させる (Lift down)4 測定用バイアス出力指示を GP-IB接続した FG3に送る5 任意測定時間経過後探針を試料から離す (Lift up)6 励振再開指示を FG1に送る7 AFMコントローラにMesh点動作終了を通知する

AFM コントローラと External プログラムの間の信号伝達は LabVIEW のシェア変数により実現されているそのため完全に同期させた動作は困難であり各プロセス間に図中のとおりのウェイト時間を設けることで各プロセスを完了するように調整した

38 第 3章 AFM電流測定法を用いた有機グレインの局所電気特性評価

Electrode Pentacene grain

SiO2

[nm

]

30

0

50 nm(a)

(b)

[nA]

15

0

(d)

Tim

es

(c)

Electrod

e

0

100

200

0 100 2005HVLVWDQFHgtї

LVWDQFHgtQP

0

05

1

15

ampXUUHQWgtQ$

IA BII III

2 V0 V

iuml9iuml4 Viuml6 Viuml8 V

VG

A B

A B

図 317 ペンタセン微結晶上における PCI-AFM ライン測定結果(a) ペンタセン微結晶の表面形状像(b) (a)の AndashBラインに沿った PCI-AFM測定によって得られた位置および測定回数に対してプロットした電流マップ (VG = minus8 V)(c) (d)各 VG における電流値 (c)および抵抗値 (d)の電極からの距離依存性(c) (d)のプロファイルに対応する表面形状像および AndashBライン領域 I II IIIの位置を (c)のインセットに示す

332 ペンタセン微結晶上の PCI-AFMライン測定321節と同様に作製したペンタセン薄膜試料の表面形状像を図 317(a)に示す321で得られたペンタセン薄膜 (図 312(a))と比べ比較的平坦部分が増しまたグレインの縁が単結晶のように直線的になっている本試料は前節と異なり蒸着中の基板温度を常温から 45Cに上げており蒸着量を約 5 nmとした基板温度の影響はペンタセンのグレイン構造に大きく影響を与えることが指摘されており [122]図 317(a)のペンタセングレインは基板温度を上げたことにより比較的結晶性の良いグレインとなっていると考えられる続いて図 317(a)の AndashBラインに沿って各点 IDndashVG のPCI-AFM測定を行った電極に +3 V各点における基板へのバイアス印加を +5 Vから minus5 Vとすることで実効的に電極がソースカンチレバーがドレインとなるように動作させこのときのドレインバイアス (VD)は minus3 Vゲートバイアス (VG)は +2 Vから minus8 Vと換算できるPCI-AFM測定は同一ライン上を複数回取得した得られた VG = minus8 Vにおける電流プロファイルの測定回数依存を図 317(b)に示す電流マップの上から下にかけて測定回数が増えるが少なくとも 10ラインはほぼ同一の特性が得られていることが分かるよってこの間は探針の変化は小さくまた試料の電気特性変化も起きていないと考え以下の解析では 2ndash8ライン目の計 7ラインを平均した結果を

4 PCI eXtentions for Instrumentation5 Field-programmable gate array6 National Insturments社のグラフィカルプログラミング統合開発環境の名称

33 単一微小グレイン OFETの特性評価 39

Tip Mirror tip

V

Electrode

(a) (b)

VminusV

PE(r)

rArB

x

A(L0)B(-L0)

r

y

0

Tip

図 318 2D伝導の理論的検討(a)電界広がりを考慮した抵抗体内の電界の模式図(b)鏡像電位 minusV を用いて求める場合の模式図電位 V中心点 A(d 0)半径 rの Tip接触部に対して鏡像Tipを電位 minusV中心点 B(minusd 0)半径 r の円と定めることでx gt 0の範囲で (a)と同一の電界分布となる

用いたなお測定の後半では若干電流値の減少が見られておりこの領域では探針の摩耗といった特性変化の影響が考えられる

PCI-AFMで得られた電流プロファイルの VG 依存性を図 317(c)に示す図 317(c)のインセットに位置を対応させた表面形状像を表示しているまず電極端に対応する位置で電流値が最大となっている電極直上ではゲートバイアスによる電荷蓄積の影響が現れにくくほぼペンタセンの真性状態の特性しか現れていないと考えられるため電流値が減少したと考えられる次に電極からの距離が遠くなるに従い電流値の減少が見らるがグレイン内を通る距離が増える分抵抗が大きくなることと合致する最後に絶縁膜である SiO2 上では電流は検知されず漏れ電流やゲートバイアス掃引による影響は排除できていると考える電流プロファイルからはグレイン内で距離が増加するに従い電流が減少する傾向に明確な違いは見受けられないが図 317(d)のように R = |VDID|で変換した抵抗値のプロファイルを見ると傾向の違ういくつかの領域があることが分かる電極からの距離が近い順に領域 I II III と名付けると領域 I は電極端から非線形的に抵抗が増加している一方領域 IIは距離に対して線形に変化しており特に VG lt minus4 Vで顕著である領域 IIIは単調な変化をしていないが対応する表面形状から別のグレインが繋がったものと考え今回の評価からは除外する以下領域 I IIを含むペンタセングレインを微結晶と呼ぶ

333 抵抗の距離依存性の理論数値的検討前節では微結晶上の領域 I IIで異なる抵抗の距離依存性を確認できた本節では特に領域 IIに注目し微結晶本来の特性の抽出を検討する

理論的考察 抵抗率 ρの抵抗体の抵抗を考えるとき最も基本的な伝導は全ての電界が抵抗体内では平行に分布する場合であるX Y Z 方向にそれぞれ長さ L w t の直方体の X 方向の両端に電極を接続する場合の抵抗 Rは

R = ρLwt

(311)

のように電極間距離 L に対して線形に変化するこのような伝導を以下 1D 伝導と呼ぶしかし図 317(a)の表面形状像では微結晶が電極に接触している部分が多く図 318(a)のように電界が平行ではなく平面上を広がる可能性があるこのような伝導を 2D伝導と呼ぶ2D伝導における抵

40 第 3章 AFM電流測定法を用いた有機グレインの局所電気特性評価

抗を求めるため試料をシート抵抗 ρ厚さ 0の抵抗体と考えx = 0で y方向に無限に長い電位 0

の電極および点 A(L 0)を中心とする半径 r電位 V の円を接触している Tipと考え接触電流測定のモデルとする図 318(b)のように点 B(minusL 0)を中心とする半径 r電位 minusV の円を Tipの鏡像を考えるとx gt 0の範囲は求める電界分布と同一であるここで点 P(x y)の位置が点 A Bそれぞれからの位置ベクトル rA rB で表されるときTipおよび Tipの鏡像が作る点 Pにおける電界はそれぞれ定数 λを用いて

EA =λ

2πrA

|rA|2 EB =

minusλ2π

rB

|rB|2(312)

と表される7よって点 Pでの x方向の電界 Ex は

Ex(x y) =λ

[L minus x

(L minus x)2 + y2 minusL + x

(L + x)2 + y2

](313)

であるTipndash電極間に流れる電流を I とすると電極上 x = 0における電界から電流が

I =1ρ

int infin

minusinfinminusEx(0 y)dy

ρπ

int infin

minusinfin

LL2 + y2 dy

ρπ

int π2

minus π2dθ =

λ

ρ(314)

と表されることからλ = ρI と求まる一方Tipndash鏡像 Tip間の電位差は

2V = minusint Lminusr

minus(Lminusr)Ex(x 0)dx

= minusρI2π

int Lminusr

minus(Lminusr)

[1

L minus xminus 1

L + x

]dx

= minusρI2π[log(L minus x) minus log(L + x)

]Lminusrminus(Lminusr)

=ρI2π

log4L2 minus r2

r2 (315)

と表されるため2D伝導の抵抗 R2D は

R2D =ρ4π

log4L2 minus r2

r2 (316)

と求まるL - rのときR2D sim ρ2π log 2Lr となるため1D伝導とは異なり距離に対して対数的に変

化することが分かる過去の SPMを用いた報告として2つの探針を有する STMを用いてポリ 3-オクチルチオフェン

(poly(3-octylthiophene) P3OT) の薄膜の抵抗率を測定した結果がある [128]この報告では非常に広い薄膜を用いているため距離に対して対数的に変化する 2D伝導として記述できることから抵抗率を算出している一方で有機薄膜における探針電流測定において実効的なチャネル幅を見積もることで線形的な変化とみなす試みもなされている [129]しかし有限要素法による解析ではチャネルの存在が仮定されておらずバルク部での電界の広がりとチャネル領域との振る舞いの違いが懸念される

33 単一微小グレイン OFETの特性評価 41

Electrode

(buried)

Bulk (σbulk)

Channel (σch)

Contact area (Tip)

tbulk

L

Lmax

w

teltch

r

図 319 有限要素法による OFETモデルの電界シュミレーションに用いた試料モデル

表 32 有限要素法による OFETモデルの電界シュミレーションで用いたパラメータ印以外は実測に則した値を用いており印はモデル化のため仮定した

Parameter Description Value

tel 電極厚さ 5 nm

tbulk 有機膜厚さ 20 nm

tch チャネル層厚さ 1 nm

w 電極接触幅 100 nm

Lmax 微結晶最大長 100 nm

σch チャネル導電率 1 Sm

σbulk バルク部導電率 01 Sm

r 探針接触半径 5 nm 10 nm

数値的考察 理論的な考察を踏まえ実際の測定系に近いサイズで電界がどのように振る舞うか調べるために本研究でも有限要素法による電界シュミレーションを行った図 319に電界シュミレーションで用いた試料モデルの模式図を対応する用いた各種パラメータを表 32にそれぞれ示す各種パラメータは用いた電極および図 317(a)から求まる概算の実測値を用いている絶縁膜直上の 1分子層にほとんどの電荷が蓄積されることが知られているため [130]チャネル層の厚さは簡単に 1 nmとした図 320に電界シュミレーションで得られた電流密度マップを示すほとんどの電流は速やかにチャネル層に到達しておりまた電極接続幅全体に渡っていることが分かる特に電極端から 20 nm程度は平行にほぼ同じ電流密度で流れているこれは 2D伝導よりも 1D伝導に近いことを示唆する結果である図 321(a)に探針接触径 r = 5 nm 10 nmのときの抵抗距離依存性の計算結果を示すどちらの接触径においても距離に対してほぼ線形に変化していることが明瞭である接触径が 10 nm から 5 nm になることで距離 0 での抵抗がほぼ 2 倍となっている距離 0

7 2次元伝導の場合無限遠点の電位が 0とはならない [127]

42 第 3章 AFM電流測定法を用いた有機グレインの局所電気特性評価

(a)

r = 10 nm L = 80 nm

(b)

Tip

Electrode

50 nm

図 320 OFETモデルの電界シュミレーションで得られた電流密度マップr = 10 nmL = 80 nmのときの結果を示している

0

200

400

600

800

0 20 40 60 80 100

5HVLVWDQFHgt0ї

LgtQP

r = 10nm

r = 5nm

0

5

10

0 5 10

Appa

rent

ѫchgt6

P

5HDOѫchgt6P

FittingCalculation

(b)(a)

図 321 OFETモデルの電界シュミレーション結果(a) r = 5 nm 10 nmにおける抵抗の距離依存性(b) r = 10 nm におけるチャネル導電率を変化させたときの見かけの導電率の変化(a)の 30 nmndash80 nm 間の傾きを dRdL としたとき見かけの導電率は σprimech = (wtch

dRdL )minus1 で記述され

る値

のとき電流経路はほぼバルク部分のみであるため接触抵抗とみなすことができる一方傾きは接触径によりあまり変化していないことから実際の測定における接触径と異なるとしても距離依存性への影響は小さいと考えられるこのように距離に対して線形に変化することから微結晶上のPCI-AFM測定では 1D伝導とみなして評価できるといえる電極付近ではほとんどの電流がチャネル中を流れるとすると微小な距離増加 dLに対する微小な抵抗増加は dR = dL(σchwtch)と記述できるよって抵抗ndash距離依存性の計算結果における傾き ( dR

dL )からチャネル導電率は

σapparent =(wtch

dRdL

)minus1(317)

と計算される図 321(b)にチャネル導電率を変化させた際の計算結果における dRdL から算出した見

かけのチャネル導電率のプロット結果を示す実際のチャネル導電率がバルク導電率に近い場合見かけの導電率は大きく異なるがチャネル導電率がバルク導電率に比べて非常に大きいときは実

33 単一微小グレイン OFETの特性評価 43

0

2

4

6

8

10

12

-8-6-4-2 0 2

S gtQP

ї

VGgt9

ch

101

102

103

104

-8-6-4-2 0 2

WR

pgtNїAtildeFP

VGgt9

(a) Channel conductivity (b) Parasitic resistance

図 322 PCI-AFMにより得られた微結晶上の抵抗の距離依存性 (図 317(d))のうち領域 IIについて TLMで抽出した (a)チャネル導電率 S ch(b)寄生抵抗 Rp

際と見かけの導電率はかなり似通ってくるまた図 321(b)のプロットを線形フィッティングすると傾きは約 09となり dR

dL から計算されるチャネル導電率は実際の導電率とほぼ同等ということが分かった

微結晶のパラメータ抽出 以上の理論数値的検討よりPCI-AFM測定で得られた微結晶の領域IIにおける抵抗の距離依存性は 1次元伝導として解析可能だと結論づけたOFETとチャネル長との関係は非常に深くこれまで多くの研究において 4端子法 [41 53]や TLM [48 131ndash134]を用いた真の OFETチャネル伝導特性評価が試みられてきたこれら手法は OFETの特性に含まれる接触抵抗と OFET本来の特性とを分離するための手法でありOFET特性に由来する抵抗のチャネル長依存性が線形であることを利用しているTLMの方法を以下で説明するOFETの線形領域における特性より全抵抗 Rは

R = Rp +L

wCimicro(VG minus Vth)minus1 (318)

と記述できチャネル長 Lに対して線形に変化する但しチャネル幅 w単位面積あたりの絶縁膜容量 Ciしきい値電圧 Vth移動度 microであるチャネル長を変化させたデバイスを作製すると理想的には L以外のパラメータは一定なため距離依存の線形近似により移動度および切片から接触抵抗 Rp を求めることができるもしくは全抵抗の距離微分の逆数 (チャネル導電率)S ch が

S ch equiv(dR

dL

)minus1= wCimicro(VG minus Vth) (319)

のようにゲートバイアス VG に対して線形に変化することからしきい値電圧も抽出することができるこちらの手法を Gated-TLMと呼ぶこともある図 317(d)の領域 IIのうち電極からの距離 30 nmndash100 nm間についての線形近似で得られたチャネル導電率 S ch および寄生抵抗 Rp を図 322に示す寄生抵抗の影響を排除したにも関わらずチャネル導電率は式 (319)のように VG に対して線形に変化していないそのため移動度がゲートバイアス依存をもっていると解釈できるこのような移動度のゲートバイアス依存は有機層がエネルギーに対して指数的に分布するトラップ準位を有す場合に発現することが知られ半経験的な式

44 第 3章 AFM電流測定法を用いた有機グレインの局所電気特性評価

として次のような形が知られている [135 136]

micro = κ(VG minus Vth)α (320)

指数分布する局在準位と伝導に寄与する準位との間を行き来しながら電荷が通過することでチャネル内伝導が起こるとしたMultiple trapping and release (MTR)モデルではこの移動度のゲートバイアス依存性が解析的に導かれている [137]一方で指数分布するトラップ準位を考慮した電気伝導はアモルファスシリコン (a-Si)を用いた FETで記述された考え方であり [138]非常にトラップが多い系を対象とする式 (320)を考慮した移動度の抽出手順としてσch を 1(α + 1)乗 (α ge 0)しminus3 V le VG le minus8 Vの範囲に対して線形最小二乗法フィッティングを行いフィッティングの確実度(=回帰の平方和総平方和)が最も 1に近くなるような αを最適値とした最適フィッティングパラメータはα = 218でありこのとき Vth = 03 Vκ = 315 times 10minus6 cm2(V1+α middot s)となった過去の報告では αの値は 1程度かそれ以下であり [135 136]本研究で得られた値は大きく異なる一方MTRモデルを考えαをトラップ深さに対応するエネルギーに変換すると 80 meVとなる比較としてペンタセンを用いた OFETにおける活性化エネルギーとしては 20 meVndash40 meVが知られている [2953]またAFMポテンショメトリーを用いたペンタセングレイン内の電位測定からグレイン内部のバンドゆらぎが 20 meV 程度あることが指摘されている以上の結果もやはり本結果よりもエネルギーが小さい値である今回測定した微結晶においてこのようにトラップに対応するエネルギーがこれまでの報告に比べ大きい理由としては以下のことが考えられる第一にOFET

の移動度は有機ndash絶縁膜界面によって非常に影響を受けるということである絶縁膜 SiO2 の表面に塗布するバッファ層の種類により移動度が一桁以上変化する報告もあり [139]本研究では有機ndash絶縁膜界面が比較的トラップリッチだったことが考えられる第二に電極ndash有機界面部分の特性がTLMのみでは排除しきれていない可能性がある図 320の電界シミュレーション結果より電流密度が電極付近で非常に大きくなっていることが分かるそのためたとえ距離依存性からチャネルのみの特性を抽出していたとしても電極付近の特性が特に含まれている可能性がある電極付近は通常のチャネル部よりも活性化エネルギーの高さが指摘されていることからも [53]考慮にいれるべきであろう

334 電極近傍の電気伝導特性本節では図 317(c)の領域 Iに注目する領域 Iは電極からの距離がおよそ 25 nm以内であるがペンタセングレインの厚さが 20 nm程度ということを加味すると電流経路としてチャネルを通らずに探針ndash電極間で直接伝導するものも含まれうるこのとき探針ndash電極間直線距離 Ldirect に応じて増加する抵抗 Rdirect を考えると全体の電流は図 323(a) のように式 (318) で記述される OFET

の抵抗を経由する電流 IFET = VD(Rp + RFET)と直接伝導する電流 Idirect = VDRdirect の和となるただし図では式 (318)の右辺第二項を RFET としたここで図 317(c)における電流距離依存性をLminus1

direct に対する依存性に変換したものを図 323(b) に示すただし電極ndash探針間水平距離 L膜厚tbulk = 20 nmに対して Ldirect =

radicL2 + t2

bulk としたもし Idirect なる成分がない場合1Ldirect が増加しても IFET は VDRp で飽和するその傾向は図 323(b) の領域 II(距離減少に対して IFET 増加) および IIrsquo(IFET 飽和)にあらわれている一方領域 Iに対応する箇所では 1Ldirect に対して増加しておりこの増加する成分が Idirect に対応すると考えられるまた領域 Iの 1Ldirect に対する傾き

34 AFMによる接触電流測定の問題点 45

0

05

1

0 002 004

Cur

rent

[nA]

1Ldirect [1nm]

2 V0 Vndash2 Vndash4 V

ndash6 V

ndash8 VVG

III IIrsquo

Rp

RFET

RdirectIdirect

IFET

Tip

Electrode

(a) (b)

IFET

Idirect

図 323 (a) チャネルを通る伝導 (電流 IFET) に加えて電極近傍における探針ndash電極間直接伝導(電流 Idirect) を考慮した回路モデル(b) 図 317(c) の電流を探針ndash電極間直線距離 Ldirect の逆数1Ldirect に対してプロットしたグラフ領域 I と領域 II (IIrsquo 含む) はそれぞれ図 317(c) のインセットにおける領域 I IIに対応する

VG VD

Cantilever(source)

GrainCarrier

Electrode(drain)

VG ndash VD ndashVD

Cantilever(drain)

Grain

GateCarrier

Electrode(source)

(a) Cantilever-Source (b) Cantilever-Drain

Gate

図 324 カンチレバーのソース動作 (a)ドレイン動作 (b)の模式図とキャリア (正孔)の動きドレイン動作時は固定電極に minusVDゲートに VG minus VD を加える事で(a)とバイアス条件を同じにしながらカンチレバーの接続を変えることなくドレイン動作させることができる

つまり直接伝導の抵抗率は VG 依存性を持っておりVG lt minus4 Vの領域で比較的一定であるIdirect

の電流成分はチャネル部を通過していないのにも関わらずこのような抵抗変調が起きる原因として電極を覆うグレインの存在が考えられる本試料のように電極をゲート絶縁膜直上に形成後有機薄膜を作製するボトムコンタクト型 OFETにおいて電極直上のドーピングによる効果が観測されている [140]これは電極直上の薄膜部分も伝導に関与していることを示しておりVG の印加によるキャリア変調も起こる可能性があるつまり図 323(b)の領域 Iで見られた抵抗率の VG 依存性は電極直上の薄膜の存在が接触抵抗を減少させうることを示唆する結果といえる

34 AFMによる接触電流測定の問題点32節では PCI-AFMの電流マッピングを活用し単一グレインを挟んだ際の OFET特性変化を

33節では PCI-AFMの位置依存性評価を推し進め微結晶のナノスケール TLM評価に適用することで微結晶のみの伝導特性を抽出できた一方ナノスケール TLMでは図 322(b)のように寄生抵抗も抽出でき従来の TLMではこの成分を接触抵抗とするがAFM電流測定では電極ndashグレイン界面の接触抵抗 (電極接触抵抗)だけでなく探針ndashグレイン界面の接触抵抗 (探針接触抵抗)も含む近似的に接触面積が接触抵抗に影響すると考えると探針接触抵抗の方が大きいということが予期

46 第 3章 AFM電流測定法を用いた有機グレインの局所電気特性評価

0

10

20

30

40

-5-4-3-2-1 0C

urre

nt [n

A]VD [V]

VG

ndash10 Vndash5 V

0 V

ndash15 V

-40

-30

-20

-10

0-5-4-3-2-1 0

Cur

rent

[nA]

VD [V]

VG

ndash10 V

ndash5 V

0 V

ndash15 V

Electrode

Pentacenegrain

(a) Topography (b) Cantilever-source (c) Cantilever-drain

Contactingpoint

図 325 カンチレバーをペンタセングレイン (表面形状像 (a) の x 点) に接触させて測定したVDndashID 特性(b)カンチレバーのソース動作時(c)ドレイン動作時

されるここで探針接触抵抗と電極接触抵抗の均衡性について議論するためカンチレバーをソース動作させた際とドレイン動作させた際の特性変化を調べた (図 324)セットアップの都合上カンチレバーには電圧を印加できないため固定電極に minusVDゲートに VG minusVD を印加することで実効的にカンチレバーを OFETのドレインつまりキャリア (正孔)の引き抜き側として動作させた図 325(a)の x点で示すペンタセングレイン上の 1点にカンチレバーを接触させカンチレバーをソースドレイン動作させVG = 0 V minus5 V minus10 V minus15 Vについて IDndashVD 特性を測定した結果をそれぞれ図 325(b) (c)に示す結果よりカンチレバーのソース動作時はドレイン動作時に比べて電流が半分程度となったOFETの接触抵抗はドレイン電極端よりもソース電極端の方が大きいことが知られている [141]そのため探針接触抵抗が電極接触抵抗に比べて支配的であることでこのようにカンチレバーのソースドレイン動作による非対称性が現れたと考えられるこのことはナノスケール TLM で抽出された寄生抵抗の大部分が探針接触抵抗によるものであることを示しておりAFM電流測定を用いた電極接触抵抗評価は困難であると考えられる

35 本章のまとめ本章では PCI-AFM を用いた OFET の局所電気特性評価について検証および測定を行ったまず従来手法では困難であった真空中動作を Q 値制御法の利用により実現し効率的な動作パラメータ設定と柔軟な point-by-point 動作設定が可能な制御プログラムの作成を通したフレキシブルな PCI-AFMシステムを構築したペンタセンのマルチグレイン薄膜上の測定から雰囲気による特性変化がグレイン内部で起こることを示したまた単一グレイン境界によるしきい値電圧変化を電流像として可視化できPCI-AFMが位置依存での電気特性評価に有効であることが示された一方単一グレイン上での測定では数値計算から TLM による距離依存性評価が可能であるとわかり単一グレイン上で 100 nm以下のスケールでの TLMを達成したしかしTLMから求まった寄生抵抗には電極ndashグレイン界面の接触抵抗以外に探針ndashグレイン間の抵抗が含まれてしまい探針のソースドレイン電極動作結果から探針ndashグレイン間抵抗が支配的であることが分かった以上のことはPCI-AFMによる OFET評価はグレインndashグレイン間やグレイン内の ldquo比較rdquoがあれば定量的評価が可能であるが比較をとることのできない電極ndashグレイン界面の電気特性評価には向かないことを示している

47

第 4章

新規局所インピーダンス評価法の開発と金属―有機界面物性の評価

3章では PCI-AFMを用いた OFETのナノスケール TLMを行い単一グレイン境界や単一グレイン内伝導の分離評価を達成した一方電極ndashグレイン界面については探針接触抵抗の影響が大きいため評価が困難であることが明らかとなった局所電気特性のうち未達成である電極ndashグレイン界面電気特性の評価のため次の二点に注目する一点目として2章で述べた EFMをベースとする非接触測定により接触抵抗の影響を回避する二点目としてIndashV 測定のような直流評価に留まらず複数物性評価を通したより詳細な物性議論を行うことであるこれはインピーダンス分光や容量ndash電圧測定のようなマクロ薄膜での評価法の AFM応用やKFMによる準位評価 [142 143]を併用することで可能となることが期待されるよって本章では電極ndashグレイン界面の電気特性の選択的評価を行うための新規局所インピーダンス評価法を開発し界面電気特性の由来となる物性の解明を目的とする

41 走査インピーダンス顕微鏡 (SIM)

本研究の目指す AFM を用いた局所インピーダンス評価応用としてはこれまでに走査インピーダンス顕微鏡 (Scanning impedance microscopy SIM) という手法が開発されているSIM はPennsylvania大の Kalinin Bonnellによって 2001年に開発された AFMの応用手法であり試料の水平方向の局所インピーダンスを検出できる [144]SIMの基本的な装置構成を図 41に示すSIM

は AM-AFMの Liftモードで動作する先に AM-AFMにより表面形状像を取得しそのプロファイルに沿って試料より一定距離高いところを走査する試料としては水平方向に材料 A Bが接続もしくは同じ材料でも垂直方向に defect が存在する系を考えるこの材料 A B の間に角周波数 ωの交流電圧を加える表面電位 Vsurf は

Vsurf = Vs + Vac cos(ωt + φc) (41)

と記述できる但しVs は試料表面の直流電位Vac および φc は交流電位の振幅および位相であるこの交流電圧による静電気力 F(t) = F1ω cos(ωt + φc)は

F1ω =partC(z)partz

(Vtip minus Vs)Vac (42)

48 第 4章 新規局所インピーダンス評価法の開発と金属―有機界面物性の評価

LDPSPD

ω

Reference

Sample

Local impedance

A B

Lock-in amp

Amplitude amp Phase

図 41 走査インピーダンス顕微鏡 (SIM)の装置構成図

のように交流電圧の振幅に比例し同じ位相となる静電気力によりカンチレバーも振動を生じるが振幅は F1ω に比例し位相は振動特性による位相差 φを含む φc + φとなるこのときAndashB境界部分にインピーダンスが存在するとA Bでの交流電圧に位相差 φBA が起きるこれによりカンチレバーに生ずる振動の位相はA上で φc + φB上で φc + φ + φBA となるためその位相差が直接 AndashB間交流電圧の位相差として検出できる2002年の報告では界面インピーダンスがより厳密にモデル化できる金属ndashSi ショットキー界面を用いている [145]ショットキー界面の抵抗ndash容量(RC)並列回路によるインピーダンスを Zd とし回路の両端に定抵抗 Rを挿入すると位相差は電流に関わらず

tan(φBA) =Im( R

Zd+R )

Re( RZd+R )

(43)

と求まるためカンチレバーから検出した位相差とショットキー界面の理論式からショットキー界面の抵抗容量を算出している以降SIMの基本的な技術は同じにしつつ非線形応答 [146]や走査ゲート顕微鏡を組み合わせることで CNTの欠陥の可視化 [147]CNTネットワークの電気特性 [148]といった様々な試料の面内方向に関する電気的な局所物性の評価に用いられてきたしかしLiftモードでの測定で試料表面より 100 nmという非常に離れたところで静電気力を測定しているため空間的な分解能はそれよりも大きいものとなってしまうまた直流電位を測定する別の手法と組み合わせることで詳細な評価を行なっているが完全に同位置の測定ができないこと元々試料に高電位がかかっている場合に SIMの測定中は打ち消せないことなどの問題が内在しているSIMを OFETの局所物性評価に応用する場合まずグレインが 1 microm以下の微小なものであることや比較的高いバイアスオフセットがかかるといった以上で述べた問題に関わる上に真の物性測定のためには真空中での測定が不可欠であるSIMでは振幅変化を捉えるため真空中での測定は問題となる可能性がある

42 周波数変調走査インピーダンス顕微鏡 (FM-SIM)の開発本研究では従来の SIMのコンセプトを踏襲しOFETの評価に適した新規手法である周波数変調走査インピーダンス顕微鏡 (Frequency-modulation SIM FM-SIM)を提案する従来の SIMの問題点である真空中評価に関しては FM検出方式の導入により改善され同時に Liftモードを用いるこ

42 周波数変調走査インピーダンス顕微鏡 (FM-SIM)の開発 49

FM-SIM

FM-AFMTopography

(height control)

FM-KFMLocal potential

(bias oset)

FM-EFM

SIM

Local AC signal

Lateral AC bias

図 42 周波数変調インピーダンス顕微鏡 (FM-SIM)に含まれる既存技術の概要図

Lock-in amp

Lock-in amp

Bias feedbackSelf-excitationblock

Frequencydetection

Heightfeedback

Scanner

LDPSPD

Sample AC

Tip AC

InsulatorGate

Grain

Electrode

Topography

FM-SIM signal

Local potential

図 43 FM-SIM 測定における基本装置構成図図中の灰色の要素が FM-AFM紫色の要素がKFMそして橙色の要素が FM-SIMの技術に対応する

となく静電気力の検出が可能となるさらに FM-KFM を組み合わせることで直流電位の影響を排除でき表面形状直流電位と同時に交流電圧による局所的な応答を取得することができるようになる図 42に FM-SIMに含まれる SIMや既存技術の関係を示す

421 FM-SIMの原理FM-SIM測定における基本的な装置構成を図 43に示す本研究ではまず金属ndash有機グレイン境界における局所インピーダンス評価を対象とするまず 244節の説明と同様にFM-AFMによるカンチレバーの共振周波数での励振および共振周波数シフト (∆f dc)の変化を一定にするような高さ制御により表面形状像を得る次にVt = Vdc

t + Vact cosωtt なるバイアスをカンチレバーに加え

る但しVdct は FM-KFMにより探針ndash試料間電位差を打ち消すための制御電圧である同時に試

料上の電極に交流電圧 Vacs cosωstを加える局所的な電位がVlo = Vdc

lo + Vaclo cos(ωst + φlo)と記述

50 第 4章 新規局所インピーダンス評価法の開発と金属―有機界面物性の評価

できるときカンチレバーが感じる静電気力は次の FES で与えられる

FES =12partCts

partz[Vdc

lo + Vdct + Vac

t cosωtt + Vaclo cos(ωst + φlo)

]2 (44)

ここでzCts はそれぞれ探針ndash試料間の距離および容量であるFES にはいくつかの周波数成分があり以下の 7つの成分に書き下される

DC FdcES =

12partCts

partz

(Vdc

lo + Vdct +

12

Vaclo +

12

Vact

)2

ωt F tES =

12partCts

partz(Vdc

lo + Vdct )Vac

t cosωtt

ωs FsES =

12partCts

partz(Vdc

lo + Vdcs )Vac

lo cos(ωst + φlo)

2ωt F2tES =

14partCts

partz(Vac

t )2 cos 2ωtt

2ωs F2sES =

14partCts

partz(Vac

lo )2 cos(2ωst + 2φlo)

ωt plusmn ωs F tplusmnsES =

12partCts

partzVac

t Vaclo cos

[(ωt plusmn ωs)t plusmn φlo

](複号同順) (45)

ここでF tES により生じる周波数変調成分 ∆f t をロックインアンプ (Lock-in amplifier LIA)で検出

しその振幅成分が 0となるようフィードバック回路により直流電圧 Vdct を制御するこのような

FM-KFM動作により表面 (直流)電位 Vdclo = minusVdc

t が測定されるこれら FM-AFM FM-KFMが動作している状態で試料の交流電圧の振幅位相成分を測定することを考えるまず上記のように Vdc

t を設定することでωs 成分である FsES が同様に 0となるこ

とが分かるためωs 成分を用いて評価することはできない残る成分のうちVaclo および φlo が含ま

れている成分は F2tES Ftplusmns の 3つであるしかし2ωs 成分である F2s

ES から定量評価するには測定した振幅に対し二乗根を取る必要がありSNの低下が懸念される一方F tplusmns

ES は試料の交流電圧に比例するためF tplusmns

ES により生じたカンチレバーの周波数変調信号 ∆f tplusmns も Vaclo に比例した振幅およ

び φloと一致する位相をもつよって ∆f の ωtplusmnωs成分を測定することでより単純に試料の交流電圧を測定できると考えられるここで特にカンチレバーの周波数変調信号の和周波成分を「FM-SIM

信号」と呼ぶ以下の議論では簡単のため試料上の交流信号と FM-SIM信号はフェーザ形式を用いて表しそれぞれ Vx∆fx の記号を用いるただし交流信号は実振幅 Vac

x と位相 φx を用いてVx = Vac

x ejφx と書き下しFM-SIM信号は複素比例係数 αを用いて ∆fx = αVx と表すαは探針ndash試料間距離が同じで∆f dcや振動振幅を同一条件にしている限り測定内では一定とみなせるまたx

は試料上のある場所を表す suffixでありx = el(電極上) lo(有機膜上) g(ゲートゲート絶縁膜上)

とする

実際の装置構成 421節では基本的な装置構成に基づいて局所交流信号を得る方法を説明したしかし実際の測定では複数の装置や設定項目を用いているためそれらについてここでまとめておく図 44に OFET上で FM-SIM測定を行う場合の実際の装置構成および配線図を示すただし図 41における自励発振系FM-AFM部分については省略したAFMコントローラは 33節と同じく PXIベースの自家製コントローラを使用し自励発振系周波数検出器 (PLL)Bias feedback

および加算器 (Adder) は研究室で作成された自家製回路であるLIA として Zurich Instruments 製HF2LI-MF (以下 ZI-LIA)エヌエフ回路設計ブロック製 LI5640 (以下 NF-LIA)を用いたまた以

42 周波数変調走査インピーダンス顕微鏡 (FM-SIM)の開発 51

AFM controller(data in)

Lock-in amp(ZI-LIA)

Osc 1

In 1 In 2 Out

Osc 2

fs ft

Lock-in amp(NF-LIA)

Ref OutIn

Frequency detection(PLL)

InsulatorGate

AC elOpposite el

Deection Biasfeedback

VG

IAC

IDC

RG

RacRopp

VDS

el = electrode

LPF

図 44 FM-SIM測定における実際の装置構成および配線の詳細図

後 FM-SIMによる全ての測定は真空度 1 times 10minus3 Pa以下の高真空中で行ったその他の構成設定は以下のとおりである

用語定義 交流バイアス印加電極 AC 電極 (AC el ldquoacrdquo)印加していない方の電極 対向電極(Opposite el ldquoopprdquo)とする

DCバイアス ゲート (Si基板)に VG をAC電極に VD(ドレイン動作の場合)VS(ソース動作の場合)を印加

KFM変調 ZI-LIA(Osc2)より振幅 Vact = 2 Vp-p周波数 ft = 1 kHzで変調

KFM検出 NF-LIAによりPLLからの出力 (∆f )に対してZI-LIA(Osc2)の信号を Referenceとして in-phaseを検出その信号を Bias feedback回路へ

FM-SIM変調 ZI-LIA(Osc1)よりAC電極に振幅 Vacs = 1 Vp-p周波数 fs(測定により異なる)の交

流電圧を印加FM-SIM検出 ZI-LIAにより∆f に対して ft + fs 成分の振幅 (R)位相 (φ)を検出しAFMコン

トローラで画像化電流 対向電極から流れる電流を Femto製電流アンプ DLPCA-200により検出直流成分 (IDC)は

LPF(lt 1 Hz) に通した信号を交流成分 (IAC) は ZI-LIA により fs 成分の振幅位相を検出しそれぞれ AFMコントローラで取得

実験によって電流を取得していないなどの違いが若干あるが測定時している場合の構成は基本的に上述のとおりである以下に特記事項について述べる

ロックインアンプ設定 FM-SIM測定のためにはft + fs という和周波の Lock-in検出が必要となるよりフレキシブルな測定のため本研究では Zurich instruments 社の HF2LI-MF(以下 ZI-LIA)

52 第 4章 新規局所インピーダンス評価法の開発と金属―有機界面物性の評価

を用いたZI-LIA上で和周波を Lock-in検出する方法として以下の 3方式について順に検討した

1 ZI-LIAの PID機能を用いて和周波数を作成し検出2 Reference周波数として直接 ft + fs を入力し検出3 ft fs をそれぞれ fbase の m倍波n倍波として出力し fbase の (m + n)倍波を検出

1は fs を中心とし入力 ft に対してゲイン minus1の周波数フィードバックをすることで ft + fs が作成できるしかしこの 1と 2の方式は fs と ft + fs との間に同期が取れている保証がない特に画像取得など長時間要する場合は測定の初めと終わりで位相のオフセットが変化してしまう例として1 kHzに対して 1 times 10minus3 Hzのズレ (つまりビート)が存在する場合1分あたり元信号に対して約 20 変化してしまう一方3の方式はZI-LIA上からどちらの周波数信号も出力すれば ZI-LIA

内で確実に同期が取れていることから同一条件であれば位相オフセットは同じとなるよって以降の FM-SIM 測定では 3 の方式を用い設定周波数はベース周波数 (例 200 Hz ) および倍波指定(例 4倍波)に対して ldquo800 Hz(200 Hz times 4)rdquoのように示すこととするまた図 44の ZI-LIA In 1についてPLLからの出力は minus5 V付近なのに対しZI-LIAは plusmn1 V

の範囲でしか入力できない一方ZI-LIAの入力を AC couplingにすると 1 kHz以下の信号にフィルタがかかってしまい振幅の減少と位相変化が生じるよって本研究では入力段に 100 nF のキャパシタを直列に挿入することでカットオフ周波数が 10 Hz以下の HPFとした

回路抵抗 本研究では図 44 のとおりOFET の電極ゲートとの接続部分に直列に抵抗を挿入した理由として(1) 従来の SIM [147] で厳密にインピーダンス解析を行う場合にも挿入しているため(2)対向電極の FM-SIM信号がほぼ 0な場合に LIAで位相検出が困難になることを防ぐためである(2) については対向電極上のデータが最終的に不要となる場合もあるが画像化を重視し基本的に抵抗を挿入することとする特記がない場合以下の実験では Rac = RG = 10 kΩ

Ropp = 1 MΩを使用した

422 OFETにおける FM-SIM応答の妥当性3章と同様の方法で作製したペンタセン薄膜に対しFM-SIM測定した下部電極を AC電極およびソース電極として交流電圧 ( fs = 800 Hz)と +1 Vの直流電圧を印加し上部電極は接地ゲートに +2 V印加しながら FM-SIM測定し表面形状表面電位像と同時に FM-SIM信号の振幅位相を取得しマッピングした結果を図 45に示す図 45(a)(b)に関しては FM-KFMと同様の測定でありグレイン形状に対応した電位分布が現れていることからFM-SIMと同時に KFMを動作可能であることがよくわかるFM-SIM 振幅像は AC 電極付近だけ非常に明るくなっておりAC

電極から離れたグレインや対向電極絶縁膜上はほぼ同じ信号強度であったFM-SIM位相像ではAC電極付近から離れるにつれて位相が正にシフトしており対向電極上は AC電極に比べて約 60

の違いが生じたここでAC 電極は直接交流電圧を印加しているため抵抗を介してはいるものの位相はほぼ印加電圧のそれと同じつまり理論上は 0 となるはずであるしかし図 45(d) から実際に測定された AC電極上の位相は 1264 であり大きく異なるこれは421節で用いた比例定数 αが実数ではないことに対応し周波数検波の PLLやカンチレバーの応答その他複数の要因により位相オフセットが生じていると考えられるしかし前述のように印加交流電圧の周波

42 周波数変調走査インピーダンス顕微鏡 (FM-SIM)の開発 53

04 V 16 V

5 mV 15 mV -150ordm -60ordm

(a) Topo

(c) SIM-amplitude

(b) Potential

(d) SIM-phase

(e)

(f)

0

20

40

0 200 400 600 800

-140

-120

-100

-80

SIM

-Am

pl [

mV]

SIM

-Pha

se [d

eg]

Distance [nm]

ElGr 1 Ins

0

20

40

0 100 200 300

-140

-120

-100

-80

SIM

-Am

pl [

mV] SIM

-Pha

se [d

eg]

Distance [nm]

El Gr 2

150 nm

A1

A2

B1

A1 B1

A2 B2

B2

AC el (+1 V)

GNDVG = +2 V

図 45 ペンタセン薄膜上の FM-SIM測定結果 ( fs = 800 Hz VG = +2 V)(a)表面形状像(b)表面電位像(c) FM-SIM振幅像(d) FM-SIM位相像(e) (f)それぞれ (a)の A1ndashB1A2ndashB2 ラインに沿った FM-SIM振幅位相プロファイルldquoElrdquo は電極ldquoInsrdquoは絶縁膜上の領域を示す

数を倍波設定で行なっているためオフセット値は常に一定であるよって以後の測定結果ではFM-SIM 位相の絶対値には意味を考えずAC 電極上の FM-SIM 位相が 0 となるように像全体からオフセットを差し引いた値を解析に用いることとする図 45(a)の A1ndashB1 および A2ndashB2 ラインに沿った FM-SIM信号のプロファイルを図 45(e) (f)に示すAC電極 (El)より左 (Gr1)では電極からの距離が遠くなるに従い徐々に強度が減衰しており最終的に絶縁膜上 (Ins)と同等の強度であるまた位相は距離と共に線形に正シフトしている一方 A2ndashB2 ライン上の Gr2では 10ndash20 mV

と絶縁膜上よりも強度が大きく位相も電極上と大きな違いはなくGr2 上ではほぼ一定であるOFET構造において FM-SIM測定を行い以上のように得られる結果が何に由来しているかについて(1)絶縁膜対向電極上の応答(2)有機膜上の応答の二項に分けて議論する

1 FM-SIM応答に則す回路モデル 図 45の測定と同時に取得した対向電極での交流電流 IAC は693 nArmsang616 であった対向電極は GND との間に Ropp = 1 MΩ を挿入しているため対向電極上の交流電圧の位相は IAC と同じはずであるが前述の位相オフセットのためズレが生じている一方 AC電極と対向電極との FM-SIM位相差が約 60 であることと交流電流の位相が良い一致を示しているため測定された交流電流は正しく OFET回路における応答を反映したものと考えられる交流電圧に対する対向電極への信号の伝わり方として(i) AC電極ndashゲート間およびゲートndash対向電極間の容量を介した伝導(ii) AC電極ndash有機膜ndash対向電極という経路の伝導の二通りが考えられるしかしゲートバイアスを印加 (VG = minus4 V)して同様の測定を行うと 696 nArmsang614 という交流電流が得られる一方で後の測定で見られるように FM-SIM像が大きく変化するこれは有機膜

54 第 4章 新規局所インピーダンス評価法の開発と金属―有機界面物性の評価

GateInsulator

Rac Ropp

RG

C1 C2

Vac~

VG~

IG~

Iopp~

V0~

Vopp~

図 46 FM-SIM応答を考える上でゲート容量を介した伝導を考慮したマクロ回路モデル

表 41 マクロ回路モデルから計算された各位置における交流電圧および交流電流の計算値および FM-SIMから測定された実測値

計算値 実測値 (FM-SIM信号)

AC電極 VacV0 094ang minus 111 (1ang0)

ゲート VGV0 020ang669 018ang479 (絶縁膜上)

対向電極 VoppV0 020ang695 022ang637

IG 99 microAang669 NA

が OFET構造全体における交流電圧応答に関与していないことの現れであると考えられるため(ii)

による寄与は非常に小さいといえる(i)による寄与を回路モデル化すると図 46のように表されるAC電極対向電極ゲートそれぞれへの経路上の抵抗を Rac Ropp RG とおきAC電極対向電極とゲート間の容量を C1 = C2 = C とするAC 電極から角周波数 ω の電圧 V0 を入力しAC 電極上対向電極上ゲート上の複素電圧がそれぞれ Vac Vopp VG に決まる例えばVopp は

Vopp

V0=[1 minus 1

(ωC)2RGRopp+ Rac

( 1Ropp

+1

RG

)minus j

1ωC

( 2Ropp

+1

RG+

Rac

RGRopp

)]minus1(46)

のように与えられるここでRac = RG = 10 kΩ Ropp = 1 MΩ∣∣∣V0∣∣∣ = 1 Vp-pω = 2πtimes800 Hzのとき

に測定された対向電極での電流 Iopp の絶対値 69 nArms と一致するように C を求めるとC = 43 nF

となるこの値を用いて各位置における電圧および電流を求めた結果と図 45から求めた対応する FM-SIM信号の値を表 41にまとめたまず Vopp の振幅は計算値と実測値比較的よい一致を示しているまた絶縁膜上の信号はゲート上の計算値と比較的近い値であり絶縁膜上で測定されるFM-SIM信号はゲート由来のものであると推察される一方Vopp の位相は 10 程度異なる計算では全ての抵抗を既知としたがゲートが高ドープ Siであることによる酸化膜の影響や配線に用いた銀ペーストの影響によりRG に抵抗や容量が含まれている可能性があるこれらの影響で実際には理想的なモデルからは位相がずれてしまったと考えられるただ全体としては図 46の回路モデルは FM-SIM信号をよく表しており対向電極上の応答は (i)で決定されると考えられるつまり対向電極の応答はマクロ回路部で決定されるため有機膜ndash対向電極界面の FM-SIM信号変化はあまり意味を持たないよって FM-SIMを用いて有機ndash電極界面の物性議論を行うためには評価対象の電極を AC電極とすることに留意しなくてはならない次にAC電極ndashゲートに流れる電流は約 10 microAと対向電極の電流に比べて非常に大きいため対向電極の存在は交流電圧の振る舞い

42 周波数変調走査インピーダンス顕微鏡 (FM-SIM)の開発 55

にほとんど影響を与えていないといえるまた先述のとおりゲートバイアス印加による FM-SIM

像の変化があったとしても元々の AC電極ndashゲート間交流電流が大きいためVel や VG はほとんど変化しないよってこれら電圧は同一周波数同一サンプルではほぼ一定とみなすことができるこの事実は後の節で局所インピーダンス解析を行う上で局所領域とマクロ部分を分離して考えることのできる理由付けとなる

2 有機膜上の応答要因 図 45(e)の Gr1上の応答について考察するまずFM-SIM信号の振幅が速やかに減少しているため分布定数回路での記述が考えられる単位距離あたりの抵抗容量をそれぞれ r cとすると位置 xにおける複素電位 v(x)は微分方程式

d2vdx2 = jωcrv(x) (47)

を満たすため解は定数 κ =radicωcr2を用いて

v(x) = v(0)eminusκxeminusjκx (48)

と求まる距離が遠くなるに従い指数関数的に振幅が減少するが同時に位相が 1次関数的に減少(負シフト)することが分かるしかし図 45(e)では FM-SIM位相は正にシフトしているため分布定数による振幅の減衰ではないと判断できるここでGr1上が収束していく値と絶縁膜上の応答が比較的近いことから実際の Gr1 上の応答にゲートの応答がカップルしていることが考えられる図 47 に図 45(e) の Gr1 上およびゲート (絶縁膜) 上の FM-SIM 信号の極座標プロットを示すただし先述の議論に基づき AC電極上の位相が 0になるよう位相オフセットを施した確かに Gr1上の信号は最終的にゲート上の信号と一致するが収束するまでの値は AC電極上とゲート上の信号を結ぶ直線上にほぼ乗っているそのためGr1自体の応答の減衰に従いゲート上の応答が支配的になることで図 45の Gr1のような応答が得られたのだと考えられる一方Gr2は内部でほぼ一定でありGr1のような強度の減衰に伴うゲート応答のカップリングは見られないこの場合は AC電極から伝わった膜自体の交流電圧がそのまま応答として得られているといえるしかしAC電極とは振幅位相が若干異なりAC電極と Gr2の間に電気的な阻害要因つまり局所インピーダンスが存在すると考えられる後の議論で有機膜上の応答を検証する場合Gr1のようになだらかに変化する応答ではなくGr2のようにある程度一定の振幅位相の値をもちゲートからの応答が直接カップルしていない領域を対象とする

423 局所インピーダンスの解析422節では交流電流や回路モデルの観点からFM-SIMが AC電極対向電極そして有機膜上の交流電圧に対応する応答を測定していることを確かめた一方で有機膜上のインピーダンス変化に比べてマクロ回路の交流電流が非常に大きいため交流電流や回路モデルから局所インピーダンスの評価を行うのは困難であるしかしVel VG は同一条件内でほとんど変化しないことFM-SIM

測定中に同時に得られることからこれら信号をレファレンスとして利用できる可能性がある以下ではこれに基づいたインピーダンス解析法を提案し理想的な周波数特性を計算そして実際の FM-SIM測定から局所インピーダンスを得るプロセスを順に述べる

56 第 4章 新規局所インピーダンス評価法の開発と金属―有機界面物性の評価

-20

0

20

0 20 40

SIM

(im

ag)

[mV

]SIM(real) [mV]

On ins

On Gr1

Distant from El

ElGate

図 47 図 45(e)の A1ndashB1 ラインに沿った FM-SIM信号のうちGr1上および絶縁膜上 (Ins)それぞれについて極座標プロットした結果ただしAC電極上 (El)の位相が 0となるように位相オフセットを施した

Gate

FilmElectrode

Insulator

図 48 FM-SIM信号から局所インピーダンスへ変換するための等価回路モデル

局所インピーダンスへの変換 試料上に Lateralなインピーダンスが存在すると局所交流電圧が変化しFM-SIM 信号の変化から試料上の Lateral な局所インピーダンスの存在について議論はできるしかし局所インピーダンスを定量的に評価することはできないそこで図 48 のような等価回路を考える電極ndash有機膜界面のインピーダンスを Zlo とし有機膜下の実行的なゲート絶縁膜容量を Ci とする有機膜内のインピーダンスが電極ndash有機界面のインピーダンスに比べて十分小さく膜内の交流信号がほぼ一定と仮定できる場合図 48 の等価回路が成り立つまず測定したFM-SIM信号に対し正規化 FM-SIM信号 γを

γ equiv ∆flo minus ∆fg∆fel minus ∆fg

=Vlo minus Vg

Vel minus Vg(49)

のように定義するすると等価回路より γ は界面インピーダンスと実効容量インピーダンスによる複素電圧の内分と同等つまり

γ =1(jωsCi)

Zlo + 1(jωsCi)=

11 + jωsCiZlo

(410)

と記述できることが分かるつまり式 (410)により FM-SIM信号と界面インピーダンスを一対一に対応させることができる

理想周波数応答 インピーダンス分光ではインピーダンスの周波数依存性を複素平面表示したColendashColeプロットから系の等価回路を推定可能である本研究でも正規化 FM-SIM信号の周波数応答と界面インピーダンスとの関係について考察する式 (410)より様々な Zlo を仮定すること

42 周波数変調走査インピーダンス顕微鏡 (FM-SIM)の開発 57

2πCiRlo = 10 ms

CloCi = 2

(a) Amplitude

(c) Amplitude (d) Phase

(b) Phase

ќDP

SOLWXGH

0

02

04

06

08

1

10 100 1000)UHTXHQFgt+]

CloCi = infin

2

1

05

ќDP

SOLWXGH

0

02

04

06

08

1

10 100 1000)UHTXHQFgt+]

2πCiRlo33 ms10 ms33 ms

ќSKDVHgtGHJ

0

10 100 1000)UHTXHQFgt+]

2πCiRlo

10 ms33 ms

33 ms

ќSKDVHgtGHJ

0

10 100 1000)UHTXHQFgt+]

CloCi = infin

2105

Rlo Clo

Fixed C

Fixed R

図 49 正規化 FM-SIM信号の理想周波数応答 (界面インピーダンスが直列 RCの場合)(a) (b)CloCi = 2 に固定したとき2πCiRlo = 33 ms 10 ms 33 ms での振幅位相(c) (d) 2πCiRlo =

10 msに固定したときCloCi = infin 2 1 05での振幅位相

でその理想的な周波数応答が分かるまず界面インピーダンスが抵抗と容量の直列回路 (直列 RC)

で表される場合を考えるZlo = Rlo minus j(2π fClo)minus1 としRlo および Clo をそれぞれ変化させた際の正規化 FM-SIM信号の周波数応答を図 49に示すただし Ci が既知ではないためCi に対して正規化した値を与えたまず全体の形状として周波数の増加に従い振幅が減少し0へ収束するまた位相は 0から負にシフトしminus90 へ収束することが分かる抵抗を増加させると曲線の形状は変化しないが振幅位相共に低周波数側へシフトする一方容量が減少すると低周波側の振幅が減衰する次に界面インピーダンスが抵抗と容量の並列回路 (並列 RC) で表される場合を考えるZlo =

(Rminus1lo + j2π fClo)minus1 としRlo および Clo をそれぞれ変化させた際の正規化 FM-SIM 信号の周波数応

答を図 410に示す周波数の増加に従う振幅の減少は直列回路と同じであるが1から開始し 0以外の値へ収束しているまた位相は 0から負にシフトするがClo = 0以外は 0へ収束する抵抗を増加させると直列回路と同様に低周波側にシフトし容量を増加させると高周波側の振幅が増加する以上の周波数特性を正規化 FM-SIM信号の複素平面プロット (以後 γndashプロットと呼ぶ)として示したものを図 411に示す特筆すべきことは全ての応答は円弧状の軌跡を描くことであるそのため先に述べたそれぞれの等価回路での特性を非常に簡潔に表すことができ直列 RC では 1

以外の値から 0 へ並列 RC では 1 から 0 以外の値へ収束していることがよく分かるまた図411(a) (b) の水色線はどちらも抵抗のみの回路に対応し直径 1 の半円となるRlo の変化に対し

58 第 4章 新規局所インピーダンス評価法の開発と金属―有機界面物性の評価

(a) Amplitude

(c) Amplitude

(b) Phase

(d) Phase

ќDP

SOLWXGH

0

02

04

06

08

1

10 100 1000)UHTXHQFgt+]

2πCiRlo33 ms

10 ms

33 ms

ќDP

SOLWXGH

0

02

04

06

08

1

10 100 1000)UHTXHQFgt+]

CloCi

0

05

1

2

0

10 100 1000)UHTXHQFgt+]

33 ms10 ms33 ms

ќSKDVHgtGHJ

0

10 100 1000)UHTXHQFgt+]

CloCi = 0

051

2

ќSKDVHgtGHJ

Rlo

Clo

2πCiRlo = 10 ms

CloCi = 05

Fixed C

Fixed R

図 410 正規化 FM-SIM 信号の理想周波数応答 (界面インピーダンスが並列 RC の場合)(a)(b) CloCi = 05 に固定したとき2πCiRlo = 33 ms 10 ms 33 ms での振幅位相(c) (d)2πCiRlo = 10 msに固定したときCloCi = 0 05 1 2での振幅位相

Rlo Clo

f = (2πCiRlo)-1 f = (2πCiRlo)-1

-05

0 0 05 1

Imgtќ

5Hgtќ

CloCi = infin

21

05

(a) RC-series (b) RC-parallel

Imgtќ

5Hgtќ

-05

0 0 05 1

CloCi = 0

21

05

Rlo

Clo

図 411 正規化 FM-SIM 信号 γ の理想周波数応答の複素平面プロット(a) 界面インピーダンスが直列 RC の場合(b) 並列 RC の場合それぞれの図における破線との交点では周波数がf = (2πCiRlo)minus1 となる

43 ペンタセングレイン上の局所インピーダンス評価 59

0 mV 40 mV -40ordm +10ordm

(a) Topography (b) Potential

(c) SIM-amplitude (d) SIM-phase

02 V 08 V35 nm

Elec

trod

e 100 nmA

AC el (VD = 0 V)

VG = 0 V

図 412 ペンタセン薄膜上の FM-SIM測定結果 (VD = VG = 0 V fs = 100 Hz)(a)表面形状像(b)表面電位像(c) FM-SIM振幅像(d) FM-SIM位相像矢印で示すグレイン Aは以降の評価の対象とした孤立ペンタセングレイン

て軌跡の概形は全く変化せずClo の変化に対しては円弧の半径が変化することが分かるまた図411の破線 (0 minus 05jを中心とする半径 05の円弧)との交点における周波数が f = (2πCiRlo)minus1 に対応することからRlo の大小も評価できる以上の振る舞いは次のように説明できる先に比抵抗 τr = 2πCiRlo および比容量 βc = CloCi を定める直列 RCの場合は γは

γ =1

2(1 + βminus1c )[eminusj2θ( f ) + 1

](411)

θ( f ) = tanminus1( f τr

1 + βminus1c

)(412)

のように変形でき中心 ( 12(1+βminus1

c ) 0)半径 12(1+βminus1

c ) の半円だということが分かる並列 RCの場合

γ = 1 +1

2(1 + βc)[eminusj2θ( f ) minus 1

](413)

θ( f ) = tanminus1[(1 + βc) f τr]

(414)

となり中心 (1minus 12(1+βc) 0)半径 1

2(1+βc) の半円だということが分かるこれらのことから式 (410)

に直接フィッティングさせずともγプロットの概形から簡易的に界面インピーダンスの等価回路やその抵抗容量の変化が判別できるということが分かる

43 ペンタセングレイン上の局所インピーダンス評価431 単一グレイン上の周波数依存評価これまで述べた局所インピーダンス解析法を実際の結果に適用する図 45と同じペンタセン薄膜の上部電極付近でFM-SIM測定した結果を図 412に示すただしfs = 1times100 Hz ft = 10times100 Hz

60 第 4章 新規局所インピーダンス評価法の開発と金属―有機界面物性の評価

-05

0

0 05 1

Im[a

]

Re[a]

R only

fs

0

02

04

06

08

1

10 100 1000

a-a

mp

litu

de

Frequency [Hz]

-1 V

Fitted

-3 V

-5 V

(a) (b)

図 413 グレイン A上の正規化 FM-SIM信号 γの周波数依存性(a)周波数ndash振幅プロット(b)γプロットVG = minus1 V(赤)minus3 V(橙)minus5 V(緑)における応答および並列 RC回路としてフィッティングした結果 (実線)破線は界面インピーダンスが抵抗のみとした場合の理想的なγの応答

とした矢印で示すペンタセングレイン (グレイン A)は他のグレインから孤立しており直接 AC

電極に接続している単一グレインであることが分かるFM-SIM振幅像は表面電位像に比べてグレインの形状をより綺麗に示しておりFM-SIM では FM-KFM よりも空間分解能の高い測定ができる可能性があることを示唆しているFM-SIM振幅位相は共にグレイン A内で均一であるグレイン A以外では電極とほぼ同じ位相だがグレイン Aでは電極ndashグレイン A界面で大きな差異があるFM-SIM信号の変化は局所インピーダンスの存在を示していることを考慮するとグレイン A

は電極との電気的接続が良くないということグレイン A内のインピーダンスは電極ndashグレイン界面に比べて十分小さいということが分かるそのためグレイン Aは図 48の等価回路で示すことができると考えられる続いて電極ndashグレイン界面インピーダンスの等価回路を検証するため周波数 fs 依存の FM-SIM

測定を行った fs を 10 Hzから 900 Hzの間で変化させ電極グレイン A絶縁膜の FM-SIM信号を取得し正規化 FM-SIM信号を得たなおこの測定は VG = minus1 V minus3 V minus5 Vのゲートバイアスについて行いグレインには正孔が蓄積しているまた fs の掃引に同期して ft + fs を設定する必要があるためこの測定については 421節「ロックインアンプ設定」の項の 1の方式で検出した得られた正規化 FM-SIM信号の周波数ndashFM-SIM振幅プロットを図 413(a)にγプロットを図 413(b) に示す周波数掃引に従い振幅が 1 近くから減少し約 02 で収束している様子が見られ並列 RC回路に対応する図 410(a) (c)の振る舞いに似ているγ プロットでは測定点が低周波では 1近くで半径が 1より小さい円弧状に並んでいる様子が明瞭に確認できるつまり電極ndashグレイン A界面は並列 RC回路で記述できる次に式 (413)を用いた界面インピーダンスの半定量評価を次のプロセスで行なった

1 円弧フィッティングGNU Octave 380の fminsearch関数を用いてデータ点との距離の二乗和が最小になるような円弧の中心半径を求めβc を算出

2 振幅値フィッティングGnuplot 46の fit機能と 1で求めた βc を用いて式 (413)の振幅に最小二乗フィッティン

43 ペンタセングレイン上の局所インピーダンス評価 61

表 42 FM-SIM周波数依存性 (図 413)からフィッティングにより求めた並列 RC回路における界面インピーダンスのパラメータ

VG 比容量 βc 比抵抗 τr [ms]

minus1 V 016 1564plusmn040

minus3 V 018 1354plusmn023

minus5 V 021 539plusmn013

グを行いτr を算出

これにより求めたフィッティングパラメータを表 42にパラメータを用いたフィッティングカーブを図 413 の実線に示す図 413(a) (b) 共にそれぞれの VG におけるデータ点をうまく表しておりτr の誤差も 3以内に収まっていることからうまく並列 RCの式にフィッティングできていると考えられるつまり金属ndash有機界面では接触抵抗だけでなく局所容量も存在していることを示しているこれまでも界面容量が金属のフェルミ準位と有機薄膜の HOMO 準位のミスマッチにより生じると報告されている [149 150]しかしこれらの報告はトップコンタクト OFETつまり有機薄膜が電極と絶縁膜の間に挟まれている構造での測定に基づいている有機薄膜の厚さは通常キャリアが流れるチャネル層の厚さに比べて十分厚いためトップコンタクト OFETにおける界面インピーダンスには有機薄膜のバルク部分のインピーダンスも含んでしまう一方本測定はボトムコンタクト型の接触のためこれまでの研究と比較してより直接界面容量の存在を確認したといえる

432 電極ndashグレイン界面インピーダンスの一般性前節ではグレイン内部のインピーダンスが電極ndash単一グレイン界面インピーダンスよりも十分小さく界面インピーダンスが並列 RCで記述できることがわかったこのような傾向がグレイン A以外にも現れるか確かめるため他のグレインについても評価を行う図 412の範囲を含む広い領域 (図 414(a))でゲートバイアスを VG = minus1 Vとし上下電極を AC

電極として FM-SIM測定し得られた FM-SIM振幅像および位相像をそれぞれ図 414(b) (c)に示すただしfs = 100 Hz 300 Hz 800 Hzについて測定した本測定では上下両方の電極を AC電極としているためどちら側に接続しているグレインも応答することになるまず fs = 100 Hzでの両結果から見て取れることはそれぞれのグレインの応答が異なることであるしかしそれぞれのグレイン内ではある程度均一であることもわかるこれはどのグレインにおいても図 48の等価回路が成り立つことを示しているそのためFM-SIM信号の違いは電極ndashグレイン界面インピーダンスの違いつまり電極との電気的カップリングの違いを表しているといえる次にACバイアスの周波数 fsを増加させた際の変化を見るまずFM-SIM振幅信号 (図 414(b))

が全体として増加しているがこれは図 46においてゲート抵抗 RG に比べて絶縁膜部分のインピーダンス (C1 由来)が減少することでゲート電極上の応答

∣∣∣VG∣∣∣が大きくなることに由来するため問

題とはならない次に表面形状像 (図 414(a))の破線で示した 4つのグレイン (A B C D)に注目するグレイン A B Cに関しては fs の増加に伴い FM-SIM位相が増加し振幅が絶縁膜上の値に近づいているこれはまさに図 413(b)の正規化 FM-SIM信号の周波数依存性で見られた円弧の左

62 第 4章 新規局所インピーダンス評価法の開発と金属―有機界面物性の評価

-40ordm +50ordm

2 mV 45 mV35 nm

(a) Topography (b) SIM-amplitude

(c) SIM-phase

AC el (GND)

AC el (GND) 150 nm

fs = 100 Hz 300 Hz 800 Hz

fs = 100 Hz 300 Hz 800 Hz

AB

DC

図 414 ペンタセン薄膜上の FM-SIM測定結果 (広範囲)VG = minus1 VAC電極は上下両電極とした(a)表面形状像(b) FM-SIM振幅像 ( fs = 100 Hz 300 Hz 800 Hz)(c) FM-SIM位相像 (同fs)電極を太破線グレイン A B C Dを細破線で示している

半分の変化を示すもので周波数の増加により |γ|の減少γ位相の増加と対応する一方グレイン Dは fs の増加に伴う振幅の変化は少なく位相は減少しているこれは他の 3グレインと違い位相のみ特徴的に減少する図 413(b)の右半分と対応することがわかるつまり前節のグレイン A

に限らずどのグレインにおいても図 413のような周波数応答を示すことを示唆しておりRC並列回路は電極ndashグレイン界面インピーダンス一般に成り立つことが分かった

433 キャリア蓄積による電極ndashグレイン界面物性変化431節の結果よりVG による変化に関してはどちらのパラメータも単調に変化しているが特に比抵抗の減少が顕著に見られるこのようにグレイン中へのキャリア蓄積状態によって金属ndash有機界面の電子物性も変化していることが分かる金属ndash有機界面で生じる接触抵抗の起源を明らかにするためにも界面インピーダンスの VG 依存性について詳しく評価するなお上述の議論で界面インピーダンスを並列 RCで記述できることがわかったため以下では界面インピーダンスをその逆数つまり「アドミタンス」として考え次式で示す正規化アドミタンスを導入する

Ynorm =1

2π fsCiZlo=

12π fsCiRlo

+ jClo

Ci(415)

43 ペンタセングレイン上の局所インピーダンス評価 63

SIM

-Am

pl [

mV]

Distance [nm]

0

12

4

8

0 200 400 600

A B

A B

Electrode

GrainInsu

lator

Topo(a)

(b)

012 -1 -2 -3VG [V]

-02

0

02

10-2

100

10-2

100

∆V [V

]Re

(Yno

rm)

Im(Y

norm

)

(c)

(d)

(e)

ForwardBackward

+2 V

-3 V-25 V

+15 V+1 V

+05 V0 V

-05 V-1 V

-15 V-2 V

図 415 (a)電極とグレイン A界面付近の表面形状像(b) (a)の AndashBライン上で測定された FM-SIM振幅プロファイル(cndashe) VG を変えた際の電極ndashグレイン界面の正規化アドミタンス (Ynorm)の実部 (c)虚部 (d)および界面電位差 (∆V)(e)赤は VG を +2 Vから minus3 Vへの (forward)青は minus3 Vから +2 Vへの (backward)変化時のデータ点を示す

Ynorm は 2π fsCi で界面インピーダンスを規格化しているため無次元の量であり実部が (規格化)コンダクタンス虚部が (規格化)サセプタンスとなる

VG 依存性の FM-SIM測定ではfs = 100 Hzに固定しVG と直列接続となっている Vacs の影響を

抑えるためVacs = 02 Vp-p としたVG は +2 Vから minus3 Vまで 05 V刻みで変化させた後 (forward)

+2 Vまで戻した (backward)図 415(a) に示す表面形状像の AndashB ライン上で複数回 FM-SIM 測定しそれぞれの VG で 5ラインずつ平均した結果得られた FM-SIM振幅プロファイルを図 415(b)

に示すVG により電極上の FM-SIM振幅に変化はなくグレイン A上のみ徐々に増加していることが分かる電極グレイン A絶縁膜それぞれの領域で FM-SIM振幅および位相の平均を求め式(49)より正規化 FM-SIM信号 (γ)を続けて式 (415)により正規化アドミタンス (Ynorm)を求めた同時に界面での直流電位差との関係を議論するため同時測定の FM-KFMで得られた表面電位から電極に対するグレイン電位 (電位差 ∆V)も求めたこれらを図 415(c)ndash(e)に示すまず VG を正から負に印加することでコンダクタンス (Re[Ynorm]) が急増したVG lt 0 でも継続して増加していることは423節の周波数依存性で見られた VG 印加による τr 減少と合致する結果であるVG 印加による接触抵抗の減少はこれまで OFETにおける研究で多く見られてきた [55 131 151]接触抵抗減少のモデルとしては有機薄膜のバルク部の効果や電極付近の低移動度領域が提唱されているがこれらはトップコンタクト OFETやマルチグレイン薄膜で説明されたモデルである [151 152]本研究の FM-SIM測定では単一グレインと電極との界面を考えておりバルク部やグレイン境界によるインピーダンスへの影響は排除できると考えられるよって図 415(c)のような界面コンダクタンスの増加 (接触抵抗の減少) は金属ndashグレイン界面の電子物性本来の効果が現れたものだと考えられる興味深いことに図 415(c) (e)で見られるように界面コンダクタンスと電位差でゲートバイアス変化の forwardと backwardで似たヒステリシス (履歴)効果が現れているこのような履歴効果

64 第 4章 新規局所インピーダンス評価法の開発と金属―有機界面物性の評価

Large mismatch

EF

VL

Trap states

E

DOS

HOMO

Metal Organic

∆V gt 0

Small mismatch

Metal Organic

∆V lt 0

(b) Depletion(a) (c) Accumulation

0

1

15

05

-02 0 02∆V [V]

Re(Y

norm

)DepletionAccumulation

VG = 2 V

VG = -3 VForwardBackward

図 416 (a) 界面コンダクタンス Re[Ynorm] の電位差依存性 (図 415(c) (e) より)赤は負方向(forward)青は正方向 (backward) 測定に対応する(b) (c) Pt 電極とペンタセングレイン界面におけるエネルギー準位の模式図およびグレイン内部のエネルギー (E) に対する状態密度(DOS)の概要図

は OFETの伝達特性でも良く見られている [139]正孔が蓄積している状態では正孔が有機ndash絶縁膜界面の深いトラップ準位に捕捉されVG の正方向掃引でしきい値電圧の負シフトを引き起こす今回用いている絶縁膜 SiO2 もヒステリシスを良く引き起こす材料であるため図 415(c) (e)のヒステリシスもトラップ準位によると考えられるこのことを踏まえると界面コンダクタンスの変化は VG によって直接引き起こされたものではなく電位差 ∆V により大きく関係していると考えられるそこで界面コンダクタンスを電位差に対してプロットし直すと図 416(a)のように forwardと backwardのヒステリシスが非常に小さくなったため電極ndashグレイン界面物性はその電位差によって決定されていることが言えるこのことからも図 415(c) (e)で見られたヒステリシスは界面における本来の物性ではないことが分かる図 416(a) を見ると ∆V gt 0 は VG gt 0 の空乏 (depletion) 状態に対応し界面コンダクタンスRe[Ynorm]がほぼ 0である一方 VG lt 0の蓄積 (accumulation)状態では ∆V lt 0でありRe[Ynorm]

が増加しているこの増加は ∆V = minus02 V で急峻となっており電極ndashグレイン界面が導通するには minus02 V程度の界面電位差が必要であることが示唆されるこれら電位差と界面コンダクタンスの関係は電極とグレインのエネルギー準位の関係から説明できる図 416(b) (c)は電極ndashグレイン界面のエネルギー準位を模式的に示したものであるバイアスが印加されていない状態ではグレインは空乏状態にある一般にキャリア蓄積がおこるチャネル層は HOMO準位と LUMO準位の間にトラップ準位による DOSが存在する (図 416(b))空乏状態ではそれが一部だけ満たされることでEF が EHOMO と ELUMO の間に位置するEF が EHOMO よりも高い準位に位置しているため準位ミスマッチが大きく正孔注入障壁が生じるこの場合電極からグレインに正孔を注入するのが困難となりこれが接触抵抗となる一方ゲートに負バイアスを加えるとグレインが蓄積状態となりトラップ準位が満たされEHOMO

が EF に近づくことで ∆V の負シフトが起こるこれによりエネルギー準位ミスマッチが小さくなり正孔がグレインに注入しやすくなるそのため図 416(c)のように接触抵抗が低減すると説明できる以上のようにVG の印加により電極ndash有機界面のエネルギー準位整合性が良くなり接触抵抗の低減が起こるこの単純な解釈はこれまで異なる仕事関数や SAM修飾を施した電極を用いた電気特性評価によっても議論されてきたものであるしかし単一グレインとの界面においてエ

44 電極表面処理による OFET特性への直接影響評価 65

ネルギー準位の整合状態と接触抵抗との関係を議論したことは非常に意義深いこのようにこれまでの手法では測定できなかった特定の単一グレインにおいても金属ndash有機界面物性について議論できFM-SIMという新規手法開発および評価法の妥当性と有用性が示されたといえる

44 電極表面処理による OFET特性への直接影響評価42節では OFETで局所インピーダンス測定を行うための新規手法 FM-SIMを提案し回路モデルを用いて理論実験両方面から妥当性を示した局所インピーダンスの解析法を用いて電極ndash単一有機グレイン界面の電気特性について議論するに至った本節では有用性を示した FM-SIMを用いて応用的な内容として動作中の OFETの金属ndash有機界面物性の評価に臨むOFETの電極を自己組織化単分子膜 (Self-assembled monolayer SAM)で修飾することで性能向上することが確認できるこの電気特性の変化が何に起因しているかをFM-SIMを用いた電位局所インピーダンス測定により解明を目指す

441 電極表面処理および試料作製本測定で対象とする試料としてdinaphto[23-b2rsquo3rsquo-f ]-thieno[32-b]thiophene (DNTT) 薄膜を活性層としチオール系 SAMの一つである pentafluorobenzenethiol (PFBT)の SAMで電極を修飾した OFETを用いた

DNTT DNTT (C22H12S2) は図 417(a) のような分子構造をもつヘテロ環式芳香族分子であるDNTT は 2007 年に広島大学の Yamamoto Takimiya によって合成された有機半導体分子である [153 154]DNTT に含まれるベンゼン等の芳香族とチエノチオフェンが縮環した分子構造は2006 年の同グループによるベンゾチエノベンゾチオフェン (BTBT) 誘導体の合成 [155] を皮切りに1 cm2(Vs)を超える高い移動度と大気安定性 [156] を持つ p 型有機半導体分子のベースとなる構造として近年非常に注目を受けているこのような大気安定性は深い HOMO 準位と大きなHOMOndashLUMOギャップによりもたらされたものであるが [153]一方でこの深い HOMO準位により電極との界面で大きなキャリア注入障壁が生じてしまい接触抵抗が大きくなるという問題が指摘されている [152]

PFBT PFBT (F5C6HS)は図 418(a)のような分子構造をもつチオールの一種であるチオール系分子は図 418(b)のように S原子が金属と結合するような形で分子が並びSAMを形成することが知られている対象とする金属は Auが一般的であるがAgPtなど他の金属でも SAMを形成する [157]PFBTはペンタセン誘導体やアントラセン誘導体など溶液プロセスにおける低分子系OFETの電極修飾に用いられてきた [18 22]図 419に測定で用いた試料の作製手順を示すまず UVリソグラフィによりチャネル幅約 1 micromチャネル長約 500 nm厚さ約 20 nm の Au 電極を作製し30 mM の PFBT を混合したイソプロパノール (IPA)溶液に電極を 5分間浸漬させることで PFBT-SAMを形成したその後SAM処理を行っていない電極にも同時に DNTT分子を真空蒸着法で約 100 nmの薄膜を成膜しOFETを得た今後SAM修飾を行った試料を「PFBT-Au」試料 (OFET)行っていない試料を「Bare-Au」試料(OFET)と呼ぶ

66 第 4章 新規局所インピーダンス評価法の開発と金属―有機界面物性の評価

(a)

(b)

図 417 (a) DNTTの分子構造式(b) DNTTの結晶構造 (左 b軸投影右 各層のヘリンボーン構造図)(Ref [153] J Am Chem Soc 129 (2007) 2224)

(a) (b)

SH

F

F

F F

F

S Body

SAM

Metal (Au Pt Ag )

図 418 (a) PFBTの分子構造式(b)チオール系分子による SAMの模式図

(1) Electrode fabrication(UV lithography)

(2) SAM fabrication (3) DNTT deposition

30 mM PFBTin isopropanol

Au 20 nm

DNTT 100 nm

PFBT-Au

Bare-Au

PFBT modied Au

SiSiO2

図 419 電極表面修飾比較に用いた試料の作製手順図UVリソグラフィ (図 39参照)で作製した Au電極を PFBT溶液に浸漬させることで PFBT-SAMで修飾した Au電極を作製しSAM修飾有無の電極上に DNTTを同時に成膜した

442 電気特性評価図 420 に電極対で測定した両 OFET の電気特性測定結果を示す出力特性の結果を見るとどちらも飽和領域が表れているがPFBT-Au試料の方が電流が大きい伝達特性については

radicID は

PFBT-Au試料の方が傾きが大きいがしきい値電圧はほとんど変わらない同一基板上のそれぞれ3つの OFETについて平均した移動度はBare-Auでは micro = 044 cm2(Vs)なのに対しPFBT-Auでは micro = 099 cm2(Vs)と 2倍以上に増加したよって本研究で作製した PFBT-SAM修飾電極においても過去の報告と同じく OFETの性能向上の効果が得られている一方しきい値電圧はBare-Au

では minus94 VPFBT-Auでは minus79 Vであり変化は小さかったしきい値電圧はチャネル領域の薄

44 電極表面処理による OFET特性への直接影響評価 67

-8

-6

-4

-2

0-20-15-10-5 0

Cur

rent

[ѥA]

VD [V]

0 V-5 V

-10 V-15 V-20 V-25 VVG

VG = ndash25 V

ndash20 V

ndash15 V

ndash10 V0 Vndash -5 V

-8

-6

-4

-2

0-20-15-10-5 0

ampXUUHQWgtѥ$

VD [V]

VG = ndash25 V

ndash20 V

ndash15 V

ndash10 Vndash5 V

0 V

(a) Bare-Au

(c)

(b) PFBT-Au

10-1010-910-810-710-610-5

-20-15-10-5 0 5 0

1

2

3

I D [A

] (lin

e)

3ID

[10-3

A-1

2] (

plot

)VG [V]

PFBT-AuBare-Au

図 420 電極対で測定した DNTT-OFETの電気特性(a) Bare-Au OFET(b) PFBT-Au OFETの出力特性(c)両 OFETの VD = minus5 Vにおける伝達特性プロットは

radic|ID|(右軸)実線は片対数(左軸)

400 nm 400 nm

80 nm

(a) Bare-Au (b) PFBT-Au

Electrode

図 421 (a) Bare-Au OFETおよび (b) PFBT-Au OFETにおける表面形状像破線で囲まれた領域は電極のある場所を示す

膜の構造やドーピングによって大きく変化することが知られているため [158ndash160]この結果は電極の SAM処理がチャネル領域に与える影響が小さかったことを示しているチャネル領域の状態を確認するためにAM-AFMで取得した OFETの表面形状像を図 421に示す膜の形状は全く同じとは言えないもののグレインの大きさは 100 nmから 200 nmと同程度といえるよって電極の SAM修飾による電気特性の変化はその修飾した電極と有機薄膜との界面における電気特性が変化したものによると考える

68 第 4章 新規局所インピーダンス評価法の開発と金属―有機界面物性の評価

-02 0

02 04

Pote

ntia

l [V]

0

05

1

Ampl

[m

V]-60

-30

0

0 250 500 750 1000Ph

ase

[deg

]

Distance [nm]

-03

0

03

Pote

ntia

l [V]

0

05

1

Ampl

[m

V]

-60

-30

0

0 250 500 750

Phas

e [d

eg]

Distance [nm]

iuml9iuml9iuml9iuml9iuml9iuml9iuml9iuml9

VG

AC electrode AC electrode

(d)

(e)

(f)

(a)

(b)

(c)

(VD = 0 V) (VD = 0 V)Bare-Au PFBT-Au

図 422 (a)ndash(c) Bare-Au試料および (d)ndash(f) PFBT-Au試料での FM-SIM測定結果 (VD = 0 V)(a) (d)表面電位(b) (e) FM-SIM振幅(c) (f) FM-SIM位相プロファイル網掛け部は電極位置を表しAC電極は右電極とした

443 FM-SIMによる電極ndashDNTT界面局所電気特性評価電気特性測定の結果から電極の SAM修飾により電極ndash有機界面の電気特性変化が示唆されたそこでFM-SIMを用いて電極ndash有機界面の電位差や局所インピーダンスの違いを評価する測定条件として(a) VD = 0 Vおよび (b) VD = minus1 V(c) VD = minus5 Vの 3つのドレインバイアスについて測定した(a) では 422 節同様キャリア注入に従う電位差局所インピーダンス変化を評価する一方(b) (c)ではドレインバイアスが加わり OFETが動作している状態でチャネル内の電位プロファイル評価と局所インピーダンス評価を行う

測定方法 測定時のセットアップは 421節の図 43図 44と同じ装置構成である電極に加える交流バイアスは Vac

s = 1 Vp-p fs = 100 Hzとした表面形状像 (図 421)における右電極をソース電極左電極をドレイン電極とし測定により AC電極を変更することでソースドレイン両方の電極ndash有機界面物性を評価する直流バイアスは AC電極側にしか印加しないがAC電極およびゲートに印加する直流バイアスを調整しているため本節で示す VD VG はソースに対するドレインおよびゲートの電圧とみなす1また電極ndash有機界面に絞って評価するため以下の測定では全てチャネルに沿って両電極間を往復するように測定しており5ndash7ラインを平均したデータを用いたこの間位置が同一であることは同時に測定している表面形状プロファイルが同一であることから確認した

ソースドレイン電極接地時 VD = 0 Vにおいて右電極を AC電極として FM-SIM測定した結果得られた表面電位FM-SIM信号の振幅位相のプロファイルを図 422に示す表面電位を見る

1 例えば右電極に1 Vゲートに minus4 V印加するとVD = minus1 VVG = minus5 Vとみなせる

44 電極表面処理による OFET特性への直接影響評価 69

0

01

02

03

04

-06 -04 -02 0 02

Re[

Y nor

m]

6V [V]

0 V

iuml9

VG

0

01

02

03

04

-06 -04 -02 0 02

Im[Y

norm

]

6V [V]

0 V

iuml9

VG

(a) Conductance (b) SusceptancePFBT-AuBare-Au

PFBT-AuBare-Au

図 423 VD = 0 V における (a) 正規化コンダクタンス Re[Ynorm](b) 正規化サセプタンスIm[Ynorm]の ∆V 依存性

とどちらの OFETも負の VG を印加するに従い電極に対するチャネル上の電位が負にシフトしているこれは単一グレインで測定した図 415(e)の結果と合致する結果であるまたVG 印加によりFM-SIM振幅は 0から増加位相は 0 から負シフトする傾向もどちらの OFETでも見られているFM-SIM振幅については小さなゲートバイアスでは AC電極付近と対向電極付近とで差異があるが少なくとも minus4 V以降ではチャネル内で一定でありチャネル内抵抗に比べて AC電極ndash

チャネル界面インピーダンスが支配的であることが分かるまたチャネル内の表面電位は表面形状にカップリングしており再現性はあるが不均一な応答が見られている一方FM-SIM 振幅位相は十分な信号強度があれば十分均一に見えておりKFMにより測定される表面電位よりも表面形状による影響を受けにくいといえこの意味でも KFMよりも OFET中のより局所的な電子物性評価が可能と考えられる図 422の AC電極上チャネル上の均一な応答について平均した値を用い423節と同様に正規化 FM-SIM信号から正規化アドミタンス Ynorm を求めチャネルndashAC電極電位差 ∆V に対してその実部 (コンダクタンス)虚部 (サセプタンス)をプロットした結果を図 423に示すまず図 423(a)

について単一グレインで測定した図 416(a)同様 VG 印加に従い先に ∆V が負シフトし次いでコンダクタンスが増加している416(a)に比べて低 ∆V でも若干コンダクタンスが増加しているのは単一グレインではなく連続膜であるためVG 印加に従いチャネルとなる領域が変化している影響が考えられるしかし上述のとおり VG = minus4 Vでチャネル内の応答が一定となり蓄積がほぼ完了していると考えられるためそれより大きなゲートバイアス領域では意味ある結果が得られていると考える両 OFET で比較するとサセプタンスに関しては単一グレインでの結果 (図 415) 同様単調な増加減少は見られないコンダクタンスに関してはPFBT-Auでは負シフトしていた ∆V が minus035 V

付近で収束しコンダクタンスが増加し続けているがBare-Auではコンダクタンスが増加し始めてからも ∆V がシフトし続けまたコンダクタンスの増加も停滞しているこのことから 2点のことが示唆される一つはPFBT-Auの方が AC電極ndashチャネル界面でキャリア蓄積後のコンダクタンスが大きいということであるこれは電極対を用いた電気特性で電流移動度が向上したことと合致するもう一つは AC 電極ndashチャネル界面が導通するために必要な ∆V が異なるということである433節で議論したように ∆V は電極のフェルミ準位とチャネルの HOMO準位の整合状態と関わっ

70 第 4章 新規局所インピーダンス評価法の開発と金属―有機界面物性の評価

minus1 V

Bare-Au

minus5 V

AC el AC el

Drain Source Drain Source

0

Pote

ntia

lSI

M a

mpl

SI

M p

hase

Po

tent

ial

SIM

am

pl

SIM

pha

se

AC-drain AC-source

iuml9iuml9iuml9iuml9iuml9iuml9iuml9iuml9

VG

Channel Channel

-05

0

3RWHQWLDOgt9

0

05

$PSOgtP9

-30

0

30

0 500 750

3KDVHgtGHJ

LVWDQFHgtQP

-5

0

3RWHQWLDOgt9

0

05

$PSOgtP9

-30

0

30

0 500 750

3KDVHgtGHJ

LVWDQFHgtQP 500 750 LVWDQFHgtQP

(a)

(b)

(c)

(d)

(e)

(f)

(g)

(h)

(i)

(j)

(k)

(l)

図 424 Bare-Au OFET の動作時の FM-SIM 測定結果 (VD = minus1 V(andashf) minus5 V(gndashl))ドレイン(左電極)を AC電極とした場合 (andashc gndashi)およびソース (右電極)を AC電極とした場合 (dndashf jndashl)の結果(a d g j)表面電位(b e h k) FM-SIM振幅(c f i l) FM-SIM位相プロファイル位相プロファイルのみスプライン曲線による平滑化を行っている

ている今回の結果ではPFBT-Auでの電極ndashチャネル界面の方が Bare-Auのそれよりも元々の電極ndashチャネル間準位整合状態が良かったと考えられるVG = minus15 V における ∆V を比較するとBare-Auでは 015 V程度大きい準位シフトが必要ということになるこのように電極の SAM修飾により仕事関数を増加させるという結果がいくつか報告されている [161ndash163]フッ素系の SAM

の場合チオール基から表面方向に対し分子軸に沿って負のダイポールが存在するため電極の見かけの仕事関数が増加すると考えられているしかし報告によって仕事関数の変化は 05 eVから1 eVと異なるこのことは本研究の KFMで測定された ∆V の差異とも異なることも含めると電極の SAM修飾による電気特性変化が全てこの仕事関数変化による影響に帰結されるとは限らないことを示唆しているそのためこの後 OFET動作中での評価結果も含めて電極 SAM修飾による特性変化の起源を議論していく

44 電極表面処理による OFET特性への直接影響評価 71

PFBT-AuAC el AC el

Drain Channel ChannelSource Drain Source

minus1 V

minus5 V

Pote

ntia

lSI

M a

mpl

SI

M p

hase

Po

tent

ial

SIM

am

pl

SIM

pha

se

0

AC-drain AC-source

iuml9iuml9iuml9iuml9iuml9iuml9iuml9iuml9

VG

-05

0

3RWHQWLDOgt9

0

05

$PSOgtP9

-30

0

30

3KDVHgtGHJ

(a)

(b)

(c)

(d)

(e)

(f)

-5

0

3RWHQWLDOgt9

0

05

$PSOgtP9

-30

0

30

0 500

3KDVHgtGHJ

LVWDQFHgtQP

-5

0

3RWHQWLDOgt9

0

05

$PSOgtP9

-30

0

30

500

3KDVHgtGHJ

LVWDQFHgtQP0

(g)

(h)

(i)

(j)

(k)

(l)

図 425 PFBT-Au OFET の動作時の FM-SIM 測定結果 (VD = minus1 V(andashf) minus5 V(gndashl))ドレイン(左電極)を AC電極とした場合 (andashc gndashi)およびソース (右電極)を AC電極とした場合 (dndashf jndashl)の結果(a d g j)表面電位(b e h k) FM-SIM振幅(c f i l) FM-SIM位相プロファイル平滑化を図 424と同様に行った

-4

-2

0

2

-12-8-4 0

0

100

200

300

umlV [V

]

Cur

rent

[nA]

VG [V]

PFBT-AuBare-Au

図 426 VD = minus5 V におけるチャネルndashソース間電位差 (∆V) と測定中の直流電流の VG 依存性赤線四角のシンボルが PFBT-Auを青線丸のシンボルが Bare-Auの結果を示す実線が ∆V破線が電流を示す

72 第 4章 新規局所インピーダンス評価法の開発と金属―有機界面物性の評価

(a) Conductance (b) Susceptance

0

01

02

-12-8-4 0

Re[

Y nor

m]

VG [V]

PFBT-AuBare-Au

0

02

04

-12-8-4 0

Im[Y

norm

]

VG [V]

PFBT-AuBare-Au

図 427 VD = minus5 V での FM-SIM 結果から得られた (a) 正規化コンダクタンス (Re[Ynorm]) および (b)正規化サセプタンス (Im[Ynorm])の VG 依存性

ドレインバイアス印加時 (OFET 動作時) 次にドレインバイアスを加えた状態でBare-Au とPFBT-Au でどのような違いが現れるかを検証するドレインバイアス VD = minus1 V minus5 V についてドレイン (左)ソース (右) それぞれの電極を AC 電極とした際の FM-SIM 測定結果を図 424

(Bare-Au OFET)および図 425 (PFBT-Au OFET)に示すプロファイルは表形式で示しており左の列はドレインを AC電極とした場合 (AC-drain)右の列はソースを AC電極とした場合 (AC-source)

のプロファイルであるまた行は上から minus1 V での表面電位FM-SIM 振幅FM-SIM 位相および minus5 V でのそれぞれの結果という順に並んでいるこれまでの議論からFM-SIM では AC を印加している電極と有機薄膜との界面のインピーダンスを優先的に評価できるためAC-drain とAC-sourceではそれぞれドレインndashチャネル界面ソースndashチャネル界面の物性が FM-SIM信号に現れるそれに対し表面電位は交流バイアスの印加を除くと全く同じ条件で測定されているため得られる電位プロファイルは原理上同じと考えられるまずこれら原理的な点について注目する図424(a) (d)はそれぞれ AC-drain AC-sourceの表面電位でありVG lt minus2 Vではほぼソースndashチャネル界面に電位ドロップが集中する傾向が一致している同様に図 424の (g)と (j)図 425の (a)と(d)(g) と (j) が若干の電位分布の違いがあるものの基本的に傾向は同じでありAC-drain とAC-sourceの測定は DC的に見るとほぼ同条件で測定されているとみなせる図 426に VD = minus5 V

における VG を変えたときのチャネルndashソース間電位差 (∆V)と直流電流値の変化を示すVG = minus8 V

まではゲートバイアス印加に従い ∆V は負に大きくなるが電流はほぼ 0のままである一方 minus8 V

を超えると ∆V は minus4 V程度で飽和し電流は増加を始めている電流が VG = minus8 V を境に増加を始めるという結果は事前の電気測定結果 (図 420(c)) と非常に良い一致を示しており交流バイアスなどによる大きな影響はないことを示しているここでOFET が導通 (ON 状態) しているVG lt minus8 Vの区間で∆V がほぼ VD の値で飽和しているためON状態における OFETの抵抗のほとんどはソースndashチャネル界面であると分かる次に FM-SIM信号に注目するAC-drainと AC-sourceで比較するとBare-Auか PFBT-Auかどうかや VD の値に関わらずチャネル上の FM-SIM振幅は AC-drainの方が大きいという一定の傾向があるゲートに負バイアスを印加中は電圧のほとんどがソースndashチャネル界面に加わっていることを加味するとドレインndashチャネル界面よりソースndashチャネル界面の方が電気的カップリングが悪いことを示唆しているこのことからも電極の SAM修飾による性能向上はソースndashチャネル界面の

44 電極表面処理による OFET特性への直接影響評価 73

Trap rich region

Trapped hole Trapped stateHOMO (Mobile)Mobile hole

HOMO

EFHOMO

EF

Bare-Au PFBT-Au

∆ xed

Increase

∆ gradual

Slight increase

C C

C

VG

MetalOrganic

図 428 FM-SIM で測定された容量変化から想定される Bare-Au 試料と PFBT-Au 試料での金属ndash有機界面の電子準位と状態の概要図VG 印加に従い正孔が蓄積するが界面付近ではより多く蓄積させないと可動 (Mobile)キャリアが生まれない容量 (C)は可動キャリアの存在する領域に由来すると考えると金属ndash有機界面のトラップ準位が多い系では容量増加が小さくトラップが少ないと瞬時に蓄積し容量が増加する

局所インピーダンス変化を追うことで直接評価比較できると考えられる次に VD による違いに注目するとVD = minus1 Vに比べ minus5 Vの方が FM-SIM振幅が大きい特に AC-drain (図 424 425(h))

ではチャネル上の FM-SIM振幅がドレイン電極とほぼ同程度になっておりドレインndashチャネル界面インピーダンスの寄与が非常に小さくなっていると考えられる以上の傾向は大まかに Bare-Au と PFBT-Au で似た挙動を示しており電極の SAM 処理による電気特性の違いを反映したものとは言えないBare-Au (図 424)と PFBT-Au (図 425)とで比較するとまず VD = minus1 Vでは挙動はほぼ同じでAC-drainと AC-source共に VG 印加によりチャネル上 FM-SIM位相が負にシフトしている一方 VD = minus5 V についてAC-sourceの FM-SIM位相がPFBT-Au (図 425(l))では負シフトしているがBare-Au (図 424(l))では界面での明確な負シフトが見られないこのように Bare-Auと PFBT-Auとの違いが VD = minus1 Vでは見られずminus5 Vで見られた要因として図 420(a) (b) の電気特性の低 VD 領域における非線形な特性が挙げられる低 VD

ではほとんど電流が流れていないという特性差のなさが FM-SIMの結果でもあまり違いを生まず一方大 VD では特性差も現れる程度に電流が流れたために FM-SIMの結果に違いが現れたと考えられる以上のことからSAM処理による電気特性変化はソースndashチャネル界面 (AC-source結果)に由来するとしVD = minus5 Vでの結果に注目する

74 第 4章 新規局所インピーダンス評価法の開発と金属―有機界面物性の評価

433節での解析を踏まえソースndashチャネル界面インピーダンスを並列 RC回路と考え式 (415)

を用いて界面正規化アドミタンス (実部界面コンダクタンス Re[Ynorm]虚部界面サセプタンスIm[Ynorm]) を評価するVD = minus5 V における結果を図 427 に示すまず界面コンダクタンス (図427(a)) は Bare-Au PFBT-Au 共に VG = minus8 V から増加を始めるという図 426 で見られた傾向と一致しておりソースndashチャネル界面の影響が電気特性にそのまま現れたことが分かるまたVG = minus8 V以降の界面コンダクタンスの増加はBare-Auに比べ PFBT-Auの方が顕著であるここでFM-SIMで測定したプロファイル (図 424 425)からソースndashチャネル間の変化は 100 nm以下の分解能で観測されているためFM-SIMでは電極付近のグレインの影響を排除した金属ndash有機界面物性を評価していると考えられるそのため電極付近のグレインサイズによる接触抵抗への影響ではなく確かに金属ndash有機界面物性が変化したことにより接触抵抗が低減したことを図 427(a)

は示している次に界面サセプタンス (図 427(b)) を通して接触抵抗低減の起源について考察する界面サセプタンスはBare-Auでは VG 印加に対してゆるやかな増加を示している一方でPFBT-Auでは界面コンダクタンスと同じく VG = minus8 Vを境に顕著な増加が見られたここで測定周波数は同じなのでサセプタンスは金属ndash有機界面の容量と対応付けることができる容量の起源として金属ndash有機界面における有機薄膜の不連続性が挙げられる金属近傍の結晶性低下や金属による準位への影響により有機薄膜中のトラップ準位はチャネル中よりも多くなるこのような金属ndash有機界面のトラップリッチな領域が空乏層となり界面容量を生むと考えられる [41 61 149]ここでゲートバイアスの印加によりキャリア (正孔)注入が起きるとトラップが埋まり空乏層幅が減少することで図 427(b)の PFBT-Auのような界面容量の急速な増加が見られると考えられる (図 428右)一方元々のトラップ準位の量が多いと空乏層幅の減少も顕著ではなくなるそのためPFBT-Auでは bare-Auに比べ金属ndash有機界面のトラップ量が減少していることが示唆される (図 428左)過去の報告でOFETの電極と有機薄膜の間にドープ層を挿入することで金属ndash有機界面のキャリアを増やし空乏領域を狭めた報告がある [152]正孔のドープ層としては有機薄膜と直接電荷の授受を行うFeCl3 や F4-TCNQが知られているが直接正孔を生まない SAMや極薄酸化膜によっても金属と有機分子の間の相互作用を抑えることで金属ndash有機界面のトラップを減少させることができるといわれている [150 164]これを踏まえるとやはり PFBTを用いた電極の SAM修飾により金属ndash有機界面のトラップが減少したといえる (図 428)特に浅いトラップはその領域の移動度とも密接に関わっており本研究の bare-Au OFETに対する PFBT-Au OFETでの接触抵抗低減は界面トラップの減少による効果と結論づける

45 本章のまとめ本章では 3章で課題として挙がっていた金属ndash有機界面の電気特性の測定に注目し新規局所インピーダンス評価法として FM-SIM を開発した等価回路モデルから FM-SIM 信号と界面インピーダンスが一対一に対応する式を導出するとともに周波数依存性から回路定数を半定量的に算出できることを見出した金ndashペンタセン単一グレインに適用することでトップコンタクト OFETでの測定でも観測されていた抵抗ndash容量並列回路の界面インピーダンスが単一グレイン系においても生じることを見出した

45 本章のまとめ 75

FM-SIMの応用として電極表面の SAM処理による移動度向上要因を評価したOFET動作前のみならず OFET動作時にも FM-SIM測定できることを示しOFETの動作がソース電極ndashチャネル間の電気特性に支配されていることを確認したこれを踏まえソース電極ndashチャネル界面のインピーダンス評価によりSAM処理が界面の準位整合状態のみならずトラップを減少させたことにより界面部分の導電性向上に繋がったことが明らかとなった

77

第 5章

時間分解測定による有機グレイン中のキャリアダイナミクス評価

3 章で問題となった金属ndash有機界面の電気特性が接触電流測定では困難であることに対し4 章で提案した FM-SIM による非接触での電位測定で実現したしかしFM-SIM や従来手法であるKFMではOFETのチャネルが既に形成している状態の電気特性しか測ることができないこれには以下に挙げる 2点の問題がある一つはバイアスストレスの問題であるOFETではゲートバイアスを印加した状態が長時間続くと電流が低下することが問題となっている [165]主にチャネルに長時間キャリアが蓄積することでキャリアトラップが誘起されることが原因と考えられているバイアスストレスによる変化でKFMで測定される電位像も経時変化が起きるため [166]長時間のバイアスをかけずとも局所電気特性評価を可能にすることも必要であるもう一つはチャネル形成前ないし形成中の電気特性が評価できないという点であるこれらの課題に対し経時変化そのものに注目することで電気特性評価を試みている報告がいくつかある有機薄膜へのキャリア注入中の経時電流を測定する変位電流測定 (Displacement current

measurement DCM)は従来金属絶縁膜有機半導体 (MIS)構成で用いられた手法だがOFETに拡張し金属ndash有機界面の注入電圧や絶縁膜界面のトラップについて評価した報告がある [60 62]また注入時のキャリア端をマッピングできる時間分解顕微二次高調波発生 (TRM-SHG)法を利用し有機薄膜の移動度異方性を一度に測定した例がある [167]このような時間分解測定を利用したチャネル形成過程の評価をプローブ技術に活かし有機半導体グレインへのキャリア注入排出時の局所電気特性評価を本章での目標とする

51 時間分解 EFM (TR-EFM)

電位の経時変化を測定するという観点で考えると2 章で述べた KFM を用いるのが最もシンプルであるしかしKFM ではバイアスフィードバック回路を用いており追従速度の遅さが問題である本研究では有機半導体グレインを対象とするが4 章での結果から応答する周波数範囲は100 Hzから 1 kHz程度の早さと考えられるつまり時間分解能としては 1 ms程度必要であり従来の KFMでは難しいよって本研究ではバイアスフィードバックを必要としない EFMをベースとして考えるまたこれまでの議論と同様に真空中での測定を行うため FM-EFMを用いる

78 第 5章 時間分解測定による有機グレイン中のキャリアダイナミクス評価

511 TR-EFMの動作電圧印加に対するグレイン応答の経時変化をマッピングするため本研究では 3 章の point-by-

point技術を活用した時間分解 EFM (Time-resolved EFM TR-EFM)を測定に用いたTR-EFMの動作模式図を図 51に示すTR-EFMでは試料上の各点において(a) FM-AFMを用いて探針ndash試料間距離を一定にするとともに高さの測定を行う動作 (図 51(a))と(b)高さを固定し何らかの電圧(パルス)を加えその間の FM-EFMの出力 (EFM信号)の経時変化を測定する動作 (図 51(b))を交互に繰り返すこのような point-by-pointでの AFMEFM交互動作には経時応答を測定できる以外に 2つの利点がある一つは各点での FM-EFM測定時のみバイアスを印加するためバイアスストレスによる経時変化の影響を抑制することができる点であるもう一つは通常 KFMではバイアスを印加しながら測定するがTR-EFMでは表面形状取得 (FM-AFM)時にバイアスをかけていないため従来よりも探針ndash試料間距離が一定に保たれていると考えられるそのためTR-EFMは経時応答以外の面からも有利といえる装置構成図を図 52(a) に示すTR-EFM では FM-EFM の特性と FM-AFM フィードバックを分けて考えるためPLL を 2 台用いたFM-AFM 用 (PLL1) には 42 節と同じ自家製回路を用いFM-EFM用 (PLL2)には Zurich Instrumentsのロックインアンプ (LIA)である HF2LI-MF (以降ZI-LIA)の PLLオプションを用いたZI-LIAからACバイアス信号 ((角)周波数 ft(ωt))をカンチレバーに加え変位信号を PLL2で周波数検波しZI-LIAにより Lock-in検出することで EFM信号が得られ経時信号をデータロガー (NR-500)で記録したPoint-by-point動作を行うトリガー信号は自家製 AFMコントローラより出力されFG1 (Tektronics AFG 3000)の出力トリガーに用いるとともに信号の再構成用にデータロガーで記録したカンチレバーは Olympus OMCL-AC240TM-R3

(共振周波数 sim 70 kHzばね定数 sim 2 Nm)を用いたFG1から出力する電圧パルスの波形の概略を図 52(b)に示す0 Vを間に挟む正負交互の電圧波形と複数の振幅のパルスを一度に印加することが特徴であるこのようなパルス波形は Oak Ridge

国立研究所の Kalininおよびダブリン大学の Rodrigezらのグループにより提唱された電気化学原子間力顕微鏡で用いられたものから着想しており複数の電圧に対する応答を一度に測定できるという利点を有している [168]本研究では対象とするグレインや測定内容によりパルス波形に調整を加えているため次のようにパルス波形を定義する

1パルス時間 tp を用い一つの電圧に対応するパルスの時間を表すシーケンス +Ak rarr 0 rarr minusAk rarr 0という一連のパルスを出力する期間を表すあるシーケンスで

のパルス振幅を Ap = plusmnA1 middot middot middot plusmnAk middot middot middot Anの形で示す正パルスまたは負パルスのみの場合は符号をそのように指定することで示す

シーケンス回数 nで定義する

例えば主に用いているパルス波形はtp = 20 msn = 5Ap = plusmn05 V middot middot middot plusmn25 Vと表すことができるこの場合総パルス時間は 4ntp = 400 msである

51 時間分解 EFM (TR-EFM) 79

(a) Height control(FM-AFM)

(b) Bias applicationamp FM-EFM

Cantilever

ElectrodeInsulatorGate

Feedback ONWithout bias With bias

Feedback hold

Pulse bias

EFM signal

図 51 時間分解 EFM (TR-EFM) の動作模式図試料上の各点 (走査中の全点) において(a)FM-AFMによる探針ndash試料間距離制御と(b)パルス電圧印加および FM-EFM測定を交互に繰り返す

PLL1

Data logger

Lock-in amp

PLL2

Self-excitationblock

Heightfeedback

Scanner

LDPSPD

Tip AC

FG1SampleInsulatorGate

Electrode

AFM controller

EFM signal

ZI-LIA

Trigger signal

∆f dc∆f ac

(a) Setup

(b) Pulse form (FG1)

Pulse period tp

Total pulse period 4ntp

Sequence 1

Sequence nVel

Injection

Extraction

plusmnA1 plusmnAn

図 52 (a) TR-EFMの装置構成図(b) FG1により印加したパルス電圧の模式図

512 妥当性検証電位応答の評価法としての妥当性を示すために(1) EFM 信号の値(2) 応答時間1の面から

TR-EFMの検証を行った

1 本節では電圧変化に対して EFM信号が追従する時間のことを指す

80 第 5章 時間分解測定による有機グレイン中のキャリアダイナミクス評価

1 EFM信号値 26節でも述べたようにFM-EFMでは変調信号を FM検波の後 Lock-in検出することで EFM信号 (∆f )ωt が得られる試料電位を Vs とすると式 (213)および式 (212)より

(∆f )ωt =f02kpart2Cts

partz2 VsVac cosωtt (51)

で表されるPoint-by-point 動作においても Vs に比例した EFM 信号が得られるかを検証した測定条件 [設定値 1]を以下に示す

概要 Au電極上 TR-EFM [設定値 1]

Pulse tp = 20 msn = 5Ap = plusmn05 V middot middot middot plusmn25 VLIA ft = 5 kHzバンド幅 (BW) 500 HzPLL2 自動 BW設定Logger 05 mssamplingで PulseEFM信号を取得

Au電極上で電極に上述のパルスを加えTR-EFM測定を行った各シーケンスの初めを 0 ms

に合わせた EFM信号経時変化を図 53(a)に示すここでは全体の傾向について議論を行うため単一ではなく 9回平均したデータを用いた図 53(a)よりパルスに応じて EFM信号の変化が分かるパルスのうち 0 Vとなっているところではどのシーケンスの EFM信号も重なっておりほぼ同じ値が得られていることが分かるこれはパルス印加中に探針や試料 (電極)の電位変化やカンチレバーの高さ変化は起こっていないことを示し今回のようなパルスが測定には影響しないと分かる一方 0 Vで EFM信号が 0となっていないことは探針ndash電極間の仕事関数差が影響していると考えられる以後まず測定時に電極上での EFM 信号がほぼ 0 となるように探針にバイアス電圧を加えさらに測定後に電極上の 0 Vでの EFM信号をオフセットとして全体から差し引くことで電極に対する電位相当の信号として評価するそれぞれのバイアス印加時の EFM 信号は少なくとも今回の PLL および LIA の設定では一定であることが分かる飽和後の EFM 信号の平均値をバイアス電圧に対してプロットしたものを図53(c)に示すEFM信号の理論式 (51)で示したとおり飽和値はバイアス電圧に対して線形に変化することがわかるよって測定量に関して TR-EFMは妥当な結果が得られているといえる電位 U に対してEFM signal= (U times 453 mVV + 18 mV)と線形フィッティングできたがこの比例係数および切片は探針や PLLLIAの設定値によって変化することに留意する必要がある

2 応答時間と設定値の関係 図 53(a)の 0ndash5 ms を拡大したものを図 53(b)に示すplusmn05 V での結果を除きどのバイアス電圧においても 1 ms の時点で飽和値の 9 割に到達しておりplusmn05 V のEFM信号も 15 msで十分飽和しているつまり[設定値 1]での測定の時間分解能は約 1 msといえ本節の冒頭に述べた時間分解能を満たしているため有機半導体グレインへの電荷注入応答を測定する十分なポテンシャルがある一方グレインによって応答が異なること今後 TR-EFMを活用した経時応答測定を行うことを考慮すると装置設定と EFM信号の応答時間信号対電圧比 (Signal-to-noise ratio SN)を比較することは有用である本項では変調周波数 fm のみならずカンチレバーの共振周波数PLL2の設定値 (ループゲイン PPLL および位相検出器 (PD)カットオフ周波数 fPD)LIAのバンド幅 BWについても考慮し所望の応答速度に対する設定項目の目安や最適値という実践的な面に注目して議論

51 時間分解 EFM (TR-EFM) 81

0

50

100

150

0 1 2 3 4 5

EFM

sig

nal [

mV]

Time [ms]

-100

0

100

0 20 40 60 80EFM

sig

nal [

mV]

Bias

[arb

uni

t]

Time [ms]

(a) (b)

plusmn05 Vplusmn1 V

plusmn15 Vplusmn2 V

plusmn25 V

VB

05 V

1 V

15 V

2 V

VB = 25 V

-100

0

100

-2 0 2

Satu

rate

d si

gnal

[mV]

Bias (VB) [V]

FitData

(c)

VB

図 53 Au電極上 TR-EFM測定結果(a)各シーケンスの初めを 0 msに合わせた EFM信号 (左軸)および加えたパルスバイアス波形 (右軸)バイアスの波高を VB としている(b)各シーケンスの EFM信号の 0ndash5 msを拡大したもの(c) EFM信号 (飽和値)のバイアス電圧依存性 (Plot)および線形フィッティング結果 (Line)

する前項目同様に Au 電極上の TR-EFM 波形から実効的な応答時間 (Response time) τres を比較する ft = 5 kHz および BW を 500 Hz に固定しパルス電圧として tp = 20 msn = 5Ap =

+1 V middot middot middot +1 V を印加しTR-EFM 測定を行った励振させるカンチレバーの共振周波数は 1

次2 次のたわみモードを用いることで比較しPD のカットオフ周波数と合わせて 1 次は fPD =

8 kHz 20 kHzについて2次は fPD = 20 kHz 40 kHzについて測定したなおOMCL-AC240TM-

R3の 2次共振周波数はおよそ 340 kHzであるまた PPLL として 178 349 524 873 140のうちいくつかについて比較したまたZI-LIAに備わっている PPLL fPD の自動設定 (auto)の見積もりも兼ねた1シーケンスの EFM信号を比較したものを図 54(a) (b)に示す図 54(a)よりPLLゲイン増加に伴い信号強度の増加がよく分かるが同時にノイズ分も増加していることが分かるこれは PLLの帯域増加による信号およびノイズ増加に対応するまた結果より1次での自動設定はおおよそ PPLL = 349と推察されるEFM信号値の妥当性検証時は PLLの自動設定を用いたがゲイン増加により自動設定のときよりも信号が増加しており ft が PLLの応答帯域外だったことを示している一方 fPD は強度には大きく影響しておらず帯域は PPLL が制限していることが分かるがPPLL = 873かつ fPD = 8 kHzの結果 (図 54(a)青破線)のように十分な fPD が無いとノイズの原因となる2次の結果 (図 54(b))もおおよそ同様の傾向を示しているが自動設定では 1次のそれに比べて強度ノイズともに良好な結果が得られたSN および τres を比較したものを図 54(c)

82 第 5章 時間分解測定による有機グレイン中のキャリアダイナミクス評価

0

20

40

60

80

100

Auto

178

349

524

873

140

SN

(b

ar)

P gain

0

100

200

0 5 10 15 20

EF

M s

ign

al [m

V]

Time [ms]

178

524

349

Auto

P= 873

0

100

200

0 5 10 15 20

EF

M s

ign

al [m

V]

Time [ms]

P= 140Auto

P= 873

(a) 1st resonance (b) 2nd resonance

(c)

PLL auto

1788k 20k 40k

349524873140

P (g

ain)

PD cuto (fPD) [Hz](a) (b)

1st

fPD

2nd

Reso8 kHz

20 kHz

20 kHz

40 kHz

1 seq Averaged

τres

0

05

1

15

Re

sp

on

se

tim

e Ѭ

res

(plo

t) [

ms]

図 54 カンチレバーの共振次数および PLL設定値 (PLLゲイン PPLL位相検出器 (PD)カットオフ周波数 fPD)による TR-EFM信号変化(a) 1次 (b) 2次共振での 1シーケンスの EFM信号波形 (実線 fPD = 20 kHz点線 fPD = 8 kHz(1次)40 kHz(2次))(c) SN(左軸棒グラフ)および応答時間 τres(右軸プロット)比較1シーケンスでの結果を塗りつぶし5シーケンス平均での結果を中空で示した

に示すなおτres として飽和値の 9割に到達した時間を用いたSNとしては 1シーケンスの結果および 5シーケンスの信号の平均から求めた結果を示したまず τres は PLL設定値にほぼ依らないことが明らかである一方 SNは1シーケンスの結果ではゲイン増加により落ちてしまうが平均することでかなり向上する全体の傾向としては 2次共振の方が SNが高めであり本セットアップでは 2次共振での測定が有利であるといえる2

次にロックイン検出の平均時間 (LIAの時定数)に注目する本研究で用いた ZI-LIAでは変調周波数からのバンド幅 (BW) として設定するため必ずしも 1 対 1 に対応するとは限らないまた実際の TR-EFM測定で BWに依存しない領域がある可能性もあるためSNと合わせてここで検証する上述の議論で 2次共振の PLL自動設定がある程度大きな帯域を有していたため2次を中心に比較した変調周波数と BWを変えながら TR-EFM測定した結果を図 55に示すここでは簡単のため共振次数に関わらず PLLの自動設定を用いた変調周波数を上げるに従い信号強度が小さくなるのはPLL 設定値による変化と同じく PLL の応答帯域による影響であるただしPLL 設定値は同一のためノイズは同等でありSNは減少する同じ変調周波数では BWの増加に従い明確に応答時間が短くなっておりパルス電圧印加の遅れが EFM 信号の立ち上がりの遅れに影響し

2 実験の順序の関係により大半の TR-EFM測定では 1次-PLL自動設定を用いているがベースノイズが小さいため平均せずとも比較的応答を綺麗に見ることができるという利点がある

51 時間分解 EFM (TR-EFM) 83

0

100

200

0 1 2

EFM

sig

nal [

mV]

5 10 15 20Time [ms]

0

100

200

0 1 2

EFM

sig

nal [

mV]

5 10 15 20Time [ms]

0

100

200

0 1 2

EFM

sig

nal [

mV]

5 10 15 20Time [ms]

0

100

200

0 1 2

EFM

sig

nal [

mV]

5 10 15 20Time [ms]

0

100

200

0 1 2

EFM

sig

nal [

mV]

5 10 15 20Time [ms]

(a) ft = 5 kHz (b) 8 kHz (c) 10 kHz

(d) 12 kHz (e) 5 kHz (1st) BW

200 Hz500 Hz800 Hz

1 kHz12 kHz

図 55 変調周波数 ( ft)と LIAバンド幅 (BW)による 5シーケンス平均の TR-EFM信号変化見やすさのため立ち上がり 2 ms間を拡大した(a) 2次-5 kHz(b) 2次-8 kHz(c) 2次-10 kHz(d)2次-12 kHz(e) 1次-5 kHz

(a) (b)

1st

ft

2nd

5 kHz

10 kHz

5 kHz

8 kHz

10 kHz

12 kHz

1 seq Averaged 0

50

100

150

200 500 800 1k 12k

SN

BW [Hz]

0

1

2

3

0 2 4 6

Ris

ing

tim

e [

ms]

1BW [ms]

5 kHz

8 kHz

10 kHz

12 kHz

ft =

図 56 (a)各変調周波数 ( ft)と共振次数における EFM信号の SN比較1シーケンスでの結果を塗りつぶし5シーケンス平均での結果を中空で示した(b) 2次共振での変調周波数ごとの応答時間 τres 比較1BWに対してプロットした

ているわけではないことが分かるこの傾向はどの変調周波数でも見られたしかしBWの増加でノイズも増加しており5回の平均でも除去できていないことが分かるこれらの EFM信号から得られた SNの比較を図 56(a)に示すBWの増加による SNの減少が起こるが1次-5 kHzや 2

次-5 kHzのように平均化によりある程度是正されていることが分かる図 56(b)に BWによる応答時間の変化 (ただし 2次のみ)を示す同じ BWでは応答時間は変調周波数に関わらずほぼ同じであることが分かるそのため求める応答時間に対して最もよい SNを示す設定値が最適といえるここで変調周波数の増加に伴い SNが減少することを踏まえるとノイズが劇的に悪化することがない限り低い変調周波数を用いるのが適当であることが分かったBWに対する応答時間の変化はおおまかに (2BW)minus1 で記述できることが図 56(b)より見て取れるつまり05 msの時間分

84 第 5章 時間分解測定による有機グレイン中のキャリアダイナミクス評価

40 nm (a) (b)50 nm (c)

150 nm

Gr2a

Gr2b150 nm

Gr1

Insulator

Electrod

e

150 nm

Gr3aGr3b

(a) (b) (c)

図 57 TR-EFM測定に用いた Au電極接続ペンタセングレインの表面形状像

解能が必要な場合BWを 1 kHzに設定する必要がありその中で SNが良い ft = 5 kHzが最適値と考えられる

52 有機グレインのキャリアダイナミクス評価前節では新規提案した TR-EFMの動作原理と測定の妥当性について議論した本節では実際に有機半導体グレイン上で TR-EFM測定を行いその電位応答からキャリア注入蓄積または排出がどのように起こっているかを検証し単一グレイン系における局所抵抗の評価に繋げる

測定試料 測定試料としてAu電極に接続したペンタセングレインを用いたAu電極は 441節と同様に UVリソグラフィで作製したペンタセンは 321節で述べたとおりである図 57に以降の測定で用いたペンタセングレインの表面形状像とそれぞれのグレインの名称 (Gr1 Gr2a Gr2b

Gr3a Gr3b)を示すGr1以外は明確なくびれがグレイン内に無く単一グレインとみなすGr1についてはくびれは無いがグレイン内で層数の分布が見て取れる以降の測定ではこれらの影響も含めて議論する

用語定義 TR-EFMでは特殊なパルスを用いており一度の測定で電圧の正負または 0 Vへ戻したときさらにそのバイアス依存や時間依存など複数種の応答が同時に得られる以降の評価で用語が混同しないように本項目で用語を定義するなおこの定義ではペンタセンが p型有機半導体であること電極として Auを用いていることから電極ndashゲート間に正電圧印加時に正孔が注入されることを基としている

EFM信号 TR-EFMまたは単なる FM-EFMにより得られたロックイン出力値またはその経時波形

バイアス電圧 ある時間期間における電圧値VB で表す注入 (injection) 電極電圧3を 0 Vから +VB にステップ変化させることまたはその応答排出 (removal) 電極電圧を +VB から 0 Vにステップ変化させることまたはその応答空乏 (depletion) 電極電圧を 0 Vから minusVB にステップ変化させることまたはその応答回復 (recovery) 電極電圧を minusVB から 0 Vにステップ変化させることまたはその応答緩和 (relaxation) 電圧のステップ変化後に継続して電圧または EFM信号が変化している期間ま

たはその応答飽和飽和値 (saturation) 電圧のステップ変化後にほぼ一定の電圧または EFM信号となっている期

3 ゲートに対する電極電圧以下略

52 有機グレインのキャリアダイナミクス評価 85

Pulse bias(to the elctrode)Response

(on the grain)Injectio

n

Time lapse

Relaxation

Saturation

Removal

Depletion

Recovery

図 58 TR-EFMにおける用語定義の概要図

間またはその応答その平均値応答 (response) 電極電圧変化に対するグレインの電位変化全般を表す用語応答時間 (response time) バイアス電圧変化に対して EFM信号 (等)が追従し収束するのに要し

た時間(例 グレイン上の応答時間 =グレイン上 EFM信号の応答時間)

蓄積 (accumulation)空乏 注入時の飽和特性を ldquo蓄積rdquo と呼ぶこともあるその場合の対義語としても ldquo空乏rdquoを用いる

これらの定義をまとめたものを図 58に示す

521 単一グレインの時間分解パルス電圧応答図 57(a)の Gr1に関して測定条件 [設定値 1]tp = 20 msn = 5Ap = plusmn05 V middot middot middot plusmn25 Vのパルスで TR-EFM測定した結果のうち plusmn25 Vのシーケンスにおいて各点の同一時間に対応する EFM信号で再構成した時間分解 EFM像を図 59にまとめて示すここでは注入時排出時空乏時回復時の電圧変化時刻から起算して minus1 0 1 2 5 10 15 ms後における EFM像のみ示しているカラースケールは共通で0 Vでの電極上 EFM信号に対する値として示しているまず EFM像全体に共通して言えることはEFM像のある一点をとったとき付近の応答が比較的近い値を示していることである単に Fast scan (X)方向だけでなく Slow scan (Y)方向も均一である各点でパルス電圧を印加していることを踏まえるとここで得られている応答は非常に再現性の高いものといえ前回のパルス電圧による影響があるとしても次回のパルス印加時には十分消失しているといえるこれらのことはTR-EFM 測定の妥当性を確保する上で重要な視点となる他の EFM像に比べ電圧変化後 0 msの応答はノイズ状になっているがこれは原理上データログのタイミングに plusmn025 msの誤差が存在してしまうことと再構成用のタイミング信号とパルス印加のトリガーのずれによって生じるものであるため取り除くことは困難であるそのため以下の評価では 0 msでのデータは無視する注入時 (図 59(a))の EFM像に注目するとGr1上の EFM信号は電圧変化後 1 msから 15 msにかけてゆっくりと変化 (緩和)している一方電極上は 1 msでほぼ収束しているEFMの応答時間はほぼ電極上の応答時間と対応付けられるためGr1上の緩和応答は装置測定上の問題ではなく試料中の何らかの要因によるものとわかるこのように電極上の応答時間と比較することで装置上の問題と即座に切り分けることができる点が TR-EFMの利点の一つであるまた512節での

86 第 5章 時間分解測定による有機グレイン中のキャリアダイナミクス評価

Tim

e la

pse

(a) Injection

-1 ms

1 ms

2 ms

5 ms

10 ms

15 ms

0 ms

(b) Removal (c) Depletion (d) Recovery

(e) Topography(simultaneous)

25 V 0 V ndash25 V 0 V

-150 mV 150 mVEFM signal

Potential0 V +ndash

図 59 Gr1上 TR-EFM結果から再構成により得られた時間分解 EFM像plusmn25 Vのシーケンスにおける (a)注入時(b)排出時(c)空乏時(d)回復時の電圧変化前 1 msから変化後 15 msまでの応答を示している(e) TR-EFM測定時に同時に得られた表面形状像

52 有機グレインのキャリアダイナミクス評価 87

0

50

100

150

200

0 5 10 15 20

EFM

sig

nal [

mV]

Time [ms]

0

50

100

150

200

0 5 10 15 20

EFM

sig

nal [

mV]

Time [ms]

0

100

200

0 200 400 600

EFM

sig

nal [

mV]

Ditance [nm]

Elec

trod

e

Insu

lato

r

Init

BA

0

100

200

0 200 400 600

EFM

sig

nal [

mV]

Ditance [nm]

Init BA

1 ms

Init

2 ms5 ms

10 ms15 ms

Time lapseafter change

(a) Injection-prole (b) Removal-prole

(c) Injection-ave (d) Removal-ave

BA05 V

1 V15 V

2 V25 V

VB

(e) cf topography of Gr1

図 510 Gr1上 TR-EFM結果 経時変化(a) (b)それぞれ+25 Vシーケンスの注入排出時における EFM信号の時間分解ラインプロファイル表面形状像 (e)の線分 AndashB上におけるプロファイルを得た電圧変化直前の信号を破線で示しているまた指数関数フィッティングの結果を黒細線で示した(c) (d)それぞれ各シーケンスの注入排出時における Gr1上 EFM信号の経時変化形状像 (e)の x点付近の 5点平均値を示した

Gate

Electrode Grain

Insulator

Fermi levelHOMO

Metal Organic Metal Organic

(a) Equivalent circuit (b) Injection process (c) Removal process

Ener

gy

図 511 (a) グレイン上電位応答を表す等価回路モデル(b) キャリア注入時(c) 排出時のキャリアの動きと金属ndash有機界面の電子準位の模式図図中下方向がホールに対してエネルギーが高い方向となる

議論でTR-EFM としての時間分解能はおおよそ (2BW)minus1 であることを述べた本測定では BW

が 500 Hzのため時間分解能は約 1 msであり電極上 EFM信号の応答時間と一致する注入時以外の経時変化に注目すると排出時 (図 59(b))と空乏時 (図 59(c))は電圧変化後 1 msで

Gr1上の応答がほぼ飽和しており注入時とは明らかに異なる応答を示している一方回復時 (図59(d))は注入時ほど遅くはないが1 msから 5 msにかけて Gr1上の EFM信号に変化が見られる注入時と回復時は電極からグレインへの「キャリア (ホール)注入」排出時と空乏時はグレインから電極への「キャリア排出」過程と考えることができこれら Gr1上の応答時間の違いはキャリア注入排出過程の違いと考えることができる

88 第 5章 時間分解測定による有機グレイン中のキャリアダイナミクス評価

表 51 Gr1上 EFM信号の指数関数フィッティング結果 (抜粋)

Bias (Vstart minus Vend) [mV] τ [ms] Vend [mV] Residue

1 V注入 minus653 plusmn 11 417 plusmn 017 702 plusmn 06 179

2 V注入 minus1431 plusmn 23 563 plusmn 025 1448 plusmn 18 384

1 V排出 532 plusmn 07 0613 plusmn 0016 934 plusmn 012 068

図 510に Gr1上 EFM信号プロファイルつまり電極からの距離依存性を示すプロファイルは図 510(e)の線分 AndashB上で取得した(a) (b)はそれぞれ各時間における注入排出時のプロファイルを示しているが電極ndashGr1界面以外の明確なドロップがないことが分かる試料中の基板と平行な方向の伝導度が異なると応答時間に影響を与えるのでこの結果から注入排出時のキャリア輸送の阻害となる領域はほぼ電極ndashGr1界面のみであることがわかるまた先に議論した注入排出過程での応答時間の違いも図 510からよく分かる排出時の 1 ms後も Gr1上の EFM信号が若干現れているため電極と完全に同期して緩和しているわけではないと見て取れる輸送阻害となる要因がほぼ電極ndashGr1界面のみであるためGr1上のある点を Gr1全体の応答の代表とすることは問題とならない図 510(c) (d)はそれぞれ図 510(e)の x点における注入排出時の EFM信号の経時変化である注入排出ともに緩和から飽和への変化が明瞭に確認できる応答時間と電気特性との対応づけのため図 511(a)のような等価回路を考えるグレイン上の抵抗は電極ndashグレイン界面の抵抗 Rに比べて十分小さいと考えまた 4章と同様にグレインのゲート容量 C

をおく電極ndashゲート間電圧が Vstart から Vend に瞬時に変化するとグレイン上の電位 V(t)は次のように記述される

V(t) = Vend + (Vstart minus Vend) exp(minus tτ

) where τ = RC (52)

ここで同一グレインに関してはゲート容量 C は同じであるため指数関数フィッティングで得られた時定数 τは電極ndashグレイン界面の抵抗 Rに比例する図 510(c) (d)において指数関数フィッティングした結果を黒細線で重ねて示したまたフィッティングパラメータ (抜粋)を表 51に示すただし排出時の応答は 1 Vのシーケンスのみフィッティングした注入時の 05 V1 Vや排出時は実際の EFM信号とフィッティング線が比較的重なっているがそれより大きなバイアスでの注入特性は指数関数とはずれていることが分かる表 51からも残差 (Residue)が 2 Vの注入時で大きくなっていることが分かるこれら指数関数からのずれは EFM 信号の比例係数が影響していると考えられ522節において議論する

VB = 1 Vにおける時定数は注入時は 4 ms排出時は 07 msと 5倍近い差があることが分かるそして上述の議論よりこれは排出時に比べて注入時のほうが電極ndashGr1 界面の抵抗が大きいことを示しているこれは図 511(b) (c)のような金属ndash有機界面のエネルギー準位の模式図により説明できるAu上のペンタセン HOMO準位は Auのフェルミ準位 (Fermi level)よりも (電子にとって)

低いエネルギーに位置することが光電子分光法を用いた研究で報告されている [37 169]よってホールが電極からグレインに注入される際には余分にエネルギーを要する (図 511(b))一方グレインから電極にホールが排出されるときは少なくとも注入時のようなエネルギー障壁を感じることはない (図 511(c))ただし4章で議論したようにエネルギーのミスマッチ自体が電気特性に影響を及ぼす可能性はあるが注入排出時のエネルギー障壁の有無が抵抗の大小に影響したこと

52 有機グレインのキャリアダイナミクス評価 89

-200

-100

0

100

200

0 200 400 600

EFM

sig

nal [

mV]

Ditance [nm]

+25 V+2 V

+15 V+1 V

+05 V

ndash05 V

ndash15 V

ndash25 V

ndash1 V

ndash2 V

Bias

-100

0

100

-2 0 2

Sign

al (s

at)

[mV]

Bias [V]

Electrode (ref)

Gr1

(a) (b)

図 512 Gr1 上 TR-EFM 結果 飽和値(a) それぞれのバイアス電圧における電圧変化後 15ndash195 ms 間を平均した飽和値プロファイル正バイアスが蓄積時負バイアスが空乏時に対応する(b) Gr1上を平均した飽和値のバイアス依存性電極上の EFM信号をレファレンスとして黒実線で示す

は明確であるこれまでも多く報告されてきた簡易な議論ではあるが単一グレインndash電極界面での評価を達成したことはモルフォロジーやグレイン境界といった影響ではなく純粋な金属ndash有機界面で同様のことが起こるという裏付けとなりTR-EFMの局所電気特性評価法としての有用性を示す成果である最後に飽和値について言及しておく図 512(a)は各シーケンスの注入空乏時の飽和特性 (蓄積空乏特性)をプロファイルで示しているただし電圧変化後 15ndash195 ms間を平均して用いた飽和時の特性は基本的にゲートバイアスを印加した KFM測定と同じものを見ていることになる蓄積時は電極電位と同様に Gr1上の信号も増加しているが空乏時は minus15 V以降で電極ndashGr1界面のドロップが発生している一方絶縁膜上の EFM信号はほぼ変わっておらずゲートへのカップリングは起こっていないといえる図 512(b)に Gr1上で平均したバイアス依存の EFM信号飽和値を示す電極上からも取得し線形フィッティング結果を実線で示している負バイアス印加時に電極に追随して電位変化が起こらない理由としてp型有機半導体への電子注入が困難であることがあげられるAundashペンタセンの系でフェルミ準位から HOMO準位へのエネルギーオンセットがあることは既に述べたが電子にとっての障壁である金属のフェルミ準位から LUMO準位へのエネルギー差は HOMOのそれよりも大きい [170]そのためp型有機半導体に正のゲートバイアスを印加し n

チャネル動作させた際の実効的な移動度はpチャネル動作のそれよりも非常に小さい図 512(b)

の負バイアス印加時の変化が小さいのも同様の理由と考えられるここでVB = minus1 Vまではバイアス印加に伴い EFM信号すなわち電位がある程度負に変化しているこれは電子注入が起こったというよりも元々ペンタセン中に存在した余剰ホールの排出と考える方がよい本試料は成膜後AFM真空チャンバに導入するまでに大気暴露されておりペンタセン薄膜中に取り込まれた酸素分子がアクセプタとして機能することで余剰ホールが発生したつまり p型ドープが起こったと考えられる [124ndash126]一方正バイアスでは Gr1上で電極上よりも大きい EFM信号の飽和値が得られているEFM信号が電位に比例することを踏まえるとこれは電極に対して Gr1 の電位が高いことを意味するが433節では (ゲート)バイアス印加によりペンタセン単一グレインの電位が電極に対して負であるこ

90 第 5章 時間分解測定による有機グレイン中のキャリアダイナミクス評価

0 100 200 300

0 200 400 600

0 10 20

EFM

sig

nal [

mV]

2f s

igna

l [m

V]

Ditance [nm]

ForwardBackward

Elec

trod

e

Insu

lato

r

0 mV 280 mV

5 mV 250 mV

(b) EFM forward

(a) Topography(taken before)

Measuredregion (e) Proles

(c) EFM backward

(d) 2ft signal

B BA A

図 513 Gr1上の往復 TR-EFM結果表面形状像 (a)の破線で囲った箇所を測定した(b)像の左から右 (forward)(c) 右から左 (backward) へのスキャン時の 2 V 注入時 18 ms 後の EFM 像(d) Forwardでの 2倍波信号像(e) (a)の線分 AndashB上における EFM信号 (Forward Backward)2倍波信号プロファイル

とを確認したこれは EFM信号の比例係数の影響が含まれていると考えGr1上 EFM信号経時変化の指数関数フィッティングがうまくいかなかったこと (図 510(c))と合わせて次節で議論する

522 比例係数補正と電圧依存界面電気特性EFM信号は式 (51)のとおりpart2Cts

partz2 に比例するこの係数は探針と Vacが印加されている導電部分との距離や誘電率試料形状に依存するグレイン内が完全に導体でパルス印加直前の FM-AFM

によるフィードバックが完全であればこの距離は一定と考えられるが何らかの要因により異なれば同じ電位でも EFM信号が異なるここで∆f の 2ωm 成分は式 (213)より

(∆f )2ωm =f02kpart2Cts

partz212

V2ac cos 2ωmt (53)

のように表せるつまり(∆f )2ωm (以下 2倍波信号と呼ぶ)の変化から part2Ctspartz2 の変化を測定できる4

ここで蓄積時の EFM信号プロファイル (図 512(a))ではGr1上の EFM信号が電極よりも単に大きいだけでなく電極から離れるに従い徐々に大きくなる傾向が見て取れるEFM信号の比例係数に加えバイアス印加の経時回数によるストレスの影響も考えられるTR-EFMを往復つまり電極から絶縁膜方向 (Forward)と逆方向 (Backward)で取得し同時に 2倍波信号を測定することでこれら 2種類の影響を評価する測定条件としてカンチレバーの 2次共振 ( f0 sim 340 kHz)を用いた以外は [設定値 1]と同じセットアップとし2倍波信号は ZI-LIAで 100 Hzの BWで検出した図 513に往復 TR-EFM測定結果を示すForward (b) と Backward (c) で EFM 像に明確な違いはないプロファイル (e) では 52

節よりも程度は小さいがやはり電極から離れるに従い EFM信号が徐々に増加している傾向が見られるがforwardと backwardのプロファイルが重なっているためバイアスストレスの影響ではな

4 2Vac times (∆f )ωm(∆f )2ωm により試料電位 Vs を得ることができることが分かるFM-KFM のようなバイアスフィードバックを使わずこのような計算により電位を得る手法は Open-loop KFMと呼ばれる [171]

52 有機グレインのキャリアダイナミクス評価 91

8mV3mV-100 mV 100 mV

(a) Topography

(e)

(b) EFM image (+1 V) (c) 2ft image (0 V) (d) 2ft image (+1 V)

0

10

20

30

0 500 1000

He

igh

t [n

m]

Ditance [nm]

BA

-15

-1

-05

0

05

1

15

-1 0 1

No

rm

po

ten

tia

l

Bias [V]

Ref

Before

After

TR-EFM

FM-KFM

Tapping

(f) Proles (topography)Electrode (bare)Grain

Electrode

図 514 Ptndashペンタセン試料上での TR-EFM 測定と 2 倍波信号比較(a) 表面形状像(b) EFM像(c) (d) 2倍波像(b)および (d)は電極に +1 V注入時 (19 ms後)(c)は 0 Vでの結果を示している(e) 2倍波信号による校正前後の飽和信号比較(f) (a)の線分 AndashB上での高さプロファイル比較 (TR-EFM FM-KFMタッピング)

いと結論づけた一方 2倍波は BWが異なるため応答時間に注意を要するがこれまでの議論より1(2 times 100 Hz) = 5 ms程度で収束すると考えられるため電圧変化後 18 msは十分な時間である2

倍波像も EFM像と同様になめらかに取得できているプロファイルより2倍波信号は電極上に比べて Gr1上で若干大きいことが分かるこのことはGr1上飽和値が電極上よりも大きくなった原因が EFM信号の比例係数変化によるものであることを示唆する結果である

EFM信号の比例係数変化の要因を調べるため様々なサイズのペンタセングレインが接続している系 (42節と同じ試料)で同様の測定を行った (図 514)図 514(a)には現れていないが本試料は対向電極が存在しており図 514(b)の +1 V蓄積時 EFM像の左右の膜上の EFM信号が電極よりも小さい原因は対向電極に接続していることによる電圧の分配が影響しているバイアスが 0 Vのときはグレイン上の 2倍波信号は電極のそれよりも若干小さいが1 Vでは電極よりも大きいことが明瞭に確認できるこのときどのグレインにおいてもほぼ同じ 2倍波信号が得られており像左部の膜上でも同様の傾向が得られたこの結果からEFM信号の比例係数変化は電極とグレインのスケール差によるものではないと結論づけられる図 514(f)は (a)の線分 AndashBに沿った形状プロファイルおよび別途 FM-KFMおよび Tappingにより測定した同位置の形状プロファイルを示している高さの 0点は絶縁膜の高さに揃えた興味深いことに絶縁膜直上のグレイン上 (灰色領域)でのみかけの高さはどの手法でもほぼ同じであるのに対しグレインに覆われていない電極 (橙色領域)は Tappingに比べて TR-EFMFM-KFMでは高く見えているKFMのような交流バイアスを用いない通常の FM-AFMと Tappingを比較して

92 第 5章 時間分解測定による有機グレイン中のキャリアダイナミクス評価

も同様の結果が得られたこれは探針ndash電極間に電位差があり電極上のみ本来より高い位置でフィードバックが釣り合ってしまうことに起因すると考えられる引力領域で制御する FM-AFM

の方がこの影響が強いTR-EFMでは高さ固定時の探針ndashグレイン間距離よりも探針ndash電極間距離のほうが長かったためバイアス印加でグレイン導通時に EFM信号の比例係数がグレイン上で電極よりも大きくなってしまったと考えられる図 514(e)に 2倍波信号での校正前後での EFM信号の変化を示す校正は各バイアスでの飽和 EFM 信号を飽和 2 倍波信号で割ることで行い比較のためVB = 1 Vでの電極上の EFM信号 (校正前後)で規格化した図中の傾き 1の破線が電極上の値(Ref)を示している図 512(b)同様校正前は電極上よりも電位が高く見えているが校正により確かに下回ることが分かる

2倍波信号を用いない校正法 上述の方法は open-loop KFMと同じく EFM信号の比例係数変化を排除しかつ FM-KFM同様電位として値を得ることができる一方2倍波信号を別途測定する必要があり ft が大きいと PLLの帯域内に収まらない恐れやSNを確保するために BWを大きく設定すると EFM信号とは応答時間が異なるため時間分解での評価ができなくなるという問題が生じるよって時間分解測定を維持しながらEFM信号の比例係数校正を行うためには別の手法を考えねばならない電極にバイアス VB 印加時に位置 x時間 tにおける電極に対して電位差 ∆V(VB x t)が発生するとするこのとき EFM信号 sE(VB x t)を

sE(VB x t) = ACprimez(VB x t)[VB + ∆V(VB x t)] (54)

と表すここでAは VB に依らない EFM信号の比例係数Cprimez(VB x t)は part2Ctspartz2 の VB x tによる変

化を表すこれまでの測定ではパルス電圧を全て電極に印加してきたがゲートに逆符号のパルス電圧 (バイアス電圧 minusVB) を印加することを考える (図 515(a))このような印加方法による測定をゲート印加 (gate-pulse) TR-EFMと呼ぶこのとき電極グレインゲートの相対的な電位は探針やその他グラウンドの影響が除外できるとすると電極に加えるときと全く同じであるためグレイン相対電位は同じ ∆V となるこのときの EFM信号 sG(VB x t)は

sG(VB x t) = ACprimez(VB x t)∆V(VB x t) (55)

と表すことができるこれより

ACprimez(VB x t) =sE minus sG

VB(VB 0) (56)

∆V(VB x t) =sG

sE minus sGVB (57)

が得られCprimez の影響を除いたグレイン電位 ∆V が得られることが分かる図 515(b)に Gr1上でゲート印加 TR-EFM測定を行った結果得られた+25 V注入後 1 ms5 ms

10 msの EFM像を示す図 515に示すとおり注入時はゲート電極に minusVB を印加するため絶縁膜を通して負の電位を感じる一方電極は 0 VでありEFM信号はほぼ 0となるminusVB 印加直後は Gr1上が絶縁膜上よりも EFM信号が負になっているがこれは前項で述べたとおり EFM信号の比例係数の違いによるものであるそれを除けば図 59(a)で見られた電極印加の TR-EFM結果と定性的に同様の EFM像が得られており原理的には同じものであることが伺えるただしパルス電

52 有機グレインのキャリアダイナミクス評価 93

-110 mV 40 mV

1 ms 5 ms 10 ms

(b) EFM images (gate-pulse)(a)

InsulatorGate

Gate-pulse

GrainElectrode

0 V∆V

ndashVB

図 515 (a)ゲート印加 TR-EFMの応答模式図電極に VB を印加したときのグレインndash電極電位差を ∆V とするとゲートに minusVB のパルス電圧を印加したときのグレイン電位は ∆V と表せる(b) Gr1上ゲート印加 TR-EFMで得られた時間分解 EFM像

-3-2-1 0 1 2 3

0 200 400 600

(VBumlV

) [V

]

Ditance [nm]

0

02

04

06

08

1

0 200 400 600

ACz

Ditance [nm]

Elec

trod

e

Insu

lato

r

+25 V

ndash25 V

VB +25 V

+05 V0 V

ndash05 V

ndash25 V

VB

(a) corrected ACz (b) corrected ∆V

-3

-2

-1

0

1

0 5 10 15 20

6V

[V]

Time [ms]

05 V1 V

15 V2 V

25 VVB

0

5

10

0 1 2 3

Fitte

d Ѭ

[ms]

Bias [V]

(d) (c)

図 516 式 (56)(57) より得た図 510(e) 線分 AndashB 上の (a) ACprimez(b) (∆V + VB) プロファイルのバイアス依存性(c) Gr1上 ∆V の経時変化 (プロット)と指数関数フィッティング曲線 (実線)(d) (c)の指数関数フィッティングにより得た時定数のバイアス依存性

圧印加直後はグレイン上は電極に対して minusVB だけ電位が異なるグレイン上の EFM信号を考えると電極印加時は同程度であるがゲート印加時は瞬時に minusVB 相当の信号となるため変化が大きいそのため追従にさらに時間を要することに注意が必要である先述の Gr1上 TR-EFM測定結果とゲート印加 TR-EFM測定結果式 (56)(57)を用いて補正を行った結果を図 516に示す図 516(a)は飽和 EFM信号における ACprimez のバイアス依存性であり2

倍波信号に対応する成分と考えられる電極上絶縁膜上ではほぼ一定の値だがGr1上では minusVB

の正負で大きく変化する負バイアス (空乏時)では絶縁膜上の値に近くなっておりグレイン上が導通していないことを伺わせる正バイアス (蓄積時)では図 514で見られたように Gr1上 ACprimez (つ

94 第 5章 時間分解測定による有機グレイン中のキャリアダイナミクス評価

まり 2倍波信号)が電極上よりも大きくなっており確かに飽和値の結果 (図 512)は比例係数の影響を受けていたと分かった図 516(b)は補正された ∆V を視認しやすいように (∆V + VB)の形で示したプロファイルであるまず電極上で印加バイアスに対応する電圧となっており絶縁膜上の電位は一定に保たれているそして図 510(a)で見られる通常の TR-EFMプロファイルよりも Gr1

上の均一性がよくなっており比例係数の影響を排除できているしかし高負バイアスでは Gr1

上でポテンシャルの勾配がなお存在している負バイアスの変化に対しプロファイルの共通部分が存在しているため比例係数ではなくGr1上に分布している別の要因があると考えられる空乏時のグレインの物性に関してはのちに改めて議論する本校正法の最大の利点としては EFM 応答時間の条件が同じまま時間分解測定ができることにあるGr1上で平均した時間分解 EFM信号から ∆V に変換した結果を図 516(c)に示す電圧印加後15 ms は EFM 応答時間と先述のゲート印加時の応答遅れにより無視しそれ以外の領域で指数関数フィッティングした結果を実線で示している図 510(c)に比べて明らかにフィッティング曲線とのずれが小さい+25 Vでの結果をフィッティングした残差を比較すると補正前の 19に対し補正後は 024と約 110になり補正前は EFM信号の比例係数による影響が大きかったことが伺える図 516(d)は ∆V の指数関数フィッティングにより得られた時定数のバイアス依存性であるVB が大きくなるに従い時定数つまり電極ndashGr1界面の抵抗が増加しているつまり電圧に対して電流が非線形に変化する非オーム性の抵抗であることがわかった金属ndash有機界面の接触抵抗の非線形性はこれまで大電極を用いた測定で頻繁に取り沙汰されてきた一般に出力 (VDndashID)特性の低バイアス部が線形ではなく下に凸の加速度的増加を示している場合に接触抵抗の影響が大きいとされるこれは特に短チャネル低温の場合に顕著である [4950]また注入特性の改善をまずこの点から確認することもできる [161]このようなある程度ドレインバイアスをかけないと導通しないという特性はNecliudov らにより逆方向に並列接続したダイオードでモデル化された回路が用いられることが多い [136 172]しかしパラメータに物理的な意味づけができないことがこのモデルの問題点である5一方金属ndash有機界面を金属ndash半導体界面のアナロジーと考えその最も一般的なモデルである Schottky 障壁を介した注入モデルを用いて接触抵抗と障壁の関係を議論している研究もある [173 174]金属ndash半導体界面の Schottky障壁は両材料のフェルミ準位の違いにより発生するが有機半導体はフェルミ準位を定義することは難しいしかし接触後金属のフェルミ準位と (p型の場合)有機の HOMO準位に差が存在することは明確でありHOMO準位を半導体の価電子帯上端と同等とみなすことで同様に議論できると考えられるここで有機に対して金属側を正電位にすることはSchottky障壁において逆バイアスに相当するつまりSchottky障壁モデルでキャリア注入を記述する場合逆バイアスのダイオードでモデル化するほうが物理的な意味が備わると考えるここで結果に戻るとVB が大きくなるに従い抵抗が大きくなる傾向は逆バイアスのダイオードの特性と定性的に一致しているよってTR-EFMにより確認された非オーム性抵抗は金属ndash有機界面における金属フェルミ準位と有機 HOMO準位差に起因する Schottky障壁を通した注入特性を純粋に反映したものと結論づける

5 もし対応付けできると考えると導通開始に 5 Vのドレインバイアスを要すとき界面障壁が 5 eVということになりナンセンスである

53 単一グレインのチャネル形成評価 95

Lock-in ampLock-in amp

PLL2

Scanner

LDPSPDTip AC

FG1SampleInsulatorGate

Electrode

EFM signalSIM signal[X Y] [Ampl]

ZI-LIA

BWSIM BWEFM

∆f ac

ftplusmnfs ft Sample AC

図 517 TR-EFMFM-SIM同時測定 (TR-SIM)装置構成図

53 単一グレインのチャネル形成評価52節では一つのグレイン (Gr1)に注目しTR-EFMにより得られた EFM信号の経時変化や飽和値から単一グレインでの金属ndash有機界面電気特性の測定が可能であることを示したこの評価プロセスを活かしグレイン毎にどのような電気特性差が存在しどのような局所物性が特性差に影響を与えているかを評価したいと考えるここで4章で開発した FM-SIMは同じ単一グレインにおける界面電気特性を測定できる手法でありTR-EFMとの組み合わせにより相補的ないしは相乗的な評価が可能になることが期待される本節ではいくつかのグレインについて TR-EFM およびFM-SIMの結果を比較しつつグレイン間特性差を議論する

531 TR-EFMFM-SIM同時測定法図 517 は一部簡略化した TR-EFMFM-SIM 同時測定 (TR-SIM と呼ぶ) 用の装置構成図である基本的な要素としては図 43 と同じであるが全て ZI-LIA を用いていることバイアスフィードバックを行っていないことが 4章と異なる表 52に以下の測定で用いた測定条件を示すTR-EFM

では 5 kHzを用いており4章のように ft + fs の検出では PLLの帯域を大きく外れ測定が難しいそのため[設定値 SIM-1]では ft minus fs 成分を FM-SIM信号として用いたそのときLIAから得られる位相は本来の Vlo とは符号が逆になることに注意する (cf 式 (45))6設定値の目安として ftfs ft plusmn fs が互いの 23倍波と重ならないことこれら周波数の間隔が BWに対して十分取れること7 fs がそのグレインの測定レンジに入っていること8が必要である

FM-SIM信号強度が小さいと位相信号が非常に乱雑となるため以下では振幅位相の代わりにin-phase (SIM-Xと呼ぶ)out-of-phase (SIM-Y)の信号を取得した

Sweep-SIM TR-EFM (TR-SIM)ではパルス電圧に対する応答を測定するがpoint-by-point動作を利用すれば別の波形に対する応答も取得できる飽和値のバイアス依存を連続的に測定するため

6 ft lt fs のときは同相となる7 例えば441節で用いた ft + fs = 11 kHzでは EFM信号に大きくカップリングする8 図 411参照周波数が大きすぎると応答が全く得られない

96 第 5章 時間分解測定による有機グレイン中のキャリアダイナミクス評価

表 52 TR-EFMFM-SIM同時測定設定値

設定値 ft fs SIM BWEFM BWSIM

SIM-1 5 kHz minus 18 kHz = 32 kHz 200 Hz 50 Hz

SIM-2 2 kHz + 04 kHz = 24 kHz 100 Hz 20 Hz

に各点で FG1 から三角波を印加する方法を Sweep-SIM と呼ぶSweep-SIM では測定条件として[設定値 SIM-2]を用いた

532 グレイン依存性と TR-EFMSIM対応関係Gr2上 (図 57(b))において測定条件 [設定値 SIM-1]tp = 20 msn = 5Ap = plusmn05 V middot middot middot plusmn25 Vのパルスで TR-SIM測定した+25 Vのシーケンスの注入時排出時の時間分解 EFM像FM-SIM

像 (SIM-X SIM-Y)をそれぞれ図 518の (b)ndash(d)に示す図 518(a)のように測定範囲には Gr2aGr2bの二つのペンタセングレインが含まれているEFM像に注目すると注入開始後 2ndash14 msでGr2a上は同じ応答でありGr2aの応答時間は EFM信号の応答時間よりも短いことが示唆される一方 Gr2bは注入開始後 2ndash14 msで徐々に変化しているこれらグレインの注入時の時定数は 52節で測定した Gr1の時定数とは異なる図 518では Gr2a Gr2bを同時に測定しているため測定ごとに異なる応答時間が検出される可能性は排除できていることを加味するとグレインによって電極ndashグレイン界面抵抗が異なりうることを示している一方排出時は両グレイン共に 2 msでほぼEFM信号が収束しているGr2b上の EFM信号は排出後 2 msのみ若干残存しており注入時の特性差が排出時にも現れることを示唆しているこのようにGr1よりも応答の遅い Gr2bにおいても注入よりも排出過程の方が応答が早いことがわかり52節での議論は一般化できる事象だと考えられる参考としてGr2aおよび Gr2b上で 25点平均した経時 EFM信号および EFM信号を指数関数フィッティングした場合の時定数 (概算)を図 519に示すGr2bの注入時は飽和値が不明なためGr2aの飽和値と同じと推定してフィッティングを行った次に SIM-XY像 (図 518(c) (d))に注目するノイズ軽減のために TR-EFMに比べて小さい BW

(50 Hz) を用いているため測定の応答時間は約 10 ms であり電圧変化後 2 ms の SIM 像は無視する全体の傾向として注入前 minus1 ms と排出後 14 ms はほぼ同じ SIM 像となっておりパルス電圧印加前後での特性変化は小さいと考えられるGr2a について注入前後で SIM-X の強度は若干大きくなりSIM-Y では顕著に増加したここで興味深いことに注入後 14 ms の像に破線で囲ったとおり絶縁膜上の Gr2a ((ins)とする)のみならず電極上を覆う部分 (on)においてもほぼ同じ強度の SIM-Y 信号が得られている4 章でも議論したとおり交流電流の経路中に局所インピーダンスが存在する場所で SIM信号が変化するがここでは Gr2a(on)まで一様であることからGr2a(ins)ndashGr2a(on)間は十分導通しているといえる同じ注入後 14 msに関してGr2a(ins)の EFM

信号が電極上よりも大きいという EFM信号の比例係数変化による影響が Gr2a(on)においても現れているのが確認できることやGr2a(on)の SIM-X信号強度が Gr2a(ins)と同等で電極上よりも小さいことは同じく Gr2a(ins)ndashGr2a(on)間の導通を示唆する結果であるしかしインピーダンスの影響がないもしくは導通のないデフォルトの状態で SIM-Y信号が 0であることからSIM-Y像はグレインの導通領域の確認に非常に有効な手段であるといえる

53 単一グレインのチャネル形成評価 97

Time lapse(after change)

2 ms

2 ms

2 ms

8 ms

14 ms

8 ms

8 ms

14 ms

14 ms

19 ms(-1 ms)

19 ms

(ndash1 ms)

2 ms

8 ms

14 ms

0 ms

0 ms

(b) EFM signal (c) SIM-X(a) Topography) (d) SIM-Y

-100 mV 210 mV 0 mV 15 mV 0 mV 15 mV

150 nm

Gr2a

Gr2b

OnIns

25 VInjection

0 VRemoval

ndash1 ms

図 518 Gr2上 TR-SIM測定により得られた表面形状像 (a)時間分解 EFM像 (b)FM-SIMのin-phase像 (SIM-X)(c)out-of-phase像 (SIM-Y)(d)測定全体のうち+25 Vのシーケンスにおける注入時排出時の応答を示している

98 第 5章 時間分解測定による有機グレイン中のキャリアダイナミクス評価

0

50

100

150

200

0 10 20 30 40

EFM

sig

nal [

mV]

Time [ms]

+25 V 0 V

0

50

100

150

200

0 10 20 30 40

EFM

sig

nal [

mV]

Time [ms]

+25 V 0 V

05 V1 V

15 V2 V

25 V

(a) Gr2aτ ~ 14 ms(05 V)

τ ~ 3 ms(05 V)

τ lt 1 ms(b) Gr2b

Bias Bias

図 519 (a) Gr2a(b) Gr2b上の 25点平均 TR-EFM信号 (注入排出のみ)τは指数関数フィッティングした場合の注入排出それぞれにおける時定数の概算値

0

05

1

15

0 05 1 15

Re[

Y]

Ѭinj [ms-1]

0

05

1

15

-2 -1 0 1 2

Re

Im(Y

)

Bias [V]

0

05

1

15

-2 -1 0 1 2

Re

Im(Y

)

Bias [V]

0

05

1

15

-2 -1 0 1 2

Re

Im(Y

)

Bias [V]

(a) Gr2a

(d)

(b) Gr3a (c) Gr3b

Gr2bGr2b

Gr2a

Gr3b

Gr3a

(e) SIM-X(VB = ndash2 V saturation)

Re

Re

Re

Im Im Im

Gr2aGr2bGr3aGr3bGr1

1(2πfsτ)

図 520 (a)ndash(c) TR-SIMと SIMアドミタンス解析により得られたグレインごとのアドミタンス(実部 Re虚部 Im)のバイアス依存 (a Gr2a b Gr3a c Gr3b)(d)注入時の時定数 (逆数)に対するアドミタンス実部の関係同じプロット種は同じグレインの各バイアスにおける値を示している破線は理論値 Re[Y] = 1

2π fsτminus1(Gr1のみ fs = 600 Hzでの TR-SIM測定の VB = 2 Vの結

果を規格化して示した)

一方Gr2bは注入後もほとんど応答が得られておらず与えられた fs に対して界面抵抗が大きすぎると考えられるこのことはEFM像における応答時間が Gr2aに対して非常に大きい事実と合致する図 518で示した TR-SIM測定ではバイアスに対する SIM信号の飽和値が測定できる式 (415)

により SIM 信号から電極ndashGr2a 界面の正規化アドミタンス Y を算出した結果を図 520(a) に示す

53 単一グレインのチャネル形成評価 99

負バイアスでは SIM 信号が全く観測されずバイアスを正に大きくするに従い 4 章と同じく実部(Re)の増加が見られた図 57の Gr3a Gr3bでも同様の測定を行い得られた正規化界面アドミタンスを図 520(b) (c)に示すどちらのグレインにおいてもバイアスの正負で Y の振る舞いが大きく異なるしかし Gr3aに比べてGr2aと Gr3bの実部 (界面コンダクタンス)は一桁大きい値を示している同時にGr2aと Gr3bはバイアス変化により虚部にピークが現れており電極ndashグレイン界面抵抗の大小との相関が示唆される以上のように TR-SIMで観測される応答時間 (時定数)や FM-SIM解析から得られる電極ndashグレイン界面アドミタンスにはグレインごとに差異が存在するここで注入時の時定数 τinj は接触抵抗Rとグレインのゲート容量 C に対して τinj = RC と対応付けらるまた界面コンダクタンス Re[Y]

は式 (415)より Re[Y] = 1(2π fsCR)であるため

Re[Y] =1

2π fsτminus1 (58)

のように時定数の逆数に比例することがわかるこれまで TR-SIM 測定を行ったグレイン (Gr2a

Gr2b Gr3a Gr3b) に関して注入時の経時 EFM 信号の指数関数フィッティングで得られた時定数および飽和 (蓄積) 時の界面コンダクタンスを各シーケンスから算出しプロットした結果を図520(d)に示すただしGr1のみ VB = 2 Vの値のみ示しておりまた [設定値 SIM-1]とは異なりf primes = 600 Hzで測定したため実効的に fs = 18 kHzで測定されうる値となるよう f primes fs 倍した界面コンダクタンスをプロットしたまたGr2bの SIM信号は測定限界以下の強度であったため0とみなしてプロットした図 520(d) より1τinj が大きい (時定数が小さい) グレインでは界面コンダクタンスも大きい傾向が明らかであるこの結果よりグレインごとに測定された EFM 信号の応答時間の違いが測定ごとの探針やバイアスといった測定条件による影響で現れているわけではなくグレインごとの電気特性の違いを反映したものであることを保証できるただし理論より考えられる直線からは大きく外れる結果となったこの原因として一つは電極ndashグレイン界面の静電容量の影響が考えられる界面アドミタンスの並列容量 Clo の存在により見かけの時定数がτapp = R(C +Clo)に変化することは図 511(a)と同様のモデルから容易に導出できるそのため理論上の時定数 τに比べて τapp gt τとなるしかし図 520(a)ndash(c)より界面アドミタンスの虚部つまり CloC はたかだか 1であることから全てこの影響であるとは考えにくい第二にEFM信号の応答時間と FM-SIMでは厳密には測定している過程が異なることが挙げられるFM-SIMでは注入特性のうち飽和 (蓄積)時の特性を反映したものでキャリアの動きとしては蓄積状態のまま微量な注入排出が起こっている一方TR-EFMの注入時は 52節で述べたように排出時に比べて接触抵抗が大きいためFM-SIMから評価される「コンダクタンス」の方が大きめに算出される可能性はあるその影響を考慮すると図 520(d) より注入時と蓄積時のコンダクタンスがグレインに関わらず線形関係にあることが読み取れそれらの過程が全くの別物ではなく結びついていることを示唆しているつまり注入時と蓄積時の抵抗比が Aundashペンタセングレイン界面一般に成立しうることが考えられる蓄積時の時定数 τacc に対して注入時の時定数が τinj = ατacc と示されるつまり実効的な注入時蓄積時の抵抗比が αで表されるとするVB = 2 Vでの τminus1ndashRe[Y]プロットの線形フィッティングからα = 62 plusmn 08と算出されたこの結果はグレインごとに観測するとGr2a と Gr2b のように電極ndashグレイン界面抵抗は大きく変わりうるがマクロで考えると蓄積状態に比べて注入時は接触抵抗が α倍大きいことを意味しているこれまでの研究ではマクロ電極の

100 第 5章 時間分解測定による有機グレイン中のキャリアダイナミクス評価

-410 mV 410 mV 0 mV 17 mV 0 mV -12 mV

(a) EFM signal (b) SIM-X (c) SIM-YBias(VB)

+2 V

+15 V

+1 V

+05 V

0 V

ndash05 V

ndash1 V

ndash15 V

ndash2 V

(i)Metalndashorganicinterface

(ii)In-graindisorder

(iii)Whole grain

On

図 521 Gr1上 Sweep-SIM測定結果

TLM測定や KFMを用いた OFETの接触抵抗評価が行われてきたがこれらは基本的には蓄積状態での抵抗を見ている一方本研究より注入時は蓄積時よりも大きな金属ndash有機界面の接触抵抗が現れることが分かったそのためキャリア注入が動作を支配する OFETのオン動作にかかる時間は蓄積状態での抵抗から見積もられるよりもずっと長く要することに注意せねばならない

53 単一グレインのチャネル形成評価 101

-10

0

0 200 400 600

-SIM

-Y [m

V]

Distance [nm]

(a) SIM-Y(VB = ndash1 V)

(b)

(c)

0

25

50

75

100

0 05 1 15 2

d ove

r [nm

]

Bias [V]

90Average

dover

Elec

trod

e

Left edge

図 522 Gr1 上 Sweep-SIM 結果 (i) 蓄積状態の SIM-Y 像における Gr1(on) 導通領域評価結果(a)で示す線分に沿った SIM-Y像のプロファイル (b)に対しGr1上平均に対して SIM-Y信号が90となる電極端からの距離 dover をバイアス電圧に対してプロットした (c)

533 バイアス分光による導通領域変調評価前節では TR-EFMと FM-SIMを同時測定したときのそれぞれの手法の関係性について議論し

FM-SIM信号の利用によりグレインの導通領域の評価に利用できることが分かったこれまでの議論はグレイン内分布がない領域について評価していたが522節でも述べたように空乏時にはグレイン内ポテンシャル勾配が見られキャリア蓄積状態によってグレイン内の導通状態が変化していることが考えられる本項ではグレイン内外の分布を調べるために 531節で述べた Sweep-SIM

を用いグレインを空乏状態から蓄積状態まで変化させた際の SIM像変化と 521節の結果とを比較し評価を行う測定条件 [設定値 SIM-2] を用いSweep-SIM として各点 400 ms の期間に plusmn25 V の三角波を電極に印加する測定を行った結果のうちBWによる SIM信号遅れが現れていない plusmn2 Vの範囲について EFM像SIM-XSIM-Yを再構成したものを図 521に示すEFM像は図 512(a)の飽和値プロファイルに対応する量であり三角波の印加でもグレイン上の電位が十分追従していると考えられる一方SIM-X 像における Gr1 の見え方が VB によって変化しているここで+2 V からminus2 Vのバイアス範囲を(i) SIM-X像が均一 (蓄積状態VB ge minus05 V)(ii) SIM-X像が不均一 (半空乏状態minus05 V le VB le minus15 V)(iii) SIM-X像に現れない (空乏状態VB le minus15 V)3つの領域に分けることができる

(i)蓄積状態 (i)では SIM-Xに限らず EFM像SIM-Y像でも Gr1内で応答が均一であり電極ndash

グレイン界面の抵抗のみ影響する図 511(a)のモデルを適用して評価を行ったことはこれまでに述べた一方SIM-Y(図 521(c))に注目するとGr2aと同様に絶縁膜上のグレインのみならず電極上を覆う部分 (Gr1(on))においても SIM-Y信号が現れているがこの範囲がバイアスにより変化していることが分かるつまりバイアスによって電極上を覆う部分の導通領域が変調されているそこで次のようなプロセスで導通領域長さ dover を定義算出した図 522(a)の線分に沿った SIM-Y

プロファイルを用いGr1の絶縁膜上領域 (Gr1(ins))の SIM-Y信号平均値に対して 90の大きさと

102 第 5章 時間分解測定による有機グレイン中のキャリアダイナミクス評価

(b) SIM-X (VB = 0 V)(a) Topography (c) SIM-X (VB = ndash1 V)

Gr1

PlateauPlateau

図 523 Gr1上 Sweep-SIM結果 (ii)半空乏状態の SIM-X像とグレイン形状の比較(a)表面形状像と Gr1上の台地 (Plateau)位置 (破線)(Sweep-SIMとは別取得像)(b) VB = 0 V (c) VB = minus1 Vにおける SIM-X像Gr1形状を白破線で台地領域を赤破線で示した

なる Gr1(on)での位置を考え電極端からの距離を dover とするこれを各バイアス (01 V刻み)で行った結果を図 522(c)に示す100 nm以上の距離は像の左端に位置するため測定不能である導通領域長さは正バイアス電圧に対して単調に増加したが12 Vを境にその増加傾向が増している一方バイアス依存アドミタンス解析 (図 520(a)ndash(c))より電極ndashグレイン界面コンダクタンスの増加は minus05 Vのバイアス電圧で開始していることを確認しており導通領域長さの増加開始はグレインの導通開始電圧よりも大きな正バイアス電圧が必要ということになる

(ii)半空乏状態 VB = minus1 Vのときの SIM-X像 (図 521(b))では Gr1内の信号に明確な不均一性が現れたGr1の形状と SIM-X像を比較するためVB = 0 V (i蓄積状態)minus1 V (ii半空乏状態)でのSIM-X像上に表面形状から確認できるグレインの輪郭を破線で示した (図 523(b) (c))VB = 0 V

のときSIM-X信号が得られている領域は EFM信号と同じくほぼグレイン内部のみである一方VB = minus1 VではGr1の上右下に伸びる 3枝 (それぞれ上枝右枝下枝と呼ぶ)の分岐部は VB = 0 V

と同程度の信号が得られているのに対しそれぞれの枝の先まで信号が到達していないこの結果は(i)の蓄積状態とは違いGr1内にも無視できない抵抗成分があることを示しているこの抵抗の由来として分布定数回路のように距離に関係するものグレイン境界のように構造に関係するものそれ以外の影響の 3通り考えられる

532 節で述べたようにFM-SIM と TR-EFM の信号にはそれぞれ関係がある図 523(c) のSIM-X 信号では応答消失後はより遠いところの応答は見ることができないがTR-EFM では全体から信号が得られるためGr1の分岐先についても何らかの変化が観察できると考えられる図524(a)に Gr1上の (I)電極付近 (分岐部)(II)遠方 (分岐先右枝)における空乏時 (VB = minus1 V)の経時EFM信号を示す電極付近に比べて遠方では EFM信号 (の絶対値)が小さいこのこと自体は負バイアス時の EFM信号飽和値プロファイル (図 512(a))や校正後 ∆V 飽和値プロファイル (図 516(b))

からも見て取れるしかしそれに加えて電圧変化後 2 ms以降の信号に注目すると電極付近ではほとんど変化していないのに対し遠方では有意な傾き (経時変化)が見て取れるこれはキャリア輸送による電位の時間変動が起こっていることを示すものであり負バイアス時 (空乏時)の ∆V 飽和値プロファイルの勾配 (図 516(a))は静的なキャリア分布による電位勾配ではなく何らかの抵抗により発生していることを示している図 524(a)で見られた EFM信号の経時変化率 (Vs)を各負バイアスにおいて全点で算出しマッピングしたものを図 524(b)ndash(f)に示す経時変化率の算出には元の TR-EFM信号に対して付近 3 times 3

点平均で平滑化し電圧変化後 (10 plusmn 65)msのデータ点の最小二乗線形フィッティングにより得た

53 単一グレインのチャネル形成評価 103

-30

-20

-10

0

10

0 5 10 15 20

EFM

sig

nal [

mV]

Time[ms]

Near (I)

Far (II)

Gr1

05 Vsndash05 Vs

(I)

(II)

(a) EFM signal at VB = ndash1 VEFM-slope images in ldquodepletionrdquo regime

(b) ndash05 V

(c) ndash1 V

(d) ndash15 V

(e) ndash2 V

(f) ndash25 V

Plateau

Slope

Slope

図 524 (a) TR-EFM 測定で得られた Gr1 上の電極付近 (Near I) および遠方 (Far II) での空乏時の経時 EFM 信号比較(b)ndash(f) TR-EFM 結果より求めた空乏時 EFM 信号の経時変化率マップ(b) VB = minus05 V (c) minus1 V (d) minus15 V (e) minus2 V (f) minus25 VGr1輪郭を黒破線台地領域 (図523(a)参照)を赤破線で示した

(a) ndash05 V (d) ndash2 V

(e) ndash25 V(b) ndash1 V

(c) ndash15 V

08 Vsndash08 Vs

EFM-slope images in ldquorecoveryrdquo regime

(f)

Grain

Disorder

NegativeElectrode

図 525 (a)ndash(e) TR-EFM結果より求めた回復時 EFM信号の経時変化率マップ(a) VB = minus05 V(b) minus1 V (c) minus15 V (d) minus2 V (e) minus25 VGr1輪郭を黒破線台地領域 (図 523(a)参照)を青破線で示した(f)回復時の EFM時間応答を説明する模式図Disorderでのキャリア蓄積が十分ではないため抵抗として現れる

まず minus05 V (i)ではグレイン内で変化率に大きな差は見られない一方 minus1 V (ii)のときGr1の電極付近の変化率はほぼ 0なのに対し遠方では経時変化率が負であることが明瞭に観察できる特にGr1下枝では広い範囲で同程度の経時変化率であり分布的な抵抗と距離による影響ではなくグレイン内の局所抵抗が作用していると考えられるここでグレインの表面構造と比較するため図 523(a)の Gr1表面形状より台地 (Plateau)部分の輪郭を取得し経時変化率マッピングに赤破線にて重ねて示しているminus1 V (図 524(c))での経時変化率が負の領域は例えば右枝では変化率が 0

に近い領域が台地部分に侵食しているように台地部分と完全に対応しているとはいいがたいこれは同様に台地部分を桃破線で重ねて示した SIM-X像 (図 523(c))において SIM-X信号が台地部分

104 第 5章 時間分解測定による有機グレイン中のキャリアダイナミクス評価

GrainChannel

Electrodendashgrain Channel Disorder

Disorder

ON

Resist

ON ON

OFF OFF OFF

Electrode

SubstrateInsulator

VB(ndashVG)

2 V

ndash2 V

0 V

ndash1 V

(a)

(b)

(c)

(d)

(i)

(ii)

(iii)

図 526 TR-EFMFM-SIM評価から想定される単一グレインのチャネル形成過程の模式図

まで侵食していることからも確認できるよってGr1台地部分との境目ではなく表面形状から確認できないグレイン内の欠陥が抵抗として働いていると考えられる最後にVB le minus15 V (iii)では全体が同程度の変化率となっており電極ndashグレイン界面が制限していることが分かる同様に TR-EFM の回復時について11 plusmn 65 ms のデータ点の線形フィッティングで算出した

EFM信号経時変化率マップを図 525に示す回復時もやはりminus05 Vでは Gr1内は経時変化率が均一だがminus1 Vから minus25 Vでは Gr1の上枝および下枝において経時変化率が増加しているこれは電極付近では迅速なキャリア再注入により電圧変化の 10 ms後には十分収束しているが下枝等遠方ではグレイン内の局所抵抗によりキャリア再注入が阻害され負電位から 0への緩和が遅れるため他の部分よりも経時変化率が大きくなったと考えられる (図 525(f))さらにminus1 Vからminus25 Vの下枝の経時変化率が異なる領域は Gr1台地部分全体よりも小さいことが空乏時 (図 524)

の経時変化率マップよりもよくわかるこのような (見かけの)グレイン境界とは異なるペンタセングレイン内の欠陥はこれまでの研究でも報告されているNakamuraらの AFMポテンショメトリーを用いたペンタセン薄膜の電位測定から見かけのグレイン内部でも電位ドロップが起きることが指摘されている [31 32]それらはグレイン内の浅い溝状構造と相関があるとされており基板温度を常温以上にしてペンタセン薄膜を作製した際に起こりやすい走査型近接場光顕微鏡を用いた局所赤外分光評価によりこの浅い溝は温度変化で発生したペンタセン薄膜内部の歪みを薄膜相からバルク相への相転移で緩和したことにより生じたものであると評価された報告があり [175]相間の境界またはバルク相自体の低移動度性に由来する局所抵抗といえるこのようにペンタセングレインでは形状には現れてこない局所抵抗が存在し本研究でもそれが SIM-X像の変化または EFM

信号経時変化率の違いとして現れたと考えられる以上の Sweep-SIMおよび TR-EFMの経時変化率評価の結果から電極―単一グレインにおけるチャネル形成過程は図 526 のように示すことができるVB lt minus1 V (iii) では電極―グレイン界面グレイン内 (チャネル)共に空乏化しOFF状態である (図 526(d))VB sim minus1 V (ii)付近ではチャネルは導通しON状態となるがグレイン内にも存在する欠陥ではまだ空乏状態であり抵抗が存在

54 本章のまとめ 105

する (図 526(c))このチャネルの導通と局所欠陥による導通電圧の違いはOFETにおけるしきい値電圧の違いとも考えられ3章で確認したグレイン境界におけるしきい値電圧変調効果と合致する結果であるVB gt minus1 V(i)では欠陥部分も十分導通しグレイン内は均一となる (図 526(b))そのため系全体の抵抗は電極―グレイン界面のみとなるさらに VB を増加させるとグレインの電極上領域まで導通するようになり実効的な接触面積の増加から接触抵抗の低減が起こるこのことは接触抵抗のゲートバイアス依存性ともとることができる

54 本章のまとめ本章では従来手法では困難なキャリアダイナミクスの可視化評価に向け3 章で培った point-

by-point 手法を用いた実用的な TR-EFM 測定システムを構築した測定系由来の応答遅れが PLL

のバンド幅のみに依存するという重要な知見を得た上で1 msという時間分解能を達成したペンタセン単一グレインに適用することで単一グレインへのキャリア注入排出過程を可視化し注入排出で非対称な接触抵抗およびバイアス電圧依存が現れることを明らかにした

FM-SIMとの併用による多角的評価ではFM-SIMによる界面インピーダンス評価とグレイン上導通領域評価の 2つの側面から活用可能であった界面コンダクタンス測定によりグレインごとに異なる EFM信号の時定数が界面コンダクタンスと相関があることがわかり注入時と蓄積時の金属ndashグレイン界面抵抗の比として定量的に示すことができたまたバイアス分光評価と TR-EFM

の経時変化率評価により単一グレイン内部の欠陥による局所抵抗があることを明らかにした

107

第 6章

結論

61 総括本論文では従来の原子間力顕微鏡技術の改善やマクロ評価技術を組み合わせた新規測定手法の構築を通して金属ndash有機界面および近傍の局所電気特性評価を行ってきた以下ではそれぞれの項目の総括を述べる

第 3章【AFM電流測定法を用いた有機グレインの局所電気特性評価】第 3章では AFM電流測定法の一つである PCI-AFMを用いた OFETの局所電気特性評価に向けた改善および測定を行った改善の面ではまず従来の PCI-AFMでは非現実的であった真空中動作を Q値制御法の利用により実現したこれにより雰囲気による OFET電気特性への影響を排除した測定が可能となったまた効率的な動作パラメータ設定と柔軟な point-by-point動作設定が可能な制御プログラムの作成を通したフレキシブルな PCI-AFM システムを構築したこの寄与が第 5

章の TR-EFM測定システム構築の足がかりとなった測定ではマルチグレイン薄膜および単一グレイン上で評価を行ったマルチグレイン薄膜では大気真空両雰囲気中で PCI-AFM測定を実現するとともにグレインごとの局所 OFETの ON状態への変化を電流像として可視化したこのような表面形状と電流の同時マッピングによる評価は特性が変化する位置を像として明確にすることができる点が従来の AFM電流測定法に比べて優位である

第 4章【新規局所インピーダンス評価法の開発と金属―有機界面物性の評価】AFM電流測定法が電極ndashグレイン界面の電気特性評価に不向きであることを受け第 4章では新規局所インピーダンス評価法として周波数変調走査インピーダンス顕微鏡 (FM-SIM)を提案開発した開発において等価回路モデルから FM-SIM信号と電極ndashグレイン界面のインピーダンスを一対一に対応させることができることを導き等価回路定数を半定量的に算出可能な周波数解析法を考案した同手法を適用することで Aundashペンタセン単一グレイン界面のインピーダンスが抵抗ndash容量並列回路で記述できることの一般性を明らかにしたまたバイアス依存性よりAundashペンタセン界面の準位整合状態と接触抵抗が相関することを見出したことはモルフォロジーの影響を排除し

108 第 6章 結論

た真の金属ndash有機界面電気特性と電子物性を結びつけた初の試みといえる第 4章では開発した FM-SIMを用いて電極表面の自己組織化単分子膜 (SAM)処理による移動度向上の要因の評価も行ったOFET 動作中においても FM-SIM 測定が行えることを示しソース電極ndashチャネル界面のコンダクタンス増加とキャリアトラップ減少が SAM 処理による影響とわかった

第 5章【時間分解測定による有機グレイン中のキャリアダイナミクス評価】第 5章では第 4章とは違う観点からの電極ndashグレイン界面電気特性評価の試みであるとともに従来の AFM応用手法では評価しえない有機グレイン中のキャリアダイナミクスを評価するため第 3

章の point-by-pointシステムを活用した時間分解静電気力顕微鏡 (TR-EFM)を考案した測定系由来の応答遅れが PLLのバンド幅のみに依存することを示し時間分解能 1 msの電位応答測定を実現したペンタセン単一グレインの測定では十分な空間分解能でキャリア注入排出する過程を可視化することができ注入排出過程では接触抵抗が支配的であると分かった新規比例係数校正法から一般的な金属ndash有機界面の電子準位モデルで解釈可能な注入バイアス電圧依存性を確認した最後にFM-SIMの併用による相補的相乗的評価を行ったTR-EFMFM-SIM同時測定を複数のグレインに適用しグレインごとの注入過程の時定数および界面コンダクタンス値を測定したそれぞれのグレインの時定数は異なるが時定数の逆数と界面コンダクタンスは線形な関係にあることを示し注入時と蓄積時の接触抵抗がある一定の比をとることを示したまたFM-SIM像による導通領域可視化と TR-EFM測定の空乏時回復時の EFM信号時間変化率評価から単一グレイン内部においても局所抵抗を生み出す欠陥が存在することが判明した

62 今後の展望本論文では電極ndashグレイン界面を中心に様々な微小抵抗の静的動的電気特性評価が可能な手法や解析法を述べてきたこれまでで得られた物性的知見や手法をさらに推し進めることで物性的な応用と材料的な応用が期待される

物性的応用 有機ndash絶縁膜界面物性評価 金属ndash有機界面は接触抵抗という形で OFETへ直接的に影響するが有機ndash絶縁膜界面はトラップや耐久性といった内在的な影響をも有しており金属ndash有機界面物性と同じくらいに大きな OFETの制限要因であるしかし有機ndash絶縁膜界面もグレイン内部境界といった局所構造によりその影響の程度が異なる上に膜厚方向についてもキャリア蓄積効果と密接に関わってくるためこれまで同様マクロ薄膜での評価では困難であるさらに経時的変化が予想される物性のため過渡的な応答評価が可能であることが必要となるここでTR-EFM は特にこの過渡応答に強力な手法であり有機ndash絶縁膜界面物性への展開に有利であると考えられる本研究ではキャリア注入や排出時の時間は一定にして測定したが有機ndash絶縁膜界面では蓄積時のキャリア量とその時間に依存したキャリアトラップが起きるため蓄積時間変調のようなこれまでと異なるパラメータへと時間分解測定を拡張することで有機ndash絶縁膜界面物性評価に繋げられると期待される先に TR-EFMや FM-SIMを活用し微小抵抗を可視化することで

62 今後の展望 109

Insulator

Substrate

Trap

Resistance

Conduction

図 61 今後の展開の模式図本研究をナノワイヤのようなナノスケール材料へ適用することで分子ナノエレクトロニクス材料の局所特性制限要因の解明が期待される

有機半導体グレインやグレイン境界微小欠陥が生み出すキャリアトラップの程度を評価比較していくことが本研究の物性的応用と位置づけられる

材料的応用 ナノスケール材料への展開 本論文では測定対象としてサブ micromスケールの有機半導体グレインを用いたしかし金属電極との界面における接触抵抗や内部の微小抵抗といった局所電気特性は有機薄膜に限らず様々なナノスケール材料においても有する例として高分子ナノファイバーやカーボンナノチューブ (CNT)

は非常に微小なチャネル幅チャネル長をもつ FETへと応用が期待される一方で電極間への架橋が困難であることやそれぞれのナノファイバーCNTにおける電気特性差が生じることが物性解明の障害であるまた近年炭素のナノシートであるグラフェン利用も急速に発展しており化学的気相成長法や酸化グラフェンの還元といった産業応用を狙った手法で作製されたグラフェンの電気特性評価も必須となる本研究で提案した FM-SIM や TR-EFM の特長として非架橋非接触で電気特性評価が可能であることを鑑みると以上のような架橋の困難なナノスケール材料においても適用できると期待されるさらに静電気力検出をベースとした非接触測定手法であることから幅が数 nmと非常に微細なスケールであっても可視化可能である利点を有する上述の絶縁膜界面物性評価にもあるような時間分解測定の拡張も踏まえた多角的評価手法によりナノスケール材料の 1次元伝導度微小抵抗キャリアトラップといった局所電気特性評価を行うことで分子ナノエレクトロニクスへの展開が本研究の材料的応用と位置づけられる (図 61)

111

付録 A

静電気力顕微鏡の検出モード比較

本論文では 4章5章にて周波数変調方式の静電気力顕微鏡 (FM-EFM)をベースとした測定手法を扱ってきたカンチレバーの共振 (励振)周波数を f0交流バイアスの周波数を fm とすると交流バイアスに起因する静電気力成分は f0 plusmn fm に生じる (図 A1(a))これまでの FM-EFMでは 26

節で述べたように PLLを用いて周波数信号に変換した上で (図 A1(b))ロックインアンプ (LIA)により fm 成分を検出することで EFM信号を測定できるこの手法は Kitamuraらによって提案された手法 [176]でありここでは ldquoConventional-EFMrdquoと呼ぶこととするConventional-EFMの問題点としてPLLのバンド幅 (BWPLL)を変調周波数 fm より大きくする必要があるが大きな BWはループの発振を招くためあまり fm を大きくできないことにある一方図 A1(a)のように f0 plusmn fm 成分を直接ロックイン検出することによっても静電気力成分が検出できることが予想される本研究で用いた LIA である Zurich Instruments 社の HF2LI-MF (以下 ZI-LIA)にはモジュールを入れることで FM変調された信号を直接ロックイン検出する機能を有しているこれにより EFM 信号を測定する手法を Sideband-EFM と呼ぶSideband-EFM ではPLLを介さないためConventional-EFMに比べて fm を大きくでき測定速度を向上できると考えられている本章では Conventional-EFMと Sideband-EFMをそれぞれの測定 (応答)速度および SNの観点から比較するなおこの研究は京都大学大学院工学研究科馬詰彰奨学寄附金の支援で実現したカナダMcGill大学への海外研修の際に取り組んだものである

理論的比較カンチレバーの共振 (励振)周波数を f0振幅を A交流バイアスの周波数を fm静電気力による周波数変調度 (つまり所望の信号)を fp とするとカンチレバーの変位信号 s(t)は

s(t) = A cosΩ(t) = A cos[2π f0t +

fpfm

sin(2π fmt)]

(A1)

と表されるFM検出方式では周波数つまり位相 Ω(t)の微分を検出するためPLLの出力は1

2πdΩdt= f0 minus fp cos(2π fmt) (A2)

となるConventional-EFMでは fm 成分を検出するがその EFM信号の大きさは fp であり変調周波数に依存しない一方微分は周波数軸に対して積の形で現れるため変位信号におけるホワ

112 付録 A 静電気力顕微鏡の検出モード比較

(a) Signal

Sideband

PLL BWConventional

Noise level

f0f

f0+fmf0ndashfm

(b) Frequency shift

fmf

s(t) dΩdtBWPLL

図 A1 FM-EFMにおける変位信号に含まれる周波数成分の模式図(a)変位信号の周波数成分と PLLおよび Sideband-EFMによる検出領域の模式図(b) (a)から PLLにより得られた周波数シフトの周波数成分と Conventional-EFMによる検出領域の模式図

PLL2

LIA2

LIA1

BWLIA

BWLIA

BWPLL1

ZI-LIA ZI-LIA

BW100 Hz

fm f0fm

fm

f0+fm

PLL1

Deection signal Deection signal

EFM signalEFM signal

Conventional Direct sideband(a) Setup

Cantilever

Electrode

(b) (c)

図 A2 (a) ConventionalSideband-EFM のパルス電圧応答比較の共通セットアップ模式図(b)Conventional-EFMのブロックダイアグラム(c) Sideband-EFMのブロックダイアグラム

イトノイズは周波数シフトでは周波数に比例して大きくなるよってConventional-EFMの SN

は fm に反比例することがわかる一方変位信号の cos[ fp

fmsin(2π fmt)]部は Bessel関数で展開できるが fp fm の条件下では以下

の形に簡略化できるs(t) A

[cos 2π f0t plusmn fp

2 fmcos 2π( f0 plusmn fm)t

](A3)

f0 + fm 成分を直接ロックイン検出した場合EFM信号の大きさは A fp2 fmとなり fm に反比例する

一方ノイズは一定値でありSideband-EFMの SNは原理上 Conventional-EFMの SNと同じであることが予想される

パルス電圧応答比較5章の TR-EFMと同じく導電性試料にパルス電圧を加えた際の EFM信号の過渡応答を比較した (図 A2(a))図 A2(b) (c) はそれぞれ Conventional-EFM および Sideband-EFM において EFM

信号を検出する回路のブロックダイアグラムである変調周波数は fm = 1 kHz 10 kHz について評価したConventional-EFM では PLL1 の BW を BWPLL1 = 2 kHz ( fm = 1 kHz のとき) 10 kHz

( fm = 10 kHz) としたSideband-EFM では内部で PLL (PLL2) が搬送周波数 f0 を測定しデジ

113

0 02 04 06 08

1 12

0 10 20 30 40

Sign

al

Time [ms]

0

01

02

03

0 10 20 30 40

Sign

al

Time [ms]

100 Hz100 Hz(signal times 05 oset)

70 Hz

70 Hz (oset)

50 Hz50 Hz

30 HzBWLIA 20 Hz

30 HzBWLIA 20 Hz

(a) Conventional (1 kHz) (b) Sideband (1 kHz)

(c) Conventional (10 kHz) (d) Sideband (10 kHz)

0

02

04

06

08

1

-5 0 5 10 15

Sign

al

Time [ms]

0

05

1

15

2

-5 0 5 10 15

Sign

al

Time [ms]

500 Hz300 Hz200 Hz100 Hz

BWLIA

500 Hz300 Hz200 Hz100 Hz

BWLIA

図 A3 ConventionalSideband-EFM のパルス電圧応答比較結果(a) (b) は fm = 1 kHz でのConventionalSideband-EFM結果(c) (d)は fm = 10 kHzでの結果を示すただしTime lt 0 msではパルス電圧のバイアスは 0 VでありTime 0 msで 15 Vである

タル的に f0 + fm の周波数信号を参照としてロックイン検出することで実現しているそのときのPLL2の BW設定は 100 Hzとし検出される搬送周波数の fm による変動を抑えた両者の LIAのBW (BWLIA)は同じ値で比較を行った図 A3 に EFM 信号の過渡応答測定結果を示すまず fm = 1 kHz のとき図 A3(a) のように BWLIA を増加させるに応じて Conventional-EFM の応答速度が向上しており5 章での議論と合致するそれに伴い SN が低下していることは上述のとおりである一方Sideband-EFM はBWLIA = 30 Hzまでは Conventional-EFMと同等の SNおよび応答速度の EFM信号が得られているがそれよりも BW を大きくすると所望ではない交流信号が現れてしまったこの周波数は約2 kHzであり変調周波数の約 2倍である

Conventional-EFMでは困難となる変調周波数の高い場合 ( fm = 10 kHz)にも定性的に同じような応答が得られたConventional-EFMではノイズが増加するものの 0 ms前後での応答差がまだ確認できるがSideband-EFMでは BWLIA = 500 Hzの時点で確認不可能であるこのように Sideband-EFM で大きな交流信号が EFM 信号に現れる原因として搬送周波数 (共振周波数)成分の影響があげられる図 A1(a)や図 A2(c)で示したようにSideband-EFMでは変位信号からそのままロックイン検出しているがこのとき LIA の BW を大きくしすぎると搬送周波数 f0 成分にかかり始める一方Conventional-EFM では周囲 fm に Sideband-EFM のような大

114 付録 A 静電気力顕微鏡の検出モード比較

きな信号はないそのためConventional-EFMよりも Sideband-EFMのほうが LIAの BWを上げにくいと考えられるBWを小さくして測定したとしても5章で述べたように応答速度は LIAのBW にのみ依存することから高い変調周波数を扱うメリットはないさらに今回の測定ではfm = 10 kHzという高い変調周波数においても SN的に Sideband-EFMの優位性は認められなかったSideband-EFMの問題点を解消する方法としてLIAを二段構成にする方法がある [177]一段目の LIAにて搬送周波数で変位信号のロックイン検出を行うことで搬送波成分が直流となり二段目の LIA では問題とならないConventional と Sideband を正しく比較する場合にはこの方法を用いることが望まれる

115

付録 B

FM-SIMの正規化アドミタンス評価の補足

4章では周波数変調走査インピーダンス顕微鏡 (FM-SIM)を用いてAundashペンタセン単一グレイン界面インピーダンスが RC並列回路で表されることを説明した本編では式 (410)を用いて正規化アドミタンスに変換したが本章では正規化 FM-SIM信号 (γ)から視覚的に変化を読み取る方法について説明する

アドミタンスグリッド正規化アドミタンス Ynorm(式 (415)) を導入すると式 (410) より正規化 FM-SIM 信号は次のようにかける

γ =1

1 + jYminus1norm

(B1)

ここでYnorm の実部 (正規化コンダクタンス)虚部 (正規化サセプタンス)をそれぞれ g cと表す書き下すと以下のようになる

g =1

2π fsCiRlo(B2)

c = CloCi

g cのうち片方を固定し片方を 0から infinまで変化させた際の正規化 FM-SIM信号の軌跡 (γプロット)を図 B1に示すcを固定しgを変化させた際は γの周波数依存性と同じく γ = 1を通る径の異なる半円となる (破線)これは式 413において f と τr(つまり Rlo)が等価であることと対応する一方gを固定しcを変化させると点線のような軌跡をとるここで任意の γが与えられたときこの平面上のどこかにプロットできるプロット点を通るであろう gの軌跡から cがcの軌跡から gが読み取れる図 B1に示す軌跡をアドミタンスグリッドと呼ぶアドミタンスグリッドの利点は連続的なパラメータ変化に対するアドミタンス変化の概形を読み取ることである図B1を見ると分かるとおりg c lt 01または g c gt 10の領域は γの変化に対しての g cの変化が非常に大きいこれは本編のようにチャネルの ONOFF時の変化を Ynorm の変化として算出するときにFM-SIM信号強度が小さいと問題が生じる一方Ynorm を値として計算せずアドミタン

116 付録 B FM-SIMの正規化アドミタンス評価の補足

0

0

0

05

-05

1

01

1

10

g

cinfin05 1 2 10

Re[γ]

Im[γ] (Suscept)

(Conduct)

Ampl

PhaseRlo

Clo

g-1

c

Normalized

図 B1 γプロットの正規化アドミタンス (実部 g虚部 c)依存性cを固定し gを変化させた軌跡を (赤)破線でgを固定し cを変化させた軌跡を (青)点線で示しているこのような γプロットをアドミタンスグリッドと呼び任意の γ(振幅および位相)が与えられた際グリッドとの位置関係から大まかな g cの変化が読み取れる

-Imag(a) Real(a)

0

01

1

10

infin05 1 2 10

ForwardBackward

(Capacitance)

(Conductance)g

cVG = 2 V

VG = ndash3 V

図 B2 433 節のペンタセン単一グレイン上 FM-SIM 測定結果の γ プロット (アドミタンスグリッド上)Solid点が VG = 2 Vrarr minus3 Vに変化させた際 (Forward)Open点が逆方向 (Backward)での測定点である

スグリッド上に連続的にプロットすることで真値は分からなくとも変化の概形は読み取ることができる

バイアス電圧依存のアドミタンスグリッドアドミタンスグリッド上 γ プロットの例として433 節で示したペンタセン単一グレイン (グレイン A) における FM-SIM 測定結果をプロットした (図 B2)図 415 同様 VG 変化の Forward

と Backwardに関してプロットしているがプロット点の位置は違えどもその軌跡は ForwardとBackwardで非常に重なっていることがわかる433節 (図 415(c))で述べたように界面アドミタンスは VG に対してヒステリシスを示したが取りうる界面アドミタンスの値は同一であることが図B2からわかるまたグリッド線と比較すると変化の軌跡は cを固定して gを増加させた場合の軌跡に近いであろうことが見て取れるここからも負の VG 印加により界面コンダクタンスが増加し界面容量は比較的一定であることがわかる式 (B2)よりアドミタンスグリッド上で gは電極の交流バイアス周波数 fs に依存するそのため fs を変えることで g軸に沿ってプロット位置が変化することが予想される図 B3(a)に示す別のペンタセングレイン (B)に関してfs = 100 Hz 300 Hzでゲートバイアス VG 依存性を取得した結果を図 B3(b)に示すただしVG は 2 Vから minus8 Vの範囲で連続的に変化させたまずこのグレ

117

0 nm 30 nm

-05

0 05 1

fs = 50 Hz

100 Hz150 Hz

200 Hz300 Hz

500 Hz800 Hz

Imag

(a)

Real(a)

0

01

1

10

cinfin05

Conductance

g

101 2

Capacitance

VG = ndash8 V

VG

300 Hz

100 Hz

100 HzForBack

300 Hzfs

(a) Topography

(b) VG-dependence

(c) fs-dependenceElectrod

e

150 nm

Grain B

A B

図 B3 (a)グレイン Bの表面形状像(b)グレイン B((a)の x点)でのアドミタンスグリッド上 γプロットゲートバイアスを VG = 2 Vから minus8 Vに (Forward)および逆方向 (Backward)に掃引しながら測定した(c)グレイン B上周波数依存 γプロット (VG = minus1 V)

イン Bに関してもグレイン A同様に負の VG 印加に従い g軸正方向へ変化しておりキャリア蓄積に伴う接触抵抗の低減が見て取れるどちらの fs においてもその傾向が現れているが fs = 300 Hz

では 100 Hzでの gに比べて 13程度になっており予想どおりの結果となった周波数依存性との対応も調べるためいくつかの fs について図 B3(a)の線分 AndashB上をラインスキャンし電極グレイン B上の FM-SIM信号から γプロットした結果を図 B3(c)に示すグレイン Aの周波数依存性 (図 413)では周波数を掃引して測定したが非連続的に周波数を変化させても同じように半円状の変化を示すことがわかるここで fs = 100 Hz 300 Hzでの結果はそれぞれの図 B3(b)でのプロット位置と大まかに一致していることから以上の測定結果の再現性も確認できたといえる

ヒストグラムプロットγプロットは界面アドミタンスの概略的な傾向を見るのに有用だが何らかの方法で FM-SIM信号の ldquo値rdquoを抽出する必要がある代表点ラインプロファイル平均といった方法で評価はできるもののどこまでの範囲を考慮するかにおいて任意性がどうしても存在するその問題点を解消する方法として以下に述べるヒストグラムプロットがあるヒストグラムプロットでは同一領域の FM-SIM 振幅像および位相像を用い像の各点における FM-SIM信号が γプロットのどの位置に来るかを計算しγプロット内の頻度を画像化したものであるこれによりもっともらしい γ において最も頻度が大きくなりγ の位置把握に役立つ図 B4 は図 414 と同じペンタセン薄膜に対してヒストグラムプロットを適用した結果である図B4(a)の領域 [1]に対し図 B4(b) (c)で示す FM-SIM振幅位相像をそれぞれのゲートバイアスで取得し本画像から図 B4(d) (e) に示すヒストグラムプロットを得た図 B4(d) では 0 および infinの部分以外に頻度の高い領域が 2箇所見て取れるこれらは大体の FM-SIM振幅位相値からそれ

118 付録 B FM-SIMの正規化アドミタンス評価の補足

0

01

1

10

cinfin05

g

101 2 0

01

1

10

cinfin05

g

101 2

(d) [1] VG = ndash1 V

VG = ndash1 V ndash4 V VG = ndash1 V ndash4 V

(e) [1] VG = ndash4 V

Count

Large

(a) Topography (b) SIM-Ampl (c) SIM-Phase

[1]

-40ordm +50ordm2 mV 45 mV35 nm

A

C

A

C

A

C

図 B4 ペンタセン薄膜上 FM-SIM結果とヒストグラムプロット (領域 [1])(a)表面形状と領域[1](b)領域 [1]における FM-SIM振幅像(c)位相像 (それぞれ VG = minus1 Vおよび minus4 V)矢印にてグレイン A Cを示している (図 414と同一)(d) VG = minus1 V (e) minus4 Vにおける領域 [1]の γのヒストグラムプロットA Cで示した点はそれぞれ (b)内で示したグレインに対応する

0

01

1

10

cinfin05

g

101 2

VG-dependence (Grain A)

Count

Large

VG

図 B5 図 415(b)で示したペンタセングレイン A上 FM-SIMラインスキャン像から得たヒストグラムプロット

ぞれ図 B4(b)で示したグレイン A Cであることは判別できるVG を minus1 Vから minus4 Vに増加させるとヒストグラムプロットは図 B4(e)のように変化しグレイン A Cに対応する箇所が移動しているのがわかるg軸について見るとこれらは gの増加と対応していると確認できる同様に図415で示したペンタセングレイン A上における FM-SIMで得られたラインスキャン FM-SIM像からヒストグラムプロットした結果を図 B5に示す結果的には図 B2と全く同じものをプロットしているもののデータ抽出の恣意性がない分純粋な傾向を確認するのには有用と考えられる

119

付録 C

有機半導体グレイン境界のインピーダンス評価

4章では周波数変調走査インピーダンス顕微鏡 (FM-SIM)を開発し電極ndashグレイン界面に焦点を当てた局所インピーダンス評価を行ったOFET内の局所抵抗としては電極ndashグレイン界面以外にグレイン境界も大きな影響を有することがケルビンプローブ原子間力顕微鏡 (KFM)を用いた表面電位分布測定によって確認されてきた本節では 4章よりも現実の系に近い有機半導体のマルチグレイン薄膜 OFETにおいて FM-SIM測定を行いFM-SIMの電極界面以外への応用可能性や KFMとの手法比較を行う

測定条件測定試料は 422節と同様に UVおよび電子線リソグラフィにより作製した Pt電極上にペンタセンを蒸着することで作製した図 C1(a)に測定したペンタセンマルチグレイン薄膜試料の表面形状を示す図の上下にある破線で囲まれた領域に電極があり上部電極 (領域 A) をドレインとしてVD = minus1 V印加し下部電極 (E)をソース (Ground)とした上下の電極は図左半分のグレインを通じて繋がっておりこのグレインをチャネルとした OFETを形成している図中点線で示すように表面形状内のくびれくぼみからグレイン境界が判別できグレイン境界で分けられたグレインを領域 B C Dとする (図 C1(a)参照)

FM-SIM の装置構成は図 43 44 と同様であり電極 AC 電圧として振幅 Vacs = 2 Vp-p周

波数 fs = 100 Hz を用いたZI-LIA で ft + fs = 1100 Hz の ∆f の成分を検出しFM-SIM 信号とした測定では上部下部それぞれの電極を AC 電極とした測定を行いゲートバイアスVG = 1 V minus1 V minus3 V minus5 Vについて測定を行った

測定結果図 C1 に下部電極を AC 電極として FM-SIMKFM 測定した結果を示す電位像に注目すると

VG = 1 Vの時はドレインソース両電極界面 (AndashB EndashD界面)での電圧降下はほとんどなくチャネル全体にドレイン電圧が印加されていることがプロファイル (図 C1(e))からも確認できるこれは正の VG によりグレイン内が空乏化し導通していないことを示しているVG = minus1 Vでは電圧降

120 付録 C 有機半導体グレイン境界のインピーダンス評価

7006005004003002001000

14

12

1

08

06

Distance [nm]

Pote

ntia

l [V]

7006005004003002001000

30

20

10

0

Distance [nm]

SIM

-Am

pl [

mV]

7006005004003002001000

50

0

-50

-100

-150

Distance [nm]

SIM

-Pha

se [d

eg]

(b) Potential(a) Topography (c) FM-SIM ampl (d) FM-SIM phase

03 V 16 V 0 mV 50 mV -140ordm 40ordm

(g) FM-SIM phase prole(f) FM-SIM ampl proleA B C D E A B C D E A B C D E

VG = 1 V ID = 0 nA

001 nA

011 nA

028 nA

ndash1 V

ndash3 V

ndash5 V

ndash1 V

ndash3 V

ndash5 V

ndash1 V

ndash3 V

ndash5 V

VG = 1 V VG = 1 V

B

C

D

(e) Potential prole

200 nm

A

E

Source (0 V AC)

Drain (ndash1V)

Elec

trod

e

VG

1 Vndash1 Vndash3 Vndash5 V

図 C1 ペンタセンマルチグレイン OFET上の FM-SIM測定結果 (下部電極=AC電極)(b)電位像 (c) FM-SIM 振幅像 (d) FM-SIM 位相像のゲートバイアス (VG) 依存性(a) の線分 (AndashE 間)に沿った (e)電位(f) FM-SIM振幅(g) FM-SIM位相プロファイル同時に測定したドレイン電流 (ID)を (b)中に併記した

121

7006005004003002001000

30

20

10

0

Distance [nm]

SIM

-Am

pl [

mV]

-06 V 07 V 0 mV 50 mV -140ordm -60ordm

7006005004003002001000

060402

0-02-04

Distance [nm]

Pote

ntia

l [V]

7006005004003002001000

40

0

-40

-80

-120

Distance [nm]

SIM

-Pha

se [d

eg]

A B C D E A B C D E A B C D E

(b) Potential (c) FM-SIM ampl (d) FM-SIM phase

VG = 1 V

ndash1 V

ndash3 V

ndash5 V

VG = 1 V

ndash1 V

ndash3 V

ndash5 V

VG = 1 V

ndash1 V

ndash3 V

ndash5 V

(a) Topography

(g) FM-SIM phase prole(f) FM-SIM ampl prole(e) Potential prole

4002000

-108

-124

Distance [nm]

[deg

]

A B C D

B

C

D200 nm

A

E

Source (0 V)

Drain (ndash1V AC)

Elec

trod

e

VG

1 Vndash1 Vndash3 Vndash5 V

図 C2 ペンタセンマルチグレイン OFET上の FM-SIM測定結果 (上部電極=AC電極)(b)電位像 (c) FM-SIM 振幅像 (d) FM-SIM 位相像のゲートバイアス (VG) 依存性(a) の線分 (AndashE 間)に沿った (e)電位(f) FM-SIM振幅(g) FM-SIM位相プロファイル同時に測定したドレイン電流 (ID)を (b)中に併記した

122 付録 C 有機半導体グレイン境界のインピーダンス評価

下が BndashC間DndashE間で確認できminus3 V minus5 Vになると DndashE間のみとなった同時に測定した電流(図 C1(b) inset参照)から VG = plusmn1 Vでは OFETは OFF状態minus3 V minus5 Vでは ON状態であることがわかるこのことを考慮するとBndashC 間のグレイン境界が OFET の ONOFF 状態を支配しておりON状態での電気特性は DndashE間つまりソースndashチャネル界面が制限していると考えられるKFMではこのように OFET全体に占める局所抵抗の割合という相対的な評価が可能であるが例えば BndashC間グレイン境界のみの抵抗変化は電流を用いて計算する必要があり煩雑である

FM-SIMは 4章で述べたようにAC電極からの経路つまり図 C1では下部電極 (E)からの導通度合いが信号強度に反映されるまたKFM とは異なり絶対的な局所抵抗が影響しチャネル内において相対的な影響が増えても同じ抵抗値であれば同じ振幅位相となるFM-SIM 振幅像(図 C1(c)) を見るとまず VG = 1 V では E から D にかけて強度が減少している電位像では電圧降下が DndashE 間で現れていないが十分抵抗が大きいことが見て取れる次にON 状態であるVG le minus3 Vにおいて電位像には明確な変化が見られなかった BndashC界面で大きな信号低下が生じているBndashC間グレイン境界の局所抵抗は相対的には小さくなったものの抵抗値としての変化は小さいということを意味しているKFMからは BndashC間と CndashD間で明確な違いを確認することができないがFM-SIMを用いると局所抵抗の絶対値が影響するため図 C1(c)のように影響を可視化することができるというメリットがある図 C2は同様に上部電極を AC電極として FM-SIM測定した結果を示しておりFM-SIM像では上部電極からの導通度合いが反映されるまず図 C2(b) (e)は図 C2(b) (e)とほぼ同じ電位分布が得られておりバイアス印加条件を変えていないため理想的には同じ動作状況である事実と合致するFM-SIM振幅像 (図 C2(c))を見るとVG = 1 Vではやはり AC電極のすぐ隣である B上の強度が小さくなっており下部電極を AC電極としたときと同様電極界面もまだ導通していないといえるVG le minus1 Vでは AndashB間の FM-SIM振幅値が比較的近くAndashB間は DndashE間に比べて導通していると考えられる44節で述べたようにこれはソースndashチャネル界面に比べてドレインndashチャネル界面ではホールの感じる注入障壁が小さいことを示しているBndashC間グレイン境界に関しては下部電極を AC電極としたとき同様やはり大きな FM-SIM振幅変化が見られるさらにFM-SIM位相に注目すると図 C2(g)のインセットのように BndashC界面で若干の位相変化も得られた振幅変化のみであれば信号強度の比例係数変化 (522節参照)の可能性も無視できないがAC電極と比較して位相が負シフトした場合は 432節で議論したことや付録 Bのアドミタンスグリッドから分かるように抵抗性のインピーダンスが存在することを示している以上のようにKFMでは局所抵抗の相対的な変化や支配要因を評価できるがFM-SIMでは絶対的な変化を確認できるという点で相補的な評価が可能と考えられるしかし本章のようにマルチグレイン薄膜で OFETの ON状態においてもグレイン境界の影響が現れるような系では複数の局所インピーダンスが回路中に存在することグレイン容量が一定とみなすことができないことから423節のような単純な回路モデルによる半定量的なインピーダンス解析はできないことに注意する必要がある

123

研究業績

公表論文(A1) Tomoharu Kimura Yuji Miyato Kei Kobayashi Hirofumi Yamada Kazumi Matsushige ldquoIn-

vestigations of Local Electrical Characteristics of a Pentacene Thin Film by Point-Contact Current

Imaging Atomic Force Microscopyrdquo Japanese Journal of Applied Physics 51 (2012) 08KB05

(A2) Tomoharu Kimura Kei Kobayashi Hirofumi Yamada ldquoLocal impedance measurement of an

electrodesingle-pentacene-grain interface by frequency-modulation scanning impedance micro-

copyrdquo Journal of Applied Physics 118 (2015) 055501

(A3) Tomoharu Kimura Kei Kobayashi Hirofumi Yamada ldquoLocal impedance investigation of or-

ganic field-effect transistors with electrodes modified by self-assembled monolayerrdquo To be sub-

mitted

国際学会発表 (本人登壇分)

(I1) T Kimura Y Miyato K Kobayashi H Yamada K Matsushige ldquoInvestigation of Local Elec-

trical Properties of Pentacene Thin Films by Point-Contact Current-Imaging Atomic Force Mi-

croscopyrdquo 15th International Conference on Thin Films O-S17-05(Oral) Kyoto Japan (Nov

2011)

(I2) T Kimura Y Miyato K Kobayashi H Yamada K Matsushige ldquoLocal Electrical Characteristics

of Pentacene Thin Films Measured by Point-Contact Current-Imaging Atomic Force Microscopyrdquo

The 19th International Colloquium on Scanning Probe Microscopy S5-4(Oral) Toyako Hokkaido

Japan (Dec 2011)

(I3) T Kimura K Kobayashi H Yamada ldquoInvestigation of Local Field-Effect Characteristics of

Pentacene Thin Films by Point-Contact Current Imaging Atomic Force Microscopyrdquo IUMRS-

International Conference on Electronic Materials 2012 D-7-O25-004(Oral) Yokohama Japan

(Sep 2012)

(I4) T Kimura K Kobayashi H Yamada ldquoElectrical Property Measurements on Organic Semicon-

ductor Grains Using Point-Contact Current Imaging Atomic Force Microscopyrdquo 2013 MRS Spring

Meeting amp Exhibit Y604(Oral) San Francisco California United States (Apr 2013)

(I5) T Kimura K Kobayashi H Yamada ldquoLocal surface potential measurements of organic field-

effect transistors having a submicron crystalline grain channel by Kelvin-probe force microscopyrdquo

124 研究業績

19th International Vacuum Congress FMMMNST-1-Or-2(Oral) Paris France (Sep 2013)

(I6) T Kimura K Kobayashi H Yamada ldquoInvestigation of Local Electrical Properties of Organic

Field-Effect Transistors by Frequency-Modulation Scanning Impedance Microscopyrdquo 12th Interna-

tional Conference on Atomically Controlled Surfaces Interfaces and Nanostructures in conjunction

with 21st International Colloquium on Scanning Probe Microscopy 7PN-109(Poster) Tsukuba

Japan (Nov 2013)

(I7) T Kimura K Kobayashi H Yamada ldquoLocal Impedance Measurements of Organic Field-Effect

Transistors by Frequency-Modulation Scanning Impedance Microscopyrdquo The 10th MicRO Al-

liance Meeting P-15(Poster) Kyoto Japan (Nov 2013)

(I8) T Kimura K Kobayashi H Yamada ldquoLocal Impedance Characterization of Pentacene Thin

Films by Frequency-Modulation Scanning Impedance Microscopyrdquo International Conference on

Nanoscience + Technology 2014 SP-WeA9(Oral) Vail Colorado United States (Jul 2014)

(I9) T Kimura K Kobayashi H Yamada ldquoScanning Impedance Microscopic Study of Electrodendash

Channel Interface in Organic Field-Effect Transistors with Modified Electrodesrdquo 22nd International

Colloquium on Scanning Probe Microscopy S10-2(Oral) Higashiizu Shizuoka Japan (Dec 2014)

(I10) T Kimura K Kobayashi H Yamada ldquoVisualization of carrier injection and extraction processes

in organic semiconductor grain using time-resolved electrostatic force microscopyrdquo 18th Interna-

tional Conference on non contact Atomic Force Microscopy P-Wed-38(Oral) Cassis France (Sept

2015)

国内学会発表 (本人登壇分)

(N1) 木村知玄宮戸祐治小林圭山田啓文松重和美「点接触電流イメージング AFMによるペンタセン薄膜の局所電気特性の評価」第 72回応用物理学会学術講演会2a-ZB-6(口頭講演)山形 (2011年 9月)

(N2) 木村知玄宮戸祐治小林圭山田啓文松重和美 「点接触電流イメージング AFMを用いた有機薄膜トランジスタにおける局所電気特性評価」 第 59 回応用物理学関係連合講演会

16a-F5-4(口頭講演)東京 (2012年 3月)

(N3) 木村知玄小林圭山田啓文 「点接触電流イメージング AFMによる有機半導体微結晶の局所電気特性評価」第 73回応用物理学会学術講演会 11p-H1-14(口頭講演)松山 (2012年 9月)

(N4) 木村知玄小林圭山田啓文「ケルビンプローブ原子間力顕微鏡を用いた有機微結晶トランジスタの動作時における局所表面電位評価」第 60回応用物理学会春季学術講演会 29a-G8-5(口頭講演)厚木神奈川 (2013年 3月)

(N5) 木村知玄小林圭山田啓文 「周波数変調方式走査インピーダンス顕微鏡を用いた有機薄膜トランジスタの局所電気特性評価」 第 74 回応用物理学会秋季学術講演会19a-D2-3(口頭講演)京田辺京都 (2013年 9月)

(N6) 木村知玄小林圭山田啓文 「周波数変調方式走査インピーダンス顕微鏡を用いたペンタセン薄膜の局所インピーダンス計測」第 61回応用物理学会春季学術講演会20a-E16-10(口頭講演)相模原神奈川 (2014年 3月)

125

(N7) 木村知玄小林圭山田啓文 「原子間力顕微鏡を用いた有機ndash電極界面における局所インピーダンス新規評価手法」 応用物理学会関西支部 平成 26 年度 第 1 回講演会 (ポスター)京都(2014年 6月)

(N8) 木村知玄小林圭山田啓文 「電極表面処理による電極ndash有機グレイン界面物性の局所影響評価」第 75回応用物理学会秋季学術講演会17p-A2-5(口頭講演)札幌 (2014年 9月)

(N9) 木村知玄小林圭山田啓文 「時間分解静電気力顕微鏡による有機半導体グレインへの電荷注入排出過程の可視化」第 62回応用物理学会春季学術講演会13a-D14-3(口頭講演)平塚神奈川 (2015年 3月)

その他シンポジウムセミナー(S1) 木村知玄小林圭山田啓文松重和美「点接触電流イメージング AFMによる有機薄膜トラ

ンジスタの局所電気特性の評価」応用物理学会関西支部主催 2011年度関西薄膜表面セミナー(口頭講演)交野大阪 (2011年 11月)

(S2) 木村知玄 「走査プローブ技術を用いた有機薄膜の局所電気特性評価」第 7回有機デバイス院生研究会 (口頭講演)京都 (2012年 6月)

(S3) Tomoharu Kimura Kei Kobayashi Hirofumi Yamada ldquoLocal Impedance Investigation of

ElectrodendashChannel Interface in Organic Field-Effect Transistors with Modified Electrodesrdquo

Global COE 6th International Symposium on Photonics and Electroncis Science and Engineering

Kyoto Japan (Mar 2013)

(S4) 木村知玄 第 10回八大学工学系連合会「博士学生交流フォーラム」京都 (2013年 11月)

(S5) 木村知玄 「原子間力顕微鏡を用いた有機半導体薄膜の局所インピーダンス計測」第 9回有機デバイス院生研究会 (ポスター)福岡 (2014年 6月)

(S6) 木村知玄 第 11回八大学工学系連合会「博士学生交流フォーラム」札幌 (2014年 10月)

(S7) 木村知玄 「静電気力顕微鏡を用いた有機半導体グレインへの電荷注入排出過程の時間分解測定」第 10回有機デバイス院生研究会 (口頭講演)大阪 (2015年 7月)

受賞(P1) 平成 25年度京都大学大学院「工学研究科馬詰研究奨励賞」

127

謝辞

本研究は京都大学大学院工学研究科電子工学専攻教授山田啓文先生のご指導のもとで行ないました先生の深く幅広い分野における造詣に感銘を受けそこに博士のあるべき姿を重ねました常日頃より様々な学問的知識やノウハウをご教授いただいたことで研究を修めることが出来ましたここに深く感謝いたします本研究科電子工学専攻教授北野正雄先生には博士前後期連携コースの副指導教員として長きに渡りご指導を賜りましたご多忙の中でも親身になって議論していただきまた馬詰彰奨学寄附金での海外研修の際も迷いがちな私の背中を押していただきましたここに深く感謝いたします本研究科材料工学専攻教授杉村博之先生には同じく副指導教員としてご指導を賜りました他分野にも関わらず興味深く研究の相談に乗っていただき分野の垣根を超えたコラボレーションの可能性を感じさせてくださりましたここに深く感謝いたします京都大学名誉教授の松重和美先生 (現四国大学学長)には有機分子エレクトロニクスの面白さと夢のある将来展望についての熱意あふれるご講義を賜り私が博士課程へ進むきっかけを与えてくださりましたまた科学技術が学術的な面白さだけでなくモノづくりへ如何につなげるかが重要であるとの視点を与えてくださりましたここに深く感謝いたします元分子工学専攻の田中一義先生 (現福井センターシニアリサーチフェロー)には連携コースの副指導としてご指導を賜りました化学の視点に立って材料やプロセスの面で多大なご助言をいただき電気電子の分野のみでは備わらないノウハウや化学における常識を教わることができましたここに深く感謝いたします京都大学白眉センター特定准教授 小林圭先生には普段の研究で感じる様々な問題のみならず研究生活における素朴な疑問にも親身になって対処していただきました特に迷いがちな私の研究の指向に明確で分かりやすい道筋をつけてくださり研究におけるマイルストーンを示していただきましたここに深く感謝いたしいます慶應義塾大学理工学部准教授野田啓先生には在学中に有機材料や有機半導体に関する知識をお教えいただきまた研究や研究環境へ真摯に向き合うことの大切さをお教えいただきましたここに深く感謝いたしますナノテクノロジーハブ拠点の大村英治氏にはナノギャップ電極作製工程の EB描画において多大なご助力をいただきましたここに深く感謝いたします元研究室所属の鈴木一博氏服部真史氏 (現東京工業大学博士研究員)細川義浩氏井戸慎一郎氏広瀬政晴氏には博士課程の先輩として装置や研究内容だけでなく博士研究そのものについてどのようなスタンスや心持ちで臨むべきかについて様々なことをお教えいただきました特に広瀬政晴氏には同じ有機半導体を対象とした研究の先輩として研究の始まりの際に一から手ほど

128 謝辞

きをしていただき最も近い博士課程の先輩として博士課程を進める上でのノウハウをお教えいただきそして規則正しく堅実な研究生活を営む理想となる研究者の先輩としてその背中から多くのことを学ばせていただきましたここに深く感謝いたします博士研究員の木村邦子氏梅田健一氏八尾惇氏には研究者の先輩としてたくさんのことを学ばせていただきましたその真摯な研究姿勢からは常に深く探求することの重要性を知りまたその研究への熱意からは自身の研究への信念と確固たる我の必要性を学びました時には私の考えの甘さを叱責してくださり時には他愛ない会話で研究生活に一息つけるひとときをくださりましたここに深く感謝いたします本研究室の現役メンバーである博士課程学生の山岸裕史氏崔子鵬氏木南裕陽氏修士課程学生の黄雲飛氏黄子玲氏清水太一氏長谷川俊氏宮本眞之氏山下貴裕氏学部学生の野坂俊太氏濱田貴裕氏福塚清嵩氏そして旧松重研究室旧電子材料物性研究室に在籍された先輩後輩諸氏との研究のみならず日常においても親しげな関わりあいや対話があったからこそともすれば単調となりがちな研究生活を有意義に送ることができました特に山岸裕史氏とは学部学生での配属時より六年間の長きに渡り苦楽を共にし互いの支えあいあってこその博士課程であったと感じております同じ有機半導体を対象としていることから時には研究内容における相談や議論にも親身に付き合ってもらえ別の視点からの意見によって自分の思い込みを見つめなおすきっかけを与えてくれましたここに深く感謝いたします教務補佐員の林田知子氏には研究室の運営と研究環境の維持にご尽力いただき書類などの事務作業で妨げられることなく研究を進めることができましたここに深く感謝いたします博士課程中の海外研修にあたり京都大学大学院工学研究科馬詰彰奨学寄附金の支援を賜り海外の大学での 6週間に渡る研究生活という滅多にない経験を得ることができ日本とは異なる研究への姿勢指向と考え方を育むことができましたここに深く感謝いたします研究の遂行にあたり安定した研究生活基盤を提供いただいた工学研究科ならびに卓越した大学院拠点形成支援プログラムに深く感謝いたします最後に私の研究生活を支えてくれた家族友人たちに深く感謝いたします

129

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[134] M Imakawa K Sawabe Y Yomogida Y Iwasa and T Takenobu Appl Phys Lett 99 (2011)

233301

[135] G Horowitz P Lang M Mottaghi and H Aubin Adv Funct Mater 14 (2004) 1069

[136] P V Necliudov M S Shur D J Gundlach and T N Jackson J Appl Phys 88 (2000) 6594

[137] G Horowitz M E Hajlaoui and R Hajlaoui J Appl Phys 87 (2000) 4456

[138] M Shur and M Hack J Appl Phys 55 (1984) 3831

[139] M-H Yoon C Kim A Facchetti and T J Marks J Am Chem Soc 128 (2006) 12851

[140] Y Wakatsuki K Noda Y Wada T Toyabe and K Matsushige J Appl Phys 110 (2011) 054505

[141] K Seshadri and C D Frisbie Appl Phys Lett 78 (2001) 993

[142] O Tal Y Rosenwaks Y Preezant N Tessler C Chan and A Kahn Phys Rev Lett 95 (2005)

256405

[143] O Tal and Y Rosenwaks J Phys Chem B 110 (2006) 25521

[144] S V Kalinin and D A Bonnell Appl Phys Lett 78 (2001) 1306

[145] S V Kalinin and D A Bonnell J Appl Phys 91 (2002) 832

[146] J Shin V Meunier A P Baddorf and S V Kalinin Appl Phys Lett 85 (2004) 4240

[147] S V Kalinin D A Bonnell M Freitag and A T Johnson Appl Phys Lett 81 (2002) 5219

[148] S V Kalinin S Jesse J Shin A P Baddorf M A Guillorn and D B Geohegan Nanotechnol-

ogy 15 (2004) 907

[149] T Miyadera T Minari K Tsukagoshi H Ito and Y Aoyagi Appl Phys Lett 91 (2007) 013512

[150] M Kano T Minari and K Tsukagoshi Appl Phys Lett 94 (2009) 143304

[151] T Minari T Miyadera K Tsukagoshi Y Aoyagi and H Ito Appl Phys Lett 91 (2007) 053508

[152] T Minari P Darmawan C Liu Y Li Y Xu and K Tsukagoshi Appl Phys Lett 100 (2012)

093303

[153] T Yamamoto and K Takimiya J Am Chem Soc 129 (2007) 2224

[154] T Yamamoto and K Takimiya J Photopolym Sci Technol 20 (2007) 57

[155] K Takimiya H Ebata K Sakamoto T Izawa T Otsubo and Y Kunugi J Am Chem Soc 128(2006) 12604

[156] U Zschieschang F Ante D Kalblein T Yamamoto K Takimiya H Kuwabara M Ikeda

T Sekitani T Someya J B Nimoth and H Klauk Org Electron 12 (2011) 1370

[157] C D Zangmeister L B Picraux R D van Zee Y Yao and J M Tour Chem Phys Lett 442(2007) 390

[158] A Bolognesi M Berliocchi M Manenti A Di Carlo P Lugli K Lmimouni and C Dufour

IEEE Trans Electron Devices 51 (2004) 1997

[159] B Lussem M L Tietze H Kleemann C Hoszligbach J W Bartha A Zakhidov and K Leo Nat

Commun 4 (2013) 2775

[160] T Hahlen C Vanoni C Wackerlin T A Jung and S Tsujino Appl Phys Lett 101 (2012)

033305

135

[161] J-P Hong A-Y Park S Lee J Kang N Shin and D Y Yoon Appl Phys Lett 92 (2008)

143311

[162] Z Jia V W Lee I Kymissis L Floreano A Verdini A Cossaro and A Morgante Phys Rev

B 82 (2010) 125457

[163] P Marmont N Battaglini P Lang G Horowitz J Hwang A Kahn C Amato and P Calas

Org Electron 9 (2008) 419

[164] C Bock D V Pham U Kunze D Kafer G Witte and C Woll J Appl Phys 100 (2006)

114517

[165] F V Di Girolamo C Aruta M Barra P DrsquoAngelo and A Cassinese Appl Phys A 96 (2009)

481

[166] L C Teague O D Jurchescu C A Richter S Subramanian J E Anthony T N Jackson D J

Gundlach and J G Kushmerick Appl Phys Lett 96 (2010) 203305

[167] T Manaka K Matsubara K Abe and M Iwamoto Appl Phys Express 6 (2013) 101601

[168] L Collins S Jesse J I Kilpatrick A Tselev O Varenyk M B Okatan S A L Weber

A Kumar N Balke S V Kalinin and B J Rodriguez Nat Commun 5 (2014) 3871

[169] K Kanai M Honda H Ishii Y Ouchi and K Seki Org Electron 13 (2012) 309

[170] F Amy C Chan and A Kahn Org Electron 6 (2005) 85

[171] N Kobayashi H Asakawa and T Fukuma Rev Sci Instrum 81 (2010) 123705

[172] M Nakamura H Yanagisawa S Kuratani M Iizuka and K Kudo Thin Solid Films 438 (2003)

360

[173] A Valletta A Daami M Benwadih R Coppard G Fortunato M Rapisarda F Torricelli and

L Mariucci Appl Phys Lett 99 (2011) 233309

[174] M Rapisarda A Valletta A Daami S Jacob M Benwadih R Coppard G Fortunato and

L Mariucci Org Electron 13 (2012) 2017

[175] C Westermeier A Cernescu S Amarie C Liewald F Keilmann and B Nickel Nat Commun

5 (2014) 4101

[176] S Kitamura and M Iwatsuki Appl Phys Lett 72 (1998) 3154

[177] U Zerweck C Loppacher T Otto S Grafstrom and L Eng Phys Rev B 71 (2005) 125424

136

索引

2倍波信号 90

AFM 10AM-AFM 16

DNTT (dinaphto-thieno-thiophene) 65Dynamic-mode 15

EFM信号 84

FM-SIM (Frequency-modulation scanning impedancemicroscopy) 48

FM-SIM信号 50

γプロット 57

HOMO (Highest occupied molecular orbital) 4 64 65

Jump-to-contact 15

KFM (Kelvin-probe force microscopy) 21

LIA (Lock-in amplifier) 50Line-by-line 14

PCI-AFM 19PFBT (pentafluoro-benzene-thiol) 65Point-by-point 14

Q値制御法 24

SAM (Self-assembled monolayer) 3 19 65SIM (Scanning impedance microscopy) 47Static-mode 14Sweep-SIM 96

TLM (Transition line method) 4 43TR-EFM (Time-resolved EFM) 78TR-SIM 95

Zスキャナ 10

アドミタンスグリッド 115

カンチレバー 11

グレイン境界 3 29 119

正規化 FM-SIM信号 56正規化アドミタンス 62 98

ヒストグラムプロット 117

ペンタセン 29

  • 序論
    • 研究背景
      • 有機分子エレクトロニクス
      • 有機トランジスタの進展
      • 金属有機界面物性
      • 有機材料物性評価と走査プローブ顕微鏡技術
        • 研究目的
        • 本論文の構成
          • 原子間力顕微鏡の基礎
            • 走査型プローブ顕微鏡
            • 原子間力顕微鏡(AFM)
            • AFMの走査方式
            • AFMの動作モード
              • Static-mode (コンタクトモード)
              • Dynamic-mode
              • 振幅変調方式AFM (AM-AFM)
              • 周波数変調方式AFM (FM-AFM)
                • AFMの電流検出応用
                  • 導電性AFM (c-AFM)
                  • 点接触電流イメージングAFM (PCI-AFM)
                    • AFMの静電気力検出応用
                      • 静電気力顕微鏡(EFM)
                      • ケルビンプローブ原子間力顕微鏡(KFM)
                        • 本章のまとめ
                          • AFM電流測定法を用いた有機グレインの局所電気特性評価
                            • OFET評価に適した電流測定法の検討
                              • PCI-AFMの真空動作化(Q値制御法)
                              • 接触状態の検証
                                • マルチグレイン有機薄膜の複数雰囲気中測定
                                  • 測定試料
                                  • 装置構成
                                  • 大気中PCI-AFM評価
                                  • 真空中PCI-AFM評価および雰囲気比較
                                    • 単一微小グレインOFETの特性評価
                                      • Point-by-point動作時間間隔の自由化
                                      • ペンタセン微結晶上のPCI-AFMライン測定
                                      • 抵抗の距離依存性の理論数値的検討
                                      • 電極近傍の電気伝導特性
                                        • AFMによる接触電流測定の問題点
                                        • 本章のまとめ
                                          • 新規局所インピーダンス評価法の開発と金属―有機界面物性の評価
                                            • 走査インピーダンス顕微鏡(SIM)
                                            • 周波数変調走査インピーダンス顕微鏡(FM-SIM)の開発
                                              • FM-SIMの原理
                                              • OFETにおけるFM-SIM応答の妥当性
                                              • 局所インピーダンスの解析
                                                • ペンタセングレイン上の局所インピーダンス評価
                                                  • 単一グレイン上の周波数依存評価
                                                  • 電極グレイン界面インピーダンスの一般性
                                                  • キャリア蓄積による電極グレイン界面物性変化
                                                    • 電極表面処理によるOFET特性への直接影響評価
                                                      • 電極表面処理および試料作製
                                                      • 電気特性評価
                                                      • FM-SIMによる電極DNTT界面局所電気特性評価
                                                        • 本章のまとめ
                                                          • 時間分解測定による有機グレイン中のキャリアダイナミクス評価
                                                            • 時間分解EFM (TR-EFM)
                                                              • TR-EFMの動作
                                                              • 妥当性検証
                                                                • 有機グレインのキャリアダイナミクス評価
                                                                  • 単一グレインの時間分解パルス電圧応答
                                                                  • 比例係数補正と電圧依存界面電気特性
                                                                    • 単一グレインのチャネル形成評価
                                                                      • TR-EFMFM-SIM同時測定法
                                                                      • グレイン依存性とTR-EFMSIM対応関係
                                                                      • バイアス分光による導通領域変調評価
                                                                        • 本章のまとめ
                                                                          • 結論
                                                                            • 総括
                                                                            • 今後の展望
                                                                              • 静電気力顕微鏡の検出モード比較
                                                                              • FM-SIMの正規化アドミタンス評価の補足
                                                                              • 有機半導体グレイン境界のインピーダンス評価
                                                                              • 研究業績
                                                                              • 謝辞
                                                                              • 参考文献
                                                                              • 索引
Page 3: Title 原子間力顕微鏡を用いた有機半導体グレイン/電極界面 ...2.6.1 静電気力顕微鏡(EFM) .....20 2.6.2 ケルビンプローブ原子間力顕微鏡(KFM)

原子間力顕微鏡を用いた有機半導体グレイン電極界面の局所電気特性評価

木村 知玄

2016年

i

目次

第 1章 序論 1

11 研究背景 1

111 有機分子エレクトロニクス 1

112 有機トランジスタの進展 2

113 金属ndash有機界面物性 3

114 有機材料物性評価と走査プローブ顕微鏡技術 5

12 研究目的 6

13 本論文の構成 6

第 2章 原子間力顕微鏡の基礎 9

21 走査型プローブ顕微鏡 9

22 原子間力顕微鏡 (AFM) 10

23 AFMの走査方式 12

24 AFMの動作モード 14

241 Static-mode (コンタクトモード) 14

242 Dynamic-mode 15

243 振幅変調方式 AFM (AM-AFM) 16

244 周波数変調方式 AFM (FM-AFM) 18

25 AFMの電流検出応用 18

251 導電性 AFM (c-AFM) 19

252 点接触電流イメージング AFM (PCI-AFM) 19

26 AFMの静電気力検出応用 20

261 静電気力顕微鏡 (EFM) 20

262 ケルビンプローブ原子間力顕微鏡 (KFM) 21

27 本章のまとめ 22

第 3章 AFM電流測定法を用いた有機グレインの局所電気特性評価 23

31 OFET評価に適した電流測定法の検討 23

311 PCI-AFMの真空動作化 (Q値制御法) 24

312 接触状態の検証 26

32 マルチグレイン有機薄膜の複数雰囲気中測定 29

ii 目次

321 測定試料 29

322 装置構成 31

323 大気中 PCI-AFM評価 31

324 真空中 PCI-AFM評価および雰囲気比較 33

33 単一微小グレイン OFETの特性評価 36

331 Point-by-point動作時間間隔の自由化 36

332 ペンタセン微結晶上の PCI-AFMライン測定 38

333 抵抗の距離依存性の理論数値的検討 39

334 電極近傍の電気伝導特性 44

34 AFMによる接触電流測定の問題点 45

35 本章のまとめ 46

第 4章 新規局所インピーダンス評価法の開発と金属―有機界面物性の評価 47

41 走査インピーダンス顕微鏡 (SIM) 47

42 周波数変調走査インピーダンス顕微鏡 (FM-SIM)の開発 48

421 FM-SIMの原理 49

422 OFETにおける FM-SIM応答の妥当性 52

423 局所インピーダンスの解析 55

43 ペンタセングレイン上の局所インピーダンス評価 59

431 単一グレイン上の周波数依存評価 59

432 電極ndashグレイン界面インピーダンスの一般性 61

433 キャリア蓄積による電極ndashグレイン界面物性変化 62

44 電極表面処理による OFET特性への直接影響評価 65

441 電極表面処理および試料作製 65

442 電気特性評価 66

443 FM-SIMによる電極ndashDNTT界面局所電気特性評価 68

45 本章のまとめ 74

第 5章 時間分解測定による有機グレイン中のキャリアダイナミクス評価 77

51 時間分解 EFM (TR-EFM) 77

511 TR-EFMの動作 78

512 妥当性検証 79

52 有機グレインのキャリアダイナミクス評価 84

521 単一グレインの時間分解パルス電圧応答 85

522 比例係数補正と電圧依存界面電気特性 90

53 単一グレインのチャネル形成評価 95

531 TR-EFMFM-SIM同時測定法 95

532 グレイン依存性と TR-EFMSIM対応関係 96

533 バイアス分光による導通領域変調評価 101

54 本章のまとめ 105

iii

第 6章 結論 107

61 総括 107

62 今後の展望 108

付録 A 静電気力顕微鏡の検出モード比較 111

付録 B FM-SIMの正規化アドミタンス評価の補足 115

付録 C 有機半導体グレイン境界のインピーダンス評価 119

研究業績 123

謝辞 127

参考文献 129

索引 136

1

第 1章

序論

11 研究背景111 有機分子エレクトロニクス現在われわれはたくさんの電子情報機器に囲まれて生活をしているテレビやスマートフォンのような直接的能動的に使用するものだけでなく物販医療交通といった生活のあらゆる場面で電子情報機器はわれわれの営みの中核をなしているこうした電子機器はわれわれに便利な暮らしをもたらすと同時にそれなしでは生活が非常に困難な社会となってきたこのような社会変化をもたらした数十年間のエレクトロニクスの進歩の大部分はSiを材料として用いた無機半導体デバイスの進歩によるものである1965年に提示された集積回路上のトランジスタ数が 18ヶ月ごとに倍になる ldquoMoorersquos lawrdquo [1]を指標として半導体の高集積化と微細化が進み現在ではプロセスルールが 14 nm のプロセッサが市販化されているまでに至った [2]一方でトランジスタ数や微細化以外の軸での「高機能化」も取り組まれている2007 年 12 月に行われた ITRS Public

Conference 2007 (セミコンジャパン 2008内)では新技術も含めたこれまでのスケーリング則を踏襲する ldquoMore Moorerdquoに加えてデバイスの多機能化による価値向上を目指す ldquoMore than Moorerdquo

という新たな軸が明示された [3]More than Moore の軸ではアナログ信号との融和センサの集積バイオといった技術が見据えられておりldquoInteracting with people and environmentrdquoと述べられていることからも人や周囲との繋がりをより重視していくと考えられる [4]ldquoモノのインターネット (Internet of Things IoT)rdquoが進められるようにUbiquitousな電子化情報化に向けたデバイス開発が望まれる中でMore than Mooreに向けた新規エレクトロニクス分野の一つとして有機分子エレクトロニクスが期待されている有機分子エレクトロニクスは有機分子を電気的光学的機能材料として用いた電子デバイスの創成を目指す研究分野である有機材料のもつプラスチックのような軽量性可撓性を活かし形の任意性や意匠性あるデバイス軽量基板を用いた設置コストの小さなデバイス [5]ヒトに直接装着できるウェアラブルデバイスへの展開が期待されている [6]また生体分子や DNAとの親和性からバイオセンサといったバイオエレクトロニクスとの共通項や有機分子の自己組織性を利用した新規プロセスやデバイスも考えられているこのように電気だけでなく化学生物等との分野融合的な取り組みにより有機エレクトロニクスは応用物理学会の該当分野における学会発表件数でも 2014年秋季で 500件を超えるまでに成長した一大分野となっている [7]

2 第 1章 序論

VD

VG

DrainOrganic semiconductor

Source

GateInsulator

図 11 有機電界効果トランジスタ (OFET)の模式図p型有機半導体 (organic semiconductor)を用いた場合VG lt 0 Vのゲートバイアス印加でソースndashドレイン間電流が増加する p型 OFETとなる

有機エレクトロニクスの研究は1977 年の Shirakawa らによる導電性高分子の作製に端を発する [8]当時高分子は絶縁体とみなされていたがポリアセチレンにハロゲンをドープすることで元の導電率から 8 桁以上改善させ導電体と知られる電荷移動金属錯体 (TTF)(TCNQ) の導電率10Ωminus1cmminus1 を上回る導電率を持つポリマー膜を作製した以降の研究で現在のエレクトロニクスで活躍するデバイスのアナロジーである有機電界効果トランジスタ (Organic field-effect transistor

OFET)有機発光ダイオード (Organic light-emitting diode OLED)有機太陽電池 (Organic photo

voltaic cell OPVC)が開発され現在の有機エレクトロニクス研究の中核を成している特に OLED

に関しては有機材料自身が発光することで液晶ディスプレイに比べてコントラスト比が向上するというメリットもあり有機 ELディスプレイとして 2007年には小型テレビが [9]現在ではスマートフォンやフル HDテレビが市販されるに至っている [10]

112 有機トランジスタの進展OFETは図 11のようにドレインソースゲートの 3電極と絶縁膜を隔てたゲート電極の向かいである有機半導体層から構成されており有機エレクトロニクスにおけるスイッチング電流制御を行う能動素子として位置づけれられる無機半導体の基本素子である MOSFET (Metal-oxide-

semiconductor FET)と異なり半導体層の多数キャリアの注入による蓄積層がチャネルとなるアモルファスシリコン (a-Si)で広く用いられる薄膜トランジスタ (Thin film transistor TFT)との動作原理および構造のアナロジーから有機薄膜トランジスタ (Organic TFT OTFT)とも呼ばれる

1986年に高分子を用いた OFETが最初1に報告され [11]低分子材料では 1989年にフランス国立研究所の Horowitzらによりその動作が報告された [12]これら報告ではそれぞれチオフェンと呼ばれる分子の高分子オリゴマーを用いているこれらポリオリゴチオフェンは単結合二重結合が交互に連なる分子であり先に述べたポリアセチレンも含めて π共役系分子 (ポリマー)と呼ばれる以降π共役系分子を中心に OFET研究は進展していくこととなる

OFET に関する研究で最初に注力されていた点は (電界効果) 移動度の向上であるこれは例えばディスプレイの画素の駆動に必要な OFET の面積の削減やデバイス駆動の定電圧化デバイス駆動熱の低減という観点から実用的なデバイスに向けて必要となる1989 年の報告で1 times 10minus3 cm2(Vs) であった移動度は表面処理や真空蒸着におけるプロセス条件の改善により

1 出力特性に飽和特性が現れるものとしては最初

11 研究背景 3

1997年にペンタセンを用いた OFETで a-Si TFTの目安である 1 cm2(Vs)を超える移動度を達成している [13]さらに絶縁膜の影響を考慮することや単結晶の作製により2004年には 20 cm2(Vs)

を [14]2007年には 40 cm2(Vs)を達成している [15]しかしこれら高移動度の OFETの報告は実用化には不向きな昇華生成により作製した単結晶を用いていること後述の接触抵抗の影響を排除した材料本来の移動度を抽出したことによる結果のため実用的な作製法での実効的移動度向上を目指した研究が続けられているこういった OFET の性能向上に伴い別の観点からの研究も増加してきた一つは有機エレクトロニクスの特長といえる塗布型デバイスの作製に関する研究である塗布型の始まりは高分子半導体であるが01 cm2(Vs)程度という低移動度が問題であった [16]高移動度化のために研究された可溶性の低分子有機半導体材料の中で有名なものとしてアニールなどの追加の加熱プロセスが不要な TIPS (Triisopropyl-silylethynyl)ペンタセンがある [17 18]さらに近年の研究で移動度10 cm2(Vs) を超える高結晶性な塗布型 OFET も報告されており現在盛んに研究されている内容の一つである [19]一方OFETを回路の一部として組み込む例も現れてきたエレクトロニクスの基本単位である CMOS (Complementary MOS-FET)回路を模倣しpn両方の OFETを用いたインバータ動作 [20] やインバータを直列に接続したリングオシレータによる発振動作の実証がある [2122]また可撓性のある OFETアレイを用いてメモリやセンサといったデバイス応用を見据えた研究が着実に進められている [6 23 24]

113 金属ndash有機界面物性これまでの研究で OFETの進展が見られる一方それに伴いいくつかの問題点が実用化を阻んでいる一点目として高結晶性高移動度材料の開発が進むことで有機薄膜内部の抵抗は低減するが相対的に接触抵抗の影響が顕著に現れるようになる [19]これはOFETの集積化に必要な微細化によっても顕著になる問題である二点目として素子のばらつきの問題がある特に高移動度や高結晶性材料を用いた OFETでは接触抵抗のばらつきが移動度のばらつきとして顕著に現れるバンク構造やディスペンサによるプロセスの画一化によるばらつき低減に関する研究も行われているものの依然解決には至っていない [25]このような接触抵抗つまり金属ndash有機界面における電気特性が現在 OFETのデバイス性能向上や制御の障害となっている以下ではこれまで研究された金属ndash有機界面物性やその評価法について述べる金属ndash有機界面における問題はモルフォロジーによる影響と電子物性による影響に大きく二分される一般的な製膜方法である真空蒸着法で作製した有機薄膜は通常マルチグレイン (マルチドメイン)薄膜2と呼ばれ微小な島状の有機薄膜である「グレイン」が多数接続したモルフォロジーを成すグレインサイズは蒸着条件 [26 27]酸化絶縁膜表面のオゾン処理 [28]絶縁膜材料や表面の自己組織化単分子膜 (Self-assembled monolayer SAM) 処理 [29 30] によって変化するが一般にサブ micromから数 micromの範囲にあるこのグレイン境界はチャネル長が数 10 micromから数 100 microm

程度であることを鑑みるとチャネル中を電流が流れる際に多数のグレイン境界を通過することに

2 有機薄膜においては ldquoグレインrdquoと ldquoドメインrdquoおよびその境界の言葉の定義が曖昧であり人により用法が異なる有機薄膜中の島状の区画は一般にグレインと呼ばれるが単分子層であっても単結晶ではなく結晶方位が異なる場合がありそのときのそれぞれの区画をドメインと呼ぶことがある本論文では少なくとも表面形状像から推測される溝で区切られた区画をグレインと呼びその境界をグレイン境界とする

4 第 1章 序論

なるグレイン境界は多結晶質の無機半導体とのアナロジーからキャリア輸送の阻害要因として考えられることが多いそのため一般にグレインサイズが大きいほどつまりチャネル中にグレイン境界が少ないほど移動度が向上するといわれその観点に基づく移動度モデルが提唱されてきた [26 27 31 32]ここで電極上や電極付近ではチャネル上と異なるモルフォロジーを呈することが知られており電極付近では小さなグレインを形成することにより低移動度となり等価的に接触抵抗が増加することが金属ndash有機界面における一点目の問題である一方有機半導体と金属のエネルギー準位の関係という電子物性の影響も長らく議論されてきた無機半導体においては金属ndash半導体界面は両者のフェルミ準位が一致するように真空準位に差が生じる Schottky則が基本となるが有機半導体はその限りではない例えば p型 (ホール伝導型)の場合有機半導体の最高被占分子軌道 (Highest occupied molecular orbital HOMO)準位 [33]を無機半導体の価電子帯と対応させ金属のフェルミ準位と有機半導体の HOMO準位が非整合なときにキャリア輸送阻害となるという一般的な理解を元に議論されるこのように両者の真空準位を一致させる方法を ldquoSchottkyndashMott 則rdquo といいTang と Slyke による正孔注入層を挿入した実用的な OLED

が報告されて以降 [34]有機エレクトロニクス全般で SchottkyndashMott則に基づく界面エンジニアリングが行われてきたこういった金属ndash有機界面の電子準位の評価には光電子分光法やその派生手法が用いられこれまで様々な金属電極と有機薄膜の組み合わせや [35ndash37]間に別の材料を挟むヘテロ接合での電子準位 [38]が評価されてきたこれら研究により金属ndash有機界面は SchottkyndashMott

則のような単純な関係ではなく金属ndash有機間の電荷の授受有機分子のダイポールやピロー効果によって生じる真空準位シフトにより有機側のエネルギー準位にずれが生じることが明らかとなった特に有機側の界面準位などにより電極の仕事関数に関わらずフェルミ準位ndashHOMO準位差が一定となるように真空準位シフトが起こる場合を ldquoFermi-level pinning (フェルミ準位のピン留め効果)rdquo といい [39]SchottkyndashMott 則に基づく界面エンジニアリングは効果をなさないこのように金属ndash有機界面の電子物性は複雑さを極めており金属ndash有機界面における二点目の問題となる以上のような金属ndash有機界面物性のため接触抵抗は電極材料 [40ndash42] や電極表面処理 [43ndash45]デバイス構造 [46 47] によっても異なることが知られており接触抵抗の変化により実効的な移動度つまり特性変化が引き起こされるさらに接触抵抗が単なる抵抗ではなくゲートバイアス依存 [41 48]や低バイアス領域や短チャネル系では非線形性 [49ndash51]が現れることが確認されており接触抵抗が単純な抵抗としてはモデル化できないことを示唆している以上のようにデバイス特性と上述の金属ndash有機界面物性がどのように関わるかについては現在も議論が続いている金属ndash有機界面の電気特性の評価にはOFETに限らず様々な構造において様々な手法がなされてきた (表 11)接触抵抗とチャネル特性を分離する基本的な手法として四端子法および Transfer line

methodまたは Transition line method (TLM)が知られている [52]四端子法は電流を流す 2端子に加え電圧測定用の 2端子を用いることで微小抵抗材料の導電率測定を行う手法であるがOFETではゲート電圧依存のソースドレイン界面の接触抵抗の測定に用いられる [415354]しかしチャネル上の電位勾配が均一でない場合は正しい値とならないTLMはチャネル長の異なる複数のデバイスを用いて総抵抗の変化から接触抵抗とチャネル領域の移動度を分離する手法であり [46 48 55]フィッティング点数が多い面で四端子法よりもばらつきの影響は抑えられるしかしソースドレイン界面の接触抵抗を分離できないことに加え短チャネルでは TLMで求まる接触抵抗が実際よりも大きく見積もられるという問題がある [56]

11 研究背景 5

表 11 OFETや有機薄膜の電気特性測定に用いられるマクロ薄膜での手法と対応する走査プローブ技術

評価対象 マクロ手法 走査プローブ技術

総抵抗 電流ndash電圧 (IndashV)測定導電性 AFM (c-AFM)

デュアルプローブ AFM (DP-AFM)

局所抵抗の分離評価4端子測定 ケルビンプローブ原子間力顕微鏡 (KFM)

Transition line method (TLM) mdash

インピーダンス インピーダンス分光 (IS) mdash

キャリア注入容量ndash電圧 (CndashV)測定 mdash

変位電流測定 (DCM) mdash

キャリア注入輸送特性という観点では容量ndash電圧 (CndashV) 測定や変位電流測定 (Displacement

current measurement DCM)インピーダンス分光といった交流特性を利用した評価が有用であるCndashV 測定は金属ndash絶縁膜ndash半導体 (Metal-insulator-semiconductor MIS)接合の試料においてゲートバイアスを掃引しながら容量を測定し注入が始まる電位が評価できると共に周波数による特性変化から金属ndash有機界面の接触抵抗に関しても議論が可能な手法である [57]一方DCMは CndashV 測定と同じMIS構造で三角波のバイアス電圧を印加することで変位電流の大きさから有機半導体へのキャリア注入状態の変化を評価可能である [58]これら 2手法はMIS構造に基づく評価手法であるがOFETに適用することで注入電圧 [59 60]や接触インピーダンス [61]やチャネル上のトラップ [62]について評価した例もある最後にインピーダンス分光は交流バイアスに対する複素電流応答の周波数依存性を測定することで積層デバイスの回路インピーダンスの同定 [63]や OLEDの接触インピーダンス評価に利用できる [64]金属ndash有機界面物性は様々な側面を孕んでいるが以上で述べた評価法は基本的に大面積な電極および有機薄膜を使用した評価である一方有機薄膜が基本的にマルチグレイン薄膜であることを鑑みると電極近傍のモルフォロジー変化やグレイン境界の影響を含んでしまう恐れがあり真の金属ndash有機界面物性評価が可能とは言いがたいよって今後 OFETの進展に向けて電子物性とモルフォロジーの影響を弁別して評価するためにldquo特定のrdquoグレインに注目した評価手法が必要となる

114 有機材料物性評価と走査プローブ顕微鏡技術原子間力顕微鏡 (Atomic force microscopy AFM)はカンチレバーと呼ばれる先鋭な微小探針を有すプローブを用いて表面形状を測定する手法でありナノスケール領域での表面分析手法の一つとして広く用いられている [65]AFMの特徴として絶縁膜や低導電性材料においても評価可能であるという走査電子顕微鏡や走査トンネル顕微鏡 (Scanning tunneling microscopy STM) に対する優位性導電性プローブを用いることで電気的刺激応答評価が可能となることによる多彩な応用可能性の 2点があげられる特に後者に関しては有機半導体に対するナノスケールの ldquoテスタrdquoとして用いることができることから多くの研究がなされてきたこれらの研究はスケールの観点から有機薄膜やデバイスにおける評価とグレインスケールや単分子膜における評価に大きく二分できる有機薄膜やデバイスにおいてはケルビンプローブ原子間力顕微鏡 (Kelvin-probe force microscopy

KFM)を用いた表面電位評価が有効であるOFETにバイアスを印加させ動作している状態での

6 第 1章 序論

チャネル上の電位分布電位勾配を測定できマクロ薄膜での評価手法である 4端子測定をナノスケールチャネル全域評価へ拡張したものとみなせるKFMを用いることで 4端子測定ではアクセス不可能な OFETの電極ndash有機界面の最近傍にアクセスできる上に [40]チャネル中のグレイン境界における電圧勾配も可視化可能である [47 66]近年ではOFETの有機薄膜ndashゲート電極方向の断面における電位像取得も達成されており [67]OFETの局所制限要因を評価する有用な手法であるといえる一方でKFMによる OFETの電位評価では定性的なグレイン境界の影響は見えるが一般にチャネル中のグレイン数が多いため定量的な評価は困難である対してグレインスケールでは導電性 AFM (conductive-AFM c-AFM)を用いた電流測定が報告されている1999年に KelleyFrisbieによって Au電極に接続した絶縁膜上の無置換オリゴチオフェン 6量体 (α-6T)グレインに AFMの導電性探針を接触させ単一グレインの IndashV 特性の測定に成功している [68]またゲートバイアスを印加した局所 OFET構造での測定やグレイン境界を跨ぐ測定も行われている [69 70]一方近年では電極に接続していない任意のグレインの電気特性評価ができる複数探針を有す AFMシステムの開発が盛んに行われてきた音叉型カンチレバーを用いることで 4本の探針を備えた AFMシステムではグラフェンの導電性の 4端子測定を達成している [71]また従来のカンチレバーを用いることで音叉型では困難な接触力制御を可能にした二探針 AFMシステムも報告されており [72 73]単一グレイン内 [74]や単一グレイン境界 [75]における電気特性測定が行われてきたここで大面積 (マクロ)な有機薄膜における電気特性の評価手法と走査プローブ技術とを比較すると表 11のようにまとめられるc-AFMや DP-AFMによっても電極間距離や位置と電気特性の関係についてもある程度議論ができるが位置精度や各測定の同一条件性の点で不十分といえマクロ測定の TLMに対応するより体系的なプローブ評価手法が必要と考えられるまた4端子測定と対応する KFMにより接触抵抗の評価が可能となるが界面の電子物性との関係に言及するには不十分であるインピーダンス分光や CndashV 測定のような交流電圧や経時応答を用いることでより深い物性の議論が可能になることが期待される

12 研究目的以上で述べたようにOFETの局所電気特性についてこれまでも様々な AFMの応用手法による評価が行われてきたが単一グレインスケールでの金属ndash有機界面物性評価には至っていないよって本研究では「真の金属ndash有機界面物性評価」を目指した AFMによる電極ndash単一グレイン界面電気特性測定手法の構築を研究目的として掲げるそのためにはデバイスレベルでは有用なマクロ薄膜での各種電気特性測定手法を活用し未だ試みられていない AFMとマクロ電気特性手法との組み合わせを通した新規手法についても模索するまた従来手法で問題となりうる電極付近のその他評価可能な局所電気特性についても理解を深めることとする

13 本論文の構成本論文は以下に示す 6章で構成されておりそれぞれの章には図 12で示す繋がりがある

第 1章 序章

13 本論文の構成 7

第 2章 原子間力顕微鏡の基礎本研究の主体となる AFMとこれまで用いられてきた応用手法技術に関して述べると共に従来手法を OFETの局所電気特性評価に用いる上での問題点や未だ試みられていない領域について言及する

第 3章 AFM電流測定法を用いた有機グレインの局所電気特性評価OFET測定に特化した AFMの電流測定応用手法の開発改善を行った結果を述べるまたその手法を用いて有機半導体であるペンタセングレイン上で測定することでグレイン境界や微小グレインといった局所電気特性の抽出を行う

第 4章 新規局所インピーダンス評価法の開発と金属ndash有機界面物性の評価新たに提案する OFET の局所インピーダンス評価のための AFM 応用手法について述べる電極ndash単一ペンタセングレイン界面の評価を通した新規手法の妥当性や物性について議論するまた応用として OFETの電極表面処理の有無による影響を電気特性モルフォロジーおよび本手法を用いた局所インピーダンスの観点から評価する

第 5章 時間分解測定による有機グレイン中のキャリアダイナミクス評価従来の AFM 電位評価法を時間分解測定に応用し単一有機半導体グレインにおけるキャリアの注入排出過程における電気特性評価を行う注入時蓄積時での電極ndash単一グレイン界面電気特性比較を行うとともに様々なキャリア蓄積状態での測定を通してチャネル形成過程を明らかにする

第 6章 結論本論文の総括および本論文を踏まえた今後の展開について述べる

8 第 1章 序論

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ධጥᐼଡ଼டܝᶽᘌᄠᬯ౼ଦ

図 12 本論文の構成図

9

第 2章

原子間力顕微鏡の基礎

本章では本研究で用いた主たる測定手法である原子間力顕微鏡に関してその概要と基礎的な動作機構およびこれまでに開発されてきた応用手法について述べる

21 走査型プローブ顕微鏡走査型プローブ顕微鏡 (Scanning probe microscopy SPM) とはプローブ (Probe) と呼ばれる先端が鋭く尖った探針 (Tip)を試料表面近傍で走査することで試料表面の凹凸を数 micromから数 nmの分解能で測定する評価手法の総称であるまた基本となる SPMを応用して開発された表面形状以外の様々な電気的光学的機械的物性を測定する手法も広義には SPM と称す試料表面を走査せずに一点 (もしくは多点)で電圧や周波数といった他のパラメータを掃引して測定する場合もSPMと呼ぶかもしくは末尾を他の周波数分解測定に倣って「分光」(Spectroscopy)と付ける場合がある

SPM技術の発端は1982年に IBM Zurich研究所の Binnig Rohrerらによって発明された走査型トンネル顕微鏡 (Scanning tunneling microscopy STM)である [76]STMでは探針を試料表面から数 nmの高さまで近づけた際に探針ndash試料間に流れるトンネル電流を検出し試料の表面形状を取得する一方探針を試料表面近傍に近づけた際の探針ndash試料間に働く相互作用力を用いて表面形状を取得する手法を原子間力顕微鏡 (Atomic force microscopy AFM)と呼ぶSPM技術の中で表面形状を取得する手法はこの STMと AFMに大きく二分される

表面形状取得の概要 SPM技術における共通項として探針が試料表面を走査し探針ndash試料間距離を制御することが挙げられ探針走査機構 (スキャナ scanner)および探針ndash試料間距離制御機構が共通の構成要素となる図 21に一般的な SPMの概要図を示す1試料表面の走査および探針ndash

試料間距離を変えるための X Y Zの 3軸に動く微小移動機構を有し一般的に圧電体 (ピエゾ素子)

が用いられる図 21(a) のようにスキャナが探針に接続しているものをプローブスキャナと呼び図 21(b)のように試料台直下に位置するものをサンプルスキャナと呼ぶサンプルスキャナとして円筒状の圧電体を用いることからチューブスキャナとも呼ばれ試料に平行な 2軸および円筒上下方向それぞれに高電圧を印加することで X Y Zの 3軸方向に nmオーダの分解能で微小移動させる

1 以下試料表面を XY平面試料高さ方向を Z方向と呼ぶ

10 第 2章 原子間力顕微鏡の基礎

X

Scanner

Reference

Topography

Sample

Tip

Z

Y

+minus

Feedbackcontroller

Controlledvariable

(a) (b)

Z

YX X

Scanner

図 21 SPM における表面形状取得の概念図と構成要素(a) プローブスキャナを用いた場合の構成図(b)サンプルスキャナ (チューブスキャナ)の動作概念図

ことができるなお本研究では全て試料側を動かすサンプルスキャナにより走査測定を行っており特記がない限りスキャナと呼ぶ場合はサンプルスキャナのことを指すとするまた簡単のため「探針を試料に対して移動させる」ような動作を記述している場合はサンプルスキャナにより試料を逆方向に移動させているものとする次に探針ndash試料間距離は制御量 (STMにおけるトンネル電流AFMにおける探針ndash試料間相互作用力)を検出しフィードバック回路を用いて目標量に一致するように Z軸のスキャナ (Zスキャナ)に出力することで一定に保たれるこのとき試料高さの上下が Zスキャナへの出力値の増減に直接対応するためZスキャナへの出力値から試料の高さを得ることができ探針の走査により試料表面形状を得ることができる

22 原子間力顕微鏡 (AFM)

STM は試料表面構造をナノスケールで実空間観察が可能という画期的な手法であったがトンネル電流を検出しなくてはならないという原理的制約から絶縁体上での測定ができないという限界があったその後STMを発明した Binnigは探針の試料近接時に微小な力が働くことを見出しカンチレバー (Cantilever)と呼ばれる微小な片持ち梁の板ばね構造を持つ探針を用いた AFMを1986年に発表し絶縁体であるセラミック (Al2O3)表面のナノスケール構造観察に成功した [65]このとき開発された AFMは試料近接時に働く力により生ずるカンチレバーの変位を STMにより検出するという方式であり現在用いられている AFMに比べて複雑な機構やカンチレバーに高価な Au泊を用いていたしかし以降の研究で後に紹介する光てこ法を始めとする力検出方法や安価な Si製カンチレバーによりAFMは様々な分野に用いられるほどに広まっていくこととなる

AFMは表面形状のみならず先鋭な探針で試料の局所的な物性を測定できる手法として様々な応用手法が考案されてきたこれら AFMの応用手法として 2つの系統に分けることができる1つは表面形状に由来する力以外の相互作用力を検出し異なる物性を測定するというものこのカテゴリーとしては静電気力磁気力をそれぞれ検出する静電気力顕微鏡 (Electrostatic force microscopy

EFM)磁気力顕微鏡 (Magnetic force microscopy MFM)が有名であるもう一つは AFM中の外部からの刺激を力以外の方法で検出するものこちらは探針ndash試料間に印加した電圧に対して探針に流れる電流もしくは試料上の電極間を流れる電流をそれぞれ検出する導電性 AFM(conductive

22 原子間力顕微鏡 (AFM) 11

AFM c-AFM)や走査ゲート顕微鏡 (Scanning gate microscopy SGM)が当てはまる本研究で用いるいくつかの応用手法に関する詳細は後述する

AFMではSPMに共通する構成要素に加え探針ndash試料間に働く相互作用力を検出する力センサ系が重要となる以下では AFMにおける力検出に関わる原理技術について説明する

探針ndash試料間相互作用力 探針を試料表面近傍に近づけると探針や試料の材料や状態により様々な相互作用力が生じる原子間原子分子間などに働く van der Waals力 (vdW力)パウリの排他律に従い電子雲の重なりにより生じる斥力 (パウリ斥力)表面のダングリングボンドで生じる化学結合力接触電位差や電荷電気的ダイポールにより生じる静電気力などがあり基本的に AFMの名前の由来である原子間力はこれらの総称または総合したものと考えることができる本研究では静電気力は別に考慮し化学結合力を除いた vdW力およびパウリ斥力を探針ndash試料間に作用する原子間力と考える中性二原子間に働く相互作用を記述するポテンシャルとしてレナードジョーンズポテンシャルが知られておりその代表例として式 (21)で表される (612)-ポテンシャルがよく知られている

ULJ = 4ε[(σ

z

)12minus(σ

z

)6] (21)

但し二原子間距離を zポテンシャルの極小値を εポテンシャルが 0を通る距離を σとおいた(612)-ポテンシャルのうちzminus6 の項が vdW力に対応する引力を記述し中性二原子が互いに双極子モーメントを誘起し発生した相互作用エネルギーからminus6 乗の依存性を導出できる [77]次に探針ndash試料間に作用する力を考える際探針試料それぞれに有す多数の原子間の寄与を総合しなくてはならない探針を先端曲率半径 Rの放物曲面試料を 2次元平面と考えそれぞれの原子数密度 nとして系全体のポテンシャル Uts を式 (21)を用いて求めると探針ndash試料間に働く力Fts =

dUtsdz は

Fts(z) =23π2Rεn2σ4

[ 130

(σz

)8minus(σ

z

)2](22)

と記述される [78]Fts の値は正が斥力に負が引力に対応する典型値として R = 20 nm ε =

001 eV σ = 025 nm n = 50 times 1028 mminus3 としたこの曲線の概形を図 22に示す図 22から分かるように多数の原子が関わっているのにも関わらず探針ndash試料間距離が 1 nm以内に近づかないと相互作用力がかからないこのため非常に高い垂直分解能で形状評価が可能となりまた探針の一番先端に存在する 1個の原子と試料との間の力が探針にかかる力に関わるため探針の曲率半径よりも小さな構造を可視化できる

相互作用力の検出 (光てこ法) 微小な相互作用力の検出には22 節で述べたようにカンチレバーを用いるばね定数 k のカンチレバーに対し垂直方向に力 F がかかると変位 ∆z = Fk だけカンチレバーのたわみが生じる例えばばね定数 2 Nmのカンチレバーに対して 2 nNの力がかかる場合変位は 1 nm と非常に微小であり直接観測することは困難であるこのような微小なカンチレバーのたわみに対しこれまでピエゾ抵抗 [79]やチューニングフォーク (音叉型共振センサ) [80]による自己検出法光干渉法 [81]といった様々な検出方法が考案されてきた本研究ではカンチレバーの種類に依存せず装置構成が簡単な光てこ方式 [82]を用いた光てこ方式では図 23 のようにレーザーダイオード (Laser diode LD) からカンチレバーの背面にレーザを照射し反射した光を四分割フォトダイオード (Position sensitive photo diodedetector

12 第 2章 原子間力顕微鏡の基礎

-4

-2

0

2

4

0 02 04 06 08 1

Forc

e [n

N]

Distance [nm]

Attractive region

Repulsive region

図 22 (612)-ポテンシャルに従う探針ndash試料間相互作用力の距離依存性 (式 (22))1 nm以内でnNオーダの力が加わることが分かる力勾配の正負からそれぞれ引力 (attractive)領域斥力(repulsive) 領域に分けられる探針がどの領域の力を感じるかで式 (25) に示す励振特性がどう変わるかが異なる

PSPD) で受光するPSPD は検出部分が 4 つのフォトダイオードで構成されておりそれぞれのフォトダイオードからパワーに比例した電流を出力しプリアンプにより電圧値に変換されるこのとき上部 2 つ (A) と下部 2 つ (B) のフォトダイオードの出力差を vAminusB とおくとPSPD 上のレーザスポットの微小変位 ∆aに対して vAminusB は比例した電圧を出力することが分かる一方カンチレバーの長さを lカンチレバーから PSPDまでの距離を d とおくとカンチレバーのたわみ ∆z

に対しレーザスポット変位 ∆aは∆a =

2dl∆z (23)

と記述できる例としてl = 100 microm の長さのカンチレバーに対し距離 d = 10 mm を設定するとレーザスポットの変位はカンチレバーの変位に対し 100倍となるように手法名のとおり光に対する「てこ」として働く実際の実験においてはカンチレバーの変位量を測定するために ∆zに対する vAminusB の比例係数つまり感度 (Sensitivity単位 mVnm)の校正を行う同様にカンチレバーのねじれに対してもばね定数および変位を定義できPSPDの左側 2つ (C)

と右側 2つ (D)のフォトダイオードの出力差 vCminusD からねじれ変位を検出できるねじれ変位は摩擦力測定やひねり共振 (Torsional resonance)における発振に用いられる

23 AFMの走査方式AFMに限らずSPMでは探針を走査しながら様々な物性値を測定するそのとき探針の走査の方法によりいくつかの方式が存在する本節では走査方式を (a) 力一定モード (Constant force)(b)高さ一定モード (Constant height)(c)高さ変調モード(d) Line-by-line(e) Point-by-pointに大分して説明するそれぞれの走査方法の概略図を図 24に示す

23 AFMの走査方式 13

PSPD

Cantilever

LD

AC D

Bd

∆z l

∆a

図 23 光てこ法によるカンチレバーのたわみ検知の概要図レーザダイオード (LD) より照射したレーザがカンチレバーで反射しフォトダイオード (PSPD)で受光するこのときカンチレバーたわみ ∆zに比例したレーザスポット ∆aの変位が生じる

(a) Constant force

SampleTrack

1st2nd

Scan direction

(b) Constant height (c) Height modulation

(d) Line-by-line (e) Point-by-point

Change of another parameter at each point

図 24 AFM におけるそれぞれの走査方式の動作概略図(a) 力一定モード(b) 高さ一定モード(c)高さ変調モード(d) Line-by-line(e) Point-by-point

力一定モード 力一定モードは最も基本となる AFMの走査方式でありいわゆる「表面形状」取得および表面に沿った物性測定を行うために用いられる図 24(a)のように探針を走査しながら力2が一定になるように Zスキャナを制御する

高さ一定モード 高さ一定モードでは図 24(b)のように走査中 Zスキャナを一定値に固定する3力一定モードと異なりZスキャナのフィードバック制御が行われないためノイズによる不要な上下動やフィードバックの行き過ぎによるカンチレバーの試料への不意な衝突などが抑制されるため非常に繊細な測定が可能となる試料の高さ粗さが小さくかつドリフトの小さい超高真空のような系で主に用いられる高さ一定モードにおいて高さを変えながら複数枚の画像から 3次元 (3D)データを取得する方法も提案されている [83]本研究ではこのモードは使用しない

2 場合により別の物理量STMではトンネル電流を一定に制御するが試料の凹凸以外の情報も含まれるためSTM像は「真の」表面形状とは考えられないことが多い

3 ドリフト補正のためXY位置に対応する補正値を加えている場合もある

14 第 2章 原子間力顕微鏡の基礎

高さ変調モード 高さを変調する方式ではベースとなる AFM の方式や高さの変調方法や接触の利用によりいくつかの方法が存在している高さ一定モードを用いて 3D 分布データ取得する以外にも図 24(c)のように試料上の各点で高さを変化させて物理量を測定することで 3D分布データを取得することも考えられるこれは探針ndash試料間を変化させながら力を測定するForce curve

測定を全ての点で行ったものとも考えることができこのような方法により溶液中 [84]において力の 3D分布を可視化した報告があるまた試料との接触後も探針の高さを変化させることで接触後のたわみや吸着力を測定する

Jumping modeという方式もある [85]さらにこの上下動を数 kHzという早さで行い高速かつ多様な物性を同時に測定できる手法として PeakForce Tapping Rcopy が知られている [86]

Line-by-line AFMの走査は Fast scan方向へ往復走査後Slow scan方向へ 1分割値だけ移動しFast scan方向への往復走査を行うという動作を繰り返すこの際図 24(d)のように Fast scan方向の 1 走査 (1st scan) 終了後高さを変化させて 1st scan で取得した軌跡をたどる (2nd scan) ようにZスキャナを制御する方法を Line-by-lineと呼び特に 2nd scanで 1st scanよりも試料から離れる場合はリフトモードとも呼ばれるライン毎の時分割による複数データ取得とみなすこともできるリフトモードでは距離による力の影響の違いから2nd scanでは静電気力 [47]や磁気力といった通常の力制御時とは異なる力を検出するために用いられている本研究ではこの方式は用いない

Point-by-point Point-by-point法は力一定モードのように単に試料表面を走査するのみならず図24(e) で示すように各点で力一定モードとバイアス印加掃引や力変調といったパラメータ変更を交互に行い表面形状と同時に複数の物理量をマッピング可能であるこのような各点における動作をldquoPoint-by-pointrdquoと呼ぶそのためPoint-by-pointでは走査点毎時分割による複数データ取得といえるLine-by-lineに対し表面形状と他の観測物理量との位置整合性が良いという長所がある動作の詳細は 252節で述べる

24 AFMの動作モード図 25に力検出方式の異なる動作モード同士の関係図を示すカンチレバーの励振の有無によりそれぞれ Dynamic-mode と Static-mode に分けられるさらにDynamic-mode はカンチレバーの励振特性変化の検出方法の違いにより振幅変調 (Amplitude-modulation AM)方式 (AM-AFM)と周波数変調 (Frequency-modulation FM) 方式 (FM-AFM) に分けられる本研究ではそれぞれの方法を測定のフェーズや内容によって使い分けているため以下ではそれぞれの方式について個別に原理動作を説明する

241 Static-mode (コンタクトモード)

Static-modeはカンチレバーを励振させずに測定を行う方式の総称でありその中でも力一定モードで行われる Static-modeを特にコンタクトモード (contact-mode)と呼ぶコンタクトモードではカンチレバーを試料に近接させた際に生じるカンチレバーの変位 ∆zが一定になるように Zスキャナを制御する図 22のように探針にかかる力は探針ndash試料間距離が近づくにつれて若干の引力の後す

24 AFMの動作モード 15

Atomic force microscopy

Static-mode (contact-mode)

Amplitude-modulation (AM tapping)

Frequency-modulation (FM non-contact)

Dynamic-mode

図 25 AFMの動作モードの関係図

ぐに斥力に変化してしまうさらにdFtsdz がカンチレバーのばね定数 kよりも大きくなるとカンチレ

バーの復元力が探針に加わる力に負けてしまい一気に斥力領域に突入してしまう Jump-to-contact

が起こる以上のことからStatic-modeを引力領域で測定するのは非常に難しく通常斥力領域で測定するコンタクトモードは試料に接触させた測定のため試料の力学的な特性が探針の応答に如実に現れるこのことを利用した応用手法として摩擦力顕微鏡 (Friction force microscopy FFM)や直交剪断応力顕微鏡 (Transverse shear microscopy TSM)があるFFMはカンチレバーの軸に対し直交方向にカンチレバーをコンタクトモードで走査することで発生するねじれ量を検出することで摩擦力の違いを可視化する AFMの応用手法であり末端基による結合力の違いを可視化した例がある [87]TSMは通常と同じ軸方向に対しカンチレバーを走査するがその際分子結晶の配向によりねじれの交流信号に違いが現れるためFFMよりも明瞭に分子結晶の配向を可視化できる [88]

242 Dynamic-mode

Dynamic-modeはカンチレバーをピエゾ素子 (PZT)などの外力を用いて振動させながら測定を行う方式の総称でありDynamic-mode AFMを Dynamic force microsopy (DFM)と呼ぶ場合もあるDynamic-modeではカンチレバーの振動特性が重要となるカンチレバーは有効質量 mばね定数 kの調和振動子モデルに近似できるここでカンチレバーを振動させる外力 Fext と探針ndash試料間の相互作用力 Fint がカンチレバーにかかっている場合カンチレバーのつりあいの位置からの変位 zに対して運動方程式

mz + γz + kz = Fext + Fint (24)

が成り立つただしγ はカンチレバーの変位速度に比例する減衰定数を表し相互作用力はFint gt 0を斥力とする相互作用力がないとき (Fint = 0)カンチレバーに角周波数 ω振幅 Aの外力 Fext = Aext cosωt を加えると定常解 z(t) = A cos(ωt + φ) の振幅 A と位相 φ は以下のように求まる

A =Aextradic

(mω2 minus k)2 + γ2ω2(25)

φ = tanminus1( γ

mω2 minus k

)(26)

16 第 2章 原子間力顕微鏡の基礎

FintFext

m

z

0

kModelling

図 26 カンチレバーの調和振動子モデル

A φの外力の角周波数依存性を図 27の (1)に示すγ radic

kmが成り立つとき

f0 equivω0

2πequiv 1

radickm

(27)

で与えられる f0(ω0)を (自由振動時の)共振 (角)周波数と呼びこの周波数で振幅 Aは最大値を取る4また振幅が最大値の 1

radic2 倍となる角周波数 ωplusmn(ω+ gt ωminus) を用いてカンチレバーの Q

値 QがQ equiv ω0

ω+ minus ωminus=

mω0

γ(28)

のように定義できる図 27に示すような共振周波数 f0 および Qで特性付けられる振動特性のことを Qカーブと呼ぶ次に力勾配 kint = minus partFint

partz を用い微小な相互作用力 Fint = minuskintzが働いていると考える5kint gt 0

の場合試料近接時 z lt 0に対し Fint gt 0のため斥力領域に対応しkint lt 0は引力領域のモデルとなる式 (24)の kを k + kint に置き換えることで力が働いているときの共振周波数

f0prime =1

radick + kint

m(29)

が得られQカーブは引力領域では (2)斥力領域では (3)のように変化するDynamic-modeではこの Qカーブの変化に伴う励振特性の変化を検出することで探針ndash試料間相互作用力が働いていることを検知する

243 振幅変調方式 AFM (AM-AFM)

AM-AFMは探針ndash試料間相互作用による Qカーブの変化を振幅の変化から検出する手法の AFM

である微小な探針ndash試料間相互作用力 Fint = minuskintzが働いているとき式 (25)は

A =Aextradic

(mω2 minus k minus kint)2 + γ2ω2

sim Aextradic(mω2 minus k)2 + γ2ω2

[1 + kint

mω2 minus k(mω2 minus k)2 + γ2ω2

](210)

となるため振幅変化 ∆Aは

∆A sim kintAext(mω2 minus k)

[(mω2 minus k minus kint)2 + γ2ω2] 3

2(211)

4 厳密には共振周波数は 12π

radickm minus

γ2

2m2

5 定数値は釣り合いの位置をずらすだけなのでここでは無視する

24 AFMの動作モード 17

0

99 100 101

Am

plitu

de [arb

unit]

Frequency [kHz]

-180

-90

0

99 100 101

Phase [deg]

Frequency [kHz]

(a) (b)

f0

f0(1)

(1)

(3)(2)

(2)

(3)

図 27 カンチレバーの共振周波数付近の振動特性 (Qカーブ)((a)振幅(b)励振信号に対する位相)パラメータとして f0 = 100 kHz Q = 300 を用いており相互作用が (1) なし(2) 引力kint = minus0005k(3)斥力 kint = 0005kのときの Qカーブを表す

Topography

Feedbackcontroller

RMS

Scanner

LD PSPD

PZT

FG

図 28 AM-AFMの装置構成図

と力勾配に比例することが分かるただし近似として kint の 1次項のみを扱った実際の動作では一定の周波数で振動しているカンチレバーの振幅減少を試料への近接とみなし減少した振幅が一定となるように高さフィードバック動作を行うAM-AFMでは図 22の引力領域と斥力領域を行き来するように Tipが動くためコンタクトモードが「接触している」のに対し「間欠接触モード(Intermittent-contact mode)」または「タッピングモード (Tapping mode)」とも呼ばれる6図 28に AM-AFMの装置構成を示すファンクションジェネレータ (Function generator FG)で生成した交流信号をピエゾ素子 (PZT) に入力しカンチレバーを励振する (強制振動)カンチレバーの変位信号を二乗平均平方根 (RMS)回路で振幅信号に変換し振幅が一定になるようにフィードバック回路から Zスキャナに出力する本研究では強制振動の周波数としてカンチレバーの Q

カーブにおける最大振幅の約 07倍となる (共振周波数より低い)周波数を設定しているまたカンチレバーの振動振幅が約 20 nmp-p となるように FGの振幅を設定している

18 第 2章 原子間力顕微鏡の基礎

Topography

Feedbackcontroller

PLL

RMSAGC

Scanner

LD PSPDPZT

Phaseshifter Comparator

Phase lock

Frequency detectionblock

Self-excitation block

図 29 FM-AFMの装置構成図

244 周波数変調方式 AFM (FM-AFM)

探針ndash試料間相互作用力 Fint = minuskintzが小さいとき (|kint| k)式 (29)より共振周波数シフト ∆f

は∆f = f0prime minus f0 sim

f02k

kint (212)

で表されるように力勾配に比例し引力領域では負の周波数シフトを起こす図 22で示されるように力勾配は探針ndash試料間距離が近づくにつれて大きくなるため共振周波数の変化から探針の試料への近接を検出できるこのように共振周波数の変化を一定にするように探針ndash試料間距離を制御する方式を FM-AFM と呼ぶ図 22 の引力領域で用いられ試料へ非接触な状態で動作するため「非接触 AFM」とも呼ばれる図 29に FM-AFMの装置構成図を示す共振周波数を追跡するため自励発振 (Self-excitation)

回路を用いてカンチレバーを常に共振周波数で励振する図 27から分かるように共振周波数での振動信号は励振信号に対し 90 遅れており振動信号の 90 位相を早めた信号で励振することで共振周波数で振動することになる自励発振回路ではこの位相シフタ (Phase shifter)と自動ゲイン回路 (Automatic gain controller AGC)によって励振が行われている一方周波数の変化は位相同期回路 (Phase-locked loop PLL)により検出している [89]

25 AFMの電流検出応用AFMの探針は非常に微小なためナノスケールのテスタのような応用が期待できるAFMの探針を試料に接触させ探針ndash試料間に流れる電流を測定しまたはその特性の分布図を取得する応用手

6 厳密には変調 (検出)方式と動作方式という定義の違いがあるが本研究では同義に扱う

25 AFMの電流検出応用 19

法を総称して電流検出 AFM(Current-sensing AFM CS-AFM) [90]と呼ぶ本項ではこれまで開発利用されてきた AFM の電流検出応用手法のうち最も基本となる導電性 AFM(Conductive-AFM

c-AFM) およびその応用手法である点接触電流イメージング AFM(Point-contact current imaging

AFM PCI-AFM)について原理と適用範囲を述べる

251 導電性 AFM (c-AFM)

導電性探針と試料の間に直流電圧を印加しながら試料に探針を接触させることで探針ndash試料間に流れる電気特性を測定する手法を c-AFM7と呼ぶSTM でも電流のマッピングは可能であるがc-AFM では AFM をベースとしていることから(1) 確実に接触させ接触力を制御できること(2)絶縁体上の試料においても電流測定できることの 2点において STMよりも優位である特に(2) は絶縁膜上に構築した様々なデバイスやナノスケール構造において電気特性が測定可能であるという点で非常に重要であるナノスケール構造の一例としてカーボンナノチューブ (Carbon

nanotube CNT)の測定が挙げられる [91 92]CNTは長さが数 micromの細長い円筒状の構造をしており直径は単層で数 nm多層でも数 10 nm と非常に微細なため一本の CNT の電気特性を電極間に架橋させて測定するのは非常に困難であることが予想される一方CNTの片端のみ電極に接続するのは後から成膜もしくは電極上に分散させるなど比較的容易に達成できるためc-AFMでCNTのもう一方の端に接触させることで単一の CNTの電気特性測定が可能となる一方(1)の利点を活用し均一に分子が存在する試料に接触させることで接触面積から 1分子あたりの電気特性を評価する試みもなされておりSAM分子の電気特性の鎖長依存性 [93ndash96]やタンパク質の電気伝導評価 [97]も報告されている高分子ナノファイバ [98]や光反応性のタンパク質 [99]に対して光照射時の電流特性測定という応用も行われている

c-AFMには大きく分けて(a)試料上のある一点に接触させ主に電圧ndash電流 (IndashV)特性を取得する方法 (IndashV 測定モード)および (b) 一定電圧をかけながらコンタクトモードで試料上を走査し電流像を得る手法 (スキャンモード)の 2種類あるIndashV 測定モードは上述の CNTの評価の他に有機薄膜 [31 68 70]や細菌 [100]といった幅広い材料に対して用いられている一方スキャンモードはコンタクトモードで走査可能という制限があるため高分子 [98 101] や分子結晶ナノファイバ [102]のような比較的硬い材料に限られている

252 点接触電流イメージング AFM (PCI-AFM)

c-AFMはナノ構造の電気特性測定ができる非常に有用な手法であるがIndashV 測定モードでは 1点ごとの測定のため測定位置の不確定さや接触ごとのばらつきより微細な内部構造の可視化ができないといったデメリットがあるまたスキャンモードもコンタクトモードで走査可能な比較的硬く起伏の少ない試料に限られるこれに対し大阪大学の Otsukaらはこれらの問題を克服する手法としてpoint-by-pointでの接触方法を活用した PCI-AFMを開発した [103]図 210に PCI-AFMの動作概念図を示すPCI-AFM

はAM-AFM (Tapping) による高さフィードバックと c-AFM による電流測定を各点で交互に行う

7 C D Frisbieなど CP-AFM(Conducting probe AFM)と呼ぶ研究グループもあるが基本的に同義である

20 第 2章 原子間力顕微鏡の基礎

(a) Height control (b) Approach (d) Retract(c) IndashV

Cantilever

Electrode

Sample lm

Mode

Movement

FeedbackTapping StaticON Hold

Time

図 210 PCI-AFM の動作概念図時系列の TappingStatic 動作および高さフィードバックのONHoldのタイミングを併記した

手法である(a)まずある測定点において AM-AFMにより探針ndash試料間距離を一定にしこの状態で高さを固定 (Hold)する(b)探針の励振を停止させ探針を試料に一定距離だけ近づけ試料に接触させる(c) 接触状態で探針ndash試料間に電圧を印加しIndashV 測定を行う(d) 探針を試料から離し励振を再開し高さ制御を再開すると共に次の測定点へ移動するこれらの測定を試料 XY平面上の各点で行うことで表面形状と各点での IndashV 特性の位置を完全に対応づけることができるOtsukaらは PCI-AFMを用いることでc-AFMのスキャンモードによる試料構造破壊の問題を解消し単層 CNTの距離依存電流測定を達成した以降PCI-AFMの非破壊性を活かしCNTのバンドル間伝導特性 [104]やバンドル CNT中における単一 CNTの可視化 [105]分子性ナノワイヤ [106107]DNA [108]や DNAベースのナノワイヤ [109]ナノ粒子 [110ndash112]の電気特性評価に用いられてきた一方有機薄膜に対して用いた例は銅フタロシアニングレイン上の報告 [113]の一例に留まるまたCNTや有機薄膜の FET構造においてゲートバイアスを印加した状態での PCI-AFM測定は現在のところ報告されていないこのように PCI-AFMはナノスケールでの電気特性評価に有用な手法である一方で活用範囲としてまだ進んでいない領域がある本研究では新領域活用への障害となる PCI-AFMの問題点について対策を考え新規活用法を模索することも目的の一つと位置づける

26 AFMの静電気力検出応用261 静電気力顕微鏡 (EFM)

AFM で測定される力のうち静電気力を検出する手法を広義の EFM と称する静電気力は探針ndash試料間に印加した電圧のみならず試料の仕事関数試料上の固定電荷や電気的ダイポールなど様々な物性が起因となり変化するそのため報告によってどの物性に注目するかが異なり検出した静電気力の取り扱いも異なるここでは一般化し明確な探針ndash試料間の電位差Vts = Vs(試料電位) minus Vt(探針電位)があると仮定する探針ndash試料間の容量を Cts とすると電位を固定したときの系の静電ポテンシャル UES は UES =

12CtsV2

ES と記述されるこのとき探針が感じる静電気力 FES は斥力を正とするとFES =

partUESpartz =

12partCtspartz V2

ts と記述されるつまりCts が一定であれば Vts の 2乗に比例した静電気力を探針が感じることが分かる

26 AFMの静電気力検出応用 21

しかし探針ndash試料間には 22節で述べたような相互作用力が働いているため電位差を評価するには静電気力による寄与を分離する必要がある原子分子間力の距離依存性が急峻であることを利用してEFM や MFM では Line-by-line で距離を変化させることで静電気力磁気力のみ評価する方法もあるがここでは交流電圧の変調による手法について述べる角周波数 ωm の変調電圧Vac cosωmtを試料 (または探針)に印加すると静電気力は

FES =12partCts

partz(Vts + Vac cosωmt)2

=12partCts

partz

[(V2

ts +V2

ac

2

)+ 2VtsVac cosωmt +

V2ac

2cos 2ωmt

](213)

となりFES の ωm 成分は電位差 Vts に比例することが分かる実際の測定では振幅変化 (AM) または周波数変化 (FM)を測定するため測定量は式 (211)および (212)に従い力勾配 partFES

partz に比例するするとωm 成分は (partFES

partz

)

ωm

=part2Cts

partz2 VtsVac cosωmt (214)

と表される比例係数の part2Ctspartz2 は同一の探針同一の探針ndash試料間距離同一の探針振幅であれば一

定と考えることができるよって振幅変化または周波数変化の ωm 成分をロックイン検出することで電位差に比例する成分を得ることができる

262 ケルビンプローブ原子間力顕微鏡 (KFM)

EFM では電位差に比例したコントラストを得られる一方で電位の実際の値を知るには比例定数のキャリブレーションが必要であるケルビンプローブ原子間力顕微鏡 (Kelvin-probe force

microscopy KFM)8は EFM に零位法を組み合わせることで電位の実際の値を測定することができる AFMの応用手法である

KFMの名前はケルビン法と呼ばれる試料の仕事関数を測定する巨視的な評価手法に由来するケルビン法では既知未知の仕事関数を有する材料の二表面を近接させ振動させた際に発生する交流電流がゼロになるように二試料間に印加する直流バイアスを調整することで未知の仕事関数を測定する同様にKFMでは partFES

partz に比例する測定量の ωm 成分がゼロになるように探針ndash試料間に追加の直流電位 VFB をフィードバック制御する試料上を走査中に随時行うことで表面電位像の測定が実現される

EFMKFMには AFM動作モードおよび変調信号の検出方法で複数の種類が存在する本研究では真空中つまり高 Q 値環境下での測定が簡単であること比較的面内分解能が高いことからFM-AFMをベースとし変調信号を FM検出する手法を用いた以下この手法による EFMKFM

をそれぞれ FM-EFMFM-KFM と呼ぶ図 211 に FM-EFM および FM-KFM の装置構成図を示す詳細なセットアップパラメータは後の章 (4章 KFM 5章 EFM)で述べる

8 KPFMの略称を用いる場合がデファクトスタンダードとなりつつあるが本論文では KFMを用いる

22 第 2章 原子間力顕微鏡の基礎

Topography

EFM signal

Potential

Feedbackcontroller

Frequencydetection

Self-excitationcircuit

Scanner

LD PSPDPZT

Lock-in amp

Bias feedbackKFMEFM

図 211 FM-EFMおよび FM-KFMの装置構成図

27 本章のまとめ本章ではSPM および AFM の成り立ちについて説明した上で基本的な表面形状取得の概要力検出技術および走査技術について説明した近年提案されている様々な AFM応用手法がどのような動作に基づいているかを理解する上で走査方法の面から分類することは必要と考えるまたAFMの動作とくに Dynamic-modeにおけるカンチレバーの励振特性について探針ndash試料間相互作用が働いた場合にどのような変化が生じるのかについて説明したまたこの解析に基づき基礎的な AM-AFMおよび FM-AFMの動作装置について言及した

AFMの応用手法に関して本研究で用いた手法のベースとなる電流検出応用静電気力検出応用について説明した電流検出に関しては従来手法となる c-AFMに対する PCI-AFMの優位性を述べた上でPCI-AFMの OFET評価としての活用が未発展であることを示し新規活用法を模索することを以降の研究の目標点の一つとして掲げるまた静電気力検出に関しては主として用いた FM

方式の EFMKFMについて基礎的な理論技術を説明した以上ではナノスケールの電気的評価が可能な AFMの応用手法について説明したが有機薄膜を対象とした測定にはいくつか未達成または困難な点が存在するPCI-AFMの活用については 3章で装置動作の面から試みることとするまた KFM は面内の相対的な局所抵抗比較に留まる一方プローブ測定のみで測定対象と参照を同時に測定できるような手法を開発することは特に巨視的測定が困難なナノスケールのグレインの電気特性評価を進めていく上で重要であるよって静電気力検出をベースとした新規局所電気特性評価手法に関して4章および 5章で検討を行う

23

第 3章

AFM電流測定法を用いた有機グレインの局所電気特性評価

AFMの導電性探針を用いて直接試料に接触させ電流を測定することで有機材料の電気特性測定がなされてきたことは既に 1章で述べたしかし従来手法のうち非マッピングである c-AFMや多探針 AFMでは測定点が数点に限られ接触位置の同定が不確定という問題がある一方マッピングを行う c-AFM では硬い材料に限定されること接触力の増加による分解能の制限といった問題を有するこれらに対し2章で述べた点接触電流イメージング AFM (PCI-AFM)は非破壊にて構造と電気特性の同時マッピングを行うことが可能であり少数単一グレインスケールにおけるTLMとなりうることが期待されるがその適用には課題が二点ある一点目は有機半導体の電気特性評価では必須となる真空中での測定が困難であることであるこれは AM-AFMをベースにしていることに加えて後述の探針励振停止再開動作が関わっており真空中では非現実的な測定時間が必要となる二点目はこれまで PCI-AFMは 1次元系材料での評価が多く有機半導体薄膜のような薄膜試料での報告例がほとんどないことである1次元系と異なりOFETのような薄膜試料では電流広がりなどを考慮した測定結果の解析が必要となる以上を踏まえ本章では PCI-AFMの真空動作化および OFET評価に適した動作確立システム構築を通してOFET中の様々な局所電気特性を選択的に評価するナノスケール TLMへの活用を目標とする

31 OFET評価に適した電流測定法の検討252節にてPCI-AFMはナノ構造の電流マッピングに非常に有用な手法であることを説明した

PCI-AFM を有機グレインの OFET 評価に適用するにあたり信頼性のある安定した測定に向けて検討しておくべき項目がいくつか存在する本節では「真空動作」「接触圧」の観点から PCI-AFM

の改良に取り組む

24 第 3章 AFM電流測定法を用いた有機グレインの局所電気特性評価

Phaseshifter

Oscillator

Excitation

Variablegain amp

z(t)

Ge-jθ

図 31 Q値制御回路のブロック図

311 PCI-AFMの真空動作化 (Q値制御法)

242節で説明したとおりカンチレバーの運動は式 (24)にて記述されるここでt = 0で外力が 0になったときの過渡応答を考えるFext = Fint = 0よりz(t)の特性解 λは 2次方程式

mλ2 + γλ + k = 0 (31)

を解くことでλ = minus1

τplusmn jω (32)

と求まるここでτ = 2mγ =

2Qω0ω = ω0

radic1 minus ( 1

2Q )2 であるカンチレバーが t lt 0 では z(t) =

A cosωtで振動しているとするとt ge 0でのカンチレバーの運動は

z(t) = Aeminustτ cosωt (33)

という時定数 τ の減衰振動解になるつまりカンチレバーの振幅変化に要する時間は Q に比例する本研究で用いているカンチレバー (Olympus OMCL-AC240TM-R3) の典型的な共振周波数は f0 = 70 kHz でありQ 値は大気中では数 100 なのに対し真空中では 2000 を超える例として振幅が減衰開始時の 01 倍となる時間 minus ln(01)τ sim 23τ を振動停止開始の所要時間と考えると256 times 256点で振動停止開始それぞれで 23τ必要となり測定に必要な時間は待ち時間だけでも数時間に及ぶためドリフトの影響を考えると真空中での PCI-AFM測定は非現実的であることが分かるまたPCI-AFM では振幅変化を検出する AM-AFM をベースとしているが同じ理由でAM-AFMは一般的に真空中での測定は不向きであることもPCI-AFMの真空中測定を困難にしているそこでPCI-AFMの振動停止再開動作を真空中でも可能にするために本研究ではAnczykowski

らにより提案された Q値制御法 [114]を用いるQ値制御回路のブロック図を図 31に示すQ値制御法ではカンチレバーの変位信号1z(t) = Aejωt にゲイン G および位相シフタ eminusjθ を介した信号を励振信号に加えるこの信号成分は z(t)に対する in-phase out-of-phaseを分けることで

Geminusjθz(t) = (G cos θ)z +minusG sin θω

z (34)

と表されるため運動方程式 (24)の γ を γprime = γ + Gω sin θk を kprime = k minusG cos θ に置き換えること

で同様の議論ができるつまり運動方程式 (24)および Qカーブを表す式 (25)は次のように表さ

1 簡単のためフェーザ (Phasor)で考える最終的に実部を取ることで実信号とする

31 OFET評価に適した電流測定法の検討 25

0

5

10

695 70 705

Am

plitu

de [nm

]

Frequency [kHz]

0

1=10-3

2=10-3

5=10-3

G Pѱ0

2

図 32 Q 値制御法を用いた場合の Q カーブの理想的なゲイン G 依存性 f0 =ω02π = 70 kHz

Q = 2 times 103 Aextk = 5 times 10minus3 nm

れる

mz + γprimez + kprimez = Fext (35)

A =Aext

kω2

0radic(ω2 minus ωprime20 )2 + (ωωprime0Qprime)2

(36)

但しQ値制御後の (見かけの)Q値 Qprime および共振周波数 ωprime0 をそれぞれ

Qprime =mωprime0γprime ωprime0 =

radickprime

m(37)

としたここで位相シフト量を θ = π2に設定すると Gを増加させるに従い γprime が増加することが分かるこのとき理論上の Qカーブの変化を図 32に示すこのようにQ値制御法を用いることで見かけの Q値 Qprime を減少させることができる2実際に真空中 (lt 10minus3 Pa)でカンチレバーの励振 (発振器からの信号)を 5 msごとに開始停止させた際に従来通りの強制励振と Q値制御法を用いた場合のカンチレバーの動作を比較したものを図 33に示すただし典型的な共振周波数が f0 sim 70 kHzであるカンチレバーを用いたQ値制御前では Q sim 2000であり上述の振動停止開始時間は 23τ sim 21 msとなり図 33(a)のように 5 ms

では完全には振幅が収束していないことがわかるQ 値制御法により見かけの Q 値を Qprime sim 100

まで減少させた結果振動停止開始時間は 23τ sim 1 msとなり図 33(b)のように励振停止時に完全に停止している様子が見て取れるPCI-AFMの振動停止再開動作に要する時間を減少でき全体の測定時間が現実的なスケールとなるまた見かけの Q値を減少させたことによりAM-AFM

の動作も大気中と同等の設定で可能となる

パラメータ設定の問題点と改良した設定方法 本研究では研究室で作成された Q値制御回路 [78]

を用いFGとして Yokogawa FG120を用いたここで自家製の Q値制御回路では φおよび Gを手動でしか変更できないため次のような問題が生ずる図 34に G = 001mω2

0 における周波数および位相シフト量に対する振幅の変化を示す周波数が正しく共振周波数に合っている場合は位相 θ を変えると θ = π2で振幅が最小値となるしかし周波数がずれている場合に振幅が最小

2 本来の用い方は Q値の小さいとき検出感度を上げるために θ = minusπ2に設定することで Q値を増加させて用いる

26 第 3章 AFM電流測定法を用いた有機グレインの局所電気特性評価

ON OFF ON OFFExcitation

5 ms Time

200 mV(~7 nm)

(a) conventional

(b) with Q-control

Deection signal

Q ~ 2000

Qrsquo ~ 100

図 33 真空中でカンチレバーの励振を 5 ms ごとに開始停止させた際のカンチレバー変位 (Deflection) の包絡線 (振幅) 時間波形(a) Q 値制御法を用いない従来の強制励振の場合(Q sim 2000)(b) Q値制御法を用いた場合 (Q sim 100)の包絡線とカンチレバーの動作イメージを示している

695 70 705

Frequency [kHz]

0

90

180

Phase [deg]

01

1

10

Am

plitu

de [nm

]

Minim

um

Resonance

Resonance

図 34 G = 001mω20 における周波数および位相シフト量に対する振幅変化矢印は共振周波数

探索rarr最小振幅となる位相探索の順にパラメータ探索する場合のパラメータ軌跡

となる位相は π2とは異なるそのため例えばパラメータの設定を共振周波数探索rarr振幅最小位相探索の順に行ってしまうと図 34のように最適な位相 π2に到達できず同じ設定値をループすることになるこれを回避するためには位相およびゲインを変えながらも常に共振周波数をトラックする必要があるそのため本研究では FG120の GP-IB3通信および LabVIEWを用いて任意の周波数レンジおよび掃引速度で連続的に FGの周波数設定値を掃引できるようなプログラムを作成したこれにより効率的に Q値制御回路の位相設定を行えるようなセットアップとなっている

312 接触状態の検証導電性探針を用いた電流測定は探針ndash試料間に流れる電流が測定値となるためその接触状態が測定値に大きく影響を与えることが懸念されるしかし報告により用いている探針の材料ばね定数または対象とする試料や実際の接触力などの測定条件が異なるため本研究でも独自に影響評

3 General purpose interface bus短距離デジタル通信バス仕様である IEEE 488の実装であり計測器制御に用いられる汎用接続形式である

31 OFET評価に適した電流測定法の検討 27

HOPG

Conductivecantilever

図 35 導電性探針による接触電流評価の模式図

0

50

100

150

0 5 10 15 20 25

5HVLVWDQFHgt0ї

)RUFHgtQ1

OriginalOvercoated

(c)

-100

-50

0

50

100

-1 0 1

ampXUUHQWgtQ$

LDVgt9

(a) Original

0 nN4 nN

10 nN

14 nN19 nN23 nN

-100

-50

0

50

100

-1 0 1ampXUUHQWgtQ$

LDVgt9

(b) Overcoated

4 nN7 nN

10 nN

13 nN16 nN

図 36 導電性探針ndashHOPG系の接触電流測定結果(a)市販コート探針(b)再コート探針を用いて測定された IndashV 特性(c) +15 Vにおける接触力と抵抗値の関係

価することが望ましいそこで接触力評価として導電性カンチレバーを導電性の平坦試料である高配向パイログラファイト (Highly oriented pyrolytic graphite HOPG)に接触させ電流測定を行うとともに探針の試料への接触面積の見積もりを試みた導電性探針として(1)市販の PtIrコート済みカンチレバー (Olympus OMCL-AC240TM-R3)(市販コート探針と呼ぶ) および (2)OMCL-AC240TM-R3 の Tip 側にスパッタリング装置を用いて約20 nmの Ptを堆積させたカンチレバー (再コート探針と呼ぶ)を用いた再コート探針は市販コート探針よりも Tip上への堆積量が多く先端曲率半径の増加が懸念されるがより長時間多回数の接触に耐えうることが見込まれるためその電気特性の差異がないことを確認する図 35のセットアップにおいて以下のプロセスで測定を行った

1 探針ndash試料間のバイアス電圧を 0 V としコンタクトモードにおいて Reference を徐々に上げ探針をわずかに HOPGに接触させる

28 第 3章 AFM電流測定法を用いた有機グレインの局所電気特性評価

表 31 探針接触半径の見積もりに用いた各材料の物性値

材料 ヤング率 ポワソン比

Pt [118] 168 GPa 0377

HOPG [119 120] 365 GPa 025

2 ある分量ずつ Referenceを増加させることで接触力を増加させ各接触力において plusmn15 Vの三角波 (2 s)を 5回印加

3 測定時のカンチレバー変位IndashV 出力をデータロガーで取得し「カンチレバーばね定数(2 Nm)times(接触時の変位 minus 非接触時の変位)別途測定した変位検出感度 (nmmV)」を接触圧とした

図 36に IndashV 特性および +15 Vでの抵抗値の接触圧依存性を示す市販コート再コートどちらの探針においても接触力の増加に従い電流が増加したまたIndashV 波形が非線形である原因として探針先端または試料表面の不純物やPtndashHOPG間接触の本来の特性が考えられる図 36(c)よりどちらの探針も比較的同等の特性を持っており以降では再コート探針でも市販コート探針と同様に使用可能としたまた接触力が 10 nN付近で抵抗値がある程度収束しており接触電流測定に必要な接触力の目安は 10 nNと見積もられるこの接触力は過去の c-AFM [115]や PCI-AFM [103104]

の報告における設定値と同程度である次に接触面積の見積もりを行う無機材料での探針接触電流測定では一般に 2体の付着を考えない Hertz理論を用いて評価されるが [116]有機物など付着のある系では JKR理論を用いて評価する必要がある [92]JKR理論では曲率半径 Rt Rs の 2体が接触力 F で接触するとき接触半径 a

は次のように表される [117]

a3 =34

Rlowast

Elowast[F + 3πRlowastWts +

radic6πRlowastWtsF + (3πRlowastWts)2

](38)

但しWts は 2体の付着仕事 (凝着エネルギー)Rlowast は実効曲率半径 Rlowastminus1 = Rminus1t + Rminus1

s また Elowast は実効ヤング率を表しサンプル (s)探針 (t)それぞれのヤング率を Es Etポアソン比を σs σt とおくと Elowastminus1 = (1minusσs

2)Esminus1 + (1minusσt

2)Etminus1 で与えられるここで式 (38)の根号内が F gt minusFad で 0

以上となる場合Fad は吸着力を表し

Fad = minus32πRlowastWts (39)

で与えられるよって式 (38)は

a3 =34

Rlowast

Elowast(radic

F + Fad +radic

Fad)2 (310)

と簡略化されるPt 探針を HOPG に接触させた場合を想定する試料が無限平面と仮定できるため Rlowast = Rt であり探針の曲率半径として OMCL-AC240TM-R3の公表値 15 nmを用いる材料のヤング率ポアソン比として表 31の値を用いると吸着力 Fad が 10 nNのときの接触力と接触半径の関係は図 37

のようになる探針の曲率半径は 10 nmを超えているものの接触半径は数 nmに留まることが分かるまた接触力 10 nN付近では微小な接触力の変動に対する接触半径の変動は 1割に満たないことも式から求まる

32 マルチグレイン有機薄膜の複数雰囲気中測定 29

0

1

2

3

4

-10 0 10 20 30

Con

tact

radi

us [n

m]

Contact force [nN]

図 37 吸着力 Fad = 10 nNのときの接触力と接触半径の関係(Rlowast Rt = 15 nm)

図 38 ペンタセンの分子構造式

32 マルチグレイン有機薄膜の複数雰囲気中測定有機半導体薄膜の電気特性は雰囲気により大きく変化するがその影響にはグレイン境界やグレイン内部など複数の局所物性が関わっているため従来の大面積の電極を用いた測定では議論が不十分である一方局所電気特性測定に有用と考えられる PCI-AFMは原理上真空中での動作が困難でありまたこれまで OFETの評価に用いられたことはなかった本節では 311節で真空動作化を施した PCI-AFMを使用しペンタセンのマルチグレイン薄膜を対象に局所電気特性測定を行い大気の影響を抑えた材料本来の特性測定を行う同時に大気真空の両雰囲気中で評価することで特定の局所構造に対する大気の影響を評価する

321 測定試料ペンタセン 測定試料としてペンタセンのマルチグレイン薄膜を用いたペンタセン (C22H14)は図 38のようにベンゼン環が 5つ縮合した構造をもつアセン系 π共役分子であり最も基礎的な p

型有機半導体の 1つとして知られる真空蒸着による簡便な成膜によっても 1 cm2(Vs)という比較的高性能な移動度を有することで知られている [30 121]そのため金属ndash有機分子界面評価のベンチマーク [39]という基礎的なことから論理回路 [21]という応用的なところまで幅広い研究に用いられている一方ペンタセンの真空蒸着により成膜すると一般にグレインが多数連なったマルチグレイン薄膜となるこれは蒸着条件や絶縁膜の表面処理を変化させても最大で数 microm程度の大きさにしかならず [29 122]OFETを作製すると多数のグレイン境界を通ることになるグレイン境界により制限された OFETの電気特性および移動度の評価が四端子法により行われているものの [32]影響を平均した評価にならざるを得ないよって本研究でもペンタセンのマルチグレイン薄膜を試料として用い過去の報告の知見を活かしつつPCI-AFMの利点を活かした特定のグレイン境界評価に臨む

30 第 3章 AFM電流測定法を用いた有機グレインの局所電気特性評価

SPM solution

Waferchip

LOR 3B

Au

S1813UVozone

UV

Photomask

(1) SPM cleaning (2) UVozone cleaning (3) Spincoat amp bake (4) Resist coating

(5) UV exposure(6) Development(7) Deposition

(9) EB resist (10) EB lithography (11) Development

(14) Deposition

(12) Deposition

(8) Lift-oamp cleaning

(13) Lift-oamp cleaning

eminus eminusPtZEP 520A

Organic lm

UV

litho

grap

hyEB

lith

ogra

phy

図 39 測定試料の作製手順の模式図

試料作製手順 測定試料は以下のプロセスにより作製した図 39に手順全体の模式図を示す

1 表面に 100 nmの熱酸化膜 (SiO2)を有する高ドープ n型 Siウェハを用い硫酸ndash過酸化水素水 (SPM)洗浄を行う

2 紫外線 (UV)露光をし (UVオゾン洗浄)表面を親水化する3 LOR3Bを 4000 rpmで 45秒スピンコートし190Cで 5分ベーク4 UVレジスト S1813を 5000 rpmで 30秒スピンコートし115Cで 1分ベーク5 マスクアライナーを用いてUV露光を 3秒行いマスクパターンを転写6 現像液MICROPOSIT CD-26に 1分程度浸漬することで現像7 真空蒸着装置を用い1 times 10minus4 Pa以下の高真空下で Crを電子線 (EB)加熱により 3 nmAu

を抵抗加熱により 50 nm蒸着8 Remover1165でリフトオフを行い続いて UVオゾン洗浄9 EBリソグラフィ用のレジスト ZEP 520Aを 1500 rpm60秒の条件でスピンコートし160C

で 5分ベーク10 ギャップ幅 100 nmギャップ長 300 nmの条件で EB描画11 EBレジストの現像液 ZED-N50に 2分浸漬することで現像

32 マルチグレイン有機薄膜の複数雰囲気中測定 31

12 スパッタリング装置により Ptを約 5 nm堆積13 Remover1165によるリフトオフ続いてイソプロパノール (IPA)蒸気洗浄および UVオゾン洗浄

14 真空蒸着によりペンタセンを約 01 nmminの蒸着レートで 10 nm堆積

(3)から (8)の行程は UVリソグラフィ(9)から (13)の行程は EBリソグラフィに対応する

322 装置構成PCI-AFM測定時の装置構成を図 310に示すAFMコントローラとして日本電子製 JSPM-4200

を用いFG1 (Yokogawa FG120)からの励振信号で AM-AFMを動作させている真空中では Q値制御装置を用いたQ 値制御回路使用時は安定した励振を行うために不要な高調波を除去するローパスフィルタ (Low-pass filter LPF)を挿入した電気回路部については試料上の電極 (Drain)に定電圧 (VD)を印加しSi基板 (Gate)にゲートバイアス (VG)として FG2 (Tektronix AFG320)から任意波形を出力した試料ndash導電性探針間を流れる電流 (ID) はカンチレバーホルダー直結の低バイアス電流な自作電流アンプ (109 VA) で検出し電流信号はデータロガー (Keyence NR-500 NR-H08)で測定全時間に渡り取得した

Point-by-point動作は AFMコントローラに備わる「MFMモード」を利用したMFMモードでは256 times 256点の各点で10 ms毎にフィードバックモードとホールド (高さ固定)モードを切り替える本来の MFMモードは MFM測定のために試料から離れる (Lift)方向にしか動かせない本研究で用いた AFM コントローラは研究室で改造が行われており外部から直接高さの変調信号 (Z-mod)

を加えられるようになっている [78]高さ変調信号は FG3 (Tektronix AFG320) から出力した信号を minus20 dB減衰器に通した上で Z-modに入力したまたフィードバックモードとホールドモードに同期した信号が JSPM-4200 の PR2 端子からLIFT 信号として出力されているこの信号に FG1 FG2 FG3 を同期させることで point-by-

pointでの振動電圧印加接触動作が可能となる図 311のタイムチャートは測定点の移動 (X)カンチレバー変位 (Deflection)Lift信号それぞれの FGの時間波形と動作タイミングを示している1点当たり 20 ms (=1 period)を要し一定時間フィードバック動作を行ったのちホールドモードとなりLift信号が off状態になるFG1 (Excitation)はこのLift信号が on状態のときのみ出力する GateモードとしているFG2および FG3は Positive edgeの Triggerのみ受け付けるためLift

信号を Not回路に通した上で FG2と FG3の Triggerに入力したFG3の電圧値は実際に接触しているときの Defletion変化 (∆z)から計算される接触力が 10 nN程度になるよう調節した結果表示で 06ndash08 Vとなった

323 大気中 PCI-AFM評価大気中でペンタセン薄膜に対し PCI-AFM測定を行ったVD = minus2 Vとし接触中に VG を minus1 V

から minus5 Vへ変化させながら測定した図 312(a)は PCI-AFMで同時測定された表面形状像であるより大きい範囲の表面形状像から推定した電極の位置を点線の枠で示しているPCI-AFMでは各点でカンチレバーの振動停止再開をしていることから探針ndash試料間距離が不均一になることが懸念さ

32 第 3章 AFM電流測定法を用いた有機グレインの局所電気特性評価

RMS

Data logger

Feedbackcontroller

Scanner

LDPSPD

Q-controller

AFM controller

PZT

FG1

FG2

FG3

Z-mod

Gate

Lift

InsulatorGate

VD

IndashV amp

-20 dB

LPF

Deection

Current Trigger

図 310 真空動作 PCI-AFMを用いた OFET電気特性測定時の装置構成図

Deection

LiftZ hold Z hold

FG1 (excitation)

FG2 (VG)[100 Hz]

FG3 (Z-mod)[501Hz]

X

1 period = 20 ms

-5 V

[period]

[period]

0 01 09 1

001

02095

1

Time

Gate

Trig

Trig

Δz

図 311 PCI-AFM測定の各信号のタイムチャート

32 マルチグレイン有機薄膜の複数雰囲気中測定 33

100 nm0

30

[nm

]

Electrode

(a)

10

0

I D [n

A]

(b) AB

C

VG iuml V

(c)

iuml V

(d)

iuml V

(e)

iuml V

(f)

iuml V

図 312 マルチグレイン薄膜の大気中 PCI-AFM 測定結果 (VD = minus2 V)(a) Pt 電極に接続したペンタセン薄膜の表面形状像(b)ndash(f) VG = minus1 minus2 minus3 minus4 minus5 Vの電流値で再構成した電流 (ID)像図中の矢印はグレイン境界太点線はグレイン A B Cの範囲をそれぞれ表す

れるが表面形状像からはドット状ライン状のノイズは見られないことから安定して動作していることが分かる図 312(a)より多数のペンタセングレインが電極に接続していることがわかり薄膜中の「谷」部から矢印で示すようなグレイン境界が見て取れるここでペンタセン薄膜内にいくらか平坦な領域が存在しているSiO2 のような非活性な基板上で成膜したペンタセン薄膜は 1

軸配向性を示すことがこれまでも多く報告されており今回のペンタセン薄膜においても分子長軸を基板に対して立てて配向していると考えられる図 312(b)ndash(f) はそれぞれ VG = minus1 V からminus5 V

の電流値を抽出し再構成した電流像であるまず電極付近は電流値の大きい地点が多くまた VG の印加により大きな変化はない一方赤色の点線で囲ったグレイン A B C についてはVG = minus1 V

の電流像では暗いままつまり電流が小さいのに対しVG = minus5 Vの電流像では接続している膜部分と同等の電流値を観測しているこのように負のゲートバイアスの印加に従う電流の増加は p型有機半導体を用いた OFET の特徴であるこれはPCI-AFM を用いて有機半導体薄膜の各点で構成した局所 OFETの特性を測定した初めての例であるグレイン毎の違いを詳しく見てみると図312(b)のグレイン Bでは少しだけ電流が流れているがグレイン A Cはほぼ電流が観測されていないまた図 312(f)ではグレイン Aはグレイン Bと同程度の電流値になったもののグレインCは他の 2つに比べて電流が小さいこのような電流増加傾向の違いがグレイン毎に現れていることはこのペンタセン薄膜においては電気特性がグレイン境界によって大きく制限されていることを示している

324 真空中 PCI-AFM評価および雰囲気比較前節ではグレイン A Bと連続して接続しているグレインに関してゲートバイアス特性 (IDndashVG)が異なるという興味深い結果が得られたそのため評価対象をこのグレイン A Bに限定してより狭い範囲で測定することでより詳細な評価を行う図 312(a)の矩形範囲について真空中で PCI-AFM

34 第 3章 AFM電流測定法を用いた有機グレインの局所電気特性評価

0

30

Electrode50 nm

(a)

[nm

]

2

0

I D [n

A]

A

B

(b)

VG = 0 V

(c)

VG iuml V

(d)

VG iuml V

(e)

VG iuml V

(f)

VG iuml V

図 313 マルチグレイン薄膜の真空中 PCI-AFM測定結果 (VD = minus2 V)(a)表面形状像(b)ndash(f)VG = 0 minus1 minus2 minus3 minus5 Vにおける電流 (ID) 像図中の矢印はグレイン境界太点線はグレインA Bの範囲をそれぞれ表す

測定を行ったVD = minus2 VのままVG として 0 Vから minus5 Vの Ramp信号を用いた図 313に真空中の PCI-AFM測定で同時に得られた表面形状像 (a)および VG = 0 V minus1 V minus2 V minus3 V minus5 Vにおける電流像 (b)ndash(f)を示す大気中の結果と同様に滑らかな表面形状が得られておりQ値制御を用いることで真空中でも安定した PCI-AFM動作が実現できていると考えられる図 313(b)ndash(f)から大気中の結果同様に VG の印加に従い電流増加が見られているまたグレイン Bは VG = minus2 Vから minus4 Vにかけてグレイン Aは VG = minus1 Vから minus3 Vにかけてというように電極から近いグレイン順に電流増加が始まることが明瞭に観察された図 314に大気中真空中 PCI-AFMで得られた結果のうち図 313(a)の矩形領域で示す同一グレイン上の結果を比較したものを示す図 314(a) (b)の表面形状像から同一位置であることを推定した但し横軸を電極からの距離と取るために図 313に対し 90 回転させておりまた測定時の熱ドリフトの違いやスキャナのクリープの影響により像のサイズは若干異なっている図 314(c)

(d)は表面形状像の実線に沿った IDndashVG 特性を電流値マップとしてプロットしたものであり横軸が表面形状の実線の位置に対応する但し元の電流像から 64 times 64ピクセルに周辺の最大値を取るようダウンサンプルした上で表面形状像の実線に対し 10ピクセルの幅で平均した電流値を用いている電流値マップから電極上は VG による明確な電流変化はなくグレイン上での電流は VG により変化していることが明瞭に観測できる特に点線で示されているグレイン B Aの境界で電流マップのコントラスト変化が見て取れ電流マップにより IDndashVG 特性の変化が容易に確認できるといえるまた図 314(e) (f)は (c) (d)を見かけの抵抗値 RD = |VDID|として変換したものであるりいくつかの VG についてプロファイルをプロットしたこの RD は位置に伴う抵抗の積算値と考えることができるここで距離による抵抗の増加は明瞭には観察されなかったが一方でグレインBよりも一つグレイン境界を跨ぐグレイン Aで抵抗値が大きく増加しておりここからもグレイン内部よりも AndashB 間グレイン境界が OFET としての電気特性を大きく左右していることがよく分か

32 マルチグレイン有機薄膜の複数雰囲気中測定 35

0 1 2 3 4 5 6

RDgt

ї

VG=-1V

-5V

-2V

B

Electrode A

-3V

0

10

20

30

40

50R

Dgt

ї VG=0V

-1V

-2V-3V-5V

B A

Electrode

-1

-5

V Ggt9

+1

-5

V Ggt9

In air(a) (b)

(c) (d)

(e) (f)

In vacuum

Elec

trode

Elec

trode

10

0

I DgtQ$

4

0

I DgtQ$

図 314 同一グレインにおける (ace)大気中(bdf)真空中の PCI-AFM結果比較(a) (b)表面形状像(c) (d)表面形状像の実線に沿ったゲートバイアス依存の電流値マップ(e) (f)各ゲート電圧値に対する電流値より計算した見かけの抵抗値プロファイル左から右に進むに従い接触時の電極からの距離が遠くなる図中の A Bは図 312 313におけるグレイン A Bの領域に対応する

るAndashB間グレイン境界による特性への影響をより詳しく評価するために図 314のグレイン A

B上で平均した IDndashVG 特性を図 315(a)に示すFETの IDndashVG 特性は電流の立ち上がりがしきい値電圧 Vth に対応する図 315(a)を見ると大気中真空中共にグレイン Aの Vth がグレイン Bに対して負電圧にシフトしていることがわかるこのことは図 312および図 313で見られたようにグレイン毎に OFETの動作が ldquoONrdquoになることを再度示しているといえる一方傾きに対応する伝達コンダクタンス partID

partVDはグレイン A Bで大きな違いはなかった過去のペンタセン OFETに関

する研究においてもグレイン境界がしきい値電圧を負にシフトさせている報告があり [27 28]今回の測定も妥当な結果が得られていると考えられる一般的にしきい値電圧は深いトラップ準位一方しきい値電圧以降の伝導特性は浅いトラップ準位が影響するといわれている [54]このことを踏まえるとグレイン境界は深いトラップ準位リッチと考えられるグレイン境界とトラップの関係はこれまでも指摘されてきたものの [123]今回のように単一の特性のグレイン境界においてしきい値電圧シフトを直接観測したことは有機デバイスの電気特性と物性の相関を確かめる上で非常に有意な結果と考える

36 第 3章 AFM電流測定法を用いた有機グレインの局所電気特性評価

0

2

4

6

-4-2 0

I D [n

A]

VG [V]

AirAB

Vacuum

0

100

200

300

400

-20-15-10-5 0

I D [n

A]

VG [V]

AirVacuum

Vacuum

Air

(a) PCI-AFM (b) Reference OFET

図 315 (a)図 314で示したグレイン A B上で平均した大気中 (赤色)真空中 (緑色)の IDndashVG

特性菱型記号丸記号はそれぞれグレイン A Bの特性を表す(b)レファレンスとして作製したチャネル長 200 nmの OFETの IDndashVG 特性

一方雰囲気で比較すると真空中に比べて大気中では全体的に電流値の増加が見られるまたグレイン A の VG = minus1 V が顕著なようにしきい値電圧の若干の正シフトも見られるしかしこれら変化はどちらのグレイン上においても同等の影響となっているこのような電流値の増加は大気中の酸素の影響と考えられており [124ndash126]有機膜に取り込まれた酸素分子が正孔ドープを行うために抵抗が減少し同時にその正孔により若干のトラップ準位も埋めたことでしきい値電圧が正にシフトしたと考えられる電極対を用いたペンタセン OFETを作製し大気中真空中で伝達測定した結果においても同様の電流の増加としきい値電圧の正シフトが見られた (図 315(b))PCI-AFM で測定された OFET 構造では二つのグレインのみが関係するが電極対を用いた測定ではチャネル中に多数のグレインが存在するそれにも関わらず雰囲気による影響で同様の傾向が見られていることは大気中の酸素による影響はグレイン境界よりもグレイン内部や電極ndash有機界面に大きく影響を与えると考えられるこのように複数環境で PCI-AFMを用いられることは局所電気特性評価を行う上で非常に有用だということが示されたと考える

33 単一微小グレイン OFETの特性評価32節では真空動作化した PCI-AFMを用い真空中での PCI-AFM測定が実現されたことを確認したまたグレイン境界が与える OFETの電気特性への影響とグレイン境界が持つ物性について知見を得た一方でグレイン境界により電気特性が制限されていたためグレイン内部の電気特性についての知見は得られなかった本節ではグレイン内部の電気伝導に着目しPCI-AFM測定により単一のグレインの持つ電気特性を抽出評価することを目標とする

331 Point-by-point動作時間間隔の自由化32節の測定では JEOL製 AFMコントローラのMFMモードを利用した point-by-point動作を実現したしかしMFM モードの利用はソフトウェアの制限により最長で 10 ms のホールド時間しか確保できない電圧掃引時間を長くする積算回数を増やすといった測定のためには自由にホー

33 単一微小グレイン OFETの特性評価 37

Lift down

Lift up

Restart excitation

Trigger

Pre-lift Stop excitation

Mesh point

Restart

From controller

100 ms

350 ms

50 ms

200 ms

Measurement period Bias voltage

To controller

FG120 (FG1)excitation

AFG320 (FG3)

GP-IBGP-IB

GP-IB

図 316 PCI-AFM の point-by-point 動作時間間隔を自由に設定するために作成したプログラムのフローチャートFG1 FG3は図 310の FG1 FG3に対応する

ルド時間が設定できることが望まれるそのため研究室で製作された PXI4および FPGA5ベースの AFMコントローラを用いた point-by-point動作用セットアップを構築した図 316に point-by-

point動作のために作成した LabVIEW6プログラム (Externalプログラムと呼ぶ)のフローチャートを示す動作は以下の順序で実行される

1 (External外) AFMコントローラにおいて point-by-point動作点 (Mesh点と呼ぶ)に来た場合フィードバックモードからホールドモードにしプログラム的に Externalプログラムに信号を送る

2 励振停止指示を GP-IB接続した FG1に送る同時に探針を試料に若干近づける (Pre-lift)3 探針を試料に接触させる (Lift down)4 測定用バイアス出力指示を GP-IB接続した FG3に送る5 任意測定時間経過後探針を試料から離す (Lift up)6 励振再開指示を FG1に送る7 AFMコントローラにMesh点動作終了を通知する

AFM コントローラと External プログラムの間の信号伝達は LabVIEW のシェア変数により実現されているそのため完全に同期させた動作は困難であり各プロセス間に図中のとおりのウェイト時間を設けることで各プロセスを完了するように調整した

38 第 3章 AFM電流測定法を用いた有機グレインの局所電気特性評価

Electrode Pentacene grain

SiO2

[nm

]

30

0

50 nm(a)

(b)

[nA]

15

0

(d)

Tim

es

(c)

Electrod

e

0

100

200

0 100 2005HVLVWDQFHgtї

LVWDQFHgtQP

0

05

1

15

ampXUUHQWgtQ$

IA BII III

2 V0 V

iuml9iuml4 Viuml6 Viuml8 V

VG

A B

A B

図 317 ペンタセン微結晶上における PCI-AFM ライン測定結果(a) ペンタセン微結晶の表面形状像(b) (a)の AndashBラインに沿った PCI-AFM測定によって得られた位置および測定回数に対してプロットした電流マップ (VG = minus8 V)(c) (d)各 VG における電流値 (c)および抵抗値 (d)の電極からの距離依存性(c) (d)のプロファイルに対応する表面形状像および AndashBライン領域 I II IIIの位置を (c)のインセットに示す

332 ペンタセン微結晶上の PCI-AFMライン測定321節と同様に作製したペンタセン薄膜試料の表面形状像を図 317(a)に示す321で得られたペンタセン薄膜 (図 312(a))と比べ比較的平坦部分が増しまたグレインの縁が単結晶のように直線的になっている本試料は前節と異なり蒸着中の基板温度を常温から 45Cに上げており蒸着量を約 5 nmとした基板温度の影響はペンタセンのグレイン構造に大きく影響を与えることが指摘されており [122]図 317(a)のペンタセングレインは基板温度を上げたことにより比較的結晶性の良いグレインとなっていると考えられる続いて図 317(a)の AndashBラインに沿って各点 IDndashVG のPCI-AFM測定を行った電極に +3 V各点における基板へのバイアス印加を +5 Vから minus5 Vとすることで実効的に電極がソースカンチレバーがドレインとなるように動作させこのときのドレインバイアス (VD)は minus3 Vゲートバイアス (VG)は +2 Vから minus8 Vと換算できるPCI-AFM測定は同一ライン上を複数回取得した得られた VG = minus8 Vにおける電流プロファイルの測定回数依存を図 317(b)に示す電流マップの上から下にかけて測定回数が増えるが少なくとも 10ラインはほぼ同一の特性が得られていることが分かるよってこの間は探針の変化は小さくまた試料の電気特性変化も起きていないと考え以下の解析では 2ndash8ライン目の計 7ラインを平均した結果を

4 PCI eXtentions for Instrumentation5 Field-programmable gate array6 National Insturments社のグラフィカルプログラミング統合開発環境の名称

33 単一微小グレイン OFETの特性評価 39

Tip Mirror tip

V

Electrode

(a) (b)

VminusV

PE(r)

rArB

x

A(L0)B(-L0)

r

y

0

Tip

図 318 2D伝導の理論的検討(a)電界広がりを考慮した抵抗体内の電界の模式図(b)鏡像電位 minusV を用いて求める場合の模式図電位 V中心点 A(d 0)半径 rの Tip接触部に対して鏡像Tipを電位 minusV中心点 B(minusd 0)半径 r の円と定めることでx gt 0の範囲で (a)と同一の電界分布となる

用いたなお測定の後半では若干電流値の減少が見られておりこの領域では探針の摩耗といった特性変化の影響が考えられる

PCI-AFMで得られた電流プロファイルの VG 依存性を図 317(c)に示す図 317(c)のインセットに位置を対応させた表面形状像を表示しているまず電極端に対応する位置で電流値が最大となっている電極直上ではゲートバイアスによる電荷蓄積の影響が現れにくくほぼペンタセンの真性状態の特性しか現れていないと考えられるため電流値が減少したと考えられる次に電極からの距離が遠くなるに従い電流値の減少が見らるがグレイン内を通る距離が増える分抵抗が大きくなることと合致する最後に絶縁膜である SiO2 上では電流は検知されず漏れ電流やゲートバイアス掃引による影響は排除できていると考える電流プロファイルからはグレイン内で距離が増加するに従い電流が減少する傾向に明確な違いは見受けられないが図 317(d)のように R = |VDID|で変換した抵抗値のプロファイルを見ると傾向の違ういくつかの領域があることが分かる電極からの距離が近い順に領域 I II III と名付けると領域 I は電極端から非線形的に抵抗が増加している一方領域 IIは距離に対して線形に変化しており特に VG lt minus4 Vで顕著である領域 IIIは単調な変化をしていないが対応する表面形状から別のグレインが繋がったものと考え今回の評価からは除外する以下領域 I IIを含むペンタセングレインを微結晶と呼ぶ

333 抵抗の距離依存性の理論数値的検討前節では微結晶上の領域 I IIで異なる抵抗の距離依存性を確認できた本節では特に領域 IIに注目し微結晶本来の特性の抽出を検討する

理論的考察 抵抗率 ρの抵抗体の抵抗を考えるとき最も基本的な伝導は全ての電界が抵抗体内では平行に分布する場合であるX Y Z 方向にそれぞれ長さ L w t の直方体の X 方向の両端に電極を接続する場合の抵抗 Rは

R = ρLwt

(311)

のように電極間距離 L に対して線形に変化するこのような伝導を以下 1D 伝導と呼ぶしかし図 317(a)の表面形状像では微結晶が電極に接触している部分が多く図 318(a)のように電界が平行ではなく平面上を広がる可能性があるこのような伝導を 2D伝導と呼ぶ2D伝導における抵

40 第 3章 AFM電流測定法を用いた有機グレインの局所電気特性評価

抗を求めるため試料をシート抵抗 ρ厚さ 0の抵抗体と考えx = 0で y方向に無限に長い電位 0

の電極および点 A(L 0)を中心とする半径 r電位 V の円を接触している Tipと考え接触電流測定のモデルとする図 318(b)のように点 B(minusL 0)を中心とする半径 r電位 minusV の円を Tipの鏡像を考えるとx gt 0の範囲は求める電界分布と同一であるここで点 P(x y)の位置が点 A Bそれぞれからの位置ベクトル rA rB で表されるときTipおよび Tipの鏡像が作る点 Pにおける電界はそれぞれ定数 λを用いて

EA =λ

2πrA

|rA|2 EB =

minusλ2π

rB

|rB|2(312)

と表される7よって点 Pでの x方向の電界 Ex は

Ex(x y) =λ

[L minus x

(L minus x)2 + y2 minusL + x

(L + x)2 + y2

](313)

であるTipndash電極間に流れる電流を I とすると電極上 x = 0における電界から電流が

I =1ρ

int infin

minusinfinminusEx(0 y)dy

ρπ

int infin

minusinfin

LL2 + y2 dy

ρπ

int π2

minus π2dθ =

λ

ρ(314)

と表されることからλ = ρI と求まる一方Tipndash鏡像 Tip間の電位差は

2V = minusint Lminusr

minus(Lminusr)Ex(x 0)dx

= minusρI2π

int Lminusr

minus(Lminusr)

[1

L minus xminus 1

L + x

]dx

= minusρI2π[log(L minus x) minus log(L + x)

]Lminusrminus(Lminusr)

=ρI2π

log4L2 minus r2

r2 (315)

と表されるため2D伝導の抵抗 R2D は

R2D =ρ4π

log4L2 minus r2

r2 (316)

と求まるL - rのときR2D sim ρ2π log 2Lr となるため1D伝導とは異なり距離に対して対数的に変

化することが分かる過去の SPMを用いた報告として2つの探針を有する STMを用いてポリ 3-オクチルチオフェン

(poly(3-octylthiophene) P3OT) の薄膜の抵抗率を測定した結果がある [128]この報告では非常に広い薄膜を用いているため距離に対して対数的に変化する 2D伝導として記述できることから抵抗率を算出している一方で有機薄膜における探針電流測定において実効的なチャネル幅を見積もることで線形的な変化とみなす試みもなされている [129]しかし有限要素法による解析ではチャネルの存在が仮定されておらずバルク部での電界の広がりとチャネル領域との振る舞いの違いが懸念される

33 単一微小グレイン OFETの特性評価 41

Electrode

(buried)

Bulk (σbulk)

Channel (σch)

Contact area (Tip)

tbulk

L

Lmax

w

teltch

r

図 319 有限要素法による OFETモデルの電界シュミレーションに用いた試料モデル

表 32 有限要素法による OFETモデルの電界シュミレーションで用いたパラメータ印以外は実測に則した値を用いており印はモデル化のため仮定した

Parameter Description Value

tel 電極厚さ 5 nm

tbulk 有機膜厚さ 20 nm

tch チャネル層厚さ 1 nm

w 電極接触幅 100 nm

Lmax 微結晶最大長 100 nm

σch チャネル導電率 1 Sm

σbulk バルク部導電率 01 Sm

r 探針接触半径 5 nm 10 nm

数値的考察 理論的な考察を踏まえ実際の測定系に近いサイズで電界がどのように振る舞うか調べるために本研究でも有限要素法による電界シュミレーションを行った図 319に電界シュミレーションで用いた試料モデルの模式図を対応する用いた各種パラメータを表 32にそれぞれ示す各種パラメータは用いた電極および図 317(a)から求まる概算の実測値を用いている絶縁膜直上の 1分子層にほとんどの電荷が蓄積されることが知られているため [130]チャネル層の厚さは簡単に 1 nmとした図 320に電界シュミレーションで得られた電流密度マップを示すほとんどの電流は速やかにチャネル層に到達しておりまた電極接続幅全体に渡っていることが分かる特に電極端から 20 nm程度は平行にほぼ同じ電流密度で流れているこれは 2D伝導よりも 1D伝導に近いことを示唆する結果である図 321(a)に探針接触径 r = 5 nm 10 nmのときの抵抗距離依存性の計算結果を示すどちらの接触径においても距離に対してほぼ線形に変化していることが明瞭である接触径が 10 nm から 5 nm になることで距離 0 での抵抗がほぼ 2 倍となっている距離 0

7 2次元伝導の場合無限遠点の電位が 0とはならない [127]

42 第 3章 AFM電流測定法を用いた有機グレインの局所電気特性評価

(a)

r = 10 nm L = 80 nm

(b)

Tip

Electrode

50 nm

図 320 OFETモデルの電界シュミレーションで得られた電流密度マップr = 10 nmL = 80 nmのときの結果を示している

0

200

400

600

800

0 20 40 60 80 100

5HVLVWDQFHgt0ї

LgtQP

r = 10nm

r = 5nm

0

5

10

0 5 10

Appa

rent

ѫchgt6

P

5HDOѫchgt6P

FittingCalculation

(b)(a)

図 321 OFETモデルの電界シュミレーション結果(a) r = 5 nm 10 nmにおける抵抗の距離依存性(b) r = 10 nm におけるチャネル導電率を変化させたときの見かけの導電率の変化(a)の 30 nmndash80 nm 間の傾きを dRdL としたとき見かけの導電率は σprimech = (wtch

dRdL )minus1 で記述され

る値

のとき電流経路はほぼバルク部分のみであるため接触抵抗とみなすことができる一方傾きは接触径によりあまり変化していないことから実際の測定における接触径と異なるとしても距離依存性への影響は小さいと考えられるこのように距離に対して線形に変化することから微結晶上のPCI-AFM測定では 1D伝導とみなして評価できるといえる電極付近ではほとんどの電流がチャネル中を流れるとすると微小な距離増加 dLに対する微小な抵抗増加は dR = dL(σchwtch)と記述できるよって抵抗ndash距離依存性の計算結果における傾き ( dR

dL )からチャネル導電率は

σapparent =(wtch

dRdL

)minus1(317)

と計算される図 321(b)にチャネル導電率を変化させた際の計算結果における dRdL から算出した見

かけのチャネル導電率のプロット結果を示す実際のチャネル導電率がバルク導電率に近い場合見かけの導電率は大きく異なるがチャネル導電率がバルク導電率に比べて非常に大きいときは実

33 単一微小グレイン OFETの特性評価 43

0

2

4

6

8

10

12

-8-6-4-2 0 2

S gtQP

ї

VGgt9

ch

101

102

103

104

-8-6-4-2 0 2

WR

pgtNїAtildeFP

VGgt9

(a) Channel conductivity (b) Parasitic resistance

図 322 PCI-AFMにより得られた微結晶上の抵抗の距離依存性 (図 317(d))のうち領域 IIについて TLMで抽出した (a)チャネル導電率 S ch(b)寄生抵抗 Rp

際と見かけの導電率はかなり似通ってくるまた図 321(b)のプロットを線形フィッティングすると傾きは約 09となり dR

dL から計算されるチャネル導電率は実際の導電率とほぼ同等ということが分かった

微結晶のパラメータ抽出 以上の理論数値的検討よりPCI-AFM測定で得られた微結晶の領域IIにおける抵抗の距離依存性は 1次元伝導として解析可能だと結論づけたOFETとチャネル長との関係は非常に深くこれまで多くの研究において 4端子法 [41 53]や TLM [48 131ndash134]を用いた真の OFETチャネル伝導特性評価が試みられてきたこれら手法は OFETの特性に含まれる接触抵抗と OFET本来の特性とを分離するための手法でありOFET特性に由来する抵抗のチャネル長依存性が線形であることを利用しているTLMの方法を以下で説明するOFETの線形領域における特性より全抵抗 Rは

R = Rp +L

wCimicro(VG minus Vth)minus1 (318)

と記述できチャネル長 Lに対して線形に変化する但しチャネル幅 w単位面積あたりの絶縁膜容量 Ciしきい値電圧 Vth移動度 microであるチャネル長を変化させたデバイスを作製すると理想的には L以外のパラメータは一定なため距離依存の線形近似により移動度および切片から接触抵抗 Rp を求めることができるもしくは全抵抗の距離微分の逆数 (チャネル導電率)S ch が

S ch equiv(dR

dL

)minus1= wCimicro(VG minus Vth) (319)

のようにゲートバイアス VG に対して線形に変化することからしきい値電圧も抽出することができるこちらの手法を Gated-TLMと呼ぶこともある図 317(d)の領域 IIのうち電極からの距離 30 nmndash100 nm間についての線形近似で得られたチャネル導電率 S ch および寄生抵抗 Rp を図 322に示す寄生抵抗の影響を排除したにも関わらずチャネル導電率は式 (319)のように VG に対して線形に変化していないそのため移動度がゲートバイアス依存をもっていると解釈できるこのような移動度のゲートバイアス依存は有機層がエネルギーに対して指数的に分布するトラップ準位を有す場合に発現することが知られ半経験的な式

44 第 3章 AFM電流測定法を用いた有機グレインの局所電気特性評価

として次のような形が知られている [135 136]

micro = κ(VG minus Vth)α (320)

指数分布する局在準位と伝導に寄与する準位との間を行き来しながら電荷が通過することでチャネル内伝導が起こるとしたMultiple trapping and release (MTR)モデルではこの移動度のゲートバイアス依存性が解析的に導かれている [137]一方で指数分布するトラップ準位を考慮した電気伝導はアモルファスシリコン (a-Si)を用いた FETで記述された考え方であり [138]非常にトラップが多い系を対象とする式 (320)を考慮した移動度の抽出手順としてσch を 1(α + 1)乗 (α ge 0)しminus3 V le VG le minus8 Vの範囲に対して線形最小二乗法フィッティングを行いフィッティングの確実度(=回帰の平方和総平方和)が最も 1に近くなるような αを最適値とした最適フィッティングパラメータはα = 218でありこのとき Vth = 03 Vκ = 315 times 10minus6 cm2(V1+α middot s)となった過去の報告では αの値は 1程度かそれ以下であり [135 136]本研究で得られた値は大きく異なる一方MTRモデルを考えαをトラップ深さに対応するエネルギーに変換すると 80 meVとなる比較としてペンタセンを用いた OFETにおける活性化エネルギーとしては 20 meVndash40 meVが知られている [2953]またAFMポテンショメトリーを用いたペンタセングレイン内の電位測定からグレイン内部のバンドゆらぎが 20 meV 程度あることが指摘されている以上の結果もやはり本結果よりもエネルギーが小さい値である今回測定した微結晶においてこのようにトラップに対応するエネルギーがこれまでの報告に比べ大きい理由としては以下のことが考えられる第一にOFET

の移動度は有機ndash絶縁膜界面によって非常に影響を受けるということである絶縁膜 SiO2 の表面に塗布するバッファ層の種類により移動度が一桁以上変化する報告もあり [139]本研究では有機ndash絶縁膜界面が比較的トラップリッチだったことが考えられる第二に電極ndash有機界面部分の特性がTLMのみでは排除しきれていない可能性がある図 320の電界シミュレーション結果より電流密度が電極付近で非常に大きくなっていることが分かるそのためたとえ距離依存性からチャネルのみの特性を抽出していたとしても電極付近の特性が特に含まれている可能性がある電極付近は通常のチャネル部よりも活性化エネルギーの高さが指摘されていることからも [53]考慮にいれるべきであろう

334 電極近傍の電気伝導特性本節では図 317(c)の領域 Iに注目する領域 Iは電極からの距離がおよそ 25 nm以内であるがペンタセングレインの厚さが 20 nm程度ということを加味すると電流経路としてチャネルを通らずに探針ndash電極間で直接伝導するものも含まれうるこのとき探針ndash電極間直線距離 Ldirect に応じて増加する抵抗 Rdirect を考えると全体の電流は図 323(a) のように式 (318) で記述される OFET

の抵抗を経由する電流 IFET = VD(Rp + RFET)と直接伝導する電流 Idirect = VDRdirect の和となるただし図では式 (318)の右辺第二項を RFET としたここで図 317(c)における電流距離依存性をLminus1

direct に対する依存性に変換したものを図 323(b) に示すただし電極ndash探針間水平距離 L膜厚tbulk = 20 nmに対して Ldirect =

radicL2 + t2

bulk としたもし Idirect なる成分がない場合1Ldirect が増加しても IFET は VDRp で飽和するその傾向は図 323(b) の領域 II(距離減少に対して IFET 増加) および IIrsquo(IFET 飽和)にあらわれている一方領域 Iに対応する箇所では 1Ldirect に対して増加しておりこの増加する成分が Idirect に対応すると考えられるまた領域 Iの 1Ldirect に対する傾き

34 AFMによる接触電流測定の問題点 45

0

05

1

0 002 004

Cur

rent

[nA]

1Ldirect [1nm]

2 V0 Vndash2 Vndash4 V

ndash6 V

ndash8 VVG

III IIrsquo

Rp

RFET

RdirectIdirect

IFET

Tip

Electrode

(a) (b)

IFET

Idirect

図 323 (a) チャネルを通る伝導 (電流 IFET) に加えて電極近傍における探針ndash電極間直接伝導(電流 Idirect) を考慮した回路モデル(b) 図 317(c) の電流を探針ndash電極間直線距離 Ldirect の逆数1Ldirect に対してプロットしたグラフ領域 I と領域 II (IIrsquo 含む) はそれぞれ図 317(c) のインセットにおける領域 I IIに対応する

VG VD

Cantilever(source)

GrainCarrier

Electrode(drain)

VG ndash VD ndashVD

Cantilever(drain)

Grain

GateCarrier

Electrode(source)

(a) Cantilever-Source (b) Cantilever-Drain

Gate

図 324 カンチレバーのソース動作 (a)ドレイン動作 (b)の模式図とキャリア (正孔)の動きドレイン動作時は固定電極に minusVDゲートに VG minus VD を加える事で(a)とバイアス条件を同じにしながらカンチレバーの接続を変えることなくドレイン動作させることができる

つまり直接伝導の抵抗率は VG 依存性を持っておりVG lt minus4 Vの領域で比較的一定であるIdirect

の電流成分はチャネル部を通過していないのにも関わらずこのような抵抗変調が起きる原因として電極を覆うグレインの存在が考えられる本試料のように電極をゲート絶縁膜直上に形成後有機薄膜を作製するボトムコンタクト型 OFETにおいて電極直上のドーピングによる効果が観測されている [140]これは電極直上の薄膜部分も伝導に関与していることを示しておりVG の印加によるキャリア変調も起こる可能性があるつまり図 323(b)の領域 Iで見られた抵抗率の VG 依存性は電極直上の薄膜の存在が接触抵抗を減少させうることを示唆する結果といえる

34 AFMによる接触電流測定の問題点32節では PCI-AFMの電流マッピングを活用し単一グレインを挟んだ際の OFET特性変化を

33節では PCI-AFMの位置依存性評価を推し進め微結晶のナノスケール TLM評価に適用することで微結晶のみの伝導特性を抽出できた一方ナノスケール TLMでは図 322(b)のように寄生抵抗も抽出でき従来の TLMではこの成分を接触抵抗とするがAFM電流測定では電極ndashグレイン界面の接触抵抗 (電極接触抵抗)だけでなく探針ndashグレイン界面の接触抵抗 (探針接触抵抗)も含む近似的に接触面積が接触抵抗に影響すると考えると探針接触抵抗の方が大きいということが予期

46 第 3章 AFM電流測定法を用いた有機グレインの局所電気特性評価

0

10

20

30

40

-5-4-3-2-1 0C

urre

nt [n

A]VD [V]

VG

ndash10 Vndash5 V

0 V

ndash15 V

-40

-30

-20

-10

0-5-4-3-2-1 0

Cur

rent

[nA]

VD [V]

VG

ndash10 V

ndash5 V

0 V

ndash15 V

Electrode

Pentacenegrain

(a) Topography (b) Cantilever-source (c) Cantilever-drain

Contactingpoint

図 325 カンチレバーをペンタセングレイン (表面形状像 (a) の x 点) に接触させて測定したVDndashID 特性(b)カンチレバーのソース動作時(c)ドレイン動作時

されるここで探針接触抵抗と電極接触抵抗の均衡性について議論するためカンチレバーをソース動作させた際とドレイン動作させた際の特性変化を調べた (図 324)セットアップの都合上カンチレバーには電圧を印加できないため固定電極に minusVDゲートに VG minusVD を印加することで実効的にカンチレバーを OFETのドレインつまりキャリア (正孔)の引き抜き側として動作させた図 325(a)の x点で示すペンタセングレイン上の 1点にカンチレバーを接触させカンチレバーをソースドレイン動作させVG = 0 V minus5 V minus10 V minus15 Vについて IDndashVD 特性を測定した結果をそれぞれ図 325(b) (c)に示す結果よりカンチレバーのソース動作時はドレイン動作時に比べて電流が半分程度となったOFETの接触抵抗はドレイン電極端よりもソース電極端の方が大きいことが知られている [141]そのため探針接触抵抗が電極接触抵抗に比べて支配的であることでこのようにカンチレバーのソースドレイン動作による非対称性が現れたと考えられるこのことはナノスケール TLM で抽出された寄生抵抗の大部分が探針接触抵抗によるものであることを示しておりAFM電流測定を用いた電極接触抵抗評価は困難であると考えられる

35 本章のまとめ本章では PCI-AFM を用いた OFET の局所電気特性評価について検証および測定を行ったまず従来手法では困難であった真空中動作を Q 値制御法の利用により実現し効率的な動作パラメータ設定と柔軟な point-by-point 動作設定が可能な制御プログラムの作成を通したフレキシブルな PCI-AFMシステムを構築したペンタセンのマルチグレイン薄膜上の測定から雰囲気による特性変化がグレイン内部で起こることを示したまた単一グレイン境界によるしきい値電圧変化を電流像として可視化できPCI-AFMが位置依存での電気特性評価に有効であることが示された一方単一グレイン上での測定では数値計算から TLM による距離依存性評価が可能であるとわかり単一グレイン上で 100 nm以下のスケールでの TLMを達成したしかしTLMから求まった寄生抵抗には電極ndashグレイン界面の接触抵抗以外に探針ndashグレイン間の抵抗が含まれてしまい探針のソースドレイン電極動作結果から探針ndashグレイン間抵抗が支配的であることが分かった以上のことはPCI-AFMによる OFET評価はグレインndashグレイン間やグレイン内の ldquo比較rdquoがあれば定量的評価が可能であるが比較をとることのできない電極ndashグレイン界面の電気特性評価には向かないことを示している

47

第 4章

新規局所インピーダンス評価法の開発と金属―有機界面物性の評価

3章では PCI-AFMを用いた OFETのナノスケール TLMを行い単一グレイン境界や単一グレイン内伝導の分離評価を達成した一方電極ndashグレイン界面については探針接触抵抗の影響が大きいため評価が困難であることが明らかとなった局所電気特性のうち未達成である電極ndashグレイン界面電気特性の評価のため次の二点に注目する一点目として2章で述べた EFMをベースとする非接触測定により接触抵抗の影響を回避する二点目としてIndashV 測定のような直流評価に留まらず複数物性評価を通したより詳細な物性議論を行うことであるこれはインピーダンス分光や容量ndash電圧測定のようなマクロ薄膜での評価法の AFM応用やKFMによる準位評価 [142 143]を併用することで可能となることが期待されるよって本章では電極ndashグレイン界面の電気特性の選択的評価を行うための新規局所インピーダンス評価法を開発し界面電気特性の由来となる物性の解明を目的とする

41 走査インピーダンス顕微鏡 (SIM)

本研究の目指す AFM を用いた局所インピーダンス評価応用としてはこれまでに走査インピーダンス顕微鏡 (Scanning impedance microscopy SIM) という手法が開発されているSIM はPennsylvania大の Kalinin Bonnellによって 2001年に開発された AFMの応用手法であり試料の水平方向の局所インピーダンスを検出できる [144]SIMの基本的な装置構成を図 41に示すSIM

は AM-AFMの Liftモードで動作する先に AM-AFMにより表面形状像を取得しそのプロファイルに沿って試料より一定距離高いところを走査する試料としては水平方向に材料 A Bが接続もしくは同じ材料でも垂直方向に defect が存在する系を考えるこの材料 A B の間に角周波数 ωの交流電圧を加える表面電位 Vsurf は

Vsurf = Vs + Vac cos(ωt + φc) (41)

と記述できる但しVs は試料表面の直流電位Vac および φc は交流電位の振幅および位相であるこの交流電圧による静電気力 F(t) = F1ω cos(ωt + φc)は

F1ω =partC(z)partz

(Vtip minus Vs)Vac (42)

48 第 4章 新規局所インピーダンス評価法の開発と金属―有機界面物性の評価

LDPSPD

ω

Reference

Sample

Local impedance

A B

Lock-in amp

Amplitude amp Phase

図 41 走査インピーダンス顕微鏡 (SIM)の装置構成図

のように交流電圧の振幅に比例し同じ位相となる静電気力によりカンチレバーも振動を生じるが振幅は F1ω に比例し位相は振動特性による位相差 φを含む φc + φとなるこのときAndashB境界部分にインピーダンスが存在するとA Bでの交流電圧に位相差 φBA が起きるこれによりカンチレバーに生ずる振動の位相はA上で φc + φB上で φc + φ + φBA となるためその位相差が直接 AndashB間交流電圧の位相差として検出できる2002年の報告では界面インピーダンスがより厳密にモデル化できる金属ndashSi ショットキー界面を用いている [145]ショットキー界面の抵抗ndash容量(RC)並列回路によるインピーダンスを Zd とし回路の両端に定抵抗 Rを挿入すると位相差は電流に関わらず

tan(φBA) =Im( R

Zd+R )

Re( RZd+R )

(43)

と求まるためカンチレバーから検出した位相差とショットキー界面の理論式からショットキー界面の抵抗容量を算出している以降SIMの基本的な技術は同じにしつつ非線形応答 [146]や走査ゲート顕微鏡を組み合わせることで CNTの欠陥の可視化 [147]CNTネットワークの電気特性 [148]といった様々な試料の面内方向に関する電気的な局所物性の評価に用いられてきたしかしLiftモードでの測定で試料表面より 100 nmという非常に離れたところで静電気力を測定しているため空間的な分解能はそれよりも大きいものとなってしまうまた直流電位を測定する別の手法と組み合わせることで詳細な評価を行なっているが完全に同位置の測定ができないこと元々試料に高電位がかかっている場合に SIMの測定中は打ち消せないことなどの問題が内在しているSIMを OFETの局所物性評価に応用する場合まずグレインが 1 microm以下の微小なものであることや比較的高いバイアスオフセットがかかるといった以上で述べた問題に関わる上に真の物性測定のためには真空中での測定が不可欠であるSIMでは振幅変化を捉えるため真空中での測定は問題となる可能性がある

42 周波数変調走査インピーダンス顕微鏡 (FM-SIM)の開発本研究では従来の SIMのコンセプトを踏襲しOFETの評価に適した新規手法である周波数変調走査インピーダンス顕微鏡 (Frequency-modulation SIM FM-SIM)を提案する従来の SIMの問題点である真空中評価に関しては FM検出方式の導入により改善され同時に Liftモードを用いるこ

42 周波数変調走査インピーダンス顕微鏡 (FM-SIM)の開発 49

FM-SIM

FM-AFMTopography

(height control)

FM-KFMLocal potential

(bias oset)

FM-EFM

SIM

Local AC signal

Lateral AC bias

図 42 周波数変調インピーダンス顕微鏡 (FM-SIM)に含まれる既存技術の概要図

Lock-in amp

Lock-in amp

Bias feedbackSelf-excitationblock

Frequencydetection

Heightfeedback

Scanner

LDPSPD

Sample AC

Tip AC

InsulatorGate

Grain

Electrode

Topography

FM-SIM signal

Local potential

図 43 FM-SIM 測定における基本装置構成図図中の灰色の要素が FM-AFM紫色の要素がKFMそして橙色の要素が FM-SIMの技術に対応する

となく静電気力の検出が可能となるさらに FM-KFM を組み合わせることで直流電位の影響を排除でき表面形状直流電位と同時に交流電圧による局所的な応答を取得することができるようになる図 42に FM-SIMに含まれる SIMや既存技術の関係を示す

421 FM-SIMの原理FM-SIM測定における基本的な装置構成を図 43に示す本研究ではまず金属ndash有機グレイン境界における局所インピーダンス評価を対象とするまず 244節の説明と同様にFM-AFMによるカンチレバーの共振周波数での励振および共振周波数シフト (∆f dc)の変化を一定にするような高さ制御により表面形状像を得る次にVt = Vdc

t + Vact cosωtt なるバイアスをカンチレバーに加え

る但しVdct は FM-KFMにより探針ndash試料間電位差を打ち消すための制御電圧である同時に試

料上の電極に交流電圧 Vacs cosωstを加える局所的な電位がVlo = Vdc

lo + Vaclo cos(ωst + φlo)と記述

50 第 4章 新規局所インピーダンス評価法の開発と金属―有機界面物性の評価

できるときカンチレバーが感じる静電気力は次の FES で与えられる

FES =12partCts

partz[Vdc

lo + Vdct + Vac

t cosωtt + Vaclo cos(ωst + φlo)

]2 (44)

ここでzCts はそれぞれ探針ndash試料間の距離および容量であるFES にはいくつかの周波数成分があり以下の 7つの成分に書き下される

DC FdcES =

12partCts

partz

(Vdc

lo + Vdct +

12

Vaclo +

12

Vact

)2

ωt F tES =

12partCts

partz(Vdc

lo + Vdct )Vac

t cosωtt

ωs FsES =

12partCts

partz(Vdc

lo + Vdcs )Vac

lo cos(ωst + φlo)

2ωt F2tES =

14partCts

partz(Vac

t )2 cos 2ωtt

2ωs F2sES =

14partCts

partz(Vac

lo )2 cos(2ωst + 2φlo)

ωt plusmn ωs F tplusmnsES =

12partCts

partzVac

t Vaclo cos

[(ωt plusmn ωs)t plusmn φlo

](複号同順) (45)

ここでF tES により生じる周波数変調成分 ∆f t をロックインアンプ (Lock-in amplifier LIA)で検出

しその振幅成分が 0となるようフィードバック回路により直流電圧 Vdct を制御するこのような

FM-KFM動作により表面 (直流)電位 Vdclo = minusVdc

t が測定されるこれら FM-AFM FM-KFMが動作している状態で試料の交流電圧の振幅位相成分を測定することを考えるまず上記のように Vdc

t を設定することでωs 成分である FsES が同様に 0となるこ

とが分かるためωs 成分を用いて評価することはできない残る成分のうちVaclo および φlo が含ま

れている成分は F2tES Ftplusmns の 3つであるしかし2ωs 成分である F2s

ES から定量評価するには測定した振幅に対し二乗根を取る必要がありSNの低下が懸念される一方F tplusmns

ES は試料の交流電圧に比例するためF tplusmns

ES により生じたカンチレバーの周波数変調信号 ∆f tplusmns も Vaclo に比例した振幅およ

び φloと一致する位相をもつよって ∆f の ωtplusmnωs成分を測定することでより単純に試料の交流電圧を測定できると考えられるここで特にカンチレバーの周波数変調信号の和周波成分を「FM-SIM

信号」と呼ぶ以下の議論では簡単のため試料上の交流信号と FM-SIM信号はフェーザ形式を用いて表しそれぞれ Vx∆fx の記号を用いるただし交流信号は実振幅 Vac

x と位相 φx を用いてVx = Vac

x ejφx と書き下しFM-SIM信号は複素比例係数 αを用いて ∆fx = αVx と表すαは探針ndash試料間距離が同じで∆f dcや振動振幅を同一条件にしている限り測定内では一定とみなせるまたx

は試料上のある場所を表す suffixでありx = el(電極上) lo(有機膜上) g(ゲートゲート絶縁膜上)

とする

実際の装置構成 421節では基本的な装置構成に基づいて局所交流信号を得る方法を説明したしかし実際の測定では複数の装置や設定項目を用いているためそれらについてここでまとめておく図 44に OFET上で FM-SIM測定を行う場合の実際の装置構成および配線図を示すただし図 41における自励発振系FM-AFM部分については省略したAFMコントローラは 33節と同じく PXIベースの自家製コントローラを使用し自励発振系周波数検出器 (PLL)Bias feedback

および加算器 (Adder) は研究室で作成された自家製回路であるLIA として Zurich Instruments 製HF2LI-MF (以下 ZI-LIA)エヌエフ回路設計ブロック製 LI5640 (以下 NF-LIA)を用いたまた以

42 周波数変調走査インピーダンス顕微鏡 (FM-SIM)の開発 51

AFM controller(data in)

Lock-in amp(ZI-LIA)

Osc 1

In 1 In 2 Out

Osc 2

fs ft

Lock-in amp(NF-LIA)

Ref OutIn

Frequency detection(PLL)

InsulatorGate

AC elOpposite el

Deection Biasfeedback

VG

IAC

IDC

RG

RacRopp

VDS

el = electrode

LPF

図 44 FM-SIM測定における実際の装置構成および配線の詳細図

後 FM-SIMによる全ての測定は真空度 1 times 10minus3 Pa以下の高真空中で行ったその他の構成設定は以下のとおりである

用語定義 交流バイアス印加電極 AC 電極 (AC el ldquoacrdquo)印加していない方の電極 対向電極(Opposite el ldquoopprdquo)とする

DCバイアス ゲート (Si基板)に VG をAC電極に VD(ドレイン動作の場合)VS(ソース動作の場合)を印加

KFM変調 ZI-LIA(Osc2)より振幅 Vact = 2 Vp-p周波数 ft = 1 kHzで変調

KFM検出 NF-LIAによりPLLからの出力 (∆f )に対してZI-LIA(Osc2)の信号を Referenceとして in-phaseを検出その信号を Bias feedback回路へ

FM-SIM変調 ZI-LIA(Osc1)よりAC電極に振幅 Vacs = 1 Vp-p周波数 fs(測定により異なる)の交

流電圧を印加FM-SIM検出 ZI-LIAにより∆f に対して ft + fs 成分の振幅 (R)位相 (φ)を検出しAFMコン

トローラで画像化電流 対向電極から流れる電流を Femto製電流アンプ DLPCA-200により検出直流成分 (IDC)は

LPF(lt 1 Hz) に通した信号を交流成分 (IAC) は ZI-LIA により fs 成分の振幅位相を検出しそれぞれ AFMコントローラで取得

実験によって電流を取得していないなどの違いが若干あるが測定時している場合の構成は基本的に上述のとおりである以下に特記事項について述べる

ロックインアンプ設定 FM-SIM測定のためにはft + fs という和周波の Lock-in検出が必要となるよりフレキシブルな測定のため本研究では Zurich instruments 社の HF2LI-MF(以下 ZI-LIA)

52 第 4章 新規局所インピーダンス評価法の開発と金属―有機界面物性の評価

を用いたZI-LIA上で和周波を Lock-in検出する方法として以下の 3方式について順に検討した

1 ZI-LIAの PID機能を用いて和周波数を作成し検出2 Reference周波数として直接 ft + fs を入力し検出3 ft fs をそれぞれ fbase の m倍波n倍波として出力し fbase の (m + n)倍波を検出

1は fs を中心とし入力 ft に対してゲイン minus1の周波数フィードバックをすることで ft + fs が作成できるしかしこの 1と 2の方式は fs と ft + fs との間に同期が取れている保証がない特に画像取得など長時間要する場合は測定の初めと終わりで位相のオフセットが変化してしまう例として1 kHzに対して 1 times 10minus3 Hzのズレ (つまりビート)が存在する場合1分あたり元信号に対して約 20 変化してしまう一方3の方式はZI-LIA上からどちらの周波数信号も出力すれば ZI-LIA

内で確実に同期が取れていることから同一条件であれば位相オフセットは同じとなるよって以降の FM-SIM 測定では 3 の方式を用い設定周波数はベース周波数 (例 200 Hz ) および倍波指定(例 4倍波)に対して ldquo800 Hz(200 Hz times 4)rdquoのように示すこととするまた図 44の ZI-LIA In 1についてPLLからの出力は minus5 V付近なのに対しZI-LIAは plusmn1 V

の範囲でしか入力できない一方ZI-LIAの入力を AC couplingにすると 1 kHz以下の信号にフィルタがかかってしまい振幅の減少と位相変化が生じるよって本研究では入力段に 100 nF のキャパシタを直列に挿入することでカットオフ周波数が 10 Hz以下の HPFとした

回路抵抗 本研究では図 44 のとおりOFET の電極ゲートとの接続部分に直列に抵抗を挿入した理由として(1) 従来の SIM [147] で厳密にインピーダンス解析を行う場合にも挿入しているため(2)対向電極の FM-SIM信号がほぼ 0な場合に LIAで位相検出が困難になることを防ぐためである(2) については対向電極上のデータが最終的に不要となる場合もあるが画像化を重視し基本的に抵抗を挿入することとする特記がない場合以下の実験では Rac = RG = 10 kΩ

Ropp = 1 MΩを使用した

422 OFETにおける FM-SIM応答の妥当性3章と同様の方法で作製したペンタセン薄膜に対しFM-SIM測定した下部電極を AC電極およびソース電極として交流電圧 ( fs = 800 Hz)と +1 Vの直流電圧を印加し上部電極は接地ゲートに +2 V印加しながら FM-SIM測定し表面形状表面電位像と同時に FM-SIM信号の振幅位相を取得しマッピングした結果を図 45に示す図 45(a)(b)に関しては FM-KFMと同様の測定でありグレイン形状に対応した電位分布が現れていることからFM-SIMと同時に KFMを動作可能であることがよくわかるFM-SIM 振幅像は AC 電極付近だけ非常に明るくなっておりAC

電極から離れたグレインや対向電極絶縁膜上はほぼ同じ信号強度であったFM-SIM位相像ではAC電極付近から離れるにつれて位相が正にシフトしており対向電極上は AC電極に比べて約 60

の違いが生じたここでAC 電極は直接交流電圧を印加しているため抵抗を介してはいるものの位相はほぼ印加電圧のそれと同じつまり理論上は 0 となるはずであるしかし図 45(d) から実際に測定された AC電極上の位相は 1264 であり大きく異なるこれは421節で用いた比例定数 αが実数ではないことに対応し周波数検波の PLLやカンチレバーの応答その他複数の要因により位相オフセットが生じていると考えられるしかし前述のように印加交流電圧の周波

42 周波数変調走査インピーダンス顕微鏡 (FM-SIM)の開発 53

04 V 16 V

5 mV 15 mV -150ordm -60ordm

(a) Topo

(c) SIM-amplitude

(b) Potential

(d) SIM-phase

(e)

(f)

0

20

40

0 200 400 600 800

-140

-120

-100

-80

SIM

-Am

pl [

mV]

SIM

-Pha

se [d

eg]

Distance [nm]

ElGr 1 Ins

0

20

40

0 100 200 300

-140

-120

-100

-80

SIM

-Am

pl [

mV] SIM

-Pha

se [d

eg]

Distance [nm]

El Gr 2

150 nm

A1

A2

B1

A1 B1

A2 B2

B2

AC el (+1 V)

GNDVG = +2 V

図 45 ペンタセン薄膜上の FM-SIM測定結果 ( fs = 800 Hz VG = +2 V)(a)表面形状像(b)表面電位像(c) FM-SIM振幅像(d) FM-SIM位相像(e) (f)それぞれ (a)の A1ndashB1A2ndashB2 ラインに沿った FM-SIM振幅位相プロファイルldquoElrdquo は電極ldquoInsrdquoは絶縁膜上の領域を示す

数を倍波設定で行なっているためオフセット値は常に一定であるよって以後の測定結果ではFM-SIM 位相の絶対値には意味を考えずAC 電極上の FM-SIM 位相が 0 となるように像全体からオフセットを差し引いた値を解析に用いることとする図 45(a)の A1ndashB1 および A2ndashB2 ラインに沿った FM-SIM信号のプロファイルを図 45(e) (f)に示すAC電極 (El)より左 (Gr1)では電極からの距離が遠くなるに従い徐々に強度が減衰しており最終的に絶縁膜上 (Ins)と同等の強度であるまた位相は距離と共に線形に正シフトしている一方 A2ndashB2 ライン上の Gr2では 10ndash20 mV

と絶縁膜上よりも強度が大きく位相も電極上と大きな違いはなくGr2 上ではほぼ一定であるOFET構造において FM-SIM測定を行い以上のように得られる結果が何に由来しているかについて(1)絶縁膜対向電極上の応答(2)有機膜上の応答の二項に分けて議論する

1 FM-SIM応答に則す回路モデル 図 45の測定と同時に取得した対向電極での交流電流 IAC は693 nArmsang616 であった対向電極は GND との間に Ropp = 1 MΩ を挿入しているため対向電極上の交流電圧の位相は IAC と同じはずであるが前述の位相オフセットのためズレが生じている一方 AC電極と対向電極との FM-SIM位相差が約 60 であることと交流電流の位相が良い一致を示しているため測定された交流電流は正しく OFET回路における応答を反映したものと考えられる交流電圧に対する対向電極への信号の伝わり方として(i) AC電極ndashゲート間およびゲートndash対向電極間の容量を介した伝導(ii) AC電極ndash有機膜ndash対向電極という経路の伝導の二通りが考えられるしかしゲートバイアスを印加 (VG = minus4 V)して同様の測定を行うと 696 nArmsang614 という交流電流が得られる一方で後の測定で見られるように FM-SIM像が大きく変化するこれは有機膜

54 第 4章 新規局所インピーダンス評価法の開発と金属―有機界面物性の評価

GateInsulator

Rac Ropp

RG

C1 C2

Vac~

VG~

IG~

Iopp~

V0~

Vopp~

図 46 FM-SIM応答を考える上でゲート容量を介した伝導を考慮したマクロ回路モデル

表 41 マクロ回路モデルから計算された各位置における交流電圧および交流電流の計算値および FM-SIMから測定された実測値

計算値 実測値 (FM-SIM信号)

AC電極 VacV0 094ang minus 111 (1ang0)

ゲート VGV0 020ang669 018ang479 (絶縁膜上)

対向電極 VoppV0 020ang695 022ang637

IG 99 microAang669 NA

が OFET構造全体における交流電圧応答に関与していないことの現れであると考えられるため(ii)

による寄与は非常に小さいといえる(i)による寄与を回路モデル化すると図 46のように表されるAC電極対向電極ゲートそれぞれへの経路上の抵抗を Rac Ropp RG とおきAC電極対向電極とゲート間の容量を C1 = C2 = C とするAC 電極から角周波数 ω の電圧 V0 を入力しAC 電極上対向電極上ゲート上の複素電圧がそれぞれ Vac Vopp VG に決まる例えばVopp は

Vopp

V0=[1 minus 1

(ωC)2RGRopp+ Rac

( 1Ropp

+1

RG

)minus j

1ωC

( 2Ropp

+1

RG+

Rac

RGRopp

)]minus1(46)

のように与えられるここでRac = RG = 10 kΩ Ropp = 1 MΩ∣∣∣V0∣∣∣ = 1 Vp-pω = 2πtimes800 Hzのとき

に測定された対向電極での電流 Iopp の絶対値 69 nArms と一致するように C を求めるとC = 43 nF

となるこの値を用いて各位置における電圧および電流を求めた結果と図 45から求めた対応する FM-SIM信号の値を表 41にまとめたまず Vopp の振幅は計算値と実測値比較的よい一致を示しているまた絶縁膜上の信号はゲート上の計算値と比較的近い値であり絶縁膜上で測定されるFM-SIM信号はゲート由来のものであると推察される一方Vopp の位相は 10 程度異なる計算では全ての抵抗を既知としたがゲートが高ドープ Siであることによる酸化膜の影響や配線に用いた銀ペーストの影響によりRG に抵抗や容量が含まれている可能性があるこれらの影響で実際には理想的なモデルからは位相がずれてしまったと考えられるただ全体としては図 46の回路モデルは FM-SIM信号をよく表しており対向電極上の応答は (i)で決定されると考えられるつまり対向電極の応答はマクロ回路部で決定されるため有機膜ndash対向電極界面の FM-SIM信号変化はあまり意味を持たないよって FM-SIMを用いて有機ndash電極界面の物性議論を行うためには評価対象の電極を AC電極とすることに留意しなくてはならない次にAC電極ndashゲートに流れる電流は約 10 microAと対向電極の電流に比べて非常に大きいため対向電極の存在は交流電圧の振る舞い

42 周波数変調走査インピーダンス顕微鏡 (FM-SIM)の開発 55

にほとんど影響を与えていないといえるまた先述のとおりゲートバイアス印加による FM-SIM

像の変化があったとしても元々の AC電極ndashゲート間交流電流が大きいためVel や VG はほとんど変化しないよってこれら電圧は同一周波数同一サンプルではほぼ一定とみなすことができるこの事実は後の節で局所インピーダンス解析を行う上で局所領域とマクロ部分を分離して考えることのできる理由付けとなる

2 有機膜上の応答要因 図 45(e)の Gr1上の応答について考察するまずFM-SIM信号の振幅が速やかに減少しているため分布定数回路での記述が考えられる単位距離あたりの抵抗容量をそれぞれ r cとすると位置 xにおける複素電位 v(x)は微分方程式

d2vdx2 = jωcrv(x) (47)

を満たすため解は定数 κ =radicωcr2を用いて

v(x) = v(0)eminusκxeminusjκx (48)

と求まる距離が遠くなるに従い指数関数的に振幅が減少するが同時に位相が 1次関数的に減少(負シフト)することが分かるしかし図 45(e)では FM-SIM位相は正にシフトしているため分布定数による振幅の減衰ではないと判断できるここでGr1上が収束していく値と絶縁膜上の応答が比較的近いことから実際の Gr1 上の応答にゲートの応答がカップルしていることが考えられる図 47 に図 45(e) の Gr1 上およびゲート (絶縁膜) 上の FM-SIM 信号の極座標プロットを示すただし先述の議論に基づき AC電極上の位相が 0になるよう位相オフセットを施した確かに Gr1上の信号は最終的にゲート上の信号と一致するが収束するまでの値は AC電極上とゲート上の信号を結ぶ直線上にほぼ乗っているそのためGr1自体の応答の減衰に従いゲート上の応答が支配的になることで図 45の Gr1のような応答が得られたのだと考えられる一方Gr2は内部でほぼ一定でありGr1のような強度の減衰に伴うゲート応答のカップリングは見られないこの場合は AC電極から伝わった膜自体の交流電圧がそのまま応答として得られているといえるしかしAC電極とは振幅位相が若干異なりAC電極と Gr2の間に電気的な阻害要因つまり局所インピーダンスが存在すると考えられる後の議論で有機膜上の応答を検証する場合Gr1のようになだらかに変化する応答ではなくGr2のようにある程度一定の振幅位相の値をもちゲートからの応答が直接カップルしていない領域を対象とする

423 局所インピーダンスの解析422節では交流電流や回路モデルの観点からFM-SIMが AC電極対向電極そして有機膜上の交流電圧に対応する応答を測定していることを確かめた一方で有機膜上のインピーダンス変化に比べてマクロ回路の交流電流が非常に大きいため交流電流や回路モデルから局所インピーダンスの評価を行うのは困難であるしかしVel VG は同一条件内でほとんど変化しないことFM-SIM

測定中に同時に得られることからこれら信号をレファレンスとして利用できる可能性がある以下ではこれに基づいたインピーダンス解析法を提案し理想的な周波数特性を計算そして実際の FM-SIM測定から局所インピーダンスを得るプロセスを順に述べる

56 第 4章 新規局所インピーダンス評価法の開発と金属―有機界面物性の評価

-20

0

20

0 20 40

SIM

(im

ag)

[mV

]SIM(real) [mV]

On ins

On Gr1

Distant from El

ElGate

図 47 図 45(e)の A1ndashB1 ラインに沿った FM-SIM信号のうちGr1上および絶縁膜上 (Ins)それぞれについて極座標プロットした結果ただしAC電極上 (El)の位相が 0となるように位相オフセットを施した

Gate

FilmElectrode

Insulator

図 48 FM-SIM信号から局所インピーダンスへ変換するための等価回路モデル

局所インピーダンスへの変換 試料上に Lateralなインピーダンスが存在すると局所交流電圧が変化しFM-SIM 信号の変化から試料上の Lateral な局所インピーダンスの存在について議論はできるしかし局所インピーダンスを定量的に評価することはできないそこで図 48 のような等価回路を考える電極ndash有機膜界面のインピーダンスを Zlo とし有機膜下の実行的なゲート絶縁膜容量を Ci とする有機膜内のインピーダンスが電極ndash有機界面のインピーダンスに比べて十分小さく膜内の交流信号がほぼ一定と仮定できる場合図 48 の等価回路が成り立つまず測定したFM-SIM信号に対し正規化 FM-SIM信号 γを

γ equiv ∆flo minus ∆fg∆fel minus ∆fg

=Vlo minus Vg

Vel minus Vg(49)

のように定義するすると等価回路より γ は界面インピーダンスと実効容量インピーダンスによる複素電圧の内分と同等つまり

γ =1(jωsCi)

Zlo + 1(jωsCi)=

11 + jωsCiZlo

(410)

と記述できることが分かるつまり式 (410)により FM-SIM信号と界面インピーダンスを一対一に対応させることができる

理想周波数応答 インピーダンス分光ではインピーダンスの周波数依存性を複素平面表示したColendashColeプロットから系の等価回路を推定可能である本研究でも正規化 FM-SIM信号の周波数応答と界面インピーダンスとの関係について考察する式 (410)より様々な Zlo を仮定すること

42 周波数変調走査インピーダンス顕微鏡 (FM-SIM)の開発 57

2πCiRlo = 10 ms

CloCi = 2

(a) Amplitude

(c) Amplitude (d) Phase

(b) Phase

ќDP

SOLWXGH

0

02

04

06

08

1

10 100 1000)UHTXHQFgt+]

CloCi = infin

2

1

05

ќDP

SOLWXGH

0

02

04

06

08

1

10 100 1000)UHTXHQFgt+]

2πCiRlo33 ms10 ms33 ms

ќSKDVHgtGHJ

0

10 100 1000)UHTXHQFgt+]

2πCiRlo

10 ms33 ms

33 ms

ќSKDVHgtGHJ

0

10 100 1000)UHTXHQFgt+]

CloCi = infin

2105

Rlo Clo

Fixed C

Fixed R

図 49 正規化 FM-SIM信号の理想周波数応答 (界面インピーダンスが直列 RCの場合)(a) (b)CloCi = 2 に固定したとき2πCiRlo = 33 ms 10 ms 33 ms での振幅位相(c) (d) 2πCiRlo =

10 msに固定したときCloCi = infin 2 1 05での振幅位相

でその理想的な周波数応答が分かるまず界面インピーダンスが抵抗と容量の直列回路 (直列 RC)

で表される場合を考えるZlo = Rlo minus j(2π fClo)minus1 としRlo および Clo をそれぞれ変化させた際の正規化 FM-SIM信号の周波数応答を図 49に示すただし Ci が既知ではないためCi に対して正規化した値を与えたまず全体の形状として周波数の増加に従い振幅が減少し0へ収束するまた位相は 0から負にシフトしminus90 へ収束することが分かる抵抗を増加させると曲線の形状は変化しないが振幅位相共に低周波数側へシフトする一方容量が減少すると低周波側の振幅が減衰する次に界面インピーダンスが抵抗と容量の並列回路 (並列 RC) で表される場合を考えるZlo =

(Rminus1lo + j2π fClo)minus1 としRlo および Clo をそれぞれ変化させた際の正規化 FM-SIM 信号の周波数応

答を図 410に示す周波数の増加に従う振幅の減少は直列回路と同じであるが1から開始し 0以外の値へ収束しているまた位相は 0から負にシフトするがClo = 0以外は 0へ収束する抵抗を増加させると直列回路と同様に低周波側にシフトし容量を増加させると高周波側の振幅が増加する以上の周波数特性を正規化 FM-SIM信号の複素平面プロット (以後 γndashプロットと呼ぶ)として示したものを図 411に示す特筆すべきことは全ての応答は円弧状の軌跡を描くことであるそのため先に述べたそれぞれの等価回路での特性を非常に簡潔に表すことができ直列 RC では 1

以外の値から 0 へ並列 RC では 1 から 0 以外の値へ収束していることがよく分かるまた図411(a) (b) の水色線はどちらも抵抗のみの回路に対応し直径 1 の半円となるRlo の変化に対し

58 第 4章 新規局所インピーダンス評価法の開発と金属―有機界面物性の評価

(a) Amplitude

(c) Amplitude

(b) Phase

(d) Phase

ќDP

SOLWXGH

0

02

04

06

08

1

10 100 1000)UHTXHQFgt+]

2πCiRlo33 ms

10 ms

33 ms

ќDP

SOLWXGH

0

02

04

06

08

1

10 100 1000)UHTXHQFgt+]

CloCi

0

05

1

2

0

10 100 1000)UHTXHQFgt+]

33 ms10 ms33 ms

ќSKDVHgtGHJ

0

10 100 1000)UHTXHQFgt+]

CloCi = 0

051

2

ќSKDVHgtGHJ

Rlo

Clo

2πCiRlo = 10 ms

CloCi = 05

Fixed C

Fixed R

図 410 正規化 FM-SIM 信号の理想周波数応答 (界面インピーダンスが並列 RC の場合)(a)(b) CloCi = 05 に固定したとき2πCiRlo = 33 ms 10 ms 33 ms での振幅位相(c) (d)2πCiRlo = 10 msに固定したときCloCi = 0 05 1 2での振幅位相

Rlo Clo

f = (2πCiRlo)-1 f = (2πCiRlo)-1

-05

0 0 05 1

Imgtќ

5Hgtќ

CloCi = infin

21

05

(a) RC-series (b) RC-parallel

Imgtќ

5Hgtќ

-05

0 0 05 1

CloCi = 0

21

05

Rlo

Clo

図 411 正規化 FM-SIM 信号 γ の理想周波数応答の複素平面プロット(a) 界面インピーダンスが直列 RC の場合(b) 並列 RC の場合それぞれの図における破線との交点では周波数がf = (2πCiRlo)minus1 となる

43 ペンタセングレイン上の局所インピーダンス評価 59

0 mV 40 mV -40ordm +10ordm

(a) Topography (b) Potential

(c) SIM-amplitude (d) SIM-phase

02 V 08 V35 nm

Elec

trod

e 100 nmA

AC el (VD = 0 V)

VG = 0 V

図 412 ペンタセン薄膜上の FM-SIM測定結果 (VD = VG = 0 V fs = 100 Hz)(a)表面形状像(b)表面電位像(c) FM-SIM振幅像(d) FM-SIM位相像矢印で示すグレイン Aは以降の評価の対象とした孤立ペンタセングレイン

て軌跡の概形は全く変化せずClo の変化に対しては円弧の半径が変化することが分かるまた図411の破線 (0 minus 05jを中心とする半径 05の円弧)との交点における周波数が f = (2πCiRlo)minus1 に対応することからRlo の大小も評価できる以上の振る舞いは次のように説明できる先に比抵抗 τr = 2πCiRlo および比容量 βc = CloCi を定める直列 RCの場合は γは

γ =1

2(1 + βminus1c )[eminusj2θ( f ) + 1

](411)

θ( f ) = tanminus1( f τr

1 + βminus1c

)(412)

のように変形でき中心 ( 12(1+βminus1

c ) 0)半径 12(1+βminus1

c ) の半円だということが分かる並列 RCの場合

γ = 1 +1

2(1 + βc)[eminusj2θ( f ) minus 1

](413)

θ( f ) = tanminus1[(1 + βc) f τr]

(414)

となり中心 (1minus 12(1+βc) 0)半径 1

2(1+βc) の半円だということが分かるこれらのことから式 (410)

に直接フィッティングさせずともγプロットの概形から簡易的に界面インピーダンスの等価回路やその抵抗容量の変化が判別できるということが分かる

43 ペンタセングレイン上の局所インピーダンス評価431 単一グレイン上の周波数依存評価これまで述べた局所インピーダンス解析法を実際の結果に適用する図 45と同じペンタセン薄膜の上部電極付近でFM-SIM測定した結果を図 412に示すただしfs = 1times100 Hz ft = 10times100 Hz

60 第 4章 新規局所インピーダンス評価法の開発と金属―有機界面物性の評価

-05

0

0 05 1

Im[a

]

Re[a]

R only

fs

0

02

04

06

08

1

10 100 1000

a-a

mp

litu

de

Frequency [Hz]

-1 V

Fitted

-3 V

-5 V

(a) (b)

図 413 グレイン A上の正規化 FM-SIM信号 γの周波数依存性(a)周波数ndash振幅プロット(b)γプロットVG = minus1 V(赤)minus3 V(橙)minus5 V(緑)における応答および並列 RC回路としてフィッティングした結果 (実線)破線は界面インピーダンスが抵抗のみとした場合の理想的なγの応答

とした矢印で示すペンタセングレイン (グレイン A)は他のグレインから孤立しており直接 AC

電極に接続している単一グレインであることが分かるFM-SIM振幅像は表面電位像に比べてグレインの形状をより綺麗に示しておりFM-SIM では FM-KFM よりも空間分解能の高い測定ができる可能性があることを示唆しているFM-SIM振幅位相は共にグレイン A内で均一であるグレイン A以外では電極とほぼ同じ位相だがグレイン Aでは電極ndashグレイン A界面で大きな差異があるFM-SIM信号の変化は局所インピーダンスの存在を示していることを考慮するとグレイン A

は電極との電気的接続が良くないということグレイン A内のインピーダンスは電極ndashグレイン界面に比べて十分小さいということが分かるそのためグレイン Aは図 48の等価回路で示すことができると考えられる続いて電極ndashグレイン界面インピーダンスの等価回路を検証するため周波数 fs 依存の FM-SIM

測定を行った fs を 10 Hzから 900 Hzの間で変化させ電極グレイン A絶縁膜の FM-SIM信号を取得し正規化 FM-SIM信号を得たなおこの測定は VG = minus1 V minus3 V minus5 Vのゲートバイアスについて行いグレインには正孔が蓄積しているまた fs の掃引に同期して ft + fs を設定する必要があるためこの測定については 421節「ロックインアンプ設定」の項の 1の方式で検出した得られた正規化 FM-SIM信号の周波数ndashFM-SIM振幅プロットを図 413(a)にγプロットを図 413(b) に示す周波数掃引に従い振幅が 1 近くから減少し約 02 で収束している様子が見られ並列 RC回路に対応する図 410(a) (c)の振る舞いに似ているγ プロットでは測定点が低周波では 1近くで半径が 1より小さい円弧状に並んでいる様子が明瞭に確認できるつまり電極ndashグレイン A界面は並列 RC回路で記述できる次に式 (413)を用いた界面インピーダンスの半定量評価を次のプロセスで行なった

1 円弧フィッティングGNU Octave 380の fminsearch関数を用いてデータ点との距離の二乗和が最小になるような円弧の中心半径を求めβc を算出

2 振幅値フィッティングGnuplot 46の fit機能と 1で求めた βc を用いて式 (413)の振幅に最小二乗フィッティン

43 ペンタセングレイン上の局所インピーダンス評価 61

表 42 FM-SIM周波数依存性 (図 413)からフィッティングにより求めた並列 RC回路における界面インピーダンスのパラメータ

VG 比容量 βc 比抵抗 τr [ms]

minus1 V 016 1564plusmn040

minus3 V 018 1354plusmn023

minus5 V 021 539plusmn013

グを行いτr を算出

これにより求めたフィッティングパラメータを表 42にパラメータを用いたフィッティングカーブを図 413 の実線に示す図 413(a) (b) 共にそれぞれの VG におけるデータ点をうまく表しておりτr の誤差も 3以内に収まっていることからうまく並列 RCの式にフィッティングできていると考えられるつまり金属ndash有機界面では接触抵抗だけでなく局所容量も存在していることを示しているこれまでも界面容量が金属のフェルミ準位と有機薄膜の HOMO 準位のミスマッチにより生じると報告されている [149 150]しかしこれらの報告はトップコンタクト OFETつまり有機薄膜が電極と絶縁膜の間に挟まれている構造での測定に基づいている有機薄膜の厚さは通常キャリアが流れるチャネル層の厚さに比べて十分厚いためトップコンタクト OFETにおける界面インピーダンスには有機薄膜のバルク部分のインピーダンスも含んでしまう一方本測定はボトムコンタクト型の接触のためこれまでの研究と比較してより直接界面容量の存在を確認したといえる

432 電極ndashグレイン界面インピーダンスの一般性前節ではグレイン内部のインピーダンスが電極ndash単一グレイン界面インピーダンスよりも十分小さく界面インピーダンスが並列 RCで記述できることがわかったこのような傾向がグレイン A以外にも現れるか確かめるため他のグレインについても評価を行う図 412の範囲を含む広い領域 (図 414(a))でゲートバイアスを VG = minus1 Vとし上下電極を AC

電極として FM-SIM測定し得られた FM-SIM振幅像および位相像をそれぞれ図 414(b) (c)に示すただしfs = 100 Hz 300 Hz 800 Hzについて測定した本測定では上下両方の電極を AC電極としているためどちら側に接続しているグレインも応答することになるまず fs = 100 Hzでの両結果から見て取れることはそれぞれのグレインの応答が異なることであるしかしそれぞれのグレイン内ではある程度均一であることもわかるこれはどのグレインにおいても図 48の等価回路が成り立つことを示しているそのためFM-SIM信号の違いは電極ndashグレイン界面インピーダンスの違いつまり電極との電気的カップリングの違いを表しているといえる次にACバイアスの周波数 fsを増加させた際の変化を見るまずFM-SIM振幅信号 (図 414(b))

が全体として増加しているがこれは図 46においてゲート抵抗 RG に比べて絶縁膜部分のインピーダンス (C1 由来)が減少することでゲート電極上の応答

∣∣∣VG∣∣∣が大きくなることに由来するため問

題とはならない次に表面形状像 (図 414(a))の破線で示した 4つのグレイン (A B C D)に注目するグレイン A B Cに関しては fs の増加に伴い FM-SIM位相が増加し振幅が絶縁膜上の値に近づいているこれはまさに図 413(b)の正規化 FM-SIM信号の周波数依存性で見られた円弧の左

62 第 4章 新規局所インピーダンス評価法の開発と金属―有機界面物性の評価

-40ordm +50ordm

2 mV 45 mV35 nm

(a) Topography (b) SIM-amplitude

(c) SIM-phase

AC el (GND)

AC el (GND) 150 nm

fs = 100 Hz 300 Hz 800 Hz

fs = 100 Hz 300 Hz 800 Hz

AB

DC

図 414 ペンタセン薄膜上の FM-SIM測定結果 (広範囲)VG = minus1 VAC電極は上下両電極とした(a)表面形状像(b) FM-SIM振幅像 ( fs = 100 Hz 300 Hz 800 Hz)(c) FM-SIM位相像 (同fs)電極を太破線グレイン A B C Dを細破線で示している

半分の変化を示すもので周波数の増加により |γ|の減少γ位相の増加と対応する一方グレイン Dは fs の増加に伴う振幅の変化は少なく位相は減少しているこれは他の 3グレインと違い位相のみ特徴的に減少する図 413(b)の右半分と対応することがわかるつまり前節のグレイン A

に限らずどのグレインにおいても図 413のような周波数応答を示すことを示唆しておりRC並列回路は電極ndashグレイン界面インピーダンス一般に成り立つことが分かった

433 キャリア蓄積による電極ndashグレイン界面物性変化431節の結果よりVG による変化に関してはどちらのパラメータも単調に変化しているが特に比抵抗の減少が顕著に見られるこのようにグレイン中へのキャリア蓄積状態によって金属ndash有機界面の電子物性も変化していることが分かる金属ndash有機界面で生じる接触抵抗の起源を明らかにするためにも界面インピーダンスの VG 依存性について詳しく評価するなお上述の議論で界面インピーダンスを並列 RCで記述できることがわかったため以下では界面インピーダンスをその逆数つまり「アドミタンス」として考え次式で示す正規化アドミタンスを導入する

Ynorm =1

2π fsCiZlo=

12π fsCiRlo

+ jClo

Ci(415)

43 ペンタセングレイン上の局所インピーダンス評価 63

SIM

-Am

pl [

mV]

Distance [nm]

0

12

4

8

0 200 400 600

A B

A B

Electrode

GrainInsu

lator

Topo(a)

(b)

012 -1 -2 -3VG [V]

-02

0

02

10-2

100

10-2

100

∆V [V

]Re

(Yno

rm)

Im(Y

norm

)

(c)

(d)

(e)

ForwardBackward

+2 V

-3 V-25 V

+15 V+1 V

+05 V0 V

-05 V-1 V

-15 V-2 V

図 415 (a)電極とグレイン A界面付近の表面形状像(b) (a)の AndashBライン上で測定された FM-SIM振幅プロファイル(cndashe) VG を変えた際の電極ndashグレイン界面の正規化アドミタンス (Ynorm)の実部 (c)虚部 (d)および界面電位差 (∆V)(e)赤は VG を +2 Vから minus3 Vへの (forward)青は minus3 Vから +2 Vへの (backward)変化時のデータ点を示す

Ynorm は 2π fsCi で界面インピーダンスを規格化しているため無次元の量であり実部が (規格化)コンダクタンス虚部が (規格化)サセプタンスとなる

VG 依存性の FM-SIM測定ではfs = 100 Hzに固定しVG と直列接続となっている Vacs の影響を

抑えるためVacs = 02 Vp-p としたVG は +2 Vから minus3 Vまで 05 V刻みで変化させた後 (forward)

+2 Vまで戻した (backward)図 415(a) に示す表面形状像の AndashB ライン上で複数回 FM-SIM 測定しそれぞれの VG で 5ラインずつ平均した結果得られた FM-SIM振幅プロファイルを図 415(b)

に示すVG により電極上の FM-SIM振幅に変化はなくグレイン A上のみ徐々に増加していることが分かる電極グレイン A絶縁膜それぞれの領域で FM-SIM振幅および位相の平均を求め式(49)より正規化 FM-SIM信号 (γ)を続けて式 (415)により正規化アドミタンス (Ynorm)を求めた同時に界面での直流電位差との関係を議論するため同時測定の FM-KFMで得られた表面電位から電極に対するグレイン電位 (電位差 ∆V)も求めたこれらを図 415(c)ndash(e)に示すまず VG を正から負に印加することでコンダクタンス (Re[Ynorm]) が急増したVG lt 0 でも継続して増加していることは423節の周波数依存性で見られた VG 印加による τr 減少と合致する結果であるVG 印加による接触抵抗の減少はこれまで OFETにおける研究で多く見られてきた [55 131 151]接触抵抗減少のモデルとしては有機薄膜のバルク部の効果や電極付近の低移動度領域が提唱されているがこれらはトップコンタクト OFETやマルチグレイン薄膜で説明されたモデルである [151 152]本研究の FM-SIM測定では単一グレインと電極との界面を考えておりバルク部やグレイン境界によるインピーダンスへの影響は排除できると考えられるよって図 415(c)のような界面コンダクタンスの増加 (接触抵抗の減少) は金属ndashグレイン界面の電子物性本来の効果が現れたものだと考えられる興味深いことに図 415(c) (e)で見られるように界面コンダクタンスと電位差でゲートバイアス変化の forwardと backwardで似たヒステリシス (履歴)効果が現れているこのような履歴効果

64 第 4章 新規局所インピーダンス評価法の開発と金属―有機界面物性の評価

Large mismatch

EF

VL

Trap states

E

DOS

HOMO

Metal Organic

∆V gt 0

Small mismatch

Metal Organic

∆V lt 0

(b) Depletion(a) (c) Accumulation

0

1

15

05

-02 0 02∆V [V]

Re(Y

norm

)DepletionAccumulation

VG = 2 V

VG = -3 VForwardBackward

図 416 (a) 界面コンダクタンス Re[Ynorm] の電位差依存性 (図 415(c) (e) より)赤は負方向(forward)青は正方向 (backward) 測定に対応する(b) (c) Pt 電極とペンタセングレイン界面におけるエネルギー準位の模式図およびグレイン内部のエネルギー (E) に対する状態密度(DOS)の概要図

は OFETの伝達特性でも良く見られている [139]正孔が蓄積している状態では正孔が有機ndash絶縁膜界面の深いトラップ準位に捕捉されVG の正方向掃引でしきい値電圧の負シフトを引き起こす今回用いている絶縁膜 SiO2 もヒステリシスを良く引き起こす材料であるため図 415(c) (e)のヒステリシスもトラップ準位によると考えられるこのことを踏まえると界面コンダクタンスの変化は VG によって直接引き起こされたものではなく電位差 ∆V により大きく関係していると考えられるそこで界面コンダクタンスを電位差に対してプロットし直すと図 416(a)のように forwardと backwardのヒステリシスが非常に小さくなったため電極ndashグレイン界面物性はその電位差によって決定されていることが言えるこのことからも図 415(c) (e)で見られたヒステリシスは界面における本来の物性ではないことが分かる図 416(a) を見ると ∆V gt 0 は VG gt 0 の空乏 (depletion) 状態に対応し界面コンダクタンスRe[Ynorm]がほぼ 0である一方 VG lt 0の蓄積 (accumulation)状態では ∆V lt 0でありRe[Ynorm]

が増加しているこの増加は ∆V = minus02 V で急峻となっており電極ndashグレイン界面が導通するには minus02 V程度の界面電位差が必要であることが示唆されるこれら電位差と界面コンダクタンスの関係は電極とグレインのエネルギー準位の関係から説明できる図 416(b) (c)は電極ndashグレイン界面のエネルギー準位を模式的に示したものであるバイアスが印加されていない状態ではグレインは空乏状態にある一般にキャリア蓄積がおこるチャネル層は HOMO準位と LUMO準位の間にトラップ準位による DOSが存在する (図 416(b))空乏状態ではそれが一部だけ満たされることでEF が EHOMO と ELUMO の間に位置するEF が EHOMO よりも高い準位に位置しているため準位ミスマッチが大きく正孔注入障壁が生じるこの場合電極からグレインに正孔を注入するのが困難となりこれが接触抵抗となる一方ゲートに負バイアスを加えるとグレインが蓄積状態となりトラップ準位が満たされEHOMO

が EF に近づくことで ∆V の負シフトが起こるこれによりエネルギー準位ミスマッチが小さくなり正孔がグレインに注入しやすくなるそのため図 416(c)のように接触抵抗が低減すると説明できる以上のようにVG の印加により電極ndash有機界面のエネルギー準位整合性が良くなり接触抵抗の低減が起こるこの単純な解釈はこれまで異なる仕事関数や SAM修飾を施した電極を用いた電気特性評価によっても議論されてきたものであるしかし単一グレインとの界面においてエ

44 電極表面処理による OFET特性への直接影響評価 65

ネルギー準位の整合状態と接触抵抗との関係を議論したことは非常に意義深いこのようにこれまでの手法では測定できなかった特定の単一グレインにおいても金属ndash有機界面物性について議論できFM-SIMという新規手法開発および評価法の妥当性と有用性が示されたといえる

44 電極表面処理による OFET特性への直接影響評価42節では OFETで局所インピーダンス測定を行うための新規手法 FM-SIMを提案し回路モデルを用いて理論実験両方面から妥当性を示した局所インピーダンスの解析法を用いて電極ndash単一有機グレイン界面の電気特性について議論するに至った本節では有用性を示した FM-SIMを用いて応用的な内容として動作中の OFETの金属ndash有機界面物性の評価に臨むOFETの電極を自己組織化単分子膜 (Self-assembled monolayer SAM)で修飾することで性能向上することが確認できるこの電気特性の変化が何に起因しているかをFM-SIMを用いた電位局所インピーダンス測定により解明を目指す

441 電極表面処理および試料作製本測定で対象とする試料としてdinaphto[23-b2rsquo3rsquo-f ]-thieno[32-b]thiophene (DNTT) 薄膜を活性層としチオール系 SAMの一つである pentafluorobenzenethiol (PFBT)の SAMで電極を修飾した OFETを用いた

DNTT DNTT (C22H12S2) は図 417(a) のような分子構造をもつヘテロ環式芳香族分子であるDNTT は 2007 年に広島大学の Yamamoto Takimiya によって合成された有機半導体分子である [153 154]DNTT に含まれるベンゼン等の芳香族とチエノチオフェンが縮環した分子構造は2006 年の同グループによるベンゾチエノベンゾチオフェン (BTBT) 誘導体の合成 [155] を皮切りに1 cm2(Vs)を超える高い移動度と大気安定性 [156] を持つ p 型有機半導体分子のベースとなる構造として近年非常に注目を受けているこのような大気安定性は深い HOMO 準位と大きなHOMOndashLUMOギャップによりもたらされたものであるが [153]一方でこの深い HOMO準位により電極との界面で大きなキャリア注入障壁が生じてしまい接触抵抗が大きくなるという問題が指摘されている [152]

PFBT PFBT (F5C6HS)は図 418(a)のような分子構造をもつチオールの一種であるチオール系分子は図 418(b)のように S原子が金属と結合するような形で分子が並びSAMを形成することが知られている対象とする金属は Auが一般的であるがAgPtなど他の金属でも SAMを形成する [157]PFBTはペンタセン誘導体やアントラセン誘導体など溶液プロセスにおける低分子系OFETの電極修飾に用いられてきた [18 22]図 419に測定で用いた試料の作製手順を示すまず UVリソグラフィによりチャネル幅約 1 micromチャネル長約 500 nm厚さ約 20 nm の Au 電極を作製し30 mM の PFBT を混合したイソプロパノール (IPA)溶液に電極を 5分間浸漬させることで PFBT-SAMを形成したその後SAM処理を行っていない電極にも同時に DNTT分子を真空蒸着法で約 100 nmの薄膜を成膜しOFETを得た今後SAM修飾を行った試料を「PFBT-Au」試料 (OFET)行っていない試料を「Bare-Au」試料(OFET)と呼ぶ

66 第 4章 新規局所インピーダンス評価法の開発と金属―有機界面物性の評価

(a)

(b)

図 417 (a) DNTTの分子構造式(b) DNTTの結晶構造 (左 b軸投影右 各層のヘリンボーン構造図)(Ref [153] J Am Chem Soc 129 (2007) 2224)

(a) (b)

SH

F

F

F F

F

S Body

SAM

Metal (Au Pt Ag )

図 418 (a) PFBTの分子構造式(b)チオール系分子による SAMの模式図

(1) Electrode fabrication(UV lithography)

(2) SAM fabrication (3) DNTT deposition

30 mM PFBTin isopropanol

Au 20 nm

DNTT 100 nm

PFBT-Au

Bare-Au

PFBT modied Au

SiSiO2

図 419 電極表面修飾比較に用いた試料の作製手順図UVリソグラフィ (図 39参照)で作製した Au電極を PFBT溶液に浸漬させることで PFBT-SAMで修飾した Au電極を作製しSAM修飾有無の電極上に DNTTを同時に成膜した

442 電気特性評価図 420 に電極対で測定した両 OFET の電気特性測定結果を示す出力特性の結果を見るとどちらも飽和領域が表れているがPFBT-Au試料の方が電流が大きい伝達特性については

radicID は

PFBT-Au試料の方が傾きが大きいがしきい値電圧はほとんど変わらない同一基板上のそれぞれ3つの OFETについて平均した移動度はBare-Auでは micro = 044 cm2(Vs)なのに対しPFBT-Auでは micro = 099 cm2(Vs)と 2倍以上に増加したよって本研究で作製した PFBT-SAM修飾電極においても過去の報告と同じく OFETの性能向上の効果が得られている一方しきい値電圧はBare-Au

では minus94 VPFBT-Auでは minus79 Vであり変化は小さかったしきい値電圧はチャネル領域の薄

44 電極表面処理による OFET特性への直接影響評価 67

-8

-6

-4

-2

0-20-15-10-5 0

Cur

rent

[ѥA]

VD [V]

0 V-5 V

-10 V-15 V-20 V-25 VVG

VG = ndash25 V

ndash20 V

ndash15 V

ndash10 V0 Vndash -5 V

-8

-6

-4

-2

0-20-15-10-5 0

ampXUUHQWgtѥ$

VD [V]

VG = ndash25 V

ndash20 V

ndash15 V

ndash10 Vndash5 V

0 V

(a) Bare-Au

(c)

(b) PFBT-Au

10-1010-910-810-710-610-5

-20-15-10-5 0 5 0

1

2

3

I D [A

] (lin

e)

3ID

[10-3

A-1

2] (

plot

)VG [V]

PFBT-AuBare-Au

図 420 電極対で測定した DNTT-OFETの電気特性(a) Bare-Au OFET(b) PFBT-Au OFETの出力特性(c)両 OFETの VD = minus5 Vにおける伝達特性プロットは

radic|ID|(右軸)実線は片対数(左軸)

400 nm 400 nm

80 nm

(a) Bare-Au (b) PFBT-Au

Electrode

図 421 (a) Bare-Au OFETおよび (b) PFBT-Au OFETにおける表面形状像破線で囲まれた領域は電極のある場所を示す

膜の構造やドーピングによって大きく変化することが知られているため [158ndash160]この結果は電極の SAM処理がチャネル領域に与える影響が小さかったことを示しているチャネル領域の状態を確認するためにAM-AFMで取得した OFETの表面形状像を図 421に示す膜の形状は全く同じとは言えないもののグレインの大きさは 100 nmから 200 nmと同程度といえるよって電極の SAM修飾による電気特性の変化はその修飾した電極と有機薄膜との界面における電気特性が変化したものによると考える

68 第 4章 新規局所インピーダンス評価法の開発と金属―有機界面物性の評価

-02 0

02 04

Pote

ntia

l [V]

0

05

1

Ampl

[m

V]-60

-30

0

0 250 500 750 1000Ph

ase

[deg

]

Distance [nm]

-03

0

03

Pote

ntia

l [V]

0

05

1

Ampl

[m

V]

-60

-30

0

0 250 500 750

Phas

e [d

eg]

Distance [nm]

iuml9iuml9iuml9iuml9iuml9iuml9iuml9iuml9

VG

AC electrode AC electrode

(d)

(e)

(f)

(a)

(b)

(c)

(VD = 0 V) (VD = 0 V)Bare-Au PFBT-Au

図 422 (a)ndash(c) Bare-Au試料および (d)ndash(f) PFBT-Au試料での FM-SIM測定結果 (VD = 0 V)(a) (d)表面電位(b) (e) FM-SIM振幅(c) (f) FM-SIM位相プロファイル網掛け部は電極位置を表しAC電極は右電極とした

443 FM-SIMによる電極ndashDNTT界面局所電気特性評価電気特性測定の結果から電極の SAM修飾により電極ndash有機界面の電気特性変化が示唆されたそこでFM-SIMを用いて電極ndash有機界面の電位差や局所インピーダンスの違いを評価する測定条件として(a) VD = 0 Vおよび (b) VD = minus1 V(c) VD = minus5 Vの 3つのドレインバイアスについて測定した(a) では 422 節同様キャリア注入に従う電位差局所インピーダンス変化を評価する一方(b) (c)ではドレインバイアスが加わり OFETが動作している状態でチャネル内の電位プロファイル評価と局所インピーダンス評価を行う

測定方法 測定時のセットアップは 421節の図 43図 44と同じ装置構成である電極に加える交流バイアスは Vac

s = 1 Vp-p fs = 100 Hzとした表面形状像 (図 421)における右電極をソース電極左電極をドレイン電極とし測定により AC電極を変更することでソースドレイン両方の電極ndash有機界面物性を評価する直流バイアスは AC電極側にしか印加しないがAC電極およびゲートに印加する直流バイアスを調整しているため本節で示す VD VG はソースに対するドレインおよびゲートの電圧とみなす1また電極ndash有機界面に絞って評価するため以下の測定では全てチャネルに沿って両電極間を往復するように測定しており5ndash7ラインを平均したデータを用いたこの間位置が同一であることは同時に測定している表面形状プロファイルが同一であることから確認した

ソースドレイン電極接地時 VD = 0 Vにおいて右電極を AC電極として FM-SIM測定した結果得られた表面電位FM-SIM信号の振幅位相のプロファイルを図 422に示す表面電位を見る

1 例えば右電極に1 Vゲートに minus4 V印加するとVD = minus1 VVG = minus5 Vとみなせる

44 電極表面処理による OFET特性への直接影響評価 69

0

01

02

03

04

-06 -04 -02 0 02

Re[

Y nor

m]

6V [V]

0 V

iuml9

VG

0

01

02

03

04

-06 -04 -02 0 02

Im[Y

norm

]

6V [V]

0 V

iuml9

VG

(a) Conductance (b) SusceptancePFBT-AuBare-Au

PFBT-AuBare-Au

図 423 VD = 0 V における (a) 正規化コンダクタンス Re[Ynorm](b) 正規化サセプタンスIm[Ynorm]の ∆V 依存性

とどちらの OFETも負の VG を印加するに従い電極に対するチャネル上の電位が負にシフトしているこれは単一グレインで測定した図 415(e)の結果と合致する結果であるまたVG 印加によりFM-SIM振幅は 0から増加位相は 0 から負シフトする傾向もどちらの OFETでも見られているFM-SIM振幅については小さなゲートバイアスでは AC電極付近と対向電極付近とで差異があるが少なくとも minus4 V以降ではチャネル内で一定でありチャネル内抵抗に比べて AC電極ndash

チャネル界面インピーダンスが支配的であることが分かるまたチャネル内の表面電位は表面形状にカップリングしており再現性はあるが不均一な応答が見られている一方FM-SIM 振幅位相は十分な信号強度があれば十分均一に見えておりKFMにより測定される表面電位よりも表面形状による影響を受けにくいといえこの意味でも KFMよりも OFET中のより局所的な電子物性評価が可能と考えられる図 422の AC電極上チャネル上の均一な応答について平均した値を用い423節と同様に正規化 FM-SIM信号から正規化アドミタンス Ynorm を求めチャネルndashAC電極電位差 ∆V に対してその実部 (コンダクタンス)虚部 (サセプタンス)をプロットした結果を図 423に示すまず図 423(a)

について単一グレインで測定した図 416(a)同様 VG 印加に従い先に ∆V が負シフトし次いでコンダクタンスが増加している416(a)に比べて低 ∆V でも若干コンダクタンスが増加しているのは単一グレインではなく連続膜であるためVG 印加に従いチャネルとなる領域が変化している影響が考えられるしかし上述のとおり VG = minus4 Vでチャネル内の応答が一定となり蓄積がほぼ完了していると考えられるためそれより大きなゲートバイアス領域では意味ある結果が得られていると考える両 OFET で比較するとサセプタンスに関しては単一グレインでの結果 (図 415) 同様単調な増加減少は見られないコンダクタンスに関してはPFBT-Auでは負シフトしていた ∆V が minus035 V

付近で収束しコンダクタンスが増加し続けているがBare-Auではコンダクタンスが増加し始めてからも ∆V がシフトし続けまたコンダクタンスの増加も停滞しているこのことから 2点のことが示唆される一つはPFBT-Auの方が AC電極ndashチャネル界面でキャリア蓄積後のコンダクタンスが大きいということであるこれは電極対を用いた電気特性で電流移動度が向上したことと合致するもう一つは AC 電極ndashチャネル界面が導通するために必要な ∆V が異なるということである433節で議論したように ∆V は電極のフェルミ準位とチャネルの HOMO準位の整合状態と関わっ

70 第 4章 新規局所インピーダンス評価法の開発と金属―有機界面物性の評価

minus1 V

Bare-Au

minus5 V

AC el AC el

Drain Source Drain Source

0

Pote

ntia

lSI

M a

mpl

SI

M p

hase

Po

tent

ial

SIM

am

pl

SIM

pha

se

AC-drain AC-source

iuml9iuml9iuml9iuml9iuml9iuml9iuml9iuml9

VG

Channel Channel

-05

0

3RWHQWLDOgt9

0

05

$PSOgtP9

-30

0

30

0 500 750

3KDVHgtGHJ

LVWDQFHgtQP

-5

0

3RWHQWLDOgt9

0

05

$PSOgtP9

-30

0

30

0 500 750

3KDVHgtGHJ

LVWDQFHgtQP 500 750 LVWDQFHgtQP

(a)

(b)

(c)

(d)

(e)

(f)

(g)

(h)

(i)

(j)

(k)

(l)

図 424 Bare-Au OFET の動作時の FM-SIM 測定結果 (VD = minus1 V(andashf) minus5 V(gndashl))ドレイン(左電極)を AC電極とした場合 (andashc gndashi)およびソース (右電極)を AC電極とした場合 (dndashf jndashl)の結果(a d g j)表面電位(b e h k) FM-SIM振幅(c f i l) FM-SIM位相プロファイル位相プロファイルのみスプライン曲線による平滑化を行っている

ている今回の結果ではPFBT-Auでの電極ndashチャネル界面の方が Bare-Auのそれよりも元々の電極ndashチャネル間準位整合状態が良かったと考えられるVG = minus15 V における ∆V を比較するとBare-Auでは 015 V程度大きい準位シフトが必要ということになるこのように電極の SAM修飾により仕事関数を増加させるという結果がいくつか報告されている [161ndash163]フッ素系の SAM

の場合チオール基から表面方向に対し分子軸に沿って負のダイポールが存在するため電極の見かけの仕事関数が増加すると考えられているしかし報告によって仕事関数の変化は 05 eVから1 eVと異なるこのことは本研究の KFMで測定された ∆V の差異とも異なることも含めると電極の SAM修飾による電気特性変化が全てこの仕事関数変化による影響に帰結されるとは限らないことを示唆しているそのためこの後 OFET動作中での評価結果も含めて電極 SAM修飾による特性変化の起源を議論していく

44 電極表面処理による OFET特性への直接影響評価 71

PFBT-AuAC el AC el

Drain Channel ChannelSource Drain Source

minus1 V

minus5 V

Pote

ntia

lSI

M a

mpl

SI

M p

hase

Po

tent

ial

SIM

am

pl

SIM

pha

se

0

AC-drain AC-source

iuml9iuml9iuml9iuml9iuml9iuml9iuml9iuml9

VG

-05

0

3RWHQWLDOgt9

0

05

$PSOgtP9

-30

0

30

3KDVHgtGHJ

(a)

(b)

(c)

(d)

(e)

(f)

-5

0

3RWHQWLDOgt9

0

05

$PSOgtP9

-30

0

30

0 500

3KDVHgtGHJ

LVWDQFHgtQP

-5

0

3RWHQWLDOgt9

0

05

$PSOgtP9

-30

0

30

500

3KDVHgtGHJ

LVWDQFHgtQP0

(g)

(h)

(i)

(j)

(k)

(l)

図 425 PFBT-Au OFET の動作時の FM-SIM 測定結果 (VD = minus1 V(andashf) minus5 V(gndashl))ドレイン(左電極)を AC電極とした場合 (andashc gndashi)およびソース (右電極)を AC電極とした場合 (dndashf jndashl)の結果(a d g j)表面電位(b e h k) FM-SIM振幅(c f i l) FM-SIM位相プロファイル平滑化を図 424と同様に行った

-4

-2

0

2

-12-8-4 0

0

100

200

300

umlV [V

]

Cur

rent

[nA]

VG [V]

PFBT-AuBare-Au

図 426 VD = minus5 V におけるチャネルndashソース間電位差 (∆V) と測定中の直流電流の VG 依存性赤線四角のシンボルが PFBT-Auを青線丸のシンボルが Bare-Auの結果を示す実線が ∆V破線が電流を示す

72 第 4章 新規局所インピーダンス評価法の開発と金属―有機界面物性の評価

(a) Conductance (b) Susceptance

0

01

02

-12-8-4 0

Re[

Y nor

m]

VG [V]

PFBT-AuBare-Au

0

02

04

-12-8-4 0

Im[Y

norm

]

VG [V]

PFBT-AuBare-Au

図 427 VD = minus5 V での FM-SIM 結果から得られた (a) 正規化コンダクタンス (Re[Ynorm]) および (b)正規化サセプタンス (Im[Ynorm])の VG 依存性

ドレインバイアス印加時 (OFET 動作時) 次にドレインバイアスを加えた状態でBare-Au とPFBT-Au でどのような違いが現れるかを検証するドレインバイアス VD = minus1 V minus5 V についてドレイン (左)ソース (右) それぞれの電極を AC 電極とした際の FM-SIM 測定結果を図 424

(Bare-Au OFET)および図 425 (PFBT-Au OFET)に示すプロファイルは表形式で示しており左の列はドレインを AC電極とした場合 (AC-drain)右の列はソースを AC電極とした場合 (AC-source)

のプロファイルであるまた行は上から minus1 V での表面電位FM-SIM 振幅FM-SIM 位相および minus5 V でのそれぞれの結果という順に並んでいるこれまでの議論からFM-SIM では AC を印加している電極と有機薄膜との界面のインピーダンスを優先的に評価できるためAC-drain とAC-sourceではそれぞれドレインndashチャネル界面ソースndashチャネル界面の物性が FM-SIM信号に現れるそれに対し表面電位は交流バイアスの印加を除くと全く同じ条件で測定されているため得られる電位プロファイルは原理上同じと考えられるまずこれら原理的な点について注目する図424(a) (d)はそれぞれ AC-drain AC-sourceの表面電位でありVG lt minus2 Vではほぼソースndashチャネル界面に電位ドロップが集中する傾向が一致している同様に図 424の (g)と (j)図 425の (a)と(d)(g) と (j) が若干の電位分布の違いがあるものの基本的に傾向は同じでありAC-drain とAC-sourceの測定は DC的に見るとほぼ同条件で測定されているとみなせる図 426に VD = minus5 V

における VG を変えたときのチャネルndashソース間電位差 (∆V)と直流電流値の変化を示すVG = minus8 V

まではゲートバイアス印加に従い ∆V は負に大きくなるが電流はほぼ 0のままである一方 minus8 V

を超えると ∆V は minus4 V程度で飽和し電流は増加を始めている電流が VG = minus8 V を境に増加を始めるという結果は事前の電気測定結果 (図 420(c)) と非常に良い一致を示しており交流バイアスなどによる大きな影響はないことを示しているここでOFET が導通 (ON 状態) しているVG lt minus8 Vの区間で∆V がほぼ VD の値で飽和しているためON状態における OFETの抵抗のほとんどはソースndashチャネル界面であると分かる次に FM-SIM信号に注目するAC-drainと AC-sourceで比較するとBare-Auか PFBT-Auかどうかや VD の値に関わらずチャネル上の FM-SIM振幅は AC-drainの方が大きいという一定の傾向があるゲートに負バイアスを印加中は電圧のほとんどがソースndashチャネル界面に加わっていることを加味するとドレインndashチャネル界面よりソースndashチャネル界面の方が電気的カップリングが悪いことを示唆しているこのことからも電極の SAM修飾による性能向上はソースndashチャネル界面の

44 電極表面処理による OFET特性への直接影響評価 73

Trap rich region

Trapped hole Trapped stateHOMO (Mobile)Mobile hole

HOMO

EFHOMO

EF

Bare-Au PFBT-Au

∆ xed

Increase

∆ gradual

Slight increase

C C

C

VG

MetalOrganic

図 428 FM-SIM で測定された容量変化から想定される Bare-Au 試料と PFBT-Au 試料での金属ndash有機界面の電子準位と状態の概要図VG 印加に従い正孔が蓄積するが界面付近ではより多く蓄積させないと可動 (Mobile)キャリアが生まれない容量 (C)は可動キャリアの存在する領域に由来すると考えると金属ndash有機界面のトラップ準位が多い系では容量増加が小さくトラップが少ないと瞬時に蓄積し容量が増加する

局所インピーダンス変化を追うことで直接評価比較できると考えられる次に VD による違いに注目するとVD = minus1 Vに比べ minus5 Vの方が FM-SIM振幅が大きい特に AC-drain (図 424 425(h))

ではチャネル上の FM-SIM振幅がドレイン電極とほぼ同程度になっておりドレインndashチャネル界面インピーダンスの寄与が非常に小さくなっていると考えられる以上の傾向は大まかに Bare-Au と PFBT-Au で似た挙動を示しており電極の SAM 処理による電気特性の違いを反映したものとは言えないBare-Au (図 424)と PFBT-Au (図 425)とで比較するとまず VD = minus1 Vでは挙動はほぼ同じでAC-drainと AC-source共に VG 印加によりチャネル上 FM-SIM位相が負にシフトしている一方 VD = minus5 V についてAC-sourceの FM-SIM位相がPFBT-Au (図 425(l))では負シフトしているがBare-Au (図 424(l))では界面での明確な負シフトが見られないこのように Bare-Auと PFBT-Auとの違いが VD = minus1 Vでは見られずminus5 Vで見られた要因として図 420(a) (b) の電気特性の低 VD 領域における非線形な特性が挙げられる低 VD

ではほとんど電流が流れていないという特性差のなさが FM-SIMの結果でもあまり違いを生まず一方大 VD では特性差も現れる程度に電流が流れたために FM-SIMの結果に違いが現れたと考えられる以上のことからSAM処理による電気特性変化はソースndashチャネル界面 (AC-source結果)に由来するとしVD = minus5 Vでの結果に注目する

74 第 4章 新規局所インピーダンス評価法の開発と金属―有機界面物性の評価

433節での解析を踏まえソースndashチャネル界面インピーダンスを並列 RC回路と考え式 (415)

を用いて界面正規化アドミタンス (実部界面コンダクタンス Re[Ynorm]虚部界面サセプタンスIm[Ynorm]) を評価するVD = minus5 V における結果を図 427 に示すまず界面コンダクタンス (図427(a)) は Bare-Au PFBT-Au 共に VG = minus8 V から増加を始めるという図 426 で見られた傾向と一致しておりソースndashチャネル界面の影響が電気特性にそのまま現れたことが分かるまたVG = minus8 V以降の界面コンダクタンスの増加はBare-Auに比べ PFBT-Auの方が顕著であるここでFM-SIMで測定したプロファイル (図 424 425)からソースndashチャネル間の変化は 100 nm以下の分解能で観測されているためFM-SIMでは電極付近のグレインの影響を排除した金属ndash有機界面物性を評価していると考えられるそのため電極付近のグレインサイズによる接触抵抗への影響ではなく確かに金属ndash有機界面物性が変化したことにより接触抵抗が低減したことを図 427(a)

は示している次に界面サセプタンス (図 427(b)) を通して接触抵抗低減の起源について考察する界面サセプタンスはBare-Auでは VG 印加に対してゆるやかな増加を示している一方でPFBT-Auでは界面コンダクタンスと同じく VG = minus8 Vを境に顕著な増加が見られたここで測定周波数は同じなのでサセプタンスは金属ndash有機界面の容量と対応付けることができる容量の起源として金属ndash有機界面における有機薄膜の不連続性が挙げられる金属近傍の結晶性低下や金属による準位への影響により有機薄膜中のトラップ準位はチャネル中よりも多くなるこのような金属ndash有機界面のトラップリッチな領域が空乏層となり界面容量を生むと考えられる [41 61 149]ここでゲートバイアスの印加によりキャリア (正孔)注入が起きるとトラップが埋まり空乏層幅が減少することで図 427(b)の PFBT-Auのような界面容量の急速な増加が見られると考えられる (図 428右)一方元々のトラップ準位の量が多いと空乏層幅の減少も顕著ではなくなるそのためPFBT-Auでは bare-Auに比べ金属ndash有機界面のトラップ量が減少していることが示唆される (図 428左)過去の報告でOFETの電極と有機薄膜の間にドープ層を挿入することで金属ndash有機界面のキャリアを増やし空乏領域を狭めた報告がある [152]正孔のドープ層としては有機薄膜と直接電荷の授受を行うFeCl3 や F4-TCNQが知られているが直接正孔を生まない SAMや極薄酸化膜によっても金属と有機分子の間の相互作用を抑えることで金属ndash有機界面のトラップを減少させることができるといわれている [150 164]これを踏まえるとやはり PFBTを用いた電極の SAM修飾により金属ndash有機界面のトラップが減少したといえる (図 428)特に浅いトラップはその領域の移動度とも密接に関わっており本研究の bare-Au OFETに対する PFBT-Au OFETでの接触抵抗低減は界面トラップの減少による効果と結論づける

45 本章のまとめ本章では 3章で課題として挙がっていた金属ndash有機界面の電気特性の測定に注目し新規局所インピーダンス評価法として FM-SIM を開発した等価回路モデルから FM-SIM 信号と界面インピーダンスが一対一に対応する式を導出するとともに周波数依存性から回路定数を半定量的に算出できることを見出した金ndashペンタセン単一グレインに適用することでトップコンタクト OFETでの測定でも観測されていた抵抗ndash容量並列回路の界面インピーダンスが単一グレイン系においても生じることを見出した

45 本章のまとめ 75

FM-SIMの応用として電極表面の SAM処理による移動度向上要因を評価したOFET動作前のみならず OFET動作時にも FM-SIM測定できることを示しOFETの動作がソース電極ndashチャネル間の電気特性に支配されていることを確認したこれを踏まえソース電極ndashチャネル界面のインピーダンス評価によりSAM処理が界面の準位整合状態のみならずトラップを減少させたことにより界面部分の導電性向上に繋がったことが明らかとなった

77

第 5章

時間分解測定による有機グレイン中のキャリアダイナミクス評価

3 章で問題となった金属ndash有機界面の電気特性が接触電流測定では困難であることに対し4 章で提案した FM-SIM による非接触での電位測定で実現したしかしFM-SIM や従来手法であるKFMではOFETのチャネルが既に形成している状態の電気特性しか測ることができないこれには以下に挙げる 2点の問題がある一つはバイアスストレスの問題であるOFETではゲートバイアスを印加した状態が長時間続くと電流が低下することが問題となっている [165]主にチャネルに長時間キャリアが蓄積することでキャリアトラップが誘起されることが原因と考えられているバイアスストレスによる変化でKFMで測定される電位像も経時変化が起きるため [166]長時間のバイアスをかけずとも局所電気特性評価を可能にすることも必要であるもう一つはチャネル形成前ないし形成中の電気特性が評価できないという点であるこれらの課題に対し経時変化そのものに注目することで電気特性評価を試みている報告がいくつかある有機薄膜へのキャリア注入中の経時電流を測定する変位電流測定 (Displacement current

measurement DCM)は従来金属絶縁膜有機半導体 (MIS)構成で用いられた手法だがOFETに拡張し金属ndash有機界面の注入電圧や絶縁膜界面のトラップについて評価した報告がある [60 62]また注入時のキャリア端をマッピングできる時間分解顕微二次高調波発生 (TRM-SHG)法を利用し有機薄膜の移動度異方性を一度に測定した例がある [167]このような時間分解測定を利用したチャネル形成過程の評価をプローブ技術に活かし有機半導体グレインへのキャリア注入排出時の局所電気特性評価を本章での目標とする

51 時間分解 EFM (TR-EFM)

電位の経時変化を測定するという観点で考えると2 章で述べた KFM を用いるのが最もシンプルであるしかしKFM ではバイアスフィードバック回路を用いており追従速度の遅さが問題である本研究では有機半導体グレインを対象とするが4 章での結果から応答する周波数範囲は100 Hzから 1 kHz程度の早さと考えられるつまり時間分解能としては 1 ms程度必要であり従来の KFMでは難しいよって本研究ではバイアスフィードバックを必要としない EFMをベースとして考えるまたこれまでの議論と同様に真空中での測定を行うため FM-EFMを用いる

78 第 5章 時間分解測定による有機グレイン中のキャリアダイナミクス評価

511 TR-EFMの動作電圧印加に対するグレイン応答の経時変化をマッピングするため本研究では 3 章の point-by-

point技術を活用した時間分解 EFM (Time-resolved EFM TR-EFM)を測定に用いたTR-EFMの動作模式図を図 51に示すTR-EFMでは試料上の各点において(a) FM-AFMを用いて探針ndash試料間距離を一定にするとともに高さの測定を行う動作 (図 51(a))と(b)高さを固定し何らかの電圧(パルス)を加えその間の FM-EFMの出力 (EFM信号)の経時変化を測定する動作 (図 51(b))を交互に繰り返すこのような point-by-pointでの AFMEFM交互動作には経時応答を測定できる以外に 2つの利点がある一つは各点での FM-EFM測定時のみバイアスを印加するためバイアスストレスによる経時変化の影響を抑制することができる点であるもう一つは通常 KFMではバイアスを印加しながら測定するがTR-EFMでは表面形状取得 (FM-AFM)時にバイアスをかけていないため従来よりも探針ndash試料間距離が一定に保たれていると考えられるそのためTR-EFMは経時応答以外の面からも有利といえる装置構成図を図 52(a) に示すTR-EFM では FM-EFM の特性と FM-AFM フィードバックを分けて考えるためPLL を 2 台用いたFM-AFM 用 (PLL1) には 42 節と同じ自家製回路を用いFM-EFM用 (PLL2)には Zurich Instrumentsのロックインアンプ (LIA)である HF2LI-MF (以降ZI-LIA)の PLLオプションを用いたZI-LIAからACバイアス信号 ((角)周波数 ft(ωt))をカンチレバーに加え変位信号を PLL2で周波数検波しZI-LIAにより Lock-in検出することで EFM信号が得られ経時信号をデータロガー (NR-500)で記録したPoint-by-point動作を行うトリガー信号は自家製 AFMコントローラより出力されFG1 (Tektronics AFG 3000)の出力トリガーに用いるとともに信号の再構成用にデータロガーで記録したカンチレバーは Olympus OMCL-AC240TM-R3

(共振周波数 sim 70 kHzばね定数 sim 2 Nm)を用いたFG1から出力する電圧パルスの波形の概略を図 52(b)に示す0 Vを間に挟む正負交互の電圧波形と複数の振幅のパルスを一度に印加することが特徴であるこのようなパルス波形は Oak Ridge

国立研究所の Kalininおよびダブリン大学の Rodrigezらのグループにより提唱された電気化学原子間力顕微鏡で用いられたものから着想しており複数の電圧に対する応答を一度に測定できるという利点を有している [168]本研究では対象とするグレインや測定内容によりパルス波形に調整を加えているため次のようにパルス波形を定義する

1パルス時間 tp を用い一つの電圧に対応するパルスの時間を表すシーケンス +Ak rarr 0 rarr minusAk rarr 0という一連のパルスを出力する期間を表すあるシーケンスで

のパルス振幅を Ap = plusmnA1 middot middot middot plusmnAk middot middot middot Anの形で示す正パルスまたは負パルスのみの場合は符号をそのように指定することで示す

シーケンス回数 nで定義する

例えば主に用いているパルス波形はtp = 20 msn = 5Ap = plusmn05 V middot middot middot plusmn25 Vと表すことができるこの場合総パルス時間は 4ntp = 400 msである

51 時間分解 EFM (TR-EFM) 79

(a) Height control(FM-AFM)

(b) Bias applicationamp FM-EFM

Cantilever

ElectrodeInsulatorGate

Feedback ONWithout bias With bias

Feedback hold

Pulse bias

EFM signal

図 51 時間分解 EFM (TR-EFM) の動作模式図試料上の各点 (走査中の全点) において(a)FM-AFMによる探針ndash試料間距離制御と(b)パルス電圧印加および FM-EFM測定を交互に繰り返す

PLL1

Data logger

Lock-in amp

PLL2

Self-excitationblock

Heightfeedback

Scanner

LDPSPD

Tip AC

FG1SampleInsulatorGate

Electrode

AFM controller

EFM signal

ZI-LIA

Trigger signal

∆f dc∆f ac

(a) Setup

(b) Pulse form (FG1)

Pulse period tp

Total pulse period 4ntp

Sequence 1

Sequence nVel

Injection

Extraction

plusmnA1 plusmnAn

図 52 (a) TR-EFMの装置構成図(b) FG1により印加したパルス電圧の模式図

512 妥当性検証電位応答の評価法としての妥当性を示すために(1) EFM 信号の値(2) 応答時間1の面から

TR-EFMの検証を行った

1 本節では電圧変化に対して EFM信号が追従する時間のことを指す

80 第 5章 時間分解測定による有機グレイン中のキャリアダイナミクス評価

1 EFM信号値 26節でも述べたようにFM-EFMでは変調信号を FM検波の後 Lock-in検出することで EFM信号 (∆f )ωt が得られる試料電位を Vs とすると式 (213)および式 (212)より

(∆f )ωt =f02kpart2Cts

partz2 VsVac cosωtt (51)

で表されるPoint-by-point 動作においても Vs に比例した EFM 信号が得られるかを検証した測定条件 [設定値 1]を以下に示す

概要 Au電極上 TR-EFM [設定値 1]

Pulse tp = 20 msn = 5Ap = plusmn05 V middot middot middot plusmn25 VLIA ft = 5 kHzバンド幅 (BW) 500 HzPLL2 自動 BW設定Logger 05 mssamplingで PulseEFM信号を取得

Au電極上で電極に上述のパルスを加えTR-EFM測定を行った各シーケンスの初めを 0 ms

に合わせた EFM信号経時変化を図 53(a)に示すここでは全体の傾向について議論を行うため単一ではなく 9回平均したデータを用いた図 53(a)よりパルスに応じて EFM信号の変化が分かるパルスのうち 0 Vとなっているところではどのシーケンスの EFM信号も重なっておりほぼ同じ値が得られていることが分かるこれはパルス印加中に探針や試料 (電極)の電位変化やカンチレバーの高さ変化は起こっていないことを示し今回のようなパルスが測定には影響しないと分かる一方 0 Vで EFM信号が 0となっていないことは探針ndash電極間の仕事関数差が影響していると考えられる以後まず測定時に電極上での EFM 信号がほぼ 0 となるように探針にバイアス電圧を加えさらに測定後に電極上の 0 Vでの EFM信号をオフセットとして全体から差し引くことで電極に対する電位相当の信号として評価するそれぞれのバイアス印加時の EFM 信号は少なくとも今回の PLL および LIA の設定では一定であることが分かる飽和後の EFM 信号の平均値をバイアス電圧に対してプロットしたものを図53(c)に示すEFM信号の理論式 (51)で示したとおり飽和値はバイアス電圧に対して線形に変化することがわかるよって測定量に関して TR-EFMは妥当な結果が得られているといえる電位 U に対してEFM signal= (U times 453 mVV + 18 mV)と線形フィッティングできたがこの比例係数および切片は探針や PLLLIAの設定値によって変化することに留意する必要がある

2 応答時間と設定値の関係 図 53(a)の 0ndash5 ms を拡大したものを図 53(b)に示すplusmn05 V での結果を除きどのバイアス電圧においても 1 ms の時点で飽和値の 9 割に到達しておりplusmn05 V のEFM信号も 15 msで十分飽和しているつまり[設定値 1]での測定の時間分解能は約 1 msといえ本節の冒頭に述べた時間分解能を満たしているため有機半導体グレインへの電荷注入応答を測定する十分なポテンシャルがある一方グレインによって応答が異なること今後 TR-EFMを活用した経時応答測定を行うことを考慮すると装置設定と EFM信号の応答時間信号対電圧比 (Signal-to-noise ratio SN)を比較することは有用である本項では変調周波数 fm のみならずカンチレバーの共振周波数PLL2の設定値 (ループゲイン PPLL および位相検出器 (PD)カットオフ周波数 fPD)LIAのバンド幅 BWについても考慮し所望の応答速度に対する設定項目の目安や最適値という実践的な面に注目して議論

51 時間分解 EFM (TR-EFM) 81

0

50

100

150

0 1 2 3 4 5

EFM

sig

nal [

mV]

Time [ms]

-100

0

100

0 20 40 60 80EFM

sig

nal [

mV]

Bias

[arb

uni

t]

Time [ms]

(a) (b)

plusmn05 Vplusmn1 V

plusmn15 Vplusmn2 V

plusmn25 V

VB

05 V

1 V

15 V

2 V

VB = 25 V

-100

0

100

-2 0 2

Satu

rate

d si

gnal

[mV]

Bias (VB) [V]

FitData

(c)

VB

図 53 Au電極上 TR-EFM測定結果(a)各シーケンスの初めを 0 msに合わせた EFM信号 (左軸)および加えたパルスバイアス波形 (右軸)バイアスの波高を VB としている(b)各シーケンスの EFM信号の 0ndash5 msを拡大したもの(c) EFM信号 (飽和値)のバイアス電圧依存性 (Plot)および線形フィッティング結果 (Line)

する前項目同様に Au 電極上の TR-EFM 波形から実効的な応答時間 (Response time) τres を比較する ft = 5 kHz および BW を 500 Hz に固定しパルス電圧として tp = 20 msn = 5Ap =

+1 V middot middot middot +1 V を印加しTR-EFM 測定を行った励振させるカンチレバーの共振周波数は 1

次2 次のたわみモードを用いることで比較しPD のカットオフ周波数と合わせて 1 次は fPD =

8 kHz 20 kHzについて2次は fPD = 20 kHz 40 kHzについて測定したなおOMCL-AC240TM-

R3の 2次共振周波数はおよそ 340 kHzであるまた PPLL として 178 349 524 873 140のうちいくつかについて比較したまたZI-LIAに備わっている PPLL fPD の自動設定 (auto)の見積もりも兼ねた1シーケンスの EFM信号を比較したものを図 54(a) (b)に示す図 54(a)よりPLLゲイン増加に伴い信号強度の増加がよく分かるが同時にノイズ分も増加していることが分かるこれは PLLの帯域増加による信号およびノイズ増加に対応するまた結果より1次での自動設定はおおよそ PPLL = 349と推察されるEFM信号値の妥当性検証時は PLLの自動設定を用いたがゲイン増加により自動設定のときよりも信号が増加しており ft が PLLの応答帯域外だったことを示している一方 fPD は強度には大きく影響しておらず帯域は PPLL が制限していることが分かるがPPLL = 873かつ fPD = 8 kHzの結果 (図 54(a)青破線)のように十分な fPD が無いとノイズの原因となる2次の結果 (図 54(b))もおおよそ同様の傾向を示しているが自動設定では 1次のそれに比べて強度ノイズともに良好な結果が得られたSN および τres を比較したものを図 54(c)

82 第 5章 時間分解測定による有機グレイン中のキャリアダイナミクス評価

0

20

40

60

80

100

Auto

178

349

524

873

140

SN

(b

ar)

P gain

0

100

200

0 5 10 15 20

EF

M s

ign

al [m

V]

Time [ms]

178

524

349

Auto

P= 873

0

100

200

0 5 10 15 20

EF

M s

ign

al [m

V]

Time [ms]

P= 140Auto

P= 873

(a) 1st resonance (b) 2nd resonance

(c)

PLL auto

1788k 20k 40k

349524873140

P (g

ain)

PD cuto (fPD) [Hz](a) (b)

1st

fPD

2nd

Reso8 kHz

20 kHz

20 kHz

40 kHz

1 seq Averaged

τres

0

05

1

15

Re

sp

on

se

tim

e Ѭ

res

(plo

t) [

ms]

図 54 カンチレバーの共振次数および PLL設定値 (PLLゲイン PPLL位相検出器 (PD)カットオフ周波数 fPD)による TR-EFM信号変化(a) 1次 (b) 2次共振での 1シーケンスの EFM信号波形 (実線 fPD = 20 kHz点線 fPD = 8 kHz(1次)40 kHz(2次))(c) SN(左軸棒グラフ)および応答時間 τres(右軸プロット)比較1シーケンスでの結果を塗りつぶし5シーケンス平均での結果を中空で示した

に示すなおτres として飽和値の 9割に到達した時間を用いたSNとしては 1シーケンスの結果および 5シーケンスの信号の平均から求めた結果を示したまず τres は PLL設定値にほぼ依らないことが明らかである一方 SNは1シーケンスの結果ではゲイン増加により落ちてしまうが平均することでかなり向上する全体の傾向としては 2次共振の方が SNが高めであり本セットアップでは 2次共振での測定が有利であるといえる2

次にロックイン検出の平均時間 (LIAの時定数)に注目する本研究で用いた ZI-LIAでは変調周波数からのバンド幅 (BW) として設定するため必ずしも 1 対 1 に対応するとは限らないまた実際の TR-EFM測定で BWに依存しない領域がある可能性もあるためSNと合わせてここで検証する上述の議論で 2次共振の PLL自動設定がある程度大きな帯域を有していたため2次を中心に比較した変調周波数と BWを変えながら TR-EFM測定した結果を図 55に示すここでは簡単のため共振次数に関わらず PLLの自動設定を用いた変調周波数を上げるに従い信号強度が小さくなるのはPLL 設定値による変化と同じく PLL の応答帯域による影響であるただしPLL 設定値は同一のためノイズは同等でありSNは減少する同じ変調周波数では BWの増加に従い明確に応答時間が短くなっておりパルス電圧印加の遅れが EFM 信号の立ち上がりの遅れに影響し

2 実験の順序の関係により大半の TR-EFM測定では 1次-PLL自動設定を用いているがベースノイズが小さいため平均せずとも比較的応答を綺麗に見ることができるという利点がある

51 時間分解 EFM (TR-EFM) 83

0

100

200

0 1 2

EFM

sig

nal [

mV]

5 10 15 20Time [ms]

0

100

200

0 1 2

EFM

sig

nal [

mV]

5 10 15 20Time [ms]

0

100

200

0 1 2

EFM

sig

nal [

mV]

5 10 15 20Time [ms]

0

100

200

0 1 2

EFM

sig

nal [

mV]

5 10 15 20Time [ms]

0

100

200

0 1 2

EFM

sig

nal [

mV]

5 10 15 20Time [ms]

(a) ft = 5 kHz (b) 8 kHz (c) 10 kHz

(d) 12 kHz (e) 5 kHz (1st) BW

200 Hz500 Hz800 Hz

1 kHz12 kHz

図 55 変調周波数 ( ft)と LIAバンド幅 (BW)による 5シーケンス平均の TR-EFM信号変化見やすさのため立ち上がり 2 ms間を拡大した(a) 2次-5 kHz(b) 2次-8 kHz(c) 2次-10 kHz(d)2次-12 kHz(e) 1次-5 kHz

(a) (b)

1st

ft

2nd

5 kHz

10 kHz

5 kHz

8 kHz

10 kHz

12 kHz

1 seq Averaged 0

50

100

150

200 500 800 1k 12k

SN

BW [Hz]

0

1

2

3

0 2 4 6

Ris

ing

tim

e [

ms]

1BW [ms]

5 kHz

8 kHz

10 kHz

12 kHz

ft =

図 56 (a)各変調周波数 ( ft)と共振次数における EFM信号の SN比較1シーケンスでの結果を塗りつぶし5シーケンス平均での結果を中空で示した(b) 2次共振での変調周波数ごとの応答時間 τres 比較1BWに対してプロットした

ているわけではないことが分かるこの傾向はどの変調周波数でも見られたしかしBWの増加でノイズも増加しており5回の平均でも除去できていないことが分かるこれらの EFM信号から得られた SNの比較を図 56(a)に示すBWの増加による SNの減少が起こるが1次-5 kHzや 2

次-5 kHzのように平均化によりある程度是正されていることが分かる図 56(b)に BWによる応答時間の変化 (ただし 2次のみ)を示す同じ BWでは応答時間は変調周波数に関わらずほぼ同じであることが分かるそのため求める応答時間に対して最もよい SNを示す設定値が最適といえるここで変調周波数の増加に伴い SNが減少することを踏まえるとノイズが劇的に悪化することがない限り低い変調周波数を用いるのが適当であることが分かったBWに対する応答時間の変化はおおまかに (2BW)minus1 で記述できることが図 56(b)より見て取れるつまり05 msの時間分

84 第 5章 時間分解測定による有機グレイン中のキャリアダイナミクス評価

40 nm (a) (b)50 nm (c)

150 nm

Gr2a

Gr2b150 nm

Gr1

Insulator

Electrod

e

150 nm

Gr3aGr3b

(a) (b) (c)

図 57 TR-EFM測定に用いた Au電極接続ペンタセングレインの表面形状像

解能が必要な場合BWを 1 kHzに設定する必要がありその中で SNが良い ft = 5 kHzが最適値と考えられる

52 有機グレインのキャリアダイナミクス評価前節では新規提案した TR-EFMの動作原理と測定の妥当性について議論した本節では実際に有機半導体グレイン上で TR-EFM測定を行いその電位応答からキャリア注入蓄積または排出がどのように起こっているかを検証し単一グレイン系における局所抵抗の評価に繋げる

測定試料 測定試料としてAu電極に接続したペンタセングレインを用いたAu電極は 441節と同様に UVリソグラフィで作製したペンタセンは 321節で述べたとおりである図 57に以降の測定で用いたペンタセングレインの表面形状像とそれぞれのグレインの名称 (Gr1 Gr2a Gr2b

Gr3a Gr3b)を示すGr1以外は明確なくびれがグレイン内に無く単一グレインとみなすGr1についてはくびれは無いがグレイン内で層数の分布が見て取れる以降の測定ではこれらの影響も含めて議論する

用語定義 TR-EFMでは特殊なパルスを用いており一度の測定で電圧の正負または 0 Vへ戻したときさらにそのバイアス依存や時間依存など複数種の応答が同時に得られる以降の評価で用語が混同しないように本項目で用語を定義するなおこの定義ではペンタセンが p型有機半導体であること電極として Auを用いていることから電極ndashゲート間に正電圧印加時に正孔が注入されることを基としている

EFM信号 TR-EFMまたは単なる FM-EFMにより得られたロックイン出力値またはその経時波形

バイアス電圧 ある時間期間における電圧値VB で表す注入 (injection) 電極電圧3を 0 Vから +VB にステップ変化させることまたはその応答排出 (removal) 電極電圧を +VB から 0 Vにステップ変化させることまたはその応答空乏 (depletion) 電極電圧を 0 Vから minusVB にステップ変化させることまたはその応答回復 (recovery) 電極電圧を minusVB から 0 Vにステップ変化させることまたはその応答緩和 (relaxation) 電圧のステップ変化後に継続して電圧または EFM信号が変化している期間ま

たはその応答飽和飽和値 (saturation) 電圧のステップ変化後にほぼ一定の電圧または EFM信号となっている期

3 ゲートに対する電極電圧以下略

52 有機グレインのキャリアダイナミクス評価 85

Pulse bias(to the elctrode)Response

(on the grain)Injectio

n

Time lapse

Relaxation

Saturation

Removal

Depletion

Recovery

図 58 TR-EFMにおける用語定義の概要図

間またはその応答その平均値応答 (response) 電極電圧変化に対するグレインの電位変化全般を表す用語応答時間 (response time) バイアス電圧変化に対して EFM信号 (等)が追従し収束するのに要し

た時間(例 グレイン上の応答時間 =グレイン上 EFM信号の応答時間)

蓄積 (accumulation)空乏 注入時の飽和特性を ldquo蓄積rdquo と呼ぶこともあるその場合の対義語としても ldquo空乏rdquoを用いる

これらの定義をまとめたものを図 58に示す

521 単一グレインの時間分解パルス電圧応答図 57(a)の Gr1に関して測定条件 [設定値 1]tp = 20 msn = 5Ap = plusmn05 V middot middot middot plusmn25 Vのパルスで TR-EFM測定した結果のうち plusmn25 Vのシーケンスにおいて各点の同一時間に対応する EFM信号で再構成した時間分解 EFM像を図 59にまとめて示すここでは注入時排出時空乏時回復時の電圧変化時刻から起算して minus1 0 1 2 5 10 15 ms後における EFM像のみ示しているカラースケールは共通で0 Vでの電極上 EFM信号に対する値として示しているまず EFM像全体に共通して言えることはEFM像のある一点をとったとき付近の応答が比較的近い値を示していることである単に Fast scan (X)方向だけでなく Slow scan (Y)方向も均一である各点でパルス電圧を印加していることを踏まえるとここで得られている応答は非常に再現性の高いものといえ前回のパルス電圧による影響があるとしても次回のパルス印加時には十分消失しているといえるこれらのことはTR-EFM 測定の妥当性を確保する上で重要な視点となる他の EFM像に比べ電圧変化後 0 msの応答はノイズ状になっているがこれは原理上データログのタイミングに plusmn025 msの誤差が存在してしまうことと再構成用のタイミング信号とパルス印加のトリガーのずれによって生じるものであるため取り除くことは困難であるそのため以下の評価では 0 msでのデータは無視する注入時 (図 59(a))の EFM像に注目するとGr1上の EFM信号は電圧変化後 1 msから 15 msにかけてゆっくりと変化 (緩和)している一方電極上は 1 msでほぼ収束しているEFMの応答時間はほぼ電極上の応答時間と対応付けられるためGr1上の緩和応答は装置測定上の問題ではなく試料中の何らかの要因によるものとわかるこのように電極上の応答時間と比較することで装置上の問題と即座に切り分けることができる点が TR-EFMの利点の一つであるまた512節での

86 第 5章 時間分解測定による有機グレイン中のキャリアダイナミクス評価

Tim

e la

pse

(a) Injection

-1 ms

1 ms

2 ms

5 ms

10 ms

15 ms

0 ms

(b) Removal (c) Depletion (d) Recovery

(e) Topography(simultaneous)

25 V 0 V ndash25 V 0 V

-150 mV 150 mVEFM signal

Potential0 V +ndash

図 59 Gr1上 TR-EFM結果から再構成により得られた時間分解 EFM像plusmn25 Vのシーケンスにおける (a)注入時(b)排出時(c)空乏時(d)回復時の電圧変化前 1 msから変化後 15 msまでの応答を示している(e) TR-EFM測定時に同時に得られた表面形状像

52 有機グレインのキャリアダイナミクス評価 87

0

50

100

150

200

0 5 10 15 20

EFM

sig

nal [

mV]

Time [ms]

0

50

100

150

200

0 5 10 15 20

EFM

sig

nal [

mV]

Time [ms]

0

100

200

0 200 400 600

EFM

sig

nal [

mV]

Ditance [nm]

Elec

trod

e

Insu

lato

r

Init

BA

0

100

200

0 200 400 600

EFM

sig

nal [

mV]

Ditance [nm]

Init BA

1 ms

Init

2 ms5 ms

10 ms15 ms

Time lapseafter change

(a) Injection-prole (b) Removal-prole

(c) Injection-ave (d) Removal-ave

BA05 V

1 V15 V

2 V25 V

VB

(e) cf topography of Gr1

図 510 Gr1上 TR-EFM結果 経時変化(a) (b)それぞれ+25 Vシーケンスの注入排出時における EFM信号の時間分解ラインプロファイル表面形状像 (e)の線分 AndashB上におけるプロファイルを得た電圧変化直前の信号を破線で示しているまた指数関数フィッティングの結果を黒細線で示した(c) (d)それぞれ各シーケンスの注入排出時における Gr1上 EFM信号の経時変化形状像 (e)の x点付近の 5点平均値を示した

Gate

Electrode Grain

Insulator

Fermi levelHOMO

Metal Organic Metal Organic

(a) Equivalent circuit (b) Injection process (c) Removal process

Ener

gy

図 511 (a) グレイン上電位応答を表す等価回路モデル(b) キャリア注入時(c) 排出時のキャリアの動きと金属ndash有機界面の電子準位の模式図図中下方向がホールに対してエネルギーが高い方向となる

議論でTR-EFM としての時間分解能はおおよそ (2BW)minus1 であることを述べた本測定では BW

が 500 Hzのため時間分解能は約 1 msであり電極上 EFM信号の応答時間と一致する注入時以外の経時変化に注目すると排出時 (図 59(b))と空乏時 (図 59(c))は電圧変化後 1 msで

Gr1上の応答がほぼ飽和しており注入時とは明らかに異なる応答を示している一方回復時 (図59(d))は注入時ほど遅くはないが1 msから 5 msにかけて Gr1上の EFM信号に変化が見られる注入時と回復時は電極からグレインへの「キャリア (ホール)注入」排出時と空乏時はグレインから電極への「キャリア排出」過程と考えることができこれら Gr1上の応答時間の違いはキャリア注入排出過程の違いと考えることができる

88 第 5章 時間分解測定による有機グレイン中のキャリアダイナミクス評価

表 51 Gr1上 EFM信号の指数関数フィッティング結果 (抜粋)

Bias (Vstart minus Vend) [mV] τ [ms] Vend [mV] Residue

1 V注入 minus653 plusmn 11 417 plusmn 017 702 plusmn 06 179

2 V注入 minus1431 plusmn 23 563 plusmn 025 1448 plusmn 18 384

1 V排出 532 plusmn 07 0613 plusmn 0016 934 plusmn 012 068

図 510に Gr1上 EFM信号プロファイルつまり電極からの距離依存性を示すプロファイルは図 510(e)の線分 AndashB上で取得した(a) (b)はそれぞれ各時間における注入排出時のプロファイルを示しているが電極ndashGr1界面以外の明確なドロップがないことが分かる試料中の基板と平行な方向の伝導度が異なると応答時間に影響を与えるのでこの結果から注入排出時のキャリア輸送の阻害となる領域はほぼ電極ndashGr1界面のみであることがわかるまた先に議論した注入排出過程での応答時間の違いも図 510からよく分かる排出時の 1 ms後も Gr1上の EFM信号が若干現れているため電極と完全に同期して緩和しているわけではないと見て取れる輸送阻害となる要因がほぼ電極ndashGr1界面のみであるためGr1上のある点を Gr1全体の応答の代表とすることは問題とならない図 510(c) (d)はそれぞれ図 510(e)の x点における注入排出時の EFM信号の経時変化である注入排出ともに緩和から飽和への変化が明瞭に確認できる応答時間と電気特性との対応づけのため図 511(a)のような等価回路を考えるグレイン上の抵抗は電極ndashグレイン界面の抵抗 Rに比べて十分小さいと考えまた 4章と同様にグレインのゲート容量 C

をおく電極ndashゲート間電圧が Vstart から Vend に瞬時に変化するとグレイン上の電位 V(t)は次のように記述される

V(t) = Vend + (Vstart minus Vend) exp(minus tτ

) where τ = RC (52)

ここで同一グレインに関してはゲート容量 C は同じであるため指数関数フィッティングで得られた時定数 τは電極ndashグレイン界面の抵抗 Rに比例する図 510(c) (d)において指数関数フィッティングした結果を黒細線で重ねて示したまたフィッティングパラメータ (抜粋)を表 51に示すただし排出時の応答は 1 Vのシーケンスのみフィッティングした注入時の 05 V1 Vや排出時は実際の EFM信号とフィッティング線が比較的重なっているがそれより大きなバイアスでの注入特性は指数関数とはずれていることが分かる表 51からも残差 (Residue)が 2 Vの注入時で大きくなっていることが分かるこれら指数関数からのずれは EFM 信号の比例係数が影響していると考えられ522節において議論する

VB = 1 Vにおける時定数は注入時は 4 ms排出時は 07 msと 5倍近い差があることが分かるそして上述の議論よりこれは排出時に比べて注入時のほうが電極ndashGr1 界面の抵抗が大きいことを示しているこれは図 511(b) (c)のような金属ndash有機界面のエネルギー準位の模式図により説明できるAu上のペンタセン HOMO準位は Auのフェルミ準位 (Fermi level)よりも (電子にとって)

低いエネルギーに位置することが光電子分光法を用いた研究で報告されている [37 169]よってホールが電極からグレインに注入される際には余分にエネルギーを要する (図 511(b))一方グレインから電極にホールが排出されるときは少なくとも注入時のようなエネルギー障壁を感じることはない (図 511(c))ただし4章で議論したようにエネルギーのミスマッチ自体が電気特性に影響を及ぼす可能性はあるが注入排出時のエネルギー障壁の有無が抵抗の大小に影響したこと

52 有機グレインのキャリアダイナミクス評価 89

-200

-100

0

100

200

0 200 400 600

EFM

sig

nal [

mV]

Ditance [nm]

+25 V+2 V

+15 V+1 V

+05 V

ndash05 V

ndash15 V

ndash25 V

ndash1 V

ndash2 V

Bias

-100

0

100

-2 0 2

Sign

al (s

at)

[mV]

Bias [V]

Electrode (ref)

Gr1

(a) (b)

図 512 Gr1 上 TR-EFM 結果 飽和値(a) それぞれのバイアス電圧における電圧変化後 15ndash195 ms 間を平均した飽和値プロファイル正バイアスが蓄積時負バイアスが空乏時に対応する(b) Gr1上を平均した飽和値のバイアス依存性電極上の EFM信号をレファレンスとして黒実線で示す

は明確であるこれまでも多く報告されてきた簡易な議論ではあるが単一グレインndash電極界面での評価を達成したことはモルフォロジーやグレイン境界といった影響ではなく純粋な金属ndash有機界面で同様のことが起こるという裏付けとなりTR-EFMの局所電気特性評価法としての有用性を示す成果である最後に飽和値について言及しておく図 512(a)は各シーケンスの注入空乏時の飽和特性 (蓄積空乏特性)をプロファイルで示しているただし電圧変化後 15ndash195 ms間を平均して用いた飽和時の特性は基本的にゲートバイアスを印加した KFM測定と同じものを見ていることになる蓄積時は電極電位と同様に Gr1上の信号も増加しているが空乏時は minus15 V以降で電極ndashGr1界面のドロップが発生している一方絶縁膜上の EFM信号はほぼ変わっておらずゲートへのカップリングは起こっていないといえる図 512(b)に Gr1上で平均したバイアス依存の EFM信号飽和値を示す電極上からも取得し線形フィッティング結果を実線で示している負バイアス印加時に電極に追随して電位変化が起こらない理由としてp型有機半導体への電子注入が困難であることがあげられるAundashペンタセンの系でフェルミ準位から HOMO準位へのエネルギーオンセットがあることは既に述べたが電子にとっての障壁である金属のフェルミ準位から LUMO準位へのエネルギー差は HOMOのそれよりも大きい [170]そのためp型有機半導体に正のゲートバイアスを印加し n

チャネル動作させた際の実効的な移動度はpチャネル動作のそれよりも非常に小さい図 512(b)

の負バイアス印加時の変化が小さいのも同様の理由と考えられるここでVB = minus1 Vまではバイアス印加に伴い EFM信号すなわち電位がある程度負に変化しているこれは電子注入が起こったというよりも元々ペンタセン中に存在した余剰ホールの排出と考える方がよい本試料は成膜後AFM真空チャンバに導入するまでに大気暴露されておりペンタセン薄膜中に取り込まれた酸素分子がアクセプタとして機能することで余剰ホールが発生したつまり p型ドープが起こったと考えられる [124ndash126]一方正バイアスでは Gr1上で電極上よりも大きい EFM信号の飽和値が得られているEFM信号が電位に比例することを踏まえるとこれは電極に対して Gr1 の電位が高いことを意味するが433節では (ゲート)バイアス印加によりペンタセン単一グレインの電位が電極に対して負であるこ

90 第 5章 時間分解測定による有機グレイン中のキャリアダイナミクス評価

0 100 200 300

0 200 400 600

0 10 20

EFM

sig

nal [

mV]

2f s

igna

l [m

V]

Ditance [nm]

ForwardBackward

Elec

trod

e

Insu

lato

r

0 mV 280 mV

5 mV 250 mV

(b) EFM forward

(a) Topography(taken before)

Measuredregion (e) Proles

(c) EFM backward

(d) 2ft signal

B BA A

図 513 Gr1上の往復 TR-EFM結果表面形状像 (a)の破線で囲った箇所を測定した(b)像の左から右 (forward)(c) 右から左 (backward) へのスキャン時の 2 V 注入時 18 ms 後の EFM 像(d) Forwardでの 2倍波信号像(e) (a)の線分 AndashB上における EFM信号 (Forward Backward)2倍波信号プロファイル

とを確認したこれは EFM信号の比例係数の影響が含まれていると考えGr1上 EFM信号経時変化の指数関数フィッティングがうまくいかなかったこと (図 510(c))と合わせて次節で議論する

522 比例係数補正と電圧依存界面電気特性EFM信号は式 (51)のとおりpart2Cts

partz2 に比例するこの係数は探針と Vacが印加されている導電部分との距離や誘電率試料形状に依存するグレイン内が完全に導体でパルス印加直前の FM-AFM

によるフィードバックが完全であればこの距離は一定と考えられるが何らかの要因により異なれば同じ電位でも EFM信号が異なるここで∆f の 2ωm 成分は式 (213)より

(∆f )2ωm =f02kpart2Cts

partz212

V2ac cos 2ωmt (53)

のように表せるつまり(∆f )2ωm (以下 2倍波信号と呼ぶ)の変化から part2Ctspartz2 の変化を測定できる4

ここで蓄積時の EFM信号プロファイル (図 512(a))ではGr1上の EFM信号が電極よりも単に大きいだけでなく電極から離れるに従い徐々に大きくなる傾向が見て取れるEFM信号の比例係数に加えバイアス印加の経時回数によるストレスの影響も考えられるTR-EFMを往復つまり電極から絶縁膜方向 (Forward)と逆方向 (Backward)で取得し同時に 2倍波信号を測定することでこれら 2種類の影響を評価する測定条件としてカンチレバーの 2次共振 ( f0 sim 340 kHz)を用いた以外は [設定値 1]と同じセットアップとし2倍波信号は ZI-LIAで 100 Hzの BWで検出した図 513に往復 TR-EFM測定結果を示すForward (b) と Backward (c) で EFM 像に明確な違いはないプロファイル (e) では 52

節よりも程度は小さいがやはり電極から離れるに従い EFM信号が徐々に増加している傾向が見られるがforwardと backwardのプロファイルが重なっているためバイアスストレスの影響ではな

4 2Vac times (∆f )ωm(∆f )2ωm により試料電位 Vs を得ることができることが分かるFM-KFM のようなバイアスフィードバックを使わずこのような計算により電位を得る手法は Open-loop KFMと呼ばれる [171]

52 有機グレインのキャリアダイナミクス評価 91

8mV3mV-100 mV 100 mV

(a) Topography

(e)

(b) EFM image (+1 V) (c) 2ft image (0 V) (d) 2ft image (+1 V)

0

10

20

30

0 500 1000

He

igh

t [n

m]

Ditance [nm]

BA

-15

-1

-05

0

05

1

15

-1 0 1

No

rm

po

ten

tia

l

Bias [V]

Ref

Before

After

TR-EFM

FM-KFM

Tapping

(f) Proles (topography)Electrode (bare)Grain

Electrode

図 514 Ptndashペンタセン試料上での TR-EFM 測定と 2 倍波信号比較(a) 表面形状像(b) EFM像(c) (d) 2倍波像(b)および (d)は電極に +1 V注入時 (19 ms後)(c)は 0 Vでの結果を示している(e) 2倍波信号による校正前後の飽和信号比較(f) (a)の線分 AndashB上での高さプロファイル比較 (TR-EFM FM-KFMタッピング)

いと結論づけた一方 2倍波は BWが異なるため応答時間に注意を要するがこれまでの議論より1(2 times 100 Hz) = 5 ms程度で収束すると考えられるため電圧変化後 18 msは十分な時間である2

倍波像も EFM像と同様になめらかに取得できているプロファイルより2倍波信号は電極上に比べて Gr1上で若干大きいことが分かるこのことはGr1上飽和値が電極上よりも大きくなった原因が EFM信号の比例係数変化によるものであることを示唆する結果である

EFM信号の比例係数変化の要因を調べるため様々なサイズのペンタセングレインが接続している系 (42節と同じ試料)で同様の測定を行った (図 514)図 514(a)には現れていないが本試料は対向電極が存在しており図 514(b)の +1 V蓄積時 EFM像の左右の膜上の EFM信号が電極よりも小さい原因は対向電極に接続していることによる電圧の分配が影響しているバイアスが 0 Vのときはグレイン上の 2倍波信号は電極のそれよりも若干小さいが1 Vでは電極よりも大きいことが明瞭に確認できるこのときどのグレインにおいてもほぼ同じ 2倍波信号が得られており像左部の膜上でも同様の傾向が得られたこの結果からEFM信号の比例係数変化は電極とグレインのスケール差によるものではないと結論づけられる図 514(f)は (a)の線分 AndashBに沿った形状プロファイルおよび別途 FM-KFMおよび Tappingにより測定した同位置の形状プロファイルを示している高さの 0点は絶縁膜の高さに揃えた興味深いことに絶縁膜直上のグレイン上 (灰色領域)でのみかけの高さはどの手法でもほぼ同じであるのに対しグレインに覆われていない電極 (橙色領域)は Tappingに比べて TR-EFMFM-KFMでは高く見えているKFMのような交流バイアスを用いない通常の FM-AFMと Tappingを比較して

92 第 5章 時間分解測定による有機グレイン中のキャリアダイナミクス評価

も同様の結果が得られたこれは探針ndash電極間に電位差があり電極上のみ本来より高い位置でフィードバックが釣り合ってしまうことに起因すると考えられる引力領域で制御する FM-AFM

の方がこの影響が強いTR-EFMでは高さ固定時の探針ndashグレイン間距離よりも探針ndash電極間距離のほうが長かったためバイアス印加でグレイン導通時に EFM信号の比例係数がグレイン上で電極よりも大きくなってしまったと考えられる図 514(e)に 2倍波信号での校正前後での EFM信号の変化を示す校正は各バイアスでの飽和 EFM 信号を飽和 2 倍波信号で割ることで行い比較のためVB = 1 Vでの電極上の EFM信号 (校正前後)で規格化した図中の傾き 1の破線が電極上の値(Ref)を示している図 512(b)同様校正前は電極上よりも電位が高く見えているが校正により確かに下回ることが分かる

2倍波信号を用いない校正法 上述の方法は open-loop KFMと同じく EFM信号の比例係数変化を排除しかつ FM-KFM同様電位として値を得ることができる一方2倍波信号を別途測定する必要があり ft が大きいと PLLの帯域内に収まらない恐れやSNを確保するために BWを大きく設定すると EFM信号とは応答時間が異なるため時間分解での評価ができなくなるという問題が生じるよって時間分解測定を維持しながらEFM信号の比例係数校正を行うためには別の手法を考えねばならない電極にバイアス VB 印加時に位置 x時間 tにおける電極に対して電位差 ∆V(VB x t)が発生するとするこのとき EFM信号 sE(VB x t)を

sE(VB x t) = ACprimez(VB x t)[VB + ∆V(VB x t)] (54)

と表すここでAは VB に依らない EFM信号の比例係数Cprimez(VB x t)は part2Ctspartz2 の VB x tによる変

化を表すこれまでの測定ではパルス電圧を全て電極に印加してきたがゲートに逆符号のパルス電圧 (バイアス電圧 minusVB) を印加することを考える (図 515(a))このような印加方法による測定をゲート印加 (gate-pulse) TR-EFMと呼ぶこのとき電極グレインゲートの相対的な電位は探針やその他グラウンドの影響が除外できるとすると電極に加えるときと全く同じであるためグレイン相対電位は同じ ∆V となるこのときの EFM信号 sG(VB x t)は

sG(VB x t) = ACprimez(VB x t)∆V(VB x t) (55)

と表すことができるこれより

ACprimez(VB x t) =sE minus sG

VB(VB 0) (56)

∆V(VB x t) =sG

sE minus sGVB (57)

が得られCprimez の影響を除いたグレイン電位 ∆V が得られることが分かる図 515(b)に Gr1上でゲート印加 TR-EFM測定を行った結果得られた+25 V注入後 1 ms5 ms

10 msの EFM像を示す図 515に示すとおり注入時はゲート電極に minusVB を印加するため絶縁膜を通して負の電位を感じる一方電極は 0 VでありEFM信号はほぼ 0となるminusVB 印加直後は Gr1上が絶縁膜上よりも EFM信号が負になっているがこれは前項で述べたとおり EFM信号の比例係数の違いによるものであるそれを除けば図 59(a)で見られた電極印加の TR-EFM結果と定性的に同様の EFM像が得られており原理的には同じものであることが伺えるただしパルス電

52 有機グレインのキャリアダイナミクス評価 93

-110 mV 40 mV

1 ms 5 ms 10 ms

(b) EFM images (gate-pulse)(a)

InsulatorGate

Gate-pulse

GrainElectrode

0 V∆V

ndashVB

図 515 (a)ゲート印加 TR-EFMの応答模式図電極に VB を印加したときのグレインndash電極電位差を ∆V とするとゲートに minusVB のパルス電圧を印加したときのグレイン電位は ∆V と表せる(b) Gr1上ゲート印加 TR-EFMで得られた時間分解 EFM像

-3-2-1 0 1 2 3

0 200 400 600

(VBumlV

) [V

]

Ditance [nm]

0

02

04

06

08

1

0 200 400 600

ACz

Ditance [nm]

Elec

trod

e

Insu

lato

r

+25 V

ndash25 V

VB +25 V

+05 V0 V

ndash05 V

ndash25 V

VB

(a) corrected ACz (b) corrected ∆V

-3

-2

-1

0

1

0 5 10 15 20

6V

[V]

Time [ms]

05 V1 V

15 V2 V

25 VVB

0

5

10

0 1 2 3

Fitte

d Ѭ

[ms]

Bias [V]

(d) (c)

図 516 式 (56)(57) より得た図 510(e) 線分 AndashB 上の (a) ACprimez(b) (∆V + VB) プロファイルのバイアス依存性(c) Gr1上 ∆V の経時変化 (プロット)と指数関数フィッティング曲線 (実線)(d) (c)の指数関数フィッティングにより得た時定数のバイアス依存性

圧印加直後はグレイン上は電極に対して minusVB だけ電位が異なるグレイン上の EFM信号を考えると電極印加時は同程度であるがゲート印加時は瞬時に minusVB 相当の信号となるため変化が大きいそのため追従にさらに時間を要することに注意が必要である先述の Gr1上 TR-EFM測定結果とゲート印加 TR-EFM測定結果式 (56)(57)を用いて補正を行った結果を図 516に示す図 516(a)は飽和 EFM信号における ACprimez のバイアス依存性であり2

倍波信号に対応する成分と考えられる電極上絶縁膜上ではほぼ一定の値だがGr1上では minusVB

の正負で大きく変化する負バイアス (空乏時)では絶縁膜上の値に近くなっておりグレイン上が導通していないことを伺わせる正バイアス (蓄積時)では図 514で見られたように Gr1上 ACprimez (つ

94 第 5章 時間分解測定による有機グレイン中のキャリアダイナミクス評価

まり 2倍波信号)が電極上よりも大きくなっており確かに飽和値の結果 (図 512)は比例係数の影響を受けていたと分かった図 516(b)は補正された ∆V を視認しやすいように (∆V + VB)の形で示したプロファイルであるまず電極上で印加バイアスに対応する電圧となっており絶縁膜上の電位は一定に保たれているそして図 510(a)で見られる通常の TR-EFMプロファイルよりも Gr1

上の均一性がよくなっており比例係数の影響を排除できているしかし高負バイアスでは Gr1

上でポテンシャルの勾配がなお存在している負バイアスの変化に対しプロファイルの共通部分が存在しているため比例係数ではなくGr1上に分布している別の要因があると考えられる空乏時のグレインの物性に関してはのちに改めて議論する本校正法の最大の利点としては EFM 応答時間の条件が同じまま時間分解測定ができることにあるGr1上で平均した時間分解 EFM信号から ∆V に変換した結果を図 516(c)に示す電圧印加後15 ms は EFM 応答時間と先述のゲート印加時の応答遅れにより無視しそれ以外の領域で指数関数フィッティングした結果を実線で示している図 510(c)に比べて明らかにフィッティング曲線とのずれが小さい+25 Vでの結果をフィッティングした残差を比較すると補正前の 19に対し補正後は 024と約 110になり補正前は EFM信号の比例係数による影響が大きかったことが伺える図 516(d)は ∆V の指数関数フィッティングにより得られた時定数のバイアス依存性であるVB が大きくなるに従い時定数つまり電極ndashGr1界面の抵抗が増加しているつまり電圧に対して電流が非線形に変化する非オーム性の抵抗であることがわかった金属ndash有機界面の接触抵抗の非線形性はこれまで大電極を用いた測定で頻繁に取り沙汰されてきた一般に出力 (VDndashID)特性の低バイアス部が線形ではなく下に凸の加速度的増加を示している場合に接触抵抗の影響が大きいとされるこれは特に短チャネル低温の場合に顕著である [4950]また注入特性の改善をまずこの点から確認することもできる [161]このようなある程度ドレインバイアスをかけないと導通しないという特性はNecliudov らにより逆方向に並列接続したダイオードでモデル化された回路が用いられることが多い [136 172]しかしパラメータに物理的な意味づけができないことがこのモデルの問題点である5一方金属ndash有機界面を金属ndash半導体界面のアナロジーと考えその最も一般的なモデルである Schottky 障壁を介した注入モデルを用いて接触抵抗と障壁の関係を議論している研究もある [173 174]金属ndash半導体界面の Schottky障壁は両材料のフェルミ準位の違いにより発生するが有機半導体はフェルミ準位を定義することは難しいしかし接触後金属のフェルミ準位と (p型の場合)有機の HOMO準位に差が存在することは明確でありHOMO準位を半導体の価電子帯上端と同等とみなすことで同様に議論できると考えられるここで有機に対して金属側を正電位にすることはSchottky障壁において逆バイアスに相当するつまりSchottky障壁モデルでキャリア注入を記述する場合逆バイアスのダイオードでモデル化するほうが物理的な意味が備わると考えるここで結果に戻るとVB が大きくなるに従い抵抗が大きくなる傾向は逆バイアスのダイオードの特性と定性的に一致しているよってTR-EFMにより確認された非オーム性抵抗は金属ndash有機界面における金属フェルミ準位と有機 HOMO準位差に起因する Schottky障壁を通した注入特性を純粋に反映したものと結論づける

5 もし対応付けできると考えると導通開始に 5 Vのドレインバイアスを要すとき界面障壁が 5 eVということになりナンセンスである

53 単一グレインのチャネル形成評価 95

Lock-in ampLock-in amp

PLL2

Scanner

LDPSPDTip AC

FG1SampleInsulatorGate

Electrode

EFM signalSIM signal[X Y] [Ampl]

ZI-LIA

BWSIM BWEFM

∆f ac

ftplusmnfs ft Sample AC

図 517 TR-EFMFM-SIM同時測定 (TR-SIM)装置構成図

53 単一グレインのチャネル形成評価52節では一つのグレイン (Gr1)に注目しTR-EFMにより得られた EFM信号の経時変化や飽和値から単一グレインでの金属ndash有機界面電気特性の測定が可能であることを示したこの評価プロセスを活かしグレイン毎にどのような電気特性差が存在しどのような局所物性が特性差に影響を与えているかを評価したいと考えるここで4章で開発した FM-SIMは同じ単一グレインにおける界面電気特性を測定できる手法でありTR-EFMとの組み合わせにより相補的ないしは相乗的な評価が可能になることが期待される本節ではいくつかのグレインについて TR-EFM およびFM-SIMの結果を比較しつつグレイン間特性差を議論する

531 TR-EFMFM-SIM同時測定法図 517 は一部簡略化した TR-EFMFM-SIM 同時測定 (TR-SIM と呼ぶ) 用の装置構成図である基本的な要素としては図 43 と同じであるが全て ZI-LIA を用いていることバイアスフィードバックを行っていないことが 4章と異なる表 52に以下の測定で用いた測定条件を示すTR-EFM

では 5 kHzを用いており4章のように ft + fs の検出では PLLの帯域を大きく外れ測定が難しいそのため[設定値 SIM-1]では ft minus fs 成分を FM-SIM信号として用いたそのときLIAから得られる位相は本来の Vlo とは符号が逆になることに注意する (cf 式 (45))6設定値の目安として ftfs ft plusmn fs が互いの 23倍波と重ならないことこれら周波数の間隔が BWに対して十分取れること7 fs がそのグレインの測定レンジに入っていること8が必要である

FM-SIM信号強度が小さいと位相信号が非常に乱雑となるため以下では振幅位相の代わりにin-phase (SIM-Xと呼ぶ)out-of-phase (SIM-Y)の信号を取得した

Sweep-SIM TR-EFM (TR-SIM)ではパルス電圧に対する応答を測定するがpoint-by-point動作を利用すれば別の波形に対する応答も取得できる飽和値のバイアス依存を連続的に測定するため

6 ft lt fs のときは同相となる7 例えば441節で用いた ft + fs = 11 kHzでは EFM信号に大きくカップリングする8 図 411参照周波数が大きすぎると応答が全く得られない

96 第 5章 時間分解測定による有機グレイン中のキャリアダイナミクス評価

表 52 TR-EFMFM-SIM同時測定設定値

設定値 ft fs SIM BWEFM BWSIM

SIM-1 5 kHz minus 18 kHz = 32 kHz 200 Hz 50 Hz

SIM-2 2 kHz + 04 kHz = 24 kHz 100 Hz 20 Hz

に各点で FG1 から三角波を印加する方法を Sweep-SIM と呼ぶSweep-SIM では測定条件として[設定値 SIM-2]を用いた

532 グレイン依存性と TR-EFMSIM対応関係Gr2上 (図 57(b))において測定条件 [設定値 SIM-1]tp = 20 msn = 5Ap = plusmn05 V middot middot middot plusmn25 Vのパルスで TR-SIM測定した+25 Vのシーケンスの注入時排出時の時間分解 EFM像FM-SIM

像 (SIM-X SIM-Y)をそれぞれ図 518の (b)ndash(d)に示す図 518(a)のように測定範囲には Gr2aGr2bの二つのペンタセングレインが含まれているEFM像に注目すると注入開始後 2ndash14 msでGr2a上は同じ応答でありGr2aの応答時間は EFM信号の応答時間よりも短いことが示唆される一方 Gr2bは注入開始後 2ndash14 msで徐々に変化しているこれらグレインの注入時の時定数は 52節で測定した Gr1の時定数とは異なる図 518では Gr2a Gr2bを同時に測定しているため測定ごとに異なる応答時間が検出される可能性は排除できていることを加味するとグレインによって電極ndashグレイン界面抵抗が異なりうることを示している一方排出時は両グレイン共に 2 msでほぼEFM信号が収束しているGr2b上の EFM信号は排出後 2 msのみ若干残存しており注入時の特性差が排出時にも現れることを示唆しているこのようにGr1よりも応答の遅い Gr2bにおいても注入よりも排出過程の方が応答が早いことがわかり52節での議論は一般化できる事象だと考えられる参考としてGr2aおよび Gr2b上で 25点平均した経時 EFM信号および EFM信号を指数関数フィッティングした場合の時定数 (概算)を図 519に示すGr2bの注入時は飽和値が不明なためGr2aの飽和値と同じと推定してフィッティングを行った次に SIM-XY像 (図 518(c) (d))に注目するノイズ軽減のために TR-EFMに比べて小さい BW

(50 Hz) を用いているため測定の応答時間は約 10 ms であり電圧変化後 2 ms の SIM 像は無視する全体の傾向として注入前 minus1 ms と排出後 14 ms はほぼ同じ SIM 像となっておりパルス電圧印加前後での特性変化は小さいと考えられるGr2a について注入前後で SIM-X の強度は若干大きくなりSIM-Y では顕著に増加したここで興味深いことに注入後 14 ms の像に破線で囲ったとおり絶縁膜上の Gr2a ((ins)とする)のみならず電極上を覆う部分 (on)においてもほぼ同じ強度の SIM-Y 信号が得られている4 章でも議論したとおり交流電流の経路中に局所インピーダンスが存在する場所で SIM信号が変化するがここでは Gr2a(on)まで一様であることからGr2a(ins)ndashGr2a(on)間は十分導通しているといえる同じ注入後 14 msに関してGr2a(ins)の EFM

信号が電極上よりも大きいという EFM信号の比例係数変化による影響が Gr2a(on)においても現れているのが確認できることやGr2a(on)の SIM-X信号強度が Gr2a(ins)と同等で電極上よりも小さいことは同じく Gr2a(ins)ndashGr2a(on)間の導通を示唆する結果であるしかしインピーダンスの影響がないもしくは導通のないデフォルトの状態で SIM-Y信号が 0であることからSIM-Y像はグレインの導通領域の確認に非常に有効な手段であるといえる

53 単一グレインのチャネル形成評価 97

Time lapse(after change)

2 ms

2 ms

2 ms

8 ms

14 ms

8 ms

8 ms

14 ms

14 ms

19 ms(-1 ms)

19 ms

(ndash1 ms)

2 ms

8 ms

14 ms

0 ms

0 ms

(b) EFM signal (c) SIM-X(a) Topography) (d) SIM-Y

-100 mV 210 mV 0 mV 15 mV 0 mV 15 mV

150 nm

Gr2a

Gr2b

OnIns

25 VInjection

0 VRemoval

ndash1 ms

図 518 Gr2上 TR-SIM測定により得られた表面形状像 (a)時間分解 EFM像 (b)FM-SIMのin-phase像 (SIM-X)(c)out-of-phase像 (SIM-Y)(d)測定全体のうち+25 Vのシーケンスにおける注入時排出時の応答を示している

98 第 5章 時間分解測定による有機グレイン中のキャリアダイナミクス評価

0

50

100

150

200

0 10 20 30 40

EFM

sig

nal [

mV]

Time [ms]

+25 V 0 V

0

50

100

150

200

0 10 20 30 40

EFM

sig

nal [

mV]

Time [ms]

+25 V 0 V

05 V1 V

15 V2 V

25 V

(a) Gr2aτ ~ 14 ms(05 V)

τ ~ 3 ms(05 V)

τ lt 1 ms(b) Gr2b

Bias Bias

図 519 (a) Gr2a(b) Gr2b上の 25点平均 TR-EFM信号 (注入排出のみ)τは指数関数フィッティングした場合の注入排出それぞれにおける時定数の概算値

0

05

1

15

0 05 1 15

Re[

Y]

Ѭinj [ms-1]

0

05

1

15

-2 -1 0 1 2

Re

Im(Y

)

Bias [V]

0

05

1

15

-2 -1 0 1 2

Re

Im(Y

)

Bias [V]

0

05

1

15

-2 -1 0 1 2

Re

Im(Y

)

Bias [V]

(a) Gr2a

(d)

(b) Gr3a (c) Gr3b

Gr2bGr2b

Gr2a

Gr3b

Gr3a

(e) SIM-X(VB = ndash2 V saturation)

Re

Re

Re

Im Im Im

Gr2aGr2bGr3aGr3bGr1

1(2πfsτ)

図 520 (a)ndash(c) TR-SIMと SIMアドミタンス解析により得られたグレインごとのアドミタンス(実部 Re虚部 Im)のバイアス依存 (a Gr2a b Gr3a c Gr3b)(d)注入時の時定数 (逆数)に対するアドミタンス実部の関係同じプロット種は同じグレインの各バイアスにおける値を示している破線は理論値 Re[Y] = 1

2π fsτminus1(Gr1のみ fs = 600 Hzでの TR-SIM測定の VB = 2 Vの結

果を規格化して示した)

一方Gr2bは注入後もほとんど応答が得られておらず与えられた fs に対して界面抵抗が大きすぎると考えられるこのことはEFM像における応答時間が Gr2aに対して非常に大きい事実と合致する図 518で示した TR-SIM測定ではバイアスに対する SIM信号の飽和値が測定できる式 (415)

により SIM 信号から電極ndashGr2a 界面の正規化アドミタンス Y を算出した結果を図 520(a) に示す

53 単一グレインのチャネル形成評価 99

負バイアスでは SIM 信号が全く観測されずバイアスを正に大きくするに従い 4 章と同じく実部(Re)の増加が見られた図 57の Gr3a Gr3bでも同様の測定を行い得られた正規化界面アドミタンスを図 520(b) (c)に示すどちらのグレインにおいてもバイアスの正負で Y の振る舞いが大きく異なるしかし Gr3aに比べてGr2aと Gr3bの実部 (界面コンダクタンス)は一桁大きい値を示している同時にGr2aと Gr3bはバイアス変化により虚部にピークが現れており電極ndashグレイン界面抵抗の大小との相関が示唆される以上のように TR-SIMで観測される応答時間 (時定数)や FM-SIM解析から得られる電極ndashグレイン界面アドミタンスにはグレインごとに差異が存在するここで注入時の時定数 τinj は接触抵抗Rとグレインのゲート容量 C に対して τinj = RC と対応付けらるまた界面コンダクタンス Re[Y]

は式 (415)より Re[Y] = 1(2π fsCR)であるため

Re[Y] =1

2π fsτminus1 (58)

のように時定数の逆数に比例することがわかるこれまで TR-SIM 測定を行ったグレイン (Gr2a

Gr2b Gr3a Gr3b) に関して注入時の経時 EFM 信号の指数関数フィッティングで得られた時定数および飽和 (蓄積) 時の界面コンダクタンスを各シーケンスから算出しプロットした結果を図520(d)に示すただしGr1のみ VB = 2 Vの値のみ示しておりまた [設定値 SIM-1]とは異なりf primes = 600 Hzで測定したため実効的に fs = 18 kHzで測定されうる値となるよう f primes fs 倍した界面コンダクタンスをプロットしたまたGr2bの SIM信号は測定限界以下の強度であったため0とみなしてプロットした図 520(d) より1τinj が大きい (時定数が小さい) グレインでは界面コンダクタンスも大きい傾向が明らかであるこの結果よりグレインごとに測定された EFM 信号の応答時間の違いが測定ごとの探針やバイアスといった測定条件による影響で現れているわけではなくグレインごとの電気特性の違いを反映したものであることを保証できるただし理論より考えられる直線からは大きく外れる結果となったこの原因として一つは電極ndashグレイン界面の静電容量の影響が考えられる界面アドミタンスの並列容量 Clo の存在により見かけの時定数がτapp = R(C +Clo)に変化することは図 511(a)と同様のモデルから容易に導出できるそのため理論上の時定数 τに比べて τapp gt τとなるしかし図 520(a)ndash(c)より界面アドミタンスの虚部つまり CloC はたかだか 1であることから全てこの影響であるとは考えにくい第二にEFM信号の応答時間と FM-SIMでは厳密には測定している過程が異なることが挙げられるFM-SIMでは注入特性のうち飽和 (蓄積)時の特性を反映したものでキャリアの動きとしては蓄積状態のまま微量な注入排出が起こっている一方TR-EFMの注入時は 52節で述べたように排出時に比べて接触抵抗が大きいためFM-SIMから評価される「コンダクタンス」の方が大きめに算出される可能性はあるその影響を考慮すると図 520(d) より注入時と蓄積時のコンダクタンスがグレインに関わらず線形関係にあることが読み取れそれらの過程が全くの別物ではなく結びついていることを示唆しているつまり注入時と蓄積時の抵抗比が Aundashペンタセングレイン界面一般に成立しうることが考えられる蓄積時の時定数 τacc に対して注入時の時定数が τinj = ατacc と示されるつまり実効的な注入時蓄積時の抵抗比が αで表されるとするVB = 2 Vでの τminus1ndashRe[Y]プロットの線形フィッティングからα = 62 plusmn 08と算出されたこの結果はグレインごとに観測するとGr2a と Gr2b のように電極ndashグレイン界面抵抗は大きく変わりうるがマクロで考えると蓄積状態に比べて注入時は接触抵抗が α倍大きいことを意味しているこれまでの研究ではマクロ電極の

100 第 5章 時間分解測定による有機グレイン中のキャリアダイナミクス評価

-410 mV 410 mV 0 mV 17 mV 0 mV -12 mV

(a) EFM signal (b) SIM-X (c) SIM-YBias(VB)

+2 V

+15 V

+1 V

+05 V

0 V

ndash05 V

ndash1 V

ndash15 V

ndash2 V

(i)Metalndashorganicinterface

(ii)In-graindisorder

(iii)Whole grain

On

図 521 Gr1上 Sweep-SIM測定結果

TLM測定や KFMを用いた OFETの接触抵抗評価が行われてきたがこれらは基本的には蓄積状態での抵抗を見ている一方本研究より注入時は蓄積時よりも大きな金属ndash有機界面の接触抵抗が現れることが分かったそのためキャリア注入が動作を支配する OFETのオン動作にかかる時間は蓄積状態での抵抗から見積もられるよりもずっと長く要することに注意せねばならない

53 単一グレインのチャネル形成評価 101

-10

0

0 200 400 600

-SIM

-Y [m

V]

Distance [nm]

(a) SIM-Y(VB = ndash1 V)

(b)

(c)

0

25

50

75

100

0 05 1 15 2

d ove

r [nm

]

Bias [V]

90Average

dover

Elec

trod

e

Left edge

図 522 Gr1 上 Sweep-SIM 結果 (i) 蓄積状態の SIM-Y 像における Gr1(on) 導通領域評価結果(a)で示す線分に沿った SIM-Y像のプロファイル (b)に対しGr1上平均に対して SIM-Y信号が90となる電極端からの距離 dover をバイアス電圧に対してプロットした (c)

533 バイアス分光による導通領域変調評価前節では TR-EFMと FM-SIMを同時測定したときのそれぞれの手法の関係性について議論し

FM-SIM信号の利用によりグレインの導通領域の評価に利用できることが分かったこれまでの議論はグレイン内分布がない領域について評価していたが522節でも述べたように空乏時にはグレイン内ポテンシャル勾配が見られキャリア蓄積状態によってグレイン内の導通状態が変化していることが考えられる本項ではグレイン内外の分布を調べるために 531節で述べた Sweep-SIM

を用いグレインを空乏状態から蓄積状態まで変化させた際の SIM像変化と 521節の結果とを比較し評価を行う測定条件 [設定値 SIM-2] を用いSweep-SIM として各点 400 ms の期間に plusmn25 V の三角波を電極に印加する測定を行った結果のうちBWによる SIM信号遅れが現れていない plusmn2 Vの範囲について EFM像SIM-XSIM-Yを再構成したものを図 521に示すEFM像は図 512(a)の飽和値プロファイルに対応する量であり三角波の印加でもグレイン上の電位が十分追従していると考えられる一方SIM-X 像における Gr1 の見え方が VB によって変化しているここで+2 V からminus2 Vのバイアス範囲を(i) SIM-X像が均一 (蓄積状態VB ge minus05 V)(ii) SIM-X像が不均一 (半空乏状態minus05 V le VB le minus15 V)(iii) SIM-X像に現れない (空乏状態VB le minus15 V)3つの領域に分けることができる

(i)蓄積状態 (i)では SIM-Xに限らず EFM像SIM-Y像でも Gr1内で応答が均一であり電極ndash

グレイン界面の抵抗のみ影響する図 511(a)のモデルを適用して評価を行ったことはこれまでに述べた一方SIM-Y(図 521(c))に注目するとGr2aと同様に絶縁膜上のグレインのみならず電極上を覆う部分 (Gr1(on))においても SIM-Y信号が現れているがこの範囲がバイアスにより変化していることが分かるつまりバイアスによって電極上を覆う部分の導通領域が変調されているそこで次のようなプロセスで導通領域長さ dover を定義算出した図 522(a)の線分に沿った SIM-Y

プロファイルを用いGr1の絶縁膜上領域 (Gr1(ins))の SIM-Y信号平均値に対して 90の大きさと

102 第 5章 時間分解測定による有機グレイン中のキャリアダイナミクス評価

(b) SIM-X (VB = 0 V)(a) Topography (c) SIM-X (VB = ndash1 V)

Gr1

PlateauPlateau

図 523 Gr1上 Sweep-SIM結果 (ii)半空乏状態の SIM-X像とグレイン形状の比較(a)表面形状像と Gr1上の台地 (Plateau)位置 (破線)(Sweep-SIMとは別取得像)(b) VB = 0 V (c) VB = minus1 Vにおける SIM-X像Gr1形状を白破線で台地領域を赤破線で示した

なる Gr1(on)での位置を考え電極端からの距離を dover とするこれを各バイアス (01 V刻み)で行った結果を図 522(c)に示す100 nm以上の距離は像の左端に位置するため測定不能である導通領域長さは正バイアス電圧に対して単調に増加したが12 Vを境にその増加傾向が増している一方バイアス依存アドミタンス解析 (図 520(a)ndash(c))より電極ndashグレイン界面コンダクタンスの増加は minus05 Vのバイアス電圧で開始していることを確認しており導通領域長さの増加開始はグレインの導通開始電圧よりも大きな正バイアス電圧が必要ということになる

(ii)半空乏状態 VB = minus1 Vのときの SIM-X像 (図 521(b))では Gr1内の信号に明確な不均一性が現れたGr1の形状と SIM-X像を比較するためVB = 0 V (i蓄積状態)minus1 V (ii半空乏状態)でのSIM-X像上に表面形状から確認できるグレインの輪郭を破線で示した (図 523(b) (c))VB = 0 V

のときSIM-X信号が得られている領域は EFM信号と同じくほぼグレイン内部のみである一方VB = minus1 VではGr1の上右下に伸びる 3枝 (それぞれ上枝右枝下枝と呼ぶ)の分岐部は VB = 0 V

と同程度の信号が得られているのに対しそれぞれの枝の先まで信号が到達していないこの結果は(i)の蓄積状態とは違いGr1内にも無視できない抵抗成分があることを示しているこの抵抗の由来として分布定数回路のように距離に関係するものグレイン境界のように構造に関係するものそれ以外の影響の 3通り考えられる

532 節で述べたようにFM-SIM と TR-EFM の信号にはそれぞれ関係がある図 523(c) のSIM-X 信号では応答消失後はより遠いところの応答は見ることができないがTR-EFM では全体から信号が得られるためGr1の分岐先についても何らかの変化が観察できると考えられる図524(a)に Gr1上の (I)電極付近 (分岐部)(II)遠方 (分岐先右枝)における空乏時 (VB = minus1 V)の経時EFM信号を示す電極付近に比べて遠方では EFM信号 (の絶対値)が小さいこのこと自体は負バイアス時の EFM信号飽和値プロファイル (図 512(a))や校正後 ∆V 飽和値プロファイル (図 516(b))

からも見て取れるしかしそれに加えて電圧変化後 2 ms以降の信号に注目すると電極付近ではほとんど変化していないのに対し遠方では有意な傾き (経時変化)が見て取れるこれはキャリア輸送による電位の時間変動が起こっていることを示すものであり負バイアス時 (空乏時)の ∆V 飽和値プロファイルの勾配 (図 516(a))は静的なキャリア分布による電位勾配ではなく何らかの抵抗により発生していることを示している図 524(a)で見られた EFM信号の経時変化率 (Vs)を各負バイアスにおいて全点で算出しマッピングしたものを図 524(b)ndash(f)に示す経時変化率の算出には元の TR-EFM信号に対して付近 3 times 3

点平均で平滑化し電圧変化後 (10 plusmn 65)msのデータ点の最小二乗線形フィッティングにより得た

53 単一グレインのチャネル形成評価 103

-30

-20

-10

0

10

0 5 10 15 20

EFM

sig

nal [

mV]

Time[ms]

Near (I)

Far (II)

Gr1

05 Vsndash05 Vs

(I)

(II)

(a) EFM signal at VB = ndash1 VEFM-slope images in ldquodepletionrdquo regime

(b) ndash05 V

(c) ndash1 V

(d) ndash15 V

(e) ndash2 V

(f) ndash25 V

Plateau

Slope

Slope

図 524 (a) TR-EFM 測定で得られた Gr1 上の電極付近 (Near I) および遠方 (Far II) での空乏時の経時 EFM 信号比較(b)ndash(f) TR-EFM 結果より求めた空乏時 EFM 信号の経時変化率マップ(b) VB = minus05 V (c) minus1 V (d) minus15 V (e) minus2 V (f) minus25 VGr1輪郭を黒破線台地領域 (図523(a)参照)を赤破線で示した

(a) ndash05 V (d) ndash2 V

(e) ndash25 V(b) ndash1 V

(c) ndash15 V

08 Vsndash08 Vs

EFM-slope images in ldquorecoveryrdquo regime

(f)

Grain

Disorder

NegativeElectrode

図 525 (a)ndash(e) TR-EFM結果より求めた回復時 EFM信号の経時変化率マップ(a) VB = minus05 V(b) minus1 V (c) minus15 V (d) minus2 V (e) minus25 VGr1輪郭を黒破線台地領域 (図 523(a)参照)を青破線で示した(f)回復時の EFM時間応答を説明する模式図Disorderでのキャリア蓄積が十分ではないため抵抗として現れる

まず minus05 V (i)ではグレイン内で変化率に大きな差は見られない一方 minus1 V (ii)のときGr1の電極付近の変化率はほぼ 0なのに対し遠方では経時変化率が負であることが明瞭に観察できる特にGr1下枝では広い範囲で同程度の経時変化率であり分布的な抵抗と距離による影響ではなくグレイン内の局所抵抗が作用していると考えられるここでグレインの表面構造と比較するため図 523(a)の Gr1表面形状より台地 (Plateau)部分の輪郭を取得し経時変化率マッピングに赤破線にて重ねて示しているminus1 V (図 524(c))での経時変化率が負の領域は例えば右枝では変化率が 0

に近い領域が台地部分に侵食しているように台地部分と完全に対応しているとはいいがたいこれは同様に台地部分を桃破線で重ねて示した SIM-X像 (図 523(c))において SIM-X信号が台地部分

104 第 5章 時間分解測定による有機グレイン中のキャリアダイナミクス評価

GrainChannel

Electrodendashgrain Channel Disorder

Disorder

ON

Resist

ON ON

OFF OFF OFF

Electrode

SubstrateInsulator

VB(ndashVG)

2 V

ndash2 V

0 V

ndash1 V

(a)

(b)

(c)

(d)

(i)

(ii)

(iii)

図 526 TR-EFMFM-SIM評価から想定される単一グレインのチャネル形成過程の模式図

まで侵食していることからも確認できるよってGr1台地部分との境目ではなく表面形状から確認できないグレイン内の欠陥が抵抗として働いていると考えられる最後にVB le minus15 V (iii)では全体が同程度の変化率となっており電極ndashグレイン界面が制限していることが分かる同様に TR-EFM の回復時について11 plusmn 65 ms のデータ点の線形フィッティングで算出した

EFM信号経時変化率マップを図 525に示す回復時もやはりminus05 Vでは Gr1内は経時変化率が均一だがminus1 Vから minus25 Vでは Gr1の上枝および下枝において経時変化率が増加しているこれは電極付近では迅速なキャリア再注入により電圧変化の 10 ms後には十分収束しているが下枝等遠方ではグレイン内の局所抵抗によりキャリア再注入が阻害され負電位から 0への緩和が遅れるため他の部分よりも経時変化率が大きくなったと考えられる (図 525(f))さらにminus1 Vからminus25 Vの下枝の経時変化率が異なる領域は Gr1台地部分全体よりも小さいことが空乏時 (図 524)

の経時変化率マップよりもよくわかるこのような (見かけの)グレイン境界とは異なるペンタセングレイン内の欠陥はこれまでの研究でも報告されているNakamuraらの AFMポテンショメトリーを用いたペンタセン薄膜の電位測定から見かけのグレイン内部でも電位ドロップが起きることが指摘されている [31 32]それらはグレイン内の浅い溝状構造と相関があるとされており基板温度を常温以上にしてペンタセン薄膜を作製した際に起こりやすい走査型近接場光顕微鏡を用いた局所赤外分光評価によりこの浅い溝は温度変化で発生したペンタセン薄膜内部の歪みを薄膜相からバルク相への相転移で緩和したことにより生じたものであると評価された報告があり [175]相間の境界またはバルク相自体の低移動度性に由来する局所抵抗といえるこのようにペンタセングレインでは形状には現れてこない局所抵抗が存在し本研究でもそれが SIM-X像の変化または EFM

信号経時変化率の違いとして現れたと考えられる以上の Sweep-SIMおよび TR-EFMの経時変化率評価の結果から電極―単一グレインにおけるチャネル形成過程は図 526 のように示すことができるVB lt minus1 V (iii) では電極―グレイン界面グレイン内 (チャネル)共に空乏化しOFF状態である (図 526(d))VB sim minus1 V (ii)付近ではチャネルは導通しON状態となるがグレイン内にも存在する欠陥ではまだ空乏状態であり抵抗が存在

54 本章のまとめ 105

する (図 526(c))このチャネルの導通と局所欠陥による導通電圧の違いはOFETにおけるしきい値電圧の違いとも考えられ3章で確認したグレイン境界におけるしきい値電圧変調効果と合致する結果であるVB gt minus1 V(i)では欠陥部分も十分導通しグレイン内は均一となる (図 526(b))そのため系全体の抵抗は電極―グレイン界面のみとなるさらに VB を増加させるとグレインの電極上領域まで導通するようになり実効的な接触面積の増加から接触抵抗の低減が起こるこのことは接触抵抗のゲートバイアス依存性ともとることができる

54 本章のまとめ本章では従来手法では困難なキャリアダイナミクスの可視化評価に向け3 章で培った point-

by-point 手法を用いた実用的な TR-EFM 測定システムを構築した測定系由来の応答遅れが PLL

のバンド幅のみに依存するという重要な知見を得た上で1 msという時間分解能を達成したペンタセン単一グレインに適用することで単一グレインへのキャリア注入排出過程を可視化し注入排出で非対称な接触抵抗およびバイアス電圧依存が現れることを明らかにした

FM-SIMとの併用による多角的評価ではFM-SIMによる界面インピーダンス評価とグレイン上導通領域評価の 2つの側面から活用可能であった界面コンダクタンス測定によりグレインごとに異なる EFM信号の時定数が界面コンダクタンスと相関があることがわかり注入時と蓄積時の金属ndashグレイン界面抵抗の比として定量的に示すことができたまたバイアス分光評価と TR-EFM

の経時変化率評価により単一グレイン内部の欠陥による局所抵抗があることを明らかにした

107

第 6章

結論

61 総括本論文では従来の原子間力顕微鏡技術の改善やマクロ評価技術を組み合わせた新規測定手法の構築を通して金属ndash有機界面および近傍の局所電気特性評価を行ってきた以下ではそれぞれの項目の総括を述べる

第 3章【AFM電流測定法を用いた有機グレインの局所電気特性評価】第 3章では AFM電流測定法の一つである PCI-AFMを用いた OFETの局所電気特性評価に向けた改善および測定を行った改善の面ではまず従来の PCI-AFMでは非現実的であった真空中動作を Q値制御法の利用により実現したこれにより雰囲気による OFET電気特性への影響を排除した測定が可能となったまた効率的な動作パラメータ設定と柔軟な point-by-point動作設定が可能な制御プログラムの作成を通したフレキシブルな PCI-AFM システムを構築したこの寄与が第 5

章の TR-EFM測定システム構築の足がかりとなった測定ではマルチグレイン薄膜および単一グレイン上で評価を行ったマルチグレイン薄膜では大気真空両雰囲気中で PCI-AFM測定を実現するとともにグレインごとの局所 OFETの ON状態への変化を電流像として可視化したこのような表面形状と電流の同時マッピングによる評価は特性が変化する位置を像として明確にすることができる点が従来の AFM電流測定法に比べて優位である

第 4章【新規局所インピーダンス評価法の開発と金属―有機界面物性の評価】AFM電流測定法が電極ndashグレイン界面の電気特性評価に不向きであることを受け第 4章では新規局所インピーダンス評価法として周波数変調走査インピーダンス顕微鏡 (FM-SIM)を提案開発した開発において等価回路モデルから FM-SIM信号と電極ndashグレイン界面のインピーダンスを一対一に対応させることができることを導き等価回路定数を半定量的に算出可能な周波数解析法を考案した同手法を適用することで Aundashペンタセン単一グレイン界面のインピーダンスが抵抗ndash容量並列回路で記述できることの一般性を明らかにしたまたバイアス依存性よりAundashペンタセン界面の準位整合状態と接触抵抗が相関することを見出したことはモルフォロジーの影響を排除し

108 第 6章 結論

た真の金属ndash有機界面電気特性と電子物性を結びつけた初の試みといえる第 4章では開発した FM-SIMを用いて電極表面の自己組織化単分子膜 (SAM)処理による移動度向上の要因の評価も行ったOFET 動作中においても FM-SIM 測定が行えることを示しソース電極ndashチャネル界面のコンダクタンス増加とキャリアトラップ減少が SAM 処理による影響とわかった

第 5章【時間分解測定による有機グレイン中のキャリアダイナミクス評価】第 5章では第 4章とは違う観点からの電極ndashグレイン界面電気特性評価の試みであるとともに従来の AFM応用手法では評価しえない有機グレイン中のキャリアダイナミクスを評価するため第 3

章の point-by-pointシステムを活用した時間分解静電気力顕微鏡 (TR-EFM)を考案した測定系由来の応答遅れが PLLのバンド幅のみに依存することを示し時間分解能 1 msの電位応答測定を実現したペンタセン単一グレインの測定では十分な空間分解能でキャリア注入排出する過程を可視化することができ注入排出過程では接触抵抗が支配的であると分かった新規比例係数校正法から一般的な金属ndash有機界面の電子準位モデルで解釈可能な注入バイアス電圧依存性を確認した最後にFM-SIMの併用による相補的相乗的評価を行ったTR-EFMFM-SIM同時測定を複数のグレインに適用しグレインごとの注入過程の時定数および界面コンダクタンス値を測定したそれぞれのグレインの時定数は異なるが時定数の逆数と界面コンダクタンスは線形な関係にあることを示し注入時と蓄積時の接触抵抗がある一定の比をとることを示したまたFM-SIM像による導通領域可視化と TR-EFM測定の空乏時回復時の EFM信号時間変化率評価から単一グレイン内部においても局所抵抗を生み出す欠陥が存在することが判明した

62 今後の展望本論文では電極ndashグレイン界面を中心に様々な微小抵抗の静的動的電気特性評価が可能な手法や解析法を述べてきたこれまでで得られた物性的知見や手法をさらに推し進めることで物性的な応用と材料的な応用が期待される

物性的応用 有機ndash絶縁膜界面物性評価 金属ndash有機界面は接触抵抗という形で OFETへ直接的に影響するが有機ndash絶縁膜界面はトラップや耐久性といった内在的な影響をも有しており金属ndash有機界面物性と同じくらいに大きな OFETの制限要因であるしかし有機ndash絶縁膜界面もグレイン内部境界といった局所構造によりその影響の程度が異なる上に膜厚方向についてもキャリア蓄積効果と密接に関わってくるためこれまで同様マクロ薄膜での評価では困難であるさらに経時的変化が予想される物性のため過渡的な応答評価が可能であることが必要となるここでTR-EFM は特にこの過渡応答に強力な手法であり有機ndash絶縁膜界面物性への展開に有利であると考えられる本研究ではキャリア注入や排出時の時間は一定にして測定したが有機ndash絶縁膜界面では蓄積時のキャリア量とその時間に依存したキャリアトラップが起きるため蓄積時間変調のようなこれまでと異なるパラメータへと時間分解測定を拡張することで有機ndash絶縁膜界面物性評価に繋げられると期待される先に TR-EFMや FM-SIMを活用し微小抵抗を可視化することで

62 今後の展望 109

Insulator

Substrate

Trap

Resistance

Conduction

図 61 今後の展開の模式図本研究をナノワイヤのようなナノスケール材料へ適用することで分子ナノエレクトロニクス材料の局所特性制限要因の解明が期待される

有機半導体グレインやグレイン境界微小欠陥が生み出すキャリアトラップの程度を評価比較していくことが本研究の物性的応用と位置づけられる

材料的応用 ナノスケール材料への展開 本論文では測定対象としてサブ micromスケールの有機半導体グレインを用いたしかし金属電極との界面における接触抵抗や内部の微小抵抗といった局所電気特性は有機薄膜に限らず様々なナノスケール材料においても有する例として高分子ナノファイバーやカーボンナノチューブ (CNT)

は非常に微小なチャネル幅チャネル長をもつ FETへと応用が期待される一方で電極間への架橋が困難であることやそれぞれのナノファイバーCNTにおける電気特性差が生じることが物性解明の障害であるまた近年炭素のナノシートであるグラフェン利用も急速に発展しており化学的気相成長法や酸化グラフェンの還元といった産業応用を狙った手法で作製されたグラフェンの電気特性評価も必須となる本研究で提案した FM-SIM や TR-EFM の特長として非架橋非接触で電気特性評価が可能であることを鑑みると以上のような架橋の困難なナノスケール材料においても適用できると期待されるさらに静電気力検出をベースとした非接触測定手法であることから幅が数 nmと非常に微細なスケールであっても可視化可能である利点を有する上述の絶縁膜界面物性評価にもあるような時間分解測定の拡張も踏まえた多角的評価手法によりナノスケール材料の 1次元伝導度微小抵抗キャリアトラップといった局所電気特性評価を行うことで分子ナノエレクトロニクスへの展開が本研究の材料的応用と位置づけられる (図 61)

111

付録 A

静電気力顕微鏡の検出モード比較

本論文では 4章5章にて周波数変調方式の静電気力顕微鏡 (FM-EFM)をベースとした測定手法を扱ってきたカンチレバーの共振 (励振)周波数を f0交流バイアスの周波数を fm とすると交流バイアスに起因する静電気力成分は f0 plusmn fm に生じる (図 A1(a))これまでの FM-EFMでは 26

節で述べたように PLLを用いて周波数信号に変換した上で (図 A1(b))ロックインアンプ (LIA)により fm 成分を検出することで EFM信号を測定できるこの手法は Kitamuraらによって提案された手法 [176]でありここでは ldquoConventional-EFMrdquoと呼ぶこととするConventional-EFMの問題点としてPLLのバンド幅 (BWPLL)を変調周波数 fm より大きくする必要があるが大きな BWはループの発振を招くためあまり fm を大きくできないことにある一方図 A1(a)のように f0 plusmn fm 成分を直接ロックイン検出することによっても静電気力成分が検出できることが予想される本研究で用いた LIA である Zurich Instruments 社の HF2LI-MF (以下 ZI-LIA)にはモジュールを入れることで FM変調された信号を直接ロックイン検出する機能を有しているこれにより EFM 信号を測定する手法を Sideband-EFM と呼ぶSideband-EFM ではPLLを介さないためConventional-EFMに比べて fm を大きくでき測定速度を向上できると考えられている本章では Conventional-EFMと Sideband-EFMをそれぞれの測定 (応答)速度および SNの観点から比較するなおこの研究は京都大学大学院工学研究科馬詰彰奨学寄附金の支援で実現したカナダMcGill大学への海外研修の際に取り組んだものである

理論的比較カンチレバーの共振 (励振)周波数を f0振幅を A交流バイアスの周波数を fm静電気力による周波数変調度 (つまり所望の信号)を fp とするとカンチレバーの変位信号 s(t)は

s(t) = A cosΩ(t) = A cos[2π f0t +

fpfm

sin(2π fmt)]

(A1)

と表されるFM検出方式では周波数つまり位相 Ω(t)の微分を検出するためPLLの出力は1

2πdΩdt= f0 minus fp cos(2π fmt) (A2)

となるConventional-EFMでは fm 成分を検出するがその EFM信号の大きさは fp であり変調周波数に依存しない一方微分は周波数軸に対して積の形で現れるため変位信号におけるホワ

112 付録 A 静電気力顕微鏡の検出モード比較

(a) Signal

Sideband

PLL BWConventional

Noise level

f0f

f0+fmf0ndashfm

(b) Frequency shift

fmf

s(t) dΩdtBWPLL

図 A1 FM-EFMにおける変位信号に含まれる周波数成分の模式図(a)変位信号の周波数成分と PLLおよび Sideband-EFMによる検出領域の模式図(b) (a)から PLLにより得られた周波数シフトの周波数成分と Conventional-EFMによる検出領域の模式図

PLL2

LIA2

LIA1

BWLIA

BWLIA

BWPLL1

ZI-LIA ZI-LIA

BW100 Hz

fm f0fm

fm

f0+fm

PLL1

Deection signal Deection signal

EFM signalEFM signal

Conventional Direct sideband(a) Setup

Cantilever

Electrode

(b) (c)

図 A2 (a) ConventionalSideband-EFM のパルス電圧応答比較の共通セットアップ模式図(b)Conventional-EFMのブロックダイアグラム(c) Sideband-EFMのブロックダイアグラム

イトノイズは周波数シフトでは周波数に比例して大きくなるよってConventional-EFMの SN

は fm に反比例することがわかる一方変位信号の cos[ fp

fmsin(2π fmt)]部は Bessel関数で展開できるが fp fm の条件下では以下

の形に簡略化できるs(t) A

[cos 2π f0t plusmn fp

2 fmcos 2π( f0 plusmn fm)t

](A3)

f0 + fm 成分を直接ロックイン検出した場合EFM信号の大きさは A fp2 fmとなり fm に反比例する

一方ノイズは一定値でありSideband-EFMの SNは原理上 Conventional-EFMの SNと同じであることが予想される

パルス電圧応答比較5章の TR-EFMと同じく導電性試料にパルス電圧を加えた際の EFM信号の過渡応答を比較した (図 A2(a))図 A2(b) (c) はそれぞれ Conventional-EFM および Sideband-EFM において EFM

信号を検出する回路のブロックダイアグラムである変調周波数は fm = 1 kHz 10 kHz について評価したConventional-EFM では PLL1 の BW を BWPLL1 = 2 kHz ( fm = 1 kHz のとき) 10 kHz

( fm = 10 kHz) としたSideband-EFM では内部で PLL (PLL2) が搬送周波数 f0 を測定しデジ

113

0 02 04 06 08

1 12

0 10 20 30 40

Sign

al

Time [ms]

0

01

02

03

0 10 20 30 40

Sign

al

Time [ms]

100 Hz100 Hz(signal times 05 oset)

70 Hz

70 Hz (oset)

50 Hz50 Hz

30 HzBWLIA 20 Hz

30 HzBWLIA 20 Hz

(a) Conventional (1 kHz) (b) Sideband (1 kHz)

(c) Conventional (10 kHz) (d) Sideband (10 kHz)

0

02

04

06

08

1

-5 0 5 10 15

Sign

al

Time [ms]

0

05

1

15

2

-5 0 5 10 15

Sign

al

Time [ms]

500 Hz300 Hz200 Hz100 Hz

BWLIA

500 Hz300 Hz200 Hz100 Hz

BWLIA

図 A3 ConventionalSideband-EFM のパルス電圧応答比較結果(a) (b) は fm = 1 kHz でのConventionalSideband-EFM結果(c) (d)は fm = 10 kHzでの結果を示すただしTime lt 0 msではパルス電圧のバイアスは 0 VでありTime 0 msで 15 Vである

タル的に f0 + fm の周波数信号を参照としてロックイン検出することで実現しているそのときのPLL2の BW設定は 100 Hzとし検出される搬送周波数の fm による変動を抑えた両者の LIAのBW (BWLIA)は同じ値で比較を行った図 A3 に EFM 信号の過渡応答測定結果を示すまず fm = 1 kHz のとき図 A3(a) のように BWLIA を増加させるに応じて Conventional-EFM の応答速度が向上しており5 章での議論と合致するそれに伴い SN が低下していることは上述のとおりである一方Sideband-EFM はBWLIA = 30 Hzまでは Conventional-EFMと同等の SNおよび応答速度の EFM信号が得られているがそれよりも BW を大きくすると所望ではない交流信号が現れてしまったこの周波数は約2 kHzであり変調周波数の約 2倍である

Conventional-EFMでは困難となる変調周波数の高い場合 ( fm = 10 kHz)にも定性的に同じような応答が得られたConventional-EFMではノイズが増加するものの 0 ms前後での応答差がまだ確認できるがSideband-EFMでは BWLIA = 500 Hzの時点で確認不可能であるこのように Sideband-EFM で大きな交流信号が EFM 信号に現れる原因として搬送周波数 (共振周波数)成分の影響があげられる図 A1(a)や図 A2(c)で示したようにSideband-EFMでは変位信号からそのままロックイン検出しているがこのとき LIA の BW を大きくしすぎると搬送周波数 f0 成分にかかり始める一方Conventional-EFM では周囲 fm に Sideband-EFM のような大

114 付録 A 静電気力顕微鏡の検出モード比較

きな信号はないそのためConventional-EFMよりも Sideband-EFMのほうが LIAの BWを上げにくいと考えられるBWを小さくして測定したとしても5章で述べたように応答速度は LIAのBW にのみ依存することから高い変調周波数を扱うメリットはないさらに今回の測定ではfm = 10 kHzという高い変調周波数においても SN的に Sideband-EFMの優位性は認められなかったSideband-EFMの問題点を解消する方法としてLIAを二段構成にする方法がある [177]一段目の LIAにて搬送周波数で変位信号のロックイン検出を行うことで搬送波成分が直流となり二段目の LIA では問題とならないConventional と Sideband を正しく比較する場合にはこの方法を用いることが望まれる

115

付録 B

FM-SIMの正規化アドミタンス評価の補足

4章では周波数変調走査インピーダンス顕微鏡 (FM-SIM)を用いてAundashペンタセン単一グレイン界面インピーダンスが RC並列回路で表されることを説明した本編では式 (410)を用いて正規化アドミタンスに変換したが本章では正規化 FM-SIM信号 (γ)から視覚的に変化を読み取る方法について説明する

アドミタンスグリッド正規化アドミタンス Ynorm(式 (415)) を導入すると式 (410) より正規化 FM-SIM 信号は次のようにかける

γ =1

1 + jYminus1norm

(B1)

ここでYnorm の実部 (正規化コンダクタンス)虚部 (正規化サセプタンス)をそれぞれ g cと表す書き下すと以下のようになる

g =1

2π fsCiRlo(B2)

c = CloCi

g cのうち片方を固定し片方を 0から infinまで変化させた際の正規化 FM-SIM信号の軌跡 (γプロット)を図 B1に示すcを固定しgを変化させた際は γの周波数依存性と同じく γ = 1を通る径の異なる半円となる (破線)これは式 413において f と τr(つまり Rlo)が等価であることと対応する一方gを固定しcを変化させると点線のような軌跡をとるここで任意の γが与えられたときこの平面上のどこかにプロットできるプロット点を通るであろう gの軌跡から cがcの軌跡から gが読み取れる図 B1に示す軌跡をアドミタンスグリッドと呼ぶアドミタンスグリッドの利点は連続的なパラメータ変化に対するアドミタンス変化の概形を読み取ることである図B1を見ると分かるとおりg c lt 01または g c gt 10の領域は γの変化に対しての g cの変化が非常に大きいこれは本編のようにチャネルの ONOFF時の変化を Ynorm の変化として算出するときにFM-SIM信号強度が小さいと問題が生じる一方Ynorm を値として計算せずアドミタン

116 付録 B FM-SIMの正規化アドミタンス評価の補足

0

0

0

05

-05

1

01

1

10

g

cinfin05 1 2 10

Re[γ]

Im[γ] (Suscept)

(Conduct)

Ampl

PhaseRlo

Clo

g-1

c

Normalized

図 B1 γプロットの正規化アドミタンス (実部 g虚部 c)依存性cを固定し gを変化させた軌跡を (赤)破線でgを固定し cを変化させた軌跡を (青)点線で示しているこのような γプロットをアドミタンスグリッドと呼び任意の γ(振幅および位相)が与えられた際グリッドとの位置関係から大まかな g cの変化が読み取れる

-Imag(a) Real(a)

0

01

1

10

infin05 1 2 10

ForwardBackward

(Capacitance)

(Conductance)g

cVG = 2 V

VG = ndash3 V

図 B2 433 節のペンタセン単一グレイン上 FM-SIM 測定結果の γ プロット (アドミタンスグリッド上)Solid点が VG = 2 Vrarr minus3 Vに変化させた際 (Forward)Open点が逆方向 (Backward)での測定点である

スグリッド上に連続的にプロットすることで真値は分からなくとも変化の概形は読み取ることができる

バイアス電圧依存のアドミタンスグリッドアドミタンスグリッド上 γ プロットの例として433 節で示したペンタセン単一グレイン (グレイン A) における FM-SIM 測定結果をプロットした (図 B2)図 415 同様 VG 変化の Forward

と Backwardに関してプロットしているがプロット点の位置は違えどもその軌跡は ForwardとBackwardで非常に重なっていることがわかる433節 (図 415(c))で述べたように界面アドミタンスは VG に対してヒステリシスを示したが取りうる界面アドミタンスの値は同一であることが図B2からわかるまたグリッド線と比較すると変化の軌跡は cを固定して gを増加させた場合の軌跡に近いであろうことが見て取れるここからも負の VG 印加により界面コンダクタンスが増加し界面容量は比較的一定であることがわかる式 (B2)よりアドミタンスグリッド上で gは電極の交流バイアス周波数 fs に依存するそのため fs を変えることで g軸に沿ってプロット位置が変化することが予想される図 B3(a)に示す別のペンタセングレイン (B)に関してfs = 100 Hz 300 Hzでゲートバイアス VG 依存性を取得した結果を図 B3(b)に示すただしVG は 2 Vから minus8 Vの範囲で連続的に変化させたまずこのグレ

117

0 nm 30 nm

-05

0 05 1

fs = 50 Hz

100 Hz150 Hz

200 Hz300 Hz

500 Hz800 Hz

Imag

(a)

Real(a)

0

01

1

10

cinfin05

Conductance

g

101 2

Capacitance

VG = ndash8 V

VG

300 Hz

100 Hz

100 HzForBack

300 Hzfs

(a) Topography

(b) VG-dependence

(c) fs-dependenceElectrod

e

150 nm

Grain B

A B

図 B3 (a)グレイン Bの表面形状像(b)グレイン B((a)の x点)でのアドミタンスグリッド上 γプロットゲートバイアスを VG = 2 Vから minus8 Vに (Forward)および逆方向 (Backward)に掃引しながら測定した(c)グレイン B上周波数依存 γプロット (VG = minus1 V)

イン Bに関してもグレイン A同様に負の VG 印加に従い g軸正方向へ変化しておりキャリア蓄積に伴う接触抵抗の低減が見て取れるどちらの fs においてもその傾向が現れているが fs = 300 Hz

では 100 Hzでの gに比べて 13程度になっており予想どおりの結果となった周波数依存性との対応も調べるためいくつかの fs について図 B3(a)の線分 AndashB上をラインスキャンし電極グレイン B上の FM-SIM信号から γプロットした結果を図 B3(c)に示すグレイン Aの周波数依存性 (図 413)では周波数を掃引して測定したが非連続的に周波数を変化させても同じように半円状の変化を示すことがわかるここで fs = 100 Hz 300 Hzでの結果はそれぞれの図 B3(b)でのプロット位置と大まかに一致していることから以上の測定結果の再現性も確認できたといえる

ヒストグラムプロットγプロットは界面アドミタンスの概略的な傾向を見るのに有用だが何らかの方法で FM-SIM信号の ldquo値rdquoを抽出する必要がある代表点ラインプロファイル平均といった方法で評価はできるもののどこまでの範囲を考慮するかにおいて任意性がどうしても存在するその問題点を解消する方法として以下に述べるヒストグラムプロットがあるヒストグラムプロットでは同一領域の FM-SIM 振幅像および位相像を用い像の各点における FM-SIM信号が γプロットのどの位置に来るかを計算しγプロット内の頻度を画像化したものであるこれによりもっともらしい γ において最も頻度が大きくなりγ の位置把握に役立つ図 B4 は図 414 と同じペンタセン薄膜に対してヒストグラムプロットを適用した結果である図B4(a)の領域 [1]に対し図 B4(b) (c)で示す FM-SIM振幅位相像をそれぞれのゲートバイアスで取得し本画像から図 B4(d) (e) に示すヒストグラムプロットを得た図 B4(d) では 0 および infinの部分以外に頻度の高い領域が 2箇所見て取れるこれらは大体の FM-SIM振幅位相値からそれ

118 付録 B FM-SIMの正規化アドミタンス評価の補足

0

01

1

10

cinfin05

g

101 2 0

01

1

10

cinfin05

g

101 2

(d) [1] VG = ndash1 V

VG = ndash1 V ndash4 V VG = ndash1 V ndash4 V

(e) [1] VG = ndash4 V

Count

Large

(a) Topography (b) SIM-Ampl (c) SIM-Phase

[1]

-40ordm +50ordm2 mV 45 mV35 nm

A

C

A

C

A

C

図 B4 ペンタセン薄膜上 FM-SIM結果とヒストグラムプロット (領域 [1])(a)表面形状と領域[1](b)領域 [1]における FM-SIM振幅像(c)位相像 (それぞれ VG = minus1 Vおよび minus4 V)矢印にてグレイン A Cを示している (図 414と同一)(d) VG = minus1 V (e) minus4 Vにおける領域 [1]の γのヒストグラムプロットA Cで示した点はそれぞれ (b)内で示したグレインに対応する

0

01

1

10

cinfin05

g

101 2

VG-dependence (Grain A)

Count

Large

VG

図 B5 図 415(b)で示したペンタセングレイン A上 FM-SIMラインスキャン像から得たヒストグラムプロット

ぞれ図 B4(b)で示したグレイン A Cであることは判別できるVG を minus1 Vから minus4 Vに増加させるとヒストグラムプロットは図 B4(e)のように変化しグレイン A Cに対応する箇所が移動しているのがわかるg軸について見るとこれらは gの増加と対応していると確認できる同様に図415で示したペンタセングレイン A上における FM-SIMで得られたラインスキャン FM-SIM像からヒストグラムプロットした結果を図 B5に示す結果的には図 B2と全く同じものをプロットしているもののデータ抽出の恣意性がない分純粋な傾向を確認するのには有用と考えられる

119

付録 C

有機半導体グレイン境界のインピーダンス評価

4章では周波数変調走査インピーダンス顕微鏡 (FM-SIM)を開発し電極ndashグレイン界面に焦点を当てた局所インピーダンス評価を行ったOFET内の局所抵抗としては電極ndashグレイン界面以外にグレイン境界も大きな影響を有することがケルビンプローブ原子間力顕微鏡 (KFM)を用いた表面電位分布測定によって確認されてきた本節では 4章よりも現実の系に近い有機半導体のマルチグレイン薄膜 OFETにおいて FM-SIM測定を行いFM-SIMの電極界面以外への応用可能性や KFMとの手法比較を行う

測定条件測定試料は 422節と同様に UVおよび電子線リソグラフィにより作製した Pt電極上にペンタセンを蒸着することで作製した図 C1(a)に測定したペンタセンマルチグレイン薄膜試料の表面形状を示す図の上下にある破線で囲まれた領域に電極があり上部電極 (領域 A) をドレインとしてVD = minus1 V印加し下部電極 (E)をソース (Ground)とした上下の電極は図左半分のグレインを通じて繋がっておりこのグレインをチャネルとした OFETを形成している図中点線で示すように表面形状内のくびれくぼみからグレイン境界が判別できグレイン境界で分けられたグレインを領域 B C Dとする (図 C1(a)参照)

FM-SIM の装置構成は図 43 44 と同様であり電極 AC 電圧として振幅 Vacs = 2 Vp-p周

波数 fs = 100 Hz を用いたZI-LIA で ft + fs = 1100 Hz の ∆f の成分を検出しFM-SIM 信号とした測定では上部下部それぞれの電極を AC 電極とした測定を行いゲートバイアスVG = 1 V minus1 V minus3 V minus5 Vについて測定を行った

測定結果図 C1 に下部電極を AC 電極として FM-SIMKFM 測定した結果を示す電位像に注目すると

VG = 1 Vの時はドレインソース両電極界面 (AndashB EndashD界面)での電圧降下はほとんどなくチャネル全体にドレイン電圧が印加されていることがプロファイル (図 C1(e))からも確認できるこれは正の VG によりグレイン内が空乏化し導通していないことを示しているVG = minus1 Vでは電圧降

120 付録 C 有機半導体グレイン境界のインピーダンス評価

7006005004003002001000

14

12

1

08

06

Distance [nm]

Pote

ntia

l [V]

7006005004003002001000

30

20

10

0

Distance [nm]

SIM

-Am

pl [

mV]

7006005004003002001000

50

0

-50

-100

-150

Distance [nm]

SIM

-Pha

se [d

eg]

(b) Potential(a) Topography (c) FM-SIM ampl (d) FM-SIM phase

03 V 16 V 0 mV 50 mV -140ordm 40ordm

(g) FM-SIM phase prole(f) FM-SIM ampl proleA B C D E A B C D E A B C D E

VG = 1 V ID = 0 nA

001 nA

011 nA

028 nA

ndash1 V

ndash3 V

ndash5 V

ndash1 V

ndash3 V

ndash5 V

ndash1 V

ndash3 V

ndash5 V

VG = 1 V VG = 1 V

B

C

D

(e) Potential prole

200 nm

A

E

Source (0 V AC)

Drain (ndash1V)

Elec

trod

e

VG

1 Vndash1 Vndash3 Vndash5 V

図 C1 ペンタセンマルチグレイン OFET上の FM-SIM測定結果 (下部電極=AC電極)(b)電位像 (c) FM-SIM 振幅像 (d) FM-SIM 位相像のゲートバイアス (VG) 依存性(a) の線分 (AndashE 間)に沿った (e)電位(f) FM-SIM振幅(g) FM-SIM位相プロファイル同時に測定したドレイン電流 (ID)を (b)中に併記した

121

7006005004003002001000

30

20

10

0

Distance [nm]

SIM

-Am

pl [

mV]

-06 V 07 V 0 mV 50 mV -140ordm -60ordm

7006005004003002001000

060402

0-02-04

Distance [nm]

Pote

ntia

l [V]

7006005004003002001000

40

0

-40

-80

-120

Distance [nm]

SIM

-Pha

se [d

eg]

A B C D E A B C D E A B C D E

(b) Potential (c) FM-SIM ampl (d) FM-SIM phase

VG = 1 V

ndash1 V

ndash3 V

ndash5 V

VG = 1 V

ndash1 V

ndash3 V

ndash5 V

VG = 1 V

ndash1 V

ndash3 V

ndash5 V

(a) Topography

(g) FM-SIM phase prole(f) FM-SIM ampl prole(e) Potential prole

4002000

-108

-124

Distance [nm]

[deg

]

A B C D

B

C

D200 nm

A

E

Source (0 V)

Drain (ndash1V AC)

Elec

trod

e

VG

1 Vndash1 Vndash3 Vndash5 V

図 C2 ペンタセンマルチグレイン OFET上の FM-SIM測定結果 (上部電極=AC電極)(b)電位像 (c) FM-SIM 振幅像 (d) FM-SIM 位相像のゲートバイアス (VG) 依存性(a) の線分 (AndashE 間)に沿った (e)電位(f) FM-SIM振幅(g) FM-SIM位相プロファイル同時に測定したドレイン電流 (ID)を (b)中に併記した

122 付録 C 有機半導体グレイン境界のインピーダンス評価

下が BndashC間DndashE間で確認できminus3 V minus5 Vになると DndashE間のみとなった同時に測定した電流(図 C1(b) inset参照)から VG = plusmn1 Vでは OFETは OFF状態minus3 V minus5 Vでは ON状態であることがわかるこのことを考慮するとBndashC 間のグレイン境界が OFET の ONOFF 状態を支配しておりON状態での電気特性は DndashE間つまりソースndashチャネル界面が制限していると考えられるKFMではこのように OFET全体に占める局所抵抗の割合という相対的な評価が可能であるが例えば BndashC間グレイン境界のみの抵抗変化は電流を用いて計算する必要があり煩雑である

FM-SIMは 4章で述べたようにAC電極からの経路つまり図 C1では下部電極 (E)からの導通度合いが信号強度に反映されるまたKFM とは異なり絶対的な局所抵抗が影響しチャネル内において相対的な影響が増えても同じ抵抗値であれば同じ振幅位相となるFM-SIM 振幅像(図 C1(c)) を見るとまず VG = 1 V では E から D にかけて強度が減少している電位像では電圧降下が DndashE 間で現れていないが十分抵抗が大きいことが見て取れる次にON 状態であるVG le minus3 Vにおいて電位像には明確な変化が見られなかった BndashC界面で大きな信号低下が生じているBndashC間グレイン境界の局所抵抗は相対的には小さくなったものの抵抗値としての変化は小さいということを意味しているKFMからは BndashC間と CndashD間で明確な違いを確認することができないがFM-SIMを用いると局所抵抗の絶対値が影響するため図 C1(c)のように影響を可視化することができるというメリットがある図 C2は同様に上部電極を AC電極として FM-SIM測定した結果を示しておりFM-SIM像では上部電極からの導通度合いが反映されるまず図 C2(b) (e)は図 C2(b) (e)とほぼ同じ電位分布が得られておりバイアス印加条件を変えていないため理想的には同じ動作状況である事実と合致するFM-SIM振幅像 (図 C2(c))を見るとVG = 1 Vではやはり AC電極のすぐ隣である B上の強度が小さくなっており下部電極を AC電極としたときと同様電極界面もまだ導通していないといえるVG le minus1 Vでは AndashB間の FM-SIM振幅値が比較的近くAndashB間は DndashE間に比べて導通していると考えられる44節で述べたようにこれはソースndashチャネル界面に比べてドレインndashチャネル界面ではホールの感じる注入障壁が小さいことを示しているBndashC間グレイン境界に関しては下部電極を AC電極としたとき同様やはり大きな FM-SIM振幅変化が見られるさらにFM-SIM位相に注目すると図 C2(g)のインセットのように BndashC界面で若干の位相変化も得られた振幅変化のみであれば信号強度の比例係数変化 (522節参照)の可能性も無視できないがAC電極と比較して位相が負シフトした場合は 432節で議論したことや付録 Bのアドミタンスグリッドから分かるように抵抗性のインピーダンスが存在することを示している以上のようにKFMでは局所抵抗の相対的な変化や支配要因を評価できるがFM-SIMでは絶対的な変化を確認できるという点で相補的な評価が可能と考えられるしかし本章のようにマルチグレイン薄膜で OFETの ON状態においてもグレイン境界の影響が現れるような系では複数の局所インピーダンスが回路中に存在することグレイン容量が一定とみなすことができないことから423節のような単純な回路モデルによる半定量的なインピーダンス解析はできないことに注意する必要がある

123

研究業績

公表論文(A1) Tomoharu Kimura Yuji Miyato Kei Kobayashi Hirofumi Yamada Kazumi Matsushige ldquoIn-

vestigations of Local Electrical Characteristics of a Pentacene Thin Film by Point-Contact Current

Imaging Atomic Force Microscopyrdquo Japanese Journal of Applied Physics 51 (2012) 08KB05

(A2) Tomoharu Kimura Kei Kobayashi Hirofumi Yamada ldquoLocal impedance measurement of an

electrodesingle-pentacene-grain interface by frequency-modulation scanning impedance micro-

copyrdquo Journal of Applied Physics 118 (2015) 055501

(A3) Tomoharu Kimura Kei Kobayashi Hirofumi Yamada ldquoLocal impedance investigation of or-

ganic field-effect transistors with electrodes modified by self-assembled monolayerrdquo To be sub-

mitted

国際学会発表 (本人登壇分)

(I1) T Kimura Y Miyato K Kobayashi H Yamada K Matsushige ldquoInvestigation of Local Elec-

trical Properties of Pentacene Thin Films by Point-Contact Current-Imaging Atomic Force Mi-

croscopyrdquo 15th International Conference on Thin Films O-S17-05(Oral) Kyoto Japan (Nov

2011)

(I2) T Kimura Y Miyato K Kobayashi H Yamada K Matsushige ldquoLocal Electrical Characteristics

of Pentacene Thin Films Measured by Point-Contact Current-Imaging Atomic Force Microscopyrdquo

The 19th International Colloquium on Scanning Probe Microscopy S5-4(Oral) Toyako Hokkaido

Japan (Dec 2011)

(I3) T Kimura K Kobayashi H Yamada ldquoInvestigation of Local Field-Effect Characteristics of

Pentacene Thin Films by Point-Contact Current Imaging Atomic Force Microscopyrdquo IUMRS-

International Conference on Electronic Materials 2012 D-7-O25-004(Oral) Yokohama Japan

(Sep 2012)

(I4) T Kimura K Kobayashi H Yamada ldquoElectrical Property Measurements on Organic Semicon-

ductor Grains Using Point-Contact Current Imaging Atomic Force Microscopyrdquo 2013 MRS Spring

Meeting amp Exhibit Y604(Oral) San Francisco California United States (Apr 2013)

(I5) T Kimura K Kobayashi H Yamada ldquoLocal surface potential measurements of organic field-

effect transistors having a submicron crystalline grain channel by Kelvin-probe force microscopyrdquo

124 研究業績

19th International Vacuum Congress FMMMNST-1-Or-2(Oral) Paris France (Sep 2013)

(I6) T Kimura K Kobayashi H Yamada ldquoInvestigation of Local Electrical Properties of Organic

Field-Effect Transistors by Frequency-Modulation Scanning Impedance Microscopyrdquo 12th Interna-

tional Conference on Atomically Controlled Surfaces Interfaces and Nanostructures in conjunction

with 21st International Colloquium on Scanning Probe Microscopy 7PN-109(Poster) Tsukuba

Japan (Nov 2013)

(I7) T Kimura K Kobayashi H Yamada ldquoLocal Impedance Measurements of Organic Field-Effect

Transistors by Frequency-Modulation Scanning Impedance Microscopyrdquo The 10th MicRO Al-

liance Meeting P-15(Poster) Kyoto Japan (Nov 2013)

(I8) T Kimura K Kobayashi H Yamada ldquoLocal Impedance Characterization of Pentacene Thin

Films by Frequency-Modulation Scanning Impedance Microscopyrdquo International Conference on

Nanoscience + Technology 2014 SP-WeA9(Oral) Vail Colorado United States (Jul 2014)

(I9) T Kimura K Kobayashi H Yamada ldquoScanning Impedance Microscopic Study of Electrodendash

Channel Interface in Organic Field-Effect Transistors with Modified Electrodesrdquo 22nd International

Colloquium on Scanning Probe Microscopy S10-2(Oral) Higashiizu Shizuoka Japan (Dec 2014)

(I10) T Kimura K Kobayashi H Yamada ldquoVisualization of carrier injection and extraction processes

in organic semiconductor grain using time-resolved electrostatic force microscopyrdquo 18th Interna-

tional Conference on non contact Atomic Force Microscopy P-Wed-38(Oral) Cassis France (Sept

2015)

国内学会発表 (本人登壇分)

(N1) 木村知玄宮戸祐治小林圭山田啓文松重和美「点接触電流イメージング AFMによるペンタセン薄膜の局所電気特性の評価」第 72回応用物理学会学術講演会2a-ZB-6(口頭講演)山形 (2011年 9月)

(N2) 木村知玄宮戸祐治小林圭山田啓文松重和美 「点接触電流イメージング AFMを用いた有機薄膜トランジスタにおける局所電気特性評価」 第 59 回応用物理学関係連合講演会

16a-F5-4(口頭講演)東京 (2012年 3月)

(N3) 木村知玄小林圭山田啓文 「点接触電流イメージング AFMによる有機半導体微結晶の局所電気特性評価」第 73回応用物理学会学術講演会 11p-H1-14(口頭講演)松山 (2012年 9月)

(N4) 木村知玄小林圭山田啓文「ケルビンプローブ原子間力顕微鏡を用いた有機微結晶トランジスタの動作時における局所表面電位評価」第 60回応用物理学会春季学術講演会 29a-G8-5(口頭講演)厚木神奈川 (2013年 3月)

(N5) 木村知玄小林圭山田啓文 「周波数変調方式走査インピーダンス顕微鏡を用いた有機薄膜トランジスタの局所電気特性評価」 第 74 回応用物理学会秋季学術講演会19a-D2-3(口頭講演)京田辺京都 (2013年 9月)

(N6) 木村知玄小林圭山田啓文 「周波数変調方式走査インピーダンス顕微鏡を用いたペンタセン薄膜の局所インピーダンス計測」第 61回応用物理学会春季学術講演会20a-E16-10(口頭講演)相模原神奈川 (2014年 3月)

125

(N7) 木村知玄小林圭山田啓文 「原子間力顕微鏡を用いた有機ndash電極界面における局所インピーダンス新規評価手法」 応用物理学会関西支部 平成 26 年度 第 1 回講演会 (ポスター)京都(2014年 6月)

(N8) 木村知玄小林圭山田啓文 「電極表面処理による電極ndash有機グレイン界面物性の局所影響評価」第 75回応用物理学会秋季学術講演会17p-A2-5(口頭講演)札幌 (2014年 9月)

(N9) 木村知玄小林圭山田啓文 「時間分解静電気力顕微鏡による有機半導体グレインへの電荷注入排出過程の可視化」第 62回応用物理学会春季学術講演会13a-D14-3(口頭講演)平塚神奈川 (2015年 3月)

その他シンポジウムセミナー(S1) 木村知玄小林圭山田啓文松重和美「点接触電流イメージング AFMによる有機薄膜トラ

ンジスタの局所電気特性の評価」応用物理学会関西支部主催 2011年度関西薄膜表面セミナー(口頭講演)交野大阪 (2011年 11月)

(S2) 木村知玄 「走査プローブ技術を用いた有機薄膜の局所電気特性評価」第 7回有機デバイス院生研究会 (口頭講演)京都 (2012年 6月)

(S3) Tomoharu Kimura Kei Kobayashi Hirofumi Yamada ldquoLocal Impedance Investigation of

ElectrodendashChannel Interface in Organic Field-Effect Transistors with Modified Electrodesrdquo

Global COE 6th International Symposium on Photonics and Electroncis Science and Engineering

Kyoto Japan (Mar 2013)

(S4) 木村知玄 第 10回八大学工学系連合会「博士学生交流フォーラム」京都 (2013年 11月)

(S5) 木村知玄 「原子間力顕微鏡を用いた有機半導体薄膜の局所インピーダンス計測」第 9回有機デバイス院生研究会 (ポスター)福岡 (2014年 6月)

(S6) 木村知玄 第 11回八大学工学系連合会「博士学生交流フォーラム」札幌 (2014年 10月)

(S7) 木村知玄 「静電気力顕微鏡を用いた有機半導体グレインへの電荷注入排出過程の時間分解測定」第 10回有機デバイス院生研究会 (口頭講演)大阪 (2015年 7月)

受賞(P1) 平成 25年度京都大学大学院「工学研究科馬詰研究奨励賞」

127

謝辞

本研究は京都大学大学院工学研究科電子工学専攻教授山田啓文先生のご指導のもとで行ないました先生の深く幅広い分野における造詣に感銘を受けそこに博士のあるべき姿を重ねました常日頃より様々な学問的知識やノウハウをご教授いただいたことで研究を修めることが出来ましたここに深く感謝いたします本研究科電子工学専攻教授北野正雄先生には博士前後期連携コースの副指導教員として長きに渡りご指導を賜りましたご多忙の中でも親身になって議論していただきまた馬詰彰奨学寄附金での海外研修の際も迷いがちな私の背中を押していただきましたここに深く感謝いたします本研究科材料工学専攻教授杉村博之先生には同じく副指導教員としてご指導を賜りました他分野にも関わらず興味深く研究の相談に乗っていただき分野の垣根を超えたコラボレーションの可能性を感じさせてくださりましたここに深く感謝いたします京都大学名誉教授の松重和美先生 (現四国大学学長)には有機分子エレクトロニクスの面白さと夢のある将来展望についての熱意あふれるご講義を賜り私が博士課程へ進むきっかけを与えてくださりましたまた科学技術が学術的な面白さだけでなくモノづくりへ如何につなげるかが重要であるとの視点を与えてくださりましたここに深く感謝いたします元分子工学専攻の田中一義先生 (現福井センターシニアリサーチフェロー)には連携コースの副指導としてご指導を賜りました化学の視点に立って材料やプロセスの面で多大なご助言をいただき電気電子の分野のみでは備わらないノウハウや化学における常識を教わることができましたここに深く感謝いたします京都大学白眉センター特定准教授 小林圭先生には普段の研究で感じる様々な問題のみならず研究生活における素朴な疑問にも親身になって対処していただきました特に迷いがちな私の研究の指向に明確で分かりやすい道筋をつけてくださり研究におけるマイルストーンを示していただきましたここに深く感謝いたしいます慶應義塾大学理工学部准教授野田啓先生には在学中に有機材料や有機半導体に関する知識をお教えいただきまた研究や研究環境へ真摯に向き合うことの大切さをお教えいただきましたここに深く感謝いたしますナノテクノロジーハブ拠点の大村英治氏にはナノギャップ電極作製工程の EB描画において多大なご助力をいただきましたここに深く感謝いたします元研究室所属の鈴木一博氏服部真史氏 (現東京工業大学博士研究員)細川義浩氏井戸慎一郎氏広瀬政晴氏には博士課程の先輩として装置や研究内容だけでなく博士研究そのものについてどのようなスタンスや心持ちで臨むべきかについて様々なことをお教えいただきました特に広瀬政晴氏には同じ有機半導体を対象とした研究の先輩として研究の始まりの際に一から手ほど

128 謝辞

きをしていただき最も近い博士課程の先輩として博士課程を進める上でのノウハウをお教えいただきそして規則正しく堅実な研究生活を営む理想となる研究者の先輩としてその背中から多くのことを学ばせていただきましたここに深く感謝いたします博士研究員の木村邦子氏梅田健一氏八尾惇氏には研究者の先輩としてたくさんのことを学ばせていただきましたその真摯な研究姿勢からは常に深く探求することの重要性を知りまたその研究への熱意からは自身の研究への信念と確固たる我の必要性を学びました時には私の考えの甘さを叱責してくださり時には他愛ない会話で研究生活に一息つけるひとときをくださりましたここに深く感謝いたします本研究室の現役メンバーである博士課程学生の山岸裕史氏崔子鵬氏木南裕陽氏修士課程学生の黄雲飛氏黄子玲氏清水太一氏長谷川俊氏宮本眞之氏山下貴裕氏学部学生の野坂俊太氏濱田貴裕氏福塚清嵩氏そして旧松重研究室旧電子材料物性研究室に在籍された先輩後輩諸氏との研究のみならず日常においても親しげな関わりあいや対話があったからこそともすれば単調となりがちな研究生活を有意義に送ることができました特に山岸裕史氏とは学部学生での配属時より六年間の長きに渡り苦楽を共にし互いの支えあいあってこその博士課程であったと感じております同じ有機半導体を対象としていることから時には研究内容における相談や議論にも親身に付き合ってもらえ別の視点からの意見によって自分の思い込みを見つめなおすきっかけを与えてくれましたここに深く感謝いたします教務補佐員の林田知子氏には研究室の運営と研究環境の維持にご尽力いただき書類などの事務作業で妨げられることなく研究を進めることができましたここに深く感謝いたします博士課程中の海外研修にあたり京都大学大学院工学研究科馬詰彰奨学寄附金の支援を賜り海外の大学での 6週間に渡る研究生活という滅多にない経験を得ることができ日本とは異なる研究への姿勢指向と考え方を育むことができましたここに深く感謝いたします研究の遂行にあたり安定した研究生活基盤を提供いただいた工学研究科ならびに卓越した大学院拠点形成支援プログラムに深く感謝いたします最後に私の研究生活を支えてくれた家族友人たちに深く感謝いたします

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A Kumar N Balke S V Kalinin and B J Rodriguez Nat Commun 5 (2014) 3871

[169] K Kanai M Honda H Ishii Y Ouchi and K Seki Org Electron 13 (2012) 309

[170] F Amy C Chan and A Kahn Org Electron 6 (2005) 85

[171] N Kobayashi H Asakawa and T Fukuma Rev Sci Instrum 81 (2010) 123705

[172] M Nakamura H Yanagisawa S Kuratani M Iizuka and K Kudo Thin Solid Films 438 (2003)

360

[173] A Valletta A Daami M Benwadih R Coppard G Fortunato M Rapisarda F Torricelli and

L Mariucci Appl Phys Lett 99 (2011) 233309

[174] M Rapisarda A Valletta A Daami S Jacob M Benwadih R Coppard G Fortunato and

L Mariucci Org Electron 13 (2012) 2017

[175] C Westermeier A Cernescu S Amarie C Liewald F Keilmann and B Nickel Nat Commun

5 (2014) 4101

[176] S Kitamura and M Iwatsuki Appl Phys Lett 72 (1998) 3154

[177] U Zerweck C Loppacher T Otto S Grafstrom and L Eng Phys Rev B 71 (2005) 125424

136

索引

2倍波信号 90

AFM 10AM-AFM 16

DNTT (dinaphto-thieno-thiophene) 65Dynamic-mode 15

EFM信号 84

FM-SIM (Frequency-modulation scanning impedancemicroscopy) 48

FM-SIM信号 50

γプロット 57

HOMO (Highest occupied molecular orbital) 4 64 65

Jump-to-contact 15

KFM (Kelvin-probe force microscopy) 21

LIA (Lock-in amplifier) 50Line-by-line 14

PCI-AFM 19PFBT (pentafluoro-benzene-thiol) 65Point-by-point 14

Q値制御法 24

SAM (Self-assembled monolayer) 3 19 65SIM (Scanning impedance microscopy) 47Static-mode 14Sweep-SIM 96

TLM (Transition line method) 4 43TR-EFM (Time-resolved EFM) 78TR-SIM 95

Zスキャナ 10

アドミタンスグリッド 115

カンチレバー 11

グレイン境界 3 29 119

正規化 FM-SIM信号 56正規化アドミタンス 62 98

ヒストグラムプロット 117

ペンタセン 29

  • 序論
    • 研究背景
      • 有機分子エレクトロニクス
      • 有機トランジスタの進展
      • 金属有機界面物性
      • 有機材料物性評価と走査プローブ顕微鏡技術
        • 研究目的
        • 本論文の構成
          • 原子間力顕微鏡の基礎
            • 走査型プローブ顕微鏡
            • 原子間力顕微鏡(AFM)
            • AFMの走査方式
            • AFMの動作モード
              • Static-mode (コンタクトモード)
              • Dynamic-mode
              • 振幅変調方式AFM (AM-AFM)
              • 周波数変調方式AFM (FM-AFM)
                • AFMの電流検出応用
                  • 導電性AFM (c-AFM)
                  • 点接触電流イメージングAFM (PCI-AFM)
                    • AFMの静電気力検出応用
                      • 静電気力顕微鏡(EFM)
                      • ケルビンプローブ原子間力顕微鏡(KFM)
                        • 本章のまとめ
                          • AFM電流測定法を用いた有機グレインの局所電気特性評価
                            • OFET評価に適した電流測定法の検討
                              • PCI-AFMの真空動作化(Q値制御法)
                              • 接触状態の検証
                                • マルチグレイン有機薄膜の複数雰囲気中測定
                                  • 測定試料
                                  • 装置構成
                                  • 大気中PCI-AFM評価
                                  • 真空中PCI-AFM評価および雰囲気比較
                                    • 単一微小グレインOFETの特性評価
                                      • Point-by-point動作時間間隔の自由化
                                      • ペンタセン微結晶上のPCI-AFMライン測定
                                      • 抵抗の距離依存性の理論数値的検討
                                      • 電極近傍の電気伝導特性
                                        • AFMによる接触電流測定の問題点
                                        • 本章のまとめ
                                          • 新規局所インピーダンス評価法の開発と金属―有機界面物性の評価
                                            • 走査インピーダンス顕微鏡(SIM)
                                            • 周波数変調走査インピーダンス顕微鏡(FM-SIM)の開発
                                              • FM-SIMの原理
                                              • OFETにおけるFM-SIM応答の妥当性
                                              • 局所インピーダンスの解析
                                                • ペンタセングレイン上の局所インピーダンス評価
                                                  • 単一グレイン上の周波数依存評価
                                                  • 電極グレイン界面インピーダンスの一般性
                                                  • キャリア蓄積による電極グレイン界面物性変化
                                                    • 電極表面処理によるOFET特性への直接影響評価
                                                      • 電極表面処理および試料作製
                                                      • 電気特性評価
                                                      • FM-SIMによる電極DNTT界面局所電気特性評価
                                                        • 本章のまとめ
                                                          • 時間分解測定による有機グレイン中のキャリアダイナミクス評価
                                                            • 時間分解EFM (TR-EFM)
                                                              • TR-EFMの動作
                                                              • 妥当性検証
                                                                • 有機グレインのキャリアダイナミクス評価
                                                                  • 単一グレインの時間分解パルス電圧応答
                                                                  • 比例係数補正と電圧依存界面電気特性
                                                                    • 単一グレインのチャネル形成評価
                                                                      • TR-EFMFM-SIM同時測定法
                                                                      • グレイン依存性とTR-EFMSIM対応関係
                                                                      • バイアス分光による導通領域変調評価
                                                                        • 本章のまとめ
                                                                          • 結論
                                                                            • 総括
                                                                            • 今後の展望
                                                                              • 静電気力顕微鏡の検出モード比較
                                                                              • FM-SIMの正規化アドミタンス評価の補足
                                                                              • 有機半導体グレイン境界のインピーダンス評価
                                                                              • 研究業績
                                                                              • 謝辞
                                                                              • 参考文献
                                                                              • 索引
Page 4: Title 原子間力顕微鏡を用いた有機半導体グレイン/電極界面 ...2.6.1 静電気力顕微鏡(EFM) .....20 2.6.2 ケルビンプローブ原子間力顕微鏡(KFM)

i

目次

第 1章 序論 1

11 研究背景 1

111 有機分子エレクトロニクス 1

112 有機トランジスタの進展 2

113 金属ndash有機界面物性 3

114 有機材料物性評価と走査プローブ顕微鏡技術 5

12 研究目的 6

13 本論文の構成 6

第 2章 原子間力顕微鏡の基礎 9

21 走査型プローブ顕微鏡 9

22 原子間力顕微鏡 (AFM) 10

23 AFMの走査方式 12

24 AFMの動作モード 14

241 Static-mode (コンタクトモード) 14

242 Dynamic-mode 15

243 振幅変調方式 AFM (AM-AFM) 16

244 周波数変調方式 AFM (FM-AFM) 18

25 AFMの電流検出応用 18

251 導電性 AFM (c-AFM) 19

252 点接触電流イメージング AFM (PCI-AFM) 19

26 AFMの静電気力検出応用 20

261 静電気力顕微鏡 (EFM) 20

262 ケルビンプローブ原子間力顕微鏡 (KFM) 21

27 本章のまとめ 22

第 3章 AFM電流測定法を用いた有機グレインの局所電気特性評価 23

31 OFET評価に適した電流測定法の検討 23

311 PCI-AFMの真空動作化 (Q値制御法) 24

312 接触状態の検証 26

32 マルチグレイン有機薄膜の複数雰囲気中測定 29

ii 目次

321 測定試料 29

322 装置構成 31

323 大気中 PCI-AFM評価 31

324 真空中 PCI-AFM評価および雰囲気比較 33

33 単一微小グレイン OFETの特性評価 36

331 Point-by-point動作時間間隔の自由化 36

332 ペンタセン微結晶上の PCI-AFMライン測定 38

333 抵抗の距離依存性の理論数値的検討 39

334 電極近傍の電気伝導特性 44

34 AFMによる接触電流測定の問題点 45

35 本章のまとめ 46

第 4章 新規局所インピーダンス評価法の開発と金属―有機界面物性の評価 47

41 走査インピーダンス顕微鏡 (SIM) 47

42 周波数変調走査インピーダンス顕微鏡 (FM-SIM)の開発 48

421 FM-SIMの原理 49

422 OFETにおける FM-SIM応答の妥当性 52

423 局所インピーダンスの解析 55

43 ペンタセングレイン上の局所インピーダンス評価 59

431 単一グレイン上の周波数依存評価 59

432 電極ndashグレイン界面インピーダンスの一般性 61

433 キャリア蓄積による電極ndashグレイン界面物性変化 62

44 電極表面処理による OFET特性への直接影響評価 65

441 電極表面処理および試料作製 65

442 電気特性評価 66

443 FM-SIMによる電極ndashDNTT界面局所電気特性評価 68

45 本章のまとめ 74

第 5章 時間分解測定による有機グレイン中のキャリアダイナミクス評価 77

51 時間分解 EFM (TR-EFM) 77

511 TR-EFMの動作 78

512 妥当性検証 79

52 有機グレインのキャリアダイナミクス評価 84

521 単一グレインの時間分解パルス電圧応答 85

522 比例係数補正と電圧依存界面電気特性 90

53 単一グレインのチャネル形成評価 95

531 TR-EFMFM-SIM同時測定法 95

532 グレイン依存性と TR-EFMSIM対応関係 96

533 バイアス分光による導通領域変調評価 101

54 本章のまとめ 105

iii

第 6章 結論 107

61 総括 107

62 今後の展望 108

付録 A 静電気力顕微鏡の検出モード比較 111

付録 B FM-SIMの正規化アドミタンス評価の補足 115

付録 C 有機半導体グレイン境界のインピーダンス評価 119

研究業績 123

謝辞 127

参考文献 129

索引 136

1

第 1章

序論

11 研究背景111 有機分子エレクトロニクス現在われわれはたくさんの電子情報機器に囲まれて生活をしているテレビやスマートフォンのような直接的能動的に使用するものだけでなく物販医療交通といった生活のあらゆる場面で電子情報機器はわれわれの営みの中核をなしているこうした電子機器はわれわれに便利な暮らしをもたらすと同時にそれなしでは生活が非常に困難な社会となってきたこのような社会変化をもたらした数十年間のエレクトロニクスの進歩の大部分はSiを材料として用いた無機半導体デバイスの進歩によるものである1965年に提示された集積回路上のトランジスタ数が 18ヶ月ごとに倍になる ldquoMoorersquos lawrdquo [1]を指標として半導体の高集積化と微細化が進み現在ではプロセスルールが 14 nm のプロセッサが市販化されているまでに至った [2]一方でトランジスタ数や微細化以外の軸での「高機能化」も取り組まれている2007 年 12 月に行われた ITRS Public

Conference 2007 (セミコンジャパン 2008内)では新技術も含めたこれまでのスケーリング則を踏襲する ldquoMore Moorerdquoに加えてデバイスの多機能化による価値向上を目指す ldquoMore than Moorerdquo

という新たな軸が明示された [3]More than Moore の軸ではアナログ信号との融和センサの集積バイオといった技術が見据えられておりldquoInteracting with people and environmentrdquoと述べられていることからも人や周囲との繋がりをより重視していくと考えられる [4]ldquoモノのインターネット (Internet of Things IoT)rdquoが進められるようにUbiquitousな電子化情報化に向けたデバイス開発が望まれる中でMore than Mooreに向けた新規エレクトロニクス分野の一つとして有機分子エレクトロニクスが期待されている有機分子エレクトロニクスは有機分子を電気的光学的機能材料として用いた電子デバイスの創成を目指す研究分野である有機材料のもつプラスチックのような軽量性可撓性を活かし形の任意性や意匠性あるデバイス軽量基板を用いた設置コストの小さなデバイス [5]ヒトに直接装着できるウェアラブルデバイスへの展開が期待されている [6]また生体分子や DNAとの親和性からバイオセンサといったバイオエレクトロニクスとの共通項や有機分子の自己組織性を利用した新規プロセスやデバイスも考えられているこのように電気だけでなく化学生物等との分野融合的な取り組みにより有機エレクトロニクスは応用物理学会の該当分野における学会発表件数でも 2014年秋季で 500件を超えるまでに成長した一大分野となっている [7]

2 第 1章 序論

VD

VG

DrainOrganic semiconductor

Source

GateInsulator

図 11 有機電界効果トランジスタ (OFET)の模式図p型有機半導体 (organic semiconductor)を用いた場合VG lt 0 Vのゲートバイアス印加でソースndashドレイン間電流が増加する p型 OFETとなる

有機エレクトロニクスの研究は1977 年の Shirakawa らによる導電性高分子の作製に端を発する [8]当時高分子は絶縁体とみなされていたがポリアセチレンにハロゲンをドープすることで元の導電率から 8 桁以上改善させ導電体と知られる電荷移動金属錯体 (TTF)(TCNQ) の導電率10Ωminus1cmminus1 を上回る導電率を持つポリマー膜を作製した以降の研究で現在のエレクトロニクスで活躍するデバイスのアナロジーである有機電界効果トランジスタ (Organic field-effect transistor

OFET)有機発光ダイオード (Organic light-emitting diode OLED)有機太陽電池 (Organic photo

voltaic cell OPVC)が開発され現在の有機エレクトロニクス研究の中核を成している特に OLED

に関しては有機材料自身が発光することで液晶ディスプレイに比べてコントラスト比が向上するというメリットもあり有機 ELディスプレイとして 2007年には小型テレビが [9]現在ではスマートフォンやフル HDテレビが市販されるに至っている [10]

112 有機トランジスタの進展OFETは図 11のようにドレインソースゲートの 3電極と絶縁膜を隔てたゲート電極の向かいである有機半導体層から構成されており有機エレクトロニクスにおけるスイッチング電流制御を行う能動素子として位置づけれられる無機半導体の基本素子である MOSFET (Metal-oxide-

semiconductor FET)と異なり半導体層の多数キャリアの注入による蓄積層がチャネルとなるアモルファスシリコン (a-Si)で広く用いられる薄膜トランジスタ (Thin film transistor TFT)との動作原理および構造のアナロジーから有機薄膜トランジスタ (Organic TFT OTFT)とも呼ばれる

1986年に高分子を用いた OFETが最初1に報告され [11]低分子材料では 1989年にフランス国立研究所の Horowitzらによりその動作が報告された [12]これら報告ではそれぞれチオフェンと呼ばれる分子の高分子オリゴマーを用いているこれらポリオリゴチオフェンは単結合二重結合が交互に連なる分子であり先に述べたポリアセチレンも含めて π共役系分子 (ポリマー)と呼ばれる以降π共役系分子を中心に OFET研究は進展していくこととなる

OFET に関する研究で最初に注力されていた点は (電界効果) 移動度の向上であるこれは例えばディスプレイの画素の駆動に必要な OFET の面積の削減やデバイス駆動の定電圧化デバイス駆動熱の低減という観点から実用的なデバイスに向けて必要となる1989 年の報告で1 times 10minus3 cm2(Vs) であった移動度は表面処理や真空蒸着におけるプロセス条件の改善により

1 出力特性に飽和特性が現れるものとしては最初

11 研究背景 3

1997年にペンタセンを用いた OFETで a-Si TFTの目安である 1 cm2(Vs)を超える移動度を達成している [13]さらに絶縁膜の影響を考慮することや単結晶の作製により2004年には 20 cm2(Vs)

を [14]2007年には 40 cm2(Vs)を達成している [15]しかしこれら高移動度の OFETの報告は実用化には不向きな昇華生成により作製した単結晶を用いていること後述の接触抵抗の影響を排除した材料本来の移動度を抽出したことによる結果のため実用的な作製法での実効的移動度向上を目指した研究が続けられているこういった OFET の性能向上に伴い別の観点からの研究も増加してきた一つは有機エレクトロニクスの特長といえる塗布型デバイスの作製に関する研究である塗布型の始まりは高分子半導体であるが01 cm2(Vs)程度という低移動度が問題であった [16]高移動度化のために研究された可溶性の低分子有機半導体材料の中で有名なものとしてアニールなどの追加の加熱プロセスが不要な TIPS (Triisopropyl-silylethynyl)ペンタセンがある [17 18]さらに近年の研究で移動度10 cm2(Vs) を超える高結晶性な塗布型 OFET も報告されており現在盛んに研究されている内容の一つである [19]一方OFETを回路の一部として組み込む例も現れてきたエレクトロニクスの基本単位である CMOS (Complementary MOS-FET)回路を模倣しpn両方の OFETを用いたインバータ動作 [20] やインバータを直列に接続したリングオシレータによる発振動作の実証がある [2122]また可撓性のある OFETアレイを用いてメモリやセンサといったデバイス応用を見据えた研究が着実に進められている [6 23 24]

113 金属ndash有機界面物性これまでの研究で OFETの進展が見られる一方それに伴いいくつかの問題点が実用化を阻んでいる一点目として高結晶性高移動度材料の開発が進むことで有機薄膜内部の抵抗は低減するが相対的に接触抵抗の影響が顕著に現れるようになる [19]これはOFETの集積化に必要な微細化によっても顕著になる問題である二点目として素子のばらつきの問題がある特に高移動度や高結晶性材料を用いた OFETでは接触抵抗のばらつきが移動度のばらつきとして顕著に現れるバンク構造やディスペンサによるプロセスの画一化によるばらつき低減に関する研究も行われているものの依然解決には至っていない [25]このような接触抵抗つまり金属ndash有機界面における電気特性が現在 OFETのデバイス性能向上や制御の障害となっている以下ではこれまで研究された金属ndash有機界面物性やその評価法について述べる金属ndash有機界面における問題はモルフォロジーによる影響と電子物性による影響に大きく二分される一般的な製膜方法である真空蒸着法で作製した有機薄膜は通常マルチグレイン (マルチドメイン)薄膜2と呼ばれ微小な島状の有機薄膜である「グレイン」が多数接続したモルフォロジーを成すグレインサイズは蒸着条件 [26 27]酸化絶縁膜表面のオゾン処理 [28]絶縁膜材料や表面の自己組織化単分子膜 (Self-assembled monolayer SAM) 処理 [29 30] によって変化するが一般にサブ micromから数 micromの範囲にあるこのグレイン境界はチャネル長が数 10 micromから数 100 microm

程度であることを鑑みるとチャネル中を電流が流れる際に多数のグレイン境界を通過することに

2 有機薄膜においては ldquoグレインrdquoと ldquoドメインrdquoおよびその境界の言葉の定義が曖昧であり人により用法が異なる有機薄膜中の島状の区画は一般にグレインと呼ばれるが単分子層であっても単結晶ではなく結晶方位が異なる場合がありそのときのそれぞれの区画をドメインと呼ぶことがある本論文では少なくとも表面形状像から推測される溝で区切られた区画をグレインと呼びその境界をグレイン境界とする

4 第 1章 序論

なるグレイン境界は多結晶質の無機半導体とのアナロジーからキャリア輸送の阻害要因として考えられることが多いそのため一般にグレインサイズが大きいほどつまりチャネル中にグレイン境界が少ないほど移動度が向上するといわれその観点に基づく移動度モデルが提唱されてきた [26 27 31 32]ここで電極上や電極付近ではチャネル上と異なるモルフォロジーを呈することが知られており電極付近では小さなグレインを形成することにより低移動度となり等価的に接触抵抗が増加することが金属ndash有機界面における一点目の問題である一方有機半導体と金属のエネルギー準位の関係という電子物性の影響も長らく議論されてきた無機半導体においては金属ndash半導体界面は両者のフェルミ準位が一致するように真空準位に差が生じる Schottky則が基本となるが有機半導体はその限りではない例えば p型 (ホール伝導型)の場合有機半導体の最高被占分子軌道 (Highest occupied molecular orbital HOMO)準位 [33]を無機半導体の価電子帯と対応させ金属のフェルミ準位と有機半導体の HOMO準位が非整合なときにキャリア輸送阻害となるという一般的な理解を元に議論されるこのように両者の真空準位を一致させる方法を ldquoSchottkyndashMott 則rdquo といいTang と Slyke による正孔注入層を挿入した実用的な OLED

が報告されて以降 [34]有機エレクトロニクス全般で SchottkyndashMott則に基づく界面エンジニアリングが行われてきたこういった金属ndash有機界面の電子準位の評価には光電子分光法やその派生手法が用いられこれまで様々な金属電極と有機薄膜の組み合わせや [35ndash37]間に別の材料を挟むヘテロ接合での電子準位 [38]が評価されてきたこれら研究により金属ndash有機界面は SchottkyndashMott

則のような単純な関係ではなく金属ndash有機間の電荷の授受有機分子のダイポールやピロー効果によって生じる真空準位シフトにより有機側のエネルギー準位にずれが生じることが明らかとなった特に有機側の界面準位などにより電極の仕事関数に関わらずフェルミ準位ndashHOMO準位差が一定となるように真空準位シフトが起こる場合を ldquoFermi-level pinning (フェルミ準位のピン留め効果)rdquo といい [39]SchottkyndashMott 則に基づく界面エンジニアリングは効果をなさないこのように金属ndash有機界面の電子物性は複雑さを極めており金属ndash有機界面における二点目の問題となる以上のような金属ndash有機界面物性のため接触抵抗は電極材料 [40ndash42] や電極表面処理 [43ndash45]デバイス構造 [46 47] によっても異なることが知られており接触抵抗の変化により実効的な移動度つまり特性変化が引き起こされるさらに接触抵抗が単なる抵抗ではなくゲートバイアス依存 [41 48]や低バイアス領域や短チャネル系では非線形性 [49ndash51]が現れることが確認されており接触抵抗が単純な抵抗としてはモデル化できないことを示唆している以上のようにデバイス特性と上述の金属ndash有機界面物性がどのように関わるかについては現在も議論が続いている金属ndash有機界面の電気特性の評価にはOFETに限らず様々な構造において様々な手法がなされてきた (表 11)接触抵抗とチャネル特性を分離する基本的な手法として四端子法および Transfer line

methodまたは Transition line method (TLM)が知られている [52]四端子法は電流を流す 2端子に加え電圧測定用の 2端子を用いることで微小抵抗材料の導電率測定を行う手法であるがOFETではゲート電圧依存のソースドレイン界面の接触抵抗の測定に用いられる [415354]しかしチャネル上の電位勾配が均一でない場合は正しい値とならないTLMはチャネル長の異なる複数のデバイスを用いて総抵抗の変化から接触抵抗とチャネル領域の移動度を分離する手法であり [46 48 55]フィッティング点数が多い面で四端子法よりもばらつきの影響は抑えられるしかしソースドレイン界面の接触抵抗を分離できないことに加え短チャネルでは TLMで求まる接触抵抗が実際よりも大きく見積もられるという問題がある [56]

11 研究背景 5

表 11 OFETや有機薄膜の電気特性測定に用いられるマクロ薄膜での手法と対応する走査プローブ技術

評価対象 マクロ手法 走査プローブ技術

総抵抗 電流ndash電圧 (IndashV)測定導電性 AFM (c-AFM)

デュアルプローブ AFM (DP-AFM)

局所抵抗の分離評価4端子測定 ケルビンプローブ原子間力顕微鏡 (KFM)

Transition line method (TLM) mdash

インピーダンス インピーダンス分光 (IS) mdash

キャリア注入容量ndash電圧 (CndashV)測定 mdash

変位電流測定 (DCM) mdash

キャリア注入輸送特性という観点では容量ndash電圧 (CndashV) 測定や変位電流測定 (Displacement

current measurement DCM)インピーダンス分光といった交流特性を利用した評価が有用であるCndashV 測定は金属ndash絶縁膜ndash半導体 (Metal-insulator-semiconductor MIS)接合の試料においてゲートバイアスを掃引しながら容量を測定し注入が始まる電位が評価できると共に周波数による特性変化から金属ndash有機界面の接触抵抗に関しても議論が可能な手法である [57]一方DCMは CndashV 測定と同じMIS構造で三角波のバイアス電圧を印加することで変位電流の大きさから有機半導体へのキャリア注入状態の変化を評価可能である [58]これら 2手法はMIS構造に基づく評価手法であるがOFETに適用することで注入電圧 [59 60]や接触インピーダンス [61]やチャネル上のトラップ [62]について評価した例もある最後にインピーダンス分光は交流バイアスに対する複素電流応答の周波数依存性を測定することで積層デバイスの回路インピーダンスの同定 [63]や OLEDの接触インピーダンス評価に利用できる [64]金属ndash有機界面物性は様々な側面を孕んでいるが以上で述べた評価法は基本的に大面積な電極および有機薄膜を使用した評価である一方有機薄膜が基本的にマルチグレイン薄膜であることを鑑みると電極近傍のモルフォロジー変化やグレイン境界の影響を含んでしまう恐れがあり真の金属ndash有機界面物性評価が可能とは言いがたいよって今後 OFETの進展に向けて電子物性とモルフォロジーの影響を弁別して評価するためにldquo特定のrdquoグレインに注目した評価手法が必要となる

114 有機材料物性評価と走査プローブ顕微鏡技術原子間力顕微鏡 (Atomic force microscopy AFM)はカンチレバーと呼ばれる先鋭な微小探針を有すプローブを用いて表面形状を測定する手法でありナノスケール領域での表面分析手法の一つとして広く用いられている [65]AFMの特徴として絶縁膜や低導電性材料においても評価可能であるという走査電子顕微鏡や走査トンネル顕微鏡 (Scanning tunneling microscopy STM) に対する優位性導電性プローブを用いることで電気的刺激応答評価が可能となることによる多彩な応用可能性の 2点があげられる特に後者に関しては有機半導体に対するナノスケールの ldquoテスタrdquoとして用いることができることから多くの研究がなされてきたこれらの研究はスケールの観点から有機薄膜やデバイスにおける評価とグレインスケールや単分子膜における評価に大きく二分できる有機薄膜やデバイスにおいてはケルビンプローブ原子間力顕微鏡 (Kelvin-probe force microscopy

KFM)を用いた表面電位評価が有効であるOFETにバイアスを印加させ動作している状態での

6 第 1章 序論

チャネル上の電位分布電位勾配を測定できマクロ薄膜での評価手法である 4端子測定をナノスケールチャネル全域評価へ拡張したものとみなせるKFMを用いることで 4端子測定ではアクセス不可能な OFETの電極ndash有機界面の最近傍にアクセスできる上に [40]チャネル中のグレイン境界における電圧勾配も可視化可能である [47 66]近年ではOFETの有機薄膜ndashゲート電極方向の断面における電位像取得も達成されており [67]OFETの局所制限要因を評価する有用な手法であるといえる一方でKFMによる OFETの電位評価では定性的なグレイン境界の影響は見えるが一般にチャネル中のグレイン数が多いため定量的な評価は困難である対してグレインスケールでは導電性 AFM (conductive-AFM c-AFM)を用いた電流測定が報告されている1999年に KelleyFrisbieによって Au電極に接続した絶縁膜上の無置換オリゴチオフェン 6量体 (α-6T)グレインに AFMの導電性探針を接触させ単一グレインの IndashV 特性の測定に成功している [68]またゲートバイアスを印加した局所 OFET構造での測定やグレイン境界を跨ぐ測定も行われている [69 70]一方近年では電極に接続していない任意のグレインの電気特性評価ができる複数探針を有す AFMシステムの開発が盛んに行われてきた音叉型カンチレバーを用いることで 4本の探針を備えた AFMシステムではグラフェンの導電性の 4端子測定を達成している [71]また従来のカンチレバーを用いることで音叉型では困難な接触力制御を可能にした二探針 AFMシステムも報告されており [72 73]単一グレイン内 [74]や単一グレイン境界 [75]における電気特性測定が行われてきたここで大面積 (マクロ)な有機薄膜における電気特性の評価手法と走査プローブ技術とを比較すると表 11のようにまとめられるc-AFMや DP-AFMによっても電極間距離や位置と電気特性の関係についてもある程度議論ができるが位置精度や各測定の同一条件性の点で不十分といえマクロ測定の TLMに対応するより体系的なプローブ評価手法が必要と考えられるまた4端子測定と対応する KFMにより接触抵抗の評価が可能となるが界面の電子物性との関係に言及するには不十分であるインピーダンス分光や CndashV 測定のような交流電圧や経時応答を用いることでより深い物性の議論が可能になることが期待される

12 研究目的以上で述べたようにOFETの局所電気特性についてこれまでも様々な AFMの応用手法による評価が行われてきたが単一グレインスケールでの金属ndash有機界面物性評価には至っていないよって本研究では「真の金属ndash有機界面物性評価」を目指した AFMによる電極ndash単一グレイン界面電気特性測定手法の構築を研究目的として掲げるそのためにはデバイスレベルでは有用なマクロ薄膜での各種電気特性測定手法を活用し未だ試みられていない AFMとマクロ電気特性手法との組み合わせを通した新規手法についても模索するまた従来手法で問題となりうる電極付近のその他評価可能な局所電気特性についても理解を深めることとする

13 本論文の構成本論文は以下に示す 6章で構成されておりそれぞれの章には図 12で示す繋がりがある

第 1章 序章

13 本論文の構成 7

第 2章 原子間力顕微鏡の基礎本研究の主体となる AFMとこれまで用いられてきた応用手法技術に関して述べると共に従来手法を OFETの局所電気特性評価に用いる上での問題点や未だ試みられていない領域について言及する

第 3章 AFM電流測定法を用いた有機グレインの局所電気特性評価OFET測定に特化した AFMの電流測定応用手法の開発改善を行った結果を述べるまたその手法を用いて有機半導体であるペンタセングレイン上で測定することでグレイン境界や微小グレインといった局所電気特性の抽出を行う

第 4章 新規局所インピーダンス評価法の開発と金属ndash有機界面物性の評価新たに提案する OFET の局所インピーダンス評価のための AFM 応用手法について述べる電極ndash単一ペンタセングレイン界面の評価を通した新規手法の妥当性や物性について議論するまた応用として OFETの電極表面処理の有無による影響を電気特性モルフォロジーおよび本手法を用いた局所インピーダンスの観点から評価する

第 5章 時間分解測定による有機グレイン中のキャリアダイナミクス評価従来の AFM 電位評価法を時間分解測定に応用し単一有機半導体グレインにおけるキャリアの注入排出過程における電気特性評価を行う注入時蓄積時での電極ndash単一グレイン界面電気特性比較を行うとともに様々なキャリア蓄積状態での測定を通してチャネル形成過程を明らかにする

第 6章 結論本論文の総括および本論文を踏まえた今後の展開について述べる

8 第 1章 序論

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ධጥᐼଡ଼டܝᶽᘌᄠᬯ౼ଦ

図 12 本論文の構成図

9

第 2章

原子間力顕微鏡の基礎

本章では本研究で用いた主たる測定手法である原子間力顕微鏡に関してその概要と基礎的な動作機構およびこれまでに開発されてきた応用手法について述べる

21 走査型プローブ顕微鏡走査型プローブ顕微鏡 (Scanning probe microscopy SPM) とはプローブ (Probe) と呼ばれる先端が鋭く尖った探針 (Tip)を試料表面近傍で走査することで試料表面の凹凸を数 micromから数 nmの分解能で測定する評価手法の総称であるまた基本となる SPMを応用して開発された表面形状以外の様々な電気的光学的機械的物性を測定する手法も広義には SPM と称す試料表面を走査せずに一点 (もしくは多点)で電圧や周波数といった他のパラメータを掃引して測定する場合もSPMと呼ぶかもしくは末尾を他の周波数分解測定に倣って「分光」(Spectroscopy)と付ける場合がある

SPM技術の発端は1982年に IBM Zurich研究所の Binnig Rohrerらによって発明された走査型トンネル顕微鏡 (Scanning tunneling microscopy STM)である [76]STMでは探針を試料表面から数 nmの高さまで近づけた際に探針ndash試料間に流れるトンネル電流を検出し試料の表面形状を取得する一方探針を試料表面近傍に近づけた際の探針ndash試料間に働く相互作用力を用いて表面形状を取得する手法を原子間力顕微鏡 (Atomic force microscopy AFM)と呼ぶSPM技術の中で表面形状を取得する手法はこの STMと AFMに大きく二分される

表面形状取得の概要 SPM技術における共通項として探針が試料表面を走査し探針ndash試料間距離を制御することが挙げられ探針走査機構 (スキャナ scanner)および探針ndash試料間距離制御機構が共通の構成要素となる図 21に一般的な SPMの概要図を示す1試料表面の走査および探針ndash

試料間距離を変えるための X Y Zの 3軸に動く微小移動機構を有し一般的に圧電体 (ピエゾ素子)

が用いられる図 21(a) のようにスキャナが探針に接続しているものをプローブスキャナと呼び図 21(b)のように試料台直下に位置するものをサンプルスキャナと呼ぶサンプルスキャナとして円筒状の圧電体を用いることからチューブスキャナとも呼ばれ試料に平行な 2軸および円筒上下方向それぞれに高電圧を印加することで X Y Zの 3軸方向に nmオーダの分解能で微小移動させる

1 以下試料表面を XY平面試料高さ方向を Z方向と呼ぶ

10 第 2章 原子間力顕微鏡の基礎

X

Scanner

Reference

Topography

Sample

Tip

Z

Y

+minus

Feedbackcontroller

Controlledvariable

(a) (b)

Z

YX X

Scanner

図 21 SPM における表面形状取得の概念図と構成要素(a) プローブスキャナを用いた場合の構成図(b)サンプルスキャナ (チューブスキャナ)の動作概念図

ことができるなお本研究では全て試料側を動かすサンプルスキャナにより走査測定を行っており特記がない限りスキャナと呼ぶ場合はサンプルスキャナのことを指すとするまた簡単のため「探針を試料に対して移動させる」ような動作を記述している場合はサンプルスキャナにより試料を逆方向に移動させているものとする次に探針ndash試料間距離は制御量 (STMにおけるトンネル電流AFMにおける探針ndash試料間相互作用力)を検出しフィードバック回路を用いて目標量に一致するように Z軸のスキャナ (Zスキャナ)に出力することで一定に保たれるこのとき試料高さの上下が Zスキャナへの出力値の増減に直接対応するためZスキャナへの出力値から試料の高さを得ることができ探針の走査により試料表面形状を得ることができる

22 原子間力顕微鏡 (AFM)

STM は試料表面構造をナノスケールで実空間観察が可能という画期的な手法であったがトンネル電流を検出しなくてはならないという原理的制約から絶縁体上での測定ができないという限界があったその後STMを発明した Binnigは探針の試料近接時に微小な力が働くことを見出しカンチレバー (Cantilever)と呼ばれる微小な片持ち梁の板ばね構造を持つ探針を用いた AFMを1986年に発表し絶縁体であるセラミック (Al2O3)表面のナノスケール構造観察に成功した [65]このとき開発された AFMは試料近接時に働く力により生ずるカンチレバーの変位を STMにより検出するという方式であり現在用いられている AFMに比べて複雑な機構やカンチレバーに高価な Au泊を用いていたしかし以降の研究で後に紹介する光てこ法を始めとする力検出方法や安価な Si製カンチレバーによりAFMは様々な分野に用いられるほどに広まっていくこととなる

AFMは表面形状のみならず先鋭な探針で試料の局所的な物性を測定できる手法として様々な応用手法が考案されてきたこれら AFMの応用手法として 2つの系統に分けることができる1つは表面形状に由来する力以外の相互作用力を検出し異なる物性を測定するというものこのカテゴリーとしては静電気力磁気力をそれぞれ検出する静電気力顕微鏡 (Electrostatic force microscopy

EFM)磁気力顕微鏡 (Magnetic force microscopy MFM)が有名であるもう一つは AFM中の外部からの刺激を力以外の方法で検出するものこちらは探針ndash試料間に印加した電圧に対して探針に流れる電流もしくは試料上の電極間を流れる電流をそれぞれ検出する導電性 AFM(conductive

22 原子間力顕微鏡 (AFM) 11

AFM c-AFM)や走査ゲート顕微鏡 (Scanning gate microscopy SGM)が当てはまる本研究で用いるいくつかの応用手法に関する詳細は後述する

AFMではSPMに共通する構成要素に加え探針ndash試料間に働く相互作用力を検出する力センサ系が重要となる以下では AFMにおける力検出に関わる原理技術について説明する

探針ndash試料間相互作用力 探針を試料表面近傍に近づけると探針や試料の材料や状態により様々な相互作用力が生じる原子間原子分子間などに働く van der Waals力 (vdW力)パウリの排他律に従い電子雲の重なりにより生じる斥力 (パウリ斥力)表面のダングリングボンドで生じる化学結合力接触電位差や電荷電気的ダイポールにより生じる静電気力などがあり基本的に AFMの名前の由来である原子間力はこれらの総称または総合したものと考えることができる本研究では静電気力は別に考慮し化学結合力を除いた vdW力およびパウリ斥力を探針ndash試料間に作用する原子間力と考える中性二原子間に働く相互作用を記述するポテンシャルとしてレナードジョーンズポテンシャルが知られておりその代表例として式 (21)で表される (612)-ポテンシャルがよく知られている

ULJ = 4ε[(σ

z

)12minus(σ

z

)6] (21)

但し二原子間距離を zポテンシャルの極小値を εポテンシャルが 0を通る距離を σとおいた(612)-ポテンシャルのうちzminus6 の項が vdW力に対応する引力を記述し中性二原子が互いに双極子モーメントを誘起し発生した相互作用エネルギーからminus6 乗の依存性を導出できる [77]次に探針ndash試料間に作用する力を考える際探針試料それぞれに有す多数の原子間の寄与を総合しなくてはならない探針を先端曲率半径 Rの放物曲面試料を 2次元平面と考えそれぞれの原子数密度 nとして系全体のポテンシャル Uts を式 (21)を用いて求めると探針ndash試料間に働く力Fts =

dUtsdz は

Fts(z) =23π2Rεn2σ4

[ 130

(σz

)8minus(σ

z

)2](22)

と記述される [78]Fts の値は正が斥力に負が引力に対応する典型値として R = 20 nm ε =

001 eV σ = 025 nm n = 50 times 1028 mminus3 としたこの曲線の概形を図 22に示す図 22から分かるように多数の原子が関わっているのにも関わらず探針ndash試料間距離が 1 nm以内に近づかないと相互作用力がかからないこのため非常に高い垂直分解能で形状評価が可能となりまた探針の一番先端に存在する 1個の原子と試料との間の力が探針にかかる力に関わるため探針の曲率半径よりも小さな構造を可視化できる

相互作用力の検出 (光てこ法) 微小な相互作用力の検出には22 節で述べたようにカンチレバーを用いるばね定数 k のカンチレバーに対し垂直方向に力 F がかかると変位 ∆z = Fk だけカンチレバーのたわみが生じる例えばばね定数 2 Nmのカンチレバーに対して 2 nNの力がかかる場合変位は 1 nm と非常に微小であり直接観測することは困難であるこのような微小なカンチレバーのたわみに対しこれまでピエゾ抵抗 [79]やチューニングフォーク (音叉型共振センサ) [80]による自己検出法光干渉法 [81]といった様々な検出方法が考案されてきた本研究ではカンチレバーの種類に依存せず装置構成が簡単な光てこ方式 [82]を用いた光てこ方式では図 23 のようにレーザーダイオード (Laser diode LD) からカンチレバーの背面にレーザを照射し反射した光を四分割フォトダイオード (Position sensitive photo diodedetector

12 第 2章 原子間力顕微鏡の基礎

-4

-2

0

2

4

0 02 04 06 08 1

Forc

e [n

N]

Distance [nm]

Attractive region

Repulsive region

図 22 (612)-ポテンシャルに従う探針ndash試料間相互作用力の距離依存性 (式 (22))1 nm以内でnNオーダの力が加わることが分かる力勾配の正負からそれぞれ引力 (attractive)領域斥力(repulsive) 領域に分けられる探針がどの領域の力を感じるかで式 (25) に示す励振特性がどう変わるかが異なる

PSPD) で受光するPSPD は検出部分が 4 つのフォトダイオードで構成されておりそれぞれのフォトダイオードからパワーに比例した電流を出力しプリアンプにより電圧値に変換されるこのとき上部 2 つ (A) と下部 2 つ (B) のフォトダイオードの出力差を vAminusB とおくとPSPD 上のレーザスポットの微小変位 ∆aに対して vAminusB は比例した電圧を出力することが分かる一方カンチレバーの長さを lカンチレバーから PSPDまでの距離を d とおくとカンチレバーのたわみ ∆z

に対しレーザスポット変位 ∆aは∆a =

2dl∆z (23)

と記述できる例としてl = 100 microm の長さのカンチレバーに対し距離 d = 10 mm を設定するとレーザスポットの変位はカンチレバーの変位に対し 100倍となるように手法名のとおり光に対する「てこ」として働く実際の実験においてはカンチレバーの変位量を測定するために ∆zに対する vAminusB の比例係数つまり感度 (Sensitivity単位 mVnm)の校正を行う同様にカンチレバーのねじれに対してもばね定数および変位を定義できPSPDの左側 2つ (C)

と右側 2つ (D)のフォトダイオードの出力差 vCminusD からねじれ変位を検出できるねじれ変位は摩擦力測定やひねり共振 (Torsional resonance)における発振に用いられる

23 AFMの走査方式AFMに限らずSPMでは探針を走査しながら様々な物性値を測定するそのとき探針の走査の方法によりいくつかの方式が存在する本節では走査方式を (a) 力一定モード (Constant force)(b)高さ一定モード (Constant height)(c)高さ変調モード(d) Line-by-line(e) Point-by-pointに大分して説明するそれぞれの走査方法の概略図を図 24に示す

23 AFMの走査方式 13

PSPD

Cantilever

LD

AC D

Bd

∆z l

∆a

図 23 光てこ法によるカンチレバーのたわみ検知の概要図レーザダイオード (LD) より照射したレーザがカンチレバーで反射しフォトダイオード (PSPD)で受光するこのときカンチレバーたわみ ∆zに比例したレーザスポット ∆aの変位が生じる

(a) Constant force

SampleTrack

1st2nd

Scan direction

(b) Constant height (c) Height modulation

(d) Line-by-line (e) Point-by-point

Change of another parameter at each point

図 24 AFM におけるそれぞれの走査方式の動作概略図(a) 力一定モード(b) 高さ一定モード(c)高さ変調モード(d) Line-by-line(e) Point-by-point

力一定モード 力一定モードは最も基本となる AFMの走査方式でありいわゆる「表面形状」取得および表面に沿った物性測定を行うために用いられる図 24(a)のように探針を走査しながら力2が一定になるように Zスキャナを制御する

高さ一定モード 高さ一定モードでは図 24(b)のように走査中 Zスキャナを一定値に固定する3力一定モードと異なりZスキャナのフィードバック制御が行われないためノイズによる不要な上下動やフィードバックの行き過ぎによるカンチレバーの試料への不意な衝突などが抑制されるため非常に繊細な測定が可能となる試料の高さ粗さが小さくかつドリフトの小さい超高真空のような系で主に用いられる高さ一定モードにおいて高さを変えながら複数枚の画像から 3次元 (3D)データを取得する方法も提案されている [83]本研究ではこのモードは使用しない

2 場合により別の物理量STMではトンネル電流を一定に制御するが試料の凹凸以外の情報も含まれるためSTM像は「真の」表面形状とは考えられないことが多い

3 ドリフト補正のためXY位置に対応する補正値を加えている場合もある

14 第 2章 原子間力顕微鏡の基礎

高さ変調モード 高さを変調する方式ではベースとなる AFM の方式や高さの変調方法や接触の利用によりいくつかの方法が存在している高さ一定モードを用いて 3D 分布データ取得する以外にも図 24(c)のように試料上の各点で高さを変化させて物理量を測定することで 3D分布データを取得することも考えられるこれは探針ndash試料間を変化させながら力を測定するForce curve

測定を全ての点で行ったものとも考えることができこのような方法により溶液中 [84]において力の 3D分布を可視化した報告があるまた試料との接触後も探針の高さを変化させることで接触後のたわみや吸着力を測定する

Jumping modeという方式もある [85]さらにこの上下動を数 kHzという早さで行い高速かつ多様な物性を同時に測定できる手法として PeakForce Tapping Rcopy が知られている [86]

Line-by-line AFMの走査は Fast scan方向へ往復走査後Slow scan方向へ 1分割値だけ移動しFast scan方向への往復走査を行うという動作を繰り返すこの際図 24(d)のように Fast scan方向の 1 走査 (1st scan) 終了後高さを変化させて 1st scan で取得した軌跡をたどる (2nd scan) ようにZスキャナを制御する方法を Line-by-lineと呼び特に 2nd scanで 1st scanよりも試料から離れる場合はリフトモードとも呼ばれるライン毎の時分割による複数データ取得とみなすこともできるリフトモードでは距離による力の影響の違いから2nd scanでは静電気力 [47]や磁気力といった通常の力制御時とは異なる力を検出するために用いられている本研究ではこの方式は用いない

Point-by-point Point-by-point法は力一定モードのように単に試料表面を走査するのみならず図24(e) で示すように各点で力一定モードとバイアス印加掃引や力変調といったパラメータ変更を交互に行い表面形状と同時に複数の物理量をマッピング可能であるこのような各点における動作をldquoPoint-by-pointrdquoと呼ぶそのためPoint-by-pointでは走査点毎時分割による複数データ取得といえるLine-by-lineに対し表面形状と他の観測物理量との位置整合性が良いという長所がある動作の詳細は 252節で述べる

24 AFMの動作モード図 25に力検出方式の異なる動作モード同士の関係図を示すカンチレバーの励振の有無によりそれぞれ Dynamic-mode と Static-mode に分けられるさらにDynamic-mode はカンチレバーの励振特性変化の検出方法の違いにより振幅変調 (Amplitude-modulation AM)方式 (AM-AFM)と周波数変調 (Frequency-modulation FM) 方式 (FM-AFM) に分けられる本研究ではそれぞれの方法を測定のフェーズや内容によって使い分けているため以下ではそれぞれの方式について個別に原理動作を説明する

241 Static-mode (コンタクトモード)

Static-modeはカンチレバーを励振させずに測定を行う方式の総称でありその中でも力一定モードで行われる Static-modeを特にコンタクトモード (contact-mode)と呼ぶコンタクトモードではカンチレバーを試料に近接させた際に生じるカンチレバーの変位 ∆zが一定になるように Zスキャナを制御する図 22のように探針にかかる力は探針ndash試料間距離が近づくにつれて若干の引力の後す

24 AFMの動作モード 15

Atomic force microscopy

Static-mode (contact-mode)

Amplitude-modulation (AM tapping)

Frequency-modulation (FM non-contact)

Dynamic-mode

図 25 AFMの動作モードの関係図

ぐに斥力に変化してしまうさらにdFtsdz がカンチレバーのばね定数 kよりも大きくなるとカンチレ

バーの復元力が探針に加わる力に負けてしまい一気に斥力領域に突入してしまう Jump-to-contact

が起こる以上のことからStatic-modeを引力領域で測定するのは非常に難しく通常斥力領域で測定するコンタクトモードは試料に接触させた測定のため試料の力学的な特性が探針の応答に如実に現れるこのことを利用した応用手法として摩擦力顕微鏡 (Friction force microscopy FFM)や直交剪断応力顕微鏡 (Transverse shear microscopy TSM)があるFFMはカンチレバーの軸に対し直交方向にカンチレバーをコンタクトモードで走査することで発生するねじれ量を検出することで摩擦力の違いを可視化する AFMの応用手法であり末端基による結合力の違いを可視化した例がある [87]TSMは通常と同じ軸方向に対しカンチレバーを走査するがその際分子結晶の配向によりねじれの交流信号に違いが現れるためFFMよりも明瞭に分子結晶の配向を可視化できる [88]

242 Dynamic-mode

Dynamic-modeはカンチレバーをピエゾ素子 (PZT)などの外力を用いて振動させながら測定を行う方式の総称でありDynamic-mode AFMを Dynamic force microsopy (DFM)と呼ぶ場合もあるDynamic-modeではカンチレバーの振動特性が重要となるカンチレバーは有効質量 mばね定数 kの調和振動子モデルに近似できるここでカンチレバーを振動させる外力 Fext と探針ndash試料間の相互作用力 Fint がカンチレバーにかかっている場合カンチレバーのつりあいの位置からの変位 zに対して運動方程式

mz + γz + kz = Fext + Fint (24)

が成り立つただしγ はカンチレバーの変位速度に比例する減衰定数を表し相互作用力はFint gt 0を斥力とする相互作用力がないとき (Fint = 0)カンチレバーに角周波数 ω振幅 Aの外力 Fext = Aext cosωt を加えると定常解 z(t) = A cos(ωt + φ) の振幅 A と位相 φ は以下のように求まる

A =Aextradic

(mω2 minus k)2 + γ2ω2(25)

φ = tanminus1( γ

mω2 minus k

)(26)

16 第 2章 原子間力顕微鏡の基礎

FintFext

m

z

0

kModelling

図 26 カンチレバーの調和振動子モデル

A φの外力の角周波数依存性を図 27の (1)に示すγ radic

kmが成り立つとき

f0 equivω0

2πequiv 1

radickm

(27)

で与えられる f0(ω0)を (自由振動時の)共振 (角)周波数と呼びこの周波数で振幅 Aは最大値を取る4また振幅が最大値の 1

radic2 倍となる角周波数 ωplusmn(ω+ gt ωminus) を用いてカンチレバーの Q

値 QがQ equiv ω0

ω+ minus ωminus=

mω0

γ(28)

のように定義できる図 27に示すような共振周波数 f0 および Qで特性付けられる振動特性のことを Qカーブと呼ぶ次に力勾配 kint = minus partFint

partz を用い微小な相互作用力 Fint = minuskintzが働いていると考える5kint gt 0

の場合試料近接時 z lt 0に対し Fint gt 0のため斥力領域に対応しkint lt 0は引力領域のモデルとなる式 (24)の kを k + kint に置き換えることで力が働いているときの共振周波数

f0prime =1

radick + kint

m(29)

が得られQカーブは引力領域では (2)斥力領域では (3)のように変化するDynamic-modeではこの Qカーブの変化に伴う励振特性の変化を検出することで探針ndash試料間相互作用力が働いていることを検知する

243 振幅変調方式 AFM (AM-AFM)

AM-AFMは探針ndash試料間相互作用による Qカーブの変化を振幅の変化から検出する手法の AFM

である微小な探針ndash試料間相互作用力 Fint = minuskintzが働いているとき式 (25)は

A =Aextradic

(mω2 minus k minus kint)2 + γ2ω2

sim Aextradic(mω2 minus k)2 + γ2ω2

[1 + kint

mω2 minus k(mω2 minus k)2 + γ2ω2

](210)

となるため振幅変化 ∆Aは

∆A sim kintAext(mω2 minus k)

[(mω2 minus k minus kint)2 + γ2ω2] 3

2(211)

4 厳密には共振周波数は 12π

radickm minus

γ2

2m2

5 定数値は釣り合いの位置をずらすだけなのでここでは無視する

24 AFMの動作モード 17

0

99 100 101

Am

plitu

de [arb

unit]

Frequency [kHz]

-180

-90

0

99 100 101

Phase [deg]

Frequency [kHz]

(a) (b)

f0

f0(1)

(1)

(3)(2)

(2)

(3)

図 27 カンチレバーの共振周波数付近の振動特性 (Qカーブ)((a)振幅(b)励振信号に対する位相)パラメータとして f0 = 100 kHz Q = 300 を用いており相互作用が (1) なし(2) 引力kint = minus0005k(3)斥力 kint = 0005kのときの Qカーブを表す

Topography

Feedbackcontroller

RMS

Scanner

LD PSPD

PZT

FG

図 28 AM-AFMの装置構成図

と力勾配に比例することが分かるただし近似として kint の 1次項のみを扱った実際の動作では一定の周波数で振動しているカンチレバーの振幅減少を試料への近接とみなし減少した振幅が一定となるように高さフィードバック動作を行うAM-AFMでは図 22の引力領域と斥力領域を行き来するように Tipが動くためコンタクトモードが「接触している」のに対し「間欠接触モード(Intermittent-contact mode)」または「タッピングモード (Tapping mode)」とも呼ばれる6図 28に AM-AFMの装置構成を示すファンクションジェネレータ (Function generator FG)で生成した交流信号をピエゾ素子 (PZT) に入力しカンチレバーを励振する (強制振動)カンチレバーの変位信号を二乗平均平方根 (RMS)回路で振幅信号に変換し振幅が一定になるようにフィードバック回路から Zスキャナに出力する本研究では強制振動の周波数としてカンチレバーの Q

カーブにおける最大振幅の約 07倍となる (共振周波数より低い)周波数を設定しているまたカンチレバーの振動振幅が約 20 nmp-p となるように FGの振幅を設定している

18 第 2章 原子間力顕微鏡の基礎

Topography

Feedbackcontroller

PLL

RMSAGC

Scanner

LD PSPDPZT

Phaseshifter Comparator

Phase lock

Frequency detectionblock

Self-excitation block

図 29 FM-AFMの装置構成図

244 周波数変調方式 AFM (FM-AFM)

探針ndash試料間相互作用力 Fint = minuskintzが小さいとき (|kint| k)式 (29)より共振周波数シフト ∆f

は∆f = f0prime minus f0 sim

f02k

kint (212)

で表されるように力勾配に比例し引力領域では負の周波数シフトを起こす図 22で示されるように力勾配は探針ndash試料間距離が近づくにつれて大きくなるため共振周波数の変化から探針の試料への近接を検出できるこのように共振周波数の変化を一定にするように探針ndash試料間距離を制御する方式を FM-AFM と呼ぶ図 22 の引力領域で用いられ試料へ非接触な状態で動作するため「非接触 AFM」とも呼ばれる図 29に FM-AFMの装置構成図を示す共振周波数を追跡するため自励発振 (Self-excitation)

回路を用いてカンチレバーを常に共振周波数で励振する図 27から分かるように共振周波数での振動信号は励振信号に対し 90 遅れており振動信号の 90 位相を早めた信号で励振することで共振周波数で振動することになる自励発振回路ではこの位相シフタ (Phase shifter)と自動ゲイン回路 (Automatic gain controller AGC)によって励振が行われている一方周波数の変化は位相同期回路 (Phase-locked loop PLL)により検出している [89]

25 AFMの電流検出応用AFMの探針は非常に微小なためナノスケールのテスタのような応用が期待できるAFMの探針を試料に接触させ探針ndash試料間に流れる電流を測定しまたはその特性の分布図を取得する応用手

6 厳密には変調 (検出)方式と動作方式という定義の違いがあるが本研究では同義に扱う

25 AFMの電流検出応用 19

法を総称して電流検出 AFM(Current-sensing AFM CS-AFM) [90]と呼ぶ本項ではこれまで開発利用されてきた AFM の電流検出応用手法のうち最も基本となる導電性 AFM(Conductive-AFM

c-AFM) およびその応用手法である点接触電流イメージング AFM(Point-contact current imaging

AFM PCI-AFM)について原理と適用範囲を述べる

251 導電性 AFM (c-AFM)

導電性探針と試料の間に直流電圧を印加しながら試料に探針を接触させることで探針ndash試料間に流れる電気特性を測定する手法を c-AFM7と呼ぶSTM でも電流のマッピングは可能であるがc-AFM では AFM をベースとしていることから(1) 確実に接触させ接触力を制御できること(2)絶縁体上の試料においても電流測定できることの 2点において STMよりも優位である特に(2) は絶縁膜上に構築した様々なデバイスやナノスケール構造において電気特性が測定可能であるという点で非常に重要であるナノスケール構造の一例としてカーボンナノチューブ (Carbon

nanotube CNT)の測定が挙げられる [91 92]CNTは長さが数 micromの細長い円筒状の構造をしており直径は単層で数 nm多層でも数 10 nm と非常に微細なため一本の CNT の電気特性を電極間に架橋させて測定するのは非常に困難であることが予想される一方CNTの片端のみ電極に接続するのは後から成膜もしくは電極上に分散させるなど比較的容易に達成できるためc-AFMでCNTのもう一方の端に接触させることで単一の CNTの電気特性測定が可能となる一方(1)の利点を活用し均一に分子が存在する試料に接触させることで接触面積から 1分子あたりの電気特性を評価する試みもなされておりSAM分子の電気特性の鎖長依存性 [93ndash96]やタンパク質の電気伝導評価 [97]も報告されている高分子ナノファイバ [98]や光反応性のタンパク質 [99]に対して光照射時の電流特性測定という応用も行われている

c-AFMには大きく分けて(a)試料上のある一点に接触させ主に電圧ndash電流 (IndashV)特性を取得する方法 (IndashV 測定モード)および (b) 一定電圧をかけながらコンタクトモードで試料上を走査し電流像を得る手法 (スキャンモード)の 2種類あるIndashV 測定モードは上述の CNTの評価の他に有機薄膜 [31 68 70]や細菌 [100]といった幅広い材料に対して用いられている一方スキャンモードはコンタクトモードで走査可能という制限があるため高分子 [98 101] や分子結晶ナノファイバ [102]のような比較的硬い材料に限られている

252 点接触電流イメージング AFM (PCI-AFM)

c-AFMはナノ構造の電気特性測定ができる非常に有用な手法であるがIndashV 測定モードでは 1点ごとの測定のため測定位置の不確定さや接触ごとのばらつきより微細な内部構造の可視化ができないといったデメリットがあるまたスキャンモードもコンタクトモードで走査可能な比較的硬く起伏の少ない試料に限られるこれに対し大阪大学の Otsukaらはこれらの問題を克服する手法としてpoint-by-pointでの接触方法を活用した PCI-AFMを開発した [103]図 210に PCI-AFMの動作概念図を示すPCI-AFM

はAM-AFM (Tapping) による高さフィードバックと c-AFM による電流測定を各点で交互に行う

7 C D Frisbieなど CP-AFM(Conducting probe AFM)と呼ぶ研究グループもあるが基本的に同義である

20 第 2章 原子間力顕微鏡の基礎

(a) Height control (b) Approach (d) Retract(c) IndashV

Cantilever

Electrode

Sample lm

Mode

Movement

FeedbackTapping StaticON Hold

Time

図 210 PCI-AFM の動作概念図時系列の TappingStatic 動作および高さフィードバックのONHoldのタイミングを併記した

手法である(a)まずある測定点において AM-AFMにより探針ndash試料間距離を一定にしこの状態で高さを固定 (Hold)する(b)探針の励振を停止させ探針を試料に一定距離だけ近づけ試料に接触させる(c) 接触状態で探針ndash試料間に電圧を印加しIndashV 測定を行う(d) 探針を試料から離し励振を再開し高さ制御を再開すると共に次の測定点へ移動するこれらの測定を試料 XY平面上の各点で行うことで表面形状と各点での IndashV 特性の位置を完全に対応づけることができるOtsukaらは PCI-AFMを用いることでc-AFMのスキャンモードによる試料構造破壊の問題を解消し単層 CNTの距離依存電流測定を達成した以降PCI-AFMの非破壊性を活かしCNTのバンドル間伝導特性 [104]やバンドル CNT中における単一 CNTの可視化 [105]分子性ナノワイヤ [106107]DNA [108]や DNAベースのナノワイヤ [109]ナノ粒子 [110ndash112]の電気特性評価に用いられてきた一方有機薄膜に対して用いた例は銅フタロシアニングレイン上の報告 [113]の一例に留まるまたCNTや有機薄膜の FET構造においてゲートバイアスを印加した状態での PCI-AFM測定は現在のところ報告されていないこのように PCI-AFMはナノスケールでの電気特性評価に有用な手法である一方で活用範囲としてまだ進んでいない領域がある本研究では新領域活用への障害となる PCI-AFMの問題点について対策を考え新規活用法を模索することも目的の一つと位置づける

26 AFMの静電気力検出応用261 静電気力顕微鏡 (EFM)

AFM で測定される力のうち静電気力を検出する手法を広義の EFM と称する静電気力は探針ndash試料間に印加した電圧のみならず試料の仕事関数試料上の固定電荷や電気的ダイポールなど様々な物性が起因となり変化するそのため報告によってどの物性に注目するかが異なり検出した静電気力の取り扱いも異なるここでは一般化し明確な探針ndash試料間の電位差Vts = Vs(試料電位) minus Vt(探針電位)があると仮定する探針ndash試料間の容量を Cts とすると電位を固定したときの系の静電ポテンシャル UES は UES =

12CtsV2

ES と記述されるこのとき探針が感じる静電気力 FES は斥力を正とするとFES =

partUESpartz =

12partCtspartz V2

ts と記述されるつまりCts が一定であれば Vts の 2乗に比例した静電気力を探針が感じることが分かる

26 AFMの静電気力検出応用 21

しかし探針ndash試料間には 22節で述べたような相互作用力が働いているため電位差を評価するには静電気力による寄与を分離する必要がある原子分子間力の距離依存性が急峻であることを利用してEFM や MFM では Line-by-line で距離を変化させることで静電気力磁気力のみ評価する方法もあるがここでは交流電圧の変調による手法について述べる角周波数 ωm の変調電圧Vac cosωmtを試料 (または探針)に印加すると静電気力は

FES =12partCts

partz(Vts + Vac cosωmt)2

=12partCts

partz

[(V2

ts +V2

ac

2

)+ 2VtsVac cosωmt +

V2ac

2cos 2ωmt

](213)

となりFES の ωm 成分は電位差 Vts に比例することが分かる実際の測定では振幅変化 (AM) または周波数変化 (FM)を測定するため測定量は式 (211)および (212)に従い力勾配 partFES

partz に比例するするとωm 成分は (partFES

partz

)

ωm

=part2Cts

partz2 VtsVac cosωmt (214)

と表される比例係数の part2Ctspartz2 は同一の探針同一の探針ndash試料間距離同一の探針振幅であれば一

定と考えることができるよって振幅変化または周波数変化の ωm 成分をロックイン検出することで電位差に比例する成分を得ることができる

262 ケルビンプローブ原子間力顕微鏡 (KFM)

EFM では電位差に比例したコントラストを得られる一方で電位の実際の値を知るには比例定数のキャリブレーションが必要であるケルビンプローブ原子間力顕微鏡 (Kelvin-probe force

microscopy KFM)8は EFM に零位法を組み合わせることで電位の実際の値を測定することができる AFMの応用手法である

KFMの名前はケルビン法と呼ばれる試料の仕事関数を測定する巨視的な評価手法に由来するケルビン法では既知未知の仕事関数を有する材料の二表面を近接させ振動させた際に発生する交流電流がゼロになるように二試料間に印加する直流バイアスを調整することで未知の仕事関数を測定する同様にKFMでは partFES

partz に比例する測定量の ωm 成分がゼロになるように探針ndash試料間に追加の直流電位 VFB をフィードバック制御する試料上を走査中に随時行うことで表面電位像の測定が実現される

EFMKFMには AFM動作モードおよび変調信号の検出方法で複数の種類が存在する本研究では真空中つまり高 Q 値環境下での測定が簡単であること比較的面内分解能が高いことからFM-AFMをベースとし変調信号を FM検出する手法を用いた以下この手法による EFMKFM

をそれぞれ FM-EFMFM-KFM と呼ぶ図 211 に FM-EFM および FM-KFM の装置構成図を示す詳細なセットアップパラメータは後の章 (4章 KFM 5章 EFM)で述べる

8 KPFMの略称を用いる場合がデファクトスタンダードとなりつつあるが本論文では KFMを用いる

22 第 2章 原子間力顕微鏡の基礎

Topography

EFM signal

Potential

Feedbackcontroller

Frequencydetection

Self-excitationcircuit

Scanner

LD PSPDPZT

Lock-in amp

Bias feedbackKFMEFM

図 211 FM-EFMおよび FM-KFMの装置構成図

27 本章のまとめ本章ではSPM および AFM の成り立ちについて説明した上で基本的な表面形状取得の概要力検出技術および走査技術について説明した近年提案されている様々な AFM応用手法がどのような動作に基づいているかを理解する上で走査方法の面から分類することは必要と考えるまたAFMの動作とくに Dynamic-modeにおけるカンチレバーの励振特性について探針ndash試料間相互作用が働いた場合にどのような変化が生じるのかについて説明したまたこの解析に基づき基礎的な AM-AFMおよび FM-AFMの動作装置について言及した

AFMの応用手法に関して本研究で用いた手法のベースとなる電流検出応用静電気力検出応用について説明した電流検出に関しては従来手法となる c-AFMに対する PCI-AFMの優位性を述べた上でPCI-AFMの OFET評価としての活用が未発展であることを示し新規活用法を模索することを以降の研究の目標点の一つとして掲げるまた静電気力検出に関しては主として用いた FM

方式の EFMKFMについて基礎的な理論技術を説明した以上ではナノスケールの電気的評価が可能な AFMの応用手法について説明したが有機薄膜を対象とした測定にはいくつか未達成または困難な点が存在するPCI-AFMの活用については 3章で装置動作の面から試みることとするまた KFM は面内の相対的な局所抵抗比較に留まる一方プローブ測定のみで測定対象と参照を同時に測定できるような手法を開発することは特に巨視的測定が困難なナノスケールのグレインの電気特性評価を進めていく上で重要であるよって静電気力検出をベースとした新規局所電気特性評価手法に関して4章および 5章で検討を行う

23

第 3章

AFM電流測定法を用いた有機グレインの局所電気特性評価

AFMの導電性探針を用いて直接試料に接触させ電流を測定することで有機材料の電気特性測定がなされてきたことは既に 1章で述べたしかし従来手法のうち非マッピングである c-AFMや多探針 AFMでは測定点が数点に限られ接触位置の同定が不確定という問題がある一方マッピングを行う c-AFM では硬い材料に限定されること接触力の増加による分解能の制限といった問題を有するこれらに対し2章で述べた点接触電流イメージング AFM (PCI-AFM)は非破壊にて構造と電気特性の同時マッピングを行うことが可能であり少数単一グレインスケールにおけるTLMとなりうることが期待されるがその適用には課題が二点ある一点目は有機半導体の電気特性評価では必須となる真空中での測定が困難であることであるこれは AM-AFMをベースにしていることに加えて後述の探針励振停止再開動作が関わっており真空中では非現実的な測定時間が必要となる二点目はこれまで PCI-AFMは 1次元系材料での評価が多く有機半導体薄膜のような薄膜試料での報告例がほとんどないことである1次元系と異なりOFETのような薄膜試料では電流広がりなどを考慮した測定結果の解析が必要となる以上を踏まえ本章では PCI-AFMの真空動作化および OFET評価に適した動作確立システム構築を通してOFET中の様々な局所電気特性を選択的に評価するナノスケール TLMへの活用を目標とする

31 OFET評価に適した電流測定法の検討252節にてPCI-AFMはナノ構造の電流マッピングに非常に有用な手法であることを説明した

PCI-AFM を有機グレインの OFET 評価に適用するにあたり信頼性のある安定した測定に向けて検討しておくべき項目がいくつか存在する本節では「真空動作」「接触圧」の観点から PCI-AFM

の改良に取り組む

24 第 3章 AFM電流測定法を用いた有機グレインの局所電気特性評価

Phaseshifter

Oscillator

Excitation

Variablegain amp

z(t)

Ge-jθ

図 31 Q値制御回路のブロック図

311 PCI-AFMの真空動作化 (Q値制御法)

242節で説明したとおりカンチレバーの運動は式 (24)にて記述されるここでt = 0で外力が 0になったときの過渡応答を考えるFext = Fint = 0よりz(t)の特性解 λは 2次方程式

mλ2 + γλ + k = 0 (31)

を解くことでλ = minus1

τplusmn jω (32)

と求まるここでτ = 2mγ =

2Qω0ω = ω0

radic1 minus ( 1

2Q )2 であるカンチレバーが t lt 0 では z(t) =

A cosωtで振動しているとするとt ge 0でのカンチレバーの運動は

z(t) = Aeminustτ cosωt (33)

という時定数 τ の減衰振動解になるつまりカンチレバーの振幅変化に要する時間は Q に比例する本研究で用いているカンチレバー (Olympus OMCL-AC240TM-R3) の典型的な共振周波数は f0 = 70 kHz でありQ 値は大気中では数 100 なのに対し真空中では 2000 を超える例として振幅が減衰開始時の 01 倍となる時間 minus ln(01)τ sim 23τ を振動停止開始の所要時間と考えると256 times 256点で振動停止開始それぞれで 23τ必要となり測定に必要な時間は待ち時間だけでも数時間に及ぶためドリフトの影響を考えると真空中での PCI-AFM測定は非現実的であることが分かるまたPCI-AFM では振幅変化を検出する AM-AFM をベースとしているが同じ理由でAM-AFMは一般的に真空中での測定は不向きであることもPCI-AFMの真空中測定を困難にしているそこでPCI-AFMの振動停止再開動作を真空中でも可能にするために本研究ではAnczykowski

らにより提案された Q値制御法 [114]を用いるQ値制御回路のブロック図を図 31に示すQ値制御法ではカンチレバーの変位信号1z(t) = Aejωt にゲイン G および位相シフタ eminusjθ を介した信号を励振信号に加えるこの信号成分は z(t)に対する in-phase out-of-phaseを分けることで

Geminusjθz(t) = (G cos θ)z +minusG sin θω

z (34)

と表されるため運動方程式 (24)の γ を γprime = γ + Gω sin θk を kprime = k minusG cos θ に置き換えること

で同様の議論ができるつまり運動方程式 (24)および Qカーブを表す式 (25)は次のように表さ

1 簡単のためフェーザ (Phasor)で考える最終的に実部を取ることで実信号とする

31 OFET評価に適した電流測定法の検討 25

0

5

10

695 70 705

Am

plitu

de [nm

]

Frequency [kHz]

0

1=10-3

2=10-3

5=10-3

G Pѱ0

2

図 32 Q 値制御法を用いた場合の Q カーブの理想的なゲイン G 依存性 f0 =ω02π = 70 kHz

Q = 2 times 103 Aextk = 5 times 10minus3 nm

れる

mz + γprimez + kprimez = Fext (35)

A =Aext

kω2

0radic(ω2 minus ωprime20 )2 + (ωωprime0Qprime)2

(36)

但しQ値制御後の (見かけの)Q値 Qprime および共振周波数 ωprime0 をそれぞれ

Qprime =mωprime0γprime ωprime0 =

radickprime

m(37)

としたここで位相シフト量を θ = π2に設定すると Gを増加させるに従い γprime が増加することが分かるこのとき理論上の Qカーブの変化を図 32に示すこのようにQ値制御法を用いることで見かけの Q値 Qprime を減少させることができる2実際に真空中 (lt 10minus3 Pa)でカンチレバーの励振 (発振器からの信号)を 5 msごとに開始停止させた際に従来通りの強制励振と Q値制御法を用いた場合のカンチレバーの動作を比較したものを図 33に示すただし典型的な共振周波数が f0 sim 70 kHzであるカンチレバーを用いたQ値制御前では Q sim 2000であり上述の振動停止開始時間は 23τ sim 21 msとなり図 33(a)のように 5 ms

では完全には振幅が収束していないことがわかるQ 値制御法により見かけの Q 値を Qprime sim 100

まで減少させた結果振動停止開始時間は 23τ sim 1 msとなり図 33(b)のように励振停止時に完全に停止している様子が見て取れるPCI-AFMの振動停止再開動作に要する時間を減少でき全体の測定時間が現実的なスケールとなるまた見かけの Q値を減少させたことによりAM-AFM

の動作も大気中と同等の設定で可能となる

パラメータ設定の問題点と改良した設定方法 本研究では研究室で作成された Q値制御回路 [78]

を用いFGとして Yokogawa FG120を用いたここで自家製の Q値制御回路では φおよび Gを手動でしか変更できないため次のような問題が生ずる図 34に G = 001mω2

0 における周波数および位相シフト量に対する振幅の変化を示す周波数が正しく共振周波数に合っている場合は位相 θ を変えると θ = π2で振幅が最小値となるしかし周波数がずれている場合に振幅が最小

2 本来の用い方は Q値の小さいとき検出感度を上げるために θ = minusπ2に設定することで Q値を増加させて用いる

26 第 3章 AFM電流測定法を用いた有機グレインの局所電気特性評価

ON OFF ON OFFExcitation

5 ms Time

200 mV(~7 nm)

(a) conventional

(b) with Q-control

Deection signal

Q ~ 2000

Qrsquo ~ 100

図 33 真空中でカンチレバーの励振を 5 ms ごとに開始停止させた際のカンチレバー変位 (Deflection) の包絡線 (振幅) 時間波形(a) Q 値制御法を用いない従来の強制励振の場合(Q sim 2000)(b) Q値制御法を用いた場合 (Q sim 100)の包絡線とカンチレバーの動作イメージを示している

695 70 705

Frequency [kHz]

0

90

180

Phase [deg]

01

1

10

Am

plitu

de [nm

]

Minim

um

Resonance

Resonance

図 34 G = 001mω20 における周波数および位相シフト量に対する振幅変化矢印は共振周波数

探索rarr最小振幅となる位相探索の順にパラメータ探索する場合のパラメータ軌跡

となる位相は π2とは異なるそのため例えばパラメータの設定を共振周波数探索rarr振幅最小位相探索の順に行ってしまうと図 34のように最適な位相 π2に到達できず同じ設定値をループすることになるこれを回避するためには位相およびゲインを変えながらも常に共振周波数をトラックする必要があるそのため本研究では FG120の GP-IB3通信および LabVIEWを用いて任意の周波数レンジおよび掃引速度で連続的に FGの周波数設定値を掃引できるようなプログラムを作成したこれにより効率的に Q値制御回路の位相設定を行えるようなセットアップとなっている

312 接触状態の検証導電性探針を用いた電流測定は探針ndash試料間に流れる電流が測定値となるためその接触状態が測定値に大きく影響を与えることが懸念されるしかし報告により用いている探針の材料ばね定数または対象とする試料や実際の接触力などの測定条件が異なるため本研究でも独自に影響評

3 General purpose interface bus短距離デジタル通信バス仕様である IEEE 488の実装であり計測器制御に用いられる汎用接続形式である

31 OFET評価に適した電流測定法の検討 27

HOPG

Conductivecantilever

図 35 導電性探針による接触電流評価の模式図

0

50

100

150

0 5 10 15 20 25

5HVLVWDQFHgt0ї

)RUFHgtQ1

OriginalOvercoated

(c)

-100

-50

0

50

100

-1 0 1

ampXUUHQWgtQ$

LDVgt9

(a) Original

0 nN4 nN

10 nN

14 nN19 nN23 nN

-100

-50

0

50

100

-1 0 1ampXUUHQWgtQ$

LDVgt9

(b) Overcoated

4 nN7 nN

10 nN

13 nN16 nN

図 36 導電性探針ndashHOPG系の接触電流測定結果(a)市販コート探針(b)再コート探針を用いて測定された IndashV 特性(c) +15 Vにおける接触力と抵抗値の関係

価することが望ましいそこで接触力評価として導電性カンチレバーを導電性の平坦試料である高配向パイログラファイト (Highly oriented pyrolytic graphite HOPG)に接触させ電流測定を行うとともに探針の試料への接触面積の見積もりを試みた導電性探針として(1)市販の PtIrコート済みカンチレバー (Olympus OMCL-AC240TM-R3)(市販コート探針と呼ぶ) および (2)OMCL-AC240TM-R3 の Tip 側にスパッタリング装置を用いて約20 nmの Ptを堆積させたカンチレバー (再コート探針と呼ぶ)を用いた再コート探針は市販コート探針よりも Tip上への堆積量が多く先端曲率半径の増加が懸念されるがより長時間多回数の接触に耐えうることが見込まれるためその電気特性の差異がないことを確認する図 35のセットアップにおいて以下のプロセスで測定を行った

1 探針ndash試料間のバイアス電圧を 0 V としコンタクトモードにおいて Reference を徐々に上げ探針をわずかに HOPGに接触させる

28 第 3章 AFM電流測定法を用いた有機グレインの局所電気特性評価

表 31 探針接触半径の見積もりに用いた各材料の物性値

材料 ヤング率 ポワソン比

Pt [118] 168 GPa 0377

HOPG [119 120] 365 GPa 025

2 ある分量ずつ Referenceを増加させることで接触力を増加させ各接触力において plusmn15 Vの三角波 (2 s)を 5回印加

3 測定時のカンチレバー変位IndashV 出力をデータロガーで取得し「カンチレバーばね定数(2 Nm)times(接触時の変位 minus 非接触時の変位)別途測定した変位検出感度 (nmmV)」を接触圧とした

図 36に IndashV 特性および +15 Vでの抵抗値の接触圧依存性を示す市販コート再コートどちらの探針においても接触力の増加に従い電流が増加したまたIndashV 波形が非線形である原因として探針先端または試料表面の不純物やPtndashHOPG間接触の本来の特性が考えられる図 36(c)よりどちらの探針も比較的同等の特性を持っており以降では再コート探針でも市販コート探針と同様に使用可能としたまた接触力が 10 nN付近で抵抗値がある程度収束しており接触電流測定に必要な接触力の目安は 10 nNと見積もられるこの接触力は過去の c-AFM [115]や PCI-AFM [103104]

の報告における設定値と同程度である次に接触面積の見積もりを行う無機材料での探針接触電流測定では一般に 2体の付着を考えない Hertz理論を用いて評価されるが [116]有機物など付着のある系では JKR理論を用いて評価する必要がある [92]JKR理論では曲率半径 Rt Rs の 2体が接触力 F で接触するとき接触半径 a

は次のように表される [117]

a3 =34

Rlowast

Elowast[F + 3πRlowastWts +

radic6πRlowastWtsF + (3πRlowastWts)2

](38)

但しWts は 2体の付着仕事 (凝着エネルギー)Rlowast は実効曲率半径 Rlowastminus1 = Rminus1t + Rminus1

s また Elowast は実効ヤング率を表しサンプル (s)探針 (t)それぞれのヤング率を Es Etポアソン比を σs σt とおくと Elowastminus1 = (1minusσs

2)Esminus1 + (1minusσt

2)Etminus1 で与えられるここで式 (38)の根号内が F gt minusFad で 0

以上となる場合Fad は吸着力を表し

Fad = minus32πRlowastWts (39)

で与えられるよって式 (38)は

a3 =34

Rlowast

Elowast(radic

F + Fad +radic

Fad)2 (310)

と簡略化されるPt 探針を HOPG に接触させた場合を想定する試料が無限平面と仮定できるため Rlowast = Rt であり探針の曲率半径として OMCL-AC240TM-R3の公表値 15 nmを用いる材料のヤング率ポアソン比として表 31の値を用いると吸着力 Fad が 10 nNのときの接触力と接触半径の関係は図 37

のようになる探針の曲率半径は 10 nmを超えているものの接触半径は数 nmに留まることが分かるまた接触力 10 nN付近では微小な接触力の変動に対する接触半径の変動は 1割に満たないことも式から求まる

32 マルチグレイン有機薄膜の複数雰囲気中測定 29

0

1

2

3

4

-10 0 10 20 30

Con

tact

radi

us [n

m]

Contact force [nN]

図 37 吸着力 Fad = 10 nNのときの接触力と接触半径の関係(Rlowast Rt = 15 nm)

図 38 ペンタセンの分子構造式

32 マルチグレイン有機薄膜の複数雰囲気中測定有機半導体薄膜の電気特性は雰囲気により大きく変化するがその影響にはグレイン境界やグレイン内部など複数の局所物性が関わっているため従来の大面積の電極を用いた測定では議論が不十分である一方局所電気特性測定に有用と考えられる PCI-AFMは原理上真空中での動作が困難でありまたこれまで OFETの評価に用いられたことはなかった本節では 311節で真空動作化を施した PCI-AFMを使用しペンタセンのマルチグレイン薄膜を対象に局所電気特性測定を行い大気の影響を抑えた材料本来の特性測定を行う同時に大気真空の両雰囲気中で評価することで特定の局所構造に対する大気の影響を評価する

321 測定試料ペンタセン 測定試料としてペンタセンのマルチグレイン薄膜を用いたペンタセン (C22H14)は図 38のようにベンゼン環が 5つ縮合した構造をもつアセン系 π共役分子であり最も基礎的な p

型有機半導体の 1つとして知られる真空蒸着による簡便な成膜によっても 1 cm2(Vs)という比較的高性能な移動度を有することで知られている [30 121]そのため金属ndash有機分子界面評価のベンチマーク [39]という基礎的なことから論理回路 [21]という応用的なところまで幅広い研究に用いられている一方ペンタセンの真空蒸着により成膜すると一般にグレインが多数連なったマルチグレイン薄膜となるこれは蒸着条件や絶縁膜の表面処理を変化させても最大で数 microm程度の大きさにしかならず [29 122]OFETを作製すると多数のグレイン境界を通ることになるグレイン境界により制限された OFETの電気特性および移動度の評価が四端子法により行われているものの [32]影響を平均した評価にならざるを得ないよって本研究でもペンタセンのマルチグレイン薄膜を試料として用い過去の報告の知見を活かしつつPCI-AFMの利点を活かした特定のグレイン境界評価に臨む

30 第 3章 AFM電流測定法を用いた有機グレインの局所電気特性評価

SPM solution

Waferchip

LOR 3B

Au

S1813UVozone

UV

Photomask

(1) SPM cleaning (2) UVozone cleaning (3) Spincoat amp bake (4) Resist coating

(5) UV exposure(6) Development(7) Deposition

(9) EB resist (10) EB lithography (11) Development

(14) Deposition

(12) Deposition

(8) Lift-oamp cleaning

(13) Lift-oamp cleaning

eminus eminusPtZEP 520A

Organic lm

UV

litho

grap

hyEB

lith

ogra

phy

図 39 測定試料の作製手順の模式図

試料作製手順 測定試料は以下のプロセスにより作製した図 39に手順全体の模式図を示す

1 表面に 100 nmの熱酸化膜 (SiO2)を有する高ドープ n型 Siウェハを用い硫酸ndash過酸化水素水 (SPM)洗浄を行う

2 紫外線 (UV)露光をし (UVオゾン洗浄)表面を親水化する3 LOR3Bを 4000 rpmで 45秒スピンコートし190Cで 5分ベーク4 UVレジスト S1813を 5000 rpmで 30秒スピンコートし115Cで 1分ベーク5 マスクアライナーを用いてUV露光を 3秒行いマスクパターンを転写6 現像液MICROPOSIT CD-26に 1分程度浸漬することで現像7 真空蒸着装置を用い1 times 10minus4 Pa以下の高真空下で Crを電子線 (EB)加熱により 3 nmAu

を抵抗加熱により 50 nm蒸着8 Remover1165でリフトオフを行い続いて UVオゾン洗浄9 EBリソグラフィ用のレジスト ZEP 520Aを 1500 rpm60秒の条件でスピンコートし160C

で 5分ベーク10 ギャップ幅 100 nmギャップ長 300 nmの条件で EB描画11 EBレジストの現像液 ZED-N50に 2分浸漬することで現像

32 マルチグレイン有機薄膜の複数雰囲気中測定 31

12 スパッタリング装置により Ptを約 5 nm堆積13 Remover1165によるリフトオフ続いてイソプロパノール (IPA)蒸気洗浄および UVオゾン洗浄

14 真空蒸着によりペンタセンを約 01 nmminの蒸着レートで 10 nm堆積

(3)から (8)の行程は UVリソグラフィ(9)から (13)の行程は EBリソグラフィに対応する

322 装置構成PCI-AFM測定時の装置構成を図 310に示すAFMコントローラとして日本電子製 JSPM-4200

を用いFG1 (Yokogawa FG120)からの励振信号で AM-AFMを動作させている真空中では Q値制御装置を用いたQ 値制御回路使用時は安定した励振を行うために不要な高調波を除去するローパスフィルタ (Low-pass filter LPF)を挿入した電気回路部については試料上の電極 (Drain)に定電圧 (VD)を印加しSi基板 (Gate)にゲートバイアス (VG)として FG2 (Tektronix AFG320)から任意波形を出力した試料ndash導電性探針間を流れる電流 (ID) はカンチレバーホルダー直結の低バイアス電流な自作電流アンプ (109 VA) で検出し電流信号はデータロガー (Keyence NR-500 NR-H08)で測定全時間に渡り取得した

Point-by-point動作は AFMコントローラに備わる「MFMモード」を利用したMFMモードでは256 times 256点の各点で10 ms毎にフィードバックモードとホールド (高さ固定)モードを切り替える本来の MFMモードは MFM測定のために試料から離れる (Lift)方向にしか動かせない本研究で用いた AFM コントローラは研究室で改造が行われており外部から直接高さの変調信号 (Z-mod)

を加えられるようになっている [78]高さ変調信号は FG3 (Tektronix AFG320) から出力した信号を minus20 dB減衰器に通した上で Z-modに入力したまたフィードバックモードとホールドモードに同期した信号が JSPM-4200 の PR2 端子からLIFT 信号として出力されているこの信号に FG1 FG2 FG3 を同期させることで point-by-

pointでの振動電圧印加接触動作が可能となる図 311のタイムチャートは測定点の移動 (X)カンチレバー変位 (Deflection)Lift信号それぞれの FGの時間波形と動作タイミングを示している1点当たり 20 ms (=1 period)を要し一定時間フィードバック動作を行ったのちホールドモードとなりLift信号が off状態になるFG1 (Excitation)はこのLift信号が on状態のときのみ出力する GateモードとしているFG2および FG3は Positive edgeの Triggerのみ受け付けるためLift

信号を Not回路に通した上で FG2と FG3の Triggerに入力したFG3の電圧値は実際に接触しているときの Defletion変化 (∆z)から計算される接触力が 10 nN程度になるよう調節した結果表示で 06ndash08 Vとなった

323 大気中 PCI-AFM評価大気中でペンタセン薄膜に対し PCI-AFM測定を行ったVD = minus2 Vとし接触中に VG を minus1 V

から minus5 Vへ変化させながら測定した図 312(a)は PCI-AFMで同時測定された表面形状像であるより大きい範囲の表面形状像から推定した電極の位置を点線の枠で示しているPCI-AFMでは各点でカンチレバーの振動停止再開をしていることから探針ndash試料間距離が不均一になることが懸念さ

32 第 3章 AFM電流測定法を用いた有機グレインの局所電気特性評価

RMS

Data logger

Feedbackcontroller

Scanner

LDPSPD

Q-controller

AFM controller

PZT

FG1

FG2

FG3

Z-mod

Gate

Lift

InsulatorGate

VD

IndashV amp

-20 dB

LPF

Deection

Current Trigger

図 310 真空動作 PCI-AFMを用いた OFET電気特性測定時の装置構成図

Deection

LiftZ hold Z hold

FG1 (excitation)

FG2 (VG)[100 Hz]

FG3 (Z-mod)[501Hz]

X

1 period = 20 ms

-5 V

[period]

[period]

0 01 09 1

001

02095

1

Time

Gate

Trig

Trig

Δz

図 311 PCI-AFM測定の各信号のタイムチャート

32 マルチグレイン有機薄膜の複数雰囲気中測定 33

100 nm0

30

[nm

]

Electrode

(a)

10

0

I D [n

A]

(b) AB

C

VG iuml V

(c)

iuml V

(d)

iuml V

(e)

iuml V

(f)

iuml V

図 312 マルチグレイン薄膜の大気中 PCI-AFM 測定結果 (VD = minus2 V)(a) Pt 電極に接続したペンタセン薄膜の表面形状像(b)ndash(f) VG = minus1 minus2 minus3 minus4 minus5 Vの電流値で再構成した電流 (ID)像図中の矢印はグレイン境界太点線はグレイン A B Cの範囲をそれぞれ表す

れるが表面形状像からはドット状ライン状のノイズは見られないことから安定して動作していることが分かる図 312(a)より多数のペンタセングレインが電極に接続していることがわかり薄膜中の「谷」部から矢印で示すようなグレイン境界が見て取れるここでペンタセン薄膜内にいくらか平坦な領域が存在しているSiO2 のような非活性な基板上で成膜したペンタセン薄膜は 1

軸配向性を示すことがこれまでも多く報告されており今回のペンタセン薄膜においても分子長軸を基板に対して立てて配向していると考えられる図 312(b)ndash(f) はそれぞれ VG = minus1 V からminus5 V

の電流値を抽出し再構成した電流像であるまず電極付近は電流値の大きい地点が多くまた VG の印加により大きな変化はない一方赤色の点線で囲ったグレイン A B C についてはVG = minus1 V

の電流像では暗いままつまり電流が小さいのに対しVG = minus5 Vの電流像では接続している膜部分と同等の電流値を観測しているこのように負のゲートバイアスの印加に従う電流の増加は p型有機半導体を用いた OFET の特徴であるこれはPCI-AFM を用いて有機半導体薄膜の各点で構成した局所 OFETの特性を測定した初めての例であるグレイン毎の違いを詳しく見てみると図312(b)のグレイン Bでは少しだけ電流が流れているがグレイン A Cはほぼ電流が観測されていないまた図 312(f)ではグレイン Aはグレイン Bと同程度の電流値になったもののグレインCは他の 2つに比べて電流が小さいこのような電流増加傾向の違いがグレイン毎に現れていることはこのペンタセン薄膜においては電気特性がグレイン境界によって大きく制限されていることを示している

324 真空中 PCI-AFM評価および雰囲気比較前節ではグレイン A Bと連続して接続しているグレインに関してゲートバイアス特性 (IDndashVG)が異なるという興味深い結果が得られたそのため評価対象をこのグレイン A Bに限定してより狭い範囲で測定することでより詳細な評価を行う図 312(a)の矩形範囲について真空中で PCI-AFM

34 第 3章 AFM電流測定法を用いた有機グレインの局所電気特性評価

0

30

Electrode50 nm

(a)

[nm

]

2

0

I D [n

A]

A

B

(b)

VG = 0 V

(c)

VG iuml V

(d)

VG iuml V

(e)

VG iuml V

(f)

VG iuml V

図 313 マルチグレイン薄膜の真空中 PCI-AFM測定結果 (VD = minus2 V)(a)表面形状像(b)ndash(f)VG = 0 minus1 minus2 minus3 minus5 Vにおける電流 (ID) 像図中の矢印はグレイン境界太点線はグレインA Bの範囲をそれぞれ表す

測定を行ったVD = minus2 VのままVG として 0 Vから minus5 Vの Ramp信号を用いた図 313に真空中の PCI-AFM測定で同時に得られた表面形状像 (a)および VG = 0 V minus1 V minus2 V minus3 V minus5 Vにおける電流像 (b)ndash(f)を示す大気中の結果と同様に滑らかな表面形状が得られておりQ値制御を用いることで真空中でも安定した PCI-AFM動作が実現できていると考えられる図 313(b)ndash(f)から大気中の結果同様に VG の印加に従い電流増加が見られているまたグレイン Bは VG = minus2 Vから minus4 Vにかけてグレイン Aは VG = minus1 Vから minus3 Vにかけてというように電極から近いグレイン順に電流増加が始まることが明瞭に観察された図 314に大気中真空中 PCI-AFMで得られた結果のうち図 313(a)の矩形領域で示す同一グレイン上の結果を比較したものを示す図 314(a) (b)の表面形状像から同一位置であることを推定した但し横軸を電極からの距離と取るために図 313に対し 90 回転させておりまた測定時の熱ドリフトの違いやスキャナのクリープの影響により像のサイズは若干異なっている図 314(c)

(d)は表面形状像の実線に沿った IDndashVG 特性を電流値マップとしてプロットしたものであり横軸が表面形状の実線の位置に対応する但し元の電流像から 64 times 64ピクセルに周辺の最大値を取るようダウンサンプルした上で表面形状像の実線に対し 10ピクセルの幅で平均した電流値を用いている電流値マップから電極上は VG による明確な電流変化はなくグレイン上での電流は VG により変化していることが明瞭に観測できる特に点線で示されているグレイン B Aの境界で電流マップのコントラスト変化が見て取れ電流マップにより IDndashVG 特性の変化が容易に確認できるといえるまた図 314(e) (f)は (c) (d)を見かけの抵抗値 RD = |VDID|として変換したものであるりいくつかの VG についてプロファイルをプロットしたこの RD は位置に伴う抵抗の積算値と考えることができるここで距離による抵抗の増加は明瞭には観察されなかったが一方でグレインBよりも一つグレイン境界を跨ぐグレイン Aで抵抗値が大きく増加しておりここからもグレイン内部よりも AndashB 間グレイン境界が OFET としての電気特性を大きく左右していることがよく分か

32 マルチグレイン有機薄膜の複数雰囲気中測定 35

0 1 2 3 4 5 6

RDgt

ї

VG=-1V

-5V

-2V

B

Electrode A

-3V

0

10

20

30

40

50R

Dgt

ї VG=0V

-1V

-2V-3V-5V

B A

Electrode

-1

-5

V Ggt9

+1

-5

V Ggt9

In air(a) (b)

(c) (d)

(e) (f)

In vacuum

Elec

trode

Elec

trode

10

0

I DgtQ$

4

0

I DgtQ$

図 314 同一グレインにおける (ace)大気中(bdf)真空中の PCI-AFM結果比較(a) (b)表面形状像(c) (d)表面形状像の実線に沿ったゲートバイアス依存の電流値マップ(e) (f)各ゲート電圧値に対する電流値より計算した見かけの抵抗値プロファイル左から右に進むに従い接触時の電極からの距離が遠くなる図中の A Bは図 312 313におけるグレイン A Bの領域に対応する

るAndashB間グレイン境界による特性への影響をより詳しく評価するために図 314のグレイン A

B上で平均した IDndashVG 特性を図 315(a)に示すFETの IDndashVG 特性は電流の立ち上がりがしきい値電圧 Vth に対応する図 315(a)を見ると大気中真空中共にグレイン Aの Vth がグレイン Bに対して負電圧にシフトしていることがわかるこのことは図 312および図 313で見られたようにグレイン毎に OFETの動作が ldquoONrdquoになることを再度示しているといえる一方傾きに対応する伝達コンダクタンス partID

partVDはグレイン A Bで大きな違いはなかった過去のペンタセン OFETに関

する研究においてもグレイン境界がしきい値電圧を負にシフトさせている報告があり [27 28]今回の測定も妥当な結果が得られていると考えられる一般的にしきい値電圧は深いトラップ準位一方しきい値電圧以降の伝導特性は浅いトラップ準位が影響するといわれている [54]このことを踏まえるとグレイン境界は深いトラップ準位リッチと考えられるグレイン境界とトラップの関係はこれまでも指摘されてきたものの [123]今回のように単一の特性のグレイン境界においてしきい値電圧シフトを直接観測したことは有機デバイスの電気特性と物性の相関を確かめる上で非常に有意な結果と考える

36 第 3章 AFM電流測定法を用いた有機グレインの局所電気特性評価

0

2

4

6

-4-2 0

I D [n

A]

VG [V]

AirAB

Vacuum

0

100

200

300

400

-20-15-10-5 0

I D [n

A]

VG [V]

AirVacuum

Vacuum

Air

(a) PCI-AFM (b) Reference OFET

図 315 (a)図 314で示したグレイン A B上で平均した大気中 (赤色)真空中 (緑色)の IDndashVG

特性菱型記号丸記号はそれぞれグレイン A Bの特性を表す(b)レファレンスとして作製したチャネル長 200 nmの OFETの IDndashVG 特性

一方雰囲気で比較すると真空中に比べて大気中では全体的に電流値の増加が見られるまたグレイン A の VG = minus1 V が顕著なようにしきい値電圧の若干の正シフトも見られるしかしこれら変化はどちらのグレイン上においても同等の影響となっているこのような電流値の増加は大気中の酸素の影響と考えられており [124ndash126]有機膜に取り込まれた酸素分子が正孔ドープを行うために抵抗が減少し同時にその正孔により若干のトラップ準位も埋めたことでしきい値電圧が正にシフトしたと考えられる電極対を用いたペンタセン OFETを作製し大気中真空中で伝達測定した結果においても同様の電流の増加としきい値電圧の正シフトが見られた (図 315(b))PCI-AFM で測定された OFET 構造では二つのグレインのみが関係するが電極対を用いた測定ではチャネル中に多数のグレインが存在するそれにも関わらず雰囲気による影響で同様の傾向が見られていることは大気中の酸素による影響はグレイン境界よりもグレイン内部や電極ndash有機界面に大きく影響を与えると考えられるこのように複数環境で PCI-AFMを用いられることは局所電気特性評価を行う上で非常に有用だということが示されたと考える

33 単一微小グレイン OFETの特性評価32節では真空動作化した PCI-AFMを用い真空中での PCI-AFM測定が実現されたことを確認したまたグレイン境界が与える OFETの電気特性への影響とグレイン境界が持つ物性について知見を得た一方でグレイン境界により電気特性が制限されていたためグレイン内部の電気特性についての知見は得られなかった本節ではグレイン内部の電気伝導に着目しPCI-AFM測定により単一のグレインの持つ電気特性を抽出評価することを目標とする

331 Point-by-point動作時間間隔の自由化32節の測定では JEOL製 AFMコントローラのMFMモードを利用した point-by-point動作を実現したしかしMFM モードの利用はソフトウェアの制限により最長で 10 ms のホールド時間しか確保できない電圧掃引時間を長くする積算回数を増やすといった測定のためには自由にホー

33 単一微小グレイン OFETの特性評価 37

Lift down

Lift up

Restart excitation

Trigger

Pre-lift Stop excitation

Mesh point

Restart

From controller

100 ms

350 ms

50 ms

200 ms

Measurement period Bias voltage

To controller

FG120 (FG1)excitation

AFG320 (FG3)

GP-IBGP-IB

GP-IB

図 316 PCI-AFM の point-by-point 動作時間間隔を自由に設定するために作成したプログラムのフローチャートFG1 FG3は図 310の FG1 FG3に対応する

ルド時間が設定できることが望まれるそのため研究室で製作された PXI4および FPGA5ベースの AFMコントローラを用いた point-by-point動作用セットアップを構築した図 316に point-by-

point動作のために作成した LabVIEW6プログラム (Externalプログラムと呼ぶ)のフローチャートを示す動作は以下の順序で実行される

1 (External外) AFMコントローラにおいて point-by-point動作点 (Mesh点と呼ぶ)に来た場合フィードバックモードからホールドモードにしプログラム的に Externalプログラムに信号を送る

2 励振停止指示を GP-IB接続した FG1に送る同時に探針を試料に若干近づける (Pre-lift)3 探針を試料に接触させる (Lift down)4 測定用バイアス出力指示を GP-IB接続した FG3に送る5 任意測定時間経過後探針を試料から離す (Lift up)6 励振再開指示を FG1に送る7 AFMコントローラにMesh点動作終了を通知する

AFM コントローラと External プログラムの間の信号伝達は LabVIEW のシェア変数により実現されているそのため完全に同期させた動作は困難であり各プロセス間に図中のとおりのウェイト時間を設けることで各プロセスを完了するように調整した

38 第 3章 AFM電流測定法を用いた有機グレインの局所電気特性評価

Electrode Pentacene grain

SiO2

[nm

]

30

0

50 nm(a)

(b)

[nA]

15

0

(d)

Tim

es

(c)

Electrod

e

0

100

200

0 100 2005HVLVWDQFHgtї

LVWDQFHgtQP

0

05

1

15

ampXUUHQWgtQ$

IA BII III

2 V0 V

iuml9iuml4 Viuml6 Viuml8 V

VG

A B

A B

図 317 ペンタセン微結晶上における PCI-AFM ライン測定結果(a) ペンタセン微結晶の表面形状像(b) (a)の AndashBラインに沿った PCI-AFM測定によって得られた位置および測定回数に対してプロットした電流マップ (VG = minus8 V)(c) (d)各 VG における電流値 (c)および抵抗値 (d)の電極からの距離依存性(c) (d)のプロファイルに対応する表面形状像および AndashBライン領域 I II IIIの位置を (c)のインセットに示す

332 ペンタセン微結晶上の PCI-AFMライン測定321節と同様に作製したペンタセン薄膜試料の表面形状像を図 317(a)に示す321で得られたペンタセン薄膜 (図 312(a))と比べ比較的平坦部分が増しまたグレインの縁が単結晶のように直線的になっている本試料は前節と異なり蒸着中の基板温度を常温から 45Cに上げており蒸着量を約 5 nmとした基板温度の影響はペンタセンのグレイン構造に大きく影響を与えることが指摘されており [122]図 317(a)のペンタセングレインは基板温度を上げたことにより比較的結晶性の良いグレインとなっていると考えられる続いて図 317(a)の AndashBラインに沿って各点 IDndashVG のPCI-AFM測定を行った電極に +3 V各点における基板へのバイアス印加を +5 Vから minus5 Vとすることで実効的に電極がソースカンチレバーがドレインとなるように動作させこのときのドレインバイアス (VD)は minus3 Vゲートバイアス (VG)は +2 Vから minus8 Vと換算できるPCI-AFM測定は同一ライン上を複数回取得した得られた VG = minus8 Vにおける電流プロファイルの測定回数依存を図 317(b)に示す電流マップの上から下にかけて測定回数が増えるが少なくとも 10ラインはほぼ同一の特性が得られていることが分かるよってこの間は探針の変化は小さくまた試料の電気特性変化も起きていないと考え以下の解析では 2ndash8ライン目の計 7ラインを平均した結果を

4 PCI eXtentions for Instrumentation5 Field-programmable gate array6 National Insturments社のグラフィカルプログラミング統合開発環境の名称

33 単一微小グレイン OFETの特性評価 39

Tip Mirror tip

V

Electrode

(a) (b)

VminusV

PE(r)

rArB

x

A(L0)B(-L0)

r

y

0

Tip

図 318 2D伝導の理論的検討(a)電界広がりを考慮した抵抗体内の電界の模式図(b)鏡像電位 minusV を用いて求める場合の模式図電位 V中心点 A(d 0)半径 rの Tip接触部に対して鏡像Tipを電位 minusV中心点 B(minusd 0)半径 r の円と定めることでx gt 0の範囲で (a)と同一の電界分布となる

用いたなお測定の後半では若干電流値の減少が見られておりこの領域では探針の摩耗といった特性変化の影響が考えられる

PCI-AFMで得られた電流プロファイルの VG 依存性を図 317(c)に示す図 317(c)のインセットに位置を対応させた表面形状像を表示しているまず電極端に対応する位置で電流値が最大となっている電極直上ではゲートバイアスによる電荷蓄積の影響が現れにくくほぼペンタセンの真性状態の特性しか現れていないと考えられるため電流値が減少したと考えられる次に電極からの距離が遠くなるに従い電流値の減少が見らるがグレイン内を通る距離が増える分抵抗が大きくなることと合致する最後に絶縁膜である SiO2 上では電流は検知されず漏れ電流やゲートバイアス掃引による影響は排除できていると考える電流プロファイルからはグレイン内で距離が増加するに従い電流が減少する傾向に明確な違いは見受けられないが図 317(d)のように R = |VDID|で変換した抵抗値のプロファイルを見ると傾向の違ういくつかの領域があることが分かる電極からの距離が近い順に領域 I II III と名付けると領域 I は電極端から非線形的に抵抗が増加している一方領域 IIは距離に対して線形に変化しており特に VG lt minus4 Vで顕著である領域 IIIは単調な変化をしていないが対応する表面形状から別のグレインが繋がったものと考え今回の評価からは除外する以下領域 I IIを含むペンタセングレインを微結晶と呼ぶ

333 抵抗の距離依存性の理論数値的検討前節では微結晶上の領域 I IIで異なる抵抗の距離依存性を確認できた本節では特に領域 IIに注目し微結晶本来の特性の抽出を検討する

理論的考察 抵抗率 ρの抵抗体の抵抗を考えるとき最も基本的な伝導は全ての電界が抵抗体内では平行に分布する場合であるX Y Z 方向にそれぞれ長さ L w t の直方体の X 方向の両端に電極を接続する場合の抵抗 Rは

R = ρLwt

(311)

のように電極間距離 L に対して線形に変化するこのような伝導を以下 1D 伝導と呼ぶしかし図 317(a)の表面形状像では微結晶が電極に接触している部分が多く図 318(a)のように電界が平行ではなく平面上を広がる可能性があるこのような伝導を 2D伝導と呼ぶ2D伝導における抵

40 第 3章 AFM電流測定法を用いた有機グレインの局所電気特性評価

抗を求めるため試料をシート抵抗 ρ厚さ 0の抵抗体と考えx = 0で y方向に無限に長い電位 0

の電極および点 A(L 0)を中心とする半径 r電位 V の円を接触している Tipと考え接触電流測定のモデルとする図 318(b)のように点 B(minusL 0)を中心とする半径 r電位 minusV の円を Tipの鏡像を考えるとx gt 0の範囲は求める電界分布と同一であるここで点 P(x y)の位置が点 A Bそれぞれからの位置ベクトル rA rB で表されるときTipおよび Tipの鏡像が作る点 Pにおける電界はそれぞれ定数 λを用いて

EA =λ

2πrA

|rA|2 EB =

minusλ2π

rB

|rB|2(312)

と表される7よって点 Pでの x方向の電界 Ex は

Ex(x y) =λ

[L minus x

(L minus x)2 + y2 minusL + x

(L + x)2 + y2

](313)

であるTipndash電極間に流れる電流を I とすると電極上 x = 0における電界から電流が

I =1ρ

int infin

minusinfinminusEx(0 y)dy

ρπ

int infin

minusinfin

LL2 + y2 dy

ρπ

int π2

minus π2dθ =

λ

ρ(314)

と表されることからλ = ρI と求まる一方Tipndash鏡像 Tip間の電位差は

2V = minusint Lminusr

minus(Lminusr)Ex(x 0)dx

= minusρI2π

int Lminusr

minus(Lminusr)

[1

L minus xminus 1

L + x

]dx

= minusρI2π[log(L minus x) minus log(L + x)

]Lminusrminus(Lminusr)

=ρI2π

log4L2 minus r2

r2 (315)

と表されるため2D伝導の抵抗 R2D は

R2D =ρ4π

log4L2 minus r2

r2 (316)

と求まるL - rのときR2D sim ρ2π log 2Lr となるため1D伝導とは異なり距離に対して対数的に変

化することが分かる過去の SPMを用いた報告として2つの探針を有する STMを用いてポリ 3-オクチルチオフェン

(poly(3-octylthiophene) P3OT) の薄膜の抵抗率を測定した結果がある [128]この報告では非常に広い薄膜を用いているため距離に対して対数的に変化する 2D伝導として記述できることから抵抗率を算出している一方で有機薄膜における探針電流測定において実効的なチャネル幅を見積もることで線形的な変化とみなす試みもなされている [129]しかし有限要素法による解析ではチャネルの存在が仮定されておらずバルク部での電界の広がりとチャネル領域との振る舞いの違いが懸念される

33 単一微小グレイン OFETの特性評価 41

Electrode

(buried)

Bulk (σbulk)

Channel (σch)

Contact area (Tip)

tbulk

L

Lmax

w

teltch

r

図 319 有限要素法による OFETモデルの電界シュミレーションに用いた試料モデル

表 32 有限要素法による OFETモデルの電界シュミレーションで用いたパラメータ印以外は実測に則した値を用いており印はモデル化のため仮定した

Parameter Description Value

tel 電極厚さ 5 nm

tbulk 有機膜厚さ 20 nm

tch チャネル層厚さ 1 nm

w 電極接触幅 100 nm

Lmax 微結晶最大長 100 nm

σch チャネル導電率 1 Sm

σbulk バルク部導電率 01 Sm

r 探針接触半径 5 nm 10 nm

数値的考察 理論的な考察を踏まえ実際の測定系に近いサイズで電界がどのように振る舞うか調べるために本研究でも有限要素法による電界シュミレーションを行った図 319に電界シュミレーションで用いた試料モデルの模式図を対応する用いた各種パラメータを表 32にそれぞれ示す各種パラメータは用いた電極および図 317(a)から求まる概算の実測値を用いている絶縁膜直上の 1分子層にほとんどの電荷が蓄積されることが知られているため [130]チャネル層の厚さは簡単に 1 nmとした図 320に電界シュミレーションで得られた電流密度マップを示すほとんどの電流は速やかにチャネル層に到達しておりまた電極接続幅全体に渡っていることが分かる特に電極端から 20 nm程度は平行にほぼ同じ電流密度で流れているこれは 2D伝導よりも 1D伝導に近いことを示唆する結果である図 321(a)に探針接触径 r = 5 nm 10 nmのときの抵抗距離依存性の計算結果を示すどちらの接触径においても距離に対してほぼ線形に変化していることが明瞭である接触径が 10 nm から 5 nm になることで距離 0 での抵抗がほぼ 2 倍となっている距離 0

7 2次元伝導の場合無限遠点の電位が 0とはならない [127]

42 第 3章 AFM電流測定法を用いた有機グレインの局所電気特性評価

(a)

r = 10 nm L = 80 nm

(b)

Tip

Electrode

50 nm

図 320 OFETモデルの電界シュミレーションで得られた電流密度マップr = 10 nmL = 80 nmのときの結果を示している

0

200

400

600

800

0 20 40 60 80 100

5HVLVWDQFHgt0ї

LgtQP

r = 10nm

r = 5nm

0

5

10

0 5 10

Appa

rent

ѫchgt6

P

5HDOѫchgt6P

FittingCalculation

(b)(a)

図 321 OFETモデルの電界シュミレーション結果(a) r = 5 nm 10 nmにおける抵抗の距離依存性(b) r = 10 nm におけるチャネル導電率を変化させたときの見かけの導電率の変化(a)の 30 nmndash80 nm 間の傾きを dRdL としたとき見かけの導電率は σprimech = (wtch

dRdL )minus1 で記述され

る値

のとき電流経路はほぼバルク部分のみであるため接触抵抗とみなすことができる一方傾きは接触径によりあまり変化していないことから実際の測定における接触径と異なるとしても距離依存性への影響は小さいと考えられるこのように距離に対して線形に変化することから微結晶上のPCI-AFM測定では 1D伝導とみなして評価できるといえる電極付近ではほとんどの電流がチャネル中を流れるとすると微小な距離増加 dLに対する微小な抵抗増加は dR = dL(σchwtch)と記述できるよって抵抗ndash距離依存性の計算結果における傾き ( dR

dL )からチャネル導電率は

σapparent =(wtch

dRdL

)minus1(317)

と計算される図 321(b)にチャネル導電率を変化させた際の計算結果における dRdL から算出した見

かけのチャネル導電率のプロット結果を示す実際のチャネル導電率がバルク導電率に近い場合見かけの導電率は大きく異なるがチャネル導電率がバルク導電率に比べて非常に大きいときは実

33 単一微小グレイン OFETの特性評価 43

0

2

4

6

8

10

12

-8-6-4-2 0 2

S gtQP

ї

VGgt9

ch

101

102

103

104

-8-6-4-2 0 2

WR

pgtNїAtildeFP

VGgt9

(a) Channel conductivity (b) Parasitic resistance

図 322 PCI-AFMにより得られた微結晶上の抵抗の距離依存性 (図 317(d))のうち領域 IIについて TLMで抽出した (a)チャネル導電率 S ch(b)寄生抵抗 Rp

際と見かけの導電率はかなり似通ってくるまた図 321(b)のプロットを線形フィッティングすると傾きは約 09となり dR

dL から計算されるチャネル導電率は実際の導電率とほぼ同等ということが分かった

微結晶のパラメータ抽出 以上の理論数値的検討よりPCI-AFM測定で得られた微結晶の領域IIにおける抵抗の距離依存性は 1次元伝導として解析可能だと結論づけたOFETとチャネル長との関係は非常に深くこれまで多くの研究において 4端子法 [41 53]や TLM [48 131ndash134]を用いた真の OFETチャネル伝導特性評価が試みられてきたこれら手法は OFETの特性に含まれる接触抵抗と OFET本来の特性とを分離するための手法でありOFET特性に由来する抵抗のチャネル長依存性が線形であることを利用しているTLMの方法を以下で説明するOFETの線形領域における特性より全抵抗 Rは

R = Rp +L

wCimicro(VG minus Vth)minus1 (318)

と記述できチャネル長 Lに対して線形に変化する但しチャネル幅 w単位面積あたりの絶縁膜容量 Ciしきい値電圧 Vth移動度 microであるチャネル長を変化させたデバイスを作製すると理想的には L以外のパラメータは一定なため距離依存の線形近似により移動度および切片から接触抵抗 Rp を求めることができるもしくは全抵抗の距離微分の逆数 (チャネル導電率)S ch が

S ch equiv(dR

dL

)minus1= wCimicro(VG minus Vth) (319)

のようにゲートバイアス VG に対して線形に変化することからしきい値電圧も抽出することができるこちらの手法を Gated-TLMと呼ぶこともある図 317(d)の領域 IIのうち電極からの距離 30 nmndash100 nm間についての線形近似で得られたチャネル導電率 S ch および寄生抵抗 Rp を図 322に示す寄生抵抗の影響を排除したにも関わらずチャネル導電率は式 (319)のように VG に対して線形に変化していないそのため移動度がゲートバイアス依存をもっていると解釈できるこのような移動度のゲートバイアス依存は有機層がエネルギーに対して指数的に分布するトラップ準位を有す場合に発現することが知られ半経験的な式

44 第 3章 AFM電流測定法を用いた有機グレインの局所電気特性評価

として次のような形が知られている [135 136]

micro = κ(VG minus Vth)α (320)

指数分布する局在準位と伝導に寄与する準位との間を行き来しながら電荷が通過することでチャネル内伝導が起こるとしたMultiple trapping and release (MTR)モデルではこの移動度のゲートバイアス依存性が解析的に導かれている [137]一方で指数分布するトラップ準位を考慮した電気伝導はアモルファスシリコン (a-Si)を用いた FETで記述された考え方であり [138]非常にトラップが多い系を対象とする式 (320)を考慮した移動度の抽出手順としてσch を 1(α + 1)乗 (α ge 0)しminus3 V le VG le minus8 Vの範囲に対して線形最小二乗法フィッティングを行いフィッティングの確実度(=回帰の平方和総平方和)が最も 1に近くなるような αを最適値とした最適フィッティングパラメータはα = 218でありこのとき Vth = 03 Vκ = 315 times 10minus6 cm2(V1+α middot s)となった過去の報告では αの値は 1程度かそれ以下であり [135 136]本研究で得られた値は大きく異なる一方MTRモデルを考えαをトラップ深さに対応するエネルギーに変換すると 80 meVとなる比較としてペンタセンを用いた OFETにおける活性化エネルギーとしては 20 meVndash40 meVが知られている [2953]またAFMポテンショメトリーを用いたペンタセングレイン内の電位測定からグレイン内部のバンドゆらぎが 20 meV 程度あることが指摘されている以上の結果もやはり本結果よりもエネルギーが小さい値である今回測定した微結晶においてこのようにトラップに対応するエネルギーがこれまでの報告に比べ大きい理由としては以下のことが考えられる第一にOFET

の移動度は有機ndash絶縁膜界面によって非常に影響を受けるということである絶縁膜 SiO2 の表面に塗布するバッファ層の種類により移動度が一桁以上変化する報告もあり [139]本研究では有機ndash絶縁膜界面が比較的トラップリッチだったことが考えられる第二に電極ndash有機界面部分の特性がTLMのみでは排除しきれていない可能性がある図 320の電界シミュレーション結果より電流密度が電極付近で非常に大きくなっていることが分かるそのためたとえ距離依存性からチャネルのみの特性を抽出していたとしても電極付近の特性が特に含まれている可能性がある電極付近は通常のチャネル部よりも活性化エネルギーの高さが指摘されていることからも [53]考慮にいれるべきであろう

334 電極近傍の電気伝導特性本節では図 317(c)の領域 Iに注目する領域 Iは電極からの距離がおよそ 25 nm以内であるがペンタセングレインの厚さが 20 nm程度ということを加味すると電流経路としてチャネルを通らずに探針ndash電極間で直接伝導するものも含まれうるこのとき探針ndash電極間直線距離 Ldirect に応じて増加する抵抗 Rdirect を考えると全体の電流は図 323(a) のように式 (318) で記述される OFET

の抵抗を経由する電流 IFET = VD(Rp + RFET)と直接伝導する電流 Idirect = VDRdirect の和となるただし図では式 (318)の右辺第二項を RFET としたここで図 317(c)における電流距離依存性をLminus1

direct に対する依存性に変換したものを図 323(b) に示すただし電極ndash探針間水平距離 L膜厚tbulk = 20 nmに対して Ldirect =

radicL2 + t2

bulk としたもし Idirect なる成分がない場合1Ldirect が増加しても IFET は VDRp で飽和するその傾向は図 323(b) の領域 II(距離減少に対して IFET 増加) および IIrsquo(IFET 飽和)にあらわれている一方領域 Iに対応する箇所では 1Ldirect に対して増加しておりこの増加する成分が Idirect に対応すると考えられるまた領域 Iの 1Ldirect に対する傾き

34 AFMによる接触電流測定の問題点 45

0

05

1

0 002 004

Cur

rent

[nA]

1Ldirect [1nm]

2 V0 Vndash2 Vndash4 V

ndash6 V

ndash8 VVG

III IIrsquo

Rp

RFET

RdirectIdirect

IFET

Tip

Electrode

(a) (b)

IFET

Idirect

図 323 (a) チャネルを通る伝導 (電流 IFET) に加えて電極近傍における探針ndash電極間直接伝導(電流 Idirect) を考慮した回路モデル(b) 図 317(c) の電流を探針ndash電極間直線距離 Ldirect の逆数1Ldirect に対してプロットしたグラフ領域 I と領域 II (IIrsquo 含む) はそれぞれ図 317(c) のインセットにおける領域 I IIに対応する

VG VD

Cantilever(source)

GrainCarrier

Electrode(drain)

VG ndash VD ndashVD

Cantilever(drain)

Grain

GateCarrier

Electrode(source)

(a) Cantilever-Source (b) Cantilever-Drain

Gate

図 324 カンチレバーのソース動作 (a)ドレイン動作 (b)の模式図とキャリア (正孔)の動きドレイン動作時は固定電極に minusVDゲートに VG minus VD を加える事で(a)とバイアス条件を同じにしながらカンチレバーの接続を変えることなくドレイン動作させることができる

つまり直接伝導の抵抗率は VG 依存性を持っておりVG lt minus4 Vの領域で比較的一定であるIdirect

の電流成分はチャネル部を通過していないのにも関わらずこのような抵抗変調が起きる原因として電極を覆うグレインの存在が考えられる本試料のように電極をゲート絶縁膜直上に形成後有機薄膜を作製するボトムコンタクト型 OFETにおいて電極直上のドーピングによる効果が観測されている [140]これは電極直上の薄膜部分も伝導に関与していることを示しておりVG の印加によるキャリア変調も起こる可能性があるつまり図 323(b)の領域 Iで見られた抵抗率の VG 依存性は電極直上の薄膜の存在が接触抵抗を減少させうることを示唆する結果といえる

34 AFMによる接触電流測定の問題点32節では PCI-AFMの電流マッピングを活用し単一グレインを挟んだ際の OFET特性変化を

33節では PCI-AFMの位置依存性評価を推し進め微結晶のナノスケール TLM評価に適用することで微結晶のみの伝導特性を抽出できた一方ナノスケール TLMでは図 322(b)のように寄生抵抗も抽出でき従来の TLMではこの成分を接触抵抗とするがAFM電流測定では電極ndashグレイン界面の接触抵抗 (電極接触抵抗)だけでなく探針ndashグレイン界面の接触抵抗 (探針接触抵抗)も含む近似的に接触面積が接触抵抗に影響すると考えると探針接触抵抗の方が大きいということが予期

46 第 3章 AFM電流測定法を用いた有機グレインの局所電気特性評価

0

10

20

30

40

-5-4-3-2-1 0C

urre

nt [n

A]VD [V]

VG

ndash10 Vndash5 V

0 V

ndash15 V

-40

-30

-20

-10

0-5-4-3-2-1 0

Cur

rent

[nA]

VD [V]

VG

ndash10 V

ndash5 V

0 V

ndash15 V

Electrode

Pentacenegrain

(a) Topography (b) Cantilever-source (c) Cantilever-drain

Contactingpoint

図 325 カンチレバーをペンタセングレイン (表面形状像 (a) の x 点) に接触させて測定したVDndashID 特性(b)カンチレバーのソース動作時(c)ドレイン動作時

されるここで探針接触抵抗と電極接触抵抗の均衡性について議論するためカンチレバーをソース動作させた際とドレイン動作させた際の特性変化を調べた (図 324)セットアップの都合上カンチレバーには電圧を印加できないため固定電極に minusVDゲートに VG minusVD を印加することで実効的にカンチレバーを OFETのドレインつまりキャリア (正孔)の引き抜き側として動作させた図 325(a)の x点で示すペンタセングレイン上の 1点にカンチレバーを接触させカンチレバーをソースドレイン動作させVG = 0 V minus5 V minus10 V minus15 Vについて IDndashVD 特性を測定した結果をそれぞれ図 325(b) (c)に示す結果よりカンチレバーのソース動作時はドレイン動作時に比べて電流が半分程度となったOFETの接触抵抗はドレイン電極端よりもソース電極端の方が大きいことが知られている [141]そのため探針接触抵抗が電極接触抵抗に比べて支配的であることでこのようにカンチレバーのソースドレイン動作による非対称性が現れたと考えられるこのことはナノスケール TLM で抽出された寄生抵抗の大部分が探針接触抵抗によるものであることを示しておりAFM電流測定を用いた電極接触抵抗評価は困難であると考えられる

35 本章のまとめ本章では PCI-AFM を用いた OFET の局所電気特性評価について検証および測定を行ったまず従来手法では困難であった真空中動作を Q 値制御法の利用により実現し効率的な動作パラメータ設定と柔軟な point-by-point 動作設定が可能な制御プログラムの作成を通したフレキシブルな PCI-AFMシステムを構築したペンタセンのマルチグレイン薄膜上の測定から雰囲気による特性変化がグレイン内部で起こることを示したまた単一グレイン境界によるしきい値電圧変化を電流像として可視化できPCI-AFMが位置依存での電気特性評価に有効であることが示された一方単一グレイン上での測定では数値計算から TLM による距離依存性評価が可能であるとわかり単一グレイン上で 100 nm以下のスケールでの TLMを達成したしかしTLMから求まった寄生抵抗には電極ndashグレイン界面の接触抵抗以外に探針ndashグレイン間の抵抗が含まれてしまい探針のソースドレイン電極動作結果から探針ndashグレイン間抵抗が支配的であることが分かった以上のことはPCI-AFMによる OFET評価はグレインndashグレイン間やグレイン内の ldquo比較rdquoがあれば定量的評価が可能であるが比較をとることのできない電極ndashグレイン界面の電気特性評価には向かないことを示している

47

第 4章

新規局所インピーダンス評価法の開発と金属―有機界面物性の評価

3章では PCI-AFMを用いた OFETのナノスケール TLMを行い単一グレイン境界や単一グレイン内伝導の分離評価を達成した一方電極ndashグレイン界面については探針接触抵抗の影響が大きいため評価が困難であることが明らかとなった局所電気特性のうち未達成である電極ndashグレイン界面電気特性の評価のため次の二点に注目する一点目として2章で述べた EFMをベースとする非接触測定により接触抵抗の影響を回避する二点目としてIndashV 測定のような直流評価に留まらず複数物性評価を通したより詳細な物性議論を行うことであるこれはインピーダンス分光や容量ndash電圧測定のようなマクロ薄膜での評価法の AFM応用やKFMによる準位評価 [142 143]を併用することで可能となることが期待されるよって本章では電極ndashグレイン界面の電気特性の選択的評価を行うための新規局所インピーダンス評価法を開発し界面電気特性の由来となる物性の解明を目的とする

41 走査インピーダンス顕微鏡 (SIM)

本研究の目指す AFM を用いた局所インピーダンス評価応用としてはこれまでに走査インピーダンス顕微鏡 (Scanning impedance microscopy SIM) という手法が開発されているSIM はPennsylvania大の Kalinin Bonnellによって 2001年に開発された AFMの応用手法であり試料の水平方向の局所インピーダンスを検出できる [144]SIMの基本的な装置構成を図 41に示すSIM

は AM-AFMの Liftモードで動作する先に AM-AFMにより表面形状像を取得しそのプロファイルに沿って試料より一定距離高いところを走査する試料としては水平方向に材料 A Bが接続もしくは同じ材料でも垂直方向に defect が存在する系を考えるこの材料 A B の間に角周波数 ωの交流電圧を加える表面電位 Vsurf は

Vsurf = Vs + Vac cos(ωt + φc) (41)

と記述できる但しVs は試料表面の直流電位Vac および φc は交流電位の振幅および位相であるこの交流電圧による静電気力 F(t) = F1ω cos(ωt + φc)は

F1ω =partC(z)partz

(Vtip minus Vs)Vac (42)

48 第 4章 新規局所インピーダンス評価法の開発と金属―有機界面物性の評価

LDPSPD

ω

Reference

Sample

Local impedance

A B

Lock-in amp

Amplitude amp Phase

図 41 走査インピーダンス顕微鏡 (SIM)の装置構成図

のように交流電圧の振幅に比例し同じ位相となる静電気力によりカンチレバーも振動を生じるが振幅は F1ω に比例し位相は振動特性による位相差 φを含む φc + φとなるこのときAndashB境界部分にインピーダンスが存在するとA Bでの交流電圧に位相差 φBA が起きるこれによりカンチレバーに生ずる振動の位相はA上で φc + φB上で φc + φ + φBA となるためその位相差が直接 AndashB間交流電圧の位相差として検出できる2002年の報告では界面インピーダンスがより厳密にモデル化できる金属ndashSi ショットキー界面を用いている [145]ショットキー界面の抵抗ndash容量(RC)並列回路によるインピーダンスを Zd とし回路の両端に定抵抗 Rを挿入すると位相差は電流に関わらず

tan(φBA) =Im( R

Zd+R )

Re( RZd+R )

(43)

と求まるためカンチレバーから検出した位相差とショットキー界面の理論式からショットキー界面の抵抗容量を算出している以降SIMの基本的な技術は同じにしつつ非線形応答 [146]や走査ゲート顕微鏡を組み合わせることで CNTの欠陥の可視化 [147]CNTネットワークの電気特性 [148]といった様々な試料の面内方向に関する電気的な局所物性の評価に用いられてきたしかしLiftモードでの測定で試料表面より 100 nmという非常に離れたところで静電気力を測定しているため空間的な分解能はそれよりも大きいものとなってしまうまた直流電位を測定する別の手法と組み合わせることで詳細な評価を行なっているが完全に同位置の測定ができないこと元々試料に高電位がかかっている場合に SIMの測定中は打ち消せないことなどの問題が内在しているSIMを OFETの局所物性評価に応用する場合まずグレインが 1 microm以下の微小なものであることや比較的高いバイアスオフセットがかかるといった以上で述べた問題に関わる上に真の物性測定のためには真空中での測定が不可欠であるSIMでは振幅変化を捉えるため真空中での測定は問題となる可能性がある

42 周波数変調走査インピーダンス顕微鏡 (FM-SIM)の開発本研究では従来の SIMのコンセプトを踏襲しOFETの評価に適した新規手法である周波数変調走査インピーダンス顕微鏡 (Frequency-modulation SIM FM-SIM)を提案する従来の SIMの問題点である真空中評価に関しては FM検出方式の導入により改善され同時に Liftモードを用いるこ

42 周波数変調走査インピーダンス顕微鏡 (FM-SIM)の開発 49

FM-SIM

FM-AFMTopography

(height control)

FM-KFMLocal potential

(bias oset)

FM-EFM

SIM

Local AC signal

Lateral AC bias

図 42 周波数変調インピーダンス顕微鏡 (FM-SIM)に含まれる既存技術の概要図

Lock-in amp

Lock-in amp

Bias feedbackSelf-excitationblock

Frequencydetection

Heightfeedback

Scanner

LDPSPD

Sample AC

Tip AC

InsulatorGate

Grain

Electrode

Topography

FM-SIM signal

Local potential

図 43 FM-SIM 測定における基本装置構成図図中の灰色の要素が FM-AFM紫色の要素がKFMそして橙色の要素が FM-SIMの技術に対応する

となく静電気力の検出が可能となるさらに FM-KFM を組み合わせることで直流電位の影響を排除でき表面形状直流電位と同時に交流電圧による局所的な応答を取得することができるようになる図 42に FM-SIMに含まれる SIMや既存技術の関係を示す

421 FM-SIMの原理FM-SIM測定における基本的な装置構成を図 43に示す本研究ではまず金属ndash有機グレイン境界における局所インピーダンス評価を対象とするまず 244節の説明と同様にFM-AFMによるカンチレバーの共振周波数での励振および共振周波数シフト (∆f dc)の変化を一定にするような高さ制御により表面形状像を得る次にVt = Vdc

t + Vact cosωtt なるバイアスをカンチレバーに加え

る但しVdct は FM-KFMにより探針ndash試料間電位差を打ち消すための制御電圧である同時に試

料上の電極に交流電圧 Vacs cosωstを加える局所的な電位がVlo = Vdc

lo + Vaclo cos(ωst + φlo)と記述

50 第 4章 新規局所インピーダンス評価法の開発と金属―有機界面物性の評価

できるときカンチレバーが感じる静電気力は次の FES で与えられる

FES =12partCts

partz[Vdc

lo + Vdct + Vac

t cosωtt + Vaclo cos(ωst + φlo)

]2 (44)

ここでzCts はそれぞれ探針ndash試料間の距離および容量であるFES にはいくつかの周波数成分があり以下の 7つの成分に書き下される

DC FdcES =

12partCts

partz

(Vdc

lo + Vdct +

12

Vaclo +

12

Vact

)2

ωt F tES =

12partCts

partz(Vdc

lo + Vdct )Vac

t cosωtt

ωs FsES =

12partCts

partz(Vdc

lo + Vdcs )Vac

lo cos(ωst + φlo)

2ωt F2tES =

14partCts

partz(Vac

t )2 cos 2ωtt

2ωs F2sES =

14partCts

partz(Vac

lo )2 cos(2ωst + 2φlo)

ωt plusmn ωs F tplusmnsES =

12partCts

partzVac

t Vaclo cos

[(ωt plusmn ωs)t plusmn φlo

](複号同順) (45)

ここでF tES により生じる周波数変調成分 ∆f t をロックインアンプ (Lock-in amplifier LIA)で検出

しその振幅成分が 0となるようフィードバック回路により直流電圧 Vdct を制御するこのような

FM-KFM動作により表面 (直流)電位 Vdclo = minusVdc

t が測定されるこれら FM-AFM FM-KFMが動作している状態で試料の交流電圧の振幅位相成分を測定することを考えるまず上記のように Vdc

t を設定することでωs 成分である FsES が同様に 0となるこ

とが分かるためωs 成分を用いて評価することはできない残る成分のうちVaclo および φlo が含ま

れている成分は F2tES Ftplusmns の 3つであるしかし2ωs 成分である F2s

ES から定量評価するには測定した振幅に対し二乗根を取る必要がありSNの低下が懸念される一方F tplusmns

ES は試料の交流電圧に比例するためF tplusmns

ES により生じたカンチレバーの周波数変調信号 ∆f tplusmns も Vaclo に比例した振幅およ

び φloと一致する位相をもつよって ∆f の ωtplusmnωs成分を測定することでより単純に試料の交流電圧を測定できると考えられるここで特にカンチレバーの周波数変調信号の和周波成分を「FM-SIM

信号」と呼ぶ以下の議論では簡単のため試料上の交流信号と FM-SIM信号はフェーザ形式を用いて表しそれぞれ Vx∆fx の記号を用いるただし交流信号は実振幅 Vac

x と位相 φx を用いてVx = Vac

x ejφx と書き下しFM-SIM信号は複素比例係数 αを用いて ∆fx = αVx と表すαは探針ndash試料間距離が同じで∆f dcや振動振幅を同一条件にしている限り測定内では一定とみなせるまたx

は試料上のある場所を表す suffixでありx = el(電極上) lo(有機膜上) g(ゲートゲート絶縁膜上)

とする

実際の装置構成 421節では基本的な装置構成に基づいて局所交流信号を得る方法を説明したしかし実際の測定では複数の装置や設定項目を用いているためそれらについてここでまとめておく図 44に OFET上で FM-SIM測定を行う場合の実際の装置構成および配線図を示すただし図 41における自励発振系FM-AFM部分については省略したAFMコントローラは 33節と同じく PXIベースの自家製コントローラを使用し自励発振系周波数検出器 (PLL)Bias feedback

および加算器 (Adder) は研究室で作成された自家製回路であるLIA として Zurich Instruments 製HF2LI-MF (以下 ZI-LIA)エヌエフ回路設計ブロック製 LI5640 (以下 NF-LIA)を用いたまた以

42 周波数変調走査インピーダンス顕微鏡 (FM-SIM)の開発 51

AFM controller(data in)

Lock-in amp(ZI-LIA)

Osc 1

In 1 In 2 Out

Osc 2

fs ft

Lock-in amp(NF-LIA)

Ref OutIn

Frequency detection(PLL)

InsulatorGate

AC elOpposite el

Deection Biasfeedback

VG

IAC

IDC

RG

RacRopp

VDS

el = electrode

LPF

図 44 FM-SIM測定における実際の装置構成および配線の詳細図

後 FM-SIMによる全ての測定は真空度 1 times 10minus3 Pa以下の高真空中で行ったその他の構成設定は以下のとおりである

用語定義 交流バイアス印加電極 AC 電極 (AC el ldquoacrdquo)印加していない方の電極 対向電極(Opposite el ldquoopprdquo)とする

DCバイアス ゲート (Si基板)に VG をAC電極に VD(ドレイン動作の場合)VS(ソース動作の場合)を印加

KFM変調 ZI-LIA(Osc2)より振幅 Vact = 2 Vp-p周波数 ft = 1 kHzで変調

KFM検出 NF-LIAによりPLLからの出力 (∆f )に対してZI-LIA(Osc2)の信号を Referenceとして in-phaseを検出その信号を Bias feedback回路へ

FM-SIM変調 ZI-LIA(Osc1)よりAC電極に振幅 Vacs = 1 Vp-p周波数 fs(測定により異なる)の交

流電圧を印加FM-SIM検出 ZI-LIAにより∆f に対して ft + fs 成分の振幅 (R)位相 (φ)を検出しAFMコン

トローラで画像化電流 対向電極から流れる電流を Femto製電流アンプ DLPCA-200により検出直流成分 (IDC)は

LPF(lt 1 Hz) に通した信号を交流成分 (IAC) は ZI-LIA により fs 成分の振幅位相を検出しそれぞれ AFMコントローラで取得

実験によって電流を取得していないなどの違いが若干あるが測定時している場合の構成は基本的に上述のとおりである以下に特記事項について述べる

ロックインアンプ設定 FM-SIM測定のためにはft + fs という和周波の Lock-in検出が必要となるよりフレキシブルな測定のため本研究では Zurich instruments 社の HF2LI-MF(以下 ZI-LIA)

52 第 4章 新規局所インピーダンス評価法の開発と金属―有機界面物性の評価

を用いたZI-LIA上で和周波を Lock-in検出する方法として以下の 3方式について順に検討した

1 ZI-LIAの PID機能を用いて和周波数を作成し検出2 Reference周波数として直接 ft + fs を入力し検出3 ft fs をそれぞれ fbase の m倍波n倍波として出力し fbase の (m + n)倍波を検出

1は fs を中心とし入力 ft に対してゲイン minus1の周波数フィードバックをすることで ft + fs が作成できるしかしこの 1と 2の方式は fs と ft + fs との間に同期が取れている保証がない特に画像取得など長時間要する場合は測定の初めと終わりで位相のオフセットが変化してしまう例として1 kHzに対して 1 times 10minus3 Hzのズレ (つまりビート)が存在する場合1分あたり元信号に対して約 20 変化してしまう一方3の方式はZI-LIA上からどちらの周波数信号も出力すれば ZI-LIA

内で確実に同期が取れていることから同一条件であれば位相オフセットは同じとなるよって以降の FM-SIM 測定では 3 の方式を用い設定周波数はベース周波数 (例 200 Hz ) および倍波指定(例 4倍波)に対して ldquo800 Hz(200 Hz times 4)rdquoのように示すこととするまた図 44の ZI-LIA In 1についてPLLからの出力は minus5 V付近なのに対しZI-LIAは plusmn1 V

の範囲でしか入力できない一方ZI-LIAの入力を AC couplingにすると 1 kHz以下の信号にフィルタがかかってしまい振幅の減少と位相変化が生じるよって本研究では入力段に 100 nF のキャパシタを直列に挿入することでカットオフ周波数が 10 Hz以下の HPFとした

回路抵抗 本研究では図 44 のとおりOFET の電極ゲートとの接続部分に直列に抵抗を挿入した理由として(1) 従来の SIM [147] で厳密にインピーダンス解析を行う場合にも挿入しているため(2)対向電極の FM-SIM信号がほぼ 0な場合に LIAで位相検出が困難になることを防ぐためである(2) については対向電極上のデータが最終的に不要となる場合もあるが画像化を重視し基本的に抵抗を挿入することとする特記がない場合以下の実験では Rac = RG = 10 kΩ

Ropp = 1 MΩを使用した

422 OFETにおける FM-SIM応答の妥当性3章と同様の方法で作製したペンタセン薄膜に対しFM-SIM測定した下部電極を AC電極およびソース電極として交流電圧 ( fs = 800 Hz)と +1 Vの直流電圧を印加し上部電極は接地ゲートに +2 V印加しながら FM-SIM測定し表面形状表面電位像と同時に FM-SIM信号の振幅位相を取得しマッピングした結果を図 45に示す図 45(a)(b)に関しては FM-KFMと同様の測定でありグレイン形状に対応した電位分布が現れていることからFM-SIMと同時に KFMを動作可能であることがよくわかるFM-SIM 振幅像は AC 電極付近だけ非常に明るくなっておりAC

電極から離れたグレインや対向電極絶縁膜上はほぼ同じ信号強度であったFM-SIM位相像ではAC電極付近から離れるにつれて位相が正にシフトしており対向電極上は AC電極に比べて約 60

の違いが生じたここでAC 電極は直接交流電圧を印加しているため抵抗を介してはいるものの位相はほぼ印加電圧のそれと同じつまり理論上は 0 となるはずであるしかし図 45(d) から実際に測定された AC電極上の位相は 1264 であり大きく異なるこれは421節で用いた比例定数 αが実数ではないことに対応し周波数検波の PLLやカンチレバーの応答その他複数の要因により位相オフセットが生じていると考えられるしかし前述のように印加交流電圧の周波

42 周波数変調走査インピーダンス顕微鏡 (FM-SIM)の開発 53

04 V 16 V

5 mV 15 mV -150ordm -60ordm

(a) Topo

(c) SIM-amplitude

(b) Potential

(d) SIM-phase

(e)

(f)

0

20

40

0 200 400 600 800

-140

-120

-100

-80

SIM

-Am

pl [

mV]

SIM

-Pha

se [d

eg]

Distance [nm]

ElGr 1 Ins

0

20

40

0 100 200 300

-140

-120

-100

-80

SIM

-Am

pl [

mV] SIM

-Pha

se [d

eg]

Distance [nm]

El Gr 2

150 nm

A1

A2

B1

A1 B1

A2 B2

B2

AC el (+1 V)

GNDVG = +2 V

図 45 ペンタセン薄膜上の FM-SIM測定結果 ( fs = 800 Hz VG = +2 V)(a)表面形状像(b)表面電位像(c) FM-SIM振幅像(d) FM-SIM位相像(e) (f)それぞれ (a)の A1ndashB1A2ndashB2 ラインに沿った FM-SIM振幅位相プロファイルldquoElrdquo は電極ldquoInsrdquoは絶縁膜上の領域を示す

数を倍波設定で行なっているためオフセット値は常に一定であるよって以後の測定結果ではFM-SIM 位相の絶対値には意味を考えずAC 電極上の FM-SIM 位相が 0 となるように像全体からオフセットを差し引いた値を解析に用いることとする図 45(a)の A1ndashB1 および A2ndashB2 ラインに沿った FM-SIM信号のプロファイルを図 45(e) (f)に示すAC電極 (El)より左 (Gr1)では電極からの距離が遠くなるに従い徐々に強度が減衰しており最終的に絶縁膜上 (Ins)と同等の強度であるまた位相は距離と共に線形に正シフトしている一方 A2ndashB2 ライン上の Gr2では 10ndash20 mV

と絶縁膜上よりも強度が大きく位相も電極上と大きな違いはなくGr2 上ではほぼ一定であるOFET構造において FM-SIM測定を行い以上のように得られる結果が何に由来しているかについて(1)絶縁膜対向電極上の応答(2)有機膜上の応答の二項に分けて議論する

1 FM-SIM応答に則す回路モデル 図 45の測定と同時に取得した対向電極での交流電流 IAC は693 nArmsang616 であった対向電極は GND との間に Ropp = 1 MΩ を挿入しているため対向電極上の交流電圧の位相は IAC と同じはずであるが前述の位相オフセットのためズレが生じている一方 AC電極と対向電極との FM-SIM位相差が約 60 であることと交流電流の位相が良い一致を示しているため測定された交流電流は正しく OFET回路における応答を反映したものと考えられる交流電圧に対する対向電極への信号の伝わり方として(i) AC電極ndashゲート間およびゲートndash対向電極間の容量を介した伝導(ii) AC電極ndash有機膜ndash対向電極という経路の伝導の二通りが考えられるしかしゲートバイアスを印加 (VG = minus4 V)して同様の測定を行うと 696 nArmsang614 という交流電流が得られる一方で後の測定で見られるように FM-SIM像が大きく変化するこれは有機膜

54 第 4章 新規局所インピーダンス評価法の開発と金属―有機界面物性の評価

GateInsulator

Rac Ropp

RG

C1 C2

Vac~

VG~

IG~

Iopp~

V0~

Vopp~

図 46 FM-SIM応答を考える上でゲート容量を介した伝導を考慮したマクロ回路モデル

表 41 マクロ回路モデルから計算された各位置における交流電圧および交流電流の計算値および FM-SIMから測定された実測値

計算値 実測値 (FM-SIM信号)

AC電極 VacV0 094ang minus 111 (1ang0)

ゲート VGV0 020ang669 018ang479 (絶縁膜上)

対向電極 VoppV0 020ang695 022ang637

IG 99 microAang669 NA

が OFET構造全体における交流電圧応答に関与していないことの現れであると考えられるため(ii)

による寄与は非常に小さいといえる(i)による寄与を回路モデル化すると図 46のように表されるAC電極対向電極ゲートそれぞれへの経路上の抵抗を Rac Ropp RG とおきAC電極対向電極とゲート間の容量を C1 = C2 = C とするAC 電極から角周波数 ω の電圧 V0 を入力しAC 電極上対向電極上ゲート上の複素電圧がそれぞれ Vac Vopp VG に決まる例えばVopp は

Vopp

V0=[1 minus 1

(ωC)2RGRopp+ Rac

( 1Ropp

+1

RG

)minus j

1ωC

( 2Ropp

+1

RG+

Rac

RGRopp

)]minus1(46)

のように与えられるここでRac = RG = 10 kΩ Ropp = 1 MΩ∣∣∣V0∣∣∣ = 1 Vp-pω = 2πtimes800 Hzのとき

に測定された対向電極での電流 Iopp の絶対値 69 nArms と一致するように C を求めるとC = 43 nF

となるこの値を用いて各位置における電圧および電流を求めた結果と図 45から求めた対応する FM-SIM信号の値を表 41にまとめたまず Vopp の振幅は計算値と実測値比較的よい一致を示しているまた絶縁膜上の信号はゲート上の計算値と比較的近い値であり絶縁膜上で測定されるFM-SIM信号はゲート由来のものであると推察される一方Vopp の位相は 10 程度異なる計算では全ての抵抗を既知としたがゲートが高ドープ Siであることによる酸化膜の影響や配線に用いた銀ペーストの影響によりRG に抵抗や容量が含まれている可能性があるこれらの影響で実際には理想的なモデルからは位相がずれてしまったと考えられるただ全体としては図 46の回路モデルは FM-SIM信号をよく表しており対向電極上の応答は (i)で決定されると考えられるつまり対向電極の応答はマクロ回路部で決定されるため有機膜ndash対向電極界面の FM-SIM信号変化はあまり意味を持たないよって FM-SIMを用いて有機ndash電極界面の物性議論を行うためには評価対象の電極を AC電極とすることに留意しなくてはならない次にAC電極ndashゲートに流れる電流は約 10 microAと対向電極の電流に比べて非常に大きいため対向電極の存在は交流電圧の振る舞い

42 周波数変調走査インピーダンス顕微鏡 (FM-SIM)の開発 55

にほとんど影響を与えていないといえるまた先述のとおりゲートバイアス印加による FM-SIM

像の変化があったとしても元々の AC電極ndashゲート間交流電流が大きいためVel や VG はほとんど変化しないよってこれら電圧は同一周波数同一サンプルではほぼ一定とみなすことができるこの事実は後の節で局所インピーダンス解析を行う上で局所領域とマクロ部分を分離して考えることのできる理由付けとなる

2 有機膜上の応答要因 図 45(e)の Gr1上の応答について考察するまずFM-SIM信号の振幅が速やかに減少しているため分布定数回路での記述が考えられる単位距離あたりの抵抗容量をそれぞれ r cとすると位置 xにおける複素電位 v(x)は微分方程式

d2vdx2 = jωcrv(x) (47)

を満たすため解は定数 κ =radicωcr2を用いて

v(x) = v(0)eminusκxeminusjκx (48)

と求まる距離が遠くなるに従い指数関数的に振幅が減少するが同時に位相が 1次関数的に減少(負シフト)することが分かるしかし図 45(e)では FM-SIM位相は正にシフトしているため分布定数による振幅の減衰ではないと判断できるここでGr1上が収束していく値と絶縁膜上の応答が比較的近いことから実際の Gr1 上の応答にゲートの応答がカップルしていることが考えられる図 47 に図 45(e) の Gr1 上およびゲート (絶縁膜) 上の FM-SIM 信号の極座標プロットを示すただし先述の議論に基づき AC電極上の位相が 0になるよう位相オフセットを施した確かに Gr1上の信号は最終的にゲート上の信号と一致するが収束するまでの値は AC電極上とゲート上の信号を結ぶ直線上にほぼ乗っているそのためGr1自体の応答の減衰に従いゲート上の応答が支配的になることで図 45の Gr1のような応答が得られたのだと考えられる一方Gr2は内部でほぼ一定でありGr1のような強度の減衰に伴うゲート応答のカップリングは見られないこの場合は AC電極から伝わった膜自体の交流電圧がそのまま応答として得られているといえるしかしAC電極とは振幅位相が若干異なりAC電極と Gr2の間に電気的な阻害要因つまり局所インピーダンスが存在すると考えられる後の議論で有機膜上の応答を検証する場合Gr1のようになだらかに変化する応答ではなくGr2のようにある程度一定の振幅位相の値をもちゲートからの応答が直接カップルしていない領域を対象とする

423 局所インピーダンスの解析422節では交流電流や回路モデルの観点からFM-SIMが AC電極対向電極そして有機膜上の交流電圧に対応する応答を測定していることを確かめた一方で有機膜上のインピーダンス変化に比べてマクロ回路の交流電流が非常に大きいため交流電流や回路モデルから局所インピーダンスの評価を行うのは困難であるしかしVel VG は同一条件内でほとんど変化しないことFM-SIM

測定中に同時に得られることからこれら信号をレファレンスとして利用できる可能性がある以下ではこれに基づいたインピーダンス解析法を提案し理想的な周波数特性を計算そして実際の FM-SIM測定から局所インピーダンスを得るプロセスを順に述べる

56 第 4章 新規局所インピーダンス評価法の開発と金属―有機界面物性の評価

-20

0

20

0 20 40

SIM

(im

ag)

[mV

]SIM(real) [mV]

On ins

On Gr1

Distant from El

ElGate

図 47 図 45(e)の A1ndashB1 ラインに沿った FM-SIM信号のうちGr1上および絶縁膜上 (Ins)それぞれについて極座標プロットした結果ただしAC電極上 (El)の位相が 0となるように位相オフセットを施した

Gate

FilmElectrode

Insulator

図 48 FM-SIM信号から局所インピーダンスへ変換するための等価回路モデル

局所インピーダンスへの変換 試料上に Lateralなインピーダンスが存在すると局所交流電圧が変化しFM-SIM 信号の変化から試料上の Lateral な局所インピーダンスの存在について議論はできるしかし局所インピーダンスを定量的に評価することはできないそこで図 48 のような等価回路を考える電極ndash有機膜界面のインピーダンスを Zlo とし有機膜下の実行的なゲート絶縁膜容量を Ci とする有機膜内のインピーダンスが電極ndash有機界面のインピーダンスに比べて十分小さく膜内の交流信号がほぼ一定と仮定できる場合図 48 の等価回路が成り立つまず測定したFM-SIM信号に対し正規化 FM-SIM信号 γを

γ equiv ∆flo minus ∆fg∆fel minus ∆fg

=Vlo minus Vg

Vel minus Vg(49)

のように定義するすると等価回路より γ は界面インピーダンスと実効容量インピーダンスによる複素電圧の内分と同等つまり

γ =1(jωsCi)

Zlo + 1(jωsCi)=

11 + jωsCiZlo

(410)

と記述できることが分かるつまり式 (410)により FM-SIM信号と界面インピーダンスを一対一に対応させることができる

理想周波数応答 インピーダンス分光ではインピーダンスの周波数依存性を複素平面表示したColendashColeプロットから系の等価回路を推定可能である本研究でも正規化 FM-SIM信号の周波数応答と界面インピーダンスとの関係について考察する式 (410)より様々な Zlo を仮定すること

42 周波数変調走査インピーダンス顕微鏡 (FM-SIM)の開発 57

2πCiRlo = 10 ms

CloCi = 2

(a) Amplitude

(c) Amplitude (d) Phase

(b) Phase

ќDP

SOLWXGH

0

02

04

06

08

1

10 100 1000)UHTXHQFgt+]

CloCi = infin

2

1

05

ќDP

SOLWXGH

0

02

04

06

08

1

10 100 1000)UHTXHQFgt+]

2πCiRlo33 ms10 ms33 ms

ќSKDVHgtGHJ

0

10 100 1000)UHTXHQFgt+]

2πCiRlo

10 ms33 ms

33 ms

ќSKDVHgtGHJ

0

10 100 1000)UHTXHQFgt+]

CloCi = infin

2105

Rlo Clo

Fixed C

Fixed R

図 49 正規化 FM-SIM信号の理想周波数応答 (界面インピーダンスが直列 RCの場合)(a) (b)CloCi = 2 に固定したとき2πCiRlo = 33 ms 10 ms 33 ms での振幅位相(c) (d) 2πCiRlo =

10 msに固定したときCloCi = infin 2 1 05での振幅位相

でその理想的な周波数応答が分かるまず界面インピーダンスが抵抗と容量の直列回路 (直列 RC)

で表される場合を考えるZlo = Rlo minus j(2π fClo)minus1 としRlo および Clo をそれぞれ変化させた際の正規化 FM-SIM信号の周波数応答を図 49に示すただし Ci が既知ではないためCi に対して正規化した値を与えたまず全体の形状として周波数の増加に従い振幅が減少し0へ収束するまた位相は 0から負にシフトしminus90 へ収束することが分かる抵抗を増加させると曲線の形状は変化しないが振幅位相共に低周波数側へシフトする一方容量が減少すると低周波側の振幅が減衰する次に界面インピーダンスが抵抗と容量の並列回路 (並列 RC) で表される場合を考えるZlo =

(Rminus1lo + j2π fClo)minus1 としRlo および Clo をそれぞれ変化させた際の正規化 FM-SIM 信号の周波数応

答を図 410に示す周波数の増加に従う振幅の減少は直列回路と同じであるが1から開始し 0以外の値へ収束しているまた位相は 0から負にシフトするがClo = 0以外は 0へ収束する抵抗を増加させると直列回路と同様に低周波側にシフトし容量を増加させると高周波側の振幅が増加する以上の周波数特性を正規化 FM-SIM信号の複素平面プロット (以後 γndashプロットと呼ぶ)として示したものを図 411に示す特筆すべきことは全ての応答は円弧状の軌跡を描くことであるそのため先に述べたそれぞれの等価回路での特性を非常に簡潔に表すことができ直列 RC では 1

以外の値から 0 へ並列 RC では 1 から 0 以外の値へ収束していることがよく分かるまた図411(a) (b) の水色線はどちらも抵抗のみの回路に対応し直径 1 の半円となるRlo の変化に対し

58 第 4章 新規局所インピーダンス評価法の開発と金属―有機界面物性の評価

(a) Amplitude

(c) Amplitude

(b) Phase

(d) Phase

ќDP

SOLWXGH

0

02

04

06

08

1

10 100 1000)UHTXHQFgt+]

2πCiRlo33 ms

10 ms

33 ms

ќDP

SOLWXGH

0

02

04

06

08

1

10 100 1000)UHTXHQFgt+]

CloCi

0

05

1

2

0

10 100 1000)UHTXHQFgt+]

33 ms10 ms33 ms

ќSKDVHgtGHJ

0

10 100 1000)UHTXHQFgt+]

CloCi = 0

051

2

ќSKDVHgtGHJ

Rlo

Clo

2πCiRlo = 10 ms

CloCi = 05

Fixed C

Fixed R

図 410 正規化 FM-SIM 信号の理想周波数応答 (界面インピーダンスが並列 RC の場合)(a)(b) CloCi = 05 に固定したとき2πCiRlo = 33 ms 10 ms 33 ms での振幅位相(c) (d)2πCiRlo = 10 msに固定したときCloCi = 0 05 1 2での振幅位相

Rlo Clo

f = (2πCiRlo)-1 f = (2πCiRlo)-1

-05

0 0 05 1

Imgtќ

5Hgtќ

CloCi = infin

21

05

(a) RC-series (b) RC-parallel

Imgtќ

5Hgtќ

-05

0 0 05 1

CloCi = 0

21

05

Rlo

Clo

図 411 正規化 FM-SIM 信号 γ の理想周波数応答の複素平面プロット(a) 界面インピーダンスが直列 RC の場合(b) 並列 RC の場合それぞれの図における破線との交点では周波数がf = (2πCiRlo)minus1 となる

43 ペンタセングレイン上の局所インピーダンス評価 59

0 mV 40 mV -40ordm +10ordm

(a) Topography (b) Potential

(c) SIM-amplitude (d) SIM-phase

02 V 08 V35 nm

Elec

trod

e 100 nmA

AC el (VD = 0 V)

VG = 0 V

図 412 ペンタセン薄膜上の FM-SIM測定結果 (VD = VG = 0 V fs = 100 Hz)(a)表面形状像(b)表面電位像(c) FM-SIM振幅像(d) FM-SIM位相像矢印で示すグレイン Aは以降の評価の対象とした孤立ペンタセングレイン

て軌跡の概形は全く変化せずClo の変化に対しては円弧の半径が変化することが分かるまた図411の破線 (0 minus 05jを中心とする半径 05の円弧)との交点における周波数が f = (2πCiRlo)minus1 に対応することからRlo の大小も評価できる以上の振る舞いは次のように説明できる先に比抵抗 τr = 2πCiRlo および比容量 βc = CloCi を定める直列 RCの場合は γは

γ =1

2(1 + βminus1c )[eminusj2θ( f ) + 1

](411)

θ( f ) = tanminus1( f τr

1 + βminus1c

)(412)

のように変形でき中心 ( 12(1+βminus1

c ) 0)半径 12(1+βminus1

c ) の半円だということが分かる並列 RCの場合

γ = 1 +1

2(1 + βc)[eminusj2θ( f ) minus 1

](413)

θ( f ) = tanminus1[(1 + βc) f τr]

(414)

となり中心 (1minus 12(1+βc) 0)半径 1

2(1+βc) の半円だということが分かるこれらのことから式 (410)

に直接フィッティングさせずともγプロットの概形から簡易的に界面インピーダンスの等価回路やその抵抗容量の変化が判別できるということが分かる

43 ペンタセングレイン上の局所インピーダンス評価431 単一グレイン上の周波数依存評価これまで述べた局所インピーダンス解析法を実際の結果に適用する図 45と同じペンタセン薄膜の上部電極付近でFM-SIM測定した結果を図 412に示すただしfs = 1times100 Hz ft = 10times100 Hz

60 第 4章 新規局所インピーダンス評価法の開発と金属―有機界面物性の評価

-05

0

0 05 1

Im[a

]

Re[a]

R only

fs

0

02

04

06

08

1

10 100 1000

a-a

mp

litu

de

Frequency [Hz]

-1 V

Fitted

-3 V

-5 V

(a) (b)

図 413 グレイン A上の正規化 FM-SIM信号 γの周波数依存性(a)周波数ndash振幅プロット(b)γプロットVG = minus1 V(赤)minus3 V(橙)minus5 V(緑)における応答および並列 RC回路としてフィッティングした結果 (実線)破線は界面インピーダンスが抵抗のみとした場合の理想的なγの応答

とした矢印で示すペンタセングレイン (グレイン A)は他のグレインから孤立しており直接 AC

電極に接続している単一グレインであることが分かるFM-SIM振幅像は表面電位像に比べてグレインの形状をより綺麗に示しておりFM-SIM では FM-KFM よりも空間分解能の高い測定ができる可能性があることを示唆しているFM-SIM振幅位相は共にグレイン A内で均一であるグレイン A以外では電極とほぼ同じ位相だがグレイン Aでは電極ndashグレイン A界面で大きな差異があるFM-SIM信号の変化は局所インピーダンスの存在を示していることを考慮するとグレイン A

は電極との電気的接続が良くないということグレイン A内のインピーダンスは電極ndashグレイン界面に比べて十分小さいということが分かるそのためグレイン Aは図 48の等価回路で示すことができると考えられる続いて電極ndashグレイン界面インピーダンスの等価回路を検証するため周波数 fs 依存の FM-SIM

測定を行った fs を 10 Hzから 900 Hzの間で変化させ電極グレイン A絶縁膜の FM-SIM信号を取得し正規化 FM-SIM信号を得たなおこの測定は VG = minus1 V minus3 V minus5 Vのゲートバイアスについて行いグレインには正孔が蓄積しているまた fs の掃引に同期して ft + fs を設定する必要があるためこの測定については 421節「ロックインアンプ設定」の項の 1の方式で検出した得られた正規化 FM-SIM信号の周波数ndashFM-SIM振幅プロットを図 413(a)にγプロットを図 413(b) に示す周波数掃引に従い振幅が 1 近くから減少し約 02 で収束している様子が見られ並列 RC回路に対応する図 410(a) (c)の振る舞いに似ているγ プロットでは測定点が低周波では 1近くで半径が 1より小さい円弧状に並んでいる様子が明瞭に確認できるつまり電極ndashグレイン A界面は並列 RC回路で記述できる次に式 (413)を用いた界面インピーダンスの半定量評価を次のプロセスで行なった

1 円弧フィッティングGNU Octave 380の fminsearch関数を用いてデータ点との距離の二乗和が最小になるような円弧の中心半径を求めβc を算出

2 振幅値フィッティングGnuplot 46の fit機能と 1で求めた βc を用いて式 (413)の振幅に最小二乗フィッティン

43 ペンタセングレイン上の局所インピーダンス評価 61

表 42 FM-SIM周波数依存性 (図 413)からフィッティングにより求めた並列 RC回路における界面インピーダンスのパラメータ

VG 比容量 βc 比抵抗 τr [ms]

minus1 V 016 1564plusmn040

minus3 V 018 1354plusmn023

minus5 V 021 539plusmn013

グを行いτr を算出

これにより求めたフィッティングパラメータを表 42にパラメータを用いたフィッティングカーブを図 413 の実線に示す図 413(a) (b) 共にそれぞれの VG におけるデータ点をうまく表しておりτr の誤差も 3以内に収まっていることからうまく並列 RCの式にフィッティングできていると考えられるつまり金属ndash有機界面では接触抵抗だけでなく局所容量も存在していることを示しているこれまでも界面容量が金属のフェルミ準位と有機薄膜の HOMO 準位のミスマッチにより生じると報告されている [149 150]しかしこれらの報告はトップコンタクト OFETつまり有機薄膜が電極と絶縁膜の間に挟まれている構造での測定に基づいている有機薄膜の厚さは通常キャリアが流れるチャネル層の厚さに比べて十分厚いためトップコンタクト OFETにおける界面インピーダンスには有機薄膜のバルク部分のインピーダンスも含んでしまう一方本測定はボトムコンタクト型の接触のためこれまでの研究と比較してより直接界面容量の存在を確認したといえる

432 電極ndashグレイン界面インピーダンスの一般性前節ではグレイン内部のインピーダンスが電極ndash単一グレイン界面インピーダンスよりも十分小さく界面インピーダンスが並列 RCで記述できることがわかったこのような傾向がグレイン A以外にも現れるか確かめるため他のグレインについても評価を行う図 412の範囲を含む広い領域 (図 414(a))でゲートバイアスを VG = minus1 Vとし上下電極を AC

電極として FM-SIM測定し得られた FM-SIM振幅像および位相像をそれぞれ図 414(b) (c)に示すただしfs = 100 Hz 300 Hz 800 Hzについて測定した本測定では上下両方の電極を AC電極としているためどちら側に接続しているグレインも応答することになるまず fs = 100 Hzでの両結果から見て取れることはそれぞれのグレインの応答が異なることであるしかしそれぞれのグレイン内ではある程度均一であることもわかるこれはどのグレインにおいても図 48の等価回路が成り立つことを示しているそのためFM-SIM信号の違いは電極ndashグレイン界面インピーダンスの違いつまり電極との電気的カップリングの違いを表しているといえる次にACバイアスの周波数 fsを増加させた際の変化を見るまずFM-SIM振幅信号 (図 414(b))

が全体として増加しているがこれは図 46においてゲート抵抗 RG に比べて絶縁膜部分のインピーダンス (C1 由来)が減少することでゲート電極上の応答

∣∣∣VG∣∣∣が大きくなることに由来するため問

題とはならない次に表面形状像 (図 414(a))の破線で示した 4つのグレイン (A B C D)に注目するグレイン A B Cに関しては fs の増加に伴い FM-SIM位相が増加し振幅が絶縁膜上の値に近づいているこれはまさに図 413(b)の正規化 FM-SIM信号の周波数依存性で見られた円弧の左

62 第 4章 新規局所インピーダンス評価法の開発と金属―有機界面物性の評価

-40ordm +50ordm

2 mV 45 mV35 nm

(a) Topography (b) SIM-amplitude

(c) SIM-phase

AC el (GND)

AC el (GND) 150 nm

fs = 100 Hz 300 Hz 800 Hz

fs = 100 Hz 300 Hz 800 Hz

AB

DC

図 414 ペンタセン薄膜上の FM-SIM測定結果 (広範囲)VG = minus1 VAC電極は上下両電極とした(a)表面形状像(b) FM-SIM振幅像 ( fs = 100 Hz 300 Hz 800 Hz)(c) FM-SIM位相像 (同fs)電極を太破線グレイン A B C Dを細破線で示している

半分の変化を示すもので周波数の増加により |γ|の減少γ位相の増加と対応する一方グレイン Dは fs の増加に伴う振幅の変化は少なく位相は減少しているこれは他の 3グレインと違い位相のみ特徴的に減少する図 413(b)の右半分と対応することがわかるつまり前節のグレイン A

に限らずどのグレインにおいても図 413のような周波数応答を示すことを示唆しておりRC並列回路は電極ndashグレイン界面インピーダンス一般に成り立つことが分かった

433 キャリア蓄積による電極ndashグレイン界面物性変化431節の結果よりVG による変化に関してはどちらのパラメータも単調に変化しているが特に比抵抗の減少が顕著に見られるこのようにグレイン中へのキャリア蓄積状態によって金属ndash有機界面の電子物性も変化していることが分かる金属ndash有機界面で生じる接触抵抗の起源を明らかにするためにも界面インピーダンスの VG 依存性について詳しく評価するなお上述の議論で界面インピーダンスを並列 RCで記述できることがわかったため以下では界面インピーダンスをその逆数つまり「アドミタンス」として考え次式で示す正規化アドミタンスを導入する

Ynorm =1

2π fsCiZlo=

12π fsCiRlo

+ jClo

Ci(415)

43 ペンタセングレイン上の局所インピーダンス評価 63

SIM

-Am

pl [

mV]

Distance [nm]

0

12

4

8

0 200 400 600

A B

A B

Electrode

GrainInsu

lator

Topo(a)

(b)

012 -1 -2 -3VG [V]

-02

0

02

10-2

100

10-2

100

∆V [V

]Re

(Yno

rm)

Im(Y

norm

)

(c)

(d)

(e)

ForwardBackward

+2 V

-3 V-25 V

+15 V+1 V

+05 V0 V

-05 V-1 V

-15 V-2 V

図 415 (a)電極とグレイン A界面付近の表面形状像(b) (a)の AndashBライン上で測定された FM-SIM振幅プロファイル(cndashe) VG を変えた際の電極ndashグレイン界面の正規化アドミタンス (Ynorm)の実部 (c)虚部 (d)および界面電位差 (∆V)(e)赤は VG を +2 Vから minus3 Vへの (forward)青は minus3 Vから +2 Vへの (backward)変化時のデータ点を示す

Ynorm は 2π fsCi で界面インピーダンスを規格化しているため無次元の量であり実部が (規格化)コンダクタンス虚部が (規格化)サセプタンスとなる

VG 依存性の FM-SIM測定ではfs = 100 Hzに固定しVG と直列接続となっている Vacs の影響を

抑えるためVacs = 02 Vp-p としたVG は +2 Vから minus3 Vまで 05 V刻みで変化させた後 (forward)

+2 Vまで戻した (backward)図 415(a) に示す表面形状像の AndashB ライン上で複数回 FM-SIM 測定しそれぞれの VG で 5ラインずつ平均した結果得られた FM-SIM振幅プロファイルを図 415(b)

に示すVG により電極上の FM-SIM振幅に変化はなくグレイン A上のみ徐々に増加していることが分かる電極グレイン A絶縁膜それぞれの領域で FM-SIM振幅および位相の平均を求め式(49)より正規化 FM-SIM信号 (γ)を続けて式 (415)により正規化アドミタンス (Ynorm)を求めた同時に界面での直流電位差との関係を議論するため同時測定の FM-KFMで得られた表面電位から電極に対するグレイン電位 (電位差 ∆V)も求めたこれらを図 415(c)ndash(e)に示すまず VG を正から負に印加することでコンダクタンス (Re[Ynorm]) が急増したVG lt 0 でも継続して増加していることは423節の周波数依存性で見られた VG 印加による τr 減少と合致する結果であるVG 印加による接触抵抗の減少はこれまで OFETにおける研究で多く見られてきた [55 131 151]接触抵抗減少のモデルとしては有機薄膜のバルク部の効果や電極付近の低移動度領域が提唱されているがこれらはトップコンタクト OFETやマルチグレイン薄膜で説明されたモデルである [151 152]本研究の FM-SIM測定では単一グレインと電極との界面を考えておりバルク部やグレイン境界によるインピーダンスへの影響は排除できると考えられるよって図 415(c)のような界面コンダクタンスの増加 (接触抵抗の減少) は金属ndashグレイン界面の電子物性本来の効果が現れたものだと考えられる興味深いことに図 415(c) (e)で見られるように界面コンダクタンスと電位差でゲートバイアス変化の forwardと backwardで似たヒステリシス (履歴)効果が現れているこのような履歴効果

64 第 4章 新規局所インピーダンス評価法の開発と金属―有機界面物性の評価

Large mismatch

EF

VL

Trap states

E

DOS

HOMO

Metal Organic

∆V gt 0

Small mismatch

Metal Organic

∆V lt 0

(b) Depletion(a) (c) Accumulation

0

1

15

05

-02 0 02∆V [V]

Re(Y

norm

)DepletionAccumulation

VG = 2 V

VG = -3 VForwardBackward

図 416 (a) 界面コンダクタンス Re[Ynorm] の電位差依存性 (図 415(c) (e) より)赤は負方向(forward)青は正方向 (backward) 測定に対応する(b) (c) Pt 電極とペンタセングレイン界面におけるエネルギー準位の模式図およびグレイン内部のエネルギー (E) に対する状態密度(DOS)の概要図

は OFETの伝達特性でも良く見られている [139]正孔が蓄積している状態では正孔が有機ndash絶縁膜界面の深いトラップ準位に捕捉されVG の正方向掃引でしきい値電圧の負シフトを引き起こす今回用いている絶縁膜 SiO2 もヒステリシスを良く引き起こす材料であるため図 415(c) (e)のヒステリシスもトラップ準位によると考えられるこのことを踏まえると界面コンダクタンスの変化は VG によって直接引き起こされたものではなく電位差 ∆V により大きく関係していると考えられるそこで界面コンダクタンスを電位差に対してプロットし直すと図 416(a)のように forwardと backwardのヒステリシスが非常に小さくなったため電極ndashグレイン界面物性はその電位差によって決定されていることが言えるこのことからも図 415(c) (e)で見られたヒステリシスは界面における本来の物性ではないことが分かる図 416(a) を見ると ∆V gt 0 は VG gt 0 の空乏 (depletion) 状態に対応し界面コンダクタンスRe[Ynorm]がほぼ 0である一方 VG lt 0の蓄積 (accumulation)状態では ∆V lt 0でありRe[Ynorm]

が増加しているこの増加は ∆V = minus02 V で急峻となっており電極ndashグレイン界面が導通するには minus02 V程度の界面電位差が必要であることが示唆されるこれら電位差と界面コンダクタンスの関係は電極とグレインのエネルギー準位の関係から説明できる図 416(b) (c)は電極ndashグレイン界面のエネルギー準位を模式的に示したものであるバイアスが印加されていない状態ではグレインは空乏状態にある一般にキャリア蓄積がおこるチャネル層は HOMO準位と LUMO準位の間にトラップ準位による DOSが存在する (図 416(b))空乏状態ではそれが一部だけ満たされることでEF が EHOMO と ELUMO の間に位置するEF が EHOMO よりも高い準位に位置しているため準位ミスマッチが大きく正孔注入障壁が生じるこの場合電極からグレインに正孔を注入するのが困難となりこれが接触抵抗となる一方ゲートに負バイアスを加えるとグレインが蓄積状態となりトラップ準位が満たされEHOMO

が EF に近づくことで ∆V の負シフトが起こるこれによりエネルギー準位ミスマッチが小さくなり正孔がグレインに注入しやすくなるそのため図 416(c)のように接触抵抗が低減すると説明できる以上のようにVG の印加により電極ndash有機界面のエネルギー準位整合性が良くなり接触抵抗の低減が起こるこの単純な解釈はこれまで異なる仕事関数や SAM修飾を施した電極を用いた電気特性評価によっても議論されてきたものであるしかし単一グレインとの界面においてエ

44 電極表面処理による OFET特性への直接影響評価 65

ネルギー準位の整合状態と接触抵抗との関係を議論したことは非常に意義深いこのようにこれまでの手法では測定できなかった特定の単一グレインにおいても金属ndash有機界面物性について議論できFM-SIMという新規手法開発および評価法の妥当性と有用性が示されたといえる

44 電極表面処理による OFET特性への直接影響評価42節では OFETで局所インピーダンス測定を行うための新規手法 FM-SIMを提案し回路モデルを用いて理論実験両方面から妥当性を示した局所インピーダンスの解析法を用いて電極ndash単一有機グレイン界面の電気特性について議論するに至った本節では有用性を示した FM-SIMを用いて応用的な内容として動作中の OFETの金属ndash有機界面物性の評価に臨むOFETの電極を自己組織化単分子膜 (Self-assembled monolayer SAM)で修飾することで性能向上することが確認できるこの電気特性の変化が何に起因しているかをFM-SIMを用いた電位局所インピーダンス測定により解明を目指す

441 電極表面処理および試料作製本測定で対象とする試料としてdinaphto[23-b2rsquo3rsquo-f ]-thieno[32-b]thiophene (DNTT) 薄膜を活性層としチオール系 SAMの一つである pentafluorobenzenethiol (PFBT)の SAMで電極を修飾した OFETを用いた

DNTT DNTT (C22H12S2) は図 417(a) のような分子構造をもつヘテロ環式芳香族分子であるDNTT は 2007 年に広島大学の Yamamoto Takimiya によって合成された有機半導体分子である [153 154]DNTT に含まれるベンゼン等の芳香族とチエノチオフェンが縮環した分子構造は2006 年の同グループによるベンゾチエノベンゾチオフェン (BTBT) 誘導体の合成 [155] を皮切りに1 cm2(Vs)を超える高い移動度と大気安定性 [156] を持つ p 型有機半導体分子のベースとなる構造として近年非常に注目を受けているこのような大気安定性は深い HOMO 準位と大きなHOMOndashLUMOギャップによりもたらされたものであるが [153]一方でこの深い HOMO準位により電極との界面で大きなキャリア注入障壁が生じてしまい接触抵抗が大きくなるという問題が指摘されている [152]

PFBT PFBT (F5C6HS)は図 418(a)のような分子構造をもつチオールの一種であるチオール系分子は図 418(b)のように S原子が金属と結合するような形で分子が並びSAMを形成することが知られている対象とする金属は Auが一般的であるがAgPtなど他の金属でも SAMを形成する [157]PFBTはペンタセン誘導体やアントラセン誘導体など溶液プロセスにおける低分子系OFETの電極修飾に用いられてきた [18 22]図 419に測定で用いた試料の作製手順を示すまず UVリソグラフィによりチャネル幅約 1 micromチャネル長約 500 nm厚さ約 20 nm の Au 電極を作製し30 mM の PFBT を混合したイソプロパノール (IPA)溶液に電極を 5分間浸漬させることで PFBT-SAMを形成したその後SAM処理を行っていない電極にも同時に DNTT分子を真空蒸着法で約 100 nmの薄膜を成膜しOFETを得た今後SAM修飾を行った試料を「PFBT-Au」試料 (OFET)行っていない試料を「Bare-Au」試料(OFET)と呼ぶ

66 第 4章 新規局所インピーダンス評価法の開発と金属―有機界面物性の評価

(a)

(b)

図 417 (a) DNTTの分子構造式(b) DNTTの結晶構造 (左 b軸投影右 各層のヘリンボーン構造図)(Ref [153] J Am Chem Soc 129 (2007) 2224)

(a) (b)

SH

F

F

F F

F

S Body

SAM

Metal (Au Pt Ag )

図 418 (a) PFBTの分子構造式(b)チオール系分子による SAMの模式図

(1) Electrode fabrication(UV lithography)

(2) SAM fabrication (3) DNTT deposition

30 mM PFBTin isopropanol

Au 20 nm

DNTT 100 nm

PFBT-Au

Bare-Au

PFBT modied Au

SiSiO2

図 419 電極表面修飾比較に用いた試料の作製手順図UVリソグラフィ (図 39参照)で作製した Au電極を PFBT溶液に浸漬させることで PFBT-SAMで修飾した Au電極を作製しSAM修飾有無の電極上に DNTTを同時に成膜した

442 電気特性評価図 420 に電極対で測定した両 OFET の電気特性測定結果を示す出力特性の結果を見るとどちらも飽和領域が表れているがPFBT-Au試料の方が電流が大きい伝達特性については

radicID は

PFBT-Au試料の方が傾きが大きいがしきい値電圧はほとんど変わらない同一基板上のそれぞれ3つの OFETについて平均した移動度はBare-Auでは micro = 044 cm2(Vs)なのに対しPFBT-Auでは micro = 099 cm2(Vs)と 2倍以上に増加したよって本研究で作製した PFBT-SAM修飾電極においても過去の報告と同じく OFETの性能向上の効果が得られている一方しきい値電圧はBare-Au

では minus94 VPFBT-Auでは minus79 Vであり変化は小さかったしきい値電圧はチャネル領域の薄

44 電極表面処理による OFET特性への直接影響評価 67

-8

-6

-4

-2

0-20-15-10-5 0

Cur

rent

[ѥA]

VD [V]

0 V-5 V

-10 V-15 V-20 V-25 VVG

VG = ndash25 V

ndash20 V

ndash15 V

ndash10 V0 Vndash -5 V

-8

-6

-4

-2

0-20-15-10-5 0

ampXUUHQWgtѥ$

VD [V]

VG = ndash25 V

ndash20 V

ndash15 V

ndash10 Vndash5 V

0 V

(a) Bare-Au

(c)

(b) PFBT-Au

10-1010-910-810-710-610-5

-20-15-10-5 0 5 0

1

2

3

I D [A

] (lin

e)

3ID

[10-3

A-1

2] (

plot

)VG [V]

PFBT-AuBare-Au

図 420 電極対で測定した DNTT-OFETの電気特性(a) Bare-Au OFET(b) PFBT-Au OFETの出力特性(c)両 OFETの VD = minus5 Vにおける伝達特性プロットは

radic|ID|(右軸)実線は片対数(左軸)

400 nm 400 nm

80 nm

(a) Bare-Au (b) PFBT-Au

Electrode

図 421 (a) Bare-Au OFETおよび (b) PFBT-Au OFETにおける表面形状像破線で囲まれた領域は電極のある場所を示す

膜の構造やドーピングによって大きく変化することが知られているため [158ndash160]この結果は電極の SAM処理がチャネル領域に与える影響が小さかったことを示しているチャネル領域の状態を確認するためにAM-AFMで取得した OFETの表面形状像を図 421に示す膜の形状は全く同じとは言えないもののグレインの大きさは 100 nmから 200 nmと同程度といえるよって電極の SAM修飾による電気特性の変化はその修飾した電極と有機薄膜との界面における電気特性が変化したものによると考える

68 第 4章 新規局所インピーダンス評価法の開発と金属―有機界面物性の評価

-02 0

02 04

Pote

ntia

l [V]

0

05

1

Ampl

[m

V]-60

-30

0

0 250 500 750 1000Ph

ase

[deg

]

Distance [nm]

-03

0

03

Pote

ntia

l [V]

0

05

1

Ampl

[m

V]

-60

-30

0

0 250 500 750

Phas

e [d

eg]

Distance [nm]

iuml9iuml9iuml9iuml9iuml9iuml9iuml9iuml9

VG

AC electrode AC electrode

(d)

(e)

(f)

(a)

(b)

(c)

(VD = 0 V) (VD = 0 V)Bare-Au PFBT-Au

図 422 (a)ndash(c) Bare-Au試料および (d)ndash(f) PFBT-Au試料での FM-SIM測定結果 (VD = 0 V)(a) (d)表面電位(b) (e) FM-SIM振幅(c) (f) FM-SIM位相プロファイル網掛け部は電極位置を表しAC電極は右電極とした

443 FM-SIMによる電極ndashDNTT界面局所電気特性評価電気特性測定の結果から電極の SAM修飾により電極ndash有機界面の電気特性変化が示唆されたそこでFM-SIMを用いて電極ndash有機界面の電位差や局所インピーダンスの違いを評価する測定条件として(a) VD = 0 Vおよび (b) VD = minus1 V(c) VD = minus5 Vの 3つのドレインバイアスについて測定した(a) では 422 節同様キャリア注入に従う電位差局所インピーダンス変化を評価する一方(b) (c)ではドレインバイアスが加わり OFETが動作している状態でチャネル内の電位プロファイル評価と局所インピーダンス評価を行う

測定方法 測定時のセットアップは 421節の図 43図 44と同じ装置構成である電極に加える交流バイアスは Vac

s = 1 Vp-p fs = 100 Hzとした表面形状像 (図 421)における右電極をソース電極左電極をドレイン電極とし測定により AC電極を変更することでソースドレイン両方の電極ndash有機界面物性を評価する直流バイアスは AC電極側にしか印加しないがAC電極およびゲートに印加する直流バイアスを調整しているため本節で示す VD VG はソースに対するドレインおよびゲートの電圧とみなす1また電極ndash有機界面に絞って評価するため以下の測定では全てチャネルに沿って両電極間を往復するように測定しており5ndash7ラインを平均したデータを用いたこの間位置が同一であることは同時に測定している表面形状プロファイルが同一であることから確認した

ソースドレイン電極接地時 VD = 0 Vにおいて右電極を AC電極として FM-SIM測定した結果得られた表面電位FM-SIM信号の振幅位相のプロファイルを図 422に示す表面電位を見る

1 例えば右電極に1 Vゲートに minus4 V印加するとVD = minus1 VVG = minus5 Vとみなせる

44 電極表面処理による OFET特性への直接影響評価 69

0

01

02

03

04

-06 -04 -02 0 02

Re[

Y nor

m]

6V [V]

0 V

iuml9

VG

0

01

02

03

04

-06 -04 -02 0 02

Im[Y

norm

]

6V [V]

0 V

iuml9

VG

(a) Conductance (b) SusceptancePFBT-AuBare-Au

PFBT-AuBare-Au

図 423 VD = 0 V における (a) 正規化コンダクタンス Re[Ynorm](b) 正規化サセプタンスIm[Ynorm]の ∆V 依存性

とどちらの OFETも負の VG を印加するに従い電極に対するチャネル上の電位が負にシフトしているこれは単一グレインで測定した図 415(e)の結果と合致する結果であるまたVG 印加によりFM-SIM振幅は 0から増加位相は 0 から負シフトする傾向もどちらの OFETでも見られているFM-SIM振幅については小さなゲートバイアスでは AC電極付近と対向電極付近とで差異があるが少なくとも minus4 V以降ではチャネル内で一定でありチャネル内抵抗に比べて AC電極ndash

チャネル界面インピーダンスが支配的であることが分かるまたチャネル内の表面電位は表面形状にカップリングしており再現性はあるが不均一な応答が見られている一方FM-SIM 振幅位相は十分な信号強度があれば十分均一に見えておりKFMにより測定される表面電位よりも表面形状による影響を受けにくいといえこの意味でも KFMよりも OFET中のより局所的な電子物性評価が可能と考えられる図 422の AC電極上チャネル上の均一な応答について平均した値を用い423節と同様に正規化 FM-SIM信号から正規化アドミタンス Ynorm を求めチャネルndashAC電極電位差 ∆V に対してその実部 (コンダクタンス)虚部 (サセプタンス)をプロットした結果を図 423に示すまず図 423(a)

について単一グレインで測定した図 416(a)同様 VG 印加に従い先に ∆V が負シフトし次いでコンダクタンスが増加している416(a)に比べて低 ∆V でも若干コンダクタンスが増加しているのは単一グレインではなく連続膜であるためVG 印加に従いチャネルとなる領域が変化している影響が考えられるしかし上述のとおり VG = minus4 Vでチャネル内の応答が一定となり蓄積がほぼ完了していると考えられるためそれより大きなゲートバイアス領域では意味ある結果が得られていると考える両 OFET で比較するとサセプタンスに関しては単一グレインでの結果 (図 415) 同様単調な増加減少は見られないコンダクタンスに関してはPFBT-Auでは負シフトしていた ∆V が minus035 V

付近で収束しコンダクタンスが増加し続けているがBare-Auではコンダクタンスが増加し始めてからも ∆V がシフトし続けまたコンダクタンスの増加も停滞しているこのことから 2点のことが示唆される一つはPFBT-Auの方が AC電極ndashチャネル界面でキャリア蓄積後のコンダクタンスが大きいということであるこれは電極対を用いた電気特性で電流移動度が向上したことと合致するもう一つは AC 電極ndashチャネル界面が導通するために必要な ∆V が異なるということである433節で議論したように ∆V は電極のフェルミ準位とチャネルの HOMO準位の整合状態と関わっ

70 第 4章 新規局所インピーダンス評価法の開発と金属―有機界面物性の評価

minus1 V

Bare-Au

minus5 V

AC el AC el

Drain Source Drain Source

0

Pote

ntia

lSI

M a

mpl

SI

M p

hase

Po

tent

ial

SIM

am

pl

SIM

pha

se

AC-drain AC-source

iuml9iuml9iuml9iuml9iuml9iuml9iuml9iuml9

VG

Channel Channel

-05

0

3RWHQWLDOgt9

0

05

$PSOgtP9

-30

0

30

0 500 750

3KDVHgtGHJ

LVWDQFHgtQP

-5

0

3RWHQWLDOgt9

0

05

$PSOgtP9

-30

0

30

0 500 750

3KDVHgtGHJ

LVWDQFHgtQP 500 750 LVWDQFHgtQP

(a)

(b)

(c)

(d)

(e)

(f)

(g)

(h)

(i)

(j)

(k)

(l)

図 424 Bare-Au OFET の動作時の FM-SIM 測定結果 (VD = minus1 V(andashf) minus5 V(gndashl))ドレイン(左電極)を AC電極とした場合 (andashc gndashi)およびソース (右電極)を AC電極とした場合 (dndashf jndashl)の結果(a d g j)表面電位(b e h k) FM-SIM振幅(c f i l) FM-SIM位相プロファイル位相プロファイルのみスプライン曲線による平滑化を行っている

ている今回の結果ではPFBT-Auでの電極ndashチャネル界面の方が Bare-Auのそれよりも元々の電極ndashチャネル間準位整合状態が良かったと考えられるVG = minus15 V における ∆V を比較するとBare-Auでは 015 V程度大きい準位シフトが必要ということになるこのように電極の SAM修飾により仕事関数を増加させるという結果がいくつか報告されている [161ndash163]フッ素系の SAM

の場合チオール基から表面方向に対し分子軸に沿って負のダイポールが存在するため電極の見かけの仕事関数が増加すると考えられているしかし報告によって仕事関数の変化は 05 eVから1 eVと異なるこのことは本研究の KFMで測定された ∆V の差異とも異なることも含めると電極の SAM修飾による電気特性変化が全てこの仕事関数変化による影響に帰結されるとは限らないことを示唆しているそのためこの後 OFET動作中での評価結果も含めて電極 SAM修飾による特性変化の起源を議論していく

44 電極表面処理による OFET特性への直接影響評価 71

PFBT-AuAC el AC el

Drain Channel ChannelSource Drain Source

minus1 V

minus5 V

Pote

ntia

lSI

M a

mpl

SI

M p

hase

Po

tent

ial

SIM

am

pl

SIM

pha

se

0

AC-drain AC-source

iuml9iuml9iuml9iuml9iuml9iuml9iuml9iuml9

VG

-05

0

3RWHQWLDOgt9

0

05

$PSOgtP9

-30

0

30

3KDVHgtGHJ

(a)

(b)

(c)

(d)

(e)

(f)

-5

0

3RWHQWLDOgt9

0

05

$PSOgtP9

-30

0

30

0 500

3KDVHgtGHJ

LVWDQFHgtQP

-5

0

3RWHQWLDOgt9

0

05

$PSOgtP9

-30

0

30

500

3KDVHgtGHJ

LVWDQFHgtQP0

(g)

(h)

(i)

(j)

(k)

(l)

図 425 PFBT-Au OFET の動作時の FM-SIM 測定結果 (VD = minus1 V(andashf) minus5 V(gndashl))ドレイン(左電極)を AC電極とした場合 (andashc gndashi)およびソース (右電極)を AC電極とした場合 (dndashf jndashl)の結果(a d g j)表面電位(b e h k) FM-SIM振幅(c f i l) FM-SIM位相プロファイル平滑化を図 424と同様に行った

-4

-2

0

2

-12-8-4 0

0

100

200

300

umlV [V

]

Cur

rent

[nA]

VG [V]

PFBT-AuBare-Au

図 426 VD = minus5 V におけるチャネルndashソース間電位差 (∆V) と測定中の直流電流の VG 依存性赤線四角のシンボルが PFBT-Auを青線丸のシンボルが Bare-Auの結果を示す実線が ∆V破線が電流を示す

72 第 4章 新規局所インピーダンス評価法の開発と金属―有機界面物性の評価

(a) Conductance (b) Susceptance

0

01

02

-12-8-4 0

Re[

Y nor

m]

VG [V]

PFBT-AuBare-Au

0

02

04

-12-8-4 0

Im[Y

norm

]

VG [V]

PFBT-AuBare-Au

図 427 VD = minus5 V での FM-SIM 結果から得られた (a) 正規化コンダクタンス (Re[Ynorm]) および (b)正規化サセプタンス (Im[Ynorm])の VG 依存性

ドレインバイアス印加時 (OFET 動作時) 次にドレインバイアスを加えた状態でBare-Au とPFBT-Au でどのような違いが現れるかを検証するドレインバイアス VD = minus1 V minus5 V についてドレイン (左)ソース (右) それぞれの電極を AC 電極とした際の FM-SIM 測定結果を図 424

(Bare-Au OFET)および図 425 (PFBT-Au OFET)に示すプロファイルは表形式で示しており左の列はドレインを AC電極とした場合 (AC-drain)右の列はソースを AC電極とした場合 (AC-source)

のプロファイルであるまた行は上から minus1 V での表面電位FM-SIM 振幅FM-SIM 位相および minus5 V でのそれぞれの結果という順に並んでいるこれまでの議論からFM-SIM では AC を印加している電極と有機薄膜との界面のインピーダンスを優先的に評価できるためAC-drain とAC-sourceではそれぞれドレインndashチャネル界面ソースndashチャネル界面の物性が FM-SIM信号に現れるそれに対し表面電位は交流バイアスの印加を除くと全く同じ条件で測定されているため得られる電位プロファイルは原理上同じと考えられるまずこれら原理的な点について注目する図424(a) (d)はそれぞれ AC-drain AC-sourceの表面電位でありVG lt minus2 Vではほぼソースndashチャネル界面に電位ドロップが集中する傾向が一致している同様に図 424の (g)と (j)図 425の (a)と(d)(g) と (j) が若干の電位分布の違いがあるものの基本的に傾向は同じでありAC-drain とAC-sourceの測定は DC的に見るとほぼ同条件で測定されているとみなせる図 426に VD = minus5 V

における VG を変えたときのチャネルndashソース間電位差 (∆V)と直流電流値の変化を示すVG = minus8 V

まではゲートバイアス印加に従い ∆V は負に大きくなるが電流はほぼ 0のままである一方 minus8 V

を超えると ∆V は minus4 V程度で飽和し電流は増加を始めている電流が VG = minus8 V を境に増加を始めるという結果は事前の電気測定結果 (図 420(c)) と非常に良い一致を示しており交流バイアスなどによる大きな影響はないことを示しているここでOFET が導通 (ON 状態) しているVG lt minus8 Vの区間で∆V がほぼ VD の値で飽和しているためON状態における OFETの抵抗のほとんどはソースndashチャネル界面であると分かる次に FM-SIM信号に注目するAC-drainと AC-sourceで比較するとBare-Auか PFBT-Auかどうかや VD の値に関わらずチャネル上の FM-SIM振幅は AC-drainの方が大きいという一定の傾向があるゲートに負バイアスを印加中は電圧のほとんどがソースndashチャネル界面に加わっていることを加味するとドレインndashチャネル界面よりソースndashチャネル界面の方が電気的カップリングが悪いことを示唆しているこのことからも電極の SAM修飾による性能向上はソースndashチャネル界面の

44 電極表面処理による OFET特性への直接影響評価 73

Trap rich region

Trapped hole Trapped stateHOMO (Mobile)Mobile hole

HOMO

EFHOMO

EF

Bare-Au PFBT-Au

∆ xed

Increase

∆ gradual

Slight increase

C C

C

VG

MetalOrganic

図 428 FM-SIM で測定された容量変化から想定される Bare-Au 試料と PFBT-Au 試料での金属ndash有機界面の電子準位と状態の概要図VG 印加に従い正孔が蓄積するが界面付近ではより多く蓄積させないと可動 (Mobile)キャリアが生まれない容量 (C)は可動キャリアの存在する領域に由来すると考えると金属ndash有機界面のトラップ準位が多い系では容量増加が小さくトラップが少ないと瞬時に蓄積し容量が増加する

局所インピーダンス変化を追うことで直接評価比較できると考えられる次に VD による違いに注目するとVD = minus1 Vに比べ minus5 Vの方が FM-SIM振幅が大きい特に AC-drain (図 424 425(h))

ではチャネル上の FM-SIM振幅がドレイン電極とほぼ同程度になっておりドレインndashチャネル界面インピーダンスの寄与が非常に小さくなっていると考えられる以上の傾向は大まかに Bare-Au と PFBT-Au で似た挙動を示しており電極の SAM 処理による電気特性の違いを反映したものとは言えないBare-Au (図 424)と PFBT-Au (図 425)とで比較するとまず VD = minus1 Vでは挙動はほぼ同じでAC-drainと AC-source共に VG 印加によりチャネル上 FM-SIM位相が負にシフトしている一方 VD = minus5 V についてAC-sourceの FM-SIM位相がPFBT-Au (図 425(l))では負シフトしているがBare-Au (図 424(l))では界面での明確な負シフトが見られないこのように Bare-Auと PFBT-Auとの違いが VD = minus1 Vでは見られずminus5 Vで見られた要因として図 420(a) (b) の電気特性の低 VD 領域における非線形な特性が挙げられる低 VD

ではほとんど電流が流れていないという特性差のなさが FM-SIMの結果でもあまり違いを生まず一方大 VD では特性差も現れる程度に電流が流れたために FM-SIMの結果に違いが現れたと考えられる以上のことからSAM処理による電気特性変化はソースndashチャネル界面 (AC-source結果)に由来するとしVD = minus5 Vでの結果に注目する

74 第 4章 新規局所インピーダンス評価法の開発と金属―有機界面物性の評価

433節での解析を踏まえソースndashチャネル界面インピーダンスを並列 RC回路と考え式 (415)

を用いて界面正規化アドミタンス (実部界面コンダクタンス Re[Ynorm]虚部界面サセプタンスIm[Ynorm]) を評価するVD = minus5 V における結果を図 427 に示すまず界面コンダクタンス (図427(a)) は Bare-Au PFBT-Au 共に VG = minus8 V から増加を始めるという図 426 で見られた傾向と一致しておりソースndashチャネル界面の影響が電気特性にそのまま現れたことが分かるまたVG = minus8 V以降の界面コンダクタンスの増加はBare-Auに比べ PFBT-Auの方が顕著であるここでFM-SIMで測定したプロファイル (図 424 425)からソースndashチャネル間の変化は 100 nm以下の分解能で観測されているためFM-SIMでは電極付近のグレインの影響を排除した金属ndash有機界面物性を評価していると考えられるそのため電極付近のグレインサイズによる接触抵抗への影響ではなく確かに金属ndash有機界面物性が変化したことにより接触抵抗が低減したことを図 427(a)

は示している次に界面サセプタンス (図 427(b)) を通して接触抵抗低減の起源について考察する界面サセプタンスはBare-Auでは VG 印加に対してゆるやかな増加を示している一方でPFBT-Auでは界面コンダクタンスと同じく VG = minus8 Vを境に顕著な増加が見られたここで測定周波数は同じなのでサセプタンスは金属ndash有機界面の容量と対応付けることができる容量の起源として金属ndash有機界面における有機薄膜の不連続性が挙げられる金属近傍の結晶性低下や金属による準位への影響により有機薄膜中のトラップ準位はチャネル中よりも多くなるこのような金属ndash有機界面のトラップリッチな領域が空乏層となり界面容量を生むと考えられる [41 61 149]ここでゲートバイアスの印加によりキャリア (正孔)注入が起きるとトラップが埋まり空乏層幅が減少することで図 427(b)の PFBT-Auのような界面容量の急速な増加が見られると考えられる (図 428右)一方元々のトラップ準位の量が多いと空乏層幅の減少も顕著ではなくなるそのためPFBT-Auでは bare-Auに比べ金属ndash有機界面のトラップ量が減少していることが示唆される (図 428左)過去の報告でOFETの電極と有機薄膜の間にドープ層を挿入することで金属ndash有機界面のキャリアを増やし空乏領域を狭めた報告がある [152]正孔のドープ層としては有機薄膜と直接電荷の授受を行うFeCl3 や F4-TCNQが知られているが直接正孔を生まない SAMや極薄酸化膜によっても金属と有機分子の間の相互作用を抑えることで金属ndash有機界面のトラップを減少させることができるといわれている [150 164]これを踏まえるとやはり PFBTを用いた電極の SAM修飾により金属ndash有機界面のトラップが減少したといえる (図 428)特に浅いトラップはその領域の移動度とも密接に関わっており本研究の bare-Au OFETに対する PFBT-Au OFETでの接触抵抗低減は界面トラップの減少による効果と結論づける

45 本章のまとめ本章では 3章で課題として挙がっていた金属ndash有機界面の電気特性の測定に注目し新規局所インピーダンス評価法として FM-SIM を開発した等価回路モデルから FM-SIM 信号と界面インピーダンスが一対一に対応する式を導出するとともに周波数依存性から回路定数を半定量的に算出できることを見出した金ndashペンタセン単一グレインに適用することでトップコンタクト OFETでの測定でも観測されていた抵抗ndash容量並列回路の界面インピーダンスが単一グレイン系においても生じることを見出した

45 本章のまとめ 75

FM-SIMの応用として電極表面の SAM処理による移動度向上要因を評価したOFET動作前のみならず OFET動作時にも FM-SIM測定できることを示しOFETの動作がソース電極ndashチャネル間の電気特性に支配されていることを確認したこれを踏まえソース電極ndashチャネル界面のインピーダンス評価によりSAM処理が界面の準位整合状態のみならずトラップを減少させたことにより界面部分の導電性向上に繋がったことが明らかとなった

77

第 5章

時間分解測定による有機グレイン中のキャリアダイナミクス評価

3 章で問題となった金属ndash有機界面の電気特性が接触電流測定では困難であることに対し4 章で提案した FM-SIM による非接触での電位測定で実現したしかしFM-SIM や従来手法であるKFMではOFETのチャネルが既に形成している状態の電気特性しか測ることができないこれには以下に挙げる 2点の問題がある一つはバイアスストレスの問題であるOFETではゲートバイアスを印加した状態が長時間続くと電流が低下することが問題となっている [165]主にチャネルに長時間キャリアが蓄積することでキャリアトラップが誘起されることが原因と考えられているバイアスストレスによる変化でKFMで測定される電位像も経時変化が起きるため [166]長時間のバイアスをかけずとも局所電気特性評価を可能にすることも必要であるもう一つはチャネル形成前ないし形成中の電気特性が評価できないという点であるこれらの課題に対し経時変化そのものに注目することで電気特性評価を試みている報告がいくつかある有機薄膜へのキャリア注入中の経時電流を測定する変位電流測定 (Displacement current

measurement DCM)は従来金属絶縁膜有機半導体 (MIS)構成で用いられた手法だがOFETに拡張し金属ndash有機界面の注入電圧や絶縁膜界面のトラップについて評価した報告がある [60 62]また注入時のキャリア端をマッピングできる時間分解顕微二次高調波発生 (TRM-SHG)法を利用し有機薄膜の移動度異方性を一度に測定した例がある [167]このような時間分解測定を利用したチャネル形成過程の評価をプローブ技術に活かし有機半導体グレインへのキャリア注入排出時の局所電気特性評価を本章での目標とする

51 時間分解 EFM (TR-EFM)

電位の経時変化を測定するという観点で考えると2 章で述べた KFM を用いるのが最もシンプルであるしかしKFM ではバイアスフィードバック回路を用いており追従速度の遅さが問題である本研究では有機半導体グレインを対象とするが4 章での結果から応答する周波数範囲は100 Hzから 1 kHz程度の早さと考えられるつまり時間分解能としては 1 ms程度必要であり従来の KFMでは難しいよって本研究ではバイアスフィードバックを必要としない EFMをベースとして考えるまたこれまでの議論と同様に真空中での測定を行うため FM-EFMを用いる

78 第 5章 時間分解測定による有機グレイン中のキャリアダイナミクス評価

511 TR-EFMの動作電圧印加に対するグレイン応答の経時変化をマッピングするため本研究では 3 章の point-by-

point技術を活用した時間分解 EFM (Time-resolved EFM TR-EFM)を測定に用いたTR-EFMの動作模式図を図 51に示すTR-EFMでは試料上の各点において(a) FM-AFMを用いて探針ndash試料間距離を一定にするとともに高さの測定を行う動作 (図 51(a))と(b)高さを固定し何らかの電圧(パルス)を加えその間の FM-EFMの出力 (EFM信号)の経時変化を測定する動作 (図 51(b))を交互に繰り返すこのような point-by-pointでの AFMEFM交互動作には経時応答を測定できる以外に 2つの利点がある一つは各点での FM-EFM測定時のみバイアスを印加するためバイアスストレスによる経時変化の影響を抑制することができる点であるもう一つは通常 KFMではバイアスを印加しながら測定するがTR-EFMでは表面形状取得 (FM-AFM)時にバイアスをかけていないため従来よりも探針ndash試料間距離が一定に保たれていると考えられるそのためTR-EFMは経時応答以外の面からも有利といえる装置構成図を図 52(a) に示すTR-EFM では FM-EFM の特性と FM-AFM フィードバックを分けて考えるためPLL を 2 台用いたFM-AFM 用 (PLL1) には 42 節と同じ自家製回路を用いFM-EFM用 (PLL2)には Zurich Instrumentsのロックインアンプ (LIA)である HF2LI-MF (以降ZI-LIA)の PLLオプションを用いたZI-LIAからACバイアス信号 ((角)周波数 ft(ωt))をカンチレバーに加え変位信号を PLL2で周波数検波しZI-LIAにより Lock-in検出することで EFM信号が得られ経時信号をデータロガー (NR-500)で記録したPoint-by-point動作を行うトリガー信号は自家製 AFMコントローラより出力されFG1 (Tektronics AFG 3000)の出力トリガーに用いるとともに信号の再構成用にデータロガーで記録したカンチレバーは Olympus OMCL-AC240TM-R3

(共振周波数 sim 70 kHzばね定数 sim 2 Nm)を用いたFG1から出力する電圧パルスの波形の概略を図 52(b)に示す0 Vを間に挟む正負交互の電圧波形と複数の振幅のパルスを一度に印加することが特徴であるこのようなパルス波形は Oak Ridge

国立研究所の Kalininおよびダブリン大学の Rodrigezらのグループにより提唱された電気化学原子間力顕微鏡で用いられたものから着想しており複数の電圧に対する応答を一度に測定できるという利点を有している [168]本研究では対象とするグレインや測定内容によりパルス波形に調整を加えているため次のようにパルス波形を定義する

1パルス時間 tp を用い一つの電圧に対応するパルスの時間を表すシーケンス +Ak rarr 0 rarr minusAk rarr 0という一連のパルスを出力する期間を表すあるシーケンスで

のパルス振幅を Ap = plusmnA1 middot middot middot plusmnAk middot middot middot Anの形で示す正パルスまたは負パルスのみの場合は符号をそのように指定することで示す

シーケンス回数 nで定義する

例えば主に用いているパルス波形はtp = 20 msn = 5Ap = plusmn05 V middot middot middot plusmn25 Vと表すことができるこの場合総パルス時間は 4ntp = 400 msである

51 時間分解 EFM (TR-EFM) 79

(a) Height control(FM-AFM)

(b) Bias applicationamp FM-EFM

Cantilever

ElectrodeInsulatorGate

Feedback ONWithout bias With bias

Feedback hold

Pulse bias

EFM signal

図 51 時間分解 EFM (TR-EFM) の動作模式図試料上の各点 (走査中の全点) において(a)FM-AFMによる探針ndash試料間距離制御と(b)パルス電圧印加および FM-EFM測定を交互に繰り返す

PLL1

Data logger

Lock-in amp

PLL2

Self-excitationblock

Heightfeedback

Scanner

LDPSPD

Tip AC

FG1SampleInsulatorGate

Electrode

AFM controller

EFM signal

ZI-LIA

Trigger signal

∆f dc∆f ac

(a) Setup

(b) Pulse form (FG1)

Pulse period tp

Total pulse period 4ntp

Sequence 1

Sequence nVel

Injection

Extraction

plusmnA1 plusmnAn

図 52 (a) TR-EFMの装置構成図(b) FG1により印加したパルス電圧の模式図

512 妥当性検証電位応答の評価法としての妥当性を示すために(1) EFM 信号の値(2) 応答時間1の面から

TR-EFMの検証を行った

1 本節では電圧変化に対して EFM信号が追従する時間のことを指す

80 第 5章 時間分解測定による有機グレイン中のキャリアダイナミクス評価

1 EFM信号値 26節でも述べたようにFM-EFMでは変調信号を FM検波の後 Lock-in検出することで EFM信号 (∆f )ωt が得られる試料電位を Vs とすると式 (213)および式 (212)より

(∆f )ωt =f02kpart2Cts

partz2 VsVac cosωtt (51)

で表されるPoint-by-point 動作においても Vs に比例した EFM 信号が得られるかを検証した測定条件 [設定値 1]を以下に示す

概要 Au電極上 TR-EFM [設定値 1]

Pulse tp = 20 msn = 5Ap = plusmn05 V middot middot middot plusmn25 VLIA ft = 5 kHzバンド幅 (BW) 500 HzPLL2 自動 BW設定Logger 05 mssamplingで PulseEFM信号を取得

Au電極上で電極に上述のパルスを加えTR-EFM測定を行った各シーケンスの初めを 0 ms

に合わせた EFM信号経時変化を図 53(a)に示すここでは全体の傾向について議論を行うため単一ではなく 9回平均したデータを用いた図 53(a)よりパルスに応じて EFM信号の変化が分かるパルスのうち 0 Vとなっているところではどのシーケンスの EFM信号も重なっておりほぼ同じ値が得られていることが分かるこれはパルス印加中に探針や試料 (電極)の電位変化やカンチレバーの高さ変化は起こっていないことを示し今回のようなパルスが測定には影響しないと分かる一方 0 Vで EFM信号が 0となっていないことは探針ndash電極間の仕事関数差が影響していると考えられる以後まず測定時に電極上での EFM 信号がほぼ 0 となるように探針にバイアス電圧を加えさらに測定後に電極上の 0 Vでの EFM信号をオフセットとして全体から差し引くことで電極に対する電位相当の信号として評価するそれぞれのバイアス印加時の EFM 信号は少なくとも今回の PLL および LIA の設定では一定であることが分かる飽和後の EFM 信号の平均値をバイアス電圧に対してプロットしたものを図53(c)に示すEFM信号の理論式 (51)で示したとおり飽和値はバイアス電圧に対して線形に変化することがわかるよって測定量に関して TR-EFMは妥当な結果が得られているといえる電位 U に対してEFM signal= (U times 453 mVV + 18 mV)と線形フィッティングできたがこの比例係数および切片は探針や PLLLIAの設定値によって変化することに留意する必要がある

2 応答時間と設定値の関係 図 53(a)の 0ndash5 ms を拡大したものを図 53(b)に示すplusmn05 V での結果を除きどのバイアス電圧においても 1 ms の時点で飽和値の 9 割に到達しておりplusmn05 V のEFM信号も 15 msで十分飽和しているつまり[設定値 1]での測定の時間分解能は約 1 msといえ本節の冒頭に述べた時間分解能を満たしているため有機半導体グレインへの電荷注入応答を測定する十分なポテンシャルがある一方グレインによって応答が異なること今後 TR-EFMを活用した経時応答測定を行うことを考慮すると装置設定と EFM信号の応答時間信号対電圧比 (Signal-to-noise ratio SN)を比較することは有用である本項では変調周波数 fm のみならずカンチレバーの共振周波数PLL2の設定値 (ループゲイン PPLL および位相検出器 (PD)カットオフ周波数 fPD)LIAのバンド幅 BWについても考慮し所望の応答速度に対する設定項目の目安や最適値という実践的な面に注目して議論

51 時間分解 EFM (TR-EFM) 81

0

50

100

150

0 1 2 3 4 5

EFM

sig

nal [

mV]

Time [ms]

-100

0

100

0 20 40 60 80EFM

sig

nal [

mV]

Bias

[arb

uni

t]

Time [ms]

(a) (b)

plusmn05 Vplusmn1 V

plusmn15 Vplusmn2 V

plusmn25 V

VB

05 V

1 V

15 V

2 V

VB = 25 V

-100

0

100

-2 0 2

Satu

rate

d si

gnal

[mV]

Bias (VB) [V]

FitData

(c)

VB

図 53 Au電極上 TR-EFM測定結果(a)各シーケンスの初めを 0 msに合わせた EFM信号 (左軸)および加えたパルスバイアス波形 (右軸)バイアスの波高を VB としている(b)各シーケンスの EFM信号の 0ndash5 msを拡大したもの(c) EFM信号 (飽和値)のバイアス電圧依存性 (Plot)および線形フィッティング結果 (Line)

する前項目同様に Au 電極上の TR-EFM 波形から実効的な応答時間 (Response time) τres を比較する ft = 5 kHz および BW を 500 Hz に固定しパルス電圧として tp = 20 msn = 5Ap =

+1 V middot middot middot +1 V を印加しTR-EFM 測定を行った励振させるカンチレバーの共振周波数は 1

次2 次のたわみモードを用いることで比較しPD のカットオフ周波数と合わせて 1 次は fPD =

8 kHz 20 kHzについて2次は fPD = 20 kHz 40 kHzについて測定したなおOMCL-AC240TM-

R3の 2次共振周波数はおよそ 340 kHzであるまた PPLL として 178 349 524 873 140のうちいくつかについて比較したまたZI-LIAに備わっている PPLL fPD の自動設定 (auto)の見積もりも兼ねた1シーケンスの EFM信号を比較したものを図 54(a) (b)に示す図 54(a)よりPLLゲイン増加に伴い信号強度の増加がよく分かるが同時にノイズ分も増加していることが分かるこれは PLLの帯域増加による信号およびノイズ増加に対応するまた結果より1次での自動設定はおおよそ PPLL = 349と推察されるEFM信号値の妥当性検証時は PLLの自動設定を用いたがゲイン増加により自動設定のときよりも信号が増加しており ft が PLLの応答帯域外だったことを示している一方 fPD は強度には大きく影響しておらず帯域は PPLL が制限していることが分かるがPPLL = 873かつ fPD = 8 kHzの結果 (図 54(a)青破線)のように十分な fPD が無いとノイズの原因となる2次の結果 (図 54(b))もおおよそ同様の傾向を示しているが自動設定では 1次のそれに比べて強度ノイズともに良好な結果が得られたSN および τres を比較したものを図 54(c)

82 第 5章 時間分解測定による有機グレイン中のキャリアダイナミクス評価

0

20

40

60

80

100

Auto

178

349

524

873

140

SN

(b

ar)

P gain

0

100

200

0 5 10 15 20

EF

M s

ign

al [m

V]

Time [ms]

178

524

349

Auto

P= 873

0

100

200

0 5 10 15 20

EF

M s

ign

al [m

V]

Time [ms]

P= 140Auto

P= 873

(a) 1st resonance (b) 2nd resonance

(c)

PLL auto

1788k 20k 40k

349524873140

P (g

ain)

PD cuto (fPD) [Hz](a) (b)

1st

fPD

2nd

Reso8 kHz

20 kHz

20 kHz

40 kHz

1 seq Averaged

τres

0

05

1

15

Re

sp

on

se

tim

e Ѭ

res

(plo

t) [

ms]

図 54 カンチレバーの共振次数および PLL設定値 (PLLゲイン PPLL位相検出器 (PD)カットオフ周波数 fPD)による TR-EFM信号変化(a) 1次 (b) 2次共振での 1シーケンスの EFM信号波形 (実線 fPD = 20 kHz点線 fPD = 8 kHz(1次)40 kHz(2次))(c) SN(左軸棒グラフ)および応答時間 τres(右軸プロット)比較1シーケンスでの結果を塗りつぶし5シーケンス平均での結果を中空で示した

に示すなおτres として飽和値の 9割に到達した時間を用いたSNとしては 1シーケンスの結果および 5シーケンスの信号の平均から求めた結果を示したまず τres は PLL設定値にほぼ依らないことが明らかである一方 SNは1シーケンスの結果ではゲイン増加により落ちてしまうが平均することでかなり向上する全体の傾向としては 2次共振の方が SNが高めであり本セットアップでは 2次共振での測定が有利であるといえる2

次にロックイン検出の平均時間 (LIAの時定数)に注目する本研究で用いた ZI-LIAでは変調周波数からのバンド幅 (BW) として設定するため必ずしも 1 対 1 に対応するとは限らないまた実際の TR-EFM測定で BWに依存しない領域がある可能性もあるためSNと合わせてここで検証する上述の議論で 2次共振の PLL自動設定がある程度大きな帯域を有していたため2次を中心に比較した変調周波数と BWを変えながら TR-EFM測定した結果を図 55に示すここでは簡単のため共振次数に関わらず PLLの自動設定を用いた変調周波数を上げるに従い信号強度が小さくなるのはPLL 設定値による変化と同じく PLL の応答帯域による影響であるただしPLL 設定値は同一のためノイズは同等でありSNは減少する同じ変調周波数では BWの増加に従い明確に応答時間が短くなっておりパルス電圧印加の遅れが EFM 信号の立ち上がりの遅れに影響し

2 実験の順序の関係により大半の TR-EFM測定では 1次-PLL自動設定を用いているがベースノイズが小さいため平均せずとも比較的応答を綺麗に見ることができるという利点がある

51 時間分解 EFM (TR-EFM) 83

0

100

200

0 1 2

EFM

sig

nal [

mV]

5 10 15 20Time [ms]

0

100

200

0 1 2

EFM

sig

nal [

mV]

5 10 15 20Time [ms]

0

100

200

0 1 2

EFM

sig

nal [

mV]

5 10 15 20Time [ms]

0

100

200

0 1 2

EFM

sig

nal [

mV]

5 10 15 20Time [ms]

0

100

200

0 1 2

EFM

sig

nal [

mV]

5 10 15 20Time [ms]

(a) ft = 5 kHz (b) 8 kHz (c) 10 kHz

(d) 12 kHz (e) 5 kHz (1st) BW

200 Hz500 Hz800 Hz

1 kHz12 kHz

図 55 変調周波数 ( ft)と LIAバンド幅 (BW)による 5シーケンス平均の TR-EFM信号変化見やすさのため立ち上がり 2 ms間を拡大した(a) 2次-5 kHz(b) 2次-8 kHz(c) 2次-10 kHz(d)2次-12 kHz(e) 1次-5 kHz

(a) (b)

1st

ft

2nd

5 kHz

10 kHz

5 kHz

8 kHz

10 kHz

12 kHz

1 seq Averaged 0

50

100

150

200 500 800 1k 12k

SN

BW [Hz]

0

1

2

3

0 2 4 6

Ris

ing

tim

e [

ms]

1BW [ms]

5 kHz

8 kHz

10 kHz

12 kHz

ft =

図 56 (a)各変調周波数 ( ft)と共振次数における EFM信号の SN比較1シーケンスでの結果を塗りつぶし5シーケンス平均での結果を中空で示した(b) 2次共振での変調周波数ごとの応答時間 τres 比較1BWに対してプロットした

ているわけではないことが分かるこの傾向はどの変調周波数でも見られたしかしBWの増加でノイズも増加しており5回の平均でも除去できていないことが分かるこれらの EFM信号から得られた SNの比較を図 56(a)に示すBWの増加による SNの減少が起こるが1次-5 kHzや 2

次-5 kHzのように平均化によりある程度是正されていることが分かる図 56(b)に BWによる応答時間の変化 (ただし 2次のみ)を示す同じ BWでは応答時間は変調周波数に関わらずほぼ同じであることが分かるそのため求める応答時間に対して最もよい SNを示す設定値が最適といえるここで変調周波数の増加に伴い SNが減少することを踏まえるとノイズが劇的に悪化することがない限り低い変調周波数を用いるのが適当であることが分かったBWに対する応答時間の変化はおおまかに (2BW)minus1 で記述できることが図 56(b)より見て取れるつまり05 msの時間分

84 第 5章 時間分解測定による有機グレイン中のキャリアダイナミクス評価

40 nm (a) (b)50 nm (c)

150 nm

Gr2a

Gr2b150 nm

Gr1

Insulator

Electrod

e

150 nm

Gr3aGr3b

(a) (b) (c)

図 57 TR-EFM測定に用いた Au電極接続ペンタセングレインの表面形状像

解能が必要な場合BWを 1 kHzに設定する必要がありその中で SNが良い ft = 5 kHzが最適値と考えられる

52 有機グレインのキャリアダイナミクス評価前節では新規提案した TR-EFMの動作原理と測定の妥当性について議論した本節では実際に有機半導体グレイン上で TR-EFM測定を行いその電位応答からキャリア注入蓄積または排出がどのように起こっているかを検証し単一グレイン系における局所抵抗の評価に繋げる

測定試料 測定試料としてAu電極に接続したペンタセングレインを用いたAu電極は 441節と同様に UVリソグラフィで作製したペンタセンは 321節で述べたとおりである図 57に以降の測定で用いたペンタセングレインの表面形状像とそれぞれのグレインの名称 (Gr1 Gr2a Gr2b

Gr3a Gr3b)を示すGr1以外は明確なくびれがグレイン内に無く単一グレインとみなすGr1についてはくびれは無いがグレイン内で層数の分布が見て取れる以降の測定ではこれらの影響も含めて議論する

用語定義 TR-EFMでは特殊なパルスを用いており一度の測定で電圧の正負または 0 Vへ戻したときさらにそのバイアス依存や時間依存など複数種の応答が同時に得られる以降の評価で用語が混同しないように本項目で用語を定義するなおこの定義ではペンタセンが p型有機半導体であること電極として Auを用いていることから電極ndashゲート間に正電圧印加時に正孔が注入されることを基としている

EFM信号 TR-EFMまたは単なる FM-EFMにより得られたロックイン出力値またはその経時波形

バイアス電圧 ある時間期間における電圧値VB で表す注入 (injection) 電極電圧3を 0 Vから +VB にステップ変化させることまたはその応答排出 (removal) 電極電圧を +VB から 0 Vにステップ変化させることまたはその応答空乏 (depletion) 電極電圧を 0 Vから minusVB にステップ変化させることまたはその応答回復 (recovery) 電極電圧を minusVB から 0 Vにステップ変化させることまたはその応答緩和 (relaxation) 電圧のステップ変化後に継続して電圧または EFM信号が変化している期間ま

たはその応答飽和飽和値 (saturation) 電圧のステップ変化後にほぼ一定の電圧または EFM信号となっている期

3 ゲートに対する電極電圧以下略

52 有機グレインのキャリアダイナミクス評価 85

Pulse bias(to the elctrode)Response

(on the grain)Injectio

n

Time lapse

Relaxation

Saturation

Removal

Depletion

Recovery

図 58 TR-EFMにおける用語定義の概要図

間またはその応答その平均値応答 (response) 電極電圧変化に対するグレインの電位変化全般を表す用語応答時間 (response time) バイアス電圧変化に対して EFM信号 (等)が追従し収束するのに要し

た時間(例 グレイン上の応答時間 =グレイン上 EFM信号の応答時間)

蓄積 (accumulation)空乏 注入時の飽和特性を ldquo蓄積rdquo と呼ぶこともあるその場合の対義語としても ldquo空乏rdquoを用いる

これらの定義をまとめたものを図 58に示す

521 単一グレインの時間分解パルス電圧応答図 57(a)の Gr1に関して測定条件 [設定値 1]tp = 20 msn = 5Ap = plusmn05 V middot middot middot plusmn25 Vのパルスで TR-EFM測定した結果のうち plusmn25 Vのシーケンスにおいて各点の同一時間に対応する EFM信号で再構成した時間分解 EFM像を図 59にまとめて示すここでは注入時排出時空乏時回復時の電圧変化時刻から起算して minus1 0 1 2 5 10 15 ms後における EFM像のみ示しているカラースケールは共通で0 Vでの電極上 EFM信号に対する値として示しているまず EFM像全体に共通して言えることはEFM像のある一点をとったとき付近の応答が比較的近い値を示していることである単に Fast scan (X)方向だけでなく Slow scan (Y)方向も均一である各点でパルス電圧を印加していることを踏まえるとここで得られている応答は非常に再現性の高いものといえ前回のパルス電圧による影響があるとしても次回のパルス印加時には十分消失しているといえるこれらのことはTR-EFM 測定の妥当性を確保する上で重要な視点となる他の EFM像に比べ電圧変化後 0 msの応答はノイズ状になっているがこれは原理上データログのタイミングに plusmn025 msの誤差が存在してしまうことと再構成用のタイミング信号とパルス印加のトリガーのずれによって生じるものであるため取り除くことは困難であるそのため以下の評価では 0 msでのデータは無視する注入時 (図 59(a))の EFM像に注目するとGr1上の EFM信号は電圧変化後 1 msから 15 msにかけてゆっくりと変化 (緩和)している一方電極上は 1 msでほぼ収束しているEFMの応答時間はほぼ電極上の応答時間と対応付けられるためGr1上の緩和応答は装置測定上の問題ではなく試料中の何らかの要因によるものとわかるこのように電極上の応答時間と比較することで装置上の問題と即座に切り分けることができる点が TR-EFMの利点の一つであるまた512節での

86 第 5章 時間分解測定による有機グレイン中のキャリアダイナミクス評価

Tim

e la

pse

(a) Injection

-1 ms

1 ms

2 ms

5 ms

10 ms

15 ms

0 ms

(b) Removal (c) Depletion (d) Recovery

(e) Topography(simultaneous)

25 V 0 V ndash25 V 0 V

-150 mV 150 mVEFM signal

Potential0 V +ndash

図 59 Gr1上 TR-EFM結果から再構成により得られた時間分解 EFM像plusmn25 Vのシーケンスにおける (a)注入時(b)排出時(c)空乏時(d)回復時の電圧変化前 1 msから変化後 15 msまでの応答を示している(e) TR-EFM測定時に同時に得られた表面形状像

52 有機グレインのキャリアダイナミクス評価 87

0

50

100

150

200

0 5 10 15 20

EFM

sig

nal [

mV]

Time [ms]

0

50

100

150

200

0 5 10 15 20

EFM

sig

nal [

mV]

Time [ms]

0

100

200

0 200 400 600

EFM

sig

nal [

mV]

Ditance [nm]

Elec

trod

e

Insu

lato

r

Init

BA

0

100

200

0 200 400 600

EFM

sig

nal [

mV]

Ditance [nm]

Init BA

1 ms

Init

2 ms5 ms

10 ms15 ms

Time lapseafter change

(a) Injection-prole (b) Removal-prole

(c) Injection-ave (d) Removal-ave

BA05 V

1 V15 V

2 V25 V

VB

(e) cf topography of Gr1

図 510 Gr1上 TR-EFM結果 経時変化(a) (b)それぞれ+25 Vシーケンスの注入排出時における EFM信号の時間分解ラインプロファイル表面形状像 (e)の線分 AndashB上におけるプロファイルを得た電圧変化直前の信号を破線で示しているまた指数関数フィッティングの結果を黒細線で示した(c) (d)それぞれ各シーケンスの注入排出時における Gr1上 EFM信号の経時変化形状像 (e)の x点付近の 5点平均値を示した

Gate

Electrode Grain

Insulator

Fermi levelHOMO

Metal Organic Metal Organic

(a) Equivalent circuit (b) Injection process (c) Removal process

Ener

gy

図 511 (a) グレイン上電位応答を表す等価回路モデル(b) キャリア注入時(c) 排出時のキャリアの動きと金属ndash有機界面の電子準位の模式図図中下方向がホールに対してエネルギーが高い方向となる

議論でTR-EFM としての時間分解能はおおよそ (2BW)minus1 であることを述べた本測定では BW

が 500 Hzのため時間分解能は約 1 msであり電極上 EFM信号の応答時間と一致する注入時以外の経時変化に注目すると排出時 (図 59(b))と空乏時 (図 59(c))は電圧変化後 1 msで

Gr1上の応答がほぼ飽和しており注入時とは明らかに異なる応答を示している一方回復時 (図59(d))は注入時ほど遅くはないが1 msから 5 msにかけて Gr1上の EFM信号に変化が見られる注入時と回復時は電極からグレインへの「キャリア (ホール)注入」排出時と空乏時はグレインから電極への「キャリア排出」過程と考えることができこれら Gr1上の応答時間の違いはキャリア注入排出過程の違いと考えることができる

88 第 5章 時間分解測定による有機グレイン中のキャリアダイナミクス評価

表 51 Gr1上 EFM信号の指数関数フィッティング結果 (抜粋)

Bias (Vstart minus Vend) [mV] τ [ms] Vend [mV] Residue

1 V注入 minus653 plusmn 11 417 plusmn 017 702 plusmn 06 179

2 V注入 minus1431 plusmn 23 563 plusmn 025 1448 plusmn 18 384

1 V排出 532 plusmn 07 0613 plusmn 0016 934 plusmn 012 068

図 510に Gr1上 EFM信号プロファイルつまり電極からの距離依存性を示すプロファイルは図 510(e)の線分 AndashB上で取得した(a) (b)はそれぞれ各時間における注入排出時のプロファイルを示しているが電極ndashGr1界面以外の明確なドロップがないことが分かる試料中の基板と平行な方向の伝導度が異なると応答時間に影響を与えるのでこの結果から注入排出時のキャリア輸送の阻害となる領域はほぼ電極ndashGr1界面のみであることがわかるまた先に議論した注入排出過程での応答時間の違いも図 510からよく分かる排出時の 1 ms後も Gr1上の EFM信号が若干現れているため電極と完全に同期して緩和しているわけではないと見て取れる輸送阻害となる要因がほぼ電極ndashGr1界面のみであるためGr1上のある点を Gr1全体の応答の代表とすることは問題とならない図 510(c) (d)はそれぞれ図 510(e)の x点における注入排出時の EFM信号の経時変化である注入排出ともに緩和から飽和への変化が明瞭に確認できる応答時間と電気特性との対応づけのため図 511(a)のような等価回路を考えるグレイン上の抵抗は電極ndashグレイン界面の抵抗 Rに比べて十分小さいと考えまた 4章と同様にグレインのゲート容量 C

をおく電極ndashゲート間電圧が Vstart から Vend に瞬時に変化するとグレイン上の電位 V(t)は次のように記述される

V(t) = Vend + (Vstart minus Vend) exp(minus tτ

) where τ = RC (52)

ここで同一グレインに関してはゲート容量 C は同じであるため指数関数フィッティングで得られた時定数 τは電極ndashグレイン界面の抵抗 Rに比例する図 510(c) (d)において指数関数フィッティングした結果を黒細線で重ねて示したまたフィッティングパラメータ (抜粋)を表 51に示すただし排出時の応答は 1 Vのシーケンスのみフィッティングした注入時の 05 V1 Vや排出時は実際の EFM信号とフィッティング線が比較的重なっているがそれより大きなバイアスでの注入特性は指数関数とはずれていることが分かる表 51からも残差 (Residue)が 2 Vの注入時で大きくなっていることが分かるこれら指数関数からのずれは EFM 信号の比例係数が影響していると考えられ522節において議論する

VB = 1 Vにおける時定数は注入時は 4 ms排出時は 07 msと 5倍近い差があることが分かるそして上述の議論よりこれは排出時に比べて注入時のほうが電極ndashGr1 界面の抵抗が大きいことを示しているこれは図 511(b) (c)のような金属ndash有機界面のエネルギー準位の模式図により説明できるAu上のペンタセン HOMO準位は Auのフェルミ準位 (Fermi level)よりも (電子にとって)

低いエネルギーに位置することが光電子分光法を用いた研究で報告されている [37 169]よってホールが電極からグレインに注入される際には余分にエネルギーを要する (図 511(b))一方グレインから電極にホールが排出されるときは少なくとも注入時のようなエネルギー障壁を感じることはない (図 511(c))ただし4章で議論したようにエネルギーのミスマッチ自体が電気特性に影響を及ぼす可能性はあるが注入排出時のエネルギー障壁の有無が抵抗の大小に影響したこと

52 有機グレインのキャリアダイナミクス評価 89

-200

-100

0

100

200

0 200 400 600

EFM

sig

nal [

mV]

Ditance [nm]

+25 V+2 V

+15 V+1 V

+05 V

ndash05 V

ndash15 V

ndash25 V

ndash1 V

ndash2 V

Bias

-100

0

100

-2 0 2

Sign

al (s

at)

[mV]

Bias [V]

Electrode (ref)

Gr1

(a) (b)

図 512 Gr1 上 TR-EFM 結果 飽和値(a) それぞれのバイアス電圧における電圧変化後 15ndash195 ms 間を平均した飽和値プロファイル正バイアスが蓄積時負バイアスが空乏時に対応する(b) Gr1上を平均した飽和値のバイアス依存性電極上の EFM信号をレファレンスとして黒実線で示す

は明確であるこれまでも多く報告されてきた簡易な議論ではあるが単一グレインndash電極界面での評価を達成したことはモルフォロジーやグレイン境界といった影響ではなく純粋な金属ndash有機界面で同様のことが起こるという裏付けとなりTR-EFMの局所電気特性評価法としての有用性を示す成果である最後に飽和値について言及しておく図 512(a)は各シーケンスの注入空乏時の飽和特性 (蓄積空乏特性)をプロファイルで示しているただし電圧変化後 15ndash195 ms間を平均して用いた飽和時の特性は基本的にゲートバイアスを印加した KFM測定と同じものを見ていることになる蓄積時は電極電位と同様に Gr1上の信号も増加しているが空乏時は minus15 V以降で電極ndashGr1界面のドロップが発生している一方絶縁膜上の EFM信号はほぼ変わっておらずゲートへのカップリングは起こっていないといえる図 512(b)に Gr1上で平均したバイアス依存の EFM信号飽和値を示す電極上からも取得し線形フィッティング結果を実線で示している負バイアス印加時に電極に追随して電位変化が起こらない理由としてp型有機半導体への電子注入が困難であることがあげられるAundashペンタセンの系でフェルミ準位から HOMO準位へのエネルギーオンセットがあることは既に述べたが電子にとっての障壁である金属のフェルミ準位から LUMO準位へのエネルギー差は HOMOのそれよりも大きい [170]そのためp型有機半導体に正のゲートバイアスを印加し n

チャネル動作させた際の実効的な移動度はpチャネル動作のそれよりも非常に小さい図 512(b)

の負バイアス印加時の変化が小さいのも同様の理由と考えられるここでVB = minus1 Vまではバイアス印加に伴い EFM信号すなわち電位がある程度負に変化しているこれは電子注入が起こったというよりも元々ペンタセン中に存在した余剰ホールの排出と考える方がよい本試料は成膜後AFM真空チャンバに導入するまでに大気暴露されておりペンタセン薄膜中に取り込まれた酸素分子がアクセプタとして機能することで余剰ホールが発生したつまり p型ドープが起こったと考えられる [124ndash126]一方正バイアスでは Gr1上で電極上よりも大きい EFM信号の飽和値が得られているEFM信号が電位に比例することを踏まえるとこれは電極に対して Gr1 の電位が高いことを意味するが433節では (ゲート)バイアス印加によりペンタセン単一グレインの電位が電極に対して負であるこ

90 第 5章 時間分解測定による有機グレイン中のキャリアダイナミクス評価

0 100 200 300

0 200 400 600

0 10 20

EFM

sig

nal [

mV]

2f s

igna

l [m

V]

Ditance [nm]

ForwardBackward

Elec

trod

e

Insu

lato

r

0 mV 280 mV

5 mV 250 mV

(b) EFM forward

(a) Topography(taken before)

Measuredregion (e) Proles

(c) EFM backward

(d) 2ft signal

B BA A

図 513 Gr1上の往復 TR-EFM結果表面形状像 (a)の破線で囲った箇所を測定した(b)像の左から右 (forward)(c) 右から左 (backward) へのスキャン時の 2 V 注入時 18 ms 後の EFM 像(d) Forwardでの 2倍波信号像(e) (a)の線分 AndashB上における EFM信号 (Forward Backward)2倍波信号プロファイル

とを確認したこれは EFM信号の比例係数の影響が含まれていると考えGr1上 EFM信号経時変化の指数関数フィッティングがうまくいかなかったこと (図 510(c))と合わせて次節で議論する

522 比例係数補正と電圧依存界面電気特性EFM信号は式 (51)のとおりpart2Cts

partz2 に比例するこの係数は探針と Vacが印加されている導電部分との距離や誘電率試料形状に依存するグレイン内が完全に導体でパルス印加直前の FM-AFM

によるフィードバックが完全であればこの距離は一定と考えられるが何らかの要因により異なれば同じ電位でも EFM信号が異なるここで∆f の 2ωm 成分は式 (213)より

(∆f )2ωm =f02kpart2Cts

partz212

V2ac cos 2ωmt (53)

のように表せるつまり(∆f )2ωm (以下 2倍波信号と呼ぶ)の変化から part2Ctspartz2 の変化を測定できる4

ここで蓄積時の EFM信号プロファイル (図 512(a))ではGr1上の EFM信号が電極よりも単に大きいだけでなく電極から離れるに従い徐々に大きくなる傾向が見て取れるEFM信号の比例係数に加えバイアス印加の経時回数によるストレスの影響も考えられるTR-EFMを往復つまり電極から絶縁膜方向 (Forward)と逆方向 (Backward)で取得し同時に 2倍波信号を測定することでこれら 2種類の影響を評価する測定条件としてカンチレバーの 2次共振 ( f0 sim 340 kHz)を用いた以外は [設定値 1]と同じセットアップとし2倍波信号は ZI-LIAで 100 Hzの BWで検出した図 513に往復 TR-EFM測定結果を示すForward (b) と Backward (c) で EFM 像に明確な違いはないプロファイル (e) では 52

節よりも程度は小さいがやはり電極から離れるに従い EFM信号が徐々に増加している傾向が見られるがforwardと backwardのプロファイルが重なっているためバイアスストレスの影響ではな

4 2Vac times (∆f )ωm(∆f )2ωm により試料電位 Vs を得ることができることが分かるFM-KFM のようなバイアスフィードバックを使わずこのような計算により電位を得る手法は Open-loop KFMと呼ばれる [171]

52 有機グレインのキャリアダイナミクス評価 91

8mV3mV-100 mV 100 mV

(a) Topography

(e)

(b) EFM image (+1 V) (c) 2ft image (0 V) (d) 2ft image (+1 V)

0

10

20

30

0 500 1000

He

igh

t [n

m]

Ditance [nm]

BA

-15

-1

-05

0

05

1

15

-1 0 1

No

rm

po

ten

tia

l

Bias [V]

Ref

Before

After

TR-EFM

FM-KFM

Tapping

(f) Proles (topography)Electrode (bare)Grain

Electrode

図 514 Ptndashペンタセン試料上での TR-EFM 測定と 2 倍波信号比較(a) 表面形状像(b) EFM像(c) (d) 2倍波像(b)および (d)は電極に +1 V注入時 (19 ms後)(c)は 0 Vでの結果を示している(e) 2倍波信号による校正前後の飽和信号比較(f) (a)の線分 AndashB上での高さプロファイル比較 (TR-EFM FM-KFMタッピング)

いと結論づけた一方 2倍波は BWが異なるため応答時間に注意を要するがこれまでの議論より1(2 times 100 Hz) = 5 ms程度で収束すると考えられるため電圧変化後 18 msは十分な時間である2

倍波像も EFM像と同様になめらかに取得できているプロファイルより2倍波信号は電極上に比べて Gr1上で若干大きいことが分かるこのことはGr1上飽和値が電極上よりも大きくなった原因が EFM信号の比例係数変化によるものであることを示唆する結果である

EFM信号の比例係数変化の要因を調べるため様々なサイズのペンタセングレインが接続している系 (42節と同じ試料)で同様の測定を行った (図 514)図 514(a)には現れていないが本試料は対向電極が存在しており図 514(b)の +1 V蓄積時 EFM像の左右の膜上の EFM信号が電極よりも小さい原因は対向電極に接続していることによる電圧の分配が影響しているバイアスが 0 Vのときはグレイン上の 2倍波信号は電極のそれよりも若干小さいが1 Vでは電極よりも大きいことが明瞭に確認できるこのときどのグレインにおいてもほぼ同じ 2倍波信号が得られており像左部の膜上でも同様の傾向が得られたこの結果からEFM信号の比例係数変化は電極とグレインのスケール差によるものではないと結論づけられる図 514(f)は (a)の線分 AndashBに沿った形状プロファイルおよび別途 FM-KFMおよび Tappingにより測定した同位置の形状プロファイルを示している高さの 0点は絶縁膜の高さに揃えた興味深いことに絶縁膜直上のグレイン上 (灰色領域)でのみかけの高さはどの手法でもほぼ同じであるのに対しグレインに覆われていない電極 (橙色領域)は Tappingに比べて TR-EFMFM-KFMでは高く見えているKFMのような交流バイアスを用いない通常の FM-AFMと Tappingを比較して

92 第 5章 時間分解測定による有機グレイン中のキャリアダイナミクス評価

も同様の結果が得られたこれは探針ndash電極間に電位差があり電極上のみ本来より高い位置でフィードバックが釣り合ってしまうことに起因すると考えられる引力領域で制御する FM-AFM

の方がこの影響が強いTR-EFMでは高さ固定時の探針ndashグレイン間距離よりも探針ndash電極間距離のほうが長かったためバイアス印加でグレイン導通時に EFM信号の比例係数がグレイン上で電極よりも大きくなってしまったと考えられる図 514(e)に 2倍波信号での校正前後での EFM信号の変化を示す校正は各バイアスでの飽和 EFM 信号を飽和 2 倍波信号で割ることで行い比較のためVB = 1 Vでの電極上の EFM信号 (校正前後)で規格化した図中の傾き 1の破線が電極上の値(Ref)を示している図 512(b)同様校正前は電極上よりも電位が高く見えているが校正により確かに下回ることが分かる

2倍波信号を用いない校正法 上述の方法は open-loop KFMと同じく EFM信号の比例係数変化を排除しかつ FM-KFM同様電位として値を得ることができる一方2倍波信号を別途測定する必要があり ft が大きいと PLLの帯域内に収まらない恐れやSNを確保するために BWを大きく設定すると EFM信号とは応答時間が異なるため時間分解での評価ができなくなるという問題が生じるよって時間分解測定を維持しながらEFM信号の比例係数校正を行うためには別の手法を考えねばならない電極にバイアス VB 印加時に位置 x時間 tにおける電極に対して電位差 ∆V(VB x t)が発生するとするこのとき EFM信号 sE(VB x t)を

sE(VB x t) = ACprimez(VB x t)[VB + ∆V(VB x t)] (54)

と表すここでAは VB に依らない EFM信号の比例係数Cprimez(VB x t)は part2Ctspartz2 の VB x tによる変

化を表すこれまでの測定ではパルス電圧を全て電極に印加してきたがゲートに逆符号のパルス電圧 (バイアス電圧 minusVB) を印加することを考える (図 515(a))このような印加方法による測定をゲート印加 (gate-pulse) TR-EFMと呼ぶこのとき電極グレインゲートの相対的な電位は探針やその他グラウンドの影響が除外できるとすると電極に加えるときと全く同じであるためグレイン相対電位は同じ ∆V となるこのときの EFM信号 sG(VB x t)は

sG(VB x t) = ACprimez(VB x t)∆V(VB x t) (55)

と表すことができるこれより

ACprimez(VB x t) =sE minus sG

VB(VB 0) (56)

∆V(VB x t) =sG

sE minus sGVB (57)

が得られCprimez の影響を除いたグレイン電位 ∆V が得られることが分かる図 515(b)に Gr1上でゲート印加 TR-EFM測定を行った結果得られた+25 V注入後 1 ms5 ms

10 msの EFM像を示す図 515に示すとおり注入時はゲート電極に minusVB を印加するため絶縁膜を通して負の電位を感じる一方電極は 0 VでありEFM信号はほぼ 0となるminusVB 印加直後は Gr1上が絶縁膜上よりも EFM信号が負になっているがこれは前項で述べたとおり EFM信号の比例係数の違いによるものであるそれを除けば図 59(a)で見られた電極印加の TR-EFM結果と定性的に同様の EFM像が得られており原理的には同じものであることが伺えるただしパルス電

52 有機グレインのキャリアダイナミクス評価 93

-110 mV 40 mV

1 ms 5 ms 10 ms

(b) EFM images (gate-pulse)(a)

InsulatorGate

Gate-pulse

GrainElectrode

0 V∆V

ndashVB

図 515 (a)ゲート印加 TR-EFMの応答模式図電極に VB を印加したときのグレインndash電極電位差を ∆V とするとゲートに minusVB のパルス電圧を印加したときのグレイン電位は ∆V と表せる(b) Gr1上ゲート印加 TR-EFMで得られた時間分解 EFM像

-3-2-1 0 1 2 3

0 200 400 600

(VBumlV

) [V

]

Ditance [nm]

0

02

04

06

08

1

0 200 400 600

ACz

Ditance [nm]

Elec

trod

e

Insu

lato

r

+25 V

ndash25 V

VB +25 V

+05 V0 V

ndash05 V

ndash25 V

VB

(a) corrected ACz (b) corrected ∆V

-3

-2

-1

0

1

0 5 10 15 20

6V

[V]

Time [ms]

05 V1 V

15 V2 V

25 VVB

0

5

10

0 1 2 3

Fitte

d Ѭ

[ms]

Bias [V]

(d) (c)

図 516 式 (56)(57) より得た図 510(e) 線分 AndashB 上の (a) ACprimez(b) (∆V + VB) プロファイルのバイアス依存性(c) Gr1上 ∆V の経時変化 (プロット)と指数関数フィッティング曲線 (実線)(d) (c)の指数関数フィッティングにより得た時定数のバイアス依存性

圧印加直後はグレイン上は電極に対して minusVB だけ電位が異なるグレイン上の EFM信号を考えると電極印加時は同程度であるがゲート印加時は瞬時に minusVB 相当の信号となるため変化が大きいそのため追従にさらに時間を要することに注意が必要である先述の Gr1上 TR-EFM測定結果とゲート印加 TR-EFM測定結果式 (56)(57)を用いて補正を行った結果を図 516に示す図 516(a)は飽和 EFM信号における ACprimez のバイアス依存性であり2

倍波信号に対応する成分と考えられる電極上絶縁膜上ではほぼ一定の値だがGr1上では minusVB

の正負で大きく変化する負バイアス (空乏時)では絶縁膜上の値に近くなっておりグレイン上が導通していないことを伺わせる正バイアス (蓄積時)では図 514で見られたように Gr1上 ACprimez (つ

94 第 5章 時間分解測定による有機グレイン中のキャリアダイナミクス評価

まり 2倍波信号)が電極上よりも大きくなっており確かに飽和値の結果 (図 512)は比例係数の影響を受けていたと分かった図 516(b)は補正された ∆V を視認しやすいように (∆V + VB)の形で示したプロファイルであるまず電極上で印加バイアスに対応する電圧となっており絶縁膜上の電位は一定に保たれているそして図 510(a)で見られる通常の TR-EFMプロファイルよりも Gr1

上の均一性がよくなっており比例係数の影響を排除できているしかし高負バイアスでは Gr1

上でポテンシャルの勾配がなお存在している負バイアスの変化に対しプロファイルの共通部分が存在しているため比例係数ではなくGr1上に分布している別の要因があると考えられる空乏時のグレインの物性に関してはのちに改めて議論する本校正法の最大の利点としては EFM 応答時間の条件が同じまま時間分解測定ができることにあるGr1上で平均した時間分解 EFM信号から ∆V に変換した結果を図 516(c)に示す電圧印加後15 ms は EFM 応答時間と先述のゲート印加時の応答遅れにより無視しそれ以外の領域で指数関数フィッティングした結果を実線で示している図 510(c)に比べて明らかにフィッティング曲線とのずれが小さい+25 Vでの結果をフィッティングした残差を比較すると補正前の 19に対し補正後は 024と約 110になり補正前は EFM信号の比例係数による影響が大きかったことが伺える図 516(d)は ∆V の指数関数フィッティングにより得られた時定数のバイアス依存性であるVB が大きくなるに従い時定数つまり電極ndashGr1界面の抵抗が増加しているつまり電圧に対して電流が非線形に変化する非オーム性の抵抗であることがわかった金属ndash有機界面の接触抵抗の非線形性はこれまで大電極を用いた測定で頻繁に取り沙汰されてきた一般に出力 (VDndashID)特性の低バイアス部が線形ではなく下に凸の加速度的増加を示している場合に接触抵抗の影響が大きいとされるこれは特に短チャネル低温の場合に顕著である [4950]また注入特性の改善をまずこの点から確認することもできる [161]このようなある程度ドレインバイアスをかけないと導通しないという特性はNecliudov らにより逆方向に並列接続したダイオードでモデル化された回路が用いられることが多い [136 172]しかしパラメータに物理的な意味づけができないことがこのモデルの問題点である5一方金属ndash有機界面を金属ndash半導体界面のアナロジーと考えその最も一般的なモデルである Schottky 障壁を介した注入モデルを用いて接触抵抗と障壁の関係を議論している研究もある [173 174]金属ndash半導体界面の Schottky障壁は両材料のフェルミ準位の違いにより発生するが有機半導体はフェルミ準位を定義することは難しいしかし接触後金属のフェルミ準位と (p型の場合)有機の HOMO準位に差が存在することは明確でありHOMO準位を半導体の価電子帯上端と同等とみなすことで同様に議論できると考えられるここで有機に対して金属側を正電位にすることはSchottky障壁において逆バイアスに相当するつまりSchottky障壁モデルでキャリア注入を記述する場合逆バイアスのダイオードでモデル化するほうが物理的な意味が備わると考えるここで結果に戻るとVB が大きくなるに従い抵抗が大きくなる傾向は逆バイアスのダイオードの特性と定性的に一致しているよってTR-EFMにより確認された非オーム性抵抗は金属ndash有機界面における金属フェルミ準位と有機 HOMO準位差に起因する Schottky障壁を通した注入特性を純粋に反映したものと結論づける

5 もし対応付けできると考えると導通開始に 5 Vのドレインバイアスを要すとき界面障壁が 5 eVということになりナンセンスである

53 単一グレインのチャネル形成評価 95

Lock-in ampLock-in amp

PLL2

Scanner

LDPSPDTip AC

FG1SampleInsulatorGate

Electrode

EFM signalSIM signal[X Y] [Ampl]

ZI-LIA

BWSIM BWEFM

∆f ac

ftplusmnfs ft Sample AC

図 517 TR-EFMFM-SIM同時測定 (TR-SIM)装置構成図

53 単一グレインのチャネル形成評価52節では一つのグレイン (Gr1)に注目しTR-EFMにより得られた EFM信号の経時変化や飽和値から単一グレインでの金属ndash有機界面電気特性の測定が可能であることを示したこの評価プロセスを活かしグレイン毎にどのような電気特性差が存在しどのような局所物性が特性差に影響を与えているかを評価したいと考えるここで4章で開発した FM-SIMは同じ単一グレインにおける界面電気特性を測定できる手法でありTR-EFMとの組み合わせにより相補的ないしは相乗的な評価が可能になることが期待される本節ではいくつかのグレインについて TR-EFM およびFM-SIMの結果を比較しつつグレイン間特性差を議論する

531 TR-EFMFM-SIM同時測定法図 517 は一部簡略化した TR-EFMFM-SIM 同時測定 (TR-SIM と呼ぶ) 用の装置構成図である基本的な要素としては図 43 と同じであるが全て ZI-LIA を用いていることバイアスフィードバックを行っていないことが 4章と異なる表 52に以下の測定で用いた測定条件を示すTR-EFM

では 5 kHzを用いており4章のように ft + fs の検出では PLLの帯域を大きく外れ測定が難しいそのため[設定値 SIM-1]では ft minus fs 成分を FM-SIM信号として用いたそのときLIAから得られる位相は本来の Vlo とは符号が逆になることに注意する (cf 式 (45))6設定値の目安として ftfs ft plusmn fs が互いの 23倍波と重ならないことこれら周波数の間隔が BWに対して十分取れること7 fs がそのグレインの測定レンジに入っていること8が必要である

FM-SIM信号強度が小さいと位相信号が非常に乱雑となるため以下では振幅位相の代わりにin-phase (SIM-Xと呼ぶ)out-of-phase (SIM-Y)の信号を取得した

Sweep-SIM TR-EFM (TR-SIM)ではパルス電圧に対する応答を測定するがpoint-by-point動作を利用すれば別の波形に対する応答も取得できる飽和値のバイアス依存を連続的に測定するため

6 ft lt fs のときは同相となる7 例えば441節で用いた ft + fs = 11 kHzでは EFM信号に大きくカップリングする8 図 411参照周波数が大きすぎると応答が全く得られない

96 第 5章 時間分解測定による有機グレイン中のキャリアダイナミクス評価

表 52 TR-EFMFM-SIM同時測定設定値

設定値 ft fs SIM BWEFM BWSIM

SIM-1 5 kHz minus 18 kHz = 32 kHz 200 Hz 50 Hz

SIM-2 2 kHz + 04 kHz = 24 kHz 100 Hz 20 Hz

に各点で FG1 から三角波を印加する方法を Sweep-SIM と呼ぶSweep-SIM では測定条件として[設定値 SIM-2]を用いた

532 グレイン依存性と TR-EFMSIM対応関係Gr2上 (図 57(b))において測定条件 [設定値 SIM-1]tp = 20 msn = 5Ap = plusmn05 V middot middot middot plusmn25 Vのパルスで TR-SIM測定した+25 Vのシーケンスの注入時排出時の時間分解 EFM像FM-SIM

像 (SIM-X SIM-Y)をそれぞれ図 518の (b)ndash(d)に示す図 518(a)のように測定範囲には Gr2aGr2bの二つのペンタセングレインが含まれているEFM像に注目すると注入開始後 2ndash14 msでGr2a上は同じ応答でありGr2aの応答時間は EFM信号の応答時間よりも短いことが示唆される一方 Gr2bは注入開始後 2ndash14 msで徐々に変化しているこれらグレインの注入時の時定数は 52節で測定した Gr1の時定数とは異なる図 518では Gr2a Gr2bを同時に測定しているため測定ごとに異なる応答時間が検出される可能性は排除できていることを加味するとグレインによって電極ndashグレイン界面抵抗が異なりうることを示している一方排出時は両グレイン共に 2 msでほぼEFM信号が収束しているGr2b上の EFM信号は排出後 2 msのみ若干残存しており注入時の特性差が排出時にも現れることを示唆しているこのようにGr1よりも応答の遅い Gr2bにおいても注入よりも排出過程の方が応答が早いことがわかり52節での議論は一般化できる事象だと考えられる参考としてGr2aおよび Gr2b上で 25点平均した経時 EFM信号および EFM信号を指数関数フィッティングした場合の時定数 (概算)を図 519に示すGr2bの注入時は飽和値が不明なためGr2aの飽和値と同じと推定してフィッティングを行った次に SIM-XY像 (図 518(c) (d))に注目するノイズ軽減のために TR-EFMに比べて小さい BW

(50 Hz) を用いているため測定の応答時間は約 10 ms であり電圧変化後 2 ms の SIM 像は無視する全体の傾向として注入前 minus1 ms と排出後 14 ms はほぼ同じ SIM 像となっておりパルス電圧印加前後での特性変化は小さいと考えられるGr2a について注入前後で SIM-X の強度は若干大きくなりSIM-Y では顕著に増加したここで興味深いことに注入後 14 ms の像に破線で囲ったとおり絶縁膜上の Gr2a ((ins)とする)のみならず電極上を覆う部分 (on)においてもほぼ同じ強度の SIM-Y 信号が得られている4 章でも議論したとおり交流電流の経路中に局所インピーダンスが存在する場所で SIM信号が変化するがここでは Gr2a(on)まで一様であることからGr2a(ins)ndashGr2a(on)間は十分導通しているといえる同じ注入後 14 msに関してGr2a(ins)の EFM

信号が電極上よりも大きいという EFM信号の比例係数変化による影響が Gr2a(on)においても現れているのが確認できることやGr2a(on)の SIM-X信号強度が Gr2a(ins)と同等で電極上よりも小さいことは同じく Gr2a(ins)ndashGr2a(on)間の導通を示唆する結果であるしかしインピーダンスの影響がないもしくは導通のないデフォルトの状態で SIM-Y信号が 0であることからSIM-Y像はグレインの導通領域の確認に非常に有効な手段であるといえる

53 単一グレインのチャネル形成評価 97

Time lapse(after change)

2 ms

2 ms

2 ms

8 ms

14 ms

8 ms

8 ms

14 ms

14 ms

19 ms(-1 ms)

19 ms

(ndash1 ms)

2 ms

8 ms

14 ms

0 ms

0 ms

(b) EFM signal (c) SIM-X(a) Topography) (d) SIM-Y

-100 mV 210 mV 0 mV 15 mV 0 mV 15 mV

150 nm

Gr2a

Gr2b

OnIns

25 VInjection

0 VRemoval

ndash1 ms

図 518 Gr2上 TR-SIM測定により得られた表面形状像 (a)時間分解 EFM像 (b)FM-SIMのin-phase像 (SIM-X)(c)out-of-phase像 (SIM-Y)(d)測定全体のうち+25 Vのシーケンスにおける注入時排出時の応答を示している

98 第 5章 時間分解測定による有機グレイン中のキャリアダイナミクス評価

0

50

100

150

200

0 10 20 30 40

EFM

sig

nal [

mV]

Time [ms]

+25 V 0 V

0

50

100

150

200

0 10 20 30 40

EFM

sig

nal [

mV]

Time [ms]

+25 V 0 V

05 V1 V

15 V2 V

25 V

(a) Gr2aτ ~ 14 ms(05 V)

τ ~ 3 ms(05 V)

τ lt 1 ms(b) Gr2b

Bias Bias

図 519 (a) Gr2a(b) Gr2b上の 25点平均 TR-EFM信号 (注入排出のみ)τは指数関数フィッティングした場合の注入排出それぞれにおける時定数の概算値

0

05

1

15

0 05 1 15

Re[

Y]

Ѭinj [ms-1]

0

05

1

15

-2 -1 0 1 2

Re

Im(Y

)

Bias [V]

0

05

1

15

-2 -1 0 1 2

Re

Im(Y

)

Bias [V]

0

05

1

15

-2 -1 0 1 2

Re

Im(Y

)

Bias [V]

(a) Gr2a

(d)

(b) Gr3a (c) Gr3b

Gr2bGr2b

Gr2a

Gr3b

Gr3a

(e) SIM-X(VB = ndash2 V saturation)

Re

Re

Re

Im Im Im

Gr2aGr2bGr3aGr3bGr1

1(2πfsτ)

図 520 (a)ndash(c) TR-SIMと SIMアドミタンス解析により得られたグレインごとのアドミタンス(実部 Re虚部 Im)のバイアス依存 (a Gr2a b Gr3a c Gr3b)(d)注入時の時定数 (逆数)に対するアドミタンス実部の関係同じプロット種は同じグレインの各バイアスにおける値を示している破線は理論値 Re[Y] = 1

2π fsτminus1(Gr1のみ fs = 600 Hzでの TR-SIM測定の VB = 2 Vの結

果を規格化して示した)

一方Gr2bは注入後もほとんど応答が得られておらず与えられた fs に対して界面抵抗が大きすぎると考えられるこのことはEFM像における応答時間が Gr2aに対して非常に大きい事実と合致する図 518で示した TR-SIM測定ではバイアスに対する SIM信号の飽和値が測定できる式 (415)

により SIM 信号から電極ndashGr2a 界面の正規化アドミタンス Y を算出した結果を図 520(a) に示す

53 単一グレインのチャネル形成評価 99

負バイアスでは SIM 信号が全く観測されずバイアスを正に大きくするに従い 4 章と同じく実部(Re)の増加が見られた図 57の Gr3a Gr3bでも同様の測定を行い得られた正規化界面アドミタンスを図 520(b) (c)に示すどちらのグレインにおいてもバイアスの正負で Y の振る舞いが大きく異なるしかし Gr3aに比べてGr2aと Gr3bの実部 (界面コンダクタンス)は一桁大きい値を示している同時にGr2aと Gr3bはバイアス変化により虚部にピークが現れており電極ndashグレイン界面抵抗の大小との相関が示唆される以上のように TR-SIMで観測される応答時間 (時定数)や FM-SIM解析から得られる電極ndashグレイン界面アドミタンスにはグレインごとに差異が存在するここで注入時の時定数 τinj は接触抵抗Rとグレインのゲート容量 C に対して τinj = RC と対応付けらるまた界面コンダクタンス Re[Y]

は式 (415)より Re[Y] = 1(2π fsCR)であるため

Re[Y] =1

2π fsτminus1 (58)

のように時定数の逆数に比例することがわかるこれまで TR-SIM 測定を行ったグレイン (Gr2a

Gr2b Gr3a Gr3b) に関して注入時の経時 EFM 信号の指数関数フィッティングで得られた時定数および飽和 (蓄積) 時の界面コンダクタンスを各シーケンスから算出しプロットした結果を図520(d)に示すただしGr1のみ VB = 2 Vの値のみ示しておりまた [設定値 SIM-1]とは異なりf primes = 600 Hzで測定したため実効的に fs = 18 kHzで測定されうる値となるよう f primes fs 倍した界面コンダクタンスをプロットしたまたGr2bの SIM信号は測定限界以下の強度であったため0とみなしてプロットした図 520(d) より1τinj が大きい (時定数が小さい) グレインでは界面コンダクタンスも大きい傾向が明らかであるこの結果よりグレインごとに測定された EFM 信号の応答時間の違いが測定ごとの探針やバイアスといった測定条件による影響で現れているわけではなくグレインごとの電気特性の違いを反映したものであることを保証できるただし理論より考えられる直線からは大きく外れる結果となったこの原因として一つは電極ndashグレイン界面の静電容量の影響が考えられる界面アドミタンスの並列容量 Clo の存在により見かけの時定数がτapp = R(C +Clo)に変化することは図 511(a)と同様のモデルから容易に導出できるそのため理論上の時定数 τに比べて τapp gt τとなるしかし図 520(a)ndash(c)より界面アドミタンスの虚部つまり CloC はたかだか 1であることから全てこの影響であるとは考えにくい第二にEFM信号の応答時間と FM-SIMでは厳密には測定している過程が異なることが挙げられるFM-SIMでは注入特性のうち飽和 (蓄積)時の特性を反映したものでキャリアの動きとしては蓄積状態のまま微量な注入排出が起こっている一方TR-EFMの注入時は 52節で述べたように排出時に比べて接触抵抗が大きいためFM-SIMから評価される「コンダクタンス」の方が大きめに算出される可能性はあるその影響を考慮すると図 520(d) より注入時と蓄積時のコンダクタンスがグレインに関わらず線形関係にあることが読み取れそれらの過程が全くの別物ではなく結びついていることを示唆しているつまり注入時と蓄積時の抵抗比が Aundashペンタセングレイン界面一般に成立しうることが考えられる蓄積時の時定数 τacc に対して注入時の時定数が τinj = ατacc と示されるつまり実効的な注入時蓄積時の抵抗比が αで表されるとするVB = 2 Vでの τminus1ndashRe[Y]プロットの線形フィッティングからα = 62 plusmn 08と算出されたこの結果はグレインごとに観測するとGr2a と Gr2b のように電極ndashグレイン界面抵抗は大きく変わりうるがマクロで考えると蓄積状態に比べて注入時は接触抵抗が α倍大きいことを意味しているこれまでの研究ではマクロ電極の

100 第 5章 時間分解測定による有機グレイン中のキャリアダイナミクス評価

-410 mV 410 mV 0 mV 17 mV 0 mV -12 mV

(a) EFM signal (b) SIM-X (c) SIM-YBias(VB)

+2 V

+15 V

+1 V

+05 V

0 V

ndash05 V

ndash1 V

ndash15 V

ndash2 V

(i)Metalndashorganicinterface

(ii)In-graindisorder

(iii)Whole grain

On

図 521 Gr1上 Sweep-SIM測定結果

TLM測定や KFMを用いた OFETの接触抵抗評価が行われてきたがこれらは基本的には蓄積状態での抵抗を見ている一方本研究より注入時は蓄積時よりも大きな金属ndash有機界面の接触抵抗が現れることが分かったそのためキャリア注入が動作を支配する OFETのオン動作にかかる時間は蓄積状態での抵抗から見積もられるよりもずっと長く要することに注意せねばならない

53 単一グレインのチャネル形成評価 101

-10

0

0 200 400 600

-SIM

-Y [m

V]

Distance [nm]

(a) SIM-Y(VB = ndash1 V)

(b)

(c)

0

25

50

75

100

0 05 1 15 2

d ove

r [nm

]

Bias [V]

90Average

dover

Elec

trod

e

Left edge

図 522 Gr1 上 Sweep-SIM 結果 (i) 蓄積状態の SIM-Y 像における Gr1(on) 導通領域評価結果(a)で示す線分に沿った SIM-Y像のプロファイル (b)に対しGr1上平均に対して SIM-Y信号が90となる電極端からの距離 dover をバイアス電圧に対してプロットした (c)

533 バイアス分光による導通領域変調評価前節では TR-EFMと FM-SIMを同時測定したときのそれぞれの手法の関係性について議論し

FM-SIM信号の利用によりグレインの導通領域の評価に利用できることが分かったこれまでの議論はグレイン内分布がない領域について評価していたが522節でも述べたように空乏時にはグレイン内ポテンシャル勾配が見られキャリア蓄積状態によってグレイン内の導通状態が変化していることが考えられる本項ではグレイン内外の分布を調べるために 531節で述べた Sweep-SIM

を用いグレインを空乏状態から蓄積状態まで変化させた際の SIM像変化と 521節の結果とを比較し評価を行う測定条件 [設定値 SIM-2] を用いSweep-SIM として各点 400 ms の期間に plusmn25 V の三角波を電極に印加する測定を行った結果のうちBWによる SIM信号遅れが現れていない plusmn2 Vの範囲について EFM像SIM-XSIM-Yを再構成したものを図 521に示すEFM像は図 512(a)の飽和値プロファイルに対応する量であり三角波の印加でもグレイン上の電位が十分追従していると考えられる一方SIM-X 像における Gr1 の見え方が VB によって変化しているここで+2 V からminus2 Vのバイアス範囲を(i) SIM-X像が均一 (蓄積状態VB ge minus05 V)(ii) SIM-X像が不均一 (半空乏状態minus05 V le VB le minus15 V)(iii) SIM-X像に現れない (空乏状態VB le minus15 V)3つの領域に分けることができる

(i)蓄積状態 (i)では SIM-Xに限らず EFM像SIM-Y像でも Gr1内で応答が均一であり電極ndash

グレイン界面の抵抗のみ影響する図 511(a)のモデルを適用して評価を行ったことはこれまでに述べた一方SIM-Y(図 521(c))に注目するとGr2aと同様に絶縁膜上のグレインのみならず電極上を覆う部分 (Gr1(on))においても SIM-Y信号が現れているがこの範囲がバイアスにより変化していることが分かるつまりバイアスによって電極上を覆う部分の導通領域が変調されているそこで次のようなプロセスで導通領域長さ dover を定義算出した図 522(a)の線分に沿った SIM-Y

プロファイルを用いGr1の絶縁膜上領域 (Gr1(ins))の SIM-Y信号平均値に対して 90の大きさと

102 第 5章 時間分解測定による有機グレイン中のキャリアダイナミクス評価

(b) SIM-X (VB = 0 V)(a) Topography (c) SIM-X (VB = ndash1 V)

Gr1

PlateauPlateau

図 523 Gr1上 Sweep-SIM結果 (ii)半空乏状態の SIM-X像とグレイン形状の比較(a)表面形状像と Gr1上の台地 (Plateau)位置 (破線)(Sweep-SIMとは別取得像)(b) VB = 0 V (c) VB = minus1 Vにおける SIM-X像Gr1形状を白破線で台地領域を赤破線で示した

なる Gr1(on)での位置を考え電極端からの距離を dover とするこれを各バイアス (01 V刻み)で行った結果を図 522(c)に示す100 nm以上の距離は像の左端に位置するため測定不能である導通領域長さは正バイアス電圧に対して単調に増加したが12 Vを境にその増加傾向が増している一方バイアス依存アドミタンス解析 (図 520(a)ndash(c))より電極ndashグレイン界面コンダクタンスの増加は minus05 Vのバイアス電圧で開始していることを確認しており導通領域長さの増加開始はグレインの導通開始電圧よりも大きな正バイアス電圧が必要ということになる

(ii)半空乏状態 VB = minus1 Vのときの SIM-X像 (図 521(b))では Gr1内の信号に明確な不均一性が現れたGr1の形状と SIM-X像を比較するためVB = 0 V (i蓄積状態)minus1 V (ii半空乏状態)でのSIM-X像上に表面形状から確認できるグレインの輪郭を破線で示した (図 523(b) (c))VB = 0 V

のときSIM-X信号が得られている領域は EFM信号と同じくほぼグレイン内部のみである一方VB = minus1 VではGr1の上右下に伸びる 3枝 (それぞれ上枝右枝下枝と呼ぶ)の分岐部は VB = 0 V

と同程度の信号が得られているのに対しそれぞれの枝の先まで信号が到達していないこの結果は(i)の蓄積状態とは違いGr1内にも無視できない抵抗成分があることを示しているこの抵抗の由来として分布定数回路のように距離に関係するものグレイン境界のように構造に関係するものそれ以外の影響の 3通り考えられる

532 節で述べたようにFM-SIM と TR-EFM の信号にはそれぞれ関係がある図 523(c) のSIM-X 信号では応答消失後はより遠いところの応答は見ることができないがTR-EFM では全体から信号が得られるためGr1の分岐先についても何らかの変化が観察できると考えられる図524(a)に Gr1上の (I)電極付近 (分岐部)(II)遠方 (分岐先右枝)における空乏時 (VB = minus1 V)の経時EFM信号を示す電極付近に比べて遠方では EFM信号 (の絶対値)が小さいこのこと自体は負バイアス時の EFM信号飽和値プロファイル (図 512(a))や校正後 ∆V 飽和値プロファイル (図 516(b))

からも見て取れるしかしそれに加えて電圧変化後 2 ms以降の信号に注目すると電極付近ではほとんど変化していないのに対し遠方では有意な傾き (経時変化)が見て取れるこれはキャリア輸送による電位の時間変動が起こっていることを示すものであり負バイアス時 (空乏時)の ∆V 飽和値プロファイルの勾配 (図 516(a))は静的なキャリア分布による電位勾配ではなく何らかの抵抗により発生していることを示している図 524(a)で見られた EFM信号の経時変化率 (Vs)を各負バイアスにおいて全点で算出しマッピングしたものを図 524(b)ndash(f)に示す経時変化率の算出には元の TR-EFM信号に対して付近 3 times 3

点平均で平滑化し電圧変化後 (10 plusmn 65)msのデータ点の最小二乗線形フィッティングにより得た

53 単一グレインのチャネル形成評価 103

-30

-20

-10

0

10

0 5 10 15 20

EFM

sig

nal [

mV]

Time[ms]

Near (I)

Far (II)

Gr1

05 Vsndash05 Vs

(I)

(II)

(a) EFM signal at VB = ndash1 VEFM-slope images in ldquodepletionrdquo regime

(b) ndash05 V

(c) ndash1 V

(d) ndash15 V

(e) ndash2 V

(f) ndash25 V

Plateau

Slope

Slope

図 524 (a) TR-EFM 測定で得られた Gr1 上の電極付近 (Near I) および遠方 (Far II) での空乏時の経時 EFM 信号比較(b)ndash(f) TR-EFM 結果より求めた空乏時 EFM 信号の経時変化率マップ(b) VB = minus05 V (c) minus1 V (d) minus15 V (e) minus2 V (f) minus25 VGr1輪郭を黒破線台地領域 (図523(a)参照)を赤破線で示した

(a) ndash05 V (d) ndash2 V

(e) ndash25 V(b) ndash1 V

(c) ndash15 V

08 Vsndash08 Vs

EFM-slope images in ldquorecoveryrdquo regime

(f)

Grain

Disorder

NegativeElectrode

図 525 (a)ndash(e) TR-EFM結果より求めた回復時 EFM信号の経時変化率マップ(a) VB = minus05 V(b) minus1 V (c) minus15 V (d) minus2 V (e) minus25 VGr1輪郭を黒破線台地領域 (図 523(a)参照)を青破線で示した(f)回復時の EFM時間応答を説明する模式図Disorderでのキャリア蓄積が十分ではないため抵抗として現れる

まず minus05 V (i)ではグレイン内で変化率に大きな差は見られない一方 minus1 V (ii)のときGr1の電極付近の変化率はほぼ 0なのに対し遠方では経時変化率が負であることが明瞭に観察できる特にGr1下枝では広い範囲で同程度の経時変化率であり分布的な抵抗と距離による影響ではなくグレイン内の局所抵抗が作用していると考えられるここでグレインの表面構造と比較するため図 523(a)の Gr1表面形状より台地 (Plateau)部分の輪郭を取得し経時変化率マッピングに赤破線にて重ねて示しているminus1 V (図 524(c))での経時変化率が負の領域は例えば右枝では変化率が 0

に近い領域が台地部分に侵食しているように台地部分と完全に対応しているとはいいがたいこれは同様に台地部分を桃破線で重ねて示した SIM-X像 (図 523(c))において SIM-X信号が台地部分

104 第 5章 時間分解測定による有機グレイン中のキャリアダイナミクス評価

GrainChannel

Electrodendashgrain Channel Disorder

Disorder

ON

Resist

ON ON

OFF OFF OFF

Electrode

SubstrateInsulator

VB(ndashVG)

2 V

ndash2 V

0 V

ndash1 V

(a)

(b)

(c)

(d)

(i)

(ii)

(iii)

図 526 TR-EFMFM-SIM評価から想定される単一グレインのチャネル形成過程の模式図

まで侵食していることからも確認できるよってGr1台地部分との境目ではなく表面形状から確認できないグレイン内の欠陥が抵抗として働いていると考えられる最後にVB le minus15 V (iii)では全体が同程度の変化率となっており電極ndashグレイン界面が制限していることが分かる同様に TR-EFM の回復時について11 plusmn 65 ms のデータ点の線形フィッティングで算出した

EFM信号経時変化率マップを図 525に示す回復時もやはりminus05 Vでは Gr1内は経時変化率が均一だがminus1 Vから minus25 Vでは Gr1の上枝および下枝において経時変化率が増加しているこれは電極付近では迅速なキャリア再注入により電圧変化の 10 ms後には十分収束しているが下枝等遠方ではグレイン内の局所抵抗によりキャリア再注入が阻害され負電位から 0への緩和が遅れるため他の部分よりも経時変化率が大きくなったと考えられる (図 525(f))さらにminus1 Vからminus25 Vの下枝の経時変化率が異なる領域は Gr1台地部分全体よりも小さいことが空乏時 (図 524)

の経時変化率マップよりもよくわかるこのような (見かけの)グレイン境界とは異なるペンタセングレイン内の欠陥はこれまでの研究でも報告されているNakamuraらの AFMポテンショメトリーを用いたペンタセン薄膜の電位測定から見かけのグレイン内部でも電位ドロップが起きることが指摘されている [31 32]それらはグレイン内の浅い溝状構造と相関があるとされており基板温度を常温以上にしてペンタセン薄膜を作製した際に起こりやすい走査型近接場光顕微鏡を用いた局所赤外分光評価によりこの浅い溝は温度変化で発生したペンタセン薄膜内部の歪みを薄膜相からバルク相への相転移で緩和したことにより生じたものであると評価された報告があり [175]相間の境界またはバルク相自体の低移動度性に由来する局所抵抗といえるこのようにペンタセングレインでは形状には現れてこない局所抵抗が存在し本研究でもそれが SIM-X像の変化または EFM

信号経時変化率の違いとして現れたと考えられる以上の Sweep-SIMおよび TR-EFMの経時変化率評価の結果から電極―単一グレインにおけるチャネル形成過程は図 526 のように示すことができるVB lt minus1 V (iii) では電極―グレイン界面グレイン内 (チャネル)共に空乏化しOFF状態である (図 526(d))VB sim minus1 V (ii)付近ではチャネルは導通しON状態となるがグレイン内にも存在する欠陥ではまだ空乏状態であり抵抗が存在

54 本章のまとめ 105

する (図 526(c))このチャネルの導通と局所欠陥による導通電圧の違いはOFETにおけるしきい値電圧の違いとも考えられ3章で確認したグレイン境界におけるしきい値電圧変調効果と合致する結果であるVB gt minus1 V(i)では欠陥部分も十分導通しグレイン内は均一となる (図 526(b))そのため系全体の抵抗は電極―グレイン界面のみとなるさらに VB を増加させるとグレインの電極上領域まで導通するようになり実効的な接触面積の増加から接触抵抗の低減が起こるこのことは接触抵抗のゲートバイアス依存性ともとることができる

54 本章のまとめ本章では従来手法では困難なキャリアダイナミクスの可視化評価に向け3 章で培った point-

by-point 手法を用いた実用的な TR-EFM 測定システムを構築した測定系由来の応答遅れが PLL

のバンド幅のみに依存するという重要な知見を得た上で1 msという時間分解能を達成したペンタセン単一グレインに適用することで単一グレインへのキャリア注入排出過程を可視化し注入排出で非対称な接触抵抗およびバイアス電圧依存が現れることを明らかにした

FM-SIMとの併用による多角的評価ではFM-SIMによる界面インピーダンス評価とグレイン上導通領域評価の 2つの側面から活用可能であった界面コンダクタンス測定によりグレインごとに異なる EFM信号の時定数が界面コンダクタンスと相関があることがわかり注入時と蓄積時の金属ndashグレイン界面抵抗の比として定量的に示すことができたまたバイアス分光評価と TR-EFM

の経時変化率評価により単一グレイン内部の欠陥による局所抵抗があることを明らかにした

107

第 6章

結論

61 総括本論文では従来の原子間力顕微鏡技術の改善やマクロ評価技術を組み合わせた新規測定手法の構築を通して金属ndash有機界面および近傍の局所電気特性評価を行ってきた以下ではそれぞれの項目の総括を述べる

第 3章【AFM電流測定法を用いた有機グレインの局所電気特性評価】第 3章では AFM電流測定法の一つである PCI-AFMを用いた OFETの局所電気特性評価に向けた改善および測定を行った改善の面ではまず従来の PCI-AFMでは非現実的であった真空中動作を Q値制御法の利用により実現したこれにより雰囲気による OFET電気特性への影響を排除した測定が可能となったまた効率的な動作パラメータ設定と柔軟な point-by-point動作設定が可能な制御プログラムの作成を通したフレキシブルな PCI-AFM システムを構築したこの寄与が第 5

章の TR-EFM測定システム構築の足がかりとなった測定ではマルチグレイン薄膜および単一グレイン上で評価を行ったマルチグレイン薄膜では大気真空両雰囲気中で PCI-AFM測定を実現するとともにグレインごとの局所 OFETの ON状態への変化を電流像として可視化したこのような表面形状と電流の同時マッピングによる評価は特性が変化する位置を像として明確にすることができる点が従来の AFM電流測定法に比べて優位である

第 4章【新規局所インピーダンス評価法の開発と金属―有機界面物性の評価】AFM電流測定法が電極ndashグレイン界面の電気特性評価に不向きであることを受け第 4章では新規局所インピーダンス評価法として周波数変調走査インピーダンス顕微鏡 (FM-SIM)を提案開発した開発において等価回路モデルから FM-SIM信号と電極ndashグレイン界面のインピーダンスを一対一に対応させることができることを導き等価回路定数を半定量的に算出可能な周波数解析法を考案した同手法を適用することで Aundashペンタセン単一グレイン界面のインピーダンスが抵抗ndash容量並列回路で記述できることの一般性を明らかにしたまたバイアス依存性よりAundashペンタセン界面の準位整合状態と接触抵抗が相関することを見出したことはモルフォロジーの影響を排除し

108 第 6章 結論

た真の金属ndash有機界面電気特性と電子物性を結びつけた初の試みといえる第 4章では開発した FM-SIMを用いて電極表面の自己組織化単分子膜 (SAM)処理による移動度向上の要因の評価も行ったOFET 動作中においても FM-SIM 測定が行えることを示しソース電極ndashチャネル界面のコンダクタンス増加とキャリアトラップ減少が SAM 処理による影響とわかった

第 5章【時間分解測定による有機グレイン中のキャリアダイナミクス評価】第 5章では第 4章とは違う観点からの電極ndashグレイン界面電気特性評価の試みであるとともに従来の AFM応用手法では評価しえない有機グレイン中のキャリアダイナミクスを評価するため第 3

章の point-by-pointシステムを活用した時間分解静電気力顕微鏡 (TR-EFM)を考案した測定系由来の応答遅れが PLLのバンド幅のみに依存することを示し時間分解能 1 msの電位応答測定を実現したペンタセン単一グレインの測定では十分な空間分解能でキャリア注入排出する過程を可視化することができ注入排出過程では接触抵抗が支配的であると分かった新規比例係数校正法から一般的な金属ndash有機界面の電子準位モデルで解釈可能な注入バイアス電圧依存性を確認した最後にFM-SIMの併用による相補的相乗的評価を行ったTR-EFMFM-SIM同時測定を複数のグレインに適用しグレインごとの注入過程の時定数および界面コンダクタンス値を測定したそれぞれのグレインの時定数は異なるが時定数の逆数と界面コンダクタンスは線形な関係にあることを示し注入時と蓄積時の接触抵抗がある一定の比をとることを示したまたFM-SIM像による導通領域可視化と TR-EFM測定の空乏時回復時の EFM信号時間変化率評価から単一グレイン内部においても局所抵抗を生み出す欠陥が存在することが判明した

62 今後の展望本論文では電極ndashグレイン界面を中心に様々な微小抵抗の静的動的電気特性評価が可能な手法や解析法を述べてきたこれまでで得られた物性的知見や手法をさらに推し進めることで物性的な応用と材料的な応用が期待される

物性的応用 有機ndash絶縁膜界面物性評価 金属ndash有機界面は接触抵抗という形で OFETへ直接的に影響するが有機ndash絶縁膜界面はトラップや耐久性といった内在的な影響をも有しており金属ndash有機界面物性と同じくらいに大きな OFETの制限要因であるしかし有機ndash絶縁膜界面もグレイン内部境界といった局所構造によりその影響の程度が異なる上に膜厚方向についてもキャリア蓄積効果と密接に関わってくるためこれまで同様マクロ薄膜での評価では困難であるさらに経時的変化が予想される物性のため過渡的な応答評価が可能であることが必要となるここでTR-EFM は特にこの過渡応答に強力な手法であり有機ndash絶縁膜界面物性への展開に有利であると考えられる本研究ではキャリア注入や排出時の時間は一定にして測定したが有機ndash絶縁膜界面では蓄積時のキャリア量とその時間に依存したキャリアトラップが起きるため蓄積時間変調のようなこれまでと異なるパラメータへと時間分解測定を拡張することで有機ndash絶縁膜界面物性評価に繋げられると期待される先に TR-EFMや FM-SIMを活用し微小抵抗を可視化することで

62 今後の展望 109

Insulator

Substrate

Trap

Resistance

Conduction

図 61 今後の展開の模式図本研究をナノワイヤのようなナノスケール材料へ適用することで分子ナノエレクトロニクス材料の局所特性制限要因の解明が期待される

有機半導体グレインやグレイン境界微小欠陥が生み出すキャリアトラップの程度を評価比較していくことが本研究の物性的応用と位置づけられる

材料的応用 ナノスケール材料への展開 本論文では測定対象としてサブ micromスケールの有機半導体グレインを用いたしかし金属電極との界面における接触抵抗や内部の微小抵抗といった局所電気特性は有機薄膜に限らず様々なナノスケール材料においても有する例として高分子ナノファイバーやカーボンナノチューブ (CNT)

は非常に微小なチャネル幅チャネル長をもつ FETへと応用が期待される一方で電極間への架橋が困難であることやそれぞれのナノファイバーCNTにおける電気特性差が生じることが物性解明の障害であるまた近年炭素のナノシートであるグラフェン利用も急速に発展しており化学的気相成長法や酸化グラフェンの還元といった産業応用を狙った手法で作製されたグラフェンの電気特性評価も必須となる本研究で提案した FM-SIM や TR-EFM の特長として非架橋非接触で電気特性評価が可能であることを鑑みると以上のような架橋の困難なナノスケール材料においても適用できると期待されるさらに静電気力検出をベースとした非接触測定手法であることから幅が数 nmと非常に微細なスケールであっても可視化可能である利点を有する上述の絶縁膜界面物性評価にもあるような時間分解測定の拡張も踏まえた多角的評価手法によりナノスケール材料の 1次元伝導度微小抵抗キャリアトラップといった局所電気特性評価を行うことで分子ナノエレクトロニクスへの展開が本研究の材料的応用と位置づけられる (図 61)

111

付録 A

静電気力顕微鏡の検出モード比較

本論文では 4章5章にて周波数変調方式の静電気力顕微鏡 (FM-EFM)をベースとした測定手法を扱ってきたカンチレバーの共振 (励振)周波数を f0交流バイアスの周波数を fm とすると交流バイアスに起因する静電気力成分は f0 plusmn fm に生じる (図 A1(a))これまでの FM-EFMでは 26

節で述べたように PLLを用いて周波数信号に変換した上で (図 A1(b))ロックインアンプ (LIA)により fm 成分を検出することで EFM信号を測定できるこの手法は Kitamuraらによって提案された手法 [176]でありここでは ldquoConventional-EFMrdquoと呼ぶこととするConventional-EFMの問題点としてPLLのバンド幅 (BWPLL)を変調周波数 fm より大きくする必要があるが大きな BWはループの発振を招くためあまり fm を大きくできないことにある一方図 A1(a)のように f0 plusmn fm 成分を直接ロックイン検出することによっても静電気力成分が検出できることが予想される本研究で用いた LIA である Zurich Instruments 社の HF2LI-MF (以下 ZI-LIA)にはモジュールを入れることで FM変調された信号を直接ロックイン検出する機能を有しているこれにより EFM 信号を測定する手法を Sideband-EFM と呼ぶSideband-EFM ではPLLを介さないためConventional-EFMに比べて fm を大きくでき測定速度を向上できると考えられている本章では Conventional-EFMと Sideband-EFMをそれぞれの測定 (応答)速度および SNの観点から比較するなおこの研究は京都大学大学院工学研究科馬詰彰奨学寄附金の支援で実現したカナダMcGill大学への海外研修の際に取り組んだものである

理論的比較カンチレバーの共振 (励振)周波数を f0振幅を A交流バイアスの周波数を fm静電気力による周波数変調度 (つまり所望の信号)を fp とするとカンチレバーの変位信号 s(t)は

s(t) = A cosΩ(t) = A cos[2π f0t +

fpfm

sin(2π fmt)]

(A1)

と表されるFM検出方式では周波数つまり位相 Ω(t)の微分を検出するためPLLの出力は1

2πdΩdt= f0 minus fp cos(2π fmt) (A2)

となるConventional-EFMでは fm 成分を検出するがその EFM信号の大きさは fp であり変調周波数に依存しない一方微分は周波数軸に対して積の形で現れるため変位信号におけるホワ

112 付録 A 静電気力顕微鏡の検出モード比較

(a) Signal

Sideband

PLL BWConventional

Noise level

f0f

f0+fmf0ndashfm

(b) Frequency shift

fmf

s(t) dΩdtBWPLL

図 A1 FM-EFMにおける変位信号に含まれる周波数成分の模式図(a)変位信号の周波数成分と PLLおよび Sideband-EFMによる検出領域の模式図(b) (a)から PLLにより得られた周波数シフトの周波数成分と Conventional-EFMによる検出領域の模式図

PLL2

LIA2

LIA1

BWLIA

BWLIA

BWPLL1

ZI-LIA ZI-LIA

BW100 Hz

fm f0fm

fm

f0+fm

PLL1

Deection signal Deection signal

EFM signalEFM signal

Conventional Direct sideband(a) Setup

Cantilever

Electrode

(b) (c)

図 A2 (a) ConventionalSideband-EFM のパルス電圧応答比較の共通セットアップ模式図(b)Conventional-EFMのブロックダイアグラム(c) Sideband-EFMのブロックダイアグラム

イトノイズは周波数シフトでは周波数に比例して大きくなるよってConventional-EFMの SN

は fm に反比例することがわかる一方変位信号の cos[ fp

fmsin(2π fmt)]部は Bessel関数で展開できるが fp fm の条件下では以下

の形に簡略化できるs(t) A

[cos 2π f0t plusmn fp

2 fmcos 2π( f0 plusmn fm)t

](A3)

f0 + fm 成分を直接ロックイン検出した場合EFM信号の大きさは A fp2 fmとなり fm に反比例する

一方ノイズは一定値でありSideband-EFMの SNは原理上 Conventional-EFMの SNと同じであることが予想される

パルス電圧応答比較5章の TR-EFMと同じく導電性試料にパルス電圧を加えた際の EFM信号の過渡応答を比較した (図 A2(a))図 A2(b) (c) はそれぞれ Conventional-EFM および Sideband-EFM において EFM

信号を検出する回路のブロックダイアグラムである変調周波数は fm = 1 kHz 10 kHz について評価したConventional-EFM では PLL1 の BW を BWPLL1 = 2 kHz ( fm = 1 kHz のとき) 10 kHz

( fm = 10 kHz) としたSideband-EFM では内部で PLL (PLL2) が搬送周波数 f0 を測定しデジ

113

0 02 04 06 08

1 12

0 10 20 30 40

Sign

al

Time [ms]

0

01

02

03

0 10 20 30 40

Sign

al

Time [ms]

100 Hz100 Hz(signal times 05 oset)

70 Hz

70 Hz (oset)

50 Hz50 Hz

30 HzBWLIA 20 Hz

30 HzBWLIA 20 Hz

(a) Conventional (1 kHz) (b) Sideband (1 kHz)

(c) Conventional (10 kHz) (d) Sideband (10 kHz)

0

02

04

06

08

1

-5 0 5 10 15

Sign

al

Time [ms]

0

05

1

15

2

-5 0 5 10 15

Sign

al

Time [ms]

500 Hz300 Hz200 Hz100 Hz

BWLIA

500 Hz300 Hz200 Hz100 Hz

BWLIA

図 A3 ConventionalSideband-EFM のパルス電圧応答比較結果(a) (b) は fm = 1 kHz でのConventionalSideband-EFM結果(c) (d)は fm = 10 kHzでの結果を示すただしTime lt 0 msではパルス電圧のバイアスは 0 VでありTime 0 msで 15 Vである

タル的に f0 + fm の周波数信号を参照としてロックイン検出することで実現しているそのときのPLL2の BW設定は 100 Hzとし検出される搬送周波数の fm による変動を抑えた両者の LIAのBW (BWLIA)は同じ値で比較を行った図 A3 に EFM 信号の過渡応答測定結果を示すまず fm = 1 kHz のとき図 A3(a) のように BWLIA を増加させるに応じて Conventional-EFM の応答速度が向上しており5 章での議論と合致するそれに伴い SN が低下していることは上述のとおりである一方Sideband-EFM はBWLIA = 30 Hzまでは Conventional-EFMと同等の SNおよび応答速度の EFM信号が得られているがそれよりも BW を大きくすると所望ではない交流信号が現れてしまったこの周波数は約2 kHzであり変調周波数の約 2倍である

Conventional-EFMでは困難となる変調周波数の高い場合 ( fm = 10 kHz)にも定性的に同じような応答が得られたConventional-EFMではノイズが増加するものの 0 ms前後での応答差がまだ確認できるがSideband-EFMでは BWLIA = 500 Hzの時点で確認不可能であるこのように Sideband-EFM で大きな交流信号が EFM 信号に現れる原因として搬送周波数 (共振周波数)成分の影響があげられる図 A1(a)や図 A2(c)で示したようにSideband-EFMでは変位信号からそのままロックイン検出しているがこのとき LIA の BW を大きくしすぎると搬送周波数 f0 成分にかかり始める一方Conventional-EFM では周囲 fm に Sideband-EFM のような大

114 付録 A 静電気力顕微鏡の検出モード比較

きな信号はないそのためConventional-EFMよりも Sideband-EFMのほうが LIAの BWを上げにくいと考えられるBWを小さくして測定したとしても5章で述べたように応答速度は LIAのBW にのみ依存することから高い変調周波数を扱うメリットはないさらに今回の測定ではfm = 10 kHzという高い変調周波数においても SN的に Sideband-EFMの優位性は認められなかったSideband-EFMの問題点を解消する方法としてLIAを二段構成にする方法がある [177]一段目の LIAにて搬送周波数で変位信号のロックイン検出を行うことで搬送波成分が直流となり二段目の LIA では問題とならないConventional と Sideband を正しく比較する場合にはこの方法を用いることが望まれる

115

付録 B

FM-SIMの正規化アドミタンス評価の補足

4章では周波数変調走査インピーダンス顕微鏡 (FM-SIM)を用いてAundashペンタセン単一グレイン界面インピーダンスが RC並列回路で表されることを説明した本編では式 (410)を用いて正規化アドミタンスに変換したが本章では正規化 FM-SIM信号 (γ)から視覚的に変化を読み取る方法について説明する

アドミタンスグリッド正規化アドミタンス Ynorm(式 (415)) を導入すると式 (410) より正規化 FM-SIM 信号は次のようにかける

γ =1

1 + jYminus1norm

(B1)

ここでYnorm の実部 (正規化コンダクタンス)虚部 (正規化サセプタンス)をそれぞれ g cと表す書き下すと以下のようになる

g =1

2π fsCiRlo(B2)

c = CloCi

g cのうち片方を固定し片方を 0から infinまで変化させた際の正規化 FM-SIM信号の軌跡 (γプロット)を図 B1に示すcを固定しgを変化させた際は γの周波数依存性と同じく γ = 1を通る径の異なる半円となる (破線)これは式 413において f と τr(つまり Rlo)が等価であることと対応する一方gを固定しcを変化させると点線のような軌跡をとるここで任意の γが与えられたときこの平面上のどこかにプロットできるプロット点を通るであろう gの軌跡から cがcの軌跡から gが読み取れる図 B1に示す軌跡をアドミタンスグリッドと呼ぶアドミタンスグリッドの利点は連続的なパラメータ変化に対するアドミタンス変化の概形を読み取ることである図B1を見ると分かるとおりg c lt 01または g c gt 10の領域は γの変化に対しての g cの変化が非常に大きいこれは本編のようにチャネルの ONOFF時の変化を Ynorm の変化として算出するときにFM-SIM信号強度が小さいと問題が生じる一方Ynorm を値として計算せずアドミタン

116 付録 B FM-SIMの正規化アドミタンス評価の補足

0

0

0

05

-05

1

01

1

10

g

cinfin05 1 2 10

Re[γ]

Im[γ] (Suscept)

(Conduct)

Ampl

PhaseRlo

Clo

g-1

c

Normalized

図 B1 γプロットの正規化アドミタンス (実部 g虚部 c)依存性cを固定し gを変化させた軌跡を (赤)破線でgを固定し cを変化させた軌跡を (青)点線で示しているこのような γプロットをアドミタンスグリッドと呼び任意の γ(振幅および位相)が与えられた際グリッドとの位置関係から大まかな g cの変化が読み取れる

-Imag(a) Real(a)

0

01

1

10

infin05 1 2 10

ForwardBackward

(Capacitance)

(Conductance)g

cVG = 2 V

VG = ndash3 V

図 B2 433 節のペンタセン単一グレイン上 FM-SIM 測定結果の γ プロット (アドミタンスグリッド上)Solid点が VG = 2 Vrarr minus3 Vに変化させた際 (Forward)Open点が逆方向 (Backward)での測定点である

スグリッド上に連続的にプロットすることで真値は分からなくとも変化の概形は読み取ることができる

バイアス電圧依存のアドミタンスグリッドアドミタンスグリッド上 γ プロットの例として433 節で示したペンタセン単一グレイン (グレイン A) における FM-SIM 測定結果をプロットした (図 B2)図 415 同様 VG 変化の Forward

と Backwardに関してプロットしているがプロット点の位置は違えどもその軌跡は ForwardとBackwardで非常に重なっていることがわかる433節 (図 415(c))で述べたように界面アドミタンスは VG に対してヒステリシスを示したが取りうる界面アドミタンスの値は同一であることが図B2からわかるまたグリッド線と比較すると変化の軌跡は cを固定して gを増加させた場合の軌跡に近いであろうことが見て取れるここからも負の VG 印加により界面コンダクタンスが増加し界面容量は比較的一定であることがわかる式 (B2)よりアドミタンスグリッド上で gは電極の交流バイアス周波数 fs に依存するそのため fs を変えることで g軸に沿ってプロット位置が変化することが予想される図 B3(a)に示す別のペンタセングレイン (B)に関してfs = 100 Hz 300 Hzでゲートバイアス VG 依存性を取得した結果を図 B3(b)に示すただしVG は 2 Vから minus8 Vの範囲で連続的に変化させたまずこのグレ

117

0 nm 30 nm

-05

0 05 1

fs = 50 Hz

100 Hz150 Hz

200 Hz300 Hz

500 Hz800 Hz

Imag

(a)

Real(a)

0

01

1

10

cinfin05

Conductance

g

101 2

Capacitance

VG = ndash8 V

VG

300 Hz

100 Hz

100 HzForBack

300 Hzfs

(a) Topography

(b) VG-dependence

(c) fs-dependenceElectrod

e

150 nm

Grain B

A B

図 B3 (a)グレイン Bの表面形状像(b)グレイン B((a)の x点)でのアドミタンスグリッド上 γプロットゲートバイアスを VG = 2 Vから minus8 Vに (Forward)および逆方向 (Backward)に掃引しながら測定した(c)グレイン B上周波数依存 γプロット (VG = minus1 V)

イン Bに関してもグレイン A同様に負の VG 印加に従い g軸正方向へ変化しておりキャリア蓄積に伴う接触抵抗の低減が見て取れるどちらの fs においてもその傾向が現れているが fs = 300 Hz

では 100 Hzでの gに比べて 13程度になっており予想どおりの結果となった周波数依存性との対応も調べるためいくつかの fs について図 B3(a)の線分 AndashB上をラインスキャンし電極グレイン B上の FM-SIM信号から γプロットした結果を図 B3(c)に示すグレイン Aの周波数依存性 (図 413)では周波数を掃引して測定したが非連続的に周波数を変化させても同じように半円状の変化を示すことがわかるここで fs = 100 Hz 300 Hzでの結果はそれぞれの図 B3(b)でのプロット位置と大まかに一致していることから以上の測定結果の再現性も確認できたといえる

ヒストグラムプロットγプロットは界面アドミタンスの概略的な傾向を見るのに有用だが何らかの方法で FM-SIM信号の ldquo値rdquoを抽出する必要がある代表点ラインプロファイル平均といった方法で評価はできるもののどこまでの範囲を考慮するかにおいて任意性がどうしても存在するその問題点を解消する方法として以下に述べるヒストグラムプロットがあるヒストグラムプロットでは同一領域の FM-SIM 振幅像および位相像を用い像の各点における FM-SIM信号が γプロットのどの位置に来るかを計算しγプロット内の頻度を画像化したものであるこれによりもっともらしい γ において最も頻度が大きくなりγ の位置把握に役立つ図 B4 は図 414 と同じペンタセン薄膜に対してヒストグラムプロットを適用した結果である図B4(a)の領域 [1]に対し図 B4(b) (c)で示す FM-SIM振幅位相像をそれぞれのゲートバイアスで取得し本画像から図 B4(d) (e) に示すヒストグラムプロットを得た図 B4(d) では 0 および infinの部分以外に頻度の高い領域が 2箇所見て取れるこれらは大体の FM-SIM振幅位相値からそれ

118 付録 B FM-SIMの正規化アドミタンス評価の補足

0

01

1

10

cinfin05

g

101 2 0

01

1

10

cinfin05

g

101 2

(d) [1] VG = ndash1 V

VG = ndash1 V ndash4 V VG = ndash1 V ndash4 V

(e) [1] VG = ndash4 V

Count

Large

(a) Topography (b) SIM-Ampl (c) SIM-Phase

[1]

-40ordm +50ordm2 mV 45 mV35 nm

A

C

A

C

A

C

図 B4 ペンタセン薄膜上 FM-SIM結果とヒストグラムプロット (領域 [1])(a)表面形状と領域[1](b)領域 [1]における FM-SIM振幅像(c)位相像 (それぞれ VG = minus1 Vおよび minus4 V)矢印にてグレイン A Cを示している (図 414と同一)(d) VG = minus1 V (e) minus4 Vにおける領域 [1]の γのヒストグラムプロットA Cで示した点はそれぞれ (b)内で示したグレインに対応する

0

01

1

10

cinfin05

g

101 2

VG-dependence (Grain A)

Count

Large

VG

図 B5 図 415(b)で示したペンタセングレイン A上 FM-SIMラインスキャン像から得たヒストグラムプロット

ぞれ図 B4(b)で示したグレイン A Cであることは判別できるVG を minus1 Vから minus4 Vに増加させるとヒストグラムプロットは図 B4(e)のように変化しグレイン A Cに対応する箇所が移動しているのがわかるg軸について見るとこれらは gの増加と対応していると確認できる同様に図415で示したペンタセングレイン A上における FM-SIMで得られたラインスキャン FM-SIM像からヒストグラムプロットした結果を図 B5に示す結果的には図 B2と全く同じものをプロットしているもののデータ抽出の恣意性がない分純粋な傾向を確認するのには有用と考えられる

119

付録 C

有機半導体グレイン境界のインピーダンス評価

4章では周波数変調走査インピーダンス顕微鏡 (FM-SIM)を開発し電極ndashグレイン界面に焦点を当てた局所インピーダンス評価を行ったOFET内の局所抵抗としては電極ndashグレイン界面以外にグレイン境界も大きな影響を有することがケルビンプローブ原子間力顕微鏡 (KFM)を用いた表面電位分布測定によって確認されてきた本節では 4章よりも現実の系に近い有機半導体のマルチグレイン薄膜 OFETにおいて FM-SIM測定を行いFM-SIMの電極界面以外への応用可能性や KFMとの手法比較を行う

測定条件測定試料は 422節と同様に UVおよび電子線リソグラフィにより作製した Pt電極上にペンタセンを蒸着することで作製した図 C1(a)に測定したペンタセンマルチグレイン薄膜試料の表面形状を示す図の上下にある破線で囲まれた領域に電極があり上部電極 (領域 A) をドレインとしてVD = minus1 V印加し下部電極 (E)をソース (Ground)とした上下の電極は図左半分のグレインを通じて繋がっておりこのグレインをチャネルとした OFETを形成している図中点線で示すように表面形状内のくびれくぼみからグレイン境界が判別できグレイン境界で分けられたグレインを領域 B C Dとする (図 C1(a)参照)

FM-SIM の装置構成は図 43 44 と同様であり電極 AC 電圧として振幅 Vacs = 2 Vp-p周

波数 fs = 100 Hz を用いたZI-LIA で ft + fs = 1100 Hz の ∆f の成分を検出しFM-SIM 信号とした測定では上部下部それぞれの電極を AC 電極とした測定を行いゲートバイアスVG = 1 V minus1 V minus3 V minus5 Vについて測定を行った

測定結果図 C1 に下部電極を AC 電極として FM-SIMKFM 測定した結果を示す電位像に注目すると

VG = 1 Vの時はドレインソース両電極界面 (AndashB EndashD界面)での電圧降下はほとんどなくチャネル全体にドレイン電圧が印加されていることがプロファイル (図 C1(e))からも確認できるこれは正の VG によりグレイン内が空乏化し導通していないことを示しているVG = minus1 Vでは電圧降

120 付録 C 有機半導体グレイン境界のインピーダンス評価

7006005004003002001000

14

12

1

08

06

Distance [nm]

Pote

ntia

l [V]

7006005004003002001000

30

20

10

0

Distance [nm]

SIM

-Am

pl [

mV]

7006005004003002001000

50

0

-50

-100

-150

Distance [nm]

SIM

-Pha

se [d

eg]

(b) Potential(a) Topography (c) FM-SIM ampl (d) FM-SIM phase

03 V 16 V 0 mV 50 mV -140ordm 40ordm

(g) FM-SIM phase prole(f) FM-SIM ampl proleA B C D E A B C D E A B C D E

VG = 1 V ID = 0 nA

001 nA

011 nA

028 nA

ndash1 V

ndash3 V

ndash5 V

ndash1 V

ndash3 V

ndash5 V

ndash1 V

ndash3 V

ndash5 V

VG = 1 V VG = 1 V

B

C

D

(e) Potential prole

200 nm

A

E

Source (0 V AC)

Drain (ndash1V)

Elec

trod

e

VG

1 Vndash1 Vndash3 Vndash5 V

図 C1 ペンタセンマルチグレイン OFET上の FM-SIM測定結果 (下部電極=AC電極)(b)電位像 (c) FM-SIM 振幅像 (d) FM-SIM 位相像のゲートバイアス (VG) 依存性(a) の線分 (AndashE 間)に沿った (e)電位(f) FM-SIM振幅(g) FM-SIM位相プロファイル同時に測定したドレイン電流 (ID)を (b)中に併記した

121

7006005004003002001000

30

20

10

0

Distance [nm]

SIM

-Am

pl [

mV]

-06 V 07 V 0 mV 50 mV -140ordm -60ordm

7006005004003002001000

060402

0-02-04

Distance [nm]

Pote

ntia

l [V]

7006005004003002001000

40

0

-40

-80

-120

Distance [nm]

SIM

-Pha

se [d

eg]

A B C D E A B C D E A B C D E

(b) Potential (c) FM-SIM ampl (d) FM-SIM phase

VG = 1 V

ndash1 V

ndash3 V

ndash5 V

VG = 1 V

ndash1 V

ndash3 V

ndash5 V

VG = 1 V

ndash1 V

ndash3 V

ndash5 V

(a) Topography

(g) FM-SIM phase prole(f) FM-SIM ampl prole(e) Potential prole

4002000

-108

-124

Distance [nm]

[deg

]

A B C D

B

C

D200 nm

A

E

Source (0 V)

Drain (ndash1V AC)

Elec

trod

e

VG

1 Vndash1 Vndash3 Vndash5 V

図 C2 ペンタセンマルチグレイン OFET上の FM-SIM測定結果 (上部電極=AC電極)(b)電位像 (c) FM-SIM 振幅像 (d) FM-SIM 位相像のゲートバイアス (VG) 依存性(a) の線分 (AndashE 間)に沿った (e)電位(f) FM-SIM振幅(g) FM-SIM位相プロファイル同時に測定したドレイン電流 (ID)を (b)中に併記した

122 付録 C 有機半導体グレイン境界のインピーダンス評価

下が BndashC間DndashE間で確認できminus3 V minus5 Vになると DndashE間のみとなった同時に測定した電流(図 C1(b) inset参照)から VG = plusmn1 Vでは OFETは OFF状態minus3 V minus5 Vでは ON状態であることがわかるこのことを考慮するとBndashC 間のグレイン境界が OFET の ONOFF 状態を支配しておりON状態での電気特性は DndashE間つまりソースndashチャネル界面が制限していると考えられるKFMではこのように OFET全体に占める局所抵抗の割合という相対的な評価が可能であるが例えば BndashC間グレイン境界のみの抵抗変化は電流を用いて計算する必要があり煩雑である

FM-SIMは 4章で述べたようにAC電極からの経路つまり図 C1では下部電極 (E)からの導通度合いが信号強度に反映されるまたKFM とは異なり絶対的な局所抵抗が影響しチャネル内において相対的な影響が増えても同じ抵抗値であれば同じ振幅位相となるFM-SIM 振幅像(図 C1(c)) を見るとまず VG = 1 V では E から D にかけて強度が減少している電位像では電圧降下が DndashE 間で現れていないが十分抵抗が大きいことが見て取れる次にON 状態であるVG le minus3 Vにおいて電位像には明確な変化が見られなかった BndashC界面で大きな信号低下が生じているBndashC間グレイン境界の局所抵抗は相対的には小さくなったものの抵抗値としての変化は小さいということを意味しているKFMからは BndashC間と CndashD間で明確な違いを確認することができないがFM-SIMを用いると局所抵抗の絶対値が影響するため図 C1(c)のように影響を可視化することができるというメリットがある図 C2は同様に上部電極を AC電極として FM-SIM測定した結果を示しておりFM-SIM像では上部電極からの導通度合いが反映されるまず図 C2(b) (e)は図 C2(b) (e)とほぼ同じ電位分布が得られておりバイアス印加条件を変えていないため理想的には同じ動作状況である事実と合致するFM-SIM振幅像 (図 C2(c))を見るとVG = 1 Vではやはり AC電極のすぐ隣である B上の強度が小さくなっており下部電極を AC電極としたときと同様電極界面もまだ導通していないといえるVG le minus1 Vでは AndashB間の FM-SIM振幅値が比較的近くAndashB間は DndashE間に比べて導通していると考えられる44節で述べたようにこれはソースndashチャネル界面に比べてドレインndashチャネル界面ではホールの感じる注入障壁が小さいことを示しているBndashC間グレイン境界に関しては下部電極を AC電極としたとき同様やはり大きな FM-SIM振幅変化が見られるさらにFM-SIM位相に注目すると図 C2(g)のインセットのように BndashC界面で若干の位相変化も得られた振幅変化のみであれば信号強度の比例係数変化 (522節参照)の可能性も無視できないがAC電極と比較して位相が負シフトした場合は 432節で議論したことや付録 Bのアドミタンスグリッドから分かるように抵抗性のインピーダンスが存在することを示している以上のようにKFMでは局所抵抗の相対的な変化や支配要因を評価できるがFM-SIMでは絶対的な変化を確認できるという点で相補的な評価が可能と考えられるしかし本章のようにマルチグレイン薄膜で OFETの ON状態においてもグレイン境界の影響が現れるような系では複数の局所インピーダンスが回路中に存在することグレイン容量が一定とみなすことができないことから423節のような単純な回路モデルによる半定量的なインピーダンス解析はできないことに注意する必要がある

123

研究業績

公表論文(A1) Tomoharu Kimura Yuji Miyato Kei Kobayashi Hirofumi Yamada Kazumi Matsushige ldquoIn-

vestigations of Local Electrical Characteristics of a Pentacene Thin Film by Point-Contact Current

Imaging Atomic Force Microscopyrdquo Japanese Journal of Applied Physics 51 (2012) 08KB05

(A2) Tomoharu Kimura Kei Kobayashi Hirofumi Yamada ldquoLocal impedance measurement of an

electrodesingle-pentacene-grain interface by frequency-modulation scanning impedance micro-

copyrdquo Journal of Applied Physics 118 (2015) 055501

(A3) Tomoharu Kimura Kei Kobayashi Hirofumi Yamada ldquoLocal impedance investigation of or-

ganic field-effect transistors with electrodes modified by self-assembled monolayerrdquo To be sub-

mitted

国際学会発表 (本人登壇分)

(I1) T Kimura Y Miyato K Kobayashi H Yamada K Matsushige ldquoInvestigation of Local Elec-

trical Properties of Pentacene Thin Films by Point-Contact Current-Imaging Atomic Force Mi-

croscopyrdquo 15th International Conference on Thin Films O-S17-05(Oral) Kyoto Japan (Nov

2011)

(I2) T Kimura Y Miyato K Kobayashi H Yamada K Matsushige ldquoLocal Electrical Characteristics

of Pentacene Thin Films Measured by Point-Contact Current-Imaging Atomic Force Microscopyrdquo

The 19th International Colloquium on Scanning Probe Microscopy S5-4(Oral) Toyako Hokkaido

Japan (Dec 2011)

(I3) T Kimura K Kobayashi H Yamada ldquoInvestigation of Local Field-Effect Characteristics of

Pentacene Thin Films by Point-Contact Current Imaging Atomic Force Microscopyrdquo IUMRS-

International Conference on Electronic Materials 2012 D-7-O25-004(Oral) Yokohama Japan

(Sep 2012)

(I4) T Kimura K Kobayashi H Yamada ldquoElectrical Property Measurements on Organic Semicon-

ductor Grains Using Point-Contact Current Imaging Atomic Force Microscopyrdquo 2013 MRS Spring

Meeting amp Exhibit Y604(Oral) San Francisco California United States (Apr 2013)

(I5) T Kimura K Kobayashi H Yamada ldquoLocal surface potential measurements of organic field-

effect transistors having a submicron crystalline grain channel by Kelvin-probe force microscopyrdquo

124 研究業績

19th International Vacuum Congress FMMMNST-1-Or-2(Oral) Paris France (Sep 2013)

(I6) T Kimura K Kobayashi H Yamada ldquoInvestigation of Local Electrical Properties of Organic

Field-Effect Transistors by Frequency-Modulation Scanning Impedance Microscopyrdquo 12th Interna-

tional Conference on Atomically Controlled Surfaces Interfaces and Nanostructures in conjunction

with 21st International Colloquium on Scanning Probe Microscopy 7PN-109(Poster) Tsukuba

Japan (Nov 2013)

(I7) T Kimura K Kobayashi H Yamada ldquoLocal Impedance Measurements of Organic Field-Effect

Transistors by Frequency-Modulation Scanning Impedance Microscopyrdquo The 10th MicRO Al-

liance Meeting P-15(Poster) Kyoto Japan (Nov 2013)

(I8) T Kimura K Kobayashi H Yamada ldquoLocal Impedance Characterization of Pentacene Thin

Films by Frequency-Modulation Scanning Impedance Microscopyrdquo International Conference on

Nanoscience + Technology 2014 SP-WeA9(Oral) Vail Colorado United States (Jul 2014)

(I9) T Kimura K Kobayashi H Yamada ldquoScanning Impedance Microscopic Study of Electrodendash

Channel Interface in Organic Field-Effect Transistors with Modified Electrodesrdquo 22nd International

Colloquium on Scanning Probe Microscopy S10-2(Oral) Higashiizu Shizuoka Japan (Dec 2014)

(I10) T Kimura K Kobayashi H Yamada ldquoVisualization of carrier injection and extraction processes

in organic semiconductor grain using time-resolved electrostatic force microscopyrdquo 18th Interna-

tional Conference on non contact Atomic Force Microscopy P-Wed-38(Oral) Cassis France (Sept

2015)

国内学会発表 (本人登壇分)

(N1) 木村知玄宮戸祐治小林圭山田啓文松重和美「点接触電流イメージング AFMによるペンタセン薄膜の局所電気特性の評価」第 72回応用物理学会学術講演会2a-ZB-6(口頭講演)山形 (2011年 9月)

(N2) 木村知玄宮戸祐治小林圭山田啓文松重和美 「点接触電流イメージング AFMを用いた有機薄膜トランジスタにおける局所電気特性評価」 第 59 回応用物理学関係連合講演会

16a-F5-4(口頭講演)東京 (2012年 3月)

(N3) 木村知玄小林圭山田啓文 「点接触電流イメージング AFMによる有機半導体微結晶の局所電気特性評価」第 73回応用物理学会学術講演会 11p-H1-14(口頭講演)松山 (2012年 9月)

(N4) 木村知玄小林圭山田啓文「ケルビンプローブ原子間力顕微鏡を用いた有機微結晶トランジスタの動作時における局所表面電位評価」第 60回応用物理学会春季学術講演会 29a-G8-5(口頭講演)厚木神奈川 (2013年 3月)

(N5) 木村知玄小林圭山田啓文 「周波数変調方式走査インピーダンス顕微鏡を用いた有機薄膜トランジスタの局所電気特性評価」 第 74 回応用物理学会秋季学術講演会19a-D2-3(口頭講演)京田辺京都 (2013年 9月)

(N6) 木村知玄小林圭山田啓文 「周波数変調方式走査インピーダンス顕微鏡を用いたペンタセン薄膜の局所インピーダンス計測」第 61回応用物理学会春季学術講演会20a-E16-10(口頭講演)相模原神奈川 (2014年 3月)

125

(N7) 木村知玄小林圭山田啓文 「原子間力顕微鏡を用いた有機ndash電極界面における局所インピーダンス新規評価手法」 応用物理学会関西支部 平成 26 年度 第 1 回講演会 (ポスター)京都(2014年 6月)

(N8) 木村知玄小林圭山田啓文 「電極表面処理による電極ndash有機グレイン界面物性の局所影響評価」第 75回応用物理学会秋季学術講演会17p-A2-5(口頭講演)札幌 (2014年 9月)

(N9) 木村知玄小林圭山田啓文 「時間分解静電気力顕微鏡による有機半導体グレインへの電荷注入排出過程の可視化」第 62回応用物理学会春季学術講演会13a-D14-3(口頭講演)平塚神奈川 (2015年 3月)

その他シンポジウムセミナー(S1) 木村知玄小林圭山田啓文松重和美「点接触電流イメージング AFMによる有機薄膜トラ

ンジスタの局所電気特性の評価」応用物理学会関西支部主催 2011年度関西薄膜表面セミナー(口頭講演)交野大阪 (2011年 11月)

(S2) 木村知玄 「走査プローブ技術を用いた有機薄膜の局所電気特性評価」第 7回有機デバイス院生研究会 (口頭講演)京都 (2012年 6月)

(S3) Tomoharu Kimura Kei Kobayashi Hirofumi Yamada ldquoLocal Impedance Investigation of

ElectrodendashChannel Interface in Organic Field-Effect Transistors with Modified Electrodesrdquo

Global COE 6th International Symposium on Photonics and Electroncis Science and Engineering

Kyoto Japan (Mar 2013)

(S4) 木村知玄 第 10回八大学工学系連合会「博士学生交流フォーラム」京都 (2013年 11月)

(S5) 木村知玄 「原子間力顕微鏡を用いた有機半導体薄膜の局所インピーダンス計測」第 9回有機デバイス院生研究会 (ポスター)福岡 (2014年 6月)

(S6) 木村知玄 第 11回八大学工学系連合会「博士学生交流フォーラム」札幌 (2014年 10月)

(S7) 木村知玄 「静電気力顕微鏡を用いた有機半導体グレインへの電荷注入排出過程の時間分解測定」第 10回有機デバイス院生研究会 (口頭講演)大阪 (2015年 7月)

受賞(P1) 平成 25年度京都大学大学院「工学研究科馬詰研究奨励賞」

127

謝辞

本研究は京都大学大学院工学研究科電子工学専攻教授山田啓文先生のご指導のもとで行ないました先生の深く幅広い分野における造詣に感銘を受けそこに博士のあるべき姿を重ねました常日頃より様々な学問的知識やノウハウをご教授いただいたことで研究を修めることが出来ましたここに深く感謝いたします本研究科電子工学専攻教授北野正雄先生には博士前後期連携コースの副指導教員として長きに渡りご指導を賜りましたご多忙の中でも親身になって議論していただきまた馬詰彰奨学寄附金での海外研修の際も迷いがちな私の背中を押していただきましたここに深く感謝いたします本研究科材料工学専攻教授杉村博之先生には同じく副指導教員としてご指導を賜りました他分野にも関わらず興味深く研究の相談に乗っていただき分野の垣根を超えたコラボレーションの可能性を感じさせてくださりましたここに深く感謝いたします京都大学名誉教授の松重和美先生 (現四国大学学長)には有機分子エレクトロニクスの面白さと夢のある将来展望についての熱意あふれるご講義を賜り私が博士課程へ進むきっかけを与えてくださりましたまた科学技術が学術的な面白さだけでなくモノづくりへ如何につなげるかが重要であるとの視点を与えてくださりましたここに深く感謝いたします元分子工学専攻の田中一義先生 (現福井センターシニアリサーチフェロー)には連携コースの副指導としてご指導を賜りました化学の視点に立って材料やプロセスの面で多大なご助言をいただき電気電子の分野のみでは備わらないノウハウや化学における常識を教わることができましたここに深く感謝いたします京都大学白眉センター特定准教授 小林圭先生には普段の研究で感じる様々な問題のみならず研究生活における素朴な疑問にも親身になって対処していただきました特に迷いがちな私の研究の指向に明確で分かりやすい道筋をつけてくださり研究におけるマイルストーンを示していただきましたここに深く感謝いたしいます慶應義塾大学理工学部准教授野田啓先生には在学中に有機材料や有機半導体に関する知識をお教えいただきまた研究や研究環境へ真摯に向き合うことの大切さをお教えいただきましたここに深く感謝いたしますナノテクノロジーハブ拠点の大村英治氏にはナノギャップ電極作製工程の EB描画において多大なご助力をいただきましたここに深く感謝いたします元研究室所属の鈴木一博氏服部真史氏 (現東京工業大学博士研究員)細川義浩氏井戸慎一郎氏広瀬政晴氏には博士課程の先輩として装置や研究内容だけでなく博士研究そのものについてどのようなスタンスや心持ちで臨むべきかについて様々なことをお教えいただきました特に広瀬政晴氏には同じ有機半導体を対象とした研究の先輩として研究の始まりの際に一から手ほど

128 謝辞

きをしていただき最も近い博士課程の先輩として博士課程を進める上でのノウハウをお教えいただきそして規則正しく堅実な研究生活を営む理想となる研究者の先輩としてその背中から多くのことを学ばせていただきましたここに深く感謝いたします博士研究員の木村邦子氏梅田健一氏八尾惇氏には研究者の先輩としてたくさんのことを学ばせていただきましたその真摯な研究姿勢からは常に深く探求することの重要性を知りまたその研究への熱意からは自身の研究への信念と確固たる我の必要性を学びました時には私の考えの甘さを叱責してくださり時には他愛ない会話で研究生活に一息つけるひとときをくださりましたここに深く感謝いたします本研究室の現役メンバーである博士課程学生の山岸裕史氏崔子鵬氏木南裕陽氏修士課程学生の黄雲飛氏黄子玲氏清水太一氏長谷川俊氏宮本眞之氏山下貴裕氏学部学生の野坂俊太氏濱田貴裕氏福塚清嵩氏そして旧松重研究室旧電子材料物性研究室に在籍された先輩後輩諸氏との研究のみならず日常においても親しげな関わりあいや対話があったからこそともすれば単調となりがちな研究生活を有意義に送ることができました特に山岸裕史氏とは学部学生での配属時より六年間の長きに渡り苦楽を共にし互いの支えあいあってこその博士課程であったと感じております同じ有機半導体を対象としていることから時には研究内容における相談や議論にも親身に付き合ってもらえ別の視点からの意見によって自分の思い込みを見つめなおすきっかけを与えてくれましたここに深く感謝いたします教務補佐員の林田知子氏には研究室の運営と研究環境の維持にご尽力いただき書類などの事務作業で妨げられることなく研究を進めることができましたここに深く感謝いたします博士課程中の海外研修にあたり京都大学大学院工学研究科馬詰彰奨学寄附金の支援を賜り海外の大学での 6週間に渡る研究生活という滅多にない経験を得ることができ日本とは異なる研究への姿勢指向と考え方を育むことができましたここに深く感謝いたします研究の遂行にあたり安定した研究生活基盤を提供いただいた工学研究科ならびに卓越した大学院拠点形成支援プログラムに深く感謝いたします最後に私の研究生活を支えてくれた家族友人たちに深く感謝いたします

129

参考文献

[1] G Moore Electron Mag 38 (1965) 114

[2] Intel Newsroom Advancing Moorersquos Law in 2014 httpdownloadintelcomnewsroom

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[4] International Technology Roadmap for Semiconductors ldquoMore than Moorerdquo White Paper

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[6] T Sekitani and T Someya Adv Mater 22 (2010) 2228

[7] 『応用物理』編集委員会 応用物理 8 (2014) 621

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索引

2倍波信号 90

AFM 10AM-AFM 16

DNTT (dinaphto-thieno-thiophene) 65Dynamic-mode 15

EFM信号 84

FM-SIM (Frequency-modulation scanning impedancemicroscopy) 48

FM-SIM信号 50

γプロット 57

HOMO (Highest occupied molecular orbital) 4 64 65

Jump-to-contact 15

KFM (Kelvin-probe force microscopy) 21

LIA (Lock-in amplifier) 50Line-by-line 14

PCI-AFM 19PFBT (pentafluoro-benzene-thiol) 65Point-by-point 14

Q値制御法 24

SAM (Self-assembled monolayer) 3 19 65SIM (Scanning impedance microscopy) 47Static-mode 14Sweep-SIM 96

TLM (Transition line method) 4 43TR-EFM (Time-resolved EFM) 78TR-SIM 95

Zスキャナ 10

アドミタンスグリッド 115

カンチレバー 11

グレイン境界 3 29 119

正規化 FM-SIM信号 56正規化アドミタンス 62 98

ヒストグラムプロット 117

ペンタセン 29

  • 序論
    • 研究背景
      • 有機分子エレクトロニクス
      • 有機トランジスタの進展
      • 金属有機界面物性
      • 有機材料物性評価と走査プローブ顕微鏡技術
        • 研究目的
        • 本論文の構成
          • 原子間力顕微鏡の基礎
            • 走査型プローブ顕微鏡
            • 原子間力顕微鏡(AFM)
            • AFMの走査方式
            • AFMの動作モード
              • Static-mode (コンタクトモード)
              • Dynamic-mode
              • 振幅変調方式AFM (AM-AFM)
              • 周波数変調方式AFM (FM-AFM)
                • AFMの電流検出応用
                  • 導電性AFM (c-AFM)
                  • 点接触電流イメージングAFM (PCI-AFM)
                    • AFMの静電気力検出応用
                      • 静電気力顕微鏡(EFM)
                      • ケルビンプローブ原子間力顕微鏡(KFM)
                        • 本章のまとめ
                          • AFM電流測定法を用いた有機グレインの局所電気特性評価
                            • OFET評価に適した電流測定法の検討
                              • PCI-AFMの真空動作化(Q値制御法)
                              • 接触状態の検証
                                • マルチグレイン有機薄膜の複数雰囲気中測定
                                  • 測定試料
                                  • 装置構成
                                  • 大気中PCI-AFM評価
                                  • 真空中PCI-AFM評価および雰囲気比較
                                    • 単一微小グレインOFETの特性評価
                                      • Point-by-point動作時間間隔の自由化
                                      • ペンタセン微結晶上のPCI-AFMライン測定
                                      • 抵抗の距離依存性の理論数値的検討
                                      • 電極近傍の電気伝導特性
                                        • AFMによる接触電流測定の問題点
                                        • 本章のまとめ
                                          • 新規局所インピーダンス評価法の開発と金属―有機界面物性の評価
                                            • 走査インピーダンス顕微鏡(SIM)
                                            • 周波数変調走査インピーダンス顕微鏡(FM-SIM)の開発
                                              • FM-SIMの原理
                                              • OFETにおけるFM-SIM応答の妥当性
                                              • 局所インピーダンスの解析
                                                • ペンタセングレイン上の局所インピーダンス評価
                                                  • 単一グレイン上の周波数依存評価
                                                  • 電極グレイン界面インピーダンスの一般性
                                                  • キャリア蓄積による電極グレイン界面物性変化
                                                    • 電極表面処理によるOFET特性への直接影響評価
                                                      • 電極表面処理および試料作製
                                                      • 電気特性評価
                                                      • FM-SIMによる電極DNTT界面局所電気特性評価
                                                        • 本章のまとめ
                                                          • 時間分解測定による有機グレイン中のキャリアダイナミクス評価
                                                            • 時間分解EFM (TR-EFM)
                                                              • TR-EFMの動作
                                                              • 妥当性検証
                                                                • 有機グレインのキャリアダイナミクス評価
                                                                  • 単一グレインの時間分解パルス電圧応答
                                                                  • 比例係数補正と電圧依存界面電気特性
                                                                    • 単一グレインのチャネル形成評価
                                                                      • TR-EFMFM-SIM同時測定法
                                                                      • グレイン依存性とTR-EFMSIM対応関係
                                                                      • バイアス分光による導通領域変調評価
                                                                        • 本章のまとめ
                                                                          • 結論
                                                                            • 総括
                                                                            • 今後の展望
                                                                              • 静電気力顕微鏡の検出モード比較
                                                                              • FM-SIMの正規化アドミタンス評価の補足
                                                                              • 有機半導体グレイン境界のインピーダンス評価
                                                                              • 研究業績
                                                                              • 謝辞
                                                                              • 参考文献
                                                                              • 索引
Page 5: Title 原子間力顕微鏡を用いた有機半導体グレイン/電極界面 ...2.6.1 静電気力顕微鏡(EFM) .....20 2.6.2 ケルビンプローブ原子間力顕微鏡(KFM)

ii 目次

321 測定試料 29

322 装置構成 31

323 大気中 PCI-AFM評価 31

324 真空中 PCI-AFM評価および雰囲気比較 33

33 単一微小グレイン OFETの特性評価 36

331 Point-by-point動作時間間隔の自由化 36

332 ペンタセン微結晶上の PCI-AFMライン測定 38

333 抵抗の距離依存性の理論数値的検討 39

334 電極近傍の電気伝導特性 44

34 AFMによる接触電流測定の問題点 45

35 本章のまとめ 46

第 4章 新規局所インピーダンス評価法の開発と金属―有機界面物性の評価 47

41 走査インピーダンス顕微鏡 (SIM) 47

42 周波数変調走査インピーダンス顕微鏡 (FM-SIM)の開発 48

421 FM-SIMの原理 49

422 OFETにおける FM-SIM応答の妥当性 52

423 局所インピーダンスの解析 55

43 ペンタセングレイン上の局所インピーダンス評価 59

431 単一グレイン上の周波数依存評価 59

432 電極ndashグレイン界面インピーダンスの一般性 61

433 キャリア蓄積による電極ndashグレイン界面物性変化 62

44 電極表面処理による OFET特性への直接影響評価 65

441 電極表面処理および試料作製 65

442 電気特性評価 66

443 FM-SIMによる電極ndashDNTT界面局所電気特性評価 68

45 本章のまとめ 74

第 5章 時間分解測定による有機グレイン中のキャリアダイナミクス評価 77

51 時間分解 EFM (TR-EFM) 77

511 TR-EFMの動作 78

512 妥当性検証 79

52 有機グレインのキャリアダイナミクス評価 84

521 単一グレインの時間分解パルス電圧応答 85

522 比例係数補正と電圧依存界面電気特性 90

53 単一グレインのチャネル形成評価 95

531 TR-EFMFM-SIM同時測定法 95

532 グレイン依存性と TR-EFMSIM対応関係 96

533 バイアス分光による導通領域変調評価 101

54 本章のまとめ 105

iii

第 6章 結論 107

61 総括 107

62 今後の展望 108

付録 A 静電気力顕微鏡の検出モード比較 111

付録 B FM-SIMの正規化アドミタンス評価の補足 115

付録 C 有機半導体グレイン境界のインピーダンス評価 119

研究業績 123

謝辞 127

参考文献 129

索引 136

1

第 1章

序論

11 研究背景111 有機分子エレクトロニクス現在われわれはたくさんの電子情報機器に囲まれて生活をしているテレビやスマートフォンのような直接的能動的に使用するものだけでなく物販医療交通といった生活のあらゆる場面で電子情報機器はわれわれの営みの中核をなしているこうした電子機器はわれわれに便利な暮らしをもたらすと同時にそれなしでは生活が非常に困難な社会となってきたこのような社会変化をもたらした数十年間のエレクトロニクスの進歩の大部分はSiを材料として用いた無機半導体デバイスの進歩によるものである1965年に提示された集積回路上のトランジスタ数が 18ヶ月ごとに倍になる ldquoMoorersquos lawrdquo [1]を指標として半導体の高集積化と微細化が進み現在ではプロセスルールが 14 nm のプロセッサが市販化されているまでに至った [2]一方でトランジスタ数や微細化以外の軸での「高機能化」も取り組まれている2007 年 12 月に行われた ITRS Public

Conference 2007 (セミコンジャパン 2008内)では新技術も含めたこれまでのスケーリング則を踏襲する ldquoMore Moorerdquoに加えてデバイスの多機能化による価値向上を目指す ldquoMore than Moorerdquo

という新たな軸が明示された [3]More than Moore の軸ではアナログ信号との融和センサの集積バイオといった技術が見据えられておりldquoInteracting with people and environmentrdquoと述べられていることからも人や周囲との繋がりをより重視していくと考えられる [4]ldquoモノのインターネット (Internet of Things IoT)rdquoが進められるようにUbiquitousな電子化情報化に向けたデバイス開発が望まれる中でMore than Mooreに向けた新規エレクトロニクス分野の一つとして有機分子エレクトロニクスが期待されている有機分子エレクトロニクスは有機分子を電気的光学的機能材料として用いた電子デバイスの創成を目指す研究分野である有機材料のもつプラスチックのような軽量性可撓性を活かし形の任意性や意匠性あるデバイス軽量基板を用いた設置コストの小さなデバイス [5]ヒトに直接装着できるウェアラブルデバイスへの展開が期待されている [6]また生体分子や DNAとの親和性からバイオセンサといったバイオエレクトロニクスとの共通項や有機分子の自己組織性を利用した新規プロセスやデバイスも考えられているこのように電気だけでなく化学生物等との分野融合的な取り組みにより有機エレクトロニクスは応用物理学会の該当分野における学会発表件数でも 2014年秋季で 500件を超えるまでに成長した一大分野となっている [7]

2 第 1章 序論

VD

VG

DrainOrganic semiconductor

Source

GateInsulator

図 11 有機電界効果トランジスタ (OFET)の模式図p型有機半導体 (organic semiconductor)を用いた場合VG lt 0 Vのゲートバイアス印加でソースndashドレイン間電流が増加する p型 OFETとなる

有機エレクトロニクスの研究は1977 年の Shirakawa らによる導電性高分子の作製に端を発する [8]当時高分子は絶縁体とみなされていたがポリアセチレンにハロゲンをドープすることで元の導電率から 8 桁以上改善させ導電体と知られる電荷移動金属錯体 (TTF)(TCNQ) の導電率10Ωminus1cmminus1 を上回る導電率を持つポリマー膜を作製した以降の研究で現在のエレクトロニクスで活躍するデバイスのアナロジーである有機電界効果トランジスタ (Organic field-effect transistor

OFET)有機発光ダイオード (Organic light-emitting diode OLED)有機太陽電池 (Organic photo

voltaic cell OPVC)が開発され現在の有機エレクトロニクス研究の中核を成している特に OLED

に関しては有機材料自身が発光することで液晶ディスプレイに比べてコントラスト比が向上するというメリットもあり有機 ELディスプレイとして 2007年には小型テレビが [9]現在ではスマートフォンやフル HDテレビが市販されるに至っている [10]

112 有機トランジスタの進展OFETは図 11のようにドレインソースゲートの 3電極と絶縁膜を隔てたゲート電極の向かいである有機半導体層から構成されており有機エレクトロニクスにおけるスイッチング電流制御を行う能動素子として位置づけれられる無機半導体の基本素子である MOSFET (Metal-oxide-

semiconductor FET)と異なり半導体層の多数キャリアの注入による蓄積層がチャネルとなるアモルファスシリコン (a-Si)で広く用いられる薄膜トランジスタ (Thin film transistor TFT)との動作原理および構造のアナロジーから有機薄膜トランジスタ (Organic TFT OTFT)とも呼ばれる

1986年に高分子を用いた OFETが最初1に報告され [11]低分子材料では 1989年にフランス国立研究所の Horowitzらによりその動作が報告された [12]これら報告ではそれぞれチオフェンと呼ばれる分子の高分子オリゴマーを用いているこれらポリオリゴチオフェンは単結合二重結合が交互に連なる分子であり先に述べたポリアセチレンも含めて π共役系分子 (ポリマー)と呼ばれる以降π共役系分子を中心に OFET研究は進展していくこととなる

OFET に関する研究で最初に注力されていた点は (電界効果) 移動度の向上であるこれは例えばディスプレイの画素の駆動に必要な OFET の面積の削減やデバイス駆動の定電圧化デバイス駆動熱の低減という観点から実用的なデバイスに向けて必要となる1989 年の報告で1 times 10minus3 cm2(Vs) であった移動度は表面処理や真空蒸着におけるプロセス条件の改善により

1 出力特性に飽和特性が現れるものとしては最初

11 研究背景 3

1997年にペンタセンを用いた OFETで a-Si TFTの目安である 1 cm2(Vs)を超える移動度を達成している [13]さらに絶縁膜の影響を考慮することや単結晶の作製により2004年には 20 cm2(Vs)

を [14]2007年には 40 cm2(Vs)を達成している [15]しかしこれら高移動度の OFETの報告は実用化には不向きな昇華生成により作製した単結晶を用いていること後述の接触抵抗の影響を排除した材料本来の移動度を抽出したことによる結果のため実用的な作製法での実効的移動度向上を目指した研究が続けられているこういった OFET の性能向上に伴い別の観点からの研究も増加してきた一つは有機エレクトロニクスの特長といえる塗布型デバイスの作製に関する研究である塗布型の始まりは高分子半導体であるが01 cm2(Vs)程度という低移動度が問題であった [16]高移動度化のために研究された可溶性の低分子有機半導体材料の中で有名なものとしてアニールなどの追加の加熱プロセスが不要な TIPS (Triisopropyl-silylethynyl)ペンタセンがある [17 18]さらに近年の研究で移動度10 cm2(Vs) を超える高結晶性な塗布型 OFET も報告されており現在盛んに研究されている内容の一つである [19]一方OFETを回路の一部として組み込む例も現れてきたエレクトロニクスの基本単位である CMOS (Complementary MOS-FET)回路を模倣しpn両方の OFETを用いたインバータ動作 [20] やインバータを直列に接続したリングオシレータによる発振動作の実証がある [2122]また可撓性のある OFETアレイを用いてメモリやセンサといったデバイス応用を見据えた研究が着実に進められている [6 23 24]

113 金属ndash有機界面物性これまでの研究で OFETの進展が見られる一方それに伴いいくつかの問題点が実用化を阻んでいる一点目として高結晶性高移動度材料の開発が進むことで有機薄膜内部の抵抗は低減するが相対的に接触抵抗の影響が顕著に現れるようになる [19]これはOFETの集積化に必要な微細化によっても顕著になる問題である二点目として素子のばらつきの問題がある特に高移動度や高結晶性材料を用いた OFETでは接触抵抗のばらつきが移動度のばらつきとして顕著に現れるバンク構造やディスペンサによるプロセスの画一化によるばらつき低減に関する研究も行われているものの依然解決には至っていない [25]このような接触抵抗つまり金属ndash有機界面における電気特性が現在 OFETのデバイス性能向上や制御の障害となっている以下ではこれまで研究された金属ndash有機界面物性やその評価法について述べる金属ndash有機界面における問題はモルフォロジーによる影響と電子物性による影響に大きく二分される一般的な製膜方法である真空蒸着法で作製した有機薄膜は通常マルチグレイン (マルチドメイン)薄膜2と呼ばれ微小な島状の有機薄膜である「グレイン」が多数接続したモルフォロジーを成すグレインサイズは蒸着条件 [26 27]酸化絶縁膜表面のオゾン処理 [28]絶縁膜材料や表面の自己組織化単分子膜 (Self-assembled monolayer SAM) 処理 [29 30] によって変化するが一般にサブ micromから数 micromの範囲にあるこのグレイン境界はチャネル長が数 10 micromから数 100 microm

程度であることを鑑みるとチャネル中を電流が流れる際に多数のグレイン境界を通過することに

2 有機薄膜においては ldquoグレインrdquoと ldquoドメインrdquoおよびその境界の言葉の定義が曖昧であり人により用法が異なる有機薄膜中の島状の区画は一般にグレインと呼ばれるが単分子層であっても単結晶ではなく結晶方位が異なる場合がありそのときのそれぞれの区画をドメインと呼ぶことがある本論文では少なくとも表面形状像から推測される溝で区切られた区画をグレインと呼びその境界をグレイン境界とする

4 第 1章 序論

なるグレイン境界は多結晶質の無機半導体とのアナロジーからキャリア輸送の阻害要因として考えられることが多いそのため一般にグレインサイズが大きいほどつまりチャネル中にグレイン境界が少ないほど移動度が向上するといわれその観点に基づく移動度モデルが提唱されてきた [26 27 31 32]ここで電極上や電極付近ではチャネル上と異なるモルフォロジーを呈することが知られており電極付近では小さなグレインを形成することにより低移動度となり等価的に接触抵抗が増加することが金属ndash有機界面における一点目の問題である一方有機半導体と金属のエネルギー準位の関係という電子物性の影響も長らく議論されてきた無機半導体においては金属ndash半導体界面は両者のフェルミ準位が一致するように真空準位に差が生じる Schottky則が基本となるが有機半導体はその限りではない例えば p型 (ホール伝導型)の場合有機半導体の最高被占分子軌道 (Highest occupied molecular orbital HOMO)準位 [33]を無機半導体の価電子帯と対応させ金属のフェルミ準位と有機半導体の HOMO準位が非整合なときにキャリア輸送阻害となるという一般的な理解を元に議論されるこのように両者の真空準位を一致させる方法を ldquoSchottkyndashMott 則rdquo といいTang と Slyke による正孔注入層を挿入した実用的な OLED

が報告されて以降 [34]有機エレクトロニクス全般で SchottkyndashMott則に基づく界面エンジニアリングが行われてきたこういった金属ndash有機界面の電子準位の評価には光電子分光法やその派生手法が用いられこれまで様々な金属電極と有機薄膜の組み合わせや [35ndash37]間に別の材料を挟むヘテロ接合での電子準位 [38]が評価されてきたこれら研究により金属ndash有機界面は SchottkyndashMott

則のような単純な関係ではなく金属ndash有機間の電荷の授受有機分子のダイポールやピロー効果によって生じる真空準位シフトにより有機側のエネルギー準位にずれが生じることが明らかとなった特に有機側の界面準位などにより電極の仕事関数に関わらずフェルミ準位ndashHOMO準位差が一定となるように真空準位シフトが起こる場合を ldquoFermi-level pinning (フェルミ準位のピン留め効果)rdquo といい [39]SchottkyndashMott 則に基づく界面エンジニアリングは効果をなさないこのように金属ndash有機界面の電子物性は複雑さを極めており金属ndash有機界面における二点目の問題となる以上のような金属ndash有機界面物性のため接触抵抗は電極材料 [40ndash42] や電極表面処理 [43ndash45]デバイス構造 [46 47] によっても異なることが知られており接触抵抗の変化により実効的な移動度つまり特性変化が引き起こされるさらに接触抵抗が単なる抵抗ではなくゲートバイアス依存 [41 48]や低バイアス領域や短チャネル系では非線形性 [49ndash51]が現れることが確認されており接触抵抗が単純な抵抗としてはモデル化できないことを示唆している以上のようにデバイス特性と上述の金属ndash有機界面物性がどのように関わるかについては現在も議論が続いている金属ndash有機界面の電気特性の評価にはOFETに限らず様々な構造において様々な手法がなされてきた (表 11)接触抵抗とチャネル特性を分離する基本的な手法として四端子法および Transfer line

methodまたは Transition line method (TLM)が知られている [52]四端子法は電流を流す 2端子に加え電圧測定用の 2端子を用いることで微小抵抗材料の導電率測定を行う手法であるがOFETではゲート電圧依存のソースドレイン界面の接触抵抗の測定に用いられる [415354]しかしチャネル上の電位勾配が均一でない場合は正しい値とならないTLMはチャネル長の異なる複数のデバイスを用いて総抵抗の変化から接触抵抗とチャネル領域の移動度を分離する手法であり [46 48 55]フィッティング点数が多い面で四端子法よりもばらつきの影響は抑えられるしかしソースドレイン界面の接触抵抗を分離できないことに加え短チャネルでは TLMで求まる接触抵抗が実際よりも大きく見積もられるという問題がある [56]

11 研究背景 5

表 11 OFETや有機薄膜の電気特性測定に用いられるマクロ薄膜での手法と対応する走査プローブ技術

評価対象 マクロ手法 走査プローブ技術

総抵抗 電流ndash電圧 (IndashV)測定導電性 AFM (c-AFM)

デュアルプローブ AFM (DP-AFM)

局所抵抗の分離評価4端子測定 ケルビンプローブ原子間力顕微鏡 (KFM)

Transition line method (TLM) mdash

インピーダンス インピーダンス分光 (IS) mdash

キャリア注入容量ndash電圧 (CndashV)測定 mdash

変位電流測定 (DCM) mdash

キャリア注入輸送特性という観点では容量ndash電圧 (CndashV) 測定や変位電流測定 (Displacement

current measurement DCM)インピーダンス分光といった交流特性を利用した評価が有用であるCndashV 測定は金属ndash絶縁膜ndash半導体 (Metal-insulator-semiconductor MIS)接合の試料においてゲートバイアスを掃引しながら容量を測定し注入が始まる電位が評価できると共に周波数による特性変化から金属ndash有機界面の接触抵抗に関しても議論が可能な手法である [57]一方DCMは CndashV 測定と同じMIS構造で三角波のバイアス電圧を印加することで変位電流の大きさから有機半導体へのキャリア注入状態の変化を評価可能である [58]これら 2手法はMIS構造に基づく評価手法であるがOFETに適用することで注入電圧 [59 60]や接触インピーダンス [61]やチャネル上のトラップ [62]について評価した例もある最後にインピーダンス分光は交流バイアスに対する複素電流応答の周波数依存性を測定することで積層デバイスの回路インピーダンスの同定 [63]や OLEDの接触インピーダンス評価に利用できる [64]金属ndash有機界面物性は様々な側面を孕んでいるが以上で述べた評価法は基本的に大面積な電極および有機薄膜を使用した評価である一方有機薄膜が基本的にマルチグレイン薄膜であることを鑑みると電極近傍のモルフォロジー変化やグレイン境界の影響を含んでしまう恐れがあり真の金属ndash有機界面物性評価が可能とは言いがたいよって今後 OFETの進展に向けて電子物性とモルフォロジーの影響を弁別して評価するためにldquo特定のrdquoグレインに注目した評価手法が必要となる

114 有機材料物性評価と走査プローブ顕微鏡技術原子間力顕微鏡 (Atomic force microscopy AFM)はカンチレバーと呼ばれる先鋭な微小探針を有すプローブを用いて表面形状を測定する手法でありナノスケール領域での表面分析手法の一つとして広く用いられている [65]AFMの特徴として絶縁膜や低導電性材料においても評価可能であるという走査電子顕微鏡や走査トンネル顕微鏡 (Scanning tunneling microscopy STM) に対する優位性導電性プローブを用いることで電気的刺激応答評価が可能となることによる多彩な応用可能性の 2点があげられる特に後者に関しては有機半導体に対するナノスケールの ldquoテスタrdquoとして用いることができることから多くの研究がなされてきたこれらの研究はスケールの観点から有機薄膜やデバイスにおける評価とグレインスケールや単分子膜における評価に大きく二分できる有機薄膜やデバイスにおいてはケルビンプローブ原子間力顕微鏡 (Kelvin-probe force microscopy

KFM)を用いた表面電位評価が有効であるOFETにバイアスを印加させ動作している状態での

6 第 1章 序論

チャネル上の電位分布電位勾配を測定できマクロ薄膜での評価手法である 4端子測定をナノスケールチャネル全域評価へ拡張したものとみなせるKFMを用いることで 4端子測定ではアクセス不可能な OFETの電極ndash有機界面の最近傍にアクセスできる上に [40]チャネル中のグレイン境界における電圧勾配も可視化可能である [47 66]近年ではOFETの有機薄膜ndashゲート電極方向の断面における電位像取得も達成されており [67]OFETの局所制限要因を評価する有用な手法であるといえる一方でKFMによる OFETの電位評価では定性的なグレイン境界の影響は見えるが一般にチャネル中のグレイン数が多いため定量的な評価は困難である対してグレインスケールでは導電性 AFM (conductive-AFM c-AFM)を用いた電流測定が報告されている1999年に KelleyFrisbieによって Au電極に接続した絶縁膜上の無置換オリゴチオフェン 6量体 (α-6T)グレインに AFMの導電性探針を接触させ単一グレインの IndashV 特性の測定に成功している [68]またゲートバイアスを印加した局所 OFET構造での測定やグレイン境界を跨ぐ測定も行われている [69 70]一方近年では電極に接続していない任意のグレインの電気特性評価ができる複数探針を有す AFMシステムの開発が盛んに行われてきた音叉型カンチレバーを用いることで 4本の探針を備えた AFMシステムではグラフェンの導電性の 4端子測定を達成している [71]また従来のカンチレバーを用いることで音叉型では困難な接触力制御を可能にした二探針 AFMシステムも報告されており [72 73]単一グレイン内 [74]や単一グレイン境界 [75]における電気特性測定が行われてきたここで大面積 (マクロ)な有機薄膜における電気特性の評価手法と走査プローブ技術とを比較すると表 11のようにまとめられるc-AFMや DP-AFMによっても電極間距離や位置と電気特性の関係についてもある程度議論ができるが位置精度や各測定の同一条件性の点で不十分といえマクロ測定の TLMに対応するより体系的なプローブ評価手法が必要と考えられるまた4端子測定と対応する KFMにより接触抵抗の評価が可能となるが界面の電子物性との関係に言及するには不十分であるインピーダンス分光や CndashV 測定のような交流電圧や経時応答を用いることでより深い物性の議論が可能になることが期待される

12 研究目的以上で述べたようにOFETの局所電気特性についてこれまでも様々な AFMの応用手法による評価が行われてきたが単一グレインスケールでの金属ndash有機界面物性評価には至っていないよって本研究では「真の金属ndash有機界面物性評価」を目指した AFMによる電極ndash単一グレイン界面電気特性測定手法の構築を研究目的として掲げるそのためにはデバイスレベルでは有用なマクロ薄膜での各種電気特性測定手法を活用し未だ試みられていない AFMとマクロ電気特性手法との組み合わせを通した新規手法についても模索するまた従来手法で問題となりうる電極付近のその他評価可能な局所電気特性についても理解を深めることとする

13 本論文の構成本論文は以下に示す 6章で構成されておりそれぞれの章には図 12で示す繋がりがある

第 1章 序章

13 本論文の構成 7

第 2章 原子間力顕微鏡の基礎本研究の主体となる AFMとこれまで用いられてきた応用手法技術に関して述べると共に従来手法を OFETの局所電気特性評価に用いる上での問題点や未だ試みられていない領域について言及する

第 3章 AFM電流測定法を用いた有機グレインの局所電気特性評価OFET測定に特化した AFMの電流測定応用手法の開発改善を行った結果を述べるまたその手法を用いて有機半導体であるペンタセングレイン上で測定することでグレイン境界や微小グレインといった局所電気特性の抽出を行う

第 4章 新規局所インピーダンス評価法の開発と金属ndash有機界面物性の評価新たに提案する OFET の局所インピーダンス評価のための AFM 応用手法について述べる電極ndash単一ペンタセングレイン界面の評価を通した新規手法の妥当性や物性について議論するまた応用として OFETの電極表面処理の有無による影響を電気特性モルフォロジーおよび本手法を用いた局所インピーダンスの観点から評価する

第 5章 時間分解測定による有機グレイン中のキャリアダイナミクス評価従来の AFM 電位評価法を時間分解測定に応用し単一有機半導体グレインにおけるキャリアの注入排出過程における電気特性評価を行う注入時蓄積時での電極ndash単一グレイン界面電気特性比較を行うとともに様々なキャリア蓄積状態での測定を通してチャネル形成過程を明らかにする

第 6章 結論本論文の総括および本論文を踏まえた今後の展開について述べる

8 第 1章 序論

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ධጥᐼଡ଼டܝᶽᘌᄠᬯ౼ଦ

図 12 本論文の構成図

9

第 2章

原子間力顕微鏡の基礎

本章では本研究で用いた主たる測定手法である原子間力顕微鏡に関してその概要と基礎的な動作機構およびこれまでに開発されてきた応用手法について述べる

21 走査型プローブ顕微鏡走査型プローブ顕微鏡 (Scanning probe microscopy SPM) とはプローブ (Probe) と呼ばれる先端が鋭く尖った探針 (Tip)を試料表面近傍で走査することで試料表面の凹凸を数 micromから数 nmの分解能で測定する評価手法の総称であるまた基本となる SPMを応用して開発された表面形状以外の様々な電気的光学的機械的物性を測定する手法も広義には SPM と称す試料表面を走査せずに一点 (もしくは多点)で電圧や周波数といった他のパラメータを掃引して測定する場合もSPMと呼ぶかもしくは末尾を他の周波数分解測定に倣って「分光」(Spectroscopy)と付ける場合がある

SPM技術の発端は1982年に IBM Zurich研究所の Binnig Rohrerらによって発明された走査型トンネル顕微鏡 (Scanning tunneling microscopy STM)である [76]STMでは探針を試料表面から数 nmの高さまで近づけた際に探針ndash試料間に流れるトンネル電流を検出し試料の表面形状を取得する一方探針を試料表面近傍に近づけた際の探針ndash試料間に働く相互作用力を用いて表面形状を取得する手法を原子間力顕微鏡 (Atomic force microscopy AFM)と呼ぶSPM技術の中で表面形状を取得する手法はこの STMと AFMに大きく二分される

表面形状取得の概要 SPM技術における共通項として探針が試料表面を走査し探針ndash試料間距離を制御することが挙げられ探針走査機構 (スキャナ scanner)および探針ndash試料間距離制御機構が共通の構成要素となる図 21に一般的な SPMの概要図を示す1試料表面の走査および探針ndash

試料間距離を変えるための X Y Zの 3軸に動く微小移動機構を有し一般的に圧電体 (ピエゾ素子)

が用いられる図 21(a) のようにスキャナが探針に接続しているものをプローブスキャナと呼び図 21(b)のように試料台直下に位置するものをサンプルスキャナと呼ぶサンプルスキャナとして円筒状の圧電体を用いることからチューブスキャナとも呼ばれ試料に平行な 2軸および円筒上下方向それぞれに高電圧を印加することで X Y Zの 3軸方向に nmオーダの分解能で微小移動させる

1 以下試料表面を XY平面試料高さ方向を Z方向と呼ぶ

10 第 2章 原子間力顕微鏡の基礎

X

Scanner

Reference

Topography

Sample

Tip

Z

Y

+minus

Feedbackcontroller

Controlledvariable

(a) (b)

Z

YX X

Scanner

図 21 SPM における表面形状取得の概念図と構成要素(a) プローブスキャナを用いた場合の構成図(b)サンプルスキャナ (チューブスキャナ)の動作概念図

ことができるなお本研究では全て試料側を動かすサンプルスキャナにより走査測定を行っており特記がない限りスキャナと呼ぶ場合はサンプルスキャナのことを指すとするまた簡単のため「探針を試料に対して移動させる」ような動作を記述している場合はサンプルスキャナにより試料を逆方向に移動させているものとする次に探針ndash試料間距離は制御量 (STMにおけるトンネル電流AFMにおける探針ndash試料間相互作用力)を検出しフィードバック回路を用いて目標量に一致するように Z軸のスキャナ (Zスキャナ)に出力することで一定に保たれるこのとき試料高さの上下が Zスキャナへの出力値の増減に直接対応するためZスキャナへの出力値から試料の高さを得ることができ探針の走査により試料表面形状を得ることができる

22 原子間力顕微鏡 (AFM)

STM は試料表面構造をナノスケールで実空間観察が可能という画期的な手法であったがトンネル電流を検出しなくてはならないという原理的制約から絶縁体上での測定ができないという限界があったその後STMを発明した Binnigは探針の試料近接時に微小な力が働くことを見出しカンチレバー (Cantilever)と呼ばれる微小な片持ち梁の板ばね構造を持つ探針を用いた AFMを1986年に発表し絶縁体であるセラミック (Al2O3)表面のナノスケール構造観察に成功した [65]このとき開発された AFMは試料近接時に働く力により生ずるカンチレバーの変位を STMにより検出するという方式であり現在用いられている AFMに比べて複雑な機構やカンチレバーに高価な Au泊を用いていたしかし以降の研究で後に紹介する光てこ法を始めとする力検出方法や安価な Si製カンチレバーによりAFMは様々な分野に用いられるほどに広まっていくこととなる

AFMは表面形状のみならず先鋭な探針で試料の局所的な物性を測定できる手法として様々な応用手法が考案されてきたこれら AFMの応用手法として 2つの系統に分けることができる1つは表面形状に由来する力以外の相互作用力を検出し異なる物性を測定するというものこのカテゴリーとしては静電気力磁気力をそれぞれ検出する静電気力顕微鏡 (Electrostatic force microscopy

EFM)磁気力顕微鏡 (Magnetic force microscopy MFM)が有名であるもう一つは AFM中の外部からの刺激を力以外の方法で検出するものこちらは探針ndash試料間に印加した電圧に対して探針に流れる電流もしくは試料上の電極間を流れる電流をそれぞれ検出する導電性 AFM(conductive

22 原子間力顕微鏡 (AFM) 11

AFM c-AFM)や走査ゲート顕微鏡 (Scanning gate microscopy SGM)が当てはまる本研究で用いるいくつかの応用手法に関する詳細は後述する

AFMではSPMに共通する構成要素に加え探針ndash試料間に働く相互作用力を検出する力センサ系が重要となる以下では AFMにおける力検出に関わる原理技術について説明する

探針ndash試料間相互作用力 探針を試料表面近傍に近づけると探針や試料の材料や状態により様々な相互作用力が生じる原子間原子分子間などに働く van der Waals力 (vdW力)パウリの排他律に従い電子雲の重なりにより生じる斥力 (パウリ斥力)表面のダングリングボンドで生じる化学結合力接触電位差や電荷電気的ダイポールにより生じる静電気力などがあり基本的に AFMの名前の由来である原子間力はこれらの総称または総合したものと考えることができる本研究では静電気力は別に考慮し化学結合力を除いた vdW力およびパウリ斥力を探針ndash試料間に作用する原子間力と考える中性二原子間に働く相互作用を記述するポテンシャルとしてレナードジョーンズポテンシャルが知られておりその代表例として式 (21)で表される (612)-ポテンシャルがよく知られている

ULJ = 4ε[(σ

z

)12minus(σ

z

)6] (21)

但し二原子間距離を zポテンシャルの極小値を εポテンシャルが 0を通る距離を σとおいた(612)-ポテンシャルのうちzminus6 の項が vdW力に対応する引力を記述し中性二原子が互いに双極子モーメントを誘起し発生した相互作用エネルギーからminus6 乗の依存性を導出できる [77]次に探針ndash試料間に作用する力を考える際探針試料それぞれに有す多数の原子間の寄与を総合しなくてはならない探針を先端曲率半径 Rの放物曲面試料を 2次元平面と考えそれぞれの原子数密度 nとして系全体のポテンシャル Uts を式 (21)を用いて求めると探針ndash試料間に働く力Fts =

dUtsdz は

Fts(z) =23π2Rεn2σ4

[ 130

(σz

)8minus(σ

z

)2](22)

と記述される [78]Fts の値は正が斥力に負が引力に対応する典型値として R = 20 nm ε =

001 eV σ = 025 nm n = 50 times 1028 mminus3 としたこの曲線の概形を図 22に示す図 22から分かるように多数の原子が関わっているのにも関わらず探針ndash試料間距離が 1 nm以内に近づかないと相互作用力がかからないこのため非常に高い垂直分解能で形状評価が可能となりまた探針の一番先端に存在する 1個の原子と試料との間の力が探針にかかる力に関わるため探針の曲率半径よりも小さな構造を可視化できる

相互作用力の検出 (光てこ法) 微小な相互作用力の検出には22 節で述べたようにカンチレバーを用いるばね定数 k のカンチレバーに対し垂直方向に力 F がかかると変位 ∆z = Fk だけカンチレバーのたわみが生じる例えばばね定数 2 Nmのカンチレバーに対して 2 nNの力がかかる場合変位は 1 nm と非常に微小であり直接観測することは困難であるこのような微小なカンチレバーのたわみに対しこれまでピエゾ抵抗 [79]やチューニングフォーク (音叉型共振センサ) [80]による自己検出法光干渉法 [81]といった様々な検出方法が考案されてきた本研究ではカンチレバーの種類に依存せず装置構成が簡単な光てこ方式 [82]を用いた光てこ方式では図 23 のようにレーザーダイオード (Laser diode LD) からカンチレバーの背面にレーザを照射し反射した光を四分割フォトダイオード (Position sensitive photo diodedetector

12 第 2章 原子間力顕微鏡の基礎

-4

-2

0

2

4

0 02 04 06 08 1

Forc

e [n

N]

Distance [nm]

Attractive region

Repulsive region

図 22 (612)-ポテンシャルに従う探針ndash試料間相互作用力の距離依存性 (式 (22))1 nm以内でnNオーダの力が加わることが分かる力勾配の正負からそれぞれ引力 (attractive)領域斥力(repulsive) 領域に分けられる探針がどの領域の力を感じるかで式 (25) に示す励振特性がどう変わるかが異なる

PSPD) で受光するPSPD は検出部分が 4 つのフォトダイオードで構成されておりそれぞれのフォトダイオードからパワーに比例した電流を出力しプリアンプにより電圧値に変換されるこのとき上部 2 つ (A) と下部 2 つ (B) のフォトダイオードの出力差を vAminusB とおくとPSPD 上のレーザスポットの微小変位 ∆aに対して vAminusB は比例した電圧を出力することが分かる一方カンチレバーの長さを lカンチレバーから PSPDまでの距離を d とおくとカンチレバーのたわみ ∆z

に対しレーザスポット変位 ∆aは∆a =

2dl∆z (23)

と記述できる例としてl = 100 microm の長さのカンチレバーに対し距離 d = 10 mm を設定するとレーザスポットの変位はカンチレバーの変位に対し 100倍となるように手法名のとおり光に対する「てこ」として働く実際の実験においてはカンチレバーの変位量を測定するために ∆zに対する vAminusB の比例係数つまり感度 (Sensitivity単位 mVnm)の校正を行う同様にカンチレバーのねじれに対してもばね定数および変位を定義できPSPDの左側 2つ (C)

と右側 2つ (D)のフォトダイオードの出力差 vCminusD からねじれ変位を検出できるねじれ変位は摩擦力測定やひねり共振 (Torsional resonance)における発振に用いられる

23 AFMの走査方式AFMに限らずSPMでは探針を走査しながら様々な物性値を測定するそのとき探針の走査の方法によりいくつかの方式が存在する本節では走査方式を (a) 力一定モード (Constant force)(b)高さ一定モード (Constant height)(c)高さ変調モード(d) Line-by-line(e) Point-by-pointに大分して説明するそれぞれの走査方法の概略図を図 24に示す

23 AFMの走査方式 13

PSPD

Cantilever

LD

AC D

Bd

∆z l

∆a

図 23 光てこ法によるカンチレバーのたわみ検知の概要図レーザダイオード (LD) より照射したレーザがカンチレバーで反射しフォトダイオード (PSPD)で受光するこのときカンチレバーたわみ ∆zに比例したレーザスポット ∆aの変位が生じる

(a) Constant force

SampleTrack

1st2nd

Scan direction

(b) Constant height (c) Height modulation

(d) Line-by-line (e) Point-by-point

Change of another parameter at each point

図 24 AFM におけるそれぞれの走査方式の動作概略図(a) 力一定モード(b) 高さ一定モード(c)高さ変調モード(d) Line-by-line(e) Point-by-point

力一定モード 力一定モードは最も基本となる AFMの走査方式でありいわゆる「表面形状」取得および表面に沿った物性測定を行うために用いられる図 24(a)のように探針を走査しながら力2が一定になるように Zスキャナを制御する

高さ一定モード 高さ一定モードでは図 24(b)のように走査中 Zスキャナを一定値に固定する3力一定モードと異なりZスキャナのフィードバック制御が行われないためノイズによる不要な上下動やフィードバックの行き過ぎによるカンチレバーの試料への不意な衝突などが抑制されるため非常に繊細な測定が可能となる試料の高さ粗さが小さくかつドリフトの小さい超高真空のような系で主に用いられる高さ一定モードにおいて高さを変えながら複数枚の画像から 3次元 (3D)データを取得する方法も提案されている [83]本研究ではこのモードは使用しない

2 場合により別の物理量STMではトンネル電流を一定に制御するが試料の凹凸以外の情報も含まれるためSTM像は「真の」表面形状とは考えられないことが多い

3 ドリフト補正のためXY位置に対応する補正値を加えている場合もある

14 第 2章 原子間力顕微鏡の基礎

高さ変調モード 高さを変調する方式ではベースとなる AFM の方式や高さの変調方法や接触の利用によりいくつかの方法が存在している高さ一定モードを用いて 3D 分布データ取得する以外にも図 24(c)のように試料上の各点で高さを変化させて物理量を測定することで 3D分布データを取得することも考えられるこれは探針ndash試料間を変化させながら力を測定するForce curve

測定を全ての点で行ったものとも考えることができこのような方法により溶液中 [84]において力の 3D分布を可視化した報告があるまた試料との接触後も探針の高さを変化させることで接触後のたわみや吸着力を測定する

Jumping modeという方式もある [85]さらにこの上下動を数 kHzという早さで行い高速かつ多様な物性を同時に測定できる手法として PeakForce Tapping Rcopy が知られている [86]

Line-by-line AFMの走査は Fast scan方向へ往復走査後Slow scan方向へ 1分割値だけ移動しFast scan方向への往復走査を行うという動作を繰り返すこの際図 24(d)のように Fast scan方向の 1 走査 (1st scan) 終了後高さを変化させて 1st scan で取得した軌跡をたどる (2nd scan) ようにZスキャナを制御する方法を Line-by-lineと呼び特に 2nd scanで 1st scanよりも試料から離れる場合はリフトモードとも呼ばれるライン毎の時分割による複数データ取得とみなすこともできるリフトモードでは距離による力の影響の違いから2nd scanでは静電気力 [47]や磁気力といった通常の力制御時とは異なる力を検出するために用いられている本研究ではこの方式は用いない

Point-by-point Point-by-point法は力一定モードのように単に試料表面を走査するのみならず図24(e) で示すように各点で力一定モードとバイアス印加掃引や力変調といったパラメータ変更を交互に行い表面形状と同時に複数の物理量をマッピング可能であるこのような各点における動作をldquoPoint-by-pointrdquoと呼ぶそのためPoint-by-pointでは走査点毎時分割による複数データ取得といえるLine-by-lineに対し表面形状と他の観測物理量との位置整合性が良いという長所がある動作の詳細は 252節で述べる

24 AFMの動作モード図 25に力検出方式の異なる動作モード同士の関係図を示すカンチレバーの励振の有無によりそれぞれ Dynamic-mode と Static-mode に分けられるさらにDynamic-mode はカンチレバーの励振特性変化の検出方法の違いにより振幅変調 (Amplitude-modulation AM)方式 (AM-AFM)と周波数変調 (Frequency-modulation FM) 方式 (FM-AFM) に分けられる本研究ではそれぞれの方法を測定のフェーズや内容によって使い分けているため以下ではそれぞれの方式について個別に原理動作を説明する

241 Static-mode (コンタクトモード)

Static-modeはカンチレバーを励振させずに測定を行う方式の総称でありその中でも力一定モードで行われる Static-modeを特にコンタクトモード (contact-mode)と呼ぶコンタクトモードではカンチレバーを試料に近接させた際に生じるカンチレバーの変位 ∆zが一定になるように Zスキャナを制御する図 22のように探針にかかる力は探針ndash試料間距離が近づくにつれて若干の引力の後す

24 AFMの動作モード 15

Atomic force microscopy

Static-mode (contact-mode)

Amplitude-modulation (AM tapping)

Frequency-modulation (FM non-contact)

Dynamic-mode

図 25 AFMの動作モードの関係図

ぐに斥力に変化してしまうさらにdFtsdz がカンチレバーのばね定数 kよりも大きくなるとカンチレ

バーの復元力が探針に加わる力に負けてしまい一気に斥力領域に突入してしまう Jump-to-contact

が起こる以上のことからStatic-modeを引力領域で測定するのは非常に難しく通常斥力領域で測定するコンタクトモードは試料に接触させた測定のため試料の力学的な特性が探針の応答に如実に現れるこのことを利用した応用手法として摩擦力顕微鏡 (Friction force microscopy FFM)や直交剪断応力顕微鏡 (Transverse shear microscopy TSM)があるFFMはカンチレバーの軸に対し直交方向にカンチレバーをコンタクトモードで走査することで発生するねじれ量を検出することで摩擦力の違いを可視化する AFMの応用手法であり末端基による結合力の違いを可視化した例がある [87]TSMは通常と同じ軸方向に対しカンチレバーを走査するがその際分子結晶の配向によりねじれの交流信号に違いが現れるためFFMよりも明瞭に分子結晶の配向を可視化できる [88]

242 Dynamic-mode

Dynamic-modeはカンチレバーをピエゾ素子 (PZT)などの外力を用いて振動させながら測定を行う方式の総称でありDynamic-mode AFMを Dynamic force microsopy (DFM)と呼ぶ場合もあるDynamic-modeではカンチレバーの振動特性が重要となるカンチレバーは有効質量 mばね定数 kの調和振動子モデルに近似できるここでカンチレバーを振動させる外力 Fext と探針ndash試料間の相互作用力 Fint がカンチレバーにかかっている場合カンチレバーのつりあいの位置からの変位 zに対して運動方程式

mz + γz + kz = Fext + Fint (24)

が成り立つただしγ はカンチレバーの変位速度に比例する減衰定数を表し相互作用力はFint gt 0を斥力とする相互作用力がないとき (Fint = 0)カンチレバーに角周波数 ω振幅 Aの外力 Fext = Aext cosωt を加えると定常解 z(t) = A cos(ωt + φ) の振幅 A と位相 φ は以下のように求まる

A =Aextradic

(mω2 minus k)2 + γ2ω2(25)

φ = tanminus1( γ

mω2 minus k

)(26)

16 第 2章 原子間力顕微鏡の基礎

FintFext

m

z

0

kModelling

図 26 カンチレバーの調和振動子モデル

A φの外力の角周波数依存性を図 27の (1)に示すγ radic

kmが成り立つとき

f0 equivω0

2πequiv 1

radickm

(27)

で与えられる f0(ω0)を (自由振動時の)共振 (角)周波数と呼びこの周波数で振幅 Aは最大値を取る4また振幅が最大値の 1

radic2 倍となる角周波数 ωplusmn(ω+ gt ωminus) を用いてカンチレバーの Q

値 QがQ equiv ω0

ω+ minus ωminus=

mω0

γ(28)

のように定義できる図 27に示すような共振周波数 f0 および Qで特性付けられる振動特性のことを Qカーブと呼ぶ次に力勾配 kint = minus partFint

partz を用い微小な相互作用力 Fint = minuskintzが働いていると考える5kint gt 0

の場合試料近接時 z lt 0に対し Fint gt 0のため斥力領域に対応しkint lt 0は引力領域のモデルとなる式 (24)の kを k + kint に置き換えることで力が働いているときの共振周波数

f0prime =1

radick + kint

m(29)

が得られQカーブは引力領域では (2)斥力領域では (3)のように変化するDynamic-modeではこの Qカーブの変化に伴う励振特性の変化を検出することで探針ndash試料間相互作用力が働いていることを検知する

243 振幅変調方式 AFM (AM-AFM)

AM-AFMは探針ndash試料間相互作用による Qカーブの変化を振幅の変化から検出する手法の AFM

である微小な探針ndash試料間相互作用力 Fint = minuskintzが働いているとき式 (25)は

A =Aextradic

(mω2 minus k minus kint)2 + γ2ω2

sim Aextradic(mω2 minus k)2 + γ2ω2

[1 + kint

mω2 minus k(mω2 minus k)2 + γ2ω2

](210)

となるため振幅変化 ∆Aは

∆A sim kintAext(mω2 minus k)

[(mω2 minus k minus kint)2 + γ2ω2] 3

2(211)

4 厳密には共振周波数は 12π

radickm minus

γ2

2m2

5 定数値は釣り合いの位置をずらすだけなのでここでは無視する

24 AFMの動作モード 17

0

99 100 101

Am

plitu

de [arb

unit]

Frequency [kHz]

-180

-90

0

99 100 101

Phase [deg]

Frequency [kHz]

(a) (b)

f0

f0(1)

(1)

(3)(2)

(2)

(3)

図 27 カンチレバーの共振周波数付近の振動特性 (Qカーブ)((a)振幅(b)励振信号に対する位相)パラメータとして f0 = 100 kHz Q = 300 を用いており相互作用が (1) なし(2) 引力kint = minus0005k(3)斥力 kint = 0005kのときの Qカーブを表す

Topography

Feedbackcontroller

RMS

Scanner

LD PSPD

PZT

FG

図 28 AM-AFMの装置構成図

と力勾配に比例することが分かるただし近似として kint の 1次項のみを扱った実際の動作では一定の周波数で振動しているカンチレバーの振幅減少を試料への近接とみなし減少した振幅が一定となるように高さフィードバック動作を行うAM-AFMでは図 22の引力領域と斥力領域を行き来するように Tipが動くためコンタクトモードが「接触している」のに対し「間欠接触モード(Intermittent-contact mode)」または「タッピングモード (Tapping mode)」とも呼ばれる6図 28に AM-AFMの装置構成を示すファンクションジェネレータ (Function generator FG)で生成した交流信号をピエゾ素子 (PZT) に入力しカンチレバーを励振する (強制振動)カンチレバーの変位信号を二乗平均平方根 (RMS)回路で振幅信号に変換し振幅が一定になるようにフィードバック回路から Zスキャナに出力する本研究では強制振動の周波数としてカンチレバーの Q

カーブにおける最大振幅の約 07倍となる (共振周波数より低い)周波数を設定しているまたカンチレバーの振動振幅が約 20 nmp-p となるように FGの振幅を設定している

18 第 2章 原子間力顕微鏡の基礎

Topography

Feedbackcontroller

PLL

RMSAGC

Scanner

LD PSPDPZT

Phaseshifter Comparator

Phase lock

Frequency detectionblock

Self-excitation block

図 29 FM-AFMの装置構成図

244 周波数変調方式 AFM (FM-AFM)

探針ndash試料間相互作用力 Fint = minuskintzが小さいとき (|kint| k)式 (29)より共振周波数シフト ∆f

は∆f = f0prime minus f0 sim

f02k

kint (212)

で表されるように力勾配に比例し引力領域では負の周波数シフトを起こす図 22で示されるように力勾配は探針ndash試料間距離が近づくにつれて大きくなるため共振周波数の変化から探針の試料への近接を検出できるこのように共振周波数の変化を一定にするように探針ndash試料間距離を制御する方式を FM-AFM と呼ぶ図 22 の引力領域で用いられ試料へ非接触な状態で動作するため「非接触 AFM」とも呼ばれる図 29に FM-AFMの装置構成図を示す共振周波数を追跡するため自励発振 (Self-excitation)

回路を用いてカンチレバーを常に共振周波数で励振する図 27から分かるように共振周波数での振動信号は励振信号に対し 90 遅れており振動信号の 90 位相を早めた信号で励振することで共振周波数で振動することになる自励発振回路ではこの位相シフタ (Phase shifter)と自動ゲイン回路 (Automatic gain controller AGC)によって励振が行われている一方周波数の変化は位相同期回路 (Phase-locked loop PLL)により検出している [89]

25 AFMの電流検出応用AFMの探針は非常に微小なためナノスケールのテスタのような応用が期待できるAFMの探針を試料に接触させ探針ndash試料間に流れる電流を測定しまたはその特性の分布図を取得する応用手

6 厳密には変調 (検出)方式と動作方式という定義の違いがあるが本研究では同義に扱う

25 AFMの電流検出応用 19

法を総称して電流検出 AFM(Current-sensing AFM CS-AFM) [90]と呼ぶ本項ではこれまで開発利用されてきた AFM の電流検出応用手法のうち最も基本となる導電性 AFM(Conductive-AFM

c-AFM) およびその応用手法である点接触電流イメージング AFM(Point-contact current imaging

AFM PCI-AFM)について原理と適用範囲を述べる

251 導電性 AFM (c-AFM)

導電性探針と試料の間に直流電圧を印加しながら試料に探針を接触させることで探針ndash試料間に流れる電気特性を測定する手法を c-AFM7と呼ぶSTM でも電流のマッピングは可能であるがc-AFM では AFM をベースとしていることから(1) 確実に接触させ接触力を制御できること(2)絶縁体上の試料においても電流測定できることの 2点において STMよりも優位である特に(2) は絶縁膜上に構築した様々なデバイスやナノスケール構造において電気特性が測定可能であるという点で非常に重要であるナノスケール構造の一例としてカーボンナノチューブ (Carbon

nanotube CNT)の測定が挙げられる [91 92]CNTは長さが数 micromの細長い円筒状の構造をしており直径は単層で数 nm多層でも数 10 nm と非常に微細なため一本の CNT の電気特性を電極間に架橋させて測定するのは非常に困難であることが予想される一方CNTの片端のみ電極に接続するのは後から成膜もしくは電極上に分散させるなど比較的容易に達成できるためc-AFMでCNTのもう一方の端に接触させることで単一の CNTの電気特性測定が可能となる一方(1)の利点を活用し均一に分子が存在する試料に接触させることで接触面積から 1分子あたりの電気特性を評価する試みもなされておりSAM分子の電気特性の鎖長依存性 [93ndash96]やタンパク質の電気伝導評価 [97]も報告されている高分子ナノファイバ [98]や光反応性のタンパク質 [99]に対して光照射時の電流特性測定という応用も行われている

c-AFMには大きく分けて(a)試料上のある一点に接触させ主に電圧ndash電流 (IndashV)特性を取得する方法 (IndashV 測定モード)および (b) 一定電圧をかけながらコンタクトモードで試料上を走査し電流像を得る手法 (スキャンモード)の 2種類あるIndashV 測定モードは上述の CNTの評価の他に有機薄膜 [31 68 70]や細菌 [100]といった幅広い材料に対して用いられている一方スキャンモードはコンタクトモードで走査可能という制限があるため高分子 [98 101] や分子結晶ナノファイバ [102]のような比較的硬い材料に限られている

252 点接触電流イメージング AFM (PCI-AFM)

c-AFMはナノ構造の電気特性測定ができる非常に有用な手法であるがIndashV 測定モードでは 1点ごとの測定のため測定位置の不確定さや接触ごとのばらつきより微細な内部構造の可視化ができないといったデメリットがあるまたスキャンモードもコンタクトモードで走査可能な比較的硬く起伏の少ない試料に限られるこれに対し大阪大学の Otsukaらはこれらの問題を克服する手法としてpoint-by-pointでの接触方法を活用した PCI-AFMを開発した [103]図 210に PCI-AFMの動作概念図を示すPCI-AFM

はAM-AFM (Tapping) による高さフィードバックと c-AFM による電流測定を各点で交互に行う

7 C D Frisbieなど CP-AFM(Conducting probe AFM)と呼ぶ研究グループもあるが基本的に同義である

20 第 2章 原子間力顕微鏡の基礎

(a) Height control (b) Approach (d) Retract(c) IndashV

Cantilever

Electrode

Sample lm

Mode

Movement

FeedbackTapping StaticON Hold

Time

図 210 PCI-AFM の動作概念図時系列の TappingStatic 動作および高さフィードバックのONHoldのタイミングを併記した

手法である(a)まずある測定点において AM-AFMにより探針ndash試料間距離を一定にしこの状態で高さを固定 (Hold)する(b)探針の励振を停止させ探針を試料に一定距離だけ近づけ試料に接触させる(c) 接触状態で探針ndash試料間に電圧を印加しIndashV 測定を行う(d) 探針を試料から離し励振を再開し高さ制御を再開すると共に次の測定点へ移動するこれらの測定を試料 XY平面上の各点で行うことで表面形状と各点での IndashV 特性の位置を完全に対応づけることができるOtsukaらは PCI-AFMを用いることでc-AFMのスキャンモードによる試料構造破壊の問題を解消し単層 CNTの距離依存電流測定を達成した以降PCI-AFMの非破壊性を活かしCNTのバンドル間伝導特性 [104]やバンドル CNT中における単一 CNTの可視化 [105]分子性ナノワイヤ [106107]DNA [108]や DNAベースのナノワイヤ [109]ナノ粒子 [110ndash112]の電気特性評価に用いられてきた一方有機薄膜に対して用いた例は銅フタロシアニングレイン上の報告 [113]の一例に留まるまたCNTや有機薄膜の FET構造においてゲートバイアスを印加した状態での PCI-AFM測定は現在のところ報告されていないこのように PCI-AFMはナノスケールでの電気特性評価に有用な手法である一方で活用範囲としてまだ進んでいない領域がある本研究では新領域活用への障害となる PCI-AFMの問題点について対策を考え新規活用法を模索することも目的の一つと位置づける

26 AFMの静電気力検出応用261 静電気力顕微鏡 (EFM)

AFM で測定される力のうち静電気力を検出する手法を広義の EFM と称する静電気力は探針ndash試料間に印加した電圧のみならず試料の仕事関数試料上の固定電荷や電気的ダイポールなど様々な物性が起因となり変化するそのため報告によってどの物性に注目するかが異なり検出した静電気力の取り扱いも異なるここでは一般化し明確な探針ndash試料間の電位差Vts = Vs(試料電位) minus Vt(探針電位)があると仮定する探針ndash試料間の容量を Cts とすると電位を固定したときの系の静電ポテンシャル UES は UES =

12CtsV2

ES と記述されるこのとき探針が感じる静電気力 FES は斥力を正とするとFES =

partUESpartz =

12partCtspartz V2

ts と記述されるつまりCts が一定であれば Vts の 2乗に比例した静電気力を探針が感じることが分かる

26 AFMの静電気力検出応用 21

しかし探針ndash試料間には 22節で述べたような相互作用力が働いているため電位差を評価するには静電気力による寄与を分離する必要がある原子分子間力の距離依存性が急峻であることを利用してEFM や MFM では Line-by-line で距離を変化させることで静電気力磁気力のみ評価する方法もあるがここでは交流電圧の変調による手法について述べる角周波数 ωm の変調電圧Vac cosωmtを試料 (または探針)に印加すると静電気力は

FES =12partCts

partz(Vts + Vac cosωmt)2

=12partCts

partz

[(V2

ts +V2

ac

2

)+ 2VtsVac cosωmt +

V2ac

2cos 2ωmt

](213)

となりFES の ωm 成分は電位差 Vts に比例することが分かる実際の測定では振幅変化 (AM) または周波数変化 (FM)を測定するため測定量は式 (211)および (212)に従い力勾配 partFES

partz に比例するするとωm 成分は (partFES

partz

)

ωm

=part2Cts

partz2 VtsVac cosωmt (214)

と表される比例係数の part2Ctspartz2 は同一の探針同一の探針ndash試料間距離同一の探針振幅であれば一

定と考えることができるよって振幅変化または周波数変化の ωm 成分をロックイン検出することで電位差に比例する成分を得ることができる

262 ケルビンプローブ原子間力顕微鏡 (KFM)

EFM では電位差に比例したコントラストを得られる一方で電位の実際の値を知るには比例定数のキャリブレーションが必要であるケルビンプローブ原子間力顕微鏡 (Kelvin-probe force

microscopy KFM)8は EFM に零位法を組み合わせることで電位の実際の値を測定することができる AFMの応用手法である

KFMの名前はケルビン法と呼ばれる試料の仕事関数を測定する巨視的な評価手法に由来するケルビン法では既知未知の仕事関数を有する材料の二表面を近接させ振動させた際に発生する交流電流がゼロになるように二試料間に印加する直流バイアスを調整することで未知の仕事関数を測定する同様にKFMでは partFES

partz に比例する測定量の ωm 成分がゼロになるように探針ndash試料間に追加の直流電位 VFB をフィードバック制御する試料上を走査中に随時行うことで表面電位像の測定が実現される

EFMKFMには AFM動作モードおよび変調信号の検出方法で複数の種類が存在する本研究では真空中つまり高 Q 値環境下での測定が簡単であること比較的面内分解能が高いことからFM-AFMをベースとし変調信号を FM検出する手法を用いた以下この手法による EFMKFM

をそれぞれ FM-EFMFM-KFM と呼ぶ図 211 に FM-EFM および FM-KFM の装置構成図を示す詳細なセットアップパラメータは後の章 (4章 KFM 5章 EFM)で述べる

8 KPFMの略称を用いる場合がデファクトスタンダードとなりつつあるが本論文では KFMを用いる

22 第 2章 原子間力顕微鏡の基礎

Topography

EFM signal

Potential

Feedbackcontroller

Frequencydetection

Self-excitationcircuit

Scanner

LD PSPDPZT

Lock-in amp

Bias feedbackKFMEFM

図 211 FM-EFMおよび FM-KFMの装置構成図

27 本章のまとめ本章ではSPM および AFM の成り立ちについて説明した上で基本的な表面形状取得の概要力検出技術および走査技術について説明した近年提案されている様々な AFM応用手法がどのような動作に基づいているかを理解する上で走査方法の面から分類することは必要と考えるまたAFMの動作とくに Dynamic-modeにおけるカンチレバーの励振特性について探針ndash試料間相互作用が働いた場合にどのような変化が生じるのかについて説明したまたこの解析に基づき基礎的な AM-AFMおよび FM-AFMの動作装置について言及した

AFMの応用手法に関して本研究で用いた手法のベースとなる電流検出応用静電気力検出応用について説明した電流検出に関しては従来手法となる c-AFMに対する PCI-AFMの優位性を述べた上でPCI-AFMの OFET評価としての活用が未発展であることを示し新規活用法を模索することを以降の研究の目標点の一つとして掲げるまた静電気力検出に関しては主として用いた FM

方式の EFMKFMについて基礎的な理論技術を説明した以上ではナノスケールの電気的評価が可能な AFMの応用手法について説明したが有機薄膜を対象とした測定にはいくつか未達成または困難な点が存在するPCI-AFMの活用については 3章で装置動作の面から試みることとするまた KFM は面内の相対的な局所抵抗比較に留まる一方プローブ測定のみで測定対象と参照を同時に測定できるような手法を開発することは特に巨視的測定が困難なナノスケールのグレインの電気特性評価を進めていく上で重要であるよって静電気力検出をベースとした新規局所電気特性評価手法に関して4章および 5章で検討を行う

23

第 3章

AFM電流測定法を用いた有機グレインの局所電気特性評価

AFMの導電性探針を用いて直接試料に接触させ電流を測定することで有機材料の電気特性測定がなされてきたことは既に 1章で述べたしかし従来手法のうち非マッピングである c-AFMや多探針 AFMでは測定点が数点に限られ接触位置の同定が不確定という問題がある一方マッピングを行う c-AFM では硬い材料に限定されること接触力の増加による分解能の制限といった問題を有するこれらに対し2章で述べた点接触電流イメージング AFM (PCI-AFM)は非破壊にて構造と電気特性の同時マッピングを行うことが可能であり少数単一グレインスケールにおけるTLMとなりうることが期待されるがその適用には課題が二点ある一点目は有機半導体の電気特性評価では必須となる真空中での測定が困難であることであるこれは AM-AFMをベースにしていることに加えて後述の探針励振停止再開動作が関わっており真空中では非現実的な測定時間が必要となる二点目はこれまで PCI-AFMは 1次元系材料での評価が多く有機半導体薄膜のような薄膜試料での報告例がほとんどないことである1次元系と異なりOFETのような薄膜試料では電流広がりなどを考慮した測定結果の解析が必要となる以上を踏まえ本章では PCI-AFMの真空動作化および OFET評価に適した動作確立システム構築を通してOFET中の様々な局所電気特性を選択的に評価するナノスケール TLMへの活用を目標とする

31 OFET評価に適した電流測定法の検討252節にてPCI-AFMはナノ構造の電流マッピングに非常に有用な手法であることを説明した

PCI-AFM を有機グレインの OFET 評価に適用するにあたり信頼性のある安定した測定に向けて検討しておくべき項目がいくつか存在する本節では「真空動作」「接触圧」の観点から PCI-AFM

の改良に取り組む

24 第 3章 AFM電流測定法を用いた有機グレインの局所電気特性評価

Phaseshifter

Oscillator

Excitation

Variablegain amp

z(t)

Ge-jθ

図 31 Q値制御回路のブロック図

311 PCI-AFMの真空動作化 (Q値制御法)

242節で説明したとおりカンチレバーの運動は式 (24)にて記述されるここでt = 0で外力が 0になったときの過渡応答を考えるFext = Fint = 0よりz(t)の特性解 λは 2次方程式

mλ2 + γλ + k = 0 (31)

を解くことでλ = minus1

τplusmn jω (32)

と求まるここでτ = 2mγ =

2Qω0ω = ω0

radic1 minus ( 1

2Q )2 であるカンチレバーが t lt 0 では z(t) =

A cosωtで振動しているとするとt ge 0でのカンチレバーの運動は

z(t) = Aeminustτ cosωt (33)

という時定数 τ の減衰振動解になるつまりカンチレバーの振幅変化に要する時間は Q に比例する本研究で用いているカンチレバー (Olympus OMCL-AC240TM-R3) の典型的な共振周波数は f0 = 70 kHz でありQ 値は大気中では数 100 なのに対し真空中では 2000 を超える例として振幅が減衰開始時の 01 倍となる時間 minus ln(01)τ sim 23τ を振動停止開始の所要時間と考えると256 times 256点で振動停止開始それぞれで 23τ必要となり測定に必要な時間は待ち時間だけでも数時間に及ぶためドリフトの影響を考えると真空中での PCI-AFM測定は非現実的であることが分かるまたPCI-AFM では振幅変化を検出する AM-AFM をベースとしているが同じ理由でAM-AFMは一般的に真空中での測定は不向きであることもPCI-AFMの真空中測定を困難にしているそこでPCI-AFMの振動停止再開動作を真空中でも可能にするために本研究ではAnczykowski

らにより提案された Q値制御法 [114]を用いるQ値制御回路のブロック図を図 31に示すQ値制御法ではカンチレバーの変位信号1z(t) = Aejωt にゲイン G および位相シフタ eminusjθ を介した信号を励振信号に加えるこの信号成分は z(t)に対する in-phase out-of-phaseを分けることで

Geminusjθz(t) = (G cos θ)z +minusG sin θω

z (34)

と表されるため運動方程式 (24)の γ を γprime = γ + Gω sin θk を kprime = k minusG cos θ に置き換えること

で同様の議論ができるつまり運動方程式 (24)および Qカーブを表す式 (25)は次のように表さ

1 簡単のためフェーザ (Phasor)で考える最終的に実部を取ることで実信号とする

31 OFET評価に適した電流測定法の検討 25

0

5

10

695 70 705

Am

plitu

de [nm

]

Frequency [kHz]

0

1=10-3

2=10-3

5=10-3

G Pѱ0

2

図 32 Q 値制御法を用いた場合の Q カーブの理想的なゲイン G 依存性 f0 =ω02π = 70 kHz

Q = 2 times 103 Aextk = 5 times 10minus3 nm

れる

mz + γprimez + kprimez = Fext (35)

A =Aext

kω2

0radic(ω2 minus ωprime20 )2 + (ωωprime0Qprime)2

(36)

但しQ値制御後の (見かけの)Q値 Qprime および共振周波数 ωprime0 をそれぞれ

Qprime =mωprime0γprime ωprime0 =

radickprime

m(37)

としたここで位相シフト量を θ = π2に設定すると Gを増加させるに従い γprime が増加することが分かるこのとき理論上の Qカーブの変化を図 32に示すこのようにQ値制御法を用いることで見かけの Q値 Qprime を減少させることができる2実際に真空中 (lt 10minus3 Pa)でカンチレバーの励振 (発振器からの信号)を 5 msごとに開始停止させた際に従来通りの強制励振と Q値制御法を用いた場合のカンチレバーの動作を比較したものを図 33に示すただし典型的な共振周波数が f0 sim 70 kHzであるカンチレバーを用いたQ値制御前では Q sim 2000であり上述の振動停止開始時間は 23τ sim 21 msとなり図 33(a)のように 5 ms

では完全には振幅が収束していないことがわかるQ 値制御法により見かけの Q 値を Qprime sim 100

まで減少させた結果振動停止開始時間は 23τ sim 1 msとなり図 33(b)のように励振停止時に完全に停止している様子が見て取れるPCI-AFMの振動停止再開動作に要する時間を減少でき全体の測定時間が現実的なスケールとなるまた見かけの Q値を減少させたことによりAM-AFM

の動作も大気中と同等の設定で可能となる

パラメータ設定の問題点と改良した設定方法 本研究では研究室で作成された Q値制御回路 [78]

を用いFGとして Yokogawa FG120を用いたここで自家製の Q値制御回路では φおよび Gを手動でしか変更できないため次のような問題が生ずる図 34に G = 001mω2

0 における周波数および位相シフト量に対する振幅の変化を示す周波数が正しく共振周波数に合っている場合は位相 θ を変えると θ = π2で振幅が最小値となるしかし周波数がずれている場合に振幅が最小

2 本来の用い方は Q値の小さいとき検出感度を上げるために θ = minusπ2に設定することで Q値を増加させて用いる

26 第 3章 AFM電流測定法を用いた有機グレインの局所電気特性評価

ON OFF ON OFFExcitation

5 ms Time

200 mV(~7 nm)

(a) conventional

(b) with Q-control

Deection signal

Q ~ 2000

Qrsquo ~ 100

図 33 真空中でカンチレバーの励振を 5 ms ごとに開始停止させた際のカンチレバー変位 (Deflection) の包絡線 (振幅) 時間波形(a) Q 値制御法を用いない従来の強制励振の場合(Q sim 2000)(b) Q値制御法を用いた場合 (Q sim 100)の包絡線とカンチレバーの動作イメージを示している

695 70 705

Frequency [kHz]

0

90

180

Phase [deg]

01

1

10

Am

plitu

de [nm

]

Minim

um

Resonance

Resonance

図 34 G = 001mω20 における周波数および位相シフト量に対する振幅変化矢印は共振周波数

探索rarr最小振幅となる位相探索の順にパラメータ探索する場合のパラメータ軌跡

となる位相は π2とは異なるそのため例えばパラメータの設定を共振周波数探索rarr振幅最小位相探索の順に行ってしまうと図 34のように最適な位相 π2に到達できず同じ設定値をループすることになるこれを回避するためには位相およびゲインを変えながらも常に共振周波数をトラックする必要があるそのため本研究では FG120の GP-IB3通信および LabVIEWを用いて任意の周波数レンジおよび掃引速度で連続的に FGの周波数設定値を掃引できるようなプログラムを作成したこれにより効率的に Q値制御回路の位相設定を行えるようなセットアップとなっている

312 接触状態の検証導電性探針を用いた電流測定は探針ndash試料間に流れる電流が測定値となるためその接触状態が測定値に大きく影響を与えることが懸念されるしかし報告により用いている探針の材料ばね定数または対象とする試料や実際の接触力などの測定条件が異なるため本研究でも独自に影響評

3 General purpose interface bus短距離デジタル通信バス仕様である IEEE 488の実装であり計測器制御に用いられる汎用接続形式である

31 OFET評価に適した電流測定法の検討 27

HOPG

Conductivecantilever

図 35 導電性探針による接触電流評価の模式図

0

50

100

150

0 5 10 15 20 25

5HVLVWDQFHgt0ї

)RUFHgtQ1

OriginalOvercoated

(c)

-100

-50

0

50

100

-1 0 1

ampXUUHQWgtQ$

LDVgt9

(a) Original

0 nN4 nN

10 nN

14 nN19 nN23 nN

-100

-50

0

50

100

-1 0 1ampXUUHQWgtQ$

LDVgt9

(b) Overcoated

4 nN7 nN

10 nN

13 nN16 nN

図 36 導電性探針ndashHOPG系の接触電流測定結果(a)市販コート探針(b)再コート探針を用いて測定された IndashV 特性(c) +15 Vにおける接触力と抵抗値の関係

価することが望ましいそこで接触力評価として導電性カンチレバーを導電性の平坦試料である高配向パイログラファイト (Highly oriented pyrolytic graphite HOPG)に接触させ電流測定を行うとともに探針の試料への接触面積の見積もりを試みた導電性探針として(1)市販の PtIrコート済みカンチレバー (Olympus OMCL-AC240TM-R3)(市販コート探針と呼ぶ) および (2)OMCL-AC240TM-R3 の Tip 側にスパッタリング装置を用いて約20 nmの Ptを堆積させたカンチレバー (再コート探針と呼ぶ)を用いた再コート探針は市販コート探針よりも Tip上への堆積量が多く先端曲率半径の増加が懸念されるがより長時間多回数の接触に耐えうることが見込まれるためその電気特性の差異がないことを確認する図 35のセットアップにおいて以下のプロセスで測定を行った

1 探針ndash試料間のバイアス電圧を 0 V としコンタクトモードにおいて Reference を徐々に上げ探針をわずかに HOPGに接触させる

28 第 3章 AFM電流測定法を用いた有機グレインの局所電気特性評価

表 31 探針接触半径の見積もりに用いた各材料の物性値

材料 ヤング率 ポワソン比

Pt [118] 168 GPa 0377

HOPG [119 120] 365 GPa 025

2 ある分量ずつ Referenceを増加させることで接触力を増加させ各接触力において plusmn15 Vの三角波 (2 s)を 5回印加

3 測定時のカンチレバー変位IndashV 出力をデータロガーで取得し「カンチレバーばね定数(2 Nm)times(接触時の変位 minus 非接触時の変位)別途測定した変位検出感度 (nmmV)」を接触圧とした

図 36に IndashV 特性および +15 Vでの抵抗値の接触圧依存性を示す市販コート再コートどちらの探針においても接触力の増加に従い電流が増加したまたIndashV 波形が非線形である原因として探針先端または試料表面の不純物やPtndashHOPG間接触の本来の特性が考えられる図 36(c)よりどちらの探針も比較的同等の特性を持っており以降では再コート探針でも市販コート探針と同様に使用可能としたまた接触力が 10 nN付近で抵抗値がある程度収束しており接触電流測定に必要な接触力の目安は 10 nNと見積もられるこの接触力は過去の c-AFM [115]や PCI-AFM [103104]

の報告における設定値と同程度である次に接触面積の見積もりを行う無機材料での探針接触電流測定では一般に 2体の付着を考えない Hertz理論を用いて評価されるが [116]有機物など付着のある系では JKR理論を用いて評価する必要がある [92]JKR理論では曲率半径 Rt Rs の 2体が接触力 F で接触するとき接触半径 a

は次のように表される [117]

a3 =34

Rlowast

Elowast[F + 3πRlowastWts +

radic6πRlowastWtsF + (3πRlowastWts)2

](38)

但しWts は 2体の付着仕事 (凝着エネルギー)Rlowast は実効曲率半径 Rlowastminus1 = Rminus1t + Rminus1

s また Elowast は実効ヤング率を表しサンプル (s)探針 (t)それぞれのヤング率を Es Etポアソン比を σs σt とおくと Elowastminus1 = (1minusσs

2)Esminus1 + (1minusσt

2)Etminus1 で与えられるここで式 (38)の根号内が F gt minusFad で 0

以上となる場合Fad は吸着力を表し

Fad = minus32πRlowastWts (39)

で与えられるよって式 (38)は

a3 =34

Rlowast

Elowast(radic

F + Fad +radic

Fad)2 (310)

と簡略化されるPt 探針を HOPG に接触させた場合を想定する試料が無限平面と仮定できるため Rlowast = Rt であり探針の曲率半径として OMCL-AC240TM-R3の公表値 15 nmを用いる材料のヤング率ポアソン比として表 31の値を用いると吸着力 Fad が 10 nNのときの接触力と接触半径の関係は図 37

のようになる探針の曲率半径は 10 nmを超えているものの接触半径は数 nmに留まることが分かるまた接触力 10 nN付近では微小な接触力の変動に対する接触半径の変動は 1割に満たないことも式から求まる

32 マルチグレイン有機薄膜の複数雰囲気中測定 29

0

1

2

3

4

-10 0 10 20 30

Con

tact

radi

us [n

m]

Contact force [nN]

図 37 吸着力 Fad = 10 nNのときの接触力と接触半径の関係(Rlowast Rt = 15 nm)

図 38 ペンタセンの分子構造式

32 マルチグレイン有機薄膜の複数雰囲気中測定有機半導体薄膜の電気特性は雰囲気により大きく変化するがその影響にはグレイン境界やグレイン内部など複数の局所物性が関わっているため従来の大面積の電極を用いた測定では議論が不十分である一方局所電気特性測定に有用と考えられる PCI-AFMは原理上真空中での動作が困難でありまたこれまで OFETの評価に用いられたことはなかった本節では 311節で真空動作化を施した PCI-AFMを使用しペンタセンのマルチグレイン薄膜を対象に局所電気特性測定を行い大気の影響を抑えた材料本来の特性測定を行う同時に大気真空の両雰囲気中で評価することで特定の局所構造に対する大気の影響を評価する

321 測定試料ペンタセン 測定試料としてペンタセンのマルチグレイン薄膜を用いたペンタセン (C22H14)は図 38のようにベンゼン環が 5つ縮合した構造をもつアセン系 π共役分子であり最も基礎的な p

型有機半導体の 1つとして知られる真空蒸着による簡便な成膜によっても 1 cm2(Vs)という比較的高性能な移動度を有することで知られている [30 121]そのため金属ndash有機分子界面評価のベンチマーク [39]という基礎的なことから論理回路 [21]という応用的なところまで幅広い研究に用いられている一方ペンタセンの真空蒸着により成膜すると一般にグレインが多数連なったマルチグレイン薄膜となるこれは蒸着条件や絶縁膜の表面処理を変化させても最大で数 microm程度の大きさにしかならず [29 122]OFETを作製すると多数のグレイン境界を通ることになるグレイン境界により制限された OFETの電気特性および移動度の評価が四端子法により行われているものの [32]影響を平均した評価にならざるを得ないよって本研究でもペンタセンのマルチグレイン薄膜を試料として用い過去の報告の知見を活かしつつPCI-AFMの利点を活かした特定のグレイン境界評価に臨む

30 第 3章 AFM電流測定法を用いた有機グレインの局所電気特性評価

SPM solution

Waferchip

LOR 3B

Au

S1813UVozone

UV

Photomask

(1) SPM cleaning (2) UVozone cleaning (3) Spincoat amp bake (4) Resist coating

(5) UV exposure(6) Development(7) Deposition

(9) EB resist (10) EB lithography (11) Development

(14) Deposition

(12) Deposition

(8) Lift-oamp cleaning

(13) Lift-oamp cleaning

eminus eminusPtZEP 520A

Organic lm

UV

litho

grap

hyEB

lith

ogra

phy

図 39 測定試料の作製手順の模式図

試料作製手順 測定試料は以下のプロセスにより作製した図 39に手順全体の模式図を示す

1 表面に 100 nmの熱酸化膜 (SiO2)を有する高ドープ n型 Siウェハを用い硫酸ndash過酸化水素水 (SPM)洗浄を行う

2 紫外線 (UV)露光をし (UVオゾン洗浄)表面を親水化する3 LOR3Bを 4000 rpmで 45秒スピンコートし190Cで 5分ベーク4 UVレジスト S1813を 5000 rpmで 30秒スピンコートし115Cで 1分ベーク5 マスクアライナーを用いてUV露光を 3秒行いマスクパターンを転写6 現像液MICROPOSIT CD-26に 1分程度浸漬することで現像7 真空蒸着装置を用い1 times 10minus4 Pa以下の高真空下で Crを電子線 (EB)加熱により 3 nmAu

を抵抗加熱により 50 nm蒸着8 Remover1165でリフトオフを行い続いて UVオゾン洗浄9 EBリソグラフィ用のレジスト ZEP 520Aを 1500 rpm60秒の条件でスピンコートし160C

で 5分ベーク10 ギャップ幅 100 nmギャップ長 300 nmの条件で EB描画11 EBレジストの現像液 ZED-N50に 2分浸漬することで現像

32 マルチグレイン有機薄膜の複数雰囲気中測定 31

12 スパッタリング装置により Ptを約 5 nm堆積13 Remover1165によるリフトオフ続いてイソプロパノール (IPA)蒸気洗浄および UVオゾン洗浄

14 真空蒸着によりペンタセンを約 01 nmminの蒸着レートで 10 nm堆積

(3)から (8)の行程は UVリソグラフィ(9)から (13)の行程は EBリソグラフィに対応する

322 装置構成PCI-AFM測定時の装置構成を図 310に示すAFMコントローラとして日本電子製 JSPM-4200

を用いFG1 (Yokogawa FG120)からの励振信号で AM-AFMを動作させている真空中では Q値制御装置を用いたQ 値制御回路使用時は安定した励振を行うために不要な高調波を除去するローパスフィルタ (Low-pass filter LPF)を挿入した電気回路部については試料上の電極 (Drain)に定電圧 (VD)を印加しSi基板 (Gate)にゲートバイアス (VG)として FG2 (Tektronix AFG320)から任意波形を出力した試料ndash導電性探針間を流れる電流 (ID) はカンチレバーホルダー直結の低バイアス電流な自作電流アンプ (109 VA) で検出し電流信号はデータロガー (Keyence NR-500 NR-H08)で測定全時間に渡り取得した

Point-by-point動作は AFMコントローラに備わる「MFMモード」を利用したMFMモードでは256 times 256点の各点で10 ms毎にフィードバックモードとホールド (高さ固定)モードを切り替える本来の MFMモードは MFM測定のために試料から離れる (Lift)方向にしか動かせない本研究で用いた AFM コントローラは研究室で改造が行われており外部から直接高さの変調信号 (Z-mod)

を加えられるようになっている [78]高さ変調信号は FG3 (Tektronix AFG320) から出力した信号を minus20 dB減衰器に通した上で Z-modに入力したまたフィードバックモードとホールドモードに同期した信号が JSPM-4200 の PR2 端子からLIFT 信号として出力されているこの信号に FG1 FG2 FG3 を同期させることで point-by-

pointでの振動電圧印加接触動作が可能となる図 311のタイムチャートは測定点の移動 (X)カンチレバー変位 (Deflection)Lift信号それぞれの FGの時間波形と動作タイミングを示している1点当たり 20 ms (=1 period)を要し一定時間フィードバック動作を行ったのちホールドモードとなりLift信号が off状態になるFG1 (Excitation)はこのLift信号が on状態のときのみ出力する GateモードとしているFG2および FG3は Positive edgeの Triggerのみ受け付けるためLift

信号を Not回路に通した上で FG2と FG3の Triggerに入力したFG3の電圧値は実際に接触しているときの Defletion変化 (∆z)から計算される接触力が 10 nN程度になるよう調節した結果表示で 06ndash08 Vとなった

323 大気中 PCI-AFM評価大気中でペンタセン薄膜に対し PCI-AFM測定を行ったVD = minus2 Vとし接触中に VG を minus1 V

から minus5 Vへ変化させながら測定した図 312(a)は PCI-AFMで同時測定された表面形状像であるより大きい範囲の表面形状像から推定した電極の位置を点線の枠で示しているPCI-AFMでは各点でカンチレバーの振動停止再開をしていることから探針ndash試料間距離が不均一になることが懸念さ

32 第 3章 AFM電流測定法を用いた有機グレインの局所電気特性評価

RMS

Data logger

Feedbackcontroller

Scanner

LDPSPD

Q-controller

AFM controller

PZT

FG1

FG2

FG3

Z-mod

Gate

Lift

InsulatorGate

VD

IndashV amp

-20 dB

LPF

Deection

Current Trigger

図 310 真空動作 PCI-AFMを用いた OFET電気特性測定時の装置構成図

Deection

LiftZ hold Z hold

FG1 (excitation)

FG2 (VG)[100 Hz]

FG3 (Z-mod)[501Hz]

X

1 period = 20 ms

-5 V

[period]

[period]

0 01 09 1

001

02095

1

Time

Gate

Trig

Trig

Δz

図 311 PCI-AFM測定の各信号のタイムチャート

32 マルチグレイン有機薄膜の複数雰囲気中測定 33

100 nm0

30

[nm

]

Electrode

(a)

10

0

I D [n

A]

(b) AB

C

VG iuml V

(c)

iuml V

(d)

iuml V

(e)

iuml V

(f)

iuml V

図 312 マルチグレイン薄膜の大気中 PCI-AFM 測定結果 (VD = minus2 V)(a) Pt 電極に接続したペンタセン薄膜の表面形状像(b)ndash(f) VG = minus1 minus2 minus3 minus4 minus5 Vの電流値で再構成した電流 (ID)像図中の矢印はグレイン境界太点線はグレイン A B Cの範囲をそれぞれ表す

れるが表面形状像からはドット状ライン状のノイズは見られないことから安定して動作していることが分かる図 312(a)より多数のペンタセングレインが電極に接続していることがわかり薄膜中の「谷」部から矢印で示すようなグレイン境界が見て取れるここでペンタセン薄膜内にいくらか平坦な領域が存在しているSiO2 のような非活性な基板上で成膜したペンタセン薄膜は 1

軸配向性を示すことがこれまでも多く報告されており今回のペンタセン薄膜においても分子長軸を基板に対して立てて配向していると考えられる図 312(b)ndash(f) はそれぞれ VG = minus1 V からminus5 V

の電流値を抽出し再構成した電流像であるまず電極付近は電流値の大きい地点が多くまた VG の印加により大きな変化はない一方赤色の点線で囲ったグレイン A B C についてはVG = minus1 V

の電流像では暗いままつまり電流が小さいのに対しVG = minus5 Vの電流像では接続している膜部分と同等の電流値を観測しているこのように負のゲートバイアスの印加に従う電流の増加は p型有機半導体を用いた OFET の特徴であるこれはPCI-AFM を用いて有機半導体薄膜の各点で構成した局所 OFETの特性を測定した初めての例であるグレイン毎の違いを詳しく見てみると図312(b)のグレイン Bでは少しだけ電流が流れているがグレイン A Cはほぼ電流が観測されていないまた図 312(f)ではグレイン Aはグレイン Bと同程度の電流値になったもののグレインCは他の 2つに比べて電流が小さいこのような電流増加傾向の違いがグレイン毎に現れていることはこのペンタセン薄膜においては電気特性がグレイン境界によって大きく制限されていることを示している

324 真空中 PCI-AFM評価および雰囲気比較前節ではグレイン A Bと連続して接続しているグレインに関してゲートバイアス特性 (IDndashVG)が異なるという興味深い結果が得られたそのため評価対象をこのグレイン A Bに限定してより狭い範囲で測定することでより詳細な評価を行う図 312(a)の矩形範囲について真空中で PCI-AFM

34 第 3章 AFM電流測定法を用いた有機グレインの局所電気特性評価

0

30

Electrode50 nm

(a)

[nm

]

2

0

I D [n

A]

A

B

(b)

VG = 0 V

(c)

VG iuml V

(d)

VG iuml V

(e)

VG iuml V

(f)

VG iuml V

図 313 マルチグレイン薄膜の真空中 PCI-AFM測定結果 (VD = minus2 V)(a)表面形状像(b)ndash(f)VG = 0 minus1 minus2 minus3 minus5 Vにおける電流 (ID) 像図中の矢印はグレイン境界太点線はグレインA Bの範囲をそれぞれ表す

測定を行ったVD = minus2 VのままVG として 0 Vから minus5 Vの Ramp信号を用いた図 313に真空中の PCI-AFM測定で同時に得られた表面形状像 (a)および VG = 0 V minus1 V minus2 V minus3 V minus5 Vにおける電流像 (b)ndash(f)を示す大気中の結果と同様に滑らかな表面形状が得られておりQ値制御を用いることで真空中でも安定した PCI-AFM動作が実現できていると考えられる図 313(b)ndash(f)から大気中の結果同様に VG の印加に従い電流増加が見られているまたグレイン Bは VG = minus2 Vから minus4 Vにかけてグレイン Aは VG = minus1 Vから minus3 Vにかけてというように電極から近いグレイン順に電流増加が始まることが明瞭に観察された図 314に大気中真空中 PCI-AFMで得られた結果のうち図 313(a)の矩形領域で示す同一グレイン上の結果を比較したものを示す図 314(a) (b)の表面形状像から同一位置であることを推定した但し横軸を電極からの距離と取るために図 313に対し 90 回転させておりまた測定時の熱ドリフトの違いやスキャナのクリープの影響により像のサイズは若干異なっている図 314(c)

(d)は表面形状像の実線に沿った IDndashVG 特性を電流値マップとしてプロットしたものであり横軸が表面形状の実線の位置に対応する但し元の電流像から 64 times 64ピクセルに周辺の最大値を取るようダウンサンプルした上で表面形状像の実線に対し 10ピクセルの幅で平均した電流値を用いている電流値マップから電極上は VG による明確な電流変化はなくグレイン上での電流は VG により変化していることが明瞭に観測できる特に点線で示されているグレイン B Aの境界で電流マップのコントラスト変化が見て取れ電流マップにより IDndashVG 特性の変化が容易に確認できるといえるまた図 314(e) (f)は (c) (d)を見かけの抵抗値 RD = |VDID|として変換したものであるりいくつかの VG についてプロファイルをプロットしたこの RD は位置に伴う抵抗の積算値と考えることができるここで距離による抵抗の増加は明瞭には観察されなかったが一方でグレインBよりも一つグレイン境界を跨ぐグレイン Aで抵抗値が大きく増加しておりここからもグレイン内部よりも AndashB 間グレイン境界が OFET としての電気特性を大きく左右していることがよく分か

32 マルチグレイン有機薄膜の複数雰囲気中測定 35

0 1 2 3 4 5 6

RDgt

ї

VG=-1V

-5V

-2V

B

Electrode A

-3V

0

10

20

30

40

50R

Dgt

ї VG=0V

-1V

-2V-3V-5V

B A

Electrode

-1

-5

V Ggt9

+1

-5

V Ggt9

In air(a) (b)

(c) (d)

(e) (f)

In vacuum

Elec

trode

Elec

trode

10

0

I DgtQ$

4

0

I DgtQ$

図 314 同一グレインにおける (ace)大気中(bdf)真空中の PCI-AFM結果比較(a) (b)表面形状像(c) (d)表面形状像の実線に沿ったゲートバイアス依存の電流値マップ(e) (f)各ゲート電圧値に対する電流値より計算した見かけの抵抗値プロファイル左から右に進むに従い接触時の電極からの距離が遠くなる図中の A Bは図 312 313におけるグレイン A Bの領域に対応する

るAndashB間グレイン境界による特性への影響をより詳しく評価するために図 314のグレイン A

B上で平均した IDndashVG 特性を図 315(a)に示すFETの IDndashVG 特性は電流の立ち上がりがしきい値電圧 Vth に対応する図 315(a)を見ると大気中真空中共にグレイン Aの Vth がグレイン Bに対して負電圧にシフトしていることがわかるこのことは図 312および図 313で見られたようにグレイン毎に OFETの動作が ldquoONrdquoになることを再度示しているといえる一方傾きに対応する伝達コンダクタンス partID

partVDはグレイン A Bで大きな違いはなかった過去のペンタセン OFETに関

する研究においてもグレイン境界がしきい値電圧を負にシフトさせている報告があり [27 28]今回の測定も妥当な結果が得られていると考えられる一般的にしきい値電圧は深いトラップ準位一方しきい値電圧以降の伝導特性は浅いトラップ準位が影響するといわれている [54]このことを踏まえるとグレイン境界は深いトラップ準位リッチと考えられるグレイン境界とトラップの関係はこれまでも指摘されてきたものの [123]今回のように単一の特性のグレイン境界においてしきい値電圧シフトを直接観測したことは有機デバイスの電気特性と物性の相関を確かめる上で非常に有意な結果と考える

36 第 3章 AFM電流測定法を用いた有機グレインの局所電気特性評価

0

2

4

6

-4-2 0

I D [n

A]

VG [V]

AirAB

Vacuum

0

100

200

300

400

-20-15-10-5 0

I D [n

A]

VG [V]

AirVacuum

Vacuum

Air

(a) PCI-AFM (b) Reference OFET

図 315 (a)図 314で示したグレイン A B上で平均した大気中 (赤色)真空中 (緑色)の IDndashVG

特性菱型記号丸記号はそれぞれグレイン A Bの特性を表す(b)レファレンスとして作製したチャネル長 200 nmの OFETの IDndashVG 特性

一方雰囲気で比較すると真空中に比べて大気中では全体的に電流値の増加が見られるまたグレイン A の VG = minus1 V が顕著なようにしきい値電圧の若干の正シフトも見られるしかしこれら変化はどちらのグレイン上においても同等の影響となっているこのような電流値の増加は大気中の酸素の影響と考えられており [124ndash126]有機膜に取り込まれた酸素分子が正孔ドープを行うために抵抗が減少し同時にその正孔により若干のトラップ準位も埋めたことでしきい値電圧が正にシフトしたと考えられる電極対を用いたペンタセン OFETを作製し大気中真空中で伝達測定した結果においても同様の電流の増加としきい値電圧の正シフトが見られた (図 315(b))PCI-AFM で測定された OFET 構造では二つのグレインのみが関係するが電極対を用いた測定ではチャネル中に多数のグレインが存在するそれにも関わらず雰囲気による影響で同様の傾向が見られていることは大気中の酸素による影響はグレイン境界よりもグレイン内部や電極ndash有機界面に大きく影響を与えると考えられるこのように複数環境で PCI-AFMを用いられることは局所電気特性評価を行う上で非常に有用だということが示されたと考える

33 単一微小グレイン OFETの特性評価32節では真空動作化した PCI-AFMを用い真空中での PCI-AFM測定が実現されたことを確認したまたグレイン境界が与える OFETの電気特性への影響とグレイン境界が持つ物性について知見を得た一方でグレイン境界により電気特性が制限されていたためグレイン内部の電気特性についての知見は得られなかった本節ではグレイン内部の電気伝導に着目しPCI-AFM測定により単一のグレインの持つ電気特性を抽出評価することを目標とする

331 Point-by-point動作時間間隔の自由化32節の測定では JEOL製 AFMコントローラのMFMモードを利用した point-by-point動作を実現したしかしMFM モードの利用はソフトウェアの制限により最長で 10 ms のホールド時間しか確保できない電圧掃引時間を長くする積算回数を増やすといった測定のためには自由にホー

33 単一微小グレイン OFETの特性評価 37

Lift down

Lift up

Restart excitation

Trigger

Pre-lift Stop excitation

Mesh point

Restart

From controller

100 ms

350 ms

50 ms

200 ms

Measurement period Bias voltage

To controller

FG120 (FG1)excitation

AFG320 (FG3)

GP-IBGP-IB

GP-IB

図 316 PCI-AFM の point-by-point 動作時間間隔を自由に設定するために作成したプログラムのフローチャートFG1 FG3は図 310の FG1 FG3に対応する

ルド時間が設定できることが望まれるそのため研究室で製作された PXI4および FPGA5ベースの AFMコントローラを用いた point-by-point動作用セットアップを構築した図 316に point-by-

point動作のために作成した LabVIEW6プログラム (Externalプログラムと呼ぶ)のフローチャートを示す動作は以下の順序で実行される

1 (External外) AFMコントローラにおいて point-by-point動作点 (Mesh点と呼ぶ)に来た場合フィードバックモードからホールドモードにしプログラム的に Externalプログラムに信号を送る

2 励振停止指示を GP-IB接続した FG1に送る同時に探針を試料に若干近づける (Pre-lift)3 探針を試料に接触させる (Lift down)4 測定用バイアス出力指示を GP-IB接続した FG3に送る5 任意測定時間経過後探針を試料から離す (Lift up)6 励振再開指示を FG1に送る7 AFMコントローラにMesh点動作終了を通知する

AFM コントローラと External プログラムの間の信号伝達は LabVIEW のシェア変数により実現されているそのため完全に同期させた動作は困難であり各プロセス間に図中のとおりのウェイト時間を設けることで各プロセスを完了するように調整した

38 第 3章 AFM電流測定法を用いた有機グレインの局所電気特性評価

Electrode Pentacene grain

SiO2

[nm

]

30

0

50 nm(a)

(b)

[nA]

15

0

(d)

Tim

es

(c)

Electrod

e

0

100

200

0 100 2005HVLVWDQFHgtї

LVWDQFHgtQP

0

05

1

15

ampXUUHQWgtQ$

IA BII III

2 V0 V

iuml9iuml4 Viuml6 Viuml8 V

VG

A B

A B

図 317 ペンタセン微結晶上における PCI-AFM ライン測定結果(a) ペンタセン微結晶の表面形状像(b) (a)の AndashBラインに沿った PCI-AFM測定によって得られた位置および測定回数に対してプロットした電流マップ (VG = minus8 V)(c) (d)各 VG における電流値 (c)および抵抗値 (d)の電極からの距離依存性(c) (d)のプロファイルに対応する表面形状像および AndashBライン領域 I II IIIの位置を (c)のインセットに示す

332 ペンタセン微結晶上の PCI-AFMライン測定321節と同様に作製したペンタセン薄膜試料の表面形状像を図 317(a)に示す321で得られたペンタセン薄膜 (図 312(a))と比べ比較的平坦部分が増しまたグレインの縁が単結晶のように直線的になっている本試料は前節と異なり蒸着中の基板温度を常温から 45Cに上げており蒸着量を約 5 nmとした基板温度の影響はペンタセンのグレイン構造に大きく影響を与えることが指摘されており [122]図 317(a)のペンタセングレインは基板温度を上げたことにより比較的結晶性の良いグレインとなっていると考えられる続いて図 317(a)の AndashBラインに沿って各点 IDndashVG のPCI-AFM測定を行った電極に +3 V各点における基板へのバイアス印加を +5 Vから minus5 Vとすることで実効的に電極がソースカンチレバーがドレインとなるように動作させこのときのドレインバイアス (VD)は minus3 Vゲートバイアス (VG)は +2 Vから minus8 Vと換算できるPCI-AFM測定は同一ライン上を複数回取得した得られた VG = minus8 Vにおける電流プロファイルの測定回数依存を図 317(b)に示す電流マップの上から下にかけて測定回数が増えるが少なくとも 10ラインはほぼ同一の特性が得られていることが分かるよってこの間は探針の変化は小さくまた試料の電気特性変化も起きていないと考え以下の解析では 2ndash8ライン目の計 7ラインを平均した結果を

4 PCI eXtentions for Instrumentation5 Field-programmable gate array6 National Insturments社のグラフィカルプログラミング統合開発環境の名称

33 単一微小グレイン OFETの特性評価 39

Tip Mirror tip

V

Electrode

(a) (b)

VminusV

PE(r)

rArB

x

A(L0)B(-L0)

r

y

0

Tip

図 318 2D伝導の理論的検討(a)電界広がりを考慮した抵抗体内の電界の模式図(b)鏡像電位 minusV を用いて求める場合の模式図電位 V中心点 A(d 0)半径 rの Tip接触部に対して鏡像Tipを電位 minusV中心点 B(minusd 0)半径 r の円と定めることでx gt 0の範囲で (a)と同一の電界分布となる

用いたなお測定の後半では若干電流値の減少が見られておりこの領域では探針の摩耗といった特性変化の影響が考えられる

PCI-AFMで得られた電流プロファイルの VG 依存性を図 317(c)に示す図 317(c)のインセットに位置を対応させた表面形状像を表示しているまず電極端に対応する位置で電流値が最大となっている電極直上ではゲートバイアスによる電荷蓄積の影響が現れにくくほぼペンタセンの真性状態の特性しか現れていないと考えられるため電流値が減少したと考えられる次に電極からの距離が遠くなるに従い電流値の減少が見らるがグレイン内を通る距離が増える分抵抗が大きくなることと合致する最後に絶縁膜である SiO2 上では電流は検知されず漏れ電流やゲートバイアス掃引による影響は排除できていると考える電流プロファイルからはグレイン内で距離が増加するに従い電流が減少する傾向に明確な違いは見受けられないが図 317(d)のように R = |VDID|で変換した抵抗値のプロファイルを見ると傾向の違ういくつかの領域があることが分かる電極からの距離が近い順に領域 I II III と名付けると領域 I は電極端から非線形的に抵抗が増加している一方領域 IIは距離に対して線形に変化しており特に VG lt minus4 Vで顕著である領域 IIIは単調な変化をしていないが対応する表面形状から別のグレインが繋がったものと考え今回の評価からは除外する以下領域 I IIを含むペンタセングレインを微結晶と呼ぶ

333 抵抗の距離依存性の理論数値的検討前節では微結晶上の領域 I IIで異なる抵抗の距離依存性を確認できた本節では特に領域 IIに注目し微結晶本来の特性の抽出を検討する

理論的考察 抵抗率 ρの抵抗体の抵抗を考えるとき最も基本的な伝導は全ての電界が抵抗体内では平行に分布する場合であるX Y Z 方向にそれぞれ長さ L w t の直方体の X 方向の両端に電極を接続する場合の抵抗 Rは

R = ρLwt

(311)

のように電極間距離 L に対して線形に変化するこのような伝導を以下 1D 伝導と呼ぶしかし図 317(a)の表面形状像では微結晶が電極に接触している部分が多く図 318(a)のように電界が平行ではなく平面上を広がる可能性があるこのような伝導を 2D伝導と呼ぶ2D伝導における抵

40 第 3章 AFM電流測定法を用いた有機グレインの局所電気特性評価

抗を求めるため試料をシート抵抗 ρ厚さ 0の抵抗体と考えx = 0で y方向に無限に長い電位 0

の電極および点 A(L 0)を中心とする半径 r電位 V の円を接触している Tipと考え接触電流測定のモデルとする図 318(b)のように点 B(minusL 0)を中心とする半径 r電位 minusV の円を Tipの鏡像を考えるとx gt 0の範囲は求める電界分布と同一であるここで点 P(x y)の位置が点 A Bそれぞれからの位置ベクトル rA rB で表されるときTipおよび Tipの鏡像が作る点 Pにおける電界はそれぞれ定数 λを用いて

EA =λ

2πrA

|rA|2 EB =

minusλ2π

rB

|rB|2(312)

と表される7よって点 Pでの x方向の電界 Ex は

Ex(x y) =λ

[L minus x

(L minus x)2 + y2 minusL + x

(L + x)2 + y2

](313)

であるTipndash電極間に流れる電流を I とすると電極上 x = 0における電界から電流が

I =1ρ

int infin

minusinfinminusEx(0 y)dy

ρπ

int infin

minusinfin

LL2 + y2 dy

ρπ

int π2

minus π2dθ =

λ

ρ(314)

と表されることからλ = ρI と求まる一方Tipndash鏡像 Tip間の電位差は

2V = minusint Lminusr

minus(Lminusr)Ex(x 0)dx

= minusρI2π

int Lminusr

minus(Lminusr)

[1

L minus xminus 1

L + x

]dx

= minusρI2π[log(L minus x) minus log(L + x)

]Lminusrminus(Lminusr)

=ρI2π

log4L2 minus r2

r2 (315)

と表されるため2D伝導の抵抗 R2D は

R2D =ρ4π

log4L2 minus r2

r2 (316)

と求まるL - rのときR2D sim ρ2π log 2Lr となるため1D伝導とは異なり距離に対して対数的に変

化することが分かる過去の SPMを用いた報告として2つの探針を有する STMを用いてポリ 3-オクチルチオフェン

(poly(3-octylthiophene) P3OT) の薄膜の抵抗率を測定した結果がある [128]この報告では非常に広い薄膜を用いているため距離に対して対数的に変化する 2D伝導として記述できることから抵抗率を算出している一方で有機薄膜における探針電流測定において実効的なチャネル幅を見積もることで線形的な変化とみなす試みもなされている [129]しかし有限要素法による解析ではチャネルの存在が仮定されておらずバルク部での電界の広がりとチャネル領域との振る舞いの違いが懸念される

33 単一微小グレイン OFETの特性評価 41

Electrode

(buried)

Bulk (σbulk)

Channel (σch)

Contact area (Tip)

tbulk

L

Lmax

w

teltch

r

図 319 有限要素法による OFETモデルの電界シュミレーションに用いた試料モデル

表 32 有限要素法による OFETモデルの電界シュミレーションで用いたパラメータ印以外は実測に則した値を用いており印はモデル化のため仮定した

Parameter Description Value

tel 電極厚さ 5 nm

tbulk 有機膜厚さ 20 nm

tch チャネル層厚さ 1 nm

w 電極接触幅 100 nm

Lmax 微結晶最大長 100 nm

σch チャネル導電率 1 Sm

σbulk バルク部導電率 01 Sm

r 探針接触半径 5 nm 10 nm

数値的考察 理論的な考察を踏まえ実際の測定系に近いサイズで電界がどのように振る舞うか調べるために本研究でも有限要素法による電界シュミレーションを行った図 319に電界シュミレーションで用いた試料モデルの模式図を対応する用いた各種パラメータを表 32にそれぞれ示す各種パラメータは用いた電極および図 317(a)から求まる概算の実測値を用いている絶縁膜直上の 1分子層にほとんどの電荷が蓄積されることが知られているため [130]チャネル層の厚さは簡単に 1 nmとした図 320に電界シュミレーションで得られた電流密度マップを示すほとんどの電流は速やかにチャネル層に到達しておりまた電極接続幅全体に渡っていることが分かる特に電極端から 20 nm程度は平行にほぼ同じ電流密度で流れているこれは 2D伝導よりも 1D伝導に近いことを示唆する結果である図 321(a)に探針接触径 r = 5 nm 10 nmのときの抵抗距離依存性の計算結果を示すどちらの接触径においても距離に対してほぼ線形に変化していることが明瞭である接触径が 10 nm から 5 nm になることで距離 0 での抵抗がほぼ 2 倍となっている距離 0

7 2次元伝導の場合無限遠点の電位が 0とはならない [127]

42 第 3章 AFM電流測定法を用いた有機グレインの局所電気特性評価

(a)

r = 10 nm L = 80 nm

(b)

Tip

Electrode

50 nm

図 320 OFETモデルの電界シュミレーションで得られた電流密度マップr = 10 nmL = 80 nmのときの結果を示している

0

200

400

600

800

0 20 40 60 80 100

5HVLVWDQFHgt0ї

LgtQP

r = 10nm

r = 5nm

0

5

10

0 5 10

Appa

rent

ѫchgt6

P

5HDOѫchgt6P

FittingCalculation

(b)(a)

図 321 OFETモデルの電界シュミレーション結果(a) r = 5 nm 10 nmにおける抵抗の距離依存性(b) r = 10 nm におけるチャネル導電率を変化させたときの見かけの導電率の変化(a)の 30 nmndash80 nm 間の傾きを dRdL としたとき見かけの導電率は σprimech = (wtch

dRdL )minus1 で記述され

る値

のとき電流経路はほぼバルク部分のみであるため接触抵抗とみなすことができる一方傾きは接触径によりあまり変化していないことから実際の測定における接触径と異なるとしても距離依存性への影響は小さいと考えられるこのように距離に対して線形に変化することから微結晶上のPCI-AFM測定では 1D伝導とみなして評価できるといえる電極付近ではほとんどの電流がチャネル中を流れるとすると微小な距離増加 dLに対する微小な抵抗増加は dR = dL(σchwtch)と記述できるよって抵抗ndash距離依存性の計算結果における傾き ( dR

dL )からチャネル導電率は

σapparent =(wtch

dRdL

)minus1(317)

と計算される図 321(b)にチャネル導電率を変化させた際の計算結果における dRdL から算出した見

かけのチャネル導電率のプロット結果を示す実際のチャネル導電率がバルク導電率に近い場合見かけの導電率は大きく異なるがチャネル導電率がバルク導電率に比べて非常に大きいときは実

33 単一微小グレイン OFETの特性評価 43

0

2

4

6

8

10

12

-8-6-4-2 0 2

S gtQP

ї

VGgt9

ch

101

102

103

104

-8-6-4-2 0 2

WR

pgtNїAtildeFP

VGgt9

(a) Channel conductivity (b) Parasitic resistance

図 322 PCI-AFMにより得られた微結晶上の抵抗の距離依存性 (図 317(d))のうち領域 IIについて TLMで抽出した (a)チャネル導電率 S ch(b)寄生抵抗 Rp

際と見かけの導電率はかなり似通ってくるまた図 321(b)のプロットを線形フィッティングすると傾きは約 09となり dR

dL から計算されるチャネル導電率は実際の導電率とほぼ同等ということが分かった

微結晶のパラメータ抽出 以上の理論数値的検討よりPCI-AFM測定で得られた微結晶の領域IIにおける抵抗の距離依存性は 1次元伝導として解析可能だと結論づけたOFETとチャネル長との関係は非常に深くこれまで多くの研究において 4端子法 [41 53]や TLM [48 131ndash134]を用いた真の OFETチャネル伝導特性評価が試みられてきたこれら手法は OFETの特性に含まれる接触抵抗と OFET本来の特性とを分離するための手法でありOFET特性に由来する抵抗のチャネル長依存性が線形であることを利用しているTLMの方法を以下で説明するOFETの線形領域における特性より全抵抗 Rは

R = Rp +L

wCimicro(VG minus Vth)minus1 (318)

と記述できチャネル長 Lに対して線形に変化する但しチャネル幅 w単位面積あたりの絶縁膜容量 Ciしきい値電圧 Vth移動度 microであるチャネル長を変化させたデバイスを作製すると理想的には L以外のパラメータは一定なため距離依存の線形近似により移動度および切片から接触抵抗 Rp を求めることができるもしくは全抵抗の距離微分の逆数 (チャネル導電率)S ch が

S ch equiv(dR

dL

)minus1= wCimicro(VG minus Vth) (319)

のようにゲートバイアス VG に対して線形に変化することからしきい値電圧も抽出することができるこちらの手法を Gated-TLMと呼ぶこともある図 317(d)の領域 IIのうち電極からの距離 30 nmndash100 nm間についての線形近似で得られたチャネル導電率 S ch および寄生抵抗 Rp を図 322に示す寄生抵抗の影響を排除したにも関わらずチャネル導電率は式 (319)のように VG に対して線形に変化していないそのため移動度がゲートバイアス依存をもっていると解釈できるこのような移動度のゲートバイアス依存は有機層がエネルギーに対して指数的に分布するトラップ準位を有す場合に発現することが知られ半経験的な式

44 第 3章 AFM電流測定法を用いた有機グレインの局所電気特性評価

として次のような形が知られている [135 136]

micro = κ(VG minus Vth)α (320)

指数分布する局在準位と伝導に寄与する準位との間を行き来しながら電荷が通過することでチャネル内伝導が起こるとしたMultiple trapping and release (MTR)モデルではこの移動度のゲートバイアス依存性が解析的に導かれている [137]一方で指数分布するトラップ準位を考慮した電気伝導はアモルファスシリコン (a-Si)を用いた FETで記述された考え方であり [138]非常にトラップが多い系を対象とする式 (320)を考慮した移動度の抽出手順としてσch を 1(α + 1)乗 (α ge 0)しminus3 V le VG le minus8 Vの範囲に対して線形最小二乗法フィッティングを行いフィッティングの確実度(=回帰の平方和総平方和)が最も 1に近くなるような αを最適値とした最適フィッティングパラメータはα = 218でありこのとき Vth = 03 Vκ = 315 times 10minus6 cm2(V1+α middot s)となった過去の報告では αの値は 1程度かそれ以下であり [135 136]本研究で得られた値は大きく異なる一方MTRモデルを考えαをトラップ深さに対応するエネルギーに変換すると 80 meVとなる比較としてペンタセンを用いた OFETにおける活性化エネルギーとしては 20 meVndash40 meVが知られている [2953]またAFMポテンショメトリーを用いたペンタセングレイン内の電位測定からグレイン内部のバンドゆらぎが 20 meV 程度あることが指摘されている以上の結果もやはり本結果よりもエネルギーが小さい値である今回測定した微結晶においてこのようにトラップに対応するエネルギーがこれまでの報告に比べ大きい理由としては以下のことが考えられる第一にOFET

の移動度は有機ndash絶縁膜界面によって非常に影響を受けるということである絶縁膜 SiO2 の表面に塗布するバッファ層の種類により移動度が一桁以上変化する報告もあり [139]本研究では有機ndash絶縁膜界面が比較的トラップリッチだったことが考えられる第二に電極ndash有機界面部分の特性がTLMのみでは排除しきれていない可能性がある図 320の電界シミュレーション結果より電流密度が電極付近で非常に大きくなっていることが分かるそのためたとえ距離依存性からチャネルのみの特性を抽出していたとしても電極付近の特性が特に含まれている可能性がある電極付近は通常のチャネル部よりも活性化エネルギーの高さが指摘されていることからも [53]考慮にいれるべきであろう

334 電極近傍の電気伝導特性本節では図 317(c)の領域 Iに注目する領域 Iは電極からの距離がおよそ 25 nm以内であるがペンタセングレインの厚さが 20 nm程度ということを加味すると電流経路としてチャネルを通らずに探針ndash電極間で直接伝導するものも含まれうるこのとき探針ndash電極間直線距離 Ldirect に応じて増加する抵抗 Rdirect を考えると全体の電流は図 323(a) のように式 (318) で記述される OFET

の抵抗を経由する電流 IFET = VD(Rp + RFET)と直接伝導する電流 Idirect = VDRdirect の和となるただし図では式 (318)の右辺第二項を RFET としたここで図 317(c)における電流距離依存性をLminus1

direct に対する依存性に変換したものを図 323(b) に示すただし電極ndash探針間水平距離 L膜厚tbulk = 20 nmに対して Ldirect =

radicL2 + t2

bulk としたもし Idirect なる成分がない場合1Ldirect が増加しても IFET は VDRp で飽和するその傾向は図 323(b) の領域 II(距離減少に対して IFET 増加) および IIrsquo(IFET 飽和)にあらわれている一方領域 Iに対応する箇所では 1Ldirect に対して増加しておりこの増加する成分が Idirect に対応すると考えられるまた領域 Iの 1Ldirect に対する傾き

34 AFMによる接触電流測定の問題点 45

0

05

1

0 002 004

Cur

rent

[nA]

1Ldirect [1nm]

2 V0 Vndash2 Vndash4 V

ndash6 V

ndash8 VVG

III IIrsquo

Rp

RFET

RdirectIdirect

IFET

Tip

Electrode

(a) (b)

IFET

Idirect

図 323 (a) チャネルを通る伝導 (電流 IFET) に加えて電極近傍における探針ndash電極間直接伝導(電流 Idirect) を考慮した回路モデル(b) 図 317(c) の電流を探針ndash電極間直線距離 Ldirect の逆数1Ldirect に対してプロットしたグラフ領域 I と領域 II (IIrsquo 含む) はそれぞれ図 317(c) のインセットにおける領域 I IIに対応する

VG VD

Cantilever(source)

GrainCarrier

Electrode(drain)

VG ndash VD ndashVD

Cantilever(drain)

Grain

GateCarrier

Electrode(source)

(a) Cantilever-Source (b) Cantilever-Drain

Gate

図 324 カンチレバーのソース動作 (a)ドレイン動作 (b)の模式図とキャリア (正孔)の動きドレイン動作時は固定電極に minusVDゲートに VG minus VD を加える事で(a)とバイアス条件を同じにしながらカンチレバーの接続を変えることなくドレイン動作させることができる

つまり直接伝導の抵抗率は VG 依存性を持っておりVG lt minus4 Vの領域で比較的一定であるIdirect

の電流成分はチャネル部を通過していないのにも関わらずこのような抵抗変調が起きる原因として電極を覆うグレインの存在が考えられる本試料のように電極をゲート絶縁膜直上に形成後有機薄膜を作製するボトムコンタクト型 OFETにおいて電極直上のドーピングによる効果が観測されている [140]これは電極直上の薄膜部分も伝導に関与していることを示しておりVG の印加によるキャリア変調も起こる可能性があるつまり図 323(b)の領域 Iで見られた抵抗率の VG 依存性は電極直上の薄膜の存在が接触抵抗を減少させうることを示唆する結果といえる

34 AFMによる接触電流測定の問題点32節では PCI-AFMの電流マッピングを活用し単一グレインを挟んだ際の OFET特性変化を

33節では PCI-AFMの位置依存性評価を推し進め微結晶のナノスケール TLM評価に適用することで微結晶のみの伝導特性を抽出できた一方ナノスケール TLMでは図 322(b)のように寄生抵抗も抽出でき従来の TLMではこの成分を接触抵抗とするがAFM電流測定では電極ndashグレイン界面の接触抵抗 (電極接触抵抗)だけでなく探針ndashグレイン界面の接触抵抗 (探針接触抵抗)も含む近似的に接触面積が接触抵抗に影響すると考えると探針接触抵抗の方が大きいということが予期

46 第 3章 AFM電流測定法を用いた有機グレインの局所電気特性評価

0

10

20

30

40

-5-4-3-2-1 0C

urre

nt [n

A]VD [V]

VG

ndash10 Vndash5 V

0 V

ndash15 V

-40

-30

-20

-10

0-5-4-3-2-1 0

Cur

rent

[nA]

VD [V]

VG

ndash10 V

ndash5 V

0 V

ndash15 V

Electrode

Pentacenegrain

(a) Topography (b) Cantilever-source (c) Cantilever-drain

Contactingpoint

図 325 カンチレバーをペンタセングレイン (表面形状像 (a) の x 点) に接触させて測定したVDndashID 特性(b)カンチレバーのソース動作時(c)ドレイン動作時

されるここで探針接触抵抗と電極接触抵抗の均衡性について議論するためカンチレバーをソース動作させた際とドレイン動作させた際の特性変化を調べた (図 324)セットアップの都合上カンチレバーには電圧を印加できないため固定電極に minusVDゲートに VG minusVD を印加することで実効的にカンチレバーを OFETのドレインつまりキャリア (正孔)の引き抜き側として動作させた図 325(a)の x点で示すペンタセングレイン上の 1点にカンチレバーを接触させカンチレバーをソースドレイン動作させVG = 0 V minus5 V minus10 V minus15 Vについて IDndashVD 特性を測定した結果をそれぞれ図 325(b) (c)に示す結果よりカンチレバーのソース動作時はドレイン動作時に比べて電流が半分程度となったOFETの接触抵抗はドレイン電極端よりもソース電極端の方が大きいことが知られている [141]そのため探針接触抵抗が電極接触抵抗に比べて支配的であることでこのようにカンチレバーのソースドレイン動作による非対称性が現れたと考えられるこのことはナノスケール TLM で抽出された寄生抵抗の大部分が探針接触抵抗によるものであることを示しておりAFM電流測定を用いた電極接触抵抗評価は困難であると考えられる

35 本章のまとめ本章では PCI-AFM を用いた OFET の局所電気特性評価について検証および測定を行ったまず従来手法では困難であった真空中動作を Q 値制御法の利用により実現し効率的な動作パラメータ設定と柔軟な point-by-point 動作設定が可能な制御プログラムの作成を通したフレキシブルな PCI-AFMシステムを構築したペンタセンのマルチグレイン薄膜上の測定から雰囲気による特性変化がグレイン内部で起こることを示したまた単一グレイン境界によるしきい値電圧変化を電流像として可視化できPCI-AFMが位置依存での電気特性評価に有効であることが示された一方単一グレイン上での測定では数値計算から TLM による距離依存性評価が可能であるとわかり単一グレイン上で 100 nm以下のスケールでの TLMを達成したしかしTLMから求まった寄生抵抗には電極ndashグレイン界面の接触抵抗以外に探針ndashグレイン間の抵抗が含まれてしまい探針のソースドレイン電極動作結果から探針ndashグレイン間抵抗が支配的であることが分かった以上のことはPCI-AFMによる OFET評価はグレインndashグレイン間やグレイン内の ldquo比較rdquoがあれば定量的評価が可能であるが比較をとることのできない電極ndashグレイン界面の電気特性評価には向かないことを示している

47

第 4章

新規局所インピーダンス評価法の開発と金属―有機界面物性の評価

3章では PCI-AFMを用いた OFETのナノスケール TLMを行い単一グレイン境界や単一グレイン内伝導の分離評価を達成した一方電極ndashグレイン界面については探針接触抵抗の影響が大きいため評価が困難であることが明らかとなった局所電気特性のうち未達成である電極ndashグレイン界面電気特性の評価のため次の二点に注目する一点目として2章で述べた EFMをベースとする非接触測定により接触抵抗の影響を回避する二点目としてIndashV 測定のような直流評価に留まらず複数物性評価を通したより詳細な物性議論を行うことであるこれはインピーダンス分光や容量ndash電圧測定のようなマクロ薄膜での評価法の AFM応用やKFMによる準位評価 [142 143]を併用することで可能となることが期待されるよって本章では電極ndashグレイン界面の電気特性の選択的評価を行うための新規局所インピーダンス評価法を開発し界面電気特性の由来となる物性の解明を目的とする

41 走査インピーダンス顕微鏡 (SIM)

本研究の目指す AFM を用いた局所インピーダンス評価応用としてはこれまでに走査インピーダンス顕微鏡 (Scanning impedance microscopy SIM) という手法が開発されているSIM はPennsylvania大の Kalinin Bonnellによって 2001年に開発された AFMの応用手法であり試料の水平方向の局所インピーダンスを検出できる [144]SIMの基本的な装置構成を図 41に示すSIM

は AM-AFMの Liftモードで動作する先に AM-AFMにより表面形状像を取得しそのプロファイルに沿って試料より一定距離高いところを走査する試料としては水平方向に材料 A Bが接続もしくは同じ材料でも垂直方向に defect が存在する系を考えるこの材料 A B の間に角周波数 ωの交流電圧を加える表面電位 Vsurf は

Vsurf = Vs + Vac cos(ωt + φc) (41)

と記述できる但しVs は試料表面の直流電位Vac および φc は交流電位の振幅および位相であるこの交流電圧による静電気力 F(t) = F1ω cos(ωt + φc)は

F1ω =partC(z)partz

(Vtip minus Vs)Vac (42)

48 第 4章 新規局所インピーダンス評価法の開発と金属―有機界面物性の評価

LDPSPD

ω

Reference

Sample

Local impedance

A B

Lock-in amp

Amplitude amp Phase

図 41 走査インピーダンス顕微鏡 (SIM)の装置構成図

のように交流電圧の振幅に比例し同じ位相となる静電気力によりカンチレバーも振動を生じるが振幅は F1ω に比例し位相は振動特性による位相差 φを含む φc + φとなるこのときAndashB境界部分にインピーダンスが存在するとA Bでの交流電圧に位相差 φBA が起きるこれによりカンチレバーに生ずる振動の位相はA上で φc + φB上で φc + φ + φBA となるためその位相差が直接 AndashB間交流電圧の位相差として検出できる2002年の報告では界面インピーダンスがより厳密にモデル化できる金属ndashSi ショットキー界面を用いている [145]ショットキー界面の抵抗ndash容量(RC)並列回路によるインピーダンスを Zd とし回路の両端に定抵抗 Rを挿入すると位相差は電流に関わらず

tan(φBA) =Im( R

Zd+R )

Re( RZd+R )

(43)

と求まるためカンチレバーから検出した位相差とショットキー界面の理論式からショットキー界面の抵抗容量を算出している以降SIMの基本的な技術は同じにしつつ非線形応答 [146]や走査ゲート顕微鏡を組み合わせることで CNTの欠陥の可視化 [147]CNTネットワークの電気特性 [148]といった様々な試料の面内方向に関する電気的な局所物性の評価に用いられてきたしかしLiftモードでの測定で試料表面より 100 nmという非常に離れたところで静電気力を測定しているため空間的な分解能はそれよりも大きいものとなってしまうまた直流電位を測定する別の手法と組み合わせることで詳細な評価を行なっているが完全に同位置の測定ができないこと元々試料に高電位がかかっている場合に SIMの測定中は打ち消せないことなどの問題が内在しているSIMを OFETの局所物性評価に応用する場合まずグレインが 1 microm以下の微小なものであることや比較的高いバイアスオフセットがかかるといった以上で述べた問題に関わる上に真の物性測定のためには真空中での測定が不可欠であるSIMでは振幅変化を捉えるため真空中での測定は問題となる可能性がある

42 周波数変調走査インピーダンス顕微鏡 (FM-SIM)の開発本研究では従来の SIMのコンセプトを踏襲しOFETの評価に適した新規手法である周波数変調走査インピーダンス顕微鏡 (Frequency-modulation SIM FM-SIM)を提案する従来の SIMの問題点である真空中評価に関しては FM検出方式の導入により改善され同時に Liftモードを用いるこ

42 周波数変調走査インピーダンス顕微鏡 (FM-SIM)の開発 49

FM-SIM

FM-AFMTopography

(height control)

FM-KFMLocal potential

(bias oset)

FM-EFM

SIM

Local AC signal

Lateral AC bias

図 42 周波数変調インピーダンス顕微鏡 (FM-SIM)に含まれる既存技術の概要図

Lock-in amp

Lock-in amp

Bias feedbackSelf-excitationblock

Frequencydetection

Heightfeedback

Scanner

LDPSPD

Sample AC

Tip AC

InsulatorGate

Grain

Electrode

Topography

FM-SIM signal

Local potential

図 43 FM-SIM 測定における基本装置構成図図中の灰色の要素が FM-AFM紫色の要素がKFMそして橙色の要素が FM-SIMの技術に対応する

となく静電気力の検出が可能となるさらに FM-KFM を組み合わせることで直流電位の影響を排除でき表面形状直流電位と同時に交流電圧による局所的な応答を取得することができるようになる図 42に FM-SIMに含まれる SIMや既存技術の関係を示す

421 FM-SIMの原理FM-SIM測定における基本的な装置構成を図 43に示す本研究ではまず金属ndash有機グレイン境界における局所インピーダンス評価を対象とするまず 244節の説明と同様にFM-AFMによるカンチレバーの共振周波数での励振および共振周波数シフト (∆f dc)の変化を一定にするような高さ制御により表面形状像を得る次にVt = Vdc

t + Vact cosωtt なるバイアスをカンチレバーに加え

る但しVdct は FM-KFMにより探針ndash試料間電位差を打ち消すための制御電圧である同時に試

料上の電極に交流電圧 Vacs cosωstを加える局所的な電位がVlo = Vdc

lo + Vaclo cos(ωst + φlo)と記述

50 第 4章 新規局所インピーダンス評価法の開発と金属―有機界面物性の評価

できるときカンチレバーが感じる静電気力は次の FES で与えられる

FES =12partCts

partz[Vdc

lo + Vdct + Vac

t cosωtt + Vaclo cos(ωst + φlo)

]2 (44)

ここでzCts はそれぞれ探針ndash試料間の距離および容量であるFES にはいくつかの周波数成分があり以下の 7つの成分に書き下される

DC FdcES =

12partCts

partz

(Vdc

lo + Vdct +

12

Vaclo +

12

Vact

)2

ωt F tES =

12partCts

partz(Vdc

lo + Vdct )Vac

t cosωtt

ωs FsES =

12partCts

partz(Vdc

lo + Vdcs )Vac

lo cos(ωst + φlo)

2ωt F2tES =

14partCts

partz(Vac

t )2 cos 2ωtt

2ωs F2sES =

14partCts

partz(Vac

lo )2 cos(2ωst + 2φlo)

ωt plusmn ωs F tplusmnsES =

12partCts

partzVac

t Vaclo cos

[(ωt plusmn ωs)t plusmn φlo

](複号同順) (45)

ここでF tES により生じる周波数変調成分 ∆f t をロックインアンプ (Lock-in amplifier LIA)で検出

しその振幅成分が 0となるようフィードバック回路により直流電圧 Vdct を制御するこのような

FM-KFM動作により表面 (直流)電位 Vdclo = minusVdc

t が測定されるこれら FM-AFM FM-KFMが動作している状態で試料の交流電圧の振幅位相成分を測定することを考えるまず上記のように Vdc

t を設定することでωs 成分である FsES が同様に 0となるこ

とが分かるためωs 成分を用いて評価することはできない残る成分のうちVaclo および φlo が含ま

れている成分は F2tES Ftplusmns の 3つであるしかし2ωs 成分である F2s

ES から定量評価するには測定した振幅に対し二乗根を取る必要がありSNの低下が懸念される一方F tplusmns

ES は試料の交流電圧に比例するためF tplusmns

ES により生じたカンチレバーの周波数変調信号 ∆f tplusmns も Vaclo に比例した振幅およ

び φloと一致する位相をもつよって ∆f の ωtplusmnωs成分を測定することでより単純に試料の交流電圧を測定できると考えられるここで特にカンチレバーの周波数変調信号の和周波成分を「FM-SIM

信号」と呼ぶ以下の議論では簡単のため試料上の交流信号と FM-SIM信号はフェーザ形式を用いて表しそれぞれ Vx∆fx の記号を用いるただし交流信号は実振幅 Vac

x と位相 φx を用いてVx = Vac

x ejφx と書き下しFM-SIM信号は複素比例係数 αを用いて ∆fx = αVx と表すαは探針ndash試料間距離が同じで∆f dcや振動振幅を同一条件にしている限り測定内では一定とみなせるまたx

は試料上のある場所を表す suffixでありx = el(電極上) lo(有機膜上) g(ゲートゲート絶縁膜上)

とする

実際の装置構成 421節では基本的な装置構成に基づいて局所交流信号を得る方法を説明したしかし実際の測定では複数の装置や設定項目を用いているためそれらについてここでまとめておく図 44に OFET上で FM-SIM測定を行う場合の実際の装置構成および配線図を示すただし図 41における自励発振系FM-AFM部分については省略したAFMコントローラは 33節と同じく PXIベースの自家製コントローラを使用し自励発振系周波数検出器 (PLL)Bias feedback

および加算器 (Adder) は研究室で作成された自家製回路であるLIA として Zurich Instruments 製HF2LI-MF (以下 ZI-LIA)エヌエフ回路設計ブロック製 LI5640 (以下 NF-LIA)を用いたまた以

42 周波数変調走査インピーダンス顕微鏡 (FM-SIM)の開発 51

AFM controller(data in)

Lock-in amp(ZI-LIA)

Osc 1

In 1 In 2 Out

Osc 2

fs ft

Lock-in amp(NF-LIA)

Ref OutIn

Frequency detection(PLL)

InsulatorGate

AC elOpposite el

Deection Biasfeedback

VG

IAC

IDC

RG

RacRopp

VDS

el = electrode

LPF

図 44 FM-SIM測定における実際の装置構成および配線の詳細図

後 FM-SIMによる全ての測定は真空度 1 times 10minus3 Pa以下の高真空中で行ったその他の構成設定は以下のとおりである

用語定義 交流バイアス印加電極 AC 電極 (AC el ldquoacrdquo)印加していない方の電極 対向電極(Opposite el ldquoopprdquo)とする

DCバイアス ゲート (Si基板)に VG をAC電極に VD(ドレイン動作の場合)VS(ソース動作の場合)を印加

KFM変調 ZI-LIA(Osc2)より振幅 Vact = 2 Vp-p周波数 ft = 1 kHzで変調

KFM検出 NF-LIAによりPLLからの出力 (∆f )に対してZI-LIA(Osc2)の信号を Referenceとして in-phaseを検出その信号を Bias feedback回路へ

FM-SIM変調 ZI-LIA(Osc1)よりAC電極に振幅 Vacs = 1 Vp-p周波数 fs(測定により異なる)の交

流電圧を印加FM-SIM検出 ZI-LIAにより∆f に対して ft + fs 成分の振幅 (R)位相 (φ)を検出しAFMコン

トローラで画像化電流 対向電極から流れる電流を Femto製電流アンプ DLPCA-200により検出直流成分 (IDC)は

LPF(lt 1 Hz) に通した信号を交流成分 (IAC) は ZI-LIA により fs 成分の振幅位相を検出しそれぞれ AFMコントローラで取得

実験によって電流を取得していないなどの違いが若干あるが測定時している場合の構成は基本的に上述のとおりである以下に特記事項について述べる

ロックインアンプ設定 FM-SIM測定のためにはft + fs という和周波の Lock-in検出が必要となるよりフレキシブルな測定のため本研究では Zurich instruments 社の HF2LI-MF(以下 ZI-LIA)

52 第 4章 新規局所インピーダンス評価法の開発と金属―有機界面物性の評価

を用いたZI-LIA上で和周波を Lock-in検出する方法として以下の 3方式について順に検討した

1 ZI-LIAの PID機能を用いて和周波数を作成し検出2 Reference周波数として直接 ft + fs を入力し検出3 ft fs をそれぞれ fbase の m倍波n倍波として出力し fbase の (m + n)倍波を検出

1は fs を中心とし入力 ft に対してゲイン minus1の周波数フィードバックをすることで ft + fs が作成できるしかしこの 1と 2の方式は fs と ft + fs との間に同期が取れている保証がない特に画像取得など長時間要する場合は測定の初めと終わりで位相のオフセットが変化してしまう例として1 kHzに対して 1 times 10minus3 Hzのズレ (つまりビート)が存在する場合1分あたり元信号に対して約 20 変化してしまう一方3の方式はZI-LIA上からどちらの周波数信号も出力すれば ZI-LIA

内で確実に同期が取れていることから同一条件であれば位相オフセットは同じとなるよって以降の FM-SIM 測定では 3 の方式を用い設定周波数はベース周波数 (例 200 Hz ) および倍波指定(例 4倍波)に対して ldquo800 Hz(200 Hz times 4)rdquoのように示すこととするまた図 44の ZI-LIA In 1についてPLLからの出力は minus5 V付近なのに対しZI-LIAは plusmn1 V

の範囲でしか入力できない一方ZI-LIAの入力を AC couplingにすると 1 kHz以下の信号にフィルタがかかってしまい振幅の減少と位相変化が生じるよって本研究では入力段に 100 nF のキャパシタを直列に挿入することでカットオフ周波数が 10 Hz以下の HPFとした

回路抵抗 本研究では図 44 のとおりOFET の電極ゲートとの接続部分に直列に抵抗を挿入した理由として(1) 従来の SIM [147] で厳密にインピーダンス解析を行う場合にも挿入しているため(2)対向電極の FM-SIM信号がほぼ 0な場合に LIAで位相検出が困難になることを防ぐためである(2) については対向電極上のデータが最終的に不要となる場合もあるが画像化を重視し基本的に抵抗を挿入することとする特記がない場合以下の実験では Rac = RG = 10 kΩ

Ropp = 1 MΩを使用した

422 OFETにおける FM-SIM応答の妥当性3章と同様の方法で作製したペンタセン薄膜に対しFM-SIM測定した下部電極を AC電極およびソース電極として交流電圧 ( fs = 800 Hz)と +1 Vの直流電圧を印加し上部電極は接地ゲートに +2 V印加しながら FM-SIM測定し表面形状表面電位像と同時に FM-SIM信号の振幅位相を取得しマッピングした結果を図 45に示す図 45(a)(b)に関しては FM-KFMと同様の測定でありグレイン形状に対応した電位分布が現れていることからFM-SIMと同時に KFMを動作可能であることがよくわかるFM-SIM 振幅像は AC 電極付近だけ非常に明るくなっておりAC

電極から離れたグレインや対向電極絶縁膜上はほぼ同じ信号強度であったFM-SIM位相像ではAC電極付近から離れるにつれて位相が正にシフトしており対向電極上は AC電極に比べて約 60

の違いが生じたここでAC 電極は直接交流電圧を印加しているため抵抗を介してはいるものの位相はほぼ印加電圧のそれと同じつまり理論上は 0 となるはずであるしかし図 45(d) から実際に測定された AC電極上の位相は 1264 であり大きく異なるこれは421節で用いた比例定数 αが実数ではないことに対応し周波数検波の PLLやカンチレバーの応答その他複数の要因により位相オフセットが生じていると考えられるしかし前述のように印加交流電圧の周波

42 周波数変調走査インピーダンス顕微鏡 (FM-SIM)の開発 53

04 V 16 V

5 mV 15 mV -150ordm -60ordm

(a) Topo

(c) SIM-amplitude

(b) Potential

(d) SIM-phase

(e)

(f)

0

20

40

0 200 400 600 800

-140

-120

-100

-80

SIM

-Am

pl [

mV]

SIM

-Pha

se [d

eg]

Distance [nm]

ElGr 1 Ins

0

20

40

0 100 200 300

-140

-120

-100

-80

SIM

-Am

pl [

mV] SIM

-Pha

se [d

eg]

Distance [nm]

El Gr 2

150 nm

A1

A2

B1

A1 B1

A2 B2

B2

AC el (+1 V)

GNDVG = +2 V

図 45 ペンタセン薄膜上の FM-SIM測定結果 ( fs = 800 Hz VG = +2 V)(a)表面形状像(b)表面電位像(c) FM-SIM振幅像(d) FM-SIM位相像(e) (f)それぞれ (a)の A1ndashB1A2ndashB2 ラインに沿った FM-SIM振幅位相プロファイルldquoElrdquo は電極ldquoInsrdquoは絶縁膜上の領域を示す

数を倍波設定で行なっているためオフセット値は常に一定であるよって以後の測定結果ではFM-SIM 位相の絶対値には意味を考えずAC 電極上の FM-SIM 位相が 0 となるように像全体からオフセットを差し引いた値を解析に用いることとする図 45(a)の A1ndashB1 および A2ndashB2 ラインに沿った FM-SIM信号のプロファイルを図 45(e) (f)に示すAC電極 (El)より左 (Gr1)では電極からの距離が遠くなるに従い徐々に強度が減衰しており最終的に絶縁膜上 (Ins)と同等の強度であるまた位相は距離と共に線形に正シフトしている一方 A2ndashB2 ライン上の Gr2では 10ndash20 mV

と絶縁膜上よりも強度が大きく位相も電極上と大きな違いはなくGr2 上ではほぼ一定であるOFET構造において FM-SIM測定を行い以上のように得られる結果が何に由来しているかについて(1)絶縁膜対向電極上の応答(2)有機膜上の応答の二項に分けて議論する

1 FM-SIM応答に則す回路モデル 図 45の測定と同時に取得した対向電極での交流電流 IAC は693 nArmsang616 であった対向電極は GND との間に Ropp = 1 MΩ を挿入しているため対向電極上の交流電圧の位相は IAC と同じはずであるが前述の位相オフセットのためズレが生じている一方 AC電極と対向電極との FM-SIM位相差が約 60 であることと交流電流の位相が良い一致を示しているため測定された交流電流は正しく OFET回路における応答を反映したものと考えられる交流電圧に対する対向電極への信号の伝わり方として(i) AC電極ndashゲート間およびゲートndash対向電極間の容量を介した伝導(ii) AC電極ndash有機膜ndash対向電極という経路の伝導の二通りが考えられるしかしゲートバイアスを印加 (VG = minus4 V)して同様の測定を行うと 696 nArmsang614 という交流電流が得られる一方で後の測定で見られるように FM-SIM像が大きく変化するこれは有機膜

54 第 4章 新規局所インピーダンス評価法の開発と金属―有機界面物性の評価

GateInsulator

Rac Ropp

RG

C1 C2

Vac~

VG~

IG~

Iopp~

V0~

Vopp~

図 46 FM-SIM応答を考える上でゲート容量を介した伝導を考慮したマクロ回路モデル

表 41 マクロ回路モデルから計算された各位置における交流電圧および交流電流の計算値および FM-SIMから測定された実測値

計算値 実測値 (FM-SIM信号)

AC電極 VacV0 094ang minus 111 (1ang0)

ゲート VGV0 020ang669 018ang479 (絶縁膜上)

対向電極 VoppV0 020ang695 022ang637

IG 99 microAang669 NA

が OFET構造全体における交流電圧応答に関与していないことの現れであると考えられるため(ii)

による寄与は非常に小さいといえる(i)による寄与を回路モデル化すると図 46のように表されるAC電極対向電極ゲートそれぞれへの経路上の抵抗を Rac Ropp RG とおきAC電極対向電極とゲート間の容量を C1 = C2 = C とするAC 電極から角周波数 ω の電圧 V0 を入力しAC 電極上対向電極上ゲート上の複素電圧がそれぞれ Vac Vopp VG に決まる例えばVopp は

Vopp

V0=[1 minus 1

(ωC)2RGRopp+ Rac

( 1Ropp

+1

RG

)minus j

1ωC

( 2Ropp

+1

RG+

Rac

RGRopp

)]minus1(46)

のように与えられるここでRac = RG = 10 kΩ Ropp = 1 MΩ∣∣∣V0∣∣∣ = 1 Vp-pω = 2πtimes800 Hzのとき

に測定された対向電極での電流 Iopp の絶対値 69 nArms と一致するように C を求めるとC = 43 nF

となるこの値を用いて各位置における電圧および電流を求めた結果と図 45から求めた対応する FM-SIM信号の値を表 41にまとめたまず Vopp の振幅は計算値と実測値比較的よい一致を示しているまた絶縁膜上の信号はゲート上の計算値と比較的近い値であり絶縁膜上で測定されるFM-SIM信号はゲート由来のものであると推察される一方Vopp の位相は 10 程度異なる計算では全ての抵抗を既知としたがゲートが高ドープ Siであることによる酸化膜の影響や配線に用いた銀ペーストの影響によりRG に抵抗や容量が含まれている可能性があるこれらの影響で実際には理想的なモデルからは位相がずれてしまったと考えられるただ全体としては図 46の回路モデルは FM-SIM信号をよく表しており対向電極上の応答は (i)で決定されると考えられるつまり対向電極の応答はマクロ回路部で決定されるため有機膜ndash対向電極界面の FM-SIM信号変化はあまり意味を持たないよって FM-SIMを用いて有機ndash電極界面の物性議論を行うためには評価対象の電極を AC電極とすることに留意しなくてはならない次にAC電極ndashゲートに流れる電流は約 10 microAと対向電極の電流に比べて非常に大きいため対向電極の存在は交流電圧の振る舞い

42 周波数変調走査インピーダンス顕微鏡 (FM-SIM)の開発 55

にほとんど影響を与えていないといえるまた先述のとおりゲートバイアス印加による FM-SIM

像の変化があったとしても元々の AC電極ndashゲート間交流電流が大きいためVel や VG はほとんど変化しないよってこれら電圧は同一周波数同一サンプルではほぼ一定とみなすことができるこの事実は後の節で局所インピーダンス解析を行う上で局所領域とマクロ部分を分離して考えることのできる理由付けとなる

2 有機膜上の応答要因 図 45(e)の Gr1上の応答について考察するまずFM-SIM信号の振幅が速やかに減少しているため分布定数回路での記述が考えられる単位距離あたりの抵抗容量をそれぞれ r cとすると位置 xにおける複素電位 v(x)は微分方程式

d2vdx2 = jωcrv(x) (47)

を満たすため解は定数 κ =radicωcr2を用いて

v(x) = v(0)eminusκxeminusjκx (48)

と求まる距離が遠くなるに従い指数関数的に振幅が減少するが同時に位相が 1次関数的に減少(負シフト)することが分かるしかし図 45(e)では FM-SIM位相は正にシフトしているため分布定数による振幅の減衰ではないと判断できるここでGr1上が収束していく値と絶縁膜上の応答が比較的近いことから実際の Gr1 上の応答にゲートの応答がカップルしていることが考えられる図 47 に図 45(e) の Gr1 上およびゲート (絶縁膜) 上の FM-SIM 信号の極座標プロットを示すただし先述の議論に基づき AC電極上の位相が 0になるよう位相オフセットを施した確かに Gr1上の信号は最終的にゲート上の信号と一致するが収束するまでの値は AC電極上とゲート上の信号を結ぶ直線上にほぼ乗っているそのためGr1自体の応答の減衰に従いゲート上の応答が支配的になることで図 45の Gr1のような応答が得られたのだと考えられる一方Gr2は内部でほぼ一定でありGr1のような強度の減衰に伴うゲート応答のカップリングは見られないこの場合は AC電極から伝わった膜自体の交流電圧がそのまま応答として得られているといえるしかしAC電極とは振幅位相が若干異なりAC電極と Gr2の間に電気的な阻害要因つまり局所インピーダンスが存在すると考えられる後の議論で有機膜上の応答を検証する場合Gr1のようになだらかに変化する応答ではなくGr2のようにある程度一定の振幅位相の値をもちゲートからの応答が直接カップルしていない領域を対象とする

423 局所インピーダンスの解析422節では交流電流や回路モデルの観点からFM-SIMが AC電極対向電極そして有機膜上の交流電圧に対応する応答を測定していることを確かめた一方で有機膜上のインピーダンス変化に比べてマクロ回路の交流電流が非常に大きいため交流電流や回路モデルから局所インピーダンスの評価を行うのは困難であるしかしVel VG は同一条件内でほとんど変化しないことFM-SIM

測定中に同時に得られることからこれら信号をレファレンスとして利用できる可能性がある以下ではこれに基づいたインピーダンス解析法を提案し理想的な周波数特性を計算そして実際の FM-SIM測定から局所インピーダンスを得るプロセスを順に述べる

56 第 4章 新規局所インピーダンス評価法の開発と金属―有機界面物性の評価

-20

0

20

0 20 40

SIM

(im

ag)

[mV

]SIM(real) [mV]

On ins

On Gr1

Distant from El

ElGate

図 47 図 45(e)の A1ndashB1 ラインに沿った FM-SIM信号のうちGr1上および絶縁膜上 (Ins)それぞれについて極座標プロットした結果ただしAC電極上 (El)の位相が 0となるように位相オフセットを施した

Gate

FilmElectrode

Insulator

図 48 FM-SIM信号から局所インピーダンスへ変換するための等価回路モデル

局所インピーダンスへの変換 試料上に Lateralなインピーダンスが存在すると局所交流電圧が変化しFM-SIM 信号の変化から試料上の Lateral な局所インピーダンスの存在について議論はできるしかし局所インピーダンスを定量的に評価することはできないそこで図 48 のような等価回路を考える電極ndash有機膜界面のインピーダンスを Zlo とし有機膜下の実行的なゲート絶縁膜容量を Ci とする有機膜内のインピーダンスが電極ndash有機界面のインピーダンスに比べて十分小さく膜内の交流信号がほぼ一定と仮定できる場合図 48 の等価回路が成り立つまず測定したFM-SIM信号に対し正規化 FM-SIM信号 γを

γ equiv ∆flo minus ∆fg∆fel minus ∆fg

=Vlo minus Vg

Vel minus Vg(49)

のように定義するすると等価回路より γ は界面インピーダンスと実効容量インピーダンスによる複素電圧の内分と同等つまり

γ =1(jωsCi)

Zlo + 1(jωsCi)=

11 + jωsCiZlo

(410)

と記述できることが分かるつまり式 (410)により FM-SIM信号と界面インピーダンスを一対一に対応させることができる

理想周波数応答 インピーダンス分光ではインピーダンスの周波数依存性を複素平面表示したColendashColeプロットから系の等価回路を推定可能である本研究でも正規化 FM-SIM信号の周波数応答と界面インピーダンスとの関係について考察する式 (410)より様々な Zlo を仮定すること

42 周波数変調走査インピーダンス顕微鏡 (FM-SIM)の開発 57

2πCiRlo = 10 ms

CloCi = 2

(a) Amplitude

(c) Amplitude (d) Phase

(b) Phase

ќDP

SOLWXGH

0

02

04

06

08

1

10 100 1000)UHTXHQFgt+]

CloCi = infin

2

1

05

ќDP

SOLWXGH

0

02

04

06

08

1

10 100 1000)UHTXHQFgt+]

2πCiRlo33 ms10 ms33 ms

ќSKDVHgtGHJ

0

10 100 1000)UHTXHQFgt+]

2πCiRlo

10 ms33 ms

33 ms

ќSKDVHgtGHJ

0

10 100 1000)UHTXHQFgt+]

CloCi = infin

2105

Rlo Clo

Fixed C

Fixed R

図 49 正規化 FM-SIM信号の理想周波数応答 (界面インピーダンスが直列 RCの場合)(a) (b)CloCi = 2 に固定したとき2πCiRlo = 33 ms 10 ms 33 ms での振幅位相(c) (d) 2πCiRlo =

10 msに固定したときCloCi = infin 2 1 05での振幅位相

でその理想的な周波数応答が分かるまず界面インピーダンスが抵抗と容量の直列回路 (直列 RC)

で表される場合を考えるZlo = Rlo minus j(2π fClo)minus1 としRlo および Clo をそれぞれ変化させた際の正規化 FM-SIM信号の周波数応答を図 49に示すただし Ci が既知ではないためCi に対して正規化した値を与えたまず全体の形状として周波数の増加に従い振幅が減少し0へ収束するまた位相は 0から負にシフトしminus90 へ収束することが分かる抵抗を増加させると曲線の形状は変化しないが振幅位相共に低周波数側へシフトする一方容量が減少すると低周波側の振幅が減衰する次に界面インピーダンスが抵抗と容量の並列回路 (並列 RC) で表される場合を考えるZlo =

(Rminus1lo + j2π fClo)minus1 としRlo および Clo をそれぞれ変化させた際の正規化 FM-SIM 信号の周波数応

答を図 410に示す周波数の増加に従う振幅の減少は直列回路と同じであるが1から開始し 0以外の値へ収束しているまた位相は 0から負にシフトするがClo = 0以外は 0へ収束する抵抗を増加させると直列回路と同様に低周波側にシフトし容量を増加させると高周波側の振幅が増加する以上の周波数特性を正規化 FM-SIM信号の複素平面プロット (以後 γndashプロットと呼ぶ)として示したものを図 411に示す特筆すべきことは全ての応答は円弧状の軌跡を描くことであるそのため先に述べたそれぞれの等価回路での特性を非常に簡潔に表すことができ直列 RC では 1

以外の値から 0 へ並列 RC では 1 から 0 以外の値へ収束していることがよく分かるまた図411(a) (b) の水色線はどちらも抵抗のみの回路に対応し直径 1 の半円となるRlo の変化に対し

58 第 4章 新規局所インピーダンス評価法の開発と金属―有機界面物性の評価

(a) Amplitude

(c) Amplitude

(b) Phase

(d) Phase

ќDP

SOLWXGH

0

02

04

06

08

1

10 100 1000)UHTXHQFgt+]

2πCiRlo33 ms

10 ms

33 ms

ќDP

SOLWXGH

0

02

04

06

08

1

10 100 1000)UHTXHQFgt+]

CloCi

0

05

1

2

0

10 100 1000)UHTXHQFgt+]

33 ms10 ms33 ms

ќSKDVHgtGHJ

0

10 100 1000)UHTXHQFgt+]

CloCi = 0

051

2

ќSKDVHgtGHJ

Rlo

Clo

2πCiRlo = 10 ms

CloCi = 05

Fixed C

Fixed R

図 410 正規化 FM-SIM 信号の理想周波数応答 (界面インピーダンスが並列 RC の場合)(a)(b) CloCi = 05 に固定したとき2πCiRlo = 33 ms 10 ms 33 ms での振幅位相(c) (d)2πCiRlo = 10 msに固定したときCloCi = 0 05 1 2での振幅位相

Rlo Clo

f = (2πCiRlo)-1 f = (2πCiRlo)-1

-05

0 0 05 1

Imgtќ

5Hgtќ

CloCi = infin

21

05

(a) RC-series (b) RC-parallel

Imgtќ

5Hgtќ

-05

0 0 05 1

CloCi = 0

21

05

Rlo

Clo

図 411 正規化 FM-SIM 信号 γ の理想周波数応答の複素平面プロット(a) 界面インピーダンスが直列 RC の場合(b) 並列 RC の場合それぞれの図における破線との交点では周波数がf = (2πCiRlo)minus1 となる

43 ペンタセングレイン上の局所インピーダンス評価 59

0 mV 40 mV -40ordm +10ordm

(a) Topography (b) Potential

(c) SIM-amplitude (d) SIM-phase

02 V 08 V35 nm

Elec

trod

e 100 nmA

AC el (VD = 0 V)

VG = 0 V

図 412 ペンタセン薄膜上の FM-SIM測定結果 (VD = VG = 0 V fs = 100 Hz)(a)表面形状像(b)表面電位像(c) FM-SIM振幅像(d) FM-SIM位相像矢印で示すグレイン Aは以降の評価の対象とした孤立ペンタセングレイン

て軌跡の概形は全く変化せずClo の変化に対しては円弧の半径が変化することが分かるまた図411の破線 (0 minus 05jを中心とする半径 05の円弧)との交点における周波数が f = (2πCiRlo)minus1 に対応することからRlo の大小も評価できる以上の振る舞いは次のように説明できる先に比抵抗 τr = 2πCiRlo および比容量 βc = CloCi を定める直列 RCの場合は γは

γ =1

2(1 + βminus1c )[eminusj2θ( f ) + 1

](411)

θ( f ) = tanminus1( f τr

1 + βminus1c

)(412)

のように変形でき中心 ( 12(1+βminus1

c ) 0)半径 12(1+βminus1

c ) の半円だということが分かる並列 RCの場合

γ = 1 +1

2(1 + βc)[eminusj2θ( f ) minus 1

](413)

θ( f ) = tanminus1[(1 + βc) f τr]

(414)

となり中心 (1minus 12(1+βc) 0)半径 1

2(1+βc) の半円だということが分かるこれらのことから式 (410)

に直接フィッティングさせずともγプロットの概形から簡易的に界面インピーダンスの等価回路やその抵抗容量の変化が判別できるということが分かる

43 ペンタセングレイン上の局所インピーダンス評価431 単一グレイン上の周波数依存評価これまで述べた局所インピーダンス解析法を実際の結果に適用する図 45と同じペンタセン薄膜の上部電極付近でFM-SIM測定した結果を図 412に示すただしfs = 1times100 Hz ft = 10times100 Hz

60 第 4章 新規局所インピーダンス評価法の開発と金属―有機界面物性の評価

-05

0

0 05 1

Im[a

]

Re[a]

R only

fs

0

02

04

06

08

1

10 100 1000

a-a

mp

litu

de

Frequency [Hz]

-1 V

Fitted

-3 V

-5 V

(a) (b)

図 413 グレイン A上の正規化 FM-SIM信号 γの周波数依存性(a)周波数ndash振幅プロット(b)γプロットVG = minus1 V(赤)minus3 V(橙)minus5 V(緑)における応答および並列 RC回路としてフィッティングした結果 (実線)破線は界面インピーダンスが抵抗のみとした場合の理想的なγの応答

とした矢印で示すペンタセングレイン (グレイン A)は他のグレインから孤立しており直接 AC

電極に接続している単一グレインであることが分かるFM-SIM振幅像は表面電位像に比べてグレインの形状をより綺麗に示しておりFM-SIM では FM-KFM よりも空間分解能の高い測定ができる可能性があることを示唆しているFM-SIM振幅位相は共にグレイン A内で均一であるグレイン A以外では電極とほぼ同じ位相だがグレイン Aでは電極ndashグレイン A界面で大きな差異があるFM-SIM信号の変化は局所インピーダンスの存在を示していることを考慮するとグレイン A

は電極との電気的接続が良くないということグレイン A内のインピーダンスは電極ndashグレイン界面に比べて十分小さいということが分かるそのためグレイン Aは図 48の等価回路で示すことができると考えられる続いて電極ndashグレイン界面インピーダンスの等価回路を検証するため周波数 fs 依存の FM-SIM

測定を行った fs を 10 Hzから 900 Hzの間で変化させ電極グレイン A絶縁膜の FM-SIM信号を取得し正規化 FM-SIM信号を得たなおこの測定は VG = minus1 V minus3 V minus5 Vのゲートバイアスについて行いグレインには正孔が蓄積しているまた fs の掃引に同期して ft + fs を設定する必要があるためこの測定については 421節「ロックインアンプ設定」の項の 1の方式で検出した得られた正規化 FM-SIM信号の周波数ndashFM-SIM振幅プロットを図 413(a)にγプロットを図 413(b) に示す周波数掃引に従い振幅が 1 近くから減少し約 02 で収束している様子が見られ並列 RC回路に対応する図 410(a) (c)の振る舞いに似ているγ プロットでは測定点が低周波では 1近くで半径が 1より小さい円弧状に並んでいる様子が明瞭に確認できるつまり電極ndashグレイン A界面は並列 RC回路で記述できる次に式 (413)を用いた界面インピーダンスの半定量評価を次のプロセスで行なった

1 円弧フィッティングGNU Octave 380の fminsearch関数を用いてデータ点との距離の二乗和が最小になるような円弧の中心半径を求めβc を算出

2 振幅値フィッティングGnuplot 46の fit機能と 1で求めた βc を用いて式 (413)の振幅に最小二乗フィッティン

43 ペンタセングレイン上の局所インピーダンス評価 61

表 42 FM-SIM周波数依存性 (図 413)からフィッティングにより求めた並列 RC回路における界面インピーダンスのパラメータ

VG 比容量 βc 比抵抗 τr [ms]

minus1 V 016 1564plusmn040

minus3 V 018 1354plusmn023

minus5 V 021 539plusmn013

グを行いτr を算出

これにより求めたフィッティングパラメータを表 42にパラメータを用いたフィッティングカーブを図 413 の実線に示す図 413(a) (b) 共にそれぞれの VG におけるデータ点をうまく表しておりτr の誤差も 3以内に収まっていることからうまく並列 RCの式にフィッティングできていると考えられるつまり金属ndash有機界面では接触抵抗だけでなく局所容量も存在していることを示しているこれまでも界面容量が金属のフェルミ準位と有機薄膜の HOMO 準位のミスマッチにより生じると報告されている [149 150]しかしこれらの報告はトップコンタクト OFETつまり有機薄膜が電極と絶縁膜の間に挟まれている構造での測定に基づいている有機薄膜の厚さは通常キャリアが流れるチャネル層の厚さに比べて十分厚いためトップコンタクト OFETにおける界面インピーダンスには有機薄膜のバルク部分のインピーダンスも含んでしまう一方本測定はボトムコンタクト型の接触のためこれまでの研究と比較してより直接界面容量の存在を確認したといえる

432 電極ndashグレイン界面インピーダンスの一般性前節ではグレイン内部のインピーダンスが電極ndash単一グレイン界面インピーダンスよりも十分小さく界面インピーダンスが並列 RCで記述できることがわかったこのような傾向がグレイン A以外にも現れるか確かめるため他のグレインについても評価を行う図 412の範囲を含む広い領域 (図 414(a))でゲートバイアスを VG = minus1 Vとし上下電極を AC

電極として FM-SIM測定し得られた FM-SIM振幅像および位相像をそれぞれ図 414(b) (c)に示すただしfs = 100 Hz 300 Hz 800 Hzについて測定した本測定では上下両方の電極を AC電極としているためどちら側に接続しているグレインも応答することになるまず fs = 100 Hzでの両結果から見て取れることはそれぞれのグレインの応答が異なることであるしかしそれぞれのグレイン内ではある程度均一であることもわかるこれはどのグレインにおいても図 48の等価回路が成り立つことを示しているそのためFM-SIM信号の違いは電極ndashグレイン界面インピーダンスの違いつまり電極との電気的カップリングの違いを表しているといえる次にACバイアスの周波数 fsを増加させた際の変化を見るまずFM-SIM振幅信号 (図 414(b))

が全体として増加しているがこれは図 46においてゲート抵抗 RG に比べて絶縁膜部分のインピーダンス (C1 由来)が減少することでゲート電極上の応答

∣∣∣VG∣∣∣が大きくなることに由来するため問

題とはならない次に表面形状像 (図 414(a))の破線で示した 4つのグレイン (A B C D)に注目するグレイン A B Cに関しては fs の増加に伴い FM-SIM位相が増加し振幅が絶縁膜上の値に近づいているこれはまさに図 413(b)の正規化 FM-SIM信号の周波数依存性で見られた円弧の左

62 第 4章 新規局所インピーダンス評価法の開発と金属―有機界面物性の評価

-40ordm +50ordm

2 mV 45 mV35 nm

(a) Topography (b) SIM-amplitude

(c) SIM-phase

AC el (GND)

AC el (GND) 150 nm

fs = 100 Hz 300 Hz 800 Hz

fs = 100 Hz 300 Hz 800 Hz

AB

DC

図 414 ペンタセン薄膜上の FM-SIM測定結果 (広範囲)VG = minus1 VAC電極は上下両電極とした(a)表面形状像(b) FM-SIM振幅像 ( fs = 100 Hz 300 Hz 800 Hz)(c) FM-SIM位相像 (同fs)電極を太破線グレイン A B C Dを細破線で示している

半分の変化を示すもので周波数の増加により |γ|の減少γ位相の増加と対応する一方グレイン Dは fs の増加に伴う振幅の変化は少なく位相は減少しているこれは他の 3グレインと違い位相のみ特徴的に減少する図 413(b)の右半分と対応することがわかるつまり前節のグレイン A

に限らずどのグレインにおいても図 413のような周波数応答を示すことを示唆しておりRC並列回路は電極ndashグレイン界面インピーダンス一般に成り立つことが分かった

433 キャリア蓄積による電極ndashグレイン界面物性変化431節の結果よりVG による変化に関してはどちらのパラメータも単調に変化しているが特に比抵抗の減少が顕著に見られるこのようにグレイン中へのキャリア蓄積状態によって金属ndash有機界面の電子物性も変化していることが分かる金属ndash有機界面で生じる接触抵抗の起源を明らかにするためにも界面インピーダンスの VG 依存性について詳しく評価するなお上述の議論で界面インピーダンスを並列 RCで記述できることがわかったため以下では界面インピーダンスをその逆数つまり「アドミタンス」として考え次式で示す正規化アドミタンスを導入する

Ynorm =1

2π fsCiZlo=

12π fsCiRlo

+ jClo

Ci(415)

43 ペンタセングレイン上の局所インピーダンス評価 63

SIM

-Am

pl [

mV]

Distance [nm]

0

12

4

8

0 200 400 600

A B

A B

Electrode

GrainInsu

lator

Topo(a)

(b)

012 -1 -2 -3VG [V]

-02

0

02

10-2

100

10-2

100

∆V [V

]Re

(Yno

rm)

Im(Y

norm

)

(c)

(d)

(e)

ForwardBackward

+2 V

-3 V-25 V

+15 V+1 V

+05 V0 V

-05 V-1 V

-15 V-2 V

図 415 (a)電極とグレイン A界面付近の表面形状像(b) (a)の AndashBライン上で測定された FM-SIM振幅プロファイル(cndashe) VG を変えた際の電極ndashグレイン界面の正規化アドミタンス (Ynorm)の実部 (c)虚部 (d)および界面電位差 (∆V)(e)赤は VG を +2 Vから minus3 Vへの (forward)青は minus3 Vから +2 Vへの (backward)変化時のデータ点を示す

Ynorm は 2π fsCi で界面インピーダンスを規格化しているため無次元の量であり実部が (規格化)コンダクタンス虚部が (規格化)サセプタンスとなる

VG 依存性の FM-SIM測定ではfs = 100 Hzに固定しVG と直列接続となっている Vacs の影響を

抑えるためVacs = 02 Vp-p としたVG は +2 Vから minus3 Vまで 05 V刻みで変化させた後 (forward)

+2 Vまで戻した (backward)図 415(a) に示す表面形状像の AndashB ライン上で複数回 FM-SIM 測定しそれぞれの VG で 5ラインずつ平均した結果得られた FM-SIM振幅プロファイルを図 415(b)

に示すVG により電極上の FM-SIM振幅に変化はなくグレイン A上のみ徐々に増加していることが分かる電極グレイン A絶縁膜それぞれの領域で FM-SIM振幅および位相の平均を求め式(49)より正規化 FM-SIM信号 (γ)を続けて式 (415)により正規化アドミタンス (Ynorm)を求めた同時に界面での直流電位差との関係を議論するため同時測定の FM-KFMで得られた表面電位から電極に対するグレイン電位 (電位差 ∆V)も求めたこれらを図 415(c)ndash(e)に示すまず VG を正から負に印加することでコンダクタンス (Re[Ynorm]) が急増したVG lt 0 でも継続して増加していることは423節の周波数依存性で見られた VG 印加による τr 減少と合致する結果であるVG 印加による接触抵抗の減少はこれまで OFETにおける研究で多く見られてきた [55 131 151]接触抵抗減少のモデルとしては有機薄膜のバルク部の効果や電極付近の低移動度領域が提唱されているがこれらはトップコンタクト OFETやマルチグレイン薄膜で説明されたモデルである [151 152]本研究の FM-SIM測定では単一グレインと電極との界面を考えておりバルク部やグレイン境界によるインピーダンスへの影響は排除できると考えられるよって図 415(c)のような界面コンダクタンスの増加 (接触抵抗の減少) は金属ndashグレイン界面の電子物性本来の効果が現れたものだと考えられる興味深いことに図 415(c) (e)で見られるように界面コンダクタンスと電位差でゲートバイアス変化の forwardと backwardで似たヒステリシス (履歴)効果が現れているこのような履歴効果

64 第 4章 新規局所インピーダンス評価法の開発と金属―有機界面物性の評価

Large mismatch

EF

VL

Trap states

E

DOS

HOMO

Metal Organic

∆V gt 0

Small mismatch

Metal Organic

∆V lt 0

(b) Depletion(a) (c) Accumulation

0

1

15

05

-02 0 02∆V [V]

Re(Y

norm

)DepletionAccumulation

VG = 2 V

VG = -3 VForwardBackward

図 416 (a) 界面コンダクタンス Re[Ynorm] の電位差依存性 (図 415(c) (e) より)赤は負方向(forward)青は正方向 (backward) 測定に対応する(b) (c) Pt 電極とペンタセングレイン界面におけるエネルギー準位の模式図およびグレイン内部のエネルギー (E) に対する状態密度(DOS)の概要図

は OFETの伝達特性でも良く見られている [139]正孔が蓄積している状態では正孔が有機ndash絶縁膜界面の深いトラップ準位に捕捉されVG の正方向掃引でしきい値電圧の負シフトを引き起こす今回用いている絶縁膜 SiO2 もヒステリシスを良く引き起こす材料であるため図 415(c) (e)のヒステリシスもトラップ準位によると考えられるこのことを踏まえると界面コンダクタンスの変化は VG によって直接引き起こされたものではなく電位差 ∆V により大きく関係していると考えられるそこで界面コンダクタンスを電位差に対してプロットし直すと図 416(a)のように forwardと backwardのヒステリシスが非常に小さくなったため電極ndashグレイン界面物性はその電位差によって決定されていることが言えるこのことからも図 415(c) (e)で見られたヒステリシスは界面における本来の物性ではないことが分かる図 416(a) を見ると ∆V gt 0 は VG gt 0 の空乏 (depletion) 状態に対応し界面コンダクタンスRe[Ynorm]がほぼ 0である一方 VG lt 0の蓄積 (accumulation)状態では ∆V lt 0でありRe[Ynorm]

が増加しているこの増加は ∆V = minus02 V で急峻となっており電極ndashグレイン界面が導通するには minus02 V程度の界面電位差が必要であることが示唆されるこれら電位差と界面コンダクタンスの関係は電極とグレインのエネルギー準位の関係から説明できる図 416(b) (c)は電極ndashグレイン界面のエネルギー準位を模式的に示したものであるバイアスが印加されていない状態ではグレインは空乏状態にある一般にキャリア蓄積がおこるチャネル層は HOMO準位と LUMO準位の間にトラップ準位による DOSが存在する (図 416(b))空乏状態ではそれが一部だけ満たされることでEF が EHOMO と ELUMO の間に位置するEF が EHOMO よりも高い準位に位置しているため準位ミスマッチが大きく正孔注入障壁が生じるこの場合電極からグレインに正孔を注入するのが困難となりこれが接触抵抗となる一方ゲートに負バイアスを加えるとグレインが蓄積状態となりトラップ準位が満たされEHOMO

が EF に近づくことで ∆V の負シフトが起こるこれによりエネルギー準位ミスマッチが小さくなり正孔がグレインに注入しやすくなるそのため図 416(c)のように接触抵抗が低減すると説明できる以上のようにVG の印加により電極ndash有機界面のエネルギー準位整合性が良くなり接触抵抗の低減が起こるこの単純な解釈はこれまで異なる仕事関数や SAM修飾を施した電極を用いた電気特性評価によっても議論されてきたものであるしかし単一グレインとの界面においてエ

44 電極表面処理による OFET特性への直接影響評価 65

ネルギー準位の整合状態と接触抵抗との関係を議論したことは非常に意義深いこのようにこれまでの手法では測定できなかった特定の単一グレインにおいても金属ndash有機界面物性について議論できFM-SIMという新規手法開発および評価法の妥当性と有用性が示されたといえる

44 電極表面処理による OFET特性への直接影響評価42節では OFETで局所インピーダンス測定を行うための新規手法 FM-SIMを提案し回路モデルを用いて理論実験両方面から妥当性を示した局所インピーダンスの解析法を用いて電極ndash単一有機グレイン界面の電気特性について議論するに至った本節では有用性を示した FM-SIMを用いて応用的な内容として動作中の OFETの金属ndash有機界面物性の評価に臨むOFETの電極を自己組織化単分子膜 (Self-assembled monolayer SAM)で修飾することで性能向上することが確認できるこの電気特性の変化が何に起因しているかをFM-SIMを用いた電位局所インピーダンス測定により解明を目指す

441 電極表面処理および試料作製本測定で対象とする試料としてdinaphto[23-b2rsquo3rsquo-f ]-thieno[32-b]thiophene (DNTT) 薄膜を活性層としチオール系 SAMの一つである pentafluorobenzenethiol (PFBT)の SAMで電極を修飾した OFETを用いた

DNTT DNTT (C22H12S2) は図 417(a) のような分子構造をもつヘテロ環式芳香族分子であるDNTT は 2007 年に広島大学の Yamamoto Takimiya によって合成された有機半導体分子である [153 154]DNTT に含まれるベンゼン等の芳香族とチエノチオフェンが縮環した分子構造は2006 年の同グループによるベンゾチエノベンゾチオフェン (BTBT) 誘導体の合成 [155] を皮切りに1 cm2(Vs)を超える高い移動度と大気安定性 [156] を持つ p 型有機半導体分子のベースとなる構造として近年非常に注目を受けているこのような大気安定性は深い HOMO 準位と大きなHOMOndashLUMOギャップによりもたらされたものであるが [153]一方でこの深い HOMO準位により電極との界面で大きなキャリア注入障壁が生じてしまい接触抵抗が大きくなるという問題が指摘されている [152]

PFBT PFBT (F5C6HS)は図 418(a)のような分子構造をもつチオールの一種であるチオール系分子は図 418(b)のように S原子が金属と結合するような形で分子が並びSAMを形成することが知られている対象とする金属は Auが一般的であるがAgPtなど他の金属でも SAMを形成する [157]PFBTはペンタセン誘導体やアントラセン誘導体など溶液プロセスにおける低分子系OFETの電極修飾に用いられてきた [18 22]図 419に測定で用いた試料の作製手順を示すまず UVリソグラフィによりチャネル幅約 1 micromチャネル長約 500 nm厚さ約 20 nm の Au 電極を作製し30 mM の PFBT を混合したイソプロパノール (IPA)溶液に電極を 5分間浸漬させることで PFBT-SAMを形成したその後SAM処理を行っていない電極にも同時に DNTT分子を真空蒸着法で約 100 nmの薄膜を成膜しOFETを得た今後SAM修飾を行った試料を「PFBT-Au」試料 (OFET)行っていない試料を「Bare-Au」試料(OFET)と呼ぶ

66 第 4章 新規局所インピーダンス評価法の開発と金属―有機界面物性の評価

(a)

(b)

図 417 (a) DNTTの分子構造式(b) DNTTの結晶構造 (左 b軸投影右 各層のヘリンボーン構造図)(Ref [153] J Am Chem Soc 129 (2007) 2224)

(a) (b)

SH

F

F

F F

F

S Body

SAM

Metal (Au Pt Ag )

図 418 (a) PFBTの分子構造式(b)チオール系分子による SAMの模式図

(1) Electrode fabrication(UV lithography)

(2) SAM fabrication (3) DNTT deposition

30 mM PFBTin isopropanol

Au 20 nm

DNTT 100 nm

PFBT-Au

Bare-Au

PFBT modied Au

SiSiO2

図 419 電極表面修飾比較に用いた試料の作製手順図UVリソグラフィ (図 39参照)で作製した Au電極を PFBT溶液に浸漬させることで PFBT-SAMで修飾した Au電極を作製しSAM修飾有無の電極上に DNTTを同時に成膜した

442 電気特性評価図 420 に電極対で測定した両 OFET の電気特性測定結果を示す出力特性の結果を見るとどちらも飽和領域が表れているがPFBT-Au試料の方が電流が大きい伝達特性については

radicID は

PFBT-Au試料の方が傾きが大きいがしきい値電圧はほとんど変わらない同一基板上のそれぞれ3つの OFETについて平均した移動度はBare-Auでは micro = 044 cm2(Vs)なのに対しPFBT-Auでは micro = 099 cm2(Vs)と 2倍以上に増加したよって本研究で作製した PFBT-SAM修飾電極においても過去の報告と同じく OFETの性能向上の効果が得られている一方しきい値電圧はBare-Au

では minus94 VPFBT-Auでは minus79 Vであり変化は小さかったしきい値電圧はチャネル領域の薄

44 電極表面処理による OFET特性への直接影響評価 67

-8

-6

-4

-2

0-20-15-10-5 0

Cur

rent

[ѥA]

VD [V]

0 V-5 V

-10 V-15 V-20 V-25 VVG

VG = ndash25 V

ndash20 V

ndash15 V

ndash10 V0 Vndash -5 V

-8

-6

-4

-2

0-20-15-10-5 0

ampXUUHQWgtѥ$

VD [V]

VG = ndash25 V

ndash20 V

ndash15 V

ndash10 Vndash5 V

0 V

(a) Bare-Au

(c)

(b) PFBT-Au

10-1010-910-810-710-610-5

-20-15-10-5 0 5 0

1

2

3

I D [A

] (lin

e)

3ID

[10-3

A-1

2] (

plot

)VG [V]

PFBT-AuBare-Au

図 420 電極対で測定した DNTT-OFETの電気特性(a) Bare-Au OFET(b) PFBT-Au OFETの出力特性(c)両 OFETの VD = minus5 Vにおける伝達特性プロットは

radic|ID|(右軸)実線は片対数(左軸)

400 nm 400 nm

80 nm

(a) Bare-Au (b) PFBT-Au

Electrode

図 421 (a) Bare-Au OFETおよび (b) PFBT-Au OFETにおける表面形状像破線で囲まれた領域は電極のある場所を示す

膜の構造やドーピングによって大きく変化することが知られているため [158ndash160]この結果は電極の SAM処理がチャネル領域に与える影響が小さかったことを示しているチャネル領域の状態を確認するためにAM-AFMで取得した OFETの表面形状像を図 421に示す膜の形状は全く同じとは言えないもののグレインの大きさは 100 nmから 200 nmと同程度といえるよって電極の SAM修飾による電気特性の変化はその修飾した電極と有機薄膜との界面における電気特性が変化したものによると考える

68 第 4章 新規局所インピーダンス評価法の開発と金属―有機界面物性の評価

-02 0

02 04

Pote

ntia

l [V]

0

05

1

Ampl

[m

V]-60

-30

0

0 250 500 750 1000Ph

ase

[deg

]

Distance [nm]

-03

0

03

Pote

ntia

l [V]

0

05

1

Ampl

[m

V]

-60

-30

0

0 250 500 750

Phas

e [d

eg]

Distance [nm]

iuml9iuml9iuml9iuml9iuml9iuml9iuml9iuml9

VG

AC electrode AC electrode

(d)

(e)

(f)

(a)

(b)

(c)

(VD = 0 V) (VD = 0 V)Bare-Au PFBT-Au

図 422 (a)ndash(c) Bare-Au試料および (d)ndash(f) PFBT-Au試料での FM-SIM測定結果 (VD = 0 V)(a) (d)表面電位(b) (e) FM-SIM振幅(c) (f) FM-SIM位相プロファイル網掛け部は電極位置を表しAC電極は右電極とした

443 FM-SIMによる電極ndashDNTT界面局所電気特性評価電気特性測定の結果から電極の SAM修飾により電極ndash有機界面の電気特性変化が示唆されたそこでFM-SIMを用いて電極ndash有機界面の電位差や局所インピーダンスの違いを評価する測定条件として(a) VD = 0 Vおよび (b) VD = minus1 V(c) VD = minus5 Vの 3つのドレインバイアスについて測定した(a) では 422 節同様キャリア注入に従う電位差局所インピーダンス変化を評価する一方(b) (c)ではドレインバイアスが加わり OFETが動作している状態でチャネル内の電位プロファイル評価と局所インピーダンス評価を行う

測定方法 測定時のセットアップは 421節の図 43図 44と同じ装置構成である電極に加える交流バイアスは Vac

s = 1 Vp-p fs = 100 Hzとした表面形状像 (図 421)における右電極をソース電極左電極をドレイン電極とし測定により AC電極を変更することでソースドレイン両方の電極ndash有機界面物性を評価する直流バイアスは AC電極側にしか印加しないがAC電極およびゲートに印加する直流バイアスを調整しているため本節で示す VD VG はソースに対するドレインおよびゲートの電圧とみなす1また電極ndash有機界面に絞って評価するため以下の測定では全てチャネルに沿って両電極間を往復するように測定しており5ndash7ラインを平均したデータを用いたこの間位置が同一であることは同時に測定している表面形状プロファイルが同一であることから確認した

ソースドレイン電極接地時 VD = 0 Vにおいて右電極を AC電極として FM-SIM測定した結果得られた表面電位FM-SIM信号の振幅位相のプロファイルを図 422に示す表面電位を見る

1 例えば右電極に1 Vゲートに minus4 V印加するとVD = minus1 VVG = minus5 Vとみなせる

44 電極表面処理による OFET特性への直接影響評価 69

0

01

02

03

04

-06 -04 -02 0 02

Re[

Y nor

m]

6V [V]

0 V

iuml9

VG

0

01

02

03

04

-06 -04 -02 0 02

Im[Y

norm

]

6V [V]

0 V

iuml9

VG

(a) Conductance (b) SusceptancePFBT-AuBare-Au

PFBT-AuBare-Au

図 423 VD = 0 V における (a) 正規化コンダクタンス Re[Ynorm](b) 正規化サセプタンスIm[Ynorm]の ∆V 依存性

とどちらの OFETも負の VG を印加するに従い電極に対するチャネル上の電位が負にシフトしているこれは単一グレインで測定した図 415(e)の結果と合致する結果であるまたVG 印加によりFM-SIM振幅は 0から増加位相は 0 から負シフトする傾向もどちらの OFETでも見られているFM-SIM振幅については小さなゲートバイアスでは AC電極付近と対向電極付近とで差異があるが少なくとも minus4 V以降ではチャネル内で一定でありチャネル内抵抗に比べて AC電極ndash

チャネル界面インピーダンスが支配的であることが分かるまたチャネル内の表面電位は表面形状にカップリングしており再現性はあるが不均一な応答が見られている一方FM-SIM 振幅位相は十分な信号強度があれば十分均一に見えておりKFMにより測定される表面電位よりも表面形状による影響を受けにくいといえこの意味でも KFMよりも OFET中のより局所的な電子物性評価が可能と考えられる図 422の AC電極上チャネル上の均一な応答について平均した値を用い423節と同様に正規化 FM-SIM信号から正規化アドミタンス Ynorm を求めチャネルndashAC電極電位差 ∆V に対してその実部 (コンダクタンス)虚部 (サセプタンス)をプロットした結果を図 423に示すまず図 423(a)

について単一グレインで測定した図 416(a)同様 VG 印加に従い先に ∆V が負シフトし次いでコンダクタンスが増加している416(a)に比べて低 ∆V でも若干コンダクタンスが増加しているのは単一グレインではなく連続膜であるためVG 印加に従いチャネルとなる領域が変化している影響が考えられるしかし上述のとおり VG = minus4 Vでチャネル内の応答が一定となり蓄積がほぼ完了していると考えられるためそれより大きなゲートバイアス領域では意味ある結果が得られていると考える両 OFET で比較するとサセプタンスに関しては単一グレインでの結果 (図 415) 同様単調な増加減少は見られないコンダクタンスに関してはPFBT-Auでは負シフトしていた ∆V が minus035 V

付近で収束しコンダクタンスが増加し続けているがBare-Auではコンダクタンスが増加し始めてからも ∆V がシフトし続けまたコンダクタンスの増加も停滞しているこのことから 2点のことが示唆される一つはPFBT-Auの方が AC電極ndashチャネル界面でキャリア蓄積後のコンダクタンスが大きいということであるこれは電極対を用いた電気特性で電流移動度が向上したことと合致するもう一つは AC 電極ndashチャネル界面が導通するために必要な ∆V が異なるということである433節で議論したように ∆V は電極のフェルミ準位とチャネルの HOMO準位の整合状態と関わっ

70 第 4章 新規局所インピーダンス評価法の開発と金属―有機界面物性の評価

minus1 V

Bare-Au

minus5 V

AC el AC el

Drain Source Drain Source

0

Pote

ntia

lSI

M a

mpl

SI

M p

hase

Po

tent

ial

SIM

am

pl

SIM

pha

se

AC-drain AC-source

iuml9iuml9iuml9iuml9iuml9iuml9iuml9iuml9

VG

Channel Channel

-05

0

3RWHQWLDOgt9

0

05

$PSOgtP9

-30

0

30

0 500 750

3KDVHgtGHJ

LVWDQFHgtQP

-5

0

3RWHQWLDOgt9

0

05

$PSOgtP9

-30

0

30

0 500 750

3KDVHgtGHJ

LVWDQFHgtQP 500 750 LVWDQFHgtQP

(a)

(b)

(c)

(d)

(e)

(f)

(g)

(h)

(i)

(j)

(k)

(l)

図 424 Bare-Au OFET の動作時の FM-SIM 測定結果 (VD = minus1 V(andashf) minus5 V(gndashl))ドレイン(左電極)を AC電極とした場合 (andashc gndashi)およびソース (右電極)を AC電極とした場合 (dndashf jndashl)の結果(a d g j)表面電位(b e h k) FM-SIM振幅(c f i l) FM-SIM位相プロファイル位相プロファイルのみスプライン曲線による平滑化を行っている

ている今回の結果ではPFBT-Auでの電極ndashチャネル界面の方が Bare-Auのそれよりも元々の電極ndashチャネル間準位整合状態が良かったと考えられるVG = minus15 V における ∆V を比較するとBare-Auでは 015 V程度大きい準位シフトが必要ということになるこのように電極の SAM修飾により仕事関数を増加させるという結果がいくつか報告されている [161ndash163]フッ素系の SAM

の場合チオール基から表面方向に対し分子軸に沿って負のダイポールが存在するため電極の見かけの仕事関数が増加すると考えられているしかし報告によって仕事関数の変化は 05 eVから1 eVと異なるこのことは本研究の KFMで測定された ∆V の差異とも異なることも含めると電極の SAM修飾による電気特性変化が全てこの仕事関数変化による影響に帰結されるとは限らないことを示唆しているそのためこの後 OFET動作中での評価結果も含めて電極 SAM修飾による特性変化の起源を議論していく

44 電極表面処理による OFET特性への直接影響評価 71

PFBT-AuAC el AC el

Drain Channel ChannelSource Drain Source

minus1 V

minus5 V

Pote

ntia

lSI

M a

mpl

SI

M p

hase

Po

tent

ial

SIM

am

pl

SIM

pha

se

0

AC-drain AC-source

iuml9iuml9iuml9iuml9iuml9iuml9iuml9iuml9

VG

-05

0

3RWHQWLDOgt9

0

05

$PSOgtP9

-30

0

30

3KDVHgtGHJ

(a)

(b)

(c)

(d)

(e)

(f)

-5

0

3RWHQWLDOgt9

0

05

$PSOgtP9

-30

0

30

0 500

3KDVHgtGHJ

LVWDQFHgtQP

-5

0

3RWHQWLDOgt9

0

05

$PSOgtP9

-30

0

30

500

3KDVHgtGHJ

LVWDQFHgtQP0

(g)

(h)

(i)

(j)

(k)

(l)

図 425 PFBT-Au OFET の動作時の FM-SIM 測定結果 (VD = minus1 V(andashf) minus5 V(gndashl))ドレイン(左電極)を AC電極とした場合 (andashc gndashi)およびソース (右電極)を AC電極とした場合 (dndashf jndashl)の結果(a d g j)表面電位(b e h k) FM-SIM振幅(c f i l) FM-SIM位相プロファイル平滑化を図 424と同様に行った

-4

-2

0

2

-12-8-4 0

0

100

200

300

umlV [V

]

Cur

rent

[nA]

VG [V]

PFBT-AuBare-Au

図 426 VD = minus5 V におけるチャネルndashソース間電位差 (∆V) と測定中の直流電流の VG 依存性赤線四角のシンボルが PFBT-Auを青線丸のシンボルが Bare-Auの結果を示す実線が ∆V破線が電流を示す

72 第 4章 新規局所インピーダンス評価法の開発と金属―有機界面物性の評価

(a) Conductance (b) Susceptance

0

01

02

-12-8-4 0

Re[

Y nor

m]

VG [V]

PFBT-AuBare-Au

0

02

04

-12-8-4 0

Im[Y

norm

]

VG [V]

PFBT-AuBare-Au

図 427 VD = minus5 V での FM-SIM 結果から得られた (a) 正規化コンダクタンス (Re[Ynorm]) および (b)正規化サセプタンス (Im[Ynorm])の VG 依存性

ドレインバイアス印加時 (OFET 動作時) 次にドレインバイアスを加えた状態でBare-Au とPFBT-Au でどのような違いが現れるかを検証するドレインバイアス VD = minus1 V minus5 V についてドレイン (左)ソース (右) それぞれの電極を AC 電極とした際の FM-SIM 測定結果を図 424

(Bare-Au OFET)および図 425 (PFBT-Au OFET)に示すプロファイルは表形式で示しており左の列はドレインを AC電極とした場合 (AC-drain)右の列はソースを AC電極とした場合 (AC-source)

のプロファイルであるまた行は上から minus1 V での表面電位FM-SIM 振幅FM-SIM 位相および minus5 V でのそれぞれの結果という順に並んでいるこれまでの議論からFM-SIM では AC を印加している電極と有機薄膜との界面のインピーダンスを優先的に評価できるためAC-drain とAC-sourceではそれぞれドレインndashチャネル界面ソースndashチャネル界面の物性が FM-SIM信号に現れるそれに対し表面電位は交流バイアスの印加を除くと全く同じ条件で測定されているため得られる電位プロファイルは原理上同じと考えられるまずこれら原理的な点について注目する図424(a) (d)はそれぞれ AC-drain AC-sourceの表面電位でありVG lt minus2 Vではほぼソースndashチャネル界面に電位ドロップが集中する傾向が一致している同様に図 424の (g)と (j)図 425の (a)と(d)(g) と (j) が若干の電位分布の違いがあるものの基本的に傾向は同じでありAC-drain とAC-sourceの測定は DC的に見るとほぼ同条件で測定されているとみなせる図 426に VD = minus5 V

における VG を変えたときのチャネルndashソース間電位差 (∆V)と直流電流値の変化を示すVG = minus8 V

まではゲートバイアス印加に従い ∆V は負に大きくなるが電流はほぼ 0のままである一方 minus8 V

を超えると ∆V は minus4 V程度で飽和し電流は増加を始めている電流が VG = minus8 V を境に増加を始めるという結果は事前の電気測定結果 (図 420(c)) と非常に良い一致を示しており交流バイアスなどによる大きな影響はないことを示しているここでOFET が導通 (ON 状態) しているVG lt minus8 Vの区間で∆V がほぼ VD の値で飽和しているためON状態における OFETの抵抗のほとんどはソースndashチャネル界面であると分かる次に FM-SIM信号に注目するAC-drainと AC-sourceで比較するとBare-Auか PFBT-Auかどうかや VD の値に関わらずチャネル上の FM-SIM振幅は AC-drainの方が大きいという一定の傾向があるゲートに負バイアスを印加中は電圧のほとんどがソースndashチャネル界面に加わっていることを加味するとドレインndashチャネル界面よりソースndashチャネル界面の方が電気的カップリングが悪いことを示唆しているこのことからも電極の SAM修飾による性能向上はソースndashチャネル界面の

44 電極表面処理による OFET特性への直接影響評価 73

Trap rich region

Trapped hole Trapped stateHOMO (Mobile)Mobile hole

HOMO

EFHOMO

EF

Bare-Au PFBT-Au

∆ xed

Increase

∆ gradual

Slight increase

C C

C

VG

MetalOrganic

図 428 FM-SIM で測定された容量変化から想定される Bare-Au 試料と PFBT-Au 試料での金属ndash有機界面の電子準位と状態の概要図VG 印加に従い正孔が蓄積するが界面付近ではより多く蓄積させないと可動 (Mobile)キャリアが生まれない容量 (C)は可動キャリアの存在する領域に由来すると考えると金属ndash有機界面のトラップ準位が多い系では容量増加が小さくトラップが少ないと瞬時に蓄積し容量が増加する

局所インピーダンス変化を追うことで直接評価比較できると考えられる次に VD による違いに注目するとVD = minus1 Vに比べ minus5 Vの方が FM-SIM振幅が大きい特に AC-drain (図 424 425(h))

ではチャネル上の FM-SIM振幅がドレイン電極とほぼ同程度になっておりドレインndashチャネル界面インピーダンスの寄与が非常に小さくなっていると考えられる以上の傾向は大まかに Bare-Au と PFBT-Au で似た挙動を示しており電極の SAM 処理による電気特性の違いを反映したものとは言えないBare-Au (図 424)と PFBT-Au (図 425)とで比較するとまず VD = minus1 Vでは挙動はほぼ同じでAC-drainと AC-source共に VG 印加によりチャネル上 FM-SIM位相が負にシフトしている一方 VD = minus5 V についてAC-sourceの FM-SIM位相がPFBT-Au (図 425(l))では負シフトしているがBare-Au (図 424(l))では界面での明確な負シフトが見られないこのように Bare-Auと PFBT-Auとの違いが VD = minus1 Vでは見られずminus5 Vで見られた要因として図 420(a) (b) の電気特性の低 VD 領域における非線形な特性が挙げられる低 VD

ではほとんど電流が流れていないという特性差のなさが FM-SIMの結果でもあまり違いを生まず一方大 VD では特性差も現れる程度に電流が流れたために FM-SIMの結果に違いが現れたと考えられる以上のことからSAM処理による電気特性変化はソースndashチャネル界面 (AC-source結果)に由来するとしVD = minus5 Vでの結果に注目する

74 第 4章 新規局所インピーダンス評価法の開発と金属―有機界面物性の評価

433節での解析を踏まえソースndashチャネル界面インピーダンスを並列 RC回路と考え式 (415)

を用いて界面正規化アドミタンス (実部界面コンダクタンス Re[Ynorm]虚部界面サセプタンスIm[Ynorm]) を評価するVD = minus5 V における結果を図 427 に示すまず界面コンダクタンス (図427(a)) は Bare-Au PFBT-Au 共に VG = minus8 V から増加を始めるという図 426 で見られた傾向と一致しておりソースndashチャネル界面の影響が電気特性にそのまま現れたことが分かるまたVG = minus8 V以降の界面コンダクタンスの増加はBare-Auに比べ PFBT-Auの方が顕著であるここでFM-SIMで測定したプロファイル (図 424 425)からソースndashチャネル間の変化は 100 nm以下の分解能で観測されているためFM-SIMでは電極付近のグレインの影響を排除した金属ndash有機界面物性を評価していると考えられるそのため電極付近のグレインサイズによる接触抵抗への影響ではなく確かに金属ndash有機界面物性が変化したことにより接触抵抗が低減したことを図 427(a)

は示している次に界面サセプタンス (図 427(b)) を通して接触抵抗低減の起源について考察する界面サセプタンスはBare-Auでは VG 印加に対してゆるやかな増加を示している一方でPFBT-Auでは界面コンダクタンスと同じく VG = minus8 Vを境に顕著な増加が見られたここで測定周波数は同じなのでサセプタンスは金属ndash有機界面の容量と対応付けることができる容量の起源として金属ndash有機界面における有機薄膜の不連続性が挙げられる金属近傍の結晶性低下や金属による準位への影響により有機薄膜中のトラップ準位はチャネル中よりも多くなるこのような金属ndash有機界面のトラップリッチな領域が空乏層となり界面容量を生むと考えられる [41 61 149]ここでゲートバイアスの印加によりキャリア (正孔)注入が起きるとトラップが埋まり空乏層幅が減少することで図 427(b)の PFBT-Auのような界面容量の急速な増加が見られると考えられる (図 428右)一方元々のトラップ準位の量が多いと空乏層幅の減少も顕著ではなくなるそのためPFBT-Auでは bare-Auに比べ金属ndash有機界面のトラップ量が減少していることが示唆される (図 428左)過去の報告でOFETの電極と有機薄膜の間にドープ層を挿入することで金属ndash有機界面のキャリアを増やし空乏領域を狭めた報告がある [152]正孔のドープ層としては有機薄膜と直接電荷の授受を行うFeCl3 や F4-TCNQが知られているが直接正孔を生まない SAMや極薄酸化膜によっても金属と有機分子の間の相互作用を抑えることで金属ndash有機界面のトラップを減少させることができるといわれている [150 164]これを踏まえるとやはり PFBTを用いた電極の SAM修飾により金属ndash有機界面のトラップが減少したといえる (図 428)特に浅いトラップはその領域の移動度とも密接に関わっており本研究の bare-Au OFETに対する PFBT-Au OFETでの接触抵抗低減は界面トラップの減少による効果と結論づける

45 本章のまとめ本章では 3章で課題として挙がっていた金属ndash有機界面の電気特性の測定に注目し新規局所インピーダンス評価法として FM-SIM を開発した等価回路モデルから FM-SIM 信号と界面インピーダンスが一対一に対応する式を導出するとともに周波数依存性から回路定数を半定量的に算出できることを見出した金ndashペンタセン単一グレインに適用することでトップコンタクト OFETでの測定でも観測されていた抵抗ndash容量並列回路の界面インピーダンスが単一グレイン系においても生じることを見出した

45 本章のまとめ 75

FM-SIMの応用として電極表面の SAM処理による移動度向上要因を評価したOFET動作前のみならず OFET動作時にも FM-SIM測定できることを示しOFETの動作がソース電極ndashチャネル間の電気特性に支配されていることを確認したこれを踏まえソース電極ndashチャネル界面のインピーダンス評価によりSAM処理が界面の準位整合状態のみならずトラップを減少させたことにより界面部分の導電性向上に繋がったことが明らかとなった

77

第 5章

時間分解測定による有機グレイン中のキャリアダイナミクス評価

3 章で問題となった金属ndash有機界面の電気特性が接触電流測定では困難であることに対し4 章で提案した FM-SIM による非接触での電位測定で実現したしかしFM-SIM や従来手法であるKFMではOFETのチャネルが既に形成している状態の電気特性しか測ることができないこれには以下に挙げる 2点の問題がある一つはバイアスストレスの問題であるOFETではゲートバイアスを印加した状態が長時間続くと電流が低下することが問題となっている [165]主にチャネルに長時間キャリアが蓄積することでキャリアトラップが誘起されることが原因と考えられているバイアスストレスによる変化でKFMで測定される電位像も経時変化が起きるため [166]長時間のバイアスをかけずとも局所電気特性評価を可能にすることも必要であるもう一つはチャネル形成前ないし形成中の電気特性が評価できないという点であるこれらの課題に対し経時変化そのものに注目することで電気特性評価を試みている報告がいくつかある有機薄膜へのキャリア注入中の経時電流を測定する変位電流測定 (Displacement current

measurement DCM)は従来金属絶縁膜有機半導体 (MIS)構成で用いられた手法だがOFETに拡張し金属ndash有機界面の注入電圧や絶縁膜界面のトラップについて評価した報告がある [60 62]また注入時のキャリア端をマッピングできる時間分解顕微二次高調波発生 (TRM-SHG)法を利用し有機薄膜の移動度異方性を一度に測定した例がある [167]このような時間分解測定を利用したチャネル形成過程の評価をプローブ技術に活かし有機半導体グレインへのキャリア注入排出時の局所電気特性評価を本章での目標とする

51 時間分解 EFM (TR-EFM)

電位の経時変化を測定するという観点で考えると2 章で述べた KFM を用いるのが最もシンプルであるしかしKFM ではバイアスフィードバック回路を用いており追従速度の遅さが問題である本研究では有機半導体グレインを対象とするが4 章での結果から応答する周波数範囲は100 Hzから 1 kHz程度の早さと考えられるつまり時間分解能としては 1 ms程度必要であり従来の KFMでは難しいよって本研究ではバイアスフィードバックを必要としない EFMをベースとして考えるまたこれまでの議論と同様に真空中での測定を行うため FM-EFMを用いる

78 第 5章 時間分解測定による有機グレイン中のキャリアダイナミクス評価

511 TR-EFMの動作電圧印加に対するグレイン応答の経時変化をマッピングするため本研究では 3 章の point-by-

point技術を活用した時間分解 EFM (Time-resolved EFM TR-EFM)を測定に用いたTR-EFMの動作模式図を図 51に示すTR-EFMでは試料上の各点において(a) FM-AFMを用いて探針ndash試料間距離を一定にするとともに高さの測定を行う動作 (図 51(a))と(b)高さを固定し何らかの電圧(パルス)を加えその間の FM-EFMの出力 (EFM信号)の経時変化を測定する動作 (図 51(b))を交互に繰り返すこのような point-by-pointでの AFMEFM交互動作には経時応答を測定できる以外に 2つの利点がある一つは各点での FM-EFM測定時のみバイアスを印加するためバイアスストレスによる経時変化の影響を抑制することができる点であるもう一つは通常 KFMではバイアスを印加しながら測定するがTR-EFMでは表面形状取得 (FM-AFM)時にバイアスをかけていないため従来よりも探針ndash試料間距離が一定に保たれていると考えられるそのためTR-EFMは経時応答以外の面からも有利といえる装置構成図を図 52(a) に示すTR-EFM では FM-EFM の特性と FM-AFM フィードバックを分けて考えるためPLL を 2 台用いたFM-AFM 用 (PLL1) には 42 節と同じ自家製回路を用いFM-EFM用 (PLL2)には Zurich Instrumentsのロックインアンプ (LIA)である HF2LI-MF (以降ZI-LIA)の PLLオプションを用いたZI-LIAからACバイアス信号 ((角)周波数 ft(ωt))をカンチレバーに加え変位信号を PLL2で周波数検波しZI-LIAにより Lock-in検出することで EFM信号が得られ経時信号をデータロガー (NR-500)で記録したPoint-by-point動作を行うトリガー信号は自家製 AFMコントローラより出力されFG1 (Tektronics AFG 3000)の出力トリガーに用いるとともに信号の再構成用にデータロガーで記録したカンチレバーは Olympus OMCL-AC240TM-R3

(共振周波数 sim 70 kHzばね定数 sim 2 Nm)を用いたFG1から出力する電圧パルスの波形の概略を図 52(b)に示す0 Vを間に挟む正負交互の電圧波形と複数の振幅のパルスを一度に印加することが特徴であるこのようなパルス波形は Oak Ridge

国立研究所の Kalininおよびダブリン大学の Rodrigezらのグループにより提唱された電気化学原子間力顕微鏡で用いられたものから着想しており複数の電圧に対する応答を一度に測定できるという利点を有している [168]本研究では対象とするグレインや測定内容によりパルス波形に調整を加えているため次のようにパルス波形を定義する

1パルス時間 tp を用い一つの電圧に対応するパルスの時間を表すシーケンス +Ak rarr 0 rarr minusAk rarr 0という一連のパルスを出力する期間を表すあるシーケンスで

のパルス振幅を Ap = plusmnA1 middot middot middot plusmnAk middot middot middot Anの形で示す正パルスまたは負パルスのみの場合は符号をそのように指定することで示す

シーケンス回数 nで定義する

例えば主に用いているパルス波形はtp = 20 msn = 5Ap = plusmn05 V middot middot middot plusmn25 Vと表すことができるこの場合総パルス時間は 4ntp = 400 msである

51 時間分解 EFM (TR-EFM) 79

(a) Height control(FM-AFM)

(b) Bias applicationamp FM-EFM

Cantilever

ElectrodeInsulatorGate

Feedback ONWithout bias With bias

Feedback hold

Pulse bias

EFM signal

図 51 時間分解 EFM (TR-EFM) の動作模式図試料上の各点 (走査中の全点) において(a)FM-AFMによる探針ndash試料間距離制御と(b)パルス電圧印加および FM-EFM測定を交互に繰り返す

PLL1

Data logger

Lock-in amp

PLL2

Self-excitationblock

Heightfeedback

Scanner

LDPSPD

Tip AC

FG1SampleInsulatorGate

Electrode

AFM controller

EFM signal

ZI-LIA

Trigger signal

∆f dc∆f ac

(a) Setup

(b) Pulse form (FG1)

Pulse period tp

Total pulse period 4ntp

Sequence 1

Sequence nVel

Injection

Extraction

plusmnA1 plusmnAn

図 52 (a) TR-EFMの装置構成図(b) FG1により印加したパルス電圧の模式図

512 妥当性検証電位応答の評価法としての妥当性を示すために(1) EFM 信号の値(2) 応答時間1の面から

TR-EFMの検証を行った

1 本節では電圧変化に対して EFM信号が追従する時間のことを指す

80 第 5章 時間分解測定による有機グレイン中のキャリアダイナミクス評価

1 EFM信号値 26節でも述べたようにFM-EFMでは変調信号を FM検波の後 Lock-in検出することで EFM信号 (∆f )ωt が得られる試料電位を Vs とすると式 (213)および式 (212)より

(∆f )ωt =f02kpart2Cts

partz2 VsVac cosωtt (51)

で表されるPoint-by-point 動作においても Vs に比例した EFM 信号が得られるかを検証した測定条件 [設定値 1]を以下に示す

概要 Au電極上 TR-EFM [設定値 1]

Pulse tp = 20 msn = 5Ap = plusmn05 V middot middot middot plusmn25 VLIA ft = 5 kHzバンド幅 (BW) 500 HzPLL2 自動 BW設定Logger 05 mssamplingで PulseEFM信号を取得

Au電極上で電極に上述のパルスを加えTR-EFM測定を行った各シーケンスの初めを 0 ms

に合わせた EFM信号経時変化を図 53(a)に示すここでは全体の傾向について議論を行うため単一ではなく 9回平均したデータを用いた図 53(a)よりパルスに応じて EFM信号の変化が分かるパルスのうち 0 Vとなっているところではどのシーケンスの EFM信号も重なっておりほぼ同じ値が得られていることが分かるこれはパルス印加中に探針や試料 (電極)の電位変化やカンチレバーの高さ変化は起こっていないことを示し今回のようなパルスが測定には影響しないと分かる一方 0 Vで EFM信号が 0となっていないことは探針ndash電極間の仕事関数差が影響していると考えられる以後まず測定時に電極上での EFM 信号がほぼ 0 となるように探針にバイアス電圧を加えさらに測定後に電極上の 0 Vでの EFM信号をオフセットとして全体から差し引くことで電極に対する電位相当の信号として評価するそれぞれのバイアス印加時の EFM 信号は少なくとも今回の PLL および LIA の設定では一定であることが分かる飽和後の EFM 信号の平均値をバイアス電圧に対してプロットしたものを図53(c)に示すEFM信号の理論式 (51)で示したとおり飽和値はバイアス電圧に対して線形に変化することがわかるよって測定量に関して TR-EFMは妥当な結果が得られているといえる電位 U に対してEFM signal= (U times 453 mVV + 18 mV)と線形フィッティングできたがこの比例係数および切片は探針や PLLLIAの設定値によって変化することに留意する必要がある

2 応答時間と設定値の関係 図 53(a)の 0ndash5 ms を拡大したものを図 53(b)に示すplusmn05 V での結果を除きどのバイアス電圧においても 1 ms の時点で飽和値の 9 割に到達しておりplusmn05 V のEFM信号も 15 msで十分飽和しているつまり[設定値 1]での測定の時間分解能は約 1 msといえ本節の冒頭に述べた時間分解能を満たしているため有機半導体グレインへの電荷注入応答を測定する十分なポテンシャルがある一方グレインによって応答が異なること今後 TR-EFMを活用した経時応答測定を行うことを考慮すると装置設定と EFM信号の応答時間信号対電圧比 (Signal-to-noise ratio SN)を比較することは有用である本項では変調周波数 fm のみならずカンチレバーの共振周波数PLL2の設定値 (ループゲイン PPLL および位相検出器 (PD)カットオフ周波数 fPD)LIAのバンド幅 BWについても考慮し所望の応答速度に対する設定項目の目安や最適値という実践的な面に注目して議論

51 時間分解 EFM (TR-EFM) 81

0

50

100

150

0 1 2 3 4 5

EFM

sig

nal [

mV]

Time [ms]

-100

0

100

0 20 40 60 80EFM

sig

nal [

mV]

Bias

[arb

uni

t]

Time [ms]

(a) (b)

plusmn05 Vplusmn1 V

plusmn15 Vplusmn2 V

plusmn25 V

VB

05 V

1 V

15 V

2 V

VB = 25 V

-100

0

100

-2 0 2

Satu

rate

d si

gnal

[mV]

Bias (VB) [V]

FitData

(c)

VB

図 53 Au電極上 TR-EFM測定結果(a)各シーケンスの初めを 0 msに合わせた EFM信号 (左軸)および加えたパルスバイアス波形 (右軸)バイアスの波高を VB としている(b)各シーケンスの EFM信号の 0ndash5 msを拡大したもの(c) EFM信号 (飽和値)のバイアス電圧依存性 (Plot)および線形フィッティング結果 (Line)

する前項目同様に Au 電極上の TR-EFM 波形から実効的な応答時間 (Response time) τres を比較する ft = 5 kHz および BW を 500 Hz に固定しパルス電圧として tp = 20 msn = 5Ap =

+1 V middot middot middot +1 V を印加しTR-EFM 測定を行った励振させるカンチレバーの共振周波数は 1

次2 次のたわみモードを用いることで比較しPD のカットオフ周波数と合わせて 1 次は fPD =

8 kHz 20 kHzについて2次は fPD = 20 kHz 40 kHzについて測定したなおOMCL-AC240TM-

R3の 2次共振周波数はおよそ 340 kHzであるまた PPLL として 178 349 524 873 140のうちいくつかについて比較したまたZI-LIAに備わっている PPLL fPD の自動設定 (auto)の見積もりも兼ねた1シーケンスの EFM信号を比較したものを図 54(a) (b)に示す図 54(a)よりPLLゲイン増加に伴い信号強度の増加がよく分かるが同時にノイズ分も増加していることが分かるこれは PLLの帯域増加による信号およびノイズ増加に対応するまた結果より1次での自動設定はおおよそ PPLL = 349と推察されるEFM信号値の妥当性検証時は PLLの自動設定を用いたがゲイン増加により自動設定のときよりも信号が増加しており ft が PLLの応答帯域外だったことを示している一方 fPD は強度には大きく影響しておらず帯域は PPLL が制限していることが分かるがPPLL = 873かつ fPD = 8 kHzの結果 (図 54(a)青破線)のように十分な fPD が無いとノイズの原因となる2次の結果 (図 54(b))もおおよそ同様の傾向を示しているが自動設定では 1次のそれに比べて強度ノイズともに良好な結果が得られたSN および τres を比較したものを図 54(c)

82 第 5章 時間分解測定による有機グレイン中のキャリアダイナミクス評価

0

20

40

60

80

100

Auto

178

349

524

873

140

SN

(b

ar)

P gain

0

100

200

0 5 10 15 20

EF

M s

ign

al [m

V]

Time [ms]

178

524

349

Auto

P= 873

0

100

200

0 5 10 15 20

EF

M s

ign

al [m

V]

Time [ms]

P= 140Auto

P= 873

(a) 1st resonance (b) 2nd resonance

(c)

PLL auto

1788k 20k 40k

349524873140

P (g

ain)

PD cuto (fPD) [Hz](a) (b)

1st

fPD

2nd

Reso8 kHz

20 kHz

20 kHz

40 kHz

1 seq Averaged

τres

0

05

1

15

Re

sp

on

se

tim

e Ѭ

res

(plo

t) [

ms]

図 54 カンチレバーの共振次数および PLL設定値 (PLLゲイン PPLL位相検出器 (PD)カットオフ周波数 fPD)による TR-EFM信号変化(a) 1次 (b) 2次共振での 1シーケンスの EFM信号波形 (実線 fPD = 20 kHz点線 fPD = 8 kHz(1次)40 kHz(2次))(c) SN(左軸棒グラフ)および応答時間 τres(右軸プロット)比較1シーケンスでの結果を塗りつぶし5シーケンス平均での結果を中空で示した

に示すなおτres として飽和値の 9割に到達した時間を用いたSNとしては 1シーケンスの結果および 5シーケンスの信号の平均から求めた結果を示したまず τres は PLL設定値にほぼ依らないことが明らかである一方 SNは1シーケンスの結果ではゲイン増加により落ちてしまうが平均することでかなり向上する全体の傾向としては 2次共振の方が SNが高めであり本セットアップでは 2次共振での測定が有利であるといえる2

次にロックイン検出の平均時間 (LIAの時定数)に注目する本研究で用いた ZI-LIAでは変調周波数からのバンド幅 (BW) として設定するため必ずしも 1 対 1 に対応するとは限らないまた実際の TR-EFM測定で BWに依存しない領域がある可能性もあるためSNと合わせてここで検証する上述の議論で 2次共振の PLL自動設定がある程度大きな帯域を有していたため2次を中心に比較した変調周波数と BWを変えながら TR-EFM測定した結果を図 55に示すここでは簡単のため共振次数に関わらず PLLの自動設定を用いた変調周波数を上げるに従い信号強度が小さくなるのはPLL 設定値による変化と同じく PLL の応答帯域による影響であるただしPLL 設定値は同一のためノイズは同等でありSNは減少する同じ変調周波数では BWの増加に従い明確に応答時間が短くなっておりパルス電圧印加の遅れが EFM 信号の立ち上がりの遅れに影響し

2 実験の順序の関係により大半の TR-EFM測定では 1次-PLL自動設定を用いているがベースノイズが小さいため平均せずとも比較的応答を綺麗に見ることができるという利点がある

51 時間分解 EFM (TR-EFM) 83

0

100

200

0 1 2

EFM

sig

nal [

mV]

5 10 15 20Time [ms]

0

100

200

0 1 2

EFM

sig

nal [

mV]

5 10 15 20Time [ms]

0

100

200

0 1 2

EFM

sig

nal [

mV]

5 10 15 20Time [ms]

0

100

200

0 1 2

EFM

sig

nal [

mV]

5 10 15 20Time [ms]

0

100

200

0 1 2

EFM

sig

nal [

mV]

5 10 15 20Time [ms]

(a) ft = 5 kHz (b) 8 kHz (c) 10 kHz

(d) 12 kHz (e) 5 kHz (1st) BW

200 Hz500 Hz800 Hz

1 kHz12 kHz

図 55 変調周波数 ( ft)と LIAバンド幅 (BW)による 5シーケンス平均の TR-EFM信号変化見やすさのため立ち上がり 2 ms間を拡大した(a) 2次-5 kHz(b) 2次-8 kHz(c) 2次-10 kHz(d)2次-12 kHz(e) 1次-5 kHz

(a) (b)

1st

ft

2nd

5 kHz

10 kHz

5 kHz

8 kHz

10 kHz

12 kHz

1 seq Averaged 0

50

100

150

200 500 800 1k 12k

SN

BW [Hz]

0

1

2

3

0 2 4 6

Ris

ing

tim

e [

ms]

1BW [ms]

5 kHz

8 kHz

10 kHz

12 kHz

ft =

図 56 (a)各変調周波数 ( ft)と共振次数における EFM信号の SN比較1シーケンスでの結果を塗りつぶし5シーケンス平均での結果を中空で示した(b) 2次共振での変調周波数ごとの応答時間 τres 比較1BWに対してプロットした

ているわけではないことが分かるこの傾向はどの変調周波数でも見られたしかしBWの増加でノイズも増加しており5回の平均でも除去できていないことが分かるこれらの EFM信号から得られた SNの比較を図 56(a)に示すBWの増加による SNの減少が起こるが1次-5 kHzや 2

次-5 kHzのように平均化によりある程度是正されていることが分かる図 56(b)に BWによる応答時間の変化 (ただし 2次のみ)を示す同じ BWでは応答時間は変調周波数に関わらずほぼ同じであることが分かるそのため求める応答時間に対して最もよい SNを示す設定値が最適といえるここで変調周波数の増加に伴い SNが減少することを踏まえるとノイズが劇的に悪化することがない限り低い変調周波数を用いるのが適当であることが分かったBWに対する応答時間の変化はおおまかに (2BW)minus1 で記述できることが図 56(b)より見て取れるつまり05 msの時間分

84 第 5章 時間分解測定による有機グレイン中のキャリアダイナミクス評価

40 nm (a) (b)50 nm (c)

150 nm

Gr2a

Gr2b150 nm

Gr1

Insulator

Electrod

e

150 nm

Gr3aGr3b

(a) (b) (c)

図 57 TR-EFM測定に用いた Au電極接続ペンタセングレインの表面形状像

解能が必要な場合BWを 1 kHzに設定する必要がありその中で SNが良い ft = 5 kHzが最適値と考えられる

52 有機グレインのキャリアダイナミクス評価前節では新規提案した TR-EFMの動作原理と測定の妥当性について議論した本節では実際に有機半導体グレイン上で TR-EFM測定を行いその電位応答からキャリア注入蓄積または排出がどのように起こっているかを検証し単一グレイン系における局所抵抗の評価に繋げる

測定試料 測定試料としてAu電極に接続したペンタセングレインを用いたAu電極は 441節と同様に UVリソグラフィで作製したペンタセンは 321節で述べたとおりである図 57に以降の測定で用いたペンタセングレインの表面形状像とそれぞれのグレインの名称 (Gr1 Gr2a Gr2b

Gr3a Gr3b)を示すGr1以外は明確なくびれがグレイン内に無く単一グレインとみなすGr1についてはくびれは無いがグレイン内で層数の分布が見て取れる以降の測定ではこれらの影響も含めて議論する

用語定義 TR-EFMでは特殊なパルスを用いており一度の測定で電圧の正負または 0 Vへ戻したときさらにそのバイアス依存や時間依存など複数種の応答が同時に得られる以降の評価で用語が混同しないように本項目で用語を定義するなおこの定義ではペンタセンが p型有機半導体であること電極として Auを用いていることから電極ndashゲート間に正電圧印加時に正孔が注入されることを基としている

EFM信号 TR-EFMまたは単なる FM-EFMにより得られたロックイン出力値またはその経時波形

バイアス電圧 ある時間期間における電圧値VB で表す注入 (injection) 電極電圧3を 0 Vから +VB にステップ変化させることまたはその応答排出 (removal) 電極電圧を +VB から 0 Vにステップ変化させることまたはその応答空乏 (depletion) 電極電圧を 0 Vから minusVB にステップ変化させることまたはその応答回復 (recovery) 電極電圧を minusVB から 0 Vにステップ変化させることまたはその応答緩和 (relaxation) 電圧のステップ変化後に継続して電圧または EFM信号が変化している期間ま

たはその応答飽和飽和値 (saturation) 電圧のステップ変化後にほぼ一定の電圧または EFM信号となっている期

3 ゲートに対する電極電圧以下略

52 有機グレインのキャリアダイナミクス評価 85

Pulse bias(to the elctrode)Response

(on the grain)Injectio

n

Time lapse

Relaxation

Saturation

Removal

Depletion

Recovery

図 58 TR-EFMにおける用語定義の概要図

間またはその応答その平均値応答 (response) 電極電圧変化に対するグレインの電位変化全般を表す用語応答時間 (response time) バイアス電圧変化に対して EFM信号 (等)が追従し収束するのに要し

た時間(例 グレイン上の応答時間 =グレイン上 EFM信号の応答時間)

蓄積 (accumulation)空乏 注入時の飽和特性を ldquo蓄積rdquo と呼ぶこともあるその場合の対義語としても ldquo空乏rdquoを用いる

これらの定義をまとめたものを図 58に示す

521 単一グレインの時間分解パルス電圧応答図 57(a)の Gr1に関して測定条件 [設定値 1]tp = 20 msn = 5Ap = plusmn05 V middot middot middot plusmn25 Vのパルスで TR-EFM測定した結果のうち plusmn25 Vのシーケンスにおいて各点の同一時間に対応する EFM信号で再構成した時間分解 EFM像を図 59にまとめて示すここでは注入時排出時空乏時回復時の電圧変化時刻から起算して minus1 0 1 2 5 10 15 ms後における EFM像のみ示しているカラースケールは共通で0 Vでの電極上 EFM信号に対する値として示しているまず EFM像全体に共通して言えることはEFM像のある一点をとったとき付近の応答が比較的近い値を示していることである単に Fast scan (X)方向だけでなく Slow scan (Y)方向も均一である各点でパルス電圧を印加していることを踏まえるとここで得られている応答は非常に再現性の高いものといえ前回のパルス電圧による影響があるとしても次回のパルス印加時には十分消失しているといえるこれらのことはTR-EFM 測定の妥当性を確保する上で重要な視点となる他の EFM像に比べ電圧変化後 0 msの応答はノイズ状になっているがこれは原理上データログのタイミングに plusmn025 msの誤差が存在してしまうことと再構成用のタイミング信号とパルス印加のトリガーのずれによって生じるものであるため取り除くことは困難であるそのため以下の評価では 0 msでのデータは無視する注入時 (図 59(a))の EFM像に注目するとGr1上の EFM信号は電圧変化後 1 msから 15 msにかけてゆっくりと変化 (緩和)している一方電極上は 1 msでほぼ収束しているEFMの応答時間はほぼ電極上の応答時間と対応付けられるためGr1上の緩和応答は装置測定上の問題ではなく試料中の何らかの要因によるものとわかるこのように電極上の応答時間と比較することで装置上の問題と即座に切り分けることができる点が TR-EFMの利点の一つであるまた512節での

86 第 5章 時間分解測定による有機グレイン中のキャリアダイナミクス評価

Tim

e la

pse

(a) Injection

-1 ms

1 ms

2 ms

5 ms

10 ms

15 ms

0 ms

(b) Removal (c) Depletion (d) Recovery

(e) Topography(simultaneous)

25 V 0 V ndash25 V 0 V

-150 mV 150 mVEFM signal

Potential0 V +ndash

図 59 Gr1上 TR-EFM結果から再構成により得られた時間分解 EFM像plusmn25 Vのシーケンスにおける (a)注入時(b)排出時(c)空乏時(d)回復時の電圧変化前 1 msから変化後 15 msまでの応答を示している(e) TR-EFM測定時に同時に得られた表面形状像

52 有機グレインのキャリアダイナミクス評価 87

0

50

100

150

200

0 5 10 15 20

EFM

sig

nal [

mV]

Time [ms]

0

50

100

150

200

0 5 10 15 20

EFM

sig

nal [

mV]

Time [ms]

0

100

200

0 200 400 600

EFM

sig

nal [

mV]

Ditance [nm]

Elec

trod

e

Insu

lato

r

Init

BA

0

100

200

0 200 400 600

EFM

sig

nal [

mV]

Ditance [nm]

Init BA

1 ms

Init

2 ms5 ms

10 ms15 ms

Time lapseafter change

(a) Injection-prole (b) Removal-prole

(c) Injection-ave (d) Removal-ave

BA05 V

1 V15 V

2 V25 V

VB

(e) cf topography of Gr1

図 510 Gr1上 TR-EFM結果 経時変化(a) (b)それぞれ+25 Vシーケンスの注入排出時における EFM信号の時間分解ラインプロファイル表面形状像 (e)の線分 AndashB上におけるプロファイルを得た電圧変化直前の信号を破線で示しているまた指数関数フィッティングの結果を黒細線で示した(c) (d)それぞれ各シーケンスの注入排出時における Gr1上 EFM信号の経時変化形状像 (e)の x点付近の 5点平均値を示した

Gate

Electrode Grain

Insulator

Fermi levelHOMO

Metal Organic Metal Organic

(a) Equivalent circuit (b) Injection process (c) Removal process

Ener

gy

図 511 (a) グレイン上電位応答を表す等価回路モデル(b) キャリア注入時(c) 排出時のキャリアの動きと金属ndash有機界面の電子準位の模式図図中下方向がホールに対してエネルギーが高い方向となる

議論でTR-EFM としての時間分解能はおおよそ (2BW)minus1 であることを述べた本測定では BW

が 500 Hzのため時間分解能は約 1 msであり電極上 EFM信号の応答時間と一致する注入時以外の経時変化に注目すると排出時 (図 59(b))と空乏時 (図 59(c))は電圧変化後 1 msで

Gr1上の応答がほぼ飽和しており注入時とは明らかに異なる応答を示している一方回復時 (図59(d))は注入時ほど遅くはないが1 msから 5 msにかけて Gr1上の EFM信号に変化が見られる注入時と回復時は電極からグレインへの「キャリア (ホール)注入」排出時と空乏時はグレインから電極への「キャリア排出」過程と考えることができこれら Gr1上の応答時間の違いはキャリア注入排出過程の違いと考えることができる

88 第 5章 時間分解測定による有機グレイン中のキャリアダイナミクス評価

表 51 Gr1上 EFM信号の指数関数フィッティング結果 (抜粋)

Bias (Vstart minus Vend) [mV] τ [ms] Vend [mV] Residue

1 V注入 minus653 plusmn 11 417 plusmn 017 702 plusmn 06 179

2 V注入 minus1431 plusmn 23 563 plusmn 025 1448 plusmn 18 384

1 V排出 532 plusmn 07 0613 plusmn 0016 934 plusmn 012 068

図 510に Gr1上 EFM信号プロファイルつまり電極からの距離依存性を示すプロファイルは図 510(e)の線分 AndashB上で取得した(a) (b)はそれぞれ各時間における注入排出時のプロファイルを示しているが電極ndashGr1界面以外の明確なドロップがないことが分かる試料中の基板と平行な方向の伝導度が異なると応答時間に影響を与えるのでこの結果から注入排出時のキャリア輸送の阻害となる領域はほぼ電極ndashGr1界面のみであることがわかるまた先に議論した注入排出過程での応答時間の違いも図 510からよく分かる排出時の 1 ms後も Gr1上の EFM信号が若干現れているため電極と完全に同期して緩和しているわけではないと見て取れる輸送阻害となる要因がほぼ電極ndashGr1界面のみであるためGr1上のある点を Gr1全体の応答の代表とすることは問題とならない図 510(c) (d)はそれぞれ図 510(e)の x点における注入排出時の EFM信号の経時変化である注入排出ともに緩和から飽和への変化が明瞭に確認できる応答時間と電気特性との対応づけのため図 511(a)のような等価回路を考えるグレイン上の抵抗は電極ndashグレイン界面の抵抗 Rに比べて十分小さいと考えまた 4章と同様にグレインのゲート容量 C

をおく電極ndashゲート間電圧が Vstart から Vend に瞬時に変化するとグレイン上の電位 V(t)は次のように記述される

V(t) = Vend + (Vstart minus Vend) exp(minus tτ

) where τ = RC (52)

ここで同一グレインに関してはゲート容量 C は同じであるため指数関数フィッティングで得られた時定数 τは電極ndashグレイン界面の抵抗 Rに比例する図 510(c) (d)において指数関数フィッティングした結果を黒細線で重ねて示したまたフィッティングパラメータ (抜粋)を表 51に示すただし排出時の応答は 1 Vのシーケンスのみフィッティングした注入時の 05 V1 Vや排出時は実際の EFM信号とフィッティング線が比較的重なっているがそれより大きなバイアスでの注入特性は指数関数とはずれていることが分かる表 51からも残差 (Residue)が 2 Vの注入時で大きくなっていることが分かるこれら指数関数からのずれは EFM 信号の比例係数が影響していると考えられ522節において議論する

VB = 1 Vにおける時定数は注入時は 4 ms排出時は 07 msと 5倍近い差があることが分かるそして上述の議論よりこれは排出時に比べて注入時のほうが電極ndashGr1 界面の抵抗が大きいことを示しているこれは図 511(b) (c)のような金属ndash有機界面のエネルギー準位の模式図により説明できるAu上のペンタセン HOMO準位は Auのフェルミ準位 (Fermi level)よりも (電子にとって)

低いエネルギーに位置することが光電子分光法を用いた研究で報告されている [37 169]よってホールが電極からグレインに注入される際には余分にエネルギーを要する (図 511(b))一方グレインから電極にホールが排出されるときは少なくとも注入時のようなエネルギー障壁を感じることはない (図 511(c))ただし4章で議論したようにエネルギーのミスマッチ自体が電気特性に影響を及ぼす可能性はあるが注入排出時のエネルギー障壁の有無が抵抗の大小に影響したこと

52 有機グレインのキャリアダイナミクス評価 89

-200

-100

0

100

200

0 200 400 600

EFM

sig

nal [

mV]

Ditance [nm]

+25 V+2 V

+15 V+1 V

+05 V

ndash05 V

ndash15 V

ndash25 V

ndash1 V

ndash2 V

Bias

-100

0

100

-2 0 2

Sign

al (s

at)

[mV]

Bias [V]

Electrode (ref)

Gr1

(a) (b)

図 512 Gr1 上 TR-EFM 結果 飽和値(a) それぞれのバイアス電圧における電圧変化後 15ndash195 ms 間を平均した飽和値プロファイル正バイアスが蓄積時負バイアスが空乏時に対応する(b) Gr1上を平均した飽和値のバイアス依存性電極上の EFM信号をレファレンスとして黒実線で示す

は明確であるこれまでも多く報告されてきた簡易な議論ではあるが単一グレインndash電極界面での評価を達成したことはモルフォロジーやグレイン境界といった影響ではなく純粋な金属ndash有機界面で同様のことが起こるという裏付けとなりTR-EFMの局所電気特性評価法としての有用性を示す成果である最後に飽和値について言及しておく図 512(a)は各シーケンスの注入空乏時の飽和特性 (蓄積空乏特性)をプロファイルで示しているただし電圧変化後 15ndash195 ms間を平均して用いた飽和時の特性は基本的にゲートバイアスを印加した KFM測定と同じものを見ていることになる蓄積時は電極電位と同様に Gr1上の信号も増加しているが空乏時は minus15 V以降で電極ndashGr1界面のドロップが発生している一方絶縁膜上の EFM信号はほぼ変わっておらずゲートへのカップリングは起こっていないといえる図 512(b)に Gr1上で平均したバイアス依存の EFM信号飽和値を示す電極上からも取得し線形フィッティング結果を実線で示している負バイアス印加時に電極に追随して電位変化が起こらない理由としてp型有機半導体への電子注入が困難であることがあげられるAundashペンタセンの系でフェルミ準位から HOMO準位へのエネルギーオンセットがあることは既に述べたが電子にとっての障壁である金属のフェルミ準位から LUMO準位へのエネルギー差は HOMOのそれよりも大きい [170]そのためp型有機半導体に正のゲートバイアスを印加し n

チャネル動作させた際の実効的な移動度はpチャネル動作のそれよりも非常に小さい図 512(b)

の負バイアス印加時の変化が小さいのも同様の理由と考えられるここでVB = minus1 Vまではバイアス印加に伴い EFM信号すなわち電位がある程度負に変化しているこれは電子注入が起こったというよりも元々ペンタセン中に存在した余剰ホールの排出と考える方がよい本試料は成膜後AFM真空チャンバに導入するまでに大気暴露されておりペンタセン薄膜中に取り込まれた酸素分子がアクセプタとして機能することで余剰ホールが発生したつまり p型ドープが起こったと考えられる [124ndash126]一方正バイアスでは Gr1上で電極上よりも大きい EFM信号の飽和値が得られているEFM信号が電位に比例することを踏まえるとこれは電極に対して Gr1 の電位が高いことを意味するが433節では (ゲート)バイアス印加によりペンタセン単一グレインの電位が電極に対して負であるこ

90 第 5章 時間分解測定による有機グレイン中のキャリアダイナミクス評価

0 100 200 300

0 200 400 600

0 10 20

EFM

sig

nal [

mV]

2f s

igna

l [m

V]

Ditance [nm]

ForwardBackward

Elec

trod

e

Insu

lato

r

0 mV 280 mV

5 mV 250 mV

(b) EFM forward

(a) Topography(taken before)

Measuredregion (e) Proles

(c) EFM backward

(d) 2ft signal

B BA A

図 513 Gr1上の往復 TR-EFM結果表面形状像 (a)の破線で囲った箇所を測定した(b)像の左から右 (forward)(c) 右から左 (backward) へのスキャン時の 2 V 注入時 18 ms 後の EFM 像(d) Forwardでの 2倍波信号像(e) (a)の線分 AndashB上における EFM信号 (Forward Backward)2倍波信号プロファイル

とを確認したこれは EFM信号の比例係数の影響が含まれていると考えGr1上 EFM信号経時変化の指数関数フィッティングがうまくいかなかったこと (図 510(c))と合わせて次節で議論する

522 比例係数補正と電圧依存界面電気特性EFM信号は式 (51)のとおりpart2Cts

partz2 に比例するこの係数は探針と Vacが印加されている導電部分との距離や誘電率試料形状に依存するグレイン内が完全に導体でパルス印加直前の FM-AFM

によるフィードバックが完全であればこの距離は一定と考えられるが何らかの要因により異なれば同じ電位でも EFM信号が異なるここで∆f の 2ωm 成分は式 (213)より

(∆f )2ωm =f02kpart2Cts

partz212

V2ac cos 2ωmt (53)

のように表せるつまり(∆f )2ωm (以下 2倍波信号と呼ぶ)の変化から part2Ctspartz2 の変化を測定できる4

ここで蓄積時の EFM信号プロファイル (図 512(a))ではGr1上の EFM信号が電極よりも単に大きいだけでなく電極から離れるに従い徐々に大きくなる傾向が見て取れるEFM信号の比例係数に加えバイアス印加の経時回数によるストレスの影響も考えられるTR-EFMを往復つまり電極から絶縁膜方向 (Forward)と逆方向 (Backward)で取得し同時に 2倍波信号を測定することでこれら 2種類の影響を評価する測定条件としてカンチレバーの 2次共振 ( f0 sim 340 kHz)を用いた以外は [設定値 1]と同じセットアップとし2倍波信号は ZI-LIAで 100 Hzの BWで検出した図 513に往復 TR-EFM測定結果を示すForward (b) と Backward (c) で EFM 像に明確な違いはないプロファイル (e) では 52

節よりも程度は小さいがやはり電極から離れるに従い EFM信号が徐々に増加している傾向が見られるがforwardと backwardのプロファイルが重なっているためバイアスストレスの影響ではな

4 2Vac times (∆f )ωm(∆f )2ωm により試料電位 Vs を得ることができることが分かるFM-KFM のようなバイアスフィードバックを使わずこのような計算により電位を得る手法は Open-loop KFMと呼ばれる [171]

52 有機グレインのキャリアダイナミクス評価 91

8mV3mV-100 mV 100 mV

(a) Topography

(e)

(b) EFM image (+1 V) (c) 2ft image (0 V) (d) 2ft image (+1 V)

0

10

20

30

0 500 1000

He

igh

t [n

m]

Ditance [nm]

BA

-15

-1

-05

0

05

1

15

-1 0 1

No

rm

po

ten

tia

l

Bias [V]

Ref

Before

After

TR-EFM

FM-KFM

Tapping

(f) Proles (topography)Electrode (bare)Grain

Electrode

図 514 Ptndashペンタセン試料上での TR-EFM 測定と 2 倍波信号比較(a) 表面形状像(b) EFM像(c) (d) 2倍波像(b)および (d)は電極に +1 V注入時 (19 ms後)(c)は 0 Vでの結果を示している(e) 2倍波信号による校正前後の飽和信号比較(f) (a)の線分 AndashB上での高さプロファイル比較 (TR-EFM FM-KFMタッピング)

いと結論づけた一方 2倍波は BWが異なるため応答時間に注意を要するがこれまでの議論より1(2 times 100 Hz) = 5 ms程度で収束すると考えられるため電圧変化後 18 msは十分な時間である2

倍波像も EFM像と同様になめらかに取得できているプロファイルより2倍波信号は電極上に比べて Gr1上で若干大きいことが分かるこのことはGr1上飽和値が電極上よりも大きくなった原因が EFM信号の比例係数変化によるものであることを示唆する結果である

EFM信号の比例係数変化の要因を調べるため様々なサイズのペンタセングレインが接続している系 (42節と同じ試料)で同様の測定を行った (図 514)図 514(a)には現れていないが本試料は対向電極が存在しており図 514(b)の +1 V蓄積時 EFM像の左右の膜上の EFM信号が電極よりも小さい原因は対向電極に接続していることによる電圧の分配が影響しているバイアスが 0 Vのときはグレイン上の 2倍波信号は電極のそれよりも若干小さいが1 Vでは電極よりも大きいことが明瞭に確認できるこのときどのグレインにおいてもほぼ同じ 2倍波信号が得られており像左部の膜上でも同様の傾向が得られたこの結果からEFM信号の比例係数変化は電極とグレインのスケール差によるものではないと結論づけられる図 514(f)は (a)の線分 AndashBに沿った形状プロファイルおよび別途 FM-KFMおよび Tappingにより測定した同位置の形状プロファイルを示している高さの 0点は絶縁膜の高さに揃えた興味深いことに絶縁膜直上のグレイン上 (灰色領域)でのみかけの高さはどの手法でもほぼ同じであるのに対しグレインに覆われていない電極 (橙色領域)は Tappingに比べて TR-EFMFM-KFMでは高く見えているKFMのような交流バイアスを用いない通常の FM-AFMと Tappingを比較して

92 第 5章 時間分解測定による有機グレイン中のキャリアダイナミクス評価

も同様の結果が得られたこれは探針ndash電極間に電位差があり電極上のみ本来より高い位置でフィードバックが釣り合ってしまうことに起因すると考えられる引力領域で制御する FM-AFM

の方がこの影響が強いTR-EFMでは高さ固定時の探針ndashグレイン間距離よりも探針ndash電極間距離のほうが長かったためバイアス印加でグレイン導通時に EFM信号の比例係数がグレイン上で電極よりも大きくなってしまったと考えられる図 514(e)に 2倍波信号での校正前後での EFM信号の変化を示す校正は各バイアスでの飽和 EFM 信号を飽和 2 倍波信号で割ることで行い比較のためVB = 1 Vでの電極上の EFM信号 (校正前後)で規格化した図中の傾き 1の破線が電極上の値(Ref)を示している図 512(b)同様校正前は電極上よりも電位が高く見えているが校正により確かに下回ることが分かる

2倍波信号を用いない校正法 上述の方法は open-loop KFMと同じく EFM信号の比例係数変化を排除しかつ FM-KFM同様電位として値を得ることができる一方2倍波信号を別途測定する必要があり ft が大きいと PLLの帯域内に収まらない恐れやSNを確保するために BWを大きく設定すると EFM信号とは応答時間が異なるため時間分解での評価ができなくなるという問題が生じるよって時間分解測定を維持しながらEFM信号の比例係数校正を行うためには別の手法を考えねばならない電極にバイアス VB 印加時に位置 x時間 tにおける電極に対して電位差 ∆V(VB x t)が発生するとするこのとき EFM信号 sE(VB x t)を

sE(VB x t) = ACprimez(VB x t)[VB + ∆V(VB x t)] (54)

と表すここでAは VB に依らない EFM信号の比例係数Cprimez(VB x t)は part2Ctspartz2 の VB x tによる変

化を表すこれまでの測定ではパルス電圧を全て電極に印加してきたがゲートに逆符号のパルス電圧 (バイアス電圧 minusVB) を印加することを考える (図 515(a))このような印加方法による測定をゲート印加 (gate-pulse) TR-EFMと呼ぶこのとき電極グレインゲートの相対的な電位は探針やその他グラウンドの影響が除外できるとすると電極に加えるときと全く同じであるためグレイン相対電位は同じ ∆V となるこのときの EFM信号 sG(VB x t)は

sG(VB x t) = ACprimez(VB x t)∆V(VB x t) (55)

と表すことができるこれより

ACprimez(VB x t) =sE minus sG

VB(VB 0) (56)

∆V(VB x t) =sG

sE minus sGVB (57)

が得られCprimez の影響を除いたグレイン電位 ∆V が得られることが分かる図 515(b)に Gr1上でゲート印加 TR-EFM測定を行った結果得られた+25 V注入後 1 ms5 ms

10 msの EFM像を示す図 515に示すとおり注入時はゲート電極に minusVB を印加するため絶縁膜を通して負の電位を感じる一方電極は 0 VでありEFM信号はほぼ 0となるminusVB 印加直後は Gr1上が絶縁膜上よりも EFM信号が負になっているがこれは前項で述べたとおり EFM信号の比例係数の違いによるものであるそれを除けば図 59(a)で見られた電極印加の TR-EFM結果と定性的に同様の EFM像が得られており原理的には同じものであることが伺えるただしパルス電

52 有機グレインのキャリアダイナミクス評価 93

-110 mV 40 mV

1 ms 5 ms 10 ms

(b) EFM images (gate-pulse)(a)

InsulatorGate

Gate-pulse

GrainElectrode

0 V∆V

ndashVB

図 515 (a)ゲート印加 TR-EFMの応答模式図電極に VB を印加したときのグレインndash電極電位差を ∆V とするとゲートに minusVB のパルス電圧を印加したときのグレイン電位は ∆V と表せる(b) Gr1上ゲート印加 TR-EFMで得られた時間分解 EFM像

-3-2-1 0 1 2 3

0 200 400 600

(VBumlV

) [V

]

Ditance [nm]

0

02

04

06

08

1

0 200 400 600

ACz

Ditance [nm]

Elec

trod

e

Insu

lato

r

+25 V

ndash25 V

VB +25 V

+05 V0 V

ndash05 V

ndash25 V

VB

(a) corrected ACz (b) corrected ∆V

-3

-2

-1

0

1

0 5 10 15 20

6V

[V]

Time [ms]

05 V1 V

15 V2 V

25 VVB

0

5

10

0 1 2 3

Fitte

d Ѭ

[ms]

Bias [V]

(d) (c)

図 516 式 (56)(57) より得た図 510(e) 線分 AndashB 上の (a) ACprimez(b) (∆V + VB) プロファイルのバイアス依存性(c) Gr1上 ∆V の経時変化 (プロット)と指数関数フィッティング曲線 (実線)(d) (c)の指数関数フィッティングにより得た時定数のバイアス依存性

圧印加直後はグレイン上は電極に対して minusVB だけ電位が異なるグレイン上の EFM信号を考えると電極印加時は同程度であるがゲート印加時は瞬時に minusVB 相当の信号となるため変化が大きいそのため追従にさらに時間を要することに注意が必要である先述の Gr1上 TR-EFM測定結果とゲート印加 TR-EFM測定結果式 (56)(57)を用いて補正を行った結果を図 516に示す図 516(a)は飽和 EFM信号における ACprimez のバイアス依存性であり2

倍波信号に対応する成分と考えられる電極上絶縁膜上ではほぼ一定の値だがGr1上では minusVB

の正負で大きく変化する負バイアス (空乏時)では絶縁膜上の値に近くなっておりグレイン上が導通していないことを伺わせる正バイアス (蓄積時)では図 514で見られたように Gr1上 ACprimez (つ

94 第 5章 時間分解測定による有機グレイン中のキャリアダイナミクス評価

まり 2倍波信号)が電極上よりも大きくなっており確かに飽和値の結果 (図 512)は比例係数の影響を受けていたと分かった図 516(b)は補正された ∆V を視認しやすいように (∆V + VB)の形で示したプロファイルであるまず電極上で印加バイアスに対応する電圧となっており絶縁膜上の電位は一定に保たれているそして図 510(a)で見られる通常の TR-EFMプロファイルよりも Gr1

上の均一性がよくなっており比例係数の影響を排除できているしかし高負バイアスでは Gr1

上でポテンシャルの勾配がなお存在している負バイアスの変化に対しプロファイルの共通部分が存在しているため比例係数ではなくGr1上に分布している別の要因があると考えられる空乏時のグレインの物性に関してはのちに改めて議論する本校正法の最大の利点としては EFM 応答時間の条件が同じまま時間分解測定ができることにあるGr1上で平均した時間分解 EFM信号から ∆V に変換した結果を図 516(c)に示す電圧印加後15 ms は EFM 応答時間と先述のゲート印加時の応答遅れにより無視しそれ以外の領域で指数関数フィッティングした結果を実線で示している図 510(c)に比べて明らかにフィッティング曲線とのずれが小さい+25 Vでの結果をフィッティングした残差を比較すると補正前の 19に対し補正後は 024と約 110になり補正前は EFM信号の比例係数による影響が大きかったことが伺える図 516(d)は ∆V の指数関数フィッティングにより得られた時定数のバイアス依存性であるVB が大きくなるに従い時定数つまり電極ndashGr1界面の抵抗が増加しているつまり電圧に対して電流が非線形に変化する非オーム性の抵抗であることがわかった金属ndash有機界面の接触抵抗の非線形性はこれまで大電極を用いた測定で頻繁に取り沙汰されてきた一般に出力 (VDndashID)特性の低バイアス部が線形ではなく下に凸の加速度的増加を示している場合に接触抵抗の影響が大きいとされるこれは特に短チャネル低温の場合に顕著である [4950]また注入特性の改善をまずこの点から確認することもできる [161]このようなある程度ドレインバイアスをかけないと導通しないという特性はNecliudov らにより逆方向に並列接続したダイオードでモデル化された回路が用いられることが多い [136 172]しかしパラメータに物理的な意味づけができないことがこのモデルの問題点である5一方金属ndash有機界面を金属ndash半導体界面のアナロジーと考えその最も一般的なモデルである Schottky 障壁を介した注入モデルを用いて接触抵抗と障壁の関係を議論している研究もある [173 174]金属ndash半導体界面の Schottky障壁は両材料のフェルミ準位の違いにより発生するが有機半導体はフェルミ準位を定義することは難しいしかし接触後金属のフェルミ準位と (p型の場合)有機の HOMO準位に差が存在することは明確でありHOMO準位を半導体の価電子帯上端と同等とみなすことで同様に議論できると考えられるここで有機に対して金属側を正電位にすることはSchottky障壁において逆バイアスに相当するつまりSchottky障壁モデルでキャリア注入を記述する場合逆バイアスのダイオードでモデル化するほうが物理的な意味が備わると考えるここで結果に戻るとVB が大きくなるに従い抵抗が大きくなる傾向は逆バイアスのダイオードの特性と定性的に一致しているよってTR-EFMにより確認された非オーム性抵抗は金属ndash有機界面における金属フェルミ準位と有機 HOMO準位差に起因する Schottky障壁を通した注入特性を純粋に反映したものと結論づける

5 もし対応付けできると考えると導通開始に 5 Vのドレインバイアスを要すとき界面障壁が 5 eVということになりナンセンスである

53 単一グレインのチャネル形成評価 95

Lock-in ampLock-in amp

PLL2

Scanner

LDPSPDTip AC

FG1SampleInsulatorGate

Electrode

EFM signalSIM signal[X Y] [Ampl]

ZI-LIA

BWSIM BWEFM

∆f ac

ftplusmnfs ft Sample AC

図 517 TR-EFMFM-SIM同時測定 (TR-SIM)装置構成図

53 単一グレインのチャネル形成評価52節では一つのグレイン (Gr1)に注目しTR-EFMにより得られた EFM信号の経時変化や飽和値から単一グレインでの金属ndash有機界面電気特性の測定が可能であることを示したこの評価プロセスを活かしグレイン毎にどのような電気特性差が存在しどのような局所物性が特性差に影響を与えているかを評価したいと考えるここで4章で開発した FM-SIMは同じ単一グレインにおける界面電気特性を測定できる手法でありTR-EFMとの組み合わせにより相補的ないしは相乗的な評価が可能になることが期待される本節ではいくつかのグレインについて TR-EFM およびFM-SIMの結果を比較しつつグレイン間特性差を議論する

531 TR-EFMFM-SIM同時測定法図 517 は一部簡略化した TR-EFMFM-SIM 同時測定 (TR-SIM と呼ぶ) 用の装置構成図である基本的な要素としては図 43 と同じであるが全て ZI-LIA を用いていることバイアスフィードバックを行っていないことが 4章と異なる表 52に以下の測定で用いた測定条件を示すTR-EFM

では 5 kHzを用いており4章のように ft + fs の検出では PLLの帯域を大きく外れ測定が難しいそのため[設定値 SIM-1]では ft minus fs 成分を FM-SIM信号として用いたそのときLIAから得られる位相は本来の Vlo とは符号が逆になることに注意する (cf 式 (45))6設定値の目安として ftfs ft plusmn fs が互いの 23倍波と重ならないことこれら周波数の間隔が BWに対して十分取れること7 fs がそのグレインの測定レンジに入っていること8が必要である

FM-SIM信号強度が小さいと位相信号が非常に乱雑となるため以下では振幅位相の代わりにin-phase (SIM-Xと呼ぶ)out-of-phase (SIM-Y)の信号を取得した

Sweep-SIM TR-EFM (TR-SIM)ではパルス電圧に対する応答を測定するがpoint-by-point動作を利用すれば別の波形に対する応答も取得できる飽和値のバイアス依存を連続的に測定するため

6 ft lt fs のときは同相となる7 例えば441節で用いた ft + fs = 11 kHzでは EFM信号に大きくカップリングする8 図 411参照周波数が大きすぎると応答が全く得られない

96 第 5章 時間分解測定による有機グレイン中のキャリアダイナミクス評価

表 52 TR-EFMFM-SIM同時測定設定値

設定値 ft fs SIM BWEFM BWSIM

SIM-1 5 kHz minus 18 kHz = 32 kHz 200 Hz 50 Hz

SIM-2 2 kHz + 04 kHz = 24 kHz 100 Hz 20 Hz

に各点で FG1 から三角波を印加する方法を Sweep-SIM と呼ぶSweep-SIM では測定条件として[設定値 SIM-2]を用いた

532 グレイン依存性と TR-EFMSIM対応関係Gr2上 (図 57(b))において測定条件 [設定値 SIM-1]tp = 20 msn = 5Ap = plusmn05 V middot middot middot plusmn25 Vのパルスで TR-SIM測定した+25 Vのシーケンスの注入時排出時の時間分解 EFM像FM-SIM

像 (SIM-X SIM-Y)をそれぞれ図 518の (b)ndash(d)に示す図 518(a)のように測定範囲には Gr2aGr2bの二つのペンタセングレインが含まれているEFM像に注目すると注入開始後 2ndash14 msでGr2a上は同じ応答でありGr2aの応答時間は EFM信号の応答時間よりも短いことが示唆される一方 Gr2bは注入開始後 2ndash14 msで徐々に変化しているこれらグレインの注入時の時定数は 52節で測定した Gr1の時定数とは異なる図 518では Gr2a Gr2bを同時に測定しているため測定ごとに異なる応答時間が検出される可能性は排除できていることを加味するとグレインによって電極ndashグレイン界面抵抗が異なりうることを示している一方排出時は両グレイン共に 2 msでほぼEFM信号が収束しているGr2b上の EFM信号は排出後 2 msのみ若干残存しており注入時の特性差が排出時にも現れることを示唆しているこのようにGr1よりも応答の遅い Gr2bにおいても注入よりも排出過程の方が応答が早いことがわかり52節での議論は一般化できる事象だと考えられる参考としてGr2aおよび Gr2b上で 25点平均した経時 EFM信号および EFM信号を指数関数フィッティングした場合の時定数 (概算)を図 519に示すGr2bの注入時は飽和値が不明なためGr2aの飽和値と同じと推定してフィッティングを行った次に SIM-XY像 (図 518(c) (d))に注目するノイズ軽減のために TR-EFMに比べて小さい BW

(50 Hz) を用いているため測定の応答時間は約 10 ms であり電圧変化後 2 ms の SIM 像は無視する全体の傾向として注入前 minus1 ms と排出後 14 ms はほぼ同じ SIM 像となっておりパルス電圧印加前後での特性変化は小さいと考えられるGr2a について注入前後で SIM-X の強度は若干大きくなりSIM-Y では顕著に増加したここで興味深いことに注入後 14 ms の像に破線で囲ったとおり絶縁膜上の Gr2a ((ins)とする)のみならず電極上を覆う部分 (on)においてもほぼ同じ強度の SIM-Y 信号が得られている4 章でも議論したとおり交流電流の経路中に局所インピーダンスが存在する場所で SIM信号が変化するがここでは Gr2a(on)まで一様であることからGr2a(ins)ndashGr2a(on)間は十分導通しているといえる同じ注入後 14 msに関してGr2a(ins)の EFM

信号が電極上よりも大きいという EFM信号の比例係数変化による影響が Gr2a(on)においても現れているのが確認できることやGr2a(on)の SIM-X信号強度が Gr2a(ins)と同等で電極上よりも小さいことは同じく Gr2a(ins)ndashGr2a(on)間の導通を示唆する結果であるしかしインピーダンスの影響がないもしくは導通のないデフォルトの状態で SIM-Y信号が 0であることからSIM-Y像はグレインの導通領域の確認に非常に有効な手段であるといえる

53 単一グレインのチャネル形成評価 97

Time lapse(after change)

2 ms

2 ms

2 ms

8 ms

14 ms

8 ms

8 ms

14 ms

14 ms

19 ms(-1 ms)

19 ms

(ndash1 ms)

2 ms

8 ms

14 ms

0 ms

0 ms

(b) EFM signal (c) SIM-X(a) Topography) (d) SIM-Y

-100 mV 210 mV 0 mV 15 mV 0 mV 15 mV

150 nm

Gr2a

Gr2b

OnIns

25 VInjection

0 VRemoval

ndash1 ms

図 518 Gr2上 TR-SIM測定により得られた表面形状像 (a)時間分解 EFM像 (b)FM-SIMのin-phase像 (SIM-X)(c)out-of-phase像 (SIM-Y)(d)測定全体のうち+25 Vのシーケンスにおける注入時排出時の応答を示している

98 第 5章 時間分解測定による有機グレイン中のキャリアダイナミクス評価

0

50

100

150

200

0 10 20 30 40

EFM

sig

nal [

mV]

Time [ms]

+25 V 0 V

0

50

100

150

200

0 10 20 30 40

EFM

sig

nal [

mV]

Time [ms]

+25 V 0 V

05 V1 V

15 V2 V

25 V

(a) Gr2aτ ~ 14 ms(05 V)

τ ~ 3 ms(05 V)

τ lt 1 ms(b) Gr2b

Bias Bias

図 519 (a) Gr2a(b) Gr2b上の 25点平均 TR-EFM信号 (注入排出のみ)τは指数関数フィッティングした場合の注入排出それぞれにおける時定数の概算値

0

05

1

15

0 05 1 15

Re[

Y]

Ѭinj [ms-1]

0

05

1

15

-2 -1 0 1 2

Re

Im(Y

)

Bias [V]

0

05

1

15

-2 -1 0 1 2

Re

Im(Y

)

Bias [V]

0

05

1

15

-2 -1 0 1 2

Re

Im(Y

)

Bias [V]

(a) Gr2a

(d)

(b) Gr3a (c) Gr3b

Gr2bGr2b

Gr2a

Gr3b

Gr3a

(e) SIM-X(VB = ndash2 V saturation)

Re

Re

Re

Im Im Im

Gr2aGr2bGr3aGr3bGr1

1(2πfsτ)

図 520 (a)ndash(c) TR-SIMと SIMアドミタンス解析により得られたグレインごとのアドミタンス(実部 Re虚部 Im)のバイアス依存 (a Gr2a b Gr3a c Gr3b)(d)注入時の時定数 (逆数)に対するアドミタンス実部の関係同じプロット種は同じグレインの各バイアスにおける値を示している破線は理論値 Re[Y] = 1

2π fsτminus1(Gr1のみ fs = 600 Hzでの TR-SIM測定の VB = 2 Vの結

果を規格化して示した)

一方Gr2bは注入後もほとんど応答が得られておらず与えられた fs に対して界面抵抗が大きすぎると考えられるこのことはEFM像における応答時間が Gr2aに対して非常に大きい事実と合致する図 518で示した TR-SIM測定ではバイアスに対する SIM信号の飽和値が測定できる式 (415)

により SIM 信号から電極ndashGr2a 界面の正規化アドミタンス Y を算出した結果を図 520(a) に示す

53 単一グレインのチャネル形成評価 99

負バイアスでは SIM 信号が全く観測されずバイアスを正に大きくするに従い 4 章と同じく実部(Re)の増加が見られた図 57の Gr3a Gr3bでも同様の測定を行い得られた正規化界面アドミタンスを図 520(b) (c)に示すどちらのグレインにおいてもバイアスの正負で Y の振る舞いが大きく異なるしかし Gr3aに比べてGr2aと Gr3bの実部 (界面コンダクタンス)は一桁大きい値を示している同時にGr2aと Gr3bはバイアス変化により虚部にピークが現れており電極ndashグレイン界面抵抗の大小との相関が示唆される以上のように TR-SIMで観測される応答時間 (時定数)や FM-SIM解析から得られる電極ndashグレイン界面アドミタンスにはグレインごとに差異が存在するここで注入時の時定数 τinj は接触抵抗Rとグレインのゲート容量 C に対して τinj = RC と対応付けらるまた界面コンダクタンス Re[Y]

は式 (415)より Re[Y] = 1(2π fsCR)であるため

Re[Y] =1

2π fsτminus1 (58)

のように時定数の逆数に比例することがわかるこれまで TR-SIM 測定を行ったグレイン (Gr2a

Gr2b Gr3a Gr3b) に関して注入時の経時 EFM 信号の指数関数フィッティングで得られた時定数および飽和 (蓄積) 時の界面コンダクタンスを各シーケンスから算出しプロットした結果を図520(d)に示すただしGr1のみ VB = 2 Vの値のみ示しておりまた [設定値 SIM-1]とは異なりf primes = 600 Hzで測定したため実効的に fs = 18 kHzで測定されうる値となるよう f primes fs 倍した界面コンダクタンスをプロットしたまたGr2bの SIM信号は測定限界以下の強度であったため0とみなしてプロットした図 520(d) より1τinj が大きい (時定数が小さい) グレインでは界面コンダクタンスも大きい傾向が明らかであるこの結果よりグレインごとに測定された EFM 信号の応答時間の違いが測定ごとの探針やバイアスといった測定条件による影響で現れているわけではなくグレインごとの電気特性の違いを反映したものであることを保証できるただし理論より考えられる直線からは大きく外れる結果となったこの原因として一つは電極ndashグレイン界面の静電容量の影響が考えられる界面アドミタンスの並列容量 Clo の存在により見かけの時定数がτapp = R(C +Clo)に変化することは図 511(a)と同様のモデルから容易に導出できるそのため理論上の時定数 τに比べて τapp gt τとなるしかし図 520(a)ndash(c)より界面アドミタンスの虚部つまり CloC はたかだか 1であることから全てこの影響であるとは考えにくい第二にEFM信号の応答時間と FM-SIMでは厳密には測定している過程が異なることが挙げられるFM-SIMでは注入特性のうち飽和 (蓄積)時の特性を反映したものでキャリアの動きとしては蓄積状態のまま微量な注入排出が起こっている一方TR-EFMの注入時は 52節で述べたように排出時に比べて接触抵抗が大きいためFM-SIMから評価される「コンダクタンス」の方が大きめに算出される可能性はあるその影響を考慮すると図 520(d) より注入時と蓄積時のコンダクタンスがグレインに関わらず線形関係にあることが読み取れそれらの過程が全くの別物ではなく結びついていることを示唆しているつまり注入時と蓄積時の抵抗比が Aundashペンタセングレイン界面一般に成立しうることが考えられる蓄積時の時定数 τacc に対して注入時の時定数が τinj = ατacc と示されるつまり実効的な注入時蓄積時の抵抗比が αで表されるとするVB = 2 Vでの τminus1ndashRe[Y]プロットの線形フィッティングからα = 62 plusmn 08と算出されたこの結果はグレインごとに観測するとGr2a と Gr2b のように電極ndashグレイン界面抵抗は大きく変わりうるがマクロで考えると蓄積状態に比べて注入時は接触抵抗が α倍大きいことを意味しているこれまでの研究ではマクロ電極の

100 第 5章 時間分解測定による有機グレイン中のキャリアダイナミクス評価

-410 mV 410 mV 0 mV 17 mV 0 mV -12 mV

(a) EFM signal (b) SIM-X (c) SIM-YBias(VB)

+2 V

+15 V

+1 V

+05 V

0 V

ndash05 V

ndash1 V

ndash15 V

ndash2 V

(i)Metalndashorganicinterface

(ii)In-graindisorder

(iii)Whole grain

On

図 521 Gr1上 Sweep-SIM測定結果

TLM測定や KFMを用いた OFETの接触抵抗評価が行われてきたがこれらは基本的には蓄積状態での抵抗を見ている一方本研究より注入時は蓄積時よりも大きな金属ndash有機界面の接触抵抗が現れることが分かったそのためキャリア注入が動作を支配する OFETのオン動作にかかる時間は蓄積状態での抵抗から見積もられるよりもずっと長く要することに注意せねばならない

53 単一グレインのチャネル形成評価 101

-10

0

0 200 400 600

-SIM

-Y [m

V]

Distance [nm]

(a) SIM-Y(VB = ndash1 V)

(b)

(c)

0

25

50

75

100

0 05 1 15 2

d ove

r [nm

]

Bias [V]

90Average

dover

Elec

trod

e

Left edge

図 522 Gr1 上 Sweep-SIM 結果 (i) 蓄積状態の SIM-Y 像における Gr1(on) 導通領域評価結果(a)で示す線分に沿った SIM-Y像のプロファイル (b)に対しGr1上平均に対して SIM-Y信号が90となる電極端からの距離 dover をバイアス電圧に対してプロットした (c)

533 バイアス分光による導通領域変調評価前節では TR-EFMと FM-SIMを同時測定したときのそれぞれの手法の関係性について議論し

FM-SIM信号の利用によりグレインの導通領域の評価に利用できることが分かったこれまでの議論はグレイン内分布がない領域について評価していたが522節でも述べたように空乏時にはグレイン内ポテンシャル勾配が見られキャリア蓄積状態によってグレイン内の導通状態が変化していることが考えられる本項ではグレイン内外の分布を調べるために 531節で述べた Sweep-SIM

を用いグレインを空乏状態から蓄積状態まで変化させた際の SIM像変化と 521節の結果とを比較し評価を行う測定条件 [設定値 SIM-2] を用いSweep-SIM として各点 400 ms の期間に plusmn25 V の三角波を電極に印加する測定を行った結果のうちBWによる SIM信号遅れが現れていない plusmn2 Vの範囲について EFM像SIM-XSIM-Yを再構成したものを図 521に示すEFM像は図 512(a)の飽和値プロファイルに対応する量であり三角波の印加でもグレイン上の電位が十分追従していると考えられる一方SIM-X 像における Gr1 の見え方が VB によって変化しているここで+2 V からminus2 Vのバイアス範囲を(i) SIM-X像が均一 (蓄積状態VB ge minus05 V)(ii) SIM-X像が不均一 (半空乏状態minus05 V le VB le minus15 V)(iii) SIM-X像に現れない (空乏状態VB le minus15 V)3つの領域に分けることができる

(i)蓄積状態 (i)では SIM-Xに限らず EFM像SIM-Y像でも Gr1内で応答が均一であり電極ndash

グレイン界面の抵抗のみ影響する図 511(a)のモデルを適用して評価を行ったことはこれまでに述べた一方SIM-Y(図 521(c))に注目するとGr2aと同様に絶縁膜上のグレインのみならず電極上を覆う部分 (Gr1(on))においても SIM-Y信号が現れているがこの範囲がバイアスにより変化していることが分かるつまりバイアスによって電極上を覆う部分の導通領域が変調されているそこで次のようなプロセスで導通領域長さ dover を定義算出した図 522(a)の線分に沿った SIM-Y

プロファイルを用いGr1の絶縁膜上領域 (Gr1(ins))の SIM-Y信号平均値に対して 90の大きさと

102 第 5章 時間分解測定による有機グレイン中のキャリアダイナミクス評価

(b) SIM-X (VB = 0 V)(a) Topography (c) SIM-X (VB = ndash1 V)

Gr1

PlateauPlateau

図 523 Gr1上 Sweep-SIM結果 (ii)半空乏状態の SIM-X像とグレイン形状の比較(a)表面形状像と Gr1上の台地 (Plateau)位置 (破線)(Sweep-SIMとは別取得像)(b) VB = 0 V (c) VB = minus1 Vにおける SIM-X像Gr1形状を白破線で台地領域を赤破線で示した

なる Gr1(on)での位置を考え電極端からの距離を dover とするこれを各バイアス (01 V刻み)で行った結果を図 522(c)に示す100 nm以上の距離は像の左端に位置するため測定不能である導通領域長さは正バイアス電圧に対して単調に増加したが12 Vを境にその増加傾向が増している一方バイアス依存アドミタンス解析 (図 520(a)ndash(c))より電極ndashグレイン界面コンダクタンスの増加は minus05 Vのバイアス電圧で開始していることを確認しており導通領域長さの増加開始はグレインの導通開始電圧よりも大きな正バイアス電圧が必要ということになる

(ii)半空乏状態 VB = minus1 Vのときの SIM-X像 (図 521(b))では Gr1内の信号に明確な不均一性が現れたGr1の形状と SIM-X像を比較するためVB = 0 V (i蓄積状態)minus1 V (ii半空乏状態)でのSIM-X像上に表面形状から確認できるグレインの輪郭を破線で示した (図 523(b) (c))VB = 0 V

のときSIM-X信号が得られている領域は EFM信号と同じくほぼグレイン内部のみである一方VB = minus1 VではGr1の上右下に伸びる 3枝 (それぞれ上枝右枝下枝と呼ぶ)の分岐部は VB = 0 V

と同程度の信号が得られているのに対しそれぞれの枝の先まで信号が到達していないこの結果は(i)の蓄積状態とは違いGr1内にも無視できない抵抗成分があることを示しているこの抵抗の由来として分布定数回路のように距離に関係するものグレイン境界のように構造に関係するものそれ以外の影響の 3通り考えられる

532 節で述べたようにFM-SIM と TR-EFM の信号にはそれぞれ関係がある図 523(c) のSIM-X 信号では応答消失後はより遠いところの応答は見ることができないがTR-EFM では全体から信号が得られるためGr1の分岐先についても何らかの変化が観察できると考えられる図524(a)に Gr1上の (I)電極付近 (分岐部)(II)遠方 (分岐先右枝)における空乏時 (VB = minus1 V)の経時EFM信号を示す電極付近に比べて遠方では EFM信号 (の絶対値)が小さいこのこと自体は負バイアス時の EFM信号飽和値プロファイル (図 512(a))や校正後 ∆V 飽和値プロファイル (図 516(b))

からも見て取れるしかしそれに加えて電圧変化後 2 ms以降の信号に注目すると電極付近ではほとんど変化していないのに対し遠方では有意な傾き (経時変化)が見て取れるこれはキャリア輸送による電位の時間変動が起こっていることを示すものであり負バイアス時 (空乏時)の ∆V 飽和値プロファイルの勾配 (図 516(a))は静的なキャリア分布による電位勾配ではなく何らかの抵抗により発生していることを示している図 524(a)で見られた EFM信号の経時変化率 (Vs)を各負バイアスにおいて全点で算出しマッピングしたものを図 524(b)ndash(f)に示す経時変化率の算出には元の TR-EFM信号に対して付近 3 times 3

点平均で平滑化し電圧変化後 (10 plusmn 65)msのデータ点の最小二乗線形フィッティングにより得た

53 単一グレインのチャネル形成評価 103

-30

-20

-10

0

10

0 5 10 15 20

EFM

sig

nal [

mV]

Time[ms]

Near (I)

Far (II)

Gr1

05 Vsndash05 Vs

(I)

(II)

(a) EFM signal at VB = ndash1 VEFM-slope images in ldquodepletionrdquo regime

(b) ndash05 V

(c) ndash1 V

(d) ndash15 V

(e) ndash2 V

(f) ndash25 V

Plateau

Slope

Slope

図 524 (a) TR-EFM 測定で得られた Gr1 上の電極付近 (Near I) および遠方 (Far II) での空乏時の経時 EFM 信号比較(b)ndash(f) TR-EFM 結果より求めた空乏時 EFM 信号の経時変化率マップ(b) VB = minus05 V (c) minus1 V (d) minus15 V (e) minus2 V (f) minus25 VGr1輪郭を黒破線台地領域 (図523(a)参照)を赤破線で示した

(a) ndash05 V (d) ndash2 V

(e) ndash25 V(b) ndash1 V

(c) ndash15 V

08 Vsndash08 Vs

EFM-slope images in ldquorecoveryrdquo regime

(f)

Grain

Disorder

NegativeElectrode

図 525 (a)ndash(e) TR-EFM結果より求めた回復時 EFM信号の経時変化率マップ(a) VB = minus05 V(b) minus1 V (c) minus15 V (d) minus2 V (e) minus25 VGr1輪郭を黒破線台地領域 (図 523(a)参照)を青破線で示した(f)回復時の EFM時間応答を説明する模式図Disorderでのキャリア蓄積が十分ではないため抵抗として現れる

まず minus05 V (i)ではグレイン内で変化率に大きな差は見られない一方 minus1 V (ii)のときGr1の電極付近の変化率はほぼ 0なのに対し遠方では経時変化率が負であることが明瞭に観察できる特にGr1下枝では広い範囲で同程度の経時変化率であり分布的な抵抗と距離による影響ではなくグレイン内の局所抵抗が作用していると考えられるここでグレインの表面構造と比較するため図 523(a)の Gr1表面形状より台地 (Plateau)部分の輪郭を取得し経時変化率マッピングに赤破線にて重ねて示しているminus1 V (図 524(c))での経時変化率が負の領域は例えば右枝では変化率が 0

に近い領域が台地部分に侵食しているように台地部分と完全に対応しているとはいいがたいこれは同様に台地部分を桃破線で重ねて示した SIM-X像 (図 523(c))において SIM-X信号が台地部分

104 第 5章 時間分解測定による有機グレイン中のキャリアダイナミクス評価

GrainChannel

Electrodendashgrain Channel Disorder

Disorder

ON

Resist

ON ON

OFF OFF OFF

Electrode

SubstrateInsulator

VB(ndashVG)

2 V

ndash2 V

0 V

ndash1 V

(a)

(b)

(c)

(d)

(i)

(ii)

(iii)

図 526 TR-EFMFM-SIM評価から想定される単一グレインのチャネル形成過程の模式図

まで侵食していることからも確認できるよってGr1台地部分との境目ではなく表面形状から確認できないグレイン内の欠陥が抵抗として働いていると考えられる最後にVB le minus15 V (iii)では全体が同程度の変化率となっており電極ndashグレイン界面が制限していることが分かる同様に TR-EFM の回復時について11 plusmn 65 ms のデータ点の線形フィッティングで算出した

EFM信号経時変化率マップを図 525に示す回復時もやはりminus05 Vでは Gr1内は経時変化率が均一だがminus1 Vから minus25 Vでは Gr1の上枝および下枝において経時変化率が増加しているこれは電極付近では迅速なキャリア再注入により電圧変化の 10 ms後には十分収束しているが下枝等遠方ではグレイン内の局所抵抗によりキャリア再注入が阻害され負電位から 0への緩和が遅れるため他の部分よりも経時変化率が大きくなったと考えられる (図 525(f))さらにminus1 Vからminus25 Vの下枝の経時変化率が異なる領域は Gr1台地部分全体よりも小さいことが空乏時 (図 524)

の経時変化率マップよりもよくわかるこのような (見かけの)グレイン境界とは異なるペンタセングレイン内の欠陥はこれまでの研究でも報告されているNakamuraらの AFMポテンショメトリーを用いたペンタセン薄膜の電位測定から見かけのグレイン内部でも電位ドロップが起きることが指摘されている [31 32]それらはグレイン内の浅い溝状構造と相関があるとされており基板温度を常温以上にしてペンタセン薄膜を作製した際に起こりやすい走査型近接場光顕微鏡を用いた局所赤外分光評価によりこの浅い溝は温度変化で発生したペンタセン薄膜内部の歪みを薄膜相からバルク相への相転移で緩和したことにより生じたものであると評価された報告があり [175]相間の境界またはバルク相自体の低移動度性に由来する局所抵抗といえるこのようにペンタセングレインでは形状には現れてこない局所抵抗が存在し本研究でもそれが SIM-X像の変化または EFM

信号経時変化率の違いとして現れたと考えられる以上の Sweep-SIMおよび TR-EFMの経時変化率評価の結果から電極―単一グレインにおけるチャネル形成過程は図 526 のように示すことができるVB lt minus1 V (iii) では電極―グレイン界面グレイン内 (チャネル)共に空乏化しOFF状態である (図 526(d))VB sim minus1 V (ii)付近ではチャネルは導通しON状態となるがグレイン内にも存在する欠陥ではまだ空乏状態であり抵抗が存在

54 本章のまとめ 105

する (図 526(c))このチャネルの導通と局所欠陥による導通電圧の違いはOFETにおけるしきい値電圧の違いとも考えられ3章で確認したグレイン境界におけるしきい値電圧変調効果と合致する結果であるVB gt minus1 V(i)では欠陥部分も十分導通しグレイン内は均一となる (図 526(b))そのため系全体の抵抗は電極―グレイン界面のみとなるさらに VB を増加させるとグレインの電極上領域まで導通するようになり実効的な接触面積の増加から接触抵抗の低減が起こるこのことは接触抵抗のゲートバイアス依存性ともとることができる

54 本章のまとめ本章では従来手法では困難なキャリアダイナミクスの可視化評価に向け3 章で培った point-

by-point 手法を用いた実用的な TR-EFM 測定システムを構築した測定系由来の応答遅れが PLL

のバンド幅のみに依存するという重要な知見を得た上で1 msという時間分解能を達成したペンタセン単一グレインに適用することで単一グレインへのキャリア注入排出過程を可視化し注入排出で非対称な接触抵抗およびバイアス電圧依存が現れることを明らかにした

FM-SIMとの併用による多角的評価ではFM-SIMによる界面インピーダンス評価とグレイン上導通領域評価の 2つの側面から活用可能であった界面コンダクタンス測定によりグレインごとに異なる EFM信号の時定数が界面コンダクタンスと相関があることがわかり注入時と蓄積時の金属ndashグレイン界面抵抗の比として定量的に示すことができたまたバイアス分光評価と TR-EFM

の経時変化率評価により単一グレイン内部の欠陥による局所抵抗があることを明らかにした

107

第 6章

結論

61 総括本論文では従来の原子間力顕微鏡技術の改善やマクロ評価技術を組み合わせた新規測定手法の構築を通して金属ndash有機界面および近傍の局所電気特性評価を行ってきた以下ではそれぞれの項目の総括を述べる

第 3章【AFM電流測定法を用いた有機グレインの局所電気特性評価】第 3章では AFM電流測定法の一つである PCI-AFMを用いた OFETの局所電気特性評価に向けた改善および測定を行った改善の面ではまず従来の PCI-AFMでは非現実的であった真空中動作を Q値制御法の利用により実現したこれにより雰囲気による OFET電気特性への影響を排除した測定が可能となったまた効率的な動作パラメータ設定と柔軟な point-by-point動作設定が可能な制御プログラムの作成を通したフレキシブルな PCI-AFM システムを構築したこの寄与が第 5

章の TR-EFM測定システム構築の足がかりとなった測定ではマルチグレイン薄膜および単一グレイン上で評価を行ったマルチグレイン薄膜では大気真空両雰囲気中で PCI-AFM測定を実現するとともにグレインごとの局所 OFETの ON状態への変化を電流像として可視化したこのような表面形状と電流の同時マッピングによる評価は特性が変化する位置を像として明確にすることができる点が従来の AFM電流測定法に比べて優位である

第 4章【新規局所インピーダンス評価法の開発と金属―有機界面物性の評価】AFM電流測定法が電極ndashグレイン界面の電気特性評価に不向きであることを受け第 4章では新規局所インピーダンス評価法として周波数変調走査インピーダンス顕微鏡 (FM-SIM)を提案開発した開発において等価回路モデルから FM-SIM信号と電極ndashグレイン界面のインピーダンスを一対一に対応させることができることを導き等価回路定数を半定量的に算出可能な周波数解析法を考案した同手法を適用することで Aundashペンタセン単一グレイン界面のインピーダンスが抵抗ndash容量並列回路で記述できることの一般性を明らかにしたまたバイアス依存性よりAundashペンタセン界面の準位整合状態と接触抵抗が相関することを見出したことはモルフォロジーの影響を排除し

108 第 6章 結論

た真の金属ndash有機界面電気特性と電子物性を結びつけた初の試みといえる第 4章では開発した FM-SIMを用いて電極表面の自己組織化単分子膜 (SAM)処理による移動度向上の要因の評価も行ったOFET 動作中においても FM-SIM 測定が行えることを示しソース電極ndashチャネル界面のコンダクタンス増加とキャリアトラップ減少が SAM 処理による影響とわかった

第 5章【時間分解測定による有機グレイン中のキャリアダイナミクス評価】第 5章では第 4章とは違う観点からの電極ndashグレイン界面電気特性評価の試みであるとともに従来の AFM応用手法では評価しえない有機グレイン中のキャリアダイナミクスを評価するため第 3

章の point-by-pointシステムを活用した時間分解静電気力顕微鏡 (TR-EFM)を考案した測定系由来の応答遅れが PLLのバンド幅のみに依存することを示し時間分解能 1 msの電位応答測定を実現したペンタセン単一グレインの測定では十分な空間分解能でキャリア注入排出する過程を可視化することができ注入排出過程では接触抵抗が支配的であると分かった新規比例係数校正法から一般的な金属ndash有機界面の電子準位モデルで解釈可能な注入バイアス電圧依存性を確認した最後にFM-SIMの併用による相補的相乗的評価を行ったTR-EFMFM-SIM同時測定を複数のグレインに適用しグレインごとの注入過程の時定数および界面コンダクタンス値を測定したそれぞれのグレインの時定数は異なるが時定数の逆数と界面コンダクタンスは線形な関係にあることを示し注入時と蓄積時の接触抵抗がある一定の比をとることを示したまたFM-SIM像による導通領域可視化と TR-EFM測定の空乏時回復時の EFM信号時間変化率評価から単一グレイン内部においても局所抵抗を生み出す欠陥が存在することが判明した

62 今後の展望本論文では電極ndashグレイン界面を中心に様々な微小抵抗の静的動的電気特性評価が可能な手法や解析法を述べてきたこれまでで得られた物性的知見や手法をさらに推し進めることで物性的な応用と材料的な応用が期待される

物性的応用 有機ndash絶縁膜界面物性評価 金属ndash有機界面は接触抵抗という形で OFETへ直接的に影響するが有機ndash絶縁膜界面はトラップや耐久性といった内在的な影響をも有しており金属ndash有機界面物性と同じくらいに大きな OFETの制限要因であるしかし有機ndash絶縁膜界面もグレイン内部境界といった局所構造によりその影響の程度が異なる上に膜厚方向についてもキャリア蓄積効果と密接に関わってくるためこれまで同様マクロ薄膜での評価では困難であるさらに経時的変化が予想される物性のため過渡的な応答評価が可能であることが必要となるここでTR-EFM は特にこの過渡応答に強力な手法であり有機ndash絶縁膜界面物性への展開に有利であると考えられる本研究ではキャリア注入や排出時の時間は一定にして測定したが有機ndash絶縁膜界面では蓄積時のキャリア量とその時間に依存したキャリアトラップが起きるため蓄積時間変調のようなこれまでと異なるパラメータへと時間分解測定を拡張することで有機ndash絶縁膜界面物性評価に繋げられると期待される先に TR-EFMや FM-SIMを活用し微小抵抗を可視化することで

62 今後の展望 109

Insulator

Substrate

Trap

Resistance

Conduction

図 61 今後の展開の模式図本研究をナノワイヤのようなナノスケール材料へ適用することで分子ナノエレクトロニクス材料の局所特性制限要因の解明が期待される

有機半導体グレインやグレイン境界微小欠陥が生み出すキャリアトラップの程度を評価比較していくことが本研究の物性的応用と位置づけられる

材料的応用 ナノスケール材料への展開 本論文では測定対象としてサブ micromスケールの有機半導体グレインを用いたしかし金属電極との界面における接触抵抗や内部の微小抵抗といった局所電気特性は有機薄膜に限らず様々なナノスケール材料においても有する例として高分子ナノファイバーやカーボンナノチューブ (CNT)

は非常に微小なチャネル幅チャネル長をもつ FETへと応用が期待される一方で電極間への架橋が困難であることやそれぞれのナノファイバーCNTにおける電気特性差が生じることが物性解明の障害であるまた近年炭素のナノシートであるグラフェン利用も急速に発展しており化学的気相成長法や酸化グラフェンの還元といった産業応用を狙った手法で作製されたグラフェンの電気特性評価も必須となる本研究で提案した FM-SIM や TR-EFM の特長として非架橋非接触で電気特性評価が可能であることを鑑みると以上のような架橋の困難なナノスケール材料においても適用できると期待されるさらに静電気力検出をベースとした非接触測定手法であることから幅が数 nmと非常に微細なスケールであっても可視化可能である利点を有する上述の絶縁膜界面物性評価にもあるような時間分解測定の拡張も踏まえた多角的評価手法によりナノスケール材料の 1次元伝導度微小抵抗キャリアトラップといった局所電気特性評価を行うことで分子ナノエレクトロニクスへの展開が本研究の材料的応用と位置づけられる (図 61)

111

付録 A

静電気力顕微鏡の検出モード比較

本論文では 4章5章にて周波数変調方式の静電気力顕微鏡 (FM-EFM)をベースとした測定手法を扱ってきたカンチレバーの共振 (励振)周波数を f0交流バイアスの周波数を fm とすると交流バイアスに起因する静電気力成分は f0 plusmn fm に生じる (図 A1(a))これまでの FM-EFMでは 26

節で述べたように PLLを用いて周波数信号に変換した上で (図 A1(b))ロックインアンプ (LIA)により fm 成分を検出することで EFM信号を測定できるこの手法は Kitamuraらによって提案された手法 [176]でありここでは ldquoConventional-EFMrdquoと呼ぶこととするConventional-EFMの問題点としてPLLのバンド幅 (BWPLL)を変調周波数 fm より大きくする必要があるが大きな BWはループの発振を招くためあまり fm を大きくできないことにある一方図 A1(a)のように f0 plusmn fm 成分を直接ロックイン検出することによっても静電気力成分が検出できることが予想される本研究で用いた LIA である Zurich Instruments 社の HF2LI-MF (以下 ZI-LIA)にはモジュールを入れることで FM変調された信号を直接ロックイン検出する機能を有しているこれにより EFM 信号を測定する手法を Sideband-EFM と呼ぶSideband-EFM ではPLLを介さないためConventional-EFMに比べて fm を大きくでき測定速度を向上できると考えられている本章では Conventional-EFMと Sideband-EFMをそれぞれの測定 (応答)速度および SNの観点から比較するなおこの研究は京都大学大学院工学研究科馬詰彰奨学寄附金の支援で実現したカナダMcGill大学への海外研修の際に取り組んだものである

理論的比較カンチレバーの共振 (励振)周波数を f0振幅を A交流バイアスの周波数を fm静電気力による周波数変調度 (つまり所望の信号)を fp とするとカンチレバーの変位信号 s(t)は

s(t) = A cosΩ(t) = A cos[2π f0t +

fpfm

sin(2π fmt)]

(A1)

と表されるFM検出方式では周波数つまり位相 Ω(t)の微分を検出するためPLLの出力は1

2πdΩdt= f0 minus fp cos(2π fmt) (A2)

となるConventional-EFMでは fm 成分を検出するがその EFM信号の大きさは fp であり変調周波数に依存しない一方微分は周波数軸に対して積の形で現れるため変位信号におけるホワ

112 付録 A 静電気力顕微鏡の検出モード比較

(a) Signal

Sideband

PLL BWConventional

Noise level

f0f

f0+fmf0ndashfm

(b) Frequency shift

fmf

s(t) dΩdtBWPLL

図 A1 FM-EFMにおける変位信号に含まれる周波数成分の模式図(a)変位信号の周波数成分と PLLおよび Sideband-EFMによる検出領域の模式図(b) (a)から PLLにより得られた周波数シフトの周波数成分と Conventional-EFMによる検出領域の模式図

PLL2

LIA2

LIA1

BWLIA

BWLIA

BWPLL1

ZI-LIA ZI-LIA

BW100 Hz

fm f0fm

fm

f0+fm

PLL1

Deection signal Deection signal

EFM signalEFM signal

Conventional Direct sideband(a) Setup

Cantilever

Electrode

(b) (c)

図 A2 (a) ConventionalSideband-EFM のパルス電圧応答比較の共通セットアップ模式図(b)Conventional-EFMのブロックダイアグラム(c) Sideband-EFMのブロックダイアグラム

イトノイズは周波数シフトでは周波数に比例して大きくなるよってConventional-EFMの SN

は fm に反比例することがわかる一方変位信号の cos[ fp

fmsin(2π fmt)]部は Bessel関数で展開できるが fp fm の条件下では以下

の形に簡略化できるs(t) A

[cos 2π f0t plusmn fp

2 fmcos 2π( f0 plusmn fm)t

](A3)

f0 + fm 成分を直接ロックイン検出した場合EFM信号の大きさは A fp2 fmとなり fm に反比例する

一方ノイズは一定値でありSideband-EFMの SNは原理上 Conventional-EFMの SNと同じであることが予想される

パルス電圧応答比較5章の TR-EFMと同じく導電性試料にパルス電圧を加えた際の EFM信号の過渡応答を比較した (図 A2(a))図 A2(b) (c) はそれぞれ Conventional-EFM および Sideband-EFM において EFM

信号を検出する回路のブロックダイアグラムである変調周波数は fm = 1 kHz 10 kHz について評価したConventional-EFM では PLL1 の BW を BWPLL1 = 2 kHz ( fm = 1 kHz のとき) 10 kHz

( fm = 10 kHz) としたSideband-EFM では内部で PLL (PLL2) が搬送周波数 f0 を測定しデジ

113

0 02 04 06 08

1 12

0 10 20 30 40

Sign

al

Time [ms]

0

01

02

03

0 10 20 30 40

Sign

al

Time [ms]

100 Hz100 Hz(signal times 05 oset)

70 Hz

70 Hz (oset)

50 Hz50 Hz

30 HzBWLIA 20 Hz

30 HzBWLIA 20 Hz

(a) Conventional (1 kHz) (b) Sideband (1 kHz)

(c) Conventional (10 kHz) (d) Sideband (10 kHz)

0

02

04

06

08

1

-5 0 5 10 15

Sign

al

Time [ms]

0

05

1

15

2

-5 0 5 10 15

Sign

al

Time [ms]

500 Hz300 Hz200 Hz100 Hz

BWLIA

500 Hz300 Hz200 Hz100 Hz

BWLIA

図 A3 ConventionalSideband-EFM のパルス電圧応答比較結果(a) (b) は fm = 1 kHz でのConventionalSideband-EFM結果(c) (d)は fm = 10 kHzでの結果を示すただしTime lt 0 msではパルス電圧のバイアスは 0 VでありTime 0 msで 15 Vである

タル的に f0 + fm の周波数信号を参照としてロックイン検出することで実現しているそのときのPLL2の BW設定は 100 Hzとし検出される搬送周波数の fm による変動を抑えた両者の LIAのBW (BWLIA)は同じ値で比較を行った図 A3 に EFM 信号の過渡応答測定結果を示すまず fm = 1 kHz のとき図 A3(a) のように BWLIA を増加させるに応じて Conventional-EFM の応答速度が向上しており5 章での議論と合致するそれに伴い SN が低下していることは上述のとおりである一方Sideband-EFM はBWLIA = 30 Hzまでは Conventional-EFMと同等の SNおよび応答速度の EFM信号が得られているがそれよりも BW を大きくすると所望ではない交流信号が現れてしまったこの周波数は約2 kHzであり変調周波数の約 2倍である

Conventional-EFMでは困難となる変調周波数の高い場合 ( fm = 10 kHz)にも定性的に同じような応答が得られたConventional-EFMではノイズが増加するものの 0 ms前後での応答差がまだ確認できるがSideband-EFMでは BWLIA = 500 Hzの時点で確認不可能であるこのように Sideband-EFM で大きな交流信号が EFM 信号に現れる原因として搬送周波数 (共振周波数)成分の影響があげられる図 A1(a)や図 A2(c)で示したようにSideband-EFMでは変位信号からそのままロックイン検出しているがこのとき LIA の BW を大きくしすぎると搬送周波数 f0 成分にかかり始める一方Conventional-EFM では周囲 fm に Sideband-EFM のような大

114 付録 A 静電気力顕微鏡の検出モード比較

きな信号はないそのためConventional-EFMよりも Sideband-EFMのほうが LIAの BWを上げにくいと考えられるBWを小さくして測定したとしても5章で述べたように応答速度は LIAのBW にのみ依存することから高い変調周波数を扱うメリットはないさらに今回の測定ではfm = 10 kHzという高い変調周波数においても SN的に Sideband-EFMの優位性は認められなかったSideband-EFMの問題点を解消する方法としてLIAを二段構成にする方法がある [177]一段目の LIAにて搬送周波数で変位信号のロックイン検出を行うことで搬送波成分が直流となり二段目の LIA では問題とならないConventional と Sideband を正しく比較する場合にはこの方法を用いることが望まれる

115

付録 B

FM-SIMの正規化アドミタンス評価の補足

4章では周波数変調走査インピーダンス顕微鏡 (FM-SIM)を用いてAundashペンタセン単一グレイン界面インピーダンスが RC並列回路で表されることを説明した本編では式 (410)を用いて正規化アドミタンスに変換したが本章では正規化 FM-SIM信号 (γ)から視覚的に変化を読み取る方法について説明する

アドミタンスグリッド正規化アドミタンス Ynorm(式 (415)) を導入すると式 (410) より正規化 FM-SIM 信号は次のようにかける

γ =1

1 + jYminus1norm

(B1)

ここでYnorm の実部 (正規化コンダクタンス)虚部 (正規化サセプタンス)をそれぞれ g cと表す書き下すと以下のようになる

g =1

2π fsCiRlo(B2)

c = CloCi

g cのうち片方を固定し片方を 0から infinまで変化させた際の正規化 FM-SIM信号の軌跡 (γプロット)を図 B1に示すcを固定しgを変化させた際は γの周波数依存性と同じく γ = 1を通る径の異なる半円となる (破線)これは式 413において f と τr(つまり Rlo)が等価であることと対応する一方gを固定しcを変化させると点線のような軌跡をとるここで任意の γが与えられたときこの平面上のどこかにプロットできるプロット点を通るであろう gの軌跡から cがcの軌跡から gが読み取れる図 B1に示す軌跡をアドミタンスグリッドと呼ぶアドミタンスグリッドの利点は連続的なパラメータ変化に対するアドミタンス変化の概形を読み取ることである図B1を見ると分かるとおりg c lt 01または g c gt 10の領域は γの変化に対しての g cの変化が非常に大きいこれは本編のようにチャネルの ONOFF時の変化を Ynorm の変化として算出するときにFM-SIM信号強度が小さいと問題が生じる一方Ynorm を値として計算せずアドミタン

116 付録 B FM-SIMの正規化アドミタンス評価の補足

0

0

0

05

-05

1

01

1

10

g

cinfin05 1 2 10

Re[γ]

Im[γ] (Suscept)

(Conduct)

Ampl

PhaseRlo

Clo

g-1

c

Normalized

図 B1 γプロットの正規化アドミタンス (実部 g虚部 c)依存性cを固定し gを変化させた軌跡を (赤)破線でgを固定し cを変化させた軌跡を (青)点線で示しているこのような γプロットをアドミタンスグリッドと呼び任意の γ(振幅および位相)が与えられた際グリッドとの位置関係から大まかな g cの変化が読み取れる

-Imag(a) Real(a)

0

01

1

10

infin05 1 2 10

ForwardBackward

(Capacitance)

(Conductance)g

cVG = 2 V

VG = ndash3 V

図 B2 433 節のペンタセン単一グレイン上 FM-SIM 測定結果の γ プロット (アドミタンスグリッド上)Solid点が VG = 2 Vrarr minus3 Vに変化させた際 (Forward)Open点が逆方向 (Backward)での測定点である

スグリッド上に連続的にプロットすることで真値は分からなくとも変化の概形は読み取ることができる

バイアス電圧依存のアドミタンスグリッドアドミタンスグリッド上 γ プロットの例として433 節で示したペンタセン単一グレイン (グレイン A) における FM-SIM 測定結果をプロットした (図 B2)図 415 同様 VG 変化の Forward

と Backwardに関してプロットしているがプロット点の位置は違えどもその軌跡は ForwardとBackwardで非常に重なっていることがわかる433節 (図 415(c))で述べたように界面アドミタンスは VG に対してヒステリシスを示したが取りうる界面アドミタンスの値は同一であることが図B2からわかるまたグリッド線と比較すると変化の軌跡は cを固定して gを増加させた場合の軌跡に近いであろうことが見て取れるここからも負の VG 印加により界面コンダクタンスが増加し界面容量は比較的一定であることがわかる式 (B2)よりアドミタンスグリッド上で gは電極の交流バイアス周波数 fs に依存するそのため fs を変えることで g軸に沿ってプロット位置が変化することが予想される図 B3(a)に示す別のペンタセングレイン (B)に関してfs = 100 Hz 300 Hzでゲートバイアス VG 依存性を取得した結果を図 B3(b)に示すただしVG は 2 Vから minus8 Vの範囲で連続的に変化させたまずこのグレ

117

0 nm 30 nm

-05

0 05 1

fs = 50 Hz

100 Hz150 Hz

200 Hz300 Hz

500 Hz800 Hz

Imag

(a)

Real(a)

0

01

1

10

cinfin05

Conductance

g

101 2

Capacitance

VG = ndash8 V

VG

300 Hz

100 Hz

100 HzForBack

300 Hzfs

(a) Topography

(b) VG-dependence

(c) fs-dependenceElectrod

e

150 nm

Grain B

A B

図 B3 (a)グレイン Bの表面形状像(b)グレイン B((a)の x点)でのアドミタンスグリッド上 γプロットゲートバイアスを VG = 2 Vから minus8 Vに (Forward)および逆方向 (Backward)に掃引しながら測定した(c)グレイン B上周波数依存 γプロット (VG = minus1 V)

イン Bに関してもグレイン A同様に負の VG 印加に従い g軸正方向へ変化しておりキャリア蓄積に伴う接触抵抗の低減が見て取れるどちらの fs においてもその傾向が現れているが fs = 300 Hz

では 100 Hzでの gに比べて 13程度になっており予想どおりの結果となった周波数依存性との対応も調べるためいくつかの fs について図 B3(a)の線分 AndashB上をラインスキャンし電極グレイン B上の FM-SIM信号から γプロットした結果を図 B3(c)に示すグレイン Aの周波数依存性 (図 413)では周波数を掃引して測定したが非連続的に周波数を変化させても同じように半円状の変化を示すことがわかるここで fs = 100 Hz 300 Hzでの結果はそれぞれの図 B3(b)でのプロット位置と大まかに一致していることから以上の測定結果の再現性も確認できたといえる

ヒストグラムプロットγプロットは界面アドミタンスの概略的な傾向を見るのに有用だが何らかの方法で FM-SIM信号の ldquo値rdquoを抽出する必要がある代表点ラインプロファイル平均といった方法で評価はできるもののどこまでの範囲を考慮するかにおいて任意性がどうしても存在するその問題点を解消する方法として以下に述べるヒストグラムプロットがあるヒストグラムプロットでは同一領域の FM-SIM 振幅像および位相像を用い像の各点における FM-SIM信号が γプロットのどの位置に来るかを計算しγプロット内の頻度を画像化したものであるこれによりもっともらしい γ において最も頻度が大きくなりγ の位置把握に役立つ図 B4 は図 414 と同じペンタセン薄膜に対してヒストグラムプロットを適用した結果である図B4(a)の領域 [1]に対し図 B4(b) (c)で示す FM-SIM振幅位相像をそれぞれのゲートバイアスで取得し本画像から図 B4(d) (e) に示すヒストグラムプロットを得た図 B4(d) では 0 および infinの部分以外に頻度の高い領域が 2箇所見て取れるこれらは大体の FM-SIM振幅位相値からそれ

118 付録 B FM-SIMの正規化アドミタンス評価の補足

0

01

1

10

cinfin05

g

101 2 0

01

1

10

cinfin05

g

101 2

(d) [1] VG = ndash1 V

VG = ndash1 V ndash4 V VG = ndash1 V ndash4 V

(e) [1] VG = ndash4 V

Count

Large

(a) Topography (b) SIM-Ampl (c) SIM-Phase

[1]

-40ordm +50ordm2 mV 45 mV35 nm

A

C

A

C

A

C

図 B4 ペンタセン薄膜上 FM-SIM結果とヒストグラムプロット (領域 [1])(a)表面形状と領域[1](b)領域 [1]における FM-SIM振幅像(c)位相像 (それぞれ VG = minus1 Vおよび minus4 V)矢印にてグレイン A Cを示している (図 414と同一)(d) VG = minus1 V (e) minus4 Vにおける領域 [1]の γのヒストグラムプロットA Cで示した点はそれぞれ (b)内で示したグレインに対応する

0

01

1

10

cinfin05

g

101 2

VG-dependence (Grain A)

Count

Large

VG

図 B5 図 415(b)で示したペンタセングレイン A上 FM-SIMラインスキャン像から得たヒストグラムプロット

ぞれ図 B4(b)で示したグレイン A Cであることは判別できるVG を minus1 Vから minus4 Vに増加させるとヒストグラムプロットは図 B4(e)のように変化しグレイン A Cに対応する箇所が移動しているのがわかるg軸について見るとこれらは gの増加と対応していると確認できる同様に図415で示したペンタセングレイン A上における FM-SIMで得られたラインスキャン FM-SIM像からヒストグラムプロットした結果を図 B5に示す結果的には図 B2と全く同じものをプロットしているもののデータ抽出の恣意性がない分純粋な傾向を確認するのには有用と考えられる

119

付録 C

有機半導体グレイン境界のインピーダンス評価

4章では周波数変調走査インピーダンス顕微鏡 (FM-SIM)を開発し電極ndashグレイン界面に焦点を当てた局所インピーダンス評価を行ったOFET内の局所抵抗としては電極ndashグレイン界面以外にグレイン境界も大きな影響を有することがケルビンプローブ原子間力顕微鏡 (KFM)を用いた表面電位分布測定によって確認されてきた本節では 4章よりも現実の系に近い有機半導体のマルチグレイン薄膜 OFETにおいて FM-SIM測定を行いFM-SIMの電極界面以外への応用可能性や KFMとの手法比較を行う

測定条件測定試料は 422節と同様に UVおよび電子線リソグラフィにより作製した Pt電極上にペンタセンを蒸着することで作製した図 C1(a)に測定したペンタセンマルチグレイン薄膜試料の表面形状を示す図の上下にある破線で囲まれた領域に電極があり上部電極 (領域 A) をドレインとしてVD = minus1 V印加し下部電極 (E)をソース (Ground)とした上下の電極は図左半分のグレインを通じて繋がっておりこのグレインをチャネルとした OFETを形成している図中点線で示すように表面形状内のくびれくぼみからグレイン境界が判別できグレイン境界で分けられたグレインを領域 B C Dとする (図 C1(a)参照)

FM-SIM の装置構成は図 43 44 と同様であり電極 AC 電圧として振幅 Vacs = 2 Vp-p周

波数 fs = 100 Hz を用いたZI-LIA で ft + fs = 1100 Hz の ∆f の成分を検出しFM-SIM 信号とした測定では上部下部それぞれの電極を AC 電極とした測定を行いゲートバイアスVG = 1 V minus1 V minus3 V minus5 Vについて測定を行った

測定結果図 C1 に下部電極を AC 電極として FM-SIMKFM 測定した結果を示す電位像に注目すると

VG = 1 Vの時はドレインソース両電極界面 (AndashB EndashD界面)での電圧降下はほとんどなくチャネル全体にドレイン電圧が印加されていることがプロファイル (図 C1(e))からも確認できるこれは正の VG によりグレイン内が空乏化し導通していないことを示しているVG = minus1 Vでは電圧降

120 付録 C 有機半導体グレイン境界のインピーダンス評価

7006005004003002001000

14

12

1

08

06

Distance [nm]

Pote

ntia

l [V]

7006005004003002001000

30

20

10

0

Distance [nm]

SIM

-Am

pl [

mV]

7006005004003002001000

50

0

-50

-100

-150

Distance [nm]

SIM

-Pha

se [d

eg]

(b) Potential(a) Topography (c) FM-SIM ampl (d) FM-SIM phase

03 V 16 V 0 mV 50 mV -140ordm 40ordm

(g) FM-SIM phase prole(f) FM-SIM ampl proleA B C D E A B C D E A B C D E

VG = 1 V ID = 0 nA

001 nA

011 nA

028 nA

ndash1 V

ndash3 V

ndash5 V

ndash1 V

ndash3 V

ndash5 V

ndash1 V

ndash3 V

ndash5 V

VG = 1 V VG = 1 V

B

C

D

(e) Potential prole

200 nm

A

E

Source (0 V AC)

Drain (ndash1V)

Elec

trod

e

VG

1 Vndash1 Vndash3 Vndash5 V

図 C1 ペンタセンマルチグレイン OFET上の FM-SIM測定結果 (下部電極=AC電極)(b)電位像 (c) FM-SIM 振幅像 (d) FM-SIM 位相像のゲートバイアス (VG) 依存性(a) の線分 (AndashE 間)に沿った (e)電位(f) FM-SIM振幅(g) FM-SIM位相プロファイル同時に測定したドレイン電流 (ID)を (b)中に併記した

121

7006005004003002001000

30

20

10

0

Distance [nm]

SIM

-Am

pl [

mV]

-06 V 07 V 0 mV 50 mV -140ordm -60ordm

7006005004003002001000

060402

0-02-04

Distance [nm]

Pote

ntia

l [V]

7006005004003002001000

40

0

-40

-80

-120

Distance [nm]

SIM

-Pha

se [d

eg]

A B C D E A B C D E A B C D E

(b) Potential (c) FM-SIM ampl (d) FM-SIM phase

VG = 1 V

ndash1 V

ndash3 V

ndash5 V

VG = 1 V

ndash1 V

ndash3 V

ndash5 V

VG = 1 V

ndash1 V

ndash3 V

ndash5 V

(a) Topography

(g) FM-SIM phase prole(f) FM-SIM ampl prole(e) Potential prole

4002000

-108

-124

Distance [nm]

[deg

]

A B C D

B

C

D200 nm

A

E

Source (0 V)

Drain (ndash1V AC)

Elec

trod

e

VG

1 Vndash1 Vndash3 Vndash5 V

図 C2 ペンタセンマルチグレイン OFET上の FM-SIM測定結果 (上部電極=AC電極)(b)電位像 (c) FM-SIM 振幅像 (d) FM-SIM 位相像のゲートバイアス (VG) 依存性(a) の線分 (AndashE 間)に沿った (e)電位(f) FM-SIM振幅(g) FM-SIM位相プロファイル同時に測定したドレイン電流 (ID)を (b)中に併記した

122 付録 C 有機半導体グレイン境界のインピーダンス評価

下が BndashC間DndashE間で確認できminus3 V minus5 Vになると DndashE間のみとなった同時に測定した電流(図 C1(b) inset参照)から VG = plusmn1 Vでは OFETは OFF状態minus3 V minus5 Vでは ON状態であることがわかるこのことを考慮するとBndashC 間のグレイン境界が OFET の ONOFF 状態を支配しておりON状態での電気特性は DndashE間つまりソースndashチャネル界面が制限していると考えられるKFMではこのように OFET全体に占める局所抵抗の割合という相対的な評価が可能であるが例えば BndashC間グレイン境界のみの抵抗変化は電流を用いて計算する必要があり煩雑である

FM-SIMは 4章で述べたようにAC電極からの経路つまり図 C1では下部電極 (E)からの導通度合いが信号強度に反映されるまたKFM とは異なり絶対的な局所抵抗が影響しチャネル内において相対的な影響が増えても同じ抵抗値であれば同じ振幅位相となるFM-SIM 振幅像(図 C1(c)) を見るとまず VG = 1 V では E から D にかけて強度が減少している電位像では電圧降下が DndashE 間で現れていないが十分抵抗が大きいことが見て取れる次にON 状態であるVG le minus3 Vにおいて電位像には明確な変化が見られなかった BndashC界面で大きな信号低下が生じているBndashC間グレイン境界の局所抵抗は相対的には小さくなったものの抵抗値としての変化は小さいということを意味しているKFMからは BndashC間と CndashD間で明確な違いを確認することができないがFM-SIMを用いると局所抵抗の絶対値が影響するため図 C1(c)のように影響を可視化することができるというメリットがある図 C2は同様に上部電極を AC電極として FM-SIM測定した結果を示しておりFM-SIM像では上部電極からの導通度合いが反映されるまず図 C2(b) (e)は図 C2(b) (e)とほぼ同じ電位分布が得られておりバイアス印加条件を変えていないため理想的には同じ動作状況である事実と合致するFM-SIM振幅像 (図 C2(c))を見るとVG = 1 Vではやはり AC電極のすぐ隣である B上の強度が小さくなっており下部電極を AC電極としたときと同様電極界面もまだ導通していないといえるVG le minus1 Vでは AndashB間の FM-SIM振幅値が比較的近くAndashB間は DndashE間に比べて導通していると考えられる44節で述べたようにこれはソースndashチャネル界面に比べてドレインndashチャネル界面ではホールの感じる注入障壁が小さいことを示しているBndashC間グレイン境界に関しては下部電極を AC電極としたとき同様やはり大きな FM-SIM振幅変化が見られるさらにFM-SIM位相に注目すると図 C2(g)のインセットのように BndashC界面で若干の位相変化も得られた振幅変化のみであれば信号強度の比例係数変化 (522節参照)の可能性も無視できないがAC電極と比較して位相が負シフトした場合は 432節で議論したことや付録 Bのアドミタンスグリッドから分かるように抵抗性のインピーダンスが存在することを示している以上のようにKFMでは局所抵抗の相対的な変化や支配要因を評価できるがFM-SIMでは絶対的な変化を確認できるという点で相補的な評価が可能と考えられるしかし本章のようにマルチグレイン薄膜で OFETの ON状態においてもグレイン境界の影響が現れるような系では複数の局所インピーダンスが回路中に存在することグレイン容量が一定とみなすことができないことから423節のような単純な回路モデルによる半定量的なインピーダンス解析はできないことに注意する必要がある

123

研究業績

公表論文(A1) Tomoharu Kimura Yuji Miyato Kei Kobayashi Hirofumi Yamada Kazumi Matsushige ldquoIn-

vestigations of Local Electrical Characteristics of a Pentacene Thin Film by Point-Contact Current

Imaging Atomic Force Microscopyrdquo Japanese Journal of Applied Physics 51 (2012) 08KB05

(A2) Tomoharu Kimura Kei Kobayashi Hirofumi Yamada ldquoLocal impedance measurement of an

electrodesingle-pentacene-grain interface by frequency-modulation scanning impedance micro-

copyrdquo Journal of Applied Physics 118 (2015) 055501

(A3) Tomoharu Kimura Kei Kobayashi Hirofumi Yamada ldquoLocal impedance investigation of or-

ganic field-effect transistors with electrodes modified by self-assembled monolayerrdquo To be sub-

mitted

国際学会発表 (本人登壇分)

(I1) T Kimura Y Miyato K Kobayashi H Yamada K Matsushige ldquoInvestigation of Local Elec-

trical Properties of Pentacene Thin Films by Point-Contact Current-Imaging Atomic Force Mi-

croscopyrdquo 15th International Conference on Thin Films O-S17-05(Oral) Kyoto Japan (Nov

2011)

(I2) T Kimura Y Miyato K Kobayashi H Yamada K Matsushige ldquoLocal Electrical Characteristics

of Pentacene Thin Films Measured by Point-Contact Current-Imaging Atomic Force Microscopyrdquo

The 19th International Colloquium on Scanning Probe Microscopy S5-4(Oral) Toyako Hokkaido

Japan (Dec 2011)

(I3) T Kimura K Kobayashi H Yamada ldquoInvestigation of Local Field-Effect Characteristics of

Pentacene Thin Films by Point-Contact Current Imaging Atomic Force Microscopyrdquo IUMRS-

International Conference on Electronic Materials 2012 D-7-O25-004(Oral) Yokohama Japan

(Sep 2012)

(I4) T Kimura K Kobayashi H Yamada ldquoElectrical Property Measurements on Organic Semicon-

ductor Grains Using Point-Contact Current Imaging Atomic Force Microscopyrdquo 2013 MRS Spring

Meeting amp Exhibit Y604(Oral) San Francisco California United States (Apr 2013)

(I5) T Kimura K Kobayashi H Yamada ldquoLocal surface potential measurements of organic field-

effect transistors having a submicron crystalline grain channel by Kelvin-probe force microscopyrdquo

124 研究業績

19th International Vacuum Congress FMMMNST-1-Or-2(Oral) Paris France (Sep 2013)

(I6) T Kimura K Kobayashi H Yamada ldquoInvestigation of Local Electrical Properties of Organic

Field-Effect Transistors by Frequency-Modulation Scanning Impedance Microscopyrdquo 12th Interna-

tional Conference on Atomically Controlled Surfaces Interfaces and Nanostructures in conjunction

with 21st International Colloquium on Scanning Probe Microscopy 7PN-109(Poster) Tsukuba

Japan (Nov 2013)

(I7) T Kimura K Kobayashi H Yamada ldquoLocal Impedance Measurements of Organic Field-Effect

Transistors by Frequency-Modulation Scanning Impedance Microscopyrdquo The 10th MicRO Al-

liance Meeting P-15(Poster) Kyoto Japan (Nov 2013)

(I8) T Kimura K Kobayashi H Yamada ldquoLocal Impedance Characterization of Pentacene Thin

Films by Frequency-Modulation Scanning Impedance Microscopyrdquo International Conference on

Nanoscience + Technology 2014 SP-WeA9(Oral) Vail Colorado United States (Jul 2014)

(I9) T Kimura K Kobayashi H Yamada ldquoScanning Impedance Microscopic Study of Electrodendash

Channel Interface in Organic Field-Effect Transistors with Modified Electrodesrdquo 22nd International

Colloquium on Scanning Probe Microscopy S10-2(Oral) Higashiizu Shizuoka Japan (Dec 2014)

(I10) T Kimura K Kobayashi H Yamada ldquoVisualization of carrier injection and extraction processes

in organic semiconductor grain using time-resolved electrostatic force microscopyrdquo 18th Interna-

tional Conference on non contact Atomic Force Microscopy P-Wed-38(Oral) Cassis France (Sept

2015)

国内学会発表 (本人登壇分)

(N1) 木村知玄宮戸祐治小林圭山田啓文松重和美「点接触電流イメージング AFMによるペンタセン薄膜の局所電気特性の評価」第 72回応用物理学会学術講演会2a-ZB-6(口頭講演)山形 (2011年 9月)

(N2) 木村知玄宮戸祐治小林圭山田啓文松重和美 「点接触電流イメージング AFMを用いた有機薄膜トランジスタにおける局所電気特性評価」 第 59 回応用物理学関係連合講演会

16a-F5-4(口頭講演)東京 (2012年 3月)

(N3) 木村知玄小林圭山田啓文 「点接触電流イメージング AFMによる有機半導体微結晶の局所電気特性評価」第 73回応用物理学会学術講演会 11p-H1-14(口頭講演)松山 (2012年 9月)

(N4) 木村知玄小林圭山田啓文「ケルビンプローブ原子間力顕微鏡を用いた有機微結晶トランジスタの動作時における局所表面電位評価」第 60回応用物理学会春季学術講演会 29a-G8-5(口頭講演)厚木神奈川 (2013年 3月)

(N5) 木村知玄小林圭山田啓文 「周波数変調方式走査インピーダンス顕微鏡を用いた有機薄膜トランジスタの局所電気特性評価」 第 74 回応用物理学会秋季学術講演会19a-D2-3(口頭講演)京田辺京都 (2013年 9月)

(N6) 木村知玄小林圭山田啓文 「周波数変調方式走査インピーダンス顕微鏡を用いたペンタセン薄膜の局所インピーダンス計測」第 61回応用物理学会春季学術講演会20a-E16-10(口頭講演)相模原神奈川 (2014年 3月)

125

(N7) 木村知玄小林圭山田啓文 「原子間力顕微鏡を用いた有機ndash電極界面における局所インピーダンス新規評価手法」 応用物理学会関西支部 平成 26 年度 第 1 回講演会 (ポスター)京都(2014年 6月)

(N8) 木村知玄小林圭山田啓文 「電極表面処理による電極ndash有機グレイン界面物性の局所影響評価」第 75回応用物理学会秋季学術講演会17p-A2-5(口頭講演)札幌 (2014年 9月)

(N9) 木村知玄小林圭山田啓文 「時間分解静電気力顕微鏡による有機半導体グレインへの電荷注入排出過程の可視化」第 62回応用物理学会春季学術講演会13a-D14-3(口頭講演)平塚神奈川 (2015年 3月)

その他シンポジウムセミナー(S1) 木村知玄小林圭山田啓文松重和美「点接触電流イメージング AFMによる有機薄膜トラ

ンジスタの局所電気特性の評価」応用物理学会関西支部主催 2011年度関西薄膜表面セミナー(口頭講演)交野大阪 (2011年 11月)

(S2) 木村知玄 「走査プローブ技術を用いた有機薄膜の局所電気特性評価」第 7回有機デバイス院生研究会 (口頭講演)京都 (2012年 6月)

(S3) Tomoharu Kimura Kei Kobayashi Hirofumi Yamada ldquoLocal Impedance Investigation of

ElectrodendashChannel Interface in Organic Field-Effect Transistors with Modified Electrodesrdquo

Global COE 6th International Symposium on Photonics and Electroncis Science and Engineering

Kyoto Japan (Mar 2013)

(S4) 木村知玄 第 10回八大学工学系連合会「博士学生交流フォーラム」京都 (2013年 11月)

(S5) 木村知玄 「原子間力顕微鏡を用いた有機半導体薄膜の局所インピーダンス計測」第 9回有機デバイス院生研究会 (ポスター)福岡 (2014年 6月)

(S6) 木村知玄 第 11回八大学工学系連合会「博士学生交流フォーラム」札幌 (2014年 10月)

(S7) 木村知玄 「静電気力顕微鏡を用いた有機半導体グレインへの電荷注入排出過程の時間分解測定」第 10回有機デバイス院生研究会 (口頭講演)大阪 (2015年 7月)

受賞(P1) 平成 25年度京都大学大学院「工学研究科馬詰研究奨励賞」

127

謝辞

本研究は京都大学大学院工学研究科電子工学専攻教授山田啓文先生のご指導のもとで行ないました先生の深く幅広い分野における造詣に感銘を受けそこに博士のあるべき姿を重ねました常日頃より様々な学問的知識やノウハウをご教授いただいたことで研究を修めることが出来ましたここに深く感謝いたします本研究科電子工学専攻教授北野正雄先生には博士前後期連携コースの副指導教員として長きに渡りご指導を賜りましたご多忙の中でも親身になって議論していただきまた馬詰彰奨学寄附金での海外研修の際も迷いがちな私の背中を押していただきましたここに深く感謝いたします本研究科材料工学専攻教授杉村博之先生には同じく副指導教員としてご指導を賜りました他分野にも関わらず興味深く研究の相談に乗っていただき分野の垣根を超えたコラボレーションの可能性を感じさせてくださりましたここに深く感謝いたします京都大学名誉教授の松重和美先生 (現四国大学学長)には有機分子エレクトロニクスの面白さと夢のある将来展望についての熱意あふれるご講義を賜り私が博士課程へ進むきっかけを与えてくださりましたまた科学技術が学術的な面白さだけでなくモノづくりへ如何につなげるかが重要であるとの視点を与えてくださりましたここに深く感謝いたします元分子工学専攻の田中一義先生 (現福井センターシニアリサーチフェロー)には連携コースの副指導としてご指導を賜りました化学の視点に立って材料やプロセスの面で多大なご助言をいただき電気電子の分野のみでは備わらないノウハウや化学における常識を教わることができましたここに深く感謝いたします京都大学白眉センター特定准教授 小林圭先生には普段の研究で感じる様々な問題のみならず研究生活における素朴な疑問にも親身になって対処していただきました特に迷いがちな私の研究の指向に明確で分かりやすい道筋をつけてくださり研究におけるマイルストーンを示していただきましたここに深く感謝いたしいます慶應義塾大学理工学部准教授野田啓先生には在学中に有機材料や有機半導体に関する知識をお教えいただきまた研究や研究環境へ真摯に向き合うことの大切さをお教えいただきましたここに深く感謝いたしますナノテクノロジーハブ拠点の大村英治氏にはナノギャップ電極作製工程の EB描画において多大なご助力をいただきましたここに深く感謝いたします元研究室所属の鈴木一博氏服部真史氏 (現東京工業大学博士研究員)細川義浩氏井戸慎一郎氏広瀬政晴氏には博士課程の先輩として装置や研究内容だけでなく博士研究そのものについてどのようなスタンスや心持ちで臨むべきかについて様々なことをお教えいただきました特に広瀬政晴氏には同じ有機半導体を対象とした研究の先輩として研究の始まりの際に一から手ほど

128 謝辞

きをしていただき最も近い博士課程の先輩として博士課程を進める上でのノウハウをお教えいただきそして規則正しく堅実な研究生活を営む理想となる研究者の先輩としてその背中から多くのことを学ばせていただきましたここに深く感謝いたします博士研究員の木村邦子氏梅田健一氏八尾惇氏には研究者の先輩としてたくさんのことを学ばせていただきましたその真摯な研究姿勢からは常に深く探求することの重要性を知りまたその研究への熱意からは自身の研究への信念と確固たる我の必要性を学びました時には私の考えの甘さを叱責してくださり時には他愛ない会話で研究生活に一息つけるひとときをくださりましたここに深く感謝いたします本研究室の現役メンバーである博士課程学生の山岸裕史氏崔子鵬氏木南裕陽氏修士課程学生の黄雲飛氏黄子玲氏清水太一氏長谷川俊氏宮本眞之氏山下貴裕氏学部学生の野坂俊太氏濱田貴裕氏福塚清嵩氏そして旧松重研究室旧電子材料物性研究室に在籍された先輩後輩諸氏との研究のみならず日常においても親しげな関わりあいや対話があったからこそともすれば単調となりがちな研究生活を有意義に送ることができました特に山岸裕史氏とは学部学生での配属時より六年間の長きに渡り苦楽を共にし互いの支えあいあってこその博士課程であったと感じております同じ有機半導体を対象としていることから時には研究内容における相談や議論にも親身に付き合ってもらえ別の視点からの意見によって自分の思い込みを見つめなおすきっかけを与えてくれましたここに深く感謝いたします教務補佐員の林田知子氏には研究室の運営と研究環境の維持にご尽力いただき書類などの事務作業で妨げられることなく研究を進めることができましたここに深く感謝いたします博士課程中の海外研修にあたり京都大学大学院工学研究科馬詰彰奨学寄附金の支援を賜り海外の大学での 6週間に渡る研究生活という滅多にない経験を得ることができ日本とは異なる研究への姿勢指向と考え方を育むことができましたここに深く感謝いたします研究の遂行にあたり安定した研究生活基盤を提供いただいた工学研究科ならびに卓越した大学院拠点形成支援プログラムに深く感謝いたします最後に私の研究生活を支えてくれた家族友人たちに深く感謝いたします

129

参考文献

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索引

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AFM 10AM-AFM 16

DNTT (dinaphto-thieno-thiophene) 65Dynamic-mode 15

EFM信号 84

FM-SIM (Frequency-modulation scanning impedancemicroscopy) 48

FM-SIM信号 50

γプロット 57

HOMO (Highest occupied molecular orbital) 4 64 65

Jump-to-contact 15

KFM (Kelvin-probe force microscopy) 21

LIA (Lock-in amplifier) 50Line-by-line 14

PCI-AFM 19PFBT (pentafluoro-benzene-thiol) 65Point-by-point 14

Q値制御法 24

SAM (Self-assembled monolayer) 3 19 65SIM (Scanning impedance microscopy) 47Static-mode 14Sweep-SIM 96

TLM (Transition line method) 4 43TR-EFM (Time-resolved EFM) 78TR-SIM 95

Zスキャナ 10

アドミタンスグリッド 115

カンチレバー 11

グレイン境界 3 29 119

正規化 FM-SIM信号 56正規化アドミタンス 62 98

ヒストグラムプロット 117

ペンタセン 29

  • 序論
    • 研究背景
      • 有機分子エレクトロニクス
      • 有機トランジスタの進展
      • 金属有機界面物性
      • 有機材料物性評価と走査プローブ顕微鏡技術
        • 研究目的
        • 本論文の構成
          • 原子間力顕微鏡の基礎
            • 走査型プローブ顕微鏡
            • 原子間力顕微鏡(AFM)
            • AFMの走査方式
            • AFMの動作モード
              • Static-mode (コンタクトモード)
              • Dynamic-mode
              • 振幅変調方式AFM (AM-AFM)
              • 周波数変調方式AFM (FM-AFM)
                • AFMの電流検出応用
                  • 導電性AFM (c-AFM)
                  • 点接触電流イメージングAFM (PCI-AFM)
                    • AFMの静電気力検出応用
                      • 静電気力顕微鏡(EFM)
                      • ケルビンプローブ原子間力顕微鏡(KFM)
                        • 本章のまとめ
                          • AFM電流測定法を用いた有機グレインの局所電気特性評価
                            • OFET評価に適した電流測定法の検討
                              • PCI-AFMの真空動作化(Q値制御法)
                              • 接触状態の検証
                                • マルチグレイン有機薄膜の複数雰囲気中測定
                                  • 測定試料
                                  • 装置構成
                                  • 大気中PCI-AFM評価
                                  • 真空中PCI-AFM評価および雰囲気比較
                                    • 単一微小グレインOFETの特性評価
                                      • Point-by-point動作時間間隔の自由化
                                      • ペンタセン微結晶上のPCI-AFMライン測定
                                      • 抵抗の距離依存性の理論数値的検討
                                      • 電極近傍の電気伝導特性
                                        • AFMによる接触電流測定の問題点
                                        • 本章のまとめ
                                          • 新規局所インピーダンス評価法の開発と金属―有機界面物性の評価
                                            • 走査インピーダンス顕微鏡(SIM)
                                            • 周波数変調走査インピーダンス顕微鏡(FM-SIM)の開発
                                              • FM-SIMの原理
                                              • OFETにおけるFM-SIM応答の妥当性
                                              • 局所インピーダンスの解析
                                                • ペンタセングレイン上の局所インピーダンス評価
                                                  • 単一グレイン上の周波数依存評価
                                                  • 電極グレイン界面インピーダンスの一般性
                                                  • キャリア蓄積による電極グレイン界面物性変化
                                                    • 電極表面処理によるOFET特性への直接影響評価
                                                      • 電極表面処理および試料作製
                                                      • 電気特性評価
                                                      • FM-SIMによる電極DNTT界面局所電気特性評価
                                                        • 本章のまとめ
                                                          • 時間分解測定による有機グレイン中のキャリアダイナミクス評価
                                                            • 時間分解EFM (TR-EFM)
                                                              • TR-EFMの動作
                                                              • 妥当性検証
                                                                • 有機グレインのキャリアダイナミクス評価
                                                                  • 単一グレインの時間分解パルス電圧応答
                                                                  • 比例係数補正と電圧依存界面電気特性
                                                                    • 単一グレインのチャネル形成評価
                                                                      • TR-EFMFM-SIM同時測定法
                                                                      • グレイン依存性とTR-EFMSIM対応関係
                                                                      • バイアス分光による導通領域変調評価
                                                                        • 本章のまとめ
                                                                          • 結論
                                                                            • 総括
                                                                            • 今後の展望
                                                                              • 静電気力顕微鏡の検出モード比較
                                                                              • FM-SIMの正規化アドミタンス評価の補足
                                                                              • 有機半導体グレイン境界のインピーダンス評価
                                                                              • 研究業績
                                                                              • 謝辞
                                                                              • 参考文献
                                                                              • 索引
Page 6: Title 原子間力顕微鏡を用いた有機半導体グレイン/電極界面 ...2.6.1 静電気力顕微鏡(EFM) .....20 2.6.2 ケルビンプローブ原子間力顕微鏡(KFM)

iii

第 6章 結論 107

61 総括 107

62 今後の展望 108

付録 A 静電気力顕微鏡の検出モード比較 111

付録 B FM-SIMの正規化アドミタンス評価の補足 115

付録 C 有機半導体グレイン境界のインピーダンス評価 119

研究業績 123

謝辞 127

参考文献 129

索引 136

1

第 1章

序論

11 研究背景111 有機分子エレクトロニクス現在われわれはたくさんの電子情報機器に囲まれて生活をしているテレビやスマートフォンのような直接的能動的に使用するものだけでなく物販医療交通といった生活のあらゆる場面で電子情報機器はわれわれの営みの中核をなしているこうした電子機器はわれわれに便利な暮らしをもたらすと同時にそれなしでは生活が非常に困難な社会となってきたこのような社会変化をもたらした数十年間のエレクトロニクスの進歩の大部分はSiを材料として用いた無機半導体デバイスの進歩によるものである1965年に提示された集積回路上のトランジスタ数が 18ヶ月ごとに倍になる ldquoMoorersquos lawrdquo [1]を指標として半導体の高集積化と微細化が進み現在ではプロセスルールが 14 nm のプロセッサが市販化されているまでに至った [2]一方でトランジスタ数や微細化以外の軸での「高機能化」も取り組まれている2007 年 12 月に行われた ITRS Public

Conference 2007 (セミコンジャパン 2008内)では新技術も含めたこれまでのスケーリング則を踏襲する ldquoMore Moorerdquoに加えてデバイスの多機能化による価値向上を目指す ldquoMore than Moorerdquo

という新たな軸が明示された [3]More than Moore の軸ではアナログ信号との融和センサの集積バイオといった技術が見据えられておりldquoInteracting with people and environmentrdquoと述べられていることからも人や周囲との繋がりをより重視していくと考えられる [4]ldquoモノのインターネット (Internet of Things IoT)rdquoが進められるようにUbiquitousな電子化情報化に向けたデバイス開発が望まれる中でMore than Mooreに向けた新規エレクトロニクス分野の一つとして有機分子エレクトロニクスが期待されている有機分子エレクトロニクスは有機分子を電気的光学的機能材料として用いた電子デバイスの創成を目指す研究分野である有機材料のもつプラスチックのような軽量性可撓性を活かし形の任意性や意匠性あるデバイス軽量基板を用いた設置コストの小さなデバイス [5]ヒトに直接装着できるウェアラブルデバイスへの展開が期待されている [6]また生体分子や DNAとの親和性からバイオセンサといったバイオエレクトロニクスとの共通項や有機分子の自己組織性を利用した新規プロセスやデバイスも考えられているこのように電気だけでなく化学生物等との分野融合的な取り組みにより有機エレクトロニクスは応用物理学会の該当分野における学会発表件数でも 2014年秋季で 500件を超えるまでに成長した一大分野となっている [7]

2 第 1章 序論

VD

VG

DrainOrganic semiconductor

Source

GateInsulator

図 11 有機電界効果トランジスタ (OFET)の模式図p型有機半導体 (organic semiconductor)を用いた場合VG lt 0 Vのゲートバイアス印加でソースndashドレイン間電流が増加する p型 OFETとなる

有機エレクトロニクスの研究は1977 年の Shirakawa らによる導電性高分子の作製に端を発する [8]当時高分子は絶縁体とみなされていたがポリアセチレンにハロゲンをドープすることで元の導電率から 8 桁以上改善させ導電体と知られる電荷移動金属錯体 (TTF)(TCNQ) の導電率10Ωminus1cmminus1 を上回る導電率を持つポリマー膜を作製した以降の研究で現在のエレクトロニクスで活躍するデバイスのアナロジーである有機電界効果トランジスタ (Organic field-effect transistor

OFET)有機発光ダイオード (Organic light-emitting diode OLED)有機太陽電池 (Organic photo

voltaic cell OPVC)が開発され現在の有機エレクトロニクス研究の中核を成している特に OLED

に関しては有機材料自身が発光することで液晶ディスプレイに比べてコントラスト比が向上するというメリットもあり有機 ELディスプレイとして 2007年には小型テレビが [9]現在ではスマートフォンやフル HDテレビが市販されるに至っている [10]

112 有機トランジスタの進展OFETは図 11のようにドレインソースゲートの 3電極と絶縁膜を隔てたゲート電極の向かいである有機半導体層から構成されており有機エレクトロニクスにおけるスイッチング電流制御を行う能動素子として位置づけれられる無機半導体の基本素子である MOSFET (Metal-oxide-

semiconductor FET)と異なり半導体層の多数キャリアの注入による蓄積層がチャネルとなるアモルファスシリコン (a-Si)で広く用いられる薄膜トランジスタ (Thin film transistor TFT)との動作原理および構造のアナロジーから有機薄膜トランジスタ (Organic TFT OTFT)とも呼ばれる

1986年に高分子を用いた OFETが最初1に報告され [11]低分子材料では 1989年にフランス国立研究所の Horowitzらによりその動作が報告された [12]これら報告ではそれぞれチオフェンと呼ばれる分子の高分子オリゴマーを用いているこれらポリオリゴチオフェンは単結合二重結合が交互に連なる分子であり先に述べたポリアセチレンも含めて π共役系分子 (ポリマー)と呼ばれる以降π共役系分子を中心に OFET研究は進展していくこととなる

OFET に関する研究で最初に注力されていた点は (電界効果) 移動度の向上であるこれは例えばディスプレイの画素の駆動に必要な OFET の面積の削減やデバイス駆動の定電圧化デバイス駆動熱の低減という観点から実用的なデバイスに向けて必要となる1989 年の報告で1 times 10minus3 cm2(Vs) であった移動度は表面処理や真空蒸着におけるプロセス条件の改善により

1 出力特性に飽和特性が現れるものとしては最初

11 研究背景 3

1997年にペンタセンを用いた OFETで a-Si TFTの目安である 1 cm2(Vs)を超える移動度を達成している [13]さらに絶縁膜の影響を考慮することや単結晶の作製により2004年には 20 cm2(Vs)

を [14]2007年には 40 cm2(Vs)を達成している [15]しかしこれら高移動度の OFETの報告は実用化には不向きな昇華生成により作製した単結晶を用いていること後述の接触抵抗の影響を排除した材料本来の移動度を抽出したことによる結果のため実用的な作製法での実効的移動度向上を目指した研究が続けられているこういった OFET の性能向上に伴い別の観点からの研究も増加してきた一つは有機エレクトロニクスの特長といえる塗布型デバイスの作製に関する研究である塗布型の始まりは高分子半導体であるが01 cm2(Vs)程度という低移動度が問題であった [16]高移動度化のために研究された可溶性の低分子有機半導体材料の中で有名なものとしてアニールなどの追加の加熱プロセスが不要な TIPS (Triisopropyl-silylethynyl)ペンタセンがある [17 18]さらに近年の研究で移動度10 cm2(Vs) を超える高結晶性な塗布型 OFET も報告されており現在盛んに研究されている内容の一つである [19]一方OFETを回路の一部として組み込む例も現れてきたエレクトロニクスの基本単位である CMOS (Complementary MOS-FET)回路を模倣しpn両方の OFETを用いたインバータ動作 [20] やインバータを直列に接続したリングオシレータによる発振動作の実証がある [2122]また可撓性のある OFETアレイを用いてメモリやセンサといったデバイス応用を見据えた研究が着実に進められている [6 23 24]

113 金属ndash有機界面物性これまでの研究で OFETの進展が見られる一方それに伴いいくつかの問題点が実用化を阻んでいる一点目として高結晶性高移動度材料の開発が進むことで有機薄膜内部の抵抗は低減するが相対的に接触抵抗の影響が顕著に現れるようになる [19]これはOFETの集積化に必要な微細化によっても顕著になる問題である二点目として素子のばらつきの問題がある特に高移動度や高結晶性材料を用いた OFETでは接触抵抗のばらつきが移動度のばらつきとして顕著に現れるバンク構造やディスペンサによるプロセスの画一化によるばらつき低減に関する研究も行われているものの依然解決には至っていない [25]このような接触抵抗つまり金属ndash有機界面における電気特性が現在 OFETのデバイス性能向上や制御の障害となっている以下ではこれまで研究された金属ndash有機界面物性やその評価法について述べる金属ndash有機界面における問題はモルフォロジーによる影響と電子物性による影響に大きく二分される一般的な製膜方法である真空蒸着法で作製した有機薄膜は通常マルチグレイン (マルチドメイン)薄膜2と呼ばれ微小な島状の有機薄膜である「グレイン」が多数接続したモルフォロジーを成すグレインサイズは蒸着条件 [26 27]酸化絶縁膜表面のオゾン処理 [28]絶縁膜材料や表面の自己組織化単分子膜 (Self-assembled monolayer SAM) 処理 [29 30] によって変化するが一般にサブ micromから数 micromの範囲にあるこのグレイン境界はチャネル長が数 10 micromから数 100 microm

程度であることを鑑みるとチャネル中を電流が流れる際に多数のグレイン境界を通過することに

2 有機薄膜においては ldquoグレインrdquoと ldquoドメインrdquoおよびその境界の言葉の定義が曖昧であり人により用法が異なる有機薄膜中の島状の区画は一般にグレインと呼ばれるが単分子層であっても単結晶ではなく結晶方位が異なる場合がありそのときのそれぞれの区画をドメインと呼ぶことがある本論文では少なくとも表面形状像から推測される溝で区切られた区画をグレインと呼びその境界をグレイン境界とする

4 第 1章 序論

なるグレイン境界は多結晶質の無機半導体とのアナロジーからキャリア輸送の阻害要因として考えられることが多いそのため一般にグレインサイズが大きいほどつまりチャネル中にグレイン境界が少ないほど移動度が向上するといわれその観点に基づく移動度モデルが提唱されてきた [26 27 31 32]ここで電極上や電極付近ではチャネル上と異なるモルフォロジーを呈することが知られており電極付近では小さなグレインを形成することにより低移動度となり等価的に接触抵抗が増加することが金属ndash有機界面における一点目の問題である一方有機半導体と金属のエネルギー準位の関係という電子物性の影響も長らく議論されてきた無機半導体においては金属ndash半導体界面は両者のフェルミ準位が一致するように真空準位に差が生じる Schottky則が基本となるが有機半導体はその限りではない例えば p型 (ホール伝導型)の場合有機半導体の最高被占分子軌道 (Highest occupied molecular orbital HOMO)準位 [33]を無機半導体の価電子帯と対応させ金属のフェルミ準位と有機半導体の HOMO準位が非整合なときにキャリア輸送阻害となるという一般的な理解を元に議論されるこのように両者の真空準位を一致させる方法を ldquoSchottkyndashMott 則rdquo といいTang と Slyke による正孔注入層を挿入した実用的な OLED

が報告されて以降 [34]有機エレクトロニクス全般で SchottkyndashMott則に基づく界面エンジニアリングが行われてきたこういった金属ndash有機界面の電子準位の評価には光電子分光法やその派生手法が用いられこれまで様々な金属電極と有機薄膜の組み合わせや [35ndash37]間に別の材料を挟むヘテロ接合での電子準位 [38]が評価されてきたこれら研究により金属ndash有機界面は SchottkyndashMott

則のような単純な関係ではなく金属ndash有機間の電荷の授受有機分子のダイポールやピロー効果によって生じる真空準位シフトにより有機側のエネルギー準位にずれが生じることが明らかとなった特に有機側の界面準位などにより電極の仕事関数に関わらずフェルミ準位ndashHOMO準位差が一定となるように真空準位シフトが起こる場合を ldquoFermi-level pinning (フェルミ準位のピン留め効果)rdquo といい [39]SchottkyndashMott 則に基づく界面エンジニアリングは効果をなさないこのように金属ndash有機界面の電子物性は複雑さを極めており金属ndash有機界面における二点目の問題となる以上のような金属ndash有機界面物性のため接触抵抗は電極材料 [40ndash42] や電極表面処理 [43ndash45]デバイス構造 [46 47] によっても異なることが知られており接触抵抗の変化により実効的な移動度つまり特性変化が引き起こされるさらに接触抵抗が単なる抵抗ではなくゲートバイアス依存 [41 48]や低バイアス領域や短チャネル系では非線形性 [49ndash51]が現れることが確認されており接触抵抗が単純な抵抗としてはモデル化できないことを示唆している以上のようにデバイス特性と上述の金属ndash有機界面物性がどのように関わるかについては現在も議論が続いている金属ndash有機界面の電気特性の評価にはOFETに限らず様々な構造において様々な手法がなされてきた (表 11)接触抵抗とチャネル特性を分離する基本的な手法として四端子法および Transfer line

methodまたは Transition line method (TLM)が知られている [52]四端子法は電流を流す 2端子に加え電圧測定用の 2端子を用いることで微小抵抗材料の導電率測定を行う手法であるがOFETではゲート電圧依存のソースドレイン界面の接触抵抗の測定に用いられる [415354]しかしチャネル上の電位勾配が均一でない場合は正しい値とならないTLMはチャネル長の異なる複数のデバイスを用いて総抵抗の変化から接触抵抗とチャネル領域の移動度を分離する手法であり [46 48 55]フィッティング点数が多い面で四端子法よりもばらつきの影響は抑えられるしかしソースドレイン界面の接触抵抗を分離できないことに加え短チャネルでは TLMで求まる接触抵抗が実際よりも大きく見積もられるという問題がある [56]

11 研究背景 5

表 11 OFETや有機薄膜の電気特性測定に用いられるマクロ薄膜での手法と対応する走査プローブ技術

評価対象 マクロ手法 走査プローブ技術

総抵抗 電流ndash電圧 (IndashV)測定導電性 AFM (c-AFM)

デュアルプローブ AFM (DP-AFM)

局所抵抗の分離評価4端子測定 ケルビンプローブ原子間力顕微鏡 (KFM)

Transition line method (TLM) mdash

インピーダンス インピーダンス分光 (IS) mdash

キャリア注入容量ndash電圧 (CndashV)測定 mdash

変位電流測定 (DCM) mdash

キャリア注入輸送特性という観点では容量ndash電圧 (CndashV) 測定や変位電流測定 (Displacement

current measurement DCM)インピーダンス分光といった交流特性を利用した評価が有用であるCndashV 測定は金属ndash絶縁膜ndash半導体 (Metal-insulator-semiconductor MIS)接合の試料においてゲートバイアスを掃引しながら容量を測定し注入が始まる電位が評価できると共に周波数による特性変化から金属ndash有機界面の接触抵抗に関しても議論が可能な手法である [57]一方DCMは CndashV 測定と同じMIS構造で三角波のバイアス電圧を印加することで変位電流の大きさから有機半導体へのキャリア注入状態の変化を評価可能である [58]これら 2手法はMIS構造に基づく評価手法であるがOFETに適用することで注入電圧 [59 60]や接触インピーダンス [61]やチャネル上のトラップ [62]について評価した例もある最後にインピーダンス分光は交流バイアスに対する複素電流応答の周波数依存性を測定することで積層デバイスの回路インピーダンスの同定 [63]や OLEDの接触インピーダンス評価に利用できる [64]金属ndash有機界面物性は様々な側面を孕んでいるが以上で述べた評価法は基本的に大面積な電極および有機薄膜を使用した評価である一方有機薄膜が基本的にマルチグレイン薄膜であることを鑑みると電極近傍のモルフォロジー変化やグレイン境界の影響を含んでしまう恐れがあり真の金属ndash有機界面物性評価が可能とは言いがたいよって今後 OFETの進展に向けて電子物性とモルフォロジーの影響を弁別して評価するためにldquo特定のrdquoグレインに注目した評価手法が必要となる

114 有機材料物性評価と走査プローブ顕微鏡技術原子間力顕微鏡 (Atomic force microscopy AFM)はカンチレバーと呼ばれる先鋭な微小探針を有すプローブを用いて表面形状を測定する手法でありナノスケール領域での表面分析手法の一つとして広く用いられている [65]AFMの特徴として絶縁膜や低導電性材料においても評価可能であるという走査電子顕微鏡や走査トンネル顕微鏡 (Scanning tunneling microscopy STM) に対する優位性導電性プローブを用いることで電気的刺激応答評価が可能となることによる多彩な応用可能性の 2点があげられる特に後者に関しては有機半導体に対するナノスケールの ldquoテスタrdquoとして用いることができることから多くの研究がなされてきたこれらの研究はスケールの観点から有機薄膜やデバイスにおける評価とグレインスケールや単分子膜における評価に大きく二分できる有機薄膜やデバイスにおいてはケルビンプローブ原子間力顕微鏡 (Kelvin-probe force microscopy

KFM)を用いた表面電位評価が有効であるOFETにバイアスを印加させ動作している状態での

6 第 1章 序論

チャネル上の電位分布電位勾配を測定できマクロ薄膜での評価手法である 4端子測定をナノスケールチャネル全域評価へ拡張したものとみなせるKFMを用いることで 4端子測定ではアクセス不可能な OFETの電極ndash有機界面の最近傍にアクセスできる上に [40]チャネル中のグレイン境界における電圧勾配も可視化可能である [47 66]近年ではOFETの有機薄膜ndashゲート電極方向の断面における電位像取得も達成されており [67]OFETの局所制限要因を評価する有用な手法であるといえる一方でKFMによる OFETの電位評価では定性的なグレイン境界の影響は見えるが一般にチャネル中のグレイン数が多いため定量的な評価は困難である対してグレインスケールでは導電性 AFM (conductive-AFM c-AFM)を用いた電流測定が報告されている1999年に KelleyFrisbieによって Au電極に接続した絶縁膜上の無置換オリゴチオフェン 6量体 (α-6T)グレインに AFMの導電性探針を接触させ単一グレインの IndashV 特性の測定に成功している [68]またゲートバイアスを印加した局所 OFET構造での測定やグレイン境界を跨ぐ測定も行われている [69 70]一方近年では電極に接続していない任意のグレインの電気特性評価ができる複数探針を有す AFMシステムの開発が盛んに行われてきた音叉型カンチレバーを用いることで 4本の探針を備えた AFMシステムではグラフェンの導電性の 4端子測定を達成している [71]また従来のカンチレバーを用いることで音叉型では困難な接触力制御を可能にした二探針 AFMシステムも報告されており [72 73]単一グレイン内 [74]や単一グレイン境界 [75]における電気特性測定が行われてきたここで大面積 (マクロ)な有機薄膜における電気特性の評価手法と走査プローブ技術とを比較すると表 11のようにまとめられるc-AFMや DP-AFMによっても電極間距離や位置と電気特性の関係についてもある程度議論ができるが位置精度や各測定の同一条件性の点で不十分といえマクロ測定の TLMに対応するより体系的なプローブ評価手法が必要と考えられるまた4端子測定と対応する KFMにより接触抵抗の評価が可能となるが界面の電子物性との関係に言及するには不十分であるインピーダンス分光や CndashV 測定のような交流電圧や経時応答を用いることでより深い物性の議論が可能になることが期待される

12 研究目的以上で述べたようにOFETの局所電気特性についてこれまでも様々な AFMの応用手法による評価が行われてきたが単一グレインスケールでの金属ndash有機界面物性評価には至っていないよって本研究では「真の金属ndash有機界面物性評価」を目指した AFMによる電極ndash単一グレイン界面電気特性測定手法の構築を研究目的として掲げるそのためにはデバイスレベルでは有用なマクロ薄膜での各種電気特性測定手法を活用し未だ試みられていない AFMとマクロ電気特性手法との組み合わせを通した新規手法についても模索するまた従来手法で問題となりうる電極付近のその他評価可能な局所電気特性についても理解を深めることとする

13 本論文の構成本論文は以下に示す 6章で構成されておりそれぞれの章には図 12で示す繋がりがある

第 1章 序章

13 本論文の構成 7

第 2章 原子間力顕微鏡の基礎本研究の主体となる AFMとこれまで用いられてきた応用手法技術に関して述べると共に従来手法を OFETの局所電気特性評価に用いる上での問題点や未だ試みられていない領域について言及する

第 3章 AFM電流測定法を用いた有機グレインの局所電気特性評価OFET測定に特化した AFMの電流測定応用手法の開発改善を行った結果を述べるまたその手法を用いて有機半導体であるペンタセングレイン上で測定することでグレイン境界や微小グレインといった局所電気特性の抽出を行う

第 4章 新規局所インピーダンス評価法の開発と金属ndash有機界面物性の評価新たに提案する OFET の局所インピーダンス評価のための AFM 応用手法について述べる電極ndash単一ペンタセングレイン界面の評価を通した新規手法の妥当性や物性について議論するまた応用として OFETの電極表面処理の有無による影響を電気特性モルフォロジーおよび本手法を用いた局所インピーダンスの観点から評価する

第 5章 時間分解測定による有機グレイン中のキャリアダイナミクス評価従来の AFM 電位評価法を時間分解測定に応用し単一有機半導体グレインにおけるキャリアの注入排出過程における電気特性評価を行う注入時蓄積時での電極ndash単一グレイン界面電気特性比較を行うとともに様々なキャリア蓄積状態での測定を通してチャネル形成過程を明らかにする

第 6章 結論本論文の総括および本論文を踏まえた今後の展開について述べる

8 第 1章 序論

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図 12 本論文の構成図

9

第 2章

原子間力顕微鏡の基礎

本章では本研究で用いた主たる測定手法である原子間力顕微鏡に関してその概要と基礎的な動作機構およびこれまでに開発されてきた応用手法について述べる

21 走査型プローブ顕微鏡走査型プローブ顕微鏡 (Scanning probe microscopy SPM) とはプローブ (Probe) と呼ばれる先端が鋭く尖った探針 (Tip)を試料表面近傍で走査することで試料表面の凹凸を数 micromから数 nmの分解能で測定する評価手法の総称であるまた基本となる SPMを応用して開発された表面形状以外の様々な電気的光学的機械的物性を測定する手法も広義には SPM と称す試料表面を走査せずに一点 (もしくは多点)で電圧や周波数といった他のパラメータを掃引して測定する場合もSPMと呼ぶかもしくは末尾を他の周波数分解測定に倣って「分光」(Spectroscopy)と付ける場合がある

SPM技術の発端は1982年に IBM Zurich研究所の Binnig Rohrerらによって発明された走査型トンネル顕微鏡 (Scanning tunneling microscopy STM)である [76]STMでは探針を試料表面から数 nmの高さまで近づけた際に探針ndash試料間に流れるトンネル電流を検出し試料の表面形状を取得する一方探針を試料表面近傍に近づけた際の探針ndash試料間に働く相互作用力を用いて表面形状を取得する手法を原子間力顕微鏡 (Atomic force microscopy AFM)と呼ぶSPM技術の中で表面形状を取得する手法はこの STMと AFMに大きく二分される

表面形状取得の概要 SPM技術における共通項として探針が試料表面を走査し探針ndash試料間距離を制御することが挙げられ探針走査機構 (スキャナ scanner)および探針ndash試料間距離制御機構が共通の構成要素となる図 21に一般的な SPMの概要図を示す1試料表面の走査および探針ndash

試料間距離を変えるための X Y Zの 3軸に動く微小移動機構を有し一般的に圧電体 (ピエゾ素子)

が用いられる図 21(a) のようにスキャナが探針に接続しているものをプローブスキャナと呼び図 21(b)のように試料台直下に位置するものをサンプルスキャナと呼ぶサンプルスキャナとして円筒状の圧電体を用いることからチューブスキャナとも呼ばれ試料に平行な 2軸および円筒上下方向それぞれに高電圧を印加することで X Y Zの 3軸方向に nmオーダの分解能で微小移動させる

1 以下試料表面を XY平面試料高さ方向を Z方向と呼ぶ

10 第 2章 原子間力顕微鏡の基礎

X

Scanner

Reference

Topography

Sample

Tip

Z

Y

+minus

Feedbackcontroller

Controlledvariable

(a) (b)

Z

YX X

Scanner

図 21 SPM における表面形状取得の概念図と構成要素(a) プローブスキャナを用いた場合の構成図(b)サンプルスキャナ (チューブスキャナ)の動作概念図

ことができるなお本研究では全て試料側を動かすサンプルスキャナにより走査測定を行っており特記がない限りスキャナと呼ぶ場合はサンプルスキャナのことを指すとするまた簡単のため「探針を試料に対して移動させる」ような動作を記述している場合はサンプルスキャナにより試料を逆方向に移動させているものとする次に探針ndash試料間距離は制御量 (STMにおけるトンネル電流AFMにおける探針ndash試料間相互作用力)を検出しフィードバック回路を用いて目標量に一致するように Z軸のスキャナ (Zスキャナ)に出力することで一定に保たれるこのとき試料高さの上下が Zスキャナへの出力値の増減に直接対応するためZスキャナへの出力値から試料の高さを得ることができ探針の走査により試料表面形状を得ることができる

22 原子間力顕微鏡 (AFM)

STM は試料表面構造をナノスケールで実空間観察が可能という画期的な手法であったがトンネル電流を検出しなくてはならないという原理的制約から絶縁体上での測定ができないという限界があったその後STMを発明した Binnigは探針の試料近接時に微小な力が働くことを見出しカンチレバー (Cantilever)と呼ばれる微小な片持ち梁の板ばね構造を持つ探針を用いた AFMを1986年に発表し絶縁体であるセラミック (Al2O3)表面のナノスケール構造観察に成功した [65]このとき開発された AFMは試料近接時に働く力により生ずるカンチレバーの変位を STMにより検出するという方式であり現在用いられている AFMに比べて複雑な機構やカンチレバーに高価な Au泊を用いていたしかし以降の研究で後に紹介する光てこ法を始めとする力検出方法や安価な Si製カンチレバーによりAFMは様々な分野に用いられるほどに広まっていくこととなる

AFMは表面形状のみならず先鋭な探針で試料の局所的な物性を測定できる手法として様々な応用手法が考案されてきたこれら AFMの応用手法として 2つの系統に分けることができる1つは表面形状に由来する力以外の相互作用力を検出し異なる物性を測定するというものこのカテゴリーとしては静電気力磁気力をそれぞれ検出する静電気力顕微鏡 (Electrostatic force microscopy

EFM)磁気力顕微鏡 (Magnetic force microscopy MFM)が有名であるもう一つは AFM中の外部からの刺激を力以外の方法で検出するものこちらは探針ndash試料間に印加した電圧に対して探針に流れる電流もしくは試料上の電極間を流れる電流をそれぞれ検出する導電性 AFM(conductive

22 原子間力顕微鏡 (AFM) 11

AFM c-AFM)や走査ゲート顕微鏡 (Scanning gate microscopy SGM)が当てはまる本研究で用いるいくつかの応用手法に関する詳細は後述する

AFMではSPMに共通する構成要素に加え探針ndash試料間に働く相互作用力を検出する力センサ系が重要となる以下では AFMにおける力検出に関わる原理技術について説明する

探針ndash試料間相互作用力 探針を試料表面近傍に近づけると探針や試料の材料や状態により様々な相互作用力が生じる原子間原子分子間などに働く van der Waals力 (vdW力)パウリの排他律に従い電子雲の重なりにより生じる斥力 (パウリ斥力)表面のダングリングボンドで生じる化学結合力接触電位差や電荷電気的ダイポールにより生じる静電気力などがあり基本的に AFMの名前の由来である原子間力はこれらの総称または総合したものと考えることができる本研究では静電気力は別に考慮し化学結合力を除いた vdW力およびパウリ斥力を探針ndash試料間に作用する原子間力と考える中性二原子間に働く相互作用を記述するポテンシャルとしてレナードジョーンズポテンシャルが知られておりその代表例として式 (21)で表される (612)-ポテンシャルがよく知られている

ULJ = 4ε[(σ

z

)12minus(σ

z

)6] (21)

但し二原子間距離を zポテンシャルの極小値を εポテンシャルが 0を通る距離を σとおいた(612)-ポテンシャルのうちzminus6 の項が vdW力に対応する引力を記述し中性二原子が互いに双極子モーメントを誘起し発生した相互作用エネルギーからminus6 乗の依存性を導出できる [77]次に探針ndash試料間に作用する力を考える際探針試料それぞれに有す多数の原子間の寄与を総合しなくてはならない探針を先端曲率半径 Rの放物曲面試料を 2次元平面と考えそれぞれの原子数密度 nとして系全体のポテンシャル Uts を式 (21)を用いて求めると探針ndash試料間に働く力Fts =

dUtsdz は

Fts(z) =23π2Rεn2σ4

[ 130

(σz

)8minus(σ

z

)2](22)

と記述される [78]Fts の値は正が斥力に負が引力に対応する典型値として R = 20 nm ε =

001 eV σ = 025 nm n = 50 times 1028 mminus3 としたこの曲線の概形を図 22に示す図 22から分かるように多数の原子が関わっているのにも関わらず探針ndash試料間距離が 1 nm以内に近づかないと相互作用力がかからないこのため非常に高い垂直分解能で形状評価が可能となりまた探針の一番先端に存在する 1個の原子と試料との間の力が探針にかかる力に関わるため探針の曲率半径よりも小さな構造を可視化できる

相互作用力の検出 (光てこ法) 微小な相互作用力の検出には22 節で述べたようにカンチレバーを用いるばね定数 k のカンチレバーに対し垂直方向に力 F がかかると変位 ∆z = Fk だけカンチレバーのたわみが生じる例えばばね定数 2 Nmのカンチレバーに対して 2 nNの力がかかる場合変位は 1 nm と非常に微小であり直接観測することは困難であるこのような微小なカンチレバーのたわみに対しこれまでピエゾ抵抗 [79]やチューニングフォーク (音叉型共振センサ) [80]による自己検出法光干渉法 [81]といった様々な検出方法が考案されてきた本研究ではカンチレバーの種類に依存せず装置構成が簡単な光てこ方式 [82]を用いた光てこ方式では図 23 のようにレーザーダイオード (Laser diode LD) からカンチレバーの背面にレーザを照射し反射した光を四分割フォトダイオード (Position sensitive photo diodedetector

12 第 2章 原子間力顕微鏡の基礎

-4

-2

0

2

4

0 02 04 06 08 1

Forc

e [n

N]

Distance [nm]

Attractive region

Repulsive region

図 22 (612)-ポテンシャルに従う探針ndash試料間相互作用力の距離依存性 (式 (22))1 nm以内でnNオーダの力が加わることが分かる力勾配の正負からそれぞれ引力 (attractive)領域斥力(repulsive) 領域に分けられる探針がどの領域の力を感じるかで式 (25) に示す励振特性がどう変わるかが異なる

PSPD) で受光するPSPD は検出部分が 4 つのフォトダイオードで構成されておりそれぞれのフォトダイオードからパワーに比例した電流を出力しプリアンプにより電圧値に変換されるこのとき上部 2 つ (A) と下部 2 つ (B) のフォトダイオードの出力差を vAminusB とおくとPSPD 上のレーザスポットの微小変位 ∆aに対して vAminusB は比例した電圧を出力することが分かる一方カンチレバーの長さを lカンチレバーから PSPDまでの距離を d とおくとカンチレバーのたわみ ∆z

に対しレーザスポット変位 ∆aは∆a =

2dl∆z (23)

と記述できる例としてl = 100 microm の長さのカンチレバーに対し距離 d = 10 mm を設定するとレーザスポットの変位はカンチレバーの変位に対し 100倍となるように手法名のとおり光に対する「てこ」として働く実際の実験においてはカンチレバーの変位量を測定するために ∆zに対する vAminusB の比例係数つまり感度 (Sensitivity単位 mVnm)の校正を行う同様にカンチレバーのねじれに対してもばね定数および変位を定義できPSPDの左側 2つ (C)

と右側 2つ (D)のフォトダイオードの出力差 vCminusD からねじれ変位を検出できるねじれ変位は摩擦力測定やひねり共振 (Torsional resonance)における発振に用いられる

23 AFMの走査方式AFMに限らずSPMでは探針を走査しながら様々な物性値を測定するそのとき探針の走査の方法によりいくつかの方式が存在する本節では走査方式を (a) 力一定モード (Constant force)(b)高さ一定モード (Constant height)(c)高さ変調モード(d) Line-by-line(e) Point-by-pointに大分して説明するそれぞれの走査方法の概略図を図 24に示す

23 AFMの走査方式 13

PSPD

Cantilever

LD

AC D

Bd

∆z l

∆a

図 23 光てこ法によるカンチレバーのたわみ検知の概要図レーザダイオード (LD) より照射したレーザがカンチレバーで反射しフォトダイオード (PSPD)で受光するこのときカンチレバーたわみ ∆zに比例したレーザスポット ∆aの変位が生じる

(a) Constant force

SampleTrack

1st2nd

Scan direction

(b) Constant height (c) Height modulation

(d) Line-by-line (e) Point-by-point

Change of another parameter at each point

図 24 AFM におけるそれぞれの走査方式の動作概略図(a) 力一定モード(b) 高さ一定モード(c)高さ変調モード(d) Line-by-line(e) Point-by-point

力一定モード 力一定モードは最も基本となる AFMの走査方式でありいわゆる「表面形状」取得および表面に沿った物性測定を行うために用いられる図 24(a)のように探針を走査しながら力2が一定になるように Zスキャナを制御する

高さ一定モード 高さ一定モードでは図 24(b)のように走査中 Zスキャナを一定値に固定する3力一定モードと異なりZスキャナのフィードバック制御が行われないためノイズによる不要な上下動やフィードバックの行き過ぎによるカンチレバーの試料への不意な衝突などが抑制されるため非常に繊細な測定が可能となる試料の高さ粗さが小さくかつドリフトの小さい超高真空のような系で主に用いられる高さ一定モードにおいて高さを変えながら複数枚の画像から 3次元 (3D)データを取得する方法も提案されている [83]本研究ではこのモードは使用しない

2 場合により別の物理量STMではトンネル電流を一定に制御するが試料の凹凸以外の情報も含まれるためSTM像は「真の」表面形状とは考えられないことが多い

3 ドリフト補正のためXY位置に対応する補正値を加えている場合もある

14 第 2章 原子間力顕微鏡の基礎

高さ変調モード 高さを変調する方式ではベースとなる AFM の方式や高さの変調方法や接触の利用によりいくつかの方法が存在している高さ一定モードを用いて 3D 分布データ取得する以外にも図 24(c)のように試料上の各点で高さを変化させて物理量を測定することで 3D分布データを取得することも考えられるこれは探針ndash試料間を変化させながら力を測定するForce curve

測定を全ての点で行ったものとも考えることができこのような方法により溶液中 [84]において力の 3D分布を可視化した報告があるまた試料との接触後も探針の高さを変化させることで接触後のたわみや吸着力を測定する

Jumping modeという方式もある [85]さらにこの上下動を数 kHzという早さで行い高速かつ多様な物性を同時に測定できる手法として PeakForce Tapping Rcopy が知られている [86]

Line-by-line AFMの走査は Fast scan方向へ往復走査後Slow scan方向へ 1分割値だけ移動しFast scan方向への往復走査を行うという動作を繰り返すこの際図 24(d)のように Fast scan方向の 1 走査 (1st scan) 終了後高さを変化させて 1st scan で取得した軌跡をたどる (2nd scan) ようにZスキャナを制御する方法を Line-by-lineと呼び特に 2nd scanで 1st scanよりも試料から離れる場合はリフトモードとも呼ばれるライン毎の時分割による複数データ取得とみなすこともできるリフトモードでは距離による力の影響の違いから2nd scanでは静電気力 [47]や磁気力といった通常の力制御時とは異なる力を検出するために用いられている本研究ではこの方式は用いない

Point-by-point Point-by-point法は力一定モードのように単に試料表面を走査するのみならず図24(e) で示すように各点で力一定モードとバイアス印加掃引や力変調といったパラメータ変更を交互に行い表面形状と同時に複数の物理量をマッピング可能であるこのような各点における動作をldquoPoint-by-pointrdquoと呼ぶそのためPoint-by-pointでは走査点毎時分割による複数データ取得といえるLine-by-lineに対し表面形状と他の観測物理量との位置整合性が良いという長所がある動作の詳細は 252節で述べる

24 AFMの動作モード図 25に力検出方式の異なる動作モード同士の関係図を示すカンチレバーの励振の有無によりそれぞれ Dynamic-mode と Static-mode に分けられるさらにDynamic-mode はカンチレバーの励振特性変化の検出方法の違いにより振幅変調 (Amplitude-modulation AM)方式 (AM-AFM)と周波数変調 (Frequency-modulation FM) 方式 (FM-AFM) に分けられる本研究ではそれぞれの方法を測定のフェーズや内容によって使い分けているため以下ではそれぞれの方式について個別に原理動作を説明する

241 Static-mode (コンタクトモード)

Static-modeはカンチレバーを励振させずに測定を行う方式の総称でありその中でも力一定モードで行われる Static-modeを特にコンタクトモード (contact-mode)と呼ぶコンタクトモードではカンチレバーを試料に近接させた際に生じるカンチレバーの変位 ∆zが一定になるように Zスキャナを制御する図 22のように探針にかかる力は探針ndash試料間距離が近づくにつれて若干の引力の後す

24 AFMの動作モード 15

Atomic force microscopy

Static-mode (contact-mode)

Amplitude-modulation (AM tapping)

Frequency-modulation (FM non-contact)

Dynamic-mode

図 25 AFMの動作モードの関係図

ぐに斥力に変化してしまうさらにdFtsdz がカンチレバーのばね定数 kよりも大きくなるとカンチレ

バーの復元力が探針に加わる力に負けてしまい一気に斥力領域に突入してしまう Jump-to-contact

が起こる以上のことからStatic-modeを引力領域で測定するのは非常に難しく通常斥力領域で測定するコンタクトモードは試料に接触させた測定のため試料の力学的な特性が探針の応答に如実に現れるこのことを利用した応用手法として摩擦力顕微鏡 (Friction force microscopy FFM)や直交剪断応力顕微鏡 (Transverse shear microscopy TSM)があるFFMはカンチレバーの軸に対し直交方向にカンチレバーをコンタクトモードで走査することで発生するねじれ量を検出することで摩擦力の違いを可視化する AFMの応用手法であり末端基による結合力の違いを可視化した例がある [87]TSMは通常と同じ軸方向に対しカンチレバーを走査するがその際分子結晶の配向によりねじれの交流信号に違いが現れるためFFMよりも明瞭に分子結晶の配向を可視化できる [88]

242 Dynamic-mode

Dynamic-modeはカンチレバーをピエゾ素子 (PZT)などの外力を用いて振動させながら測定を行う方式の総称でありDynamic-mode AFMを Dynamic force microsopy (DFM)と呼ぶ場合もあるDynamic-modeではカンチレバーの振動特性が重要となるカンチレバーは有効質量 mばね定数 kの調和振動子モデルに近似できるここでカンチレバーを振動させる外力 Fext と探針ndash試料間の相互作用力 Fint がカンチレバーにかかっている場合カンチレバーのつりあいの位置からの変位 zに対して運動方程式

mz + γz + kz = Fext + Fint (24)

が成り立つただしγ はカンチレバーの変位速度に比例する減衰定数を表し相互作用力はFint gt 0を斥力とする相互作用力がないとき (Fint = 0)カンチレバーに角周波数 ω振幅 Aの外力 Fext = Aext cosωt を加えると定常解 z(t) = A cos(ωt + φ) の振幅 A と位相 φ は以下のように求まる

A =Aextradic

(mω2 minus k)2 + γ2ω2(25)

φ = tanminus1( γ

mω2 minus k

)(26)

16 第 2章 原子間力顕微鏡の基礎

FintFext

m

z

0

kModelling

図 26 カンチレバーの調和振動子モデル

A φの外力の角周波数依存性を図 27の (1)に示すγ radic

kmが成り立つとき

f0 equivω0

2πequiv 1

radickm

(27)

で与えられる f0(ω0)を (自由振動時の)共振 (角)周波数と呼びこの周波数で振幅 Aは最大値を取る4また振幅が最大値の 1

radic2 倍となる角周波数 ωplusmn(ω+ gt ωminus) を用いてカンチレバーの Q

値 QがQ equiv ω0

ω+ minus ωminus=

mω0

γ(28)

のように定義できる図 27に示すような共振周波数 f0 および Qで特性付けられる振動特性のことを Qカーブと呼ぶ次に力勾配 kint = minus partFint

partz を用い微小な相互作用力 Fint = minuskintzが働いていると考える5kint gt 0

の場合試料近接時 z lt 0に対し Fint gt 0のため斥力領域に対応しkint lt 0は引力領域のモデルとなる式 (24)の kを k + kint に置き換えることで力が働いているときの共振周波数

f0prime =1

radick + kint

m(29)

が得られQカーブは引力領域では (2)斥力領域では (3)のように変化するDynamic-modeではこの Qカーブの変化に伴う励振特性の変化を検出することで探針ndash試料間相互作用力が働いていることを検知する

243 振幅変調方式 AFM (AM-AFM)

AM-AFMは探針ndash試料間相互作用による Qカーブの変化を振幅の変化から検出する手法の AFM

である微小な探針ndash試料間相互作用力 Fint = minuskintzが働いているとき式 (25)は

A =Aextradic

(mω2 minus k minus kint)2 + γ2ω2

sim Aextradic(mω2 minus k)2 + γ2ω2

[1 + kint

mω2 minus k(mω2 minus k)2 + γ2ω2

](210)

となるため振幅変化 ∆Aは

∆A sim kintAext(mω2 minus k)

[(mω2 minus k minus kint)2 + γ2ω2] 3

2(211)

4 厳密には共振周波数は 12π

radickm minus

γ2

2m2

5 定数値は釣り合いの位置をずらすだけなのでここでは無視する

24 AFMの動作モード 17

0

99 100 101

Am

plitu

de [arb

unit]

Frequency [kHz]

-180

-90

0

99 100 101

Phase [deg]

Frequency [kHz]

(a) (b)

f0

f0(1)

(1)

(3)(2)

(2)

(3)

図 27 カンチレバーの共振周波数付近の振動特性 (Qカーブ)((a)振幅(b)励振信号に対する位相)パラメータとして f0 = 100 kHz Q = 300 を用いており相互作用が (1) なし(2) 引力kint = minus0005k(3)斥力 kint = 0005kのときの Qカーブを表す

Topography

Feedbackcontroller

RMS

Scanner

LD PSPD

PZT

FG

図 28 AM-AFMの装置構成図

と力勾配に比例することが分かるただし近似として kint の 1次項のみを扱った実際の動作では一定の周波数で振動しているカンチレバーの振幅減少を試料への近接とみなし減少した振幅が一定となるように高さフィードバック動作を行うAM-AFMでは図 22の引力領域と斥力領域を行き来するように Tipが動くためコンタクトモードが「接触している」のに対し「間欠接触モード(Intermittent-contact mode)」または「タッピングモード (Tapping mode)」とも呼ばれる6図 28に AM-AFMの装置構成を示すファンクションジェネレータ (Function generator FG)で生成した交流信号をピエゾ素子 (PZT) に入力しカンチレバーを励振する (強制振動)カンチレバーの変位信号を二乗平均平方根 (RMS)回路で振幅信号に変換し振幅が一定になるようにフィードバック回路から Zスキャナに出力する本研究では強制振動の周波数としてカンチレバーの Q

カーブにおける最大振幅の約 07倍となる (共振周波数より低い)周波数を設定しているまたカンチレバーの振動振幅が約 20 nmp-p となるように FGの振幅を設定している

18 第 2章 原子間力顕微鏡の基礎

Topography

Feedbackcontroller

PLL

RMSAGC

Scanner

LD PSPDPZT

Phaseshifter Comparator

Phase lock

Frequency detectionblock

Self-excitation block

図 29 FM-AFMの装置構成図

244 周波数変調方式 AFM (FM-AFM)

探針ndash試料間相互作用力 Fint = minuskintzが小さいとき (|kint| k)式 (29)より共振周波数シフト ∆f

は∆f = f0prime minus f0 sim

f02k

kint (212)

で表されるように力勾配に比例し引力領域では負の周波数シフトを起こす図 22で示されるように力勾配は探針ndash試料間距離が近づくにつれて大きくなるため共振周波数の変化から探針の試料への近接を検出できるこのように共振周波数の変化を一定にするように探針ndash試料間距離を制御する方式を FM-AFM と呼ぶ図 22 の引力領域で用いられ試料へ非接触な状態で動作するため「非接触 AFM」とも呼ばれる図 29に FM-AFMの装置構成図を示す共振周波数を追跡するため自励発振 (Self-excitation)

回路を用いてカンチレバーを常に共振周波数で励振する図 27から分かるように共振周波数での振動信号は励振信号に対し 90 遅れており振動信号の 90 位相を早めた信号で励振することで共振周波数で振動することになる自励発振回路ではこの位相シフタ (Phase shifter)と自動ゲイン回路 (Automatic gain controller AGC)によって励振が行われている一方周波数の変化は位相同期回路 (Phase-locked loop PLL)により検出している [89]

25 AFMの電流検出応用AFMの探針は非常に微小なためナノスケールのテスタのような応用が期待できるAFMの探針を試料に接触させ探針ndash試料間に流れる電流を測定しまたはその特性の分布図を取得する応用手

6 厳密には変調 (検出)方式と動作方式という定義の違いがあるが本研究では同義に扱う

25 AFMの電流検出応用 19

法を総称して電流検出 AFM(Current-sensing AFM CS-AFM) [90]と呼ぶ本項ではこれまで開発利用されてきた AFM の電流検出応用手法のうち最も基本となる導電性 AFM(Conductive-AFM

c-AFM) およびその応用手法である点接触電流イメージング AFM(Point-contact current imaging

AFM PCI-AFM)について原理と適用範囲を述べる

251 導電性 AFM (c-AFM)

導電性探針と試料の間に直流電圧を印加しながら試料に探針を接触させることで探針ndash試料間に流れる電気特性を測定する手法を c-AFM7と呼ぶSTM でも電流のマッピングは可能であるがc-AFM では AFM をベースとしていることから(1) 確実に接触させ接触力を制御できること(2)絶縁体上の試料においても電流測定できることの 2点において STMよりも優位である特に(2) は絶縁膜上に構築した様々なデバイスやナノスケール構造において電気特性が測定可能であるという点で非常に重要であるナノスケール構造の一例としてカーボンナノチューブ (Carbon

nanotube CNT)の測定が挙げられる [91 92]CNTは長さが数 micromの細長い円筒状の構造をしており直径は単層で数 nm多層でも数 10 nm と非常に微細なため一本の CNT の電気特性を電極間に架橋させて測定するのは非常に困難であることが予想される一方CNTの片端のみ電極に接続するのは後から成膜もしくは電極上に分散させるなど比較的容易に達成できるためc-AFMでCNTのもう一方の端に接触させることで単一の CNTの電気特性測定が可能となる一方(1)の利点を活用し均一に分子が存在する試料に接触させることで接触面積から 1分子あたりの電気特性を評価する試みもなされておりSAM分子の電気特性の鎖長依存性 [93ndash96]やタンパク質の電気伝導評価 [97]も報告されている高分子ナノファイバ [98]や光反応性のタンパク質 [99]に対して光照射時の電流特性測定という応用も行われている

c-AFMには大きく分けて(a)試料上のある一点に接触させ主に電圧ndash電流 (IndashV)特性を取得する方法 (IndashV 測定モード)および (b) 一定電圧をかけながらコンタクトモードで試料上を走査し電流像を得る手法 (スキャンモード)の 2種類あるIndashV 測定モードは上述の CNTの評価の他に有機薄膜 [31 68 70]や細菌 [100]といった幅広い材料に対して用いられている一方スキャンモードはコンタクトモードで走査可能という制限があるため高分子 [98 101] や分子結晶ナノファイバ [102]のような比較的硬い材料に限られている

252 点接触電流イメージング AFM (PCI-AFM)

c-AFMはナノ構造の電気特性測定ができる非常に有用な手法であるがIndashV 測定モードでは 1点ごとの測定のため測定位置の不確定さや接触ごとのばらつきより微細な内部構造の可視化ができないといったデメリットがあるまたスキャンモードもコンタクトモードで走査可能な比較的硬く起伏の少ない試料に限られるこれに対し大阪大学の Otsukaらはこれらの問題を克服する手法としてpoint-by-pointでの接触方法を活用した PCI-AFMを開発した [103]図 210に PCI-AFMの動作概念図を示すPCI-AFM

はAM-AFM (Tapping) による高さフィードバックと c-AFM による電流測定を各点で交互に行う

7 C D Frisbieなど CP-AFM(Conducting probe AFM)と呼ぶ研究グループもあるが基本的に同義である

20 第 2章 原子間力顕微鏡の基礎

(a) Height control (b) Approach (d) Retract(c) IndashV

Cantilever

Electrode

Sample lm

Mode

Movement

FeedbackTapping StaticON Hold

Time

図 210 PCI-AFM の動作概念図時系列の TappingStatic 動作および高さフィードバックのONHoldのタイミングを併記した

手法である(a)まずある測定点において AM-AFMにより探針ndash試料間距離を一定にしこの状態で高さを固定 (Hold)する(b)探針の励振を停止させ探針を試料に一定距離だけ近づけ試料に接触させる(c) 接触状態で探針ndash試料間に電圧を印加しIndashV 測定を行う(d) 探針を試料から離し励振を再開し高さ制御を再開すると共に次の測定点へ移動するこれらの測定を試料 XY平面上の各点で行うことで表面形状と各点での IndashV 特性の位置を完全に対応づけることができるOtsukaらは PCI-AFMを用いることでc-AFMのスキャンモードによる試料構造破壊の問題を解消し単層 CNTの距離依存電流測定を達成した以降PCI-AFMの非破壊性を活かしCNTのバンドル間伝導特性 [104]やバンドル CNT中における単一 CNTの可視化 [105]分子性ナノワイヤ [106107]DNA [108]や DNAベースのナノワイヤ [109]ナノ粒子 [110ndash112]の電気特性評価に用いられてきた一方有機薄膜に対して用いた例は銅フタロシアニングレイン上の報告 [113]の一例に留まるまたCNTや有機薄膜の FET構造においてゲートバイアスを印加した状態での PCI-AFM測定は現在のところ報告されていないこのように PCI-AFMはナノスケールでの電気特性評価に有用な手法である一方で活用範囲としてまだ進んでいない領域がある本研究では新領域活用への障害となる PCI-AFMの問題点について対策を考え新規活用法を模索することも目的の一つと位置づける

26 AFMの静電気力検出応用261 静電気力顕微鏡 (EFM)

AFM で測定される力のうち静電気力を検出する手法を広義の EFM と称する静電気力は探針ndash試料間に印加した電圧のみならず試料の仕事関数試料上の固定電荷や電気的ダイポールなど様々な物性が起因となり変化するそのため報告によってどの物性に注目するかが異なり検出した静電気力の取り扱いも異なるここでは一般化し明確な探針ndash試料間の電位差Vts = Vs(試料電位) minus Vt(探針電位)があると仮定する探針ndash試料間の容量を Cts とすると電位を固定したときの系の静電ポテンシャル UES は UES =

12CtsV2

ES と記述されるこのとき探針が感じる静電気力 FES は斥力を正とするとFES =

partUESpartz =

12partCtspartz V2

ts と記述されるつまりCts が一定であれば Vts の 2乗に比例した静電気力を探針が感じることが分かる

26 AFMの静電気力検出応用 21

しかし探針ndash試料間には 22節で述べたような相互作用力が働いているため電位差を評価するには静電気力による寄与を分離する必要がある原子分子間力の距離依存性が急峻であることを利用してEFM や MFM では Line-by-line で距離を変化させることで静電気力磁気力のみ評価する方法もあるがここでは交流電圧の変調による手法について述べる角周波数 ωm の変調電圧Vac cosωmtを試料 (または探針)に印加すると静電気力は

FES =12partCts

partz(Vts + Vac cosωmt)2

=12partCts

partz

[(V2

ts +V2

ac

2

)+ 2VtsVac cosωmt +

V2ac

2cos 2ωmt

](213)

となりFES の ωm 成分は電位差 Vts に比例することが分かる実際の測定では振幅変化 (AM) または周波数変化 (FM)を測定するため測定量は式 (211)および (212)に従い力勾配 partFES

partz に比例するするとωm 成分は (partFES

partz

)

ωm

=part2Cts

partz2 VtsVac cosωmt (214)

と表される比例係数の part2Ctspartz2 は同一の探針同一の探針ndash試料間距離同一の探針振幅であれば一

定と考えることができるよって振幅変化または周波数変化の ωm 成分をロックイン検出することで電位差に比例する成分を得ることができる

262 ケルビンプローブ原子間力顕微鏡 (KFM)

EFM では電位差に比例したコントラストを得られる一方で電位の実際の値を知るには比例定数のキャリブレーションが必要であるケルビンプローブ原子間力顕微鏡 (Kelvin-probe force

microscopy KFM)8は EFM に零位法を組み合わせることで電位の実際の値を測定することができる AFMの応用手法である

KFMの名前はケルビン法と呼ばれる試料の仕事関数を測定する巨視的な評価手法に由来するケルビン法では既知未知の仕事関数を有する材料の二表面を近接させ振動させた際に発生する交流電流がゼロになるように二試料間に印加する直流バイアスを調整することで未知の仕事関数を測定する同様にKFMでは partFES

partz に比例する測定量の ωm 成分がゼロになるように探針ndash試料間に追加の直流電位 VFB をフィードバック制御する試料上を走査中に随時行うことで表面電位像の測定が実現される

EFMKFMには AFM動作モードおよび変調信号の検出方法で複数の種類が存在する本研究では真空中つまり高 Q 値環境下での測定が簡単であること比較的面内分解能が高いことからFM-AFMをベースとし変調信号を FM検出する手法を用いた以下この手法による EFMKFM

をそれぞれ FM-EFMFM-KFM と呼ぶ図 211 に FM-EFM および FM-KFM の装置構成図を示す詳細なセットアップパラメータは後の章 (4章 KFM 5章 EFM)で述べる

8 KPFMの略称を用いる場合がデファクトスタンダードとなりつつあるが本論文では KFMを用いる

22 第 2章 原子間力顕微鏡の基礎

Topography

EFM signal

Potential

Feedbackcontroller

Frequencydetection

Self-excitationcircuit

Scanner

LD PSPDPZT

Lock-in amp

Bias feedbackKFMEFM

図 211 FM-EFMおよび FM-KFMの装置構成図

27 本章のまとめ本章ではSPM および AFM の成り立ちについて説明した上で基本的な表面形状取得の概要力検出技術および走査技術について説明した近年提案されている様々な AFM応用手法がどのような動作に基づいているかを理解する上で走査方法の面から分類することは必要と考えるまたAFMの動作とくに Dynamic-modeにおけるカンチレバーの励振特性について探針ndash試料間相互作用が働いた場合にどのような変化が生じるのかについて説明したまたこの解析に基づき基礎的な AM-AFMおよび FM-AFMの動作装置について言及した

AFMの応用手法に関して本研究で用いた手法のベースとなる電流検出応用静電気力検出応用について説明した電流検出に関しては従来手法となる c-AFMに対する PCI-AFMの優位性を述べた上でPCI-AFMの OFET評価としての活用が未発展であることを示し新規活用法を模索することを以降の研究の目標点の一つとして掲げるまた静電気力検出に関しては主として用いた FM

方式の EFMKFMについて基礎的な理論技術を説明した以上ではナノスケールの電気的評価が可能な AFMの応用手法について説明したが有機薄膜を対象とした測定にはいくつか未達成または困難な点が存在するPCI-AFMの活用については 3章で装置動作の面から試みることとするまた KFM は面内の相対的な局所抵抗比較に留まる一方プローブ測定のみで測定対象と参照を同時に測定できるような手法を開発することは特に巨視的測定が困難なナノスケールのグレインの電気特性評価を進めていく上で重要であるよって静電気力検出をベースとした新規局所電気特性評価手法に関して4章および 5章で検討を行う

23

第 3章

AFM電流測定法を用いた有機グレインの局所電気特性評価

AFMの導電性探針を用いて直接試料に接触させ電流を測定することで有機材料の電気特性測定がなされてきたことは既に 1章で述べたしかし従来手法のうち非マッピングである c-AFMや多探針 AFMでは測定点が数点に限られ接触位置の同定が不確定という問題がある一方マッピングを行う c-AFM では硬い材料に限定されること接触力の増加による分解能の制限といった問題を有するこれらに対し2章で述べた点接触電流イメージング AFM (PCI-AFM)は非破壊にて構造と電気特性の同時マッピングを行うことが可能であり少数単一グレインスケールにおけるTLMとなりうることが期待されるがその適用には課題が二点ある一点目は有機半導体の電気特性評価では必須となる真空中での測定が困難であることであるこれは AM-AFMをベースにしていることに加えて後述の探針励振停止再開動作が関わっており真空中では非現実的な測定時間が必要となる二点目はこれまで PCI-AFMは 1次元系材料での評価が多く有機半導体薄膜のような薄膜試料での報告例がほとんどないことである1次元系と異なりOFETのような薄膜試料では電流広がりなどを考慮した測定結果の解析が必要となる以上を踏まえ本章では PCI-AFMの真空動作化および OFET評価に適した動作確立システム構築を通してOFET中の様々な局所電気特性を選択的に評価するナノスケール TLMへの活用を目標とする

31 OFET評価に適した電流測定法の検討252節にてPCI-AFMはナノ構造の電流マッピングに非常に有用な手法であることを説明した

PCI-AFM を有機グレインの OFET 評価に適用するにあたり信頼性のある安定した測定に向けて検討しておくべき項目がいくつか存在する本節では「真空動作」「接触圧」の観点から PCI-AFM

の改良に取り組む

24 第 3章 AFM電流測定法を用いた有機グレインの局所電気特性評価

Phaseshifter

Oscillator

Excitation

Variablegain amp

z(t)

Ge-jθ

図 31 Q値制御回路のブロック図

311 PCI-AFMの真空動作化 (Q値制御法)

242節で説明したとおりカンチレバーの運動は式 (24)にて記述されるここでt = 0で外力が 0になったときの過渡応答を考えるFext = Fint = 0よりz(t)の特性解 λは 2次方程式

mλ2 + γλ + k = 0 (31)

を解くことでλ = minus1

τplusmn jω (32)

と求まるここでτ = 2mγ =

2Qω0ω = ω0

radic1 minus ( 1

2Q )2 であるカンチレバーが t lt 0 では z(t) =

A cosωtで振動しているとするとt ge 0でのカンチレバーの運動は

z(t) = Aeminustτ cosωt (33)

という時定数 τ の減衰振動解になるつまりカンチレバーの振幅変化に要する時間は Q に比例する本研究で用いているカンチレバー (Olympus OMCL-AC240TM-R3) の典型的な共振周波数は f0 = 70 kHz でありQ 値は大気中では数 100 なのに対し真空中では 2000 を超える例として振幅が減衰開始時の 01 倍となる時間 minus ln(01)τ sim 23τ を振動停止開始の所要時間と考えると256 times 256点で振動停止開始それぞれで 23τ必要となり測定に必要な時間は待ち時間だけでも数時間に及ぶためドリフトの影響を考えると真空中での PCI-AFM測定は非現実的であることが分かるまたPCI-AFM では振幅変化を検出する AM-AFM をベースとしているが同じ理由でAM-AFMは一般的に真空中での測定は不向きであることもPCI-AFMの真空中測定を困難にしているそこでPCI-AFMの振動停止再開動作を真空中でも可能にするために本研究ではAnczykowski

らにより提案された Q値制御法 [114]を用いるQ値制御回路のブロック図を図 31に示すQ値制御法ではカンチレバーの変位信号1z(t) = Aejωt にゲイン G および位相シフタ eminusjθ を介した信号を励振信号に加えるこの信号成分は z(t)に対する in-phase out-of-phaseを分けることで

Geminusjθz(t) = (G cos θ)z +minusG sin θω

z (34)

と表されるため運動方程式 (24)の γ を γprime = γ + Gω sin θk を kprime = k minusG cos θ に置き換えること

で同様の議論ができるつまり運動方程式 (24)および Qカーブを表す式 (25)は次のように表さ

1 簡単のためフェーザ (Phasor)で考える最終的に実部を取ることで実信号とする

31 OFET評価に適した電流測定法の検討 25

0

5

10

695 70 705

Am

plitu

de [nm

]

Frequency [kHz]

0

1=10-3

2=10-3

5=10-3

G Pѱ0

2

図 32 Q 値制御法を用いた場合の Q カーブの理想的なゲイン G 依存性 f0 =ω02π = 70 kHz

Q = 2 times 103 Aextk = 5 times 10minus3 nm

れる

mz + γprimez + kprimez = Fext (35)

A =Aext

kω2

0radic(ω2 minus ωprime20 )2 + (ωωprime0Qprime)2

(36)

但しQ値制御後の (見かけの)Q値 Qprime および共振周波数 ωprime0 をそれぞれ

Qprime =mωprime0γprime ωprime0 =

radickprime

m(37)

としたここで位相シフト量を θ = π2に設定すると Gを増加させるに従い γprime が増加することが分かるこのとき理論上の Qカーブの変化を図 32に示すこのようにQ値制御法を用いることで見かけの Q値 Qprime を減少させることができる2実際に真空中 (lt 10minus3 Pa)でカンチレバーの励振 (発振器からの信号)を 5 msごとに開始停止させた際に従来通りの強制励振と Q値制御法を用いた場合のカンチレバーの動作を比較したものを図 33に示すただし典型的な共振周波数が f0 sim 70 kHzであるカンチレバーを用いたQ値制御前では Q sim 2000であり上述の振動停止開始時間は 23τ sim 21 msとなり図 33(a)のように 5 ms

では完全には振幅が収束していないことがわかるQ 値制御法により見かけの Q 値を Qprime sim 100

まで減少させた結果振動停止開始時間は 23τ sim 1 msとなり図 33(b)のように励振停止時に完全に停止している様子が見て取れるPCI-AFMの振動停止再開動作に要する時間を減少でき全体の測定時間が現実的なスケールとなるまた見かけの Q値を減少させたことによりAM-AFM

の動作も大気中と同等の設定で可能となる

パラメータ設定の問題点と改良した設定方法 本研究では研究室で作成された Q値制御回路 [78]

を用いFGとして Yokogawa FG120を用いたここで自家製の Q値制御回路では φおよび Gを手動でしか変更できないため次のような問題が生ずる図 34に G = 001mω2

0 における周波数および位相シフト量に対する振幅の変化を示す周波数が正しく共振周波数に合っている場合は位相 θ を変えると θ = π2で振幅が最小値となるしかし周波数がずれている場合に振幅が最小

2 本来の用い方は Q値の小さいとき検出感度を上げるために θ = minusπ2に設定することで Q値を増加させて用いる

26 第 3章 AFM電流測定法を用いた有機グレインの局所電気特性評価

ON OFF ON OFFExcitation

5 ms Time

200 mV(~7 nm)

(a) conventional

(b) with Q-control

Deection signal

Q ~ 2000

Qrsquo ~ 100

図 33 真空中でカンチレバーの励振を 5 ms ごとに開始停止させた際のカンチレバー変位 (Deflection) の包絡線 (振幅) 時間波形(a) Q 値制御法を用いない従来の強制励振の場合(Q sim 2000)(b) Q値制御法を用いた場合 (Q sim 100)の包絡線とカンチレバーの動作イメージを示している

695 70 705

Frequency [kHz]

0

90

180

Phase [deg]

01

1

10

Am

plitu

de [nm

]

Minim

um

Resonance

Resonance

図 34 G = 001mω20 における周波数および位相シフト量に対する振幅変化矢印は共振周波数

探索rarr最小振幅となる位相探索の順にパラメータ探索する場合のパラメータ軌跡

となる位相は π2とは異なるそのため例えばパラメータの設定を共振周波数探索rarr振幅最小位相探索の順に行ってしまうと図 34のように最適な位相 π2に到達できず同じ設定値をループすることになるこれを回避するためには位相およびゲインを変えながらも常に共振周波数をトラックする必要があるそのため本研究では FG120の GP-IB3通信および LabVIEWを用いて任意の周波数レンジおよび掃引速度で連続的に FGの周波数設定値を掃引できるようなプログラムを作成したこれにより効率的に Q値制御回路の位相設定を行えるようなセットアップとなっている

312 接触状態の検証導電性探針を用いた電流測定は探針ndash試料間に流れる電流が測定値となるためその接触状態が測定値に大きく影響を与えることが懸念されるしかし報告により用いている探針の材料ばね定数または対象とする試料や実際の接触力などの測定条件が異なるため本研究でも独自に影響評

3 General purpose interface bus短距離デジタル通信バス仕様である IEEE 488の実装であり計測器制御に用いられる汎用接続形式である

31 OFET評価に適した電流測定法の検討 27

HOPG

Conductivecantilever

図 35 導電性探針による接触電流評価の模式図

0

50

100

150

0 5 10 15 20 25

5HVLVWDQFHgt0ї

)RUFHgtQ1

OriginalOvercoated

(c)

-100

-50

0

50

100

-1 0 1

ampXUUHQWgtQ$

LDVgt9

(a) Original

0 nN4 nN

10 nN

14 nN19 nN23 nN

-100

-50

0

50

100

-1 0 1ampXUUHQWgtQ$

LDVgt9

(b) Overcoated

4 nN7 nN

10 nN

13 nN16 nN

図 36 導電性探針ndashHOPG系の接触電流測定結果(a)市販コート探針(b)再コート探針を用いて測定された IndashV 特性(c) +15 Vにおける接触力と抵抗値の関係

価することが望ましいそこで接触力評価として導電性カンチレバーを導電性の平坦試料である高配向パイログラファイト (Highly oriented pyrolytic graphite HOPG)に接触させ電流測定を行うとともに探針の試料への接触面積の見積もりを試みた導電性探針として(1)市販の PtIrコート済みカンチレバー (Olympus OMCL-AC240TM-R3)(市販コート探針と呼ぶ) および (2)OMCL-AC240TM-R3 の Tip 側にスパッタリング装置を用いて約20 nmの Ptを堆積させたカンチレバー (再コート探針と呼ぶ)を用いた再コート探針は市販コート探針よりも Tip上への堆積量が多く先端曲率半径の増加が懸念されるがより長時間多回数の接触に耐えうることが見込まれるためその電気特性の差異がないことを確認する図 35のセットアップにおいて以下のプロセスで測定を行った

1 探針ndash試料間のバイアス電圧を 0 V としコンタクトモードにおいて Reference を徐々に上げ探針をわずかに HOPGに接触させる

28 第 3章 AFM電流測定法を用いた有機グレインの局所電気特性評価

表 31 探針接触半径の見積もりに用いた各材料の物性値

材料 ヤング率 ポワソン比

Pt [118] 168 GPa 0377

HOPG [119 120] 365 GPa 025

2 ある分量ずつ Referenceを増加させることで接触力を増加させ各接触力において plusmn15 Vの三角波 (2 s)を 5回印加

3 測定時のカンチレバー変位IndashV 出力をデータロガーで取得し「カンチレバーばね定数(2 Nm)times(接触時の変位 minus 非接触時の変位)別途測定した変位検出感度 (nmmV)」を接触圧とした

図 36に IndashV 特性および +15 Vでの抵抗値の接触圧依存性を示す市販コート再コートどちらの探針においても接触力の増加に従い電流が増加したまたIndashV 波形が非線形である原因として探針先端または試料表面の不純物やPtndashHOPG間接触の本来の特性が考えられる図 36(c)よりどちらの探針も比較的同等の特性を持っており以降では再コート探針でも市販コート探針と同様に使用可能としたまた接触力が 10 nN付近で抵抗値がある程度収束しており接触電流測定に必要な接触力の目安は 10 nNと見積もられるこの接触力は過去の c-AFM [115]や PCI-AFM [103104]

の報告における設定値と同程度である次に接触面積の見積もりを行う無機材料での探針接触電流測定では一般に 2体の付着を考えない Hertz理論を用いて評価されるが [116]有機物など付着のある系では JKR理論を用いて評価する必要がある [92]JKR理論では曲率半径 Rt Rs の 2体が接触力 F で接触するとき接触半径 a

は次のように表される [117]

a3 =34

Rlowast

Elowast[F + 3πRlowastWts +

radic6πRlowastWtsF + (3πRlowastWts)2

](38)

但しWts は 2体の付着仕事 (凝着エネルギー)Rlowast は実効曲率半径 Rlowastminus1 = Rminus1t + Rminus1

s また Elowast は実効ヤング率を表しサンプル (s)探針 (t)それぞれのヤング率を Es Etポアソン比を σs σt とおくと Elowastminus1 = (1minusσs

2)Esminus1 + (1minusσt

2)Etminus1 で与えられるここで式 (38)の根号内が F gt minusFad で 0

以上となる場合Fad は吸着力を表し

Fad = minus32πRlowastWts (39)

で与えられるよって式 (38)は

a3 =34

Rlowast

Elowast(radic

F + Fad +radic

Fad)2 (310)

と簡略化されるPt 探針を HOPG に接触させた場合を想定する試料が無限平面と仮定できるため Rlowast = Rt であり探針の曲率半径として OMCL-AC240TM-R3の公表値 15 nmを用いる材料のヤング率ポアソン比として表 31の値を用いると吸着力 Fad が 10 nNのときの接触力と接触半径の関係は図 37

のようになる探針の曲率半径は 10 nmを超えているものの接触半径は数 nmに留まることが分かるまた接触力 10 nN付近では微小な接触力の変動に対する接触半径の変動は 1割に満たないことも式から求まる

32 マルチグレイン有機薄膜の複数雰囲気中測定 29

0

1

2

3

4

-10 0 10 20 30

Con

tact

radi

us [n

m]

Contact force [nN]

図 37 吸着力 Fad = 10 nNのときの接触力と接触半径の関係(Rlowast Rt = 15 nm)

図 38 ペンタセンの分子構造式

32 マルチグレイン有機薄膜の複数雰囲気中測定有機半導体薄膜の電気特性は雰囲気により大きく変化するがその影響にはグレイン境界やグレイン内部など複数の局所物性が関わっているため従来の大面積の電極を用いた測定では議論が不十分である一方局所電気特性測定に有用と考えられる PCI-AFMは原理上真空中での動作が困難でありまたこれまで OFETの評価に用いられたことはなかった本節では 311節で真空動作化を施した PCI-AFMを使用しペンタセンのマルチグレイン薄膜を対象に局所電気特性測定を行い大気の影響を抑えた材料本来の特性測定を行う同時に大気真空の両雰囲気中で評価することで特定の局所構造に対する大気の影響を評価する

321 測定試料ペンタセン 測定試料としてペンタセンのマルチグレイン薄膜を用いたペンタセン (C22H14)は図 38のようにベンゼン環が 5つ縮合した構造をもつアセン系 π共役分子であり最も基礎的な p

型有機半導体の 1つとして知られる真空蒸着による簡便な成膜によっても 1 cm2(Vs)という比較的高性能な移動度を有することで知られている [30 121]そのため金属ndash有機分子界面評価のベンチマーク [39]という基礎的なことから論理回路 [21]という応用的なところまで幅広い研究に用いられている一方ペンタセンの真空蒸着により成膜すると一般にグレインが多数連なったマルチグレイン薄膜となるこれは蒸着条件や絶縁膜の表面処理を変化させても最大で数 microm程度の大きさにしかならず [29 122]OFETを作製すると多数のグレイン境界を通ることになるグレイン境界により制限された OFETの電気特性および移動度の評価が四端子法により行われているものの [32]影響を平均した評価にならざるを得ないよって本研究でもペンタセンのマルチグレイン薄膜を試料として用い過去の報告の知見を活かしつつPCI-AFMの利点を活かした特定のグレイン境界評価に臨む

30 第 3章 AFM電流測定法を用いた有機グレインの局所電気特性評価

SPM solution

Waferchip

LOR 3B

Au

S1813UVozone

UV

Photomask

(1) SPM cleaning (2) UVozone cleaning (3) Spincoat amp bake (4) Resist coating

(5) UV exposure(6) Development(7) Deposition

(9) EB resist (10) EB lithography (11) Development

(14) Deposition

(12) Deposition

(8) Lift-oamp cleaning

(13) Lift-oamp cleaning

eminus eminusPtZEP 520A

Organic lm

UV

litho

grap

hyEB

lith

ogra

phy

図 39 測定試料の作製手順の模式図

試料作製手順 測定試料は以下のプロセスにより作製した図 39に手順全体の模式図を示す

1 表面に 100 nmの熱酸化膜 (SiO2)を有する高ドープ n型 Siウェハを用い硫酸ndash過酸化水素水 (SPM)洗浄を行う

2 紫外線 (UV)露光をし (UVオゾン洗浄)表面を親水化する3 LOR3Bを 4000 rpmで 45秒スピンコートし190Cで 5分ベーク4 UVレジスト S1813を 5000 rpmで 30秒スピンコートし115Cで 1分ベーク5 マスクアライナーを用いてUV露光を 3秒行いマスクパターンを転写6 現像液MICROPOSIT CD-26に 1分程度浸漬することで現像7 真空蒸着装置を用い1 times 10minus4 Pa以下の高真空下で Crを電子線 (EB)加熱により 3 nmAu

を抵抗加熱により 50 nm蒸着8 Remover1165でリフトオフを行い続いて UVオゾン洗浄9 EBリソグラフィ用のレジスト ZEP 520Aを 1500 rpm60秒の条件でスピンコートし160C

で 5分ベーク10 ギャップ幅 100 nmギャップ長 300 nmの条件で EB描画11 EBレジストの現像液 ZED-N50に 2分浸漬することで現像

32 マルチグレイン有機薄膜の複数雰囲気中測定 31

12 スパッタリング装置により Ptを約 5 nm堆積13 Remover1165によるリフトオフ続いてイソプロパノール (IPA)蒸気洗浄および UVオゾン洗浄

14 真空蒸着によりペンタセンを約 01 nmminの蒸着レートで 10 nm堆積

(3)から (8)の行程は UVリソグラフィ(9)から (13)の行程は EBリソグラフィに対応する

322 装置構成PCI-AFM測定時の装置構成を図 310に示すAFMコントローラとして日本電子製 JSPM-4200

を用いFG1 (Yokogawa FG120)からの励振信号で AM-AFMを動作させている真空中では Q値制御装置を用いたQ 値制御回路使用時は安定した励振を行うために不要な高調波を除去するローパスフィルタ (Low-pass filter LPF)を挿入した電気回路部については試料上の電極 (Drain)に定電圧 (VD)を印加しSi基板 (Gate)にゲートバイアス (VG)として FG2 (Tektronix AFG320)から任意波形を出力した試料ndash導電性探針間を流れる電流 (ID) はカンチレバーホルダー直結の低バイアス電流な自作電流アンプ (109 VA) で検出し電流信号はデータロガー (Keyence NR-500 NR-H08)で測定全時間に渡り取得した

Point-by-point動作は AFMコントローラに備わる「MFMモード」を利用したMFMモードでは256 times 256点の各点で10 ms毎にフィードバックモードとホールド (高さ固定)モードを切り替える本来の MFMモードは MFM測定のために試料から離れる (Lift)方向にしか動かせない本研究で用いた AFM コントローラは研究室で改造が行われており外部から直接高さの変調信号 (Z-mod)

を加えられるようになっている [78]高さ変調信号は FG3 (Tektronix AFG320) から出力した信号を minus20 dB減衰器に通した上で Z-modに入力したまたフィードバックモードとホールドモードに同期した信号が JSPM-4200 の PR2 端子からLIFT 信号として出力されているこの信号に FG1 FG2 FG3 を同期させることで point-by-

pointでの振動電圧印加接触動作が可能となる図 311のタイムチャートは測定点の移動 (X)カンチレバー変位 (Deflection)Lift信号それぞれの FGの時間波形と動作タイミングを示している1点当たり 20 ms (=1 period)を要し一定時間フィードバック動作を行ったのちホールドモードとなりLift信号が off状態になるFG1 (Excitation)はこのLift信号が on状態のときのみ出力する GateモードとしているFG2および FG3は Positive edgeの Triggerのみ受け付けるためLift

信号を Not回路に通した上で FG2と FG3の Triggerに入力したFG3の電圧値は実際に接触しているときの Defletion変化 (∆z)から計算される接触力が 10 nN程度になるよう調節した結果表示で 06ndash08 Vとなった

323 大気中 PCI-AFM評価大気中でペンタセン薄膜に対し PCI-AFM測定を行ったVD = minus2 Vとし接触中に VG を minus1 V

から minus5 Vへ変化させながら測定した図 312(a)は PCI-AFMで同時測定された表面形状像であるより大きい範囲の表面形状像から推定した電極の位置を点線の枠で示しているPCI-AFMでは各点でカンチレバーの振動停止再開をしていることから探針ndash試料間距離が不均一になることが懸念さ

32 第 3章 AFM電流測定法を用いた有機グレインの局所電気特性評価

RMS

Data logger

Feedbackcontroller

Scanner

LDPSPD

Q-controller

AFM controller

PZT

FG1

FG2

FG3

Z-mod

Gate

Lift

InsulatorGate

VD

IndashV amp

-20 dB

LPF

Deection

Current Trigger

図 310 真空動作 PCI-AFMを用いた OFET電気特性測定時の装置構成図

Deection

LiftZ hold Z hold

FG1 (excitation)

FG2 (VG)[100 Hz]

FG3 (Z-mod)[501Hz]

X

1 period = 20 ms

-5 V

[period]

[period]

0 01 09 1

001

02095

1

Time

Gate

Trig

Trig

Δz

図 311 PCI-AFM測定の各信号のタイムチャート

32 マルチグレイン有機薄膜の複数雰囲気中測定 33

100 nm0

30

[nm

]

Electrode

(a)

10

0

I D [n

A]

(b) AB

C

VG iuml V

(c)

iuml V

(d)

iuml V

(e)

iuml V

(f)

iuml V

図 312 マルチグレイン薄膜の大気中 PCI-AFM 測定結果 (VD = minus2 V)(a) Pt 電極に接続したペンタセン薄膜の表面形状像(b)ndash(f) VG = minus1 minus2 minus3 minus4 minus5 Vの電流値で再構成した電流 (ID)像図中の矢印はグレイン境界太点線はグレイン A B Cの範囲をそれぞれ表す

れるが表面形状像からはドット状ライン状のノイズは見られないことから安定して動作していることが分かる図 312(a)より多数のペンタセングレインが電極に接続していることがわかり薄膜中の「谷」部から矢印で示すようなグレイン境界が見て取れるここでペンタセン薄膜内にいくらか平坦な領域が存在しているSiO2 のような非活性な基板上で成膜したペンタセン薄膜は 1

軸配向性を示すことがこれまでも多く報告されており今回のペンタセン薄膜においても分子長軸を基板に対して立てて配向していると考えられる図 312(b)ndash(f) はそれぞれ VG = minus1 V からminus5 V

の電流値を抽出し再構成した電流像であるまず電極付近は電流値の大きい地点が多くまた VG の印加により大きな変化はない一方赤色の点線で囲ったグレイン A B C についてはVG = minus1 V

の電流像では暗いままつまり電流が小さいのに対しVG = minus5 Vの電流像では接続している膜部分と同等の電流値を観測しているこのように負のゲートバイアスの印加に従う電流の増加は p型有機半導体を用いた OFET の特徴であるこれはPCI-AFM を用いて有機半導体薄膜の各点で構成した局所 OFETの特性を測定した初めての例であるグレイン毎の違いを詳しく見てみると図312(b)のグレイン Bでは少しだけ電流が流れているがグレイン A Cはほぼ電流が観測されていないまた図 312(f)ではグレイン Aはグレイン Bと同程度の電流値になったもののグレインCは他の 2つに比べて電流が小さいこのような電流増加傾向の違いがグレイン毎に現れていることはこのペンタセン薄膜においては電気特性がグレイン境界によって大きく制限されていることを示している

324 真空中 PCI-AFM評価および雰囲気比較前節ではグレイン A Bと連続して接続しているグレインに関してゲートバイアス特性 (IDndashVG)が異なるという興味深い結果が得られたそのため評価対象をこのグレイン A Bに限定してより狭い範囲で測定することでより詳細な評価を行う図 312(a)の矩形範囲について真空中で PCI-AFM

34 第 3章 AFM電流測定法を用いた有機グレインの局所電気特性評価

0

30

Electrode50 nm

(a)

[nm

]

2

0

I D [n

A]

A

B

(b)

VG = 0 V

(c)

VG iuml V

(d)

VG iuml V

(e)

VG iuml V

(f)

VG iuml V

図 313 マルチグレイン薄膜の真空中 PCI-AFM測定結果 (VD = minus2 V)(a)表面形状像(b)ndash(f)VG = 0 minus1 minus2 minus3 minus5 Vにおける電流 (ID) 像図中の矢印はグレイン境界太点線はグレインA Bの範囲をそれぞれ表す

測定を行ったVD = minus2 VのままVG として 0 Vから minus5 Vの Ramp信号を用いた図 313に真空中の PCI-AFM測定で同時に得られた表面形状像 (a)および VG = 0 V minus1 V minus2 V minus3 V minus5 Vにおける電流像 (b)ndash(f)を示す大気中の結果と同様に滑らかな表面形状が得られておりQ値制御を用いることで真空中でも安定した PCI-AFM動作が実現できていると考えられる図 313(b)ndash(f)から大気中の結果同様に VG の印加に従い電流増加が見られているまたグレイン Bは VG = minus2 Vから minus4 Vにかけてグレイン Aは VG = minus1 Vから minus3 Vにかけてというように電極から近いグレイン順に電流増加が始まることが明瞭に観察された図 314に大気中真空中 PCI-AFMで得られた結果のうち図 313(a)の矩形領域で示す同一グレイン上の結果を比較したものを示す図 314(a) (b)の表面形状像から同一位置であることを推定した但し横軸を電極からの距離と取るために図 313に対し 90 回転させておりまた測定時の熱ドリフトの違いやスキャナのクリープの影響により像のサイズは若干異なっている図 314(c)

(d)は表面形状像の実線に沿った IDndashVG 特性を電流値マップとしてプロットしたものであり横軸が表面形状の実線の位置に対応する但し元の電流像から 64 times 64ピクセルに周辺の最大値を取るようダウンサンプルした上で表面形状像の実線に対し 10ピクセルの幅で平均した電流値を用いている電流値マップから電極上は VG による明確な電流変化はなくグレイン上での電流は VG により変化していることが明瞭に観測できる特に点線で示されているグレイン B Aの境界で電流マップのコントラスト変化が見て取れ電流マップにより IDndashVG 特性の変化が容易に確認できるといえるまた図 314(e) (f)は (c) (d)を見かけの抵抗値 RD = |VDID|として変換したものであるりいくつかの VG についてプロファイルをプロットしたこの RD は位置に伴う抵抗の積算値と考えることができるここで距離による抵抗の増加は明瞭には観察されなかったが一方でグレインBよりも一つグレイン境界を跨ぐグレイン Aで抵抗値が大きく増加しておりここからもグレイン内部よりも AndashB 間グレイン境界が OFET としての電気特性を大きく左右していることがよく分か

32 マルチグレイン有機薄膜の複数雰囲気中測定 35

0 1 2 3 4 5 6

RDgt

ї

VG=-1V

-5V

-2V

B

Electrode A

-3V

0

10

20

30

40

50R

Dgt

ї VG=0V

-1V

-2V-3V-5V

B A

Electrode

-1

-5

V Ggt9

+1

-5

V Ggt9

In air(a) (b)

(c) (d)

(e) (f)

In vacuum

Elec

trode

Elec

trode

10

0

I DgtQ$

4

0

I DgtQ$

図 314 同一グレインにおける (ace)大気中(bdf)真空中の PCI-AFM結果比較(a) (b)表面形状像(c) (d)表面形状像の実線に沿ったゲートバイアス依存の電流値マップ(e) (f)各ゲート電圧値に対する電流値より計算した見かけの抵抗値プロファイル左から右に進むに従い接触時の電極からの距離が遠くなる図中の A Bは図 312 313におけるグレイン A Bの領域に対応する

るAndashB間グレイン境界による特性への影響をより詳しく評価するために図 314のグレイン A

B上で平均した IDndashVG 特性を図 315(a)に示すFETの IDndashVG 特性は電流の立ち上がりがしきい値電圧 Vth に対応する図 315(a)を見ると大気中真空中共にグレイン Aの Vth がグレイン Bに対して負電圧にシフトしていることがわかるこのことは図 312および図 313で見られたようにグレイン毎に OFETの動作が ldquoONrdquoになることを再度示しているといえる一方傾きに対応する伝達コンダクタンス partID

partVDはグレイン A Bで大きな違いはなかった過去のペンタセン OFETに関

する研究においてもグレイン境界がしきい値電圧を負にシフトさせている報告があり [27 28]今回の測定も妥当な結果が得られていると考えられる一般的にしきい値電圧は深いトラップ準位一方しきい値電圧以降の伝導特性は浅いトラップ準位が影響するといわれている [54]このことを踏まえるとグレイン境界は深いトラップ準位リッチと考えられるグレイン境界とトラップの関係はこれまでも指摘されてきたものの [123]今回のように単一の特性のグレイン境界においてしきい値電圧シフトを直接観測したことは有機デバイスの電気特性と物性の相関を確かめる上で非常に有意な結果と考える

36 第 3章 AFM電流測定法を用いた有機グレインの局所電気特性評価

0

2

4

6

-4-2 0

I D [n

A]

VG [V]

AirAB

Vacuum

0

100

200

300

400

-20-15-10-5 0

I D [n

A]

VG [V]

AirVacuum

Vacuum

Air

(a) PCI-AFM (b) Reference OFET

図 315 (a)図 314で示したグレイン A B上で平均した大気中 (赤色)真空中 (緑色)の IDndashVG

特性菱型記号丸記号はそれぞれグレイン A Bの特性を表す(b)レファレンスとして作製したチャネル長 200 nmの OFETの IDndashVG 特性

一方雰囲気で比較すると真空中に比べて大気中では全体的に電流値の増加が見られるまたグレイン A の VG = minus1 V が顕著なようにしきい値電圧の若干の正シフトも見られるしかしこれら変化はどちらのグレイン上においても同等の影響となっているこのような電流値の増加は大気中の酸素の影響と考えられており [124ndash126]有機膜に取り込まれた酸素分子が正孔ドープを行うために抵抗が減少し同時にその正孔により若干のトラップ準位も埋めたことでしきい値電圧が正にシフトしたと考えられる電極対を用いたペンタセン OFETを作製し大気中真空中で伝達測定した結果においても同様の電流の増加としきい値電圧の正シフトが見られた (図 315(b))PCI-AFM で測定された OFET 構造では二つのグレインのみが関係するが電極対を用いた測定ではチャネル中に多数のグレインが存在するそれにも関わらず雰囲気による影響で同様の傾向が見られていることは大気中の酸素による影響はグレイン境界よりもグレイン内部や電極ndash有機界面に大きく影響を与えると考えられるこのように複数環境で PCI-AFMを用いられることは局所電気特性評価を行う上で非常に有用だということが示されたと考える

33 単一微小グレイン OFETの特性評価32節では真空動作化した PCI-AFMを用い真空中での PCI-AFM測定が実現されたことを確認したまたグレイン境界が与える OFETの電気特性への影響とグレイン境界が持つ物性について知見を得た一方でグレイン境界により電気特性が制限されていたためグレイン内部の電気特性についての知見は得られなかった本節ではグレイン内部の電気伝導に着目しPCI-AFM測定により単一のグレインの持つ電気特性を抽出評価することを目標とする

331 Point-by-point動作時間間隔の自由化32節の測定では JEOL製 AFMコントローラのMFMモードを利用した point-by-point動作を実現したしかしMFM モードの利用はソフトウェアの制限により最長で 10 ms のホールド時間しか確保できない電圧掃引時間を長くする積算回数を増やすといった測定のためには自由にホー

33 単一微小グレイン OFETの特性評価 37

Lift down

Lift up

Restart excitation

Trigger

Pre-lift Stop excitation

Mesh point

Restart

From controller

100 ms

350 ms

50 ms

200 ms

Measurement period Bias voltage

To controller

FG120 (FG1)excitation

AFG320 (FG3)

GP-IBGP-IB

GP-IB

図 316 PCI-AFM の point-by-point 動作時間間隔を自由に設定するために作成したプログラムのフローチャートFG1 FG3は図 310の FG1 FG3に対応する

ルド時間が設定できることが望まれるそのため研究室で製作された PXI4および FPGA5ベースの AFMコントローラを用いた point-by-point動作用セットアップを構築した図 316に point-by-

point動作のために作成した LabVIEW6プログラム (Externalプログラムと呼ぶ)のフローチャートを示す動作は以下の順序で実行される

1 (External外) AFMコントローラにおいて point-by-point動作点 (Mesh点と呼ぶ)に来た場合フィードバックモードからホールドモードにしプログラム的に Externalプログラムに信号を送る

2 励振停止指示を GP-IB接続した FG1に送る同時に探針を試料に若干近づける (Pre-lift)3 探針を試料に接触させる (Lift down)4 測定用バイアス出力指示を GP-IB接続した FG3に送る5 任意測定時間経過後探針を試料から離す (Lift up)6 励振再開指示を FG1に送る7 AFMコントローラにMesh点動作終了を通知する

AFM コントローラと External プログラムの間の信号伝達は LabVIEW のシェア変数により実現されているそのため完全に同期させた動作は困難であり各プロセス間に図中のとおりのウェイト時間を設けることで各プロセスを完了するように調整した

38 第 3章 AFM電流測定法を用いた有機グレインの局所電気特性評価

Electrode Pentacene grain

SiO2

[nm

]

30

0

50 nm(a)

(b)

[nA]

15

0

(d)

Tim

es

(c)

Electrod

e

0

100

200

0 100 2005HVLVWDQFHgtї

LVWDQFHgtQP

0

05

1

15

ampXUUHQWgtQ$

IA BII III

2 V0 V

iuml9iuml4 Viuml6 Viuml8 V

VG

A B

A B

図 317 ペンタセン微結晶上における PCI-AFM ライン測定結果(a) ペンタセン微結晶の表面形状像(b) (a)の AndashBラインに沿った PCI-AFM測定によって得られた位置および測定回数に対してプロットした電流マップ (VG = minus8 V)(c) (d)各 VG における電流値 (c)および抵抗値 (d)の電極からの距離依存性(c) (d)のプロファイルに対応する表面形状像および AndashBライン領域 I II IIIの位置を (c)のインセットに示す

332 ペンタセン微結晶上の PCI-AFMライン測定321節と同様に作製したペンタセン薄膜試料の表面形状像を図 317(a)に示す321で得られたペンタセン薄膜 (図 312(a))と比べ比較的平坦部分が増しまたグレインの縁が単結晶のように直線的になっている本試料は前節と異なり蒸着中の基板温度を常温から 45Cに上げており蒸着量を約 5 nmとした基板温度の影響はペンタセンのグレイン構造に大きく影響を与えることが指摘されており [122]図 317(a)のペンタセングレインは基板温度を上げたことにより比較的結晶性の良いグレインとなっていると考えられる続いて図 317(a)の AndashBラインに沿って各点 IDndashVG のPCI-AFM測定を行った電極に +3 V各点における基板へのバイアス印加を +5 Vから minus5 Vとすることで実効的に電極がソースカンチレバーがドレインとなるように動作させこのときのドレインバイアス (VD)は minus3 Vゲートバイアス (VG)は +2 Vから minus8 Vと換算できるPCI-AFM測定は同一ライン上を複数回取得した得られた VG = minus8 Vにおける電流プロファイルの測定回数依存を図 317(b)に示す電流マップの上から下にかけて測定回数が増えるが少なくとも 10ラインはほぼ同一の特性が得られていることが分かるよってこの間は探針の変化は小さくまた試料の電気特性変化も起きていないと考え以下の解析では 2ndash8ライン目の計 7ラインを平均した結果を

4 PCI eXtentions for Instrumentation5 Field-programmable gate array6 National Insturments社のグラフィカルプログラミング統合開発環境の名称

33 単一微小グレイン OFETの特性評価 39

Tip Mirror tip

V

Electrode

(a) (b)

VminusV

PE(r)

rArB

x

A(L0)B(-L0)

r

y

0

Tip

図 318 2D伝導の理論的検討(a)電界広がりを考慮した抵抗体内の電界の模式図(b)鏡像電位 minusV を用いて求める場合の模式図電位 V中心点 A(d 0)半径 rの Tip接触部に対して鏡像Tipを電位 minusV中心点 B(minusd 0)半径 r の円と定めることでx gt 0の範囲で (a)と同一の電界分布となる

用いたなお測定の後半では若干電流値の減少が見られておりこの領域では探針の摩耗といった特性変化の影響が考えられる

PCI-AFMで得られた電流プロファイルの VG 依存性を図 317(c)に示す図 317(c)のインセットに位置を対応させた表面形状像を表示しているまず電極端に対応する位置で電流値が最大となっている電極直上ではゲートバイアスによる電荷蓄積の影響が現れにくくほぼペンタセンの真性状態の特性しか現れていないと考えられるため電流値が減少したと考えられる次に電極からの距離が遠くなるに従い電流値の減少が見らるがグレイン内を通る距離が増える分抵抗が大きくなることと合致する最後に絶縁膜である SiO2 上では電流は検知されず漏れ電流やゲートバイアス掃引による影響は排除できていると考える電流プロファイルからはグレイン内で距離が増加するに従い電流が減少する傾向に明確な違いは見受けられないが図 317(d)のように R = |VDID|で変換した抵抗値のプロファイルを見ると傾向の違ういくつかの領域があることが分かる電極からの距離が近い順に領域 I II III と名付けると領域 I は電極端から非線形的に抵抗が増加している一方領域 IIは距離に対して線形に変化しており特に VG lt minus4 Vで顕著である領域 IIIは単調な変化をしていないが対応する表面形状から別のグレインが繋がったものと考え今回の評価からは除外する以下領域 I IIを含むペンタセングレインを微結晶と呼ぶ

333 抵抗の距離依存性の理論数値的検討前節では微結晶上の領域 I IIで異なる抵抗の距離依存性を確認できた本節では特に領域 IIに注目し微結晶本来の特性の抽出を検討する

理論的考察 抵抗率 ρの抵抗体の抵抗を考えるとき最も基本的な伝導は全ての電界が抵抗体内では平行に分布する場合であるX Y Z 方向にそれぞれ長さ L w t の直方体の X 方向の両端に電極を接続する場合の抵抗 Rは

R = ρLwt

(311)

のように電極間距離 L に対して線形に変化するこのような伝導を以下 1D 伝導と呼ぶしかし図 317(a)の表面形状像では微結晶が電極に接触している部分が多く図 318(a)のように電界が平行ではなく平面上を広がる可能性があるこのような伝導を 2D伝導と呼ぶ2D伝導における抵

40 第 3章 AFM電流測定法を用いた有機グレインの局所電気特性評価

抗を求めるため試料をシート抵抗 ρ厚さ 0の抵抗体と考えx = 0で y方向に無限に長い電位 0

の電極および点 A(L 0)を中心とする半径 r電位 V の円を接触している Tipと考え接触電流測定のモデルとする図 318(b)のように点 B(minusL 0)を中心とする半径 r電位 minusV の円を Tipの鏡像を考えるとx gt 0の範囲は求める電界分布と同一であるここで点 P(x y)の位置が点 A Bそれぞれからの位置ベクトル rA rB で表されるときTipおよび Tipの鏡像が作る点 Pにおける電界はそれぞれ定数 λを用いて

EA =λ

2πrA

|rA|2 EB =

minusλ2π

rB

|rB|2(312)

と表される7よって点 Pでの x方向の電界 Ex は

Ex(x y) =λ

[L minus x

(L minus x)2 + y2 minusL + x

(L + x)2 + y2

](313)

であるTipndash電極間に流れる電流を I とすると電極上 x = 0における電界から電流が

I =1ρ

int infin

minusinfinminusEx(0 y)dy

ρπ

int infin

minusinfin

LL2 + y2 dy

ρπ

int π2

minus π2dθ =

λ

ρ(314)

と表されることからλ = ρI と求まる一方Tipndash鏡像 Tip間の電位差は

2V = minusint Lminusr

minus(Lminusr)Ex(x 0)dx

= minusρI2π

int Lminusr

minus(Lminusr)

[1

L minus xminus 1

L + x

]dx

= minusρI2π[log(L minus x) minus log(L + x)

]Lminusrminus(Lminusr)

=ρI2π

log4L2 minus r2

r2 (315)

と表されるため2D伝導の抵抗 R2D は

R2D =ρ4π

log4L2 minus r2

r2 (316)

と求まるL - rのときR2D sim ρ2π log 2Lr となるため1D伝導とは異なり距離に対して対数的に変

化することが分かる過去の SPMを用いた報告として2つの探針を有する STMを用いてポリ 3-オクチルチオフェン

(poly(3-octylthiophene) P3OT) の薄膜の抵抗率を測定した結果がある [128]この報告では非常に広い薄膜を用いているため距離に対して対数的に変化する 2D伝導として記述できることから抵抗率を算出している一方で有機薄膜における探針電流測定において実効的なチャネル幅を見積もることで線形的な変化とみなす試みもなされている [129]しかし有限要素法による解析ではチャネルの存在が仮定されておらずバルク部での電界の広がりとチャネル領域との振る舞いの違いが懸念される

33 単一微小グレイン OFETの特性評価 41

Electrode

(buried)

Bulk (σbulk)

Channel (σch)

Contact area (Tip)

tbulk

L

Lmax

w

teltch

r

図 319 有限要素法による OFETモデルの電界シュミレーションに用いた試料モデル

表 32 有限要素法による OFETモデルの電界シュミレーションで用いたパラメータ印以外は実測に則した値を用いており印はモデル化のため仮定した

Parameter Description Value

tel 電極厚さ 5 nm

tbulk 有機膜厚さ 20 nm

tch チャネル層厚さ 1 nm

w 電極接触幅 100 nm

Lmax 微結晶最大長 100 nm

σch チャネル導電率 1 Sm

σbulk バルク部導電率 01 Sm

r 探針接触半径 5 nm 10 nm

数値的考察 理論的な考察を踏まえ実際の測定系に近いサイズで電界がどのように振る舞うか調べるために本研究でも有限要素法による電界シュミレーションを行った図 319に電界シュミレーションで用いた試料モデルの模式図を対応する用いた各種パラメータを表 32にそれぞれ示す各種パラメータは用いた電極および図 317(a)から求まる概算の実測値を用いている絶縁膜直上の 1分子層にほとんどの電荷が蓄積されることが知られているため [130]チャネル層の厚さは簡単に 1 nmとした図 320に電界シュミレーションで得られた電流密度マップを示すほとんどの電流は速やかにチャネル層に到達しておりまた電極接続幅全体に渡っていることが分かる特に電極端から 20 nm程度は平行にほぼ同じ電流密度で流れているこれは 2D伝導よりも 1D伝導に近いことを示唆する結果である図 321(a)に探針接触径 r = 5 nm 10 nmのときの抵抗距離依存性の計算結果を示すどちらの接触径においても距離に対してほぼ線形に変化していることが明瞭である接触径が 10 nm から 5 nm になることで距離 0 での抵抗がほぼ 2 倍となっている距離 0

7 2次元伝導の場合無限遠点の電位が 0とはならない [127]

42 第 3章 AFM電流測定法を用いた有機グレインの局所電気特性評価

(a)

r = 10 nm L = 80 nm

(b)

Tip

Electrode

50 nm

図 320 OFETモデルの電界シュミレーションで得られた電流密度マップr = 10 nmL = 80 nmのときの結果を示している

0

200

400

600

800

0 20 40 60 80 100

5HVLVWDQFHgt0ї

LgtQP

r = 10nm

r = 5nm

0

5

10

0 5 10

Appa

rent

ѫchgt6

P

5HDOѫchgt6P

FittingCalculation

(b)(a)

図 321 OFETモデルの電界シュミレーション結果(a) r = 5 nm 10 nmにおける抵抗の距離依存性(b) r = 10 nm におけるチャネル導電率を変化させたときの見かけの導電率の変化(a)の 30 nmndash80 nm 間の傾きを dRdL としたとき見かけの導電率は σprimech = (wtch

dRdL )minus1 で記述され

る値

のとき電流経路はほぼバルク部分のみであるため接触抵抗とみなすことができる一方傾きは接触径によりあまり変化していないことから実際の測定における接触径と異なるとしても距離依存性への影響は小さいと考えられるこのように距離に対して線形に変化することから微結晶上のPCI-AFM測定では 1D伝導とみなして評価できるといえる電極付近ではほとんどの電流がチャネル中を流れるとすると微小な距離増加 dLに対する微小な抵抗増加は dR = dL(σchwtch)と記述できるよって抵抗ndash距離依存性の計算結果における傾き ( dR

dL )からチャネル導電率は

σapparent =(wtch

dRdL

)minus1(317)

と計算される図 321(b)にチャネル導電率を変化させた際の計算結果における dRdL から算出した見

かけのチャネル導電率のプロット結果を示す実際のチャネル導電率がバルク導電率に近い場合見かけの導電率は大きく異なるがチャネル導電率がバルク導電率に比べて非常に大きいときは実

33 単一微小グレイン OFETの特性評価 43

0

2

4

6

8

10

12

-8-6-4-2 0 2

S gtQP

ї

VGgt9

ch

101

102

103

104

-8-6-4-2 0 2

WR

pgtNїAtildeFP

VGgt9

(a) Channel conductivity (b) Parasitic resistance

図 322 PCI-AFMにより得られた微結晶上の抵抗の距離依存性 (図 317(d))のうち領域 IIについて TLMで抽出した (a)チャネル導電率 S ch(b)寄生抵抗 Rp

際と見かけの導電率はかなり似通ってくるまた図 321(b)のプロットを線形フィッティングすると傾きは約 09となり dR

dL から計算されるチャネル導電率は実際の導電率とほぼ同等ということが分かった

微結晶のパラメータ抽出 以上の理論数値的検討よりPCI-AFM測定で得られた微結晶の領域IIにおける抵抗の距離依存性は 1次元伝導として解析可能だと結論づけたOFETとチャネル長との関係は非常に深くこれまで多くの研究において 4端子法 [41 53]や TLM [48 131ndash134]を用いた真の OFETチャネル伝導特性評価が試みられてきたこれら手法は OFETの特性に含まれる接触抵抗と OFET本来の特性とを分離するための手法でありOFET特性に由来する抵抗のチャネル長依存性が線形であることを利用しているTLMの方法を以下で説明するOFETの線形領域における特性より全抵抗 Rは

R = Rp +L

wCimicro(VG minus Vth)minus1 (318)

と記述できチャネル長 Lに対して線形に変化する但しチャネル幅 w単位面積あたりの絶縁膜容量 Ciしきい値電圧 Vth移動度 microであるチャネル長を変化させたデバイスを作製すると理想的には L以外のパラメータは一定なため距離依存の線形近似により移動度および切片から接触抵抗 Rp を求めることができるもしくは全抵抗の距離微分の逆数 (チャネル導電率)S ch が

S ch equiv(dR

dL

)minus1= wCimicro(VG minus Vth) (319)

のようにゲートバイアス VG に対して線形に変化することからしきい値電圧も抽出することができるこちらの手法を Gated-TLMと呼ぶこともある図 317(d)の領域 IIのうち電極からの距離 30 nmndash100 nm間についての線形近似で得られたチャネル導電率 S ch および寄生抵抗 Rp を図 322に示す寄生抵抗の影響を排除したにも関わらずチャネル導電率は式 (319)のように VG に対して線形に変化していないそのため移動度がゲートバイアス依存をもっていると解釈できるこのような移動度のゲートバイアス依存は有機層がエネルギーに対して指数的に分布するトラップ準位を有す場合に発現することが知られ半経験的な式

44 第 3章 AFM電流測定法を用いた有機グレインの局所電気特性評価

として次のような形が知られている [135 136]

micro = κ(VG minus Vth)α (320)

指数分布する局在準位と伝導に寄与する準位との間を行き来しながら電荷が通過することでチャネル内伝導が起こるとしたMultiple trapping and release (MTR)モデルではこの移動度のゲートバイアス依存性が解析的に導かれている [137]一方で指数分布するトラップ準位を考慮した電気伝導はアモルファスシリコン (a-Si)を用いた FETで記述された考え方であり [138]非常にトラップが多い系を対象とする式 (320)を考慮した移動度の抽出手順としてσch を 1(α + 1)乗 (α ge 0)しminus3 V le VG le minus8 Vの範囲に対して線形最小二乗法フィッティングを行いフィッティングの確実度(=回帰の平方和総平方和)が最も 1に近くなるような αを最適値とした最適フィッティングパラメータはα = 218でありこのとき Vth = 03 Vκ = 315 times 10minus6 cm2(V1+α middot s)となった過去の報告では αの値は 1程度かそれ以下であり [135 136]本研究で得られた値は大きく異なる一方MTRモデルを考えαをトラップ深さに対応するエネルギーに変換すると 80 meVとなる比較としてペンタセンを用いた OFETにおける活性化エネルギーとしては 20 meVndash40 meVが知られている [2953]またAFMポテンショメトリーを用いたペンタセングレイン内の電位測定からグレイン内部のバンドゆらぎが 20 meV 程度あることが指摘されている以上の結果もやはり本結果よりもエネルギーが小さい値である今回測定した微結晶においてこのようにトラップに対応するエネルギーがこれまでの報告に比べ大きい理由としては以下のことが考えられる第一にOFET

の移動度は有機ndash絶縁膜界面によって非常に影響を受けるということである絶縁膜 SiO2 の表面に塗布するバッファ層の種類により移動度が一桁以上変化する報告もあり [139]本研究では有機ndash絶縁膜界面が比較的トラップリッチだったことが考えられる第二に電極ndash有機界面部分の特性がTLMのみでは排除しきれていない可能性がある図 320の電界シミュレーション結果より電流密度が電極付近で非常に大きくなっていることが分かるそのためたとえ距離依存性からチャネルのみの特性を抽出していたとしても電極付近の特性が特に含まれている可能性がある電極付近は通常のチャネル部よりも活性化エネルギーの高さが指摘されていることからも [53]考慮にいれるべきであろう

334 電極近傍の電気伝導特性本節では図 317(c)の領域 Iに注目する領域 Iは電極からの距離がおよそ 25 nm以内であるがペンタセングレインの厚さが 20 nm程度ということを加味すると電流経路としてチャネルを通らずに探針ndash電極間で直接伝導するものも含まれうるこのとき探針ndash電極間直線距離 Ldirect に応じて増加する抵抗 Rdirect を考えると全体の電流は図 323(a) のように式 (318) で記述される OFET

の抵抗を経由する電流 IFET = VD(Rp + RFET)と直接伝導する電流 Idirect = VDRdirect の和となるただし図では式 (318)の右辺第二項を RFET としたここで図 317(c)における電流距離依存性をLminus1

direct に対する依存性に変換したものを図 323(b) に示すただし電極ndash探針間水平距離 L膜厚tbulk = 20 nmに対して Ldirect =

radicL2 + t2

bulk としたもし Idirect なる成分がない場合1Ldirect が増加しても IFET は VDRp で飽和するその傾向は図 323(b) の領域 II(距離減少に対して IFET 増加) および IIrsquo(IFET 飽和)にあらわれている一方領域 Iに対応する箇所では 1Ldirect に対して増加しておりこの増加する成分が Idirect に対応すると考えられるまた領域 Iの 1Ldirect に対する傾き

34 AFMによる接触電流測定の問題点 45

0

05

1

0 002 004

Cur

rent

[nA]

1Ldirect [1nm]

2 V0 Vndash2 Vndash4 V

ndash6 V

ndash8 VVG

III IIrsquo

Rp

RFET

RdirectIdirect

IFET

Tip

Electrode

(a) (b)

IFET

Idirect

図 323 (a) チャネルを通る伝導 (電流 IFET) に加えて電極近傍における探針ndash電極間直接伝導(電流 Idirect) を考慮した回路モデル(b) 図 317(c) の電流を探針ndash電極間直線距離 Ldirect の逆数1Ldirect に対してプロットしたグラフ領域 I と領域 II (IIrsquo 含む) はそれぞれ図 317(c) のインセットにおける領域 I IIに対応する

VG VD

Cantilever(source)

GrainCarrier

Electrode(drain)

VG ndash VD ndashVD

Cantilever(drain)

Grain

GateCarrier

Electrode(source)

(a) Cantilever-Source (b) Cantilever-Drain

Gate

図 324 カンチレバーのソース動作 (a)ドレイン動作 (b)の模式図とキャリア (正孔)の動きドレイン動作時は固定電極に minusVDゲートに VG minus VD を加える事で(a)とバイアス条件を同じにしながらカンチレバーの接続を変えることなくドレイン動作させることができる

つまり直接伝導の抵抗率は VG 依存性を持っておりVG lt minus4 Vの領域で比較的一定であるIdirect

の電流成分はチャネル部を通過していないのにも関わらずこのような抵抗変調が起きる原因として電極を覆うグレインの存在が考えられる本試料のように電極をゲート絶縁膜直上に形成後有機薄膜を作製するボトムコンタクト型 OFETにおいて電極直上のドーピングによる効果が観測されている [140]これは電極直上の薄膜部分も伝導に関与していることを示しておりVG の印加によるキャリア変調も起こる可能性があるつまり図 323(b)の領域 Iで見られた抵抗率の VG 依存性は電極直上の薄膜の存在が接触抵抗を減少させうることを示唆する結果といえる

34 AFMによる接触電流測定の問題点32節では PCI-AFMの電流マッピングを活用し単一グレインを挟んだ際の OFET特性変化を

33節では PCI-AFMの位置依存性評価を推し進め微結晶のナノスケール TLM評価に適用することで微結晶のみの伝導特性を抽出できた一方ナノスケール TLMでは図 322(b)のように寄生抵抗も抽出でき従来の TLMではこの成分を接触抵抗とするがAFM電流測定では電極ndashグレイン界面の接触抵抗 (電極接触抵抗)だけでなく探針ndashグレイン界面の接触抵抗 (探針接触抵抗)も含む近似的に接触面積が接触抵抗に影響すると考えると探針接触抵抗の方が大きいということが予期

46 第 3章 AFM電流測定法を用いた有機グレインの局所電気特性評価

0

10

20

30

40

-5-4-3-2-1 0C

urre

nt [n

A]VD [V]

VG

ndash10 Vndash5 V

0 V

ndash15 V

-40

-30

-20

-10

0-5-4-3-2-1 0

Cur

rent

[nA]

VD [V]

VG

ndash10 V

ndash5 V

0 V

ndash15 V

Electrode

Pentacenegrain

(a) Topography (b) Cantilever-source (c) Cantilever-drain

Contactingpoint

図 325 カンチレバーをペンタセングレイン (表面形状像 (a) の x 点) に接触させて測定したVDndashID 特性(b)カンチレバーのソース動作時(c)ドレイン動作時

されるここで探針接触抵抗と電極接触抵抗の均衡性について議論するためカンチレバーをソース動作させた際とドレイン動作させた際の特性変化を調べた (図 324)セットアップの都合上カンチレバーには電圧を印加できないため固定電極に minusVDゲートに VG minusVD を印加することで実効的にカンチレバーを OFETのドレインつまりキャリア (正孔)の引き抜き側として動作させた図 325(a)の x点で示すペンタセングレイン上の 1点にカンチレバーを接触させカンチレバーをソースドレイン動作させVG = 0 V minus5 V minus10 V minus15 Vについて IDndashVD 特性を測定した結果をそれぞれ図 325(b) (c)に示す結果よりカンチレバーのソース動作時はドレイン動作時に比べて電流が半分程度となったOFETの接触抵抗はドレイン電極端よりもソース電極端の方が大きいことが知られている [141]そのため探針接触抵抗が電極接触抵抗に比べて支配的であることでこのようにカンチレバーのソースドレイン動作による非対称性が現れたと考えられるこのことはナノスケール TLM で抽出された寄生抵抗の大部分が探針接触抵抗によるものであることを示しておりAFM電流測定を用いた電極接触抵抗評価は困難であると考えられる

35 本章のまとめ本章では PCI-AFM を用いた OFET の局所電気特性評価について検証および測定を行ったまず従来手法では困難であった真空中動作を Q 値制御法の利用により実現し効率的な動作パラメータ設定と柔軟な point-by-point 動作設定が可能な制御プログラムの作成を通したフレキシブルな PCI-AFMシステムを構築したペンタセンのマルチグレイン薄膜上の測定から雰囲気による特性変化がグレイン内部で起こることを示したまた単一グレイン境界によるしきい値電圧変化を電流像として可視化できPCI-AFMが位置依存での電気特性評価に有効であることが示された一方単一グレイン上での測定では数値計算から TLM による距離依存性評価が可能であるとわかり単一グレイン上で 100 nm以下のスケールでの TLMを達成したしかしTLMから求まった寄生抵抗には電極ndashグレイン界面の接触抵抗以外に探針ndashグレイン間の抵抗が含まれてしまい探針のソースドレイン電極動作結果から探針ndashグレイン間抵抗が支配的であることが分かった以上のことはPCI-AFMによる OFET評価はグレインndashグレイン間やグレイン内の ldquo比較rdquoがあれば定量的評価が可能であるが比較をとることのできない電極ndashグレイン界面の電気特性評価には向かないことを示している

47

第 4章

新規局所インピーダンス評価法の開発と金属―有機界面物性の評価

3章では PCI-AFMを用いた OFETのナノスケール TLMを行い単一グレイン境界や単一グレイン内伝導の分離評価を達成した一方電極ndashグレイン界面については探針接触抵抗の影響が大きいため評価が困難であることが明らかとなった局所電気特性のうち未達成である電極ndashグレイン界面電気特性の評価のため次の二点に注目する一点目として2章で述べた EFMをベースとする非接触測定により接触抵抗の影響を回避する二点目としてIndashV 測定のような直流評価に留まらず複数物性評価を通したより詳細な物性議論を行うことであるこれはインピーダンス分光や容量ndash電圧測定のようなマクロ薄膜での評価法の AFM応用やKFMによる準位評価 [142 143]を併用することで可能となることが期待されるよって本章では電極ndashグレイン界面の電気特性の選択的評価を行うための新規局所インピーダンス評価法を開発し界面電気特性の由来となる物性の解明を目的とする

41 走査インピーダンス顕微鏡 (SIM)

本研究の目指す AFM を用いた局所インピーダンス評価応用としてはこれまでに走査インピーダンス顕微鏡 (Scanning impedance microscopy SIM) という手法が開発されているSIM はPennsylvania大の Kalinin Bonnellによって 2001年に開発された AFMの応用手法であり試料の水平方向の局所インピーダンスを検出できる [144]SIMの基本的な装置構成を図 41に示すSIM

は AM-AFMの Liftモードで動作する先に AM-AFMにより表面形状像を取得しそのプロファイルに沿って試料より一定距離高いところを走査する試料としては水平方向に材料 A Bが接続もしくは同じ材料でも垂直方向に defect が存在する系を考えるこの材料 A B の間に角周波数 ωの交流電圧を加える表面電位 Vsurf は

Vsurf = Vs + Vac cos(ωt + φc) (41)

と記述できる但しVs は試料表面の直流電位Vac および φc は交流電位の振幅および位相であるこの交流電圧による静電気力 F(t) = F1ω cos(ωt + φc)は

F1ω =partC(z)partz

(Vtip minus Vs)Vac (42)

48 第 4章 新規局所インピーダンス評価法の開発と金属―有機界面物性の評価

LDPSPD

ω

Reference

Sample

Local impedance

A B

Lock-in amp

Amplitude amp Phase

図 41 走査インピーダンス顕微鏡 (SIM)の装置構成図

のように交流電圧の振幅に比例し同じ位相となる静電気力によりカンチレバーも振動を生じるが振幅は F1ω に比例し位相は振動特性による位相差 φを含む φc + φとなるこのときAndashB境界部分にインピーダンスが存在するとA Bでの交流電圧に位相差 φBA が起きるこれによりカンチレバーに生ずる振動の位相はA上で φc + φB上で φc + φ + φBA となるためその位相差が直接 AndashB間交流電圧の位相差として検出できる2002年の報告では界面インピーダンスがより厳密にモデル化できる金属ndashSi ショットキー界面を用いている [145]ショットキー界面の抵抗ndash容量(RC)並列回路によるインピーダンスを Zd とし回路の両端に定抵抗 Rを挿入すると位相差は電流に関わらず

tan(φBA) =Im( R

Zd+R )

Re( RZd+R )

(43)

と求まるためカンチレバーから検出した位相差とショットキー界面の理論式からショットキー界面の抵抗容量を算出している以降SIMの基本的な技術は同じにしつつ非線形応答 [146]や走査ゲート顕微鏡を組み合わせることで CNTの欠陥の可視化 [147]CNTネットワークの電気特性 [148]といった様々な試料の面内方向に関する電気的な局所物性の評価に用いられてきたしかしLiftモードでの測定で試料表面より 100 nmという非常に離れたところで静電気力を測定しているため空間的な分解能はそれよりも大きいものとなってしまうまた直流電位を測定する別の手法と組み合わせることで詳細な評価を行なっているが完全に同位置の測定ができないこと元々試料に高電位がかかっている場合に SIMの測定中は打ち消せないことなどの問題が内在しているSIMを OFETの局所物性評価に応用する場合まずグレインが 1 microm以下の微小なものであることや比較的高いバイアスオフセットがかかるといった以上で述べた問題に関わる上に真の物性測定のためには真空中での測定が不可欠であるSIMでは振幅変化を捉えるため真空中での測定は問題となる可能性がある

42 周波数変調走査インピーダンス顕微鏡 (FM-SIM)の開発本研究では従来の SIMのコンセプトを踏襲しOFETの評価に適した新規手法である周波数変調走査インピーダンス顕微鏡 (Frequency-modulation SIM FM-SIM)を提案する従来の SIMの問題点である真空中評価に関しては FM検出方式の導入により改善され同時に Liftモードを用いるこ

42 周波数変調走査インピーダンス顕微鏡 (FM-SIM)の開発 49

FM-SIM

FM-AFMTopography

(height control)

FM-KFMLocal potential

(bias oset)

FM-EFM

SIM

Local AC signal

Lateral AC bias

図 42 周波数変調インピーダンス顕微鏡 (FM-SIM)に含まれる既存技術の概要図

Lock-in amp

Lock-in amp

Bias feedbackSelf-excitationblock

Frequencydetection

Heightfeedback

Scanner

LDPSPD

Sample AC

Tip AC

InsulatorGate

Grain

Electrode

Topography

FM-SIM signal

Local potential

図 43 FM-SIM 測定における基本装置構成図図中の灰色の要素が FM-AFM紫色の要素がKFMそして橙色の要素が FM-SIMの技術に対応する

となく静電気力の検出が可能となるさらに FM-KFM を組み合わせることで直流電位の影響を排除でき表面形状直流電位と同時に交流電圧による局所的な応答を取得することができるようになる図 42に FM-SIMに含まれる SIMや既存技術の関係を示す

421 FM-SIMの原理FM-SIM測定における基本的な装置構成を図 43に示す本研究ではまず金属ndash有機グレイン境界における局所インピーダンス評価を対象とするまず 244節の説明と同様にFM-AFMによるカンチレバーの共振周波数での励振および共振周波数シフト (∆f dc)の変化を一定にするような高さ制御により表面形状像を得る次にVt = Vdc

t + Vact cosωtt なるバイアスをカンチレバーに加え

る但しVdct は FM-KFMにより探針ndash試料間電位差を打ち消すための制御電圧である同時に試

料上の電極に交流電圧 Vacs cosωstを加える局所的な電位がVlo = Vdc

lo + Vaclo cos(ωst + φlo)と記述

50 第 4章 新規局所インピーダンス評価法の開発と金属―有機界面物性の評価

できるときカンチレバーが感じる静電気力は次の FES で与えられる

FES =12partCts

partz[Vdc

lo + Vdct + Vac

t cosωtt + Vaclo cos(ωst + φlo)

]2 (44)

ここでzCts はそれぞれ探針ndash試料間の距離および容量であるFES にはいくつかの周波数成分があり以下の 7つの成分に書き下される

DC FdcES =

12partCts

partz

(Vdc

lo + Vdct +

12

Vaclo +

12

Vact

)2

ωt F tES =

12partCts

partz(Vdc

lo + Vdct )Vac

t cosωtt

ωs FsES =

12partCts

partz(Vdc

lo + Vdcs )Vac

lo cos(ωst + φlo)

2ωt F2tES =

14partCts

partz(Vac

t )2 cos 2ωtt

2ωs F2sES =

14partCts

partz(Vac

lo )2 cos(2ωst + 2φlo)

ωt plusmn ωs F tplusmnsES =

12partCts

partzVac

t Vaclo cos

[(ωt plusmn ωs)t plusmn φlo

](複号同順) (45)

ここでF tES により生じる周波数変調成分 ∆f t をロックインアンプ (Lock-in amplifier LIA)で検出

しその振幅成分が 0となるようフィードバック回路により直流電圧 Vdct を制御するこのような

FM-KFM動作により表面 (直流)電位 Vdclo = minusVdc

t が測定されるこれら FM-AFM FM-KFMが動作している状態で試料の交流電圧の振幅位相成分を測定することを考えるまず上記のように Vdc

t を設定することでωs 成分である FsES が同様に 0となるこ

とが分かるためωs 成分を用いて評価することはできない残る成分のうちVaclo および φlo が含ま

れている成分は F2tES Ftplusmns の 3つであるしかし2ωs 成分である F2s

ES から定量評価するには測定した振幅に対し二乗根を取る必要がありSNの低下が懸念される一方F tplusmns

ES は試料の交流電圧に比例するためF tplusmns

ES により生じたカンチレバーの周波数変調信号 ∆f tplusmns も Vaclo に比例した振幅およ

び φloと一致する位相をもつよって ∆f の ωtplusmnωs成分を測定することでより単純に試料の交流電圧を測定できると考えられるここで特にカンチレバーの周波数変調信号の和周波成分を「FM-SIM

信号」と呼ぶ以下の議論では簡単のため試料上の交流信号と FM-SIM信号はフェーザ形式を用いて表しそれぞれ Vx∆fx の記号を用いるただし交流信号は実振幅 Vac

x と位相 φx を用いてVx = Vac

x ejφx と書き下しFM-SIM信号は複素比例係数 αを用いて ∆fx = αVx と表すαは探針ndash試料間距離が同じで∆f dcや振動振幅を同一条件にしている限り測定内では一定とみなせるまたx

は試料上のある場所を表す suffixでありx = el(電極上) lo(有機膜上) g(ゲートゲート絶縁膜上)

とする

実際の装置構成 421節では基本的な装置構成に基づいて局所交流信号を得る方法を説明したしかし実際の測定では複数の装置や設定項目を用いているためそれらについてここでまとめておく図 44に OFET上で FM-SIM測定を行う場合の実際の装置構成および配線図を示すただし図 41における自励発振系FM-AFM部分については省略したAFMコントローラは 33節と同じく PXIベースの自家製コントローラを使用し自励発振系周波数検出器 (PLL)Bias feedback

および加算器 (Adder) は研究室で作成された自家製回路であるLIA として Zurich Instruments 製HF2LI-MF (以下 ZI-LIA)エヌエフ回路設計ブロック製 LI5640 (以下 NF-LIA)を用いたまた以

42 周波数変調走査インピーダンス顕微鏡 (FM-SIM)の開発 51

AFM controller(data in)

Lock-in amp(ZI-LIA)

Osc 1

In 1 In 2 Out

Osc 2

fs ft

Lock-in amp(NF-LIA)

Ref OutIn

Frequency detection(PLL)

InsulatorGate

AC elOpposite el

Deection Biasfeedback

VG

IAC

IDC

RG

RacRopp

VDS

el = electrode

LPF

図 44 FM-SIM測定における実際の装置構成および配線の詳細図

後 FM-SIMによる全ての測定は真空度 1 times 10minus3 Pa以下の高真空中で行ったその他の構成設定は以下のとおりである

用語定義 交流バイアス印加電極 AC 電極 (AC el ldquoacrdquo)印加していない方の電極 対向電極(Opposite el ldquoopprdquo)とする

DCバイアス ゲート (Si基板)に VG をAC電極に VD(ドレイン動作の場合)VS(ソース動作の場合)を印加

KFM変調 ZI-LIA(Osc2)より振幅 Vact = 2 Vp-p周波数 ft = 1 kHzで変調

KFM検出 NF-LIAによりPLLからの出力 (∆f )に対してZI-LIA(Osc2)の信号を Referenceとして in-phaseを検出その信号を Bias feedback回路へ

FM-SIM変調 ZI-LIA(Osc1)よりAC電極に振幅 Vacs = 1 Vp-p周波数 fs(測定により異なる)の交

流電圧を印加FM-SIM検出 ZI-LIAにより∆f に対して ft + fs 成分の振幅 (R)位相 (φ)を検出しAFMコン

トローラで画像化電流 対向電極から流れる電流を Femto製電流アンプ DLPCA-200により検出直流成分 (IDC)は

LPF(lt 1 Hz) に通した信号を交流成分 (IAC) は ZI-LIA により fs 成分の振幅位相を検出しそれぞれ AFMコントローラで取得

実験によって電流を取得していないなどの違いが若干あるが測定時している場合の構成は基本的に上述のとおりである以下に特記事項について述べる

ロックインアンプ設定 FM-SIM測定のためにはft + fs という和周波の Lock-in検出が必要となるよりフレキシブルな測定のため本研究では Zurich instruments 社の HF2LI-MF(以下 ZI-LIA)

52 第 4章 新規局所インピーダンス評価法の開発と金属―有機界面物性の評価

を用いたZI-LIA上で和周波を Lock-in検出する方法として以下の 3方式について順に検討した

1 ZI-LIAの PID機能を用いて和周波数を作成し検出2 Reference周波数として直接 ft + fs を入力し検出3 ft fs をそれぞれ fbase の m倍波n倍波として出力し fbase の (m + n)倍波を検出

1は fs を中心とし入力 ft に対してゲイン minus1の周波数フィードバックをすることで ft + fs が作成できるしかしこの 1と 2の方式は fs と ft + fs との間に同期が取れている保証がない特に画像取得など長時間要する場合は測定の初めと終わりで位相のオフセットが変化してしまう例として1 kHzに対して 1 times 10minus3 Hzのズレ (つまりビート)が存在する場合1分あたり元信号に対して約 20 変化してしまう一方3の方式はZI-LIA上からどちらの周波数信号も出力すれば ZI-LIA

内で確実に同期が取れていることから同一条件であれば位相オフセットは同じとなるよって以降の FM-SIM 測定では 3 の方式を用い設定周波数はベース周波数 (例 200 Hz ) および倍波指定(例 4倍波)に対して ldquo800 Hz(200 Hz times 4)rdquoのように示すこととするまた図 44の ZI-LIA In 1についてPLLからの出力は minus5 V付近なのに対しZI-LIAは plusmn1 V

の範囲でしか入力できない一方ZI-LIAの入力を AC couplingにすると 1 kHz以下の信号にフィルタがかかってしまい振幅の減少と位相変化が生じるよって本研究では入力段に 100 nF のキャパシタを直列に挿入することでカットオフ周波数が 10 Hz以下の HPFとした

回路抵抗 本研究では図 44 のとおりOFET の電極ゲートとの接続部分に直列に抵抗を挿入した理由として(1) 従来の SIM [147] で厳密にインピーダンス解析を行う場合にも挿入しているため(2)対向電極の FM-SIM信号がほぼ 0な場合に LIAで位相検出が困難になることを防ぐためである(2) については対向電極上のデータが最終的に不要となる場合もあるが画像化を重視し基本的に抵抗を挿入することとする特記がない場合以下の実験では Rac = RG = 10 kΩ

Ropp = 1 MΩを使用した

422 OFETにおける FM-SIM応答の妥当性3章と同様の方法で作製したペンタセン薄膜に対しFM-SIM測定した下部電極を AC電極およびソース電極として交流電圧 ( fs = 800 Hz)と +1 Vの直流電圧を印加し上部電極は接地ゲートに +2 V印加しながら FM-SIM測定し表面形状表面電位像と同時に FM-SIM信号の振幅位相を取得しマッピングした結果を図 45に示す図 45(a)(b)に関しては FM-KFMと同様の測定でありグレイン形状に対応した電位分布が現れていることからFM-SIMと同時に KFMを動作可能であることがよくわかるFM-SIM 振幅像は AC 電極付近だけ非常に明るくなっておりAC

電極から離れたグレインや対向電極絶縁膜上はほぼ同じ信号強度であったFM-SIM位相像ではAC電極付近から離れるにつれて位相が正にシフトしており対向電極上は AC電極に比べて約 60

の違いが生じたここでAC 電極は直接交流電圧を印加しているため抵抗を介してはいるものの位相はほぼ印加電圧のそれと同じつまり理論上は 0 となるはずであるしかし図 45(d) から実際に測定された AC電極上の位相は 1264 であり大きく異なるこれは421節で用いた比例定数 αが実数ではないことに対応し周波数検波の PLLやカンチレバーの応答その他複数の要因により位相オフセットが生じていると考えられるしかし前述のように印加交流電圧の周波

42 周波数変調走査インピーダンス顕微鏡 (FM-SIM)の開発 53

04 V 16 V

5 mV 15 mV -150ordm -60ordm

(a) Topo

(c) SIM-amplitude

(b) Potential

(d) SIM-phase

(e)

(f)

0

20

40

0 200 400 600 800

-140

-120

-100

-80

SIM

-Am

pl [

mV]

SIM

-Pha

se [d

eg]

Distance [nm]

ElGr 1 Ins

0

20

40

0 100 200 300

-140

-120

-100

-80

SIM

-Am

pl [

mV] SIM

-Pha

se [d

eg]

Distance [nm]

El Gr 2

150 nm

A1

A2

B1

A1 B1

A2 B2

B2

AC el (+1 V)

GNDVG = +2 V

図 45 ペンタセン薄膜上の FM-SIM測定結果 ( fs = 800 Hz VG = +2 V)(a)表面形状像(b)表面電位像(c) FM-SIM振幅像(d) FM-SIM位相像(e) (f)それぞれ (a)の A1ndashB1A2ndashB2 ラインに沿った FM-SIM振幅位相プロファイルldquoElrdquo は電極ldquoInsrdquoは絶縁膜上の領域を示す

数を倍波設定で行なっているためオフセット値は常に一定であるよって以後の測定結果ではFM-SIM 位相の絶対値には意味を考えずAC 電極上の FM-SIM 位相が 0 となるように像全体からオフセットを差し引いた値を解析に用いることとする図 45(a)の A1ndashB1 および A2ndashB2 ラインに沿った FM-SIM信号のプロファイルを図 45(e) (f)に示すAC電極 (El)より左 (Gr1)では電極からの距離が遠くなるに従い徐々に強度が減衰しており最終的に絶縁膜上 (Ins)と同等の強度であるまた位相は距離と共に線形に正シフトしている一方 A2ndashB2 ライン上の Gr2では 10ndash20 mV

と絶縁膜上よりも強度が大きく位相も電極上と大きな違いはなくGr2 上ではほぼ一定であるOFET構造において FM-SIM測定を行い以上のように得られる結果が何に由来しているかについて(1)絶縁膜対向電極上の応答(2)有機膜上の応答の二項に分けて議論する

1 FM-SIM応答に則す回路モデル 図 45の測定と同時に取得した対向電極での交流電流 IAC は693 nArmsang616 であった対向電極は GND との間に Ropp = 1 MΩ を挿入しているため対向電極上の交流電圧の位相は IAC と同じはずであるが前述の位相オフセットのためズレが生じている一方 AC電極と対向電極との FM-SIM位相差が約 60 であることと交流電流の位相が良い一致を示しているため測定された交流電流は正しく OFET回路における応答を反映したものと考えられる交流電圧に対する対向電極への信号の伝わり方として(i) AC電極ndashゲート間およびゲートndash対向電極間の容量を介した伝導(ii) AC電極ndash有機膜ndash対向電極という経路の伝導の二通りが考えられるしかしゲートバイアスを印加 (VG = minus4 V)して同様の測定を行うと 696 nArmsang614 という交流電流が得られる一方で後の測定で見られるように FM-SIM像が大きく変化するこれは有機膜

54 第 4章 新規局所インピーダンス評価法の開発と金属―有機界面物性の評価

GateInsulator

Rac Ropp

RG

C1 C2

Vac~

VG~

IG~

Iopp~

V0~

Vopp~

図 46 FM-SIM応答を考える上でゲート容量を介した伝導を考慮したマクロ回路モデル

表 41 マクロ回路モデルから計算された各位置における交流電圧および交流電流の計算値および FM-SIMから測定された実測値

計算値 実測値 (FM-SIM信号)

AC電極 VacV0 094ang minus 111 (1ang0)

ゲート VGV0 020ang669 018ang479 (絶縁膜上)

対向電極 VoppV0 020ang695 022ang637

IG 99 microAang669 NA

が OFET構造全体における交流電圧応答に関与していないことの現れであると考えられるため(ii)

による寄与は非常に小さいといえる(i)による寄与を回路モデル化すると図 46のように表されるAC電極対向電極ゲートそれぞれへの経路上の抵抗を Rac Ropp RG とおきAC電極対向電極とゲート間の容量を C1 = C2 = C とするAC 電極から角周波数 ω の電圧 V0 を入力しAC 電極上対向電極上ゲート上の複素電圧がそれぞれ Vac Vopp VG に決まる例えばVopp は

Vopp

V0=[1 minus 1

(ωC)2RGRopp+ Rac

( 1Ropp

+1

RG

)minus j

1ωC

( 2Ropp

+1

RG+

Rac

RGRopp

)]minus1(46)

のように与えられるここでRac = RG = 10 kΩ Ropp = 1 MΩ∣∣∣V0∣∣∣ = 1 Vp-pω = 2πtimes800 Hzのとき

に測定された対向電極での電流 Iopp の絶対値 69 nArms と一致するように C を求めるとC = 43 nF

となるこの値を用いて各位置における電圧および電流を求めた結果と図 45から求めた対応する FM-SIM信号の値を表 41にまとめたまず Vopp の振幅は計算値と実測値比較的よい一致を示しているまた絶縁膜上の信号はゲート上の計算値と比較的近い値であり絶縁膜上で測定されるFM-SIM信号はゲート由来のものであると推察される一方Vopp の位相は 10 程度異なる計算では全ての抵抗を既知としたがゲートが高ドープ Siであることによる酸化膜の影響や配線に用いた銀ペーストの影響によりRG に抵抗や容量が含まれている可能性があるこれらの影響で実際には理想的なモデルからは位相がずれてしまったと考えられるただ全体としては図 46の回路モデルは FM-SIM信号をよく表しており対向電極上の応答は (i)で決定されると考えられるつまり対向電極の応答はマクロ回路部で決定されるため有機膜ndash対向電極界面の FM-SIM信号変化はあまり意味を持たないよって FM-SIMを用いて有機ndash電極界面の物性議論を行うためには評価対象の電極を AC電極とすることに留意しなくてはならない次にAC電極ndashゲートに流れる電流は約 10 microAと対向電極の電流に比べて非常に大きいため対向電極の存在は交流電圧の振る舞い

42 周波数変調走査インピーダンス顕微鏡 (FM-SIM)の開発 55

にほとんど影響を与えていないといえるまた先述のとおりゲートバイアス印加による FM-SIM

像の変化があったとしても元々の AC電極ndashゲート間交流電流が大きいためVel や VG はほとんど変化しないよってこれら電圧は同一周波数同一サンプルではほぼ一定とみなすことができるこの事実は後の節で局所インピーダンス解析を行う上で局所領域とマクロ部分を分離して考えることのできる理由付けとなる

2 有機膜上の応答要因 図 45(e)の Gr1上の応答について考察するまずFM-SIM信号の振幅が速やかに減少しているため分布定数回路での記述が考えられる単位距離あたりの抵抗容量をそれぞれ r cとすると位置 xにおける複素電位 v(x)は微分方程式

d2vdx2 = jωcrv(x) (47)

を満たすため解は定数 κ =radicωcr2を用いて

v(x) = v(0)eminusκxeminusjκx (48)

と求まる距離が遠くなるに従い指数関数的に振幅が減少するが同時に位相が 1次関数的に減少(負シフト)することが分かるしかし図 45(e)では FM-SIM位相は正にシフトしているため分布定数による振幅の減衰ではないと判断できるここでGr1上が収束していく値と絶縁膜上の応答が比較的近いことから実際の Gr1 上の応答にゲートの応答がカップルしていることが考えられる図 47 に図 45(e) の Gr1 上およびゲート (絶縁膜) 上の FM-SIM 信号の極座標プロットを示すただし先述の議論に基づき AC電極上の位相が 0になるよう位相オフセットを施した確かに Gr1上の信号は最終的にゲート上の信号と一致するが収束するまでの値は AC電極上とゲート上の信号を結ぶ直線上にほぼ乗っているそのためGr1自体の応答の減衰に従いゲート上の応答が支配的になることで図 45の Gr1のような応答が得られたのだと考えられる一方Gr2は内部でほぼ一定でありGr1のような強度の減衰に伴うゲート応答のカップリングは見られないこの場合は AC電極から伝わった膜自体の交流電圧がそのまま応答として得られているといえるしかしAC電極とは振幅位相が若干異なりAC電極と Gr2の間に電気的な阻害要因つまり局所インピーダンスが存在すると考えられる後の議論で有機膜上の応答を検証する場合Gr1のようになだらかに変化する応答ではなくGr2のようにある程度一定の振幅位相の値をもちゲートからの応答が直接カップルしていない領域を対象とする

423 局所インピーダンスの解析422節では交流電流や回路モデルの観点からFM-SIMが AC電極対向電極そして有機膜上の交流電圧に対応する応答を測定していることを確かめた一方で有機膜上のインピーダンス変化に比べてマクロ回路の交流電流が非常に大きいため交流電流や回路モデルから局所インピーダンスの評価を行うのは困難であるしかしVel VG は同一条件内でほとんど変化しないことFM-SIM

測定中に同時に得られることからこれら信号をレファレンスとして利用できる可能性がある以下ではこれに基づいたインピーダンス解析法を提案し理想的な周波数特性を計算そして実際の FM-SIM測定から局所インピーダンスを得るプロセスを順に述べる

56 第 4章 新規局所インピーダンス評価法の開発と金属―有機界面物性の評価

-20

0

20

0 20 40

SIM

(im

ag)

[mV

]SIM(real) [mV]

On ins

On Gr1

Distant from El

ElGate

図 47 図 45(e)の A1ndashB1 ラインに沿った FM-SIM信号のうちGr1上および絶縁膜上 (Ins)それぞれについて極座標プロットした結果ただしAC電極上 (El)の位相が 0となるように位相オフセットを施した

Gate

FilmElectrode

Insulator

図 48 FM-SIM信号から局所インピーダンスへ変換するための等価回路モデル

局所インピーダンスへの変換 試料上に Lateralなインピーダンスが存在すると局所交流電圧が変化しFM-SIM 信号の変化から試料上の Lateral な局所インピーダンスの存在について議論はできるしかし局所インピーダンスを定量的に評価することはできないそこで図 48 のような等価回路を考える電極ndash有機膜界面のインピーダンスを Zlo とし有機膜下の実行的なゲート絶縁膜容量を Ci とする有機膜内のインピーダンスが電極ndash有機界面のインピーダンスに比べて十分小さく膜内の交流信号がほぼ一定と仮定できる場合図 48 の等価回路が成り立つまず測定したFM-SIM信号に対し正規化 FM-SIM信号 γを

γ equiv ∆flo minus ∆fg∆fel minus ∆fg

=Vlo minus Vg

Vel minus Vg(49)

のように定義するすると等価回路より γ は界面インピーダンスと実効容量インピーダンスによる複素電圧の内分と同等つまり

γ =1(jωsCi)

Zlo + 1(jωsCi)=

11 + jωsCiZlo

(410)

と記述できることが分かるつまり式 (410)により FM-SIM信号と界面インピーダンスを一対一に対応させることができる

理想周波数応答 インピーダンス分光ではインピーダンスの周波数依存性を複素平面表示したColendashColeプロットから系の等価回路を推定可能である本研究でも正規化 FM-SIM信号の周波数応答と界面インピーダンスとの関係について考察する式 (410)より様々な Zlo を仮定すること

42 周波数変調走査インピーダンス顕微鏡 (FM-SIM)の開発 57

2πCiRlo = 10 ms

CloCi = 2

(a) Amplitude

(c) Amplitude (d) Phase

(b) Phase

ќDP

SOLWXGH

0

02

04

06

08

1

10 100 1000)UHTXHQFgt+]

CloCi = infin

2

1

05

ќDP

SOLWXGH

0

02

04

06

08

1

10 100 1000)UHTXHQFgt+]

2πCiRlo33 ms10 ms33 ms

ќSKDVHgtGHJ

0

10 100 1000)UHTXHQFgt+]

2πCiRlo

10 ms33 ms

33 ms

ќSKDVHgtGHJ

0

10 100 1000)UHTXHQFgt+]

CloCi = infin

2105

Rlo Clo

Fixed C

Fixed R

図 49 正規化 FM-SIM信号の理想周波数応答 (界面インピーダンスが直列 RCの場合)(a) (b)CloCi = 2 に固定したとき2πCiRlo = 33 ms 10 ms 33 ms での振幅位相(c) (d) 2πCiRlo =

10 msに固定したときCloCi = infin 2 1 05での振幅位相

でその理想的な周波数応答が分かるまず界面インピーダンスが抵抗と容量の直列回路 (直列 RC)

で表される場合を考えるZlo = Rlo minus j(2π fClo)minus1 としRlo および Clo をそれぞれ変化させた際の正規化 FM-SIM信号の周波数応答を図 49に示すただし Ci が既知ではないためCi に対して正規化した値を与えたまず全体の形状として周波数の増加に従い振幅が減少し0へ収束するまた位相は 0から負にシフトしminus90 へ収束することが分かる抵抗を増加させると曲線の形状は変化しないが振幅位相共に低周波数側へシフトする一方容量が減少すると低周波側の振幅が減衰する次に界面インピーダンスが抵抗と容量の並列回路 (並列 RC) で表される場合を考えるZlo =

(Rminus1lo + j2π fClo)minus1 としRlo および Clo をそれぞれ変化させた際の正規化 FM-SIM 信号の周波数応

答を図 410に示す周波数の増加に従う振幅の減少は直列回路と同じであるが1から開始し 0以外の値へ収束しているまた位相は 0から負にシフトするがClo = 0以外は 0へ収束する抵抗を増加させると直列回路と同様に低周波側にシフトし容量を増加させると高周波側の振幅が増加する以上の周波数特性を正規化 FM-SIM信号の複素平面プロット (以後 γndashプロットと呼ぶ)として示したものを図 411に示す特筆すべきことは全ての応答は円弧状の軌跡を描くことであるそのため先に述べたそれぞれの等価回路での特性を非常に簡潔に表すことができ直列 RC では 1

以外の値から 0 へ並列 RC では 1 から 0 以外の値へ収束していることがよく分かるまた図411(a) (b) の水色線はどちらも抵抗のみの回路に対応し直径 1 の半円となるRlo の変化に対し

58 第 4章 新規局所インピーダンス評価法の開発と金属―有機界面物性の評価

(a) Amplitude

(c) Amplitude

(b) Phase

(d) Phase

ќDP

SOLWXGH

0

02

04

06

08

1

10 100 1000)UHTXHQFgt+]

2πCiRlo33 ms

10 ms

33 ms

ќDP

SOLWXGH

0

02

04

06

08

1

10 100 1000)UHTXHQFgt+]

CloCi

0

05

1

2

0

10 100 1000)UHTXHQFgt+]

33 ms10 ms33 ms

ќSKDVHgtGHJ

0

10 100 1000)UHTXHQFgt+]

CloCi = 0

051

2

ќSKDVHgtGHJ

Rlo

Clo

2πCiRlo = 10 ms

CloCi = 05

Fixed C

Fixed R

図 410 正規化 FM-SIM 信号の理想周波数応答 (界面インピーダンスが並列 RC の場合)(a)(b) CloCi = 05 に固定したとき2πCiRlo = 33 ms 10 ms 33 ms での振幅位相(c) (d)2πCiRlo = 10 msに固定したときCloCi = 0 05 1 2での振幅位相

Rlo Clo

f = (2πCiRlo)-1 f = (2πCiRlo)-1

-05

0 0 05 1

Imgtќ

5Hgtќ

CloCi = infin

21

05

(a) RC-series (b) RC-parallel

Imgtќ

5Hgtќ

-05

0 0 05 1

CloCi = 0

21

05

Rlo

Clo

図 411 正規化 FM-SIM 信号 γ の理想周波数応答の複素平面プロット(a) 界面インピーダンスが直列 RC の場合(b) 並列 RC の場合それぞれの図における破線との交点では周波数がf = (2πCiRlo)minus1 となる

43 ペンタセングレイン上の局所インピーダンス評価 59

0 mV 40 mV -40ordm +10ordm

(a) Topography (b) Potential

(c) SIM-amplitude (d) SIM-phase

02 V 08 V35 nm

Elec

trod

e 100 nmA

AC el (VD = 0 V)

VG = 0 V

図 412 ペンタセン薄膜上の FM-SIM測定結果 (VD = VG = 0 V fs = 100 Hz)(a)表面形状像(b)表面電位像(c) FM-SIM振幅像(d) FM-SIM位相像矢印で示すグレイン Aは以降の評価の対象とした孤立ペンタセングレイン

て軌跡の概形は全く変化せずClo の変化に対しては円弧の半径が変化することが分かるまた図411の破線 (0 minus 05jを中心とする半径 05の円弧)との交点における周波数が f = (2πCiRlo)minus1 に対応することからRlo の大小も評価できる以上の振る舞いは次のように説明できる先に比抵抗 τr = 2πCiRlo および比容量 βc = CloCi を定める直列 RCの場合は γは

γ =1

2(1 + βminus1c )[eminusj2θ( f ) + 1

](411)

θ( f ) = tanminus1( f τr

1 + βminus1c

)(412)

のように変形でき中心 ( 12(1+βminus1

c ) 0)半径 12(1+βminus1

c ) の半円だということが分かる並列 RCの場合

γ = 1 +1

2(1 + βc)[eminusj2θ( f ) minus 1

](413)

θ( f ) = tanminus1[(1 + βc) f τr]

(414)

となり中心 (1minus 12(1+βc) 0)半径 1

2(1+βc) の半円だということが分かるこれらのことから式 (410)

に直接フィッティングさせずともγプロットの概形から簡易的に界面インピーダンスの等価回路やその抵抗容量の変化が判別できるということが分かる

43 ペンタセングレイン上の局所インピーダンス評価431 単一グレイン上の周波数依存評価これまで述べた局所インピーダンス解析法を実際の結果に適用する図 45と同じペンタセン薄膜の上部電極付近でFM-SIM測定した結果を図 412に示すただしfs = 1times100 Hz ft = 10times100 Hz

60 第 4章 新規局所インピーダンス評価法の開発と金属―有機界面物性の評価

-05

0

0 05 1

Im[a

]

Re[a]

R only

fs

0

02

04

06

08

1

10 100 1000

a-a

mp

litu

de

Frequency [Hz]

-1 V

Fitted

-3 V

-5 V

(a) (b)

図 413 グレイン A上の正規化 FM-SIM信号 γの周波数依存性(a)周波数ndash振幅プロット(b)γプロットVG = minus1 V(赤)minus3 V(橙)minus5 V(緑)における応答および並列 RC回路としてフィッティングした結果 (実線)破線は界面インピーダンスが抵抗のみとした場合の理想的なγの応答

とした矢印で示すペンタセングレイン (グレイン A)は他のグレインから孤立しており直接 AC

電極に接続している単一グレインであることが分かるFM-SIM振幅像は表面電位像に比べてグレインの形状をより綺麗に示しておりFM-SIM では FM-KFM よりも空間分解能の高い測定ができる可能性があることを示唆しているFM-SIM振幅位相は共にグレイン A内で均一であるグレイン A以外では電極とほぼ同じ位相だがグレイン Aでは電極ndashグレイン A界面で大きな差異があるFM-SIM信号の変化は局所インピーダンスの存在を示していることを考慮するとグレイン A

は電極との電気的接続が良くないということグレイン A内のインピーダンスは電極ndashグレイン界面に比べて十分小さいということが分かるそのためグレイン Aは図 48の等価回路で示すことができると考えられる続いて電極ndashグレイン界面インピーダンスの等価回路を検証するため周波数 fs 依存の FM-SIM

測定を行った fs を 10 Hzから 900 Hzの間で変化させ電極グレイン A絶縁膜の FM-SIM信号を取得し正規化 FM-SIM信号を得たなおこの測定は VG = minus1 V minus3 V minus5 Vのゲートバイアスについて行いグレインには正孔が蓄積しているまた fs の掃引に同期して ft + fs を設定する必要があるためこの測定については 421節「ロックインアンプ設定」の項の 1の方式で検出した得られた正規化 FM-SIM信号の周波数ndashFM-SIM振幅プロットを図 413(a)にγプロットを図 413(b) に示す周波数掃引に従い振幅が 1 近くから減少し約 02 で収束している様子が見られ並列 RC回路に対応する図 410(a) (c)の振る舞いに似ているγ プロットでは測定点が低周波では 1近くで半径が 1より小さい円弧状に並んでいる様子が明瞭に確認できるつまり電極ndashグレイン A界面は並列 RC回路で記述できる次に式 (413)を用いた界面インピーダンスの半定量評価を次のプロセスで行なった

1 円弧フィッティングGNU Octave 380の fminsearch関数を用いてデータ点との距離の二乗和が最小になるような円弧の中心半径を求めβc を算出

2 振幅値フィッティングGnuplot 46の fit機能と 1で求めた βc を用いて式 (413)の振幅に最小二乗フィッティン

43 ペンタセングレイン上の局所インピーダンス評価 61

表 42 FM-SIM周波数依存性 (図 413)からフィッティングにより求めた並列 RC回路における界面インピーダンスのパラメータ

VG 比容量 βc 比抵抗 τr [ms]

minus1 V 016 1564plusmn040

minus3 V 018 1354plusmn023

minus5 V 021 539plusmn013

グを行いτr を算出

これにより求めたフィッティングパラメータを表 42にパラメータを用いたフィッティングカーブを図 413 の実線に示す図 413(a) (b) 共にそれぞれの VG におけるデータ点をうまく表しておりτr の誤差も 3以内に収まっていることからうまく並列 RCの式にフィッティングできていると考えられるつまり金属ndash有機界面では接触抵抗だけでなく局所容量も存在していることを示しているこれまでも界面容量が金属のフェルミ準位と有機薄膜の HOMO 準位のミスマッチにより生じると報告されている [149 150]しかしこれらの報告はトップコンタクト OFETつまり有機薄膜が電極と絶縁膜の間に挟まれている構造での測定に基づいている有機薄膜の厚さは通常キャリアが流れるチャネル層の厚さに比べて十分厚いためトップコンタクト OFETにおける界面インピーダンスには有機薄膜のバルク部分のインピーダンスも含んでしまう一方本測定はボトムコンタクト型の接触のためこれまでの研究と比較してより直接界面容量の存在を確認したといえる

432 電極ndashグレイン界面インピーダンスの一般性前節ではグレイン内部のインピーダンスが電極ndash単一グレイン界面インピーダンスよりも十分小さく界面インピーダンスが並列 RCで記述できることがわかったこのような傾向がグレイン A以外にも現れるか確かめるため他のグレインについても評価を行う図 412の範囲を含む広い領域 (図 414(a))でゲートバイアスを VG = minus1 Vとし上下電極を AC

電極として FM-SIM測定し得られた FM-SIM振幅像および位相像をそれぞれ図 414(b) (c)に示すただしfs = 100 Hz 300 Hz 800 Hzについて測定した本測定では上下両方の電極を AC電極としているためどちら側に接続しているグレインも応答することになるまず fs = 100 Hzでの両結果から見て取れることはそれぞれのグレインの応答が異なることであるしかしそれぞれのグレイン内ではある程度均一であることもわかるこれはどのグレインにおいても図 48の等価回路が成り立つことを示しているそのためFM-SIM信号の違いは電極ndashグレイン界面インピーダンスの違いつまり電極との電気的カップリングの違いを表しているといえる次にACバイアスの周波数 fsを増加させた際の変化を見るまずFM-SIM振幅信号 (図 414(b))

が全体として増加しているがこれは図 46においてゲート抵抗 RG に比べて絶縁膜部分のインピーダンス (C1 由来)が減少することでゲート電極上の応答

∣∣∣VG∣∣∣が大きくなることに由来するため問

題とはならない次に表面形状像 (図 414(a))の破線で示した 4つのグレイン (A B C D)に注目するグレイン A B Cに関しては fs の増加に伴い FM-SIM位相が増加し振幅が絶縁膜上の値に近づいているこれはまさに図 413(b)の正規化 FM-SIM信号の周波数依存性で見られた円弧の左

62 第 4章 新規局所インピーダンス評価法の開発と金属―有機界面物性の評価

-40ordm +50ordm

2 mV 45 mV35 nm

(a) Topography (b) SIM-amplitude

(c) SIM-phase

AC el (GND)

AC el (GND) 150 nm

fs = 100 Hz 300 Hz 800 Hz

fs = 100 Hz 300 Hz 800 Hz

AB

DC

図 414 ペンタセン薄膜上の FM-SIM測定結果 (広範囲)VG = minus1 VAC電極は上下両電極とした(a)表面形状像(b) FM-SIM振幅像 ( fs = 100 Hz 300 Hz 800 Hz)(c) FM-SIM位相像 (同fs)電極を太破線グレイン A B C Dを細破線で示している

半分の変化を示すもので周波数の増加により |γ|の減少γ位相の増加と対応する一方グレイン Dは fs の増加に伴う振幅の変化は少なく位相は減少しているこれは他の 3グレインと違い位相のみ特徴的に減少する図 413(b)の右半分と対応することがわかるつまり前節のグレイン A

に限らずどのグレインにおいても図 413のような周波数応答を示すことを示唆しておりRC並列回路は電極ndashグレイン界面インピーダンス一般に成り立つことが分かった

433 キャリア蓄積による電極ndashグレイン界面物性変化431節の結果よりVG による変化に関してはどちらのパラメータも単調に変化しているが特に比抵抗の減少が顕著に見られるこのようにグレイン中へのキャリア蓄積状態によって金属ndash有機界面の電子物性も変化していることが分かる金属ndash有機界面で生じる接触抵抗の起源を明らかにするためにも界面インピーダンスの VG 依存性について詳しく評価するなお上述の議論で界面インピーダンスを並列 RCで記述できることがわかったため以下では界面インピーダンスをその逆数つまり「アドミタンス」として考え次式で示す正規化アドミタンスを導入する

Ynorm =1

2π fsCiZlo=

12π fsCiRlo

+ jClo

Ci(415)

43 ペンタセングレイン上の局所インピーダンス評価 63

SIM

-Am

pl [

mV]

Distance [nm]

0

12

4

8

0 200 400 600

A B

A B

Electrode

GrainInsu

lator

Topo(a)

(b)

012 -1 -2 -3VG [V]

-02

0

02

10-2

100

10-2

100

∆V [V

]Re

(Yno

rm)

Im(Y

norm

)

(c)

(d)

(e)

ForwardBackward

+2 V

-3 V-25 V

+15 V+1 V

+05 V0 V

-05 V-1 V

-15 V-2 V

図 415 (a)電極とグレイン A界面付近の表面形状像(b) (a)の AndashBライン上で測定された FM-SIM振幅プロファイル(cndashe) VG を変えた際の電極ndashグレイン界面の正規化アドミタンス (Ynorm)の実部 (c)虚部 (d)および界面電位差 (∆V)(e)赤は VG を +2 Vから minus3 Vへの (forward)青は minus3 Vから +2 Vへの (backward)変化時のデータ点を示す

Ynorm は 2π fsCi で界面インピーダンスを規格化しているため無次元の量であり実部が (規格化)コンダクタンス虚部が (規格化)サセプタンスとなる

VG 依存性の FM-SIM測定ではfs = 100 Hzに固定しVG と直列接続となっている Vacs の影響を

抑えるためVacs = 02 Vp-p としたVG は +2 Vから minus3 Vまで 05 V刻みで変化させた後 (forward)

+2 Vまで戻した (backward)図 415(a) に示す表面形状像の AndashB ライン上で複数回 FM-SIM 測定しそれぞれの VG で 5ラインずつ平均した結果得られた FM-SIM振幅プロファイルを図 415(b)

に示すVG により電極上の FM-SIM振幅に変化はなくグレイン A上のみ徐々に増加していることが分かる電極グレイン A絶縁膜それぞれの領域で FM-SIM振幅および位相の平均を求め式(49)より正規化 FM-SIM信号 (γ)を続けて式 (415)により正規化アドミタンス (Ynorm)を求めた同時に界面での直流電位差との関係を議論するため同時測定の FM-KFMで得られた表面電位から電極に対するグレイン電位 (電位差 ∆V)も求めたこれらを図 415(c)ndash(e)に示すまず VG を正から負に印加することでコンダクタンス (Re[Ynorm]) が急増したVG lt 0 でも継続して増加していることは423節の周波数依存性で見られた VG 印加による τr 減少と合致する結果であるVG 印加による接触抵抗の減少はこれまで OFETにおける研究で多く見られてきた [55 131 151]接触抵抗減少のモデルとしては有機薄膜のバルク部の効果や電極付近の低移動度領域が提唱されているがこれらはトップコンタクト OFETやマルチグレイン薄膜で説明されたモデルである [151 152]本研究の FM-SIM測定では単一グレインと電極との界面を考えておりバルク部やグレイン境界によるインピーダンスへの影響は排除できると考えられるよって図 415(c)のような界面コンダクタンスの増加 (接触抵抗の減少) は金属ndashグレイン界面の電子物性本来の効果が現れたものだと考えられる興味深いことに図 415(c) (e)で見られるように界面コンダクタンスと電位差でゲートバイアス変化の forwardと backwardで似たヒステリシス (履歴)効果が現れているこのような履歴効果

64 第 4章 新規局所インピーダンス評価法の開発と金属―有機界面物性の評価

Large mismatch

EF

VL

Trap states

E

DOS

HOMO

Metal Organic

∆V gt 0

Small mismatch

Metal Organic

∆V lt 0

(b) Depletion(a) (c) Accumulation

0

1

15

05

-02 0 02∆V [V]

Re(Y

norm

)DepletionAccumulation

VG = 2 V

VG = -3 VForwardBackward

図 416 (a) 界面コンダクタンス Re[Ynorm] の電位差依存性 (図 415(c) (e) より)赤は負方向(forward)青は正方向 (backward) 測定に対応する(b) (c) Pt 電極とペンタセングレイン界面におけるエネルギー準位の模式図およびグレイン内部のエネルギー (E) に対する状態密度(DOS)の概要図

は OFETの伝達特性でも良く見られている [139]正孔が蓄積している状態では正孔が有機ndash絶縁膜界面の深いトラップ準位に捕捉されVG の正方向掃引でしきい値電圧の負シフトを引き起こす今回用いている絶縁膜 SiO2 もヒステリシスを良く引き起こす材料であるため図 415(c) (e)のヒステリシスもトラップ準位によると考えられるこのことを踏まえると界面コンダクタンスの変化は VG によって直接引き起こされたものではなく電位差 ∆V により大きく関係していると考えられるそこで界面コンダクタンスを電位差に対してプロットし直すと図 416(a)のように forwardと backwardのヒステリシスが非常に小さくなったため電極ndashグレイン界面物性はその電位差によって決定されていることが言えるこのことからも図 415(c) (e)で見られたヒステリシスは界面における本来の物性ではないことが分かる図 416(a) を見ると ∆V gt 0 は VG gt 0 の空乏 (depletion) 状態に対応し界面コンダクタンスRe[Ynorm]がほぼ 0である一方 VG lt 0の蓄積 (accumulation)状態では ∆V lt 0でありRe[Ynorm]

が増加しているこの増加は ∆V = minus02 V で急峻となっており電極ndashグレイン界面が導通するには minus02 V程度の界面電位差が必要であることが示唆されるこれら電位差と界面コンダクタンスの関係は電極とグレインのエネルギー準位の関係から説明できる図 416(b) (c)は電極ndashグレイン界面のエネルギー準位を模式的に示したものであるバイアスが印加されていない状態ではグレインは空乏状態にある一般にキャリア蓄積がおこるチャネル層は HOMO準位と LUMO準位の間にトラップ準位による DOSが存在する (図 416(b))空乏状態ではそれが一部だけ満たされることでEF が EHOMO と ELUMO の間に位置するEF が EHOMO よりも高い準位に位置しているため準位ミスマッチが大きく正孔注入障壁が生じるこの場合電極からグレインに正孔を注入するのが困難となりこれが接触抵抗となる一方ゲートに負バイアスを加えるとグレインが蓄積状態となりトラップ準位が満たされEHOMO

が EF に近づくことで ∆V の負シフトが起こるこれによりエネルギー準位ミスマッチが小さくなり正孔がグレインに注入しやすくなるそのため図 416(c)のように接触抵抗が低減すると説明できる以上のようにVG の印加により電極ndash有機界面のエネルギー準位整合性が良くなり接触抵抗の低減が起こるこの単純な解釈はこれまで異なる仕事関数や SAM修飾を施した電極を用いた電気特性評価によっても議論されてきたものであるしかし単一グレインとの界面においてエ

44 電極表面処理による OFET特性への直接影響評価 65

ネルギー準位の整合状態と接触抵抗との関係を議論したことは非常に意義深いこのようにこれまでの手法では測定できなかった特定の単一グレインにおいても金属ndash有機界面物性について議論できFM-SIMという新規手法開発および評価法の妥当性と有用性が示されたといえる

44 電極表面処理による OFET特性への直接影響評価42節では OFETで局所インピーダンス測定を行うための新規手法 FM-SIMを提案し回路モデルを用いて理論実験両方面から妥当性を示した局所インピーダンスの解析法を用いて電極ndash単一有機グレイン界面の電気特性について議論するに至った本節では有用性を示した FM-SIMを用いて応用的な内容として動作中の OFETの金属ndash有機界面物性の評価に臨むOFETの電極を自己組織化単分子膜 (Self-assembled monolayer SAM)で修飾することで性能向上することが確認できるこの電気特性の変化が何に起因しているかをFM-SIMを用いた電位局所インピーダンス測定により解明を目指す

441 電極表面処理および試料作製本測定で対象とする試料としてdinaphto[23-b2rsquo3rsquo-f ]-thieno[32-b]thiophene (DNTT) 薄膜を活性層としチオール系 SAMの一つである pentafluorobenzenethiol (PFBT)の SAMで電極を修飾した OFETを用いた

DNTT DNTT (C22H12S2) は図 417(a) のような分子構造をもつヘテロ環式芳香族分子であるDNTT は 2007 年に広島大学の Yamamoto Takimiya によって合成された有機半導体分子である [153 154]DNTT に含まれるベンゼン等の芳香族とチエノチオフェンが縮環した分子構造は2006 年の同グループによるベンゾチエノベンゾチオフェン (BTBT) 誘導体の合成 [155] を皮切りに1 cm2(Vs)を超える高い移動度と大気安定性 [156] を持つ p 型有機半導体分子のベースとなる構造として近年非常に注目を受けているこのような大気安定性は深い HOMO 準位と大きなHOMOndashLUMOギャップによりもたらされたものであるが [153]一方でこの深い HOMO準位により電極との界面で大きなキャリア注入障壁が生じてしまい接触抵抗が大きくなるという問題が指摘されている [152]

PFBT PFBT (F5C6HS)は図 418(a)のような分子構造をもつチオールの一種であるチオール系分子は図 418(b)のように S原子が金属と結合するような形で分子が並びSAMを形成することが知られている対象とする金属は Auが一般的であるがAgPtなど他の金属でも SAMを形成する [157]PFBTはペンタセン誘導体やアントラセン誘導体など溶液プロセスにおける低分子系OFETの電極修飾に用いられてきた [18 22]図 419に測定で用いた試料の作製手順を示すまず UVリソグラフィによりチャネル幅約 1 micromチャネル長約 500 nm厚さ約 20 nm の Au 電極を作製し30 mM の PFBT を混合したイソプロパノール (IPA)溶液に電極を 5分間浸漬させることで PFBT-SAMを形成したその後SAM処理を行っていない電極にも同時に DNTT分子を真空蒸着法で約 100 nmの薄膜を成膜しOFETを得た今後SAM修飾を行った試料を「PFBT-Au」試料 (OFET)行っていない試料を「Bare-Au」試料(OFET)と呼ぶ

66 第 4章 新規局所インピーダンス評価法の開発と金属―有機界面物性の評価

(a)

(b)

図 417 (a) DNTTの分子構造式(b) DNTTの結晶構造 (左 b軸投影右 各層のヘリンボーン構造図)(Ref [153] J Am Chem Soc 129 (2007) 2224)

(a) (b)

SH

F

F

F F

F

S Body

SAM

Metal (Au Pt Ag )

図 418 (a) PFBTの分子構造式(b)チオール系分子による SAMの模式図

(1) Electrode fabrication(UV lithography)

(2) SAM fabrication (3) DNTT deposition

30 mM PFBTin isopropanol

Au 20 nm

DNTT 100 nm

PFBT-Au

Bare-Au

PFBT modied Au

SiSiO2

図 419 電極表面修飾比較に用いた試料の作製手順図UVリソグラフィ (図 39参照)で作製した Au電極を PFBT溶液に浸漬させることで PFBT-SAMで修飾した Au電極を作製しSAM修飾有無の電極上に DNTTを同時に成膜した

442 電気特性評価図 420 に電極対で測定した両 OFET の電気特性測定結果を示す出力特性の結果を見るとどちらも飽和領域が表れているがPFBT-Au試料の方が電流が大きい伝達特性については

radicID は

PFBT-Au試料の方が傾きが大きいがしきい値電圧はほとんど変わらない同一基板上のそれぞれ3つの OFETについて平均した移動度はBare-Auでは micro = 044 cm2(Vs)なのに対しPFBT-Auでは micro = 099 cm2(Vs)と 2倍以上に増加したよって本研究で作製した PFBT-SAM修飾電極においても過去の報告と同じく OFETの性能向上の効果が得られている一方しきい値電圧はBare-Au

では minus94 VPFBT-Auでは minus79 Vであり変化は小さかったしきい値電圧はチャネル領域の薄

44 電極表面処理による OFET特性への直接影響評価 67

-8

-6

-4

-2

0-20-15-10-5 0

Cur

rent

[ѥA]

VD [V]

0 V-5 V

-10 V-15 V-20 V-25 VVG

VG = ndash25 V

ndash20 V

ndash15 V

ndash10 V0 Vndash -5 V

-8

-6

-4

-2

0-20-15-10-5 0

ampXUUHQWgtѥ$

VD [V]

VG = ndash25 V

ndash20 V

ndash15 V

ndash10 Vndash5 V

0 V

(a) Bare-Au

(c)

(b) PFBT-Au

10-1010-910-810-710-610-5

-20-15-10-5 0 5 0

1

2

3

I D [A

] (lin

e)

3ID

[10-3

A-1

2] (

plot

)VG [V]

PFBT-AuBare-Au

図 420 電極対で測定した DNTT-OFETの電気特性(a) Bare-Au OFET(b) PFBT-Au OFETの出力特性(c)両 OFETの VD = minus5 Vにおける伝達特性プロットは

radic|ID|(右軸)実線は片対数(左軸)

400 nm 400 nm

80 nm

(a) Bare-Au (b) PFBT-Au

Electrode

図 421 (a) Bare-Au OFETおよび (b) PFBT-Au OFETにおける表面形状像破線で囲まれた領域は電極のある場所を示す

膜の構造やドーピングによって大きく変化することが知られているため [158ndash160]この結果は電極の SAM処理がチャネル領域に与える影響が小さかったことを示しているチャネル領域の状態を確認するためにAM-AFMで取得した OFETの表面形状像を図 421に示す膜の形状は全く同じとは言えないもののグレインの大きさは 100 nmから 200 nmと同程度といえるよって電極の SAM修飾による電気特性の変化はその修飾した電極と有機薄膜との界面における電気特性が変化したものによると考える

68 第 4章 新規局所インピーダンス評価法の開発と金属―有機界面物性の評価

-02 0

02 04

Pote

ntia

l [V]

0

05

1

Ampl

[m

V]-60

-30

0

0 250 500 750 1000Ph

ase

[deg

]

Distance [nm]

-03

0

03

Pote

ntia

l [V]

0

05

1

Ampl

[m

V]

-60

-30

0

0 250 500 750

Phas

e [d

eg]

Distance [nm]

iuml9iuml9iuml9iuml9iuml9iuml9iuml9iuml9

VG

AC electrode AC electrode

(d)

(e)

(f)

(a)

(b)

(c)

(VD = 0 V) (VD = 0 V)Bare-Au PFBT-Au

図 422 (a)ndash(c) Bare-Au試料および (d)ndash(f) PFBT-Au試料での FM-SIM測定結果 (VD = 0 V)(a) (d)表面電位(b) (e) FM-SIM振幅(c) (f) FM-SIM位相プロファイル網掛け部は電極位置を表しAC電極は右電極とした

443 FM-SIMによる電極ndashDNTT界面局所電気特性評価電気特性測定の結果から電極の SAM修飾により電極ndash有機界面の電気特性変化が示唆されたそこでFM-SIMを用いて電極ndash有機界面の電位差や局所インピーダンスの違いを評価する測定条件として(a) VD = 0 Vおよび (b) VD = minus1 V(c) VD = minus5 Vの 3つのドレインバイアスについて測定した(a) では 422 節同様キャリア注入に従う電位差局所インピーダンス変化を評価する一方(b) (c)ではドレインバイアスが加わり OFETが動作している状態でチャネル内の電位プロファイル評価と局所インピーダンス評価を行う

測定方法 測定時のセットアップは 421節の図 43図 44と同じ装置構成である電極に加える交流バイアスは Vac

s = 1 Vp-p fs = 100 Hzとした表面形状像 (図 421)における右電極をソース電極左電極をドレイン電極とし測定により AC電極を変更することでソースドレイン両方の電極ndash有機界面物性を評価する直流バイアスは AC電極側にしか印加しないがAC電極およびゲートに印加する直流バイアスを調整しているため本節で示す VD VG はソースに対するドレインおよびゲートの電圧とみなす1また電極ndash有機界面に絞って評価するため以下の測定では全てチャネルに沿って両電極間を往復するように測定しており5ndash7ラインを平均したデータを用いたこの間位置が同一であることは同時に測定している表面形状プロファイルが同一であることから確認した

ソースドレイン電極接地時 VD = 0 Vにおいて右電極を AC電極として FM-SIM測定した結果得られた表面電位FM-SIM信号の振幅位相のプロファイルを図 422に示す表面電位を見る

1 例えば右電極に1 Vゲートに minus4 V印加するとVD = minus1 VVG = minus5 Vとみなせる

44 電極表面処理による OFET特性への直接影響評価 69

0

01

02

03

04

-06 -04 -02 0 02

Re[

Y nor

m]

6V [V]

0 V

iuml9

VG

0

01

02

03

04

-06 -04 -02 0 02

Im[Y

norm

]

6V [V]

0 V

iuml9

VG

(a) Conductance (b) SusceptancePFBT-AuBare-Au

PFBT-AuBare-Au

図 423 VD = 0 V における (a) 正規化コンダクタンス Re[Ynorm](b) 正規化サセプタンスIm[Ynorm]の ∆V 依存性

とどちらの OFETも負の VG を印加するに従い電極に対するチャネル上の電位が負にシフトしているこれは単一グレインで測定した図 415(e)の結果と合致する結果であるまたVG 印加によりFM-SIM振幅は 0から増加位相は 0 から負シフトする傾向もどちらの OFETでも見られているFM-SIM振幅については小さなゲートバイアスでは AC電極付近と対向電極付近とで差異があるが少なくとも minus4 V以降ではチャネル内で一定でありチャネル内抵抗に比べて AC電極ndash

チャネル界面インピーダンスが支配的であることが分かるまたチャネル内の表面電位は表面形状にカップリングしており再現性はあるが不均一な応答が見られている一方FM-SIM 振幅位相は十分な信号強度があれば十分均一に見えておりKFMにより測定される表面電位よりも表面形状による影響を受けにくいといえこの意味でも KFMよりも OFET中のより局所的な電子物性評価が可能と考えられる図 422の AC電極上チャネル上の均一な応答について平均した値を用い423節と同様に正規化 FM-SIM信号から正規化アドミタンス Ynorm を求めチャネルndashAC電極電位差 ∆V に対してその実部 (コンダクタンス)虚部 (サセプタンス)をプロットした結果を図 423に示すまず図 423(a)

について単一グレインで測定した図 416(a)同様 VG 印加に従い先に ∆V が負シフトし次いでコンダクタンスが増加している416(a)に比べて低 ∆V でも若干コンダクタンスが増加しているのは単一グレインではなく連続膜であるためVG 印加に従いチャネルとなる領域が変化している影響が考えられるしかし上述のとおり VG = minus4 Vでチャネル内の応答が一定となり蓄積がほぼ完了していると考えられるためそれより大きなゲートバイアス領域では意味ある結果が得られていると考える両 OFET で比較するとサセプタンスに関しては単一グレインでの結果 (図 415) 同様単調な増加減少は見られないコンダクタンスに関してはPFBT-Auでは負シフトしていた ∆V が minus035 V

付近で収束しコンダクタンスが増加し続けているがBare-Auではコンダクタンスが増加し始めてからも ∆V がシフトし続けまたコンダクタンスの増加も停滞しているこのことから 2点のことが示唆される一つはPFBT-Auの方が AC電極ndashチャネル界面でキャリア蓄積後のコンダクタンスが大きいということであるこれは電極対を用いた電気特性で電流移動度が向上したことと合致するもう一つは AC 電極ndashチャネル界面が導通するために必要な ∆V が異なるということである433節で議論したように ∆V は電極のフェルミ準位とチャネルの HOMO準位の整合状態と関わっ

70 第 4章 新規局所インピーダンス評価法の開発と金属―有機界面物性の評価

minus1 V

Bare-Au

minus5 V

AC el AC el

Drain Source Drain Source

0

Pote

ntia

lSI

M a

mpl

SI

M p

hase

Po

tent

ial

SIM

am

pl

SIM

pha

se

AC-drain AC-source

iuml9iuml9iuml9iuml9iuml9iuml9iuml9iuml9

VG

Channel Channel

-05

0

3RWHQWLDOgt9

0

05

$PSOgtP9

-30

0

30

0 500 750

3KDVHgtGHJ

LVWDQFHgtQP

-5

0

3RWHQWLDOgt9

0

05

$PSOgtP9

-30

0

30

0 500 750

3KDVHgtGHJ

LVWDQFHgtQP 500 750 LVWDQFHgtQP

(a)

(b)

(c)

(d)

(e)

(f)

(g)

(h)

(i)

(j)

(k)

(l)

図 424 Bare-Au OFET の動作時の FM-SIM 測定結果 (VD = minus1 V(andashf) minus5 V(gndashl))ドレイン(左電極)を AC電極とした場合 (andashc gndashi)およびソース (右電極)を AC電極とした場合 (dndashf jndashl)の結果(a d g j)表面電位(b e h k) FM-SIM振幅(c f i l) FM-SIM位相プロファイル位相プロファイルのみスプライン曲線による平滑化を行っている

ている今回の結果ではPFBT-Auでの電極ndashチャネル界面の方が Bare-Auのそれよりも元々の電極ndashチャネル間準位整合状態が良かったと考えられるVG = minus15 V における ∆V を比較するとBare-Auでは 015 V程度大きい準位シフトが必要ということになるこのように電極の SAM修飾により仕事関数を増加させるという結果がいくつか報告されている [161ndash163]フッ素系の SAM

の場合チオール基から表面方向に対し分子軸に沿って負のダイポールが存在するため電極の見かけの仕事関数が増加すると考えられているしかし報告によって仕事関数の変化は 05 eVから1 eVと異なるこのことは本研究の KFMで測定された ∆V の差異とも異なることも含めると電極の SAM修飾による電気特性変化が全てこの仕事関数変化による影響に帰結されるとは限らないことを示唆しているそのためこの後 OFET動作中での評価結果も含めて電極 SAM修飾による特性変化の起源を議論していく

44 電極表面処理による OFET特性への直接影響評価 71

PFBT-AuAC el AC el

Drain Channel ChannelSource Drain Source

minus1 V

minus5 V

Pote

ntia

lSI

M a

mpl

SI

M p

hase

Po

tent

ial

SIM

am

pl

SIM

pha

se

0

AC-drain AC-source

iuml9iuml9iuml9iuml9iuml9iuml9iuml9iuml9

VG

-05

0

3RWHQWLDOgt9

0

05

$PSOgtP9

-30

0

30

3KDVHgtGHJ

(a)

(b)

(c)

(d)

(e)

(f)

-5

0

3RWHQWLDOgt9

0

05

$PSOgtP9

-30

0

30

0 500

3KDVHgtGHJ

LVWDQFHgtQP

-5

0

3RWHQWLDOgt9

0

05

$PSOgtP9

-30

0

30

500

3KDVHgtGHJ

LVWDQFHgtQP0

(g)

(h)

(i)

(j)

(k)

(l)

図 425 PFBT-Au OFET の動作時の FM-SIM 測定結果 (VD = minus1 V(andashf) minus5 V(gndashl))ドレイン(左電極)を AC電極とした場合 (andashc gndashi)およびソース (右電極)を AC電極とした場合 (dndashf jndashl)の結果(a d g j)表面電位(b e h k) FM-SIM振幅(c f i l) FM-SIM位相プロファイル平滑化を図 424と同様に行った

-4

-2

0

2

-12-8-4 0

0

100

200

300

umlV [V

]

Cur

rent

[nA]

VG [V]

PFBT-AuBare-Au

図 426 VD = minus5 V におけるチャネルndashソース間電位差 (∆V) と測定中の直流電流の VG 依存性赤線四角のシンボルが PFBT-Auを青線丸のシンボルが Bare-Auの結果を示す実線が ∆V破線が電流を示す

72 第 4章 新規局所インピーダンス評価法の開発と金属―有機界面物性の評価

(a) Conductance (b) Susceptance

0

01

02

-12-8-4 0

Re[

Y nor

m]

VG [V]

PFBT-AuBare-Au

0

02

04

-12-8-4 0

Im[Y

norm

]

VG [V]

PFBT-AuBare-Au

図 427 VD = minus5 V での FM-SIM 結果から得られた (a) 正規化コンダクタンス (Re[Ynorm]) および (b)正規化サセプタンス (Im[Ynorm])の VG 依存性

ドレインバイアス印加時 (OFET 動作時) 次にドレインバイアスを加えた状態でBare-Au とPFBT-Au でどのような違いが現れるかを検証するドレインバイアス VD = minus1 V minus5 V についてドレイン (左)ソース (右) それぞれの電極を AC 電極とした際の FM-SIM 測定結果を図 424

(Bare-Au OFET)および図 425 (PFBT-Au OFET)に示すプロファイルは表形式で示しており左の列はドレインを AC電極とした場合 (AC-drain)右の列はソースを AC電極とした場合 (AC-source)

のプロファイルであるまた行は上から minus1 V での表面電位FM-SIM 振幅FM-SIM 位相および minus5 V でのそれぞれの結果という順に並んでいるこれまでの議論からFM-SIM では AC を印加している電極と有機薄膜との界面のインピーダンスを優先的に評価できるためAC-drain とAC-sourceではそれぞれドレインndashチャネル界面ソースndashチャネル界面の物性が FM-SIM信号に現れるそれに対し表面電位は交流バイアスの印加を除くと全く同じ条件で測定されているため得られる電位プロファイルは原理上同じと考えられるまずこれら原理的な点について注目する図424(a) (d)はそれぞれ AC-drain AC-sourceの表面電位でありVG lt minus2 Vではほぼソースndashチャネル界面に電位ドロップが集中する傾向が一致している同様に図 424の (g)と (j)図 425の (a)と(d)(g) と (j) が若干の電位分布の違いがあるものの基本的に傾向は同じでありAC-drain とAC-sourceの測定は DC的に見るとほぼ同条件で測定されているとみなせる図 426に VD = minus5 V

における VG を変えたときのチャネルndashソース間電位差 (∆V)と直流電流値の変化を示すVG = minus8 V

まではゲートバイアス印加に従い ∆V は負に大きくなるが電流はほぼ 0のままである一方 minus8 V

を超えると ∆V は minus4 V程度で飽和し電流は増加を始めている電流が VG = minus8 V を境に増加を始めるという結果は事前の電気測定結果 (図 420(c)) と非常に良い一致を示しており交流バイアスなどによる大きな影響はないことを示しているここでOFET が導通 (ON 状態) しているVG lt minus8 Vの区間で∆V がほぼ VD の値で飽和しているためON状態における OFETの抵抗のほとんどはソースndashチャネル界面であると分かる次に FM-SIM信号に注目するAC-drainと AC-sourceで比較するとBare-Auか PFBT-Auかどうかや VD の値に関わらずチャネル上の FM-SIM振幅は AC-drainの方が大きいという一定の傾向があるゲートに負バイアスを印加中は電圧のほとんどがソースndashチャネル界面に加わっていることを加味するとドレインndashチャネル界面よりソースndashチャネル界面の方が電気的カップリングが悪いことを示唆しているこのことからも電極の SAM修飾による性能向上はソースndashチャネル界面の

44 電極表面処理による OFET特性への直接影響評価 73

Trap rich region

Trapped hole Trapped stateHOMO (Mobile)Mobile hole

HOMO

EFHOMO

EF

Bare-Au PFBT-Au

∆ xed

Increase

∆ gradual

Slight increase

C C

C

VG

MetalOrganic

図 428 FM-SIM で測定された容量変化から想定される Bare-Au 試料と PFBT-Au 試料での金属ndash有機界面の電子準位と状態の概要図VG 印加に従い正孔が蓄積するが界面付近ではより多く蓄積させないと可動 (Mobile)キャリアが生まれない容量 (C)は可動キャリアの存在する領域に由来すると考えると金属ndash有機界面のトラップ準位が多い系では容量増加が小さくトラップが少ないと瞬時に蓄積し容量が増加する

局所インピーダンス変化を追うことで直接評価比較できると考えられる次に VD による違いに注目するとVD = minus1 Vに比べ minus5 Vの方が FM-SIM振幅が大きい特に AC-drain (図 424 425(h))

ではチャネル上の FM-SIM振幅がドレイン電極とほぼ同程度になっておりドレインndashチャネル界面インピーダンスの寄与が非常に小さくなっていると考えられる以上の傾向は大まかに Bare-Au と PFBT-Au で似た挙動を示しており電極の SAM 処理による電気特性の違いを反映したものとは言えないBare-Au (図 424)と PFBT-Au (図 425)とで比較するとまず VD = minus1 Vでは挙動はほぼ同じでAC-drainと AC-source共に VG 印加によりチャネル上 FM-SIM位相が負にシフトしている一方 VD = minus5 V についてAC-sourceの FM-SIM位相がPFBT-Au (図 425(l))では負シフトしているがBare-Au (図 424(l))では界面での明確な負シフトが見られないこのように Bare-Auと PFBT-Auとの違いが VD = minus1 Vでは見られずminus5 Vで見られた要因として図 420(a) (b) の電気特性の低 VD 領域における非線形な特性が挙げられる低 VD

ではほとんど電流が流れていないという特性差のなさが FM-SIMの結果でもあまり違いを生まず一方大 VD では特性差も現れる程度に電流が流れたために FM-SIMの結果に違いが現れたと考えられる以上のことからSAM処理による電気特性変化はソースndashチャネル界面 (AC-source結果)に由来するとしVD = minus5 Vでの結果に注目する

74 第 4章 新規局所インピーダンス評価法の開発と金属―有機界面物性の評価

433節での解析を踏まえソースndashチャネル界面インピーダンスを並列 RC回路と考え式 (415)

を用いて界面正規化アドミタンス (実部界面コンダクタンス Re[Ynorm]虚部界面サセプタンスIm[Ynorm]) を評価するVD = minus5 V における結果を図 427 に示すまず界面コンダクタンス (図427(a)) は Bare-Au PFBT-Au 共に VG = minus8 V から増加を始めるという図 426 で見られた傾向と一致しておりソースndashチャネル界面の影響が電気特性にそのまま現れたことが分かるまたVG = minus8 V以降の界面コンダクタンスの増加はBare-Auに比べ PFBT-Auの方が顕著であるここでFM-SIMで測定したプロファイル (図 424 425)からソースndashチャネル間の変化は 100 nm以下の分解能で観測されているためFM-SIMでは電極付近のグレインの影響を排除した金属ndash有機界面物性を評価していると考えられるそのため電極付近のグレインサイズによる接触抵抗への影響ではなく確かに金属ndash有機界面物性が変化したことにより接触抵抗が低減したことを図 427(a)

は示している次に界面サセプタンス (図 427(b)) を通して接触抵抗低減の起源について考察する界面サセプタンスはBare-Auでは VG 印加に対してゆるやかな増加を示している一方でPFBT-Auでは界面コンダクタンスと同じく VG = minus8 Vを境に顕著な増加が見られたここで測定周波数は同じなのでサセプタンスは金属ndash有機界面の容量と対応付けることができる容量の起源として金属ndash有機界面における有機薄膜の不連続性が挙げられる金属近傍の結晶性低下や金属による準位への影響により有機薄膜中のトラップ準位はチャネル中よりも多くなるこのような金属ndash有機界面のトラップリッチな領域が空乏層となり界面容量を生むと考えられる [41 61 149]ここでゲートバイアスの印加によりキャリア (正孔)注入が起きるとトラップが埋まり空乏層幅が減少することで図 427(b)の PFBT-Auのような界面容量の急速な増加が見られると考えられる (図 428右)一方元々のトラップ準位の量が多いと空乏層幅の減少も顕著ではなくなるそのためPFBT-Auでは bare-Auに比べ金属ndash有機界面のトラップ量が減少していることが示唆される (図 428左)過去の報告でOFETの電極と有機薄膜の間にドープ層を挿入することで金属ndash有機界面のキャリアを増やし空乏領域を狭めた報告がある [152]正孔のドープ層としては有機薄膜と直接電荷の授受を行うFeCl3 や F4-TCNQが知られているが直接正孔を生まない SAMや極薄酸化膜によっても金属と有機分子の間の相互作用を抑えることで金属ndash有機界面のトラップを減少させることができるといわれている [150 164]これを踏まえるとやはり PFBTを用いた電極の SAM修飾により金属ndash有機界面のトラップが減少したといえる (図 428)特に浅いトラップはその領域の移動度とも密接に関わっており本研究の bare-Au OFETに対する PFBT-Au OFETでの接触抵抗低減は界面トラップの減少による効果と結論づける

45 本章のまとめ本章では 3章で課題として挙がっていた金属ndash有機界面の電気特性の測定に注目し新規局所インピーダンス評価法として FM-SIM を開発した等価回路モデルから FM-SIM 信号と界面インピーダンスが一対一に対応する式を導出するとともに周波数依存性から回路定数を半定量的に算出できることを見出した金ndashペンタセン単一グレインに適用することでトップコンタクト OFETでの測定でも観測されていた抵抗ndash容量並列回路の界面インピーダンスが単一グレイン系においても生じることを見出した

45 本章のまとめ 75

FM-SIMの応用として電極表面の SAM処理による移動度向上要因を評価したOFET動作前のみならず OFET動作時にも FM-SIM測定できることを示しOFETの動作がソース電極ndashチャネル間の電気特性に支配されていることを確認したこれを踏まえソース電極ndashチャネル界面のインピーダンス評価によりSAM処理が界面の準位整合状態のみならずトラップを減少させたことにより界面部分の導電性向上に繋がったことが明らかとなった

77

第 5章

時間分解測定による有機グレイン中のキャリアダイナミクス評価

3 章で問題となった金属ndash有機界面の電気特性が接触電流測定では困難であることに対し4 章で提案した FM-SIM による非接触での電位測定で実現したしかしFM-SIM や従来手法であるKFMではOFETのチャネルが既に形成している状態の電気特性しか測ることができないこれには以下に挙げる 2点の問題がある一つはバイアスストレスの問題であるOFETではゲートバイアスを印加した状態が長時間続くと電流が低下することが問題となっている [165]主にチャネルに長時間キャリアが蓄積することでキャリアトラップが誘起されることが原因と考えられているバイアスストレスによる変化でKFMで測定される電位像も経時変化が起きるため [166]長時間のバイアスをかけずとも局所電気特性評価を可能にすることも必要であるもう一つはチャネル形成前ないし形成中の電気特性が評価できないという点であるこれらの課題に対し経時変化そのものに注目することで電気特性評価を試みている報告がいくつかある有機薄膜へのキャリア注入中の経時電流を測定する変位電流測定 (Displacement current

measurement DCM)は従来金属絶縁膜有機半導体 (MIS)構成で用いられた手法だがOFETに拡張し金属ndash有機界面の注入電圧や絶縁膜界面のトラップについて評価した報告がある [60 62]また注入時のキャリア端をマッピングできる時間分解顕微二次高調波発生 (TRM-SHG)法を利用し有機薄膜の移動度異方性を一度に測定した例がある [167]このような時間分解測定を利用したチャネル形成過程の評価をプローブ技術に活かし有機半導体グレインへのキャリア注入排出時の局所電気特性評価を本章での目標とする

51 時間分解 EFM (TR-EFM)

電位の経時変化を測定するという観点で考えると2 章で述べた KFM を用いるのが最もシンプルであるしかしKFM ではバイアスフィードバック回路を用いており追従速度の遅さが問題である本研究では有機半導体グレインを対象とするが4 章での結果から応答する周波数範囲は100 Hzから 1 kHz程度の早さと考えられるつまり時間分解能としては 1 ms程度必要であり従来の KFMでは難しいよって本研究ではバイアスフィードバックを必要としない EFMをベースとして考えるまたこれまでの議論と同様に真空中での測定を行うため FM-EFMを用いる

78 第 5章 時間分解測定による有機グレイン中のキャリアダイナミクス評価

511 TR-EFMの動作電圧印加に対するグレイン応答の経時変化をマッピングするため本研究では 3 章の point-by-

point技術を活用した時間分解 EFM (Time-resolved EFM TR-EFM)を測定に用いたTR-EFMの動作模式図を図 51に示すTR-EFMでは試料上の各点において(a) FM-AFMを用いて探針ndash試料間距離を一定にするとともに高さの測定を行う動作 (図 51(a))と(b)高さを固定し何らかの電圧(パルス)を加えその間の FM-EFMの出力 (EFM信号)の経時変化を測定する動作 (図 51(b))を交互に繰り返すこのような point-by-pointでの AFMEFM交互動作には経時応答を測定できる以外に 2つの利点がある一つは各点での FM-EFM測定時のみバイアスを印加するためバイアスストレスによる経時変化の影響を抑制することができる点であるもう一つは通常 KFMではバイアスを印加しながら測定するがTR-EFMでは表面形状取得 (FM-AFM)時にバイアスをかけていないため従来よりも探針ndash試料間距離が一定に保たれていると考えられるそのためTR-EFMは経時応答以外の面からも有利といえる装置構成図を図 52(a) に示すTR-EFM では FM-EFM の特性と FM-AFM フィードバックを分けて考えるためPLL を 2 台用いたFM-AFM 用 (PLL1) には 42 節と同じ自家製回路を用いFM-EFM用 (PLL2)には Zurich Instrumentsのロックインアンプ (LIA)である HF2LI-MF (以降ZI-LIA)の PLLオプションを用いたZI-LIAからACバイアス信号 ((角)周波数 ft(ωt))をカンチレバーに加え変位信号を PLL2で周波数検波しZI-LIAにより Lock-in検出することで EFM信号が得られ経時信号をデータロガー (NR-500)で記録したPoint-by-point動作を行うトリガー信号は自家製 AFMコントローラより出力されFG1 (Tektronics AFG 3000)の出力トリガーに用いるとともに信号の再構成用にデータロガーで記録したカンチレバーは Olympus OMCL-AC240TM-R3

(共振周波数 sim 70 kHzばね定数 sim 2 Nm)を用いたFG1から出力する電圧パルスの波形の概略を図 52(b)に示す0 Vを間に挟む正負交互の電圧波形と複数の振幅のパルスを一度に印加することが特徴であるこのようなパルス波形は Oak Ridge

国立研究所の Kalininおよびダブリン大学の Rodrigezらのグループにより提唱された電気化学原子間力顕微鏡で用いられたものから着想しており複数の電圧に対する応答を一度に測定できるという利点を有している [168]本研究では対象とするグレインや測定内容によりパルス波形に調整を加えているため次のようにパルス波形を定義する

1パルス時間 tp を用い一つの電圧に対応するパルスの時間を表すシーケンス +Ak rarr 0 rarr minusAk rarr 0という一連のパルスを出力する期間を表すあるシーケンスで

のパルス振幅を Ap = plusmnA1 middot middot middot plusmnAk middot middot middot Anの形で示す正パルスまたは負パルスのみの場合は符号をそのように指定することで示す

シーケンス回数 nで定義する

例えば主に用いているパルス波形はtp = 20 msn = 5Ap = plusmn05 V middot middot middot plusmn25 Vと表すことができるこの場合総パルス時間は 4ntp = 400 msである

51 時間分解 EFM (TR-EFM) 79

(a) Height control(FM-AFM)

(b) Bias applicationamp FM-EFM

Cantilever

ElectrodeInsulatorGate

Feedback ONWithout bias With bias

Feedback hold

Pulse bias

EFM signal

図 51 時間分解 EFM (TR-EFM) の動作模式図試料上の各点 (走査中の全点) において(a)FM-AFMによる探針ndash試料間距離制御と(b)パルス電圧印加および FM-EFM測定を交互に繰り返す

PLL1

Data logger

Lock-in amp

PLL2

Self-excitationblock

Heightfeedback

Scanner

LDPSPD

Tip AC

FG1SampleInsulatorGate

Electrode

AFM controller

EFM signal

ZI-LIA

Trigger signal

∆f dc∆f ac

(a) Setup

(b) Pulse form (FG1)

Pulse period tp

Total pulse period 4ntp

Sequence 1

Sequence nVel

Injection

Extraction

plusmnA1 plusmnAn

図 52 (a) TR-EFMの装置構成図(b) FG1により印加したパルス電圧の模式図

512 妥当性検証電位応答の評価法としての妥当性を示すために(1) EFM 信号の値(2) 応答時間1の面から

TR-EFMの検証を行った

1 本節では電圧変化に対して EFM信号が追従する時間のことを指す

80 第 5章 時間分解測定による有機グレイン中のキャリアダイナミクス評価

1 EFM信号値 26節でも述べたようにFM-EFMでは変調信号を FM検波の後 Lock-in検出することで EFM信号 (∆f )ωt が得られる試料電位を Vs とすると式 (213)および式 (212)より

(∆f )ωt =f02kpart2Cts

partz2 VsVac cosωtt (51)

で表されるPoint-by-point 動作においても Vs に比例した EFM 信号が得られるかを検証した測定条件 [設定値 1]を以下に示す

概要 Au電極上 TR-EFM [設定値 1]

Pulse tp = 20 msn = 5Ap = plusmn05 V middot middot middot plusmn25 VLIA ft = 5 kHzバンド幅 (BW) 500 HzPLL2 自動 BW設定Logger 05 mssamplingで PulseEFM信号を取得

Au電極上で電極に上述のパルスを加えTR-EFM測定を行った各シーケンスの初めを 0 ms

に合わせた EFM信号経時変化を図 53(a)に示すここでは全体の傾向について議論を行うため単一ではなく 9回平均したデータを用いた図 53(a)よりパルスに応じて EFM信号の変化が分かるパルスのうち 0 Vとなっているところではどのシーケンスの EFM信号も重なっておりほぼ同じ値が得られていることが分かるこれはパルス印加中に探針や試料 (電極)の電位変化やカンチレバーの高さ変化は起こっていないことを示し今回のようなパルスが測定には影響しないと分かる一方 0 Vで EFM信号が 0となっていないことは探針ndash電極間の仕事関数差が影響していると考えられる以後まず測定時に電極上での EFM 信号がほぼ 0 となるように探針にバイアス電圧を加えさらに測定後に電極上の 0 Vでの EFM信号をオフセットとして全体から差し引くことで電極に対する電位相当の信号として評価するそれぞれのバイアス印加時の EFM 信号は少なくとも今回の PLL および LIA の設定では一定であることが分かる飽和後の EFM 信号の平均値をバイアス電圧に対してプロットしたものを図53(c)に示すEFM信号の理論式 (51)で示したとおり飽和値はバイアス電圧に対して線形に変化することがわかるよって測定量に関して TR-EFMは妥当な結果が得られているといえる電位 U に対してEFM signal= (U times 453 mVV + 18 mV)と線形フィッティングできたがこの比例係数および切片は探針や PLLLIAの設定値によって変化することに留意する必要がある

2 応答時間と設定値の関係 図 53(a)の 0ndash5 ms を拡大したものを図 53(b)に示すplusmn05 V での結果を除きどのバイアス電圧においても 1 ms の時点で飽和値の 9 割に到達しておりplusmn05 V のEFM信号も 15 msで十分飽和しているつまり[設定値 1]での測定の時間分解能は約 1 msといえ本節の冒頭に述べた時間分解能を満たしているため有機半導体グレインへの電荷注入応答を測定する十分なポテンシャルがある一方グレインによって応答が異なること今後 TR-EFMを活用した経時応答測定を行うことを考慮すると装置設定と EFM信号の応答時間信号対電圧比 (Signal-to-noise ratio SN)を比較することは有用である本項では変調周波数 fm のみならずカンチレバーの共振周波数PLL2の設定値 (ループゲイン PPLL および位相検出器 (PD)カットオフ周波数 fPD)LIAのバンド幅 BWについても考慮し所望の応答速度に対する設定項目の目安や最適値という実践的な面に注目して議論

51 時間分解 EFM (TR-EFM) 81

0

50

100

150

0 1 2 3 4 5

EFM

sig

nal [

mV]

Time [ms]

-100

0

100

0 20 40 60 80EFM

sig

nal [

mV]

Bias

[arb

uni

t]

Time [ms]

(a) (b)

plusmn05 Vplusmn1 V

plusmn15 Vplusmn2 V

plusmn25 V

VB

05 V

1 V

15 V

2 V

VB = 25 V

-100

0

100

-2 0 2

Satu

rate

d si

gnal

[mV]

Bias (VB) [V]

FitData

(c)

VB

図 53 Au電極上 TR-EFM測定結果(a)各シーケンスの初めを 0 msに合わせた EFM信号 (左軸)および加えたパルスバイアス波形 (右軸)バイアスの波高を VB としている(b)各シーケンスの EFM信号の 0ndash5 msを拡大したもの(c) EFM信号 (飽和値)のバイアス電圧依存性 (Plot)および線形フィッティング結果 (Line)

する前項目同様に Au 電極上の TR-EFM 波形から実効的な応答時間 (Response time) τres を比較する ft = 5 kHz および BW を 500 Hz に固定しパルス電圧として tp = 20 msn = 5Ap =

+1 V middot middot middot +1 V を印加しTR-EFM 測定を行った励振させるカンチレバーの共振周波数は 1

次2 次のたわみモードを用いることで比較しPD のカットオフ周波数と合わせて 1 次は fPD =

8 kHz 20 kHzについて2次は fPD = 20 kHz 40 kHzについて測定したなおOMCL-AC240TM-

R3の 2次共振周波数はおよそ 340 kHzであるまた PPLL として 178 349 524 873 140のうちいくつかについて比較したまたZI-LIAに備わっている PPLL fPD の自動設定 (auto)の見積もりも兼ねた1シーケンスの EFM信号を比較したものを図 54(a) (b)に示す図 54(a)よりPLLゲイン増加に伴い信号強度の増加がよく分かるが同時にノイズ分も増加していることが分かるこれは PLLの帯域増加による信号およびノイズ増加に対応するまた結果より1次での自動設定はおおよそ PPLL = 349と推察されるEFM信号値の妥当性検証時は PLLの自動設定を用いたがゲイン増加により自動設定のときよりも信号が増加しており ft が PLLの応答帯域外だったことを示している一方 fPD は強度には大きく影響しておらず帯域は PPLL が制限していることが分かるがPPLL = 873かつ fPD = 8 kHzの結果 (図 54(a)青破線)のように十分な fPD が無いとノイズの原因となる2次の結果 (図 54(b))もおおよそ同様の傾向を示しているが自動設定では 1次のそれに比べて強度ノイズともに良好な結果が得られたSN および τres を比較したものを図 54(c)

82 第 5章 時間分解測定による有機グレイン中のキャリアダイナミクス評価

0

20

40

60

80

100

Auto

178

349

524

873

140

SN

(b

ar)

P gain

0

100

200

0 5 10 15 20

EF

M s

ign

al [m

V]

Time [ms]

178

524

349

Auto

P= 873

0

100

200

0 5 10 15 20

EF

M s

ign

al [m

V]

Time [ms]

P= 140Auto

P= 873

(a) 1st resonance (b) 2nd resonance

(c)

PLL auto

1788k 20k 40k

349524873140

P (g

ain)

PD cuto (fPD) [Hz](a) (b)

1st

fPD

2nd

Reso8 kHz

20 kHz

20 kHz

40 kHz

1 seq Averaged

τres

0

05

1

15

Re

sp

on

se

tim

e Ѭ

res

(plo

t) [

ms]

図 54 カンチレバーの共振次数および PLL設定値 (PLLゲイン PPLL位相検出器 (PD)カットオフ周波数 fPD)による TR-EFM信号変化(a) 1次 (b) 2次共振での 1シーケンスの EFM信号波形 (実線 fPD = 20 kHz点線 fPD = 8 kHz(1次)40 kHz(2次))(c) SN(左軸棒グラフ)および応答時間 τres(右軸プロット)比較1シーケンスでの結果を塗りつぶし5シーケンス平均での結果を中空で示した

に示すなおτres として飽和値の 9割に到達した時間を用いたSNとしては 1シーケンスの結果および 5シーケンスの信号の平均から求めた結果を示したまず τres は PLL設定値にほぼ依らないことが明らかである一方 SNは1シーケンスの結果ではゲイン増加により落ちてしまうが平均することでかなり向上する全体の傾向としては 2次共振の方が SNが高めであり本セットアップでは 2次共振での測定が有利であるといえる2

次にロックイン検出の平均時間 (LIAの時定数)に注目する本研究で用いた ZI-LIAでは変調周波数からのバンド幅 (BW) として設定するため必ずしも 1 対 1 に対応するとは限らないまた実際の TR-EFM測定で BWに依存しない領域がある可能性もあるためSNと合わせてここで検証する上述の議論で 2次共振の PLL自動設定がある程度大きな帯域を有していたため2次を中心に比較した変調周波数と BWを変えながら TR-EFM測定した結果を図 55に示すここでは簡単のため共振次数に関わらず PLLの自動設定を用いた変調周波数を上げるに従い信号強度が小さくなるのはPLL 設定値による変化と同じく PLL の応答帯域による影響であるただしPLL 設定値は同一のためノイズは同等でありSNは減少する同じ変調周波数では BWの増加に従い明確に応答時間が短くなっておりパルス電圧印加の遅れが EFM 信号の立ち上がりの遅れに影響し

2 実験の順序の関係により大半の TR-EFM測定では 1次-PLL自動設定を用いているがベースノイズが小さいため平均せずとも比較的応答を綺麗に見ることができるという利点がある

51 時間分解 EFM (TR-EFM) 83

0

100

200

0 1 2

EFM

sig

nal [

mV]

5 10 15 20Time [ms]

0

100

200

0 1 2

EFM

sig

nal [

mV]

5 10 15 20Time [ms]

0

100

200

0 1 2

EFM

sig

nal [

mV]

5 10 15 20Time [ms]

0

100

200

0 1 2

EFM

sig

nal [

mV]

5 10 15 20Time [ms]

0

100

200

0 1 2

EFM

sig

nal [

mV]

5 10 15 20Time [ms]

(a) ft = 5 kHz (b) 8 kHz (c) 10 kHz

(d) 12 kHz (e) 5 kHz (1st) BW

200 Hz500 Hz800 Hz

1 kHz12 kHz

図 55 変調周波数 ( ft)と LIAバンド幅 (BW)による 5シーケンス平均の TR-EFM信号変化見やすさのため立ち上がり 2 ms間を拡大した(a) 2次-5 kHz(b) 2次-8 kHz(c) 2次-10 kHz(d)2次-12 kHz(e) 1次-5 kHz

(a) (b)

1st

ft

2nd

5 kHz

10 kHz

5 kHz

8 kHz

10 kHz

12 kHz

1 seq Averaged 0

50

100

150

200 500 800 1k 12k

SN

BW [Hz]

0

1

2

3

0 2 4 6

Ris

ing

tim

e [

ms]

1BW [ms]

5 kHz

8 kHz

10 kHz

12 kHz

ft =

図 56 (a)各変調周波数 ( ft)と共振次数における EFM信号の SN比較1シーケンスでの結果を塗りつぶし5シーケンス平均での結果を中空で示した(b) 2次共振での変調周波数ごとの応答時間 τres 比較1BWに対してプロットした

ているわけではないことが分かるこの傾向はどの変調周波数でも見られたしかしBWの増加でノイズも増加しており5回の平均でも除去できていないことが分かるこれらの EFM信号から得られた SNの比較を図 56(a)に示すBWの増加による SNの減少が起こるが1次-5 kHzや 2

次-5 kHzのように平均化によりある程度是正されていることが分かる図 56(b)に BWによる応答時間の変化 (ただし 2次のみ)を示す同じ BWでは応答時間は変調周波数に関わらずほぼ同じであることが分かるそのため求める応答時間に対して最もよい SNを示す設定値が最適といえるここで変調周波数の増加に伴い SNが減少することを踏まえるとノイズが劇的に悪化することがない限り低い変調周波数を用いるのが適当であることが分かったBWに対する応答時間の変化はおおまかに (2BW)minus1 で記述できることが図 56(b)より見て取れるつまり05 msの時間分

84 第 5章 時間分解測定による有機グレイン中のキャリアダイナミクス評価

40 nm (a) (b)50 nm (c)

150 nm

Gr2a

Gr2b150 nm

Gr1

Insulator

Electrod

e

150 nm

Gr3aGr3b

(a) (b) (c)

図 57 TR-EFM測定に用いた Au電極接続ペンタセングレインの表面形状像

解能が必要な場合BWを 1 kHzに設定する必要がありその中で SNが良い ft = 5 kHzが最適値と考えられる

52 有機グレインのキャリアダイナミクス評価前節では新規提案した TR-EFMの動作原理と測定の妥当性について議論した本節では実際に有機半導体グレイン上で TR-EFM測定を行いその電位応答からキャリア注入蓄積または排出がどのように起こっているかを検証し単一グレイン系における局所抵抗の評価に繋げる

測定試料 測定試料としてAu電極に接続したペンタセングレインを用いたAu電極は 441節と同様に UVリソグラフィで作製したペンタセンは 321節で述べたとおりである図 57に以降の測定で用いたペンタセングレインの表面形状像とそれぞれのグレインの名称 (Gr1 Gr2a Gr2b

Gr3a Gr3b)を示すGr1以外は明確なくびれがグレイン内に無く単一グレインとみなすGr1についてはくびれは無いがグレイン内で層数の分布が見て取れる以降の測定ではこれらの影響も含めて議論する

用語定義 TR-EFMでは特殊なパルスを用いており一度の測定で電圧の正負または 0 Vへ戻したときさらにそのバイアス依存や時間依存など複数種の応答が同時に得られる以降の評価で用語が混同しないように本項目で用語を定義するなおこの定義ではペンタセンが p型有機半導体であること電極として Auを用いていることから電極ndashゲート間に正電圧印加時に正孔が注入されることを基としている

EFM信号 TR-EFMまたは単なる FM-EFMにより得られたロックイン出力値またはその経時波形

バイアス電圧 ある時間期間における電圧値VB で表す注入 (injection) 電極電圧3を 0 Vから +VB にステップ変化させることまたはその応答排出 (removal) 電極電圧を +VB から 0 Vにステップ変化させることまたはその応答空乏 (depletion) 電極電圧を 0 Vから minusVB にステップ変化させることまたはその応答回復 (recovery) 電極電圧を minusVB から 0 Vにステップ変化させることまたはその応答緩和 (relaxation) 電圧のステップ変化後に継続して電圧または EFM信号が変化している期間ま

たはその応答飽和飽和値 (saturation) 電圧のステップ変化後にほぼ一定の電圧または EFM信号となっている期

3 ゲートに対する電極電圧以下略

52 有機グレインのキャリアダイナミクス評価 85

Pulse bias(to the elctrode)Response

(on the grain)Injectio

n

Time lapse

Relaxation

Saturation

Removal

Depletion

Recovery

図 58 TR-EFMにおける用語定義の概要図

間またはその応答その平均値応答 (response) 電極電圧変化に対するグレインの電位変化全般を表す用語応答時間 (response time) バイアス電圧変化に対して EFM信号 (等)が追従し収束するのに要し

た時間(例 グレイン上の応答時間 =グレイン上 EFM信号の応答時間)

蓄積 (accumulation)空乏 注入時の飽和特性を ldquo蓄積rdquo と呼ぶこともあるその場合の対義語としても ldquo空乏rdquoを用いる

これらの定義をまとめたものを図 58に示す

521 単一グレインの時間分解パルス電圧応答図 57(a)の Gr1に関して測定条件 [設定値 1]tp = 20 msn = 5Ap = plusmn05 V middot middot middot plusmn25 Vのパルスで TR-EFM測定した結果のうち plusmn25 Vのシーケンスにおいて各点の同一時間に対応する EFM信号で再構成した時間分解 EFM像を図 59にまとめて示すここでは注入時排出時空乏時回復時の電圧変化時刻から起算して minus1 0 1 2 5 10 15 ms後における EFM像のみ示しているカラースケールは共通で0 Vでの電極上 EFM信号に対する値として示しているまず EFM像全体に共通して言えることはEFM像のある一点をとったとき付近の応答が比較的近い値を示していることである単に Fast scan (X)方向だけでなく Slow scan (Y)方向も均一である各点でパルス電圧を印加していることを踏まえるとここで得られている応答は非常に再現性の高いものといえ前回のパルス電圧による影響があるとしても次回のパルス印加時には十分消失しているといえるこれらのことはTR-EFM 測定の妥当性を確保する上で重要な視点となる他の EFM像に比べ電圧変化後 0 msの応答はノイズ状になっているがこれは原理上データログのタイミングに plusmn025 msの誤差が存在してしまうことと再構成用のタイミング信号とパルス印加のトリガーのずれによって生じるものであるため取り除くことは困難であるそのため以下の評価では 0 msでのデータは無視する注入時 (図 59(a))の EFM像に注目するとGr1上の EFM信号は電圧変化後 1 msから 15 msにかけてゆっくりと変化 (緩和)している一方電極上は 1 msでほぼ収束しているEFMの応答時間はほぼ電極上の応答時間と対応付けられるためGr1上の緩和応答は装置測定上の問題ではなく試料中の何らかの要因によるものとわかるこのように電極上の応答時間と比較することで装置上の問題と即座に切り分けることができる点が TR-EFMの利点の一つであるまた512節での

86 第 5章 時間分解測定による有機グレイン中のキャリアダイナミクス評価

Tim

e la

pse

(a) Injection

-1 ms

1 ms

2 ms

5 ms

10 ms

15 ms

0 ms

(b) Removal (c) Depletion (d) Recovery

(e) Topography(simultaneous)

25 V 0 V ndash25 V 0 V

-150 mV 150 mVEFM signal

Potential0 V +ndash

図 59 Gr1上 TR-EFM結果から再構成により得られた時間分解 EFM像plusmn25 Vのシーケンスにおける (a)注入時(b)排出時(c)空乏時(d)回復時の電圧変化前 1 msから変化後 15 msまでの応答を示している(e) TR-EFM測定時に同時に得られた表面形状像

52 有機グレインのキャリアダイナミクス評価 87

0

50

100

150

200

0 5 10 15 20

EFM

sig

nal [

mV]

Time [ms]

0

50

100

150

200

0 5 10 15 20

EFM

sig

nal [

mV]

Time [ms]

0

100

200

0 200 400 600

EFM

sig

nal [

mV]

Ditance [nm]

Elec

trod

e

Insu

lato

r

Init

BA

0

100

200

0 200 400 600

EFM

sig

nal [

mV]

Ditance [nm]

Init BA

1 ms

Init

2 ms5 ms

10 ms15 ms

Time lapseafter change

(a) Injection-prole (b) Removal-prole

(c) Injection-ave (d) Removal-ave

BA05 V

1 V15 V

2 V25 V

VB

(e) cf topography of Gr1

図 510 Gr1上 TR-EFM結果 経時変化(a) (b)それぞれ+25 Vシーケンスの注入排出時における EFM信号の時間分解ラインプロファイル表面形状像 (e)の線分 AndashB上におけるプロファイルを得た電圧変化直前の信号を破線で示しているまた指数関数フィッティングの結果を黒細線で示した(c) (d)それぞれ各シーケンスの注入排出時における Gr1上 EFM信号の経時変化形状像 (e)の x点付近の 5点平均値を示した

Gate

Electrode Grain

Insulator

Fermi levelHOMO

Metal Organic Metal Organic

(a) Equivalent circuit (b) Injection process (c) Removal process

Ener

gy

図 511 (a) グレイン上電位応答を表す等価回路モデル(b) キャリア注入時(c) 排出時のキャリアの動きと金属ndash有機界面の電子準位の模式図図中下方向がホールに対してエネルギーが高い方向となる

議論でTR-EFM としての時間分解能はおおよそ (2BW)minus1 であることを述べた本測定では BW

が 500 Hzのため時間分解能は約 1 msであり電極上 EFM信号の応答時間と一致する注入時以外の経時変化に注目すると排出時 (図 59(b))と空乏時 (図 59(c))は電圧変化後 1 msで

Gr1上の応答がほぼ飽和しており注入時とは明らかに異なる応答を示している一方回復時 (図59(d))は注入時ほど遅くはないが1 msから 5 msにかけて Gr1上の EFM信号に変化が見られる注入時と回復時は電極からグレインへの「キャリア (ホール)注入」排出時と空乏時はグレインから電極への「キャリア排出」過程と考えることができこれら Gr1上の応答時間の違いはキャリア注入排出過程の違いと考えることができる

88 第 5章 時間分解測定による有機グレイン中のキャリアダイナミクス評価

表 51 Gr1上 EFM信号の指数関数フィッティング結果 (抜粋)

Bias (Vstart minus Vend) [mV] τ [ms] Vend [mV] Residue

1 V注入 minus653 plusmn 11 417 plusmn 017 702 plusmn 06 179

2 V注入 minus1431 plusmn 23 563 plusmn 025 1448 plusmn 18 384

1 V排出 532 plusmn 07 0613 plusmn 0016 934 plusmn 012 068

図 510に Gr1上 EFM信号プロファイルつまり電極からの距離依存性を示すプロファイルは図 510(e)の線分 AndashB上で取得した(a) (b)はそれぞれ各時間における注入排出時のプロファイルを示しているが電極ndashGr1界面以外の明確なドロップがないことが分かる試料中の基板と平行な方向の伝導度が異なると応答時間に影響を与えるのでこの結果から注入排出時のキャリア輸送の阻害となる領域はほぼ電極ndashGr1界面のみであることがわかるまた先に議論した注入排出過程での応答時間の違いも図 510からよく分かる排出時の 1 ms後も Gr1上の EFM信号が若干現れているため電極と完全に同期して緩和しているわけではないと見て取れる輸送阻害となる要因がほぼ電極ndashGr1界面のみであるためGr1上のある点を Gr1全体の応答の代表とすることは問題とならない図 510(c) (d)はそれぞれ図 510(e)の x点における注入排出時の EFM信号の経時変化である注入排出ともに緩和から飽和への変化が明瞭に確認できる応答時間と電気特性との対応づけのため図 511(a)のような等価回路を考えるグレイン上の抵抗は電極ndashグレイン界面の抵抗 Rに比べて十分小さいと考えまた 4章と同様にグレインのゲート容量 C

をおく電極ndashゲート間電圧が Vstart から Vend に瞬時に変化するとグレイン上の電位 V(t)は次のように記述される

V(t) = Vend + (Vstart minus Vend) exp(minus tτ

) where τ = RC (52)

ここで同一グレインに関してはゲート容量 C は同じであるため指数関数フィッティングで得られた時定数 τは電極ndashグレイン界面の抵抗 Rに比例する図 510(c) (d)において指数関数フィッティングした結果を黒細線で重ねて示したまたフィッティングパラメータ (抜粋)を表 51に示すただし排出時の応答は 1 Vのシーケンスのみフィッティングした注入時の 05 V1 Vや排出時は実際の EFM信号とフィッティング線が比較的重なっているがそれより大きなバイアスでの注入特性は指数関数とはずれていることが分かる表 51からも残差 (Residue)が 2 Vの注入時で大きくなっていることが分かるこれら指数関数からのずれは EFM 信号の比例係数が影響していると考えられ522節において議論する

VB = 1 Vにおける時定数は注入時は 4 ms排出時は 07 msと 5倍近い差があることが分かるそして上述の議論よりこれは排出時に比べて注入時のほうが電極ndashGr1 界面の抵抗が大きいことを示しているこれは図 511(b) (c)のような金属ndash有機界面のエネルギー準位の模式図により説明できるAu上のペンタセン HOMO準位は Auのフェルミ準位 (Fermi level)よりも (電子にとって)

低いエネルギーに位置することが光電子分光法を用いた研究で報告されている [37 169]よってホールが電極からグレインに注入される際には余分にエネルギーを要する (図 511(b))一方グレインから電極にホールが排出されるときは少なくとも注入時のようなエネルギー障壁を感じることはない (図 511(c))ただし4章で議論したようにエネルギーのミスマッチ自体が電気特性に影響を及ぼす可能性はあるが注入排出時のエネルギー障壁の有無が抵抗の大小に影響したこと

52 有機グレインのキャリアダイナミクス評価 89

-200

-100

0

100

200

0 200 400 600

EFM

sig

nal [

mV]

Ditance [nm]

+25 V+2 V

+15 V+1 V

+05 V

ndash05 V

ndash15 V

ndash25 V

ndash1 V

ndash2 V

Bias

-100

0

100

-2 0 2

Sign

al (s

at)

[mV]

Bias [V]

Electrode (ref)

Gr1

(a) (b)

図 512 Gr1 上 TR-EFM 結果 飽和値(a) それぞれのバイアス電圧における電圧変化後 15ndash195 ms 間を平均した飽和値プロファイル正バイアスが蓄積時負バイアスが空乏時に対応する(b) Gr1上を平均した飽和値のバイアス依存性電極上の EFM信号をレファレンスとして黒実線で示す

は明確であるこれまでも多く報告されてきた簡易な議論ではあるが単一グレインndash電極界面での評価を達成したことはモルフォロジーやグレイン境界といった影響ではなく純粋な金属ndash有機界面で同様のことが起こるという裏付けとなりTR-EFMの局所電気特性評価法としての有用性を示す成果である最後に飽和値について言及しておく図 512(a)は各シーケンスの注入空乏時の飽和特性 (蓄積空乏特性)をプロファイルで示しているただし電圧変化後 15ndash195 ms間を平均して用いた飽和時の特性は基本的にゲートバイアスを印加した KFM測定と同じものを見ていることになる蓄積時は電極電位と同様に Gr1上の信号も増加しているが空乏時は minus15 V以降で電極ndashGr1界面のドロップが発生している一方絶縁膜上の EFM信号はほぼ変わっておらずゲートへのカップリングは起こっていないといえる図 512(b)に Gr1上で平均したバイアス依存の EFM信号飽和値を示す電極上からも取得し線形フィッティング結果を実線で示している負バイアス印加時に電極に追随して電位変化が起こらない理由としてp型有機半導体への電子注入が困難であることがあげられるAundashペンタセンの系でフェルミ準位から HOMO準位へのエネルギーオンセットがあることは既に述べたが電子にとっての障壁である金属のフェルミ準位から LUMO準位へのエネルギー差は HOMOのそれよりも大きい [170]そのためp型有機半導体に正のゲートバイアスを印加し n

チャネル動作させた際の実効的な移動度はpチャネル動作のそれよりも非常に小さい図 512(b)

の負バイアス印加時の変化が小さいのも同様の理由と考えられるここでVB = minus1 Vまではバイアス印加に伴い EFM信号すなわち電位がある程度負に変化しているこれは電子注入が起こったというよりも元々ペンタセン中に存在した余剰ホールの排出と考える方がよい本試料は成膜後AFM真空チャンバに導入するまでに大気暴露されておりペンタセン薄膜中に取り込まれた酸素分子がアクセプタとして機能することで余剰ホールが発生したつまり p型ドープが起こったと考えられる [124ndash126]一方正バイアスでは Gr1上で電極上よりも大きい EFM信号の飽和値が得られているEFM信号が電位に比例することを踏まえるとこれは電極に対して Gr1 の電位が高いことを意味するが433節では (ゲート)バイアス印加によりペンタセン単一グレインの電位が電極に対して負であるこ

90 第 5章 時間分解測定による有機グレイン中のキャリアダイナミクス評価

0 100 200 300

0 200 400 600

0 10 20

EFM

sig

nal [

mV]

2f s

igna

l [m

V]

Ditance [nm]

ForwardBackward

Elec

trod

e

Insu

lato

r

0 mV 280 mV

5 mV 250 mV

(b) EFM forward

(a) Topography(taken before)

Measuredregion (e) Proles

(c) EFM backward

(d) 2ft signal

B BA A

図 513 Gr1上の往復 TR-EFM結果表面形状像 (a)の破線で囲った箇所を測定した(b)像の左から右 (forward)(c) 右から左 (backward) へのスキャン時の 2 V 注入時 18 ms 後の EFM 像(d) Forwardでの 2倍波信号像(e) (a)の線分 AndashB上における EFM信号 (Forward Backward)2倍波信号プロファイル

とを確認したこれは EFM信号の比例係数の影響が含まれていると考えGr1上 EFM信号経時変化の指数関数フィッティングがうまくいかなかったこと (図 510(c))と合わせて次節で議論する

522 比例係数補正と電圧依存界面電気特性EFM信号は式 (51)のとおりpart2Cts

partz2 に比例するこの係数は探針と Vacが印加されている導電部分との距離や誘電率試料形状に依存するグレイン内が完全に導体でパルス印加直前の FM-AFM

によるフィードバックが完全であればこの距離は一定と考えられるが何らかの要因により異なれば同じ電位でも EFM信号が異なるここで∆f の 2ωm 成分は式 (213)より

(∆f )2ωm =f02kpart2Cts

partz212

V2ac cos 2ωmt (53)

のように表せるつまり(∆f )2ωm (以下 2倍波信号と呼ぶ)の変化から part2Ctspartz2 の変化を測定できる4

ここで蓄積時の EFM信号プロファイル (図 512(a))ではGr1上の EFM信号が電極よりも単に大きいだけでなく電極から離れるに従い徐々に大きくなる傾向が見て取れるEFM信号の比例係数に加えバイアス印加の経時回数によるストレスの影響も考えられるTR-EFMを往復つまり電極から絶縁膜方向 (Forward)と逆方向 (Backward)で取得し同時に 2倍波信号を測定することでこれら 2種類の影響を評価する測定条件としてカンチレバーの 2次共振 ( f0 sim 340 kHz)を用いた以外は [設定値 1]と同じセットアップとし2倍波信号は ZI-LIAで 100 Hzの BWで検出した図 513に往復 TR-EFM測定結果を示すForward (b) と Backward (c) で EFM 像に明確な違いはないプロファイル (e) では 52

節よりも程度は小さいがやはり電極から離れるに従い EFM信号が徐々に増加している傾向が見られるがforwardと backwardのプロファイルが重なっているためバイアスストレスの影響ではな

4 2Vac times (∆f )ωm(∆f )2ωm により試料電位 Vs を得ることができることが分かるFM-KFM のようなバイアスフィードバックを使わずこのような計算により電位を得る手法は Open-loop KFMと呼ばれる [171]

52 有機グレインのキャリアダイナミクス評価 91

8mV3mV-100 mV 100 mV

(a) Topography

(e)

(b) EFM image (+1 V) (c) 2ft image (0 V) (d) 2ft image (+1 V)

0

10

20

30

0 500 1000

He

igh

t [n

m]

Ditance [nm]

BA

-15

-1

-05

0

05

1

15

-1 0 1

No

rm

po

ten

tia

l

Bias [V]

Ref

Before

After

TR-EFM

FM-KFM

Tapping

(f) Proles (topography)Electrode (bare)Grain

Electrode

図 514 Ptndashペンタセン試料上での TR-EFM 測定と 2 倍波信号比較(a) 表面形状像(b) EFM像(c) (d) 2倍波像(b)および (d)は電極に +1 V注入時 (19 ms後)(c)は 0 Vでの結果を示している(e) 2倍波信号による校正前後の飽和信号比較(f) (a)の線分 AndashB上での高さプロファイル比較 (TR-EFM FM-KFMタッピング)

いと結論づけた一方 2倍波は BWが異なるため応答時間に注意を要するがこれまでの議論より1(2 times 100 Hz) = 5 ms程度で収束すると考えられるため電圧変化後 18 msは十分な時間である2

倍波像も EFM像と同様になめらかに取得できているプロファイルより2倍波信号は電極上に比べて Gr1上で若干大きいことが分かるこのことはGr1上飽和値が電極上よりも大きくなった原因が EFM信号の比例係数変化によるものであることを示唆する結果である

EFM信号の比例係数変化の要因を調べるため様々なサイズのペンタセングレインが接続している系 (42節と同じ試料)で同様の測定を行った (図 514)図 514(a)には現れていないが本試料は対向電極が存在しており図 514(b)の +1 V蓄積時 EFM像の左右の膜上の EFM信号が電極よりも小さい原因は対向電極に接続していることによる電圧の分配が影響しているバイアスが 0 Vのときはグレイン上の 2倍波信号は電極のそれよりも若干小さいが1 Vでは電極よりも大きいことが明瞭に確認できるこのときどのグレインにおいてもほぼ同じ 2倍波信号が得られており像左部の膜上でも同様の傾向が得られたこの結果からEFM信号の比例係数変化は電極とグレインのスケール差によるものではないと結論づけられる図 514(f)は (a)の線分 AndashBに沿った形状プロファイルおよび別途 FM-KFMおよび Tappingにより測定した同位置の形状プロファイルを示している高さの 0点は絶縁膜の高さに揃えた興味深いことに絶縁膜直上のグレイン上 (灰色領域)でのみかけの高さはどの手法でもほぼ同じであるのに対しグレインに覆われていない電極 (橙色領域)は Tappingに比べて TR-EFMFM-KFMでは高く見えているKFMのような交流バイアスを用いない通常の FM-AFMと Tappingを比較して

92 第 5章 時間分解測定による有機グレイン中のキャリアダイナミクス評価

も同様の結果が得られたこれは探針ndash電極間に電位差があり電極上のみ本来より高い位置でフィードバックが釣り合ってしまうことに起因すると考えられる引力領域で制御する FM-AFM

の方がこの影響が強いTR-EFMでは高さ固定時の探針ndashグレイン間距離よりも探針ndash電極間距離のほうが長かったためバイアス印加でグレイン導通時に EFM信号の比例係数がグレイン上で電極よりも大きくなってしまったと考えられる図 514(e)に 2倍波信号での校正前後での EFM信号の変化を示す校正は各バイアスでの飽和 EFM 信号を飽和 2 倍波信号で割ることで行い比較のためVB = 1 Vでの電極上の EFM信号 (校正前後)で規格化した図中の傾き 1の破線が電極上の値(Ref)を示している図 512(b)同様校正前は電極上よりも電位が高く見えているが校正により確かに下回ることが分かる

2倍波信号を用いない校正法 上述の方法は open-loop KFMと同じく EFM信号の比例係数変化を排除しかつ FM-KFM同様電位として値を得ることができる一方2倍波信号を別途測定する必要があり ft が大きいと PLLの帯域内に収まらない恐れやSNを確保するために BWを大きく設定すると EFM信号とは応答時間が異なるため時間分解での評価ができなくなるという問題が生じるよって時間分解測定を維持しながらEFM信号の比例係数校正を行うためには別の手法を考えねばならない電極にバイアス VB 印加時に位置 x時間 tにおける電極に対して電位差 ∆V(VB x t)が発生するとするこのとき EFM信号 sE(VB x t)を

sE(VB x t) = ACprimez(VB x t)[VB + ∆V(VB x t)] (54)

と表すここでAは VB に依らない EFM信号の比例係数Cprimez(VB x t)は part2Ctspartz2 の VB x tによる変

化を表すこれまでの測定ではパルス電圧を全て電極に印加してきたがゲートに逆符号のパルス電圧 (バイアス電圧 minusVB) を印加することを考える (図 515(a))このような印加方法による測定をゲート印加 (gate-pulse) TR-EFMと呼ぶこのとき電極グレインゲートの相対的な電位は探針やその他グラウンドの影響が除外できるとすると電極に加えるときと全く同じであるためグレイン相対電位は同じ ∆V となるこのときの EFM信号 sG(VB x t)は

sG(VB x t) = ACprimez(VB x t)∆V(VB x t) (55)

と表すことができるこれより

ACprimez(VB x t) =sE minus sG

VB(VB 0) (56)

∆V(VB x t) =sG

sE minus sGVB (57)

が得られCprimez の影響を除いたグレイン電位 ∆V が得られることが分かる図 515(b)に Gr1上でゲート印加 TR-EFM測定を行った結果得られた+25 V注入後 1 ms5 ms

10 msの EFM像を示す図 515に示すとおり注入時はゲート電極に minusVB を印加するため絶縁膜を通して負の電位を感じる一方電極は 0 VでありEFM信号はほぼ 0となるminusVB 印加直後は Gr1上が絶縁膜上よりも EFM信号が負になっているがこれは前項で述べたとおり EFM信号の比例係数の違いによるものであるそれを除けば図 59(a)で見られた電極印加の TR-EFM結果と定性的に同様の EFM像が得られており原理的には同じものであることが伺えるただしパルス電

52 有機グレインのキャリアダイナミクス評価 93

-110 mV 40 mV

1 ms 5 ms 10 ms

(b) EFM images (gate-pulse)(a)

InsulatorGate

Gate-pulse

GrainElectrode

0 V∆V

ndashVB

図 515 (a)ゲート印加 TR-EFMの応答模式図電極に VB を印加したときのグレインndash電極電位差を ∆V とするとゲートに minusVB のパルス電圧を印加したときのグレイン電位は ∆V と表せる(b) Gr1上ゲート印加 TR-EFMで得られた時間分解 EFM像

-3-2-1 0 1 2 3

0 200 400 600

(VBumlV

) [V

]

Ditance [nm]

0

02

04

06

08

1

0 200 400 600

ACz

Ditance [nm]

Elec

trod

e

Insu

lato

r

+25 V

ndash25 V

VB +25 V

+05 V0 V

ndash05 V

ndash25 V

VB

(a) corrected ACz (b) corrected ∆V

-3

-2

-1

0

1

0 5 10 15 20

6V

[V]

Time [ms]

05 V1 V

15 V2 V

25 VVB

0

5

10

0 1 2 3

Fitte

d Ѭ

[ms]

Bias [V]

(d) (c)

図 516 式 (56)(57) より得た図 510(e) 線分 AndashB 上の (a) ACprimez(b) (∆V + VB) プロファイルのバイアス依存性(c) Gr1上 ∆V の経時変化 (プロット)と指数関数フィッティング曲線 (実線)(d) (c)の指数関数フィッティングにより得た時定数のバイアス依存性

圧印加直後はグレイン上は電極に対して minusVB だけ電位が異なるグレイン上の EFM信号を考えると電極印加時は同程度であるがゲート印加時は瞬時に minusVB 相当の信号となるため変化が大きいそのため追従にさらに時間を要することに注意が必要である先述の Gr1上 TR-EFM測定結果とゲート印加 TR-EFM測定結果式 (56)(57)を用いて補正を行った結果を図 516に示す図 516(a)は飽和 EFM信号における ACprimez のバイアス依存性であり2

倍波信号に対応する成分と考えられる電極上絶縁膜上ではほぼ一定の値だがGr1上では minusVB

の正負で大きく変化する負バイアス (空乏時)では絶縁膜上の値に近くなっておりグレイン上が導通していないことを伺わせる正バイアス (蓄積時)では図 514で見られたように Gr1上 ACprimez (つ

94 第 5章 時間分解測定による有機グレイン中のキャリアダイナミクス評価

まり 2倍波信号)が電極上よりも大きくなっており確かに飽和値の結果 (図 512)は比例係数の影響を受けていたと分かった図 516(b)は補正された ∆V を視認しやすいように (∆V + VB)の形で示したプロファイルであるまず電極上で印加バイアスに対応する電圧となっており絶縁膜上の電位は一定に保たれているそして図 510(a)で見られる通常の TR-EFMプロファイルよりも Gr1

上の均一性がよくなっており比例係数の影響を排除できているしかし高負バイアスでは Gr1

上でポテンシャルの勾配がなお存在している負バイアスの変化に対しプロファイルの共通部分が存在しているため比例係数ではなくGr1上に分布している別の要因があると考えられる空乏時のグレインの物性に関してはのちに改めて議論する本校正法の最大の利点としては EFM 応答時間の条件が同じまま時間分解測定ができることにあるGr1上で平均した時間分解 EFM信号から ∆V に変換した結果を図 516(c)に示す電圧印加後15 ms は EFM 応答時間と先述のゲート印加時の応答遅れにより無視しそれ以外の領域で指数関数フィッティングした結果を実線で示している図 510(c)に比べて明らかにフィッティング曲線とのずれが小さい+25 Vでの結果をフィッティングした残差を比較すると補正前の 19に対し補正後は 024と約 110になり補正前は EFM信号の比例係数による影響が大きかったことが伺える図 516(d)は ∆V の指数関数フィッティングにより得られた時定数のバイアス依存性であるVB が大きくなるに従い時定数つまり電極ndashGr1界面の抵抗が増加しているつまり電圧に対して電流が非線形に変化する非オーム性の抵抗であることがわかった金属ndash有機界面の接触抵抗の非線形性はこれまで大電極を用いた測定で頻繁に取り沙汰されてきた一般に出力 (VDndashID)特性の低バイアス部が線形ではなく下に凸の加速度的増加を示している場合に接触抵抗の影響が大きいとされるこれは特に短チャネル低温の場合に顕著である [4950]また注入特性の改善をまずこの点から確認することもできる [161]このようなある程度ドレインバイアスをかけないと導通しないという特性はNecliudov らにより逆方向に並列接続したダイオードでモデル化された回路が用いられることが多い [136 172]しかしパラメータに物理的な意味づけができないことがこのモデルの問題点である5一方金属ndash有機界面を金属ndash半導体界面のアナロジーと考えその最も一般的なモデルである Schottky 障壁を介した注入モデルを用いて接触抵抗と障壁の関係を議論している研究もある [173 174]金属ndash半導体界面の Schottky障壁は両材料のフェルミ準位の違いにより発生するが有機半導体はフェルミ準位を定義することは難しいしかし接触後金属のフェルミ準位と (p型の場合)有機の HOMO準位に差が存在することは明確でありHOMO準位を半導体の価電子帯上端と同等とみなすことで同様に議論できると考えられるここで有機に対して金属側を正電位にすることはSchottky障壁において逆バイアスに相当するつまりSchottky障壁モデルでキャリア注入を記述する場合逆バイアスのダイオードでモデル化するほうが物理的な意味が備わると考えるここで結果に戻るとVB が大きくなるに従い抵抗が大きくなる傾向は逆バイアスのダイオードの特性と定性的に一致しているよってTR-EFMにより確認された非オーム性抵抗は金属ndash有機界面における金属フェルミ準位と有機 HOMO準位差に起因する Schottky障壁を通した注入特性を純粋に反映したものと結論づける

5 もし対応付けできると考えると導通開始に 5 Vのドレインバイアスを要すとき界面障壁が 5 eVということになりナンセンスである

53 単一グレインのチャネル形成評価 95

Lock-in ampLock-in amp

PLL2

Scanner

LDPSPDTip AC

FG1SampleInsulatorGate

Electrode

EFM signalSIM signal[X Y] [Ampl]

ZI-LIA

BWSIM BWEFM

∆f ac

ftplusmnfs ft Sample AC

図 517 TR-EFMFM-SIM同時測定 (TR-SIM)装置構成図

53 単一グレインのチャネル形成評価52節では一つのグレイン (Gr1)に注目しTR-EFMにより得られた EFM信号の経時変化や飽和値から単一グレインでの金属ndash有機界面電気特性の測定が可能であることを示したこの評価プロセスを活かしグレイン毎にどのような電気特性差が存在しどのような局所物性が特性差に影響を与えているかを評価したいと考えるここで4章で開発した FM-SIMは同じ単一グレインにおける界面電気特性を測定できる手法でありTR-EFMとの組み合わせにより相補的ないしは相乗的な評価が可能になることが期待される本節ではいくつかのグレインについて TR-EFM およびFM-SIMの結果を比較しつつグレイン間特性差を議論する

531 TR-EFMFM-SIM同時測定法図 517 は一部簡略化した TR-EFMFM-SIM 同時測定 (TR-SIM と呼ぶ) 用の装置構成図である基本的な要素としては図 43 と同じであるが全て ZI-LIA を用いていることバイアスフィードバックを行っていないことが 4章と異なる表 52に以下の測定で用いた測定条件を示すTR-EFM

では 5 kHzを用いており4章のように ft + fs の検出では PLLの帯域を大きく外れ測定が難しいそのため[設定値 SIM-1]では ft minus fs 成分を FM-SIM信号として用いたそのときLIAから得られる位相は本来の Vlo とは符号が逆になることに注意する (cf 式 (45))6設定値の目安として ftfs ft plusmn fs が互いの 23倍波と重ならないことこれら周波数の間隔が BWに対して十分取れること7 fs がそのグレインの測定レンジに入っていること8が必要である

FM-SIM信号強度が小さいと位相信号が非常に乱雑となるため以下では振幅位相の代わりにin-phase (SIM-Xと呼ぶ)out-of-phase (SIM-Y)の信号を取得した

Sweep-SIM TR-EFM (TR-SIM)ではパルス電圧に対する応答を測定するがpoint-by-point動作を利用すれば別の波形に対する応答も取得できる飽和値のバイアス依存を連続的に測定するため

6 ft lt fs のときは同相となる7 例えば441節で用いた ft + fs = 11 kHzでは EFM信号に大きくカップリングする8 図 411参照周波数が大きすぎると応答が全く得られない

96 第 5章 時間分解測定による有機グレイン中のキャリアダイナミクス評価

表 52 TR-EFMFM-SIM同時測定設定値

設定値 ft fs SIM BWEFM BWSIM

SIM-1 5 kHz minus 18 kHz = 32 kHz 200 Hz 50 Hz

SIM-2 2 kHz + 04 kHz = 24 kHz 100 Hz 20 Hz

に各点で FG1 から三角波を印加する方法を Sweep-SIM と呼ぶSweep-SIM では測定条件として[設定値 SIM-2]を用いた

532 グレイン依存性と TR-EFMSIM対応関係Gr2上 (図 57(b))において測定条件 [設定値 SIM-1]tp = 20 msn = 5Ap = plusmn05 V middot middot middot plusmn25 Vのパルスで TR-SIM測定した+25 Vのシーケンスの注入時排出時の時間分解 EFM像FM-SIM

像 (SIM-X SIM-Y)をそれぞれ図 518の (b)ndash(d)に示す図 518(a)のように測定範囲には Gr2aGr2bの二つのペンタセングレインが含まれているEFM像に注目すると注入開始後 2ndash14 msでGr2a上は同じ応答でありGr2aの応答時間は EFM信号の応答時間よりも短いことが示唆される一方 Gr2bは注入開始後 2ndash14 msで徐々に変化しているこれらグレインの注入時の時定数は 52節で測定した Gr1の時定数とは異なる図 518では Gr2a Gr2bを同時に測定しているため測定ごとに異なる応答時間が検出される可能性は排除できていることを加味するとグレインによって電極ndashグレイン界面抵抗が異なりうることを示している一方排出時は両グレイン共に 2 msでほぼEFM信号が収束しているGr2b上の EFM信号は排出後 2 msのみ若干残存しており注入時の特性差が排出時にも現れることを示唆しているこのようにGr1よりも応答の遅い Gr2bにおいても注入よりも排出過程の方が応答が早いことがわかり52節での議論は一般化できる事象だと考えられる参考としてGr2aおよび Gr2b上で 25点平均した経時 EFM信号および EFM信号を指数関数フィッティングした場合の時定数 (概算)を図 519に示すGr2bの注入時は飽和値が不明なためGr2aの飽和値と同じと推定してフィッティングを行った次に SIM-XY像 (図 518(c) (d))に注目するノイズ軽減のために TR-EFMに比べて小さい BW

(50 Hz) を用いているため測定の応答時間は約 10 ms であり電圧変化後 2 ms の SIM 像は無視する全体の傾向として注入前 minus1 ms と排出後 14 ms はほぼ同じ SIM 像となっておりパルス電圧印加前後での特性変化は小さいと考えられるGr2a について注入前後で SIM-X の強度は若干大きくなりSIM-Y では顕著に増加したここで興味深いことに注入後 14 ms の像に破線で囲ったとおり絶縁膜上の Gr2a ((ins)とする)のみならず電極上を覆う部分 (on)においてもほぼ同じ強度の SIM-Y 信号が得られている4 章でも議論したとおり交流電流の経路中に局所インピーダンスが存在する場所で SIM信号が変化するがここでは Gr2a(on)まで一様であることからGr2a(ins)ndashGr2a(on)間は十分導通しているといえる同じ注入後 14 msに関してGr2a(ins)の EFM

信号が電極上よりも大きいという EFM信号の比例係数変化による影響が Gr2a(on)においても現れているのが確認できることやGr2a(on)の SIM-X信号強度が Gr2a(ins)と同等で電極上よりも小さいことは同じく Gr2a(ins)ndashGr2a(on)間の導通を示唆する結果であるしかしインピーダンスの影響がないもしくは導通のないデフォルトの状態で SIM-Y信号が 0であることからSIM-Y像はグレインの導通領域の確認に非常に有効な手段であるといえる

53 単一グレインのチャネル形成評価 97

Time lapse(after change)

2 ms

2 ms

2 ms

8 ms

14 ms

8 ms

8 ms

14 ms

14 ms

19 ms(-1 ms)

19 ms

(ndash1 ms)

2 ms

8 ms

14 ms

0 ms

0 ms

(b) EFM signal (c) SIM-X(a) Topography) (d) SIM-Y

-100 mV 210 mV 0 mV 15 mV 0 mV 15 mV

150 nm

Gr2a

Gr2b

OnIns

25 VInjection

0 VRemoval

ndash1 ms

図 518 Gr2上 TR-SIM測定により得られた表面形状像 (a)時間分解 EFM像 (b)FM-SIMのin-phase像 (SIM-X)(c)out-of-phase像 (SIM-Y)(d)測定全体のうち+25 Vのシーケンスにおける注入時排出時の応答を示している

98 第 5章 時間分解測定による有機グレイン中のキャリアダイナミクス評価

0

50

100

150

200

0 10 20 30 40

EFM

sig

nal [

mV]

Time [ms]

+25 V 0 V

0

50

100

150

200

0 10 20 30 40

EFM

sig

nal [

mV]

Time [ms]

+25 V 0 V

05 V1 V

15 V2 V

25 V

(a) Gr2aτ ~ 14 ms(05 V)

τ ~ 3 ms(05 V)

τ lt 1 ms(b) Gr2b

Bias Bias

図 519 (a) Gr2a(b) Gr2b上の 25点平均 TR-EFM信号 (注入排出のみ)τは指数関数フィッティングした場合の注入排出それぞれにおける時定数の概算値

0

05

1

15

0 05 1 15

Re[

Y]

Ѭinj [ms-1]

0

05

1

15

-2 -1 0 1 2

Re

Im(Y

)

Bias [V]

0

05

1

15

-2 -1 0 1 2

Re

Im(Y

)

Bias [V]

0

05

1

15

-2 -1 0 1 2

Re

Im(Y

)

Bias [V]

(a) Gr2a

(d)

(b) Gr3a (c) Gr3b

Gr2bGr2b

Gr2a

Gr3b

Gr3a

(e) SIM-X(VB = ndash2 V saturation)

Re

Re

Re

Im Im Im

Gr2aGr2bGr3aGr3bGr1

1(2πfsτ)

図 520 (a)ndash(c) TR-SIMと SIMアドミタンス解析により得られたグレインごとのアドミタンス(実部 Re虚部 Im)のバイアス依存 (a Gr2a b Gr3a c Gr3b)(d)注入時の時定数 (逆数)に対するアドミタンス実部の関係同じプロット種は同じグレインの各バイアスにおける値を示している破線は理論値 Re[Y] = 1

2π fsτminus1(Gr1のみ fs = 600 Hzでの TR-SIM測定の VB = 2 Vの結

果を規格化して示した)

一方Gr2bは注入後もほとんど応答が得られておらず与えられた fs に対して界面抵抗が大きすぎると考えられるこのことはEFM像における応答時間が Gr2aに対して非常に大きい事実と合致する図 518で示した TR-SIM測定ではバイアスに対する SIM信号の飽和値が測定できる式 (415)

により SIM 信号から電極ndashGr2a 界面の正規化アドミタンス Y を算出した結果を図 520(a) に示す

53 単一グレインのチャネル形成評価 99

負バイアスでは SIM 信号が全く観測されずバイアスを正に大きくするに従い 4 章と同じく実部(Re)の増加が見られた図 57の Gr3a Gr3bでも同様の測定を行い得られた正規化界面アドミタンスを図 520(b) (c)に示すどちらのグレインにおいてもバイアスの正負で Y の振る舞いが大きく異なるしかし Gr3aに比べてGr2aと Gr3bの実部 (界面コンダクタンス)は一桁大きい値を示している同時にGr2aと Gr3bはバイアス変化により虚部にピークが現れており電極ndashグレイン界面抵抗の大小との相関が示唆される以上のように TR-SIMで観測される応答時間 (時定数)や FM-SIM解析から得られる電極ndashグレイン界面アドミタンスにはグレインごとに差異が存在するここで注入時の時定数 τinj は接触抵抗Rとグレインのゲート容量 C に対して τinj = RC と対応付けらるまた界面コンダクタンス Re[Y]

は式 (415)より Re[Y] = 1(2π fsCR)であるため

Re[Y] =1

2π fsτminus1 (58)

のように時定数の逆数に比例することがわかるこれまで TR-SIM 測定を行ったグレイン (Gr2a

Gr2b Gr3a Gr3b) に関して注入時の経時 EFM 信号の指数関数フィッティングで得られた時定数および飽和 (蓄積) 時の界面コンダクタンスを各シーケンスから算出しプロットした結果を図520(d)に示すただしGr1のみ VB = 2 Vの値のみ示しておりまた [設定値 SIM-1]とは異なりf primes = 600 Hzで測定したため実効的に fs = 18 kHzで測定されうる値となるよう f primes fs 倍した界面コンダクタンスをプロットしたまたGr2bの SIM信号は測定限界以下の強度であったため0とみなしてプロットした図 520(d) より1τinj が大きい (時定数が小さい) グレインでは界面コンダクタンスも大きい傾向が明らかであるこの結果よりグレインごとに測定された EFM 信号の応答時間の違いが測定ごとの探針やバイアスといった測定条件による影響で現れているわけではなくグレインごとの電気特性の違いを反映したものであることを保証できるただし理論より考えられる直線からは大きく外れる結果となったこの原因として一つは電極ndashグレイン界面の静電容量の影響が考えられる界面アドミタンスの並列容量 Clo の存在により見かけの時定数がτapp = R(C +Clo)に変化することは図 511(a)と同様のモデルから容易に導出できるそのため理論上の時定数 τに比べて τapp gt τとなるしかし図 520(a)ndash(c)より界面アドミタンスの虚部つまり CloC はたかだか 1であることから全てこの影響であるとは考えにくい第二にEFM信号の応答時間と FM-SIMでは厳密には測定している過程が異なることが挙げられるFM-SIMでは注入特性のうち飽和 (蓄積)時の特性を反映したものでキャリアの動きとしては蓄積状態のまま微量な注入排出が起こっている一方TR-EFMの注入時は 52節で述べたように排出時に比べて接触抵抗が大きいためFM-SIMから評価される「コンダクタンス」の方が大きめに算出される可能性はあるその影響を考慮すると図 520(d) より注入時と蓄積時のコンダクタンスがグレインに関わらず線形関係にあることが読み取れそれらの過程が全くの別物ではなく結びついていることを示唆しているつまり注入時と蓄積時の抵抗比が Aundashペンタセングレイン界面一般に成立しうることが考えられる蓄積時の時定数 τacc に対して注入時の時定数が τinj = ατacc と示されるつまり実効的な注入時蓄積時の抵抗比が αで表されるとするVB = 2 Vでの τminus1ndashRe[Y]プロットの線形フィッティングからα = 62 plusmn 08と算出されたこの結果はグレインごとに観測するとGr2a と Gr2b のように電極ndashグレイン界面抵抗は大きく変わりうるがマクロで考えると蓄積状態に比べて注入時は接触抵抗が α倍大きいことを意味しているこれまでの研究ではマクロ電極の

100 第 5章 時間分解測定による有機グレイン中のキャリアダイナミクス評価

-410 mV 410 mV 0 mV 17 mV 0 mV -12 mV

(a) EFM signal (b) SIM-X (c) SIM-YBias(VB)

+2 V

+15 V

+1 V

+05 V

0 V

ndash05 V

ndash1 V

ndash15 V

ndash2 V

(i)Metalndashorganicinterface

(ii)In-graindisorder

(iii)Whole grain

On

図 521 Gr1上 Sweep-SIM測定結果

TLM測定や KFMを用いた OFETの接触抵抗評価が行われてきたがこれらは基本的には蓄積状態での抵抗を見ている一方本研究より注入時は蓄積時よりも大きな金属ndash有機界面の接触抵抗が現れることが分かったそのためキャリア注入が動作を支配する OFETのオン動作にかかる時間は蓄積状態での抵抗から見積もられるよりもずっと長く要することに注意せねばならない

53 単一グレインのチャネル形成評価 101

-10

0

0 200 400 600

-SIM

-Y [m

V]

Distance [nm]

(a) SIM-Y(VB = ndash1 V)

(b)

(c)

0

25

50

75

100

0 05 1 15 2

d ove

r [nm

]

Bias [V]

90Average

dover

Elec

trod

e

Left edge

図 522 Gr1 上 Sweep-SIM 結果 (i) 蓄積状態の SIM-Y 像における Gr1(on) 導通領域評価結果(a)で示す線分に沿った SIM-Y像のプロファイル (b)に対しGr1上平均に対して SIM-Y信号が90となる電極端からの距離 dover をバイアス電圧に対してプロットした (c)

533 バイアス分光による導通領域変調評価前節では TR-EFMと FM-SIMを同時測定したときのそれぞれの手法の関係性について議論し

FM-SIM信号の利用によりグレインの導通領域の評価に利用できることが分かったこれまでの議論はグレイン内分布がない領域について評価していたが522節でも述べたように空乏時にはグレイン内ポテンシャル勾配が見られキャリア蓄積状態によってグレイン内の導通状態が変化していることが考えられる本項ではグレイン内外の分布を調べるために 531節で述べた Sweep-SIM

を用いグレインを空乏状態から蓄積状態まで変化させた際の SIM像変化と 521節の結果とを比較し評価を行う測定条件 [設定値 SIM-2] を用いSweep-SIM として各点 400 ms の期間に plusmn25 V の三角波を電極に印加する測定を行った結果のうちBWによる SIM信号遅れが現れていない plusmn2 Vの範囲について EFM像SIM-XSIM-Yを再構成したものを図 521に示すEFM像は図 512(a)の飽和値プロファイルに対応する量であり三角波の印加でもグレイン上の電位が十分追従していると考えられる一方SIM-X 像における Gr1 の見え方が VB によって変化しているここで+2 V からminus2 Vのバイアス範囲を(i) SIM-X像が均一 (蓄積状態VB ge minus05 V)(ii) SIM-X像が不均一 (半空乏状態minus05 V le VB le minus15 V)(iii) SIM-X像に現れない (空乏状態VB le minus15 V)3つの領域に分けることができる

(i)蓄積状態 (i)では SIM-Xに限らず EFM像SIM-Y像でも Gr1内で応答が均一であり電極ndash

グレイン界面の抵抗のみ影響する図 511(a)のモデルを適用して評価を行ったことはこれまでに述べた一方SIM-Y(図 521(c))に注目するとGr2aと同様に絶縁膜上のグレインのみならず電極上を覆う部分 (Gr1(on))においても SIM-Y信号が現れているがこの範囲がバイアスにより変化していることが分かるつまりバイアスによって電極上を覆う部分の導通領域が変調されているそこで次のようなプロセスで導通領域長さ dover を定義算出した図 522(a)の線分に沿った SIM-Y

プロファイルを用いGr1の絶縁膜上領域 (Gr1(ins))の SIM-Y信号平均値に対して 90の大きさと

102 第 5章 時間分解測定による有機グレイン中のキャリアダイナミクス評価

(b) SIM-X (VB = 0 V)(a) Topography (c) SIM-X (VB = ndash1 V)

Gr1

PlateauPlateau

図 523 Gr1上 Sweep-SIM結果 (ii)半空乏状態の SIM-X像とグレイン形状の比較(a)表面形状像と Gr1上の台地 (Plateau)位置 (破線)(Sweep-SIMとは別取得像)(b) VB = 0 V (c) VB = minus1 Vにおける SIM-X像Gr1形状を白破線で台地領域を赤破線で示した

なる Gr1(on)での位置を考え電極端からの距離を dover とするこれを各バイアス (01 V刻み)で行った結果を図 522(c)に示す100 nm以上の距離は像の左端に位置するため測定不能である導通領域長さは正バイアス電圧に対して単調に増加したが12 Vを境にその増加傾向が増している一方バイアス依存アドミタンス解析 (図 520(a)ndash(c))より電極ndashグレイン界面コンダクタンスの増加は minus05 Vのバイアス電圧で開始していることを確認しており導通領域長さの増加開始はグレインの導通開始電圧よりも大きな正バイアス電圧が必要ということになる

(ii)半空乏状態 VB = minus1 Vのときの SIM-X像 (図 521(b))では Gr1内の信号に明確な不均一性が現れたGr1の形状と SIM-X像を比較するためVB = 0 V (i蓄積状態)minus1 V (ii半空乏状態)でのSIM-X像上に表面形状から確認できるグレインの輪郭を破線で示した (図 523(b) (c))VB = 0 V

のときSIM-X信号が得られている領域は EFM信号と同じくほぼグレイン内部のみである一方VB = minus1 VではGr1の上右下に伸びる 3枝 (それぞれ上枝右枝下枝と呼ぶ)の分岐部は VB = 0 V

と同程度の信号が得られているのに対しそれぞれの枝の先まで信号が到達していないこの結果は(i)の蓄積状態とは違いGr1内にも無視できない抵抗成分があることを示しているこの抵抗の由来として分布定数回路のように距離に関係するものグレイン境界のように構造に関係するものそれ以外の影響の 3通り考えられる

532 節で述べたようにFM-SIM と TR-EFM の信号にはそれぞれ関係がある図 523(c) のSIM-X 信号では応答消失後はより遠いところの応答は見ることができないがTR-EFM では全体から信号が得られるためGr1の分岐先についても何らかの変化が観察できると考えられる図524(a)に Gr1上の (I)電極付近 (分岐部)(II)遠方 (分岐先右枝)における空乏時 (VB = minus1 V)の経時EFM信号を示す電極付近に比べて遠方では EFM信号 (の絶対値)が小さいこのこと自体は負バイアス時の EFM信号飽和値プロファイル (図 512(a))や校正後 ∆V 飽和値プロファイル (図 516(b))

からも見て取れるしかしそれに加えて電圧変化後 2 ms以降の信号に注目すると電極付近ではほとんど変化していないのに対し遠方では有意な傾き (経時変化)が見て取れるこれはキャリア輸送による電位の時間変動が起こっていることを示すものであり負バイアス時 (空乏時)の ∆V 飽和値プロファイルの勾配 (図 516(a))は静的なキャリア分布による電位勾配ではなく何らかの抵抗により発生していることを示している図 524(a)で見られた EFM信号の経時変化率 (Vs)を各負バイアスにおいて全点で算出しマッピングしたものを図 524(b)ndash(f)に示す経時変化率の算出には元の TR-EFM信号に対して付近 3 times 3

点平均で平滑化し電圧変化後 (10 plusmn 65)msのデータ点の最小二乗線形フィッティングにより得た

53 単一グレインのチャネル形成評価 103

-30

-20

-10

0

10

0 5 10 15 20

EFM

sig

nal [

mV]

Time[ms]

Near (I)

Far (II)

Gr1

05 Vsndash05 Vs

(I)

(II)

(a) EFM signal at VB = ndash1 VEFM-slope images in ldquodepletionrdquo regime

(b) ndash05 V

(c) ndash1 V

(d) ndash15 V

(e) ndash2 V

(f) ndash25 V

Plateau

Slope

Slope

図 524 (a) TR-EFM 測定で得られた Gr1 上の電極付近 (Near I) および遠方 (Far II) での空乏時の経時 EFM 信号比較(b)ndash(f) TR-EFM 結果より求めた空乏時 EFM 信号の経時変化率マップ(b) VB = minus05 V (c) minus1 V (d) minus15 V (e) minus2 V (f) minus25 VGr1輪郭を黒破線台地領域 (図523(a)参照)を赤破線で示した

(a) ndash05 V (d) ndash2 V

(e) ndash25 V(b) ndash1 V

(c) ndash15 V

08 Vsndash08 Vs

EFM-slope images in ldquorecoveryrdquo regime

(f)

Grain

Disorder

NegativeElectrode

図 525 (a)ndash(e) TR-EFM結果より求めた回復時 EFM信号の経時変化率マップ(a) VB = minus05 V(b) minus1 V (c) minus15 V (d) minus2 V (e) minus25 VGr1輪郭を黒破線台地領域 (図 523(a)参照)を青破線で示した(f)回復時の EFM時間応答を説明する模式図Disorderでのキャリア蓄積が十分ではないため抵抗として現れる

まず minus05 V (i)ではグレイン内で変化率に大きな差は見られない一方 minus1 V (ii)のときGr1の電極付近の変化率はほぼ 0なのに対し遠方では経時変化率が負であることが明瞭に観察できる特にGr1下枝では広い範囲で同程度の経時変化率であり分布的な抵抗と距離による影響ではなくグレイン内の局所抵抗が作用していると考えられるここでグレインの表面構造と比較するため図 523(a)の Gr1表面形状より台地 (Plateau)部分の輪郭を取得し経時変化率マッピングに赤破線にて重ねて示しているminus1 V (図 524(c))での経時変化率が負の領域は例えば右枝では変化率が 0

に近い領域が台地部分に侵食しているように台地部分と完全に対応しているとはいいがたいこれは同様に台地部分を桃破線で重ねて示した SIM-X像 (図 523(c))において SIM-X信号が台地部分

104 第 5章 時間分解測定による有機グレイン中のキャリアダイナミクス評価

GrainChannel

Electrodendashgrain Channel Disorder

Disorder

ON

Resist

ON ON

OFF OFF OFF

Electrode

SubstrateInsulator

VB(ndashVG)

2 V

ndash2 V

0 V

ndash1 V

(a)

(b)

(c)

(d)

(i)

(ii)

(iii)

図 526 TR-EFMFM-SIM評価から想定される単一グレインのチャネル形成過程の模式図

まで侵食していることからも確認できるよってGr1台地部分との境目ではなく表面形状から確認できないグレイン内の欠陥が抵抗として働いていると考えられる最後にVB le minus15 V (iii)では全体が同程度の変化率となっており電極ndashグレイン界面が制限していることが分かる同様に TR-EFM の回復時について11 plusmn 65 ms のデータ点の線形フィッティングで算出した

EFM信号経時変化率マップを図 525に示す回復時もやはりminus05 Vでは Gr1内は経時変化率が均一だがminus1 Vから minus25 Vでは Gr1の上枝および下枝において経時変化率が増加しているこれは電極付近では迅速なキャリア再注入により電圧変化の 10 ms後には十分収束しているが下枝等遠方ではグレイン内の局所抵抗によりキャリア再注入が阻害され負電位から 0への緩和が遅れるため他の部分よりも経時変化率が大きくなったと考えられる (図 525(f))さらにminus1 Vからminus25 Vの下枝の経時変化率が異なる領域は Gr1台地部分全体よりも小さいことが空乏時 (図 524)

の経時変化率マップよりもよくわかるこのような (見かけの)グレイン境界とは異なるペンタセングレイン内の欠陥はこれまでの研究でも報告されているNakamuraらの AFMポテンショメトリーを用いたペンタセン薄膜の電位測定から見かけのグレイン内部でも電位ドロップが起きることが指摘されている [31 32]それらはグレイン内の浅い溝状構造と相関があるとされており基板温度を常温以上にしてペンタセン薄膜を作製した際に起こりやすい走査型近接場光顕微鏡を用いた局所赤外分光評価によりこの浅い溝は温度変化で発生したペンタセン薄膜内部の歪みを薄膜相からバルク相への相転移で緩和したことにより生じたものであると評価された報告があり [175]相間の境界またはバルク相自体の低移動度性に由来する局所抵抗といえるこのようにペンタセングレインでは形状には現れてこない局所抵抗が存在し本研究でもそれが SIM-X像の変化または EFM

信号経時変化率の違いとして現れたと考えられる以上の Sweep-SIMおよび TR-EFMの経時変化率評価の結果から電極―単一グレインにおけるチャネル形成過程は図 526 のように示すことができるVB lt minus1 V (iii) では電極―グレイン界面グレイン内 (チャネル)共に空乏化しOFF状態である (図 526(d))VB sim minus1 V (ii)付近ではチャネルは導通しON状態となるがグレイン内にも存在する欠陥ではまだ空乏状態であり抵抗が存在

54 本章のまとめ 105

する (図 526(c))このチャネルの導通と局所欠陥による導通電圧の違いはOFETにおけるしきい値電圧の違いとも考えられ3章で確認したグレイン境界におけるしきい値電圧変調効果と合致する結果であるVB gt minus1 V(i)では欠陥部分も十分導通しグレイン内は均一となる (図 526(b))そのため系全体の抵抗は電極―グレイン界面のみとなるさらに VB を増加させるとグレインの電極上領域まで導通するようになり実効的な接触面積の増加から接触抵抗の低減が起こるこのことは接触抵抗のゲートバイアス依存性ともとることができる

54 本章のまとめ本章では従来手法では困難なキャリアダイナミクスの可視化評価に向け3 章で培った point-

by-point 手法を用いた実用的な TR-EFM 測定システムを構築した測定系由来の応答遅れが PLL

のバンド幅のみに依存するという重要な知見を得た上で1 msという時間分解能を達成したペンタセン単一グレインに適用することで単一グレインへのキャリア注入排出過程を可視化し注入排出で非対称な接触抵抗およびバイアス電圧依存が現れることを明らかにした

FM-SIMとの併用による多角的評価ではFM-SIMによる界面インピーダンス評価とグレイン上導通領域評価の 2つの側面から活用可能であった界面コンダクタンス測定によりグレインごとに異なる EFM信号の時定数が界面コンダクタンスと相関があることがわかり注入時と蓄積時の金属ndashグレイン界面抵抗の比として定量的に示すことができたまたバイアス分光評価と TR-EFM

の経時変化率評価により単一グレイン内部の欠陥による局所抵抗があることを明らかにした

107

第 6章

結論

61 総括本論文では従来の原子間力顕微鏡技術の改善やマクロ評価技術を組み合わせた新規測定手法の構築を通して金属ndash有機界面および近傍の局所電気特性評価を行ってきた以下ではそれぞれの項目の総括を述べる

第 3章【AFM電流測定法を用いた有機グレインの局所電気特性評価】第 3章では AFM電流測定法の一つである PCI-AFMを用いた OFETの局所電気特性評価に向けた改善および測定を行った改善の面ではまず従来の PCI-AFMでは非現実的であった真空中動作を Q値制御法の利用により実現したこれにより雰囲気による OFET電気特性への影響を排除した測定が可能となったまた効率的な動作パラメータ設定と柔軟な point-by-point動作設定が可能な制御プログラムの作成を通したフレキシブルな PCI-AFM システムを構築したこの寄与が第 5

章の TR-EFM測定システム構築の足がかりとなった測定ではマルチグレイン薄膜および単一グレイン上で評価を行ったマルチグレイン薄膜では大気真空両雰囲気中で PCI-AFM測定を実現するとともにグレインごとの局所 OFETの ON状態への変化を電流像として可視化したこのような表面形状と電流の同時マッピングによる評価は特性が変化する位置を像として明確にすることができる点が従来の AFM電流測定法に比べて優位である

第 4章【新規局所インピーダンス評価法の開発と金属―有機界面物性の評価】AFM電流測定法が電極ndashグレイン界面の電気特性評価に不向きであることを受け第 4章では新規局所インピーダンス評価法として周波数変調走査インピーダンス顕微鏡 (FM-SIM)を提案開発した開発において等価回路モデルから FM-SIM信号と電極ndashグレイン界面のインピーダンスを一対一に対応させることができることを導き等価回路定数を半定量的に算出可能な周波数解析法を考案した同手法を適用することで Aundashペンタセン単一グレイン界面のインピーダンスが抵抗ndash容量並列回路で記述できることの一般性を明らかにしたまたバイアス依存性よりAundashペンタセン界面の準位整合状態と接触抵抗が相関することを見出したことはモルフォロジーの影響を排除し

108 第 6章 結論

た真の金属ndash有機界面電気特性と電子物性を結びつけた初の試みといえる第 4章では開発した FM-SIMを用いて電極表面の自己組織化単分子膜 (SAM)処理による移動度向上の要因の評価も行ったOFET 動作中においても FM-SIM 測定が行えることを示しソース電極ndashチャネル界面のコンダクタンス増加とキャリアトラップ減少が SAM 処理による影響とわかった

第 5章【時間分解測定による有機グレイン中のキャリアダイナミクス評価】第 5章では第 4章とは違う観点からの電極ndashグレイン界面電気特性評価の試みであるとともに従来の AFM応用手法では評価しえない有機グレイン中のキャリアダイナミクスを評価するため第 3

章の point-by-pointシステムを活用した時間分解静電気力顕微鏡 (TR-EFM)を考案した測定系由来の応答遅れが PLLのバンド幅のみに依存することを示し時間分解能 1 msの電位応答測定を実現したペンタセン単一グレインの測定では十分な空間分解能でキャリア注入排出する過程を可視化することができ注入排出過程では接触抵抗が支配的であると分かった新規比例係数校正法から一般的な金属ndash有機界面の電子準位モデルで解釈可能な注入バイアス電圧依存性を確認した最後にFM-SIMの併用による相補的相乗的評価を行ったTR-EFMFM-SIM同時測定を複数のグレインに適用しグレインごとの注入過程の時定数および界面コンダクタンス値を測定したそれぞれのグレインの時定数は異なるが時定数の逆数と界面コンダクタンスは線形な関係にあることを示し注入時と蓄積時の接触抵抗がある一定の比をとることを示したまたFM-SIM像による導通領域可視化と TR-EFM測定の空乏時回復時の EFM信号時間変化率評価から単一グレイン内部においても局所抵抗を生み出す欠陥が存在することが判明した

62 今後の展望本論文では電極ndashグレイン界面を中心に様々な微小抵抗の静的動的電気特性評価が可能な手法や解析法を述べてきたこれまでで得られた物性的知見や手法をさらに推し進めることで物性的な応用と材料的な応用が期待される

物性的応用 有機ndash絶縁膜界面物性評価 金属ndash有機界面は接触抵抗という形で OFETへ直接的に影響するが有機ndash絶縁膜界面はトラップや耐久性といった内在的な影響をも有しており金属ndash有機界面物性と同じくらいに大きな OFETの制限要因であるしかし有機ndash絶縁膜界面もグレイン内部境界といった局所構造によりその影響の程度が異なる上に膜厚方向についてもキャリア蓄積効果と密接に関わってくるためこれまで同様マクロ薄膜での評価では困難であるさらに経時的変化が予想される物性のため過渡的な応答評価が可能であることが必要となるここでTR-EFM は特にこの過渡応答に強力な手法であり有機ndash絶縁膜界面物性への展開に有利であると考えられる本研究ではキャリア注入や排出時の時間は一定にして測定したが有機ndash絶縁膜界面では蓄積時のキャリア量とその時間に依存したキャリアトラップが起きるため蓄積時間変調のようなこれまでと異なるパラメータへと時間分解測定を拡張することで有機ndash絶縁膜界面物性評価に繋げられると期待される先に TR-EFMや FM-SIMを活用し微小抵抗を可視化することで

62 今後の展望 109

Insulator

Substrate

Trap

Resistance

Conduction

図 61 今後の展開の模式図本研究をナノワイヤのようなナノスケール材料へ適用することで分子ナノエレクトロニクス材料の局所特性制限要因の解明が期待される

有機半導体グレインやグレイン境界微小欠陥が生み出すキャリアトラップの程度を評価比較していくことが本研究の物性的応用と位置づけられる

材料的応用 ナノスケール材料への展開 本論文では測定対象としてサブ micromスケールの有機半導体グレインを用いたしかし金属電極との界面における接触抵抗や内部の微小抵抗といった局所電気特性は有機薄膜に限らず様々なナノスケール材料においても有する例として高分子ナノファイバーやカーボンナノチューブ (CNT)

は非常に微小なチャネル幅チャネル長をもつ FETへと応用が期待される一方で電極間への架橋が困難であることやそれぞれのナノファイバーCNTにおける電気特性差が生じることが物性解明の障害であるまた近年炭素のナノシートであるグラフェン利用も急速に発展しており化学的気相成長法や酸化グラフェンの還元といった産業応用を狙った手法で作製されたグラフェンの電気特性評価も必須となる本研究で提案した FM-SIM や TR-EFM の特長として非架橋非接触で電気特性評価が可能であることを鑑みると以上のような架橋の困難なナノスケール材料においても適用できると期待されるさらに静電気力検出をベースとした非接触測定手法であることから幅が数 nmと非常に微細なスケールであっても可視化可能である利点を有する上述の絶縁膜界面物性評価にもあるような時間分解測定の拡張も踏まえた多角的評価手法によりナノスケール材料の 1次元伝導度微小抵抗キャリアトラップといった局所電気特性評価を行うことで分子ナノエレクトロニクスへの展開が本研究の材料的応用と位置づけられる (図 61)

111

付録 A

静電気力顕微鏡の検出モード比較

本論文では 4章5章にて周波数変調方式の静電気力顕微鏡 (FM-EFM)をベースとした測定手法を扱ってきたカンチレバーの共振 (励振)周波数を f0交流バイアスの周波数を fm とすると交流バイアスに起因する静電気力成分は f0 plusmn fm に生じる (図 A1(a))これまでの FM-EFMでは 26

節で述べたように PLLを用いて周波数信号に変換した上で (図 A1(b))ロックインアンプ (LIA)により fm 成分を検出することで EFM信号を測定できるこの手法は Kitamuraらによって提案された手法 [176]でありここでは ldquoConventional-EFMrdquoと呼ぶこととするConventional-EFMの問題点としてPLLのバンド幅 (BWPLL)を変調周波数 fm より大きくする必要があるが大きな BWはループの発振を招くためあまり fm を大きくできないことにある一方図 A1(a)のように f0 plusmn fm 成分を直接ロックイン検出することによっても静電気力成分が検出できることが予想される本研究で用いた LIA である Zurich Instruments 社の HF2LI-MF (以下 ZI-LIA)にはモジュールを入れることで FM変調された信号を直接ロックイン検出する機能を有しているこれにより EFM 信号を測定する手法を Sideband-EFM と呼ぶSideband-EFM ではPLLを介さないためConventional-EFMに比べて fm を大きくでき測定速度を向上できると考えられている本章では Conventional-EFMと Sideband-EFMをそれぞれの測定 (応答)速度および SNの観点から比較するなおこの研究は京都大学大学院工学研究科馬詰彰奨学寄附金の支援で実現したカナダMcGill大学への海外研修の際に取り組んだものである

理論的比較カンチレバーの共振 (励振)周波数を f0振幅を A交流バイアスの周波数を fm静電気力による周波数変調度 (つまり所望の信号)を fp とするとカンチレバーの変位信号 s(t)は

s(t) = A cosΩ(t) = A cos[2π f0t +

fpfm

sin(2π fmt)]

(A1)

と表されるFM検出方式では周波数つまり位相 Ω(t)の微分を検出するためPLLの出力は1

2πdΩdt= f0 minus fp cos(2π fmt) (A2)

となるConventional-EFMでは fm 成分を検出するがその EFM信号の大きさは fp であり変調周波数に依存しない一方微分は周波数軸に対して積の形で現れるため変位信号におけるホワ

112 付録 A 静電気力顕微鏡の検出モード比較

(a) Signal

Sideband

PLL BWConventional

Noise level

f0f

f0+fmf0ndashfm

(b) Frequency shift

fmf

s(t) dΩdtBWPLL

図 A1 FM-EFMにおける変位信号に含まれる周波数成分の模式図(a)変位信号の周波数成分と PLLおよび Sideband-EFMによる検出領域の模式図(b) (a)から PLLにより得られた周波数シフトの周波数成分と Conventional-EFMによる検出領域の模式図

PLL2

LIA2

LIA1

BWLIA

BWLIA

BWPLL1

ZI-LIA ZI-LIA

BW100 Hz

fm f0fm

fm

f0+fm

PLL1

Deection signal Deection signal

EFM signalEFM signal

Conventional Direct sideband(a) Setup

Cantilever

Electrode

(b) (c)

図 A2 (a) ConventionalSideband-EFM のパルス電圧応答比較の共通セットアップ模式図(b)Conventional-EFMのブロックダイアグラム(c) Sideband-EFMのブロックダイアグラム

イトノイズは周波数シフトでは周波数に比例して大きくなるよってConventional-EFMの SN

は fm に反比例することがわかる一方変位信号の cos[ fp

fmsin(2π fmt)]部は Bessel関数で展開できるが fp fm の条件下では以下

の形に簡略化できるs(t) A

[cos 2π f0t plusmn fp

2 fmcos 2π( f0 plusmn fm)t

](A3)

f0 + fm 成分を直接ロックイン検出した場合EFM信号の大きさは A fp2 fmとなり fm に反比例する

一方ノイズは一定値でありSideband-EFMの SNは原理上 Conventional-EFMの SNと同じであることが予想される

パルス電圧応答比較5章の TR-EFMと同じく導電性試料にパルス電圧を加えた際の EFM信号の過渡応答を比較した (図 A2(a))図 A2(b) (c) はそれぞれ Conventional-EFM および Sideband-EFM において EFM

信号を検出する回路のブロックダイアグラムである変調周波数は fm = 1 kHz 10 kHz について評価したConventional-EFM では PLL1 の BW を BWPLL1 = 2 kHz ( fm = 1 kHz のとき) 10 kHz

( fm = 10 kHz) としたSideband-EFM では内部で PLL (PLL2) が搬送周波数 f0 を測定しデジ

113

0 02 04 06 08

1 12

0 10 20 30 40

Sign

al

Time [ms]

0

01

02

03

0 10 20 30 40

Sign

al

Time [ms]

100 Hz100 Hz(signal times 05 oset)

70 Hz

70 Hz (oset)

50 Hz50 Hz

30 HzBWLIA 20 Hz

30 HzBWLIA 20 Hz

(a) Conventional (1 kHz) (b) Sideband (1 kHz)

(c) Conventional (10 kHz) (d) Sideband (10 kHz)

0

02

04

06

08

1

-5 0 5 10 15

Sign

al

Time [ms]

0

05

1

15

2

-5 0 5 10 15

Sign

al

Time [ms]

500 Hz300 Hz200 Hz100 Hz

BWLIA

500 Hz300 Hz200 Hz100 Hz

BWLIA

図 A3 ConventionalSideband-EFM のパルス電圧応答比較結果(a) (b) は fm = 1 kHz でのConventionalSideband-EFM結果(c) (d)は fm = 10 kHzでの結果を示すただしTime lt 0 msではパルス電圧のバイアスは 0 VでありTime 0 msで 15 Vである

タル的に f0 + fm の周波数信号を参照としてロックイン検出することで実現しているそのときのPLL2の BW設定は 100 Hzとし検出される搬送周波数の fm による変動を抑えた両者の LIAのBW (BWLIA)は同じ値で比較を行った図 A3 に EFM 信号の過渡応答測定結果を示すまず fm = 1 kHz のとき図 A3(a) のように BWLIA を増加させるに応じて Conventional-EFM の応答速度が向上しており5 章での議論と合致するそれに伴い SN が低下していることは上述のとおりである一方Sideband-EFM はBWLIA = 30 Hzまでは Conventional-EFMと同等の SNおよび応答速度の EFM信号が得られているがそれよりも BW を大きくすると所望ではない交流信号が現れてしまったこの周波数は約2 kHzであり変調周波数の約 2倍である

Conventional-EFMでは困難となる変調周波数の高い場合 ( fm = 10 kHz)にも定性的に同じような応答が得られたConventional-EFMではノイズが増加するものの 0 ms前後での応答差がまだ確認できるがSideband-EFMでは BWLIA = 500 Hzの時点で確認不可能であるこのように Sideband-EFM で大きな交流信号が EFM 信号に現れる原因として搬送周波数 (共振周波数)成分の影響があげられる図 A1(a)や図 A2(c)で示したようにSideband-EFMでは変位信号からそのままロックイン検出しているがこのとき LIA の BW を大きくしすぎると搬送周波数 f0 成分にかかり始める一方Conventional-EFM では周囲 fm に Sideband-EFM のような大

114 付録 A 静電気力顕微鏡の検出モード比較

きな信号はないそのためConventional-EFMよりも Sideband-EFMのほうが LIAの BWを上げにくいと考えられるBWを小さくして測定したとしても5章で述べたように応答速度は LIAのBW にのみ依存することから高い変調周波数を扱うメリットはないさらに今回の測定ではfm = 10 kHzという高い変調周波数においても SN的に Sideband-EFMの優位性は認められなかったSideband-EFMの問題点を解消する方法としてLIAを二段構成にする方法がある [177]一段目の LIAにて搬送周波数で変位信号のロックイン検出を行うことで搬送波成分が直流となり二段目の LIA では問題とならないConventional と Sideband を正しく比較する場合にはこの方法を用いることが望まれる

115

付録 B

FM-SIMの正規化アドミタンス評価の補足

4章では周波数変調走査インピーダンス顕微鏡 (FM-SIM)を用いてAundashペンタセン単一グレイン界面インピーダンスが RC並列回路で表されることを説明した本編では式 (410)を用いて正規化アドミタンスに変換したが本章では正規化 FM-SIM信号 (γ)から視覚的に変化を読み取る方法について説明する

アドミタンスグリッド正規化アドミタンス Ynorm(式 (415)) を導入すると式 (410) より正規化 FM-SIM 信号は次のようにかける

γ =1

1 + jYminus1norm

(B1)

ここでYnorm の実部 (正規化コンダクタンス)虚部 (正規化サセプタンス)をそれぞれ g cと表す書き下すと以下のようになる

g =1

2π fsCiRlo(B2)

c = CloCi

g cのうち片方を固定し片方を 0から infinまで変化させた際の正規化 FM-SIM信号の軌跡 (γプロット)を図 B1に示すcを固定しgを変化させた際は γの周波数依存性と同じく γ = 1を通る径の異なる半円となる (破線)これは式 413において f と τr(つまり Rlo)が等価であることと対応する一方gを固定しcを変化させると点線のような軌跡をとるここで任意の γが与えられたときこの平面上のどこかにプロットできるプロット点を通るであろう gの軌跡から cがcの軌跡から gが読み取れる図 B1に示す軌跡をアドミタンスグリッドと呼ぶアドミタンスグリッドの利点は連続的なパラメータ変化に対するアドミタンス変化の概形を読み取ることである図B1を見ると分かるとおりg c lt 01または g c gt 10の領域は γの変化に対しての g cの変化が非常に大きいこれは本編のようにチャネルの ONOFF時の変化を Ynorm の変化として算出するときにFM-SIM信号強度が小さいと問題が生じる一方Ynorm を値として計算せずアドミタン

116 付録 B FM-SIMの正規化アドミタンス評価の補足

0

0

0

05

-05

1

01

1

10

g

cinfin05 1 2 10

Re[γ]

Im[γ] (Suscept)

(Conduct)

Ampl

PhaseRlo

Clo

g-1

c

Normalized

図 B1 γプロットの正規化アドミタンス (実部 g虚部 c)依存性cを固定し gを変化させた軌跡を (赤)破線でgを固定し cを変化させた軌跡を (青)点線で示しているこのような γプロットをアドミタンスグリッドと呼び任意の γ(振幅および位相)が与えられた際グリッドとの位置関係から大まかな g cの変化が読み取れる

-Imag(a) Real(a)

0

01

1

10

infin05 1 2 10

ForwardBackward

(Capacitance)

(Conductance)g

cVG = 2 V

VG = ndash3 V

図 B2 433 節のペンタセン単一グレイン上 FM-SIM 測定結果の γ プロット (アドミタンスグリッド上)Solid点が VG = 2 Vrarr minus3 Vに変化させた際 (Forward)Open点が逆方向 (Backward)での測定点である

スグリッド上に連続的にプロットすることで真値は分からなくとも変化の概形は読み取ることができる

バイアス電圧依存のアドミタンスグリッドアドミタンスグリッド上 γ プロットの例として433 節で示したペンタセン単一グレイン (グレイン A) における FM-SIM 測定結果をプロットした (図 B2)図 415 同様 VG 変化の Forward

と Backwardに関してプロットしているがプロット点の位置は違えどもその軌跡は ForwardとBackwardで非常に重なっていることがわかる433節 (図 415(c))で述べたように界面アドミタンスは VG に対してヒステリシスを示したが取りうる界面アドミタンスの値は同一であることが図B2からわかるまたグリッド線と比較すると変化の軌跡は cを固定して gを増加させた場合の軌跡に近いであろうことが見て取れるここからも負の VG 印加により界面コンダクタンスが増加し界面容量は比較的一定であることがわかる式 (B2)よりアドミタンスグリッド上で gは電極の交流バイアス周波数 fs に依存するそのため fs を変えることで g軸に沿ってプロット位置が変化することが予想される図 B3(a)に示す別のペンタセングレイン (B)に関してfs = 100 Hz 300 Hzでゲートバイアス VG 依存性を取得した結果を図 B3(b)に示すただしVG は 2 Vから minus8 Vの範囲で連続的に変化させたまずこのグレ

117

0 nm 30 nm

-05

0 05 1

fs = 50 Hz

100 Hz150 Hz

200 Hz300 Hz

500 Hz800 Hz

Imag

(a)

Real(a)

0

01

1

10

cinfin05

Conductance

g

101 2

Capacitance

VG = ndash8 V

VG

300 Hz

100 Hz

100 HzForBack

300 Hzfs

(a) Topography

(b) VG-dependence

(c) fs-dependenceElectrod

e

150 nm

Grain B

A B

図 B3 (a)グレイン Bの表面形状像(b)グレイン B((a)の x点)でのアドミタンスグリッド上 γプロットゲートバイアスを VG = 2 Vから minus8 Vに (Forward)および逆方向 (Backward)に掃引しながら測定した(c)グレイン B上周波数依存 γプロット (VG = minus1 V)

イン Bに関してもグレイン A同様に負の VG 印加に従い g軸正方向へ変化しておりキャリア蓄積に伴う接触抵抗の低減が見て取れるどちらの fs においてもその傾向が現れているが fs = 300 Hz

では 100 Hzでの gに比べて 13程度になっており予想どおりの結果となった周波数依存性との対応も調べるためいくつかの fs について図 B3(a)の線分 AndashB上をラインスキャンし電極グレイン B上の FM-SIM信号から γプロットした結果を図 B3(c)に示すグレイン Aの周波数依存性 (図 413)では周波数を掃引して測定したが非連続的に周波数を変化させても同じように半円状の変化を示すことがわかるここで fs = 100 Hz 300 Hzでの結果はそれぞれの図 B3(b)でのプロット位置と大まかに一致していることから以上の測定結果の再現性も確認できたといえる

ヒストグラムプロットγプロットは界面アドミタンスの概略的な傾向を見るのに有用だが何らかの方法で FM-SIM信号の ldquo値rdquoを抽出する必要がある代表点ラインプロファイル平均といった方法で評価はできるもののどこまでの範囲を考慮するかにおいて任意性がどうしても存在するその問題点を解消する方法として以下に述べるヒストグラムプロットがあるヒストグラムプロットでは同一領域の FM-SIM 振幅像および位相像を用い像の各点における FM-SIM信号が γプロットのどの位置に来るかを計算しγプロット内の頻度を画像化したものであるこれによりもっともらしい γ において最も頻度が大きくなりγ の位置把握に役立つ図 B4 は図 414 と同じペンタセン薄膜に対してヒストグラムプロットを適用した結果である図B4(a)の領域 [1]に対し図 B4(b) (c)で示す FM-SIM振幅位相像をそれぞれのゲートバイアスで取得し本画像から図 B4(d) (e) に示すヒストグラムプロットを得た図 B4(d) では 0 および infinの部分以外に頻度の高い領域が 2箇所見て取れるこれらは大体の FM-SIM振幅位相値からそれ

118 付録 B FM-SIMの正規化アドミタンス評価の補足

0

01

1

10

cinfin05

g

101 2 0

01

1

10

cinfin05

g

101 2

(d) [1] VG = ndash1 V

VG = ndash1 V ndash4 V VG = ndash1 V ndash4 V

(e) [1] VG = ndash4 V

Count

Large

(a) Topography (b) SIM-Ampl (c) SIM-Phase

[1]

-40ordm +50ordm2 mV 45 mV35 nm

A

C

A

C

A

C

図 B4 ペンタセン薄膜上 FM-SIM結果とヒストグラムプロット (領域 [1])(a)表面形状と領域[1](b)領域 [1]における FM-SIM振幅像(c)位相像 (それぞれ VG = minus1 Vおよび minus4 V)矢印にてグレイン A Cを示している (図 414と同一)(d) VG = minus1 V (e) minus4 Vにおける領域 [1]の γのヒストグラムプロットA Cで示した点はそれぞれ (b)内で示したグレインに対応する

0

01

1

10

cinfin05

g

101 2

VG-dependence (Grain A)

Count

Large

VG

図 B5 図 415(b)で示したペンタセングレイン A上 FM-SIMラインスキャン像から得たヒストグラムプロット

ぞれ図 B4(b)で示したグレイン A Cであることは判別できるVG を minus1 Vから minus4 Vに増加させるとヒストグラムプロットは図 B4(e)のように変化しグレイン A Cに対応する箇所が移動しているのがわかるg軸について見るとこれらは gの増加と対応していると確認できる同様に図415で示したペンタセングレイン A上における FM-SIMで得られたラインスキャン FM-SIM像からヒストグラムプロットした結果を図 B5に示す結果的には図 B2と全く同じものをプロットしているもののデータ抽出の恣意性がない分純粋な傾向を確認するのには有用と考えられる

119

付録 C

有機半導体グレイン境界のインピーダンス評価

4章では周波数変調走査インピーダンス顕微鏡 (FM-SIM)を開発し電極ndashグレイン界面に焦点を当てた局所インピーダンス評価を行ったOFET内の局所抵抗としては電極ndashグレイン界面以外にグレイン境界も大きな影響を有することがケルビンプローブ原子間力顕微鏡 (KFM)を用いた表面電位分布測定によって確認されてきた本節では 4章よりも現実の系に近い有機半導体のマルチグレイン薄膜 OFETにおいて FM-SIM測定を行いFM-SIMの電極界面以外への応用可能性や KFMとの手法比較を行う

測定条件測定試料は 422節と同様に UVおよび電子線リソグラフィにより作製した Pt電極上にペンタセンを蒸着することで作製した図 C1(a)に測定したペンタセンマルチグレイン薄膜試料の表面形状を示す図の上下にある破線で囲まれた領域に電極があり上部電極 (領域 A) をドレインとしてVD = minus1 V印加し下部電極 (E)をソース (Ground)とした上下の電極は図左半分のグレインを通じて繋がっておりこのグレインをチャネルとした OFETを形成している図中点線で示すように表面形状内のくびれくぼみからグレイン境界が判別できグレイン境界で分けられたグレインを領域 B C Dとする (図 C1(a)参照)

FM-SIM の装置構成は図 43 44 と同様であり電極 AC 電圧として振幅 Vacs = 2 Vp-p周

波数 fs = 100 Hz を用いたZI-LIA で ft + fs = 1100 Hz の ∆f の成分を検出しFM-SIM 信号とした測定では上部下部それぞれの電極を AC 電極とした測定を行いゲートバイアスVG = 1 V minus1 V minus3 V minus5 Vについて測定を行った

測定結果図 C1 に下部電極を AC 電極として FM-SIMKFM 測定した結果を示す電位像に注目すると

VG = 1 Vの時はドレインソース両電極界面 (AndashB EndashD界面)での電圧降下はほとんどなくチャネル全体にドレイン電圧が印加されていることがプロファイル (図 C1(e))からも確認できるこれは正の VG によりグレイン内が空乏化し導通していないことを示しているVG = minus1 Vでは電圧降

120 付録 C 有機半導体グレイン境界のインピーダンス評価

7006005004003002001000

14

12

1

08

06

Distance [nm]

Pote

ntia

l [V]

7006005004003002001000

30

20

10

0

Distance [nm]

SIM

-Am

pl [

mV]

7006005004003002001000

50

0

-50

-100

-150

Distance [nm]

SIM

-Pha

se [d

eg]

(b) Potential(a) Topography (c) FM-SIM ampl (d) FM-SIM phase

03 V 16 V 0 mV 50 mV -140ordm 40ordm

(g) FM-SIM phase prole(f) FM-SIM ampl proleA B C D E A B C D E A B C D E

VG = 1 V ID = 0 nA

001 nA

011 nA

028 nA

ndash1 V

ndash3 V

ndash5 V

ndash1 V

ndash3 V

ndash5 V

ndash1 V

ndash3 V

ndash5 V

VG = 1 V VG = 1 V

B

C

D

(e) Potential prole

200 nm

A

E

Source (0 V AC)

Drain (ndash1V)

Elec

trod

e

VG

1 Vndash1 Vndash3 Vndash5 V

図 C1 ペンタセンマルチグレイン OFET上の FM-SIM測定結果 (下部電極=AC電極)(b)電位像 (c) FM-SIM 振幅像 (d) FM-SIM 位相像のゲートバイアス (VG) 依存性(a) の線分 (AndashE 間)に沿った (e)電位(f) FM-SIM振幅(g) FM-SIM位相プロファイル同時に測定したドレイン電流 (ID)を (b)中に併記した

121

7006005004003002001000

30

20

10

0

Distance [nm]

SIM

-Am

pl [

mV]

-06 V 07 V 0 mV 50 mV -140ordm -60ordm

7006005004003002001000

060402

0-02-04

Distance [nm]

Pote

ntia

l [V]

7006005004003002001000

40

0

-40

-80

-120

Distance [nm]

SIM

-Pha

se [d

eg]

A B C D E A B C D E A B C D E

(b) Potential (c) FM-SIM ampl (d) FM-SIM phase

VG = 1 V

ndash1 V

ndash3 V

ndash5 V

VG = 1 V

ndash1 V

ndash3 V

ndash5 V

VG = 1 V

ndash1 V

ndash3 V

ndash5 V

(a) Topography

(g) FM-SIM phase prole(f) FM-SIM ampl prole(e) Potential prole

4002000

-108

-124

Distance [nm]

[deg

]

A B C D

B

C

D200 nm

A

E

Source (0 V)

Drain (ndash1V AC)

Elec

trod

e

VG

1 Vndash1 Vndash3 Vndash5 V

図 C2 ペンタセンマルチグレイン OFET上の FM-SIM測定結果 (上部電極=AC電極)(b)電位像 (c) FM-SIM 振幅像 (d) FM-SIM 位相像のゲートバイアス (VG) 依存性(a) の線分 (AndashE 間)に沿った (e)電位(f) FM-SIM振幅(g) FM-SIM位相プロファイル同時に測定したドレイン電流 (ID)を (b)中に併記した

122 付録 C 有機半導体グレイン境界のインピーダンス評価

下が BndashC間DndashE間で確認できminus3 V minus5 Vになると DndashE間のみとなった同時に測定した電流(図 C1(b) inset参照)から VG = plusmn1 Vでは OFETは OFF状態minus3 V minus5 Vでは ON状態であることがわかるこのことを考慮するとBndashC 間のグレイン境界が OFET の ONOFF 状態を支配しておりON状態での電気特性は DndashE間つまりソースndashチャネル界面が制限していると考えられるKFMではこのように OFET全体に占める局所抵抗の割合という相対的な評価が可能であるが例えば BndashC間グレイン境界のみの抵抗変化は電流を用いて計算する必要があり煩雑である

FM-SIMは 4章で述べたようにAC電極からの経路つまり図 C1では下部電極 (E)からの導通度合いが信号強度に反映されるまたKFM とは異なり絶対的な局所抵抗が影響しチャネル内において相対的な影響が増えても同じ抵抗値であれば同じ振幅位相となるFM-SIM 振幅像(図 C1(c)) を見るとまず VG = 1 V では E から D にかけて強度が減少している電位像では電圧降下が DndashE 間で現れていないが十分抵抗が大きいことが見て取れる次にON 状態であるVG le minus3 Vにおいて電位像には明確な変化が見られなかった BndashC界面で大きな信号低下が生じているBndashC間グレイン境界の局所抵抗は相対的には小さくなったものの抵抗値としての変化は小さいということを意味しているKFMからは BndashC間と CndashD間で明確な違いを確認することができないがFM-SIMを用いると局所抵抗の絶対値が影響するため図 C1(c)のように影響を可視化することができるというメリットがある図 C2は同様に上部電極を AC電極として FM-SIM測定した結果を示しておりFM-SIM像では上部電極からの導通度合いが反映されるまず図 C2(b) (e)は図 C2(b) (e)とほぼ同じ電位分布が得られておりバイアス印加条件を変えていないため理想的には同じ動作状況である事実と合致するFM-SIM振幅像 (図 C2(c))を見るとVG = 1 Vではやはり AC電極のすぐ隣である B上の強度が小さくなっており下部電極を AC電極としたときと同様電極界面もまだ導通していないといえるVG le minus1 Vでは AndashB間の FM-SIM振幅値が比較的近くAndashB間は DndashE間に比べて導通していると考えられる44節で述べたようにこれはソースndashチャネル界面に比べてドレインndashチャネル界面ではホールの感じる注入障壁が小さいことを示しているBndashC間グレイン境界に関しては下部電極を AC電極としたとき同様やはり大きな FM-SIM振幅変化が見られるさらにFM-SIM位相に注目すると図 C2(g)のインセットのように BndashC界面で若干の位相変化も得られた振幅変化のみであれば信号強度の比例係数変化 (522節参照)の可能性も無視できないがAC電極と比較して位相が負シフトした場合は 432節で議論したことや付録 Bのアドミタンスグリッドから分かるように抵抗性のインピーダンスが存在することを示している以上のようにKFMでは局所抵抗の相対的な変化や支配要因を評価できるがFM-SIMでは絶対的な変化を確認できるという点で相補的な評価が可能と考えられるしかし本章のようにマルチグレイン薄膜で OFETの ON状態においてもグレイン境界の影響が現れるような系では複数の局所インピーダンスが回路中に存在することグレイン容量が一定とみなすことができないことから423節のような単純な回路モデルによる半定量的なインピーダンス解析はできないことに注意する必要がある

123

研究業績

公表論文(A1) Tomoharu Kimura Yuji Miyato Kei Kobayashi Hirofumi Yamada Kazumi Matsushige ldquoIn-

vestigations of Local Electrical Characteristics of a Pentacene Thin Film by Point-Contact Current

Imaging Atomic Force Microscopyrdquo Japanese Journal of Applied Physics 51 (2012) 08KB05

(A2) Tomoharu Kimura Kei Kobayashi Hirofumi Yamada ldquoLocal impedance measurement of an

electrodesingle-pentacene-grain interface by frequency-modulation scanning impedance micro-

copyrdquo Journal of Applied Physics 118 (2015) 055501

(A3) Tomoharu Kimura Kei Kobayashi Hirofumi Yamada ldquoLocal impedance investigation of or-

ganic field-effect transistors with electrodes modified by self-assembled monolayerrdquo To be sub-

mitted

国際学会発表 (本人登壇分)

(I1) T Kimura Y Miyato K Kobayashi H Yamada K Matsushige ldquoInvestigation of Local Elec-

trical Properties of Pentacene Thin Films by Point-Contact Current-Imaging Atomic Force Mi-

croscopyrdquo 15th International Conference on Thin Films O-S17-05(Oral) Kyoto Japan (Nov

2011)

(I2) T Kimura Y Miyato K Kobayashi H Yamada K Matsushige ldquoLocal Electrical Characteristics

of Pentacene Thin Films Measured by Point-Contact Current-Imaging Atomic Force Microscopyrdquo

The 19th International Colloquium on Scanning Probe Microscopy S5-4(Oral) Toyako Hokkaido

Japan (Dec 2011)

(I3) T Kimura K Kobayashi H Yamada ldquoInvestigation of Local Field-Effect Characteristics of

Pentacene Thin Films by Point-Contact Current Imaging Atomic Force Microscopyrdquo IUMRS-

International Conference on Electronic Materials 2012 D-7-O25-004(Oral) Yokohama Japan

(Sep 2012)

(I4) T Kimura K Kobayashi H Yamada ldquoElectrical Property Measurements on Organic Semicon-

ductor Grains Using Point-Contact Current Imaging Atomic Force Microscopyrdquo 2013 MRS Spring

Meeting amp Exhibit Y604(Oral) San Francisco California United States (Apr 2013)

(I5) T Kimura K Kobayashi H Yamada ldquoLocal surface potential measurements of organic field-

effect transistors having a submicron crystalline grain channel by Kelvin-probe force microscopyrdquo

124 研究業績

19th International Vacuum Congress FMMMNST-1-Or-2(Oral) Paris France (Sep 2013)

(I6) T Kimura K Kobayashi H Yamada ldquoInvestigation of Local Electrical Properties of Organic

Field-Effect Transistors by Frequency-Modulation Scanning Impedance Microscopyrdquo 12th Interna-

tional Conference on Atomically Controlled Surfaces Interfaces and Nanostructures in conjunction

with 21st International Colloquium on Scanning Probe Microscopy 7PN-109(Poster) Tsukuba

Japan (Nov 2013)

(I7) T Kimura K Kobayashi H Yamada ldquoLocal Impedance Measurements of Organic Field-Effect

Transistors by Frequency-Modulation Scanning Impedance Microscopyrdquo The 10th MicRO Al-

liance Meeting P-15(Poster) Kyoto Japan (Nov 2013)

(I8) T Kimura K Kobayashi H Yamada ldquoLocal Impedance Characterization of Pentacene Thin

Films by Frequency-Modulation Scanning Impedance Microscopyrdquo International Conference on

Nanoscience + Technology 2014 SP-WeA9(Oral) Vail Colorado United States (Jul 2014)

(I9) T Kimura K Kobayashi H Yamada ldquoScanning Impedance Microscopic Study of Electrodendash

Channel Interface in Organic Field-Effect Transistors with Modified Electrodesrdquo 22nd International

Colloquium on Scanning Probe Microscopy S10-2(Oral) Higashiizu Shizuoka Japan (Dec 2014)

(I10) T Kimura K Kobayashi H Yamada ldquoVisualization of carrier injection and extraction processes

in organic semiconductor grain using time-resolved electrostatic force microscopyrdquo 18th Interna-

tional Conference on non contact Atomic Force Microscopy P-Wed-38(Oral) Cassis France (Sept

2015)

国内学会発表 (本人登壇分)

(N1) 木村知玄宮戸祐治小林圭山田啓文松重和美「点接触電流イメージング AFMによるペンタセン薄膜の局所電気特性の評価」第 72回応用物理学会学術講演会2a-ZB-6(口頭講演)山形 (2011年 9月)

(N2) 木村知玄宮戸祐治小林圭山田啓文松重和美 「点接触電流イメージング AFMを用いた有機薄膜トランジスタにおける局所電気特性評価」 第 59 回応用物理学関係連合講演会

16a-F5-4(口頭講演)東京 (2012年 3月)

(N3) 木村知玄小林圭山田啓文 「点接触電流イメージング AFMによる有機半導体微結晶の局所電気特性評価」第 73回応用物理学会学術講演会 11p-H1-14(口頭講演)松山 (2012年 9月)

(N4) 木村知玄小林圭山田啓文「ケルビンプローブ原子間力顕微鏡を用いた有機微結晶トランジスタの動作時における局所表面電位評価」第 60回応用物理学会春季学術講演会 29a-G8-5(口頭講演)厚木神奈川 (2013年 3月)

(N5) 木村知玄小林圭山田啓文 「周波数変調方式走査インピーダンス顕微鏡を用いた有機薄膜トランジスタの局所電気特性評価」 第 74 回応用物理学会秋季学術講演会19a-D2-3(口頭講演)京田辺京都 (2013年 9月)

(N6) 木村知玄小林圭山田啓文 「周波数変調方式走査インピーダンス顕微鏡を用いたペンタセン薄膜の局所インピーダンス計測」第 61回応用物理学会春季学術講演会20a-E16-10(口頭講演)相模原神奈川 (2014年 3月)

125

(N7) 木村知玄小林圭山田啓文 「原子間力顕微鏡を用いた有機ndash電極界面における局所インピーダンス新規評価手法」 応用物理学会関西支部 平成 26 年度 第 1 回講演会 (ポスター)京都(2014年 6月)

(N8) 木村知玄小林圭山田啓文 「電極表面処理による電極ndash有機グレイン界面物性の局所影響評価」第 75回応用物理学会秋季学術講演会17p-A2-5(口頭講演)札幌 (2014年 9月)

(N9) 木村知玄小林圭山田啓文 「時間分解静電気力顕微鏡による有機半導体グレインへの電荷注入排出過程の可視化」第 62回応用物理学会春季学術講演会13a-D14-3(口頭講演)平塚神奈川 (2015年 3月)

その他シンポジウムセミナー(S1) 木村知玄小林圭山田啓文松重和美「点接触電流イメージング AFMによる有機薄膜トラ

ンジスタの局所電気特性の評価」応用物理学会関西支部主催 2011年度関西薄膜表面セミナー(口頭講演)交野大阪 (2011年 11月)

(S2) 木村知玄 「走査プローブ技術を用いた有機薄膜の局所電気特性評価」第 7回有機デバイス院生研究会 (口頭講演)京都 (2012年 6月)

(S3) Tomoharu Kimura Kei Kobayashi Hirofumi Yamada ldquoLocal Impedance Investigation of

ElectrodendashChannel Interface in Organic Field-Effect Transistors with Modified Electrodesrdquo

Global COE 6th International Symposium on Photonics and Electroncis Science and Engineering

Kyoto Japan (Mar 2013)

(S4) 木村知玄 第 10回八大学工学系連合会「博士学生交流フォーラム」京都 (2013年 11月)

(S5) 木村知玄 「原子間力顕微鏡を用いた有機半導体薄膜の局所インピーダンス計測」第 9回有機デバイス院生研究会 (ポスター)福岡 (2014年 6月)

(S6) 木村知玄 第 11回八大学工学系連合会「博士学生交流フォーラム」札幌 (2014年 10月)

(S7) 木村知玄 「静電気力顕微鏡を用いた有機半導体グレインへの電荷注入排出過程の時間分解測定」第 10回有機デバイス院生研究会 (口頭講演)大阪 (2015年 7月)

受賞(P1) 平成 25年度京都大学大学院「工学研究科馬詰研究奨励賞」

127

謝辞

本研究は京都大学大学院工学研究科電子工学専攻教授山田啓文先生のご指導のもとで行ないました先生の深く幅広い分野における造詣に感銘を受けそこに博士のあるべき姿を重ねました常日頃より様々な学問的知識やノウハウをご教授いただいたことで研究を修めることが出来ましたここに深く感謝いたします本研究科電子工学専攻教授北野正雄先生には博士前後期連携コースの副指導教員として長きに渡りご指導を賜りましたご多忙の中でも親身になって議論していただきまた馬詰彰奨学寄附金での海外研修の際も迷いがちな私の背中を押していただきましたここに深く感謝いたします本研究科材料工学専攻教授杉村博之先生には同じく副指導教員としてご指導を賜りました他分野にも関わらず興味深く研究の相談に乗っていただき分野の垣根を超えたコラボレーションの可能性を感じさせてくださりましたここに深く感謝いたします京都大学名誉教授の松重和美先生 (現四国大学学長)には有機分子エレクトロニクスの面白さと夢のある将来展望についての熱意あふれるご講義を賜り私が博士課程へ進むきっかけを与えてくださりましたまた科学技術が学術的な面白さだけでなくモノづくりへ如何につなげるかが重要であるとの視点を与えてくださりましたここに深く感謝いたします元分子工学専攻の田中一義先生 (現福井センターシニアリサーチフェロー)には連携コースの副指導としてご指導を賜りました化学の視点に立って材料やプロセスの面で多大なご助言をいただき電気電子の分野のみでは備わらないノウハウや化学における常識を教わることができましたここに深く感謝いたします京都大学白眉センター特定准教授 小林圭先生には普段の研究で感じる様々な問題のみならず研究生活における素朴な疑問にも親身になって対処していただきました特に迷いがちな私の研究の指向に明確で分かりやすい道筋をつけてくださり研究におけるマイルストーンを示していただきましたここに深く感謝いたしいます慶應義塾大学理工学部准教授野田啓先生には在学中に有機材料や有機半導体に関する知識をお教えいただきまた研究や研究環境へ真摯に向き合うことの大切さをお教えいただきましたここに深く感謝いたしますナノテクノロジーハブ拠点の大村英治氏にはナノギャップ電極作製工程の EB描画において多大なご助力をいただきましたここに深く感謝いたします元研究室所属の鈴木一博氏服部真史氏 (現東京工業大学博士研究員)細川義浩氏井戸慎一郎氏広瀬政晴氏には博士課程の先輩として装置や研究内容だけでなく博士研究そのものについてどのようなスタンスや心持ちで臨むべきかについて様々なことをお教えいただきました特に広瀬政晴氏には同じ有機半導体を対象とした研究の先輩として研究の始まりの際に一から手ほど

128 謝辞

きをしていただき最も近い博士課程の先輩として博士課程を進める上でのノウハウをお教えいただきそして規則正しく堅実な研究生活を営む理想となる研究者の先輩としてその背中から多くのことを学ばせていただきましたここに深く感謝いたします博士研究員の木村邦子氏梅田健一氏八尾惇氏には研究者の先輩としてたくさんのことを学ばせていただきましたその真摯な研究姿勢からは常に深く探求することの重要性を知りまたその研究への熱意からは自身の研究への信念と確固たる我の必要性を学びました時には私の考えの甘さを叱責してくださり時には他愛ない会話で研究生活に一息つけるひとときをくださりましたここに深く感謝いたします本研究室の現役メンバーである博士課程学生の山岸裕史氏崔子鵬氏木南裕陽氏修士課程学生の黄雲飛氏黄子玲氏清水太一氏長谷川俊氏宮本眞之氏山下貴裕氏学部学生の野坂俊太氏濱田貴裕氏福塚清嵩氏そして旧松重研究室旧電子材料物性研究室に在籍された先輩後輩諸氏との研究のみならず日常においても親しげな関わりあいや対話があったからこそともすれば単調となりがちな研究生活を有意義に送ることができました特に山岸裕史氏とは学部学生での配属時より六年間の長きに渡り苦楽を共にし互いの支えあいあってこその博士課程であったと感じております同じ有機半導体を対象としていることから時には研究内容における相談や議論にも親身に付き合ってもらえ別の視点からの意見によって自分の思い込みを見つめなおすきっかけを与えてくれましたここに深く感謝いたします教務補佐員の林田知子氏には研究室の運営と研究環境の維持にご尽力いただき書類などの事務作業で妨げられることなく研究を進めることができましたここに深く感謝いたします博士課程中の海外研修にあたり京都大学大学院工学研究科馬詰彰奨学寄附金の支援を賜り海外の大学での 6週間に渡る研究生活という滅多にない経験を得ることができ日本とは異なる研究への姿勢指向と考え方を育むことができましたここに深く感謝いたします研究の遂行にあたり安定した研究生活基盤を提供いただいた工学研究科ならびに卓越した大学院拠点形成支援プログラムに深く感謝いたします最後に私の研究生活を支えてくれた家族友人たちに深く感謝いたします

129

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索引

2倍波信号 90

AFM 10AM-AFM 16

DNTT (dinaphto-thieno-thiophene) 65Dynamic-mode 15

EFM信号 84

FM-SIM (Frequency-modulation scanning impedancemicroscopy) 48

FM-SIM信号 50

γプロット 57

HOMO (Highest occupied molecular orbital) 4 64 65

Jump-to-contact 15

KFM (Kelvin-probe force microscopy) 21

LIA (Lock-in amplifier) 50Line-by-line 14

PCI-AFM 19PFBT (pentafluoro-benzene-thiol) 65Point-by-point 14

Q値制御法 24

SAM (Self-assembled monolayer) 3 19 65SIM (Scanning impedance microscopy) 47Static-mode 14Sweep-SIM 96

TLM (Transition line method) 4 43TR-EFM (Time-resolved EFM) 78TR-SIM 95

Zスキャナ 10

アドミタンスグリッド 115

カンチレバー 11

グレイン境界 3 29 119

正規化 FM-SIM信号 56正規化アドミタンス 62 98

ヒストグラムプロット 117

ペンタセン 29

  • 序論
    • 研究背景
      • 有機分子エレクトロニクス
      • 有機トランジスタの進展
      • 金属有機界面物性
      • 有機材料物性評価と走査プローブ顕微鏡技術
        • 研究目的
        • 本論文の構成
          • 原子間力顕微鏡の基礎
            • 走査型プローブ顕微鏡
            • 原子間力顕微鏡(AFM)
            • AFMの走査方式
            • AFMの動作モード
              • Static-mode (コンタクトモード)
              • Dynamic-mode
              • 振幅変調方式AFM (AM-AFM)
              • 周波数変調方式AFM (FM-AFM)
                • AFMの電流検出応用
                  • 導電性AFM (c-AFM)
                  • 点接触電流イメージングAFM (PCI-AFM)
                    • AFMの静電気力検出応用
                      • 静電気力顕微鏡(EFM)
                      • ケルビンプローブ原子間力顕微鏡(KFM)
                        • 本章のまとめ
                          • AFM電流測定法を用いた有機グレインの局所電気特性評価
                            • OFET評価に適した電流測定法の検討
                              • PCI-AFMの真空動作化(Q値制御法)
                              • 接触状態の検証
                                • マルチグレイン有機薄膜の複数雰囲気中測定
                                  • 測定試料
                                  • 装置構成
                                  • 大気中PCI-AFM評価
                                  • 真空中PCI-AFM評価および雰囲気比較
                                    • 単一微小グレインOFETの特性評価
                                      • Point-by-point動作時間間隔の自由化
                                      • ペンタセン微結晶上のPCI-AFMライン測定
                                      • 抵抗の距離依存性の理論数値的検討
                                      • 電極近傍の電気伝導特性
                                        • AFMによる接触電流測定の問題点
                                        • 本章のまとめ
                                          • 新規局所インピーダンス評価法の開発と金属―有機界面物性の評価
                                            • 走査インピーダンス顕微鏡(SIM)
                                            • 周波数変調走査インピーダンス顕微鏡(FM-SIM)の開発
                                              • FM-SIMの原理
                                              • OFETにおけるFM-SIM応答の妥当性
                                              • 局所インピーダンスの解析
                                                • ペンタセングレイン上の局所インピーダンス評価
                                                  • 単一グレイン上の周波数依存評価
                                                  • 電極グレイン界面インピーダンスの一般性
                                                  • キャリア蓄積による電極グレイン界面物性変化
                                                    • 電極表面処理によるOFET特性への直接影響評価
                                                      • 電極表面処理および試料作製
                                                      • 電気特性評価
                                                      • FM-SIMによる電極DNTT界面局所電気特性評価
                                                        • 本章のまとめ
                                                          • 時間分解測定による有機グレイン中のキャリアダイナミクス評価
                                                            • 時間分解EFM (TR-EFM)
                                                              • TR-EFMの動作
                                                              • 妥当性検証
                                                                • 有機グレインのキャリアダイナミクス評価
                                                                  • 単一グレインの時間分解パルス電圧応答
                                                                  • 比例係数補正と電圧依存界面電気特性
                                                                    • 単一グレインのチャネル形成評価
                                                                      • TR-EFMFM-SIM同時測定法
                                                                      • グレイン依存性とTR-EFMSIM対応関係
                                                                      • バイアス分光による導通領域変調評価
                                                                        • 本章のまとめ
                                                                          • 結論
                                                                            • 総括
                                                                            • 今後の展望
                                                                              • 静電気力顕微鏡の検出モード比較
                                                                              • FM-SIMの正規化アドミタンス評価の補足
                                                                              • 有機半導体グレイン境界のインピーダンス評価
                                                                              • 研究業績
                                                                              • 謝辞
                                                                              • 参考文献
                                                                              • 索引
Page 7: Title 原子間力顕微鏡を用いた有機半導体グレイン/電極界面 ...2.6.1 静電気力顕微鏡(EFM) .....20 2.6.2 ケルビンプローブ原子間力顕微鏡(KFM)
Page 8: Title 原子間力顕微鏡を用いた有機半導体グレイン/電極界面 ...2.6.1 静電気力顕微鏡(EFM) .....20 2.6.2 ケルビンプローブ原子間力顕微鏡(KFM)
Page 9: Title 原子間力顕微鏡を用いた有機半導体グレイン/電極界面 ...2.6.1 静電気力顕微鏡(EFM) .....20 2.6.2 ケルビンプローブ原子間力顕微鏡(KFM)
Page 10: Title 原子間力顕微鏡を用いた有機半導体グレイン/電極界面 ...2.6.1 静電気力顕微鏡(EFM) .....20 2.6.2 ケルビンプローブ原子間力顕微鏡(KFM)
Page 11: Title 原子間力顕微鏡を用いた有機半導体グレイン/電極界面 ...2.6.1 静電気力顕微鏡(EFM) .....20 2.6.2 ケルビンプローブ原子間力顕微鏡(KFM)
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