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1 December 2014 Technical Article IEC 61851IEC/ISO15118に準拠した充電プロセス IEC 61851 [4] では、電気自動車のコンダクティブ充電に対して 4つのモードが定義されています。 > Mode 1では、車両は単相電源により充電されます。 最大定格電流は16Aで、パイロット信号は使用されま せん。 > Mode 2では、充電操作には単相または三相の電源が 用いられます。最大定格電流は32Aで、パイロット信 号が使用されます。 > Mode 3では、充電は単相または三相の電源で行われ ます。最大定格電流は63Aで、充電ステーション側か らパイロット信号が提供されます。 > Mode 4は、 400V/125A を最大出力とする直流充電です。 Mode 1の充電操作では車両/充電設備間の通信は生じません が、 Mode 234の充電では、 Control Pilot (CP) 接続を介し たパルス幅変調 (PWM) による低レベル通信が常時行われてい ます。車両と充電ステーションが高レベルの通信に対応している 場合は、該当する信号がHomePlug GreenPHY規格に基づいて CPPWM信号に重畳されます。これが電力線通信 (PLC) として 定義されているもので、 IEC/ISO15118 [3] に規定されているよ うに、その利用はMode 3Mode 4に限られます。 PLCを基盤と する充電通信は原則として、いずれもPWMベースの通信を必要 とします。したがって、トータルなテストシステムは、この両方の 通信モードに対応しなければなりません。 関係するコンポーネントの機能 車両側から見た充電ステーションの機能は、主に表1に示した コンポーネントから構成されています。表2は充電ステーション側 から見た車両の機能です。 電気自動車と充電ステーションシステムの多様化に伴い、コンポーネント間の相互運用性と規格への適合はさらに 重要度を増しています。こうした問題点のテスト、充電の中断原因の特定、各種の外乱に対する信頼性と堅牢性の テストを行うには、オープンなテスト環境でテストケースをむらなく網羅することが不可欠です。 スマート充電をスマートにテスト E モビリティーのテストケースをむらなく網羅

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1December 2014

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IEC 61851とIEC/ISO15118に準拠した充電プロセス

IEC 61851 [4] では、電気自動車のコンダクティブ充電に対して4つのモードが定義されています。

> Mode 1では、車両は単相電源により充電されます。最大定格電流は16Aで、パイロット信号は使用されません。

> Mode 2では、充電操作には単相または三相の電源が用いられます。最大定格電流は32Aで、パイロット信号が使用されます。

> Mode 3では、充電は単相または三相の電源で行われます。最大定格電流は63Aで、充電ステーション側からパイロット信号が提供されます。

> Mode 4は、400V/125Aを最大出力とする直流充電です。

Mode 1の充電操作では車両/充電設備間の通信は生じませんが、Mode 2、3、4の充電では、Control Pilot (CP) 接続を介したパルス幅変調 (PWM) による低レベル通信が常時行われています。車両と充電ステーションが高レベルの通信に対応している場合は、該当する信号がHomePlug GreenPHY規格に基づいてCPのPWM信号に重畳されます。これが電力線通信 (PLC) として定義されているもので、IEC/ISO15118 [3] に規定されているように、その利用はMode 3とMode 4に限られます。PLCを基盤とする充電通信は原則として、いずれもPWMベースの通信を必要とします。したがって、トータルなテストシステムは、この両方の通信モードに対応しなければなりません。

関係するコンポーネントの機能

車両側から見た充電ステーションの機能は、主に表1に示したコンポーネントから構成されています。表2は充電ステーション側から見た車両の機能です。

電気自動車と充電ステーションシステムの多様化に伴い、コンポーネント間の相互運用性と規格への適合はさらに重要度を増しています。こうした問題点のテスト、充電の中断原因の特定、各種の外乱に対する信頼性と堅牢性のテストを行うには、オープンなテスト環境でテストケースをむらなく網羅することが不可欠です。

スマート充電をスマートにテスト~ Eモビリティーのテストケースをむらなく網羅 ~

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充電ステーションのテスト

充電があらゆるレベルで正常に機能していることを証明するには、専用の測定およびテストシステムが必要です。そのシステムでは、CPやPLC信号といった通信信号と電源ラインの信号の両方を解析およびエミュレーションできなければなりません。さらに、PLCメッセージの作成、表示、そして場合によっては、その内容の操作も必要です。このようなテストシステムには電気信号へのエラー注入機能も欠かせません。これには内部の短絡とバッテリー電圧/アースへの短絡の両方の模擬、そして、CP通信に加わっている車両や充電ステーションへの多様な抵抗値の変更などが含まれます。そして最後に、トータルなテストシステムには、AC/DCの電源ラインの電流および電圧の測定と解析を行い、またそれらを所定の方法で妨害できることが求められます。

テストモードとテストシステムの要件

コンポーネントのテストと堅牢性の解析を行うには、テストシステムはすべての入出力インターフェイスを規格に準拠して提供し、テストの対象となるコンポーネントの一つ一つについて、所定のエラーを注入しなければなりません。図1に示す充電通信チャンネルでは、以下のようなエラーテストが考えられます。

> Control Pilot信号で、PWMコンポーネントの特性(レベル、抵抗値、デューティーサイクル、周波数など)およびPLCコンポーネントの特性(通信の構造、通信の規格への準拠、定義済みのフォールトメッセージ)が正しくない場合

> Proximity Pilotに含まれる、符号化に用いられる抵抗値が正しくない場合

仮想のEVSEを使用して、EV充電電子制御ユニット (EV-ECU) のコンポーネントのテストまたは堅牢性のテストを行う場合 (図2) は、以下も必要になります。

>過電圧/低電圧、各種のランプ特性、異常な乱れを想定した車両の電源系統の電圧

>メッセージエラーや電気的エラーがある場合の車両の通信 (CANなど)

> AC/DCの電源ラインに対するあらゆるタイプの電圧の変動

>世界各地の多様な送電網を、電圧や周波数の相違、入力電源の乱れなどを含めてエミュレーションするためのグリッドシミュレーター

充電ステーションの機能 実現の手段

CP上の通信信号

パルス幅変調に基づく周波数信号。必要に応じてPLC信号をPWM信号に重畳

充電ラインの最大許容電流

いわゆるProximity Pilot(PP)。これはPP-PE間の抵抗に基づいて符号化され、その抵抗値はコネクターのケーブル断面に依存する

電流の供給PWM信号のデューティーサイクルによる符号化

高レベルの通信機能デューティーサイクルを5%に設定。3%から7%のデューティーサイクルが専用に予約されている

PLC通信への参加充電プロファイル、課金モデル、認証などの、より複雑な情報の伝達

電力単相または三相の100 - 240VのAC回路(国に依存)。あるいは独立したケーブルでDC電圧を供給

車両の機能 実現の手段

プラグ接続の通知CP-PE間の抵抗により、CPレベルが12Vから9Vに低下した場合

コネクターインターロックの通知

C P - P E間の抵抗の増加により、PWM信号が9Vから6Vに低下した場合

要換気の通知CP-PE間の抵抗により、PWM信号が6Vから3Vに低下した場合

PLC通信への参加充電リクエスト、アカウントデータ、認証などの、より複雑な情報の伝達

電力の最適化低レベルまたは高レベルの通信による電力供給プロファイルの合意

表2:車両の機能と充電ステーションが認識する車両の状態

表1:車両が直接/間接的に認識する充電ステーションの機能

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ト、記録ユニット、モニターユニットが必要です。さらに、テストケースを作成および管理するユニットがあれば理想的です。今日、体系的なテストに対するニーズはすでに大きな高まりを見せています [2]。この状況に対処するため、IEC/ISO15118 [3]には今後、標準化されたテストケースに関するPart 4とPart 5が追加される予定です。

総合的なテストシステム

総合的なテストシステムへの複雑な要求に応えるべく選ばれたのが、すべての必要な要求を満たすと同時に、システム構成の特定の機能を切り出してサブタスクとして利用できる、モジュール式のシステムアーキテクチャーです (図4)。 中心となるソフトウェアは、ベクターのCANoeツールとEthernet

オプションです。CANoeはテストの実行、PLC通信のシミュレーション、車両および充電ステーションの通信に関わるデータとあらゆる電気的特性の提供、関係するハードウェアコンポーネントの制御を担当します。CANoeを使用することで、関連するすべての測定値と信号を共通のタイムスタンプで処理、評価、保存できます。ベクターのvTESTstudio [7] を使用すれば、テスト

>必要な場合は、DC充電電力の消費ための電子負荷装置

> EVSEテストでは、あらゆる制限値を使用して車両をシミュレーションします(図2)。さらに、以下も必要になります

>実際の電力供給システムまたはそのエミュレーター(グリッドエミュレーター) への接続

>必要な場合は、ウエブ環境のシミュレーション

相互運用性のテストを実施する場合、テストシステムは充電ステーションと車両の間に挿入します (図3)。利用できる動作モードは2種類あります。ピュアパッシブモードでは、CP、PP、電源ラインの信号の測定のみが可能です。実ゲートウェイモードは、高レベルの通信モードでPLCメッセージを解析および操作するためのモードですが、車両/充電ステーション間の接続が確立されると、交換されるメッセージが暗号化されるため、このモードでは必要に応じてCPラインを切断、改造、横取りすることが必要です。通信および電源ラインの測定と操作に加えて、テストシステムには実行ユニッ

図1:充電ECU(OBC–オンボードチャージャー)と充電ステーション(EVSE)との接続例

図2:考えられるコンポーネントテスト

図3:間に割り込む形で行う相互運用性のテストのモード

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4December 2014

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ケースの作成と管理を、それがユーザーの作成したものであるか[2]、あるいは標準化されているものかを問わず、1つで済ませられます。ここに示した接続構成図(図4)のように、テストシステムはこのアーキテクチャーからサブタスクを切り出せます。充電ECUと充電ステーション、あるいはそのいずれかの環境を

シミュレーションするために、このシステムはcomemso GmbHのEV充電アナライザー/シミュレーター (EVCA:EV Charging Analyzer/Simulator) [5] とベクターのVTシステム[6] を使用しています。EVCAとV Tシステムはいずれも高レベル通信のPLC信号をCP信号から分離し、Ethernetを介してCANoeに送ることができます。Smart Charging Communication (SCC) のアドオンを利用することで、必要な解析や考えられる操作のすべてがCANoeで使用できます [1]。

EVCAにV TシステムのV T7870モジュールを併せて使用することにより、IEC 61851-1 [4] で要求されるCPとPPの回路を構成できるうえ、エラー注入も可能になります (図5)。V Tシステムは車両通信のためのインターフェイスとしても機能し、車両の電力系統のシミュレーション、そして必要な場合は、電子負荷や外部電源の制御を行います。comemso GmbHのEVCAは、CP信号と電源ラインの複雑な乱れをすべて、リアルタイムで検出し、同時にその原因を検出できます。変調したPLC信号を重畳したパイロット信号は、規格に定められたパイロット信号の仕様を逸脱する場合があります。そのため、PLC信号の高周波数成分をパイロット信号から無干渉の状態の信号として分離するには、専用に開発されたアナログフィルター回路が必要になります。CP信号の解析には、EVCAは専用に開発された測定方法を使用しますが、この方法

図4:実環境から完全なシミュレーション環境に至る幅広い環境下で、充電ECUと充電ステーションの自動テストを実施できる総合的なシステム

図5:IEC 61851およびIEC/ISO 15118に関連するSCCテスト用のテストシステムコンポーネント

図6:携帯用のテストシステムの構成

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5December 2014

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本稿は2014年12月にドイツで発行されたEmobilityTecに掲載されたベクター執筆による記事を和訳したものです。

提供元:

見出し画像、表1~ 2および図1~ 6:Vector Informatik GmbH

リンク:

ベクター・ジャパン www.vector-japan.co.jp

では、測定時間ごとに最大150種類のエラーを組み合わせて測定できます。 さらに、EVCAを使用することにより、電源ラインの電流と電圧を、三相の全てで実際のRMS値として精密に測定できます。電源系統の解析を三相それぞれとサイン波の周期ごとにさらに詳しく行うことにより、通信信号の電磁干渉を招くおそれのある入力電源の利用の偏りと、その乱れを特定できます。充電通信はEthernetベースで行われますが、EVCAで測定した変数はいずれも、独立したCANチャンネルでCANoeに転送されます。電源ライン、CP信号、PLC信号に関連する乱れと、必要に応じてその原因と結果を特定するには、それらを一緒に時刻同期して測定し、視覚化するのが唯一の方法です。 フィールドでの利用には、携帯用のEVCAに、CANoe.EthernetおよびvTESTstudioを併せて使用します (図6)。これによって実験室でもフィールドでも、先行開発から量産開発に至るまで、同じテストケースを一貫して使用できます。

まとめ

本稿で紹介したテストシステムのアーキテクチャーにより、IEC 61851-1 [4] およびIEC/ISO 15118 [3] に即した接触式充電に使用されるコンポーネントの堅牢性、規格への準拠、相互運用性を、体系的にテストできます。vTESTstudioとCANoeによるオープンなテスト環境により、テストシーケンスが根本から可視化され、その再現性が確保されます。モジュール式のアーキテクチャーと、comemsoとVectorのツールの組合せにより、実環境や完全なシミュレーション環境、そしてそれらの中間の環境での運用のほか、自動テストサイクルでの運用も可能になります。この解析アプローチをあらゆるレベルで適用することにより、テストを最大限に詳細化することが可能になります。それは堅牢で信頼性の高いコンポーネントを実現するためのかなめであり、これが最終的には、Eモビリティーの顧客の満足につながります。

参考文献:

[1] Albers, T. (July 2011). Komfortables Laden. Elektronik automotive - Sonderheft Elektromobilität, p. 60-63.[2] Brosi, F., Reuss, H.-C., & Großmann, D. (2013). Communication Conformity Between Electrical Vehicles and Charging Equipment Pursuant to ISO 15118. 13th Stuttgart International Symposium Automotive and Engine Technology. Vol. 2, p. 115-126. Stuttgart: ATZIive.[3] IEC/ISO15118. 2012. Road Vehicles - Vehicle to grid Communication Interface.[4] IEC61851-1. 2010. Electric Vehicle Conductive Charging System - Part 1: General Requirements.[5] EVCA comemso GmbH. 2013. EV Charging Analyzer / Simulator. Retrieved on 2014-08-01 from http://www.comemso.de/index.php/ de/produkte/ladesystem-analysator[6] VT System Vector Informatik GmbH. 08 2014 Modular Test Hardware: VT System Retrieved 08 2014 from http://www.vector.com/ vi_vt-system_de.html[7] vTESTstudio Vector Informatik GmbH. (2014). Vector. Retrieved on 2014-08-07 from http://vector.com/vi_vteststudio_de.html

Dr. Kiriakos Athanasascomemso GmbHのマネージングディレクター。HS Esslingenで通信工学を学び、さらに情報工学/エレクトロニクスを学ぶ。自律走行のアシスタンスシステムおよびドライビングダイナミクスシステムのシステム安全および機能安全の分野で、分散コンピューターネットワークの博士号を取得。Daimler Research & Develop-mentのこれらの分野で12年に及ぶ実績を重ねた後、2009年にEモビリティー向けの複雑な測定/テスト/電子システムを開発するcomemso GmbHを設立。

Dr. Heiner HildVector InformatikのVTシステムのチームリーダー兼プロダクトマネージャーとして、VTシステムをはじめとする入出力テスト用ハードウェアとCANoeとの接続を担当。University of Stuttgartで物理学を専攻し、画像処理および地理情報システムで博士号を取得後、10年に及ぶ自動車のドライバーアシスタンスシステムの開発経験を経て、2014年にVector Informatik GmbHに入社。

■ 本件に関するお問い合わせ先ベクター・ジャパン株式会社営業部 (東京) TEL:03-5769-6980 FAX:03-5769-6975 (名古屋) TEL:052-238-5020 FAX:052-238-5077

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