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経済産業省 平成 21 年度サービス産業生産性向上支援調査事業 国際メディカルツーリズム調査事業 報告書 平成 22 2010 年) 3 株式会社 野村総合研究所

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経済産業省

平成 21年度サービス産業生産性向上支援調査事業

国際メディカルツーリズム調査事業 報告書

平成 22年 (2010年) 3月

株式会社 野村総合研究所

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目次

第1章 事業の趣旨・実施目的 ................................................................................. 3

第2章 事業実施概要 ................................................................................................. 4

第3章 各種調査事業の概要 ..................................................................................... 9

第4章 実証事業の実施結果 ................................................................................... 11

第5章 事業者・医療機関ニーズ調査結果 ........................................................... 17

5-1.事業者ニーズ調査結果 ................................................................................................. 17

5-2.医療機関ニーズ調査結果 ............................................................................................. 24

第6章 海外ニーズ調査結果 ................................................................................... 29

6-1.既存の医療ツーリズムの取組事例(シンガポール) ............................................. 29

6-2.既存の医療ツーリズムの取組事例(タイ) ............................................................. 45

6-3.医療ツーリズム潜在市場調査(中国) ..................................................................... 54

6-4.医療ツーリズム潜在市場調査(ロシア) ................................................................. 69

第7章 患者及び同伴者による満足度調査結果 ................................................... 90

第8章 日本人患者アンケート調査結果 ............................................................. 112

8-1.集計結果 ...................................................................................................................... 112

8-2.調査結果のまとめ....................................................................................................... 116

第9章 継続的事業化に向けた提言 ..................................................................... 118

9-1.ターゲットとすべき顧客 ........................................................................................... 118

9-2.注力すべき医療領域 ................................................................................................... 118

9-3.事業拡大に向けた今後の取組事項 ........................................................................... 119

おわりに………….. .................................................................................................... 129

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参考資料 ……………………………………………………………………………..130

1) 受け入れフロー............................................................................................................... 130

2) 各種医療関連書類の例 ................................................................................................... 132

(1)健康診断申込書

(2)基本契約書

(3)健康診断結果の翻訳依頼書

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第1章 事業の趣旨・実施目的

国際的にも、日本の医療の費用対効果は大きく、技術的水準も高いとされており、日本

の食生活・習慣や健診制度も国際的に評価されている。このため、健康に関わる日本的な

文化やそれに立脚した日本の医療の情報を海外に発信することは、ものづくり以外の分野

での国際貢献と、国内における関連産業の活性化に繋がると期待される。また、外国から

の需要に応えることが、日本の医療への新しい視点を得る機会ともなると考えられる。

医療の国際化は、健診や先端的医療等、医療保険制度と強い関わりのない分野から外国と

の繋がりを拓き、日本と外国双方の医療サービスの向上に向けた好循環を生み出す可能性

がある。また、医療の国際化は、外国人が利用し易い国内の医療及びその周辺サービスの

整備にも繋がり、優れた外国の人材が安心して日本に滞在することができる環境の実現に

資することとなる。

しかしながら、これまで日本の医療機関においては、医療の国際化に関する取り組みは、

十分行われてこなかった。このような背景を踏まえ、商務情報政策局サービス産業課では、

サービス・ツーリズム(高度健診医療分野)研究会を6回開催し、8月4日に研究会取り

まとめ(以下、「取りまとめ」と言う。)が公表されたところである。

本調査事業においては、上記取りまとめの内容に基づき、外国人に対する健診サービス

及びそれと関連した治療の提供を試行することを通じて「国際医療サービス支援センター」

(※)、健診・治療野各医療サービスを提供する医療機関コンソーシアムの業務内容につい

て実証調査を実施した。

※外国人向けの医療関連サービスに関心のある医療機関の連携を効果的、効率的に支

援するため、旅行代理店、ホテル、通訳、医療アシスタンス等様々な事業者により

構成されるアレンジ事業者群。

具体的には、関心を有する日本の医療機関及び国際医療サービス支援センターが連携し

て実証実験を行うことで、医療ツーリズムの継続的実施に向けて医療機関と国際医療サー

ビス支援センターに求められる機能、医療機関と国際医療サービス支援センターの関係の

あり方、日本における今後の医療ツーリズムの可能性等について検討を行った。

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第2章 事業実施概要

1) 事業の全体像

本事業は、実証事業と各種調査事業の2種類の調査から構成される。それぞれの実施目

的、実施内容及び実施期間を整理すると、以下の通りとなる。

実証事業

① 実施目的

医療ツーリズムの継続的実施に向けた、医療機関、国際医療サービス支

援センターそれぞれに求められる機能の検討

医療機関と国際医療サービス支援センターの関係のあり方の検討

上記検討を通じての、日本における今後の医療ツーリズムの可能性等に

ついての検討

② 実施内容

海外もしくは日本駐在の外国人が来日・来院し、日本の医療機関が提供す

る健診サービスを受診する。

医療行為以外の各種サービス(旅行手配、通訳手配、診断書の翻訳等)

は、国際医療サービス支援センターが担当する。

実証事業期間内に 20 名の外国人顧客の受入を目標とする。

③ 実施期間

平成 22 年 2 月~3 月

各種調査事業

① 各種調査は、以下の 3 種類の調査から構成される。

1. 事業者及び海外ニーズ調査

2. 患者及び家族による満足度調査

3. 医療機関現場調査

(ア) 医師・スタッフヒアリング

(イ) 日本人患者等アンケート

② 各調査の目的・内容等は第 3 章において詳述する。

2) 実施体制

本事業の推進にあたって、以下の4つのコンソーシアムを形成した。

① 国際医療サービス推進コンソーシアム①

(事務局: 株式会社 シード・プランニング)

② 国際医療サービス推進コンソーシアム②

(事務局: 社団法人 全日本病院協会)

③ 国際医療サービス支援センター

(事務局:JTB グローバルマーケティング アンド トラベル)

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④ 全体コンソーシアム(事務局: 株式会社 野村総合研究所)

実証事業における各事業者の関係性を整理すると、以下の通りとなる。

図表 2-1 実証事業の運営フロー

3) 各コンソーシアムの役割

本事業において、各コンソーシアムが果たした役割は以下の通り。

国際医療サービス推進コンソーシアム①

サービス・ツーリズム研究会での検討結果を踏まえ、引き続き医療ツーリズ

ムの方向性に関する検討を行う。

実証事業において外国人顧客の受入を通じて、医療機関に求められる機能、

医療機関と国際医療サービス支援センターの関係のあり方、日本における今

後の医療ツーリズムの可能性等を検証する。

参加医療機関は、以下のような業務を担当した。

実証事業関連

国際医療サービス支援センターへの各種情報提供

外国人顧客の受入(健診の実施)

各種調査事業関連

医療機関ニーズ調査への協力

医療機関現場調査への協力

コンソーシアム事務局は、以下のような業務を担当した。

実証事業関連

顧客とのインターフェース

医療機関医療機関

外国人顧客

商品設計・広告・販売

・商品パッケージの造成a)医療機関別提供サービスの整理b)コールセンターへの内容伝達

・商品情報の広告・プロモーションa) パンフレット作成b)Webサイト作成

・商品情報の広報(HP、パンフレット)

・商品情報の提供

通訳・翻訳

・翻訳業務a)問診票(文面、回答内容)b)HP、広告メッセージなどc)各医療機関の概要、サービス内容d)診断結果

・通訳業務a)診察時

・通訳必要時のサポート

・診断結果作成時のサポート(翻訳)

・サービス概要等各種情報の提供

・商品設計時のアドバイス

・医療機関の情報提供

・商品設計時のサポート(翻訳)

・医療機関の情報とりまとめa)病院情報の収集、病院リストの作成b)適宜問い合わせ対応(アンケート等

の窓口業務等)

・診断結果の発送

・アサインメント

医療アドバイザー

・医療に関するアドバイス

法律アドバイザー

・法律に関するアドバイス

・コンタクト、申込

・訪問、受診

国際医療サービス支援センター

国際医療サービス推進コンソーシアム①.②

医療機関とのインターフェイス

・商品申込の受付・顧客情報の管理

顧客とのインターフェース(既存とのコネクション)

コールセンター

団体旅行受付

・コンタクト

・紹介

全体コンソーシアム

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同コンソーシアム内での連絡会および調査報告内容検討会の企画・

開催

医療機関情報の収集および国際医療サービス支援センターへの伝達

医療機関からの各種問い合わせへの対応

コンソーシアム報告書の作成

各種調査事業関連

医療機関現場調査の実施

医師・スタッフヒアリングの実施・とりまとめ

日本人患者アンケートの配布・回収

国際医療サービス推進コンソーシアム②

地方の医療機関に、医療ツーリズムに関する理解を深めるための検討機会を

提供する。

実証事業において外国人顧客の受入を通じて、医療機関に求められる機能、

医療機関と国際医療サービス支援センターの関係のあり方、日本における今

後の医療ツーリズムの可能性等を検証する。

参加医療機関は、以下のような業務を担当した。

実証事業関連

国際医療サービス支援センターへの各種情報提供

外国人顧客の受入(健診の実施)

各種調査事業関連

医療機関ニーズ調査への協力

医療機関現場調査への協力

コンソーシアム事務局は、以下のような業務を担当した。

実証事業関連

参加医療機関の募集・選定

同コンソーシアム内での連絡会および調査報告内容検討会の企画・

開催

医療機関情報のとりまとめおよび国際医療サービス支援センターへ

の伝達

医療機関からの各種問い合わせへの対応

コンソーシアム報告書の作成

各種調査事業関連

医療機関現場調査の実施

医師・スタッフヒアリングの実施・とりまとめ

日本人患者アンケートの配布・回収

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国際医療サービス支援センター

実証事業において外国人顧客の受入を通じて、国際医療サービス支援センタ

ーに求められる機能、医療機関と国際医療サービス支援センターの関係のあ

り方、日本における今後の医療ツーリズムの可能性等を検証する。

国際医療サービス支援センターの業務を複数事業者によって分担することで、

事業化に向けての協働の実現可能性を検証する。

支援センターでは、具体的には以下のような業務を担当した。

実証事業関連

国際医療サービス支援センター参加事業者間の役割分担の明確化及

び業務フローの設計

同コンソーシアム内での連絡会および調査報告内容検討会の企画・

開催

下記の医療関連分野でのサービス提供

外国人顧客からの問い合わせ受付窓口

外国人顧客からの各種問い合わせに対するコールセンター業務

医療機関アサイン業務

(含 日程調整、医療機関と外国人顧客とのニーズマッチング)

通訳・翻訳

プロモーション関連業務

パンフレット作成

Web サイト構築

海外でのプロモーション活動

旅行関連の各種手配(含 査証取得手配)

コンソーシアム報告書の作成

各種調査事業関連

患者及び家族による満足度調査の調査票配布・回収

全体コンソーシアム

実証事業において外国人顧客の受入を通じて、国際医療サービス支援センタ

ーに求められる機能、医療機関と国際医療サービス支援センターの関係のあ

り方、日本における今後の医療ツーリズムの可能性等を検証する。

各種調査事業を通じて、既存の医療ツーリズムの取組動向把握、日本にとっ

ての潜在市場となる国々におけるニーズ把握、及び日本における医療ツーリ

ズムの可能性等を検証する。

事務局は、以下のような業務を担当した。

実証事業関連

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実証実験仮説の明確化及び事業全体の業務フローの設計

事業推進連絡会及び事業推進全体会の企画・開催

事業全体の進捗管理

各コンソーシアム主催の会合への参加

コンソーシアム間連絡会の月次開催

実証事業参加事業者、医療機関からの問い合わせ対応

実証事業参加事業者、医療機関との意見交換

実証事業参加事業者間、医療機関間等の各種調整

参加医療機関訪問の企画・実施

全体報告書の作成

各種調査事業関連

事業者及び海外ニーズ調査の企画・実施・とりまとめ

患者及び家族による満足度調査の調査設計・分析

医療機関現場調査実施の企画・実施

医師・スタッフヒアリング調査の設計

日本人患者アンケートの集計・分析

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第3章 各種調査事業の概要

1) 事業者及び海外ニーズ調査

(1) 実施目的

事業者ニーズ調査

本調査は、以下の2つの目的を達成するために設計・実施された。

国際医療サービス推進コンソーシアムを構成する医療機関の、医療ツーリズム事業に

対する期待および現状での課題認識を把握する。

国際医療サービス支援センターを構成するアレンジ事業者群の、医療ツーリズム事業

に対する参入意向および、参入に際してのニーズを把握する。

海外ニーズ調査

世界でどのような医療ツーリズムの取組が行われているのか、及び潜在市場として期待

される周辺諸外国においてどのような健診・治療ニーズが存在するのか等を把握するため

に、以下の 2 種類の調査を実施した。

海外ニーズ調査① (既存の医療ツーリズムの取組:シンガポール・タイ)

(実施目的)既に国際医療ツーリズムを本格的に実施しているシンガポール・タイにおけ

る取組の特徴等を把握する

海外ニーズ調査②(潜在市場ニーズ調査:中国・ロシア)

(実施目的)日本にとっての潜在市場となりうる 2 カ国(中国・ロシア)における

国際医療ツーリズムに対するニーズを把握する

(2) 実施方法

事業者ニーズ調査

国際医療サービス推進コンソーシアム①、②を構成する全ての医療機関を野村総合研究

所が訪問し、ヒアリング形式で調査を実施した。

国際医療サービス支援センターを構成する事業者 5 社(ジェイティービーグループ本社、

JTB グローバルマーケティング アンド トラベル、JTB 関東、マイス、日本エマージェ

ンシーアシスタンス)を野村総合研究所が訪問し、ヒアリング形式で調査を実施した。(実

施結果については第 5 章で詳述する。)

海外ニーズ調査

上記 4 カ国に野村総合研究所が訪問し、旅行代理店、医療機関、その他関係者に対して

ヒアリング調査を実施した。(実施結果は第6章で詳述する。)

2) 患者及び同伴者による満足度調査

(1) 実施目的

本事業を通じて実際にわが国で医療ツーリズムのサービスを体験した患者及び家族等か

ら、アレンジ事業者、医療機関に対する感想や意見・評価についてアンケート調査を実施

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することで、本事業で提供した各種サービスに対する満足度およびその要因を把握すると

共に、今後の事業化に向けて改善すべき点を明らかにする。

(2) 実施方法

本事業を通じて医療機関で健診サービスを受診した 24名を対象に実施した。調査票の中

国語・ロシア語・韓国語・英語への翻訳及び配布・回収は国際医療サービス支援センター

が主導的に実施し、野村総合研究所は調査票の設計、集計・分析を担当した。

3) 医療機関現場調査

(1) 実施目的

医師・スタッフヒアリング

外国人顧客受入に伴って、医師・スタッフに対してどのような間接的な影響が発生する

のかを把握することによって、今後日本において医療ツーリズムを実施していく上で、医

療機関が留意すべき事項を明らかにする。

日本人患者等アンケート

本事業において、間接的に影響を受ける日本人患者に対して外国人顧客を受入れること

に対する感想や意見・評価についてアンケート調査を実施することで、医療ツーリズムが

医療機関に与える影響を明らかにすると共に、今後の事業化に向けて改善すべき点を明ら

かにする。

(2) 実施方法

医師・スタッフヒアリング

本実証事業に参加した各医療機関において、医師・スタッフ(各医療機関 3~5名程度)

に対して、グループインタビューもしくは個別ヒアリングを行った。

調査は全体コンソーシアム事務局である野村総合研究所が設計し、国際医療サービス推

進コンソーシアム①、②の事務局であるシード・プランニングおよび全日本病院協会が主

導的に実施した。なお、本ヒアリングは、外国人顧客の受入実績の有無に関係なく全ての

参加医療機関を対象に実施した。

日本人患者等アンケート

本実証事業に参加した各医療機関において、入院・通院・付き添い等の理由で来院して

いる日本人患者等に対して、1医療機関あたり 50通の回収を目標に、紙媒体でのアンケー

ト調査を実施した。調査項目は、国際医療サービス推進コンソーシアム①の事務局である

シード・プランニング社が素案を作成し、同コンソーシアム参加医療機関の協力を得て確

定させた。配布・回収は、各医療機関の事情に合わせて、国際医療サービス推進コンソー

シアム①、②の事務局が個別対応して実施した。

また、集計・分析は、全体コンソーシアム事務局である野村総合研究所が実施した。

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第4章 実証事業の実施結果

1) 全体コンソーシアム事務局の活動結果

実証事業期間中の全体コンソーシアム事務局の活動は、日常業務として行った事業全体

の進捗管理(各コンソーシアム事務局、経済産業省との連絡・調整、問い合わせ対応 等)

を除くと以下の3つである。

(1)事業推進連絡会の企画・開催

(2)病院訪問の実施

(3)事業推進全体会の企画・開催

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2) 実証事業全体での活動結果

(1) 実証事業期間中の外国人顧客受入結果

本実証事業における外国人顧客の受入結果の概要は以下の通りである。

(ア) 受入期間:平成 22 年 2 月 10 日~3 月 8 日

(イ) 受入人数:24 名

(ウ) 受入医療機関数:9 機関

図表 4-1 受入実績

性別 国/都市名 年代 病院名 受診日程 希望コース

1. 男 ロシア/ハバロフスク 50 代 A 病院 3 月 3 日~5 日 PET-CT 検査+1 泊人間ドック

2. 男 ロシア/ハバロフスク 50 代 B 病院 2 月 24 日 日帰り健診(バリウム)

3. 女 ロシア/ハバロフスク 20 代 B 病院 2 月 24 日 日帰り健診(バリウム)

4. 男 中国/北京 30 代 C 病院 2 月 22 日 日帰り健診(上部消化内視鏡コース)

5. 男 中国/北京 30 代 C 病院 2 月 22 日 日帰り健診(上部消化内視鏡コース)

6. 男 USA/ロサンゼルス 40 代 C 病院 2 月 26 日 日帰り健診(上部消化内視鏡コース)

7. 男 USA/ロサンゼルス 30 代 D 病院 2 月 26 日 日帰り健診

8. 女 USA/ロサンゼルス 30 代 A 病院 2 月 26 日 日帰り健診(上部消化内視鏡コース)

9. 女 韓国/ソウル 50 代 E 病院 2 月 18 日 日帰り健診

10. 男 韓国/ソウル 50 代 A 病院 2 月 10 日 日帰り健診

11. 女 中国/北京 20 代 F 病院 2 月 25 日 日帰り健診

12. 男 中国/北京 40 代 A 病院 2 月 18~19 日 PET 健診+人間ドック

13. 女 中国/北京 40 代 A 病院 2 月 18~19 日 PET 健診+人間ドック

14. 男 ロシア/東京駐在 50 代 F 病院 2 月 23 日 日帰り人間ドック

15. 男 ロシア/東京駐在 50 代 B 病院 3 月 3 日 日帰り人間ドック(バリウム)

16. 女 ロシア/東京駐在 40 代 B 病院 3 月3日 日帰り人間ドック(バリウム)

17. 男 ロシア/東京駐在 50 代 F 病院 2 月 23 日 日帰り人間ドック

18. 女 ロシア/東京駐在 40 代 A 病院 3 月 4 日 日帰り人間ドック(バリウム)

19. 女 ロシア/モスクワ 20 代 B 病院 3 月 8 日 日帰り健診(バリウム)

20. 女 ロシア/モスクワ 50 代 F 病院 2 月 23 日 日帰り人間ドック

21. 女 韓国/ソウル 30 代 G 病院 2 月 25 日 脳ドック

22. 男 中国/上海 30 代 H 病院 2 月 22 日 日帰り人間ドック(胃カメラ)

23. 男 中国/上海 30 代 I 病院 3 月 8 日 日帰り人間ドック

24. 男 中国/北京 50 代 A 病院 3 月 3 日 日帰り健診(胃カメラ)

※年齢は受診日時点。

本実証事業で被験者となった 24名全員が健診受診希望であり、治療を希望する顧客は存

在しなかった。

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(2) 実証事業を通じて明らかとなった医療ツーリズム推進上の課題

各コンソーシアム内での報告内容検討会において出された意見を整理すると、本実証事

業を通じて明らかとなった医療ツーリズム推進上の課題は、以下の 3つの場面における 11

の課題に集約される。

1.来日前の課題

1. 既存チャネルでは、富裕層への直接プロモーション

国際医療サービス支援センターから、既存の旅行代理店のチャネルでは、中国・

ロシアの富裕層に対して直接リーチすることは困難であるとの指摘があった。その

ため、医療ツーリズムに対するニーズが高い現地人にリーチするには、現地に進出

している日系企業と連携するなど、これまでとは異なったプロモーションの方法を

検討すべきとの意見も出された。

2. 外国人顧客からの情報収集

医療機関から、①本事業で受け入れた外国人顧客が、来日前に国際医療サービス

支援センターから伝達されたものとは異なる健診ニーズを有していたケースがあ

ったこと、②健診ニーズだけでなく、氏名や生年月日といった基礎情報についても、

誤った情報収集が行われていたとの指摘があった。

3. 外国人顧客への情報提供(病院・健診内容 等)

医療機関から、外国人顧客が各医療機関の強みや特色、健診の目的や内容を十分

に理解しない状態で来院しているケースが見られたとの指摘があった。保有する先

進的な医療機器を活用せず、一般的な健診のみを提供したケースも存在したため、

アサイン基準が不透明であるとの声も聞かれた。

加えて、各医療機関指定の申込書・検査内容の説明書などの事前説明に関しても

不十分であったとの指摘が医療機関側からあった。これらの文書は日本語版のみを

整備している医療機関が多いことから、各国語の翻訳版を作成した上で事前送付す

ることが望ましいとの意見も寄せられた。

4. 国際医療サービス支援センター窓口の医療知識

医療機関から、「外国人顧客からの健診ニーズに関する情報収集が不十分」、「外

国人への状況提供が不十分」といった課題が表出した背景には、国際医療サービス

支援センター窓口の医療知識が不足していたために、十分な情報収集、情報提供を

行うことができなかったからではないかという指摘があった。

また、各医療機関の強み(保有する医療機器や医師の専門性)を十分に考慮した

とは考えにくいアサインも、ごく一部ではあるが見られた。以上のような出来事か

ら、国際医療サービス支援センターによる情報提供の遅れや不正確さを指摘する意

見が出されたものと推測される。

5. 国際医療サービス支援センターの体制

国際医療サービス支援センターによる情報提供の遅さ・不正確さの別の原因とし

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て、人員不足を指摘する意見が医療機関から出された。具体的には、医療機関側が

問い合わせを行った際、担当者が不在との回答があり、その後の返事が遅かったと

の声が聞かれた。また、人員不足が原因で、医療機関からの問い合わせへの対応が

遅れたのではないかとの指摘もあった。

2.日本滞在中の課題

1. 言語・文化・生活習慣の違い

言語面では、院内の表記が日本語中心で、通訳のサポート無しでの移動が困難と

の意見が外国人顧客から出された。

文化・生活習慣の違いに関しても、主に問診票の内容および健診内容に関して、

自国における疾病構造や食習慣との違いを指摘する声が外国人顧客から聞かれた。

また、現場で対応した医師からは、文化・生活習慣の違い故の生活指導の難しさ

を指摘する意見が出された。

2. 医療通訳によるサポート

本実証事業中、医療機関から最も多くの課題指摘があった領域の 1 つであった。

中国語、ロシア語での医療通訳のレベルについては、医療機関のスタッフではその

質を判断しづらいため、語学力および医療知識を総合的に判定するための何らかの

レベル認定を行って欲しいとの要望が出された。

また、一部のケースでは、日本語でのコミュニケーションに難がある通訳がいた

との指摘があった。

語学力・専門性以外の領域では、健診の進行をサポートする役割に関する課題指

摘があった。具体的には、バリウム検査や肺活量検査などにおいて求められる即時

性の高い指示出しや、PET-CT等における通訳の被爆リスク等への対応であった。

上記課題への対応策としては、日本人医師・看護師等が中国・ロシア語の簡単な

指示用語を学習して直接指示するべき、医療通訳が健診の流れを理解したうえでサ

ポートすべき等の意見が医療機関現場調査時に現場の医師らから出された。

3. 外国人に対するサービスの在り方

言語、文化関連への対応について課題指摘があった他は、中国・ロシア人顧客

からは概ね高い評価を得た。

他方、シンガポール・タイの有名医療機関におけるサービスレベルを経験して

いるアメリカ人顧客からは、富裕層向けの手厚い対応を期待する意見も寄せられ

た。具体的には、食事の種類が限られていることや、日本流の健診の進め方、例

えば、ロッカーで着替える、(個人情報確保の観点から)番号で呼ばれる、流れ作

業的に健診が進行するため医師とのコミュニケーション機会が限られる等に対す

る違和感が指摘された。このような価値観のギャップに対しては、ケースバイケ

ースで検討を行い、文化の違いを前提とした事前説明や、必要に応じた新たなメ

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ニュー開発といったフォローをしていくことも考えられる。

4. 外国人受入に伴うリスク管理方策の整備(同意書、保険等)

本実証事業においては、原則として各医療機関が通常用いている申込書・各種検

査説明書・同意書等を用いて診断を行い、報告書作成時点では大きなトラブルは発

生していない。

しかし、医療機関からは、医療サービスに対する考え方が異なる外国人受入にあ

たっては、明確なリスク管理方策の徹底が必要であるとの指摘があった。具体的に

は、法的リスクに対するリスク逓減を目的にした契約書の整備や医療機関や医師・

スタッフ、また医療通訳を訴訟リスクに対応するための保険の整備等に関する必要

性が指摘された。

3.帰国後の課題

1. 医療機関外部で診断書翻訳を行うことに対する信頼性の確保

本実証事業においては、各医療機関が日本語による診断書を発行した後、それを

国際医療サービス支援センター内にて英語・中国語・ロシア語に翻訳した上で、国

際医療サービス支援センターから患者宛に送付する形での対応を行った。

しかしながら、医療機関からは、この翻訳実施に関して以下のような課題指摘が

あった。

翻訳の質の担保が困難であるため、翻訳結果に起因するトラブルが不安である。

究極の個人情報とも言える診断書を、第三者に提供することに対する不安があ

る。

本来医療機関が送付すべき診断書を、国際医療サービス支援センターから送付

することに違和感がある。

個人情報保護の観点から、一部の医療機関では、独自に診断書の第三者への提供

に関する同意書を作成し、外国人顧客に対してサインを求めた例も見られた。

2. アフターフォローの体制が確立されていない

本実証事業においては、健診において何らかの異常所見が発見された場合は、日

本人に通常対応しているのと同じ体制での対応を求めた。結果として、今回受け入

れた 24 人の中に、緊急対応が必要な異常所見は発見されなかったが、医療機関か

らは、以下のようなケースへの対応方法の整備の必要性が指摘された。

旅行ビザで短期滞在している場合の対応

診断結果が出た時点で、帰国してしまっている場合の対応

(現地医療機関と連携するのか、再来日してもらって対応するのか 等)

健診を担当した医療機関では十分に対応しきれない疾患が発見された場合の

対応

また、外国人顧客帰国後の対応についても、以下のような指摘があった。

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患者からの問い合わせがあった場合、一次対応を誰が行うのか?

現地の医療機関との診断結果の共有体制をどのように確立するか?

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第5章 事業者・医療機関ニーズ調査結果

5-1.事業者ニーズ調査結果

事業者ニーズ調査は、国際医療サービス支援センターのサービス提供体制の実態把握、

および国際医療サービス推進コンソーシアムに対する期待を確認するために、同センター

を構成する事業者 5 社(下記参照)を対象にインタビュー形式で実施した。

本調査の実施概要は以下の通りである。

調査日程

平成 22 年 2 月 24 日

JTB グローバルマーケティング アンド トラベル

ジェイティービーグループ本社

JTB 関東

平成 22 年 2 月 23 日

日本エマージェンシーアシスタンス

平成 22 年 2 月 25 日

マイス

調査内容

国際医療サービス支援センターに対する評価

国際医療サービス推進コンソーシアムに対する評価

事業全体に対する評価

今後の実施体制及び関与意向

1) 国際医療サービス支援センターに対する評価

(1) 事業者間の役割分担・連携

本事業では、平成 21 年 12 月から 3 月までの短期間の間に、複数事業者が連携しながら

外国人顧客・医療機関双方に対してサービスを提供したが、オペレーション面では第 4 章

にあるような様々な課題が指摘された。

これらの問題に関して、短期間で複数の事業者による役割分担・連携の難しさを指摘す

る意見が、調査対象となった 5事業者全てから寄せられた。

事業者間の役割分担に関しては、具体的には以下のような意見が出された。

短期間で事業がを立ち上げたため、事業開始当初、一部事業者間で役割に混乱が

生じた。それぞれの事業者の強みを活かす形で、事前に役割分担を決めるための

議論をもっと行うべき。

事業者間の連携に関しては、具体的には以下のような意見が出された。

国際医療サービス支援センター立ち上げの段階で、同センターが提供する価値や

仕事の進め方等について、十分な意識あわせを行う必要があった。

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事業期間中に何度か自主的に会合を開いたが、もっと頻繁に情報共有を行う機会

があればよかった。

オフィスの立地が分散することによるコミュニケーションギャップがあった。

理想的には、所属組織を超えて、専門家集団が一堂に会する形がよかった。

事業者間の情報共有が難しく、問合せをしてもレスポンスが遅いことがあった。

担当者間で情報が共有されていないことで、コミュニケーションに多大な時間を

要した。本事業に関わっていた人数が多かった割に、実際に事業全てを理解して

いる担当者はごく尐数であった。

事業者間で仕事の進め方、コミュニケーションスタイルの違いなどがあったため、

意思疎通面で問題が生じることがあった。

これらの課題指摘の大半は、短期間でサービス提供を行う必要があったことに加え、複

数の事業者が初めて協働することに起因したものであったと考えられることから、一部の

事業者からは、本格的にビジネスとして国際医療サービス支援センターが始動すれば、上

記のような役割分担・連携に関する課題は短期間で解決するはずとの肯定的な意見が聞か

れた。

(2) 個別機能に対する評価

外国人顧客来日前の活動(プロモーション~申込受付)

外国人顧客来日前の活動としては、以下のような活動を実施した。

プロモーション(パンフレットや Web サイト等のプロモーション用資材の作成、

中国・ロシアに出張しての直接プロモーション活動)

プロモーション用資材、医療機関情報等の翻訳

申込受付窓口業務

対医療機関向窓口業務

プロモーション用資材の作成に関しては、医療機関との連携及び事業者間の連携不足か

ら、円滑な業務遂行には至らなかったとの指摘が、複数の事業者からあった。

プロモーション用資材の作成に関連する具体的な意見は、以下の通りである。

国際医療サービス支援センター内部で、パンフレットや Web サイトに対するアウ

トプットイメージが固まりきらないままに作業を進めてしまったため、調整に苦

慮した。もう尐し時間に余裕を持って取り組むと良い。

時間的な制約から、各医療機関と国際医療サービス支援センターとの間でアウト

プットイメージの共有が十分でなかった。

国際医療サービス推進コンソーシアム事務局との役割分担・連携が不十分であっ

た。国際医療サービス推進コンソーシアム事務局に依頼すべき事項と各医療機関

に直接依頼すべき事項の判断に迷う場面が何度もあった。

プロモーション用資材および医療機関情報等の翻訳に関しても、プロモーション用資材

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の作成と同様、各医療機関との連携及び事業者間の連携不足を指摘する以下のような意見

が多く出された。

パンフレットや Web の多言語対応に際しては、ドクターによる専門用語等のチェ

ックがあったのがよかった。ただし、翻訳の厳密さを追求した結果、営業用ツー

ルとしての書き方には物足りない部分があったため、このあたりは今後改善して

いきたい要素である。

翻訳を行う際には、医療機関ともっと密に連携すれば、より低コストで効率的に

進めることができた。、(今回、翻訳を依頼されたペーパーの量は当初相当数に及

んだが、時間をかけて精査すれば、取捨選択することは可能だったと思う。)

中国・ロシア向けの直接プロモーション活動に関しては、実施方法に工夫が必要との意

見が多く出された。特に、日本の医療の強みに関する海外への情報発信や、現地医療機関

との連携による紹介ルートの開拓等、「日本ブランド」の確立に向けた広報を拡充すべきで

あるとの意見が多かった。

中国・ロシア向け直接プロモーション活動関連の具体的なコメントは以下の通りとなる。

ロシア人は日本の医療に対する認識が薄く、海外での医療というとシンガポール

や韓国をまず想起するケースが多い。また、ロシア人が旅行代理店に相談をする

のは、旅行の行き先が決まってからの旅券や航空券の手配の段階になってからで、

旅行の行き先は自分自身の判断や口コミを基に決めるケースが多い。よって、ま

ずは日本での医療を知ってもらうために、テレビなどのメディアを使ったプロモ

ーションを行うことが有効ではないか。

中国における口コミによる富裕層マーケティングは、集客において非常に有効で

あった。この種のマーケティングを通じて、日本での医療に対する良い評判を作

り上げていく必要があるだろう。

医療ツーリズム領域における日本の知名度は低いため、現地エージェントや専門

会社への働きかけが必要。

本格的な受入交渉は、日本の医療関係者等医療知識のある人物が現地に出向いて

行う必要がある。医療ツーリズム専門の事業者と交渉する際には、旅行会社にで

きることには限界がある。

中国の海外旅行マーケットは数年前に本格化したばかりであることから、エージ

ェントもまだ不慣れである場合があり、提携時には留意する必要がある。

申込受付窓口業務としては、海外の旅行代理店の活用及びコールセンターを設置したが、

コールセンターについては、実態として本事業期間中に問い合わせが発生しなかった。

申込受付窓口業務のうち、コールセンターへの問い合わせがなかったことに関しては、

以下のような原因があるのではないかとの指摘があった。

もう尐し顧客数が増えれば一定数の問い合わせが発生すると思われるが、今回の

ような小規模の集客では、コールセンターへの問い合わせが発生するレベルにま

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で達しなかったと考えられる。

富裕層への口コミマーケティングの活用など、一定の富裕層に対する広報が多か

ったことから、結果的に、一般の顧客から問い合わせが発生しなかったのではな

いか。

本事業では 20 人程度の富裕層に対して国際医療サービス支援センターのスタッフ

が手厚いサポートを行ったため、相当の用件が直接のコミュニケーションによっ

て解決したのではないか。

対医療機関窓口業務としては、主として外国人顧客のアサインに関する問い合わせと、

パンフレットや Web サイト等のプロモーション用資材の製作に関する問い合わせの 2 種類

が存在した。これらのサービス提供に関して、本事業ではアサイン担当、プロモーション

用資材作成担当等の複数の事業者・担当者から個別にコンタクトを取るという方法を採っ

たが、そのことが医療機関に不便を強いる結果となったとの意見が聞かれた。

具体的に出された意見は以下の通りである。

窓口が分散化していたにも関わらず、国際医療サービス支援センター内の担当者

間での情報共有が出来ておらず、複数の担当者・事業者から医療機関に似たよう

な問い合わせを何度もしてしまう結果となってしまった。

各医療機関にとって、誰が国際医療サービス支援センターの窓口なのかが見えづ

らい状態になってしまっていたかもしれない。

来日中(健診受診~旅行)

外国人顧客来日中の活動としては、以下のような活動を実施した。

通訳派遣

旅行中の緊急対応窓口としてのコールセンター業務

日本国内での旅行手配

通訳派遣に関しては、医療通訳としての質の担保が難しかったという反省と、今後の方

向性として、医療通訳のレベル認定の必要性が複数の事業者から指摘された。また、事業

化に際しては費用対効果を意識した医療通訳の活用が必要との指摘もあった。具体的に出

された意見は以下の通りである。

医療機関からは概ね満足との回答は得たものの、通訳者のレベルにバラツキがあ

った。今後は質の担保が必要だろう。

一口に医療通訳といっても、健診だけの場合、高度治療の場合など、診療内容に

よって必要とされる知識レベルには幅がある。医療通訳のレベル認定のようなも

のがあってもいいのかもしれない。

医療通訳については、今後国主導で基準を作るべきではないか。民間団体に任せ

ると利権が絡んで複数の資格が乱立してしまい、業界の発展につながらない。

役割が重複する場面が見られたことから、医療通訳と旅行ガイドとの役割分担は

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決めておくべきだった。

本事業では、ホテルから病院への送迎および診療機関内のアテンドまで、医療通

訳が張り付く形で対応したが、事業化するとなるとかなりの高コストとなる。

健診の場合、問診票を翻訳しておく、事前のオリエンテーションで健診の流れを

説明するなどといった工夫をすれば、コストは相当抑えられるのではないか。

健診・治療の内容によって、医療通訳が必須になるケースと中国語・ロシア語で

の会話が可能な旅行ガイドで事足りるケースとが分かれるのかもしれない。

旅行中の緊急対応窓口としてのコールセンター業務に関しては、本事業中には問い合わ

せが発生しなかった。しかしながら、複数の事業者から、今後の展開方針に関して以下の

ような意見が出された。

医療経験者ではないものの、医療に関する基本的な知識を教育したオペレーター

を多数配置していることから、問合せに対する初期対応は可能。

日本国内での旅行手配に関しては、旅行会社の通常業務の範囲内で対応できるものであ

ったことから、課題指摘はなかった。

2) 国際医療サービス推進コンソーシアムに対する評価

事務局機能のあり方

医療機関情報の収集・医療機関アサイン等の情報伝達・調整業務の実施に際して、国際

医療サービス支援センターと各医療機関との間に国際医療サービス推進コンソーシアム事

務局が介在したことに関しては、事業者によって賛否が分かれた。

顧客アサインや医療機関との調整業務を行ってもらうためにも、事務局は必要。

参加病院の選別や管理、医療機関アサインまでを国際医療サービス支援センター

が担うようになれば、今回のような事務局機能は必要ないのではないか。

国際医療サービス支援センターと各医療機関との間に事務局を介したことで、ス

ピードが求められる案件に関する回答が遅かったり、質問内容が正しく医療機関

に伝わらなかったりといったコミュニケーション上のトラブルが生じてしまった

面があった。効率的にコミュニケーションをとるには、国際医療サービス支援セ

ンターが直接各医療機関とやりとりをした方がいいように感じた。

今後の事業展開においては、国際医療サービス支援センターと国際医療サービス推進コ

ンソーシアム事務局がどのような役割分担をするのかを考えた上で、それぞれの機能定義

が必要となると考えられる。

医療機関の体制整備

医療機関の体制整備に関しては、各事業者からは様々な意見が出された。日本の医療は

医療ツーリズム市場で生き残れるだけのポテンシャルがあると評価する一方で、日本の医

療現場の現状を鑑みて、今後の事業展開に否定的な意見も出された。また、参加医療機関

の間で医療ツーリズム事業の進度に差があるとの意見も出された。具体的な意見は以下の

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通り。

日本的な健診は十分に商品になると思う。最新の機器を使っている点が売りにな

るだろう。

医療機関の経営陣は乗り気でも、現場は受入に否定的な場合があった。

本実証事業を通じて、医療機関の姿勢に温度差を感じたことから、今後は受入に

本当に積極的な病院を中心として事業を進めていくほうがいいのではないか。

また、現状では医療機関ごとに独自のフォーマットで運用している各種データの共通化

を進めるべきとの意見も、一部事業者から聞かれた。

メディカルデータの共通化は、進めていったほうがいいのではないか。外国人旅

行者は、日本の色々な地域を旅したいはず。旅先で健診を受けるためには、デー

タの継続性が担保されていることが重要。データの継続性が担保されていれば、

毎回違う場所への旅行+健診という組み合わせで、リピーターを獲得できるので

はないか。

医療機関から翻訳を依頼された情報の一部は、共通化が可能であるように思われ

た。個別に翻訳するのではなく、統一フォーマット化した方が効率的であるよう

に感じた。

3) 事業全般に関する意見

本事業では健診に注力して実証事業を展開したが、複数の事業者から、日本の強みを活

かし、既に医療ツーリズムを実施している国との差別化を図ることが必要ではないかとの

指摘があった。具体的には、以下のような意見が出された。

本事業ではとにかく実績作りに注力したが、日本が今後医療ツーリズムで成功す

るためには、①日本の医療の競争優位性は何か、②誰をターゲットにするか、を

明確にする必要がある。

日本に医療ツーリズムが根付くためには、何かしらの売りが必要。日本を選んで

もらえるようにするような強みを見つけることが必要だろう。

海外で既に行われている医療ツーリズムビジネスをそのまま日本に適用しようと

してもうまくいかないだろう。日本ならではのビジネスの形を考えていく必要が

ある。海外居住の日本人を対象にした現地での医療サービスや日本在留の外国人

(留学生や駐在員)向けの医療サービスも考えた方がいいだろう。

関係省庁や自治体等の事業とも関連性を持たせ、国として統一した取り組みにすべきと

の声が聞かれた。

また、参加意向を持っている医療機関を加えた事業拡大の必要性に言及する事業者も存

在した。各事業者に対して、本事業への参加の可否を問い合わせた医療機関も複数存在し

たようである。

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4) 今後の運営体制について

来日前(プロモーション~申込受付)

プロモーションに関しては、国内外の複数の旅行代理店を巻き込むような動きや、口コ

ミによるマーケティングができるチャネルの活用が必要との指摘があった。

旅行代理店の主たる役割は、海外でのプロモーション及び旅行手配部分となるだ

ろう。

旅行自体は、中国の代理店が売れるような形もあっていいのではないか。

国として日本の医療ツーリズムを売っていきたいのなら、海外プロモーションの

段階から、国家レベルで行うべきだろう。

健全な企業競争を促すには、複数の旅行代理店が国際医療サービス支援センター

に参加できるような枠組を考えてもいいのではないか。

現地での口コミによる集客にも力を入れたほうがいいのではないか。旅行代理店

が持つ既存チャネルだけで中国・ロシアの医療ツーリズムの需要を掘り起こすの

には限界がある。

対医療機関窓口や、医療機関アサイン機能に関しては、医療知識を持った団体・人材に

よる運営の必要性が指摘された。具体的な意見は以下の通り。

健診・医療契約に関わる部分の業務は、医療を理解している団体、例えば国際医

療サービス推進コンソーシアムの事務局組織等がとりまとめるべき。医療に関わ

るリスクがどこまであるかわからないため、医療に関する知見を持たない事業者

では、何かしら問題が発生した場合の責任を負いきれない。

病院アサインや参加医療機関の選別といった国際医療サービス支援センターの中

心機能は、医療のわかる組織が担うべきではないか。

参加医療機関を取りまとめるためには、日本の医療業界において強いプレゼンス

を持つ団体・個人等が旗振り役となって事業を推進していくべきだろう。政府で

あれば、厚生労働省や経済産業省が連携して旗振り役を務めるべき。

来日中(旅行~健診受診)

役割分担として、旅行代理店は国内旅行コンテンツの提供に徹するべきとの意見と、今

回国際医療サービス支援センターに参加した企業群の持つ強みを活かすには、国内でのコ

ンシェルジュ機能の充実に力を入れるべきとの指摘があった。

旅行代理店は集客や国内旅行コンテンツの提供に徹した方がいいのではないか。

来日後のコンシェルジュ機能として、旅行代理店以外の各種事業者が通訳・翻訳・

コールセンターなどの外国人顧客向けサービスを提供すればいいのではないか。

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5-2.医療機関ニーズ調査結果

医療機関ニーズ調査は、外国人顧客受入開始前に、受入準備状況や課題認識、今後の事

業展開等について直接確認するために、国際医療サービス推進コンソーシアムを構成する

全ての医療機関を対象に訪問インタビュー形式にて実施した。

調査内容

受入準備状況

外国人患者の受入実態

今後の事業展開

外国人患者受入に関わる課題認識

国際医療サービス支援センターへの期待

政策面での期待

1) 受入準備状況

本事業のために特別の受入体制を整備したという回答は無かったが、通常の受入体制で

も十分に対応できるとの認識を持つ医療機関が大半であった。ただし、今後需要が増加す

れば、職員の増員も検討するとの回答も、一部の医療機関から聞かれた。

外国語対応に関しては、大半の医療機関において英語に対する不安は無かった。しかし

ながら、中国語・ロシア語に関しては、医療機関内のスタッフだけでは対応できないとの

意見が大半であった。

一部の医療機関では、中国人・ロシア人の需要増加を見越して、本事業開始前から、中

国語・ロシア語対応が可能な医師・看護師・事務スタッフ等を既に採用するなど、多言語

化への対応を行っていた。

2) 外国人患者の受入実績

本事業に参加した医療機関においては、受入人数に差はあるものの、健診・治療両面で

外国人の通院・来院は常態化していた。医療機関によっては、年間 300 人以上の受入実績

となっていることから、「外国人患者の来院は特別なことではない」とのコメントも複数の

医療機関から聞かれた。

ただし、来院する外国人顧客は、主に旅行者および日本在住であり、医療ツーリズム目

的での来院はほとんど無いのが実態である。

現状では、外国人患者の受け入れに際しては、旅行会社が派遣する通訳を利用している

ケースも一部あったが、ボランティアの通訳に手伝ってもらうケースがほとんどであった。

医療機関によっては、在外公館、地方公共団体、ホテル、警察等と連携して、多言語対応

していた。

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3) 想定しているビジネスモデルおよび今後の事業展開

外国人向けのサービスメニューとしては、今回の実証事業は、実施期間が短く、結果と

して全ての対象者が健診希望だったが、患者が希望すればそれに応えるのが医療機関の役

目であるとの考えから、今後の治療を視野に入れた回答もあった。具体的なコメントは以

下の通り。

外国人受診者が自己負担で健診・治療を受ける場合、満足度の高い検査・治療を

求めることになる。日本の医療機関が、外国人受診者に対して、レベルが高く満

足度の高い医療を提供できる環境を整えることは、結果的に、日本人に対する満

足度向上にもつながると思う。

日本の健診は、予防医学という考え方に基づいて設計された独自性があるもので

あることから、十分に競争力を持ちうるのではないか。

先進的な医療機器を用いた画像診断は、セールスポイントになると思う。

短期的には健診を行う。受入がうまくいったら、治療も含めて実施する予定。

将来的には治療を行ないたい。健診だけを日本で行い、治療は他国で行なうので

は収益産業とはなりえない。本当の付加価値は治療であると考えている。今回の

事業で実施する健診は、将来、治療につなげるための良いきっかけとなるのでは

ないかと考えている。

当院では、病院への滞在は、2~3 日というのが現実的ではないかと考えており、

長期間の治療を要するような抗がん剤治療や放射線治療は、言葉やメンタルヘル

スケアの問題から外国人向けの提供は難しい。ポリープの切除や心臓カテーテル

等の数日で治療できるものは提供と考えている。

治療に関しては、日本の医療機関の強みを活かして、高い水準の施設、スキルを

持った医師・看護師等がいないとできないことに特化する必要があると考えてい

る。

一部の医療機関からは、外国人顧客の受入に伴う地域振興に期待している声も聞かれた。

具体的なコメントは以下の通り。

健診+観光旅行という形で、地元にお金を落としてもらうようなモデルを考えて

いる。

例えば、近隣にある有名な温泉旅館に泊まってもらって、日本の温泉を楽しんで

もらいながら、同時に健診も受けられるというようなパッケージを作れると外国

人の富裕層に売れるのではないか。

一部の医療機関では、外国人顧客の受入によって、保有する先端医療機器や健診施設の

稼働率アップを狙いたいとの発言もあった。

また、医療ツーリズムを推進する国が多数ある中で、日本の医療の価格競争力について

は様々な議論があった。

欧米と比較して低価格の治療を売りにするのではなく、高価格帯で勝負する必要

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がある。

今回は事業費によって通訳費用・翻訳費用が賄われるが、それを患者が自己負担

するだけでも日本人患者よりは高い価格水準となる。また、受入に伴う追加的対

応も価格に反映させる必要があるだろう。

今回の実証事業を通じて、外国人受入にどのような対応が必要となるのかを実際

に経験した上で、今後の適切な価格設定を考えていきたい。

4) 外国人患者受入に関わる課題認識

国際医療サービス支援センターがサポート予定の領域以外では、保険等のセーフティー

ネットに関する課題指摘と、健診受診後のアフターフォロー体制に関する課題が多くあが

った。

保険等のセーフティーネットの整備に関しては、医療機関ならびにそのスタッフ(医師・

技術士・看護師等)が困難に直面した際のサポートの充実の必要性を訴える声が多く効か

れた。経営層よりも現場において、リスク回避のためのセーフティーネットの必要性を指

摘する意見が多く出された。具体的なコメントは以下の通り。

外国人との間で問題が発生した場合にそのコスト負担や補償をできるセーフティ

ネット(契約書の雛形や保険等)については、是非検討してもらいたい。

海外の病院における、問題があった場合のリスクヘッジ方策の実態(保険の有無、

詳細業務フロー、等)についても可能な範囲で調査してもらいたい。

医療事故に対する扱いについては各病院の保険で賄うことになっているが、今回

の事業の中でバックアップ出来るよう検討してほしい。

保険を患者側に負担してもらえるスキームなら、国際医療サービス支援センター

がパックで提供するようなことを考えてほしい。

アフターフォローに関しては、健診後の対応への不安感、特に、異常所見があった場合

の対応方法に関する不安が多く聞かれた。具体的なコメントは以下の通り。

異常所見が発見された場合、必ず治療までサポートしなければならないのか。

もし治療までサポートする場合、旅行日程等の関係で長期滞在が難しい場合の対

応はどうするのか。

帰国後、現地のかかりつけの病院への情報提供をどうするのか。

帰国後、患者から問合せがあった場合、どこが対応するのかを決めておいて欲し

い。

治療までできる体制は院内にあるが、治療までの誘導は難しいのではないか。ま

た、診断後の母国への紹介体制ができていないため、受入には不安がある。

5) 国際医療サービス支援センターへの期待

プロモーションを一括して実施してくれることへの期待感は大きかった。具体的なコメ

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27

ントは以下の通り。

病院単体で海外に告知をするのには限界がある。

旅行代理店等アレンジ事業者の海外拠点を活用できるのは強み。

医療通訳に関しては、国際医療サービス支援センターが想定していた健診実施中限定の

サービスよりも充実したサービスの提供を要望する意見が寄せられた。具体的なコメント

は以下の通り。

通訳には、宿泊地・最寄り駅から病院までの送迎まで付き添ってもらいたい。

通訳・翻訳についても長期間かつ臨機応変に対応してもらいたい。

医療通訳に関しては、各医療機関との結びつきを強めた形でのサービス提供を期待する

声も複数聞かれた。具体的なコメントは以下の通り。

健診や治療のときだけ通訳してもらっても、正確な通訳は難しいのではないか。

通訳予定者には事前に健診メニューを経験してもらうなど、事前情報のインプッ

トをしておけば安心できる。

事業の継続性を考えれば、東京からの派遣のみならず、地元の通訳・翻訳家(旅

行代理店等の地域支店が契約している通訳等)との連携を考えていく必要がある

のではないか。

翻訳に関しても、医療通訳と同様、その質を担保するための仕組作りの重要性を指摘す

るコメントが多く寄せられた。具体的なコメントは以下の通り。

特に中国語・ロシア語の翻訳については、その翻訳が正確なのかどうか判断でき

ない。翻訳の品質を担保してもらえる仕組みがあれば有り難い。

翻訳された資料は、必要に応じて現地人スタッフがチェックを行ったほうがいい

のではないか。

理想的には、患者への説明用資料が全て多言語化されていることが望ましい。

また、料金未収リスクへの不安感が強かったためか、回収代行へのニーズは強かった。

一部の医療機関からは、実証事業終了後のコスト負担を懸念する声も挙がった。

今回は事業費によって、外国人患者は通訳・翻訳費を負担すること無く医療サー

ビスを利用することができたが、国際医療サービス支援センターの提供するサー

ビスを全て自費で利用すると、相当高コストとなってしまい、諸外国に比べて価

格競争力の面で弱くなる恐れがあるのではないか。ニーズにあわせて柔軟に利用

するサービスを選択できる形にすることが望ましい。

6) 政策面での期待

医療ツーリズムを定着させるために、国を挙げての政策的な取組の必要性を訴える意見

が複数の医療機関から聞かれた。具体的なコメントは以下のとおり。

これまでは個別病院の小さな事業でしかなかったが、国レベルで支援センター機

能も備えて推進することに期待している。

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国として、サービス業としての医療の発展の方向性を考えていく必要がある。医

療ツーリズム事業もその一つだろう。

今回は全国的な取り組みとなっているが、今後このような取り組みが、日本の地

域毎の取り組みにも拡がっていくことを期待。

国は「医療は収益産業」であると考えるべきであり、今後も国として事業を行な

っていく姿勢であるならば、我々はついていく気持ちである。

具体的施策では、医療ビザへのニーズは多くの医療機関で聞かれた。具体的には、以下

のような意見が出された。

今後、本格的に外国人向けの治療に進出するのであれば、医療ビザは必須になっ

てくる。

治療目的のビザ発給は、いずれ必要になるだろう。現行の商用目的や観光目的で

は、実質的には医療機関自らビザ申請を行うことができない。

(健診の主たる受診者である)40~50 代だと、2~3 割の人から疾患等が見つかる

ことがあるので、短期旅行ビザでは手術日の調整等が難しくなる。そのため、治

療に対応したビザの整備が必要。

また、外国人スタッフの受け入れに関する意見も、尐数ながら存在した。具体的には以

下のような意見が寄せられた。

日本に研修生を受け入れ、研修生の母国の顧客を医療ツーリズムで受け入れると

いう体制を作れば、どちらの国も相互に利益を得られるし、受け入れもスムーズ

になるのではないか。

本当に外国人患者受入を推進していくのであれば、EPA でフィリピン、インドネ

シアからの看護師受け入れを行っており、このような人材を活用することも一案

ではないか。

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第6章 海外ニーズ調査結果

シンガポール・タイ・中国・ロシアを下記日程にて直接訪問し、旅行代理店や医療機関、

その他関係者に対してヒアリング調査を実施した。タイ・シンガポール両国では、医療ツ

ーリズムに注力している医療機関での治療経験のある人物へのヒアリング調査もあわせて

実施した。

実施期間

シンガポール調査:平成 22 年 2 月 28 日(日)~3 月 2 日(火)

タイ調査:平成 22 年:平成 22 年 3 月 3 日(水)~6 日(土)

中国調査:平成 22 年 2 月 1 日(月)~6 日(土)

ロシア調査:平成 22 年 2 月 14 日(日)~18 日(木)

6-1.既存の医療ツーリズムの取組事例(シンガポール)

医療ツーリズムを本格的に実施するシンガポールの実績や現状を把握するとともに、今

後整備が進むと想定される日本、さらには日本の医療機関との連携・協力がありうるか等

について把握することを目的として、旅行代理店や医療機関、過去に医療ツーリズムを経

験したことのある患者等に対して現地調査を実施した。

1) シンガポールにおける医療制度

(1) シンガポール社会保障制度(医療保険)

シンガポールでは日本のような国民皆保険制度を導入しておらず、医療費は原則的に個

人負担である。特徴は政府自らが「福祉国家にはならない」と宣言していることであり、

その結果として市場原理に基づく効率的な医療システムを実現させているところにあると

言える。一方で、こうした背景によって所得や居住地域の格差が医療へのアクセスにも大

きな影響を及ぼしている。

①医療制度の変遷

シンガポールには元々英国型の医療システム、すなわち「ゆりかごから墓場まで」とい

う税金を用いた国民向け医療制度を敷いていたが、1980 年代に、税金に頼る制度設計の限

界、労働者意欲の低下(国民による国家への依存性、期待値の高まり)を危惧し、競争的

医療サービスの実現を目指した。政府のスタンスは、最低限の医療サービスは補助金を用

いることで低所得者に提供し、高品質なサービスを求める人は相応の対価を払うことで受

けられるようにする、というものであり、平等であることを志向するものではない。また

シンガポールの伝統的価値観である、「自己責任」「家族の助け合い」を背景に、個々人が

自己の健康維持に配慮するようになることで予防医療を浸透させるという狙いもあった。

1983 年にナショナル・ヘルス・プランが発表されたが、その中で、中央積立基金(Central

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Provident Fund:CPF)を創設し、その口座の 1 つにメディセーブを導入した。なお、メデ

ィセーブはこれまで Tax based financing system だったものを転換したものである。

翌年には、これまで公立病院に対して行ってきた政府出資を持ち株会社に振り向けるこ

とで、公立病院の民営化(株式会社化)を行った。これにより民間病院も巻き込んだ競争

環境ができあがった。株式会社として自立的運営を求められる公立病院と既存の民間病院

の双方を振興するためには、人口の尐ないシンガポールの内需(国内患者)だけでは賄い

きれないため、このころから積極的に外需(海外からの患者)に目を向けるようになって

きた。

1999 年には公立病院をナショナル・ヘルスケア・グループ(NHG)とシングヘルス・グ

ループ(SHG)の 2 グループに再編。2007 年には、重症度によって総合病院と地区病院に

患者を振り分けるレファーラルシステムを導入した。

なお、レファーラルシステムとは、地域の公立ポリクリニックで一次医療を行い、患者

の重症度によってさらに高度な診療が必要な場合は、地域の中核病院や総合病院、専門医

療機関等に紹介され、二次以上の医療を受けるという仕組みである。

図表 6-1-1 シンガポールにおける医療制度の変遷

時期 概要

1983 年

ナショナル・ヘルス・プランを発表

・CPF により個人が無理なく貯蓄し、自己の医療費に充当することができ

る仕組みを創設。

1984 年

公立病院の民営化

・政府出資による持ち株会社の設立、およびその傘下に株式会社化した公

立病院を配置。

1999 年

公立病院グループの再編

・は公立病院をナショナル・ヘルスケア・グループ(NHG)とシングヘル

ス・グループ(SHG)の 2 グループに再編。

2008 年

レファーラルシステムの導入

・重症度によって総合病院と地区病院に患者を振り分ける仕組みを導入。

・地区病院はシンガポールを東西南北に分け、各地に 1 病院を設置。

(出所)各種資料より野村総合研究所作成

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②中央積立基金(CPF)

CPF は 1955 年に年金に相当する仕組みとして発足した。雇用主および被雇用者が毎月、

規定の拠出率に従って、各自の資金を積み立てる強制貯蓄制度である。相互扶助的な機能

はなく、加入者が自己の積立金額を使い切ってしまった場合は、それ以上の給付は受けら

れない。すなわち、自分が積み立てた分だけ自分が使えるというシステムである。ただし、

これに対して、2009 年から、55 歳になった時点で CPF の一部を年金保険の支払に充当し、

生涯に渡って一定の金額が受け取れる CPF Life という年金保険が導入された。

シンガポール政府は、自国民に対して基金の効率的な運用を期待している。病院に対す

る支払明細には”MEDISAVE IS YOURS TO LAST YOUR LIFETIME USE IT WISELY”とい

うメッセージスタンプが押されている。

図表 6-1-2 中央積立基金の口座

口座の種類 用途

普通口座 住宅、保険、投資、教育

医療口座(メディセーブ) 医療費、医療保険

特別口座 年金(退職口座に振り替え可能)

退職口座 年金給付のために 55 歳到達時に新設される

(出所)各種資料より野村総合研究所作成

図表 6-1-3 年代別 CPF積立率

年齢層 雇用主

拠出率

被雇用者

拠出率

口座への振分比率

普通口座 医療口座 特別口座

35 歳未満 14.5% 20.0% 0.6667 0.1884 0.1449

35 歳以上 45 歳未満 14.5% 20.0% 0.6088 0.2173 0.1739

45 歳以上 50 歳未満 14.5% 20.0% 0.5509 0.2463 0.2028

50 歳以上 55 歳未満 10.5% 18.0% 0.4562 0.2982 0.2456

55 歳以上 60 歳未満 7.5% 12.5% 0.575 0.425 0

60 歳以上 65 歳未満 5.0% 7.5% 0.28 0.72 0

65 歳以上 5.0% 5.0% 0.1 0.9 0

(出所)各種資料より野村総合研究所作成

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③CPFに基づく医療保険

CPF の医療口座への積立金を使って加入できる保険としては、メディシールド

(MediShield)、メディシールド代替プラン(Private Medical Insurance Scheme:PMIS)、

エルダーシールド(Elder Shield)がある。

図表 6-1-4 シンガポールにおける健康診断の内容

保険の種類 概要

メディシールド

メディシールド代替プラン

・1990 年に導入された医療保険であり、メディセーブの積立

ではカバーできない長期の入院や重大な病気の治療費等を

給付対象としている。

・メディセーブの口座保有者は、自発的に辞退しない限り自動

的に加入することになっている。

・メディシールドは CPF 局が運営しているが、CPF 局が認可

する民間保険会社による運営も認められている(代替プラ

ン)

・代替プランを出しているのは AIA、Aviva、Great Eastern、

NTUC Income、Prudential の 5 社である。

エルダーシールド

・2002 年に導入された、高齢期の障害に備えるための保険。

・メディセーブを持つ 40 歳以上の国民、および永住権保有者

が対象。

・自発的に辞退しない限り、40 歳になると自動的に加入し、

65 歳で保険金支払いが満了する。

(出所)各種資料より野村総合研究所作成

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(2) シンガポールにおける病院の概要

①病院の種類

シンガポールでは、病院は公立も私立も株式会社である。公立病院では政府が株主と

なり、保健省を通した政府指導のもとで非営利企業として医療を提供している。

公立病院は大きく、大型総合病院、ポリクリニック、その他特殊専門医療機関や研究

所に分けられる。ポリクリニックは初期診察、治療を行う機関であり、複数の一般医(GP:

General Practitioner)が勤務している。主に重症でない疾病の治療や重症患者の専門医へ

の紹介を行っている。

私立病院では、パークウェイ・ホールディングス、ラッフルズ・メディカル・グルー

プ、パシフィック・ホールディングス等が、それぞれに病院やクリニックを運営してい

るほか、個別に開設されている病院も多い。

かつて、専門医療を提供していたのは政府系病院と一部の大規模私立病院だけであっ

たが、80 年代に行われた公立病院民営化により競争環境に晒された結果、現在では多く

の私立病院においても専門医療サービスが提供されるようになった。

図表 6-1-5 シンガポールのレファーラルシステムと所属病院グループ

(出所)シンガポール保健省持株会社ホームページ

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②医療機関

国内の医療機関では、公立が 8 病院及び 5 専門医療機関あり、多数を占めている。13 の

私立病院は 25~500 床程度の小規模病院が多い。

図表 6-1-6 シンガポールの医療機関

NHG SHG 私立病院

【総合病院】

・Alexandra Hospital(AH)

・ National University Hospital(NUH)

・ Tan Tock Seng Hospital(TTSH)

・Woodbridge Hospital(WH)

・Johns Hopkins Singapore International Medical Center(JHSIMC)

【専門医療機関】

・National Skin Centre(NSC)

【ポリクリニック等】

・NHG Polyclinics(NHGP)

【総合病院】

・ Singapore General Hospital

・Changi General Hospital

・ KK Women’s and Children’s

【専門医療機関】

・National Cancer Centre

・National Dental Centre

・National Heart Centre

・ Naional Neuroscience Institute

・Singapore National Eye Centre

【ポリクリニック等】

・SingHealth Polyclinics

【病院】 Parkway Holdings -Mount Elizabeth Hospital -Gleneagles Hospital -East Shore Hospital Raffles Hospital Group -Raffles Hospital -Raffles Japanese Clinic -Raffles Clinic Pacific Healthcare Holdings -MD Specialist Healthcare -Specialist Surgical & Laser

Centre -Adam Road Hospital, etc. Thomson Medical Group -Thomson Medical Centre -West Point Family Hospital,

etc. Moung Alvenia -Amount Alvenia Hospital,

etc.

(出所)各種資料より野村総合研究所作成

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(3) シンガポールにおける医療に対する評価

①シンガポールでの医療の実態

私立病院では基本的にオープンシステムをとっている。オープンシステムとは、病院は

資本家が建設・経営し、医師に場所や設備を提供する一方、医師は病院にテナント料を支

払い、個人事業主として病院内で独立したクリニックを運営する。病院という場所や設備

等を用いて医療サービス提供するという仕組み1である。

オープンシステムを採用していることにより、医療事故が起きた場合、病院と医師は別

の訴訟主体として扱われることが多い。

患者は、医師と個別に取り決めた治療費と、医師が病院側に立替払いをした費用の合計

額を医師に支払うが、治療内容(施術のメニューや投薬の種類等)や治療費は各医師が銘々

に設定できる。これらの治療に関するコストパフォーマンス情報は一般に公開されていな

い。

②シンガポールの病院での健診・治療の評価

全ての病院が民営化したものの、国民を主対象とした公立病院と富裕層患者の獲得を目

指す私立病院とでは、医療のレベルが大きく異なる。

しかし、シンガポールは全般的に医療技術が高いと考えられている。その背景として、

まずは内需の小ささの影響が挙げられる。内需が小さいため、医師を志す者にかかわらず

ほとんどの国民は海外で職場を見つけるということが念頭にある。医療の場合は、欧米で

最先端の医療を学びつつ、そこで働くことを志向することになるが、一部の医師はシンガ

ポールに帰国して医師となる。こうした流れが海外の先端医療技術の導入を促し、国内の

医療技術の向上に影響している。もう 1 つの背景は、特に私立病院における資金力である。

毎年の営業利益率が 15~20%という病院もあるが、そうした高収益を背景に、技術の高い

医師や最先端の医療機器を積極的に導入することで、競争優位性を保とうとする思想があ

る。

風邪等の重篤でない病気の場合、公立のポリクリニックか私立の 24 時間対応病院のどち

らかを選択することになる。選択基準は価格とサービスのバランスである。ポリクリニッ

クの場合は、約 10S$(約 650 円)と安いがかなりの時間待たされる。私立病院は待たされ

ないが 20S$(1,300 円)かかる。

③日本の医療に対する評価

日本の医療については、そもそもの実態が知られていないことから、漠然とレベルが高

くないと思われている。一部で医療機器などの、ものづくり技術力の高さは認知されてい

るが、医療サービスについては評価されていない。

1日本の医療機関で用いられているオープンシステムは「開放型病床」と呼ばれており、諸外国において用

いられる「オープンシステム」とは意味が異なる点に留意する必要がある。

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先述のとおり、シンガポールでは医療は国民自身による自助努力によるものであり、国

が整備するものではないと考えられているため、日本のような国が整備する医療システム

というものに対する理解も低いと考えられる。

2) シンガポールにおける医療ツーリズムの実態

(1) 医療ツーリズムの実施状況

① 政府方針とその効果

2003 年に政府が「Singapore Medicine 構想」を発表し、その中で提供される医療サー

ビスを PR するための予算として、毎年 200 万 S$が確保されている。また同構想では、

2002 年時点で年間 21 万人だった医療ツーリズム市場を、2012 年までに年間 100 万人誘

致するという目標が立てられている。

実態としては、2008 年時点におけるメディカルツーリスト(シンガポール政府はメデ

ィカルトラベラーと呼称)は 64.6 万人であり、全人口の約 13%に相当する人数が来訪し

ていることになる。またその内訳は、患者 37 万人、患者の随行者 27.5 万人2となってい

る。

シンガポールにおける医療ツーリズムは、国による外需取り込みによる医療技術の維

持、競争的環境による医療の質の向上を狙ったものであり、病院経営の一環として営ま

れてきた。こうした市場拡大の動きを支えているのは、各病院の経営努力によるところ

が大きく、政府は最低限の関与しかしていない。

図表 6-1-7 シンガポールにおけるメディカルツーリスト数の推移

100.0

64.6

57.155.5

37.432.0

0.0

20.0

40.0

60.0

80.0

100.0

120.0

2004 2005 2006 2007 2008 2012 年

メデ

ィカ

ルツ

ーリ

スト

(万

人)

(出所)シンガポール保健省提供資料より野村総合研究所作成

2 合計の端数が合わないのは元データで四捨五入されているため。

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② 医療ツーリズムのスキーム

シンガポールにおける医療ツーリズムについて、海外からシンガポールへ移動する際

のスキームと、外国人患者が病院を訪れて診療を受ける際のスキームを示す。なお、こ

こで示すスキームはあくまでも一例である。患者、医師、医療機関等が全く同じであっ

ても、状況によってはこのスキームに沿わないケースも数多くあることに留意されたい。

A.移動時のスキーム

移動の方法は患者の症状や状態によって異なる。健診やがん、慢性疾患等の治療等、

緊急性が低い場合は、独力での移動が主となる。一方、急性疾患や自力での移動が困難

な症状の場合は、搬送会社のサービスを利用する。以下、救急搬送を伴うケースについ

て説明する。

・A 国の患者がシンガポールの医療機関に行くことを決めている場合、患者やその家

族もしくは A 国での主治医等が、シンガポールの医療機関に対して事前連絡を行う。

これに対してシンガポールの医療機関では、患者の症状や加入している保険内容等

の確認を行う。(図の①)

・シンガポールの医療機関から保険会社に対して、移動や保険適用の範囲等について

の確認連絡が行われる。この部分については、医療機関や保険会社によって対応は

大きく異なる。(図の②)

・救急搬送を要する場合は、保険会社から提携している搬送事業者に対して手配指示

が入る。(図の③)

・搬送事業者は、医療機関や航空会社等との提携ネットワークを活用し、移動手段の

手配、旅程の設定、同行者の手配等を行う。同行者については、国内の提携医療機

関から母国の医師や看護師が派遣される。(図の④~⑥)

・移動に際しては状況に応じて、プライベートジェットや旅客機、チャーター機等が

使い分けられる。また現地では、救急車両やドクターヘリを用いた搬送を行う。(図

の⑦)

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図表 6-1-8 シンガポールにおける医療ツーリズムのスキーム(移動時)

A国の患者 シンガポールの医療機関

自力で移動(健診・急を要さない治療)

⑦救急搬送

保険会社搬送事業者

③ツアーの手配指示

②確認連絡

A国の提携医療機関

④同行する医師・看護師の手配

⑥同行

シンガポール

④救急車手配

④航空機手配

提携航空会社提携搬送会社

⑤医師・看護師の確保

①受診希望の連絡・加入している保険内容の確認

A国の医師

(出所)ヒアリング調査より野村総合研究所作成

B.診療時のスキーム

・A 国の患者は A 国患者窓口を訪れる。初診の場合は、病院が用意した同意書にサイ

ンし、診察券を発行してもらう。(図の①)

・窓口では A 国の言語に対応可能な医師によるスクリーニング(検温や検尿、症状に

関する問診等)を受ける。その結果に応じて専門科医が紹介される。A 国の言語に

対応できる医師がいない場合には、診察時から医療通訳が付き添う。(図の②、③)

・シンガポールの医療ツーリズム対応病院ではオープンシステムが採られているため、

医療機関は専門科医に対して施設や設備を貸し出し、専門科医はそれらを借りて診

療行為を行う。医療機関は裕福な患者を数多く抱えていて、検査や手術を頻繁に行

ってくれるような有能・有名な医師に入居してもらいたいため、最新設備への投資

に熱心である。(図の④)

・専門科医は自らのクリニックを開設し、開業医として診療行為を行う。専門科医は

多言語対応していないことも多く、診療の際は医療通訳が付き添う。(図の⑤)

・診療費は、患者が専門科医に直接支払う。診療費や支払い方法は、全て医師が設定

し、医療機関は介入しない。(図の⑥)

・病院使用料は、患者が医療機関に対して支払い、医療機関からは明細書が発行され

る。(図の⑦、⑧)なお、病院使用料の内訳は以下のとおりである。

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【病院使用料の内訳例】

-専門科医が診療時に利用した病院施設や設備の費用

-診療に関与した麻酔医、放射線技師、看護師、医療通訳等の人件費(いずれも医

療機関と雇用関係にある職員)

-入院費

-その他雑費(患者が利用した施設・設備費、食費等)

・患者は明細書を元に、契約加入している保険会社に対して保険金支払請求を提出し、

保険会社から保険金の支払いを受ける。(図の⑨、⑩)

図表 6-1-9 シンガポールにおける医療ツーリズムのスキーム(診療時)

シンガポールの医療機関

A国の患者保険会社

シンガポールの専門科医

医療通訳

③専門科医の紹介

①訪問・同意書取り交わし

④施設・設備貸し

⑥診療費

⑤治療

⑦病院使用料(施設設備費、通訳費含むスタッフ費等)

(②の通訳)

⑧明細書

⑨保険金支払請求

⑩保険金支払

A国患者窓口

事務スタッフ

②スクリーニングA国対応の医師

(⑤の通訳)

(出所)ヒアリング調査より野村総合研究所作成

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(2) 医療ツーリズムの実施事例

① プロモーションの実施内容

保健省によると、医療サービスを受ける目的でシンガポールを来訪する外国人旅行者

は年間 30~40 万人で推移してきたが、近年は中東やアフリカ地域からの来訪者が増加傾

向にある。周辺国からの来訪は常に一定数あるが、こうした特定の地域からの来訪者数

増加の背景には、病院や政府による地道なプロモーション活動がある。

私立病院には来訪する患者の母国に拠点を置いている。これらの拠点はあくまでも営

業拠点であり、診療サービスを提供する拠点ではない。また、政府もホームページや冊

子でシンガポールの医療や病院、外国人受け入れ実態等を紹介している。こうした営業

活動では、MOH(保健省)、EDB(経済開発局)、STB(観光局)が一枚岩で連携してい

る。

こうしたプロモーションにおいては、「シンガポールの医療を知ってもらうこと」に主

眼を置いている。

② 多言語化対応の状況

最初に症状をスクリーニングする際、外国人は各国の言語等に対応した窓口に向かう

ことになる。ただし、窓口はその言語を使う外国人患者数が多い場合に設置されるため、

尐数派の場合は英語による対応となる。実際、マウント・エリザベス病院では、数年前

までは日本人窓口が設けられていたが、現在は廃止されている。

外国人窓口で検温等を受けた後、専門診療が必要となる場合は、専門医を紹介される

が、基本的に専門医との会話は全て英語である。グレンイーグルス病院の日本メディカ

ルセンターでは、医師も看護師も日本語対応できるが、こうした環境は特別な存在であ

る。

看護師には、フィリピン人やミャンマー人3が多いが、いずれも母国における高学歴者

であり、英語対応等は全く問題ない。

③ 多文化対応の状況

シンガポールでは、公用語が英語、標準中国語(北京語)、マレー語、タミル語である

ように、シンガポールの文化自体が多文化で構成されている。こうした背景から、これ

までは改めて多文化対応する必要がなかった。

言語的、文化的な敷居の低さから、東マレーシア、スリランカ、インドネシアなどの

周辺国だけでなく中国、中東といったさらなる周辺国からも多くの外国人患者が訪れる

環境にある。なお、在シンガポール邦人は 2.5 万人であり全人口の 0.5%でしかない。

3 ミャンマーとは政府間協定があり、毎年 2 名の看護師が送られてくることになっている。

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④ 提供サービスの水準

多くの私立病院では、病院内に外国人患者向けのサービスセンターを設けている。そ

こでは、来院前の移動手段やホテル等のアレンジ、観光プランやお土産の設計も行う。

病院では、付帯サービスも収益事業と位置づけており、そのためのマーケティング、調

達機能を備えている。

また、宿泊等については、周辺のホテル事業者と提携していることもある。例えば、

マウント・エリザベス病院の場合、近隣に立地するエリザベスホテルやヨークホテルと

提携している。また、利用する際の価格設定には、コーポレートレートが適用されるな

どの魅力化が図られている。

入院時のサービスも手厚い。例えば、食事のメニューは都度注文できるようになって

おり、和洋中などかなり細かく選ぶことができる。文化的対応という観点からも、ハラ

ル食やベジタリアン食、フルーテリアン食等への対応もある。

診療サービスや支払い方法とのパッケージ化による魅力化も模索されている。例えば、

グレンイーグルス病院では、American Express カードで支払うと一定の割合でディスカ

ウントされる、などである。

⑤ 医療のレベル

医療レベルは、医師の手技や医療機器に依存するところが大きいが、医師のレベルに

ついては基本的に高い。シンガポールは内需が小さいため、職を海外に求めるという国

民性がある。医師についても同様であり、大学で医学を学んだ医師の卵の多くは欧米に

渡り、最先端の医療現場で従事する経験を持つ。

町医者(GP)も海外で医師免許を取得する人が多いが、その後の研修の質が悪いため、

総じて質は悪い。

⑥ アフターフォロー体制

アフターフォローは病院対患者でのことになるが、外国人患者については帰国後の再

発対応が中心となるため、病院間連携による体制構築が必要となる。ただし、こうした

病院間連携は、シンガポールの場合、民間企業同士の提携と同様であり、病院によって

全く異なる。

患者情報の取扱いについては、シンガポールはタイや日本とは異なる点がある。シン

ガポールでは、健診等で撮ったレントゲン写真は患者が持って帰り、自分で保管しなく

てはならない。また、病院で手渡される明細には処方内容等が事細かに記載されるなど、

情報開示とその自己管理が徹底している。病院間連携においては、こうした国による医

療サービスの常識についても把握しておく必要がある。

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⑦ 健診および主要な治療項目の価格帯

他の先進国と同様、ほぼ全ての診療メニューがラインナップされている。ただし、外

国人患者の呼び込みに効果が高い診療メニューには、高い医療技術を一定以上の価格で

提供するというものが多く、低価格による魅力化は志向されていない。

政府系病院であっても診療費は一律ではなく、病院間で幅がある。また、政府系病院

であってもレファーラルシステムに乗らず(ポリクリニックを介さず)に補助を受けな

い場合、私立病院よりも高い費用を請求されることもある。

日本人駐在員のほとんどは SGH に行っている。受ける診療メニューにもよるが、相場

感としては私立病院の 3 割くらいだと言われている。一方、私立病院は保険加入してい

ないと費用が払えないくらい高額である。内科の診療費は日本とあまり変わらないが、

外科は桁違いに高いというのが現地在住日本人の感覚である。

診療価格は医師が自由に設定できるため、医師によって全く異なる。また、そうした

情報を取りまとめている機関等はなく、患者は医師の腕と費用に関する口コミ情報を元

に医師を訪ねているのが現状である。

図表 6-1-10 シンガポールの私立病院における診療価格

検査 金額/回

消化器系検査・手技 上部内視鏡検査 約 500S$

下部内視鏡検査 約 1,200S$

ポリペクトミー 約 300S$

腫瘍診療 PET (全身) 約 3,000S$

その他 インプラント 部位による

人工関節置換術 部位による

シミ・アザなどの美容系 部位や大きさによる

(出所)ヒアリング調査より

⑧ 医療ツーリズム推進にあたってのリスクや問題点

外国人患者の呼び込みにおいて、言語対応、ビザ発給についての問題は発生していな

い。また、診療費等の未払い事象は、起こってはいるものの頻度や被害の影響の点で、

他のビジネスと同様だと認識されており、特段の対策を講じるといった対応は行われて

いない。

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(3) シンガポールの医療関係者から見た日本の医療ツーリズムの課題

① プロモーション方法

日本の医療の質の高さ、サービスのきめ細やかさなどはほとんど認知されていない。

これに対して、シンガポールでは、各病院が自社のビジネスとして広告宣伝を展開して

いるだけでなく、関連する政府機関が一体となって「シンガポールの医療」を広報して

いる。

(以下インタビューより抜粋)

・各病院は来訪患者が多い国に営業窓口を置いており、この点は日本の病院にはあま

り見られない。(医療機関の医師)

・シンガポールでは政府がホームページ等で病院を紹介しており、中東や中国からの

注目度も高い。こうした営業活動においては、MOH(保健省)、EDB(経済開発局)、

STB(観光局)が一枚岩で連携している。(医療機関の医師)

・日本は、まずは「日本」の存在を認めてもらうことから始める必要がある。(医療機

関の医師)

② 通訳・翻訳

言語の問題は大きいが、その対策としては、医療通訳を置くよりも医師や看護師自身

が英語対応できるようにすることがより重要である。看護師については、既に言語対応

可能なスキルを持つ他国人材を有効に活用することが実現への早道である。

(以下インタビューより抜粋)

・医師のレベルも言語対応レベルも低い。(医療ツーリズム経験者)

・医療通訳を置くよりも、医師や看護師自身が英語対応できないと話にならない。(医

療ツーリズム経験者)

・看護師については、英語を使いこなしているフィリピン人やインドネシア人でカバ

ーすべきである。(医療ツーリズム経験者)

③ 異文化対応

異文化対応は、言語対応と同様に超えるべき大きな壁であるという懸念が指摘された。

(以下インタビューより抜粋)

・医療文化は地域で異なる。単に語学的配慮を行うだけでは足りず、その国の医療文

化を理解しなければ、その医療文化で育った患者には対応できないのではないか。

(医療機関の医師)

④ 健診・治療メニューの作り方

日本の強みは、PET や MRI、ガンマナイフといった設備投資額が大きく、技術的希尐

性が高いものにある。日本では健診も治療もウリとしたい意向が強いが、特定の国や地

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域に対しては、治療に特化するといった使い分けも検討することが有効である。

(以下インタビューより抜粋)

・日本の強みは、医療機器が最先端であることである。(医療ツーリズム経験者)

・日本の強みは設備投資にお金がかかるもの、設備の希尐性が高いものである。日本

では内需が大きいため稼働率が高く、償却も早い。結果として利用料を下げること

ができる。こうした労働集約型のメニューは強いのではないか。(医療機関の医師)

・インドネシア人は、検査はマレーシア、治療はシンガポールと使い分けている。日

本でもそのような住み分けを考えてみてはどうか。(医療機関の医師)

⑤ 政策面で取り組むべきこと

政策的には、呼び込みたい国や地域の患者にとっての融通をいかに確保するかが求め

られている。

(以下インタビューより抜粋)

・インドネシア人が日本に行くにはビザが必要になるため、たとえシンガポールより

も多尐医療費が安くても日本には行かないと思われる。(医療機関の医師)

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6-2.既存の医療ツーリズムの取組事例(タイ)

既に医療ツーリズムを本格的に実施するタイの実績や現状を把握するとともに、今後整備が

進むと想定される日本、さらには日本の医療機関との連携・協力がありうるか等について把握

することを目的として、旅行代理店や医療機関、過去に医療ツーリズムを経験したことのある

患者等に対して現地調査を実施した。

1) タイにおける医療制度

(1)タイ社会保障制度(医療保険)

タイ政府は、国民皆保険制度をもって全ての国民に医療を提供することを基本的な方針とし

ている。「国民医療保障制度」「公務員医療給付制度」「社会保険制度」の 3 つの医療保険制度に

より 90%以上の国民の医療をカバーしているが、実態としては所得や居住地域により医療への

アクセス、サービスのあり方に大きな格差がある。

図表 6-2-1 タイにおける社会保障制度

公務員医療保障制度 被用者医療保障制度 国民医療保障制度

所管省庁 財務省 労働省社会保障局 国民医療保障局

制度設立 1980 年 1990 年 2002 年

被保険者 公務員及びその家族 被用者本人 左の制度以外の者

加入者数 推定 550 万人

(公務員家族含む)

690 万人

(2002 年 12 月)

約 5,110 万人

(2002 年 7 月)

制度設計 公務員の付加給付 社会保険方式

(事業主・被用者 5%等)

税方式

(自己負担なし)

(出所)JICA タイ国別援助研究会報告書

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(2) タイにおける病院の概要

タイでは全病床のうち 7 割が公立病院、3 割が株式会社形態の民間私立病院が占める。シン

ガポールと同様、民間病院と公立病院は、医療の質・快適性等の点で差は大きい。

タイの医療提供体制でも、最初に地区病院で診察を受け、重症であれば総合病院に送るとい

うレファーラルシステムが徹底されている。郡レベルのコミュニティ病院(Community

Hospitals)で一次医療機関を提供し、重症と判断されると総合病院(General Hospitals)で二

次医療を受ける。継続的治療を要する場合などは、地域病院(Regional Hospitals)で三次医療

を受けるシステムである。

病院の種類は以下のとおりである。

【病院の種類:下が一次医療側】

・Regional Hospital

・General Hospital

・Community Hospital

・Health Center

・Community PHC’s Center

・Village Health Volunteer

(3) タイにおける医療に対する評価

①タイでの医療の実態

タイでは、私立病院であってもタイ人患者数の受け入れが多いという特徴がある。例えばバ

ンコク国際病院の場合、2008 年における患者数の 8 割がタイ人であった。サミティベート病院

でも、外来患者のうち 6 割はタイ人である。但し、これは病院単位で見た際の比率であり、国

民全体から見ると全国民の 3%に相当する富裕層のみである。

各病院が高名・優秀な医師の確保に注力しており、力量が不足していたり、問題があったり

する医師については、より優秀な医師との入れ替えが行われている。

②タイの病院での健診・治療の評価

タイではタイ語の医学書が十分出版されておらず、医師の教育は英語圏で出版された英語の

教科書を使って行われてきた。このため、結果的に、医師はタイの医師国家試験を通った時点

で、医療関係の知識を英語で習得していることになる。

健診サービスについては、PET 健診等の一部のメニューは限られた病院でのみ提供されてい

るものの、他のメニューについては日本とほぼ同様のものである。特に価格面での競争力もあ

るため、マレーシア人は健診はタイ、治療はシンガポールという使い分けを行っている。

治療レベルについては特段高いという評価はないが、シンガポールと同様、内需の小ささか

ら海外留学する医師が多いこと、帰国して活躍したいという国民性があることから、常に世界

最高レベルの技術が導入される流れができている。

患者の安心感等への配慮、ホスピタリティに優れており、タイで直せない病気でなければタ

イに行こうと考える外国人患者も多い。

日本人でも、出産のためにわざわざタイを選択する人が増えてきている。

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③日本の医療に対する評価

日本を知っているタイ人にとっては、医療技術は高いと認識されているが、日本の医療を知

らないタイ人からは低いと考えられている。(これは、タイの医療レベルを知らない日本人と全

く同じ反応である)

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2) タイにおける医療ツーリズムの実態

タイでは、医療ツーリズムの振興は、国の医療システムを維持するという目的よりも、外国

人をタイに呼び込むという観光誘致目的の中で位置付けられている。具体的には、タクシン政

権下の 2003 年に「アジアの健康首都」を宣言し、民間病院の外国人患者受け入れを推進してき

た。その中で、スパやマッサージ産業の振興と外国人患者誘致を合わせた医療ハブ構想を進め、

04 年には「Medical Hub 構想」を打ち出している。その結果、01 年には 55 万人だった外国人

患者4が、05 年には 120 万人を超える規模になった。同構想では 10 年に 200 万人のメディカル

ツーリストを誘致することを謳っていた。

しかし、06 年 9 月のクーデターによりスラユット政権に変わると、それまで年間 1000 万~

2000 万バーツだった予算が 07 年には 300 万バーツに減額され、Medical Hub をテーマとした

商談や展示会は中止に追いやられている。

(1) 医療ツーリズムの実施状況

① 政府方針とその効果

タイに訪れる外国人患者は年々増加している。

2000 年代前半は 2 割を日本人が占めていたが、近年は低下傾向にある。例えば、バンコク国

際病院では、2008 年は日本人患者数が最も多かったが、2009 年 8 月時点では UAE が 1 位で、

日本人は 2 位になっている。国籍別収入では、1 位 UAE、2 位カタールで日本は 3 位。日本人

数はあまり変化していないが、他国からの患者数が急増していることが原因である。

図表 6-2-2 タイにおけるメディカルツーリスト数の推移

0

25

50

75

100

125

150

175

200

225

2001 2002 2003 2004 2005 2010 年

メデ

ィカ

ルツ

ーリ

スト

(万

人)

0.0%

5.0%

10.0%

15.0%

20.0%

25.0%

30.0%

35.0%

40.0%

日本

人患

者の

比率

メディカルツーリスト 日本人患者比率

(出所)タイ保健省提供資料より野村総合研究所作成

4 来訪者数の内訳は不明だが、患者および随行者の総数と想定される。

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② 医療ツーリズムのスキーム

タイにおける医療ツーリズムのスキームは、シンガポールと類似点が多い。移動時のスキー

ムは基本的に同じであるため、ここでは診療時のスキームを示す。診療時に関しては、費用の

支払に関するスキームに相違点がある。

A.診療時のスキーム

・A 国の患者は A 国患者窓口を訪れる。初診の場合は、病院が用意した同意書にサインし、

診察券を発行してもらう。(図の①)

・窓口では A 国の言語に対応可能な医師によるスクリーニング(検温や検尿、症状に関する

問診等)を受ける。その結果に応じて専門科医が紹介される。A 国の言語に対応できる医

師がいない場合には、診察時から医療通訳が付き添う。(図の②、③)

・タイでも医療ツーリズムに対応している病院ではオープンシステムが採られているため、

医療機関は専門科医に対して施設や設備を貸し出し、専門科医はそれらを借りて診療行為

を行っている。(図の④)

・専門科医は自らのクリニックを開設し、開業医として診療行為を行う。専門科医は多言語

対応していないことも多く、診療の際は医療通訳が付き添う。(図の⑤)

※ここまではシンガポールと基本的に同じである。

・診療費については専門科医が設定するが、支払いに関しては、患者に直接請求するのでは

なく、病院使用料と合わせて医療機関から患者に対して請求されることが多い。(図の⑥)

・医療機関は診療費相当分を専門科医に支払う。(図の⑦)

・医療機関から患者が契約加入している保険会社に対して保険金の支払請求を提出し、保険

会社からは患者に対して保険金が支払われる。(図の⑧、⑨)

図表 6-2-3 タイにおける医療ツーリズムのスキーム(診療時)

タイの医療機関

A国の患者保険会社

タイの専門科医

医療通訳③専門科医

の紹介

①訪問・同意書取り交わし

④施設・設備貸し

⑤治療

⑥診療費+病院使用料

(②の通訳)

⑧保険金支払請求

⑨保険金支払

A国患者窓口

事務スタッフ

②スクリーニングA国対応の医師

(⑤の通訳)

⑦診療費

(出所)ヒアリング調査より野村総合研究所作成

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(2) 医療ツーリズムの実施事例

① プロモーションの実施内容

各病院は民間企業として積極的な広報活動を行っている。例えば、バンコク国際病院では、

各外国人部門がプロモーション実施体制を備え、部門別に 4 名程度のマーケティングチームを

置いている。日本人向けでは、年 400 万バーツ程度の予算を投じて年 10 回程度のセミナーを実

施している。他の外国人部門についても同様の回数のセミナーを実施している。その他、テレ

ビ・新聞等の媒体を通じた宣伝、クレジットカード会社とのタイアップ、スポーツイベントの

スポンサー等一般企業と同様のプロモーション活動を行っている。

病院による営業活動は国内に留まるものではない。現在の主戦場は海外に移ってきている。

例えば、昨今ではアフリカからの来訪患者が増加しているが、複数の病院がエチオピアに営業

拠点を設けており、現地での営業競争が展開されている。

最近は国と病院との間での提携も増えてきている。提携対象国は、タイよりも医療水準が低

い国であり、提携対象国の VIP が治療を受ける際はバンコクに来てもらうこと、タイから医師

を派遣して提携対象国の医師に医療技術を教育指導することが提携内容になっている。

JCI 認証は、プロモーション活動において特には重視されておらず、米国の保険会社に対する

プルーフという位置付けである。

図表 6-2-4 バンコク病院グループの海外営業拠点

(出所)バンコク病院グループ資料より

② 多言語化対応の状況

病院は、独自に教育機能を内部組織化しており、病院スタッフに対する研修メニュー等を企

画している。例えば、バムルンラード病院では、毎年英語とタイ語で医療用語の研修を実施し

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ており、受講の有無が査定項目になっているほか、スタッフの英語力を高めるために TOEFL

の得点に応じたボーナスも用意している。

こうした組織的な対応をしているが、医療ツーリズム患者経験者からは、「通訳はしっかりし

ているが、病状などの微妙な表現が通じているかが不安。」といった声が聞かれた。

③ 多文化対応の状況

シンガポールと同様、来訪患者数の多い国に対して窓口が拡大し、患者数の減尐に応じて閉

鎖されるという状況である。例えば、バンコク国際病院では、国別売上高の順位によって窓口

の改廃を決めている。日本は昨年まで UAE に次いで 2 位に付けていたが、夏ごろにカタールに

抜かれ、その後ミャンマーにも抜かれた。現在は 4 位まで落ちており、今後の落ち込み次第で

は窓口の閉鎖も検討されることになる。

診療や入院時の文化対応は、言語対応と同様に手厚く行われている。例えば、バムルンラー

ド病院では、日本人への対応に際して、マネージャ 1 名、外来対応 1 名、日本語対応 1 名、入

院対応 1 名、特別言語対応 1 名からなるカスタマーサービスチームを組織している。

また、各病院において病室が人種別に固まるように配慮している。

④ 提供サービスの水準

タイではホスピタリティを重視する傾向が強いこともあり、設備面ではシンガポールよりも

豪華なものを備えている様子が見られる。またそうした傾向は店舗類だけでない。例えば、サ

ミティヴェート病院ではピアノや弦楽四重奏による生演奏といったエンタテインメントも行わ

れている。

また宿泊施設等の斡旋サービスもあるが、シンガポールと同様、ホテル事業者との提携も進

みつつある。

こうした一連のサービスのいくつかはパッケージ化されてサービス商品として売られている。

例えば、出産パッケージでは、5 万バーツ(約 13.5 万円)の自然分娩を基本として、3 泊 4 日

プラチナコース、2 泊 3 日ゴールドコースなどが用意されている。またパッケージ利用者には

利用期間延長時の割引制度などもある。

⑤ 医療のレベル

医師の手技レベルについては、シンガポールほど高くはないが、日本と比べて遜色はないと

言われている。背景にはシンガポールと同様、若手医師が積極的に欧米に渡り、先端医療の現

場で経験を積むことが当たり前になりつつあることにある。特にタイでは、故郷に錦を飾ると

いう意識が強いため、タイに帰国して医師として活躍するケースが多いことが、国の医療レベ

ルの維持向上に寄与していると言われている。

個々の病院も強みを自覚し、外国人患者を誘致するための武器としている。バンコクで最古

の私立病院である BNH(バンコク・ナーシング・ホーム)病院は脊椎と不妊治療を強みとして

いる。日本では手に負えず、不妊治療や脊椎関連の治療で来訪する患者もいる。

医療機器についても、医療ツーリズム対応病院では積極的に導入している。導入されている

機器が日本の病院で使われている機器よりも新しいことは珍しくない。

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⑥ アフターフォロー体制

各病院が工夫を凝らしながら対応している点は、シンガポールと同じである。異なる点とし

ては、医療情報の取り扱いについてである。タイでは関連する書類は全て病院が保管している。

そのため、外国人患者が帰国後に母国で診療を受ける際、情報の共有が難しいケースも想定さ

れる。

⑦ 健診および主要な治療項目の価格帯

一部の高度先進医療を除いて、ほぼ全ての診療メニューが取り扱われている。診療価格は医

師が独自に定めており、保健省も病院も口は出さないものの、日本と比べると価格競争力に優

位性がある。タイでは、中東をライバル視した価格戦略を取っており、全般的に欧米の 5 分の

1~8 分の 1 くらいになるように設定しているためである。

図表 6-2-5 タイにおける診療価格

検査 検査分類 金額/回

消化器

系 検

査・手

上部内視鏡検査 15,000-18,000 バーツ

下部内視鏡検査 15,000-25,000 バーツ

腫瘍診

ガンマナイフ 設備がないため提供してい

ない

循環器

系 検

査・手

心臓ハイスペックCT 20,000-30,000 バーツ

ステントバルーン ステントグラフトを含めて 34

万-60 万バーツ

その他 インプラント 約 10 万バーツ

レーシック 両目 66,000-75,000 バーツ

人工関節置換術 股関節 30 万-52 万バーツ

シミ・アザなどの美容系 大きさによる

(出所)ヒアリング調査より

⑧ 医療ツーリズム推進にあたってのリスクや問題点

外国人患者の呼び込みに関しては、ビザ発給、未払い対応等、日本で指摘されるような問題

点はほぼない。言語については日本と同様、英語が公用語ではないが、積極的な人材誘致によ

り、実務上支障を来たすレベルの問題は起こっていない。

長期化対応については、以前は国の支援もあり、私立病院にイミグレーション窓口が常駐し

ていた。診断書さえあればビザの延期が簡単にできた。今は窓口がなくなったものの、医療ツ

ーリズム推進の阻害要因にはなっていない。

オープンシステムであるため医療事故等にまつわる訴訟は医師個人に対して行なわれること

が多い。裁判は結審するまでに長い時間がかかる。三審制が取られているが、一審だけで8年

かかっているケースもある。このため、結果的に示談に持ち込まれるケースが多い。基本的に

は、医師と患者との間での処理となるが、バムルンラード病院は、病院が前面に立って対応す

るという方針を持っている。なお日本では、病院自体が訴訟保険に加入しているほか医師や看

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護師も個人で加入させられているが、タイでは病院は訴訟保険に加入しているものの、ほとん

どの医師は加入していない。

(3) タイの医療関係者から見た日本の医療ツーリズムの課題

① プロモーション方法

タイでは「日本の医療」自体の認知度が低く、認知していない人は押しなべて、日本の医療

水準が低いと考えている。現段階におけるプロモーションで重視されるべきは、「日本の医療」

の存在を認知してもらうことにある。

(以下インタビューより抜粋)

・まずは PR とマーケティングを行うべきである。タイ人は日本の医療を知らないため、日

本の医療は危ないとさえ思われている。(日本人駐在員)

・外国メディアの日本駐在員を集めてレセプションをしたり、大使館員を集めたりして、英

語による情報発信を行うことが不可欠である。(日本人駐在員)

・京都にも著名な医療機関がある。来日する外国人を診ることのできるクリニックを、外国

人向けガイドブックに記載してもらえばよいのではないか。既に来ている外国人患者をケ

アすべきである。(日本人駐在員)

・現在でも 200 万人の日本人が海外に住んでおり、旅行者は 800 万人になる。海外にいる日

本人向けの医療ツーリズムを日本の病院が海外で行うことは可能。(日本人駐在員)

② 通訳・翻訳

医療通訳には、単なる通訳としての機能だけでなく、コーディネータとしての要素も求めら

れている。

・日本の医療現場では英語が通じないことが多いのではないか。(医療機関の医師)

・通訳はしっかりしているようだが、病状などの微妙な表現が通じているかは不明である。

(医療ツーリズム経験者)

・医療通訳は、インタプリタだけでなくコーディネータでもあるべきである。患者のドア to

ドアをケアできるスキルを持っているべきである。(医療機関スタッフ)

③ 異文化対応

日本のホスピタリティは高く評価されているが、その本気度に懐疑的な声もあった。

・タイ人の旅行先として日本は注目されている。主にマナーのよさ、礼儀に対する印象がよ

い。時間の正確さについても定評が高い。(医療機関スタッフ)

・外国人観光客お断りの施設等もあり、日本は本気で外国人を受け入れたがっているのかを

問う声もある。(医療機関スタッフ)

④ 健診・治療メニューの作り方

日本に強みがあるメニューに特化すべきという意見は多い。ただし、強みについては、世界

最先端技術の活用以外に、針灸やあんまといった東洋医学的な要素にもあるという指摘があっ

た。

・一部の医師は世界最先端の技術を持っている。例えば、カテーテルなどの手先の器用さが

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求められるものに強みがある。(医療機関スタッフ)

・日本の強みは、心臓カテーテル、内視鏡、脳外科にあるのではないか。(医療機関のスタッ

フ)

・陽子線治療等は強みであろう。患者が待ってでも治療を受けたいと思うものがあれば、英

語対応する必要はない。(医療機関スタッフ)

・日本の医療ツーリズムは、先進医療に限定すべきではないか。タイでも PET 検診を受けら

れる病院が 4 箇所以上はあるが、それらはあくまでも治療用でしかない。(医療機関の日本

人スタッフ)

・日本ではプライスダウンしなくてはならないものでは勝負できない。プライスを気にしな

いもので勝負すべきである。(医療機関スタッフ)

・手術等だけでなく、針灸やあんまなども組み合わせた商品を設計して売るべきである。(日

本人駐在員)

⑤ その他

保険診療制度の下で営んできた日本の医療機関にとっては、保険診療外でのサービス展開が

難航するのではないかという指摘があった。

・医療機関は診療報酬ではない形で収入を確保すべきである。それによって保険診療制度が

廃れることはない。(日本人駐在員)

・日本の医療機関は、保険診療制度の下で自らはプライシングをしてこなかったため、プラ

イシングの考え方やノウハウがわかっていない。(日本人駐在員)

6-3.医療ツーリズム潜在市場調査(中国)

中国において、日本への医療ツーリズムに対する潜在ニーズや実績があるか、また医療機関と

のあいだで連携することが出来るか、について旅行代理店や医療機関、その他関係者に対して現

地調査を実施した。

1) 中国における医療制度

(1) 中国社会保障制度(医療保険)

①公費医療制度の破綻

中国では 1951 年から、国有企業の従業員を対象に公費医療制度が実施開始された。公費医療の

加入者は全額企業負担で、個人負担なしの“無料医療”である。

その後、中国では市場経済が導入され、経済と社会状況が大きく変化、無料医療は維持できな

くなってきた。維持出来なくなった主な背景としては、高齢化の進展、旧制度の非効率性、国有

企業の改革、医療格差の拡大、等の要因が挙げられる。

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図表 6-3-1 無料医療が維持できなくなった背景要因

要因 概要

高齢化の

進展

医療費は、現役世代より退職者世代の方が 3~4倍高い構造になっているので、高

齢化の進展とともに医療保険支出が大幅増加している。

医療給付費は 1988 年から 98 年まで約 10 年間に 120 元から 469 元(一人当たり年

平均値)と、約 4 倍になっている。

旧制度の

非効率性

無料医療加入者は自己負担額がないため、保健薬を家族で使いまわしたり、家族

分の投薬を依頼したりする行為が頻繁に起きた。

国有企業

改革

国有企業の社会保険と福利厚生に関わる社会保障負担は、賃金総額の 44%(1998

年)以上にのぼっているので、社会保障制度を企業から分離することが国有企業

改革の大きな焦点となった。

改革解放の推進による競争の激化は、結果的に国営企業の経営を悪化させ、急増

する医療費の負担に耐えられない国営企業を多く生み出した。

医療格差

の拡大

無料医療の対象は国有企業勤務者のみであり、急成長している非国有企業は加入

対象外なので、多くの無保険者を生み出した。

②都市部の公的医療保険ガイドライン

中国では、1980 年代に始まった各地の試験的改革を踏まえて、1998 年 12 月 14 日には「都市職

員・従業員基本医療保険制度の整備に関する国務院の決定」(以下“決定”)が公布された。決定

の公布により“無料医療”が廃止され、都市部で統一した公的医療保険ガイドラインが誕生した

のだが、具体策は地方政府によって個別に実施されている。

1999 年から、薬の価格基準の大幅引き下げ、薬価格リストによる保険使用薬剤の制限、医療機

関選択の制限、医療機関の予算管理性、医療行為の標準化といった改正も順次に行われている。

図表 6-3-2 中国医療制度の改革内容(都市型)

旧医療制度 新医療制度

保険対象 国有企業勤務者、退職者 都市部すべての法人に所属している職員、退職者

自営業者、個人企業従業員は対象外であるが、地域

によっては任意加入が認められる

保 険 料 支

払い

企業側 企業側と個人側

個人納入全額と企業納入の 30%を、保険加入者の

個人口座へ繰り入れ

個人口座に預金利息がつき、本人死亡時には残金を

遺族が相続

給付 国有企業勤務者、退職者

扶養家族にも5割給付

所属地域の年平均賃金の 10%を基準

基準以下の医療費は個人口座から支払う

基準以上の費用は、一部自己負担を除いて社会プー

ル基金から給付

最高給付額は、年平均賃金の 4 倍に制限

(出所)2003 年出版「我国医療保険制度改革分析」

③都市型医療保険と農村型医療保険

都市型の医療保険制度についての詳細は地域により異なるが、基本的なポリシーは同じである。

一つの地域について、都市型と農村型の 2 つの種類の医療保険制度が存在している。

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図表 6-3-3 上海市各種医療保険の比較

都市型 農村型

上海市城鎮居民

基本医療保険

上海市城鎮職工

基本医療保険

新型農村合作医

実施対象

上海市に在住する 18 歳以下、または満

18 歳以上で「職工基本医療保険」と「新

型農村合作医療保険」に参加していな

い、城鎮戸籍を有する上海在住市民

上海市内企業に在職する

職員、及び定年した元社

員で、城鎮戸籍を有する

上海市在住の市民

農村戸籍を持つ

上海市在住市民

参加制度 任意 強制 任意、個人志願

(出所)上海市人民政府ホームページより

図表 6-3-4 上海市各種医療保険の比較

保険種

対象 保険対象

診察/急診 入院

上海市

城鎮居

民基本

医療保

18 歳

以上

60 歳以上は、医療保険ファンド

が 50%を負担

18-60 歳まで、年間累積 1,000

元以上の部分は 50%を医療保険

ファンドが負担

70 歳以上 70%を医療保険ファンドが負担

60-70 歳 60%を医療保険ファンドが負担

18-60 歳 50%を医療保険ファンドが負担

18 歳

未満

新生児から高校生までは 50%を

医療保険ファンドが負担

新生児から高校生までは 50%を医療保険ファ

ンドが負担

上海市

城鎮職

工基本

医療保

定年

個人口座でまず支払う

口座残高 1,500 元以内は個人負

口座残高 1,500 元をオーバーす

る分は医療保険ファンドと個人

それぞれが 50%を負担

1,500 元以内の部分は個人負担

1,500 元をオーバーした部分は医療保険ファン

ドが 92%負担し、個人は 8%を負担

70,000 元以上超えた部分、医療保険ファンドは

80%をカバーし、個人は 20%を負担

定年

個人口座でまず支払う

口座残高を 700 元以内オーバー

する分は個人負担

700 元以上オーバーする分は、医

療保険ファンドが一級病院の

55%、二級病院の 50%、三級病院

の 45%を負担

1,200 元以内の部分は個人負担

1,200 元をオーバーした部分は医療保険ファン

ドが 92%負担し、個人は 8%を負担

70,000 元以上超えた部分、医療保険ファンドは

80%を負担し、個人は 20%を負担

新型農

村合作

医療

全員 農村衛生室にての診察/急診は

医療保険ファンドが 80%を負担

社区衛生センターにての費用は

医療保険ファンドが 70%を負担

二級病院にての費用は医療保険

ファンドが 60%を負担

三級病院にての費用は医療保険

ファンドが 50%を負担

65 歳以上は無料

1万元以下は 55%を医療保険ファンドが負担

1-2 万元は 60%を医療保険ファンドが負担

2-3 万元は 65%を医療保険ファンドが負担

3-4 万元は 70%を医療保険ファンドが負担

4-5 万元は 75%を医療保険ファンドが負担

5 万元以上は 80%を医療保険ファンドが負担

(注 1)「医療保険ファンド」とは、上海市、区、県(日本の村に相当)の財政から一部と、個人が

毎年支払っている保険金により設立。社会保険ファンドの専有財政口座で運用。

(注 2)「農村衛生室」は農村にある、一級病院にも達していない診療所を指す。また、「社区衛生セ

ンター」は住んでいる団地の中の診療所で、風邪の治療や血圧測定など、簡単な診察をしても

らえるところを指す。

(出所)上海市人民政府ホームページより

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④社会医療保険の改革の方向性

社会医療保険カバー範囲の拡大、医療費の個人負担分の減尐を目的に、2009 年に国務院が「医

葯衛生体制改革に関する意見」を公布した。

短期的な目標は、国民の医療費用負担を軽くし、切実な問題である“看病難”問題を穏和させ

ることである。また、長期的な目標は都市・農村部の基本医療保障制度のカバー範囲の拡大、国

民に対し安全、有効、便利、安い医療サービスを提供することである。

図表 6-3-5 「医葯衛生体制改革に関する意見」全文のポイント

基本医療保障制度の

策定を推進・加速

基本医療保障のカバー範囲を拡大し、社会医療保険への加入率を大幅

向上させる

基本医療保障レベルを向上し、農民に対して給付上限額を上げる(所

属地域の平均収入の 6 倍以上)

規範基本医療保障基金を管理し、2011 年まで、基金の管理が市級レベ

ル管理機関で統一管理

国家基本薬物制度の

策定

国家基本薬物リストの選定管理体制を構築する、2009 年中に国家基本

薬物目録を公布

基本薬物供給保障体系の策定

基礎医療衛生サービ

ス体系の健全化

農村地域の医療サービスネットワークの構築を強化

基礎医療部隊の新設

(出所)中国新華社ホームページより

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(2) 中国における病院・医師の概要

①病院の種類

中国には、下記の通り、一級から三級までの病院がある。

図表 6-3-6 中国における病院の等級

等級 役割 特徴 業務指導する行政

の等級 病 院 の 規 模

(ベッド数) 三級

病院 医療・教育・

科学研究な

どの機能を

揃え、先進的

な医療・予防

の中心的な

役割を果た

す総合病院

である。

・ 多地域に高水準な医療サービス

を提供し、高等医学の教育基地

として、医学研究などを果たし

ている。最新技術と最新設備を

備える病院である。

・ 三級病院の中でも特等、甲、乙、

丙の四等級がある。

・ 特級になるのは非常に難しい。

なお、正式な評価は 2010年から

に行う。。

「省」(日本の

県)、「自治区」

「直轄市」レベル

で指導している。

500 ベッド以

二級

病院 地域の医療・

予防技術の

コアな存在

で、地区病院

である。

・ 多地区に医療サービスを提供

し、医学研究、教育を負う。更

に救命救急機能も充実している

地区レベルの病院である。

・ 二級病院の中でも甲、乙、丙の

三等級がある。

「地区」、「市」、

「県(日本の村)」

レベルで指導して

いる。

100~499 ベッ

一級

病院 初級レベル

の医療機関

としての医

療行為を行

う。

・ 地域密着型病院、或いはコミュ

ニティ医療サービスセンターと

位置付けられる。

・ 一級病院の中でも甲、乙、丙の

三等級がある。

農村部では「郷」、

「鎮」という行政

が管理している。

都市部において、

住宅団地の中の

「街道弁事処」が

指導している。

30 ベッド未満

(出所)各種資料より野村総合研究所作成

図表 6-3-7 中国の等級別医療機関数推移(実績値)

病院等級 2006年 2007年 2008年 06‐08年

年平均伸び率

三級病院

甲 647 704 722 5.6%

乙 364 326 328 -5.1%

丙 34 15 12 -40.6%

二級病院

甲 3,104 3,521 3,662 8.6%

乙 1,929 2,187 2,246 7.9%

丙 118 95 89 -13.2%

一級病院

甲 2,005 2,563 2,610 14.1%

乙 551 430 474 -7.3%

丙 182 93 98 -26.6%

(出所)「中国衛生統計年鑑」

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②病院数の推移

国における病院数は増加傾向にあり、特に 500 床以上の大病院の数が顕著に増えている。

図表 6-3-8 中国の規模別病院数の推移

(出所)「中国衛生統計年鑑」

③地域別の病院数

地域別にみても、極端に尐ない地区は存在せず、沿岸部だけでなく内陸部においても病院が設

置されている。

図表 6-3-9 中国の地域別病院数(2005)

(出所)「中国衛生統計年鑑」

北京市 516 湖北省 572天津市 271 湖南省 782河北省 817 広東省 960山西省 884 広西壮族自治区 458内蒙古自治区 474 海南省 190遼寧省 915 重慶市 358吉林省 563 四川省 1,149黒龍江省 886 貴州省 383上海市 247 雲南省 648江蘇省 1,004 チベット自治区 97浙江省 553 陝西省 833安徽省 683 甘粛省 382福建省 357 青海省 130江西省 486 寧夏回族自治区 134山東省 1,121 新疆ウイグル自治区 678河南省 1,172 合計 18,703

10,415 10,867 11,156

3,6863,811 3,746

2,7932,757 2,777

870958 1,024

0

2,000

4,000

6,000

8,000

10,000

12,000

14,000

16,000

18,000

20,000

2003 2004 2005

規模

別病

床数

(施

設)

99床未満 100-199床 200-499床 500床以上

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④中国における医師制度

中国で医師になるには、高校を卒業した後、大学の医学部で学んだのち、最低1年間病院で研

修を受け、医師免許取得試験を受験する。大学の医学部での就学期間には、4 年制~8 年制の複数

種類あり、7 年以上就学する医学部生は修士課程、博士課程を修了することとなっている。

病院での実習は修士 2 年生から可能なため、7 年間あるいは 8 年間で卒業とともに医師免許を

受験することが多く、また 7 年卒と 8 年卒の医学部生は病院で出世コースに入る人が多く見られ

る。

逆に 4 年間卒の医学部生は先に病院で仕事し、助手医師からスタートし、その後医師免許を取

るケースが多い。

図表 6-3-10 中国医師のレベル分類

分類 概要

初級医師 学部を卒業して 1 年後に職業医師免許試験(日本では医師国家試験)に

合格した医師

中級医師(主治医

師)

初級医師として 5 年間勤務後、全国衛生中級技術試験に合格した医師

副高級医師(副主任

級)

中級医師として 5 年間勤務後、論文試験および高級医師試験に合格し、

衛生局、上級機関の審査を経て昇格が認められた医師

正高級医師(主任

級)

副高級医師として 5 年間勤務後、昇格が認められた医師

教授・副教授 教育機関を持っている医療機関でのみ与えられる。1 年間の講義数、論

文数、指導学生数などによって決まる

(出所)各種資料より野村総合研究所作成

中国での大学受験では、統一試験で獲得した点数に応じて、志望大学を申し込むこととなって

いるが、有名大学の医学部に入るのはとても難しい。医学部のなかでも、特に臨床医学が最も難

しい。なお、2009 年の中国上位 10 の医学部大学は、以下の通りである。

図表 6-3-11 2009 年中国上位 10の医学部の大学

順位 大学名

1 北京大学

2 清華大学

3 復旦大学

4 上海交通大学

5 中山大学

6 浙江大学

7 華中科技大学

8 四川大学

9 首都医科大学

10 中南大学

(出所)http://www.cunet.com.cn/daxue/HTML/21514.html

中国の医師の給料として、基本給と福利厚生など合わせて 2,300 元前後~30,000 元前後となっ

ている。正式なルートではないが、コミッション(主に薬品)が支払われることもある。また、

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それ以外に、手術の謝礼や他の病院での手術料、回診料なども支払われるため、医師によって収

入の幅が非常に大きい。

(3) 中国における医療に対する評価

①中国・上海での医療の実態

中国・上海の病院での、富裕層・VIP 向け医療(健診及び診療)の料金水準及びサービスの特

徴は以下の通りである。

図表 6-3-12 中国・上海の病院での富裕層・VIP向け医療の概要

病院名 種別 料金水準 VIP 向けサービスの特徴

中国系

病院

健診 1,000 ~

2,000 元

(通常の

健診は団

体客で 350

元程度)

・ VIP も通常も流れは同じ。VIP には優先権があって、並ばな

くても次の検査をスピーディに受診出来る。

・ 一般の健診でも半日くらいの時間かかるが、VIP 向けは CT

などの検査も入るので同じく半日くらいの時間がかかる。

・ VIP は1日あたり 10 人以内、一般健診は1日あたり 150~

200 人程度。

・ VIP 向け健診は3日前に予約すれば受診できる。なお、VIP

に対しては一週間後に特別に健診結果を説明してくれる。

診療 VIP 診 療

は、一般診

療の3倍

・ 一般の診療よりも VIP の診療のほうが、時間を待たなくて

も良い、丁寧に診療してくれる、というメリットはあるが、

担当する医師は変わらない可能性も高い。

・ 全体のベッド数 1,200 床のうち、VIP 向けは 60~80 床で、

だいたい埋まっている。VIP の受診者数は 100 人程度。

中国系

病院

健診 4,000 ~1

万元弱

・ 俳優や女優等の超 VIP が行く病院で、健診のみ実施。

・ リゾート地に2週間ゆっくり滞在してもらって、アドバイ

スするという方法で健診を行う。

・ 様々な健診を行い、1回ですべての検査が済む。

中国系

病院

診療 国際(2 階)

の治療費

は、ローカ

ル(1 階)

の5倍前

後。

・ 検尿を自分で持って行く必要がなかったり、教授・院長ク

ラスが診察したりする。

・ 大学の附属病院とつながっているので、30 分から2時間以

内に教授の先生が駆けつける。通常の大学病院だと、長時

間診療待ちをしなければならないため、こちらの病院に来

たほうがサービスレベルは高い。

・ 受診の時間も一人当たり 20~30 分と長い。質問が多い場合

には1時間以上対応することもある。

非中国

系クリ

ニック

診療 部屋代と

治療費で

だいたい

1日1万

・ 上海市内でも最も高額な医療費の設定をしている。

・ 一番多い患者は米国人、次に中国人で、3番目が日本人。

米国人と日本人は保険診療だが、中国人は自費負担。

・ 外国人医師が多いので、外国語が通じる点が大きなメリッ

トである。

(出所)上海でのヒアリング結果より

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なお、ローカル病院における通常の検査等の価格は下記の通りであるが、VIP 向けの診療価格

は自由に設定可能であり、実際の価格もかなり上昇傾向にある。

図表 6-3-13 中国・上海の病院での検査等の費用

検査 検査分類 金額/回

消化器

系 検

査・手

上部内視鏡検査 胃鏡(輸入機械) 100 元~250 元

十二指腸検査(輸入機械) 130 元~300 元

下部内視鏡検査 Colon 検査(輸入機械) 150 元~200 元

ポリペクトミー 正式に公表された数字はない

(インターネット検索によれば

2,000 元~20,000 元)

腫瘍診

PET 全身 7,500 元

部分的 4,800 元

ガンマナイフ 7,500 元

センチネルリン

パ節生検 公表された数字はない

循環器

系 検

査・手

頸動脈エコー 200 元

心臓ハイスペッ

クCT 公表された数字はない

ステントグラフ

ト 800 元~1,050 元

stent Balloon 公表された数字はない

drug stent 公表された数字はない

その他 インプラント 豊胸(片方) 1,050 元(材料費を含まない)

顔面 1,550 元

顎 1,550 元

レーシック LASIK 1,800 元

(衛生局発表資料による)

LASIK(EK) 6,800 元(上海の私立病院による)

人工関節置換術 1,800 元

シミ・アザなどの

美容系 ホクロ 100 元~350 元

(出所)上海市衛生局や病院の公表数字より

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③中国の病院での健診・治療の評価

・ 病院のサービスはまだまだだが、医者の腕は日本と遜色ない。ただ、当たり外れがある。

かかる医者によって言うことが違う場合も尐なくない。日本は医者の水準がかなり均質化

されている(非中国系クリニック勤務の医師)。

・ 中国では万が一何かがあった場合には病院の責任にされるため、医師は必要以上に検査を

してリスクヘッジをする傾向がある(中国系病院)。

・ 中国ではリハビリの分野が弱い。障害者に対する偏見は強く、身体障害・発達障害の分野

は特に遅れている(非中国系クリニック勤務の医師)。

・ 中国では皮膚病やガンなどは充分に治療できない。日本の病院に行ったほうが良い、と思

う(中国系病院の医師)。

・ 中国にいる外国人医師は、外国人患者向けに様々な診療科を担当しなければならないため、

あまり専門科に関するレベルが高くない場合がある(中国系病院の医師)。

④日本の医療に対する評価

・ 日本での治療は、保険診療で3割負担だが、全額払うとしてもむしろ安い。平均的な医療

サービス水準は、世界的に見ても日本が断トツトップであろう(非中国系クリニックの医

師)。

・ 日本が圧倒的に強い分野は、画像診断、新生児向け治療 美容系など。機械や装置で差がつ

いている部分は日本の競争力が高い(非中国系クリニックの医師)。

・ 日本は、消化器科、眼科、外科が世界的に見ても有名である。ただし、重粒子線治療につ

いては、中国でもすでに一定の技術が出来ている(中国系病院)。

・ 現状での中国の医療費は安くない。日本で受診したほうが安い場合も多い。VIP 向けサービ

スであれば、日本よりも中国での医療費のほうが高い(中国系病院の医師)。

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2) 中国における医療ツーリズムの実態

(1) 医療ツーリズムの実施状況

中国の旅行代理店にて、医療ツーリズムに関する商品を販売するケースは尐ない。

今回の訪問先の旅行代理店でも、医療ツーリズムを取り扱っているケースはほとんどなく、美

容整形関連での韓国向け商品を多尐取り扱っている程度である。

図表 6-3-14 ヒアリング対象とした旅行関連企業

訪問先旅行

関連企業 会社の特徴

医療ツーリズムの

送客実績

北京名仕伏翔

国際旅行社有

限公司(北京)

・ 中国で最初に個人旅行サービスを提供した企

業。

・ スイス抗老衰医療や、ガン防止のための日本

での徹底的な検診などの業務を取り扱う。

・ スイス、日本等への送客

実績あり。

(詳細は次項以降を参照)

北京華晟恒旅

行社有限責任

公司(北京)

・ 統計局に属している旅行代理店。

・ チャーター機、専用列車での旅を主なサービ

スとして、海外旅行、ビジネス会議、などの

業務も取り扱う総合企業。

・ 国内外の企業と個人に旅行、会議視察、展覧

などのサービスと企画を提供。

・ なし。

中国旅行社総

社 (体育旅行

社)(北京)

・ 1949 年創立の中国最古の旅行会社であり、中

国の三大旅行会社の一つ。

・ 中国旅行社総社を中心にできたCTSグループ

は、中国国務院の国有大手企業管理委員会に

属し、国内に 230 近くの支社を持つ。

・ 外国人旅行、中国人海外旅行、国内旅行など

の業務を取り扱う。

・ 海外からの観光客取扱数は年間平均 13 万人

以上。また、中国人海外旅行が解禁されて以

来、取り扱っている人数は中国で第1位。

・ 不定期の韓国美容を扱

った商品がある程度。

上海中国青年

旅行社(上海)

・ 上海にある大手総合旅行社。

・ 毎年多くの外国人観光客と中国観光客を受け

入れ、受け入れ人数は上海でトップクラス。

・ 外国人旅行、中国人海外旅行、国内旅行、航

空券とホテルの予約、自動車サービス、会議

サービス、ビジネス旅行、教育旅行や体育旅

行などの業務を取り扱っている。

・ 韓国に美容整形見学の

プログラムがある程度。

(出所)各種資料・ヒアリング結果より野村総合研究所作成

なお、国家旅游局が「曖昧な表現を認めない」という規定を出しており、「健康」の定義が曖昧

であるために観光のテーマとして積極的に販売していない、という理由もある。

例えば、上海市旅游局では、以下のような規定(2009 年 12 月 14 日交付)がある。

一.旅行会社は、営業範囲以外の広告を出してはいけない。

二.旅行広告の中で、旅行サービスの内容、形式、質量、価格など表示があるものに関し

て、はっきり、正確に書く必要がある。実際と合わない嘘の価格、正常のコストより

低い価格によって、消費者を勧誘してはいけない。

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三.旅行広告の中で、明確に旅行項目の価格を表示して、それを旅行会社の徴収する全費

用となる。その中で消費者は支払う旅行契約などのすべての費用も含むべき。割引と

販促などの追加条件がある場合は明確に記入すること。

四.旅行社が出した広告の中で旅行会社の社名、経営許可書番号を明記すること。旅行会

社は自分の営業部に対して一括管理し、営業部ごとの主体で広告を出してはいけない。

五.旅行広告の中で関係している旅行活動は法律、法規などに違反してはいけない。

(2) 医療ツーリズムの実施事例(北京名仕伏翔国際旅行社有限公司)

「北京名仕伏翔国際旅行社有限公司」のように、富裕層向けの会員組織において、医療ツーリ

ズムをサービスとして提供している場合もある。

①医療ツーリズムの概要と送客実績

・ 4年前からスイスを対象とした医療ツーリズムを開始。2年前から日本市場に進出。

・ ある医療機関と提携。技術が先進的であること、独占契約が出来ることが提携条件。

・ これまでの日本への送客人数は、100 人弱。

図表 6-3-15 中国での医療ツーリズムの紹介ホームページ

(出所)http://www.lavion.com.cn/

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②商品の価格・内容

・ 日本への医療ツーリズムのコストは、航空券やホテル、検査(がん検診)、ガイド、医療

通訳などの費用をすべて含み、1週間で約 10万元が平均的。1~2日は健診をし、その

後は観光を楽しむというのが一般的なプランである。

・ 料金については、一括して旅行代理店に支払い、病院側での金銭のやりとりはない。なお、

オプションについては現状では対応していない。

③医療ツーリズム推進にあたってのリスクや問題点

・ 医療ツーリズム推進にあたっての問題点としては、①ビザ、②通訳・翻訳、③保険、④料

金支払、など。

・ ①ビザについては、実際のところ、短期の商用ビザを取得して対応している。

・ 通訳については、日本語ができる添乗員がついていく場合も、現地の留学生や中国語を学

んでいる日本人を通訳として活用する場合もあるが、問題になったケースはない。

・ スイスの医療機関については、ほぼすべて保険に入ってくれているので、安心して取引が

出来るが、日本の病院についてはそこまでの安心感がない。

④医療ツーリズムの今後の展開意向

・ 日本の医療機関は、中国から地理的に近い、サービスが良い、治療費は欧米よりも安い、

というメリットがある。

・ ただし、中国人のなかでは、欧米やスイスのほうが医薬や医療機関が強いというイメージ

があるのに、日本に対してはそういうイメージがない。

(3) 中国の医療関係者から見た日本の医療ツーリズムの課題

① ビザ(査証)

・ 日本で健診して何か問題が発生した場合、15 日以内に帰ってくる必要があるし、その後

往復することが必要になる場合もある(旅行代理店)。

・ 日本の大使館に行って、医療ツーリズムを進める場合にどのビザを取得すべきかで揉めた

ことがある。結果的には「短期の商用ビザ」を取得している(医療ツーリズム事業者)。

・ ビザ取得の手続きは個人でも団体でもそれほど煩雑さは変わらない。そもそも個人の場合、

条件を満たした上で申請を出しても、日本からの招聘状がなければ、ビザがおりないケー

スも尐なくない。ビザがおりない場合、代理店は個人に全額費用を返還しなければならな

い(旅行代理店)。

・ 北京や上海では問題ないが、大連、瀋陽、重慶などでは医療ツーリズムでビザ申請を行う

のが難しいという実態もある。富裕層の人々が日本に容易に行けるようにしてもらいたい

(医療ツーリズム事業者)。

② 通訳・翻訳

・ 難しい状況を説明して、どちらかを選択するという場合にはハイレベルの通訳が求められ

る(非中国系クリニックの医師)。

・ 現状では、日本語ができる添乗員がついていく場合もあるし、現地の留学生や中国語を学

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んでいる日本人を通訳として活用する場合もあるが、今のところ問題にはなっていない

(医療ツーリズム事業者)。

・ 医療報告書についても、現地の翻訳会社を通じて報告書をもらえる。口頭での問診等のや

りとりについても、これまで問題にはなっていない(医療ツーリズム事業者)。

・ 中国では医師の給料が安いので、医師をやっていないケースが多い。中国から医師免許を

持っている人を招聘するか、日本で学んでいる学生に来てもらえれば、通訳の調達はそれ

ほど問題ないのではないか(非中国系クリニックの医師)。

③ 個人の費用支払(個人向け保険等)

・ 日本の病院に関しては、コミッションが導入されていないし、為替についても一定しない

ので、支払いの部分で今後問題が出てくる可能性がある(医療ツーリズム事業者)。

・ 中国国内では政府の保険に頼っていて、商業保険に加入している人は尐ない。AIU など

国際的な保険に入れば、個人負担の金額は尐なくなる(医療ツーリズム事業者)。

④ トラブルに関わる事業者側のリスクの明確化

・ 現状の日本への医療ツーリズムでは、中国の旅行代理店がすべてのリスクを背負っている。

万が一医療事故が発生した場合にどういう形でやっていくのか、まだリスクヘッジが充分

に出来ていない(医療ツーリズム事業者)。

・ 例えば、スイスの医療機関については、ほぼすべて保険に入ってくれているので、安心し

て取引が出来るが、日本の病院についてはそこまでの安心感がない(医療ツーリズム事業

者)。

⑤ 中国の医療機関との連携

・ 事前の問診がなかなか出来ないのも問題。過去に3回ほど日本に飛んだ患者がいるが、行

く前に問診が出来れば、渡航前に治療案が検討出来たはず(医療ツーリズム事業者)。

3) 中国における医療ツーリズムの可能性

中国・富裕層向けの医療ツーリズム事業の可能性については、肯定的意見も否定的意見も存在

する。

①肯定的意見

(ア) 日本のサービスに対する信頼性

・ タイやシンガポールの病院を紹介することはない。自分の国の方がタイ・シンガポールよ

りも優れた治療を受けられると思っている人も多いのではないか。(中国系病院)。

・ シンガポールやタイと比較して、条件が同じであれば、中国人は日本に行くと思う。(非

中国系クリニックの医師)。

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(イ) 相対的に廉価な医療費

・ 日本での治療は、保険診療で3割負担だが、全額払うとしてもむしろ安い。平均的な医療

サービス水準は、世界的に見ても日本が断トツトップであろう(非中国系クリニックの医

師)。

・ 現状での中国の医療費は安くない。日本で受診したほうが安い場合も多い。VIP 向けサー

ビスであれば、日本よりも中国での医療費のほうが高い(中国系病院の医師)。

(ウ) 世界的に見て高い医療技術

・ 日本が圧倒的に強い分野は、画像診断、新生児向け治療、美容系など。機械や装置で差が

ついている部分は日本の競争力が高い(非中国系クリニックの医師)。

・ 日本は、消化器科、眼科、外科が世界的に見ても有名である(中国系病院)。

(エ) 観光資源

・ 考え方としては、健診のために旅行に行くよりも、観光旅行のなかの一つとして健診を入

れたほうが良いのではないか(中国系病院)。

②否定的意見

(ア)国内での受診で十分という国民の意識

・ 北京で医療ツーリズムは知られていない。一般の観光客でも、海外に出て健診を受けると

いう意識は尐ない。北京でも充分な健診が受けられるので、わざわざ海外に出て行こうと

いう意識はない(旅行代理店)。

・ 中国人は、海外で病気になった場合にも中国に戻ってきて治療を受けるのが一般的。日本

の料金は高いというイメージがある(中国系病院)。

(イ)中国と日本の医療機関の連携不足

・ 中国の富裕層から、日本の有名な病院を紹介してもらえないかという要望はあったが、コ

ネクションがないので、紹介したことはない(中国系病院の医師)。

・ 富裕層は、自分たちのルートで海外の病院を見つけてくるので、病院経由で海外に送客す

るというのは考えにくい。また、ビザの問題もあるので、紹介は難しい(中国系病院)。

③その他留意事項

・ 中国では診断は利益にならず、病院は治療で利益を得たいと考える。そのため、現状では

中国の病院が治療の部分で日本の病院を紹介することはない。コミッションを払うなどの

対応を行えば、紹介するようになるだろう(非中国系クリニックの医師)。

・ 診断に特化した病院(メディカルセンター)を中国に作って、治療の部分は日本に来て受

けてもらう、というのも可能性としてあり得る(非中国系クリニックの医師)。

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6-4.医療ツーリズム潜在市場調査(ロシア)

ロシアにおいて、日本への医療ツーリズムに対する潜在ニーズや実績があるか、また医療機関

との間で連携することが出来るか、について旅行代理店や医療機関、政府機関、過去に医療ツー

リズム経験のある患者等に対して現地調査を実施した。

1) ロシアにおける医療制度

(1) ロシア社会保障制度(医療保険)

①公的医療保障制度の破綻

ロシアにおける医療保険の種類は①強制保険(MHI : Mandatory Health Insurance)と②任意

保険(VHI : Voluntary Health Insurance)とに大別される。両保険の概要は以下の図表 6-4-1 の通

りである。

図表 6-4-1 ロシアにおける医療保険(強制保険と任意保険)

強制医療保険

MHI: Mandatory Health Insurance)

任意医療保険

VHI: Voluntary Health Insurance)

対象 全国民 民間保険加入者

対象国民の

割合 原則的には 100% 10%未満

財源 政府予算 加入者の保険料

受診時の

支払い料金

報酬価格体系については州政府が事実

上の決定権を持っている。

病院が個別に医療保険会社と取り決め

る。

ロシア憲法によれば、全てのロシア国民は全ての医療を無料で受ける権利があるとされている。

したがって、原則的には強制医療保険が全ての医療サービスをカバーしていることになる。

しかし、医療サービスの多くが有料で提供されているのがロシア医療の実態のようである。建

前上は無料とされている医療サービスでも、実際には追加料金を支払わなければ医師の問診さえ

受けられないといった状況がインタビューにおいて指摘されている。検査 1 つ受けるために数万

ドルの出費が求められるため、価格面では海外で治療を受ける場合のコストとそれほど変わらな

い水準となっているようである。

ロシアの医療制度が破綻をきたしている原因は、政府予算における医療支出が実情にそぐわな

いこと、および医療サービスニーズの増加の 2 点が挙げられる。政府における医療支出は 2000

年代に入ってから一貫して増加しているものの、医療支出全体をカバーすることが難しくなって

いることが窺われる。また、ロシアの健康に関する意識は低く、喫煙率や飲酒率も高い。また、

煙草やアルコールが原因の心臓・循環器系の疾患が多く、アルコールの大量摂取が原因とされる

事故も多いとされている。また、最近では悪性新生物(ガン)も増加してきている(図表 6-4-2

参照)。このようなロシアにおける健康への意識の低さが結果的に医療に対する需要を増やし、医

療保険制度が破綻する 1 つの原因を成していると考えられる。

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図表 6-4-2 ロシアにおける死因の内訳(2008)

交通事故

2%消化器疾患

4%

アルコール中毒1%

その他4%

伝染性・寄生性疾病

2%

呼吸器疾患

4%

事故、中毒、外傷

12%

悪性新生物14%

循環器疾患

57%

出典)ロシア統計局データより野村総合研究所作成

図表 6-4-3 死因別死亡者数推移(10万人当たり人数)(2008)

0

200

400

600

800

1000

1200

1400

1600

1800

1992 1995 2000 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008

総数 循環器疾患 悪性新生物

事故、中毒、外傷 呼吸器疾患 消化器疾患

出典)ロシア統計局データより野村総合研究所作成

また、任意医療保険については、その加入者率が人口に占める率は 10%弱である。後述する民

間医療機関ではMHIが適用されないため、VHIに加入していない患者は自己負担となる。

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②政府における医療関係の政策の実情

連邦政府は、国家として予防・高度医療へ資源を集中的に投下していくことを謳っている。予

防については、健康診断の受診の奨励などが盛り込まれている(図表 6-4-4 参照)。また、高度治

療については、ロシアの主要都市に医療センターを設立し、高度医療を提供できる体制を構築し

ている(図表 6-4-5 参照)。

しかしながら、健康診断を実施するにしても、現場に設置されている診断機器は旧型であり診

断に必要な機能を有していないケースなどが報告されている。また、老朽化した医療機器が故障

した場合に、メーカーに部品在庫が無く、修理・メンテナンスができなかったり、他の医療機器

で代替させたりといった状況が地方においては頻出している。

また、高度医療については、医療センターが扱う医療分野が限定されているため、疾病の種類

によっては、長距離の移動を余儀なくされることもあるようである。また、外来患者数が医療セ

ンターで対応できる人数を大きく超過しているため、州別に受診者数を限定するという措置(ク

オーター制)が取られ、治療が必要な患者にサービスが行き届かないといった事態も生じている。

図表 6-4-4 ロシアにおける健康診断の内容

2006~2007 年 2008~2009 年

対象 35~55 歳の公務員のうち、教育、医療、社会

保険、文化、スポーツ、科学の分野に携わる者

危険な労働環境下にある者

(07 年~)公務員に対する年齢制限の撤廃

強制医療保険加入者全員

診療科 内科、内分泋科、眼科、神経科、外科、泋尿器

科(男性のみ)、産科(女性のみ)

変更なし

検査内容 血液検査

尿検査

血中コレステロール値検査

血中糖分値検査

心電図

フルオログラフィ(1 年に 1 回)

マンモグラフィ (40 歳以降、2 年に 1 回)

左記内容に以下を追加

血中リポタンパク質検査

血中中性脂肪検査

腫瘍マーカー”CA-125”(40 歳以上の女性)

腫瘍マーカー”PSI” (40 歳以上の男性)

出典)ロシア保健及び社会発展省布告(2008)

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図表 6-4-5 医療センター建設地と各センターの扱う医療分野

出典)連邦保健省および社会発展省データより野村総合研究所作成

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(2) ロシアにおける病院の概要

①病院の種類

医療機関は機能別にポリクリニク、診療所、病院、医学センターなどに大別される。そのうち

の約 90%が公営である。ポリクリニクから医学センターとなるにつれて、提供される医療サービ

スの専門性は高まる。

図表 6-4-6 ロシアにおける病院の種類と特徴

医療機関種別 専門性 提供するサービスの種類 特徴

ポリクリニク 低 主にプライマリーケア

(外来専門)

1 軒で 4,000~10,000 人の人口に対応

65%が市街地に立地している

公立の場合は、市(gorod)、または地区(rayon)(注:州の下の行

政区分)立である

総合ポリクリニクと、特定の分野(小児科、産婦人科、歯科等)

の専門ポリクリニクに分かれる

診療所

プライマリーケア及び

セカンダリーケアの両

方に対応

市街地に立地する

特定の疾患の治療・検査に特化(心臓病、皮膚病、麻酔科、腫

瘍、眼科、結核、マンモグラフィ)等

各疾患についての専門性は高いが、総合病院に比べると専門性

は落ちる

病院

(バリニッツ

ァ)

セカンダリーケア専門

(外来・入院両方)

総合病院と専門病院(婦人科、伝染病科、麻酔科、腫瘍、眼科

など各科)がある

町村立のものは、郊外に立地し、ベッド数 20~50、基礎的な疾

患に対応

市・地区レベル以上のものは、ベッド数 100~700、4 万~15

万の人口に対応し、セカンダリーケア及び入院治療を提供す

る。

市・地区レベルの病院・ポリクリニクから紹介を受けた患者を受

け入れる中央病院も各市・地区にある

医学センター 高 セカンダリーケア専門

(外来・入院両方)

全国に 93 軒存在。その 6 割がモスクワとサンクトペテルブルク

に立地する

特定の分野の研究所の一部をなしている

もっとも複雑かつ専門的な医療を提供

腫瘍、外傷及び整形外科、心臓病に対応するものが多い

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②病院数の推移

ロシアにおける医療機関数は約 30000 である(図表 6-4-7 参照)。医療機関数の推移に目を移す

と、その特徴として①民営医療機関の増加、②公営医療機関の減尐が挙げられる。もっとも、民

営機関の施設数はまだ尐数であり、施設の 30%が歯科である。

図表 6-4-7 ロシアの医療機関の類型とその数

市町村 州 連邦ポリクリニク, 診断センター

16,993

診療所 (例:結核)

1,400 100以下

病院 8,100 1,700医学センター 100以下 93

3,786

122

主な医療提供者 公営私営

出典)連邦国家統計局より野村総合研究所作成

図表 6-4-8 公営病院、公営ポリクリニク、民間医療施設の推移

100.094.1 91.6

100.0 97.6 96.1100.0

130.5

170.1

80.0

90.0

100.0

110.0

120.0

130.0

140.0

150.0

160.0

170.0

180.0

2000年 2003年 2004年

医療

施設

数(2000年

=100.0

0)

公営病院

公営ポリクリニク

民間医療施設

出典)連邦国家統計局データに基づき野村総合研究所作成

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③地域別の病院数

医療機関の多くはロシア西部に集中しており、東部の医療事情は相対的に良くないといえる(図

表 6-4-9 参照)。連邦の病院を統括する医学センターの立地を見ても、ロシアの医療施設が西部に

偏在していることは明らかである。

図表 6-4-9 (例)医学センターの管区別の立地

出典)連邦保健省および社会発展省データ

※医学センターは連邦の病院を組織する機関として位置付けられている

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(3) ロシアにおける医療に対する評価

①ロシアでの医療の実態

図表 6-4-10 ある公立病院における検査等の費用(目安)

検査 検査分類 金額/回

消化器

系 検

査・手

上部内視鏡検査 胃と十二指腸の内視鏡検

査 約 400ルーブル

下部内視鏡検査 大腸内視鏡検査 約 500ルーブル

腹部エコー 腹部エコー検査(肝臓、

胆のう、膵臓、脾臓)

約 600ルーブル

MRI 頭部MRI 約 4,000 ルーブル

循環器

系 検

査・手

心エコー 心臓エコー検査 約 600ルーブル

ステント 心臓冠動脈ステント 心臓冠動脈ステント術はまだ始

まったばかりで、確定した値段

はない。

ステントそのものの種類によっ

ても価格は異なる。

人工関節置換術 8,159 ルーブル

※施術のみの価格。人工関節そ

のものは別料金が課される。

(出所)ヒアリング調査より野村総合研究所作成

図表 6-4-11 一般的な(公立・民間クリニック含む)検査等の費用(目安)

検査 検査分類 金額/回

消化器

系 検

査・手

上部内視鏡検査 胃と十二指腸の内視鏡検

約 1,500 ルーブル

下部内視鏡検査 大腸内視鏡検査 約 2,000 ルーブル

腹部エコー 腹部エコー検査 約 1,000 ルーブル

腫瘍診

MRI 脳 MRI 約 3,000 ルーブル

循環器

系 検

査・手

頸動脈エコー 頸動脈エコー検査 約 500ルーブル

胸部エコー 胸部エコー検査 約 1,000 ルーブル

ステントグラフ

施術は最近開始されたばかりで

あるため価格帯については不明

その他 インプラント 義歯(一本あたり) 約 20,000 ルーブル

人工関節置換術 3,000 ルーブル以上

人間ドッグ 3,000~6,000 ルーブル

(出所)ヒアリング調査より野村総合研究所作成

モスクワにおける検査料金水準及びサービスの一般的な価格は以下の通りである。ただし、以

下の図表における価格は、医療施設の差額ベッド代によって変額する。差額ベッド代は医療施設

によって様々であり、1,500 ルーブルから 5,000 ルーブル程度まで幅がある。

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図表 6-4-12 モスクワにおける検査等の費用(目安)

検査 検査分類 金額/回

消化器

系 検

査・手

上部内視鏡検査 胃と十二指腸の内視鏡検

査 1,500~2,000 ルーブル

下部内視鏡検査 大腸内視鏡検査 2,500~3,000 ルーブル

腹部エコー検査 約 1,500 ルーブル

腫瘍診

MRI 脳MRI検査 約 4,000 ルーブル

PET 20,000 ルーブル以上

循環器

系 検

査・手

頸動脈エコー 頸動脈エコー検査 約 2,000 ルーブル

胸部エコー 胸部エコー検査 約 1,000 ルーブル

ステント 心臓冠動脈ステント 40,000~100,000 ルーブル

その他 インプラント 義歯 10,000~20,000 ルーブル以上

人工関節置換術 30,000 ルーブル以上

人間ドッグ メニューによる。

血液検査のみの場合は 100~

1,000 ルーブル

(出所)ヒアリング調査より野村総合研究所作成

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②ロシアの病院での健診・治療の評価

ロシアの医療の内実について把握する際には、ロシアの医療をハードとソフトに分けて考える

ことが必要である。ハードとは主に医療施設そのもの、施設内における医療機器を指す。一方、

ソフトとは、医療施設に勤務する医師、医療スタッフ、その他スタッフなどを指す。

一般的に、ロシアの医療施設、医療機器の水準は日本と比較しても大きく後れを取っているの

が現状である。特に、ロシア東部においては医療施設、医療機器の老朽化や、それを扱う技師不

足が指摘されている。導入できる医療機器や、導入の可否などについては現場に決定権が無く、

州政府や連邦政府の裁量によって決定されるために、政治的中心であるモスクワに遠く離れた東

部都市のニーズが直ちに反映されることはなく、モスクワの方針が東部のニーズに合致しないこ

とも多々あるようである。

医療施設そのもの(建物など)もかなり老朽化しており、良好な環境と言える施設は一握りし

かない。患者の導線設計や、窓口対応のシステムなどが不十分な医療施設も散見された。

一方、ロシア人医師の質については、肯定的な意見もあれば、否定的な意見も寄せられた。特

に病院関係者のインタビューでは、医師の業務への肯定的な意見が多く聞かれた。しかしながら、

腕の良い医師がいたとしても、現場に置かれている医療機器が古いために十分な施術が出来ない

ことも示唆された。

(以下インタビューより抜粋)

・ ロシアの病院の医師は優秀である。10 年か 20 年ほどで日本の医師のレベルと遜色ないとこ

ろまで技術は向上するのではないか。(日本での医療ツーリズム経験者)

・ 資本主義化が進展するにつれて、お金に関する問題も増えてきている。医療が信用財であ

ることを逆手にとって、必要以上の対価を要求したりするケースも出てきている。病気でな

くともお金を取られたり、病気かはっきりしていなくても患部を切開しようとする医師もい

る。(日本での医療ツーリズム経験者)

・ ロシア極東部では診断設備、およびそれを扱う技術者が不足しているため、患者を診断す

ることが困難である。(日本での医療ツーリズム経験者)

・ ロシアでは質の高い診断を受けることが難しい。

(医療ツーリズム仲介業者(旅行代理店))

・ 簡単な血液検査をする設備さえ現場には設置されていない。

(病院関係者)

③日本の医療に対する評価

ロシア東部におけるインタビュー調査の中から浮かんできたのは、日本の医療に対する高い信

頼性である。

特に日本における腫瘍に関する診察、および治療の技術水準の認知度は高い。ロシアでは悪性

新生物による死亡が循環器疾患に次いで多いため、この分野における日本の優位性が特に強く認

識されていることが考えられる。また、麻酔を用いる治療のように、微妙な調合を求められるよ

うな医療サービスについても日本で提供されるサービスを選好する意見が聞かれた。

日本の医療サービスにおけるハードの部分については、特に医療機器について高い評価を受け

ている。医療機器を生産する日本企業の認知率は高く、日本での医療研修のある医師や、医療サ

ービスの利用経験がある患者から多くの言及があった。

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ソフトの部分については、手術時の医師の腕の高さに加え、医療スタッフなどのホスピタリティ

の高さについても言及があった。

また、提供される医療サービスに対するコストについても、それほど高くないという意見が多

く聞かれた。特に重篤な容体の場合には、ロシア国内で医療サービスを利用しようとすれば遠く

離れた都市の高度医療センターに行かざるを得ないケースも多くある。また、ロシアでは、定め

られた治療費以外にも様々な明文化されていないコストが発生するという側面もある。そうなる

と日本へ医療ツーリズムに行くことを選択しても、コスト的にはロシア本国で治療を受ける場合

と価格的な差がなくなり、相対的にコストの割高感が解消されることが背景にあると考えられる。

以上のように、総じて日本の医療についての評価は高く、多くのロシア人が医療サービスを受

けられるのであれば受けたいと感じているようである。

(以下インタビューより抜粋)

・ 日本の病院の医療サービスに対する信頼性は高い。例えば、麻酔など、微妙な調合が必要

な場合などは日本の病院で治療してもらう方が患者としても満足度が高くなる。

(日本での医療ツーリズム経験者)

・ 日本の腫瘍に関する技術は高く、ロシアでも治療ニーズは高い。

(医療ツーリズム仲介業者(旅行代理店))

・ 日本で医療サービスを受ける際の価格は、モスクワなどに行く場合とそれほど変わらない。

価格は同程度で信頼性が高いのが日本の医療サービスである。

(病院関係者)

・ モスクワ、韓国などの医療サービスと比較しても、日本の医療には競争優位性がある。

(病院関係者)

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2) ロシアにおける医療ツーリズムの実態

(1) 医療ツーリズムの実施状況

ロシアにおける医療ツーリズムは富裕層を皮切りに徐々に浸透しつつある。その背景としては

国内の医療環境の悪さにあると考えられる。

海外で医療サービスを受けられるだけの経済的な余裕のある患者にとっては、ロシアで受けら

れる医療サービスは相対的に魅力の低いものとなっている。ごく一部の富裕層は都市部の最高水

準の医療サービスを必要時に受診することができるが、その他の患者にとって、そのようなサー

ビスを受けるためには、追加的にコストを支払う必要があるために非常に負担が大きくなる。ま

た、MHIの適用されない民間医療機関で治療サービスを受ける場合には、かなりの出費が必要

となる。

また、高度な医療サービスを提供する医療施設がロシア西部に偏在しているため、東部地域の

患者は長距離を移動しなければならない。

移動に必要な金銭的コスト、時間的コスト、現地病院を利用する場合に求められる追加費用な

どを含めると、海外で医療サービスを受けた方が割安であるケースも多々あるようである。

ロシアでは疾病予防や健康に対する意識が低い分、医療サービスを必要とする時にはすでに病

状がかなり進行している場合も多いため、金銭的なコストに対する意識は緩和され、逆に時間的

なコストには敏感である。また、ウラジオストクやサハリンといった東部都市は富裕層が都市人

口に占める割合が他の都市と比較して若干高い。それゆえに、医療サービスの質が高く、地理的

に近接しているような国への医療ツーリズムのニーズは顕在化したもの、潜在しているものも含

め、非常に高いと考えられる。

このような状況において、本格的に医療ツーリズムを実施しているシンガポール、タイや、韓

国や中国といった近年医療ツーリズムに注力している国々に対する医療ニーズが増加していると

いうのが現状である。ロシア国内の医療サービスと比較して、これらの国々の医療サービスの価

格は同程度か若干安く、医療サービスの品質はロシアの一般的な病院よりも高い。このような条

件があるために、富裕層のみならず中間層の人々も海外への医療ツーリズムを選好するようにな

ってきている。ロシア西部については、前述の東・東南アジア諸国へ向かう人もいるが、ドイツ

やスイス、イスラエルといったヨーロッパ方面へ治療サービスを受けに渡航する人が多い。これ

らの国々が選好されるのも、地理的な近接性と治療の質の高さが背景となっていると考えられる。

ロシアと医療ツーリズムの各目的地を仲介するサービスはそれほど発達していない。しかしな

がら、シンガポールや韓国など、ロシアにおける医療ツーリズムに早くから着目している国は、

都市部の旅行代理店や医師などと提携して患者の一時対応や情報の授受などを委託するなど、ロ

シアからの患者受入態勢を構築し始めている。

また、タイ、シンガポール、韓国では国家レベルで医療ツーリズムをプロモーションしている

他、テレビやチラシなどを通じたプロモーションを行っている。

一方、日本への医療ツーリズムを仲介する業者もいるものの、これらの国の活動と比較すると

大きく出遅れているというのが現状である。ただし、今回インタビューした旅行代理店 2 店(図

表 6-4-13 参照)の両方が、日本の医療サービスの質の高さと競争力については肯定的であり、環

境が整えば日本への医療ツーリズム事業に参入したいという意向を示していることから、潜在力

はあると考えられる。

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図表 6-4-13 ヒアリング対象とした旅行関連企業

訪問先旅行

関連企業 会社の特徴

医療ツーリズムの

送客実績

A社

・ ウラジオストクを拠点とする旅行代理店。

医療ツーリズム商品も取り扱っている。

・ シンガポール、韓国へ

の送客が多い。

・ イスラエルやスイスへ

の送客実績もある。

B社

・ 海外で医療ツーリズムを提供する病院を経

営する医療組織のウラジオストクオフィス

である。

・ 左記病院への送客がほ

とんどである。

・ 現在は月に 10 人程度

を送客している。

(出所)各種資料・ヒアリング結果より野村総合研究所作成

(2) 医療ツーリズムの実施事例

上記 2 社の他、いくつかの旅行代理店による仲介などが行われている。また、病院の医師が直

接渡航先の医師に紹介するケースもあり、その場合には、旅行代理店の役割は一般的な旅行商品

を販売するケースと同じく、渡航手段と宿泊先の手配といった業務に留まる。

①医療ツーリズムの概要と送客実績

(A社)

・ ウラジオストクを拠点とする旅行代理店である。

・ 日本旅行も取り扱っており、日本の代理店とつながりがある。

・ 医療ツーリズムはシンガポール、韓国へ送客することが多い。専門的な手術を受ける場合に

は、イスラエルやスイスへも送客している。送客数は 10人/月である。これまでに消化器(腸

など)、関節、婦人病などの患者を海外に送り出してきた。

・ 同社がウラジオストクの患者から依頼を受ける場合、まず患者の現在の状態について話を聞

いた上で、患者を受け入れる国にいるパートナーに既往歴や希望する検査・治療などの情報

を提供する。受入国側のパートナーは同社と提携関係を結んでおり、現地医療機関のうち、

患者のニーズに合うような病院に受入を打診し、その結果について同社にフィードバックす

る。また、同社に対する現地情報等のアドバイスも行っているようである。

図表 6-4-14 A社のビジネスモデル

(出典)インタビューより野村総合研究所作成

患者 A社 受入国 パートナー

受入病院

病院・旅程の アレンジ

病院との 交渉依頼

アドバイス 受入病院の情報の 提供

照会 既往歴などの提供

受入表明

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(B社)

・ 海外で医療ツーリズムを提供する病院を経営する医療組織のロシアオフィスとして機能して

いる。

・ 患者の一時対応、現地病院の医師との情報のやり取りなどを行っている。WEBカメラを通

じてシンガポールの医師と直接コミュニケーションをとることも可能である。

・ 患者が他の病院で撮影したレントゲン写真や、CT画像を持ってきてもらい、それについて

コンサルティングする。その後、データをシンガポールに送信する。

②商品の価格・内容

(A社の場合)

・ 患者は費用を病院に行って支払い、そのうちの一定割合がパートナーに支払われる。そのう

ちのさらに一定の割合が同社に支払われるという構図になっている。

・ ケースによって前払い料金が発生することもある。その場合は、同社で前払い金を徴収して

パートナーに送金する。その他のプロセスは一緒である。

・ 手数料は一定ではない。口腔の治療の場合は、治療費の 5~10%程度が相場であるが、深刻

なケースは一定額の支払いとしている。(上限ありの累進課金制)

③日本への医療ツーリズム推進にあたってのリスクや問題点

・ 旅行代理店 2 社から寄せられた、日本への医療ツーリズム推進にあたっての問題点としては、

①ビザ、②通訳・翻訳、③窓口組織、④アクセスの悪さなどが挙げられた。

・ また、既に日本で医療サービスを受けた経験がある患者や、医療関係者、政府関係者などか

らは、上記の事柄に加え、プロモーションの必要性、支払い時に関する懸念などが提示され

た。

④医療ツーリズムの今後の展開意向

・ 前述の①から④の課題に触れたものの、A社、B社ともに、日本の医療ツーリズム事業に

は好意的であった。

(3) ロシアの医療関係者から見た日本の医療ツーリズムの課題

ロシア東部から日本への医療ツーリズムを推進するに当たっての課題として、①プロモー

ションの実施、②患者の一次対応を行う窓口の設置、③ビザの円滑な発給、④ロシア東部か

ら日本各地へのアクセス改善、⑤言語対応などがインタビューの中で上げられた。これら①

~④は、患者が日本への医療ツーリズムに赴く場合に必ず直面する問題に関しての課題であ

るといえる。これらの課題を克服、改善していくことで、ロシアから日本への医療ツーリズ

ムはより促進されると考えられる。

また、これ以外にも、一度日本で治療サービスを受けたロシア人が継続的に日本の医療サ

ービスを受けるような仕組み作り、CS(顧客満足)向上策の検討や、医療ツーリズム経験

者による口コミ発信をサポートするようなシステムの構築などが、日本の医療ツーリズムを

振興していくための軌道に乗せるためには必要であると考えられる。

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図表 6-4-15 日本への医療ツーリズムを促進する上での課題群と取組例

出典)インタビューをもとに野村総合研究所作成

⑥ プロモーションの実施

消費者行動理論において、消費者意思決定プロセスは

ⅰ)問題・ニーズ認知

ⅱ)情報探索

ⅲ)購入代替案評価

ⅳ)購買行動

ⅴ)購買後評価

ⅵ)廃棄行動

に大別することができる。

ロシアから日本への医療ツーリズムを促進していくためには、上記プロセスに則ったマーケテ

ィング・ミックスの適切な配分、配置が重要である。

日本への医療ツーリズムに関するプロモーションは、潜在的なニーズを顕在化し、日本への医

療ツーリズムに対する興味・関心を持たせる意味で、上記プロセスにおけるⅰ)に対して影響を

与えると考えられる。しかしながら、インタビューでも指摘されている通り、現状日本への医療

ツーリズムを促すようなプロモーションはほとんど行われていない。国家レベル、企業レベル、

医療機関レベルでのプロモーションを行っていくことが今後の課題であろう。

プロモーションの内容については、プロモーション媒体の選択にもよるが、単純に医療ツーリ

ズムを振興しているという情報のみを載せるということも考えられるし、より精緻な情報(窓口

の所在、一般的な価格帯、日本への医療ツーリズム利用時の様々なオプションなど)を伝達する

こともできる。プロモーションに持たせる目的と手段とによってコンテンツを調整していくこと

が重要であると考えられる。

課題①

プロモーションの実施

注意の喚起・ニーズの

顕在化

課題②

窓口の設置

課題③

査証白球システム

の見直し

課題④

アクセス改善 課題⑤

言語対応

課題⑥

リピートへの

仕組みづくり

・マス媒体、チャネル媒体、

店舗設置、代理店への営業

・経験者の口コミ活用

・発給までのプロセスの簡素

・医療ビザの発給など

・医療通訳の育成

・各医療機関での多言

語対応スタッフの育成

・旅行代理店型、簡易診断書方

の窓口の設置、一時対応、送客

サービスの仲介

・空路の改善(航路開拓、既存

空路の増便)

・空港からのアクセス性向上

・定期健診のニーズ喚起による

リピート購買システムの構築

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(以下インタビューより抜粋)

・ 日本で医療ツーリズムが行われていることそのものについてPRしていく必要がある。医療

機関の情報を有力な企業向けに発信していくことも一つの手段である。PRのポイントとし

ては、「どこに行ったら何ができるのか」、ということを示すこと。基本的なメニューとその

価格を提示すること、である。(医療ツーリズム仲介業者(旅行代理店))

・ 潜在顧客に日本の医療ツーリズムを伝えるためには、何らかのPRが必要になってくる。

(医療ツーリズム仲介業者(旅行代理店))

・ オフィシャルに日本での治療が可能であると情報発信している団体はいない。モスクワの情

報がもれ伝わってきたりするぐらいである。サハリンでは公式なチャネルはなくなってしま

った。今では、日本の医療サービスを受けたいと考える人は以前日本で医療サービスを受け

た人に相談することが多い。(日本での医療ツーリズム経験者)

・ 広告などによるプロモーション活動を展開していくことが重要である。媒体は何でもよいの

ではないか。センターの存在を認知してもらうことが重要である。

(日本での医療ツーリズム経験者)

・ 日本から健診・治療のPRをしていく必要がある。その際に重要なことは、大きな組織と話

してはいけないということである。なるべく小さな診療所、民間の組織にアプローチしてい

くことが重要である。(病院関係者)

⑦ 患者の一次対応を行う窓口の設置

ウラジオストク、サハリンにおけるインタビューにおいて、日本への医療ツーリズム推進上の

最も大きな課題として挙げられたのが、患者からの相談に対応したり、日本の医療機関と連絡を

取り合うような窓口の設置である。

日本への医療ツーリズムを知り、ニーズを持ったとしても、その患者が日本の医療機関にたど

りつくためには、患者をサポートする仲介機関、もしくは個人の存在が必要不可欠である。シン

ガポールにおける取組の場合、医療機関と契約を結んだ医師が対応窓口機能を担ったり、旅行代

理店が渡航先の医療機関を紹介するなど、患者と渡航先医療機関との間の懸隔を埋めるビジネス

モデルが構築されている。日本が今後医療ツーリズムを推進していくためには、このような取組

に倣い、旅行代理店との提携や、ロシア人顧客の相談対応が可能な医療人材を配したオフィスの

開設などを行っていく必要があると考えられる。また、ロシア東部の医療設備の現状を鑑みれば、

一次診断昨日を備えた窓口機関を設置し、ロシア人に対する健診・問診サービスを提供した上で、

ケースによってはそのまま日本の医療機関へ送客するといったシステムを構築することも有効で

あえると考えられる。

(以下インタビューより抜粋)

・ 特に現地に患者とやりとりするための組織が必要である。ホテルの予約など、医療サービ

ス以外の内容についても対応できることが望ましい。患者にとってコンタクト先がわから

ない、ということの影響は大きい。(医療ツーリズム仲介業者(旅行代理店))

・ 窓口でもいいので、日本の医療情報が得られる場所を作ってもらいたい。

(日本での医療ツーリズム経験者)

・ 情報センターのような形でもよい。医師や看護師がその場にいなくても問題ないのではな

いか。情報をそのセンターから日本に送ってもらえればよいのではないか。営利団体によ

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るセンターの運営というのも一つの選択肢である。要は情報のやり取りがスムーズである

ことである。(日本での医療ツーリズム経験者)

・ 日本の医療機関とロシアの潜在顧客を結びつけるための情報センターを設立することで医

療ツーリズムを推進することができるのではないか。(その他(メディア関係者))

・ ロシアにおけるサービスセンターを設立する必要があるのではないか。そこでは問い合わ

せ対応などの窓口業務を主に行い、実際の検査などはロシアの公立病院にアウトソースす

るのがよいのではないか。センターでは、その結果をもとに話せる機能があればよいだろ

う。(病院関係者)

・ 日本の医療機関とロシアの患者との間をコーディネートする機関が必要である。

(日本での医療ツーリズム経験者)

・ 海外へ医療ツーリズムに出かける人も増えてきた。市場は拡大してきており、海外の医療サ

ービスの品質に対する信頼感も醸成されてきている。今後は口コミレベルで広がっている医

療ツーリズムという商品をいかに効率的・組織的に普及させていくかが重要になっていくと

思う。(日本での医療ツーリズム経験者)

⑧ ビザ(査証)

ロシアから日本に渡航する場合にはビザが必要であるが、ウラジオストクやサハリンでは申請

から発給に1週間程度を要すると言われている。重篤な患者などは時間的コストに非常に敏感で

あることが予想されるため、ビザ発給にかかる時間の長さは医療ツーリズム振興上の大きな課題

であるといえる。

また、シンガポールなどは入国に関する障壁が低いため、治療ニーズを持ったロシア人がそち

らへ流れてしまうという機会損失も大きなものになっている可能性がある。

(以下インタビューより抜粋)

・ ビザの取得には平均して 1 週間かかると言われると、患者が日本で治療を受けようという

気持ちが弱まることも考えられるのでデメリットだと思う。

(医療ツーリズム仲介業者(旅行代理店))

・ 「Japan is difficult」というイメージがある。主にビザの問題によるところが大きい。

ビザ取得に要する期間は短くなったとはいえ、ビザが不要な他の多くの国と比較すると、

やはり面倒である。(病院関係者)

⑨ アクセスの悪さ

ウラジオストクやサハリンから日本を訪れる場合には基本的には飛行機を利用することになる

が、アクセス環境は決して良いとは言えない。

現在はウラジオストク航空が成田-ウラジオストク(週 2 便)、成田-ハバロフスク(週 2 便)、

成田-ユジノサハリンスク(週 2便)の他、新潟、富山などへの航路を運航しているものの、イン

タビューの中では利便性の低さを指摘する意見が寄せられた。

(以下インタビューより抜粋)

・ 空路については、航空会社の参入状況の関係で東京への路線が非常に高価である。

(医療ツーリズム仲介業者(旅行代理店))

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・ 日本の医療ツーリズムを振興していく上で、交通の便が悪いことが一番のネックである。(領

事館職員)

⑩ 通訳・翻訳

医療分野に限ったことではないが、日本を訪れる外国人が一様に感じるのは言語の壁である。

インタビューでも、医療ツーリズム関係者、利用機関関係者、旅行代理店などの仲介業者などか

ら幅広く言語に関しての課題が指摘された。指摘内容としては、通訳に関するものが大部分であ

った。

通訳・翻訳に関する課題に対しては、職業としての医療通訳人材の育成や、医療ツーリズムに

注力する意図を持った医療機関が海外人材を雇用したり、医師や医療スタッフの言語対応能力を

高めるなどの内製化などの対応策が考えられる。

⑪ リピートへの仕組作り

日本における医療ツーリズムを推進していく上で、一度日本で医療サービスを受けた患者が、

医療サービスをリピート購買するような仕組みを作ることは非常に重要であると考えられる。

また、海外で医療サービスを受けたことのあるロシア人の多くは、サービス利用を決めたきっ

かけを、他の人からの紹介や経験談などのいわゆる「口コミ」であると回答していることから、

一度日本で医療サービスを受けたロシア人患者が他のロシア人に対して医療サービスについて紹

介することができるような仕組みを構築することも重要であると考えられる。

⑫ その他 : 個人の費用支払(個人向け保険等)

上記の課題の他、インタビューの中で上げられた課題としては、個人の費用負担の在り方に関

するものがあった。ただし、基本的には支払いには保険を利用せず、自分の負担という認識が一

般的であり、保険などについての言及は尐なかった。また、支払い時のクレジットカードについ

ての意見なども寄せられた。

(以下インタビューより抜粋)

・ 海外向けの保険商品は無いので、患者の全額負担となる。ファンド組成という方法もあるが、

現状その可能性は無い。(医療ツーリズム仲介業者(旅行代理店))

・ クレジットカードもアメックスやダイナースなど、海外で多く使われているクレジットカー

ドが日本では使えないなどの問題がある。(病院関係者)

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3) ロシアにおける医療ツーリズムの可能性

ロシア・富裕層向けの医療ツーリズム事業の可能性については、肯定的意見も否定的意見も存

在する。

肯定的な意見としては、日本に対する親しみの高さ、モノ・サービスについての信頼性の高さ、

相対的に割安な医療費、高い医療技術水準、観光資源の魅力の高さ、地理的な近接性などが挙げ

られた。

一方、否定的な意見としては、先述の課題として挙げられた内容の他、ビジネス参入速度が遅

いために、他国に対して遅れを取ってしまうのではないか、という産業全体に関する懸念などが

寄せられた。

①肯定的意見

(ア) 親日的なロシア人の多さ

平成 16 年に行われた対日世論調査では、日本が好きか、という問に対して「好き」と答

えたロシア人は 37%である。また、親近感を持つ国としてフランス(25%)、ドイツ(17%)

に次いで、日本が 3 番目に回答が多い国となっているように、ロシア人は日本に対して親

近感や好ましい感情、イメージを抱いている。インタビュー調査においても、日本が医療

ツーリズムを推進していく上での良い材料になるという指摘が多くあった。

(以下インタビューより抜粋)

・ ロシア東部は地理的に日本と近接しているために、日本に親近感を抱いているロシア人は

多いようである。経済的にも日本との結びつきが強い。(領事館関係者)

・ 基本的にロシア人は日本びいきである。(領事館関係者)

(イ) 日本のモノ・サービスに対する信頼性

ロシアにおける日本のモノ・サービスに対する信頼性は他の国と比較しても高いものと

なっている。特に日本の製品の信頼性は高く、日本製品を所有することがロシア人にとっ

ての一種のステータスとなっているケースもある。

(以下インタビューより抜粋)

・ 両地域で日本製品に関する信頼性(ジャパンブランド)は高い。(領事館関係者)

・ 日本のモノ・サービスに対する信頼性(ジャパンブランド)は高い。それを反映して日本

の医療サービスも質が高いと認識されている。(その他(メディア関係者))

・ 日本製の医療機器に対するニーズは現場レベルでは強い。(病院関係者)

・ 日本製であるということは、信頼性の高さを表している。モノ・サービスどちらも日本の

ものであれば良いもの、というイメージがもたれている。それを所有したり、経験したり

することは一種のステータスとして認識されている。(病院関係者)

・ 日本のサービスに対してロシアの消費者は品質が高いと感じている。こういった気持ちを

抱く消費者は多ければ多いほどよい。

・ 日本は先進国であり、経済も安定しているので、一緒に事業を進めていくことが出来れば、

是非一緒にビジネスをしていきたいと思っている。(医療ツーリズム仲介業者(旅行代理店))

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(ウ) 相対的に廉価な医療費

ロシア東部の患者が医療サービスを受けようとした場合、病状が重篤な場合には、中部

もしくは西部まで移動しなければならない場合がある。また、ロシア各地の高度医療セン

ターは、外来患者が多く訪れ、施設として飽和状態にあるところも多く、優先的に医療サ

ービスを受けようとすれば、追加的に金銭が必要になることも多い。さらに、ロシアの医

療保険制度は完全に機能しているとは言えず、場合によっては、治療サービスを受ける場

合にも追加コストが必要になることもあるという。

これらの事情から、結果的に患者が支払わなければならないコストは、他国の医療サー

ビスを利用してもそれほど変わらない場合もある。さらに、同じ金銭的なコストを支払っ

ても日本を始めとした他国の医療水準の方が高いため、相対的に日本の医療サービスのコ

ストパフォーマンスが高くなる。

(以下インタビューより抜粋)

・ 日本で医療サービスを受ける際の価格は、モスクワなどに行く場合とそれほど変わらない。

価格は同程度で信頼性が高いのが日本の医療サービスである。(病院関係者)

(エ) 世界的に見て高い医療技術

ロシア人が治療のために海外の医療サービスを利用する場合、自分の抱えている傷病に

対する専門性を有した国・医療機関を選択する傾向が強い。日本は特に循環器治療や悪性

新生物などの腫瘍といった領域での評価が高いため、それらの分野ではロシア本国、医療

ツーリズム先行振興国に対しても競争力を有していると考えられる。

(以下インタビューより抜粋)

・ (医療ツーリズム目的での渡航先としては)シンガポールが最も多い。心臓など、特定分

野における治療、ということになると日本の病院も選択肢に入ってくる。

(日本での医療ツーリズム経験者)

・ 日本の腫瘍に関する技術が高く、ロシアでも治療ニーズは高い。(医療ツーリズム仲介業者

(旅行代理店))

・ モスクワ、韓国などの医療サービスと比較しても、日本の医療には競争優位性がある。(病

院関係者)

(オ) 観光資源

日本への観光がロシア人の間で人気となってきていることをうかがわせる指摘もいくつか

寄せられた。

(以下インタビューより抜粋)

・ 日本を訪問するロシア人は年々増加傾向にある。(領事館関係者)

・ ロシア人はかなり日本を訪れている。一方、日本からロシアに来る人はあまりいない。参入

する余地はまだまだあるのではないか。(領事館関係者)

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(カ) 地理的近接性

ロシアからの医療ツーリズムを推進していく上で、ロシアの出発地からのアクセスの良さ

も含めた地理的な近接性は非常に重要である。先述のとおり、航空便の尐なさなどの課題は

あるものの、3 時間程度で到着できることは、日本の強みの 1 つとして挙げられると考えら

れる。

(以下インタビューより抜粋)

・ 日本の医療ツーリズムはまだ端緒であるが、ニーズはある。日本とロシア(極東部)は地理

的に近接しているため、来やすいというのが大きいだろう。(領事館関係者)

②否定的意見

・ 日本は事業を展開するスピード、それに先立つ分析が遅い。次のステップを迅速に踏んでい

くことが重要である。(病院関係者)

・ (3)の①から⑥で触れられている通り、日本で医療ツーリズムを推進していくに当たり、

ビザなどの制度的な問題点に加え、交通機関の制約、日本のマーケティング不足などが指摘

されている。

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第7章 患者及び同伴者による満足度調査結果

1) 患者及び同伴者による満足度調査

(1) 実施目的

本事業を通じて実際にわが国で医療ツーリズムのサービスを体験した患者及び家族等から、

アレンジ事業者、医療機関に対する感想や意見・評価についてアンケート調査を実施するこ

とで、本事業で提供した各種サービスに対する満足度およびその要因を把握すると共に、今

後の事業化に向けて改善すべき点を明らかにする。

(2) 実施方法

本事業を通じて医療機関で健診サービスを受診した 24名を対象に実施。

調査票の中国語・ロシア語・韓国語・英語への翻訳及び配布・回収は国際医療サービス支援

センターが主導的に実施し、野村総合研究所は調査票の設計、集計・分析を担当した。

(3) 調査結果

回答者 20名のうち、男性は 12名、女性は 8名であった。

図表 7-1 回答者の性別

男60%

女40%

出所)患者及び家族による満足度調査結果より野村総合研究所作成

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回答者のうち、20歳以上 30歳未満の患者は 3名、30歳以上 40歳未満は 9名、40歳以上 50

歳未満は 4名、50歳以上 60歳未満は 4名であった。20歳未満、および 60歳以上の患者はい

なかった。

図表 7-2 回答者の年齢構成

30歳以上40歳未満

45%

40歳以上50歳未満

20%

20歳以上0% 20歳以上

30歳未満15%50歳以上

60歳未満20%

60歳以上0%

出所)患者及び家族による満足度調査結果より野村総合研究所作成

回答者のうち、アメリカ居住者は 3名、ロシア居住者は 7名、韓国居住者は 2名、中国居住

者は 8名であった。

図表 7-3 回答者の居住国

韓国10%

中国40%

アメリカ15%

ロシア35%

出所)患者及び家族による満足度調査結果より野村総合研究所作成

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回答者のうち、年収 5 万ドル未満の患者は 6 名、5 万ドル以上 10 万ドル未満の患者は 4 名、

10 万ドル以上 30 万ドル未満の患者は 3 名、30 万ドル以上 50 万ドル未満の患者は 0 名、50

万ドル以上 100 万ドル未満の患者は 3 名、100 万ドル以上の患者は 1 名、無回答は 3 名であ

った。

図表 7-4 回答者の年収分布

無回答

15%

5万ドル未

30%

5万ドル以

上10万ドル

未満

20%

10万ドル以

上30万ドル

未満

15%

30万ドル以

上50万ドル未満

0%

50万ドル以上100万ド

ル未満

15%

100万ドル

以上5%

出所)患者及び家族による満足度調査結果より野村総合研究所作成

回答者のうち、過去に来日経験があると回答した患者は 16名、無いと回答した患者は 3名、

無回答は 1名であった。また、来日経験があると答えた患者の来日回数は図表 7-6の通りで

ある。

無回答5%

無15%

有80%

25回8%

30回8%

100回8%

3回7%

4回8%

5回8%

6回8%

7回8%

10回37%

出所)患者及び家族による満足度調査結果より野村総合研究所作成

図表 7-5 回答者の来日経験 図表 7-6 回答者の来日経験回数

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回答者のうち、同伴者に付き添われて来日した患者は 10名、そうでない患者は 9名、無回答

は 1名であった。

図表 7-7 同伴者の有無

有50%無

45%

無回答5%

出所)患者及び家族による満足度調査結果より野村総合研究所作成

今回の医療ツーリズムにかかった費用について、「本人が全額負担」と答えた回答者は 1名、

「本人が一部負担」と答えた回答者は 2名、「本人以外が全額負担」と答えた回答者は 14名、

無回答は 3名であった。

以上のことから、本事業に参加した外国人顧客のほとんどは、何らかのスポンサーからの支

援を得て健診サービスを受診したことがわかる。

図表 7-8 費用負担について

本人が全額負担

5% 本人が一部負担

10%

本人以外が全額負

担70%

無回答15%

出所)患者及び家族による満足度調査結果より野村総合研究所作成

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本サービスを知ったきっかけについて、パンフレットと答えた患者は 0名、知人の紹介と答

えた患者は 4 名、関連企業・機関機関からの紹介と答えた患者は 12名、医師の紹介と答えた

患者は 0 名、代理店の店頭(店員)と答えた患者は 1名、無回答は 3名であった。

本事業は実証事業期間が極めて短かったことから、6 割の外国人顧客が関連企業・機関から

の紹介であると回答した。これは、国際医療サービス支援センターを構成する事業者が中国・

ロシアにおいて取引関係にある企業・機関からの紹介を受けたものと想定される。

図表 7-9 日本での医療ツーリズムを知ったきっかけ

インターネット上のホー

ムページ

0%

パンフレット

0%

知人の紹介20%

関連企業・機関からの

紹介

60%

医師の紹介

0%

代理店の店

頭(店員から

の説明)5%

その他

15%

出所)患者及び家族による満足度調査結果より野村総合研究所作成

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医療ツーリズムの渡航先として日本を選んだ理由として、「価格の安さ」と答えた患者は 1

名、「医療サービスの質・内容」と答えた患者は 12名、「滞在都市での観光」と答えた患者は

7 名、「旅行先が日本であること」と答えた患者は 8 名、「国が行っている事業であること」

と答えた患者は 3 名、「代理店の信頼感・ブランド」と答えた患者は 1名、「その他」と答え

た患者は 5名であった。また、「保険/帰国後のアフターサービスの充実度」、「医師の紹介」

と答えた患者はいなかった。

以上のことから、日本は、その医療サービスの質、豊富な観光資源、そして日本ブランドを

外国人顧客に訴求することが有効になると想定される。

図表 7-10 渡航先として日本を選んだ理由

価格

3%

31%

観光

19%

日本

22%

国営8%

保険0%

紹介0%

ブランド3%

その他14%

出所)患者及び家族による満足度調査結果より野村総合研究所作成

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日本を渡航先として選んだ最も大きな理由として、「医療サービスの質・内容」と答えた患者

は 10名、「滞在都市での観光」と答えた患者は 1名、「旅行先が日本であること」と答えた患

者は 2名、「国が行っている事業であること」と答えた患者は 1名、無回答は 6名であった。

その他の選択肢を選んだ患者はいなかった。

以上の結果から、外国人顧客に対しては、特に「医療サービスの質・内容」に訴求したプロ

モーションが有効であると考えることができる。

図表 7-11 渡航先として日本を選ぶ際最も重視したもの

0

50

5

10

5

0

0

0

0

30

0 10 20 30 40 50 60

価格

観光

日本

国営

保険

紹介

ブランド

その他

無回答

出所)患者及び家族による満足度調査結果より野村総合研究所作成

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商品説明、申込時のサービスの満足度についての満足度は以下の図表に示す通りである。

担当者の丁寧さや商品理解度といった受付時の対応には概ね満足との回答を得ている。

また、外国人顧客のニーズと、観光関連のサポート(観光情報・アクティビティ、刊行プラ

ン、宿泊施設プラン)との合致度に関しても、概ね高い評価を頂いている。

相対的に満足度が低かったのは、「医療機関の選択肢の多さ」「医療機関についての情報の充

実度」「お持ちのニーズと提示された医療サービスプランとの合致度」の、医療関連の項目で

あった。

以上のことから、医療関連のサポートについては、そのサービスレベルの向上が今後期待さ

れる。

図表 7-12 商品説明、申込時のサービスの満足度

5

5

15

10

5

25

25

20

40

20

75

55

30

35

35

35

35

50

25

35

15

35

10

20

30

25

20

20

5

20

5

5

30

25

25

5

5

0

0

15

0

0

0

5

5

0

0

5

0

0

0

0

0

0

0

0

0

0

0

0

0

0

15

5

0

10

15

5

10

10

0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100%

①担当者の対応の丁寧さ

②担当者の商品理解度

③医療機関の選択肢の多さ

④医療機関についての情報の充実度

⑤お持ちのニーズと、提示された医療サービスプランとの合致度

⑥滞在先における観光情報・各種アクティビティについての情報の充実度

⑦お持ちのニーズと、提示された観光プランとの合致度

⑧お持ちのニーズと、提示された宿泊施設プランとの合致度

⑨契約内容、支払い方法についての説明

⑩全体的な価格感

非常に満足 やや満足 普通 やや不満 非常に不満 あてはまらない 無回答

出所)患者及び家族による満足度調査結果より野村総合研究所作成

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商品説明、申込時のサービスのとして最も重視した点としては、「医療機関の選択肢の多さ」

と答えた患者が 8 名、「持っているニーズと提示された医療サービスプランとの合致度」と答

えた患者が 8 名、「医療機関情報の充実度」と答えた患者が 6名であった。

前頁の調査結果と同様、重視する項目としても医療関係のサポートを挙げる意見が多いこと

から、この領域におけるサポートレベルの向上は必須であるといえる。

図表 7-13 サービス購入時に最も重視したもの(3つまで)

20

15

40

30

40

10

15

15

0

25

0 5 10 15 20 25 30 35 40 45

①担当者の対応の丁寧さ

②担当者の商品理解度

③医療機関の選択肢の多さ

④医療機関についての情報の充実度

⑤お持ちのニーズと、提示された医療サービスプランとの合致度

⑥滞在先における観光情報・各種アクティビティについての情報の充実度

⑦お持ちのニーズと、提示された観光プランとの合致度

⑧お持ちのニーズと、提示された宿泊施設プランとの合致度

⑨契約内容、支払い方法についての説明

⑩全体的な価格感

出所)患者及び家族による満足度調査結果より野村総合研究所作成

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99

問診票の内容について、「非常に満足」、「やや満足」と答えた患者の割合が最も高かったのは、

「内容の読みやすさ、理解のしやすさ(13 名)」、「身体的な特徴、既往歴に関する質問項目

の詳細性(10名)」などであった。

他方、不満との回答が多かったのは、質問項目の量、現在の症状、お持ちの医療サービスニ

ーズを聞く質問の詳細性であった。

これらの回答結果からわかるように、問診票自体の翻訳内容には十分な満足を得ることがで

きたものの、質問項目に関係する内容、特に質問項目の量については不満が残ったと考えら

れる。

以上のことから、外国人向けの問診票においては、質問項目の量に留意しつつ、外国人顧客

の健診サービスニーズを把握するための質問項目を充実させることが望まれる。

図表 7-14 問診票の内容についての満足度

出所)患者及び家族による満足度調査結果より野村総合研究所作成

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100

問診票の内容についての意見・感想

問診票の内容については、その内容の詳細性を評価する声が多かった。その他に寄せられ

た要望としては、薬のアレルギーに関する質問項目や、検査プログラム一覧などを追加して

ほしいなどが挙げられた。

回答者の

居住国 意見・感想

ロシア 日本の問診票は詳しい。

ロシア ロシアでは普通、問診票はない。

ロシア 検査は待ち時間なく、すぐにいくつかの基礎検査を受けることができる。

中国 すべて良い。大満足。大変詳しい。

中国 問診票が詳しく、よかった。

アメリカ 問診票の食事に関する質問がすべて日本の食事だったこと。食事は日々変わるので「コレ」とは言えな

い。メトリックシステムはアメリカ人にとって分かりにくい。

中国 問診票は詳しいが、薬のアレルギーに関する質問がなかった。また既往症の質問について、子供のころ

にかかった病気は、(両親に聞かないと)わからない。

中国 問診票が詳しくて良い。

中国 すべて良かった。満足している。大変詳しい。

ロシア ロシア人の顧客に対しては、問診票をロシア語に訳すのが望ましい。

ロシア ロシアでは事前に問診票に記入することはない。

ロシア 1)検査のプログラムを選ぶために、検査一覧が有るとよい。

2)検査の結果を受け取るまでの時間が短縮されればよい。

中国 医師からの問診は詳しくて責任感が強い。

中国 詳しくて分かりやすい。

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101

問診票の内容についての医師・医療スタッフの理解度については、「非常によく把握してい

た」と答えた患者が 5名、「よく把握していた」と答えた患者が 9名、「どちらとも言えない」

と答えた患者が 5 名であった。「あまり把握できていなかった」、「全く把握できていなかっ

た」と答えた患者は 0名であった。無回答は 1 名であった。

以上のことから、医師・医療スタッフの問診票の内容に関する理解度については、概ね満足

を得ることができたと考えられる。

図表 7-15 問診票の内容についての医師・スタッフの理解度

非常によく把握していた

25%

よく把握して

いた

45%

どちらとも言えない

25%

あまり把握できていな

かった

0%

全く把握でき

ていなかっ

た0%

無回答5%

出所)患者及び家族による満足度調査結果より野村総合研究所作成

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102

問診票の内容の健診・治療サービスへの反映度については、「非常によく反映されていた」と

答えた患者が 3名、「よく反映されていた」と答えた患者が 8名、「どちらとも言えない」と

答えた患者が 6名、「あまり反映されていなかった」と答えた患者が 2名、「全く反映されて

いなかった」と答えた患者は 0名、無回答は 1 名であった。

5 割を超える外国人顧客が、問診票の内容が健診・治療サービスに反映されていると回答し

ていることから、健診・治療サービスの内容は、ある程度外国人顧客のニーズを反映したも

のになっていたと推定される。

しかしながら、「どちらともいえない」、「あまり反映されていなかった」合計で 4割に達する

ことから、より外国人顧客のニーズを反映した健診・治療サービスの提供が望まれる。

図表 7-16 問診票の健診・治療サービスへの反映度

非常によく反

映されてい

た15%

よく反映され

ていた

40%

どちらとも言

えない

30%

あまり反映さ

れていな

かった10%

全く反映されていなかっ

0%

無回答

5%

出所)患者及び家族による満足度調査結果より野村総合研究所作成

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103

医療施設で受けたサービスのうち、「非常に満足している」、「やや満足している」と答えた患

者の人数が最も多かったのは、「病院スタッフ(医師、看護師、技師、事務スタッフ)のホス

ピタリティ(19名)」、「健診、治療行為実施時、結果説明時等の通訳サービス(19名)」であ

った。一方、「文化的・宗教的な面での病院側の配慮(11名)」と最も低い値であった。

以上のことから、日本の医療施設におけるサービスは、外国人顧客から概ね高い満足を得て

いるため、現在の水準を維持すれば、引き続き高い満足度を得られると推定されるが、文化

的・宗教的な面での多様性への配慮については、今後の改善が必要となると考えられる。

図表 7-17 医療施設におけるサービスの満足度

出所)患者及び家族による満足度調査結果より野村総合研究所作成

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104

医療施設で受けたサービスのうち、重視する項目として多く選ばれた回答としては、「健診、

治療行為実施時、結果説明時等の通訳サービス(10名)」、「健診、治療行為の内容(7名)」、

「医療機器の質、先進性(7名)」などであった。

以上のことから、外国人顧客も通訳サービスの充実を最重要視していることが明らかとなっ

た。また、健診内容や医療機器の質、診断結果の情報量、得られた示唆といった医療サービ

スそのものに対する重視度も高いことが明らかとなった。これらの結果から、今後は医療通

訳の充実、並びに健診サービス自体の高度化を検討する必要があると考えられる。

図表 7-18 医療施設で受けたサービスで重視するもの(3 つまで)

35

20

30

50

10

20

35

25

0

0 10 20 30 40 50 60

①検診、治療行為の内容

②健診、治療行為の進行の円滑さ

③健診、治療結果の情報量、得られた示唆

④健診、治療行為実施時、結果説明時等の通訳サービス

⑤医療施設のロケーション

⑥医療施設の雰囲気

⑦医療機器の質、先進性

⑧病院スタッフのホスピタリティ

⑨文化的・宗教的な面での病院側の配慮

出所)患者及び家族による満足度調査結果より野村総合研究所作成

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105

医療サービス以外のサービスについての満足度は以下の図表の通りである。

本事業では、事業期間が限られていたことから、十分な観光プランを提供する余裕がなかっ

たために、「観光プラン」に対する満足度において、「あてはまらない」との回答が 30%に達

しているものと考えられる。

しかしながら、その他の項目(宿泊先の滞在、スタッフの対応、目的地間の移動)に関して

は、概ね高い満足度となっていることから、引き続きこのレベルを維持するようなサービス

の提供が望まれる。

図表 7-19 医療サービス以外のサービスについての満足度

出所)患者及び家族による満足度調査結果より野村総合研究所作成

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滞在期間中の、医療サービス以外のサービスについての意見等

プログラムの内容について満足している旨の記述がいくつか見られるが、プログラムの冗

長さ、滞在場所がずっと同じであったなど、顧客のニーズに合わせて商品を作り込む余地が

あることをうかがわせる意見も寄せられた。

回答者の

居住国 意見・感想

ロシア ①更に詳細な検査結果、(個人に合わせた)具体的な指示と、必要な場合は治療を受ける機会。

②明らかになった問題の検査(治療)のための、または他の領域についての再検査を受ける機会。

③プログラムには時間的余裕があったが、もっと凝縮してプログラムを組んでほしい。

ロシア ホテル、プログラムは素晴らしい。ロシアの患者の呼込みは、うまくいくだろう。

アメリカ 患者のニーズにもっと耳を傾けるべきである。患者にとって何がベストかを病院(医療ツーリズム事業

者)側で判断すべきではない。

中国 サービスがよく、健診も順調に進んでよかった。

韓国 3泊の間、同じ場所(ホテル)に泊まったのが少し残念でした。札幌以外の観光地も行きたかったです。

中国 初めて日本で健康診断を受けたので比較できない。

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107

来日前と来日後で日本の医療サービスについてのイメージがどのように変化したかを分析し

た。分析項目は「①医師の腕が良い、施術・診断結果の信頼性が高い」、「②最先端の医療機

器が揃っている」、「③サービスの品質が高い、人的なホスピタリティの質が高い」、「④価格

が安い」、「⑤外国人も利用しやすい」の 5項目である。

医師の腕、施術・診断結果の信頼性、サービス品質・ホスピタリティに関しては、来日前後

でイメージの変化は無く、概ね高い評価を得ていると考えられるが、医療機器の先端性に関

しては、来日前後で、イメージがやや低下している。このことから、中国・ロシア等におい

ても、富裕層が利用する医療機関では、相応の先端医療機器が整備されつつあると推察され

る。

また、外国人にとっての利用しやすさについては、来日前よりイメージが向上していること

から、本事業のようなサポートを充実させていけば、日本における健診受診に対するイメー

ジは更に向上することが期待される。

図表 7-20 来日前後での日本の医療サービスについてのイメージの変化

①医師の腕が良い、施術・診断結果の信頼性が高い

65

65

25

15

10

5

0

5

0

0

0

10

0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100%

来日前

滞在後

全くそう思う そう思う どちらでもないあまりそうおもわない 全く思わない 無回答

出所)患者及び家族による満足度調査結果より野村総合研究所作成

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図表 7-21 来日前後での日本の医療サービスについてのイメージの変化

②最先端の医療機器が揃っている

60

35

30

35

10

5

0

15

0

0

0

10

0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100%

来日前

滞在後

全くそう思う そう思う どちらでもないあまりそうおもわない 全く思わない 無回答

出所)患者及び家族による満足度調査結果より野村総合研究所作成

図表 7-22 来日前後での日本の医療サービスについてのイメージの変化

③サービスの品質が高い、人的なホスピタリティの質が高い

60

65

30

15

0

0

5

5

0

0

5

15

0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100%

来日前

滞在後

全くそう思う そう思う どちらでもないあまりそうおもわない 全く思わない 無回答

出所)患者及び家族による満足度調査結果より野村総合研究所作成

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109

図表 7-23 来日前後での日本の医療サービスについてのイメージの変化

④価格が安い

10

20

25

20

30

25

0

0

10

10

25

25

0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100%

来日前

滞在後

全くそう思う そう思う どちらでもないあまりそうおもわない 全く思わない 無回答

出所)患者及び家族による満足度調査結果より野村総合研究所作成

図表 7-24 来日前後での日本の医療サービスについてのイメージの変化

⑤外国人も利用しやすい

10

5

20

50

25

5

25

20

0

0

20

20

0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100%

来日前

滞在後

全くそう思う そう思う どちらでもないあまりそうおもわない 全く思わない 無回答

出所)患者及び家族による満足度調査結果より野村総合研究所作成

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110

今後再び健診サービス・治療サービスを受けたいと思うか、という質問に対しては、15名が

「また受けたい」、4 名が「どちらともいえない」と回答した。無回答は 1名であった。

以上のことから、今回の実証事業全体を通じては、日本における医療ツーリズムに肯定的な

評価が得られたと考えることができる。

図表 7-25 日本への医療ツーリズムの再利用意向

また受けたい75%

受けたいとは思わ

ない0%

どちらとも言えない

20%

その他0%

無回答5%

出所)患者及び家族による満足度調査結果より野村総合研究所作成

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111

日本で再び健診・治療サービスを受けたいと思った理由

医療技術、サービス、医療機器の質の高さに対する肯定的な意見が多く寄せられた。その

一方で、「年齢とニーズに応じた健診のレパートリー整備」、「医師と患者の1対1の関係性

の構築」、「外国人に対するサービスの整備」、「具体的な検査の受診」など、患者の状態に合

わせた医療サービスの提供が求められていることがうかがわれる。

回答者の

居住国 意見・感想

ロシア 友人や知り合いに勧めます。

ロシア 全ての人に、同じような検査が必要だとは思わない。年齢と必要に応じて、いくつかの健診を準備するの

がよい。

中国 サービスが良く、医療技術のレベルも高いので、信頼できる。

中国 中国から近い。医療スタッフの態度もよい。医療技術レベルも高い。

アメリカ 通訳者がいなければ、健診を受ける手順や検査技師などとのコミュニケーションも難しかっただろう。

アメリカ スタッフは知識もあり、有能なので日本で治療・検査などを受けたいと思います。

ただ、健診は少し機械的な印象を受けました。例えば、番号を受けとり、待たされ、番号で呼ばれるとこと

などが、人間的な親密さを軽減する原因ではないでしょうか。

医師と患者の1対1の関係があればよいのにと思いました。

健診自体は冷たい感じがしましたが、手順や待遇などは非常に能率的でした。能率・効率が一番のゴー

ルだとすれば、それは満たしていたと思います。

中国 外国人に対するサービスが良ければたくさんの人が来ると思う。

中国 中国から近い。病院スタッフの対応が良い。技術のレベルは高い。

中国 サービスが良く、技術レベルも高いので信頼できる。

ロシア 具体的な検査が受けられるようになることが望ましい。

ロシア 金銭的余裕。言葉を知らないこと。

韓国 最新の機器を使った正確な診察が受けられることに信頼ができるので。

中国 日本の医療は早期発見を重視している。日本で定期的に健康診断ができれば、早期発見と早期治療が

可能だろう。

中国 最新の設備があり、サービスも良く、健康診断の説明が詳しいから。

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112

第8章 日本人患者アンケート調査結果

8-1.集計結果

本事業への参加医療機関に来院した日本人に対して、平成 22 年 2 月 19 日より 3 月 14 日に各医

療機関に依頼し、調査票の配布・回収を行った。

1) 回収結果の概要

合計で 441 人の日本人の患者に対して、13 の医療機関においてアンケート調査を行ったところ、

調査対象となった日本人患者は、男性 201 人(回答者全体のうち 46%、以下同様)、女性 209 人(47%)、

不明 31 人(7%)であった。また、年代別に見ると、10 歳代が 0 人(0%)、20 歳代が 41 人(9%)、

30 歳代が 84 人(19%)、40 歳代が 93 人(21%)、50 歳代が 114 人(26%)、60 歳代が 62 人(14%)、

70 歳代以上が 17 人(4%)であった。来院理由では健診・人間ドックが最も多く、295 人(67%)、

次いで治療と回答した患者が 70 人(16%)、付き添いが 34 人(8%)、お見舞いが 7 人(2%)、そ

の他の理由と回答した患者・理由不明者は 35 人(8%)であった。

図表 8-1-1 日本人患者アンケート回答者属性

16% 67% 8% 2% 8%

0% 20% 40% 60% 80% 100%

属性(来院理由)

1.治療 2.健診・人間ドック3.付き添い 4.お見舞い5.その他・不明

N=441

出所)日本人アンケート調査結果より野村総合研究所作成

2) 設問別回答傾向

(1)医療ツーリズムの認知度

本調査対象者全員に対して、「『医療ツーリズム』という言葉をご存知ですか。」と質問したと

46% 47% 7%

0% 50% 100%

属性(性別)

男性 女性 不明

N=441

0% 9% 19% 21% 26% 14% 4% 7%

0% 50% 100%

属性(年代)

10歳代 20歳代 30歳代 40歳代

50歳代 60歳代 70歳以上 不明

N=441

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113

ころ、全体の 77%が「初めて聞いた」と回答した。「知っていた」と回答し、明確に認知していた

回答者は 6%に留まった。

次に、「あなたが健診・治療を受けている病院では、外国人患者の受け入れを検討していますが、

ご存知でしたか。」と質問したところ、14%が「知っている。気づいている。」と回答した。

図表 8-1-2 日本人患者における「医療ツーリズム」の認知度

Q1.「医療ツーリズム」という

言葉をご存知ですか。

6% 17% 77%

0% 20% 40% 60% 80% 100%

1.知っていた 2.聞いたことがある 3.初めて聞いた

N=439

出所)日本人アンケート調査結果より野村総合研究所作成

図表 8-1-3 来院した医療機関で実施している外国人患者受入の認知度

出所)日本人アンケート調査結果より野村総合研究所作成

(2)医療ツーリズムに対する日本人患者の意識

アンケートにおいて、「あなたが健診・治療を受けている病院では、外国人患者の受け入れを検

討していますが、ご存知でしたか。」との設問に対して、「知っている。気づいている。」と回答し

た患者を対象に、調査を行った。病院が外国人患者受入を行うに際して気になる点・実際に感じ

た点を質問したところ、次のような回答結果を得た。

14% 86%

0% 20% 40% 60% 80% 100%

Q2.あなたが健診・治療を受けている病院

では、外国人患者の受け入れを検討して

いますが、ご存知でしたか。

1.知っている 気づいている 2.知らなかった

N=441

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114

「病院が外国人患者を受け入れるにあたり、あなたが気になる点はありますか。」と質問したと

ころ、回答者の 29%が「外国人のマナー」、26%が「待ち時間が長くなる」を選択している。

この設問において「その他」を選択した回答者の多くが、外国人患者の受入に際しての「外国

人患者と医療機関の間にある言葉の壁、それに伴うコミュニケーション上のトラブル」を気にな

る点として挙げている。また、「その他」を選択した回答者の半数弱が「特に気になる点はない」

旨、記述している。尐数ではあったが、「感染症の拡散防止対策」も挙げられた。

図表 8-1-4 外国人患者受入に対する日本人患者の不安(複数回答)

26%

3%

7%

29%

8%

28%

0% 10% 20% 30% 40% 50% 60%

1.待ち時間が長くなる

2.診療時間が短くなる

3.診察の順番が変わる

4.外国人のマナー

5.救急時の受け入れ拒否

6.その他

Q3.病院が外国人患者を受け入れるにあたり、あなたが気になる点はありますか。N=61

出所)日本人アンケート調査結果より野村総合研究所作成

さらに、「実際に外国人患者がいたときに、あなたが感じたことをご記入ください。」と質問し

たところ、「外国人のマナーが悪かった」と回答した日本人患者は 14%、「待ち時間が長かった」

と回答した日本人患者は 26%であった。

この設問において「その他」を選択した回答者の多くが、「特に気になった点はない」と記述し

ている。また、先の設問への回答と同様に、「言語の壁」を挙げた回答も見られた。

図表 8-1-5 日本人患者が外国人患者受入に対して実際に感じた点(複数回答)

26%

3%

3%

14%

0%

54%

0% 10% 20% 30% 40% 50% 60%

1.待ち時間が長かった

2.診療時間が短かった

3.診察の順番が変えられた

4.外国人のマナーが悪かった

5.救急時の受け入れ拒否があった

6.その他

Q4.実際に外国人患者がいたときに、あなたが感じたことをご記入ください。N=61

出所)日本人アンケート調査結果より野村総合研究所作成

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115

(3)医療ツーリズムを実施する際の、日本人患者の要望

調査対象となった日本人患者全員に、「あなたが健診・治療をうける病院が、今後、「医療ツー

リズム」を実施するとした場合、病院に対して希望することはありますか。」と質問したところ、

次のような回答結果を得た。

調査対象者の 32%が「日本のマナーに従って健診や治療を受けるよう事前に依頼してほしい。」

という回答を選択している。続いて、調査対象者の 19%が「自分の健診や治療の待ち時間に影響

がないようにしてほしい。」という回答を選択している。

この設問において「その他」を選択した回答者の約半数には、「外国人患者の受入は予約制にし

てほしい」「自分の健診日に外国人患者の受入があることを事前に明確にしてほしい」「日本人患

者に影響のない健診方法としてほしい」という希望が挙げられた。また、「その他」を選択した回

答者の半数弱が、「外国人患者がスムーズに健診を受けるための対策(院内標識の多言語化やスタ

ッフの言語教育など)」を挙げている。

図表 8-1-6 日本人患者が医療ツーリズム実施にあたり、病院に希望する点(複数回答)

Q5.あなたが健診・治療をうける病院が、今後、「医療ツーリズム」を実施するとした場合、

病院に対して希望することはありますか。

6%

8%

3%

4%

32%

19%

10%

7%

2%

10%

0% 20% 40%

1.受付窓口や待合室、会計窓口を別にしてほしい

2.入院する病室を別にしてほしい

3.治療や健診を受ける部屋を別にしてほしい

4.1~3も含めて、全て別にしてほしい

5.日本のマナーに従って健診や治療を受けるよう事前に依頼してほしい

6.自分の健診や治療の待ち時間に影響がないようにしてほしい

7.医療ツーリズムを受け入れる日程を限定してほしい

8.医療ツーリズムを受け入れる日を事前に知らせてほしい

9.その他

10.特にない

N=439

出所)日本人アンケート調査結果より野村総合研究所作成

調査対象者全員に、「『医療ツーリズム』についてどう思われますか」と質問したところ、62%

に上る日本人患者が「病院が外国人患者を受け入れるにあたり日本人患者が気にする点・病院に

希望する点を踏まえて、日本人患者・受診者に影響のないように推進すべき。」と回答した。

「是非「医療ツーリズム」を推進するべき」と回答した日本人患者も 29%に上った。

この設問において、「外国人患者の受入は行うべきではない」とする理由に「観光と医療は同時

に行うべきではない」「医療機関は外国人患者の受入よりも日本人高齢者の対応を優先するべき」

という理由が挙げられた。

また、「その他」を選択した回答者では、受入体制の構築(言語の壁への対策、健診後の連携体

制、等)を行うべきとする記述が最も多かった。他に、外国人のマナー、日本人患者の受診機会

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への影響を懸念する内容の回答も見られた。

図表 8-1-7 日本人患者の医療ツーリズムへの考え方(複数回答)

Q6. 「医療ツーリズム」についてどう思われますか。

29%

62%

1%

7%

0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80%

1.是非「医療ツーリズム」を推進すべき

2.Q3・Q5を踏まえて、日本人患者・受診者に影響のないように推進すべき

3.外国人患者の受け入れは行うべきではない

4.その他

N=439

出所)日本人アンケート調査結果より野村総合研究所作成

8-2.調査結果のまとめ

本調査において調査対象となった日本人患者の 77%が「『医療ツーリズム』という言葉を初めて

聞いた」と回答しており、日本人患者への医療ツーリズムの認知度は現時点ではまだ低いと言え

る。

また、設問3、5への回答から、日本人患者は、外国人の受け入れにあたって、外国人の日本

の医療機関におけるマナー、日本人患者の待ち時間に対する影響を懸念していることが明らかに

なった。

「外国人患者の受入を気づいている・知っている」と回答した日本人患者を対象とする設問4

から、日本人患者の待ち時間について懸念を示している日本人患者数と、外国人患者受入時に実

際に「待ち時間が長かった」と感じた日本人患者数がほとんど変わらなかったことが分かった。

一方、外国人のマナーについては、懸念を示している日本人患者数よりも、外国人患者受入時に

実際に「外国人患者のマナーが悪かった」と感じた日本人患者数が尐ないという結果となった。

以上のことから、外国人患者のマナーの悪さについてイメージが先行している可能性が考えられ

る。また、外国人患者受入時に実際は「問題はない」と感じたとする回答者も多かった。

これらの結果は、日本人患者全員を対象とした設問5において、外国人患者受入に際して病院

に希望する点の調査結果とも一致している。設問5の結果から、外国人患者を受け入れる際に病

院に希望する内容として「日本のマナーに従って健診や治療を受けるよう事前に依頼してほし

い。」という回答が日本人患者に最も多く選択されている。次いで、「自分の健診や治療の待ち時

間に影響がないようにしてほしい。」という回答が選択されている。この調査結果から、来院して

いる医療機関での外国人患者受入への認知の有無とは関係なく、「外国人のマナー」「日本人患者

の待ち時間への影響」を気にする日本人患者が多いことが分かる。

設問3、4、5、6における「その他」の回答欄では、外国人患者受入による日本人患者への

不利益(待ち時間の増大・受診機会の減尐)が生じる懸念も挙げられたが、それ以上に、「日本で

の外国人患者受入に際して言語の障壁が多いのではないか」という回答及び、「外国人患者受入の

体制構築(通訳、院内表示の多言語化など)がまだ不十分なのではないか」という、医療機関側

の外国人受入体制の未整備に言及する回答が多く見られた。

設問6の結果でも、医療ツーリズムを推進するにあたっては、「病院が外国人患者を受け入れる

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にあたり日本人患者が気にする点・病院に希望する点を踏まえて、日本人患者・受診者に影響の

ないように推進すべき。」とする回答が最も多く、次いで「是非「医療ツーリズム」を推進すべき

との意見が続いていることから、医療ツーリズムに対して、日本人患者は比較的肯定的に捉えて

いるということが明らかとなった。

以上のことから、医療機関内の外国人患者受入体制の構築を十分にし、日本人患者への影響を

小さくすれば、通院している医療機関における医療ツーリズムの推進を肯定的に捕らえている日

本人患者が多いと考えられる。

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第9章 継続的事業化に向けた提言

外国人が、母国を離れて来日し、自己負担で日本の医療(健診・治療)を受ける場合には、満

足度の高い検査・治療を人一倍強く求める。この点は、今回の実証においても明らかであった。

日本の医療機関が、そのような世界の患者の高い期待に応えていくことは、日本の医療サービ

スが世界の医療サービスと共に向上することにつながり、結果として、外国人、日本人双方に裨

益する。

このような観点から、各国の取組事例を参考としながらも、日本にとってふさわしい形の医療

の国際化を目指していくべきであり、そのための提言を次の通り行う。

9-1.ターゲットとすべき顧客

海外ニーズ調査の結果から、中国・ロシア(極東地域)における医療ツーリズムへのニー

ズは存在することが明らかとなったことに加え、シンガポール・タイよりも地理的に近いと

いう優位性もあることから、この 2 国は日本にとって有望な市場と考えられる。また、本事

業に参加した一部の医療機関に対しては、韓国からの問い合わせがあることや、実証事業で

健診を受診したアメリカ人からは、ワンストップで全身を診断することができる健診に対す

る肯定的な意見も聞かれたことから、東アジア地域を中心に、幅広いエリアを対象とした事

業展開も想定しうる。

ただし、中国人富裕層は健康維持・管理に関する意識が比較的高いことに加え、国内で良

質の医療サービスを受けようとすると価格が高くなってしまうことから、健診に関するニー

ズが一定程度存在するのに対して、ロシアでは、病気が悪化してからでないと医療機関を利

用しないため、治療に対するニーズが高いなど、医療ツーリズムに対するニーズは国によっ

て異なることから、それぞれの市場の特徴に応じた対応が求められる。

9-2.注力すべき医療領域

海外ニーズ調査結果および患者による満足度調査の結果からも明らかになったように、日

本の医療機関が提供する健診サービスは、日本での医療ツーリズムを体験するための入り口

として、有効なツールとなりうる。各種調査結果から、日本における健診・治療のセールス

ポイントとしては、以下の 5 点が挙げられる。

① 多くの医療機関で、高い水準の医療技術を受けることができる

② 先進的な医療機器による診断・治療が受けられる

③ 健診は、日本独自の予防医学の考え方に基づいている

④ 日本の医療機関が提供する高いホスピタリティを体験できる

⑤ 「日本」というブランドを体験できる

今後は、これらの要素をアピールしていくことが求められる。

また、治療を事業化する際には、日本の医療が強みを持つ分野に特化してスタートさせる

ことが重要となろう。具体的には、①国内医療機関が先進的な医療機器を保有しており、か

つ②国内の医師のレベルが世界的に見ても高いと評価されている分野を絞り込むことが望ま

しい。各医療機関のコメントをもとに注力すべき領域を整理すると、がん治療(粒子線治療

を含む)、心臓ステント等の循環器系の手術、脳神経外科系の手術、小児医療等の領域が有望

と考えられる。

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9-3.事業拡大に向けた今後の取組事項

1) 外国人受入拡大に向けた基盤整備のための取組

本実証事業中(約 2 ヶ月)に、全 18 の医療機関において合計 24 人の外国人顧客の受入を

行ったが、準備期間が短かったこともあり、受入に向けた基盤の未整備に起因する課題とし

て、以下の3点が指摘された。

参加医療機関の受入余力に限界があり、受入決定に時間を要するケースが多かった

外国人顧客と医療機関のニーズのマッチングが十分に行えなかった

同意書や健診内容の説明等の文書の多言語化が不十分であったため、健診当日に詳

細な説明が必要になるなど、業務運営上非効率な部分があった

加えて、実証事業および各種調査事業の結果から、将来的に解決すべき課題として、以下

の 2 点の指摘があった。

海外の医療保険等を用いた支払への対応が望まれる

海外での一次対応、直接プロモーションを行うための営業拠点設置が望まれる

これらの課題は、小規模での実験的受入に留まる場合には大きな課題とはならないが、今

後、外国人受入数を拡大していくことを想定した場合、事前の対応を検討しておく必要があ

るものであることから、以下で対応方針について検討する。

(1) 国内での受入余力の拡大

本実証事業は、短期間の実施であったため、各医療機関ともに既に予約が立て込んでいる

状況下、最大限の配慮を行って対応したが、今後継続的に一定数の患者を受け入れることを

想定すると、今回のような対応を続けることは困難である。

よって、今後の事業拡大を想定する場合には、医療ツーリズムサービスを提供する医療機関

の裾野を広げていく必要がある。

ただし、外国人向けに安定して高品質の医療サービスを提供し続けるためには、「医療の

質」を担保した上での参加医療機関の拡充が必要不可欠である。そのため、一定の参加基準

を設けた上で、客観的な審査による参加病院の選別を行うことが必要になると考えられる。

具体的には、以下のような施策の検討が必要になると想定される。

事業参加適格性の基準設定

参加適格性の審査能力のある管理団体の選定または創設

管理団体による、医療機関に対する事業参加適格性の認証

管理団体に関するその他の論点として、医療機関アサイン機能もこの団体が担う形とする

のか、別の団体が担うのか等についても検討が必要である。(この点については後述する)

(2) 医療機関アサイン機能の高度化

本事業では、比較的定型化された健診について、外国人顧客のニーズを基にした医療機関

アサインを国際医療サービス支援センターが担当した。

しかしながら、医療機関の健診内容を十分に理解していないケースや、外国人顧客の健診

ニーズを十分に把握しきれないままアサインが行われるケースが数件報告され、参加医療機

関からは、アサイン担当者の医療知識の不足を指摘する声もあった。また、今後発生する可

能性がある治療での医療機関アサインは、健診以上に高度な医療的知識に基づく判断が求め

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られると想定される。

よって今後は、治療への展開も視野に入れた医療機関アサイン機能の高度化が必要になる

と考えられる。アサイン機能の高度化の手法としては、以下ような2種類の取組が想定され

る。

アサイン担当組織自体の高度化

メリット:医療機関にとって負担の尐ない形でアサインを決められる

デメリット:高度な医療知識が必要となるため、担当できる人材が限られる。

アサインプロセスがブラックボックス化しやすく、納得性が低い

アサインプロセスにおける医療機関の直接関与の拡大

メリット:高度な医療知識が要求されないため、アサイン担当組織が見つけや

すい

デメリット:外国人顧客と直接交渉する必要があるため、医療機関の負担が大

きくなる

なお、アサイン担当組織自体を高度化する場合には、以下のような事項への対応が必要と

なると考えられる。例えば、新規に以下のような機能を有する組織を設立することも視野に

入れるべきではないか。

適切なアサイン担当組織の選定

要件(案)

医療に対する深い理解

高い中立性

国内医療機関との強い連携

アサインプロセスの透明性担保

(特定医療機関への利益誘導を行わないようにするため)

他方、アサインプロセスにおける医療機関の直接関与拡大によってアサイン機能を高度化

する場合には、以下のような事項への対応が必要となる。

一次対応組織の選定

要件(案)

顧客ニーズを把握し、医療機関に伝達するための最低限度の医療知識

国内医療機関との幅広いネットワーク

想定される組織・・・病院団体、医療機関とつながりの深い民間企業 等

アサイン候補を選択するための医療機関別のセールスポイント一覧の作成

客観的指標(手術件数 成功率 等)による情報整理が必要

各医療機関におけるアサイン対応窓口の設置

アサイン対応時の医師間の連携

(3) 各種文書の標準化

一部の医療機関からは、外国人との訴訟リスクを軽減するために、契約書作成の必要性が

指摘された。また、効率的な業務遂行のために、契約書、同意書、検査内容説明書等の各種

文書の多言語対応の必要性もあわせて指摘された。これらの文書は、現状では医療機関ごと

に書式や説明内容が異なっており、多言語対応に際しても個別対応が必要となる。しかしな

がら、個別対応では非常に大きなコスト負担となることから、本実証事業では、基本的に通

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121

訳が日本語の文書内容を口頭で説明し、外国人顧客に同意頂いた上でサインを依頼するとい

う形で対応した。

今後、各医療機関の自主事業での展開を想定した場合、個別にこれらの書類を翻訳してい

たのではコスト面で大きな負担となる懸念がある。また、今後の参加医療機関の拡大を視野

に入れた場合、新規参入する医療機関にとってコスト面でも参入障壁が低い環境を整備する

ことが重要となると考えられる。

よって、今後取り組むべき事項としては、以下のような取組の検討・実施が望まれる。

検査内容説明書など、医療機関ごとの独自性がそれほど大きくないものに関しては、

文書を標準化し、多言語化したものを複数の医療機関共同で利用できるようにする

契約書や同意書など、医療機関ごとの独自性が求められる部分に関しては、必要事

項を網羅した「雛形」を作成し、それをベースに各医療機関がアレンジを加える形

で活用できるような体制を整える

(4) 海外保険会社との連携

本実証事業では、国際医療サービス支援センターの提供サービスとして、健診費用の回収

代行を行うことで、医療機関の健診費用未回収リスクや決済に関わる業務負担を軽減するこ

とに成功した。しかしながら、医療機関からは、今後国際医療サービス支援センターに期待

するサービスとして、海外保険会社を通じた支払への対応を求める意見が寄せられた。

また、海外保険会社との交渉経験のある医療機関からは、日本と支払ルールが異なる、健

診・治療サービス提供後にディスカウントを要求してくるなど、言語面だけでなく、事務処

理でも負担が大きいとの意見があったことから、この分野に関しても、医療周辺分野でのサ

ポート業務の一つとして、アレンジ事業者によるサービス提供を考える必要がある。

加えて、中国の医療機関関係者からは、日本での健診・治療受診に関心のある顧客にリー

チするための手段として、現地保険会社との連携を行うことの重要性が指摘されている。タ

イ・シンガポールの有力病院においても、欧米の保険会社と連携して集客を行っているケー

スが見られた。

以上のことから、今後医療ツーリズム目的での訪日外国人の規模を拡大させていくことを

想定した場合、①外国人顧客が本国で加入している医療保険等を用いた支払への対応、②海

外保険会社とタイアップした集客モデルの構築が必要となると考えられる。なお、この種の

対応窓口となる組織には、海外保険会社とのネットワークを持つことが期待される。

(5) 海外営業拠点の設立

海外ニーズ調査で指摘されたように、外国人に医療というサービスを日本で利用してもら

うためには、現地において継続的にプロモーションを行い、かつその品質や効果を実体験で

きる場を用意しておくことが望ましい。実際、既に本格的に医療ツーリズムを実施している

タイ・シンガポールの有力病院では、海外に営業拠点を持ち、そこで簡易な診断を行った上

で、本国に送客するという流れが出来上がっている。中国・ロシアにおいても、シンガポー

ルの医療機関の出先機関が設置されており、そこを介しての送客が行われていた。

しかしながら、各医療機関単独で設置しようとしても、①現時点では中国・ロシア両国に

おける市場規模が確定していないため、投資対効果が不明確であること、②国民向け医療サ

ービスの提供を第一目的とする日本の医療機関が海外に営業拠点を持つことに対して否定的

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な意見が出るリスクがあることから、個別の医療機関が海外拠点設立という大規模投資を行

うことは困難となる可能性が高い。

しかしながら、欧米を中心に日本人駐在員が多い国や地域では、日系の医療機関や健診セ

ンターが、日本人向けの健診・治療サービスを提供していることから、国外に既に設置され

ている日系医療機関や健診センターのリソースを、日本における医療ツーリズムの営業拠点

として活用することは十分に可能である。

また、日系の医療機関や健診センターが存在しない地域においては、複数の医療機関が合

同で簡易診断機能を有する拠点を設置するなどの対応が考えられる。

海外営業拠点には、以下のような役割が期待される。

医療ツーリズムに対する広報活動

外国人顧客からの問い合わせに対する一次対応

アフターフォロー(現地医療機関との連携を含む)

政府は、医療機関が海外営業拠点を設置する際に、資金面、人員確保面での支援を行うな

どの取組を行うことが考えられる。

2) アフターフォローの充実に向けた取組

本実証事業においては、全ての案件が健診であったこともあり、受入終了時点でアフター

フォローが必要となる事案は発生しなかった。

しかしながら、医療機関からは、今後想定される課題として、以下の 3 点が指摘された。

① 異常所見発見時の対応方法の決定

② 外国人顧客帰国後の問合せへの対応方法の明確化

③ アフターフォローに向けた現地医療機関との連携体制の確立

加えて、国際医療サービス支援センターを構成する企業群では、アフターフォローを外部

機関が対応する場合の患者情報管理・共有体制の整備の必要性が指摘された。

以下では、上記課題への対応方針について述べる。

(1) 異常所見発見時の対応体制の整備

本事業実施中における異常所見が発見された際の対応方針は、「日本人への対応と変わら

ない対応を行う」というものであった。

しかしながら、医療機関からは以下のような意見が出された。

資金面、日程面の問題で、継続して治療を受けることが出来ない場合の対応方針が

不明確

院内で対応しきれない疾病が発見された場合の連携の取り方が不明確

帰国して治療する場合の現地の医療機関との連携の取り方が不明確

これらの課題指摘に対応する方法として、今後は以下のような取組を行うことが想定され

る。

ケース別対応方針の整理

資金面で問題がある場合には、帰国後に対応できるように現地医療機関と連携

日程的に問題がある場合には、旅行代理店と連携して日程調整を行う 等

医療機関間の連携体制の整備

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医療機関アサイン機能を持つ組織が、患者の受け渡しを仲介する 等

帰国後の対応を依頼する先となる海外医療機関との連携強化(前述の通り)

(2) 帰国後の問い合わせへの対応方法の明確化

帰国後の問い合わせも、本実証期間中には発生しなかったが、医療機関側から、もし診断

書の内容に疑問を持たれた場合の対応をどうするのかという課題指摘があった。

中長期的には、外国人スタッフの採用などによって院内での多言語対応が期待されるが、現

時点では、中国語、ロシア語での問合せがあった場合に、医療機関が一次対応を行うことは

極めて困難である。

よって、当面は以下のような取組によって対応することが想定される。

外部機関による一次対応窓口の設置

窓口の要件

多言語対応が可能

外国人顧客からの疑問への回答が可能なレベルの医療知識

(もしくは医療アドバイザー等と短時間で連携できる体制)

時差対応が可能な受付体制

健診・治療を担当した医療機関による二次対応

二次対応が必要な場合には、一次対応窓口となった外部機関との連携が必要

具体的には、一次対応窓口が疑問の内容を伝え、それに対して医療機関が回答

を用意し、その内容を対応窓口経由で外国人顧客に伝達

(3) アフターフォローに必要な情報の管理・共有体制の整備

アフターフォローの実施にあたっては、前述のように国内外の複数の医療機関及び外部機

関の連携が必要となる。連携にあたっては、診断結果やカルテ等の外国人顧客情報の厳格な

管理と円滑な共有体制の整備が必要となる。

具体的には、以下のような取組の実施が期待される。

① 診断書、カルテ等の電子化及び標準化

② 病院間および外部機関との間でのデータ共有システムの構築

③ 海外医療機関との情報共有の仕組み構築(システム化もしくは業務フロー)

④ 個人情報管理のための認証取得

(4)海外医療機関との相互交流・提携関係の構築・維持

上記(2)(3)の円滑な実施のため、日本の医療機関と、患者の母国の医療機関との関係

構築が望まれる。両国の医療機関間で人材・情報の相互交流・提携関係の構築のための取組

として、以下のようなものが想定される。

中国・ロシア等医療機関関係者の日本への招聘(病院視察・勉強会の実施 等)

日中・日露等での医師・看護師等の人材交流の実施

3) 外国人向けサービスの高度化に向けた取組

本実証事業では、日本の医療機関が通常提供している健診サービスを、原則そのままの形

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で外国人顧客に提供し、その質、価格等については、外国人顧客による満足度調査において

概ね高い評価を得た。

しかしながら、一部の外国人からは「日本人にとって当たり前」と考えられている健診内

容や医療機関の体制が、必ずしもフィットしていないという指摘があった。また、医療現場

からは、通訳を介したコミュニケーションに一部支障があったとの指摘があった。

以上のことから、今後、外国人向けサービスを拡充していくことを想定した際には、以下

のようなものが必要になると考えられる。

(1)通訳・翻訳の高度化

(2)外国人向け健診・治療サービスの開発・提供

(3)外国人受入に向けた医療機関内部の体制整備

(1)通訳・翻訳の高度化

本実証事業において医療機関から最も課題指摘の多かった領域である。

通訳に関する課題

参加医療機関は、英語対応が可能な医師・看護師を概ね有していたが、中国語・ロシア語

に関しては、対応できるスタッフがいないとの声が大半であった。

現時点では医療通訳という公的資格は存在しないため、本実証事業では、日本において医

学・薬学を研究している留学生や外国人研究者を中心に人選を行い、医療通訳の役割を果た

してもらったが、外国人の場合には日本語能力で質にバラツキがあるなど、一部通訳として

十分に機能しない場面があった。加えて、健診における検査項目に対する事前の理解がなか

ったことから、バリウムや肺活量測定など、タイミングをあわせて行う必要がある検査にお

いては、検査の実施に支障が生じるケースも見られた。

以上のことから、個別の検査項目の内容を正しく理解した上で、円滑な健診進行をサポー

トすることが出来る医療通訳の育成・採用が必要と考えられる。

翻訳に関する課題

翻訳に関しても、英訳版の内容チェックは可能であるものの、中国語・ロシア語訳につい

ては医療機関内での確認が困難であることが明らかとなった。

医療機関からは、特に診断書の翻訳には極めて高い正確性が求められることから、その質

の担保を求める声が多く挙がった。

上記課題に対応するための具体的な取組としては、今後以下のような取組の検討・実施が

期待される。

政府による医療通訳・翻訳者の要件定義およびレベル認定

医療通訳・翻訳者育成にむけた医療知識・語学教育等の実施、資格取得支援等の仕

組みの整備

外部機関による翻訳内容のダブルチェック体制の整備

ただし、医療通訳・翻訳者の要請・活用に向けては、今後検討すべき事項は多数存在する。

本実証事業から明らかとなった代表的な検討事項としては、以下のようなものが挙げられる。

① どのような人材を医療通訳・翻訳者に育成すべきか

通訳・翻訳者に医療知識を教育するのか、医療知識のある人材に語学教育を施

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すのか

日本人の医療通訳・翻訳者を育成するのか、外国人の医療通訳・翻訳者を育成

するのか

② 医療通訳・翻訳者を誰が主体となって育てるのか

各医療機関が自己負担で内部育成するのか、国際医療サービス支援センターが

顧客向けに育成するのか

③ 医療通訳・翻訳者は誰の代理人として働くのか

医療機関の代理人として直接雇用すべきなのか、患者の代理人として支援セン

ターが雇用し、患者の依頼に応じて医療機関に派遣すべきなのか

④ 医療通訳・翻訳者の負うべき責任範囲はどこまでか

医療通訳・翻訳者が、その業務内容に対して過度な訴訟リスクを負わないよう

な保障の枠組が必要

(2) 外国人向け健診・治療サービスの開発・提供

日本の医療機関が提供する健診サービスは、日本人の疾病構造に基づいた、日本人向けの

ものとして構築され、発展してきた経緯を持つが、その内容が外国人にフィットする内容で

あるかについては、十分な検証が行われていないのが実態であった。

本実証事業においても、問診票における食生活欄、及び健診メニューについて、改善の必

要性を指摘する声が、外国人顧客から聞かれた。加えて、現場の医師からも、文化・生活習

慣の違いから、生活指導の面でのアドバイスに苦慮したとの声も聞かれている。

また、本実証事業で仮設定した健診価格については、まだ試行錯誤の段階であり、実際に

かかる経費をふまえた適切な価格設定とする必要がある、との意見も出された。

よって、今後事業を拡大していくことを想定する場合には、外国人向けの健診・治療サー

ビスメニューについて検討するとともに、外国人向けのサービスを提供する際に得るべき対

価(価格)についても医療機関内部で再検討する必要があると考えられる。外国人向け・治

療サービスメニューの開発に当たっては、中国・ロシア等主要相手国における疾病構造の調

査を行った上で、検査項目・問診票等の健診・治療サービスの見直しを行うなどの検討が必

要になると考えられる。

また、外国人向け健診・治療価格については、上記の見直しが行われた後に、再度設定す

ることも必要と考えられる。

(3) 外国人受入に向けた医療機関内部の体制の整備

本事業では、外国人向けに特別の体制を整備しない状態で外国人顧客の受入を行ったが、

外国人患者、現場の意思の双方から、以下のような意見が出された。

外国人顧客からは、文化の違いを考慮した食事メニューの提供、および院内掲示の

多言語表記の必要性を指摘する意見が聞かれた。

現場の医師からは、外国人顧客への指示を行う際に必要な用語集作成の必要性が指

摘された。

一部医療機関からは、外国人スタッフ(特に看護師)の積極的活用ができるような

制度整備の必要性が指摘された。

また、タイ・シンガポール調査から、両国の有力病院では、以下のような対応が取られて

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126

いることが明らかとなった。

食事メニューは複数種類が用意されており、各人の文化・習慣に合わせた選択が可

一部の医療機関では、通訳だけでなく、顧客と同国籍の医療スタッフによる対応が

可能な体制が整備されている

以上のことから、外国人向けサービスの高度化を指向する場合には、健診・治療サービス

の開発と並行して、外国人を受け入れやすい病院内部の体制整備が重要である。具体的には、

①文化・習慣の違いへの対応(食事のバラエティ拡充、施設内での多言語表記 等)、②外国

人スタッフの採用・活用ができるような法整備、③多言語化された指示用語集の作成、とい

った取組の実施を検討することが期待される。

4) 日本の医療に対する認知度向上に向けての取組

中国・ロシアにおける海外調査を通じ、両国においては日本というブランドに対する信頼

性は高いものの、医療に対する認知度が決して高くないことが明らかとなった。継続的に事

業を推進していくには、一定の収益性が担保されるだけの顧客を獲得することが必要となる。

よって、顧客獲得のための第一ステップとして、有望な相手国(例えば中国・ロシアを想

定)において、日本の医療に対する認知度を向上させることで、医療ツーリズム目的での渡

航先として、日本を想起してもらえるようにする必要がある。

具体的には、以下の4つの取組が重要になろう。

(1)国家レベルでのプロモーション活動

(2)口コミによる潜在顧客に対する直接プロモーション活動

(3)現地メディアを通じたプロモーション活動

(4)海外医療機関との相互交流・提携基幹系の構築・維持

それぞれの具体的な取組方針を以降に示す。

(1) 国家レベルでのプロモーション活動

既に本格的に医療ツーリズムを実施するタイ・シンガポールでは、政府によるサポートは

一部あるものの、各医療機関主導でプロモーションを実施している。これらの国々において

各医療機関がプロモーションを主体的に行う理由は、外国人向け医療に特化しているため、

外国向けプロモーション活動が顧客獲得のために必須の活動として位置づけられているため

である。

しかしながら、国民への医療サービス提供を基本的なミッションとしている日本の医療機

関にとって、同じような海外プロモーション方法は馴染まない。当面は、国が支援する形で、

日本の医療を対外的に広報する仕組を探っていくことが求められるのではないか。具体的に

は、以下のような活動の実施が有効ではないか。

本事業で構築した Web コンテンツの充実(各医療機関の実績情報や日本における健

診サービスの概要説明の掲載 等)、SEO を用いたアクセス数向上に向けた工夫

ロシア・中国等における在外公館による広報活動

海外拠点を持つ日本企業による、社員向け広報

海外営業拠点(後述)を活用したプロモーション活動

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(2) 口コミによる潜在顧客に対する直接プロモーション活動

国際医療サービス支援センターの活動から、中国・ロシア両国においては、既存の旅行代

理店を通じたマスプロモーションによって富裕層へリーチすることには限界があることが明

らかとなっている。

両国とも、所属する富裕層コミュニティ(実業家の社交クラブや各種団体)を介した口コ

ミによって渡航先を決めているケースがあるとの指摘があることから、これらの富裕層コミ

ュニティへのチャネルを確保し、日本の医療サービスを体験してもらう機会を設定すること

が重要となると思われる。

(3) 現地メディアを通じたプロモーション活動

旅行代理店以外のメディアとしては、テレビや新聞といったマスメディアの活用が挙げら

れる。特にロシアにおいては、医療系教育チャンネルが存在することから、このチャンネル

に冠番組等を提供することによって、日本の医療に対する認知度を向上させることも期待さ

れる。

(4) 海外医療機関との相互交流・提携関係の構築・維持

ロシア・中国ともに、医療を絡めた旅行パッケージを販売することには限界がある。国際

医療サービス支援センターによれば、ロシアにおいては旅行者は既に旅行目的と行き先を決

めた状態で代理店にビザ・旅券の手配を依頼するし、中国においては、旅行産業自体が成熟

していないため、日本の旅行代理店が提供するような充実した旅行パッケージを組成するこ

とは困難であるとのことである。

よって、富裕層が医療ツーリズム目的の渡航先として日本を選んでもらえるようにするに

は、意思決定する前の相談の段階で、日本を渡航先候補として想起してもらう必要がある。

このため、海外での健診・治療を考えるきっかけになるであろう現地医療機関において、日

本の医療機関を紹介してもらえるような関係作りが必要である。具体的には、両国の医療機

関間で人材・情報の相互交流・提携関係の構築・維持が望まれる。医療機関間の相互交流・

提携関係の構築・維持のための具体的な取組としては、以下のようなものが想定されると考

えられる。

政府・地方自治体・病院団体等による交流機会のアレンジ

海外の医療機関と日本の医療機関との間の相互交流協定の締結

海外(例:中国・ロシア)の医療機関関係者の日本への招聘(病院視察・勉強会の

実施 等)

日中・日露等での医師・看護師等の人材交流の実施

5) 医療目的での来日を促進するための取組

本事業での訪日外国人顧客のように、日帰りもしくは 1 泊の健診受診を目的とする医療ツ

ーリズムであれば、既存の観光ビザでの対応が可能である。

しかしながら、健診の結果異常が発見され、治療が必要になるケースも今後想定されるこ

とから、観光ビザの期限を超える期間の滞在を可能にする枠組みの整備が必要となる。

また、ロシア調査の結果から明らかになったように、最初から治療目的での来日を希望す

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る外国人顧客も存在することから、訪日目的がそもそも観光ではなく、医療であるケースが

発生する可能性も尐なくないと予想される。

これらのケースに対応するために、現在はビザの弾力的運用で対応しているため、当面は

この方法での対応が可能であると考えられるが、中長期的には医療用ビザを創設するなど、

中長期の滞在を前提に入れた受入体制の整備の検討が必要になると考えられる。

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おわりに

本調査事業では、実証事業として、外国人向けの健診サービスの提供に関心を有する日本の医

療機関から構成される国際医療サービス推進コンソーシアム、及び外国人向け医療関連サービス

に関心を有するアレンジ事業者群から構成される国際医療サービス支援センターが連携して外国

人に対する健診サービスの提供を試行することで、医療ツーリズムの継続的実施に向けて医療機

関と国際医療サービス支援センターに求められる機能、医療機関と国際医療サービス支援センタ

ーの関係のあり方を検討した。また、実証事業と並行して、医療機関・アレンジ事業者群に対す

る事業者ニーズ調査、シンガポール・タイ・中国・ロシアにおける海外ニーズ調査、患者および

家族による満足度調査、および医療機関現場調査を通じて、我が国における今後の医療ツーリズ

ムの可能性等について検討を行った。

本調査においては、実質約 3 ヶ月という限られた期間の中において、国際医療サービス推進コ

ンソーシアムおよび国際医療サービス支援センターを組織した上で 24 名の外国人顧客の受入を

実現するとともに、海外ニーズ調査を始めとする各種調査事業を実施することを通じて、我が国

における医療ツーリズム事業の方向性の検討に資する一定の成果を得ることが出来た。

しかしながら、短期間での事業立ち上げゆえの課題(プロモーションに十分な時間を確保でき

なかった、医療機関とアレンジ事業者のコミュニケーション機会が不足していた、アレンジ事業

者間の連携を促進するための機会を確保できなかった 等)が発生したことから、我が国におけ

る医療ツーリズムの可能性をより高い精度で検証するには、今回構築した国内外の関係者のネッ

トワークや事業インフラ等を基盤とした、更に踏み込んだ取組が今後必要になると考えられる。

具体的には、我が国における医療ツーリズムの発展のためには、医療機関側の受入体制の整備、

および医療ツーリズム関連分野における産業の育成の両方を推進していく必要があると考えられ

る。医療機関側の受入体制の整備については、外国人向け健診・治療サービスの開発・提供、異

なる言語・文化・生活習慣等へのハード・ソフト面での対応等、個別の医療機関が取り組むべき

領域も存在するが、環境整備として期待される、参加医療機関の拡大、契約書や各種文書の標準

化、外国人顧客・外国人スタッフの受入を阻害する法制度・規制等の見直し検討や、海外医療機

関との連携などの方策の検討については、国や医療業界が主体となって推進していくことが必要

となるであろう。また、医療ツーリズム関連分野における産業の育成に関しても、個別のサービ

ス高度化に関しては個別の事業者が自助努力で取り組むべきだが、海外における日本の医療に対

する認知度向上に向けた取組の支援、医療通訳・翻訳のレベル認定等、個別事業者の取組だけで

は限界のある領域については、国や業界団体が連携して環境整備を行っていくことが期待される。

これらの領域については、今後更なる可能性・方策の検討が求められるであろう。

外国人が、母国を離れて来日し、自己負担で日本の医療(健診・治療)を受ける場合には、満

足度の高い検査・治療を人一倍強く求める。日本の医療機関が、そのような世界の患者の高い期

待に応えていくことは、日本の医療サービスが世界の医療サービスと共に向上することにつなが

り、結果として、外国人・日本人、双方に裨益する。また、日本の医療サービスの提供を、日本

の社会保障以外の顧客に拡大することは、医療産業(医療サービス、医療機器、医薬品等)の市

場を拡げることとなり、より多くの投資・開発といった産業発展の好循環の契機となる。このよ

うな観点から、我が国は、各国の取組事例を参考としながらも、日本にとってふさわしい形の医

療の国際化を目指していくべきであり、本調査結果が、その具体的な第一歩として寄与すること

を期待したい。

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参考資料

1) 受け入れフロー

医療ツーリズム実施の際、具体的にどのようなフローで業務を行うのか、その概略について、以

下の通りモデルケースを例示する。あくまで参考例示であって、個別の事情に応じて加除が必要

であることを予めご留意いただきたい。

業務フロー詳細

項 目 内 容

申し込み

からアサイン

問い合わせフォームに記入し、E-mail, Telにてコールセンターへ連

E-mail, Tel , Fax にてコールセンターへ連絡

コールセンター : 平日 09:30-18:00 日中と平日: JTBGMT

英語、中国語、ロシア語、韓国語

夜間・土曜休日 日本エマージェンシーアシスタンス

病院のアサイン

受診者の具体的希望内容を医療機関アサイン箇所へ連絡

受診者の希望内容に基づき医療機関の選定、及び医療機関宛予

約手配を行い、コールセンターへ結果回答

予約結果(見積もりを含む)を言語別担当者より受診者、又は海外

窓口へ回答

その他、旅行関連手配希望がある場合は、予約・見積りを回答

予約内容を確認しコールセンターへ予約の承諾・又は不承諾の連

承諾の場合、医療機関の指定健診申込書、旅行関連手配がある場

合は旅行関連契約書を送付

アサイン箇所へ予約承諾結果を連絡、及び翻訳担当窓口へ問診票

の翻訳依頼

上記結果を該当医療機関へ連絡

健診申込書、個人情報に関する同意書、旅行関連手配がある場合

は旅行関連契約書に記入しJTBGMTへ

FAX又はPDFにて送付

・医療機関アサイン箇所経由該当医療機関へ健診申込書送付。

・アサイン箇所が最終予約受入れ確認実施

※ 検尿・検便等を確実に行えるようにするために、健診の事前、遅くとも健診実

施の 1 週間前までには、検査キットを受診者本人に送付しておくことが望まし

い。

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支払関連

請求書送付 申込書、及び契約書を確認し、受診者、又は海外窓口へ請求書を

送付

集金代行ありの場合 : 医療機関+旅行関連の見積り金額を請求

*治療の場合は想定額をデポジット請求

集金代行なしの場合 : 旅行関連見積り金額のみ請求

支払実施 事務局へ支払 (銀行振り込み、又はクレジットカード払い)

支払期限:到着の 1 週間前まで

入金確認 入金確認 *1 週間前までに確認できない場合は督促実施

精算

代行集金ありの場合 : 健診・治療実施日に実費用を該当病院に

確認し、過不足があれば受診者と精算

代行集金なしの場合 : 該当病院にて健診・治療終了後直接支払

代行集金ありの場合 : 健診・治療実施後速やかに実費用をコー

ルセンターへ請求

代行集金ありの場合 : 該当医療機関から請求書入手後 1 ヶ月以

内に指定口座へ振り込み

医療通訳

言語別通訳者の集約についてマイスへ依頼

1 月 22 日まで集約し、受診者アサイン確定後コールセンターの指示

により通訳手配

翻訳窓口に対し手配依頼、確定後に派遣契約を実施し、受診者へ

通訳者の氏名報告を行う

ビザサポート 受診者の要請に応じ、観光ビザ申請に必要な身元保証実施

診断結果

診断結果作成 受診後、口頭にて結果報告を実施し、事務局宛に診断結果を送付

診断結果転送 診断結果をマイスへ送付

診断結果翻訳 診断結果の翻訳(英語、中国語、ロシア語、韓国語の何れか)実

施、事務局へ送付

診断結果送付 診断結果をDHL等クーリエ便にて受診者の自宅へ送付

満足度調査

フォーム翻訳 原稿入手し、内容翻訳後、事務局へ送付

フォーム配布・回収 受診者のウェルカムキットに調査票を入れ配布、帰国までにFAX又

は郵送にて回収

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2) 各種医療関連書類の例

医療ツーリズム実施の際、医療機関で必要となる基本的な書類について、以下の通りひな型を

示す。あくまで参考例示であって、個別の事情に応じて加除が必要であることを予めご留意いた

だきたい。

(1)健康診断申込書のひな型

健康診断申込書(案)

申込日 年 月 日

Name

Sex ①Male ②Female

Date of Birth Year/Month/Day: / / /

Address

Home

Address

Address

In JAPAN

電話番号

Phone

Home

In JAPAN

受 診 希 望 日

第 1 希 望 年 月 日

第 2 希 望 年 月 日

第 3 希 望 年 月 日

受 診 コ ー ス 1. 日帰りドックX線検査(胃バリウム造影) 2. 日帰りドック内視鏡検査(胃カメラ?)

3.一泊二日ドック 4. PET 健診 5. その他( )

オプション検査

1. 脳ドック ①頭部 MRI ②MRA検査

2. 肺ドック ①喀痰細胞診検査 ②胸部 CT ③気管支鏡検査

3. 心臓ドック ①心臓CT ②心臓MRI

4. 内視鏡検査 ①胃内視鏡検査 ②大腸内視鏡検査

5. 胃がん検査 ①ピロリ菌 ②ペプシノーゲン

6. 腫瘍マーカー ①PSA ②CEA ③CA19-9 ④AFP ⑤CYPFRA

⑥NSE ⑦CA125 ⑧Pro GRP

7. 感染症 ①HIV ②HCV ③HBs ④梅毒

8. アレルギー検査 ①各種アレルゲン特異的 IgE 抗体測定検査

9. 骨ドック ①骨塩定量検査 ②腰椎レントゲン ③骨代謝マーカー

10. 動脈硬化ドック ①MRI/CT検査 ②頚動脈超音波検査 ③血圧脈波検査

11. 甲状腺ホルモン ①fT4 ②TSH

12. 炎症マーカー ①RF ②ANA

婦 人 科

オプション検査

①乳腺エコー ②乳房検診(マンモグラフィ) ③経膣エコー

④子宮頸部細胞診検査 ⑤子宮体部細胞診検査 ⑥骨盤 MRI

健診結果の

翻訳希望 ①健康診断検査結果の翻訳を希望します。 ②健康診断検査結果の翻訳を希望しません。

健診結果の

郵送方法 ①受診した医療機関による送付を希望します。 ②旅行業者からの送付を希望します。

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(2)基本契約書のひな型

基本契約書(例)

受診者(氏名) (以下「受診者」という。)と医療機関(施設名称) (以

下「協力医療機関」という。)は、協力医療機関が受診者に施行する医療行為に関して、次のとおり基

本契約を締結する。

第1条 基本契約書の適用範囲

本基本契約は、受診者と協力医療機関との間で別途合意するところにより協力医療機関が外国人受診者に施行する健康診断、保健指導、入院診療、外来診療、その他一切の医療行為について適用される。 ただし、受診者と当院との間で文書による別段の合意を行うことを妨げません。

第2条 医療機関の業務内容 協力医療機関は、受診者に対し、受診者との間で予め取り決めた健康診断等の医療行為を施行(健康診断を施行した場合は、その結果についての説明も含む。)する。

2 協力医療機関では、健康診断等の医療行為の施行前に、受診者に対して、当該医療行為の実施目的、意義、方法、リスク、受診前の注意事項等を記述した書面(但し、その記載項目は、医療行為ごとに異なる可能性があります。)を交付し、その内容を説明する。

3 協力医療機関が健康診断等の医療行為を施行するに際して、受診者が体調不良などを訴えた場合には、当院は受診者に対して必要に応じた対応を行う。

4 協力医療機関は、外国人受診者に対し、日本国の法令に規定された応召義務を超える診療応諾の義務を負担するものではない。

5 本件医療行為、本件医療行為に関する説明に対して、その他協力医療機関が外国人受診者に提供する一切の役務は、現在の日本国の標準的な医療水準を充足すれば足りるものとする。

第3条 受診者の義務 本件医療行為の受診に際して、受診者は協力医療機関の指定する各種検査や処置等に関する申込書、同意書、誓約書等を作成の上、交付する。但し、協力医療機関が不要と認める場合はこの限りではない。

2 受診者は、協力医療機関が交付する各種説明書、注意書等に十分に目を通し、その内容を確実に遵守するものとする。

3 受診者は、受診にあたり、院内規則等を遵守し、協力医療機関の業務に支障を生じさせないようにする。

第4条 医療行為の対価等 協力医療機関が受領すべき診療代金その他の金員については、外国人受診者は、協力医療機関に対し、協力医療機関の定めるところに従って支払う。 2 本件医療行為について、変更があり、で言及されていない診療代金等が発生した場合でも、外国人受診者は、協力医療機関の定めるところに従ってそれらを支払う。

3 ただし、受診者が契約した旅行手配事業者等と当院との間で当該対価等の支払方法について事前に取り決めがなされている場合には、その定めによる。

第5条 中止等 受診者は、協力医療機関に対し、健康診断等の医療行為の施行中止を申し出ることができる。

2 また、受診者が次の事由に該当する場合には、協力医療機関は、受診者に対する健康診断等の医療行為の一部または全部の施行を延期または中止することがある。 1) 妊娠中である、あるいはその可能性がある。 2) 感染症に罹患している。 3) 病気の治療を受けている、薬を服用している、生理中である。 4) 各種検査等の受診前の注意事項に反して、食事や飲酒等の制限が守られていないことが判

明したとき。 5) 持病が有る場合(検査当日の医師の問診等で病気に対する注視の必要があると判断した場合

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等)。」 6) その他、本同意書ないし当院の院内規則等に反している等の理由により、当院が受診者に対

して健康診断等の医療行為を施行することを不適当と認めた場合。 3 健康診断等の医療行為が延期または中止された場合の対価等については、別途、協力医療機

関と受診者との間の協議により定める。

第6条 個人情報の取り扱い 受診者は、協力医療機関で健康診断等の医療行為を受けるにあたって、協力医療機関が必要とする個人情報を協力医療機関に提供する。

2 協力医療機関は、個人情報保護方針に基づいて、受診者から提供された個人情報を厳重に取り扱い、適正に使用するものとし、受診者はこれを了承する。

第7条 健康診断結果の通知 協力医療機関では、受診者に対する健康診断結果の通知を日本語で表記する。 2 なお、受診者が上記書面の翻訳を希望する場合、同書面に翻訳文が付されるが、当該翻訳文の作成は協力医療機関が関知するところではなく、その翻訳内容の正確性等について当院では一切の責任を負わない。

第8条 準拠法 本基本契約書の内容並びに協力医療機関が受診者に対して施行する一切の医療行為及びこれに関連する一切の事象は、日本国の法令により規律され、かつ解釈される。

第9条 裁判権・管轄 本基本契約書の内容、および協力医療機関が受診者に対して施行した医療行為またはこれに関連する事象に関して、受診者と当院との間に紛争が生じた場合、両当事者が日本国の裁判権にのみ服すること及び日本国の東京地方裁判所を第一審の専属的な管轄裁判所とすることを合意する。

本基本契約締結の証として、本基本契約書を2部作成し、外国人受診者と協力医療機関が各1

部を保有する。

○○○○年○月○○日

(外国人受診者)

署名

(協力医療機関)

○○○病院 責任者名

署名 印

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(3)健康診断結果翻訳依頼書のひな型

健康診断結果の翻訳依頼書(案)

■個人情報の取り扱いについて

健診結果の翻訳希望をされた受診者の個人情報は、外部事業者に翻訳を委託します。その場合

は、委託先が個人情報保護管理の水準が適正であることを医療機関が確認したうえで、翻訳業務

を委託します。

(協力医療機関)

○○○病院

責任者名

私は、上記の内容を理解し、同意しましたので、健康診断結果の翻訳依頼を依頼します。

申込日 年 月 日

■Name 名前

Family name Middle name First name

姓 ミドルネーム 名

■MailAddress 送付先住所

Address Phone Number

住所 電話番号

■Translation 翻訳希望言語

□英語 □中国語 □ロシア語 □韓国語 □その他( )