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熱解析 ホワイトペーパー inspiration 概要 本ホワイトペーパーでは、製品設計の観点から熱解析の概念につ いて定義し、概要を説明します。伝導、対流、輻射の原理につい て実際の例をあげて解説します。また、熱解析の方法、特に設計 検証ソフトウェアを使って熱条件をシミュレーションする方法に ついて説明します。また、熱設計検証ソフトウェアに望まれる機 能をリストし、SolidWorks製品を使って設計課題を解決した例に ついて紹介します。

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熱解析

ホ ワイトペ ー パ ー

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本ホワイトペーパーでは、製品設計の観点から熱解析の概念について定義し、概要を説明します。伝導、対流、輻射の原理について実際の例をあげて解説します。また、熱解析の方法、特に設計検証ソフトウェアを使って熱条件をシミュレーションする方法について説明します。また、熱設計検証ソフトウェアに望まれる機能をリストし、SolidWorks製品を使って設計課題を解決した例について紹介します。

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熱解析について製品開発のコストと時間を削減する上で、従来のプロトタイプによる試験方法は、過去十年間にその大部分がシミュレーションを使った設計プロセスに置き換えられました。高価で時間のかかる物理プロトタイプの必要性を削減するシミュレーションプロセスでは、変更の簡単なコンピュータモデルを使って製品のパフォーマンスを予測することが可能になります(図1)。

設計解析ツールは、ゆがみ、変形、応力、固有振動数などの構造問題の検討に欠かせないと考えられています。しかしながら、新製品の構造上のパフォーマンスは設計エンジニアが直面する多くの課題のほんの1つに過ぎません。他によくある問題としては熱関連の問題があり、これには過熱、寸法安定性の欠如、大きすぎる熱応力その他の熱フローおよび熱特性に関する課題が含まれます。

熱問題は電子製品ではよくある問題です。冷却ファンやヒートシンクの設計は、小型化と熱除去のニーズのバランスがとれたものでなくてはなりません。同時に、タイトな部品パッケージングを行いながらも十分な空気の流れを確保し、過剰な熱応力によってプリント基板が変形したり割れたりしないようにしなければなりません(図2)。

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図 1:従来の設計プロセスとシミュレーションを使った製品設計プロセスの比較

図 2:電子製品のパッケージングでは、電子部品から発生した熱をどのように環境に逃がすかを注意深く解析する必要があります。

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図 3:産業用シュレッダの過熱の可能性は、トランスミッションとベアリングの設計において重要な検討項目です。

図 4:歯科インプラントは周囲の組織の熱条件に影響を与えてはならず、また熱応力にも耐えるものでなくてはなりません。

図 5:コードレス工具の大容量バッテリを適切に冷却するには、この工具の熱条件を理解する必要があります。

通常の機械設計でも熱の問題は多く見られます。温度や熱分布、熱応力を解析しなければならないわかりやすい例としては、エンジン、油圧シリンダ、電気モータやポンプなどがあり、簡単に言えばなにか仕事をするのにエネルギーを使う機械は全て熱問題を検討する必要があります。

それほどわかりやすいものではありませんが別の解析対象としては、材料加工機械があります。機械エネルギーが熱となり、加工されるものだけではなく機械そのものにも影響を与える場合があります。このようなケースは、熱膨張が切削ツールの寸法安定性に影響する精密加工機械において重要なだけでなく、シュレッダのように、過剰な温度と熱応力に部品が悪影響を受ける可能性のある、消費電力の大きい機械においても重要です(図3)。

3番目の例として、ほとんどの医療機器は熱特性を解析する必要があります。投薬システムは薬物の適切な温度を維持しなければなりませんし、外科用器具は過剰な温度衝撃を対象物に与えてはなりません。同様に、インプラント部材は体内の熱フローを阻害してはならず、また歯科インプラントは厳しい機械的荷重と熱負荷にも耐えなければなりません(図4)。

最後の例として、全ての電気製品、例えばストーブ、冷蔵庫、ミキサー、アイロン、コーヒーメーカー、一言で言えば電気で動く全てのものは、危険を招くおそれのある過熱を防ぐために熱特性を解析する必要があります。これはAC電源で動作する家電製品のみならず、リモコンで動くおもちゃや、工具などバッテリ動作の製品にもあてはまります(図5)。

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熱 解 析 3

設計検証ソフトウェアを用いた熱解析

前述のような問題や他の多くの熱設計問題を設計検証ソフトウェアを使ってシミュレーションすることができます。ほとんどの設計エンジニアは既に構造解析でこのアプローチに慣れていますので、検証範囲を熱解析に広げる際もトレーニングはほとんど必要ないでしょう。構造シミュレーションと熱シミュレーションは、同様に明確な手順に従って進められ、様々な類似点があります(図6)。

さらに、熱解析は構造解析と同じ様にCADモデルに対して実行されるものであるため、CADモデルが作成されていれば、熱検証を行うための追加的作業はほんのわずかです。

熱解析を実行することにより、モデル内の温度分布、温度勾配、熱の流れ、ならびにモデルと周囲との間の熱交換について調べることができます。

図 6:構造・熱設計検証の類似点

図 8:3つの熱伝達メカニズムの主な特徴

温度のような熱効果はシミュレーションすることは簡単ですが、実際に測定することは容易ではありません。特に部品やアセンブリの内部、または急激に変化する温度などは測定が非常に困難です。このことは多くの場合、製品の熱状態について詳細に調べたいエンジニアにとって、ソフトウェアベースの設計検証が唯一の方法であるかもしれない、ということを意味します。

熱伝達の基本

伝導と対流

熱伝達のメカニズムとしては、伝導、対流、輻射の3種類があります。伝導はボディ内の熱の流れを表すもので、ボディはCAD部品またはアセンブリとしてモデル化されます。対流と輻射はどちらも、ソリッドボディと環境の間の熱交換を表すものです。

図 7:熱設計検証により得られる典型的な結果

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伝導による熱伝達の例は、壁を通した熱の流れがあげられます。伝達される熱の量は、壁 の熱い側THOTと冷たい側TCOLDの温度差、壁の面積A、および壁の厚さLの逆数に比例 します。比例定数Kは熱伝導率と呼ばれ、材料特性としてよく知られた値です(図9)。

図 9:熱は壁を通して高い温度から低い温度へ伝導します。

図 10:各種材料の熱伝導率

図 11:対流により熱が放出されるには必ず物体周囲の流体の動きが必要です。

熱伝導率Kは材料によって大きく異なります。これが、熱伝導体と絶縁体の違いをもたらします(図10)。

ソリッドボディの外部表面と周囲の流体、例えば空気、蒸気、水、油等との間の熱交換メカニズムは対流と呼ばれます。対流により移動する熱の量は、ソリッドボディの表面 TS と周囲の流体 TF の温度差、および熱を交換(放出または吸収)する面の面積 A に比例します。比例定数 h は熱伝達係数と呼ばれ、これは境膜係数とも言われます。ソリッドボディの表面と周囲の流体間の熱交換には、流体の動きが必要です(図 11)

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対流係数は媒体(空気、蒸気、水、油等)と対流の種類、すなわち自然対流か強制対流かにより大きく異なります。自然対流は重力のあるところでしか発生しません。流体の動きは熱い流体と冷たい流体の比重の差に依存するためです。強制対流は重力に依存しません(図12、13)。

図 12:自然対流は熱い流体と冷たい流体の密度の差により発生します。強制対流では、流体の動きは冷却ファンにより強制されています。

図 13:異なる媒体、対流タイプに対する対流熱伝達係数。

伝導と対流が共に作用するケースとして、ヒートシンクのアセンブリを考えてみます(図14)。

図 14:発熱するセラミックマイクロチップがアルミのラジエータ内に埋め込まれています。ラジエータは周囲の空気により冷却されます。

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図 15:ヒートシンクアセンブリの温度分布と熱流束

マイクロチップはその体積全体で熱を発生します。熱はマイクロチップ内を伝導により移動し、アルミのラジエータ部分に伝達され、その中でまた伝導により移動します。セラミック製のマイクロチップからアルミ製のラジエータへ熱が移動する際には、セラミックとアルミの接合部の不完全性による熱抵抗層を超えなければなりません。最後に、ラジエータの外部表面から周囲の空気へ、対流により熱が放出されます。

冷却ファンを追加したり、ラジエータを水に浸けたりすることによって熱伝達の仕組みが変わることはありません。熱は同じように対流によりラジエータの面から除去されます。冷媒として空気を使うか水をつかうか、自然対流か強制対流かの唯一の違いは、対流熱伝達係数の値が違うことです。

ヒートシンクアセンブリの温度場を図 15 に示します。ラジエータの面から雰囲気への熱の移動は、熱流束ベクトルのプロットにより表示できます

(図 15、右)。ラジエータ面から「出てくる」熱流束ベクトルが、周囲の流体に放出される熱を表しています。底面を交差するベクトルが無いのは、モデルではラジエータの底面とマイクロチップ間は絶縁されているからです。

このヒートシンクアセンブリの熱の流れをモデリングするには、セラミック製マイクロチップとアルミ製ラジエータのインターフェイス面での抵抗を考慮する必要がある点に注意してください。一部の設計検証プログラムでは、熱抵抗層を明示的にモデル化する必要があります。SolidWorksのように、熱抵抗係数として簡略に入力するだけで済むものもあります。

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伝導、対流、輻射

ヒートシンクアセンブリの熱伝達について、ここまでは2種類の熱フローメカニズムのみを考慮してきました。それらは伝導(ソリッドボディ、すなわちマイクロチップとラジエータ内の熱移動)と、対流(ラジエータの外側面から環境媒体への熱放出)です。ここでは輻射による熱伝達は無視することができました。ヒートシンクの動作温度では、輻射による熱伝達は非常に低いためです。次の例では、輻射が無視できない熱伝達問題を説明します。

輻射は温度が異なる2つのボディ間で熱を移動、あるいは熱を空間に放射することができます。輻射についてはボディが流体に浸されているかどうか、真空状態にあるかは関係ありません(図16)。

図 16:異なる温度を持つ2つの物体の間では輻射により熱が交換されます。 また、単一の物体からも空間に対して熱が輻射により放出されます。

温度T1およびT2を持つ2つのソリッドボディの面間で輻射により交換される熱の量は、それぞれの絶対温度の4乗の差、熱伝達に関係する面の面積A、ならびに輻射面の輻射率εに比例します。輻射率はある表面の輻射エネルギーと同じ温度の黒体の輻射エネルギーの比として定義されます。材料は0から1.0の間の輻射率を持っています。黒体の輻射率は1.0で、完全な反射器の輻射率は0です。輻射による熱伝達は絶対温度の4乗に比例するものであるため、より高い温度では非常に大きくなります。

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大きな真空チェンバ内を 1 つのスポットライトが照らしている状態を想定してみます。ここで、真空チェンバが非常に大きく、壁からスポットライトに跳ね返ってくる熱は無視できるものと仮定します。電球と反射器は真空内で露出しており、アルミ製の傘は空気に囲まれているとします(図17)。

図 17:このスポットライトのモデルでは、反射器と電球は真空に露出しており、傘の背面は空気に囲まれています。

電球が発する熱の一部は空間に輻射され、残りの熱は傘の放物面(反射器)が受け取ります。電球が傘に取り付けられている部分から伝導により傘に伝わる熱はごくわずかです。輻射により傘の受けた熱は2つに分かれます。片方は外に向かって放射され、もう片方は真空側から空気側へ、傘の中を移動します。熱が空気に接している面に達すると、対流により放出されます。

このモデルに対する解析結果は、アルミ製の傘の温度はほぼ均一であることを示しています。アルミの熱伝導率は高く、熱が簡単に伝導するためです(図18)。

輻射による熱伝達は高温でのみ顕著になるため、発生した熱を全て放出するには電球は非常に高温でなくてはならないことに注目してください。

図 18:スポットライトの温度分布

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非定常熱解析

ヒートシンクとスポットライトの例では、熱の流れが安定するまで十分な時間が経過したと仮定して、定常状態での熱伝達を解析しました。定常熱伝達の解析では、熱フローがその定常状態に達するまでにかかった時間は考慮しておらず、実際には数秒、数時間、数日の場合もあります。

時間の経過とともに変化する熱フローの解析は非定常熱解析とよばれ、ここでは保温プレートに載せたコーヒーポットのモデルを例として説明します。保温プレートの温度は、コーヒーの温度を読みとるサーモスタットにより制御されています。コーヒーの温度が事前に設定した最低温度を下回るとサーモスタットは電源をオンし、最高温度を上回るとオフします。ある時間内の温度の変動を図19に示します。

熱応力

ソリッドボディ内の熱のフローは、ボディの温度変化を引き起こします。その結果ボディは膨張あるいは収縮します。この膨張あるいは収縮により発生する応力を熱応力と呼びます。

熱いコーヒーをマグに注ぐと、マグ内で熱応力が発生します。このような応力の熱解析に必要なのは、コーヒーの温度によるマグ内側の温度分布と、周囲の空気に放出される熱をコントロールする外側面に指定されたユーザー定義の対流係数です。冷却は比較的遅い速度で行われるため、マグ内の温度分布の計算には定常熱解析が適用されます。温度分布は不均一で、熱応力が発生します。これは熱解析の温度結果を使ってSolidWorksで静解析を行うことにより簡単に計算できます(図20)。

図 19:非定常熱解析によりコーヒーの温度の時間変化を確認できます。

図 20:定常熱解析により明らかとなった不均一な温度場(左)が熱応力を引き起こし、これは構造静解析で計算することができます(右)。

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熱検証ソフトウェアに求められる機能

ここまで簡単に説明した典型的な問題を考慮した場合、製品設計プロセス内で使用する熱解析ソフトウェアは以下をモデル化できなくてはなりません:

• 伝導による熱フロー

• 対流による熱フロー

• 輻射による熱フロー

• 熱抵抗層の効果

• 過熱、冷却等の時間依存の効果(非定常熱解析)

• 温度依存の材料特性、熱エネルギー、対流係数その他の境界条件

設計ツールとして使用する場合に検証プログラムが満たさねばならない要件は他にもあり、これらは熱解析のみならず構造解析や電磁解析にも当てはまります。製品が全般的にCADで設計されている場合、設計ツールとして使用されるあらゆる種類の検証ソフトウェアを効率的に使用するためにはCADソフトウェア側にも条件が課されます。

CADシステムには以下が求められます:

• フィーチャーベース、パラメトリック、かつ完全な連想性を持つソリッドモデラーであること

• 製造用、解析用のあらゆる幾何形状を作成できること

• ジオメトリのリンクが維持された状態でモデルの表示、または解析結果表示が 良好な環境で操作できるきること

上記の要件を満足するには、SolidWorks CAD(主要な3次元パラメトリック、フィーチャーベースCADシステム)と統合されたSolidWorks Simulationプログラムのような、高い処理能力と使いやすさを合わせ持った先端シミュレーションシステムが必要です。

SolidWorks SimulationとSolidWorksの高度な統合により、ユーザーは熱解析や構造解析を使い慣れたSolidWorksインターフェイスを使って実行することができ、解析専用のタスクやメニューを覚える必要性は最小限に抑えられています(図21)。

図 21:図のような回路基板の熱解析等、解析作業を使い慣れたSOLiDWOrKSインターフェイスから実行できるためトレーニングの必要性は最小限ですみます。

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SolidWorksにより検証できる設計問題の例

以下のセクションでは、SolidWorksの熱解析および構造解析機能を使って解析することのできる設計問題の例をいくつか紹介します。

ヒートシンクの冷却フィンのサイズ決定

マイクロチップ冷却用ラジエータには、チップを400K未満に抑えるのに十分な冷却力を持たせなければなりません。マイクロチップはベースプレート上におかれています。プレートとアセンブリの残りの部分とを分離する熱抵抗層の存在により、ベースプレートの提供する冷却力は無視できる程度のものです。

冷却フィンの高さを20mmにした初期設計に対して熱解析を実行したところ、461Kという温度が得られました(図22上)。冷却フィンの高さを

図 22:ヒートシンクの3つの設計コンフィギュレーション

40mmに変更すると、冷却力が増しますが、仕様を満足するには至っていません。マイクロチップの温度は419Kになりました(図22)。3回目の設計でフィンの高さを60mmにすることによりマイクロチップの温度は許容できる値である400Kになりました(図22)。

このスタディで重要な検討項目である熱伝達係数は、工学系の教科書を参照したり、ウェブベースの計算器を使って求めることができます。あるいは、SolidWorks Flow Simulationを使ってラジエータ周囲の流体のフロー解析を行ってこれらの値を求めることも可能です。

加温器の設計

この加温器はアルミのプレートと内蔵された発熱コイルで構成されています。図23に示すM字型のコイルは、コストが安いことにより採用されましたが、熱解析を行ってみると、図23に示されるようにプレート外側の温度が不均一であることがわかりました。

図 23:アルミプレートに埋め込まれた発熱体の簡単な設計

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再設計された加熱プレートは図24に示す通りうずまき型の発熱体を埋め込んだものです。変更後の設計に対して熱解析を行ってみると、温度分布が今度はほぼ均一になることが分かりました(図24)。

スポットライトの傘の熱応力を調べる

図 24:再設計された加温プレートは温度分布が 均一になったことが 示されています。

図 25:スポットライトは上図のように固定されています。中央の図は定常温度分布を示したもので、下の図では降伏応力を超える応力が発生している領域を赤で示しています。

スポットライト(図17)は図25で示すように円周に沿ってリジッドに支持されています。傘の温度が上昇しても自由に膨張できないため、熱応力が発生します。

熱応力を求めるには、熱解析と構造解析を組み合わせることが必要です。これには、温度結果(図25)を静解析に対してエクスポートし、応力を計算します。ここでは、熱応力がアルミ製の傘の降伏応力を超えるかどうかを調べる設計検証が必要とされています。図25の応力プロット図では、熱応力が降伏応力を超える領域が赤で示されています。この応力結果から、この設計では傘が降伏することが分かります。

ここで注目すべきことは、応力が発生するのは傘の温度が不均一であるからではなく、拘束により傘が自由に膨張できないことにより発生する、ということです。また、これらの応力は構造的荷重が全く存在しないところで発生していることにも注目してください。

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フレキシブル管の熱応力を調べる

自由に変形できる波形ホースが、両端で異なる温度にさらされているケースを考えてみます。その結果生じる温度場が図26に示されています。ここで調べたいことは、この温度差によって熱応力が生じるかどうかということです。

温度結果を静解析に入力することにより、ソフトウェアは構造的荷重や支持が存在しない状態での不均一な温度による純粋な影響を計算します。図26では、発生する応力が配管材料の降伏強度を超える領域を赤で示しています。

図 26:不均一な温度場により、配管に材料の降伏強度を超える熱応力が発生しています。

図 27:波形のアルミ製配管が引っ張り荷重(上の図)と熱にさらされることにより、構造応力と熱応力の複合した応力が発生します(下の図)。

必要に応じて構造荷重(図27)を配管に適用し、熱応力と構造応力を合わせた結果を計算することも可能です。

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回路基板の過熱防止

図28に示した回路基板の推奨温度は700℃であり、1200℃を超えてはならないことになっています。過熱を防ぐため、マイクロチップの温度が1200℃を超えるとコントローラが電源を切るようになっています。温度が700℃を下回ると再度オンになります。しかし、熱慣性のため、マイクロチップの温度は1200℃を超えたままになる場合があります。

図 28:回路基板はコントローラにより過熱から保護されています。

図 29:電源をオン/オフすることによりマイクロチップの温度が変動します。熱慣性により、値が最高許容温度である1200℃を超えています。

温度変動の範囲を調べるには、サーモスタット機能を使って発熱を制御した非定常熱解析を行う必要があります。これは図19のコーヒーポットの例と似ています。材料特性、熱伝達係数、初期温度と熱量を指定し、300秒間のシミュレーションを行いました。マイクロチップの温度の変動は図29に示されています。

非定常熱解析の結果は明らかに、システムの熱慣性を考慮してコントローラによる電源のカットオフ温度を1200℃より低く設定する必要があることを示しています。望ましい設定値については、あと2回から3回解析を繰り返すことにより判断できます。

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複合ベアリングハウジングの変形解析

複合ベアリングハウジングがベアリングの摩擦により温度上昇にさらされています。また、ベアリングの反力も受けています。ここでの課題はベアリングが配置されている穴(図30、上)の変形を調べ、ベアリングのプレスフィットがゆるまないことを確かめることです。これには、定常熱解析と静解析の組み合わせが必要です。最初のステップは、ベアリングハウジング全体の温度を調べることです(図30、下)。

図 30:ベアリングハウジング(上の図)がベアリングで発生した不均一な温度場にさらされています(下の図)。

図 31:ベアリングハウジングのエッジ部分での半径方向変位成分

この結果を基に、静解析を行って熱変形と構造荷重が組み合わされた結果の変形を調べます。図31は両方の穴の半径方向の変位を示したものです。

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まとめ

電気で動作するものはすべて、危険なオーバーヒートを避けるために熱解析を行う必要があります。

製品設計プロセスで使用される熱解析ソフトウェアは、伝導、対流、輻射による熱の流れをモデル化できなければなりません。また、熱抵抗層の効果、加熱、冷却等の時間依存の熱効果、および温度依存の材料特性、発熱量、対流係数、その他の境界条件などもモデル化する必要があります。

新製品はほぼすべてCADで設計されているのですから、設計ツールとして使用される検証ソフトウェアはフィーチャーベース、パラメトリックで完全な連想性を備えた、あらゆるジオメトリを作成可能なソリッドモデラーで、ジオメトリをリンクしたままモデルの設計データと解析データ間を行き来できる製品である必要があります。

SolidWorks Simulationは上記の条件を備えた先端的なシミュレーションシステムであり、使いやすさと高い計算能力を兼ね備えた製品です。

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