History of Numerical Calculation and Computers (Calculators)

35
901 IN FO RM A T IO N V olum e9,N um ber6,pp.901-935 ISSN 1343-4500 C 2006InternationalInform ationInstitut e History of Numerical Calculation and Computers (Calculators) Katsuyoshi Sotani NECJapan Abstract. In this paper, we discuss the relationship between the development of numerical calculation and computers, particularly in their progress from a historical viewpoint. First, numerical calculation was created by humans to improve living, and since the Renaissance, it has developed as a means to support science and technology. Tracing the historical changes shows that computers were originally measuring instruments. As human society progressed, the measurement and calculation in the form of these reply, the calculators became necessary for calculation. The development changes are as follows. First, initial simple measuring instruments changed to a simple measuring instruments. The simple calculator grew into a calculator combining instrument, followed by a simple machine calculator that grew into a machine calculator, which became the next machine computer; next came the electric computer followed by the electron computer. We will present the historical relationship, taking a leading part numerical calculation in the entire history of mathematics, particularly developments including for solving linear systems in almost parts of calculation after the 19 th century. KEYWORDSHistory of numerical calculation, Development of numerical calculation, History of computers, Roots of computers, History of matrixes 数値計算と計算機 ( ) の歴史 曽谷勝義 NEC 概要 数値計算と計算機の発達の関係に於いて、その関わりを歴史的観点から論じる。数値計算は古来 人類が生活に必要とされるものに始まり、ルネッサンス以降は科学技術を支える手段として発展し て来た。計算機はそのルーツを辿れば、計測器具にあると考えられる。人間社会の発達と、これら に応える形で測量と計算、その計算を行う上で計算器が必要とされた。それは初期簡易式計測器か ら簡易式計測器へ、そして簡易式算定器から計測を兼ねた算定器へ、やがて簡易式計算器から計算 器へ、次に機械計算機へ、その次に電気計算機へ、更に電子計算機へと発達して来た。数学史全体 の中から、数値計算の発達方向を目指して論じ、特に 19 世紀以降は、計算の大部分を占める連立 一次方程式解法を含めた進展について、これらの内容を歴史的に見た関係を紹介したい。 1.はじめに 電子計算機 ENIAC(1946)が世に登場して以来、早や60年が経過した。この間に国内外の多く のメーカーがコンピュータと名付けて商品化している。本稿では過去から現在迄の文献や情報を 調査し、かつ著者の独自の研究も含めて、数値計算と計算機の発達に焦点を充てたい。 ここで計算機の発達の歴史を簡単に振り返ってみる。 何処までを計算機とか、つまり計算機の 定義の仕方にもよるが、これを計算器具として定義するならば、 そのルーツは実に古く、紀元前に 迄遡る事が出来る。紀元前 300年頃、古代ギリシャの惑星儀と見られる青銅の破片に、太陽の 黄径と時差を見いだす為の計算と計測装置に関する記述が、考古学の観点から見受けられるとい

Transcript of History of Numerical Calculation and Computers (Calculators)

Page 1: History of Numerical Calculation and Computers (Calculators)

901

IN F O R M A T IO NV olum e 9, N um ber 6, pp. 901-935

ISSN 1343-4500C 2006 International Inform ation Institute

History of Numerical Calculation and Computers (Calculators)

Katsuyoshi Sotani NEC,Japan Abstract. In this paper, we discuss the relationship between the development of numerical calculation and

computers, particularly in their progress from a historical viewpoint. First, numerical calculation was created by

humans to improve living, and since the Renaissance, it has developed as a means to support science and

technology. Tracing the historical changes shows that computers were originally measuring instruments. As

human society progressed, the measurement and calculation in the form of these reply, the calculators became

necessary for calculation. The development changes are as follows. First, initial simple measuring instruments

changed to a simple measuring instruments. The simple calculator grew into a calculator combining instrument,

followed by a simple machine calculator that grew into a machine calculator, which became the next machine

computer; next came the electric computer followed by the electron computer. We will present the historical

relationship, taking a leading part numerical calculation in the entire history of mathematics, particularly

developments including for solving linear systems in almost parts of calculation after the 19th century.

KEYWORDS:History of numerical calculation, Development of numerical calculation, History of

computers, Roots of computers, History of matrixes

数値計算と計算機(器)の歴史 曽谷勝義

NEC 概要 数値計算と計算機の発達の関係に於いて、その関わりを歴史的観点から論じる。数値計算は古来

人類が生活に必要とされるものに始まり、ルネッサンス以降は科学技術を支える手段として発展し

て来た。計算機はそのルーツを辿れば、計測器具にあると考えられる。人間社会の発達と、これら

に応える形で測量と計算、その計算を行う上で計算器が必要とされた。それは初期簡易式計測器か

ら簡易式計測器へ、そして簡易式算定器から計測を兼ねた算定器へ、やがて簡易式計算器から計算

器へ、次に機械計算機へ、その次に電気計算機へ、更に電子計算機へと発達して来た。数学史全体

の中から、数値計算の発達方向を目指して論じ、特に 19 世紀以降は、計算の大部分を占める連立

一次方程式解法を含めた進展について、これらの内容を歴史的に見た関係を紹介したい。 1.はじめに 電子計算機ENIAC(1946)が世に登場して以来、 早や60年が経過した。 この間に国内外の多く

のメーカーがコンピュータと名付けて商品化している。本稿では過去から現在迄の文献や情報を

調査し、かつ著者の独自の研究も含めて、数値計算と計算機の発達に焦点を充てたい。 ここで計算機の発達の歴史を簡単に振り返ってみる。 何処までを計算機とか、 つまり計算機の

定義の仕方にもよるが、これを計算器具として定義するならば、 そのルーツは実に古く、紀元前に

迄遡る事が出来る。 紀元前 300年頃、 古代ギリシャの惑星儀と見られる青銅の破片に、 太陽の

黄径と時差を見いだす為の計算と計測装置に関する記述が、考古学の観点から見受けられるとい

Page 2: History of Numerical Calculation and Computers (Calculators)

902

う。 更に数千年遡った古代エジプトでは、土地や建造物の測量、古代天文学の必要性等から測量

や計算が始まったと考える事が出来る。例えばピラミッドを造る時、計算を目的とするある種の計

測器が使われたのではないかと考古学上推測されている。 更に太古の先史文明を研究すると、日

時計や太陽周期に関連するもので、簡易式計測器を用いたのであろうと推測される石造物が幾つ

か見つかっている。 こうして歴史上、 紀元前から計測器(計算器具)として確認されるものが幾つもあると考えられ

ている。 そうした中で計算器の必要性として古資料に残っている物からは、既に15世紀前半には、

その後の機械計算機の考えの原点となっているアルカシ(ed-Din al-Kashi、1393~1449 イラン)の簡

易な計算を目的とする算定器[ 天文学計算の必要性 ]が考案されている。今日現存しているも

のとして、数百年前の計算器として残っていた設計図から復元されたものに、17世紀初め簡易歯

車機械仕掛けの手動計算尺式計算器(ウイルヘルム・シカルト、Wilhelm, Schickard、1592~1635 ドイツ)で、 加減乗除算が計算出来る物があり、 天文学[ ヨハン・ケプラーの時代 (Johann, Kepler、1571~1630 ドイツ) ]のニーズがあったと記されている。 15世紀、16世紀、17世紀、18世紀、19世紀、20世紀、21世紀と時代が進むにつれて計算機(器)も進歩し、大きな計算が出来る様になった。 こうして初期には測量の計算から計算可能な計測器の装置へ、 そして簡易な計算の為の算定器

へ発達し、次に計算尺式及び回転式機械方式から配線盤形式のパンチカード機械方式へと発達し、 更にプログラム内蔵形式へと、 そのプログラムも機械語から後に高級言語へと技術が発達して来

た。 これを計算機の構成要素から考えると、 簡易式計測器から計算器具へ、 そして手動による計

算尺式や回転式機械から、 機械仕掛けの歯車へ、 次に電気を利用した電気計算機としてのモータ

ー動力機から配線盤へ、 更に素子の時代になり、 真空管、 トランジスタ、 IC、 LSI、 VLSIへ発

達して来た。 一般的には、素子の時代における真空管以降のものを電子計算機、 今日では略称コ

ンピュータと呼称している。 以上より歴史的に見ると、 計測と計算を目的としたこれらを計算機(器)として大分類するなら

ば、初期簡易式計測器、簡易式計測器、簡易式算定器、算定器、 簡易式計算器、計算器、機械計算機、 電気計算機、 電子計算機の順に発達してきた。 つまり計算機(器)は、人類の文明社会の進歩と共に

発達してきたと考える事が出来る。 一方、数値計算は近年に於いては、理工学に於ける理論的な近似解を得る手段として研究され

て来たが、 この数値計算も既に紀元前数千年前から考え出されて発達してきており、まさに計算

機(器)の発達と共に進歩したと定義づける事が出来る。 この数値計算を古代から中世にかけて数字・数式の観点から考えると、ヨーロッパ圏、アラビア

圏、インド圏、中国圏と幾つも分かれて、数式と計算方式が独自に発達して行く時代があった。

やがて科学史に威光を放つ、8世紀に出現した天才数学者アル・コワリズミ(al-Khowarizmi アラビア)の「代数学書」(780) (アラビア数学、後のアルゴリズムの語源となる)が、後年ヨーロッパ

に持ち込まれて開花する。このアル・コワリズミの代数学を起源として、アラビア数字はヨーロ

ッパで普及のあと、その後ルネッサンスから後の時代に、数百年を経て19世紀末には、アラビア

数字とその記号が世界中に普及する。そして20世紀に入ると、世界中の人々がアラビア数字を共

通して使う時代になる。この共通数字の表現により、国によっては言語や数字の発音は違っても、

数字の意味する所は同じであり、その数字・数式を見るだけで、お互いに意味が分かる事が出来た。

つまり、数字の表現の変換を行う必要が無く、同じ共通の表意文字(数字・数式)で世界中の人々

が考える事が出来、科学技術文明が急速に発達する時代となった。(別紙、数値計算歴史表参照) [備考] 一般の数学史では、文中に数式、計算式、記号等の記載が見受けられるが、本論文では、解説す

る上で文章表現のみとした。 一部の古資料で、文献により整合性の一致しないものは、著者の判断で記載した。文献に無く記

載しているものは、著者の理解と記憶による。計算機(器)は、実現された当時の環境の文章表現だ

けとして、相対的な処理速度や数値計算アルゴリズムの計算時間等は、別な資料に詳細を譲りたい。

第二次大戦中から、英米で秘密研究として行われて来た電子計算機(真空管、ABC他)も存在するが、

Page 3: History of Numerical Calculation and Computers (Calculators)

903

本論文では、電子計算機の始まりを学術的に定義され、実用稼動したENIAC としている。そして

CRAY社がスーパーコンピュータを出してから、業界ではそれ以前の時代に、時代を抜きん出た高

速コンピュータを、その当時のスーパーコンピュータと表記される様になったが、ここではCRAY-1が初めての代用的なスーパーコンピュータと位置づけている。 2.数値計算の原点 数値計算のルーツを辿ってみると、方程式の計算方法は、既に紀元前数千年前から研究されてき

た(バビロニア数学事典BC2500)様である。古代ギリシャ時代に於いては、紀元前のアルキメデス

(Archimedes of Syracuse、BC287~212)の「研究書」(BC225)に、平方根を求める方法が分かっ

ていたとされている。 その他、歴史上著名な人物は多く存在している。計算機を使っての計算研究

は、既に17世紀初頭からいろいろと行われてきた様である。 近年の大規模計算に必要とされる行列に対する考えの起源を辿ると、ニュートン(Sir, Isaac, Newton、1642~1727 イギリス)の方程式を複数個並べて考えたライプニッツ(Gottfried, Wilhelm, Leibniz、1646~1716 ドイツ)による行列式の概念の表現である「行列式の原案の考察」(1690)に始

まる。ライプニッツの行列式表現は、連立一次方程式のルーツである。後の時代、解析学に著名

な業績を残したラグランジュ(Joseph-Louis, Lagrange、1736~1813 フランス)は、ライプニッツの行

列式を研究し、「行列式の表現」(1773)を発表している。数学者コーシー(Augustin, Louis, Cauchy、1789~1857 フランス)は、ラグランジュ研究に始まり、行列の和、差、積、除(逆)を論じ、行列式

体系(「行列式」(1812)の論文発表)を総合的に確立させた。コーシーと同時代のガウス(Carl, Friedrich, Gauss、1777~1855 ドイツ)は、数値計算としての方法論の考えを独立させた。そして「ガ

ウス消去法(Gaussian Elimination Method)」(1823)と呼ばれる比類なき大革命的な数値解法を提

案した。これはその後の行列におけるあらゆる数値計算の原点となっている。この‘ガウス消去

法’に、行列の数値解法におけるその源流を見いだす事が出来る。 これは現在においても数値計

算として、 教育にも研究にも産業界にも広く使われている解法である。消去法と言う考え方の簡

便性と、その数値解の厳密性は、現在に至っても他に例をみない。 このガウスの消去法以前の計算手法は、形式計算術( Logistica Speciosa )とか、 数値計算術

( Logistica Numerosa )と呼ばれたもので、 簡易式差分的近似式計算、 手計算同形式での四則演

算、 微積分への簡易式近似計算、 更に対数による簡易計算等の考えのものであった。 これらの方

法は、 現在の各種差分式計算のルーツとなっているものである。 この時期以降の計算に対する考

えの大きな流れは、以下の様なものであった。 18世紀から19世紀初めの計算方法の考え方は、 経験主義による力学に基礎をおく物理的法則に大きく依存するものであった。 それらは古典数学と

しての強存在( 解析的考え方 )としての数値計算の確立であった。 ガウス消去法に代表される直

接法としての解法は、まさにこの流れを引いていると考える事が出来る。 この伝統的解析方法の

進展に対して、 その後批判的精神による解析方法の基礎的吟味により、 ある転換期があった。 もともと別な出発点から流れてきたものであるが、 それは純粋に数概念の上に解析方法を構成する

考えが一方で発達してきた。 又、 その時期迄に考えられていた「無限小」の概念が確立した形を

とり、 連続的反復事象が極限迄続くと言う考えが出された。 この代表的なものがヤコビ(C. Gustav, Jacob, Jacobi、1804~1851 ドイツ)の反復法である(1837)。 19世紀後半になると、それ迄

の機械論的、 唯物論的数学から理論的展開による理論数学と、一方、工学分野に解を求める応用

数学としての発展があった。 これらの数学の発展が、その後の数値計算を大きく発達させていっ

た。 20世紀に入って観念的精神論によって発達してきた考えは、 やがて社会の発展と共に、 近代数学から現代数学への橋渡しとして方向性をもたらした弱存在( 抽象的存在の考え方 )の展開

へと推移して行く。 これは例えば、 CG法にみる一次独立なベクトルを定義し、 n次元空間内を

探索する考え方である。 これらの考え方の進展が、 その後の多くの直接法の高速化、 合わせて多

くの改良型反復法のアルゴリズムを発掘させる事になる。 (別紙、数値解法の歴史的発展図参照) 3.数値計算と計算機の発達 数値解析とその技術的ニーズの関連、 及び計算機発達の歴史を対応させて、一つの区切り毎に

Page 4: History of Numerical Calculation and Computers (Calculators)

904

簡素にまとめてみたい。 古代、中世、近世等は科学史上の分類基準とする。 1) ( 紀元前、 古代 ) 紀元前超古代からギリシャ・ローマ繁栄の時代迄 考古学、人類学の研究からは、人類の歴史は、約3万年前から10進数(人間の両指の数)が使

われていた事が推測されている。 〔 注:それ以前は5進数(片手の指の数)である事が推測されている。〕 最近の研究では、1万年以上前と考えられているイギリスのストーン・ヘンジ、更に先史時代、

超太古の遺跡と考えられるオルメク文明あたりは、1万数千年前から数万年前に作られた日時計

や太陽周期に関連する石造物が幾つか残されている。これらには何らかの計測器を用いて測定し

なければ、造れないものであろうと考えられる。 やがて文明の創世紀に入り、古代エジプト(BC5000 ~ )では、計算へのあけぼのを迎える。四

則計算から、やがて分数の表現まで発達して行く。この時代には、既に太陽の運行から計測器を

用いてエジプト暦法が定められた記録が見つかっている。巨大な建造物、特にピラミッド建設時、

計測器を用いて、 土地と建造物の測量をして、幾何学から求めた数値を数値計算として実施して

いたことが確認されている。特筆すべき点として、古代エジプトの天才数学者アーメス(Ahmes、BC2000~ ? )は、二等分法をはじめ、三角法、分数乗除算、建物表面積の計算法、円周率の考

え方や最小公倍数の考え方、及び連立した方程式の考え方迄まとめていた記録が見つかっている。 古代メソポタミア(BC4000 ~ )では、 天体測定器を用いて太陽の周期を計算し、太陽はおよそ

360日で同じ位置に戻ると計測された。今日、円の一周が360 (゚度)である由縁はここから来ている。

この時期、これまでの 10 進数に対して、更に天体の観測に合わせて新しい数学の考えとして、

12 進数、60 進数等が用いられる様になる。(この12進数は両手の指の数に両腕の数を加えて基

本数とした説がある。そして60とは、その12に人間の5体を掛けて、60進数と定義した説がある。) 今日の12ケ月、12時間、60分、60秒の考え方の始まりである。これは古代メソポタミアで起きた

占星術(12の星座)の考えにも関係している。 〔注:古代東洋においても、10干12支の組み合わせによる60進数の考えが独立して起きた。〕 バビロニアの時代(BC3000~ )になると数学研究が盛んに行われた。特にバビロニア数学

(BC2500)においては、 2次方程式の解法、 ベキ乗法、 近似円面積、 近似円周等の円に関する近似

解が計算され ルート( √ )表現等も現れている。 更に新しい考えとして、2進数表現と具体的計算

方法が示されている。 この時代、数学・数値計算に関する事が、一部の人達で研究されていた様で

ある。あわせて幾何学への発達も見られた。それらに関するかなりの遺物(粘土板他)が、各地域

から幾つも発見されている。 繁栄の中心が古代ギリシャ時代(BC900~AD400頃)に入ると、古代オリンピック競技の開催

(BC776~AD393、ヘラクレスが始めたオリンピアの土地でのスポーツ競技、4年毎に開催、第

293回大会迄)も合わせて、国は大いに繁栄し、歴史上有名になるが、その中でも特にBC600年頃~AD300年頃に、数学が最も研究された。このギリシャ時代には、二つの学派(イオニア派、ピタゴ

ラス派)により、 数学は大きく進展して行く。 アルキメデス、アポロニウス(Appollonius of Perga)、ヘロン(Heron of Alexandoria)、プトレマイオス(Ptolemy of Alexandria)等による 平方根

を求める解法、 円周率、 三角関数、極大、極小、接線、法線、 指数計算、 極座標、 放物線の求積、

球面三角法等を始め、 流体静力学もあり、幾つもの数値計算が実施されて来た。 多くは幾何学と

して実用面からの研究であった。 理論数学者ユーグリッド(Euclid of Alexandria、 BC350~?)は、

数学原論(BC300)を出し、数学理論を確立させた。これは今日の数学の基礎理論となるものであ

る。古代ギリシャ時代も西暦の時代になってからは、 メネラオスの球面幾何学(98)、 ニコマスの

算術入門書(100)、ディオプアントスの代数学書(250)、パッポスの数学集成(300) 等が残されてい

る。 計算器発達のルーツを考えると、古代エジプトの遺跡からは、測量に使う物差し(簡易式計測器、

BC3600年頃)が見つかっている。バビロニアでかなり初期の簡易な算定器(アバカス)が発明され

(BC3000年頃)、これが古代ギリシャに伝わった。古代ギリシャ時代の遺跡からは、初期の時代の

簡易式算定器(BC600年頃)が見つかっている。同時にこの時代には、天文学の計測装置(BC300年

Page 5: History of Numerical Calculation and Computers (Calculators)

905

頃)も使用された様である。古代ギリシャの遺跡からは、簡易な算定器の他に天体観測の装置と、

それをはかる計測装置も発見されており、この時の装置は、今日の計算機の源流として考えられ

るものである。古代ギリシャの文化は、古代ローマに影響を及ぼした。古代ギリシャの簡易式算

定器は、後に古代ローマに伝わり、その古代ローマの遺跡から簡易式算定器(BC50年頃)が見つか

っている。古代では数学の基礎となるべき計算と実用的な幾何学、更に天体観測、そして測量に必

要な計測器、その値を計算させる簡易式算定器が使われていたと考古学の点から推測出来る。

古代エジプト簡易式計測器 古代ギリシャ簡易式 古代ローマ簡易式

(BC3600年頃) 算定器(BC600年頃) 算定器(BC50年頃) 2) ( 476 ~ 1453 ) 中世 東ローマ帝国の滅亡からルネッサンス迄のおよそ1千年間を歴史学者は中世と定義づけている。

この中世の時代、数学の面でイスラム教の思想とキリスト教中世思想による算術と初等幾何学が

結び付けられ、宗教と科学(数学)が相互に助け合う考えになっている。 中世の時代は、全般として算術は商取り引きがテーマになっている。 中でも「算術の書」は、

インド数学とアラビア数学が混在していたものであり、商取り引きの問題で、通貨交換の計算等

において複雑な分数式を用いられる様になった。ここでは根の開法迄示されている。 数学史発達の面からみると、BC2世紀頃インドでゼロの概念が生まれ、数学が発達した。現在

残されているインドの古文書として、「ポエティウスの算術入門書」(525) (インド)、及び「ポエテ

ィウスの幾何学書」(525)(インド)、「アリア・バータの数学書」(530)(インド)、「プラグマプタの数

学書」(628)(インド)等が確認されている。中世のはじまりとして、最も著名なものに天才数学者 アル・コワリズミが残した「代数学書」等が残されている。この中世の時代もギリシャ数学である

ターレス、ピタゴラス、アリストテレス、アルキメデス等、古代数学の研究を中心として、一部

の人達が研究していた。 13世紀初め、当時ヨーロッパ最高の数学者 フィボナッチ(Leonard, Fibonacci、1175~1225 イタリア)は、アラビア商人から手渡されたアル・コワリズミの代数学書を研究して、その素晴らしさに

驚嘆感銘し、それ迄のヨーロッパ世界を占めていたローマ数字ではなく、これからの数学にはア

ラビア数字を使用して記述すべきであると考え、各国各地でアラビア数字の啓蒙と普及を努めた。 〔注:代数学(アルジブラ)の読み方は、アル・コワリズミの著書である代数学(ヒサブ・ア ルジャブル.ワルムカーバラ)のアルジャブルがラテン語に音訳して伝わったものである。〕 フィボナッチ自身の自らの研究課題では「数論」(1225)を採り上げ、ここでは不定問題と確定

問題の混在を見分けている。 又「平方の書」では 2次式の掛け算式の展開、「幾何学の実用書」

では、ユーグリッドからピタゴラスに到る研究を示す等、数々の研究成果を残している。この様な

フィボナッチの数学研究と、その数学普及への努力は、彼の業績を讃えて、その後ヨーロッパの

著名な大学( ボローニヤ、パリ、オクスフォード、ケンブリッジ等 )の創設に繋がった。 〔注: この時代の大学では、フィボナッチ数学を勉強した。〕 このフィボナッチの著名な後継者として、社会で活躍した人達が幾人もいる。例えば、ワーデ

ィン(Wordin、1190~ ? イタリア)、ネモレ(Jordanus de Nemore、 ? ~1237 イタリア)、オレム(Nicole, Orem、1323~1382 イタリア)、ニコラス(Nicholas of Cusa、1401~1464 イタリア)等に代表される研究者

達が続出して、彼らは無理数のベキ乗表現や調和級数、級数の和の公理、有理分数の指数表現、

Page 6: History of Numerical Calculation and Computers (Calculators)

906

無限級数の考え、反比例、逆三角関数の表現、三角法、関数のグラフ表示等も論じた。中でもフ

ィボナッチ数学に大きな影響を受けたオレムによる無限級数等の考え方は、やがて後の時代に発

達してきた計算器と共に、繰り返し計算の概念を確立させた。これは現代の行列式反復計算の源

流となっている。 中世末には印刷技術の確立(1447)により、一部の研究者の著作物が、やがて人々の目に触れる

様になり、学問への普及が進む様になってきた。この時期、中国(宋時代)では、その後の中国数

学を支配した朱世傑によるすぐれた数学書「算学啓蒙」(1299)が、今日まで残されている。 中世において計算器発達の面から調査すると、6世紀にはビザンティン帝国で算定器が作られ、

9世紀にはアラビア式算定器が作られた事が確かめられている。そして15世紀に入ると、天文学

者(イラン サマルカンド天文台)アルカシが、天体の運行を計算する必要性を唱えて、その後の計算尺発

展へのルーツであり、近代の機械計算機発案の原点となる計測を兼ねた「算定器」(1430)を考案

し、この計算器具を用いて天文学の計算を行った記録が残っている。

ビザンティン帝国時代 アーマド・イブン・カラーフ アルカシ時代の天文学計測風景 の算定器(複製) 制作のアラビア式算定器 計測付算定器活用の想像図

(6世紀頃) (9世紀頃) シャヒンシャナマ絵 (16世紀ロクマン作) 3) ( 1454 ~ 1600 ) ルネッサンスから16世紀迄 イタリアを中心として始まったルネッサンスは近代社会に大きな影響力を及ぼした。このルネ

ッサンス興隆の後、科学の中心は再びヨーロッパに戻る。ルネッサンス以降は近代科学の幕開けと

共に、 文学、 芸術、 科学( 物理、 化学、 数学 )、体育等の興隆があり、近代化に向けての研究が

行われる様になって来た。 特に自然科学においては飛躍の時期であった。数学の発展の面から考

えると、ルネッサンスの初期はイタリアとドイツ が発達した。 初期の頃の考え方では、測定しうるものはすべて直線から構成されうると主張されたことから、

実用的な考え方に基づく数式を基盤とし、求積法的な方法による数学が発達して行く。知識は測定

に基礎をおくべきである考え方が主流を占める時代になり、現実的な応用面での研究が中心として

行われた。 この考えを基にして、 特にイタリアにおいて、アルゴリズム(算法)、アルジブラ(代数学) の研究

が盛んとなる。 幾つものアルゴリズムに関する研究者が出て来た。 そして実用的計算を試みる人

が出て来た。万能の天才と言われたダ・ヴィンチ(Leonardo, da Vinci、1452~1519 イタリア)による

近代力学と実用数学の創始があり、又この時代の代表的研究者としてダル・フェロ(Scipione, dal Ferro、1465~1526 イタリア)に始まる 3次方程式の解法の研究は、タルタリア(Tartaglia、1499~1557 イタリア)を経て、カルダノ(Geronimo, Cardano、1501~1576 イタリア)によって完成され、その弟

子フェラーリ(Ferrari、1522~1565 イタリア)は、4次方程式の解法を提唱した。 この時代、 等差数列、 等比数列等、 及びそれに関連して、オレムの流れを発展させた反復計算

の考えが出された。 この反復計算が、後の時代に活躍したヤコビの行列式反復計算の考えに影響

を及ぼす事になる。この時代の著名な数学者として、イタリアの レティクス(Retics、1514~1576

Page 7: History of Numerical Calculation and Computers (Calculators)

907

イタリア)は、6種の三角関数、正弦、余弦、正接、余接、余割、正割の数値から三角表を作り、オッ

トー (Ottoh、1550 ~1605 イタリア)は、レティクスの計算をもとに精細なる「三角表」(1596)を作

った。その他ボンベッリ (Bombelli、1530~ ? イタリア)の「代数学」(1579)と虚数の導入の考え、ス

テヴィン (Stevinn、1548~1620 イタリア) は「十進小数の提唱」(1585)があり、ドイツのレギオモン

タヌス (Regiomontanus、1436~1476 ドイツ)の「三角法」(1471)と「代数学」(1473)、計算学者

であるウイッドマン (Widman、1460 ~ ? ドイツ)による記号の明確化等が挙げられ、これらの人

達が活躍した。 ルネッサンスの中期以降には、多くの式からやがて1つの式だけを中心とした理論的な構築が

なされて行く。代表的な研究者として、ヴィエト(Francois, Viete、1540~1603 フランス)による「解

析法入門」(1591) が挙げられる。更に彼は数の普遍性の証明し、三角法、数表の基礎を確立させ、

記号代数の提唱により現代代数学への序曲とも言うべき代数学研究等も残している。ルネッサン

ス全体を通しての特徴は、数学と芸術の間に相互関係として発達してきた点として注目に値する。

数学上の共通法線から幾何学的模様(曲線群)を描き、3次元空間の移動を平面に投影して透視画

法による芸術など多くの関連分野が発達した。これは数学から発達してきたメルカトール投影図

法にみる全地球の表現などにも影響を及ぼした。 計算器発達の面からは、15世紀には上記のダ・ヴィンチが計算装置を設計した記録(1500)が残っ

ている。記録によると、初めて対数を提唱したネピア(Baron von, Napier、1550~1617 イギリス)は、 計算器の実用を目指して、16 世紀末より研究を開始して計算器の原型の雛形を作り、10 年余りの

試行錯誤の後、やがて次の世紀となる17世紀初め「ネピア計算器」(1612)として完成させた。こ

れは乗除算に向けた初期の計算器となる木製で構成させた棒形状の組み合わせで、簡易式な計算器

であり、完成後はネピア・ロッドと呼ばれた。この計算方式は、べき計算を掛け算に、掛け算を足

し算に変換させる仕組みを実現させるものであった。これは当時棒計算術として名声を得て、棒形

式木製計算器として歴史に刻まれる。その後、対数についての書物「驚くべき対数法則の記述」

(1614)を出し普及させた。対数の計算方法と、考えを纏めて名を残している。 ネピアの研究開発と同じ頃、ネピアの研究情報を得たグレシャム大学天文学の教授であったガン

ター(Guntar)は、この対数の考えに同調して追求し、独自で研究を進めた。研究課題である天文学

計算の必要性から、対数計算が可能な簡易式計算器を、いち早く考案し開発した。これは「ガンタ

ー計算器」(1598)と呼ばれて、ガンター自ら天文学計算を行った。 この 16 世紀末から 17 世紀初頭にかけて、ガンターとネピアの計算器開発は、計算器の歴史上、

重要な一つとして位置づけられるものであり、両者の研究は、その後に発展して行く計算器の開発

方式の礎を築きあげた。この時期を境に、対数の考えから後の時代に開発される計算尺の原理へ発

展して行く形となり、四則計算をはじめ、べき計算を含めた一般算術計算が出来る計算器が登場す

る様になる。

ネピア簡易式計算器(1612) ネピア

4) ( 1601 ~ 1700 ) 17世紀 17世紀に入ると、それ以前に比べて科学技術が飛躍的に進歩し始める時期になる。数式表現、

数式活用だけではなく、数値計算で天文学を求めて行こうとする動きになる。木星及びその衛星

の観測を行い、これを数値計算したガリレオ(Galileo, Galilei、1564~1642 イタリア)は、一方で物体

の自由落下等加速度運動、放物線の式、落下と放物運動等の研究を数値計算で求めている。ガリ

Page 8: History of Numerical Calculation and Computers (Calculators)

908

レオは動力学には、無限小の考えが不可欠であると信念を持った。高次無限小の概念の始まりで

ある。ガリレオは数値計算の考えを構築する上で、逐次計算する時、数値の無限小の考えを採り

入れた。この考え方は、その後の逐次近似式として、数値計算の基礎を創り上げた。この時代に

ガリレオは、数値計算発達に向けての強い原動力を打ち立てた。 同時期、数理天文学を確立させたケプラーは、この時代に研究されてきた対数を用いて天文計

算(有名なケプラーの法則)を行い、合わせて関数の極大(小)値研究も行っている。 この頃は、幾何学

の発達と三角法、円錐線、解析学への本格的芽生えを始め、数学面が物理研究に密着した時代であ

った。従来の数学から一層発展し、理論数学面の基礎となるべき部分が構築し始める時代でもある。

この時期には、ガリレオを始めとする一部の人達による理論的な数理研究と、実用に向けた数値

計算が行われ、これらの人の計算手法は、現在に到る数値計算の源流となる逐次計算方法である

過少近似評価法(現代版ホーナー法)と言われる方法へ発展して行った。 この時代の特徴は、数学・数値計算としての本格的な専門組織は、まだ存在していなかったが、

イタリアを始めイギリス、フランスにおいては、少しながら数学・数値計算分野の組織化に向けた

団体(インヴィシブル・カレッジ)が、構成される様になってきた。ここで情報の交換や、技術交流が行われ

た。この時期の研究団体は、数式表現、数式活用と計算が中心であった。こうした事による情報交

換が、数値計算の技術進歩を加速させてきた。哲学者デカルト(Rene, Descartes、1596~1650 フランス)は、マイナスの概念を確立させる等、数学の面でも優れた意見を述べており、この頃の社会で

活躍した。 現存する機械製による本格的な計算器の最古のものが、この時代に作られた。歯車を併用した

計算尺の古典式のものであり、チュービンゲン大学の数学天文学の教授であったシカルトが開発

し、上述したケプラーが応用を試みたと記録されている。今日、残された設計図から、「シカルト

計算器」(1623)として復元されている。この計算器は、前時代から17世紀初期にかけて研究され

たネピア数学の対数の考えを発展させ、更に歯車を採り入れている。確率論の創始者である数学

者パスカル(Blaise, Pascal、1623~1662 フランス)も、パスカリーヌと称する歯車を用いた機械計算器

を作り、ここでは彼自身の研究対象である数式・計算式の展開から、 効率的な数値計算を目指して

計算器の実用化を試みた。この「パスカル計算器」(1642)は、当時の貨幣単位に合わせて、10進数、12進数、20進数の組み合わせがあった。パスカルは生涯に数十台製作した。補数を加えて引

き算を行う方法、桁をずらしながら加減算を行うことで乗除算を行う方法等の考えは、数百年を

経て、後の時代の計算機演算装置の原理となっている。 バーロウ(Barrow、1630~1677 イギリス)、 ニュートン、ライプニッツの時代になると、数学の中に

無限と極限の概念を採り入れた考えが構成される。これらの中から差が無限に小さくなることに

よる求積法の考えが誕生する。これはフィボナッチ数学や、ガリレオ数値計算の影響を受けたも

のと考えられる。こうして方程式の確立、 微分積分の収束計算、 差分計算、積分の面積計算等が

行われた。これは補間法によって推測した式に、始めの増分に対する最初の比を計算するもので、

後の時代、数値計算における収束計算の考えに発展して行くものである。 この時代に、計算を機

械で行う為の新しい考えが出される様になる。 積分学者として後世に名を残したライプニッツも

自ら提案した積分計算の検証のため、歯車による機械計算器を考案した。同じ頃、モーランド

(Samuel, Moorland、1625~1695)による加減算のスムーズな計算機等、その他の研究者達によ

る計算器も開発された。これら「シカルト計算器」(1623)、「パスカル計算器」(1642)、「モーラ

ンド計算器」(1666)、「ライプニッツ計算器」(1673)、「グリレー計算器」(1678)等があり、その

他の資料として、文献「算術研究法」の絵として描かれている「カスパード・スコット計算器」(1668)等、この時代の計算器は、復元されたものを含めて、今日まで幾つも残されている。この時代は

計算器として、主に四則計算、べき計算が出来るものであった。 この時代に特記すべき事項として、ライプニッツの優れた業績があげられる。ライプニッツは、

ニュートンの方程式を幾つも並べて眺めている内に、それらの方程式から全体を把握して一意に表

現する考えが浮かぶ。それが連立方程式としての考えに至った。ライプニッツは、この連立方程式

に添え字を表現している。数式を正確に表現する指標としての添え字、つまり記号が解析として表

現することを意識した。これが一般化され、やがて行と列を表す方向へ進んで行く。この考えが、

Page 9: History of Numerical Calculation and Computers (Calculators)

909

次の時代に主役を担う行列式へのルーツとなる。この様にして、ライプニッツは並べた方程式群か

ら、行列式の原案の構成を考案し、この行列式を研究して論文を発表した。それがライプニッツの

「行列式の原案の考察」(1690)として残されている。この行列式研究が、後の時代に発展し、数値

計算の大きな飛躍となって行く。この行列に関して、後の世紀で詳しく解説したい。更に、ライ

プニッツの業績として、他に2進数(0,1)なる数式基礎を検討していた。この時期、日本におい

て数学者関孝和(1642~1708)が、近似計算等の研究を行っている。一方で17世紀は数学の一分野

として、イギリスで統計学(推測学)の考え方が芽生えた時代でもある。 17世紀後半の特徴は、数学から工学への芽生えの時期であり、運動エネルギーの概念が採り入

れられた。音波の等温振動における伝波速度、抵抗媒質中の物体運動、渦巻運動等が数学から発展

して行く。こうしたニーズは流率法から進展した解析として、導関数の考え方や、方程式の近似解

を求める考えに至る。この近似解のニーズは、計算器の要求として成長して行く。この時代の著

名な数学・数値計算での活躍者は、カバリエリ (Cavalieri、1598 ~1647 イタリア)、 不可分量の幾何

学(1635)、ド・フェルマ (Pierre, de Fermat、1601 ~1665 フランス)、一般放物線の求積(1644)、トリ

ッチェリ(Torricelli、1608 ~1647 イタリア)、一般双曲面の求積(1646)等が挙げられる。数学から流体

力学へ発展させたベルヌーイ兄弟(Jacques, Bernoulli、1654~1705, Jean, Bernoulli、1667~1748 スイス)等は、17世紀から18世紀にかけて活躍し、優れた研究結果を多く残している。 この時代、ネピア計算器の考えから流れを汲むシカルト計算器に代表される様に、特徴として従

来からの四則計算、一般算術計算を始めとして、歯車を併用した計算尺式から機械式歯車を用いて、

方程式を基礎とする数値計算に対して、差分式の計算から数値解を求める迄発展してきた。上記の

過少近似評価法等が、この方法を求めるにおいて、 一部は手計算で、 一部では機械計算器を使っ

て、数値計算として求めようとしたことが注目される。

ガリレオ シカルト計算器(複製) パスカル計算器(1642) モーランド計算器 (1623) パスカリーヌ (1666)

カスパード・ ライプニッツ計算器(複製) グリレー計算器 ライプニッツ スコット計算器 (1673) (1678) (1668) 5) ( 1701 ~ 1800 ) 18世紀 18世紀に入ると更に進歩が見られた。18世紀前半では数値解法の基礎方法論探求の時代である。

解析数学が発達し、一方で工学研究に不可欠な偏微分方程式が定義され、基礎論が発達した時代

である。前時代から活躍した数理物理学研究者ベルヌーイは、流体方程式とその差分形の関係を

表した計算方法を提案した。ベルヌーイの流体力学の考えから発展し、無理数の無限積分として、

Page 10: History of Numerical Calculation and Computers (Calculators)

910

スターリング(James, Stirling、1692~1770 イギリス)は、数式の確率公式を導き出す。スターリン

グ数式の考えから確率数学発展の時代でもあり、ここで誤差の考えを育む時代を迎える。18世紀

は数学から統計学が分離独立し、推測統計学として発達してきた時代でもある。 ヨーロッパにおける18世紀の社会の趨勢は、フランス革命に代表される革命として、自然科学、

とりわけ数学の分野にも旧来からの方式に甘んじるものでなく、革命の意識が芽生えて発展したと

考えられている。幾何学分野においても、幾何学革命と称して、非ユーグリッド幾何学に見られる

新しい理論の構築がなされた。解析学にも解析学革命として、ダランベール(Jean, le Rond, d’Alembert、1717 ~1783 フランス)は、17世紀から研究されてきた常微分方程式に対して、弦の振動

問題から「二次の偏微分方程式」(1747)を導いた。この人は、常微分方程式の解法、更に高次常

微分方程式の解法、複素関数の表現等でも研究成果を挙げている。これにより解析学の分野が大

きく前進する時代となる。解析学や代数学に代表される数学理論の普及は、数値計算としてやがて

計算への実証を試みる時代へと橋渡しされて行く。 この時期、数学はやがて自然史と共存し、地球の年代予測 (当時の地球誕生推定、75,000年前)の数理的研究へと発展して行く。印刷技術の発達もあり、数学としての教科書が多く作られて、一般

市民にも、この時期に研究された数学の先端情報が、普及して行く時代でもあった。 この時期、数学者テイラー (Brook,Taylor、1685~1731 イギリス)は、フィボナッチ数学の研究か

ら、無限級数をテイラー展開としての方式を提案する。この考え方は、今日の差分の理論に採り

入れられている。これがテイラー級数として普及した。このテイラーを手本にマクローリン(Colin, Maclaurin、1698~1746 イギリス)は、マクローリン級数を考案した。そしてマクローリン級数の実

用と、その普及を努めた。一方、クラーメル(Gabriel, Crammer、1704~1752 フランス)は方程式から

3×3行列を定義し、斜め位置に有る係数を掛け合わせることで、方程式が解けることを証明した

(1750)。 18世紀後半になると産業革命の活性化があり、ここで応用数学の芽生えが出来、工学への適用

が試みられた時代である。数値解法の具体化研究が始まる時代でもある。18世紀前半から後半に

かけて活躍した人に、この時代の著名な数学・数値計算研究者として、オイラー(Leonhard, Euler、1707~1783 スイス) の存在がある。この人は解析学と微分方程式、オイラーの微分方程式の解法(オイラー法)等を残している。同じ時期、ダランベールやオイラー等と並行して研究していた解析数学

者ラグランジュは、ラグランジュ関数を構成させて提案すると共に、解析学的の分野を発展させ

て力学研究を進めた。このラグランジュは、先人ライプニッツが考案した「行列式の原案の考察」

の行列式を研究した上で、複数の数式を 1つに纏めて定義した今日の行列式の原案とも言える「行

列式の表現」(1773)を発表した。更に、数学と力学の境界点としての旺盛な研究意欲から、工学分

野への不朽の名作、「解析学的力学」(1788)を後世に残した。この時代から工学分野を的にした、

行列としての数値計算時代の幕開けである。 18世紀は、計算器発達の点で、ロンドンのサイエンス・ミュージアム所蔵の計算器(1701)等が挙

げられる。計算器の存在として多くは残されていないが、ライプニッツの計算器以降も、数値計算

へ向けての計算器開発に、新しい研究が希望されたであろうと推測される。この計算器の発展した

ものとして、自動化された原理に基づく織機が開発され、社会へ普及した形が残されている。代表

的な自動化機械を開発したジャカール(J.M. Jacquard、1752~1834 フランス)による「ジャカール式織

機」(1799)等が知られている。この自動織機開発の特徴は、後の時代に計算機構成の必須となるパ

ンチカードシステムの考えに発展して行く。計算器として、上記オイラーの微分方程式、ダランベ

ールの常微分方程式等の解法を目指して、前時代からこの時代にかけて造られた計算尺的な方法

や、手回し式や歯車式の器械を回転させた計算方法で、 収束値を求めたいと希望したであろうと

考えられる。こうした微分方程式を数値計算で解いてみたいとした努力の足跡が、歴史として明記

されている。

Page 11: History of Numerical Calculation and Computers (Calculators)

911

サイエンス・ミュージアム所蔵 ジャカール式織機 ラグランジュ ロンドン製計算器(1701) (1799) 6) ( 1801 ~ 1850 ) 19世紀前半 本稿では、19世紀に入り新しい芽が吹き出した行列の数値解法に注目したい。それは現代数値

計算の中心と考えることの出来るガウスの消去法を原点とした行列式の歴史的展開と、その分類

を主たるテーマとして、計算機の発達を絡めて以降の世紀を論じて行きたい。特に別紙[数値解

法の歴史的発展図]の説明を中心に展開したい。 19世紀に入ると、解析を基礎とした上で理論数学が発達した時代であり、工学分野では応用数

学が一層発達する時代を迎える。この時代の特徴は、機械計算機の研究が行われ、新たな数値解

法が提案され、それが試みられる時代でもある。これに伴い工学ニーズが高揚して行く。19世紀

初めにおいて、この時代は物理学への発達も著しく、 経験主義による力学に基礎を置くのもで、 現在では古典物理に位置づけされる分野であるが、 この物理を解析的に数値解を求めようと工夫

した時代である。それは古典数学としての強存在(解析的考え)としての数値計算の確立であった。

この時代コーシーは、ラグランジュ数学を研究し、そこから「行列式」(1812)の四則計算を定義

した。今日一般化されている行列式の始まりである。コーシーは更に解析学を力学から独立させ

「複素変数の関数解析」(1831)を提案した。この後は、従来の方程式研究と並行して、自然科学

及び工学分野に、行列式が発展して行く時代になる。 上記、2.数値計算の原点で述べた如く、ラグランジュの「行列式の表現」を研究したコーシー

は行列の和、差、積、除(逆)を論じ、行列式体系を確立させた。今日の行列式の理論である。

このコーシーの行列式(小行列分解方法)に対して、ガウスは数値計算として、より効率的な解

法、「ガウス消去法」(1823)を考案した。このガウス消去法に代表される直接法としての各種の

解法が、その後の時代に多く研究されたが、これらの直接法は、このガウスの流れを引いている。

行列を適切に操作しても、行列式そのものの値は不変である性質に着目し、行列の各値を消去す

る考えが出来る点である。すでに計算機の必要性が提唱され、数値計算の実用化が望まれた時代で

あった。 この頃は、計算対象とした問題が密で小規模な行列を正確に求める事にのみに着眼があった。

又一方で、旧来の数学的発展は続き、 無限小による収束の考えを採り入れた反復を生み出した。

その頃幾つかの問題(古典物理)を検討して行く過程で、 そのモデルの持つ性質から、 もとの性

質が崩れない反復的な考えとして採り入れられる様になる。 これが反復法の考えを推し進めたヤ

コビの基礎理論であり、これは「ヤコビ法」(1837)と言われて、その後に発展して行く反復法と

しての基礎原理を作り上げる事が出来た。 この時代にザイディル(P.L.V., Seidel、1821~1896 ドイツ)は、数学の一様収束の概念を組み立て

て、ガウス流の考えも採り入れて、ヤコビ法の改良である方法を研究し、「ガウス・ザイディル

(Gauss-Seidel)法」(1840)と称した反復法を提唱した。 物理数学面からは、確率論的物理学者ラプラス(Marguis, Laplace、1749~1827 フランス)は、ニュ

ートン数学を物理上から研究するうち、ニュートンのある種の方程式を構築させてラプラス方程

式として提案した(1805)。少し後に数理物理学者ポアソン(Simeon-Denis, Poisson、1781~1840 フランス)は、ラプラス方程式を研究するうち、定数項を加味したポアソン方程式を考案する(1820)。これは今日の計算物理学の基本式となっている。テイラー級数の研究からフーリェ(Jean, Fourier、1768~1830 フランス)は、工学研究分野への計算を無限展開の理論としてフーリェ級数、フーリェ変

Page 12: History of Numerical Calculation and Computers (Calculators)

912

換を提唱した(1807)。この考えは、その後の工学研究への躍動になっている。例えば、工学的周

期変動の解析や、特に20世紀後半以降の大規模計算を必要とするプラズマ物理の電磁場問題等で

は、周期境界条件などの特徴を有する為、このフーリェ変換が適した数値解法として用いられて

いる。 コーシーの理論研究からから始めて、フーリェの研究も行ったディリクレ(P.G. Lejeune,

Dirichlet、1805~1872 ドイツ)は、収束のための十分条件や、フーリェ級数に対する十分条件を与

え、ディリクレ条件として提唱した(1850)。物理学への境界値問題としてのディリクレ条件であ

る。一方、解析学者グリーン(George,Green,1793~1841 イギリス)を始め、理論数学者アーベル(Nieis, Henrik, Abel、1802~1829 ノルウエー)、ガロア(Evaliste, Galois、1811~1832 フランス)等の活躍がある。 この時代の著名な人に、新しい数学理論として、2進数を研究した数学者ブール(George, Boole、1815~1864 アイルランド)の活躍が挙げられる。ブールは「2進数代数学の論理」(1850)を構築し、こ

れがオンオフの理論として紹介され、やがて20世紀の電気の普及と共に、電機回路の基礎理論と

して浸透し、工学分野の応用領域が急速に広がり、やがてそれは現代の電子計算機の内部表現で

あるビット表現へと発展して行った。 この時代の計算機の歴史として、計算への準備段階に入ったが、初期の機械計算機として、大

量計算の実用には、ほど遠い状況であった。こうした中でも著名な計算機として、コルマーによ

るアリスモメトールと名付けられた「コルマー計算機」(1820)や、ケンブリッジ大学の数学教授

であったバベッジ(Charles, Babbage、1791~1871 イギリス)による「バベッジ計算機」(1823)が研究開発され、計算機の歴史に大きく名を刻んでいる。当時高額を投じて開発された新しいバベッ

ジの機械計算機は、十分な成果を修めたとは言いにくい批評もあるが、数値計算発達の面からは、

当時として大型な階差式機械計算機で、上記の数値解の検証を希望した時代であった。

コルマー計算機(1820) バベッジ計算機(1823) コーシー ガウス アリスモメトール 7) ( 1851 ~ 1900 ) 19世紀後半 19世紀後半になると、 それまでは数学が解析学を基礎とした理論手段に対して、自然数が大事

と再認識され、そこで扱う領域が自然数の離散集合として研究が進んで行く。これらは群論に見

られる形への基礎を作り、この離散的側面と連続的側面を絡ませる方向へと向かって行く。方程

式では、実解析のニーズが生じてくる。一般的に無理数になる場合は扱いにくく、解析の近似解

で置換する考えの発展である。このニーズはやがて解析学の数式処理化として発展し、計算機発

達へ加速する方向へ向かう。 一方、数学は特殊な数の類、及び非代数学的実数からなりうるリュウヴィル数として超越数が

発展して行く。こうした考えから、エルミート(Charles, Hermite、1822~1901 フランス)は、超越関

数の定義と独自の「エルミート行列」(1873)を定義する。 新しい数学者として、演算子を提唱したハミルトン(Sir, William, R., Hamilton、1805~1865 イギ

リス)を始め、ワイエルシュトラス(Karl, Weierstrass、1815~1897 ドイツ)、クロネッカー(Leopold, Kronecker、1832~1891 ドイツ)、リー(Marius, Sophus, Lie、1842~1899 フランス)、リーマン(Bernhard, Riemann、1826~1866 ドイツ)、カントル(Gong, Cantor、1845~1918 ドイツ)、ポアンカレ(Jules, Henri, Poincare、1854~1912 フランス)、ヒルベルト(David, Hilbert、1862~1943 ドイツ)等理論数学研

Page 13: History of Numerical Calculation and Computers (Calculators)

913

究者が輩出し、数学分野は一定の方向性を目指して発展して行く。それまでの解析数学から位相数

学等に代表される空間論数学や、集合論への飛躍である。工学に於ける数学への応用研究とは、少

しづつ方向性が変化して行く時代になる。数学は代数学、幾何学、解析学、位相数学、関数論等に

専門分野毎に分かれて研究が進められる。 応用数学の立場から考えると、物理面を考慮した従来の古典数学から、実用化を目指した計算

数学への発展が期待出来た時代である。 数式の具体的解法を目指した方法である。 合わせて数学

の発展は、集合の理論や最小自乗法の考えにも発展して行く。 ジョルダン(Wilhelm, Jordan、1842~1899 ドイツ)は、数学の応用として行列を有界部分集合に見立てて、ある条件を満たす測度

を対応させる考えから、 ガウス消去法を改良して「ガウス・ジョルダン(Gauss-Jordan reduction)法」(1868)を提案した。この解法は、ガウス流を原点とする直接法の1つであり、今日では数値計

算の基礎理論として、掃き出し法の名で各方面に活用されている。この解法は、数式展開が理解

し易い事もあり、後の時代となる1990年代以降の並列解法を目指す、次世代数値解法の基礎研究

材料にもなっている。 測量士コレスキー(A.L., Cholesky、1875~1918 フランス)は、最小自乗法の考えから下三角行列と

上三角行列(下三角行列の転置行列) に分解する事により、 効率良く解ける事を提案した(1870)。後に「コレスキー法」として普及した。こうした考えは、 その後計算機の発達と共に、自然科学

の分野で対象としたモデルが汎用化されるにつれて、 適用が広がる様になってきた。 このコレス

キーの分解の考えは、今日不完全コレスキー分解として大規模疎行列の先駆的研究テーマになって

いる。現在の行列における前処理法の計算理論にも、大きな期待が寄せられている。行列の考え

方の発達史からは、行列には対称、非対称が存在し、コレスキー法により、行列の分解する考え

方が、理解された時代である。 19世紀の後半は、数学分野における抽象数学発展の基礎を築き、方程式論に抽象概念を組み入

れて、新しい数学概念を構築した時代でもあった。一方、解析を基礎とした上で、現代数学に繋

がる理論数学も発達した時代であり、工学分野では応用数学が一層発達する時代を迎える。 この時期には機械計算機の研究が盛んに行われ、新たな数値解法が提案され、これが試みられ

る時代でもある。これに伴い工学的ニーズが、一層高揚して行く。それらに呼応した計算機は、

解析機関として活用する事が実証し始めた頃である。計算機も現実的になってくる。解析学者で

あるボールドウイン、フェルト、ボリー等により、解析学の数値計算を検証する上で、ライプニ

ッツ計算器の実用化を試みた事が記録に残っている。著名な計算機としてシュウツによる階差式

機械計算機としての「シュウツ計算機」(1854)、そして「オッドナー計算機」(1886)、「ホレリ

ス作表機」(1890) 等がある。フェルトはライプニッツ計算器を研究改良し、コンプトメータと名

づけた。これが効率的とされた「フェルト計算機」(1890)である。更に「マイケルソン-ストラッ

トンの調和解析機」(1898)等が代表として挙げられる。この時代に、計算機の概念の応用である

工学算定機械として、ケルヴィン(Lord, Kelvin)の「潮位算定機」(1876)他が開発された。これら

の計算機は、今日見る計算機の様な、十分な計算が出来るものではないか、数値計算を何とか実

現したいと思った当時の人々の気持ちが、新しい計算機の開発に繋がり、機械計算機としての基

礎を積み重ねて行く努力が、1つの成果として歴史に残されたものである。

シュウツ計算機(1854) オッドナー計算機(1886) ホレリス作表機(1890)

Page 14: History of Numerical Calculation and Computers (Calculators)

914

フェルト計算機(1890) マイケルソン-ストラットン コレスキー

コンプトメータ の調和解析機の複製(1898) 8) ( 1901 ~ 1945 ) 20世紀前半 (戦前) 20世紀に入ると、ハウスドルフ(Felix, Hausdorff、1868~1942 ドイツ)、ルベーグ(Henri, Leon, Lebesgue、1875~1941 フランス)、バナハ(Stefan, Banach、1892~1945 ポーランド)等高等理論数学者が

台頭し、やがて数学分野は空間数学への追究を進め、更に測度論への探求等、工学分野の数学とは

1線を画す時代となる。数学理論は数値計算とは別分野になり、理論展開を重要視する方向へ向か

う。数学分野では従来からの専門数学分野の上に、19世紀より研究が進められた関数解析の発展、

更に積分方程式等が加わり、その研究範囲が広がって行く。数値計算は解析理論を含めながら数値

解析とも呼ばれる様になり、計算機の発達と共に独立した分野へ育って行く様になる。 一方、第二次大戦中は軍事研究の基で、数学的分野からOR(オペレーションズ・リサーチ)の新分野が確立

される。応用数学の立場からは、物理を中心とした自然科学だけではなく、 多くの問題(理工学

事象)が研究される時代になる。 物理学研究を中心とした アインシュタイン(Albert, Einstein、1879~1955 アメリカ)による「一般

相対性理論」(1915)の提唱と解法は、式は立てられたが解法に手間取った19世紀の計算方法の改

良に拍車をかける様になる。常微分方程式の場合も収束方法が研究され、偏微分方程式等で近似さ

れた差分式の解法もいろいろ工夫された。 自然科学での式は、行列計算を含めて、20世紀に入ってからの数式の特徴を活かす為、 ある程

度の大きさ(小規模)の行列を探究する機運が出来る。行列の解法として、 適切な行列の分解にも

応用される様になって行く。 クラウト(Crout)が研究した解法は、やがて発展して「LU分解法」

(1941)として大きな進歩をもたらした。このLU分解法は、後の時代に不完全LU分解法として発

展を続けて、反復行列に対する行列の前処理(Preconditioning)法として1つの体系を作り、大規

模な行列計算の高速数値解法に大きな進歩をもたらした。LU分解の理解と普及から、この時代は

行列の置換の考えや、行列の正定値の考え、行列には密行列と疎行列があるといった行列の性質

の考えが発達した時代であった。そしてこのLU分解法は、後の時代に登場するスーパーコンピュ

ータ性能比較の演算処理の尺度として用いられている。 電気の時代になり、計算機発達の面からは、従来の機械計算機に比べて大きく進歩した。それ

は電気計算機として、微分解析機等の名で研究に用いられたり、 一方で電動モータと機械仕掛け

のアナログ計算機が、高速計算機に向けて発達する様になった。この時代に高速型計算機開発に

向けて、ブッシュ(Vannevar, Bush、1890~1974 アメリカ)の活躍がある。その代表的なものが、

MITにおいて微分解析を行う手段として、専門分野に特化した高速演算手法を目指してブッシュ

が中心となって開発した「MIT微分解析機」(1935)である。この専門分野の計算機は、当時の常

識を超えた画期的な高速処理を実現した。その少し後、ハーバード大学とIBM社の共同技術陣は、

自動逐次制御計算機として、この時代としては想像を絶する程の抜群の高性能を誇り、格段に優

れた大規模な構成による高速電気計算機 「MarkⅠ」(1944)を開発した。MarkⅠ、それはこの電

気の時代に、科学技術計算専用機として華々しく活躍し、その逞しい雄姿と優雅さを兼ね添えて、

素晴らしい計算能力を誇った最新鋭の計算機であった。この高速計算機の開発は、本格的な科学

技術用計算機のさきがけとなった。この電気計算機にて、常微分方程式の収束方法等が研究され

Page 15: History of Numerical Calculation and Computers (Calculators)

915

た。常微分方程式は追跡方程式として、今日ロケットや弾道ミサイルの軌道予測計算となってい

る。つまりこの数値計算が、ロケット研究に活用された始まりである。この時の軌道予測計算と

して用いた常微分方程式の数値解法は、オイラー法としての計算が中心であった。 この時代、軍事目的(暗号解読)の秘密研究としての優れた計算機、「ABC」(1942)や「Colossus」

(1943)、更に「ASCC」(1944)等が研究開発されていた事が、近年になって判明している。

MIT微分解析機(1935) MarkⅠ(1944) 9) ( 1946 ~ 1959 ) 20世紀半ば 戦後~1950年代迄 この時代以降は、既に上述した報告として、21世紀現代の数値計算において計算時間の多くを

占め、特に大型数値計算の主流となる連立一次方程式の各種の数値解法に関して焦点を充てたい。

合わせて、電子計算機の急速な発達による社会変化により、数値計算を主とした応用数学と、計

算機の関わりの点について具体的に論じる。 1950年代までに於いては、数学者集団のブルバキ(Nocolas, Bourbaki、1930~ フランス)、コーエン

(P.J., Cohen、1930~フランス)、デルサルト(J., Delsarte、1903~1968 フランス)等高等理論数学者達は、

より高度な数式を目指す様になる。これは現代数学としての勃興である。数学は仮定をたてて式

を展開する空間数学として研究され、それはやがて抽象数学への方向性を目指して進んで行く。

戦前から研究されてきた数学としての代数学、幾何学他に対して、例えば幾何学を採り挙げれば、

平面幾何学、立体幾何学、微分幾何学、射影幾何学、位相幾何学、リーマン幾何学等の如く、前時

代から研究されてきた専門分野が、更に特化し、細分化されて発達して行く。そして数学から分離

した統計学は、多変量解析学を含めて独立した1つの学問分野として育って行く。 数値計算の面から、この時代になると数式の差分形式を計算する上で、陽解法と陰解法があり、

その陰解法では、多くが連立一次方程式に導く事の理解が浸透する。この連立一次方程式を効率

良く解く上で、行列(中小規模)を変形(ヘッセンベルグ変形)したり、巡回行列の考えが出されたり、少

しでも高速で解を求めようと、効率的な形で収束へ導く方式が考え出される。 ここで、この時代から盛んに研究される様になる反復法を大別すると、「定常反復解法

(stationary iterative method)」系と「非定常反復解法(nonstationary iterative method)」系に分

類する事が出来る。前者はヤコビ法に代表され、その改良であるガウス・ザイディル法や後述する

SOR法等であり、後者は同じく後述するCG法に代表される。これに到る考え方の過程は、およ

そ次の様なものである。 計算学者のサウスウエル(R.V., Southwell)は、数値計算の反復分野において、ヤコビの反復

法の改良として収束の高速性を目指した「Iterative Method Relaxation」を「Southwell法」と

して提案した(1946)。この解法は後に‘Noncyclic Iterative Method’と呼ばれ、人の洞察力を必

要とするものであった。この後に、数値計算の専門家集団であるゲイリンガー(Geiringer)、リ

ッチ(Reich)、ヤング(Young)、フランケル(Frankel)等は始めに手順を定めると、解の途

中過程では変更しない‘Cyclic Iterative Method’を提唱した(1949)。この専門家集団が提案し

た解法は、それまでの解法に比べて、比較的高速性を保ちながら、解の安定とスムーズな反復展

開が期待出来るものであった。この反復展開の一段の飛躍として、ガウス・ザィデル法に加速パ

ラメータを加味し、漸近収束率を高め、高速収束を目指した形として、専門家集団のうちの2人

であるヤングとフランケルが「SOR法」(1950)を提案した。ヤコビの反復法を基礎として構築さ

Page 16: History of Numerical Calculation and Computers (Calculators)

916

れた改良型反復法は、いずれも行列の性質そのものの効率化を追求した形となっている。これに

対して、SOR法は加速緩和因子を用いることにより、ヤコビ法から発展したガウス・ザイディル

法よりも、更に漸近収束率が優れている点に特徴がある。SOR法はこの時以来、工学や基礎論を

追求する計算物理の分野に多く適用される様になった。このSOR法は、その後に幾度もの改良を

加えて発展して行く。 数学の発達史からは、特に20世紀に入ってからの現代数学の発展と伴に、 応用数学分野へ空間

論の考えが構築され、数学理論面から応答曲面による極値探索問題として研究された。この研究

の対象である「最急降下法(SD法)」(1949)は、その後現代数学の特徴とする弱存在としての空

間論を用いた形として発展して行った。その空間内で、解への最急方向を見い出す解法が考えら

れる様になる。 ヘステンス(M.R., Hestenes)とスティーフェル(E.L., Stiefel)は、一次独立なベク

トルを定義し、空間内を直交性を保って探索する考え方として「共役勾配法(CG法)」(1952)を提

唱した。この解法は、その後の時代になるが、各種の前処理を施す事で、計算の効率化を目指し

たCG法の枝葉が後に幾つも研究され発展するが、その集まりをここではCG法系(共役勾配法系)

と分類したい。このCG法自体の解法は、対称行列に制限されるが、その後の改良による各種類に

より、非対称行列も解法が可能になっている。CG法系は大きく発展し、幾つもの種類が工学分野

に適用され、効率的解法としての研究が、その後も続けられる様になる。 一方で同じ加速パラメータでも反復法の長所である高速解法の中に、直接法の長所である厳密

解法の組み込み研究を行い、行方向求解、列方向求解による交互方向の解法をピースマン(D.W., Peaceman)とラチフォード(H.H., Rachford)が提唱した。これは「ADI法」(1955)と呼ばれ、この

解法は3重対角行列の特徴を活かした力学的考察の良さから、今日原子力や核融合分野に広く使

われている。 更に同じ頃、改良型反復法として発展して来て、後の時代にランチョス(Lanczos)原理として構

築されるもので、その基礎となる「ランチョス法」(1956)が提唱された。 この時期は、対象とする問題(物理学への解析他)も発展してきた時期である。 モデルを注視

する考えから行列そのものに着目し、行列を分解したりして、もとの性質を保存したり、 対称、 非対称の考えが実用的に採り入れたり、対角行列の効率化の考えが芽生えたりした時期と考えられ

る。又、一部に固有値問題解法に関する考え方が出てくる。 一方で、行列変形の考えが、工学分野

に適用される時代になる。 人類初の人工衛星「スプトニーク1号」(1957)が宇宙に飛び出した時代である。NASAでは、ジ

ェミニ計画が実行される。常微分方程式の収束方法として、この時代はルンゲクッタ法が用いら

れる様になる。 この時代の計算機の動きとして、原子力物理学者オッペンハイマー (John, Robert,

Oppenheimer、 1904~1967 アメリカ)の偏微分方程式の数値解法要求に影響を受けた応用数学者ノ

イマン(John, von Neumann、 1903~1957 アメリカ)は、数学におけるノイマン条件を定義し、理論

をまとめて「電子計算機の理論設計序説」(1945)を寄稿し、あわせて応用領域として新しい工学問

題を提起した。この頃、ペンシルベニア大学において、真空管による計数型電子計算機「ENIAC」(1946)の開発に成功した。これはそれ迄の主に電気回路を中心とした計算機に比べて、新しく開

発された真空管を素子とする次元を超越した大規模高速計算機であった。当時としては、時代の

常識を遥かに超えた全く新しい形の高速計算機であり、これは電子計算機の名で登場し、世界中

を驚愕させた。それは科学技術計算に適した高速演算処理能力を有する非常に優れた計算機であ

った。 この時以降、計算機は電気計算機の時代から、やがて本格的な電子計算機の時代を迎える。ENIAC

開発の後、プログラム内臓方式の考えを採り入れたマンチェスター大学の「The Baby」(1948)や、

ケンブリッジ大学のウイルクス(M.V.Wilks)教授らによる計算機内に記憶装置を有した新しい電子

計算機で、最初のノイマン型コンピュータ(2進数)となる「EDSAC」(1949)の開発、更にノイマン

自身の要請で、記憶容量も大きく2進数を基礎とする本格的な電子計算機「EDVAC」(1950)の開発

へと発展して行く。同じ頃、非常に高い効率性を追及し、新しいプログラム内臓方式を実現させた

レミントンランド社による最新型の商用コンピュータ「UNIVAC -Ⅰ」(1951)が登場し、社会へ広

Page 17: History of Numerical Calculation and Computers (Calculators)

917

く普及して行く時代を迎える。そしてプログラムとして、機械語に直接作用するアセッンブラと称

された旧来の言語から、この時代になって科学技術計算用高級言語FORTRAN(1954)が開発された。

ENIAC(1946) EDSAC(1949)

10) ( 1960 ~ 1969 ) 1960年代 この時代から様々な理工学事象が、数値計算の面から研究される時代を迎える。理工学分野に

計算を必要とする研究が行われる。 この頃、微分方程式では陽解法の考えが主流を占めていた。収束計算では漸近収束率の研究か

らスペクトル分解の効率が研究された。常微分方程式では、ルンゲクッタ法(2次)が実用化される

様になる。 解析学へ計算機の導入が進むと、前時代から一部の研究があるが、工学の領域においてある特

定の事象には、それに対応する固有値があると考えられ、対象とするモデルの解析では固有値の

存在が重要視され、それに伴い固有値を計算する手段として、パワー法、ギブンス法、ハウスホ

ルダー法、 エバーライン法、 QR法等を始めとして、各種の固有値解法が盛んに研究された。これ

らを反復改良系固有値解法と分類したい。それ迄、理論上の構成物であった直交行列、ユニタリ

行列、エルミート行列、3重対角行列等の応用的展開としての解法が様々考え出される時代にな

る。これらの反復法に対して、反復に準じた解法として、「チェビシェフ(Chebyshev)準反復法」

(1960)が提唱され 実用に効果を発揮した。これは固有値問題の高速計算の必要性から加速パラメ

ータを入れた形であり、数値解のステップの安定性をもたらすと重宝され、当時の工学研究の花

形であった原子力問題の数値解法に採り入れられた。 ヤングとフランケルの提唱したSOR法は、その後多くの研究者に受け継がれ、SOR法の枝葉と

して、SLOR法や、Odd-Even SOR法、2-Line SOR法、Point-Block SOR法他が研究され、その

後の時代の研究にも継続された。これらを総称して、ここではSOR法系(加速緩和法系)と分類

したい。これらの解法も効率的・安定的な立場から、初期の時代における幾つもの宇宙開発問題、

そして原子力問題や原子核問題等の数値解法として採り入れられ、安定稼働している。最近の研

究では、このSOR法系は、例えばCG法系が不得意とする条件数の特に悪い原子力問題にも、う

まく適用される事が知られている。但し、収束の時間に関して、後述するCG法系各種ほど高速に

は至らない点がある。更に、行列を不完全分解して、加速された反復方式として「Stone法」(1968)が提唱された。この考えが、次の時代にCG法の加速方法へのさきがけとなる。 直接法の進展の面からは、行列を三角化法にして解を求める「Tewarson法」(1967)等があり、

50年代の「Markowitz法」(1957)を含めて、三角化法系と分類したい。そして建築系等の工学領

域で特徴とするバンド行列としての「Rosen法」(1968)や、「最小次数順序法」(1969)等があり、

これらをまとめてバンド幅縮小法系と分類したい。別な角度から行列をブロック化にして、効率

よく解法を進める「Harry法」(1962)や「Stewart法」(1965)等が次々と提案された。そして代数

学的な論理から展開された多項式的な考えも出されてくる。 数式モデルに対する離散化の点からは、一般研究所では、偏微分方程式の離散化は、中心差分法

(1次)で解くことが主流であった。行列計算を必要とする構造力学の分野からは、有限要素法の考

えが出された。そして構造物に節点を定義するモデルが帯行列になっている事から、 正確性を求

めて来た直接法の解法にも高速性が要求されたり、 数値計算そのものに、計算過程の収束性や安

定性が要求された時代であった。

Page 18: History of Numerical Calculation and Computers (Calculators)

918

この時代、行列計算の考え方の歴史からは、対角優位行列の考えが着目され、その行列を如何

に効率よく解法するかが重要であり、一方で前時代から継続研究されて来た行列の分離の考えが

進んだ。この行列分離の考えが、応用される時代になり、この時代は行列分離の事例研究が多く

なる。更に、行列には規則的に配列した形があったり、不規則な配列があることの認識が浸透し

た時期である。そしてこの時期に、行列の条件数を考える論文が出された。 計算機発達の面から、トランジスタの発明により、それまでの計算機に比べて処理速度も向上

し、記憶容量も増大する形となり、電子計算機はコンピュータの名で、一般に普及し始める時代

になる。数値計算を代表する行列計算の面からは、計算機の発達により、少し大きい行列計算が

実用化される時代となる。この時代に特記すべき計算機として、全世界の圧倒的シェアを占めた、

IBM社の当時最新型・最高品質を誇る商用コンピュータ「IBM360」(1964)の栄華を偲ぶ事が出来

る。一方、高速計算機発達史の面からスペリーランド社による高速計算機として「LARC」(1966)の開発が挙げられる。 この頃の宇宙開発計画として、NASAにおいては、マーキュリー計画からアポロ計画への時代で

ある。アポロ計画による人類初の月面着陸では、当時世界最大で、抜群の最高速かつ大容量を有し、

CDC社の総力を結集させた最新鋭のコンピュータCDC7600が、大規模システム(複数システム)

かつ極限にまで高めた高信頼性環境(更に重複システムの組み合わせ)のもとで用いられた(1969)。NASAにおけるシステム構築環境として、計算機発電所の考えのもと、社会におけるこれ程大きな

計算機は、従来の常識では考えられないものであり、この巨大な計算機システムは、当時マンモス・

コンピュータと言われた。この計画に用いられた、行列における数値解法は SOR 法であり、上述

の如くこの解法は、その後いろいろな分野に対する研究対象として改良され、発展を続けている。 一般産業界や教育界におけるニーズによりOR、統計学、基礎数値計算、構造解析基礎分野がソ

フトウェアとして開発着手され普及を始めた。この時代以降、多くの計算機メーカーが乱立し、激

しく開発競争を行う様になる。

IBM360 標準システム(1964) CDC7600 単体システム(1969)

11) ( 1970 ~ 1979 ) 1970年代 この時代では、計算機はコンピュータの名のもとに広く社会に普及し始めた時代になる。 計算

機はそれ迄に比べて処理速度も格段に速くなり、記憶容量も次第に大きくなってくる。数値計算

の工学分野への適用では、大きな問題(モデル)が要求され、自然現象を簡易モデルとして作り、

各解法を適用したりする時代である。 この頃行列においては、 工学的モデルとして疎行列の特徴

に着目したり、 前時代から考えられてきた規則、 不規則行列の特徴を計算過程に取り込もうとし、 そのモデルに対する解法の取り組み方が、研究される様になる。更に、筐体の大きな高速計算機の

発達から理工学の進歩により、ある分野に特定して、メッシュ問題に対する効率的な解法となる

グリッド法系としての「MG法」(1972)等の考えが出されてくる。行列の分解から数値解法を目

的とするコレスキー分解や、LU分解に対して、行列の全てを分解することより、不完全な形のま

まの分解に表される不完全分解の方が分解時間の短縮として優れており、この考え方が発達した

時代である。それが行列の前処理の位置づけとして行われ、CG法に結びつけることで、高速な解

法が実現することが理解された時代である。その方法は、CG法へ導く前に、行列の不完全分解を

行い、これを前処理として活用する。その代表的な解法は、PCG法、ICCG法、MICCG法、ILUBCG法等が挙げられ、その他多くの前処理系のCG法が、提案された時代である。これらの解法は、地

Page 19: History of Numerical Calculation and Computers (Calculators)

919

球科学、海洋科学、宇宙科学、天文学を含めて、これらの行列が主に規則疎行列となり、それらの

流体力学系の問題として上記の解法が、良く採り挙げられている。更に近年の傾向として、素粒子・

格子ゲージの問題や、後述する分子動力学の問題においても、応用事例が良く見受けられる。 一方でこのCG法系の派生として、残差をターゲットとした前処理も研究された(1975)。それは不

完全分解適用の拡大として、残差にも目を向けられる様になり、それがCR法等への前処理として研

究された。代表的な解法として、PCR法、ILUCR法、MILUCR法等が提案されている。これらを

1つにまとめてCR法系(共役残差法系)として分類したい。この共役残差法系は、残差を最小に

する形で収束し、連立一次方程式の条件数が良い場合、収束が速い特徴がある。これらの解法は、

熱力学関係の問題に見受けられる事がある。 ここで直接法に目を向けると、直接法系の発展として、数学のグラフ理論を応用してきたブロッ

ク化法の研究が盛んに行われ、「Quotient tree法」(1974)、「Dissection法」(1978)、「Ford-Fulkerson法」(1979)等が次々発表された。前時代の同類の研究を含めて、これらをブロック化法系と分類し

たい。更に、バンド幅縮小法系として、メモリ縮小を目指した「RCM法」(1971)や、「Cuthill & Mckee法」(1971)、そしてクラウト後の改良型直接法の進展としての「Bunch法」(1976)等も提案された。 この頃から、境界要素法としての考え方や、偏微分方程式の離散化方式に風上差分法や蛙飛び

法、EVP法等の差分スキームが提案される。構造解析では、行列の特徴が主に帯行列になるとこ

ろから、大型計算の発達と共に、前時代から研究を続けられてきたバンド幅縮小法系が、工学面

へ実用化される。行列計算と解析上、同等の数値解が得られるFFT(高速フーリェー変換)が計算物理で実

用化され、評価が得られた時代である。 宇宙開発計画では、アポロ計画からヴァイキング計画策定の時代である。流体力学では、ナビエ・

ストークスの方程式を、2次の中心差分法で解法を行ってきた。超高層大型構造解析の幕開け時代

となり、大規模行列のメモリ縮小を目指し、幾つかの解法が提案される。 計算機の発達として、この時代、ICの実用化による計算の高速化により、大型計算に向けて出

来る限り筐体(CPU、メモリ、ディスク等)の大きな計算機に対する計算要求が出され、数値計

算の重要性が社会的に認知される時代となる。高速計算機発達史の面からイリノイ大学研究チー

ムは、並列方式アレイプロセッサとして科学技術計算専用高速計算機「ILLIAC Ⅳ」(1972)を開

発、同じくTI社はパイプライン方式の高速計算機「ASC」(1972)を開発、CDC社は7600の高速演

算部分の最大強化版としてパイプライン方式アレイプロセッサとしての「STAR-100」(1973)を開発した。ここでCDC社を飛び出して、世界最速計算機に命を賭けた電気工学者クレイ(Seymour, Roger, Cray、1925~1996 アメリカ)の重要な存在がある。クレイは独自に高速計算の世界観を創り上

げた。それは単一のデータの流れに対して、複数の命令が作用出来るパイプライン方式のベクト

ル型と称された計算処理方式であった。この処理方式による抜群の超高速、超高性能を誇ったコ

ンピュータとして、超(スーパー)を頭に付けて、スーパーコンピュータの名のもとにCRAY社(CRI)が、その独自性を持つ高速技術を誇った科学技術計算専用機として、この時代に数多く出現

した大型高速計算機等、これら他の高速計算機を全く寄せ付けない程、圧倒的に速い超高速コン

ピュータ「CRAY-1」(1976)を初めて社会に出した。スーパーコンピュータの登場は、本格的な

科学技術計算の重要性到来の意味において、社会に計り知れない程の大きな衝撃を与えた。

CRAY-1、それは美しい円筒形(配線経路の短縮化)をした気品高き姿と共に、その名声は留ま

るところを知らず、そしてその驚異的な計算処理能力は、世界中の科学技術計算関係者を激しく

興奮させた。 この時以来、数値計算の高速化が脚光を浴びる時代となる。やがて構造解析の整備を初め、流

体解析、電磁界解析、原子力、核融合、分子科学、地球科学、海洋科学、宇宙科学、天文学等の

ソフトウェアも次第に開発着手され、その後の社会に必要とされてきた。 スーパーコンピュータの登場に合わせて、プログラミングのベクトル化としての考え方が、芽

生える時代でもある。解法理論として、微分方程式では陽解法に替わって、陰解法の考えが主流

になり、安定解への研究探索が行われる。基本ソフトウエアの面からは、科学技術計算に適した

OSとして、ベル研究所が開発した「UNIX」が誕生した(1970)。社会では、数値解法としてのソ

フトウェアが各種商用化され、産業界を初め、研究教育界に普及し始めた時代である。この時代以

Page 20: History of Numerical Calculation and Computers (Calculators)

920

降、ソフトウエアの重要性が社会で叫ばれ、多くのソフトウエア会社が技術を競い合う様になる。

CRAY-1(1976) クレイ

12) ( 1980 ~ 1989 ) 1980年代 1980年代に入ると、計算機の特徴として高速計算を目指した方向性からスーパーコンピュータ

が実用化の時代になり、超高速計算、超大記憶容量の計算機が実現する時代になる。少しでも速

いスーパーコンピュータの実現が要求された時代である。計算機メーカー各社は、後述する新し

い高性能な機種を次々社会へ送り込んだ。 数値計算の工学分野へは、大規模なモデルへの適用と自然現象のあらゆる分野への適用が可能

になって来る。 理工学事象で行列に現れるn点差分係数行列をうまく解かせる為、行列の不完全

な分解や、 対角行列因子分解、 そして60年代から継続研究をされてきた行列の条件数の重要性

が理解され、前処理としての考えがより発達した。一方スーパーコンピュータの特徴を活かす為、 大規模行列の高速解法としてベクトル処理効率化としての考えが出される。 この時代、大規模な行列の高速で効率的な直接解法として、「ブロックスカイライン法」(1980)

が考え出された。これは対称疎行列を目指したものである。その他、乗積形逆行列として内積形

式非対称疎行列直接解法等も提案された。この直接法では、本来は対称非対称の大型直接解法と

して提案された。これらをまとめて大規模行列直接解法系と分類したい。このブロックスカイラ

イン法は、近年に於いて、大型構造物等への適用事例があり、内積形式非対称疎行列直接解法は、

中規模密行列としての電磁界解析等への事例が見受けられる。 更に計算回数を減らす目的として、行と列の効率的順序付けによるオーダリングの考えが出来、

これによりガウス消去法が十分でない直接法の高速化に対する研究も盛んに行われた。直接法の

高速化として著名なものが、村田(K. Murata)による「二段同時消去法」(1983)、「二列同時消去

法」(1983)、「二段二列同時消去法」(1985)等である。これをここでは、高速改良型消去法系と

呼称して分類したい。この研究は、この時代に主流を占めたベクトル計算機向けとしての考えか

ら発生したものである。この様にして直接法の高速化の考えが次々提案された。 一方で関数の最小値の考えから発達して、QMR法、MINRES法他にみる反復系の新しい高速

解法が幾つか提案された。これらを関数最小法系として分類したい。 スーパーコンピュータの社会への浸透と、工学問題への大規模モデル適用の必要性から、反復

法の研究も更に進展した。これらの計算に必要なメモリの増大化の進歩に加えて、行列に於いて

は、より効率的な収束条件を追求する必要性から、空間数学理論としてのクリロフ部分空間

(Krylov subspace)解法等の研究が盛んとなり、安定的な高速解法の考えが実用化された。そして

この時期に、正則な行列と非ゼロベクトルにより、ある正規直交系から反復行列の基礎となる漸

化式を表現したアーノルディ(Arnoldi)原理が提唱された。 その後80年代後半になると、SOR法が発展してベクトル計算機向けに研究され、「マルチカラ

ー法」(1985)が提唱された。更に行列の不完全分解への研究が盛んになり、そしてこの前処理法

としての研究進展は、行列の条件数を改良する事を目指したスケーリング効果の考えの進展に始

まり、速水(K. Hayami)の「SCG法」(1985)等により大型行列の高速解法が実現された。スパー

ス(疎)性の高い大型行列であれば、非対称行列であっても、これを対称行列に変換した後、この

SCG法を適用することで、時間短縮が比較的良く期待出来るところから、今後の工学分野への幅

広い活用が見込まれる。

Page 21: History of Numerical Calculation and Computers (Calculators)

921

新しい考えとしてジェームス(K.R. James、 1950~ アメリカ)は、比較行列を定義し、これにより

行列の考えを広げる事が出来た。前処理としての考えもいろいろ出され、より大規模行列の数値

解法を試みる時代となった。それらの代表的なものに効率的な前処理として、土肥・原田(S. Doi-N. Harada)による「三項対角近似因子分解法(TF法)」(1987)等が挙げられる。これは計算物理分野

への適用事例が、幾つか見つかっている。構造解析分野への差分スキームでは、前時代に提案さ

れてきたブロック化法が応用される。そしてこの時代に盛んになった半導体の数値解法として、

回路解析の分野では、疎密混在形を持つ不規則疎行列となるその行列の特徴から、三角化法系等

が計算へ応用されて来た。 NASAによる宇宙開発分野は、やがて木星、土星を目指したヴァイキング計画実用の時代である。

この時代スペースシャトル実用化の時代になる。流体力学から派生した離散化手段としてFTCS法や原子力問題から研究された粒子のコードから意識したもので、前時代から基礎研究されてきた

MAC法、SMAC法、SOLA法、ICE法等が完成して提案される。更に、理論物理(化学)、実験物理(化学)に加えて、新しい学問体系として第三の学問、計算物理(化学)が社会で重要な位置を占める様に

なる時代でもある。 この時代の高速計算機として、ハードウエアの面からはLSIの実装による高集積化と共に、固定

化されたスーパーコンメーカーとして、SX2/SX3(NEC)、VP100/VP 200/VP 400(富士通)、S810/S820(日立)、CRAY-XMP/CRAY-YMP(CRAY)、CDC Cyber-205(CDC)等が挙げられ、

これらが科学技術計算市場に華やかに咲き乱れた。こうした計算機を独自に「数値シミュレータ」

と名づけて、流体力学等の専門分野に特化して活用させた研究所も出てきた。 一方で、前時代から成長してきたソフトウエアの技術進歩がますます大きく飛躍した。坂村(K.

Sakamura)はコンピュータと、その他半導体関連を共通化する新統一方式の考えとして、「TRON」

を提唱した(1984)。マイクロソフト社において、パーソナルコンピュータに適したソフトウエア

「Microsoft Windows(1.0)」を発表した(1985)。そして欧州核物理学研究所(CERN)のリー(Tim, Berners, Lee)が、情報閲覧として提案してきたwww (word wide web)(1989)は、短期間の間に全世

界に広がる形となった。科学計算のソフトウェアも大きく進歩し、基本的計算を満たすフリーソフ

トを初めとして、スーパーコンピュータに適したベクトル化された高速アルゴリズムが、社会に流

通し始める時代になる。 数値解析分野では、行列を対称非対称に分けたり、スパース行列に効果的な解法等、それぞれの

解法に対する分野毎の数値計算アルゴリズムを有するソフトウェアが、整備され普及して行く。そ

の他の計算分野では分子生物学、分子動力学等の分子科学分野や、医薬学、生理学、遺伝子学、素

粒子・格子ゲージ、原子核、基礎物理学、地球科学、天文学他に対しても、ソフトウェアの開発と

普及を迎える時代である。

SX2(1983) VP400(1984) S820(1987)

Page 22: History of Numerical Calculation and Computers (Calculators)

922

CRAY-XMP(1982) Cyber205(1979) 13) ( 1990 ~ 1999 ) 1990年代 1990年代になると、半導体として素子の先行きが見通せる時代になる。計算機の一層の高速性を

追求する上で、スーパーコンピュータの並列化への考えが研究される時代となる。高並列化を更に

追求した実装化研究に加えて、一方で半導体ではない他の考え、バイオや分子、原子等による新し

い計算機の可能性の探索研究が芽生えて、やがて活性化して行く時代である。現状の計算機と数理

モデルに関して、より大きなモデルに対して並列処理を用いて高速に計算させる事が可能になる。 この時代に行列の解法に関して、直接法においては、ガウス流の改良型として、高速解法を目

指して小佐野(M. Osano)による「PSM法」(1996)が提唱された。これは高速型直接法としての位

置づけになる。反復法の高速解法では、ノルムの考えを入れた田村(A. Tamura)による「切除残

差法」(1996)が提唱された。この解法は、最近の流体力学問題への適用事例が見受けられる。こ

れらは新しい考えとして評価出来、大型行列に効果をもたらせる事が出来た。いろいろな事象に

対して、その行列の特徴を見つけて、適合させる数値解法が研究される時代となる。行列の特徴

とは、密、疎、規則、不規則、対称、非対称、条件数、優対角、大規模、中規模、正定値等の一

定の条件で構成されるものである。工学事象に現れる行列には様々な特徴を有し、その特徴に適

する解法に合わせて使用すべきである考えが生じた時代になる。 計算の高速化に向けて、スーパーコンピュータを始め、メモリ増大等による計算機全体の一層

の発達により、計算精度の向上が期待され、時間と空間を多量のメッシュで計算することが出来

るようになってきた。 計算物理を詳細に目指した解法として、前時代から理論面の基礎研究が行われてきたが、この

頃になって芽を吹き始めた方法として挙げられるものに、計算精度良く解く問題に対して、例え

ば時間発展の計算方法は、2 Step Lax-Wendroff法等により、空間微分に関しては中心差分法を用

いて、時間積分に関しては、次数を上げて4次のRunge-Kutta-Gill法等に基づいた方法が、応用

事例として見受けられる様になる。この時期に離散化手段としてTVD法等が提案された。これら

から大規模数値シミュレーションを実行する様になって来た。そして過去の時代において、それ

まで主流であった工学分野や物理学分野だけに止まらず、90年代に入ると、前時代から基礎研究

されてきた分野が、やがて脚光を浴びる様になる。それは計算対象が、分子生物学、生化学、生

命科学、DNA、ヒトゲノム、計算医学等への新しい進歩が見られた。 この時代の計算機として、前時代から研究されてきた素子の一層の高速化追求は、他のコンピ

ュータにも波及した。90年代後半以降は、パーソナルコンピュータの急速な台頭があった。これ

まで過去の70年代には高価であり、大きな筐体の高速コンピュータにおける膨大なデータに対す

る計算量に対して、90年代末における最上位のパーソナルコンピュータの計算処理時間全体が、

それら旧来の計算量をある程度肩代わりする時代となる。 スーパーコンピュータの動きとして90年代後半になると、米国エネルギー省が中心となって 軍事力向上を目指した「ASCI(Accelerated Strategic Computing Initiative)プロジェク

ト(1995)」が活性化した。そこで採用されたスカラ型並列方式の計算機が主力になるに従って、

各計算機メーカーはベクトル型からスカラ型へと流れ、それらの製品の多様化に伴い、その後に

おいては、一部を除いて高速コンピュータ全体をHPC(High Performance Computer)と呼ばれる

ことが多くなった。

Page 23: History of Numerical Calculation and Computers (Calculators)

923

素子の進歩によるHPCの更なる発達の点から、高速性と並列化実現方式により、物理等の分野

では時間ステップの刻み幅をより細かく、つまりより大規模計算の要求が出てきて、これを可能

にさせる様になった。一般の構造解析分野においては、パーソナルコンピュータで代用出来、産

業界や教育界に普及して行く。産業界の数値計算では、パーソナルコンピュータを並列にして、

高速計算を実現しようとする機運が高まる。計算機のより高速化を目指した発達により、より大

規模な行列の解法を競い合う時代となる。超大規模なメモリを有するスーパーコンピュータにお

いては、数百万行×数百万列、更には数千万行×数千万列の大規模計算の実現等である。一方、

宇宙開発分野は、宇宙ステーション開発の時代を迎える。 この時代には、ハードウエア面で、スーパーコンピュータの発達史からは、高稠密化されたVLSI

の発達と共に、HPCとして数多くの計算機メーカーが乱立する様になる。高速化実現に向けて並

列方式によるものが多く、ニーズを先取りして、中にはスカラ並列方式だけのものもあり、更に

価格の高低を混ぜ合わせて、各メーカーはそうした多様な商品を科学技術計算機市場に送り出す

様になる。その中でも高速計算機の実績の上で、特に代表的なものは、SX4/SX5(NEC)、VPP500/VPP5000(富士通)、S-3800/SR-8000(日立)、CRAY-C90/CRAY-T90(CRAY)等が挙げられる。 この時期に、日本における国家プロジェクトとして、旧科学技術庁指揮のもと、超高速計算を

必要とする複数の研究機関と計算機メーカー(NEC)が共同で研究し、技術の粋を結集させた「地

球シミュレータ(Earth Simulator)」と称するスーパーコンピュータの集合体(ベクトルプロセッ

サ‘CPU’5120台)である分散主記憶型並列計算機システムの開発を着手した。これはこの時代

のHPC最高峰の科学技術計算専用機として華々しく君臨し、世界一最高速を目標とさせた抜群の

高品質・超大規模高速計算機システムであった。地球シミュレータ、それはベクトル計算機集合体

の極致として、その華麗なる姿は崇高な輝きと共に、その名声は果てしなき海を越えて世界中に

響き渡った。地球シミュレータの本格的な実用稼動と応用研究、そして実績評価は次の時代に継

続して行くが、ここでは国際的な学術研究が、共同で行われる様になった。 ソフトウエア発達の面からは、計算を含めた幅広い領域に適するOSとして、「Linux(1.0)」(1994)

が誕生した。 90年代から、新しい技術として芽生えてきたナノサイエンス、ナノテクノロジーとしてのミク

ロからナノにおける新しい分野が注目される様になる。ナノテクノロジーは、原子や分子を直接

追求して行く技術が注目される。そして新しい科学技術の基盤が醸成される。この新しい技術は、

次世代型計算幾科学として期待されている。新しいナノスケールの現象とその過程を追求し、ナ

ノ構造の電子的、光学的、機械的、磁気的性質等を追求して行く時代となる。これを計算機で仮

想的に、実施する上において、数値シミュレーションの役割がますます重要となってきた。宇宙

科学、海洋科学、地球科学も更に発達し、そしてナノサイエンス 、ナノテクノロジーにおける新

しい数値シミュレーション基盤技術が芽生える時代となる。この計算機の発達が、新しい学問を

創り上げることになる。理論科学や実験科学だけではなく、これからは計算科学の名で、第三の

科学としての数値シミュレーション時代のあけぼのと期待される時代になる。

地球シミュレータ 分散主記憶型並列計算機システム 640 ノード・ネットワーク結合(1 ノード=8 ベクトルプロセッサ) 14) ( 2000 ~ (2009) ) 2000年代

Page 24: History of Numerical Calculation and Computers (Calculators)

924

21世紀初頭の数値シミュレーションとして、宇宙科学の分野からは、宇宙ステーション建設の

時代を迎える。ここで計算には、時間及び空間に対して多量のメッシュが必要とされる。そして数

値解法の特徴として、対象テーマが、一般ディリクレ問題から、旧時代より研究されてきた変形デ

ィリクレ問題に対して、それが工学分野への応用として普及して行き、一層の大容量で高精度高速

解法が要求される様になる。 一方でコンピュータの基礎研究の中では、前時代からの半導体以外に素子を持つ、他の考えに基

づいたバイオや量子、分子、原子、光子等による新しい技術の研究が進められる様になる。これは

次世代型計算幾科学として、ナノサイエンス、ナノテクノロジーとしてのミクロ更にナノにおける

新しい分野が、更に注目されることになる。この分野の技術の特徴は、原子や分子を直接操作・制

御することにより、基本的に新しい分子構造を持つ構造物を作り、その構造の新しい物理・化学・

生物学的性質の現象や過程、それらの性質を利用し、新材料、デバイス・通信、バイオ・製薬、医

学、交通・宇宙航空、環境等の幅広い分野に大きな変革が予想され、今後の科学技術の基盤として

期待される様になる。新しいナノスケールの現象・過程を理解し、工学的に役立てるためには、ナ

ノ構造の電子的、光学的、機械的、磁気的性質とそのサイズ、形、そして数学分野から発達したト

ポロジー、組み合わせ関係の重要性が認識される時代を迎える。先端的基礎研究を重視する一部の

研究所は、大規模記憶容量と、その時代の最高速のHPCとしてのニーズが求められ、一般の産業界

の応用研究部門では、パーソナルコンピュータの並列化方式が普及して行く。ナノ領域研究では、

従来からの実験や理論のみで組み立てることは難しい面があり、数値シミュレーション技術の役割

が、ますます重要となって行く。その数値シミュレーションは、これまで以上に大規模で、量子ス

ケールからマクロスケールまでの多様な現象と分野を対象としている。近年の新しい研究領域とな

るマルチスケール、マルチフィジックス、マルチフェノメナ等と名付けられた新しい分野のアルゴ

リズムが必要とされて来た。そしてその新しい分野として、計算機を土台とした新しい学問である

「量子情報科学」が芽生え、数値計算はその中心的役割を担う時代となる。 これら新しい応用領域の発達分野は、生体高分子系の数値シミュレーションを始めとして、計算

機による蛋白質の解明や、医薬品の理論的発明が可能となって来た。これは分子動力学シミュレー

ション(Molecular Dynamics Simulation)を基礎に持つ、数値計算を絡めた学問分野の発達である。

これは具体的には原子における波動関数に基づく電子状態の解析である。現実的な原子の計算にお

いては、最近のテラフロップスの1000倍にあたるペタフロップス級での高速化ニーズが求められ、

大規模数値シミュレーションが最重要視される道が開けて来た。数値計算研究者では、超大規模な

数値計算モデルが作られ、その数値解法が試みられる時代となった。応用となる分子デバイスでの

材料設計では、理論的に天文学的計算を必要としている。 2000年代初頭では、行列の計算において、超大規模メモリを有するスーパーコンピュータにより、

数億行×数億列、更には1千億行×1千億列の大規模計算等が実施された。行列表現においては、

行と列に対して、更に時間ステップを表現的に採り入れようとする考えが出来、行と列に縦方向の

積み重ねを同時に表すことで、大規模数値計算問題が一意に表現でき、そこで立体的な行列表現が

考えられ様として来た。行列の解法に関しては、数値解析研究者により、直接法反復法とも新しい

手法の研究が継続されている。先端研究分野における研究プロジェクトでは、複雑性研究が発達し、

それによるホリスティックシミュレーション(Holistic Simulation)と言われる高度計算表現が芽生

えて来た(2000)。 この時期には、これまで基礎研究の行われてきた原子から機械を作る理論的分野が、シンセシス

(人工物創成)として、ミクロ技術の花開く時代を迎える。量子力学制御の面からは、カーボンナノ

チューブに代表される如く、新しい応用技術の分野が発展して行く。ナノテクノロジーの工学応用

領域は、やがて実現するであろうと予想される、次なる産業革命の旗手となる方向へ進むものと考

えられる。更に、応用領域のシンセシスとして、これに学習機能を持たせることで、自己組織化人

工物として発展を目指し、複雑適応系科学、創発科学、生命科学として、ナノシンセシスの新しい

数値シミュレーション基盤技術が、更に重要と考えられる方向へ向かう時代である。 この時代の計算機として、前時代から基礎研究が進められて来たグリッドコンピュータが、この

時期になってある程度の一般方式が確立された(2002)。このグリッドコンピュータは、大規模計算

Page 25: History of Numerical Calculation and Computers (Calculators)

925

を必要としている量子化学等の計算科学分野にニーズが生じ、ネットワークを介して複数の異機種

間のコンピュータを結び、仮想的に高性能コンピュータをつくり、利用者が必要とする巨大計算の

為の処理能力や大規模記憶容量、情報の共有、そして資源の管理等を扱うシステムである。最近で

はグリッドコンピュータの延長として、日本において広域分散型の大規模計算を目指した「超高速

コンピュータ網形成プロジェクト」(National Research Grid Initiative)が進みだした(2003)。 この時期に世界HPCの流れが、スカラ並列型やグリッド型へ向かうのに対して、地球シミュレー

タ製作のメーカーNECでは、高性能なベクトル型スーパーコンピュータ「SX8」(2005)の開発を推

し進めた。 最近の高速計算機の動向は、世界HPCの覇権を熾烈に競い合う「最新スーパーコンピュータ

TOP500リスト」の輝かしいナンバー1として、IBM社がローレンス・リバモア研究所と共同で研

究開発した高速計算機の「Blue Gene/L」(2004)が王座に位置づけ、高速技術の要となる極上の計

算機として、その気高い雄姿は眩しいばかりの威光を放った。従来の高速計算機を大きく凌ぐ、超

高速計算機の登場である。世界一の高速計算機に社運を賭けたIBMは、Blue Gene/Lの開発成功に

より、その知名度を一層向上させた。 これに対して牧野(J. Makino)らは、HPCを必要とする大学や研究所と協力して、天体シミュレ

ーション専用スーパーコンピュータ「GRAPE-6」で培われた超並列計算方式を汎用化して、ペタ

フロップス級の実用化を目指し、世界最速スーパーコンピュータの開発として「GRAPE-DRプロ

ジェクト」に着手した(2005)。更に、文部科学省及び関連特別研究チームは、スーパーコンピュー

タの高速集合体である「地球シミュレータ」の更に250倍もの超高速を実現としたグランドチャレ

ンジの大目標を掲げ、次の時代に群を抜いて世界一最高速を目指した「汎用京速計算機」のプロジ

ェクトを発足させた(2005)。これは従来からの大気、海洋等の大規模かつ詳細な計算を必要とする

地球科学や宇宙科学を初めとして、ライフサイエンス分野の生命体シミュレーション、更にナノサ

イエンス確立に向けた科学立国を取り戻す目標に向けて始まった。その基本アイテムとなるナノテ

クノロジーを融合させた素子と、HPCの更なる高速性を目指して、産学官研究機関や、各社の開発

競争が一層活性化して行く時代を迎える。その他、インターネットを介して前時代から研究が続け

られたユビキタスが、一般化する様になった。 21世紀初頭においては、計算理論の面からの技術方向は、数式の自己生成へと発展の芽生えが現

れ始め、これは新しく進化計算法として発展し、高速化計算の要求を絡めて一層大きく開花して行

くと考えられる。そして数値計算はいろいろな角度から応用領域を広げて、発展を遂げて行く時代

となる。

Blue Gene/L ベクトル型 Supercomputer TOP500(2004) No1 スーパーコンピュータ(SX8) (2005) 15)21世紀前半から後半以降に向けて(将来方向)

20世紀後半に大きく花開いた半導体コンピュータとは別に、20世紀後半から21世紀にかけて研究

が続けられている超電伝導コンピュータが、更に継続研究される方向にあり、一方で従来の半導体

コンピュータに替わって、今後は前時代から基礎研究が続けられている分野として、ナノテクノロ

ジーとバイオ技術を併用したナノバイオコンピュータや、分子コンピュータ、原子線ホログラフイ

による原子線コンピュータ、量子力学原理に基づいた量子コンピュータの研究、更に光を基礎技術

Page 26: History of Numerical Calculation and Computers (Calculators)

926

とした光コンピュータ等の研究が、今後の新しい時代のコンピュータとして技術が向上し、開発が

進んで行くものと考えられる。 新しい技術に対して、これらを実験や理論のみで構築することは極めて困難であろうと思われる

し、数値シミュレーションの技術は、1つの独立分野の領域に考えられ、計算科学シミュレーショ

ンとした新しい学問体系を構成する方向へ向かう。その計算の専門組織として要求される先端計算

科学技術センター等での研究では、未到科学分野へ向けた取り組みが行われると考えられる。 それには計算科学シミュレーションの役割が、ますます重要となって行く。その計算科学シミュ

レーションは、これまで以上に大規模で、量子スケールからマクロスケールまでの多様な現象と分

野を対象とするマルチスケール、マルチフィジックス、マルチフェノメナ、更にマルチディシプリ

ナリ等と称される新しい研究分野が開拓され、新しいアルゴリズム、3次元可視化、シミュレーシ

ョン・システムの構築技術、並列処理、大規模データベース、光回線高速大容量伝送フォトニスク

による高速ネットワークが実現され、従来の情報処理の上に量子情報科学が発達して、新しい視野

を入れた計算科学の大きなうねりを引き起こす可能性が考えられる。更に関連分野では、数式自主

展開計算方式等の学習機能を内臓したロボット技術の発達等が考えられる。そのようなナノサイエ

ンス 、ナノテクノロジーを絡めた壮大な計算科学シミュレーション新基盤技術が、今後更に成長へ

と向かって行く。 計算機による計算速度の面からは、これまで20世紀後半には、それ以前の計算機に比べて格段に

速いと考えられたメガフロップスマシンが社会で稼動したが、いつの間にか、そのメガフロップス

の1000倍の高速計算機ギガフロップスマシンが登場した。そして21世紀には、ギガフロップスの

1000倍の高速計算機テラフロップスマシンが実現された。今後はこの速度が、急速に加速されて行

くものと予想される。21世紀前半迄には、更に超高速性の追求が続けられ、テラフロップスの1000倍であるペタフロップスの高速化時代が到来し、その後の予想として、21世紀の半ば迄にはペタフ

ロップスの1000倍のエクサフロップスの高速計算機の実現、更に21世紀後半頃には、エクサフロッ

プスの1000倍となるゼタフロップスへの高速要求が必要とされる時代を迎える。将来次の世紀とな

る22世紀前には、ゼタフロップスの更に1000倍となるヨタフロップスへの高速要求が、必要とされ

る時代を迎えるものと予想出来る。 4.まとめ 本論文は、数値計算と計算機(器)の関わりをまとめて、人類の遙か先史時代からの社会に始ま

り、現代社会に至る迄の計算の技術発達史として論じた。一般の数学史としての文献は、多く存

在している。ここでは数学の歴史の中から、主として数値計算の立場で考えをまとめ、一般には

計算機(器)とはされていない、古代に存在したと推測される初期の簡易式計測器を、今日の計算

機のルーツと定義した点に特徴がある。この考え方のストーリは、計算を行う上で必要とされた

計測器や計算機(器)の発達が、更にいろいろな計算を行いたいと考えた人々により技術が発達し、

新しい数学・数式と数値解法の発達があったとしている。それは時代と共に、次々に新しい数式の

定義、数値計算の方法論の発達を絡めて、新しい数値計算の考えや新しい計算機(器)の出現を導

いたと論じた。 古代の生活に必要とされた地形の幾何や日常生活の計算式から、やがて歴史に残る著名な研究

者達による方程式の研究と発達、その方程式からライプニッツの行列の考えに至り、その後ラグ

ランジュ行列を経て、コーシーによる行列式の定義、そして現代の数値計算を行う上で、大容量

の計算と、計算時間の主流を占める行列に対する考え方を中心とした発達の歴史を述べた。特に

論旨の後半において、著者の研究による「数値解法の歴史的発展図」をもとに、ガウス以降にお

ける連立一次方程式解法の歴史的展開と、数値解法の成立を初め、その分類と応用領域を紹介し

た。つまり現代の大規模数値計算の主流を占める行列の数値計算を行う上で、その時代に新しく

提案された数値計算の発達とその定義と分類、その時の計算機環境、そして高速計算機活用へ向

けての発達の関連を論述した。 今回の研究報告として計算機の発達は、数学・数値計算の進歩に関係したとして論じたが、今日

の計算機は、計算以外の目的に多く使われている。それは別の観点から論じるべきであると考え

Page 27: History of Numerical Calculation and Computers (Calculators)

927

ている。 尚、歴史の延長線上として、少し将来方向についても著者の見解を述べている。この将来方向

については、いろいろな考えがあり、断定出来るものはなく、予想程度にしか過ぎないが、現在

の計算機の延長として希望を論じている。

Page 28: History of Numerical Calculation and Computers (Calculators)

928

数値計算歴史表

Page 29: History of Numerical Calculation and Computers (Calculators)

929

Page 30: History of Numerical Calculation and Computers (Calculators)

930

参考文献 [ 1] 阿部邦美,張紹良,三井斌友,MRTR法:CG型の三項漸化式に基づく非対称行列のための

反復解法,日本応用数理学会論文誌,VOL.7,No.1,(1997),pp.37-50. [ 2] H. Aiken, Proposed Automatic Calculating Machine edited and prefaced by A.G. Oettinger

and T.C. Bartee, IEEE Spectrum, Aug.(1964),pp.62-69. [ 3] A.アーボン著,中村幸四郎訳,古代の数学,河出書房,1971. [ 4] R.C. Archibald, Seventeenth Century Calculating Machines Mathematical Tables and

Other Aids to Computation,vol.1,(1943),pp.27-28. [ 5] M. Artin, Algebra, Prentices-Hall, Englewood Cliffs,N.J.,1991. [ 6] ASCI,http://www.llnl.gov/asci/sc96fliers/snl/ASCI.html [ 7] S. Ashgy, T. Manteuffel and J. Otto, A comparison of adaptive Chebyshev and least squares polynomial preconditioning for Hermitian positive definite linear systems, SIAM J. Sci.

Stat. Comput., 13(1992). [ 8] O. Axelsson, Solution of Linear Systems of Equations, Lecture Notes in Mathematics, 572, Springer-Verlag,1977. [ 9] O. Axelsson and V. Eijkhout, Vectorizable preconditioners for elliptic difference equations in three space dimensions, Comp. App. Math.,27(1989). [10] I. Babuska, M. Pragers and F. Vitasek, Numerical processes in differential equations, New York, Wiley-Inter science,1969. [11] Margaret E. BARON, The origins of the infinitesimal calculus, Oxford,etc.,1969. [12] Richard Barrett /Michael Berry著,長谷川里美,長谷川秀彦,藤野清次訳,反復法, Templates, 朝倉書店,1996. [13] ベクトル型スカラ型,http://homepage3.nifty.com/nishimura_ya/earth/yo_simu.htm [14] バイオコンピュータ,http://www.jiten.com/dicmi/docs/k26/20803.htm [15] C.K. Birdsall and A.B. Langdon: Plasma Physics via Computer Simulation, McGraw-Hill, New York,1985. [16] ボホナー著,村田実訳,科学史における数学,みすず書房,1970. [17] G. Boole, (1847). Mathematical Analysis of Logic, Reprinted by Basil Blackwell, London, 1948. [18] U.ボタチーニ著,好田順治訳,解析学の歴史,現代数学社,1990. [19] Nicolas Bourbaki著,村田全,清水達雄訳,ブルバキ数学史,東京図書,1993. [20] C.B. Boyer, A history of mathematics, J. Wiley & Sons,1968. [21] C.B. Boyer, The History of the Calculus and Its Conceptual Development, Dover, New

York,1959. [22] ボイヤー著,加賀美鉄雄,浦野由有共訳,数学の歴史(5分冊),朝倉書店,1985. [23] 分子コンピュータ,http://hagi.is.s.u-tokyo.ac.jp/MCP/moco-final-html/top.html [24] F. Cajori, A History of mathematical notations, 2vols., Chicago-Illinois,1929. [25] B. Carnahan, H.A. Luther, J.O. Wilkes共著,藤田宏他訳,計算機による数値計算法,日本

コンピュータ協会,1982. [26] 地球シミュレータ,http://www.es.jamstec.go.jp/esc/jp/ES/ [27] 超並列計算機,http://is.doshisha.ac.jp/SMPP/ [28] M. Clagett, The Science of Mechanics in the Middle Ages, The University of Wisconsin

Press, Madison, Publications in Medical Science,4 (1959). [29] コンピュータ歴史,http://www.infonet.co.jp/ueyama/ip/history/history_ct.html [30] CRAY,http://homepage2.nifty.com/Miwa/Story4/CRAY.html [31] M.J. Crowe, A History of Vector Analysis, University of Notre Dame, Press, Notre Dame,

Page 31: History of Numerical Calculation and Computers (Calculators)

931

IN, 1967. [32] C.S.デサイ/J.F.アーベル著,山本善之訳,マトリックス有限要素法,科学技術出版社,1982. [33] J. Dieudone, History of functional analysis, Amsterdam,1981. [34] S. Doi and N. Harada, Tridiagonal Approximate Factorization Method : A Preconditioning

Technique for Solving Nonsymmetric Linear Systems Suitable to Supercomputers, National Aero Space Laboratory , Special Paper 7(1987).

[35] J.J. Dongarra他著,小国力訳,コンピュータによる連立一次方程式の解法,丸善㈱,1993. [36] J.J. Dongarra, I.S. Duff, D.C. Sorensen and van der Vorst, H.A., Solving Linear Systems, on Vector and Shared Memory Computers, SIAM, Philadelphia,1991.

[37] J. Donglas Jr., The Effect on Round-off Error in the Numerical Solution on the Heat Equation, Journal of the A.C.M. 6(1959).

[38] J. Donglas Jr. and H.H. Rachford Jr., On the Numerical Solution of Heat Conduction Problems in Two and Three Space Variables. Amer. Math.,1956.

[39] I.S. Duff, A.M. Erisman and J.K. Reid , Direct Methods for Sparse Matrices, Oxford Univ. Press, London,1986. [40] R. Dugas, A History of Mechanics, Editions do Griffon, Neufchatel, Switzerland,

Foreword by Louis de Broglie, Translated into English by J.R. Maddox,1957. [41] Earth Simulator,http://www.nec.co.jp/press/ja/0203/0801.html [42] C.H. Edwards Jr., The Historical Development of the Calculus, Springer-Verlag, New

York,1979. [43] 英国数学史協会,http://www.dcs.warwick.ac.uk/bshm/ [44] V.N. Fadeeva, Computational Methods in Linear Algebra, Dover, New York,1962. [45] J. Favel and J. Grey, editors, The History of Mathematics: a Reader, Macmillan Press,

Basingstoke, Reprint of the 1987 edition,1988. [46] G.E. Forsythe, M.A. Malcolm他著,森正武訳,計算機のための数値計算法,日本コンピュー

タ協会,1978. [47] R.Freund and T.Szeto, A quasi-minimal residual squared algorithm for non-hermitian

linear systems, Tech. Report, RIACS, NASA Ames, CA,1991. [48] C.E. Frobeg, Introduction to Numerical Analysis, Addison Wesley, Reading, Mass.,1965. [49] R.W. Freund and N.M. Nachigal, QMR : A Quasi-Minimal Residual method for Non -Hermitian Linear Systems, Number, Math.,60(1991). [50] 船山良三,身近な数学の歴史,東洋書店,1996. [51] 原子関係学会誌情報,http://www.ite.or.jp/news/keyword/Atom.html [52] 原子線,http://www.riken.go.jp/r-world/info/release/news/1996/dec/ [53] H.H. Goldstine, A History of Numerical Analysis form the 16th through the 19th Century,

Springer-Verlag, New York, Studies in the History of Mathematics and Physical Science, vol.2.,1977.

[54] H.H. Goldstine, A History of Calculus of Variations from the 17th through the 19th Century, New York,1980. [55] ハーマンH.ゴールドスタイン著,末包良太,米口肇,犬伏茂之共訳,計算機の歴史,共立出

版,1979. [56] J.V. Grabiner, The Origins of Cauchy’s Theory of the Derivative, Historian Math,5(1978),

pp.379-409. [57] GRAPE-6,http://grape.astron.s.u-tokyo.ac.jp/pub/people/makino/press/2001-grape6.html [58] GRAPE-DR,http://grape-dr.adm.s.u-tokyo.ac.jp/project.html [59] Γ.グレイゼル著,保坂秀正他訳,グレイゼルの数学史,大竹出版,1997. [60] グリッド計算機,http://www.iwanami.co.jp/moreinfo/0052670/top2.html [61] I. Gustafsson : BIT,18(1978), pp.142-156.

Page 32: History of Numerical Calculation and Computers (Calculators)

932

[62] M.H. Gutknecht, A Completed Theory of the Unsymmetric Lanczos Process and Related Algorithm, PartⅠSIAM J. Matrix Anal. Appl.,13(1992). [63] M.H. Gutknecht, Variants of BiCGSTAB for Matrices with Complex Spectrum, SIAM J, Sci. Compute., 14(1993). [64] G.H. and C.F. VanLoan, Matrix Computations, Johns Hopkins,1983. [65] R.W. Hamming, Numerical Methods for Scientists and Engineers, McGraw-Hill, New

York,1962. [66] 汎用京速計算機,http://pcweb.mycom.co.jp/cgi-bin/print?id=30374 [67] D.P. Hartree, Numerical Analysis, Clarendon Press, Oxford,1952. [68] T.L. Heath,(1921). A History of Greek Mathematics, Clarendon Press, Oxford, Reprinted

by Dover, New York,1981. [69] P. Henrici, Elements of Numerical Analysis, John Wiley and Sons, New York,1962. [70] M.R. Hestenes and E.L. Stiefel, Methods of Conjugate Gradients for Solving Linear

Systems, J. Res. Nat. Standerds,49(1952),pp.33-53. [71] 光コンピュータ,http://www.aquarius.co.jp/report98/rp98821.html [72] C.W. Hirt, B.D. Nichols, N.C. Romero, SOLA:A Numerical Solution Algorithm for

Transient Fluid Flows, LA-5852 (1975). [73] Holistic Simulation,http://www.es.jamstec.go.jp/esc/research/Holistic/research.en.html [74] 堀雅夫,基礎高速炉工学,基礎高速炉工学編集委員会,日刊工業新聞社,1993. [75] A.S. Householder, Principles of Numerical Analysis, McGraw-Hill, New York,1953. [76] A.S. Householder, The theory of matrices in numerical analysis, Waltham. Mass: Ginn/ Blaisdell,1964. [77] HPC,http://www.ce.chalmers.se/research/group/hpcag/ [78] IBM360,http://www.ykanda.jp/comp/mseries/360.htm [79] IBM「Blue Gene/L」,http://japan.cnet.com/news/ent/story/0,2000047623,20075614,00.htm [80] 石森富太郎,原子炉工学講座3,原子炉物理,培風館,1982. [81] 磯田和男,大野豊,FORTRANによる数値計算ハンドブック,オーム社,1982. [82] 伊東俊太郎他,科学史技術史事典,弘文堂,1994. [83] 伊東俊太郎,数学の歴史2,中世の数学,共立出版,1987. [84] 伊東俊太郎他,数学史(数学講座18),筑摩書房,1975. [85] 彌永昌吉,数学の歴史1,ギリシャ数学,共立出版㈱,1979. [86] Golub, Jennings, A Matrix Computation for Engineers and Scientists, John Wiley,1977. [87] W. Jennings, First Course in Numerical Methods, Macmillan, New York,1964. [88] O. Johnson, C. Micchelli and G. Paul, Polynomial preconditioning for conjugate gradient

calculations, SIAM J. Number, Anal.,20(1983). [89] P.E.B. Jordanian, The Origins of Cauchy’s Conceptions of a Definite Integral and the

Continuity of a Function, Isis., 1(1913),pp.661-703. [90] W. Joubert, Lanczos Methods for the solution of nonsymmetric systems of linear equations, SIAM J. Matrix Anal.Appl.,13(1992). [91] J.ジュドネ著,上野健爾訳,数学史,岩波書店,1985. [92] 加茂儀一他,古代中世科学史,科学史体系,中教出版,1952. [93] 笠原乾吉,杉浦光夫,20世紀の数学,日本評論社,1991. [94] 計算物理,http://www2.tokai.jaeri.go.jp/ccse/content/act24.html [95] L. Kelvin, Mathematical and Physical Papers, vol.Ⅵ,Cambridge,1911. [96] Isis Kennedy, D.J. de S Price, An Ancient Greek Computer, Scientific American, 200(1959),

pp.60-67. [97] 幾何学研究所,http://www.geom.umn.edu/ [98] M. Kline, Mathematical Thought from Ancient to Modern Times, New York,1972.

Page 33: History of Numerical Calculation and Computers (Calculators)

933

[99] 小掘憲,数学の歴史5,18世紀の数学,共立出版㈱,1979. [100] 小掘憲,数学史,(科学・技術史全書),朝倉書店,1956. [101] 近藤洋逸,数学の歴史,毎日新聞社,1970. [102] 近藤洋逸,数学思想史序説,日本評論社,1994. [103] 黒田孝郎他,数学史,科学史体系,中教出版,1953. [104] S. Lilley, Machinery in Mathematics, A History Survey of Calculating Machines,

Discovery vol.6,(1945),pp.150-182. [105] Linux,http://www.linux.org/ [106] N. Macon, Numerical Analysis, John Wiley and Sons, New York,1963. [107] T.R.マッカーラ著,三浦功/田尾陽一共訳,計算機のための数値計算法概論,サイエンス社,1972. [108] R.マンケェヴィッチ著,秋山仁監修,植松靖夫訳,世界の数学の歴史,東海書林,2002. [109] J. A. Mejerink and van der Vorst, Math. Comp.,31(1977), pp.148-162. [110] K.メニンガー著,内山政夫訳,数の文化史,八坂書房,2001. [111] W.E. Milne, Numerical solution of differential equations, Wiley Dover, New York,1953. [112] 三田博雄,古代数学史,日本科学社,1948. [113] A.F.モンナ著,鶴見和之,新井理生共訳,現代数学発展史,東京電機大学出版局,1990. [114] 森 毅,数学の歴史,紀伊国屋書店,1979. [115] 森正武,杉原正顕,室田一雄,線形計算(岩波講座,応用数学),岩波書店,1994. [116] Mabeth Moseley, Irascible Genius, A Life of Charles Babbage, Inventor London,1964. [117] マルチディシプリナリ,http://www.jsap.or.jp/ap/2001/ob7012/p701395.html [118] マルチフェノメナ,

http://www.rccp.tsukuba.ac.jp/workshop/sympo-050216/pdf/03_ohno.pdf [119] マルチフィジックス, http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/gijyutu/gijyutu2/shiryo/007/05060701/004-2/003.htm [120] マルチスケール,http://garlic.q.t.u-tokyo.ac.jp/research/NanoMSA/nano_msa.html [121] 村田健郎,前処理付き共役勾配法・共役残差法,情報処理,Vol.27,No. 5,(1986),pp.498-507. [122] 村田健郎,名取亮,唐木幸比古,大型数値シミュレーション,岩波書店,1990. [123] 村田健郎,小国力,唐木幸比古,スーパーコンピュータ科学技術計算への適用,丸善,1985. [124] 村田健郎,小国力,三好俊郎,小柳義夫,工学における数値シミュレーション,丸善,1988. [125] 村田全,数学史の世界,玉川選書,玉川大学出版部,1977. [126] 村田全,数学史散策,ダイアモンド社,1974. [127] N.M. Nachtigal, S.C. Reddy and L.N. Trefethen, How Fast are Nonsymmetric Matrix

Iterations?, SIAM J. Matrix Anal. Appl.,13(1992). [128] N.M. Nachtigal, S. Reichel and L. Trefethen, A hybrid GMRES algorithm for

nonsymmetric matrix iterations, Tech. Report 90-7,MIT,Cambridge, MA,1990. [129] 中村幸四郎,数学史,形成の立場から,共立出版,1981. [130] 中村幸四郎,佐々木力,数学史対話,弘文堂,1987. [131] 中村茂守,数学の歴史,修学社,1957. [132] 中野栄夫,コンピュータ歴史学のすすめ,名著出版㈱,1994. [133] ナノバイオ,http://db.ccr.nitech.ac.jp/event/cgi-bin/ccrsig?sig=nano [134] ナノサイエンス,http://nanosci.kyodo-a.tsukuba.ac.jp/frame02.html [135] ナノテクノロジー,http://www.nanonet.go.jp/japanese/nano/ [136] NAREGI,http://www.naregi.org/ [137] 名取亮,数値解析とその応用「コンピュータ数学シリーズ(15)」,コロナ社,1990. [138] 名取亮,野寺隆,大規模行列における反復解法,情報処理,Vol.28,No.11,1987. [139] Joseph Needham, Science and Civilization in China,vol.3,Cambridge,(1959),pp.155. [140] Von Neumann, Collected Works, vol.Ⅴ(1954),pp.664. [141] K.L. Nielsen, Methods in Numerical Analysis Macmillan, New York,1964.

Page 34: History of Numerical Calculation and Computers (Calculators)

934

[142] 日本物理学会,スーパーコンピュータ,培風館,1985. [143] 日本数学会,http://wwwsoc.nii.ac.jp/msj6/ [144] 日本統計学会,http://www.jss.gr.jp/ [145] L. Novy, Origins of Modern Algebra, Leiden,1973. [146] 小倉金之助,数学史研究,岩波書店,1970. [147] 大石進一,数値計算(応用解析セミナー),裳華房,1999. [148] C.W. Oosterlee, A GMRES-based Plane Smoother in Multigrid to Solve Three

Dimensional Anisotropic Fluid Flow Problem, Arbeitspapiere der GMD, Nr. 911,1995. [149] D.W. Peaceman and H.H. Rachford Jr., The Numerical Solution of Parabolic and Elliptic

Differential Equations, J. Soc. Indust. Appl.Math.,1955. [150] K. Pearson, The History of Statistics in the 17th and 18th Centuries. Macmillan, New York.

Lectures given at University College, London, during the academic session 1021-1933. Edited and with a preface by Egon S.Person,1978. [151] E. Poole and J. Ortega, Multicolor ICCG methods for vector computers, Tech. Report RM 86-6, University of Virginia, Dept. of Applied Math., Charlottesville,VA,1993. [152] Obert P. Porter ,The Eleventh Census Proceeding of the American Statistical Association,

No.15,(1891),pp.321. [153] ライフサイエンス,http://www.lifescience-mext.jp/ [154] A. Ralston and H.S. Wolf, editor, Mathematical Methods for Digital Computers,Vol.2,

Wiley New York,1966. [155] R.D. Richtmyer, K.W. Morton, Difference Methods for Initial-value Problems, Inter

science Pub.,1967. [156] パトリック・ローチェ著,高橋亮一訳,コンピュータによる流体力学(上、下),構造計画研,1984. [157] P.L. Rose, The Italian Renaissance of Mathematics,1976. Droz, Geneva, Studies on humanists and mathematicians from Pelrach to Galileo, Travaux de I’Humanisme et Renaissance,145. [158] ルイブニコフ著,数学史(Ⅰ),数学親書45,東京図書,1963. [159] 量子コンピュータ,http://www.nanoelectronics.jp/kaitai/quantumcom/1.htm [160] G. Sarton, A Guide to the history of science, Ronald,1952. [161] G. Sarton, The Study of the History of Mathematics. (Cambridge, Mass.: Harvard University Press,1936: New York: Dover paperback reprint,1957). [162] J.B. Scarborough, Numerical Mathematical Analysis (5th Edition),Johns Hopkins Press, Baltimore,1962. [163] Sekiya and Sakai,(OSAKA UNIV.), A Fast Computing Technique for Diffusion-type

Equations, Journal of Computational Physics, Vol.65,No.2, August 1986. [164] F.シャトラン著,伊里正夫,伊里由美共訳,行列の固有値,シュプリンガー・フェアラーク東京,1993. [165] 島崎眞昭,スーパーコンピュータとプログラミング,共立出版,1989. [166] J. Singer, Elements of Numerical Analysis, Academic Press, New York,1964. [167] シンセシス,http://www.race.u-tokyo.ac.jp/uedalab/mirai/ [168] A. van der Sluis, Condition numbers and equilibration of matrices, Number, Math.,

14(1969). [169] D.E. Smith, A Source Book of Mathematics, vol.1,(1959),pp.156-164. [170] 曽谷勝義,効率的前処理による反復法 計算物理への適用例,数値計算研究会論文,IMSL,1995. [171] 曽谷勝義, 計算物理による高速数値シミュレーション,第19回シミュレーションテクノロジーコンファレンス, 日本

シミュレーション学会シンポジウム,2000. [172] R.G. Stanton, Numerical Methods for Science and Engineering, Prentice-Hall, Englewood

Cliffs, N.J.,1961. [173] E.L. Stiefel, An Introduction to Numerical Mathematics, Academic Press, New York,1963.

Page 35: History of Numerical Calculation and Computers (Calculators)

935

Algorithm, PartⅠ SIAM J. Matrix Anal.,13(1992). [174] T. Stillwell著, 上野健爾訳,数学の歩み(上下),㈱朝倉書店,2005. [175] D.J.ストルイク著,岡邦雄,水津彦雄訳,数学の歴史,みすず書房,1957. [176] 数値シミュレータ,http://www.ista.jaxa.jp/res/c02/b01.html [177] スーパーコンピュータ,http://www.ipsj.or.jp/katsudou/museum/history/profile_sc.html [178] 数学史,http://www-history.mcs.st-andrews.ac.uk/history/ [179] A.J.P. Taylor, English History,1914-1945,Oxford History of England ,(1965),pp.171. [180] 戸川隼人,マトリックスの数値計算,オーム社,1986. [181] Yasuo Tokunaga, Hiroo Harada and Misako Isiguro, Vectorization of Nuclear Codes and

Numerical Methods, Computing Center, Tokai Research Establishment ,JAERI,M,1988. [182] TOP500 Supercomputer Sites,http://www.top500.org/ [183] TRON,http://www.tron.org/ [184] 内山昭,計算機歴史物語,岩波新書,1983. [185] ユビキタス,http://www.atmarkit.co.jp/aig/04biz/ubiquitous.html [186] UNIX,http://en.wikipedia.org/wiki/Unix [187] 後保範,ベクトル計算機向き ICCG法,京都大学数理解析研究所講究禄,No.514,1988. [188] R.S. Varga著,渋谷政昭訳,計算機による大型行列の反復解法,サイエンス社,1978. [189] V. Vermi, W.J. Karplus, Digital Computer Treatment of Partial-Differential Equation,

Prentice-Hall,1981. [190] H. A. van der Vorst, A vectorizable variant of some ICCG, SIAM J. Sci. Stat. Comp., Vol.3,

(1982), pp.350-356. [191] John WALLIS, A Treatise of algebra both historical and practical, London,1685. [192] 渡部力,名取亮,小国力,Fortran77による数値計算ソフトウエア,丸善,1990. [193] H. Wegl, Philosophy of mathematics and natural science,1950. [194] D.T. Whiteside, Patterns of Mathematical Thought in Seventeenth Century, Arch, Hist.,

Exact Sci.1 (1961),pp.179-388. [195] R.L. Wilder, Introduction to foundation of mathematics,1965. [196] 山下純一,数学史物語,東京図書,1988. [197] Q. Ye, A Breakdown-free Variation of the Nonsymmetric Lanczos Algorithms, Math. of

Comput.,1994. [198] 横山保,コンピュータの歴史,中央経済社,1995. [199] D. Yong, Iterative Method for Solving Partial Difference Equations of Elliptic Type, Trans.

Amer. Math., Soc.,1954. [200] 張紹良,藤野清次,ランチョス・プロセスに基づく積型反復解法,日本応用数理学会論文誌, 1995. (備考:本稿の写真の多くは、上記参考文献、国立科学博物館所蔵資料等による。)