チームワークづくりのためのメンタルトレーニング …1...

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1 チームワークづくりのためのメンタルトレーニング ―グループエンカウンターのチームづくりへの応用― Mental Training for Teamwork Building: A Research Review of Applications of the Group Encounter to Team Building 川 北  準 人 市 村  操 一 ** 國 分  康 孝 *** Hayato KAWAKITA Soichi ICHIMURA Yasutaka KOKUBU 北京オリンピックでの優勝の後、ソフトボールの上野由紀子投手は3連投の活躍を振り返り、テレ ビの記者会見でつぎのように語った。「自分が決勝戦までの3試合を投げ抜くことができた原動力 はチームメイトに対する信頼感であった。自分が100%抑えられなくとも、仲間が守ってくれるし、 打ってくれる、という信頼感が支えになった」言葉通りではないが、このような内容の感想であっ た。このようなチームメイトへの信頼感がなければ、相手の打者を全員三振にしなければならない、 というような心理的圧力を自分にかけて自滅することもあったろう。 このようなチーム内の信頼感を高めるための心理学的支援はどのように行われているのであろう か。競技者の精神面の強化への心理学的技法の応用は、競技者個人を対象として行われきた。緊張や 不安を取り除き、集中力を高め、積極的な考え方をする、といった応用心理学的技法は主として個人 を対象に行われてきた(Andersen, 2000)。このような個人を対象とする心理学的技法の応用は、ス トレスマネジメントとかメンタル(スキルズ)トレーニングとして一般のスポーツ愛好者にも知られ るようになった。 一方、チームスポーツにおける集団の心理や競技者間の対人関係の心理については、その重要性 は認識されていたものの、有効な心理的技法の組織的な開発は近年ようやく始まったばかりである (Yukelson, 1997)。 Hayato KAWAKITA 共通領域部(Department of General Studies) ** Soichi ICHIMURA 臨床心理学科(Department of Clinical Psychology) *** Yasutaka KOKUBU 臨床心理学科(Department of Clinical Psychology)

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チームワークづくりのためのメンタルトレーニング―グループエンカウンターのチームづくりへの応用―

Mental Training for Teamwork Building: A Research Review of Applications of the Group Encounter to Team Building

川 北  準 人*

市 村  操 一**

國 分  康 孝***

Hayato KAWAKITASoichi ICHIMURA

Yasutaka KOKUBU

 北京オリンピックでの優勝の後、ソフトボールの上野由紀子投手は3連投の活躍を振り返り、テレ

ビの記者会見でつぎのように語った。「自分が決勝戦までの3試合を投げ抜くことができた原動力

はチームメイトに対する信頼感であった。自分が100%抑えられなくとも、仲間が守ってくれるし、

打ってくれる、という信頼感が支えになった」言葉通りではないが、このような内容の感想であっ

た。このようなチームメイトへの信頼感がなければ、相手の打者を全員三振にしなければならない、

というような心理的圧力を自分にかけて自滅することもあったろう。

 このようなチーム内の信頼感を高めるための心理学的支援はどのように行われているのであろう

か。競技者の精神面の強化への心理学的技法の応用は、競技者個人を対象として行われきた。緊張や

不安を取り除き、集中力を高め、積極的な考え方をする、といった応用心理学的技法は主として個人

を対象に行われてきた(Andersen, 2000)。このような個人を対象とする心理学的技法の応用は、ス

トレスマネジメントとかメンタル(スキルズ)トレーニングとして一般のスポーツ愛好者にも知られ

るようになった。

 一方、チームスポーツにおける集団の心理や競技者間の対人関係の心理については、その重要性

は認識されていたものの、有効な心理的技法の組織的な開発は近年ようやく始まったばかりである

(Yukelson, 1997)。

* Hayato KAWAKITA 共通領域部(Department of General Studies) ** Soichi ICHIMURA 臨床心理学科(Department of Clinical Psychology) *** Yasutaka KOKUBU 臨床心理学科(Department of Clinical Psychology)

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東京成徳大学研究紀要 ―人文学部・応用心理学部― 第 16 号(2009)

1 本論考の目的

 チームの心理に対して心理学的技法を応用すべき領域は、個人の心理とは異なるものがあると考え

られる。たとえば、チームの一体感とか、メンバーの相互理解とか、コミュニケーションとか、上記

の上野投手の経験したような信頼感のような領域が考えられる。

 チームの成績の向上のために、集団に関係する上記のような心理的領域の向上を支援する応用ス

ポーツ心理学的介入の一つの方法は、「チームづくり」のための心理学的支援として行われている。

本論文では、カナダの2人の共同研究者によって相次いで発表された「チームづくり」のための応

用スポーツ心理学的介入に関する3本の論文(Dunn & Holt, 2003; Dunn & Holt, 2004; Holt & Dunn,

2006)を展望し、日本の大学スポーツチームへの適用の可能性を検討することとする。

 第一の目的は3本の論文の展望であるが、そこでは各論文の概要を紹介し、特に応用スポーツ心理

学的介入の方法については、チーム指導での実際に役立つように介入法の詳細を具体的に示すことに

したい。

 第二の目的は、3本の研究を参考にして、日本の大学スポーツチーム、特にバスケットボールチー

ムへの適用の可能性を検討することである。この検討のなかには、カウンセリング心理学の立場から

の集団内での自己開示や相互シェアリングのための実際的な方法の検討も含めることになる。

 第三の目的は、3つの研究で使われているインタヴュー資料の質的分析について、解説を加えて、

具体的な分析の進め方を分かりやすく示すことである。

2 文献展望の対象論文

 大学スポーツチーム、特に団体スポーツのチームのチームづくり(team building)のための

応用スポーツ心理学的介入を扱った3本の論文はつぎのような表題を持っている。Dunn & Holt

(2003)の論文は「応用スポーツ心理学の介入プログラムの実施に対する大学アイスホッケープレー

ヤーの受け取り方」(以下「プレーヤーの受け取り方」とする)というものであり、Dunn & Holt

(2004)の論文は「自己開示と相互シェアリング(mutual sharing *)によるチームづくり活動の質

的研究」(以下「チームづくりの質的研究」とする)というものであり、Holt & Dunn (2006)の

論文は「自己開示と相互シェアリングによるチームづくり介入のための指針」(以下「介入のための

指針」とする)という論文である。

 3本の論文は全体で53ページに及ぶ長いものであり、チームづくりのための心理学的介入の問題

を組織的に扱っている。まず、2003年の「プレーヤーの受け取り方」では、スポーツ心理学コンサル

タント(SPC)によって行われた大学アイスホッケーチームに対する心理学的指導(介入)がプレー

ヤーたちにどのように受け取られたかを研究している。2004年の「チームづくりの質的研究」では、

さまざまな介入法のなかから自己開示と相互シェアリングの技法を実施し、その効果をプレーヤーの

インタヴューによって調べている。2006年の「介入のための指針」では、2004年の論文と同じ心理学

的介入法を女子サッカーチームに実施して、その効果を再確認し、その上でこの心理学的介入法を実

際に使用したいと望む実践家のための指針を提示している。

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 つぎに、3本の論文のアブストラクトを紹介し、その後で論文の本論を要約して、解説および討論

を加えていきたい。

2−1 3つの論文のアブストラクト 2003年の論文「プレーヤーの受け取り方」の研究では、スポーツ心理学の介入プログラムに関連し

たさまざまな要素に対する、男子大学アイスホッケープレーヤーの知覚(感じ方・考え方)が調べら

れた。研究参加者(被験者)は半構造化面接を受けた。面接資料は逐語的に文書化され、帰納的に分

析された。

 その結果、つぎのことが明らかになった。プログラムの実施にあたっては、(技術の面の)コーチ

陣はスポーツ心理学プログラムの場にはいないことが望まれた。また、プログラムの実施に時間がか

かるという問題が提起された。

 プレーヤーたちのスポーツ心理学コンサルタント(SPC)の受け取り方についても調べられた。

SPCは多重の役割を果たしており(チームの仲間としての役割、コーチと選手の仲介者としての役

割、共同コーチとしての役割など)、チームに対して社会的にも情緒的にもかかわっていると認識さ

れた。コンサルタントに関するその他の結果は、敬意とコミュニケーションの技能の重要性であっ

た。このような結果の、チーム指導の実践にあたっている人々への意味が議論された。

 2004年の論文、「チームづくりの質的研究」ではアイスホッケーの27名の男子大学選手の、チーム

作り活動についての主観的反応が調べられた。このチームづくり活動は、自己開示と相互シェアリ

ングによるチームづくり活動(Personal-Disclosure Mutual-Sharing Team Building Activity)(cf.

Crace & Hardy, 1997; Yukelson, 1997)といい、このアイスホッケーチームはカナダ選手権トーナメ

ントに臨んでこれを実施した。選手たちは、チームづくりのミーティングの2-4週間後に、半構造

化面接を受けた。その結果、参加者はミーティングを情動的に強烈なものと感じており、そこに参加

したことは、有意義な人生体験であったと感じていることが明らかになった。参加者が感じていた利

得は、「自他の理解の向上」「凝集性=親密性・互いのためにプレーすること」「自信と信頼」など

であった。この結果を基に、チームづくり方法の評価をどのように行えばよいかが議論された。

 2006年の論文「介入のための指針」の全体的目的は、自己開示と相互シェアリングによるチーム

づくり(PDMS)の指導をしようとしている実践家に専門的ガイダンスをあたえることである。最

初に、Dunn & Holt (2004)によって行われたPDMSによる介入の方法を再現し、その効果が確か

められた。ハイレベルの女子サッカーチームの15人の選手(平均25.4歳)が心理的介入の結果の評価

を、インタヴューを通して報告した。PDMS指導の利点として相互理解の向上、一体感の強化、自信

 (*) mutual-sharingはグループエンカウンターの中で使われる言葉。特定の問題についてグループの各メンバーが自分の経験に基づいて考えや感情を率直に語り、その感想や感情を他のメンバーも理解し共有すること。「共有化」という言葉も使われるが、シェアリングのままで使われることが多い。

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の増強などが報告された。この心理的介入の方法をチームづくりのために使おうとする専門家のため

のガイドラインがつぎのような点について示された。(a)チーム内のコミュニケーションを促進す

るためのシーズン中の実践、(b)ミーティングの持ち方、(c)心理的介入を行うタイミングへ考

慮、などであった。

 上記の3つのアブストラクトを通読すると、3つの論文がそれぞれ別個のテーマを扱っているので

はなく、一つの大きなプロジェクトを構成している研究の一部として書かれたものであることが推察

できる。そのプロジェクトの構成はつぎのように読み取ることができよう。全体を貫いている主目的

は、スポーツチームの集団心理を向上させることであり、専門のスポーツ心理学コンサルタントに

よって指導される応用スポーツ心理学的介入技法が、どのようにすればその目的にかなうものになる

かを確かめようとすることである。この研究プロジェクトの流れをつぎのように要約することができ

よう。

 2003年の研究では、さまざまな心理的技法が練習され、その効果およびSPCに対する評価が行われ

ている。そこで、心理的技法の効果およびSPCの役割がポジティヴに評価されたことを受けて、2004

年の研究へと発展している。

 2004年の研究では、心理学的介入技法をPDSM一つに絞り、大きな試合に先立って実施し、チーム

づくりに対する効果をプレーヤーへのインタヴューとその回答の質的分析によって確かめている。

 2006年の研究では、2004年の研究対象とは異なる種目である女子ソフトボールチームでPDSMの効

果を確かめている。その結果を基にして、スポーツ指導の実践の場で、チームづくりにPDSMを応用

したい指導者のためのガイドラインが提唱されている。

3 3つの論文の概要のレヴュー

3−1 2003年の論文「プレーヤーの受け取り方」のレヴュー

 3−1−1 研究の目的:

 この研究は、Biddle (2000)のつぎのような指摘に応えるようなかたちで研究が始められた。

「心理的指導は本当に有効性を持っているのか?」「もし有効だとするならば、どのような条件で有

効なのか?」といった問いに対して、ほとんどの応用スポーツ心理学の研究は十分な答えを出してい

ない、とBiddleは指摘した。

 チームに対して実施されたスポーツ心理学のプログラムの評価研究の大部分は、コンサルタント

自身による自己報告や逸話的な証拠だった(Botterill, 1990; Dorfman, 1990; Orlick, 1989; Ravizza,

1990)。これらの報告は、チームスポーツの場における心理的介入についての貴重な情報をあたえ

た。しかし、プログラムの実施についての競技者の観点からのプログラム評価の観点が抜けていた

(Weigand et al., 1999)。Halliwell (1990)は、プロのアイアスホッケーチームとの仕事の経験か

ら、「スポーツ心理のコンサルティングサービスの効果を自分自身で知ることは難しいことである。

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コーチやプレーヤーが効果について語るのに最もふさわしい人である」と述べている。

 このような先行研究の指摘を踏まえてつぎのような問題の解明が研究目的として設定された。

(a)スポーツ心理学プログラムの実施に関するプレーヤーの受け取りかた。(b)チームスポーツ

の場でスポーツ心理学プログラムを指導したコンサルタント(SPC)の性格や行動をプレーヤーはど

のように見ていたか。

3−1−2 2003年の研究の方法(質的研究法)

 (研究参加者):カナダのインターカレッジのアイスホッケーチームの27名のプレーヤー。

 (スポーツ心理学のプログラム):本研究で実施されたプログラムはチームづくりを目指したもの

であり、その内容には目標設定、対人関係、集団的問題解決、役割の明確化などが含まれていた。

チームづくりの具体的な内容としては、(a)スポーツの場の内外で、プレーヤーが自らの行動に責

任を持てるようにすること、(b)チームに対して自分の行動の責任を持つことの価値を理解し、認

識すること、の2点が強調された。

 7か月にわたって毎週、SPCはプレーヤーとチームミーティングを行った。この際に、15分―2

時間にわたってスポーツ心理学のプログラムが実施された。そのプログラムの一部を表1に示して、

若干の説明を加える。

表1 スポーツ心理学ミーティングの各週の活動内容(一部省略)

ミーティング名 目的 内容

個人の誓い チームに対する個人の責任を持たせる

チームのなかでの個人の目標を開示する

第二次大戦の映画 チームワークの感覚を育てる(役割明確化、対人関係、コミュニケーション)

チームワークに関するテーマの討議。チームワ―クテーマの作成

チームの伝統 チームの伝統と歴史の強調 チームの成功や名声や、先輩の功績

記者会見 個人の責任とチームの責任 プレーヤーはチームメイトの役割や責任や行動について質問をする

今日は誰になりたいか

独自性と集団のプライドの感覚をつくる(役割明確化集団の責任、集団の目標)

現在のチームの状態を確認し、獲得したい名声集団の責任、集団の目標を記述する

伝統の夕べ 仲間意識を高め、個人差を認め、感情を解消する

SPCはプレーヤーたちの食・飲・話の文化を共有する

 いくつかのセッションの詳細を紹介することによって、このプログラムの具体的なイメージが分か

るように説明されている。その部分を簡単に紹介する。

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  シーズン初めのミーティングは「誓い」とよばれ、目標設定練習の準備にあてられた。各プレー

ヤーは、シーズンの終わりに自分のことを、リーダーシップや態度や身体的能力やプレースタイル、

その他を含めて、新聞にどのように書かれたいかを想像上で準備するように依頼された。SPCは「誓

い」の内容は各プレーヤーの実現すべき責任になると同時に、チーム全体の責任にもなるので、誓い

の内容を慎重に考えるように強調した。ミーティングの始めにコーチングスタッフの全員もチームの

前で「誓い」を披露したのち、ミーティングの場を離れた。それに続いてプレーヤーとSPCが誓いを

行った。

 誓いをチームメイトの前で語ることには2つの理由がある。第1の理由は、新人でも上級生でも、

各プレーヤーに自分はチームに貢献することを期待されているということを気付かせることである。

第2の理由は、プレーヤーたちに他のプレーヤーたちの考え方を理解し評価する機会をあたえること

である。すべてのプレーヤーに語らせることは、各プレーヤーに自分の意見や考えが尊重されている

ようだということを感じる機会を与えることであった。

 「第2次大戦の映画」というセッションでは、第2次大戦の映画が見せられた。このような映画

は、チームスポーツに関連した内容を含んでいた。その内容とは、効果的なチームワーク、集団とし

ての明確さ、責任、団結、コミュニケーション、社会的支援などである。プレーヤーたちはこのよう

な内容を映画のなかに認め、チームでの応用を議論した。

(データの収集): プレーヤーたちはレギュラーシーズン中のスポーツ心理学プログラムについ

て、つぎの領域についてインタヴューを受けた。(a)チームミーティングについては、「チーム

ミーティングでどのような変化を経験したか?」「チームミーティングにコーチたちはどの程度かか

わっていたか?」というような質問が行われた。(b)ゲームの日については、「ゲームの日にコン

サルタントはどのようにチームに関わっていたか?」「ゲームの日にコンサルタントにしてもらい

たいことがあったか?」というような質問が行われた。(c)コミュニケーションスタイルについて

は、「あなたはSPCのコミュニケーションのやり方の特徴をあげて話すことができますか?」「この

チームでのコンサルタントの役割は何ですか?」というような質問が、(d)まとめとして、「コン

サルタントのこのチームとの仕事について他に話すことはありませんか?」という質問が行われた。

 インタヴューの実施は、スポーツ心理学の大学院生で、スポーツ選手のインタヴューを60回以上

やっているものが担当した。チームにかかわりのないものが選ばれた。

 このインタヴューは心理学的プログラムの効果の評価にも関するものである。ここで、SPCやチー

ム関係者がインタヴューをしたとすると、プレーヤーたちは質問者に気に入られるような回答をしな

ければならないという圧力を感じる可能性がある。このような部外のもののインタヴューはそのよう

な圧力を避けることを可能にするだろう。

(データの分析): テープにとられたインタヴューはつぎのような手続きで分析された。(**)

①テープの逐語で文書化されたものを繰り返し読んで、全体の流れを把握する。      

② 転記された文書を、一行ごとに検討して、個々の意味単位(上記参照)を確認する。(Strauss &

Corbin, 1998)

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③ 似たような意味単位の語句が個々の転記文書から切り取られ(パソコンのワードの用語)、まとめ

て一つのファイルに張り付けられる。このようにして、15の下位テーマ(ファイル)が作られ

た。

④ それぞれのテーマ(ファイル)に、各テーマの本質を表現する語句(phrase)がつけられる。こ

れらの語句は、テーマのもとにくくられた意味単位によって示されている本質的な意味をあらわ

す。(たとえば、「社会的関与」というテーマのもとにはつぎのような本質的語句が含まれること

になる。「SPCはチームと氷の上以外でも社会的に関わっている」というような語句である)

⑤ 似たようなテーマは一つのグループにまとめられて一つのフォルダのなかに入れられる。これらの

フォルダにもそこに含まれるテーマに共通する意味を現わすような語句がつけられる。本研究で

はこれらのフォルダを下位カテゴリーとよんだ。ここでは下位カテゴリーの数は4つになった(実

践・実行上の問題、多重役割、敬意、コミュニケーション、の4つである)。

これらの下位カテゴリーはそれらが(a)プログラムの実行に関係したものか、(b)SPCの人格に

関係したものか、に従って分類された。

 上記の分析を通して、意味単位のグループ(=テーマ)、テーマのグループ(=下位カテゴ

リー)、下位カテゴリー(フォルダ)のグループ(=主カテゴリー)が、それぞれ明確に、適切に

分類されるように注意がはらわれた(Glaser & Strauss, 1967のconstant comparative methodを参

照)。

3−1−3 2003年の研究の結果

 データ(インタヴュー内容)の質的分析が終わったならば、インタヴュー内容の階層的概念図

(図1)が描かれ、データの構造が図に示された。

 図1の構造図が作成されていく過程が質的分析とよばれる分析過程であるが、その過程がこの論文

のなかに詳しく述べられている。紙幅に限りがあるので、いくつかの例を抜粋して示すことにする。

 まず、『技術コーチがいないこと』というテーマがどのようにまとめられたかについて説明した

い。インタヴューの転記のなかからプレーヤーによって語られた「意味単位=一つのことを語ってい

る語句」のなかから、似たものを集める。下記は3名のプレーヤー(プレーヤー番号、P13, P8, P2)

によって語られた意味単位である。 

 P13は、「ミーティングはフラストレーションからの息抜きの機会だ。コーチたちのことで胸につ

かえていることを吐きだせる」と語った。

 P8は、「もしコーチがそこにいたら、みんな臆病になってしまいますよ。皆は自分のことを考え

 (**) この分析法は、人間科学における質的研究法の代表的な技法である「グラウンデッド・セオリー・アプローチ」という技法である。この技法の特徴はプレーヤーたちの経験の内容を研究者の用意した質問紙の問いの範囲内で調べるのではなく、プレーヤーたちの自由な語りを上記のような手順で分析していくことによって、プレーヤーたちの経験の内容を知ることを目指している。 この研究法の詳細については(マクレオット, 2007)や(戈木, 2008)など、たくさんの参考書が解説を行っている。

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るよりは『コーチは自分のことをどう思っているのだろう』ということを考えてしまいます」と語っ

た。

 P2は、プレーヤーたちが個人的な話題を共有する状況を考慮してつぎのように語った。「コーチ

たちは、選手たちの感じ方を分かってくれるとは思えないです。チームメイトの前に出て行くことで

さえ難しいのですから、コーチにわれわれの感じ方を分からせることなんかできるでしょうか?」

 このような同じような意味をもった語句のグループが同じようなテーマを語っていないかどうかが

研究者によって解釈される。この論文の研究者は、『プレーヤーたちはスポーツ心理のミーティング

にコーチングスタッフが出席していないことを好ましく思った』ことを共通のテーマと解釈し、この

語句のグループのテーマとして、『技術コーチがいないこと』いう名をあたえたのである。

 つぎに、『社会的関与』というテーマがどのように構成されたかを、論文の記述から要約する。ま

ず、P7, P13, P17 らによって語られた、似たような意味単位が一つのグループにまとめられる。

 P7は、「週末の楽しみにバーへ行くときでも、SPCはついてきてくれる」と語った。

 P13は、「パーティーでSPCと一緒だったりすると、気心が知れて、彼に対する敬愛の情がわいて

きます」と語った。

 P17は、「彼の社会的場での関与は、彼のことをよく知らない若いプレーヤーがビールを飲みなが

ら彼との関係をつけるのに役立つと思う」と語った。

主カテゴリー                下位カテゴリー / テーマ

プログラム実施についての知覚

――→  1 実践・実行上の問題点  ・技術コーチがいないこと  ・時間がかかること

スポーツ心理コンサルタントについての認識

――→ 1 多重役割  ・社会的関与  ・感情的関与  ・チームメイト  ・共同コーチ  ・仲介者

2 敬意  ・敬意の獲得  ・等しい扱い  ・コーチへの敬意  ・チームの歴史への敬意

3 コミュニケーション  ・話しやすさ  ・ポジティヴでサポーティヴ  ・競技者言葉で率直  ・秘密をまもる

図1 スポーツ心理学プログラムの大学アイスホッケー選手の受け取り方の構造

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 これらの意味単位のグループは、「SPCはミーティングのときだけではなく、試合前の学生会館で

の景気づけのパーティーなどへの参加などを通して、社会的活動の場でもチームに関与していると見

られていた」ことを表していると解釈された。そして、このグループのテーマは『社会的関与』であ

ると考えられた。

 同様な似た語句(=意味単位)のグループがいくつか構成され、それぞれにテーマをあたえられる

ことになる。グループの分類が終わったならば、似たようなテーマをまとめていく作業がそれに続

く。この2003年の研究の例では、『感情的関与』『チームメイト』『共同コーチ』『(選手とコー

チの間の)仲介者』というような、SPCに対するプレーヤー認識がくくられてくる。この似たような

テーマのくくりは、この分析法では下位カテゴリー(あるいはカテゴリー)とよばれている。この下

位カテゴリーもその意味が解釈され、名前がつけられる。この研究では、つぎのような説明が行わ

れ、『多重役割』という名前があたえられた。その説明はつぎのようである。「プレーヤーたちは

SPCがさまざまな点でチームに関わっていると認識していた。社会的にも情緒的にもチームに関わっ

ていると認識されていた。さらに、チームの仲間として、協力コーチとして、プレーヤーとコーチの

仲介者として認識されていた」

 上記のように、インタヴューの結果をまとめていくことによって、アイスホッケーチームにチーム

づくりのためのスポーツ心理学的介入を実施したあとのプレーヤー側の受け取り方の全体的構造が、

図1のようにまとめられた。この分析法であるグラウンデッド・セオリー・アプローチの特徴は、研

究者の想定や予想による質問から構成される質問紙にプレーヤーの回答を求めるのではなく、プレー

ヤーによって語られた語句から出発して、全体構造を作り上げていくことにある。そこには当然、研

究者が前もって想定しなかったような意味単位が語られたり、予想しなかったようなテーマがまとめ

られたりする。グラウンデッド(地面に立脚した)セオリーとよばれる理由がそこにある。

 2003年の論文「プレーヤーの受け取り方」の結果の部分では、図1に示すような構造が、プレー

ヤーの言葉から帰納的に作られていく過程の説明が行われている。全体の説明は長大になるので、こ

こでは省略する。結果を要約すると、アブストラクトの紹介のなかに見られるように、スポーツ心理

学的介入それ自体は、時間がかかるけれども有効なものとして受け止められており、それを指導した

スポーツ心理学コンサルタント(SPC)はたくさんの役割を果たしており、好意をもってプレーヤー

から受け止められていた。

 結果についての討論の部分もかなり長い論文になっているが、討論のテーマとなった2つの問題

は、われわれがスポーツチームに対してスポーツ心理学的指導を行う際にも参考になるとおもわれる

ので、その部分を以下に引用しておく。

 (1) Brawley & Paskevich (1997)は、スポーツ心理学プログラムのチームでの実施における

所要時間を問題にしている。われわれの研究でも時間の長さに困難を感じているプレーヤーがいるこ

とが明らかになった。所要時間の長さは競技を妨げているだけではなく、学業をも妨げている場合が

あった。SPCは心理的介入の障害となる要因をよく考慮しなければならない。この研究の結果、プロ

グラムの所要時間はつぎのシーズンでは短縮する工夫が行われた。

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 (2) チームへの心理的介入においては、カウンセラーとクライアント(選手)が非公式(イン

フォーマル)な状況で関係を持つ事態が生ずる。このことはカウンセラーであるスポーツ心理学者と

選手の間の関係をあいまいで混乱したものにする可能性がある。SPCの多重役割は競技者からはポジ

ティヴな評価は受けているものの、SPCを心理学者としてみる態度と友達としてみる態度の境界をあ

いまいにする危険がある。Van Raalte & Andersen (2000)は、SPCがカウンセラーとして成長し、

職業としてのカウンセラーの立場と友達としての立場にけじめをつけるためには、スーパーバイザー

の指導を受ける必要があると述べている。この意見にはわれわれも同意する。しかし、このような

スーパーバイザーの役割をだれが引き受けることができるかは、大きな問題である。

3−2 2004年の論文、「チームづくりの質的研究」のレヴュー

 この論文の研究では、2003年の研究でのシーズンを通してのスポーツ心理学的介入に続いて、カナ

ダ選手権試合の前に実施されたチームづくりのための心理学的介入の効果が調べられている。

 まず、「チームづくり」ということについての説明が下記のように述べられている。

 『チームづくり(team building)という言葉は広い意味を持っていて、チームづくりプログラ

ムは個人の成績の向上、チームの成績の向上、個人間のダイナミックスの改善などを目指している

(Hardy & Crace, 1997)。また、Brawley & Paskevich(1997)は、チームづくりはチームの機能

の効率の向上を目的として、チームの一体感を高めるように計画された介入を意味しており、そこで

は問題解決のために個々のメンバーの能力を最大限発揮すると同時に、メンバーの要求を満足させる

ように介入が行われる、と述べている。このように見ると、チームづくりはチームと個人の相互関係

にポジティヴな影響を与えることによってチームの成績を向上させるように計画されたさまざまなテ

クニックを含むプロセスと考えることができよう(Woodcock & Francis, 1994)』

3−2−1 2004年の研究の目的

 この研究の目的は、『自己開示と相互シェアリングの原理を援用したチームづくりプロセスに対す

る競技者の主観的反応を、組織的に調べ記録することである』と述べられている。そして、その研究

目的が立てられた理由がつぎのように述べられている。

 『チームが効率的に機能するためには、競技者は自己自身を理解することを求められるだけで

はなく、チーム内の他のメンバーの役割や考え方や価値観や動機づけや欲求を理解することを求

められている、とCrace & Hardy (1997)は主張した。彼らはメンバー間の「相互理解=mutual

understanding」を形成することがチームづくりプロセスの中心的課題であるとも述べている。

 チームメンバーが相互に深い理解を得ることの重要性はYukelson (1997)によっても主張されて

いる。Yukelsonは対人理解を深める活動がスポーツ心理学のチームづくりプログラムの中にも含め

られることを推奨した。そのような活動は「相互シェアリング=mutual sharing」の原則の上に構成

された(Yukelson, 2001, p.138)。相互シェアリングとは、特定の問題や話題について、参加者が考

えや感情やアイディアを相互に共有することである。組織心理学においてはこのタイプのチーム内コ

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チームワークづくりのためのメンタルトレーニング ―グループエンカウンターのチームづくりへの応用―

ミュニケーションは「共有された認知=shared cognition」(Cannon-Bowers & Salas, 2001)とよば

れており、そこでは情報の相互シェアリグと自己開示が、相互理解を高め、他のメンバーの価値観や

信条や態度や動機づけを尊重する態度を高めていくと考えられている。そして終局的にはこうして深

められた理解は、意志決定の効率や動機づけや凝集性を高めることをとおして(Cannon-Bowers &

Salas, 2001)、チームの機能を高めるものと期待される』

3−2−2 2004年の研究の方法

(実験参加者):カナダの大学アイスホッケーチームの27名(男子 平均年齢22.4歳、SD1.4歳)。

彼らはシーズン中にスポーツ心理学プログラムの指導を受け、シーズン後にチームづくり活動の指導

を受けた(cf. Dunn & Holt, 2003)。

(プログラムの実施状況と実施内容):この研究のチームづくり活動は全国選手権トーナメントに先

立って実施された。その大会ではチームは4日間で3ゲームを行う必要があった。この活動の指導

が行われたときまでに、スポーツ心理学コンサルタント(SPC)はチームと2年にわたって仕事をし

てきていた。シーズンを通して、SPCはチームを直接に指導した。彼は7か月にわたって毎週プレー

ヤーと会い、キャプテンやヘッドコーチとも同じようなペースで会った。ホームゲームは毎回観戦

し、アウェイのゲームのいくつかにもついていった。

 シーズン中のスポーツ心理学プログラムの詳細と、SPCが選手によってどのように受け止められ

ていたかについては(Dunn & Holt, 2003)に示されている。そこにはSPCが選手から信頼され、コ

ミュニケーションをとりやすい人物として評価されている様子が示されている。

 チームづくり活動の適用は、チームに対する感情的愛着が高まっているときに、成績にもよい影響

があることが認められている(Bloom et al., 2003)。

 本研究のチームづくり活動の開始は、全国選手権に出発する7日前のチームミーティングの際に行

われた。そのミーティングでは、選手たちはSPCから次のような印刷物が渡された。

 木曜日の夜のミーティングには、自分についての一つの物語を準備してくること。そ

の物語は、皆に自分について知ってもらいたいことで、それを聞いたら皆があなたを戦

争の前線の塹壕(ざんごう)のなかから戦場に跳びだしていくときに隣にいて欲しいと

思うような物語がよい。

 あなたの物語は個人の生活のなかの出来事に関したものでも、スポーツに関したもの

でもよい。あなたの物語はあなたの人格や動機づけや欲求を反映しているものであるこ

とが望ましい。

 戦時の塹壕の比喩はチームがこのミーティングの数週間前に見た映画の一場面に基づいていた。そ

の一場面は第二次大戦の戦闘場面であり、任務への感情的関与とチームへの一体感がよく示されたも

のであった。競技者たちはシーズンを通してさまざまな機会に、討論の準備をしてミーティングに集

まるように、宿題をあたえられていた。このような機会には技術のコーチは出席していなかった。そ

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東京成徳大学研究紀要 ―人文学部・応用心理学部― 第 16 号(2009)

して、競技者たちはミーティングで話をする順番のリストも渡されていた。

 チームづくりミーティングの晩、選手たちは夕食の後会議室に集められた。スポーツ心理学コンサ

ルタント(SPC)はつぎのように切り出した。

 先週、私は皆さんに、スポーツの経験のなかで個人的に大きな出来事であり、その出

来事がこの週末の試合に臨むときにどのように自信につながっているかを、皆の前で話

せるように準備してくることをお願いしました。明日の戦闘に備えて、塹壕のなかでわ

れわれがあなたをそばにいて欲しいと思えるようにして下さい。そのことがあなたに

とって本当に意味のあることであれば、残りの者たちにとても意味のあることになるで

しょう。立派な物語を作ろうとは思わないで下さい。どうぞオープンになって正直に、

あなたのストーリーをわれわれと分かち合って下さい。あなたがこのミーティングから

何を得られるかは、あなたがこのミーティングに何を喜んであたえるかにかかっていま

す。

 このようなインストラクションは、相互理解と正直な自己評価の雰囲気をつくりだすことを目的

として作られた。ミーティングの雰囲気を出すために、SPCがまず、2つの簡単なストーリーを語っ

た。一つは個人的生活に関するものであり、他の一つはスポーツ生活に関するものであった。SPCの

話の後に選手たちが指名された順番に前に出て、チームメンバーに自分の物語を語った。

(インタヴュー): 27人の選手たちはトーナメントントの2週間後から2週間かけて面接を受け

た。

 面接では3つのオープンエンデッド・クエスチョンを使った半構造化面接が行われた。ここでの質

問は、チームづくり活動についての参加者の主観的経験を探るための会話を喚起するように計画され

た。最初の質問は、「今年のスポーツ心理学プログラムであなたにとって強く印象的であったものは

何ですか?」であった。第2・第3の質問は(a)全国選手権試合にあたってのスポーツ心理学プロ

グラム全般についての選手の評価、(b)全国選手権試合にあたってのチームづくりに関しての、ポ

ジティヴな経験とネガティヴな経験の選手の知覚、に焦点をおいて行われた。面接は30分から1時

間の間で行われ、逐語的に文書化された。

(データの分析): 面接の結果得られた言語的データの分析は帰納的質的データ分析法

(inductive qualitative data analysis technique)(Patton, 2002; Strauss & Corbin, 1998)によって

行われた。この分析法はDunn & Holtによる2003年の方法と同じであるので、ここでは、説明を省略

する。

3−2−3 2004年の研究の結果

 データ分析ではプレーヤーたちの語った語句(意味単位)の似たものが一つのテーマの下に集めら

れ、さらに共通性を持つテーマがまとめられてカテゴリーとされた。その結果はつぎのようにまとめ

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チームワークづくりのためのメンタルトレーニング ―グループエンカウンターのチームづくりへの応用―

られている。

 「不安」「雰囲気づくり」「情動的強度」「意味ある人生経験」といったテーマは、「ミーティン

グについての認識」というカテゴリーにくくられた。

 「他者の理解」「自己の理解」というテーマは、「理解」という下位カテゴリーにまとめられた。

 「親密さ」「お互いのためにプレーすること」というテーマは、「凝集性」というカテゴリーにま

とめられた。

 「チームメイトに対する信頼」「無敵の感情」というテーマは、「信頼」というカテゴリーにまと

められた。

 さらに、「理解」「凝集性」「信頼」というカテゴリーは、「認識された利点」という上位カテゴ

リーにくくられた。

 上記のようなテーマとカテゴリーの構造は、自己開示と相互シェアリングをともなったチームづく

り活動をプレーヤーたちがどのように経験したかを示すものとなっている。

 上に示したようなテーマが、インタビューデータからどのように作られたか、その方法をいくつか

のテーマについて、具体的に示したい。この説明は研究論文の中ではすべてのテーマについて明示さ

れているが、本論文ではいくつかのテーマについて、それらの構成過程を示すことにしたい。

 「意味ある人生経験」というテーマの集合が構成されるにあたっては、つぎのような語句(意味単

位)が共通性を含むものとしてまとめられた。

 P12は、「あのミーティングでやったことは忘れられません。私は20年ホッケーをやってきまし

たが、仲間が骨折したとき以外の場面で涙を見せるなどということは見たことがありません」と述べ

た。

 P20は、「皆が一人ずつ自分の話をしました。そして各人が何のためにプレーしているのかという

ようなことが、全員に理解されました。それはとても大きな経験でした。仲間が話したことは、私の

生涯の記憶となるでしょう」と述べた。

この2名を含めて13名のプレーヤーはミーティングでの経験に感動し、忘れることのできないもので

あると報告した。そこで、この語句(意味単位)の集合のテーマは「意味ある人生経験」と名づけら

れた。

 「他者の理解」というテーマの集合が構成されるにあたっては、つぎのような語句が共通性を含む

ものとしてまとめられた。

 P16は、ミーティングがチームメイトのこれまでに知らなかったパーソナリティーの側面を知るこ

とを可能にしたとして、つぎのように述べている。「私は1年中仲間と顔を合わせているようなチー

ムでプレーしていました。しかし仲間同士が本当によく知っていたわけではありませんし、何がチー

ムに起こっているのかも理解していたわけでもありません。しかし心理的訓練を受けた後では、他の

プレーヤーをよく理解できるようになりました。チームの中にはよく理解できない人もいましたが、

彼の人格を作り上げてきたような物語を聞いたりすると、新しい理解が生まれ、一人の人間として尊

重する気持ちになります。その気持ちは愛と言ってよいかもしれません。彼に対してより寛容にな

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り、友好的になります。そして、悩みや努力を語った仲間の成功するところを見たいと望むようにな

ります」

 P27は、他のプレーヤーに対する理解の深まりについてつぎのように語っている。「ミーティング

の結果、私は互いのことをよく学ぶことができたし、われわれのすべてが何を達成しようとしている

かについても学ぶことができた」

 P25は、つぎのように語った。「2晩のミーティングは6カ月も一緒にいたことに匹敵するような

経験だった。われわれは他者について多くのことを学び、それはとても役に立ったと思う」

 上記の3名を含めて18名プレーヤーは、ミーティングで個人の話した物語を聞くことはチームメイ

トについての理解を深めることに役立ったと述べた。このような分析によって、これらの語句はミー

ティングによって「他者の理解」が経験されたことを示していると解釈された。

 「親密さ」というテーマは21名のプレーヤーの語句の中に語られていた。その例を下にしめす。

 P22は、「ミーティングはこれまで私が経験したことがないほどに、チームを親密なものにした」

と語った。

 P7も同様な感想を語った。

 P26は、「いまやわれわれは兄弟のようになった。なにが起ろうがわれわれの結束は固い」と述べ

た。

 P8は、ミーティングがチームメイト間の関係に及ぼした影響をつぎのように要約した。「伝統的

な考え方は、よいチームは一緒に練習し、力を合わせてプレーすることによって勝とうというもの

だったろう。私はプロ・アマのキャリアを通してはじめて、一緒に泣くチームの一員となった。そし

て、そのことは本当にチームに固い結びつきをあたえると感じた」

 すべてのテーマについての説明は省略するが、「他者の理解」や「親密さ」といったテーマはさら

に「(チームづくりのためのスポーツ心理学プログラムの)認識された利得」として一つのカテゴ

リーのもとにまとめられていく。

3−2−4 2004年の研究の結論

 2004年の論文、「チームづくりの質的研究」では、チームづくり活動は個人の自己開示と相互シェ

アリングの原則にたって実施された。このプログラムの実施後、インタヴュー調査が行われ、チーム

づくり活動におけるプレーヤーの主観的経験の心理的プロセスについての新しい情報が明らかになっ

た。相互シェアリングと正直な自己評価(自己開示)は、プレーヤーによって、不安を伴うことも

ある強い情動的体験であり、意味ある人生経験であるともみなされた。プレーヤーのナラティヴ(物

語)は、プログラムの経験のなかには、個人レベルでもチームレベルでも、様々な利得が含まれてい

たことを示していた。その利得とは、「人間理解」とか、「団結」とか、「信頼」とかであった。

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チームワークづくりのためのメンタルトレーニング ―グループエンカウンターのチームづくりへの応用―

3−3 2006年の論文「介入のための指針」のレヴュー

3−3−1 2006年の研究の目的

 この研究の全体的目的は、自己開示と相互シェアリングによるチームづくり(PDMS)の指導

をしようとしている実践家に専門的ガイダンスをあたえることであった。最初に、Dunn & Holt

(2004)によって行われたPDMSによる介入の方法を再現し、その効果が確かめられた。この効果の

再現実験についての記述が2006年の論文の前半部分をなしている。後半が実践家への指針となってい

る。

3−3−2 2006年の研究の方法

(参加者):カナダのトップレベルの女子サッカー選手14名(平均年齢25.4歳、SD=5.03歳)が

この研究に参加した。このチームは県大会(***)で優勝し、全国大会の出場権を得ていた。

(プログラムの実施状況と実施内容):チームのスポーツ心理学コンサルタント(SPC)は、全国大

会を前にしてPDMSによるチームづくりを行った。この指導は27歳の博士課程の院生で、大学レベル

のサッカーチームでのスポーツ心理学の指導の教育を受けた経験があった。このSPCは自分でも大学

レベルで、サッカーの選手の経歴があり、ヨーロッパのサッカーコーチのライセンスを持っていた。

このSPCがPDMSによる介入を行ったのはアイスホッケーチームではなく、女子のサッカーチームで

あった。

 PDMS介入の予備的段階(宿題の段階)は、全国大会の2週間前のチームミーティングで始まり、

自己開示段階は全国決勝トーナメントのあいだに行われた。予備的段階のミーティングでは、プレー

ヤーとコーチは宿題をあたえられた。その宿題はつぎのような自己内省的な質問に答えることであっ

た。「なぜ私はサッカーをやるのか、そして誰のためにプレーするのか」さらに「決勝トーナメント

で私はチームにどのように貢献しようとしているか」というような質問に答えることが要求された。

 PDMS介入のミーティングは準決勝の晩にチームの宿泊しているホテルの会議室で行われた。メ

ンバーは輪になって座り、自分の物語を開示するよう求められた。話し始める前に、SPCは全員に向

かってつぎのような教示をあたえた。

「先週、私は皆さんにこのミーティングに、つぎのような題の話を準備してくるように

お願いしました。つまり、「なぜ私はサッカーをやるのか、そして誰のためにプレーす

るのか」さらに「決勝トーナメントで私はチームにどのように貢献しようとしている

か」というような質問へ答える宿題を出しましたね。立派に話そうとは思わないで下さ

い。率直に誠実に話してください。あなたの話を皆で共有しましょう。その話があなた

にとって意味のあるものなら、他の人々にも有意義なものであることでしょう」

 このような教示は、相互理解と正直な自己評価の雰囲気を作り出す目的で行われた。ミーティング

は、10分の休みを入れて、4時間にわたって行われた。

(***)カナダのprefecture(県)は合衆国のstate(州)にあたる。

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3−3−3 2006年の研究の結果

 女子サッカープレーヤーに対するPDMSプログラムの経験についてのインタヴューの録音は、2004

年の男子のアイスホッケープレーヤーの研究と同じ方法で分析された。その結果つぎのようなカテゴ

リーとテーマが確認された。そこに見られる経験の構造は2004年の研究とほとんど同じであるが、冗

長さをいとわずその構造を下記に示す。

 「不安」「雰囲気づくり」「情動的強度」「意味ある人生経験」といったテーマは「ミーティング

についての認識」というカテゴリーにくくられた。

 「他者の理解」「自己の理解」というテーマは、「理解」というカテゴリーにまとめられた。

 「親密さ」「お互いのためにプレーすること」というテーマは、「凝集性」というカテゴリーにま

とめられた。

 「自分に対する信頼」「無敵の感情」というテーマは、「信頼」というカテゴリーにまとめられ

た。

 さらに、「理解」「凝集性」「信頼」というカテゴリーは、「認識された利点」という上位カテゴ

リーにくくられた。

 下線を施した「自分に対する信頼」は、アイスホッケーでは「チームメイトに対する信頼」になっ

ていただけの違いである。このように、2つの研究の結果の類似性は、PDMSの効果が参加者や指導

者や指導される場などによって影響を受けにくいとこを保証するものと考えられた。

 上記の結果は、スポーツチームに対してPDMSによる心理的介入を行おうとする実践家のためのガ

イドラインをつくる根拠となった。

3−3−4 ガイドライン

 このガイドラインは、3つの研究を発表した2人の経験に基づいて、PDMS(自己開示と相互シェ

アリング)を実際に実施するためのいくつかの助言が記されている。ここでは、それらのいくつかを

紹介する。

① シーズン中にチームのコミュニケーションを高めておくこと。

『PDMSの過程では、極めて個人的な情報を開示する可能性があるので、PSC(スポーツ心理コンサ

ルタント)とプレーヤーの間の信頼と意思疎通を作っておくことは重要である。

 SPCはチーム全体としての相互理解が継続するように、シーズン中もPDMSが行えるように条件を

調えておくべきである』

② ミーティングの運営上の注意

『(a)チームミーティングで話す情報を前もってプレーヤーたちに準備させること。(b)個人的

情報をチームメイトの前で公にし、それを共有化(シェアリング)すること。(c)開示された情報

の守秘義務をまもること。(d)SPCも自己開示の手本を自ら示すこと』

 チームづくり、あるいはチームワークづくりのための心理学的プログラムによるサポートの一連の

研究はつぎのような言葉で結ばれている。

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チームワークづくりのためのメンタルトレーニング ―グループエンカウンターのチームづくりへの応用―

『われわれは2回のPDMS介入への参加者が、ミーティングへ出る前の不安を除いては、ネガティヴ

な結果を報告していないことを指摘しておきたい。しかしながら、実践家は、PDMSの成功に影響を

あたえる多くの要因を考慮せずにこのチームづくりの方法を採用することに慎重でなければならな

い』

4 3つの研究へのカウンセリング心理学およびコーチ学の立場からのコメント

4−1 カウンセリング心理学の立場からのコメント

 本レヴュー論文の第3著者は長年カウンセリング心理学に携わり、特に構成的グループエンカウン

ターの我が国における開拓者である。その立場からのコメントを下記に示す。

 『3つの研究で共通して実施されたチーム全体で行うスポーツ心理学的プログラムは、グループエ

ンカウンターの応用とみなすことができよう。これらの研究で実施されたプログラムは、チームのメ

ンバー各人が順番に全員の前で自己開示をおこない、それを仲間のメンバーと共有する(=シェアリ

ング)という意味がある。

 このシェアリングの方法をさらに深めて、チームの成員間の相互理解や一体感を増進するために

は、皆の前で自己開示した経験と、他者の自己開示を聴いた経験をミーティングの後で、皆で語り合

うことである。この語り合いは全体シェアリングとよばれている。

 自己開示とシェアリングを通しておたがいの被受容感が育つので、これがチームワークづくりに貢

献する。自己開示をすれば自己理解も深まる。そうすると、自己肯定感が高まり、メンバーとしての

自信も高まる。同時に、皆が自分の話に耳を傾けてくれた経験は、自分のこだわりや心の鎧(よろ

い)を脱いで、仲間意識(weness=われわれ意識)を高める、と考えられる。グループへの所属感が

あるときには、プレーヤー各人は欲求不満耐性を高め、がんばりがきくようになると考えられる。

 このような効果をさらに高めるためには、自己開示するトピックまたはテーマをどのようなものに

するかを、ミーティングが行われる状況に応じて変化させる必要がある。グループエンカウンターで

はこの問題はエクササイズの開発とよばれるが、スポーツのチームづくりのプログラムでもエクササ

イズの開発が一つの課題となろう。

 2003年の論文のなかで、スポーツ心理学コンサルタントとプレーヤーたちの関係で「カウセラーと

しての立場と友人としての立場」の混同への注意が指摘されている。この問題はスポーツ心理学コン

サルタントだけの問題ではなく、カウンセリングに従事する職業一般の問題である。友人として振る

舞うことがあっても、カウンセラーとしての義務と権限をもった友人であらねばならないのが原則で

ある。スポーツの場でも、プレーヤーの相談したことを口外しないという、守秘義務は守らねばなら

ないし、カウンセラーとして知りえたコーチのプレーヤーに対する評価などももらしてはならない。

また、コンサルタントは気安い仲間であるだけではなく、禁止事項や制限事項をはっきりとプレー

ヤーに命じる権限を持っているという自覚がなければならない。私的な飲み会でも医師は緊急事態に

備えて酔っぱらうまでは飲まないように気を許さないように、また異性のクライエントから夕食に

誘われてもアパートまでは行かないようにするのと同じように、スポーツ心理学コンサルタントもプ

レーヤーとの間のけじめが必要であろう』

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4−2 コーチ学の立場からのコメント

 本論考の第1著者は、バスケットボールのコーチとして長年の経験があり、指導する大学バスケッ

トボールチームを関東学生3部リーグのチームに育てた。児童のバスケットボールの指導も手掛けて

いる。以下はその立場からのコメントである。

a. 戦術的チームワークと心理的チームワークの必要性

 3本の論文は、チームづくりの心理学という言葉を使っているが、チームワークづくりの心理学と

もいえるだろう。従来の日本のチームスポーツにおいても、チームの一体感とかメンバー同士の信頼

感とかチームとしての自信といった心理的側面は重要視されてきた。しかしそのような心理面の強化

は日頃の練習や合宿のなかで自然に育つものと期待されてきた。チームミーティングでも、昔よりは

コーチとプレーヤーの間のコミュニケーションは自由になってきているが、意見の交換はプレーの戦

術的な面に重点が置かれており、今回レヴューした研究のように心理的チームワークに重点をおいた

指導や討論は十分ではない。その点からも、これらの研究は示唆に富むものであった。

b. 心理学的介入はどのような状況で行ったらよいか

 展望した論文のなかの2003年の研究では、心理的介入プログラムの意義は認めるものの、時間がか

かることが問題であるとの意見がプレーヤーの間にあることが示されていた。この問題は大学スポー

ツチームにとっては極めて重要である。放課後に練習を行うので、帰宅して入浴や食事をすると、プ

レーヤーとして必要な睡眠時間を確保するためには、ミーティングの時間は限られてくる。北米の大

学スポーツチームのように、プレーヤーたちがキャンパス内の宿舎に住んでいて通学時間のかからな

い状況でさえも、時間は限られている。

 日本の大学スポーツチームの場合には、心理的介入のミーティングを実施するのに適した場は、合

宿の夜のミーティングであろう。ミーティングのやり方には2つのタイプが考えられる。一つは、展

望した論文に示されたような、心理学コンサルタントによって指導されるフォーマルなミーティング

である。もう一つのタイプは就寝前の自由時間の語らいの場などで行えるインフォーマルなコミュニ

ケーションである。このような自由な雰囲気のほうが自己開示やシェアリングが容易に行えると考え

られる。どのようなテーマの話し合いを促すか、というような問題は今後の研究の課題となりそうで

ある。

c. さらに高度なチームワークづくりのための心理学的介入の必要性

 展望した3つの研究では、これまでのトレーニング理論ではあまり扱われていない心理的側面、す

なわちチームの心理的側面への介入が扱われていた。チームを長年指導してきた者の観点からする

と、まだいくつかの問題が残されていると考えられる。

 第一の問題は、プレー場面での集団心理に関するものである。バスケットボールのような刻々と変

化する試合状況では、ゲームをリードするゲームメーカーの意図を他のプレーヤー感じ取り、適切に

反応してゲームを組み立てていかなければならない。特に試合の山場といわれるような重要なポイン

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チームワークづくりのためのメンタルトレーニング ―グループエンカウンターのチームづくりへの応用―

トでは、このことは重要である。そして、日々の練習でもチームとしての技能を一段階向上させるよ

うな「山を超える」と言われる訓練過程では、リーダーの描くゲームプランの方向性や意図をプレー

ヤーたちが共通して誤りなく認識し理解していく必要がある。オーケストラの指揮者の意図を楽団員

が誤りなく共通に理解して音をだしていく過程にも似ているだろう。このような感性の向上に役立つ

ような心理学的技法も、われわれは知りたいところである。

 第二の問題は、チームの一員としてプレーできたときに感じられる達成感をプレーヤーに感じさせ

ることである。個人の運動での成功にも喜びはあるが、素晴らしいチームワークのプレーを作り上

げるのに自分が貢献できたという喜びは、大きな成功体験である。若いプレーヤーの場合には、ど

のプレーがチームワークに貢献できたかを自己評価できない場合がある。そのために、コーチからの

フィードバックが重要となる。一見、失敗したかに見えるプレーにも、実はチームプレーとして評価

すべきものがある場合がある。

d.  運動部生活への適応を促進する効果への期待。

 大学チームでこのような心理的プログラムを有効に使う場面はいくつか思いつくが、新入部員の

チームへの適応を促進するために使うことが考えられる。学生スポーツの特殊な点は毎年メンバーが

変わっていくことである。3年前に本学のバスケットボールチームで、新入生にインタヴューを行

い、大学チームに入った戸惑いの経験を聞いたことがある。新入生たちは、技術や体力の問題ばかり

ではなく心理的困難を克服する努力を語っていた。彼らの大学チームへの適応を促進させるためには

「心技体」全部の側面からのサポートが必要であることを確認した。

 一人のコーチがすべてをカバーすることは困難なので、スポーツ心理学者の援助が望まれるところ

であるが、2006年の論文のガイダンスの部分に書いてあるように、スポーツ心理学の指導者は、普段

からコミュニケーションを持っている心の専門家であることが望ましいと同時に、スポーツ種目の特

性に理解を持ったものであることが望ましい。

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