ゼラチンのレオロジー的性質 - SQUARE1-1 粘度とpHおよび電解質の影響...

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65 ゼラチンのレオロジー的性質 ゼラチンは天然の蛋白質として古くから多くの研究がなされてきたが, その焦点はゲル化と いうことであった.このとき生ずる結合点は“結晶"のようなものであると考えられてきたが, 近年コラーゲシの研究が進むと共に,それは三重らせんの部分的再編成であるともされている. ゼラチ γのレオロジカルな性質を現在まで研究されてきた合成高分子のそれと比較することは, ゼラチシの本質の解明に貢献するものと思われるので, ここにゼラチンの溶液の粘度的性質と ゲルの力学的位置について,最近の実験から論議してみたい. ゼラテン溶液の粘度的性質 1-1 粘度と pH および電解質の影響 ゼラチン水溶液の粘度は多くの研究の主題の 1 つであった.この場合実験の濃度は,分子聞の 相互作用の小さい 1% 以下の 度と相互作用の大きな 1% 以上の濃度にわけられる. 他の性質 と違って粘度的挙動は,ゼヲチ γoriginの如何によらず共通的であるが,酸処理とアルカリ 処理の差異は重要である.ゼラチシは高分子電解質であるから,その粘度は pHに依存する. Fig. 1 にアルカリ処理の輯皮ゼラチ γの濃度 O.2gj100cc における水溶液の還元粘度に及ぼ ιJ ¥ .--.2.00 益、 宮、 ) h . ・同 u; 0 u UJ 3100 '0 Q) O O 4.0 8.0 12.0 pH Fig.l Reducedviscosityofgelatin indilute solutionsasafunctionofpH andsaltcontent". Alkali-treatedprecursor pI= 5.08. Curvc 1 0.2% ashfrecgelatininpurewatcr; curve2 0.2%ashfreegelatinin0.017M NaCl; curve 3 0.2%ashfreeg latinin1.00MNaC I.

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ゼラチンのレオロジー的性質

上 野 弥

ゼラチンは天然の蛋白質として古くから多くの研究がなされてきたが, その焦点はゲル化と

いうことであった.このとき生ずる結合点は“結晶"のようなものであると考えられてきたが,

近年コラーゲシの研究が進むと共に,それは三重らせんの部分的再編成であるともされている.

ゼラチ γのレオロジカルな性質を現在まで研究されてきた合成高分子のそれと比較することは,

ゼラチシの本質の解明に貢献するものと思われるので, ここにゼラチンの溶液の粘度的性質と

ゲルの力学的位置について,最近の実験から論議してみたい.

ゼラテン溶液の粘度的性質

1-1 粘度とpHおよび電解質の影響

ゼラチン水溶液の粘度は多くの研究の主題の 1つであった.この場合実験の濃度は,分子聞の

相互作用の小さい 1%以下の 度と相互作用の大きな 1%以上の濃度にわけられる. 他の性質

と違って粘度的挙動は,ゼヲチ γの originの如何によらず共通的であるが,酸処理とアルカリ

処理の差異は重要である.ゼラチシは高分子電解質であるから,その粘度は pHに依存する.

Fig. 1 にアルカリ処理の輯皮ゼラチ γの濃度 O.2gj100ccにおける水溶液の還元粘度に及ぼ

ιJ ¥

.--. 2.00 益、宮、

口)

h ...., ・同

u; 0 u UJ

司コ

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O 4.0 8.0 12.0 pH

Fig.l Reduced viscosity of gelatin in dilute solutions as a function of pH

and salt content". Alkali-treated precursor, pI= 5.08. Curvc 1, 0.2%

ashfrec gelatin in pure watcr; curve 2, 0.2% ashfree gelatin in 0.017M

NaCl; curve 3, 0.2% ashfree g巴latinin 1.00M NaCI.

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す pHおよび電解質添加の影響を示す1) 還元粘度は等電点 (pI=5.08)で極小値を, pH=3.1

と pH=10.7において極大値をとる.電解質 (NaCl)を加えるとその変化は小さくなっていく.

Stainsbyは次の仮定によって結果を理論的に説明したわ. ゼラチシ分子にそって分布する正味

の電荷のために反嬢力を生じるが, 等電点で、は分子鎖にそう正負の電荷が等しいので分子の拡

がりは最も小さく,還元粘度が極小値をとる. pHを増加または減少させるときは, 正味の電

荷が増し, 分子鎖は反援してのびる.しかし, pHを変化させるために酸またはアノレカリを加

えるため,添加によって生じる対イオシが多くなり, 電気的な力を減ずるので,ある pHを越

えると再び分子の拡がりが小さくなる.同様に電解質の添加も分子間の力を減ずることになる.

アルカリ処理した犠皮ゼラチシ濃厚溶液の場合も, pH依存性は稀薄溶液の場合と類似してい

る:また電解質を加えたとき,相対粘度は Fig.2に示すようにすべての pHの値に対して減

少するが,その効果は稀薄溶液の場合より小さい3)

15

13

11

入内判明明。

U2〉

ω乙判同門

ω出

pH

Fig.2 The l'elative viscosity for 5.6% solutions of an alkali'processed calfskin

gelatin at 350C". Upper curve -no salts. Lower curveー 0.03MNaCI.

14 10 6 2

9

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1J 14.0 P

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苦12.0。にJ

510O

105 10'

Shear rate ト(sec')

Fig.3 Viscosity as a function of shear rate for 8.7% solutions of an

alkali-processed hide gelatin".

10' 10' 10'

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ゼラチン溶液の粘度のずり速度依存性

この問題についての研究は少ない. 一般にゲノレ化温度以上の温度で、は,かなり広い範囲の濃

度, pHにおいても粘度のずり速度依存性は認められず,ニュートシ流動を示すり.Fig. 3にア

ノレカリ処理皮ゼラチ γ(等電点4.8) の水溶液の粘度とずり速度の関係を示す5】. 410, 510Cの

いずれの濃度においてもニュート γ挙動を示している. ここで注意すべきは,数万の分子量を

1-2

&

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19

18

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OU的だ〆 16

10' 10' Shear rate r (sce-1

)

Fig.4 Viscosity as a function of shear rat巴 for 7 % solutions of an alkali-pr0cessed hide gelatin at 30oC. Curve 1, immediately after

solution at 500C for 20 minutes; curve II, after heating the solution

uscd for measurement of curve 1, for 1 hour at 50oC; curve III,

after heating the solution of curve II for 1 hour at 50oC.

10' 101

15

o 123% 3tJft ・tf.23佑 3{).)''cof.ク'4%30.4(;

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10'

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10' Shear rate r (sec-1

)

Fig.5 Viscosity as a function of shear rate for 8 % solutions of an alkali.processed hide gelatin at 30oC. 0, e, immediately after solution

at 500C for 20 minutes;①, heating at 500C for 1 hour after solution.

10'

101

30.0

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もつゼラチシの溶液が, 実験範囲の高いずり速度においても非ユユートシ性をもたず,またそ

の粘度の絶対値がかなり低いことである. さらには曳糸性を全く示さないことも,ゼラチシ溶

液の大きな特徴である. 温度が下ってゲル化温度以下の場合,系は網目構造をとり,ずり速度

が大きくなると, 構造が破壊されて粘度が低下すると考えられる著しい非ユユートシ性が観測

される町 CFigs.4 ~ 6). Fig.4にみられるごとく, 30. goCで測定した試料を500Cに1時間保

ち,再び 30.50Cで測定を行うと曲線Eになり,この試料にさらに同様の処理を行うと曲線Eの

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100

10' 10' 10' Shear rate r (sec・')

Fig.6 Viscosity vs. shear rate at 30.60C for solutions of an alkali'processed

hide gelatin51 •

挙動を示す.すなわち, 500Cにおける加水分解のため,粘度が減少すると共に非エユートン性

のあらわれるずり速度は高い領域にずれていくことがわかる. なお,ゲル化温度以上の濃度に

おける粘度と濃度の関係を Fig.7に示したの. ゲル化温度以上では粘度の対数と濃度は直線関

係にある.

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10 12 14 16 18 20 22 Concentration c (wt%)

Fig.7 Viscosity as a function of concentration for the solutions of an alkali'

processed hide gelatin".

1-3 固有粘度の評価

比粘度を万sρ,濃度をcで、表わすと, むρ/cは相対粘度を増大しようとする高分子の単位質量

あたりの能力の測度となるが,この値の無限稀釈度における極限がいわゆる固有粘度〔万〕であ

る.T)sρ/cとCのプロットは甲 rく2では通常直線に近く, その傾きは与えられた高分子・溶媒

系で固有粘度の二乗に近似的に比例する.すなわち Hugginsの式が成立つ町.

万sp!c=(甲J+k'(マJ2c (1)

ここにk'はある与えられた溶媒における一連の高分子同族体に関してはほぼ定数である.実

験的に,良橋媒のときk'はO.35~0. 4の値をとることが多く,貧溶媒では0.4以上の値になる.ア

ルカリ処理した捜皮ゼラチ γの稀薄水溶液における九ρ/cとcの関係を2,3のピニル系高分子の

それと共に Fig.8に与えた.この測定値からゼラチシのk'を評価すると 0.8になる.ピエル系

高分子で良溶媒の場合例えばポリスチレンーベシゼシ系では k'=0.25であるが,ポリピニノレア

ルコールー水系では k'=0.7程度になり,かなり貧溶媒である.ピニル系高分子では沈澱点附

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70

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'" c,:

1.0 0.8 0.4 0.6

Concentration c (g/100mI)

0.2 O

Fig.8 Reduced viscosity vs. concentration.

(1) ashfree alkali-processed gelatin at its iso己l巴ctricpoint (pH= 5.08)

in pure water". k'=0.8, Mn=lx10', 350C.

(2) PVA (M=6x10')-water, k'=0.7, 300C,)

PVA (M= 1 x 10')-water, k'=0.73, 30oC.)

calculated using k'=O. 73 (可JO・28",K=7.50X10-',

a=0.64 from osmometry.¥

Polystyrene (M~3 x 10')-Benzene, 250ClO九

Polystyrene (Mw=6x10', Mn=5x10')-MEK,

(2')

(3)

(3') k'=0.4510'.

近の k'は O.8~ 1. 2位である.従って,上記の実験からはゼラチン分子の水溶液中におけるひ

ろがりは小さいことが考えられる.Gouinlocl王らは重量平均分子量 3.8,6.0 x 10'のゼラチン

300C,

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(等電点 5.0)について光散乱,粘度の実験を行った11) 理想配位のゼラチ γ分子に対して計タ%

算された (i:/M)一〔瓦:理想配位での鎖の両端間距離の 2乗平均,M:分子量〕は,種々の合_2 弘

成高分子のそれと同程度であり,鎖の単結合の自由回転を仮定して計算した (r~/rof) は1. 8

~1. 9で,これはまた令成高分子の場合と類似の分子鎖屈曲性を示している.故に水溶液中にお

けるゼラチシ分子の配位は, その極性のある結合や分子内水素結合によって著しく影響されな_2 _2 ~

いと結論している.しかし Kurata らの計算によれば,ケ。/rof )は1.34で可成り小さい値を

もっ12) また前項で述べたように, ゼラチソは数万の分子量をもつにも拘らず他の合成高分子

に比べてゲル化点以上における濃厚水溶液の粘度が低く, 非ニュート γ挙動が観測し難く且つ

曳糸住をもたないという特徴がある. これらの事実と稀薄溶液における粘度的挙動を考慮すれ

ば,水溶液中ではゼラチ γ分子のひろがりはかなり小さいものと思われる.今後この方面の研

究が望まれる.

2 ゼラチンゲルのクリープ

ゼ、ラチシゲノレの粘弾性的研究は極めて少ない. 現在まで力学的に研究されてきた天然および

合成高分子の中でもゼラチ γは最も親水性の高分子であるから, その粘弾性挙動と水の関係を

先づ調べる必要がある. ここでは 5~87%の濃度範囲におけるゼラチ γー水系のグリープ特性

を温度の効果とともに研究した.

2-1 実験

(1)試料

実験試料としてアルカリ処理の写真的に不活性な未分別皮ゼラチシ(等電点4.8)を用いた.

これを室温で30分間膨潤させ, 500Cで20分聞かくはλノしつつ溶解したのち,ろ過した.濃度55

%以上.の高濃度ゲノレは,この溶液(10%)を 350Cでマイラーフイノレムに塗布し,常温で乾燥し

たのち,はがして膜厚約 2x 1Q-3cmの試料とした.これを 85%R.H.で 1週間以上放置してひず

みを緩和させた後, 種々の湿度で 1 週間以上調湿して測定に供した.低濃度ゲノレ(濃度 5~40

%)は, 所要濃度の溶液を上記方法で調製して後述のゲル弾性計に装てんし OOCでセットさ

せてから所要の温度に保った22)

(U) 測定装置

装置 1:高濃度ゲノレのクリ{プ仲びは, 差動トラシス 2個を用いたプリツジ回路で自動記録

Fig.9 Sch巴maticdiagram of the apparatus used for the cr巴epmeasurements

of gelatin gel of lower concentrations under constant temperature. The

dimensions are arbitrary.

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させるか,測微顕微鏡で直接読み取った. 系の濃度変化は相対湿度を変えることによって与え

た.湿度は土0.2~ 1 %の範囲で制御された.

装置 11:低濃度ゲルのグリープ測定には, Kinkel, Sauer18), Saunders, Ward19

) の方法と

原理的に同じものを用いた(Fig.9).

A部ガラス管の底に毛細管Bに続く水銀を入れる .A部の水銀上に長さLcmのゼラチ γゲルを

装てんし, 上方からの加圧によって生じる試料のメニスカスの変位をB部毛細管内の水銀の高

さの増加量 hcmとしてとらえ,測微顕微鏡で読む.このときゲ『ノレの剛性率Gは簡単な計算から

次式で与えられる.

G=PR4/8Lr2h (2)

ただしPは水銀の上昇による背圧を補正した正味の圧力である.

線型性の成立する変形率は 1%以下であったが,低濃度では0.5%以下にとどめた.なお,測

定結果はすべて伸びの弾性率または仲びのクリープコ γブライアンスに統ーした.

2-2 実験結果と考察

(1) ヤング率と濃度の関係

濃度 5~87%のゼラチンゲルの2000こおけるヤシグ率Eと濃度Cとの関係を Fig. 10に示す.

5~40%のゲルのEはE=3Gとして求めた.Eと C との関係は大別して,対数プロットの傾斜が

ほとんど正確に 2である領域,Eがcに著しく依存する分散域およびガラス状態濃度域の 3部分

からなることがわかる.これはポリ塩化ピニールーDOPゲルの関係29)~こ類似している.

EuEきumoJ

2ぴ'CpH6'5

-'

"LC J'

IG

4・5A4

MF

"'.........沙rc刃百

Logc (wtll 2'0。

Fig.l0 Young's modulus as a function of weight concentration for alkali-processed gelatin-water system at 20oC. The pH of the system is 4.8

(isoelectric point) in the concentration range of 56 to 85%, and 6.5

from 5 to 40%.

717ーの 5~40%の低濃度領域の大部分は,いわゆる 2 乗則が成立する領域で, よく論議され

るように,ゼラチンは本質的にはゴム状態で網目構造をとり, 弾性率は架橋の濃度に比例する.

したがって架橋が dimerization20) によるものとすれば,Eはc2に比例することになる.Fig.l0

の直線部ABを濃度100%に外挿すると ,Eは107dyne/ cm2のけたになる.網目の架橋の位置は,

繊維素誘導体, ポリ塩化ピニル,ポリアグリロニトリルなどでは分子の部位を問わないのに対

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し,ゼラチ γでは分子の特定部分のみに存在し,その数は分子量 15,000当り 2個といわれる20)

2乗則は 5~30%,の濃度で成立しており, この領域での架橋は waterdissociableである. 2

乗則は数種のゼラチソについて報告されているが, それぞれ異なった特定の濃度範囲でしか成

立しない21-2削1) 30~40%'の濃度範囲 (Fig.2のBC部)では. 2乗則から予測されるよりも小

さい濃度依存性を示す.

ラヤ二の分散濃度域 (Fig.10のCDEF)の1部は.Cumperらも示したところであるが23に濃

度増加に伴う弾性率の急激な上昇が単純でないことを示唆している. この領域では濃度変化に

よる結晶化度の著しい変化が考えられる.FEの傾斜は約17である.

ラf三のガラス領域ほ Fig.10の濃度85%,以上のFG部で.Eは 1010dyne!cm2のけたをもち.Eの

濃度依存性が最も小さい領域である. ゼラチシは複雑な物質で,すべての種類のゼラチソに適

用できる E-c関係があーるわけではないが. Fig.10の結果はかなり普遍性をもつものであると

思われる.

(11) クリーブ特性の濃度依存性

pH4.8 (等電点〉の水溶液から調製したゲノレの,濃度74~89%',温度280Cにおけるグリープコ

γプライアシス J(縦軸〉と時間 t(横軸〉の対数プロットを Fig.11に示す.高分子の種類に

よっては, ある濃度範囲でその力学的性質に対し濃度が温度と同様の効果を与えることが認め

られている叫1叩 4) これと同じ濃度効果が 84%'以上の濃度をもっゼヲチシのグリープ曲線群に

対して成立し, 時間軸に沿った移動によって各濃度におけるコシプライア γス曲線を重ね合わ

せて合成曲線を作ることができるようである.この領域は Fig.10の FG部に相当するガラス領

域である.無定形高分子では可塑剤添加によって緩和曲線が短時間側にずれるが, 濃度84%,以

上のゼラチ γのグリープ曲線も, 合水率が増すと短時間側にずれる傾向をもっとみることがで

きる. 応力緩和に関する水の影響に関しては,ナイロ γ6では縦方向の移動をわずかに行なう

か16) 全く行なわずに開通常の重ね合わせが可能であり, ポリピニルアルコーノレの緩和曲線群

は無定形高分子と同様の重ね合わせを満足する 15)

上記の濃度84%,以上のゼラチ γゲルのグリープ挙動はーこれに対応するものである. この領

域では,水は無定形領域の分子の吸着点に吸着されて分子問結合力を弱め,可塑剤的に作用し

したがって通常の重ね令わせを可能にするものであろう.考えられる吸着点は =0.ーCOOH.

-OH. -NH2. -NH一.>Nーなどの基である.

83%,以下の濃度ではゼラチ γの挙動は従来の高分子のそれと著しく異なり, 濃度の変化によ

ってコ γプライア γス曲線は,その形を変えないで, 主として縦軸に関する位置を変えるだけ

である.このことは Fig.11の曲線群をみればわかる. SponslerらのX線研究によると,含水

率15%,でゼラチ γの結晶中に水がはいり込み,その主鎖間隔は含水率が0.2%,のときの値 10.3A

より約 1A増加しさらに35%,以上の含水率で回折図が不明りようになる 25) また Bullによれ

ば,ポリペプチド鎖に水の完全吸着が起こる含水率は20%'である26) この値は,ゾノレ型のゼラ

チ γ シートの応力一ひずみ曲線が65~75%,R. H.の聞で急に変わる(伸びが大きくなる〉点に対

応する27) Fig.11に見られるように.83%,以下の濃度(合水率17%,)付近からコ γプライア γ

ス曲線が濃度変化に対して縦軸のみに治う移動を開始するが, それは含水による結晶化の減少

によると考えられる.すなわち, 合水率が16%,程度で無定形部分の水の吸着点がほぼ飽和し,

それ以上の含水率では水が結晶中にはいり込んでその構造をゆるめ, ついには結晶を破壊する

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に至るものと考えられる. 水の濃度が増すことによるコンブライアンス曲線の時間軸に治った

移動が多少は存在するのであろうが,結晶化度の減少の効果がはるかに著しく, 縦軸に治う移

動が支配的になるのであろう. Fig.10のFE部にみられるように,7f二の領域の弾性率の濃度依

-9 conc. '35%

E-10

~

3・11

-/2

E L勾1(:鈍唱}

Fig.l1 Creep compliance vs. time at various concentrations for gelatin-water system at pH 4.8 (280C).

存性は,傾斜がほぼ17という大きいものである. 結晶性高分子の温度変化に対する縦軸(弾性

率軸〉方向の移動量に関しては,すでに検討されている 1削 0)

Fig.12は, pH4.8の水溶液から調製した濃厚ゲノレの 56~85%の 6 種の濃度におけるクリープ

pH 4'8

~ (j

ref. CO/1C. 84 wt% (65% R.H,) 50OC~

• t,1 ~I@竺γ,l) I :*'~~~ *' 掴齢、4、'"

傾噌& ~ ふ面e~

~I II:

-10

芯に-h

も、EO」@慣U

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@

• (j

e -p

話~ o

『コ'g -11 斗

cαIC. e 56~ ・ 82~~ 66~ 0 84~ ι アg~ ・ 85%

-12

2 Log t(sec)

3

Fig.12 Composite creep compliance curves superimposed by shifting only

vertically; the curves at different concentrations for gelatin (pH 4.8)

at various temperatures. The reference concentration is 84% by weight.

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コシプライア γスの合成曲線を示す.これらの合成曲線は, 10~50o Cの4種の温度について濃

度84%を基準にして縦軸に沿う移動を行なって重ね令わせたものである. 50,40oCの高温ではす

べての濃度の曲線が比較的よく重なるが, 低温になるに従い高濃度の曲線の重なりが悪くなる

窪寺-EO三回3

91 pH 6"5 280S conc. 69% ..・・・• • ..-74'5% • • ..・・.・• • • • • .・• • • 33Z • .・,、 • • • .・• .・・• •• .1 • .市.・。z• • . .・・....

• .e • • • • Lーーー-12

2 3 4崎 t(鉛 c)

Fig.13 Creep compliance curves in the concentration range 69 to 79% for

gelatin匹watergel at pH 6.5 (280C)

ことがわかる.すなわち, 低温では縦軸移動の可能な領域が低濃度側にずれる.

pH6.5のゲノレの280Cにおけるコ γプライア γス一時間の関係を Fig.13に与えた.一見してわ

かるように,縦横両軸に沿う移動によって 1本の合成曲線が得られるが, Fig.14に示したよう

に縦方向の移動係数 bが横方向の移動係数 αよりはるかに大きいのが特徴であって, ここにゼ

ラチンの特質をみることができる.

40%以下の低濃度域におけるグリープの場令にも, 縦方向の移動による重ね合わせが支配的

であることには変わりないが, 縦移動係数は,次の例から明らかなように,高濃度側の分散域

pH 6'5 2SOC ret:state 79 wt% O

..Q • j o-o・51 叱/ 。3

b~

-1"5ト 事責免

70 75 80 c伽t%J

Fig.14 Relation between reducing factor and concent,iltion in the superposi-tion of the curves plotted in Fig.13. The values of a and b are factors

of vertical and horizontal shift, respectively. The reference concentration

is 79%.

Page 12: ゼラチンのレオロジー的性質 - SQUARE1-1 粘度とpHおよび電解質の影響 ゼラチン水溶液の粘度は多くの研究の主題の1つであった.この場合実験の濃度は,分子聞の

76

におけるよりはるかに小さい.pH6. 5, 200Cにおいて濃度15%を基準として縦軸移動を行なって

得られた合成曲線を Fig.15に示した.20,23%の曲線は若干の横移動を含む.このときの縦移

動係数と濃度の関係は Fig.16のとおりである.

6 同-t6ぢ2.()OC ret. state 15 wt%

。三、明¥ .. E t主、、,

、-7

ul 。...J

量-a 智晶

-a'e-

cwt

3ハヌ65307

U22Ill-

@

o

x

A

@

~ 1.

.,

-8 E

L勾 t(:記d

Fig.15 Composite creep compliance curve composed from the creep curves

in concentration range 7 to 23% by translations along axis of log J for gelatin gel (pl;I 6.5, 200C). The reference concentration is 15wt%.

(111) 温度依存性

pH4.8の高濃度ゲルのグリープコシプライアシス曲線を, 280C を基準として1O~50CC の温度

0'3

0'2

0']

10 20 c(wt%J

1

2

A

V

A

v

amO4

ー0'3

-0得

-0'5

-0・6

Fig,16 Vertical reducing factor log b plotted against concentration in the superposition of the curves in Fig, 15.

Page 13: ゼラチンのレオロジー的性質 - SQUARE1-1 粘度とpHおよび電解質の影響 ゼラチン水溶液の粘度は多くの研究の主題の1つであった.この場合実験の濃度は,分子聞の

77

域で縦軸に泊う重ね合わせを行なった結果を Fig.17に示した.Fig.12の濃度効果に対応して,

高濃度になると低温の曲線が順次ずれてくることがわかる. 温度と濃度は類似の効果をもっ.

Fig. 18には濃度20%のゲノレ (pH6.5)の 5~250C における同様の曲線を与えた.図の下側にみ

るように, 1O~250C の曲線も縦移動のみによって重ね合わすことができる. 50C のような低温

は重なり合わないが,これは架橋を消失させる効果が低温では低下するためであろう.250

C以

上では弾性率は急激に下がる. Eliassafらは相対湿度100%においてゼラチ γのクリープ実験を

行ない,含水率が温度によって著しく異なるために, 高温になるほどガラス状になると報告し

<J 500C c>400C

-9

O ど白"じpH4B ret. t仔np.28"C・ l00C cmc.

[email protected],7・4s1E名-君

y ~~ (C f • - 79%

a ~. • ~.~*~-.t除

ー・ ‘ 主

ー⑥当き~~

. ③

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84定N ~S

白島 fi <t) 舎内0000

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~

E-10 ちb E O 、-;,

0'1 0 -.J

-1 1

司JV

j

c

e

cd ,,a‘

A

,E

n冒0

2」

ク』

Fig.17 Composite creep compliance curves superposed by shifting only ver-

tically at three concentrations for gelatin-wat巴rsystem (pH 4.8).. The

reference temperature is 280C.

ているが加,ここに用いた試料では温度による含水率の差は少なく, 測定誤差の範囲内であっ

た.

(IV) クりープ曲線の実験式

ゼラチシ水系のクリープコシプライア γス J(t)と時間 tとの関係が次の式で表わされるとす

れば, log{](∞)-J(t)}のt1j.に対するプロットは直線になるはずである.

J(t)=J(∞){l-exp[一(t/2)1h]) (3)

ここでJ(∞〉は充分長時間後の J(t)の値, 2は定数である.このプロットを Fig.19に示す.

この図から明らかなように,ガラ eス領域で、は直線が得られるが, 濃度に関する縦軸移動で特徴

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ld・

ref.愉np.2ぴC

Iσァピe , '"

__SI>・同!~:じ 9 9

10' 10' T/me t (sec)

Fig.18 Creep compliance curves at various temperatures (upper figur巴)

and composite curve by vertical translation at referenc巴 temperature

200C for gelatin gel of 20wt% (1ower f耶 lre).

ildトに 柑

よ7

Fig.19 Relation bεtween J(∞)-J(t) and t弘 forgelatin at three conditions.

づけられる分散域以下の濃度においてはプロットは折れた 2木の直線になる . !(t)のt弘型の

変化は F司 Actinについても認められている 32)

3結言

ゼラチ γのレオロジー的性質に関しては A.G. Ward, R. Saundersのかなりまとまった綜

説(Rheology,2.313 (1958))があるので,主としてそれにふれられていない点について記述し

Page 15: ゼラチンのレオロジー的性質 - SQUARE1-1 粘度とpHおよび電解質の影響 ゼラチン水溶液の粘度は多くの研究の主題の1つであった.この場合実験の濃度は,分子聞の

79

た.古くから知られている物質であるにも拘らず尚解明されていない事柄が多い.レオロジー

の問題もその 1つであって,溶液,ゲ、/レ,固態状態を通じてさらに研究が望ま;r""る.

REFERENCES

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5)上野 弥,未発表

6) Huggins, M. L., J. Am. Chem. 50c., 64, 2716 (1942)

7) Eirich,F . R., Rheology, 2, 325 (1958)

8)松本昌一,今井清和,高分子学会年会講演(1955)

9)中島章夫,古館勝正,高化, 6, 460 (1949)

10)池田鉄平,川口英夫,未発表

11) Gouinlock, E. V., Flory, P. J. and Scheraga, H. A., J. Polymer 5ci., 16, 383 (1955)

12) Kurata, M. and Stockmayer, W. H., Forschr. HochPolym・-Forsch., 3, 196 (1963)

13)上野弥,大野育造,材料, 12, 341 (1963)

14)藤田博,材料試験, 7, 126 (1958)

15) Onogi, S., Sasaguri, K., Adachi, T. and Ogihara, S., J. Polymer 5ci., o8, 1 (1962)

16) Nagamatsu, K., Kolloid-Z., 172, 141 (1960)

17)上野弥,沖山聡明, アド六回高分子と水に関する討論会講演(1961)

18) Kinkel, E. and Sauer, E., Z. angωv. Chem., 38, 413 (1925)

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21) Poole, H. J., Trans. Farad. 50c., 21, 114 (1925)

22) Ferry, J. D., J. Amer. Chem. 50c., 70, 2244 (1948)

23) Cumper, C. W. N. and Alexander, A. E., Australian J. 5ci. Res., Ao 153 (1952)

24)竹中治失,上野弥,高化, 18, 444 (1961)

25) Sponsler, O. L., Bath, J. D. and Ellis, ]. W., J. Phys. Chem., 44, 996 (1940)

26) Bull, H. B ., J. Amer. Chem目 50c.,66, 1499 (1944)

27) Bradbury, E. and Martin, C., Proc. Roy. 50c., A214, 183 (1952)

28) Eliassaf, J. and Eirich, F. R., J. A戸戸1.Polymer 5ci., 4, 200 (1960)

29) Walter, A. T., J. Polymer 5ci., 13, 221 (1954)

30) Takemura, T., J. Polymer 5ci., 38, 471 (1959)

31)卒井西失,日化, 74, 541 (1953)

32)大西動,物理学会昭和36年春季分科会講演

諸宮武文氏

どのような種類の動物より, どのような年令の

ものから取ったゼラチンでしょうか, と申します

のは,同一種類の動物の骨からのアミノ酸分析で

も,年令によってかなり異ったアミノ酸分布を示

すからであります.

上 野 弥 氏

成牛の hideで, 1 ~3 年位のものです.

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河瀬収氏

ゼラチンの分子量分布の巾が物性に影響する面

についてお教え下さい.

上野弥氏

溶液粘度,皮膜物性に種々影響するでしょうが,

まだあまりデータがありません.

同小天氏

1) Fig.1の curveの極大・極小などは pH

の変化によりゼラチン分子の電荷が変ることで説

明できますか.

2) ゼラチンの粘度的性質にコラーゲンの bio・

logical speciesの差異が現われますか.

上野弥氏

1) そうです.

2) 殆ど現われません.分子量分布が強く効き

ます.

小谷寿氏

1) あなたは,ゲノレ濃度が O~30 重量パーセン

トの領域においてゲノレの弾性率が濃度の 2乗に比

例する実験結果を会合説 (分子が二つ接近して結

合を作り,これがゲノレの弾性率などの物性に寄与

するという説)で説明されましたが,最近 Flory

らは,コラーゲンおよびゼラチンと稀釈剤との系

について融点降下の実験をした結果の解析から,

また Toddは,ゼラチンおよびコラーゲンと稀釈

剤との系の比旋光度の測定から, さらにまたX線

図より,ゼラチンゲノレ中の結合は, コラーゲンの

場合と同じく tri ple strandと結論しています.

したがって, これらの考えによりますと,このよ

うな triplestrand構造をもった結合があって,

この結合が諸物性に寄与していると思われます

が,あなたは今お話しになりました会合説ではな

くて, ゲルの弾性率の温度の2乗依存性を説明す

ることを考えておられますか, もし考えていらっ

しやればお教え下さい.

2) 引張り速度を変えて同様な実験を行ったと

すれば,破断時の仲度の相対湿度依存性はどのよ

うに変りますか.

3) ゼラチン皮膜を作る時, ゲノレ構造の発達の

程度を,例えば旋光度測定をして追跡されました

か. ゲノレ構造発達の程度が違った試料で実験した

時に,破断時の相対湿度依存性は変りませんか.

上野弥氏

1) コラーゲンの三重ヘリックスがゼラチンゲ

ノレ中にも存在することが最近云われていますが,

ゲノレ中の結合が全部三重ヘリックスだとすると,E

∞C'の説明は容易でありません.E∞C'という様

に濃度依存性がもっと大きくなければいけない様

に思われますが,実際には濃度の 2乗かもう少し

小さい暑に比例するので,三重ヘリックスをその

まま考えることは難しいと思います.

2) ゼネラノレ の引張特性の速度依存性は、測

定しでありません。

3) 旋光度の変化は測定していませんが,実験

は各温度で放置し、弾性率の測定から構造の時間

変化が非常に緩かになったというところでやって

おります.ゲノレ構造の発生機構が変らなければ本

質的に挙動が変るようには思えませんが,ゾノレ・

ゲル型のフイノレムの引張特性の湿度依存性の違い

については E.Bradburyの報告があります.

東条英氏

追加:ゼラチγ皮膜の伸度の湿度依存性

ゼラチンは親水性の高分子で, 置かれた環境の

相対湿度によってその含水量が著しく変化する.

高湿では柔軟になれ 低湿では硬く脆くなること

が知られている. ゼラチンに対して含有水分は可

塑剤の作用をする. 演者がゼラチン皮膜の強仲度

測定を行ったところ,弾性率は湿度の変化に対し

て予期されるような変化を示したが,破断時の仲

度は相対湿度60%附近で極少値を示した. その様

子は図のとほりである.これは予期とも, またゼ

ラチンが低湿で脆くなるという事実や常識にも反

する. しかし,実験そのものには特に不備の点が

あるとは思えないので,事実をここに報告する.

このような現象の原因はわからない. 引張速度を

大きく変えれば, この仲度極づ、を示す湿度は変化

することがあるかもしれない.

Page 17: ゼラチンのレオロジー的性質 - SQUARE1-1 粘度とpHおよび電解質の影響 ゼラチン水溶液の粘度は多くの研究の主題の1つであった.この場合実験の濃度は,分子聞の

15

三104 Cコ

5

ゼラチン皮膜の強伸度曲線

30% -;;40%

50~ô 60%

70%

10%R.H. 20%

5 10 15

80%

20 %伸び

81

Page 18: ゼラチンのレオロジー的性質 - SQUARE1-1 粘度とpHおよび電解質の影響 ゼラチン水溶液の粘度は多くの研究の主題の1つであった.この場合実験の濃度は,分子聞の

82

Rheological Properties of Gelatin

Wataru Ueno

1“ Viscosity of gelatin solution

The viscosity of gelatin solutions, above the gelation temperature, was independ

ent of the rate of shear up to 10-5 sec-1, over the concentration below 20% at temper-

atures from 40 to 500C. Below the gelation temperature, gelatin solutions behaved as

non-newtonian body.

In dilute solutions, the constant k' in Huggins equation, obtained from the data _2 弘

of Stainsby, was 0.8 and the ratio of (ro) to the value caIculated assuming free rota-

tion was 1. 34, which had been found by Kurata and Stockmayer. It is considered

that gelatin does not expand to extent of synthetic polymers.

2. Creep of gelatin

Creep of gelatin同watersystem was studied covering a wide range of concentration

at several different temperatures. The sample studied is unfractionated and photogra-

phically inert alkali司 processedhide gelatin with iso巴lectricpoint of pH 4. 8. The

strain values were limited to be less than 1,%'.

The result of th巴 measur巴mentssuggests the existence of three concentration re-

gions showing deformation with different mechanisms in mechanical behavior.

First, glassy state above 85% in concentration at 20GC. It is reasonable to sur-

mise that water molecules are present at hydration centers of the amorphous region of

gelatin. Creep compliance curves at various concentrations are superimposed on each

other, and compose a smooth curve through usual horizontal shift along time axis.

Second, dispersion r巴gion.The concentration range at 200C is from about 40 to

83%. Young's modulus and creep compliance depend remarkably on concentration,

and the dependency seems not very simple. The upward shift of creep compliance

curves for gelatin at pH 4.8 maintaining its shape was found when concentration de-

creased; therefore, the composite curve was obtained through verticaI shift along

creep compliance log J axis. Horizontal shift as well as vertical shift was necessary

to superimpose creep compliance curves at pH 6.5, but the former reducing factors

were smaller than the latter ones. Increasing amount of water saturates all available

hydration centers in amorphous region of gelatin, then induces disturbance of crystaI-

lites, and then is supposed to decrease the degree of crystallinity remarkably. The

Page 19: ゼラチンのレオロジー的性質 - SQUARE1-1 粘度とpHおよび電解質の影響 ゼラチン水溶液の粘度は多くの研究の主題の1つであった.この場合実験の濃度は,分子聞の

83

large vertical shift mentioned above is considered to relate with crystallinity changes

according to the recent research on synthetic, crystalline polymers. The crystallites

in this region may be micelle-like.

Third, the square law region. Elasticity modulus of gelation gel is proportional

to the square of gelatin concentration up to about 30%; from that to 40%, the mod-

ulus isless than the value predicted from the square law. In order to superimpose

the creep compliance curves, vertical shift along log J axis was necessary. Here, the

gel is essentially rubber-like, and the cross-linkages may be formed between two chain

segments, caused by secondary bonds. Since the cross-linkages are evidently dissociated

by decreasing gelatin concentration or arising temperature, vertical superposition may

become possible.