シルフフおじさんのシルフフの秘密 - Fujitsu · 2015. 11. 24. ·...

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おじさのの秘密 第6話 旅す 「かいい子には旅させ」という諺があます。子供は親元で育て、親か 離た遠いとこで育てほうがたくましく成長すというものです。人間獣や鳥魚 などの動物は足や翼があ、歩いただ泳いだして遠くへ移動すことが できます。とこが足や翼がなく動くことのできない植物はそういうけにはいきませ。 生育域増やしていくため、また健全な遺伝子子孫に引き継いでいくため、植物は子供 であ種子遠くへ運ぼうとします。 ひっつき虫と呼ばなどの種は、人の衣服や獣の体毛にくっついて遠くへ 運でもいます。などの樹木は、その赤い実などの鳥にべてもっ て鳥と一緒に移動し、糞と一緒に離た場所の大地に種が蒔かます。そういう意味では 人間もした後の柿など果物の種庭に植えば、その植物の子孫繁栄に協力したことに なます。 一方、種子の散布動物に頼他力本願ではなく、自力で遠くへ運ぼうとす植物もい ます。などのと呼ば仲間は、種子包でい袋がはじけて、 種子少しでも親か離た場所へばそうとします。 もっと簡単な方法で種子親元か離たとこへ運ぼうとす樹木があます。「 ここ」という童謡があます。やなどの科の樹 木の種は丸い形してお、山の斜面転が落ちやすくなっています。自然界の力であ 重力利用していのです。 また自然界の力として水の流利用して、種子遠くへ運ぼうとす仲間もいます。 「名も知ぬ遠き島流寄椰子の実ひとつ」と島崎藤村の歌にあうに、 はその実海流に委ねて遠くへ運びます。 そしてもっと身近な自然の力であ利用して種子遠くへ運ぶ仲間もいます。 はその仲間です。落下傘のうな綿毛つけた種子は、に乗って空中漂い、空の 旅楽しみなが自分が育つ場所へ着地していきます。 ここで採取したの種の落下実行ってみました。実に利用したの 種はと。まずはそぞの重さ、綿毛の本数、形状 測ます。実は日本におけ帰化の侵略研究の第一人者であ愛知教育大学教 授、渡邊幹男先生の研究室にて電子秤お借して行いました(実施日:2010 10 20 日)。

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タンポポおじさんのタンポポの秘密 第6話 旅するタンポポ

「かわいい子には旅をさせよ」という諺があります。子供は親元で育てるより、親から

離れた遠いところで育てるほうがたくましく成長するというものです。人間・獣や鳥・魚

などの動物は足や翼・ヒレがあり、歩いたり飛んだり泳いだりして遠くへ移動することが

できます。ところが足や翼がなく動くことのできない植物はそういうわけにはいきません。

生育域を増やしていくため、また健全な遺伝子を子孫に引き継いでいくため、植物は子供

である種子を遠くへ運ぼうとします。

ひっつき虫と呼ばれるイノコズチなどの種は、人の衣服や獣の体毛にくっついて遠くへ

運んでもらいます。ミズキなどの樹木は、その赤い実をヒヨドリなどの鳥に食べてもらっ

て鳥と一緒に移動し、糞と一緒に離れた場所の大地に種が蒔かれます。そういう意味では

人間も食した後の柿など果物の種を庭に植えれば、その植物の子孫繁栄に協力したことに

なります。

一方、種子の散布を動物に頼る他力本願ではなく、自力で遠くへ運ぼうとする植物もい

ます。ホウセンカなどのツリフネソウと呼ばれる仲間は、種子を包んでいる袋がはじけて、

種子を少しでも親から離れた場所へ飛ばそうとします。

もっと簡単な方法で種子を親元から離れたところへ運ぼうとする樹木があります。「ドン

グリころころドンブリコ・・・」という童謡があります。クヌギやクリなどのブナ科の樹

木の種は丸い形をしており、山の斜面を転がり落ちやすくなっています。自然界の力であ

る重力を利用しているのです。

また自然界の力として水の流れを利用して、種子を遠くへ運ぼうとする仲間もいます。

「名も知らぬ遠き島より流れ寄る椰子の実ひとつ・・・」と島崎藤村の歌にあるように、

ヤシはその実を海流に委ねて遠くへ運びます。

そしてもっと身近な自然の力である風を利用して種子を遠くへ運ぶ仲間もいます。タン

ポポはその仲間です。落下傘のような綿毛をつけた種子は、風に乗って空中を漂い、空の

旅を楽しみながら自分が育つ場所へ着地していきます。

ここで採取したタンポポの種の落下実験を行ってみました。実験に利用したタンポポの

種はカントウタンポポとセイヨウタンポポ。まずはそれぞれの重さ、綿毛の本数、形状を

測ります。実験は日本における帰化タンポポの侵略研究の第一人者である愛知教育大学教

授、渡邊幹男先生の研究室にて電子秤をお借りして行いました(実施日:2010年 10月 20

日)。

10万分の1gまで計れる電子秤 タンポポの種(綿毛+痩果)の形状測定箇所

150cmの高さからタンポポの種(綿毛+痩果)を自由落下させ、着地までの滞空時間を測定

しました。その結果を表1に示します。

表1.タンポポの種の滞空時間

カントウタンポポK1 K2 K3 K4 K5 平均0.47 0.46 0.41 0.74 0.72 0.5656 50 46 57 50 51.80

a 13 12 12 14 10 12.2b 9 5 7 7 5 6.6c 8 8 9 9 10 8.8d 4 3 4 3 4 3.6

1回目 6.17 5.24 9.64 5.30 3.80 6.032回目 5.79 5.36 8.87 5.17 3.73 5.783回目 5.55 5.42 10.25 4.92 3.68 5.96平均 5.84 5.34 9.59 5.13 3.74 5.93

セイヨウタンポポS1 S2 S3 S4 S5 平均0.36 0.73 0.59 0.57 0.45 0.5454 55 52 46 45 50.40

a 15 10 13 13 13 12.8b 13 6 7 4 9 7.8c 8 9 9 8 9 8.6d 3 4 3 3 3 3.2

1回目 5.50 4.24 4.73 5.04 5.86 5.072回目 5.73 4.17 4.73 4.62 5.88 5.033回目 5.49 4.29 4.55 4.85 6.12 5.06平均 5.57 4.23 4.67 4.84 5.95 5.05

重量(mg):綿毛+痩果

形状(mm)

滞空時間(s)

試料ID.重量(mg):綿毛+痩果

形状(mm)

滞空時間(s)

試料ID.

綿毛の本数

綿毛の本数

自由落下においてタンポポの種の重さは真空の状態では滞空時間には関係してきませんが、

空気のある状態では軽いほうが滞空時間は長くなるはずです。そこでタンポポの種の重さ

と滞空時間の関係をグラフにしてみました(図1参照)。

0

2

4

6

8

10

12

S1 K3 S5 K2 K1 S4 S3 K5 S2 K4

重量(mg)

滞空時間(s)

図1.タンポポの種の重さと滞空時間の関係

図1において青い線はタンポポの種の重量です。重量が重くなると赤い線の滞空時間が

減るはずですが、少し結果が異なるようです。グラフの左側の試料 ID:S1と K3を比較して

みましょう。S1の重量は 0.36mgと今回の 10個の試料の中では一番軽いタンポポの種で、

滞空時間は 5.57秒した。一方 K3の試料は 0.41mgで S1よりも重いのに、滞空時間は最も

長い 9.59秒と逆転しています。ここで両方のタンポポの種の写真をみてみましょう。

S1のタンポポの種は K3のタンポポの種に比べて、曲がった綿毛が多く不揃いです。

また、グラフ右側のほとんど重量が同じ K5(0.72mg)と S2(0.73mg)の滞空時間は K5

が 3.74秒と今回の 10個の試料の中では一番滞空時間が短く、S2は 4.23秒でした。こちら

も両方のタンポポの種の写真を比べてみましょう。

K5の綿毛は S2の綿毛に比べて縮れた綿毛が多く不揃いです。

以上のことから曲がったり縮れたりして綿毛が不揃いのタンポポの種は、落下中にうまく

空気を補足できずに、滞空時間が短くなってしまったと推測できます。綿毛が不揃いの S1、

K5のタンポポの種を除けば、図1のグラフはタンポポの種の重量が重くなれば、滞空時間

も短くなるということがほぼいえるかと思います。

一般的にカントウタンポポなどのニホンタンポポよりもセイヨウタンポポのほうがタン

ポポの種の重さは軽いといわれています。しかし今回の実験結果では、カントウタンポポ

もセイヨウタンポポもそれぞれの個体により重さにバラツキがあり、平均ではカントウタ

ンポポ 0.56mg、セイヨウタンポポ 0.54mgとほとんど差はありませんでした。渡邊先生の

お話では、セイヨウタンポポと呼ばれているものの 90%以上はニホンタンポポとの雑種で

あり、セイヨウタンポポの雑種はニホンタンポポの遺伝的要素を既に取り込んでいるため、

重さに差がなくなってきているとのことでした。

タンポポの小さな種1つにも、つぎの命を育むための仕組みが隠されているのです。

以上