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緩和ケア領域におけるポリファーマシーに対する病院薬剤師の積極的な介入実態とその効果が明らかに
緩和医療におけるポリファーマシーに対する薬剤師の介入に関する全国実態調査
(一社)日本緩和医療薬学会 研究推進委員会
研究成果の概要
緩和ケア領域では、鎮痛薬をはじめ症状緩和を目的とした薬剤を数多く併用することが多
く、漫然投与や重複投与など不適切な処方を含む「ポリファーマシー」が多く見られる領域で
す。今回、緩和ケア領域におけるポリファーマシーの現状と薬剤師の介入実態を把握するた
め、病院に勤務する日本緩和医療薬学会薬剤師会員を対象に全国アンケート調査を行いまし
た。その結果、2 ヶ月間の調査期間中に、6 剤以上の薬剤を処方されているがん患者のうち
1〜3 割に不適切処方(不要な漫然投与、副作用の原因となる薬剤、同種同効薬の重複など)が
見られたと回答者の約 60%が答えており、そのうち、薬剤師が介入することで多くの場合 1〜
2 種類の薬剤を削減できたと 60〜70%の回答者が答えました。また、医療用麻薬を処方され
ているがん患者においてこのような傾向がより顕著に見られ、さらに、緩和ケアに習熟してい
る緩和薬物療法認定薬剤師は、こういった専門資格を有していない病院薬剤師よりも、不適切
処方の削減により貢献していることなどが明らかとなりました。
本調査研究の成果は、緩和ケア領域の薬剤師がポリファーマシーに積極的に介入している実
態とその効果を明らかにしたものであり、特に緩和薬物療法認定薬剤師の緩和ケアへの高い貢
献を示した初めての報告となります。現在、本アンケート調査結果をもとに全国多施設共同前
向き観察研究を実施、結果を解析中であり、今後、緩和ケア領域での薬剤師介入実態の詳細が
さらに明らかになることが期待できます。
なお、本 研究 成果 は、 2019 年 7 月 3 日にオー プンアクセスジ ャーナル Journal of Pharmaceutical Health Care and Sciences 第 5 巻 14 として公開されました。
1. 背景
ポリファーマシーとは、同時に処方される薬剤数が多いこと(多剤併用)に加え、本来必要の
ない不適切な処方が行われている状態のことを意味します。何剤以上の併用をポリファーマシー
とするかの厳密な定義はありませんが、5 剤あるいは 6 剤以上の併用を意味することが多く、高
齢者では 6 剤以上の併用が薬物有害事象の発生増加に関連したという報告もあります。緩和ケア
領域は、高齢のがん患者が多く、鎮痛薬をはじめ、制吐薬、催眠鎮静薬、消化器用薬、下剤など
症状緩和を目的とした薬剤が多数併用されることも多いため、特にポリファーマシーに陥りやす
い領域と言えます。
ポリファーマシーは、薬物間相互作用、副作用発現、医療費増加、服薬アドヒアランス低下等
の様々な問題を引き起こすため、その是正に向け様々な取り組みがなされています。 2017 年度
より薬剤師によるポリファーマシーに対する介入に薬剤総合評価調整加算が新設されるなど、特
に薬剤師の活躍が期待されています。しかしながら、これまで、緩和ケア領域におけるポリ
ファーマシーの現状や薬剤師の介入実態を全国規模で調査した報告はありませんでした。そこで
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今回、一般社団法人 日本緩和医療薬学会 研究推進委員会では、病院に勤務する薬剤師会員を対象
とし、ポリファーマシーや薬剤師介入に関する全国実態調査を実施しました。
2. 研究方法
日本緩和医療薬学会事務局より会員 3,197名(うち病院薬剤師 2,618名)に配信された WEBアンケートを用いて、2017 年 10 月〜11 月の期間のデータを対象に回答を収集しました。アン
ケート専用のウェブページでは本件の趣旨を掲示し、アンケートの目的に同意し回答頂いた方を
調査対象としました。質問内容は、回答者自身の背景情報に関する質問 7 問(性別、薬剤師歴、
勤務形態、専門資格、緩和領域における自信、勉強会等への参加状況、担当患者のうちがん患者
が占める割合)、ポリファーマシーと薬剤師の介入実態に関する質問 9 問(担当したがん患者数、
6 種類以上の定期薬を処方されていた患者の割合、そのうち不適切処方が見られた患者の割合、
不適切処方の理由、薬剤師が介入することで処方薬剤数が減少した患者割合、薬剤削減を提案し
た理由、削減した薬剤の平均数、削減した薬剤の種類、軽減したあるいは未然に防げた副作用や
症状)を医療用麻薬を処方されている患者とされていない患者に分けて調査しました。
3.結果
病院に勤務する薬剤師会員 2,618名のうち、359名から回答を得ました(回答率 13.7%)。
調査期間中に、医療用麻薬を使用していた患者のうち、6 種類以上の定期薬を処方されていた患
者の割合は、"4〜6 割"との回答が最も多く(40.9%)、この中で不適切な処方薬が見られた割
合は、"1〜3 割"との回答者が最も多く見られました(64.3%)。不適切な処方の理由としては、
"不要な漫然投与"が最も多く(63.8%)、次いで"副作用の原因となる薬剤"(24.0%)、"同種
同効薬の重複"(21.7%)が上位に挙げられていました(表 1)。さらに、薬剤師が介入するこ
とで処方薬剤数が減少した患者の割合は、"1〜3 割"(46.8%)が最も多く、それ以上の割合と
の回答も 23.4%ありました。また、削減できた薬剤の平均数は 1 種類(42.9%)、2 種類
(22.6%)が多く、なかには平均 3 種類以上の薬剤を削減した方もおられました(図 1)。
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また、同じ調査を医療用麻薬を使用していない患者を対象として実施したところ、医療用麻薬
を使用していた患者と比較して、6 種類以上の定期薬を処方されていた患者の割合は有意に少な
いものでした("1〜3 割"と答えた回答者が最も多く 39.0%、p < 0.001)。不適切処方が見ら
れた患者の割合、不適切処方の理由に大きな違いは見られませんでしたが(表 1)、薬剤師が介
入することで処方薬剤数が減少した患者の割合は、有意に少なく(p < 0.05)、削除した薬剤の
種類として、医療用麻薬を使用していた患者では制吐薬(44.8%)が最も多かったのですが、医
療用麻薬を使用していない患者では、消化器用薬( 35.1%)が最も多く、制吐薬は 2番目
(24.5%)という違いがありました(表 2)。ただし、削減できた薬剤の平均数に大きな違いは
ありませんでした(図 1)。
また、回答者のうち、緩和薬物療法認定薬剤師は 123名、その他の専門・認定薬剤師は 99名、
資格を有さない薬剤師は 130名いましたが、ポリファーマシーへの介入実態に差があるのか検
討しました。その結果、担当するがん患者の割合は、資格を有さない薬剤師と比べて、緩和薬物
療法認定薬剤師およびその他の専門・認定薬剤師が有意に多く、特に緩和薬物療法認定薬剤師は
医療用麻薬を使用しているがん患者、その他の専門・認定薬剤師は医療用麻薬を使用していない
がん患者を多く担当していました。また、6 種類以上の定期薬を処方されていた患者の割合、不
適切な処方薬が見られた患者の割合にこれらの群間に差は認められませんでしたが、緩和薬物療
法認定薬剤師は、専門資格がない薬剤師に比べて、がん患者におけるポリファーマシーの不適切
な処方削減に貢献していました(p = 0.06)(図 2)。
4. 本研究成果の意義
本研究は、緩和ケア領域におけるポリファーマシーの現状や薬剤師の介入実態を、日本緩和医
療薬学会の会員に向け全国規模で実施した初めての調査結果であり、緩和ケアを開始したがん患
者の多くが多剤併用の状況にあり、不要な漫然投与など不適切な処方を受けている患者が少なか
らずおられること、また、薬剤師が
通常業務の中で処方削減を医師に提案
し、不適切な処方薬を削減すること
に高頻度で成功していることを明ら
かにしたもので、緩和ケア領域の薬
剤師のポリファーマシーへの積極的
な貢献を示したものになります。直
接比較することはできませんが、他
の疾患領域での薬剤師の介入実態と比
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較しても、高いアクティビティーで活動していることが伺えます。また、医療用麻薬を処方され
ているがん患者において、このような傾向がより顕著に認められたことから、医療用麻薬および
その副作用対策のため追加処方された薬剤により必然的に併用薬剤数のが増加し、このことが、
不適切な処方となるリスクも増加させる可能性が考えられ、より慎重に処方鑑査を行う必要があ
ることが示されました。
また、本研究成果から、緩和ケアに習熟している緩和薬物療法認定薬剤師は、こういった専門
資格を有していない薬剤師よりも、不適切処方の削減により貢献していることが明らかとなり、
本学会が認定した緩和薬物療法認定薬剤師が、ポリファーマシーに積極的に関与し、不適切処方
の削減という結果を出していることを数値として初めて示すことができたと考えています。
現在、本アンケート調査結果をもとに全国多施設共同前向き観察研究を実施、結果を解析中で
あり、緩和ケア領域でのポリファーマシーの現状および薬剤師介入実態の詳細が今後さらに明ら
かになると期待しています。
発表論文
Mayako Uchida, Shinya Suzuki, Hideki Sugawara, Yukio Suga, Hideya Kokubun, Yoshihiro Uesawa, Takayuki
Nakagawa and Hisamitsu Takase
A nationwide survey of hospital pharmacist interventions to improve polypharmacy for patients with cancer in
palliative care in Japan.
Journal of Pharmaceutical Health Care and Sciences, 5: 14 (2019)
https://doi.org/10.1186/s40780-019-0143-5
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