健康促進インセンティブ...6 86月号 外部研究員寄稿 Vol.58 1.はじめに...

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筑波経済月報  2018年 6 月号 6 外部研究員寄稿 Vol. 58 1.はじめに 最近、地方自治体や民間企業において住民や社 員の健康を促進しようという動きが活発化してき ており、なかでも個人の健康促進に対してインセ ンティブを付ける事業が増えてきている。普及の 背景には、「健康日本21」という国民の健康増進 の総合的な推進を図るための基本的な事項を示し た方針が、平成24年7月に厚労省から公表され たことにある。その方針の中では、健康寿命の延 伸や健康格差の縮小などが基本的な方向性として 示され、地方自治体は独自に重要な課題を選択し、 目標設定や定期的に評価することが求められてい る。また、国や地方自治体は民間企業や団体など が行う健康増進に向けた自発的な取組みについて も支援しなければならないとされている。 この方針の公表を皮切りに、多くの地方自治体 や民間企業は様々なインセンティブを考え、人々 の健康促進を促す ようになってきて いる。具体的には、 地方自治体におけ るウォーキングな どの運動を対象と したインセンティ ブの付与、民間企業における個人の健康管理を対 象としたインセンティブの付与がその主流となっ ている。以下では、それぞれの取組みを紹介する。 2.地方自治体による取組み 〈よこはまウォーキングポイント事業〉 平成 26 年 11 月から、横浜市健康福祉局、ドコ モ・ヘルスケア、凸版印刷、オムロンヘルスケア が共同で「よこはまウォーキングポイント事業」 を行っている。この事業は18歳以上の横浜市在 住・在勤・在学者のうち、参加申込みをされた方 に無料で歩数計を配布し、市内の協力店舗などに 設置されたリーダーに歩数計をのせると歩数が転 送され、歩数に応じて付与されたポイントにより、 抽選で景品が当たる仕組みとなっている。 3ヵ月ごとに200ポイント以上を貯めた人を対 象に抽選が行われ、当選した人には商品券などが 株式会社 日本経済研究所 調査本部 医療福祉部 副主任研究員 田 聡 参加登録 歩数計が届き ます 歩数計を持っ て歩く 協力店舗等の リーダーで読 み込ませる (初期設定完了) 協力店舗等の リーダーでポ イントを貯め 歩数データを 確認できる ポイントに応 じて抽選にて プレゼント! ステップ1 ステップ1 ステップ2 ステップ2 ステップ3 ステップ3 ステップ4 ステップ4 ステップ5 ステップ5 ステップ6 ステップ6 ステップ 7 ステップ 7 P 出典:横浜市HP よこはまウォーキングポイントの流れ 健康促進インセンティブ

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Page 1: 健康促進インセンティブ...6 86月号 外部研究員寄稿 Vol.58 1.はじめに 最近、地方自治体や民間企業において住民や社 員の健康を促進しようという動きが活発化してき

筑波経済月報  2018年6月号6

外部研究員寄稿 Vol. 58

1.はじめに最近、地方自治体や民間企業において住民や社

員の健康を促進しようという動きが活発化してきており、なかでも個人の健康促進に対してインセンティブを付ける事業が増えてきている。普及の背景には、「健康日本21」という国民の健康増進の総合的な推進を図るための基本的な事項を示した方針が、平成24年7月に厚労省から公表されたことにある。その方針の中では、健康寿命の延伸や健康格差の縮小などが基本的な方向性として示され、地方自治体は独自に重要な課題を選択し、目標設定や定期的に評価することが求められている。また、国や地方自治体は民間企業や団体などが行う健康増進に向けた自発的な取組みについても支援しなければならないとされている。この方針の公表を皮切りに、多くの地方自治体や民間企業は様々なインセンティブを考え、人々の健康促進を促すようになってきている。具体的には、地方自治体におけるウォーキングなどの運動を対象としたインセンティ

ブの付与、民間企業における個人の健康管理を対象としたインセンティブの付与がその主流となっている。以下では、それぞれの取組みを紹介する。

2.地方自治体による取組み  〈よこはまウォーキングポイント事業〉平成26年11月から、横浜市健康福祉局、ドコ

モ・ヘルスケア、凸版印刷、オムロンヘルスケアが共同で「よこはまウォーキングポイント事業」を行っている。この事業は18歳以上の横浜市在住・在勤・在学者のうち、参加申込みをされた方に無料で歩数計を配布し、市内の協力店舗などに設置されたリーダーに歩数計をのせると歩数が転送され、歩数に応じて付与されたポイントにより、抽選で景品が当たる仕組みとなっている。3ヵ月ごとに200ポイント以上を貯めた人を対

象に抽選が行われ、当選した人には商品券などが

株式会社 日本経済研究所  調査本部 医療福祉部 副主任研究員 前 田 聡 紀

参加登録 歩数計が届きます 歩数計を持っ

て歩く

協力店舗等のリーダーで読み込ませる(初期設定完了)

協力店舗等のリーダーでポイントを貯める

歩数データを確認できる

ポイントに応じて抽選にてプレゼント!

ステップ1ステップ1 ステップ2ステップ2 ステップ3ステップ3 ステップ4ステップ4 ステップ5ステップ5 ステップ6ステップ6 ステップ7ステップ7

P

出典:横浜市HP

■よこはまウォーキングポイントの流れ

健康促進インセンティブ

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外部研究員寄稿

断結果や生活習慣改善の努力に対して独自のポイントを付与し、インセンティブを与えているところである。獲得したポイントはWebポイント(ネットショッピングサイトなど)、歯磨きセット、グルメ(米・肉)、キッチン用品、家電、美容、ヘルスケア、スポーツ用品などと交換することができる。ポイントは、健康診断結果がグラクソ・スミス

クライン独自の判定基準(血圧・血糖・肝機能などの検査値をリスクの程度でレベル分けしたもの)において改善した場合やメタボリックシンドローム判定で非該当であった場合に付与される。また、健康保険組合のキャンペーン参加やフィットネス利用も生活習慣改善の努力としてポイントが付与される。

4.まとめ健康づくりや運動に誘導するためにインセン

ティブを付与する手法は効果的であるが、よこはまウォーキングポイント事業のように持続的に多くの住民や社員を巻き込んでいくには、誰でも参加可能な単純なプログラムであることや飽きさせない工夫が必要である。今後も上記で取り上げたような取組みは広がっ

ていくと考えられるが、運動に対するポイント付与以外にも健康促進行動における住民税の負担軽減など魅力的な施策が出てくることを期待したい。

プレゼントされる。さらに年間累計ポイントによる抽選も行われ、商品券の他に、オムロンヘルスケアなどの協賛商品が景品として用意されている。事業成果としては、平成29年10月末時点で参加者28万人、リーダー設置場所協力1,000ヵ所を達成した。病気予防の目安として、一日平均2,000歩で寝たきりの予防、10,000歩でメタボリックシンドロームの予防につながるとされており、横浜市では一日8,000歩を健康増進の指標としている。また、社会貢献活動として、参加者全員の月平均歩数が10万歩を超えた月に国連WFPへ10万円の寄付を行うなど、参加者全員のモチベーションを上げる取組みも行っている。よこはまウォーキングポイント事業の参加者アンケート調査によれば、参加者の72%が歩数計を毎日使用しており、運動の習慣がなかった人も43%が運動するようになったと回答している。ウォーキングをきっかけとした会話や挨拶の機会が増えたことを参加者の36.2%が実感しており、地域のつながりの面からも良い効果が出ているようである。

3.企業による取組み  〈GSKインセンティブプログラム〉グラクソ・スミスクライン健康保険組合では、

株式会社イーウェルと開発したプログラム「KENPOS」を活用している。KENPOSとは、従業員の健康情報管理や目標設定、行動記録を行えるWeb・アプリサービスであり、運動・食生活など健康に関する様々なコンテンツを閲覧することが可能となっている。このプログラムの特徴的な点は、社員の健康診

企業

従業員 KENPOS

健康保険組合 イーウェルインセンティブ指標の提供

利用促進プロモーション インセンティブ設定

成果・行動の達成ポイント獲得商品交換

出典:株式会社イーウェルHP

■GSKインセンティブプログラムの仕組み