教師の資質能力と教員養成・免許 - Hiroshima...

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Hiroshima Joal ofIntemational Studies Volume 162010 教師の資質能力と教員養成・免許 臨教審答申以降 Title: Teacher Competency, Preparation Programs, and Certification: Aſter Recoendations of the National Council on Educationa1 Refoml Shinsaku AKAHOSHI Teacher competency perhaps more than any other sing1e factor, affects the amount of students' 1eaming gains so it is a key to success1 education. Teacher competency is connected to the perspective on education and schoo1s of the times. Furthermore, it is reflected in teacher preparation programs and teacher certification. This paper examines the trends and prob1ems of teacher competency, teacher preparation programs, and teacher certification aſter recommendations of the Nationa1 Counci1 on Educationa1 Reform, which was foun- ded in 1984 and has made deep impacts on educationa1 reforms since then. 1.はじめに .教師の資質能力観 ( 1 ) ~臨教審答申から1988年教免法改正まで~ l.教師の資質能力観 ( 2 ) -1996年中教審答申から1998年教免法改正まで~ I. はじめに 教育の成果は教師の資質能力に負うところ大であ る。 そして、 教師の資質能力をどのようにとらえる か、 どのような側面を強調するかは、 時の教育観や 学校観によって異なってくる。 また、 それとともに 資質能力を育成するための養成教育や免許制度もそ れに対応して変化してくる。 そこで、 1980年代以降、 その後の教育改革に大き な影響を与えた臨時教育審議会 (臨教審) 答申以降 の教師の資質能力観を、 特に大きな変化があった ①臨教審答申から1988年教免法改正まで、 ②1996年 N.教師の資質能力観 (3 ) -2002年中教審答申から2007年教免法改正まで~ V. 教師の資質能力と教員養成・免許の動向と課題 中教審答申から1998年教免法改正まで、 ③2002年 中教審答申から2007年教免法改正までに分けてみ ていく1。 またそれらを踏まえて、 その養成・免許 制度の動向を探る。 そして教師の資質能力、 教員 養成・免許をめぐる問題について考察し、 いくつ か課題を展望する。 キーワード:教師の資質能力、教師の力量形成、教員養成、 教員免許

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Hiroshima Journal ofIntemational Studies Volume 162010

教師の資質能力と教員養成・免許臨教審答申以降

赤 星 晋 作

Title: Teacher Competency, Preparation Programs, and Certification: After

Recommendations of the National Council on Educationa1 Refoml

Shinsaku AKAHOSHI

Teacher competency, perhaps more than any other sing1e factor, affects the amount of students' 1eaming

gains so it is a key to successfu1 education.

Teacher competency is connected to the perspective on education and schoo1s of the times. Furthermore,

it is reflected in teacher preparation programs and teacher certification.

This paper examines the trends and prob1ems of teacher competency, teacher preparation programs, and

teacher certification after recommendations of the Nationa1 Counci1 on Educationa1 Reform, which was foun­

ded in 1984 and has made deep impacts on educationa1 reforms since then.

1.はじめに

ll.教師の資質能力観 ( 1 )

~臨教審答申から1988年教免法改正まで~

ill.教師の資質能力観 ( 2 )

-1996年中教審答申から1998年教免法改正まで~

I. はじめに

教育の成果は教師の資質能力に負うところ大であ

る。 そして、 教師の資質能力をどのようにとらえる

か、 どのような側面を強調するかは、 時の教育観や

学校観によって異なってくる。 また、 それとともに

資質能力を育成するための養成教育や免許制度もそ

れに対応して変化してくる。

そこで、 1980年代以降、 その後の教育改革に大き

な影響を与えた臨時教育審議会 (臨教審) 答申以降

の教師の資質能力観を、 特に大きな変化があった

①臨教審答申から1988年教免法改正まで、 ②1996年

N.教師の資質能力観 (3 )

-2002年中教審答申から2007年教免法改正まで~

V. 教師の資質能力と教員養成・免許の動向と課題

中教審答申から1998年教免法改正まで、 ③2002年

中教審答申から2007年教免法改正までに分けてみ

ていく1。 またそれらを踏まえて、 その養成・免許

制度の動向を探る。 そして教師の資質能力、 教員

養成・免許をめぐる問題について考察し、 いくつ

か課題を展望する。

キーワード:教師の資質能力、教師の力量形成、教員養成、 教員免許

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n. 教師の資質能力観(1)

~臨教審答申から1 988年教免法改正まで~

臨時教育審議会は、 「教育改革に閲する第 1次答

申J (1985年)から「教育改革に関する第4次答申」

(1987年8月)まで提出しているが、 第 1 次答申にお

いては教師に必要不可欠な資質能力として 「児童、

生徒に対する教育愛、 高度の専門的知識、 実践的な

指導技術」 とし、 それらの向上を図るために養成、

採用、 研修、 評価を一体的に検討する、 としている。

それを受けて第 2次答申 (1鰯年) では、 教員養成・

免許制度の改善として、 現行 の開放性を維持しつつ

「教員養成における教科、 教職科目の内容の見直し」

「教育実習の期間、 内容等の見直しJ r社会人を活

用し学校を活性化するための特別の免許状、 非常勤

講師制度の創設」 等をあげている。 また、 新任教員

に対して実践的指導力と使命感を養うとともに幅広

い知見を得させるための初任者研修制度の創設、 現

職研修の体系化として、 校内研修を基盤として組織

的計画的に行 われるように研修体系の整備、 教職生

活の一定年限ごとの研修制度の整備、 研修助成等の

方策や顕彰制度の充実等、 を提言している。

1987 (昭和62)年12月、 一連の臨教審答申に続いて

教育職員養成審議会 (教養審) 答申 「教員の資質能

力の向上方策等について」 がまとめられた。 そこで

は教師については 「教育者としての使命感、 人間の

成長・発達についての深い理解、 幼児・児童・生徒

に対する教育的愛情、 教科等に閲する専門的知識、

広く豊かな教養、 これらを基盤とした実践的指導力」

が必要であるとし、 従前にもまして教師の資質能力

の向上が要請されている、 といっている。

そして、 教員の養成と免許制度の改善について、

①学部卒業を基礎資格とする「標準免許状」、 修士

課程の修了程度を基礎資格とする 「専修免許状」、

短期大学卒業程度を基礎資格とする 「初級免許状」

の創設、 ②特別免許状 (都道府県教育委員会が社会

的経験や各種の資格等を有する者について教育職員

検定を実施) と特別非常勤講師制度 (任命権者が学

歴・職歴・人物等を総合的に判断して都道府県教育

委員会に申請し許可を得る) の創設、 また教職特別

課程 (大学において教職課程を取らなかった者が1

年程度で教員免許状を取得) の設置 ③免許基準の

改善等、 をあげている。

免許基準に関しては、 小学校の教科専門科目は6教

科16単位から 9 教科全科目 (生活科を含む) 18単位

に、 中・高校の教科専門科目は乙教科、 甲教科の区

分を廃止しすべての教科について40単位を必修とす

る。 教職専門科目については、 「教育の本質と目標

に関する科目J r幼児・児童・生徒の心身の発達と

学習の過程に関する科目J r教育に係る社会的制度

的または経営的な事項に閲する科目J r教育の方法・

技術 (情報機器・教材の活用を含む) に関する科目」

のすべての領域にわたって、 小学校では12単位、 中­

高校では 8 単位を必修とする。 生徒指導 (教育相談

及び進路指導を含む) に関する科目を小・中・高す

べての教員に必修とする。 教育実習は小学校4単位

から5単位へ、 中・高では2単位を3単位に改めてい

る2。 教職科目を合計すると、 小学校が32単位から

41単位、 中・高が14単位から19単位に引き上げられ

ている30

教員の現職研修の改善に関しては、 ①実践的指導

力や教師としての使命感を深めさせるとともに幅広

い知見を得させるための初任者研修制度の創設(実施

方法等具体的に提言) ②教職経験5年程度、 10年程

度、 20年程度の時期や主任研修、 教頭研修、 校長研

修等教職経験と職能に応じた現職研修の体系的整備

等、 を提言している。

この1987年教養審答申の提言を受けて、 1988(昭

和63)年教育公務員特例法、 地方教育行政の組織及

び運営に関する法律が一部改正され初任者研修制度

が発足した4。 また同年教育職員免許法等が一部改

正され、 専修免許状、 1 種免許状、 2 種免許状の創

設及び免許基準の引き上げ等の改正が行 われた。

改正された免許法による学校種別のそれぞれの免

許に必要な教科に閲する科目、 教職に閲する科目等

の単位数は表1、 そのうち教職に関する科目の具体

的な科目名と単位数は表 2 のとおりである。

また1988年教育職員免許法改正で、 専門的知識ま

たは技能を有する社会人に授与する特別免許状制度

や免許状を有していなくても教科の一部領域を担当

できる特別非常勤講師制度が成立した50

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教師の資質能力と教員養成・免許 113

表1 枝種別のそれぞれの免許に必要芯教科に関する科目、 教職に関する科目等の単位数

小学校 中学校 高校 幼稚園

専修 一種 二種 専修 一種 二種 専修 一種 専修 一種 二種

教科に関する科目 18 18 10 40 40 20 40 40 16 16 s

制酸に関する科目 41 41 1:7 19 19 15 19 19 35 35 23

教科又は教職に隣する科目 M M 24 24

合計 幻 59 37 幻 59 35 幻 59 75 51 31

上記のほか、施行規則第66条の4により「日本国憲法H体育J (各2単位)の修得が必要。

表2 教職に関する科目の具体的芯科目名と単位数

小学校 中学校 高校 幼稚園

専修 一種 二種 専修 一種 二種 専修 一種 専修 一種 二種

教育の本質及び目標に関する科目

幼児、 児童又は生徒の,じ身の発達及び学習のi副主に隣する科目

12 ロ 6 s s 6 s s 12 12 6

教育に係る社会的、 制度的又は経営的な事項に関する科目

教育の方法及び技術(情報機器及び教材の活用を含むJに関する科目

教科教育法に関する科目

道徳教育に関する科目 2 2 14 6 6 4 4 4

特別活動に関する科目

教育課程一般に附する科目

保育内容に関する科目 18 18 12

指導法に関する科目

生徒指導及て撒育相談に関する科目

2 2 2 2 2 2 2 2

生徒指導、 教育相談及て雄路指導に関する科目

教育実習 5 5 5 3 3 3 3 3 5 5 5

合計 41 41 1:7 19 19 15 19 19 35 35 23

(注)高等学校の免許状については、上記の各欄で内容等が指定された17単位に加え、内容等の指定のない2単位分の「教職に関する科目」の修得が必要

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m. 教師の資質能力観(2)

-1996年中教審答申から1998年教免法改正まで~

さらに特筆すべきは、 中央教育審議会第 1 次答申

121世紀を展望した我が国の教育の在り方について」

(1996年)である。

そこでは、 教師の資質能力の向上を重視し、 「生

きる力」 をはぐくむ学校教育を展開するための豊か

な人間性と専門的な知識・技術や幅広い教養を基盤

とする実践的な指導力、 特に教科指導や生徒指導、

学級経営などの実践的指導力の育成を重視している。

そして教員養成については、 教育相談を含めた教職

科目全体の履修の在り方、 教育実習の期間・内容の

在り方、 さらには修士課程を活用した養成の在り方

に留意する必要があるといっている。

こうした中1997(平成9)年、 教育職員養成審議会

第 1 次答申 「新たな時代に向けた教員養成の改善方策

について」 がまとめられた。 本答申では、 教養審答

申 「教員の資質能力の向上方策等についてJ(1987年)

にあげた資質能力をいつの時代にあっても一般的に

求められる資質能力とし、 今後特に教師に求められ

る具体的な資質能力を表3 のように記している6。

表3 今後特に教員に求められる具体的資質能力の例

地球的視野に立って行動するための資質能力

地球、 国家、 人間等に関する適切な理解例:地球観、 国家観、 人間観、 個人と地球や国家の関係についての適切な理解、 社会・集団

における規範意識

豊かな人間性

例:人間尊重・人権尊重の精神、 男女平等の精神、 思いやりの心、 ボランティア精神

国際社会で必要とされる基本的資質能力

例:考え方や立場の相違を受容し多様な価値観を尊重する態度、 国際社会に貢献する態度、自国や地域の歴史・文化を理解し尊重する態度

変化の時代を生きる社会人に求められる資質能力

課題解決能力等に関わるもの

例:個性、 感性、 創造力、 応用力、 論理的思考力、 課題解決能力、 継続的な自己教育力人間関係に閣わるもの

例:社会性、 対人関係能力、 コミュニケーション能力、 ネットワーキング能力

社会の変化に適応するための知識及び技能例:自己表現能力(外国語のコミュニケーション能力を含む。)、 メディア・リテラシー、

基礎的 なコンビュータ活用能力

教員の職務か ら必然的に求められる資質能力

幼児・児童・生徒や教育の在り方に関する適切な理解

例:幼児・児童・生徒観、 教育観(国家における教育の役割についての理解を含む。)

教職に対する愛着、 誇り、 一体感

例:教職に対する情熱・使命感、 子どもに対する責任感や興味・関心

教科指導、 生徒指導等のための知識、 技能及び態度

例:教職の意義や教員の役割に関する正確な知識、 子どもの個性や課題解決能力を生かす能力、 子どもを思いやり感情移入できること、 カウンセリング・マインド、 困難な

事態をうまく処理できる能力、 地域・家庭との円滑な関係を構築できる能力

(出典)教育職員養成審議会第1次答申「新たな時代に向けた教員養成の改善方策についてJ 1997年

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そして、 養成段階で修得すべき最小限必要な資質

能力を 「採用当初から学級や教科を担任しつつ、 教

科指導、 生徒指導等の職務を著しい支障が生じるこ

となく実践できる資質能力」 とし、 そのために教科

指導、 教授・指導すべき内容として、 ①教職への志

向と一体感の形成 (教職課程における履修計画・内

容等についての指導、 教職についての理解を深める

ための指導、 選択・決定の指導)、 ②教職に必要な

知識及び技能の形成(理論的な知識等の教授、 理論と

実践との結合、 実践的な技能等の教授)、 ③教科等

に関する専門的知識及び技能の形成、 をあげている。

また、 教養審第 2次答申 「修士課程を積極的に活

用した教員養成の在り方について 現職教員の再教

育の推進 J (1998年) では、 現職教員が修士課程で

学ぶ意義を述べ、 修士レベルの教育機会を現職研修

体系へ位置付ける必要があるとして、 そのための具

体的施策として、 修士課程の修業年限の弾力化、 枝

務に従事しながら修士課程に在学する機会の整備、

修士課程における教育研究の充実等を提言している。

さらに、 教養審第3次答申 「養成と採用・研修と

の連携の円滑化についてJ(1999年) では、 第 1次答

申、 第 2次答申を踏まえて、 採用の改善、 研修の見

直し、 大学と教育委員会等との連携方策の充実、 教

職課程の充実と教員養成に携わる大学教員の指導力

の向上、 を提言している。

そして1998(平成10)年、 教育職員免許法等の一部

が改正された。

そこでは、 選択履修方式による養成カリキュラム

の大幅な弾力化、 専門的分野の学問的知識よりも子

どもとの関係や教授法等を重視する教職に関する科

目の充実が図られた。 教職に関する科目等において、

教職に対する使命感を育むための 「教職の意義等に

関する科目J( 2単位) の新設、 中学校の 「教育実習J

教師の資質能力と教員養成・免許 115

3 単位から5単位へ引き上げ、 「生徒指導、 教育相

談及び進路指導等に関する科目J 2単位から4単位

へ引き上げ及びカウンセリングに関する内容の必修

化、 「総合演習J( 2 単位)の新設、 「外国語コミュ

ニケーション」及び「情報機器の操作J(各 2 単位)の

必修化等が行 われた。

同年の教育職員免許法改正で、 社会人活用のための免許制度の改善として、 特別免許状の有効期間を5年

以上から10年以内に改めるとともに、 特別免許状の授

与ができる教科が全教科に拡大された。 また、 特別非

常勤講師の配置に関して授与権者(都道府県教育委員会)

の許可制から授与権者への届出制に手続きが簡素化

さオいその対象教科も全教科に拡大された。

改正免許法による学校種ごとのそれぞれの免許に

必要な教科に関する科目、 教職に関する科目等の単

位数は表4、 そのうち教職に関する科目の具体的な

科目名と単位数は表5のとおりである。

特別免許状については、 2000(平成12)年の教育職

員免許法の改正において、 特別免許状を有する教員

が3 年の在職年数と所定の単位の修得により終身有

効な普通免許状を取得できる制度が創設された。

また専修免許状への上進については、 在職年数に

応じて単位逓減する措置があったが、 199 8 (平成10)

年の教養審第 2次答申を受けそれが廃止され (2000

年の教免法の改正)、 大学院又は大学の専攻科の課

程で15単位を修得しなければならなくなった。 ただ

し、 一種免許状と二種免許状の授与を受ける場合、

別表に定める最低在職年数を超える在職年数がある

ときは、 その年数に5単位を乗じた単位数を逓減す

ることができる。 しかしその場合でも最低10単位は

修得しなければならない。

また2000(平成12)年の教免法等改正で、 高等学校

の教員免許状に「情報Jと「福祉J が追加されたら

表4 校種別のそれぞれの免許に必要な教科に関する科目、 教職に関する科目等の単位数

小学校 中学校 高校 幼稚園

専修 一種 二種 専修 一種 二種 専修 一種 専修 一種 二種

教科に関する科目 B B 4 20 20 10 20 20 6 6 4

教職に関する科目 41 41 31 31 31 21 23 23 35 35 z7

教科又は教職に関する科目 34 10 2 32 B 4 40 16 34 LO

合計 お 59 主7 お 59 35 お 59 75 51 31

上記のほか、 施行規則第66条の5により旧本国憲法H体育H外国語コミュニケーションH情報機器の操作J (各2単位)の修得が必要。

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表5 教職に関する科目の具体的拡科目名と単位数

小学校 中学校 高校 幼稚園

専 専 専 専修 種 種 修 種 種 修 種 修 種 種

教職の意義等に関する科 教職の意義及び教員の役目 書l

教員の職務内容 (研修、月匝 2 2 2 2 2 2 2 2 2 2 2

務及び身分保障等を含む)

進路選択に資する各種の機会の提供等

教育の基礎理論に関する 教育の理念並びに教育に科目 関する歴史及び思想

幼児、児童及び生徒の心身の発達及び学習の過程(障害のある幼児、児童及び生 6 6 4 6 6 4 6 6 6 6 4

徒の心身の発達及び学習の過程を含む。)教育に関する担会的、制度的又は経営的事項

教育課程及び指導法に関 教育課程の意義及t編成する科目 の方法

各教科の指導法

道徳の指導法22 2 14 12 12 4 6 6

特別活動の指導法

教育の方法及び技術(情報機器及び輯オの活用を含む。)教育課程の意義及て珊成の方法

保育内容の指導方法18 18 ロ

教育の方法及び技術(情報機器及び耕オの活用を含む。)

生徒指導、教育相談及び進路指導等に関する科目

生徒指導の理論及て肋法

教育相談(カウンセリングに関する基礎的な知識を 4 4 4 4 4 4 4 4

含む。)の理論及t防法

進路指導の理論及び方法

幼児理解の理論及び方法

教育相談(カウンセリング 2 2 2

に関する基礎的な知識を含む。)の理論及て肪法

総合演習2 2 2 2 2 2 2 2 2 2 2

教育実習 5 5 5 5 5 5 3 3 5 5 5

合計 41 41 31 31 31 21 23 23 35 35 'I7

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N. 教師の資質能力観(3)

-2002年中教審答申から2007年教免法改正まで~

中央教育審議会答申 「今後の教員免許制度の在り

方についてJ(2002年)において、 教師の資質能力に

ついては特段新しい記載はないものの、 従来の資質

能力観を踏まえて、 ①教員免許状の総合化・弾力化

②教員免許更新制の可能性 ③特別免許状制度の活

用促進、 についての審議結果が報告されている。

①教員免許状の総合化・弾力化については、 「中

学校免許状等による小学校専科担任の拡大J r現職

教員の隣接校種免許状の取得を促進する制度の創設」

「特殊教育総合免許状の創設」 等である。

②教員免許更新制の可能性については、 「適格性

確保のための更新制J r専門性向上のための更新制」

という 2 つの側面から検討されたが、 現時点での我

が国全体の資格制度や公務員制度の比較において慎

重にならざるを得ないとして、 今後の検討課題とし

ている80

ここで教員の資質向上に向けて、 ①教員の適格性

の確保 (指導力不足教員等に対する人事管理システム の構築、 教員免許状の取上げ事由の強化、 人物重

視の教員採用の一層の推進) ②教員の専門性の向

上(新たな教職10年を経験した教員に対する研修の

構築、 学校における研修の充実、 自主研修の活性化、

研修実績の活用、 研修の評価) ③信頼される学校

づくり(学校からの情報提供の充実、 授業の公聞の

拡大、 学校評議員制度等の活用、 学校評価システム

の確立、 新しい教員評価システム の導入)を提案し

ている。

③特別免許状制度の活用促進については、 授与要

件の鰻和(学士の学位を求めない)、 有効期限の撤廃

も記された。 また運用面で、 社会人特別選考の実施

の促進等を言っている。

この答申を受けて2002(平成14)年5月教育職員免

許法が改正され、 従来中学校の音楽、 美術、 保健体

育、 家庭の教諭の免許状に限定されていた小学校の

専科担任について、 免許教科の限定をはずすととも

に、 新たに高等学校の教諭の免許状でもできること

とした。 さらに各教科とともに、 「総合的な学習の

時間」でも専科担任ができるようになった (教免法

第16条の5第1項)。 また高等学校の専門教科の一部

及び教科の一部領域免許状に限られていた中学校の

専科担任について、 高等学校の専門教科 (情報、 福

教師の資質能力と教員養成・免許 117

祉等を新たに迫力日)全般に拡大した。 さらに、 各教科

に加え、 総合的な学習の時間においても専科担任が

できるようになった(教免法第16条の5第2項)。

隣接 枝種免許状の取得を促進するために、 最低

3年良好な勤務成績で勤務した教諭は隣接枝種の免許

状取得のための大学での要修得単位数が逓減された。

(教免法第6条別表第8)9。

また、 特別免許状については「学士の学位を有する

こと」とする要件が撤廃され、 「専門的な知識経験又

は技能を有する者」と規定された。 そして、 5年から

10年と定められていた特別免許状の有効期聞を終身

有効としたlO。

同年6月教育公務員特例法が一部改正され、 小学

校等の教諭等に対して、 その在職期聞が10年に達し

た後相当の期間内に、 個々の能力、 適性等に応じて

必要な事項に閲する研修(十年経験者研修)が義務化

された。(2003(平成15)年4月から施行)

また中教審答申 「今後の教員養成・免許制度の在

り方についてJ(2006年)では、 改めて教師の資質能

力として、 1997(平成9)年の教養審第 1 次答申であ

げた①いつの時代にも求められる資質能力、 ②今後

特に求められる資質能力、 ③得意分野を持つ個性豊

かな教員、 2005(平成17)年の中教審答申「新しい時代の義務教育を創造する」において優れた教師の条

件としてあげた、 ①教職に対する強い情熱、 ②教育

の専門家としての確かな力量、 ③総合的な人間力を

提示し、 これらの資質能力を確実に身につけること

の重要性が一層高まっているとしている11。

そして、 教員が尊敬と信頼を得るためには、 養成

課程と免許制度が社会の信頼に足り得るものでなけ

ればならないとし、 ①大学の教職課程を、 教員とし

て最小限に必要な資質能力を確実に身につけさせる

ものに改革する12、 ②教員免許状を、 教職生活の全

体を通じて、 教員として最小限必要な資質能力を確

実に保証するものに改革する、 と 2 つの改革の方向

を示している。 そして、 具体的方策として、 ①教職

課程の質的水準の向上、 ②「教職大学院」制度の創設、

③教員免許更新制の導入、 をあげている。①教職課程の質的水準の向上では、 「教職実践演習

(仮称)J の新設・必修化を提言している。 この科目

のねらいは、 教員として必要な資質能力の最終的な

形成と確認を目指し、 内容としては教員として求め

られる 4 つの事項、「使命感や責任感、 教育的愛情等

に関する事刷、 「社会性や対人関係官肋に関する事項U、

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118

「幼児児童生徒理解や学級経営等に関する事項」、 「教

科・保育内容等の指導力に関する事項」をあげている。

その他、 「教育実習の改善・充実訂等をあげている。

②教職大学院制度の創設では、 高度な専門性を備

えた力量ある教員を養成し、 教員養成に特化した専

門職大学院として「教職大学院jを提言している130

③教員免許更新制の導入では、 変化の激しい社会

にあっては養成段階を修了した後も、 その時々で求

められる教員として必要な資質能力が確実に保持さ

れるよう教員免許状に一定の有効期限を付し、 定期

的に知識・技能等の刷新(リニューアル)を図るた

めの制度である。 よって、 2002(平成14)年の答申

で検討した更新制とは基本的性格が異なる、 として

いる140

その他、 採用・研修及び人事管理等の改善・充実

についても、 確かな資質能力を前提とした採用の一

層の改善・工夫、 現職研修の体系化の検証や10年経

験者研修の今後の在り方、 分限制度の厳格な適用や

教員評価の処遇への反映等、 も言及している。

このような答申内容を踏まえて、 2007(平成19)年

に教育職員免許法、 2008(平成20)年に教育職員免許

法施行規則が改正された150

新しい「教職に関する科目jは表6のとおりである。

ここでは 「教職に関する科目j において、 従来の

「総合演習( 2 単位)Jが取り除かれ、 新たに「教職

実践演習( 2 単位)Jが必修化された。 「教職実践演習J

は「当該演習を履修する者の教科に関する科目及び

教職に関する科目の履修状況を踏まえ、 教員として

必要な知識技能を修得したことを確認するものと

するjと明記された(教育職員免許法施行規則第6条

第1項の表 備考11)。 そして履修時期は原則とし

て4年次(短期大学の場合2年次)後期とされ、 却ω(平

成21) 年4月から施行 される。 教科に閲する科目、

他の教職に閲する科目及びそれらの修得単位数につ

いては変更はない160

教職大学院については、 専門職大学院設置基準に

おいて 「専ら幼稚園、 小学校、 中学校、 高等学校、

中等教育学校及び特別支援学校の高度の専門的な

能力及び優れた資質を有する教員の養成のための

教育を行うことを目的とするJ(第7章教職大学院

第26条)と明記された。 そして標準就業年限は2年

とされ、 45単位上修得することとされ、 そのうち小

学校等その他の関係機関で行う実習に係る10単位以

上を含むこととされている。 ただし、 教育上有益と

認めるときは、 当該教職大学院に入学する前の小学

校等の教員としての実務の経験を有する者について、

10単位を超えない範囲で、 当 該実習の全部または

一部とみなすことができる、 とされる (第29条)。

2008 (平成20)年度において19の教職大学院が開設

された170

さらに教員免許更新制に関しては、 普通免許状

及び特別免許状に10年間の有効期聞が定められる

こと(教免法第9条)、 免許状更新講習の時間は30時

間以上とする(教免法第9条の3第 2 項)、 ただ2009

(平成21)年3月31 日 以前(更新制導入前)に免許状を

取得した教員等は10年ごとの免許状更新講習を修了

したことの確認を受けなければならず、 講習を修了

できなかった場合、 免許状はその効力を失 う(教免

法附則第1条、 第2条)。

また、 更新講習の内容については、 「教職につい

ての省察並びに子どもの変化、 教育政策の動向及

び学校の内外における連携協力についての理解に

関する事項」と「教科指導、 生徒指導その他教育の

充実に関する事項jとしている(免許状更新講習規

則(2008年))。 講習内容に関する基準は、 表 7に示

すとおりである。

2009 (平成21)年4月1日より免許更新制が実施される。

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教師の資質能力と教員養成・免許 119

表6 教職に関する科目の具体的拡科目名と単位数

小学校 中学校 高校 幼稚園

専 専 専 専修 種 種 修 種 種 修 種 修 種 種

教職の意義等に関する科 教職の意義及び教員の役目 審l

教員の職務内容 (砂糖、服務及 び身分保障等 を 含 2 2 2 2 2 2 2 2 2 2 2

む。)進路選択に資する各種の機会の提供等

教育の基礎理論に関する 教育の理念並びに教育に科目 関する歴史及び思想

幼児、児童及び生徒の'L'身の発達及び学習の過程(陣害のある幼児、児童及び生 6 6 4 6 6 4 6 6 6 6 4

徒の心身の発達及び学習の過程を含む。)教育に関する社封号、制度的又は経齢句事項

教育課程及び指導法に関 教育課程の意義及て編成する科目 の方法

各教科の指導法

道徳の指導法2 2 14 12 12 4 6 6

特別活動の指導法

教育の方法及び技術(情報機器及び教材の活用を含む。)教育課程の意義及て編成の方法

保育 内容の指導方法18 18 ロ

教育の方法及び技術(情報機器及び教材の活用を含む。)

生徒指導、教育相談及び進 生徒指導の理論及び方法路指導等に関する科目

教育相談(カウンセリングに関する基礎的な知識を 4 4 4 4 4 4 4 4

含払)の理論及て肪法

進路指導の理論及て防法

幼児理解の理論及び方法

教育相談(カウンセリング 2 2 2

に関する基礎的な知識を含払)の理論及て肪法

教育実習 5 5 5 5 5 5 3 3 5 5 5

教職実践演習 2 2 2 2 2 2 2 2 2 2 2

合計 41 41 31 31 31 21 2 2 35 35 'I7

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古川O

表7 講習内容に関する各種基準

開般商E定基準 修了駆定基準

事項 細目 含めるべき内容 留意事項 到達目標 確略指標

1 教職闘こ 学校を 巡 .学校を巡る近年の様々な状況変化について、適 .各種報道、 世融調査、統計など客観的・具嗣怯材料を適切に .学校を巡る近年の様々な状況変化 .各種報道、 世直面開査、統計の動向等 を分析・ 理解つ い ての ①教職 る 状 況 変 切に扱うこと。 用いること。 について、客観的泊り具嗣9に理解し し、説明することができる昌弘

省察並T.J. に つ い ィι ている。に 子 ども ての省 専門職た - 各自の敏験生活 を振り返る機会を与え、子ども -教育的愛情、倫理観遵法精神など、教員に対する祉会の要請 -教員に国民が何を期待しているか、 - 各自の現状を自ら分析し、 自らが向かうべき方向の変化、教 察 る教員の 倶教育観等について省鍛させること。 の強し司噺には特に南意すること。 理獅してしも。 を明確に意織し、脱明できる晶、育政策の 役割動向及び 子 ど も の -子どもの発遣に闘する、脳科学、心哩学等の最 .LD、 ADHDはじめ特別支援教育に関する新たな課題について .子どもの発速に関する最新の科学 .LD、ADHDはじめ特捌支援教育に関するものも合

学校の 内 発 達 に 関 畢刊田見 に語づく内容(特別支援教育に関するもの は、 必す顎うこと。 的知見の概要を理解している。 め、 子どもの発達に関する最近の科判枕限題を理外 におけ ②子 ど する際題 を含む。 以下閉じ)を適切に扱うこと。 解し、担明できるれる連携協 も の 変 子 ど も の -子どもの生活の変化を踏まえた、具体的な指導 -居場所づくりを意織した集団形成、多様化に応じた学級づくり -子どもの生活の変化を踏まえた指 -子どもの生活の変化を踏まえた、 具体的な指導上カに つ い 化 に つ 生 活 の 変 上の課題を適切に扱うこと。 と学級担任の役割 、生活習慣の変化を踏まえた生徒指導、社会的・ 導の在り方 を理解している。 の線魁及び対処方法を理解し、脱明できる晶、ての 理 解 い ての 化 を 踏 ま 経潮句畢境の変化に応じたキャりア教育などの課題について、具に 関 す る 理解 え た 適 切 嗣力に扱うこと。事項 な 指導の -カウンセリング・7インドの必墨H主にも留意すること。

(12時間 在り方以上J 学 習 指理事 -学習指導要領の改町の動向等について、適切に -総則の趣旨を理解させる内容を適切に扱うこと。 -学習指噂要領の改訂の動向等につ -学習指噂要領の改訂など教育課程の編成に係るの

③教育要 領改町 理解させる内容を含むものであること. .意欲を喚起する学習指導、子どもの実態を踏まえた道徳・特別 いて理解している。 動向等について理解し、説明することができる晶、

政策の等の動向 活動の指噂など、 近年の状況を踏まえた内容を適切に扱うこと。

動 向 にそ の 他教 .法令改正、園の審議会の状況等について、 適切 -教育改革の動向の概要を理解して -教育改革の動向の概要を理解し、脱明することがつ い て

の理解 育 改 革 の に取り扱うこと。 いる。 できる泊五動向

各 種保掴 .様々な問題に対する組織的対応の必要性につ -学校組織の一員としての7ネジメント・7インドの形成、保積 - 様々な問題に対する組織的対応の .様々な問題に対する組織的対応の必要性につい

④学校 に 対す る いて、適切に理解させる内曜を含むものであるこ 者・地域社会との連携など、 近年の状況を踏まえた内容について、 必昌明主について理解している. て、校内外での自らの役劃と関連付けながら理解し、

の 内 外 組 織 的 対 と。 適切に扱うこと. Ili'.明することができる晶、

におけ 応 の 在 り .特に対人関係、 日常的コミュニケーション等の重要性に情意ず

る連携 方 ること。

協力に 学校にお .学校における危旗管理上の課題について、適切 .校内外の安全確保に闘する内容は、必ず含めること。 .学校における危機管理の必要性に .子どもの安全確保はじめ具嗣枕危鳩管理の課題つ い て け る危機 に扱うこと。 .その他、情報セキュリティなど、 近年の状況を踏まえた内容を ついて、 理解している。 について、近年の状況を踏まえ理解し、脱明するこの理解 管 理 上 の 適切に扱うこと。 とができるか。

標題2. 教科 指導、 生徒指導 その他殺 -幼児・児童・生徒に対する指導ム必要な際組に .指導法、 指導の背景となる専門的知見 指導の方法・技術のい -幼児・児童・生徒に対する指導上の .指導法、 指導の背景となる専門的知見、 指導の方

育の充実に関する事項 ついて適切に取り扱うこと。 す守t糾こついて最新の内曜を取り扱うこと。 必要な保坦について理解している。 法・技術のいずれかについて最新の内何事を理解し、

(18時間以上) 説明することができる晶、

性Jφベ�の各事項及びその細目に割り当 てられるべき時間、講義の順番、 担当教員の組み合わせ等については、大学の判断による。

出典)文部科学省「教員免許更新酬の実施に係わる関係省令等の整備について白亜知)J 2008年。

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V. 教師の資質能力と教員養成・免許の動向と課題

これまで1980年代臨教審答申以降の教師の資質

能力、 教員養成・免許の動向をみてきた。 教師の

資質能力に閲しては、 現在1997(平成9)年の教養審

第1次答申「新たな時代に向けた教員養成の改善方

策について」に記された資質能力観が基調になって

いるように思われる。 なるほど教師の資質能力を考

えた場合、いつの時代にも求められる、不変の資質

能力、 一方で特にその時代・社会に求められる資質

能力は考えられるし、 言葉や言い回しは若干異なり

ながらも、大方このような資質能力に収めることは

できるであろう。

ただそうした中で、 改めて求められる(強調される)

資質能力は協働(collaboration)していく力であろう。

学校の「ウチJと「ソトJにおける協働である。 やや

もすると学校は、 クラス担任、教科担任と個々の個人プレーになりがちである。 しかしながら多様

な個性・能力を持った教師集団として協働は必須

であり、 それにより個々の教師以上の効呆を発揮

することができる。 また生涯学習化、 情報化、国際

化等と言われる複雑化した現代社会において、 学校

だけで教育を担当することは不可能である。 そして、

学校のみが知識・技術を独占し得ない。 そうすると

当然、 学校と家庭・地域の諸機関・団体との協働が

求められる。

そしてまた検討しなければならないのは、こうし

た資質能力をあげ次の段階としてその為にはどのよ

うな教育内容・方法を提供していくかの問題である。

これまでみてきたように、 養成教育においてはそ

の内容及び領域は増える傾向を示してきた。 特に、

教職に関する科目の必修単位数が増加した。 しかし、

ただ単に単位数を増やせばいいというものではない。

卒業単位数との関連で、 過度の負担は避けなければ

ならない18。 また内容において大学内での知識や理論、

技能の習得に止まらず、 それらの実践、応用として

大学外での体験的な学習が一層求められる。 そうす

ることにより知識や理論、 技能はより効呆的に獲得

され、さらに磨かれる。

その際、 アメリカにおける 「職能開発学校J

(Professional Development Schoo1=PDS)、「臨床

学校J(Clinical Schoo1s) 、 「パートナー・スクールJ

(Partner Schoo1s)、 「教職実践学校J (Professional

Practice Sch∞11s) の実践は示唆的である。 これらは、

教師の資質能力と教員養成・免許 121

学校を拠点として大学と連携して教育の理論と実践

のサイクルを通して効呆的な教師教育、 学校教育を

めざす学校と大学の協働組織である190

またそれは学校に限らず、 社会教育施設や福祉施

設、NPOや各種ボランテイア団体等、地域の機関・

団体でも可能である。 このような養成段階における

地域の諸機関・団体との連携は、 「どういう機関で」

「何をJ1どのようにJ やっているのかを知ること

ができ、実際教職に就いてからの学校と地域の協働

をも促進する。

ところで、 中教審答申 「今後の教員養成・免許制

度の在り方についてJ(2006年)に基づき教職大学院

制度が創設されたが、 カリキュラム編成、 教員組織

等に新しい制度設計はされている20。 しかし、従来

の教員養成系大学・学部の大学院修士課程との関連

はどうなっているのか。 両者の目的としていることはそう異なるのではなく、 従来の教員養成系大学・

学部の大学院の改善・充実ではなく、 改めて教職

大学院を設置する意義は何なのか21。 実際、 大学

院進学希望者にも戸惑いがあることが報告がされ

ている220

さらに2009(平成21)年より免許更新制が実施され

た。 免許更新に関しては、 中教審答申「今後の教員

免許制度の在り方についてJ(2002年)では「適格性

確保のための更新制J 1専門性向上のための更新制」

という 2 つの側面から検討されたが、 現時点での我

が回全体の資格制度や公務員制度の比較において慎

重にならざるを得ない、 として今後の検討課題とした。

しかし、中教審答申「今後の教員養成・免許制度

の在り方についてJ(2006年)においては、先述のと

おり「その時々で求められる教員として必要な資

質能力が確実に保持されるよう、 定期的に必要な

刷新(レニューア ル)を図るための制度Jとして

2002 (平成14)年の答申で検討した更新制とは基本的

性格が異なるとしている。 しかし、 この点は理解し

にくい。

一方では、 2002年の中教審答申時に見送った免許

更新制との関連で110年経験者研修J が導入された。

この 110年経験者研修」 制度と免許更新制との関係

はどうなるのか、 他の現職研修も含めて、免許状更

新講習との関係、位置づけを検討していかなければ

ならない幻。

最後に、 本論では教師の養成教育を中心に論じて

きたが、 それはさらに教員採用、 研修全体にわたって、

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122

つまり教師教育という一連の流れの中で考察してい

かなければならないM。

1 従来、 教師教育に関して幾つかの答申や建議が出され

ている。 臨時教育審議会答申直前のものとしては、 中央

教育審議会答申「教員の資質能力の向上についてJ(1 釘昨)、

教育職員養成審議会答申 「教員の養成及ぴ免許制度の改

善についてJ(1983年)であるが、 臨教審答申の中に多くの

関連する提案がなされている。

2 教育実習のうちの 1 単位は、 事前及び事後指導とする。

3 従来の 「校種別のそれぞれの免許に必要な教科に闘す

る科目、 教職に関する科目等の単位数H教職に関する

科目の具体的な科目名と単位数」は、 以下の表のとおり

である。

4 学級や教科・科目を担当しながら、 校内において指導

教員を中心とする指導及ぴ助言による研修(週2 日程度

少なくとも 年間60 日程度)、 校外において教育センター

等における研修 (週1日程度少なくとも 年間30 日程度)

を受けることとされている。

5 特別免許状は、 学士の学位を有し授与権者 (都道府県

教育委員会) が行う教育職員検定に合格した者に授与さ

れ、 免許状の授与を受けた都道府県においてのみ有効で

ある。その有効期間は、 授与した時から 3 年以上10 年以

内において都道府県が定める期間とされた。対象教科は、

小学校では音楽、 図画工作、 家庭及ぴ体育、 中・ 高校で

は全教科である。特別非常勤講師については、 特に必要

があると認めるとき、 授与権者 (都道府県教委) の許可

を得て特別免許状の対象となる各教科等について、 各相

当学校の教員の相当免許状を有しない者を充てることが

できる。

校種別のそれぞれの免許に必要な教科に関する科目、 教職に関する科目等の単位数

小学校 中学校 高校 幼稚園

一級 二級 一級 二級 一級 二級 一級 二級

教科に関する専門教育科目 16 8 甲:仰 甲:20 甲:62 甲:仰

16 8 乙: 32 乙: 16 乙: 52 乙: 32

教職に関する専門教育科目 32 2 14 10 14 14 28 18

合計 48 30 甲:54 甲:30 甲: 76 甲:5444 26

乙:46 乙:26 乙:“ 乙:46中学校甲教科・社会、理科、技術、家庭、職業 乙教科:国語、数学、 音楽、美術、保健体育、保健、職業指議外国語、 宗教高 校 甲教科:社会、理科、家庭、 農業、 工業、 商業、 水産、 商船 乙教科:国語、数学、 音楽、美術、 工芸、書道、保健体育、保億

看護、職期哲導、 外国語、 宗教

教職に関する科目の具体的な科目名と単位数

小学校 中学校 高校 幼稚園

一級 二級 一級 二級 一級 二級 一級 二級

教育原理 4 2 3 2 3 3 4 2

「教育心理学、児童心理学」 4 2 4 2

「教育心理学、育争心理学」 3 2 3 3

耕オ研究 16 12

教科教育法 3 2 3 3

保育内容の研究 12 8

道徳教育の研究 2 I 2 I

教育実習 4 4 2 2 2 2 4 4

その他の科目 2 I 1 I 3 3 4 2

合計 32 2 14 10 14 14 28 18

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なお1鎗9 (平成元) 年3月、 幼稚園教育要領、 小・中・

高等学校の学瞥指導要領が改訂された。そして19鈎年12月

教育職員免許法等の改正が行われ、 高等学校における免

許教科として 「社会」 が廃止され 「地理歴史J I公民」

に再編成された。

6 このように教師には多様な資質能力が求められるが、

すべての教師がこれらの資質能力を高度に身につけるこ

とは現実的ではないとし、 多様な資質能力を持つ個性豊

かな教師が教師集団として協働することにより学校全体

として充実した教育活動を展開すべきであると言ってい

る。そして、 得意分野を持つ個性豊かな教師の必要性を

述べている。

7 笈削(平成12)年4月教育公務員特例法が改正され、 大学

院修学休業制度が2001(平成13)年4月から施行されるこ

ととなった。ただし、休業期間中の給与は支給きれない。

ところで2001(平成13)年6月地方教育行政の組織及び

運営に関する法律が改正され、 市町村の県費負担教育職

員が、 ①児童・生徒に対する指導治宝不適切である僅澗修

等必要な措置が講じられでも児童・生徒に対する指導を

適切に行うことができない の2つの要件に該当する場

合免職し、 当該都道府県の教職以外の常勤職に採用する

ことのできる制度が導入された(地教行法第47条の2)。

8 1987 (昭和62)年の教養審答申「教員の資質能力の向上

方策等について」において、 教員免許状の更新を認める

制度の導入について今後の検討課題としている。また、

2∞O(平成12)年「教育改革国民会議報告ー教育を変える

17の提案一」では、 「教師の意欲や努力が報われ評価さ

れる体制をつくる」 の中で 「免許更新制の可能性を検討

する」としている。

9 単位の修得方法は、 施行規則第18条の2に規定している。

ただしこれらの単位は、 教免法第6 条別表第3備考第6

号の規定を準用し免許法認定講習、 免許法認定公開講座

等での単位を活用することができる。

10 2004 (平成16)年5月学校教育法等が改正され、 栄養教

諭の免許状が創設された。

また2006(平成 18)年の教育職員免許法の改正により、

盲・聾・養護学校別になっていた特殊教育諸学校の免許

状は特別支援学校教諭免許状として総合化された。

1 1 2005 (平成 17)年の中教審答申では、 3つの条件を以下

のように詳しく説明している。

①教職に対する強い情熱

教師の仕事に対する使命感や誇り、 子どもに対する

愛情や責任感などである。また、 教師は、 変化の激し

い社会や学校、 子どもたちの適切に対応するため、 常

教師の資質能力と教員養成・免許 123

に学ぴ続ける向上心を持つことも大切である。

②教育の専門家としての確かな力量

「教師は授業で勝負する」と言われるように、 この力

量が「教育のプロ」のプロたる所以である。この力量は、

具体的には、 子どもの理解力、 児童・生徒指導力、 集

団指導の力、 学級作りの力、 学習指導・授業作りの力、

教材解釈の力などからなるものと言える。

③総合的な人間力

教師には、 子どもたちの人格形成に関わる者として、

常識と教養、 礼儀作法をはじめ対人関係能力、 コミュ

ニケーション能力などの人格的資質を備えていること

が求められる。また、 教師は、 他の教師や事務職員、

栄養職員など、 教職員全体と同僚として協力していく

ことが大切である。

また、 教員養成・免許制度の改革として、l'・・定期

的に資質能力の必要な刷新(リニューアル)を図ることが

必要であり、 このための方策として、 教員免許更新制を

導入する方向で撫すすることが適当であるJと言っているo

12 ここで言う教員として最小限必要な資質能力とは、 教

養審第 1次答申I新たな時代に向けた教員養成の改善方

策についてJ(1997 (平成9)年で示されているように「教

職課程の個身の科目の履修により修得した専門的な知識・

技能を基に、 教員としての使命感や責任感、 教育的愛情

等を持って、 学級や教科を担任しつつ、 教科指導、 生徒

指導等の職務を著しい支障が生じることなく実践できる

資質能力」をいう。

13 教職大学院は、 以下のような教員の養成を目的とする。

①学部段階での資質能力を修得した者の中から、 さら

により実践的な指導力・展開力を備え、 新しい学校づ

くりの有力な一員となり得る新人教員の養成

②現職教員を対象に、 地域や学校における指導的役割

を果たし得る教員等として不可欠な確かな指導理論

と優れた実践力・応用力を備えたスクール・リーダー

(中核的・指導的な役割を担う教員) の養成

14 今回の免許更新制は、 いわゆる不適格教員の排除を

直接の目的と するものではないとしている。 一 方で

教育再生会議第 1次報告「社会総がかりで教育再生を

一公教育再生への第一歩一J (2007 (平成19) 年1月) で

は、 不適格教員に厳しく対応できる免許更新制を提言

した。

15 教免法改正と同時に2007(平成19)年6 月教育公務員

特例法が改正され、 以下のように不適格教員の人 事上

の処遇がより明確に規定された。(教特法第25条の2、

第25条の3)

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124

公立の小学校等の教諭の任命権者は

①児童・生徒等に対する指導が不適切である教諭等に

対して「指導改善研修」 を実施しなければならない。

②指導改善研修後の措置として、 改善が不十分でなお

指導が適切にできない教諭等には免職その他必要な措

置を講ずる。

2001 (平成13)年の改正された地教行法(注6 )と本法と

の違いは、 適用対象者と措置の違いにある。前者は県費

負担教職員に限っているのに対して、 後者は公立の幼稚

園、 中学校、 高等学校等の教員を対象にしている。 また

前者は教職以外の職への採用であるのに対し、 後者は免

職その他の措置としている。

16 却09 年(平成21)年度に 「教職実践演習」 の開設に係る

申請・文部科学 大臣の認定を受け、 2010(平成22)年度

入学 生から 「教職実践演習」 を含む教育課程をスタート

させる。

17 2009 (平成21)年度においては、 さらに国立3大学 、 私

立 2 大学が新たに開設され、 合計24の教職大学院が設置

される。ただ2008(平成20)年度入学者に関しては、 19の

教職大学院うち 8 校が定員割れを起こしている。

18 養成教育における免許基準の大幅な引き上げ、 教職教

育の重視をしている一方で、 免許制度の弾力化(特別免

許状の設立、 特別非常勤講 師制度の創設等)という施策

は矛盾する側面も有している。

19 拙稿「アメリカにおける教師教育と大学院 『危機に

立つ国家j以降の動向と課題J r 日本教師教育学 会 年

報第11号』、 pp.49-55.

20 教育課程・ 方法については事例研究、 授業観察・分析、

フィールドワーク等を積極的に導入し理論と実践の融合

を図る教育をする、 教員組織については必要専任教員数

の4割以ヒ「実務家教員」とする、 また実践的指導力育成

のために「連携協力校」の設定等が義務づけられている。

21 例えば 「今後の国立の教員養成系大学学部の在り方に

ついて一国立の教員養成系大学 学 部 の在り方に関する

懇談会一J(報告、 2001 年)において、 修士課程の在り方

として「各学校で中核的な役割を担いつつ若手教員を指導

できる能力」 ゃ、「新たな課題に対して・・・対応策を見出し、

あるいは従来の方法を修正する能力」を育成することを

求めている。

一方教職大学院においては「より実践的な指導力・展

開力を備え、 新しい学校づくりの有力な一員となり得る

新人教員の育成H確かな指導理論と優れた実践力・応

用力を備えたスクールリーダー(中核的中堅教員)の養成」

を主な目的・機能としている。

22 渡溢隆「教職大学院設置初 年度の現場からJr文部科学

時報 2 月号I 第1597号、 ぎょうせい、 2009 年。篠原清昭

「教職大学院をめぐるアポリアJr教職研修 3月号』通巻

第439号、 教育開発研究所、 2009 年。

23 文科省では、flO 年経験者研修をはじめとする現職研

修の一部をなす講習、 大学 の授業科目、 免許状認定講習

等についても、 要件を満たせば免許状更新講習として認

定を受けることが可能である」としているが、 さらにこ

れらについては検討を行うと言っている(文部科学省通

知「教員免許更新制の実施に係わる関係省令等の整備に

ついて(通知 )J 2008 年)

24 2009 年8月の衆議院選挙により、 民主党を中心として

連立政権が樹立した。民主党の政策集(民主党政策集

INDEX 2∞9) によれば、 教員養成に関しては6 年制の教

員養成を示し、 免許更新制を含め教員養成・免許制度を

抜本的に見直すとしている。具体的な政策はまだ 見えな

いが、 早急な政策転換の前にまず現状の分析、 検証が求

められる。今後これらの動きを注視していかなければな

らない。

(掲載許可2010年6月9日 )