量子鍵配送システム - Osaka...

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量子 量子 鍵配送システム 鍵配送システム -量子もつれ光子対- 井上 大阪大学工学研究科 内容 1.量子鍵配送とは 単一光子システムとその課題 2.量子もつれ光子による鍵配送 概略 ファイバ伝送向け量子もつれ状態 システム構成 3.実験 光ファイバによるもつれ光子発生 鍵配送実験

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量子量子鍵配送システム鍵配送システム

-量子もつれ光子対-

井上 恭

大阪大学工学研究科

内容 1.量子鍵配送とは

単一光子システムとその課題

2.量子もつれ光子による鍵配送

概略

ファイバ伝送向け量子もつれ状態

システム構成

3.実験

光ファイバによるもつれ光子発生

鍵配送実験

もっとも古典的な暗号通信

秘密鍵暗号方式

秘密鍵

アリス ボブ

秘密鍵

平文と同じ長さの鍵を一回しか使わなければ絶対に安全

ただし、問題は秘密鍵の安全性

そこで現代暗号通信では公開鍵暗号

暗号化鍵(公開)

復号化鍵(非公開)

公開鍵

367× 521 = Z :簡単(答えは191207)X × Y = 191207 :難しい

原理的には解読可能

量子暗号そこで

秘密鍵(ランダムなビット列)

アリス ボブ

量子暗号システム

秘密鍵(ランダムなビット列)

秘密鍵を絶対安全に供給したい

量子力学的に秘匿性が保証された秘密鍵を離れた2者に供給機能

売り文句 安全性は量子力学的に保証

量子暗号(量子鍵配送)

量子鍵配送の基本構図

アリス ボブ古典チャンネル

光送信器 光受信器

量子チャンネル

①量子チャンネルで光子を送受信

②古典チャンネルで基底に関する情報交換

③秘密鍵(ランダムなビット列)生成

量子鍵配送の安全性

ビームスプリット盗聴

イブ(盗聴者)

アリス ボブ

鍵ビットにならない

なりすまし盗聴

間違った偽装信号イブ

ボブ

ビット誤り受信結果に基づいて偽装信号を送信。

テストビットのチェックにより盗聴発覚

アリス 送信受信

But、100%正しい受信はできない。

1光子は伝送損失により消滅課題1

ボブアリス

伝送距離に制限

実際には2光子/パルスの場合あり課題2

減衰アリス イブ

ボブ分岐レーザ光源

一部盗聴成功

実際には減衰レーザ光を擬似的に単一光子として使用

光子数分岐盗聴イブが万能とすると特にやっかい

アリス

ボブ

イブ

光子数測定(量子非破壊測定)

光子分岐

保存

ゲート

測定

レーザ光源

減衰

無損失伝送

×

情報交換

①光子数を非破壊で測定

②2光子あるパルスから1光子だけ分岐

③分岐した光子を保存

④残りの光子は無損失伝送路でボブへ送信

⑤1光子/パルスの場合はブロック⑥アリス-ボブの基底情報を盗み聞く⑦モード情報に基づいて保存しておいた光子を測定

2光子パルスの確率=伝送路損失の場合 ⇒ 100%盗聴

量子もつれ光子を使う鍵配送そこで

ボブ

測定 測定

アリス

もつれ光源

アリスとボブの測定結果には相関あり

同じビットを生成=秘密鍵

システム長は光子伝送距離の2倍

課題2に対して

ビームスプリット盗聴に対して

もつれ光源アリス ボブ

イブ

分岐

分岐光子はアリス/ボブの光子とは無相関

分岐しても盗聴にはならない

高い安全性

さらに進んで

量子リレー鍵配送

測定結果測定結果

もつれ光源

もつれ光源

と を一括測定

中継ノードアリス ボブ

相対関係を測定(同一偏波 or 直交偏波 ?)

アリス: の測定結果+中継ノード情報 → の状態がわかる

ボブ: の測定結果+中継ノード情報 → の状態がわかる

アリス-ボブで鍵生成

さらに長距離化

量子鍵配送に用いる量子もつれ状態では具体的に

(ファイバ伝送を意識して)

時間位置重ね合わせ状態(1光子)

}|{|2

1| 21 >+>>=Ψ tet iθθ

>>=Ψ 1|| t

t2 t1

時間位置もつれ状態(2光子)

θ

測定(時間位置)

at2 t1

b

}|||{|2

1| 2211 baba tttt >>+>>>=Ψ

t2 t1 t2 t1

ba tt >> 11 || ba tt >> 22 ||

or

もつれ状態

ビームスプリッタ

光スイッチ

or >2| t

測定(時間位置)

測定法を変えるとθ0

−θ0

測定(位相差)

a

b

)|||(|2

1| 2211 baba tttt >>+>>>=Ψ

orba >−> ++ )(|)(| 00 θφθφ

ba >−> −− )(|)(| 00 θφθφ})(|)(|)(|)({|2

1baba >−>+>−>= −−++ θφθφθφθφ

一方が|φ+(θ0)>なら他方は必ず|φ+(-θ0)>

一方が|φ−(θ0)>なら他方は必ず|φ-(-θ0)>(θは任意)

)|(|2

1)(| 21 >+>>=+ tetx ixφ :位相差 x の時間位置重ね合わせ状態where

)|(|2

1)(| 21 >−>>=− tetx ixφ :位相差(x + π)の時間位置重ね合わせ状態

ポイント 測定前の位相は不確定

測定した瞬間に相関のある値に確定

測定法をもう少し具体的に

時間位置重ね合わせ状態の位相差測定

光子a

θa

光子b

光スイッチ

もつれ光子源

時間

重ね合わせ2状態を時間位置を合わせて合波 → 2状態が干渉

ここで、重ね合わせ状態の干渉について

ヤングの干渉実験

通常光の場合

1光子の場合

減衰 B

A

確率振幅が干渉

>+>>= B|A|| ba ccψ

さて、光子aを測定すると

光子a

θa

光子b

光スイッチ

もつれ光子源

時間

重ね合わせ2状態が干渉

2状態が同位相なら強め合い、逆位相なら弱め合う

検出器において、同位相なら光子検出、逆位相なら不検出。

光子検出 ⇔ 干渉計出力段で同位相 ⇔ 干渉計入力段の位相差=θa + π/2

(註:ビームスプリッタの反射は位相π/2シフト)

一方、光子bは時間位置もつれ光子対の相関特性

θa

アリス

スイッチ スイッチ

θb

ボブ

もつれ光子源

光子a 光子b

もつれ光源出力

2/)|(|)(|

2/)|(|)(|

21

21

>−>>=

>+>>=

+

tetx

tetxix

ix

φ

φ2/)|||(|| 2211 baba tttt >>+>>>=Ψ

2/})(|)(|)(|)({| baba >−>+>−>= −−++ θφθφθφθφ

θa+π/2アリス光子検出 子a :|φ-(θa + π/2)>a⇒ 光

光子対の状態−θa−π/2

baaa >−−>+>=Ψ ++ )2/(|)2/(|| πθφπθφ ⇒ 光子b : |φ-(-θa - π/2)>b

ボブ測定

スイッチ

θb−θa−π/2

時間

(– θa – π/2) – (θb + π/2) = 0 だと同位相 ⇒ 光子検出

(–θa – π/2) – (θb + π/2) = πだと逆位相 ⇒ 光子検出せず

=

θa + θb = π ⇒ 光子検出

θa + θb = 0 ⇒ 光子検出せず

中間状態 ⇒ 検出したりしなかったり

検出確率

θa + θb

時間位置もつれ光子による秘密鍵生成

時間時間

アリス

A1

A2

{0, π/2}位相変調

θa

{0, π/2}位相変調

θb

もつれ光子源B1

B2

ボブ

θa + θb

同時検出確率

A1&B1A2&B2

0 π

A1&B2A2&B1

光子検出の相関関係

θa + θb

0 π/2 πA1 B1 B1/B2 B2A2 B2 B1/B2 B1

アリス検出

秘密鍵生成手順

①遅延位相を{0, π/2}でランダムに変調しながら光子を検出。

②光子検出時刻及びその光子に対する遅延位相を互いに通知。

③両方ともが真ん中の時刻で光子を検出し、

かつ、

遅延位相が θa + θb = 0 または πである検出結果からビット生成。

θa + θb = 0: {A1, B1}⇔「0」、 {A2, B2}⇔「1」

θa + θb = 0: {A1, B2}⇔「0」、 {A2, B1}⇔「1」秘密鍵

④上記以外の検出結果は無視。

θa + θb

0 π/2 πA1 B1 B1/B2 B2A2 B2 B1/B2 B1

アリス検出

安全性1 盗聴に対して-ビームスプリット攻撃-伝送信号を一部分岐

もつれ光源

アリス ボブ

イブ

分岐光子はアリス/ボブの受信光子とは無関係

盗聴にはならない

盗聴に対して-なりすまし攻撃-安全性2

伝送信号を全て受信し、受信結果に基づいて偽装信号を送信。

もつれ光源

アリス ボブイブ

イブ検出π π

E1 E2

θa = {0, π/2} θb = {0, π/2}

θe θbθa

A1

A2

B1

B2送信器

θe = {0, π/2}

イブがθe = 0 の時にE1で光子検出すると、 θa + θb

0 π/2 πA1 B1 B1/B2 B2A2 B2 B1/B2 B1

アリス検出アリス行き光子の位相差=πに確定。イブは位相差πの光子をボブに送信。

アリス/ボブがθa = θb = π/2 でこれを受信すると、どちらの検出器で光子検出するかはランダム。

ところが、θa + θb = πなので、アリス/ボブは確定的検出だと思い、鍵ビット生成。

盗聴発覚!ビット不一致

より実際的にはもつれパルス列鍵配送

{0, π/2} {0, π/2}

・ ・A1

A2 B2

B1・ ・ ・ ・・ ・

∆θa + ∆θb

0 π/2 πA1 B1 B1/B2 B2A2 B2 B1/B2 B1

光子検出の相関関係

∆θa + ∆θb = 0: {A1, B1} = 「0」, {A2, B2} = 「1」∆θa + ∆θb = π: {A1, B2} = 「0」, {A2, B1} = 「1」∆θa + ∆θb = π/2: 無視

鍵ビット生成

位相変調θa

位相変調θb

もつれ光源

∑ >>>=Ψk

bkak tt |||

アリス ボブ

・ ・

< 1 ペア/パルス

・ ・・ ・・ ・

・ ・・ ・ ・ ・・ ・

アリス検出

・時間領域の有効利用 → 高データレート

・位相変調が干渉計の外側 → 高安定動作

1.量子鍵配送とは

単一光子システムとその課題

2.量子もつれ光子による鍵配送

概略

ファイバ伝送向け量子もつれ状態

システム構成

3.実験

光ファイバによるもつれ光子発生

鍵配送実験

量子もつれ光子発生が何より基本

四光波混合 in 光ファイバポンプ光

(fp) 光ファイバ

ポンプ

シグナル

wavelength wavelength

シグナル光(fs) アイドラー光

(2fp – fs)

ポンプ光シグナル光

波長

..)exp()exp( cctiEtiE sspp ++ ωω

分極 波長L+++= EEEEEEP 302010 χεχεχε入力光電場

ファイバ光パラメトリック増幅

ポンプ

シグナル アイドラー

自然四光波混合

1542 1552 1562

10 d

B/d

iv

wavelength (nm)

ポンプ

ポンプ

波長 ポンプ

ポンプ

シグナル

アイドラー

シグナル光子とアイドラー光子は必ずペアで発生

かつポンプ光と同じ偏波

相関光子対: |1>s|1>i

これをタネに量子もつれ状態を作ろう

時間位置もつれ光子発生

アイドラーシグナルポンプ

時間 t2 t1

ポンプ光パワーにより光子対発生確率を調整

(2ペア発生確率) << (1ペア発生確率)

r2 << r(1 - r) r: 光子対発生確率

シグナル/アイドラーが1ペア発生した時に、それがt1なのかt2なのか不明。

シグナル/アイドラーがt1にいる状態とt2にいる状態との重ね合わせ状態

isi

is ttett >>+>>>=Ψ 2211 ||||| φφ = 2 ∆φp、 ∆φp:ポンプ光位相差

(∆φp = 0)

isis tttt >>+>>>=Ψ 2211 ||||| 時間位置もつれ状態

まずは、相関光子対発生

シグナル/アイドラー同時発生実験

シグナル(1547.9nm)

レーザ 強度変調

EDFA

光フィルタ

光フィルタ(FBG) 光フィルタ

(AWG)アイドラー(1554.3nm)

分散シフトファイバー

BPF時間間隔測定器1551.1nm

パルス幅: 100ps繰り返し: 1MHz

InGaAs-APD(4 MHz ゲート)

ポンプ抑圧比 > 100 dBシグナル損失 = 7.5 dBアイドラー損失 = 6.9 dB

検出効率6.2 % for シグナル8.6 % for アイドラー

測定結果

光子検出レート 時間間隔測定器の測定データ

シグナル計数

(相対値、

log)

偶発的計数

∆t = 0

検出数

∝(pu

mp)2

∝(pump)

時間

測定間隔

ポンプ光パワー (相対値、dB)同時計数と偶発計数との比

出力は、

(ポンプ光パワー)2に比例する成分

(ポンプ光パワー)に比例する成分

15

10

5

00 0.05 0.10 0.15 0.20 0.25

計数比

相関光子対

相関光子対発生、が相関の無い光子も発生 → 雑音光子

平均発生光子数 (/pulse)

雑音光子の正体は ?

線形成分の波長依存性

pump

光子計数

(lin.

)

1540 1550 1560

波長 (nm)

このスペクトル形状は、自然ラマン散乱光っぽい。

ラマン散乱格子振動(フォノン)による光の散乱現象

ストークス散乱 反ストークス散乱

格子振動(fL)

入射光(fo)

散乱光(fo – fL)

格子振動(fL)

散乱光(fo – fL)入射光

(fo)

格子振動は冷却すれば鎮静化(フォノン数小)

冷却すればラマン散乱は抑制

ファイバ冷却によるラマン散乱抑圧

DSF

強度変調

シグナル

時間間隔測定器

レーザ

液体窒素

アイドラー

平均発生光子数 (/pulse)0 0.05 0.10 0.15 0.20 0.25

30

25

20

15

10

5

0

冷却

室温

同時計数と偶発計数との比

雑音光子減少

計数比

時間位置もつれ光子発生実験

光増幅

レーザ 強度変調

光フィルタ

分散シフトファイバ(500m)

FBGAWG

Liq. Ni

アイドラーシグナル

BPF

30-km DSF∆L = 20cm ∆L = 20cm

1ns

pump

isis tttt >>+>> 2211 ||||

idlersignal

isis >−>+>−> −−++ )(|)(|)(|)(| θφθφθφθφ

=

導波路マッハツェンダ干渉計導波路マッハツェンダ干渉計

測定結果

液体窒素温度室温

同時計数(/ シグナルパルス)

visibility: 64.7 % visibility: 80.0 %

0

0.001

0.002

0.003

0.004

0.005

0.006

0.2℃0

0.001

0.002

0.003

0.004

0.005

0.006

0.2℃干渉計温度 for シグナル 干渉計温度 for シグナル

干渉計温度 for アイドラーは固定平均光子対数: : 0.06 /パルス with pump power of 140mW

測定結果

– (30km×2)-ファイバ伝送 –

500

400

300

200

100

0

10

8

6

4

2

00.2deg.

干渉計温度 for シグナル

×10-4

同時計数(/ シグナルパルス)

アイドラー計数

(cps)

では鍵配送実験もつれパルス列鍵配送システム

{0, π/2} {0, π/2}

・ ・A1

A2 B2

B1・ ・ ・ ・・ ・

∆θa + ∆θb

0 π/2 πA1 B1 B1/B2 B2A2 B2 B1/B2 B1

光子検出の相関関係

∆θa + ∆θb = 0: {A1, B1} = 「0」, {A2, B2} = 「1」∆θa + ∆θb = π: {A1, B2} = 「0」, {A2, B1} = 「1」∆θa + ∆θb = π/2: 無視

鍵ビット生成

位相変調θa

位相変調θb

もつれ光源

∑ >>>=Ψk

bkak tt |||

アリス ボブ

・ ・

< 1 ペア/パルス

・ ・・ ・・ ・

・ ・・ ・ ・ ・・ ・

アリス検出

鍵配送実験

レーザ 強度変調

光増幅

光フィルタ

ファイバ(500 m)

時間間隔測定器

位相変調

シグナル(1551.6nm)AWGフィルタ

位相変調

PLC マッハツェンダ干渉計(∆L = 20 cm)

もつれ発生

アイドラー(1550.6nm)

(λ:1551.1nm)

繰り返し: 1GHzパルス幅: 100ps

(*)

(*)

実験結果

2光子干渉

干渉計温度

23.5 24.0 24.5 25.0

0.002

0.001

0

無変調

共に(0-π/2)変調

同時計数(/ シグナル計数)

Visibility: 70 %

(deg.)

データレート:0.34 bps誤り率:8.6%

秘密鍵生成

追加

差動位相量子もつれ鍵配送

・・・ ・A1

A2 B2

B1・ ・・ ・もつれ光源

アリス ボブ

< 1ペア/パルス

位相変調が不要

鍵ビット生成

{A1, B1} = 「0」{A2, B2} = 「1」

盗聴に対して-なりすまし攻撃-安全性1

伝送信号を全て受信し、受信結果に基づいて偽装信号を送信。

イブ検出

イブ

光子列a

アリス ボブ

< 1光子/パルス< 1光子/パルス

もつれ光源

ビット誤り

・光子は稀に検出

・孤立2パルスを送信

光子列b

送信器

ビット誤り

盗聴に対して-光源置き換え攻撃-安全性2

もつれ光子列をブロックし、代わりに位相変調光を送信。

アリス ボブ

レーザ光源

位相変調 {0, π}

. . . . . . . .

イブ

もつれ光源

レーザ光:AとBで光子検出時刻は独立もつれ光:AとBで光子検出時刻に相関 同時検出レートに違い

盗聴発覚!

量子量子鍵配送システム鍵配送システム

-量子もつれ光子対-

1.量子鍵配送とは

単一光子システムとその課題

2.量子もつれ光子による鍵配送

概略

ファイバ伝送向け量子もつれ状態

システム構成

3.実験

光ファイバによるもつれ光子発生

鍵配送実験