被覆資材 - maff.go.jp...農PO展張時には、表裏を間違えない、こすれ...

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45 被覆資材 被覆資材 光環境調節資材 近紫外線カットフィルム 太陽光は紫外線から可視光、赤外線まで広くそ の波長が分布している。作物の光合成に必要なの は400~700nmの可視光に近い波長であるが、 380nmまでの近紫外線を透過しないフィルムは病 害や害虫の抑制効果がある。病害では灰色かび病、 害虫ではアザミウマ類、コナジラミ類などの侵入 防止効果があるとされる。 一方ミツバチなど訪花昆虫の活動を妨げるため、 イチゴ、メロンなどミツバチによる交配を行う場 合は使用できない。 マルハナバチについては訪花活動が安定するま でには時間がかかるとされており、360nm以下の 紫外線をカットする資材を使うようにする。 近紫外線強調フィルム ナスやイチゴなどは近紫外線を多く透過させてア ントシアニン色素による着色を促進させるため300nm 以上の近紫外線を透過率を高めた資材もある。 □被覆資材の利用目的  野菜栽培における被覆資材の利用目的は、安定 生産、多収、高品質化、病害虫の発生防止、農薬 散布削減などが上げられる。 本県は夏秋期の野菜生産が主体となっているが、 周年化を目指して、作期の拡大が進められており、各 種の被覆資材を効率的に活用する技術が重要である。 □被覆資材の区分  被覆資材は用途から分類すると、ハウスやトン ネルの外張り資材、内張り資材、マルチ、遮光、 べたがけ、防虫、防風がある。資材の素材からは 農ビ、農ポリ、農PO、不織布等の分類がなされる。 農業用塩化ビニルフィルム(農ビ) 塩化ビニル樹脂が原料で、可塑剤が混合され柔 軟性がある。様々な添加剤を混合することで復元 性、光線選択性、防塵性、防霧性、耐候性をもつ ものがある。 農業用ポリエチレンフィルム(PE・農ポリ) 農ビフィルムよりも赤外線の透過が大きく保温 性が劣るため外張り資材として使用は少なく、マ ルチとしての利用が最も多く、トンネルや内張り 資材としても利用される。 農業用エチレン酢酸ビニル共重合体フィルム(EVA・農サクビ) 農ポリと農ビの中間の保温性を持ち、トンネル 用途や耐風性を要求されるハウス用途に使用され てきたが、現在は農POに換わっている。 農業用ポリオレフィン系特殊フィルム(農PO) 農ポリや農サクビと同じポリオレフィン系原料 を使い、農ビに置き換わる性能を目的に開発された。 軽量、風に強い、耐寒性大、汚れべたつきが少 なく透明性が長期に保たれる、保温性向上、長期 耐久性、広幅フィルムであることが特徴である。 欠点は農ビに比べ硬く、伸縮性がないため擦れ に弱い。しかし農POに適合した固定具の開発や 耐風性が強いためバンドレスにすることも可能で 外張り資材として普及している。 農PO展張時には、表裏を間違えない、こすれ に弱いので引きずらない、添加されている光安定 剤が酸に弱いので硫黄くん蒸、硫黄系薬剤の使用 はさけることなどに留意する。 表-1 素材による被覆資材の分類

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45被覆資材

被覆資材

光環境調節資材

近紫外線カットフィルム

太陽光は紫外線から可視光、赤外線まで広くそ

の波長が分布している。作物の光合成に必要なの

は400~700nmの可視光に近い波長であるが、

380nmまでの近紫外線を透過しないフィルムは病

害や害虫の抑制効果がある。病害では灰色かび病、

害虫ではアザミウマ類、コナジラミ類などの侵入

防止効果があるとされる。

一方ミツバチなど訪花昆虫の活動を妨げるため、

イチゴ、メロンなどミツバチによる交配を行う場

合は使用できない。

マルハナバチについては訪花活動が安定するま

でには時間がかかるとされており、360nm以下の

紫外線をカットする資材を使うようにする。

近紫外線強調フィルム

ナスやイチゴなどは近紫外線を多く透過させてア

ントシアニン色素による着色を促進させるため300nm

以上の近紫外線を透過率を高めた資材もある。

□被覆資材の利用目的 野菜栽培における被覆資材の利用目的は、安定

生産、多収、高品質化、病害虫の発生防止、農薬

散布削減などが上げられる。

本県は夏秋期の野菜生産が主体となっているが、

周年化を目指して、作期の拡大が進められており、各

種の被覆資材を効率的に活用する技術が重要である。

□被覆資材の区分 被覆資材は用途から分類すると、ハウスやトン

ネルの外張り資材、内張り資材、マルチ、遮光、

べたがけ、防虫、防風がある。資材の素材からは

農ビ、農ポリ、農PO、不織布等の分類がなされる。

農業用塩化ビニルフィルム(農ビ)

塩化ビニル樹脂が原料で、可塑剤が混合され柔

軟性がある。様々な添加剤を混合することで復元

性、光線選択性、防塵性、防霧性、耐候性をもつ

ものがある。

農業用ポリエチレンフィルム(PE・農ポリ)

農ビフィルムよりも赤外線の透過が大きく保温

性が劣るため外張り資材として使用は少なく、マ

ルチとしての利用が最も多く、トンネルや内張り

資材としても利用される。

農業用エチレン酢酸ビニル共重合体フィルム(EVA・農サクビ)

農ポリと農ビの中間の保温性を持ち、トンネル

用途や耐風性を要求されるハウス用途に使用され

てきたが、現在は農POに換わっている。

農業用ポリオレフィン系特殊フィルム(農PO)

農ポリや農サクビと同じポリオレフィン系原料

を使い、農ビに置き換わる性能を目的に開発された。

軽量、風に強い、耐寒性大、汚れべたつきが少

なく透明性が長期に保たれる、保温性向上、長期

耐久性、広幅フィルムであることが特徴である。

欠点は農ビに比べ硬く、伸縮性がないため擦れ

に弱い。しかし農POに適合した固定具の開発や

耐風性が強いためバンドレスにすることも可能で

外張り資材として普及している。

農PO展張時には、表裏を間違えない、こすれ

に弱いので引きずらない、添加されている光安定

剤が酸に弱いので硫黄くん蒸、硫黄系薬剤の使用

はさけることなどに留意する。

表-1 素材による被覆資材の分類

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表-2 主な農ビ資材

表-3 主な紫外線カットフィルム

表-4 主な近紫外線透過型農ビ

表-5 主な農PO資材

表-6 主な農PO資材(中長期展張)

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マルチ資材マルチは、地温調節・土壌水分の保持・雑草防

除・土壌浸食防止・肥料成分の流亡抑制・土の跳

ね返り抑制などの効果がある。

マルナ下の地温は、主に資材の光透過率と反射

率で決まる。一般には無被覆・白・シルバー・

黒・緑・透明の順に地温が高くなる。

光透過率の高い透明マルチが最も地温を上げる効

果は高いが、雑草が生えやすい。黒マルチは除草効

果は高いが低温時の地温は透明マルチに比べてやや

劣る。グリーンマルチは双方の中間的性質を持ち、

雑草が生えない程度に、光透過を抑制している。

本県でのマルチの利用は夏秋野菜の定植後の活

着、生育促進が主な目的となる。定植期の早いス

イカ、メロン、ソラマメでは透明マルチが、トマ

ト、キュウリでは黒マルチが使われる事例が多い。

夏季の高温期を経過する作物では、地温を下げ

る目的で、白マルチやシルバーマルチが利用され

る。白・シルバーマルチは、反射することによっ

て地温は下がるが、蒸発で熱が逃げないので、湿

った露地に比べて上昇する。白、シルバーマルチ

は反射光によってアブラムシの行動を攪乱するた

めウイルス病の予防対策にもなる。

表-7 主なマルチ資材