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第48回 学部 学科 法学 Contents 概説 中央大学 法学部  遠藤 研一郎 教授 ………………………………… p59 社会の激しい変化に対応するため法学部での教育は 「解釈論」だけでなく「立法論」へも 入試情報 ………………………………………… p62 いじめと人権 …………………………………… p64 中高生にとって身近な社会問題である「いじめ」に 憲法の「人権」の立場からアプローチ 岡山大学 中富 公一 名誉教授 民法の成年年齢引下げ ……………………… p66 消費者法の規定を見直すことで 成年年齢引下げに伴うリスクに対応 法政大学 大澤 彩 教授 情報法 ……………………………………………… p68 インターネットや ICTの発展で情報の量と質が 飛躍的に増大し、さまざまな問題が表面化 一般の人も情報の発信者として 表現の自由が身近な問題に 九州大学 成原 慧 准教授 卒業後の進路 …………………………………… p70 公務員などを中心に幅広く就職 法科大学院、予備試験に加え 新たな法曹養成コースも誕生 高校生が考えたい「法」テーマ ………… p73 法の専門家である法曹(裁判官、検察官、弁護士)は、伝 統的に、大学の法学部で育成されている。2004年に法科大 学院(ロースクール)制度が創設されたが、2020 年度からは〔学 部+法科大学院〕 の5年間で法曹養成をする仕組みが取り入 れられようとしており、法曹養成に果たす法学部の役割の重要 性が再認識されている。 また、日本の法学部では、卒業生の進路は法曹だけではなく、 その他の法律専門職、公務員、民間企業など多様であり、よ り広く、社会で必要とされる法的な考え方(リーガルマインド)を 養成する場としての役割も求められている。 だが、多くの高校生は、法の存在を日常生活のなかで意識 する機会は少なく、大学で法について学ぶと言われても、具体 的なイメージが湧かないのが実情だろう。そこで今回は、 概説 において、法の意味や法を学ぶ意義、大学における法学教育 の実情などを紹介した上で、各論において、高校生に身近なト ピックスをいくつか取り上げ、日常生活と法との関連性を考えて いきたい。 Kawaijuku Guideline 2019.11 58

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  • 注目の学部・学科

    第48回

    学部・学科

    注目の

    法学

    Contents

    ◆概説 中央大学 法学部   遠藤 研一郎 教授 …………………………………p59社会の激しい変化に対応するため法学部での教育は「解釈論」だけでなく「立法論」へも

    ◆入試情報 …………………………………………p62

    ◆いじめと人権 ……………………………………p64

    中高生にとって身近な社会問題である「いじめ」に憲法の「人権」の立場からアプローチ岡山大学中富 公一 名誉教授

    ◆民法の成年年齢引下げ ………………………p66

    消費者法の規定を見直すことで成年年齢引下げに伴うリスクに対応法政大学大澤 彩 教授

    ◆情報法 ………………………………………………p68

    インターネットやICTの発展で情報の量と質が飛躍的に増大し、さまざまな問題が表面化一般の人も情報の発信者として表現の自由が身近な問題に九州大学成原 慧 准教授

    ◆卒業後の進路 ……………………………………p70

    公務員などを中心に幅広く就職法科大学院、予備試験に加え新たな法曹養成コースも誕生

    ◆高校生が考えたい「法」テーマ …………p73

     法の専門家である法曹(裁判官、検察官、弁護士)は、伝

    統的に、大学の法学部で育成されている。2004年に法科大

    学院(ロースクール)制度が創設されたが、2020年度からは〔学

    部+法科大学院〕の5年間で法曹養成をする仕組みが取り入

    れられようとしており、法曹養成に果たす法学部の役割の重要

    性が再認識されている。

     また、日本の法学部では、卒業生の進路は法曹だけではなく、

    その他の法律専門職、公務員、民間企業など多様であり、よ

    り広く、社会で必要とされる法的な考え方(リーガルマインド)を

    養成する場としての役割も求められている。

     だが、多くの高校生は、法の存在を日常生活のなかで意識

    する機会は少なく、大学で法について学ぶと言われても、具体

    的なイメージが湧かないのが実情だろう。そこで今回は、概説

    において、法の意味や法を学ぶ意義、大学における法学教育

    の実情などを紹介した上で、各論において、高校生に身近なト

    ピックスをいくつか取り上げ、日常生活と法との関連性を考えて

    いきたい。

    Kawaijuku Guideline 2019.1158

  • 法 学第48回

    概説

    情報法

    九州大学

    卒業後の進路

    成年年齢引下げ

    法政大学

    いじめと人権

    岡山大学

    入試情報

    コラム

    社会の激しい変化に対応するため法学部での教育は「解釈論」だけでなく「立法論」へも

    私たちの生活のすべてに関わる身近な存在である「法」

     法(法律)は、簡単にいえばルールだ。「社会あるとこ

    ろに法あり」といわれるように、人が2人以上存在すれば、

    必ずルールが生まれる。ただし、ルールにもいろいろある。

    社会常識もルールの一種であり、道徳もルールに数えられ

    る。宗教的な教えも、その宗教を信じる人たちにとっては

    守るべきルールとなる。では、法はどんな性質を持ったル

    ールなのか。

     「さまざまなルールの中で、法の最大の特色は、強制力

    を持っている点です。最終的には、国家権力が強制的に

    人々にルールを守らせることになるからです。人を殺して

    はいけないというルール(刑法)を破れば、裁判を経て刑

    罰が科されるし、売買契約をしたので約束した商品を引き

    渡さなければならないというルール(民法)を守らなけれ

    ば、やはり裁判で賠償が命じられます。国家が人々の行動

    を強制できるのが法というルールなのです」と、中央大学

    法学部の遠藤研一郎教授は説明する。

     考えてみれば、我々は生まれる前からずっと法の下で生

    きている。母の胎内にいるときから死ぬまで、法に守られ、

    常に人としての権利や自由が保障されている。選挙や労

    働、結婚や子育て、さらに日々の買い物や乗り物に乗るこ

    となど、あらゆる営みが法にかかわっている。これほど身

    近であるにも関わらず、法にはどことなく縁遠いイメージ

    があるのはなぜだろうか。遠藤教授は、その理由について

    次のように推測する。

     「法を意識するのは、殺人事件や詐欺事件など犯罪に関

    する場面が多いため、法は悪い人を罰するものというイメ

    ージが強く、『自分には関係ない』と思ってしまうからで

    はないでしょうか。また、学校での法教育の在り方も影響

    しているかもしれません。人や社会は法に従って動いてい

    るのに、それを意識させるような教育が、決して十分では

    ないような気がします。特に学校教育では、道徳的な面が

    強調されすぎている可能性も考えられます。もちろん、人

    間形成のために道徳教育はとても大切です。また、『人と

    してどうか』という世界の延長線上に、『法としてどうか』

    という世界がある場合も多く、両者は相当程度重なり合っ

    ています。しかし同時に、「そういう行為は、(道徳的にど

    うかというレベルではなく)法的なレベルでどうなのか」

    ということを強調する教育も、法への理解を進めるために

    は必要である気がします」

     世界に目を転じれば、子どものうちから主権者教育や消

    費者教育が盛んに行われている国もある。日本でも、例え

    ば2009年に「法と教育学会」が創設され、幼児教育から

    初等・中等・高等教育、さらには生涯教育の各段階にお

    ける法の教育についての議論や研究が行われている。ま

    た、教育現場でも、成年年齢が18歳に引下げられること

    もあり、教員ごとで法という視点を取り込む授業や教材の

    研究がなされている。しかし日本全体としては、法教育の

    仕組みが十分とは言えず、これからの盛り上がりに期待す

    るというのが現状だ。

    法体系の根幹をなす「六法」を中心に「法の解釈」を学ぶ法学部での教育

     中央大学法学部では、<表>のような流れで教育を行っている。遠藤教授によれば、「どの法学部でも、それほ

    ど変わらないはず」とのこと。

     まず、1~2年次の早い段階では法哲学や法制史などの

    基礎法学と「六法」を中心とする法律を学ぶ。「六法」と

    は憲法、民法、刑法、民事訴訟法、刑事訴訟法、商法の

    6つを合わせた呼び名で、これに行政法を加えて「基本

    七法」という場合もあるが、これらが日本の法体系の根幹

    をなしている。3年次以降は、ゼミナール(中央大学の場

    合は『専門演習』)などに所属して、自分の興味や進路に

    合わせて、先端科目や発展科目を選択していく。現在、日

    本には憲法も含めて2,000本弱の法律が存在しており、大

    学でその全てを学ぶことはできないため、例えば労働問題

    概 説

    中央大学 法学部 遠藤研一郎 教授

    Kawaijuku Guideline 2019.11 59

  • 注目の学部・学科

    に関心があれば労働法など、いくつかの分野の法律に絞

    って学んでいく学生が多い。

     なお、遠藤教授によれば、日本の法学部での法教育の

    中心は、伝統的に、「解釈論」だという。

     「日本では、法律は基本的に、条文で書かれています。し

    かし、その条文は曖昧で抽象的である場合がほとんどです。

    なぜなら、1つの条文で多くのケースに対応できるように

    したいからです。ですから、条文の言葉は、それぞれのケ

    ースに合わせて解釈していく必要があります」(遠藤教授)

     例えば民法709条では、「不法行為(他人を傷つける、他

    人の財産を侵害するなど)を行うと損害賠償責任が生じ

    る」としており、714条では「不法行為を行った人に責任

    能力がない場合は、その人の『法定監督義務者』が代わり

    にその責任を負う」と規定されている。しかし、「責任能

    力」がないとはどういう状態か、「法定監督義務者」が誰

    かは、条文には一切書かれていない。そのため、一つひと

    つの事例について、過去の判例や学説に照らしながら、誰

    が「法定監督義務者」になるのか

    を解釈することになる。

     例えば、2007年に重度の認知症

    の男性が踏切に立ち入り、列車に

    はねられて亡くなった事故では、列

    車の運休や遅延などの損害が生じ

    たとして、JR東海が男性の妻や長

    男などを相手に損害賠償請求を起

    こした。重い認知症のため本人に

    は責任能力がなく、その家族に監

    督義務があると考えられたからだ。

    一審では長男と妻にほぼ全額、二

    審では妻に半額程度の支払いが命

    じられたが、最高裁判所ではこの

    2人の被告は「法定監督義務者」

    ではないとの判決が出された。

     また、社会の変化に応じて、法

    の解釈も変わっていく。例えば、

    不倫が原因の離婚裁判では、従来

    は離婚の原因を作った側(有責配

    偶者)からの離婚請求は認められ

    なかった。有責配偶者が自ら離婚

    を請求するのは、人道上認められ

    ないという理由からだ。しかし近

    年は、婚姻関係が破綻している場

    <表>中央大学法学部法律学科授業科目一覧(専門教育科目を抜粋)

    (中央大学法学部ホームページより作成)

    授業科目区分 1年次 2年次 3年次 4年次中区分 小区分 科目 科目 科目 科目

    基本科目

    基本科目A

    法学入門 債権総論憲法1(人権) 刑法総論民法概論・総則A民法総則B・物権総論

    基本科目B

    法曹論 法社会学1 法社会学2法曹演習 ローマ法1 ローマ法2大学と社会 法思想史1 法思想史2

    英米法概論1 英米法概論2外国法概論1 外国法概論2法情報調査

    コース科目

    基幹科目

    憲法2(統治) 行政法総論 行政救済法債権各論 担保物権刑法各論 会社法1 会社法2企業法総論 民事訴訟法 刑事訴訟法企業取引法民事裁判法入門実定法基礎演習A実定法基礎演習B

    展開科目

    家族法 環境法1 環境法2国際法総論1 租税法1 租税法2国際法総論2 有価証券法 保険法

    運送法 経済法(独占禁止法)経済法(経済規制法)知的財産法1 知的財産法2国際私法労働法(集団的労働法)労働法(個別的労働法)社会保障法1 社会保障法2民事執行・保全法 倒産処理法企業犯罪と法 犯罪学刑事政策 法哲学日本法制史 西洋法制史インターンシップⅣ

    憲法特講 民法特講刑法特講 商法特講民事訴訟法特講 刑事訴訟法特講行政法特講実定法特講 法曹特講

    演習・講読科目

    演習 導入演習1 基礎演習1 専門演習A1 専門演習B1導入演習2 基礎演習2 専門演習A2 専門演習B2外書講読

    外書講読(基礎)1 外書講読1外書講読(基礎)2 外書講読2

    合は、有責配偶者から無責配偶者へと相応の慰謝料を支

    払うことで、有責配偶者からの離婚請求を認める方向へと

    向かっているという。

     「法曹には法を運用する能力が求められます。どのよう

    な法があり、また、それがどのように解釈されているのか

    を理解しなければなりません。そのため、法曹養成をめざ

    す伝統的な法学部の教育は、さまざまな事件について、裁

    判所がどのような根拠に基づいて判決を下したのか、判例

    を一つひとつ紐解きながら、丁寧にその解釈を追っていく

    ような教育に、力を入れてきました」(遠藤教授)

    伝統的な「解釈論」だけでなく「立法論」を中心に教育する大学も

     とはいえ、最近では社会の変化があまりに激しく、解釈

    の変更だけでは実情に合わない場合も生じている。そこ

    で、新しい社会の姿に合わせて法を作っていくことが大切

    だと考えられるようになってきた。そのため現在の法の世

    Kawaijuku Guideline 2019.1160

  • 法 学第48回

    概説

    情報法

    九州大学

    卒業後の進路

    成年年齢引下げ

    法政大学

    いじめと人権

    岡山大学

    入試情報

    コラム

    的は、「リーガルマインド」(法的な考え方)の養成とされ

    ている。この点について遠藤教授は、次のように説明する。

     「人によってさまざまな解釈があるでしょうが、あえて

    共通項を見出すとすれば、『リーガルマインド』とは、『論

    理的な思考能力』といえるでしょう。法が扱うのは、絶対

    的な正解がない問題です。どちらにも応分の理があり、そ

    れぞれの価値が対立しているような問題です。しかも、ど

    の問題もまったく同じものはありません。したがって、自

    然科学のような、再現可能性を重んずる論証は不可能で

    す。ここで求められるのは、しっかりとした根拠に基づい

    て論理を組み立て、言葉を尽くして周囲の人を説得できる

    論証能力であり、それこそが『リーガルマインド』といえ

    るでしょう」(遠藤教授)

     法学部で学ぶことで身につけた論理的な思考能力は、社

    会のあらゆる場面で役立つ。新規事業の立ち上げや、商

    品開発、販売戦略の立案など、ほとんどのビジネスは人に

    きちんと説明し、周りの人を巻き込むことで前に進んでい

    く。法学部が“つぶしがきく”といわれているのは、こう

    した論理的な思考能力を期待された上での評価であろう。

    最後に、法学部をめざす高校生へのメッセージを求める

    と、遠藤教授は次のように答えてくれた。

     「模擬授業などで高校を訪問すると、必ずといっていい

    ほど高校生から『法学部では法律の条文を丸暗記するの

    ですか』と質問を受けます。答えは『ノー』です。重要

    な条文は、勉強の結果として覚えてしまうこともあるでし

    ょうが、必要なら条文を参照すれば済む話ですから、丸暗

    記する必要は全くありません。先述のように、法学部は、

    社会のなかにどんなルールがあったら、より良い社会にな

    るのかを真剣に考える場所だということを、ぜひ覚えてお

    いてください。法学部で学ぶにあたって特殊な能力は必要

    ありません。法学部をめざす高校生には、『人の痛みを理

    解する』などの普通の『感受性』を磨いてきていただきた

    いと思います。その上で、『社会に目を向ける』ことを心

    がけてください。法律は抽象的に書かれていますが、いず

    れも社会の中で生きています。汎用性のある抽象的な思考

    をすることはもちろん大切なのですが、同時に、『社会を

    変えたい』という情熱も必要です。高校生の皆さんには、

    社会で起きている出来事に目を向けながら、高校の勉強や

    活動に全力投球して、たくさんの青春を味わったうえで法

    学部に入学してほしいです」

    界は、「大立法化時代」(遠藤教授)に突入しているという。

    これまでは解釈で社会に合わせてきたが、これからは社会

    に合わせて積極的に法を作ろうというわけだ。

     「法は、最初からあるものではなく、我々人間が、時代

    の流れに合わせて作っていくものです。だから、あるべき

    法とは何かを、常にその時々の社会に照らし合わせて、探

    究する必要があります。本来ならば、そういう探究を行う

    のが大学の法学部の重要な役割であるはずです。こうした

    流れに呼応するように、法学部の教育も変わってきていま

    す」(遠藤教授)

     そこで近年では、社会の問題を解決するためにどのよう

    なルールを設けるべきかといった「立法論」を中心に教育

    を行う大学も見られる。遠藤教授によれば、「解釈論」ば

    かりを学習することには弊害もあるという。

     「法曹や法律関係の資格試験をめざす学生の一部には、

    試験で出題される法律の内容や、その解釈の暗記ばかり

    に力を入れ、現実の社会問題にあまり目を向けていない傾

    向も見られます。例えば、建物の賃貸借契約を学習する

    時に、民法の賃貸借契約に関する条文とその解釈の理解

    だけに力を入れても本質を理解したことになりません。経

    済的困窮者がどのように居住空間を確保しているのかとい

    う社会問題にも関心の目を持ってほしい。日本が経済大

    国でありながら相対的貧困率が高いこと、特に女性の相対

    的貧困率の高さが問題になっていること、そもそも『貧

    困』とはどのような状態で、どのような人が貧困状態に置

    かれているのかなど、賃貸借契約を学習する前提となる社

    会問題があって、それと賃貸借に関する法がどのように結

    びついているのかが大切なのです。本来の法学部生は、

    『あるべき社会の姿』や『解決したい社会問題』を持ち、

    その実現・解決に向けて、法の在り方を考えていく人であ

    るはずです」(遠藤教授)

     例えば、中央大学法学部の国際企業関係法学科には、

    「現代社会分析」という科目がある。この科目で学生は、

    既存の条文を出発点に据えるのではなく、世の中にある

    「問題」から考え始めて、その問題の解決や予防にふさわ

    しい法はどのようなものかを、学生が問い、答える。2016

    年の科目設置以来、東日本大震災をめぐる諸問題を、現

    地調査をしながら考えている。

    価値が対立する場面で論理的に説明できる力(リーガルマインド)を育成

     学生が多様な出口(進路)を持つ法学部での教育の目

    Kawaijuku Guideline 2019.11 61

  • 注目の学部・学科

    志願者数 倍率(志願者÷合格者) 志願者数 倍率(志願者÷合格者)

    2.8

    2.6

    1.5

    2.0

    2.5

    3.0

    9.5

    10.5

    11.5

    12.5(千人) (万人) 私立大

    10,474

    11,21311,432

    11,18311,665

    2.4 .2.5

    2.6

    2015 2016 2017 2018 2019

    (倍) (倍)

    184,179

    201,443 209,011

    225,954 237,178

    2.8

    3.1

    3.6

    4.2

    4.4

    2.0

    3.0

    4.0

    5.0

    10

    15

    20

    25

    2015 2016 2017 2018 2019

    国公立大

    <図表1>法学系 志願者数・倍率の推移

    のボーダー得点率を、縦軸に2次試験ボーダー偏差値をとり、右上に行くほど入試難易度が高くなる。ボーダー得点率・ボーダー偏差値とも幅広く分布している。 <図表3>は2019年度入試における私立大一般方式のうちメインとなる方式の難易度を表したものである。大学数が最も多いボーダー偏差値50.0を中心に35.0~70.0まで幅広い。最も難易度が高いのは慶應義塾大(法)でボーダー偏差値は70.0である。次いで、上智大(法)、早稲田大(法)がボーダー偏差値67.5と続いている。

    国公立大のセンター試験は5教科7科目が基本2次試験は英語・国語必須の大学が目立つ

     続いて、入試科目の特徴をみていこう<図表4>。国公立大前期日程のセンター試験科目は、7科目を課す区分が75%を占めている。7科目を課すほとんどの区分は文型(外・国・地公2必須、数・理から3)で、文系・理系の両方から受験できる選択型(外・国必須、数・理・地公から5)は三重大(人文-法律経済)のみである。一方、3科目以下で受験できる大学は限られており、東京都立大(法)、北九州市立大(法)の2大学のみである。 前期日程の2次試験科目については、東京大(文科一類)、一橋大(法)、京都大(法)が4教科を課すものの、2教科での受験が可能な大学が4割を占める。その多くは英語・国語を必須としている。1教科のみで受験が可能な大学も約3割ある。また、前期日程で小論文を必須とする大学は新潟大(法)、名古屋大(法)、北九州市立大(法)であり、北九州市立大は小論文のみで受験が可能である。後期日程を実施する大学では、英語を課す山形大(人文社

    国公立大、私立大とも志願者が増加、倍率も上昇

     法学(法律学)は、大学の法学部法学科・法律学科のほか、法政経学部や人文社会科学部の法学系学科、経済学部経済法学科などで学ぶことができる。今回は、河合塾の分類で『法・法律』に該当、もしくは法学系を一括募集する国立大24校、公立大4校、私立大86校の学部・学科について分析する。 <図表1>は法学系の過去5年の志願者数と倍率(志願者÷合格者)の推移である。2015年度以降、大学生の好調な就職状況を背景とした文系学部人気の影響を受け、法学系も志願者が増加した。国公立大前期日程の志願者は5年間で1千人以上増加し、2019年度入試は過去10年で最も多い志願者となった。一方、募集人員は2016年度入試から4年連続で減少した結果、倍率は上昇し2019年度入試では2.8倍となった。 私立大の状況に目を向けると、国公立大同様、この5年で志願者は増加した。2019年度入試では23万人を超え、近年で最も多い志願者を集めた。志願者の増加と近年の都市部を中心とした定員抑制に伴う合格者の絞り込みによって倍率は年々上昇し、2019年度入試は私立大全体の4.2倍を超え、4.4倍となった。

    入試難易度国公立大、私立大とも幅広く分布

     次に、入試難易度についてみていこう。<図表2>は2019年度入試の国公立大前期日程の難易度を表している。横軸に大学入試センター試験(以下、センター試験)

    入試情報  法学・法律学は、法学部の法学科や法律学科などで学ぶことができる。ここでは、河合塾の分類で「法学一括」「法・法律」の学部・学科の志願動向や入試科目の特徴について紹介する。

    ※河合塾調べ 国公立大は前期日程、私立大は一般入試(一般+センター)で集計

    Kawaijuku Guideline 2019.1162

  • 法 学第48回

    入試情報

    情報法

    九州大学

    卒業後の進路

    成年年齢引下げ

    法政大学

    いじめと人権

    岡山大学

    概説

    コラム

    <図表2>国公立大法学系(前期日程) 入試難易度

    <図表4>国公立大法学系(前期日程)センター試験必要科目数の割合

    (ボーダー偏差値)

    (ボーダー得点率(%))

    45.0

    50.0

    55.0

    60.0

    65.0

    70.0

    55 60 65 70 75 80 85 90 95

    京都 一橋

    大阪

    東京

    名古屋 神戸

    東京都立(旧首都大学東京)東北

    九州

    北海道大阪市立

    金沢千葉

    静岡熊本三重

    広島

    岡山信州富山 山形

    香川鹿児島

    新潟島根

    北九州市立佐賀長崎県立

    <図表5>私立大法学系(一般方式)必要教科・科目数の割合

    会科学-総合法律・地域公共政策・経済マネジメント)を除いては、小論文を課すケースが目立つ。

    センター試験の配点が高い大学が多い

     国公立大前期日程のセンター試験と2次試験の配点に注目すると、全体の75%にあたる区分は2次試験よりセンター試験の配点が高い。難関大について見ると、東京大(文科一類)は2次試験が総合点の80%(センター試験110点、2次試験440点)を占めている。名古屋大(法)はセンター試験の比率が高い(センター試験900点、2次試験600点)。名古屋大は、法学部を除くすべての学部で2次試験の比率が高いなか、法学部のみが異なる設定となっている。また、大阪大(法)はセンター試験と2次試験の比率が同じである。

    私立大の一般方式は2~3教科が主流

     最後に、私立大の入試科目の特徴をみていこう<図表5>。一般方式では、多くの区分が2または3教科で受験が可能である。3教科を課す大学の7割は英語・国語必須、数学・地歴公民から1科目を選択するパターンである。4教科を課すのは中央大(法)と東洋大(法)の2大学だ

    ※ボーダー得点率・ボーダー偏差値は2019年度入試のもの※大学内に複数の募集区分がある場合、ボーダー得点率・ボーダー偏差値は平均を使用※北九州市立大は学科試験を課さず、2次偏差値を設定していないため、センター試験のボーダー得点率のみを示している

    ※2020年度入試 一般方式の教科・科目数を集計 科目パターンが複数ある場合はそれぞれで集計

    4教科4科目2%

    3教科3科目60%

    2教科2科目34%

    1教科1科目4%

    が、両大学とも3教科方式も設けており、募集人員も大半が3教科方式である。

    7科目文型:外・国・地公2必須、数・理から37科目選択型:外・国必須、数・理・地公から5※分類は河合塾による

    ※2020年度入試 前期日程のセンター試験科目数を集計 科目パターンが複数ある場合はそれぞれで集計

    7科目文型72%

    4科目型3%

    7科目選択型3%

    6科目型6%

    5科目型10%

    3科目型6%

    <図表3>私立大法学系(一般方式) ボーダー偏差値ボーダー偏差値 大学(学部-学科)

    70.0 慶應義塾67.5 上智、早稲田62.5 青山学院、中央、法政、明治、立教、同志社60.0 学習院、國學院、成蹊、立命館57.5 成城、専修、東洋、明治学院、関西、近畿、関西学院55.0 駒澤、東京経済、日本、立正、中京、南山52.5 愛知、京都産業、京都女子、龍谷、甲南、西南学院

    50.0獨協、亜細亜、国士舘、大東文化、東海、武蔵野、神奈川、愛知学院、名城、大阪経済(経営-ビジネス法)、大阪経済法科、大阪工業(知的財産-知的財産)、摂南、福岡

    47.5 創価、帝京、名古屋学院、神戸学院、岡山商科、広島修道、松山45.0 北海学園、東北学院、関東学院

    42.5 北星学園(経済-経済法)、流通経済、中央学院、大阪学院、桃山学院、帝塚山40.0 駿河台、日本文化、山梨学院、常葉37.5 白鷗、桐蔭横浜、沖縄国際

    35.0 札幌(地域共創-法学)、札幌学院、平成国際、高岡法科、朝日、名古屋経済、久留米、宮崎産業経営、沖縄

    ※ボーダー偏差値は2019年度入試のもの ※主な大学のボーダー偏差値を抜粋、各大学ともメインとなる入試方式の難易度を表す※法学部以外は学部・学科名を表示

    Kawaijuku Guideline 2019.11 63

  • 注目の学部・学科

    岡山大学 法学部いじめと人権

    中富

    公一

    名誉教授

    いじめは人権侵害であると定義することで解決方法が見えてくる

     私がいじめの問題に取り組むよう

    になったのは、自分の子どもが、い

    じめを契機として不登校になってか

    らです。いじめの事実を確認し問題

    を解決するため、学校の先生方に相

    談してみましたが、どうにも話が噛

    み合いませんでした。同時に、いじ

    めに関する文部科学省の文書や、い

    じめ事件に関する過去の裁判例など

    も調べてみたところ、いじめに対す

    るイメージが、人によって大きく異

    なることがわかりました。そこで、

    「いじめとは何か」を定義づけなけれ

    ば、いじめ問題の解決に向けた議論

    もできないと考えました。

     いじめの定義に取り組む上で、大

    きな示唆を受けたのが、岡山大学法

    学部の小畑隆資・元教授(日本政治

    史)の論文です。小畑先生は、「いじ

    めとは、生命・肉体・自由・財産の

    侵害、すなわち人権侵害である」と

    提唱されていました。この論文に刺

    激を受けて、私も、憲法の立場から、

    いじめを定義することにしました。

     定義化に向けての検討の詳細な流

    れは省略しますが、私は小畑先生の

    論なども参考に2006年にいじめの

    定義を発表。その後、修正を加えて、

    2015年の著書『自信をもっていじ

    めにNOと言うための本 憲法から

    考える』(日本評論社)では、以下の

    ように定義しました。

     「いじめとは、特定の者が、集中的

    かつ継続的に、悪戯または人権侵害

    (生命、身体、自由、財産、名誉、プ

    ライバシー等への攻撃)を受け、あ

    るいは、悪意ある仲間はずれにより、

    所属する集団からコミュニケーショ

    ンの相手として真面目に扱われる権

    利を剥奪され、その人格を否定され

    る行為である」

     この定義のポイントは、「人格に

    対する攻撃」です。当初、私は、暴

    行罪、脅迫罪、侮辱罪、名誉棄損罪

    などの「犯罪」がなければ、いじめ

    とはいえないと考えていました。け

    れども、学生にそう言うと、大きな

    反発に合いました。「先生には、『し

    かと』や、ネットの嫌がらせの辛さ

    が分かっていない」と。大人になれ

    ば、転職したり余暇の活動を変えた

    りすることで抵抗することができま

    すが、学校という特定の人間関係の

    中で過ごすしかないため、中高生や

    大学生の場合はそれが難しく、無視

    は辛い状況です。過去の大審院判例

    を振り返ると、明治時代には「村八

    分」が違法とされていました。それ

    らも参考にしながら、いじめの本質

    を「人格に対する攻撃」と捉え直し、

    犯罪が伴わない行為も含めて定義す

    ることにしました(注1)。

     このように、いじめが人権を侵害

    する行為であると定義すれば、根源

    的な解決方法も検討できるようにな

    ります。「いじめられている子どもが、

    これはいじめであると確信できる」

    →「いじめている相手が悪いと判断

    でき、自分を責めなくてよくなる」

    →「相手に非があるなら、助けを求

    めるなり、逃げるなり、何らかの行

    動を起こせる」といった流れで、い

    じめに抵抗できるようになるのです。

    いじめ問題の事例を通じて法律のさまざまな考え方や知識を学ぶ

     いじめは、大学生が人権問題を考

    えるきっかけになる問題だと思い、

    私は2018年度から岡山大学で、選

    択科目として『いじめの憲法学』(1

    単位)を開講しています。教養科目

    として設定していることから、法学

    中高生にとって身近な社会問題である「いじめ」に憲法の「人権」の立場からアプローチ 憲法とは、国家の組み立てを定めた法規範であり、すべての国民にとって、きわめて重要なものである。それは理解していても、何となくとっつきにくいイメージを持つ人も多いのではないだろうか。だが、憲法の立場からアプローチすることによって、身近な社会問題の解決方法を見出せることもある。『自信をもっていじめにNOと言うための本』などの著書がある中富公一先生に、いじめを憲法から考えることの意義を語っていただいた。

    (注1)いじめには、いじめを行う者だけでなく、はやし立てる者、傍観する者がおり、どこまでが加害者なのかも検討する必要がある。

    Kawaijuku Guideline 2019.1164

  • 法 学第48回

    いじめと人権

    岡山大学

    情報法

    九州大学

    卒業後の進路

    成年年齢引下げ

    法政大学

    入試情報

    概説

    コラム

    <資料>仲良しグループ事件ワークシート

    して、被告である市が支払う損害賠

    償額は請求額の3割とする判決が下

    されました。

     また、大津の事件もいわき市の事

    件も、教員の対応に過失があったと

    しながらも、損害賠償は学校や教員

    個人ではなく、市に請求されていま

    す。この点を疑問に感じる学生も少

    なくありませんが、ここで国家賠償

    請求権(注3)について学びます。実際

    のいじめ事件を扱う中で、「過失相

    殺」や「国家賠償請求権」といった、

    法的な考え方や知識も身につけてい

    くわけです。

     『いじめの憲法学』の授業ではほ

    かにも、近年増えている「LINEのメ

    ンバーから外す」「インターネット

    掲示板にレストランの悪評を投稿す

    る」などのSNSやインターネット

    に絡んだ問題や、ゼミ生の経験を基

    にシナリオを作成した「バスケット

    ボール部事件」、「仲良しグループ事

    件」<資料>など、いじめと呼べるのか、検討が必要な事例も扱います。

     高校生の皆さんにとっては身近に

    感じにくいかもしれませんが、憲法

    は国家の在り方、動かし方を規定し

    た法律です。中でも「人権」は、日

    本国憲法の3大原則である「国民主

    権」「基本的人権の尊重」「平和主義」

    の1つであり、不可欠な考え方です

    から、ぜひ社会人になるまでに学ん

    でほしいと思います。また、高校ま

    でに、もっと人権について学ぶ機会

    があってもいいのではないでしょう

    か。「いじめ」は中高生にとって身近

    で切実な問題ですから、人権につい

    て考えるきっかけの一つになると考

    えています。

    部だけでなく、教育学部など、さま

    ざまな学生が履修しています。

     授業では、「大河内清輝君の遺書

    (1994年)」「大津いじめ事件(2011

    年)」「いわき市いじめ自殺事件

    (1985年)」などの現実の事件につ

    いて扱います。

     大津いじめ事件は、2013年の

    「いじめ防止対策推進法」成立のき

    っかけになった事件です。刑事事件

    としては、滋賀県警が元同級生3人

    を暴行や器物損壊などの容疑で書類

    送検するなどしました。また、民事

    事件としては、遺族が元同級生と市

    に計約7,700万円の損害賠償を求め

    て訴訟を起こし、市は死亡見舞金

    2,800万円に加え、和解金1,300万

    円を支払い、元同級生2人には計約

    3,750万円の支払いを命じる判決が

    下されました。

     授業ではこうした一連の流れを紹

    介した上で、「何が問題になったの

    か」「どのような解決が図られたの

    か」「この判決は妥当か」などについ

    て、学生と議論します。いじめ事件

    では証拠が集まりにくいのですが、

    大津の事件では500件近い証拠が提

    出され、さらに第三者調査委員会が

    組織され、いじめと自殺の因果関係

    などが徹底的に検証されました。そ

    こで、いじめ問題に関する訴訟につ

    いて考えるための一つのモデルケー

    スとして扱っています。

     1985年のいわき市いじめ自殺事

    件では、加害者の親と和解が成立し

    た後、遺族が市を被告として損害賠

    償を請求していました。裁判では過

    失相殺(注2)を適用し、自殺という手

    段を選んだ本人に4割、被害者の家

    族の対応にも3割の責任があったと

    (『いじめの憲法学』授業資料より)

    (注2)過失相殺…損害賠償請求の際、請求者の側にも過失があった場合に、賠償額を減額すること(注3)国家賠償請求権…公務員の不法行為により損害を受けたときに、国または公共団体に賠償請求できる権利。公務員の職務は公共性が高く、個人への

    損害賠償を認めると、その職務に支障をきたす場合があるため、使用者である国や地方公共団体に賠償請求することとしている。

    設問1 いじめは絶対に許されないと考えますか。 

    では事例4を読んで下さい。

    事例4 仲良しグループ事件

     X・Y・Zは中学2年生の女子であり、3人は登下校を含む学校での行動のほとんどを共にする同じクラスの仲良しグループである。XとYは小学校から、Zは中学校から仲良くなり、学校生活以外では無料通話・メールアプリであるLINEにおいてやりとりをすることが多かった。 以下はある日のLINEのやり取りである。X 今週の土曜日3人で遊ぼうY いいよー!Z ごめん、予定があるから遊べないX 残念! じゃあ私とY、2人で遊ぶ?Y いいよー、Zはまた今度ね!Z 私が遊べない日は、2人も遊ばないで欲しい。 この後、X・YはZに気を遣い、2人だけでやりとりすることにし、Zに内緒で遊ぶことを決めた。後日Zはこのことを知り、仲間外れにされているのではないかと思って、それを食い止めようと今まで以上にX・Yの行動に敏感に反応するようになった。これらのZの行動から、X・Yは互いにZに対して嫌悪感を抱くようになり、登下校の時間やルートをZに内緒で変更し2人だけで登下校をし、LINEでの会話もZに見えないように2人だけでするようになった。 教室では、特にZを無視したり、暴力を振るったりすることはなかったが、X・YのZに対する態度や対応は今までに比べて明らかに冷たくなり、教室の移動の際などもX・Yのみで行動することが多くなった。ZはX・Yの他に仲の良い友達はおらず、学校で辛い思いをすることが多くなったため不登校になってしまった。

    設問2 これは「いじめ」でしょうか? 

    設問3 X,Yは法的に罰せられると思いますか?では、罰すべきだと思いますか?

    設問4 学校(校長、担任など)は、X,Yに注意すべきだと思いますか? 彼等に何をすべきだと思いますか? すべきではないですか?

    設問5 学校はZを救済すべきだと思いますか?設問5-2 どのようにしてそれは可能ですか?

    設問6 Zはどうすべきだったか考えて下さい。

    設問7 X、Yはどうしたらよかったでしょうか。設問7-2 それは義務ですか? 

    設問8 Zには、X、Yと遊んで貰う権利があるでしょうか?

    設問9 権利とは何でしょうか、どのように定義しますか? 

    設問10 推進法は「いじめ」をどのように定義していますか?

    設問11 では、いじめ防止対策推進法によればこれは「いじめ」でしょうか?

    設問12 推進法で「いじめ」とされると、何がどう違ってきますか?

    Kawaijuku Guideline 2019.11 65

  • 注目の学部・学科

    法政大学 法学部民法の成年年齢引下げ

    大澤 彩

    教授

    新成人を悪徳商法の被害から守るため法律で何ができるかを議論

     現在、成年年齢は民法4条で20歳

    と定められていますが、2018年6月

    に「民法の一部を改正する法律」が

    成立し、成年年齢が18歳に引下げら

    れます。施行は2022年4月からです

    から、現在の中学3年生は高校3年生

    で成人することになります。

     成人の民法上の意味は「行為能力」

    が認められる、つまり、一人で有効な

    契約を行う権利とそれに伴う義務が付

    与されるということです。逆にいえば、

    未成年者は「行為能力」が制限され

    ています。未成年の場合、例外的に、

    お小遣いやアルバイト収入などの範

    囲内なら親の同意なしに契約すること

    ができますが、携帯電話を契約したり、

    アルバイトをする際の労働契約を結

    んだりするには、親の同意が必要です。

    その代わり、親の同意がない契約なら

    ば、契約後にその契約を取り消すこと

    ができます。これを「未成年者取消

    権」といい、この権利を未成年に与え

    ることによって、社会経験に乏しい未

    成年者を、悪徳商法から保護している

    わけです。

     成年年齢が引下げられると、18~

    19歳の高校生や大学1~2年生は、

    悪徳商法の被害に遭っても「未成年

    者取消権」を行使できなくなるため、

    消費者被害が拡大することが懸念さ

    れます。そこで、消費者保護の観点か

    ら、法制度に関するさまざまな議論が

    行われてきました。

     成年年齢引下げの議論は、2008年

    頃から法務省法制審議会民法成年年

    齢部会で行われてきました。世界では

    141(約75%)の国が成人年齢を18

    歳以下としていることを背景に、選挙

    権年齢の引下げ、若者の自立を促す

    意味なども含めての議論でした。そう

    した議論と並行して、私も関わった消

    費者委員会消費者契約法専門調査会

    でも、消費者被害を減らすためには、

    どのようなルールを作ればいいかの議

    論が行われました。

     若者の消費者被害を防ぐには、さま

    ざまな法的な措置が考えられます。例

    えば18~ 22歳くらいまでの若者を

    「若年成人」と規定して、特別に保護

    することもできます。しかし、「行為

    能力」を単純に年齢で線引きをするこ

    とがいいか悪いかは一概にはいえませ

    ん。同じ18歳でも、取引をする能力

    を十分有している人もいれば、そうで

    ない人もいるからです。年齢で一律に

    規定すれば、若年者の消費者被害は

    減るでしょうが、一方で、取引をする

    能力を持っている人の活動を制限する

    ことにもつながります。また、専門調

    査会では、同時期に高齢者の消費者

    被害を防ぐルール作りも進められてい

    ましたが、高齢者は若者以上に、同年

    齢でも判断力に大きな個人差がありま

    す。

     そこで、年齢で一律に規定するので

    なく、10代で成年となる若者を保護

    でき、また高齢者の消費者被害も軽減

    できるようなルールづくりの議論が進

    められたのです。

    不安につけ込んだ契約の取消しは可能個々の消費者の知識・経験への配慮も明記

     その結果、2018年消費者契約法の

    一部改正で、大きく2つの規定が盛り

    込まれることになりました。

     1つは、契約の取消し規定です。

    「未成年者取消権」を行使できない若

    者が狙われやすい類型を列記すること

    で、そうした類型に当てはまる契約に

    ついては、取消しができると規定しま

    した。例えば、進学、就職、容姿、体

    型などに関する不安や願望につけ込ん

    だ物品や権利などの売買契約で、具体

    的には就職セミナーや美容・痩身施術

    消費者法の規定を見直すことで成年年齢引下げに伴うリスクに対応 民法の一部が改正され、2022年4月1日から成年年齢が18歳に引下げられる。つまり、2022年から高校3年生で成人になる。成人になれば、親の同意を得なくても進学先や結婚(婚姻)を決めたり、ローンを組んで高額商品を購入したりすることができる。一方で、未成年者に認められていた契約の取消しができなくなり、消費者被害の拡大も懸念される。そうした被害を少なくするため、消費者契約法の一部も改正された。法律で何をめざし、何ができるのかについての具体例として、一連の流れを追っていく。

    Kawaijuku Guideline 2019.1166

  • 法 学第48回

    成年年齢引下げ

    法政大学

    情報法

    九州大学

    卒業後の進路

    いじめと人権

    岡山大学

    入試情報

    概説

    コラム

    (法務省「民法の一部を改正する法律(成年年齢関係)パンフレット」より)

    <図>民法の成年年齢引下げの概要

    ながら、“ある程度”幅広い解釈ができ

    るようにしておかなくてはなりません。

    それが法律を作る場合の難しいところ

    でもあり、面白いところでもあります。

     法律は、人々の行為を規制するもの

    であると同時に、取引や不法行為によ

    る被害から人々を守ってくれるもので

    もあります。消費者契約法は、消費者

    保護や被害救済の側面を持つと同時

    に、事業者が自由な経済活動を行い、

    健全な取引が行われる社会を保障す

    る側面も持っています。法律を考える

    際には、一方の利害だけでなく、もう

    一方の利害も考えなくてはなりません。

    いろいろな人の利害を調整するのが法

    律だからです。

     法律を学ぶことの意義は、このよう

    に社会を広い視野で捉える姿勢を身

    につけることができる点にあります。

    今回の民法改正では、16歳とされて

    いた女性の婚姻開始年齢も引上げら

    れ、男女ともに18歳に統一されまし

    た。選挙権年齢はすでに18歳になっ

    ています。成年年齢が18歳に引下げ

    られると、多くの高校生が高校在学中

    に成年になるため、「成年」がどうい

    う意味を持つのかを考える良いきっか

    けになると思っています。法の恩恵と

    縛りを受ける当事者として、高校生の

    みなさんも、これまで以上に法律に関

    心を持ってほしいと思います。

    への申込みなどが想定されています。

     人間関係を利用した契約もそうした

    類型に明記されています。これは恋愛

    感情を利用して勧誘し契約させるデ

    ート商法などが主な対象です。このほ

    か、合理的な実証が不可能な力を利

    用した霊感商法や、心身の故障などで

    判断力が低下している人に対する消費

    者契約も、それぞれ取消し対象として

    類型化されました(注)。

     現在でも、20~21歳の新成人を中

    心に、デート商法や、就職セミナーな

    どに関する苦情が多数寄せられてお

    り、実際に被害に遭う人もいます。こ

    うした類型を定めることで若者の被害

    を救済しようとしたわけですが、消費

    者契約法はすべての消費者を対象に

    していますから、高齢者にも適用でき

    るように類型が決められました。判断

    力の低下については、主に高齢者を想

    定しています。

     もう1つは、知識・経験への配慮規

    定です。改正前の消費者契約法でも、

    第3条で、事業者が消費者契約の締

    結について勧誘する際には、「消費者

    の理解を深めるために、消費者の権利

    義務その他の消費者契約の内容につ

    いての必要な情報を提供する」努力

    義務が規定されていました。それを、

    今回の改正では一歩進め、契約の性

    質に応じて「個々の消費者の知識及

    び経験を考慮」(努力義務)すること

    が求められました。つまり、事業者に

    対して、情報提供だけでなく、契約す

    る相手に応じた配慮を求めたわけです。

    当初の議論では、知識や経験に加えて

    年齢という文言を加える意見も出まし

    たが、年齢で能力を判断することに反

    対もあったことから、盛り込まれませ

    んでした。

    (注)取り消すことができる不当な勧誘行為の類型は、消費者庁ホームページ「消費者契約法」(https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_system/consumer_contract_act/)のリーフレット「不当な契約は無効です! -早分かり! 消費者契約法-」を参照。その他、民法の成年年齢については、法務省ホームページ「民法の一部を改正する法律(成年年齢関係)について」(http://www.moj.go.jp/MINJI/minji07_00218.html)を参照。

    成年年齢引下げをきっかけに法に対する当事者意識を持ってほしい

     ここまで、成年年齢引下げによって、

    10代の消費者が被る可能性の高い被

    害を予防・救済するルールづくりにつ

    いての例を紹介してきました。

     しかし、法律を作る、あるいは改正

    する際には、さまざまな観点から考え

    なければなりません。特に民法は、市

    民社会の法律ですから、特定の物事を

    狙い撃ちすることの妥当性を考える必

    要があります。先述のように、今回の

    消費者契約法の改正では、取消し規

    定に関して新たな類型を追加しました。

    知識・経験への配慮規定に関して、同

    じように類型を追加することもできま

    した。しかし、類型を示してそれを狙

    い撃ちにする規定でよかったのかにつ

    いては疑問の残るところです。今後、

    その類型に当てはまらないケースが出

    てくる可能性もあるからです。

     事業者にとっては何が違法なのかが

    はっきりしていないと活動に支障が出

    ますから、ルールは明確な方がいいの

    ですが、一方でルールは社会の動きに

    伴ってさまざまなケースが登場したと

    きに、柔軟に対応できる必要もありま

    す。ですから、法律を作る際には、違

    法か合法かを“ある程度”はっきりさせ

    Kawaijuku Guideline 2019.11 67

  • 注目の学部・学科

    九州大学 法学研究院情報法

    成原 慧

    准教授

    他人の名誉やプライバシーに触れるとネットでの表現が法的な問題に直面

     今日では、多くの人が日常的にイ

    ンターネットを利用しており、ブログ

    やSNSなどを利用して、日記を書い

    たり写真を投稿したりしています。し

    かし、こうした何気ない行為が法的

    な問題に直面することもあります。例

    えば、写真に映った人の承諾なしに

    写真を投稿すれば、「肖像権の侵害」

    に問われる可能性がありますし、先

    生や友だちの悪口を書けば、「名誉毀

    損」として訴えられる可能性もありま

    す。また、アニメやゲームのキャラ

    クターなどを勝手にアップロードす

    れば「著作権の侵害」になりえます。

     私たちは憲法によって表現の自由

    が保障されています。しかし、一方

    で、他人の権利を尊重する義務もあ

    ります。表現の自由が保障されてい

    るからといって、文字通り何でも自

    由に表現していいわけではありませ

    ん。表現の自由は、名誉やプライバ

    シーなど他人の権利を不当に侵害し

    ない範囲で認められているのです。

     インターネットが普及したことで、

    表現の自由は、一般の人にとっても

    身近な問題になってきました。これ

    まで情報を広く流通させる手段は、

    マスメディアが独占してきましたが、

    現在では誰もが情報の発信者になる

    ことができます。その反面で、一般

    の人が他人の権利を侵害してしまう

    可能性も高まっています。

     インターネットで発信される情報

    の特徴として、瞬時に世界中に拡散

    すること、複製しやすいこと、一度

    発信されると半永久的に情報が残り

    続けることなどが挙げられます。従

    来の情報手段である新聞やテレビに

    比べても、一般の人が情報を発信し、

    その波及効果が大きく、長い期間情

    報が残るからこそ、他人の権利を侵

    害する危険性が高いともいえる面も

    あるのです。

     だからといって、インターネット

    上の情報をむやみに規制すべきでは

    ありません。インターネット上のき

    わどい情報にも利用者にとって何ら

    かの価値があるものは少なくないで

    すし、過度の規制は本来保護される

    べき表現の自由を萎縮させてしまう

    可能性を持っているからです。です

    から、表現の自由に関する問題につ

    いては、表現の自由と、表現が影響

    を及ぼす他人の権利や公共の利益と

    のバランスを図りながら考えていく

    必要があります。しかも、正しいバ

    ランスの取り方はあらかじめ決まっ

    ているわけではありません。技術発

    展の状況、社会の状況によってバラ

    ンスが変わるため、その都度、適切

    な着地点を見出していかなくてはな

    りません。

    表現の自由に関する法的な判断はバランスが重要で最終的に「常識」が決め手に

     どのように適切な着地点を見出し

    ていくのか、具体的な例をいくつか

    見ていきましょう。

     例えば、インターネット上に投稿

    した情報が他人のプライバシーの侵

    害に当たるかどうかを判断する場合

    を考えてみます。個人の投稿した文

    章や写真が、他人のプライバシーを

    侵害しているかどうかの判断基準に

    インターネットやICTの発展で情報の量と質が飛躍的に増大し、さまざまな問題が表面化一般の人も情報の発信者として表現の自由が身近な問題に インターネットやICTの発展で情報の量が飛躍的に増大したため、さまざまな問題が表面化している。ブログやSNS、ホームページなどインターネットで情報が行き交い、自由な表現活動が行われているが、それに伴って、名誉毀損やプライバシー侵害などの法的な問題に触れる可能性も高くなっている。また、個人情報を利用した新しいサービスの創造と個人情報の利用の在り方との関係や、AIに関する法的な問題など新たな問題も生じており、情報に関する法的問題を体系的に扱う情報法も発展している。

    Kawaijuku Guideline 2019.1168

  • 法 学第48回

    情報法

    九州大学

    卒業後の進路

    成年年齢引下げ

    法政大学

    いじめと人権

    岡山大学

    入試情報

    概説

    コラム

    法律に書かれていることを単に機械

    的に適用すれば、問題が解決するわ

    けではないということです。法的な

    判断を下すときは、最終的にはバラ

    ンスが重視され、私たちが持ってい

    るいわゆる「道徳」や「常識」が、

    重要な決め手になってくるのです。

    情報の活用による社会のイノベーション促進と社会的なリスク抑制との調和を求めて

     このようにインターネットやICT

    の発展で、情報の量と質が飛躍的に

    増大したため、さまざまな問題が表

    面化しています。

     個人情報の利用の在り方は、その

    一例です。個人情報はプライバシー

    など個人の権利を守るために保護さ

    れるべきものですが、一方で、企業

    は個人情報を含む多様なデータを集

    めて分析することで、新しいサービ

    スやビジネスを生み出し、社会を便

    利で快適にしていきます。そのため、

    個人情報の利用を過剰に規制すると、

    私たちが便利なサービスを享受でき

    なくなるだけでなく、社会の発展を

    阻害するという面も出てきます。「デ

    ータは誰のものか」という視点も含

    め、個人情報の利用の在り方につい

    て新しい枠組みづくりが求められて

    います。

     最近では、AI(人工知能)に関す

    る法的な問題も注目されています。

    なぜなら、AIは自ら学習して変化し

    ていくため、開発者が設計した段階

    ではリスクを予測したり制御するこ

    とが難しく、利用する中でAIに学習

    データを与えていく際に問題が生じ

    る可能性もあるからです。AIを搭載

    した自動車やロボットが事故を起こ

    した場合、AIの開発者だけに責任を

    負わせれば開発自体が萎縮する可能

    性もあります。

     ですから、AIの開発者、データの

    提供者、AIの利用者など、AIに関係

    する人々の間で、責任を分担する必

    要があるのではないかという議論が

    始まっています。このように、情報

    の活用による社会のイノベーション

    の促進と、その活用から生じる社会

    のリスクの軽減との調和を図りつつ、

    関係者の間で役割や責任を分担して

    いくことは、今後の大きな課題です。

     このような情報技術の発展に伴う

    法的な問題に対応していくという問

    題意識から、情報法という新しい法

    学の分野も発展してきました。伝統

    的には、情報に関する法的問題につ

    いては、既存の法律を適用してパッ

    チワーク的に対応してきましたが、社

    会のさまざまな分野で情報やデータ

    が重大な役割を果たすようになって

    きたため、情報に関する法的問題を

    体系的に扱う必要が出てきたのです。

     もっとも情報法という名前の法律

    があるわけではありません。2001年

    に施行された「IT基本法(高度情報

    通信ネットワーク社会形成基本法)」、

    2002年に施行された「プロバイダ

    責任制限法(特定電気通信役務提供

    者の損害賠償責任の制限及び発信者

    情報の開示に関する法律)」など、情

    報に関係するさまざまな法律を包括

    して情報法と呼んでいます。法学の

    応用分野にあたるため、憲法や民法

    などの基本的な法律を学んでから、

    学ぶ分野といえます。情報法を学ぶ

    際には、法律の知識だけでなく、IT

    の知識、経済や社会の動向も把握し

    て、いろいろな視点から考えていく

    ことが重要になってきます。さまざ

    まな視点からアプローチ可能な魅力

    的な分野なのです。

    はさまざまなものがありますが、例

    えば、対象となる人の社会的地位は

    どれくらいか、内容に公共性はある

    か、表現の方法は妥当か、対象とな

    る事件が起きてからどのような変化

    があったかなどの要素を総合的に考

    慮した上で判断していくことになり

    ます。

     名誉毀損の場合は、少々アプロー

    チが異なっています。他人の社会的

    評価を低下させれば、基本的に名誉

    毀損になります。しかし、政治家の

    スキャンダルの告発など、内容に公

    共性があり、公益を図る目的があっ

    て、真実であれば罰せられないとい

    う原則があります。ただ、何が本当

    に真実かは、書いた時点ではわから

    ないこともあります。そこで、結果

    的に真実だと証明できなくても、誤

    って真実だと信じてしまったことに

    ついて、「相当の理由」、つまり、誤

    って信じてしまったことについて納

    得してもらえるような理由があれば、

    免責されることが認められています。

     最近話題のフェイクニュースにつ

    いても表現の自由と名誉など対抗す

    る利益との間のバランスのとれた判

    断が求められます。嘘のニュースや

    デマの拡散は、選挙での有権者の判

    断や災害時の被災者の判断などに混

    乱をきたし、社会全体の利益を害す

    ることになります。しかし何が嘘か

    は簡単にはわからないため、本来保

    護されるべき真実の情報の流通を萎

    縮させないためにも、簡単に規制す

    べきではありません。専門家による

    ファクトチェックの役割も期待され

    ていますが、真偽を判断するための

    個人のリテラシーの向上も重要にな

    ってきます。

     これらは表現の自由に関する法的

    な論点の一部ですが、ポイントは、

    Kawaijuku Guideline 2019.11 69

  • 注目の学部・学科

    公務員などを中心に幅広い分野で活躍

     まず、朝日新聞×河合塾の共同調査「ひらく 日本の大

    学」の結果から、法・政治学系の学士課程卒業後の進路

    の特徴を紹介する。

     「ひらく 日本の大学」2019年度調査によると、法・政

    治学系の大学院進学率は、4.5%となっている。経済・経

    営・商学系の1.3%、文・人文系の3.4%と比べて高い割

    合といえるが、その多くは、法曹を養成する法科大学院へ

    の進学者だとみられる。

     次に、就職者の職業別割合を「ひらく 日本の大学」

    2018年度調査からみていく。最も割合が高いのは事務従

    事者の49%であり、学士課程全体の28%や、経済・経営・

    商学系の40%や文・人文系の33%と比べて高い。

     産業別では、「公務」(公務員)の割合が18%と最も高

    く、卸売業・小売業と金融業・保険業がそれぞれ15%と

    続く。公務については、大学卒業者全体に占める割合が

    6%で、10%を超える系統は他に農学系(12%)、教育系

    (国公立大学のみ)(10%)だけであり、法・政治学系の

    卒業後の進路の大きな特色の一つと言える。<就職者の

    職業別・産業別の状況については、Guideline2018年11

    月号「特集『ひらく 日本の大学』2018年度調査結果報

    告」参照>。

    法曹三者をめざすには法科大学院へ司法試験の合格率は20~ 30%で推移

     法学部出身者の職業として、真っ先に思い浮かぶのは

    法律のプロフェッショナルである裁判官・検察官・弁護士

    の法曹三者だろう。いずれも司法試験に合格し、司法修

    習を経る必要があるため、法学部出身者全体に占める割

    合はわずかではあるが、法学部出身者がめざす職業の1つ

    として触れておきたい。

     まずは、司法試験の受験資格を確認しておく。現在、司

    法試験を受験するには、(1)法科大学院を修了する、(2)

    <図表1>司法試験合格率の推移

    卒業後の進路

    公務員などを中心に幅広く就職法科大学院、予備試験に加え新たな法曹養成コースも誕生 法学部出身者は、多彩な分野で活躍している。企業を含めたあらゆる組織的な活動は関連する法律の影響を受けるため、法的な考え方を身につけた人材であれば、業種を問わず求められるからだろう。とりわけ法律を運用する主体である公務員になる人の割合は、他の学部系統に比べて圧倒的に高い。法曹志望者は法科大学院に進学することになるが、学部を3年で終え、法科大学院に進学できる「法曹コース」が新たに制度化される。

    司法試験予備試験(以

    下、予備試験)に合格

    する、の2つの方法が

    ある。2005年度までの

    司法試験は誰でも受験

    することができたが、

    2006年度からは原則

    として法科大学院の修

    了者に対し受験資格が

    与えられることになっ

    た。ただし、経済的な

    理由や、十分な社会経

    験を積んでいるなどの

    理由によって、法科大(日本弁護士連合会『弁護士白書2018年度版』、法務省『令和元年司法試験の採点結果』より作成)

    2,091

    4,607

    6,261

    7,392

    8,163 8,765

    8,387 7,653

    8,015 8,016

    6,899

    5,967 5,238

    1,009

    1,851 2,065 2,043 2,074 2,063 2,102 2,049 1,810 1,850 1,583 1,543 1,525

    48.3

    40.2

    33.0 27.6

    25.4 23.5 25.1

    26.8 22.6 23.1 22.9

    25.9 29.1

    4,466

    1,502

    33.6

    0.0

    10.0

    20.0

    30.0

    40.0

    50.0

    60.0

    0

    2,000

    4,000

    6,000

    8,000

    10,000 ■受験者数(人) ■合格者数(人)    合格率(%)

    2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015 2016 2017 2018 2019

    (%)(人)

    Kawaijuku Guideline 2019.1170

  • 法 学第48回

    情報法

    九州大学

    成年年齢引下げ

    法政大学

    卒業後の進路

    いじめと人権

    岡山大学

    入試情報

    概説

    コラム

    予備試験を経て司法試験に合格する受験生が増加

     司法試験受験資格を得るための2つのルート、法科大

    学院と予備試験の状況を紹介する<図表2>。 まず、法科大学院では、法理論だけでなく法を適正に

    運用する実務的な能力を育成することをめざした教育が行

    われており、実務実習などに力を入れている。

     法科大学院には、入試で法律科目を課す「既修者コー

    ス」(修業年限2年間)と、課さない「未修者コース」(同

    3年間)の2つが用意されている。未修者コースは、法曹

    界に多様なバックグラウンドを持つ人材を受け入れること

    などを目的として制度化されたもので、法学部以外の出身

    者を主対象としている。しかし、法学部出身者でも、基本

    的な内容からじっくりと学び直したい、社会に出てから時

    間が経っているなどの理由で、未修者コースを選択する人

    もいる。2019年度の法科大学院入学者(既修者コース・

    未修者コース含む)に占める、法学部以外の出身者の割

    合は18.6%にとどまっている。

     予備試験は、当初は例外的なルートとして設計されたは

    ずだった。だが、現在の制度に一本化された2012年度の

    司法試験において、全体の合格率が25.1%だったのに対

    (注1)当初は法科大学院修了または司法試験予備試験合格後5年間で3回までの受験回数制限があったが、2015年度以降、回数制限は撤廃されている。

    学院を経由しない人にも司法試験を受験できる道を残すた

    め、予備試験を受験・合格して司法試験を受験するとい

    う制度が作られた。

     司法試験は、法科大学院修了または予備試験合格後5

    年間受験できる(注1)。そして、司法試験合格後に1年間の

    司法修習を経て、法曹資格を得ることができる。

     2019年度司法試験では、受験者数4,466人、合格者数

    1,502人で、受験者数に対する合格率は33.6%だった<図表1>。 司法試験の合格者は、1990年度頃までは毎年500人程

    度に抑えられており、その後は徐々に合格者数が増え、法

    科大学院修了者が出始めた2006年度からは、毎年2,000

    人程度が維持された。しかし、2016年度以降は、再び

    1,500人程度で推移している。

     司法試験の合格率は、法科大学院制度が発足する頃ま

    で3%前後だったが、旧制度からの移行期間を経て現在の

    制度に一本化された2012年度からは、例年20~ 30%前

    後で推移している。旧制度の頃から比べれば競争率は緩

    和されているが、現行制度に移行した当初は法科大学院

    修了者の7~8割が司法試験に合格することをめざすとい

    う制度設計であったことを踏まえると、低い割合にとどま

    っている。

    <図表2>司法試験受験資格の取得方法に関する俯瞰図

    (文部科学省 法科大学院等特別委員会(第92回)(2019年6月27日)【参考資料1】より)

    H22 H23 H24 H25 H26 H27 H28 H29 H30志願者 24,014 22,927 18,446 13,924 11,450 10,370 8,278 8,160 8,058 入学者 4,122 3,620 3,150 2,698 2,272 2,201 1,857 1,704 1,621 修了者 4,535 3,937 3,459 3,037 2,511 2,190 1,872 1,622 1,456

    H23 H24 H25 H26 H27 H28 H29実受験者 7,249 5,967 4,945 4,091 3,621 3,286 3,086

    法科大学院適性試験

    司法試験

    4年 3年(or 2年)

    平成30年度に実施される平成31年度入学者選抜から任意化

    予備試験

    司法試験の受験は法科大学院修了の翌年度から

    司法試験の受験は予備試験合格の翌年度から

    法科大学院への入学は適性試験受験の翌年度

    学部

    予備試験合格者は年々増加しているうえ、現在では予備試験合格者の多くが学部または大学院在学中となっている※属性は試験出願時の自己申告によるもの

    予備試験資格による司法試験合格者は年々増加しており、全体の約22%を占めるまでになっている

    法科大学院修了2,044 人(97.2%)

    予備試験合格58人(2.8%)

    H24合格者2,102 人

    法科大学院修了1,189 人(78.0%)

    予備試験合格336人(22.0%)

    H30合格者1,525 人大学在学中

    39人(33.6%)

    法科大学院在学中6人(5.2%)

    その他71人

    (61.2%)

    その他111人 (25.6%)

    法科大学院在学中152人(35.1%)

    大学在学中170 人(39.3%)

    H30合格者433人

    H23合格者116人

    法曹志願者(社会人を含む)

    (各データは平成30年11月現在)

    Kawaijuku Guideline 2019.11 71

  • 注目の学部・学科

    して、予備試験合格者は受験者数85人のうち58人が合格

    し、その合格率が68.2%と非常に高いことが注目された。

    そのため、予備試験の受験者は年々増加している(注2)。

     予備試験の受験者の増加に伴い、予備試験を経た司法

    試験の受験者数も年々増加している。2019年度司法試験

    においては、385人の予備試験合格者が受験して315人が

    合格。予備試験を経た受験者の合格率は、全体の合格率

    33.6%を大きく上回る81.8%となった。予備試験を経た

    受験者数の割合は全体の1割以下にもかかわらず、合格

    者の割合は全体の2割を占めている。

    法学部に一貫課程「法曹コース」が誕生

     法科大学院に関しては、さまざまな改革が進んでいる。

    2004年に発足して以来、全国に最大で74校が設立された

    が、当初の想定よりも低い司法試験合格率などが影響し

    て入学定員を確保できないなどの理由で、2011年度以降、

    学生募集を停止する法科大学院が相次いだ(注3)。文部科

    学省でも、合格率が低

    い大学への公的支援を

    見直すなどの政策をと

    ったこともあり、現在

    までに39校がすでに廃

    止や学生募集を停止、

    もしくは停止を予定し

    ており、2020年度に学

    生募集を行う法科大学

    院は、最多だった時期

    の半数以下の35校と

    なる見込みだ。加えて、

    法科大学院を経由しな

    い、予備試験による司

    法試験合格者が注目さ

    れていることもあり、

    法科大学院制度そのも

    のが問われている。

     こうした状況を打開

    するため、文科省では

    2020年度から新たな

    法曹養成のためのルー

    トとして「連携法曹基

    礎課程(法曹コース)」

    (注2)2018年度の予備試験には11,136人が受験し、433人が合格。予備試験自体への合格率は例年3~4%である。(注3)法科大学院志願者数も、発足初年度の2004年度の約7万人をピークに減少し、2016年度以降は8,000人台で推移している。

    <図表3>をスタートさせる。法科大学院の未修者コースの1年目の内容を大学の法学部で行うことで、法学部で

    3年間学んだのち法科大学院の既修者コースに進学でき

    る制度だ。大学の法学部は、法曹コースを新たに設置し、

    法科大学院と連携した上で新たなカリキュラムを編成す

    る。連携先の法科大学院は別の大学でも可能である。法

    曹コースの誕生によって、これまでは6年間かかっていた

    養成期間が5年間に短縮されることになる。

     各法科大学院は、法曹コースの学生を定員の4分の1

    を上限として募集するほか、協定関係を結んでいない大学

    の法曹コースの学生なども含めて、定員の半数までを特別

    選抜枠として募集できるようになる。各大学の法曹コース

    の検討状況は<図表4>の通りである。2020年度から設置する予定の大学もあり、その動向が注目される。法曹志

    望者は、法曹コースを設置している大学への進学も視野

    に入れておくといいだろう。

    <図表3>2020年度(令和2年度)から始まる新しい法曹養成ルート法曹養成ルートにおける養成期間の短縮(制度的な「3+2」の実現により養成期間を最大1年8月短縮)2019年度

    (令和元年度・学部1年次)2020年度

    (令和2年度・学部2年次)2021年度

    (令和3年度・学部3年次)2022年度

    (令和4年度・院2年次)2023年度

    (令和5年度・院3年次)2024年度(令和6年度)

    弁護士登録

    任官(裁・検)

    法曹資格取得

    司法修習1年司 法 試 験在学中受験

    法曹コース3年(学部) 既修者コース2年(法科大学院)

    ◎連携法曹基礎課程(法曹コース)の制度化の趣旨 優れた資質・能力と明確な法曹志望を有する学生が、学部の早期卒業を前提に、法科大学院と一貫した教育を受けることができることとし、法曹資格取得までの時間的・経済的負担を軽減

    ◎法曹コース修了予定者を対象とした特別選抜

    ★◎早期卒業を前提として法科大学院既修者コースに接続(3+2)※特別選抜の合格を早期卒業の判断材料の一つとすることは可能。

    (文部科学省 法科大学院等特別委員会(第93回)(2019年7月26日)【参考資料3】より)

    <図表4>法曹コースの検討状況(令和元年9月1日時点)法曹コースに最初の学生が入る時期

    法曹コースの選択時期(所属する年次)計

    1年次 2年次 3年次 検討中

    2020年度 【2大学】千葉大、日本大

    【26 大学】北海道大、東北大、一橋大、新潟大、信州大、名古屋大、大阪大、神戸大、岡山大、九州大、熊本大、鹿児島大、首都大東京、北海学園大、慶應義塾大、上智大、創価大、中央大、法政大、明治学院大、早稲田大、南山大、立命館大、関西大、近畿大、西南学院大

    【1大学】同志社大 29

    2021年度 【4大学】広島大、明治大、立教大、福岡大

    【3大学】東京大、金沢大、大阪市立大

    7

    2022年度 【2大学】國學院大、専修大【3大学】愛知大、関西学院大、広島修道大 5

    2023年度以降 【2大学】神奈川大、久留米大 2

    検討中【4大学】京都大、香川大、学習院大、駒澤大

    4

    計 4 35 3 5 47

    (文部科学省 法科大学院等特別委員会(第94回)(2019年9月10日)【参考資料2】より)

    Kawaijuku Guideline 2019.1172

  • 法 学第48回

    高校生が考えたい「法」テーマ

    ◉SNSと「表現の自由」 近年はLINEや Twitter、InstagramなどのSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)が普及し、高校生も、いつでもどこでも誰とでも話をしたり、全世界に情報を発信したり、全世界から情報を手に入れたりすることができるようになった。憲法上では基本的人権の1つとして「表現の自由」が保障されている。しかし、際限なく自由なわけではない。 例えば、友だちの悪口をSNSに投稿した場合、本人が精神的に傷つくだけでなく、その友だちに対する周囲からの評判を損なう「名誉毀損」になりうる。名誉毀損にならなくても、他人の発言や行動などについてその相手の承諾なく投稿した場合、「プライバシー」の侵害になりうる。また、他人の写真を勝手に撮影したり公開したりすると、「肖像権」の侵害となりうる。相手の承諾を得ずに、これらの表現をすることは認められないのだ。 さらに、情報がインターネット上に「拡散」すると、それを完全に消すことは難しい。裁判で、名誉毀損やプライバシー・肖像権の侵害が認められれば、損害賠償責任に問われる。時に、その賠償額は多額に上る。SNSを使って個人が簡単に情報を発信することができるようになったが、利用する際には十分な考慮が必要なのだ。

    ◉いじめと「刑法」 いじめについては「いじめ防止対策推進法」という法律が2013年に成立している。この法律におけるいじめとは、いじめられている生徒が心身の苦痛を感じている心理的または物理的な行為をさす。覚えておきたいのは、ある行為をされた生徒がいじめられていると感じれば、その行為はいじめになりうるということだ。

     ただし、いじめは加害者と被害者の個人的な問題とだけ捉えられるわけではない。直接的にいじめに関わっていなくても、周囲でいじめを囃したてたりする「観衆」や、見て見ぬふりをしている「傍観者」が、いじめをしやすい状況を作っている可能性もある。 また、いじめは刑法における犯罪にあたる行為も多い。相手の持ち物を壊したら「器物損壊罪」(刑法261条)、相手に暴力をふるえば「暴行罪」(208条)、相手が嫌がっていることを無理やりさせたら「強要罪」(223条)、カツアゲなどは「恐喝罪」(249条)などに当たる。 いじめは学校の中、あるいは生徒間で解決しようとされがちだが、それが不登校や、場合によっては自殺など、取り返しのつかない結果につながることもある。法的な解決手段があることを意識しておきたい。

    ◉性的マイノリティと法整備 性的マイノリティに位置づけられるLGBT(注)は日本の人口の8%程度を占めると推計されている。学校に置き換えると、1クラスの生徒数が40人だとしたらそのうち2~3人が該当する計算になる。しかし、日本では、「男性か女性か」を前提として仕組みが出来上がっていることが多く、性的マイノリティを自然に受け入れる雰囲気ができているとは言い難い。 例えば、体の性と心の性が異なる人は、男性用トイレと女性用トイレのどちらを使えばよいのだろうか。もちろん、「トイレを男性と女性で分けずに統一する」などの単純な解決方法は取れず、慎重に考える必要がある問題だが、高校生活の中でも制服、健康診断、修学旅行の部屋割りなど、男女で明確に分�