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製造プラットフォームを中核とした 「Connected Industries」のための オープン&クローズ戦略の実践方法 中間報告書 平成30年3月30日 「Connected Industries」ものづくり・ロボティクス分科会 製造プラットフォームオープン連携WG

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製造プラットフォームを中核とした

「Connected Industries」のための

オープン&クローズ戦略の実践方法

中間報告書

平成30年3月30日

「Connected Industries」ものづくり・ロボティクス分科会

製造プラットフォームオープン連携WG

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目次

1. はじめに .................................................................................................................................................. 1

2. 「Connected Industries」 ....................................................................................................................... 1

3. 製造プラットフォームの現状 .................................................................................................................. 1

4. 製造PFオープン連携のコンセプト ....................................................................................................... 7

5. ユースケース ........................................................................................................................................ 9

6. あらためて課題の整理........................................................................................................................... 12

7. アーキテクチャーとオープン&クローズ戦略 ...................................................................................... 13

8. エコシステムにおけるステークホルダー ............................................................................................. 15

9. 実現へ向けてのロードマップ ................................................................................................................ 16

付録:WGメンバーおよび開催記録 ......................................................................................................... 18

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1. はじめに

高い現場力、匠の技や暗黙知、すり合わせ技術など、我が国の製造業の強さを代表するキーワードは、

デジタル化と対局にあるものが多い。そうした中で、デジタル化の大きな波が、人々の生活や仕事のスタ

イルを大きく変え、それに関連する多くの産業において破壊的な変化が起きつつある。第 4 次産業革命

といわれるこうした動きは、世界に冠たる我が国の製造業にとって、ここで戦略を大きく間違えれば、こ

れから10年、20年のスケールで、悲惨な時代を迎えることになるかも知れない。同時に、こうした流

れを大きなチャンスとして、新たな時代のグランドデザインを描くことも可能である。

この報告書は、こうしたデジタル化の中で、中小企業を含む我が国の製造業がより発展し、国際競争力

を高めるためのフレームワークを示し、それを実現する上での課題とその解決策を示すことを目的とす

る。欧米の後追いではなく、これまでの我が国の製造業の強みを活かす形でのデジタル化戦略である

「Connected Industries」のコンセプトを具体化し、生産現場に近い「エッジ領域」におけるデータの利

活用を促進するためのプラットフォームのあるべき姿を示すとともに、そうしたプラットフォームが、

企業の壁を越えてつながるための基本構成を明らかにする。

2. 「Connected Industries」

サイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)を高度に融合させた人間中心の社会であるソ

サエティ 5。0 を実現するため、2017 年 3 月にドイツの CeBIT にて、我が国の産業の在り方として

「Connected Industries」のコンセプトを安倍総理が示した。また、同時に、世耕経済産業大臣、高市総

務大臣、ツィプリス独経済エネルギー大臣との間で、人、機械、技術が国境を越えてつながる「Connected

Industries」を進めていく旨の日独共同声明「ハノーバー宣言」を発信した。

これを受けて、政府は、5つの重点取組分野を定め、取組お加速化と政策資源の集中投入を図るととも

に、横断的課題に対する支援措置・法制度等の整備に取り組むこととなった。5つの重点分野とは、「自

動走行・モビリティサービス」、「ものづくり・ロボティクス」、「バイオ・素材」、「プラント・インフラ保

安」そして「スマートライフ」であり、本報告書では、「ものづくり・ロボティクス」分野にフォーカス

したものである。

ものづくり・ロボティクス分野として取り組むべき課題として、我が国の強みを生かした価値創出(エ

ッジ側の強みを活かしたソリューションの提要等)、そしてあわせて国内の人手不足の解消も挙げられた。

現在の状況は、「スマート製造」の推進へ向けて主要国が取組を強化している中で、我が国はグローバル

な競争力を有する機械系メーカーが複数存在している。強みである「技術力」と「現場力」を活かすよう

な「人間本位」の考えで、社会や顧客の課題を解決する「ソリューション志向」による価値獲得が重要で

と指摘された。

3. 製造プラットフォームの現状

3.1 FIELD system

一般の IoT では、あらゆるものがインターネットに接続することにより情報がクラウド上で共有さ

れ、その膨大なデータを分析することで高度なサービスが提供される。一方、製造現場に IoT を適用

する場合、例えば機械のセンサ情報などを取得するとそのデータ量は膨大となり、クラウドで処理する

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にはコストアップやレイテンシ等多くの不都合が発生する。また、製造現場においては、外部とネット

ワーク接続することによるセキュリティ上のリスクや、回線トラブルに起因する製造設備の停止は絶対

に回避しなければならない。

FA とロボットを世界中の工場に提供しているファナックが提案する FIELD system は、現場の機械

(Edge)と、クラウドとの中間層である Fog レイヤでより多くのデータを処理する“Edge Heavy”の IoT

である。Fog レイヤでより多くのデータ処理を行うことにより、高いリアルタイム性、安全性の確保、

リーズナブルなコストを実現する (図1)。 FIELD system は各国が主導する CPS(サイバーフィジカ

ルシステム)の Industry4。0、IIC や中国製造 2025 等と対立するのではなく、その中でモノづくり

の現場をつかさどる共通の「コア」として機能ものである。

図 1 FIELD system の概要

FIELD system は、インターネットより下のレイヤに位置し、ハードウェア構成としては工場内の一

般的なネットワーク接続とほぼ同等である。特徴的なのは、FIELD system は誰もが自由にシステムイ

ンテグレーションや、アプリケーションソフトウェアの開発、デバイスの開発が可能なオープンなプラ

ットフォームであることである。もちろんそれらの安全性を担保するために、パートナー登録性を導入

し、認証の仕組みが機能する。FIELD system 内の接続として現時点では、OPC-UA、MT-Connect などの

標準インターフェース、およびファナックの通信規格が対応しているが、パートナーが独自に設計する

ことも可能としている。製造現場においては、多数の暦年の機械が現役で活躍している。このような古

い設備であっても、レガシーインターフェースのコンバータやドライバを提供することで FIELD

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system に接続でき、生産性向上の一翼担うことができるようになる。既存設備も最新設備に負けずに

活躍できる環境を整えることができる。

製造現場で使われる機器は一般に更新頻度が非常に長く、10 年、20 年と安定的に動作することが要

求される。おのずと必要とされる IoT 技術も製造現場にあったものでなくてはならず、高い信頼性、リ

アルタイム処理能力等、一般の IoT 技術より求められるものも多くなる。ファナックはオープンかつ

Edge Heavy な IoT 技術と AI 技術を実現する FIELD system を通して世界の製造業のレベルアップを

提案していく。

3.2 Edgecross

プラットフォームの特徴として、Edgeceoss は、FA と IT を協調させるオープンな日本発のエッジコ

ンピューティング領域のソフトウェアプラットフォームである点、そして、オープンな環境下で、企業・

産業の枠を超え、コンソーシアム会員が共に構築・普及推進を行う点が挙げられる。以下の表に、

Edgecross のオープン性をまとめる。

No 名称 概要

1 システム構成のオ

ープン性

要求性能やコストにより、一般のパソコンから IPC まで自由に選べ、目的

に応じた最適なシステムを構築可能。

2 対象FAシステムの

オープン性

データコレクタにより、FA 現場に存在する様々なベンダーの機器・装置を

対象としてアクセス可能。また、レガシーシステムにも対応可能である。

3 仕様策定のオープ

ン性

仕様を各社の集まる WG で協議して策定するため、オープン性/透明性を確

保。外部団体との連携も実施。

4 システム開発のオ

ープン性

Edgecross 開発環境により、自由にアプリケーション、データコレクタを開

発可能。認証も有り、安心して使用可能。

5 参加のオープン性 コンソーシアムホームページより様々な企業が入会可能。会員区分で費用な

ども平準化。

6 利用のオープン性 ID 登録さえ行えば HP 上のマーケットプレイスから誰でもソフトウエアの

購入が可能

Edgecross の効果として、図のように、①多種多少なアプリをエッジ領域で活用、②生産現場のあらゆ

るデータを収集、③FA と IT システムのシームレスな連携、④リアルタイム診断とフォードバック、⑤

生産現場をモデル化、といった効果が期待できる。

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図 2 Edgecross の概要

Edgecross は、生産現場の機器・装置・ラインをモデル化し、階層的に管理する“データモデル管理”、生

産現場のデータのリアルタイム診断・フィードバックを実現する“リアルタイムデータ処理”、データを用

いて用途・目的を実現する過程で実施される一連の処理フローを実行制御する“処理フロー実行制御”、連

続して発生するデータを分析や診断に適した単位で切り出し、エッジアプリケーションに配信する“スト

リームデータ処理”、リアルタイムデータ処理の機能を拡張するユーザ作成ソフトウェア“プラグイン”、

そしてエッジアプリケーションが頻繁に利用する処理を登録し、様々なアプリケーションから呼出せる

様にした“ライブラリ”の6つを構成要素として持つ。

生産現場を中心としたバリューチェーンの最適化には、エッジコンピューティングの活用が重要であ

り、そのためにはエッジコンピューティング領域のプラットフォームが必要であると考えている。その

実現のためには、企業・産業の枠を超えた協力と協働が必要であり、Edgecross では、競合・国内外に関

わらず、この分野に重要と考えられる企業をメンバーとして募っている。これらの活動により、グローバ

ルでの IoT 化や、日本政府が提唱している「Society 5。0 」と Society 5。0 につながる「Connected

industries 」の活動に寄与したいと考えている。

ポジショニングとしては、Edgecross はオープンな運営体制をとる。そのため、運営方針は7社の幹事

会社を中心に決定する。また、仕様などもテクニカル部会で決めていく方針である。三菱電機はその中

で、他の幹事会社様と共に、Edgecross の仕様の策定、普及推進を行っていく。

3.3 ADAMOS

ADAMOS は、お客様、機械メーカー、周辺機器メーカー向けに、機械メーカーの優れた機械・生産・

ソフトウェア/IT のノウハウを結集したオープンなネットワークを提供する。ADAMOS には大きく二

つの目的がある。一つ目は、サービスとしてのプラットフォーム(PaaS)などの基本機能をお客様に提

供すること。ここでは、生産用の IT サービスを提供し、データ保存と分析を行うことを目的としてい

る。このプラットフォームにより生産プロセスの企業間ネットワーキングを実現する。 二つ目は、アプ

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リケーションを提供すること。すべてのパートナー企業の技術ノウハウを集約し、共同で迅速かつ効率

的に実現できる開発環境を提供する。サービスプロバイダーとして機能し、すべてのユーザーに対し基

本的なツールと機能を提供する。

図 3 ADAMOS の概要

ADAMOS の特徴は、グローバルアライアンス、オープンプラットフォーム、幅広いアプリケーショ

ン・ポートフォリオ、デジタル市場、そしてエンドツーエンドの 5 つである。グローバルアライアンスと

して、DMG MORI、Dürr、Software AG、ZEISS、ASMの連携は、ADAMOS でリソースを共有し、さら

なるパートナーを受け入れる。また、オープンプラットフォームとして、ADAMOS IIoT プラットフォー

ムは、メーカーを問わず、最先端の IIoT 技術と高度な知見を結びつける。

幅広いアプリケーション・ポートフォリオとして、ADAMOSアプリケーション・ファクトリー・アラ

イアンスは、パートナーの技術的専門知識を尊重し、アプリケーションの迅 な共同開発を行う。さらに、

デジタル市場として、パートナーは、自社のブランド・アイデンティティ(例:DMGMORI 提供の CELOS)

の下で、お客様と個々の市場にデジタル・コンピテンシーを推進する。最後に、エンドツーエンドの環境

として、 ADAMOS により、DMG MORI は、お客様、パートナー、サプライヤーに完全なデジタル化戦

略を提供する。

3.4 Lumada

Lumada は、お客さまとデジタルソリューションを協創するための日立の IoT プラットフォームであ

る。IoT の進展により、社会やビジネスが生み出すデータが加速度的に増え続けている。そして、これら

のデータこそ新しい価値の源泉である。日立が、さまざまな事業領域のお客さまとともに、次の社会に向

けた新しい価値の創出に取り組んでいくための基盤が、IoT プラットフォーム Lumada である。さまざ

まな設備・機器から生まれた多様なデータを高度に統合し、新たな価値を抽出するデジタルソリューシ

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ョンをお客さまとともに協創する。日立は IoT 時代のイノベーションパートナーをめざして、Lumada を

活用して社会やビジネスの未来を変えるお手伝いをする。

日立はまた、お客さまとの協創で新たな価値の創出を実現したデジタルソリューションを「ユースケー

ス」としてモデル化し、蓄積している。それぞれのユースケースには、データからどのように価値を創り

出したのか、人工知能やアナリティクスにおいてどのような技術を適用したのか、などの要素が整理さ

れている。お客さまとの協創を推進する際、経営課題にあったユースケースを活用しながらデジタルソ

リューションを迅速に実現する。

OT と IT をワンストップでつなぐのが、Lumada のポテンシャルである。IoT プラットフォーム

Lumada には、長年にわたり日立が培ってきた現場を動かす信頼の OT と時代をリードする先進の IT が

凝縮されている。例えば、現場の設備の制御データと基幹システムのビジネスデータを統合し、人工知能

やアナリティクスにより設備の適切な制御を行うなど、OT と IT をエンドツーエンドでつないだデジタ

ルソリューションをワンストップで提供できる。

Lumada のアーキテクチャーは、Edge、Core、Analytics、 Studio、Foundry という 5 つの主要レイヤ

ーで構成され、インテリジェント、コンポーザブル、セキュア、そしてフレキシブルといった特長を持つ

ソフトウェア基盤を実現する。インテリジェントとは、機械学習や人工知能などのアナリティクス技術

を利用して、深い洞察や実行につながる気付きを発見できること。コンポーサブルとは、アウトカムの最

大化に向けて実績ある日立のコア技術はもちろん、OSS やサードパーティの技術も幅広く組み合わせて

適用できること。

また、セキュアとは、接続する設備・機器が適正かどうかの認証や蓄積データのセキュリティ管理、ア

クセス管理などにより高度なセキュリティを確保できること。そして、フレキシブルとは、現在稼働中の

設備・機器や IT 環境に合わせて、クラウドでもオンプレミスでも柔軟な形態でソリューションを提供で

きることである。この革新的なグランドデザインによりお客さまに先進のアナリティクス技術やアセッ

ト管理機能を提供する。

図 4 Lumada の概要

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4. 製造PFオープン連携のコンセプト

製造プラットフォーム(製造PF)は、生産現場に近いエッジ領域において、作業者、機械、材料、方

法などの競争力の源泉となる要素が、データを媒介としてつながることで、製造業全体として高い生産

性と柔軟性を可能とするものである。

一般に、製造業のデジタル化を議論する場合は、生産設備に直結した PLC や SCADA のレベル、生産

現場で作業者と設備とが一体となって製造オペレーションを実行する MES のレベル、そして企業全体を

俯瞰し、取引先から顧客までのサプライチェーン、バリューチェーンを最適化する ERP のレベルに分け

ることが多い。製造プラットフォームが対象とするのは、この中で、生産現場のさまざまな製造オペレー

ションを実行するための MES の部分に相当する領域となる。

図 5 製造プラットフォームの位置づけ

図 5 に示すように、生産現場のデジタル化と比較して、全社サイドでの ERP を中核としてデジタル

化、ネットワーク化が進んでいる状況においては、個別性が高い生産現場のシステム統合を図るよりも、

ダイレクトに生産現場のデータ、設備や生産ラインのデータをクラウドに上げて管理するほうが効率的

であるという考え方が多い。しかし、こうしたアプローチは、生産現場の価値あるデータを工場の外部、

企業の外部に出すこととなり、生産現場のノウハウが製造業の競争力の大きな部分を占めている日本の

ものづくりには受け入れがたい。

これに対して、データを生産現場に近いエッジ領域に集約し、そこで管理する製造プラットフォーム

を整備することで、我が国の強みである現場力を最大限に引き出すことができるしくみをすることが期

待できる。モノと情報とデータとが一体となった環境の中で、生産現場を起点としたサイバー(論理世

界)とフィジカル(物理世界)の統合のしくみは、現場カイゼンやPDCAサイクルなどによる自律的な

進化を許容するという点でも、我が国のものづくりと相性がよい。

ただし、ここで議論すべき極めて重要な視点として、こうした製造プラットフォームをいかに外部と

接続し、必要なデータを必要なときに必要な形でやり取りできるかである。すでに指摘したように、これ

はセキュリティーの問題とともに、企業の知財戦略とも密接に係る問題でもある。ワーキンググループ

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(WG)では、そうした意見も踏まえ、図 6(b)に示すような自律分散型で、それぞれの製造プラットフ

ォームがダイレクトに相互連携することが可能な方式を提案することとした。

図 6 製造プラットフォーム連携方式の違い

図 6 における2種類の連携方式の最大の違いは、データの扱いにある。左側(a)のクラウド連携方式は、

エッジ側にあるプラットフォームで得られたデータを ERP 側、あるいはクラウド側でビックデータとし

て一括管理する。これに対して、右側(a)に示すハイパーコネクションサーバー(HCS)方式は、生産現

場のデータはすべてエッジ側で管理し、外部には置かない点が大きな特徴である。そして、サプライチェ

ーンやバリューチェーンのために必要な外部との連携では、必要なデータを必要な相手のみに提供する

ピア・ツー・ピアの形態をとる。

自律分散型のプラットフォーム連携となる HCS 方式では、生産現場に近いエッジ領域の管理部門が中

核となって、工場間、企業間の連携が図られる点において、従来のサプライチェーンやバリューチェーン

のしくみを大きく変える可能性もある。すなわち、これまで ERP を中核としてトップダウンで行われて

いた意思決定のフローが、より現場に近い領域に権限移譲が図られ、エッジ領域で従来 ERP が行ってき

た多くの業務が実行されるようになるだろう。これを、「エッジでERP(Edge-driven Resource Planning)」

構想と呼ぶことにする。

「エッジで ERP」を実現するには、これまで MES が対象としてきた領域におけるデジタル化、つなが

る化を進めることから始めたい。MES の具体的な機能として、推進団体である MESA International がま

とめた 11 の機能や、ISA-95(IEC62264)の定義などが参考となる1。さらに「エッジで ERP」構想は、

1 MESA の定義では、①生産資源の配分と監視、②作業のスケジューリング、③差立て・製造指示、④仕様・文書管理、⑤データ収

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設計の現場、販売の現場、流通の現場、そしてサービスの現場など、あらゆる現場がそれぞれの状況に応

じて臨機応変につながるしくみを可能とする。

5. ユースケース

製造プラットフォーム連携をより具体的に議論し、その必要性や有効性を示すために、以下に3つの

ユースケースを示す。これらに共通するのは、それぞれの生産現場が、企業の壁を越えてデータを流通さ

せることで、新たな価値を生み出す大きな可能性である。

5.1 NC プログラム遠隔ローディング(DMG森精機)

工作機械にフォーカスした場合、そこで扱われる NC プログラムは、極めて価値が高いデータといえ

る。ユースケース1では、多品種で短ライフサイクルの場合、NC プログラムを作成後、現場の工作機械

にて試作または微調整した結果、プログラムの一部修正し実行用 NC プログラムとする。初期 NC プロ

グラムおよび実行用 NC プログラムは、現場(エッジ内)に保存せず、常に遠隔側に保持する。遠隔側か

ら、リモートで現場へ NC プログラムのアップロードと起動を行う。NC プログラムが正当なもの(改ざ

んされてないもの)であるかの確認のため、動作側のセンサ値のパターンと比較する。パターンデータは

NC プログラムと対で管理し、異常があれば有人に切替える。

図 7 NC プログラム遠隔ローディング(ユースケース1)

ユースケース1のメリットは、海外工場などでは、NCプログラムの実体を置かず、都度ローディング

集、⑥作業者管理、⑦製品品質管理、⑧プロセス管理、⑨設備の保守・保全管理、⑩製品の追跡と製品体系の管理、⑪実績分析、また

ISA95 の定義では、生産管理、在庫管理、品質保証、保全管理の 4 つの分野ごとに、詳細スケジューリング、ディスパッチング、実行

管理、トラッキング、データ収集、パフォーマンス解析、リソース管理、そして定義管理がある。

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することで、知財の流出の恐れを回避できる点、中小企業などでは、常時工作機械と同じ場所にいなくて

も、遠隔で加工の段取りや加工指示ができることで、働き方改革につながる点、そして、プログラムの個

別の調整(カスタマイズ)を集中的に管理し、個々のサイトの個別事情やノウハウを集中管理できる点で

ある。

CADやNCデータは、高レベルな営業秘密として管理されているため、こうしたデータが、海外や取

引先との間で開示できるしくみであることを示せば、プラットフォーム連携の信頼性を実証できる。ま

た、リモート側(現場)にNCデータを置かないという選択肢は、海外工場のオペレーションや、知財と

してのデータ流通のひとつのモデルとして、日本の新しい勝ちパターンを形成する可能性がある。さら

に、各エッジサイトでの部分的な修正、調整を許すしくみは、一律にデータを供給する大量生産型とも一

線を画し、すり合わせ型の生産技術を得意とする日本の現場にもなじむだろう。

5.2 品質データとトレーサビリティ管理(FANUC)

ユースケース2は、ロボットを活用した事例である。ここでは、ロボットによるワークのローディン

グ、アンローディング、および加工後の品質検査(画像検査)の結果と環境データとをくみあわせてエッ

ジ内で品質データとして保管する。収集したデータは視覚され自動更新して表示される。データは統計

処理されて管理され、要因分析により品質が向上する。インシデントが発生した際、設備毎の稼働履歴

や、設備をまたがるデータの分析により、原因を特定、改善につなげることができる。

図 8 品質データとトレーサビリティ管理(ユースケース2)

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ユースケース2では、事故や不具合の原因追及(なぜ、なぜ分析)の基礎データを提供し、メガリコー

ル等が発生した場合でも説明責任をはたし、早期対応、問題解決を可能とする。QC工程表等で示された

品質管理、品質保証を、品質データと実際の品質(事後的なクレームや工程内品質検査結果等)との対応

づけにより強化する。品質データを自動収集することで、偽造、改ざんの可能性をなくすと同時に、工場

のディープデータ化(因果関係が強く影響した深いデータによる知識の再発見)につながる。

製造プラットフォーム連携により、こうしたユースケースを示すことで、組立工程や検査工程など、こ

れまで人手に頼らざるを得なかった部分が、ロボットなどに置き換えられており、そこでえられるデー

タの活用可能性を示す。画像データは、解析方法によって多くの展開が可能であるが、その角度からどの

粒度で撮影するかは、自由度が大きいロボットが得意とする。これとAI等の組み合わせで展開の可能

性が広がる。品質データ改ざんへの社会的は批判をうけ、あらかじめ決めた項目を確実にデータ化、数値

化するとともに、項目そのものをフレキシブルに変えられるしくみも提案可能となるだろう。

5.3 生産進捗と納品時のダイレクト検収(三菱電機)

最後のユースケースは、企業間で生産進捗のデータを共有し、サプライヤー側の加工が終了した時点で

支払い完了となるケースである。小規模のサプライヤーを想定し、メーカー側あるいは3PL 側がワーク

を取りに行く、つまり VMI(ベンダーマネージドインベントリー)とはの真逆の発想となる。メーカー

はサプライヤーに事前にオーダを通知し、支給品がサプライヤー側に到着した時点(サプライヤー側で

自動検品)でオーダが成立する。サプライヤー側では、生産プロセス内にいろいろ関所を設け、そこでロ

グをとる。必要な検査データは各関所でチェックする。完成時点と出荷準備可能となった時点でメッセ

ージ送信。出荷時点で検収成立。事前に設定した納期、あるいは予想納期との間で一定以上のずれが生じ

た時点でメッセージをメーカー側へ送信する。

図 9 生産進捗と納品時のダイレクト検収(ユースケース3)

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このユースケースでは、加工技術に特化した中小製造業(小規模製造業)の新しいビジネスモデルを提

供する。つまり、現場のスキルワーカーが、その技術やノウハウにみあった収益を確実に得ることを可能

とするだろう。中小製造業の資金繰り(キャッシュサイクル)を改善し、さらにメーカー側とサプライヤ

ー側とのモノとオーダの流れを透明化することで、より健全な取引環境が拡充する可能性がある。一方

メーカー側にとっては、よりきめ細かなサプライヤー管理、工程進捗管理ができることで、サプライヤー

をあたかも自社工場と一体となったしくみとしてスピード感のある経営ができるようになる。

最後のユースケースは、基本的にサプライヤーである中小企業側に立ったユースケースといえる。中小

企業は、加工の段取りや内部のやりくりについて、データは秘匿しつつ、最低限の関所データ(時間、完

成数、検査項目値、など)を示すだけでよい。サプライヤーとメーカーはダイレクトにつながっているが、

データプロファイル、サービスプロファイルにあるもの以外を送ることを禁止し、履歴をとることで健

全なデータ流通が可能となるだろう。通常の商習慣では、納入ベースであるが、あえて出荷ベースとする

ことで、特に小規模サプライヤーの負担を減らし、人材をコア技術に集中できるのではないかと予想さ

れる。

6. あらためて課題の整理

生産現場では、大半の機器が、5年、10年、長いもので30年以上のライフサイクルで動いており、

それらがデジタルでつながることは不可能に近い。また、新たにシステムを一式そろえるとしても、それ

ぞれの企業が開発した個別の装置や機器は、それぞれ独自の仕様を持っており、相互運用性を獲得する

のは簡単ではない。生産現場に近いエッジ領域におけるそうした課題を解決するのが、製造プラットフ

ォームの大きな役割りの1つとなる。

第一の課題は、製造プラットフォーム間の連携である。これからの製造業が取り組むべき領域におい

て、前の節のユースケースでも示したとおり、1つの製造プラットフォームの内部だけでは完結しない

業務プロセスが増えていくものと予想される。同一企業、ありは同一のコンソーシアムが提供している

製造プラットフォームであれば、相互運用性の確保は比較的容易であるが、グローバルな成長が期待さ

れる B2B の市場において、このまま放置すれば、それぞれ似て非なる製造プラットフォームが乱立し、

そうしたプラットフォーム間の相互運用性は置き去りにされるだろう。結果として、巨大なプラットフ

ォーム企業による独占の構図が浮かび上がる。健全な競争環境を維持し高め合う立場からすれば、これ

は、何としても避けなければならないシナリオである。

二つ目の課題は、データのオーナシップ問題である。生産現場にある設備や生産ラインは、知的財産の

塊であり、基本的に関係者以外の立ち入りは許されない。同様の理由で、生産現場から得られたあらゆる

データは、秘密情報であり、多くの場合は外部にその存在すら公開していない。対象がデータの場合、さ

らにやっかいなのが、漏洩に対する対応である。そのデータがもつ価値が高ければ高いほど、ひとたび第

三者の手に渡ると、そのダメージは計り知れない。データは無体物であるため、法的には所有権を設定で

きず、その帰属を明示することが難しい。こうした理由から、生産現場のデータが、企業の壁をこえて流

通することに大きな抵抗感が根強い。

三つ目の課題としてあげられるのは、多様性への対応である。システムの性格上、全体最適を志向すれ

ばするほど、個別に定義されたさまざまな言葉や取り決めなどを、できるかぎり共通化、統合化しなけれ

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ばならない。一方で、こうしたプレッシャーは、特別なアイデアや個別の特徴ある取組などを受け入れに

くい組織風土を促す傾向がある。たとえば、用語ひとつとっても、個々の生産現場は、業種や業態の違い、

さらにはこれまでの個社の歴史に由来する異なる語句があり、用法がある。こうしたシステム的に見れ

ば非効率に見える差異は、実は個々の組織や業界になくてはならない要素を含んでいる場合が多い。こ

うしたローカルな多様性を許容しつつ、グローバルに見た全体最適のために相互に協調できる関係が望

まれる。

7. アーキテクチャーとオープン&クローズ戦略

我が国の製造業の強みを生かし、同時に前節であげたさまざまな課題を解決するためには、国レベルで

の施策や、企業レベルでの戦略とあわせて、そこで設定したゴールを具体的に実現可能とするための大

胆な取り組みを技術サイドから提示することが重要である。これがイノベーションであるとするならば、

そこで示された提案は、従来の延長線上でなく、欧米型の古典的なアーキテクチャーからも一線を画し

たグランドデザインであってよい。ただし、そのベースとなる技術の大半は、既存の技術であり、コモデ

ィティ化されたものであることが前提であり、逆にそうでなければ爆発的な普及が望めない。

図 10 製造プラットフォーム間の連携フレームワーク

図 3は、異なる複数の製造プラットフォーム間でのデータ連携のしくみを模式的に表したものである。

アプリケーション(アプリ)や機器やデバイスなどが、製造プラットフォーム上で連携する一方で、その

製造プラットフォームに参加する連携ターミナル(HCT)が起点となり、連携サーバー(ハイパーコネ

クションサーバー:HCS)を経由して相手側の製造プラットフォームにある HCT にデータをつなぐ。こ

こで、あらかじめ共有してあったデータカタログ、サービスカタログを参照し、相互にデータの送受信相

手を認識したうえで、必要なときに、必要なデータを、必要なサービスから必要なサービスへ送り届け

る。ターミナルの固有 ID と相手のサービス ID が分かっていれば、確実に相手にデータを届けることが

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可能な、配達証明付きの国際郵便であると思ってよい。

ここで提案するアーキテクチャーの中で、特に重要となる機能は3つある。まず、第一に、データをセ

キュアに連携ターミナル(HCT)から連携ターミナル(HCT)に移送する機能である。多くの場合 HCT

は、企業内の LAN に置かれるが、起点となる HCT から目的地点となる HCT の間は、公開キー、秘密

キーの技術を用いて暗号化し、セキュリティーを強化する。なお、プラットフォーム内のアプリや機器な

どのコンポーネントは、連携ターミナル(HCT)から認証を受け、HCT は、連携サーバー(HCS)から

認証を受け、さらに HCS は、別途提供される認証局サーバーによって認証される。

二つ目に重要な機能は、履歴管理サーバ―として実装される。これは、2つのプラットフォーム間、あ

るいはコンポーネント間でデータの受け渡しが行われた事実をトランザクションとして記録し、それを

ブロックチェーン技術を利用して分散管理するものである。B2B の世界では、データの送受信の背後に

は業務フローが存在し、二者間での価値の提供プロセスと定義することができる。したがって、データ移

送の記録は、決して改ざんされないしくみとし、双方で矛盾、隔たりがないように、システムがその正し

い内容を記録し保証する。

三つ目の特筆すべき機能は、辞書サーバーである。前節で課題としてあげた多様性の獲得のために、こ

こではあえて、ローカル、つまり各プラットフォームに、それぞれ固有の辞書を定義することを可能とす

る。図 4 に示すように、個々の生産現場に相当するサイトは、それぞれの辞書にある用語を用いて、デー

タの要求とデータの回答を行ったとしても、中間に位置づけられた共通辞書にいったん変換されること

で、エンド・ツー・エンドの自動変換が可能となる。

辞書サーバーは、共通辞書、個別辞書といった用語に関する定義を持つのと同時に、辞書の変換のとき

に利用する用語間の対応づけ、マップテーブルをもち、照会に対してその内容を提供する。連携ターミナ

ル(HCT)は、基本的にこのマップテーブルがあれば、そうした辞書変換が容易に実現できる。

図 11 サイトごとに異なる辞書を持つ場合の対応方法2

共通辞書を中核とし、各ローカル辞書とはマップを定義し対応づけるという方針とした場合、中核と

2図 11 および図 12 は、インダストリアル・バリューチェーン・イニシアティブ「つながるものづくり

の実現戦略 IVRA-Next(https://iv-i.org/)」より引用

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なる共通辞書の定義およびメンテナンスが、このフレームワークを機能させていく上での要となる。ど

のような用語を共通辞書として登録するかを、あらかじめ標準化検討グループを立ち上げ、エキスパー

トが専門知識を持ち寄り議論する方法も考えられる。しかし、各生産現場に対応するローカルなサイト

では、さまざまな用語が生まれては消えていくなかで、それらの実体を掌握することは不可能に近い。し

たがって、図 5 に示すように、ここでは逆に、そうした個々の実際の用語をベースとして、たとえば年一

回のサイクルで、用語の追加や修正を行い、つねに進化している共通辞書をめざす。

図 12 共通辞書のメンテナンスによる「ゆるやかな標準」

「もし工程にある価値あるデータを取引先や得意先に提供するとすれば、どのような技術的、制度的な

環境が望ましいか。」本報告書で提案するアーキテクチャーは、生産現場の管理者がもつこのような意識

からスタートした。そこには、オープン&クローズ戦略、つまりどこまで相手あるいは第三者に手の内を

開示し、どこから徹底的な秘密管理をするかという境界の策定が重要となる。そのための答えは一通り

ではないが、まずスタートラインとして、生産現場から直接得られたデータは、クローズ領域、つまり営

業秘密として特定の契約で既定された相手のみに開示する一方で、カタログ情報、仕様情報はオープン

領域として、取引拡大のためのツールに組み込み積極的に展開する。これまで秘密性が高かった個別辞

書データなどは、オープン領域のデータとして、積極的に開示し、共通辞書データに組み込む努力をする

ことで、提案するフレームワークをより利便性の高いものとすることができる。

8. エコシステムにおけるステークホルダー

製造プラットフォームを相互にオープンな環境の中で連携させ、部門や企業の壁を越え、国や地域や

制度の壁も超えてデータ流通を活性化するためには、技術的な側面に加えて、ビジネス的な側面も極め

て重要である。つまり、このフレームワークに不可欠であると同時に利害関係がともなうそれぞれのス

テークホルダーにとって、こうしたフレームワークに参加することのメリット、デメリットをあらかじ

め吟味する。そうした上で、最終的に、このフレームワークがひとつのエコシステムの根幹をなすしくみ

として機能し、それぞれの当事者にとって意味のあるもの、価値のあるものとして持続的に成長する。

ここで議論するエコシステムにおけるステークホルダーとして、まずはプラットフォーム提供者が筆

頭として挙げられる。プラットフォームは、本報告書での定義上、参加するコンポーネント間でデータを

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セキュアでかつ確実につなげることを付加価値とする。したがって、プラットフォーム提供者は、その品

質を保証するために、対象とするコンポーネントを選定し、相互に連携してその相互運用性を高める努

力をする一方で、そうしたプラットフォームの信頼性や拡張性などを巡って他のプラットフォーム提供

者とは競合する。

一方、製造プラットフォームにコンポーネントを提供するコンポーネントベンダーにとっては、結果

的に複数のプラットフォームに参加し、その中で自社の製品やサービスの付加価値を最大化する努力を

する。プラットフォーム内では、他のコンポーネントとの間でのデータ交換の機能を提供すると同時に、

ビジネス的に見れば、同じカテゴリーや機能をもった他のコンポーネントとは競合し、できるだけ差別

化を図ろうとするだろう。また、コンポーネントの魅力は、それが属するプラットフォームの魅力にもつ

ながるため、プラットフォーム提供者は、強力なコンポーネントの取り込み、あるいは抱え込みに発展す

る可能性もある。

しかし、忘れてはならないのが、製造プラットフォームを利用する製造業の存在である。つまり、製造

プラットフォームは、それが実際に機能する工場あるいは生産現場において、ユーザーである管理者、技

術者、作業者の視点を無視することはできない。特に、製造プラットフォーム上で流通するデータの帰属

先は、その生成者であり工場を所有する製造業であることを前提とすると、そうしたデータの利活用が、

製造業の活動に資するものであることを常に確認しておく必要がある。こうした原則を明確にし、製造

プラットフォームを連携する上での費用負担や収益の配分方法について、公正な枠組みをあらかじめ設

定することで、エコシステムが実際に動き始める。

また、製造プラットフォームの連携にあたり、連携先のプラットフォームは、おそらく製造という枠を

こえた、さまざまな業種、さまざまなレイアに位置づけられる多種多様なプラットフォームとなるだろ

う。そうした未知のプラットフォームが、本報告書で示すフレームワークの中で連携可能なものである

保証はどこにもない。メガ・プラットフォーマーといえるシリコンバレー企業はもとより、今後は、それ

ぞれの国や地域で、データ戦略、あるいは政策的に進められると予想されるローカルなプラットフォー

ムとも連携できるよう、中立的な組織(法人)によるルール策定や調停機能が必要となる。

こうした中立的な組織の役割りを、まったくのオープンコミュニティ―の組織が担うのか、政府や国

際的に認知された公的機関が関与すべいなのか、あるいはそれは完全に市場論理に委ね、数社のメガ・プ

ラットフォーマーのパワーバランスの中で進んでいくのか、現時点では明確な答えは見えていない。し

かし、いずれにしても、第四次産業革命、ソサエティ 5.0 の中で、Connected Industries の中核を担う製

造業にとって、つながる先は国内の事業者のみではなく、むしろ海外のさまざまな企業や団体、最終消費

者まで、データを介した連携、つながる化が求められてる。プラットフォームがこうした国や地域を超え

てつながることで、それをベースとした製造業のビジネスが、質、量ともにさらに大きく拡大していくは

ずである。

9. 実現へ向けてのロードマップ

本報告書では、製造プラットフォームの重要性を示すとともに、それらを効果的に連携させることで、

Connected Industries のコンセプトを具体化し、デジタル化の大波に直面している我が国の産業構造の変

革に大きく寄与するエコシステムのグランドデザインを示した。技術的な変化の激しい時代の中で、こ

のアイデアも数年のうちに陳腐化するであろう。早急に具体的な施策として展開し、今後3年以内に本

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報告書の内容を社会実装しなければ、逆に時代の波に飲み込まれてしまう危険性もある。以下に、今後の

暫定的なロードマップを示す。

期間 アクション アウトカム

2018 年度 付録で示した実証用システムのフレームワークをオ

ープンフレームワーク(CIOF)として拡充させ、本報

告書の基本構想について3つのユースケースをベー

スに PoC を実施。同時に、CIOF を中小企業のデータ

連携で実運用可能なレベルとする。また、ドイツや中

国など海外の主要機関、組織とフレームワークに関す

る情報交換を行い、連携を深める。

3 つのユースケースを通して、

製造プラットフォーム間のデ

ータ接続用 API を実装し、そ

の有効性が評価される。CIOF

の API 実装事例 3 社から 5 社

程度。CIOF のソースコードは

公開し、それを活用した中小企

業向けの連携アプリの事例 3

件程度。

2019 年度 国際的にも認知され、海外企業、特にアジア企業が参

加しやすい組織を設立し、国や地域を超えた連携を強

化する。また、CIOF のセキュリティ面を強化し、ブ

ロックチェーン技術などを用いて、製造業間での決済

機能、信用取引機能などを付加する。さらに、辞書機

能を充実させ、複数のローカル辞書の自動変換、そし

て多国語自動変換を機能として組み込むと同時に、辞

書のメンテナンスのルール化、制度化を図る。

連携を指揮する既存団体また

は新規に組織化。海外団体、海

外企業が対等に参加できる枠

組みとする。フレームワークの

本格的な開発により、フィンテ

ック機能を追加される。必要な

ルール化、国際標準などの対応

が具体化される。

2020 年度 中小製造業への普及、および海外、特にアジア企業へ

の普及のためのサポート体制を充実させる。また、デ

ータ流通にあたっての権利関係や保証問題などを国

を超えた法整備を進め、製造業とサービス業やその他

の産業との連携による革新的なビジネスモデルをベ

ースとするスタートアップを支援し、Connected

Industries を先導する具体的な例としてプロモーショ

ンする。また、大学や研究機関、そして地域の支援機

関を巻き込み、製造プラットフォーム連携の基本フレ

ームを、さまざまな産業へ展開し定着を図る。

海外企業と国内企業の間での

実証事例をもとに契約ガイド

ラインの策定。国内のデーア流

通事例 100 件、海外との事例 5

件程度をピックアップ。また、

新しいビジネスモデルの取組

事例、活用事例としてスタート

アップの事例3件程度。製造業

を超えた連携体の枠組みが具

現化。

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付録:WGメンバーおよび開催記録

【WG メンバー】

茅野 眞一郎 三菱電機(株) FA ソリューションシステム部 技術企画グループ 主席技師長

須藤 雅子 ファナック(株) ソフトウェア研究所 技師長

曽我 崇明 DMG 森精機(株)開発本部 制御ソフト開発部 部長

塚越 登 東京大学大学院情報学環 教授

西岡 靖之 インダストリアル・バリューチェーン・イニシアティブ理事長、法政大学教授【座長】

堀水 修 (株)日立製作所 IoT 推進本部 担当本部長

(五十音順、敬称略)

【開催記録】 計 6 回

第 1 回 12/4(月)15:00~17:00 経済産業省7階東7(第12会議室)

⇒ WGの目的とゴールについての審議

第 2 回 12/21(木)10:00~12:00 経済産業省7階東7(第12会議室)

⇒ 各社の役割と辞書作成について議論

第 3 回 12/26(火)17:00~19:00 経済産業省7階東7(第12会議室)

⇒ アーキテクチャー確認とデモの実施

第 4 回 1/31(水)13:00~15:00 経済産業省7階東7(第12会議室)

⇒ オープン連携ユースケースの審議

第 5 回 2/9(金)10:00~12:00 経済産業省7階東7(第12会議室)

⇒ 中間報告書ドラフトの骨子の確認

第 6 回 3/7(水))10:00~12:00 経済産業省7階東7(第12会議室)

⇒ 連携デモ実施および中間報告書まとめ