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2015.7.1 4 日本を訪れる外国人の増加や 中国人観光客による「爆買い」 がメディアに取り上げられ、「イ ンバウンド消費」という言葉が 日本経済新聞社の日経MJヒッ ト商品番付(2014 年)で東の横 綱に選ばれるほど、日本経済に インパクトを与えている。 「03年に『ビジット・ジャパ ン(VJ)・キャンペーン』がス タートし、訪日外客数を当時の 年間521万人から1000万人に増 やそうというインバウンド・ツー リズムの取り組みが始まりまし た。13年に念願だった1000万 人を突破し、14年には1341万 3467 人( 前 年 比 29.4%増、暫定値) と急激に増加し ました(【図】参 照)。現在は 20 年 に2000万人達成 を目標としてい ます」。そう話す のは、日本政府 観 光 局(JNTO) 海外プロモーシ ョン部長の亀山 秀一氏である。 JNTOは、前回の東京オリン ピックが開催された1964年に 特殊法人国際観光振興会として 発足し、03 年より現在の組織と なった。海外における観光宣伝、 外国人旅行者への観光案内、国 際コンベンションの誘致など、 訪日外国人旅行者の誘致促進に 取り組むインバウンド専門の公 的機関である。 現在、諸外国も自国への観光 客誘致に乗り出しており、世界 規模で激烈な競争が繰り広げら れている。日本ブランドを積極 的にPRし、外国人観光客をい かに多く誘致するかが大きな課 題だ。 外国人観光客の増加に伴い、 自治体や各種施設、企業の受け 入れ体制の整備が進められてい る。しかし、各団体・企業がバ ラバラに取り組んでいたので プロの目線 PROFESSIONAL , S VIEW 【日本政府観光局(JNTO)】 東京オリンピックが開催された 1964 年に政府観光局として産声を上 げ、50 年間にわたって訪日外国人旅行者の誘致に取り組んできた日本 の公的な専門機関。世界 14 都市に海外事務所を持ち、日本へのインバ ウンド・ツーリズム(外国人の訪日旅行)のプロモーションやマーケテ ィングを行っている。 年比約 30%増の 訪日外客数 0 300 600 900 1200 1500 2003 04 05 06 07 08 09 10 11 12 13 14 (万人) 1341.3 521.2 613.8 672.8 733.4 834.7 835.1 679.0 861.1 621.9 835.8 1036.4 (年) ビジット・ジャパン・ キャンペーン開始 東日本大震災 円高進行 初の 1000 万人 達成 世界金融危機 鳥インフルエンザ 【図】訪日外客数の推移 出典:観光庁『ビジット・ジャパン事業開始以降の訪日客数の推移 (2003 年~2014年)』より作成 目指せ! 訪日客2000万人 国内外の活動で インバウンド・ツーリズムを支援 2013 年に訪日外客数が 年間 1000 万人を超え、国は 2020 年までに 2000 万人達成の目標を掲げた。 アジア圏を中心に増加の一途をたどる 訪日客に対する PR、受け入れ体制の整備、 ビジネス機会の創出といった多様な活動で インバウンド・ツーリズムを支援するのが JNTO である。 日本政府観光局(JNTO) (独立行政法人国際観光振興機構) 海外プロモーション部長 亀山 秀一

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2015.7.14

 日本を訪れる外国人の増加や中国人観光客による「爆買い」がメディアに取り上げられ、「インバウンド消費」という言葉が日本経済新聞社の日経MJヒット商品番付(2014年)で東の横綱に選ばれるほど、日本経済に

インパクトを与えている。 「03年に『ビジット・ジャパン(VJ)・キャンペーン』がスタートし、訪日外客数を当時の年間521万人から1000万人に増やそうというインバウンド・ツーリズムの取り組みが始まりました。13年に念願だった1000万人を突破し、14年には1341万

3467人( 前 年 比29.4%増、暫定値)と急激に増加しました(【図】参照)。現在は20年に2000万人達成を目標としています」。そう話すのは、日本政府観 光 局(JNTO)海外プロモーション部長の亀山秀一氏である。

 JNTOは、前回の東京オリンピックが開催された1964年に特殊法人国際観光振興会として発足し、03年より現在の組織となった。海外における観光宣伝、外国人旅行者への観光案内、国際コンベンションの誘致など、訪日外国人旅行者の誘致促進に取り組むインバウンド専門の公的機関である。 現在、諸外国も自国への観光客誘致に乗り出しており、世界規模で激烈な競争が繰り広げられている。日本ブランドを積極的にPRし、外国人観光客をいかに多く誘致するかが大きな課題だ。 外国人観光客の増加に伴い、自治体や各種施設、企業の受け入れ体制の整備が進められている。しかし、各団体・企業がバラバラに取り組んでいたので

プロの目線PROFESSIONAL,S VIEW

【日本政府観光局(JNTO)】東京オリンピックが開催された 1964 年に政府観光局として産声を上げ、50 年間にわたって訪日外国人旅行者の誘致に取り組んできた日本の公的な専門機関。世界 14 都市に海外事務所を持ち、日本へのインバウンド・ツーリズム(外国人の訪日旅行)のプロモーションやマーケティングを行っている。

前年比約30%増の訪日外客数

0

300

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1500

2003 04 05 06 07 08 09 10 11 12 13 14

(万人)

1341.3

521.2613.8

672.8733.4

834.7 835.1

679.0

861.1

621.9

835.8

1036.4

(年)

ビジット・ジャパン・キャンペーン開始

東日本大震災円高進行

初の 1000 万人達成

世界金融危機鳥インフルエンザ

【図】訪日外客数の推移

出典:観光庁『ビジット・ジャパン事業開始以降の訪日客数の推移   (2003 年~ 2014 年)』より作成

目指せ! 訪日客2000万人国内外の活動でインバウンド・ツーリズムを支援2013 年に訪日外客数が年間 1000 万人を超え、国は 2020 年までに2000 万人達成の目標を掲げた。アジア圏を中心に増加の一途をたどる訪日客に対する PR、受け入れ体制の整備、ビジネス機会の創出といった多様な活動でインバウンド・ツーリズムを支援するのがJNTO である。

日本政府観光局(JNTO)(独立行政法人国際観光振興機構)海外プロモーション部長

亀山 秀一氏

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2015.7.1 5

インバウンド消費を支える中国からの訪日客

 2014年に日本を訪れた外国人旅行者のうち、1人当たりの支出総額が最も多いのはベトナムの23万 7688 円。僅差で中国

(23万1753円)が続く。 しかし支出内訳を見ると、中国は買い物代が12万7443円と、2位のベトナムの8万8814円を大きく上回る。中国人の消費額は、インバウンド消費全体の4分の1を占め、買い物代に費やす支出は全体の平均5万3278円を大きく上回る。 また、これまで宿泊費が旅行消費額の内訳のトップを占めていたが、14年に初めて買い物代がこれを上回った。中国人観光客による「爆買い」が各種メディアで取り上げられているが、こういった統計からも、その規模の膨大さは明らかである。

P O I N T O F V I E W 0 1は、日本ブランドは高まらない。そこで、訪日外国人の受け入れを「オールジャパン体制」で強化するさまざまな施策を観光庁とともに行う中核組織としての役割を、JNTOが担っているのである。

 14年に1341万人超の過去最高を記録した訪日外客数は、15年も順調に推移している。JNTOによる推計値は15年4月単月で過去最高の176万4700人を記録。その急伸の背景には、80%近くを占めるアジア圏からの訪日外国人旅行者の増加がある。国・地域別に見ると、中国・韓国・台湾が上位を占めるが、東南アジア諸国からの訪日客も増加する一方だ。 15年1~4月累計の訪日外客数を国・地域別にみると、伸び率は中国が前年比98.9%増と圧倒的で、ベトナム同59.9%増、フィリピン55.9%増と続く。アジア圏が全体的に底上げされている状況である。 観光庁の「訪日外国人消費動向調査」によると、15年1~3月期における訪日外国人の旅行消費額は前年同期に比べ、64.4%増と驚異的な伸びを見せている。1人当たりの消費額も前年比14.4 % 増 の17万1028円。14年に初めて2兆円を突破して以来、増加する一方だ。 国・地域別の消費総額は、中国が前年同期に比べ約2.4倍の

2775億円と1位で、全体の39.3%を占めている。 急激に訪日外国人旅行者が増え、消費を拡大させている要因は、ここ数年続いている円安傾向に加え、14年10月に消費税の免税措置が拡大されたことも大きい。 亀山氏は、「最大の要因はアジア圏の経済力がアップし、海外旅行に行く余裕が生まれたことです。それに対し、日本政府

はタイやマレーシアの訪日ビザ免除や、中国やベトナムに対する数次ビザ発行数の拡大などのほか、消費税の免税措置を化粧品・薬・食品・酒など、土産物として好まれる消耗品にまで拡大しました。さらに、円安傾向が続き、旅行費用が安く感じられるというメリットが高まったことも重なって『日本への旅行はお得だ』との認識が広まり、観光客の増加につながっています」と分析する。 消費税率のアップや急激な円安による輸入原材料の価格高騰で、なかなか苦境から脱し切れていない日本経済にとって、インバウンド消費の大幅な伸びは、大きなメリット要因となっている。

 多くの外国人観光客が訪れると、その受け入れ体制が大きな

Special Edition熱烈歓迎、インバウンド御一行様

買い物額の急増が目立つ

不満を探りニーズを見つける

JNTO が海外で展開する PR 活動

プロの目線

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課題となる。「従来は観光=遊びのイメージが強く、政府機関は力を入れてこなかった面があります。また民間の観光産業も、内需で十分にやっていけていました。しかし、人口減少社会となり、世界的に外国人観光客の誘致競争が激化していることもあって、VJキャンペーンのスタート時から受け入れ体制の整備が進んでいます。それでも改善点は多いのが現状です」と亀山氏は話す。 最大の課題は、言葉の壁だ。外国語による表記・標示がまだまだ少ないのが現状である。しかし、英語に限れば日本人の英語力は確実にアップし、タブレットなど情報端末の活用も進んでいる。買い物客が多く訪れる百貨店などは、中国人の接客係を雇用するなどの対応を着々と進めている。 また、無料Wi-Fi(無線LAN)が使えないとの不満を述べる

外国人観光客も多い。自治体や企業がアクセスポイントの拡大を進めているが、地域ごとに提供者が違うと設定に手間が掛かるため、総務省や観光庁がシームレスに使える専用アプリ導入の検討を進めている。 さらに、クレジットカードが使用できるかどうかの表示が少ないことも挙げられている。「クレジットカードが使えれば買ったのに」との声もあり、機会損失は少なくない。現金を引き出せるATMの数が不足している点も指摘されている。ゆうちょ銀行やセブン銀行は海外のカードに対応しているが、他行は遅れているのが現状である。メガバンクは現在、対応に向けて準備中とのことだ。 外国人観光客の訪問先は、東京に一極集中している状況で、大阪や京都がそれに続く。地方

にも多くの観光資源があり、それをいかにPRするかも課題である。そのためJNTOは、海外の旅行会社にPR活動を展開するとともに、自治体などと連携を図って全国500カ所以上に認定観光案内所を設置している。 亀山氏は「これまでは『日本に来てください』というプロモーションに力を入れてきましたが、現在は『楽しい旅行ができているか』も重視しています。SNSの普及で、すぐに感想がクチコミで全世界に広がる。これは大きなPRツールであり、うまく対応することが大切です。そう考えると、環境整備はコストが掛かるばかりとは言えません。また、言葉の壁はありますが、コミュニケーションを図る気遣いや姿勢が満足度をアップさせます」と指摘する。 ニーズや困り事を聞き、そこからヒントを見いだすのはビジネスの常識だ。外国人観光客をより知ろうという姿勢が、満足度の向上につながるのである。

再び注目される「made in japan」

 「多くの外国人観光客が本国に持ち帰る土産品として高い人気を誇るのが、『made in japan』の商品です」と亀山氏は指摘する。中国人観光客がドラッグストアで化粧品・薬・日用品を大量に買い込み、家電量販店で炊飯器など家電製品を運び切れないほど購入する姿はメディアでもおなじみである。観光客は日本製を求めているということが、日本の企業にとって重要なポイントだ。 多くの日本企業は、コスト競争でアジア圏に対抗できなくなっている。しかし、品質や安全性が高い日本製の信頼感は依然として高い。外国人観光客の消費は、日本人全体の消費に比べるとまだ小さいが、そのニッチな部分に着目した商品・サービスづくりこそ、中小企業が着目すべきマーケットかもしれない。

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海外事務所長が現地の生の情報を提供するインバウンドフォーラム

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所在地:〒100-0006 東京都千代田区有楽町2-10-1 東京交通会館10F TEL:03-3216-1905 http://www.jnto.go.jp/jpn/P R O F I L E

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 訪日外客数を増やすため、JNTOは多様な活動を行っている。世界14カ所の拠点では、広報宣伝活動や観光客の誘致活動、市場分析・マーケティングなどの海外広報宣伝事業を実施。日本といえば先進工業国のイメージが先行するが、文化面や観光情報をあらためて世界に発信して市場を開拓している。 また、ツーリスト・インフォメーションセンターでの情報提供、認定外国人観光案内所ネットワークの整備、グッドウィル・ガイド(善意通訳普及運動)など、受け入れ体制の整備を行っている。 さらに、国際会議などの誘致や活動を支援し、ビジネス機会やイノベーションの創出、競争力やブランド力の強化を支援する事業にも取り組んでいる。 民間企業や自治体の活動を支援するため、海外の旅行会社と

日本側との情報交換や商談を促す「ビジット・ジャパン トラベルマート」も開催。「JNTOが直接ビジネスのサポートをすることは難しいですが、機会を設けることは可能です。また、多くの情報を持っているので、ぜひとも活用いただきたい」と亀山氏は話す。 JNTOでは、これまで積み上げてきた経験・ノウハウと、海外主要市場をカバーするネットワークを通じ、地方公共団体や民間企業のインバウンド・ツーリズム事業のサポートを行っている。 都道府県や市町村などの自治体や観光協会、旅行会社、鉄道会社、航空会社、観光施設などで構成される賛助団体のほか、宿泊施設・商業施設・旅行会社などの民間企業がJNTOの会員。年会費を支払う会員は15年5月現在で225社と、インバウンド消費の高まりとともに年10%近く増加している。「マーケティング情報の提供や海外PR・セールスの支援策などは、気軽に相談いただければと思います」と亀山氏は話す。

 訪日外国人旅行者が急速に増加し、インバウンド消費の重要性は高まっている。つまり、ビジネスの機会が拡大しているということだ。外国人は観光だけで訪れるわけではない。さまざまな日本製品を購入する機会も

Special Edition熱烈歓迎、インバウンド御一行様

多様なビジネス支援策も用意

裾野は拡大しチャンスも増加

あり、ビジネスの裾野は広がっている。観光産業だけでなく、多種多様な産業にも、その影響が及びつつあるのだ。 亀山氏は、「初めて訪日する外国人観光客は、東京・富士山・京都・大阪という定番コースを回りますが、リピーターになるとより地方へ活動範囲を広げます。レンタカーを利用する旅行プランを企画するケースもあります」と話す。レンタカーやカーナビゲーション、高速道路、サービスエリア、ガソリンスタンドなど、従来の観光産業とは違った分野への多様な展開が期待できるわけだ。 また「外国人観光客は『made in japan』を求めています」と亀山氏が言うように、日用品・家電製品に限らず、日本らしさにどう着眼するかが、大きなチャンスにつながるのである。 「満たすべきニーズはたくさんあります。各社が何をできるかを考え、さまざまなニーズにきめ細やかに対応することが、訪日外国人旅行者の増加につながるのです。JNTOは、B to BやB to Cのつながりをセッティングできます。ぜひ活用してください」と亀山氏は話す。 20年の東京オリンピック・パラリンピック開催を控え、ますますインバウンド消費は高まりを見せると予想される。JNTOの持つネットワークや情報を活用し、さらにビジネスの幅を広げることを検討してはいかがだろう。

海外旅行会社と日本側との情報交換や商談の機会となる「ビジット・ジャパン トラベルマート」