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1 物理学 III 2005 年度3学期木曜1限) H201 8:40 - 9:55 担当 守友 浩 自 B607 H18.2.16 目 次 I.非慣性系 1.直線運動をしている座標系・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 2.回転座標系 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 3.地表での運動 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 8 II.原子の構造 1.光の粒子性・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 9 2.物質の波動性 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 11 3.原子の構造 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 13 4.原子軌道と周期律表・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 15 5.原子と結晶・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 18 III.分子と熱 1.気体の分子運動 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 19 2.マクスウェルの速度分配則・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 21 3.平均自由行程 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 22 4.拡散・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・23 5.熱の移動 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 24 (参考文献) I.について ・「力学」 戸田盛和(岩波書店)物理入門コース II.について ・「物理学通論II」 原康夫 (学術図書出版) III.について ・「物理学通論I」 原康夫 (学術図書出版)

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    物理学 AIII (2005年度3学期木曜1限)

    1H201 8:40 - 9:55 担当 守友 浩 自B607

    H18.2.16版 目 次

    I.非慣性系

    1.直線運動をしている座標系・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 1 2.回転座標系 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 4 3.地表での運動 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 8

    II.原子の構造 1.光の粒子性・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 9 2.物質の波動性 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 11 3.原子の構造 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 13 4.原子軌道と周期律表・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 15 5.原子と結晶・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 18

    III.分子と熱 1.気体の分子運動 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 19 2.マクスウェルの速度分配則・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 21 3.平均自由行程 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 22 4.拡散・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・23 5.熱の移動 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 24

    (参考文献)

    I.について ・「力学」 戸田盛和(岩波書店)物理入門コース

    II.について ・「物理学通論II」 原康夫 (学術図書出版)

    III.について ・「物理学通論I」 原康夫 (学術図書出版)

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    I.非慣性系 ニュ―トンの運動法則がそのまま成り立つ座標系を慣性系という。しかしながら、加速または減速している電車やカーブを曲がっている車の中では、ニュ―トンの運動方程式はそのままでは成り立たない。

    こうした座標系を非慣性系という。また、地球も自転しているので、地上も厳密には非慣性系である。

    この効果は、台風の風や長い振り子に現れる。 1.直線運動をしている座標系 原点をO、座標系を zyx ,, とする慣性系をS系 ),,-O( zyx で表す。S系に対して運動している座標系の原点を 'O 、座標系を ',',' zyx とする座標系を S‘系 )',','O'-( zyx とする。また、S 系か

    ら見たS’系の原点を 'O の座標を ),,( OOO zyx とする。

    まず、S系が回転していない場合を考え、S系とS’系の座標軸を平行にとる。すると、

    ',',' zzzyyyxxx OOO +=+=+= (1.1)

    が成り立つ。ベクトルを用いれば、

    'rrr Ovwv += (1.2)

    となる。慣性系Sに対する運動方程式は、 Fdt

    rdmvv

    =22

    である。(1.2)式を二回微分して、

    2

    2

    2

    2

    2

    2 'dt

    rddt

    rddt

    rd Ovwv

    += (1.3)

    となる。したがって、

    OFFdtrdm

    vvv+=2

    2 ' (1.4)

    が得られる。ただし、 2

    2

    dtrd

    mF OOvv

    −= は、S‘系が加速度運動をしているために生じる見かけの

    力であり、慣性力という。つまり、慣性系に対して加速度運動をしている座標系には慣性力が現れ、

    これを加えればニュートンの運動方程式が成り立つ。 (例) 一定の加速度αで上昇するエレベータの内部で石を水平に投げる。石の運動を慣性系(エレベー

    ターの外)と加速度運動している座標系(エレベーターの中)で調べよう。 [慣性系]石に作用している力は重力mg だけであるから、運動方程式は

    022

    =dt

    xdm 、 mgdt

    ydm −=22

    (1.5)

    である。石を投げた瞬間のエレベータの床の高さを 0h 、床から投げるところまでの高さを0 とす

  • 3

    れば、 0=t での石の高さ(慣性系での y 軸の高さ)は 0h である。またエレベータに対し水平に 0u

    の速度で投げたとし、そのときのエレベータの速度を

    0v とすると、初期条件は 0=t で、

    0=x 、 0hy = 、 0udtdx

    = 、 0vdtdy

    =

    である。この条件に対して(1.5)を解くと

    tux 0= 、2

    00 21 gttvhy −+= (1.6)

    となる。一方、エレベータに取り付けた座標系の原点 'O

    の位置は、 0=x 、 200 21 ttvhy α++= であるから、こ

    れを上式から引けばエレベータからみた運動が得られ

    る。

    tuxxx 00' =−= 、2

    0 )(21' tgyyy α+−=−= (1.7)

    [加速度運動している座標系] 石に働く力は重力mg と下向きの慣性力 αm である。石の運動方程式は

    0'22

    =dt

    xdm 、 αmmgdt

    ydm −−=22 '

    (1.8)

    となる。初期条件は 0=t で

    0'=x 、 0'=y 、 0' u

    dtdx

    = 、 0' =dtdy

    なので、上の運動方程式を解けば

    tux 0'= 、2)(

    21' tgy α+−=

    となる。これは、(1.7)式と同じである。 相対速度が一定の場合

    相対速度 Ov が一定の場合には、 022

    =−=dt

    rdmF OO

    vvである。

    したがって、S‘系に対しても、

    Fdt

    rdmvv

    =22 '

    (1.5)

    が成り立つ。いいかえると、ひとつの慣性系 S に対して等速度で動く座標系S‘はやはり慣性系である。これをガリレオの相対性原理という。

  • 4

    相対速度 Ov の方向をx 軸および 'x 軸にとり、これらが重なるようにすれば、

    ',',' zzyyxtvx O ==+= (1.6)

    によって、 ),,( zyx と )',','( zyx の間の関係がつけられる。この関係をガリレオ変換という。 2.回転座標系 慣性系S系に対して回転している回転座標系S’を考えよう。簡単のために二次元の運動を考える。慣性系Sに対する運動方程式は、

    yx FdtydmF

    dtxdm == 2

    2

    2

    2

    , (1.7)

    である。いま、S’系はS’系と原点が一致し、S系に対して角速度ωで回転しているとする。時刻0でこれらの座標系が一致していたとすると、

    ⎩⎨⎧

    +=−=

    tytxytytxx

    ωωωω

    cos'sin'sin'cos'

    (1.8)

    で与えられる。(1.8)式を一回微分して、

    ⎪⎪⎩

    ⎪⎪⎨

    −++=

    −−−=

    tytdtdytxt

    dtdx

    dydy

    tytdtdytxt

    dtdx

    dydx

    ωωωωωω

    ωωωωωω

    sin'cos'cos'sin'

    cos'sin'sin'cos'

    (1.8’)

    となる。もう一度、微分して、

    ⎪⎪⎩

    ⎪⎪⎨

    −−+−+=

    +−−−−=

    tytdtdyt

    dtydtxt

    dtdxt

    dtxd

    dyyd

    tytdtdyt

    dtydtxt

    dtdxt

    dtxd

    dyxd

    ωωωωωωωωωω

    ωωωωωωωωωω

    cos'sin'2cos'sin'cos'2sin'

    sin'cos'2sin'cos'sin'2cos'

    22

    22

    2

    2

    2

    2

    22

    22

    2

    2

    2

    2

    m をかけて、整理すると、

    ⎪⎪⎩

    ⎪⎪⎨

    −++−−=

    −+−−−=

    tymdtdxm

    dtydmtxm

    dtdym

    dtxdm

    dtydm

    tymdtdxm

    dtydmtxm

    dtdym

    dtxdm

    dtxdm

    ωωωωωω

    ωωωωωω

    cos)''2'(sin)''2'(

    sin)''2'(cos)''2'(

    22

    22

    2

    2

    2

    2

    22

    22

    2

    2

    2

    2

    (1.9)

    を得る。他方、S系での ),( yx FF とS’系での )','( yx FF には、(1.8)と同様に、

    ⎩⎨⎧

    +=−=

    tFtFFtFtFF

    yxy

    yxx

    ωωωω

    cos'sin'sin'cos'

    (1.9)

  • 5

    の関係がある。(1.9)式と(1.10)式を比較すると、

    ⎪⎪⎩

    ⎪⎪⎨

    =−+

    =−−

    '''2'

    '''2'

    22

    2

    22

    2

    y

    x

    Fymdtdxm

    dtydm

    Fxmdtdym

    dtxdm

    ωω

    ωω (1.11)

    を得る。結局、

    ⎪⎪⎩

    ⎪⎪⎨

    +−=

    ++=

    ''2''

    ''2''

    22

    2

    22

    2

    ymdtdxmF

    dtydm

    xmdtdymF

    dtxdm

    y

    x

    ωω

    ωω (1.12)

    となる。 この式は、回転座標系S’には二種類の見かけの力が働いていること示している。 第三項は遠心力である。この力は、質点が回転座標系に静止していても働く。ベクトルをもちい

    れば、

    rmF vr

    2ω=遠心力 (1.13)

    とかける。 第二項はコリオリの力である。この力は、質点が動いているときにのみ働く。ベクトルの外積を

    もちいれば、

    dtrdmFv

    vr ×−= ω2コリオリ (1.14)

    とかける。したがって、コリオリの力は、

    速度ベクトルと回転座標系の回転軸に垂直

    である。いま、回転座標系の原点付近を横

    切る質点の運動を考えてみよう。慣性系で

    見て直線運度をする質点も、回転座標系か

    ら見れば、その回転と逆向きに曲がってゆくように見える。この運動が見かけの力によるものと見

    なしたときの力が、コリオリの力である。 (問題)(1.14)式を確かめよ。 (問題)赤道における遠心力の加速度はい

    くらか。地球の半径は6400kmである。

    [ 300//034.0 22 gsmR ==ω ]

    3.地表での運動

  • 6

    ここでは、コリオリの力が地表での質点の運動に及ぼす効果を紹介する。なお、地表での遠心力

    は最大でも重力の1/300まので、無視する。 地表に固定した座標系を考えよう。原点 O の緯度をλとし、南へx軸、東へy軸、鉛直上方へ

    z軸をとる。自転の角速度は、

    ⎟⎟⎟

    ⎜⎜⎜

    ⎛−=

    λω

    λωω

    sin0cos

    v (1.15)

    であるので、コリオリの力は、

    ⎟⎟⎟⎟⎟⎟

    ⎜⎜⎜⎜⎜⎜

    +

    −=

    ⎟⎟⎟⎟⎟⎟

    ⎜⎜⎜⎜⎜⎜

    ×⎟⎟⎟

    ⎜⎜⎜

    ⎛−−=

    dtdy

    dtdz

    dtdx

    dtdy

    m

    dtdzdtdydtdx

    mF

    λ

    λλ

    λ

    ωλω

    λω

    cos

    cossin

    sin

    2sin0cos

    2コリオリv

    (1.16)

    となる。したがって、地表に固定した座標系での運動方程式は、

    ⎪⎪⎪

    ⎪⎪⎪

    +−=

    +−=

    +=

    dtdymmgZ

    dtzdm

    dtdz

    dtdxmY

    dtydm

    dtdymX

    dtxdm

    λω

    λλω

    λω

    cos2

    )cos(sin2

    sin2

    2

    2

    2

    2

    2

    2

    (1.17)

    である。 ZYX ,, は重力以外の外力である。 (例)落体に対する自転の影響 例えば、赤道に立った高い塔から物体を落とす。南極の

    方から見ると、高い塔の上は地上に比べて大きな速度で右

    に動いている。そのため、塔の上から落とした物体は地表

    に対して右のほうに初速度をもっている。したがって、塔

    の真下よりも東にすれると思われる。(実際にそうなる!)

    これを運動方程式で確かめよう。 (1.16)式は、外力がないので、

    ⎪⎪⎪

    ⎪⎪⎪

    +=

    +−=

    =

    dtdyg

    dtzd

    dtdz

    dtdx

    dtyd

    dtdy

    dtxd

    λω

    λλω

    λω

    cos2

    )cos(sin2

    sin2

    2

    2

    2

    2

    2

    2

    (1.18)

  • 7

    となる。初期条件は、 0,,0 ======dtdz

    dtdy

    dtdxhzyx である。物体は、だいたい鉛直に落下

    するので、dtdz

    に比べてdtdy

    dtdx , を無視する。したがって、(1.17)の第一式と第三式より、

    2

    21,0 gtzyx −== を得る。これらを第二式に代入すると、 λω cos22

    2

    gtdt

    yd= となる。

    したがって、

    23

    3 ])(2[cos31cos

    31

    gzhggty −== λωλω (1.19)

    を得る。これをナイルの放物線という。 (例)フーコー振り子 フーコーは長い振り子を用いて、1851 年に地球の自転を直接示す実験に成功した。振り子を北

    極で降らしたとする。その振動面は太陽系に対して一定の向きを保つため、地表に対して一日一回

    転する。その移動は地球の自転に対して逆向きである。これを運動方程式で確かめよう。 ひもの長さをl 、ひもの張力をS 、おもりの重さをm とする。また微小振動なので、 lz −= (一定)

    とする。おもりの運動方程式

    ⎪⎪⎩

    ⎪⎪⎨

    −−=

    +−=

    dtdxm

    lyS

    dtydm

    dtdym

    lxS

    dtxdm

    λω

    λω

    sin2

    sin2

    2

    2

    2

    2

    (1.20)

    第一式に y− をかけ、第二式にx をかけて、足すと

    )(sin222

    2

    2

    dtdyy

    dtdxx

    dtxdy

    dtydx +−=− λω となる。

    )(22

    2

    2

    dtdxy

    dtdyx

    dtd

    dtxdy

    dtydx −=− お よ び 、

    )(21 22 yx

    dtd

    dtdyy

    dtdxx +=+ に注意して、積分を

    行うと、

    )(sin 22 yxdtdxy

    dtdyx +−=− λω (1.21)

    を得る。極座標(ただし、r は一定)

    ⎩⎨⎧

    ==

    ϕϕ

    sincos

    ryrx

    (1.22)

    を使って、

  • 8

    λωϕ sin−=dtd

    (1.23)

    を得る。したがって、振り子の振動面は北半球( 0>λ )では時計回り、南半球では( 0

  • 9

    II.原子の構造

    1. 光の粒子性

    光には、目で見える可視光をはじめ、

    体を温める赤外線、日焼けを起こす紫外

    線、等がある。これらの光は電磁波の一

    種であって、レントゲン写真に用いるX

    線や TV や携帯の電波の仲間である。し

    たがって、光は波動性を持つ。これは、

    回折や干渉などの現象で確かめることが

    できる。しかしながら、光を波と考えた

    のでは、説明のつかない現象もある。

    光電効果

    金属の表面に紫外線などの波長の

    短い光を照射すると、表面から電子

    が飛び出すことがある。この現象を

    光電効果と呼ぶ。これによって出て

    きた電子を光電子という。Millikan

    は 1916 年に図のような装置で実験

    を行った。この装置で、陽電極Pの

    電位を低くしてゆくと光電流が小さ

    くなる。 0VV = で光電流が0になったとすると、光電子の運動エネルギーの最大値は 0eVK = である。

    得られた結果を列挙する。

    (1)金属にあてる光の振動数ν がそ

    の金属に特有なある値 0ν より小さい

    と、電子は飛び出さない。

    (2)光電子の運動エネルギーの最大

    値Kは、光の強さに無関係で、光の振

    動数ν だけで決まり、 0νν hhK −=

    で表される。ここで3410626.6 −×=h

    [J s]はプランク定数と言われる値で

    ある。

  • 10

    (3)光電流はあてた光の強さに比例して増加する。

    (4)どんなに弱い光でも、光の振動数が限界振動数よりも大きいと、光をあてるとすぐに光電子が飛

    び出す。

    この性質のうち(1)(2)(4)は光の波の性質だけでは説明がつかない。なぜならば波が物体にあ

    たって中から電子をたたき出すときの勢い(運動エネルギー)は、波の振幅の大きさにもよるはずだか

    らである。この光電効果の性質を説明するために、アインシュタインは「振動数ν の光は

    λν hchE == (2-1)

    という大きさのエネルギーを持つ光の粒子の流れであって、光電効果では、このエネルギーをもつ光の

    粒子が金属中の電子に衝突すると、そのエネルギーは全部が一度に電子に吸収されてしまう」と考え、

    実験を説明した。光の粒子は光子(photon)と名づけられた。

    (問題)(1)と(2)右図のモデルで説明せよ。

    光子はエネルギーのほかに運動量も持つ。アインシュタインの特殊

    相対論によると、質量m の物体は 2mcE = のエネルギーを持つ(c

    は光速度)。よって、 νhmcE == 2 より、 2chm ν= 。従って、光子

    の持つ運動量は

    λν hc

    hmcp === (2-2)

    となる。

    (問題)λ =380nmおよび780nmが可視光スペクトル両端である。この光のエネルギーを電子ボルト[eV]単位で求めよ。(静止していた電子が1Vで加速されたときに得る運動エネルギーを1電子ボルト[eV]と

    いう。つまり、1[eV]=1.60×10-19[C]×[V]= 1.60×10-19[J]である。)[λhcE = より、3.3eVおよび

    1.6eV]

    コンプトン散乱

    コンプトンは1923年に、X線(波長が非常に短い電磁

    波)を物質にあてたときに、電子が飛び出すとともに、

    散乱するX線の中に入射X線より波長の長いものがある

    ことを発見した。この現象をコンプトン効果という。X

    線の波の性質だけではこれは説明できない。なぜなら波

    の場合は入射した波長と散乱した波長は同じになるから

    である。

    この現象は、X線をエネルギーと運動量を持つ粒子、

  • 11

    すなわち光子の集まりと考え、光子と電子という2つの粒子の衝突と考えれば説明できる。衝突前後の

    エネルギー保存の法則より、 λν hchE == を使って

    2

    21

    'mvhchc +=

    λλ (2-3)

    yx, 軸方向の運動量保存の法則より、(2-2)式を使って、

    αθλλ

    coscos'

    mvhh += (2-4)

    αθλ

    sinsin'

    0 mvh −= (2-5)

    この3式からαとVを消去し、 λλλ −=Δ ' とおき、 λλ

  • 12

    mvh

    ph==λ (2-6)

    の波としての性質をもつことを予言した。このような

    波を物質波とよんだ。上式で与えられる波長をその粒

    子のド・ブロイ波長という。

    電子の波動性

    1927年にデビソン(Davison)とガーマー(Germer)

    は、ニッケルの単結晶の表面に垂直に電子ビームをあ

    てると、表面から散乱される電子の強度はある特定の

    方向で強くなること、その散乱角θは電子の加速電圧Vとともに変わることを発見した。これは光の干

    渉の場合に似ていて、1つの原子とその隣の原子によっ

    て散乱される電子の波が干渉するためにおこるものであ

    る。

    原子の間隔をd とすると、図の2つの原子A、Bによって散乱された電子が通る距離の差 θsindAC = が電子波の波長λの整数倍のとき、すなわち

    λθ nd =sin (2-7) のとき、2つの原子からの電子の散乱波が強めあうこと

    になる。このようにして、光と同じように電子も粒子性

    と波動性の両方の性質をもつことが示された。

    質量mの電子を電位差V の電極間で加速すると、電界のする仕事eV が電子の運動エネルギーになるので、

    ド・ブロイの考えによれば、電子波の波長は次のようになる。 2

    222

    2221

    λmh

    mpmeV === v

    よって、

    meVh

    2=λ (2-7)

    となる。その後、陽子や中性子も両方の性質を示すことが確かめられた。

    (問題)顕微鏡の分解能(2点をはっきり識別できる距離)は波の波長に比例する。電子の波動性を利

    用した顕微鏡が電子顕微鏡である。10kV で加速された電子の波長を計算せよ。[meVh

    2=λ =1.2×

    10-11m]

    (問題)質量が0.15 kg の野球のボールが時速 144 km で運動しているとき、その物質波の波長はいく

    らか。[mvh

    =λ =1.1×10-34m]

  • 13

    (問題)速さが sm /101 4× の中性子線の波長はいくらか。中性子の質量を kg271067.1 −× とせよ。

    [mvh

    =λ =4.0×10-11m]

    不確定性原理

    光や電子が波動性と粒子性の両方の性質を持つことと関係して、物体の位置と運動量の両方を同時に

    正確に決定することができないというHeisenberg(ハイゼンベルク)の不確定性原理が存在する。位置

    および運動量の不正確さをそれぞれ xΔ 、 pΔ とすると、

    24h

    =≥ΔΔπhpx・ 、 (2-8)

    但し、π2h

    ≡h (2-9)

    (これは定性的には以下のようにして理解される。電子の位置と運動量を光を使って精密に測定する思

    考実験を考える。電子の位置の測定精度を xΔ とすると、光の波長λはおよそ λ≥Δx でなければならない。ところが光は観測対象の電子に衝突するとコンプトン散乱を発生して電子に運動量を与えるので、

    波長の短い光をあてると電子の運動量に大きな不定性が生じる。光子の運動量は λhp = なので、電子の運動量の不確定性を pΔ とすると λhp ≥Δ より長い波長の光でなければならない。2式の掛け算から hpx ≥ΔΔ ・ の関係が得られる。) 不確定性原理のため、光や電子の粒子性を調べようとすると光や電子の波動性が隠れてしまう。例え

    ば、前節の二重スリットの実験で光がどちらのスリットを通過したかを調べたとする。つまり、 dx Δ の不確定性が

    生じる。これは、光の進行方向の角度の不確定性dp

    pπλθ

    4>>

    Δ=Δ に対応するので、スクリーン上の

    干渉縞がくずれてしまう。

    3. 原子の構造

    原子核の発見

    ラザフォードは、1909 年、α線と呼ばれるヘリウム原子核のビームを薄い金箔に衝突させたところ、

    一部のα線が跳ね返されることを

    発見した。α線は、その質量の

    1/7000 の質量しかない軽い電子

    に衝突しても跳ね返されない。(こ

    の実験の以前には、「正電荷は約

    10-10m の半径の原子の内部に一様

    に分布しており、電子はその中に

    点在している」と考えられていた。

  • 14

    この場合のクーロン斥力の位置エネルギーは、α線の運動エネルギーの数千分の1である)

    α線が金原子との衝突で電気的な力で進行方向を90度以上も曲げられたと考えると、金原子の正電荷

    を帯びた部分は原子の内部の非常に小さな部分に集まっていなければならない。ラザフォードは、これ

    を原子核と呼んだ。その後、ラザフォードは、「原子の質量のほとんどを持ち、電子の電荷の大きさe の整数倍の正電荷Ze をもち、半径約10-14mの原子核が、半径約10-10mくらいの原子の中心にある原子の太陽系模型」を提唱し、実験結果を説明した。

    しかしながら、このモデルにも困難はあった。電子が原子核のまわりを運動するとき加速度を持って

    いるはずである。ところが電磁気学によれば、そのような時は絶えず電磁波を放出しなければならない。

    したがって、電子はエネルギーを失って電子の軌道は収縮し続け、ついには原子核と結合してしまう、

    つまり、このモデルでは、原子は安定でなさそうに思われた。

    原子の線スペクトル

    ネオン・サインで経験しているように、放電管の中の気体はその気体に特有の光を放出する。この光

    を分光すると多くの線に分かれる。これを原子の線スペクトルと呼ぶ。水素原子の線スペクトルの研究

    から、水素原子の放出する光の振動

    数υは、

    )11(1 22 nmR

    c−==

    υλ

    (2.10)

    という形にまとめられることがわか

    っ た 。 R は 、 Rydberg ( リ ュ ド ベ リ ) 定 数 で 、

    1710)0000000013.00973731534.1( −×±= mR で あ る 。

    m=1,2,3 の線スペクトルのグループをライマン系列、バルマー系

    列、パッシェン系列と呼ぶ。(2.10)式の実験式は、

    ⋅⋅⋅=−=−=

    −=

    ,2,1],[6.1322 neVnnhcRE

    EEh

    n

    mnυ (2.11)

    と変形できる。エネルギー保存則を考慮すると、水素原子のエネルギーの減少分が光のエネルギー υh な

    ので、水素原子のエネルギーは ⋅⋅⋅,3,2,1 EEE というとびとびの値しかとれないことが示唆される。

    ボーアの仮説

    ボーアは、以下の仮説に基づき原子の線スペクトルを見事に説明した。

    仮説1:(Bohr の量子条件)電子はある安定な軌道の上だけを運動し、この軌道上を運動している間は

    光を放出しない。この安定な軌道を円軌道とすれば、その角運動量の π2 倍がPlank の定数h の整数倍に等しい。半径をaとすれば、

    ⋅⋅⋅==⋅ ,2,1,2 nnhmvaπ (2.12) となる。

  • 15

    仮説2:(振動数条件)量子条件で得られる一つの安定な軌道( iE )から他の軌道( fE )に電子が移

    るときにだけ光の放出(または吸収)が起こり、放出(または吸収)する光のエネルギー υh は

    )( iffi EEhEEh −=−= υυ となる。

    (問題)de Brogie の考え方では、Bhor の量子条件は、「軌道半径aの円周にそって定常波になるような波だけが存在できる」と言い換えることができる。

    この考え方で、(2.12)式を導出せよ。[ λπ na =2 にド・ブロイ波長mvh

    =λ を

    代入する。]

    Bohrの量子条件を認めて、原子のエネルギーを導出しよう。

    電子にはたらく力はクーロン力なので、運動方程式は、

    20

    22

    4 ae

    avm

    πε= (2.13)

    となる。(2.12)式を代入して整理すると、

    ⋅⋅⋅=== ,2,1,02

    2

    202 nanmeh

    naπε

    (2.14)

    が得られる。 Ameh

    a 529177.022

    00 == π

    εはBohr半径と呼ば

    れる。電子の全エネルギーは、

    ae

    aemvUTE

    0

    2

    0

    22

    8421

    πεπε−=−=+= (2.15)

    である。(2.14)式を代入して、

    ][6.1318 22220

    4

    eVnnh

    meE =−=ε

    (2.16)

    となり、実験を見事に説明する。

    4.原子軌道と周期律表

    量子力学と原子軌道

    量子力学の教えるところによると、原子核に束縛された電子の状態は電子雲として捉えることができ

    る。この電子雲の広がりを電子の「波動関数」(または、原子軌道)と呼ぶ。電子の波動関数は3つの

    整数の組で指定できる。この状態を指定する整数の組を量子数と呼ぶ。

  • 16

    ・ 主量子数: ⋅⋅⋅= ,3,2,1n ・ 方位量子数: 1,,1,0 −⋅⋅⋅= nl ・ 磁気量子数: llllm ,1,,0,,1, −⋅⋅⋅⋅⋅⋅+−−= 主量子数nは、エネルギーを決め、円運動をお

    こなう電子の半径に対応する物理量である。方位

    量子数や磁気量子数は、電子雲の形を表す量であ

    る。これは、惑星の運動における円運動や楕円運

    動に対応している。原子軌道は、慣習として、方

    位量子数 ⋅⋅⋅= ,3,2,1,0l に対応して ⋅⋅⋅,,,, fdpsと呼ばれる。s状態( 0=l )は状態が1つであるが、p状態( 1=l )は3つ、d状態( 2=l )は5つ状態がある。

    (問題)主量子数がn の状態の軌道の数は、 2n で

    あることを示せ。[ 2)1(31 nn =−+⋅⋅⋅++ ]

    もう少し詳しい説明:方位量子数l は、古典的には原子核の周りを電子が回転しているときの角運動量ベ

    クトルの大きさ )1( += llL h を表す。 0=l のとき

    (s 状態)は角運動量が0であるから電子雲が球対称

    の場合を表す。磁気量子数m は角運動量の大きさのz成分を示す。z軸の取り方は任意であるが、一旦ある

    方向にz軸をとってその方向の角運動量の値を測定し

    ようとすると、それはとびとびの値をとるというのが

    古典論との違いである。古典論的には電

    子が原子核のまわりを回転しているとそ

    の回転軌道に沿って電流が流れているの

    と同じであり、それに垂直な方向(角運

    動量ベクトルの方向)に磁場が発生する。

    つまりその方向に磁気モーメントを持つ

    のと等価である。そこに外部から磁界を

    かけると磁界の方向(それをz軸とする)

    に傾くが、そのz軸方向の成分はとびと

    びの値しか取れないのである。磁気量子

    数の名前はこれに由来する。

    電子のスピン

  • 17

    同じ原子軌道を占める二つの電子は、スピン量子数(21,

    21

    −=s )で区別される。このスピンは電子の

    磁気モーメントの源であり、自転に対応する物理量である。

    電子がスピンを持つことは、シュテルンとゲルラッパによって、1921年に発見された。銀の蒸気を細

    いビームにして、不均一な磁界を通した後、ガラス板に付着させた。化学的な現像処理をすると、銀原

    子は2本のビームに分裂したことが分かった。銀原子の価電子はs状態にあるので、磁気モーメントを

    持たない。したがって、銀原子の磁気モーメントの源は電子スピンである。この実験により、電子スピ

    ンは不均一な磁界に「平行」あるいは「反平行」の二つの状態をとることが明らかとなった。

    元素の周期律表

    原子には「軌道」という入れ物があり、電子には「スピン」という状態があることがわかった。原子

    に束縛された電子は、この「軌道」と「スピン」で状態が指定される。さて、原子のまわりには複数の

    電子が束縛されている。これらの電

    子はどのような状態をとるのだろう

    か。電子の詰まり方を教えてくれる

    のは、パウリの原理である。パウリ

    の原理とは、「一つの軌道にはただ

    一個の電子しか存在できない」とい

    うものである。

    原子番号1から36までの電子配

    置を表にまとめた。電子配置は、例

    えば、222 )2()2()1( pss のように記

    す。途中、3dと4sの詰まり方が

    逆転していることに注意せよ。この

    電子配置はいろいろなことを教えて

    くれる。 ・ 原子番号2[He]:n=1 状態が完

    全に詰まっている。1s と 2s と

    のエネルギー差が大きいので、

    この原子は化学的に不活性であ

    る。

    ・ 原子番号3[Li]:一個の2s電子

    をもつ。この電子は容易に電子

    から取り出せるので、この原子

    が化学的に活性である。

    ・ 原子番号9[F]: 2s状態に空席が

    一つある。他の原子の電子をこ

    の空席に引き込みやすいので、

  • 18

    この原子が化学的に活性である。

    ・ 原子番号10[Ne]:n=2状態が完全に詰まっているので、化学的に不活性である。

    ・ 原子番号11[Na]: 一個の3s子をもつので、化学的に活性である。

    ・ 原子番号17[Cl]: 3s状態に空席が一つあるので、化学的に活性である。

    ・ 原子番号18[Ar]:n=3状態が完全に詰まっているので、化学的に不活性である。

    ・ 原子番号21-29[Sc-Cu]:4s電子が詰まっているものの、3d電子が部分的にしか詰まっていない。そ

    のため、これらの元素は電子スピンによる磁性を示す。

    (問題)次のイオンの電子は

    配置を記せ。O2-、Mg2+、Cl-。

    電子配置は、「元素を原子番

    号の順に並べるとした性質を

    もつ元素が規則的な間隔で現

    れる」ことが見事に説明する。

    一例として、イオン化エネル

    ギーの原子番号依存性を示

    す。イオン化エネルギーとは、

    原子から電子一個を取り出す

    のに必要なエネルギーである。

    5.原子と結晶

    結晶とは、原子が規則的に配列したものである。原子と原子との結合様式は、大雑把に、以下のよう

    に分類できる。

    ・ 共有結合:結合する原子の両方か

    ら一つずつ(スピンが逆向きの)

    電子がその中間に移動して、一組

    の電子対をつくりことによる結合。

    例として、C,Ge,Si,がある。

    ・ イオン結合:二種の原子の一方か

    ら電子が他の原子に移ってできた

    正イオンと負イオンが電磁力で引

    き合う結合。例として、NaCl,KCl,

    がある。

    ・ 金属結合:正イオンの間を自由電子が自由に運動することによる結合。例として、Li,Na,がある。

    ・ 水素結合:一価の水素原子が二価のように振舞って2つの分子を結ぶ結合。例えば、氷がある。

    ・ 分子結合:2つの中性な分子が近づくと、分子の中の電荷の分布が変化する。この電気双極子によ

    り引きあう結合。この力をファン・デル・ワールス力と呼び、距離の7乗に反比例する。

  • 19

    III.分子と熱

    1.気体の分子運動

    高校で三つの法則を習った。

    1. ボイルの法則:気体の体積Vは、温度Tが一定ならば、圧力pに反比例する。つまり、

    一定=pV 。 2. シャルルの法則:気体の体積Vは、圧力pが一定ならば、絶対温度Tに比例する。つまり、

    TV ∝ 。ここで絶対温度Tとは、セ氏温度tに273.15を加えたものである。 15.273+= tT [K] 3. アボガドロ(Avogadro)の法則:同温、同圧、同体積の気体の中には、どのような気体でも常

    に同じ数の分子が含まれる。標準状態(1気圧=1.01325x105 Pa、0℃=273.15K)では、22.4 l に1

    mol(モル)、すなわち2310)0000036.00221367.6( ×±=AN 個の分子が含まれる。これをアボガ

    ドロ定数という。1molの物質の質量をグラムを単位として表した数を、その物質の分子量という。

    (問題)分子量を AN で割ると、分子1個の質量が求められる。水素分子 H2の分子量は 2.016 である。水素分子の質量を求めよ。[3.348×10-24g]

    これら三つの法則は、 TnVp ,,, を圧力[N/m2]、体積[m3]、モル数、温度[K]とすると、 nRTpV = (3.1)

    と書ける。比例定数 KmolJR ⋅±= /)000070.0314510.8( は気体定数と呼ばれる。この式を、理想気

    体の状態方程式と呼ぶ。

    理想気体の状態方程式と分子論

    右図のように、ピストンのついたシ

    リンダーの中に入った気体を考える。

    気体分子はピストンと弾性衝突をして

    いるものとする。ピストンの方向にx

    軸をとると、分子1の運動量

    xxx mvmvmv 111 2)( =−−

    だけ変わる。mはこの気体の分子の質量である。この分子が長さlのシリンダーの中を1往復する時間

    は xvl 1/2 なので、この分子はピストンの壁に1秒間に lv x 2/1 回だけ衝突する。従ってこの気体は、ピ

    ストンの壁との衝突で1秒間に運動量のx成分がl

    mvl

    vmv xxx

    211

    1 22 =× だけ変化したことになる。単位

    時間の運動量pの変化が力なので( dtdpF /= )、この気体分子がピストンの壁との衝突の際に受ける力の時間平均が上式の値になる。作用反作用の法則から、ピストンの壁もこの気体分子から同じだけの

    力を受けている。気体分子はほかにも多数存在するので、ピストンの受ける力は

  • 20

    ∑=i

    ixvlmF 2 (3.2)

    ピストンの壁の面積をAとすると、ピストンが気体から受ける圧力p(単位面積当たりに受ける力)は

    F/Aなので

    ∑=i

    2ixvV

    mp (3-3)

    この容器の中にnモル、つまり AnN 個の分子が入っているとすると、気体分子の速度のx成分の2平均

    A

    nN

    ii

    x nN

    vv

    A

    ∑=>=< 1

    2

    2を使って、(3-7)式は、

    >=>===< (3-6)

    であることがわかる。左辺の比例定数 J/K 10380658.1/ 23−×== AB NRk は、ボルツマン

    (Boltzmann)定数と呼ばれる。これを使うと(3-6)式は

    Tkvm B23

    21 2 >=< (3-7)

    となる。このように気体の温度は気体分子の運動エネルギーの平均に比例することがわかる。逆に温度

    を(3-6)で定義すると、理想気体の状態方程式(3-1)という法則が分子論から導かれる。

    (問題)同じ温度の水素ガス(H2)と酸素ガス(O2)での分子の速さ >< 2v の比はいくらか。

    [ 42

    2

    ==><

    ><

    HmOm

    Ov

    Hv]

    (問題)300Kでの酸素分子の平均の速さはいくらか。酸素分子の質量は、5.31×10-26kgである。

    [ smmkTv /48432 ==>< ]

  • 21

    内部エネルギーと自由度

    物体を構成している分子の熱運動による運動エネルギーと位置エネルギーの総和を、その物体の内部

    エネルギーという。原子1個が1分子である単原子分子の気体(不活性ガス He, Ne など)では、内部

    エネルギーUは気体の運動エネルギーの和に等しい。よってnモルの気体の場合には(3-6)式を使って

    nRTvmnNU A 23

    21 2 =>

  • 22

    23

    0

    2v

    0

    2v

    0

    2v2 2 2214vv4v4

    22

    2

    ⎟⎠⎞

    ⎜⎝⎛==

    ⎟⎟⎟

    ⎜⎜⎜

    ⎛+

    ⎥⎥⎦

    ⎢⎢⎣

    ⎡−= ∫∫

    ∞ −∞

    −∞ −

    mTk

    mTk

    mTkde

    mTke

    mTkdev BBBTk

    mBTk

    mBTkm BBB πππππ

    に注意せよ。)

    (問題)マクスウェル分布(3-15)式の山(ピーク)の位置での速さvはいくらか。それが温度が高く

    なると大きくなることを示せ。[ 0)2

    2

    2( =

    −TBk

    mv

    evdvd

    より、m

    TBkv2

    = ]

    (付録)

    マクスウェルの速度分布則に従う分子の平均の速さ<v>は

    mTk

    mTk

    mTk

    Tkm

    emTk

    mTkA

    dvvem

    Tkev

    mTk

    A

    devA

    dvvpv

    B

    BB

    B

    Tkm

    BB

    m Tkm

    BkTm

    B

    Tkm

    v

    B

    B

    B

    22

    22

    4

    24

    24

    v4

    23

    0

    2v

    0

    2v

    0

    2v

    2

    0

    2/v3

    2

    22

    2

    π

    ππ

    π

    π

    π

    =

    ⎟⎟⎠

    ⎞⎜⎜⎝

    ⎛=

    ⎥⎥⎦

    ⎢⎢⎣

    ⎡−=

    ⎟⎟⎟

    ⎜⎜⎜

    ⎛+

    ⎥⎥⎦

    ⎢⎢⎣

    ⎡−=

    =

    >=<

    ∞−

    −∞

    ∞ −

    ∫∫

    (3-12)

    同様にして

    m

    Tkv B32 =>< (3-13)

    が得られる。

    3.平均自由行程

    1つの気体分子(原子)が、他の分子に衝突してから次の衝突までに直線的に動く距離すなわち自由

    行程の平均値l を平均自由行程という。気体分子は全部同じ大きさで直径D の球状をしており且つ分子は完全弾性衝突するものとする。2つの分子の衝突を考えると、その中心間の距離が分子の直径Dより

    も小さいときに起こる。これを相対的に考えると、衝突される分子を点とし、衝突する方の分子の半径

  • 23

    がDで速さvで運動し、衝突される分子がみな静止していると考えた場合と同じである。そうすると単位時間に衝突する回数 f は半径がD で長さがv の円筒に入っている分子の数に等しいから

    vDnf 20π= [回数 s-1] (3-14)

    で与えられる。ここで 0n は分子の単位体積当たりの数

    密度である。vという距離を進んだ間に f 回衝突するわけであるから、1回衝突するまでの距離は

    20

    1Dnf

    vlπ

    == (3-15)

    となる。これが平均自由行程の大きさであり、分子の数密度に反比例する。あるいは分子の有効断面積

    をσとすると

    σ0

    1n

    l = (3-16)

    となる。

    (問題)標準状態での窒素 N2 の平均自由行程を計算せよ。窒素 N2 の半径は 90.1=r Å( m1090.1 10−×= )である。[標準状態での数密度は -325-3323 m1069.2m104.22/1002.6 ×=×× − 、

    有効断面積は219210 1053.4)1080.3( mm −− ×=×π であるから、平均自由行程は m 1021.8 8−×=l ]

    4.拡散

    期待や液体が分子の集まりであることを示す現象に拡散があ

    る。例えば、水槽内の水に乳化粒子をたらすと、何もしなくても

    乳化粒子は水の中を広がってゆく。さて、溶液中の乳化粒子を顕

    微鏡で詳しく観察すると、乱雑な運動をしていることが分かるこ

    の乱雑な運動をブラウン運動をという。ブラウン運動は、少数の

    分子が不規則に乳化粒子に衝突することに由来している。

    乳化粒子に対する分子の衝突による力を )(tF とし、乳化粒子

    に働く粘性抵抗をdtdxς− とすると、運動方程式(簡単のため、

    一次元を考える。)は、

    )(22

    tFdtdx

    dtxdm +−= ξ (3.17)

    両辺にx とかけて、 2222

    2

    2

    )()(21

    dtdxx

    dtd

    dtxdx −= と )(

    21 2x

    dtd

    dtdxx = に注意すると、

  • 24

    xtFxdtdmvx

    dtdm

    x )()(2)(

    2222

    2

    2

    +−=−ξ

    (3.18)

    となる。平均をとると、

    Tkxdtdx

    dtdm

    B>=<22

    2

    2

    22ξ

    (3.19)

    が得られる。ただし、エネルギー等分配則 Tkvm Bx 21

    21 2 >=< と、 0)( >=< tF を用いた。(3.19)

    式の解は、C を定数として、

    tmB Cet

    Tkx

    ς

    ς−

    +>=< 22 (3.20)

    となる。第一項の係数ςTk

    D B≡ を拡散係数と呼ぶ。充分時間がたてば、

    Dtx 22 >=< (3.21)

    となり、拡散距離 >< 2x は時間の平方根に比例する。

    (問題)DNA分子は20度の水中内を10ミクロン拡散するのに、必要な時間はいくらか。拡散係数D=1.3

    ×10-12m/sとせよ。[38s]

    5.熱の移動

    2つの物体の間、あるいは1つの物体の内部に温度差が存在するときには、高温の部分から低温の部

    分に熱の移動が起こる。熱の移動方法は、対流、熱伝導、熱輻射の3種類に大別される。

    対流

    液体や気体では、熱の大部分は流体自身の運動によって伝わる。

    高温の部分と低温の部分の密度差によって生じる流体の運動を対

    流という。

    地面は海水より比熱が小さいので、昼は陸地の方が温度が高くな

    り、そこの空気は浮力で上昇して対流が起こり、海風となる。夜は

    陸地の方が冷えるので陸地から海の方に風が吹いて陸風になる。

    熱伝導

    (液体や)固体の場合は、高温部の激しく熱振動している原子の

    熱運動のエネルギーが、次々と隣の原子に伝えられて低温部まで到

    達することで、接触している物体間に熱伝導が起きる。

    厚さ d 、面積 A 、一方の面の温度が 1T 、他方の面の温度が)( 12 TT > で、 1T も 2T も一定に保たれている場合、 2T の方から 1T の

  • 25

    方へ流れる全熱量Qは、(i) 時間t に比例し、(ii) 面積Aに比例し、(iii) 厚さd に反比例し、(iv) 温度差 12 TT − に比例し、(v) 物質の性質で決まる定数k に比例する、ことが実験的にわかっている。つまり、

    d

    tTTAkQ )( 12 −= (3.22)

    あるいは微分形で書くと

    dxdTkA

    dtdQ

    = (3.23)

    ここでk は熱伝導率と呼ばれる。金属では電子は移動できるので、一般に金属では熱伝導が大きい。

    熱輻射

    高温の物体から光、赤外線、紫外線などの電磁波が輻射され、空間を伝わって低温の物体に当たって

    吸収されるとエネルギーが移動する。これを熱輻射と呼ぶ。

    プランクの公式

    Planck は 1901 年に「調和振動子

    のとりうるエネルギーは νh の整数倍に限る」という量子仮説を導入し

    て温度Tの黒体(電磁場を完全に吸

    収する物体)が輻射する強度のスペ

    クトル分布を導いた。温度T の物体の表面 1m2からλから λλ Δ+ の間の電磁波によって単位時間に放出さ

    れるエネルギーの量は、

    λλπλλ

    λΔ

    −=Δ

    1

    12),( 52

    kThc

    e

    hcTI [W/m-2] (3-24)

    で与えられる。これをプランクの公式という。

    プランクの公式から2つの重要な結論が導かれる。

    1. ),( TI λ の最大値を与える mλ は温度T に反比例する。つまり、 ][10897756.23 KmTm ⋅×=

    −λ 。

    これをウィーンの法則と呼ぶ。

    2. 温度T の物体の表面1m2から放射される電磁波の全エネルギーは温度T の4乗に比例する。つまり、

    ]/[),( 240

    mWTdTIW σλλ == ∫∞

    、 ]/[10)00019.067051.5( 4248 KmWT ⋅×±= −σ これを

    シュテファンの公式という。である。

  • 26

    (問題)太陽の表面温度は6000Kである。 mλ はいくらか。[4.8×10-7m(だいだい色)]

    (問題)人間(表面積S =1.2m2、温度 1T =36度)が裸で、室温 2T =20度の部屋の中に立っている。一秒

    当たり、人間は4

    1STaσ の熱を放出し、4

    2STaσ の熱を吸収する。a =0.7 として、人間が一秒当たりに

    失う熱量を計算せよ。[83J]