第4章 外皮系 - Seikyou...-77-第4章 外皮系 外皮系integumentary system...

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- 77 - 第4章 外皮系 外皮系 integumentary system は、皮膚や毛、爪、皮膚腺などから構成され、体の表面をおおい、体の内部 がいひけい つめ ひふせん から水分が蒸発するのを防止し、外界から細菌などの病原性微生物や有害な化学物質などの侵入を防ぎます。 さいきん び せいぶつ また、外皮系では、皮膚を流れる血液の量を変化させることや発汗作用などによって体温を調節します。皮膚 はっかん では、太陽光を利用し、ビタミンDを生合成する働きがあります。さらに、皮膚には、触 覚や圧覚、 しょっかく あっかく 侵害感覚(痛覚)、温覚、冷覚などの感覚受容器が数多く分布します。 しんがいかんかく つうかく おんかく れいかく 第1節 皮膚は表皮と真皮で構成 皮膚 skin は、面積が1.2m ~2.3m もあり、単一の 器官としては体の中で最も重く、成人では3.5kg ~5kg の重さがあります。 皮膚は、表層の外胚葉由来の表皮と、深層の間葉由来 がいはいよう ひょうひ かんよう 真皮で構成されています。 しんぴ 皮膚は、真皮の深層に存在する皮下組織によって、さ ひかそしき らに深層の筋膜に固定されています。 きんまく 皮膚の厚さは、体の部位で異なり、一番薄いのは眼 がん 瞼の皮膚で約0.5mm の厚さですが、普通は1.5mm けん 4.0mm ぐらいです。危険なものに接触する指の 掌 側 ゆび しようそく 面や手 掌、趾の底側面、足底の皮膚などでは特に厚くな めん しゅしょう ゆび そくてい り、足底の後部では約4.5mm の厚さです。 図4-1 皮膚の構造を示す模式図 1.表皮 表皮 epidermis は、角化 重 層扁平 上 皮でつくられ かつ か じゆうそうへんぺいじよう ひ ていますが、表皮には血管やリンパ管が存在しません。 表皮は紙のように薄いものですが(平均で約0.2mm)、 深層から表層に向かって、順番に、基底層、有 棘 層、 きていそう ゆうきょくそう 図4-2 厚い表皮の構造を模式的に示す 顆粒層、淡明層(厚い皮膚でのみ観察)、角質層などに区 かりゅう たんめいそう かくしつそう 分されます。 表皮の角化重層扁平上皮は、ケラチン細胞やメラニン 細胞、樹 状 細 胞(ランゲルハンス細胞)、触覚上皮細胞 じゆじようさいぼう (触覚細胞、メルケル細胞)などで構成されています①ケラチン細胞 表皮を構成する主要なケラチン細胞 keratinocyte は、 35日~45日ぐらいで完全に新しい細胞に置き換わります ので、基底層では表皮幹細胞から有糸分裂によって絶え ず新しいケラチン細胞が形成されます(一日に数百万個 のケラチン細胞が誕生)(4頁図1-8)。 図4-3で示すように、新しく形成されたケラチン細胞 は、段々と表層に向かって押し上げられ、その過程で中 間径細糸を構成するケラチン keratin(タンパク質)が 増加します。約2週間で角質層に到達したケラチン細胞 は、リソソームに含まれる酵素の作用で核や細胞小器官 が分解され、最終的には細胞は死滅し、垢として体から あか 脱落します。 だつらく

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第4章 外皮系

外皮系 integumentary systemは、皮膚や毛、爪、皮膚腺などから構成され、体の表面をおおい、体の内部がいひけい ひ ふ け つめ ひ ふ せ ん

から水分が蒸発するのを防止し、外界から細菌などの病原性微生物や有害な化学物質などの侵入を防ぎます。さいきん び せいぶつ

また、外皮系では、皮膚を流れる血液の量を変化させることや発汗作用などによって体温を調節します。皮膚はっかん

では、太陽光を利用し、ビタミンD3を生合成する働きがあります。さらに、皮膚には、触 覚や圧覚、しょっかく あっかく

侵害感覚(痛覚)、温覚、冷覚などの感覚受容器が数多く分布します。しんがいかんかく つうかく おんかく れいかく

第1節 皮膚は表皮と真皮で構成

皮膚 skinは、面積が1.2m2~2.3m2もあり、単一の

器官としては体の中で最も重く、成人では3.5kg~5kgの重さがあります。

皮膚は、表層の外胚葉由来の表皮と、深層の間葉由来がいはいよう ひょうひ かんよう

の真皮で構成されています。し ん ぴ

皮膚は、真皮の深層に存在する皮下組織によって、さひ か そ し き

らに深層の筋膜に固定されています。きんまく

皮膚の厚さは、体の部位で異なり、一番薄いのは眼がん

瞼の皮膚で約0.5mmの厚さですが、普通は1.5mm~けん

4.0mmぐらいです。危険なものに接触する指の掌側ゆび しようそく

面や手 掌、趾の底側面、足底の皮膚などでは特に厚くなめん しゅしょう ゆび そくてい

り、足底の後部では約4.5mmの厚さです。

図4-1 皮膚の構造を示す模式図

1.表皮

表皮 epidermisは、角化重層扁平上皮でつくられかつ か じゆうそうへんぺいじよう ひ

ていますが、表皮には血管やリンパ管が存在しません。

表皮は紙のように薄いものですが(平均で約0.2mm)、深層から表層に向かって、順番に、基底層、有棘層、

きていそう ゆうきょくそう

図4-2 厚い表皮の構造を模式的に示す

顆粒層、淡明層(厚い皮膚でのみ観察)、角質層などに区かりゅう たんめいそう かくしつそう

分されます。

表皮の角化重層扁平上皮は、ケラチン細胞やメラニン

細胞、樹状細胞(ランゲルハンス細胞)、触覚上皮細胞じゆじようさいぼう

(触覚細胞、メルケル細胞)などで構成されています。

①ケラチン細胞

表皮を構成する主要なケラチン細胞 keratinocyteは、35日~45日ぐらいで完全に新しい細胞に置き換わります

ので、基底層では表皮幹細胞から有糸分裂によって絶え

ず新しいケラチン細胞が形成されます(一日に数百万個

のケラチン細胞が誕生)(4頁図1-8)。図4-3で示すように、新しく形成されたケラチン細胞

は、段々と表層に向かって押し上げられ、その過程で中

間径細糸を構成するケラチン keratin(タンパク質)が増加します。約2週間で角質層に到達したケラチン細胞

は、リソソームに含まれる酵素の作用で核や細胞小器官

が分解され、最終的には細胞は死滅し、垢として体からあか

脱落します。だつらく

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図4-3 表皮にあるケラチンの成熟過程を模式的に示す

基底層のケラチン細胞では、蓄積したビタミン Dの前駆物質(7-デヒドロコレステロールぜんくぶっしつ

7- dehyrocholesterol)を太陽光の紫外線によってコレしがいせん

カルシフェロール cholecalciferol(ビタミン D 3)に変え

る働きがあります。ビタミン D 3は、さらに肝臓と腎

臓とで水酸化され、1,25-ジヒドロキシコレカルシフェ

ロール1,25-dihydroxycholecalciferol(活性型ビタミンD 3)に変わります。活性型ビタミン D 3は、小腸から

カルシウムを吸収するために必要なものです。その他の

活性型ビタミン D 3の働きについては、38頁に詳しく

書いています。

また、顆粒層の顆粒ケラチン細胞では、2種類の主要

なタンパク質(フィラグリン filaggrin、トリコヒアリン trichohyalin)を含んだケラトヒアリン顆粒keratohyalin granuleが細胞内に充 満しています。ま

じゅうまん

た、層板顆粒 lamellar bodyにふくまれている脂質は、そうばん か りゆう

細胞外に分泌されて、顆粒ケラチン細胞と角化細胞との

間にある水関門 water barrierの形成に関与します。水関門は、水分の蒸発を防ぎ、皮膚の細胞を乾燥から

守ります。

ケラチン細胞は、上皮細胞増殖因子などの増殖因子じよう ひ さいぼうぞうしよくいん し

の他にも、炎 症や免疫反応に関係する細胞の働きを助けえんしょう

るサイトカイン cytokine (インターロイキン1など)を分泌しています(図4-6)。

図4-4 顆粒ケラチン細胞による層板顆粒の分泌を示す

◆体を守る角質層

角質層は、核や細胞小器官が消失し、線維様のケラチ

ンが細胞質に充満し、細胞膜が厚くなった角化細胞が数

層に重なったものです。

角化細胞の細胞膜の内側に存在する不溶性のタンパク

質で形成された細胞包膜と、厚い脂肪層で形成された脂

質包膜とで水の関門が形成され、体からの水分の蒸発を

防止したり、体の外から余分な水や細菌などが体内に侵

入するのを防ぎます。

また、角化細胞の周囲に存在するアミノ酸が水と結合

することで皮膚を柔らかくし、皮膚の表面を滑らかにし

ます。

危険なものと接触する指の掌側面や手掌、趾の底側面、

足底などの皮膚では、特に角質層が厚くなっています。

図4-5 皮膚におけるビタミンD3の合成

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図4-6 皮膚での防御系を模式的に示す

図4-7 表皮にある樹状細胞を示す模式図

②樹状細胞

有棘層の表層に散在する樹状細胞 dendritic cell(ラじゆじようさいぼう

ンゲルハンス細胞)は、表皮の細胞の2%~4%を占め、

体の外から角質層を通りぬけてきた物質を捉え、その情とら

報を免疫担当のリンパ球の T細胞などに伝え、免疫反めんえき

応を誘導します。ゆうどう

図4-8 メラニン細胞でのメラニン顆粒の形成過程

③メラニン細胞

基底層のケラチン細胞の間や毛包には、黒茶色のメラもうほう

ニン顆粒 melanin granuleを含んだメラニン細胞melanocyteが散在します。メラニン細胞は、神経堤由来の細胞で、4個~10個の

しんけいてい

基底層のケラチン細胞につき1個の割合で存在します。

メラニン色素は、アミノ酸のチロシンから生合成されま

す。

成人では、乳 頭や乳 輪、大陰唇、陰嚢などの茶褐色にゅうとう にゅうりん だいいんしん いんのう

色を示す皮膚ではメラニン細胞が特に多くなっています。

【太陽光の紫外線から細胞を守るメラニン色素】

太陽光に含まれている紫外線は、細胞の核酸を傷害し、

異常な細胞を誘導することがあります。そのために、表

皮の深層や真皮に存在するメラニン細胞は、紫外線を吸

収するメラニン色素を周囲のケラチン細胞に与えます。

また、毛のメラニン色素も紫外線から体を守る働きがあ

ります。

【紫外線】

光は、電磁波のうち波長が一定の範囲にあるものです。

光には、目で見える可視光線(波長は0.4mm~0.8mm)、可視光線よりも波長が短い紫外線(波長は1nm~0.4

mm)、可視光線よりも波長が長い赤外線(波長は0.8mm~1mm)などがある。

図4-9 太陽光にふくまれる赤外線、可視光線、紫外線を模式的に示す

図4-10 表皮の深層に存在する触覚上皮細胞を示す

④触覚上皮細胞

基底層のケラチン細胞の間に存在する触覚上皮細胞

tactil epithelial cell (Merkel cell)は、皮膚に物体が触れたことを伝える触覚受容器として働きます。この細胞

は、指先や口唇、毛包の基部などでは特に数多く観察さ

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れ、敏感です。

【ビタミンD3】

1958年におこなわれた研究では、1 cm2の皮膚を3時

間~4時間太陽光にあてると、最大17国際単位(0.025

mgのビタミン D 3が1国際単位と定められた)のビタ

ミン D 3が作られることがわかった。成人が1日に必要

なビタミン D 3を100国際単位、小児が必要な400国際単

位を産生するには、夏ならば木陰で約30分間、冬ならこかげ

ば手や顔に太陽の光を浴びて約1時間も散歩すれば、

十分にビタミン D 3が補給される。そのため、血液中ほきゅう

のビタミン D 3の量は、夏の終わりに一番多く、冬の終

わりに最も少なくなる。

【アトピー性皮膚炎】

アトピー性皮膚炎は、表皮、そのなかでも角質層の異

常による皮膚の乾燥および防御機能の異常をともない、

多様な非特異的刺激に対する過剰な反応あるいは特異

的アレルギー反応によって発生する、悪化と回復を繰

り返し、慢性的に経過する炎症および痒みをともなうかゆ

湿疹・皮膚炎群の病気です。アトピー性皮膚炎を起こしつしん

す多くの人には、アレルギー疾患に罹りやすいアトピかか

ー素因がある。そ いん

図4-11 真皮での乳頭層と網状層とを模式的に示す

2.真皮

表皮の直下に存在する真皮 dermisは、図4-13(81頁)しん ぴ

で示すように皮膚の厚さの大部分を占め、表層にある疎

性結合組織から構成された真皮乳頭層と、皮膚の強しん ぴ にゆうとうそう きよう

靱さをつくる密な膠原線維の束で構成された深層の真じん しん

皮網状層とから構成されています。ぴ もうじようそう

①真皮乳頭層

指のように表皮に向かって突出した真皮の部位は、真

皮乳頭層 papillary dermisと呼ばれます。真皮乳頭層には毛細血管網が密に存在します。この毛

もうさいけっかんもう

細血管網は、表皮に酸素と栄養素を運ぶとともに、体温

調節の機能を持っています。

毛が生えていない皮膚の真皮乳頭層には、表皮のわず

かな変化にも反応し、触覚受容器として働く触覚(マイ

スネル)小体Meissner's corpuscleが存在します。足底や手掌で観察できる、顕著な皮膚小 溝や皮膚

しょうこう

小 稜はこれらの真皮乳頭の反映です。この結果、指でしょうりょう

は指紋、手掌では掌 紋、足底では足底紋が観察されます。し も ん しょうもん

図4-12 ヒトの指先の掌側面での指紋の拡大写真

②真皮網状層

真皮網状層 reticular dermisは、主としていろいろな方向に向かう膠原線維の束から構成された不規則な密

性結合組織で構成されています。これらの膠原線維の束

は、体の組織を小さく閉じこめる張力をつくります。

また、膠原線維の束の間には、散在する弾性線維が存

在します。弾性線維は皮膚に張り(収縮力)をあたえます。

そのために、皮膚は、引っ張られて伸展しても、また元

の状態に戻ることが可能です。ただ、何十年も日光の紫

外線に当たっていると、真皮の弾性線維が過剰に形成さ

れ、シワの深い弛んだ皮膚になります。たる

真皮網状層の深層や皮下組織には、層板(パチニ)小体そうばん

pacinian corpuscleが存在します。層板小体は、圧迫や振動に反応し、これらの情報を伝えます。足底の真皮

によく見られるルフィニ小体 Ruffini's corpuscleは、触覚に関与します。

図4-13 真皮網状層の構造を示す模式図

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図4-14 ヒトの皮膚の顕微鏡写真左の写真は前下腿面の皮膚のもので、右の写真は手の指の 掌 面のものです。左右とも同じ拡大です。表皮の厚さはほぼ同じですが、指

しようめん

の角質層が極端に厚いことに注目してください。また、表皮に比べて真皮が厚くなっています。真皮にある膠原線維の束は、蛇行し、赤

く染まります。

真皮の膠原線維の束の間には、ゼリー状の間質成分と

呼ばれる物質が存在し、この成分にはプロテオグリカン

proteoglycanという巨大分子がふくまれています。プロテオグリカンを構成するヒアルロン酸は、水分を保持

する能力があって、皮膚の内部を水でふくらませ、みず

みずしい張りをつくります。

一般に血管は、表皮には分布しませんが、真皮では数

多く存在します。

図4-15 皮下組織を模式的に示す

3.皮下組織

真皮より深層にある皮下組織 subcutaneous tissueは、疎性結合組織で構成されますが、通常は、隙間に多

すき ま

量の脂肪組織を含んでいます。皮下組織は、皮膚を深層

の筋膜に付着させますが、隙間が多く疎い構造物なので、

皮膚を少し動かすことができます。

疎性結合組織の隙間に脂肪細胞が多量に増えると、皮

下脂肪を形成します。皮下脂肪は、機械的ショックから

深層の器官を保護するとともに、脂質は熱の伝導が悪い

ために体温の保持に役立ちます。また、脂肪細胞の内部

に貯められたトリアシルグリセロール triacylglycerolは分解され、脂肪酸になりますので、エネルギーの供給

源の役割もあります。

内臓脂肪に比べて皮下脂肪は、量が変動しにくい、と

いわれています。そのため、体の脂肪が減るとまず内臓

脂肪が減少します。

皮下脂肪の脂肪細胞は、脂肪滴を貯蔵するだけでなく、

さまざまな生理活性物質を産生することが判明していま

す(64頁表3-2)。【レプチン】

脂肪細胞が産生するレプチン leptinは、167個のアミノ酸で構成されたペプタイドで、脂肪滴の増加に伴い

合成が盛んになり、血液への分泌が増加します。レプチ

ンは、視床下部に存在するニューロペプタイド Y作動性神経細胞などの活動を抑制することで食物の摂食を抑

せつしよく

え、体のエネルギー消費量を増加させる働きがあります。

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第2節 皮膚の付属器官

1.毛

毛 hairには保護作用があり、大部分の皮膚に見られますが、指の掌面や手掌、趾の底側面、足底、口唇、

ゆび こうしん

亀頭、陰核、小陰唇などでは毛は存在しません。き と う いんかく しょういんしん

全身に生えている細かく短い毛を生 毛(ウブゲ)と呼びしょうもう

ます。この他に、胎生期からすでに観察されるものとし

て、頭毛、眉毛(まゆげ)、睫 毛(まつげ)、鼻毛、耳毛なとうもう び も う しょうもう び もう じ もう

どがあります。思春期になれば、二次性徴の一つとして、せいちよう

陰毛や腋毛、須毛(あごひげ)などが生えます。いんもう えきもう しゅもう

私たちが見ている皮膚から飛び出した毛の部位は

毛幹といい、皮膚のなかに存在する部位は毛根と呼びまもうかん もうこん

す。毛根は、それを包んでいる上皮組織や結合組織のも

のと合せて毛包を形成します。毛包の底は毛乳頭と呼ばもうほう もうにゅうとう

れ、この部位には毛包を構成する細胞へ栄養を運ぶ毛細

血管が存在します。毛乳頭の直上の上皮細胞は表皮の基

底層から導かれ、増殖して毛の細胞を形成します。

毛は、先端に向かうにしたがってケラチンと死滅した

細胞とから構成されます。毛包が完全であれば新しい毛

は成長が可能です。毛包が破壊されれば、もはや新しい

毛は形成できません。また、新しい毛包は出産以後はつ

くられません。

毛包についている平滑筋を立毛筋と呼びます。交感神りつもうきん

経の働きによって立毛筋が収縮すれば、毛を垂直に立た

せます。その時に、毛幹の周囲の皮膚が上方に引張られ

て鳥肌を示します。とりはだ

【毛の色】

毛の色は、毛根の細胞と毛乳頭との間に存在するメラ

ニン細胞の活動によります。メラニン細胞が、毛の細胞

にメラニン顆粒を渡します。毛は、メラニン色素が少な

いと茶色の毛になり、多ければ黒い毛になり、逆にメラ

ニン色素を欠くと白い毛になります。赤毛には、真メラ

ニンではなく、フェオメラニン pheomelaninが多量に存在します。

【毛の周期】

毛の成長は周期的で、毛が伸びる成長期と、成長が止

まる静止期とがあります。成長期と静止期の長さは、体

の部位によって異なります。頭毛の場合には、成長期は

2年~6年間続きますが、静止期は平均で3カ月ぐらい

です。それぞれの毛は、これを一生に約15回ほど繰り返

します。頭毛や陰毛などの成長は、男性ホルモンだけで

なく、副腎皮質ホルモンや甲状腺ホルモンなどの影響を

うけます。

図4-16 ヒトの後前腕面の皮膚の拡大写真

皮膚の表面から飛び出した毛(毛幹)が黒い糸状に観察できます。

また、皮膚の表面は、皮膚小溝と皮膚小稜とでタイル状に見えま

す。

図4-17 毛の構造を模式的に示す 図4-18 毛の生え変わりを示す模式図

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図4-19 汗腺と脂腺を示す模式図 図4-20 皮膚腺での分泌様式を模式的に示す

2.皮膚腺

皮膚腺には脂腺と汗腺とがあります。毛包と同じく脂し せ ん かんせん

腺と汗腺を構成する細胞は、表皮の細胞が真皮に向かっ

て移動したものです。

①脂腺

一つの毛包には、小さな導管 ductによって2個以上どうかん

の脂腺 hair sebaceous glandが付きます。脂腺は、頭皮や顔面では、大きくかつ多数あります(1平方㌢当た

り400~900個)。毛が生えない、指の掌側面や手掌、趾

の底側面、足底などでは脂腺がありませんが、それ以外

の皮膚には脂腺が存在します(1平方㌢当たり約100個)。

脂腺は、図4-20のように全分泌をおこない、腺細胞自身が分泌物の一部になります。有糸分裂で新しく形成

された腺細胞は腺腔に向かって移動し、約8日後に死滅

し、皮脂 sebumを形成します。ひ し

脂腺は、幼年期には不活発ですが、思春期になれば分

泌が活動的になります。男性では精巣で生合成されたテ

ストステロン testosteroneの分泌の増加にともなって活動的になり、女性では卵巣と副腎から分泌されるアン

ドロゲン androgenで活動的になります。しかし、高齢者になれば、これらのホルモンの分泌の低下にともな

って脂腺の活動も低下します。

【皮脂】

皮脂は、トリアシルグリセロールやコレステロール、

ロウなどの脂質が混合したもので、毛に油を塗り、しな

やかさを保ち、皮膚の表面を滑らかにし、さらに細菌や

真菌などの繁殖を抑制します。

②汗腺

汗腺には、エックリン汗腺とアポクリン汗腺とが存在

します。図4-20で示すように、エックリン汗腺は部分分泌で、一方、アポクリン汗腺は離出分泌をおこない、

細胞に損 傷を与えずに分泌物を分泌します。そんしょう

a)エックリン汗腺

皮膚に存在する約300万個のエックリン汗腺 eccrinesweat glandは、交感神経の作用によって多量の水分や塩化ナトリウム、窒素性の老廃物(尿素など)などを皮

ち っ そ ろうはいぶつ

膚の表面に分泌することで体温の調節に貢献します。

エックリン汗腺は、前頭部や手掌および足底に数多く

存在します。特に多い足底では1平方㌢当たり約620個

もあります。エックリン汗腺は、真皮や皮下組織に小さ

なコイル状の管として見られます(図4-19)。エックリン汗腺の導管は、真皮や表皮を通過し、皮膚の表面の皮

膚小稜に開口します。

表4-1 汗と尿の成分の比較

物 質 汗(%) 尿(%)

塩化ナトリウム 0.65~0.99 1.54

尿 素 0.086~0.17 1.74

乳 酸 0.034~0.11 -

硫化物 0.006~0.025 0.36

アンモニア 0.010~0.018 0.041

尿 酸 0.0006~0.0015 0.13

クレアチニン 0.0005~0.002 0.16

アミノ酸 0.013~0.020 0.073

表4-2 ヒトにおける水の1日での出納

水の摂取量 水の排泄量

飲水 1,500mL 尿 1,400mL

食物 500mL 呼気 500mL

代謝水 400mL 汗 300mL

糞便 200mL

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b)アポクリン汗腺

一方、アポクリン汗腺 apocrine sweat glandは、腋窩や乳頭の周囲、臍の周囲、外陰部などに限定して存え き か さい がいいんぶ

在します。

アポクリン汗腺の導管は毛包に開口します。この分泌

物は粘 調で特有の芳香があります。感情の刺激や性的刺ねんちょう ほうこう

激によってアポクリン汗腺の分泌が促進されます。この

分泌物は、異性を引き寄せるフェロモン作用

pheromoneがあります。

図4-21 爪の構造を示す模式図

いわゆる「体 臭」は、この分泌物が毛包や皮膚に存在たいしゅう

する細菌によって分解され、においが発生したものです。

3.爪

爪 nailは、角化した表皮の細胞が変化したもので、強靭なケラチンから主につくられます。きようじん

皮膚の表面に出ている部分を爪体といい、皮膚の中にそうたい

隠れている部分を爪根と呼びます。

爪体では、深層の爪 床が角質層を欠いた皮膚のため、そうしょう

真皮を流れる血液の色が透けて見え、通常、ピンク色を

示します。

成長している爪の部分は白い三日月状を示し、半月とはんげつ

呼びます。この半月で爪母細胞が、一生の間、休むこと

なく分裂を繰り返し、爪が成長します。

通常、爪は一日に約 0.1mmの割合いで伸び、病気などの体調の変化で伸びが遅くなることがあります。そう

すると、爪に横の溝ができます。

第3節 皮膚の色

皮膚の色は、主としてメラニン色素の量と血液の性状

によって決まりますが、黄色人種の皮膚には黄色色素で

あるカロチン caroteneが見られます。そのために、貧

血や出血性ショックなどになると皮膚の色から赤みが失

われます。また、日光に長く当たり、皮膚のメラニン色

素の量が増えますと、皮膚の色は黒くなります。

第4節 皮膚に分布する感覚受容器

皮膚に分布する感覚受容器には、自由神経終末や毛包

神経終末、触覚上皮細胞(メルケル細胞)、触覚小体、層

板小体、ルフィニ小体などが存在します。

自由神経終末 free nerve endingは、主として表皮に存在し、触覚や圧覚の感覚受容器として働き、一部は

痛覚や掻痒感にも関与します。そうようかん

触覚上皮細胞 tactile epithelial cellも表皮に存在し、急速でなく、持続的な触覚や圧覚に関係しています。

毛包神経終末 hair end organは毛包の近くに存在し、毛が傾くと触覚や圧覚を感じるものです。

触覚小体Meissner's corpuscleは、指先や口唇の真皮乳頭に多数存在し、圧覚に関与します。

層板小体 pacinian corpuscleは、真皮の深層や皮下組織に存在し、即順応型で急速な組織の移動によって刺

激され、振動覚や関節の運動の有無を検出します。しんどうかく

ルフィニ小体 Ruffini's corpuscleは、真皮の深層に

存在し、順応が遅く、関節の極端な屈曲または伸展を検

出します。

皮膚に存在する感覚受容器が密に存在する部位では感

覚が敏感で、逆に少ない部位では鈍感となります。感覚

受容器が強く刺激されると、それに関連した神経活動が

強まります。

図4-22 皮膚に分布する感覚受容器を模式的に示す

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第5節 体温の調節

図4-23 体温の日内変動を示す模式図

ヒトの体温は、図4-23のように、通常、朝方が低く、昼頃に向かって上がり、また夜間に下がります。通常、

体内の温度は摂氏 37度前後に調節されています。

体温は、体の中でつくられる熱の量と、体の外に出て

いく熱(放散)の量との間のバランスで決まります。

安静時における熱の発生は、体の基礎代謝や筋の活動、

食物の摂取などに基づきます(表4-3)。一方、安静時での熱の放散は、皮膚から放射(輻射)や

ほうしや ふくしゃ

伝導(約72%)、汗の蒸発(約25%)、呼吸(約2%)、排でんどう じようはつ はい

尿・排便(約1%)などによります(図4-24)。によう はいべん

そのため、図4-27(86頁)で示すように、胸や腹の皮膚温度は、安静時では、熱の産生部位(心臓や肝臓、腎

臓など)に近いために高くなっています。一方、熱の産

生部位から遠くなるために、安静時では、上肢や下肢で

は遠位に向かうにしたがって皮膚温度は低下します。

◆体温を調節する機構

運動などで体温が上昇すれば、脳の視床下部に存在すし し ょ う か ぶ

る体温中枢が反応し、この体温中枢から交感神経に対し

て体温を下げるように指令を送ります。

図4-24 体内で発生した熱の放散を模式的に示す

図4-25 体温の調節機構を模式的に示す

図4-26 汗や放射、真皮の血管の拡張による熱の放散を模式的に示す

すなわち、体温中枢からの指令が交感神経を介して皮

膚のエックリン汗腺に伝わり、汗の分泌を増加させます。

そして、皮膚に存在する水分が蒸発するときに体の熱を

奪い、体温を低下させます。さらに、交感神経からの指

令は、同時に真皮の小動脈に伝わり、小動脈を拡張し、

真皮を流れる血液の量を増やし、皮膚からの放射や伝導

などによる熱の放散を増加させ、体温を下げます。これ

らの結果、体温が正常の状態に戻ります。

逆に、体温が低下すれば、脳からの指令が鳥肌をおことりはだ

させ、立毛筋が収縮するときの熱で体温の上昇を助けま

す。また、交感神経の働きで真皮の小動脈が収縮し、真

皮を流れる血液の量を少なくします。さらに、褐色脂肪

組織や体内の各臓器の熱産生を増やします。これらの結

果、体温は、正常に復帰します。

安静時におけるヒトの真皮には、全血液量の8%~

10%が流れています。

表4-3 安静時や運動時での体内における熱産生の割合

安静時(%) 運動中(%) 臓器の重量

胸腹腔内臓 56 22 6%

脳 16 3 2%

筋と皮膚 18 73 52%

その他 10 2 40%

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図4-27 気温によって安静時の皮膚の温度が変化する

【放射】

ヒトの体から非接触性の電磁波による熱の損失を放射でん じ は そんしつ

と呼ぶ。放射の電磁波の波長は、可視の赤い光よりも

わずかに長く、赤外線という。放射は、物体の温度に

依存するとともに、物体の色や表面の状態などの影響

を受ける。

【気化熱】

液体が気体に変わるために必要な熱量を気化熱(蒸発き か ねつ

熱)といい、1気圧のもとでの1㌘の水の気化熱は

2,256ジュール(540カロリー)です。

第6節 皮膚や毛、爪の老化

ヒトは高齢になると、皮膚より深層の皮下組織にあるこうれい

脂質やコラーゲンなどが失われ、目や口の周囲にあるシ

ワが増えます。

また、高齢者では、真皮は薄くなり、皮膚は透き通る

ようになり、弾力性が失われます。

さらに、年をとり、真皮の膠原線維が少なくなると、

間質成分が多くなって間質成分に水がたまりやすくなり

ます。つまり「むくみやすく」なります。

高齢者では、毛は、以前のように急速には生えかわら

なくなり、細くなります。

また、年齢が進むとともにメラニン色素の形成も減少

し、毛は灰色や白色になります。しかしながら、特定の

皮膚では、特に太陽光によく当たる皮膚では、過剰な

色素沈着が生じ、褐 色の斑点がつくられます。しきそちんちゃく かっしょく はんてん

高齢者では、エックリン汗腺の数が減少し、汗も少な

くなり、体温調節が悪くなって熱中症に罹りやすくなりかか

ます。

高齢になると、手の指の爪はもろくなり、波打つよう

になります。足の指の爪は変 色し、異常に厚くなることへんしょく

があります。

高齢者では、皮膚に存在する感覚受容器の数も減少し、

皮膚の感覚が鈍くなります。

図4-28 老化による皮膚と付属器官の変化を示す模式図

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第7節 脂質(脂肪)代謝と肥満

1.脂質(脂肪)代謝

細胞の中の脂質には、2種類存在します。一つは細胞

膜の形成のように細胞の構造に利用されるもので、もう

一つは脂肪細胞などに貯蔵されているトリアシルグリセ

ロール(トリグリセリド)です。トリアシルグリセロール

は、体のエネルギーが不足すると、分解されて利用され

ますが、構造に使われている脂質は利用できません。

体に貯蔵されている脂質の量は、ヒトによって異なり

ますが、肥満でないヒトの場合、男性では体重の12%~

20%で、女性では18%~24%です。貯蔵されている脂質

も良く代謝され、分解と合生成とが頻繁におこなわれてひんぱん

います。すなわち、体内で過剰なグルコースはグリセロ

ールや脂肪酸の形成に使われます。さらに、グリセロー

ルや脂肪酸は脂肪細胞でトリアシルグリセロールの生合

成に使用され、脂肪滴を形成することになります。

また、脂肪滴のトリアシルグリセロールは脂肪酸の形

成のために分解されます。脂肪細胞の中で形成された脂

肪酸は、血液のなかに放出され、遊離脂肪酸となります。

第三の脂質は、褐色脂肪細胞にみられる脂肪滴です。し ぼうてき

褐色脂肪細胞で構成される褐色脂肪組織は、体脂肪のう

ちのわずかなものですが、左右の肩甲骨の間や頚部、胸

腔や腹腔の大動脈の周囲などに存在します。褐色脂肪組

織は交感神経によって強く調節され、交感神経から放出

されるノルアドレナリン noradrenalineが褐色脂肪細胞に作用し、脂肪滴の分解によって脂肪酸をつくり、さ

らに脂肪酸の酸化によって熱を産生します。体が冷えた

状態では、交感神経が亢進し、褐色脂肪細胞による熱産こうしん

生が増加し、体温の維持や余剰エネルギーの放散が促進

されます。

近年、体脂肪量を恒常的に維持するホルモンとしてレ

プチン leptinが注目されています。レプチンは、脂肪滴が増えた白色脂肪細胞から分泌され、脳の視床下部に

作用(ニューロペプタイド Y作動性神経細胞の活動を抑制)し、強力な摂 食抑制作用とエネルギー消費増加作

せっしょく

用とがあることが知られています。逆に、白色脂肪細胞

の脂肪滴が減少すると、レプチンの分泌が止まり、食欲

が強まります。

また、白色脂肪細胞がトリアシルグリセロールなどを

細胞内に蓄積し、大型化するにつれて腫瘍壊死因子し ゅ よ う え し い ん し

(TNF-b)の分泌量も増加します。腫瘍壊死因子はインスリン作用の低下(インスリン抵抗性)の元 凶で、血液

げんきょう

図4-29 ヒトの体におけるエネルギーの調節機構

中のインスリン濃度を上昇させるようになります。

さらに、脂肪滴が増えた白色脂肪細胞では、高血圧の

危険因子であるアンジオテンシンノーゲンや、

血栓形成の元凶となるプラスミノーゲン活性化けっせんけいせい

阻害因子-1なども分泌します(64頁表3-2)。そ が い い ん し

2.日本人の肥満指数

肥満 obesityは、エネルギー摂取とエネルギー消費ひ ま ん

との間の不均衡によって、体内で過剰なグルコースと脂

肪酸とがトリアシルグリセロールに変換され脂肪組織に

過剰に蓄積した状態です。ちくせき

男性では、女性に比べて、腹腔内の大網や腸間膜、器たいもう ちようかんまく

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官の周囲などに存在する脂肪組織に脂肪が蓄積しやすく、

内臓脂肪型肥満(リンゴ型肥満)になります。それに対し

て、月経が続いている女性では、殿部や大腿部での皮下

脂肪が増えやすく、皮下脂肪型肥満(洋ナシ型肥満)と呼

ばれています。ただし、閉経後は、女性でも内臓脂肪型

肥満になる傾向が強まります。

内臓脂肪の増加がインスリン抵抗性を強め、2次性糖

尿病の危険性を強めます。しかし、2次性糖尿病は、皮

下脂肪の増加とは関連性が弱い。さらに、内臓脂肪の蓄

積は、心血管疾患とも強い関連性がありますが、その一

つは交感神経の働きが亢進していることが関係していま

す。内臓の脂肪組織には、皮下脂肪に比べて、アドレナ

リン受容体が密に存在するとともに、容易に脂肪滴の異

化が促進されます。

通常、男性では体脂肪が体重の20%を越えると肥満と

なり、女性では25%を越えると肥満です。

一方、日本肥満学会は、肥満と判定する BMI(ボディ・マス・インデックス:身長と体重から計算する体格

指数)値を25以上とすることに決めています。

BMI=体重(キログラム)÷身長(メートル)の2乗例)160cmで50kgの人の場合。

BMI=50÷1.62=約20

理想の BMI値は22です。この値のヒトが生活習慣病をふくめた病気にもっとも罹りにくいことが知られて

かか

います。理想の値のヒトに比べて、生活習慣病の危険率

が2倍になる数値は、高血圧や高脂血症があるヒトでは

BMIが25以上で、糖尿病にかかったヒトでは BMIが27以上です。これらの結果から、BMI値が25以上を「肥

満」としました。一方、BMI値が19以下になるとやせすぎです。

BMI値が25以上で高血圧や高脂血症、糖尿病などの生活習慣病を合併しているヒト、あるいは腹部 CT検査で内臓脂肪型肥満が確認できるヒトを、治療が必要な

「肥満症」と決めました。すると、日本人では、30歳以

上で10人あたり4人~5人が「肥満」です。

3.日本人と欧米人との違い

脂肪の摂取が多い欧米人と異なり、炭水化物の摂取がせつしゆ

多い日本人では、常時、血液中のグルコース量が増加し、

血糖値を上昇させています。そのため膵臓の内分泌細胞けつとう ち すいぞう ないぶんぴつ

から絶えずインスリン insulinを分泌し、血液中に増えたグルコースを肝細胞や脂肪細胞、骨格筋細胞などに

取り込んでいます。膵臓を酷使続けると、インスリンがこ く し

不足し、血糖値が上がったままになります。軽度の肥満

でも日本人が生活習慣病に罹りやすいのはそのためです。かか

もう一つは、欧米人の膵臓と質が違い、日本人の膵臓

はインスリンの過剰分泌で壊れやすい性質があります。

高血圧や高脂血症、糖尿病などの生活習慣病の30%~

60%が肥満や過体重に起因します。さらに、肥満は、動

脈硬化や心筋梗塞、脳梗塞などを促進します。こうそく

4.減量の目標は1か月に1キロ

欧米では、体重が5%減少すれば、30%のヒトで慢性

疾患が改善されるとのデータがあります。日本でも、体

重が5%減少すれば、もっと多くのヒトが健康になると

考えられています。

急激なダイエットでは減量が長続きしないうえに、最

初はやせても段々とやせにくい体質に変わります。

「肥満」のヒトはもちろん、「小太り」のヒトでも、

ほどほどの食事療法と適度な運動とで体重は改善されま

す。たとえば、今の食事を4分の3程度に減らし、7千

歩(200~300キロカロリーを消費)ぐらいは毎日歩くよ

うにします。それを継続して1か月に1 kgずつ減らしていくのが健康的に減量するコツです。

5.やせすぎは体を壊す

やせすぎもよくありません。二十代の女性にはやせす

ぎのヒトが多く、貧血や生理不順を訴えるヒトが増えてひんけつ

います。そうすると、将来、不妊症が増える可能性があふ に ん

ります。更年期障害も今よりも若い年齢でおきるかもしこうねん き

れません。骨粗鬆症にもかかりやすくなります。こつそしょうしょう

大切なのは健康を保てる体重をめざし、維持していく

ことです。

図4-30 体脂肪率と月経異常率との関係を示す