第3章 クレプシュ・ゴルダン係数 - So-net1 第3章 クレプシュ・ゴルダン係数...

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1 第 3 章 クレプシュ・ゴルダン係数 3.1 回転演算子の固有値と行列要素 2.2 節において、3次元回転の演算子の x,y,z 成分を以下のように定義した。 y z z y i j x (2.2.17a) = (3.1.1a) z x x z i j y (2.2.17b) = (3.1.1b) i x y y x i j z (2.2.15) = (3.1.1c) z y x j j j , , の間には、次の交換関係が成立する。 y x z x z y z y x j i j j j i j j j i j j ] , [ , ] , [ , ] , [ (2.2.18) = (3.1.2) ただし、 BA AB B A , である。 (3.1.1) 式と(3.1.2)式で示された演算子の定義と交換関係は、量子力学でよく 登場する軌道角運動演算子の定義と交換関係とは定数 ħ を除いて同じである。本 [8]のⅠ巻 p.91 と p.175 には、次式の関係が示されている。 . , etc y z z y i x (3.1.3) . , ] , [ etc i z y x (3.1.4) 従って、次式が得られる。 = ħ (3.1.5) (3.1.5)式より、量子力学における軌道角運動演算子に関する公式が、3次元回 転の演算子に総て適用できることが分かる。1.2 節Aで紹介したように、私の前 著「基礎から学ぶスピン化学」で量子力学における軌道角運動演算子を解説した ので、詳細は前著を参考にして下さい。の場合と同様にに関しても 2 2 2 2 z y x j j j j (3.1.6) y x j i j j (3.1.7) と定義すると、次の交換関係が得られる。 0 ] , [ ] , [ ] , [ ] , [ 2 2 2 2 j j j j z y x j j j j (3.1.8) z z j j j j j j j j 2 ] , [ , ] , [ , 0 ] , [ 2 (3.1.9) (3.1.8) 式と (3.1.9)式より、の場合と同様にに関しても、 2 j z j とを同時 に満足する固有関数 m j がありそれらの固有値は次のようになることが証明できる。 m j j j m j ) 1 ( 2 j (jは正の整数か半整数) (3.1.10)

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Page 1: 第3章 クレプシュ・ゴルダン係数 - So-net1 第3章 クレプシュ・ゴルダン係数 3.1 回転演算子の固有値と行列要素 2.2節において、3次元回転の演算子jのx,y,z成分を以下のように定義した。

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第 3 章 クレプシュ・ゴルダン係数

3.1 回転演算子の固有値と行列要素 2.2 節において、3次元回転の演算子jの x,y,z 成分を以下のように定義した。

y

zz

yijx (2.2.17a) = (3.1.1a)

z

xx

zij y (2.2.17b) = (3.1.1b)

ix

yy

xij z (2.2.15) = (3.1.1c)

zyx jjj ,, の間には、次の交換関係が成立する。

yxzxzyzyx jijjjijjjijj ],[,],[,],[ (2.2.18) = (3.1.2)

ただし、 BAABBA, である。

(3.1.1) 式と(3.1.2)式で示された演算子jの定義と交換関係は、量子力学でよく

登場する軌道角運動演算子ℓ の定義と交換関係とは定数 ħ を除いて同じである。本

[8]のⅠ巻 p.91 と p.175 には、次式の関係が示されている。

., etcy

zz

yix (3.1.3)

.,],[ etci zyx (3.1.4)

従って、次式が得られる。 ℓ = ħ j (3.1.5) (3.1.5)式より、量子力学における軌道角運動演算子ℓ に関する公式が、3次元回

転の演算子jに総て適用できることが分かる。1.2 節Aで紹介したように、私の前

著「基礎から学ぶスピン化学」で量子力学における軌道角運動演算子ℓ を解説した

ので、詳細は前著を参考にして下さい。ℓ の場合と同様にjに関しても

2222zyx jjjj (3.1.6)

yx jijj (3.1.7)

と定義すると、次の交換関係が得られる。

0],[],[],[],[ 2222 jjjj zyx jjjj (3.1.8)

zz jjjjjjjj 2],[,],[,0],[ 2 (3.1.9)

(3.1.8) 式と (3.1.9)式より、ℓ の場合と同様にjに関しても、 2j と zj とを同時

に満足する固有関数 mj がありそれらの固有値は次のようになることが証明できる。

mjjjmj )1(2j (jは正の整数か半整数) (3.1.10)

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),1,,1,(, jjjjmmjmmjj z (3.1.11)

また、 j に関する演算も、ℓ の場合と同様に次式で与えられる。

1)]1)([( 2/1 mjmjmjmjj (3.1.12)

1)]1)([( 2/1 mjmjmjmjj (3.1.13)

従って、ゼロでない行列要素は次式で与えられる。

)1(2 jjmjmj j (3.1.14)

mmjjmj z (3.1.15)

2/12/1 )]1()1([)]1)([(1 mmjjmjmjmjjmj (3.1.16)

2/12/1 )]1()1([)]1)([(1 mmjjmjmjmjjmj (3.1.17)

3.2 回転演算子の固有関数

jが整数の場合は、本[8]のⅠ巻 p.93 では(3.1.10)-(3.1.13)式を満足する関数

mj は2次元球面調和関数 ),(mY であることが示されている。

),(mYmj (3.2.1)

ここで、 cos,sinsin,cossin rzryrx を用いている。

),(mY の色々な公式やそれらの証明は他の教科書に委ねる。本解説でも ),(mY は

重要であるので 1.2 節Eで ),(mY に関する有用な公式を記載した。

1.2 節Eの主要部分を以下に再録する。 ),(mY の表し方は色々あるが、本[8]の

Ⅰ巻 p.93 より、

)exp()(cos)!()!(

412)1(),( 2/)( imP

mm

Y mmmm (1.2.41)=(3.2.2)

で与えられる。ここで、ℓ はゼロまたは正の整数で、mはℓ から-ℓ までの整数値

を取る。 PP 0 と置くと、P は次式で定義されるルジャンドルの多項式である。

)1(!2

1 2

ddP (1.2.42)=(3.2.3)

mP は次式で定義されるルジャンドルの陪関数である。

)()1()( 2/2 PddP

m

mmm (1.2.43)=(3.2.4)

例題 1.2.3 には、 ),(mY の具体的な式を 2,1,0 まで記載した。

例題 1.2.4 には、 ),(mY の有用な公式を記載した。

jが半整数の場合は、(3.1.10)-(3.1.13)式を満足する関数 mj は2次元球面調

和関数 ),(mY では表すことができない。そこで、jが整数の場合でも半整数の場

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合でも適用できる関数 mj を求める。複素数ξηを用いて、次のような微分演算子

を定義する。

)(21,, zjjj (3.2.5)

(3.2.5) 式から、次式が得られる。

22222 2/)( zzyx jjjjjjjjj

)2)((41

(3.2.6)

(3.2.5) 式と(3.2.6)とで式で定義される演算子は、(3.1.8) 式および(3.1.9)式の

交換関係を示すことが証明できる。

問題 3.2.1 (3.2.5) 式と(3.2.6)とで式で定義される演算子は、(3.1.8) 式および

(3.1.9)式の交換関係を示すことが証明せよ。

次に、(3.2.5) 式と(3.2.6)式とで定義される演算子が作用する対象として、

),1,,2,1,(,)!()!(

),( jjjjjmmjmj

mjumjmj

(3.2.7)

という、ξとηの同次多項式の集合を取り上げる。ここで、jは整数でも半整数で

もよい。

(3.2.7)式で定義される関数 ),( mju に(3.2.5) 式と(3.2.6)式とで定義される演算

子が作用すると、次の結果が得られる。

)1,()1)(()!()!(

)(),(11

mjumjmjmjmj

mjmjujmjmj

(3.2.8a)

)1,()1)(()!()!(

)(),(11

mjumjmjmjmj

mjmjujmjmj

(3.2.8b)

)1,(),(2

)()(),( mjummjumjmjmjuj z (3.2.8c)

),()1(),(2 mjujjmjuj (3.2.8d)

問題 3.2.1 (3.2.8a) - (3.2.8d)式を証明せよ。

以上の結果より、(3.2.7)式で定義される関数 ),( mju は、jが整数の場合でも半

整数の場合でも3次元回転の固有関数 mj に適用できることが分かった。

mj = ),( mju (3.2.9)

3.3 二つの角運動量ベクトルの合成

(3.1.5)式で、量子力学における軌道角運動演算子ℓ と3次元回転の演算子jとが

比例定数を除いて一致することを示した。同様に、量子力学におけるスピン角運動

演算子sとjとも比例定数を除いて一致する。従って、ℓ とsとjとは一般的に同

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等に論じることができる。原子や分子の現象を説明するために、二つの角運動量ベ

クトルの合成が重要になる。本節では、この問題を解説する。

二つのベクトルj1とj2との和をjとすると、 21 jjj (3.3.1)

jの x,y,z-成分には(3.1.2)式と同様な交換関係が成立する。例えば、

],[],[],[],[],[],[ 221221112121 yxyxyxyxyyxxyx jjjjjjjjjjjjjj

zzz ijijiJ 21 00 (3.3.2)

となる。ここで、j1とj2とは異なる空間に属するので、それらの x,y,z-成分は互

いに交換可能である。従って、(3.3.2)式において次式を用いた。

0],[],[ 1221 yxyx jjjj (3.3.3)

j1と zJ1 に対する固有関数を 11mj と書き、j2と zJ 2 に対する固有関数を 22mjと書き、それらの積の状態を次式のように定義する。

22112211 , mjmjmjmj (3.3.4)

上式のような複合状態を記述する場合、2つの方法がある。その一つは、2

1j と zj1と

22j と zj2 との演算子の組を用いる方法である。これらの演算子は互いに交換可能

で、(3.3.4)式で定義される積が固有関数になっている。

22111122112 ,)1(, mjmjjjmjmj1j (3.3.5a)

2211122111 ,, mjmjmmjmjj z (3.3.5b)

22112222112 ,)1(, mjmjjjmjmj2j (3.3.5c)

2211222112 ,, mjmjmmjmjj z (3.3.5d)

ここで、固有関数 2211 , mjmj は非結合表示と呼ばれ、 )12)(12( 21 jj 次元の空間を

張る。

2つ目の方法は、2

1j と2

2j と 22 )( 21 jjj と zzz jjj 21 との演算子の組を用いる

方法である。これらの演算子は互いに交換可能で、これらの固有関数を mj と書く。

mj の具体的な関数形は後で求めるが、これらの演算子に対する固有方程式は形式

的に次のように書くことができる。

mjjjmj )1( 112

1j (3.3.6a)

mjjjmj )1( 222

2j (3.3.6b)

mjjjmj )1(2j (3.3.6c)

mjmmjj z (3.3.6d)

ここで、固有関数 mj は結合表示と呼ばれ、jごとに )12( j 次元の空間を張る。

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mj は 11mj と 22mj との直積から生成する状態なので、 mj は 11mj と 22mj

との積 2211 , mjmj の適当な一次結合により表され、それらの係数はクレプシュ・ゴ

ルダン係数と呼ばれ、 );( 2121 mmmjjjC と書く。

2,1

22112121 ,);(mm

mjmjmmmjjjCmj (3.3.7)

(3.3.7)式の両辺に ',' 2211 mjmj を掛けると次式が得られる。

221122112,1

21212211 ,',');(',' mjmjmjmjmmmjjjCmjmjmjmm

(3.3.8)

本解説において、添字を含む変数(例えば、 21 , mm など)を添字に用いる場合、添

字の添字は読み難いので、(3.3.8)式のように 2,1 mm などと記載する場合がある。

2211 , mjmj は規格直交化されているので、次式が得られる。

),'(),'(,',' 221122112211 mmmmmjmjmjmj (3.3.9)

なお、 ),'( 11 mm はデルタ関数を表す。通常は nm のように書かれるが、 nm と書くと

添字の添字は読み難いので本解説では ),'( 11 mm と記載する場合がある。 (3.3.8)式と(3.3.9)式より、次式が得られる。

)'';(),'(),'();(',' 212122112,1

21212211 mmmjjjCmmmmmmmjjjCmjmjmjmm

(3.3.10)

(3.3.10)式において、 11 ' mm および 22 ' mm と書き換えると、

jmmjmjmmmjjjC 22112121 ,);( (3.3.11)

となる。従って、(3.3.8)式は次式のようになる。

2,1

22112211 ,,mm

mjmjjmmjmjmj (3.3.12)

(3.3.7)式を逆変換して、 2211 , mjmj を mj の一次結合で表すと、

2211 , mjmj jmmmmjjjDjm

),( 2121 (3.3.13)

となる。(3.3.13)式の両辺に ''mj を掛けると次式が得られる。

2211 ,'' mjmjmj jmmjmmmjjjDjm

''),( 2121

),'(),'(),( 2121 mmjjmmmjjjDjm

)','( 2121 mmmjjjD (3.3.14)

(3.3.14) 式で jj' および mm' と書き換えると、次式が得られる。

22112121 ,),( mjmjjmmmmjjjD (3.3.15)

2211 , mjmj jmmjmjjmjm

2211 , (3.3.16)

mj と 2211 , mjmj は実数で表すことができるので、 );( 2121 mmmjjjC と

),( 2121 mmmjjjD も実数である。従って、(3.3.11)式と(3.3.14)式より、

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22112211 ,, mjmjjmjmmjmjDC (3.3.17)

となる。 例題 3.3.1 1.2 節Aで紹介した私の解説「基礎から学ぶスピン化学」の4章では、

以下の事項を説明した。1ケの電子スピンの固有関数は 2/1,2/1 mj と表すこ

とができる。2ケの電子スピンを合成すると三重項状態 0,1,1 mj と一重項状

態 0,0 mj が生成し、それらは次式で表すことができる。

2/1,2/12/1,2/11,1 2211 mjmjmj

21

21,

21

21

(3.3.18a)

21

21,

21

21

21

21,

21

21(

210,1 mj (3.3.18b)

21

21,

21

21

21

21,

21

21(

210,0 mj (3.3.18c)

従って、(3.3.11)式の定義よりクレプシュ・ゴルダン係数は次のようになる。

11121

21,

21

2111

21

21,

21

21

(3.3.19a)

2100

21

21,

21

2110

21

21,

21

2110

21

21,

21

21

(3.3.19b)

2100

21

21,

21

21 (3.3.19c)

3.4 クレプシュ・ゴルダン係数の性質

本節では、クレプシュ・ゴルダン係数の重要な性質を解説する。 mj は規格直交

化されているので、次式が成り立つ。

)',()',('' mmjjmjjm (3.4.1)

上式に (3.3.7)式を代入すると、上式の左辺Lは次のように変形できる。

'2,'122112211

2,12211 ''',',,L

mmmmmjmjmjmjmjmjmjjm ',' 2211 mjmj

2211'2,'1

22112,1

2211 ,''',', mjmjmjmjmjmjmjjmmmmm

',' 2211 mjmj (3.4.2)

2211 , mjmj も規格直交化されているので、次式が成り立つ。

)',()',(',', 221122112211 mmmmmjmjmjmj (3.4.3)

(3.4.3)式を(3.4.2)式に代入すると、Lは次のように変形される。

'2,'12211

2,12211 ''',',L

mmmmmjmjmjmjmjjm )',()',( 2211 mmmm (3.4.4)

従って、クレプシュ・ゴルダン係数の直交関係として、次式が得られる。

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'',, 22112,1

2211 mjmjmjmjmjjmmm

)',()',( mmjj (3.4.5)

同様に、次式で表される直交関係も証明することができる。

jm

jmmjmj 2211 , ',' 2211 mjmjjm )',()',( 2211 mmmm (3.4.6)

問題 3.4.1 (3.4.6)式を証明せよ。

例題 3.4.1 (3.4.5)式で表される直交関係を、例題 3.3.1 を用いて確かめよ。

1',1',1,1 mjmj 場合には、例題 3.3.1 より(3.4.5)式の左辺Lは次のよ

うになる。

11,,11L 22112,1

2211 mjmjmjmjmm

1121

21,

21

21

21

21,

21

211111

21

21,

21

21

21

21,

21

2111

1121

21,

21

21

21

21,

21

211111

21

21,

21

21

21

21,

21

2111

100000011 (3.4.7)

同様にして、 1',1',1,1 mjmj の場合も、 0',1',0,1 mjmj の場

合も、 0',0',0,0 mjmj の場合も、L=1となる。

0',0',0,1 mjmj 場合には、例題 3.3.1 より(3.4.5)式の左辺Lは次のよ

うになる。

0021

21,

21

21

21

21,

21

210100

21

21,

21

21

21

21,

21

2101L

0021

21,

21

21

21

21,

21

210100

21

21,

21

21

21

21,

21

2101

0021

21000

21

21

21

2100 (3.4.8)

同様にして、 1',1',1,1 mjmj の場合も、 0',1',1,1 mjmj の

場合も、 0',0',1,1 mjmj の場合も、L=0となる。(終)

クレプシュ・ゴルダン係数に関しては、次の重要な性質がある。それは三角形関

係と呼ばれ、次の条件を満たさないとクレプシュ・ゴルダン係数はゼロとなる。 21 mmm (3.4.9a)

2121 jjjjj (3.4.9b)

(3.4.9a)式の証明は、次のようになる。(3.3.12)式の両辺に zzz jjj 21 を作用す

ると、次式が得られる。

2,1

2211 ,mm

z jmmjmjjmj 221121 ,)( mjmjjj zz (3.4.10)

(3.4.10)式の左辺Lは次のようになる。

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2,1

2211 ,Lmm

jmmjmjmjmm 2211 , mjmj (3.4.11)

(3.4.10)式の右辺Rは次のようになる。

2,1

221121 ,)(Rmm

jmmjmjmm 2211 , mjmj (3.4.12)

(3.4.11)式と (3.4.12)式よりL-Rを計算すると、次式が成立する。

0,)( 221121 jmmjmjmmm (3.4.13)

従って、 0, 2211 jmmjmj のためには、 21 mmm が成立せねばならない。

(3.4.9b)式の証明は、次のようになる。 1m の最大値を max1m と書き、 2m の最大値

を max2m と書くと、 1max1 jm および 2max2 jm となる。従って、 j の最大値 maxj は

21max jjj (3.4.14)

となる。 maxj をpと書き、 j の最小値 maxj をqと書くと、次の関係式が得られる。

)12)(12()12( 21 jjjp

qj (3.4.15)

上式の左辺Lは mj 状態の基底関数の総和であり、右辺Rは 2211 , mjmj 状態の基底

関数の総和である。両者は等しいので、(3.4.15)式が成立する。

j が整数の時は、次式が得られる。

)]1()1([21)1(

21)1(

21

1

1

1qqppqqppjjj

p

j

q

j

p

qj (3.4.16)

j が半整数の時は、次式が得られる。

)]1()1([21)

21(

21)

21(

21

2/1

221

2/1qqppqpjjj

p

j

q

j

p

qj (3.4.17)

また,p

qjqpqp 1)1(1 なので、(3.4.15)式の左辺Lは

1)(2)(12)12(L 221

221

22 qjjjjqppjp

qj (3.4.18)

となる。(3.4.15)式の右辺Rは次のようになる。

1)(24)12)(12(R 212121 jjjjjj (3.4.19)

(3.4.18)式と(3.4.19)式からL=Rと置くと、次式が得られる。

22121

221

2 )(4)( jjjjjjq (3.4.20)

maxj は正またはゼロなので、

21min jjqj (3.4.21)

となり、(3.4.9b)式が証明された。

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クレプシュ・ゴルダン係数に関してもう一つ重要な公式があるので、ここで学

習しておこう。 mj に 21 jjj を作用すると、(3.1.16)式、(3.1.17)式、およ

び(3.3.12)式より次式が得られる。

1)]1()1([( 2/1 mjmmjjmjj

2/1)]1()1([( mmjj'2,'1

22112211 ','1','mm

mjmjjmmjmj (3.4.22)

一方、(3.4.22)式の左辺Lは次式で表される。

2,1

221122112121 ,,)()(Lmm

mjmjjmmjmjjjmjjj

2,1

221122112/1

1111 ,1,)]1()1({[(mm

mjmjjmmjmjmmjj

}1,,)]1()1([( 221122112/1

2222 mjmjjmmjmjmmjj (3.4.23)

(3.4.22)式と(3.4.23)式より、次式が得られる。

2/1)]1()1([( mmjj2,1

22112211 ,1,mm

mjmjjmmjmj

2,1

221122112/1

1111 ,1,)]1()1({[(mm

mjmjjmmjmjmmjj

}1,,)]1()1([( 221122112/1

2222 mjmjjmmjmjmmjj (3.4.24)

(3.4.24)式の両辺において、 2211 , mjmj の係数を等しいと置くと

2/1)]1()1([( mmjj 1, 2211 jmmjmj

jmmjmjmmjj 22112/1

1111 ,1)]1()1([(

}1,)]1()1([( 22112/1

2222 jmmjmjmmjj (3.4.25)

となる。 3.5 クレプシュ・ゴルダン係数の計算法

本節では、 クレプシュ・ゴルダン係数の計算法を説明する。 maxmaxmj では

21max jjj および 21max jjm なので、 maxmaxmj は 2211 , jjjj と等しくなる。

22112121maxmax , jjjjjjjjmj (3.5.1)

従って, maxmaxmj に関連するクレプシュ・ゴルダン係数を次のように求めることが

できる。

1, 21212211 jjjjjjjj (3.5.2)

次に、 maxmaxmj に j を作用することは、次式を意味する。

221121maxmax ,)( jjjjjjmjj (3.5.3)

(3.5.3)式の左辺Lは、(3.1.13)式より次のようになる。

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10

1)]1()1([L maxmax2/1

maxmaxmaxmax mjmmjj

1)]1)(()1)([( maxmax2/1

21212121 mjjjjjjjjj

1)](2[ maxmax2/1

21 mjjj (3.5.4)

一方、(3.5.3)式の右辺Rは、(3.1.13)式より次のようになる。

2211222111R jjjjjjjjjj

22112/1

1111 1)]1()1([ jjjjjjjj

1)]1()1([ 22112/1

2222 jjjjjjjj

22112/1

1 1]2[ jjjjj 1]2[ 22112/1

2 jjjjj (3.5.5)

(3.5.4)式のLと(3.5.5)式のRを等しいとおくと、次式が得られる。

1][1][1 22112/1

21

22211

2/1

21

12121 jjjj

jjjjjjj

jjjjjjj

(3.5.6)

(3.5.6)式の両辺に 2211 1 jjjj と 12211 jjjj を作用すると、 12121 jjjj に

関連するクレプシュ・ゴルダン係数を次のように求めることができる。

2/1

21

121212211 ][1,1

jjjjjjjjjjj (3.5.7a)

2/1

21

221212211 ][11,

jjjjjjjjjjj (3.5.7b)

次に、 2211 ,1 jjjj と 1, 2211 jjjj との一次結合で 12121 jjjj と直交する

関数は 11 2121 jjjj なので、

1][1][11 22112/1

21

12211

2/1

21

22121 jjjj

jjjjjjj

jjjjjjj

(3.5.8) となる。なお、上式の一次結合の係数の符号に任意性があるが、符号は上式のよう

に選ぶように約束する。従って、 11 2121 jjjj に関連するクレプシュ・ゴル

ダン係数を次のように求めることができる。

2/1

21

221212211 ][11,1

jjjjjjjjjjj (3.5.9a)

2/1

21

121212211 ][111,

jjjjjjjjjjj (3.5.9b)

同様にして、 12121 jjjj に j を作用すると、 22121 jjjj が求まる。

また、 11 2121 jjjj に j を作用すると、 21 2121 jjjj が求まる。更に、

両者に直交する関数から、 22 2121 jjjj が求まる。以上のようにして、総て

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11

の jm が 2211 , mjmj の一次結合で表され、 jm に関連するクレプシュ・ゴルダン係

数を求めることができる。このようにしてクレプシュ・ゴルダン係数の一般形は

332211 , mjmjmj)!1(

)!2()!2()!2()12)[(,( 123

3321 sjsjsjs

jmmm

2/1333322221111 ])!()!()!()!()!()!( mjmjmjmjmjmj

)!()!()![(!)1(

2211321 zmjzmjzjjjzz

z

1213123 ])!()!( zmjjzmjj (3.5.10)

となる。ただし、 321 jjjs であり、zはそれを含む項が負にならない総ての整

数を取る。上式の証明は色々な教科書(例えば、本[3])に記載されている。証明は

長くなるので、本解説では記載を省略する。証明に興味のある読者は適宜に自習し

て下さい。 (3.5.10)式の一般形から、次のような対称関係がクレプシュ・ゴルダン係数に関

して証明することができる。

332211 , mjmjmj 321)1( jjj332211 , mjmjmj (3.5.11a)

321)1( jjj331122 , mjmjmj (3.5.11b)

11)1( mj223311

2/123 ,)12/()12( mjmjmjjj (3.5.11c)

22)1( mj112233

2/113 ,)12/()12( mjmjmjjj (3.5.11d)

11)1( mj221133

2/123 ,)12/()12( mjmjmjjj (3.5.11e)

22)1( mj113322

2/113 ,)12/()12( mjmjmjjj (3.5.11f)

問題 3.5.1 (3.5.11a)-(3.5.11f)式を証明せよ。

3.6 クレプシュ・ゴルダン係数の実例

(3.5.10)式のクレプシュ・ゴルダン係数の一般形から、表 3.6.1 に示すような公

式が得られる。

表 3.6.1 クレプシュ・ゴルダン係数 332211 , mjmjmj の公式。

2/12j の場合。本[4]の p.57 から転載。 2/1

1

111 12

2/121

21

21,

21

jmjmjmj (3.6.1a)

2/1

1

111 12

2/121

21

21,

21

jmjmJmj (3.6.1b)

2/1

1

111 12

2/121

21

21,

21

jmjmjmj (3.6.1c)

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12

2/1

1

111 12

2/121

21

21,

21

jmjmjmj (3.6.1d)

12j の場合。本[4]の p.57 から転載。

2/111

2/11111 22121111,1 jjmjmjmjmj (3.6.2a)

2/111

2/11111 12111,1 jjmjmjmJmj (3.6.2b)

2/111

2/11111 1221111,1 jjmjmjmjmj (3.6.2c)

2/111

2/11111 11211110, jjmjmjmjmj (3.6.2d)

2,2/3 22 jj の場合も、本[4]の p.58-61 に記載されている。

問題 3.6.1 表 3.6.1 に示された公式を証明せよ。

表 3.6.1 に示された公式を用いると、次の例題に示すような具体例が得られる。

例題 3.6.1 クレプシュ・ゴルダン係数の具体例: 2/1,2/1 21 jj の場合。

(3.6.1a)- (3.6.1d)式から次の結果が得られる。

2/12/1

1

1

21

122/1

121

21,

21

21 m

jmjmm (3.6.3a)

2/12/1

1

1

21

122/1

021

21,

21

21 m

jmjmm (3.6.3b)

2/12/1

1

1

21

122/1

121

21,

21

21 m

jmjmm (3.6.3c)

2/12/1

1

1

21

122/1

021

21,

21

21 m

jmjmm (3.6.3d)

(3.6.3a)式に 1m を代入すると、次の結果が得られる。

11121

21,

21

211

21

21,

21

21 mm (3.6.4a)

(3.6.3c)式に 1m を代入すると、次の結果が得られる。

11121

21,

21

211

21

21,

21

21 mm (3.6.4b)

(3.6.3c)式に 0m を代入すると、次の結果が得られる。

2/1

2101

21

21,

21

211

21

21,

21

21 mm (3.6.4c)

(3.6.3a)式に 0m を代入すると、次の結果が得られる。

2/1

2101

21

21,

21

211

21

21,

21

21 mm (3.6.4d)

(3.6.3d)式に 0m を代入すると、次の結果が得られる。

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13

2/1

2100

21

21,

21

210

21

21,

21

21 mm (3.6.4e)

(3.6.3b)式に 0m を代入すると、次の結果が得られる。

2/1

2100

21

21,

21

210

21

21,

21

21 mm (3.6.4f)

(3.6.4a)- (3.6.4f)式で得られた値は、(3.3.19a)- (3.3.19c)式で求められていた

値と一致している。

例題 3.6.2 クレプシュ・ゴルダン係数の具体例: 11j , 2/12j の場合。

(3.6.1a)- (3.6.1d)式から次の結果が得られる。

2/32/32/12/1,11 12/32/32/12/1,11 (3.6.5a)

2/12/32/12/1,11 3/12/12/32/12/1,11 (3.6.5b)

2/12/32/12/1,10 3/22/12/32/12/1,10 (3.6.5c)

2/12/12/12/1,11 3/22/12/12/12/1,11 (3.6.5d)

2/12/12/12/1,10 3/12/12/12/12/1,10 (3.6.5e)

上式を用いると、 11j , 2/12j の場合に合成される状態は次式で表される。

21

21,11

23

23 (3.6.6a)

21

21,10

32

21

21,11

31

21

23 (3.6.6b)

21

21,10

31

21

21,11

32

21

21 (3.6.6c)

問題 3.6.2 (3.6.5a)- (3.6.5e)式を証明せよ。

例題 3.6.3 クレプシュ・ゴルダン係数の具体例: 11j , 12j の場合。

(3.6.2a)- (3.6.2d)式から次の結果が得られる。

2211,11 12211,11 (3.6.7a)

2110,11 2111,10 1210,11 2/11211,10 (3.6.7b)

3/22010,10 , 2011,11 6/12011,11 (3.6.7c)

1110,11 1111,10 1110,11 2/11111,10 (3.6.7d)

01010,10 , 1011,11 2/11011,11 (3.6.7e)

0010,10 0011,11 3/1001,11 (3.6.7f)

上式を用いると、 11j , 12j の場合に合成される状態は次式で表される。

11,1122 (3.6.8a)

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14

)11,1010,11(2

112 (3.6.8b)

)11,1111,11(6

110,103202 (3.6.8c)

)11,1010,11(2111 (3.6.8d)

)11,1111,11(2

101 (3.6.8e)

)11,1111,11(3

110,103

100 (3.6.8f)

問題 3.6.3 (3.6.7a)- (3.6.7f)式を証明せよ。

3.7 ウィグナ-の 3-j 記号 角運動量の関連する分野では、クレプシュ・ゴルダン係数と同様にウィグナ-の

3-j 記号がよく使われる。ウィグナ-の 3-j 記号はクレプシュ・ゴルダン係数を用

いて次式のように定義される。

3322112/1

3321

3

3

2

2

1

1 ,)12()1( mjmjmjjmj

mj

mj mjj (3.7.1)

逆に、クレプシュ・ゴルダン係数は 3-j 記号を用いて、次式のように表される。

3

3

2

2

1

12/13

321332211 )12()1(,

mj

mj

mj

jmjmjmj mjj (3.7.2)

問題 3.7.1 (3.7.2)式を証明せよ。 3-j 記号の性質については、次のような公式が成立する。

(1)交換に関する公式:

2

2

1

1

3

3

1

1

3

3

2

2

3

3

2

2

1

1

mj

mj

mj

mj

mj

mj

mj

mj

mj

(3.7.3a)

3

3

1

1

2

2321

3

3

2

2

1

1 )1(mj

mj

mj

mj

mj

mj jjj

2

2

3

3

1

1321)1(mj

mj

mjjjj

1

1

2

2

3

3321)1(mj

mj

mjjjj (3.7.3b)

問題 3.7.2 (3.7.3a)- (3.7.3b)式を証明せよ。 (2)符号の反転に関する公式:

3

3

2

2

1

1321

3

3

2

2

1

1 )1(m

jm

jm

jmj

mj

mj jjj (3.7.4)

問題 3.7.3 (3.7.4)式を証明せよ。

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15

(3)規格直交性に関する公式:

)',()',()12(''

33331

32,1 3

3

2

2

1

1

3

3

2

2

1

1 mmjjjmj

mj

mj

mj

mj

mj

mm (3.7.5a)

)',()',(''

)12( 22113,3 3

3

2

2

1

1

3

3

2

2

1

13 mmmm

mj

mj

mj

mj

mj

mj

jmj

(3.7.5b)

問題 3.7.4 (3.7.5a)- (3.7.5b)式を証明せよ。

表 3.7.1 ウィグナ-の 3-j 記号のよく使われる公式が本[4]の p.62-3 の表 2.5 に

記載されている。表 2.5 の公式のなかで、上から数行を転載する。

2/1)12()1(00

jm

jmj mj (3.7.6)

2/12/1

)12)(22(2/1)1(

2/12/1

2/12/1

jjmj

mj

mj mj (3.7.7)

2/11

)12)(22)(32()1)(()1(

11

11

jjjmjmj

mj

mj mj (3.7.8a)

2/11

)12)(22)(32()1)(1()1(

011

jjjmjmj

mj

mj mj (3.7.8b)

2/1

)2)(12)(22()1)((2)1(

11

1 jjjmjmj

mj

mj mj (3.7.8c)

2/1)]2)(12)(22[(2)1(

01

jjjm

mj

mj mj (3.7.8d)