大阪大学 宇宙地球科学専攻 - Osaka University2 宇宙地球科学専攻の紹介 2.1 概要 近年めざましく発展しつつある宇宙・地球惑星科学に対して1995年に大学院博士前期
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第 1 章
一様等方宇宙
1.1 一様等方宇宙の計量
Robertson-Walker計量
ds2 = −dt2 + a2(t)[ dr2
1−Kr2+ r2 (dθ2 + sin2 θdφ2)
](1.1)
= −dt2 + a2(t)
dχ2 +
sin2 χ
χ2
sinh2 χ
(dθ2 + sin2 θdφ2)
= −dt2 + a2(t)(
1 +K
4r2) [dr2 + r (dθ2 + sin2 θdφ2)]
= −dt2 + a2(t)[dx2 + dy2 + dz2 − K(xdx+ ydy + zdz)2
1−K(x2 + y2 + z2)
]= −dt2 + a2(t)γijdx
idxj
とかける。ただし、r ≡ 2r
1 +√1−Kr2
であり、また
K =
+1 閉じた
0 平坦
−1 開いた
と規格化できる。尚
2 第 1 章 一様等方宇宙
ds2 = a2(η) (−dη2 + γijdxidxj) (1.2)
とかいて conformal time ηで表すこともある(η =
∫dt
a(t)
)。
a(t)が唯一のダイナミカルな自由度であり、スケールファクター (scale
factor)という。t =const面の3次元空間曲率テンソルは
(3)Rijkl =K
a2(t)(γikγjl − γilγjk) (1.3)
となり、3次元スカラー曲率
(3)R =6K
a2(t)(1.4)
でK = ±1のときは a(t)は宇宙空間の曲率半径 Rcurv(t)に等しくなる。
演習問題 1 一様等方宇宙の計量が (1.1)のようにかけることを導け。
1.2 ハッブルの法則と赤方偏移
原点にいる観測者と座標点 (χ1, 0, 0)にある天体との固有距離は
d(t) =
∫ χ1
0
√gχχdχ = a(t)χ1 (1.5)
であり、この時間変化
v(t) ≡ d(t) = a(t)χ =a(t)
a(t)d(t) ≡ H(t)d(t) (1.6)
から v = Hdというハッブルの法則が出る。a(t)の対数変化率H をハッ
ブルパラメタという。
H−10 が宇宙年齢の目安を与える。
H0 = 100h km/s/Mpc
という単位で与えられ、h ≈ 0.7 であることがわかっている。1Mpc は
1pc = 3.26光年の百万倍である(銀河間距離は数Mpcくらい)。
1.3 宇宙論的距離 3
光は null geodesicに沿って進むから、ds2 = 0で (χ1, 0, 0)にある銀河
から、t1 に出た光が t0 に地球に届くとすると、ds2 = −dt2 + a2(t)dχ2 =
0より、 ∫ t0
t1
dt
a(t)=
∫ χ1
0
dχ = χ1
t1 + δt1 に出た光が t0 + δt0 に着いたとする。∫ t0+δt0
t1+δt1
dt
a(t)= χ1
辺辺ひいて、∫ t0+δt0
t0
dt
a(t)=
∫ t1+δt1
t1
dt
a(t)∴ δt0a(t0)
=δt1a(t1)
λ0λ1
=δt0δt1
=a(t0a(t1)
> 1 if H > 0 (1.7)
膨張宇宙では波長が長くなる = 赤方偏移
z1 ≡λ0 − λ1λ1
=a(t0)
a(t1)− 1
1 + z =a(t0)
a(t)(1.8)
1 + z は a(t)の逆数を与える。
z =a(t0)− a(t1)
a(t1)≃ a(t0)
a(t0)(t0 − t1) ≃ a(t0)χ = v(t0) = H0d(t0) (1.9)
という関係もそれほど遠くなければ成り立つ。
1.3 宇宙論的距離
遠方の天体までの距離を観測によって決定するときには、観測が光と
いう有限の速度をもったものを介して行われること、その間にも宇宙が膨
張しているということに注意しなければならない。
4 第 1 章 一様等方宇宙
1.3.1 光度距離 (luminosity distance)
絶対光度 Ls(単位時間に放出する energy erg/s)の天体を距離 dで観
測すると、そこに届く fluxは
F =Ls4πd2
となる。これはMinkowski時空の場合。
光度距離 dL は絶対光度 Ls のわかっている天体から受ける fluxを F0
として、
d2L ≡Ls
4πF0(1.10)
によって定義される距離である。
光源で δts に光源から放出された全エネルギーを δEs 光源の座標
(rs, 0, 0)(今度は χではなく rの表示でmetricをかく)を中心として観
測者を含む球面を、δts に対応する δt0 時間に通過するエネルギーを δE0
をすると、赤方偏移の考察と同様、
δE0 =δEs1 + z
, δt0 = (1 + z)δts (1.11)
であるから、絶対光度 Ls = δEs/δts に対して、観測者を含む球面を通過
する全光度 L0 は
L0 =δE0
δt0=
Ls(1 + z)2
(1.12)
という関係をみたす。
t = t0 での球面の面積は 4π(a0r)2 である(全立体角は今の座標表示で
は 4πである。なぜならば、そのmetricは
ds2 = −dt2 + a2(t)[ dr2
1−Kr2+ r2dΩ2︸ ︷︷ ︸ここは通常と同じ
]と与えられるから)。よって、観測する fluxは
F0 =L0
4π(a0r)2=
Ls4π(a0r)2(1 + z)2
=Ls
4πd2L
1.3 宇宙論的距離 5
より
dL = a0r(1 + z) (1.13)
luminosity distance
となる。
1.3.2 角径距離 (angular diameter distance)
真の大きさ(差しわたし)D のわかっている天体の見込む角が θ だっ
たとすると、角径距離は
dA ≡D
θ(1.14)
によって定義される。
D は、光が出た時刻 ts での座標半径 r の円周上にあると考えてよい
から、
θ
2π=
D
2πasr
が成り立つ。従って
dA = asr =a0r
1 + z(1.15)
つまり
dA =dL
(1 + z)2(1.16)
という関係が成り立つ。
ハッブルの法則は通常 luminosity distance を使って表される。(1.9)
より、最低次では dL = z/H0 であったが、次のオーダーまで求めると
dL =1
H0
[z +
1
2(1− q0)z2 +O(z3)
](1.17)
となる。ここで
q0 ≡ −a0a0a20
6 第 1 章 一様等方宇宙
であり、減速パラメタ (deceleraton parameter)と呼ばれる。
演習問題 2 式 (1.17)を導け。
解答
z =a0a(t)
− 1 =a0
a0 + a0(t− t0) +a02(t− t0)2
− 1
=a0a0
(t0 − t)−a02a0
(t0 − t)2 +a0a0
2(t0 − t)2 + · · ·
= H0(t0 − t) +H20 (1 +
1
2q0)(t0 − t)2 + · · ·
∫ t0
t
dt′
a(t′)=
∫ r
0
dr√1−Kr2
=
sin−1 r
r
sinh−1 r
=
r +
r3
6r
r − r3
6
=
∫ t0
t
1
a0
[1− a0
a0(t′ − t0)
]dt′
=1
a0(t0 − t) +
a02a20
(t0 − t)2 = r (としてよい)
∴ a0r = t0 − t+1
2
a0a0
(t0 − t)2 = t0 − t+1
2H0(t0 − t)2
dL = a0r(1 + z) =[ z
H0− 1
H0
(1 +
q02
)z2 +
1
2H0z2](1 + z)
=1
H0
[z +
1
2(1− q0)z2 + · · ·
]となる。
q0 < 0の加速膨張宇宙では、同じ z にある天体がより遠くにあるので、
より暗く見えることになる。
(予想より暗く見えたので加速膨張がわかった。)
1.4 一様等方宇宙のアインシュタイン方程式 7
1.4 一様等方宇宙のアインシュタイン方程式
空間的に一様等方宇宙ではエネルギー運動量テンソルは 2つの時間の
関数 ρ(t)と p(t)だけで特徴づけられる。
T 00 = −ρ , T 0
i = 0 (ベクトル的な特定の方向はないから)
T ij = pδij (これも方向をもたないから) (1.18)
完全流体の EMテンソル
Tµν = pgµν + (p+ ρ)uµuν (1.19)
と同じ形である。四元速度 uµ = (1, 0, 0, 0)(物質の静止系で見て一様等
方ということだから)より、Tµν = diag(−ρ, p, p, p)が得られる。非等方ストレスや粘性項がないのは、特定の方向への流れがそもそも禁止される
からであって、完全流体だけが存在を許されているというわけではない。
実際に完全流体が宇宙をみたしているときは、ρはエネルギー密度、p
は圧力という意味をもつ。
演習問題 3 R-W計量でリーマンテンソルを書き出し、アインシュタ
イン方程式を求めよ。
スカラー曲率は
R = 6
[a
a+
( aa
)2
+K
a2
](1.20)
である。
アインシュタイン方程式は、00成分より( aa
)2
+K
a2=
8πG
3ρ (1.21)
ii成分より
2a
a+
( aa
)2
+K
a2= −8πGp (1.22)
(1.22)−(1.21)より
8 第 1 章 一様等方宇宙
a
a= −4πG
3(ρ+ 3p) (1.23)
ρ+3p
> 0
< 0で減速 (decelerate) −→常にこれをみたしていると有限の時間で特異点にもどる加速 (accelerate)
ビアンキの恒等式よりエネルギー運動量保存をかくと、Tµν;ν = 0より
ρ = −3(ρ+ p)H (1.24)
⇔ dρa3
dt= −pda
3
dt
これは
dE = −pdV
の形であり、ρ, pがエネルギー密度、圧力としての熱力学的な意味を明確
に持っている場合には dE = TdS − pdV (+µidNi)との比較により
dS = 0 (1.25)
とかけ、宇宙は孤立系として断熱膨張をすることになる。宇宙進化の殆ん
どの時代はこのようなとり扱いが正当だが、時に大きな非平衡現象(相転
移や対消滅など)がおこり、重要な役割を果たす。
状態方程式 P = P (ρ) が与えられれば (1.24) から ρ の a 依存性がわ
かり、それを (1.21)に代入すれば a(t)が解ける。とくに p = wρ (w =
const)とかけるとき、(1.24)より
ρ ∝ a−3(1+w) (1.26)
となる。代表的な例は
w =1
3相対論的放射 ρ ∝ a−4 ρr
(massless粒子)
w = 0 非相対論的物質 ρ ∝ a−3 ρm
(dust)
w = −1 真空のエネルギー ρ = const ρV
1.5 宇宙論的パラメタ 9
( aa
)2
+K
a2=
8πG
3ρで、K = 0として (1.26)を代入すると
a(t) ∝ t2
3(1+w) w = −1eHV t w = −1
(1.27)
となることがわかる (HV =√8πGρV /3)。
実際にはいろんな種類の物質が共存している。
1.5 宇宙論的パラメタ
(1.21)にH = a/aを用いて
K
a2=
8πG
3ρ−H2 ≡ (Ω − 1)H2 (1.28)
密度パラメタ
Ω ≡ 8πG
3H2ρ ≡ ρ
ρcrρcr =
3H2
9πG(臨界密度)
ρcr0 =3H2
0
8πG= 2× 10−29h2 g/cm
3
各成分毎に Ωi =ρipcr
が定義される。Ωr, Ωm = Ωc(CDM) +
Ωb(baryon), ΩΛ = λ ともかく。真空のエネルギー密度 ρV はアイ
ンシュタインの宇宙項 Λがあるのと同じである。
Λ = 8πGρV (1.29)
という対応関係が成り立つ。∑iΩi T 1がK T 0に対応する。更に
ΩK ≡ −K
a2H2(1.30)
と定義すると
10 第 1 章 一様等方宇宙
Ωm +Ωr + ΩΛ︸︷︷︸∥λ =
Λ3H2
+ΩK = 1 (1.31)
が成り立つ。これらの値を決めることは観測的宇宙論の一大テーマである。
宇宙年齢
(1.27) より、もし ΩK = ΩΛ = Ωr = 0, Ωm = 1 という Einstein de
Sitter 宇宙を考えると a(t) ∝ t23 なので H = 2/3t であるから、宇宙年
齢は
t0 =2
3H0≈ 66億年 (1.32)
程度にしかならない。
(1.21)より一般の場合は
t(z) =
∫ a
0
dt
dada =
∫ ∞z
dz
(1 + z)H(z)
=1
H0
∫ ∞z
dz
(1 + z) [Ωm0(1 + z)3 +Ωr0(1 + z)4 +ΩK0(1 + z)2 +ΩΛ0]1/2
(1.33)
となり、z = 0とすれば t0 が求まる。
実際には放射優勢であった時間はごく短いので Ωr = 0としてよく、初
期宇宙のインフレーションからも、観測からも ΩK = 0でよいと考えら
れるので
t0 =1
H0
∫ ∞0
dx
(1 + z)√1−Ωm0︸ ︷︷ ︸
ΩΛ0
+Ωm0(1 + z)3(1.34)
が成り立つと考えられる。
ΩΛ があると、Einstein de Sitter宇宙よりも宇宙年齢がのびることが
わかる(現在加速しているということは昔の膨張率は思ったほど大きくな
かったということで、その逆数であるタイムスケール=年齢はのびるので
ある)。
1.6 宇宙論パラメタの測定結果 11
距離についても∫ r
0
dr√1−Kr2︸ ︷︷ ︸∥√
−K sinh−1(√−Kr)
=
∫ t0
ts
dt
a(t)=
∫da
aa=
∫ z
0
dz
H(z)a0
=1
a0H0
∫ z
0
dz
[Ωm0(1 + z)3 +Ωr0(1 + z)4 +ΩK0(1 + z)2 +ΩΛ0]1/2
(1.35)
とかける。ただし ts:光源を出た時刻である。よって
a0r =1
H0
√ΩK
sinh
√ΩK
∫ z
0
dz
[Ωm0(1 + z)3 +Ωr0(1 + z)4 +ΩK0(1 + z)2 +ΩΛ0]1/2
≡ 1
H0SK(z) (1.36)
とすると
dL(z) =1
H0SK(z)(1 + z), dA(z) =
SK(z)
H0(1 + z)(1.37)
となる。
1.6 宇宙論パラメタの測定結果
CMBの章でのべるが、今のところ、
Ωr0 = Ωγ0 +Ων0 = 8.00× 10−5
Ωm0 = 0.27
なので、
aeqa
=1
3375zeq = 3374
T > Teq = 9197K = 0.7925eV
12 第 1 章 一様等方宇宙
1.7 初期宇宙の熱力学
現在の宇宙はダークエネルギー優勢だが、z = (ρV /ρm0)13 − 1 = 0.47
より前は物質優勢、更に zeq = 3233+184−210 より前は放射優勢で温度も高
かった。
高温高密度の熱平衡状態にあったとして、膨張宇宙の熱力学を考える。
温度 T ≡ β−1 の平衡状態における粒子の諸量を書き下す。
fBF(ω) =
1
eβ(ω−µ) ∓ 1(1.38)
粒子数密度 nとエネルギー密度 ρは(B,F 省略して)
n = g
∫d3q
(2π)3f(ω) =
q
2π2
∫ ∞m
dEf(E)E(E2 −m2)12 (1.39)
ρ = g
∫d3q
(2π)3ωf(ω) =
g
2π2
∫ ∞m
dEf(E)E2(E2 −m2)12(1.40)
E = ω =√m2 + q2 qは運動量
圧力は x =constにおいて仮想的な壁に速度 vx = qx/ω で左辺からぶつ
かると壁に力積 2qx を与えるので
p = g
∫qx>0
d3
(2π)32q2xωf(ω) = g
∫q2
3ωf(ω) =
g
6π2
∫ ∞m
dEf(E)(E2 −m2)32(1.41)
又は大分配関数 Ξ(β, µ)から得られる熱力学ポテンシャル
Ω = −T lnΞ = −pV = −TV g∫
d3q
(2π)3ln [1∓ e−β(ω−µ)]
∓1
より
p = ±gT∫
d3q
(2π)3ln[1± f(ω)] (1.42)
= ± gβ
∫(E2 −m2)
12E ln [1∓ e−β(E−µ)] dE
= ± g
3β
∫ [(E2 −m2)
32
]′ln [1∓ e−β(E−µ)] dE
1.7 初期宇宙の熱力学 13
=g
3
∫(E2 −m2)
32
e−β(E−µ)
1∓ e−β(E−µ)dE
= (1.41)
Gibbsの自由エネルギーの2つの表式
G = E − TS + PV = µN (1.43)
エントロピー密度は
s = β(ρ+ p− µn) (1.44)
で与えられる。µ = 0でもこれは正しい。
別の導出も考えてみる。
TdS = dE + pdV = d(ρV ) + pdV
= ρdV + V dρpdV
= (ρ+ p)dV + V dprho
ρ = ρ(T )とすると
dS =ρ+ p
TdV +
V
T
dρ
dTdT
∴ ∂S
∂V=ρ+ p
T,∂S
∂T=
1
T
dρ
dT
可積分条件より
∂
∂T
(ρ+ p
T
)=
∂
∂V
(VT
dρ
dT
)=
1
T
左辺 =1
T
dρ
dT+
1
T
dp
dT− ρ+ p
T 2
∴ dp
dT=ρ+ p
T
これより、S =V
T(ρ+ p)とすると
dS =ρ+ p
TdV − V ρ+ p
T 2dT +
V
T
( dρdT
+dp
dT
)dT
=ρ+ p
TdV − V ρ+ p
T 2dT +
−1T
(ρ+ p)dV
dTdT +
V
T 2(ρ+ p)dT
14 第 1 章 一様等方宇宙
= 0
になり OK。
V = a3 の領域に対し熱力学第1法則をかく。
d′Q = dE + pdV = V dρ+ 3V ρda
a+ 3V p
da
a= 0 (1.45)
(1.24)dρ
dt= −3(ρ+ p)
da
dt
1
aより ↑
(1.46)
準平衡なら d′Q = TdS だから断熱膨張ということ。
非相対論的なら f(ω) = e−β(−µ)
このとき
n = g(mT2π
) 32e−β(m−µ) (1.47)
ρ =(m+
3
2T)n (1.48)
P = nT ≪ ρ (1.49)
ε =ρ
n= m+
3
2T (1.50)
s =(m− µ
T+
5
2
)n ∼=
m− µT
n (1.51)
初期宇宙では、粒子の質量にくらべて温度が高く (kBT ≫ mc2)相対論
的な場合で更に µ≪ T のとき
nB =ζ(3)
π2gT 3, nF =
3
4
ζ(3)
π2gT 3 (1.52)
ρB =π2
30gT 4, ρF =
π2
30
7
8gT 4 (1.53)
ρ
n≡ εB =
π4
30ζ(3)T ≃ 2.70T, εF =
7π4
180ζ(3)T ≃ 3.15T(1.54)
P =1
3ρ (1.55)
s =ρ+ P
T=
4ρ
3T(1.56)
1.7 初期宇宙の熱力学 15
Bはボソン、Fはフェルミオン、ζ(3) =1
2
∫ ∞0
x2dx
ex − 1= 1.202057 · · · =
∞∑n=1
n−3。
全放射のエネルギー
ρr =π2
30g∗(T )T
4, g∗(T ) =∑
i∈bosongi +
7
8
∑j∈ferumion
gj (1.57)
s =4π2
90g∗(T )T
3 (1.58)
演習問題 3 標準模型では、全ての自由度が相対論的なとき (T ≫100GeV)、g∗ = 106.75になることを示せ。
一部の粒子の相互作用が相対的に弱まり、熱的な平衡からずれると、こ
れらは他と異なる温度の熱分布になっている場合もある。その温度を Ti
とすると
ρr =π2
30g∗(T )T
4 g∗(T ) =∑i∈b
gi(TiT
)4
+∑j∈f
gj(TjT
)4
(1.59)
s =4π2
90g∗s(T )T
3 g∗s(T ) =∑i∈b
gi(TiT
)3
+∑j∈f
gj(TjT
)4
(1.60)
g∗ と g∗s は一般に異なる。
T ≫ Teq では ρtot = ρr =π2g∗30
T 4, a(t) ∼ t12 なので
H2 =( 1
2t
)2
=8πG
3ρr =
8π3g∗(T )
90M2pl
T 4 Mpl = 1.2× 1019GeV
より
t =( 90
32π3g∗
) 12 Mpl
T 2≃
( T
1MeV
)−2sec (1.61)
となる。
Mpl = ~12 c
52G−
12 = G−
12 = 1.2211× 1019GeV = 2.1768× 10−5g
16 第 1 章 一様等方宇宙
tpl = ~12G
12 c−
52 = 5.3904× 10−44sec
lpl = ~12G
12 c−
32 = 1.6160× 10−33cm
ρpl = c5~−1G−2 = 5.1584× 1093g/cm3=M4
pl (1.62)
1.8 宇宙の温度
完全な熱平衡状態は系が巨視的にみて静的でないと成立たない。これ
まで宇宙には温度がずっとあると思ってきたが、宇宙膨張のタイムスケー
ルで十分平衡化の反応がおこらないといけない。
Γ ≫ H(ガモフの条件) (1.63)
これは1回の反応がおこる時間が宇宙年令より十分短いということ
τ ≪ 2t (1.64)
例えば、比較的反応率の大きいゲージ粒子との2体反応を考えると、反
応率
Γ2 = ⟨nσc⟩ ≃ NT 3
π2
α2
T 2(1.65)
N は反応するモード数、Γ2 ∝ T である。一方放射優勢期を考えているので H ∝ T 2 であり、T でどこかで
Γ2 < H となる。つまり Γ ≫ H という条件は宇宙の温度に対して上限を
与えることになる。
T ≪ 1015( α
0.05
)2 (N10
)( g∗200
)− 12GeV (1.66)
これ以前の宇宙はどんなに密度が高くても、一般に非平衡状態であったと
考えるべきである。
膨張宇宙ではさまざまな反応がさまざまなタイムスケールで起こるた
め、どのような反応が活発におこるかによって「平衡状態」は3種に大別
できる。
1.8 宇宙の温度 17
(i) 運動学的平衡 (kinetic equilibrium) 反応の前後で粒子の種類の変
わらない弾性散乱のみが活発におこっている状態 (eγ → eγ とか)。
位相空間での分布は Bosonは Bose分布、Fermionは Fermi分布
f(ω) =1
e(ω−µ)/T ∓ 1(1.67)
各成分 iの化学ポテンシャル µi の間には特段の関係は存在しない。
(ii) 化学平衡 (chemical equilibrium) 上記の反応に加え、反応前後で
粒子の種類が変わるようなある種の反応も十分活発におこってい
る場合 abc· · · →ijk· · · がおこっているとき
µa + µb + µc + · · · = µi + µj + µk + · · ·
が成り立つ。反応の数だけ式がたつ(独立な式の数が粒子の種類
の数を超えることはない)
f(ω) =1
e(ω−µi)/T ∓ 1
の形は同じ(バリオン数保存しているような場合)。
(iii) 熱平衡 (Thermal equilibrium) 最上位の平衡状態。考え得る全て
の反応が宇宙膨張のタイムスケールより十分速く起こっている状
態。エントロピーが最大になるのは化学ポテンシャルが全て 0に
なる場合だから、非保存量に対応した化学ポテンシャルは全て 0
になる。従って分布関数は
f(ω) =1
eω/T ∓ 1(1.68)
なお、非対称性 (asymmetry)(µ + µ = 0 qq ↔ γγ が十分速くおこっ
ているとき)は
fermionの粒子数 −反粒子数 で定義され、
nq − nq =g
2π2
∫ ∞m
E(E2 −m2)12 dE
[ 1
e(E − µ)/T + 1− 1
e(E + µ)/T + 1
]
18 第 1 章 一様等方宇宙
=
gT 2
6π2
[π2 µ
T+
(µT
)3](T ≫ mのとき)
2g(mT2π
) 32e−
mT sinh
(mT
)(T ≪ mのとき)
(1.69)
となる。
1.9 膨張宇宙における粒子数の発展方程式
位相空間での分布関数 f(pµ, xµ) = f(E, t) = f(p, t)(一様等方宇宙)
に対する Boltzmann eq.
L[f ] = C[f ] (1.70)
を考える。L:Liouville演算子
非相対論的粒子なら
LNR =D
Dt=
∂
∂t+dx
dt· ∇+
dp
dt· ∂∂p
=∂
∂t+ v · ∇+
F
m· ∂∂v
相対論的なら
LR =dxα
dτ
∂
∂xα+dpα
dτ
∂
∂pατ : Affine parameter
= pα∂
∂xα− Γαβγpβpγ
∂
∂pα
= E∂
∂t−Hp2 ∂
∂EE =
√m2 + p2 (1.71)
になる。これより数密度
n(t) = g
∫d3p
(2π)3f(p)
は、
1
EL[f ] =
1
EC[f ]
を積分して
1.9 膨張宇宙における粒子数の発展方程式 19
dn
dt+ 3Hn = g
∫d3p
(2π)3EC[f ] (1.72)
をみたす。
演習問題 5 式 (1.71)、(1.72)を導け。
衝突項を考える。ψという粒子を念頭におき
ψ + a+ b+ · · ·+ d↔ i+ j + · · ·+ lという反応を考える。
(1.72)の右辺は
g
∫d3pψ
(2π)3EψC[f ] = −
∫dΠψdΠa · · · dΠddΠi · · · dΠl
×(2π)4δ4(pψ + pa + · · ·+ pd − pi − pj − · · · − pl)
×[|M |2→fψfafb · · · fd(1± fi)(1± fj) · · · (1± fl)
−|M |2←fifj · · · fl(1± fψ) · · · (1± fd)]
(1.73)
|M |2 は各方向の transition amplitude’s matrix element(Tinvariance ⇒|M |2← = |M |2→)、(1 ± fs) は生成される粒子に対する a†s|n >=√1± ns|ns + 1 >に由来する(誘導放出 induced emission、パウリ禁則
Pauli blocking)。
dΠs = gd4
(2π)4× 2πδ(p2s −m2
s) = gd3p
(2π)31
2Ep(1.74)
各粒子は運動学的平衡にあるとすると
fs(Es) =1
eβ(Es−µs)/T ∓ 1つまり 1± fs = fse
β(Es−µs)
とかける。
(1.72)、(1.73)は
nψ + 3Hnψ =
∫dΠψdΠa · · · dΠddΠidΠl|M |2fψfa · · · fdfi · · · fl
×(2π)4δ4(pψpa + · · · − pi − · · · − pl)
×[eβ(Eψ−µψ)eβ(Ea−µa) · · · eβ(Ed−µd)
20 第 1 章 一様等方宇宙
−eβ(Ei−µi) · · · eβ(El−µl)]
(1.75)
エネルギー保存より Eψ + Ea + · · ·+ Ed = Ei + · · ·+ El
もしµψ + µa + · · ·µd = µi + µj + · · ·+ µlならこの項は消える
フェルミ縮退もボース縮退もない場合はもう少し簡単化した解析が可能で
ある。1± fi のファクターを無視すればよいから。Boltsmann eq.は
nψ + 3Hnψ = −∫dΠψdΠa · · · dΠddΠidΠj · · · dΠl
×(2π)4δ(pψ + pa + · · ·+ pd − pi − · · · − pl)×|M |2 [fψfafb · · · fd − fifj · · · fl] (1.76)
となる。
1.10 対消滅の凍結による粒子数密度の決定 Freeze out of pair annihiration Decoupling 21
1.10 対消滅の凍結による粒子数密度の決定
Freeze out of pair annihiration Decoupling
応用として、比較的弱い相互作用しかせず超寿命で、粒子・反粒子の対
消滅でのみ粒子数の変化する場合を考える
ψψ → χχ
χχはより強い相互作用 (e.g.電磁相互作用)
もし、熱平行分布なら feqχ = feqχ =1
eβEx ∓ 1に従うとする
(CPT不変性より粒子と反粒子は同じ質量を持つ)
(例)ψ: neutrino χ: charged lepton がそれにあたる
(1.84)より
nψ + 3Hnψ = −∫dΠψdΠψdΠχdΠχ(2π)
4δ4(pψ + pψ − pχ − pχ)
×|M|2[fψfψ(1± feqχ )(1± feqχ )− feqχ feqχ (1± fψ)(1± fψ)]
(1.77)
ψ と ψ は kinematic equilibrium にあるとすると dΠ 積分は熱分布に
関する平均ということになり (1.87) より ψ と ψ は kinetic equilibrium
にあるとすると dΠ 積分は熱分布に関する平均ということになり (1.87)
より
dnψdt
+ 3Hnψ = −⟨σψψ→χχ|v|⟩(n2ψ − neq2ψ ) (1.78)
但し
⟨σψψ→χχ|v|⟩ =1
neqψdΠψdΠψdπχΠχ(2π)
4δ4(pψ + pψ − pχ − pχ)
×|M|2e−Eψ/T e−Eψ/E
断面積を全消滅断面積 ⟨σann|v|⟩におきかえると nψ の正しい発展方程式
が出る
22 第 1 章 一様等方宇宙
dnψdt
+ 3Hnψ = −⟨σann|v|⟩(n2ψ − neq2ψ ) (1.79)
従属変数をエントロピーとの比 Yψ ≡ nψ/s、独立変数を温度と質量の比
x ≡ mψ/T にとると (1.78)は
x
Yeq
dYψdx
= −Γann
H[(YψYeq
)2 − 1] (1.80)
Γann ≡ neqψ < σann|v| >
となる
平衡分布は
Yeq(x) =
45ξ(3)
2π4
g
g∗∫×
(1
3/4
)Boson
FermionT ≫ mψ
45
2π4(π
8)12g
g∗∫x23 e−x T ≪ mψ
(1.81)
とかける
•T ≫ mψ のとき neqψ ∝ T 3 であり、もし ⟨σann|v|⟩が T−1 より大きいと
Γann は T 2 より強く T に依存し,相互作用が弱くて軽い粒子は、まだ相
対論的である間に Γann/H < 1となる。→相対論的であるうちに粒子数が凍結する hot dark matter, ν など
•相対論的な間ずっと Γann > H を保った粒子は、freeze out することな
く温度の低下とともに非相対論的になる。
すると neqψ は指数関数的に減少するので Γann も小さくなり Γann < H と
なって凍結する。⟨σann|v|⟩が大きいほど freeze out は遅れ、指数関数的
に小さな粒子数密度しか残らない。しかし < σ|v| > が適度に小さいとちょうど良い量残り、CDMになる。
(例)SUSY dark matter
これらを実例とともに詳しくみていく
Γ = H となった時の xを xf とする。
1.10 対消滅の凍結による粒子数密度の決定 Freeze out of pair annihiration Decoupling 23
x . xf では熱平衡値 Yeq を保つが x & xf では Yeq(xf )に凍結する。そ
の後エントロピー生成があると分母が減少する。
(1) 熱い残存物 hot relics
xf . z に対応し、凍結時に相対論的だった粒子。
Y∞ ≡ Y (x→∞) ≃ Yeq(xf ) = 0.278g
g∗s×
(1 Boson
3/4 Fermion
)現在の数密度は s0 = 2.9× 103cm−3(後出)なので
nψ0 = s0Y∞ = 8.1× 102g
g∗s×
(1
3/4
)cm−3
ρψ0= 8.1× g
g∗s×
(1
3/4
)×
( m
1eV
)eVcm−3
Ωψ0 = 0.15× g
g∗s(xf )×
(1
3/4
)( m
1eV
)(1.82)
ということである。
3世代のニュートリノについては
Ων0h2 =
∑imνi
94.1eV
(2) 冷たい残存物 cold relics
xf & 3に対応し、凍結時に非相対論的であった粒子。
⟨σann|v|⟩ が温度に依らない場合 (通常の低エネルギー反応ではそ
う)を考える。
x = xf で
Γann = neqψ ⟨σann|v|⟩ = H =
(8π
3M2pl
π2
90g∗T
4f
) 12
(1.83)
24 第 1 章 一様等方宇宙
より
Y (xf ) =neqψ (xf )
s(xf )=
90
4πg∗sT 3f
H
⟨σann|v|⟩
=(45g∗
π
) 12 xfg∗s⟨σann|v|⟩Mplmψ
(1.84)
xf は (1.92)より近似的に
xf = ln[0.038g
g1/2∗
Mplmψ⟨σann|v|⟩]
+1
2lnln[0.038 g
f1/2∗
Mplmψ⟨σann|v|⟩]
と求まる。このとき
nψ0 = 11.1× 104g1/2∗ xf
g∗sMplmψ⟨σann|v|⟩cm−3
ρcro = 5.5× 103eVcm−3なので(ρcro = 0.97× 10−29g/cm3
1eV = 1.78× 10−33g
Ωψ0 =mψnψ0ρcro
=2.0g
1/2∗ xf
g∗Mpl⟨σann|v|⟩eV−1
=g1/2∗ xfg∗s
( ⟨σann|v|⟩2.0× 10−27cm3/s
)−1(1.85)
これは断面積だけで決まりmψによらない!
1.11 脱結合後の分布 Distribution function after decou-
pling
はじめ Γ ≫ H:熱平衡分布
↓Γ < H になると、そのときに持っていた運動量を初期値とし、宇宙膨張
によって運動量を減じながら自由に伝播する自由粒子の運動を表す測地線
1.11 脱結合後の分布 Distribution function after decoupling 25
方程式を RW計量の下で表すと、四元速度の空間成分の大きさ uは
du
dt= −Hu
を満たすことが分かる。つまり粒子の運動量 pはスケールファクターに
反比例して減少する。
•massless粒子は脱結合時 Tdec 。Tdec に
f(p, tdec) =1
ep/Tdec∓1という分布をしており、
その後各粒子の運動量は
p(t) = p(tdec)a(tdec)
a(t)のように減少する
また消滅反応はもうおこらないので粒子数密度はm ∝ a−3 と単純に減少する。
∴ f(p, t) =d3n
dp3= f(p
a
adec, tdec) =
1
exp(pa
Tdecadec)∓ 1
(1.86)
T = Tdecadecaの熱分布に従う。
この温度は分布関数の温度を形を決めるパラメタとしての意味しかもたな
い。(例)宇宙マイクロ波背景輻射
•脱結合時に非相対論的でボルツマン分布
f(E) ∝ exp(−E − µdec
Tdec
)(1.87)
に従う。粒子の運動エネルギーは a−2 に、数密度は a−3 に比例して減少
する。よって温度パラメタは
T (t) =( a
adec
)−2Tdec, (1.88)
化学ポテンシャルは、
µ(t) = m+ (µdec −m)( a
adec
)−2(1.89)
26 第 1 章 一様等方宇宙
のように変化しながら (1.87)を保つと考えればよい。
1.12 ニュートリノの脱結合
•decouplingの実例を述べるν は電荷を持たないため Z0 ボソンで媒介される弱い相互作用の中性カレ
ントを通じてのみ対消滅する。
• その反応率はフェルミ定数 GF = 1.17 × 10−5GeV−2 と関係し Γ ≃
G2FT
5 と表される。これとその時のH = 5.4T 2
Mplとの比をとると
Γ
H=
( T
1.5MeV
)3
(1.90)
となり T < 1.5MeVでは ν は decoouplingし、(1.86)の分布に従って進
化することになる。
• その後 T . 0.5MeV(= 511keV) になると e+e− は非相対論的になり、
その存在量は指数関数的に減少する。
その時相対論的自由度は e± ×(L
R
)× 9
8= 2× 2× 9
8= 3.5だけ減少
する。
その前後での体積 a3 内のエントロピー保存から
(before)10.75T 3νaa
3 = (after)2T 3γaa
3 +21
4T 3ν a
3
Tνb = Tνa で ν はもう decoupleしているので e± で heat upされない。
T 3νba
3 = T 3νaa
3
∴ Tνa =( 4
11
) 13Tγa (1.91)
現在も成り立つと Tν0 =( 4
11
) 13× 2.73 = 1.95K
現在
1.13 宇宙の晴れ上がり 27
g∗0 = 2 +7
8× 3× 2×
( 4
11
) 43= 3.36 (1.92)
g∗s0 = 2 +9
8× 3× 2× 4
11= 3.91 (1.93)
となっている ((1.59),(1.60)の実例である。)
1.13 宇宙の晴れ上がり
はじめ水素原子は陽子と電子に電離したプラズマ状態にあった。温度の
低下とともに中性水素原子になる (recombination) イオン化エネルギー
は 13.6eV ≃ 16万 Kだが実際にこれが起こるのはもっとずっと低い温度
である。nγ ≫ nB だから
まずは p+ e↔ H + γ という化学平衡を考える
T < mi の平衡状態では (1.47)より
ni = gi(miTi
2π
) 32e−
mi−µiT i = p, e,H
によって µp + µe = µψ を書くと
nH =gHgpge
npne(meT
2π
)− 32eBT
B = mp +me −mH = 13.6eV (1.94)
となるが
電荷保存より np = ne、バリオン数保存より np + nh = nb
nb = ηnγ (η ∼ 10−10 と前にやった)
より、イオン化率Xe ≡ np/nb は
1−Xe
X2e
=4√2ζ(3)√π
η( T
me
) 32eBT (1.95)
となる。これをサハの式という。実際にはこのように化学平衡を保ったま
ま decoupling するわけではなく、もっと複雑である。
そこでボルツマン方程式 (1.72)や (1.78)のような式を考える
28 第 1 章 一様等方宇宙
ne + 3Hne = ⟨σv⟩(nHnγ
neqe neqp
neqHnrqγ− nenp
)という式になる。⟨σv⟩は recombination cross section p+ e→ H + γ の
熱平均 (右辺( )の第 2項は ⟨σv⟩の定義からそのまま出る第 1項は ( )が平衡状態で 0になるということから出る)
= ⟨σv⟩(nH
neqe neqp
neqH− n2e
)= nb⟨σv⟩[(1−Xe)
(meT2π
) 32e−
BT −X2
enb] (1.96)
これより
dxedt
= β(1−Xe)− α(2)nbX2e (1.97)
β ≡ ⟨σv⟩(meT
2π
) 32e−
BT イオン化率 ionization rate
α(2) ≡ ⟨σv⟩ 再結合率 recombination rate
α(2):基底状態 (n = 1)以外への再結合を表す。
n = 1に再結合すると 13.6eVの γ が出てそれは他の電子をすぐイオン化
してしまうから
従って再結合は励起状態 (excited state)の水素原子を介しておこる
α(2) = 9.78α2
m2e
(BT
) 12ln
(BT
)(1.98)
と表される。その解は数値的に求めるしかなく decouplingしたかどうか
は γ の散乱率とH の比率で決まる
γ の散乱率 : neσT = XenbσT
σ = 6.65× 10−25cm2 Thomson散乱断面積
neσT = 7.48× 10−30XeΩbh2( aa0
)−3cm−1
1.13 宇宙の晴れ上がり 29
neσTH
= 113Xe
(Ωbh20.02
)(Ωmh20.15
)− 12 (1 + z
1000
) 32[1 + 0.28
(1 + z
1000
)(Ωmh20.15
)−1]−
12
(1.99)
Xe . 10−2 になると decouplingすることが分かる
zdec = 1090.79+0.94−0.92 (WMAP7) (1.100)
cf(1.99)でXe = 1としたままneσeH
< 1になる z を求めると
1 + z = 43( 0.02
Ωbh2
) 23(Ωmh2
0.15
) 13
(1.101)
になる。これ以降に宇宙が再イオン化したとしても γ は散乱されない。
第 2 章
インフレーション宇宙論
2.14 宇宙の地平線
1) 粒子の地平線 particle horizon dh(t)
宇宙創世以来、時刻 tまでに因果関係をもちえた (光が到達できた)
距離 (その座標距離を rH とする)
ds2 = −dt2 + a2(t)dr2
1−Kr2= 0 (null)
dH(t) ≡︸︷︷︸固有距離の定義より
∫ rH
0
√grrdr = a(t)
∫ rH
0
dr√1−Kr2
= a(t)
∫ t
ti
dt′
a(t′)
(2.1)
a(t) ∝ tm とすると
dH(t) =t
1−m
[1−
( tit
)1−m]=
t
1−m(m < 1なら) (2.2)
2) ハッブルホライズン (ハッブル長)
時刻 t頃に宇宙膨張時間H−1 に因果関係を持てる距離
H−1 =a
a=
t
mfor a(t) ∝ tm (2.3)
m < 1であるとどちらも tに比例して増大する
宇宙膨張 a(t) ∝ tm の方が遅いので時間がたつにつれ、
2.15 平坦性問題 (長寿命問題) 31
今まで見えなかった座標距離にある点がどんどん見えてくる−→ど
れもよく似ている!: 地平線問題
2.15 平坦性問題 (長寿命問題)
( aa
)+
K
a2︸︷︷︸∼a−2
=8πG
3ρ =
8π
3M2pl
( ργ︸︷︷︸∼a−4
+ ρm︸︷︷︸∼a−3
+ ρΛ︸︷︷︸∼a0
)
現在のダークエネルギー優勢時代はともかくとして z > 0.47ではMDか
RMだったので aとともに ρよりもK/a2 が相対的に大きくなる。
つまりK/a2
ρ∝ a or a2
しかし現在 Ω = 1.0023+0.0056−0.0054 (WMAP7+BAO+H0)
でありK
a2= H2(Ω − 1) (1.28)はきわめて小さい。
Rcurv =a(t)√K
= H−10 |Ωtot − 1|−1 & 103H−10
と曲率半は極めて大きい
これは aの小さかった頃の宇宙から曲率項が非常に小さかったことを意
味する。
Ωtot(t)− 1 =1
8πGρ
3/K
a2− 10 a0
≃ 1(a(t)aeq
)2 (aeqam
)( a0am
)2
− 1
(2.4)
am は物質優勢 (DM)からダークエネルギー優勢 (ΛD)になったときの値。
プランク時刻まで断熱膨張でさかのぼると
|Ω(tpl)− 1| . 10−60 (2.5)
32 第 2 章 インフレーション宇宙論
でないと現在のように平坦な宇宙ができない。
Rcurv(tpl) & 1030lpl ということであり到底容認できない。
2.16 高温時の対称性の回復と相転移
High temperature symmetry restoration and phase
transitons
素粒子の標準理論 SU(3)× SU(2)× U(1)では、Higgs場が期待値を
持つことによって SU(2)対称性が破れるとともに、クォーク、レプトン
が質量を持つ。
宇宙におけるスカラー場の挙動を調べるため次の実スカラー ϕモデルを
考える。
L =−1
2(∂ϕ)2︸ ︷︷ ︸−V [ϕ] (2.6)
= gµν∂µϕ∂νϕ =︸︷︷︸RW
−ϕ2 + 1
a2(∇ϕ)2
=︸︷︷︸宇宙膨張なければ
−ϕ2 + (∇ϕ)2
V [ϕ] =λ
4(ϕ2 − µ2
λ)2
=λ
4ϕ4 − 1
2µ2ϕ2 +
µ4
4λ
当面宇宙膨張を無視して考える。
運動方程式δLδϕ
=0 よりϕ− V ′[ϕ]︸ ︷︷ ︸ = 0 (2.7)
= λϕ3 − µ2ϕ
において ϕ をある量子状態 |∗⟩(真空とは限らない)での期待値 σ ≡⟨∗|ϕ|∗⟩とそのまわりの揺らぎ φの和として書く
ϕ = σ + φ ⟨∗|φ|∗⟩ = 0 (2.8)
2.16 高温時の対称性の回復と相転移High temperature symmetry restoration and phase transitons 33
すると ⟨∗|δLδϕ|∗⟩ = 0は
−σ + µ2σ − λ⟨(σ + φ)3⟩ = −σ + µ2σ − λ⟨(σ3 + 3σ2φ+ 3σφ2 + φ3)⟩
= −σ − (λσ2 − µ2)σ − 3λ⟨φ2⟩σ − 3⟨φ3⟩
= 0 (2.9)
となる
φ(x, t)は通常の量子場として
φ(x, t) =
∫d3k
(2π3/2)
1√2ωk
[ake
ikx−iωkt + a†ke−ikx+iωkt
](2.10)
[ak, a
†k′
]= δ(k− k′), ωk =
√k2 +m2
ϕ と展開される。(mϕ; ϕ = σ
でのmass)
φ3 は operator 3ヶの積だから最低次では無視する
(例えば coherent stateではこれは正しくないが今は coherent成分は
除いてある)
⟨∗|φ2|∗⟩ =∫
d3k
(2π)31
2ωk(2⟨∗|a†kak|∗⟩︸ ︷︷ ︸occupation ♯
+1) (2.11)
|∗⟩ = |0⟩(vacuum)なら occupation ♯は 0で、残る項は∞で質量の繰り込みで吸収できる。
従って |∗⟩ = |0⟩のときは ⟨φ2⟩も ⟨φ3⟩もないのと同じで、質量項はくりこまれたものに置き換えられていると考えればよい。
σ =const として真空の translational invariance を respect した解を探
すと σ = 0, ± µ√λだが、σ = 0は不安定なので σ = ± µ√
λの基底状態
におちつく。
一方初期宇宙のある時期熱平衡状態が成り立っていたことを念頭に有限温
度状態 |∗⟩ = |β⟩ (β = T−1)を考えると
(相互作用による反応が宇宙膨張より十分速く起こる状態を考えている
34 第 2 章 インフレーション宇宙論
ので宇宙膨張の影響は無視してよい)
⟨β|a†kak|β⟩ =1
eβωk − 1(2.12)
となる (ボゾン)
T ≫ mϕ では
⟨β|φ2|β⟩ =∫
d3k
(2π)31
2ωk
2
eβωk − 1≃ T 2
12(2.13)
になる。つまり (2.9)は
−σ − (λσ2 +λ
4T 2 − µ2)σ = o (2.14)
これから分かるように T >sµ√λのときは σ =constという解は σ = 0し
かない: 有限温度での対称性︸ ︷︷ ︸ここではϕ↔−ϕ
の回復
このモデルでは有限温度ではポテンシャルはλ
8T 2ϕ2 のような補正項が加
わったものと同様である。(T 4 の項も生じるが ϕの挙動には関係ない)
温度の低下とともに ⟨ϕ⟩ = 0は不安定になり ⟨ϕ⟩ = σ = ± µ√λにむけて
相転移が起こる。しかしこの相転移は現在観測できる宇宙全体で一様に
おこるわけだはなく相転移時のスカラー場のコヒーレント長 (相関距離)
を超えたスケールではランダムに起こる。とくに T ≃ 2µ√λ≡ Tc での
宇宙の地平線 H−1c ∼(8πG
3
π2
30g∗T
4c
)− 12
を超えたスケールでは ⟨ϕ⟩ =
± µ√λの値をランダムにとることになる
ϕ(x, t)は連続的に変化するから ϕ = +µ√λと − µ√
λの点の間には ϕ = 0
の点 (V (ϕ = 0) =µ4
4λというポテンシャルエネルギーを持つ)が必ず存在
する。これが位相的欠陥の一種、ドメインウォールである。 高いエネル
2.16 高温時の対称性の回復と相転移High temperature symmetry restoration and phase transitons 35
ギー密度を持っているがトポロジカルに安定である。
このモデルは、相転移後の真空が ± µ√λという離散的な値を持つのでド
メインウォールができる。
複素スカラー場の相転移のように真空が U(1)対称性を持つ場合(相転移
によって U(1)が破れる)には、位相角が一周する周りにストリング (宇
宙ひも)ができる。U(1)対称性が生じる場合には点状の位相的欠陥であ
るモノポールができる。
コア
ドメインウォール 面状 離散的対称性の破れΠ0(M) = 1 過剰生成
ストリング ひも状 U(1)対称性の破れΠ1(M) = 1 スケール解
モノポール 点状 U(1)対称性が生じるときΠ2(M) = 1 過剰生成
テクスチャー なし 大域的 SU(2)対称性の破れΠ3(M) = 1 スケール解
ホモトピークラスΠn(M), n = 0:点から、1:円周から、2:球面からMへ
の写像。Mは相転移後の真空多様体。
スケール解:宇宙のエネルギー密度に比例しながら減っていくのでわる
さをしない
特に最終的に SU(3)× SU(2)×U(1)にいかねばならない。
大統一理論は必然的にモノポールの生成を予言する。これをうすめるのが
インフレーション宇宙論の大きな動機になった。
cf 標準理論のフェルミオン質量生成
ヒッグス場 H =
(h+
h0
)が期待値を持つことでおこる。
電磁相転移の前は ⟨H⟩ = 0 なので、クォーク、レプトンは質量をもた
ない。
V [H] = µ2H+H + λ(H+H)2 + const µ2 < 0
LHiggs =∣∣∣(∂µ − ig2Waµ
σa2− ig1Bµ
)∣∣∣2 − V [H]
+∑
i,j=e,µ,τf lijLiHlj +
∑i.j=d,s,b
fDij QiHqj
36 第 2 章 インフレーション宇宙論
+∑
i,j=u,c,tfUij QiHqj
H = iσ2H∗
L =
(ν
e
)L
· · · , Q =
(u
d
)L
· · · , (2.15)
相転移後
⟨h0⟩ =
√−M2
4λ, ⟨h†⟩ = 0
という値を持つ
注2)初期宇宙に熱的相転移を考えるのは誤りである。
m = f⟨h0⟩, Mw =g2√2⟨h0⟩, M2 =
1√2
√g21 + g22⟨h2⟩
2.17 インフレーション宇宙論の原理
その他の問題
宇宙の大規模構造 ·階層構造のたねになった密度 ·曲率ゆらぎの起源そもそもなぜ宇宙は膨張しているのか?
時代的背景 (historical background)
1970年代の素粒子の大統一理論が提唱されMGUT = 1015−16GeVとい
うプラクスケールMpl = 1.2× 1019GeVまであと一歩に迫る理論ができ
た。
§3で考えた相転移がゆっくり起こると原点のポテンシャルエネルギー密度が宇宙を支配するような時代が続く。ρ = V [0] =constとすると
( aa
)2
+K
a2− 8πG
3ρ =
8πG
3V (0) = H2
inf (2.16)
となり a ∝ eHinft に漸近する。K
aは指数関数的に小さくなる。すると平
坦性問題が解決する。粒子の地平線もこのとき
2.17 インフレーション宇宙論の原理 37
dH(t) = a(t)
∫ t
ti
dt′
a(t′)=
1
HeH(t−ti) (2.17)
と指数関数的に増大する。
実際には ρ =constである必要はない。
ρ ∝ a−n のとき a(t) ∝ t2n だったが (1.27) より n = 3(1 + w) であり、
n < 2ならアインシュタイン方程式のエネルギー項より曲率項の方が早く
減少するので平坦性問題が解決する。地平線も (2.2)より a(t)に比例し
て拡大
ρtotal = ρinf(t) + ρm(t) + ργ + · · · (2.18)
→ ρinf(t)これしかない宇宙
↓このエネルギーを十分なインンフレーションののち↓放射に転換しなければならないργ(t): Fiedmann宇宙へ
•インフレーション宇宙論宇宙が膨張してもエネルギー密度があまり減らない (a−2 よりゆっくり)
『物質』ρinf(t)が宇宙を支配して加速的膨張を起こし平坦性、地平線問題
を解決し、その後エントロピー生成によって Hot Big Bang Cosmology
の初期状態を物理的に実現する。
インフレーション=加速的膨張+再加熱
•インフレーション宇宙における各種スケールの進化
座標スケール r =2π
kはインフレーション中とその後のフリードマン時代
の 2回ハッブルホライズンを横切ることになる。
t′k でスケール k まで見えてくるがそのスケールはインフレーション中の
tk 以前に『見えていた』ので自分と似ていても不思議ではない。
どれだけインフレーションが続けばよいか簡単な場合に見積もってみる。
インフレーション中、宇宙のエネルギー密度は ρinf という一定値をとる
ものとする。そして時刻 ts から tf までインフレーションが続いたあと、
インフレーションを起こすスカラー場 (インフラトンと呼ぼう)のエネル
38 第 2 章 インフレーション宇宙論
ギー ρinf が全て放射のエネルギーに転化するとする。( 実際にはこの再加
熱には有限の時間がかかり、その間にインフラトンのエネルギー密度はう
すまってしまう。)
そのときの放射の温度 TR は
ρinf = ρr =π2
30g∗T
4R ≃ 60
( g∗200
)T 4R (2.19)
で決まる。
その後宇宙はずっと断熱膨張したとすると、エントロピー保存より g∗T3a3
は一定に保たれる。g∗s0 = 3.91, TCMBO = 2.735K より
インフレーション後宇宙は
a0aR
=TRTCMB
( g∗3.91
) 13= 3.7
( g∗200
) 13 TRTCMB
(2.20)
だけ膨張したことになる。したがってインフレーションが始まったときの
ハッブル長H−1inf は、現在
L0 ≡ H−1inf eHinf(tf−ts) a0
aR
= 1.1× 1017( g∗200
)− 14( Hinf
1013GeV
)− 12eHinf(tf−ts)GeV−1
= 7.3× 10−22( g∗200
)− 14( Hinf
1013GeV
)− 12eHinf(tf−ts)Mpc (2.21)
までひきのばされている。但しHinf =(8πGρinf
3
) 12である。
インフレーションが始まった時の宇宙がハッブル長に 1程度の非一様性
をもっていたとすると、それが充分ひきのばされ、現在の地平線に 10−5
程度のゆらぎしかないようにするためには L0 & 500H−10 でなければな
らないのでインフレーションが eN 続いたとするとN は
N ≡ Hinf(tf − ts) > 65 +1
2ln
( Hinf
1013GeV
)≡ Nmin (2.22)
をみたさなければならないことが分かる。
2.17 インフレーション宇宙論の原理 39
平坦性問題については (1.28)K
a2= H2(Ω − 1)より
Ω(t0)− 1
Ω(ts)− 1=
(a(ts)Hinf
a0H0
)2
=1
(L0H0)2(2.23)
< 500−2
|Ω(t0)− 1| < 4× 10−6|Ω(ts)− 1| (2.24)
であり Ω(ts)が 1のオーダーなら現在の Ω は少なくとも 5桁の精度で 1
に等しいことが結論される。
こうして地平、平坦性問題を同時に解決しようとするインフレーション宇
宙論は実質的に実質的に平坦な宇宙を予言する。
インフレーション宇宙論の研究は大きく分けて
1 宇宙進化を無矛盾に記述する ρinf(t)と→ ργ についての素粒子物
理的研究
2 ρinf(t)あるいは正の宇宙項があったとして一般の非一様、非等方宇
宙から出発してインフレーションが起こり宇宙の一様等方化が実現
できるかという一般相対論的研究
3 インフレーション時に生成する密度、曲率揺らぎの進化を CMBの
非等方性や大規模構造の観測データと比較する観測的宇宙論の研究
(揺らぎ宇宙論)
2 については宇宙無毛化仮説というものがあり「正の実効的宇宙項があ
れば、一般的な初期条件の下で、その宇宙項の決めるタイムスケールでイ
ンフレーションが始まる」ということが主張されている。反例はあるが、
例えば、空間曲率が至るところ負であればこれが成り立つ。
一般に曲率が正であってもあまり大きすぎないこと、初期のハッブル
地平線の数倍程度までのスケールで非一様性が 1程度以下にとどまって
いることが要請される。
それがみたされれば宇宙はハッブル時間で一様等方化されるので、その後
は背景時空としては平坦まロバートソンウォーカー時空で考えればよい。
40 第 2 章 インフレーション宇宙論
2.18 スカラー場のダイナミクス
何が ρinf(t)を担うかということが重要だが、最も標準的なのは、ある
スカラー場 ϕのポテンシャルエネルギー密度 V (ϕ)である。これは ϕの
値だけで決まり、方向を持たず宇宙が膨張しても薄まらないからである。
スカラー場としては
(i) ゲージ場やクォークレプトンに質量を与える Higgs場
(ii) 超対称性理論に出てくるフェルミオンのスーパーパートナーのスカ
ラー場
(iii) スカラーテンソル理論、高階微分理論、高次元理論、超弦理論等の
一般化された重力理論からスカラーモード(幾何学的意味を持つこ
とも)として取り出されたスカラー場
があげられる。最初は一次相転移型のモデルも考えられたがうまくインフ
レーションが終わらないので、現在はインフレーション中も場の値が進化
するスローロールモデルのみが考えられている。
作用
S =
∫d4x√−gLϕ =
∫d4x√−g
(−1
2gµν∂µϕ∂νϕ− V [ϕ]
)(2.25)
として、平坦な RW計量の下で場の方程式を書くと、ϕは tのみにより
−ϕ+ V ′(ϕ) = ϕ+ 3Hϕ+ V ′(ϕ) = 0 (2.26)
但しϕ =1√−g
∂µ(gµν√−g∂νϕ) (2.27)
アインシュタイン方程式 (00成分つまりフリードマン方程式)は
( aa
)2
= H2 =ρϕ
3M2G
, ρϕ =1
2ϕ2 + V (ϕ). (2.28)
但し ρϕ はエネルギー運動量テンソル
Tµν = − 2√−g
δS
δgµν= ∂µϕ∂νϕ− gµν
(12gαβ∂αϕ∂βϕ+ V [ϕ]
)(2.29)
2.18 スカラー場のダイナミクス 41
(δg = ggµνδgµν となることを使うから) (2.30)
からみちびかれ
ρϕ = −T 00 = ϕ2 +
(−1
2ϕ2 + V [ϕ]
)=
1
2ϕ2 + V [ϕ] (2.31)
Pϕδij = T ij = −δij
(−1
2ϕ2 + V [ϕ]
)=
1
2ϕ2 − V [ϕ] (2.32)
Tµν = Pgµν + (ρ+ P )uµuν uµuν = −1が完全流体系T 00 = −ρ T ij = Pδij uµ = (1, 0, 0, 0)cf(1.19)
Tµν = diag(−ρ, P, P, P )である
cf (2.26)は d(PϕV ) = −PϕdV (V = a3)からもだせる
(ϕϕ+ V ′(ϕ)ϕ)a3 + 3a2a(1
2ϕ2 + V ) = −3a2a(1
2ϕ2 − V )
ϕ+ 3Hϕ+ V ′(ϕ) = 0
(1.23)より
a
a= −4πa
3(ρ+ 3P ) = − 1
6M2G
(12ϕ2 + V +
3
2ϕ2 − 3V
)=
1
3M2G
(V (ϕ)− ϕ2) (2.33)
V (ϕ) > ϕ2 なら加速膨張=インフレーションが可能
つまり ϕがゆっくり変化するときオンフレーションがおこる
(2.26)で ϕが (2.28)で1
2ϕ2 が他の項に比べて無視できる時
3Hϕ+ V ′(ϕ) = 0 (2.34)( aa
)2
= H2 =V (ϕ)
3M2G
(2.35)
スローロール近似した方程式という
これが正当化されるには、スローロールパラメタ
ε ≡ M2G
2
(V ′(ϕ)V (ϕ)
)2
と η ≡M2G
V ′′(ϕ)
V (ϕ)(2.36)
42 第 2 章 インフレーション宇宙論
の大きさが 1より (充分)小さいことが必要である。
逆にこれが充分広い ϕの範囲でみたされていればはじめの ϕが大きくて
もインフレーション解におちつく
具体的なシナリオをいくつかみていく
(i)New inflation
歴史的には GUT の相互作用の分化を Coleman-Weinberg 型のポテン
シャル (1 loop の radiative correction で symmetry breaking を起こす
というモデル)
VCW[ϕ] = Aϕ4[ln
(ϕ2v2
)− 1
2
]+B(T )ϕ2 +
A
2v4 + C(T ) (2.37)
で起こすというというモデルにもとづく。
温度補正で ϕ = 0がはじめ実現したとしてその付近では
VCW[ϕ] ≃ A
2v4 −A′ϕ4 (A′ > 0) (2.38)
と近似できるので、A′ϕ4 ≪ Av4 のところではスローロール近似が成り
立つ。
3Hϕ + V ′CW[ϕ] = 0
H2 =1
3M2G
× A
2v4 となる
これは
ϕ(t)2 =[ 1
ϕ2i −
4A′
3H(t− ti)
]−1と解ける。 (2.39)
(ti で ϕi とする)
ϕ が大きくなるとスローロール近似は破綻し、インフレーションは終わ
り、場の振動が宇宙を支配することになる。
しかしこのシナリオは small field model の先駆けだったが、初期宇宙で
の有限温度補正に立脚しているので正しくない。(ゆらぎもできすぎる)
(ii)カオティックインフレーション large field model
mass term だけある単純なポテンシャル V (ϕ) =1
2m2ϕ2 をもったスカ
2.18 スカラー場のダイナミクス 43
ラー場を考えてみる。
ϕ+3Hϕ+m2ϕ = 0 (2.40)
↑ H =[ 1
3M2G
(12ϕ2 +
1
2m2ϕ2
)]1/2>
mϕ√6MG
↑この friction term がなかったら角振動数mの (2.41)
単振動の式である (2.42)
もし ϕ &√6MG になると宇宙膨張のタイムスケールの方が振動のタイム
スケールより短くなる。
つまり宇宙膨張時間でみると ϕは殆ど変化しない状況が実現できる。
スローロール近似が成り立つ。
3Hϕ+m2ϕ = 0, H2 ≃ m2ϕ2
6M2G
. (2.43)
これは解けて、
ϕ(t) = ϕi −√
2
3mMG(t− ti) (2.44)
a(t) = ai exp[ mϕi√
6MG
(t− ti)−m2
6(t− ti)2
](2.45)
= ai exp[ 1
4M2G
(ϕ2i − ϕ2(t))]
ϕの変化率 | ϕϕ|が宇宙膨張率 a
a= H と同程度になると slow-roll 近似が
破れる
| ϕϕ| =
√2
3
mMG
ϕ=
mϕ√6MG
= H より ϕ =√2MG = ϕf でインフレー
ション終わり
N =1
4M2G
(ϕ2s − ϕ2f ) =ϕ2s
4M2G
− 1
2なので
ϕs & 3.4√8πMG = 3.4Mpl ならN & 70になる
この初期条件は自然か?
t = tpl =M−1pl の宇宙は大きな量子揺らぎに支配されていただろう
44 第 2 章 インフレーション宇宙論
Lϕ = −1
2(∂ϕ)2 − V [ϕ]どちらも |∂ϕ|2 .M4
pl, V [ϕ] .M4pl
で揺らいでいたはず
V [ϕs] ∼M4pl なら ϕs ∼M2
pl/mまで可能。
coherent な domain の大きさ Lは、
|∂ϕ|2 ∼ ϕ2sL2∼
M4pl
m2L2∼M4
pl より L ∼ 1
m≫ lpl
という訳で horizon より充分広く ϕが大きな値を持っていることが可
能である。
宇宙の始まりは熱平衡状態ではなくこのようなランダムな揺らぎに支配さ
れていたと考えられる。
(iii)トポロジカルインフレーション
このようなランダムな初期条件の下で small-field inflationを起こす方法。
Lϕ = −1
2(∂ϕ)2 − V [ϕ], V [ϕ] =
λ
4(ϕ2 − v2)2 (2.46)
((2.6) で v2 =M2
λとしたもの)
ϕ = ±v が真空である
§16でみたようにその間に domain wallができる。
重力を無視して ϕ = ±vをつなぐ面対称解を求めると、例えば
ϕ(x) = v tanh
(√λ
2vz
)(2.47)
がえられる。その厚さは d0 ∼√
2
λ
1
v∼ vV −1/2c , Vc =
λ
4v4
((∂ϕ)2 ∼( vd0
)2
と Vc のつりあいで決まる)
一方 V0 に対応するハッブル長はH−1c =( Vc3M2
G
)− 12=MG
( 3
Vc
)1/2
なので v & MG だと d0 & H−1c になり V ∼ Vc の領域がハッブル長を超
えて存在する。というインフレーションをおこす条件を満たしていること
が分かる。
2.19 宇宙の再加熱 45
こうして ϕ の初期分布がランダムであっても (あればこそ) ドメイン
ウォールの中でインフレーションが起こる。
xy平面上の wallϕ = 0付近で
ϕ(x, tc) ≃√λ
2v2z ≡ k0z
V [ϕ] ≃ Vc −1
2µ2ϕ2, µ2 = λv2
と展開できる。µ2 ≪ H2c として slow-roll方程式を解くと
ϕ(x, t) = kz exp[ µ2
3Hc(t− tc)
]a(t) = ace
Hc(t−tc)
となるので ϕ = ϕ∗ となる点の座標値 Z∗(t)は
z∗(t) = k−1ϕ∗ exp[− H2
3Hc(t− tc)
]となり時間と共に小さくなる。
しかし、その点の原点からの固有距離は
L(t) = a(t)z∗(t) = ack−1 exp
[(1− µ2
3H2c
) Hc(t− tc)
]と
指数関数的に増大する。 z = 0の点は古典解を見る限り、いつかイ
ンフレーションを終える。
2.19 宇宙の再加熱
slow-roll inflation は ϕ の変化率が H に比べて大きくなると終了し、
その後は ϕの振動のエネルギーが宇宙を支配する。簡単のため ϕ = 0の
まわりを角振動数mで振動するとする。
これは ϕ粒子のコヒーレントモード (波数 k = 0のモード)の凝縮と同じ
である
ϕ+ 3Hϕ+m2ϕ = 0に ϕをかけて
d
dt
[1
2ϕ2 +
1
2m2ϕ2︸ ︷︷ ︸
]= −3H ϕ2︸︷︷︸ (2.48)
= ρϕ = ρϕ
(ビリアル定理より一周期平均すると)
46 第 2 章 インフレーション宇宙論
∴ d
dtρϕ = −3H︸ ︷︷ ︸ ρϕ (2.49)
赤方変移による散逸 ρϕ ∝ a−3 で減少
しかし ϕと他の場の相互作用があるとエネルギー輸送が起こって散逸す
る。
他のスカラー場とg2
2ϕ2χ2 のような相互作用があるとすると χの運動方
程式は
−χ+ (g2ϕ2 +m2χ)χ = 0 (2.50)
となり振動する質量項を持つ。パラメトリックレゾナンスに依る粒子生成
が起こる。しかしこれは ϕが大振幅の時しか効かない。
fϕψψ のような Yukawa coupling があると Γϕ =f2
8πmという崩壊確率
で崩壊する。
dρϕdt
= −3Hρϕ − Γϕρϕ (2.51)
dρrdt
= −4Hρr + Γϕρϕ (2.52)
但し decay product は放射に thermalize するとしエネルギー輸送を考
えた
H2 =1
3M2G
(ρϕ + ρr)
これを解くと
ρϕ(t) = ρϕ(tf )( a(t)
a(tf )
)−3e−Γϕ(t−tf ) (2.53)
ρr(t) = Γϕ
∫ t
tf
( a(t)
a(tf )
)−4ρϕ(τ)dτ (2.54)
t ≃ Γ−1ϕ に輻射優勢になる。この時
2.19 宇宙の再加熱 47
H2 =ρr
3M2G
=1
3M2G
π2g∗30
T 4R =︸︷︷︸a∼t1/2
( 1
2t
)2
=(Γϕ
2
)2
より
TR ≃ 0.3(200g∗
) 12 √
MGΓϕ ≃ 1011(200g∗
) 14( Γϕ105GeV
) 12GeV (2.55)
第 3 章
揺らぎ宇宙論
3.20 古典的量子揺らぎの生成
Robertson Walker計量 ds2 = −dt2 + a2(t)dx2 の下でのスカラー場 φ
の量子化を考える。
a(t) ≡ 1とすればよく知っているミンコフスキー時空の量子論に帰着す
るし a(t) = eHt(H:const)とすれば、インフレーション中に対応するド・
ジッター時空の場の量子論が得られる。
S =
∫ √−gd4xLφ =
∫dtd3xa3(t)
[12φ2 − 1
2a2(∇φ)2 − V (φ)
](3.1)
単純に V [φ] =1
2m2φ2 としよう。
共役運動量 π(x, t)は
π(x, t) =δS
δϕ= a3(t)φ(x, t) (3.2)
であり、同時刻の正準交換関係
[φ(x, t), π(x′, t)] = iδ3(x− x′) (3.3)
を課すことによって量子化する。
いつものようにモード展開
φ(x, t) =
∫d3k
(2π)3/2(akφk(t)e
ikx + a†kφ∗k(t)e
−ikx) (3.4)
3.20 古典的量子揺らぎの生成 49
≡∫
d3k
(2π)3/2φk(t)e
ikx
(φk(t) = akφk(t) + a†kφ∗k(t) ということ)
とすると、モード関数は (−+m2)φ = 0を各 k成分についてかき[ d2dt2
+ 3a
a
d
dt+k2
a2+m2
]φk(t) = 0 (3.5)
を満たす。
2つのスカラー場のスカラー積を
(ϕ1, ϕ2) = −i∫ϕ1(x)∂tϕ∗2(x)− (∂tϕ1(x))ϕ
∗2(x)a3(t)d3x
≡ −i∫ϕ1←→∂t ϕ
∗2a
3(t)d3x
で定義する。
φが (φk(t)eikx, φk′(t)e
ik′x) = (2π)3δ3(k− k′)つまり
φk(t)φ∗k(t)− φk(t)φ∗k(t) =
i
a3(t)(3.6)
と規格化しておけば正準交換関係 (3.3)は[ak, a
†k′
]= δ(k− k′) (3.7)
[ak, ak′ ] =[a†k, a
†k′
]= 0 とすればみたされる
∵ [ϕ(x, t), π(x′, t)] =
∫d3k
(2π)3/2d3k′
(2π)3/2a3(t)[
akφkeikx + a†kψ
∗ke−ilx, ak′ φk′e
ik′x′+ a†k′ φ
∗k′e−ik
′x′]=
∫d3k
(2π)3/2d3k′
(2π)3/2a3(t)[ak, a∗k′ ]φkφ
∗k′e
ikx−ik′x′
+[a†k, ak′
]φ∗kφk′e
−ikx+ik′x
=
∫d3k
(2π)3/2a3(t)(φkφ
∗k − φkφ∗k)eik(x−x
′)
= iδ(x− x′)
50 第 3 章 揺らぎ宇宙論
になる。
Minkowski時空では
φk(t) =e−iωkt√2ωk
, ωk =√k2 +m2 (3.8)
ととるのが慣例であった。
i∂
∂tφk = ωkφk となり正のエネルギーを持ったモードである。これを
positive frequency mode という。
ドジッター時空ではa
a= H =const,a = eHt として (3.4)は
[ d2dt2
+ 3Hd
dt+
k2
e2Ht+m2
]φk(t) = 0 (3.9)
だが、
ds2 = a2(η)(−dη2 + dx2) = −dt2 + a2(t)dx2 によって定義される
conformal time
η ≡∫ t
−∞
dt
a(t)= − 1
HeHt= − 1
Ha(< 0) (3.10)
を使うと便利で、d
dt=
1
a
d
dη= −Hη d
dη( d2
dη2− 2
η
d
dη+ k2 +
m2
H2η2
)φk(η) = 0 (3.11)
という式になる。岩波公式集 III,p.161よりこの解は
(−η)32H
(1)ν (−kη)と (−η)H(2)
ν (−kη), ν =3
2
[1− 4m2
9H2
] 12
の 2つである。この 2つのどういう線型結合をとるかは、どういう真空
を考えるかということに対応する。
ここでは (3.6)(conformal time でかくと、φk(η)φ∗′
k (η)− φ′k(η)φ∗k(η) =i
a2(η))を満たす解の 1つとして
3.20 古典的量子揺らぎの生成 51
φk(η) =
√π
4H(−η)
32H(1)
ν (−kη) (3.12)
をとる。
−kη =k
Haなので
ハッブル長波長
を表す。
−kη ≫ 1は短波長モードを表し、そこでは宇宙膨張は感ぜられない
H
(1)(2)ν (z) ≈
√2
πzei(±z−
2ν+14 π)上 (1)
下 (2)
なので短波長極限では
φk(η) ≈−Hη√
2ke−ikη−i
2ν+14 π =
e−ikη−i2ν+1
4 π
√2ka(t)
今考えている短波長モードは宇宙膨張時間で見ると激しく振動している。
逆に振動のタイムスケールで見ると宇宙膨張は無視してよい
dt = a(η)dηにおいて a =constと思ってよい
φk(η) =e−ikη√2ka
=e−i
ka t√
2k
aa32
=e−ikphyst√2kphysa
32
= φk(t) (3.13)
でありこれはMinkowski時空の真空を定義したモード関数 (3.8)と同じ
である。(3.6)の規格化も正しくなされている。
このように H(1)ν (−kη)をとることによって、短波長極限 (宇宙膨張の無
視できる極限) で通常の場の量子論の真空に一致するのである。
インフレーションを起こすスカラー場は |η| = |M2G
V ′′
V| = m2
3H2≪ 1 よ
り、その挙動はド・ジッター時空でのほぼmasslessのスカラー場の振る
舞いと同等であると考えてよい。それについては 2剰期待値
⟨φ2(x, t)⟩ =(H2π
)2
Ht (3.14)
52 第 3 章 揺らぎ宇宙論
と時間に比例して増大するという性質がある。(真空が”不安定”)
m2 が無視できる時 (3.12)で ν =3
2となるので半整数のハンケル関数と
なり、初等関数で表すことができる。
φk(t) =
√π
4H(−η)
32H
(1)32
(−kη) = iH√2k3
(1 + ikη) e−ikη (3.15)
ϕ2(x, t)の真空期待値は
⟨0|φ2(x, t)|0⟩ =∫
d3k
(2π)3|φk(t)|2 (3.16)
という積分で表されるわけだが、時間が十分経つと
φk(t) =iH√2k3
(1− i k
Ha
)ei
kHa → iH√
2k3
[a+O
((k
Ha)2)]
(3.17)
という一定値に近づく。
時間がたって k−モードの実波長がハッブル長よりも長くなると
|φk(t)|2 →H2
2k3(3.18)
に近づく。k−3 に比例するので位相空間密度d3k
(2π)3をかけると定数にな
る。
長波長まで含めてスケール不変な揺らぎでがきる。(3.14) も (3.18) を
(3.16) に入れてインフレーションが始まってからのハッブル長よりも長
波長のモード (super horizon modes)を足し上げるとでる。
⟨φ2(x, t)⟩ =∫ HeHt
H
|φk(t)|2d3k
(2π)3=
∫ HeHt
H
H2
2k34πk2dk
(2π)3=
(H2π
)2
Ht
(3.19)
t = 0 にインフレーションが始まったとしてそのときに k = Ha だった
モードを cut offに
この関係式は時間間隔H−1,1stepが ±H2πのブラウン運動と同じである。
(2乗期待値が tに比例)
3.21 線型摂動のゲージ不変解析 53
「Hubble timeH−1 毎に初期波長 ∼ H−1 振幅 δφ ∼ H
2πの揺らぎが次々
と生成し宇宙膨張によって引きのばされていく」
作用 (3.1)に (3.4)を用いて φk(t)でかくと
S =
∫dtd3ka3(t)
[12| ˙φk(t)|2 −
k2
2a2|φk(t)|2 −
1
2m2|φk(t)|2
]となるので φk(t) に共役な運動量は πk(t) = a3(t) ˙φ∗k(t) である。(3.17)
の極限では φ∗k → −φk(t)になるので、長波長では
φk(t) → φk(t)(ak − a†−k
)πk(t) → −a3(t)φk(t)
(ak − a†−k
)となり同じ operator依存性を持つ。decaying mode(の高次)を無視する
と φk を πk は交換し量子揺らぎは古典的統計揺らぎとして振る舞う。
3.21 線型摂動のゲージ不変解析
インフレーションによって宇宙は一様等方平坦化されるので背景時空は
ds2 = −dt2 + a2(t)dx2 = a2(η)(−dη2 + dx2) (3.20)
としてよい。前節で見た長波長揺らぎが時空にもたらす摂動を調べるため
に、この背景時空に線型摂動をとりいれる。これは一般に
ds2 = −(1 + 2A)dt2 − aBjdtdxj + a2(δij + 2HLδij + 2HTij)dxidxj
(3.21)
という形にかける。i, j = 1, 2, 3
空間 3成分ベクトル Bj = ∂j + Bj , ∂jBj = 0 (3.22)
のように rotation freeの部分と divergence freeの部分に分けることがで
きる。(拙著「電磁気学」p.225)
また空間テンソルHTij は
HTij =(∂i∂j −
δij3∂2
)HT + ∂iHTj + ∂jHTi +HTTij (3.23)
54 第 3 章 揺らぎ宇宙論
但し ∂jHTj = 0, ∂JHTTij = 0, trHTTij = 0と分解できる。
HTT :transverce-traceless重力波の自由度
以上の分解により 3次元空間座標変換に対する変換性としてスカラー量
(添字なし)、ベクトル量 ( 添字 1 ケ)、テンソル量 (添字 2 ケ) に分類で
きる。これらは線型摂動の範囲では混ざり合うことはなく、独立に進化する。
A,B,HL,HT :スカラーモード 密度揺らぎと関係する
Bj ,HTj :ベクトルモード 減衰モードしかない (ソースがない限りは)
HTTij :テンソルモード 重力波
当面スカラーモードのみを考える
ds2 = −(1 + 2A)dt2 − a∂jBdtdxj
+a2[δij + 2HLδij + 2
(∂i∂j −
δij3∂2
)HT︸ ︷︷ ︸
]dxidxj(3.24)
トレースレス
i, j の添字は δij で上げ下げするので上下は関係なし
A :時間の経過揺らぎ (Lapse) ニュートンポテンシャル
B :変位 (shift)ベクトルの揺らぎ
HL :空間体積の揺らぎ
HT :空間の非等方性 を表す
ここでは計量を一様等方な RW時空がまずあって、それに摂動を入れた
形で書いているが現実にあるのは一つの非一様時空であって、そこに何ら
かの平均化の操作をすることによって便宜的に背景となる一様等方時空を
定義しそれと現実とのズレを摂動として扱うというのが本来の順序であ
る。従って背景の選び方に依って摂動量の見かけの表式は変わってくるこ
とになる。大域的な座標の取り方 (ゲージ)の分だけ摂動量には不定性が
あることがわかる。
ゲージ依存性がどのように現れるか調べるためには現実の宇宙、背景宇宙
A,B それぞれについて同じ座標値を持った点の値の差の振る舞いを考え
る。
xµ 系での A,B,HL, HT と xµ 系での A, B, HL, HT の関係式を求める。
3.21 線型摂動のゲージ不変解析 55
2つの座標系が
x0 = x0 + δx0 = x0 + T
xi = xi + δxi = xi + ∂iL (3.25)
という微小変換で結びついているとする。スカラーモードを考えるので
δxi は ∂iLというようにスカラーのグラジエントでかける。
座標変換によって計量は
gµν(x) =∂xα
∂xµ∂xβ
∂xνgαβ と変換されるが
同じ座標値 xでの gµν が欲しいので
gµν(x) =∂xα
∂xµ∂xβ
∂xνgαβ(x− δx)
= gµν(x)− (δxα),µ gαν(x)− (δxβ),ν gµβ(x)− gµν,λδxλ
(3.26)
とかける。これに (3.25)を入れて各成分を書く。摂動変換と T, Lの 1次
まで計算すればよいので
¯g00 = g00 − 2T g00 + g00T + g00,iL,i︸ ︷︷ ︸は 2 次
A = A− Tg20 = g20 − ∂2Tg00 − ∂2Lg22
−a∂2B = −a∂2B + ∂2T − a2∂2L B = B − 1
aT + aL
g22 = g22 − (∂iL),2 gi2 − (∂iL),2 g2i − g22,0T
= g22 − 2∂22Lg22 − Tg22,0
a2[1 + 2HL + 2
(∂22 −
1
3∂2
)HT
]= a2
[1 + 2HL + 2
(∂22 −
1
3∂2
)HT
]−2a2∂22L− 2aaT
g11 + g22 + g33 より
HL = HL −∂2
3L−HT がでる
56 第 3 章 揺らぎ宇宙論
g23 = g23 − (∂3L),2 g33 − (∂2L),3 g22 = g23 − 2∂2∂3La2
2a2∂2∂3HT = 2a2∂2∂3HT − 2a2∂2∂3L
HT = HT − L
まとめ
A = A− T
B = B − 1
aT + aL
HL = HL −1
3∂2L−HT (3.27)
HT = HT − L
(3.27)の 4式から座標 (ゲージ)変換の generatorT, Lを消去するとゲー
ジの取り方に依らない変数を 2つ作ることができる。
例えば
ΦA = A− (aB)· − a2 (HT + 2HHT ) 重力ポテンシャル(3.28)
ΦH = HL −∂2
3HT − aB − aaHT 曲率揺らぎ (3.29)
ととると、これはもとの座標系でも¯のついた系でも L, T によらない同
じ値をとる。エネルギー運動量テンソルの摂動を考える。一様部分は宇宙
の一様等方性から完全流体の形でかけるのだった
Tµν = pgµν + (ρ+ p)uµuν , gµνuµuν = −1 (3.30)
このスカラー型摂動を考える
ρ → ρ+ δρ
p → p+ δp
uµ →(1−A,− ∂i
a2V)と摂動を受けるとする
(i, j の添字の上げ下げは δij でするのだった)
gµνuµuν = −1より
gµνuµgν = −(1 + 2A)(1−A)2 + · · ·
3.21 線型摂動のゲージ不変解析 57
= −1 +O(2次)で正しく規格化されている
u0 = g0νuν = −(1 + 2A)(1−A)
= −(1 +A)
ui = giνuν = gi0u
0 + gijuj = −a∂iB(1−A)− ∂iV
= −∂i(V + aB)
∴ uµ = (−1−A,−∂i(V + aB))
エネルギー運動量テンソルの摂動はこれらをつかって一般に
δT 00 = −δρ ≡ −ρδ δ ≡ δρ
ρ
δT j0 = (ρ+ p)∂jaV
δT 0j = −(ρ+ p)
∂ja(V + aB)
δT ij = p[πLδij +
1
a2
(∂i∂j − δij
∂2
3
)πT
](3.31)
摂動を受けた後も完全流体として振る舞う物質 (相互作用の強い放射や圧
力のない冷たい物質など) では非等方ストレス πT は 0になり πL =δρ
ρ
圧力ゆらぎである。
nonminimal couplingのスカラー場も πT = 0である。
摂動変数 δ, V, πL, πT についてもゲージ変換による変換性を求め、ゲージ
不変量を構成することができる。
スカラー場の場合は、
ϕ(x, t) = ϕ0(t) + δϕ(x, t)として座標変換するとスカラー量の変換性から
ϕ(x) = ϕ(x)なので、
ϕ(x) = ϕ(x− δx) = ϕ(t− T, xi − ∂iL)= ϕ0(t− T ) + δϕ(t− T, xi − ∂iL)= ϕ0(t)− ϕ0(t)T + δϕ(x) = ϕ0(t) + δϕ(x)
δϕ = δϕ− ϕ0T という変換性を持つ。
58 第 3 章 揺らぎ宇宙論
よって ∆ϕ ≡ δϕ− (aB − a2HT )ϕ0 (3.32)
という量を考えれば、これはゲージ不変である。一般的な計量から出発し
てゲージ不変量を構築して云々ということを毎回やる必要はなく、要は
ゲージ自由度 T, Lが固定されていればよいので、計算が簡単になるよう
な座標条件を課してゲージ固定すればよい。
例えばある任意の座標系から出発したとして HT = 0となるように変換
すれば L = HT と完全に固定される。さらに B = 0となるようにすれば
T も固定される。このとき (3.28)より A = ΦA(3.29)より HL = ΦH に
なるので、残った 2つの変数は当然ゲージ不変である。すなわち
ds2 = −(1 + 2ΦA)dt2 + a2(1 + 2ΦH)dx2 (3.33)
これを縦波 (longitudinal)ゲージという
この時∆ϕ = δϕとなりスカラー場の単純な摂動はゲージ不変量に一致し
ている。δや vも同じくゲージ不変量になっている。
3.22 ゆらぎの従う発展方程式と長波長解
アインシュタイン方程式
δGµν = 8πGδTµν (3.34)
をこのゲージでかいてみる。δG00 = 8πGδT 0
0 は、
6H2ΦA − 6HΦH + 2∂2
a2ΦH = 8πGρδ (3.35)
δGj0 = 8πGδT j0 より(実際はこの空間微分の関係式である)
−HΦA + ΦH = −4πG(ρ+ p)V (3.36)
δGij = 8πGδT ij より[2(H2 +
a
a
)ΦA + 2HΦA − 6HΦH − 2ΦH −
2
3
∂2
a2(ΦA + ΦH)
]δij
− 1
a2
(∂i∂j − δij
∂2
3
)(ΦA + ΦH) = 8πGp
[πLδij +
1
a2
(∂i∂j − δij
∂2
3
)πT
](3.37)
3.22 ゆらぎの従う発展方程式と長波長解 59
(3.37)より非等方圧力ゆらぎのない場合は、
ΦA + ΦH = 0 (3.38)
になる。
(3.35)+6H×(3.36)より
+2∂2
a2ΦH = −8πGρδ − 24πG(ρ+ p)HV
∂2
a2ΦH = −4πGρ∆ , 但 ∆ ≡ δ + 3(1 + w)HV
あるいは
∂2
a2ΦA = +4πGρ∆ (3.39)
Poisson方程式を得る。
エネルギー運動量保存則 δTµν;µ = 0の 0成分と i成分から
∆− 3Hw∆ = (1 + w)∂2
a2V 連続の式 (3.40)
V =1
ρ+ p(pπL −G2ρδ + c2sρ∆) + ΦA オイラー方程式 (3.41)
但 c2s =dp
dρ(3.42)
を得る(但 p = −3(1 + w)Hρを用いた)。ここで (3.36)と (3.38)より
ΦH +HΦH = −4πG(ρ+ p)V = −3
2H2(1 + w)V ≡ −3
2(1 + w)HΥ
(3.43)
但 Υ ≡ HV
これを用いてオイラー方程式をかきなおすと
Υ +3
2(1 + w)HΥ = −HΦH +
H
1 + w(c2s∆+ wΓ ) (3.44)
Γ ≡ 1
p(δp− c2sδρ) = 0
最後の等号は状態方程式 p(ρ)がゆらいでいない場合=断熱ゆらぎのとき
60 第 3 章 揺らぎ宇宙論
(1成分なら常にそう)。
(3.43)と (3.44)の差をとることにより
d
dt(ΦΥH) = − Hc2s
1 + w∆ = +
2c2sH
3(1 + w)
∂2
a2H2ΦH (3.45)
superhorizon k ≪ aH では ΦH − Υ は保存する。(3.43)より
ΦH = Υ = ΦH +2
3(1 + w)(ΦH +H−1ΦH) ≡ ζ ≡ Rc=const. = c1
↑ (3.46)
k≪aH
物質の性質系でみた曲率ゆらぎという物理的な意味をもち、Bardeenの ζ
とか comoving curvature perturbation と呼ばれる(物質の静止系でみ
たときに曲率ゆらぎを与える量になるので)。
(3.46)は ΦH に対する一解微分方程式とみなすことができ、これは解
くことができる。その解は
ΦH = c1
(1− H
a
∫ t
const
a(t′)dt′)
(3.47)
これは状態方程式によらない。この解をみつけるのはむずかしいが、これ
が正しいことを確かめるのは簡単である。微分して
ΦH = c1
(−Ha
+H2
a
)∫ t
a(t′)dt′ − c1H
= c1[32(1 + w)H2 +H2
] 1
a
∫ t
a(t′)dt′ − c1H
=3
2H(1 + w)c1
H
a
∫ t
a(t′)dt′ − c1H(1− H
a
∫ t
a(t′)dt′)
=3
2H(1 + w)c1
H
a
∫ t
a(t′)dt′ −HΦH
より ζ = ΦH +2
3(1 + w)(ΦH +H−1ΦH)をつくると
3.23 インフレーション宇宙における密度・曲率ゆらぎの生成 61
ζ = c1
(1− H
a
∫ t
a(t′)dt′)+ c1
H
a
∫ t
a(t′)dt′ = c1 (3.48)
になり、示された。(3.47)の積分の下限は任意なので、H
a× const.も解
になっている。
これが減衰モードを与える。もともとの方程式系 (3.43)(3.44) を ΦH
だけで表すと 2階方程式になるので、2つの解をもち、1つが (3.47)の
成長断熱モード。もう 1 つがこの減衰モードである。とくに w =p
ρ=
const.のときは、a(t) ∝ t2
3(1+w) とかけるので、漸近的に
ΦH = c1[1 +
2
3(1 + w)
]−1=
2
3c1 RD
3
5c1 MD
(3.49)
となる。放射優勢から物質優勢になるとき長波長成分の ΦH は 9/10倍に
なる(それ以外のときは、成長モードといっても実は一定である)。
ともかくインフレーション中にゆらぎの初期状態を計算し、それが長
波長になってしまえば、その後再加熱がおこってもRc = ζ の進化は自明
なものとなる。
3.23 インフレーション宇宙における密度・曲率ゆらぎの生成
スカラー場のエネルギー運動量テンソル (2.29)
Tµν = ∂µϕ∂νϕ− gµν(12gαβ∂αϕ∂βϕ+ V [ϕ]
)(2.29)
を longitudinal gaugeで表せば (ϕ = ϕ0 + δϕ)スカラー場のゆらぎの表
式が求められる。
−δT 00 = ρϕδϕ = ϕ0 ˙δϕ− ϕ20ΦA + V ′[ϕ0]δϕ (3.50)
δT ij = pϕδπLϕδij = (ϕ0 ˙δϕ− ϕ20ΦA − V ′[ϕ]δϕ) δij (3.51)
62 第 3 章 揺らぎ宇宙論
δT j0 = (pϕ + ρϕ)∂ja2V = +
ϕ∂jϕ
a2=
1
a2ϕ∂jδϕ (3.52)
gjµTµ0 = a−2ϕ∂jϕ
(3.36)と (3.52)より
ΦH +HΦH = −4πGϕδϕ (3.53)
スカラー場の
Υϕ = HVϕ =Hϕδϕ
ρϕ + pϕ=H
ϕδϕ (3.54)
であることがわかる。
また (3.50)、(3.52)より
ρϕ∆ϕ = ρϕδϕ + 3(ρϕ + pϕ︸ ︷︷ ︸ϕ2
)HVϕ
= ϕ ˙δϕ− ϕδϕ− ϕ2ΦA (3.55)
を用いて、ポアソン方程式は
−∂2
a2ΦH = 4πGρϕ∆ϕ
= 4πG(ϕ ˙δϕ− ϕδϕ+ ϕ2ΦH) (3.56)
とかける。以上から Rc を求めると
Rc= ΦH − Υ = ΦH −(H
ϕδϕ
)·=−HΦH − 4πGϕδϕ− Hδϕ
ϕ− H ˙δϕ
δ+Hϕδϕ
ϕ2
=−Hϕ2ρϕ∆ϕ = +
H
4πGa2ϕ2∂2ΦH =
2H
3(1 + w)
∂2
a2H2ΦH (3.57)
になって、(3.45)で c2s = 1とした式に一致する。やはり長波長域ではRcは保存する。
インフレーション中はϕ2
2≪ V [ϕ]だから w ≃ −1であり
3.23 インフレーション宇宙における密度・曲率ゆらぎの生成 63
Rc = ΦH − Υϕ ∼= −Hδϕ
ϕ(3.58)
となる。これは各フーリエモードに対して成り立つ。
Rc の各 kモードごとの 2乗期待値は (3.18)より
⟨|Rck|2⟩ =(H
ϕ
)2
⟨|δϕk|2⟩ =(H
ϕ
)2 H2
2k3(3.59)
位相空間密度4πk3
(2π)3をかけたものは各スケール r =
2π
kのゆらぎの 2乗
振幅を与える。これを∆2R とかくと
∆2R(r) =
(H
ϕ
)2 H2
2k34πk3
(2π)3=
(H2
2πϕ
)2
(3.60)
とかける。スローロールインフレーションの式 3Hϕ = −V ′(ϕ) をつかうと
∆2R =
( 3H2
2πV ′(ϕ)
)2
=V (ϕ)3
12π2M6GV′(ϕ)2
=V (ϕ)
24π2εM4G
=H2
8π2εM2G
(3.61)
とスローロールパラメタ εでかける。また ∆2R(r =
2π
k) ∝ kn−1 とおく
と nは
n− 1 =d ln∆2
R(r)
d ln k= −3M2
G
(V ′V
)2
+ 2M2G
V ′′
V− 6ε+ 2η (3.62)
で表される。これを(スカラー)スペクトル指数といい、n = 1のときを
スケール不変スペクトル Harrison-Zel’dovichスペクトルという。スペク
トル指数のスケール依存性 runningの
α ≡ dn
d ln k= 16εη − 24ε2 − 2ξ (3.63)
ξ ≡M4G
V ′(ϕ)V ′′′(ϕ)
V 2(ϕ)
こうしてRc が求まったら、その後の RD、MD宇宙でそれぞれ
64 第 3 章 揺らぎ宇宙論
ΦH =
2
3Rc RD
3
5Rc MD
と求められ、そのときの各 k モードがホライズンに入ったときの密度ゆ
らぎの振幅も (3.39)より
k2
a2ΦH = 4πGρ∆ =
3
2H2∆ より ∆ =
2
3
( k
Ha
)2
ΦH
によって各 k モードの値が求められるのである。これが宇宙における構
造形成のたねや CMBゆらぎのもとを与える。
3.24 テンソルゆらぎ
(3.21)(3.23)で今度はテンソル型摂動HTTij ≡ hij のみ考える。
ds2 = −dt2 + a2(t)(δij + 2hij)dxidxj (3.64)
ij の上げ下げはδijで行うとして、上下気にしない
これは重力波モードだから、よく知られているように、hij = 0をみた
し、2 つの偏極モード +,× を持つことが知られている。これを hij を
フーリエモード展開することにより
hij =
∫d3k
(2π)3/2
[h+k(t)e
+ij(k) + h×k(t)e
×ij(k)
]eikx (3.65)
eAij(k)eA′ij(−k) = δAA
′(3.66)
kが x > 0にあるとき
e+ij(k) =1√2(uiuj − vivj) e×ij(k) =
1√2(uivj + viuj)
k, u, vが 3次元空間の正規直交基底になっているように
とると定義し、x < 0なら x > 0のときと同じにすれば
kと− kで一致させられる。
3.24 テンソルゆらぎ 65
S =1
16πG
∫ √−gd4xR ⊃ 1
8πG
∫d3ka3(t)
(2π)3
×[1
2|h
+k(t)|2 +
k2
a2|h
+k(t)|2 +
1
2|h×k(t)|
2 +k2
a2|h×k(t)|
2
](3.67)
のように massless scalar 場 2 つ分の作用と同じ形をしている。とくに
φAk(t) =1√8πG
hAk(t)とすると、これは規格化まで含めてスカラー場と
してふるまう。
→インフレーション中 ( d2dt2
+ 3Hd
dt+k2
a2
)φAk = 0
a(t) = eHt
をみたし、長波長ゆらぎ
|φAk(t)|2 =
H2
2k3k ≪ aH
スカラー場のゆらぎと同様、宇宙膨張時間 H−1 毎に δφ =H
2πすなわち
h =
√8πGH
2π=
H
2πMGの振幅のテンソルゆらぎが +, ×モードについ
てできる。
これはこのモードがホライズン内にもどってきたときにホライズン波
長の重力波、そのときの宇宙膨張時間を周期とする重力波としてふるま
う。つまり自然対数周波数間隔毎に振幅
h2(f) ≡ 2⟨hijhij⟩ = 4(H (ϕ(f))
2πMG
)2
=V [ϕ]
3π2M4G
≡ 1
2∆2h (3.68)
のテンソルゆらぎができるのである。
これは曲率ゆらぎと同様ホライズンの外では一定値をとり、内に入る頃
からあとは a(t) ∝ tp のときは
h(f, a) ∝ a(t)1−3p2p J 3p−1
2(1−p)
( p
1− pk
a(t)H(t)
)k = 2πfa0 (3.69)
66 第 3 章 揺らぎ宇宙論
という定在波になる。
対数周波数毎の重力波のエネルギーは角振動数 ωを用いて
dρGWd ln f
=ω2
32πGh2
とかけるが、ホライズンに入ったとき tin(f) に ω = H (tin(f)) , h =
hinf より
dρGW (f)
d ln f=H2 (tin))
32πGh2inf =
1
24ρcr (tin(f))∆
2h(f)
∴ ΩGW (f, tin(f)) =1
24∆2h(f) (3.70)
とかける。その後 ρGW は常に ∝ a−4 で減少するが ρcr = ρtot は各時代
の状態方程式 w = p/ρによって ρtot ∝ a−3(1+w) のように減るので、現
在の ΩGW (f, t0)から昔の宇宙の状態方程式がわかる。
テンソル・スカラー比 (3.61)と (3.68)より
r =∆2h
∆2R
= 16ε (3.71)
となる。
テンソルゆらぎのスペクトル指数
nt =d ln∆2
h
d ln k=d ln∆2
h
d ln aH≃ d ln∆2
h
d ln a≃ 1
H
d ln∆2h
dt
=2
H(lnH)· ≃ 1
H(lnV )· =
V ′ϕ
HV= − V ′2
3H2V
= −M2G
(V ′V
)2
= −2ε (3.72)
テンソルゆらぎは CMBの偏光から検出できる。