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Asia Pacific M&A Bulletin 二つの景気回復: 世界とアジア www.pwc.com/jp/advisory Advisory Year-end 2010

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Asia PacificM&A Bulletin二つの景気回復:世界とアジア

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AdvisoryYear-end 2010

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M&A Advisor of Choiceアジア太平洋地域におけるアドバイザリー実績の一例

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はじめに二つの景気回復:世界とアジア

Chao Choon OngTransactions LeaderAsia Pacific

アジア太平洋地域の株式市場は2009年に52%と大幅に上昇し、2008年の下落分をすべて取戻した後、2010年に入って下落し始めた。加重平均ベースでみると、上半期に約13%下落し、その後下半期に盛り返してマイナス2%で年を終えた。前年同期比ベースでは、上海総合指数はマイナス14%、日経平均はマイナス3%、オーストラリアのオール・オーディナリーズはマイナス1%であった。

中国では資産バブル抑制のために金融引き締めが行われていたにもかかわらず、上海総合指数は上半期に27%下落し、その後、下半期に入って17%上昇した。

一方、欧米諸国の株式市場はこの2年間安定的に回復してきた。NASDAQ総合指数、S&P500種指数、ダウ工業株平均は全て20-25%上昇し、2008年初頭につけた金融危機以前の 高値に迫った。

アジアの景気回復ストーリーに加えて、アジアと欧米諸国の双方の企業が多額の現金を保有していたことや、過去2年間の金融緩和政策の結果、巨額の流動性が世界の資本市場で渦巻いていたことも、2010年のM&Aの原動力となった。

2010年下半期のめざましいパフォーマンスは、2011年のM&A復活の予兆となるのだろうか。それとも、欧米諸国の上にわずかに残る暗雲やアジア新興国の資産バブルが脆弱な回復の腰を折ることになるのだろうか。

世界経済が回復するにつれて見えてきたのは、欧米先進諸国と開発途上国の経済が描く、全く異なる景気回復の軌跡である。

欧米諸国が緩慢な雇用なき景気回復からの脱却に向け苦戦している間に、開発途上国の経済は1ケタ後半から実に2ケタ台という急成長を遂げた。このような環境下でM&Aの舞台が発展途上国へシフトしてきたのは、ごく自然な流れであった。

世界のM&Aは、2年連続で31%減少した後、2010年は前年比23%の増加に転じ、総額2兆4,000億米ドルとなった。件数ベースでも増加したが、その増加率はわずか3%であり、案件の大型化を示唆している。

アジア太平洋地域のディール総額は31%と急増し、世界 速成長を遂げているこの地域への世界的な関心の高まりが反映された。注目すべき点は、M&Aのディールの水準が上半期初頭に一旦落ち込んだものの、その後急速に持ち直したことである。2010年第4四半期の公表済みディールは2,020億米ドルと、2008年第2四半期の1,890億米ドルを上回り、四半期の金額ベースの記録を更新した。

予想に違わず、中国が再びアジア太平洋地域のM&Aをリードし、公表済みの金額ベースで1,350億米ドルに達した。以下、オーストラリアと日本が続いた。

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また、ユーロ圏の経済大国であるドイツとフランスが、それぞれの国内総生産(GDP)の76%、86%相当の膨大な債務を抱えていることから、さらなる財政支援が可能かどうか、欧州の「ポケットの深さ」についても懸念が出ている。

緊急支援は、危機の根本的な解決にはならず、数年後には債務の返済もしくは借り換えが控えていることから、問題の先送りに過ぎないとの批判もある。「見て見ぬ振り」が続く中、債務に苦しむ国々は流動性あるいは支払能力の問題に正面から向き合っているのだろうか。

さらに重大な懸念は、世界の生産高の4分の1を占める米国の財政と公的債務の状況である。財政赤字は対GDP比で2007年の1%から8.8%へと上昇した。米国の連邦債務残高は、IMFの 新のスタッフペーパー によると、2015年にもGDPと同レベルになる可能性がある。

暗雲晴れぬ欧米経済

米国では、2009年に巨額の金融支援・量的緩和が行われ、企業収益も急速に回復したにもかかわらず、失業率は依然として9.4%1から改善しなかった。

この状況に対処するため、連邦準備制度理事会は2010年11月3日に所謂「量的緩和第2弾(QEII)」の実施に踏み切り、6,000億米ドル相当の米国長期国債を買い入れると発表した。しかし、この経済刺激策に対し、ブラジル、中国、ドイツの高官からは、米ドルが下落し、それに伴い新興諸国経済へのインフレ圧力が高まる可能性があるとの批判が起こった。

もう一つの気がかりな問題は欧州のソブリン危機である。これが17カ国から成る誕生12年目の単一通貨圏を揺さぶることなった。

5月の1,100億ユーロに上るギリシャ支援に続き、11月にはアイルランドが850億ユーロの支援を受けた。アイルランドの支援策には、ギリシャ緊急支援後に欧州連合と国際通貨基金(IMF)により設立された7,500億ユーロの救済メカニズムの資金が充当された。

しかし、ポルトガル、イタリア、スペインのようなより規模の大きな複数の国々に支援が必要となった場合、この救済メカニズムで十分かどうかとの疑念がすでに高まっている。

幸い、上記の3国は2010年12月と2011年1月に辛うじて国債発行にこぎつけて当面の危機を回避したが、その利回りは通常よりほぼ100bp上乗せせざるを得なかった。

1 米国労働統計局

5

ここで、1940年代に米国が第二次世界大戦の戦費調達を行った際に短期的に急上昇した時期を除いて、米国の公的債務の対GDP比 ベースの長期平均値は1990年代末まで15%前後で推移していたことに留意されたい。

2011年1月にムーディーズは、「現時点で格付け変更は検討していないが、将来的に検討すべき時期は近づいており、2年以内にネガティブ・アウトルックにする可能性は高まっている。」と述べた。なお、日を同じくして、スタンダード&プアーズ(S&P)は日本国債の格付けをAAからAAマイナスへ引き下げた。

確かに、ムーディーズは現在、米国債の格付けをAaaから引き下げようとしているわけではない。まだ、ネガティブ・アウトルックと決めたわけでもない。だが、わずかでも可能性があるというのは、示唆に富む表現であることは確かである。

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不動産税(上海および重慶)、借入制限、複数不動産の所有制限など、政府は価格上昇抑制に向け様々な方策を導入した。高騰する不動産価格ならびにインフレ圧力を抑制するため、中国は2010年第4四半期中に2度も利上げによる金融引き締めを実施し、2010年中に6度支払準備率を引き上げ(2011年1月には史上 高の19.5%)、銀行貸出に対する厳格な政策も実施した。

斯様な対策にもかかわらず、不動産価格は、上昇率は縮小したが、2010年末まで上昇し続けた。資金力のある投資家や企業は増え続けているが、不動産に代わる投資先がないため、中国は不動産バブルを十分に抑えることができなかった。

不動産価格はアジア全域で上昇し、各国政府は自国の不動産市場の高騰抑制策に乗り出したものの、その効果は国によってまちまちといったところである。

経済の規模と潜在的なバブルの程度を考えると、中国でのバブルが 大の懸念材料である。

中国の不動産価格は2010年3月に史上 高となり、ここ数年間の上昇率は2ケタに達した。例えば、上海の不動産価格は2010年に21%上昇した。中国社会科学院が12月に公表した報告書によると、中国の約35の大・中規模都市における不動産価格は平均で29.5%割高となっている。

アジアで沸き立つ資産バブル

2010年に5%成長した世界経済は、過去3年連続で発展途上国の成長に支えられてきた。

生産高において世界の約50%を占める米国とEU諸国の成長率は、それぞれ2.8%と1.8%に過ぎなかった。これに対し、世界の生産高の15%しかないアジアの開発途上国は9.2%2、同新興工業国3は8.2%の成長率を達成した。

IMFの予想では、向こう2年間の経済成長率は、米国で3%と2.7%、EU諸国で1.5%と1.7%と低調である。世界第3位へ後退した日本経済の場合、2010年のGDP成長率は4.3%であった。ただし、この数値は主に2009年のマイナス6.3%からの回復を表している。IMFは、日本の今後2年間の成長率を、1.6%、1.8%と予想している。

アジアの発展途上国については、金融引締め政策と輸出主導型経済の継続的なリバランスが進行しており、向こう2年間の成長率は、8.4%に落ち着くと予想されている。

この成長を支えているのは中国である。成長率は2010年10.3%、2011年9.6%、2012年9.5%となる見通しであり、生産高はアジアの発展途上国の約3分の2を占めている。

他にアジアの主な発展途上国として、インド(成長率は、2010年9.7%、2011年8.4%、2012年8%)とインドネシア(成長率は、2010年6%、2011年6.2%、2012年6.5%)が挙げられ、この2国合計でアジアの発展途上国の生産高の20%を占める。

このようにペースの異なる景気回復に金融緩和政策が重なった結果、欧米先進諸国から巨額の資金が発展途上国へ流入し、後者で大きなインフレ圧力が生じて資産価格および消費者物価が上昇した。

2 中国、インドならびにアセアン5(インドネシア、マレーシア、タイ、ベトナム、フィリピン)3 香港、シンガポール、韓国、台湾

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国内のプライベート・エクイティが中国のM&Aを変える

7月に中国農業銀行は220億米ドルの史上 高額で株式新規公開(IPO)を果たしたが、その後第4四半期には、香港で史上第3位の大型上場となったAIAグループによる210億米ドルのIPOがあった。同社はAIGからスピンオフで設立されたアジアの生命保険会社である。

香港証券取引所は資金調達額が570億米ドルと金額ベースで2年連続世界第1位となり、これに450億米ドルと僅差の深セン証券取引所、290億米ドル4の上海証券取引所が続いた。この3つの証券取引所を合わせた2010年のIPOによる調達総額は、2009年の2倍を上回った。

ロイターによると、2010年のアジア(日本を除く)のIPOの約30%がプライベート・エクイティ(PE)ファンドによるものであった。深セン、上海両証券取引所における347社のA株IPOのうち、160社のIPOがPE絡みであり、2007年の世界金融危機以前の強気市場におけるIPOが95社であったことと比べると、これは記録的な数字である。

好調なIPO市場と、経済成長の持続に向けて民間部門の投資を促進するという中国の政策転換を背景に、中国国内のPEは活気づいた。

中国政府は 近、ブラックストーン、TPG、カーライルなどの海外PEが地方政府や企業と連携して人民元建てファンドを立ち上げられるよう規制緩和を行った。中国の各都市も自らがPEの中心都市となることを目指して競い合っており、税制面での優遇措置や資金援助、政策面での支援を提供して、大規模なPE会社を誘致している。

国連食糧農業機関の食料価格指数は、2010年上半期に6%下落した後、下半期に33%上昇し、年末には2008年中頃に記録された直近の 高を3%上回った。金融緩和政策の結果、投機買いと買い溜めが増えたことが原因であったが、石油価格高騰、需要増大、頻発する悪天候による供給減少といった長引く問題も無視することはできない。適切に対処しなければ、2008年に起きたような食糧暴動に発展し、政治的不安定につながりかねない。

中国は、食料価格の上昇を抑えるため、11月に供給サイドで多くの対策を発表していた。一方、輸出主導型の経済のリバランスを行い、拡大する貧富の差から生じた社会問題を 小化するため、中国の各省、各自治体は2010年に 低賃金を12%ないし20%引き上げた。2011年には、さらに2ケタの賃上げが予想されている。例えば、北京市は、2010年6月に市の 低賃金を20%引き上げたばかりだが、2011年にはさらに21%引き上げることを決定した。これに伴う波及効果が特にインフレの上昇となって顕在化すると思われ、すでに規定の 低賃金を上回る金額を従業員に支払っている企業にも影響は及ぶと考えられる。

住宅ローン残高は今なお、日本や米国のそれぞれの資産バブル時代に比べて非常に低い水準で推移している。一方、野村證券とS&Pは向こう半年から1年半で住宅価格は10%から20%下落すると予想している。

不動産価格の統制にかける中国の意気込みは、温家宝首相が旧正月の演説の中で、中国は「不動産市場の統制を断固として行い」、「安定的な住宅価格を維持する」必要があると述べたことにはっきりと表れている。また、「『異常な』信用残高の増加に対処し」、「全体的な価格水準を確実に安定させる」とも明言した。

アジア各国政府が直面する 大の社会経済的問題

インフレという「伝染病」がアジア全域を覆い始めている。

消費者物価指数は2010年末までに中国で5%上昇し、インドでは9.5%、インドネシアでは7%上昇した。原材料、石油、商品価格は全て値上がりした。

貧困線以下で生活する多数の国民を抱える多くのアジア諸国にとって、一段と懸念される問題は食料価格である。

4 プライスウォーターハウスクーパーズ「IPOウォッチ・ヨーロッパ・サーベイ2009年第4四半期(10-12月)」完全分析版

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2011年のM&A見通し

2011年以降も引き続き、アジアの成長物語が投資テーマを動かすことになろう。

資産バブルとインフレが潜在的な脅威ではあるが、アジア各国政府は自国の不安定さをリスクとして十分認識しており、その潜在的脅威の抑制に動き出している。その結果、成長率は緩やかになると考えられるが、低調な経済と財政難に苦しむ欧米先進国とは対照的に、アジアはなお市場の魅力を保っている。

アジアにおけるM&Aは、堅固なバランスシートを有してアジア市場参入の機会を探る欧米企業や、グロースキャピタル市場の恩恵を享受しようとするPEによって進められるであろう。

一方、アジアの企業や政府は、好調な国内市場と強い通貨に支えられて、資源や欧米のブランドならびにノウハウの獲得を目指していくであろう。

2010年のファンダメンタルズは、「資産バブルと戦う成長するアジア」「財政危機と格闘する精彩を欠いた欧米諸国」、における速度の異なる景気回復、不安定な資金の流れを生み出す低金利通貨、そして本格的な規制改革を必要とする金融サービスセクターなどを見る限り、2009年からあまり変化していない。

ただ唯一変化したのは信頼感の回復である。そして2011年、投資家は一見留まることを知らないアジアの成長に自らの希望と夢を託し続けるであろう。

アジア・パシフィック・プライベート・エクイティ・リサーチによると、中国国内で登録されているPEファンドマネージャは外資系が167社、国内系は265社ある。未登録のファンドマネージャは、2,000から1万あると推定されている。

こういった国内のファンドマネージャは、近年ファンド運用ビジネスに参入した個人により設立されたものが多いが、個人とはいえ相互にうまく連携し、また市場を熟知している。グローバルに活動するファンドマネージャとは異なり、社内の制約に縛られることなく迅速な投資判断を行うことが可能である。

中国のM&A市場は、国内ファンドの急増により見直しが行われつつあり、どうみても、数少ない高パフォーマンスのディールを求めて多数の企業がひしめき合っている状況である。

中国国内に自社の投資チームを持たないPEにとっては、いよいよ勝算の見えない展開になると思われる。東南アジアに焦点を合わせてシンガポールや香港にオフィスを置きながら、資源を中国の都市に振り向ける、アジア重視のPE会社がますます増えるであろう。

同時に、上海市は 近、中国の経済再編を加速し、上海の国際金融センターとしての役割を強化するため、30億米ドルの適格海外投資事業有限責任組合(QFLP)の実験を開始した。QFLPにより、年金ファンドならびに寄付基金などの適格海外投資家は、中国国内での投資目的で外貨を人民元に換金することが可能となる。

中国には代替投資先が少ないため、PEは個人投資家・機関投資家の双方で徐々に人気化しつつあるが、同セクターが海外勢に開放され競争が始まったことで成長に拍車がかかった。

トムソン・ロイターによると、中国企業を投資対象とするPEファンドが世界の資金調達全体に占める割合は、2007年のわずか1%から9%を超えるに至った。2010年には、中国向けのPEファンドが82本設定され、280億米ドルを調達したが、これは前年に30本で130億米ドルを調達したのと比較すると2倍以上である。

興味深いのは、この2010年の82本の中国向け新PEファンドのうち85%を超えるファンドが人民元建てであったが、調達資金ベースでは40%止まりであったことである。つまり、これらの人民元建てファンドの大半が小型ファンドだったということである。

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アジア太平洋地域のディール(対象国別)が急増したのは、主に好調なアジアの発展途上国とオーストラレーシアによるものである。前者が2010年に44%増加しアジア太平洋地域のディール総額の38%を占めた一方で、後者は2.5倍の成長を遂げアジア太平洋地域のディール総額の25%を占めた。

アジアの発展途上国のM&Aにおける目覚ましい成長を支えたのは中国とマレーシアである。中国のM&Aディール総額はアジアの発展途上国のほぼ61%、アジア太平洋地域の23%を占めたが、その2010年の伸び率は24%と、アジアの発展途上国の増加分の3分の1を占めた。

マレーシアは驚くべきことに約4.7倍増加し、これもアジアの発展途上国の増加分の3分の1を占めた。

それとは対照的に、日本とアジアの新興工業国のディールは2010年に若干減少したが、後者が減少したのは2009年に群創光電が統宝光電と奇美電子を138億米ドルで買収した特殊な案件のあった台湾が原因である。

2010年の世界のM&Aは2兆4,000億米ドルに上り、前年比23%増加した。件数ベースではわずか2%の伸びで4万件であった。平均的なディール金額は20%増加したが、それでも2007年の平均を約37%、2008年を15%下回っている。世界金融危機以前に主に米国と欧州市場でみられたメガ・ディールの再来はまだのようである。

アジア太平洋地域のM&A (対象国別)の2010年の総額は5,740億米ドルであった。前年比33%と世界 速で増加し、世界のM&Aに占める割合は前年の22%から増加して23%となった。件数ベースでは、前年比1%減少し1万2,777件であった。同地域の平均的なディール金額は前年同期比33%拡大し、2007年の平均との差は1%以内に縮まり、2008年を上回った。

2010年のアジア太平洋地域のM&Aは、2009年の後半2四半期が好調だったため、前半2四半期は公表済みディールの減少からスタートしたが、後半2四半期には急速に持ち直した。2010年第4四半期は、金額ベースで2,020億米ドルに達し、2008年第2四半期の1,890億米ドルを抜いて四半期の金額ベースで 高となった。

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国別にみると、繰り返しになるが、2010年は「ターゲット所在国」でみても「バイヤー、ターゲット、セラーいずれかの所在国」でみても、中国がアジア太平洋地域のM&Aをリードした。以下、オーストラリア、日本、香港、インドが続いた。

中国のM&A案件は、素材、工業、不動産セクターが中心であった。中国大のディールは、2010年上半期の中国移動(チャイナモバイル)による上海浦東発展銀行の13%の株式の58億米ドルでの買収契約締結であった。その後、Henan Shuanghui Investment & DevelopmentによるHenan LuoheShuanghui Industrialの資産の50億米ドルでの買収、中国平安保険による43億米ドルでの深セン発展銀行株式31.9%の買収と続いた。

中国、香港、日本の2010年のIN-OUT案件のディール総額は各95%、92%、121%増加し、 高を記録した。

2010年の政府系ファンド(SWF)によるM&Aは増加した。アジア太平洋地域は件数ベースで 大の対象地域となった。2010年にSWFが当事者となった総額90億米ドルに上る15件の買収のうち、8件がアジア、4件が米国、そしてカナダ、ラテンアメリカ、英国がそれぞれ1件であった。

買収案件の大半はエネルギーおよび金融サービスのセクターである。主なディールとして、シンガポール政府投資公社(GIC)による中国国際金融(CICC)への2億9,000万米ドルの投資、テマセックによるインドのGMRエナジーへの2億米ドルの投資、TPGとGICによるインドネシアの石炭会社PTDelta Dunia Makur Tbkへの3億3,100万米ドルの共同出資が挙げられる。

アジア太平洋地域から同地域外へのIN-OUT案件の総額は、非常に低い水準からスタートしたものの結局、前年比でほぼ4倍増となり、2009年はIN-INおよびOUT-IN案件の総額のわずか8%しかなかった案件が2010年には同22%となった。ディール件数の増加率は30%に過ぎないが、平均ディール金額はほぼ3倍となった。

主な地域間ディールには、バーティ・エアテルによる1,070億米ドルでのザイン・アフリカ・リミテッドの買収、李嘉誠氏率いる香港のコンソーシアムによる90億米ドルでの EDFエナジーの英国配電事業部門の買収、さらに中国のエネルギー・セクター数社による米州での買収があった。

アジア太平洋地域のバイヤーが当事者となるクロスボーダー案件の対象企業の多くは、従来は地域内の企業であった。しかし 2010年のアジア太平洋諸国のIN-OUT案件は、地域内他国をターゲットとする案件を含め、金額ベースで2.5倍となった。

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日本企業は、国内市場の縮小と急速に進行する高齢化を背景に、海外市場への進出意欲が強く、進出先のトップは米国で、359件のIN-OUT案件のうち、54件の相手企業が米国企業であった。

日本のM&A案件は主にハイテク、工業、消費財・サービスのセクターで実行された。

香港の2010年のM&Aは、IN-OUT案件に支えられてほぼ倍増した。IN-OUT案件をリードしたのは、長江基建集団、香港電灯集団、李嘉誠基金会、李嘉誠海外基金会で構成されたコンソーシアムによる、フランス政府保有のフランス電力(EDF)の完全子会社、EDFエナジーの英国配電事業の91億米ドルでの買収であった。

その他の主要なディールに、仏アクサによる26億米ドルでのAMPの買収、キャピタランド・チャイナによるOrientOverseas Development Ltd.の22億米ドルでの買収が挙げられる。

ディール件数の多いセクターは、金融、素材、工業であった。

インドのM&Aは全体的に増加した。中でも2010年上半期にバーティ・エアテルによる107億米ドルでのザイン・アフリカ買収があったため、IN-OUT案件の寄与率が 大となった。

IN-INならびにOUT-IN市場では、印石油・ガス会社(国内第4位)のケアン・インディアの取引が双方で金額トップとなった。すなわち、印セサ・ゴアは29億米ドルでケアン株式の20%を取得し、英ベダンタ・リソーシズが66億米ドルで40%の株式を取得した。

インドにおける主なディール対象セクターは、工業、素材、金融セクターであった。33%減少したハイテク・セクターを除けば、2010年のディールは全セクターで増加した。

オーストラリアのM&A案件の大半は、2010年第4四半期のもので、年間ディール総額の51%を占めた。IN-IN案件がほぼ3倍増となり、IN-OUT案件も215%増と非常に好調であった。

主な案件として、AMPとアクサによるアクサ・アジア・パシフィックの共同買収への130億米ドルの提示、および上半期のニュークレスト・マイニングによるパプア・ニューギニアのリヒール・ゴールドの83億米ドルでの買収があった。

ディール件数は素材、金融、エネルギーおよび電力産業で多かった。

日本の2010年のM&Aは、ディール総額・件数ともに減少したが、これは主にIN-IN案件が減少したためである。OUT-IN案件、IN-OUT案件ともに122%も増加したが、IN-INのM&Aの落ち込みを補うには不十分であった。

日本の主なIN-IN案件として、企業再生支援機構による日本航空の資産の81億米ドルでの取得があった。

中国のIN-OUT案件は2010年に95%増加した。上位10件のIN-OUT案件のうち7件がエネルギー・セクターであり、主に中国の資源安全保障を追求する姿勢が原動力になったものと言える。2010年の主ま案件は以下の通り。

• 中国石油化工集団公司がレプソルのブラジル法人の株式40%を71億米ドルで、またシンクルード・カナダの株式9%を47億米ドルで取得。

• 中国海洋石油(CNOOC)はアルゼンチンのブリダスの株式50%を31億米ドルで取得。

• 中国中化集団公司がブラジル・カンポス沖のペレグリノ油田の40%の持分取得のため30億米ドルを提示。

• シノペックがオキシデンタル・アルヘンティナ・エクスプロレーション・アンド・プロダクション買収に25億米ドルを提示。

• Tianjin Xinmao Science & Technology Co., Ltd.がDrakaHolding NVを17億米ドルで買収。

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原料セクターでは、ディール総額が78%増加した。上位には、ニュージーランドのレイノルズ・グループ・ホールディングスによる米パクティブの59億米ドルでの買収が入った。

後に、不動産セクターでは、ディール総額が27%増加した。上位には、オーストラリア不動産業界のウエストフィールド・グループによる95億米ドルでのスピンオフ、グッドマン・トラスト・オーストラリアによる28億米ドルでのINGインダストリアル・ファンドの買収があった。

アジア大洋州のM&A市場をセクター別にみると、金融セクターはディール総額の61%を占め、全セクターのトップに立った。主なディールとして、住友信託銀行と中央三井トラスト・ホールディングスの91億米ドルに上る経営統合、シンガポール取引所の83億米ドルでのASX買収提案があった。

エネルギーならびに電力セクターもディール総額において54%増加した。主なディールには、前述の香港投資家グループによるEDFエナジーの買収、ならびに中国のシノペック・グループによる71億米ドルでのレプソルのブラジル法人の株式40%の取得があった。

Asia Pacific M&A Bulletin

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北アジア中華人民共和国

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2010年の中国のM&Aは記録的な水準に達した。中国バイヤーによるIN-OUT案件は30%以上増加し、IN-IN案件においてもプライベート・エクイティの案件が急増した。

Matthew PhillipsTransactions LeaderChina

経済環境の動向

2010年の中国のGDP成長率は再び2ケタを回復し、10.2%となった。第1、第2四半期のGDP成長率は11%を超えたが、下半期はそれまでの景気刺激策の効果が薄らぎ、景気の過熱を抑制する政策が実施されたことで、経済はやや減速した。

これまで景気刺激策と金融機関の柔軟な貸出条件が中国の堅調な経済成長を支えてきたが、それによる弊害もいくつか生じている。例えば、2010年11月に前年同月比11.7%上昇した食品価格の高騰を主因として、消費者物価指数(CPI)は、2010年11月に5.1%上昇し、2010年通年で3.1%上昇した。

中国政府はインフレ抑制のため、金利を引き上げて貸付需要の減少を図っている。2010年10月には2007年以来の利上げとなる政策金利0.25%の利上げを実施し、12月にも再び0.25%の利上げを行い、2010年末の期間1年の貸出金利は5.81%となった。また、流動性供給を制限するため、銀行に求める自己資本比率を2010年中に6倍に引き上げた。

中国経済は2010年も堅調に成長を続け、景気過熱の回避とインフレ抑制に向けた政策が実施された。

国内バイヤーによるIN-OUT投資、プライベート・エクイティ投資会社、海外機関投資家によるOUT-IN案件などの動きが活発化した結果、中国のM&Aは件数、金額ともに過去 高を記録した。

プライベート・エクイティやベンチャーキャピタルが、特に民間企業への資金供給源として重要な存在であることを、政府や規制当局は認識するに至っている。

中国の新5カ年計画(2011年3月発表予定)に盛り込まれる政策や方針はM&Aの継続を後押しするものとなろう。そ野背景には、海外投資の環境を整備し企業の「走出去(海外進出)」を推進しつつ、国内の企業統合と産業再構築を引き続き目指そうとする政府の意向がある。

この堅調な成長トレンドは、2011年も継続するとみられる。

15Asia Pacific M&A Bulletin

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ところで、中国のGDP成長率において、国内の消費・サービス市場が果たす役割の重要性は一段と高まってきているが、今でも中国GDPのカギを握っているのは輸出である。

2010年は米国や欧州で消費者支出が増加したため、輸出総額は1兆6,000億米ドルとなり、世界的な金融危機のために相対的に減速していた2009年に比べ30%増となった。2008年に比べても10%増となっている。

一方、輸入額は2009年より39%増えたが、その拡大ペースが輸出額よりも速かったため中国の貿易黒字は前年の1,961億米ドルから7%縮小し、1,831億米ドルとなった。2010年12月には、前月・前々月の実績(各271億米ドル、229億米ドル)を踏まえて208億米ドルと予想されていた月間貿易黒字額が、実際には131億米ドルに留まった。

ただ、これは北京のインフレ抑制を視野に入れた為替政策の支援材料となったとは言えそうである。2010年の人民元の対米ドル相場は3.5%上昇し、2011年のアナリスト・コンセンサスは4-6%の上昇を見込んでいる。

これにより、人民元建ての新規貸付は、2009年には9兆6,000億元(1兆4,600億米ドル)であったが、2010年には7兆9,500億元(1兆2,100億米ドル)に低下した。ただし、政府が当年の貸付目標としていた7兆5,000億元(1兆1,400億米ドル)は上回っている。

さらに、不動産バブルの懸念が依然払拭されないことから、政府は住宅価格の抑制策を実施した。2010年4月に住宅ローンの 低頭金比率を引き上げたほか、金利割引を禁止し、不動産開発会社への融資を制限し、また多数の公営住宅を建設予定であると発表した。巷間では2011年より不動産税が導入されるとの話も出ている。

しかしながら、上海の11月の住宅価格は5カ月連続で上昇するなど、これまでのところ上記政策に狙い通りの効果が出ているかどうかは不透明と言える。

金融市場における流動性の低下は、中国の上場企業株式投資に流入する資金の減少ももたらしている。上海総合指数は、2009年12月31日の3,277ポイントから14%下落し、2010年12月31日には2,808ポイントとなった

Year-end 2010

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資源分野以外では、ハイテク企業の買収件数が増加している。これは中国企業のノウハウ取得意欲を反映している。このほか、機械設備メーカーや自動車セクターも「熱心な物色」の対象となっている。

中国が関心を寄せる対外M&Aのターゲットは世界各国に拡がっていますが、特に米国企業を戦略的ターゲットとする案件が目立ってきている。

2009年の対米買収案件は13件であったのに対し、2010年は34件となった。無論、EUやオーストラリア、アフリカおよびアジア諸国も、依然として関心の高い重要なエリアである。

IN-OUT案件国内バイヤーによるIN-OUTのM&Aのトレンドは明瞭である。

2009年に206件、総額220億米ドルだった海外案件は、2010年には251件、総額430億米ドルを記録し、20%以上の伸びを見せた。

海外の優良資産に対する中国の関心の高まりは約4年前から続いており、2010年第4四半期のIN-OUT案件は件数においてやや減速したものの、その堅調なトレンドは2011年以降も衰える兆しはみられない。

中国企業の海外資産買収に対する意欲は高まり続けている。中でも、経済成長の持続に不可欠な天然資源が、依然として重要な買収ターゲットとなっている。

2010年の公表済みIN-OUT案件のうち 大のものが、中国石油化工(シノペック)によるレプソルのブラジル法人の株式40%の71億米ドルでの取得であったことはその証左と言える。

ディールの動向

中国のM&Aは、IN-IN案件、OUT-IN案件、IN-OUT案件のいずれについても、件数および金額ともに過去 高を記録した。

2010年の公表案件は3,319件で、1,700億米ドル超の記録的水準に達し、2009年より件数で14%増、金額で42%増となった。

中国が着実なペースで堅調な経済成長を続けていること、業界再編によって貴重な無機的成長の機会が生じていることが、このM&A急成長の大きな原動力となっている。

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堅調な資本市場を背景に、PEファンドも過去の投資案件のエグジットもしくは上場のチャンスに恵まれている。2010年には46件のエグジットに加え、PEまたはベンチャーキャピタルがらみの新規株式公開(IPO)が204件あった。

ストラテジックバイヤーの復活海外のストラテジックバイヤー(事業会社)が改めて中国に舞い戻る兆しを見せ始めている。OUT-IN案件は25%増加して世界金融危機以前につけた高水準に近づいていた。

しかしながら、中国のM&A市場は今なお国内(IN-IN)案件が中心である。2010年の国内案件は堅実な伸びを見せ、公表済み件数ベースで10%増加(計2,429件)、同金額ベースで32%増加(計1,000億米ドル)となった。

プライベート・エクイティの台頭プライベート・エクイティ(PE)が、中国の民間企業にとっての重要な資金供給源として台頭しつつある。

2010年のPE案件は倍増し、PEが関与する中国企業をターゲットとした案件は公表件数ベースで562件となった1。これらのディールのうち3分の2以上が国内PEにより提案されており、中国PE業界に現地勢力が拡大しつつあることが分かる。

中国のPE業界は急成長を遂げている。将来、PEが中国民間企業の成長資本の重要な提供者となることは間違いなく、中国政府もこれを後押ししている。

資金調達とエグジット2

2010年、PEが中国投資のファンドで調達した資金は180億米ドルで、2009年の57%増となった。調達した資金のうち、46%が人民元建てのファンド向けであった。

1 データ提供:トムソン・ロイターおよびChinaVenture2 データ提供:アジア・ベンチャー・キャピタル・ジャーナル(AVCJ)

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第12次5カ年計画のこれらの目標やその他政策は、いずれもM&Aにとって追い風になるものと考えられる。

IN-OUTディールIN-OUTディールは、資源需要や、先進技術、ノウハウ、知的財産を中国市場に取り込む動き(「技術獲得のための海外進出」)に牽引されて、またさらに政府の「走出去」政策や、中国バイヤーが海外で積み上げた経験と知識に後押しされて、堅調に増加を続けるであろう。

特に化学製品のセクターでは買収意欲が高まり続けており、またPEはその力量を発揮し、事業会社と連携してIN-OUTディールを実施すると思われる。

プライベート・エクイティ主要PEのほとんどが、成長途上の国内PE業界の競争激化に備えようとしているところである。そのため、主要ファンドとして台頭するものもあれば、破綻に陥る新規ファンドも出るであろう。中国でのこの業界の成長と現地化は凄まじい勢いで進んでいると言える。

そのような環境下で、中国政府・規制当局は、中国企業にとって重要な資金の出し手を後押しする新しい規制と構想を多数打ち出し、その成長を支える取組みを続けている。

ストラテジックバイヤー2011年は、国内外のストラテジックバイヤーによるディールも堅調に増加し、2010年のピークの水準を超えるものと予想される。

2011年の海外投資は、ハイテク企業や中国の国内消費者支出の拡大の波に乗れる業種を中心に、金融危機以前の水準まで回復すると予想される。

2011年の見通し

概論世界銀行は、2011年のGDP成長率を10%と予測しており、2011年も2010年同様に堅調な成長が続くと推定される。

2010年10月、中国共産党中央委員会は、第12次5カ年計画について協議を行った。詳細は2011年第1四半期に発表される予定であるが、その内容は「所得格差の是正と中国経済のリバランスへの取組み」、すなわち「投資から消費へ」「都市や沿海部の成長から農村や内陸部の発展(「西部大開発」)へ」と重点を移すものとなるとみられる。

換言すれば、本計画の目的は、より公平な富の再分配と国内消費の拡大、社会的インフラや社会的セーフティネットの改善を優先し、さらに持続可能な経済成長をもたらす環境を創出することにあると言える。また、第11次5カ年計画に含まれていた環境保護や経済の開放と改革プロセスに関する目標については本計画でも踏襲されることとなっている。

世界銀行が作成した概要によれば、本計画には5つの主要目標がある。

• 経済成長パターンの転換。工業からサービス業へ、投資から消費への重点シフト。

• 効率性の押上げ、特に技術革新、および民間セクターの役割の向上と拡大による効率性の押上げ。

• 巧みな都市化と地域開発による持続可能な空間形成。

• 経済における国家の役割の転換。市場が良好に機能している場合には直接的なコントロールを縮小させ、健康や教育のような市場がうまく機能しないことの多い分野においては関与を強化。

• 中国の、世界各国との対話姿勢の転換の考慮。

19Asia Pacific M&A Bulletin

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北アジア香港

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香港経済は、労働市場と消費者支出の改善が期待されており、2010年の回復に引き続き2011年も上昇基調で推移するものと予測される。世界の経済成長のアジアシフト、特に中国へのシフトが、中国と世界各国との仲介役をつとめる香港に、引き続き恩恵をもたらすであろう。

Katy SpoonerTransaction PartnerHong Kong

香港株式市場は、主に欧州ソブリン危機と先進国経済の回復の遅れの影響を受けて、2010年上半期は8%下落し、ハンセン指数は20,218ポイントとなった。下半期は、投資家心理と米国の量的緩和第2弾に支えられて、ハンセン指数の終値は上半期より14%高となり、時価総額は22%増加した。

香港証券取引所(HKSE)は、中国農業銀行(220億米ドル)とAIAグループ(205億米ドル)の2社の大型上場と、本土企業による香港での資金調達の継続を背景に、2010年の世界の新規株式公開(IPO)シーンを席巻した。2010年の1-11月の世界のIPOによる調達金額は総額2,553億米ドルであったたが、そのうち510億米ドルの資金が香港の79件のIPOにより調達された。

しかし、2010年の第3四半期以降は、過剰な市場の乱高下、中国の引き締め政策、2010年に上場した銘柄の多く(主に中国の不動産、飲料、証券セクター)がアンダーパフォームしたことも原因で多数のIPOが取りやめとなり、IPO市場は冷え込んでいる。

2010年の香港不動産市場は、流動性流入、通貨下落、低金利環境を背景に上昇を続けた。居住用不動産価格は2010年10月までに18%上昇し、2010年の第1・2・3四半期ともに1万1,000超の月平均売買件数を維持した。2010年11月、資産インフレが香港の景気悪化を招く恐れがあるとの国際通貨基金の警告を受け、香港政府は不動産バブル阻止のための引き締め措置と追加税制および政策を実施した。

経済環境の動向

2010年の香港経済は堅調に推移し、政府の景気刺激策に地方政府の公的支出の増加と中国からの需要の高まりが重なり、回復を続けた。

実質GDPの成長率は、2010年第1四半期に前年同期比8.2%、第2四半期に同6.5%、第3四半期に同6.8%を記録した。個人消費支出も、労働賃金の上昇と労働市場の改善を受けて、2010年第3四半期は前年同期比5.7%増となった。

香港の物品輸出総額は5四半期連続で減少していたが、2010年の第1四半期は前年同期比21.6%、第2四半期は同20.1%、第3四半期は同20.8%の伸びを記録した。これは主に、地域の堅調な経済を背景に増加したアジア諸国の需要が原因である。

雇用状況は2010年には著しく改善し、2010年の四半期ごとの失業率は2009年を大きく下回った。2008年末の世界金融危機の勃発以降、2009年第3四半期には5.4%の高い数値を記録した失業率であるが、2010年第3四半期は金融危機以来 低の4.2%となった。

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消費財および小売2010年12月、香港上場の青島ビールは、中国のビールメーカー、山東新銀麦啤酒を、香港の新銀麦啤酒(香港)とChina Skill Ltdより2億8,100万米ドルで買収することとした。この買収により、中国 大のビール市場である山東省での青島ビールのマーケットシェアは55%に拡大する見込みである。

香港の多国籍企業Li & Fung Groupは2010年、衣料品や家具、化粧品、スポーツウェア、ジーンズウェアを扱う企業を多数買収した。これらの買収により、Li & Fung Groupは既存事業とのシナジー効果を上げ、消費財のサプライチェーン事業でトップにある地位をさらに強化できるものと思われる。

2010年の主なディールは以下の通り。

金融サービス2010年8月、中国と香港で重複上場している中国商工銀行(ICBC)は、香港上場の子会社、中国商工銀行(アジア)の未保有株27%を買収し非公開会社とすることに同意した。ディール総額は14億米ドル。ICBCはICBCアジアの将来的な事業展開をより柔軟に支援できるよう上場廃止することとした。

2010年10月、ACE Ltd of BermudaはNew York Life Insurance Co.の香港と韓国の生命保険事業を買収した。買収金額は都合約4億2,500万米ドル。この買収によりACEは、既に損害保険事業を順調に展開している香港と韓国の両市場で、新たに生命保険事業へ進出することとなった。

ディールの動向

2010年のディール総数は、2009年の1,185件から1,104件へ減少した。

しかし、2010年10月の香港の長江基建集団、香港電灯集団、李嘉誠基金会、李嘉誠海外基金会からなる投資家グループによる、EDFエナジーの英国配電事業部門の買収(90億米ドル)といった大型I案件を反映し、金額ベースでは、2009年の530億米ドル、2010年には740億米ドルへと増加した。

2010年下半期のディール総額は430億米ドルで、2010年上半期の360億米ドルに比べ40%増加した。

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情報通信2010年5月、香港上場のコングロマリット、ハチソン・ワンポアは、傘下の香港上場の通信会社、ハチソン・テレコミュニケーションズ・インターナショナルの未保有株式32.93%を、総額4億5,000万米ドルのスキーム・オブ・アレンジメントにより買収し、同社を非公開会社とした。

輸送および流通2010年6月、香港上場のスワイヤ―・パシフィックは、香港上場の航空機部品メーカー、香港飛機工程(HAECO)の株式15%を、キャセイパシフィック航空より3億3,600万米ドルで買い増し、その持分を60.96%まで引き上げた。スワイヤ―・パシフィックグループはHAECOを長期戦略的な中核会社と位置付けていた。

2010年8月、香港上場のLi & Fung(LF)は、香港上場のロジスティクスサービス会社、Integrated Distribution Services Groupを、1株当たり21香港ドルの株式公開買付けにより買収する契約を締結した。買収総額は約5億6,300万米ドル。LFは競合企業の買収や供給契約の締結により売上目標200億米ドルの達成を目指しており、本件はその一環として実行された。

不動産2010年1月、中国の産業コングロマリット、上海実業控股有限公司(SIHL)は、香港上場の中国不動産デベロッパー、Neo-China Land Group (Holdings)Limitedの株式45%を完全子会社のNovel Goodを通じて10億米ドルで買収するため、強制買付けを実施した。Neo-Chinaからの相当規模の優良不動産抵当銀行の取得により、SIHLは不動産事業の加速的な拡大を目指している。

2010年2月、シンガポールで不動産およびホスピタリティ事業を営む上場企業、キャピタランドの完全子会社キャピタランド・チャイナ・ホールディングスは、香港の上場企業Orient Overseas (International) Limited (OOIL) より、香港の不動産デベロッパーOrient Overseas Development Ltdの全発行済株式を、22億米ドルで取得した。OOILはこの売却で得た資金を、自社のコア事業であるコンテナ輸送とロジスティクスサービス拡大に振り向けることとしている。

Asia Pacific M&A Bulletin

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エネルギー、ユーティリティ、鉱業2010年11月、香港上場のガス製造販売会社、香港中華煤気は、香港上場の液化石油ガスおよび天然ガス製造販売会社、Towngas China Co Ltd (TCCL)の株式10.21%を、1億1,700万米ドルでEnerchina Holdings Limitedより取得することに合意した。

プライベート・エクイティ2010年4月、CVC Capital Asiaは、香港上場の金融サービス会社Sun Hung Kai & Co.の株式18.96%を取得することに合意した。本案件は、Sun Hung Kai & Co.が中国本土の不動産開発および投資会社Tian An China Investment Co.の株式38.06%を、Sun Hung Kai & Co.の親会社が支配するAllied Properties Ltdに売却することが条件とされた。

2010年9月、Permira Advisersが顧問を務めるプライベート・エクイティ(PE)ファンドとAsia Broadcast Satelliteの経営陣は、世界 速レベルの成長を遂げているプレミアム衛星放送事業者の1つである香港のAsia Broadcast Satelliteの持株会社、Kingsbridge Limitedのマネジメント・バイアウトを完了した。現在のPE投資家であるADMキャピタルとCitigroup Venture Capital International AsiaはPermiraに全持株を売却し、PermiraはABSの大株主となる予定である。本案件の売買金額は推定2億米ドル。

メディアおよびテクノロジー2010年5月、アドバンテッジパートナーズは、香港上場のメディア企業Qin JiaYuan Media Services (QJY)の発行済株式の5%を1株当たり1.33香港ドル、総額2,180万米ドルで取得した。QJYは、アドバンテッジパートナーズから調達した資金を主に、テレビを主眼とするマルチメディア向け広告プラットフォームとマルチメディア事業の開発および業務関連の権利取得や新しいメディアプラットフォームの開発に充当する予定である。

2010年11月、Jardine Pacific Limited およびJardine Matheson Holdings Limited傘下のJardine One Solution(JOS)は、香港上場のIT販売サービス会社、SiSの買収契約に調印した。買収金額は約1億3,000万米ドルで、これによりJOSの事業拡大、および再販業者、ベンダーとの協力関係強化が見込まれる。

2010年12月、オーストラリアのSeek Limitedが過半数の株式を保有する子会社、SeekAsia Limitedは、香港のオンライン求人企業JobsDB Inc.の株式60%を、オンライン求人サービス事業に投資している香港の持株会社JDB Holdings Limitedより、総額2億500万米ドルで取得した。

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PEについて、外国為替上の制約と、オフショア資金を用いた中国投資の困難さから中国で人民元建てPEファンドを組成する事例が目立っており、今後PE会社設立の部隊は香港から中国に大きくシフトするであろう。

だが、中国投資有限責任公司、China Asean Investment Co-operation Fund、ソロス・ファンド・マネジメントなど、香港でプレゼンスを拡大し続け、それを確立しようとするファンドも多数あり、香港はこれからもPEファンドの重要拠点の一つであり続けると考えられる。

投資対象地域の点では、香港PEのアジア重視の姿勢は変わらず、アジア向け投資は2011年に入っても回復基調を維持するであろう。

企業マインドは回復から拡大へとシフトしており、IN-OUTディールが引き続き2011年のM&Aの主な原動力の1つになると予想される。

2011年も、財務状況が健全な企業(香港の堅調な信用市場を活用できる企業を含む)は、事業の発展を求め、急成長している新興市場を中心に戦略的買収を目指すであろう。

今後の見通し

今後、2011年の香港経済は、継続するユーロ圏の金融不安や先進国経済の低迷など、外的な要因から生じる多くの難題に直面すると予想される。

国内要因としては、不動産市場の過熱防止策、2011年5月の法定 低賃金制度の導入、香港ドル安と(賃金および賃貸料の上昇による)事業コストの上昇を原因とする、食品および原油価格の上昇が、香港経済に影響を及ぼすであろう。

それでも、香港経済は消費者支出の拡大、公的支出の増額、中国との密接な関係、米国の量的緩和第2弾が牽引力となって、2011年も上昇基調を維持するものと予測される。

M&A市場についても、資金調達コストの低さと、香港と密接な関係を有する中国企業によるM&Aの増加を受けて、香港のM&A市場は引き続き活況を呈するものと思われます。

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北アジア台湾

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台湾経済は、2010年に劇的な回復を遂げ、2011年も着実に成長すると予測される。市場が堅調に推移すれば、2011年のM&A市場は上向くとみられる。

Peter YuCorporate Finance LeaderTaiwan

政治的側面では、中国・台湾両国の関係が大幅に改善したことにより、2010年には非常に重要な2つの経済協定が調印に至った。

• 金融監督に関する覚書台中間で調印されたこの覚書は、2010年1月15日に発効した。銀行・証券・先物・保険分野の監督における協力体制を主な内容としており、両国が相互に市場参入する際の優遇政策についても定めている。

• 2010年6月締結のECFA台中間の自由貿易協定である両岸経済協力枠組協議(ECFA)により、両国間貿易の関税が撤廃される。本協定は台湾企業には有利に働くとみられる。

経済環境の動向

2010年の台湾のGDP成長率は、好調な輸出と国内需要を受け、9.98%に達するとみられる。2011年は、国内部門の需要が引き続き寄与し、輸出が堅調な成長を続けると予想されることから、GDP成長率は4.51%と予測されている。

2010年における新規株式公開(IPO)および資金調達全般は急速に成長しており、590億台湾ドル (20億米ドル)に達した。このうち、74%が台湾でIPOを実施、または台湾預託証券(TDR)を発行している海外企業である。

海外企業が台湾で株式を上場する機会を設けた結果、台湾は2010年中に高収益企業数社を誘致することに成功し、海外企業12社によるTDR発行、および海外企業7社による台湾でのIPOにより、2010年の調達額は436億台湾ドルとなる見込みである。

これらの企業の一部は中国企業であるが、台湾の投資家が中国国内市場をターゲットにしている企業に関心を持っていることが背景となっている。

27Asia Pacific M&A Bulletin

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テクノロジーセクター大聯大集團(WPG)と友尚集團(Yosun)の合併: アジア 大の集積回路販売会社であるWPGと、同2位のYosunは株式交換による合併を発表した。本合併により収益規模は3,160億台湾ドル(109億米ドル)、アジアでの市場シェアは30%に達し、アジア市場におけるWPG・Yosunの指導的地位は確固たるものとなると言える。

晶元光電(エピスター)による廣鎵光電の持分取得:台湾の発光ダイオード(LED)市場で首位のエピスターは同業の廣鎵光電との資本提携を公表した。エピスターはLEDチップ市場のシェア拡大を積極的に進めており、本提携はその戦略の一環である。同社は2億3,670万米ドル超の株式と現金により廣鎵光電の持分47.88%を取得する予定である。

和碩聯合科技(ペガトロン)と Rih Li:PCおよび周辺機器メーカーの華碩(ASUS)からスピンオフしたペガトロンは、2億2,200万米ドルを上限に中国のRih Li Internationalの株式を取得すると公表した。Rih Liは中国に本社を置くPC部品メーカーSunriseを所有している。ペガトロンは本出資を通じ、ASUSグループの家電向けケーシング部品セクターにおけるプレゼンス向上を目指すこととしている。

ルーエンテックス・グループと南山人寿保険:台湾の複合企業体ルーエンテックス・グループは2011年1月、AIG台湾子会社の南山人寿保険の持分97.57%を21億6,000万米ドルで取得した。同グループは、過去にING傘下の生命保険会社エトナの台湾子会社への投資を通じて保険セクターでのM&A経験があり、監督当局による買収承認もスムーズに進んだ。同グループは、中国市場への参入にAIGの営業認可を活用したいと考えており、南山人寿保険の取得はその布石と位置付けられている。

消費財頂新グループとアサヒビール株式会社: アサヒビールは頂新(ケイマン)ホールディングの持分6.54%を5億2,000万米ドルで取得し、併せ頂新と康師傅控股有限公司の飲料合弁会社に対する持分を頂新に譲渡した。頂新グループは中国・台湾双方で複数の食品関連事業を営み、中国即席麺市場では 大のシェアを有する。アサヒビールは、この取引により投資リスクを 小化しながら中国事業を拡大することを目指している。

ディールの動向

2009年と比較してディール件数が11%増加したにもかかわらず、2010年に公表されたM&Aの総額は248億米ドルから87億米ドルへと65%減少した。これは、IN-IN案件が72%減少したことと、案件が総じて小型化したことに起因している。

OUT-IN案件は金額ベースで40%下落しているが、ディール総数が33%増加した。これには日本のバイヤーによる大型案件数件も含まれている。

IN-OUT案件は、ディール総額、件数の両方で増加した唯一のカテゴリーであった。

2010年の主なディールは以下の通り。

金融セクター群益證券と金鼎證券: 群益證券は同業の金鼎證券(TIS)の持分100%を現金と株式により取得する旨公表した。取得額は約135億台湾ドル(4億2,079万米ドル)。この取引により、台湾第4位の証券会社が誕生する。

28 Year-end 2010

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テクノロジーセクターでは、EMS・ODM・OEMを営む巨大企業が、コストおよびプロダクトデザインにおける競争力を強化すべく、家電製品コンポーネント分野における合併の機会を求めると予想される。また台湾の太陽電池およびLEDの供給会社は、事業の拡大と企業買収計画に必要な資金を調達する機会を引き続き模索するものとみられ、2011年中には、太陽エネルギーおよびLEDセクターにおけるプレゼンスの確立を求める大手企業グループによるM&Aおよび株式投資と共に、資金調達活動も引き続き盛んに実施されると予想される。

また保険業界では、市場参入を目的として、中国において大手現地企業とのジョイントベンチャーを形成する事例が増えるであろう。2010年に台湾の中国人寿保険が中国建設銀行との共同出資により、INGの中国事業を取得したケースはこの傾向を先取りしたものと考える。さらに、外資企業にとっても、一層緊密となった両岸での事業提携は、中国に事業および顧客基盤を有する台湾企業との協力を通じ、中国巨大市場への進出を促すことになろう。この傾向はバイオテクノロジー、食品、飲料からテクノロジーセクターに至るまでの各業種において当てはまると考えられる。

今後の見通し

企業が、高度成長を遂げている中国市場における事業拡大および新規参入を目指していることから、OUT-IN案件はますます活発になるであろう。台湾と中国の間で事業提携が一層強化されたことで近い将来、両岸でのM&Aはさらに増加すると予想される。金融セクターでは、台湾銀行業界は引き続き中国の銀行に対して「少数ながら比較的高い割合の持分」を取得する機会を探り続けていくであろう。

29Asia Pacific M&A Bulletin

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北アジア日本

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2010年のうちに日本の景気停滞は底を打ったとみられるが、日本の経済および政治環境にはかなりの不安定さが残されている。このような状況に円高メリットが加わり、日本の多くの優良企業が成長戦略の一環として海外M&Aに目を向け始めている。

Matthew WybornCorporate Finance LeaderJapan

投資については、中小企業による設備投資は次第に増加に転じているが、大企業はリストラが完了しておらず、追加投資に慎重な姿勢を崩していない。

2010年第3四半期末現在、大企業の設備投資は対前年比13.7%減少し、対外直接投資もこの姿勢を反映して、前年から純額ベースで50.6%減少し460億米ドルとなった。地域別にみると、対北米投資は53.0%、対欧州投資は21.3%、対アジア投資は21.1%減少した。

一方、対米ドルおよび対ユーロでの円高が足枷となり、対内投資は2009年第3四半期から85.4%減少し、わずか18億米ドルに留まった。

ドル円相場は、2010年の始値93.05円から、同年11月には80.22円をつけ、この期間に13.8%の円高が進行した。円はユーロに対しても2010年を通して円高基調にあり、年末の終値は1ユーロが108.29円の水準となった。

政府および日本銀行は9月に単独為替介入を実施したものの、円高阻止にはつながらなかった。

経済環境の動向

日本経済は2010年に底を打ったと思われる。

実質国内総生産は、2009年が対前年比マイナス5%だったのに対し、2010年は2-3%のレンジで対前年比プラスに転じると予想されている。

貿易面でも、2010年10月末現在の累計貿易量は、輸出が前年同期比7.8%、輸入が同8.7%といずれも増加した。これは世界的な景気回復によるものであるが、2009年における30%超の減少を補うには至らなかった。

民間セクターは、海外市場における景気回復、さらに企業再編努力の成果により増収増益となった。財務省によれば、2010年の第1四半期から第3四半期までの期間に全産業が売上および経常利益のいずれにおいても増加し、2010年の第3四半期には、売上が対前年比6.5%増、経常利益が対前年比54.1%と急増した。

セクター別にみると、石油および石炭、鉄鋼、製造機械、輸送機器、電気機器といったセクターの決算は大幅に改善したが、政府が、環境配慮型の機械製品の推進に対する補助金を廃止または縮小する方針を公表したこともあり、2011年には後者の2セクターでは減速するものと見込まれる。

31Asia Pacific M&A Bulletin

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日本に対するOUT-IN案件の状況変化は、2010年11月末現在の(香港を含む)中国によるOUT-IN案件が36件であったことに反映されている。

レコフM&Aデータベースによれば、1996年以降で初めて、米国はM&Aによる対日投資のトップの座を中国・香港に明け渡した。中でも、日本の繊維メーカー、レナウンに対する中国の山東如意科技集団有限公司による資本参加はOUT-IN市場に大きな衝撃を与え、成長著しい中国企業が日本の歴史ある業界における有名ブランドへのアクセスを獲得したという点で、象徴的な出来事であった。

一方、日本からのIN-OUT案件市場は好転した。2010年のIN-OUT案件は件数ベースで50.2%増の359件、総額は264億米ドルとなった。

2010年の日本企業による上位30案件のうち、日本の買収企業によるIN-OUT案件が12件を占めた。これは、財務状況の健全な企業が、国内市場の低迷もあって、世界市場への進出意欲を持っていることを示している。

昨年のAsia Pacific M&A Bulletinで予測した通り、IN-OUT M&A案件は、食品・飲料、医薬品、ヘルスケア、化学製品、ICT、鉱業、エネルギー、金融サービスといったセクターで非常に活発であった。

相手国別でみると、米国は今もなおも重要な投資先であり、IN-OUT案件全体の約30%を占めている。もっとも、レコフによれば、中国に対するIN-OUT案件も増加しており、2009年の29件に対し2010年11月時点のディールは44件に増加した。

ディールの動向

停滞状態の国内市場投資に対する投資家の慎重な姿勢を反映し、2010年のM&Aはディール総数が前年同期比14.4%減の2,128件、ディール総額は前年同期比28.1%減の731億米ドルとなった。

この数値には、総額119億米ドルのOUT-IN案件176件が含まれており、件数全体の8.3%、ディール総額の16.2%を占めている。

公表ディール額が10億米ドル超の案件は、OUT-IN案件が2件およびIN-IN案件が11件であった。

セクター別にみると、情報通信技術(ICT)、サービス、卸売・小売、機械・電気機械のディール件数上位4業種が全体の60%を占めた。

株価については、円高に加えて、政治の不安定さが上値を押さえ、民間セクターにおける実質的な増収増益が株価に十分反映されない展開となった。日経平均は、2010年1月に10,609円で始まり、8月には8,796円に下落し、年末の終値は10,228円となった。

短期および長期プライムレートを含む金利は、継続的に上昇すると見込まれていた年初の予想に反し、景気停滞の影響により昨年と同水準に留まり、日本銀行の基準割引率および基準貸付利率は、0.3%に据え置かれたままとなっている。

株式および債券市場を通じた資金調達は昨年よりも低調で、株式は2010年10月末までの累計発行額ベースで前年比7.9%減、債券は2010年11月末までで同18.5%減となっている。

32 Year-end 2010

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情報・通信・テクノロジー(ICT)• 住友商事とKDDIは、日本のケーブルテレビ事業 大手ジュピターテレコムの持分を、株主であるリバティ・グローバルから各々12.61%、31.1%取得した。

• 日本電信電話(NTT)は、ITサービス会社ディメンション・データの全株式を取得することにより、南アフリカ市場へ参入を果たした。このディール総額は31億米ドルであった。

• NTTデータは、米国を拠点とするITサービス会社キーン・インターナショナルを12億米ドルで買収すると発表した。キーン・インターナショナルは、米国内に幅広く優良顧客を抱えている。

鉱業・エネルギー• 電力会社および重工業会社13社で構成される投資家コンソーシアムは、核燃料供給会社である日本原燃が核燃料再処理工場の設備投資費用調達のために発行した新株を48億米ドルで引き受けた。

• 三井物産と三井海洋開発のジョイントベンチャーである三井E&P USAは、アナダルコ・ペトロリアムからマーセラス・シェール・エリアの天然ガス資源の持分32.5%を取得した。このディールは、株式取得コストと投資コミットメントから構成されており、総額は約40億米ドルであった。

• 住友商事は、ブラジルのウジミナス・デ・ミナス・ジェライスの鉄鉱山子会社ミネラソン・ウジミナスの持分30%を、19億米ドルで取得することに合意した。

2010年の主なディールは以下の通り。

金融サービス• 三菱東京UFJ銀行は、ロイヤル・バンク・オブ・スコットランドからEMEA(ヨーロッパ・中東・アフリカ)における38億英ポンド相当のプロジェクトファイナンス資産のポートフォリオを取得することに合意した。

• みずほフィナンシャルグループは、バンク・オブ・アメリカから5億米ドルで米国を拠点とする資産運用会社ブラックロックの2%持分の取得することに合意した。

• 大和証券グループの大和証券キャピタル・マーケッツは、ベルギーの投資顧問サービス会社KBCグループの転換社債型新株予約権付社債(CB)部門およびエクイティ・デリバティブ部門の事業を7億9,740万ユーロで買収した。

• 損害保険ジャパンは、トルコの保険会社フィバシゴルタを持株会社から3億4,290万米ドルで買収した。さらに同社は、インドのユニバーサルソンポおよびベトナムのユナイテッド・インシュアランス・カンパニー・オブ・ベトナムの2社に対する出資割合を、各々26%から49%、24.2%から48.4%に引き上げた。

• 三井住友銀行は、インドのコタック・マヒンドラ銀行の普通株式を2億9,420万米ドルで取得することに合意した。三井住友海上火災保険はマレーシアの保険グループ、ホンリョンとの生損保事業における戦略的提携を目的として、同社の持分30%の取得契約を締結した。

33Asia Pacific M&A Bulletin

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このほかPEセクターでの出来事としては、日本政策投資銀行、三菱東京UFJ銀行、三井住友銀行、三菱商事といった日本の主要金融機関・投資家による事業再生マネジメント会社「ジャパン・インダストリアル・ソリューションズ(JIS)」の設立(2010年9月)が挙げられる。

JISは、事業再生サービスを主に中小企業の顧客向けに展開することを目的としており、ドイツ銀行およびみずほコーポレート銀行も出資する計画を公表している。

日本のメガバンクは既に自行のファンドによる事業再生ビジネスを営んでいるが、今回の設立は、大型ファンドを共同で運用する初めての取組みであり、運用資産は 大1,000億円に達すると報じられている。

一方、INCJは、「次世代産業の創出を促進するために『オープンイノベーション』を通じて財務・技術・経営における支援を提供すること」を目的として、2009年に設立された機構である。

INCJは、将来性の高い中小企業に対する5件の投資案件を公表している。具体的には、アネロファーマ・サイエンス(新薬開発サービス)、日本インター(半導体ユニット製造)、エナックス(リチウムイオン二次電池製造)、ゼファー(発電機製造)、アルプス電気(電子部品製造)などである。

さらにINCJは、海外のインフラ・マネジメント事業に参入する企業に対する支援実績もあり、5月にはINCJ、三菱商事、マニラウォーター、日揮で構成されるコンソーシアムはがオーストラリアの水処理企業ユナイテッド・ユーティリティーズ・オーストラリアを2億320万米ドルで買収すると発表した。11月には、INCJと丸紅が、チリの水事業会社アグアス・ヌエバスの全株式を4億9,830万米ドルでサンタンデール・インフラファンドIIから取得する予定であると発表している。

その他のセクター• アステラス製薬は、抗がん剤ポートフォリオ強化のため、米国を拠点とするOSIファーマシューティカルズを40億米ドルで買収した。

• 日本 大の化粧品メーカー、資生堂は米国の化粧品・スキンケアおよびボディケア製品の製造卸売会社、ベアエッセンシャルを18億米ドルで買収した。

• キリン・ホールディングスは、シンガポールを拠点とする飲料メーカー、フレイザー・アンド・ニーヴの持分14.7%を、テマセク・ホールディングスの投資子会社から9億7,460万米ドルで取得した。

• ダイムラーは、ルノーから日産の持分3.2%を7億7,840万米ドルで取得した。

プライベート・エクイティ・ファンドと政府系ファンドプライベート・エクイティ(PE)ファンドならびに政府系ファンドが関与した案件は、2010年11月末現在で175件、前年同期比7.4%減少した。

これには、海外多国籍PE ファンドによるOUT-IN案件が25件、日本国内ファンドによるIN-OUT案件が14件含まれており、このうち半分が中国またはベトナムで完了したディールであった。ディールの規模については、100億円を超えた案件はわずか14件であった。

注目される政府系ファンドには、産業再生支援機構(ETIC)および産業革新機構(INCJ)の2機構がある。

2010年1月、ETICは経営破綻した日本航空の事業再生手続きを主導するとの決定を行い、日本航空の資産を82億米ドルで取得した。この資産には、日本政策投資銀行と交渉中の債務免除23億米ドルが織り込まれている。

34 Year-end 2010

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しかし、このような税制および通貨政策は、「政権に対する国民の信認投票」とされる2011年4月の統一地方選挙実施後に変更される可能性がある。

さらに、民主党政権が支持してきた政策には、労働者派遣法改正、2020年を目標とした温室効果ガス排出量の1990年水準比25%削減、日本郵政の民営化凍結などがあるが、政府は、これらの政策を変更せざるを得ない局面に立たされる可能性がある。

日本のM&A市場については、近い将来にリーマンショック以前の水準まで回復する兆候は見られない。

しかし、前述したセクターの日本企業は、海外市場にフォーカスしつつ買収ターゲットを探し続けることとなろう。

さらに、中国・香港ならびに他のアジア諸国のバイヤーが、有名ブランドや先進技術を持つ企業との資本提携や買収を通じ、日本でのビジネスチャンスを追求するものと予想される。

今後の見通し 1

エコノミスト・コンセンサスでは、2011年の日本経済は若干改善し、実質GDP成長率は約1.0%になると予想されている。

もっとも、企業収益および企業の景況感は、民主党政権の組織的脆弱性から生じた政治的不安定さの影響から、ある程度は伸び悩むこととなろう。

2010年12月に閣議決定された2011年度税制改革大綱には法人税の5%引き下げが提案される一方で、地球温暖化対策税の導入や租税特別措置の撤廃が含まれている。通貨面では、民主党政権は、円安誘導を目的とした単独・協調いずれの為替市場介入も実施しない方針である。

1 本稿は2011年3月11日の東日本大震災以前に執筆されたものである。

Asia Pacific M&A Bulletin

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北アジア大韓民国

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国内の市場飽和に加え、堅調な経済成長と安定的な為替相場が韓国のクロスボーダーのM&A市場を活性化させた1年となった。さらに、グリーンテクノロジーセクターに対する政府の産業奨励策およびソウルで開催されたG20サミットを契機に韓国への関心が高まったこともあり、2011年もM&Aディールは高水準に保たれるものと期待される。

Seung-Woo RyuDeal Business Managing PartnerKorea

好調な輸出は企業の収益率上昇、設備投資・生産活動・給与水準の上昇をもたらし、さらに給与水準の上昇は個人消費に波及して、2010年の産業界は予想以上の好業績となった。

2010年は製造業がプラス成長を示したのに対し、国内金融市場にとっては大波乱の年となり、海外からの多数のマイナス要因による大幅なボラティリティに苦しめられた。

2010年1月に南ヨーロッパで公的債務危機が生じるとの見通しが出たことは前途多難な1年の始まりを意味し、2010年5月のギリシア救済問題に端を発する危機の拡大は韓国金融市場にさらなる影響を与えた。

その後欧州全体の危機への懸念は幾分解消されたものの、スペインおよびポルトガルの財政健全性に対する新たな懸念、11月のアイルランド救済により、世界的不況の再発可能性に対する不安も相まって、韓国金融市場は度重なる乱高下に見舞われることとなった。

経済環境の動向

2009年の韓国経済は世界的不況を乗り切りつつも足踏み状態であったが、2010年には成長率5.9%(2009年は0.2%)という大幅な回復を示した。

ただし、業界セクター全体ではまだら模様といったところであり、一部のセクターが他のセクターより突出して好業績をあげている状況である。

韓国政府は2009年の経済成長を刺激するうえで主要な役割を果たしたが、2010年に入り政府による経済刺激策はペースダウンしたため、民間部門が景気を下支えする形となった。

金融危機の影響を受けた米国およびEU諸国からの需要減少により、韓国の輸出は、2009年に13.9%もの大幅な減少となったが、2010年に経済成長の主要原動力としての機能を回復し、第3四半期には前年同期比30.5%もの大幅な増加を遂げた。

特に自動車セクターでは際立った高成長を見せたが、その背景には同じ東アジア地域の競合企業が信頼を揺るがすブランド問題に直面したこともあった。

37Asia Pacific M&A Bulletin

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ディールの動向

2010年のM&Aディール総額は、前年同期比8%減少して447億米ドルとなり、ディール総数も1,268件から1,023件へと19%減少した。

マーケット別では、OUT-IN案件が37億米ドルと横ばい、IN-IN案件は22%減の273億米ドルとなった一方、IN-OUT案件は42%増という驚異的な増加を記録し、総額では137億米ドルに達した。

IN-OUT案件の増加は、2009年のウォン安を背景に企業が社内に現金を積み増したことによるものであり、IN-IN案件の減少はリストラクチャリングを必要とするターゲット企業が減少の一途を辿ったことによるものである。

ディール件数についても、ディール総数が16%減少したOUT-IN案件を除き、同様の推移となった。

2010年に公表された代表的なディールは以下の通り。

IN-IN案件• 2月、ロッテ百貨店は Lotte Squareを通じて1兆3,000億ウォン(12億米ドル)でGSリテールのスーパー・百貨店部門を取得した。GSリテールはGSホールディングスの子会社で、ソウルに本拠地を有するコンビニエンスストアの所有・運営会社ある。

• 11月、ハナ・フィナンシャル・グループは韓国外換銀行(KEB)の株式の51.02%をローンスター・ファンズから4兆7,000億ウォン(41億米ドル)で現金により取得することに合意した。このディールは、金融セクター内の整理統合事例の一つとなっている。

株式市場は、KOSPI指数(韓国総合株価指数)が通年で19%上昇(主に下半期)する一方、KOSDAQは強気なKOSPI指数の煽りを受けて3%下落するなど、強弱まちまちの結果となった。

2010年の韓国ウォン相場は乱高下を辛うじて回避し、前年と比較して非常に安定的に推移した。年明けの対米ドルレートは1,139ウォンであったが、緩やかに下落し、6月には1米ドル1,214ウォンの 安値をつけた。その後、再び韓国ウォン高に転じ、年末の終値は1米ドル1,148ウォンであった。

2010年末には、(米国を含む)主要先進国が当面、低金利および量的緩和政策を維持する兆候が強まったことから、流動性が世界レベルで引き続き増加するとの期待が大きくなった。韓国金融市場では株式市場が年末から再び上昇し始めるなど、かかる期待感が反映されつつある。

インフレに関し、韓国銀行(BOK)は2010年7月、過去17カ月間2%に据え置いていた基準金利を0.25%引き上げたが、農産物の不作による食料品価格の急上昇からインフレ懸念が高まったため、2010年11月および2011年1月に各0.25%の利上げを実施した。2010年の消費者物価指数(CPI)上昇率は2.9%に留まったものの、商品別にみると食料品価格は21.3%、ガソリン価格は8%上昇しており、一般消費者にとって厳しい年であったと言える。

38 Year-end 2010

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• 7月、韓国の湖南石油化学は、クアラルンプールを本拠地とする化学製品メーカー、タイタン・ケミカルの72.32%の持分を29億マレーシア・リンギット(9億1,830万米ドル)で取得した。直後に、残りの持分27.68%についても株式公開買付の開始を計画した。湖南石油化学はマレーシア第1位の化学製品メーカーの取得により規模の経済と市場シェアを獲得し、世界的な主要プレイヤーとなるという同社の戦略に資するものとなろう。

• このほかの主要なディールは鉱物資源の獲得にかかるもので、またドイツおよびオーストラリアの優良不動産に係る大型案件も数件あった。

IN-OUT案件• 2月、韓国ガス公社は、カルガリーを本拠地とするガス採掘・生産会社であるエンカーナのガス田3カ所の50%持分を12億カナダドル(11億米ドル)で取得する意向を表明した。このディールは、資源の乏しい韓国が自国にない資源を海外に求めていくという戦略に合致したものと言える。

• 7月、韓国石油公社 (KNOC)は、アバディーンを本拠地とするガス探査・生産会社であるデナ・ペトロリアムの全株式を17億英ポンド(26億米ドル)の現金で取得した。近年KNOCは、韓国経済の安定のために資源を確保しようと積極的に活動している。

• Vogo Investment Fundは、ソウルを本拠地とする生命保険会社Tong Yang Life Insuranceの株式の47.2%を、Tong Yang Financial Services Corp、Tong Yang Securities Inc ならびにTong Yang Venture Capital Corpから9,003億ウォン(7億9,590万米ドル)で相対取引により取得することに合意した。

• このほかの主要ディールは、主として世界金融危機の影響を受けた企業の整理統合に係るものであった。

OUT-IN案件• 3月、スウェーデンのエリクソンは、ノーテル・ネットワークスからLGノーテルの株式の50%プラス1株を2,700億ウォン(2億4,200万米ドル)で現金により取得した。LGノーテルは、ソウルを本拠地とする電気通信機器・製品の製造および卸売会社で、ノーテルとLG エレクトロニクスの同額出資の合弁会社である。

• 11月、Entekhab Industrial Groupは、電子機器メーカー大宇電子の全株式を5,778億ウォン(5億1,830万米ドル)で取得することに合意した。Entekhabは大宇電子とOEM取引があった。

• 11月、インドのマヒンドラ・マヒンドラは、自動車メーカー・双竜自動車の株式の70%を総額5,225億ウォン(4億6,400万米ドル)で取得することに合意した。双龍自動車は、1997年のアジア金融危機の際に破綻して以降、債権者による経営が行われていた。

39Asia Pacific M&A Bulletin

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2011年のウォンの対米ドル年間平均為替レートは、2010年の対米ドル1,153ウォンから1,080ウォンへと下落すると予測されている。年間トレンドとしては、2011年上半期は対米ドル1,070ウォンへと急落し、その後2011年下半期末には下落幅を縮小しつつ対米ドル1,050の水準になると予測されている。上半期におけるウォン高米ドル安は、米国の量的緩和政策の継続、および徐々に進行する中国人民元高を織り込んだものであるが、このようなトレンドの場合、輸入品への需要が増加する一方、韓国輸出市場が減速する恐れがある。

主要貿易相手国との自由貿易協定(FTAs)締結に対する継続的な努力は、さらなる経済成長につながると期待されている。特に、2010年12月の韓米間FTA再交渉は、 終的に批准に至れば両国間貿易の大幅増をもたらすに違いないと推定される。このほか、カナダ、メキシコ、オーストラリア、ニュージーランド、コロンビア、トルコとのFTAsが現在交渉中であり、日本、中国、ロシア、イスラエル、メルコスル(南米南部共同市場)とのFTAs締結も検討している。

M&Aセクターは引き続き活発に推移すると予想される。ウォン高に国内市場の飽和状態が加わってIN-OUT案件への需要が高まるであろう。また環境にやさしいクリーンなテクノロジーへの政府の奨励策を背景に「技術の争奪戦」も激化すると考えられる。

2010年11月、ソウルでG20サミットが開催され、韓国では、これを機会にOUT-IN取引への関心が高まり、韓国に大きな経済的利益がもたらされるとの期待が高まっている。

しかし、12月の北朝鮮による武力攻撃後、韓国政府は、海外からの直接投資(FDI)へのネガティブ影響にも鑑みながら、今後の対北朝鮮政策も検討せざるを得ない状況にあると言える。

今後の見通し

韓国は2010年に予想を上回る大幅な成長を遂げた。2011年の成長率は好況であったと言える2010年の5.9%から3.8%へとペースダウンすると予測されるものの、引き続き2011年も成長を維持すると期待されている。

成長のペースダウンの主因は、景気回復の遅れによる輸出の伸びの低迷や、輸出市場の二番底のリスクが挙げられる。さらに、2010年の設備投資が多額に上ったため、2011年の投資は減少すると予想されている。

好調だった2010年に続いて、2011年は半導体や自動車といった主要輸出品目の海外向け出荷が急減速する可能性があるため、輸出成長率は大幅に減少すると予測されている。

また、2011年は韓国ウォン高となる可能性があり、それが輸出増加の悪材料となる恐れがある。

ITおよび自動車分野における設備投資は、2010年には輸出増加と並んで急増を遂げたが、2011年は、前年の相当規模の設備投資実績に加え輸出需要が減少するとの見通しから、これ以上の追加投資は不要と認識されており、結果、設備投資額は先細りすると予測される。

建設投資は、不動産市場の縮小が今後も続くこと、さらにインフラなど社会資本に対する政府の予算増強能力に限界があることを受けて、今後も停滞が続く模様である。

国内消費は、回復傾向にはあるものの、輸出および投資の減速を十分に補うだけの成長は見込み難く、2010年の消費成長力を2011年まで持続できない可能性がある。

40 Year-end 2010

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南・東南アジアインド

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堅調な2010年の回復後、経済成長は慎重な動き

Sanjeev KrishanTransaction Executive DirectorIndia

食品価格と国際原油価格が上昇しているため、当面、インフレが収束する見込みはなく、政府の頭痛の種となっている。政府は利上げによりこの問題に対処しているが、その反動により2011年の成長率への短期的な悪影響が懸念されている。

当年度、390億米ドルに上った海外機関投資家(FII)からの流入資金に支えられてきたインド株式市場は、ここ数カ月間不安定さが増し、2009年3月以来140%に達した上昇分の一部が消失した。しかし、市場は活況を呈しており、インド企業に潤沢な資金調達のチャンスを提供している。

インド政府も財政立て直しの一環として市場の好調に乗じて公営企業の持分を多数売却し、2011年にはさらに多くの投資資金を回収するものと予想される。

2010年は、FIIの急増が市場を支えると同時にインド・ルピーを対米ドルで約10%押し上げた。ただし、海外直接投資(FDI)について、2010年1月から10月までのインドへの資金流入は総額174億米ドルで、前年同期の238億米ドルから27%の減少となった。

経済環境の動向

2010-11年度(事業年度は3月31日に終了)上半期のインド経済は、約9%の成長率を達成し、前年同期の7.5%を大幅に上回る好調な成績を収めた。

農業、工業、サービスの主要3業種はすべて堅調であったが、このパフォーマンスに大きく貢献したのが、製造業の目覚ましい成長と農業セクターの改善である。2009-10年度上半期の成長率が1.7%と低調であった農業セクターは、2010-11年度上半期にモンスーンに助けられて良好な収穫量を得、3%を超える成長率を記録した。

工業セクターの成長率は、前年上半期の6.3%から11.4%へ好転した製造業と、前年上半期の8.7%から9.5%へ上昇した建設セクターの成長率が原動力となった。

2010-11年度上半期のサービスセクターはホテル、輸送、通信セクターが好調で、11.5%の成長率を達成した。

昨年頃より、インフレがインド経済の主な懸念材料となっている。2009年後半以来、インフレ率は右上がりとなっており、2009年8月のマイナス1%から同年11月にはプラス4.8%まで上昇した。

43Asia Pacific M&A Bulletin

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• ラジャスタン銀行とICICI銀行は、約6億800万米ドルの株式交換により、合併した。

• アクシス銀行の完全子会社であるAxis Securities & Sales Ltdは、エナム・セキュリティーズの金融サービス事業部門(投資銀行、法人株式、個人株式、金融商品販売、ノンバンク金融)を約4億4,600万米ドルで買収した。

2009年にほとんどゼロまで落ち込んだIN-OUT案件は、2010年にはディール総額の40%を超え、199件で256億米ドルに達した。2010年のインド企業のIN-OUT案件計画には、次の2つの主要テーマがあった。

• インドの製造業、電力業界への原材料・原料の供給確保ならびにエネルギー安全保障ニーズの充足。

• 新たな、まだ注目されていない新興国市場、特にインドの消費材ブランドに対する選好・ビジネスチャンスがあるアフリカや中東市場への参入。

2010年のIN-IN案件の総額は181億米ドルで、2009年の126億米ドルから40%増加した。ディール件数は、2009年の879件から2010年には771件まで減少したが、IN-IN案件の総額増加がディール全体の総額を押し上げた。

世界経済が回復基調にあること、リスク選好度の高まり、国内企業のバリュエーションの安定がIN-IN案件に対する選好度を好転させていると言える。

当期の主なIN-IN案件は、以下の通り。

• GTLインフラの特別目的会社であるChennai Network Infrastructure Ltdは、通信サービスプロバイダーのエアセルから、携帯基地局タワー(1万7,500本)の事業を、17億米ドルで取得した。

• リライアンス・パワーと石油・ガス探索生産会社のリライアンス・ナチュラル・リソーシズは、約15億米ドルの株式交換により合併した。

• リライアンス・インダストリーズは、インターネット・ブロードバンド・サービス・プロバイダーのインフォテル・ブロードバンド・サービシズの株式の95%を約10億米ドルで取得した。

ディールの動向

インド経済が回復基調となる中、2010年のディール動向は大幅に回復し、ディール総額は2007年の記録的な高水準に並んだ。

件数は、2009年の1,254件に対し2010年は1,243件とほぼ同水準に留まったが、総額では2009年の210億6,000万米ドルから2010年には611億4,000万米ドルと200%の大幅増となった。

ディール総額が急増した要因として、バーティ・エアテルによる107億米ドルでのクエートの企業グループ、ザインのアフリカの通信資産買収を含む数件の巨大案件があった。

世界的なバリュエーションの低迷、資本市場へのアクセス、インド企業とのシナジーがある資産の存在、インド企業の他の新興国市場への事業拡大意欲および天然資源確保に向けた意欲などあらゆる要因が重なり合って、M&Aの成長の原動力となった。

セクター別では、石油・ガス、エネルギー、通信、金属、鉱業が総額上位を占め、右セクターで2010年のM&Aのディール総額の50%を超えた。

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• インドのシュリー・レヌカ・シュガーズは、ブラジルの砂糖・エタノールのメーカーであるEquipav SA Acucar e Alcoolの株式の50.79%を約3億3,100万米ドルで正式に取得した。

インド企業が資産拡大とポートフォリオ拡充のために海外企業を探索しているのと同時に、海外企業は引き続き、成長のベースとなるインドに注目している。

2010年のインドへのOUT-IN案件は273件で約174億米ドルに達し、2009年の252件、約73億米ドルの2倍を超えた。その背景としては、インド経済の堅調な将来見通しと、欧米の成長率の低迷が指摘しうる。特に、消費財、サービス、ヘルスケア・セクターが牽引するインド国内消費部門の動きはディールメーカーや投資家にとって魅力的であろう。

注目すべきOUT-IN案件は以下の通り。

• 英ベダンタ・リソーシズは、石油・ガス探索・生産会社のケアン・インディアの株式の40%を約65億米ドルで取得した。

• アボット・ラボラトリーズは、処方薬製造・卸売会社のピラマル・ヘルスケアのヘルスケア・ソリューションズ部門を約37億米ドルで買収した。

• 日本のJFEホールディングスの完全子会社、JFEスチールは、鉄鋼製造卸売会社であるJSWスチールの株式の14.61%を約10億米ドルで取得した。

• 英レキット・ベンキーザーは、ヘルスケア製品製造卸売会社のパラス・ファーマシューティカルズの全株式を約7億2,200万米ドルで取得した。

• サハラ・インディア・パリワールの子会社、Aamby Valley Ltdは、ロイヤルバンク・オブ・スコットランド・グループからロンドンのホテルオーナーであり運営会社のグロブナーハウスホテルを約7億2,500万米ドルで買収した。

• ジンダル・スチール&パワーは、オマーンの鉄鋼メーカー、シャディード・アイアン&スチールを約4億6,400万米ドルで買収することに合意した。

• ゴドレジ・コンシューマー・プロダクツは、アルゼンチンのヘアケア製品製造卸売会社であるArgencosSAの全株式を取得した。

• インドのゴドレジ・コンシューマー・プロダクツは、ナイジェリアの化粧品ブランドであるTura International Ltdの全株式をローナミード・グループから取得した。

その特筆すべき例として、以下の案件が挙げられる。

• 国営石油会社ONGC、ICO、オイル・インディアの三社はスペインのレプソルYPF、マレーシアのペトロナスと共にベネズエラに原油鉱区開発会社を48億米ドルで設立した。

• ヒンドゥスタン・ジンクはアングロ・アメリカンから約7億米ドルでナミビアのSkorpion Zinc Mineを買収した。

• リライアンス・エナジーは、約3億9,100万米ドルでシェールガス資産を買収した。

当年度中に公表されたその他の重要なIN-OUT案件は以下の通り。

• ヒンドゥージャ・グループは、欧州でのウェルスマネジメント事業の拡張を目指し、ルクセンブルグのKBL European Private Bankers SAを約16億9,000万米ドルで買収した。

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• セコイア・キャピタルは、ノンバンク金融会社のManappuram General Finance & Leasingからのエグジットで、ほぼ5倍のリターンを獲得した。セコイア・キャピタルは2007年初頭に、後者の株式の約14%を1,400万米ドルで取得した。今回、セコイアは公開市場で保有全株式を7,000万米ドルで売却した。

• ICICIベンチャーは、水および排水処理のエンジニアリングサービス会社、VAテック・ワバッグの持分の一部のエグジットを実施した。ICICIベンチャーは、後者の残存持分14.6%のうち10%を売却し、約7.5倍の総リターンを獲得した。

• 非常に際立った事例として、パラス・ファーマシューティカルズの70%の株式を保有していたPE会社のアクティスとセコイアは、レキット・ベンキーザーへの7億2,200万米ドルに上る株式の戦略的売却により、約5億米ドルを獲得した。このPE2社は、3.5倍から4倍の総リターンを得たと推定される。

• テマセック・ホールディングスの完全子会社、Claymore Investments (Mauritius) Pte Ltdは、電力会社GMRエナジーの少数株式(株式数は公表されていません)を推定2億米ドルで取得することに合意した。

• シンガポール政府財務省傘下のテマセック・ホールディングスは、証券・商品取引サービスプロバイダーであるインド・ナショナル証券取引所の株式の5%を取得した。

2010年はPEファンドによるエグジットが記録的水準に達した年であったが、その大半は株式公開によるものであった。

2010年の主な大型エグジットは以下の通り。

• PEファンドのChrysCapitalはインフォシスの株式4億米ドル分を売却した。これにより、PEは30カ月にも満たない保有期間で約1億7,500万米ドルの投資の2倍を超える額を回収した。

2008年ならびに2009年には、世界的な金融危機を背景に、投資家が引き続き既存ポートフォリオに注目し、投資対象をより慎重に選択するようになったことから、プライベート・エクィティ(PE)による投資は減速した。

しかし、2009年に約40億米ドルだったPEのディールは、2010年に60億米ドルまで増えた。2010年中のPE投資の対象セクターは、インフラとエネルギーであった。

注目すべきPE案件は以下の通り。

• 米ブラックストーン・グループは、ニューデリーに本社を置くコジェネプラントのオーナー兼運営会社であるMoser Baer Projects Pvt Ltdの少数株式(株式数は非公表)を約3億米ドルで取得した。

• コールバーグ・クラビス・ロバーツ(KKR)、Standard Chartered Private Equity Ltd、ニュー・シルク・ルート・パートナーズで構成される投資家グループは、投資持株会社であるCoffee Day Holdings Co. Pvt Ltdの株式の25%を約2億1,300万米ドルで取得した。

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インド政府は、2010年に新買付規制法案を策定し、公開買付(Open Offer)を実施すべき株式取得の 低基準を15%から25%へ引き上げること、また同買付において買付者が少数株主から強制的に追加取得すべき持分割合を20%から100%へ広げることなどを提案中である。

国内企業の株式取得にかかる銀行借入に制限があることから、この法改正案は(潤沢な資金を有する)海外投資家には有利に働くと思われる。

この法案成立とは別に、政府はFDI、特に保険、複数ブランドを扱う小売業および防衛セクターに関する多くの政策決定も行う見込みで、その結果、インドにおけるM&Aはさらに活発化すると予想される。

今後の見通し

過去6カ月間で積みあがってきたディールの勢いは、2011年上半期も数カ月間は続くとみられる。

インフレ懸念は依然として残るが、比較的健全なマクロ経済指標を背景に2011年にはOUT-INのM&Aがさらに増えると予想される。

同様に、エネルギー安全保障ならびにインド消費財企業による地域分散志向により、IN-OUTのM&Aも堅調に推移すると思われる。通信セクターなど一部のセクターで予想される企業統合は、IN-INのM&Aを盛り上げると予想される。

PEファンドは、バリュエーションが高水準になっているため、引き続きインド企業への追加投資には慎重な姿勢を維持するとみられる。インフラ、ヘルスケア、教育、中規模のブランド事業、企業向け・消費者向けサービスは、依然PEの投資家にとって関心の高い分野であり、当該セクターの投資先について2006年・2007年に取得した持分の一部売却を狙っているファンドもあると推定される。

Asia Pacific M&A Bulletin

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南・東南アジアインドネシア共和国

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インドネシア経済はその将来性と持続的成長が注目され、2010年のM&Aのディール件数は前年比29%増となった。

Mirza DiranAdvisory LeaderIndonesia

2010年のインドネシア・ルピアの為替レートは引き続き安定的に推移し、対米ドルで2009年12月の9,400ルピアから2010年12月の8,991ルピアへとわずかに上昇した。

ルピア上昇の背景として、低金利通貨で資金調達し高金利のインドネシアの資産を買う外国人投資家の投資意欲が強かったことが挙げられる。インドネシアの相対的な高金利と、世界的な景気後退下においても健全な経済成長を示したことで、より多くの外国人投資家によるインドネシア資産への投資が促進された。

その結果、2010年のジャカルタ総合指数は2009年の2,534ポイントから2010年には3,699ポイントへと45.9%もの大幅な上昇となった。この上昇率は、2010年のアジア太平洋地域の株式指数の中ではトップのパフォーマンスである。

一方、2009年から2010年にかけて平均インフレ率は比較的安定していた。2009年12月の4.8%から2010年12月まで5.1%と若干の上昇はあったが、その主因は国際商品市況の上昇を受けた国内消費財価格の上昇にある。この比較的安定したインフレ率を背景に、2010年12月、インドネシア中央銀行はベンチマーク金利を前年と同水準の6.5%に据え置いた。

経済環境の動向

2010年はインドネシアにとって刺激的な年であった。

この1年間、世界各地で表面化した様々な経済的困難を横目にインドネシア経済は持続的で健全な成長が可能であることを示した。2010年には目ざましいパフォーマンスを示した経済指標がいくつか存在し、米ニューヨーク大学スターン経営大学院のヌリエル・ルービ二教授やモルガンスタンレー証券など複数の専門家は「インドネシアは将来性のある新たな新興国となりうる」とコメントしている。

インドネシアの2010年の実質GDP成長率は、前年の4.5%から5.9%へと大幅に上昇した。市場予想の6%にはわずかながら届かなかったが、悪天候が農業と鉱業に大きな打撃を与えたことや足元で自然災害に見舞われたことを考慮すると、世界経済が軟調に推移する中では素晴らしい成長を遂げたと言える。

インドネシアが世界の景気後退の影響をさほど受けずに済んだ主な要因は、GDPに占める輸出比率が低いことであり、このことは個人消費が引き続きインドネシアの経済成長の推進力であることを示している。

49Asia Pacific M&A Bulletin

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一方、バヤンは東カリマンタン島における9鉱区をPT Ilthabi Bara UtamaとPrime Mine Resources Ltdから取得することを計画している。その鉱区の採掘権はオーストラリアの上場鉱山会社カンガルー・リソーシズ に移譲されるが、これはバヤンによるカンガルー・リソーシズの経営支配権獲得に向けた計画の一環である。右鉱区の石炭埋蔵量は、合計1億1,600万メートルトンに上る。買収手続きは2011年第1四半期末に完了予定である。

2010年9月、タイのエネルギー上場会社バンプーパブリックが、同社のインドネシアの石炭採掘子会社であるインド・タンバンラヤ・メガの株式の8.72%を機関投資家に3億9,500万米ドルで売却すると発表した。

2010年の炭鉱業界におけるその他の案件としては、国内第2位の燃料炭供給会社であるアダロ・エナジーが、子会社アラム・トリ・アバディを通じて、豪BHPビリトンのマルワイ鉱区における権益の25%を買収した案件が挙げられる。買収金額は3億5,000万米ドルで、2010年上半期に完了した。本買収は石炭合弁会社をインドネシアで立ち上げる両社計画の一環として実施された。なお、BHPビリトンは、本合弁事業を推進するため、マルワイ鉱区関係7社の株式を25%ずつ取得する計画である。

インドネシア石炭5位のベラウ・コール・エナジーは2009年末にPT RecapitalAdvisors により買収されたが、2010年8月にはIPOを実施し、株式の18.18%が約3億1,000万米ドルで売却された。2010年11月には、事業投資会社バラーがベラウ・コール・エナジーの株式の75%を、ブミ・リソーシズの株式25%と共に合計約30億米ドルで取得した。

ディールの動向

2010年のM&Aディールは件数ベースで2009年から29%増加して572件となり、総額は推定137億米ドルに上った。2010年に完了した主なディールの概要は、以下の通りである。

エネルギーおよび鉱業インドネシア 大級の石炭会社ハルム・エナジーは、2010年9月に新規株式公開(IPO)を行い、自社株式の24%を売却して2兆8,600億ルピア(3億2,100万米ドル)を調達した。これに続き、PT Borneo Lumburg Enegry が11月に同じくIPOにより自社株式の20%を売却し、約5億7,000万米ドルを調達した。

2010年下半期、韓国政府が大株主で韓国南部に本社を置く韓国電力公社(KEPCO)が、ジャカルタを拠点とする石炭採掘会社、バヤン・リソーシズ(バヤン)の株式20%を取得した。このディールは相対取引で行われ、総額5億2,270万米ドルであった。KEPCOは、この投資によって石炭の自社調達率を現在の24%から10%相当引き上げることが可能としている。

インドネシアは今やG20、アセアンおよび国連安全保障理事会など多くの国際的、地域的組織のメンバー国となっている。加えて、東南アジア地域において、EUとパートナーシップ協力協定を締結した 初の国である。

このようにインドネシアが世界の政治経済において存在感を再び示し始めたことには、もっともな理由がある。ユドヨノ大統領の国内外での人気は、新たに芽生えた安定と発展において重要な役割を果たした。

2期目に入ったユドヨノ大統領は、引き続き汚職撲滅キャンペーンと経済成長刺激策、および国内のマクロ経済環境全般の安定維持を優先課題として政策運営を進めていくと思われる。そして、ユドヨノ大統領の政策運営の成功は、インドネシアのGDP成長率、雇用、および社会支出がすべて1997年から1998年の金融危機以降で、 も高い水準に達したことに表れている。

インドネシアは、直近の世界的な経済危機においてプラス成長を維持できた数少ない国の一つである。

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2010年末、インドネシアの石炭採掘請負会社PT Bukit Makmur MandiriUtamaの親会社であるPT Delta DuniaMakmur Tbk.の株式の40%が、TPGキャピタル、シンガポール政府投資公社、および中国投資公司の関連会社や傘下の投資ファンドから成るコンソーシアムによって買収された。

J & Partners LPは、英国の上場金鉱会社Avocet Mining Plc. がマレーシアとインドネシアに保有する資産をデットフリー・キャッシュフリーベースで評価後、合計2億米ドルで買収することで合意した。

インドネシア国営石油会社プルタミナ(プルタミナ)が過半数株式を保有するPT Pertamina Hulu EnergiがINPEX(国際石油開発帝石)から、石油・天然ガスの採掘・生産を手掛ける子会社インペックスジャワの全株式を取得した。このディールには、インドネシア北西ジャワ沖鉱区 (ONWJ Block) の参加権益の53.3%と南東スマトラ沖鉱区(SES Block)の参加権益の13.1%の売却が含まれている。

消費財および工業製品2010年11月、インドネシアの上場アルミニウム製造会社PT Indal AluminiumIndustry Tbk. が、保有するPT IndalCompact Aluminium Industriesの50%の全持分を、PT Maspion Industrial Estate (MIE)に7億7,240万米ドルで売却した。MIEとPT Indal Compact Aluminium Industriesはインドネシアを拠点とする複合企業Maspion Groupの関係会社である。

CVCキャピタル・パートナーズの子会社Meadows Asia Co., Ltd (Meadow)は、PT Matahari Department Store Tbk (マタハリ)の90.7%の株式取得について、7億6,660万米ドルで妥結した。マタハリはインドネシアの小売業界におけるリーディングカンパニーの一つである。このディールに加え、Meadowはマタハリの株式の7.24%に当たるおよそ2億1,120万株の普通株式の買い増しを計画している。

多方面にわたる産業の企業で構成されるインドネシアの複合企業Para Groupは、子会社の一つであるPT Trans Retail (TR) を通じて、カルフール・インドネシア(CI)株式の40%を取得した。大型スーパーマーケットのオーナー兼運営会社であるCIは、以前はフランスのカルフールの完全子会社であった。案件総額は4億米ドルで、2010年上半期に完了した。

Asia Pacific M&A Bulletin

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アストラインターナショナルは、PT Astra Sedaya Finance の47%の株式をGEキャピタル・コーポレーション(GECC)から取得することで合意した。取得金額は非公開。また、これとは別にアストラインターナショナルはPT Sedaya Pratamaの株式の47%をGECCから取得することで合意した。

オーストラリア・ニュージーランド銀行グループは、ロイヤルバンク・オブ・スコットランドからインドネシアでの業務を含むアジアビジネスの一部を取得することで合意した。

ロンドンを拠点とする保険会社アビバは、インドネシアを拠点とする保険会社PT Asuransi Winterthur Life Indonesia の株式の60%を取得した。取得金額は非公開。

PT Tri Polyta Indonesia Tbk.はチャンドラ・アスリを株式交換方式で買収することで合意し、インドネシアにおいて大級の総合企業になった。

金融サービスCIMB Group Holdings Bhd.は、完全子会社であるマレーシアのCIMB Group Sdn. Bhd (CIMB)を通じて、PT Bank CIMB Niaga Tbk.(CIMBN)への出資比率を78.3%から95.4%へ引き上げた。株式はマレーシア国営企業のカザナ・ナショナルから取得し、ディール金額は5億2,870万米ドルであった。CIMBには株式取得と同時に、CIMBNの普通株式6億1,590万株を追加取得することで出資比率を97.9%まで引き上げることのできるオプションも付与された。

シンガポールのOCBC Overseas Investments Pte. Ltdは、インドネシアのPT Bank OCBC NISP Tbk.への投資比率を上げるべく、普通株式の7.17%(4億1,710万株)を相対取引により追加取得した。このディールは世界銀行グループの一部門である国際復興開発銀行の協力を得て行われ、2010年上半期に完了した。案件金額は5,530万米ドルであった。

バンク・プルマタ (プルマタ) は、米GE キャピタル・インターナショナルとPT General Electric Service Indonesia が各々69%、31%の株式を保有する金融およびクレジットサービス会社PT GE Finance Indonesia (GEFI) の全株式を取得した。GEFIはインドネシアで唯一のノンバンク・クレジットカード発行会社であり、約6%の市場シェアを占めている。今回の買収により、プルマタはカード事業の規模を現在の3倍以上に拡大し、市場シェアは約8%に達する見込みとしている。

2010年4月、Godrej Consumer Products Ltd.が、インドネシアの家庭用品のリーディングカンパニーの一つであるPT Megasari Makmur Groupとその販売会社を、約3億100万米ドルで買収した。

インドネシアの製鉄会社大手クラカタウ・スチールも2010年10月にIPOを実施し、2兆6,800億ルピー(3億100万米ドル)の資金調達を行った。

国営のセメント製造会社であるPT Semen Gresik (Persero) Tbk. (Gresik)は、2010年第1四半期に5.5%の少数株式を、相対取引により米国のラザード・アセット・マネージメント(ラザード)に売却した。売却価額は2億5,120万米。売却された株式は、インドネシアのRajawali Groupの子会社Blue Valley Holdings Pte. Ltdによって保有されていた20.54%の一部である。

2010年2月には、シンガポールを拠点とするビール会社アジア・パシフィック・ブリュワリーズ.がインドネシアの上場ビール会社Multi Bintang Indonesiaの株式の68.5%を2億4,800万米ドルで取得した。また2010年4月、10%の株式を強制公開買付により一般株主から合計3,830万米ドルで追加取得した。

2010年末、インドネシアの上場食品会社でありソルビトールの製造販売会社であるPT Sorini Agro Asia CorporindoTbk.mp株式の68.82%が、PT AKR Corporindoから米国の穀物商社であるカーギルに約2億4,500万米ドルで売却された。PT AKR Corporindoはエネルギー事業への集中のために同社を売却し、2011年1月までに案件完了予定と報じられている。

52 Year-end 2010

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また製造業セクターも、原産物の供給から完成品の輸出へのシフトに注力している政府にとっては重点分野である。

さらに、政府は2011年のインフレ率を5.3%に抑えることに自信を持っている。とはいえ、インドネシアは輸入品への依存度が依然高いため、このインフレ目標は原油以外の商品価格の変動に大きく影響されるとともに、国際市場における原油価格の動向にも大きく左右されることとなる。

M&A市場について、鉱業セクターはM&A取引が も活発なセクターの一つであるが、2011年も堅調に推移すると予想されている。プランテーションセクターもまた2011年のM&Aディールにおいて重要なセクターになると予想される。インドネシアは今や世界一の粗パーム油の生産国であり、世界的にその需要が高まっているためである。

その他、政府によるインフレ安定化、政治環境の改善、国のインフラ整備の取組みも、2011年のインドネシアのM&A市場を引き続き堅調なものとする要因となろう。

今後の見通し

2010年のインドネシア経済の成長率は6%に満たなかったが、インドネシア政府は2011年の経済成長率を6.4%程度と見込んでいる。

さらに、政府は2013年までに経済成長率を7%近辺にまで段階的に上昇させることを目標としており、この目標は達成可能であるとしている。

政府は、現在予定している経済産業分野の成長を刺激するための制度改革や、ジャカルタにおける高速大量輸送システムの実現、有料道路や発電所建設のようなインフラ整備プロジェクトにより、インドネシアの経済成長が後押しされるであろうとの楽観的な見方をとっている。

上記の2つのプラン、すなわち制度改革とインフラ整備プロジェクトに加えて、政府は経済力の分散化を推進、加速させる計画である。これにより首都ジャカルタが位置するジャワ島以外の地域が有するさまざまな資源を有効活用することを目指している。

53Asia Pacific M&A Bulletin

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南・東南アジアマレーシア

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マレーシア経済は地域化、不動産価格の上昇、資源価格の上昇が原動力となり、また経済変革プログラム(ETP)に支えられ成長を遂げた。

Datuk Mohd Anwar YahyaHead of Corporate FinanceMalaysia

2010年のマレーシアへの海外直接投資(FDI)は急増し、1-9月で141%増の54億米ドルを記録した。年間では65億米ドルを超えると予測されている。政府による一連の経済変革プログラムにより投資家信頼感が回復し、斯様な強い回復基調に転じたとみられる。

2010年のインフレ上昇率がわずか1.5%と穏やかな上昇であったことを受け、マレーシア中央銀行(BNM)は経済成長を下支えする金融緩和政策を継続した。銀行貸出金利のベンチマークとなるオーバーナイト金利(OPR)は年初の2%から徐々に引き上げられ、現在は2.75%である。

他のアジア通貨と同様、2010年のマレーシア・リンギットの対米ドルレートは10%近く上昇し、12月には1米ドル3.10リンギットに達した。

しかしこのリンギット高による輸出への影響はないと考えられており、BNMはマレーシア経済の底堅さに応じたリンギット変動を許容するものとみられる。

2010年は、マレーシア証券取引所にとって記録的な年となった。年初に1,275ポイントをつけたFTSEブルサマレーシアKLCIインデックス(FBM KLCI)は、11月に1,528ポイントと高値を更新した。

株式市場は予想以上の好景気と企業の収益増加を受けて上昇し、米国の量的緩和第2弾により流動性が急増したことも追い風となった。

経済環境の動向

2009年の厳しい経済環境を乗り切り、マレーシアのGDP成長率は2009年のマイナス3.7%から上向き、2010年は3四半期でプラス8.0%となった。通年では7.0%に届くと予想されている。

2010年は、製造ならびにサービス・セクターを筆頭に全セクターで景気回復がみられた。民間投資、公共投資および個人消費が大幅に拡大し、内需に明るさが広がった1年であった。

55

8.8%

17.5%10.2%

6.5%

10.8%

7.0%

2010年

1.2%

(18.4%)10.5%

2.6%

(9.4%)

(1.7%)

2009年

資料: マレーシア財務省 2010/2011年経済レポート

個人消費

総固定資本形成- 民間- 公共

サービス

製造

GDP

経済成長データ

Asia Pacific M&A Bulletin

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これに加え、マレーシアの高速道路管理企業PLUSが多くのバイヤーからオファーを受けて市場の注目を浴びた。主なバイヤー候補は以下の通り。

• 従業員積立基金 (EPF)、および政府系投資ファンドのカザナ・ナショナル(KNB)傘下の建設・不動産子会社であるUEMグループ。

• UEM グループおよびPLUS の経営権を握っていたRenongの元会長Halim Saad氏が影響力を持つとされる非上場企業Jelas Ulung Sdn. Bhd。

• 多角経営を展開する複合企業MMC Bhd。

非上場化案件のうち、実業家アナンダ・クリシュナン氏は所有する上場企業のうち3社を非上場化し、2010年のM&A市場をリードした。この非上場化は、今後の事業再編や設備投資、M&Aなどを容易にするための持株比率および経営体制を構築することが目的であった。

ディールの動向

マレーシアのM&A動向は2010年に大幅に回復し、公表ディールの総額は360億米ドルに上った。これは2009年の総額の約2.7倍で、世界金融危機以前の2006年から2007年までの水準を上回った。

M&AはIN-IN、OUT-IN、IN-OUTディール全般にわたり、増加した。またクロスボーダーディールが総額の41%を占めた。ディール総額の増加は、1億米ドルを超える大型ディールが相当数実施されたことも一因である。

IN-IN 案件2010年に公表されたIN-IN案件の総額は215億米ドルに上った。主な案件は次の通り。

• 富豪実業家アナンダ・クリシュナン氏が33億米ドルで上場企業数社を買収、非上場化。

• 総額45億米ドルを超える不動産関連の大型ディール数件。

地合いが好転したことから新規株式公開(IPO)市場も活気づき、IPOは29件、調達総額は64億米ドルに達した。

56

2010年上半期のマレーシア社債市場は、社債発行より銀行借入が選好される傾向が強まったため、軟調に推移した。2010年1-9月の社債発行総額は151億米ドルで、前年同期を若干下回った。

4億8,400万米ドル

6億5,500万米ドル

41億米ドル

調達資金額

サンウェイ REIT - マレーシアの不動産関

連で 大のIPO

マレーシア・マリン・アンド・ヘビー・エンジニアリング

ペトロナス・ケミカルズ・グループ- 東南アジアで過去

大のIPO

2010年の主なIPO

2億100万米ドル

7億米ドル

24億米ドル

ディール額

ミーサットグローバル- 衛星通信サービス

アストロ・オール・アジア・ネットワークス- 有料テレビ放送

タンジョン- 発電および宝くじ事業

アナンダ・クリシュナン氏により非上場化された企業

Year-end 2010

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マレーシアは、グローバルに活動するプライベート・エクイティ(PE)の関心も集めた。

運用資産額で世界のトップ3に入るPE、カーライル・グループやコールバーグ・クラビス・ロバーツ(KKR)もマレーシアに注目している。この2社および国内投資家グループIdaman Saga Sdn Bhdは、自社チェーンのQSR ブランズおよびKFCホールディングスを運営するJohor Corporationのファーストフード・チェーン部門に対し、6億1,500万米ドルでの買収を提案した。しかし、Johor Corporationはこの提案を拒絶した。

同時に、カーライルおよびKKRがマレーシアでこのほかのディールを精力的に探しているとも言われる。以前、この2社は教育事業会社マスタースキルとのディールに関心を寄せていると噂されたことがあった。

OUT-IN 案件マレーシアは、魅力的な投資・買収のチャンスが豊富な国であるとして引き続き世界中の企業を惹きつけている。

米国、欧州、アジア、中東などのバイヤーによるディールは、製造、重工業、金融サービス、情報通信、消費財など広範囲な分野にわたっている。

2010年の主なOUT-IN案件は以下の通り。

• 韓国第2位のエチレン(石油化学製品)メーカー、湖南石油化学が、タイタン・ケミカルズを11億米ドルで買収。湖南石油はタイタンを3億5,100万米ドルの追加投資で非上場化する見込みである。

• ペトロサウジ・インターナショナルが、金融サービス、建設、水道インフラ事業のUBG に3億3,300万米ドルで買収予定。

• 三井住友海上火災保険が、ホンレオン・グループ傘下のホンレオン・アシュアランスの株式30%を2億8,900万米ドルで取得予定。

不動産市場への信頼感が回復し、見通しも改善したため、不動産関連のディール件数は大幅に増えた。不動産オーナーを顧客とする大型土地抵当銀行や、著名な不動産開発会社が絡む案件もみられた。

2010年に公表された不動産関連の案件は以下の通り。

• IJMランドとマレーシアン・リソーシズの合併オファー。ディール総額は20億米ドルを上回ると推定される。

• 実業家Jeffrey Cheah氏の所有する建設および不動産管理企業サンウェイ・ホールディングスとサンウェイ・シティの合併。ディール総額は15億米ドル。

• UEMランドによる不動産デベロッパー、サンライズの12億米ドルでの買収。

57

3億5,500万米ドル

4億8,400万米ドル

5億1,600万米ドル

ディール額

MTDキャピタルl のバイアウト提案- マレーシア第2位の高

速道路運営会社

PPB グループによるフェルダ への砂糖関連事業売却

サラワク州政府による、サラワク・エナジーの非上場化

その他の主なIN-IN案件

2,000万米ドル

2億200万米ドル

2億2,200万米ドル

ディール額

英国のエンジニアリング企業ウィヤー・グループによるゴム製品製造会社リナテックスの買収

シンガポール・テクノロジーズ・テレメディア による、マレーシアのモバイル企業Uモバイルの買収

タイを本拠とするBeril Jucker Public Co Ltdおよび世界的なガラス製造企業オーウェンズ・イリノイによる、ACIインターナショナルを通じたマラヤ・グラス の買収

その他の主なOUT-IN案件

Asia Pacific M&A Bulletin

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IN-OUT案件2010年のIN-OUT案件は、KNB、ペトロナス、ペルモダラン・ナショナル(PNB)、政府退職金基金(KWAP)、従業員積立基金(EPF)などの政府系企業(GLC)および政府系投資ファンド(GLIC)がリードした。

案件の中心は不動産関連であったが、ヘルスケア、石油、ガス、金融サービスなども焦点となった。

主なIN-OUT案件は以下の通り。

• BMB アドバイザーズ・マレーシア

が、バハマおよびドバイにリゾート

施設アトランティスを建設したホテ

ル・カジノ企業ケルツナー・インター

ナショナル・ホールディングスに、

34億米ドルもの巨額買収を提案。

• PNBが、オーストラリアのビル開発・

運営会社Santos Placeを2億6,300

万米ドルで買収。

• KWAPとEPFがロンドンの商業ビル

を約2億4,300万米ドルで取得。

58

注記:MISCと、世界有数のエネルギー商社ヴィトル・グループは、それぞれの子会社を通して譲渡・購入契約を交わし、MISCの完全子会社MTTI Sdn Bhd(MTTI)がヴィトルの完全子会社VTTI B.V.の株式50%を取得した。

5億2,900万米ドル

8億5,000万米ドル

28億米ドル

ディール額

CIMB グループ・ホールディングスによる、インドネシア・CIMBニアガ銀行の持株比率引上げ(78%から95.36%へ)

ペトロナスの海運子会社MISCによる国際タンクターミナル運営会社VTTI B.V. の株式50%取得

KNBによるIntegrated Healthcare Holdingsを通じた、シンガポールのヘルスケア・サービス企業パークウェイ・ホールディングスの株式取得

その他の主なIN-OUT案件

Year-end 2010

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このほかM&A市場で注目される可能性があるセクターは、カジノ、消費財、卸売および小売である。

また、下記のような、担保資産投資や企業再編などがM&A市場活性化のテーマとなる要因になると思われる。

• 政府系企業および政府系投資ファンドにかかる投資。サイム・ダービー、プロトン、ポス・マレーシア、アシアタのグループ再編と非中核資産の売却が予想される。またKNB、PNB、ペトロナス、EPFなどは、引き続き投資機会を探るであろう。

• カーライル、KKR、Navis Capital Partnersなど、マレーシアで買収機会を模索中のPEファンドによるディール。

• 非上場化。非上場化により、オーナーは上場していた組織の再編が可能になり、さらに今後、資金調達機会や低いバリュエーションを活用できる。

以上の結論として、マレーシアのM&A市場は2011年も目覚ましい発展が期待される。

今後の見通し

2010年の投資のテーマは2011年も継続されると予想される。

引き続き、銀行セクターにおけるリージョナライゼーションの継続、大型不動産企業の合併、経済変革プログラム(ETP)に対して高い関心が寄せられるだろう。

なお、ETPでは、石油、ガス、クアラルンプール首都圏開発、その他サービスの各分野が「出発点プロジェクト(EPP)」に指定されている。

その他、高い市場流動性、来る総選挙、イスカンダル・マレーシアおよび戦略的国有地開発プロジェクトなども、M&A市場活性化の要因となろう。

M&Aの注目セクターは次の通りである。

• 石油・ガス、パーム油など資源関連セクターと、その上流、下流とその周辺産業。このセクターは、中国、インドからの需要増に伴う商品価格の上昇見通しと、上述のETPが原動力となっている。

• 不動産および建設セクター。不動産市場が堅調であるため、さらなる成長が予想される。

• 現在、整理統合が進行中の自動車セクター。政府は国内自動車メーカー2社、プロトン・ホールディングスとPerusahaan Otomobil KeduaSdn Bhd (Perodua)の合併に動いている。この動きを受けて、自動車部品セクターでも整理統合が進行する可能性がある。

• 公益事業セクター。セランゴール州の水資産再編成と、2,400メガワットのBakun水力発電プロジェクトの売却を含む水道事業と発電事業にかかる交渉が継続中。

59Asia Pacific M&A Bulletin

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南・東南アジアフィリピン共和国

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フィリピン経済は明るさを取り戻した。輸出、投資、製造業は2009年の景気低迷から力強い回復を遂げ、新規株式公開(IPO)も市場に戻ってきた。

Mary JadeT. Roxas-Divinagracia, CFADeals LeaderPhilippines

2010年1-9月に承認された海外直接投資は、前年同期7億3,000万米ドルから130%増加し、17億米ドルとなった。投資のうち74.4%が製造業に対するもので、電力・ガス・水道サービス(10.6%)、個人向けサービス(7.8%)といったセクターがこれに続いた。

フィリピン中央銀行は、今年の海外からの送金額は187億米ドルへ増加し、2011年には200億米ドルを上回ると予測している。これらの資金は主に、米国、カナダ、サウジアラビア、日本、英国、アラブ首長国連邦、シンガポール、イタリア、ドイツ、ノルウェーから送金されている。

フィリピン経済に関する各種経済指標からは、経済環境が安定していることが見て取れる。

• 2010年の消費者物価は3.9%の緩やかな上昇を示したが、これはフィリピン政府の目標レンジである3.5%から5.5%内に収まった。

• フィリピンペソの対米ドルレートは、前年からの緩やかな上昇トレンドが続いた。2010年末の為替レートは、1米ドル=43.68フィリピンペソで、2009年末より5.6%上昇した。

経済環境の動向

フィリピンの2010年の国内総生産(GDP)成長率は、2009年の0.9%から大幅増の6.2%と予測されており、東アジア地域の他の国々における堅調な景気回復と歩調を合わせている。

この回復を支えたのは、輸出、製造業、海外直接投資の拡大であった。国内消費は、増え続ける海外からの送金額に支えられた。

2010年1-10月の輸出額は37%増加し430億米ドルとなった。フィリピンの輸出品目のトップに位置する電子機器の輸出額は、同時期46%の増加となった。電子機器輸出の増加は、10%程度まで減速するとはいえ、2011年も続くと思われる。半導体・電子機器業界の輸出額は、2010年通期で300億米ドルに達するとみられる。

この業界への2010年の投資額は10億米ドルを上回ったが、これは記録的水準であった2007年以来である。

2010年の製造業生産高の伸び率は、2009年のマイナス11.9%から一転、プラス18.8%となった。生産高の増加は、石油製品、輸送機械、電気機械類、皮革製品といったセクターで特に顕著であった。

61Asia Pacific M&A Bulletin

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ディールの動向

2010年のディール総額は、2009年の84億米ドルから25%減り、63億米ドルとなった。

OUT-IN案件のディール額は4億米ドルから概ね4倍の14億8,000万米ドルとなったが、IN-IN案件は79億米ドルから41%減の46億米ドルであった。多数の大規模発電プラントが民間企業に落札されて電力民営化が完了したことが、この減少の主な原因である。

2010年のディール件数は2009年とほぼ同程度であり、2009年の163件に対し2010年は162件であった。

食品および飲料2010年 大のディールは、サンミゲル(SMC)によるトップ・フロンティア・ホールディングス(TFIH)の株式49%の取得案件(10億1,000万米ドル)である。

SMCは、食品・飲料業界の巨大企業であるが、石油、電力、運輸、公益事業、およびインフラ産業へと、積極的に多角経営を推進している。

トップ・フロンティアは、フィリピンの著名実業家3名(ロベルト・オンピン、イニゴ・ゾベル、ホセリート・カンポス・ジュニア)がオーナーとなり設立した持株会社である。

2009年にTFIHがSMCの株式28%を643億フィリピンペソ(13億7,000万米ドル)で取得しており、このディールは、実質的にSMCとTFIHの株式持ち合い関係強化を目的としたものであった。

現在、TFIHはSMCの株式約48%を保有しているが、持株比率を63%まで引き上げられるオプションを付与されている。

2010年5月、ベニグノ・アキノ3世が、対立候補に大差を付け新大統領に選出された。

アキノ政権の経済政策の目玉は必要性の高いインフラへの投資拡大である。これにより官民パートナーシップ(PPP)が再び重視されることとなった。現政権は、政府とフィリピン国内外の民間企業との協力を積極的に推進しており、空港・鉄道・高速道路・大量輸送システムの整備など10件を優先プロジェクトに指定している。

現在、政府はかねてよりPPPの成功の妨げになっていた規制リスクなどの問題に取り組んでいる。

• 2010年のフィリピン証券取引所(PSE)の株価指数は38%高と好調に推移し、2010年12月30日の終値は4,201.14ポイントであった。

• 先日、ムーディーズ・インベスターズ・サービスは、現在Ba3のフィリピンの外貨建ておよび自国通貨建て格付の見通しを、「安定的」から「ポジティブ」に変更した。

ビジネス・プロセス・アウトソーシング(BPO)業界は、2009年から20%増の収益90億米ドルを上げ、好調な2010年であった。

BPOは不動産業界にとっても重要な成長エンジンであり、2010年の不動産業界はBPO業界と同様に成長を遂げた。政府の業種別総収益指標によれば、不動産業界の総収益は2010年第1四半期に前年同期比33%上昇した。

メガワールドやEton Propertiesといった大手不動産会社は成長トレンドが継続すると予測し、2011年の不動産プロジェクト数件に着手している。

62 Year-end 2010

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航空自由化政府は航空自由化(オープンスカイ)政策を、フィリピン国内の都市のうち、セブ、ダバオ、カガヤン・デ・オロなどにも正式に拡大適用するとの大統領令を発令する予定である。

この政策は、外国航空会社ならびに格安航空会社による、国内観光地のハブであるこれらの都市への乗り入れをさらに促進するものと期待されている。例えば、フィリピン北部のクラーク空港はオープンスカイ政策の恩恵を早くから受け、2003年の旅客数1万人に対し、政策実施後の2005年には50万人へと航空旅客数が増加した。

エアアジア・インターナショナルと国内パートナーの新ジョイントベンチャーであるエアアジア・フィリピンは、2011年第3四半期にクラーク空港以外の空港発着便の運航を開始するとみられる。

ディール総額については、政府による電力会社民営化ディールがほぼ完了したこともあり、2008年および2009年のレベルまで急回復するとは考えにくい。

もっとも、政府は「マニラ首都圏の大規模軍事基地2カ所につき、一部不動産の売却を検討中」と発表しており、これにより2011年ないし2012年の政府歳入は大幅に増加する可能性がある。

一方、ディール件数については、フィリピンの大型セクターでの市場勢力図の変化、および投資家の信頼感の回復を背景に、2011年は2010年を無理なく上回ることが可能とみられる。

今後の見通し

新規株式公開(IPO)2010年はIPO市場が復活し、フィリピン証券取引所(PSE)に数社が上場した。

格安航空会社セブ・パシフィックを運営するCebu Air, Inc.は、10月に上場し、国内市場で史上第2位の大型IPOとなった。

1月には、次の2社がPSEに上場した。

• 電子機器製造サービス会社のインテグレーテッド・マイクロエレクトロニクス。

• IPVG Corpのオンラインゲーム事業子会社IP E-Game Ventures, Inc.。

第4四半期には以下の2社が上場した。

• フィリピン 大のニッケル鉱山会社、ニッケル・アジア・コーポレーションが11月に上場。

• インターネット・データ・センター・サービスプロバイダーのIP Converge Data Center, Inc.が12月に上場。

大手不動産開発会社Ortigas and Co.は、2011年半ばのIPOを検討中である。

コールセンターアウトソーシング・コンサルティング会社のエベレスト・グループによれば、2010年のフィリピンのコールセンター業界の収益は史上初めてインドを追い抜いた。インドの55億米ドルに対し、フィリピンは57億米ドルであった。

今後、多数のインド企業がフィリピン国内にコールセンターおよびビジネスプロセス・アウトソーシングセンターを設置すると予想されている。例えばタタ・コンサルタンシー・サービシズは12月、フィリピンにコールセンターを設立する計画を発表した。このほか、ウィプロ、24/7カスタマーなどのインド企業がごく 近フィリピンに参入した。

エネルギーおよび電力エネルギーおよび電力セクターは、売却可能な政府保有電力資産が減少したため、ディールも減少した。

とはいえ、2010年も 大規模のディール数件はこのセクターで実施された。

• OneTaipan Holdingsは、モンテオログリッドリソーシズを同社が保有するNational Grid Corp of the Philippinesの30%持分とともに、約3億5,000万米ドルで買収した。

また、韓国電力公社(KEPCO)および韓国水資源公社などの韓国企業は、以下の案件通じ、このセクターに参入する外国企業を代表する企業となった。

• KEPCOは、First Gas Holdings, Corp.からサンタ・リタ発電所の持分40%およびサン・ロレンツォ発電所の持分40%を取得することに合意した。総額は約4億米ドル。

• 韓国水資源公社は、フィリピン国営電力公社(NAPOCOR)からアンガット水力発電所(246メガワット)を4億4,100万米ドルで買収することに合意した。

2010年下半期に、石油精製大手ペトロンの株式の約40%が、以下の通り売買された。

• 7月、ペトロン従業員退職年金基金は、Sea Refinery Holdings BVからペトロン株式24%を3億5,700万米ドルで取得した。

• 8月、SMCはSea Refinery Holdings BVからペトロンの株式約16%を2億4,200万米ドルで取得した。

63Asia Pacific M&A Bulletin

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南・東南アジアシンガポール共和国

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2010年のシンガポールのM&A市場はスローなスタートを切ったが、第4四半期には上向きに転じた。企業は、先進諸国より経済成長見通しがポジティブな新興市場に対する進出意欲を持っており、M&A市場は2011年も活発さを維持すると予想される。

Chao Choon OngTransactions LeaderSingapore

経済環境の動向

シンガポール経済は、2010年上半期に大きく成長し、調整の時期を経て、第4四半期には国内総生産(GDP)が前年同期比14.5%と、2009年のマイナス成長(-0.8%)から好調なプラス成長に転じた。

このすばらしい2010年の経済パフォーマンスを支えたのは、製造、卸売・小売、ホテル・レストラン、金融サービスの各セクターである。

製造セクターは、医薬品の生産高が大幅な回復を見せたバイオメディカル製造分野を先頭に、29.7%の大躍進を遂げた(2009年はマイナス4.2%)。

金融サービスセクターは、ファンド運用、商業銀行の貸出、外貨取引における活性化に支えられ、成長率は前年同期比12.2%増(2009年は同4.3%増)となった。

外需の改善、観光客の増加(前年同期比20%増)、インテグレーテッドリゾートの開業を背景に、卸売・小売セクターは15.1%(2009年はマイナス6%)、ホテル・レストランセクターは8.8%(2009年はマイナス1.6%)の成長を遂げた。

2010年下半期の国内消費者物価は主に自動車および商品価格の上昇が国内のコスト圧力となって上昇した。

65Asia Pacific M&A Bulletin

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• 日本のアドバンテストは、先進的な半導体検査システムおよびソリューションの企業、ベリジーに対し、総額12億シンガポールドル(8億9,970万米ドル)での全株式の買収提案を行った。

• Deutscher SparkassenundGiroverbandの子会社であるドイツのデカ・イモービリアン・インベストメントは、オフィスビル開発・運営会社のシェブロン・ハウスを5億3,490万シンガポールドル(4億480万米ドル)で、ゴールドマンサックス・グループから取得する計画を発表した。

OUT-IN案件2010年下半期のOUT-IN案件の総額は88億米ドルとなり、2009年同期を23%上回った。2010年のOUT-INディール総数は166件で、主なディールは以下の通りである。

• マレーシア国営企業のカザナ・ナショナルの完全子会社インテグレテッド・ヘルスケア・ホールディングスは、ヘルスケア・グループ企業のパークウェイ・ホールディングスの未保有株を総額32億シンガポールドル(24億米ドル)で買い増し、持分を23.9%から95%に引き上げるオファーを提示した。

• 日本のキリンホールディングスは、テマセック・ホールディングスの完全子会社、セレター・インベストメンツから、ソフトドリンクの製造・卸売会社であるフレイザー・アンド・ニーヴの株式14.7%を、相対取引により、総額13億シンガポールドル(9億7,460万米ドル)の現金で取得した。

ディールの動向

斯様な経済成長を背景に、2010年のシンガポールM&A市場は増勢した。特に下半期、中でも第4四半期に急増した。

2010年下半期のディール総額は241億米ドルで、同年上半期から倍増した。ディール件数も、2010年上半期の355件から、同年下半期には420件へと増加した。第4四半期のディール総額は第3四半期の68億米ドルから155%増え、173億米ドルに達した。

2010年通期でみると、公表済みディール総額は2009年の199億米ドルから81%増加して359億米ドルとなったが、これは各ディールが金額ベースで大型化したためである。

公表済みディール件数は2009年の615件から2010年の775件へ26%増加した。ディール1件当りの規模も前年同期比で43%大型化している。

66 Year-end 2010

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• シンガポール国営企業のテマセック・ホールディングスは、リオデジャネイロを拠点とする石油・ガス探索生産支援会社のオデブレヒト・オイル&ガスの株式14.3%を、KieppePatimonial S/C Ltdaの子会社Odebrech SAから6億7,280万ブラジルレアル(4億米ドル)で取得した。

• GICは、ピッツバーグを本拠地とする電力事業の持株会社、デュケインライト・ホールディングスの株式29%を、AMPキャピタル・インベスターズの子会社であるDuet Groupとマッコーリー・キャピタル・グループ・リミテッドから3億6,000万米ドルで取得した。

• シンガポール国営企業のシンガポール政府投資公社(GIC)、中国の中国投資有限責任公司、カナダのオンタリオ州教員年金基金、アブダビ投資評議会、英国のRITキャピタル・パートナーズ、ペルーのサントドミンゴ・グループ、米国のJC フラワーズ & カンパニー、イタリアのエクソール、ロスチャイルド家、アニエリ家、モッタ家から成る投資家グループは、リオデジャネイロを拠点とする投資仲介業、BTGパクチュアル銀行の株式18.65%を30億ブラジルレアル(18億米ドル)で取得することに合意した。

• シンガポールのアスコット・レジデンス・トラストは、キャピタランドの完全子会社でサービスアパート開発・運営会社のThe Ascott Ltdの在欧州・アジア28物件を3件のディールに分けて取得した。この3件が同時に成立することが取引条件とされており、取引総額は、4億7,250万ユーロ(6億60万米ドル)であった。

IN‐OUT案件2010年のIN‐OUT案件のディール総額は197億米ドルで、2009年のほぼ3倍に増えた。 大のディールは、シンガポール証券取引所(SGX)によるオーストラリア証券取引所(ASX)に対する買収提案であった。

2010年のディール全340件のうち、IN-OUTの大型案件は以下のとおり。

• SGXは、シドニーにある証券取引所ASXに対し、スキーム・オブ・アレンジメントによる83億5,000万豪ドル(83億米ドル)の買収提案を行った。金額の内訳は、現金が38億5,000万豪ドル(38億米ドル)、SGXの普通株式6億825万株の新株発行が45億豪ドル(45億米ドル)である。

67Asia Pacific M&A Bulletin

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• 不動産会社ケッペル・ランドの孫会社であるMansfield Developments Pte Ltdは、K-REITアジアから5億7,300万シンガポールドル(4億3,840万米ドル)で、オフィスビル開発・運営会社Keppel Towers & GE Towerを取得することで合意した。

• Dolphin Acquisition Pte Ltdは、不動産開発会社のSoilbuild Group Holdings Ltdの全株式を、Lim Chap Huat、Leo Jee Lin、CHL Holdings Pte Ltdなどの株主から、総額4億1,780万シンガポールドル(3億1,430万米ドル)の現金で取得する提案を行うと発表した。

• Cache Logistics Trustは、物流・倉庫サービス会社CWT傘下のCWT Commodity HubとCWT Cold Hubを4億4,500万シンガポールドル(3億1,570万米ドル)で買収する計画を発表した。

IN-IN案件IN-IN案件の2010年の総額は74億米ドルで、2009年より5%減少した。

2010年のディール全269件のうち、主なディールは以下の通りである。

• オーバーシー・チャイニーズ銀行は、INGからING Asia Private Bank Ltdを20億シンガポールドル(15億米ドル)で現金買収した。同行はバンク・オブ・シンガポールとして開業し、7,000名を超える顧客と約230億米ドルの運用資産を誇るアジア有数のプライベート・バンクである。

• サンテック・リアルエステート・インベストメント・トラストは、不動産開発会社BFC Development Pte Ltdの株式の33.3%をChoicewide Group Ltdから15億シンガポールドル(12億米ドル)で取得することで合意した。

• オーバーシーズ・ユニオン・エンタープライズ(OUE)の完全子会社Total Apex Ltdは、不動産持株会社のAlkas Realty Pte Ltdの全株式をNaruse (Delaware) LLCとBaekdu Investments Ltdから8億7,050万シンガポールドル(6億3,740万米ドル)で取得した。この取引には、Alkas Realtyが所有するDBSタワー1とタワー2の買収も含まれている。OUEはインドネシアのリッポ・グループ(力宝集団)を大株主とする企業である。

68 Year-end 2010

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しかし、国内では労働市場が逼迫と原油・商品価格の上昇によりコスト圧力が増している。

また、欧州のソブリン債務問題、住宅・労働市場の低迷などの世界的な下方リスクが残っており、これらが先進諸国の需要を押し下げる可能性がある。

こういった要因を考慮に入れると、2011年のシンガポール経済の成長率は、長期的に持続可能なレベル、すなわち4-6%になると思われる。

M&A市場は2011年も引き続き活気あるものとなろう。企業が経済成長見通しがポジティブな新興市場への進出を探っているからである。

企業のバリュエーションはかつてほど低下していない一方、アジア太平洋地域での戦略的M&Aに関心を有する企業は今後もこの地域への投資により経済的リターンを得ようと考えるだろう。

IN-OUT案件は、引き続きシンガポールのM&Aディールの大きな原動力になると思われる。

より活発化が期待されるセクターとしては不動産、消費財、金融サービス、石油・ガスおよびその関連サービスが挙げられる。

今後の見通し

今後について、コンセンサス予想では、シンガポールの成長率は世界経済の回復とともにポジティブに推移するが、勢いは緩やかになるとみられている。

世界金融危機後の当初の回復基調が一段落し世界主要国の経済成長のペースが衰えていることと、アジア諸国の金融引き締め政策が一段と強化されていることがその理由である。

シンガポールの経済活動は、産業全体にわたり、高水準に保たれると考えられる。

製造セクターにとっては、先進国経済の速度は遅いが着実な成長が支援材料となろう。

域内貿易もアジア経済の発展とともに伸びると予想される。

観光関連産業もアジアからの観光客の増加の恩恵を受け続けるであろう。

69Asia Pacific M&A Bulletin

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南・東南アジアタイ王国

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2011年のタイ経済は約3.5%から5%成長すると予想されている。タイ・バーツ高、政治状況、先進国の経済情勢が、今年のM&Aに影響を与える要因となろう。

Gary MurphyDeals LeaderThailand

国内では、消費者信頼感の回復が家計消費の5%増につながり、特に自動車購入が増加した。幅広い農作物、とりわけキャッサバ、ゴム、トウモロコシの農家所得は引き続き好調である。失業率は1%未満にとどまり、そして第3四半期のインフレ率は3.3%を維持していることから、この傾向は当面継続すると推定される。

同様に、企業心理も信頼感回復の兆しを見せている。主にバンコク大都市圏の住宅建設の増加により、民間投資は第3四半期に14.5%拡大した。

ポートフォリオ投資に関しては、タイ証券取引所(SET)株価指数が、2009年末から40.6%急上昇し、2010年末に1,032.76ポイントに達した。2010年12月の一日平均売買代金は315億バーツ(10億米ドル)で、2009年12月の同157億2,000万バーツ(5億1,600万米ドル)の2倍であった。

政情不安の時期にやや縮小していた海外直接投資(FDI)も回復した。2010年の月次平均FDIは、2009年から22%上昇したが、この資金流入のうち60%は電化製品や輸送機械などハイテク産業が占めた。

経済環境の動向

タイ経済は、主要貿易相手国の景気回復により外需が上向き、同時に国内の個人消費と投資が持ち直した結果、大幅に回復した。

年間輸出額(米ドル換算)は前年比約25.1%の増加、民間投資および消費は各々13.9%、4.9%の増加となる見通しである。2010年上半期中、輸出は前年同期比37%増加し、同年第3四半期の輸出額は史上 高の497億2,000万米ドルとなった。主な輸出品目は、車両、集積回路、空調装置、およびゴムなどであった。2010年末までの貿易収支は、133億米ドルの黒字となるとみられる。

同様に、観光セクターも政治的混乱が生じた期間(2010年第2四半期)の急激な縮小から回復した。第3四半期の海外からの観光客数は、中国、マレーシア、インドといった新興市場からの観光客が増加し、2009年の同時期より約12.5%増加した。2010年第4四半期にタイを訪れた観光客数は400万人に達するものとみられる。

自動車セクターも2010年に急成長を遂げた。自動車生産台数は、2010年1-11月で150万台に達したが、これは前年同期比69%を超える増加率である。同期間中の国内新車販売台数も48%増加した。

71Asia Pacific M&A Bulletin

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IN-IN案件の主要なディールは以下の通りである。

• ビッグCスーパーセンターは、カルフールのタイ国内事業を355億バーツ(11億8,900万米ドル)で取得した。

• タナチャート銀行(TBANK)は、サイアム・シティ銀行(SCIB)の株式51.66%を総額354億7,200万バーツ(11億200万米ドル)で追加取得するための公開買付を完了し、持株比率を99.24%まで引き上げた。TBANKは、第1四半期にタイ国有の金融機関発展基金(FIDF)が保有していた株式47.58%を326億7,300万バーツ(10億米ドル)で取得済みであった。

• SSナショナル・ロジスティクスは、バンコクの瓶入り清涼飲料製造卸売会社Serm Suk PCLの株式の32.62%を取得するため総額36億4,300万バーツ(1億2,175万米ドル)の株式公開買付を開始した。

• タイコン不動産ファンドは、バンコクの倉庫建設デベロッパーのタイコン・インダストリアル・コネクションから工場35カ所を17億700万バーツ(5,720万米ドル)で取得した。

• デュシタニは、ホテルのオーナー兼運営会社であるデュシタニ・ラグーナ・プーケットの資産をLaguna Resorts & Hotelsから26億2,000万バーツ(8,200万米ドル)で取得することに合意した。

• インドラマ・ベンチャーズは、バンコクに本社を置くテレフタル酸製品メーカーTPT Petrochemicalsの株式を推定28億9,600万バーツ(9,680万米ドル)で追加取得し、同社の持株比率を、54.7%から45.2%引き上げ、99.9%とした。

IN-OUT案件は、約91%が2010年第2四半期に集中した。

これは主に、主要他国通貨、特に米ドルおよびユーロに対してタイ・バーツが年間を通じて大幅高となったためである。2010年の1年間で、タイ・バーツの対米ドル、対ユーロのレートはそれぞれ9.4%、16%上昇した。

IN-OUT案件を主導したのは大手企業でった。主なIN-OUT案件は以下の通りである。

• バンプーは、ディール総額約20億米ドルでオーストラリアの石炭鉱山会社センテニアル・コールの全株式を取得した。

• タイ・ユニオン・フローズン・プロダクトは、ディール総額約10億米ドルでヨーロッパの水産 大手MWブランズの全株式を取得し、世界 大のツナ缶メーカーとなった。

ディールの動向

2010年のタイのM&Aは、前年比ベースで大幅に増加した。

2010年の公表済みディール総額は、主にIN-IN案件およびIN-OUT案件により、2009年の43億米ドルから124億米ドルへと拡大した。

ディールの内容も2009年から大幅に変わった。2009年は、IN-IN案件がディール総額の79%、OUT-IN案件が同15%を占め、IN-OUT案件は同6%であったが、2010年はIN-OUT案件がディールの約37%に急増する一方、IN-IN案件のシェアは47%、OUT-IN案件のシェアは6%に留まった。

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海外直接投資に関して、タイ投資委員会は、タイ・バーツ高と不安定な世界経済が背景にあるため、2011年の投資申請は、2010年と同水準の4,000億バーツ(133億米ドル)になると予想している。食品、自動車、電化製品、電力の各業界が上位を占めるとみられる。

M&Aについては、ディールの大半が引き続きIN-OUT案件主導になると予測される。主要国内企業は、海外拠点の拡大に今後も関心があると表明しており、タイ・バーツ高は海外事業拡大に有利に働くであろう。

OUT-IN案件については、主に政情不安(2011年実施予定の総選挙など)、タイ・バーツ高、米国やEUの一部などの他国の経済状況が原因で、大きな成長は期待されていない。

国内企業の整理統合のトレンドは、市場シェア拡大と業務の効率化を目指す企業の間で継続するものと予想される。今年予想されるメガ・ディールには、タイ国有の金融機関発展基金傘下の大手銀行による株式売却がある。

2011年は緩やかな成長が期待されているものの、タイ経済は今もなお、政情不安および不安定な政局、通貨変動および通貨管理、世界経済の回復、金利上昇といった多くのリスク要因に晒されていると言える。

今後の見通し

タイ財務省は、2011年のタイ経済は約3.5%から5%成長すると予想している。

この成長をリードするのは、主に国内消費と民間投資とみられる。 2011年の国内消費および民間投資は、各々3.5%から5%、8%から10%の成長が予想されている。

タイの輸出は今後も重要な成長エンジンであり、11%から14%の範囲で成長すると予測されている。ただし、これは2010年に経験した25%から30%の成長率より緩やかなペースである。

先進諸国からの需要の落込みのみならず、ユーロや米ドルといった主要他国通貨に対する持続的なタイ・バーツの上昇は、引き続きタイ輸出市場の課題となるであろう。これに対し、タイ中央銀行総裁は「タイ中央銀行はタイ・バーツの監視を継続し、その評価水準に応じ必要な対策を講じる準備はできている」と述べている。

政府による第2次経済刺激策(Thai Kem Kang 2)に加え、低所得層の生活費軽減および自営業者の社会保険加入と国有銀行からの低利融資の実現を目指して 近公表された「プラチャー・ウィワット(国民改善)政策」は国内消費および民間投資の促進に貢献すると期待されている。

前述の通り、OUT-IN案件が占める割合は6%(約7億2,860万米ドル)に留まった。これは、主に政情不安、タイ・バーツ高、マプタプット工業地区に関連する環境問題、そして世界経済が主な原因であると考えられる。主なOUT-IN案件は以下の通り。

• ブレンタグ・オランダは、バンコクに本社を置く持株会社イースト・アジアチックの全株式をA/S DetOstasiatiske Kompagniから67億4,700万バーツ(2億930万米ドル)で取得した。

• 日本のスズキは、タイスズキの株式の18.8%を8億480万バーツ(2,500万米ドル)でSPスズキから追加取得し、持株比率を52%から70.8%に引き上げた。

• 香港のスタンダード・チャータード・プライベート・エクイティ(PE)は、タイ・ユニオン・フローズン・プロダクトの株式5.58%に転換可能な社債を24億バーツ(7,440万米ドル)で取得予定であると発表した。

• サラマンダー・エナジーは、ソコ・インターナショナルの完全子会社で、石油・ガス探査生産会社であるソコ・タイランドの全株式をソコ・インターナショナルから34億バーツ(1億600万米ドル)で取得した。

73Asia Pacific M&A Bulletin

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南・東南アジアベトナム社会主義共和国

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M&Aのディール総額および件数は、2010年に記録的な水準に達した。この背景として、世界経済が回復基調を示したこと、国内経済がより力強く成長していること、そしてより多くのアジア企業が、ベトナムを今後の鍵となる成長市場として、グローバルな事業展開に欠くことのできない市場と考え、M&Aを通してベトナム市場への参入を図ったことが挙げられる。IN-OUT案件の増加もM&Aを金額ベースで押し上げた。

Stephen GaskillTransactions LeaderVietnam

2010年に認可された海外直接投資(FDI)の申請総額は、2009年の165億米ドルから172億米ドルへ増加した。

しかし、既存の外資系企業の2010年の追加投資額が大幅に減少して12億米ドルとなった結果、FDI全体は前年比で減少した。

ベトナム株価指数のVNインデックスは、年初には517ポイントであったが、その後比較的低調に推移した結果、年末は485ポイントで引けた。リターンはアジア地域で中国に次いで低調で、米ドル建てのリターンはマイナスとなった。

新規株式公開(IPO)は、主要2証券取引所に189社が新規上場し、年間を通じて増加した。

しかし、2010年中の大型上場案件の一部はどちらかといえば不調に終わった。巨大国営石油ガス企業ペトロベトナムの 大の子会社の一つ、ベトナムガス公社のIPOでは、応募が公募株式数を下回った。

経済環境の動向

2010年の国内総生産(GDP)の成長率は、2009年の5.3%に対し、6.8%に達した。

政府の金融緩和政策と世界経済の回復がそろってGDP成長率の上昇を促したためである。経済全体のパフォーマンスは、2010年下半期に年率換算で12%に達したGDP成長率の加速を反映したものとなった。

GDP成長率の加速は高インフレの再来をもたらし、インフレ率は2010年末までに、年初に多くのエコノミストが予想した8-10%を上回る12%付近まで上昇した。

ベトナム・ドンが依然弱く、2010年の1年間で5.3%下落したことや、インフレ、ならびに今も継続中の貿易赤字が経済に響き、2010年末にかけて、マクロ経済の不安定な状態に対する懸念が増大した。

ベトナム国家銀行の米ドル売り参考レートは、2010年12月31日時点で19,495ベトナム・ドンであったが、これに対し、2009年末は18,479ベトナム・ドンであった。

輸出と輸入は、それぞれ前年比25.5%、20.1%増加した。現在も続いている経常赤字は、2010年に対GDP比6%に達し、2011年にはさらに拡大するとみられるが、その結果、ベトナム・ドン安がさらに進行し、米ドル建て外貨準備高が目減りする可能性がある。外貨準備高は、2010年に160億米ドルまで減少した。

75Asia Pacific M&A Bulletin

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2010年に公表された注目すべきディールは、以下の通り。

OUT-IN案件オマーン政府所有のオマーン投資ファンドは、国営石油ガス企業のペトロベトナムの子会社で、ハノイを拠点とするベトナム石油保険の普通株式2,020万8,000株(12.6%相当)を1株当たり4万ベトナム・ドン(2.12米ドル)、総額8,083億ベトナム・ドン(4,284万米ドル)で取得した。

マレーシアのガムダの完全子会社Gamuda Land (HCMC) Sdn Bhdは、Sai Gon Thuong Tin Real Estate JSC (Sacomreal)傘下で、ホーチミンの不動産開発会社Sai Gon Thuong Tin Tan Thang Investment Real EstateJSCの株式の60%を、Sacomrealから現金で取得することに合意した。取得額は1株当たり2万3,889ベトナム・ドン(1.29米ドル)で、総額1兆5,330億ベトナム・ドン(8,280万米ドル)である。

シンガポールのフラトン・フィナンシャル・ホールディングスは、ロンスエンを拠点とするメコン・デベロップメント・バンクの株式15%を取得した。取得金額は非公表。

日本のオリックスは、不動産ファンドマネージャであり金融サービス会社のインドチャイナ・キャピタルの発行済株式総数の25%(1,140万8,000株)を相対取引により取得した。

オーストラリア・コモンウェルス銀行は、Vietnam International Commercial Joint Stock Bank (VIB)の株式15%を取得した。金額は非公表となっているが、VIBがベトナム 大のプライベートバンクの一つであることを考えると、ディール総額は 大規模と思われる。

特に日本企業によるOUT-INのM&A案件は次第に圧倒的な数へと膨らんだ。このトレンドは、低迷する内需を補完するためにアジア地域の重要な成長市場へ進出を急ぐ日本企業の姿勢を反映したものと言えそうである。また、円高によりベトナム投資が相対的に割安になった事実も見逃せない。

ベトナム企業による企業再編も2010年のトレンドとなった。原材料供給を確保するために垂直統合を目指す企業がある一方、中核事業を展開するグループ企業に再集中するため非中核事業の資産売却を行った企業もあった。

プライベート・エクイティ(PE)の動きは、2010年はバイ・サイドよりセル・サイドに重点が置かれた。過去に組成されたベトナム・フォーカスのファンドの一部は投資回収の時期を迎えつつあり、ファンドマネージャがエグジットの機会を探っているためである。

低調な市場で新たに資金調達を行うにあたり、ファンドマネージャは、好成績を残すべく、より多くのディールでエグジットを行おうとしている。このトレンドは、2011年も続くと考えられる。

ディールの動向

2009年のディールの総額ならびに総数の回復は2010年に入っても続いた。

公表された金額、件数はともに加速度的に拡大し、2009年の11億米ドル、295件から2010年には約17億5,000万米ドル、345件に達した。

ベトテル総公社によるテレトーク・バングラデシュ・リミテッドへの3億米ドルの投資、およびTelecommunications d’Haiti SAMに対する5,900万米ドルの投資などの大型IN-OUT案件によりディール総額は増加した。

これらの大型海外投資は、IN-OUT案件では金額ベースで小型案件が多く、ペトロベトナムの上流資産への投資ばかりが一般的であった過去のトレンドとは一線を画す、新たな飛躍と言えよう。

もう一つの注目すべきトレンドは、日本企業をはじめとするアジア企業によるM&Aの大幅な増加である。

76 Year-end 2010

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メコンキャピタルは、ホーチミンのファッション小売会社Maisonの少数株主持分を売却した。持分比率ならびに売却先は非公表。

マサングループは、ドラゴンキャピタル傘下のチベロンミネラルから、鉱山会社の合弁会社ヌイファオ鉱産採掘加工社の株式70%を取得した。売買条件は非公表となっている。

IN-OUT案件2010年のM&A動向で非常に注目されたのは、件数は少ないながらも、海外でベトナム企業による大型ディールが実現したことである。2010年に公表もしくは完了した注目ディールは以下の3件である。

ベトナム乳業は、国内事業の原料確保のため、乳製品製造を手掛けるミラカの株式の19.3%を取得した。条件非公表。

ベトナム国営のベトテル総公社は、ダッカに拠点を置く通信サービス会社でバングラデシュ国営のテレトーク・バングラデシュ・リミテッドの株式の60%をおよそ3億米ドルで取得する計画を発表した。

また同社は、ポルトープランスに拠点を置く通信サービス会社でハイチ国営のTelecommunications d’Haiti SAMの株式の60%を23億ハイチ・グールド(5,900万米ドル)で取得する予定であると発表した。

タンロン証券、サイゴンハノイ証券を含む投資家グループは、ハノイの建設エンジニアリング会社、ペトロベトナム建設(PVC)の普通株式の10.31%(2,500万株)を、親会社のペトロベトナムから総額6,250億ベトナム・ドン(3,250万米ドル)で相対取引により取得した。タンロン証券は、後日、PVCの持分13.33%(普通株式2,000万株)を5,560億ベトナム・ドン(2,890万米ドル)で市場取引により買い増し、持株比率を0.61%から13.94%へ引き上げた。

STICインベストメント、FPT証券、ボンセンファンドマネジメント社から成る投資家グループは、工業コングロマリットであるホアセン鉄鋼グループの株式の21%を1株当たり4万5,000ベトナム・ドン(2.40米ドル)、総額5,380億ベトナム・ドン(2,800万米ドル)で相対取引により取得した。

プライベート・エクイティ2010年の注目すべきPE案件は以下の通りである。

メコンキャピタルは、ホーチミン市を拠点とする食品製造卸売・小売会社,、マサングループ傘下のマサンフードに対する少数株主持分を3,686億ベトナム・ドン(1,880万米ドル)で売却した。売却先は非公表である。

オレオス・キャピタルの子会社であるイギリスのAureos South East Asian Fundは、ハノイのコンピュータ機器卸売会社、トランアンデジタルワールドの株式18.5%を、相対取引により808億ベトナム・ドン(420万米ドル)の現金で取得することで合意した。

英BPと露アルファ・グループ・コンソーシアムの在ロシア折半出資会社、TNK-BP Holdingsは、BP所有の海洋天然ガス田の権益の35%取得に合意した。これと並行して、TNK-BPはナムコンソン天然ガスパイプラインとターミナルの権益32.7%、ならびにPhi My 3 BOT Power Co., Ltd.の株式33.3%の取得に合意した。これらのディールは、推定総額18億米ドルの大型ディールの一環として実施された。

IN‐IN案件フランスのブルボングループは、68.52%出資の製糖子会社、ブルボン・タイニン製糖の出資分を全額(68.52%)、相対取引により9,019憶9,800万ベトナム・ドン(4,600万米ドル)で譲渡した。譲渡先の投資グループは非公表である。

Vinasteel Corporationは、国営のVietnam Machinery Erection Corporationが大株主のハノイを拠点とする建設会社、Lilama Hanoi JSCより、同社が所有する製鉄所の持分85%を5,790億ベトナム・ドン(2,950万米ドル)で取得した。

チュングエンは、ホーチミンの乳製品製造卸売会社、ベトナム乳業から推定7,843億1,300万ベトナム・ドン(4,000万米ドル)でSaigon Coffee Factoryを買収した。

サイゴン証券、仏Jaccar Group、ドラゴン・キャピタル・マネジメントを含む投資家グループは、不動産開発会社ホアン・アイン・ザー・ライの子会社Real Estate Corp.の11.75%(2,350万株)を、推定1兆2,000億ベトナム・ドン(6,240万米ドル)の現金で取得した。

77Asia Pacific M&A Bulletin

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今後の見通し

2ケタ上昇のインフレ率、悪化が続く貿易収支の不均衡、衰えが見えないベトナム・ドンへの下方圧力を背景に、2010年末にかけてベトナム経済に対する懸念が、次第に増大していた。

ベトナム造船公社(Vinashin)の債務返済能力への不安と、それがベトナムの信用格付に与える悪影響が、さらに大きな不安材料となっている。

今の経済は低迷しており、豊富かつ低廉な労働力と天然資源のみが注目されたベトナムの発展は皮相的なものに過ぎないとの考え方が広まりつつある。

ベトナムは今後も間違いなく成長を続け、比較的高水準の海外直接投資とM&A案件の誘致が続くものと思われる。

一方、政府は、安定の再構築と長期的な成長の基礎固めを目指し、あと1年は慎重な財政政策を実施すると考えられる。2011年1月に開催予定のベトナム共産党大会で、過去10-15年間実施してきた政策の大転換が実施される見込みは低く、マクロレベルの安定を取り戻すために一段と慎重な経済政策に取り組む現在の方向性が再確認されることになると思われる。

また政府は、ベトナム国内で実施される海外投資の基準についてより慎重に検討しているとみられ、ベトナムの低コストの労働力で輸入材料の加工を行う事業ではなく、経済に大きな付加価値をもたらすセクターへの投資を奨励する政策に進展がみられるであろう。

M&Aについては、件数、金額ともにベトナムの基準からみれば高水準で推移すると予想される。特に日本などのアジア企業が市場の人口動態ならびに高い成長率に注目してベトナムに強い関心を示し続けているためである。

投資は、ベトナム経済の全産業が対象となるであろうが、製造業に集中すると思われる。

さらに、現在も続くベトナム造船公社をめぐる債務返済問題の後遺症から、政府および国営事業に関する政策がまとめられ、大型の国営企業グループの一部については、非中核事業資産の売却が求められるものと思われる。

高金利および流動性の問題も背景となり、成長資本を探し求める国内企業は引き続き、資金調達ニーズへの答えをM&Aに求めるであろう。

IN-OUT案件については、金額ベースでは小型ながら、ベトナム企業がラオス、カンボジア、ミャンマーなどの国々への市場参入を希望しており、件数は増える可能性がある。

78 Year-end 2010

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教育教育セクターは、引き続き国際的な教育企業グループやプライベート・エクイティからも高い関心を集めている。

すでに多くのベトナムの有力民間企業や外国の民間企業が参入し、市場はクリティカル・マスに達しているが、これらの企業は魅力的なM&Aの対象になると思われる。

インフラ電力、道路、港湾、橋梁、その他、国の成長を支えるインフラへの需要は非常に大きい。

政府はこのセクターが経済成長と同じペースで成長するには、民間部門からの投資が必要であり、国内民間企業ならびに国営企業による電力事業の売却も必要であるとの認識を持っているため、2011年にはM&Aはさらに増加すると予想される。

ペトロベトナムがニョンチャック発電所の権益から投資を回収すると発表したのもこのトレンドの一例である。

2010年には水力発電セクターのディールが広く実施されたが、これは今後も継続すると考えられる。

不動産オフィス、サービス・アパートメント、ホテルのセクターからの投資リターンは、当面はあまり魅力的ではなくなったようだ。

しかし、分譲マンション、別荘、セカンドハウスの市場は、引き続き積極的に物色されている。また多数の企業が、このビジネスチャンスを掴もうと、2010年に新規の資金調達を計画しており、その過程でM&Aが行われる可能性がある。

その他の国内企業は、中核事業に投資する現金を調達するために、非中核の不動産資産や持分を、引き続き売却していくと思われる。

小売小売セクターは、海外投資家に課せられた法規制が現在も懸案事項となっているものの、引き続き大いに注目を集めている。

ベトナムの小売業者の一部は、変化しつつある消費者トレンドの波に乗って急速に成長している。このトレンドにより、特に大都市で新しい取引チャネルがハイペースで拡大している。

チェーンストアの急速な拡大には追加資金が、また場合によっては技術ノウハウの移転が必要となる。従って、このセクターでもPEや戦略的投資家の投資機会が生まれると考えられる。

プライベート・エクイティ前述の通り、ベトナム・ファンドによるエグジットが増えるとみられる。また、現在の環境では動きはスローペースながら新たな資金調達に引き続き主眼が置かれているため、新規投資は比較的少なくなると思われる。

日用消費財国内人口のうち特に拡大している中間所得層や若年層によって、消費財の消費水準は急速に上昇しており、このセクターはM&Aディールで も注目されている。

市場では、M&Aを呼び込める十分な規模の企業は限られており、それがM&Aの伸びを抑える原因になっているが、それでも2011年には日用消費財の企業が絡む(ベトナムでは)比較的大型のディールが、少数ながらも実現すると思われる。

金融サービスベトナム国家銀行の定める3兆ベトナム・ドンの銀行の 低資本金のほか、競争激化の圧力に晒され、中小銀行は資本基盤の強化ならびにテクノロジーへのアクセスとノウハウの獲得に向け、新たな海外投資家を探さざるを得ない状況にある。

そのような中で、このセクターがM&Aのレベル向上の原動力になるであろう兆候があらゆる局面でみられつつある。IN-INのM&Aディールを通じて、「待望の」銀行セクターの整理統合が実現する可能性もある。

その他金融サービスセクターについては、証券会社のディールが増えると予想されているが、これは小規模会社に投資している投資家が、低リターンに終わることの多い証券会社投資のエグジットを計画しているためである。

79Asia Pacific M&A Bulletin

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オセアニアオーストラリア連邦

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2010年を通して比較的好調であったオーストラリア経済を背景に、大企業の資産状況は改善し、債券による資金調達も低調ながら再開されたため、オーストラリアのM&A環境も改善した。2010年度の大型ディールは資源およびインフラのセクターに集中した。この2セクターは、プライベート・エクイティからの投資も見込まれ、2011年も活況を呈し続けていくと予測される。

Sean GregoryTransaction Services LeaderAustralia

これらの利上げは主にインフレ抑制を目的としたものである(2010年末のインフレ率は2.8%)。

海外からの資源需要の増加、鉱業およびインフラの大規模プロジェクトによる賃上げ圧力(このため熟練労働者不足に陥った州もありました)のため、インフレ傾向が続いている。

なお、オーストラリアの2010年11月時点の失業率は前年同期比0.4%減の5.1%であり、他の多くの主要国に比べかなり低いと言える。

2010年8月にはオーストラリア総選挙が行われた。

選挙直前には、ジュリア・ギラード氏がケビン・ラッド首相(当時)に代わり労働党党首および首相に就任し、不意を衝く展開で世間を驚かせたが、開票結果は保守連合、労働党共に過半数の議席を獲得できない「宙吊り議会」となった。

結局、数週間にわたる各党首と数名の独立系議員の間の巧みな駆け引きの後、ギラード党首率いる労働党が僅差で政権に留まった。

経済環境の動向

世界的な金融危機の余波により多くの国で経済が低迷する中、2010年のオーストラリアは比較的強い回復力を見せた。

オーストラリア経済への信頼感を明確に示したのは、多くの主要通貨に対し目覚しいパフォーマンスを見せた豪ドルのレートであった。

特筆すべきは、2010年10月15日、豪ドルが1983年に変動相場制へ移行後初めて米ドルとの等価に到達したことである。

その後すぐに安値に振れたものの、2010年末まで徐々に上がり続け、12月31日には1.016豪ドル=1米ドルの高値で終了した。豪ドルは対ユーロならびに対英ポンドでも2010年末に高値を記録した。

豪ドルの大きな推進力となったのは、オーストラリア準備銀行(RBA)が2010年に数度にわたり実施した利上げであった。

基準金利は3月から5月まで3カ月連続で0.25%引き上げられ、さらに11月にも0.25%の利上げが実施されて、2010年末には4.75%となった。

81Asia Pacific M&A Bulletin

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ディールの動向

こうしたM&Aにとっての好環境を背景に、2010年のディールは件数・金額ともに前年より増加した。

好調なオーストラリア経済により企業心理が改善し、国内企業が海外資産の取得に向け資金力を増しているため、M&A件数が増加している。

また、豪ドル高による資産価格上昇および不安定な政治状況にも関わらず、海外バイヤー、特に中国、日本、韓国の投資家がオーストラリアを魅力的な投資先と捉え、資源、エネルギー、農業セクターで活発に動いている。

このほか、オーストラリアのM&A動向のプラス要因として以下が挙げられる。

• 優良企業の強固なバランスシート– 金融危機の間、多くの上場企業が資本調達や、高コスト負債の返済などによりレバレッジを引き下げた。現在これらの企業は、現金を株主に還元するか、買収ないし内部成長投資に回すかを迫られている。

• デット市場が徐々に再開 – 金融危機時の信用収縮から抜け出した銀行が再び融資に意欲を見せている。ただし、依然としてリスクを嫌い、スプレッドもアップフロントフィーも金融危機以前に比べて高水準にある。

82

1 オーストラリアにおける買収方法の一つ。買収対象会社が、取締役会および裁判所の承認のもと、自社株主に対して買収受入を提案する。買収会社が対象会社およびその株主に買収を提案する「株式公開買付(TOB)」と対置される。この手法は対象会社側がリードするため諸手続きが友好的に進み易い反面、スケジュールの長期化などにより他の手法よりもコスト高となることがある。

Year-end 2010

公表されたディール総数は2009年の2,069件から2010年には2,178件へ、ディール総額は614億米ドルから1,523億米ドルへ増加した。

2010年の主なディールは以下の通り。

• アクサ・アジア・パシフィック(AXA AP)に対する、AMPキャピタルとアクサ(AXA SA)の合同オファー(130億米ドル)。本案件では、AXA APのオーストラリア・ニュージーランド事業をAMPと合併させ、アジア地域の事業はAXA SAが買収することとなっている。本稿執筆時点では取締役会の承認と自由競争消費者委員会(ACCC)の承認が得られており、2011年初頭に「スキーム・オブ・アレンジメント」1の書類配付後、株主投票にかけられる予定である。なおAXA APの役員会は、当初、ナショナル・オーストラリア銀行(NAB)から受けたアジア太平洋地域の事業買収オファーを承認していたが、このディールはACCCに却下された。

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資源セクターのディールでは、不成立となったものも目立った。リオ・ティントとBHPビリトンの間で合意されていた、500億米ドルでの西オーストラリア州の鉄鉱石生産の合弁事業計画もその一つである。BHPビリトンは、カナダのポタッシュの600億ドルでの買収にも失敗している(どちらも、規制当局から必要な承認が得られなかった)。

ニューサウスウェールズ州とクイーンズランド州で進行中の州政府系企業の民営化案件を中心に、インフラ・セクターでも大型のディールが多数みられた。主なディールは以下の通り。

• クイーンズランド州政府による、 QRナショナルの64億米ドルでのIPO。オーストラリアのIPO市場は、2009年後半に有名小売業のIPO数件が実行されたものの、市場の反応は冷ややかで、以来ほぼ完全に停滞していたが、このQRナショナルのIPOを機に再び動き出したと言える。クイーンズランド州政府はこのほかにもブリスベン港の資産をグローバル・インフラストラクチャー・パートナーズ(GIP)、クイーンズランド・インベストメント・コーポレーション(QIC)、Industry Funds Management(IFM)、およびアラブ首長国連邦のアブダビ投資庁からなるコンソーシアムに21億米ドルで売却した。

こうした代表的なディールのほかにも、2010年にオーストラリアで実施されたM&Aは数多くのテーマを有していた。

資源セクターは、商品価格の値上がりと、アジア諸国、特に中国からのオーストラリア資源に対する需要の伸びなどにより特に活発であり、オーストラリアの資源資産が国内・海外双方の投資家にとって魅力的であることが証明されたと言える。資源セクターでの主なディールは以下の通り。

• ニュークレスト・マイニングが、パプアニューギニアのポートモレスビーに本拠を置く産金企業リヒール・ゴールドの全株式を株式交換方式により86億米ドル相当で買収した。

• リオ・ティントがRiversdale Miningの全株式を35億米ドルで買収するオファーを発表した。本稿執筆時点では、Riversdaleの株主がこのオファーを検討中で、他にもカウンターオファーを準備中のバイヤーがあるとの噂がある。

• ロイヤル・ダッチ・シェルと中国石油天然ガス集団(CNPC)両社の子会社の合弁会社であるCS CSG (Australia) Ltdが31億米ドルでアロー・エナジーを買収した。

• All Glorious Ltdが、中国五砿集団公司(ミンメタルズ)の完全子会社である鉱石採掘会社Album Enterprises Ltd を28億米ドルで買収した。

• アダニ・マイニングがリンク・エナジーからガリラヤ盆地の石炭鉱区を27億ドルで買収した。

• シドニーに本拠を置く不動産投資会社ウェストフィールド・グループの所有するオーストラリア国内の54の資産が、新会社ウェストフィールド・リテール・トラストとして会社分割し独立した。案件総額は95億米ドル。

• 450億ドル規模の全国高速ブロードバンド網敷設のため豪政府が設立したNBN Co. に対し、テルストラがホールセール通信ネットワーク事業と顧客ベースを売却すると発表した。本案件は政府と株主の承認待ちの状況であるが、実現すればオーストラリアの通信業界を一変させることとなるであろう。テルストラのネットワーク売却額は79億米ドル。

• シンガポール証券取引所(SGX)は、オーストラリア証券取引所(ASX)と、スキーム・オブ・アレンジメントにより、83億米ドルで合併することに合意した。このディールはACCCの承認を得、現在はオーストラリア外国投資審査委員会(FIRB)による審査にかけられているところである。

83Asia Pacific M&A Bulletin

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上記案件に加え、2010年後半にはKKRが資産運用会社パーペチュアルに19億米ドルでの買収を持ちかけ、周囲を驚かせた。このオファーは早々に拒否され、KKRが新たなオファーを出すかどうかは不明である。

2010年のオーストラリアにおけるM&Aでもう一つ目立った動きとして「会社分割」が挙げられる。大規模複合企業がコア事業に注力するためグループを分割する動きがみられた。2010年の主な分割案件は以下の通り。

• オリカが塗料の製造・卸部門デュルックス・グループを分割した。ディール額は8億600万米ドル。

• CSRが、建築資材分野に注力するため、砂糖部門のSucrogenをシンガポールの企業ウィルマー・インターナショナルに18億米ドルで売却した。

• フォスターズ・グループが、ビールとワイン部門をそれぞれ別会社として分割すると発表した。本稿執筆時点では、各部門幹部の間では既に決定済みで、間もなく株主の判断を仰ぐこととなっている。

このほかの主なPE案件は以下の通り。

• プロビデンス・エクイティ・パートナーズが、チャンプ・プライベート・エクイティからStudy Groupを4億米ドルのセカンダリー・バイアウトで取得した。

• パシフィック・エクイティ・パートナーズが、Energy Developmentsを4億米ドルで買収し非上場化した。このディールは2010年初めに完了した。

• アーチャー・キャピタルはAMPキャピタルから燃料輸送会社Ausfuelを、またフォンテラ・ブランズ・オーストラリアから西オーストラリア州(WA)に本社を置く乳製品メーカー、Brownesを買収した。金額は共に非公表。

• Quadrant Private EquityがMedia Monitors Pty Ltdの全株式を取得した。

• チャンプ・プライベート・エクイティは、仮設フェンス設置サービス企業、ATF ServicesをQuadrantからセカンダリー・バイアウトにより取得した。

• Crescent Capitalは、補聴器会社 、National Hearing CareをイタリアのAmplifon SpAへ4億4,500万米ドルで売却した。

• オリジン・エナジーが、ニューサウスウェールズ(NSW)州政府からインテグラル・エナジーとカントリー・エナジーの小売事業を合計24億米ドルで買収した。同様のプロセスで、TRUエナジーがNSW州政府からエナジー・オーストラリアを買収した。なおNSW州政府は、州の廃棄物回収・処理会社、WSN Environmental Solutionsも競争入札によりSITA Australiaへ2億3,500万米ドルで売却している。

• カナダの年金基金、カナダ・ペンション・プランが、有料道路運営会社Intoll Group を「スキーム・オブ・アレンジメント」により31億米ドルで買収した。

• 長期にわたる経営難に陥っていたアリンタ・エナジー・グループが、TPG キャピタルを含む債権者に資産を25億米ドルで売却することに同意した。このディールは現在「スキーム・オブ・アレンジメント」の手続き中である。

• Citi Infrastructure Investor が海洋ターミナル運営会社、DP World Ltdの株式75%を15億米ドルで買収した。

世界的な金融危機にあっては多くのファンドが買収活動を休止していたが、2010年はプライベート・エクイティ(PE)がオーストラリアのM&A市場に戻った年でもあった。

2010年のオーストラリア 大のPEディールは、米国を本拠とするファンド、TPGキャピタルとカーライル・キャピタルが私立病院経営と病理検査サービスのヘルススコープを23億米ドルで買収し非上場化した案件である。これは、オーストラリアで10億米ドルを超えるPEディールとしては約3年ぶりの買収案件であった。

84 Year-end 2010

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エンターテイメントおよびメディア金融危機後の広告市場の回復に加え、オーストラリアのメディア複合企業大手数社がPEファンドをオーナーとしていることから、2011年はエンターテイメントおよびメディア業界で多くのディールが実施されると予想される。

CVCアジア・パシフィックが所有するNine Entertainment(旧:PBL Media)は、2011年上半期にIPOを目指しているとして注目されている。

この新規上場が市場に好意的に迎えられれば、KKRも投資先のテレビ事業会社、セブン・メディア・グループの売却を検討する可能性がある。

このほか、現在パシフィック・エクイティ・パートナーズが所有する映画館チェーンのHoytsが2010年後半にトレードセールの対象となっていたと言われており、2011年にはIPOに向け動く可能性もある。

インフラ2010年に実施された政府による民営化は2011年も続き、Abbot Point Coal Terminalの 売却が進行中のほか、ニューサウスウェールズ州の電力会社売却も 終局面に入っている。

このほかにも複数の州が港湾施設の民営化を検討中との噂があり、今後も民営化案件が続く可能性がある。

上場インフラファンドの中には引き続き資本構成を検討するところもあり、2011年にも上場インフラファンドの整理統合が続くと予想される。

インフラ関連では、2011年中に大規模なリファイナンスを必要とするファンドが、レバレッジの持続可能性を高めるために、資産のセカンダリーセールを行なうことも考えられる。

資源オーストラリアの資源に対する需要が継続し、資源分野は引き続きM&Aディールの中心セクターとなるであろう。

国内企業は余剰資金の使い道を探しており、海外バイヤーはサプライチェーンの鍵となる資源企業の持分の確保に動いている。

また国内大手のBHPビリトンが、リオ・ティントとポタッシュの買収に失敗した後、新たな投資先を探す可能性も高い。財務状態が良好で、さらなる成長を求める株主からの圧力が高まっているためである。しかしながら、BHPは資源以外の分野で投資先を探す必要に迫られるかもしれない。というのも、不成立となった過去のディール2件はいずれも寡占に当たるとして規制当局の精査を受けたからである。

また資源分野では企業が例外なく労働力不足に悩まされ、特に中小企業が大きな影響を受けており、2011年にはこの分野で合併が大幅に増加するとみられる。

資産運用過去2年間、銀行セクターは活発な整理統合期を経験した。

しかし、金融サービスの中でも資産運用部門は引き続き魅力的な投資分野とみられており、アナリストは公開株の多くが金融危機を抜け出した後も過小評価されていると考えている。この傾向は、KKRによる19億米ドルでのパーペチュアルの買収オファー(不成立)に顕著に現れている。

なお、AMPキャピタルとアクサ(AXA SA)による130億米ドルでのアクサ・アジア・パシフィック(AXA PA)買収は、2011年初めには完了予定である。

今後の見通し

経済成長は2010年と同じペースでは続かないかもしれないが、アジアからの資源需要を大きな支えとして、オーストラリア経済は2011年を通して堅調さを保つと思われる。

クイーンズランド州の洪水により、また他の主要国経済の改善を反映して、豪ドルはやや下落すると考えられる。

ディールに関しては、以下の分野で今後数カ月間に特に活発な動きがみられると予想される。

プライベート・エクイティ金融危機以降、プライベート・エクイティ(PE)には巨額の資金が未投資のまま眠っている。

投資家のためにリターンを稼ぎ、ファンド手数料を正当化するため、PEファンドは2011年にこの資金の投資先を探すであろう。チャンプやQuadrantなど2010年末までに新たに資金を調達した国内PE会社もある。

金融危機後の経済環境にあって、ファンド・マネージャー達は投資機会を求めて洗い浚いオーストラリアの産業を当たっており、単に事業利益を上げ、循環市場を乗り切るのではなく、ポートフォリオ企業の付加価値を高める取組みを重視するようになっている。

加えて、多くのPEファンドは、金融危機以前に行なった投資が向こう2、3年の間にリファイナンスの時期を迎えるため、そのエグジットを検討し始めるとみられる。

QRナショナルの新株発行で一時的に再開したIPO市場も、PEによる投資が満期を迎える多くのポートフォリオ企業の魅力的なエグジットのチャンスとなる可能性がある。

85Asia Pacific M&A Bulletin

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オセアニアニュージーランド

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回復への途上に。

Mark AverillCorporate Finance LeaderNew Zealand

ただし住宅価格は停滞しており、現在も2007年後半のピーク時から約6%低い水準に留まっている。2010年10月までの1年間の非居住用建物の建設許可の総額は前年比17%減少し、中でもオフィスビルや管理用建物は 大の下落幅を記録した。

2010年9月までの1年間のインフレ率は1.5%で、ニュージーランド準備銀行(RBNZ)の目標である1%から3%の範囲内で低めに収まった。

RBNZは2010年12月8日の金融政策に関する声明で、ニュージーランドのオフィシャル・キャッシュ・レート(OCR)を3%に据え置くと発表した。RBNZ総裁は声明の中で、景気回復が本格化しインフレ圧力の兆候がより顕在化するまでは据え置くと述べている。

なお、OCRは2007年7月から2008年6月までの間、直近のピークとなる8.25%に達し、その後世界金融危機の影響を受けて段階的に引き下げられ、2009年4月には2.5%まで低下。2010年6月より再び引き上げ方向に転じていた。

財政面では、ニュージーランド政府は2010年に法人税率を30%から28%に引き下げ、財・サービス税(GST)を12.5%から15%へ引き上げた。

経済環境の動向

2010年のニュージーランド経済は、不安定な国際経済を背景に、緩やかに回復した。

これは、2010年9月までの第4四半期のGDP成長率が0.5%のプラス成長に留まったことに表れている。

ニュージーランド・ドル(NZドル)の対ドルレートは、6月の1NZドル=0.66米ドルから11月には同0.79米ドルまで上昇し、2010年を通して記録的な高値を続けた。

この背景としては、米ドルが全般的に安値で推移したことに加え、主に乳製品、食肉、木材、園芸作物などニュージーランドの輸出の大部分を占める品目の価格が上昇したことが挙げられる(ニュージーランド主要輸出品の国際価格の尺度となるANZ商品価格指数は前年比31%上昇)。

ニュージーランドの失業率は、2009年12月に直近のピークとなる7.1%に達し、2010年9月には6.4%まで低下した。雇用は、農業、林業、漁業、ならびに電力などの公益事業に集中している。

2010年10月までの1年間で住宅建設許可件数は19.5%増加し、2007年以来初のプラスに転じた。

87Asia Pacific M&A Bulletin

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2010年3月、ロイヤル・ダッチ・シェル(シェル)は、ニュージーランドの川下資産をNZX上場のインフラ投資ファンド、インフラティルと、ニュージーランドの退職年金ファンドNew Zealand Supreannuation Fundの合弁ベンチャーであるAotea Energy Holdingsに、5億2,400万米ドルで売却した。この案件は2009年12月に公表され、売却資産にはシェルの供給および販売のインフラと、NZX上場の石油精製企業New Zealand Refining Companyの株式17%が含まれている。

2010年のM&A市場は、カギとなるセクターがいくつかみられたが、とりわけ農業には引き続き注目が集まった。

背景としては、世界的な食料需要の増加で、農業セクターに強みを持つニュージーランドの優位性が高まったことがある。

例えば、中国の光明食品集団がニュージーランドの酪農会社シンレイ・ミルクの株式51%を5,800万米ドルで買収したケースでは、良質なニュージーランド産乳製品の需要が上向いていたことが投資の決め手になったと言われている。シンレイは調達した資金で生産能力を倍増させ、乳児用の調整乳製品を含む製品ラインを拡充する予定である。

ディール総額は2009年から大幅に上昇したが、この数字は数件の大型ディールによって押し上げられた。

主な案件に、2010年3月の、香港を本拠とする天然乳品(Natural Dairy)による複数のニュージーランド酪農場に対する約11億米ドルでの買収オファー(本案件は未完了)と、ニュージーランドの投資会社Rank Groupが2010年11月に公表した、米国の自動車部品サプライヤー、UCI International に対する約10億米ドルでの買収がある。

ニュージーランド証券取引所 (NZX)50種指数は4月14日に3,335ポイントの年間 高値をつけたものの、7月1日には2,934ポイントまで下落した。同指数の2010年末の終値は3,309ポイントで、年初から2.4%の上昇であった。

2010年の出来事として、NZXは乳製品先物取引市場を開設し、全脂粉乳を

初の品目として立ち上げた。さらに、2010年12月下旬、2011年に脱脂粉乳と無水乳脂肪を同市場に追加すると発表した。

ディールの動向

2010年のディール状況は前年度に比べやや上昇し、2009年の199件に対し2010年の公表済みディールは206件であった。

IN-IN案件が全件数のうち53%を占め、OUT-IN案件が35%、残り12%がIN-OUT案件であった。

88 Year-end 2010

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水産養殖セクターでは、NZX上場の水産会社サンフォードが水産養殖分野の強化のため、Pacifica Seafoodからバーナ貝と牡蠣の養殖事業を6,560万米ドルで買収した。この買収対象資産には70以上の養殖場と約400ヘクタールの水域が含まれている。

養殖事業はニュージーランドの水産セクターの中でも も著しい成長を示しており、輸出の重要な位置を占めている。そのため、ニュージーランド政府は、規制撤廃、新規養殖場の認可プロセスの簡素化、養殖事業発展のための投資促進に向けた新法案を発表し、このセクターの支援を打ち出しているところである。

ブドウ栽培のセクターでは、注目すべきディールが2件あった。1件は、ペルノ・リカールが、ニュージーランドワインの12ブランドとニュージーランド国内のワイナリー数カ所を、ライオンネイサン率いる投資コンソーシアムに6,310万米ドルで売却したディールである。

ライオンネイサンはニュージーランドとオーストラリアで事業展開する酒類会社で、2009年に日本のキリンホールディングスに35億米ドルで買収されている。

このディールは、ペルノ・リカールのニュージーランド事業の戦略見直しにより、ワインを中核戦略ブランドから外すという決定を受けたものである。

いま1件は、NZX上場のDelegat’s Group によるOyster Bay Marlborough Vineyards の完全買収オファーである。

このディールは2010年12月に必要とされる数の株主承認を得た。

またシンガポールの上場企業オラム・インターナショナルは、2009年に18%の株式を取得したNew Zealand Farming Systems Uruguay (NZFSU)に対し、全残余株式の買収を提案した。

NZFSUは2006年に設立されたニュージーランドの上場企業で、ウルグアイの農場を取得し、ニュージーランドで開発された放牧方式の集約型酪農管理システムを、ニュージーランドと同様の気候のウルグアイで運営している。

オラムによる買収は全面的な承認を得て2010年9月に成立し、持ち株比率は78%となった。買収総額は1億2,000万NZドル(9,000万米ドル)であった。

国内同士の案件もある。漁業、野菜加工、アイスクリーム製造を手掛ける非上場企業Talleys Groupは、NZX上場企業AFFCO Holdingsの残りの株式47%を取得した。

AFFCOはニュージーランド第4位の食肉加工・輸出企業で、2009年には11億NZドルの収益を上げている。

このディールは2010年10月に90.5%の承認を得、Talleysは企業買収法規に基づき、残余株式を強制的に買取ことが可能となっている。

89Asia Pacific M&A Bulletin

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このほか金融サービスセクターで注目すべきディールとして、Marac Finance、Canterbury Building Society、Southern Cross Building Societyの国内金融会社3社の合併がある。3社は総資産22億NZドル(17億米ドル)の銀行を設立し、NZXに上場させる計画である。2010年12月に株主の 終承認を既に得ており、合併会社の上場は2011年初頭となる見込みである。

2010年のプライベート・エクイティ(PE)のディールは、比較的低調に推移した。

主なディールには、国内PE会社Pencarrow Private Equityによる紙・包装製品販売会社、BJ Ball Groupの、国内PEファンド、Maui Capitalへの売却があった。ディール額は公表されていないが、BJ Ballは3億NZドル(2億2,290万米ドル)の利益を上げている。

別の国内PEファンドDirect Capitalは、Direct Capital IVファンドの組成を発表した。同ファンドは3億2,500万NZドル(2億4,110万米ドル)を調達したが、これには7,500万NZドル(5,570万米ドル)の応募超過分が含まれている。

Direct Capitalはすでにこのファンドで多方面に投資を開始しており、この中にはオーストラリア 大のサードパーティ自動支払い決済サービス会社Transaction Services Limitedへの2,400万NZドル(1,780万米ドル)の投資、および不動産エージェンシーBayleys Corporation への投資などがある。

パシフィック・エクイティ・パートナーズはTegel Foodsの売却手続きを進めていると述べたが、ディール完了の発表はまだない。

アニマルヘルスのセクターでは、バイエルが家族経営の非上場企業BomacGroupを買収した(金額非公表)。

Bomac Groupは家畜・馬・ペット向けのアニマルヘルス製品メーカーで、その製品は60カ国以上で販売されている。

バイエルは本買収により、特にアジア太平洋地域とラテンアメリカ地域に重点を置いたグローバルなアニマルヘルス事業を強化できる見通しである。

2010年は金融サービスでも、多数のディールがあった。

Devon Funds Groupは、Goldman Sachs JBW Asset Management (NZ)Limitedを2010年3月に買収し、社名をDevon Funds Management と改めた。

NZX上場のPine Gould Corporationの子会社Perpetual Groupは、ASB BankからAegisを買収する計画を公表した。Aegisはニュージーランドにおけるラップ・ビジネスの大手で、運用総額は50億NZドル(37億米ドル)を上回る。

2010年11月には日本の日興アセットマネジメントが、オーストラリアおよびニュージーランドのティンダル・インベストメントの買収に合意したと発表した。ティンダルはニュージーランド第5位の規模を持つ資産運用会社である。

また、ドイツ銀行がニュージーランドの投資会社Craigs Investment Partnersの株式49.9%を取得した。買収額は公表されていない。

これらのディール成立と時を同じくして、政府は国民貯蓄率向上策を検討するためSaving Working Groupを立ち上げた。オーストラリアをはじめとする国々と同様の強制加入年金貯蓄制度の設立を求める声も多く上がっており、Saving Working Groupは2011年初頭に勧告を発表する予定である。

90 Year-end 2010

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回復基調の経済見通し、債券による資金調達環境の改善、さらに国内の大型非上場企業の多くが抱え近い将来に顕在化する後継者問題などは、2011年のM&A活性化のきっかけとなるであろう。

国内やオーストラリア、および国際的なPEファンドが、一定期間保有したポートフォリオ企業の売却を検討している一方で、新たに調達した資金の投資先を探しているため、PEディールも増加するとみられる。

農業は引き続き、一次産品から川下製品までを含め重点セクターになると考えられる。世界的な食糧需要の高まりに伴い、ニュージーランド産の農産物と農業技術に対し世界中から引き合いが増えているからである。

中国との間で締結された自由貿易協定によって両国間貿易が急伸した例を見ても明らかなように、今後、ニュージーランドが主要貿易国と締結する自由貿易協定も農業セクターの追い風となり、M&Aの活性化につながっていくと予想される。

今後の見通し1

新のコンセンサス予想では、ニュージーランド経済は回復基調が続き、国内総生産(GDP)は2012年3月までの1年間で3.5%の成長が見込まれている。

2011年下半期にGDP成長率を押し上げるプラス要因には、カンタベリー地震後の復興事業における建築投資の増加、商品価格の高止まり、2011年11月開催予定のラグビーワールドカップなどがある。

しかし、翌2013年3月までの1年間の成長率はやや弱含み、2.6%に収まると予想されている。

ニュージーランド政府は、2011年に多くのイニシアチブを進める予定である。これには水産養殖に関する改正法案、また先に触れたSavings Working Groupによる勧告などが含まれている。

このほか、政府は超高速ブロードバンドの国内展開を加速させるため、15億NZドル(11億米ドル)規模の超高速ブロードバンド構想を進めている。本構想では政府がPPP方式で投資を行うが、その結果、既存の国内通信会社Telecom New Zealandはこの計画に参加するために会社をネットワーク部門と販売部門に分割するとみられている。

2011年下半期に予定されている総選挙を前に、政府に対する支持率は現在、高水準を保っている。

91

1 本稿は、クライストチャーチにおいて地震が発生した2011年2月22日以前に書かれたものである。

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