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―  ― 167 東北大学大学院教育学研究科研究年報 第62集・第2号(2014年) 本論では,援助要請行動に関する先行研究について,援助要請者に関わる個人内要因と,援助要 請者と援助者の相互作用に関わる個人間要因の2つの視点から概観した。個人内要因としては,⑴ 性別,⑵予期される利益とコスト,⑶援助要請スキル,⑷スティグマ,個人間要因としては,⑴援助 要請者と援助者の性別,⑵援助資源,⑶援助要請者と援助者の双方に対する評価を取り上げた。そ の結果,援助要請者が必要な援助を求める際には,援助要請者に関わる要因と同時に援助者に関す る要因も考慮していることや,援助者の反応や印象によって,援助要請者もまた影響を受けること が明らかにされており,より包括的な視点から援助要請行動の促進について検討する必要性が示唆 された。最後に,援助要請行動を問題解決に対する対処行動という視点から捉え,援助要請者と援 助者の双方にとって適切な援助要請行動について考察を行った。 キーワード:援助要請行動,相互作用 1. 問題と目的 今日の日本において,精神疾患と診断された患者は年々増加しており,2011年には320万人を超 える結果となった(厚生労働省, 2012)。しかし,この人数は,専門機関に接触した者に限られており, 実際にはこの3 ~ 4倍の人々が問題を抱えていると推測されている(日本学術会議,2005)。このよ うな事態において,精神疾患に対する予防的観点から,必要な援助を求めることの促進は重要な課 題であると考えられる。 個人が何らかの問題を抱えたときに,他者の力を借りて問題を解決しようとすることは日常的に よくあることである。自分だけでは解決が難しい問題について他者に援助を求めることを,援助要 請行動(help-seeking behavior)という。援助要請行動について,DePaulo(1983)は,「個人が問題 の解決の必要があり,もし他者が時間,労力,ある種の資源を費やしてくれるのなら問題が解決,軽 減するようなもので,その必要のある個人がその他者に対して直接的に援助を要請する行動」と説 明した。DePaulo(1983)よりも以前から援助要請行動に関する研究はなされているが(e.g., Tessler & Schwartz,1972),援助要請行動の測定の仕方が多様であり,知見が一貫しないこと,包 教育学研究科 博士課程後期 援助要請行動の研究動向と今後の展望 ―援助要請者と援助者の相互作用の観点から― 竹ヶ原 靖 子

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� 東北大学大学院教育学研究科研究年報 第62集・第2号(2014年)

 本論では,援助要請行動に関する先行研究について,援助要請者に関わる個人内要因と,援助要

請者と援助者の相互作用に関わる個人間要因の2つの視点から概観した。個人内要因としては,⑴

性別,⑵予期される利益とコスト,⑶援助要請スキル,⑷スティグマ,個人間要因としては,⑴援助

要請者と援助者の性別,⑵援助資源,⑶援助要請者と援助者の双方に対する評価を取り上げた。そ

の結果,援助要請者が必要な援助を求める際には,援助要請者に関わる要因と同時に援助者に関す

る要因も考慮していることや,援助者の反応や印象によって,援助要請者もまた影響を受けること

が明らかにされており,より包括的な視点から援助要請行動の促進について検討する必要性が示唆

された。最後に,援助要請行動を問題解決に対する対処行動という視点から捉え,援助要請者と援

助者の双方にとって適切な援助要請行動について考察を行った。

キーワード:援助要請行動,相互作用

1. 問題と目的 今日の日本において,精神疾患と診断された患者は年々増加しており,2011年には320万人を超

える結果となった(厚生労働省,2012)。しかし,この人数は,専門機関に接触した者に限られており,

実際にはこの3 ~ 4倍の人々が問題を抱えていると推測されている(日本学術会議,2005)。このよ

うな事態において,精神疾患に対する予防的観点から,必要な援助を求めることの促進は重要な課

題であると考えられる。

 個人が何らかの問題を抱えたときに,他者の力を借りて問題を解決しようとすることは日常的に

よくあることである。自分だけでは解決が難しい問題について他者に援助を求めることを,援助要

請行動(help-seeking behavior)という。援助要請行動について,DePaulo(1983)は,「個人が問題

の解決の必要があり,もし他者が時間,労力,ある種の資源を費やしてくれるのなら問題が解決,軽

減するようなもので,その必要のある個人がその他者に対して直接的に援助を要請する行動」と説

明した。DePaulo(1983)よりも以前から援助要請行動に関する研究はなされているが(e.g.,

Tessler & Schwartz,1972),援助要請行動の測定の仕方が多様であり,知見が一貫しないこと,包

*教育学研究科 博士課程後期

援助要請行動の研究動向と今後の展望―援助要請者と援助者の相互作用の観点から―

竹ヶ原 靖 子*

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援助要請行動の研究動向と今後の展望

括的な理論がないこと,確たる定義が存在しないことなど,多くの課題が今なお残されている

(Rickwood, Deane, Wilson, & Ciarrochi,2005)。Komiya, Good, & Sherrod(2000)は,スティグマ

や援助要請時の不安感情,心理的な悩みが援助を要請しようという意図を25% 程度説明することを

示した。さらに,自殺企図,援助要請に対する態度,心理的苦痛,治療恐怖,性別,以前の援助要請

経験が援助要請意図の約23% 程度を説明したとする Carlton & Deane(2000)の知見もある。この

ように,援助要請行動研究に関わる主たる要因と援助要請との関連は決して高いとは言えず,援助

要請意図や援助要請行動に影響を与える要因について多くの検討がなされているにも関わらず,ど

うすれば援助要請行動を促進することができるのか,についてはまだ手探りの段階である。

 援助要請行動に関する研究の多くは,援助要請者(help-seeker)の持つ特性(e.g.,自尊心の高さ,

自己開示への抵抗感)をはじめとして,援助要請者に関わる要因に着目して検討されてきた。しかし,

近年,援助要請者に援助を提供する援助者(helper, help-giver)がいて援助要請行動が成立すること

から,援助者にも目が向けられてきている。潜在的援助者が援助要請者に影響を与えること,援助

要請者と援助者に関する各々の要因が相互に影響することも考えられ,援助要請行動は,援助要請

者と援助者の相互作用行動であると捉えられる。そこで,本論では,援助要請者と援助者の相互作

用という視点から,援助要請者の個人内要因と,援助要請者と援助者との関係によって規定される

個人間要因に分類して,これまでの援助要請行動に関する先行研究を概観することとする。先行研

究では,測定対象が援助要請に対する態度,意図,認知的枠組みとしての被援助志向性(help-seeking

preference),援助要請行動と様々であるが,本論ではこれらを特に区別することはせず,援助要請

と統一することとする。

 さらに,援助要請行動研究の知見は蓄積されているものの,その質や適切さについて言及したも

のはほとんどないのが現状である。些細なことで援助を求めるというような安易なものやあまりに

も頻繁に行われる援助要請は,他者に依存的な印象を与え,援助者に負担をかけるだろう。その場合,

援助要請者は精神的な健康を維持することはできるが,援助要請者と援助者の二者関係,あるいは

援助者の精神的な健康にネガティブな影響を与える可能性が考えられる。そこで,本論の目的を,

援助要請者の個人内要因,援助要請者と援助者との個人間要因の観点から先行研究を概観し,援助

要請者と援助者の双方にとって適切な援助要請行動について考察することとする。

2. 援助要請者の個人内要因 以下では,主に援助要請者に関わる要因が援助要請に与える影響についての先行研究を挙げるこ

ととする。

2-1. 性別

 多くの先行研究から,女性は男性よりも,援助要請に肯定的で(e.g.,Leong & Zachar,1999),援

助要請行動を取りやすいとされている(e.g.,山口・西川,1991)。男性が援助要請を取りにくいこと

は,感情を表出すること,弱みを他者にさらすこと,他者に依存することを良しとしない伝統的性

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役割や規範が,感情や自分の弱さを露呈して他者に頼ることを意味する援助要請の内容と矛盾する

ためであると考えられている(Sears, Graham, & Campbell,2009)。このことと一致して,佐藤(2008)

は,男性にとって,人的援助資源だけでなく,マスメディアなどの情報的援助資源は重要であるこ

とを明らかにし,男性は情報を利用して自力での問題解決を行なう傾向があることを示した。

 男性の伝統的な性役割と援助要請の関連について検討した Berger, Levant, McMillan, Kelleher,

& Sellers(2005)では,性役割に対する葛藤が高く,男らしさに対する観念を強く持つ男性ほど,援

助要請にネガティブな態度を持つことが示された。特に,感情表出への懸念が援助要請とネガティ

ブに関連し(Good, Dell, & Mintz,1989),悩みを話す際に,自身のネガティブな感情を吐露するこ

とへの不安や抵抗が強い男性ほど,援助要請を行なおうとしなかった。Wisch, Mahalik, Hayes, &

Nutt(1995)が行った,クライエントの感情に焦点を当てたカウンセリングビデオを見せるという

情動焦点型の介入の効果は,クライエントの思考に焦点を当てた認知焦点型の介入よりも,性役割

葛藤が高い男性では効果が見られなかった。一方で,Good & Wood(1995)は,そのような男性の

性役割葛藤を,感情表出を抑制し,親しい同性の友人を作らない制限型(restriction-related)と,成

功することを目標とする達成型(achievement-related)の2種類に分類した。そして,制限型の男性

は援助要請にポジティブな態度を持っていること,達成型の男性は抑うつになりやすいことが示さ

れた。

 これらのことから,男性にとって,他者に援助を要請することは抵抗感を感じるものであり,困

難なことがうかがえる。しかし,男性は強くあるべきであるという周囲からの期待や圧力に沿うよ

うに行動しているのみで,本人は援助を望んでいる場合もある(Good & Wood,1995)。学生相談機

関への援助要請における性差に着目した木村・水野(2012)では,問題が多くの人に共通するもので

あると捉える男性ほど援助要請をしようと考えたことから,他者より劣っていないか懸念し,自身

が他者より弱いと認知することで援助要請を躊躇していることが推測される。男性の援助要請行動

の促進については,これらの伝統的な性役割規範,社会から求められる期待などを考慮した上で,

検討する必要があるといえる。

2-2. 予期される利益とコスト

 援助要請行動を行う際に,援助要請者は援助を要請することで得られる利益や被るコスト,ある

いは援助要請を回避することで得られる利益や被るコストを予測している(永井・新井,2007)。利

益とコストとは,援助要請の実行あるいは回避によって生じるポジティブ・ネガティブな結果を指

している。このことを予期される利益とコスト(Anticipated Benefits and Costs(Risks))といい,

近年,この概念に着目して援助要請との関連が検討されている。要請の利益や回避のコストは援助

要請の促進因,要請のコストや回避の利益は援助要請の抑制因となりうることが推測され,永井・

新井(2007)の中学生を対象とした研究では,援助要請を行なうことのコストが高いために援助要請

が抑制されるというよりも,むしろ相談を行うことの利益が低いために援助を要請しようとしない

ことが示唆された。新見・近藤・前田(2009)は,悩みを経験して相談した群と,悩みがあったが相

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談しなかった群,悩み経験のない群と3群に中学生を分類して調査を行い,悩みがあっても相談し

なかった群は他の2群よりも,相談によって得られる利益を低く,相談に伴うコストを高く評価し

ていたことを明らかにした。利益とコストの予期,愛着と援助要請との関連を検討した研究(Shaffer,

Vogel, & Wei,2006)では,愛着が回避型の人は援助要請によって得られる利益を低く,コストを高

く予測し,その結果,援助要請に対する肯定的な態度が低下し,最終的に援助を要請しようとしな

いこと,愛着不安が強い人は,得られる利益を高く,コストを低く予測した結果として援助要請に

肯定的になり,援助を要請しようとすることも示されている。このように,利益とコストの予期は,

援助要請の促進において,重要な役割を果たしていることが考えられるが,具体的に利益やコスト

を構成する要因が規定されておらず構成概念でとどまっていること,援助要請の抑制因であるコス

トに着目した研究は多い一方で,利益に着目した検討がそれほど多くないことなどの課題が挙げら

れる(竹ヶ原・安保,2012)。

2-3. 援助要請スキル

 必要な援助を求める際に,自分が困っていることを伝えることや,援助者が応じてくれるような

方法を取ることは一種のスキルと捉えられる。阿部・水野・石隈(2006)は,「自分の状態や状況を

言語によって他者に伝え,援助を求める能力」として言語的援助要請スキルを定義し,中学生の言語

的援助要請スキルにおいて,友人に対する援助要請とは正の関連を持っていたが,教師に対する援

助要請とは負の関連があることを示した。本田・新井・石隈(2010)では,援助要請スキル尺度を作

成し,援助要請スキルを多く用いるほど,受けた援助が多いことが示された。一方で,橋本(2012)は,

援助要請スキルを過度に重視することで,スキルが不足している個人に援助要請の抑制を原因帰属

することになる危険性を指摘している。7割以上が自分の努力によって,半数以上が友人に相談す

ることで問題解決を行なったという実態が示され(岩瀧,2009),単に援助を求めるスキルだけでな

く,自分で努力しつつ,友人などに援助要請をして問題解決を試みる方法を取っていることが示唆

された。

 

2-4. スティグマ

 スティグマとは,援助要請に関する文脈では,個人が心理的な治療を求めることは望ましくなく,

そのような個人は社会的に受け入れられないという認識のことをいう(Vogel, Wade, & Haake,

2006)。Komiya et al.(2000)は,スティグマが援助要請を抑制しうる要因のひとつであることを示

した。さらに,精神疾患についての肯定的な意見は,援助要請に対する肯定的な態度を性別よりも

有意に説明したことを示す研究もあり(Leong & Zachar,1999),精神疾患についての肯定的・否定

的な態度や考えが援助要請に影響を及ぼすことが示唆されている。このようなスティグマは,メン

タルヘルスサービスや関連する専門機関が,他の資源を利用してもなお問題が解決できないときに

用いる最後の手段であるという位置づけに起因している(Vogel, Wade, & Hackler,2007)。スティ

グマは,援助や治療を求めることを他者や社会がネガティブに見なす公的スティグマ(public

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stigma)と,自身が治療を受けることで,自身を他者より劣っている,無能であると見なす自己スティ

グマ(self-stigma)の2種類に大別される(Vogel et al.,2006)。宮仕(2010)は,心理的問題や対人関

係に関する悩みが深刻であるほど,自己スティグマが強まり,援助要請が抑制される可能性を示唆

した。また,Vogel et al.(2007)は,自己スティグマが公的スティグマとカウンセリングに対する

援助要請との間を媒介すること,公的スティグマの認知は自己スティグマを感じた経験に起因する

ことを示し,自己スティグマと公的スティグマは相互に関連するものであることを主張した。

PTSD の診断を受けた軍人を対象とした Rosen, Greenbaum, Fitt, Laffaye, Norris, & Kimerling

(2011)の研究では,スティグマ懸念を強く抱く人ほど心理療法やカウンセリングに通ったという結

果になった。これは,心理療法やカウンセリングなどを通して PTSD の治療を進めることで,「精

神疾患を抱えている人」という自己スティグマ・公的スティグマを払拭しようとしたためだと推察

される。このことから,スティグマは,利用する前は抑制因になりうるが,一旦,専門機関とつなが

り,援助を要請することができれば,治療の動機づけともなりうることが考えられる。

 しかし,笠原(2002)は,スティグマは悩みの程度と関連するのみで,援助要請とは直接的な関連

はないことを示している。加えて,Golberstein, Eisenberg, & Gollust(2009)は,大学生を対象に

オンライン調査を行い,ベースライン期の公的スティグマと,その後2年間のメンタルヘルスサー

ビスの利用との間に関連が見られなかったことから,スティグマは援助要請の本質的な抑制因では

ない可能性を論じた。

 スティグマは,専門家への相談の実態を知らないことや,精神疾患に関する知識を持たないこと

で助長されていると考えられる。大学生がどの程度学生相談に関する情報を有しているか,学生相

談をどのように認知しているかを調べた西山・谷口・樂木・津川・小西(2005)では,学生相談で「ど

んなことを相談できるか」を知っている人は約4割であったものの,その相談の程度は「重い」とイ

メージしている人が9割を超えていた。実際に,深刻な相談も相当数あることは予測されるが,す

べての相談が非常に深刻な事態にあるとは限らず,また,予防的な観点からも,悩みが深刻化・身体

症状や精神症状が重症化する前の来談は必要であるだろう。中岡・兒玉・栗田(2012)の行った実験

では,カウンセラーの映像を見た学生は見ていない学生よりも,有意に援助要請不安を低減させ,

援助要請期待を増大させたことから,知らないことで生じる恐怖や抵抗感があり,情報提供を行う

ことで知識の普及だけでなく,ネガティブ感情の緩和が可能であることが示唆される。

3. 援助要請者と援助者の相互作用的要因 以下では,援助要請者と援助者の双方に関わる要因が,援助要請行動に与える影響について検討

した先行研究を概観することとする。

3-1. 援助要請者と援助者の性別

 援助要請者本人が男性か女性かだけでなく,援助者が男性か女性かということも援助要請行動に

影響を与える。特に,異性への援助要請行動は,相手の異性が魅力的であるかどうかということと

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援助要請行動の研究動向と今後の展望

関連付けて検討されてきた。Nadler, Shapira, & Ben-Itzhak(1982)では,男性は,弱さや能力の無

さを露呈することへの恐れから,魅力的な女性には,魅力的でない女性よりも援助を要請しにくい

こと,一方で,女性が他者に頼ることは性役割規範に従っているため,女性は魅力的でない男性よ

りも魅力的な男性に援助を要請する傾向があった。この知見と一致して,女性は援助を要請しやす

いこと,男性は援助を要請されやすいことが示されている(山口・西川,1991)。

 また,男性から男性への援助要請も,自分が相手の男性や周囲の男性よりも劣っていることを認

めることに通じるため,行われにくい。Sears et al.(2009)では,思春期の男子は,同性よりも異性

の友人に援助を要請しやすいことを示し,男子が抱く同性への援助要請の抵抗感について主張した。

3-2. 援助資源

 援助要請行動研究では,援助資源選択の研究が多く行なわれている。友人や家族などのインフォー

マルな資源が援助資源として選択されやすいこと,専門家にはそれほど援助が求められないことが

一貫して示されてきた(e.g.,Boldero & Fallon,1995;木村・水野,2004)。

 友人・家族といったインフォーマルな援助資源に対する援助要請は,自尊感情と正の関連がある

(木村・水野,2004)。さらに,対人・社会に関する問題では,友人に援助を求める傾向が高いことか

らも(佐藤,2008),インフォーマルな援助資源への援助要請は肯定的に捉えられることが多い。そ

のようなインフォーマルな援助資源の中でも,福岡・橋本(1997)は,家族には用事の手助けや看病

などの手段的サポートを多く求める一方で,友人にはなぐさめやアドバイスなどの情緒的サポート

を多く求めることから,家族関係と友人関係では,基本的なサポート機能に違いがあることを示し

た。

 友人や家族などのインフォーマルな援助資源と,学生相談などのフォーマルな資源との違いを調

査した研究もいくつか見受けられる。Brown(1978)は,専門機関のみ接触する人や,援助要請を躊

躇し援助を求めない人は危機に陥りやすいこと,援助を要請せずに自力で解決する人やインフォー

マルな資源を利用する人は問題に上手く対処する傾向があることを明らかにした。Cepeda-Benito

& Short(1998)は,援助資源が少ないほど,援助を要請する可能性が高まるという,先行研究と正

反対の結果が得られたことを示した。しかし,ソーシャルサポートの研究では,自分のことを気に

かけてくれる存在がいると思えることが実際には悩んでいる個人には役に立ったり,励ましになっ

たりすることが示されており(Taylor, Sherman, Kim, Jarcho, Takagi, & Dunagan,2004),援助資

源の存在を多く認知することが情緒的安定を導く可能性が考えられる。そのため,援助資源の少な

さを認知することでその資源を確保したいと考え,援助要請につながりやすくなるのではないかと

推測される。また,笠原(2003)は,自己の情報を隠したがるという自己隠蔽(self-concealment)と,

カウンセリングに対する恐怖感,悩みの苦痛の程度などの要因と専門家・非専門家への援助要請と

の関連を検討したが,専門家への援助要請のみでは説明力のあるモデルを作ることはできず,非専

門家への援助要請を同時に目的変数として投入してモデルを作成した。このことは,フォーマルな

援助資源である専門家への援助要請か,あるいはインフォーマルな援助資源である非専門家への援

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助要請かという二者択一ではなく,双方への援助要請を視野に入れて,援助要請の促進を捉える必

要性を示唆している。

 精神疾患や深刻な問題の場合,専門的援助は確かに必要だろう。しかし,自殺念慮や自殺企図が

高まると,援助をしなくなる,差し出された援助を拒否することから(Deane, Wilson, & Ciarrochi,

2001),深刻な状態に陥った場合に,本人が自発的に専門機関に接触することはそれほど多くないだ

ろう。小倉・今城(2011)でも,「うつ状態になった時には行動を起こせない」という自由記述が見ら

れたことから,健康な状態では援助要請の重要性を認識していたとしても,実際に深刻な状態になっ

たときに援助を要請できるとは限らないのである。そのときに,周囲にあるインフォーマルな資源

(i.e.,家族,友人)が必要となる。専門家への援助要請には,友人からのサポートも予測変数となる

ことから(永井,2010),インフォーマルな援助資源への援助要請行動も重要であると考えられる。

しかし,親しい他者に対する援助要請行動については,最も行なわれることから,詳細な検討はあ

まり進んでいないのが現状である。末木(2008)は,大学生を対象に半構造化面接を行ない,呈示し

たい自己イメージや友人から求められるイメージの喪失と,今後の友人との関係に変化が生じる可

能性が友人に対する援助要請に抑制的に働くことを明らかにし,親しい他者に対する援助要請が,

専門家への相談よりも容易とは限らないことを示唆した。このように,親しい他者における援助要

請は,それまで築いてきた関係や今後の関係に影響を与える可能性があるため,専門家への援助要

請とは異なる点で困難を感じることが予測される。

3-3. 援助要請者から援助者へ,援助者から援助要請者への評価

 相互作用的コミュニケーションにおいて,相手への印象や評価あるいは相手からの印象や評価は,

非常に重要なものである。援助要請においても,援助要請者から援助者へ,援助者から援助要請者

へ抱く印象や評価と援助要請との関連を検討した先行研究が多く存在する。

 Fischer, Nadler, & Whitcher-Alagna(1982)は,援助者が援助要請者を他者より劣っているか,

あるいは他者と同等とみなすかによって,援助要請者にとって援助を受け取ることは脅威的にも支

持的にもなりうるという自尊心脅威モデルが最も包括的であることを示し,援助要請が自我脅威で

あるという従来の知見に沿って,それが受け取る援助に対する反応にも影響することを明らかにし

た。DePaulo & Fischer(1980)の実験では,援助要請をより多く行なった実験参加者は,援助者に

無能だと思われていると思い,援助を要請する際に居心地の悪さを感じていた。援助を要請する人

は,援助者への遠慮あるいは援助者に対するためらいを感じ,その上で援助を要請するかどうかを

決定している(島田・高木,1994)。木村・水野(2012)では,女性は,援助者との関係性や援助者の

呼応的な反応を重視しており,相手が自分の悩みに応じてくれるかどうかといった呼応性の心配が

高いほど,援助要請を行なおうとしないことが示されている。援助を要請するかどうかを決定する

際に,人は自分自身の利益やコストだけでなく,援助者の利益とコストをも考慮していることから

(DePaulo & Fischer,1980),援助者の反応や援助者自身が援助要請に応じる,あるいは拒否する利

益とコストが,援助要請者自身の利益とコストに大きく関連することが考えられる。

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援助要請行動の研究動向と今後の展望

 相川(1984)によって,援助を受けた被援助者が援助者に対して抱く印象や魅力について,返報の

機会が援助要請者に与えられない場合は,返報の機会が与えられた場合と比較して,やや援助者を

否定的に評価することが示されている。この結果について,相川(1984)は,自分自身と相手の利益

やコストを同程度にしようと動機づけられる衡平理論に基づいて次のように説明している。被援助

者は,助けられたことで相手よりも利益が多い過剰報酬の状態になり,さらに相手に利益を与える

返報の機会を逸することにより,その過剰報酬の状態が維持される。その状態が維持されることの

不快感により,被援助者は援助者や援助そのものの価値を否定的に評価するというのである。この

ような衡平理論に関連し,援助要請者が援助者に対して抱く感情として,心理的負債(indebtedness)

という概念がある。心理的負債とは,「好意を与えてくれた他者にお返しをしなければならないと

いう義務感」と Greenberg(1980)によって定義され,他者への返報行動は,この心理的負債が中核

的役割を果たしていると考えられている(相川・吉森,1995)。心理的負債における文化差について

検討した一言・新谷・松見(2008)は,アメリカでは受け取った利益によって心理的負債感を抱くが,

日本では援助者にコストをかけたことに心理的負債感を抱くことを明らかにした。つまり,アメリ

カでは援助要請の結果,得られた利益が満足するものあるいは期待した以上のものであった場合に

援助者に対して申し訳ないと感じるのに対し,日本では,援助者が援助要請に応じて時間や労力を

割くことに対し申し訳なさを感じたということである。援助要請行動は,自分に必要な援助を求め

るために実行されるものであることから,他者に利益を求めることと同義である。そのため,衡平

理論の立場から解釈すると,援助要請者と援助者の関係は,援助要請者の過剰報酬状態によって不

衡平になることが予想される。さらに,一言ら(2008)の知見から,日本人は援助要請をすることで

援助者が負うコストに着目する傾向にある。もし,自身の利益を得るために他者に負担をかけるこ

とを懸念するなら,援助要請は抑制される可能性があるだろう。

 悩みを抱える個人や援助要請者に対して潜在的援助者が抱くイメージは,悩みを抱える人に対す

るイメージと,援助要請に対して援助者自身がどのように対応するか,そして援助者の対応に対す

る援助要請者の反応によって影響される。

 例えば,木村(2009)は,進路に関する問題を抱えているよりも,心理的問題を抱えているほうが

ネガティブな印象で評定されることを示し,親しい他者か専門機関かというような援助要請先より

も,抱える問題の種類が対人印象に影響を与えている可能性を主張した。また,この木村(2009)の

知見に関連して,Boldero & Fallon(1995)は,抱える問題の種類と性別が援助要請行動を予測する

ことを示した。さらに,Sibicky & Dovidio(1986)が行った2人で会話をするという実験では,心

理的問題を抱えてカウンセリングセンターに通っていると設定された参加者は,単に大学生とのみ

教示された参加者よりも,会話の実験の前にもう一方の相手から好ましくなく評定され,そしてそ

のことが実験中の二人の会話にもネガティブな影響をもたらした。

 また,援助を提供しようとする援助者側は,提供した援助を受け入れてもらえるという期待を抱

いている。もし,その援助を拒絶された場合,それは援助者にとっては期待から外れる行為になる

ため,援助要請者に対してネガティブな印象を抱くことになる。Rosen, Mickler, & Collins Ⅱ(1987)

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では,差し出した援助を拒否された援助者は,その拒否に対して,援助要請者にネガティブな感情

を抱いたり,援助要請者の魅力を低く評価したりすることで対応した。

 援助者は援助を求められると,援助要請者の困難状況を心配したり,哀れみを感じたりすると同

時に,援助要請者を軽蔑したり嫌気を差すといったネガティブな感情も抱くことが示されている

(西川・高木,1989)。このことから推測されるように,援助者から援助要請者に抱く印象は基本的

にそれほど良いものではない。援助を要請したり,提供したりという行為は,程度の差はあるもの

の日常的に行われているため,ほとんどの人が援助要請者と援助者の立場を経験しているだろう。

そのため,自分が援助を要請する立場になったときに,以前に援助した相手に抱いたネガティブ感

情を想起することで援助要請を躊躇することもあるかもしれない。また,日本人は他者の感情を読

み取ることを重視し,他者の感情に着目するため(内田・北山,2001),先述した,援助者が援助要請

者に抱くネガティブな感情を,援助要請時に察知している可能性がある。その際に経験した援助要

請者の不快感が,その後の援助要請行動を抑制することも考えられるだろう。

4. 援助要請者と援助者のギャップ これまで,援助要請者が援助者に対して抱く感情や印象,もう一方の,援助者が援助要請者に対

して抱く感情や印象についての先行研究を概観してきた。しかし,援助要請者と援助者は,当然な

がら援助を要請する側と提供する側,あるいは悩みを抱えている人とそうではない人というように,

立場が異なる。そのため,援助要請者が援助者に対する認知について,援助者が実際に同じように

感じているとは限らず,逆に,援助者から援助要請者についても同様のことが考えられる。

 例えば,中学生の教師に対する援助要請行動の利益とコストについて,援助要請者側の中学生と,

援助者側の教師を比較すると,生徒は利益をまず認知しているのに対し,教師はコストを認知して

いることがわかっている(加茂田・秋光,2012)。また,彼女らの研究では,生徒は教師が予測する

ほど相談によって被るコストを懸念してはいないが,同時に得られる利益も高くは評価していない

ことも明らかになっている。これは,利益とコストはどちらか一方が高ければもう一方が低いとい

うようなゼロサムではなく,むしろ,コストを高く予測するからこそ,得られる利益を高く期待す

ると考えられる。そのため,コストが低い場合は,援助要請そのものが容易になりやすいため,得

られる利益にもそれほど期待しないのだろう。ただし,加茂田・秋光(2012)で示された援助要請者

と援助者の評価のずれには,教師と生徒,あるいは大人と子供というように立場や年齢による違い

も大きく影響していることが推測される。

 Flynn & Lake(Bohns)(2008)は,見知らぬ人へアンケートの記入を依頼することを援助要請の

内容として扱い,参加者は5人の了承が得られるまでに何人に声をかけなければならないかを予測

した。すると,参加者の予測した人数は,課題を終えるまでに実際に声をかけた人数の約2倍にもなっ

たのである。また,援助要請の内容をより自然なもの(e.g.,電話の借用,道案内)に変えても同様の

結果が得られた。このことから,援助要請者は,援助者が援助要請に応じる可能性を正しく評価で

きていないことを明らかにした。これは,援助者が抱えている,援助要請の拒否によって生じる非

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援助要請行動の研究動向と今後の展望

援助コスト(e.g.," 困っている人は助けなければならない " という規範の逸脱)への不安を援助要

請者が正しく認識できていないためだと結論付けられた。つまり,援助要請者は,援助者の援助要

請を拒否することが難しい状況を正しく察することができずに,援助要請の応諾可能性を過小評価

し,その結果として援助要請行動を行わないという事態に陥っていることになる。

 さらに,Bohns & Flynn(2010)は,授業のアドバイザーに対し何人の生徒が授業期間の間に援

助を求めてくると思うかを尋ねたところ,実際に援助を求めた人数よりも有意に多い人数を予測し

た。また,Flynn & Lake(Bohns)(2008)と同様のシナリオを用いて援助要請者と援助者,観察者

の3つの条件に参加者を割り当て,すべての参加者は⑴援助を求める可能性,⑵援助を求めるとき

の気まずさにそれぞれ回答した。すると援助者条件の参加者は,援助要請者条件の参加者よりも援

助を求める可能性を高く評価し,また援助を求めるときの気まずさを低く評価した。このことから,

援助者の側においても援助要請に対する援助要請者の不安(e.g.,恥ずかしい)を過小評価し,援助

要請者が,援助者よりも援助要請に対する不安を高く感じているために援助要請が抑制されること

が示された。これらのことからわかるように,援助要請者・援助者ともに相手の抱える不安やコス

トを正しく予測することができておらず,結果的に援助要請者は援助を求めたくとも求めることの

できない状況に置かれることになってしまう。

 竹ヶ原・安保(2013)は,親しい他者に対する相談行動に焦点を当て,Flynn & Lake(Bohns)(2008)

と Bohns & Flynn(2010)の知見が再現されることを示した。さらに,援助を提供することで生じ

る援助コスト(e.g.,相談にのると時間がかかる)を,援助要請者は援助者よりも有意に高く予測し

ていることも明らかになった。Flynn & Lake(Bohns)(2008)では,この非援助コストの過小評価

バイアスを,自身の持つ情報から事象を判断する傾向である自己中心性(egocentrism)の観点から

説明したが,竹ヶ原(2014)では,親しい他者に対する援助要請行動という文脈から,共同関係

(communal relationships)における共同規範(communal norm)を用いて,非援助コストの過小評価

バイアスと,援助コストの過大評価バイアスを説明した。

 Bohns, Handgraaf, Sun, Aaldering, Mao, & Logg(2011)は,アメリカと中国における援助要請を

拒絶するコストの過小評価の差を検討し,中国人はアメリカ人よりも,援助要請に応じてくれる応

諾可能性を正確に予測することを示し,援助要請を拒絶することの社会的コスト(i.e.,面子の喪失)

は,集団主義と応諾可能性予測との間を媒介していた。

5. 周囲の他者と個人の関係から見る援助要請行動 親しい他者への援助要請行動の場合,援助を要請する以外にも日常的にコミュニケーションが行

なわれている。そのため,今後の関係に悪影響を与えないために,援助要請をする際には配慮が必

要となる。また,日常的なコミュニケーションや二者関係が援助要請に影響を与えていることも考

えられる。

 Taylor et al.(2004)は,ストレス対処の際に,アジア人はヨーロッパ系アメリカ人よりも,ソーシャ

ルサポートを使わないことを明らかにした。その理由として,集団の和を個人の利益よりも重視す

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るアジア圏では,集団における目標達成が最も優先されるため,個人の悩みを解決するために,そ

の集団や集団成員に負荷をかけてまで援助を要請しようとはしないためではないかと説明してい

る。Kim, Shermna, Ko, & Taylor(2006)においても,集団主義文化のアジア系アメリカ人は,より

親しい他者に援助要請をしないこと,個人主義文化のヨーロッパ系アメリカ人はそのような二者関

係に援助要請が影響されないことを示した。そして,このような関係懸念と,サポート要請の期待,

そのサポートの有益性を期待する傾向には関連があった。つまり,アジア系アメリカ人は,親しい

関係にある他者を重視するため,援助要請をすることで関係性にネガティブな影響を与えることを

懸念し,その結果として援助要請を行ないにくい。このように,集団と個人の関係から,援助資源

や援助要請は影響を受けることが示唆されている。相互依存の文化傾向は,集団での調和を重んじ

ることから,他者への注意に焦点を当てやすくなり,その結果として,中国人はアメリカ人よりも

正確に他者の視点を取得していたことが示されている(Wu & Keysar,2007)。

 一方で,問題を抱える個人の周囲にいる人々が,専門家に対する援助要請をどのように捉えるか

が専門家に対する援助要請に影響を与えているという研究もある。例えば,石川・橋本(2011)は,

友人が持つスクールカウンセラーへの援助要請態度が,本人のスクールカウンセラーへの態度やス

クールカウンセラーを肯定的に捉えるかどうかに大きく影響することを示した。同様に,木村・水

野(2008)も,学生相談利用を周囲が本人に期待するほど,学生相談に対する援助要請が高まること

を明らかにしている。他にも,専門的援助要請を行なった人を身近に知っていることが専門家に対

する援助要請の予測変数になること(Rickwood & Braithwaite,1994),援助要請を自分に勧める人

の存在や,援助要請経験のある人との関係があることがメンタルヘルスサービスに対するポジティ

ブな期待や援助要請に対するポジティブな態度と関連があること(Vogel, Wade, Wester, Larson,

& Hackler,2007)が示されている。一方で,梅垣・木村(2012)は,自分と友人を比較すると,友人の

抑うつ的な状態をより深刻に捉え,自分よりも友人に援助要請が必要であると評定するという楽観

的認知バイアスの存在を提唱した。さらに,専門家への援助要請については抑うつ症状が重症であ

るほど,この楽観的認知バイアスは強まることを示した。これらのことから,周囲との関係は,援

助要請の促進において,ポジティブにもネガティブにも作用しうることと,一定の影響力を持つ可

能性が考えられる。

6. まとめと今後の展望 本論では,援助要請行動に関する先行研究を,援助要請者の個人内要因と,援助要請者と援助者

との二者関係の中で規定される個人間要因とに分けて概観した。援助要請者に関わる個人内要因に

ついては,援助要請の実行あるいは回避によって生じる利益とコスト,他者に自身の困難状況につ

いて言語で伝える援助要請スキル,スティグマによる抵抗感などについて述べてきた。援助要請者

と援助者との相互作用によるものとして,援助資源による違い,援助要請者から援助者への印象や

評価,反対に,援助者から援助要請者への印象や評価についての先行研究を示し,それは援助要請

者や援助者自身の要因にも影響を与えうることが推察された。さらに,援助要請者と援助者のお互

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援助要請行動の研究動向と今後の展望

いに対する利益やコストの予測にはずれが生じやすいこと,援助要請者と援助者に限らず,準拠集

団との関係やその集団規範によっても影響を受ける可能性があることが示された。このように,個

人内要因と個人間要因それぞれが援助要請に与える影響については検討が進められているが,個人

内要因と個人間要因との関連や,それらの関連が援助要請に与える影響についてはあまり検討され

ていない点が課題として挙げられる。例えば,スティグマは援助要請者自身が感じるものであるが,

身近な他者がメンタルヘルスサービスを利用していたり,自分にサービスの利用を勧めてきたりし

た場合には,そのスティグマは緩和されるか,あるいは援助者との関係を重視した結果として援助

要請に至る可能性も考えられる。このことは,援助要請者自身が抱く援助要請に対する抵抗感を直

接的に軽減しなくとも,援助者との関連要因に働きかけることで間接的に援助要請行動を促進する

ことが可能であることを示唆している。

 また,援助要請者と援助者の相互作用として援助要請を捉えたときに,個人と集団とのあり方や,

集団の中での関係規範が影響していることは十分に考えられる。援助要請に関する研究は国内外で

盛んに行われているが,自己の目標達成を追及する個人主義の欧米各国と,自己よりも所属する集

団の利益を重視する集団主義のアジア各国では,土台となる人間関係に対する考え方や集団の環境

が異なる。このような背景から,本論でもいくつか取り上げたが,文化差に焦点を当てた先行研究

もある(e.g.,Kim et al.,2006;Wu & Keysar,2007)。例えば,橋本(2012)は,自尊感情と援助要

請との関連について,日本人は自尊心の維持・高揚をそれほど重視しないと指摘し,自尊心を維持

させるために自尊心の高い人は援助要請をしないという認知的一貫性仮説(Bramel,1968)と,既に

傷ついている自我を援助要請によってさらに傷つけることを恐れるために,自尊心の低い人は援助

要請をしないという傷つきやすさ仮説(Tessler & Schwartz,1972)が,日本人の援助要請の抑制に

妥当な説明であるのか疑問を呈している。さらに,橋本(2013)は,他者を軽視することで自身に有

能感を抱く仮想的有能感に着目し,仮想的有能感が高い人ほど援助要請をしようと思わないことを

示し,日本人にとっては自尊心よりも他者との関係性のほうがより重要である可能性を主張した。

このように,それぞれの要因が援助要請に与える影響は文化的背景や社会的環境によって異なり,

先行研究の知見が一貫しない理由の一つに挙げられると考えられる。日本における援助要請行動の

促進を検討する際には,周囲との関係を良好に維持する関係調整と,自身の目標を達成する利益追

求がそれぞれ,あるいは相互に関連しあって援助要請に与える影響を検討する必要があるだろう。

 以上を踏まえて,援助要請者と援助者の双方にとって適切な援助要請行動とはどのようなもので

あるか,ということについて考察する。援助を要請せずに問題が深刻化することも非常に危険であ

るが,一方で,些細なことでの援助要請も,援助要請者の依存的傾向を増大させる恐れがあり,援助

者への負担が大きいという点で推奨することは難しい。永井(2013)は,個人の援助要請傾向をスタ

イルという形式を用いて,まず自分自身で問題解決を試み,解決が難しい場合に援助を要請する自

立型,問題が深刻でなくとも安易に援助を要請する依存型,問題の程度に関わらず,一貫して援助

を要請しない回避型の3類型に分類した。そして,依存傾向の高い回答者は悩みが少ないときでも

援助要請を多く行なっており,回避傾向の高い回答者は悩みが多いときでも援助を要請しなかった

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ことを明らかにした。また,佐藤(2010)は,「自分自身に関する問題について自分自身の力で解決

しようとする態度」をセルフヘルプ(self-help)志向性とし,援助要請をしない人を自助努力の志向

性が高い人と捉え直すことで,当事者が望む問題解決の方法を提案することが重要であることを主

張した。このように,単に人々が援助を要請できるように促進するということではなく,援助要請

の質や,そもそも援助を要請しようとしない個人の特性の捉え直しに着目する視点がある。

 しかし,これまでの援助要請行動研究では,援助を要請する一連の過程には着目しているものの,

問題解決のための対処行動であるという視点が疎かになりがちであった。つまり,問題に対処しよ

うとする際,多くの人が取る解決行動が援助要請であるとは限らず,援助要請行動は解決行動の一

手段に過ぎないということである。問題解決の一手段,そして問題解決への準備段階であるという

視点に立つと,援助要請行動は,自分で援助を求め,利用可能な援助資源を用いて対処を行なうと

いう,解決志向性の高い主体的な行動であると考えられる。援助を求める相手に問題の解決を委ね

るのではなく,自身で問題を解決したり,問題解決に向き合ったりするために援助を求めることは

依存的なものではないだろう。カウンセリングなどのメンタルヘルスサービスに対する態度などの

尺度には「自分の問題は自分で解決しなければならない」といった項目が含まれており,援助要請が

問題解決やそれに必要な行動も他者に委ねているという印象を抱く人々がいることを暗示してい

る。しかし,援助要請者本人が問題を解決する意欲を持ち,そのために援助者の力を借りたいとい

うのであれば,それは依存的な援助要請とは異なるだろう。

 気軽な相談を含め,援助要請行動は日常的に行われていることから,適度な範囲で行えば援助要

請者にも援助者にもポジティブな効果をもたらすだろう。援助要請者は,援助要請をすることで自

身の問題解決の手がかりを得たり,情緒的安定をもたらされる。一方,親しい二者間で行われる場

合については,日常的な援助行動において,援助者自身もポジティブな成果を得ていることから(妹

尾・高木,2003),援助者も援助要請を自分が頼られていると感じたり役立ったりすることで快感情

を抱くだろう。このことをヘルパー・セラピー原理(Riessman,1990)といい,共通の困難を抱えた

人同士が相互に援助を行うセルフヘルプ・グループの機能の一つとして知られている(丹羽,

2007)。この原理を応用すれば,援助要請行動においても,援助要請者にとってだけでなく援助者に

とってもポジティブな効果をもたらす可能性がある。特に,親しい二者間であれば,援助要請に応

じることで二者関係が良好に維持されたり,あるいはより親しい関係となることもあるだろう。こ

のように,援助要請者と援助者の双方にとって利益をもたらす協力行動となる援助要請とはどのよ

うなものであるか,ということについて今後検討していく余地があると言える。

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援助要請行動の研究動向と今後の展望

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� 東北大学大学院教育学研究科研究年報 第62集・第2号(2014年)

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竹ヶ原靖子(2014)援助要請者における援助者コストの予測が援助要請行動選択に与える影響―コストの認知的・情緒

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竹ヶ原靖子・安保英勇(2012)援助要請行動の促進に向けて―抑制因の検討から―,東北大学大学院教育学研究科臨床

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竹ヶ原靖子・安保英勇(2013)親しい仲にもエラーは生じるか:相談行動における視点取得,東北大学大学院教育学研

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丹羽郁夫(2007)ソーシャルサポートとセルフヘルプ,植村勝彦(編),コミュニティ心理学入門,ナカニシヤ出版,pp.

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援助要請行動の研究動向と今後の展望

In the present review, I surveyed the previous researches about help-seeking behavior from

two perspectives: intrapersonal factors of a help-seeker and interpersonal factors between a help-

seeker and help-giver. As intrapersonal factors, I mentioned ⑴ gender, ⑵ anticipated benefits

and risks, ⑶ skills of help-seeking, ⑷ stigmas. As interpersonal factors, ⑴ combinations of a help-

seeker's gender and a help-giver's one, ⑵ help-sources, ⑶ evaluations of a help-giver by a help-

seeker or those of a help-seeker by a help-giver were mentioned. As a result, it was suggested

that a help-seeker considers factors about a help-giver as well as about himself or herself when

he or she seeks a help in need. Furthermore, reactions to and impressions about a help-seeker

that a help-giver has would influence help-seeking behavior. Then, future research is needed from

more comprehensive perspectives to examine a promotion of help-seeking. Finally, it was

discussed an appropriate help-seeking behavior for both a help-seeker and a help-giver,

considering a help-seeking as a coping for problem-solving.

key words:help-seeking behavior, interaction

Yasuko TAKEGAHARA

(Graduate Student, Graduate School of Education, Tohoku University)

Trends and Future Views of Help-seeking Behavior :Perspective on an Interaction between a Help-seeker and a Help-giver

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