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1Global Disclaimer(免責事項) 本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含まれ るデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの投 資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責任 を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。 更新日:2020/2/26 調査部:原田大輔 公開可 ロシア:米国による対露制裁:これまで観測された注目すべき 8 つの事象 ・これまで米国による対露制裁では、解釈の拡大、実際の抵触事例及び解除事例等を通して、外 国企業の対露ビジネスで留意すべき、以下 8 つの事象が観測されており 1 、詳細を振り返る。 1)ガスプロジェクトにも制裁が拡大 2015 8 月:南キリンスキー・ガス鉱床を相当量のコンデンセート生産が見込めることを 理由に、「将来的石油生産ポテンシャル」を有するとして制裁対象に指定。 2)最初の制裁抵触 .. 事例 2017 7 月: SDN (特定国籍指定者)に指定されていた Rosneft セーチン社長と ExxonMobil が交わした 8 つの文書に対する ExxonMobil への罰金(2 百万ドル)。 3)最初の制裁解除 .. 事例 2019 1 月:2018 4 月に突如 SDN に指定された結果、アルミ市場に影響を与えた世界 2 位のアルミ生産企業を含むデリパスカ傘下 3 企業の SDN 対象解除。 4)金融制裁における融資(Providing Financing)の定義が拡張 2019 4 月:米国ソフトウェア企業 Haverly Systems による Rosneft に対する売掛金回収 遅延を資金提供と判断し、罰金(約 7.5 万ドル)を課した事例。 5)対イラン制裁からの跳弾 2019 9 月:イラン制裁によって SDN 指定された中国遠洋海運(COSCO)の子会社 2 が関与するヤマル LNG 向け砕氷 LNG タンカー傭船が一時停止。その後、2020 1 月、内 1 社については制裁を解除。 6)輸出管理規制で初の逮捕者 2019 12 月:米国司法省が北極海鉱床開発向けのガスタービン輸出を偽装したとしてロシ ア人、イタリア人及び米国人を逮捕。 1 第一から第四の事例までは以下の拙稿も併せて参照されたい。 「ロシア:欧米による対露制裁を巡る動き(注目される三つの事象とウクライナ大統領選が持つ意味)」(2019 2 26 日) https://oilgas-info.jogmec.go.jp/_res/projects/default_project/_page_/001/007/733/190225_Russia_US_EUSanctions_r2.pdf 「ロシア・CIS 諸国:石油ガス産業を巡る最近のトピックス(3 月~8 月)」(2019 8 21 日) https://oilgas-info.jogmec.go.jp/_res/projects/default_project/_page_/001/007/840/1908_j_ru_recenttopics_r.pdf

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本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含まれ

るデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの投

資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責任

を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。

更新日:2020/2/26 調査部:原田大輔

公開可

ロシア:米国による対露制裁:これまで観測された注目すべき 8つの事象

・これまで米国による対露制裁では、解釈の拡大、実際の抵触事例及び解除事例等を通して、外国企業の対露ビジネスで留意すべき、以下 8 つの事象が観測されており 1、詳細を振り返る。

(1)ガスプロジェクトにも制裁が拡大

2015 年 8 月:南キリンスキー・ガス鉱床を相当量のコンデンセート生産が見込めることを理由に、「将来的石油生産ポテンシャル」を有するとして制裁対象に指定。

(2)最初の制裁抵触..

事例

2017 年 7 月:SDN(特定国籍指定者)に指定されていた Rosneftセーチン社長と ExxonMobil

が交わした 8 つの文書に対する ExxonMobilへの罰金(2 百万ドル)。

(3)最初の制裁解除..

事例

2019 年 1 月:2018 年 4 月に突如 SDN に指定された結果、アルミ市場に影響を与えた世界第 2 位のアルミ生産企業を含むデリパスカ傘下 3企業の SDN対象解除。

(4)金融制裁における融資(Providing Financing)の定義が拡張

2019 年 4 月:米国ソフトウェア企業 Haverly Systems による Rosneft に対する売掛金回収

遅延を資金提供と判断し、罰金(約 7.5 万ドル)を課した事例。

(5)対イラン制裁からの跳弾

2019 年 9 月:イラン制裁によって SDN指定された中国遠洋海運(COSCO)の子会社 2 社

が関与するヤマル LNG 向け砕氷 LNG タンカー傭船が一時停止。その後、2020 年 1 月、内

1 社については制裁を解除。

(6)輸出管理規制で初の逮捕者

2019 年 12 月:米国司法省が北極海鉱床開発向けのガスタービン輸出を偽装したとしてロシア人、イタリア人及び米国人を逮捕。

1 第一から第四の事例までは以下の拙稿も併せて参照されたい。 「ロシア:欧米による対露制裁を巡る動き(注目される三つの事象とウクライナ大統領選が持つ意味)」(2019 年 2月 26日) https://oilgas-info.jogmec.go.jp/_res/projects/default_project/_page_/001/007/733/190225_Russia_US_EUSanctions_r2.pdf 「ロシア・CIS諸国:石油ガス産業を巡る最近のトピックス(3 月~8 月)」(2019年 8 月 21 日) https://oilgas-info.jogmec.go.jp/_res/projects/default_project/_page_/001/007/840/1908_j_ru_recenttopics_r.pdf

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資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責任

を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。

(7)国防授権法への抱き合わせによる新たな制裁法案の議会通過と制裁発動

2019 年 12 月:翌年の軍事予算措置のために不可欠で、年内に成立する慣わしの国防授権法

に米国の国防という文脈では読み込めないと思われた「独露間ガスパイプライン」を抱き合わせて通過。今後同じ方法で毎年末新たな制裁が盛り込まれる可能性を示唆。

(8)OFACの対露制裁を巡る最初の法的敗北

2019 年 12 月:上記(2)を受けて、ExxonMobilが OFACに対して制裁課金を無効とするよ

うテキサス州北部地区連邦地方裁判所に訴えを起こし、係争中だった事案について、同地裁

が ExxonMobilの訴えを認め、OFACによる制裁課金は無効であるとの判決を下す。

1.欧米による対露制裁/これまでの経緯

2014 年 2 月のウクライナ騒乱、3 月のロシアによるクリミア併合を受け、その解消とウクライ

ナ東部の紛争鎮静化を目指し、欧米はロシアに制裁を課し、この 3 月 6 日で丸 6 年が経過しよう

としている。当初は、個人・企業に対する入国制限、資産凍結に限られていたが、7 月に発生したウクライナ上空でのマレーシア航空機撃墜事件を受け、ロシアの経済活動の根幹である石油産業

をターゲットとした制裁に先鋭化した。具体的には「将来的石油生産ポテンシャルのある」分野、すなわち大水深(500フィート(米)/152m(EU)以深)、北極海(米)・北極圏(EU)2、そし

てシェール層開発に必要な資機材について 7 月から実質的禁輸措置が実施された。減退する可能

性の高いロシアの原油埋蔵量に対してロシアが期待を寄せているのが現在の主力生産地域と分布が重なるバジェノフ層におけるシェール開発や大きな資源ポテンシャルを有する北極海であり、

欧米制裁は外資の技術なくしては開発が進まないエリアを狙うことを目的としたものである。ま

た、将来的な「石油」ポテンシャルをターゲットとし、天然ガスを対象外とした背景には、実際の原油・天然ガスの禁輸措置を行う場合にはその受益者となる欧州諸国が損害を蒙ることに対す

る配慮があったと考えられている。

同年 9 月には、さらに踏み込んだ制裁として資機材の禁輸を役務(サービス)にまで拡大し

た。この欧米によるロシアへの更なる圧力のトリガーとなった出来事として、Rosneftと

ExxonMobilが 2011年に合意した戦略的協力協定に基づき、8 月からカラ海で掘削を開始すると発表をしたことが挙げられる。欧米としては制裁の抜け道(バックフィル)を許さないことを示

すために制裁に役務を含めることで ExxonMobilを同プロジェクトから撤退させることを目的とし

たものだった。実際、制裁発動(9 月 12 日)から 2 週間の猶予が与えられ、ExxonMobilは撤退を余儀なくされたが、同プロジェクトでは猶予期間内で掘削を完了するべく作業が続けられた。

2 米国制裁では Arctic offshore、欧州制裁では Arctic と記載。なお、これまでの事例から欧州も陸上を含む北極圏を対象にしているのではなく、北極海を対象としていることが判明している。

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資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責任

を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。

図 1 時系列で見る石油ガス産業をターゲットとする欧米の対露制裁

出典:米国政府(国務省及び財務省)及び欧州連合による制裁規定から筆者取り纏め

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資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責任

を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。

結果、Rosneftは 2 週間の猶予期間が終わるや否やセーチン社長による単独会見を開催し、大規模

油ガス田の発見を発表し、奇しくも制裁発動後に北極海の有望なポテンシャルが判明することとなった 3。

その後、米国と EUの制裁の足並みが乱れる。ロシアに圧力をかけ、クリミア併合の解消を目

指すのが制裁の目的だが、特に全会一致で更なる制裁(もしくは解除)を決定する EUは、実効性が見えず、対露制裁によるビジネス界の反発もあり、更なる制裁の追加に消極的となってい

る。それは 2014 年の 12月に米国が「ウクライナ自由支援法」を制定し(大統領署名後、未発動の

状態が続いていたが、後述の新制裁法「CAATSA」で一部発動された)、外国企業をも米国制裁の対象とすることができるようになったのと対照的に、EUは既存制裁の対象個人・企業の拡大に留

めたことに現れている。その後、2015 年 2 月にドイツ、フランス、ロシア、ウクライナ 4 者が見守る中、「ミンスク合意Ⅱ」が結ばれるも、結果が出ないまま現在に至っているが、米国はその間

も Rosneft(2015 年 7 月)、Gazprom(2016 年 9 月)、NOVATEK(2016 年 12月)、Transneft

(2017 年 6 月)、そして、Surgutneftegaz(2018年 1 月)と、制裁対象企業の子会社をも特定する形で制裁を強化してきた。50%以上の株式を保有する子会社は実質グループ企業と見做される

という定義があるにもかかわらず、さらに子会社を特定した背景には制裁がクリミア併合解消や

ウクライナ東部地域鎮静化のためのロシア締め付けと譲歩引き出しという実質的成果を出さないまま、打つ手が限られていることを露呈する一方、制裁対象企業とはならない子会社を特定する

という意味合いもあったとも推察される。例えば、2015 年 11月に BPが 20%、インド企業連合が 29.9%買収した Rosneftの子会社である Taas Yuryakh Neftegazodobycha は Rosneftの子会社

リストには入っていない。また、2016 年 12月の NOVATEKの制裁対象子会社指定では、ヤマル

LNGプロジェクトの操業会社はリストに入らなかった例が挙げられる。

その後、米国はオバマ政権からトランプ政権に移行し、議会の反トランプ派によるロシアゲー

ト問題(2016 年の大統領選を巡ってトランプ大統領とその側近がロシアと共謀していたという可

能性)への注目によってロシアと距離を置く姿勢を示す必要に迫られたトランプ大統領と議会の反露強硬派・超党派議員による追加制裁への拍車を受けて、2017 年 8 月にさらに踏み込んだ制裁

法「制裁による米国敵性国家対抗法」(H.R.3364/Countering America’s Adversaries Through

Sanctions Act/CAATSA)を施行し、これまで米国人だけに適用されてきた分野別制裁(大水

深、北極海、シェール層開発の禁止)が外国人に対しても対象となった(二次制裁の発動)。さら

に、任意制裁ながら、Rosneftのような国営企業が保有する鉱区への参画に際して外資に必要とされる同国営企業の子会社(鉱区ライセンスホルダー)への出資が国営企業の民営化促進とその対

価が政府幹部を利すると見做される場合や、ロシアからのエネルギー輸出パイプラインへの資

金・技術供与に対して制裁を課す新たな内容も含まれた。 3 Rosneft社ウェブサイト:https://www.rosneft.com/press/gallery/Rosneft_Discovered_a_New_Hydrocarbon_Fie/

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そして、2019 年終盤になり米国は新たな制裁を発動した。12 月 20 日にトランプ大統領が署名

した 2020年国防授権法に盛り込まれたロシア~ドイツ間ガスパイプラインである Nord Stream 2

及びロシア~トルコ間ガスパイプラインである Turk Streamに対する新たな制裁である(海洋パ

イプ敷設会社を対象とするもの)。国防授権法は、次年度軍事予算措置のために不可欠で、必ず年

内に成立する性格の法律であり、独露間のパイプラインという米国の国防という文脈では読み込めないものを抱き合わせて通過させた変化球である。今後同じ方法で毎年末新たな制裁が盛り込

まれる可能性も示唆するもので、同法発効により、94%完成していた Nord Stream 2 は建設中断

を余儀なくされており、今後当事者である独米間の交渉とロシア独自で残る区間の建設を行うことができるのかに注目が集まっている。

図 2 欧米の対露制裁にリストされたロシア石油天然ガス企業一覧

出典:米国政府(国務省及び財務省)及び欧州連合による制裁規定から筆者取り纏め

米国制裁は留まるところを知らず、今年に入ってからも次々と追加制裁(SDN対象者拡大)を打ち出している。まず 1 月 29 日付で米国財務省OFACは、ロシアが編入したクリミア共和国の

政府関係者 7 名、同共和国の鉄道運営企業 1 社、同社社長 1 名について、SDN対象者の追加発表

を行った(欧州及びカナダ両政府と共同で実施。また、ロシア人だけでなく、ロシアに与したク

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リミア出身のウクライナ人も対象となる点が注目される)4。また、2 月 18 日には、「腐敗したマ

ドゥーロ政権による同国の石油資産の収奪を食い止めるために」(ムニューシン財務長官)ベネズエラ産原油の輸出取引に関与している Rosneftの子会社である Rosneft Trading SA及びその代表

のディディエル・カシミーロ Rosneft副社長を SDNに指定すると発表している 5。

他方、EUは、前述の通り、制裁解除・強化には全会一致が必要であり、反露派(東欧を中心)と親露派がまとまらず、制裁の成果(ミンスク合意Ⅱの履行)が見えない現状では、既存制

裁を延長するしかない状況が、2014 年以降続いている。米国と比較すると、2014 年に

ExxonMobilがカラ海から撤退したのとは対照的に、制裁後も欧州企業によるロシアとの石油開発プロジェクトが続けられてきたことは興味深い。例えば、欧米の金融制裁・技術制裁対象である

Rosneftと 2016 年から 2018 年に行われた ENIによる黒海開発(最終的に撤退)、2016 年旧Statoil(Equinor)によるマガダン鉱区での試掘井掘削(結果、ドライ)、2016 年 BPによる

Rosneft子会社である Yermakneftegazへの出資・資金提供は、それぞれ現在の欧米制裁に抵触す

る可能性がある案件だったはずだが、結果はどうであれ、実行されている 6。この背景には、EU

ではグランドファーザー条項を適用し、2014 年の制裁施行前に合意された内容については制裁対

象としないという原則があること、そして、欧州企業によるロシアでの活動について、それが制

裁に抵触するかどうかの判断は各国に委ねられており、厳密に制裁に抵触するかどうか不確かな案件(例えば、マガダン鉱区のように鉱区内に大水深領海ではあるが、掘削深度は大水深ではな

い場合など)については、欧州企業は自国政府からのお墨付きを得る形でロシアとの石油開発プロジェクトを推進してきたと考えられる。

2.米国制裁発動からこれまでに発生した注目すべき 8つの事象

特に米国による対露制裁に関して、これまで制裁法文の解釈の拡大や実際の抵触事例・解除事例

等を通して、以下に挙げる 8 つの事象が観測されている。これらの背景や発生事由についての分

析は、今後の外国企業の対露ビジネスに対する示唆を与えるものであり、以下、整理してみたい。

(1)ガスプロジェクトにも制裁拡大(2015年 8月:南キリンスキー鉱床を制裁対象に)

冒頭の通り、欧米制裁は「将来的な石油生産ポテンシャル」を有する三分野(北極海(米:

Arctic Offshore/EU:Arctic)・シェール層・大水深)を対象としているが、その背景には既存の

原油生産や天然ガス生産を対象とした場合には、大顧客である欧州市場に大きな影響が出ることに対する配慮があったと考えられる。しかし、2015 年 6 月、Gazpromと Shellがサハリン-3 鉱区 4 米国財務省ウェブサイト:https://home.treasury.gov/news/press-releases/sm889 5 米国財務省ウェブサイト:https://home.treasury.gov/news/press-releases/sm909 6 この他、最近では Rosneft 及び Equinor による西シベリア・タイトオイル開発の JV設立等も挙げられる(IOD/2019 年 1月 29日)。

ノルウェーも対露制裁を課しているが、EU 制裁とは若干異なる独自の特徴を持つ。

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で発見したガス田・南キリンスキー鉱床について資産スワップに合意したのを受け、米国政府

は、その二カ月後にはその鉱床をガス田にもかかわらず、輸出規制対象に加えた 7。その理由について米国政府は「相応の液分(コンデンセート)の生産が見込まれるため。」と説明。通常天然ガ

ス生産では地表で液化する天然ガス液(コンデンセート)の生産が見込まれるものであり、この

米国の新解釈によって、今後北極海(米)や大水深で立ち上がる天然ガス・LNGプロジェクトも相応のコンデンセートの生産が見込まれる場合には米国の制裁対象となる可能性がある。

(2)最初の制裁抵触..

事例(2017年 7月:ExxonMobilに対する罰金)

2017 年 7 月、2014 年 5 月に ExxonMobilが米国制裁対象リストである SDN(特定国籍指定者)

に登録された Rosneft・セーチン社長とビジネスを行ったこと(契約等 8 文書を締結)に対して制

裁金(2 百万ドル:一文書当たり 25 万ドル)を科す処分を決定した 8。これは 2014 年に始まった米国の対露制裁において違反した米国企業が特定され、具体的な罰金を科された初めての例とな

り、米国の制裁が形骸化したものではないことを示す出来事となった一方、既に ExxonMobilはロ

シアでの事業中止で 2 億ドルの損失を計上しているが、さらにその流れ玉は米国企業という身内に当たるという対露制裁の皮肉な結果を示すことにもなった。

<参考>米国財務省外国資産管理室(OFAC)による ExxonMobilへの罰金適用の内容について

・ExxonMobil に対してウクライナ関連制裁法違反のため、2百万ドルの罰金を科す。 ・具体的には、2014年 5月 14日~23日の間に同社が米国制裁対象として指定された SDNリストにある

Rosneft・セーチン社長と 8つの文書を署名したことによる対露制裁法違反。 ※Rosneft本体は SDNリストに入っていない。但し、分野別制裁(SSI)リストには入っているとの注あり。

※セーチン社長は 2014年 4月 28日に SDNリストに登録されている。 ・ExxonMobil はセーチン社長の Professional(職業的)なキャパシティと Personal(個人)のキャパシティの違いがあると抗弁しているが、財務省はその区別をしない。 ※ExxonMobil は当時のホワイトハウス・財務省の説明を受け、SDNは Personal(個人)に対して行われているものであり、Rosneft社の社長としてのキャパシティは対象とならないという論拠)

・更に、OFACは 2013年にミャンマー政府に対する SDNリスト対象者との同様の面談等についても、Professional(職業的)なキャパシティと Personal(個人)のキャパシティを区別しないことを FAQ(No285)で示している。

・ExxonMobil の制裁法違反の自発的な開示が行われず、同制裁法違反は決して許されないものであること 7 米国政府官報:https://www.federalregister.gov/articles/2015/08/07/2015-19274/russian-sanctions-addition-to-the-entity-list-to-prevent-

violations-of-russian-industry-sector#h-11 8 米国財務省ウェブサイト:https://www.treasury.gov/resource-center/sanctions/OFAC-Enforcement/Pages/20170720.aspx

https://www.treasury.gov/resource-center/sanctions/CivPen/Documents/20170720_exxonmobil.pdf

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から、基礎民事罰金及び法廷最高民事罰金の合計である 2百万ドルを科すことを決定。 ・また、OFACは次の ExxonMobilによる問題点を指摘・懸念を表明(強い言葉で)。

①同社が対露制裁という警告を無視し、無謀にも米国制裁要件を無視してきたこと。 ②同社幹部はセーチン社長が SDNリストの対象となった際の同氏の立場を認識していたこと。 ③同社は、ウクライナ危機に与するロシア政府の高官であるセーチン社長と取引を行う(engaging

services)ことによりウクライナ制裁プログラムの目的に深刻な損害を与えていること。 ④同社は洗練された、経験豊富な石油ガス企業であり、米国経済制裁、輸出管理規制の対象となる製品、役務、技術の提供を全世界で行っていること。

・他方、OFACは過去 5年間違反を行っていない点には情状酌量の余地があると考えている。

出典:米国財務省

他方、今回の罰金決定は即時決定し発表されたものではなく、ExxonMobil に対して制裁抵触に対す

る警告表明と弁明の遣り取りが 2年以上前から財務省との間で行われていたことが分かっている。

<参考>OFAC及び ExxonMobil間の罰金確定に至るまでの遣り取り

・2015年 6月 29日:財務省 OFACは ExxonMobilに対して Pre-penalty Noticeを発出。 -対象は今回と同じ 8つの文書(SDN対象者(セーチン)との LNGに関する合意及び 7つの Deedの締結)。

-2百万ドルの罰金の提示と ExxonMobil に対して制裁に違反していない論拠を書面で示す権利を忠告。 ・ExxonMobil は次の日付でOFACに対し、複数回に亘って情報提供・説明を実施。

年月日 内容(ExxonMobil→米国財務省)

2015年 08月 05日: 書面回答 2016年 09月 26日: 面談

2016年 10月 12日: 追加資料提出

2017年 03月 29日: 追加資料提出

2017年 04月 13日: 面談

2017年 04月 17日: 追加資料提出 2017年 06月 23日: レター①送付(財務省テロ金融情報担当次官宛)

2017年 06月 26日: レター②送付(財務省テロ金融情報担当次官宛)

2017年 07月 06日: 追加資料提出

2017年 07月 14日: 面談 2017年 07月 17日: 追加資料提出

出典:米国財務省入手資料から抜粋

このように 2 年前からのコレスポンデントに加え、罰金が確定する 7 月までの 3 カ月間、

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を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。

ExxonMobilは頻繁に財務省と遣り取りを行っていた。2017 年 4 月という月は、3 月にフリン大統

領補佐官が辞任し、5 月にトランプ大統領がコミーFBI長官を事実上解任という狭間で、ロシアゲート問題が激しく燃え上がる過程に当たり(最終的に 8 月の新制裁法「制裁による米国敵性国家

対抗法(CAATSA)」発動に至る)、これらを受けても、財務省と ExxonMobilの主張

(Professionalと Personalの区分けがあるのかないのか)について解決ができず(ExxonMobilが説得できず)、今回の財務省による制裁金を科す決定に至ったということになる。また、この事象

は制裁抵触となった場合でも、すぐに米国による罰則発動とはならず、弁明の機会が与えられ、

その上で双方が妥結できない場合に罰則が適用されるということも示している点は、ロシアに参入しながら制裁リスクを懸念する外資にとって重要な点である。

(3)最初の制裁解除..

事例(2019年 1月:デリパスカ傘下 3企業の SDN対象解除)

制裁を強化し続けてきた米国だが、2018 年 12 月には、2014 年の対露制裁発動から初めて制裁

対象(SDN/特定国籍指定者)3企業の解除という措置を打ち出したことは特記に値する。対象

企業は同年 4 月に SDN指定となった寡占資本家として有名なオレグ・デリパスカ氏傘下の投資会社 En+及び世界第二位のアルミ生産企業 Rusal、電力会社 EuroSibEnergo の 3 社であり、その世

界経済への影響に鑑み、前英国エネルギー気候変動大臣のグレゴリー・バーカー卿を代表とするメンバーにより制裁解除の請願が行われ、対象企業に対するデリパスカの支配構造を排除する方

策を検討し、実行に移した(米国政府(財務省)との間でバインディング(法的拘束力を持つ)

文書を締結)ことを評価した結果として、財務省から議会に対して解除勧告が出されたものである 9。デリパスカの保有する 3 社に対する制裁が解除された理由=支配権の排除を明確化してお

り、今後制裁が課された場合でも解除される条件と方法(上述の通り、今回はスクリパリ親子毒

殺未遂事件をはじめ、政治・外交的には反露の色が濃い英国、その著名人が仲介した点も興味深い)の可能性も示すものでもある。制裁解除の動きに対して、民主・共和両党の反対議員による

差し止め動議が出されるという波乱があり、勧告期限の 30 日を経過したものの、最終的に 1 月27 日、財務省は制裁リストからの除外を発表している 10。

(4)金融制裁における融資(Providing Financing)の定義が拡張(2019年 4月:Haverly

Systemsに対する罰金)

2019 年 4 月 25 日、米国財務省外国資産管理室(OFAC)は、米国企業の新たな制裁違反事例

と、対象となった米国企業との間で制裁金支払いについて妥結したと発表した 11。その時点で同 9 米国財務省ウェブサイト:https://home.treasury.gov/news/press-releases/sm577 10 米国財務省ウェブサイト:https://www.treasury.gov/ofac/downloads/sdnnew19.pdf 11 米国財務省 OFAC プレスリリース:https://www.treasury.gov/resource-center/sanctions/OFAC-Enforcement/Pages/20190425.aspx

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国の制裁違反事例として公表されていたものは、上記(2)2017 年 7 月 20 日の ExxonMobil

(SDN対象であるセーチン社長との取引行為(8文書を締結)に対する罰則適用であり、200 万ドルの罰金を課すもの。現在も係争中)に続くものだが、今回の事例は、分野別制裁(SSI)であ

る金融制裁(対象企業に対する融資(providing financing)期間の制限。2015 年時点で「90 日を

超える融資」を禁止するものだったが、2017 年 8 月の新制裁法(CAATSA)発動後、「60 日超」に短縮)の違反として、その融資の概念が制裁対象企業である Rosneftに対する米国企業の売掛

金の回収にも適用されるという点で極めて特殊な事例であるだけでなく、これまで融資を行う金

融機関が対象と考えられてきた同金融制裁が、サービス・機器を提供・販売する一般企業にも適用されるという点で多大な影響を及ぼす事例となる。

事の発端は 2015 年 8 月 19 日に遡る。米国石油開発関連ソフトウェア企業 Haverly Systems, Inc

(テキサス州とカリフォルニア州に事務所を持つニュージャージー州の中小産業ソフトウェア・

プログラミング企業 12)は、Rosneftに提供したソフトウェアのライセンス及び保守サービスに関

連して、Rosneftに請求書(2 通)を発行。請求書には発行日から 30~70 日の支払期日が規定されており、Rosneftは支払いを実行するために同社に対して税務書類を要請。その後、税務書類の

入手・遣り取りに数カ月を要した結果、Rosneftから Haverly Systems, Incへの支払い(請求書 1

通分)は請求書発行から約 9 カ月後の 2016 年 5 月 31 日に実行された。また、残る請求書については金融機関が制裁を事由に Rosneftからの送金を断るというアクシデントが生じたものの、最

終的に 2017 年 1 月 11 日に Haverly Systems, Incへの支払いが実現した。

OFACはこの売掛金の回収に要した期間を Directive 2(Rosneftを含む対象企業への 60 日超の

融資を禁止する金融制裁を規定)違反であり、売掛金の期限を超えた遅延収集は禁止されている

と Haverly Systems, Incに通知。同社と協議・調停の結果、同社は罰金 75,375USD(当初 OFAC

は最高民事罰金額として 590,282USDを想定していたが、減額)を支払うことに合意したもので

ある。

今回の制裁違反認定は、米国による金融制裁における融資の概念に、Rosneft等対象企業に対する売掛金の回収も含まれるという解釈を示唆するものである。これまでは融資の実行主体であっ

た金融機関が対象と考えられてきたが、対象ロシア企業に制裁対象(所謂、将来的石油生産ポテンシャルを有する大水深・北極海・シェール層の開発)ではない、物品・役務を販売する企業も

その対価回収に当たって、60 日を超えて売掛金の資金回収ができなかった場合には、米国の金融

制裁の違反罰則対象となるという事例となった。制裁対象ロシア企業が故意に支払いを遅らせる場合が生じた場合でも同様に米国制裁に抵触する可能性を示唆するものでもある。また、今回の

件は氷山の一角であり、既に OFACでは「第二、第三の Haverly Systems」について調査が行わ

れている可能性もあることから、今後の動向・OFACの発表に注目が集まる。 12 Haverly Systems, Inc 社 HP:https://www.haverly.com/main-products

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(5)対イラン制裁からの跳弾(2019年 9月:ヤマル LNGプロジェクトへの砕氷 LNGタンカー派遣会社が運航停止に)

2019 年 9 月 25 日に OFACが発動した対イラン制裁の一環での同国産原油輸出に対する幇助へ

の罰則として、中国遠洋海運(COSCO)の子会社 2 社(COSCO Shipping Tanker (Dalian) CO.,

LTD.及び COSCO Shipping Tanker (Dalian) Seaman & Ship Management CO., LTD.)が新たに

SDN対象として指定された 13。この 2 社の内、COSCO Shipping Tanker (Dalian) CO., LTD.はヤ

マル LNG向け砕氷 LNGタンカーを 6 隻供給しているカナダ Teekayとの JVに対して、50%を出資する子会社 China LNG Shipping (Holdings) Limited を通じて、50%出資しており、OFAC規則

に従えば、SDN対象企業が 50%以上を出資するグループ企業は全て SDNと見做されることから、上記 COSCO子会社 2 社及びそれらが 50%以上出資する会社との米国人による取引が禁止と

なり、外国人もこれら会社に対してmaterial supportを与えた場合には OFACはその外国人も

SDN対象とすることができるという二次制裁を含み、同社はヤマル及びアルクチク砕氷 LNGタンカーを外資(カナダ:Teekay及び日本:商船三井)と共に傭船していることから、それら JV

の活動に影響を及ぼすこととなった(図 3 参照)。この米国制裁を受けて、カナダの Teekay社が

早速、10 月 2 日に予定していた投資家説明会を事態精査のため延期すると発表 14。なお、日本の商船三井が保有するヤマル LNG向け砕氷 LNGタンカー3 隻も中国遠洋海運(COSCO)との JV

が運営するものだが、商船三井の COSCO側パートナーは上記 SDN対象企業 2 社のさらに親会社である COSCO Shipping Corporation Limitedが直接のパートナーとなっており、上記 SDN企

業との資本関係はなく、米国 OFACも親会社との JVについては今回の制裁対象ではないことを

明言しており、商船三井と COSCOの保有する 3隻については問題がないことが確認されている15。

NOVATEKも同じタイミングでプレスリリースを出し、「Teekayと SDN対象となった COSCO

子会社との LNG輸送は今回の米国による対イラン制裁対象とは関係がないこと」、「ヤマル LNG

プロジェクトは顧客との義務を履行するべく、生産された LNGに対して必要十分なキャパシティ

を有している」と火消しに追われることになった 16。

その後、一カ月が経とうとしている 10 月 22 日に、カナダの Teekay社がプレスリリースを行

い、COSCO子会社が株式保有者再編を行い、同社と COSCOとのヤマル向け砕氷 LNGタンカー

の JVは米国制裁対象とならないことを確保したことを発表する 17。制裁解除の方策としては、 13 米国財務省ウェブサイト:https://www.treasury.gov/resource-center/sanctions/OFAC-Enforcement/Pages/20190925.aspx 14 Teekay社プレスリリース:https://www.teekay.com/blog/2019/09/30/teekay-group-to-postpone-investor-day-on-october-2-2019/ 15 米国財務省ウェブサイト:https://www.treasury.gov/resource-center/faqs/Sanctions/Pages/faq_iran.aspx#804 16 NOVATEK社プレスリリース http://www.novatek.ru/en/press/releases/index.php?id_4=3461 17 Teekay 社プレスリリース:https://www.teekay.com/blog/2019/10/22/teekay-and-teekay-lng-announce-resolution-to-china-lng-joint-

venture-issues/

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OFAC規則では SDN対象企業・個人が 50%以上を実質保有する企業・個人も SDN対象と見做す

としており、裏を返せば、50%未満(50%-1 株)にシェアを落とすことで、SDN対象を回避することが可能という、今年 1 月にデリパスカ関連企業が制裁解除された方法と同じ方法が採られた

ことが判明した。9 月 25 日のイラン制裁発動から 1 カ月の間、Teekay及び COSCOは株式比率

変更による対応と OFACへのコンタクト・有効性の照会を行ってきたものと推察される。

その後、さらに 2020 年 1 月 31日に新たな動きがあった。OFACが制裁対象会社 2 社の内、

COSCO Shipping Tanker (Dalian) CO., LTD.について制裁の解除を発表。この背景には同社が世界

の原油海上輸送に占める重要性が明らかになり、OFACがエネルギー産業からの圧力を受けたことによる可能性があると噂されている。

図 3 SDN対象となった COSCO2 社との出資関係

出典:報道情報及び各社公開情報から筆者取り纏め

(6)制裁対象物品輸出容疑で初の逮捕者(2019年 12月:Gazprom Neftへのタービン納入関連)

2019 年 12 月 3 日、米国司法省は、北極海鉱床開発向けの偽装輸出でロシア人、イタリア人及び

米国人の逮捕者が出たことを発表 18。主な罪状は、Gazprom Neftのバレンツ海・プリラズロムノ 18 米国法務省プレスリリ-ス:https://www.justice.gov/opa/pr/department-justice-announces-indictment-charging-russians-italians-and-

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エ油田開発向けガスタービンの不正輸出であり、逮捕者は、Oleg Vladislavovich Nikitin(ロシア法

人 KS Engineering 代表)、Anton Cheremukhin(同社社員)、Gabriele Villone(イタリア法人 GVA

International Oil and Gas Services代表)、Bruno Caparini(同社社員)及び Dali Bagrou(米国法

人World Mining and Oil Supply代表) と米国、イタリア及びロシア国籍の 5 名であった。5 名は

Gazprom Neftが開発するバレンツ海・プリラズロムノエ油田向けにジーメンス傘下の米国企業Dresser-Rand 製のガスタービン Vectra 40Gを 1730 万 USDで米国内向けを装って購入し、ロシ

アへ転送する計画だったが、機材は発送後、欧州での通関時に、同機材が必要とされないはずの

カザフスタンが最終仕向地となっていたため偽装が発覚。5 名の容疑者は制裁法違反、書類偽造、資金洗浄等の罪により、20年の刑期と 100 万 USD以上の罰金を科される可能性がある(なお、

逮捕者はいずれも罪を否認している)。

(7)国防授権法への抱き合わせによる新たな制裁法案の議会通過と制裁発動(Nord Stream 2及び

Turk Stream関連)

12 月 20 日、トランプ大統領は 2020 年国防授権法に署名し、即日発効した。1119 ページ、全

7612 条から成る同法の最後、1103 ページから始まる第 75 章「欧州エネルギー安全保障の防御」

に第 7501条から 7503 条に亘って、Nord Stream 2 及び Turk Streamに対する新たな制裁が盛り込まれている 19。

翌日には Nord Stream 2 及び Turk Stream のパイプライン敷設を請け負っていた、スイス登記の Allseas 社(1985 年設立。大水深パイプ敷設及びオフショアメジャー企業。2011 年稼働を開始

した最初の Nord Streamも同社による敷設)が、Nord Stream 2 についての全作業をサスペンドす

る旨のリリースを公表し 20、同パイプライン工事は 94%まで進捗したにも関わらずサスペンドされた。

国防授権法は、翌年の軍事予算措置のために、必ず年内に成立する性格の法律であり、「独露間

のパイプライン」という米国の国防とは直接関係のないものまで抱き合わせて通過させた今回の事例は、今後同じ方法で毎年末新たな制裁が盛り込まれる可能性も示唆するものとなっている。

(8)OFACの対露制裁を巡る最初の法的敗北(2019年 12月:テキサス州北部地区連邦地方裁判

所が OFACによる ExxonMobilへの制裁課金は無効であるとの判決を下す)

上記(2)に関して、2017 年 7 月に最初の米国制裁法違反(SDN対象者との商取引の実行)の

others-attempting 19 米国議会 HP:https://www.congress.gov/116/bills/s1790/BILLS-116s1790enr.pdf 20 Allseas 社プレスリリース: https://allseas.com/news/allseas-suspends-nord-stream-2-pipelay-activities/ 「国家授権法の制定に鑑み、Allseas 社は Nord Stream 2 パイプ敷設活動を停止した。同法律の猶予期間条項(Wind-Down Period)に従うと共に、米国の関連当局からの必要な規制、技術及び状況のクラリフィケーションを含むガイダンスを期待している。」

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事例として OFACが ExxonMobilに対して制裁金 2 百万ドルを課し、その後、ExxonMobilが

OFACに対して制裁課金を無効とするようテキサス州北部地区連邦地方裁判所に訴えを起こし、係争中だった事案について、2019 年 12 月 31日付で同地裁が ExxonMobilの訴えを認め、OFAC

の同社に対する制裁課金は無効であるとの判決を下した 21。テキサス州北部地裁は主要点とし

て、以下の点を挙げている(ジェーン・J・ボイル裁判官)。

---「政府は ExxonMobilとロスネフチが契約した際に、米国の制裁に違反したかどうかについ

て、あまりにも説明が不足していた(provided too little detail)。」

---「米国政府による制裁発動と発表は、今回の ExxonMobilのような当該取引を誠意(acting in

good faith)によりサスペンドする可能性はあるが、必ず禁止されるという確証を生み出さ

ない。」

---「政府は最終的に『SDN対象者との取引は同者が SDN対象となっていない企業を代表して

行動している場合でも許可されない』というガイドラインを出したが、そのガイダンスは

ExxonMobilとロスネフチの契約文書締結後に出されている。」

---「確かに OFACからのガイダンスがない状態で契約を進めた ExxonMobilの判断は危険であ

り、恐らく無分別である。しかし、このことが、(OFACによる)公正な説明という欠如を

許容するものではない。」

現時点では ExxonMobilは当該判決を確認しているに留めており、OFACはコメントを出してお

らず、今後 OFAC(司法省)が控訴するかどうかについては新たな情報は出ていない。

今回の判決は財務省にとって対露制裁での最初の法的敗北である一方、対露制裁自体の変更を促

すものではなく、今後 OFACが制裁内容をどのように解釈しており、それをいかに伝達するかに

影響を与える判決であると言えるだろう。

(了)

21 米国政府広報:https://www.govinfo.gov/content/pkg/USCOURTS-txnd-3_17-cv-01930/pdf/USCOURTS-txnd-3_17-cv-01930-2.pdf

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<巻末参考> 欧米日による対露制裁の経緯・概要

2020年 2月 26日現在

(1)米国の対露制裁の概要 2014年 3月: 6・17・20日:個人に対する渡航禁止・資産凍結(SDN)

4月: 28日:個人(SDN)にセーチン Rosneft社長を含める。対象を企業にも拡大。

7月: 16日:対象に国営銀行(Gazprombank・VEB)を含める。 (資金提供、新規の融資(90日を越える償還期間)等を禁止)

対象に石油企業(Rosneft・NOVATEK)を含める。 29日:対象国営銀行を拡大(VTB、Bank of Moscow、ロシア農業銀行)。

石油開発技術に関する製品等の実質的禁輸措置(商務省)。 (大水深探鉱開発、北極海探鉱開発、シェールオイル生産に関する技術)

9月: 12日:対象国営銀行を拡大(Sberbank)。 石油開発技術に関する禁輸を役務に拡大。対象企業を指定(財務省)。 (Gazprom、Gazpromneft、LUKOIL、Surgutneftegaz、Rosneft)

12月: 18日:【ウクライナ自由支援法(オバマ大統領署名)】 軍事分野、エネルギー分野、金融分野等に対して法施行から時限的に大統領が判断して、複数の制裁を課すことができる内容。現時点で発動は留保中。 外国人(企業)も対象になる。

→ロシアの特定の原油プロジェクト(※)に対して大きな投資を故意に行ったと米大統領が判断する外国人に法施行の 45日(2015年 1月末)以降に制裁を課す。

<※特定の原油プロジェクト> (A)水深 500フィート(152m)超のロシアの排他的経済水域 (B)ロシアの北極圏オフショア (C)ロシア連邦内に位置するシェール層

→三次石油回収に用いられる機器を含む露エネルギー産業で用いられる機器の輸出又は再輸出のためのライセンス要求事項の追加あるいは他の制限を課す。

→Gazprom が NATO 加盟国、ウクライナ、グルジア、モルドヴァからガス供給量を大幅に削減した場合には、その判断から 45 日以内に外国人による Gazprom 株式又は社債への投資を禁じる措置の他、複数の制裁措置の中から最低ひとつの制裁を課す。

→露軍事産業又はエネルギー産業(露における特別な原油プロジェクト及び上記 Gazprom 関係条項)に故意に従事した外国金融機関又は法施行後大きな取引を行った外国金融機関に対して、当該外国金融機関の米国内の銀行口座開設の禁止又は既存口座の維持に厳しい条件を付す、等。

19日:クリミアへの米国人(企業)の投資、不動産売買の禁止及び全般的禁輸措置。対象個人・団体の拡大(財務省)。

2015年

3月 11日:対象個人・団体(Russian National Commercial Bank等)の拡大。

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(財務省)

7月 30日:対象個人・団体の拡大。VEB及び Rosneft子会社(Vankorneft、Verkhnechonneftegaz、各製油所等 16社)の特定・制裁対象へ。 (財務省)

8月 7日:商務省が規定する禁輸措置リストにGazpromが推進するサハリン-3キリンスキー鉱区内の南キリンスキー鉱床が加わる。

12月 22日:対象個人・団体の拡大。Sberbank及び VTB子会社の特定・制裁対象へ。 (財務省)

2016年

9月 1日:対象個人・団体の拡大。Bank of Moscow、Gazprombank及び Gazprom 子会社(53社)の特定・制裁対象へ。(財務省)

12月 20日:対象個人・団体の拡大。NOVATEK子会社(11社)の特定・制裁対象へ。(財務省)

2017年

6月 20日:対象個人・団体の拡大。Transneft子会社(20社)の特定・制裁対象へ。(財務省)

7月 20日:財務省は ExxonMobilに対して対露制裁違反と断定し、2百万 USDの罰金を科す(SDNリスト対象であるセーチン Rosneft 社長と 2014 年 5 月に締結された 8 文書が違反とするもの)。

8月 2日:【制裁による米国敵性国家対抗法(トランプ大統領署名】 →第 223条---大統領令 13662の修正 (a)制裁対象として対象企業を拡大 ---鉄道、金属(metals)、鉱山(mining)を運営する国有企業の関係者を含める。 (d)Directive 4(エネルギー分野に対する制裁)の修正 ---米国人に対するロシア領内の三分野制裁(大水深、北極海もしくはシェールプロジェ

クト開発に必要な物品役務の直接・間接的な輸出を禁止)を全世界に拡大。 →第 225条---宇自由支援法(第 4条:特別な原油プロジェクト)の修正 →第 226条---宇自由支援法(第 5条:外国金融機関)の修正

---外国人に対して、ロシア領内の三分野制裁(大水深、北極海もしくはシェールプロジェクト開発に必要な物品役務の直接・間接的な輸出を禁止)を拡大。

→第 232条---ロシア連邦におけるパイプライン開発に関する制裁 ---外国人も含め、ロシアからのエネルギー輸出パイプラインへの投資(物品、役務、技

術、情報または支援の販売、貸与または提供)を制限。 →第 233条---ロシア連邦における国有資産の民営化への投資もしくは民営化促進に関する制裁

---外国人も含め、ロシアの国営企業の民営化への関与を制限。 ※10月 31日、国務省が第 225条及び第 232条、財務省が第 223条(a)及び(d)、第 226条、第 228条及び第 233条についてディスクリプションを発表。

10月 31 日:8 月 2 日に発効した新対露制裁法について、国務省及び財務省が一部条項に関するディスクリプション(解釈/追加情報)を公表。

2018年

1月 26日:対象個人・団体の拡大。Surgutneftegaz子会社(12社)の特定・制裁対象へ。(財務省)

3月 15日:対象個人・団体の拡大。SDNに連邦保安庁(FSB)及び連邦軍参謀本部情報総局(GRU)が含まれる。(財務省)

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本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含まれ

るデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの投

資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責任

を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。

4月 6日:対象個人・団体の拡大。SDNに Gazpromミレル社長を含むプーチン政権に近い人間・オリガルヒ 26名及びオリガルヒが保有する企業 15社を含める。(財務省)

6月 11日:対象個人・団体の拡大(サイバー攻撃関連)。 8月 27日:3月に英国で起きた神経剤によるロシア人元スパイらの襲撃事件を受け、ロシアに新たな制

裁を課すと発表。制裁は二段階から成り、第一弾では軍事転用可能なロシアへの輸出品に対する輸出禁止や化学・生物兵器の即時使用中止を求め、ロシアが一定の対応を取らない限り、90 日以内により厳しい第二弾の制裁を課す方針(→第二弾を 2019 年 8 月 2 日発表)。

11月 8 日:対象個人・団体の拡大。ウクライナ人(3 個人)及びクリミア企業・東部二州関連組織(9企業・団体・組織)を追加。

12月 19日:OFACが議会に対する SDN対象企業(※)の一部解除意向を表明。 ※今年 4 月に SDN 対象となった寡占資本家オレグ・デリパスカ傘下の投資会社 En+及び世界第二位のアルミ生産企業 Rusal、電力会社 EuroSibEnergoの 3社。

2019年 1月 27日:上記 SDN指定解除意向表明に従い、OFACは同 3社を SDN対象から解除。

3月 15 日:対象個人・団体の拡大。アゾフ海でのロシア海軍によるウクライナ海軍艦拿捕に関連したロシア人(4個人)、ウクライナ人(東部紛争地域 2個人)及びケルチ海峡橋梁建設に関連の建設企業及び造船企業(ロシア企業・クリミア企業 8社)を追加。

4月 25日:財務省は米国ソフトウェア企業 Haverly Systems, Incに対して、対露制裁違反と断定し、最大 59 万 USD 余りの罰金を科そうとしていたが、調停の結果、約 7.5 万の支払いで合意(金融制裁対象である Rosneft からの 90 日間を超える支払いを猶予したことを融資期間違反と見做す内容)。

8月 2日:2018年 3月に英国で起きた神経剤によるロシア人元スパイらの襲撃事件を受け、ロシアに新たな制裁を課すと発表(第二弾/第一弾は 2018年 8月)。①世界銀行や(IMF)等の国際金融機関によるロシアへの融資・金融支援に反対。②米国の銀行が非ルーブルでのロシア国債の主要市場に参画すること及びロシア政府に対する非ルーブル貸付を行うことを禁止。③商務省が管轄する物品及び技術の輸出ライセンス規制を追加。

9月 25日:対イラン制裁の一環での同国産原油輸出に対する幇助への罰則として、中国海運(COSCO)の子会社 2社を新たに SDN対象として指定。中国海運がヤマル・アルクチク砕氷 LNGタンカーを外資(加:Teekay、日:商船三井)と共に傭船していることから、それら JV の活動に影響を及ぼすもの。 →10月 22 日:COSCO子会社が株式保有者再編を行い、同社と COSCO とのヤマル向け砕氷 LNGタンカーの JVは米国制裁対象とならないことを確保。

26 日:シリアにおけるロシアの軍事行動において、ジェット燃料輸送に従事したロシア人(3 個人)、ロシア企業(1企業)及びロシア船籍船(5隻)を SDN対象に追加。

30 日:2018 年の中間選挙への介入を行ったとして、既に SDN リストの対象となっているエフゲニー・プリゴージンに対して、その資産(プライベートジェット及びヨット)も対象にすると共に、同人に対する大統領令に基づく制裁規定を変更する措置。

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12月 3日:米国司法省は対露制裁違反などでロシア人、イタリア人及び米国人 5人の逮捕を発表。罪状は、ガスプロムネフチの北極圏プロジェクト・プリラズロムノエ油田開発向けガスタービンの不正輸出。

5日:ロシアに拠点を置くハッカー集団「Evil Corp」や関連団体の計 7団体とリーダーら 17人及び企業 7 社を SDN 制裁対象に指定。これまで米英など 40 カ国以上の金融機関にハッキング攻撃(オンライン銀行詐欺ツール「DRIDEX」を使用したもの)を仕掛け、1億 USD以上を盗難。

20日:トランプ大統領の 2020年国防授権法案への署名により、新たな対露制裁(Nord Stream 2及び Turk Stream の海底パイプライン敷設業者:双方ともスイス登記 Allseas社)が発動。 →Allseas社は Nord Stream 2の作業をサスペンド。

30日:2017年 7月に最初の米国制裁法違反(SDN対象者との商取引の実行)の事例として OFACが ExxonMobil に対して制裁金 200 万ドルを課し、その後、ExxonMobil が OFAC に対して制裁課金を無効とするようテキサス州北部地区連邦地方裁判所に訴えを起こし、係争中だった事案について、同地方裁が ExxonMobil の訴えを認め、OFAC の同社に対する制裁課金は無効であるとの判決を下す。

2020年

1月 29 日:米国財務省 OFAC が欧州及びカナダ両政府と共同で、ロシアが主張するクリミア共和国の政府関係者 7名、同共和国の鉄道運営企業 1社、同社社長 1名(ロシア人 4名、ウクライナ人 4名)について、SDN対象者へ追加。

1月 31日:米国財務省(OFAC)が、前年 9月に制裁を課した COSCO関連会社の内、COSCO Shipping Tanker (Dalian) Co., Ltd. の制裁(SDN)を解除。

(2)EUの対露制裁の概要

2014年

3月: 6・17・21日:個人に対する渡航禁止・資産凍結

4月: 28日:対象個人を拡大。 5月: 12日:対象個人拡大に加え、対象をクリミア石油企業に拡大。

6月: 23日:クリミア産品の禁輸。輸出に係る財務支援の禁止。

7月: 25日:対象個人及び対象ウクライナ企業を拡大。 30日:対象個人を拡大し、ロシア企業を制裁対象に加える。

(Almaz-Antey、Dobrolyot、Russian National Commercial Bank) 31日:①新規の武器取引・技術供与の禁止

②石油ガスパイプ・掘削関連技術の輸出取引に事前承認 (大水深探鉱開発、北極海探鉱開発、シェールオイル生産に関する技術)

③金融取引の制限(資金提供、新規の融資(90日を越える償還期間)等を禁止) (Sberbank、VTB、Gazprombank、VEB及びロシア農業銀行)

9月: 12日:①軍需関連製品の取引・技術支援・役務、資金提供等の禁止 ②特定の石油開発役務(associated services)提供の禁止

(大水深探鉱開発、北極海探鉱開発、シェールオイル生産に関する技術) ③金融取引の禁止

---金融機関 5行に対して直接・間接投資、投資役務、証券取引及び 30日を越える償還期

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資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責任

を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。

間の金融商品取引を禁止。 ---直接・間接投資、投資役務、証券取引及び 30日を越える償還期間の金融商品取引を禁

止。 対象:①宇宙及び原子力分野を除く軍需産業(3社)

②石油企業(3社):Rosneft、Transneft、Gazpromneft ---上記の対象に対して新規の融資(30日を越える償還期間)の禁止。 ④対象個人を拡大。

11月: 29日:対象個人及び対象団体(東部地域・親露派)を拡大。

12月: 18日:6月の制裁強化。クリミアへの外国投資、不動産売買の禁止及び全般的禁輸措置。

2015年 2月: 16日:対象個人及び対象団体(ロシア人・宇親露派)を拡大。

2018年

7月 31日:対象個人及び対象団体(ケルチ海峡橋建設関連会社 5社)を拡大。

2019年

1月 21 日:対象個人及び対象団体(化学兵器使用反対施策の一環として、英国スクリパリ事件に関与したとしてGRU幹部 4名を個人制裁対象リストに追加)を拡大。

2020年

1月 29 日:米国財務省 OFAC が欧州及びカナダ両政府と共同で、ロシアが主張するクリミア共和国の政府関係者 7名、同共和国の鉄道運営企業 1社、同社社長 1名(ロシア人 4名、ウクライナ人 4名)について、SDN対象者へ追加。

(3)日本の対露制裁の概要

2014年 4月: 29日:個人に対する渡航禁止・資産凍結

7月: 28日:対象個人拡大に加え、対象をクリミア石油企業に拡大。

9月: 24日: ①ロシアに対する武器・軍事用途の汎用品に関する輸出審査・手続きの厳格化。 ②ロシアの特定銀行(※)による日本での証券発行を許可制に。

※Sberbank、VTB、Gazprombank、VEB及びロシア農業銀行

12月 9日:7月の制裁(対象個人・団体)を拡大し、11月の欧州制裁に並べる内容へ。