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14日本印刷学会誌 356 総説 drupa 2016 に見るデジタル印刷機の最新トレンド Industry Trends of Digital Printing Press Perceived at drupa 2016 Yasuo MIYAMOTO* 宮本泰夫 * *Value Machine International Inc. 1-4-1-1506, Senju, Adachi-ku, Tokyo, 120-0034 JAPAN 1.はじめに A3 サイズからスタートしたデジタル印刷機は,2008 年の drupa で初めて B2 サイズの枚葉機が富士フイルム, SCREEN,HP から登場した.インクジェット方式を採用 した,富士フイルムは 2010 年 12 月に JetPress720 を,大 日本スクリーン製造は 2011 年 2 月に TruepressJet SX 発 売開始のアナウンスを行った.また,液体トナー方式を採 用する HP Indigo シリーズは,B2 サイズの枚葉デジタル 印刷機として,現時点で市場でのシェアが最も高いモデル となっている. 2012 年の drupa では,コニカミノルタと小森コーポレー ションの 2 社が共同開発を行った B2 枚葉デジタル印刷機 を技術展示し,ミヤコシはリョービ(当時)と共同開発 した液体トナー方式の B2 枚葉デジタル印刷機を参考出展 している.また,MGI は B2 サイズの枚葉インクジェット 印刷機 ALPHAJET を参考出展し,Delphax は memjet 技 術を搭載した SRA2 サイズの枚葉インクジェット印刷機 Elan500を参考出展するなど,インクジェット,液体トナー 方式による枚葉デジタル印刷機の発表がこれまで相次いで きた. そして本年の drupa では,ついに B1 サイズへと大型化 された機種が数多く出展された.大型化は機器価格の高額 化という側面も併せ持つことから,市場での利用可能性に ついては現時点で明確ではないが,サイズばかりではなく, その生産性においても既存オフセット印刷機と肩を並べる デジタル印刷技術がこれほど早く登場したことには驚きで ある. 本稿では,drupa 2016 において数多く出展されたデジ タル印刷機について,その最新動向を解説する. 2.大型デジタル印刷機の動向 2.1 枚葉デジタル印刷機は B2 サイズが実用化され B1 へとサイズを拡大した 2012 年の drupa から 4 年,B2 サイズのデジタル印刷機 として,2012 年に参考出展あるいは技術展示された機種 が実用化のステージを迎え,また新機種も発表となった. 富士フイルムは,B2 枚葉タイプのインクジェット印刷 機で最も高いシェアをもつ JetPress 720S の給紙機構を 改良した新モデルを出展した(1).同機は水性インク ジェットインクを利用,毎時 2,700 枚の印刷速度を有し, 紙媒体だけでなくキャンバスなどの素材への印刷も可能と なった. Profile 1993 年豊橋技術科学大学 情報工学専攻修了. 同年,東洋インキ製造(株)に入社,カラー マネジメント関連技術の基礎研究,製品開発 に従事した後,Indigo 社製デジタルオンデ マンド印刷機の技術,アプリケーション開発, ならびにデジタルフロントエンドの企画,開 発を担当.2003 年(株)バリューマシーンイ ンターナショナルを設立し現在に至る. クロスメディア・ソリューション研究会運営 理事,フォーム印刷研究会講師,日本グラ フィックサービス懇話会幹事. 情報工学修士. * (株)バリューマシーンインターナショナル (〒 120-0034 東京都足立区千住 1-4-1 東京芸術センター 1506)

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総説

drupa 2016 に見るデジタル印刷機の最新トレンド

Industry Trends of Digital Printing Press Perceived at drupa 2016Yasuo MIYAMOTO* 宮本泰夫 * *Value Machine International Inc.1-4-1-1506, Senju, Adachi-ku, Tokyo, 120-0034 JAPAN

1.はじめに

 A3 サイズからスタートしたデジタル印刷機は,2008年の drupa で初めて B2 サイズの枚葉機が富士フイルム,SCREEN,HP から登場した.インクジェット方式を採用した,富士フイルムは 2010 年 12 月に JetPress720 を,大日本スクリーン製造は 2011 年 2 月に TruepressJet SX 発売開始のアナウンスを行った.また,液体トナー方式を採用する HP Indigo シリーズは,B2 サイズの枚葉デジタル印刷機として,現時点で市場でのシェアが最も高いモデルとなっている. 2012 年の drupa では,コニカミノルタと小森コーポレーションの 2 社が共同開発を行った B2 枚葉デジタル印刷機を技術展示し,ミヤコシはリョービ(当時)と共同開発した液体トナー方式の B2 枚葉デジタル印刷機を参考出展している.また,MGI は B2 サイズの枚葉インクジェット印刷機 ALPHAJET を参考出展し,Delphax は memjet 技術を搭載した SRA2 サイズの枚葉インクジェット印刷機Elan500 を参考出展するなど,インクジェット,液体トナー方式による枚葉デジタル印刷機の発表がこれまで相次いできた. そして本年の drupa では,ついに B1 サイズへと大型化された機種が数多く出展された.大型化は機器価格の高額化という側面も併せ持つことから,市場での利用可能性については現時点で明確ではないが,サイズばかりではなく,その生産性においても既存オフセット印刷機と肩を並べるデジタル印刷技術がこれほど早く登場したことには驚きで

ある. 本稿では,drupa 2016 において数多く出展されたデジタル印刷機について,その最新動向を解説する.

2.大型デジタル印刷機の動向

2.1  枚葉デジタル印刷機は B2 サイズが実用化され B1へとサイズを拡大した

 2012 年の drupa から 4 年,B2 サイズのデジタル印刷機として,2012 年に参考出展あるいは技術展示された機種が実用化のステージを迎え,また新機種も発表となった. 富士フイルムは,B2 枚葉タイプのインクジェット印刷機で最も高いシェアをもつ JetPress 720S の給紙機構を改良した新モデルを出展した(図 1).同機は水性インクジェットインクを利用,毎時 2,700 枚の印刷速度を有し,紙媒体だけでなくキャンバスなどの素材への印刷も可能となった.

宮本泰夫

Profile

1993 年豊橋技術科学大学 情報工学専攻修了.

同年,東洋インキ製造(株)に入社,カラー

マネジメント関連技術の基礎研究,製品開発

に従事した後,Indigo 社製デジタルオンデ

マンド印刷機の技術,アプリケーション開発,

ならびにデジタルフロントエンドの企画,開

発を担当.2003 年(株)バリューマシーンイ

ンターナショナルを設立し現在に至る.

クロスメディア・ソリューション研究会運営

理事,フォーム印刷研究会講師,日本グラ

フィックサービス懇話会幹事.

情報工学修士.

* (株)バリューマシーンインターナショナル (〒 120-0034 東京都足立区千住 1-4-1 東京芸術センター 1506)

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 コニカミノルタと小森コーポレーションは,UV インクジェットにより B2 サイズを毎時 3,000 枚出力する共同開発機である,AccurioJet KM-1(図 2)および Impremia IS29 について発売開始のアナウンスを行った.リョービMHI(RMGT)からは,ミヤコシとの共同開発の B2 デジタル印刷機 DP7 を RMGT デザインのパネルに変更した出展が行われた(図 3). HP からは,液体トナーを利用した B2 サイズのデジタル印刷機として,商業印刷向けの Indigo 12000(図 4),ラベル・パッケージ市場向けの Indigo 20000,30000 が出展された.Indigo 12000 は Indigo 10000 の後継機であり,高精細レーザーユニットによる 1600 dpi のイメージングに加え,キャンバスなど対応印刷媒体を拡大した.会場でデモンストレーションされた,スクリーン線数が 300 線 /インチの印刷物の品質は,そのサイズとともに圧巻であった. キヤノンは自社ヘッドと水性顔料インクにより 2400×1200 dpi の高品質出力を実現する Voyager(開発ネーム)を出展した(図 5).Photo Press(写真画質の印刷機)と呼ばれる同機は,高級カタログなどの高品質媒体の印刷をターゲットとし,インクジェット印刷技術と中間転写技術を組み合わせ,幅広い用紙に時間3,000枚を出力する.また,ミヤコシからは,コンパクトサイズながら B2 の自動両面印刷機として MDP4000 が参考出展された(図 6).液体

トナー技術を利用し,1200 dpi で時間 4,000 枚を出力する. さらに何といっても,本年の drupa で大きな注目を集めたのは B1 サイズにサイズアップされたデジタル印刷機であった. 2012 年に発表が行われた Landa Corporation からは,枚葉機 Landa S10(図 7)/S10P および連帳機 W10 の 3機種が商用モデルとして出展され,小森コーポレーションからも Impremia NS40 として出展された(Landa S10 と同スペック).7 色(連帳機はホワイトを加えた 8 色)仕様の Landa Nanography 技術を搭載し,枚葉機はオプションを搭載することで B1 サイズを毎時 13, 000 枚出力することが可能な性能を有し,連帳機は毎分 200 m の搬送速度となっている.会場では実演が実施され,一部にはサンプルの配布がも行われた.今後フィールドテストを実施した上で発売が開始される予定である. Heidelberg は,2014 年に富士フイルムと共同での開発を発表した B1 サイズのインクジェット印刷機 Primefire 106 をホール内のメインステージ上に展示した(図 8).富士フイルムの Samba ヘッドを搭載した 7 色のインクジェット印刷機で,Heidelberg のオフセット印刷機Speedmaster XL106 の搬送系と組み合わせられたモデルとなっている.片面専用機で当初のターゲット市場は紙器パッケージとし,2017 年には市場投入が予定されている.Heidelberg および富士フイルムブースには,Primefire

図 1 富士フイルム JetPress 720S 図 2 コニカミノルタ AccurioJet KM-1 図 3 RMGT DP7

図 4 HP Indigo12000 図 5 Canon Voyager 図 6 ミヤコシ MDP4000

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106 に利用されている富士フィルムの Samba インクジェットヘッドが展示された. HP からは,液体トナーを利用した連帳デジタル印刷機の B1 モデルとなる HP Indigo 50000 が出展された(図 9).同機は既存の B2 機(B2 ヨコ・760 mm 幅)のプリントエンジンにおいて紙送りを 2 倍(1, 100 mm)とし,2 基のプリントエンジンをタンデム接続することで B1 サイズ両面(縦通しとなる)を出力する. コニカミノルタからは,B1 サイズのパッケージ向けインクジェット印刷機 KM-C が技術展示された(図 10).水平搬送方式を採用することで,最高 1. 2 mm という厚さの用紙にも印刷が可能な仕様となっている.また,MGI からは 2012 年の drupa で参考出展された ALPHAJET が,印刷と加飾加工の一貫システムとして展示された. また,B3 サイズでも初出展機が登場した.キヤノンOce VarioPrint i300 は毎分 300 イメージを出力するインクジェットの B3 機でプリコート機能を内蔵することで多様な用紙への印刷を可能とする(図 11).Brenva HD はXerox Ltd. が開発した初のインクジェット枚葉機(B3)であり,毎分 197 イメージの出力速度ながらモノクロ専用モードを備える(図 12).また,Memjet ヘッドを搭載し,1600 dpi での高解像度出力を実現する SRA2 サイズのDelphax Elan500 も Memjet ブースで出展された. このように,B2 サイズから一気に B1 サイズまでを視

野に入れた開発が進められたことは大きな注目となった. B1 サイズを出力できるデジタル印刷機(特に枚葉機)にはいくつか共通点がある.7 色印刷機構を保有するなど一般的なプロセスカラー出力よりも広色域な再現色を持つこと,薄紙だけでなく厚紙に対応していること,そして片面印刷モデルが多いということである.紙器パッケージは内側に折りたたまれて製造されることから,印刷をする必要のないエリアまで含めると,最終的に組み立てられた箱のサイズよりかなり大きな面積が必要となる.そのため,より大判の印刷機の利用が求められる.まさに A3 よりB2,B2 より B1 なのである.多くの機種が 7 色印刷などをサポートするのは,特色の利用が多いパッケージ印刷をデジタル印刷技術で対応することを想定したものである.このように考えると,B2 サイズを経て B1 ということではなく,B1 にはそのサイズに課せられた大きな使命があるものと理解できる.これらが持つ意味は,紙器パッケージ向けの印刷がターゲットとなっているということである.当初からパッケージ印刷向けデジタル印刷機と銘打った機種も見られるが,そういった但し書きがなくても,多くの機種が紙器の印刷に焦点を当てていることは事実であろう. ただし,すべてのB1サイズのデジタル印刷機が紙器パッケージ市場のみをターゲットとしているわけではなく,一部の機種は一般商業印刷も視野に入れている.特に Landa

図 7 Landa S10 図 9 HP Indigo50000

図 11 Canon Oce VarioPrint i300

図 8 Heidelberg Prime�re 106

図 10 コニカミノルタ KM-C 図 12 Xerox Brenva HD

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のモデルについては,2012 年の発表の際,その性能面と合わせて,ランニングコストが話題となった.Landa のNanoInk は,インクの膜厚をオフセット印刷より薄くすることで,ランニングコストをオフセット印刷以下にするというものである.商業印刷分野において,デジタル印刷機利用の一つのハードルとなっているランニングコストの課題を解決できるのか,今後市場からの評価を受ける項目としては大変興味深い内容である.

2.2  連帳シングルパスインクジェットは 1200 dpi の時代へ

 大型の連帳インクジェット印刷機は,1200 dpi という高解像度モデルが勢ぞろいした.プロダクションモデルと言われる,シングルパスタイプのインクジェット印刷機ではこれまで 600 dpi が標準的な出力解像度であったが,ここ1 年足らずで一気に 1200 dpi へのシフトが進んでいる. 出力解像度が上がることで,印刷品質が向上するということは直感的に理解される点であるが,インクジェット印刷機の場合は,それ以外にも様々な恩恵がある.たとえばインクジェットヘッドの出力解像度が 600 × 600 dpi から1200 × 1200 dpi に上がることで,縦横の密度がそれぞれ 2倍になり,ノズルから吐出されるインクの液滴サイズは,単純計算で 1/4 になる.液滴サイズが小さくなることで,液滴内の水分が減少することから,滲みや裏抜けの発生が抑制されるばかりでなく,乾燥効率が上がることになる.多くのインクジェット印刷機メーカーは 1200 dpi のインクジェット印刷機が一般のオフセットコート紙への印刷が可能という特徴を標榜している.600 dpi から 1200 dpi への変更で,もちろんインク自体の改良も進められているが,解像度の向上は,品質の向上ばかりでなく,一般オフセットコート紙への印刷を可能にする一つの要因となっているのである.その結果,一般商業印刷市場での利用が視野に入ってくる. 連帳タイプでは,キヤノンが,1200 dpi に対応した連

帳インクジェット印刷機 Oce ImageStream 2400 を初出展した(図 13).20 インチ幅で毎分 160 m の印刷が可能,プリコート不要でコート紙を含む多様な用紙に印刷できる.また,600 dpi モデルでは,新機種となる Oce ColorStream 6000 Chroma を出展.22 インチ幅の連帳インクジェットで,色域の広い新開発のインク(Chroma Ink Set)を搭載する.モノクロ印刷時の生産性を上げることが可能となっている他,ノズル詰まりを防止する機能が搭載されている.また,リコーは,自社ヘッドを搭載した 1200 dpi 機である RICOH Pro VC60000 の改良モデルとして,生産性を約 25 % 向上させ出展を行った(図 14).  ス ク リ ー ン は 1200 dpi モ デ ル と し て Truepress Jet 520 HD を出展した(図 15).来年には新インクを搭載することも発表され,オフセットコート紙に対してオフセット印刷同等の色再現がなされたサンプルも併せて展示された.また,従来機 Truepress Jet 520 の後継機として2017 年初頭にリリース予定の Truepress Jet 520NX を初出展した.Truepress Jet 520NX は,600×1200 dpi,毎分150 m の搬送速度を有するモデルで,ヘッドを 5 インチ幅にモジュール化することで,従来よりも印刷ムラを低減している. また,Xerox からは,IMPIKA ヘッドユニットを搭載した新型機 Trivor 2400 が初出展された.20 インチ幅,フルカラー毎分 197 m,モノクロ毎分 200 m の印刷速度を誇る.インクを新開発することで,従来機と比較して大幅に品質を向上させている. HP は,同社の連帳インクジェット印刷機 HP PageWideシリーズを 1200 dpi へと高解像度化を進め,drupa では 42インチ幅,毎分 300 m(高品質モードでは 150 m)の搬送速度を有する HP PageWide Web Press T490HD(図 16)および,22 インチ幅,最高毎分 150 m の HP PageWide Web Press T240HD を実演出展した.PageWide シリーズには,これ以外に 30 インチモデルや最大 110 インチ(2. 8 m幅)の連帳印刷機もラインアップしている.

図 13 Canon Oce ImageStream2400 図 15 SCREEN TruepressJet 520HD図 14 RICOH Pro VC60000

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 コダックは,同社のコンティニュアスインクジェット技術(Stream Inkjet Technology)を搭載した連帳インクジェット印刷機 Prosper 6000C Press を出展した(図

17).25. 5 インチ幅の用紙に最高 300 m でのフルカラー印刷が可能であり,後加工に,シート出力,manroland の製本ラインへのインライン接続など様々なデモンストレーションが行われた. また,本技術の次世代技術として,ULTRASTREAM Technology についても実演が行われた.600×1800 dpi で最高150 mまでの印刷が可能な新ヘッドである.最大2. 5 m幅までのステッチング搭載ができるとともに,従来より30 % 程度色再現範囲を拡大しながらコストダウンが可能と言われている.実演は 8 インチ幅の用紙への片面印刷で行われた. KBA か ら は,1200 dpi 連 帳 イ ン ク ジ ェ ッ ト 印 刷 機RotaJET L が 出 展 さ れ た. 対 応 用 紙 幅 は 770 mm ~1380 mm(30. 3 ~ 54. 3 インチ),最高で毎分 300 m の印刷が可能となっている.KBA ではさらに大型の RotaJET VL シリーズも保有している.また,ミヤコシからは,世界初の 2400 dpi モデルとなる連帳インクジェット MJP-20 AX が出展された(図 18).20 インチ幅で 2400 dpi では毎分 50 m,1200 dpi モードでは毎分 200 m で印刷が可能となっている.カラーとブラックを別ユニットとすることで効率化を図っている.

2.3  インクジェットを中心としながらも液体トナー技

術を含めた新たなプレイヤーが参入

 デジタル印刷の技術動向で最も注目されているのはLanda の Nanography 技術およびインクジェット印刷技術を利用したモデルではあるが,近年,液体トナーを利用したデジタル印刷機にも多くのプレイヤーが参画してきており,今後のデジタル印刷技術の一つのトレンドとなってきた. 液体トナー技術の商用化では,1993 年の IPEX で出展

された Indigo が最初であり,2000 年に HP に売却されてからは HP ブランドでワールドワイドでの多くの実績を積み重ねてきた.本年の drpua では,液体トナー技術を利用したデジタル印刷システムにおいて,HP 以外のメーカーからも商用モデルが出展された.新たな市場開拓,商材開発が進むことを期待したい. HP は,既出の Indigo12000,20000(図 19),30000 など,既存の HP Indigo デジタル印刷機群をバージョンアップして出展した. Xeikon からは,2012 年の drupa にて参考出展した連帳タイプの液体トナーデジタル印刷機 Trillium が商用モデルである Trillium One として出展された(図 20).500 mm 幅のロール紙に対して毎分 60 m,1200 dpi でフルカラー印刷が可能なモデルとなっている.同機の搬送システムはミヤコシが開発・提供している.また,ミヤコシとリョービ(当時)が共同開発を行った B2 枚葉タイプのデジタル印刷機 DP760 は,リョービ MHI ブースにてRMGT DP7 として,改めて RMGT パネルを纏って出展された.さらにミヤコシは,独自開発のエンジンを搭載した液体トナー方式の B2 枚葉デジタル印刷機 MDP4000 を参考出展した(既出). さらに理想科学工業から,20 インチ幅の連帳インクジェット機 RISO T1 が参考出展された(図 21).同社の枚葉高速インクジェット印刷機 ORPHIS と同様に油性インクを利用することで,乾燥システムを不要とし,非常にコンパクトな両面印刷の連帳インクジェット機に仕上がっている.

2.4 ターゲット市場に特化したモデルへと細分化が進む

 当初は極小ロットのチラシや端物印刷がそのターゲットとされていたデジタル印刷機も,近年では様々な市場へとその用途を拡大している.特にインクジェット技術は,水性,UV 硬化型など様々なインクを搭載することが可能なこと,また,連帳タイプの印刷機は,薄紙やタック紙,軟

図 17 Kodak Prosper 6000C Press図 16 HP PageWide Web Press T490HD 図 18 ミヤコシ MJP-20AX

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包装材料などへの印刷を可能としていること,さらには大型化,高速化,高品質化により生産機として位置づけられる印刷機となっているため,近年では,パッケージ,シール・ラベル,出版さらには新聞などの特定印刷市場に向け特化したモデルが大幅に増加している.紙器パッケージ分野:特定印刷分野で多くのメーカーがターゲットとしているのは,紙器パッケージ分野である.枚葉デジタル印刷機に対し,0. 6 mm 程度の厚みをもつカートン紙を印刷することができれば,段ボールを除く紙器パッケージに対応させることができる.小型のデジタル印刷機でも厚紙対応が進むが,展開した状態では大サイズでの印刷が必要な紙器パッケージ分野では,ある程度の印刷サイズが求められることから,B1,B2 といった大型デジタル印刷機におけるメインターゲット市場となっている.drupa 2016 では,こうした紙器パッケージ分野に特化したデジタル印刷機として数多くのモデルが出展された.液体トナー技術を利用したものでは HP Indigo 30000,インクジェット印刷技術を利用したものでは,Landa S10P,コ ニ カ ミ ノ ル タ AccurioJet KM-C,MGI ALPHAJET,Domino K600i などが挙げられる.また,KBA と Xeroxは共同開発として,紙器パッケージ向けデジタルコンビネーション印刷システム VariJet 106 のコンセプト展示を行った(図 22).インクジェット技術は Xerox が,コンベンショナル印刷技術と搬送系は KBA が開発する.実機イメージが Xerox ブースに,またインクジェットヘッドが KBA,Xerox 双方のブースに展示された. 枚葉デジタル印刷機においては,薄紙兼用機として出展されている,富士フイルム Jet Press 720S,Heidelberg Primefire 106,コニカミノルタ AccurioJet KM-1,小森コーポレーション Impremia IS29 なども,ボール紙への印刷をサポートしており,紙器パッケージ市場を視野に入れている.段ボール印刷分野:化粧箱より一段厚い段ボールへの印刷についても生産システムとしてのデジタル印刷機が登場し

た. これまで段ボールへのフルカラー印刷には,UV あるいは Latex インクを利用したフラットベッド型のインクジェットプリンタが用いられてきたが,印刷速度の課題から極小ロット物の対応に留まってきた.これに対し,近年のシングルパスインクジェット技術の大型化により,生産能力の高いデジタル印刷システムとして,段ボール印刷分野への参入が進んでいる.HP は KBA と共同で開発した HP PageWide Web Press T1100S を壁面イラストで展示した.同機は幅 2. 8 m の片面専用インクジェット印刷機であり,毎分 183 m での速度フルカラー印刷を行う.薄紙への印刷を行った後に,段ボールと合紙するといった利用法になる.会場には実機はなかったが,現在の最大のデジタル印刷システムであろう.また,シングルパスインクジェットシステムとして,HP PageWide C500 の発表を行った.こちらは段ボールに対して直接印刷を行うシステムである.同様の印刷システムとして,EFI も段ボール印刷用のシングルパスインクジェット Nozomi C18000 を出展した(図 23).新聞分野:新聞印刷市場での導入事例は年々増加しており,減少する印刷部数のトレンドと相まって,インクジェット印刷機の利用可能性が高まっている.今回の drupa では出展はなかったが,東京機械製作所の JET LEADER1500が,米国 TOPWEB 社,静岡新聞社の子会社であるハワイ報知社に導入されており,現地において様々な出力物に利用されている.また,コダックのハイブリッド印刷システムである Prosper S シリーズは,国内でも中日新聞社で新聞輪転機に搭載され,様々な媒体にカスタマイズ印刷用途として利用されている. drupa 2016 では,manroland web system において,コダックの Prosper S シリーズを利用した新聞紙面へのカスタマイズ印刷が展示された.出版分野:出版印刷市場においても,講談社が導入したHP PageWide Web Press を筆頭に,今後は複数の事例

図 19 HP Indigo20000 図 20 Xeikon Trillium One 図 21 RISO T1

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が登場するものと期待されている.HP からは PageWide Web Press シリーズを 1200 dpi に高解像度化し,また出版分野をターゲットとしたモノクロ印刷専用モデルも発表された.また,キヤノンの Oce ColorSteam 6000 Chromaがブラックインク用のヘッドをダブルヘッドとしモノクロ印刷時の生産性を高めるといった仕様なども,こうした市場での利用を想定したものであることと推察される. この分野において会場で大きなニュースとなったのが,KADOKAWA が出版分野におけるデジタル印刷システム導入にあたり,HP PageWide Web Press T490 Mono HDを選択したというものであった.軟包装パッケージ分野:軟包装パッケージ向けでは,HP のIndigo シリーズが最も早く市場参入を果たし,すでにコカ・コーラ社のペットボトルフィルムなどの実例を積み重ねている.HP Indigo 20000 は,B2 サイズのプリントエンジンを利用した軟包装(およびラベル)印刷向けの液体トナー方式のデジタル印刷機であり,ラミネートチューブやインモールドへの印刷をサポートして出展された.富士フイルムの軟包装印刷向け UV インクジェット印刷機 MJP-20Wは,昨年の IGAS で参考出展され,drupa 2016 において正式出展となった.富士フイルムの低臭気 UV インクを利用したフィルム媒体の 5 色インクジェット印刷システムであり,印刷機はミヤコシとの共同開発となっている.印刷後に窒素パージを行うことでモノマー由来の臭気を低減させ,パッケージ用途での利用可能性を高めている.この分野での全く新しい出展としては,花王とシンク・ラボラトリーが,水性顔料インクを利用した軟包装フィルム向けインクジェット印刷サンプルの出展を行った(図 24).花王が開発した水性顔料インクは,インクジェット以外に水性グラビア印刷機でも利用可能なことが確認されており,極小ロットから中ロットまでの幅広い印刷で利用することができる.また,コダックは Prosper-S シリーズのインクジェットヘッドを利用した軟包装フィルム向けソリュー

シ ョ ン と し て,XGV(Extended Gamut and Vernish)Hybrid System を発表した(図 25).7 色(CMYKOGV)+Vernish にてグラビア・フレキソ印刷機にインライン利用可能なインクジェットシステムであり,水性顔料インクを利用し毎分 150 m までの印刷に対応する.シール・ラベル印刷分野:シール・ラベル印刷市場向けには,UV インクジェット印刷システムとして SCREEN Truepress Jet L350UV(図 26)が,乾式トナー方式として,Xeikon から CX3,コニカミノルタから bizhubPRESS C71cf が出展された.いずれも後加工(ダイカット・カス上げなど)をインラインあるいはオフラインで接続することで,最終のラベルの製造までを実演した.Xeikon CX3は,Fusion Technology と呼ばれる技術を利用し,プリントの前にインクジェットでホワイトを印字するモジュールを統合管理して稼働させた(図 27).また HP は液体トナーを利用した新機種 HP Indigo 8000 を出展した.プリントエンジンを 2 基タンデムに接続することで,片面印刷での印刷速度を 2 倍に引き上げた高速モデルとなっており(毎分80 m の搬送速度),これまで課題となっていた生産性の問題を解決している.写真印刷分野:デジタルカメラの普及などを背景として,フォトブックのビジネスが活況となるなど,写真印刷(写真プリント)の市場の一部が印刷市場に近づいてきた.印刷後に PP 加工を施せば,印刷物に写真の質感を与えることはできるが,もともと網点で形成されている印刷物と,感光紙を発色させる写真プリントとは,その質感において大きな違いがあると言われてきた.こうした中,デジタル印刷機の中には,写真印刷分野に特化した機種がいくつか登場している.キヤノンはインクジェット技術を利用したDreamLabo 5000 を出展した.高精細インクジェット印刷により,目視で網点を確認することは難しく,また印画紙ライクな専用紙にプリントすることで,写真の質感を再現する.単面の写真からフォトブックまで幅広い用途での利

図 22 KBA VariJet 106 図 24  花王 軟包装インクジェット印刷サ

ンプル

図 23 EFI Nozomi C18000

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用が想定されている.また,HP は Indigo WS6800p を初出展した.網点を見えにくくするため,Silky Screen と呼ばれる独自のスクリーニングテクノロジーを搭載し,AM網点に見られるロゼッタ模様が発生しないようになっている.印画紙ライクな用紙に印刷することで,写真ライクな出力を実現する.

2.5  ハイブリッド・コンビネーション印刷機など技術

利用の多様化が進む

 すでに解説したように,コダックの Prosper-S シリーズのインクジェットヘッドなど,既存のオフセット,グラビア,フレキソ印刷機にインラインで搭載しハイブリッド利用可能な技術が注目されている.コンベンショナル印刷方式とデジタル印刷技術は,それぞれが独立して利用される場合も多いが,両者を組み合わせて利用することで,さらに幅広い印刷アプリケーションへの対応が可能となる.商業印刷,新聞印刷,パッケージ印刷など,小ロット・多品種,さらにはバリアブルなど,市場からのニーズに加えて様々な印刷物の可用性,付加価値などに応じた利用を,技術をベースとして考えていくことも重要である. 一方,ラベル印刷などでは,ニス,抜き加工など,印刷以外に様々な処理が必要となる.それぞれを別処理とすることも可能であるが,コンビネーション印刷機と呼ばれるように,様々な印刷技術や加工を一つのラインに組み合わせて構成することで,より効率的な製造を行う機種も登場してきた. Heidelberg は drupa 2016 において,コンビネーション型のラベル印刷機 Gullus Labelfire 340 を出展した(図

28).フレキソ印刷とインクジェット印刷,さらにはラベル用の後加工を接続した印刷機で,富士フイルムの技術も利用されている.また,Xeikon の Fusion Technology もコンビネーション型の印刷プロセスを実現するキーワードとなっている.

3.小型モデルの高付加価値化技術

 印刷サイズとして A3 寸伸びサイズが中心となっている,小型デジタル印刷機において近年増加しているのは,高付加価値化技術の付与という側面である.インクジェット技術を中心として大型のデジタル印刷機の普及が進む中において,大型モデルとは一線を画し,小型機ならではの柔軟性を活かすとともに,インライン・ワンパス処理で,高付加価値化小ロット印刷への対応を進める機能が各社から提案されている.

3.1 特色・特殊トナーの利用

 各社の乾式電子写真方式のデジタル印刷機では,通常のCMYK4 色に加え,5 色目の印刷オプションが搭載される機種が増加している.5 色目に搭載可能なトナーとしては,特色トナーや特殊トナーなど様々なものが準備され,フルカラー印刷だけでは表現できない様々な質感,特殊効果を表現することが可能となっている. まずはアイキャッチ効果や加飾効果である.冊子の表紙やダイレクトメールなど,注目を集めることが求められる部分に特色を差し込むことで,印刷物への注目を高めることができる.こうした効果を得る特色トナーとして,ゴールド,シルバー,パールなどのメタリック調のトナーがKodak,富士ゼロックスから提案され,HP からは Indigo向けに蛍光ピンクなどが提案されている.また,多くのメーカーが提供するクリアトナーは,印刷面にスポットニス効果のような,光沢効果を付与することが可能であり,印刷物表面に特殊な質感を与えることができる.drupa 2016では,蛍光色のトナーが一つのトレンドとなった.HP,リコー,沖データからネオントナー(あるいは蛍光トナー)と呼ばれる蛍光プロセストナーが出展され,これまでにない質感や新たな役割について議論が行われた(図 29・図

30). 次に印刷媒体拡大の効果である.通常のカラートナーの

図 26 SCREEN TruepressJet L350UV図 25 Kodak XGV Hybrid System 図 27 Xeikon Fusion Technology

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[22] 日本印刷学会誌

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みでは,透明な媒体や色付きの媒体で発色させることが難しい.リコー,沖データでは,ホワイトトナーを搭載し,透明媒体への印刷における裏白に利用したり,色付き用紙への印刷時に下地に白を差し込むことが可能であり,これまで印刷が難しかった媒体へのフルカラー印刷が可能となっている.drupa 2016 では,コダックから NexPress 用のホワイトトナーが出展され,また HP からは,プレミアムホワイトと呼ばれる非常に高い隠蔽性を備えたホワイトトナーが出展された. さらに,三つ目は色域の拡大である.通常,CMY3 色の減法混色で発色させる印刷プロセスでは,それぞれの基本色の補色になる色である,オレンジ,グリーン,ブルーを鮮やかに表現することが難しい.こうした発色が難しい色を特色として追加することで,従来より色再現範囲を拡大することができ,鮮やかな色再現が可能となる.富士ゼロックス,コダック,Xeikon では 5 色目のユニットに特色としてオレンジ,グリーン,ブルートナーを準備し 1 色を追加することができる.特殊効果として,Xeikon では偽造防止・抑止などに効果を見出すセキュリティトナーやMICR トナーについてもサポートする. 特殊・特色トナーの利用においては,たとえばホワイトトナーには先刷り用途と裏刷り(後刷り)用途などがあるなど,刷り順を固定できないケースが発生する.コダックの次世代 NexPress MAX プラットフォームでは,5 色分の印刷ステーションを自由に入れ替えることが可能な機能を有することが発表された(図 31).

3.2 ロングシートへの対応

 各社の A3 寸伸び,もしくは B3 サイズのデジタル印刷機では近年,ロングシートへの印刷を可能とするオプションが搭載されている.これは,用紙の送り方向に対する横幅を大きくすることはできないが,送り方向については連続的に印刷を可能とすることで,これまでにはないサイズの印刷ができるようになるものである.従来の用紙トレイ

ではなく,手差しトレイや,ロングシート用の給紙機構を接続し,660 mm ~ 1000 mm を超える長さの用紙への印刷が可能となっている. たとえば 700 mm 前後の長尺印刷が可能な場合,A4 サイズの 6 ページ物(片観音折り)に対応することが可能であり,1000 mm までに対応すると 8 ページ物(両観音折り)までが可能となる.A3 寸伸びサイズのプリントエンジンでありながら,多様な印刷物を手掛けることができる.また,デジタル印刷の特性を活かした商材として,長尺のポスターやカレンダーなど,これまでには表現することができなかった商材を提案することも可能となり,ビジネスの幅を大きく広げることができるものと考えられる.

4.  デジタル印刷機の出展方法やサンプル展示の変化

 今回の drupa では,デジタル印刷機の出展方法にも大きな変化が見られた.従来,デジタル印刷機は単体出展され,その品質や生産性などの性能面が訴求されることが多かったが,多くの機種が後加工システムまでをインライン接続し,製品加工までを一貫生産するデモンストレーションを実施した.連帳系の大型デジタル印刷機では,折り,綴じ,製本などの紙加工処理により最終出荷の製品を生産されていた.また,HP Indigo Pack Ready など,軟包装材料の後加工や,ラベル加工なども多くのブースでデモンストレーションがなされた(図 32).いずれのシステムにおいても,様々な印刷商材が小ロットで,自動化・省人化された製造ラインで生産可能であることが示されたものと思われる. こうした出展は,デジタル印刷機あるいはデジタル印刷技術が,その品質や性能を議論する段階から,製造システムとしての実力を評価される段階に移ってきたものと見ることができる.さらに,結果として,印刷サンプルの展示においても変化が見られた.HP ブースに展示されたデジ

図 29 HP 蛍光トナー展示の様子 図 30 リコー蛍光イエロートナーサンプル図 28 Gallus Label�re 340

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[23]第 53 巻第 5 号(2016)

365 drupa 2016 に見るデジタル印刷機の最新トレンド 

タル印刷商材は,すべて実際にマーケットで製品として出荷されたものになっていた(図 33).国内でもコカ・コーラ社のマイネームボトルキャンペーンなどは良く知られているが,ラベルから菓子袋やパッケージまで,どこかで見たことのある実際の商品なのである.ここまで身近な商品にデジタル印刷技術がすでに利用されていることであることは大きな驚きであった.

5.おわりに

 drupa とは最新技術,最新機種を各社がこぞって出展する機材展である.そのため,テクノロジーとしての面白味は多いのだが,実際に現在のビジネスに利用することに対する答えは少ないように見える.当然,今後技術や市場がどのように進んでいくかを展示会から見極めることは重要であり,新技術も正確に把握しておく必要がある.しかし

一方では,我々は足元のビジネスの課題を解決していかなくてはならない. 今回の drupa では,Landa を含めた,B1 サイズのデジタル印刷機に注目が集まっていたことは明らかではあるが,大きなニュースになるのは決まって将来的な話題である.Landa の Nanography が驚くべき技術であることは間違いない.なぜなら,B1 サイズを毎時 13,000 枚,全く異なる画像で印刷することができるのである.このデジタル印刷機を買えるか買えないかは別として,それほどの技術を搭載したデジタル印刷機だからといって,それを保有することができれば,果たして売上は上がるのであろうか.恐らく答えはノーである.どんなに素晴らしいデジタル印刷機であっても,モノづくりをする上では単なる道具でしかない.その道具をどのように利用するのか,何のために,誰のために利用するのかを考えることこそが重要であり,我々の視点はそちらの方向になくてはならないであろう.

図 31 Kodak NexPress MAX Platform 図 32 HP Indigo Pack Ready 図 33 HP ブースでの出展サンプル