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8 2011. 5 NIPPON STEEL MONTHLY ものづくりの原点 科学の世界 VOL.56 10 3 24 1 3 ※本企画では 2010 年4月号から、長年、製 鉄事業で培ってきた経験と技術を基盤に成 長・発展を遂げるグループ各社の保有技術 にスポットを当てて、その原点と最先端の 技術開発を紹介しています。 統合システム 基盤技術 (下)

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Page 1: 2011 5 208 - nipponsteel.com2011. 5 nippon steel monthly 10 ものづくりの原点 科学の世界 することが可能だ(イセンス費用や保守費用を最適化統合してデータベースソフトのラできると同時に、データベースをシステム運用の負荷の軽減が期待共用化し「機能統合」を行うことで、なる認証、およびデータベースをそこで各

82011. 5 NIPPON STEEL MONTHLY

ものづくりの原点 科学の世界 VOL.56

分散系システムの基盤統合に

いち早く取り組んだ新日鉄

全国10カ所に製鉄所・製造所を

展開する新日鉄は有効ステップ数

が3・8億ステップに及ぶ大規模

な情報システムを保有する。その

約7割は製造現場を支える生産管

理・操業系システムで、残りの3

割が営業系および会計・人事関連

など一般管理系のシステムだ。24

時間365日稼働する製鉄所の生

産管理・操業系システムは、日々

の変化に迅速に対応する観点から

製鉄所ごとに計算機センター(サー

バ)があり、一方、営業・一般管

理系の業務システムは、災害対策

として君津・八幡2カ所に設置さ

れた計算機センターに全社システ

ムとして集約されている。その中

でNSSOLの新日鉄本社サポー

ト部隊は、利用者数とデータ数の

多い営業・一般管理系に対して、

経営効率の向上を志向した統合シ

ステム基盤「NS│eSYS(※1)」

の構築を支援し、保守・運用を行っ

ている(図1)。

新日鉄では、1990年代以降、

システムのオープン化の流れに乗っ

て、個々の業務別にサーバ機器や

ソフトウェアを導入し、分散系シ

ステムのメリットを享受してきた。

しかし、機器などの種類・数の増

加とともに全体として保守運用負

荷の増大とそれに伴うコストアッ

プ、およびシステム間でのハード・

ソフトウェアの相互接続が複雑に

なるという問題が顕在化した。そ

こで新日鉄は、2002年からシ

ステム統合に取り組み、営業、財

務、購買、設備管理、原料、人事

など約200のシステムを統合基

盤上に移行・再構築した。

共通して必要な機能を統合し

さまざまなメリットを生み出す

基盤の統合には「拠点統合」「物

理統合」「機能統合」がある。新

日鉄ではまず「物理統合」を行い、

その統合基盤の上で、共通化可能

な認証などの共有化を行うことに

より、「機能統合」を実現している

(図2)。この領域はシステム構造

の標準化や個々のアプリケーショ

ン構造の統制が必要であり、統合

の難易度が高い。

図3のとおり、多様なアプリケー

ションを統制するIT基盤には、

③のネットワーク基盤から

⑧の

ユーザーアクセスまでの諸機能の

統制が必須だ。従来は営業・財

務・会計システムなど個別のサー

バごとに一式揃えていたが、本プ

ロジェクトでは

⑥から

⑧までを

同一のサーバに統合。コンピュー

タ言語や機器の選定をはじめ、デー

タベースやアプリケーションサー

バ、運用管理ツールなどを一つず

つ目的に合う形にチューニングし、

200にも及ぶシステムを同一の

サーバで動かす統合システム基盤

を実現している。

「物理統合」では、ただ単に統合

新日鉄ソリューションズ(株)(以下、NSSOL)は、

鉄鋼業をはじめとする「ものづくり」を支えるIT利用

技術の蓄積・知見をベースに、企画・構築・運用まで、

新たな価値を創造する多彩で柔軟なシステムソリューショ

ンを提供している。今号では、サービスを含むアプリケー

ションとその基盤、そしてシステムの運用・保守にわ

たる全領域を緊密に一体化して、企業の経営効率の向

上とスピードアップ、ITコストの削減、環境対策に

貢献する「統合システム基盤技術」の開発事例を紹介する。※本企画では2010年4月号から、長年、製鉄事業で培ってきた経験と技術を基盤に成長・発展を遂げるグループ各社の保有技術にスポットを当てて、その原点と最先端の技術開発を紹介しています。

鉄鋼生産で磨いた

情報技術を進化させ、

ビジネスの先鋭化に貢献

統合システム基盤技術

(下)

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9 NIPPON STEEL MONTHLY 2011. 5

TechnologyDATA

業務システム 業務システムの評価 3つのIT統合基盤

統合システム基盤(NS-eSYS)の範囲

生産管理系サーバの範囲(製鉄所統合サーバ)

操業オンライン系サーバの範囲(各工場単位サーバ)

プロセスコンピュータ

営業系物流系

一般管理系技術情報系

月次生産計画品質計画

物流管制生産管制

ライン稼働システム(指示 / 実績)

ライン

多い

少ない

多い

少ない

弱い

強い

弱い

強い

統合レベルには、「拠点統合」「物理統合」「機能統合」がある。新日鉄では「物理統合」を行い、その統合基盤の上で、ミドルウェアを含めた「機能統合」を実現している。

統合レベル

統合 /統合の対象 適用イメージ 効果 負荷 /

難易度

小 /易

大 /難

⑧ユーザーアクセス (ID・認証・認可)

⑦共通データベース

⑥システム間連携

⑤統合サーバ/統合ストレージ

④運用管理

③全社ネットワーク

⑨ビジネスインフラ

②エンタープライズアーキテクチャ

①業務・システム規程/ガイドライン・ルール

広域防災対策

ポリシー・ガイドライン

実 装

OS

OS

AP①

OS

AP②

OS OS

AP③ AP④

統合システム基盤

統合システム基盤が管理する範囲

統合の一例(DB統合)各アプリケーション

システム

APごとインスタンスを提供

統合

コンポーネント

ユーザーアクセス機構

ミドルウェア

サーバ

ストレージ

ネットワーク

ファシリティ

 用

セキュリティ

業務AP①

業務AP②

業務AP③

業務AP④

統合後

CPU

メモリ

Win

OS

サーバ

ストレージ

データセンター

ミドルウェア(システム機能)

機能統合

物理統合

拠点統合

◆種別・バージョンの異なるミドルウェアを 1つに標準化し、機能を統合

◆種別・バージョンの異なるOSを 1種類に標準化

◆複数サーバを物理的に1つの筐体に統合する◆1台の高性能サーバを、仮想化技術により任意 の能力に分割して提供

◆仮想化技術により、複数のディスクを1つに まとめ、任意の容量に再分割して提供

X Y Z

X

Y

センターA

センターB

センター

X Y

XZ

YX Y Z

ディスク

AP:X

AIX AP:Y

HP-UX AP:Z

Win AP:X

Win

Win

AP:Y

AP:Z

AP:X

AP:Y

AP:X AP:Y

DBAAA

DBCCC

DBAAA DB 認証

伝送APサーバ

AP① AP② AP③ AP④

計算機停止のコントロール

利用者数

障害時の被害

影響

データ量

リアルタイム性

新日鉄のIT基盤と「NS-eSYS」導入部分

基盤統合の種類と新日鉄/NSSOLの取り組み2

1

目指した統合システム基盤の形4

統合システム基盤の内容3

※1 NS-eSYS:エヌエス イーシス。新日鉄の社内統合システム基盤の名称。

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102011. 5 NIPPON STEEL MONTHLY

ものづくりの原点 科学の世界

されたサーバの中に機能別にそれ

ぞれのシステムが共存しており、

個別システムの運用負荷がかかる。

そこで各システムで共通に必要と

なる認証、およびデータベースを

共用化し「機能統合」を行うことで、

システム運用の負荷の軽減が期待

できると同時に、データベースを

統合してデータベースソフトのラ

イセンス費用や保守費用を最適化

することが可能だ(図4)。

一方、利用者は従来どおりの使

用環境のまま個別のアプリケーショ

ンを使用できる。また新たなシス

テムも容易に付加することが可能だ。

NSSOLでは、NS│eSYSの

運用に当たり、各専門領域の技術

者が結集し、それぞれのシステム構

成や停止したときの影響度を考慮

して、障害時のリカバリーを短時間

で実施する体制を整えている(図5)。

仮想化技術を使った

大規模なプライベート・クラウド

を実現

一方、IT基盤は「所有から利

用へ」という近年の潮流の中で、

ネットワークを通じて外部のリ

ソースを活用する「クラウド・コ

ンピューティング(※2)」が注目さ

れるようになった(図6)。NSS

OLでは2003年から同技術の

研究開発に着手し、新日鉄の統

合システム基盤技術などで培った

集約・統合ノウハウを活用しなが

ら、先行的にさまざまなサービス

を提供してきた。ここでは企業や

グループ企業内のシステム間でリ

ソースを共有するプライベート・

クラウド「エヌエスグランディール

(NSGRA

NDIR®

)(※3)」の事例を

紹介する。

NSSOLでは2008年4月

から、ある大手製造業が保有する

1500台のサーバの集約・統合

に取り組んだ(図7)。その目的は

運用の安定化を前提とした総所有

コスト(TCO)削減と電気使用量

低減によるCO2排出量削減、そ

してビジネス規格への柔軟で迅速

な対応(申請後約2週間での使用

環境提供)の3つだ。短期間でコス

ト効果を出すため、すでに実績の

あるOSの領域にターゲットを絞

り(対象サーバ500〜600台、

100システム)、更新時期を踏ま

えて段階的につくり変え、最終的

に廉価なウィンドウズ系サーバに

集約する「物理統合」を提案(図2参

照)。100システムすべてをつく

り変えるのは工期とコストがかかる

ため、クラウドの仮想化技術(※4)

を使い、アプリケーションは何も

変えずに、財務システムやインター

ネット系のシステムなどを統合シ

ステム基盤に随時載せていった。

その結果、500〜600台の

サーバを200台以下に削減し、

TCOは2〜3割、CO2

排出量

では7割程度の削減効果を生み出

すとともに、ビジネスの変化に迅

速に対応する環境の提供を実現した。

ITの最先端で強みを発揮する

鉄鋼業のDNA

NSSOLでは製造業向けだけ

ではなく、情報ポータル企業の情

報発信のスピードアップを図る統

合基盤(図8)や、東京大学素粒子

物理国際研究センターで行ってい

る膨大な量の科学計算を短期間で

行うIT基盤を受注・構築したほ

か、生命保険・金融機関向けに保

険料率の改定時などのリスク計算

を行う統合基盤を提供するなど、

さまざまな業種・業態向けの「拠点

統合」、「物理統合」そして「機能統

合」まで幅広く「プライベート・ク

ラウド」を構築しており、その実績

は日経コンピュータとITproが

実施した「第2回クラウドランキン

グ」プライベートクラウド構築支援

サービス部門において「ベストサー

ビス」に選出されている(※5)。

新日鉄は日本で初めて生産計

画・管理のオンラインシステムを

君津製鉄所に導入して以降、約

40年のコンピュータ技術の進化と

ともに歩み、その過程で、「ユー

ザーがやりたいことを実現する」

システム開発を行ってきた。その

DNAを継承するNSSOLは、

1987年に開設した「システム

研究開発センター」を中核とする

研究開発・技術力を備え、ソフ

ト・ハードウェア会社系のシステ

ムソリューション会社と異なり、

お客様のビジネスパートナーとし

て、中立的観点からさまざまなベ

ンダーの製品技術を的確に組み合

わせ最適解を導き出す熱意が高く

評価されている。今後も常にお客

様の視点に立ち、企業経営やサー

ビスの先鋭化に寄与するクラウド・

コンピューティングの新たな活用

領域に挑戦していく。

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11 NIPPON STEEL MONTHLY 2011. 5

TechnologyDATA

Windows

Solaris

Windows

Solaris

OperatingSystem

A OperatingSystem

B OperatingSystem

C OperatingSystem

D

OperatingSystem

A OperatingSystem

B OperatingSystem

C OperatingSystem

D

OperatingSystem

A OperatingSystem

B OperatingSystem

C OperatingSystem

D OperatingSystem

EOperatingSystem

FOperatingSystem

GOperatingSystem

H

ネットワーク(インターネットなど)

こちら側 あちら側

膨大な量のサービス・データ・情報

膨大な量のIT基盤

サーバ・ストレージ

広帯域・ユビキタス性を有するネットワーク

多様で可搬な端末

<効果の最大化> <統合システム基盤> <リスク回避策>

AP案件の変化に対応できない可能性

統合化によるシステム停止時の被害の拡大

レベルアップ時の作業の煩雑さ

AP構造(DB構造)の統一

共通構造の検討、統合すべきものの

見極め

オープン化に対応した頑強な構造

(セキュリティ対策、耐障害性)

システム管理の高度化・効率化

技術者育成

論理的構造の統合

ハードウェアの統合

業務統合基盤の構築

(マスターDB、コード統一)

開発費の削減開発容易さ品質の向上

システムリスクコントロールの

容易性

統合共有化によるコスト削減

リスク想定

集約

集約

集約

集約● TCO削減● CO2 削減

次世代統合インフラ基盤(全プラットフォームを統合) サ

ーバ統合集約効果

(コスト・環境貢献)統合効果

時間 現 在 次世代

今後もビジネスを取り巻く環境の変動が予想され、求められるインフラの変化も予測が困難。 必要に迫られた個別最適ではなく、今後、全体最適を推進することが必要

次世代 ITインフラの構築基本方針

コスト削減 機動性向上

アーキテクチャ方針

1. HWの構成 /配置は統一し、余剰リソースの利用効率を高める

2. ネットワーク /ストレージは統合・仮想化し、論理的に個別利用

3. エンジニア作業 /構成管理を自動化し、機動性と省力化を実現

4. コストパフォーマンスの高いサーバをスケールアウトにて拡張5. インフラ構成をシンプルにし、順次拡張するスモールスタート構成

効果の最大化とリスク回避策<効果

5 クラウド・コンピューティングとは6

他業種での採用事例(情報ポータル企業の統合基盤)

エヌエスグランディール(NSGRANDIR®)を用いた次世代統合インフラ基盤整備例7

8

監 修  新日鉄ソリューションズ(株)

鉄鋼ソリューション事業部基盤技術部 部長 丸岡 琢磨(まるおか・たくま)(1989年入社、経済学専攻)

ITインフラソリューション事業本部ITエンジニアリング事業部事業部長北沢 聖(きたざわ・さとし)(1990年入社、計数工学専攻)

ITインフラソリューション事業本部ITエンジニアリング事業部エンジニアリング第一部 第一グループ シニア・マネジャー水島 純一(みずしま・じゅんいち)(2006年入社、経営学部情報管理専攻)

※2 クラウド・コンピューティング:インターネットを「雲(クラウド)」の形でシステム図に表現したことに由来。従来個々のパソコンや社内サーバで行っていた情報処理を、利用者に見えないインターネットの外部にある巨大サーバ群に任せるサービス形態。

※3 NSGRANDIR®:ITインフラの各種計算機資源を共通基盤として統合し、負荷変動などに合わせて自動的に最適配分するためのフレームワーク。GRANDIRとは仏語で“成長する”。

※4 仮想化技術:CPUやメモリなどのコンピュータ・リソースと、それを利用するOSやアプリケーションとの物理的な結びつきを解いて、自在に利用できるようにする技術。仮想化により、1台のサーバを複数のサーバとして運用したり、逆に複数のサーバの能力を1つに集約して、より大きな力として活用することが可能になる。

※5 「第2回 クラウドランキング」(『日経コンピュータ』2011年3月3日号掲載)