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本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含ま
れるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの
投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責
任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。
更新日:2010/2/12
調査部:本村真澄
公開可
ロシア:「東シベリア・太平洋(ESPO)」パイプラインの稼働開始と
北東アジア市場の展望
・東シベリア-太平洋(ESPO:East Siberia-Pacific Ocen)パイプラインは 2009 年 12 月 28 日から稼働を開
始し、ナホトカ南東部のコズミノ・ターミナルから 10 万トン級タンカーによる原油輸出を開始した。
・輸出先は韓国、日本、ハワイの製油所および、韓国麗水(Yeosu) の原油貯蔵基地である。
・2010年の輸出量見込みは、能力の日量30万bbl(年間1,500万トン)をやや下回る日量24万bbl、2011
年からは能力一杯に稼働する予定である。
・供給原油は、東シベリアのVankor油田(24万bbl/日)、Verkhnechon油田(5万bbl/日)、Talakan油田(8
万bbl/日)の3油田が主体で、これに西シベリアからの原油が「応援」で追加されている。
・油種は「ESPO 原油」という新規のブランドとして認定され、中質・低硫黄という特徴から Dubai 原油に比
べプレミアムが付く状況となっている。原油輸出税は免除され、開発インセンティブが与えられている。
・ESPO パイプラインの稼働を前提に東シベリアにおける新規探鉱が活発化しており、1月にはロスネフ
チが大規模な新規油田を発見するなど、東シベリア自体の供給能力の評価は高まっている。
・東シベリアからの中国向け石油パイプラインは、1998 年に民間企業のユコスにより、太平洋向けは
2001 年 7 月トランスネフチによりそれぞれ計画されたが、2003 年 1 月の小泉総理(当時)による「日ロ行
動計画」による関与があって、同年 5 月「大慶への支線を伴うアンガルスク・ナホトカルート」として閣議決
定された。その後、ルートは度々変更されバイカル湖北岸を通る案となったが、2006 年 4 月の工事開始
2 日前に、プーチン大統領(当時)により北方のサハ共和国まで油田地帯を縦貫するルートに変更され
た。工事は計画変更と並行して進められ、3 年半で完成した。
・但し開業して一月程度の期間に 2 か所でパイプ漏れ事故を起こすなど、操業には不安定さが目立つ。
・コズミノ・ターミナルは、サハリン1のデカストリ(20 万 bbl/日),2のプリゴロドノエ(10 万 bbl/日)に続くも
ので、日本海に3年ほどの間に3か所の原油輸出ターミナルが出現したことは、日本の原油供給ソース
の多様化に資するもので、輸出量の半分程度を日本企業が輸入すれば、日本の原油需要の 8%程度と
なり、中東依存度は 80%台前半まで下げることができる。
1. コズミノ原油輸出ターミナルの稼働開始とそれに纏わる動き
(1)ESPO原油出荷の状況(表1参照)
2009年の暮も押し迫った12月28日、ナホトカ港の南東部に位置するコズミノ湾の積み出しタ
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れるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの
投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責
任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。
ーミナルにおいてプーチン首相自らがパネルを操作して10 万トンタンカー「モスクワ大学」号へ
の原油の積み出しが開始され、原油輸出がスタートした。プーチン首相はその後のスピーチで「東
シベリア・太平洋(ESPO: East Siberia-Pacific Ocean)石油パイプラインによる出荷開始は、ア
ジア太平洋地域に市場を求めるロシアの地政学的なプロジェクトであり重要な意義を持つ」と述べ
た。ここでは「地政学的」という表現が各方面から注目された。ESPOは計画段階から「プーチン
のパイプライン」と呼ばれ、2004 年のプーチン大統領教書においては国家的な施策として掲げら
れた。それ以来、ルートの選定から工事の進捗までプーチン自らが終始、陣頭指揮に当たったプロ
ジェクトである。2004 年の教書では「輸送インフラの整備こそが、広大な地域に漠と広がるロシ
アの特殊性を逆に競争力へと転換させる」との指摘がある。ESPOは当初から「アジア市場の獲得」
という明確な戦略を掲げての事業であった。
石油パイプラインの建設に際して、中国がロシアのパイプライン操業会社トランスネフチに対し
て昨年 4 月に 100 億ドルもの融資を行っていることから、第1船の原油は中国の石油企業がご祝
儀で買い付けるのではという見方も一部にはあったが、購入したのは IPP Oyというフィンランド
登記の企業であり、第1船は12月29日に香港に向かって出航した(各紙、2009/12/31)。
初の出荷原油は 15 社に対して入札に付されたもので、IPP Oy は原油価格に関してはドバイ
原油の価格に50 セントのプレミアムを上乗せするという 高値の条件を提示して落札した。同社
は、プーチン首相の盟友と言われている石油トレーダーのティムチェンコが関係しているという。
恐らく、ロシアとしては ESPO 原油に対しては市場の高い評価があることを印象付ける必要があ
ったために買い手として身内を起用したものと思われる。原油はロスネフチの出荷分である。香港
には製油所はなく、香港から更にシンガポールなどへ転売された可能性が高い。
第2船としては 1 月 5 日、TNK-BP の原油が出荷されたが、これはスイス法人のTrafigura と
の相対契約で、原油は韓国の麗水(Yeosu)に向かった。ここにはTrafiguraがリースを受けてい
る原油貯蔵設備があり、その後、第3船のSurguteneftegaz(Gunvorが購入) なども麗水の貯蔵タ
ンクに入れられている。これは、製油所が不需要期に入っているために貯蔵分を増やしているため
と思われる。価格は第1船の時と同じと言われている。
コズミノからの出荷は、2010 年は 24 万 bbl/日、2011 年から 2012 年は 30 万 bbl/日、2013 年
に35万bbl/日、2014年に40万bbl/日という予測がなされている(PON,2010/1/22)。
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No. タンカー 出荷日 販売石油会社 販売先 価格$/bbl 行先
1 Moscow University 12月29日 Rosneft IPP Oy (フィ
ンランド) Dubai+0.5 香港
2 Libya 1月4日 TNK-BP Trafigura (スイス) +0.5 麗水(韓国)
3 Ashada 1月5日 Surgutneftegaz Gunvor 麗水
4 Pacific Energy 1月10日 Rosneft - 香港
5 Moscow University 1月11日 Rosneft -
9 Esteem 1月31日 Gazprom Neft Petro Diamond GS Caltex 10 2月6日 TNK-BP BP
2月9日 Rosneft Petro Diamond -1.30 2月13日 Rosneft Crudex -1.25
Bunga Kelana 4 2月16日 Rosneft Vitol 0.02 Kapolai,Hawaii
Tesoro 2月19日 Rosneft Petronas 0.20 2月22日 Rosneft Crudex 0.25
2月27-28日 GazpromNeft ExxonMobil 東燃ゼネラル 3月2日 Rosneft Crudex 0.29 表1 コズミノからESPO原油出荷の状況(IOD, 2010/1/28他各種報道を集約)
(2)製油所への供給
第 9 船用の GazpromNeft の原油は、三菱商事の子会社 PetroDiamond が購入し、同じく麗水
にあるGS Caltex(国内大手第2位)の処理能力日量75万バレルの製油所に入れられた。これが
現時点では製油所に向かった 初の原油である(IOD, 2010/1/28)。これは、当初予定されていたオ
ーストラリア北西大陸棚のPyrenees原油の納入が2月まで遅れたことから、その穴埋めとして急
遽引き取られたとのことである(IOD, 2010/1/27)。
価格に関しては、当初 Dubai+$0.5 のプレミアムが付けられていたが、2 月 12-13 日渡しでは
Dubai 原油に対して$1.25 のディスカウントとなった。但し、2 月 21-22 日渡しには$0.25、3 月
1-2日渡しには$0.29のプレミアムに戻っている(IOD, 2010/1/27)。
2 月中旬渡しのRosneft 原油はVitol(オランダ・スイスに登記)が買い取り、米系企業Tesoro の
所有するハワイの精製能力日量9.4万bblのKapolai製油所に供給される。一方、2月下旬渡しの
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GazpromNeft原油はExxonMobilが購入し、日本の東燃ゼネラルに供給されることになった(IOD,
2010/2/08)。ようやく、製油所向けの輸出が行われるようになった。
(3)東シベリア原油の定義と輸出税の免税措置
このパイプラインで出荷される原油は「ESPO」ブレンドと名付けられ、2009 年7月16日付け
の政令 574 号によるロシア石油輸出関税法の改正により、石油輸出税が免除となった。対象とな
る原油については、新たな関税コードTN VED 2709 00 900 1が設けられ、東シベリア13油
田(表2参照)からの原油が対象となった。品質基準としては20℃での原油比重0.6947~0.8724、
硫黄含有量 0.1%~1.0%とされた。そして、11 月 26 日付けの政令 954 号により、施行は 2009 年
12月1日からとし、適用期間は当初9カ月間とされた。
鉱床名 開発者 戦略鉱床 所在地
1 Vankor油田 Rosneft ● クラスノヤルスク地方
2 Talakanskoye油田 Surgutneftegas ● サハ共和国(ヤクーチア)
3 Alinskoye油田 Surgutneftegas サハ共和国(ヤクーチア)
4 Verkhnechonskoye油田 TNK-BP& Rosneft ● イルクーツク州
5 北Talakanskoye Surgutneftegas サハ共和国(ヤクーチア)
6 東Alinskoye Surgutneftegas サハ共和国(ヤクーチア)
7 Pilyudinskoye Surgutneftegas イルクーツク州
8 Stanakhskoye Surgutneftegas サハ共和国(ヤクーチア)
9 Verkhnepeleduyskoye Surgutneftegas ● サハ共和国(ヤクーチア)
10 Yurubcheno-Tokhomskoye Rosneft ● クラスノヤルスク地方
11 Kuyumbinskoye Slavneft ● クラスノヤルスク地方
12 Dulisminskoye Urals Energy ● イルクーツク州
13 Sredne-Botuobinskoye Taas-Yuryakh Neftegasdobycha ● サハ共和国(ヤクーチア)
表2 石油輸出税免除となった東シベリアの13油田(2009年11月制定)
ところが、当初対象に選んでいたエニセイ河河口に近いクラスノヤルスク地方のVankor油田の
性状がこの原油の定義に収まらないことが分かり、2009 年12月19日付けの関税同盟委員会の決
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定 155 号により、原油に係る関税同盟の統一関税の変更がなされるのを受け、新たな関税コード
TN VED 2709 00 900 2が設けられた。新たな品質基準としては、より重質で高硫黄の原油も
含むもので、20℃での原油比重0.6947~0.8874(API比重:71°~28°)、硫黄含有量0.1%~1.5%
となった。そして東シベリアにおける対象油田として9鉱床が追加され(表3参照)、合計22油
田となった。当初のリストでは Surgutneftegaz の油田が 13 油田中 7 油田も含まれ公平性が疑わ
れたが、新規では対象が拡大され、更にイルクーツク石油(INK)の油田が4つ含まれるなど、中小
企業にとっても有利な決定になっている。2010年1月28日の政令32号により、この輸出関税の
免除の適用は2月1日からとされた。
鉱床名 開発者 戦略鉱床 所在地
14 Yaraktinskoye INK イルクーツク州
15 Danilovskoye INK イルクーツク州
16 Markovskoye INK イルクーツク州
17 Zapadno-Ayanskoye INK イルクーツク州
18 Tagulskoye TNK-BP ● クラスノヤルスク地方
19 Suzunskoye TNK-BP クラスノヤルスク地方
20 Yuzhno-Talakanskoye Surgutneftegaz サハ共和国(ヤクーチア)
21 Vakunaiskoye GazpromNeft イルクーツク州
22 Chayandinskoye Gazprom ● サハ共和国(ヤクーチア)
表3 東シベリアでの輸出税免除の追加9油田 (2010年1月制定)
(4)東シベリア油田に対する原油生産税の免税措置
輸出税の免税に先行して、2007 年 1 月に、東シベリア油田を対象にした原油生産税の免税措置
が実施されている。これは、厳しい自然環境下にあり、インフラが未整備な東シベリア地域におけ
る新規油田開発の促進に向けて導入したもので、東シベリア地域に対する探鉱開発インセンティブ
の 初となるものである。
対象地域は、東シベリアのサハ共和国(ヤクーチア)、イルクーツク州、クラスノヤルスク地方
内に全域または一部が位置する新規油田で、適用されるのは、石油累積生産量が2,500万tに達す
るまで、或いは生産ライセンス付与から10年、探鉱・生産ライセンス付与から15年までの間の
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いずれかの早い時期までとなっている。この免税措置が適用される時期は、2007 年 1 月1日から
となっている。2007 年 1 月 1 日以前にライセンスが付与されている鉱床で、埋蔵量産出量 5%以
下の鉱床は、2007年1月1日から10年以内の適用がなされる。
(5)ESPO原油と他の油種との比較
ESPO原油と他の主要油種の、API比重及び硫黄分の比較を表4に示す。ESPOの数値は12月・
1月の実績によっている。サハリン-1,2の原油程良質ではないが、Dubai原油と比較すると比
重は軽く、硫黄分は遙かに低くなっており、相応のプレミアムが付くものと期待されていた。現状
では、Dubai 原油に対して$0.2~0.3 のプレミアムを付けたレベルで推移している。表4には 12
月時点での各油種の価格を示したが、ウラル原油をかなり上回る価格となっている。
油 種 API比重 硫黄分(%) 12月の価格
ESPO 35.0 0.6 $76.0 Dubai 31.0 2.04 $75.5 Brent 37.5 0.46 $74.74Urals( Rebco) 31.8 1.40 $73.57Minas 35.0 0.08Sokol (サハリン-1) 37.9 0.23Vityaz (サハリン-2) 38.0 0.18表4. ESPO原油と主な輸出との性状比較(Vedomosti 2010/1/26他から作成)
(5)出荷油量(Interfax, 2010/1/21) 第1 四半期出荷計画 (万t) 供給油田
Rosneft 180 Vankor, Verkhnechon
Surgutneft 60 Talakan
TNK-BP 50 Verkhnechon
Gazprom Neft 10 (Tomsk)
Bashneft 10 (West Siberia)
310
表5 2010年第1四半期のKozminoからの輸出原油割り当て
Transneft が割り当てた 2010 年第1四半期の Kozmino からの輸出割り当てを表 5 に示す。全
体の半分以上をRosneftが占めているのは、イルクーツク州のVerkhnechon油田(能力日量5万
bbl)、クラスノヤルスク州のVankor油田(能力日量24万bbl)などの主要供給油田を保有して
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いることに加え、太平洋側への原油輸出が国家的事業であることも関係していると思われる。
Surgutneftegaz はサハ共和国のTalakan 油田(能力日量 8 万 bbl)から供給する。次いで、イル
クーツク石油(INK)のYaraktin油田(日量1万bbl)、2011年からはUrals Energy(現状は
Sberbankが保有)のDulismin油田などが加わる。
GazpromNeftは、既に2杯出荷して20万トンとなっており、割り当ての2倍となっているが、
理由は不明である。BashNeftはボルガ=ウラル堆積盆地のBashkortostanの元国営石油企業であ
るが、同社は西シベリアにも3か所鉱区を保有しており、ウラル原油ではなく西シベリアの原油が
供給される。
(6)ESPOパイプラインの概要
東シベリア太平洋パイプラインの第1期はTaishet-Skovorodino 間の2,694km で、口径は主要
区間で48”(1220mm)で、ハバロフスクの製油所を過ぎると1020mmと細くなる。 終的に42箇
所のポンプステーションを配置する。西部のTaishet-Talakan区間が完成した2008年10月から、
Verkhnechon 油田、Talakan 油田が生産を開始し、東方へはまだ出せないことから、西~南方向
へ逆走して Taishet 経由 Angarsk へ原油輸送を行った。全区間は 2009 年 10 月に完成し、10 月
26日にスコボロディノまでのパイプ内の原油による充填が完了した。11月5日にはスコボロディ
ノから 初の石油タンク車列がコズミノの原油貯蔵タンクを目指して出発した。
通油量は年間 3,000 万トンとされているが、2010 年にはコズミノから出る分の約 1,500 万トン
のみであり、大慶支線に対しては2011年から年間1,500万トンを輸送することになっており、合
計で3,000万トンがスコボロディノまで送られる。その後、スコボロディノからコズミノまでの第
2期(2,100km)が完成すると、この区間の容量は年間5,000万トンになる。
総工費は第1期が3,780億ルーブル(126億ドル)で、その他コズミノのターミナルの建設費用
が600億ルーブル(20億ドル)であった。
(7)ESPO-2の工事開始(IOD, 2010/1/18, PON,1/22, 日経産業, 2/03)
ESPO パイプラインの第2期工事開始は、早くもこの 1 月 13 日から開始されている。通名を
ESPO-2 と称し、Skovorodino からKozmino まで全長 2,100km、建設費は 3736.6 億Rb($124.5
億)と見積もられている。ハバロフスク西方のユダヤ自治区においてまず着工され、1月14日まで
に 180m がまず溶接された。ESPO-2 は 2014 年の完成を見込んでいる。Petronas は第2期工事
への参加を要請されている。
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(8)輸送タリフ
連邦タリフ庁は、輸送タリフを原油1トン当たり1,598Rb ($53) 或いは$7.28/bblとした(IOD,
2009/12/29)。これにはパイプライン・鉄道による輸送料金、コズミノでの石油積み替え料金が含
まれる。但し、国営パイプライン会社トランスネフチのトカレフ社長によれば、この区間の輸送原
価は2倍以上の原油1トン当たり130ドルであるという(Vedomosti, 2009/12/29)。
この差額は全国の石油パイプライン・システムのタリフを引き上げることで対応する。2010 年
1月1日から、連邦タリフ局は幹線パイプラインのタリフを平均15.9%引き上げた(Nakanune.ru,
2010/1/20)。東シベリアから太平洋というパイプライン計画を単体で立案しても商業性を出すこ
とは難しい。トランスネフチというユーラシア大陸規模の事業体全体で支えることで初めて可能な
措置と言える。但し、東シベリアに権益を保有しない Lukoil のような企業にとっては、単に輸送
タリフが値上げされるだけの迷惑なプロジェクトでしかないが、Lukoil がこれに関してクレーム
した形跡はなく、国家的事業が動く場合には、関係のない石油企業も基本的に協力を求められてい
るというのがロシアの実態であろう。
図1 東シベリア太平洋(ESPO)パイプラインにおける漏洩事故のあった個所(同図の日本海部
分で新規に出現した供給ソースを示す)
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(9)ESPOパイプライン漏れ事故(図1参照)
1月21日、レナ河に面したヤクーチアのLensk から西方30km にある1,351km 地点でESPO
パイプラインの修復作業中にパイプが破裂し、450m3 の原油が地中に漏れ、2 万 m2 に渡って広
がり、深さ2-10cmまで地中に浸み込んだ。修復作業に196名の人員と40基の機材が投入された
(Interfax,2010/1/21, PON, IOD,1/22)。
2月3日には、Skovorodinoで第2の原油漏洩事故が発生した。漏れた原油はBolshoi Never川
に達し、川岸 1km にわたって広がっていると伝えられた。Vostoknefteprovod の作業員達は土を
取り除いてパイプラインを地表に出し、先にセンサーが感知した内部の不具合を補修するために派
遣されていたが、事故当時作業を行っていた作業員は、通常の作業マニュアルによれば、掘り込み
部分とパイプラインの間は20cm以上空け、パイプの上に残った土は手作業で取り除かなければな
らないところ、これを無視し、パワーシャベルのみで掘り進めたため、掘削機がパイプラインに接
触し破損した。破損したパイプラインは本体部分ではなく、Skovorodinoのポンプステーションと
貯蔵設備を繋ぐ口径720mmのものである(Vedomosti, 2010/2/05)。
写真 Skovorodino付近でパイプラインから噴出する原油(Vesti)
ESPOパイプラインは、Transneftによる当初計画では、バイカル湖岸からわずか800mを通過
することになっており、環境団体がこれを問題視して、2006 年 4 月 26 日のルート変更へと事態
が発展したが、当時Transneftはパイプラインの安全性を強調し、事故の可能性はないと断言して
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いた。今回の事故により、Transneftに対する信頼性は大きく低下したと言える。
(10)新規油田発見(Interfax, 2010/1/27,28、MT 1/29, 日経産業, 2/09)
ESPO の活動開始に合わせるかのように、東シベリアで大規模な油田の発見が報道された。
Rosneft はイルクーツク州カタンガ地区の Mogdinsky 鉱区で Savostyanovo 鉱床を発見した。
C1+C2 埋蔵量は 1 億 6,020 万tと報道されているが、探鉱の初期段階であり、この内のC1 は全
体の1%程度に過ぎないという(コンサルタントからの情報。2月10日聴取)。これは、Verkhnechon
油田に等しい埋蔵量規模を有し、将来的に東シベリアからの ESPO への原油供給の比率を高める
上で、大きな貢献が期待できる。JOGMECが INKとの共同事業で探鉱しているSever Mogdinsky
鉱区はそのすぐ北に隣接するもので、この地域の有望性を示すものである。
従来の東シベリアでの石油生成・移動・集積の議論では、東シベリア堆積盆地の南東縁に分布す
る Predpatom 沈降帯が石油の生成地域であり、北東側に位置する Nepa-Botuabin 隆起帯へと移
動したとするもので、この隆起帯よりも更に北東に位置するMogdionsky鉱区周辺への石油の移動
は困難とする見方が多かった。今回の発見は、このような石油の生成・移動・集積論に変更を迫る
ものとして興味深い。
但し、この発表はRosneftが発表したものではなく、何故かプーチン首相との会合の席でトルト
ネフ天然資源・環境相が報告したと報じられたもので、この辺りは、ESPOの完成を前向きに宣伝
したい政権側の意向が感じられる。
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本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含ま
れるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの
投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責
任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。
図2 Rosneft の発見したSavostyanov 油田と JOGMEC-INK による JV 鉱区の位置(四角で囲
ったもの)
2. 東シベリア・太平洋パイプライン建設決定までの経緯-「鶏と卵」の問題-
東シベリアは、油田地帯としては新しいものではない。 初となるMarkovo 油田が発見された
のは1962 年のことで、西シベリアでの油田発見に遅れること僅かに8年である。その後西シベリ
アは1960 年代に主力の巨大油田が続々と発見されて大油田地帯へと飛躍して行った。しかし、東
シベリアでは探鉱活動は低レベルで、中小規模の油田の発見が断続的になされるのみであった。
これはひとえに、大規模な探鉱活動をまず戦略的に展開し十分な規模の石油埋蔵量を確認しない
限り幹線パイプライン建設にまで結びつけることは困難であり、一方、将来的にパイプラインが整
備される見込みがない限り、大規模な探鉱投資を決断することは不可能という「鶏と卵の問題」で
ある。「投資不足」と「発見埋蔵量不足」という負の循環を打破するためには、自然発生的なイン
フラ建設ではなく、政策発動によるインフラ建設が先行する必要があった。
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これは通常はあり得ない決断であるが、東シベリアに関しては西シベリアからイルクーツク州の
アンガルスク製油所までの石油パイプラインが1964年に完成しており、このパイプラインで西シ
ベリアの原油を当面は補填することで、太平洋までの石油パイプラインの経済的な操業は可能と考
えられたことから、実現化に向けて動き出したものである。
このアンガルスク製油所まで来ている石油パイプラインを更に東方の大慶まで延長する案が、
1998 年 2 月の朱鎔基首相(当時)訪ロ時において、ロシアの民間石油企業ユコスと中国国営の
CNPC(中国石油天然気総公司, 当時)との間で合意された。総延長は 2,260km、輸送容量は日量
60 万バレルで、西シベリアで産するユコスの原油を、成長している中国市場に供給するという計
画である。このルートは、バイカル湖の南を通り、ザバイカルスク、満州里を経由して大慶に至る。
ここの製油所では大慶油田の生産が減退に向かい、大慶原油に近い低硫黄原油を確保する必要があ
った。ただし、ロシア政府は、民間石油企業による輸出用石油パイプラインの建設は認めないとの
方針を繰り返し表明していた。
これに対抗して2001年7月、国営の石油パイプライン企業トランスネフチは、アンガルスクか
ら太平洋のナホトカに至る総延長 4,000km、輸送容量日量 100 万バレルのパイプライン計画を発
表した。これは全区間自国領内を通過し、自国の輸出港から国際市場にアクセスするものである。
大慶向けパイプライン建設に関する国レベルの基本合意は、2001 年 7 月のプーチン・江沢民に
よるロ中首脳会談でなされた。同年9月の朱鎔基首相(当時)の訪ロ時には、カシヤノフ首相(当
時)とパイプライン建設に関する商業化調査の実施契約が調印されたが、具体的な建設に向けて踏
み出したものではなかった。
これに対して、2003 年1月に訪ロした日本の小泉首相(当時)は、プーチン大統領(当時)と
「日ロ行動計画」に調印し、東シベリア・パイプラインにおける両国の協力を謳った。これは、ト
ランスネフチによる「東シベリア・太平洋」パイプラインに対する明確な支持を表明したものであ
る。これを受けてロシア政府は5月、「2020年までのエネルギー戦略」を承認する閣議の場で、
「大慶への支線を伴うアンガルスク-ナホトカルート」という2路線併設案を決定した。これは、
両論併記的な扱いであるが、日本を含む国際市場にアクセスできる太平洋までのルートを本線とし、
中国案である中国のみを市場とする大慶までのパイプラインは「支線(spur)」と位置づけるもので、
これまでの経緯に照らして主客逆転を印象付けるものであった。これ以降、関心はどちらのルート
の工事を先行させるかに移った。
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その後も「太平洋ルート」の計画は練り直され、ロシア政府の方針は迷走を重ねた。まず、同年
夏には、バイカル湖の南を通るルートが国立公園を通過することが問題化したことを受け、バイカ
ル湖の北を通る案に変更された。2004 年 2 月には、シベリア鉄道とバム鉄道の分岐点タイシェッ
トからバイカル湖の北方を通りスコボロディノ経由、ウラジオストックの西側対岸にあるペレボズ
ナヤまでというルートとなった。同年 11 月にはフリステンコ産業エネルギー大臣(当時)がパイプ
ラインの2段階建設を決定し、第1段階はタイシェット-スコボロディノ間で建設されることとな
った。スコボロディノからは太平洋の輸出ターミナルまでは、第2段階完成までの間、鉄道で輸送
することとした。スコボロディノは、大慶支線への分岐点として認識されて来ており、この決定は
大慶支線建設についても十分に配慮した措置と看做された。
その後トランスネフチが、パイプライン・ルートをバイカル湖から十分な距離をとっていた当初
の計画から、湖岸の北僅か 800 メートルを通過する計画へと変更したことから、環境団体がこれ
を問題視するようになり、プーチン大統領(当時)がこのような世論を取り入れて、工事開始とな
る2006年4月28日の2日前にルートを北方向に大きく約400km迂回させる決定を下した(図1)。
こうして第1段階の総延長は2,694kmとなった。
これはルートが北方の油田地帯近くを通るもので、石油企業からは歓迎されるものであった。そ
れまでのバイカル湖のすぐ北を通る案では、パイプラインを建設するトランスネフチにとっては
短距離に近く利益を得やすいが、東シベリアの主要な油田地帯からは、数100km以上離れており、
石油会社は自ら繋ぎ込み用のパイプラインをいくつも敷設しなくてはならず、無駄な投資を数多く
生む可能性があった。
この 2 年前の 2004 年に、より北に位置するサハ共和国は、正に現在の ESPO パイプラインの
ルートによく似た北に大きく回ってサハ共和国内の油田地帯を通過するパイプライン・ルートを主
張していた。主力油田であるVerkhnechon油田はイルクーツク州、Talakan油田はサハ共和国に
あるが、どちらも両地域の境界付近に位置しており、サハ共和国の主張するルートであれば至近距
離から ESPO パイプラインに繋ぎ込むことができる。産油地帯を有する共和国の立場であれば当
然の選択と言えるものであるが、いつの間にかトランスネフチ主導のバイカル湖の北岸を通る案が
採用された。
プーチンによるルート変更は、トムスクで開催された環境公聴会の演壇で、トランスネフチのバ
インシュトック社長(当時)を前に、バイカル湖の環境問題があるということで白板に大きくバイ
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カル湖を迂回するルートを描いて指示したというもので、その様子はテレビ中継された。恐らく、
バイカル湖の近くを通る案に固執するトランスネフチに反発したいくつかの石油会社が、周到に根
回しして大統領を巻き込み、工事開始直前にパイプライン・ルートの決定を覆させたものと思われ
る。
3.東シベリア太平洋パイプラインの意義
(1)新たなエネルギーフローの出現
昨年の2月18日には、日本からも麻生総理(当時)が招待されて、サハリン南端のプリゴロド
ノエでメドヴェージェフ大統領がサハリン-2のLNG出荷を祝ったのが記憶に新しい。今、極東
では新しいエネルギー・ソースが次々と出現している
図1に見る通り、まず 2006 年 10 月からサハリン-1の輸出ターミナルとして、ハバロフスク
地方のデカストリから原油出荷が開始された。近年の輸出量は日量約20 万バレルである。続いて
2008年12月、LNGターミナルのあるサハリン島南端のプリゴロドノエから、通年生産となった
サハリン-2の原油が LNG に先行して出荷され始めた。これは日量 10 万バレルであるが、いず
れ日量 15 万バレルまで引き上げられる。その3ヶ月後、サハリン-2の LNG が同じターミナル
から出荷され始めた。そして今回、コズミノの原油輸出ターミナルが稼働を開始した。この能力は
当面は日量30万バレル(年間1,500万トン)で、極東地域には3つの原油輸出ターミナルが出現
し、その輸出量は合計で日量60万バレルとなる。そしてLNGターミナルも近々出荷量も年間960
万トンとなる。これは、非常に大規模で急速なエネルギーフローの変化である。
(2)西から東へと移行するロシアの原油輸出
トランスネフチのトカレフ社長は、コズミノまでの輸送が実現することにより、Dubai 原油に匹
敵する原油になりうるとの見通しを述べた(Interfax、2010/1/19)。
国際エネルギー機関(IEA)は1月15日発行の月報で、「ESPO原油は、品質がほぼ同水準の
中東産原油に取って代わると見られる」と述べ、欧州もロシア原油を巡ってアジアと競争しなくて
はならなくなったと指摘した。IEA から JP Morgan Chase に移籍した石油アナリストの
Lawrence Eagles は、「世界の原油市場における重要で急激な変化であり、ESPO パイプライン
はロシアが西と東の両市場のいずれにも原油を供給できる swing producerとなりうるインフラス
トラクチャーを提供するものだ」と指摘した(WSJ, 2010/1/15)。
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但し、楽観的な指摘だけではない。ESPOパイプラインの建設コストがロシア西部の3-4倍とな
っていること、このパイプラインの操業が損失補填を余儀なくされており、ロシアにとって戦略的
に有益なプロジェクトでないとの経済アナリストの懸念が一部で表明されている。
(3)日本にとっての新規供給ソース-日本の対中東依存度軽減へ
このパイプラインの持つ意義は、12 月 28 日の開通式でのプーチン首相発言に集約されている。
産油国にとって北東アジアという新規の市場開拓という意義があるとすれば、北東アジアの消費国
にとっては域内での新規の供給ソースの出現というエネルギー安全保障上の意義がある。日本の近
隣では、1993 年に中国が、そして 2004 年にインドネシアが石油の輸入国となり、日本は次々と
石油供給ソースを失っていった。頼みの綱は中東のみということになり、それまで7割程度であっ
た中東依存率が、勢い9割に跳ね上がったまま推移している。日本が新たなエネルギー・ソースを
求めるとしたらロシアしかないことは当時から分かっていたが、長年の努力が実り、ようやく開花
期を迎えた形となった。
図3に見るように、2006年に輸入原油の1%に過ぎなかったロシア産原油は、2008年時点で約
4%となっており、サハリンでの経験から類推して今回のコズミノからの輸出原油の半分強を日本
の石油企業が買い付けるとすると、日本への輸出量は日本の需要の 8%程度を賄うと見込まれる。
そして、90%程度に貼りついていた日本の中東依存度は、80%台の前半にまで下げることができる。
日本のエネルギー基盤が脆弱であるとする議論は多いが、日本の近隣で供給ソースを一つ一つ増
やして行くこと、特にロシアからの輸入を増やすことは、その懸念への有効な回答の一つであろう。
図3 日本の 近の原油対外依存度の変化-ロシアが急速に存在感を高めている
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以 上