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Abstract Laws governing social workers in residences for the elderly designate a title, “Social Worker.” However, the care sector it has yet to create such a title. Because there are a wide variety of residences for the elderly, four elderly residence with care service locations amongst which two are fee-based homes for the elderly, residence services in Sapporo have been exploring more effective ways to establish social work by conducting in-person panel surveys with those involved in counselling services. The following information was obtained: Administration offices located within care facilities tend to receive priority. Because of this, social work services are often not consistently allocated or prioritized. To effectively support the lives of elderly local citizens, social work operations must also function as social welfare services. Keywords:residences for the elderly, social work, welfare services Ⅰ.研究の目的と背景 我が国の高齢化率は 2013年には 25.1%に達し,さらに団塊の世代が後期高齢者となる 2025年には高齢化率 31.3%と予測され,様々な面で対策が急務となっている。とりわけ,家族介護力の低下や福祉施設の入所制限な どの背景のもとで,自宅に住み続けることが困難な要支援・要介護高齢者の「住まい」をどのように確保するかは 重要な課題となっている。 高齢者の「住まい」は,これまでの自宅から,シルバーハウジング,ケアハウス,養護老人ホーム,特別養護老 人ホーム(以下特養),有料老人ホーム,グループホーム,その他の民間賃貸住宅などへと多様化している。これ らに加えて平成 23年10月からは,高齢単身・夫婦世帯が安心して居住できる住宅とされる「サービス付き高齢者 向け住宅」(以下サ高住)の登録制度が開始された。サ高住はこれまでの高齢者住宅の複雑な仕組みや絶対量の不足 などを背景に,制度開始後3年間で建設数が飛躍的に伸び,中でも北海道は大阪府に次ぐ全国2番目の建築数と なっている。福祉医療関連業界,建築業界など様々な業界からの参入があり,住宅型有料老人ホーム(以下住宅有 老)などの既存の高齢者福祉施設との線引きがあいまいになりつつある現状といえる。 サ高住は,入居費用においてこれまでの有料老人ホームのように入居一時金の準備を要しないことなどから, 入居のハードルが低いことも人気の要因とされている。しかしながら国民年金のみの受給層等,低所得者層にとっ ては入居は容易ではなく,登録に至らない民間賃貸住宅がそうした高齢者を受け入れている現状もある。すなわ ち重度者以外の要支援・要介護高齢者は,身体状況に加え有する経済力に応じて「住まい」を選択していると考え られ,それぞれの「住まい」の入居者像もまた多様化していると考えられる。 虚弱な高齢者の「住まい」では,介護に限らず生活の様々な側面への支援が求められ,専門的な人材の配置が望 まれる状況にある。なお,これまでも福祉施設を主として高齢者の「住まい」には,「生活相談員」,「生活援助員」 等の支援職が公的サービスとして配置あるいは派遣されてきたが,各々の「住まい」における業務内容の明示に は至っていない。生活相談業務は,そこに居住する高齢者の状態像や「住まい」の特性により内容が異なると想定 されるが,新しい形の自宅であるサ高住など「住まい」の一層の多様化と入居者の多様化が進む現状においては, 改めて生活相談業務の実態を検証する必要があると思われる。そのため本稿では,「安否確認・生活相談」を基本 サービスとするサ高住の生活相談業務を中心としつつ,類似する業務をもつ多様な高齢者の「住まい」における生 活相談業務を比較検証することにより,業務の実態と課題を明らかにして,高齢者住宅における生活相談業務の 望ましい方向を探るものである。 における生活相談業務に関する 実証的研究 永田志津子 者向け 高齢 多いと のばす★ きはナリユキで ★柱のケイは最低292 H (断ち落とし含)で文字の ★次頁にもノンブル枠あり★

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Abstract

Laws governing social workers in residences for the elderly designate a title, “Social Worker.”

However,the care sector it has yet to create such a title.

Because there are a wide variety of residences for the elderly,four elderly residence with care service

locations amongst which two are fee-based homes for the elderly,residence services in Sapporo have been

exploring more effective ways to establish social work by conducting in-person panel surveys with those

involved in counselling services.

The following information was obtained:

Administration offices located within care facilities tend to receive priority. Because of this, social

work services are often not consistently allocated or prioritized.

To effectively support the lives of elderly local citizens,social work operations must also function as

social welfare services.

Keywords:residences for the elderly,social work,welfare services

Ⅰ.研究の目的と背景

我が国の高齢化率は2013年には25.1%に達し,さらに団塊の世代が後期高齢者となる2025年には高齢化率

31.3%と予測され,様々な面で対策が急務となっている。とりわけ,家族介護力の低下や福祉施設の入所制限な

どの背景のもとで,自宅に住み続けることが困難な要支援・要介護高齢者の「住まい」をどのように確保するかは

重要な課題となっている。

高齢者の「住まい」は,これまでの自宅から,シルバーハウジング,ケアハウス,養護老人ホーム,特別養護老

人ホーム(以下特養),有料老人ホーム,グループホーム,その他の民間賃貸住宅などへと多様化している。これ

らに加えて平成23年10月からは,高齢単身・夫婦世帯が安心して居住できる住宅とされる「サービス付き高齢者

向け住宅」(以下サ高住)の登録制度が開始された。サ高住はこれまでの高齢者住宅の複雑な仕組みや絶対量の不足

などを背景に,制度開始後3年間で建設数が飛躍的に伸び,中でも北海道は大阪府に次ぐ全国2番目の建築数と

なっている。福祉医療関連業界,建築業界など様々な業界からの参入があり,住宅型有料老人ホーム(以下住宅有

老)などの既存の高齢者福祉施設との線引きがあいまいになりつつある現状といえる。

サ高住は,入居費用においてこれまでの有料老人ホームのように入居一時金の準備を要しないことなどから,

入居のハードルが低いことも人気の要因とされている。しかしながら国民年金のみの受給層等,低所得者層にとっ

ては入居は容易ではなく,登録に至らない民間賃貸住宅がそうした高齢者を受け入れている現状もある。すなわ

ち重度者以外の要支援・要介護高齢者は,身体状況に加え有する経済力に応じて「住まい」を選択していると考え

られ,それぞれの「住まい」の入居者像もまた多様化していると考えられる。

虚弱な高齢者の「住まい」では,介護に限らず生活の様々な側面への支援が求められ,専門的な人材の配置が望

まれる状況にある。なお,これまでも福祉施設を主として高齢者の「住まい」には,「生活相談員」,「生活援助員」

等の支援職が公的サービスとして配置あるいは派遣されてきたが,各々の「住まい」における業務内容の明示に

は至っていない。生活相談業務は,そこに居住する高齢者の状態像や「住まい」の特性により内容が異なると想定

されるが,新しい形の自宅であるサ高住など「住まい」の一層の多様化と入居者の多様化が進む現状においては,

改めて生活相談業務の実態を検証する必要があると思われる。そのため本稿では,「安否確認・生活相談」を基本

サービスとするサ高住の生活相談業務を中心としつつ,類似する業務をもつ多様な高齢者の「住まい」における生

活相談業務を比較検証することにより,業務の実態と課題を明らかにして,高齢者住宅における生活相談業務の

望ましい方向を探るものである。

における生活相談業務に関する

実証的研究永田志津子

者向け高齢 宅住

多いと のばす★きはナリユキで★柱のケイは最低292H(断ち落とし含)で文字の

★次頁にもノンブル枠あり★

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Ⅱ.研究方法

第一に高齢者介護の関連業務の一部である「生活相談業務」について,生活相談員(および類似名称)の配置が義

務づけられている各種住宅・施設における法規定を整理し,公的相談業務のこれまでの取り扱いについて確認す

る。第二に生活相談に関する先行研究から,問題の所在と残された課題をみていく。第三に札幌市における各種

の高齢者住宅において生活相談業務担当の職員を対象として実施したヒアリング調査の結果から,現状を分析す

る。なお本研究での,高齢者向け住宅の生活相談担当職員へのヒアリング調査に先立って,入居者の状況等,住

宅全般に関するアンケート調査を実施しているが,本稿ではその回答結果から,相談員の個人属性と相談業務に

関わる部分を一部参照した。

得られたデータからは,高齢者向け住宅の種類によって入居者層の相違があることなどが明らかであり,住宅

の特性と相談業務の内容に注目して,生活相談業務の実態と特性,課題を考察した。

Ⅲ.生活相談に関する法規定

生活相談に関する研究は十分とはいえないが,相談員の職務経歴,業務内容などからのアプローチにより,施

設種別等による業務の相違,保有資格等による相違,介護支援専門員等との業務重複などが報告されている。ま

た事務的業務も含めたいわゆる「何でも屋」との指摘もある一方,施設長とともに施設のキーパーソンとする見解

もある(安立他2010)など,相談員の役割,評価は一定していない。ここではそれぞれの生活相談員の業務および

資格要件についての法規定を確認する。

1.名称と業務内容の規定

生活相談員を法的な位置づけから見ると,古くは高齢者福祉施設に生活指導員,寮母等の名称で配置された職

種であり,1963年の老人福祉法の施行に伴い養護老人ホーム,特養に「生活相談員」として配置が規定されたもの

である。今日では,一部別名称ではあるが,特養,養護老人ホーム,老人保健施設,通所介護事業所などに配置

され,利用者の相談,援助等を行う者をいう。高齢者を対象とする主な住宅・高齢者福祉施設における生活相談

員(および類似業務員)の業務内容,資格,根拠法を表1に示し,以下にそれぞれの特徴を記す。

①養護老人ホーム

(生活相談員の責務)として明示されているものは,「処遇計画を作成し,それに沿った支援が行われるよう必要

な調整を行うこと」の他に,「居宅介護支援事業を行う者と密接な連携,保健医療サービス又は福祉サービスを提

供する者との連携に努めること,苦情の内容等の記録,事故の状況及び事故に際してとった措置についての記録

を行うこと。」などが記載される。

②軽費老人ホーム

(生活相談員の責務)として明示されているものは,「入所者からの相談に応じるとともに適切な助言及び必要な

支援を行う」に加え,「居宅サービス事業を行う者との密接な連携,保健医療サービス又は福祉サービスを提供す

る者との連携を図ること,苦情の内容等の記録,事故の状況及び事故処置の記録を行うこと。」が記載される。養

護老人ホームが生活相談員の責務として「処遇計画の作成」や「調整」を挙げているのに対し,「相談に応じ」実際に

「助言」と「支援」を行うことが明記されて,相談員のより主体的な関わりが窺える。

③特別養護老人ホーム(介護保険法施行後)

(相談及び援助)として以下のように記される。「特別養護老人ホームは,常に入所者の心身の状況,その置かれ

ている環境等の的確な把握に努め,入所者又はその家族に対し,その相談に適切に応じるとともに,必要な助言

その他の援助を行わなければならない。」

特別養護老人ホームの基準では人員基準として生活相談員の配置を規定しているが,上記の業務を「生活相談員

の責務」として明示しているものではない。また入所者が居宅において日常生活を営むことができるかどうかにつ

いて定期的に検討しなければならない,としているが,検討に当たっては,生活相談員,介護職員,看護職員,

介護支援専門員等の従業者の間で協議しなければならないとしている。単独での責務の明示はないが,高齢者支

高齢者向け住宅における生活相談業務に関する実証的研究

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援の専門チームの一員としての位置づけがなされているといえる。

④介護老人保健施設

介護老人保健施設では「支援相談員」の名称を用い,(相談及び援助)として次のように記される。「介護老人保健

施設は,常に入所者の心身の状況,病状,その置かれている環境等の的確な把握に努め,入所者又はその家族に

対し,その相談に適切に応じるとともに,必要な助言その他の援助を行わなければならない。」とし,特養規定に

「病状」が加わる。しかし特養と同様に,生活相談員固有の責務を規定するものではない。また入所者の心身の状

況,病状,その置かれている環境等に照らし,その者が居宅において日常生活を営むことができるかどうかにつ

いて定期的に検討し,その内容等を記録しなければならないとして,この検討に当たっては,医師,薬剤師,看

護・介護職員,支援相談員,介護支援専門員等の従業者の間で協議しなければならないとしていることから,チー

ム一員としての位置づけは同様である。

⑤特定施設(特定施設に指定されている有料老人ホーム=介護付き有料老人ホーム)

(相談及び援助)として次のように記される。「指定特定施設入居者生活介護事業者は,常に利用者の心身の状況,

その置かれている環境等の的確な把握に努め,利用者またはその家族に対し,その相談に適切に応じるとともに,

利用者の社会生活に必要な支援を行わなければならない。」生活相談員の配置は規定されているが,介護老人保健

施設のような他職種との協議など具体的なポジションに関しての記載はない。

以上は「生活相談員(支援相談員を含む)」の配置及び「相談及び援助」の業務規定として明示されているものであ

る。この他に別項目として,社会生活上の便宜の提供等として,教養娯楽設備等を備えるほか,適宜入所者のた

めのレクリエーション行事を行わなければならない,入所者が日常生活を営むのに必要な行政機関等に対する手

続について,本人またはその家族が行うことが困難である場合には,同意を得て代わって行わなければならない,

表1主な高齢者住宅,高齢者福祉施設等における生活(支援)相談業務の規定

施設等 名称 業務内容 資格等 根拠法

1 養護老人ホーム 生活相談員(生活相談員の責務)処遇計画を作成し,それに沿つた支援が行われるよう必要な調整を行うほか,次に掲げる業務を行わなければならない。

養護老人ホームの設備および運営に関する基準(昭和41年厚生省令第19号)

2 軽費老人ホーム 生活相談員

(生活相談員の責務)生活相談員は,入所者からの相談に応ずるとともに,適切な助言及び必要な支援を行うほか,次に掲げる業務を行わなければならない。

軽費老人ホームの設備及び運営に関する基準(平成20年5月9日厚生労働省令第百七号)

3 特別養護老人ホーム 生活相談員

(相談及び援助)特別養護老人ホームは,常に入所者の心身の状況,その置かれている環境等の的確な把握に努め,入所者又はその家族に対し,その相談に適切に応じるとともに,必要な助言その他の援助を行わなければならない。

特別養護老人ホームの設備及び運営に関する基準(平成11年3月31日厚生省令第46号)

4 介護老人保健施設 支援相談員

(相談及び援助)介護老人保健施設は,常に入所者の心身の状況,病状,その置かれている環境等の的確な把握に努め,入所者又はその家族に対し,その相談に適切に応じるとともに,必要な助言その他の援助を行わなければならない。

社会福祉法第19条第1項各該当者またはこれと同等以上の能力を有すると認められるもの。

(該当者とは社会福祉士,精神保健福祉士,社会福祉主事任用資格取得者である)

介護老人保健施設の人員,施設及び設備並びに運営に関する基準(平成11年3月31日厚生省令第40号)

5有料老人ホーム(特定施設)

生活相談員

(相談及び援助)指定特定施設入居者生活介護事業者は,常に利用者の心身の状況,その置かれている環境等の的確な把握に努め,利用者またはそのかぞくに対し,その相談に適切に応じるとともに,利用者の社会生活に必要な支援を行わなければならない。 指定居宅サービス等の事業の人員,

設備及び運営に関する基準(平成11年3月31日厚生省令第37号)

6 短期入所生活介護 生活相談員

(相談及び援助)指定短期入所生活介護事業者は,常に利用者の心身の状況,その置かれている環境等の的確な把握に努め,利用者又はその家族に対し,その相談に適切に応じるとともに,必要な助言その他の援助を行わなければならない。

7 通所介護 生活相談員 規定なし

8 シルバーハウジング生活援助員(LSA)

高齢者世話付き住宅(シルバーハウジング),高齢者向け優良賃貸住宅,高齢者専用賃貸住宅,多くの高齢者が居住する集合住宅等を対象に,日常生活上の生活相談・指導,安否確認,緊急時の対応や一時的な家事援助を行う生活援助員を派遣し,関係機関・関係団体等による支援体制を構築する。

自治体により異なるが,心身ともに健全であり,高齢者福祉に関する理解と熱意を有し,高齢者の生活指導・相談,家事,緊急時の対応等を適切に実施する能力を有することなど。

構成労働省地域支援事業実施要項地域自立支援事業3任意事業ウその他の事業(エ)地域自立支援事業(老発第0609001号平成18年6月9日)

9サービス付き高齢者向け住宅

名称指定なし

(高齢者生活支援サービス)高齢者が日常生活を営むために必要な福祉サービスは,次に掲げるものとする。⑴状況把握サービス,⑵生活相談サービス,⑶入浴,排せつ,食事等の介護に関するサービス,⑷食の提供に関するサービス,⑸調理,洗濯,掃除等の家事に関するサービス,⑹心身の健康の維持及び増進に関するサービス以上のうち⑴,⑵が必須サービスであるが,生活相談員の業務内容は規定なし

社会福祉法人,医療法人,指定居宅介護事業所の職員または医師,看護師,介護福祉士,社会福祉士,介護支援専門員,ヘルパー2級以上の資格を有するものが,少なくとも日中常駐し,サービスを提供する。

国土交通省・厚生労働省関係高齢者の居住の安定確保に関する法律施行規則(平成23年8月21日厚生労働省令・国土交通省令第2号)

永田志津子

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常に入所者の家族との連携を図るとともに入所者とその家族等の交流の機会を確保するよう努めなければならな

い,入所者の外出の機会を確保するように努めなければならないことなどが記載される。これらについては生活

相談員の責務とする明示はない。

⑥通所介護

生活相談員の配置は規定されているが,「相談及び援助」の項目はなく,その職務についての記載もない。

⑦シルバーハウジング

シルバーハウジングは地方自治体・都市再生機構による高齢者世帯向けの公的賃貸住宅であり,介護保険法の

一環としての地域支援事業において「生活援助員(LSA)」が派遣されるものである。任務は生活指導・相談・安否

確認・一時的な家事援助・緊急時対応などの日常生活支援サービスの提供である。介護保険法改正により,派遣

元は地域包括支援センターや介護保険事業所,その他自治体の認めた機関に拡大され,派遣先には平成23年創設

のサ高住が加わるなど範囲は拡大している 。

⑧サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)

「高齢者の居住の安定確保に関する法律」に則り,平成23年から登録制度が開始された高齢者向け住宅である

が,高齢者が日常生活を営むために必要な支援サービス6項目を掲げ そのうち状況把握サービスと生活相談

サービスを必須サービスとしている。しかし「生活相談」の具体的内容および「生活相談員」の名称規定はなく,こ

れらの必須サービスを誰がどのように担当するか,また職員の人員配置は示されていない。

2.資格要件

生活(支援)相談員の資格要件は,表1の1(養護老人ホーム)~7(通所介護)では,社会福祉法第19条第1項各

号のいずれかに該当する者またはこれと同等以上の能力を有すると認められるものでなければならない,とされ

る。同項における該当者とは,社会福祉士,精神保健福祉士,社会福祉主事任用資格取得者であるが,「同等以上

の能力を有すると認められるもの」に関する解釈は都道府県で異なり,介護福祉士や介護支援専門員を含んでいる

所もあるなど一定していない。なお,平成26年10月に総務省より厚労省に対し,養護老人ホーム,および特別

養護老人ホームにおける,生活相談員の資格認定要件を周知徹底するよう勧告がなされている。この勧告では,

厚労省は生活相談員の資格要件を,「社会福祉施設等に勤務しまたは勤務したことのある者等であって,そのもの

の実績等から一般的に入所者の生活の向上を図るため適切な相談,援助等を行う能力を有すると認められる者」と

している,と前書きしたうえで,調査の結果,都道府県によって第19条第1項の資格をもたない介護福祉士や介

護支援専門員にこれを取得させている例や,介護福祉士や介護支援専門員資格があれば可としている都道府県に

おいて,生活相談員の業務に特段の支障はないとして厚労省の通達を徹底するよう促している 。

なお,通所介護・短期入所生活介護の生活相談員に関しては「居宅基準第93条第1項第1号」で特養基準に準ず

るとしているが,特養等と同様に基準省令の条例制定により,その範囲を介護支援専門員,老人福祉施設の施設

長経験者等に拡大している自治体もある 。

シルバーハウジングにおける「生活援助員(LSA)」は資格要件は特になく,各自治体の決めたものであり,たと

えば,心身ともに健全であること,高齢者福祉に関し理解と熱意を有すること,高齢者の生活指導・相談,家事,

緊急時の対応等を適切に実施する能力を有すること,とされる 。

サ高住登録基準では,「少なくとも状況把握(安否確認),生活相談サービスを提供すること」とされ,その提供

者を指して「ケアの専門家」が日中常駐することと,としている。このケアの専門家に関しては,以下が挙げられ

る。医療法人,社会福祉法人,指定居宅サービス事業者,指定地域密着型サービス事業者等のサービスに従事す

る者,医師,看護師,介護福祉士,社会福祉士,介護支援専門員,訪問介護員養成研修1級または2級課程修了

者(介護職員初任者研修課程修了者を含む)

以上に記載されるように,養護老人ホーム,軽費老人ホームにおいては「生活相談員の責務」として明確に責務

内容が文章化されているが,特養,介護老人保健施設等では「相談及び援助」の項目があるものの,生活相談員が

担当すべき業務の明確な文章化は見られない。その他の項目において,広義の相談業務に含まれると考えられる

記載はあるが,それらは施設全体の責務でもあり,介護職が担当することもできると解釈されるものである。こ

うした生活相談員の法規定の不明瞭性は,実際の職務遂行上でも問題となって浮上し,他職種との業務重複や住

1 (財)高齢者住宅財団では,要

援護高齢者の居住支援のため

派遣される支援員を総称して

生活援助員等としたうえで,

サ高住など間賃貸住宅等も含

み,それらの業務にあたる場

合の役割等についてのべてい

る。(生活援助員等業務ハンド

ブック)

2 高齢者が日常生活を営むため

に必要な生活支援サービスと

は以下を指す。

⑴状況把握サービス

⑵生活相談サービス

⑶入浴,排せつ,食事等の介

護に関するサービス

⑷食事の提供に関するサービ

⑸調理,洗濯,掃除等の家事

に関するサービス

⑹心身の健康の維持及び増進

に関するサービス

以上のうち⑴と⑵は必須サー

ビス

国土交通省・厚生労働省関係

高齢者の居住の安定確保に関

する法律施行規則(平成23年

8月12日厚生労働省令・国土

交通省令第2号)

3 ケアマネジメントオンライン

よりhttp://www.soumu.go.

jp/main content/000315392.

pdf

4 (東京都平成25年2月14日)

札幌市では生活相談員の人員

基準として,「これらと同等の

能力を有するもの」として,申

請者が経歴等を考慮して生活

相談員として認めるもの,と

している。(指定居宅サービス

事業者,指定介護予防サービ

ス事業者,指定居宅 介護支

援事業者 指定手続き手引書

平成26年10月札幌市保健福

祉局高齢保健福祉部介護保険

課)

5 市町村の委託により,シル

バーハウジング,高齢者向け

優良賃貸住宅等に居住してい

る高齢者に対して,必要に応

じて日常の生活指導,安否確

認,緊急時における連絡等の

サービスを行う者です。生活

援助員の派遣事業は,介護保

険法に定められる地域支援事

業のうち,市町村が地域の実

高齢者向け住宅における生活相談業務に関する実証的研究

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宅・施設ごとの業務内容の相違など,解決を要する課題として今日まで引き継がれている。

Ⅳ.生活相談に関する先行研究

生活相談業務の内容に関する論点の第一は,業務の本質がソーシャルワークであるか,ケアワークであるかの

視点によるものであり,前者の場合にはソーシャルワーカーがケアワークを行うことの是非も含まれ,後者では

相談職の配置の必要性を根本から問うものも含まれる。議論の主な対象となってきた特養の相談員については,

このような視点から,利用者の状態像から求められる実践内容の確立が必要(上田2012)と指摘されてきた。

相談業務の提供相手である利用者の実態に即して業務が確立されるという視点に立つと,事業所,施設の種類

による業務内容の違いについての検証が必要となる。特養,通所介護,短期入所生活介護の各相談員が提供する

機能に関する調査では,3施設とも業務傾向は「情報の集約点」が第一であり,次いで「調整機能」,「相談機能」,

「支援計画~評価」が挙げられている。「調整機能」は特養の相談員に多く通所介護は他より少ない。「相談機能」は

ショートステイに多く,「支援計画~評価」は通所介護で多いなどの相違がみられる(米本2008)。法規定では同様

の名称を使用するが,その業務内容は,利用者,入所者の状態に即して必要とされるものが提供されてきた経緯

があり,事業所,施設等の特性により異なる相談業務が展開されてきたのが実態である。

第二の論点は生活相談員の資格に関わるものである。介護保険制度創設に伴う新たな専門職として登場した介

護支援専門員との業務重複による不明瞭性の問題であり,安立(2010)は,特養における生活相談員の業務実態調

査の結果,以下を報告している。特養の相談員の業務内容と基本属性の関係では,業務担当度の高さ(中心となっ

て担っている割合)は,介護支援専門員の資格を保有し,生活相談員経験年数が長く,施設の設立年が介護保険制

度導入以前のほうが高いとし,社会福祉士の資格取得とは関連性がないことを示した。また介護保険制度導入後

にはそれ以前に比較して,生活相談員への道筋が多様化し,生活相談員の役割や業務の多元化が進んでいる傾向

なども指摘している。法に規定される社会福祉士,社会福祉主事任用資格は,相談業務実践の場においては,業

務の中心的な支えとなるものではなく,ソーシャルワーク,ケアワークの経験と知識が両輪となり成り立つもの

と考えられる。

さらに保有資格に関連して特養と老健の相談業務の相違について,介護福祉士の資格所有者が多い特養では,

日常生活支援に関わる業務が多く,老健では,利用者の施設入退所をめぐる相談・調整が多いことも報告されて

いる(和気2006)。なお,資格に関連するものとして,社会福祉施設職員としての歴史的経緯による影響も指摘さ

れている。介護老人福祉施設の生活相談員が,社会福祉士及び介護福祉士の資格制度創設前では,男性職員が多

く,施設のメンテナンス,送迎,運営管理など寮母が行うことが難しい業務を任されていたこと,それが今日の

特養の相談員に引き継がれている(和気2006)のである。

相談業務と介護業務の一体化は,地域包括支援センター発足後の特養との比較においても報告されている。相

談員は介護職を経験しているものが9割に上り(東京都内の調査),日ごろも介護業務を行っていることなどから

相談業務と介護業務は一体化し,施設においては,生活場面での立ち話的な「構造化されない面接」や日常性重視

の相談内容などの特徴がある(西口2011)。

これまでの生活相談業務にかかわる研究は,歴史的経緯の長さから,特養における相談員を中心とするもので

あった。特養の相談業務は,介護保険制度導入前後で変容があり,今後も入所制限による一層の重度化等に伴っ

てさらなる変容を迫られることは容易に推察される。今後に向けては,地域包括ケアシステムの進行による新た

な役割― 新たなシステムに向けてのメゾ・マクロ実践における役割が期待されている。今後不可欠となる多様

な資源との接点を有するのが生活相談員であり,生活相談員が有する社会資源を,制度の狭間や制度では支えき

れない課題にいかに再資源化できるかが問われている(黒木2014)のであり,後発の相談業務であるサ高住の生活

相談においても,地域包括ケアシステム上への位置づけの点から,その役割についての明確化が早急に求められ

るものである。

高齢者介護に関わる住宅,施設が一層多様化しつつある今日,それぞれの生活相談業務に関して実態と課題を

明らかにする取り組みが求められる。実態に即した業務内容の保障と,同時に社会福祉サービスとして共通の基

盤となる相談業務についての考察を深めることが重要と思われる。

情に応じて実施する任意事業

の中に含まれます。(高齢者住

宅財団ホームページより)

地域支援事業の実施要項で

は,「地域自立生活支援事業」

の中の事業の一つとして「高

齢者の安心な住まいの確保に

資する事業」ふくまれ,以下の

ように記される。「高齢者世話

付き住宅(シルバーハウジン

グ),高齢者向け優良賃貸住

宅,高齢者専用賃貸住宅,多

くの高齢者が居住する集合住

宅等を対象に,日常生活上の

生活相談・指導,安否確認,

緊急時の対応や一時的な家事

援助等を行う生活援助員を派

遣し,関係機関・関係団体等

による支援体制を構築するな

ど,地域の実情に応じた,高

齢者の安心な住まいを確保す

るための事業を行う」(老発第

0609001号平成18年6月9

日「地域支援事業の実施につ

いて」)

6 西口守「高齢者福祉施設にお

ける生活相談員の『相談』の実

際― 特別養護老人ホームと

地域包括支援センターの調査

を踏まえて」『東京家政学院大

学紀要』第51号,2011年,p.

7

東京都における特養と地域

包括支援センターの生活相談

業務を調査したものである。

永田志津子

Page 6: Æ ì À ¿ t b î Â $ Z

Ⅴ.高齢者向け住宅等における生活相談業務の実態

1.調査の概要

札幌市における8カ所の高齢者向け住宅において,生活相談業務を担当する相談員,管理者等を対象に業務内

容に関するヒアリング調査を実施した。高齢者向け住宅に該当するものは,前述のように様々であるが,本調査

では,主流となるサ高住に準じて生活相談員の配置のある住宅系とし,サ高住,高齢者共同住宅,住宅型有料老

人ホーム,介護付き有料老人ホームの4種類を含むものとした。なお,ヒアリング調査に先立って北海道におけ

る高齢者向け住宅を対象にアンケート調査を実施している(平成26年8~9月実施)が,ヒアリング調査の対象と

した住宅は,このアンケート調査においてヒアリングの許諾のあった住宅から選別した。アンケート調査の結果

は別稿とするが,本稿では一部を参照している。

調査時期は平成26年11月~12月であり,対象住宅において調査員1名による半構造化面接を実施した。所要

時間は60分前後であり,許諾を得て録音したのち逐語録データとした。なお,調査にあたり,研究目的と個人情

報の取り扱いについては十分留意することを説明し承諾を得た。

2.生活相談業務の内容(対象住宅のアンケート調査結果から)

「この1カ月での相談内容で多かったもの」,「相談員が主担当となっている業務」,「生活支援サービスのうち相

談員が担当するもの」に分類して,住宅A~Hの生活相談業務の傾向を見た(表2)。「この1カ月での相談内容で

多かったもの」では,「とりとめのない会話」,「身体状況や医療サービスに関する相談」が多く,後者については全

国調査の結果 と同様である。

表2生活相談業務の内容

住宅 A B C D E F G H

種別 サ高住 サ高住 サ高住 サ高住高齢者住宅

高齢者住宅

住宅有老

介護有老

運営主体株式会社

医療法人

医療法人

医療法人

個人合同会社

協同組合

株式会社

介護サービスに関する相談 ○ ○ ○

身体状況や医療サービスに関する相談 ○ ○ ○ ○ ○

行政サービスや手続の相談 ○

認知症や成年後見制度に関する相談 ○

入居費用や生活費の相談 ○

持家等の整理,資産や相続に関する相談

住宅に同居する家族・親族に関する相談

この1か月での相談内容で多かったもの

別居の家族・親族に関する相談

住宅内の人間関係に関する相談 ○ ○ ○

住宅の周辺環境や日常生活上の問い合わせ ○

他の住居,施設への住み替えの相談

漠然とした不安や心配 ○ ○ ○ ○

とりとめのない会話 ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○

その他 ○

入居前・入居時の諸説明 ○ ○ ○ ○ ○ ○

状況把握(安否確認) ○ ○ ○ ○

介護保険サービス事業者(ケアマネ含む)との連携 ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○

家族との交流や情報交換等の連携 ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○

地域との交流や情報交換等の連携 ○ ○ ○ ○ ○

相談員が主担当となっている業務

入居者同士の交流促進やトラブル解決 ○ ○ ○ ○ ○

入居者の生活支援サービス利用の窓口 ○ ○ ○

入居者の生活支援サービスの提供 ○ ○

行政や関連機関との情報交換等の連携 ○ ○ ○

医療機関との情報交換等の連携 ○ ○ ○

その他

買い物代行 ○

通院付き添い ○

外出支援(通院以外の散歩や買い物など) ○

ゴミ出し ○ ○

清掃代行

洗濯サービス

食堂への送迎

生活支援サービスのうち相談員が担当するもの

入居者による調理支援

金銭管理 ○

服薬サポート ○ ○

訪問理・美容 ○ ○

運動指導や運動教室 ○ ○

書道・華道等の趣味的な活動 ○ ○

その他

7 平成24年度老人保健事業推

進費等補助金老人保健健康増

進等事業「サービス付き高齢

者向け住宅等の実態に関する

調査研究」財団法人高齢者住

宅財団 平成25年3月

本調査では上記調査の項目

を参考にしたが,「この1カ月

での相談内容で多かったも

の」の選択肢に「漠然とした不

安や心配」,「とりとめのない

会話」等を独自に追加してい

る。

高齢者向け住宅における生活相談業務に関する実証的研究

Page 7: Æ ì À ¿ t b î Â $ Z

「相談員が主担当となっている業務」では,「介護保険サービス事業者との連携」,「家族との交流や情報交換等の

連携」が多く,次いで「入居前・入居時の諸説明」であり,住宅外の諸機関との連携や説明事項は生活相談員の担当

であることが窺える。「生活支援サービスのうち相談員が担当するもの」では,サ高住における生活相談員が担当

することは少なく,高齢者共同住宅の管理者が担当することが多い傾向が見られた。

3.ヒアリング調査結果

調査対象住宅A~Hの概要および入居者状況と日常の相談業務の特徴的なものを「相談員対応」として,表3,

表4に示す。住宅A~Dはサ高住であり,E~Hはその他の住宅である。それぞれの「相談員対応」から抽出され

た生活相談業務の特徴を以下のように分類する。

⑴サ高住の住宅特性から抽出される課題

①併設事業所の介護保険サービスと相談対応の非境界性

住宅A~Dのサ高住のうち住宅Aでは複合型サービス事業所(以下複合型)が併設され,「相談」に該当する事項

を複合型利用時に利用者から受け取ることもある。住宅Bでは小規模多機能型居宅介護サービス事業所(以下小規

模多機能とする)が併設され,多くの困りごとは第一に小規模多機能職員に持ち込まれる。その結果,相談員への

相談は居室内の設備など限定されたものとなる。住宅Cでは定期巡回型訪問介護看護(以下定期巡回),訪問介護,

訪問看護,通所介護が併設され,入所者の3分の1は定期巡回の利用者である。住宅職員は定期巡回と兼務であ

り,相談員は訪問看護との兼務である。クレーム等は相談員へ回され相談員の対応となるが,内容は即時に解決

を求めるものではなく,時間をかけて話を聞くことにより気持ちが安定して解決へ向かうなど,介護サービス業

務に準ずる対応がなされている。また住宅Dでは各入居者への訪問介護サービスのため毎日ヘルパー6名が訪問

し,その𨻶間に住宅全体へのサービス提供のための職員として,ヘルパーが2名,看護師1名が常駐する。ヘル

パーと接する時間が長く,入居者からの介護サービスから独立した相談業務は多くはない。

サ高住では,併設の介護保険事業所のうち特に複合型および小規模多機能が併設されていると,その業務特性

から広範囲にサービス提供が可能であり,多くの生活相談はこれらの介護サービスに吸収される傾向があるとい

えよう。

②併設事業所のサービス利用者と非利用者への相談対応の不平等性

相談業務が併設事業所の介護サービスに吸収されることにより,介護サービス非利用者の問題が発生する。車

いす利用者,常時排泄介助を要する人,食事一部介助などを要する人は複合型利用者(住宅A)や小規模多機能利

用者(住宅B)であり,それ以外の非利用者は,「自立」であるため自己解決が可能であり持ち込む相談は少ない。

サ高住における生活相談の現状体制が,「生活相談を受ける」受動的サービスである以上,それらの入居者には相

談サービスの提供は少ないという不平等性が発生する。特に小規模多機能や複合型のように包括型サービスの場

合には,ケアプランに落とし込むことが可能である。それ以外の提供サービスは,自費サービスとなるが,この

点においては,生活相談業務と生活支援サービスの境界線の問題も関わって,どのようにサービスの住み分けが

なされているか検証が必要であろう。

さらに併設事業所の種類や有無が,入居基準を規定することもある。住宅Aでは,「他の入居者となじまない」

ので「自立」の単身入居者は受け入れていない。重度対応の住宅Dも「自立」は受け入れ基準にない。医療法人を母

体とするため重度者の比重が高く,相談業務は日常生活支援より重度化対応や,施設への移り住み,夜間対応,

緊急時対応などに特化される傾向となる。

③介護サービス非利用者への対応の課題

住宅Bでは「自立」から「要介護5」までを受け入れ基準としている。併設事業所である小規模多機能でのサービ

スの一環として実施する外出支援,買い物代行,食堂送迎などは,介護サービス利用者を対象とするものであり,

非利用者はそれらに参加・利用することができない。実際には,非利用の入居者は,「自立」のため外出等の自主

行動が可能であり外出支援等の課題は発生していない。これまでは対応の必要が迫られてはいなかったが,今後

の課題であるとしている。また,他事業所の利用者である入居者についても同様の課題となる。介護サービス提

永田志津子

Page 8: Æ ì À ¿ t b î Â $ Z

認知症自立度が不明の人もいるが,なんらかの認知症症状のある人が多く,41名中35名が認知症と診断されている。入居者中複合型利用者は18名で半数近くになる。特に要介3・4・5の入所者は複合型の利用が多い。平均要介護度は1.8。自力で外出可能なのは7~8人。完全自立で独居の場合は他の入居者となじまないので受け入れず,2人部屋で片方が自立の場合は可。車いす利用者,常時排泄介助,オムツ交換,食事一部介助などを要する入所者は複合型のサービスで対応している。

安否確認は1日1回~2回の居室訪問(相談員2人体制の時は午前・午後の2回)。毎日の15分ほどの体操,訪問理・美容利用のとりまとめ。生活相談に関するマニュアルあり。実際の生活相談は生活すべてに関わるものであり,「重い相談」ではなく,「病院はどこが良いか」,「高いところに手が届かない」などの手助け。相談は希望者に対して,あるいは相談員の居る受付に来て話をしていくこともある。認知症の人はとりとめのないことを話して安心する。入居費用が滞り,分割払いの相談を受けることもある。相続に関する相談を複合型サービスの方で受けたこともある。夜勤では緊急ナースコールに対応することもあり,夜勤の支援員(職員の名称)が同乗することもある。地域に町内会館がないため,この住宅を独居高齢者も集える場にしたいとの申し出があり,相談員が受けて進めている。

入居者22名中19名が小規模多機能の利用者。認知症の症状が進んで住宅に住み続けることが困難になるとグループホームに移った例がある。身体症状が重度になると,見守りが容易な併設の介護有老に移動した例がある。

基本的な安否確認・生活相談の体制は整えている。小規模利用者では,相談員の対応となるのは介護サービスに関連しない部分(住宅内設備に関してなど)についてである。多くの困りごと等は,第一に小規模職員に持ち込まれ小規模のサービスとして対応することになる。生活支援サービス(買い物代行・食堂送迎など)は小規模のサービスとして扱う。小規模の非利用者への対応は相談員の業務となる。しかし非利用者は「自立」であり,持ち込まれる相談は少ない。介護サービス利用時間外の身体等にかかわる手助け等は,事故発生の責任の所在が問題となる可能性があるので緊急時に限定することが多い。特に小規模の非利用者の外出を伴う生活支援は困難である。住宅内では柔軟に対応している。(非利用者の小規模主催のイベント参加など)

入居前には自宅でヘルパー利用だったが,入居によりサービスが不要になった例がある。食事提供もあり,食品・医薬品等の訪問販売が月に1回は来るので日用品の購入は可能。その他家族が購入してきたり,契約サービスでの購入も可能である。近隣に大型店舗があり,冬や車いすはむりだが,杖をついて買い物に行く人もいる。要介護認定を受けていても介護サービスを利用している人は半数ではないか。定期巡回の利用者は24名,訪問看護利用は7名。入所者は「サービス付き」は「看護や介護のサービス」がついていると思いがちである。

基本的に住宅職員(介護職)は5名であるが住宅の「定期巡回」と兼務である。毎回の食事時に住宅2階~6階の食堂に,各階かならず1名が配置され,配膳等の援助をし,食べ始めて落ち着いたら,昼食を契約していない人や姿の見えない人の居室を確認する。2カ所の大浴場は1時間に1回他の職員がチェックする。相談員は3名いる。相談員は「訪問看護」との兼任である。日中の相談員は2名配置,夜間も2名配置。研修や救急車の同乗等で1人の時もあり,現在の職員数はぎりぎりである。ターミナルや居室での食事介助の入所者もあり。夜間は9時頃に睡眠剤の配布のため居室を回る。その後12時,3時,6時に巡回。夜勤は男女2名ペアとしているが,清拭などの面では女性職員により多く負担がかかるが,女性職員は夜勤を好まず男性の採用は待遇面で難しい。入居者からのクレームが職員に来た時には相談室へ回し相談員が担当する。クレームは隣室の騒音などであり,話を聞き何ができるかを考える(対応する)ことで落ち着く。入居費の支払いや生保対応の相談,特養申込みの手伝いもある。

半数以上が重度者であり,要介護5が8名いる。ただし入居後リハビリの成果で車いす利用に回復した人もいる。寝たきり状態ではない。医療を要する入居者が多い。(喀痰吸引,経管栄養,インシュリン注射,膀胱カテーテル,酸素療法,疼痛管理などで延べ19名)身体介護,医療対応が主であり,日常生活上の相談は多くはない。退院後行き場のない人,医療処置を要し特養に入れない人の引き受け先となっている。生保受給者は3名。家族が居ない,家族との連絡不可の人もいる。認知症自立度の低い人も多く,後見人を要する人もいる。

管理者1名は館長代理であり看護師,相談員業務を行っている。グループ事業所の在宅医療センターから医師が毎日訪問するため,重度者への対応が可能であり,看取りも実施している。その他に医療法人の職員(ヘルパー)6名が兼任で各入居者への訪問介護として入る。この訪問時間の𨻶間に常時2名のヘルパーが住宅内に居る形をとり,共用部の清掃等も行う。従って常時ヘルパー2名とり看護師1名が在勤している。夜間は看護師1名が夜勤で入る。相談員は,いわゆる生活相談より,体調管理,デイへの送迎,食事の様子などで全体を把握しつつ細かいことに対応している。身元保証の不可能な家族に代わり,生保受給者の看取り,葬儀,納骨まで対応した事例もある。退院後,行き場がない,特養に入れず医療処置を要する人達の受け入れ先も開設の意図に含まれ,要介護状態とともに生活の基本部分で入居者を支えている。

相談員対応

入居者状況

24.1 サ高住

高専賃

医療法人

1815

介1=2介2=1介3=2介4=2介5=8

=4=2=2=5

M=2

居宅訪問介護通所介護内科診療所在宅医療センター住宅有老

17 3介護福祉士ヘルパー2級

1看護師

前:訪問介護資:介護福祉士ヘルパー2級

居室訪問食事状況確認センサー確認サービス利用時概

相談員対応

入居者状況

相談員対応

入居者

状況

入居者状況

相談員対応

概要

食事状況確認食事契約なしの場合は居室訪問。浴室は1時間に1回の巡回帰宅時確認

前:訪問看護資:ケアマネ看護師社会福祉士資:

2介護福祉士またはヘルパー2級

3介護福祉士またはヘルパー2級

1 11総合病院居宅訪問介護通所介護訪問看護定期巡回

=16=18=3=2

M=0

介1=16介2=15介3=3介4=5介5=1

17581

医療法人

新規

025.9

24.9 サ高住

新規

医療法人

2222

介1=6介2=11介3=1介4=0介5=2

=4=9=5=0

M=0

小規模多機能介護有老

在宅総合診療クリニック(内 科・歯科)

11 1看護師

1小規職員の業務として巡回。

前:小規模管理者資:ケアマネ看護師

食事状況確認

概要

概要

居室1-2回訪問/日食事状況確認

前:

MSW・訪介管理者資:ヘルパー2級ケアマネ社会福祉士

1ヘルパー2級以上

2ヘルパー2級ケアマネ社会福祉士

5居宅訪問介護訪問看護複合型

=7=20=6=2

M=0

介1=13介2=11介3=4介4=3介5=2

4641

株式会社

新規

サ高住

24.7

開設

平成)

種別

前種別

法人 実

人数

要介護度認知症自立度

併設事業所

併設以外のグループ事業所

兼任

専任 日中最多

資格(人) 夜間

資格(人)

相談員の前職及び保有資格

安否確認・生活相談の方法

項目

相談員体制実入居者定員

表3住宅の概要と相談員対応(サ高住)

職員体制(総数)関連事業所入居者

サ高住

住宅

※事業所の略称 居宅=居宅介護支援事業所,介護有老=介護付有料老人ホーム,住宅有老=住宅型有料老人ホーム,小規模多機能=小規模多機能型居宅介護事業所

高齢者向け住宅における生活相談業務に関する実証的研究

Page 9: Æ ì À ¿ t b î Â $ Z

住宅

その他の住宅

入居者 関連事業所 職員体制(総数)

表4住宅の概要と相談員対応(サ高住以外の高齢者住宅(共同住宅,住宅有老,介護有老))

定員 実入居者 相談員体制項

目安否確認・生活相談の方法

相談員の前職及び保有資格

夜間資格

日中最多資格

専任

兼任

併設以外のグループ事業所

併設事業所認知症

自立度要介護度

実人数

法人

前種別

種別

開設

平成)

16.1 高齢者住宅

高齢者住宅

個人

1212

介1=1介2=4介3=0介4=0介5=0

=1=1=0=0

M=0

なし なし 2パート

2 2住宅管理者常駐

1住宅管理者

前:営業職資:介護福祉士

朝・昼・夜の声掛け食事状況確認

概要

概要

食事状況確認前:介護有老資:ケアマネ介護福祉士

なし管理者住み込み

1管理者

1なしなし=2=0=0=0

M=0

介1=1介2=1介3=0介4=0介5=0

146

合同会社

高齢者住宅

高齢者住宅

20.8

20.10 住宅有老

住宅有老

協同組合

6053

介1=12介2=1介3=2介4=1介5=0

=7=8=3=0

M=1

居宅訪問介護

介護有老サ高住訪問看護定期巡回通所介護

914 3看護師中心

1当直専門職員

前:グループ事業所経理資:なし

食事状況確認センサー確認サービス利用時1度も顔を見ない時は電話

概要

相談員対応

入居者状況

入居者状況

相談員対応

入居者状況

相談員対応

概要

介護スタッフによる申し送り

前:生活相談員資:ケアマネヘルパー2級社会福祉士精神保健福祉士

2介護職員

1生活相談員

23 0サ高住4カ所有老5カ所

なし=5=21=6=6

M=0

介1=11介2=9介3=7介4=2介5=3

4138

株式会社

介護有老

介護有老

21.3

入居者状況

相談員対応

安否確認は,各居室からの毎食の介助,3時間おきのトイレ誘導などで行っている。その他には1~2時間に1回は職員が様子を見に行く。認知症で落ち着かず大声を出す入居者へは,ホールに座っていてもらい介護職員がついて声掛けや塗り絵をさせるなどで対応した。その後精神科を受診したが過鎮静となり転倒のリスクも高く,独身有職の家族は本住宅でみとりを希望し実施した。生活相談の方法については系列有老に共通のマニュアルがある。病院の送迎,付き添い,診察の内容を聞くことも相談員の仕事である。(平均1日に2軒)家族が遠方に居るなどもあり,家族に頼まれるとそれは相談員の仕事となる。家族と折り合いの悪い入居者も居て,必要品の購入も住宅で行う。元の住居(マンション)の処分を依頼されることもある。相続に関することなどは包括や司法書士につなげる。系列サ高住の夜勤は,有老から職員をアルバイト派遣している。

現在要介護5が3人,認知症自立度 , ともに各6人。半数以上が車いす使用であり,毎食介助を要する。3時間おきのトイレ介助を要する。大声を出し続けるなどで他の入居者から苦情がでた例がある。入居時には要介護1でも入居後することがなくなり認知症が進むこともある。入居者38名中4名は家族が東京在住である。家族と折り合いが悪い,面会に来ない,こどもがなく甥,姪が支援者である人も多い。それらの家族は遠方に居て,残した住まいの様子を見たり不動産の売却などを頼まれることもある。

住宅型有老のため相談員としての配置はないが同様の業務を担当する職員者がいる。実際には看護師が深く関わることが多い。住居内の様々な問題等は最終的には施設長に集約される。ただし施設長は相談業務に該当する入居者対応の他に住居内の職員,経営,行政対応など多方面に関わっている。1日に1度も顔を見ていない人には電話を入れて確認する。当直専門の専従職員が3人いて交代で毎日1名が配置される。多種の生活支援サービスが有料で提供されているため,相談員への日常生活支援的な依頼事項は多くはない。高額の入居一時金納入を伴うこともあり,相続等に関連する家族間調整など各入居者の生活の根源に関わることもある。

自立が25で半数近くを占める。住居としてのグループ事業所に,介護有老とサ高住があり,介護度が重くなると(要介護4・5)住宅型から介護型へ入居することが契約上可能であるため,この住宅では平均して介護度は軽い。調査時に要介護4だった入所者は状態が改善して要介護1になった。要介護3が最重度であるが,自力で階段を降りられる程度である。入居者53人中,併設の訪問介護利用者は20人。軽・中程度の認知症入所者はいる。外出等は自由であり,自宅をそのままにし,時々行き来している入居者もある。軽度者が多いものの本人の希望で看取り体制をとったこともあり,今後の課題となっている。

認知症入居者で身元保証人に頼れない場合は管理者が後見人も探した。介護認定を受けていない入居者の状況を見て必要と判断しケアマネを探すこともした。管理者が1名ですべてを行っている。事務,買い出し,食事の支度,ゴミ出し,服薬サポート,運動指導,住宅内共用部清掃などを担当している。朝5時半から夜7時までフルタイムで働いて休みがない。入居者にとって必要なことはほぼ行う。リハビリパンツがないと業務終了後買いに行く。ボランティア的な行動と捉えている。訪問介護利用者もいるので,介護事業所との連絡も管理者の仕事である。入居者が購入したいが重くて持てないものは管理者が休みの時に購入してくる。各居室の加湿器の水など,居住環境に関することも担当する。事務,買い出し,食事の支度,ゴミ出し,服薬サポート,運動指導,住宅内共用部清掃などを担当している。朝5時半から夜7時までフルタイムで働いて休みがない。1人勤務のため,他業者との情報交換等は行えない。

高齢者のみを入居対象としていないが,今は高齢者のみが入居している。現在は重度者はいないが,認知症で便,尿失禁,火の不始末などの入居者もいた。「サービス付き」等の名称は使用していないので,入居の時にどこまでやってもらえるかなどの入居者からの確認はない。今は入居者が少なくまた軽度者が中心のため,外出等は自由である。訪問介護(他の事業所)利用の人もいる。

朝・昼・夜の声掛けと食事時の確認。生活相談はほとんど人と人との対応である。福祉の手法というより,実際はお金に困る,体が動かない,お金の管理が困難などで,人々の協力を得て制度利用に結びつけるなど。日常的にずっとみている中では,入居者に対し決まった面談などはほとんど必要ない。ケアマネからいろいろなアイデアを出してもらっている。町内会の協力も大きい。30年住んでいるので町内の皆と顔見知りであり,入居者が外出したことも教えてくれる。近隣の独居高齢者へも住宅のほうから声をかけて入浴と配食を提供している。皆で協力し生命の安全が保てるようにているが,毎日の徘徊となれば住宅の管理者だけでは困難である。

特に高齢者のみを対象とした住宅ではないが,入居年数が皆長く結果的に全員高齢者となっている。規模の小さな住宅であり,入居者が互いに声をかけあっている。いずれ自分たちもそのようになるとの意識があり,協力し合っている。認知症の入居者もあり,デイの回数をふやしているが,本人が疲れる。月2回の家族訪問では足りなくて,(本当はよくないが),管理者がデイの間に部屋に入ってシーツなどを取り替え洗濯することもある。グループホームや特養には向かない(と判断され)ので,行先が決まらない。家族の協力を得て何とか成り立たせている。

永田志津子

Page 10: Æ ì À ¿ t b î Â $ Z

供時間外の事故対応と責任所在の問題もあり,入居者からの要求に応えることを制限する方向となりやすい。あ

るいは介護サービスの非利用者への対応を利用者とは別に設定する必要が生じる。住宅Cでは定期巡回の非利用

者への緊急時対応の連絡ルートを定めている。今後併設事業所の非利用者に,定期巡回や小規模多機能が提供す

るサービスと同様の支援が必要になった場合には,介護サービス利用契約への誘導となるか,生活支援サービス

として別料金の徴収とするかの課題が残されている。

④生活相談と生活支援サービスの対象領域の不明瞭性

上記の課題は,生活相談と生活支援サービスの対象領域が明確化されているか,また生活支援サービスの個別

の対価設定による契約事項が明確化されているかの問題でもある。住宅Aでは生活支援費としての契約上の記載

はないが食堂送迎が1回100円などの徴収があり,服薬サポート,訪問理・美容,趣味的な活動の担当は相談員

である。住宅Cと住宅Dでは生活支援サービス費の対価が明示されていて別料金であり,相談業務の範疇には含

まれていない。前述のように住宅Bはその多くを小規模多機能サービスに含んでいるなど,現状では生活相談と

生活支援サービスの境界および料金設定は不統一である。

⑤入居者の生活相談に関する認識

入居者には,サ高住における必須サービスの安否確認,生活相談と介護保険サービスの明確な区別が認識でき

ない場合もある。入居者は,建物内の関係者は皆,相談を受け入れてくれる職員であって,介護保険サービスと

の線引きは意識していない。特に入所者が併設サービス利用者であり,かつ職員が併設サービスの兼務である場

合,介護保険サービス提供時間帯と生活相談サービス提供時間の明確な区別を入所者に求めることは困難である。

入所者にとって,住宅内での生活上の困りごとは要介護の心身の状況と大きな関連をもつもの(あるいは一体化し

たもの)であり,介護保険サービスの職員が頻繁に接する親しんだ存在であれば,サービス利用中に生活相談が兼

務職員に向かうのは自然な成り行きであろう。住宅Cでは訪問看護の看護師である相談員が,住宅夜勤職員とし

て配置された場合,入所者は「相談員が夜勤として勤務している」のではなく「看護師として勤務している」とみな

す様子が示された。独立業務として,生活相談員と介護サービス提供職員が異なる人員配置とされている場合に

はそのような混同は起こらないと想定される。時間帯の明確な区別を介護サービス利用者である入所者に求める

のは,制度策定サイドの論理であろう。

⑥コンシェルジュ業務になりがちな相談業務

生活相談業務に該当する事項のうちの多くが併設事業所の介護サービスに吸収されると,残されたものが相談

業務の対象となる。つまり介護職から独立した相談業務として,いわゆるコンシェルジュ的な業務になりやすい。

住宅Aでは毎日の15分ほどの体操や,理・美容利用のとりまとめ,などであり,介護保険サービス外の対入居者

への共通サービスに関わるものともいえる。また住宅Dのような特別な課題を抱える入所者を対象とするものを

除き,日常的な生活相談業務は,単発的な,近隣の歯科や眼科の病院の位置を尋ねるものや,室内の手が届かな

い部分への手伝いの依頼など,軽微な支援にとどまる。即時的,即物的な対応でありこれらもコンシェルジュ的

な業務と考えられる。

⑦立地条件,コンセプト等により異なる相談業務

住宅Cでは至近距離に大型複合店舗があり,軽度の入居者は一人で買い物に行くことができる。住宅Dでは開

設のコンセプトにより重度者が多く,入居者は少人数のため,各居室は開放的であり,1階,2階の各居室の近

くに食堂があるなど,管理者,職員の目が常時届く形になっている。日常的な生活相談より,行き場のない人達

の受け入れ準備や家族のいない生保受給者の看取りなどの能動的業務が特徴的であり,軽微な相談は少ない。住

宅の立地条件,入居者の要介護度基準等によっても必要な相談業務には相違が生じる。

⑵その他の住宅

住宅E~Hはサ高住以外の高齢者住宅といえるものである。住宅E,住宅Fは高齢者に限定しない共同住宅で

あるが,入居者は高齢者のみであり,ここでは「高齢者共同住宅」と表記する。住宅Gは住宅有老であり,住宅H

高齢者向け住宅における生活相談業務に関する実証的研究

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は介護有老である。それぞれの住宅から抽出される生活相談業務の特徴を見ていく。

①高齢者共同住宅E

サ高住の登録をしていない住宅であり,生活相談サービスは必須ではない。入居人数は少ないが,その中でも

低所得層が多い。個人的特性等から公的介護サービス利用になじまない(多人数の中では問題行動となるなど)人

もあり,本人の意志を尊重しつつ,管理者が常時見守りと必要サービスを提供するなど,家族に準ずる対応で生

活の維持を図っている。したがって,改まった生活相談の必要はない。また少人数ゆえ,入居者の相互理解があ

り,管理者とともにお互いに声かけをするなど,管理者と入居者が支え合って住宅が生活の場として機能してい

る。住宅の入居者と外部者の垣根が低く,住宅の機能や管理者によるサービスは近隣の高齢者へ提供されること

もある。地域の必要から発生したこともあり民生委員や町内会との日常的交流が自然に行われ,入居者担当のケ

アマネからもアドバイス等多くの支援を得ている。しかし,さらなる入居者の高齢化,認知症高齢者への対応な

ど,現在の人員体制では今後は立ちいかなくなることが推察される。

②高齢者共同住宅F

住宅E同様にサ高住登録をしていない共同住宅であるが,入居者は高齢者のみである。過去には中年層の家族

の入居もあった。また認知症,重介護度の入居者も居たが,現在の入居者の要介護度は低い。住み込みの管理者

が住宅内の日常管理業務及び相談業務などすべてを担当している。住宅経営者は高齢者介護に関する関心は薄く,

雇用されている管理者が,その時々の問題に対応してきた経緯がある。入居者の公的介護サービス利用に際して

の介護事業所との連絡調整も管理者の仕事である。服薬サポート,運動指導,住宅共用部分の清掃等すべてを担

当している。管理者は介護支援専門員の資格をもち介護関連事業所勤務経験をもつが,住宅では介護職としての

採用ではなく,管理者としての採用である。その経験から重度者への対応については慎重であり,事故の発生を

懸念して,他の入居者による不用意な援助(車いす介助など)は制止している。職員一人勤務のため,他高齢者住

宅や事業所等との情報交換,相談も困難な状況にある。住宅形式は一般共同住宅であるが,高齢者ケア付き住宅

の実態を持つと言える。

③住宅型有料老人ホームG

住宅有老であり,生活相談員配置を要しない。施設長が相談業務も担当している。入居者は「自立」が半数を占

め,全体に健康で自由な行動の可能な入居者が多い。またグループ事業所に介護有老を持ち,要介護度が重くな

ると移り住むことが可能であるが,「長く入居しているこの住宅で最後まで」と望む入居者もあり,住宅型である

が看取り体制を整える必要も生じている。サ高住に比較して高額な入居一時金を要することもあり,関連して相

続などの重要な案件も扱うこともある。入居者の意向重視の相談体制をとっているが,今後はさらにライフイベ

ントに関わる幅広い知識と関連機関との連携において対応する技術が求められる。

④介護付き有料老人ホームH

住宅Hは,生活相談員の配置が義務付けられている特定施設である。病院送迎(付き添い,診察内容を聞くこと

も含めて)は,相談員の業務であり,平均して1日に2カ所の病院送迎を受け持つなど半日を割くことも多い。要

介護3~5の重度者が3分の1を占める。東京在住などにより家族支援が困難なケースでは,住宅にすべてを委

ねられる形になり,「家族に頼まれるとそれは相談員の仕事となる。」と語るように,看取りを含めて入居者の人生

の最終場面までを担当するケースもある。住宅有老よりさらに全面的な支援体制をもとにする生活相談業務であ

ると言えよう。

高齢者住宅における生活相談業務の実態に見る特徴を以下に挙げる。サ高住は入居者の定員,要介護レベルな

どに大きな幅があるとともに併設事業所の種類も様々であり,生活相談員の相談職としての経験や保有資格も

様々である。各住宅における生活相談業務は,相談員の前職や保有資格による影響は少なく,住宅の事業所併設

状況や母体法人の種類,住宅開設のコンセプト等により異なる傾向が見られる。すなわち事業所特性が相談業務

を規定しているのであり,汎用的な相談業務の在り方と内容はまだ確立されているとは言えない。

永田志津子

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また生活相談員は,今回の調査においては,生活相談業務のみの専門家として常駐するものではなかった。就

業の時間帯の区別はあるものの身分は他職種と兼務である。相談をもちかける入居者の立場からは相談業務担当

者が不明瞭であり,かつ明瞭化する必要をもたない。住宅内で接触する職員は,みな相談相手とみなすことがで

き,中でも併設の事業所における介護サービス利用時の職員が住宅職員と兼務である場合,多くの相談は介護サー

ビスの中に吸収されやすい。その結果,通常の生活相談業務は軽微な内容が中心となり,いわゆるコンシェルジュ

― 住宅の一般管理者または総合案内者など― に近い相談業務となりやすい。

これらの結果,併設またはグループ事業所等のサービス利用者と非利用者では,生活相談の利用と提供の方法,

内容に差異が生じる。入居者側では,併設事業所の非利用者において生活相談のサービス利用の機会が減少し,

相談員側では,非利用者に対し併設事業所でのサービスとは別枠での手順を求められることになる。生活相談業

務は,介護サービスから切り離され独立した業務として確立すること,また相談員は入居者から判明しやすいよ

う相談業務専門職として配置されることが望ましい。

現状ではサ高住特有の相談業務が確立されているとはいえず,各サ高住の特性に則った業務が実施され,各サ

高住の枠内に留まっている状態といえる。サ高住では入居基準も様々であり,他住宅への移り住みも見られる。

生活相談員が専門職として各住宅に配置されるためには,サ高住共通の生活相談業務の専門的基盤と各住宅に応

用可能な専門性を確立する必要があると考えられる。

サ高住以外の住宅における生活相談業務の特徴では,有料老人ホームの中でも介護有老は,特定施設の関係か

ら入居者サービスが確定され,生活相談業務は住宅内においては職務分化されていると言えよう。しかし,ほぼ

終の棲家として入居する利用者と家族にとって,人生の最終章までのすべてを託す住宅となるため,それらに関

わる業務が相談員の仕事として発生する。住宅有老は,一般的に軽度者が多く,入居一時金を要することなどか

ら経済的に余裕のある層が入居することが多い。そのため,入居者の行動制限は少なく,プライバシーの守られ

た個人住宅の様相が強く,また有料で多様な生活支援サービスが提供されることもあり,生活相談に重要な案件

がもちこまれることは多くはないと思われる。また入居者の主体的な行動が可能であるため,相談員による積極

的な働きかけを要する場面は少ないと想定されるが,それゆえに地域との連携等においては相談員の意識的な行

動が求められると思われる。介護度が重くなると退去せざるを得ないこともあるが,高齢期の転居のわずらわし

さから長く住み続けたいとする希望者もあり,今後は入居者の多様化への対応がもとめられるのではないだろう

か。

高齢者共同住宅は,入居の実態からは高齢者対象の住宅であり,条件に適合するならサ高住あるいは有老の届

け出を必要とするものも中にはある。しかしサ高住の入居費用に届かない低所得層には入居困難であり,居室を

半分のスペースにするなど,柔軟にニーズに対応している現状がある。管理者の業務においても柔軟な対応が可

能であり,インフォーマルな介護サービスの提供,関連機関へのつなぎなど,すべてを住宅管理者が一括して行っ

ている。介護と生活の区切りがなく,一体化したサービス提供であり,入居者同士の相互の協力体制など,地域

での住まいの性格が強い。地域に溶け込み地域資源を生かした管理・相談業務がなされていると言えよう。

高齢者共同住宅では,管理者の人員も少なく問題解決のために,広く協力をもとめなければ運営が困難な側面

もある。それは入居者の地域での受け入れにつながるものでもあるが,管理者が意識的に住宅を開放し他との連

携を求めなければ制度の利用に結びつかない場合もある。相談員,管理者は極めて広範な知識やネットワークを

もつことが求められる。

Ⅵ.まとめ

介護サービス提供の歴史の古い養護老人ホーム,特養,また介護保険制度創設以降では通所介護や短期入所生

活介護などにおいて,入所者,利用者の実態に即した生活相談業務が行われてきた。高齢者住宅,とりわけサ高

住では,併設の介護サービス事業所における介護サービスが,生活相談を吸収した形になり,その陰で,介護サー

ビスを利用しない入所者には生活相談サービスが届きにくい状況にある。つまりサ高住では介護サービスが先行

し,生活者たる入居者の生活面における支援体制は脆弱であると言えよう。

様々な高齢者の「住まい」の中では,住宅有老,介護有老は施設設立の基本理念,目的があり,施設内における

生活相談業務の立ち位置は一定している傾向にある。また高齢者共同住宅は,住宅開設者や管理者の思いがあり,

高齢者向け住宅における生活相談業務に関する実証的研究

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生活相談,介護サービス,地域生活者としての行動等に対する支援が一元化されて提供されやすい。これに対し,

サ高住の住宅開設のコンセプトは「地域包括ケアシステムの構築に向けて,地域生活のもっとも基本的な基盤であ

る高齢者の住まいの確保」であるが,ハード面と介護に比重を置いた安定的な居住が主目的となり,居住しなが

らどのような暮らしが成り立つかの視点は弱い。法律上では,サ高住における「生活相談」とは相談に対する「助言」

に留まっている。相談員は介護事業所の職員であり,入居者の生活全体を俯瞰して能動的に助言,支援する立場

にはなく,それを実践する身分保障も整ってはいない。地域包括ケアシステムのデザインは,高齢者が地域に居

住し身近な介護サービスを利用しながら地域住民としての社会参加を可能とするものである。サ高住は,その一

環としての生活の場であり,かつ地域活動参加を支援する場でなければならないが,それらが生活支援サービス

費として別途料金徴収される現状は,住まいにおける高齢者福祉の視点が失われていることを物語っている。サ

高住における入居者の日常生活支援の体制が心もとないことはこれまでも指摘されている(永田2014)が,介護

サービス部門とは独立した福祉サービスの専門職として配置されることが望まれるものである。なお,サ高住,

各種住宅,施設のそれぞれの入居者が,重度化という点では状態が同質化しつつある現状から,福祉的視点をも

つ専門職としての生活相談員の配置はすべての高齢者住宅に必要なものといえよう。

Ⅶ.今後に向けて

本調査はごく限定されたサンプルによる分析であるが,今後はさらに多数のサ高住,その他の高齢者住宅を対

象として分析を行い,生活相談業務がどのように機能しているのか,相談員が住宅入居者,地域社会,ひいては

高齢社会全体にどのような役割を果たしえるのか,またそのために必要な取り組みとは何かを探っていきたい。

なお調査においては,町内会,ボランティア組織等からサ高住に向けて,地域の新たな取り組みの拠点として活

用したいとの動きがみられることも報告された。生活相談員の役割と機能が今後拡大され,高齢者の地域生活の

充実に資することが期待されるものである。

本研究は下記の科研費研究の一環として実施したものである。

「サービス付き高齢者住宅入居者の介護サービス利用特性とLSAの機能と役割」

課題番号:25380829,研究期間:平成25年~平成27年,研究代表者:永田志津子

謝辞

多忙な業務の時間を割き,調査にご協力をいただきました各事業所・住宅の管理者・相談員の皆様に心よりお

礼申し上げます。また調査にあたり多くの情報提供および調査の便宜を図っていただきました北海道高齢者向け

住宅事業者連絡会の奥田龍人様,立花和浩様に厚くお礼申し上げます。

引用文献

安立清史・黒木邦弘・藤村昌憲・石川勝彦・三沢良,2010「介護老人福祉施設における生活相談員の業務実態とその意識」『九

州大学アジア総合政策センター紀要』第5号,九州大学:224.

上田正太,2012「特別養護老人ホームにおける生活相談員の行うソーシャルワーク及びレアワーク実践に関する文献的研究」

『生活科学研究誌』Vol.11人間福祉分野 :42.

黒木邦弘,2014「メゾ・マクロ領域のソーシャルワーク実践に向けたスーパービジョンの課題に関する一考察~介護老人福祉

施設の生活相談員の業務実態と研修ニーズを手掛かりに」『社会関係研究』第19巻,第2号:8-10.

高齢社会白書平成26年度版 内閣府.

http://www8.cao.go.jp/kourei/whitepaper/w-2014/zenbun/s1 1 1.html

西口守,2011「高齢者福祉施設における生活相談員の『相談』の実際― 特別養護老人ホームと地域包括支援センターの調査

を踏まえて」『東京家政学院大学紀要』第51号,東京家政学院大学:7.

永田志津子,2014「高齢者の居住と介護ニーズからみたサービス付き高齢者向け住宅の課題~札幌市の事例から」『札幌国際

大学紀要』第45号.

8 社会保障審議会介護保険部会

(第48回)平成25年9月18

永田志津子

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米本秀仁,2008『ソーシャルワーク実習教育の在り方に関する共同研究報告書』(文部科学省平成16年度「特色ある大学教育

支援プログラム」採択事業),北星学園大学社会福祉学部米本研究室.

和気純子,2006「介護保険施設における施設ソーシャルワークの構造と規定要因~介護老人福祉施設と介護老人保健施設の

相談員業務の皮革分析を通して」『厚生の指標』53(15),厚生編統計協会編:21-30.

高齢者向け住宅における生活相談業務に関する実証的研究