Post on 30-Mar-2021
レーザー顕微鏡(LSM)は広い視野の 3D 形状観察と測定が簡便にできることから,薄膜の厚み計測や形状評価に利用されています。しかし,透明薄膜の場合,LSM では観察と測定が “ 正しくできない ” と従来は思われてきました。次世代太陽電池や低消費電力デバイスなどで注目されている有機系の導電性薄膜などは透明である場合が多く,LSM でも透明膜の観察を可能にする方法が望まれています。
今回,透明膜でも LSM 観察を可能にする 3D 測定レーザー顕微鏡 OLS4000 とそのマルチレイヤー機能,および専用の透明膜測定フィルターを走査型プローブ顕微鏡(SPM)での検証とともにご紹介します。
T. Fujii
Fig. 4 にマルチレイヤー機能の原理図を示します。このマルチレイヤー機能は複数の反射光のピークを認識してそれぞれを焦点位置として採用します。これにより透明膜のレイヤー(層)ごとの観察と 3D 測定や面膜厚測定が可能です。
マルチレイヤー機能を用いたときの,Fig. 2 と同じ透明レジスト膜の形状観察結果を Fig. 5 に示します。基板からの反射よりも弱いレジスト膜表面からの反射ピークをマルチレイヤー機能が捉えることで透明薄膜の SPM の結果と合致した段差形状が得られています。
基板上の透明膜におけるレーザー反射の概念図を Fig. 1 に示します。通常の LSM は試料から正反射した①と③を捉える手法です。反射率は表面(界面)の粗さと屈折率に密接に関連しますが,一般的にガラス基板やウェハ基板などの上の透明膜では平滑な基板からの正反射成分が大きくなります。一方,透明膜表面から正反射する成分は小さくなります。 このような場合,LSM は試料の反射光量が最も大きい位置を焦点位置とするために透明膜表面が捉えられない場合が多く発生します。
Fig. 2 に,試料としたガラス基板上の透明レジスト膜のSPM による視野 10 µm の 3D 像を示します。SPM の場合は透明体の性質に関わらずに形状観察ができ,このレジスト膜の厚さが 160 nm であることがわかります。
Fig. 3 に同じ試料のレジスト膜部での LSM での正反射ピークと深さ方向の強度分布を示します。LSM では透明レジスト表面よりも基板からの反射が強いことがわかります。このため,この透明膜は通常の LSM では基板をとらえてしまい,正しい形状を得ることが困難です。
■透明膜試料の LSM 観察の問題点Problems in LSM Observation of The Transparent Film
■はじめにIntroduction
■マルチチレイヤー機能The Multi-Layer Function
Fig. 1 基板上の透明膜試料のレーザー反射の概念図Diagram of The Laser Reflection from The Transparent Film
Fig. 2 透明なレジスト膜試料の SPM 3D 像 □ 128 µm3D SPM Image of The Resist Film
Fig. 3 透明なレジスト膜のレーザー反射強度Laser Reflection Intensity in The Depth Direction of The Resist Film
基板
入射レーザー
①透明膜表面からの正反射
②透明膜表面からの散乱光
基板からの正反射③
透明膜基板からの散乱光④
膜厚160 nm
0.00
181.52
200.00
[nm]
[nm]
0.00 2.004.00 6.00
8.00 0.00
2.00
4.00
6.00
8.00
0.00 8.87 [µm]
深さ方向
表面
基板
裏面形状
最表面形状レーザー光 従来 マルチレイヤーモード
Z位置 Z位置
反射光量 反射光量
Fig. 4 マルチレイヤー機能の原理図The Multi-Layer Function
ApplicationNews
No.S05透明な有機薄膜のレーザー顕微鏡観察は可能か?-マルチレイヤー機能と透明膜測定フィルターを用いた有機薄膜の形状観察-Is It Possible to Observe The Transparent Organic Thin Film by LSM? Observation of The Shape of The Transparent Organic Film Using The Multi-Layer Function and The Optical Filter with LSM
表面観察Surface Observation
LAAN-A-OL003
分析計測事業部グローバルアプリケーション開発センター
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島津コールセンター
ApplicationNews
No.
3100-10201-560-IK2012.10
初版発行:2012年10月
Fig. 5 マルチレイヤー機能を用いた LSM3D 像 □ 128 µmLSM 3D Image Using The Multi-Layer Function
Fig. 7 透明膜測定フィルターを用いた LSM 3D 像 □ 128 µmLSM 3D Image Using The Optical Filter
Fig. 8 透明有機薄膜の表面形状観察 LSM 3D Image of The Transparent Organic Film
膜厚160 nm
0 32 64 96 128
32
X
Z
Y
64
96
128
0.51
Fig. 1 のレーザー反射図において,正反射①と③にかえて②と④の散乱光を取得できれば透明膜の表面と下地からの反射の比率を逆転できる可能性があります。OLS4000 では光路中に専用の透明膜測定フィルターを挿入することで散乱光の検出が支配的に行なえます。これは光学的な性質を利用した手法であるため,マルチレイヤー機能でも困難な,厚さが数 10 nm という透明超薄膜や最表面の形状観察が容易になります。
透明レジスト膜の散乱光による反射ピークを Fig. 6 に示します。透明レジスト膜表面からの反射強度が常に基板からの反射ピークよりも大きくなっていることがわかります。
Fig. 7 に透明膜測定フィルターを用いたときの LSM 3D 画像を示します。SPM およびマルチレイヤー機能を用いたときとおなじく透明薄膜の形状観察が行なえています。
レーザーの透過率が大きく,きわめて透明な有機薄膜観察に透明膜測定フィルターを適用した例を紹介します。Fig. 8
(A)にガラス上の透明有機薄膜の SPM による表面形状 3D像を示します。
3D 測定レーザー顕微鏡 OLS4000 のマルチレイヤー機能と透明膜測定フィルターは従来の LSM では困難な透明薄膜の形状観察,膜厚計測を可能にします。また, OLS4000 独自の透明膜測定フィルターは散乱光を検出し,有機薄膜の精密な形状観察と評価を可能とします。
■透明膜測定フィルター Optical Filter for Transparent Film Measurement
■精密な有機薄膜表面の形状観察Precise Shape Observation of The Organic Thin Film
■まとめConclusion
(A) SPM 3D 10 µm□ (B) LSM 3D 65 µm□ No optical filter
(C) LSM 3D 65 µm□ Optical filter
60.00[nm]
PQ10.00 um
10.00 um
10.00 [µm]0.00
0.00
0 16 32 48 64 X
16
32
48
6410.5
Z
P Q
Y
0 3 6 9 12 X
3
6
9
1210.5
Z
Y
この試料の透明膜測定フィルターを用いないときの観察結果を Fig. 8(B)に示します。この結果は SPM とは合致しません。とくに中央部の凹形状部では下地からの反射の影響から凹部中に盛り上がった形状が誤って得られています。透明体の LSM 観察の場合はこのように誤った形状を取得する場合があり注意が必要です。透明膜測定フィルターを用いたときの結果を Fig. 8(C) に示します。散乱光の取得により基板からの反射と凹形状の影響を受けずに SPM と合致した形状像が得られています。
Fig. 6 透明膜測定フィルターを用いたレジスト膜のレーザー反射強度Laser Reflection Intensity Using The Optical Filter
深さ方向
表面
基板
032
6496
128
32
X
Z
Y
64
96
1280.51
S05