研究資料 No. 280R...2.3.2 ISM コード評価専門家グループへの付託事項...

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研究資料 No. 280R

RR-R1

人的要因に関する調査検討

(平成16年度報告書)

平成17年3月

社団法人 日本造船研究協会

(頁調整)

は し が き

本報告書は、日本財団の平成16年度助成事業「船舶関係諸基準に関する調査研究」の一環として、RR-R1 (人的要因)調査検討会において実施した「人的要因に関する調査検討」の成果をとりまとめたものである。

RR-R1 (人的要因) 調査検討会名簿(順不同、敬称略)

委員長 浦 環 (東京大学生産技術研究所) 委 員 今津 隼馬 (東京海洋大学) 岡村 敏 (識者) 沼野 正義 (海上技術安全研究所)

福戸 淳司 (海上技術安全研究所) 喜多 保 (海難審判理事所)

湯本 宏 (航海訓練所) 竹内美喜男 (日本海事協会) (大成義彦 日本海事協会)

半田 收 (日本船主協会) 村山 雅己 (製品安全評価センター) 菊地 武晃 (日本海難防止協会) 中村 紳也 (日本海洋科学) 関係官庁 鈴木 康子 (国土交通省海事局安全基準課) 竹原 隆 (国土交通省海事局検査測度課) (白土 徹 国土交通省海事局検査測度課) 吉田 晶子 (国土交通省海事局船員政策課) 磯崎 道利 (国土交通省海事局船員政策課) 事務局 柳瀬 啓 (日本造船研究協会 IMO 担当) 山岸 進 (日本造船研究協会) 注:( )内は前任者を示す。

(頁調整)

目 次 頁1. はじめに・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 1 2. IMOの動向・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 2 2.1 MSC78の動向及び対応・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 2 2.2 MEPC52の動向及び対応・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 2 2.3 MSC79の動向及び対応・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 2 3. 具体的な事故例による人的要因に関する討論・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 4 3.1 「かいこう」ビークル漂流事故・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 4 3.2 タンカー荷役におけるヒヤリハット・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 7 3.3 霧中の来島海峡で船長が降橋し、迷走して乗揚・・・・・・・・・・・・・・・・・ 11 3.4 乗揚・遭難・転覆事故調査・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・13 4. 人的因子戦略の開発を支援するための作業文書(MSC78/WP.16)の解説・・・ 19 4.1 人的因子戦略の開発を支援するための作業文書の概要・・・・・・・・・・・・・ 19 4.2 船舶運航における船長が感ずるストレス事象と疲労要因との比較・・・・・・・21 5. おわりに・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 27

(頁調整)

1.はじめに 海難のみならず、陸上で起こる多くの事故は人的要因により発生している。しかし、人のアクセス

が容易でない海上で発生する海難は、多方面にわたる幅広い知識と経験によってのみ分析され解決の

糸口を見いだしうるものである。本委員会では、長年にわたって海難の人的要因に関する研究を多角

的に検討してきた。基本的な考え方は、人的要因という切り口で海難を議論し、諸規則を見直すこと

である。これは、海難を技術という側面のみでとらえるのではなく、人間という面で捕らえるのであ

る。平成16年度は、各委員が海難に関する情報を持ち寄り、個別に詳細に検討することを中心にし

て、海難の人的要因に対する理解を深め、また、必要に応じてIMOに対応するという方針にて調査

および議論をおこなった。 とかく総論に終わってしまう人的要因について、ボトムアップ的なアプローチを試みる。

1

2.IMOの動向 2.1 MSC78の動向及び対応 人的要因については、複雑かつ相互に関連する多くの事項があるため、戦略プランの完成には至ら

ず、人的要因に関する戦略プラン策定の基礎として、行動計画に含まれうる項目の予備的なリストを

策定した。なお、その際、安全を重視する文化や環境への配慮を促進するためには、A.792(19)を全ての船舶を含むよう改正することが必要であること、ISM コードはそのための鍵となり、旗国政府

以外の関係者を対象とした追加的なガイダンスが必要であることが認識された。 また、SOLAS 条約第 V/15 章における 7 点の目標を見直すにあたって、取り組むべき課題として、主として以下の点が合意された。 (1)以下の点ブリッジデザインにおいては、1つ人的エラーが船舶を損なうような結果になる機会を減少するよう考慮されるべきこと (2)ブリッジ・ワッチ・アラームについてガイダンスを策定すべきこと (3)ブリッジに新たな技術を導入する再には、MSCサーキュラー1091が考慮されるべきであること (4)ATOMOSプロジェクトは、SOLAS条約第 V/15章の人的要因関連部分について代替的なアプローチを提示しており、後日、更なる検討が必要になるかもしれないこと (5)SOLAS条約第 V/15章への適合を証明するために新たな手段は必要ないが、NAVにおいて本会合における IACS提案や韓国提案を検討する際には、上記の点を考慮に入れるよう要請すること。 2.2 MEPC52の動向及び対応 人的要因の MSC/MEPC 合同ワーキンググループの報告(MEPC52/19)がなされ、次回 MSC78の会期中に行うことが説明された。ロシアは、報告に対し支持したが、MSC78 の期間中に MEPCのホスト無しでWGでの検討が充分に出来るのか懸念を表明した。続いて英国が、ロシアに同意し、実質的に検討が可能な状態で WG を開くべきと発言した。それをニュージーランドが支持した。委員会は、次回の合同ワーキンググループの開催について、「議題 20:委員会及び小委員会の作業計画」で検討し、次回会合(MEPC53)のWGとして開催することに合意した。 2.3 MSC79の動向及び対応 2.3.1 人的要因の役割のストラテジー

人的要因の役割に関する戦略や関連する検討事項について、リペリア、 ISF及び ICFTU より夫々の提出文書の説明があった。また、議長より次回 MEPC53 ( 2005 年 7 月)で人的要因のMSC/MEPC 共同 WG を設置することが MEPC52 で合意されたと報告された。フィリピン、二ュージーランド等は、リベリアが今回提出した文書を称賛し、共同 WG でより深くストラテジーを検討すべきと発言した。ISFは、 ILOの条約との関係も勘案して将来検討する必要があると発言した。また、共同 WG 議長は、 ICFTU が今回提案した人の健康・衛生に関る環境問題に加えて、BLG8で 作 成 さ れ た “ GUIDELINES ON THE BASIC ELEMENTS OF A SHIPBOARD OCCUPATIONAL HEALTH AND SAFETY PROGRAM”( BLG8/WP.4)も併せて検討すべき旨、更に前回MSC78で作成されたストラテジック・プラン及び付託事項(TOR ) (MSC78/WP.16)を基

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に今回のリベリア等の提案を勘案して共同 WG で検討する旨提案した。議長は、MEPC53 の共同WGでこれら意見について深く検討し、MSC81に報告するよう要請し、委員会は合意した。 2.3.2 ISMコード評価専門家グループへの付託事項

事務局より、事務局長のイニシアティブで設置された ISMコード評価専門家グループへの付託事項及びその今後の活動内容について説明があり、ISMの実施による船舶業界のインパクトを評価し、暫定レポートをMSC80及びMEPC53に提出する旨紹介があった。加えて本専門家グループの活動は、集中して行い 2006年に最終レポートを提出するとした。

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3.具体的な事故例による人的要因に関する討論 Human Element (人的要因)は、IMOの戦略計画に取り上げられ、MSC79においてその構想と目標が示されている。 主な内容としては、ステージ1(安全文化と環境の概念説明)において4ステッ

プの分析・整理がありリスクの評価を行い、その後ステージ2においてリスクの軽減、ステージ3で

コストベネフィット、ステージ4で解決策の評価、そしてステージ5で継続的な対策の確立するプロ

セスとなっている。しかしながら、具体的になにをするべきかわかりにくくIMOにおいてもステー

ジ1で滞っている状況である。 本委員会では、Human Element(人的要因)の複雑さに鑑み、討論方式によって多面的な検討を行うことを目的として具体的な事故例による人的要因に関する討論を行った。その概要を討論に沿って

報告する。 3.1「かいこう」ビークル漂流事故 3.1.1 事故の概要

「かいこう」は、JAMSTECが開発した 11,000mまで探査できる世界唯一の無人探査調査システムである。母船「横須賀」からランチャー(1次ケーブル直径 48mm、水中質量 3トン)を調査点付近まで下ろし、2次ケーブル(250m)で繋がれたビークルを使って探査する。 ・事故当日 5月 29日室戸沖で地震に関する観測データを回収した後、ビークルの 2次ケーブルが破断し、漂流した。海空から捜索したが発見できず、亡失した。 ・事故調査委員会が設置され、第1次調査では、物理的・力学的な原因を調査し、第 2次調査では、残された組織的、構造的問題について調査され、最終報告が取りまとめられた。 3.1.2 事故の予兆

(傷んだ2次ケーブルの使用) ・ケーブルは消耗品と見做している。事前点検で No.4 ケーブルが傷んでいることを確認したため、5 月 4 目予備の No.0 ケーブルに換えた。その際、2 次ケーブルの抗張カ体であるアラミド繊維の 1本が切れていることを確認したが、これまでの経験を踏まえて使用することとし、294回(5月 7目)、295回(5月 27目)の潜航調査を実施した。 (引留部の検査) ・No.4ケーブルでは、引留部コーン部分のケーブル端を初めて開けて 1本切れていることを確認できたが、マニュアルには全ての抗張カ体を検査するようには記載されていなかった。 ・一次ケーブルは X線で検査していた。 ・切れ易い端の検査も必要である。 ・ケーブルの張カは 1 秒問隔でモニターされている。しかし、ケーブルに掛かる荷重の変化は衝撃的なものであり、張カ計のサンプリング間隔が長すぎて正確な値を示していなかった。 3.1.3 亡失までの詳細

(2次ケーブルの切断) ・5月 29日最後となった 296回目の潜航は、台風を避けるため 13:22分に作業を終えた。

4

・撤収作業でビークルとランチャーが合体しなかった。接続部のコーンが嵌合していないことをカメ

ラで確認した。 ・引っ張れば合体する可能性があると判断し、引っ張った。 ・13:29に光ファイバーその 15秒後に動カ線も切れ、B1ackoutした。 ・しかし、ケーブル抗張力体は切れていないと判断して、索が絡まないように 0.5knotで前進しながら、1次ケーブルを 25m/minで引き上げた。 ・16:47にランチャーが浮上した。ビークルも一緒に海面に出るだろうと期待していた。 ・1分後、ラジオビーコンの音が 3回、12秒間聞えた。(これは空耳であったかも知れないと言われているが、その可能性は少ない) ・その後聞こえなくなり、方向は確認できなかった。(通常、ビーコンは連続して鳴る) 3.1.4 事故の原因

(何故引っ張ったか?)

・カメラで見えていたので、コーンのずれは引っ張れば嵌合すると判断した。 ・コーン部のストッパーが入らなかった時、そのまま離せばよかったが、経験が無かった。 ・過負荷防止装置は 500kgで動作する。 (何故切れた?)

・2次ケーブルが引留部金具の根元で切断した。検査の結果、ケブラー抗力体のアラミド繊維が捻じれて、全体が伸びたため引留部金具のコーン部に嵌らなかった事が判明した。捻じれた原因は、外部

シースと内部シースが一体でなく、引き上げる度に小さなずれが生じていた。 ・過去に合体できずに分離揚収した経験があった。2次ケーブルまで切れると考えなかった。 ・非常時のシナリオとして、合体しないまま浮上する項目を十分に検討しておくべきであった。 (Blackoutの原因)

・動カ線とモニタカメラが同じラインであり、同時に機能停止した。当時設計上スペースが取れなか

ったため、分岐回路を設けなかった。 ・重要なチェック手段であり冗長さが必要である。現在のデジィタル技術革新を取り入れれば、十分

対応できる。 ・B1ackoutした時点で引き上げ時にケーブルが切れると予想しなかったが、回収できると思っていた。 ・非常時には、浮上か沈下か 2つの対処方法がある。中層で浮遊することが最悪である。 ・動力がきれたらバラストとサンプルバスケットを自動的に捨てる事となっていた。しかし、サンプ

ル用の籠がビークルに結わえてあったので、自動放棄できなかった。そのため、浮上速度が低下した。 3.1.5 事故後の捜索と処理

(ビーコン) ・ラジオビーコンの受信は記録されていなかった。 ラジオビーコンは方向を決定するまでに時間が

かかる。短時間で停止したため方向を知ることができなかった。 ビークルは浮上していたら直ぐに

沈むとは考えられないので、ビーコンが波浪で壊れたと想像される。 ・非常時にはラジオビーコンの記録もとるべきである。

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(陸上支援)

・ビーコン音が消えた時点でブイを投入し、地球シミュレータを使って漂流予測したが、ブイの位置

を十分な精度で予測することはできず、漂流したビークルの位置を予測できなかった。 ・風浪のある場合、漂流を十分な精度で予測することは未だ困難である。 (保険:リスク処理の失敗)

・10年経過して残存価値が下がっており、経費節減のため事故 1ヶ月前に保険を止めた。建造費 20億円の装置であり、保険をかけるべきであった。 (捜索に長時間:費用対効果)

・亡失後も、行政指示により約 1ヶ月間多額の費用を掛けて捜索したが発見できなかった。 3.1.6 システムの見直し

(改良が施されていなかった)

・先端技術であるにも拘らず装置完成後、技術開発部署から運航部署に移管された際、技術的問題の

継承や改良に関するフィードバックが十分でなかった。 ・トランスポンダもフラッシャーも装備していなかったので発見できなかった。建造(10年前)時の 1万m級トランスポンダは非常に大型であったため装備できなかった。 ・最新の小型化トランスポンダを装着すれば漂流位置を発見できたはずである。H2の例では、最初は発信機を付けていなかったので、落下物の回収が非常に苦労したが、その後付けたので、2回目の事故では容易に発見できた。 ・官庁船は最先端技術を有するものであっても、通常、技術補填及び改良費用を計上することが困難

である。 (組織への提言)

・第 2次調査委員会は、Operationと Human E1ementの本質的部分についても改善提案を報告した。 ・大組織であり、体制改善策が上手く機能するか疑問が残る。 (マスコミ)

・H2 の事故の際、「マスコミは、先端的技術を一般国民に理解させるような報道努カが足りない。しかも、成功より、失敗を大きく報道する傾向がある」と指摘された。 ・これに対して、マスコミは、「率直に反省するが、研究当事者も国民の理解を得られるよう、十分

な説明責任を果たすべきである」とコメントした。

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3.2 タンカー荷役におけるヒヤリハット 3.2.1 事故の概要

タンカー着桟後、荷役準備を完了し、払出荷役を開始するときに発生した事象である。 (事故発生の経過)

①タンカーからの払出荷役開始において、バースマスターが陸および本船サイドから準備完了を確認

し、ポンプを発動し、荷役を開始した。 ②本船上のマニホールド圧力計が異常に上昇していることが報告されたので、本船ポンプを停止し、

バルブチェック(陸、船)を要請した。 ③陸と本船両サイドから異常なしの報告があったため、原因未確認のまま作業を再開した。 ④再び異常な圧力上昇の報告を受け、再点検を要請した。 ⑤本船サイドは異常なし、陸上サイドから閉鎖バルブを発見したとの報告を受け、対処し、荷役を再

開した。 協会はこの訓練を分析(バリエーションツリー)して、背後要因と対策案を報告した。(図1、2

を参照) 3.2.2 現状のシステムとチェック体制

(外部評価)

・当初(5年前)は現場にプロ意識が強く、外部評価に対して不満があった。しかし、最近は歓迎されるようになった。 ・チェックは第三者の観点から行うことに意味がある。 (チェック事項)

・漏れの多いところで事故が起る事を予想して、多重防護に圧力計を設置している。 ・事故は荷役開始 1時間以内に起こることが多いのでその間監視している。 3.2.3 指揮系統と責任者

(共同作業の責任)

・受け入れ作業はバースマスターの指揮のもとに実施されるが、通常、責任の分かれ目は本船上のマ

ニホールド(本船 pipeと陸側 hoseの連結部)となる。 ・責任を果たすように指導することは陸側の責任である。 (圧力計を誰が確認したか)

・バースマスターは現場の報告を基に作業を統括する。現場の監視は作業員が行う。 ・圧力計を目視で確認するがアラームはついていない。 仕事に熟練した現場作業員であれば、現場

圧力計の監視、pipe に耳をあてて液の流れの確認、或いは pipe を叩いてその音により pipe 内の液の詰まり具合を確認する。これらにより pipeのどの部分が空か、液が充満しているかを容易に判断できる。 ・作業に慣れてくると注意する範囲が狭くなってしまう。 ・現場にタスクが十分認識されていたか疑問があり、圧力上昇の意味を理解せず、見逃すことがあり

得る。

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(圧力異常の判断基準)

・タンクの標高、船舶の装置によって変わるので、圧力上昇のリミットは決まっていない。 ・本船上マニホールド弁の両側(本船側及び陸側)にそれぞれ圧力計が設置されている。圧力異常の

報告を受けた時点で系統的な点検を実施すれば、原因が本船側か陸側かの判断は困難ではないと考え

られる。 ・今回の例も同様の条件なら、怠慢であったか、慣れていないためと考えられる。 3.2.4 事故原因と対策

(報告に誤りがあった)

・陸サイドの中央制御室及び本船上バースマスターと連絡を取っており、陸サイドは責任者が立ち会

っているはずで、体制としてはこれ以上できない。 ・再点検の命令に従わなかったか、勘違いであり、受け入れサイド作業員が未熟であったと推定され

る。 (対策について)

・中央制御室で全てを監視できるようになっていない。 技術的にはリモートコントロールは可能で

ある。 ・責任者がチェックリストを作るが、シミュレーションで検討したか疑問が残る。 ・監視員が異常状態について認識不足であった。教育が不十分であったためと考えられる。 ・人員整理があり不足していたため、再点検に補強要員を派遣できなかった。 ・稀にしか実施しない訓練のため問題が生じた。 (原因未確認のまま作業を再開した)

・重要港湾におけるバースで異常事態発生の場合、原因究明してから荷役再開する手順となっている。 ・再点検を要請したが圧力異常の原因が不明だったため、事態が大事故へ進行することはないと判断

し、圧力計の作動を確認しようとした可能性もある。 ・しかし、異常圧力上昇の認識が甘かった。 ・再点検の命令の出し方にも工夫が必要であった。 (その他)

・バラスト積み込み中に、原因不明でバルブが飛んだ例がある。 ・通常以外の作業については、チェックリストも整備されておらずに問題が起き易い。現場作業員は

通常以外の作業には極めて慎重である。船底船外弁の開閉経験が無いとの理由で、船底船外弁の使用

を断られたことがある。

8

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テキストボックス
図1

10

テキストボックス
図2

3.3 霧中の来島海峡で船長が降橋し、迷走して乗揚 3.3.1 事故の概要

船種等:ケミカルタンカー499トン 6人乗組み全長 65m空倉 発生場所:来島海峡西口付近 気象等:霧視程約 60m東流 1ノット その他:霧中信号、減速なし、レーダー2台、GPS(緯度経度を数値で表示) 霧により視界が制限された来島海峡航路を中水道に向け航行中,船長が昇橋して 10 分後に便意を催して降橋したため,操船を任された一等航海士が,気が動転して船位が分からなくなって迷走した。用便を終えて再び昇橋した船長も,中水道を南下していると誤信したまま転舵を繰り返して乗り揚げた。 3.3.2 事故の経過

船長:通常は狭視界時や来島海峡では自らが操船していた。関門海峡通航や霧のため前日 19:30から引き続き 02:00まで当直に立っていた。 1航:船長から,視程 2海里以下又は来島海峡航路入航 30分前に報告するよう指示されていた。単独で操船して,来島海峡を通航した経験がなかった。 1航:来島海峡航路入航 30分前となり,視界が悪くなったが,もう少し休ませたいと思い,船長を起こさなかった 船長:電話を受けあわてて昇橋、操船指揮、一等航海士が手動操舵。視程 1,000m、その後急速に悪化。 船長:用便のため降橋、第3号仮設灯浮標を航過したら122度とするようにとだけ指示。乗揚 18分前:この時点で航路をはずれ本来左側にみるべき No.3灯浮標が右側に位置している。 1航:船長が急きょ降橋したので,気が動転し,船首方の灯浮標の映像を反航船と思い,右転。乗揚 16分 30秒前、その後レーダーで他の航行船を探すことに気をとられ,舵を元に戻すことを忘れる。 1航:船首方の第 2号灯浮標の映像を 5号灯浮標と思い,舵を中央に戻す。乗揚 12分前 船長:用便を終え再び昇橋、レーダーを見て船位に不安を感じた,船位を確膣せず中水道を南下中と誤信、一等航海士に船位確認を指示して自ら手動操舵。乗揚 6分前 船首方の第4号灯浮標の映像を反抗船と思い左転 島の映像が近くなったので右転、乗揚。 3.3.3 討論におけるコメント

・技量過信とその修正 ・船長と一等航海士の信頼関係は? 一等航海士は来島海峡の通航経験はないが、船員として長い経験を持ち、船長に十分信頼されてい

たと思われる。また、一等航海士もその信頼に答えるべく不安の申し述べ等が遅れたと考える。 ・最初の過誤 乗揚 18分前に船長が我慢しきれず用便のため降橋したとき、すでに航路を外れており、本来左方にみるべき No.3灯浮標が斜め右に位置していた。これが第一の過誤と考える。 ・第 2の過誤

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船長が降橋した時点において、一等航海士は、No.3 灯浮標を航過したら122度と指示されていた。航路内であれば No.3 灯浮標は左に見える予定であり、船長降橋の直後に右に見えた No.3 灯浮標を反抗船と判断してしまったのが第 2の過誤である。 ・大きな疑問点 No.3 灯浮標を反抗船と判断し、右転したのち、レーダーで他の航行船を探すことに気をとられ舵を元に戻すことを忘れる。そして、船首方の第 2号灯浮標の映像を 5号灯浮標と思い,舵を中央に戻す。この 4分 30秒もの間の行動は何か? (1) 何故、舵を元に戻すことを忘れたのか? (2) その後、4分 30秒も経って舵を中央に戻しながら、なぜ航路の疑問を抱かなかったのか? 3.3.4 その他

・霧中における時間感覚のズレ 霧中などにおける情報遮断時には時間間隔もずれている可能性がある。 ・錯誤における復帰のポイントは 過誤、錯誤があった場合の復帰ポイントとして、種々の警報器を考慮することが望ましい。今回の

事例のように、過誤が輻輳し、人的錯誤が発生した場合の対処としては、人的判断外の警報しかない

と考える。 ・今回の事例においては、錯誤が確認され復帰するための手段が尽くされたが、時すでに遅しの状況

であったと考える。 ・その他基本としては、船位に疑問が出た場合の具体的な手順書の存在などがある。ただし、この手

順書は、容易に実施できる内容としなければならない。減速,レーダーレンジを切替ての船位を確認、万一のときには VHFで来島マーチスから位置情報の入手など。

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3.4 乗揚・遭難・転覆事故調査

3.4.1 はじめに

これまでに、船舶間の衝突事故の原因を調査したが、衝突事故原因はそれぞれの船舶にあるので、事

故原因の一隻当たりの寄与率を知ることは比較的困難である。そこで今回は、事故原因が自船のみに

ある事故として乗揚、遭難、転覆事故を取り上げ、その中でも、自船の採用行動(航行)に起因した

事故を海難審判庁裁決録から抽出し、その原因を分類し、行動決定過程のどの部分に多くの問題があ

るのか調べ、それを基に対策について考察してみた。 3.4.2 抽出した事故とその事故原因

今回抽出した事故は、平成 13 年 1 月~6 月分の海難審判庁裁決録からの、乗揚事故 87 件、遭難事故 4件、転覆事故 10件の合計 101件である。海難審判庁裁決録に記載されている事故原因としては、次のものがある。 ・ 居眠り運航防止措置不十分 ・ 険礁海域に対する配慮不十分

険礁のあることを知っていたが、通れると思い侵入した等 ・ 水路調査不十分 ・ 気象・海象に対する配慮不十分 強潮流時に鳴門海峡最狭部への進入を中止しなかった 高波のある河口水域への進入を中止しなかった等 ・ 針路選定不適切 ・ 船位確認不十分 ・ 錨泊措置不適切

錨泊すべきであった等 ・ 錨地の選定不適切 ・ 潮汐の確認不十分 ・ 荒天措置不適切

台風の強風下で入港を中止しなかった等 ・ 船舶運航管理不適切 船舶所有者が運航管理を行わなかった ・ 航海計画の立案不十分 航海計画を立てず、ただガット船に追随した ・ 磯波に対する配慮不十分 ・ 高波による大角度の横傾斜を避ける措置不十分

高波を右舷正横付近に受けた ・ 砕け波に対する配慮不十分

その水域を航行することを避けるべきであった ・ 操船不適切

急激な回頭発進をした なお一つの事故につき複数の原因が挙げられている事故もある。そこでここでは全ての原因を取り上

13

げることとしたので、事故隻数 101隻に対して原因数の合計は 112となった。 ところで船舶運航は図 1 に示すとおり、情報を集め、自船の採るべき行動を決定し、これを実行する作業である。この作業は人と機械で、また船内と船外でそれぞれの作業を分担して行っている。

情報収集

情報解析

行動決定

行動実施

船内

船外

作業分担

作業領域

作業内容

情報収集

情報解析

行動決定

行動実施

船内

船外

作業分担

作業領域

作業内容

図1 船舶運航作業と作業分担等 そこで、前述の原因を、この船舶運航作業の内容別に、情報収集における原因、情報解析・行動決定

における原因、そして行動実施における原因に分類すると次のようになった。 (1)情報収集における原因とその数(計 15:全体の 13%) ここで挙げられている収集すべき情報としては、水路調査、気象・海象(含む潮汐)がある。こ

の内、水路調査が不十分であったことが原因で発生したとされた事故は 13件であり、気象・海象情報の確認が十分でなかったことが原因で発生したとされた事故は 2件であった。

(2)情報解析・行動決定における原因とその数(計 30:全体の 27%) 自船の採るべき行動を決定する際に、十分に考慮すべき事項として挙げられているのは、険礁海

域、気象・海象、磯波、高波、砕け波等であり、こうしたことに対する考慮が不十分でありその

ことが事故原因とされた事故が 15 件(情報解析に問題)、採るべき行動として決めた行動そのものに問題があったとされた事故は 15件(行動決定に問題)であった。

(3)行動実施における原因とその数(計 61:全体の 55%) 自船の採るべき行動を計画(航海計画)した後は、その計画を実行に移すが、この過程での問題

としては、実行しなかったこと、実行する時期がずれたこと、それに実行中の不注意などがある。

こうした事故として居眠りや船橋を無人にしたことにより発生したとされた事故が 39 件(内、船橋無人は 1件)、船位の確認が不十分で実行時期がずれたことが事故の原因とされた事故が 20件、そして大角度変針や操船時の注意を欠いたために発生したとされた事故が 2件であった。

(4)その他の原因とその数(計6:全体の 5%) 船舶運航管理の不適切や、船長による適切な指示がなかったり、報告が欠けていること等が事故

14

の原因とされた事故が 6件あった。

15件

その他

15件

水路情報

海気象情報

航海計画

居眠り

位置確認

操 船

6件

2件

20件

39件

2件

13件

不適

不十分

配慮不足

収集不足

不適

した

30件

61件

収集不足

配慮事項

15件

START

図 1 乗揚、遭難、転覆事故における事故原因 (海難審判庁裁決録平成 13年 1月~6月)

3.4.3 乗揚・遭難・転覆事故における運航者の弱点

ここで示された事故原因は船舶運航管理不適切の 1件を除き、他全ては運航者自身による情報収集、行動決定そして行動実施過程(行動決定プロセス)の中に事故原因があるとされている。この運航者

による行動決定プロセスでの事故原因件数を調べると、行動実施過程で最も多く、合計で 61件(全体の 55%)、次に行動決定過程の 30件(全体の 27%)であった。このことは、運航者の持つ弱点がこのプロセスの中に多くあることを意味している。

15

(1)行動実施過程での運航者の弱点 行動実施過程での事故原因としては、居眠り、位置確認不十分がその主なものである。図 2 は居眠りによる事故が発生した時刻別に、何件の事故が起きたかを示すものである。これより午前

3時が最も多く 8件の事故があり、午後 10時から朝 6時までの間に 30件、居眠りによる事故全体 38件の 79%であった。また図 3は位置確認不十分による事故の発生を時刻別に見たものであり、午前 3時が 3件と最も多く、午後 10時から朝 6時までの間に 13件、位置確認不十分による事故全体 20件の 65%であった。これから、行動実施過程で問題が起きるのは夜間、特に 3時から 6時にかけてが多い。

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TIME

図 2 居眠りにより事故が発生した件数と時刻

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3

4

12 14 16 18 20 22 24 2 4 6 8 10

TIME

図 3 位置確認不十分により事故が発生した件数と時刻 (2)情報解析・行動決定過程での運航者の弱点 行動決定での問題点を分類すると、一つは考慮すべき事項について十分に考慮していないこと、

もう一つは決定した行動に問題があったことの二つに分類される。 1)考慮すべき事項につき十分に考慮しなかった事例の特徴

16

考慮すべき事項として挙げられたのは、険礁海域、気象・海象、磯波、高波、砕け波等であっ

た。このうちの険礁海域は潮高と喫水が関係しており、通航の可否は比較的容易に判定できる。

しかしながら気象・海象、磯波、高波、砕け波等についての考慮とは、自船の性能が遭遇した

気象・海象、磯波、高波、砕け波に対して対応できない状況をであったにも関わらず、そのこ

とを認識せず航行したことが問題であったとされた。このことから、運航者が自船の性能を正

確に把握していないこと、そのため、情報解析の中でも性能限界においてミスを犯している様

子が伺える。 2)採用行動に問題があった事例の特徴 このケースは、針路選定不適切、錨地の選定不適切、荒天措置不適切等のケースであり、中で

も針路選定不適切とされたケースが多く、近回りをする等の理由のため、浅瀬等の存在を知り

ながら、危険の多い箇所に向かう針路を選定している。このことから、行動評価において運航

者が自分に都合の良い行動の評価に甘い様子が伺える。

3.4.4 対策について

以上の事故調査結果から、運航者の主な弱点として、①夜は生理的に眠くなり昼間に比べて能力が低

下すること、②自船性能の限界を正確に把握することが難しいこと、③行動評価において自分の都合

を優先した評価に陥りやすいことの 3点が挙げられる。 (1) 居眠り対策 今回の事故船は全て単独当直体制を採っている船であるので、十分な睡眠を採る、眠くなる前に

船長など非直の者に当直を依頼する、単独当直から複数当直体制に切り替えるなどが考えられる。

しかしこれらの実現はなかなか難しいものであり、別の対応が必要である。そうした対策として

は、居眠り監視装置の開発や導入、AIS等を利用した陸上からの支援が考えられるが、乗揚事故が沿岸海域で起きることから、AISを利用した陸上支援について、その仕組みを考えてみることが必要であろう。

(2) 性能限界把握対策 船の性能については知識として持っていても、喫水やトリムの変化により変わる現在の性能を正

確に把握することは難しい、さらに外力としての気象・海象の影響については実験室と異なり変

動幅が大きく対応が困難である。しかし行動決定する以上、その行動を採ることにより、どの程

度の危険を覚悟する必要があるのかを運航者に知らせることが必要である。これまでのこうした

判断は経験に基づき行われてきたが、経験則を含め、今後は陸上から判断を支援することも必要

であろう。 (3) 行動評価改善対策 一人による行動決定において、自分が決めた行動を変えるには、他人の意見を聞くことが必要で

ある。しかし多くの船では行動決定者は一人(複数当直でも行動決定は一人が担当)であること

から、自己の決定における間違いに自ら気づいて修正することは、なかなか難しい。ただ乗揚事

故は沿岸で発生していることから、陸上側で船舶の動静を監視することが出来れば、陸上から支

援することも可能である。 ここでは船舶事故の内、その船に事故原因がある乗揚、遭難、転覆事故を取り上げ、その原因を分

17

類した。今回の調査からは、船舶運航作業内容の全般にわたって事故原因があり、その中でも行動

実施における原因が最も多いことが判明した。また作業内容における問題点への対策としては、船

内においては当直体制(人)の見直し、装備(機械)の見直し、それに人と機械の関係の見直しが

あり、船外との関係では、船外からの支援の見直しが考えられる。また、今回取り上げた事故の多

くが、沿岸近くで発生していること、またその船単独で事故を起こしていることから、陸上支援対

象として捕らえやすい事故であり、今後の AIS やレーダ陸上局の配置に伴い、この種の事故の防止対策を陸上支援の柱として考える必要がある。

以上

18

4.人的因子戦略の開発を支援するための作業文書(MSC 78/WP.16:2004年 5月)の解説 4.1 人的因子戦略の開発を支援するための作業文書の概要 海上安全と環境意識の高まりから、人的要因の pro-activeな管理が求められている。例えば、ISMコードなどの運用開始や人的要因の関する有用なガイダンスの提供などによって、インシデント/ア

クシデントの減少が図られている。 さらに、IMOは人的要因を扱う戦略の構築を、IMO戦略プラン(決議 A.944)に示しており、決

議 A.947において人的要因を扱う戦略の基礎と重要な要素を提供している。 この戦略は、戦略の実行と効果の評価というキーとなる要因を含む目標達成の手段を提供する。ま

た、この戦略は、人的要因問題とそれらが抱える要因が複雑に絡んだシステムの理解を促進するため

の枠組みを提供し、ツールとして提供されることにより、海事コミュニティにおける人的要因の総合

的検討を始めるための起爆剤としての役割を果たすことが期待されている。人間要素の役割の構築、

実行、評価とその改良に対する組織の役割と責任は、この戦略の今後の検討によって定義される。 この作業文書は、上記の戦略を実現を目的に実施された作業の報告で、安全と環境保護、保安にわ

たる人的要因の諸問題を考える際に用いる枠組みを提供する。また、この枠組みは,"plan - do - check - act)"(PDCA)という過程の継続的な改良手法を提供し、これは以下の段階(Stages)とそれに付随する重要な要因(Critical Elements)からなっている。この手法で用いているリスクを土台としたアプローチ(例えば,Hazard Identification やリスク評価,リスク軽減など)は,すべての段階や分野の検討に用いることができる。 以下、この手法の手順を示す。

Stage 1 安全文化と環境の概念説明 Step 1 海上安全や保安に影響を与える人的要因の同定と選択 Step 2 人的要因問題に含まれる関連要因の同定 Table 1 疲労の例 Step 3 同定された人的要因の関連を決定する Step 4 優先度と評価の焦点を確立する(リスク評価)

Stage 2 特定の人的要因の解決策を提案する(リスク軽減) Stage 3 解決策の導入手順と実現性の検討(コスト/ベネフィット) Stage 4 解決策とその導入手順の効果についての評価 Stage 5 継続的なシステム改善を可能とする効果的な対策の確立

19

Table1 疲労に関する人的要因の例

表 1: Example of identifying factors related to

the Human Element issue of Fatigue

疲労に関連する人的要因の例

船員特性要因

管理要因

船舶特性要因

環境要因

睡眠と休息

- 睡眠の質,量お

よび継続時間

- 睡眠障害/妨害

- 休憩の中断

体内時計/24時間周

期のリズム

ストレスを含む心

理的感情的要因

- 恐れ

- 孤独と倦怠

健康

- 食事

- 病気

ストレス

- 職種に応じた経

験,知識,訓練

- 個人的問題

- 人間関係

薬物摂取

- アルコール

- 薬 (処方と未処

方)

- カフェイン

年齢

交替制と作業計画

作業負荷 (精神的/

肉体的)

時差ボケ

組織的要因

職員の方針と維持

乗組員と陸上職員

の役割

事務作業の必要性

経済性

交替制, 時間外勤

務, 中断

企業文化と管理姿

規則と規制

リソース

船の維持

船員の訓練と選択

航海計画要因

port callsの頻度

港間の時間

ルーティング

天候と海象

通航密度

Nature of duties/停

泊中の作業負荷

船の設計

自動化レベル

冗長レベル

設備の信頼性

点検と保守

船齢

作業空間の物理的

な快適性

居住区の配置

船の動き

宿泊場所の物理的

な快適性

温度 湿度 過度の騒音レベル 船の動き 港と天候の状態 船舶交通量

20

4.2 船舶運航における船長が感ずるストレス事象と疲労の関連要因との比較 平成 15 年度までに実施した「船舶運航における船長が感ずるストレス事象に関する検討」結果と、人的因子戦略の開発を支援するための作業文書(MSC 78/WP.16)で検討された「疲労に関する人的要因の例」の対応を整理するため、14 年度の調査で明らかとなった外航船長が感じる潜在的ワークストレッサー項目である Table 2 と、15 年度のアンケート項目である Table 3 それぞれに、MSC 78/WP.16 で Table 1「疲労に関する人的要因の例」として示された要因の内、関連のあると思われるものとの対応を対比した。 Table 2は、外航船長が感じる潜在的ワークストレッサー項目の調査票に、疲労に関する人的要因の項目を追加したもので、管理要因(空色)、船員特性要因(オレンジ色)、環境要因(薄紫色)、船舶

特性要因(薄緑色)の順に関連数が大きかった。 外航船長が感じる潜在的ワークストレッサーの調査結果としてのストレッサー項目には、ストレスの

程度や安全運航への影響が良い意味でも、悪い意味でも評価されて示されており、先に述べた、人的

因子を検討する上での戦略の各ステージの内、Stage1 後半や Stage2 の一部を行っているものと思われる。

21

また、Table 3に示した項目は、Table 2の内容の内、ストレス/負担が大きい、もしくは、安全運航への寄与がマイナスのストレス項目の内アンケートで検討することが適当と判断されたものを整

理したもので、船長が実質的に大きな影響がある項目として考えている項目と推察できる。そして、

そのほとんどの原因が「管理要因」に分類され、船長が感じるストレスの大部分が、管理要因に起因

することがわかる。

Table 3 船舶運航における船長が感じるストレス事象の詳細調査項目 調査項目 調査項目 疲労に関する人的因子 1 ニアミス報告に関する事項 管理要因 2 傭船者への機器トラブル、遅延報告に関する事項 管理要因 3 ISM コードに基づく内部監査に関する事項 管理要因 4 PSC に関する事項 管理要因 5 安全基準と船長判断に関する事項 管理要因 6 国による海技資格のレベル差に関する事項 管理要因 7 機器配置、操作性の不統一に関する事項 船舶特性要因 8 機器慣熟に対する時間不足に関する事項 管理要因 9 言語文化に関する事項 管理要因

22

Table 2 外航船長が感じる潜在的ワーストストレッサー項目検討結果と疲労に関する関連要因との対比

高い 低い プラス マイナスA+ A B C D + ± -

外部要因 1: SI (陸上監督者)からの船内マネージメントに関する種々の指示(昔に比べて船長権限の縮小がもたらすストレス)

管理要因 組織的要因 ・乗組員と陸上職員の 役割

○ ○

船員特性要因・交替制と作業計画

管理要因 組織的要因 ・乗組員と陸上職員の 役割 ・経済性 ・船の維持船員特性要因・交替制と作業計画

管理要因 組織的要因 ・船の維持 ・リソース

4: 乗組員の船内生活の充足度(食料、上陸、家族からの手の受領等)低下による不満の蓄積

船員特性要因・ストレスを含む心理的 感情的要因

○ ○

5: 乗組員の仕事に支障を来たすような本国での個人的な問題の発生/発生の懸念

船員特性要因・ストレスを含む心理的 感情的要因・ストレス -個人的問題

○ ○

6: 食料/水の補給問題(特に沖待ちの場合)

船舶特性要因・船の設計 ○ ○

船舶設備基準の見直し

7: 船内における疾病の発生・万延(健康管理、衛生管理)

船員特性要因・健康他,全要因

○ ○

8: メジャー検船(荷主のよる船舶の品質検査。検査結果によっては傭船契約破棄になる可能性あり)パーフォマンスの高い船ならば対応負荷も少ないが、通常かなりの準備が必要検査への慣れもストレスの程度に影響

管理要因 組織的要因 ・事務作業の必要性 ・船の維持

○ ○

管理会社まかせの安全性に関する管理手法の基準化を実現し、マーケット船全体の品質を向上させれば本船船長へのストレスは軽減

機関整備の義務化、当局による整備状況の査察停泊中の機関整備を認めるための対応策検討

管理教育の普及、義務化

3: 機関整備時間確保(停泊中の機関整備許可取得)の困難さ

安全運航寄与の 望まれる安全基準等への期待

Owner'sMatter

陸上側での責任管理体制は望まれる動きなるも、管理会社管理手法基準の策定、有効な査察・認定方法の確立が望まれる。2: ドック費用削減のための船側処理

作業の要求(過重労働と安全性確保のジレンマ)

潜在的ワークストレッサー ストレスの内容 MSC 78/WP 16ANNEXPage 4

ストレスの程度

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9: ISMコードに基づく内部監査(本来の趣旨から逸脱した監査のための準備、形骸化した記録作成に労力を使うことの懸念)

管理要因 組織的要因 ・企業文化と管理姿勢 ・事務作業の必要性 ・船の維持

○ ○

強制化による要求レベルの変質(低下)に対する方策の検討

10: ニアミス、機器トラブル発生、遅延時間発生等の管理会社への報告

管理要因 組織的要因 ・企業文化と管理姿勢

○ ○

管理手法の基準化(含む船長評価)、査察・査定Safety Culture教育の義務化

管理要因 航海計画要因 ・通航密度

環境要因 ・船舶交通量管理要因 航海計画要因 ・通航密度

環境要因 ・船舶交通量

13: 通信手段である英語を解さない乗組員、VTSの存在

管理要因 組織的要因 ・船員の訓練と選択

○ ○国際基準の強化

14: 気象情報等、地域による情報量の格差 ○ ○

気象情報会社等の活用

15: UKC確保、SP海峡夜間通峡等、他船社、船長の判断との比較

管理要因 組織的要因 ・職員の方針と維持 航海計画要因 ・ルーティング

○ ○

管理会社が明確な安全基準を定めれば、船長としてのストレスは軽減

16: 経済効率優先(安全性の考慮不十分)の要求

管理要因 組織的要因 ・職員の方針と維持 ・経済性

○ ○

管理会社まかせの安全性に関する管理手法の基準化(Charterer要求に対するプロテクト)

17:本船の運航/作業状況の考慮なしの営業関係作業要求(荷役作業中の次期積荷計画立案依頼、書類作成依頼等)

管理要因 組織的要因 ・事務作業の必要性 ・企業文化と管理姿勢

○ ○

乗組員の作業時間管理、要員数確保に対する基準強化

18: 船舶の経済的運航に関する他船社との比較

管理要因 組織的要因 ・経済性 ・企業文化と管理姿勢

○ ○

19: Charter Party の遵守と本船パーフォマンスの問題 ○ ○

20: Sailing Instruction 遵守 管理要因 組織的要因 ・職員の方針と維持

○ ○

管理会社管理手法基準の策定、有効な査察・認定方法の確立

船員の資質に関する国際基準の強化見合い関係になる以前の避航励行

Charterer'sMatter

海上保安庁の強い指導

12: 法規を遵守しない船舶の存在

航海関係 11: 航路を閉塞する操業漁船の存在(航路外航行を余儀なくされる状況、特に日本沿岸 ○

24

管理要因 組織的要因 ・経済性船舶特性要因 ・船の設計

22: 対応に準備(乗組員全員への教育・訓練が必要)がいるが安全性確保には貢献

管理要因 組織的要因 ・企業文化と管理姿勢 ・船員の訓練と選択 ・事務作業の必要性

○ ○

23: 時間は取られるが書類上の審査のみ

管理要因 組織的要因 ・事務作業の必要性

○ ○

内部要因 24: 知的興味が満足できない 船員特性要因・ストレスを含む心理的 感情的要因

○ ○

25: 創造的機会の少なさ 船員特性要因・ストレスを含む心理的 感情的要因

○ ○

26: 英語力不足、外国人への心遣い不足、外国人への不用意な言葉

○ ○

27: カルチャーの違いによる双方の理解不足 ○ ○

28: 日本人への甘え ○ ○29: 職務の不慣れ ○ ○30: 経験不足 ○ ○31: チーム・マネージメントの難しさ ○ ○ BRM/BTM研修等の義務化

32: 事実上部下を選別できず、時として極めて能力の低い部下に航海当直を任せざるを得ないことあり ○ ○

国際基準の強化船長の人事権強化

33: マンニングソースによる教育レベルの差 ○ ○

国際基準の強化

34: 人間関係の葛藤 船員特性要因・ストレス 人間関係

○ ○

35: 航海士による避航開始時期、航過距離のバラツキ

管理要因 組織的要因 ・船員の訓練と選択

○ ○船長の指導、指示明確化、強化国際的はガイドラインの導入

36: 当直航海士の見張り不十分の懸念(他作業実施の懸念)

管理要因 組織的要因 ・リソース ・船員の訓練と選択

○ ○

船長の指導、指示明確化、強化管理会社の指導強化、海図改補等事務作業の合理化

本船マネージメント、陸上マネージメントの国際的な基準の見直し

人間関係

日本人

管理要因 組織的要因 ・リソース ・船員の訓練と選択

異文化研修、マネージメント研修等の義務化

外国人

管理要因 組織的要因 ・リソース管理要因 組織的要因 ・リソース ・船員の訓練と選択

国籍問わず

PSC(米国) 望まれる(安全性向上により寄与する)PSC体制への国際基準策定、連携体制の強化

PSC(日本)

21: 燃料油消費量

25

パイロット

37: 選ぶことのできないパイロットに実質操船をまかせなければならないジレンマ。パイロット指示を拒否することの難しさ。

管理要因 組織的要因 ・規則と規制

○ ○

パイロットとの対応を想定したBRM訓練の強制化。パイロットの操船を監視できる技量確保のための訓練。パイロットらに対するBRMの考え方を浸透させる対応検討

38: 船毎の機器配置、操作性の不統一によるミス発生の懸念

船舶特性要因 ・船の設計 ○ ○

機器配置、操作統一に向けた基準の策定

39: 機器に慣熟する時間不足 管理要因 組織的要因 ・船員の訓練と選択

○ ○

訓練の強制化、機器の統一

40:知識不十分、経験不足による貨物、機関事故およびその他の運航を阻害する事故

管理要因 組織的要因 ・船員の訓練と選択

○ ○

船内機器等

取扱い

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5.おわりに 平成 15年度におこなったアンケートを中心にしておこなわれた本年の議論は、個別の事故例について深く検討し、人的な要因を顕在化させた。これらに基づき、来年度以降、MEPC や MSC での人的要因のWGなどに、具体的な提案をおこなっていきたい。

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(頁調整)

執筆担当者

今津隼馬 浦 環 福戸淳司

村山雅己 柳瀬 啓 (五十音順)

発行者 社団法人 日本造船研究協会 東京都港区虎ノ門 一丁目 15番 16号(〒105-0001)

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